331: ◆EyREdFoqVQ 2020/12/20(日) 21:04:19.76 ID:KchNE/3fo
332: 2020/12/20(日) 21:05:49.86 ID:KchNE/3fo
時雨「それでエフェメラ、これから僕たちはどうすればいいのかな?」
エフェメラ『……これより過去に遡り、運命の分岐点を探します』
エフェメラ『時雨様には、そこで手を貸していただきたく……』
時雨「大丈夫かな。僕が沈んだのはずっと昔だよ」
時雨「それに……エフェメラ、君はだいぶ消耗してるみたいだけど?」
エフェメラ『……仰る通り、幽閉から空間から脱出を図ったため、私にはあまり力が残っていません』
エフェメラ『ですが……たったひと押しです』
エフェメラ『それだけで……未来は、変わります』
時雨「……わかった。信じるよ」
エフェメラ『時雨様。目を閉じてください』
時雨「……」
エフェメラ『参ります……!』
グ ニャ ァ
333: 2020/12/20(日) 21:06:50.30 ID:KchNE/3fo
* 墓場島? *
メラメラメラメラ…
時雨の幽霊『……』
時雨の幽霊『……』
時雨の幽霊『えっ?』
エフェメラの声『……時雨様』
時雨の幽霊『エフェメラ!? 僕の体が透けてるんだけど!? エフェメラはどうしたの!?』
エフェメラの声『申し訳ありません、時雨様……私は声を飛ばすだけで精一杯です』
時雨の幽霊『!』
時雨の幽霊『……それは仕方ないにしても』
メラメラメラメラ…
時雨の幽霊『これは……墓場島が溶岩に包まれて、全部燃えてしまうところじゃないか』
時雨の幽霊『こんな状況なのに、みんなを助けることができるのかい!?』
エフェメラの声『はい』
時雨の幽霊『……僕は、あの悲しい結末をもう一度見るつもりはないよ?』
エフェメラの声『先ほど申し上げました通り、ただひと押し……それだけでいいのです』
エフェメラの声『彼女の持つ魔法石を、あの方に使えば……』
時雨の幽霊『……あの方?』
エフェメラの声『はい、そうです。力を失い、消えてしまったあの方に』
エフェメラの声『ですから、ブラックホールのメディウムに、石を使わせなければ良いのです』
時雨の幽霊『……まさか』
334: 2020/12/20(日) 21:07:34.88 ID:KchNE/3fo
335: 2020/12/20(日) 21:08:20.17 ID:KchNE/3fo
* 島の南東 X中佐所有の医療船近辺 *
通信(提督)『さてと、名残惜しいが、そろそろお別れだ』
足柄「な、何言ってんのよ! あなた、そんな簡単に氏ぬ男じゃないでしょ!?」
エレノア「そうよ、どうせ脱出の方法とか残してるんでしょ!?」
黒潮「あるんやったら、はよ脱出せな!」
チェルシー「そうよキャプテン! どんな手を使ってもいいから、早く!!」
通信『……』
千歳「なんで黙ってるんですか!」
オリヴィア「アミーゴ! 諦めるのは早いよ!」
通信『……もういいんだ。お前らがそう言ってくれるだけで、俺には充分だ』
五十鈴「何を弱気なこと言ってんのよ!」
古鷹「提督らしくありません!!」
通信『そうは言うが、しょうがねえだろ。俺はこの島の鎮守府以外のどこに行けると思ってる?』
通信『余所へ行きゃあ、どうせ余計な真似をしないか監視されて、またそのうちありもしねえ疑いをかけられて騒ぎになるのが目に見えてる』
五月雨「そう言って、提督も、私を置いていくんですか」
通信『……五月雨か』
五月雨「前の鎮守府の仲間たちも、前の提督も、私を残して氏んでしまったこと……提督は御存知ですよね!」ポロッ
五月雨「提督も、私を……私を置いてどこかに行くんですか!」ポロポロポロ
通信『……悪いな。俺は、俺に好意を寄せてくれた奴を、氏なせたいと思わない』
五月雨「……提督……勝手です! そんなの、あなたの勝手すぎます!!」
五月雨「だったら、私も一緒に氏にに行きます! 私もあなたと……」
通信『そういうのは許さねえ、っつったろ。しょうがねえ奴だな』
通信『俺は人間だ。人間は愚かだ。だから、俺は氏んでもいい存在なんだ。前からそう言ってるだろうが』
336: 2020/12/20(日) 21:09:04.91 ID:KchNE/3fo
* 墓場島の南東部 溶岩に囲まれた丘の上 *
通信『提督!』
提督「なあ五月雨よ。こっちにもお前みたいな奴がいるんだ。困ったことになあ」
軽巡棲姫「ソウヨ……モウ、私タチノ帰リ道ハ、ナイノ……私ハ、提督ト運命ヲトモニスルノヨ……!」ギュウ
提督「……どうせ言っても聞かない奴だ。だったら仕方ないと思ってな……」ナデ
軽巡棲姫「アア……提督……!」
トンッ
軽巡棲姫「!?」
イビルシュート< ゴォッ!
軽巡棲姫「ッ!?」ドガッ!!
提督「無理矢理にでも、帰ってもらうことにした」
軽巡棲姫「テイ……ーーーーッ!?」ピューーーーン
337: 2020/12/20(日) 21:09:50.25 ID:KchNE/3fo
* 島の南東 X中佐所有の医療船近辺 *
那珂「無理矢理って、提督!? それってどういう意味……」
ヒュウウウ…ドボーーーーン!
黒潮「!? な、なんや、なんか飛んできたで!?」
軽巡棲姫「プハッ!?」ザバァ
筑摩「け、軽巡棲姫……!?」
軽巡棲姫「……テイ、トク……?」
軽巡棲姫「ドウシテ? ドウシテ、私ヲ……」
軽巡棲姫「ドウシテナノォォォオオオオ!!!!」
ル級「チョッ……落チ着イテ!」
通信『軽巡棲姫はそっちに着いたか?』
加古「ついたかじゃないよ! 軽巡棲姫ってばめっちゃ怒り狂ってるじゃんか!!」
武蔵「ここまで女心を理解していないとは……見損なったぞ!!」
軽巡棲姫「提督! テェトクウウウウウ!!! ドウシテナノォォォ!!」
通信『……軽巡棲姫、お前は駄目なんだ。どうもお前は娘みたいに思えてな……幼い姿を見た所為だろうな。お前を道連れにしてはいけない』
通信『それにお前には、お前を受け入れられる奴らがいる。泊地棲姫たちがいる』
通信『お前を任せて安心できる奴がいる。お前は、俺の分まで生きるべきなんだ』
338: 2020/12/20(日) 21:10:34.83 ID:KchNE/3fo
軽巡棲姫「何ヲ……提督コソ、コンナニ大勢ニ求メラレテイルノニ、何故、氏ニ急グノヨ……!!」グスッ
軽巡棲姫「アナタコソ、生キルベキ者ナノニ、何故、自ラ命ヲ捨テヨウトスルノヨォォ!!」
通信『俺が面倒ごとを呼んでるからだ。他の人間どもが、俺や俺の周りを利用して争いを仕掛け、結果、俺の身内が傷付くことになる』
通信『それでも俺が生きるべき者だと言えるのか』
軽巡棲姫「言ウ! 私ハ、生キルベキダト、言ウ!!」
大和「……提督。今、軽巡棲姫を、どんな方法を使ったか知りませんが、こちらまで吹き飛ばしましたよね?」
大和「同じことをすれば、提督も助かるのではないのですか!?」
通信『……そりゃあ無理だな。もう魔力も、歩く体力も気力も残ってねえ』
霞「はあ? なによその言い訳! 甘ったれてんじゃないわよ! 這ってでも出てきなさいよこのクズ!!」
大淀「提督。私たちは、あなたの次の指示を待っているんです……はやく、私たちの前で指揮を執ってください!」
通信『はは……無茶を言ってくれるな……』
長門「どうすれば……どうすればあいつを助けられるんだ!?」
潮「め、メディウムのみんなは……」
カトリーナ「こ、ここに居る連中じゃあ……きついよな」
ニコ「仮に魔神様の所へ飛んだとしても、戻って来られないよ……」
ル級「陸ノ上デハ勝手モ違ウシ……」ムムム…
339: 2020/12/20(日) 21:11:19.85 ID:KchNE/3fo
比叡「ど、どうしましょう……どうしましょう金剛お姉様!!」
金剛「……ぐぅぅ……」ギリッ
通信『だから諦めろっつってんだよ。丘に埋めてた墓標代わりの艤装が、もう半分以上溶岩に飲み込まれた。ここもそのうち焼失する』
扶桑「そんな……それじゃ、時雨の艤装も……!」クラッ
山城「ふ、扶桑お姉様!? しっかりしてください!!」
通信『そろそろ熱さで俺の頭もぼんやりしてきた。酸素も足りねえな……そろそろ、休ませてもらうか』
由良「提督さん!?」
中佐「……ふざけるなよ提督少尉! いや、提督!!」
古鷹「ちゅ、中佐さん!?」
中佐「貴様の部下は皆、貴様の無事を望んでいるんだぞ! 深海の友人にも! メディウムたちにも!」
中佐「これほど慕われていることをわかっているにも関わらず、その望みを自ら切るなんて不義理もいいところだ!!」
中佐「貴様が人間かどうかは関係ない! 人でなしだろうと外道だろうとこの際知ったことか!!」
中佐「戻って来い! 提督!! 僕は、君の友人として、戻って来いと言っているんだ!!」
神通「……中佐……」
340: 2020/12/20(日) 21:12:04.97 ID:KchNE/3fo
通信『……あんたみたいな奴ばかりなら、俺もまともな学生生活を過ごせてたのかもな』
通信『悪いが、本当にもう手はないんだ。俺は氏ぬ。ただ、その前に言わせてくれ』
通信『俺に付き合ってくれて、ありがとう。楽しかった』
朝潮「……司令官! どうして……どうして!!」ボロボロボロ
金剛「そんな台詞、聞きたくありまセン!」
通信『聞き分けがねえなあ……ははは』
不知火「……司令」
通信『……なんだ?』
不知火「……不知火は、いつか必ず、司令をお迎えに上がります」
通信『……はは……お前らはどいつもこいつも……』
通信『ゴトンッ』
中佐「提督少尉!? なんだ今の音は!!」
金剛「テートクッ!?」
大和「提督!!」
ニコ「魔神様!」
341: 2020/12/20(日) 21:12:50.43 ID:KchNE/3fo
* 墓場島の南東部 溶岩に囲まれた丘の上 *
地面に落ちた通信機『提督!』
通信機『魔神様ー!』
通信機『司令官!』
提督「……」フラ
提督「なんで、こんなことになっちまったのかねえ」
提督「妖精が見えるってだけで仲間はずれにしやがって……」
提督「俺はただ、普通の人間の生活を送りたかっただけなんだ」
提督「この島で、やっとそれができそうだったのにな……やっぱり人間なんて碌なもんじゃねえや、くそっ」
提督「……お前らも、そう思うだろ?」
朧「」
電「」
初春「」
吹雪「」
如月「」
提督「……ああ、良く寝てるな……はは、この分なら怖い思いをさせずに済むな」
342: 2020/12/20(日) 21:13:35.09 ID:KchNE/3fo
提督「悪かったな、守ってやれなくて……」ゼンインヒキヨセ
「……しれいかん……」
提督「!?」
如月「司令官……?」
提督「き、如月!? お前、生きてたのか!?」
如月「ええ……でも、体が思うように動かないの。ここはどこ? とっても、熱くて……」
提督「島の丘の上さ。海底火山が噴火した。もうすぐここは溶岩で覆われる」
如月「……司令官も、氏ぬ気なの……?」
提督「ああ。メディウムたちに指示して、たくさん人間を頃したからな。俺ももう人間社会じゃあ生きられねえ」
提督「お前らも守ってやれなかった。何もかも嫌になっちまった。悪いな、甲斐性なしで」
如月「いいえ……ねえ、司令官。この島も、消えるのね」
提督「ああ。全部、消える」
如月「……私たちも……」
提督「……そうだな」
343: 2020/12/20(日) 21:14:19.17 ID:KchNE/3fo
メラメラメラメラ…
如月「……ねえ、司令官? ……最後のお願い、聞いて貰えないかしら……」
提督「……? ……ああ。わかった……」スッ
ゴォォォォ…
如月「……ふふ。司令官のくちびる、暑さで乾いてるわ……」
提督「悪い、な……」
如月「……でも、嬉しい。あなたから求めてくれたのは、初めてだから……」
提督「……」
如月「……司令官?」
提督「……」
如月「……脱水症状で気を失ったのね……」
如月「ふふ、こんな時に仕方のない人……」
如月「私も疲れちゃった……司令官。如月は、最後まで、ご一緒しますね……」
如月「……おやすみ、なさい……」
344: 2020/12/20(日) 21:15:05.85 ID:KchNE/3fo
メラメラメラメラ…
ギュワ…
.
345: 2020/12/20(日) 21:20:04.87 ID:KchNE/3fo
ブラックホール<ギュワアァァァァ…
ピョコッ
ベリアナ「ふう、やっとここまで来れたぁ……って、あっつうい!」
ベリアナ「もう、こんなに熱気がこもってたんじゃ、汗で全身べっちょべちょになっちゃうわ」プンプン
ベリアナ「こんなとこ、早くサヨナラしないと……ええっと、マスターはどこ?」キョロキョロ
提督「」グッタリ
ベリアナ「いた! ねえねえマスター! こんなところで寝てないで、早く逃げましょ!?」ユサユサ
提督「」
ベリアナ「大変……マスターの魂の力が弱まってるわ」
ベリアナ「急いでここから避難しないと、マスターが氏んじゃうかも」ゴソゴソ
ベリアナの胸の谷間から出てきた革の袋<ジャラッ
ベリアナ「マスターの救出が必要になったときのためにニコちゃんに預けられた、魔法石の袋!」ジャーン
ベリアナ「ここに来るまでに魔力を使いすぎちゃったしぃ……」
ベリアナ「この袋に入れた魔法石で魔力を回復してから、マスターたちをブラックホールで運べばいいのよね」ジャラ…
346: 2020/12/20(日) 21:20:50.57 ID:KchNE/3fo
.
『今です』
.
『今です』
.
347: 2020/12/20(日) 21:21:34.65 ID:KchNE/3fo
トン
ベリアナ「きゃああ!?」ゾワッ
ベリアナ「な、なに!? 今、誰が私を……って、あっ!」
革の袋<ツルッ
ベリアナ「や、やだ、大切な魔法石が……!」
革の袋<ガシャガシャガシャン
ベリアナ「!?」
ベリアナ「今の音、なに! ……魔法石が砕けちゃってる!?」
ベリアナ「落とした程度で壊れるような石じゃないのに、砂みたいに……」
革の袋<カラッポ
ベリアナ「」
ベリアナ「」マッサオ
ベリアナ「嘘でしょ……」
海底火山<ドゴォォォン!!
ベリアナ「ひぃっ!?」
348: 2020/12/20(日) 21:23:20.17 ID:KchNE/3fo
ベリアナ「や、やだ! マスター、目を覚ましてよ! このままだとみんな氏んじゃうよ!?」ユサユサ
溶岩<ドドドドドド…
ベリアナ「マスター! マスターーー!」
ベリアナ「い、いやあああああああああ!!!」
溶岩<ドドドドドド…!!
ゴォ…ッ!
ベリアナ「……」
ベリアナ「……あ、あれ?」
(ベリアナや提督たちの周りに作られた円柱状の光の壁が、溶岩の流れを防いでいる)
ベリアナ「た、助かったの……!?」
??「その石、すごい力を持ってるんだね」
ベリアナ「え?」
??「ありがとう、その石の力、わたしが使わせてもらったよ」
ベリアナ「え? え? あ、あなたはだれ!?」
??→応急修理女神「わたしは妖精。あなたのおかげで、戻ってこられたよ」ニコ
349: 2020/12/20(日) 21:24:35.17 ID:KchNE/3fo
* 島の南東 X中佐所有の医療船近辺 *
H大将「なんだあれは……」
光の柱<キィィィン…
H金剛「あれは……ダメコンが発動した時の光に似てますネー?」
霧島「だ、だめこん?」
ニコ「なにそれ?」
H金剛「応急修復女神の妖精さんのことデース。皆さん、お世話になったことありませンカ?」
武蔵「我々はないよな?」
金剛「ありまセンネー」
祥鳳「発動の様子は私たちも初めて見ます」
ビスマルク「私たちの鎮守府にもいるけど、そもそも載せたことはないわ。いつも暇そうにしてるわね」
H大将「なんだお前たち、女神を載せたことがないのか?」
X中佐「ええ、僕は大破したら引き返してましたから」
W大佐「同じく。無理は禁物と考えています」
H大将「なんだ勿体ない。せっかくいるのに、強行偵察とかで活用しないのか」
大和「そ、それより、その女神の発動が、島の中で起きているということですか?」
ニコ「それって魔神様を助けられるってこと!?」
ル級「デモ、ドウヤッテ、アノ火ノ海カラ連レ出スノヨ……!」
350: 2020/12/20(日) 21:25:35.83 ID:KchNE/3fo
* 墓場島の南東部 溶岩に覆われた丘の上 *
ベリアナ「いくら光の壁を作っても、ここから出られなきゃ私たちも……」
応急修理女神(以下「女神」)「そうだね。でも、大丈夫」
女神「みんなが力を貸してくれるから」
ベリアナ「みんな……?」
女神「君たちメディウムは、魂の力を感じられるんだよね?」
ベリアナ「え……!」ゾワッ
女神「さあ『みんな』、力を貸して……!」
ボッ
ベリアナ「……! マグマの下から、光が……!」
ボッ
ボッ
ボボボボッ
351: 2020/12/20(日) 21:26:50.08 ID:KchNE/3fo
* 島の南東 X中佐所有の医療船近辺 *
カトリーナ「な、なあ、光の数が増えてないか?」
ル級「ソウ言エバ……」
ローマ「なんだか幾何学的な並びになってるわね……?」
神通「あの並び……もしかして」
敷波「ねえ神通さん、あの光ってるとこ、墓標代わりの艤装が置いてあったとこだよね?」
山城「! そういえば……!」
五月雨「さっき、あっちの金剛さんが、女神妖精さんの力だって言ってましたよね!?」
足柄「ま、まさか、轟沈した艦娘が蘇ろうとしてるってこと!?」
W大佐「さすがにそれは……」
川内「ううん、あり得るよ。私も幽霊見てるし!」
H大将「幽霊!?」
雲龍「幽霊かどうかさておいても、あの光からは命の力を感じるわ」
ニコ「そうだね……あれは、魂の輝き……!」
ズズン…
「!!」
352: 2020/12/20(日) 21:27:35.40 ID:KchNE/3fo
ゴゴゴゴ…
中将「なんという光景だ……」
W大佐「島の大地が盛り上がって、マグマを堰き止めているのか……!?」
H大将「海と陸が逆ではあるが、まるでモーゼの十戒のワンシーンだ……」
X中佐「丘の上までの道を開いたってこと……!?」
ザァッ!
不知火「!」
X中佐「し、不知火!?」
ザザザァッ!!
H大将「お、おいっ! お前たちまで!?」
朝潮「朝潮は司令官を助けに行きます!!」
霞「説教なら後で聞くわ!」
潮「わ、私も行きます!」
長門「潮、頼む!!」
潮「は、はいっ!!」バッ
353: 2020/12/20(日) 21:28:20.24 ID:KchNE/3fo
敷波「あたしも行くよっ!!」
白露「島風、トップスピードで行くよ!」
島風「うんっ!」
古鷹「私も行きます!」
朝雲「司令ったら、世話が焼けるんだからっ!」
初雪「そう言う割には、嬉しそう……」
山雲「ねー?」
神通「行きましょう……!」
那珂「那珂ちゃんも行っきまーす!」
川内「軽巡棲姫、あんたも来る?」
軽巡棲姫「!!」
那智「駆逐艦だけでは提督を運べるか心配だ、私たちも急ぐぞ!」
最上「うん、行こう!」
五十鈴「ここで行かなきゃ後悔するわ! 急ぎましょ!」
龍驤「大淀! 指揮、頼むでぇ!」
大淀「は、はい!」
雲龍「通信、私たちがサポートするわ」
354: 2020/12/20(日) 21:29:05.11 ID:KchNE/3fo
ザザザァッ…
ルミナ「ヲ級君、ヲ級君?」ツンツン
ヲ級「ヲ……ナンダ?」
ルミナ「悪いが艦載機を飛ばしてくれないか? 軽巡棲姫へ上空から島の様子を伝えて欲しいんだ」
ルミナ「いくら溶岩を堰き止めているとはいえ、あの光の壁と即席で作った土手がいつまで持ちこたえられるかわからないからね」
ヲ級「……」コク
千歳「その役目、私たちもサポートするわ! 隼鷹は島の南側をお願い!」ジャコッ
隼鷹「任せといて! いっけぇぇ!」バシューッ
若葉「よし、若葉も行……グゥッ」ズシッ
摩耶「馬ー鹿、お前、重たいメディウム載っけたまま出るわけにはいかねーだろ?」
摩耶「今度はあたしたちがいい恰好する番だぜ! なあ、霧島さん!」
霧島「……摩耶……!」
金剛「Yes !! 霧島、下を向いている場合ではありまセーン!!」
大和「ええ、これは提督を助けられる唯一無二の好機!!」
355: 2020/12/20(日) 21:30:04.61 ID:KchNE/3fo
ニコ「金剛! 大和! 魔神様を……お願い!!」
大和「はいっ! 身命に変えても!」
武蔵「私も行くぞ! この一大事に指をくわえて見ていられるか!」
金剛「さーあ、比叡! 榛名! 霧島! Are you ready !?」
霧島「……お任せください!」
比叡「気合、入れて!」
榛名「全力で参ります!」
金剛「Follow me !! 金剛型高速戦艦の諦めの悪さ、テートクに見せつけてやるデーース!!」
ウォォォオオオオ!!
ザシャァァァ…!
若葉「……若葉も行きたかった」ガックリ
カサンドラ「だ、だからってこんな場所で降ろされても困ります……!」
マルヤッタ「申し訳ないじょ……」
伊勢「まあまあ、若葉がメディウムのみんなを一手に引き受けてくれたから、みんな行けたんだもの。ね?」
日向「ああ。若葉も功労者であることに違いはない」
若葉「……わかった。我慢しよう」
356: 2020/12/20(日) 21:31:05.14 ID:KchNE/3fo
X中佐「……」
長門「む……すまない、X中佐。あなたがたの指示を待たずに勝手なことをした」
X中佐「僕は別に行くなと指示してはいないよ?」
H大将「命令違反ではないということか」
X中佐「はい。それで良いでしょう?」
中将「……うむ。彼女たちの行動が実を結ぶことを……提督少尉の無事を、祈るばかりだ」
祥鳳「提督、私たちはどうしましょう」
X中佐「僕たちは待機だ。みんながやりたいことの邪魔をしないほうがいいだろう」
X中佐「そもそも、僕たちはここにいる深海棲艦のみんなと交渉の最中だったと思うけど?」
祥鳳「え、ええ……確かにそうでした」
ル級「私タチモ、変ナ気ヲ起コスツモリハナイワヨ?」
長門「ああ、わかっているさ」
W日向「……お前たちは行かなかったのか」
山城「足の遅い私たちがついていったって足手まといなだけよ。伊勢型ならわかるでしょ?」
357: 2020/12/20(日) 21:31:50.32 ID:KchNE/3fo
山城「ついでに言えば、私なんかいないほうが提督が生きて帰ってくる可能性が高まるわ」フン
陸奥「そんな悲観的にならなくてもいいじゃない。ねえ、扶桑?」
扶桑「山城なりの優しさよ。根拠はないけど、その場にいないほうがいいって、思っているだけでしょう?」フフッ
扶桑「でも、私たちのジンクスなんて関係ないわ。目の前で起きているのが奇跡でもなんでもいいの。私は提督の無事を祈るだけ……」イノリ
扶桑「これ以上、私たちから大事な人を奪わないで欲しいの……!」
日向「……伊勢」
伊勢「? どうしたの」
日向「確かに、我々伊勢型も低速艦だ。しかし、誘導や中継地点の監視くらいはできないかと思ってな」
伊勢「ああ、そうね。ごめん長門、ここは任せちゃってもいい?」
長門「じっとしていられないか。ああ、いいぞ、任せておけ」
W日向「それなら少し待ってくれないか」
日向「! 君は……W大佐のところの日向か」
W日向「ああ。君にいいものをやろう……水上機の最高傑作、瑞雲だ」フッ
日向「……!」
W伊勢「ちょっ、日向!?」
359: 2020/12/20(日) 21:33:04.77 ID:KchNE/3fo
日向「なるほど……だが、すまない。私はまだ改装を受けていないんだ」
W日向「!?」
W伊勢「えぇ!? まだ戦艦なの!?」
日向「ああ。その瑞雲がどんなものかは存じないが……今の私には過ぎたるものだ。受け取ることはできない」
W日向「」
日向「では、失礼する……伊勢」
伊勢「あ、うん。じゃあ、行ってきます」フリフリ
W伊勢「あ、ああ、いってらっしゃい」フリフリ
W日向「」
W伊勢「おーい、日向ー!?」
コーネリア「あたしたちはこんな奴らに負けたのかよ……」ボロッ
タ級「……不覚ダワ」ボロッ
W大佐「しかし、瑞雲の素晴らしさがわからない日向がいるなんて、信じられんな……」
中将「W大佐は航空戦艦がお気に入りかね」
360: 2020/12/20(日) 21:33:50.13 ID:KchNE/3fo
H大将「そういえば近々伊勢型の改二構想が計画されていたな……」
W伊勢「えっ!?」
W大佐「やったぜ」ガッツポ
山城「ああ、これでまた伊勢型に差を付けられるのね。不幸だわ」ズーン
陸奥「まあまあ」ポンポン
扶桑「そんなことより、提督が心配なんだけれど……」
長門「悲観的ではないのは悪いことではないが……」
ル級「脱線シスギヨネ?」
X中佐「うん……Wがああなのはごめんね」
ニコ「みんな魔神様が心配じゃないのかな」ハァ
若葉「山城さんが提督に対して憎まれ口を言うのはいつものことだ」
若葉「それにこちらの海軍のお偉方は、そもそも提督が海軍に反目していないかを追及しに来ているんだ」
若葉「言ってしまえば部外者だからな。提督がそこまで重要ではない人たちもいるだろう、それなら猶更にやむ無しだ」
ニコ「……」
ビスマルク「でも、墓場島の艦娘はみんな島に向かったじゃない。慕われてる証拠よ」
長門「ああ。残った私たちも、みんなが無事帰ってくるのを待つだけだ」
ニコ「うん……!」
タチアナ「ところで若葉さん、あなたに載せていたオリヴィアなんですが……」
若葉「うん……そういえば。どこへ行ったんだ?」キョロキョロ
373: 2021/09/05(日) 13:15:02.33 ID:WAM6fwFIo
* 島の内部 丘の上 *
ベリアナ「すっご~い……!」
ベリアナ「海までの道が開けちゃった……!!」
女神「これでみんなを沖まで運べるね」
ベリアナ「良く見たら、艦娘のみんなの傷も消えてるし!」
ベリアナ「ほぉら、起きて起きて! みんな早く逃げようよ!」ユサユサ
女神「あ、ごめん。みんなの目を覚ますまでの力は確保できなかったんだ」
ベリアナ「えぇ~っ!? ちょっとぉ、あたしみたいなか弱いオンナノコに、オトナのオトコのひとなんて運べないよ~!?」
女神「ブラックホールは作れないの?」
ベリアナ「もう魔力ないもん……魔法石、全部割れちゃったし……」
女神「……うーん、ごめんね?」
ベリアナ「っていうか、このままじゃあたしも蒸し焼きになっちゃうよう……やだぁぁ、こんなところで氏にたくなぁい!」
ベリアナ「氏ぬときはベッドの上でマスターに跨って、って決めてるのぉ~!」
女神「それ、如月が聞いたらただじゃすまないよ?」
374: 2021/09/05(日) 13:15:49.76 ID:WAM6fwFIo
* 島の海岸 *
不知火「ここから陸地……!」ダッ
霞「……なんて熱さなの」
朝潮「こんな熱気の中にいては、司令官が危険です!」
潮「い、急ぎましょう……!」
ドドドドドド…
敷波「!?」
白露「いっちばーーーん!」ドドドドドド
島風「はっやぁーーーい!」ドドドドドド
不知火「……」
霞「この時ばかりは頼もしいわね……」
* 丘の上 *
ドドドドドド…
ベリアナ「なにこの音……!?」
白露「いっちばーーーん!」キキーッ
島風「とうちゃーーーく!」キキーッ
375: 2021/09/05(日) 13:16:32.00 ID:WAM6fwFIo
女神「きみたちは……!」
ベリアナ「やったあ、助けに来てくれたのね!?」パァッ
島風「島風のほうが速かった!」
白露「あたしのほうが一番でした!」
ベリアナ「ちょっとぉ!? 話を聞いてよぉ!!」ガーン
女神「ふたりとも、時間がないんだ。急げばみんなを助けられる、みんなを連れて島を離れて」
島風「ええ!? みんなって、6人もいるの!?」
女神「この悪魔ちゃんも含めて7人だね」
白露「私たちだけでみんなを運ぶのは無理だね……」ウーン
島風「とにかく助けを呼ぼう!」ダッ
バユーン
島風「!」
白露「あれは……龍驤さんの彩雲だ! おーい!」ズババババ
女神「えっ、なにその不思議な踊り」
島風「手旗信号だよ?」
ベリアナ「そんなので通じるの!?」
376: 2021/09/05(日) 13:17:18.00 ID:WAM6fwFIo
* 海岸付近の海上 *
龍驤「うん? 彩雲が映像送ってきてるなあ……」
雲龍「え?」
大淀「なんですか、この不思議な踊り……もしかして」
龍驤「……キュウエンモトム、テイトク、クチクカンゴ、メディウムイチ、やて」
大淀「早っ!?」
雲龍「提督、生きてるの?」
龍驤「メディウムイガイイシキナシ、て言うてるから、ちょっち危ないかもなあ……雲龍、通信準備」
雲龍「はい」
龍驤「あーあー、巡洋艦のみんな、目的地に提督がおるで!」
龍驤「駆逐艦の子たちとメディウムもひとりおるから、連携して連れてってや!」
通信『了解!』
大淀「あのハンドサイン、ちゃんと解読できたんですか」タラリ
龍驤「ちょろいで」ビシッ
雲龍「素敵」
377: 2021/09/05(日) 13:18:16.80 ID:WAM6fwFIo
* 丘の上 *
白露「よし、龍驤さんには連絡届いたみたい!」
島風「みんな来たよ! こっちこっち!!」
タッタッタッ
不知火「はぁ、はぁ……」
朝潮「司令官……!」
霞「……まだ、生きてるのよね?」
不知火「司令、失礼します」スッ
(手袋を外して提督の額に手を当てる不知火)
不知火「こんなに熱いのに、汗をかいていない……脱水症状を起こしているのかもしれません」
不知火「朝潮、霞、お二人に司令をお願いしたいのですが」
朝潮「ええ、任せて! 霞!」
霞「とにかくここから離れるわよ!」ヨイショ
タッタッタッ
敷波「司令官!!」
潮「提督……生きてるんですか!?」
378: 2021/09/05(日) 13:19:02.24 ID:WAM6fwFIo
不知火「二人はこちらを手伝ってください。不知火は如月を連れて行きます」
女神「みんなを早くドックに入れてあげて。わたしの力も、いつまで持ちこたえられるかわからないからね」
潮「妖精さん……!」
敷波「……それじゃあ、電はあたしが連れてくよ!」グッ
潮「お、朧ちゃんは、私が連れて行きます!」
白露「よし、それじゃ、初春は私が運ぶね!」
島風「私が吹雪ちゃんかあ」ヨイショ
不知火「皆さん、重巡や戦艦の皆さんと合流出来たら、そちらに引き渡してください」
不知火「ここに来るまで、熱気や坂道で私たちも消耗しました、くれぐれも焦らず慎重にお願いします……!」
潮「わ、わかりました!」
敷波「了解っ!」
白露「島風、競争はなしだからね?」
島風「わかってるってば!」
不知火「……妖精さんは、どうするおつもりで」
女神「わたしはここでお別れかな。力を使ってる間は動けないからね」
379: 2021/09/05(日) 13:19:47.39 ID:WAM6fwFIo
女神「でも、氏ぬわけじゃないから大丈夫。力を使った後はしばらくこの世界から消えちゃうだけだから」
ベリアナ「ああ、もしかして、異世界に逃げちゃう感じ?」
女神「んー……多分、そんな感じかな。私たちの力が回復すれば、また戻ってこられるから、心配しないで」
ベリアナ「それで私が持ってきた魔法石が消えちゃったのね……」
女神「それより、きみも早く逃げないと。氏ぬときは提督の上でなんでしょう?」
不知火「!?」
ベリアナ「んもう、わかってるったら! 行きましょ、えーと……シラナイ?」
不知火「不知火です」
ベリアナ「うん、シラヌイちゃん、イこっ!」タッ
不知火「……は、はあ」ポ
不知火「それでは……妖精さん。行ってまいります」ケイレイ
女神「うん。みんなと、提督をよろしくね」
不知火「……」コク
クルッ スタスタ…
女神「……さあ、みんなが脱出するまで、もうひと頑張りだ」
380: 2021/09/05(日) 13:20:31.98 ID:WAM6fwFIo
* *
朝潮「……はぁ、はぁ……」
霞「朝潮姉、大丈夫?」
朝潮「こ、このくらいでへこたれたりは……」
ベリアナ「本当に大丈夫? 汗びっしょりで、息も荒いし、まるでセ」
不知火「おやめください」ガシッ
ベリアナ「んもう、冗談だってばぁ」
敷波「そういう疲れる冗談言ってる場合じゃないよ……」ゼーゼー
潮「……」ハーハー
島風「もー、あっつーい!」
白露「叫んじゃ体力消費するってば……」
オリヴィア「やれやれ、そろそろアタイの出番かい?」ポンッ
潮「!?」
ベリアナ「オリヴィア!? どこに潜んでたの!?」
381: 2021/09/05(日) 13:21:32.10 ID:WAM6fwFIo
オリヴィア「アタイかい? ウシオの艦内にこっそり紛れて入ってたんだよ」
潮「ぜ、全然気づきませんでした……」
オリヴィア「どんくさい子だねえ」
潮「どんくさい……」ズーン
オリヴィア「それはさておいて、ほら、そこの二人。アミーゴを背負うのはアタイがやるよ」ノッシノッシ
朝潮「……」ゼーゼー
霞「あ、あんた……」ハーハー
オリヴィア「成人男性担いで歩くにゃあ、あんたたちじゃガタイが足りないよ」ヒョイ
霞「あ……」
オリヴィア「陸の上ではこのアタイに任せて、海についたら交代だ。いいね?」テイトクカツギアゲ
朝潮「……わ、わかりました、お願いいたします……!」ペコリ
タタタッ
黒潮「不知火! ……良かった、みんなおるんやな!?」
朝雲「山雲、みんなを運ぶの手伝うわよ!」
山雲「は~い」
初雪「……熱い、氏にそう……早く海に行こう」ダラー
朝雲「いま、軽巡や重巡のみんながこっちに向かってるわ」
黒潮「うちらが運ぶより、重巡や戦艦のみんなに運んでもらったほうがええやろしな!」
不知火「……少し、急ぎましょう」コク
395: 2022/06/08(水) 21:51:30.87 ID:dPdn6WLgo
* 島の南東岸 *
神通「この上ですね……!」
川内「うひゃあ、熱気がすごい!」
五十鈴「駆逐艦のみんなはもうあそこにまで行ってるのね……!」
由良「急ぎましょ!」ダッ
軽巡棲姫「……グ……!」ガクッ
那珂「! け、軽巡ちゃん大丈夫!?」ガシッ
川内「もしかして、さっきふっ飛ばされたときのダメージが残ってるんじゃない?」
那珂「みんなは先に行ってて! 私が軽巡ちゃんを看るから!」
川内「わかった!」ダッ
神通「お願いします!」ダッ
ザザザァッ
那智「む……何があった!?」
那珂「軽巡ちゃんのダメージがひどいみたいなの! 私が看てるから、先に行ってて!」
396: 2022/06/08(水) 21:52:16.14 ID:dPdn6WLgo
那智「あ、ああ、わかった。具合がひどいときは引き返せよ!」ダッ
古鷹「私たちは行きましょう!」ダッ
利根「よおし筑摩、吾輩たちも突入するぞ!」ダッ
筑摩「はい、姉さ……ん!?」
利根「ん? どうしたん……うおっ!?」ガクッ
??「ど、どうしたんじゃ!?」
利根「い、いや、急に力が……って……」フリムキ
筑摩「……」
利根「……」
??→利根の幽霊「む?」
筑摩「……」
利根「……」
397: 2022/06/08(水) 21:53:04.83 ID:dPdn6WLgo
利根の幽霊「利根? 筑摩も……なんじゃ? もしかして、吾輩が見えるのか!?」
利根「吾輩がいるううううう!?」ヒョェェェ!?
筑摩「利根姉さんが幽体離脱してるうううう!?」キャアアアア!?
那珂「うーん」フラッ パタリ
軽巡棲姫「チョッ!? シッカリシナサイ!?」
利根の幽霊「い、いや、吾輩たちは別に幽体離脱しておるわけでは……」
筑摩「はやく! 早く利根姉さんの体に戻ってください!」オロオロ
利根「う、うむ! 早く戻ってこい!」ダッ
スカッ
筑摩「体をすり抜けた!?」
利根「モノホンの幽霊じゃああ!?」
利根の幽霊「いや確かに幽霊だけれども!?」
利根「き、き、貴様、何者じゃ!?」
利根の幽霊「な、何者と言われても……吾輩たちも利根である!」
軽巡棲姫「……アナタ、幽霊ノ『レギオン』ネ?」
利根の幽霊「うむ……集合体である」
筑摩「集合体?」
398: 2022/06/08(水) 21:53:46.22 ID:dPdn6WLgo
利根の幽霊「利根よ、貴様は覚えているか? あの地下室に並べられた利根の標本を」
利根「……!」
利根の幽霊「吾輩たちは、あの地下室で殺された利根の集合体である!」
利根「な、なんじゃとおお!?」
筑摩「……あ、あの写真の……!?」
利根の幽霊「まさか貴様たちと話ができるとは夢にも思わなんだが……」
軽巡棲姫「コノ光ノセイヨ……」
利根「む?」
軽巡棲姫「コノ忌々シイ光ガ、私ノカラダヲ拒ミ、オマエヲ呼ビ起コシタ……海底トハ、真逆ノコノ光ノセイデ」
利根の幽霊「……そ、そうか、この光は女神妖精の光であったな……!」
筑摩「轟沈から救うための力が、幽霊になった利根姉さんたちに力を与えたってことですか……!」
利根「なるほど、軽巡棲姫が光に包まれたこの島に近づけないのは、その身に深海の力を宿すからということか……?」
軽巡棲姫「多分、ネ……島全体ヲ覆ウホドノ光ダ、オマエノ復活モ、光ノチカラガ強スギルセイデ起コッタハズヨ」
筑摩「そ、それはわかりましたが、利根姉さんの体に幽霊の利根姉さんたちが戻らないと、生身の姉さんの力が戻らないのでは?」
利根の幽霊「戻ろうとして戻れなかったのが、ついぞさっきじゃぞ?」
利根「今はそれはどちらでも構わぬ。まずは動けるものが動いて提督を助けるのが先である!」
399: 2022/06/08(水) 21:54:31.16 ID:dPdn6WLgo
利根「筑摩、おぬし一人でも行ってくれるか? 皆の力になって欲しい……!」
筑摩「! ……わかりました。ここも危ないですから、利根姉さんは避難しててください!」タッ
利根「筑摩! 必ず戻ってくるのじゃぞ!!」
筑摩「はいっ!」バッ
利根「……吾輩の体が重いのは、やはり、おぬしが離れてしまったせいなのか……?」
利根の幽霊「ふむ……ずっと、一緒におったからな。吾輩たちは、いつの間にか、おぬしの一部になってしまっていたのかもしれぬ」
利根「そうか……おぬしは、吾輩とずっと一緒におったのだな」フフッ
利根「頼みがある。できるのであれば、吾輩の代わりに筑摩を守ってほしい……筑摩に危険を知らせてやってくれまいか」
利根の幽霊「……ああ、任せよ!」ニッ
利根の幽霊「可愛い妹のため! そして、外の世界を……海を教えてくれたおぬしのため!」
利根の幽霊「その願いに報いようではないか!!」ゴォッ!
