682: ◆EyREdFoqVQ 2022/11/10(木) 22:21:31.33 ID:Q55X+O8qo
【艦これ×影牢】提督「鎮守府が罠だらけ?」【中編】
【艦これ×影牢】提督「鎮守府が罠だらけ?」【後編】
【艦これ×影牢】提督「鎮守府が罠だらけ?」ニコ「その2だよ」【前編】
【艦これ×影牢】提督「鎮守府が罠だらけ?」ニコ「その2だよ」【中編】
* 食事会終了 *
提督「鳳翔、ありがとな。比叡の奴もすっきりできたみたいだ」
鳳翔「いえ、私どものV提督のためでもありますので。それに以前、少尉には鎮守府そのものを助けていただきましたから」
提督「その礼はすでに受け取ってると思ったんだがな……」
提督「ああ、そうだ、そのことで卯月達には謝らなきゃいけねえ」
卯月「何の話ぴょん?」
提督「俺が島を焼いたせいで、お前たちから譲ってもらった将棋盤とか雑誌とかいろいろを、一緒に燃やしちまったんだ」
提督「せっかくの贈り物を、申し訳ない」ペコリ
卯月「……」
望月「……」
弥生「いえ、それは、しょうがない、です」
鳳翔「そうですよ、少尉たちが無事だっただけでも奇跡的だったんでしょう?」
提督「それはそれだ。あれはわざわざ買い物までしてきて、贈ってくれたものだろう?」
683: 2022/11/10(木) 22:22:21.33 ID:Q55X+O8qo
弥生「お買い物は、気分転換も兼ねてました。私たちは私たちで、お買い物が楽しかったから、別にいい、です」
鳳翔「ええ、どうかお気になさらずに」
提督「大事に使いたかったんだがな。すまない」
卯月「……」
望月「……」
弥生「ふたりとも、どうしたの」
卯月「少尉に謝られたぴょん」マガオ
望月「今夜、雹でも降るんじゃね?」マガオ
弥生「冗談はほどほどにして」
提督「お前ら俺をなんだと思ってんだ」
卯月「スーパーひねくれアイアンクロー魔神ぴょん」ユビサシ
望月「そうじゃなかったら、男になったあたしだね」ユビサシ
提督「……んん? 間違ってねえな?」クビカシゲ
弥生「そこで納得しちゃだめです」ツッコミ
684: 2022/11/10(木) 22:23:15.71 ID:Q55X+O8qo
以間宮「そんな! 駄目なんですか!?」
提督「ん?」
妙高「今の大尉の立場では難しいですね……」
N大尉「そうだな……申し出は嬉しいんだが」
鳳翔「少尉のことではなさそうですね……どうかなさったんですか?」
妙高「こちらの元以提督鎮守府の間宮さんが、N大尉のところで働きたいと仰っていたんですが……」
N大尉「俺はまだ、鎮守府を任される立場にないんだよ」
鳳翔「まあ……」
N大尉「俺はこのところずっと、あちこちの鎮守府の問題を見て回る特警もどきの任務をやってるんだ」
妙高「私と磯波さんがお目付け役です」
鳳翔「いいように使われてらっしゃるんですね……」
N大尉「ああ。俺もいい加減に大湊に帰りたいんだが、本営が俺に任せたい任務はまだまだあるらしい」
N大尉「俺みたいに自由に動けて、艦娘とも問題なくコミュニケーションが取れる人間というのがなかなかいなくて……」
N大尉「本営からは、代役も立てられないから、今の任務を継続してくれ、と」ハァ
685: 2022/11/10(木) 22:24:05.76 ID:Q55X+O8qo
N大尉「そんな状況で間宮が加わっても、間宮本来の力は発揮できないだろう? まさか行く先々で厨房を借りるわけにもいかないし」
鳳翔「それはそうですね……」
提督「……新任の礼提督に聞いてみるか。まだ間宮が着任してないなら……」
龍驤「あー、あっちはもう準備できてるらしいよ?」
提督「なに? そうなのか?」
龍驤「うん。うちら、礼提督のところにお世話になろうと思ってるんよ、そのときに聞いたんやけど」
雲龍「外の世界を見に行くのも大事だと思って。挨拶に行ったときに、そんな話をしていたわ」
提督「そうか、お前らは転籍する気になったか。それならなおのこと、龍驤たちと一緒のほうがいいかと思ったんだが……」
陸奥「じゃあ、提督のところでお世話になったらいいんじゃない?」
提督「は!? 俺のところで!?」
N大尉「……悪くないな」
提督「待て待て、何を見て言ってんだ!?」
N大尉「轟沈した艦娘と3年近く一緒にいて、その艦娘たちが原因でなにか起きたことはなかったんだろう?」
N大尉「そしてその艦娘たちからは信頼を得ている。十分すぎる実績じゃないか」
686: 2022/11/10(木) 22:24:46.07 ID:Q55X+O8qo
鳳翔「そうですね。その意味では、提督少尉は適任ですね」
陸奥「それに、私も残るんだし、四六時中提督が見てる必要はないから大丈夫よ」
提督「はあ!? 陸奥は残るのか!?」
陸奥「あら、不満?」
提督「不満とかそういう問題じゃねえよ……龍驤は転籍するんだろう? お前こそ大丈夫なのか?」
陸奥「あらあら、それこそ失礼しちゃうわ。いつまでも長門や龍驤がいないと何もできないなんて思ってる?」
提督「……いや、お前がそう言うなら、信用するし尊重もするけどよ。間宮が俺たちの鎮守府で生活できるかどうかは、また話が別だぞ」
提督「深海棲艦も一緒に暮らすんだ、問題なくやっていけるか?」
龍驤「以提督と向き合うよりは楽なんちゃうかなあ?」
妙高「ええ。深海棲艦や少尉のほうがお相手しやすいかと」
提督「どんだけ人間離れしてたんだよ、そいつ……いや、写真見たことあるし確かに人間離れした感じだけどよ」
N大尉「まあとにかく、我々が何を言おうと一番肝心なのは当人だろう。どうだ間宮、少尉のもとで働いてみる気はないか」
以間宮「は、はあ……だ、大丈夫なんでしょうか」
N大尉「環境が環境だけに気乗りはしないだろうが、艦娘にはこの上なく優しいはずだぞ?」
687: 2022/11/10(木) 22:25:30.33 ID:Q55X+O8qo
陸奥「ええ、きっと大丈夫よ。少なくとも提督から私たちに手を出すことは絶対にないし……」
陸奥「仮に手を出せるようになってたら、そこにいる大和が提督を放っておかないはずだもの」ウフフッ
大和「!?」マッカ
提督「……」
陸奥「大和以外にも提督を狙ってる艦娘、たくさんいるものね」ウフフ
提督「……あまり茶化してくれるなよ」アタマガリガリ
以間宮「陸奥さんがそこまで仰るなら……」
提督「可能であれば海軍へ復帰できるように準備しててほしいもんだが……」
鳳翔「そうなるとしたら、N大尉が鎮守府に戻れた時ですね」
N大尉「そうだなあ……それもいつになることやら」
688: 2022/11/10(木) 22:26:15.73 ID:Q55X+O8qo
卯月「ところでうーちゃん、ひとつ重大なことに気付いちゃったぴょん」
望月「ん、なに? またろくでもないこと思いついたの?」
卯月「辛辣ぴょん」
弥生「……なに?」(←心底興味なさそうな顔)
卯月「……うーちゃんたちは海域で見つけてもらったドロップ艦ぴょん?」
弥生「うん」
望月「そだねえ」
卯月「うちの初雪や磯波や潮や村雨は、建造艦だったぴょん」
弥生「うん」
望月「それがどうかし……あ」
卯月「もしかして提督の好みが建造に影響してるんじゃないかと思ったぴょん……!」
望月「……」
弥生「……」
望月「そんなわけないだろーって言いたかったけど、そーいや鳳翔さんも建造艦だよね。一緒に入渠したことあるけど、結構……」ポ
弥生「うん……ある」ポ
689: 2022/11/10(木) 22:27:00.91 ID:Q55X+O8qo
卯月「もしかして提督少尉もそうだぴょん!?」ハッ!
望月「いや、少尉に限っては、そういうのないない。絶対ない」
弥生「うん。そういうの、面倒だって言ってたし」
卯月「そういえばそうだったぴょん……大和さんは少尉が建造したから少尉が好きなのかと思ったけど、そういうわけじゃないぴょん?」
望月「うーん、どーだろ? だいたい、建造したらその人を好きになるって、あの大和さんがそんな単純でいいの?」
大和「あら、大和を呼びましたか?」
望月「あ、呼んだっていうか、なんていうか」
弥生「えっと……大和さんが、少尉を好きなのは、なんでか、って……」
大和「え? そ、それは……」ポッ
望月「あたしたちは海域で見つけてもらったんだけど、大和さんは建造艦っしょ? そこでなんか違いとかあったのかなーってさ?」
大和「うーん……」
島妖精A「なんだ、大和の建造の話か?」テクテク
卯月「そうだぴょん! 大和さんが少尉のことを大好きなのは、少尉の影響じゃないか、って考えてたぴょん」
690: 2022/11/10(木) 22:27:45.92 ID:Q55X+O8qo
島妖精A「それだったら考えられる影響はふたつだな」
大和「あるんですか?」ヨウセイヒロイアゲ
島妖精A「そういえば大和に話すのは初めてだったか。デリケートな話になるが、話してもいいか?」ヤマトノカタニノリ
大和「ええ、お願いします」コク
島妖精A「考えられる理由のひとつは、大和を建造したのが私たちだっていうところだ」
望月「え? 少尉が建造したんじゃないってこと!?」
島妖精A「ああ、そうだ」
大和「そうだったんですか……!?」
卯月「ほえ~……なんでそんなことになったんだぴょん?」
島妖精A「自分で言うのも少し恥ずかしいが、その当時、私たちは少尉に恩義というか、感謝の気持ちを持っていたんだ」
望月「へー、なんかしてもらってたの?」
島妖精A「提督が来るまで、あの島には艦娘の遺体が砂浜を埋め尽くさんばかりに漂着していたんだ」
島妖精A「人間のために戦って沈んだのに、あの島に来た人間たちは、それを見て悲鳴を上げたり目を背けたり、ひどいもんだった」
691: 2022/11/10(木) 22:28:30.69 ID:Q55X+O8qo
島妖精A「……とはいえ、あの島に連れてこられた人間が、みんな大佐に島流しにあった人間だと思えば無理もないかもしれないが」
望月「待って待って、さらっと物騒なこと言ってない!?」
卯月「あの島のことにちょっと深入りすると途端に話が重たくなるのは、何とかしてほしいぴょん……」
島妖精A「それは仕方ないだろう。実際にわたしたちが見たんだから」
島妖精A「とにかく、そのせいで私たちも人間を嫌悪していた時期がある。提督も追い出すつもりでいたくらいだ」
卯月「そんなとこに少尉が来たら、余計に悪化すると思うぴょん……」
島妖精A「それが、提督がその野晒しになっていた艦娘を埋葬したいと言ってきたんだ。あの申し出には驚いたが、それ以上に嬉しかったな」
島妖精A「それ以降も流れ着いてきた艦娘を埋葬したり、一緒に畑を作ったりしてるうちに、まあ悪い奴じゃないかもな、と思えるようになって」
島妖精A「決定的だったのは、初めてこの島に生きて流れ着いた艦娘を、提督が助けようとした時だ」
島妖精A「その一件で、設備も修理してもらったりして、鎮守府がまともに運営できるようになったっていう経緯がある」
望月「ふむふむ」
島妖精A「それまでは修理用のドックすらまともに動かなかったから、それを修繕するために鉄屑とか油とか、そういう資材を集めていたんだ」
島妖精A「ところが、それが提督のおかげで不要になって、使う機会を失った」
島妖精A「じゃあどうするか、という話になったときに、建造に使うか、ということになったんだ」
弥生「それで大和さんができたの……?」
692: 2022/11/10(木) 22:29:30.64 ID:Q55X+O8qo
望月「っつうか、妖精さんが勝手にそんなことしていいの?」
島妖精A「言われてみればそうだが……提督が許さないとは思わなかったな。私たちに対しても常々好きにしろと言っていたし」
島妖精A「提督自身は艦娘の建造をしないと公言しているが、私たちが勝手に使う分には悪いとは言っていない、と勝手に解釈したというのもある」
卯月「自由すぎるぴょん……」
島妖精A「ともあれ、そういう経緯があって私たちが、提督の力になってくれるような艦娘を期待しながら、建造ボタンを押したんだ」
島妖精A「私たちのそういう願いと祈りが込められていたのが、大和の建造時に影響したんじゃないかと思っている」
大和「……」
卯月「それじゃあ、少尉にとっては大和さんはサプライズだったぴょん?」
島妖精A「そういうことになるな。それからふたつ目の理由は、その大和の建造に使った資材だな」
島妖精A「大和の建造に使ったのは、轟沈して流れ着いた艦娘の壊れた艤装のかけらや、燃料、弾薬を回収して集めた資材なんだ」
弥生「轟沈艦の……!?」
望月「埋葬してもらった艦娘の艤装かあ……」
島妖精A「大和が提督に夢中なのも、そういう私たちの思いと、轟沈してから弔ってくれた艦娘たちの思いが載ったんだろうと思っていた」
大和「……」
693: 2022/11/10(木) 22:30:16.17 ID:Q55X+O8qo
望月「ってことは、妖精さんの気持ちや境遇も建造される艦娘に影響するってことなのかな?」
島妖精A「可能性としてはあるかもしれない。ただ、ここまで喋っておいて今更だが……」
島妖精A「大和の提督への好意が最初から作られたものだとは思いたくないな」
望月「え?」
島妖精A「大和には最初から提督が必要だった。わたしはそれでいいと思う」
大和「……!」
島妖精A「提督自身の生い立ちも考えると、運命……というより因果と呼んだほうがいいな。ここに来るまでにいろんなことがあったはずだ」
島妖精A「それを乗り越えてきて邂逅したんだ。そういう出逢いがあったっていいと思う」
卯月「急にのろけ話っぽくなったぴょん……」
島妖精G「昔のAちゃんなら考えられない、ロマンチシズム溢れるセリフだねえ? いちばん提督にキツく当たってたのに」ヒョコッ
島妖精A「ふん、昔は昔だ。冷やかすな」プイ
島妖精H「でもまあ、Aちゃんの話にはわたしも賛成かな~」ヒョコッ
島妖精A「ああ。私たちも直接、大和に、提督を好きになれ、と言ったこともないわけだからな。それに……」
望月「それに?」
694: 2022/11/10(木) 22:32:31.04 ID:Q55X+O8qo
島妖精A「そういう影響も考えられるというだけで、一番なのは、純粋に提督が大和の好みだっただけなんだと思うが?」
大和「ほえっ!?」カァッ
卯月「ほ~ぅ……そう思う理由はなんだぴょん?」
島妖精G「提督の写真を見せた瞬間、大和の主砲が最大仰角になってたんだよね」
島妖精G「自分で抑えきれないくらいテンションが上がったんだと思うよ?」
大和「ちょっ」マッカ
島妖精A「まあ、昔はどうあれ今も提督のことが好きなんだし、昔がどうだったかなんてのは些末なことだ」
島妖精G「それもそうだねえ」
卯月「大和さんと提督の話、もっと聞かせるぴょん!」
望月「そういう誘い受けは関心できないなあ?」
島妖精A「それなら大和から直接聞いたほうが早いだろう? 本人が一番わかっているはずだからな」
卯月「それもそうだぴょん」クルリ
望月「さあさあ、少尉とどんな恥ずかしいことをしたのかなあ?」ニチャア…
大和「ちょっ!?」ミミマデマッカ
弥生「……」アタマオサエ
695: 2022/11/10(木) 22:33:15.76 ID:Q55X+O8qo
卯月「なるほど……建造時に妖精さんが影響している説のほうが説得力あるぴょん……はっ!? ということは!!」
望月「なんだあ?」
弥生「?」
卯月「うーちゃんたちの鎮守府の工廠に、おっOい大好きな妖精さんがいるぴょん!?」
望月「」
弥生「」
大和「」
島妖精G「あー、うん、まあ、そうねえ……」
島妖精A「……いったい何の話だ?」
島妖精H「さあ?」
696: 2022/11/10(木) 22:34:00.68 ID:Q55X+O8qo
*
W大佐「そうだ。少尉、せっかくなのでこの場で聞いておきたい」
提督「なんだ?」
W大佐「君は、深海棲艦の目的を知っているか?」
提督「目的……目的、ねえ……改めて聞かれると、俺も知らねえな?」
W大佐「知らないのか?」
提督「あいつらには俺の目的を伝えて、それで協力してもらおう、って頭だったからな。あいつら自身の戦う理由は聞いてなかったな……」
W大佐「……もし、深海棲艦の目的が世界中の海を支配することであれば、我々は退くわけにはいかない」
W大佐「その足掛かりにされるような拠点を作られるのは、正直に言えば望ましくないことだ」
W大佐「これはあくまで私自身の個人的な感想だが……」
W大佐「たとえあの島の海域だけでも深海棲艦に引き渡すことにしたのは、間違いだと思っている」
W大佐「人類は、過剰に……必要以上に深海棲艦に譲歩しすぎたと思っている」
提督「……」
W大佐「悪く思わないでくれ。だが、おそらく世界中のトップは、深海棲艦に領土を作られたことを面白くないと思っているはずだ」
提督「まあ、言いたいことはわからなくもねえよ。深海棲艦と言えば、民間人も見境なく襲っていた異形の化け物どもだからな」
提督「いくら話ができるようになるとはいえ、知らないものに恐怖を抱くのは至極当然のことだろうさ」
697: 2022/11/10(木) 22:34:45.86 ID:Q55X+O8qo
W大佐「……君が深海棲艦の目的を知らないのに、楽観視しているのはなぜだ?」
提督「別に楽観視してるつもりはないが……俺たちが望んでいるのは、俺たちが平穏と安寧を得られる居場所であって、戦争じゃない」
提督「泊地棲姫にも専守防衛を頼んで、わかったと言ってもらえたしな。それ以上あいつらに踏み込んでないだけだ」
W大佐「……では、彼女たちは外海へ出て他を脅かすつもりはないと?」
提督「その認識でいいはずだ。俺としてもそんなことをさせる気はない」
提督「とりあえず今は島の整備もしてくれてるし、今の俺たちにはありがたい存在だ」
W大佐「……」
提督「……まだ何かあんのか?」
W大佐「これは、君に言っても仕方のないことなのかもしれないが……君はすべての深海棲艦と友好関係にあるわけではないんだな?」
提督「そうだな。俺に協力してくれているのは、いまのところ泊地棲姫の勢力だけだ。他にどんな連中がいるのかすらわかってねえ」
W大佐「……では、深海棲艦からの侵略行為は、一部は収まっても、これからも止まることはない、という認識でいいだろうか?」
提督「それでいいだろうな。少なくとも、俺の知らない連中の暴走を止めろと言われても、止めようがねえ」
W大佐「ふむ……それなら、間違ってはいないか」
提督「……?」
W大佐「先の話し合いで、君はあの島を深海棲艦が強奪したことにすればいいと言っていたそうだが」
W大佐「私は、話し合いで君たちに割譲したことにしたほうが良い、と、H大将閣下に具申させてもらった」
698: 2022/11/10(木) 22:35:33.43 ID:Q55X+O8qo
W大佐「もし仮に深海棲艦が強奪したことにしてしまうと、深海棲艦が人間から領土を強奪できた事実ができてしまう」
W大佐「そうなった場合、他の深海勢力も、我も我もと人間の領土に押し入り、深海棲艦との戦闘が激化することは容易に予想できる」
W大佐「それよりは、我々が泊地棲姫との停戦を認め、一時的にでも割譲したことにしたほうが深海棲艦の姿勢も変わるのではないかと考えた」
提督「なるほど、そういうことか……」
W大佐「戦わずに済む前例ができれば、それに従う他の深海棲艦が現れる希望も持てる」
W大佐「ただ、それを望まない深海棲艦もいるだろう。人間に極端な憎悪を持ち、復讐と滅亡を誓う者もいるはずだ」
提督「俺にそれを止めろと?」
W大佐「……仮に止めろと言われたら、できるか?」
提督「おそらく、できねえな。俺としても、それがそいつの望みなら立場的には見送るしかねえ」
W大佐「であれば、いまの話と逆に、深海棲艦に並々ならない憎悪を持つ者がいても、それを否定しないな?」
提督「……」
W大佐「君の話を聞いて私が気になったのは、君が艦娘と戦えるか、という点だ」
提督「あぁ……艦娘とだと!?」
W大佐「全ての深海棲艦を忌み嫌い、排斥を望む提督と、それに賛同する艦娘にとっては、深海棲艦との和睦を訴える派閥は裏切者でしかない」
W大佐「H大将閣下の配下には、君が会食前に指摘した通り、深海棲艦の殲滅を望む提督たちがいて、今回の対話に少なからず異を唱えている」
699: 2022/11/10(木) 22:36:31.08 ID:Q55X+O8qo
W大佐「これから海軍を離脱し、深海棲艦と一緒に暮らそうという君もまた、排除されるべき敵と認識されるはずだ」
W大佐「これまで艦娘を救うことに尽力してきたという君が、そういう強硬派、過激派と言える艦娘と躊躇せず戦えるのか」
W大佐「その覚悟があるのかを、確かめておきたかった」
提督「……なるほど。そいつは想定外だった」
提督「深海棲艦を無条件で敵視する艦娘か……まあ、いるんだろうな。何言っても聞く耳持たねえ困った奴が」ハァ…
W大佐「それからもうひとつ」
W大佐「海軍は、これまで発生した深海勢力を、どのようなかたちであれ、いずれも邀撃し、殲滅してきた。それこそ、どんな犠牲を払ってでもだ」
W大佐「これまでそうしてひたすら血を流して正義を示してきた者たちにとっても、君のやり方を素直に受け入れられない者がいるだろう」
提督「……まあ、和解できるんなら最初からそうしろ、って、言われそうではあるな……」
W大佐「最悪、同じ台詞を深海棲艦からも浴びせられるかもしれないな」
提督「ありえるな……面倒臭え……」ゲンナリ
W大佐「深海棲艦を討ち滅ぼすために、我々人間は多くの犠牲を出してきた。人間にも、艦娘にも」
W大佐「その犠牲になった艦娘たちを弔い、救ってきた君が彼らの標的になるのが納得いかないとは思ってはいるのだが……」
W大佐「君には、そういう悩める者たちがいることを、どうか覚えておいてほしい」
提督「……ああ」コク
703: 2022/12/11(日) 22:33:18.77 ID:zj9ZaBPqo
* 1週間後 *
* 墓場島 新埠頭 *
長門「前に来た時より工事が進んでいるな」
利根「ほうほう、これが新しい港か……確かに間取り的には見覚えのある光景じゃな」
筑摩「深海っぽい素材の建物なんですね。普通の人が来たら驚くでしょうね」
神通「ここで、深海棲艦との交渉が始められるんですね……」
提督「実際に交渉の舞台になる建物は別に用意する予定だ。こっちは今までと同じく、俺たちが執務するスペースだ」
陸奥「奥へ行くと居住区ね」
龍驤「なんか、昔より広く見えるなあ?」
提督「おう、実際に広いぞ。深海の連中には体が大きい奴もいるからな」
雲龍「……ねえ、提督? ほら、あそこ。メディウムの子がいるわ」
提督「うん? ……ありゃ、ニコか?」
*
ニコ「ああ、来た来た。待ってたよ、魔神様」
提督「よう。ニコはなんでここにいるんだ? 今日から海軍の人間が入るから、離れ小島に避難する手筈だったよな?」
ニコ「お知らせがあるんだ。魔神様に何人かお客様が来ているよ」
提督「俺にか?」
ニコ「うん。魔神様もここに来るだろうから、待ってたんだ」
提督「長門、悪いがこの場は任せていいか? 俺たちはニコと一緒に行ってみる」
704: 2022/12/11(日) 22:34:03.02 ID:zj9ZaBPqo
* 墓場島 北の離れ小島(ル級の塒) *
ル級「アラ、来タノネ」
メリンダ「お待ちしておりました、ご主人様」
提督「よう、俺に客だって?」
ル級「ソウヨ。アナタニ会ワセロ、ッテ」
??「やーせーんーーー! 早く夜戦させてよーーー!!」
提督「!?」
神通「あの声は……川内姉さん!?」
??→川内?「もー! やっと体ができたのに、なんで鎮守府がなくなっちゃってるのさ!!」
??「少しは落ち着かぬか。おぬしは過去に提督たちに迷惑をかけているのだぞ」
筑摩「……利根姉さん!?」
利根「吾輩じゃと!?」
??→利根?「おお、利根と筑摩が来たのか! たまたまかもしれぬが、これもまた巡り合わせじゃな!」ニコニコ
705: 2022/12/11(日) 22:34:48.88 ID:zj9ZaBPqo
提督「あとの二人は初めて見る顔……いや、お前は確か……」
メリンダ「ご紹介いたします。こちらは早霜様」
早霜「……」ペコリ
ル級「コッチハ集積地棲姫ネ」
集積地棲姫「……オ前ガ提督カ。私タチトノ、交渉場所ヲ作ッタトカイウ……」ジロリ
提督「……」
神通「姫級……!」
龍驤「大物やないか……!」
川内?「そんなことより夜戦ーーー!!」
提督「ああもう、うるせえなこいつ!」
雲龍「提督」
提督「ん?」
雲龍「このふたり、なんとなくだけど、気配に覚えがあるわ。もしかしたら、あの島で出会った幽霊かも」
提督「幽霊? おい、まさか……こいつ、うちの川内になり替わろうとしてたあいつか!?」
神通「川内姉さんに取り憑いていた、あの……!?」
幽霊だった川内(以下、幽川内)「なんだよぅ、いまの私は幽霊じゃないよ!」
706: 2022/12/11(日) 22:35:33.63 ID:zj9ZaBPqo
幽川内「ちゃんと体だって元通り……ってわけじゃないけど、新しくできたんだから!」
利根「それではこちらのもう一人の吾輩は……!」
筑摩「利根姉さんに憑依していた、あの利根姉さんですか!?」
利根?→幽利根「うむ。長らく、そこの利根の背後でおぬしたちを見守ってきたのが、この吾輩である!」
幽利根「火山の噴火から難を逃れた提督たちの無事を見届け、ひとまず安心しておったわけじゃが……」
幽利根「何の因果か、こうやってまた再び艦娘として生まれ変われたわけじゃ!」
提督「これはあれか? 時雨と同じように、ドロップ艦として体を得たってことか?」
ル級「多分ソウイウコトジャナイカシラ。私モ見タワケジャナイケド」
幽川内「とにかく、提督が来てくれたってことは、私が夜戦してもいいってことだよね!?」
提督「その前に、こっちの川内に詫びを入れてからにしろ」
幽川内「えー?」
幽利根「えー、ではない。艦隊に加わる以上、手続きと挨拶は忘れてはならん。さもなくば……」
神通「……」ギラッ
幽利根「そこに控えておる神通が容赦せんだろうよ」
幽川内「うー……」タラリ
707: 2022/12/11(日) 22:36:18.17 ID:zj9ZaBPqo
提督「それから、新しくできる鎮守府の近海は戦闘禁止海域として条約を結ぶつもりだ」
提督「夜に限らず、演習を除く戦闘行為は余所に行ってやってもらうからな?」
幽川内「ええええ!? せっかく夜戦できると思ったのに~……!」ガックリ
提督「お前は戦闘狂かよ……面倒臭い奴が入ってきたな」
幽利根「提督よ、そこのベアトラップのメディウムにも礼を言うと良い。川内を身を挺して足止めしてくれていたからな」
提督「そうか、メリンダありがとな」
メリンダ「ああ……」ウットリ
提督「ん? どうした?」
メリンダ「ご主人様直々にお褒めの言葉をいただけるなんて……身に余る光栄です……!」キラキラキラッ
メリンダ「わたくし、これからもこのベアトラ君と一緒に足止めいたします……!」ガシッ!
