1: 2016/06/09(木) 02:37:35.09 ID:ibnHiTJ5.net
~希・一年生~

キーンコーンカーンコーン

「やっと授業終わったねー」

「今からカラオケ行かない?」

「おお、いいね! いこういこう!」

希「……」

希(さーて、そろそろウチも帰ろっかな~)


希(お、雨降ってきた)

2: 2016/06/09(木) 02:39:40.46 ID:ibnHiTJ5.net
希「ふ~んふ~ん♪」

希(じゃーん! 折り畳み傘! TVの天気予報では降水確率30%だったけど、ウチの目はごまかせんで!)

希(さっさと帰って録画しておいたドラマでも見よっと♪)

ドンッ

「きゃっ、ごめんなさい」

希「おおっと! って、絢瀬さん?」

絵里「あら、東條さん。ちょっと考え事をしていて……。大丈夫? ケガはないかしら?」

希「平気平気♪ こっちこそ前見ないで歩いててごめんな?」

絵里「ふふ、お互いさまね」

希「せやね~」

絵里「……」

希「……」

のぞえり「あの……」

絵里「あ、ご、ごめんなさい! そっちから先に」

希「い、いやいや! 絢瀬さんの方から」

絵里「そう? それじゃあ、私の方から。……例の件、考えてくれたかしら?」

例の件。希は絵里から生徒会への勧誘を受けていた。

希「あー……まだ考え中。もう少し待ってくれん?」

絵里「そう……。わかったわ」

希「ごめんね。今から生徒会?」

絵里「ええ、オープンキャンパスの打ち合わせがあるの」

希「そうなんだ。それじゃ、頑張ってな~」

絵里「あ、ちょっと! 東條さんも言いたいことあったんじゃないの?」

希「……大したことじゃないからいいや。ほな!」

絵里「そう、じゃあね」

希(……絢瀬さんは今日も生徒会かー。忙しそうだし、『一緒に帰ろう』なんて言えんなぁ)

4: 2016/06/09(木) 02:40:29.02 ID:ibnHiTJ5.net
希(雨、少し強くなってる。早く帰らなきゃ)

希(ん? あれは……)

「アイドル研究部でーす! ライブやりまーす!」

希「にこっちー! 雨の日やのに熱心やね」

にこ「あ、希。まあね。せっかく憧れのスクールアイドルができるんだから、こんなのへっちゃらよ!」

希「ほぇ~、にこっちには頭が上がらんわ」

にこ「だから、好きでやってるの! ……それよりもあの話、どうなったのよ?」

あの話。アイドル研究部に入って、スクールアイドルにならないか。そんな勧誘を前から受けていた。

希「うーん……もう少しだけ考えさせて欲しいかな」

にこ「そ。……ファーストライブには間に合わないかもしれないけれど私はいつでも歓迎だからね」

希「あんがと♪ ライブは絶対観に行くからな~」

にこ「ありがと。それじゃあ、私はビラ配らなきゃ」

希「ほなな~」

にこ「……」ノシ

希(スクールアイドルか……興味はあるけれどウチは普通の女の子やしなー)

6: 2016/06/09(木) 02:41:45.48 ID:ibnHiTJ5.net
希(お、綺麗な紫陽花が咲いとるなぁ)

校門の脇に連なる紫陽花は紫、水色、ピンクと色とりどり鮮やかに咲き誇っていた。

希(紫陽花って雨に打たれている姿がまた風情があってええな~)

「わぁ、綺麗な紫陽花ですね」

希「うん! 夏がきたって感じがするよね」

「ですね~」

希「おや、よく見たら音中の制服やん。こんなとこで何してるの?」

「あ、そうだ。理事長室ってどこにあるかわかりますか? お母さんに傘を届けに来たんですが……」

希「あー理事長の娘さんか。理事長室は正面口から入って左に曲がってすぐだよ」

「ありがとうございます!」タッタッタッ

希(後姿とか理事長そっくりやなぁ)

7: 2016/06/09(木) 02:42:57.67 ID:ibnHiTJ5.net
希「~♪」

希(雨の日ってなんか好きだな。雨の日しかできないことって何かないかな~?)