利根「……頼むぞ……!」
軽巡棲姫「幽霊ニ支援ヲ頼ムナンテ、非現実的ネ……」
利根「……ふふ、深海棲艦のおぬしでも、そんなことを言うのだな」ヨロッ
利根「さあ、吾輩たちは避難するとしよう。気絶した那珂も連れて行かねばな」
400: 2022/06/08(水) 21:55:15.85 ID:dPdn6WLgo
* 丘から海への道 *
不知火「はぁ、はぁ……っ」
朝潮「なんて、熱さ……」
潮「……」
朝雲「み、みんな大丈夫……?」
黒潮「……朝雲こそ、足元、やばいんちゃう……?」
山雲「……」
初雪「……早く、海に出たい……」
白露「あたしが、一番に出る……!!」
島風「負けない……!」
霞「ったく、もう……!」
オリヴィア「こりゃあまずいね……みんなへばっちまってる」ホッソリ
ベリアナ「オリヴィアも細くなってるんだけど……」
オリヴィア「ああ、せっかく肉を付けたのに、この暑さで強制的にダイエットさせられちまったよ」
オリヴィア「ベリアナ、悪いんだけどあたしのレスリングウェア、余ってる分を後ろで縛っとくれ。ゆるゆるだ」
401: 2022/06/08(水) 21:56:16.05 ID:dPdn6WLgo
ベリアナ「毎回不思議なんだけど、なんでオリヴィアは胸だけ脂肪が落ちないの?」ムスビムスビ
オリヴィア「知らないよそんなの。それよりべリアナも運ぶの手伝いな」
ベリアナ「無理よぅ、私が非力なの知ってるでしょ? だれか担いだら飛べないし!」
ドーン!
不知火「……!」クルッ
オリヴィア「なんだい!?」クルッ
溶岩<ドパァァン!
オリヴィア「げっ! 溶岩が壁を乗り越えてきたのかい!?」
ベリアナ「やっばいじゃない! みんな逃げて!?」
オリヴィア「逃げるったって、逃げられるわけないよ!!」
霞「……そんな……!」
溶岩<ゴォォオ!!
ベリアナ「嫌ァァ!! こっちに流れてきたああ!!」
黒潮「こんな、ところで……」
ゴォッ!
島風「な、なに!? 今の速い気配!!」
402: 2022/06/08(水) 21:57:00.68 ID:dPdn6WLgo
利根の幽霊「やらせはせんぞ!! どりゃあああ!!」
ドガァァンン!!
ベリアナ「きゃああ!? なに今の!!」
オリヴィア「……地面が盛り上がって壁ができてるよ。おかげで助かったけど、こりゃいったいどういうことだい」
朝潮「今の声は……利根さん……?」
タッタッタッ…
不知火「あれは……」
由良「や、やっと追いつけた……」ハァハァ
敷波「由良さん……!」
大淀「皆さん無事ですか!?」
川内「滅茶苦茶暑いね……ほら、肩を貸すよ!」
五十鈴「みんなよく頑張ったわ!」
朝雲「良かった……山雲! しっかりして! みんなが来てくれたわ!」
山雲「あ……良かったぁ……」
神通「すぐに重巡の皆さんも来ます、それまで少しでも歩きましょう!」
那智「おおーーーい!!」
403: 2022/06/08(水) 21:57:45.98 ID:dPdn6WLgo
古鷹「みんな大丈夫!?」
ベリアナ「古鷹!? ふるたかぁぁぁぁ!!!」ピューン!
古鷹「ふえっ!? ベ、ベリアナさん、どうしてここに!?」
ベリアナ「ニコちゃんの指示で、ブラックホールを通してみんな逃げさせられないかって頼まれたのぉ!!」ヒシッ
古鷹「そ、そうだったんですか……無事で良かったです!」ニコッ
ベリアナ「んもう、古鷹が助けに来てくれるなんて、これってきっと運命なのね……?」テヲニギリ
古鷹「へっ」
ベリアナ「私、もう汗でベトベトなの……戻って二人でお風呂で洗いっこしましょ……?」ピトッ
古鷹「あ、あのっ」アセアセ
ベリアナ「やぁん、照れちゃってぇ、古鷹ったらカワイィ」
ゴチーン
ベリアナ「……いったあああい! 何するのよお、オリヴィア!!」
オリヴィア「ふざけてないで避難しな。悪いね、アタイもそろそろ体力の限界だ、誰かに乗せてってもらえると助かるよ」
古鷹「そ、それじゃあ、私の艤装に乗ってください。ベリアナさんも一緒に」
ベリアナ「ああん、古鷹ダイスキぃぃ!!」ダキツキー
404: 2022/06/08(水) 21:58:45.74 ID:dPdn6WLgo
加古「とりあえず、みんないるかい?」
朝潮「あ、あの、利根さんの姿が見えないのですが……」
霞「さっき、声が聞こえたような気がしたんだけど……」
利根の幽霊「うむ! 吾輩のことは構わず、早く逃げるのじゃ!!」
朝潮「!?」
黒潮「透けてるーー!?」ガビーン!
初雪「……は、はらったま、きよったま……!」ガタガタ
筑摩「と、利根姉さん! そんなに急いで、何があったんですか!」ハァハァ
大淀「そうですよ! 利根さんにいったいなにがあったんですか!!」
利根の幽霊「幽体離脱したようなものじゃ! 簡単に言えば!」
五十鈴「簡単すぎよ!!」
利根の幽霊「それより丘の上の光の柱を見よ!」
利根の幽霊「この島に埋葬された艦娘の魂がこの奇跡を起こしたわけじゃが、それを呼び起こした女神妖精の光の力が衰えつつある!」
利根の幽霊「吾輩が新たに壁を作ったが、吾輩たちの力も長くはもたん! 我らが活動できる間に、島を離れ海に出るのじゃ!! 急げ!!」
足柄「そ、そういうことね……!」
不知火「……早く脱出しましょう、司令のためにも」ググッ
三隈「軽巡のみなさんは意識のある駆逐艦のみなさんに肩を貸してあげてください」
最上「提督と、気を失った駆逐艦のみんなは、僕たちが運ぶよ!」
大淀「急ぎましょう!!」
405: 2022/06/08(水) 21:59:30.93 ID:dPdn6WLgo
* 島の南東岸近く *
金剛「テートクゥゥゥ!!!」ダダッ
比叡「金剛お姉様! みんなすぐそこまで来てます!」
那智「おお、金剛型の到着か! 助かる!」
霧島「お姉様、私たちは疲弊している駆逐艦娘を優先して運びましょう!」ヒョイヒョイッ
霞「き、霧島さん……!」カツギ
朝潮「あ、ありがとうございます……!」アゲラレ
比叡「よーし、みんな連れていくよーー!」ヒョイヒョイ
敷波「ふいー、助かったぁ……」コワキニ
潮「お、お世話に、なります……」カカエラレ
榛名「さあ、行きましょう!」ヒョイヒョイッ
朝雲「あ、ありがとうございます……!」セナカニ
山雲「たすかったわ~……」セオワレ
406: 2022/06/08(水) 22:00:15.95 ID:dPdn6WLgo
金剛「急いで引き上げるデース!」ヒョイヒョイッ
白露「金剛さんありがと……!」リョウテニ
島風「もう、あっつーい……!」ダキカカエ
武蔵「我々も来たぞ!」
大和「さあ、急いで引き上げましょう!」
三隈「最上さん、提督は大和さんにお任せしましょう!」
最上「そ、そうだね、その方が早いかも!」
大和「わかりました、お任せください!」ダキカカエ
足柄「武蔵は陽炎型の二人をお願い!」
武蔵「よし、しっかりつかまれ!」ヒョイヒョイ
黒潮「お、おおきにな……!」ギソウニ
不知火「助かります……」ノセラレ
ドドーン
筑摩「火山の噴火が……!」
407: 2022/06/08(水) 22:01:00.41 ID:dPdn6WLgo
* 沖合 *
ヲ級「……マズイナ」
ルミナ「なにがあったんだヲ級君!?」
ヲ級「丘ノ上ノ光ガ弱マッテイル。溶岩ヲ押シトメテイタ壁ガ、乗リ越エラレソウダ」
ル級「……!」
泊地棲姫「ナニゴトダ」ザザァ…ッ
中将「!!」
X中佐「は、泊地棲姫……!」
ビスマルク「大丈夫よ。私たちがいるわ」スッ
泊地棲姫「……」ジロリ
長門「それより、ルミナの反応を見るに、なにかあったのか?」
ヲ級「取リ残サレタ人間ヲ助ケニ陸ニ上ガッタハイイガ、溶岩ノ流レガ速イ」
長門「……!!」
泊地棲姫「ナルホド……艦ガ、陸ノ上デハ遅クナルノモ当然ダ」
408: 2022/06/08(水) 22:01:45.98 ID:dPdn6WLgo
泊地棲姫「手ヲ貸ソウ……!」
ザザザザァァァ
プリンツ「な、なななっ、なんですか!? この音!!」
扶桑「これは……」
カ級たち「「……」」ズラッ
ヨ級たち「「……」」ズララッ
泊地棲姫「潜水艦隊、単横陣ノママ、海面下ヲ島ニ向カッテ直進。陸地ノ手前デ潜航シ、引キ返セ」
深海潜水艦たち「」ザザァッ!
ローマ「なにをするつもり……?」
泊地棲姫「水ノ上ナラ速度ガ出セルダロウ。ダカラ、波ヲ起コシテ陸地ニ水ヲ送リコム」
ビスマルク「……津波の原理ね。引き潮に乗れば、島からの離脱も早まる……か」
泊地棲姫「アトハ……」
長門「あとは?」
泊地棲姫「コノ島ノ艦娘ト、メディウムノチカラヲ借リル。ヲ級」
ヲ級「……了解」
深海艦載機< ヒュオァァッ シュパアァァァ…!
409: 2022/06/08(水) 22:02:30.96 ID:dPdn6WLgo
* 島内部、南東岸近く *
溶岩< ドドドド…!
金剛「Hurry! Hurry!! Hurryyyyy!!」
那智「もうすぐ海だ! 気を抜くな!!」
加古「ひぃ、へぇ、はぁ……海が、遠い……」
那智「諦めるな! 生きたまま溶鉱炉もどきに入りたくないだろう!」
加古「わ、わかってるよぉ……!」
摩耶「喋ってないで、走れ!!」
溶岩< ドドドド…!
足柄「迫ってきてるううううう!」ヒィィ!
武蔵「後ろを見るな! 前を見ろ!!」
ザパァァァン!!
霧島「! 波が強い……!?」
榛名「あの波に乗れれば、間に合うのでは!?」
溶岩< ドドドド…!
足柄「音が近づいてきてるわあああ! 嫌ああああ!!」
五十鈴「足柄さんそういうこと言わないで!!」
410: 2022/06/08(水) 22:03:15.90 ID:dPdn6WLgo
由良「ま、間に合うのかしら……!?」
古鷹「! あれは……前を見てください!」
海上に浮かぶ浮遊砲台×5「」フヨッ
摩耶「ありゃあ、泊地棲姫の浮遊砲台と……五月雨!?」
神通「利根さんと軽巡棲姫も……!」
三隈「五月雨さん、いないと思ったら、あんなところに!?」
軽巡棲姫「……コレガ、ヲ級カラノ距離情報ダ」
利根「ふむ……であれば、このタイミングじゃな」
五月雨「わ、私にできるんでしょうか……!?」
利根「大丈夫、吾輩たちがサポートしておるんじゃ」
軽巡棲姫「今、浮遊砲台ノ制御ガデキルノハ、オマエダケ……シッカリナサイ」
ミリーエル「こちらも準備できました!」
グローディス「外すなよぉ、責任重大だぜ」ニヒヒ
ディニエイル「そうやってプレッシャーをかけて遊ぶのはやめてもらえますか」
浮遊砲台「ギュエ……」
ディニエイル「大丈夫です。狙って打つだけ。我々の仕事はそれだけです」
利根「さあ、参ろうか! 五月雨、頼むぞ!」
411: 2022/06/08(水) 22:04:00.90 ID:dPdn6WLgo
五月雨「……はいっ! 行きます、観測着弾射撃!」
ヲ級の深海艦載機< ギュォォォオ…!
軽巡棲姫「今ヨ!」
五月雨「撃てええええ!!」
泊地棲姫の浮遊砲台たち「」ドガドガドガァン!
加古「な、なんだなんだあ!? 撃ってきた!?」
那智「着弾地点が近いぞ!?」
砲弾< ドガドガドガァン!
バキッ
(着弾した地点から乾いた音が響いて)
氷の壁< バキバキバキバキーッ
メアリーアン「おらだずの魔力の結晶だあ!」
ヒサメ「そうやすやすと溶けたりはせぬぞ!!」
加古「うおっさぶっ!?」ヒンヤリ
白露「うわあ、氷の壁が溶岩を遮ってる……!」
金剛「今のうちデース!!」
武蔵「次の波が来るぞ! 飛び込めええええ!!」
ザパァァァン!!
412: 2022/06/08(水) 22:04:46.72 ID:dPdn6WLgo
* 沖合 *
千歳「龍驤さんから、全員の無事が確認できました!! 全員海上に出たようです!」
ヲ級「……潜水艦隊モ、海域カラ離脱完了シタ」
長門「提督と駆逐艦たちはどうなったんだ……!?」
ヲ級「イマ、コチラニ向カッテキテイルナ」
隼鷹「逃げ遅れの艦もいないみたいだね! あとは海軍の人が海に放り出されてる!」
X中佐「祥鳳! 僕たちは一旦、本船に戻る! 深海のみんなとは今後も連絡を取りたい、連絡先の交換を頼む!」
祥鳳「わ、わかりました!」
X中佐「僕たちは提督少尉の受け入れ準備だ! それから叔父さんと、WとH大将の怪我も診てもらいます!」
X中佐「それから生き残った海兵の救助を! 中将閣下、救助隊の指揮をお願いできませんか!?」
中将「……うむ、承知した」
大型ゴムボート< バウゥゥ…!
ル級「……提督ハ、助ケラレルノカ……?」
ビスマルク「それは保証できないけれど、医療船のスタッフは全力を尽くしてくれるわよ」
泊地棲姫「助ケテモラワナイト、ココマデ手ヲ貸シタ意味ガナイワ」
ニーナ「その通りです。魔神様の無事のお帰りこそ、私たちの望み!」
ケイティー「旦那様のいない世界なんて、存在しなくていいのよ……!?」ユラリ
ローマ「過激派がいるわね……」タラリ
ニコ「でも、ぼくたちメディウムの望みは概ねその通りだよ。僕たちはそれこそ、数百年待っていたんだ」
413: 2022/06/08(水) 22:06:00.82 ID:dPdn6WLgo
伊勢「やったよ! みんなが戻って来たよ!」ザァァッ
祥鳳「ローマさんとリベッチオさんは、墓場島の艦隊の皆さんの、医療船への誘導をお願いします!」
リベッチオ「わかったー!」
ローマ「了解」
ドドーン…
ヴェールヌイ「! 島が……!」
長門「……」
扶桑「全部、燃えてしまったわね……鎮守府の建物も、丘の上の艤装も……なにもかも」
陸奥「……」ウツムキ
扶桑「私たちは、これからどこへ行けばよいのかしら……」
山城「……お姉様……」
祥鳳「……」
泊地棲姫「……」
ル級「……」
* * *
* *
*
416: 2022/06/25(土) 22:44:16.33 ID:r0JdSGTYo
* ??? *
(提督らしき人影が花畑の中に大の字で倒れている)
提督「……」
提督「……」
提督「ん……」
提督「んん……?」パチ
提督「……」ムクッ
提督「……なんだここ?」キョロキョロ
提督「俺は確か……如月や吹雪たちを抱きかかえて、島にいたよな」
提督「島が燃えてて、熱くて頭が朦朧としてて、その後……」
提督「……ちっ、俺らしくもねえ」
提督「つうか、あいつらどこいったんだ。そもそもここどこだ? 夢でも見てんのか……?」
提督「服も燃えたり汚れたりしてねえし……ん? 俺、こんなに色白だったか?」ソデマクリ
提督「……まあいいや、どうせ夢なら寝直すか。誰もいねえんじゃしょうがねえ」ゴロン
417: 2022/06/25(土) 22:45:01.26 ID:r0JdSGTYo
提督「……」スー
時雨「……」ザッ
提督「……」スー
時雨「ねえ、提督」
提督「……」
時雨「寝てる場合じゃないよ。ほら、起きて」ユサ
提督「……んん?」パチ
時雨「おはよう、提督。僕のこと、覚えてるかな?」
提督「……」プイ
時雨「? 提督、いきなりそっぽを向くなんてひどいんじゃないかな?」
提督「そうじゃねえ、近付きすぎだってんだよ。お前、俺にスカートの中を見せたいのか」ムクッ
時雨「!」バッ
時雨「……見た?」セキメン
提督「ああ、見ちまったよ。黒か」
ベシッ
提督「いてっ」
418: 2022/06/25(土) 22:45:46.44 ID:r0JdSGTYo
時雨「信じられないよ、僕の名前より先に履いてるパンツの色を口にするなんて」
提督「見えたもんはしょうがねえだろうが。それよりお前……俺と面識ねえよな? 見覚えはあるんだが……」
時雨「そういえばそうだね。でも、僕はずっとみんなを見てたから、良く知ってるよ」
提督「見てた?」
時雨「うん。僕は、白露型駆逐艦、時雨。よろしくね」
提督「時雨? ……扶桑たちを追いかけてきた奴の同型か?」
時雨「同型じゃなくてその本人だよ。あの時轟沈してあの島に埋葬されたのが、この僕さ」
提督「なに? ……足はついてやがるな」
時雨「下着の次は脚を見るなんて、提督はいやらしいね。けだものだ」
提督「興味ねえよ」
時雨「そう言って油断させて僕を食べる気なんだね?」
提督「……」
時雨「その、相手にするのが面倒臭そうな顔をするの、やめてくれないかな」
提督「その手のネタは俺の趣味じゃねえ。つうか、お前ってそういうキャラだったのか?」
時雨「冗談も言えない状態だったんだもの。少しくらい付き合ってくれてもいいじゃないか」
419: 2022/06/25(土) 22:46:32.15 ID:r0JdSGTYo
提督「だったらもう少し上品な冗談にしてくれ。それより、お前がいるってことは、ここはあの世か?」
時雨「うーん……あの世とこの世の境目、かな? 賽の河原みたいなものだね」
提督「つまり、俺も氏んだのか」
時雨「氏にかけている、と言うのが正しいかな。提督の肉体は無事みたいだからね」
提督「そうなのか……? でも俺がここにいるってことは、ほぼ氏んでるのと同じじゃねえのか? お前もここにいるわけだし……」
時雨「うーん、それにはもうちょっと複雑な事情があるんだけど……」
提督「そうだ、如月たちもここに来てるのか?」キョロ
時雨「みんなは来てないと思うなあ」
提督「あいつらは無事だって言えるのか?」
時雨「うん、おそらくね。とにかく、提督がなぜここに来たか、その理由は提督の顔を見ればわかるよ」
提督「どういう意味だ?」
時雨「丁度良くそこに池があるから、そこで自分の顔を見てみなよ」
提督「……?」
(提督が池を覗き込むと水面には、陶器のような真っ白な顔にひびが入ってオレンジ色に発光している顔が映る)
提督「なんだこりゃ……!?」
420: 2022/06/25(土) 22:47:16.16 ID:r0JdSGTYo
時雨「肉体から引き剥がされて魂だけになった姿だから、よくわかるでしょ?」
提督「魂……!?」
時雨「そう。提督、あなたは、深海棲艦の魂と人間の魂が混ざりあった魂を持つ人間だよ」
提督「混ざっ……深海棲艦と!? 俺が!? なんでだ!?」
時雨「提督のお母さんが、学生の時に海難事故に遭ったことは知っているかい?」
提督「……いいや、知らねえ。初めて聞いた。母親が海の近くに行きたがらないのはそのせいか?」
時雨「だと思うよ。提督のお母さんは君が生まれる前、その事故で、深海棲艦に接触していたんだ」
提督「……」
時雨「数年前、海に突然現れた深海棲艦。そのもととなっている魂そのものは、海に姿を現す以前から存在していたんだ」
時雨「その眠っていた魂が、生きている人間……つまり、海難事故によって海に放り出された人間を感知し、接触した」
時雨「そこにいた人たちは体を奪われたり、彼らの持つ怨嗟によって精神を蝕まれ狂わされたり……たくさんの人が『人』ではなくなった」
時雨「提督のお母さんも、深海棲艦の魂に襲われた一人なんだよ」
提督「……」
時雨「本当なら、提督のお母さんも狂人になるはずだったんだけど、そうならなかった理由がふたつ」
時雨「ひとつは、乗り移った深海棲艦の魂が弱っていたせい。もうひとつはに救助されてから海から離れたこと」
時雨「そのおかげで、提督のお母さんは狂うことなく生き延びたと思うんだ」
421: 2022/06/25(土) 22:48:02.10 ID:r0JdSGTYo
時雨「そして提督のお父さんと結婚し、新たな命を宿したときに、その命が持ってきた『人間』の魂と結合した」
時雨「そうして生まれたのが、提督……君なんだ」
提督「……」
時雨「……」
提督「あいつが……母親が、俺に異常なくらい怯えていたのは、そういうことか?」
時雨「多分ね。そして、その君の出生に目を付けたのが魔神の手先だね」
提督「ニコのことか?」
時雨「ううん、魔神のために作られた自動人形(オートマタ)……エフェメラって名前なんだけど」
時雨「彼女が君のお父さんに接触して、不幸を君に押し付けるように仕組んだ、って聞いてるよ」
提督「じゃあ何か。俺は生まれる前から魔神に目を付けられてたってことか」
時雨「そういうことだね」
提督「冗談きついぜ……最初っから俺の人生ハードモードだったんじゃねえか」
時雨「でも、結果的に魔神に食べられたりしなかったんだ。妖精に感謝しないとね」
提督「食べる!? なんだそりゃ!?」
時雨「魔神の目的は、邪悪な魂を食らうこと。本当なら提督は、魔神に捧げられる生贄となるはずだったんだよ?」
時雨「ハードモードどころか、最初からバッドエンド直行が既定路線だったんだ」
提督「……」
422: 2022/06/25(土) 22:48:46.26 ID:r0JdSGTYo
時雨「君があらゆる人間から忌み嫌われ、謂れのない恨みや悪意を一身に浴びれば……」
時雨「いずれはすべての人間を憎み、世界そのものを憎むような、凶悪極まりない人間になるはず」
時雨「ましてや魂の半分は深海棲艦。そうなっていたら人間ですらなくなってたかもしれない」
提督「……俺は魔神の餌になるためにこんな目に遭ったってことか」
時雨「深海棲艦が混ざった君の魂が、御馳走に見えたんだろうね」
時雨「その目論見を狂わせたのが、妖精との出会いさ。あんなに早く、提督が妖精と出会うなんて、彼らも予想外だったみたいなんだ」
提督「それだけでそんなに変わるのか?」
時雨「ねえ、提督は、妖精から何を教えてもらった?」
提督「……」
時雨「本当なら、周囲の人間から教えてもらうはずのいろんなことを、妖精たちから教えてもらったんじゃないかな」
提督「……ああ、そうだ。俺に『常識』を教えてくれたのはあいつらだ」
提督「人の世に絶望しても、あいつらは俺を励ましてくれた。よく声をかけてくれたし、俺を見捨てたりもしなかった」
時雨「提督は人間に失望していたんだよね? でも、妖精には良い感情を持っていた」
提督「……」コク
時雨「妖精たちの干渉を想定してなかったエフェメラは、君を邪悪に染めるため、それ以降も君のお父さんに何度も接触してる」
423: 2022/06/25(土) 22:49:31.26 ID:r0JdSGTYo
時雨「あることないことを焚きつけて君の立場を悪くしつつ、彼の政治活動を裏から支援して」
時雨「君のお父さんの信頼を得ながら、結果的に君が人間を憎むように仕向けていたんだよ」
提督「……だからあいつは、ぽんぽんと調子よく出世していたのか」
時雨「弟さんがいたのもそれに拍車をかけた感じだね。父親と弟の評価が高ければ高いほど……」
提督「俺に対する風当たりは強くなる、ってか。まさしくその通りだな、その時点でそのエフェメラとかいう奴の術中にはまってたわけか」
時雨「その結果があの島への左遷だね。でも、それで結果的に人間社会から離れることができたのは、ある意味一番の幸運だったと思うよ?」
提督「……もしかして、お前もあいつらに巻き込まれたのか?」
時雨「さあ、どうだろう? わからないけど、僕がいた鎮守府はエフェメラの存在に関係なく、もともとそうだったんだと思うよ?」
時雨「その人の場所から君のいる鎮守府に流れ着いて……そこでみんなを見守っている中で、君を守りたいという人と出会った」
提督「俺を……?」
時雨「エフェメラは、実は一体だけじゃなく、数体いるらしいんだ。それこそ僕たち艦娘みたいに。そのエフェメラもそれぞれに思いがあって……」
時雨「魔神のために君を魔神の贄にしたがっている個体もいれば、魔神となりうる君の力になりたいって個体もいる」
時雨「僕は、その君の力になりたいっていうエフェメラに、協力してほしいと言われているんだよ」
時雨「今の話も、そのエフェメラから聞いて知ったんだ」
時雨「まさか、ここでこうやって君と話ができるなんて、思ってもいなかったけど、ね?」
提督「……」
424: 2022/06/25(土) 22:51:01.32 ID:r0JdSGTYo
時雨「それから、君がここに来たのは、君と一緒にいた女神妖精のおかげだよ」
提督「妖精の……!? あいつは、消えたんじゃないのか」
時雨「そう。君と一緒にいた女神妖精は、深海棲艦で作った弾丸によって、この世界から消滅した」
時雨「でも、それは氏ではなく、現世に存在し続ける力を失っただけ。ようは、世界から一時的に追い出されちゃったんだ」
時雨「君が気を失った後、ブラックホールのメディウムが君を助けに来てくれて……」
時雨「その時に彼女が持っていた、魔力の元である魔法石の力で、妖精が戻って来ることができたんだ」
時雨「本当は、そういう用途で魔法石を持ってきたわけじゃないみたいだけどね」
提督「……」
時雨「その後、提督や如月たちを島から脱出させるため、女神妖精の力が島を包み込んで君たちの肉体を守り……」
時雨「それと一緒に、これまでに島に埋葬された艦娘の魂が力を得て、君たちを炎や溶岩から逃がす手伝いをしてくれた」
時雨「だから、さっきの如月たちがこっちに来ているか、と言う質問には、こっちには来てないと思う、って答えられると思うんだ」
時雨「女神妖精の力が発揮されたということは、如月たちの傷は治って、魂は自分の体に戻っているはずだから」
提督「そうなのか!? ……生きて、いるんだな……!?」
時雨「おそらくね?」
提督「でも、そういう見込みなんだな? それなら……良かった」
425: 2022/06/25(土) 22:51:46.61 ID:r0JdSGTYo
時雨「ただ、君たちを救助するために島に近づこうとした軽巡棲姫は、女神妖精の光に近づいたときに苦しんでいたんだ」
時雨「女神妖精のあの光は、深海を棲み処とする深海棲艦にとって毒なんだと思う。要は、轟沈から艦娘を救うための力だからね」
提督「……じゃあ、俺は……」
時雨「君は、半分深海棲艦だからね。肉体から追い出されたっていうか、強制的に成仏させられたんじゃないかな?」
提督「成仏……」チーン
時雨「だからこんなところにいるんだと思うよ」
提督「……いや、まあ、そうかもしれねえが」
提督「それよりも、よく俺とあいつが何十年も一緒にいられたな!? 俺とあいつって相反する属性持ちじゃねえか」
時雨「だからこそ出会ったのかもしれないね。君みたいな沈みかけの魂を救えるのが、女神妖精なんだから」
提督「……もしかしなくても、俺が妖精たちと話ができたのも、俺が半分深海棲艦だからってことだよな?」
時雨「うん、きっとそうだね」
提督「……ああ、くそ。俺の今の見た目からして信じられねえが、いろいろ納得できる辺りどうしようもねえな……!」
時雨「ねえ、提督? 君がなぜそんな姿なのか、ここにいるのか……僕の言いたいことを理解はしてもらえたと思うんだけど」
提督「……」
時雨「今度は、僕の質問に答えて欲しいんだ」
提督「……なんだ?」
426: 2022/06/25(土) 22:52:32.29 ID:r0JdSGTYo
.
時雨「提督。君は、氏にたいのかな? それとも、生きたいのかな?」
提督「……」
.
時雨「提督。君は、氏にたいのかな? それとも、生きたいのかな?」
提督「……」
.
427: 2022/06/25(土) 22:53:17.08 ID:r0JdSGTYo
時雨「……」
提督「はぁぁ……」
時雨「ため息ついてないで答えて欲しいんだけどな」
提督「急かすなよ。まさかここで、俺がその質問をされる側に回るなんてなあ……」
時雨「……」
提督「……正直、俺の出番はここまでだと思ってたんだ」
提督「如月たちを巻き込んじまった。だから俺も、嫌な奴らを焼き払って、一緒に燃えてしまおうと思ってた」
提督「でも、あいつらは……如月たちは、無事なんだよな?」
時雨「多分ね?」
提督「ル級たちはどうしてんだ? 海軍の連中に捕まってないだろうな?」
時雨「さあ?」
提督「ニコたちも……あっちで待ってんだろうなあ。わざわざ別の世界から訪ねてくるくらいだし」
時雨「……」
提督「……戻るか」アタマガリガリ
時雨「!」
428: 2022/06/25(土) 22:54:01.62 ID:r0JdSGTYo
提督「どの面下げて、って気もするが……このままじゃあ、如月たちにも、ル級たちにも、ニコたちにも迷惑かけちまう。未練が残っちまう」
提督「つけられる始末はきっちりつけとかねえとな。氏ぬのはそれからだ」
時雨「……素直じゃないね?」
提督「そうか?」
時雨「まあ、いいか。早く帰って、みんなを安心させてあげよう」
提督「そうだな。そうと決まれば……」
提督「……」
提督「どこ行ったらいいんだ?」
時雨「……」
提督「どこ行くと戻れるんだ? 時雨、知ってるか?」
時雨「……」メソラシ
提督「視線が泳いでるぞ。俺を焚きつけておいて、それはねえだろ」
時雨「僕が知るわけないじゃないか……僕は、エフェメラが行けって言った通りに行かざると得なかっただけなんだから」ムー
提督「時雨も丸投げされたのかよ……んじゃ仕方ねえ、とりあえず手掛かり探すか?」
時雨「そうだね、そうして欲しいな」
429: 2022/06/25(土) 22:54:46.52 ID:r0JdSGTYo
提督「とはいえ……どこに行くかだな」ウーム
時雨「……」
提督「なあ時雨? ありきたりな発想だけどよ、仮にここが天国だとしたら、下は下界っつーか、人間界、って認識してもいいよな?」
時雨「うーん、そうかも……ね?」
提督「……」
時雨「なにか気になることでもあったの?」
提督「さっき、鏡代わりに見たその池の水。綺麗すぎて、水面というより薄い膜みたいなんだよな」
時雨「……確かにそうだね?」
提督「もしかして、あの池の底がもといた世界につながってたりはしないか……って思ったんだ」
時雨「そう……だね。可能性はあるかも」
提督「ちょっとあの池の中を覗いてみるから、俺が落ちないように足を抑えててくれ」ネソベリ
時雨「うん、わかった」ツカミ
提督「よ……っと」チャプン
ゴォォォォ…
提督「おお……」チャパッ
時雨「どうだった?」
430: 2022/06/25(土) 22:55:31.37 ID:r0JdSGTYo
提督「この下は地獄だった。地獄の天井につながってるぞ、ここ」
時雨「」
提督「あちこち燃えてるわ血生臭えわ、燃えた人間やら人骨やらが転がってるわ悲鳴上げてるわでマジ地獄だった」
時雨「えええ……」
提督「洞窟っつうか、ただっ広い洞穴に篝火がたくさん置いてあって、筋骨隆々の獄卒もいて、これが地獄絵図かーって感じですごかったぞ!」ワクワク
時雨「……なんでそんなにテンション高いの?」
提督「もうちょっと見てていいか」チャプン
時雨「提督!?」
提督「おお、マジすげえ……獄卒もちゃんと牛頭馬頭(ごず・めず)じゃねえか、すげえな」キラキラ
提督「うん? なんだありゃ。女の鬼か? 体にツギハギ模様があるな……」
女の鬼?1「貴様なぞこうじゃ!」
女の鬼?2「我等の痛み、思い知れ!」
燃えている亡者「ぎゃあああ!」
提督「あの鬼……もしかして」
グイグイ
提督「ん? どうした時雨」ザパッ
431: 2022/06/25(土) 22:56:16.43 ID:r0JdSGTYo
時雨「提督、こんなところで油を売ってないで、早く現世に戻る手がかりを探しに行こうよ」
提督「まあ待てよ。ちょっと見覚えのある顔が地獄にいるんだ。利根っぽかったんだが」
時雨「ええ?」
提督「お前もちょっと見てみろよ、少しでいいから」
時雨「う、うん……あ、ちゃんと足を掴んでてね?」
提督「おう」
時雨「……それじゃ、いくよ」チャプ…
時雨「……」
時雨「……」
時雨「……ふう」ザパッ
提督「どうだった?」
時雨「本当に地獄だったね……びっくりだよ」
時雨「それから、あの亡者を滅多刺しにしてた女の人たち、確かに利根さんに見えるね?」
提督「だったよなあ? ちょっとあいつらと話してみてもいいか?」
時雨「え?」
432: 2022/06/25(土) 22:57:01.80 ID:r0JdSGTYo
提督「どうやったら元の世界に戻れるか、聞けるかもしれねえし」
時雨「……」ウーン
時雨「……」ウーーン
時雨「……わかった。いいけど危なかったらすぐに引き上げてね」
提督「おうよ」
チャプッ…
提督「こんな薄い膜一枚で地獄と隔たってるってのも、すげえな……」
提督「おーい! 利根ーーー!!」
ザワッ!!