幽川内「へっ!? なんで私の脚を掴んでんの!? ちょっと離してよ!?」
提督「……」アタマオサエ
幽利根「それより提督よ、吾輩もお主の艦隊に参加させてもらいたいのだが」
提督「ん? あ、ああ、それがお前の望みなら……」
利根「歓迎しよう! お主のおかげで提督もあの島から救い出せたわけじゃからな!」
708: 2022/12/11(日) 22:37:03.09 ID:zj9ZaBPqo
提督「そうなのか?」
筑摩「そうなんです! 利根姉さんから、こちらの利根姉さんが分離して、幽霊の力で溶岩を堰き止めてくれたんです!」
提督「幽霊の力? ……言い方はアレだが、怪奇現象を起こしたってことか?」
幽利根「まあ、やったこととしてはそれに近いかの?」
提督「ということは、俺だけじゃなく、俺たち全員を助けてくれたってことか」
幽利根「良い良い。吾輩だけの力ではないのだからな」
幽川内「それ、私も参加したんだからね!?」
幽利根「まあ、それを言ってしまえば、あの島に埋葬された艦娘は、女神妖精の力に応じてみな協力したんじゃ。こちらの早霜も同じである」
提督「ああ……早霜は見覚えがあるからな。結構早い時期に流れ着いてきたよな、お前」
早霜「フフフ……覚えているのね、司令官」ニタァ
早霜「……あなたが、私をだしにしたことも……フフフ」
ニコ「だし? 魔神様は一体彼女に何をしたの?」
提督「ずいぶん昔、島に来た余所の提督に、あの島が轟沈した艦娘が流れ着いてくる島だってことを説明したんだが……」
提督「丁度その時に砂浜に流れ着いて、引き上げた艦娘がこいつだったんだよ」
提督「おかげでそいつは慌てて手前の意見を翻したわけだが、だしに使った、ってのはそのときの話だな」
709: 2022/12/11(日) 22:37:48.20 ID:zj9ZaBPqo
ニコ「ふーん、その時はもう氏んでいたの?」
早霜「そうよ……あんな、あられもない姿を、他の人に見せてしまったの……氏んでいたけれど、氏にきれないわ……!」
早霜「だから、あなたには……司令官には、責任を取ってもらうしかないの。ウフフフ……」ニマァ…
提督「……」
神通「また面倒臭い艦娘が現れたな、と、思ってらっしゃいますか」
利根「提督でなくてもそう思うじゃろうなあ」
提督「そういやお前がなんで沈んだのかは調べてなかったな。何が原因だ? 捨て艦か?」
早霜「……ただの……ただの、指示ミスよ」ウツムキ
早霜「徹夜続きの司令官が……進軍の指示を間違えただけ……」
提督「……」
早霜「でも、いまとなってはどうでもいいわ、そんなこと……あなたは……司令官は、そんなことしないんでしょう?」
提督「まあ、俺は大破したら無理せず引き返せとしか言わねえな。そもそもこれから深海の連中と事を構えようってこともねえだろうし……」
早霜「フフッ……いいわ。戦う必要がないのなら、それでもいい……それならそれで、ずっと、司令官を見ていられるんだから……」ニマァ…
提督「……」
メリンダ「こちらのお嬢様も、私が足止めしましょうか」
提督「……必要に応じてな」アタマオサエ
710: 2022/12/11(日) 22:38:33.05 ID:zj9ZaBPqo
提督「で、だ。こっちは初対面の姫級か……」
神通「はい……!」
集積地棲姫「……」
提督「とにかく用件を聞こうじゃねえか、まずは言いたいことを言ってくれ」
集積地棲姫「イインダナ……?」
提督「俺にできることに限りはあるが、俺にできることなら考えてやるよ」
集積地棲姫「……」
ル級「ワザワザココニ来ルクライナンダカラ、躊躇セズニ話セバイイノヨ」
集積地棲姫「……ワカッタ、単刀直入ニ言ウ」
提督「……」
集積地棲姫「助ケテクレ」
提督「ん? 助けて?」
集積地棲姫「ソウダ。毎度毎度オ前タチ艦娘ニ、私ガ集メタ資材ヲ、コトアルゴトニ燃ヤサレテ……!」ワナワナ
集積地棲姫「モウ嫌ナンダ! コレ以上、集メタ資材ヲ燃ヤサレルノハ!」ウワーン!
筑摩「……泣き出しましたよ」
利根「かつてのル級を思い出すのう……」
ル級「アノ時ハ、ソウダッタワネェ」フフッ
711: 2022/12/11(日) 22:39:47.96 ID:zj9ZaBPqo
集積地棲姫「オ前! 人間側ノ交渉役ダロウ! コレ以上、私ヲ狙ウノヲヤメロト、アイツラニ伝エテコイ!」
ニコ「伝えてこい? 魔神様に向かって随分と偉そうだね」ギロッ
集積地棲姫「!?」ビクッ
提督「落ち着けニコ。それより、こいつが狙われる理由はなんだ?」
ル級「集積地棲姫ハ、文字通リ深海棲艦ガ使ウ資材ヲ集メテルノヨ」
ル級「集積地棲姫ガ集メタ資材ヲ、他ノ姫級艦隊ガ使ッテルカラ、毎回狙ワレテ派手ニ燃ヤサレテルノ。景気ヅケモ兼ネテネ」
提督「ああ……んじゃどうしようもねえな。可哀想だが、戦術的には確かに初手で潰しとくべき相手だよなあ」
集積地棲姫「私ハ資材ヲ集メテルダケダゾ!? 別ニオ前ラヲ攻撃スル気ハナインダ!」
筑摩「言いたいことはわかりますけど、その理屈は海軍には通用しないでしょうね……結果として他の姫級に資材を供給していたのでは」
利根「うむ、戦況がどう転ぶかわからん以上、放っておいてよい相手ではないな」
提督「資材集めをやめる気はないのか?」
集積地棲姫「何カアッタトキニ頼レルノハ兵站ダロウ? 生キ延ビルタメニハ欠カセナイシ、イザトイウトキノ取引ノ材料ニモナル」
集積地棲姫「デキレバ私ハ危険ナ海ナンカニ出ナイデ、穏ヤカニ過ゴシタインダ。私ハ戦イタクナイ。ソノタメノ自給自足ダ……!」
提督「あー……」
利根「なんじゃ提督め、滅茶苦茶共感しておるな」
712: 2022/12/11(日) 22:40:32.85 ID:zj9ZaBPqo
陸奥「穏やかに過ごしたいというのは、提督としても望むところだものね」
提督「ああ。ということは、集積地棲姫を島に滞在させりゃいいだけだな。島の海域は戦闘禁止にするつもりなんだし」
ル級「フーン、集積地棲姫モ、オ前ト一緒ニ住マワセルノ?」
集積地棲姫「ナッ!?」
提督「俺と一緒じゃなくてもいいだろ。どこに住むかは自由だが、今は島内どこも溶岩で岩だらけになってるからな。新しく居住区でも作るか?」
集積地棲姫「……ビックリシタ……イキナリコノ男ト一緒ニ住ムコトニナルノカト思ッタゾ」
陸奥「話を飛躍させすぎよ。なんでいきなり提督と一緒に住むことになるのよ」
集積地棲姫「泊地棲姫ト軽巡棲姫ハ、提督ト一緒ニイルツモリダッタゾ。寝食ヲ共ニスルンダトカ言ッテ」
陸奥「……」アタマオサエ
提督「……」アタマオサエ
ニコ「勝手な真似はさせないよ」
メリンダ「足止めはお任せください」キラキラキラッ
幽川内「もー! そんなことより夜せ」
ヒュッ トンッ
幽川内「はうっ」クラッ
神通「当身です。こちらに寝せておきますね」
提督「おう」
713: 2022/12/11(日) 22:41:18.33 ID:zj9ZaBPqo
集積地棲姫「……味方同士ノハズナノニ、容赦ナイナ……」ゾッ…
提督「いや、さすがにありゃ聞く耳持たないって感じだったからな。こうやって話が通じるなら手を出さねえし出させもしねえよ」
提督「とりあえずだ、俺たちの住む島はまだ開発途中なんだ。お前が住みたい場所だけでもいいから、整地を手伝ってもらえると助かる」
集積地棲姫「……ソレデ、私ノ安全ヲ保障シテクレルノカ?」
提督「そうだな。お前が島の中で暴れない限りは保障しよう」
集積地棲姫「……ソウカ」
提督「ただまあ、完全に独立国家みたいなもんだからな。どうしても俺ができることには限度がある」
提督「平和ボケする気はないが、外から攻め込まれて、いろいろやばくなったら手伝ってほしい」
集積地棲姫「ソノ時ハ、ソレコソ、資材面デノバックアップシカ、デキナイガ……」
提督「それでいい。それで撤退できるまでの時間を稼げれば、逃がすくらいはなんとかするさ」
ニコ「……」
メリンダ「ニコ様?」
ニコ「ぼくは、逃げたくないな。やっと魔神様と一緒に暮らせる場所が手に入るんだ、人間どもに簡単に譲ってやる気はないよ」
提督「俺だって、やっと手に入れた自分の居場所だ。そうそう手放す気はねえよ」
提督「ただ、物量って意味じゃあ海軍のほうがずっと有利だからな。島そのものに固執してお前らを失ったら話にならねえ」
714: 2022/12/11(日) 22:42:03.37 ID:zj9ZaBPqo
提督「ま、逃げる前になんとかして迎え撃つさ。迎え撃って、メディウムたちの餌にしてやるぜ」
ニコ「……!」
陸奥「提督もニコちゃんも、あんまり無理しちゃ駄目よ? お姉さん、心配なんだから」
ニコ「魔神様のお姉ちゃんはぼくだよ?」ムスッ
陸奥「はいはい、ムキにならないの」ウフフ
龍驤「なあなあ、できれば島に攻め込まれんように、うちらも動かなあかんかな?」
雲龍「そうね。礼提督の下でどのくらい動けるかはわからないけど」
神通「私も、F提督へ具申いたします」
筑摩「X中佐へも展開したほうが良さそうですね」
利根「そうじゃな……さて、吾輩はどうするかな。身の振り方もいよいよ決断せねばならん」
幽利根「身の振り方とは、どういう意味じゃ?」
利根「うむ……実は、かつて神通が慕っていた、謀殺されたと思われていたF提督が生きておったのじゃ」
利根「今回の騒動を機に、神通はF提督のもとへ戻ることになったんじゃが、筑摩から吾輩たちも一緒に行ってはどうかと提案されての……」
幽利根「なるほど、神通と筑摩と一緒に行きたいが、提督とのイチャイチャも捨てがたいと」
利根「ほぎゃあァあ!?」セキメン
神通「」
715: 2022/12/11(日) 22:42:48.18 ID:zj9ZaBPqo
幽利根「そういえば、おぬしは女性から男性に迫るタイプの純愛物の春画本ばかり好んで読み漁っておったからのう」
利根「ふぎゃあァァァア!?」セキメン
筑摩「」
幽利根「そのようなシチュエーションを夢見ていたとしたら、提督とそういうことができなくなるのも面白くなかろうな」
利根「ちょっ、待っ、ききき貴様何を口走っとるかああ!!?」クチフサギ
幽利根「もがっ!? な、なにをする! 提督に懸想しておったのは事実であろう!」フリホドキ
利根「よりによって本人の前で暴露する奴がおるか馬鹿者ぉおお!!」カオマッカ
雲龍「……利根も提督を狙ってたの?」
幽利根「狙っておったというかスキンシップに目覚めたといいうか……ぐえっ!?」
利根「余計なことは言わんでいい!!」ノドワ
神通「と、利根さん……あの、その……」
利根「神通も無理にフォローしようとせんで良い! 吾輩自身、自分に都合よく動いていることくらい自覚しておる!」ナミダメ
龍驤「利根は迫られるのが苦手やったんちゃうんか」
利根「う、うむ、苦手ではある……が、なんじゃ、提督は吾輩が何をしても態度を変えんのでな……」ポ
716: 2022/12/11(日) 22:43:33.84 ID:zj9ZaBPqo
利根「吾輩の事情をよく知ってくれておったし、なにより提督ならじゃれつく程度なら絶対大丈夫じゃろうと……」
全員「「あー……」」
集積地棲姫「提督マデ納得スルノカ……」
陸奥「提督って、いくらくっつこうが誘惑しようが、絶対に靡かないし手を出してこない鋼の意思と精神力の持主なの」
陸奥「だから利根も、決して反撃してこない提督だからこそ安心して無防備になったんじゃないの?」
筑摩「どうしてそれを私に向けてくれなかったんですか!?」
幽利根「それは、筑摩には姉として立派な姿を見せたかったんじゃ。神通に対してもそうである」
利根「それに、筑摩がまた暴走しても……わざわざ寝た子を起こすような真似をしたくないしのう」
ニコ「だからって魔神様に行くのはどうかと思うけど?」ジロリ
幽利根「提督にはそういう思いを抱くより前から、火傷の具合を見てもらったりしていたからの。信頼しておったんじゃ」
筑摩「ということは、見たんですか。私も見ていない、姉さんの身体を」ヌラリ
提督「ああ。利根がこの島に来た時に、自分で脱いで俺に見せた」
利根「筑摩、それについては提督を咎めてはならん。あの時の吾輩は自暴自棄であったし……」
利根「そもそも、その傷は筑摩には絶対に見せたくなかったのでな。吾輩の意地というか……筑摩に泣かれたくなかったというか」
筑摩「利根姉さん……」
717: 2022/12/11(日) 22:44:17.99 ID:zj9ZaBPqo
神通「あの、体の傷と言うのは……?」
利根「吾輩があの鎮守府に来る前に、拷問に近いことをされていたことは神通も知っておると思うが……その時に」スカートマクリ
神通「キャアアアア!?」カオマッカ
筑摩「キャアアアア!?」ハナヂブパァ
利根「こう、股間から下っ腹にかけて、大きな火傷を……って、鼻血を出してどうしたんじゃ筑摩!?」
龍驤「ちょっ、なんでパンツ履いておらんの!?」セキメン
雲龍「大胆」ポ
利根「む? 吾輩はこのほうが快適なんじゃが」
集積地棲姫「艦娘ッテ、パンツヲ履カナイノカ?」アッケ
提督「いや、履かないのは利根だけだ」
幽利根「吾輩は履いておる!」
提督「訂正。履かないのはあの利根だけだ」シレッ
ニコ「あんなことがあったのに、なんでまだ履いてないの……」アタマオサエ
メリンダ「アーマーブレイクしたら丸見えになってしまいます……」アワワワ…
718: 2022/12/11(日) 22:45:04.04 ID:zj9ZaBPqo
提督「確か……履かないようになったのは、火傷の部分に布が被らないようにしたかった、って話だったと思うが」
ル級「ナニソレ……」
提督「傷を空気にさらすと治りが早くなるとかいう、民間療法か迷信みたいなもんだ。で、それがたまたま利根には快適だったんだとよ」
早霜「私も脱ぎましょうか」
提督「脱がんでいい。つうかわざわざ俺に断るな」アタマオサエ
早霜「そう……断らなくていいのね。フフフ……」
提督「……」
利根「そ、それより筑摩は大丈夫か? いきなり鼻血を吹くなどびっくりしたぞ」
筑摩「え、ええ、大丈夫です利根姉さん」ティッシュツメツメ
幽利根「おぬしに遠慮してずっとお預けを食らっていた反動じゃろうが。どれほど筑摩に我慢を強いていたと思っておるんじゃ」
幽利根「どれ、この期に及んで悩んでおる、おぬしに筑摩は任せておれん。吾輩が筑摩とともに神通の鎮守府に赴こうではないか」
神通「え……!?」
筑摩「ええっ!?」
利根「なんじゃと!?」
719: 2022/12/11(日) 22:45:50.48 ID:zj9ZaBPqo
幽利根「筑摩は吾輩が可愛がってやろうというのじゃ。筑摩も、かつては吾輩の名を囁きながら夜な夜な自らを慰め」
筑摩「キャアアアア!?」クチフサギ
幽利根「もがーー!?」クチフサガレ
ニコ「……慰めるって……」セキメン
メリンダ「はい、そういうことだと思いますが」
神通「……いえ、あの……」ミミマデマッカ
ル級「サスガニ解説サレルト……ネェ?」ポ
提督「……」ズツウ
利根「ちくま……」セキメン
幽利根「何をする筑摩! おぬしはずっと王子様からのキスを待ちわびておったのだろう!?」
筑摩「そ、それは、その……そうですけど」ミミマデマッカ
陸奥「王子様ってもしかして……」チラッ
利根「わ、吾輩のことか……!?」
提督「そういや利根との初対面の時に、お前、顔中キスまみれにされたんだっけか?」
利根「そ、そういえばそんなこともあったが……」
720: 2022/12/11(日) 22:46:34.06 ID:zj9ZaBPqo
幽利根「トラウマを抱えたおぬしには荷が重かろう。筑摩を悦ばせるのは吾輩に任せて、おぬしは指を咥えて見ておるがいい」
筑摩「!?」(←幽利根から顎に手を添えられ)
利根「ええい、貴様は勝手な真似をするでない!!」ガシッ!