バシャバシャ

「おーい! かよちーん! はやくはやくー!」

「ま、待って~!」

「せっかくの雨の日なんだから新しく買ってもらったレインコートがどれだけ濡れないか試してみなくっちゃ!」

「り、凛ちゃんはレインコートに長靴だから濡れないかもだけど、花陽は傘しかないから靴の中びしょびしょだよ……」

「あ、ごめんね、かよちん……」

「う、ううん、いいの! でも、これでレインコートの方が濡れないって言っていた凛ちゃんの仮説が証明されたね!」

「そうだった! 全人類レインコート化計画のためにも今日はレインコートのすばらしさを宣伝するために町中を駆けまわるにゃ!」ダッ

マ、マッテー!

希(……中学生は元気やな~)

8: 2016/06/09(木) 02:44:09.20 ID:ibnHiTJ5.net
希(あかん、急に土砂降りになってきた。そこのビルの軒下で少し雨宿りでもしよっと)

希「ふぅ……さっきの子達がちょっと心配だな」

「わわ、ちょっと海未ちゃん! もう少し詰めて! 穂乃果、濡れちゃうよ~!」

「こ、こっちもこれが限界です! 第一傘を忘れたのは穂乃果でしょう? 少しぐらい我慢しなさい!」

「そんな~! ……あっ、そこの軒下で雨宿りしよ!」ピョン

「そうですね。このままだと傘があっても家に帰るころにはびしょびしょになってしまいそうです」

希(ん、また音中の制服。相合傘なんて微笑ましいやん♪)

「やっぱりついでにことりちゃんに傘持ってきてもらうように頼むべきだったんだよ」

「あんまり迷惑かけるのも悪いでしょう。親しき仲こそ礼儀あり。甘えてばかりではいけませんよ」

「むぅー相変わらず堅いなぁ」

「穂乃果がだらしなさすぎるんです」

「はいはい。……あーあ、それにしてもなかなか弱まりそうにないね」

「やはり強行突破しか……」

「の、脳筋……。あ、見て! このビルの2階カラオケ屋さんだって! 雨が弱まるまで寄っていこうよ!」

「だめですよ! 最後の中体連まで時間がないんです! 部活動が休みの今日は私の家の道場で練習をすると約束したではありませんか!」

「一日くらいいいじゃんかー!」

ダメデス!

希(カラオケか……。ヒトカラ……ううん、やめとこう)

9: 2016/06/09(木) 02:45:48.79 ID:ibnHiTJ5.net
「おーい! 穂乃果ちゃーん、海未ちゃーん!」タッタッタッ

希(お、さっきの女の子やん)

「あ、ことりちゃん!」

「ことり! 無事にお母さまに傘を届けられましたか?」

「うん!」

「よかったよかった!」

「……ところでことりはなんでそんなにびしょ濡れなんですか? 傘、さしてましたよね?」

「え? ほんとだ……なんでだろう?」グッショリ

「そんなに濡れていたら風邪ひいちゃうよ? 早くおうちに帰らなきゃ!」

「そうだね。……でも、傘は二本しかないや」

「やはりしばらく雨宿りしていきましょうか?」

「ううん、大丈夫だよ。こうやって二本の傘を組み合わせて……ほら、穂乃果が真ん中ね!」

「これで三人一緒に帰れるね♪」

「さ、目指すはことりちゃんちだー!」

「穂乃果は帰ったら私と稽古ですからね?」

ギ、ギクー

ホノカチャン、ファイトダヨ!

希(ええな~青春やな~)


希「って、おっさんか!」


希(あかんあかん! 思わず声に……// 誰にも聞かれとらんよな?)キョロキョロ

にゃー

希「ふふ、雨宿り中の猫ちゃんに聞かれてもうたな。いいかい? このことはウチと猫ちゃんだけの秘密なのだよ?」

にゃー!

希「あ~可愛いなぁ♪」ヨシヨシ

希(お、雨弱くなったみたい)

10: 2016/06/09(木) 02:47:15.45 ID:ibnHiTJ5.net
希(あめあめふれふれ母さんが~♪ じゃのめでお迎え嬉しいな~♪ ピッチピッチ チャップチャップ ランランラン~♪)

希(……この『じゃのめ』ってなんなん? 帰ったら調べよっと)

カヨチーン!

アハハ! リンチャーン!