獄卒たち「な、なんだなんだあ!?」
女の鬼?1→利根1「だ、誰じゃ! 吾輩を呼ぶのは!」キョロキョロ
提督「おう、やっぱり利根だったか。上だ、上!」
利根2「上?」ミアゲ
利根3「うお!? なんじゃ貴様! 深海棲艦か!?」
利根4「いや待て、あやつは……おぬし、もしや墓場島の准尉か!?」
433: 2022/06/25(土) 22:57:46.13 ID:r0JdSGTYo
提督「おう、よくわかったな! お前らここで何してんだ!?」
利根1「知れたこと! 吾輩たちを切り刻んだこの男に仕返しをしておるのだ!」
提督「は!? まさかそいつ……」
利根2「これはかつてのM提督の慣れの果てよ!」
利根3「おぬしも聞いたであろう! 吾輩たちが受けた仕打ちを!」
提督「だからその体の傷かよ。それはそうと、なんで服が腰巻だけなんだよ!?」
利根4「これが地獄のスタイルじゃからな! 郷に入らば郷に従えというだろう!」
提督「なんでそういうところは馬鹿正直なんだよ……胸隠せ、胸」セキメン
牛頭「おーーい、そこの天井の、多分人間の兄ちゃん!!」
提督「!」
馬頭「あんた、こいつらの知り合いか!?」
提督「一応なー!」
馬頭「だったら、こいつらをここから出ていくように説得してくんねーか!?」
提督「ああ? どういうことだ!?」
434: 2022/06/25(土) 22:58:31.34 ID:r0JdSGTYo
牛頭「この嬢ちゃんたちは、本当ならここで働く必要はねえんだよ!」
牛頭「この野郎がいるってんで、わざわざこっちに訪ねてきて、俺たちの仕事をやらせて欲しいって言ってきてんだ!」
馬頭「おかげで俺たちゃあ暇で暇で! 筋肉がなまって仕方ねーんだよ!」ムキッ
提督「あー……」
牛頭「頼むぜ兄ちゃん! こっちに来た時ゃあ少し手加減してやっからよ! ちょっと助けてくれよー!」
提督「……」ウーン
利根1「あの男は地獄に来るかのう……?」
牛頭「そうなのか?」
利根2「艦娘に対してだけは激甘じゃからのう。助けて、と言えば誰でも助けてくれるんじゃないか?」
馬頭「本当かよ。そういえば、お前もさっき助けてっつったよな」
牛頭「ああ……」
提督「しゃあねえな……うまくいかなくても文句言うなよ!」
利根3「助ける気になったみたいじゃのう……」
馬頭「あー、ありゃ地獄に来ねえや。来ても俺たちと同じになりそうだぜ」
利根4「そうなのか! ならばなおのこと、ここを離れるわけにはいかんな!」ワクワク
提督「いや、俺はそういうの御免だぞ!? 面倒臭えのは嫌だからな!」
利根1「なぬぅ!?」
435: 2022/06/25(土) 22:59:16.32 ID:r0JdSGTYo
牛頭「……怠惰の罪で向こうに堕とされそうだな」
馬頭「ああ、あっちのハーデスの叔父貴あたりの区画のほうか」
提督「それに俺はまだそっちに行く気はねえぞー!」
馬頭「だよなあ。あそこから顔出してるってことは、まだあいつ三途の川を渡ってねーし……」
提督「それより利根! お前らのやってることは逆効果だぞ、そこの獄卒たちの言う通り、とっとと帰ってこい!」
利根2「な、なにを言うか! それでは吾輩たちの無念を晴らせぬではないか!」
提督「何言ってんだ、むしろ、お前らがかまってやってるから、そいつが喜んでんだろうが」
利根3「なんじゃと?」
提督「そいつがお前らを頃して飾ってたのは、ずっと自分の手元に置いておきたかったからじゃねえのかー?」
提督「確かそいつの望みは、笑ったり怒ったりするお前らのいろんな姿が見たかったって話だったよな?」
提督「お前らがそんな恰好でそいつを取り囲んで、怒ったり罵ったりしてるのも、同じ状況じゃねえのかよ!」
利根4「……!」
提督「大勢の利根に注目されてることを嬉しがってんだよ、そいつは!」
提督「今お前らがやってることは、ある意味そいつの望みをかなえてやってるのと同じなんだよ!」
利根1「そ、そうなのか……!?」
436: 2022/06/25(土) 23:00:03.40 ID:r0JdSGTYo
牛頭「そうだよ! あの兄ちゃんの言う通りだ!」
牛頭「俺も長いこと亡者を痛めつけてるが、そいつの悲鳴は苦痛って感じじゃねえんだ! 全然こいつへの戒めになってねえ!」
利根2「だ、だとしたら、吾輩たちはどうすればいいんじゃ……!?」
提督「そうだな……そいつのことは忘れて、全然違うところで幸せになりゃあいいんじゃねえの?」
提督「そいつが寝取られ趣味でなけりゃあ、お前らに見向きもされなくなった方がつらいと思うぞ?」
馬頭「あ、俺それわかる。カミさんに無視されんの、すげえ勘えるわ」
馬頭「うちのカミさんに愛想尽かされたら、寂しくて氏ぬかもしれねえ」
利根3「なんと……おぬし、妻帯者であったか」
馬頭「そこ驚くとこかよ!?」
提督「そういうわけだから、どんな形になってても利根が好きな奴なら、お前らに二度と会えないようにした方が拷問になると思うぞ!?」
利根たち「「……」」カオヲミアワセ
提督「そんな奴のために、お前らが時間を使ってやる必要はねえ! 忘れちまえ、そんな奴!」
利根4「そのほうが、良さそうじゃのう……!」
牛頭「!!」
437: 2022/06/25(土) 23:01:01.15 ID:r0JdSGTYo
亡者「えっ、ちょっと待っ」
利根1「……こやつがあからさまに焦ってる辺り、まさしくそういった思惑があったのじゃろうなあ」ジロリ
利根2「うむ、そのようだ……二人とも、吾輩たちの我儘のために、おぬしたちの仕事を奪ってしまって、申し訳なかった」ペコリ
馬頭「お、おう。まあ、嬢ちゃんたちが恨みを晴らしたい気持ちもわかるからな」
牛頭「あんなに鬼気迫る感じで責めてたんじゃあ、余程の恨みがあったんだろうしなあ……ま、とにかくわかってもらえたんならありがてえ」
牛頭「ここから向こうの針山の左側の道を一里ほど行くと、図体のでかい髭面の親父がいるからよ。帰り道はそいつに訊いてくれ」
利根3「承知した。何から何まですまんな」ペコリ
利根4「では参ろうか。提督よ! おぬしにも礼を言うぞ!!」ブンブン
亡者「待ってくれ! 利根! 利根えええ!!」
牛頭「おー、やっと悲鳴が悲鳴らしくなったぜ。兄ちゃん、あんがとな!」
提督「おう! ところで知ってたら教えてくれ!」
牛頭「なんだあ!?」
提督「元の世界に戻りたいんだが、どこ行きゃいいんだ!?」
馬頭「なんだお前、現世に行きたいのか!?」
438: 2022/06/25(土) 23:01:46.26 ID:r0JdSGTYo
牛頭「だったら適当に歩いて行け! お前が行きたい方向に、花が避けて道ができるはずだ!」
提督「マジか……わかった!! ありがとうな!!」
馬頭「こっちこそありがとなー!」
トプン
馬頭「ふー……やっと俺たちも仕事ができるぜ」
牛頭「お前、カミさんに無視されたとかあったのかよ」
馬頭「最近まともに仕事できなかったからなあ。筋肉が落ちたもんで、あんたみたいな駄馬は知らないって言われてよ~」ハハハ
馬頭「ま、これで俺の運動不足も解消できるし……」
牛頭「そうだな。張り切っていくかあ!!」
亡者「あ、ああ……」ガックリ
牛頭「がっかりしてないで、お前は自分の罪を悔いてろっての……よっ!」ドスゥ
亡者「ぎゃあああああ!」
馬頭「おお、いい悲鳴だねえ。やっぱ地獄はこうじゃねえとなあ!」ゴギャッ
牛頭「今度からはああいう特別ゲストは招かないほうがいいな。他の亡者も裸の女にいろめきだってたし、なあ!」グシャッ
馬頭「そうだな、変に希望を持たせるような対応は良くねえな」ドシュッ
牛頭「地獄だもんな、ここ!」
牛頭馬頭「ぎゃははははは!!」
439: 2022/06/25(土) 23:02:31.36 ID:r0JdSGTYo
* 花畑 *
時雨「随分長い間、話し込んでたと思ったら、そんなことがあったんだ……」
提督「まあな。あとはあそこの利根たちが、まともな鎮守府に行ければいいんだが」
提督「そこの獄卒が言うには、目的地まで花が道を開けてくれて、俺達が行きたい場所に案内してくれるらしい」
時雨「そうなの?」
提督「ああ、試してみようか」スクッ
提督「現世に戻る道はどっちだ……?」スッ
花<ザワッ
花<ザザザザァ…ッ
提督「おお……すげえ」
時雨「道が開けた……本当に花が避けてくれてる」
提督「よし、そうと決まりゃあ、行くとするか。時雨もいいか?」
時雨「うん!」
443: 2022/07/16(土) 21:55:17.44 ID:aL/lLQ8Vo
* *
提督「行けども行けども同じ景色だな」
時雨「道ができてるとはいえ、進んでいるのかもわからないくらいまっすぐだね」
提督「ったく、どこまで行けば……ん?」
時雨「……女の子の声、かな?」
提督「……」
時雨「なんだか泣き叫んでる感じがするね」
提督「聞き覚えのあるような声じゃねえが……ちょっと行ってみるか」
時雨「あっ、提督待って!」タッ
* *
「やーだーーー! いっしょにいるのーー!!」ビエェェェン
スキンヘッドの壮年男性「これはどうしたものか……」
小太りの中年男性「このまま見過ごすわけにはいかんでしょう」
壮年「……しかし、これはどう手を付けたらいいか、わからんぞ」
中年「あの抱きかかえた艦娘をどうにかせねばなりませんな……」
444: 2022/07/16(土) 21:56:01.80 ID:aL/lLQ8Vo
時雨「なんだろう、誰かいるね?」
提督「行って見てみるか?」
時雨「うん、そう……待って。提督はここにいて」
提督「なんでだよ」
時雨「提督、自分の見た目が深海棲艦なの、忘れてる?」
時雨「その姿で人前に出てきたら、女の子が逃げると思うんだけど」
提督「……わかったけどよ……任せていいのか?」
時雨「うん。僕に任せてよ」
スタスタ
時雨「ん?」
時雨「んんん??」タラリ
大きな女の子「うわぁぁぁぁんん!!」
(身の丈4メートルあろうかという5歳児くらいの巨大な少女が人形?を抱えて座っている)
時雨(……遠近感が無茶苦茶だよ……こんなに大きいだなんて思わなかったじゃないか)タラリ
445: 2022/07/16(土) 21:57:03.20 ID:aL/lLQ8Vo
壮年「ん? お前は……」
中年「あれは……見覚えがありますな。ああ、君! もしかして、君は艦娘じゃないか?」
時雨「え? あ、はい、そうだけど……この熊より大きいサイズの女の子は……?」
中年「申し訳ないが我々も良く知らないんだ。泣き声につられてきてみれば、我々の話を聞かずに泣きっぱなしでね……」
壮年「否、話はしたのだ。だが、この娘は聞く耳を持たん」
中年「言い方が悪いのですよ! このくらいの子にはもう少し優しく声をかけてあげないと!」
時雨「……僕が、話してみようか?」
中年「お願いできるかい?」
壮年「……気を付けてくれ」
時雨「……」コクン
ジリ…ッ
時雨「やあ、こんにちは」
女の子「ぐす……なあに? あなたも、このこをとりあげにきたの?」
時雨「この子? 君の持ってる、そのにんぎょ……う!? ま、待って! その人形、良く見せて……」
女の子「……あなたも」
時雨「……っ」ゾク
446: 2022/07/16(土) 21:57:46.92 ID:aL/lLQ8Vo
女の子「あなたも、しょうかくをとりあげようとするの!?」
時雨「そ、それは」
女の子「こないでえええ!!」ブンッ
時雨「うわっ!?」バッ
女の子「しょうかくは、わたしのものなの! こないでよおおお!!」ブゥンッ
時雨「……やばっ……!!」
提督「時雨危ねえ!!」バッ
ドガッ
提督「ぐお!?」ブットバサレ
時雨「い、いたた……提督!?」
提督「うぐ……」ゴロゴロ…ドサッ
時雨「提督、大丈夫かい!? 僕を庇って……!」
提督「くそ……痛くはねえが、頭がグラグラしやがる……時雨は大丈夫か」
時雨「う、うん、大丈夫……!」
提督「なあ、あいつが抱えてる人形、艦娘じゃねえのか? 『しょうかく』とか呼んでなかったか?」
時雨「……そうだね。あれは、翔鶴型航空母艦の一番艦、翔鶴さんだ……!」
447: 2022/07/16(土) 21:58:32.05 ID:aL/lLQ8Vo
中年「な、なんだ!? 深海棲艦が艦娘を庇っただと!?」
壮年「軍服を着ているぞ……何者だ」
女の子「だれにも……だれにも、しょうかくは、わたさない……!!」
翔鶴「……ぐぅ……!」ギリギリッ
提督「……ったく、どういうことだよ」ジロッ
女の子「……なあに? まだ、わたしたちをいじめるの?」グスッ
時雨「提督、睨んじゃ駄目だよ!」
提督「ちっ、やべえな、警戒されてら……こっちからは手ぇ出してねえだろうがよ、くそが」
時雨「……その提督の言葉遣いが一番良くないと思うんだけど?」
??「あら? もしかして……司令官?」
提督「あん?」フリムキ
??→暁「ひいっ!? し……深海棲艦っ!?」
提督「暁!? なんでお前がこんなところに!?」
暁「……え!? あ、あなた、私を知ってるの!? もしかして本当に、墓場島の、提督少尉なの!?」
提督「……参ったな、マジでうちの暁かよ……」
448: 2022/07/16(土) 21:59:16.82 ID:aL/lLQ8Vo
暁「参ったのは私の方よ!? 司令官が深海棲艦になっちゃうなんて……!!」プルプル
提督「それは俺も知らなかったんだから我慢しろ。そんなことよりここから離れろ、危ないぞ」
暁「え?」
女の子「……」テイトクニラミ
提督「くそ、あの図体で暴れられちゃたまったもんじゃねえ。隙見て逃げなきゃ……」
暁「あれは……あの子は」
提督「!? おい、暁!? 近付くな!」
時雨「暁!!」
暁「私、あの女の子、知ってるわ……」
提督「はあ!?」
時雨「どういうこと!?」
暁「……私、どうして忘れてたのかしら」
449: 2022/07/16(土) 22:00:02.16 ID:aL/lLQ8Vo
女の子「……」
暁「……ねえ、あなた、I提督でしょう?」
提督「!!」
中年「て、提督!?」
壮年「I提督……だと!?」
女の子「……」
暁「私、思い出したの。あなたのこと」
暁「だって、私にいろんなことを教えてくれた、最初の司令官だもの。忘れちゃったりしたらいけないわよね」
暁「だから……忘れてて、ごめんなさい」ペコリ
女の子「……え……?」
暁「ねえ、I提督……ううん、司令官!」
女の子「……!」ビクン
暁「司令官は、私のこと……暁のこと、覚えてる?」
女の子「……あ、か……」
450: 2022/07/16(土) 22:00:46.93 ID:aL/lLQ8Vo
暁「私、司令官を一目見て、素敵な女性だと思ったの。司令官は、暁が見習わなくちゃいけない、理想なレディーだって」
暁「思った通り、司令官とのお話は、本当に楽しかったわ。いろんなことを教えてもらったし」
暁「レディーになるための普段の振る舞いとか、心がけとか……私の悩み事とかも! たくさんたくさん、聞いてもらったわ!」
女の子「……」
暁「それなのに、忘れちゃってて……本当にごめんなさい」
暁「なんで忘れてたかっていうと……怖かったんだと思う。司令官と一緒にいるのが楽しかったから、余計に思い出したくなかったんだと思うの」
提督「……」
暁「司令官は覚えてるかわかんないけど、あの時、私は……司令官が怖くて逃げだしたの」
暁「たくさんの深海棲艦に囲まれて、鎮守府もたくさん攻撃されて」
暁「それで、司令官がずっと悩んでたの、私、覚えてるわ。資材がなくなって、補給もままならなくなって」
女の子「……う、あ……」
暁「それでも翔鶴さんが無理を押して出撃して、翔鶴さんが大破してぼろぼろになって……司令官が、ちょっと、おかしくなっちゃって」
暁「そのあと……私、見ちゃったの。司令官が、翔鶴さんを……翔鶴さんのからだを、切り裂くところを」
提督「……!」
暁「ねえ、どうしてなの!? そんなに翔鶴さんを大事にしてたのに! 今だって、大事に翔鶴さんを抱きしめてるのに……!」
女の子「……ア、カ、ツキ……! う、ううう……!」
451: 2022/07/16(土) 22:01:32.02 ID:aL/lLQ8Vo
暁「どうして、あんなことをしたの!? 司令官……暁に教えて」
暁「司令官は、暁のお話をちゃんときいてくれたわ! 暁も、司令官が困っていたら、お話を聞いてあげたいの!」
女の子「……」
暁「お願い、I提督……司令官!!」
女の子「……ママの……」
暁「……」
女の子「……ママの、おかおが、なくなっちゃったの……」
暁「……!?」
女の子「けーさつのひとがね、ママのおかおを……だれかが、もっていっちゃった、っていうの……」プルプル
暁「……!!」
壮年「……っ!」
女の子「ママにあえなくて、さびしくて、かなしくて……」
女の子「すきなひとのおかおが、なくなっちゃうのは、いやなの……!」
女の子「しょうかくは、すき……すきなひと。わたしの、たいせつなひと……」
女の子「だから、どこにも、いかないように……だれにも、とられないように……!!」ギュ…
提督「……だから、翔鶴の首を……!」
452: 2022/07/16(土) 22:02:16.83 ID:aL/lLQ8Vo
暁「……駄目よ……そんなことしちゃ、駄目よ」ウルッ
女の子「……」
暁「司令官は、人の心を思いやれるひとになりなさいって、教えてくれたじゃない」
暁「司令官は、人の痛みがわかるひとになりなさいって、教えてくれたじゃない……!」ヒシッ
女の子「……あ……」
暁「そんなふうに、きつく抱きしめたら、翔鶴さんが痛いって、いつもの司令官ならわかるはずよ……!」グスッ
暁「お願い! 翔鶴さんを……翔鶴さんを助けてあげて!」
女の子「あああ……!!」
暁「司令官……! 思い出して! 司令官っ!!」ギュウ
女の子「あ、あああ、ああああああ!!」
ゴォッ!
中年「突風が……!」
提督「……な、なんだ……?」
時雨「見て、女の子が……!」
453: 2022/07/16(土) 22:03:01.78 ID:aL/lLQ8Vo
女の子「し、しょうかくぅ……!」チンマリ
翔鶴「う……」フラッ
暁「翔鶴さん大丈夫!?」ガシ
翔鶴「え、ええ……ありがとう、暁ちゃん」
提督「元のサイズに戻った……のか?」
時雨「みたいだね……」
女の子「ごめん、なさい……ごめんなさい、しょうかく……」グスグス
翔鶴「……I提督」
女の子「いやだったの……しょうかくが、どこかにいっちゃうのが、いやだったの……」グスッ
女の子「うみのそこにしずんだら、あえなくなっちゃう……それが、いやだったの……!」
女の子「はなればなれに、なりたくなくて……ごめんなさい……ごめんなさい!!」ボロボロボロ
翔鶴「I提督……私こそ、申し訳ありませんでした」
翔鶴「あなたの言う通りにしていれば、私も大破しなかったかもしれなかったのですから……」ダキヨセ
454: 2022/07/16(土) 22:03:47.05 ID:aL/lLQ8Vo
翔鶴「I提督……これからはずっとお傍にいますから、安心してください」ナデナデ
女の子「しょうかく……しょうかくうう!!」ウワーン
提督「いいのかよ、安易にそんなこと言って」
翔鶴「……私は、I提督から愛情にも似た信頼を寄せられていたことを、日々感じていました」
翔鶴「この人を全力で守りたい。そう思ったからこそ、あの日私は、I提督の制止を振り切り、深海棲艦と戦ったんです」
翔鶴「結果的に大破して、このようなことになってしまいましたが……これはI提督の命に背いた私への罰ですから」
提督「……ったく、このお人好しめ」ハァ
暁「翔鶴さん……」ウルッ
壮年「I提督は30歳近いはずだったが……」
時雨「あなたは、I提督を御存知なんですか?」
壮年「私は直接の面識はないが、私の姉が彼女を知っている。一時期、姉が彼女の面倒を見ていたからな」
中年「そ、そうなのですか!?」
壮年「姉とその息子が警察官なのだが……姉経由で、甥がストーカー殺人の捜査に参加することになったことを聞いたのだ」
壮年「犯人が被害者の首から上を持ち去るという猟奇的な犯行でな。その被害者の第一発見者が、被害者の娘だったそうだ」
455: 2022/07/16(土) 22:04:47.86 ID:aL/lLQ8Vo
暁「……それが、I提督なの……?」
壮年「そうだ。事件の捜査中、彼女を預かってくれる親戚筋が見つかるまでの間、私の姉が彼女の面倒を見たのだ」
壮年「その子が海軍で艦隊の指揮を執ると聞いたとき、不思議な縁を覚えたものだった。それが……あのようなことになろうとは」
中年「子供の姿になっていたのは何故なのでしょう……」
提督「ショックで幼児退行でも起こしてた、とかじゃねえか? それか、その齢まで巻き戻ってやり直したかった、とかな」
中年「……なるほど……」
提督「そういや、父親はどうしたんだ? 母親が氏んだときに引き取らなかったのか」
壮年「父親も事件の数年前に事故氏している。その事故も犯人が仕組んだものではないかと言われていたが、証拠はない」
壮年「事件当時はストーカーという言葉もなく、好きな人間を殺そうとする心理がわからず犯人と見られていなかったのも災いした」
提督「……そういう話かよ」
壮年「犯人は、被害者の首と一緒に焼身自殺を図ったが、その前に捕まった。終身刑が言い渡され、今も存命のはずだ」
提督「あぁ? 刑務所で遊ばせてんのか? とっとと頃しゃあいいものを」
壮年「私はそれで良かったと思うぞ。奴は、氏んで被害者と同じところに行こうとしていたのだ」
壮年「わざわざ頃してやって、それで犯人が望み通りになって喜ぶほうが私は面白くない」フンッ
提督「ああ、なるほど……そりゃ確かに」
456: 2022/07/16(土) 22:05:31.81 ID:aL/lLQ8Vo
壮年「それに……誰かが裁いて頃して終わりというのも、それはそれで味気ないものだ」
中年「それは……お察しいたします」
提督「……?」
壮年「まあ良い。この場を収めてくれたことには礼を言おう。だが、それよりも」ジロリ
壮年「貴様だ。墓場島の、提督少尉と言ったな?」
提督「……ん? あ、ああ」
壮年「貴様、未だに少尉なのか。あれからどのくらい経ったと思っている? なんの手柄も立てておらんのか」
提督「は?」
中年「そちらですか!? せめて外見を指摘なさるべきでは!?」
壮年「馬鹿者、どうせこの姿もこの男の心根の表れだろう! 些末なことだ!」
中年「些末じゃありませんよ! 深海棲艦ですよ!? いたずらに刺激しないでくださいよ!」
時雨「ねえ提督? このふたり、もしかして、提督のことを知ってるんじゃない……?」
提督「そうっぽいな……俺に関わりある時点でろくでもねえ話なんだろうけどな」
中年「ろくでもないとは何事だ!!」クワッ
提督「うおっ」
457: 2022/07/16(土) 22:06:31.72 ID:aL/lLQ8Vo
中年「私がどんな思いでお前に五月雨を託したか! 貴様に何がわかる! やはり所詮は深海棲艦か!」ウオオオ!
時雨「今、いたずらに刺激するなって言ってたよね」
壮年「言っていたな」ウム
中年「中将殿!?」
提督「……五月雨? 中将? お前らもしかして……五月雨送って来たP少将と、金剛送ってきたQ中将か?」
壮年→Q中将「! ああ、その通りだ」
中年→P少将「我々のことを知っていたか……面識はないよな?」
提督「あぁ!? 忘れてられっかよ! あんな面倒臭え形で五月雨押し付けやがって! ちゃんと憲兵隊長から引き継ぎしたんだぞ!」クワッ!
提督「氏にたがってたあいつを落ち着かせて納得させるのに、どんだけ回りくどいことしたと思ってんだ、くそが!」
P少将「お、おお!? それはすまん……」
提督「中将も中将だ! あの金剛を一方的にこっちに送り付けやがって……あいつに落ち度はなかっただろうがよ!」
Q中将「……そうかもしれん。だが、あの金剛は、私とはあわん」
提督「ああ?」
Q中将「あの金剛は、私には毒だ。すぐ抱き着くわ、Loveだなんだと喚くわ、時間と場所というものを理解しておらん」
Q中将「既婚者にああいった態度はよせと、私は何度も説教している」
提督「あいつ、弁まえてたとか言ってやがったのに、全然そんなことなかったんじゃねえか!」アタマカカエ
458: 2022/07/16(土) 22:07:17.05 ID:aL/lLQ8Vo
Q中将「妻が食堂で働いていることも知っていた。それをそれとなく会わせられるように画策したり……」
Q中将「息子の氏以来、私と妻がぎこちないからその仲を取り持とうとしていたんだろう。そんな余計なことなど、しなくて良かったのだ」
提督「……やれやれ、半分はあってんのか」
Q中将「それで、金剛とはどうなんだ」
提督「どうって、何が?」
Q中将「金剛と契りを結んだのかと訊いている」
提督「してねえよ。ただでさえ資材不足の島なのに、戦艦をほいほいとリミッターまで訓練できるわけねえだろ」
Q中将「カッコカリの話ではない! あの器量良しの金剛を受け入れられんというのか!?」
提督「何言ってんのかわかんねえ」
Q中将「まったく、ここまで甲斐性なしの根性なしだったとは……!」
提督「だから意味がわかんねえっつうの。根性は関係ねえだろ」
暁「……ねえ、Q中将さんは、金剛さんを提督のお嫁さんにしてあげようとしてたってことなの?」
Q中将「そうだ」
提督「」ピシッ
時雨(提督の顔にひびが……)
459: 2022/07/16(土) 22:08:16.85 ID:aL/lLQ8Vo
Q中将「貴様の噂は何度か耳にしていたからな。轟沈を経験した艦娘と暮らすとあっては、命がいくつあっても足りんだろう」
Q中将「おまけに建造した大和が問題児だと聞いている。貴様の身を守り、世話を焼くものが一人くらいいたほうが良いと思って金剛を送ったのだ」
Q中将「正直なところ、あの金剛は、息子が存命であれば引き逢わせてやりたいと思ったほどだ。そこまで言わんとわからんのか貴様は」ジロリ
提督「おいおい……余計なお世話すぎるぞ、このジジイ」ウヘァ
時雨「この人もなんだかんだ言ってお節介焼きだね」ヒソヒソ
提督「ま、いいけどよ。あの時は金剛がいてくれたおかげで五月雨が大人しくなってくれたんだから、感謝してねえわけじゃねえ」
P少将「五月雨が!?」
提督「ああ。あいつが俺んとこに来た時は、憲兵に噛み付いたせいで猿轡までさせられて来たからな。くっそ凶暴だったんだぞ」
提督「おまけに、島の艦娘借りてレ級退治に行かせろって、あんたと同じこと言ってたんだ。落ち着かせるのに苦労したんだからな?」
暁「そういえば五月雨、金剛さんにあやされてたわね……」
P少将「なんと……こんなところでまで中将閣下にお世話になっていたとは」
提督「あいつに頭撫でられると、なぜか歯向かう気がなくなるからな……今思っても、あの時いてくれて良かったと思うぞ」
P少将「五月雨……」
提督「五月雨には、あんたの手紙を渡しといた。あんたは自分を憎むよう仕向けてたようだが、そうはなってないから、安心しろ」
提督「それから、憲兵の隊長にも感謝しとけよ。五月雨の身柄を引き継ぐ俺のために、手の込んだ資料作って持ってきたんだからな」
P少将「そうか……すまない。本当にありがとう、恩に着る」フカブカ
460: 2022/07/16(土) 22:09:01.67 ID:aL/lLQ8Vo
Q中将「解せんな。そこまで気遣いできる男が、あの金剛を受け入れんとは」
提督「面倒臭えから嫌なんだよ、そういうの」
Q中将「」
P准将「」
時雨「……」
暁「司令官!! そういうところよ!? そんなことまで面倒臭がらないの!!」プンスカ
提督「面倒臭がって何が悪いんだ。俺は、俺抜きであいつらに幸せになって欲しいんだよ。艦娘が、人間なしでも暮らせるようになって欲しいんだ」
提督「人間嫌いが人間社会にいたって、そのうちろくでもない事態になることくらいわかるだろ?」
提督「俺が現世に戻ろうとしてるのも、その道筋をしっかりつけるためだ。俺のけじめをつけるためだ……!」
提督「魂も半分深海棲艦なんだぞ? 艦娘に迷惑かけたくねえってだけなんだよ!」
Q中将「だったらまっとうに生きればいいだろうに。艦娘に好かれていると理解しているのなら寄り添えというのだ」
提督「俺に結婚願望はねえよ。両親が最悪のくそなんで、遺伝子を残したくねえ。俺の家系なんぞ氏に絶えちまえと思ってる」
提督「ついでに言えば性行為も無理だ。そういう漫画見ただけでゲロ吐くような男が、女と幸せな家庭なんてできるわけねえ」
Q中将「……」
P少将「……」
461: 2022/07/16(土) 22:09:46.87 ID:aL/lLQ8Vo
時雨「でも、EDは治ったよね?」
提督「……」
時雨「それが治ったのは艦娘と一緒にいたからじゃないの?」
提督「……」
時雨「それから、肉体も人間じゃなくなったから、遺伝子も全部変わったんじゃない?」
提督「……かもしんねえけどよ」
Q中将「それはどういうことだ!?」
P少将「体も深海棲艦になったのか!?」
提督「深海化はしてないが……ただの人間じゃなくなってはいるな。メディウムとか説明してもわかんねえだろ」
P少将「……めでぃ……?」カオヲ
Q中将「……確かによくわからんな」ミアワセ
翔鶴「あの、少しよろしいでしょうか」
女の子「えっと……」(←翔鶴に抱きかかえられ中)
P少将「お、おお、どうしたね」
Q中将「だいぶ落ち着いたようだな」
462: 2022/07/16(土) 22:10:32.25 ID:aL/lLQ8Vo
暁「翔鶴さん、大丈夫?」
翔鶴「ええ。暁さんに、I提督が聞きたいことがあるんだそうです」ニコ
暁「司令官が?」
女の子「……あかつきちゃん……このひと、こわく……ない?」
暁「!」
女の子「あかつきちゃんは、このひとに、こわいおもいを、していない?」
暁「……全然! 怖くなんかないわ!」ニコッ
暁「私たちが悪いことをすれば怖いけど、そうじゃなければお話も聞いてくれるし、暁たちのいいところも褒めてくれるわ!」
暁「私が鎮守府に来た時はずーっと怖い顔をしてたけど、このごろはそうでもなくなったし……」
暁「自分のことをすごく悪く言うところだけは嫌いだけど、そこ以外は、とってもいい司令官よ!」ニパッ
Q中将「……」
P少将「……」
提督「……」アタマガリガリ
女の子「あかつきちゃん……」
翔鶴「良かったですね、I提督」
463: 2022/07/16(土) 22:12:02.53 ID:aL/lLQ8Vo
女の子「そうね……それなら、おわかれしてもだいじょうぶね」ニコ
暁「……え?」
ザワザワザワッ!
(足元の花が一斉に動いて道を作る)
(Q中将とP少将、I提督を抱えた翔鶴の道が一方へ伸びて)
(提督と時雨、暁の道は別の方向へ伸びていく)
暁「あ……!」
女の子「あかつきちゃん」ストッ
女の子「あかつきちゃんは、まだいきてるの」テクテク
女の子「だから、わたしとはここでおわかれ」
暁「しれい、かん……」ポロポロッ
女の子「おもいだしてくれて、ありがとう」ダキツキ
女の子「わたしは、あなたのしあわせをねがっているわ。さようなら、マイ・フェア・レディ……!」ギュ…
暁「司令官……ありが、とう……!!」ボロボロボロ
464: 2022/07/16(土) 22:13:01.86 ID:aL/lLQ8Vo
Q中将「……我々も、征かねばならんか」
P少将「そのようですね……」
提督「……」
Q中将「貴様に丸投げするようで悪いが、金剛のことは頼むぞ。それから、少し貴様自身のことも考え直せ」
P少将「五月雨のことも、よろしく頼む……私の無念は背負わなくていい。無事でいて欲しいと、伝えてくれ……!」
提督「俺のことはともかく……あいつらは悪いようにはしない。あいつらにとって、一番良いようにするつもりだ」ケイレイ
Q中将「……」ケイレイ
P少将「……」ケイレイ
提督「ふー……さて、俺たちも行くか」クルッ
時雨「うん」
翔鶴「少尉さん」
提督「ん?」
翔鶴「暁ちゃんのこと、よろしくお願いします。川内さんや響さんたち、かつての鎮守府の皆さんにも……もし出会うことがあれば、どうぞよしなに」
提督「……ああ、わかった」
女の子「あかつきちゃん、ばいばい……!」フリフリ
暁「……っ! ば、ばいばい……!!」ブンブン
465: 2022/07/16(土) 22:13:47.90 ID:aL/lLQ8Vo
* *
暁「……ぐすっ、うっ……」ボロボロ
提督「暁、大丈夫か? 泣いててまともに歩けないなら背負ってくぞ?」
暁「っ、い、いいわ……だいじょ……ふぐっ、うううっ」グズグズ
提督「思いっきり泣いてすっきりしたほうが良くねえか?」
暁「……だい、じょぶだ、って……泣いてなんか、いられ、ないわ! ぐずっ、I提督が、心配しちゃうでしょ!?」
提督「……そうか。それもそうだな」
時雨「ねえ、提督こそ、少し急ぎすぎなんじゃないかな?」
提督「かもしれねえけどよ……あんなの見せられちゃあ急ぎたくもなる」
暁「? どういうこと?」
提督「今の俺たちは幽霊と同じで、体から魂が離れてる。魂が抜けた体ってのは氏んでんのと同じだろ?」
提督「俺たちがここに長居すればするほど、あいつらを心配させてるってことになるなら、急いだほうがいいよな」
暁「それは、そうね……」
時雨「……」
提督「それはいいとして、暁はなんでここに来たんだ? お前も氏にかけたのか?」
暁「なんで……うーん……確か、島の鎮守府が、燃えているのを見たとき……だったと思う」
466: 2022/07/16(土) 22:14:32.22 ID:aL/lLQ8Vo
暁「I提督の鎮守府も、深海棲艦の攻撃で燃やされたの。それを思い出したときに、頭が割れそうなくらい痛くなって」
暁「それで、気付いたら、ここにいたのよね……なんでか、わからないけど」
提督「……もしかしたら、だが」
暁「うん……」
提督「お前がI提督の鎮守府で起きたことを忘れたいと思うほどのときと、同じくらいひどいことが起きて……お前自身が耐えられなくなったのかもな」
提督「それか、I提督が、あるいは翔鶴が、無意識にお前を呼んだのかもしれねえ。一緒に来ないか、って」
提督「お前も、I提督の鎮守府のことを思い出したからこそ、その呼びかけに応えて、ここにきた……って話は、どうだ」
暁「……」コクン
提督「ま、どっちが正解かはどうでもいいか……良かったな暁、あの二人に会えて」
暁「……っ!」
提督「あの二人も、お前の様子を見て笑ってたもんな」フフッ
暁「んぐ……うっ」ブワッ
時雨「……提督。女の子を泣かすのは感心しないよ?」
提督「別に泣かせたくて言ったわけじゃねえよ。思い出させたのは悪かったけどよ……」
提督「でもまあ、そうか。好きな相手を、見送ったんだもんな。そう、なるか……」
467: 2022/07/16(土) 22:15:36.64 ID:aL/lLQ8Vo
時雨「提督? そこで僕の顔を見て、何を思ったの?」ムー
提督「……」
時雨「提督!?」
提督「なんでもねえよ。お前が聞いた質問に、氏にたいと答えなくて良かったって、ちょっと思っただけだ」
提督「俺が氏んで、あいつらがどんな顔するか考えると、ちょっとバツが悪ぃな、ってよ……」
提督「お前のときの扶桑や山城も、そうだったしな……」
時雨「……!」ジワッ
提督「いや、悪ぃ。泣かせるつもりは……」
――……れ……さま
時雨「!」
――しぐ……さ……
時雨「エフェメラ!?」
提督「どうした、しぐ……」
――しぐれさま……!
提督「うお、なんか聞こえてきた……なんだこの声」
暁「司令官も? 時雨のこと、呼んでるわよね?」
時雨「え!? ふたりにも聞こえるの!?」
提督「お、おお……もしかしてこいつがエフェメラって奴か?」
――聞こえるのですね……? そのまま……お進みください……
時雨「行こう、声の方へ!」
提督「そうだな、暁も行けるか?」
暁「大丈夫よ!」
472: 2022/08/22(月) 23:39:31.36 ID:6E2y+z4To
* *
(花畑の真ん中に、大きな黒い穴が開いている)
提督「おお……なんかすげえことになってんな、こりゃ」
暁「ここだけ地面がとけてるみたい……」
時雨「穴の中はまるで雲の中みたいだね。真っ黒で、稲光も見えるよ」
提督「なのに音が全然してこないのが不気味だな」
――時雨様……
時雨「エフェメラ!」
――ここまで、魔神様を導いていただき、ありがとうございました……
提督「この声の主がエフェメラか……」
暁「ねえ、エフェメラさんってどこにいるの?」
――私の躯は、遥か彼方……皆様とお目見えすることは、かないません……
――されど……私の声が、魔神様に届いていること……喜ばしく、思います……
提督「……礼しか言えねえってか」チッ
時雨「そうだとしても、提督、ちゃんと労ってあげなよ」
暁「そうよ、ここまでしてくれてるんだから、お礼を言わなきゃ!」
473: 2022/08/22(月) 23:40:15.93 ID:6E2y+z4To
提督「……おい、エフェメラ」
暁「言い方!!」プンスカ!
提督「しょうがねえだろ、俺はいつもこんなんだ……おい、エフェメラ」
――魔神様……
提督「お前の望みは何だ?」
暁「……なんでそんなことを聞くの?」
提督「礼を言うだけじゃ物足りねえと思ったからだ。せめてなにか、ひとつくらい借りを返してやんねえとな……」
時雨「提督らしいね」フフッ
――私の……
提督「ああ、そうだ。お前の望みを言え」
――私の望みは……
――魔神様の……望みがかなうこと……!
提督「……」
――あなたの望みこそが……私の望み……
――あなたの願いこそが……私の願い……!!
提督「……」
474: 2022/08/22(月) 23:41:01.15 ID:6E2y+z4To
暁「司令官みたい」ボソッ
時雨「そうだね。似た者同士だ」
提督「なんなんだよまったく……」
――私の力が……魔神様の幸せのために使えるのならば……これ以上の、喜びはありません……!
提督「なんでこういう奴ばっかりなんだよ……やめてくれよ、本当によ」アタマガリガリ
暁「司令官が両手を使って頭をかくところ、初めて見たわ」
時雨「そうとう照れてるんだね」
提督「観察してんじゃねえよ! ったく……」
提督「とにかく、この穴に落ちれば現世に戻れる、っつうか、俺たちが元の肉体に戻って生き返られるわけか?」
――その通りにございます……
時雨「そっか。じゃあ、僕はここでお別れだね」
提督「!」
暁「えっ、どうして!?」
時雨「僕は、もう氏んでるからね。僕の体も、墓場島に埋めてもらったけど、今は溶岩の中じゃないかな」
暁「あ……!」
475: 2022/08/22(月) 23:41:45.90 ID:6E2y+z4To
ザワワワワワッ!
提督「な、なんだ!?」
暁「ね、ねえ、お花が一斉に逃げちゃったわ!?」
時雨「なにがあったんだろう……」
??「見つ、けた……」ズルッ
提督「誰だ……!?」フリムキ
時雨「!」
暁「ひっ……!? な、なにこれ!? ヘドロのかたまりみたいなのが……喋ってる!?」
??「見つけたぞ……! 今、墓場島と言ったな……!」
??「やっぱり……あの島の提督は、悪い奴だったんだ……」ビチャッ
提督「ああ? なんだこいつ?」
??「忘れたとは言わせないぞ……おまえのせいで、俺たちは氏んだんだ……!」ベチャア…
提督「なんだそりゃ」
??「とぼけるな!! よくも、俺たちを頃しやがってぇ……!!」
提督「だから誰だよお前は……」
476: 2022/08/22(月) 23:42:47.44 ID:6E2y+z4To
時雨「……ねえ、この人、もしかして、島で氏んだテレビ局のスタッフじゃないかな?」
提督「テレビの……ああ、土左衛門になった奴のどっちかか?」
??→クルー3「ふざけた奴め! 俺たちを頃しておいて、覚えてすらいないって言うのか!!」
提督「氏んだのはお前のせいだろ。なんで俺に責任を押し付けてんだよ」
クルー3「まだとぼけるのか! 深海棲艦の仲間を使って、俺たちを頃した裏切り者めぇ!」
提督「ル級のことか? それだったら俺はあいつにお前を殺せなんて頼んでねえし」
提督「お前がル級の気に障るようなこと言ったんじゃねえのか? それ以前に俺は島から出てけって最初から言ってたろ」
提督「その忠告を無視し続けたお前の自己責任だろうが。なんでもかんでも他人のせいにすんじゃねえよ、くそが」
クルー3「黙れ黙れぇえ! 極悪人の分際でぇええ! お前こそが、氏ぬべきなんだあああ!」
クルー3「轟沈した艦娘が深海棲艦になるなんて噂を利用して、艦娘を私物化してたくせに……!」
クルー3「艦娘は、正しい人間に使われるべきなんだ! お前みたいな深海棲艦が、艦娘を利用するなああ!!」グゴォ!
提督「……ああやだやだ、なんかくっそ面倒臭え奴に絡まれたぞ、こりゃ」ハァ
暁「ね、ねえ……早く誤解を解いた方がいいんじゃない? 司令官が悪者ってわけじゃ……」アセアセ
クルー3「深海棲艦が正しいわけがあるかあああ!」グワッ!
暁「……」ドンビキ
477: 2022/08/22(月) 23:43:31.94 ID:6E2y+z4To
時雨「とりつく島もなさそうだね……」
提督「いるんだよなあ、自分の主張が正しいと盲信して、他人ぶん殴りながら被害者ぶる奴」
時雨「……ずいぶん具体的だね?」
クルー3「お前みたいな奴を、みすみす生き返らせてたまるかああ!!」
クルー3「俺が退治してやるううう! 地獄に落ちろおおおお!!」グワッ!
暁「な、なによそれええ!?」
提督「暁、時雨、下がってろ」
クルー3「お前が、艦娘に命令するなあああ!!」ビャッ!
提督「うお!?」バッ
時雨「うわっ!?」バッ
提督「なんだあ? ヘドロ飛ばしてきやがった……!」
時雨「ちょっと提督! こっちに飛ばさせないでよ!」
提督「お前こそ俺の後ろに陣取るなよ!」タタッ
クルー3「逃げるなああ!」ブンッ!
提督「場所変えようってんだろうが! つうか、それ以前に触りたくねえな、くそが……!」
478: 2022/08/22(月) 23:44:16.97 ID:6E2y+z4To
――魔神様……私の力を……!
(地面に空いた穴の中から、赤青黄色の三色の光が飛んできて、提督の体に入り込む)
提督「……これは……!?」
――魔神様……私の力を……どうか、お使いください……!
提督「……!」
暁「司令官! 危ないっ!!」
クルー3「氏ねえええ!」グワッ!
キュワワワワワ…
クルー3「え?」フワッ
暁「な、なにあれ?」
UFO<キュワワワワワ…
(突如現れた小さなUFOがクルー3の体を持ち上げる)
クルー3「は、放せぇえええ!?」ジタバタ
時雨「ユ……UFO?」ポカン
暁「UFOが、泥のお化けを捕まえちゃった……」
クルー3「な、なんだこりゃああ!?」
479: 2022/08/22(月) 23:45:00.69 ID:6E2y+z4To
提督「なるほど……使えるな」
――ああ……魔神様……!
提督「……助かった。早速使わせてもらったぜ、お前の力」
暁「あ、あのUFO、司令官が呼んだの……!?」
提督「おう。これも魔神の力らしい。もともとメディウムたちも、魔神の力のひとつなんだが……」
提督「それが分離して自由意思を持つようになった。ま、お前たち艦娘と似たようなもんだと思ってくれていい」
時雨「じゃああのUFOも……」
提督「そのうちメディウムとなって俺たちの前に現れるかもな」
提督「まあ、それはさておいて、だ」ジロリ
クルー3「ち、ちくしょう、放せぇええ!! この、化け物があああ!!」ジタバタ
提督「……化け物ねえ。お前だって、十分化け物だと思うがな?」
クルー3「そんなわけがあるか!!」
提督「いやいや化け物だろ、つまんねえ謙遜すんな。そんな姿で私は人間ですとか言えたもんかよ」
クルー3「いいや、俺は人間だ……!」
提督「俺たちはここで、さっき別の人間たちと出会ってきたんだが、そいつらは少なくともお前みたいな姿はしていなかったぞ?」
480: 2022/08/22(月) 23:47:46.01 ID:6E2y+z4To
提督「ここにいる艦娘の二人だってそうだ。生前の姿のまま、ここに存在している」
提督「俺は人間の器に深海棲艦の魂が入ったからこんな姿なんだが、偉そうに言ってるお前の今の姿はどうなんだ?」
クルー3「……俺は……『俺たち』は……!」ガクガク
時雨「……なんか様子が変だよ?」
提督「それなんだが、あのクルーの魂に変な混ざり物が見えるんだよ」
暁「混ざり物?」
提督「ああ、どうもエフェメラから魔神の力を受け取った拍子に魂というか正体が見えるようになったみたいなんだが……」
提督「どうも似たような思想の魂を引き寄せて合体してるみたいなんだ」
時雨「……じゃあ、あのクルーの魂には、全然関係ない魂も混ざってるってことかい?」
提督「おそらくな。他人の主張に乗っかって、自分の不満もどさくさ紛れに晴らそうって連中とか」
提督「その騒ぎそのものを面白がって、面白可笑しく便乗拡散する連中、現実世界でもいるだろう?」
時雨「それもまた具体的だね?」
クルー3「……俺たちは……オ、オレタチハァァァアガアアァ!!」
暁「司令官!? 余計に話が通じそうになくなってるんだけど!?」
提督「ちっ、不純物のほうが強かったか。じゃあ仕方ねえ」
481: 2022/08/22(月) 23:48:31.01 ID:6E2y+z4To
(何もない空間から現れる発射装置)
暁「! な、なにその機械!?」
時雨「空中に何かの発射台が……!」
提督「カオリ・ボールスパイカーってメディウムがいたろ? あれのサッカーボール版だ」
キックオフ<ズバァン!
クルー3「グエェエ!?」ドゴォ!
ゴロゴロ…ベチャッ
提督「そんでお次は……」
オクトパスアーム<ヴジュルルラァ!!
クルー3「ヒ、ヒギャアアア!?」ジュルジュルジュル!!
暁「ひいいい!?」ビクッ
時雨「うわ……!」
提督「クラーケンじゃねえから安心しろ。あのタコ足であいつを一箇所にかき集めて……」
時雨「な、なんでかき集めるの?」
提督「これ以上あいつらの魂が拡散しないようにだよ。で、とどめはこいつだ」バッ
キューブフリーザー<グォングォングォン…
482: 2022/08/22(月) 23:49:32.36 ID:6E2y+z4To
暁「な、何か四角い機械の箱が降りてきたわ!? あれも司令官の罠なの!?」
提督「ああ、まあ見てろ」
キューブフリーザー<ゴォォォォ!