筑摩「と、利根姉さん!?」
利根「貴様のような色情狂に、可愛い妹を任せておけるか!!」チクマダキシメ
筑摩(と、利根姉さんに、抱きしめられてる!?)
幽利根「何を言うか! おぬしが一向に手を出さんから、吾輩がその役目を担ってやろうと言っておるのじゃ!」チクマノウシロカラダキツキ
筑摩「ほえっ!?」
幽利根「おぬしは堅物の提督と乳繰り合っておるのがお似合いじゃ! 二股をかける気か!?」
利根「二股などではない! 筑摩におぬしのような悪い虫が近づくのが許せぬだけである!」
筑摩(と、と、利根姉さんふたりに抱き着かれてる!?)オメメグルグル
雲龍「そろそろ止めないと、筑摩が大変なことになりそう」
龍驤「へ?」
721: 2022/12/11(日) 22:47:18.11 ID:zj9ZaBPqo
筑摩「……と……利根姉さ……」
利根「む? 筑摩、どうしたん……」
筑摩「んどぉ!!」ハナヂブパァ!!
幽利根「おわあ!?」
筑摩「し、しや……わ、ぁへぇ……」ヘナヘナヘナ…
利根&幽利根「「ちくまああああ!?」」
神通「」シロメ
提督「……」アタマカカエ
ニコ「……」アタマカカエ
陸奥「……」アタマカカエ
雲龍「感極まったのね」
龍驤「いくら何でもドン引きやわぁ……」
集積地棲姫「アノ艦娘ハ随分ウブナンダナ?」
メリンダ「ウブと申しますか、艦娘の皆様は、いずれも身の固い方が殆どのようです」
集積地棲姫「ソウナノカ? 世ノ中ノ艦娘ハ、ミンナ提督ト、ヤルコトヤッテルト思ッテタンダガ」
龍驤「それまた極端やな!? どっからそんな話になったん!?」
722: 2022/12/11(日) 22:48:03.63 ID:zj9ZaBPqo
集積地棲姫「オ前タチハソウデモナイヨウダガ、私ニ向カッテクル艦娘ハ、ミンナ指輪ヲシテイタ。ソウイウ意味ジャナイノカ」
龍驤「指輪? あぁー……カッコカリの指輪かいな」
メリンダ「かっこかりの指輪? それはどういったものですか?」
龍驤「ざっくり言うと、艦娘のリミッターの解除装置やね」
龍驤「提督との信頼関係が深まった艦娘に限定して、艦娘の能力の上限を上げるんやけど、その信頼を結婚に見立ててるんや」
集積地棲姫「ソレデ『カッコカリ』ナノカ」
雲龍「正式には『ケッコンカッコカリ』の指輪ね」
龍驤「まあ、結婚をモチーフにしてるわけやし、確かにヤってるかヤってないかってトコはうちらも知らんけどな」
龍驤「そういう間柄となるまでの信頼を得たからこそのリミッター解除の儀式っちゅうわけや」
メリンダ「ということは、集積地棲姫様は、能力の上限を解放した艦娘ばかりに狙われていた、ということですか」
集積地棲姫「不幸ダ……」ガックリ
提督「とりあえず、集積地棲姫も島に来い。今は工事中だが、その後ならひとまず保護はするからよ」
集積地棲姫「アア……ヨロシク頼ム」
723: 2022/12/11(日) 22:48:48.20 ID:zj9ZaBPqo
提督「後は……」
陸奥「川内ならまだ伸びてるわよ?」
幽川内「」キゼツチュウ
提督「まあ、こいつはうちじゃなくて、余所の鎮守府に行ったほうが幸せな気がするな?」
ル級「防衛以外デ戦ワナイナラ、ソノ方ガイイワネ」
提督「早霜はどうする? 島に残ることにしていいのか?」
早霜「ええ、それで……そのほうがいいわ」
提督「わかった。あとは利根は……」
利根「ちくまああ! しっかりするんじゃああ!!」
幽利根「よし、ここは吾輩の王子様のキッスで目覚めさせてや……」
利根「貴様は少し自重せんかあああ!」チョークスリーパー
幽利根「ぐえっ!? ちょ、ちょっ……」タップタップ
提督「……あとにすっか」
神通「」シロメ
雲龍「神通が戻ってきてないんだけど」
龍驤「信頼してた利根があの有様やからなあ」
ル級「オモシロクナリソウネエ」フフッ
集積地棲姫「私ハ不安デシカナインダガ……」
727: 2023/01/12(木) 00:58:00.80 ID:EDiAZ58Ro
* 数日後 *
* 墓場島沖 医療船内 提督の個室 *
摩耶「利根が増えたって?」
霧島「それは好都合かもしれませんね」
提督「好都合? なんだそりゃ」
霧島「私たちは、かつての僚艦である三日月たちに会うため、リンガ泊地へ行って参りました」
霧島「そこで伺った話によれば、その鎮守府の提督である知大尉が、一度きりではありますが司令と面識がおありだと」
提督「リンガ泊地……?」
霧島「覚えておいでではありませんか? 確か、その鎮守府からは利根が移ってきたと……」
提督「ああ、あれか! あの利根の第二改装済みの奴が秘書艦だった、あの鎮守府!」
提督「確かあそこの鎮守府のあるじだった……なんだっけ、なんとか准将は自頃したんだったよな?」
霧島「はい、M准将ですね。その後釜を、M准将のもとで働いていた知大尉が引き継いだんだそうです」
摩耶「そこの鎮守府、城塞鎮守府っつうんだけど、なんでもあちこちの鎮守府から演習場として活用されてるんだと」
摩耶「人の入れ替わりも激しいらしくて、たまたまそこでそれなりに長く勤務してた知大尉が運営を引き継ぐことになったんだってよ」
728: 2023/01/12(木) 00:59:01.71 ID:EDiAZ58Ro
提督「……俺、そいつの顔、覚えてっかな?」
摩耶「提督に会ったときはただの士官だったらしいから、覚えてないかも、って言ってたぜ?」
霧島「それで、その知大尉からお願いされたことがありまして、利根を連れてきてほしい、と言われたんです」
提督「……利根を?」
霧島「はい。もちろん、私たちの仲間だった利根ではありません。彼女はあの鎮守府で深い心の傷を負ったと聞きました」
霧島「ですので、新造艦で、どこからか別の利根を連れてきてはくれまいか、と」
提督「待て待て、そこ、すでに利根がいるんだろ? なんで二人目を欲しがるんだ」
摩耶「そこの利根が、出家したいんだとよ」
提督「は?」
摩耶「頭丸めて尼僧になりたいんだと」
提督「……なんだって、そんなことに?」
霧島「城塞鎮守府の利根は、M准将を本当に好きだったようなんです。実際にM准将からも寵愛を受けていたそうで」
霧島「彼女は、M准将自身の弔いと、准将の手にかかった艦娘たちの鎮魂のため、そのような決心をしたと聞いています」
霧島「それで問題になったのが、そこの鎮守府の筑摩でして」
摩耶「そうそう。利根が鎮守府を出て尼僧になるっつーもんで、筑摩がやめてくれって泣き腫らしてんだよ」
729: 2023/01/12(木) 00:59:46.14 ID:EDiAZ58Ro
摩耶「もともとはその筑摩も、そこの利根の心のリハビリのために余所から連れてきてもらったらしくてさ」
提督「ああ……なんか繋がってきたぞ。それで今度は代わりの利根を連れてきてくれ、ってことか」
霧島「はい。その司令が連れてきたという利根を、城塞鎮守府へ連れて行ってもよろしいでしょうか」
提督「……なんとも言えねえな。くっそ難しいと思うぞ」
摩耶「難しい? なんでだよ」
提督「とりあえずお前ら、うちの利根が向こうでどんな目に合ってきたかは知ってるな?」
摩耶「あ、ああ。一応向こうでも聞いてきたけどよ……」
提督「その利根の前にも、同型艦が多数犠牲になったことも聞いてるな?」
霧島「は、はい。それがなにか……」
提督「城塞鎮守府の地下で、うちの利根は殺される前に見つかったんだが……」
提督「そのときに、それまでその部屋で殺された利根たちの魂も一緒に連れてきてたらしいんだよ」
霧島「は……!?」
摩耶「マジかよ!?」
730: 2023/01/12(木) 01:00:33.31 ID:EDiAZ58Ro
提督「蠱毒って知ってるか?」
摩耶「コドク? なんだよそりゃ」
提督「蛇とか猫とか、霊的要素が強い生き物を一か所に放り込んで、共食いさせて生き残った1匹を生贄に使う、くっそ凶悪で強力な呪詛」
摩耶「知っててたまるかよ、そんなもん……」ウヘェ
提督「M准将はそんなつもりじゃなかったと思うが、それに近しいことになってたんじゃねえかなって思ってたんだ」
提督「で、その数人分の利根の魂は、ここで艦娘らしい生活をしてるうちにいくらか成仏して、一人分くらいまで減って行って……」
提督「その魂が肉体を得て蘇ってきたのが、その新しくやってきた利根、っつー話だ」
霧島「……」
摩耶「……」
提督「信じられねえって顔をしてるが、俺はその利根に取り憑いた幽霊と会話したこともあるし、雲龍もそういうことだって俺に言ってきた」
提督「当の本人も、この島で起こったことや俺のことも知ってやがる。辻褄もあってるし、嘘ついてる感じでもねえ」
霧島「少し前に近海で見つかった時雨がそうだったことを鑑みると、同じ現象が他の艦娘に起こりうる可能性も否定できませんか……」
摩耶「そうだとしたら、その利根が城塞鎮守府に向かうのは止めといたほうがいいよな……」
霧島「そうね。もし戻って、その当時のトラウマが思い出されそうものなら……」
扉<コンコン
提督「ん?」
731: 2023/01/12(木) 01:01:16.07 ID:EDiAZ58Ro
鳥海「鳥海です。ご報告したいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
提督「おう、入ってくれ」
鳥海「失礼いたします」チャッ
幽利根「邪魔するぞ!」
提督「利根……!?」
鳥海「摩耶、霧島さん、こちらの新しくいらっしゃった利根さんが、城塞鎮守府に向かってくださるそうです!」
幽利根「うむ! よろしく頼むぞ!」
提督「」
霧島「」
摩耶「」
鳥海「……あの、どうしたんですか?」
幽利根「まあ、吾輩の過去を知ってるとなると、そういう反応になるじゃろうなあ?」
鳥海「ど、どういうことですか?」
提督「おいちょっと待て。なんで鳥海が利根連れてきてんだよ」
732: 2023/01/12(木) 01:02:01.25 ID:EDiAZ58Ro
霧島「も、申し訳ありません、実は私が……」
摩耶「そうじゃなくて、あたしが鳥海を……」
鳥海「あ、あの、私が摩耶たちにお願いして……」
提督「……っだああ、面倒臭え! その辺の話はどうでもいい! とにかく鳥海も城塞鎮守府に行ってきたってことだな!?」
鳥海「は、はい!」
提督「はー……で、事情も聞いてきて、戻ってきたら利根が増えてたから、鳥海が事情を話したと」
霧島「は、はい。その……勝手でしたでしょうか」
提督「本っ当に結果論だけどよ……いいほうに転がってるっぽいからいいものの……」ハァ…
鳥海「あの、どうかなさったんですか……?」
提督「その辺、追って説明するから、ちょっと鳥海は俺たちの話を聞いててくれ」
鳥海「は、はい……」
提督「さてと……利根は鳥海からどこまで話を聞いたんだ?」
幽利根「うむ。城塞鎮守府のあるじが代替わりして、そこで秘書艦を務めていた利根が退役するそうじゃな」
幽利根「それで、そこに残っておる筑摩が寂しがっていて、新造艦の利根が着任できないか相談を受けた、というところまで聞いておる」
733: 2023/01/12(木) 01:02:46.00 ID:EDiAZ58Ro
提督「で、その話を聞いてお前が行く気になったって? 大丈夫なのかよ?」
幽利根「うむ! ある程度事情を知っている者が行ったほうが話も早かろうと思ってな」
提督「お前自身はあの鎮守府にトラウマとかそういうもんはねえのか?」
幽利根「今となってはその辺の記憶も曖昧というか、よく覚えておらんのだ」
幽利根「好意的に考えれば、おそらく吾輩たちの中で成仏した者たちが、その辺の記憶を持ち去ってくれたのではないかと考えておる」
摩耶「持ち去った、って……やっぱりさっきの話は本当なのかよ」
提督「……あ」
霧島「どうしました?」
提督「思い出したんだが、俺、M准将と利根たちを地獄で見たぞ」
幽利根「は?」
霧島「地獄で……ですか?」
摩耶「何言ってんだお前」
鳥海「摩耶!?」
提督「いや、俺も自分で何を言ってんだとは思うけど、実際氏にかけた時に見てきたんだよ。時雨も見たから聞けば話せると思うんだが」
霧島「あの世で亡くなった提督たちと出会ったというお話ですか」
734: 2023/01/12(木) 01:03:31.82 ID:EDiAZ58Ro
提督「ああ、その時に地獄もちょっとだけ覗いてきたんだ。でっけえ洞穴みたいなところで篝火炊いて、頭が牛や馬の獄卒たちがいて!」
摩耶「目を輝かせて言う話じゃねえだろが……」
提督「その地獄で、延々燃やされて火だるまになってたM准将がいて、そいつを取り囲んで槍やら鉾やらブッ刺してる利根たちと話したんだよ」
幽利根「なんと……」
提督「で、そこで見た利根たちは、全員体中つぎはぎだらけでな」
鳥海「つぎはぎ……?」
幽利根「確かM准将は、吾輩たちを切り刻んで飾っていたという話であったな?」
鳥海「ひい!?」ゾワワッ
提督「お前、覚えてんのか?」
幽利根「情報としてはな。記憶としてはないのじゃが」
鳥海「どっどどど、どういうことなんですか……!?」ガタガタ
提督「鳥海は知らねえのか? 利根を、学校にある人体模型みたいにバラして複数体飾ってたって話」
鳥海「……」ヘナヘナヘナ
摩耶「お、おい、鳥海!?」
鳥海「だ、大丈夫……ちょっと、気分が……」ウズクマリ
735: 2023/01/12(木) 01:04:15.83 ID:EDiAZ58Ro
提督「そういうのは大丈夫とは言わねえよ。部屋出て休んでろ」
鳥海「い、いえ、お話は、ちゃんと聞かせていただきます」アオザメ
提督「……無理すんなよ?」
幽利根「それで、その地獄へ行った吾輩たちの魂は、M准将を責め続けておるのか?」
提督「いや、説得して、利根たちには地獄から出て行ってもらった」
摩耶「なんだそりゃ? 地獄に落ちたってのに、そんな簡単に出て行けんのかよ?」
提督「周りにいた獄卒たちが、利根たちはそもそも本来地獄に来る予定がなかった、って言ってたんだよ」
霧島「行く必要のない地獄にわざわざ出向いたと……!?」
摩耶「そんだけ恨みが深かったってことか」
提督「そうなんだろうな。けど、M准将は、利根のいろんな表情を見たくて嫌がらせしたり、その延長で殺害にまで及ぶような奴だ」
提督「かまってもらえりゃなんでもいい。利根に拷問されることすら喜んでたようだから、もうかまうな、って俺は利根たちを説得したわけだ」
霧島「なるほど……だとすれば、惨劇の記憶や怨念を、復讐のため地獄へ向かった魂たちが全部持って行った、という説も十分頷けますね」
提督「ああ。もしそうなら、この利根が城塞鎮守府に行ってもいいかもしれねえな」
幽利根「良いのか!?」
提督「俺が心配なのは、お前が向こうでぶっ壊れたりしないかだけだ」
736: 2023/01/12(木) 01:05:01.51 ID:EDiAZ58Ro
提督「せっかくこの世に戻ってきたのに、またトラウマで泣き叫ぶようなことになって欲しくねえ」
摩耶「じゃあ、試しに利根を城塞鎮守府に連れてって、なんともなけりゃ転籍できるってことだな?」
提督「そうだな。けど、その前にひとつ利根に確認したいことがある。覚えてたら教えてくれ」
提督「利根に憑依していた複数人の利根の魂のうちいくつかが、地獄へ向かってM准将へ復讐を果たしに行った、というのはわかる」
提督「じゃあ、そうじゃないお前たちが成仏もしないで地上に残った理由はなんだ?」
幽利根「……ふむ……」
提督「……」
幽利根「それはおそらく、羨ましかったんじゃろう。かつての吾輩たちは、利根の背後からおぬしたちを眺めているだけじゃったからな」
幽利根「……うむ、うっすらと覚えておるのだが、あの利根の体を借りておぬしと話したこともあったのではないか?」
幽利根「あれが望外に嬉しかった、というのも、本当にうっすらとだが覚えておる。それが未練であったのかもしれん」
提督「まさしくそんな話を幽霊だったお前としたんだ。そこまでわかってるなら俺が心配するまでもなさそうだな」
鳥海「え、ええっと、あの、整理しますと、城塞鎮守府で殺された利根さんたちの生まれ変わりが、こちらの利根さん、ということなんですか?」
霧島「ええ、そういうことみたいね」
鳥海「……知らなかったとはいえ、私はなんてことを……」ガックリ
幽利根「良い良い。そもそも普通あり得ない話であるし、知っておれば吾輩にこの話が来ることもなかったであろうからな」ポンポン
737: 2023/01/12(木) 01:05:46.27 ID:EDiAZ58Ro
摩耶「なあ提督、なんとなくだけど、この利根なら城塞鎮守府に行っても問題なさそうじゃねえか?」
提督「そうかもしれねえな。ただ、くれぐれもやばいと思ったら戻ってこさせねえと……」
??『そんなに心配なら、魔神様もついていけばいいじゃない』
提督「ん?」
神殿の扉<パッ!
提督「うおっ!?」
幽利根「なんじゃ!? いきなり扉が現れたぞ!?」
神殿の扉<ガチャ
ニコ「話は聞かせてもらったよ。その城塞鎮守府、ぼくもついていきたいな」
摩耶「き、急に出てくんなよな! びっくりさせやがって……」
鳥海「いつからお話を聞いていたんですか?」
ニコ「きみと利根が部屋に入ってきたあたりかな? そのくらいに、ここと空間をつなぐことができたからね」
幽利根「ほお、便利なのだな。ならば、城塞鎮守府にもつなげられるのか?」
ニコ「それは無理かな。魔神様がいるところなら、どこへでもつなげられるってだけだよ」
摩耶「あ、そういう条件かよ。じゃ、提督が城塞鎮守府に行けば、メディウムたちも一緒についてこれるってことだな?」
738: 2023/01/12(木) 01:06:31.06 ID:EDiAZ58Ro
提督「つうか、俺も行くのか……?」
ニコ「うん。利根が転籍するにしても、魔神様のことだから、自分の眼で良し悪しを確かめないと気が済まないんじゃないの?」
提督「ま、そりゃあな……」
ニコ「それから、良かったらその鎮守府にある、利根に使った器具を、ぼくたちに譲ってくれないかな」
摩耶「そんなもん引き取ってどうすんだ? まさか、何かに使うのか?」
ニコ「魔神様の命を狙う不逞の輩には使うだろうね」
ニコ「たとえ使う機会がなかったとしても、人の血を吸った呪物(まじもの)は、強い魔力を秘めているんだ」
ニコ「こういうものは、ぼくたちの神殿に置いておくだけでも、ぼくたちの力になってくれるからね」
霧島「……私たちで言うところの、神棚に対する奉納品のようなものかしら」
提督「言ってる感じは近いかもなあ……」
鳥海「……確か、地下室は封印していると聞きましたね」
摩耶「見たくもない道具だってんなら、メディウムたちに引き取ってもらうのも手かもしんねーな」
ニコ「うん。ぼくたちなら有効活用できると思うよ?」ニコニコ
739: 2023/01/12(木) 01:07:16.14 ID:EDiAZ58Ro
* 数日後 *
* 城塞鎮守府 地下室 *
提督「……」
霧島「ここがそうですか……」
摩耶「なんつーか、いかにも、って感じの地下室だなあ」
知大尉「……」
O大尉「……いやー、すごいことになったねえ」
知大尉「うん、すげえっつうか、なんつうか……」
リサーナ「すっごーい、これで人間を真っ二つにしてたのね~!」キャー!