希(む、この声は……公園からや)

「みてみてー! 雨の日の滑り台ー!」

「こっちは鉄棒にかたつむりさんがいるよ!」

希(さっきの子達、結局ふたりともずぶ濡れだし! まあ、凄い土砂降りだったしなぁ)

「かよちん、眼鏡曇ってるー! 変なのー!」

「凛ちゃんの方こそ、髪の毛がおでこにくっついて……ふふっ」

アハハハハー!

希(楽しそうだからいっか。 ……おや、こんな天気なのに隅っこのベンチにも誰か座ってる。あの制服って確か、近くの有名私立中学のだ)

「……」

希「こーんにーちは!」

「きゃっ! い、いきなり何ですか?」

希「ごめんごめん。こんな雨の中、なにしてんのかなーって思って」

「別に……学校の美術の授業の課題で梅雨をテーマにした絵を描けって言われたから」

希「ほーう、なるほどなるほど~。お、それスケッチ? 紫陽花とかたつむり。うん、すっごく上手に描けとるやん!」

「……ううん。それはボツなの。だって普通すぎるでしょ?」

希「え、普通じゃ……だめなの?」

「普通だと面白くないじゃない。それに一番にはなれない」

希(普通だとつまんない……か)

11: 2016/06/09(木) 02:47:45.12 ID:ibnHiTJ5.net
「かーよちん、おっきい水たまりだよ?」

「ほんとだね~」

「ジャンプで超えられるかな?」

「あ、危ないよ~」


希「あれ、なんてどうかな?」

「あれって……あれ?」


「せーの、ジャーンプ!」ズルッ

「りりりり凛ちゃん!?」

「にゃはは! どろんこだー」

「あ、平気そう」ニッコリ


希「面白そうじゃない?」

「そう……かも」

12: 2016/06/09(木) 02:49:27.12 ID:ibnHiTJ5.net
希(今日はいろんな出会いがあったな~♪)

折り畳み傘をくるくる回しながらマンションの階段を昇っていく。

希(ん? ウチの家の前に誰かおる)

絵里「あ、東條さん。よかった、ここで合っていたのね」

希「な、なんで絢瀬さんがうちに!?」

絵里「それは、これ。私とぶつかったときに生徒手帳落としたみたいよ」

希「ほんまや……ありがとう。でも、わざわざ届けてくれんでも明日でよかったのに。生徒会の仕事あったんでしょ?」

絵里「うん、でもいいの。それよりも伝えたい事があって」

希「伝えたい事?」

絵里「そう」

希(わざわざ伝えたい事ってなんやろ? また生徒会の勧誘とか……? いやないない。さっき断ったばかりだし。じゃあ……)


絵里「お誕生日おめでとう」

13: 2016/06/09(木) 02:51:42.58 ID:ibnHiTJ5.net
希「え……えぇぇえ!? なんで、なんでウチの誕生日知ってるの!? 言ったことないよね!?」

絵里「ふふ、驚きすぎよ。生徒手帳に書いてあったのを見ただけよ」

希「あ……あぁ~」

絵里「まさか今日だなんてちょっぴり運命感じちゃって……こうしてられない!って思って、つい来ちゃった♪ ハイ、これ誕生日プレゼント。急だったから大したものじゃないけれど」

希「これって駅前の最近できたケーキ屋さんの……」

絵里「そうそう、できたのは知っていたけれど一度も行ったことがなかったから」

希「そっかそっか~。さ、上がって。ちょうどケーキに合いそうな紅茶があるんよ」

絵里「そ、そういうつもりで言ったんじゃないの。突然で迷惑でしょう? ご家族と一緒に食べてちょーだい。あ、四個で足りたかしら? 流石に家族構成までは生徒手帳に書いてなかったのよね」ウーム

希「……もう、遠慮なんかいらんのに」

絵里「で、でも……」

希「ウチな、一人暮らしなんよ? 一人で四つもケーキは食べらんないんよ」

絵里「一人暮らし? は、ハラショー……それは予想外だったわ」

希「だから、ね? いいでしょ?」

絵里「そうね……それじゃあ、お言葉に甘えちゃおうかしら♪」

希「ふふふ、いらっしゃ~い♪」

希(ウチの初めてのお客さん。いや、初めての……)


希「お、雨止んだみたい♪」

14: 2016/06/09(木) 02:54:52.56 ID:ibnHiTJ5.net
希誕生日おめでとう!

15: 2016/06/09(木) 03:03:25.26 ID:ZgBfdOFZ.net

よかったよ

引用: 希「梅雨の日の思い出」