時雨「……静かになったね?」
キューブフリーザー<グォングォングォン…
暁「……上に上がって行っちゃった」
クルー3「」カチンコチン
時雨「綺麗に氷漬けになったね……」
提督「……今更だが、魂だけの世界でも罠の力は通用するんだな」
暁「司令官、この人どうするの?」
クルー3「……」カチンコチン
提督「こんなの誰かに処分してもらうしかねえな。どこへ持ってったらいいか、誰かわからねえかな?」
時雨「この氷を運んで、また人を探すの?」
提督「いや、この氷塊は凍らせ方が特殊だから、ちょっと強い力で押してやると、そっちへつるつる滑っていくようにできてる」
提督「だから、ゴール地点まで一直線に滑られてやることができれば、俺たちが運んでいく必要はない」
483: 2022/08/22(月) 23:50:16.23 ID:6E2y+z4To
時雨「……ということは、また花に聞いてみるといいのかな?」
ザザザ…!
提督「お、察してくれたみたいだな」
暁「……ねえ、おかしいわ? お花が近づいてこないわよ?」
提督「んん? そうだな……あ」
暁「どうしたの司令官」
提督「暁……お前、動くなよ……!」ジロリ
暁「え……?」
(提督の頭上の何もない空間からマシンガンが現れて、暁に銃口を向ける)
暁「し、司令官!?」
時雨「提督!?」
提督「……踊れ」
マシンガンダンサー<ダララララララ!!
暁「きゃああああ!?」ピョンピョン(←暁の足元を機銃掃射)
時雨「て、提督!? 暁を撃つとか、何を考えてるの!?」
484: 2022/08/22(月) 23:51:01.29 ID:6E2y+z4To
提督「……」
暁「し、し、司令かああああん!?」ピョンピョン チュインチュイン
提督「……よし、こんなもんか」
マシンガンダンサー<ピタッ
暁「し、司令官!? 一体何を考えてるの!?」プンスカ!
時雨「暁に当たったらどうする気だったの!?」
提督「安心しろ。ありゃあ床にしか当たらないように狙ってんだ。で……」
暁「……??」
(提督がおもむろに暁に近づいて、暁の両足の間の地面を掴むと)
??「ぐえっ!!」
暁「ひっ!?」ビクッ
時雨「え!? なんなの、今の悲鳴!」
提督「暁の足元に、こいつが潜んでいたんだよ。おら、出てこい!」ズルルッ!
時雨「なにそれ!? 影絵人間!?」
??→クルー5「……ふ、ふへへ、見つかっちまった……」ドロォ
暁「」アッケ
485: 2022/08/22(月) 23:51:46.22 ID:6E2y+z4To
提督「お前、さっきのテレビクルーの仲間だろ。一緒に氏んだ奴だな?」
クルー5「へ、へへへ……」メソラシ
提督「花が俺たちの近くに寄ってこなかったのは、こいつが潜んでたせいだな」
時雨「でも、どうして暁の足元に?」
提督「……暁のスカートの中を覗き見したかったとかか?」
暁「!!」バッ!
クルー5「ぐえへへ……スカートを抑えて恥ずかしがる幼女……うひひひっ」
暁「~~~!!」ゾワワッ
時雨「うわあ……」
提督「そういうことかよ……こういう不埒な奴は……」
フッキンマシーン<ガジャッ!!
提督「こういう機械に乗っけて」ポイッ
クルー5「うおっ!?」ガシャッ
提督「運動で煩悩を追い出してやるといいな」
フッキンマシーン<ガッションガッションガッション!!!
クルー5「うおおおおおお!?」ガシャガシャ
486: 2022/08/22(月) 23:52:33.46 ID:6E2y+z4To
時雨「ねえ、提督? さっきのマシンガンの罠は、暁を狙ったんじゃなくて、足元に潜んでたあの人を狙ったってことなのかな?」
提督「そういうことだ。ただ、あの罠自体は、誰かを対象にしないと狙いが定まらなくてな……悪いが、暁を的にしちまった」ナデナデ
暁「も、もう!! 怖かったんだからね! って、頭を撫でないでよ!!」プンスカ!
クルー5「お、俺はいつまで、腹筋してなきゃ、いけねえんだあああ!?」ガシャガシャ
提督「そりゃあ氏ぬまで……って言いたいが、もう氏んでるしなあ。この辺で止めてやるか」グッ
イビルアッパー<ズガシャアァン!!
クルー5「!?」
(フッキンマシーンごとぶっ飛ばされたクルー5が)
クルー5「ぶげっ!?」ベチャッ
(クルー3の氷漬けの氷塊の上に落下する)
キューブフリーザー<グォングォングォン…
クルー5「げ、ちょっと待ってくれ! 俺はまだ……うぎゃああああ!?」
時雨「……」
暁「……」
キューブフリーザー<グォングォングォン…
クルー3&5「」カチンコチン
提督「よし。これでまとめて始末できるな」
487: 2022/08/22(月) 23:53:16.87 ID:6E2y+z4To
クルー5『ちくしょう! どうしてまたお前なんかと一緒に……!』
クルー3『それはこっちのセリフだ! なんでお前が……!』
暁「な、なんか声が聞こえない?」
提督「氷漬けにしたとはいえ、魂だからな。思念って意味での声が漏れてきてるんじゃねえか?」
クルー3『俺たちは、人間のために正しいことをしようとしたんだぞ!』
クルー5『まだ言ってんのかよ! 人間のためとか言うけど俺は頼んでねーぞ!』
クルー3『いい加減にしろ! 俺たちの言ってることが正しいんだ!』
クルー5『うるせーうるせー! なんでお前らに従わなきゃならねーんだ!!』
時雨「まだ言い争ってるみたいだよ」
提督「……ま、どうでもいいか。こいつら、どこに向かわせてやるといいかな?」
ザザザ…!
暁「今度はお花が集まってきてくれてるわ!」
提督「お、そっちか。案内ありがとな。んじゃ、滑らすぞ……せぇ、のっ!!」グッ
氷塊<ツルツルツルーー!
クルー3『お前のせいで艦娘が……!』
クルー5『お前が悪いんだろうが……!』
氷塊<ツルツルーー…
488: 2022/08/22(月) 23:54:16.94 ID:6E2y+z4To
時雨「最後の最後まで仲間割れしてるなんて……彼らには失望したよ」
暁「なんだか、可哀想な人たちだったわね」
提督「まったく……俺は、恵まれてんなあ」
時雨「急にどうしたの?」
提督「ああ、あのテレビクルーの周りに取り憑いた雑霊が、あいつを煽るような性質の奴ばっかりでなあ……」
提督「そこへ行くと、俺の周りにいる艦娘たちは、俺が行き過ぎるとみんな真面目に止めてくれたからな」
提督「だから、俺は恵まれてたんだな、って思っただけさ」
時雨「提督……」
提督「だからこそ」クルリ
提督「生き返られるなら、ちゃんと戻って、義理を通さねえとな。暁もそうだろ?」
暁「……そ、そうね!」
(大きな穴のそばへ3人が歩いて近づく)
提督「……改めて見ると、すげえ光景だな」
時雨「積乱雲の中を飛ぶ航空機が見る光景だね」
暁「見たことあるの?」
時雨「前の鎮守府で、山城が飛ばした偵察機の写真をみせてもらったことがあるんだ」
489: 2022/08/22(月) 23:55:00.71 ID:6E2y+z4To
時雨「扶桑とはほとんど話す機会がなかったけど、山城には結構かまってもらったからね……」
提督「D提督のせいだな……」
暁「時雨……」
時雨「さ、ふたりとも。みんな、君たちを待ってるんだ。早く戻ってあげなよ」
提督「……そうだな。けど、このまま飛び込んで大丈夫なのか? 雷とか鳴ってんだが……」
時雨「大丈夫だと思うよ。僕たちも魂だけの存在なんだから、雷に打たれて氏ぬとかありえないよ、多分」
提督「それもそうか。よし、じゃあ暁、お前、先に行け」
暁「はあ!?」
提督「お前の腰が引けてて心配なんだよ。お前がちゃんとここから飛んだとこを確認したいだけだ」
提督「それに、よくレディーファーストって言うしなあ?」
暁「うぐ……わ、わかったわよ!」
提督(まあ、悪いほうの意味のレディーファーストだよな、これは)
時雨(毒見役って意味のほうだね……)
暁「い、いくわよ!? 暁も、飛べるんだから!」
提督「おう」
時雨「うん」
490: 2022/08/22(月) 23:55:45.89 ID:6E2y+z4To
暁「……」ウデデハバタキ
暁「……」カラダヲヒネリ
暁「い、いくわよ!!」ソノバジャンプ
提督「おう」
時雨「うん」
暁「……」クッシン
暁「……」ウデヲグルグル
暁「……っ! ……っ!」ゼンクツ
暁「……」シンコキュー
時雨「早く飛びなよ」ケリンチョ
暁「ぴっ!?」ヨロッ
暁「ぴゃあああぁぁぁぁぁ……」ヒュゴーーーーー…
提督「真っ逆さまだな……」
時雨「結局、手助けしてあげないと駄目なんじゃないか」ヤレヤレ
提督「少しは怖がってもいいだろ……くくっ」
時雨「……ふふっ、笑っちゃ悪いよ」
491: 2022/08/22(月) 23:56:30.86 ID:6E2y+z4To
提督「よし。暁も行ったし、そんじゃあ俺も覚悟決めて、行くか」
時雨「フリはいいからね?」
提督「ああ。世話になったな」
時雨「ふふっ。これで少しは、扶桑たちを立ち直らせてくれた君に恩を返せたかな」
提督「十分すぎる。扶桑たちにもよろしく伝えておくよ……あっちで、ここでの出来事を忘れてなけりゃいいんだが」
時雨「ありがとう……」ニコ
スッ
提督「じゃあな、時雨」タッ
バッ!
提督「……!」ゴォッ
ヒュゴーーーーー…
時雨「……」
時雨「……」
時雨「……行っちゃった」
時雨「扶桑や山城と、もう少し一緒にいたかったけど……しょうがないか」
492: 2022/08/22(月) 23:57:20.93 ID:6E2y+z4To
時雨「さてと。僕は……どうしようかな。中将さんたちを追いかけてみようかな……」
グイ
時雨「えっ?」
グイグイ
時雨「な、なに!? 穴の方に引っ張られてく……!」
――時雨様……
時雨「! エフェメラ……!」
――あなた様にも、御礼申し上げます
時雨「いや、いいよ。僕の心残りもこれで……」
――私から……時雨様へ、最後の贈り物を……
時雨「え?」フワッ
時雨「ええっ!? なんで宙に浮いてるの!?」ジタバタ
――さようなら、時雨様。あなた様にも、魔神様の御加護があらんことを……
時雨「ま、待って!? 僕のからだは……」
ポイッ
時雨「ぽいって夕立じゃないんだからうわあああぁぁぁぁ……!?」
ヒュゴーーーーー…
穴< シュウゥゥゥ…
穴< フッ…
平地< シーン…
* * *
* *
*
497: 2022/09/01(木) 21:11:18.54 ID:Vi+uqldio
* 墓場島周辺海域 *
* 医療船内 *
(人工呼吸器や点滴などの管がたくさん取り付けられて眠っている提督)
提督「」シュコー…
看護師「……容体に変化なし。心拍数や血圧も正常値……」カキカキ
如月「……」(提督の眠るベッドの傍らで椅子に座って提督を見つめている)
タッタッタッタッ…
ニコ「魔神様!!」バッ
如月「!?」
ニコ「あれ?」
如月「ニ、ニコちゃんどうしたの……?」
ニコ「……魔神様はまだ目を覚ましてないの?」
如月「え、ええ……まだ、見ての通りよ?」
ニコ「うーん、おかしいな……なんとなく、魔神様の気配を感じたんだけど」
如月「そうなの? 看護師さん、特に変わったところはなかったんですよね?」
看護師「はい。特にこれといった変化は何もありませんね」
ニコ「……そう」
498: 2022/09/01(木) 21:12:03.25 ID:Vi+uqldio
大和「失礼します、ニコさんはこちらにいらっしゃいました?」ヌッ
不知火「慌てて走っていたようですが、なにかあったんでしょうか」
ナンシー「もー、ニコちゃんだめだよー、ニコちゃんが慌ててるとみーんな落ち着きがなくなっちゃうんだから~」
不知火「艦娘もメディウムも、深海棲艦勢も一様に同じ思いです。どうか、落ち着いた行動をお願いいたします」
ニーナ「ただでさえ私たちは人間たちに警戒されていますから……ニコさんに万が一があっても困ります」
ニコ「ニーナもナンシーも、随分人間どもに丸め込まれちゃったね?」ジトッ
ニーナ「ニコさんがそのように殺気立つからですよ……」
ナンシー「あたしだって、マスターを魔力槽に入れてあげるのが一番いいとは思うけどさ? 神殿は遠いじゃん?」
大和「ニコさんが御自身で仰っていたではありませんか。魂が離れた場所から肉体を遠ざけると、その魂が戻ってこなくなると」
ニーナ「この近辺で、人間に近しい身体が生命を維持できる場所、というのがこの船の中の設備しかありません」
ニコ「わかってるよ。わかってはいるけど……」
如月「……!」
ピピー ピピピピー
看護師「脳波計が……!」
ニコ「魔神様!?」
499: 2022/09/01(木) 21:12:47.67 ID:Vi+uqldio
如月「今、司令官の指が……」
提督「」ピク
ナンシー「動いてる!!」
看護師「ちょ、ちょっと失礼します! 如月さん、提督さんに声をかけてもらえますか!?」
如月「は、はい! 司令官! 司令官、聞こえる!?」
看護師「血圧と心拍数が上昇……瞼の下で眼球も動いてる……!」
看護師「このまま声をかけ続けてください! 皆さんも、うるさくならない程度に!」
不知火「司令……!!」
ニコ「魔神様! ぼくだよ!」
ナンシー「マスター! 早く起きてよ!!」
大和「提督!!」
ニーナ「魔神様!!」
如月「司令官!!」
提督「……」シュコー…
提督「……う……!」
500: 2022/09/01(木) 21:13:32.49 ID:Vi+uqldio
如月「司令官!!」
ニコ「魔神様!!」
大和「提督!!」
ナンシー「マスター!!」
不知火「司令!!」
ニーナ「魔神様!!」
提督「……う……る、せぇ……耳元、で、叫ぶな……!」
如月「司令官……!」ウルッ
ニコ「聞こえてるのなら……早く、返事をしなよ……!」ウルウル
提督「なん、だ、この……眩しいし、なんだこの、邪魔くせえマスク……背中も、痛ってえ……」
不知火「当然、ですよ……何日眠っていたと思うんですか……!」グスッ
ナンシー「早く魔力槽に入れてあげようよ! ね!!」ピョンピョン
大和「うええええん、提督良かったああああ!」ナミダジョバー
ニーナ「あ、あの、みなさん落ち着いて」オロオロ
501: 2022/09/01(木) 21:14:17.56 ID:Vi+uqldio
* しばらくして *
看護師「……修復材入りの湿布を貼ってすぐ治るだなんて」
明石「まあ、あの人は特殊なんですよ。人間じゃないというか」
伊8「血液検査だって、普通の人間の血液型に合致しなかったんでしょう?」
看護師「え、ええ、まあ。でも、艦娘とも違うみたいですし……」
明石「そうですか~……だとすると、深海棲艦かな?」
看護師「あ、あの、少尉さんは、人間だったんですよね……?」
伊8「はい、そうでしたよ。スタートは人間だったと思います。けど、何度か氏んだり体を作り替えられたりしてるみたいですし……」
看護師「えええ……?」
*
提督「5日?」
如月「そうよ? 司令官は5日間、ずっと眠り続けていたの」
提督「そんなに経ってやがったか……」
ニコ「おかげでいろいろ話は整理できたけどね」
502: 2022/09/01(木) 21:15:03.35 ID:Vi+uqldio
不知火「何があったか、順を追って説明します」
提督「ああ、頼む」
不知火「まず……司令からの通信が途絶えた後、ブラックホールのメディウムであるベリアナさんが、司令のところにいたそうです」
不知火「ベリアナさんはニコさんからの指示で、司令が逃げ遅れた時を想定し、ブラックホールで異次元へ逃がして保護するつもりでした」
不知火「ですがその際に、ベリアナさんがブラックホールを作るのに必要な魔力を補充するための魔法石が、島の丘の上で割れてしまい……」
不知火「その石の力と引き換えに、女神妖精さんが復活しました」
提督「……」
不知火「女神妖精さんは、その力で司令と如月たちを復活させ、かつ、島に埋葬した、轟沈した艦娘の魂を呼び起こし……」
不知火「その艦娘たちの魂が火山活動で発生した溶岩の流れを堰き止めたことで、私たちが島に乗り込んで司令たちを運び出せたんです」
不知火「メディウムたちのサポートもあって、全員無事に溶岩の中から脱出できた……というのが、あの日、島で起こったことです」
提督「……妖精はどうなった?」
不知火「……わかりません。ただ、妖精さんは、氏なないで消えるだけ、と言っていました」
提督「……」
不知火「その後、保護された司令と如月、電、朧、吹雪、初春の5名がこの医療船で治療を行い、駆逐艦の5名は無事回復」
不知火「そして本日、司令が目を覚まされたと」
503: 2022/09/01(木) 21:15:47.84 ID:Vi+uqldio
提督「艦娘は全員無事なのか? 沈んだりした奴はいないな?」
不知火「轟沈した艦はありませんが、燃える島を見て気を失った暁が、いまだに目を覚ましていません」
提督「暁が!? ……変だな、あいつ、俺より先にこっちに戻ってたはずだぞ?」
不知火「……は?」
如月「ど、どうして司令官が、戻ったってわかるの?」
提督「あー……ちょっと話が長くなるから、あとでな。ほかに……メディウムたちはどうした?」
不知火「はあ……メディウムは全員無事です。交戦したメディウムもいるため、無傷ではありませんでしたが」
提督「軽巡棲姫や、ル級たち深海棲艦はどうなった?」
不知火「深海棲艦全体の被害状況は把握しておりません。しかし、軽巡棲姫やル級さんといった、司令と交友のある深海棲艦は無事です」
提督「被害ゼロってわけじゃねえんだろうな。全員この船にいるのか?」
不知火「いえ、この島の所属以外の艦娘の何名かは、今回の件の報告のため本営に呼び出されています。それから……」
ニコ「メディウムの中でも血の気の多い子たちには、一度この船から降りてもらってるよ」
ニコ「具体的に言うと、ケイティーやコーネリア、ルイゼットみたいな過激派や、いるだけで危ないウーナやイーファ、ティリエにマリッサ……」
提督「確かに、ケイティーやマリッサは特にやべえな」
504: 2022/09/01(木) 21:16:33.34 ID:Vi+uqldio
ニコ「それから、ユリア、ヴィクトリカ、エレノアみたいに酒を飲んで騒ぐ子たちとか、引き籠りたいっていうイサラやカサンドラ」
ニコ「じっとしていられないアマラやクリスティーナ、カトリーナ、シャルロッテ、オディール、ヨーコ、シェリル、リンメイ……」ユビオリカゾエ
ニコ「とにかく大人しくできない子たちには、一旦深海棲艦の拠点に行ってもらってるよ」ハァ…
提督「……思ったよりも騒々しい奴が多いよな、メディウム連中は」
不知火「ただでさえメディウムの殆どが物騒な武器を持っていますからね……」
如月「素手なのはヒサメさんと、イブキちゃんとオリヴィアさんくらい?」
ナンシー「ベリアナとヴェロニカもだね!」
提督「残ってる方数えたほうが早そうだな」
ニコ「今度からきみがぼくたちのご主人様なんだからね? ちゃんと面倒臭いって言わずに面倒見てよ?」
提督「そこで先手打つなよ……誰の入れ知恵だ?」
ニコ「そこそこ付き合ってきてるんだ、そのくらい察せないと思った?」
提督「やれやれ……そうかよ」カタスクメ
505: 2022/09/01(木) 21:17:18.46 ID:Vi+uqldio
不知火「それから、深海棲艦もこの船には乗っていません」
不知火「その代わり、司令が目覚めるまでの間、この船を取り囲んで移動できないようにしています」
提督「じゃあ、俺が姿を現せば、あいつらも解散するってことか?」
不知火「はい。その際に、司令を含めての話し合いを行いたいと、海軍から申し出があります」
提督「……なんか、面倒臭そうな話だな?」
不知火「面倒かもしれませんが、良い話だと思います。司令にとって、待ち望んでいたお話かと」
提督「……?」
不知火「それからもうひとつ。司令が住んでいた××島ですが、島の北部にあった火山の活動により、すべての施設が焼失しました」
提督「……」
不知火「島の再建については、勝手に泊地棲姫が陣頭指揮を執っています」
提督「は……?」
506: 2022/09/01(木) 21:18:02.33 ID:Vi+uqldio
* 同じころ *
* 別の病室 *
暁「」シュコー…
(人工呼吸器をつけてベッドで眠る暁をじっと見つめるヴェールヌイ)
ヴェールヌイ「……」
コンコンコン
川内「入るよ」チャッ
電「失礼します、なのです」
ヴェールヌイ「!」
川内「……暁は、まだ目を覚ましてないのか」
ヴェールヌイ「……」コク
電「私たちの司令官さんは、少し前に目を覚ましたそうなのです」
川内「提督が目を覚ましたからね。暁も起きないかと思ってきてみたんだけど」
川内「そう、都合よくはいかないかあ……」
507: 2022/09/01(木) 21:18:48.34 ID:Vi+uqldio
ヴェールヌイ「……電」
電「? なんですか?」
ヴェールヌイ「この暁は、中破してあの島に流れ着いてきたそうだね」
電「はい」
ヴェールヌイ「……その時のこと、詳しく教えてくれないか」
電「詳しく……ごめんなさい、電が遠征していた時のことなので、状況そのものはあまり詳しくないのです」
電「流れ着いてしばらくの間、3日くらい寝込んでたとは聞いていますが……」
電「暁ちゃんを治療した明石さんは、ドロップ後に何かあったんじゃないか、って言ってました。話を聞きたいなら、呼びますか?」
ヴェールヌイ「そうだね……お願いしようかな」
川内「! 暁が……泣いてる……!」
暁「」ツゥ…
ヴェールヌイ「!」ガタッ
電「あ、暁ちゃん! 大丈夫ですか!?」テヲニギリ
暁「あ……しれ……か……!」
川内「うわごとで何か言ってる……!」
508: 2022/09/01(木) 21:19:33.65 ID:Vi+uqldio
ヴェールヌイ「暁!」
暁「しれ……あ……ああっ……」ウーン
電「し、しっかりするのです!!」
暁「司令官……っ!!」ビクビクッ
暁「はうっ……!」ビクンッ
パチリ
電「……」
川内「……」
ヴェールヌイ「……」
電「……あ、暁ちゃん?」
暁「あ、あれ? ここは……電? 川内さんに……響? このマスク、なに?」キョロキョロ
ヴェールヌイ「暁……私は、ヴェールヌイだよ」ウルッ
川内「良かったぁ……本当、良かったよ、目を覚ましてくれて……!」ヘナヘナ
電「暁ちゃん、大丈夫なのですか? 海の上で意識を失ってから、5日も眠っていたのです!」
暁「い、5日も!?」
509: 2022/09/01(木) 21:20:17.78 ID:Vi+uqldio
川内「そうだよ~、心配したんだから! さっきなんかうなされてたし、いったいどんな夢見てたの?」
暁「夢……」
暁「……司令官と一緒にいた夢を見たわ……なんか、とても嬉しかったんだけど、悲しい夢……」
電「暁ちゃん?」
暁「そうよ……私、どうして忘れていたのかしら」
ヴェールヌイ「暁……?」
暁「あの日、鎮守府が燃えて……私が逃げたせいで燃えちゃって……」
川内「暁……?」
暁「私、夢の中で……天国で、I提督に会ったの」
ヴェールヌイ「!!」
川内「!!」
暁「I提督は、好きな人がどこかに行かないように……翔鶴さんが沈んで離れ離れにならないように、あんなことをしたんだって……!」
川内「……I提督に、会ってきたって……?」
暁「そうよ。翔鶴さんも、司令官に川内さんや響にもよろしく、って言ってて……私、どうしてこんな大事なことを忘れてたのかしら」
ガバッ!
暁「きゃ……川内さん!?」
510: 2022/09/01(木) 21:21:03.28 ID:Vi+uqldio
川内「もう、なんだよぉ……やっぱり、私の知ってる暁だったんじゃないか……!!」ギュゥ
暁「せ、川内さん、苦しいってば……!」
川内「苦しかったのはあたしだよ!! I提督のことを知らないか、って聞いたときに、知らないって答えたじゃないか!」グリグリグリ
ヴェールヌイ「……そうか。記憶を失っていたのか。探しても見つからないはずだよ」
暁「えっ?」
ヴェールヌイ「川内さん。私も、混ぜてくれないかな」ポロポロ
ヴェールヌイ「探していたんだ。暁のことも。川内さんのことも」
川内「は、ははは、みんないたんじゃないか……! 響も、いたんじゃないか……!!」ガシッ
ヴェールヌイ「川内さんこそ、新しい鎮守府で命令違反なんかするから……!」ギュウ
川内「しょうがないよ! 強くなりたくても、そうさせてもらえなかったんだから!」
暁「ちょ、ちょっと待って!? えっ!? 川内さんって、あの川内さん!? ヴェールヌイも、あの響なの!?」
川内&ヴェールヌイ「「気付くのが遅い!!」よ……!!」オシタオシ
暁「きゃああ!?」オシタオサレ
電「ふ、ふたりとも! 暁ちゃんは病み上がりなのです!!」
511: 2022/09/01(木) 21:21:48.03 ID:Vi+uqldio
* 墓場島沖 海上 *
ヲ級(哨戒中)「……」
イ級「」ザバザバ
ロ級「」ザババー
イ級「?」
ヲ級「? ドウシタ」
イ級「……!」
ヲ級「海中ニ、波? ……ナニカガ、集マッテイル……?」
ドボーーーンン!!
ヲ級「!?」ビクーッ
イ級「!?」ビクーッ
ロ級「!?」ビクーッ
ゴボゴボゴボ…
時雨「ぷはあっ!!?」ザバァッ
ヲ級「……」
イ級「……」
ロ級「……」
512: 2022/09/01(木) 21:22:32.65 ID:Vi+uqldio
時雨「はー……ひどいことするなあ、エフェメラは。問答無用で穴に放り込むなんて、何を考えてるんだ……」ザブッ
時雨「あれ? ここは……海!? どこだろう……?」キョロキョロ
ヲ級「……」
イ級「ナンダコイツ」
ロ級「チョットアヤシイ」
イ級「ホウゲキヨウイ」ジャキッ
ロ級「ホウゲキヨウイ」ジャキッ
時雨「うわあ!? ぼ、僕はあやしくなんかないよ!?」
ヲ級「アヤシイ奴ガ、自分デ自分ヲ、アヤシイト言ウワケガナイダロウ」
時雨「それはそうだね」
イ級「ダカラウツ」
ロ級「ウツ」
時雨「ちょっ、待ってよ!?」
ザザザッ
山城「ちょっと、誰かと思えば……」
那珂「時雨ちゃんじゃなーい! きみ、どこの鎮守府の子?」
513: 2022/09/01(木) 21:23:18.50 ID:Vi+uqldio
時雨「あっ、山城! 那珂ちゃんも!」
アカネ(in那珂の艤装)「ねえねえ那珂ちゃん、この子だーれ?」ヒョコ
那珂「時雨ちゃんだよ! 白露型の2番艦で、白露ちゃんの妹だね!」
時雨「山城助けてよ! 僕があやしいからって撃たれそうになってるんだから!」ヒシッ
山城「……あなた、びしょぬれじゃない。何があったの?」
時雨「えっ? ああ、これは上から落ちてきて……」
山城「上?」ミアゲ
那珂「上って言っても、雲しかないよ? 何か飛んでたら、ヲ級ちゃんが気付くと思うんだけど」
イ級「デモコイツ、オチテキタミタイ」
ロ級「オチテキタミタイ」
山城「は? みたい?」
ヲ級「突然、何カガ水面ニ衝突シタヨウナ衝撃ハアッタ。ダガ、落チテキタ、トコロヲ見テイナイ」
山城「なにそれ……」
ヲ級「少クトモ、私ハ、コノ艦娘ガ落下シテイルトコロヲ見テイナイシ、落下スルトキノ風ノ音モ感知シテイナイ」
那珂「えー? ヲ級ちゃんでも落ちてくるのに気付かないって、どういうこと?」
514: 2022/09/01(木) 21:24:02.51 ID:Vi+uqldio
時雨「……あれ? 何気なく山城に抱き着いたけど、僕に触れられるの?」
山城「は?」
時雨「……山城にも、触れる……」ペタペタ
山城「ちょっ……なに、何なのよ。どこまさぐってるの」セキメン
時雨「そうだ、僕の足は!?」バッ
アカネ「な、なんで自分でスカートまくってるの!?」
時雨「足もついてる……胴体も繋がってる」
山城「……時雨?」
時雨「ねえ、ここどこかな? もしかして……墓場島?」
那珂「う、うん、そうだよー?」
時雨「……そうか……それじゃあ、僕は、戻ってきたんだ……!」
ヲ級「戻ッテキタ?」
時雨「そう。僕は、かつて、この島の海岸に流れ着いて、埋葬してもらったんだよ」
山城「……」
時雨「ここへ辿り着く途中に砲撃を受けて、体が半分になって、そのまま……」
515: 2022/09/01(木) 21:25:02.70 ID:Vi+uqldio
ヲ級「轟沈シタノカ」
山城「……」
時雨「うん。それでも運よく、この島に漂着して、無事だったみんなに看取ってもらえて」
山城「……」ブワッ
時雨「僕のかつての体は、この島の丘に……もう全部溶岩で燃えちゃったと思うけど」
時雨「どこらへんかな……とにかく、この島に埋めてもらったんだ」
ヲ級「……」
時雨「そのあと、那珂ちゃんには歌ってもらったんだよね」ニコ
那珂「……!!」
ヲ級「ソコマデ覚エテイルノカ。マルデ蘇ッタヨウナ言イ方ダナ?」
時雨「そういうことになる……」
ガッシィ!!
時雨「ね゛っ!?」ダキツカレ
山城「……あんたねえ」ダキツキ
516: 2022/09/01(木) 21:25:47.57 ID:Vi+uqldio
時雨「や、やましろ……?」
山城「どこまで、お騒がせなのよ……あんたはっ……!」
時雨「や、山城、痛いよ……苦しいってば」
山城「痛いならいいじゃない!! 苦しいのも! 生きてる証拠よ!!」ボロボロボロ
時雨「山城……!」
ヲ級「……ソレデ、ヲ前タチハ、何ノ用ダ?」ヒソヒソ
那珂「あ、ごっめーん! 提督が目を覚ましたよ、って」
ヲ級「ソレハ早ク言エ!!」カンサイキハッシン!
那珂「泊地ちゃんも軽巡ちゃんもイライラしてたもんね~」
* *
時雨「……というわけで、僕は提督と暁と一緒に、天国の手前で現世に戻る道を探していたんだよ」
山城「改めて聞くと、とんでもない話ね……辻褄が合うとはいえ、普通だったら信じないわよ? そんなファンタジーな話」
時雨「信じてくれないの?」
山城「信じるわよ。D提督鎮守府の話といい、その後の埋葬の話といい、整合が取れてるんだもの」アタマオサエ
517: 2022/09/01(木) 21:26:32.39 ID:Vi+uqldio
泊地棲姫「ヤハリ、アイツハ深海ニ縁ノアル者ダッタカ」
軽巡棲姫「私ハ最初カラ、私タチト一緒ダト思ッテイタワ」
ル級「私タチガ触レテモ、体ガ無事ダッタリ、狂ッタリシナカッタノハ、ソウイウ理由ネ?」
時雨「だと思うよ」
アカネ「まさかエフェメラが絡んでたなんて!!」プンスカ
那珂「アカネちゃんはエフェメラちゃんって子のこと、知ってるの?」
アカネ「知ってるよ! ニコちゃんが言ってたけど……」
アカネ「魔神様を復活させることができる人間に入れ知恵して、魔神様を自分のものにしようとしてる嫌な奴だって!」
時雨「……確かに、見方によってはそう解釈できるね」
那珂「でもでも、そのエフェメラちゃんが、時雨ちゃんを復活させたわけでしょ?」
アカネ「うー……」
時雨「そういうことになるかな……だけど、いくらなんでも、僕の艤装というか、体までは復活させられないと思うんだけどなあ」
518: 2022/09/01(木) 21:27:23.40 ID:Vi+uqldio
ヲ級「ソウイエバ、ヲ前ガ落チテクル前ニ海中デ、何カガ集マルヨウナ気配ヲ感ジタ。ヲ前ノカラダヲ作ッテイタノカモシレナイ」
ル級「天国カラ魂ガ落チテキタ、ッテイウ意味デノ、ドロップ艦、ッテコト?」
那珂「魂が着水した瞬間に体を作った、って感じなのかな?」
泊地棲姫「オソラク、ソウイウコトダロウ。今マデ、聞イタコトハナイガ」
山城「今更だけれど、私たちって本当に何者なのかしら」
那珂「そういう話なら、日向ちゃんあたりに訊くとイイかもね!」
山城「嫌よ。日向は話が長すぎるんだもの」ムスッ
時雨「……」
山城「何よ、時雨。にやにやして」
時雨「ううん、そうやって表情をころころ変える山城がかわいいなあって」
山城「!?」カオマッカ
那珂(わかる!!)ウンウン
アカネ(那珂ちゃんすっごい頷いてる……)
521: 2022/09/09(金) 21:56:01.70 ID:IsSLY4A+o
* 医療船 甲板上 *
「提督ー!!」キャー!
「司令官!」キャー!
「魔神様ー!」キャー!
「マスター!!」キャー!