メアリーアン「これはなんだべ? でっけえ冷凍庫だぁか?」
ティリエ「これ、どっちも電気で動くのかー?」
アマナ「そうみたいですね。神殿へ持ち帰ってから、鎮守府の電気を借りられるか、ご主人様に相談しましょう」
ウーナ「なあなあ! こっち! これ、燃やして使うのか!?」
セレスティア「どうやら竈みたいですね。持ち運べるのでしょうか……」
サム「攻め具も拘束具も多種多様……この部屋の主は良い趣味をしておられますね」
知大尉「バニーとかメイドとか執事とかシェフとか! それから原住民みたいな恰好だったり着ぐるみとか防寒着とか!」
740: 2023/01/12(木) 01:08:01.82 ID:EDiAZ58Ro
知大尉「季節感も統一感もないコスプレの女の子が、こんな物騒な代物に目ぇ輝かせてて、俺的にドン引きなんだけど!?」
O大尉「大丈夫、俺も混乱してる」アハハー
知大尉「笑ってんじゃねえよ……」アタマオサエ
提督「ま、どうせ今回限りだし、細かいことは気にしなくていいだろ」
知大尉「いやあ、そうかもしれないですけど……」
提督(艦娘よりキワドイ恰好してる奴もいるからな……ベリアナとかマリッサとか)
アカネ「ねーねーニコちゃーん、このお部屋の器具は全部持っていっていいの?」
ニコ「そうみたいだよ。扉はいくらでも広げられるから、全部運んでいこう」
カトリーナ「よっし、じゃあこっちのデカブツはあたしに任せな!」
知大尉「とにかく、こうして全部処分してもらえるっていうのは助かります」
提督「いいさ。こんなもん、普通の鎮守府に残しておくようなブツじゃねえしな」
摩耶「万が一誰かがこんな部屋に迷い込んだんじゃ、妙な噂立てられられてもしょうがねーもんなー」
提督「それにしても、よくこんな場所にこんな機材をここまで持ち込めたな?」
知大尉「M准将のコネもあると思いますが、この鎮守府も日本から離れてますから、いろいろ気を使ってもらってたんじゃないかと……」
741: 2023/01/12(木) 01:08:47.01 ID:EDiAZ58Ro
ルイゼット「魔神様、畏れながらご報告がございます」スッ
提督「どうした?」
ルイゼット「この石室の奥に、また別の部屋が見つかりました」
エレノア「すごいわよー? この部屋の器具より、もっと古めかしい拷問器具が並んでるの!」
ルイゼット「エレノア!? 魔神様になんて無礼な……!」
エレノア「あんたはいつも丁寧すぎて回りくどいのよ。それより、そっちの道具も持ってっていいんでしょう?」
提督「知大尉、そっちも入っていいか?」
知大尉「は、はい、それは構いませんが……俺も一応、ここの責任者ですんで、彼女たちと同行しますよ」
提督「いや、それはやめとけ」
知大尉「し、しかし……!」
ルイゼット「霧島様。お願いがございます」
霧島「? なんでしょう?」
ルイゼット「危険ですので、皆様にはこの部屋から出てお待ちいただけないでしょうか」
霧島「危険? この部屋が……?」
ニコ「そうだね。この部屋から……念のため、建物そのものから避難していたほうがいいよ」
742: 2023/01/12(木) 01:09:31.58 ID:EDiAZ58Ro
摩耶「そこまでやべーのか!?」
ニコ「君たちは気付かないだろうけど、この部屋にも、その奥の部屋にも魔力が充満してるんだ」
ニコ「これからぼくたちは、その魔力ともどもこの部屋の品物を全部回収するんだけれど、回収し終わった後にどうなるかはわからない」
霧島「どういうことです……?」
摩耶「よくわかんねーけど、とにかく退避したほうがいいんだな?」
ニコ「そうだね。そうしてもらえると嬉しいな」
摩耶「そういうことなら、この場は提督に任せちまうか?」
知大尉「い、いい、のか?」
摩耶「いいんじゃねえの? 提督もいいんだろ?」
提督「ああ、この場は俺とメディウムに任せとけ」
霧島「どういう意図かはわかりかねますが、彼女たちに従いましょう」
霧島「彼女たちメディウムは、人間を敵と見なしています。その彼女たちが言うのですから、お二人は特に避難したほうが良いでしょうね」
知大尉「……」
743: 2023/01/12(木) 01:10:32.42 ID:EDiAZ58Ro
O大尉「……わかった。この場は提督にお任せして、俺たちは外に出て待つとしよう。知大尉もいいな?」
知大尉「あ、ああ……」
クルリ スタスタ…
ニコ「……」
ルイゼット「……」
ニコ「珍しいね、ルイゼットが情けをかけるなんて」
ルイゼット「ええ、不本意ながら。ですが、霧島様がいらっしゃいますし、魔神様を困らせるわけには参りませんので」
ニコ「……そうだね」
提督「お前ら殺気立ってたもんな。そうやって思いとどまってくれて安心したぜ」
提督「さて、それじゃ俺も手伝うか」
ニコ「あ、それはいいよ、魔神様。ここはぼくたちに任せて」
カトリーナ「そうそう、魔神様はそこで眺めててくれればいいんだって!」
アマナ「私たちの仕事ぶり、御覧になってください!」
サム「よろしければ、こちらにおかけになりますか?」スチャッ
提督「……大丈夫なのかよ、その椅子は」ジトッ
ニコ「サム?」ジトッ
サム「そのように警戒なさらなくても良いのですが……仕方ありませんね」フフッ
744: 2023/01/12(木) 01:11:16.35 ID:EDiAZ58Ro
* それからしばらくして *
* 城塞鎮守府 埠頭 *
O大尉「初めて入ったけど、あの地下室、かなり古そうだな」
知大尉「ああ、この建物自体もすごく古くて、何度か改装してるんだ。あの地下室はちょっとそんな感じじゃなかったけど……」
幽利根「それより提督は大丈夫なのか? いくらメディウムがいるとはいえ一人で残っては危なかろう」
摩耶「そこは安心していいんじゃねえの? ああいう部屋こそメディウムが得意なんだろうし」
摩耶「第一、メディウムが提督を危険な目に合わせるとは思えねーな」
幽利根「むう、それもそうか」
O大尉「メディウムか……艦娘だけでも現れた時は驚いたけど、まさか罠の娘もいたとはね」
知大尉「けど、俺たち、完全に無視されてたな?」
幽利根「それはあれじゃな。目を合わせたら頃したくなるからではないかな?」
知大尉「……」
幽利根「提督はメディウムたちに、あの墓場島と呼ばれた島に不用意に近づくもの以外には手を出すなと命じておる」
幽利根「そのメディウムたちは、人間の命などどうとも思っておらん。刈り取って当然のものだと考えておるようでな」
知大尉「うっわ……」
745: 2023/01/12(木) 01:12:03.14 ID:EDiAZ58Ro
霧島「提督に忠誠を誓うメディウムたちとしては、大尉たちを無視することで、その命令を守っていたのだと思いますよ」
幽利根「うむ。文字通り、見逃してくれたのであろう」
摩耶「なあなあ、ところで鳥海はどこ行ったんだ?」
O大尉「私の秘書艦の木曾君と一緒に、ここの利根に会いに行ってるはずだけど?」
三日月「司令官! しれーかーん!」タッタッタッ
知大尉「三日月!? どうしたんだそんなに慌てて!」
三日月「ち、筑摩さんが利根さんを襲ってるんです! 『利根さんが剃髪した髪を食べたい』とか言い出しまして!」
霧島「」
摩耶「」
幽利根「」
三日月「いま、鳥海さんと木曾さんで必氏に筑摩さんを押さえつけてるところです!」
知大尉「なにやってんだあいつは! 三日月、案内してくれ!」
三日月「こちらです!」
746: 2023/01/12(木) 01:12:46.25 ID:EDiAZ58Ro
* 城塞鎮守府 出入り口付近 *
尻もちをついている利根改二「……」アッケ
知筑摩「放して! 利根姉さん! 利根姉さぁぁん!」ジタバタ
木曾「くそ、なんて馬鹿力だ!」オサエツケ
鳥海「筑摩さん落ち着いて!!」ハガイジメ
知大尉「おい! なにやってんだ筑摩!!」タタタッ
知筑摩「ああ、提督! 提督こそ利根姉さんを説得してください! この鎮守府を離れるなんて……!」
幽利根「まあ待て、まずは吾輩が話させてもらおうか」
知筑摩「と、利根姉さんが……ふたり!?」
利根改二「……お、おぬしは……」
幽利根「ふぅむ……随分やつれたのではないか? 最初の吾輩よ」
利根改二「お、おぬしは何者じゃ? 吾輩を知っているような口ぶりじゃが……」
幽利根「吾輩は……この鎮守府で建造され、M准将に殺されて地下室に飾られていた、あの利根たちの生まれ変わりである」
利根改二「!!」
幽利根「最初の吾輩よ。おぬしは、M准将の後を追うつもりか?」
利根改二「い、いや、そのようなつもりではなかった……吾輩は、あの地下室で殺められた艦娘の供養をするつもりじゃった」
747: 2023/01/12(木) 01:13:32.77 ID:EDiAZ58Ro
利根改二「このままではいかんと……あの筑摩に甘やかされるがまま、怠惰な生活を送っていては申し訳が立たぬと思っておったのじゃ」
幽利根「ふむ……とすると、吾輩が供養されねばならんのか?」
鳥海「そ、それはちょっと違うと思うのですが……」
利根改二「それに……おぬしには言いにくいが、吾輩はどうしても……M准将のことが、忘れられぬ」
幽利根「それは、愛情と言う意味でか?」
利根改二「……長い時間、苦楽を共にした。吾輩の記憶の大半は、あの男と一緒であった。それは否定のしようがない」
利根改二「筑摩には忘れろと……私に甘えてほしいと何度も言われたが、それはどうしてもできなんだ」
知筑摩「大丈夫ですよ利根姉さん! 何も考えずに私にバブみを感じてオギャってくれればいいんです!」
霧島「は?」
鳥海「ばぶ……?」
木曾「おぎゃる?」
摩耶「何言ってんだ?」
利根改二「吾輩にもわからん! 筑摩には、たまにわけのわからん呪文を唱えられて、正直混乱しておるのじゃ……!」
O大尉「……」チラッ
知大尉「ちょっ、俺の趣味じゃねえぞ!?」
748: 2023/01/12(木) 01:14:16.23 ID:EDiAZ58Ro
幽利根「よくわからんが、筑摩はこっちの利根に甘えてほしいと?」
知筑摩「そうです! 鎮守府で一番長く秘書艦を務めていたんですから、誰かに甘えたいのは間違いありません!」
知筑摩「これまでだって、私にべったり甘えてくれていたではありませんか!」
利根改二「うむ、その通りだ……だから、それでは駄目だと気付いたのじゃ」
知筑摩「駄目なんかじゃありませんよ! こっちを見てください、利根姉さん!」
幽利根「その相手、吾輩ではいかんか?」ズイ
知筑摩「えっ!?」
幽利根「筑摩よ。見たところ、おぬしの練度も大したものではないな?」
知筑摩「そ、それは、ここに移ってきてから、ずっとあちらの利根姉さんのお相手をしていましたから……」
幽利根「ほほう。では、吾輩と一緒に鍛え直すつもりはないか?」カオチカヅケ
知筑摩「ほえっ!?」ドキーン
O大尉「なんだあのイケメン……」
木曾「……」ピクッ
知大尉「今まで見たことのないタイプの利根だな……」
三日月「な、なんだか見ててどきどきします!」
749: 2023/01/12(木) 01:15:00.89 ID:EDiAZ58Ro
幽利根「筑摩よ。残念ながらあちらの利根には、心に決めた男がおるようじゃ。執着しても迷惑になるだけであろう」
知筑摩「……!」
幽利根「おぬしもあの利根に愛を注いだのかもしれんが、だからと言って見返りを求めるのは野暮と言うもの」
幽利根「本当にあの利根のことを思うのなら、その決意を応援してやるのが一番じゃと思わんか?」
知筑摩「新しい利根姉さん……!」
幽利根「吾輩は、建造されてまだ間もない。できれば似たような練度のおぬしと、これから一緒に切磋琢磨したいのじゃが……」
幽利根「どうじゃ。吾輩と、共に征かぬか?」ニッ
知筑摩「……!!」ズギューン
知大尉「あの利根、筑摩のあごに手を添えてんだけど」
三日月「あ、あのままキスしちゃいそうな感じですよね!?」
O大尉「なんなんだあのイケメンムーブ……」
木曾「……」ピクピクッ
摩耶(隣の木曾が反応してやがる)
ズズズ…!
全員「「!!」」
木曾「な、なんだ!? 地震か!?」
バキバキバキ…!
知大尉「これは……木の倒れる音か!? 林のほうからだ!」
利根改二「任せよ!」
瑞雲<バシュゥウウ!
利根改二「……鎮守府脇の林のほうじゃ。木が大量に倒れて……地面が陥没しておる!」
知大尉「どういうことだ……?」
750: 2023/01/12(木) 01:15:46.05 ID:EDiAZ58Ro
* 城塞鎮守府 本館近くの雑木林 *
摩耶「なんだよこりゃあ……」
(雑木林の一部の地面が大きく陥没し、木々が横倒しになっている)
利根改二「幸いにも本館には影響がでておらんようじゃな。まさしくこの部分だけ陥没しておる」
知大尉「穴自体は、そこまで深くないみたいだな……4メートルくらいか?」
O大尉「おい、あまり近づくな、危ないぞ」
霧島「ここは……もしかして」キョロキョロ
鳥海「?」
霧島「知大尉。この穴は、あの地下室があった場所ではありませんか……?」
知大尉「そ、そういえば……!」
摩耶「だとしたらやべーぞ! うちの提督はどうなったんだよ!?」
O大尉「まさか生き埋めに!?」
幽利根「一大事じゃ!!」
提督「そうはなってねえから安心しろ」ヌッ
鳥海「司令官さん!」
751: 2023/01/12(木) 01:16:31.02 ID:EDiAZ58Ro
霧島「ご無事でしたか、司令!」
摩耶「……んだよ、焦らせやがって……!」
O大尉「地下で作業していたメディウムたちは無事なのですか?」
提督「ああ、俺もあいつらも大丈夫だ。いきなり崩れてきて焦ったのは事実だがな」
木曾「いったい何があったんだ?」
提督「地下室の拷問器具を全部回収し終わったあたりで、部屋自体が震えだしたんだよ」
提督「そのあとは俺だけ外に出るようにニコに言われて、外で待ってたらあの地震だ」
提督「ニコが言うには、器具を回収し終えた後に、部屋に残っていた魔力もニコが全部引き取ったんだと」
提督「その魔力を回収し終わった途端、あの部屋が崩れてきたらしい」
木曾「魔力?」
提督「部屋に残った人間の念、とでも思ってくれ。そこで殺された人間の無念とか怨念とか、そういう悪いほうの感情の残り滓だ」
木曾「俺は聞いただけで奥に入ってないから詳しいことは分からないが……その部屋では、そういうことが行われていた、ということなのか?」
提督「ああ。奥の部屋からは、年季の入ったヤバイ代物がたくさん出てきてる。全部メディウムが回収していったがな」
提督「さらに奥には、地上へ出ると思われる階段もあったが、木の根やら土やらで埋まってて使えなかったらしい」
提督「とにかくあの部屋は、ここが鎮守府になるよりずっと大昔から、そういう目的で使われてた部屋だったってことなんだろう」
752: 2023/01/12(木) 01:17:18.69 ID:EDiAZ58Ro
鳥海「地下室と言うから、こちらの本館の真下に作ったと思っていたのですが、そうではなかったのですね……」
提督「そいつは多分、こっちの建物と無関係であることを装うためにわざわざ離れたところに作ったんじゃねえかな」
提督「あの部屋の存在が露見したら、館のあるじの沽券にかかわる。離れに作れば、自分以外が作ったものだと言い訳するにも都合がいい」
提督「痛めつける相手をわざわざ本館まで連れて行って目撃される心配も減るし、林の中に連れ込んだほうが人目につかないし」
提督「悪人に都合よく作ったんだろ。そうじゃなけりゃ、当時の技術的にあの建物の下に部屋を作れなかったか、だな」
摩耶「その部屋が、なんでいきなり崩れちまったんだ?」
提督「ん-……そこはなんとも言えねえが、多分……あの部屋が、自分の役目を終えたと思ったんじゃねえか?」
摩耶「役目?」
提督「ああ。どうせ知大尉はあの部屋を使う気はないだろ?」
知大尉「はい。むしろ、今回の地下室の整理が終わったら、お祓いしてもらってから封印する気でいました」
霧島「お祓い……なるほど。考え方を変えれば、あの地下室そのものをメディウムに供養してもらったと言えるのかもしれませんね」
利根改二「供養……!」
幽利根「ふむ……全部綺麗にした、という意味であれば、近しいのかもしれんな?」
霧島「メディウムたちにそういう意図はなかったとは思いますが、結果的にはそうなったのかと」
知大尉「それで勝手に崩れるってのも理屈がわからないが……」
753: 2023/01/12(木) 01:18:01.95 ID:EDiAZ58Ro
O大尉「なあ、お祓いは予定通りやるのか?」
知大尉「ん? ああ、それはそれで予定通りやるつもりだ。俺たちは俺たちで、ちゃんと区切りっていうか、けじめをつけなきゃ駄目だろ?」
知大尉「利根にも、そのお祓いが終わるまでにはこの鎮守府にいてほしいんだ。M准将と一緒に、この鎮守府を切り盛りしてきた功労者なんだ」
利根改二「……うむ、そうじゃな。あいわかった、それまではここに留まるとしよう」
知大尉「それから、新しく来てくれた利根には、改めてこの鎮守府への着任をお願いしたい」
利根改二「うむ! よろしく頼むぞ!」
知大尉「筑摩もそれでいいか?」
知筑摩「は、はい! 歓迎します!」
提督「……よし。じゃあ、俺たちの仕事は終わったな?」
霧島「はい! 予想以上の結果を上げられましたね!」
三日月「提督、霧島さん、摩耶さん、鳥海さん! 今回は本当にありがとうございました!」
O大尉「本当にご協力ありがとうございました。提督にはお世話になりっぱなしですね」
提督「俺は俺に都合のいいことをやってるだけだぞ?」
木曾「フッ、随分な謙遜だな」
754: 2023/01/12(木) 01:19:01.06 ID:EDiAZ58Ro
三日月「ところで、霧島さんと摩耶さんは、次はいつ来られるんですか?」
摩耶「へっ? そういや、特に決まってねーな」
霧島「また次の予定を立てたいわね」
ワイワイ…
提督「……」
木曾「ところで提督、メディウムたちはどうしたんだ?」
提督「ん? あいつらなら、地下室を片付けた後の用事もないから、引き上げたぞ」
木曾「そうなのか。どんな連中なのか興味があったんだが、お目にかかれないとは残念だな」
提督「興味本位でなら、首を突っ込まないほうがいいぞ。あいつらは本来なら人間の敵だし、俺がいなけりゃ艦娘にも容赦しないはずだ」
木曾「……提督は人間を敵だと思っていると?」
提督「艦娘に理解のない人間は、俺にとっては敵だな。そもそも俺は人間が嫌いだ」
提督「そういう人間だからこそ、メディウムに一目置かれた、と思ってくれ」
木曾「なるほど……」
提督「まあ、O大尉には借りもあるから付き合うが、俺と仲良くしたら海軍的には立場が悪くなるんじゃないか? と思ってんだが」
木曾「そんなことはないと思うが……ん?」
755: 2023/01/12(木) 01:19:47.59 ID:EDiAZ58Ro
ニコ「魔神様、仕事は終わったの?」
提督「おう、わざわざ迎えに来てくれたのか」
木曾「……こ、こいつらが噂の……!?」
マリッサ「あらぁ~、この子、眼帯なんかしちゃって! 可愛いわねぇ~」ニタァ
木曾「ひい!? なんだこいつ! なんて破廉恥な……!?」
O大尉「うわぁ……」
知大尉「あ、あんなメディウムもいるのか!?」
三日月「あ、あの人は一体!?」
霧島「三日月は見てはだめです!」メカクシ
提督「おいニコ。なんでマリッサが来てんだよ」
ニコ「魔神様の帰りが遅いから迎えに行く、って言ったら、護衛役を買って出たんだよ」
マリッサ「そうよぉ~? 御主人様ったらお帰りが遅いんだもの、どこでどんな寄り道をしてるか、気になるじゃな~い?」
マリッサ「そうしたら、こんなに可愛い子とイチャイチャしてるんですもの、嫉妬しちゃうわぁ~!」ネチャァ…
木曾「ひぃっ!! お、おい! た、助けてくれ!」
756: 2023/01/12(木) 01:20:46.74 ID:EDiAZ58Ro
O大尉「て、提督! なんとかできませんか!?」
提督「面倒臭えなあ……」ハァ
木曾「面倒臭い!?」ガビーン
摩耶「うげっ、マリッサ!? なんでお前がここに来てんだよ!」
マリッサ「あたしは、おふねのみんなと仲良くイチャイチャしたいだけよぉ~?」ニタァ
摩耶「お前の言うイチャイチャって、絶対良くねー意味だろ……」
ニコ「マリッサ。いい加減にしないと電に言いつけるよ?」
マリッサ「やぁん、ニコちゃんったら、いぢわるぅ」パッ
木曾「た、助かった……」
摩耶「マリッサはクラーケンのメディウムだからな。艦の天敵だから無理もねえよ」
O大尉「クラーケン!?」
知大尉「艦相手じゃ洒落にならないやつじゃないですか!?」
木曾「なんでそんな奴が電にビビってるんだ!?」
マリッサ「んふふっ、あたしがこっちでやったことを電ちゃんに教えちゃったら、きっと激しくお仕置きされちゃうわぁ」ウットリ
マリッサ「一体どんなことされちゃうのかしら~? 楽しみぃ♪」クネクネハァハァ
木曾「へ、変態だーーー!!」ゾワゾワッ
木曾「興味があるとか軽い気持ちで言ってしまってすみませんでした……!」
提督「……まあ、いいけどよ。あいつ、一番強烈な奴だし」
760: 2023/02/05(日) 21:01:31.56 ID:ldf42oh6o
* 数日後 *
* 墓場島沖 医療船内 小会議室 *
X中佐「……というわけで、君にお詫びしたいというK大佐の部下の艦娘たちを連れてきたよ」
提督「面倒臭え……」ハァァ…
阿武隈「めんどう!?」ガビーン!