提督「……なるほど。こんだけギャラリーがいたんじゃ、艦内の一部屋には収まりきらねえか」
ニコ「ここからさらに深海棲艦たちも来るんでしょ?」
提督「だと猶更艦内には入れられねえか。それで、あの四角いテーブルに全員座らせるのか? どう見ても席が足りねえぞ」
不知火「いえ、全員ではありません。あれは今回特別に用意した席です」
提督「?」
大将「よう、待たせたな!」
提督「!」
H大将「全員揃っているのか?」
大将「深海の奴らはまだ来ていないようだな」
522: 2022/09/09(金) 21:56:47.84 ID:IsSLY4A+o
X中佐「あ、少尉! 目を覚ましたんだね、良かった!」ニコ
提督「……」
H大将「なんだその顔は。貴様の無事を喜んでいるというのに」
提督「あんな目に遭わされてすぐへらへらできる人間がいるかよ。もとはと言えばお前らがこの状況を作ったんじゃねえか」
H大将「確かにあんなことはあったが、ここにいる俺たちくらいは信用してほしいものだな?」
大将「むしろ俺たちも被害者だったんだぞ!」
提督「そんな理屈が通用するかよ、くそが。しかも5日ぶりに目ぇ覚ましてすぐ会議だ? お前ら俺をなんだと思ってんだ」
赤城「相変わらずのようですね、少尉。安心しましたよ」
提督「赤城……! お前まで来たのか? 大袈裟だな」
赤城「私が来るのが大袈裟でしょうか? そこまで他人事ではないと思っていますが?」
提督「十分に大袈裟だよ。面倒臭え話になりそうだ」ハァ
赤城「面倒という意味ではそうかもしれませんね。あなたのこれからを左右する重要な話を始めるのですから」
深海艦載機< ゴォォォ…
提督「!」
523: 2022/09/09(金) 21:57:32.75 ID:IsSLY4A+o
不知火「あれは、あちらの偵察機のようですね」
赤城「深海勢の到着ね……!」
不知火「案内に向かいます」
赤城「はい。お願いしますね」
*
不知火「お連れしました」
ル級「……! 提督! 目ヲ覚マシタノカ!」パァ
提督「おう、なんか、いろいろ迷惑かけたみたいで悪かったな」
大将「俺たちと応対が違うな……」
提督「当たり前だ。ル級とお前らを一緒にするな」
大将「普通逆だろうが!」ビキビキ
泊地棲姫「マッタク……アマリ待タセテクレルナ」
軽巡棲姫「早ク彼ヲ、コチラニ渡シナサイ……!」ギロリ
提督「おいおい、もう臨戦態勢なのかよ。少し落ち着け」
軽巡棲姫「!! ア、アナタガ、ソウ言ウナラ……」モジモジ
泊地棲姫「……」イラッ
524: 2022/09/09(金) 21:58:16.66 ID:IsSLY4A+o
提督「俺も面倒ごとは嫌いなんだ。とにかく、話があるならとっとと済まそうじゃねえか」
大将「……貴様、最初の時より随分と態度がでかくなったな」
提督「今更取り繕う必要もねえからな。少し前からお節介焼きにきてたX中佐はともかく、お前らだって信用できるかどうかわかったもんじゃねえ」
大将「貴様、せっかく俺が取り立ててやろうと言うのを……!」
H大将「よせ。奴の言い分も当然と言えば当然だ」
大将「それは俺の責任じゃないだろう。お前たち……いや、J少将が勝手にやったことだ!」
H大将「そうかもしれんが、この場では迂闊なことを言うなよ。下手をすれば、ここにいる艦娘たちでさえも黙ってないだろうからな」
X中佐「そうですよ。ここは彼に協力を取り次いでもらわなければいけない場面なんですから。友好的に行きましょう」
H大将「だいだいお前はいつもワンマンでゴリ押しが過ぎる。なんでもかんでもお前の力で思う通りになると思うな」
大将「ぐぅ……」
提督「そういや、中将は来てねえのか?」
X中佐「うん、中将閣下には本営に戻っていただいたよ。その際に、今回の件は僕たちに一任する、とお言葉をいただいてる」
提督「この手の話なら顔を出すかと思ったんだが……まあ、齢も齢だしな。おとなしくしてもらったほうがいいか」
X中佐「足のこともあるからね」
525: 2022/09/09(金) 21:59:01.59 ID:IsSLY4A+o
H大将「とにかく、全員揃ったようだな。少尉は我々の正面、そこにかけたまえ」
H大将「深海棲艦は右手に。それからメディウム? 君たちは左手だ」
ニコ「魔神様の隣じゃないんだ……」ムスッ
H大将「それを言い出すと深海棲艦たちも隣の席を欲しがるだろう。不服だろうが揉めないよう平和的に頼む」
ニコ「……」
提督「まあ、一理あるか。ニコ、悪いがそこに座ってくれ」
ニコ「……魔神様がそう言うなら」ムスッ
ニーナ「あら? 不知火さんは向こうに座るんですか?」
提督「あいつは一応、中将の部下だからな」
ニーナ「そうだったんですか……」
タチアナ「ニコさん、私たちをお呼びでしょうか」
ノイルース「話し合いにはニーナとナンシーが出ると思っていましたが、何か問題でも?」
ニコ「ああ、残虐系メディウムだけだと意見が少し偏りそうだからね。それにタチアナは、泊地棲姫と一緒にいたんだよね?」
タチアナ「はい、島の再開発についての今後の見解をまとめています」
提督「島の再開発……? 泊地棲姫が関わったってやつか?」
タチアナ「はい。本案件に関しては私にお任せを」
526: 2022/09/09(金) 21:59:46.72 ID:IsSLY4A+o
如月「それじゃ、司令官、私たちはこっちで……」
提督「ん? おい待て、お前らは同席しないのか?」
大和「申し訳ありません……」
提督「……俺が話せってことか。くそ面倒臭え……」
ナンシー「マスター頑張ってね~!」フリフリ
X中佐「メディウムはそこにいる4名でいいのかな?」
タチアナ「ええ、始めてください」
X中佐「深海棲艦からは3名で」
ル級「泊地棲姫、軽巡棲姫、ソレカラ私。アト2人ハ後カラ出サセテモラウ」
X中佐「後から? ……とりあえず、承知したよ」
H大将「こちらは海軍大将のTとH、それから中佐のX。艦娘からは提督と親しい中将麾下の赤城と不知火に出てもらう」
大将「うむ、では始めようか!!」
大将「議題は、提督少尉の処遇についてだ!!」
全員「「……!」」ザワ…
527: 2022/09/09(金) 22:00:36.70 ID:IsSLY4A+o
ニコ「気に入らないなあ。ぼくたちの魔神様を人間の所有物扱いするなんて……!」イラッ
ニーナ「所詮は人間ですから。人間の物差しでしか推し量れない哀れな生き物……!」ユラッ
軽巡棲姫「提督ハ渡サナイワ……!」ヌラッ
泊地棲姫「アア、ドウセ奴ラニ飼イ殺シサレルニ決マッテイル……!」ギラッ
不知火「開会早々から殺気立っているのですが」
H大将「お前、もう喋らんほうがいいな?」
大将「なぜだ!? こんな人材を捨て置けというのか!?」
X中佐「退席させましょうか」
大将「おい!?」
赤城「話を戻しましょう。最初に、海軍が所有していた××国××島の鎮守府が焼失した件について!」
赤城「本件については自然災害とし、提督少尉の過失はないものと認めました」
赤城「この災害で被災した海軍の人員および設備の被害については、本会では割愛させていただきます」
赤城「問題は、提督少尉の今後について」
赤城「海軍は、今回被災した少尉には、引き続き海軍に所属する『提督』として、艦隊の指揮を執って欲しいと考えています」
528: 2022/09/09(金) 22:01:47.89 ID:IsSLY4A+o
赤城「そのことについて、少尉から何か申し立てはありますか?」
提督「……もし、嫌だと言ったら?」
赤城「そうなれば、あなたは海軍を解任され、日本へ送り返されることでしょうね。あなたはそれで良いと?」
提督「良いとは言えねえな。ぶっちゃけ、妖精と艦娘がいなかったら、ここまでまともに生きてすらいなかっただろうし」
提督「人間嫌いの俺が、今更、艦娘との繋がりを断って人間社会へ復帰しろと言われても、無理に決まってんだ」
提督「それに、こうなったから言わせてもらうが、着任当初も初期艦すらつけてもらえずに人間の都合でこの島に追いやられて」
提督「さんざんこき使って疑うだけ疑って、今度は帰れだと? これだけ危険な目に遭わせておいて、ふざけてんのか」
X中佐「……」
提督「ま、お前らにしてみりゃ、大佐が悪い、としか言えないのかもしれねえけどな」
提督「それに、俺の意思を差し置いても、今は状況が変わった。仮に俺が日本行きを望んだとしても、こいつらが黙っちゃいないだろうな」
泊地棲姫「ソウダナ。ソレナラ提督ハ我々ガコノ場デ貰イ受ケルゾ、チカラヅクデナ……!」
ニコ「ぼくたちは日本とか言う場所に行ってもいいよ。魔神様のために働ければ、ぼくたちはどこへでも一緒に行くよ」
X中佐「……きみたちなら、僕たちと友好関係を結べると?」
ニコ「人間と? 思い上がらないでほしいね」フン
ニーナ「本当なら、この場にいる人間すべて、刈り取って魔神様にその魂を捧げているところです。身の程を知りなさい」
X中佐「……」
529: 2022/09/09(金) 22:02:31.55 ID:IsSLY4A+o
提督「メディウムと人間が仲良くするなんてのは無理だな。メディウムがどういう存在か、少しは話を聞いたろ?」
H大将「罠の化身、と言う話だったな?」
提督「ああ。生きた人間を陥れて頃すための罠の化身だ」
提督「処刑や拷問に使われた道具が元になっているメディウムもいる。どういう気性の連中か、言わずとも察しが付くだろう?」
提督「そういう面もあってか、メディウムたちはこことは別の世界で、長い間、人間たちから迫害されてきた」
提督「こいつらがこっちの世界に来たのも、俺と中将の謀殺を目論んだ連中に対する、俺の怒りと憎悪を察知したからだ」
H大将「……」
提督「仮に俺を日本へ帰そうものなら、メディウムも一緒に日本へ行くことになるだろう」
提督「その結果がどうなるか……人命を守るのがお仕事の人間なら、放っておくわけにはいかないよなあ?」
大将「ま、待て! その前に、貴様は人間でありながら、なぜその罠の化身たちの主になったんだ!」
提督「言ったろ。俺が人間を氏ぬほど嫌いになったからだよ。なあ、ニコ?」
ニコ「そうだね。同じ人間として生まれ落ちたにも関わらず、生まれたときから卑下され、ありとあらゆる主張を否定されてきた」
ニコ「魔神様が生まれ出でるのに必要な要素のひとつ……人間に対する諦観と悲憤、累積された憎悪。それが僕たちをこの世界に呼び寄せた」
ニコ「他にも、あの島にたくさんの氏が集まっていたことや、魔神様自身の出生も関わってはくるけれど、一番肝心なのはそこだね」
H大将「……よくそれで海軍に入ろうと思ったな」
提督「妖精が見えるってだけでスカウトされた結果さ」
530: 2022/09/09(金) 22:03:31.41 ID:IsSLY4A+o
提督「バイトも人間関係が原因で長続きしねえし、とりあえずの飯の種になりゃあいいなと思ってただけだ」
H大将「人が嫌いなくせに、人の言うことを聞いていたのか?」
提督「連れ添った妖精が悲しむから無駄氏にしたくなかったってだけだ。はっきり言って人間はどうでもいい」
提督「これでも妖精たちと本から最低限の倫理観ってもんを教わってるつもりだぜ? 生きてる人間どもは誰一人教えてくれなかったがな」
ニコ「これまで魔神様が、人ならざる者に頼って生きざるを得なかっただけでも、その辛労辛苦は察して余りある」
ニコ「それに加えて人間どもが、いかに魔神様に対して無礼な態度をとってきたか……!」
ニコ「ぼくたちの怒りは、そいつらを10回ずつ頃しても物足りないくらいなんだよ。人間の言うことに従うなんて屈辱の極みだ」ジロリ
ニコ「魔神様が控えろというから、仕方なく従っているだけだということを、肝に銘じておいてほしいね」フンッ
H大将「……」
ニコ「それに、今の魔神様は人間の姿をしているけど、既に人間ではなくなっているって、お前たちも知ってると思うんだけど?」
大将「なにぃ!? それはどういうことだ!!」ガタッ
大将「俺は聞いていな……ん? 待てよ? もしかして、X中佐の言っていた、人間が人間ではなくなる、という話か……?」
X中佐「僕も少佐が言っていたことをそのまま伝えただけですので、詳しくは聞いていませんが……」
X中佐「少尉の入院中に彼の血液型などを調べたところ、血液そのものが人間のそれとは成分がまったく別物でした」
大将「では、今の少尉は、いったいなんなのだ?」
531: 2022/09/09(金) 22:04:16.71 ID:IsSLY4A+o
X中佐「……少尉。説明、できるかい?」
提督「そうだな……」ウーン
提督「確か、X中佐には、俺が一度氏んだ、ってことも伝えたよな?」
大将たち「「!?」」
赤城「そ、それはどういう意味ですか!?」
提督「俺はあの日、大佐に撃たれて殺された。そしてその時、俺の胸を貫いた銃弾だったのが、そこにいる軽巡棲姫だ」
軽巡棲姫「……」
H大将「なんだと!?」
提督「大佐の一味が、過去に深海棲艦の艤装を使って武器を作ろうとしていたことは覚えているな?」
提督「その武器の威力を試す実験台にされていたところを逃亡して来たのが、うちの鎮守府の如月だ」
X中佐「!!」
提督「大佐一味はどうにかして深海棲艦を鹵獲し、そいつらを加工して武器にして……やがて銃弾を作るまでに至った」
提督「おそらく軽巡棲姫もどこかで鹵獲されて『生きたまま』武器に加工されたんだろう。そりゃ人間を嫌って当然さ」
大将「生きたまま!? どういうことだ!」
泊地棲姫「ワタシタチ深海棲艦ハ、氏ネバ何モカモ水ノ泡ト化ス。艤装ダケガ残ルトイウコトハナイ」
532: 2022/09/09(金) 22:05:02.46 ID:IsSLY4A+o
泊地棲姫「ナカニハ、艦娘ニ撃破サレルコトデ、艦娘ニ変化スルモノモイルガ……」
泊地棲姫「イズレニシロ、艤装ガ残ッテイル、トイウコトハ、生キテイル……ソコニ魂ガ残ッテイル、トイウコトダ」
大将「なんという……あいつらは、本当にろくでもないことを!!」ダンッ!
H大将「まったく……狂っているな。そこまで道を外れるか、頭が痛いな」
大将「……しかし、そうだとしてもだ。なぜ少尉は銃で撃たれたのに生き返ったんだ?」
提督「俺の魂が、半分は深海棲艦だから、らしい」
ニコ「えっ」
メディウムたち「「えっ」」ドヨッ
艦娘たち「「えっ」」ドヨドヨッ
大将たち「「はあ?」」
軽巡棲姫「……ハァ、ジャナイガ」
泊地棲姫「ヤレヤレ……」
提督「ま、信じられないだろうな。見た目はほぼ人間っぽいっつうか、体そのものは人間だったんだからな」
ニコ「魔神様、それはぼくも初耳だよ」
533: 2022/09/09(金) 22:05:46.30 ID:IsSLY4A+o
ル級「証人ヲ呼ブワネ」
X中佐「証人?」
スタスタ…
ヲ級「連レテキタ」
時雨「あ、提督。久しぶり」
提督「……時雨!? 久しぶりって……お前、来たのか!? っつうか戻って来られたのか!?」ガタッ
時雨「うん、見ての通り、ドロップしたてだけどね」ニコ
提督「……夢じゃなかったのかよ」アッケ
大将「時雨じゃないか。こいつが何かしたのか」
時雨「特になにかをしたわけじゃないけど。まあ、一部始終を見てきた、って言うべきかな」
大将「見てきた?」
時雨「うん。例えば、あの日、スタンガンを使われて拘束された後、朧に見つけてもらって2階の執務室から飛び降りたこととか」
大将「!」
時雨「朧がヲ級になったり、初春がル級になったりとか」
H大将「!!」
時雨「この人が魔神になった提督に腰を抜かして一緒に逃げそうになったこととか」
大将「お、おい!?」
534: 2022/09/09(金) 22:06:31.66 ID:IsSLY4A+o
H大将「時雨はあの場にはいなかったな。なぜそこまで知っている?」
時雨「僕は、もとD提督鎮守府の時雨。かつてあの島に……墓場島に漂着して、埋葬された艦娘の一人さ」
ザワッ…
扶桑「……」
五月雨「……」
朝雲「嘘でしょ……」
山城「はぁ、やっと戻ってこれたわ」
那珂「あ、時雨ちゃんもあっちにいるんだね!」
扶桑「……山城。あそこにいる、時雨が……D提督のことを……」
山城「はい。あそこにいるのは、かつて私たちと一緒の鎮守府にいて……私たちがあの島の砂浜で看取った、あの時雨です」
扶桑「……戻って……きたと、いうの……?」ポロポロポロ
山城「はい……!」コクン
大将「つ、つまり、お前はあの島にいた幽霊だったと?」
時雨「うん。そのあと、僕は天国に行く途中まで行って、そこで提督と出会ったんだ」
535: 2022/09/09(金) 22:07:16.27 ID:IsSLY4A+o
H大将「……少尉は天国に行けたのか」
X中佐「そ、それはさすがに失礼では……!?」
H大将「いや、人を頃す罠の軍団の総大将だぞ?」
ニコ「そもそも魔神様が天国とか地獄とか、そういう場所に行くこと自体おかしいと思うんだけどな?」ウーン
時雨「もともと提督は人間として生まれたんだし、そこらへんはきっといろいろあるんだよ。まあ、その話は置いておくとして……」
時雨「とにかく、空の上で僕が出逢った提督は、全身真っ白で、顔にひびが入って、そのひびが橙色に発光する、深海棲艦の姿だったんだ」
ル級「姫級ヤ、鬼級ニ、ソウイウ子イタワヨネ?」
泊地棲姫「ソウダナ。例エバ、重巡棲姫トカカ」
全員「「……」」
提督「だから妖精とも話せるし、ル級たち深海棲艦に触れられても平気だったってわけらしい」
H大将「……信じがたいが、理屈としては成り立つな……」
時雨「提督のお母さんに話を聞くといいよ。その人、若いころに海難事故に遭ってて、その時に深海棲艦のようなものに襲われているはずなんだ」
赤城「……それでは、大佐に撃たれた提督が生き返ったのは、弾丸にされた軽巡棲姫のおかげだったと?」
提督「多分、な。大佐に撃たれた俺も、大佐の道具にされた軽巡棲姫も、言いようのない思いを抱いていたのは事実だったと思う」
536: 2022/09/09(金) 22:08:03.66 ID:IsSLY4A+o
提督「正直、あの場で何があったのかは、覚えちゃいないしわからないんだが……結果的には、そういうことだと思ってる」
軽巡棲姫「私ハ、アナタノオカゲダト思ッテイルケド?」
提督「そうなのか? お前も自覚ないんじゃ、ますますわかんねえな」
提督「でだ、撃たれて生き返ってから、軽巡棲姫の弾丸が生きているとわかったから、泊地棲姫に育ててくれと頼んだ結果、こうなったわけだ」
全員「「……」」
提督「あ、そうだ、泊地棲姫」
泊地棲姫「! ナンダ?」パァッ
提督「お前に大佐預けてたろ。軽巡棲姫の餌にしろって言ってた、あれ。今はどうなってんだ?」
大将「んなっ!?」
泊地棲姫「アア、アレカ? 駆逐艦用ノ巣トシテ使ッテイタガ、ソロソロ捨テナケレバナ……」
H大将「!?」
提督「なんだ、まだ生きてたのか? 随分しぶといな」
泊地棲姫「見ルカ?」
提督「いや、いい。見たら怒りが再燃して手を出しそうだ、適当に始末しておいてくれ」
泊地棲姫「デハ、ソウシヨウ」
X中佐「……この場に中将閣下がいなくて本当に良かったよ」ハァ…
537: 2022/09/09(金) 22:08:47.13 ID:IsSLY4A+o
赤城「話を戻しますが、提督が日本へ帰る、という選択肢はなくなったと考えてよろしいですね?」
X中佐「そ、そうだね……限りなく難しいと言えるだろうね」
H大将「ああ。この状況では、日本へ帰したほうがデメリットが大きいと思えるな」
大将「むぐ……!」
赤城「では……」
提督「俺がどこへ行くか、って話なんだろうが、その前に赤城。あの島は今後どういう扱いになるんだ?」
赤城「そうですね……しばらくは立ち入り禁止になるでしょう。人が出入りできる状態にはありません」
赤城「海軍はこの島の鎮守府を借りていたわけですから、その後××国へ返すことになりますね」
提督「……結局、俺が海軍に残ることを選択した場合でも、あの島に残る選択肢はないってことだな?」
ル級「提督ハ、アノ島ヲ気ニ入ッテイタノヨネ?」
提督「まあな。面倒くせえ人間もそうそう来ないし、気楽なもんだった」
泊地棲姫「ダカラ、私タチガアノ島ヲ奪ッテヤロウ。提督ヨ、一緒ニ住メ」ニヤリ
大将「お、おい! そんな勝手な真似は許さ」
X中佐「いいんじゃないでしょうか」
大将「んなっ!?」
H大将「X中佐!?」
538: 2022/09/09(金) 22:09:31.68 ID:IsSLY4A+o
X中佐「僕は賛成ですよ。せっかくですし、少尉の配下の艦娘も一緒に住むのはいかがでしょう」
提督「は……?」
大将「甥っ子君、正気か!?」
X中佐「正気ですよ。考えてもみてください、今や少尉は深海棲艦と友好関係を結んだ超重要人物です。ここから引き離すのは逆効果では?」
H大将「それは確かにそうだが……」
X中佐「少尉の部下の艦娘にしても、深海棲艦になる恐れがあったとはいえ、少尉とこれまで無事に過ごしてきました」
X中佐「島の殆どが燃えてしまったあの島を再び人が住めるようにするには、相当な時間と労力が必要でしょうが……」
X中佐「彼が望むのであれば、あの島に住み続けても良いのではないかと思っています」
大将「そ、それができれば苦労はしないだろうが……」
X中佐「それに、彼はかつてこう言っていたんですよ。艦娘たちが人間に干渉されることなく暮らせる場所が欲しいと」
X中佐「自分たちの、艦娘たちの『国』が欲しいと」
大将たち「「!!」」
ル級「……」フフッ
ニコ「……国、か……」
提督「……お前……!」
539: 2022/09/09(金) 22:10:16.41 ID:IsSLY4A+o
X中佐「これまで我々は、侵略者としてしか、深海棲艦を見てこなかった」
X中佐「その深海棲艦たちと、今、僕たちはここで対話ができている。僕は、できることならこの対話をもっと続けたい」
X中佐「そこに、人間と深海棲艦との共存の道があることを信じたい……!」
大将「そういうことなら……そうだな」
H大将「……」
X中佐「そのためにはまず、ここにいる深海棲艦たちに僕たちと戦わない意思があるかどうか」
X中佐「これからも戦わずにいられるか、その確約を取るのと一緒に……」
X中佐「メディウムにも心変わりしてもらう必要がありますが、それは気長に心変わりを待つか」
X中佐「あるいは、こちらも彼女たちが魔神と崇める提督と、僕たちの安全を保証するための約束事を取り付けられるか、でしょうね」チラッ
ニコ「……魔神様が手を出すなと言うのなら、従わざるを得ないかな?」
ノイルース「私たちの在り方としては、あまり望ましくはありませんが」フゥ…
大将「しかしそれでは、引き換えに何を請求されるかわからんぞ……」
X中佐「今更何を仰るんですか。もともと僕たちが目指していた深海棲艦との停戦を想定したときも同じことを論じてきたでしょう」
X中佐「どんな要求が出るか予測がつかないと、これまで何度も話し合って、何度も同じ結論を出してきたじゃありませんか」
X中佐「今ここでそんな及び腰な態度を見せてどうするんです!?」
大将「それはそうだが……」
540: 2022/09/09(金) 22:11:02.16 ID:IsSLY4A+o
X中佐「相手の要求は聞くだけは聞く。そのうえで可能なものは飲み、我々が飲めないものは詰めて妥協案を探す。そうだったでしょう!?」
大将「それこそ何を請求されるか……」
赤城「大将閣下?」ジロリ
大将「ぐ……」タジッ
X中佐「僕は、この島を提督とその配下の艦娘、この場にいる深海棲艦、そしてメディウムたちに明け渡したほうがいいと思っています」
X中佐「今後も彼らと対話するための場所として……それが世界の平和に繋がるのであれば、それだけの価値はあるかと」
提督「……」
H大将「大将はともかく、少尉も不服そうだな?」
提督「別に。人間の世界は面倒だからな。やることが多そうだな、って思ってるだけだ」
X中佐「仮に嫌だと思っても、この島以外に提督がどこかへ行く当てもないんじゃないのかな?」
提督「……そりゃあ、まあ、な」
X中佐「僕たちが望むのは対話だ。この島の海域でを非交戦海域とし、深海棲艦の領土として、中立地帯として使わせて欲しい」
X中佐「メディウムや深海棲艦が望むものをまとめ、少尉を通して交流から始めたい」
X中佐「そこから、交易であったり、和解できる道を探したいんだ。お互いの安全と、共存のために」
全員「「……」」
541: 2022/09/09(金) 22:11:46.73 ID:IsSLY4A+o
X中佐「どうでしょう。メディウムたちにしても、深海棲艦にしても、そこまで悪い条件ではないはずです」
ニコ「……」
ル級「……」
H大将「……」
大将「むうう……」
ニコ「みんなどう思う?」
ニーナ「私たちの領地で、生殺与奪を私たちで決められるのであれば……」
ノイルース「悪くはありませんね……魔神様の判断にお任せして良いのではないでしょうか」
タチアナ「ええ、私もそれで良いと思います」
泊地棲姫「フフフ……人間ガ、私タチノ領地ヲ認メルカ……!」
ヲ級「画期的ダナ」
ル級「私ハ賛成ネ。提督ガ、イイッテ言ウナラ、ソレデイイワ」
軽巡棲姫「提督ト一緒ニイラレルナラ……」ポ
X中佐「どうだろう、少尉。この島の代表として、僕たちと……各国の首脳と、条約を整理してみないか?」
提督「……」
赤城「少尉……!」
提督「……」
542: 2022/09/09(金) 22:12:31.40 ID:IsSLY4A+o
提督「……」ハァ
提督「面倒臭えが、やるしかねえか……」
ザワッ…!
提督「不知火。悪いが頼りにさせてくれ。国際法ってやつか? そういうのとか、細かい取り決めが全然わかんねえんだ」
不知火「……わかりました。赤城さんにも相談させていただきたいのですが、よろしいでしょうか」
赤城「ええ、喜んで承ります」
提督「それから、そういう法律ってのは人間の公序良俗とか、人間の作った常識で固められてるはずだ」
提督「メディウムや深海棲艦が受け入れられないものは突っぱねるつもりでいる」
大将「ぐぬ……!」
泊地棲姫「私タチガ、ワザワザ人間ニ、断リヲ入レル必要ガナイカラナ。今モ、勝手ニ海域ヲ支配シテイルダロウ」
X中佐「確かに、今はルール無用だね。だとしたら、この島の領海だけでも、交戦しないように条約を結べないだろうか?」
赤城「できればこの場で仔細を決めたいところですが……」
H大将「少し待て。黙って聞いていたが、これは領土問題だ。世界各国が黙って見過ごすとは思えない」
泊地棲姫「ホウ……? ソレナラモウ遅イゾ。スデニ私タチガアノ島ヲ好キニシテイルカラナ」
タチアナ「ええ、すでに再開発を進めております。人間が入り込む余地などありません」
H大将「おい!?」
543: 2022/09/09(金) 22:13:16.77 ID:IsSLY4A+o
提督「……だったらもう、泊地棲姫の言うように強奪したことにしたほうが早いな」
大将「はああ!?」
提督「海底火山の噴火で島の鎮守府が焼失したのは事実」
提督「噴火の兆しを深海勢力が察知していて、それを機に泊地棲姫が海域に攻め込んできた、という話にすればいい」
提督「人間の介入など許されない状況だったことにすりゃいいんだ。火山活動は完全に天災、人間が抗えるはずもない」
提督「島に調査に来た連中はただの不運。あとはこの船が見逃された理由と、こうやって交渉できている理由を適当にでっち上げりゃいい」
不知火「でっち上げる……ですか」タラリ
提督「生憎、俺は巻き込まれて寝てたようなもんだからな。どうやってこの状況作ったのか、俺にはうまく話を作れねえ」
提督「深海側が交渉役に俺を選んだ理由もなんだっていい。気分で選んだと言っても通用するだろ」
提督「全部ありのままに伝えても別に構わねえぜ? どうせそうなって困るのは、身内を謀頃しようとした海軍だろうしな」クックックッ
H大将「……他人事のように言ってくれるな……」ハァ
赤城「少尉。顔が悪者になっていますよ」
提督「あん? 俺はこれが地だぞ?」
赤城「まったく……こうも開き直られると可愛くありませんね」
提督「馬ぁ鹿、俺のどこを見て可愛いとか言ってんだ」
赤城「あなたが自覚していないだけで、可愛いところはたくさん見てきましたよ?」フフッ
ル級「ソノ話、アトデ詳シク」
提督「おい」
544: 2022/09/09(金) 22:14:04.59 ID:IsSLY4A+o
大将「まったく、貴様は何を考えているんだ……お前の望みはなんなんだ!?」
提督「ふん。そんなものは決まってる」
提督「俺の望みは、俺に付き従ってくれている奴らの平穏だ」
提督「人間を排除した、妖精、艦娘、深海棲艦、メディウムの安息の地を作ること」
提督「人間に虐げられ、轟沈させられた艦娘が、人の手に頼らずとも生きていける場所。それが俺の理想であり、望みだ」
X中佐「少尉……」
大将「俺たちを邪険にしていたのは、そういう理由か……?」
H大将「やれやれ、ようやく腹の底を見せたか……面倒な男だ」
不知火「……司令。その理想の中には、司令も入っていますか?」
提督「ん?」
不知火「かつて司令は、その理想には人間であるご自身も不要だと仰っていました」
不知火「しかし、今の司令は人間ではありません。そのお考えを改める気にはなりませんでしょうか」
X中佐「そんなこと考えていたのか!?」
提督「ああ……まあ、言ってたな。島の住人を艦娘だけにしたくて、最初は俺も島からいなくなる予定でいたんだ」
ザワ…!
545: 2022/09/09(金) 22:14:48.69 ID:IsSLY4A+o
提督「けどまあ……こう言っといてひっくり返すのはみっともねえけど、その話は、なしにするしかねえな」アタマガリガリ
提督「目立つのは嫌いなんだが、海軍とかとこれから話をするうえでは矢面に立たねえといけないだろうし……」
提督「こうやってメディウムやら深海棲艦やらとも縁ができた以上、下手に喧嘩させたくもねえし……」
提督「まあ、いち住人として、いてもいいんなら……」
ル級「何言ッテルノ。アナタハ、イナイト、困ルノヨ」ニッ
提督「……」
ニコ「そ、そうだよ、ぼくたちは魔神様と一緒にいるためにここにいるんだから!」ガタッ
軽巡棲姫「提督ハ渡サナイワ!」ガタッ
如月in傍聴席「抜け駆けは許さないわよ!!」
大和in傍聴席「提督を独り占めにはさせません!!」
「提督ー!!」キャー!
「司令官!」キャー!
「魔神様ー!」キャー!
「マスター!!」キャー!
提督「……」セキメン
546: 2022/09/09(金) 22:15:32.06 ID:IsSLY4A+o
ル級「ホーラ、イナイト困ルデショウ?」ニヤニヤ
提督「……くそ。なんか、恥っずいな、これ……」ウツムイテカオカクシ
不知火「司令があからさまに恥ずかしがっているところは初めて見ました」キラキラッ
赤城「レアショットですね」キラキラッ
ル級「コレガ、可愛イ、ダナ?」キラキラッ
ニコ「うん……まあ、いいんじゃないかな」チラッチラッ
タチアナ(そこで真っ向から見ようとしないあたりがニコさんらしいと言いますか……)
H大将「最早我々が口を挟めるような空気ではないな。認めてやるしかないんじゃないか? なあ」
X中佐「ですね。特にメディウムは海軍で扱うには荷が重すぎると思いますが、いかがでしょう」
大将「……むううう……」ガックリ
キャーキャー!
提督「……っだあああ! お前ら少し静かにしろ! 恥ずかしい!」ミミマデマッカ
ピタッ
提督「ったく……とにかくあの島は俺たちが好き勝手していいよな? っていうか、してるらしいけどよ……」
H大将「そうだな。人間の手には負えない。その方向で本営にも話を伝えよう」
提督「ああ、そうしてもらえるとありがたい」
547: 2022/09/09(金) 22:16:19.98 ID:IsSLY4A+o
提督「そういうわけなんで、深海棲艦もメディウムも、この船の人間には手を出さないでくれよ。今後、俺が指示した連中も同様に頼む」
ニコ「……魔神様ともあろうお方が、下手に出すぎじゃないかな?」
提督「そうか? この世界で、あの島に住んで攻撃されないっつう確約を得られただけでも、十分すぎる話だと思うぞ?」
提督「俺たちの望みは俺たちの平穏だ。これ以上駄々こねても、敵視されるだけでいいことなんかありゃしねえ」
提督「そもそも罠がこれ以上目立ってどうすんだ? 潜んでなんぼだろう? 俺たちが目立つのは俺たちのシマだけでいいんだ」
提督「無断で踏み込んできた奴を、丁寧に入念に執拗に派手に、飛ばして刻んで潰してやるのがお前らの本分なんじゃねえのか?」
ノイルース「それは確かに……」
ニーナ「その通りですね……」
タチアナ「ええ、同意いたします」
ニコ「……なんだか、言いくるめられてる気がする」
赤城「こういう時の物言いだけはお上手ですよね、少尉は」フフッ
不知火「はい」コク
大将(もしかして、俺たちも言いくるめられてるのか?)タラリ
H大将「やれやれ……深海側のスパイかと疑っていたが、それ以上の相手だったな。X中佐、責任重大だぞ」
X中佐「そうですね……最善を尽くします」
550: 2022/09/17(土) 11:00:01.16 ID:bgBHVRZoo
* それからしばらく後 医療船内 ロビー *
提督「やれやれ、話が長すぎだ……」ノビー
如月「司令官、お疲れ様でした」
提督「おう、マジで疲れたぜ……ル級たちにしてもニコたちにしても、よくもまあ我慢して長いこと座っててくれたもんだ」
提督「ニコたちも、俺に面倒をかけられないとか言ってル級たちと一緒に島に引き上げていったし……聞き分けが良すぎて申し訳ねえな」
如月「人間に手を出さないには、こうするのが一番、って言ってたものね」
大和「後でちゃんとお礼をしに行かないといけませんね」
吹雪「司令官!」ズイ
朧「提督!」ズズイ
朝潮「司令官!! ご快癒、おめでとうございます!!」ズビシッ!
提督「おう……って、お前らもよく生きて……」
金剛「テートクゥゥ!! 生きてて良かったデース!!」ウシロカラダキツキー!
提督「うおっ!?」ガッシィ!
榛名「金剛お姉様!? ずるいです!」
551: 2022/09/17(土) 11:01:45.61 ID:bgBHVRZoo
金剛「Woo... ちゃんと生きて動いてくれてマス……この感触も久し振りデース」マサグリマサグリ
提督「お前はどこを触ってん……だっ!」アタマガシッ
金剛「はっ! ちょ、テート……Noooooo !!」メキメキメキ
電「金剛さんも相変わらずなのです!」
暁「本当ね……まあ、仕方ないのかもしれないけれど」クスッ
提督「お、電と暁か。電も生きてるなら何よりだ。暁、お前も倒れてたんだって?」
暁「え、ええ、それで、その……司令官、覚えてる?」
提督「ん? 天国っつうかあの世の話か?」
暁「……やっぱり、夢じゃなかったのね。こうしてお話してると、司令官も普通の人間に見えるのに……」
提督「ちゃんと覚えてるのか。ということは、I提督のことも覚えてるな?」
暁「うん……司令官は、I提督のことは知ってたの?」
提督「一応な。ただ、それを教えてお前がどうなるかわからなかったから、俺からは話を振らないようにしてたんだ」
暁「そうだったのね……」
川内「せめてあたしにだけでも、I提督を知ってるって言ってくれれば良かったのに!」
提督「そうは言うが、わからなかったからな。俺の方こそ早く言って欲しかったぜ」
552: 2022/09/17(土) 11:04:17.77 ID:bgBHVRZoo
川内「あれ、気付いてなかったの?」
提督「以前お前が、夜中に鎮守府を攻撃されて敗走したとか言ってたけど、それだけじゃなあ?」
提督「お前が関係者かどうか確信が持てなかったってのに、余計なこと言って引っ掻き回されたら目も当てられねえし」
提督「向こうの夢でも翔鶴に、川内と響によろしく、って言われてきたが、そいつがお前のことだとどうやってわかるよ?」
川内「まあ、それもそうだけど……向こう、かあ」
提督「そうだ、五月雨はいるか? 金剛と五月雨にも伝えておかなきゃならないことがある」
金剛「What's ?」
*
金剛「Q中将が……そうデスカ……!」
提督「自分の息子が存命なら引き合わせてた、とか言ってたからな。お前のことを評価もしていたし、心配もしてるようだったぞ」
五月雨「P少将にも……お会いしてたんですね……」グスッ
暁「よろしく頼むって言ってたわ。私の無念は背負わなくていい、無事でいて欲しいって、言ってたのよね」
提督「ああ。お前のことになった途端、むきになるくらいには気にかけてたな」
五月雨「……P少将……」ポロポロ
553: 2022/09/17(土) 11:05:01.64 ID:bgBHVRZoo
提督「ところで、時雨はどこ行った? あいつもこの話を聞いたうちの一人なんだが」
朝雲「あー、時雨なら、ほら、あっちあっち」
扶桑「時雨……!」ダキツキー
時雨「むぎゅう……」ダキツカレ
日向「扶桑が、さっきからずっと時雨を抱いて放そうとしないんだが」
白露「私たちだって時雨を歓迎したいんだよ!?」
提督「……」アタマオサエ
山城「あの、扶桑お姉様? そろそろ時雨を解放してあげ」
扶桑「嫌」
山城「」ピシッ
山城「」
山城「」
山城「」ヒザカラクズレオチ
朝雲「山城さん!?」
554: 2022/09/17(土) 11:05:46.99 ID:bgBHVRZoo
日向「まったく、何をしているんだ。扶桑、そのままだと時雨が窒息するぞ。また時雨を天国に送り返すつもりか?」
扶桑「えっ? し、時雨!? だ、大丈夫!?」ユサユサ
時雨「……ぷはっ!? こ、ここはどこ!? 僕は誰!?」
扶桑「良かった、無事だったのね時雨!」ダキシメッ
時雨「ぐえっ」
朝雲「扶桑さん!?」
日向「無事でもないし、また絞まってるぞ……これはどうしたものやら」ハァ
提督「ったく……しょうがねえな」
朝雲「あ」
提督「扶桑? お前ももうちょっと聞き分けがいいと思ったんだけどなあ?」アタマツカミ
扶桑「え? 提督、何を……あ、あああ!? い、痛い痛いああひぃいぃぃいい!?」メキメキメキ
金剛「扶桑の口からこれまで聞いたこともないような悲鳴が出てきたデース……」
日向「腕が緩んだな。やれやれ……時雨、無事か?」ヒョイ
時雨「はぁ……またお花畑が見えるかと思ったよ。ありがとう」
555: 2022/09/17(土) 11:06:32.87 ID:bgBHVRZoo
朝雲「ちょっと、こっちで山城さんが扶桑さんに食い気味に拒絶されたせいで崩れ落ちてるんだけど」
山城「……フコウダワ……」イジイジ
時雨「山城、元気出して」ナデナデ
扶桑「い、いたたた……噂には聞いていたけれど、提督からいただいた初めてがこんなに痛いだなんて……」ポ
伊8(言い回しが卑猥)
時雨「扶桑、まだ余裕あるみたいだね? もう一回提督に掴んでもらう?」ハイライトオフ
扶桑「ひっ!? え、遠慮しておくわ……!?」アセアセ
時雨「そう? ならいいけど、本当にいいの?」ハイライトオン
扶桑「もう十分よ……あの痛さは直接頭に響いてくるみたいで、体が裏返るかと思ったくらいだもの……」ハァ…
朝潮「わかります。司令官のアイアンクローは、この世のものとは思えないほどの痛さでした……!」ウンウン
電「司令官さんの握力はどう考えてもおかしいのです」ウンウン
霞「……ちょっと待って、朝潮姉もやられたことあるの!?」
朝潮「え、ええ、まあ……」ポ
暁「電もそうなの?」
電「な、なのです……」モジモジ
556: 2022/09/17(土) 11:07:16.27 ID:bgBHVRZoo
金剛「これで扶桑も仲間デース」ニヤニヤ
大和「アイアンクロー仲間ね!」クスッ
暁「そういうことに仲間意識を持つのはどうかと思うけど?」ジトッ
霞「あいつから手が出るレベルで注意を受けてるってことでしょ?」ジトッ
日向「ああ。恥じ入りこそすれ、嬉しそうにしているのは問題じゃないのか」ジトッ
大和如月金剛朝潮電「「ごめんなさい」」
伊8(はっちゃんもアイアンクローされたことあるけど、他人の振りしていようっと)
吹雪「ふふっ、みんな、だらしないなあ。私はアイアンクローされたことないもんね!」ドヤッ
朝雲「アイアンクローは貰ってなくても、吹雪は暴走してデコピンで吹っ飛ばされたことがあるじゃない。威張れる立場にないんじゃないの?」
吹雪「それは言わないでぇぇぇ!!」イヤァァァ!
日向「……まあ、騒々しいのはいつものこととしてだ。先ほどまでの話からすると、提督は氏者に会ってきた、ということなのか?」
提督「ああ。あの場でも話に出ていたが、暁や時雨もそういうことだよな?」
時雨「そうだね。僕の場合、まさかこの世に戻ってくることができるなんて思ってもいなかったけど」
日向「……時雨はこちらに戻ってくるつもりはなかったのか」
時雨「うん、戻れる体がなかったからね。島に漂着したときも胴から下がなかったし、溶岩で全部燃えちゃったしね」
557: 2022/09/17(土) 11:08:30.49 ID:bgBHVRZoo
日向「ふむ……では、なぜ時雨は戻ってくることができたんだ?」
時雨「多分だけど……エフェメラの力、かな」
日向「エフェメラ?」
時雨「魔神に仕える従僕の名前だよ。同じ個体が複数いて、それぞれが魔神のために動いてるみたいなんだ」
時雨「その中の一人が少尉の身を案じていたんだけど、直接手を出せないからって、僕が声をかけられたんだよ」
提督「もしかしたら、手を貸してくれたお礼に時雨をこの世に戻してやったのかもな」
日向「なるほど……その話、詳しく聞かせてもらいたいが、いいだろうか」
提督「俺も聞きたいな。俺にも関わる話なんだろう?」
時雨「そうだね。僕もたくさん話したいことがあるからね」ニコ
白露「その前に私たちにも歓迎させてね! 時雨!」
時雨「僕は走らないよ?」
白露「なんでよ!?」
山城「普通走らないわよ……」
558: 2022/09/17(土) 11:09:32.71 ID:bgBHVRZoo
* 翌日 朝 *
* 医療船内 小会議室へ通じる廊下 *
五月雨「会わせたい人……ですか?」
X中佐「ああ。島があんなことになって、君たちを心配してくれている人が来てくれてね」
X中佐「彼らはその中でも、熱心に君たちのことを案じている人たちだ」
神通「誰でしょう……?」
祥鳳「こちらです。どうぞ」チャッ
X中佐「ありがとう。さあ、二人も入って」
五月雨「は、はい! 失礼します!」
神通「失礼します……」
隊長「ん……来たか」
五月雨「……あ、あなたは……憲兵隊長さん!!」
隊長「いかにも。覚えていてくれたか、駆逐艦五月雨。貴様は息災なようでなによりだ」
神通「……!!」
559: 2022/09/17(土) 11:10:45.77 ID:bgBHVRZoo
五月雨「た、隊長さんが私に話を……?」
隊長「否。私はこの二人の付き添いだ」
若い女性提督「!」ケイレイ
松葉杖をついた若い提督「……」ペコリ
五月雨「この人たちが……?」
神通「……ああ……!!」
五月雨「? 神通さん?」
神通「生きて……生きて、らしたのですね……」ポロポロ…
五月雨「えっ」
神通「F提督……!」
若い提督→F提督「ああ。隠してて、すまなかった」
ヒュオッ(瞬間的に神通が消えて)
女性提督「ふあっ!?」
シュバッ!(F提督の目の前に神通が現れる)
隊長「……」
五月雨「……」
560: 2022/09/17(土) 11:11:30.77 ID:bgBHVRZoo
F提督「……」パチクリ
X中佐「えっ、なにあれ。神通って瞬間移動できるの?」ヒソヒソ
祥鳳「は、速すぎて見えなかったんですが……」ヒソヒソ
F提督「驚いたな。いつの間に忍者みたいになったんだい? せっかく、駆け寄ってきたところを受け止めようってつもりでいたのに」フフッ
神通「ご無理を、仰らないでください。後ろに車椅子が見えますよ?」
F提督「そのくらい、見栄を張らせてくれてもいいじゃないか。本当に久し振りの再会なんだ」
F提督「……神通、連絡もせず、黙っていてすまなかった。会いたかったよ」ナデ
神通「……わた、わたしも、です……! また、こうして、お会いできるなんて……!!」ブワッ
神通「あなたの、葬儀があったことだって……終わってしまってから、知ったんですよ……!!」ギュ…
神通「無念、でした……あなたのそばに、いなかったことが……船が襲われたときに、私がそばにいればと、何度も、何度も……!!」
F提督「神通……」ダキヨセ
五月雨「す、すみません、この方は、神通さんとどのような関係なんですか?」
X中佐「ん? 君は知らなかったのか。彼はF提督、神通のかつての司令官だよ」
X中佐「彼は、深海棲艦との対話の方法を探していた提督の一人で、同じ目標を持つ提督のグループを僕の叔父である大将が支援していたんだ」
X中佐「けれど、数年前に彼らの乗った船が襲撃されて、彼とほか数名の乗員を除いてみんな亡くなってしまった……」
561: 2022/09/17(土) 11:13:30.84 ID:bgBHVRZoo
F提督「私たちの船が襲撃されたとき、大将殿の遠征部隊が近くにいてね。私は運よく助けていただいたが……多くの仲間を失ってしまった」
F提督「私も氏にかけ、今もリハビリを続けているが、神通がいるという島が襲撃されたと知って、いてもたってもいられなくなって」
五月雨「それでこちらにいらっしゃったんですか……」
F提督「こちらに来るのはもう少し後にするつもりだったんだが、神通に逢いたくてね……大将殿に特別に許可を戴いたんだ」フフッ
神通「F提督……!!」
F提督「あの襲撃事件のとき、神通がいなくて本当に良かったと思ったよ」
F提督「あの場にいて応戦しようものなら、間違いなく殺されていただろうからね。そう思えるくらい、あの船への攻撃は苛烈だった」
X中佐「襲撃された巡視船は、そこまでやるのかと思うくらい破壊されていた」
X中佐「その危険性から、大将はF提督たち生存者の存在を隠して、襲撃者の手掛かりを探っていたんだ」
F提督「そして、今回の騒ぎと、最近の調査で、中将閣下を襲撃しようとした、息子である大佐とその一味……」
F提督「そして彼らと通じ、利用していたJ少将が怪しいというところまで、ようやく分かったんです」
F提督「その際にはこちらの陸軍の皆さんにも協力をいただきまして」チラッ
隊長「……」
562: 2022/09/17(土) 11:15:01.08 ID:bgBHVRZoo
F提督「その甲斐もあって、あとは彼らがどんなことをしたのか、追い詰めて暴こうとしていたのですが……」
X中佐「重要参考人は燃えてしまったと」
F提督「そうですね……残念ですが」
F提督「しかし、だからこそ、私がこうして神通と再会できたというのもあります。そこは痛し痒し、ですかね」フフッ
五月雨「……」
X中佐「さて! 今度は五月雨に紹介しよう! 礼提督!」
五月雨「えっ」
女性提督→礼提督「はいっ! 改めまして、お久し振りです! 五月雨さん!!」ビシッ!!
五月雨「お久し……え、えええええ!?」
五月雨「まっ、ちょっと待ってください!? 礼提督……って、もしかして!? あの『礼ちゃん』ですか!?」
礼提督「はいっ!! 私は……」
隊長「いかにも。私の娘だ」
礼提督「って、お父さん!?」
五月雨「う、うわああああ……! 数年ぶりですよね!? 背も大きく……で、でも確か、弁護士を目指してたって……」
礼提督「はい、その時はそうでした……」
563: 2022/09/17(土) 11:15:45.97 ID:bgBHVRZoo
礼提督「ですが、五月雨さんたちが襲撃され、P少将が亡くなったと聞いて……どうしても、そのかたきを、と……!」
五月雨「……!!」
礼提督「五月雨さん……お願いがあります! 私の、秘書艦に……初期艦になってください!!」
五月雨「えええ!?」
礼提督「私にとってP少将は、第二のお父さんでした……そのお父さんの無念を、どうしても晴らしたいんです!!」
礼提督「P少将の初期艦だった五月雨さんと、一緒にかたき討ちを果たしたいんです!!」
五月雨「……」
――私の無念は背負わなくていい、無事でいて欲しいって
五月雨「……」
礼提督「お願いします!!」
五月雨「……礼ちゃん……いえ、礼提督」
礼提督「はいっ!!」
五月雨「そのような理由であれば、私は、秘書艦をお受けすることは、できません」
隊長「!」
礼提督「え、えええ!? ど、どうしてですか!?」
564: 2022/09/17(土) 11:16:45.66 ID:bgBHVRZoo
五月雨「P少将が……提督が目指していたのは、この海の……この世界の平和です」
五月雨「私たちが戦う相手は、深海棲艦ではなく、この海の安全を脅かすものです……!」
礼提督「……あ……!」
五月雨「確かに、私は、私の仲間を沈めたあのレ級が許せません。提督が氏を覚悟してまで討とうとしたあいつを、私は許せません」
五月雨「けれど、そのレ級のせいで、もっと多くの人たちが、私たちと同じ悲しみを味わうことのほうが、許せない……!!」
五月雨「そして、そのレ級を打倒する力を……撃滅できる力を持たなかった私自身も……!!」
隊長「……」
五月雨「でも、それだけじゃないんです。レ級以外にも、罪のない人々を襲う深海棲艦がたくさんいます」
五月雨「そして、残念ながら、罪のない人々を襲うのが、深海棲艦以外にもいるということを、私は知ってしまいました」
隊長「……」ウツムキ
五月雨「礼提督……私たちの敵はそのすべてです」
五月雨「礼提督は、そのたくさんの敵すべてと、戦う覚悟はおありですか……?」キッ…!
五月雨「あなたは、自分の選んだ正義を、貫き通すことができますか……?」
礼提督「う……」タジッ
隊長「……」
565: 2022/09/17(土) 11:18:15.85 ID:bgBHVRZoo
礼提督「……申し訳、ありません……私は、そこまで考えを至らせていませんでした」
礼提督「私はただ……あの鎮守府で笑っていたみんなが、いなくなっちゃったのが、本当に悲しくて、悔しくて……」グスッ
五月雨「……」
隊長「五月雨。不肖の娘が申し訳ない」ペコリ
隊長「その父親として、改めてお願いがしたい。娘の……礼提督の秘書艦として、提督の心得というものを教示していただけないだろうか」
五月雨「隊長さん……!」
隊長「愚かなことにこの私も、陸と海の違いはあれど、P少将の友人として、志を共にした同士として、無念を晴らしたい気持ちがあった」
隊長「五月雨にも、そういう気持ちがあるものと思い込んでいたのだ」
隊長「軍人の矜持を忘れ、知らぬうちに復讐に心を捕らわれていたこと……ただただ恥じ入るばかりだ」
隊長「五月雨。P少将を知る艦娘として、娘を導いてほしい。お願いできないだろうか」ペコリ
礼提督「お父さん……」
五月雨「……」
礼提督「五月雨さん……お願いします!」バッ!
五月雨「……」
566: 2022/09/17(土) 11:19:16.32 ID:bgBHVRZoo
五月雨「わかりました。海のことを……この世界のことを、考えてくださるのでしたら、引き受けます!」
礼提督「五月雨さん……!!」
隊長「……ありがとう。礼を言う」
五月雨「あ、でも、私も、そんなに偉そうなことを言えた立場じゃないんですよ」エヘヘ
五月雨「隊長さんはご存じだと思いますが、P提督は、私が無茶をして氏んでしまわないように、あの島へ送ったんです」
五月雨「実際、私もあのときは、ただレ級を倒すことしか考えていませんでしたから……礼提督と同じように」
隊長「……」
五月雨「でも、あの島で、提督と出会って……あの島の艦娘のみんなと出会って、私の見ている世界がどれだけ狭いかを知ったんです」
五月雨「いろんな人がいて、いろんな考え方があって……その中で、私にできることは何か」
五月雨「正しいことはひとつじゃなくて。どんなものにも、良いところと悪いところがあって。すごく、複雑だってことを知ったんです」
五月雨「それから……人間なのに、人間や艦娘にひどいことをする人がいるってことも……間違ったことをする人がいるってことも、知りました」
五月雨「礼提督には、そういう人になってほしくありませんし……それに、一番は、みんな無事で……生きててほしいって、思うんです」
礼提督「……」コクン
567: 2022/09/17(土) 11:20:30.98 ID:bgBHVRZoo
五月雨「あまりうまく説明できませんし、伝わったかどうかわかりませんけど……だから、これから、たくさんお話ししましょう!」
五月雨「良いと思ったことも、悪いと思ったことも。たくさん話し合って、進んでいきましょう!」ニコッ
礼提督「はい……はいっ!!」コクコク
礼提督「良かった……五月雨さんみたいな艦娘が秘書艦になってくれて、本当に良かったですううう!」グスグス
五月雨「な、泣きすぎですよ!?」
礼提督「だ、だってぇ、一度は断られましたしい!!」ウエーン
X中佐「……なんというか、身の引き締まる思いだね」
祥鳳「はい……!」
F提督「良い艦娘だ……ところで神通?」
神通「はい?」ニコニコ
F提督「どうして私は君にお姫様抱っこされているのかな?」
神通「脚がおつらそうでしたから……」ニコニコ
568: 2022/09/17(土) 11:21:16.75 ID:bgBHVRZoo
F提督「車椅子に乗せてくれていいんだが……」
神通「私は大丈夫ですよ」ニッコニコー
X中佐(嬉しそうだなあ……)
祥鳳(くっついていたいんでしょうね……)
隊長「コホン。余程再会が嬉しかったと見えるが、慎んだほうがいい。私も、この場で憲兵の仕事をしたいと思ってはいないのでな」
神通「わかりました……」ションボリ
F提督「神通はいつからこんなにお茶目になったのかな……」クルマイスノセラレ
神通「お茶目……?」
神通「」ポクポクポク
神通「」チーン
神通「あ、あああ……私ったらなんてはしたないことを……」カオマッカ
F提督「自覚してなかったのか……」タラリ
五月雨「如月ちゃんや大和さんたちの影響かなあ……」タラリ
X中佐「この場にビスマルクがいなくて良かったかもしれないなあ」
祥鳳「ああ……やりかねませんね、ビスマルクさんなら」
574: 2022/09/24(土) 17:37:31.50 ID:ci5cBJ3jo
* 医療船内 大会議室 *
朝潮「……司令官、全員揃いました!」ビシッ
提督「おう、ありがとな」
吹雪「すっごい久し振りな気がしますね、みんな揃うの!」
北上「てか、よくこの人数が一つの部屋に収まったねえ?」
名取「なんでもありなんですね、この船……」
提督「まあ、人数ぎりぎりだな。メディウムがいたらあふれてたはずだ」
時雨「僕も参加して良かったのかな?」
扶桑「いいに決まってるわ。ね、山城?」
山城「ええ、もちろんです扶桑お姉様」
島妖精A「わたしたちにも声がかかるとは思わなかったが……」ヒョコッ
島妖精C「忘れずにちゃんと声をかけてくれて嬉しいけどね!」
長門「今回は一体どんな話だ?」
提督「ちょっと悩んでることがあってなあ。お前ら全員にかかわることだし、ちゃんと俺の口から話しておこうと思うんだ」
575: 2022/09/24(土) 17:38:15.88 ID:ci5cBJ3jo
提督「まず……一度座ってもらったところで悪いが、全員席を立ってくれ。ちょっと班分けをさせてもらう」
全員「「???」」
提督「これから名前を呼ばれた奴は、こっち側に座ってくれ。如月」
如月「は、はい!」
提督「吹雪、朧」
長門「……着任順か?」
神通「だとしたら不知火さんが呼ばれていませんね」
提督「電、由良、明石、朝潮、霞、初春、比叡、伊8……」
不知火「……これは、まさか」
提督「榛名、那珂、扶桑、山城、加古、鳥海。1つめの班は以上だ」
提督「それから2つ目の班は利根、暁、雲龍、初雪、山雲、大和、武蔵……ああ、それと時雨もここに入ってくれ」
時雨「僕も?」
提督「ああ。で、残りが3つ目の班だ、妖精たちも含めてな」
雲龍「龍驤とは別の班なの……?」シュン
武蔵「ずいぶん人数差があるな?」
576: 2022/09/24(土) 17:39:01.69 ID:ci5cBJ3jo
不知火「司令。これはもしかして……」
提督「まあ待て不知火、俺が言う」
不知火「……」
提督「おそらく不知火のほかにも察してる奴はいると思うが、この班分けは、轟沈したことがあるかどうか、で、分けている」
「!!」ザワッ
利根「吾輩たちはどういう扱いなのだ」
提督「お前らはグレーゾーンってとこだな」
提督「海軍の連中は、轟沈した艦娘が深海棲艦になることを恐れている」
提督「初雪や暁、雲龍は、轟沈こそしてないものの、海上で意識を失っているし、利根も一度は人の手によって氏にかけた」
提督「山雲は、完全なとばっちりとはいえ、深海棲艦と物理的な接触事故を起こしている」
提督「沈む前の記憶を持ってきている時雨も、正直どっちに分類したらいいかわからねえ」
提督「そして大和と武蔵は、あの鎮守府で建造された艦娘だ。大和の風評もひどいもんだし、余所でどういう扱いされるかわかったもんじゃねえ」
日向「余所?」
最上「提督、もしかして……!」
577: 2022/09/24(土) 17:39:46.62 ID:ci5cBJ3jo
提督「で、なんでこんな班分けをしたかというとだな。できればお前らには、俺の手下(てか)から離れてほしいと思ってるんだ」
ザワッ!
潮「そ、そんな……!?」
提督「その優先順位として、轟沈してない艦娘を優先して送り出したいと考えている」
金剛「Noooooooooooooooooooooooo!」
長門「どういうことだ提督!!」
提督「先の会議で知っての通り、俺はあの島で『提督』を続けることになった」
提督「ただ、その立ち位置はこれまでと全然違う。海軍から離れて、人間の敵となりうる深海棲艦とメディウムも束ねることになる」
提督「単純にそれだけなら、俺は世界の敵とみなされて、そのまま撃滅させられるところだろう」
提督「しかし、海軍から、深海棲艦との対話の場を設ける、という条件付きで、存続を認められることになった……」
提督「言い方はどうあれ、俺の立場はそういうところだ」
全員「「……」」
提督「島に常駐するのは、そういった環境でも問題ないと胸張って言える奴らだけにしたいんだ」
提督「メディウムたちとはこれまで一緒に暮らしてきたし、そこまで険悪にはならなかったが、深海棲艦とは戦争してきた間柄だ」
提督「艦娘との因縁だって浅いわけじゃねえだろう。それに、海軍から離れるってのも艦娘にとっては一大事じゃねえかな」
578: 2022/09/24(土) 17:40:46.01 ID:ci5cBJ3jo
提督「だからこそ、轟沈を経験している艦娘であっても、早めにその不安材料を解消する方法を見つけて、外に出てほしいと思ってる」
如月「私は平気よ?」
提督「……まあ、なにがなんでも全員追い出したいわけじゃねえ。一緒にいるのが望みなら、そうできるようにしたい」
提督「人間がいなくても艦娘が住める場所を作るのが最終的な目標でもあるし、俺自身の望みではあるが……」
提督「ここにいる全員を深海棲艦と向き合わせて全部面倒見ろってのは、さすがになあ……手や口どころか体が足りねえよ」
提督「徐々に慣らしていきたいってのもあるし、最初は苦労するだろうから、少人数から始めて様子を見たい、ってのが俺の本音だ」
初春「なるほどのう……」
提督「妖精たちも深海棲艦たちと同居なんてしたことないだろう?」
島妖精B「まあ、確かにね~」
提督「でだ。今回、3つ目の班に分けた艦娘は、問題こそ起こしてはいるものの轟沈したわけじゃねえ」
提督「深海棲艦になる可能性はないだろうし、深海棲艦とは少し『遠い』艦娘だと思ってるんで、優先して移動の候補に挙げたというわけだ」
霧島「……理にはかなっていますね」
提督「神通と五月雨は、前にいた鎮守府から誘われてるんだろ? 俺にもその話が来たし、さっき直接会ってきた」
提督「それ以外にも、これまで俺が提督業やってて、ある程度は信じてもよさそうな連中との付き合いもできた」
579: 2022/09/24(土) 17:41:31.02 ID:ci5cBJ3jo
提督「いい機会だから、これを機に何人かは転籍したらどうかと思ってる」
ザワザワ…
提督「例えば、若葉」
若葉「ん?」
提督「お前、五月雨と一緒に礼提督んところに行かねえか?」
五月雨「!!」
若葉「……新米提督だろう? なぜだ」ジロリ
提督「おそらくお前の因縁の相手は、五月雨の因縁の相手でもある」
若葉「!!」
五月雨「レ級と、戦ってたんですか……!?」
提督「若葉が言ってた敵艦の特徴が似てんだよ。これから鎮守府そのものを再建しなきゃならねえ俺たちと一緒にいるより……」
提督「レ級の撃破を目指す五月雨たちと一緒のほうが、打倒するための士気も、遭遇する確率も高いはずだ」
提督「それから、若葉は入念に準備するほうだからな。戦力不足の状態でレ級と戦おうとするなら、それを諫めもするだろう」
若葉「ふむ……」
580: 2022/09/24(土) 17:42:16.50 ID:ci5cBJ3jo
提督「それと長門」
長門「私か!?」
提督「お前もお目付け役として、五月雨たちと一緒に行ってみねえか?」
提督「五月雨をスカウトしてきた新しい提督ってのが、言ってしまえば小娘なんだ」
提督「いくら父親が憲兵の隊長だとしても、海軍でやっていけるかと訊かれたら、厳しそうだな、ってのが俺の正直な第一印象だ」
五月雨「……」
提督「お前に、五月雨と若い提督の保護者というか、指南役になってもらうのはどうか、ってな」
長門「むう……」
提督「一応言っておくが、潮もついて行っていいぞ」
潮「えっ!?」
提督「最上と三隈も一緒にどうだ?」
最上「えっ」
提督「礼提督の父親が憲兵の隊長なんだ。女性提督でもあるし、少なくとも最上が受けたようなセクハラ騒ぎは起きないと思いたいな」
三隈「は、はあ……」
581: 2022/09/24(土) 17:43:00.86 ID:ci5cBJ3jo
提督「龍驤と陸奥と、それから雲龍も一緒に行くか?」
陸奥「!!」
龍驤「う、うちも!?」
提督「長門が行くなら陸奥が一緒でもいいだろうし、その陸奥とよくいる龍驤たちもどうせなら、ってな」
雲龍「私も一緒に行っていいの!?」パァッ
提督「班分けとしてはグレーにしたが、ここまで見てきて特に不安になる要素もねえし、悪くはねえと思ってる」
長門「……」カンガエチュウ
提督「まあ、これは俺からの命令じゃなくて『提案』だ。行きたくない奴は行かなくていいし、今すぐ結論出せって話でもねえ」
若葉「そうか。では、若葉は五月雨と一緒に行かせてもらいたい」
提督「ふふ、決断が速えな……んじゃあ若葉は連絡させてもらう」
五月雨「若葉ちゃん……!」
提督「一応断っておくが、変なこと言って新米提督を困らせるんじゃねえぞ?」
若葉「若葉は変なことなど言わないぞ」
五月雨「うーん……でも、時々変なこと言いますよね? 特訓は氏ぬまでやりたいとか。氏んだら駄目ですよ?」メッ!
若葉「……そうか」ポリポリ
初春(あの若葉が毒気を抜かれておる……案外良いコンビかもしれんの)
582: 2022/09/24(土) 17:43:45.84 ID:ci5cBJ3jo
提督「まあ、転籍するかどうかはゆっくり考えてくれ。他にも何人かに個別に連絡が来てるんだ」
長門「というと誰だ?」
提督「まず、黒潮」
黒潮「へ!? うち!?」
提督「戦艦馬鹿の仁提督から、お前の安否を確認させろと話が来てる。お前、これを機に雪風たちと合流したらどうだ?」
黒潮「……!!」
提督「ついでに日向と伊勢。お前らも黒潮についてけ」
伊勢「ええ!?」
日向「どういう意図があっての発言だ」
提督「あいつ、海軍に入る前に余所の日向に助けられてんだ。戦艦贔屓なのもそれがきっかけなんだが、確か伊勢型はいなかったはずだ」
提督「ちいとばかし単細胞で猪突猛進のきらいがあるが……ま、一度話をしてみるのもいいんじゃねえかと思ってよ」
日向「ふむ……」
黒潮「なあ、うち、指名手配されてたんちゃうん?」
提督「それなら解除してもらったぜ。それっぽい艦娘がうちの鎮守府に流れ着いて、そのまま埋葬したっつってな」
提督「書類も艤装も全部燃えちまったし、確かめようがねえからなあ?」ニヤリ
黒潮「……あ、あくどいやっちゃなあ……!」
583: 2022/09/24(土) 17:44:30.83 ID:ci5cBJ3jo
提督「それから古鷹と朝雲」
朝雲「あー……」
古鷹「もしかしてL提督ですか?」
提督「ああ。なんでもあいつ、びっくりしすぎて過呼吸起こしてぶっ倒れたとか言ってやがったな」
朝雲「えええええ!?」ガタッ
古鷹「だ、大丈夫だったんですか!?」ガタタッ
提督「一応、香取からは、大したことはねえって話はあったぞ」
提督「あと、足柄、千歳、加古、鳥海も無事かどうか確認してほしいって話も来てた」
加古「ってことは……鹿島たちかねえ?」
鳥海「そうだと思います」
足柄「あたしたちの場合は海風ね」
千歳「なんだか懐かしいわね~」
提督「加古と鳥海は難しいが、古鷹と朝雲、足柄と千歳はL提督んところに行ってもいいと思ってんだ。あいつも割とまともになったし」
提督「できれば加古と鳥海も……ついでに山雲も連れてって良い保証を、どうにかして付けてやりてえな」
朝雲「!!」
山雲「……!!」
584: 2022/09/24(土) 17:45:15.98 ID:ci5cBJ3jo
提督「それから隼鷹」
隼鷹「!」
提督「ショートランド泊地にいるR提督と連絡が取れた。お前らに難癖をつけたJ少将は、今回のクーデターの首謀者だ」
提督「果たしてJ少将の判断が正しいものだったのか。細かい事情聴取のため、一度日本へ帰還させられるらしい。お前も同席しろとのことだ」
隼鷹「……ほ、ほんと?」
提督「ああ、ついでに飛鷹も一緒だとよ。できればそのまま、3人とも日本に帰れるよう手配するそうだ」
隼鷹「……い、いやったあああああ!!」ヒャッハー!
提督「それから……神通」
神通「はい」
提督「謀殺されたと思われてたF提督が生きてたんだってな?」ニッ
神通「はい……!」
提督「お前に関しちゃあ何も心配してねえから、F提督のところに行くことに異論はねえが……お前からはなにかあるか?」
神通「……提督」ピシッ
提督「ん」
585: 2022/09/24(土) 17:46:00.88 ID:ci5cBJ3jo
神通「F提督のかたきを取らせていただいたこと……そして、F提督の元へ戻れるという、これ以上ない結果に導いてくださったこと……」
神通「この神通、感謝の気持ちでいっぱいです……!」ポロポロ…
提督「……ここまでやってこれたのは、お前が力を貸してくれたからだ。こっちこそ、感謝してるぜ。神通」
神通「提督……! 本当に、ありがとうございました……!!」ペコリ
提督「……」フフッ
隼鷹「ほんとマジ感謝だよぉ! あたしからもちゃんとお礼を言わせておくれよぉ!!」ウルウル
提督「おう、けどまだ油断すんじゃねえぞ? 一応は事情聴取だからな」
提督「あとは、川内と暁。お前らはX中佐のところに行ってみねえか?」
暁「えっ!?」
川内「提督!?」
提督「なんだその鳩が豆鉄砲食らったようなツラは。せっかく昔の仲間に逢えたんだ、一緒にいたほうがいいだろ」
川内「そ、そりゃあそうかもだけど……」
暁「司令官はそれでいいの?」
提督「俺はお前らがいいようにすればいいと思ってるが? むしろ響やX中佐のほうがそうしたいって思ってんじゃねえのか?」
暁「……」ウーン
586: 2022/09/24(土) 17:46:45.95 ID:ci5cBJ3jo
提督「でだ。後出しで悪いが、俺がこうやってお前たちに移動を勧める理由というか目的が、実はほかにもうひとつある」
川内「え、それってなに?」
提督「この島の領海に入る際、かつてあの島に滞在していた艦娘が同伴していることを、島近辺に入る条件のひとつにしたいと思ってる」
全員「「!」」
霞「それってつまり、私たちを通行許可証の代わりにするつもり?」
提督「ああ。お前らの紹介、随伴がなければ、俺たちに攻撃されても文句を言うな、ってことにしたいんだ」
朧「いつかのテレビ局の人たちみたいな騒ぎを起こされたくないですもんね」
提督「勝手に島の中を物色されるなんざ、不愉快極まりねえ。深海棲艦の連中にしたって、同じかそれ以上に嫌悪するだろうさ」
千歳「っていうか、普通に不法侵入っていうか、領海侵犯よね?」
提督「国際法に従うならな。中には猫をかぶって、お前らに?をついたうえで俺たちを騙し討ちしようとしたり……」
提督「あるいは、そいつらの都合のために俺たちを騙して利用しようとする奴も現れるかもしれない」
提督「そういう奴らを問答無用で排除するために、そういう取り決めにしたいんだ。治外法権なんか認めさせる気はねえからな」
川内「私たちにX中佐のところへの移動を勧めたのは、そっちの理由のほうが強いってこと?」
提督「X中佐のような連中に対してはそうだな。お前たちの感覚で、これなら俺と話ができそうだ、って判断してもらいたいってのもある」
提督「とはいえ、X中佐はそんな心配も必要なさそうではあるが」
587: 2022/09/24(土) 17:47:31.39 ID:ci5cBJ3jo
提督「で、今の時点で深海棲艦と積極的にコンタクトを取りたいのは、おそらくX中佐とF提督……H大将もまあ入るか?」
提督「楽観的な見方だが、その3人が粗相することはおそらくないだろう。メディウムの出番はしばらくないと見ていいだろうな」
隼鷹「X中佐の叔父のほうの大将は?」
提督「あいつは駄目だろ、会わせても顰蹙買って終わりだ。態度でけえし、どんな場面でも自分の意見を押し通そうとしてるし」
隼鷹「あー、やっぱり?」
那智「隼鷹、お前もH大将に制止されていたのを見ただろう。わかってて言ってないか?」
隼鷹「ひひっ、まあねえ」
武蔵「……そう考えると、H大将のところにも誰かに行ってもらったほうがいいわけか」
提督「ま、そうだな。縁ができたのは朧だが、轟沈経験艦だし……」
北上「それなら、あたしが行こうかねえ?」
明石「北上さん!?」
北上「霰と満潮も。大将の下で働けるってのはなかなか魅力的だと思うけど、どーぉ?」
霰「ありかも……」コク
満潮「まあ、私はいいけど……」
588: 2022/09/24(土) 17:48:15.98 ID:ci5cBJ3jo
明石「い、いいんですか?」
北上「いいもなにも、あたし自身は環境激変したあの島に居続けるのは難しいよねー、って、フツーに思うわけさ」
北上「多分、名取とかもそうなんじゃないの?」チラッ
名取「そ、そうですね……」
北上「あたし的にはさ、せっかくまた話せるようになった明石たちと繋がりが切れるのもなんだし……」
北上「だったら、これからもこの島に関わりのある人んところに行ってみるのもいいかもね、って」
明石「うーん……」
北上「それにあの人、秘書艦が大井っちらしいんだ。どんな人か、ちょっと気になるよねー」
提督「おおいっち?」
明石「球磨型軽巡洋艦、4番艦の大井さんです。北上さんは3番艦で、この二人は改装によって重雷装巡洋艦になるんです」
明石「ちなみに5番艦の木曾さんも、改装の2段階目で重雷装巡洋艦になります」
提督「ふーん……まあ、信用するかどうかは北上が決めてくれ、俺はそれに従うさ。朧も最初の口利きを頼む」
朧「はいっ」
提督「とりあえず。まずは俺からそういう提案をして、向こうが素直に飲んでくれるか、ってとこだな」
589: 2022/09/24(土) 17:49:00.75 ID:ci5cBJ3jo
提督「俺の言いたいことはだいたいこんなところだ。何か質問は?」
如月「ねえ、司令官は、いつからあの島に住むつもりなの?」
提督「正直、とっとと荷物まとめて島に移動したいんだがな……昨日乗り込んできた新顔の船医がもう少し検査させてくれってうるせえんだよ」
提督「島は泊地棲姫が整地したらしいが、どんな設備があるのか確認しておきたいし……ニコたちも自分の持ち物持参してくるらしいしよ」
提督「俺たちの……つうか、艦娘の分の生活スペースも早いうちに確保しておきたいんだよな」
如月「ニコちゃんからも、体調が万全でないなら早く島に来て、魔力槽に入ってほしいって言われてたわよね?」
提督「ああ。あの医者いろいろ面倒臭えし、検査すっぽかすか……どうせあのヤブの好奇心からくる検査だろうしな」
加古「そのうち解剖させろとか言い出したりしないだろうね?」
提督「……なくはなさそうだな」
龍驤「そら洒落にならんで……」ゾワワ
利根「うむ……」ゾワワ
提督「あ、そうだ。そういや、俺の預金通帳ってまだ使えんのか? 足りないものがあったら買い物したいんだが」
不知火「それでしたら、不知火が預かっております。まだ使用可能だと思いますが」
提督「俺の戸籍の扱いとかどうなるかがわかんねえからな。早めに何かしねえと、氏人扱いされて使えなくなるかもしれねえな」
590: 2022/09/24(土) 17:49:45.56 ID:ci5cBJ3jo
提督「それから一番気になるのはドックと工廠だ。まさか残る艦娘にも魔力槽に入れとかいうのはちょっとなあ」
明石「あー……それはそうですねえ。工具類も、最低限のものは持ち出してきたけど……またいろいろ揃え直しかあ」ガックリ
提督「焼失したものが結構どころじゃなく痛いんだよな。発電機とか風呂とか、食堂に作ったステージとか……」
那珂「ああー……」
霧島「音響設備もそうですね……」ガックリ
比叡「あの厨房も燃えちゃったんですよね……」ガックリ
初雪「畑や花壇もそう……」ドンヨリ
山雲「ああー……」ガックリ
神通「ですね……」ウナダレ
武蔵「……手塩にかけてきただけに、なくなったと思うとつらいものが多いな」
大和「諦めて買いなおせるものは買いなおしましょう。ないものはないもので、改めて新設するしかありませんね」
吹雪「どうせならもっと大きく作り直さないと! 私たちだけじゃなく、深海棲艦やメディウムも住むわけですし!」
提督「……そうだな。将来を見据えて、がっつり作り直さないとな……!」
大和「そうです。そういう意味では、提督……いよいよ提督の夢をかなえるときが来たのですね」
591: 2022/09/24(土) 17:50:31.03 ID:ci5cBJ3jo
提督「ああ、そういうことだ。そうだな……ちったあ気合入れるか……!」
不知火「司令……!」
吹雪「司令官! やる気になってくださったんですね!!」
暁「これまで物騒な方向にしかやる気を出さなかった司令官が、ものすごく健全な方向でやる気になってるわ!」
比叡「これなら安心ね!」
電「安心なのです!!」
明石「成長したなあ……」ウンウン
霞「やっと真面目になったわね。ほんっと、長かったわ」ハァ…
提督「……」
武蔵「貴様の日頃の行いの問題だろうが。そう面白くなさそうな顔をするな」
提督「いやまあ、いいけどよ……」
朝潮「司令官! 朝潮は、これからも司令官のために尽力させていただく覚悟です!」ビシッ
吹雪「あっ!? 朝潮ちゃんずるい! 私だって頑張っちゃうんだから!」
朧「朧も、あたらしい居場所と提督を守り抜きます!」
592: 2022/09/24(土) 17:51:15.96 ID:ci5cBJ3jo
如月「うふふ、みんな張り切ってるわねぇ」ニコニコ
金剛「ぐぬぬ~、なんだか向こうのグループがうらやましいデース……!」
摩耶「いやいや金剛さん、あっちのグループは仮りにも轟沈したんすから。うらやましいとか言っちゃ良くねえっすよ」
霧島「そうですよ金剛お姉様。私たちは、私たちにしかできないことをやるべきでしょう」
金剛「ぐぬぬぅ~」
提督「とりあえず、今の時点で俺と一緒にあの島に住むつもりのやつ、手を挙げてく」
金剛「ハーイ! ハイハイハイハイハーーーイ!」ブンブン
不知火「金剛さん、ステイ」ギロリ
金剛「」スッ…
榛名「……」
提督「……金剛は一度冷静になってから判断したほうがいいな」
金剛「テートクゥ~……」ウルウル
593: 2022/09/24(土) 17:52:00.94 ID:ci5cBJ3jo
提督「いや、まじめに考えろよ。今のお前は勢いだけじゃねえか……とりあえずほかに希望者は?」
如月「はーい」キョシュ
吹雪「はいっ!」バッ
朧「はいっ!」バッ
伊8「はい」スッ
朝潮「はいっ!」ビシーッ
大和「大和も残ります!」ビシッ!
榛名「榛名も大丈夫です!」キョシュ!
提督「……」
長門「この辺も説得しても無駄そうだと思うがな」
提督「……一応、面談させてもらうからな?」
比叡「私も、一応居残りかな~……特に行く当てもないし」
明石「うーん……」
霞「明石さんは手を挙げないの?」
明石「さっき提督が言ったとおり、設備が心配なの。私が行っても、工廠がないんじゃ役に立てないだろうし……霞ちゃんは?」
霞「あたしはまだ考え中。ついて行っても役に立てるかは別よ」
594: 2022/09/24(土) 17:52:45.81 ID:ci5cBJ3jo
提督「他にもそういう不安があるなら教えてくれ。今すぐ決めろって話じゃねえし、保留でいいぞ。他には?」
扶桑「はい」キョシュ
山城「扶桑お姉様ぁぁ!?」
扶桑「あら、なあに山城?」
山城「ふ、ふそ、扶桑お姉様はここに残るんですか!? 深海棲艦と一緒の生活ですよ!?」
扶桑「ええ、心得ているわよ。私は常々提督にお世話になってるもの。これからも変わらず提督のお力になれればと思っているわ」ニコー
山城「うぐぐ……」
那珂「うーん、那珂ちゃんも残ろうかなあ」
山城「んなっ!?」
提督「……お前がそう言うとは思わなかったな。いいのか?」
那珂「とりあえずー、昔、提督さんが言ってた、那珂ちゃんの出自を隠して~って話は、もう通用しませんよね」
那珂「そうなると、轟沈した艦娘が外へ出ても問題ないことが証明されないと、那珂ちゃんとしても安心できませんしー」
那珂「せっかくだから、深海の子たちにも、那珂ちゃんのライブ見てもらってもいいかなーって!」
提督「じゃあステージ設営は必須、と。できれば屋内で欲しいとこだが、そこは家主と相談だな」
那珂「はーい!」
山城「……」
595: 2022/09/24(土) 17:53:30.88 ID:ci5cBJ3jo
時雨「それじゃあ、僕も一緒に残ろうかな」
山城「しぐっ!?」
時雨「考えてみたら、提督以外に既知の人がいないしね。それに、提督にお願いしたいこともたくさんあるし」
提督「俺にか?」
時雨「うん。提督に相談に乗ってもらいたいんだ」
提督「相談ね……わかった。それは今すぐでなくてもいいのか?」
時雨「うん、落ち着いてからでいいよ。ありがとう」
山城「……」
扶桑「それで、山城はどうするの?」
那珂「山城ちゃん?」
時雨「山城?」
山城「……う、うぐぐ……わ、わかりました! 私も一緒に行きます!」グスッ
那珂「な、なんで泣いてるの!?」
山城「だ、だって、みんなで私を仲間外れにぃ……」グスグス
596: 2022/09/24(土) 17:54:16.05 ID:ci5cBJ3jo
扶桑「そんなことないわ。それとも、そんなに提督と一緒が嫌なの……?」
山城「そ、そんなことはありませんけどぉ……!」ボロボロボロ
時雨「山城は素直に行きますって言えないだけなんだよ」
扶桑「ふふっ、そういえばそんなところもあるわね」ナデナデ
那珂「ほらー、山城ちゃん、泣かない泣かない」ナデナデ
時雨「山城は面倒臭いなあ」ナデナデ
山城「な、なんでみんなで私の頭をなでるんですか!?」
扶桑「あら、嫌だった?」
山城「いえ……もっと撫でててください」カオマッカ
提督「本当に面倒臭え奴だな」
山城「提督にだけは言われたくないわっ!!」ガーッ
597: 2022/09/24(土) 17:55:01.47 ID:ci5cBJ3jo
提督「……やれやれ。他には?」
初雪「……ん」キョシュ
提督「初雪!? お前も残んのか!?」
初雪「うん……練度、低くないし。ちょっとだけ、本気出す、から、見てて」フンス!
提督「……まあ、やる気出してくれてるんなら……そうか、お前もか……」ウーン
初雪「……不安?」
提督「正直言えばな」
初春「ふぅむ……わらわはどうしようかのう。外の世界を見て回りたいところじゃが……」
提督「それなら初春も保留ってことにしとくか。お前の場合、轟沈したことを隠して不知火と一緒に外回りした実績もあるしな」
初春「うむ。先送りで頼む」
提督「あとは……」
敷波(あたしはどうしようかな……残っていいと思うけど)チラッ
由良(提督さんのところに残りたいとは思うけど……)ウーン
電(今のままだと敷波ちゃんだけ離れ離れになっちゃうのです……)ウーン
敷波(何悩んでんだろ、あの二人)
大淀「……」
敷波(大淀さんもすごい顔して悩んでるみたい……別に悩む必要なさそうなんだけどなあ)チラッ
598: 2022/09/24(土) 17:55:45.76 ID:ci5cBJ3jo
提督「あとは考えがまとまってねえようだし、こんなとこか? 逆に、若葉のほかに余所の鎮守府に行きたい奴はいるか?」
白露「はーい!」
島風「白露!?」
提督「白露か。どこか行く当てあるのか?」
白露「ないよ! ないけど、北上さんたちが言ってたことを私たちに当てはめて考えてみたの」
白露「それで、冷静に私たちがこの島で何ができるかを考えると、あんまりないような気がするんだよねー」
白露「それだったらさ、この辺の波の具合とか知ってるわけだし、外に出て案内役をしたほうがいいかなあと思って!」
提督「なるほど……」
白露「それに、提督は私たちのことを心配してくれてるわけでしょ? 深海棲艦と一緒にいて衝突しないか、って」
白露「私も不安がないわけじゃないし、提督が心配してくれてるなら、その通りにして一度距離をとってもいいかな、って思ったんだよね」
提督「……」
白露「どしたの?」
提督「いや……お前、そんなに聞き分け良かったか?」
白露「なにそれ!? 私はいつもお利口さんだよ!?」
599: 2022/09/24(土) 17:56:31.30 ID:ci5cBJ3jo
提督「話を全部聞き終わる前にすっ飛んでいく奴が何を言ってんだ」
白露「そんなことないし!? 島風もいいよね?」
島風「う、うん……」
白露「? 島風、どうしたの?」
提督「白露が心配なんだろ。その改造しまくった艤装がお前の負担になってないか、とか、離れ離れにされないか、とかな」
島風「そ、そう……うん」モジモジ
白露「島風……」
提督「その辺は俺から釘を刺さなきゃな。二人一組で連れてこいって条件付き付けるって手もある。悲観はさせねえよ」
島風「そ、それもあるけど! そうじゃなくて!」
提督「んん?」
島風「提督には、いろいろ相談に乗ってもらったし……お仕置きは嫌だったけど、すっごくお世話になったから……」
島風「提督と離れ離れになるのも、寂しいな、って」ウルッ
白露「う、うん……それはね、あるよね」ウツムキ
提督「……」アタマガリガリ
600: 2022/09/24(土) 17:57:16.52 ID:ci5cBJ3jo
不知火「……専属の連絡員、あるいは輸送艦隊という形で関わっても良いかもしれませんね」
島風「えっ!? なにそれ!」
白露「そういうのもあるの!?」
不知火「この島の艦隊の独立にあたり、様々な形で人員を増やす必要が出てくるでしょう」
不知火「どのような役割が不足しているか、不知火が本営へ確認しましょう」
提督「悪いが頼む。俺が顔を出さなきゃいけないような要件があれば回してくれ」
不知火「承知しました」
青葉「……でしたら、青葉もそのあたりのお堅い役割をいただいたほうが良さそうですねえ?」
提督「まーたお前は危ない橋を渡りたがんのか?」
青葉「どうせ余所へ行っても厄介者扱いされるでしょうからね~」
提督「ま、その辺はお前を受け入れてくれる奴がいるかどうか、だな。他に、希望がある奴はいるか?」
筑摩「あの……」ス…
利根「筑摩?」
601: 2022/09/24(土) 17:58:00.89 ID:ci5cBJ3jo
筑摩「利根姉さんが良ければ、なのですが……私と利根姉さんも、F提督の鎮守府へお世話になるのはいかがでしょうか」
利根「なに!?」
神通「筑摩さん……!?」
筑摩「利根姉さんは、よく神通さんから相談を受けていたそうなので。一緒に赴いて、これからも何か力になれれば……と思いまして」
利根「むう……!」
筑摩「もちろん、神通さんやF提督の賛成を得られれば、ですが」
神通「い、いえ! そのお申し出は、私には、とても嬉しいです……!」パァッ
利根「……」ムゥ…
筑摩「利根姉さん?」
利根「ん!? あ、ああ、大丈夫じゃ。ちと思うところがあってなあ……」
神通「利根さん……?」
利根「吾輩がF提督のもとへ参ずるのはやぶさかではない。それが通れば、良い話……ありがたい話だと思っておる」ウデクミ
利根「ただ気がかりは、吾輩も一度、メディウムたちの魔力槽へ入ったことがあるからのう……」
602: 2022/09/24(土) 17:58:45.93 ID:ci5cBJ3jo
利根「提督の体の件があったように、吾輩も何かしら影響を受けてはいまいか、という不安はある」
神通「!」
筑摩「!」
明石「ああ……確かに、ないとは言えないかもしれませんねえ」ウーン
利根「魔力槽には如月も入ったそうじゃが、この鎮守府に残るという以上、そこまでの心配は無用であろう」
利根「じゃが、吾輩がここから離れて問題を起こしたとなれば、神通たちの活動にとって負担となり妨げになる」
利根「杞憂であればよいと思うが、そこが不安ではあるな」
神通「そう……ですか、それは確かに……」
筑摩「利根姉さん……」
利根「重ねて言うが、筑摩の提案が受け入れられれば、それはありがたい話だと思っておる。前向きに考えたいとは思っておるのじゃ」
神通「……」
筑摩「利根姉さん……」
提督「その辺はニコと相談ってとこか。この手の話題は、ルミナあたりが目を輝かせそうだが」
古鷹「文字通り輝かせてますからね」フフフッ
龍驤「古鷹も輝いとるやんけ」ツッコミ
アハハハ…
603: 2022/09/24(土) 17:59:31.05 ID:ci5cBJ3jo
利根「……」
利根(むう……吾輩の立場なら島に残るのが妥当だと踏んでいたが、まさかそうくるとは……)
利根(確かに筑摩の言う通り、神通についていけば、外の世界に触れられるし、気掛かりであった神通の話し相手にもなれる)
利根(さすがは筑摩、妙案である。しかしじゃ……)ムムム…
利根(提督とのスキンシップやちょっとした身の回りのハプニングが楽しかったというのもまた事実……!)