加古「提督は相変わらずだねえ……」
提督「面倒は面倒なんだからしょうがねえだろ。こいつら自身が利用されてたってのに、なんで俺に謝る必要があるんだよ」
白雪「利用されていたとしても、あなたがたを疑ってあのような事態を招いたんですから、お詫びするのは当然では……」
提督「当然か? つうかお前らも被害者だろうがよ」
子日「で、でもでもぉ、私たちだって、命令でみんなに向かって撃ったから……」
提督「姉妹に関する嘘を吹き込まれて、挙句捨て駒にされてんじゃねえか。気の毒さ具合は似たり寄ったりだろ」
曙「ああああ、もう!! いいから黙って私たちの謝罪を受け取りなさいって言ってんのよ、このクソ提督!!」
睦月「曙ちゃんそれ全然謝ってる感じじゃないですよぉ!?」ガビーン!
提督「だからなんで謝るんだよ……わけわかんねえ。俺は気にしてないからいいぞ?」
761: 2023/02/05(日) 21:02:17.41 ID:ldf42oh6o
阿武隈「そ、それでよろしいんですか……?」
提督「悪いのは、俺や大将たちを殺そうとしてたJ准将たちだろ? お前らもそいつらに騙されてたわけだ」
加古「とにかく、提督は、こっちのみんなは悪くない、って言いたいわけだね?」
提督「おう。お互い大変だったな、でいいんじゃねえの」
白雪「……寛大なお言葉に感謝いたします」
提督「大袈裟だな」
雷「大袈裟でも何でもないわ。私たち艦娘が、自分の司令官や、海軍の人たちに手を上げるなんて一大事だもの」
子日「そうそう! それに、調べてみたら、あなたが何にも悪いことをしてなくて! 私たち、申し訳なくなってたんだから!」
曙「ほんとよ……朧も、潮も、あんたには感謝してるって……そんな人を疑っちゃって、私たち馬鹿みたいだわ……!」
提督「ん? お前ら、姉妹艦とは話してきたのか」
白雪「はい。提督にお会いするより前に」
睦月「怪我の具合も心配だったのです!」
X中佐「それから、君の人柄を彼女たちから聞いておいた方がいいと思ってね」
子日「なんでも面倒臭がる人だって聞いてたけど、本当にその通りでびっくりだよー?」
白雪「吹雪さんも、態度は悪いけどすごく優しいと言ってましたから」
阿武隈「ほんとほんと! 言動だけ聞いてると、とても面倒見がいいとは思えないんですけど……」
睦月「阿武隈さんぶっちゃけすぎですよぉ!?」ワタワタ
762: 2023/02/05(日) 21:03:01.79 ID:ldf42oh6o
加古「あはは、まあ無理もないね~」
雷「そういうわけだから、お詫びのしるしに何かお世話」キラキラキラッ
提督「嫌な予感しかしねえから断る」
雷「えええ!?」
加古「うん、まー、そうなるだろうねえ」トオイメ
雷「な、なんでよぉ!?」
加古「いやー、昔さあ、雷をママって呼んでた人がいてねえ……」
阿武隈「そうなの!?」
提督「そんなことあったっけか?」クビカシゲ
加古「提督はその場にいたじゃんか。都合よく忘れてんじゃないよ……」タラリ
扉<コンコンコン
早霜「失礼しますね。司令官、お客様です」チャッ
提督「うん?」
矢矧「軽巡矢矧、失礼いたします」
酒匂「お邪魔しまーす……わ、ほんとに私と似てる人がいる!」
X中佐「僕!?」
763: 2023/02/05(日) 21:03:46.92 ID:ldf42oh6o
提督「ん? おお……確かにX中佐と似てるな。で、お前たちは?」
酒匂「あ、私、阿賀野型軽巡4番艦、酒匂です! わたしたちは、J少将の部下だったんです!」
矢矧「提督、此度のご無礼、大変申し訳ありませんでした」ペコリ
酒匂「申し訳ありませんでした!」ペコリ
提督「お前らも謝りに来たのかよ。面倒臭えなほんとに……」
加古「いやいや、少しは真面目に受けてあげようよ」
提督「そうは言うが、あの島に上陸した艦娘以外は、メディウムたちが力づくで追い払ったとかニコが言ってたんだぞ」
提督「人間はどうでもいいが、艦娘にも攻撃してたとしたら、俺たちのほうこそ手荒な真似してごめんなさいしなきゃいけねえんじゃねえの?」
加古「……人間はどうでもいいんだ」タラリ
提督「俺にそいつらを守る義理はねえ」フンッ
提督「もしかしたら、あの島で氏んだ人間の中にも、こいつらと同じように利用されただけの人間もいるかもしれねえが」
提督「それは俺が気にしたところで、どうにもならねえよな?」
X中佐「……そうだね。その責任は海軍にある」
提督「今回は俺たちが攻め込まれた側だから、正当防衛でいいって言われてはいるけどよ」
矢矧「J少将からは、提督が深海棲艦と共謀して謀反を企んでいると聞かされていました」
764: 2023/02/05(日) 21:04:46.42 ID:ldf42oh6o
矢矧「ですが、蓋を開けてみれば、提督は轟沈した艦娘を救うために一人離島で奮起していたと……!」
提督「……奮起、ねえ。いつの間にか大層な話になってねえか?」
早霜「フフッ、いいんではないですか? それとも、重荷を背負いたくない、と?」
提督「常々言ってんだろ、面倒ごとは御免だって。気楽にしてたいんだよ、俺は」
提督「……それがまあ、今はそうも言ってられなくなったけどな」ガックリ
酒匂「ねえねえ提督さん? 提督さんは、私たちのことを責めないの?」
提督「俺はそのつもりはねえけどな」
酒匂「うーん……」
矢矧「そのように仰っていただけると大変ありがたいのですが……」
早霜「実はもう御一方いらっしゃるのですが、その件でものすごくやつれてまして。入っていただいても?」
提督「ああ、入れてくれ」
早霜「はい。では……どうぞ」チャッ
青葉「失礼します!」
古鷹「ほら、大丈夫だから、ね?」
衣笠「……」ゲッソリ
765: 2023/02/05(日) 21:05:32.38 ID:ldf42oh6o
加古「うわぁ……」
提督「なんだその今にも倒れそうな不健康そうなやつは……」
矢矧「青葉型重巡2番艦、衣笠さんです。J少将の命令で、あの島へ三式弾を撃ったのが彼女です」
提督「!」
阿武隈「ええ!?」
白雪「衣笠さんが……!」
曙「なん……もがっ!? もがーー!?」クチフサガレ
睦月「曙ちゃんは何も言わないで黙ってるにゃしい!」クチフサギ
子日(どんなセリフが出てくるかわかんないもんね……)ウンウン
衣笠「えっと……あの……本当に、ごめんなさい」ヘナヘナ
衣笠「私が……うっ、うう……」ドゲザ
青葉「ちょっ!? 衣笠! いきなりそこまでしなくても!」
古鷹「提督はそんなに怖くないよ!?」
衣笠「だ、だって……わたしのせいで……」ボロボロボロ
提督「見てて痛々しいな。なんでこんなことになったんだ?」
青葉「それについては、青葉がいろいろご説明いたします!」ビシッ
766: 2023/02/05(日) 21:06:17.26 ID:ldf42oh6o
青葉「そもそも、青葉があの島へ転籍させられたのは、J少将の写真を撮ったから、と司令官にはお伝えしていましたが……」
青葉「青葉、以前からJ少将とその部下のK大佐は前々から怪しいと思っていまして!」
提督「やっぱりか。何か探ってたからうちに来たんじゃねえかって邪推してたんだが。で、どう怪しかったんだ」
青葉「J少将は日頃から深海棲艦に対する嫌悪感をあらわにしていました。出撃すれば必ず撃滅を命じる、厳しい方でした」
青葉「しかし、青葉はその敵意が、どうも艦娘にも向けられているように感じていたんです」
青葉「そのJ少将の懐刀であるK大佐も、艦娘とのコミュニケーションは最低限。感情すらあるのか疑わしい人物でして」
青葉「これは何か裏があると思い、青葉は少しだけ、あのお二人の情報を集めようと思ったんです!」
青葉「そうしたら、どこかの施設で艦娘や深海棲艦に関する実験を行っているという情報を耳にしまして……」
提督「……」
青葉「それ以来、あの二人の周囲を調査し始めてしばらくしてから、身の危険を感じるようになりました」
青葉「矢矧さんたちのお姉さんにあたる阿賀野さんもそれをどこかで知ってしまったようで、どういうわけか青葉にお声が掛かりまして」
青葉「阿賀野さんからは協力を申し出られました。しかし、青葉は危険だと思って丁重にお断りしましたんですが……」
矢矧「阿賀野姉は、工廠で修理中に事故に遭ったの。クレーンで釣り上げていた鉄骨が落ちてきて……」
矢矧「それで私と酒匂がJ少将に話を聞きに行ったとき、ぼそっと、青葉、って呟いていたのを聞いて……」
青葉「おそらく、そのころから矢矧さんたちが青葉に対して風当たりが強くなったんですかねぇ」
767: 2023/02/05(日) 21:07:02.36 ID:ldf42oh6o
青葉「でも、それは阿賀野さんが青葉に協力を申し出るより先に、能代さんがJ少将に脅されていたとも考えられます」
矢矧「……!」
青葉「そのころから青葉の出撃中に視線を感じるようになりまして。ちらっと能代さんを見ますと、怖い顔をして青葉を凝視してたんですよ」
青葉「おそらく、青葉のことを事故に見せかけて始末するように、J少将が能代さんに命じていたんではないでしょうか?」
青葉「阿賀野さんが事故に遭ったのも、青葉を早く口封じさせようという、J少将の能代さんに対する脅迫だったと考えています」
青葉「あるいはもしかしたら、能代さんの異変に気付いた阿賀野さんが独自に動こうとした結果なのかもしれませんが……」
青葉「いずれにせよ、こう、身内が狙われる事態になると、青葉もどう動けばいいか……実際、どうすればよかったんでしょうね」
青葉「そうこうするうちに、能代さんは、自分を撃ってしまったんですよ」
矢矧「……」
提督「……」
青葉「能代さんは真面目な艦娘です。その艦娘としての矜持を、曲げることはできなかったんではないかと、青葉は思っています」
青葉「それでどうにもJ少将が許せなくなりまして……」グッ…
青葉「その後、解体処分とまではいかない、ちょっとした不祥事を起こして、J少将のもとを離れた、というのが、青葉の転籍の顛末なんです」
提督「その不祥事ってのが、写真を撮ったってことか?」
青葉「表向きはそうですね! 転籍が決まる少し前に、J少将が鬱陶しがるくらいには付きまとって写真を撮りました!」
768: 2023/02/05(日) 21:07:47.35 ID:ldf42oh6o
青葉「カメラは没収されましたが、それとは別に隠し撮りで一番撮りたかったものが撮れたので、青葉はそれで十分です」ピラッ
X中佐「これは……なんとも言えない笑顔だね」
提督「すげえ面だな。こんな顔して何考えてたんだか」
青葉「後ろに移ってるのはK大佐ですね。この時期から何かしらK大佐がちょくちょく出張してました。だいたい1年くらい前からですかね?」
X中佐「青葉、詳しい話はあとでさせてもらっていいかな? この話はあまり他言できそうにないね」
青葉「……そうですね。とにかく、そういう手口で衣笠もJ少将に脅されていたわけですよ」
提督「なんで衣笠がJ少将に脅されるようになったんだ?」
青葉「単純に手駒が欲しかったんでしょう。能代さんを意のままに操るため、阿賀野さんをあんな目に遭わせることも厭わない相手です」
提督「……胸糞な奴だな」
矢矧「青葉さんが鎮守府を去って少し経ってから、衣笠さんの様子がおかしいのは私もなんとなく感じていたわ」
矢矧「私は、青葉さんがJ少将鎮守府に、何か後味の悪いものを残していったからだと思っていたのだけれど……」
青葉「とにかく、衣笠も能代さんと同じように、言うことを聞かなければ、近親者の誰かを頃すと脅されていたんでしょう」
青葉「その結果、青葉も狙われましたし、命令を実行してしまって後悔して、こんな状態になってしまった、と」
衣笠「……ぐすっ……」
提督「なるほどねえ……」ウーン
769: 2023/02/05(日) 21:08:32.82 ID:ldf42oh6o
X中佐「青葉はこの話を提督にする気はなかったのかな?」
青葉「それは単純に、あの島が青葉の話をしていい状況になかったからですね」
青葉「あとは、いつ話すべきか、あるいはお話して良い相手か、見定めたかったというのもあります」
提督「そういやお前が来てまもなくだったよな、大佐が泊地棲姫の塒に攻撃し始めたのは」
青葉「そうでしたねえ。とりあえず青葉からは以上です!」
提督「……艦娘や深海棲艦に関する実験、か。いろいろ知ってるであろうJ少将を潰せたのは、良かったのか悪かったのか、だな」
古鷹「あの、提督! 衣笠を、許してもらえませんか?」
提督「ん? 俺は最初っから許すつもりでいるんだけどな。けじめはつけたほうがいいか……おい、衣笠」
衣笠「!」ビクッ
提督「チョキかパーか、好きなほう選べ」
衣笠「……?」ビクビク
提督「別に選んで氏んだりはしねえよ。悪いようにはしないから、どっちか選びな」
衣笠「……そ、それじゃあ……ちょ、チョキ?」オソルオソル
提督「よし、チョキだな」スッ
770: 2023/02/05(日) 21:09:17.19 ID:ldf42oh6o
古鷹「あ」
バッチィィィン!!
衣笠「いったああああああい!?」ブットビ
阿武隈「ひい!?」ビクッ
子日「なにあのでこぴん!? すっごい音したんだけど!?」
青葉「ちょっ、司令官!? なにするんですか!?」
古鷹「き、衣笠!? 大丈夫!?」
衣笠「んぎゅううう、痛ったああ……!」グスグス
提督「おい衣笠。俺たちの件はそれで手打ちにしてやるぜ。これ以上俺たちに謝るなよ?」
衣笠「……!」
X中佐「提督はそれでいいのかい?」
提督「形はどうあれ、やったことに対する罰が欲したかったんだろ。当事者に反撃されて、少しはすっきりしたんじゃねえの」
衣笠「……」パチクリ
阿武隈「あ、あの、なんでグーがなかったんですか?」
提督「げんこつは手加減できないんでな」
771: 2023/02/05(日) 21:10:01.44 ID:ldf42oh6o
曙「じゃあパーはびんたしようってつもりだったの!?」
青葉「いえ、司令官の場合はアイアンクローでしょうねえ……」
提督「手加減はするぞ? さっきのでこぴんだって手加減したからな?」
古鷹「ねえ衣笠、大丈夫? 早く医務室に行こう?」
衣笠「……う、うん……あの、提督!」
提督「!」
衣笠「あ、あの……ありがとう、ございました」ペコリ
提督「おう。ちゃっちゃっと治せよ」
衣笠「は、はい!」
古鷹「提督! 私、衣笠を連れて行きますね!」
扉<チャッ
ツバキ「おひけえなすって!!」バーン
衣笠「」オメメ
古鷹「」ミヒラキ
ピカー
ツバキ「うおっ、まぶしっ」
提督「何やってんだ」
ツバキ「申し訳ありやせん、鉢合わせた古鷹の左目が眩しゅうて、面食らいましてん」
772: 2023/02/05(日) 21:10:46.38 ID:ldf42oh6o
曙「あ! あんた、あの島にいた……!!」
ツバキ「おや、親分さんと一緒にいた艦娘は、こちらにおりんしたか」
ツバキ「改めまして、うちはカビンのメディウム、名をツバキとはっします。どちらさんも、よろしゅう頼んます!!」ズイッ
全員「「……」」ヒキッ
提督「まあ、堅気しかいねえからな。ツバキの口上こそ面食らうだろ」
ツバキ「大将さんところの艦娘の皆さんにゃア、受け入れてもらえたんですがねえ?」
X中佐(任侠ものの映画が好きだもんなあ、叔父さんは……)
ツバキ「ときに親分さん、恐れ入りやすが、この船の食堂までご足労願えやせんでしょうか」
早霜「墓場島へ攻め込んだ艦娘たちが、お詫びも兼ねて顔合わせのため集まっているの」
阿武隈「私たちもそうだったんだけど、先に提督さんにお会いしたくて……」
提督「面倒臭え……」
曙「まだ言うの!?」
雷「それじゃ、私がだっこして連れてっ」
提督「しょうがねえな、さっさと行くか」
雷「てあげようと思ってたのに!?」
提督「つうか、また食堂か? また比叡がカレー配ってるんじゃないよな?」
ツバキ「本日は、うちのメディウムどもが、甘味を振舞っておりやす」
提督「甘味……?」
773: 2023/02/05(日) 21:11:31.85 ID:ldf42oh6o
* 食堂 *
マーガレット「ご、ごめんなさい! 本当にごめんなさい!」
提督「……」
ツバキ「文字通り、西洋の甘味を振舞っておりやすな……」
阿武隈「なにこの惨劇……」
朧「秋月、しっかりして!」ユサユサ
顔にホールケーキをのせて仰向けに倒れている秋月「」チーン
顔にホールケーキをのせて仰向けに倒れている照月「」チーン
顔にホールケーキをのせて仰向けに倒れている初月「」チーン
パンプキンヘッドを被って鼻血を出して倒れている涼月「」ゴーン
X中佐「ケーキがもったいない……」
セレスティア「申し訳ありません魔神様、マーガレットがまた粗相しまして……」
朧「3人とも、ケーキを滅多に食べたことがないから、ダウンしたらしいんです!」
提督「……うん、まあ、そりゃしょうがねえとしよう。けど、こっちのパンプキンマスクはロゼッタだよな?」
ロゼッタ「そうだよー! だって、その子があたしのじゃこたん見るなりカボチャの煮付け? とか、調理がどうこうってうるさくてさー!」
774: 2023/02/05(日) 21:12:17.45 ID:ldf42oh6o
ロゼッタ「話聞かないからじゃこたん被せたら、おとなしくなったからそのままにしてるの!」プンプン!
提督「こいつはなんで鼻血噴いてんだ」
酒匂「涼月ちゃん、カボチャマニアだからじゃないかなあ……」
提督「被らされて喜ぶのかよ。よくわかんねえな」
W大佐「提督、騒々しくさせてすまないな」
提督「! あんたも来てたのか」
W大佐「ああ、前回顔見せできなかった、うちの艦娘も連れてきたんだ」
W鈴谷「あ、X中佐じゃーん! おっひさー! で、そっちが噂の魔神提督? ちーっす!」
W熊野「ごきげんよう、お待ちしておりましたわ。ケーキ、お先にいただいていますわよ」
W大佐「紹介しよう、最上型航空巡洋艦、鈴谷と熊野だ」
提督「最上型?」
W大佐「ああ。君のところに最上と三隈がいると聞いている。良かったら話ができればと思ってな」
W鈴谷「それなんだけどさー、鈴谷達の出る幕、ないみたいよ? ほら」
W日向「ふむ、君が最上か。良い目をしているな」ズイ
最上「そうかな?」キョトン
775: 2023/02/05(日) 21:13:03.02 ID:ldf42oh6o
W日向「お近づきのしるしに特別な瑞雲を差し上げよう。どうだ、私たちと一緒に来ないか」ズズイ
三隈「ちょっと! 最上さんに近づきすぎですわ!!」シャーッ!
提督「……ありゃ、お前んとこの日向か」
W大佐「そうなんだが……」
ヴァージニア「先ほどから最上に絡んでいる。三隈がいい顔をしていないようだぞ」
レイラ「こちらの日向とはだいぶ雰囲気が違いますわね」
提督「ヴァージニアにレイラか? お前たちがわざわざこっちに足を運ぶなんて珍しいな」
レイラ「たまにはこうやって一緒にティータイムを楽しもうかと思いまして」
ヴァージニア「私は、私の前に跪かなかった者たちの顔を見に来ただけだ」
W熊野「ふふん、このわたくしに目をつけるなんて、メディウムにもなかなか見る目がある御仁がいるようですわね」
ヴァージニア「調子に乗るな、未熟者め」
W鈴谷「もー、張り合ってる場合じゃないっしょ? ほら、ケーキおいしいよー?」パク
ヴァージニア「……」
ヴァージニア(ふむ……先程から観察しているが、この鈴谷とかいう娘……)
ヴァージニア(口にものを含んでいる間は決して口を開かず、ケーキをフォークで切るときも一切物音を立てていない)
ヴァージニア(ティーカップを口へ運ぶしぐさも、飲んだ後にティーカップの縁を指で拭うしぐさも、気品を漂わせている……!)
776: 2023/02/05(日) 21:13:47.24 ID:ldf42oh6o
ヴァージニア(最上と三隈も育ちの良さが窺い知れたが、熊野という娘ともども様になっているではないか……面白い者どもだ)
W熊野「ちょっとあなた。さっきから、何をじろじろ見てますの?」
ヴァージニア「……なるほど。我らの出会いは、偶然ではなかったということか……」フンゾリ
W熊野「は?」
ヴァージニア「貴様らもいつか私の前に跪かせてやろう!」ズビシィ!
W鈴谷「え!? なになに、どういうこと!?」
レイラ「ご安心を。彼女があなたたちのことを一目置いたという意味ですよ」ニコッ
W熊野「ふ~ん……そういうことですの。悪い気はいたしませんわね」フフン
ヴァージニア「レイラ。勝手な解釈をするな」
レイラ「あら、間違ってましたか? ウフフ」
ヴァージニア「それより貴様はあの猫娘の相手をしていたらどうだ。あれはシルヴィアを魚に見立てて追い掛け回していただろう」
レイラ「ああ、それでしたら、彼女の妹君にお相手していただいていますわ」
ヴァージニア「なに?」
北上「うーりうり、猫じゃらしだよー」ミョインミョイン
W多摩「多摩は! 猫じゃ! ないにゃ! じゃらすな! ってばァ!」シャッ! シャッ!
提督「猫じゃねえか……」
777: 2023/02/05(日) 21:14:32.00 ID:ldf42oh6o
W大佐「多摩はなにをしてるんだ」ガシッ
W多摩「うにゃあ……」エリクビツカマレ
北上「あ、提督きてたんだー。お疲れ様」ヒラヒラ
H大井「北上さん? こちらの方は……」
北上「んー、この人があたしらの提督だよー。魔神様っても呼ばれてるけど」
H大井「この人が……」
北上「提督、紹介するねえ。H大将の秘書艦、大井っちだよぉ」
H大井「重雷装巡洋艦、大井です。H大将の秘書艦を務めております」ペコリ
提督「おう。お前が北上の姉妹艦か」
北上「ついでに言うと、提督がこの前会食した球磨姉や、城塞鎮守府で会った木曾もうちらの姉妹だよー」
W多摩「多摩もそうだにゃ」
提督「……なんつうか、一癖ある奴ばっかりだな」
北上「ありゃ、意外と反応薄くない?」
提督「まあ、あのメディウム連中を見てりゃあな?」チラッ
北上「あー……」
レイラ「あら、どうしてこちらに視線が?」
778: 2023/02/05(日) 21:15:31.54 ID:ldf42oh6o
ヴァージニア「あるじよ、どこを見ている?」
W鈴谷「無理もないよー、実際、レイラちゃんの見た目は派手っ派手だよねー?」
ヴァージニア「私が煌びやかではないと申すか!」ガタッ
提督「ヴァージニア、お前、面倒臭えから座ってろ……」ハァ
ヴァージニア「あきれたようにため息をつくな」グヌヌ…
北上「まあまあそれよりさ、大井っちのところの、H大将の艦娘も来てるから、ちょっと対応してあげてよ」
H大井「こちらです」
摩耶「お、やっと来やがったか」
提督「摩耶? 鳥海もいるのか」
鳥海「はい。こちらにいるのが高雄型の1番艦、2番艦にあたる、高雄姉さんと愛宕姉さんですが……」
H高雄「」ブルブル
H愛宕「」ビクビク
提督「……なんか、あからさまに怯えられてねえか?」
摩耶「メディウムに相当怖い目に遭わされたらしくて、ずっとこんな調子なんだよ」
提督「ん? 2人だけか?」
779: 2023/02/05(日) 21:16:16.51 ID:ldf42oh6o
H大井「あの場には6名の艦娘を出撃させていただきましたが、そのうち金剛型の2人は収拾がつかなくなるほど騒々しくなるので欠席に」
H大井「長門型の2人……長門は放っておくと駆逐艦を口説きだすので欠席、陸奥はその長門を見張るため欠席としました」
H大井「H大将が同席すればおとなしくはなるのですが、今日は外せない用事があるので、私が代行として参上した次第です……」ハァ…
提督「……苦労してんだな」タラリ
H大井「とにかく、こちらの2人も私たちの艦隊の主力ですので、どうにか立ち直って欲しいという期待も込めて連れてきたんですが」
提督「うちのメディウムどもは何をやらかしたんだよ、くそが……」
ヒサメ「それなんじゃが、主にサムとジェニーが調子に乗ったようでのう?」カキゴオリシャクシャク
提督「ヴォルテックチェアとデルタホースか……精神的にもダメージでかい奴だな」
メアリーアン「んだ。そのあと、でっけぐなったマリッサに襲われかけてただよ」シャクシャク
提督「でっけぐ? ……ああ、でっかくなったってか。泊地棲姫の力を借りて巨大化してたって言ってた奴だな?」
メアリーアン「んだんだ!」
ヒサメ「戦は終わったのじゃ。そのように怖がらずとも良いというのにのう? ほれ、艦娘にこさえてもらったかき氷じゃ、食わぬかぇ?」
高雄「!」ビクッ
提督「ガタガタ震えてる相手に勧める食い物じゃねえと思うんだが……」
780: 2023/02/05(日) 21:17:03.76 ID:ldf42oh6o
メアリーアン「ヒサメの好みだがら、しょうがねえだ。おらがあったかい飲み物、用意すっぺが?」
厨房の扉<チャッ
ビスマルク「かき氷の追加ができたわよー!」
提督「注文に関係なく作ってんじゃねえよ……」アタマオサエ
X中佐「うちのビスマルクがごめんね……」
ビスマルク「あら、あなた、噂の魔神提督ね。私はビスマルク、X中佐艦隊所属の艦娘よ、よーく覚えておくのね!」
提督「ああ……そういや、X中佐の主力は海外艦と潜水艦だったか」
ビスマルク「ええ、そうよ。このかき氷も、つい先日、新しく入った艦娘が作ってくれたんだけど」
ウォースパイト「我が名はQueen Elizabeth Class ! Battleship Warspite ! かき氷作りなら任せて!!」バーン!
X中佐「何やってんのウォースパイト!?」
提督「……何者だ、ありゃ。クイーンエリザベスっつったらイギリスの女王じゃねえか。なんでクイーンがジャパニーズかき氷作ってんだよ」
ビスマルク「私も知らないわよ、そんなこと。突然、あの子が作るって言い出したんだもの」
ヴァージニア「クイーン!? 貴様も女王を名乗る気か!?」ガタガタッ
提督「話が面倒臭くなるからお前はおとなしくしてろ」
ヴァージニア「これが口を出さずにいられるか! あるじは下がっておれ!」
提督「……」ムゴンデアイアンクロー
ヴァージニア「うごっ!? ぶ、無礼者、なにを……あっ、ちょ、やめっ、いだだだだだ!?」メキメキメキ
781: 2023/02/05(日) 21:17:46.43 ID:ldf42oh6o
W大佐「容赦がなさすぎる」タラリ
阿武隈「あれを衣笠さんにやろうとしてたんですか……」
ヒサメ「ヴァージニアの奴め、落ち着かせ役のサムがこの場におらぬせいで我儘三昧じゃな」
メアリーアン「暴君だっぺよー」
ヒサメ「まあ、じゃからと言ってサムの奴めを放逐すれば、誰彼構わず椅子に電気を流し始めるからのう」
メアリーアン「暴君だっぺな!」ウンウン
摩耶「どっちみち駄目なんじゃねえか!!」
提督「このカオスな状況で、何やったらいいんだよ……摩耶、鳥海、なんかいい方法あんのか?」
鳥海「そうですね、とりあえず司令官さんがお優しいところを見せて、メディウム恐怖症を克服できるよう……」
提督「そりゃ無理だな」
摩耶「諦めんの早すぎだろ!」
提督「そんなこと言ってもなあ。俺が優しくににこにこへらへらしてたら、薄気味悪いと思わねえか?」
摩耶「……それもそうだな?」
鳥海「摩耶!?」
782: 2023/02/05(日) 21:18:31.61 ID:ldf42oh6o
提督「俺からは、無理に島に近づかなくていいぞ、ってレベルの話しかできねえと思うんだが……なあ大井、ちょっと教えてくれ」
H大井「はい? なんでしょう」
提督「H大将は、今後も継続して俺たちと接触する気なのか?」
H大井「今後、深海勢力との折衝を行うのは、X中佐やF提督が中心になると、私は認識しています」
H大井「なので、もし関わるにしても、私たちは他艦隊のバックアップに回るでしょうね」
H大井「もちろん、H大将や北上さんがこちらに用があるというのなら話は別ですが……」
H大井「H大将が個人的にあなたがたとお付き合いしたいかどうかは、私にはわかりません」
提督「んー……だとしたら、この場で無理にメディウムたちと和解というか、克服しなくてもいいんじゃねえか?」
H高雄「!」
H愛宕「!」
提督「摩耶たちが姉を立ち直らせたいというのはわかるが、落ち着くまでは距離を取ったほうがいいこともある」
提督「H大将たちの都合が許す限りは、俺たちと接触しないほうが、かえって気が楽になって回復も早まると思うんだが」
H大井「……かもしれませんね」
提督「とりあえず俺は、こっちに敵意を示さない限り、これ以上危害を加える気はないし」
提督「島に来るときに北上たちがいてくれりゃあ、攻撃はしないとも決めたからな」
783: 2023/02/05(日) 21:19:16.81 ID:ldf42oh6o
H大井「H大将から、罠の化身を束ねる魔神と聞いていたから警戒していたのだけれど……信じていいんですね?」
提督「そういう約束を守らなきゃ、俺たちの安全も担保してもらえないだろ。せいぜいお前たちに信じてもらえるように動くさ」
H大井「……承知しました。良く取り計らいましょう」
提督「ああ、よろしく頼むぜ」
ヒサメ「なんじゃ、もう話は仕舞いか?」
提督「今のところはな」
北上「慌てて解決する必要もなさそうだしね~」
ヒサメ「それはつまらんのう。折角の機会じゃ、そこな猫娘のように一悶着あっても良いでは……」
ベシッ
ヒサメ「あいた!?」
初春「まったく、折角まとまりかけておったところを引っ掻き回してどうするんじゃ!」
ヒサメ「いたた……初春め、何をする? ほんの冗談じゃろう、本気にするでない」アタマサスリ
初春「メディウムならやりかねん。というか、ヒサメこそ調子に乗っておるのではないか?」
初春「炎を操るメディウムたちが遠慮して船内に入ってこないことをいいことに、のう?」ズイ
ヒサメ「さあて、どうだかのう?」プイス
784: 2023/02/05(日) 21:20:16.99 ID:ldf42oh6o
提督「? なんで遠慮してんだ?」
初春「火災報知機があるじゃろう? ウーナのように松明を掲げておっては一発じゃ」
提督「ああ……そういうことか。下手すりゃスプリンクラーでびしょ濡れだもんな」
メアリーアン「濡れるのも勘弁だべ。おらの防寒具が水吸ったらば、重でくて動かんにぇぐなっちまうだあ」
ウォースパイト「……ねえビスマルク? 彼女、日本語を話しているのよね? フランス語ではないわよね?」ヒソヒソ
ビスマルク「訛りがすごいだけよ。私もよく聞き取れないくらいだけど」
ウォースパイト「Hmm... 興味深いわ。ねえ、彼女の罠がどんなものか、見せてもらってもいいかしら」
提督「やるなら外でな。こんな狭いところで雪玉召喚したら、軒並み巻き込んで収拾がつかなくなるぞ」
ビスマルク「雪玉?」
メアリーアン「んだ、おらあスノーボールのメディウムだぁ。でっけえ雪玉呼び出して、みんな雪さ埋めて転がしちまうだよ」
メアリーアン「んでば、おらだづ、魔神様ぁ守るため、こっちの2人と戦うごとになったんだけども……」
メアリーアン「せいぜい驚かして、逃げてもらうか、ちょっと動けなぐなってもらうか、そのっくらいにしたがったんだよぉ」
H高雄「あ……」
メアリーアン「おっかねえ目に遭わせちまって、ほんとにごめんなあ」ペコリ
H愛宕「え、ええ……」
ヒサメ「敵対してない艦娘とは仲良くしろと、こやつが言うからのう。まっこと、甘い男じゃ」ウンウン
785: 2023/02/05(日) 21:21:15.74 ID:ldf42oh6o
ツバキ「親分さん、そろそろこちらにもご挨拶願えやせんでしょうか」
提督「ん? ああ……こっちには武蔵がいるのか?」
X中佐「僕の叔父さん、海軍大将の艦娘たちだね」
T武蔵「……貴様が提督か。ツノが生えたと聞いていたが……」
T霧島「見た目は普通の男性ですね?」
提督「ツノ……ああ、そういやいつの間にかどっかに行っちまったな」
T霧島「生えていたことは間違いないのですか?」
提督「ああ。意図して生やしたつもりはないが……」
T清霜「もしかして出し入れできるの!?」
T武蔵「こら、清霜!」
提督「出し入れ……できるかもしれねえな。まあ、また生えてくるようなことはないようにしたいもんだが」
T霧島「それはどういう意味です?」
提督「ツノが生えた、つまり俺が魔神に覚醒したのは、うちの艦娘たちや、長く一緒にいた妖精が人間どもに殺された怒りからだ」
提督「あの島の海底火山が噴火したのも、俺が覚醒したからだって認識してる」
T霧島「……そういうことですか」
786: 2023/02/05(日) 21:22:01.65 ID:ldf42oh6o
T武蔵「阿武隈、お前たちは確か島に乗り込んで提督と会ったと聞いているが、今の話は本当なのか?」
阿武隈「……提督の艦娘たちが、K大佐たちに襲われたのは事実です」
提督「そういやお前もあいつらに両脚撃たれてたよな? 大丈夫なのか?」
阿武隈「え? あ、はい! それは大丈夫です!」
提督「そうか、ならいい。治療できなくて痕が残ったら最悪だ。うちの艦娘に、入渠させてもらえず傷が消えなくなった奴がいたからな」
阿武隈「うえぇ……」
T妙高「少尉は、そういった過酷な状況にあった艦娘の保護に、奔走されていたのですね?」
提督「さすがに奔走は過大評価だ。俺はあの島に流れ着いてきた艦娘を保護してきただけだ」
提督「その中でも、体に傷が残るほどひどい目に遭ったのはわずかだが……まあ、まともじゃねえ扱いを受けてきた艦娘ばかりだったな」
T武蔵「貴様の艦隊にも武蔵がいると聞いているが、そいつもひどい目に遭ったのか?」
提督「いや、うちの武蔵は建造艦だ。苦労させてはいるが、ひどい目には遭わせてないつもりだぞ? 多分」
曙「多分、って……アンタは朧じゃないでしょ」
提督「まあ、それよりそっちの2人のほうが」チラリ
T羽黒「ひっ!」ビクッ
T初風「ひっ!」ビクッ
提督「……マジで重症そうだな」
787: 2023/02/05(日) 21:22:46.74 ID:ldf42oh6o
T妙高「そうですね……ふたりとも、提督に失礼ですよ?」
T羽黒「わわ、わ、わかってます、わかってますけど……」ヒシッ
T初風「ど、どうしても、その……」ヒシッ
提督「さっきの2人といい……なにがあったんだ、あの2人は」
ナンシー「それなんだけどぉ」ヒョコッ
ナンシー「このふたり、リサーナとルイゼットがお相手したみたいなの!」
提督「……てことは、サーキュラーソーとギロチンか? んじゃトラウマになっても仕方ねえな」
T清霜「あ! トゲトゲ天井のお姉さんだ!」
ナンシー「ノン・ノン! あたしはフォールニードル! の、ナンシーちゃんだよー!」
T武蔵「……なんとも軽いな」
ナンシー「それ、マスターのところの武蔵にも言われちゃったんだよねー。ねえマスター、あたしってそんなに軽いかな?」
提督「ノリは軽いと思われるかもしれねえな」
提督「けど、俺が辛気臭えからってのもあるが、お前みたいにポジティブな奴がいると雰囲気良くなるから嫌いじゃねえぞ?」
ナンシー「!」
788: 2023/02/05(日) 21:23:32.40 ID:ldf42oh6o
提督「むしろ、場を弁えていれば長所だと思ってるが、お前は不満か?」
ナンシー「ううん、そんなことないよ! マスター、長所だって言ってくれるんだ! 嬉しー!」ダキツキー
T武蔵「ふぅむ……まあ、一理あるか」
提督「必要以上に剣呑な雰囲気にしなくてもいいだろ。少なくともこの場はナンシーくらいのノリで話せる奴がいたほうがいい」
ツバキ「せやったら、うちも少し明るく振舞ったほうがええんやろか」
T清霜「そっちのお姉さんは、今のまんまでいいと思うよー? 私はよくわかんないけど、武蔵さんと霧島さんが盛り上がってたもん」
T武蔵「き、清霜!?」ワタワタ
T霧島「その話は内密に!」アセアセ
ツバキ「……隠す意味が、ようけわかりゃんせんな?」クビカシゲ
X中佐(やっぱり任侠物が好きなんだ……)
提督「とにかくだ。そもそも俺はさっきからずっと言ってんだが、お前らは俺たちに謝るような立場にないと思ってる」
提督「落ち度があるとすりゃあ、J少将の企みそのものと、そいつの本性を見抜けなかった大将たちだろうよ」
提督「そっちの2人のケアは必要だが、それ以外は、お互い大変だったな、で済ませてしまいたい」
提督「もちろん、お前らが大将の指示に背いて、独断で俺たちを攻撃したって言うなら話は別だが、そうじゃねえよな?」
T武蔵「ああ。貴様たちが深海棲艦との共存を目指していたことを知っていたら、我々は協力を申し出ていたはずだ」
789: 2023/02/05(日) 21:24:17.77 ID:ldf42oh6o
ツバキ「あの人間に、そのお役目が務まりますやろか?」
T霧島「私たちの提督は、いささか猪突猛進なきらいがありますので、実際の交渉については私たちが受け持つつもりでいました」
T武蔵「それか、それこそX中佐にお願いしなければならないかと……」
ツバキ「そういうんとちゃいます。あの人間、うちの親分さんが覚醒したときに腰を抜かしはったんどす」
提督「ツノが生えたの見て、ビビッて俺から逃げようとしてたよな」
T武蔵「それはいま初めて聞いたんだが……」
ツバキ「ついでに言うと、スパイクボールに巻き込まれそうになって気ぃやってもうてましたな?」
T妙高「え? H大将からは、K大佐たちに気絶させられたと聞いていたんですが……」
提督「H大将が気を利かせてくれたんだろうな……」
ナンシー「ぶっちゃけ見栄っ張りだよね、あの人間!」
H武蔵「いや、まあ、ある程度はわかっていたつもりだがな。割と後先考えずに理想論に走り、ゴリ押しで物事を進めるのが常だというのは」
H霧島「悪いアプローチではないんですよね。手段を選ばず目的を果たすと言うのは、君主論そのものですから」
H妙高「毎回、その後始末が大変ですけれど、うまくいっていたからこそ苦にしなかったというのもありますね」
X中佐「それで僕たちが呼び出されることも、たまにあったんだよね」トオイメ
H清霜「たまに?」クビカシゲ
790: 2023/02/05(日) 21:25:16.52 ID:ldf42oh6o
ナンシー「こっちのおチビちゃんの反応からすると、常態化してるみたいよー?」
提督「やれやれ……それで俺を部下にしようと息巻いてたのかよ。こき使う気満々じゃねえか、くそが」
H妙高「ちなみに、提督は交渉の場で、私たちの提督……大将の部下になるおつもりはありましたか?」
提督「くそっくらえだ、冗談じゃねえ」
H妙高「……」
ツバキ「ま、当然ですやろなあ」
H武蔵「妙高、この答えは予想できていただろう。なんでそんなことを訊いたんだ……」
H妙高「いえ、もし提督が深海棲艦と共存する気なら、海軍に協力を仰いでいたのではないかと……」
提督「仰がねえよ、むしろ追っ払ってる。俺は人間を信用してねえ」
H武蔵「……」
H霧島「……」
提督「なんでそんな顔してんだよ。うちの艦娘を苦しめていたのは他でもない人間だぞ?」
提督「俺が連中を利用することはあっても、俺が連中に協力したいなんて、これっぽっちも思ってねえよ」
W大佐「つくづく、彼とあんな取引ができたのが奇跡のようだな」
X中佐「まあね……」
791: 2023/02/05(日) 21:26:01.45 ID:ldf42oh6o
提督「そりゃお前が島を譲ると言ったから、その対価を返そうとしただけだ」
X中佐「……!」
提督「お前が裏切らねえ限りは、俺だってそう務めるつもりだ。お前は珍しく、艦娘に慕われてるみたいだからな」
提督「できれば、早いうちにあの場所を使わなくても深海棲艦と話し合えるようになって欲しいもんだが」
X中佐「……ありがとう」
ビスマルク「X提督? あなたはこっちの提督の信頼を得たみたいね? あなたの艦娘として鼻が高いわ」ニコニコ
ウォースパイト「お祝いにかき氷を作りますね!」
T武蔵「ちょっと待て、その手に持っているのはおろし金じゃないか」
ウォースパイト「ええ。これで氷を粉末にしているの。変かしら?」
T武蔵「普通ではないな……」タラリ
提督「まあ、削り氷(けずりひ)には違いねえか」タラリ
* おまけ *
X中佐「そういえば紹介してなかったね、僕の秘書艦の祥鳳だ」
祥鳳「よろしくお願いしますね!」
提督「おう」
セレスティア「……なるほど、確かにツバキにに似ているかもしれませんね」
曙「……」
ツバキ「?」
795: 2023/02/19(日) 21:23:20.11 ID:AXFSIrLto
* 1週間後 *
* 墓場島 新埠頭倉庫内 仮設休憩スペース *
提督「順調だな」ペラリ
大和「はい。順調ですね」ニコニコ
提督「タチアナから渡されたダイヤの原石はとんでもねえ値段で売れた」
大和「木材購入や技師を雇うのに、十分な資金になりましたね」
提督「広い工廠、最新の入渠ドック3基、綺麗で大きな風呂、その電力を賄える深海謹製の地熱発電施設に、海軍の変電設備」
大和「海軍の紹介で島に来た技師たちが、地熱発電施設を調べさせてほしいと目を輝かせていましたね」
提督「どういう仕組みか知らないが、相当画期的だったらしいな?」
大和「応用できたら国内でも展開したいと言ってました。そのおかげか変電施設も短納期ながら不備のないよう相当入念にチェックしてましたね」
提督「食堂もきれいになったし、厨房は保冷庫も完備。外には新しいビニールハウスも新設して新しい土も入れたと」
大和「飲用水の確保は、島への来訪者に対しても必要です。水の濾過施設と浄化槽は深海棲艦たちが驚いていましたね」
提督「演劇もできそうなステージ付きのホールも、食堂とは別の棟に作ってもらったから、騒音の問題もなくなった」
大和「那珂さんが大喜びで駆け回ってましたよ。まるで体操選手の床の演技みたいに」
提督「ステージ上でバク宙決めてたもんな。あいつのアイドルの方向性、まるで一昔前の男性アイドルだぞ」
796: 2023/02/19(日) 21:24:04.15 ID:AXFSIrLto
大和「なのに歌で特にお上手なのはバラード系ですから……微妙に?み合わないのが残念ですね」
提督「まったくだ……あとは、手ごろな広さの執務室と通信室と資料室。会議室と客間と休憩室も揃えられたし……」
大和「人型ではない深海棲艦が行き来できるよう、水路も新たに敷設。館内の適度な広さと複雑さは、メディウムたちからの評判も上々です」
提督「集積地棲姫は北の洞窟があった岩場に居を構えるらしいな?」
大和「正確には洞窟があった場所から少し鎮守府寄りの場所になりますね。彼女以外にも戦禍を逃れたい深海棲艦がそこに集まるようです」
提督「西の林も燃えてなくなったことで、鎮守府の近くの住居スペースも十二分に確保できたと。近く植林もするって話だな?」
大和「はい。そして離れに、一回り大きくなった特注のベッドが鎮座する提督のお屋敷も……」ポ
提督「そこはどうしてそうなった」アタマカカエ
大和「それはもちろん、提督と同衾できる機会が増えるようにと。バスルームも完備しましたし」ニコニコ
提督「お前ら毎日泊まる前提かよ」
大和「宿泊日程に関しては鋭意調整中です。ちゃんと調整しませんと、ほら」ユビサシ
軽巡棲姫「……提督……」ギュゥ…
大和「軽巡棲姫さんも提督の腰に抱き着いたまま離れませんので、どこかで彼女の不安も払拭してあげないといけませんよ?」
提督「ったく……しゃあねえな」ナデナデ
軽巡棲姫「アゥ……」ウットリ
797: 2023/02/19(日) 21:24:50.47 ID:AXFSIrLto
大和「ところで提督? 先日、またメディウムの魔力槽に入ったと伺ったんですが……」
提督「ああ。今回はルミナに見てもらいながら入ったんだが……」
大和(見てもらいながら!?)