利根(島に残ってもう少し提督とじゃれあいたいが、そんな理由で島に残ると言い出せば、姉としての威厳にかかわる!)グギギ…!
利根(筑摩は筑摩で可愛い妹ではある……じゃが、あの春画本のような予期せぬドキドキ感にも憧れる……!)
利根(ああ、何たる俗物的な……このような吾輩の破廉恥な本音を知ったとしたら、筑摩も神通も吾輩に幻滅するであろう……!!)
利根「うぐうう、吾輩は、どうすればいいんじゃあ……!!」アタマカカエ
神通(利根さん……ごめんなさい、私のために……!)ウルッ
筑摩(利根姉さん……!)ホロリ
島妖精A(……利根から邪な気配が感じられるのは何故だろう)タラリ
島妖精G(しかも珍しく神通がツッコんでないね)
島妖精A(だから直接脳内にツッコミを入れるなと! お前本当に魚雷妖精か!?)
604: 2022/09/24(土) 18:00:15.86 ID:ci5cBJ3jo
提督「まあとにかくだ。留まるにしても出ていくにしても、お前たちには全員無事でいてほしい」
提督「とにかく困ったときは俺に言え。なんとかしてどうにかすっからよ」
霧島「……根拠がアレですが、頼もしいですね……」
長門「ああ。ただ、ひたすら物騒な感じも否めないが」
五十鈴「ほんと、いざ頼ったらすごいことになりそうで怖いわね……」
朝雲「そ、そうですね……メディウムどころか深海棲艦も味方につけちゃいましたから」
那智「その気になれば鎮守府一つ、潰しかねないか……そうせざるを得ないような場面が来なければ良いが」
提督「話は以上だ。他に何かあるようなら、個別に聞きに来てくれ。解散!」
ザワザワ…
提督「さてと……」
如月「司令官!」
提督「ん? どうした」
如月「早速だけど、島に行きましょう?」
吹雪「行きましょう行きましょう!」
提督「そうだな……」
605: 2022/09/24(土) 18:01:00.95 ID:ci5cBJ3jo
明石「あ、提督。私も見に行っていいですか? 工廠のスペースがあるかどうか確認したいんで。工廠の妖精さんたちも連れていきますね」
提督「ああ、残るつもりなら場所を確保しないとな」
朧「……提督? 明石さんを引き留めないんですか?」
提督「そりゃあ、明石みたいに残ってもらえると助かる艦娘はいるが、そいつらだけ声をかけるわけにはいかねえだろ」
提督「残る残らねえは当人の意志を優先したいんだよ。これを機に新しい居場所を見つけてもいいだろうし」
提督「むしろ俺は、お前たちが残ってくれることに頭を下げて礼を言わなきゃならねえ。島が燃えたのは俺の不始末なんだからな」
如月「またそうやって自分ひとりで背負い込むんだから」ムスー
朧「どうやったらそこまで卑屈になれるんですか」ジトッ
吹雪「そうですよ! これから深海棲艦とも一緒に過ごすんですから、しっかりしてください!」
提督「いや、これ普通に俺の不始末だろ? つうか一度氏んでるお前らがそういうこと言うのは、なんか違う気がするんだが」
電「司令官さんだって氏にそうな目に何回も遭ってるのです!」
初春「馬鹿は氏んでも治らんときたか。筋金入りじゃのう」
長門「やれやれ。久しぶりだな、このやりとりも」
提督「いや……今回ばかりは、俺が責められるのが正しいような気がするのは俺だけか?」
609: 2022/10/13(木) 22:30:47.03 ID:0D02rL2Vo
* 墓場島沖 洋上 *
ザザーン…
(提督を艤装の上に乗せた大和と艦娘の一団が、島に向かって航行している)
霞「勝手に抜け出してきたけど、大丈夫なのかしら……」
明石「心配なら、霞ちゃんだけ戻る?」
霞「わ、私は朝潮姉や明石さんのほうが心配よ!?」
提督「まあ、不知火に言伝を頼んだし、あいつらが俺たちを攻撃するような真似もしないだろう」
如月「司令官のお世話をしてた看護師さんも、本営から来た船医さんが暴走気味だから気をつけて、なんて言ってきたものね……」
提督「あの野郎、まじめに俺を解剖するつもりだったのかね」
大和「あぶないところだったかもしれませんね?」
明石「あの看護師さんの立場が悪くなってないといいですけどね……」
提督「……」
明石「あ、メディウム使って船医さんに何かしようとか考えないでくださいよ!?」
提督「なんだ、駄目か」
610: 2022/10/13(木) 22:31:32.81 ID:0D02rL2Vo
明石「駄目ですよ! あの人、看護師なんですから! 怪我人出したら、悲しむのも忙しくなるのもあの人ですよ!?」
提督「しょうがねえな……」
朧「というか、提督に手を出した時点でニコちゃんたちが黙ってないと思うんだけど」
榛名「それを考慮しても、今後も検査はお断りしたほうがよろしいでしょうね」
那珂「そのほうがいいね~」
提督「……ああ」チラッ
如月「どうしたの司令官?」
提督「……ちょっと人数多すぎねえか?」
如月「それはまあ……そうねぇ……」
長門「……いま提督がこちらを見たな」
伊8「やっぱり、人数多すぎだって思ってるんじゃないですかね?」(←長門の艤装に乗っかり)
金剛「Hey, 長門! 島に行くということは、あなたは島に残るつもりデスカ!?」
長門「いいや、そこはまだ決めていない。金剛は残るつもりなのか?」
金剛「私は残るつもりでいマース!」
長門「……そうか。それはそれで構わないが」チラッ
611: 2022/10/13(木) 22:32:31.83 ID:0D02rL2Vo
由良「……」チラッ
電「……」チラッ
敷波「……? なんか、みんなあたしを見てる?」
長門「ああ。敷波、お前も島に残るのか?」
敷波「うん。残るつもりだよ?」
由良「……!」ビックリ
電「……!」ビックリ
敷波「あ、何その顔。もしかしてあたしだけ余所に行くと思ってたの?」
電「そ、それは……」
由良「だ、だって、轟沈してないし……」
敷波「ふーん」
伊8「初雪ちゃんも残るって言うし、その辺は自由でいいんじゃない?」
初雪「うん……」コク
敷波「そうだよー、ほら、大淀さんも追いかけてきてるしさ?」ユビサシ
大淀「!?」ギクッ!
伊8「なんで離れてついてきてるんですかねえ……」
敷波(大淀さんもなんていうか、意外と臆病なんだよね。わかるけどさ)
吹雪「司令官! 建物が見えてきましたよ!!」
提督「!」
朧「……近くで見ると、本当に岩だらけですね」
提督「そうだな……」
612: 2022/10/13(木) 22:33:17.49 ID:0D02rL2Vo
* 島の東岸 *
提督「すげえな……この辺りはほぼ元通りじゃねえか?」
大和「この辺りも溶岩で覆われていたはずなのですが……全部綺麗に取り払われてますね」
如月「むしろ前よりも綺麗になってる気がするわ」
榛名「提督! あそこにニコさんが!」
朧「ル級さんたちもいますね」
*
ニコ「やっと来てくれた……遅いんだから、もう」
泊地棲姫「ル級ノ言ッタ通リ、余計ナ奴ラモ、大勢連レテ来タナ」
ル級「……ソレ、提督ガ聞イタラ、怒ルワヨ?」
軽巡棲姫「アア……提督……!」ソワソワ
ザザザァ…
大和「提督、到着いたしました!」ヒョイッ
提督「うおっ……と、ありがとな、大和」ストン
軽巡棲姫「提督!!」タタタッ
613: 2022/10/13(木) 22:34:01.57 ID:0D02rL2Vo
軽巡棲姫「アア……提督、会イタカッタ……!」ヒシッ
提督「おお、いきなりだな……わざわざ出迎えてくれるなんて、悪いな」ナデナデ
泊地棲姫「フ……光栄ニ思エ」
軽巡棲姫「……♪」スリスリ
ニコ「……」ジト…
泊地棲姫「イツマデ、クッツイテル」グイ
軽巡棲姫「……何ヲスル」ピキッ
泊地棲姫「コノ男ハ、私ト話ヲシニ来タノダ」
ニコ「違うよ。魔神様は、ぼくに逢いに来てくれたんだよ」ニコニコ
軽巡棲姫「……」ピキキッ
泊地棲姫「……」イラッ
ニコ「……」フンッ
火花< バチバチバチ…
提督「……」
ル級「アノ3人ハ放ッテオクトシテ。提督ハ、体ハ大丈夫ナノ?」
614: 2022/10/13(木) 22:34:47.02 ID:0D02rL2Vo
提督「ん-……いまいち本調子とは言えねえが、そんなことよりお前たちや、この島がどうなったかのほうが気になってな」
ル級「ソウカ」ニコ
如月「ねえ、ル級さん? ちょっと気になったんだけど……」
如月「この港といい、ここから見える白い建物といい、その見た目とかが以前とそっくりなのよね」
提督「如月もそう思うか?」
ル級「ソレハソウダ。前ノ鎮守府ノ建物ヲ真似テ作ッタンダカラ」
提督「マジか。けど、なんでわざわざそんなことを?」
ル級「最初ハ、泊地棲姫ガ自分ノ思ウママニ作ロウトシテイタノ」
ル級「デモ、アノ船ノ話シ合イデ、提督ガ今後執務シヤスイヨウニ……ト考エルト、前ノ建物ノ間取リガ丁度良イコトニ気付イテネ」
ル級「私ヤ、メディウムタチノ記憶ヲ頼リニ、作リ直スコトニナッタノヨ」
大和「それで、違和感をあまり覚えなかったんですね……!」
提督「とはいえ、この港は以前とは比べ物にならないくらい綺麗だな。それに、少し広くなってないか?」
ル級「ソコハ私タチモ使イヤスイヨウニ直シテイル」
提督「前の鎮守府と同じでリサイズもして、か……そうだとしたらありがたいな。もしかして、ドックとか食堂とかも同じなのか?」
ル級「ドックモ拡張シテイル。食堂モソウダガ、マダ作リカケダ」
明石「ドックができてるんですか!?」
615: 2022/10/13(木) 22:35:31.65 ID:0D02rL2Vo
ル級「明石モ来テイタノカ。見テモラエルト助カル。厨房ヤ共同ノ風呂モ設計中ダカラ、見テホシイ」
比叡「厨房もできるんですか!?」ワクワク!
那珂「ステージはあるの!?」キラーン!
初雪「……あと、畑も作ってほしい……!」ソワソワ
伊8「お風呂も気になります……!」
ル級「ソレカラ、今後コノ島ヲ訪レル人間タチヲ招キ入レル、館モ作ル予定ダ」
提督「ああ……なるほど。島の役割としちゃあ、そりゃ必要だな」
ル級「案内シヨウ。コンナニ大人数デ来ルトハ思ッテナカッタガ……」
<ダーーーーリーーーーーーン!
提督「うん?」
キャロライン「ダーーーリーーーーン!!」トテテテッ
ミュゼ「ま、待ってえぇぇ!」ゼェゼェ
タチアナ「な、なんで、下駄と着物であんなに速く……」ハァハァ
ソニア(あの2人の足が遅いだけなんだけどなあ)タッタッタッ
616: 2022/10/13(木) 22:36:16.88 ID:0D02rL2Vo
提督「おう、キャロラインか。ちょっとしか離れてねえはずだけど、なんだか久し振りだな」ナデナデ
キャロライン「エヘヘー、ダーリンの新しいおうち、作るの手伝ってるノ!」ニパー
ソニア「あっ、ずるーい! あたしも手伝ってるしー!」
提督「ソニアもか。ありがとな」ナデナデ
ソニア「えへへ……」ニコニコ
ミュゼ「ぜぇ、はぁ……あ゛ー、疲れたぁぁ……ご主人様、来るなら来ると連絡してくださいよ~。まだお掃除終わってないんですから!」
キャロライン「あれ、お掃除だったノ? お掃除してるのか散らかしてるのか、わからなかったヨ?」
ミュゼ「!?」
ソニア「だよねー、それでよくテツクマデをどこかに置き忘れてきちゃうし」
ミュゼ「そ、そそっそ、そんなことありませんー! 今回はちゃんと持ってきてますー!」
提督(今回は、か……)
タチアナ「そ、それで、魔神様は本日はどうして急にこちらに?」
提督「単純にお前らの顔を見に来たのと、こっちの整地を始めてるって言うから、その様子を見に来たんだ」
タチアナ「そうでしたか……! ご足労いただきありがとうございます」
617: 2022/10/13(木) 22:37:01.51 ID:0D02rL2Vo
提督「この辺りも溶岩に包まれていたはずだが、よくここまで作り直せたな?」
タチアナ「それはそちらの泊地棲姫の力ですね。名の通り泊地を作る能力を備えておりまして……」
タチアナ「彼女の力と深海の謎のテクノロジーによって、溶岩から軽量かつ頑丈な石壁を生成しております」
タチアナ「それらを特殊な工法で組み上げることで大幅な工数減を実現し、ただいま驚異的な速度で復旧しております」メガネクイッ
提督「よくわかんねえが、すげえことやってんだな」
タチアナ「ただ、木材だけは調達できませんので、それらを使用しない箇所を中心に工事を進めております」
提督「木材以外にも不足してるものはあるだろ? 発電機だったり、食堂の設備や食器類だったり……」
提督「そういった外から買う必要のある不足品を調べに来たってのも、今回の目的だ」
タチアナ「……ま、魔神様直々に選定なさるのですか!?」
提督「ああ。つうか、なんでそんなにショック受けてんだ?」
ソニア「それはタチアナが設計に携わってるからだよー」
提督「そういうことか。そこまで緊張すんな、小姑みたいなつまんねーケチをつけるつもりはねえからよ」
提督「とにかく工廠あたりから見に行くか。案内頼めるか?」
タチアナ「はい、お任せを。ル級さんも同行していただけますか」
ル級「エエ、ソノツモリヨ」
618: 2022/10/13(木) 22:37:46.45 ID:0D02rL2Vo
キャロライン「ダーリン、一緒に回るネ!」ミギテツナイデ
ソニア「私も一緒に行くね!」ヒダリテツナイデ
如月「あらら……先を越されちゃったわ」
大和「越されちゃいましたね」フフッ
金剛「Holy shit !!」グォォ!
長門「ちびっこ相手にむきになるな、大人げない」
キャロライン「コンゴーも一緒にお手々繋ぐ?」ミギテサシダシ
金剛「Um...Charrolline、まずはその右手の剣山を外してくだサイ……」
キャロライン「オーゥ、ソーリーネ」ゴソゴソ
明石「新しい工廠かあ~、楽しみ~!」ワクワク
朝潮「明石さんが元気になってる……」
霞「まあ、良かったんじゃない?」
長門「おい、お前たちも仲違いしている場合じゃないぞ?」
軽巡棲姫「!?」
泊地棲姫「イツノ間ニ!?」
ニコ「ま、待ってよー!?」
619: 2022/10/13(木) 22:39:16.57 ID:0D02rL2Vo
* 島から帰船して *
* 墓場島沖 医療船内 *
H大将「あの男は医者の言うことも聞かずに何を勝手な真似をしているんだ……!」
朧「その軍医さんですが、本当に提督の体を心配しているんでしょうか?」
H大将「なに?」
朧「提督が、治療に関係のない検査が多すぎるって、訝しんでましたよ」
朧「提督を看ていた看護師さんも、心配して如月に声をかけてきたくらいですし」
H大将「……」
朧「それに、島に移住しようとしている深海棲艦だって、いつまでも提督が船から降りてこなかったら心配します」
朧「痺れを切らして船が攻撃されたりでもしたら……」
H大将「わかったわかった。朧君の言うことも一理ある。しかしだ、せめて行くなら行くと事前に連絡しろ」
H大将「この船の乗組員に混乱を招いたり、本営の反対派を刺激したりするような真似はよせと言っているんだ」
朧「……わかりました、すみません」
H大将「とにかく、本営から来たあの軍医が、提督に悪い意味で興味を持ち始めたということだな?」
朧「そうですね。そのうち提督を解剖させろと言ってくるんじゃないか、とも言ってました」
朧「なので、この船での治療も終わりにしたいと言っています」
H大将「まったく……本営も余計なことをしてくれたものだ」
朧「それから、これからの島の出入りについて、提案があるんですが……」
620: 2022/10/13(木) 22:40:16.78 ID:0D02rL2Vo
* 同医療船内 *
カリカリ…
提督「よし。こんなところか。やっぱ見に行って正解だった」フー
大淀「提督、朧さんはどちらへ?」
提督「H大将んところへ報告させに行った。ついでに、島への出入りの条件についても決めるように伝えてもらってる」
提督「でだ、大淀は輸入とか貿易の話は詳しいのか?」
大淀「え? ええ、一応は」
提督「発電機やユンボみたいな大型機材とかを島に持ち込むのに、非該当証明書とか面倒な手続きが多くてよ……」
提督「欲しいものリストは作ったが、それを軍事目的には使いませんとか、逐一書面に起こさねえと駄目なんだと」
大淀「これまでは最初から軍事的な作業で使うということで、特例扱いで簡略化していましたから、それは仕方ありませんね」
大淀「もう一つ心配なのは財源ですが……」
提督「それはもう、最初はタチアナの言ってたアレを使うしかねえだろうよ」
大淀「……やはりそうなりますか……」ウーン
623: 2022/10/17(月) 22:04:49.56 ID:pdfJKJ4Go
* 医療船内 小会議室 *
提督「……というわけで、この鎮守府に滞在したことのある艦娘を、島に入るときに同行させてもらいたい」
X中佐「なるほど。信用できる人間の安全を確保する方法としては、至極わかりやすいね」
大淀「X中佐には軽巡洋艦川内と駆逐艦暁。H大将にはこちらにいる……」
北上「重雷装巡洋艦、北上様だよー」
大淀「……それから、駆逐艦霰と満潮を移籍させていただきたいと考えています」
X中佐「暁たちは、響が探していたI提督時代の仲間だね。そういうことなら歓迎させてもらうよ」
H大将「……」
北上「ありゃ。なんかあたし、歓迎されてない?」
H大将「そういう意味じゃない。単純に、島に上陸するための条件としては、かなり厳しいなと思っただけだ」
朧「そんなに厳しいですか?」
H大将「俺はそう思う。やはり、そこまでしないと人間は信用されないのか?」
提督「できねえだろうな。例えば軽巡棲姫を説得できると思うか?」
H大将「弾丸にされた深海棲艦か? それは貴様にしか無理だろう」
624: 2022/10/17(月) 22:05:32.77 ID:pdfJKJ4Go
H大将「それよりその条件では、将来的に貴様の艦娘が大忙しになるんじゃないか? 少尉の部下の艦娘はそこまで数が多くないだろう?」
提督「? そんなに何度も頻繁に来るつもりでいるのか?」
H大将「そうじゃない。これから各国の代表がこぞってこの島に来ることになれば、その分だけ艦娘が必要に……」
提督「待て待て、気が早えよ。今はまだ『日本の海軍』と『深海棲艦の一部の勢力』の話し合いの場ができただけだ」
提督「是が非でも成功させる気でいるんだろうが、俺はそこまで簡単に話が進むとは思ってねえぞ」
X中佐「少尉は深海棲艦たちと仲が良いんじゃないのかい?」
提督「俺たちが以前から交流していたのはル級一人だけだ。それもあくまで個人的にだぞ」
提督「いきなり見知らぬ深海棲艦呼びつけて、お前ら仲良くしろなんて言って聞かせられるような力はねえんだぞ?」
X中佐「泊地棲姫とはどうなんだ?」
提督「あいつとも割と最近の関係だ。大佐が泊地棲姫に喧嘩を売って、泊地棲姫を使って俺と中将を謀頃しようとしたとき初めて接触したんだ」
H大将「そうなのか……? 俺たちは、それ以前から泊地棲姫とお前に関係があって、大佐を挟み撃ちにしたとも考えていたんだが」
提督「あー、そこから説明がいるのか。まず、泊地棲姫が島に攻めてきたのは、大佐のせいだ」
提督「大佐の部下が艦娘に、泊地棲姫の塒を荒らすだけ荒らして、墓場島へ引き上げて誘導しろ、と指示したんだとよ」
提督「俺の艦隊を泊地棲姫にぶつけて、島の中が手薄になったところで、戦渦に巻き込まれた形で俺と中将を暗頃する算段だったらしい」
X中佐「……泊地棲姫を挑発して、その敵意を墓場島に向けさせたわけか」
625: 2022/10/17(月) 22:06:17.42 ID:pdfJKJ4Go
提督「信じられないなら、中将のところの赤城や加賀たち航空部隊や、うちの名取、弥生、初霜あたりに話を聞いてくれ」
提督「名取たちは、大佐の部下だったB提督の元部下で、泊地棲姫の塒に特攻させられた当事者だからな」
北上「そこはあたしも証言できるよ。A提督の計画書見つけたり、名取たちが墓場島へ逃げてるところを助けたりしてるからね」
提督「俺たちが泊地棲姫の軍勢を追っ払えたのも、半分以上はメディウムに頼ったおかげなところもある」
朧「まともにぶつかってたら、物量に押されて息切れしてたと思います」
H大将「……追い払ってから、またお前が会ったのか?」
提督「ああ。とりあえず、順を追って説明すると……」
提督「初めて俺があいつに会ったのは……確か、俺が大佐に軽巡棲姫の弾丸で撃たれて氏んで、深海棲艦化して……」
X中佐「え?」
提督「海の上走って、元凶の大佐の身柄を泊地棲姫に引き渡した時だな?」
朧「ですね」
H大将「……」
提督「で、そのあと、泊地棲姫が島に出向いてきて、俺に深海に来ないかって誘われて……」
提督「お詫びみたいな感じで、泊地棲姫が鹵獲してた初霜を引き渡してもらって、それからしばらくは島の洞窟に住んでたんだよな?」
626: 2022/10/17(月) 22:07:01.68 ID:pdfJKJ4Go
朧「そうでしたね」
X中佐「……」
H大将「……」
北上「いやー、すごいことやってるよね。正直、いま聞いても何言ってるかよくわかんないし、事実なら事実でドン引きするよね~」
H大将「ああ……その話、本当なんだな?」
大淀「事実です。提督が大佐に撃たれて脈が取れなくなったときや、後に深海棲艦化して海へ出たときは、私がその場にいて確認しました」
朧「朧も海上で深海棲艦化してる提督を見ましたし、それからしばらくして泊地棲姫が初霜を連れてきていたところも見ています」
提督「ああ、泊地棲姫がこっちに来た時は、朧もいたんだっけか」
朧「はい。確か、初霜が裸にリボンぐるぐる巻きにされてましたよね?」
X中佐「ぶっ!!」
提督「……それ、言わなかったほうが良かったんじゃねえか? 初霜の名誉のためにも」
北上「いったいどんな格好させられてたのさ……」
朧「えっと、後ろ手に縛られて、脚はこう、がばーっと……」
X中佐「言わなくていいよ!?」
627: 2022/10/17(月) 22:07:46.64 ID:pdfJKJ4Go
H大将「それより、お前が深海棲艦化したというが、どうやって人間に戻ったんだ」
提督「深海棲艦化できたのは、俺の体に弾丸が埋まっていた間だけだ」
提督「生き返って身体が元通りになりかけた時、傷も塞がって、胸の奥に埋まっていた弾丸が体の外側に出てきて……」
提督「それを取ったら、深海棲艦の力が抜けていった、って感じだな」
H大将「弾丸になっていた軽巡棲姫が力を貸していた、と解釈できるわけか。聞けば聞くほどすさまじい話だな……」
H大将「もうひとつ訊こう。少尉、泊地棲姫がお前を深海に誘ってきた理由はなんだ?」
提督「理由? 理由……そういやその辺は全然聞いてなかったな」
提督「深海棲艦化して海の上を走って泊地棲姫と遭遇してたから、単純に俺を仲間だと認識したからだと思うが……?」
大淀「チッ……この朴念仁が」ボソッ
朧「!?」
提督「!?」
H大将「……」
北上(心の声がだだ洩れだねえ……)
H大将「まあ……なるほど、よくわかった。泊地棲姫の態度からして、薄々……いや、多分そうではないかと思っていたが」
朧「多分、そうですね……」
628: 2022/10/17(月) 22:08:34.49 ID:pdfJKJ4Go
H大将「……質問を続けよう。大佐の部下はどうしたんだ」
提督「俺がメディウムに指示して全員を始末させた」
X中佐「……!!」
H大将「貴様がやったと?」
提督「ああ。あの日、俺とメディウムが丘の上でやって見せたように、全員、嬲り頃した。艦娘たちには手を出させていない」
X中佐「……」
H大将「……」
北上「それ。あたしは、すこーし、すっきりしたけどね」
X中佐「な……!?」
北上「あたしの前の司令官だったA提督はさ、金のために自分の艦娘に裏帳簿作らせて、用が済んだら雷撃処分するような男でさ」
H大将「……」
北上「で、その不正を手伝わされてたのが明石。あたしたちに欠陥品を装備させる、とか言って引きずり込んだらしいんだ」
北上「あたしは、その明石と一緒に魚雷の開発をしてたくらいには仲が良かったんだけど……」
北上「よりによってあいつはあたしに明石を雷撃させたのよ。丁度、重雷装巡洋艦に改装した直後だったせいでねえ」
北上「明石の置手紙であいつの不正をあたしが知ったのは雷撃処分の前日。どっちみち、あたしは明石を助けられなかった」
629: 2022/10/17(月) 22:09:16.91 ID:pdfJKJ4Go
北上「どうしようもないから、明石と一緒に作った失敗作の魚雷で、明石を沈んだように見せかけるしかなくて」
北上「間違って直撃しないように調整しながら、ばんばん撃ちまくって明石が処分されたように思わせて。でも結局、明石とはそれっきり」
提督「……」
北上「そのあとはA提督があたしを怖がっちゃってね。あたしが友達相手でも容赦しなかったって思ったんだろうねえ」フフッ
北上「それ以来、A提督の直接の指揮から外れてさ。霰と満潮と一緒に、愚連隊じゃないけど、支援艦隊みたいなことをしてたわけよ」
北上「そのおかげで……いつだったか、中将の暗殺なんて物騒な計画書を見つけて」
北上「決行日に墓場島へ行ったら、めちゃくちゃ深海棲艦がいて。あたしが雷撃したあの明石たちがいて……」
北上「ちょうど、A提督がメディウムたちに始末されるとこだったんだよね」
X中佐「……」
北上「まあ、そういうわけなんで、これでも提督には感謝してるんだ。明石と再会できたし、あたしがA提督を撃たなくて済んだし」
H大将「……少なからず問題のある提督たちだったと?」
朧「そう、ですね。潮も、あの中の一人が大嫌いだった、って言ってました」
提督「潮はくっそ凶悪なセクハラされてたからな。内容は吐き気と頭痛がするから言わねえぞ」
H大将「そうか。なら後で聞かせてもらうぞ」ハァ…
朧「結局聞くんですか……」
H大将「内容が惨たらしいものなら、そうであるほど聞かざるを得ん。不始末は起因元から断たねばならんし、再発防止策の検討も必要だ」
630: 2022/10/17(月) 22:10:01.81 ID:pdfJKJ4Go
H大将「で? 大佐の部下をそうしたのなら、大佐もそうするつもりだったのか?」
提督「大佐は、泊地棲姫に始末させるつもりだった。落とし前をつけさせる意味でな。そこで俺がヘマしてあいつに撃たれちまった」
大淀「……あの時は、本当に生きた心地がしませんでしたよ」
提督「実際氏んだしな。深海棲艦になって生き返ったのはもっとびっくりしたが」
提督「で、まあ、いろいろあったが、とりあえず全部大佐と泊地棲姫がやったことにして、ごまかしながら後始末をした」
H大将「それを俺たちが怪しんだ、というわけだな。それを察知した貴様が泊地棲姫を呼んだと」
提督「いいや、そこは違う。泊地棲姫との共闘を画策したのはメディウムたちの独断だ」
H大将「貴様が泊地棲姫を呼んだわけではない、と?」
提督「俺がいろいろ知っていたら最初からメディウムを島の中に待機させたし、朧だってみすみす殺させたりしてねえよ」フンッ
朧「提督……」
H大将「……なるほど。信じよう」
X中佐「しかし、どうしてメディウムたちは泊地棲姫たちと手を組んだんだ? 少尉にはそういう意図はなかったんだろう?」
朧「うーん、もしかしたら、島に来た人間全員を頃すのに最適な方法を選んだ、とかじゃないですか?」
提督「そうかもな。それに、準備で島に来るのが遅れてしまったとも言ってたし……」
提督「ニコにもニコなりの考えがあったんだろうが、海軍側もそれぞれ思惑が違っていたせいで、いろいろ予定が狂っちまったのかもしれない」
631: 2022/10/17(月) 22:10:46.79 ID:pdfJKJ4Go
提督「そもそも、あんな騒ぎにするほうが俺としては想定外だったんだ。島だって燃やすつもりはなかったし……」
提督「あんたたちを適当にやり過ごして、何もせずそのまま帰ってもらうつもりでいたんだぞ。信じなくてもいいけどよ」
大淀「もしかして、提督がそういうふうに平和的に構えていたのを、ニコさんたちが危ないと思ったんじゃありませんか?」
提督「俺のどこが平和的なんだよ……」
大淀「結果的にはそう見える、という話です。大将たちをやり過ごそうとしたのは、提督が平和的だからじゃなくて、厭世的だからでしょう?」
提督「まあ、そうだけどよ……」
H大将「俺たちが警戒されていたわけか?」
提督「まあ、警戒せざるを得ない状況ではあった」
提督「誰の差し金か確かめられなかったが、大将たちが来る少し前に、艦娘を引き連れた船が島の周りを探ってたりしてたからな」
H大将「ふむ……」
提督「ところで、ちょっとひとつ確認させて欲しいんだが、いいか?」
H大将「なんだ?」
提督「氏んだ奴らの狙いは、大将二人の暗殺と、その罪を俺におっ被せるつもりだった、ってことでいいんだよな?」
H大将「ああ。証拠はないが、俺もそうだと認識している」
632: 2022/10/17(月) 22:11:31.76 ID:pdfJKJ4Go
提督「大将とX中佐は俺たちを引き入れるつもりだったようだが、H大将は俺たちをどうするつもりだったんだ?」
H大将「俺は、深海棲艦と関わりを持っているであろう貴様を拘束するつもりでいた」
H大将「俺もJ少将も、深海棲艦との和睦は無理だと考えていたし、深海棲艦を殲滅するならばスパイの存在は絶対に許せないと考えていた」
H大将「深海棲艦を海から排除するという一点においては、J少将と志を同じくしていたというのは間違いない」
提督「それなのに、あんたも消されそうになったのは、なぜだ?」
H大将「おそらく、深海棲艦から武器を作る話に反対していたからだろう」
H大将「製造するにしても、そのために深海棲艦を鹵獲するにしても危険が付きまとうだろうし」
H大将「研究するまでは良いだろうが、深海棲艦の遺骸を武器として流用したと知れては、深海棲艦も黙ってはいないだろう」
H大将「深海棲艦が人間に対する怒りや恨みから生まれていたとしたら、却ってそれを煽ることになる」
H大将「そもそも、敵とはいえ、ご遺体から武器を作ろうというのは、人の道としてもどうかと思っている」
提督「J少将には、それを話したのか?」
H大将「ああ、話している。あいつにも思うところはあるだろうが、倫理観を外れるような真似はやめて欲しかったからな」
H大将「しかし、島の南側で見つけたJ少将の部下の狙撃手も、朧君を撃ったあの士官も……」
H大将「深海棲艦から作った弾丸を持っていたのだから、俺の理屈は通じなかった……むしろ目障りだったと、いうことなんだろうな」
提督「……」
633: 2022/10/17(月) 22:12:17.35 ID:pdfJKJ4Go
X中佐「……はぁぁ……」
北上「んおぉ、でっかいため息ついて……大丈夫~?」
X中佐「あんまり大丈夫じゃないよ……同じ海軍だというのに、なんでこんなに、みんな仲良くできないんだ……」
X中佐「対立があるのはわかる。仕方ないと思ってる。けど、ここまで……誰かを亡き者にしようって考えて実行するのは理解できないよ」
提督「ったく、このお人好しめ……つくづく軍人に向いてねえな」
X中佐「ちょっ……!?」
H大将「まあ、こういう人物だからこそ、俺たちに見えないところを見つけてくれる人物だと思って、重用されているわけだが」
提督「そうかもしれねえが……それで無防備に何度もあの島に入ろうとしてたのは、危なっかしいにもほどがあるだろ」
X中佐「危なっかしい?」
提督「ああ、考えてもみろ、あの島は悪さするのにもってこいの場所じゃねえか。舞台として整いすぎてんだ」
提督「潮の流れのせいで行き来しづらい、拠点としても大して重要じゃない、過去に流刑地扱いされてるようないわくつきの島」
提督「不慮の事故が起こって氏んだって、まああの島だからしょうがないで片付けられる。こんなに人頃しに適した場所、ほかにあるかよ」
提督「そういう場所にほいほいお忍びで来やがって、危ねえって言う外ねえってんだよ。島への道中に誰かに暗殺されたらどうすんだ?」
X中佐「……」
634: 2022/10/17(月) 22:13:01.78 ID:pdfJKJ4Go
提督「それに、妖精たちが言うには、島に俺が着くより前は、大佐が気に入らない奴を島へ放置して餓氏させてたらしいぞ?」
X中佐「そんなことまで!?」
H大将「そういう話も知っているなら早くしろ……!」
提督「それ聞いたのはおとといだぞ、おととい。妖精たちが俺に気を使って言えなかったっつうし、しょうがねえじゃねえか」
北上「えー……じゃあなに? 提督も文字通り島流しにされてたってわけ?」
提督「ああ、初期艦すらつけてもらえず、建造ドックも壊れたままで働けとか、寝ぼけたこと言われたからな」ケッ
提督「しかも通信機は大佐の鎮守府に直通回線一本だけだ。この間は赤城と事務的な話しかしてねえ」
H大将「よく生き延びてこられたな……」
提督「俺の場合は、中将に気にかけてもらってたおかげで物資が多少は届いていたのと……」
提督「妖精と話せたおかげで、いろいろ協力してもらえたから生活できてたってところが違うかな」
提督「とにかく、今回の騒ぎも、そのひとつ前の中将と俺の暗殺計画も、あの島で起こったことだからしょうがない、で済まそうとしたんだろ」
提督「丁度ここに、濡れ衣を着せるのに都合のいい下っ端もいる。一緒に始末すりゃあ証拠も消せるしよ」ヘッ
X中佐「笑っていられる話じゃないよ……」
提督「笑ったっていいだろ。結果的に馬鹿どもが返り討ちになったんだ、笑い飛ばさねえと俺がやってらんねえよ、くそが」
H大将「……あの娘が言っていた通り、人間の自業自得と言わざるを得ないな」ハァ…
635: 2022/10/17(月) 22:13:47.14 ID:pdfJKJ4Go
北上「その場所が海軍と深海棲艦の話し合いの場になるっていうのも、なんとも皮肉が効いてるねえ」
大淀「本当にそうですね……」
X中佐「……」ガックリ
H大将「……X中佐」
X中佐「すみません……さすがにちょっと、滅入ってしまって」
X中佐「状況は、良くなっているんです。深海棲艦と話し合える場所ができたのは、本当に喜ばしいことです」
X中佐「しかし、ここまで……結果的に、海軍の不始末を少尉一人に押しつけ、全部処理してもらってます」
X中佐「かつ、これからも深海棲艦との対話で間に立ってくれると言ってくれています」
X中佐「何から何まで全部、少尉に頼りすぎですよ……!! 僕たちは海軍ですよ? なんて情けない……」
H大将「X中佐……」
X中佐「……それでも。それでも、やっていくしかないですけどね」
X中佐「深海棲艦と……戦いを回避する方法を……なんとか、模索していかないと……」
提督「そうだな。いつまでも俺が手を貸せるとは限らねえ。むしろ、俺がいなくても何とかしてもらえるようにしてもらわねえとな」
X中佐「……」コク
636: 2022/10/17(月) 22:14:31.95 ID:pdfJKJ4Go
提督「……ま、あんたは俺にいらねえお節介焼いてきてたからなあ。心配ではあるが、信用してないわけじゃない」
提督「変な真似さえしなきゃあ、話し合うくらいはできそうだと思ってる」
X中佐「……!」
提督「まずは実績を作ることだろうな。例えば、島の海域に入ったら、絶対に戦闘しない、とか」
提督「深海棲艦を相手にひとつ約束事を作って、それが守れるかどうか……深海棲艦が約束を守る奴かどうかって見極めもいるだろうが」
H大将「……」
提督「ま、こういうのは、時間をかけて見守るしかねえさ。俺が、轟沈した艦娘を保護したように」
提督「俺が……こいつらに、信じてもらえるようになったように」
朧「提督……!」
大淀「提督……!!」
X中佐「……うん……そうだね……!」
H大将「……」
北上「……いやー、本っ当になんでだろうね? こんなこと言う人が魔神だよ? 罠の頭領だよ? いろいろ間違ってない?」
提督「いや、俺はあくまで妖精と艦娘とメディウムと深海棲艦を保護するってだけで、人間はどうでもいいからな?」
637: 2022/10/17(月) 22:15:17.06 ID:pdfJKJ4Go
提督「俺自身も晴れて人間じゃなくなったし。ぶっちゃけ人間が氏滅しようが最早全っ然構わねえんだからよ」
大淀「提督!!」ギョッ
X中佐「……」
H大将「……」
提督「ま、俺の本音はこうだからな。人間が深海棲艦とこれからどう接していくにしても、俺からは基本、口は出さねえぞ?」
H大将「ああ。責任重大だな、中佐」
X中佐「ええ、そこは何とかしてみせます……!」
H大将「それで、島での我々の安全は保障してもらえるのか?」
提督「そこは……まあ、そこはそうだな。俺が信頼している艦娘と一緒なら危害を加えないよう、周知徹底させる」
提督「とはいえ、泊地棲姫の艦隊が全員俺に従うかわからねえから、それはこれからしっかり統制しなきゃな……」ウーン
朧(大丈夫なんじゃないかなあ……あの洞窟にいた時も、提督の言うこと聞いてた気がするし)
提督「あの島の海域が非交戦地域であることを、他の深海棲艦にも通達したいし……」
大淀「海軍にしても私たちにしても、話し合いを持つためにはもう少し準備期間が必要ですね」
H大将「そうだな。海軍の中でも、今後深海棲艦と交渉にあたる人材を用意せねばならん」
638: 2022/10/17(月) 22:16:02.78 ID:pdfJKJ4Go
大淀「私たちも同様に、島の中の整備を整える必要があります。そこで……海軍と取引をお願いしたいのですが」
H大将「取引?」
大淀「はい、例えば、かつて島で使用していた発電機や、小型のショベルカーなどの設備、電気工事用の電線や水道管の敷設……」
大淀「それから艦娘用の入渠ドックや建築用木材、私たちが使用していた生活必需品の購入をお願いしたいのです」
H大将「……ふむ」
提督「工事が必要なら、その期間は泊地棲姫たちには島から離れてもらう。メディウムたちも退避させよう」
提督「代金は、こいつで支払いたい」ゴソッ ゴトゴトッ
X中佐「なんだい? その石は……」
H大将「……!! 少し、見せてもらっていいか」
提督「ああ」
H大将「……」
X中佐「H大将?」
H大将「……少尉。お前は、どこでこれを?」
提督「噴火した海底火山の溶岩の中から採掘した」
H大将「なるほど……」
639: 2022/10/17(月) 22:16:46.85 ID:pdfJKJ4Go
X中佐「H大将、この石は一体……?」
H大将「……これはもしや、ダイヤの原石か?」
X中佐「え!? こ、これがですか!?」
H大将「ああ。もし本物なら、こんな手のひらに収まらないサイズの石は見たことがないぞ……!?」
提督「炭素を高温で圧縮して作られるのがダイアモンドだって聞いたことがある。マグマの中で作られるとも言われてるらしいな」
提督「それでだ。その原石がどの程度の価値があるか、そいつを持ち帰って鑑定してほしいんだ」
提督「その上で業者を4、5件回ってもらって、それぞれに見積もりを取ってもらいたい」
提督「俺たちは、信頼できそうな値を付けたところにそいつを売って、その金で備品の調達をしたい」
提督「その業者が他にも欲しいというなら、採掘できた分のなかからいくつか渡そうと思ってる」
H大将「……これは何かの罠ではないだろうな?」
提督「その石自体は罠でもなんでもねえよ、ごくごく真っ当な取引だ。ただまあ、違う意味では罠だと言える」
H大将「何を企んでいる」
提督「……メディウムはな、悪人の魂を欲しているんだよ」ニタリ
X中佐「……」
提督「そのダイヤは撒き餌みたいなもんさ。このサイズなら確実に値はつくし、どこで採れたか確実に訊かれるはずだ」
提督「訊かれたらこの島で採掘されたものだと、正直に答えてくれていい。島に深海棲艦が棲みついていることも忘れずにな」
640: 2022/10/17(月) 22:17:31.70 ID:pdfJKJ4Go
提督「島がいかに危険かを聞いて、まともな奴なら諦めるだろう。だが、危険を承知で採掘しに来るっていうのなら……」
提督「メディウムたちが諸手を挙げて歓待してやろう、ってだけさ」ニヤァ…
H大将「……」
X中佐「……」
大淀(またそこでそういう悪い笑顔を……)
北上(こういうところはマジでメディウムの親玉だよねえ……)
H大将「……怪我をさせずに捕縛というわけにはいかんのか」
提督「命の保証は無理だ。言ったろ? 魂を欲しているって。ストレートに言えば、メディウムにとって人間は餌に等しいんだ」
X中佐「餌……」
提督「料理をするとき、食材を切ったり、煮たり、焼いたり、塩コショウを振ったりして、おいしくするだろう?」
提督「それと同じように、欲にまみれた人間を、華麗に吹き飛ばし、屈辱的な目に遭わせ、残虐に頃すことによって……」
提督「悲憤と無念にまみれた、魔力が満ち満ちた魂に磨き上がる。ちょっとひと手間、というやつだ」
提督「メディウムはそういう昏(くら)い感情を含んだ魂が大好きで、特に極悪人の魂は念入りに磨き上げる傾向にある」
提督「どうせ食うなら、おいしく召し上がりたいだろう? メディウムたちにもそういう『ささやか』な欲望があるんだよ」
H大将「……」
641: 2022/10/17(月) 22:18:17.60 ID:pdfJKJ4Go
提督「俺が、人間がこの島に入って欲しくないと考える理由の一つがそれだ。来てもいいが、友好関係を築きたいなら、長居はして欲しくない」
提督「さすがに海軍だって、発布した忠告を無視して面倒を起こす奴らにまで、世話を焼くなんて下世話な真似はしねえよな?」
H大将「……それは、そうだな」
X中佐「ですね……我々では注意喚起が関の山でしょう」アタマカカエ
提督「それでいい。金に目がくらんだ命知らずが、どこかへ消えるだけの話だ、海軍が気に病んだり責任を感じたりすることじゃない」
提督「そういうわけなんで、メディウムも深海棲艦に負けず劣らず危険な存在だ」
提督「あんたたちの身の安全のためにも、俺が信頼する艦娘と同行してもらって、メディウムの捕食対象ではないことを示してほしい」
X中佐「……わかった。さしあたり、艦娘の帯同の件と、この原石の査定の件だね。すぐに取り掛かろう」
提督「そうしてもらえると助かる。俺も島で、海軍を受け入れる準備に取り掛かる」
提督「何せ話し合う場所すら、いま作っている途中だからな。準備ができ次第、連絡を取らせてもらう」
大淀「あの、提督? 通信販売のカタログの取り寄せもこの場で一緒にお願いできないでしょうか」
H大将「カタログ?」
大淀「はい。以前、私たちは生活用品や私物を買うのに、市販の通信販売のカタログを使っていました」
大淀「例えば長門さんのミシンですとか、比叡さんの包丁ですとか。執務室のソファやドライヤーなどもそれを見て購入しています」
H大将「長門がミシン……だと?」クビカシゲ
642: 2022/10/17(月) 22:19:02.37 ID:pdfJKJ4Go
X中佐「通販で? お金はどうしていたの?」
大淀「そ、それは、提督のお給料から出していただいて……」
X中佐「えええ……」
提督「俺が金を使う機会がなかったんでな。朧は小説本買ったんだっけか」
朧「はい! ハードカバーの新書を買いました!」
提督「娯楽もなかったんで、余所の鎮守府から遊び道具を寄付してもらったこともある。例えばトランプとか、将棋盤もそうだったよな?」
大淀「あ……! そういえば、そうですね……」ガックリ
朧「大淀さん、将棋のセットを島から運び出してなかったんですか」
大淀「それもありますが、それよりも有名棋士の指南本が……」
朧「ああ……」
H大将「……わかった。そういうことなら、取り寄せさせよう。予算についても問題のない範囲で検討させる」
大淀「ありがとうございます!」ペコリ
朧「あ、提督のお給料が入ってる口座とかもそのままにしてもらえますか?」
H大将「不知火が言っていた件か? 経理ができる奴を呼んだほうが良さそうだな」
X中佐「そうですね。契約が継続できないなら、ご家族への相続とか考える必要もありますし」
提督「……」ビキッ
朧「あ」ビクッ
643: 2022/10/17(月) 22:19:47.50 ID:pdfJKJ4Go
提督「悪い……もうひとつ、大事なことを言い忘れていた」
H大将「なんだ?」
提督「俺に、親と、弟がいることは知っているか?」
X中佐「? 君の家族がどうかしたのか……?」
提督「……あいつらには、絶対に連絡を取るな」
X中佐「! ……理由を聞いても?」
提督「あいつらは俺の敵だからだ。あいつらは俺にとって家族でも何でもない……!」
X中佐「……」ゾク
H大将「……過去に、大佐がお前の父親へ献金していた記録があったな。それが関係しているのか?」
提督「いや、それはそうじゃねえ……」
朧「提督は、妖精さんが見えるっていうだけで、両親からもひどい扱いを受けてきたんです!」
提督「……おい」
大淀「朧さんの言う通りです。提督の人間不信は、提督のごりょ……両親の影響が最も大きいと思われます」
大淀「その献金は、大佐が提督の身柄を買い取るために、提督がどうなっても口出しされないようにするために支払ったものです」
北上「うわあ……マジで?」ドンビキ
644: 2022/10/17(月) 22:20:34.95 ID:pdfJKJ4Go
大淀「はい。提督はその両親から疎まれていました。提督もその人たちを家族と呼ぶことはできない、と、過去にも仰っていましたし……」
大淀「そもそも提督は父親から勘当されています。縁を切ったはずなのに、お金のやり取りがあること自体、おかしいと言わざるを得ません」
提督「……」
X中佐「……そうなのか?」
提督「喜んだのは違いないだろうな。勘当したはずのゴミを引き取ってもらえた上に金まで貰えたんだ」ケッ
X中佐「……」
提督「そういうわけなんで、間違っても、連中を俺に会わせようとか考えるなよ」
提督「この場で話し合ったことも何もかも、この船もろとも怒りに任せてひっくり返しちまうかもしれねえからな……」
H大将「なるほど。献金がお前に関係ないのならそれでいい。遠慮なく告発していいな?」
提督「ああ、遠慮はいらない、思う存分やってくれ。俺はあいつとは縁が切れてるし、二度と会いたいと思っていない」
提督「あの男は自分の名誉が一番大事な人間だ。そのために俺の名前を利用するかもしれねえが、それも全否定してくれていい」
H大将「わかった。先方がお前のやることに口を出してこないよう、念入りに叩き潰しておくとしよう」
提督「……」ペコリ
645: 2022/10/17(月) 22:22:16.84 ID:pdfJKJ4Go
* *
北上「……提督も苦労してんだねえ」
提督「まあ、な。家族に相続、って言葉が出てこなかったら伝え忘れるとこだった。危なかったな」
北上「なんかさあ、H大将もこれで提督に貸しを作れたとか思ってんじゃない?」
提督「それはそれで別に構わねえさ。あいつを社会的に潰そうってんなら俺は協力するし」
提督「そもそも海軍の不始末を処理するために必要なことをやってるだけだろ? この話には貸しも借りもねえと思ってるがな」
朧「とりあえず、いい方向に進むといいですね。今回は嘘も言ってませんし、すっきりできたと思います!」
提督「……一点だけ、嘘ついてんだけどな」
大淀「え? どこですか?」
提督「メディウムが悪人の魂を欲しているって言ったろ?」
北上「うん。間違ってんの?」
提督「ああ、悪人も善人も関係ねえんだ。本当は」
大淀「……」
朧「……」
北上「……あー、うん。まあ、そうね……」
大淀「あの、提督? それでは、メディウムが人間をいたぶって頃すというところは……」
提督「あれは本当だ。あれはニコから聞いたのをそのまま話した感じだな。魂に対する味付けって聞いてる」
提督「とにかく、俺たちと友好的な相手には手を出さないように教育するさ」
提督「四方八方に喧嘩売って敵を増やして、とんでもない奴を相手にしなくちゃいけなくなった、ってのが一番面倒臭えしな」
大淀「ええ、ぜひそのようにお願いします」
649: 2022/10/29(土) 13:31:45.94 ID:1LUsbeXzo
* 翌日 昼前 *
* 墓場島沖 医療船内 小会議室 *
卯月「少尉! 無事だったぴょん!?」
弥生「元気そうで良かった……」
望月「いやあ、やばいことになったんだねえ、あの島。また住めるの? せっかくだし、あたしたちのいる大湊に来ない?」
提督「……」
W大佐「どうかしたか、少尉」
提督「……いや、珍しい顔が出てきたなと」
鳳翔「そんなに珍しいでしょうか?」
提督「ああ、久し振りというか、お前たちとはもう会うこともないと思っていたくらいだが」
卯月「少尉ったらつれないぴょーん! うーちゃんが少尉を放っておくと思ったら大間違いだっぴょん!」
提督「いたずらする気ならやめとけよ? 洒落にならない連中が来たからな」
卯月「ぷっぷくぷぅ~! そーんな脅しに屈するうーちゃんじゃないっぴょーん!」
卯月「艦娘ならぬ罠娘だって聞いてるぴょん? うーちゃんとは仲良くできそうだっぴょん!」ニヒヒヒッ
650: 2022/10/29(土) 13:32:30.94 ID:1LUsbeXzo
提督「やめとけ。お前は洒落が通じない相手に粗相して、追いかけられてズタボロになる未来しか見えねえ」
弥生「わかる」ウンウン
望月「卯月って、触っちゃいけない相手ほど触りたがるもんね」ウンウン
卯月「みんな辛辣ぴょん!?」
鳳翔「大丈夫な人もいるでしょうけれど……」
提督「そうだなあ、フウリやマーガレット、ハナコ、シャルロッテ……あとジュリアか。あのあたりなら、罠的にまだ洒落が通じそうだがなあ」
鳳翔「まあ。その方々は、どんな罠なんですか?」
提督「ん-、タライ、フライングケーキ、ウォッシュトイレ、バナナノカワ、ハリセンってとこか」
卯月「めっっっっちゃ興味あるぴょん!!」キラキラッ!