提督「なんとなく、感覚が鋭くなったような気がするっちゃあするんだよな。身体そのものはなんともねえんだが」
大和「感覚が、ですか……どのような感じなんですか?」
提督「ん-、人の気配? ……を感じるのが、なんとなく敏感になったっていうか……なんて表現したらいいんだ?」
ルミナ「やあやあ、魔神君! こんなところにいたんだね!」
提督「よう、何かわかったのか」
ルミナ「えーとねえ、この文献の……おそらくこれとこれだと思うんだけど。ちょっと実験したくてね?」
提督「実験?」
ルミナ「そう。魔神君は魔神として覚醒してそれなりに経つわけだけど、魂に関わる部分はまだ未覚醒でね」
ルミナ「おそらく今回、魔力槽に入ったおかげで、魔神としての感覚が戻りつつあると思うんだ」
提督「そういうもんか?」
798: 2023/02/19(日) 21:25:35.14 ID:AXFSIrLto
ルミナ「少なくとも、感覚が鋭敏になったと聞いたから、この辺の能力が使えるかを試したいわけだよ……まずはこれがいいかな?」ペラリ
提督「何をするといいんだ?」
ルミナ「そうだねえ……それじゃあ、大和君をじっと見てごらん?」
大和「!?」
提督「? 見るだけでいいのか?」
ルミナ「そうそう」
提督「お前みたいに目からレーザー出したりしないだろうな?」
ルミナ「今はそこまでできないだろうから大丈夫だよ」
提督「今は、ってお前……」
ルミナ「私をむしゃむしゃと食べるなりして魔神君と一体化すれば、できると思っているよ?」
提督「そういう意味かよ……」
ルミナ「一体化する方法としてはもっと別の方法でもいいけどね」ニヒヒ
提督「とりあえず、大和を見ていればいいのか?」ジッ
大和「……」ドキドキ
799: 2023/02/19(日) 21:26:20.73 ID:AXFSIrLto
ルミナ「そうそう。それで、見る位置というか眼の焦点を、大和君の『奥』というか『底』に合わせるような感じで、意識を集中させてごらん?」
提督「なんだそりゃ……んん?」
大和「て、提督? どうなさったんですか?」
提督「なんか、文字とか記号が見えてきた……なんか、上からの矢印にバツ印がついてる絵というか、マーク? が見えるぞ」
大和「えええ?」
ルミナ「お、見えてきたかい? その能力が『魔神の目』だね。見た相手の名前や能力、通用しない罠の種類を見抜く力だよ」
ルミナ「今の話を聞く限り、多分、大和君には上から降ってくるタイプの罠が通用しないということだね」
大和「た、確かに、ナンシーさんのフォールニードルを傘で受けたことはありますが……」
提督(なんか、プロフィールみたいな文章まで読めちまうぞ……人の秘密を覗き見しているみたいで、なんか嫌だな)
ルミナ「ほら魔神君、大和君だけじゃなく、私も見てくれたまえ」
提督「ん……お前は矢みたいなマークにバツ印がついてるな」
ルミナ「私の場合は飛んでくるタイプの罠が通用しないってことだね」
提督「体力っぽい数字も見えるな。大和と比べると低いのは、まあ、しょうがねえのか」
ルミナ「おやおや、そこまで見えるのか。うん、これなら問題なさそうだ」
800: 2023/02/19(日) 21:27:05.65 ID:AXFSIrLto
ルミナ「ちなみにニコ君もその能力を備えていて、射程も長いんだよ。意識すればこの島に入った瞬間に見えるくらいにね」
提督「マジか……まるで千里眼だな?」
ルミナ「慣れれば魔神君も同じくらいの能力を備えられるはずさ。ここまでできるんならもう一つ試してみようか」
ルミナ「そこの軽巡棲姫君から『黒い気配』を『手から吸いだして』ごらんよ?」
軽巡棲姫「?」
大和「は?」
提督「なんだそりゃ……?」
ルミナ「魂を視ることができたから、第二段階として今度は触れる練習だ。軽巡棲姫君の頭に手を置いたまま、意識を集中させてごらん?」
提督「このままでか……?」ナデ
軽巡棲姫「アァ……」ウットリ
ルミナ「うん。目を閉じて、集中して……」
提督「……」
大和「……」
提督「黒い気配……これか?」
801: 2023/02/19(日) 21:27:50.07 ID:AXFSIrLto
ルミナ「それを掴んで、引っ張り出すことはできるかい?」
提督「……」
ズ…
軽巡棲姫「ア……ゥ!?」ビクッ
提督「……これ、吸えてるのか?」
ルミナ「大和君、軽巡棲姫君から黒い感じが抜けてきてないかな?」
大和「え? ええ、なんというか、少し血色が良くなったというか、雰囲気が神通さんに近く……あ、あら?」
提督「どうした?」
大和「あ、あの、少し透けて見えるんですけど……?」
ルミナ「え!? ま、魔神君、吸いすぎ!! 吸いすぎだよ!! そのまま吸いすぎたら軽巡棲姫君が消えてしまうよ!?」
提督「なに!? それを早く言え!!」
ルミナ「ほら、早く戻して! 今吸った分を吐き出すように!」
提督「わかったから焦らせんな!」
軽巡棲姫「アヒ……ハウ……!」ビクッビクッ
大和「だ、大丈夫なの……?」タラリ
802: 2023/02/19(日) 21:28:35.49 ID:AXFSIrLto
*
(眠っている軽巡棲姫を提督が膝枕している)
軽巡棲姫「……」スヤァ…
提督「……一時はどうなることかと思ったぜ」ナデナデ
ルミナ「そうか、軽巡棲姫君は、思ったよりも深海棲艦の成分が濃かったというわけだね……ふむふむ」
提督「つうか、なんで吸い出せなんて言ったんだよ」
ルミナ「軽巡棲姫君は神通君だったかな? 彼女の面影を強く残していたから、深海棲艦の成分を吸い出しても形が残るかと思ったんだよ」
ルミナ「うまくすれば神通君に変化しないかを期待していたんだけどね……なかなかうまくいかないね」
大和「……彼女の中に、深海棲艦ではない部分があると?」
ルミナ「うん、魔神君と一緒に過ごしていれば、真っ黒ではないと思ったんだ」
提督「俺と一緒だと真っ黒じゃなくなるのか?」
ルミナ「私が黒い魂と呼んでいるのは、憎悪や悲嘆などの負の感情を抱えた魂のことさ。深海棲艦はそういう負の感情が強くてね」
ルミナ「その一方で、嬉しかったり楽しかったりすると、魂の色合いが明るくなるんだよ」
ルミナ「軽巡棲姫君は君と一緒だと本当に嬉しそうだから、いけるかと思ったんだけど……まあ、彼女が深海棲艦である以上、仕方ないかな?」
提督「軽巡棲姫は、人間に取っ捕まって弾丸なんかにされちまったからな。そういう意味じゃあ真っ黒でも仕方ねえさ」ナデ
大和「そう……ですね」
803: 2023/02/19(日) 21:29:20.61 ID:AXFSIrLto
ルミナ「とにかく、これで魔神君も、先日ニコ君が余所の鎮守府の拷問部屋でやってみせた魂の回収ができるようになってるはずだね」
提督「……いいんだか悪いんだか。これじゃ迂闊にお前らに触れなくなるんじゃねえか?」
ルミナ「いやいや、そこまで尻込みすることはないと思うよ? ニコ君だってそれなりに集中しないと回収できないんだから」
提督「ならいいけどよ……」
大和「あの、提督? お体のほうは大丈夫ですか?」
提督「ん?」
大和「良く見知っている相手とはいえ、仮にも深海棲艦の魂を取り込むなんて、お体の負担になっていないか心配です」
提督「言われてみれば……今んとこなんともねえな? もともと俺の魂の半分が深海棲艦だから無事だってのもあると思うんだが」
ルミナ「そこは私の見つけたこの文献によるとだね」ペラリ
ルミナ「魔神君は、魂を蓄えて置ける巨大な貯蔵庫……タンクを持っているようなものなんだ。今ここにある肉体とは別の器としてね」
ルミナ「軽巡棲姫の魂もそちらへ入ったからこそ、魔神君の体に負担がかかっていない、と考えられる」
大和「そうなんですか……?」
ルミナ「うん。ニコ君も同じように魂のタンクを持っていて、自由に出し入れできるんだ。君もその力に目覚めたってことになるね」
提督「何に使うんだ、その力は」
ルミナ「私たちがメディウムとして力を使ったり、体を修復するためには魔力が必要なんだ」
804: 2023/02/19(日) 21:30:06.99 ID:AXFSIrLto
ルミナ「その魔力は、私たちが仕留めた氏者の魂から作られる。これまでは、ニコ君が管理していたわけだけども……」
提督「……今度は俺がそれをやる番だと?」
ルミナ「嫌だというなら、私たちへの魔力の供給はこれまでと同じくニコ君に一任となるだろうね」
ルミナ「ただ、罠の運用に関しては、魔神君の使い方がなかなか面白いと私個人としては感じていてね?」
ルミナ「次の機会にはぜひ、君の指示と力の下で働いてみたいと思っているよ」ニマー
提督「んー……」
ルミナ「ちなみにだけど、ニコ君は、魔神君の能力をサポートできる力も持っているはずなんだ」
ルミナ「例えば、いま君がどのくらい魂を保有しているかを可視化できるようにしたり」
ルミナ「その魂を、君の代わりに私たちの能力を発動させる魔力に変換することができたりするはずだよ」
提督「へえ……」
ルミナ「もちろん、それらの力を魔神君自身でコントロールできれば、それが一番いいんだけれど」
ルミナ「コントロールが危ういうちは、ニコ君に管理してもらいながら練習したほうがいいね」
提督「なるほど……ただまあ、今みたいに身内の魂を吸い取る能力なんて、そうそう使う必要がなさそうだな」
ルミナ「今は、こういうことができる、という知識だけ備えていればいいよ。必要になれば、いつでも使ってくれて構わないからね」
805: 2023/02/19(日) 21:30:50.26 ID:AXFSIrLto
提督「ところで、魂の明るさの差ってのは、そのままポジティブな感情とネガティブな感情に反映されるって考えていいのか?」
ルミナ「その認識で良いと思うよ」
提督「もし、あいつらがそういうストレスから解放されて黒より白が濃くなったら、艦娘に変化するのか?」
ルミナ「仮にそうだとしたら、ル級君くらいは艦娘になってもいいと思うんだけどねえ?」クビカシゲ
大和「それはそうですね。鎮守府にいた時はいつも楽しそうににこにこしていましたし」
ルミナ「やっぱり何らかのトリガーが必要なのかな?」ウーン
提督「なんだそのやっぱりってのは」
ルミナ「泊地棲姫君から、深海棲艦が艦娘になるケースもあるらしい、と聞いていてね」
大和「え!? あるんですか!?」
ルミナ「なんでも、艦娘になった深海棲艦というのは、艦娘に撃沈されて海に消えた直後に艦娘になったと言うんだよ」
提督「は? ってことは、あいつらが氏なないと変わらないってことか?」
ルミナ「状況的にはそういうことになるんだけど、どうしてそうなるのかの説明もうまくできなくて」
ルミナ「実験しようにも、どうしても轟沈が関わる実験になるからね。魔神君は、そういうのは嫌なんだろう?」
提督「まあな。これじゃ希望者募ったっていないだろうなぁ、沈んで消えてからひっくり返るなんてリスクが高すぎる」
806: 2023/02/19(日) 21:31:35.33 ID:AXFSIrLto
提督「この話が艦娘も同じだってんなら、あの訓話も最低な話になるぞ」
ルミナ「訓話? というのは?」クビカシゲ
大和「轟沈して戻ってきた艦娘が、深海棲艦になって鎮守府を壊滅させた、というお話です」
大和「それがもとで、轟沈した艦娘をそのまま復帰させてはいけないという決まりができたんですよ」
提督「泊地棲姫の話だと、沈まない限り深海棲艦が艦娘になったりしない、って見解だよな?」
提督「逆も同じだって理屈なら、その訓話のときには、まさしく艦娘をその鎮守府で沈めた、って考えるしかねえじゃねえか」
大和「……やはり、そう考えるべきでしょうか」
提督「戻ってきたときの状況にもよるだろうな。切羽詰まった戦況だったとかで、負傷者をまともに相手してられる状況じゃなかったとか」
提督「戻ってきた奴の性格が最悪だったせいで、まともに看護したくないような状況だったとか、深海で何かあって性格が変わったとか」
提督「最悪、戻ってきた奴は実際には沈んでて最初から深海棲艦が擬態していたとか。でも、そうだったら最初からそうだって説明するか?」
ルミナ「隠す方が不自然だね」
提督「あとは……病み上がりで配慮してもらったのを、贔屓だのずるいだのとぎゃーぎゃー囃し立てるガキみたいなやつにブチ切れたとか?」
大和「……軍に所属するものとしては、あるまじき行為ですね」
提督「いくら軍人でも所詮は感情を持つ生き物だからな。数あるいじめの理由なんて、きっかけそのものは些細なもんだろう」
提督「で、その訓話の場合は理由はわからないにしても、その艦娘が命を落とす事態にまで及んだ、と」
807: 2023/02/19(日) 21:32:35.22 ID:AXFSIrLto
ルミナ「考えうる限りの最悪の事態が起こった、と言いたいわけだね」
提督「だと思うんだけどなあ。そのくらい極端なことが起こったからこそ鎮守府も壊滅したんだろうしよ」
大和「海軍が公表するにも、あまりに恥ずべき事態だからこその隠蔽、だということですか」
提督「ま、俺の憶測だけどな。これまであの島に流れ着いて誰も深海化しなかったんだから、そうなんじゃねえか、ってだけだけどなぁ」
大和「理屈としては頷けるものだと思います」
大和「艦娘も一時の感情で簡単に深海棲艦になっていたのでは、もっと各地で大事になっているはずでしょうから」
提督「ただまあ、心配は心配なんだよな。深海棲艦にならなくても、深海棲艦みたいな雰囲気漂わせてるのはよろしくねえ」
ルミナ「そんな艦娘がいるのかい?」
提督「山雲がな……あいつ、空母棲姫に衝突されてんだ」
提督「巻き添えというかとばっちりに近いが、攻撃的な深海棲艦に激突されたせいか、ちょっと穏やかじゃねえ空気出すときがあるんだ」
提督「あいつがどのくらい大丈夫なのか、この力を使って診察してみたほうがいいかもしれねえな」
ルミナ「それはいいね!」
大和「そうですね! いいと思います!」
ルミナ「そうだ、さっきの感覚を忘れないうちに、大和君でも診察の練習したらいいんじゃないかな?」
大和「は!? や、大和がですか!?」
808: 2023/02/19(日) 21:33:20.49 ID:AXFSIrLto
ルミナ「一般的な艦娘のいちサンプルとしても、見ておいたほうがいいと思うよ?」
提督「まあ、そうかもしれねえけど……大和、いいか?」
大和「あのっ、いえ、は、はいっ! どどど、どうぞ!」マエカガミ
提督「んじゃ、頭の上に手をのせるぞ……」メヲトジ
大和「……」ドキドキ
提督「……」
ルミナ「どんな感じかな?」
提督「……色で言うと、白系、だな。光が見える」
大和「!」
提督「光が明るくて、あたたかいっつうか……春と夏の間くらいの日差しみたいだな」
大和「……」セキメン
提督「……まあ、色彩的に黄色やピンク系の色が混ざっていたが、全体的に黒いものはないみたいだな」スッ
大和「そ、そうでしたか! ありがとうございます!」
ルミナ「なるほど……やっぱり健全な艦娘の魂は、相応に綺麗なわけだね?」
提督(奥の方にドロドロした紫色の沼みたいなのが渦巻いてたところがあったが……そこは触れないほうが良さそうだな)
809: 2023/02/19(日) 21:34:05.57 ID:AXFSIrLto
ルミナ「うーん、やはりこの辺りが艦娘と深海棲艦の差なのかな?」
提督「とりあえず、この調子で山雲も診察してやりゃあいいのはわかったが……」
提督「もしその深海棲艦の成分が強いところが見つかったらどうすんだ? 診察はできても治療ができなきゃ見てもしょうがねえ」
ルミナ「やっぱり実験が必要だね!」パァッ
提督「目を輝かせんな」
大和「あの、例えばですけど、魂の暗い部分だけを提督が吸い取って、他の深海棲艦に移植する、というようなことはできるのでしょうか?」
ルミナ「魂の部分移植!? それもいいかもしれないね!」パァァッ
提督「だから目を輝かせんな」タラリ
ルミナ「いやあ、アイデアとしてはなかなか画期的だよ? 可能かどうかは別としてもね!」
提督「……やる気は起きねえけどな」
ルミナ「そうかい? それは個人的にちょっと残念だなあ」
大和「提督、私も残念というわけではありませんが、できるかどうかのテストくらいは行ったほうがいいかもしれませんよ?」
大和「提督が乗り気でないのは重々承知してるつもりですが、万が一の事態のことを考えますと……」
提督「……状況次第では、嫌だ嫌だで通せる話でもねえってか。仕方ねえな……」
810: 2023/02/19(日) 21:35:05.28 ID:AXFSIrLto
ルミナ「とりあえず問題は、彼女たちから深海棲艦の要素の分の魂を引き?がして問題ないかどうか、だね」
ルミナ「例えば、その山雲君を構成する魂のうち、深海棲艦の要素が仮に1割だとしても、魂が欠ければ能力が低くなると思う」
ルミナ「それを補うのが、そちらでいう近代化改修だったかな? 艦娘の艤装と魂の力を、ほかの艦娘の魂の力に加えるという儀式だね」
提督「……そんなことやってたのか」
ルミナ「個人的な見解だけど、生まれたばかりの艦娘が本来の力を出せないのは、魂の欠落があるからだと推測しているんだ」
ルミナ「同じ艦娘が複数存在して性格も少し違うのも、大本の魂が分裂しているとか、魂の形が若干変わったからとか……」
提督「分霊化とは違うのか?」
ルミナ「似たようなものじゃないかな。言葉の意味をどう捉えるかだけど、それ自体にあまり違いはない気がするね」
ルミナ「いずれにせよ、なにかを生成するときに、何かが欠けたり不純物が混じったりというのは、往々にしてよくあることだよ」
ルミナ「完全完璧な生物が生まれてこないのと同じようにね」
提督「山雲から深海棲艦の要素を取り出したら、その分だけ艦娘の要素をどうにかして入れてやれ、ってことか」
ルミナ「そうだね。移植なんだから、引いたら引いた分だけ足してあげないと」
大和「欠けた魂は自然に元に戻らないんですか?」
ルミナ「実験してみないと正確なところは言えないけど、戻らないんじゃないかなあ?」
ルミナ「自然治癒とは理屈が違うし、魂が勝手に増えて補完するとは思えないね」
811: 2023/02/19(日) 21:35:50.50 ID:AXFSIrLto
ルミナ「むしろ、生傷を治療せず放置したときみたいに、欠けたところからその辺の雑霊を取り込んで悪化する可能性もあるかもだよ?」