提督「よし、卯月にはルイゼットとエレノアを紹介してやるか。ギロチンとメイデンハッグのメディウムだ」
卯月「氏ぬぴょん!? 少尉はうーちゃんを頃す気ぴょん!?」
提督「冗談だよ。それより……」
鳳翔「はい、ご紹介させていただきますね。こちらはW大佐」
W大佐「……よろしく。こいつは秘書艦の伊勢」
W伊勢「よろしくね!」
651: 2022/10/29(土) 13:33:15.71 ID:1LUsbeXzo
W大佐「それから、軽巡洋艦の球磨と、戦艦の榛名だ」
W球磨「よろしくだクマ」
W榛名「よろしくお願いします」
提督「……ああ」
鳳翔「こちらのW大佐はX中佐のご友人で……」
W大佐「先日の作戦に参加していた一人だ。H大将閣下に懇意にさせてもらっている」
提督「……艦隊を出していたのか」
W大佐「ああ、作戦時にはこの球磨と榛名を出撃させていた」
W球磨「球磨は、まさかあんなコトになるなんて、思ってなかったクマ。とりあえず、あの罠の女の子たちは、ここにはいないんだクマ?」
提督「……まあ、一応は、な」
W球磨「ふーん……潜んでてもいいけど、襲ってこなければいいクマ」
W球磨「かかってくるなら球磨は容赦しないクマ。でも、仲良くできるんなら、そうしたいクマ」
W伊勢「まあ、今日は懇親を深めるって話で聞いてたから、さすがにここでまで警戒はしなくてもいいと思うけどね」
W球磨「そうあってほしいクマー」ウナヅキ
提督「……H大将の部下なら、深海棲艦は殲滅するべきって思想の連中が多いと思っていたが……そうじゃねえのか?」
W大佐「確かに、そういう思想を持つ者は多いな。今回の件で、H大将がお前たちや深海棲艦との話し合いを始めたことに動揺している者もいる」
W大佐「しかし私自身は、深海棲艦とどのように向き合うかについては、特にこうだと決めつけてはいない。普段からX中佐とも話をしているしな」
W大佐「むしろ、深海棲艦とはいったい何者なのか。何が目的なのか。それを知ることのほうが、戦争の終結には重要だと思っている」
提督「……」
652: 2022/10/29(土) 13:34:00.84 ID:1LUsbeXzo
W大佐「今日はあくまで顔合わせの場だと聞いている。かかわった以上、君がどんな人物なのか、色眼鏡なしに見てみようと考えている」
提督「……この先、どのくらい顔を合わせるかはわからねえがな」
W大佐「ふむ。まあ、そうなるかな」
提督「……なんつうか、日向みたいな男だな?」
W伊勢「そう! そうなのよ! 最近ほんっとに日向に似てきたの! あなたもやっぱりそう思う!?」ズイッ!
提督「お、おう……」
W球磨「伊勢、食いつきすぎクマ……落ち着くクマ」
W大佐「それからもう一人。そっちにいるのが……」
卯月「司令官も早くこっちに来るぴょん!」
W榛名「……」
W大佐「V提督だ。今はここにいる卯月たちの艦隊を指揮しているそうだ」
V提督「……」ペコリ
鳳翔「N提督が鎮守府をおやめになってからいらした、後任の提督です」
提督「ふーん……」チラッ
W大佐「俺と同じく、V提督もX中佐と同期なんだ」
提督「同期? そう言う割には、部屋の隅っこで随分と控えめにしてんじゃねえか?」
提督「おそらく、穏やかじゃねえ空気を放ってる奴が、そこにいるからだろうけどな。どうなんだ? 榛名……!」
W榛名「……」
V提督「……」
653: 2022/10/29(土) 13:34:45.68 ID:1LUsbeXzo
W大佐「まあ、無理もない事情があるんだ。君に話すほどのことでもないんだが……」
鳳翔「ええと、みなさん? 今日は特別な席を用意しておりまして」
望月「鳳翔さーん、大丈夫? なんか違う意味で特別な席になってるっぽいんだけど」
提督「だな。なんでこんな険悪な雰囲気なんだか……卯月がいなけりゃ息苦しくてかなわねえ」
卯月「……うーちゃん、褒められてるぴょん?」
提督「おう。素直にMVP喜んどけ」
トントン
大和「失礼いたします、準備が整いました!」
鳳翔「あら、丁度よかった。ではみなさん、こちらへどうぞ」
W大佐「……鳳翔、あなたは何を企んでいる?」
鳳翔「企むだなんてそんな。一緒に昼餉をと思いまして」
W大佐「……?」
鳳翔「さあ、V提督もこちらへ」
V提督「あ、ああ……」
W榛名「……」ジロリ
654: 2022/10/29(土) 13:35:30.78 ID:1LUsbeXzo
* 廊下 *
大和「こちらです」
W大佐「……ん? この匂いは、カレーか?」
V提督「……!」
W榛名「これは……!」
卯月「鳳翔さんのカレーの匂いだっぴょん!!」パァッ!
望月「やっりい! おなか減ってたんだー」
鳳翔「ふふっ、私の作ったものよりおいしいと思いますよ」
V提督「鳳翔……まさか、お前……?」
鳳翔「逃げてはいけませんよ……提督」ニコッ
V提督「……!」
大和「お待たせしました、お連れしましたよ!」
雲龍「噂をすれば、ね」
陸奥「!」
比叡「あ……!」
龍驤「お、来よったんか!」
655: 2022/10/29(土) 13:36:15.92 ID:1LUsbeXzo
提督「比叡はともかく、雲龍に陸奥に龍驤? なんでお前たちがここに?」
龍驤「おってもええやんか、うちと陸奥は懐かしい顔と話しとったんよ?」
提督「懐かしい?」
球磨「なんで間宮さんが二人いるクマ?」
鳳翔「はい、ご紹介します。こちらは私たちの鎮守府の間宮さん」
間宮「少尉、おひさしぶりです」ニコッ
鳳翔「そしてこちらは、かつて幌筵の以提督鎮守府にいた、間宮さんです」
提督「!!」
以間宮「はじめまして……!」ペコリ
提督「以提督……あの骨と皮だけになってた、あの写真の間宮か!?」
鳳翔「はい、御覧の通り、一生懸命リハビリしまして、ここまで回復いたしました」
球磨「リハビリ、クマ?」
提督「こっちの間宮は働かされすぎてガリガリに痩せてたんだよ。うちの龍驤と陸奥も同じ鎮守府にいたんだ」
陸奥「昔話に花が咲いちゃってね。みんなの邪魔はしないから安心して」
656: 2022/10/29(土) 13:37:00.62 ID:1LUsbeXzo
鳳翔「そしてもう一人、ここにいる皆さんにご紹介したいのが、こちらの墓場島鎮守府の比叡さんです」
V提督「……まさか」
W大佐「おい、もしかして……」
W榛名「あなたは……!!」
鳳翔「はい。もと、V提督鎮守府所属の、比叡さんです」
比叡「……」ニコニコ
V提督「っっ!!」
W榛名「……い……生きてらしたんですね……!!」
比叡「え?」
W榛名「私です、比叡お姉様!! 私は……私はかつて、V提督のもとで働いていた、あの榛名です!!」
比叡「ひええええ!? そうなの!?」
W大佐「鳳翔。これがあなたの狙いだったのか?」
鳳翔「はい」
提督「なるほど、榛名が睨みを利かせてたのはそういう理由か」
657: 2022/10/29(土) 13:37:45.67 ID:1LUsbeXzo
卯月「……みんななんで驚いてるのか、よくわからないぴょん」
W大佐「それは……」
V提督「待ってくれ。俺が話そう」
弥生「司令官……?」
V提督「これは俺の失態だ。俺が……比叡を傷付けたのが、すべての発端であり、原因だ」
提督「原因、ねえ……? とりあえず話してもらおうじゃねえか」
V提督「俺とW大佐、それからX中佐が同期だったことは、Wからもあった通り……」
V提督「海軍に入った当初は、そこにUとYを含めた5人で、いつも決まった時期に飲み会を開いていたんだ」
V提督「初めてうちの艦隊に戦艦が来たとか、いまだに空母が来ないとか……自分の艦隊自慢をしていたんだが」
V提督「だんだんと戦艦の……金剛型の話題になって、比叡の作る料理の話になった」
V提督「UにしてもYにしても、各々の鎮守府の比叡が作る飯はどうしようもなくマズかったらしい」
V提督「だが、うちの比叡は違った。全然、そんなことはなく……初めて出されたカレーも、あっという間に平らげたくらいだった」
比叡「……!」
V提督「それを、俺は……」
W榛名「……」
658: 2022/10/29(土) 13:39:00.96 ID:1LUsbeXzo
W大佐「……その酒の席では、Vが、自分のところの比叡のカレーはおいしいと言っていたんだ」
比叡「!!」
W大佐「ただ、それをUとYがことあるごとに馬鹿にして囃し立てていたんだ。お前の味覚はおかしい、と」
W大佐「あいつらはあいつらで自分たちの経験からそう言っていたんだろう。それ自体は間違ってはいなかったと思う」
W大佐「だが、あれは言いすぎだった。俺が傍から聞いていても、その貶め方は不愉快だった」
W大佐「かといって俺やXが制止しても、比叡が着任してないからとわからないんだと聞き入れられることもなく」
W大佐「だったら、Vの鎮守府に来て、比叡の出したカレーを食べてみろ、という話になって……」
V提督「……そこで俺が、やっちゃいけないことを、やったんだ」
比叡「……」
W榛名「それで……あんなことを……っ!!」ギリッ
W大佐「……」
提督「そうか。そこで、用意した比叡のカレーを、皿ごと投げ捨ててみせた、ってことか」
望月「なんだそれ!?」
W榛名「そうです……ご友人を招いた席で……なぜあのようなことを、V提督がしたのか……!!」
659: 2022/10/29(土) 13:40:45.81 ID:1LUsbeXzo
W大佐「おそらくだが。あれは、UやYに対する当てつけだろう? UやYが『こんなもの』と言っていたのをあいつらに認めさせ……」
W大佐「そして自分は、あいつらが称賛したものを捨てて見せて、自分のほうが上だと見せつけたかった。そんなところじゃないか」
弥生「……本当、ですか」
V提督「……そうだ……おおむね、そんなところだ……」
W大佐「それで後悔して自分の腹を撃ったと。まったく、馬鹿な男だ」
卯月「撃ったぴょん!?」
W大佐「ああ、拳銃でな」
鳳翔「……」
W榛名「そんな……そんなつまらない理由で……!!」ギリギリッ
W榛名「その、つまらないプライドのせいで! 比叡お姉様がどれだけ苦しんだか……!!」ジロッ
提督「ああ、まったくだ。島に比叡が流れ着いて目を覚ましてから一週間……いやそれ以上か。飯を食おうとしなかったからな」
提督「下手すりゃあ、そのまま氏んでたぜ」ジロッ
鳳翔「……」
提督「何を考えてこんな席を作ったのかは知らねえが……おい、比叡。この場は、お前の好きにしていいぞ」
比叡「! いいんですか?」
660: 2022/10/29(土) 13:42:16.34 ID:1LUsbeXzo
提督「ああ。この場はお前が一番優先されていいだろう。そっちの榛名も、それでいいか?」
W榛名「……わかりました。比叡お姉様にことを委ねるということであれば、異論ございません」
W大佐「……」
比叡「それでは……」コホン
比叡「みなさん椅子におかけください」
全員「「……」」
提督「は?」
W榛名「比叡お姉様?」
比叡「いや、は? とかじゃなくて。これからご飯を食べるんだから、みんな座って、って言ってるんだけど」
V提督「……ひ、ひえ」
比叡「ストップ!!」
(手のひらをV提督へ向けて制止する比叡)
比叡「ごめんなさいとか、すみませんでしたとか、そういうセリフは聞きたくありません!」
V提督「……」
比叡「だから、おとなしく座っててください」
W榛名「……」
661: 2022/10/29(土) 13:46:01.98 ID:1LUsbeXzo
鳳翔「さ、比叡さんもそう仰ってますし、みなさんもお座りください」
球磨「確かに、そう言われて突っ立ってる理由はないクマ」
望月「ま、まあ、そういうことなら……」チャクセキ
卯月「座るしかないぴょん!」チャクセキ
W伊勢「そうだね、みんな座ろ?」
大和「さ、提督もどうぞ」イスヒキ
提督「お、おう……」
望月「あれ? 鳳翔さん、なんか椅子多くない?」
鳳翔「実はもう一組、この席に招いている方がいるんですが、まだ来ていないようで……」
<ハ、ハナセ!!
<オトナシクシテクダサイ!!
提督「あれは……!!」
662: 2022/10/29(土) 13:49:31.50 ID:1LUsbeXzo
N大尉「俺が行く必要はないだろう!? 妙高、放してくれ!」エリクビツカマレ
妙高「いい加減、覚悟を決めてください! 磯波さん、提督の足を持ってください!」グイグイグイ
磯波「は、はい……!」ガシッ
N大尉「い、磯波!? は、放せ! はな……!!」
提督「お前、N中佐か!?」
N大尉「て、提督准尉……!!」
妙高「ふう……鳳翔さん、N大尉をお連れしました」
鳳翔「ありがとうございます。いけませんよN大尉、秘書艦を困らせては」ウフフッ
N大尉「い、いや、しかし……」
鳳翔「それから、今の提督は少尉です。少尉も、今のN提督は大尉ですので、お間違えないよう」
提督「ああ、そういやそうだったか」
N大尉「はぁ……いやはや失礼した。まったく、またみっともないところを見せる羽目になったな」
龍驤「おぉお! N大尉やんか!! ひっさしぶりやあ!!」
N大尉「!? 龍驤と……陸奥? も、もしかして、以提督のところにいた二人か!?」
陸奥「はい、あのときはありがとうございました」ペコリ
663: 2022/10/29(土) 13:50:30.88 ID:1LUsbeXzo
龍驤「見てみい! あの鎮守府にいた間宮も、回復したんよ!」
以間宮「N大尉、大変お世話になりました」ペコリ
N大尉「おお! 顔色が全然違うなあ、元気になったみたいで良かった! 俺はあの時は何の役にも立てなくて……本当にすまなかった」
龍驤「そんなことないって! あの啖呵を切ったあの時は格好良かったで!!」
N大尉「いやあ、それほどでも……ところで、後ろの胸の大きなお嬢さんはどちら様で?」デレッ
龍驤「」ズコッ
雲龍「?」
妙高「N大尉? 鼻の下が伸びていますよ?」コメカミヲコブシデハサンデ
N大尉「あだだだだだ!?」グリグリグリ
球磨「この人は何をしに来たんだクマ」
鳳翔「この方はN大尉。こちらにいる龍驤さんたちを以提督鎮守府から助け出したきっかけを作った方です」
望月「え、N提督、そんなことしてたの!?」
提督「知らなかったのか?」
卯月「全然知らなかったぴょん」
664: 2022/10/29(土) 13:53:31.29 ID:1LUsbeXzo
妙高「こちらの間宮さんが私たちの鎮守府に来た時のことは承知していますね?」
望月「うん、前の鎮守府で働かされすぎてガリッガリだったんだよね?」
妙高「その間宮さんを助ける手助けをしたのも、N大尉ですよ」
卯月「全然知らなかったぴょん……!!」
望月「N提督かっこいいじゃん!?」
弥生「見直しました……!」
球磨「そのN大尉を、なんでこっちの駆逐艦たちが知ってるんだクマ?」
W大佐「V提督が来る前は、N大尉が鎮守府を仕切っていたからだ。かつて洗脳ツールを使った提督がいただろう、N大尉がその一人だ」
球磨「マジかクマ……」
提督「ついでに言うと、うちの大和をそのツール使って横取りしようとしやがった」
球磨「うわ、それマジで駄目なやつクマ……」
妙高「そういう過去もありますが、こちらの間宮さんの快気祝いということもあって、N大尉をこの席にお招きしたという次第です」
提督「なるほどねえ……」
N大尉「正直、どの面下げて准尉……じゃなかった、少尉のいる場にいたらいいのか、わからないんだが……」
提督「今まさに似たような状況の奴がいるから、お前までぐちぐち言わなくていいぞ」
N大尉「その理屈は意味が分からんぞ!?」
665: 2022/10/29(土) 13:54:32.53 ID:1LUsbeXzo
鳳翔「W大佐とV提督には一度お会いしていると聞いてますので、紹介は不要ですね?」
N大尉「あ、ああ、そうだな。まあ一度しか挨拶したことがないんだが……」
比叡「お待たせしました!!」ガチャ
望月「うおおおおーー!?」ガタッ
卯月「カレー来たぴょおおん!!」ガタッ
比叡「鳳翔さんたちは配膳のお手伝いお願いします!」
鳳翔「ええ、お任せください」
間宮「さ、行きましょう!」
以間宮「はいっ!」
W榛名「あ、私も……」
比叡「大丈夫! 榛名は座ってていいから!」ニコッ
W榛名「あ……」
鳳翔「N大尉たちもどうぞおかけください」
N大尉「あ、ああ」
カチャカチャ…
666: 2022/10/29(土) 13:55:31.28 ID:1LUsbeXzo
W球磨「おお……実際に目の前に並ぶと、においだけで涎が出てくるクマ」
W伊勢「すごいね、なんかいろいろ光ってるっていうか、輝いてる気がする」
W大佐「あの時以来……あの時以上だな」
N大尉「これは、提督少尉のところの比叡が作ったのか?」
鳳翔「はい、そうですよ」
N大尉「そうか。これはすごいな、香りだけでこんなにそそられるカレーは初めてだ」
W球磨「大尉は、これが比叡の作ったご飯だと聞いても驚かないクマ?」
N大尉「ああ、俺はあの島で執務をしたことがあって、そのときに比叡の作ったご飯を三食いただいたことがある」
W球磨「最初から腕前を知ってたクマ?」
N大尉「いやあ、さすがに最初は俺も驚いたよ。比叡が作ったと聞いて思わず聞き返したのは確かだ」
N大尉「しかしそこの大淀から、比叡は仮にも御召艦なのだからこのくらいはできて当然だ、と窘められてな……」
N大尉「確かに失礼だとも思ったし、御召艦だったというのも事実なんだから、なるほどとも思ったんだ」
V提督「……」
N大尉「だから、驚きはするが、大袈裟に驚くのも失礼かと思っている。が、これはちょっと大袈裟に驚いても良さそうだよな?」
W球磨「良さそうクマ」ウンウン
667: 2022/10/29(土) 13:56:30.72 ID:1LUsbeXzo
比叡「熱いので気を付けてくださいね!」コトッ
V提督「! ……俺も……いいのか?」
比叡「はい、どうぞ!!」
W榛名「……」
鳳翔「行き渡りましたね。それではお召し上がりください」
提督「んじゃまあ、いただくか」
卯月望月「「いただきまーす!!」」クワッ!
弥生「ふたりともうるさい……」
卯月「ぱくぱくぱくぱく」
望月「もぐもぐもぐもぐ」
間宮「一心不乱に食べ始めましたね……」
弥生「……静かになった」
卯月「止まんないぴょん……」モギュモギュ
望月「うっめ……マジうっめ……」モギュモギュ
668: 2022/10/29(土) 14:01:02.09 ID:1LUsbeXzo
N大尉「本当にうまいな……磯波はどうした? 遠慮しないで食べていいんだぞ?」モグモグ
磯波「は、はい……では……」オソルオソル パクリ
磯波「……」モグモグ
磯波「んんん~~~~~!!!」キラキラキラッ
V提督「おお、光ってる光ってる。妙高も遠慮するなよ?」
妙高「はい、そのようにいたします」ニコ
W大佐「俺たちも食べるとしようか」
W球磨「おかわりいただけるクマ?」キラキラ
W伊勢「早っ!?」
W球磨「カレーは飲み物クマ」キリッ
W大佐「訳わからんこと言ってないで、ちゃんとよく噛んで食べろ」
V提督「……」
W榛名「……」ジトッ
比叡「あれ? お召し上がりにならないんですか?」
V提督「あ、いや……」
669: 2022/10/29(土) 14:02:01.04 ID:1LUsbeXzo
比叡「どうぞ、お召し上がりください!」
V提督「俺……いや、私は……」
比叡「どうぞ!!」ズイ
V提督「……」
W榛名「……」
V提督「……」カチャ…
V提督「……」パク
V提督「……」モグモグ…
比叡「お味のほうは、いかがですか?」
V提督「ん、あ、ああ……そうだな……」
比叡「……」ジッ
V提督「うまい、な……」
比叡「良く聞こえなかったんで、もう一回お願いします!!」
V提督「!?」
W榛名「!?」
提督「……」
670: 2022/10/29(土) 14:03:01.19 ID:1LUsbeXzo
V提督「い、いや、その……おいしい、ぞ……?」
比叡「えっ? やっぱりよく聞こえないですね!?」
V提督「」
比叡「すみませんが、もうちょっと大きな声でお願いします!!」
比叡「おいしかったですか? おいしくなかったですか?」
W榛名「……」
V提督「お……おいしくないわけがないだろう!?」
全員「「……」」
V提督「こんなうまいカレーを食べたのは、初めてお前のカレーを食べた時以来だ!!」
V提督「衝撃的過ぎて、言葉が出なかった」
V提督「こんなにおいしいものを、なんであいつらはまずいなんて言ってたのか、さっぱり理解できなかった!!」
V提督「いくらおいしいと訴えても、笑いながら否定されるのが悔しくて……俺も、比叡も馬鹿にされているみたいで耐えられなかった!」
V提督「俺は、あいつらに……恥を、かかせたかった……」
W榛名「……」ギリッ
提督「……」
671: 2022/10/29(土) 14:04:16.49 ID:1LUsbeXzo
V提督「比叡……すまない……俺は」
比叡「はいストップ!!」
V提督「……」
比叡「だーかーらー! 私は、あなたから謝罪の言葉を聞きたいんじゃないんです!」
比叡「おいしかったか、おいしくなかったかを聞きたいんです!!」
比叡「どっちなんですか? 『司令』!!」
V提督「……!!」
V提督「おいしいとも」
V提督「涙が出るほど、おいしい……!」
比叡「……はー……」
W榛名「比叡お姉様……」
比叡「……」ニコ
比叡「……なら、頑張った甲斐がありました!!」フンス!
比叡「じゃ、別の料理も持ってきますね!」クルッ
672: 2022/10/29(土) 14:05:16.23 ID:1LUsbeXzo
W榛名「比叡お姉様!? ……あ、あなたは、それだけで……それだけでよろしいんですか!?」ガタッ
比叡「え? それだけって……うん、いいよ?」
W榛名「……」
比叡「だって、あの鎮守府にいた時に、一番聞きたかった言葉が聞けたんだもの」ニコ…
W榛名「!!」ブワッ
V提督「……」
比叡「あれ、司令も食が進んでいませんね?」
提督「いいんだよ、俺はゆっくり味わって食いたいんだ。それより、ほかに料理があるって?」ガタッ
比叡「し、司令は座ってていいんですよ!?」
提督「いいから厨房へ行くぞ」チラッ
大和「……!」
鳳翔「では私たちも……」
大和「鳳翔さん……少しだけお待ちください」ヒソッ
鳳翔「! そういうことですか、致し方ありませんね」ニコッ
673: 2022/10/29(土) 14:06:30.16 ID:1LUsbeXzo
* 厨房 *
パタン
比叡「……」
提督「……」
比叡「……はぁ……」
提督「それで、お前の気は済んだのか?」
比叡「……はい」コクン
提督「そうか」
比叡「……こういうの、なんて言うんですかね」グスッ
比叡「この世の、未練が、なくなった、って、言うか……」ポロポロ
提督「おいおい、それじゃまるで幽霊じゃねえか。お前、これから成仏して消えるのか」
比叡「あ、あはは……なんか、もう、本当に、消えてもいいくらい、ふわふわしてて……もう、長かったなあ、って……」ボロボロボロ…
674: 2022/10/29(土) 14:07:44.70 ID:1LUsbeXzo
提督「……お前が望んでいた答えが聞けたんだ。嬉しくて浮足立ってるだけだろ」
比叡「司令、私……わた、し……っ!」ヒシッ
提督「ほら、ハンカチやるから、好きなだけ泣いとけ」ナデナデ
比叡「ひぐっ……ふえぇ……うええええ……!」グスグス
*
比叡「はぁ……あー、すっきりした」
提督「もういいのか?」
比叡「はい! 嬉しくて天にも昇る気持ちって、こういうことを言うんでしょうね」
比叡「本当に飛んでっちゃいそうな感じだったけど……司令に捕まえててもらって、本当によかったです!」ニコー
提督「……そうか」アタマガリガリ
比叡「さあ、みんな待たせちゃってるし、早くこっちのお料理も持っていきましょう!」
675: 2022/10/29(土) 14:09:46.13 ID:1LUsbeXzo
* 食堂 *
W榛名「えぐっ、ぐすっ」ボロボロボロ
W伊勢「あーもう、泣きすぎだってば。よしよし」セナカサスリ
N大尉「おいしいと言ってもらいたかった、か……」
N大尉「……まあ確かに、これを比叡が作ったと余所の鎮守府で言ったとしたら、信じない人のほうが多そうだ」モグモグ
妙高「提督!?」
N大尉「仕方ないだろう? 俺が知ってるだけでも、比叡がカレーを作ってとんでもないことになった鎮守府が結構あるんだ」
N大尉「もちろん、ここ以外にも料理上手な比叡がいるだろうが、少数派である以上、いま広まっている噂をひっくり返すのは難しいと思うぞ?」
W大佐「確かに……同意する者は残念ながら少数だろうな」
N大尉「その噂を断つとしたら、実績を作るしかない」
N大尉「さっきも言ったが、比叡は本来は料理下手ではないはずだ。ここの比叡と、余所の比叡との違いは何か……」
N大尉「それを調べてほかの鎮守府でも対策を打って改善することができれば、こういう不名誉な話も徐々に消していけるだろう?」
妙高「提督……」
676: 2022/10/29(土) 14:10:31.29 ID:1LUsbeXzo
N大尉「さしあたって、そこの榛名が比叡と古い知り合いなら、理由というかコツみたいなものを教えてもらうのがいいかと思うんだが……」
W榛名「うっ、ぐずっ、比叡お姉様ぁああ」ボロボロボロ
N大尉「その話は後にしたほうが良いみたいだな?」
鳳翔「今でなくても、あとからゆっくり比叡さんご本人から聞いてもいいと思いますよ。私も教えていただきましたし」
N大尉「ああ、そうしよう。比叡以外にも問題のある艦娘がいるらしいから、同様の対応ができないか進言してみようかな」
比叡「お待たせしましたー!」ガラガラガラッ
望月「!!」ガタッ!
卯月「!!」ガタッ!
W伊勢「あのふたりの目が血走ってるんだけど……」
W球磨「何が来たクマ?」フリムキ
比叡「からあげです!」ドンッ!
677: 2022/10/29(土) 14:11:15.71 ID:1LUsbeXzo
卯月望月「「いただきまあああああす!!」」グワッ!!
弥生「速っ!?」
ムシャーー
パァァ…
W伊勢「? なんか光ってる?」
卯月(全裸)「うますぎぴょん……!!」フワァ
望月(全裸)「マジうっま……!!」フワァ
W伊勢「!?」
W大佐「!?」
N大尉「!?」
大和「!?」
以間宮「!?」
妙高「……」
鳳翔「……」
比叡「ひえぇ……なんで私のからあげ食べて飛んでるの……?」
弥生「ふたりとも……お行儀悪い」モギュモギュ
間宮「お行儀とか言ってるレベルじゃないのでは!?」
提督「そうだぞ、ちゃんと野菜も食え」サラダドサッ
間宮「少尉も何がそうだぞなんですか!?」
678: 2022/10/29(土) 14:12:15.92 ID:1LUsbeXzo
N大尉「……いったい何が起きたんだ? からあげ食っただけだよな?」
磯波「これ、ですよね……お、おいしそう……! わ、私もいただいてみます……はむ」シャクッ
妙高「あ」
ペカー
磯波(全裸)「……素敵……!」フワァ
N提督「」
妙高「」
磯波(全裸)「これ……イけます……!!」グッ
妙高「どこにイく気ですか!?」ガビーン
N大尉「……でっ……っっか……!!」ハナヂポタポタ
妙高「どこを見てるんですか!!!」バチーン!
N大尉「はぶァ!?」
弥生(どこかで見覚えのある光景が……)
W大佐「一体何が起こっているん……んんん?」
熊?「ヴォー……」カラアゲモッシャモッシャ
W伊勢「」
W大佐「」
W球磨「はっ!? いま、一瞬野生に戻ったような錯覚に陥ったクマ!!」モシャッ
W伊勢「ウソでしょ?」シロメ
W大佐「ウソだろ?」シロメ
679: 2022/10/29(土) 14:13:15.58 ID:1LUsbeXzo
比叡「と、とにかく、みんなに喜んでいただいてるみたいで嬉しいです!」
W榛名「比叡お姉様ああああ!」ヒシッ ウワーン
比叡「榛名……! 心配かけてごめんね?」ナデナデ
W榛名「そ、そん、そんなこと……うわああああん!!」ナミダジョバー
龍驤「一応、まあるく収まったんかな?」
提督「くっそカオスだけどな」
雲龍「狂喜乱舞を通り越して阿鼻叫喚ね」カラアゲモグモグ
島妖精B「それよりこっちにも早くご飯取り分けてよー!」ピョンピョン
島妖精C「私たちも手伝ったんだからねー!」
陸奥「わかったわ、ちょっと待ってね」ヨソイヨソイ
島妖精D「からあげにはビールだが、カレーには赤ワインを合わせたい……! 悩む……!」ウーン
龍驤「キミは真っ昼間から飲むんやないよ」ツッコミ
雲龍「私はからあげにはレモンサワーがいいと思う」
陸奥「ハイボールもおしゃれだと思うけど?」
島妖精D「!! それもアリだな……!!」ジュルリ
龍驤「完全に飲兵衛の会話やないかい!」ツッコミ
680: 2022/10/29(土) 14:15:00.88 ID:1LUsbeXzo
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