提督「……それ、見たことあるな。その辺の余計な魂取り込んで、悪霊みたいになったやつ」
大和「え」
ルミナ「だとすれば、放置しておくのは得策じゃないね。もっとも、強い思念を持つ魂は、たとえ欠けてなくても集まるものらしいけど」
提督「対策考えてやらねえと駄目か……」
ルミナ「まあ、厳密に魂の移植まで必要か、と言われれば、私は必要ないかもと思っているけどね?」
提督「ん? なんでだ?」
ルミナ「あの島の騒動で、君を庇って倒れた電君や吹雪君のことを思い出したまえよ」
提督「……?」
ルミナ「あの場に居合わせたツバキ君たちに聞いたけど、彼女たちは命を落としたにも関わらず、深海化しなかったそうだね?」
ルミナ「深海化した初春君や朧君も、深海棲艦から作られた弾丸を身に受けている間だけ深海化していたそうじゃないか」
大和「そ、そうなんですか?」
提督「あ、ああ……そういえばそうだった」
ルミナ「もし魔神君の心配が正しいとしたら、轟沈を経験している彼女たちも氏んだ時点で、完全に深海化していたと思うんだけど?」
提督「……」
812: 2023/02/19(日) 21:36:35.38 ID:AXFSIrLto
大和「それは……それこそ提督のおかげではないでしょうか?」
ルミナ「心当たりがあるのかな?」
大和「私たち艦娘は……戦争に赴く私たちの願いは、守ること。私たちが守りたいのは、私たちの帰りを待ってくれている、大切な人」
提督「……」
大和「これまで提督は、私たち艦娘のために……私たちの望みのために身を尽くしてくださいました」
大和「私たちは、そんな提督のもとで戦えることが嬉しかった。中には、前の鎮守府の心残りや、そこで抱いた無念を晴らせた艦娘もいます」
大和「そんなことがあったのですから、その時には、彼女たちが深海棲艦になってしまうような恨みが残っていなかったのではないでしょうか」
ルミナ「ふむ……私たちには理解しがたいけど、そういうものなのかな?」
大和「はい。それに、あの子たちは提督を庇って倒れたんですよね。ある意味では本望だったのではないか、と思っていますよ」
大和「かくいう私も、少しだけ羨ましいと思いました。提督はやめろと仰るかもしれませんけれど」フフッ
提督「ああ、やめてくれ。二度と御免だ」ハァ
813: 2023/02/19(日) 21:37:20.90 ID:AXFSIrLto
ルミナ「ということは、やっぱり艦娘が深海棲艦になる現場か、その逆の現場を掴まないと、そのあたりは証明できなさそうだねえ」
提督「そういうことなら、泊地棲姫に詳しく話を聞きに行くか。軽巡棲姫も少しは話せるとありがたいんだけどな」ナデ
軽巡棲姫「ンフフ……」、ムニャァ…
ルミナ「……寝ながら笑ってるねえ」
大和(羨ましい……)
ルミナ「それにしても、その頭を撫でられる行為と言うのは、そんなに嬉しくなるものなのかな?」
大和「なりますよ?」
提督「即答かよ……」
大和「即答ですね」ニコー
ルミナ「……今度は、魔神君に頭を撫でられることで得られる効能の調査でもしようかな?」
提督「やらなくていいぞ。下手にお前が効果があるなんて結論を出しちまったら、面倒臭えことになりそうだ」
大和「提督の前に行列ができてしまいそうですね」フフッ
提督「ああ。さて、泊地棲姫はどこに行ったか知ってるか?」
816: 2023/03/12(日) 23:44:34.37 ID:leJDf/pio
* 島の南岸 *
(溶岩で覆われた島の南岸に、小型船が座礁している)
提督「なんだこりゃ」
泊地棲姫「密航船ラシイワヨ?」
提督「密航船? この島にか?」
ニコ「人間の気配がプンプンしたからね。そういう船なんじゃないの?」
提督「ニコもこっちに来てたのか。泊地棲姫もそうだが、二人ともこっちにいたのはなんでだ?」
ニコ「ぼくは侵入者の撃退のつもりで来たんだけれど」
泊地棲姫「私ハ、知ッテル気配ヲ感ジタカラヨ。ホラ」ユビサシ
戦艦棲姫「……アラ、艦娘ニ……人間モ住ンデルノネェ……!?」ジロリ
大和「戦艦棲姫……!」
提督「戦艦? また姫級かよ……なあ泊地棲姫、こいつがこの島に来た理由はわかるか?」
泊地棲姫「エエ、ソレナラ……」
ル級「連レテキタワヨ……アラ、提督モ来テタノネ」
817: 2023/03/12(日) 23:45:18.63 ID:leJDf/pio
集積地棲姫「オ、オマエモ来タノカ……戦艦棲姫」
戦艦棲姫「アア、集積地ッタラ、ココニイタノネ!」パァッ
提督「集積地棲姫、あの深海棲艦はお前の知り合いか?」
集積地棲姫「アア……ナントイウカ、気ニ入ラレタトイウカ……」
戦艦棲姫「泊地棲姫、コノ人間ガ集積地ヲ誑カシタノ……?」ゴゴゴ…
泊地棲姫「ソウジャナイ。集積地棲姫ハ、人間ノ襲撃カラ避難シタクテ、自分カラ、コノ島ヲ訪ネテキタノヨ」
戦艦棲姫「本当デショウネ?」ジトッ
提督「本当だよ。この島は……」
* 説明中 *
戦艦棲姫「フーン……ツマリ、コノ島ナラ集積地ハ安全ダッテイウノネ?」
提督「取り決めの上ではな。もちろん、そういう約束を守ってくれる人間ばかりだとは微塵も思っちゃいねえ」
提督「どうせこの船も、そういう人間どもの船だってことなんだろ?」
ニコ「そうだと思うよ。武器だって残ってたし、あいつらがきみに攻撃したのは事実だよね?」
818: 2023/03/12(日) 23:46:07.13 ID:leJDf/pio
戦艦棲姫「ソウネ。効カナイッテイウノニ、コバエミタイニ鬱陶シイカラ、沈メテアゲヨウト思ッタノヨ」
集積地棲姫「トコロデ、コノ船ノ中ニイル人間タチハ、ドウシタンダ? 妙ニ静カダゾ」
ニコ「それなら、ぼくたちが全員始末したよ」
大和「え」
提督「周りに艦娘はいなかったのか?」
ニコ「いなかったよね?」
戦艦棲姫「私ハ見テナイワ」
提督「そうか。ならいいや」
大和「……」アタマカカエ
泊地棲姫「ナンダ、ナニカ文句アルノカ」
大和「いいえ? こういうことが起こると予測出来てはいたけれど……それが実際に起こってしまって嘆いているだけよ」ハァ…
チェルシー(船の中から)「あ、キャプテンだ! おーい、キャプテーン!」フリフリ
イーファ「ご主人様ー!」
提督「うん? なんだ、お前たちもここに来てたのか」
819: 2023/03/12(日) 23:46:48.84 ID:leJDf/pio
ニコ「人間の始末をしてもらったついでに、船内の荷物も改めさせてもらってたんだ」
チェルシー「そうそう! 見てよこれ!」
提督「つるはし? ……ああ、そういうことか。この船、盗掘目当ての密航船か」
コーネリア「そうみたいだね。船の中には、あたしの槍を括りつけたような機械も転がってたぜ」
提督「なんだ? 残虐系メディウムが多いな?」
コーネリア「あたしは戦いに飢えてるだけだよ」
チェルシー「私は船に乗りたかったんです!」
イーファ「ぼくは、ご主人様のお役に立ちたいな、って……」
提督「……ま、いいけどよ」
戦艦棲姫「ネエ、盗掘ッテ、ドウイウコト?」
提督「ついこの前、この島の北の海底火山が噴火したんだ。この溶岩の中に入ってる鉱石を狙ってきたんだろう」
戦艦棲姫「フーン」
820: 2023/03/12(日) 23:47:33.12 ID:leJDf/pio
集積地棲姫「提督、コノ船ハドウスルンダ」
提督「ん? うーん、ぼろ船だしな。特に使い道もねえし、妖精に頼んでバラしてもらうか」
集積地棲姫「ソレナラ、私ニ解体サセテクレ」
提督「お前が?」
集積地棲姫「コノ船ニ使ワレテイル鉄ヤ残ッテイル燃料ヲ、引キ取ラセテホシイ」
提督「んー……わかった。じゃあ、任せていいか?」
集積地棲姫「イイノカ!? ヤッタ!」ガッツポ
大和「よろしいんですか?」
提督「戦艦棲姫に喧嘩売った奴らの船だ、その縁者が押収するのは成行き的にも悪くないと思うぜ?」
泊地棲姫「ナンダ、提督ノ決メタコトニ、艦娘ガ文句ヲ言ウノカ」
大和「私は、提督のお立場が悪くならないか心配なだけです」プー
コーネリア「フッ、人間どもの評判を気にしてるのか? そんなもの、犬にでも食わせておけ」
チェルシー「むしろ、もっと恐れを抱いてほしいよね! イフとイケイの念、ってやつをさ!」
イーファ「ぼくは、ご主人様がぼくたちに優しければ、それでいいよ?」
ル級「大和ハ、提督ガ万人ニ好カレルコトヲ望ンデルミタイダケド、提督ガソンナ気ジャナイモノネ」フフッ
大和「私は無暗に提督に敵ができることを疎んでいるだけです!」プクー
821: 2023/03/12(日) 23:48:18.87 ID:leJDf/pio
提督「ああ、こっちから喧嘩を売るような真似はしねえよ。仕掛けてくる奴は徹底的に叩きのめすってだけだ」
大和「提督はそれでよろしいんでしょうけどぉ……」ムー
ニコ「ぼくは少し大和の気持ちがわかるよ」
チェルシー「えー?」
ニコ「魔神様は、ぼくたちのために人間の前に姿を現して、わざわざ追い払ったり、おびき寄せる役をしてくれたりしてる」
ニコ「そのせいで、魔神様に命の危険が及ぶのは気が気でないし、またあんなことになったら、お姉ちゃんとしては許せないよ?」
ル級「ソウネエ、氏ニタガリナトコロハ、私モナントカシテホシイワネ?」
提督「なんだお前ら、寄ってたかって……」
軽巡棲姫「提督……」ヌッ
提督「うおっ!?」
軽巡棲姫「提督、ドコニ行ッテタノォォォ!」ガッシィ!
提督「だああ! お前いきなり後ろに現れて抱き着くな!」
ルミナ「ああ、ごめんごめん魔神君。彼女を介抱してたんだけど、目を覚ました途端に君を探し始めてさあ」
提督「依存症にもほどがあるだろ!?」
戦艦棲姫「……変ワッタ人間ネエ?」
ル級「マアネ~」ウフフ
822: 2023/03/12(日) 23:49:03.22 ID:leJDf/pio
* *
提督「ってことは、艦娘が深海化するところは、誰も見たことないのか」
泊地棲姫「鹵獲シタコトハアッテモ、イタブッテカラ沈メヨウトシタダケダカラネエ。ワザワザ沈メタアト観察ナンカシナイシ」
戦艦棲姫「意図的ニ艦娘ヲ深海棲艦ニシヨウナンテ、考エタコトモナカッタワネ?」
集積地棲姫「ソウダナ。解体シテ資材ニデキナイカト考エタコトハ、アッタケド」
大和「……」
ル級「大和ガ、スゴイ顔シテルワ」
提督「まあ、大和に限らず艦娘には不愉快な話だろうさ」
軽巡棲姫「私ハマダ沈メテナイ」ドヤッ
提督「沈める気はあったんじゃねえか」
軽巡棲姫「ダッテ、アナタヲ撃ッタノヨ!?」
提督「……」
ル級「提督ガ、スゴイ顔シテルワ」
大和「提督? そこで微妙そうな顔をなさらないでください」
ニコ「そうだよ。魔神様のことを思って行動したのなら、むしろ褒めてあげないと」
提督「ニコはともかく大和もそういうこと言うのはどうなんだ」タラリ
823: 2023/03/12(日) 23:49:50.01 ID:leJDf/pio
ルミナ「ふむ……とにかく、艦娘が深海棲艦になったり、その逆だったりという場面には、誰も遭遇してないということだね」
提督「そうみたいだな。まあ、沈めた相手を見送ることはあっても、見続けたりは普通しねえよな」
大和「そうですね……」
戦艦棲姫「ア、デモ……アイツナラ、沈メタ艦娘ヲ、シツコク観察シテソウジャナイ?」
集積地棲姫「……アア、アイツカ……」
提督「そんな奴がいるのか?」
戦艦棲姫「エエ。オ前タチガ、アイツヲドウ呼ンデルカ知ラナイケド」
集積地棲姫「長イ尻尾ヲ持ツ、戦艦クラスノ深海棲艦ダ。知ッテイルカ?」
提督「もしかして……レ級か?」
大和「レ級!?」
提督「特徴を聞く限りはな。それはいいとして、お前たちはそいつに今の話を確認することはできるか?」
戦艦棲姫「……難シインジャナイカシラ? アイツトハ、会話ガ成リ立ッタ記憶ガ、ナイノヨネ」
提督「そうなのか? じゃあ、訊かなくてもいいな。そこまで急いで調べたい話でもないし」
ルミナ「えー……」
提督「えーじゃねえよ。会話が成り立たないとか、情報収集以前の話じゃねえか」
泊地棲姫「私モ、アイツトハ、マトモナ会話ハデキナイト思ッテイルゾ?」
824: 2023/03/12(日) 23:50:33.13 ID:leJDf/pio
集積地棲姫「アイツ、戦闘狂ダカラナ。私ハ、アイツガ誰カト喋ッテイルトコロヲ見タコトハナイゾ」
戦艦棲姫「挨拶代ワリニ噛ミ付イテクル個体モイルワヨネ」
コーネリア「へぇ……あたしと気が合いそうじゃないか。一度殺り合ってみたいもんだ」
チェルシー「コーネリアも戦闘狂だからね~」
提督「それだけに情報収集には不向き、と」
ル級「近ヅクコトスラ危ウイ感ジネ?」
大和「話が通じなさそうですね……」
ルミナ「はぁぁぁ……」ガックリ
提督「そこまでがっかりすんな。気長に次の機会を待ちな」ナデナデ
ルミナ「……そうだね。そうするよ。けど……」
提督「?」
ルミナ「頭をなでられたときの効能は調べられそうだねえ」フフッ
提督「……」
イーファ「……いいなあ……」ボソッ
集積地棲姫「トリアエズ、コノ船ヲ曳航デキナイカ?」
戦艦棲姫「マカセテ!」パァッ
提督「大和、ル級、使って悪いがお前たちも手伝ってやれるか?」
大和「はい、お任せください!」
ル級「アナタノ頼ミナラ仕方ナイワネ」フフッ
825: 2023/03/12(日) 23:51:18.30 ID:leJDf/pio
* 一方、本営 *
曽大佐「H大将閣下! あなたともあろうお方が血迷ったのですか!?」
曽大佐「深海棲艦は我らの敵です! 世界中に恐怖と破壊をもたらす災いの権化です!」
曽大佐「人間をやめて深海棲艦を率いるような男と和平を結ぼうなど……深海棲艦の殲滅を誓ったあなたはどこへ消えたのですか!」
H大将「落ち着け。俺自身、まさかこんな身の振り方をするとは思ってもいなかった」
H大将「深海棲艦とは何の話も通じず、ただ人間を攻撃し殺戮する……そういう存在だからこそ、深海棲艦は危険な存在だと認識していた」
H大将「それが覆されたんだ。受け入れがたいだろうが、あの島とあの船の周辺の深海棲艦は攻撃してこない。今はそれが事実だ」
曽大佐「それこそ罠です! 閣下が話し合いをしているその男の下には、罠を模した連中もいるのでしょう!?」
曽大佐「自らが罠だと、そういう看板をぶら下げているというのに、閣下は何故、あの男を信じているのですか!!」
曽大佐「あの男の部下の艦娘に命を救われたことこそ、罠ではないのですか!!」
H大将「……」
曽大佐「目を覚ましてください、閣下! これまで深海棲艦の悪行を……蛮行を、我々は嫌と言うほど見て、味わってきたではありませんか!」
曽大佐「我々の無念をお忘れですか!? 我々の、これまでの犠牲をお忘れですか!!」
H大将「お前こそ少し頭を冷やせ、曽大佐。俺も深海棲艦による蛮行を許すつもりはないし、許したわけでもない」
H大将「だが、これから奴らが起こすかもしれない蛮行を食い止める方法が見えたのなら、それを見過ごすわけにもいかんのだ」
826: 2023/03/12(日) 23:52:03.48 ID:leJDf/pio
H大将「これ以上の悲劇を繰り返さないために、力なり説得なりで、深海棲艦を抑え込もうとしている。それを今X中佐たちが……」
曽大佐「閣下は我々より、あんな小僧の世迷言を信じるというのですか!」
曽大佐「自分は、最早我慢なりません……! あの島に、忌々しい深海棲艦どもが集まっているのでしょう?」
曽大佐「姫級や鬼級といった連中も、あの島に来ているのでしょう!? 今すぐにも打って出るべきです!!」
H大将「……」
曽大佐「人類の敵となる深海棲艦が、人類を裏切った輩と手を組めば、人類の敵になる以外の未来は見えないはず! 違いますか!」
H大将「……仮にそうだとしても、戦う気のない連中に喧嘩を売れば、新たな遺恨と火種を生むだろう。二度と平和的な解決は……」
曽大佐「そのようなことであれば御心配には及びません。海軍最高の戦力を有する我が艦隊が、一隻残らず殲滅して御覧に入れましょう」
H大将「曽大佐……!」
曽大佐「H大将閣下、これまでのご指導、ありがとうございました。今後の深海棲艦との戦争は自分おに任せください」
H大将「おい、曽大佐!!」
スタスタ…
H大将「曽大佐……!」
827: 2023/03/12(日) 23:52:48.24 ID:leJDf/pio
* 翌日 *
* 墓場島沖 医療船内 X中佐私室 *
X中佐「……ということで、Wたちが危惧していた通りの事態が発生している」
提督「だから、なんでお前はそうやって俺に告げ口するんだよ。お前、そのうち裏切者扱いされるぞ?」
X中佐「裏切るも何も、僕は最初からこうだよ。深海棲艦と話がしたいって、ずっと主張してきたんだ」
提督「お前……本っ当に、よく今まで生きてこられたな?」
X中佐「……」
提督「大将の身内だからってのもあるんだろうが、そうじゃなきゃ今回の騒ぎでついでに消されてたかもしれねえんだぞ」
X中佐「……君は、本当に言うことに容赦がないね?」
提督「こういうことをオブラートに包んでどうするよ。良薬は口に苦ぇし忠言は耳に逆らうもんだ」
提督「事実、今回の事件で大将2人が殺されかけてる。F提督もそうだった。お前も主張を同じくするなら、もう少し危機感持てってんだよ」
X中佐「……そうかもしれない。けど、それで君たちが知らずに攻撃されたとあっては、僕たちの誠意も伝わらないだろう?」
X中佐「ようやくここまで漕ぎ着けたんだ、怖気づいてはいられないよ。君にとっても他人事ではないんだからね」
提督「……危険は承知の上、ってか? まあ、そこまで覚悟決めてんなら仕方ねえな……」
X中佐「心配してくれているんだね。ありがとう」
提督「俺は面倒を避けたいだけだ。礼を言われる筋合いはねえよ」
828: 2023/03/12(日) 23:53:33.48 ID:leJDf/pio
提督「それよりもだ、曽大佐ってのはどんな奴なんだ? 深海棲艦に身内を殺されたとか、そういう手合いか?」
X中佐「そこは……そうだね。まあ、志願した大体の提督はそうなんだけど、曽大佐は特に恨みが深いみたいだ」
X中佐「同様にH大将の行動に納得していない提督たちが、曽大佐と一緒に離反する動きもある」
提督「ま、仕方ねえか。派閥の長のいきなりの方向転換だ、ついていけないから独自の派閥を作ろうってのも自然な流れではあるな」
提督「けどよ、そいつらは、どうしてH大将がそういう考えに至ったのか、ちゃんと話し合って納得したうえで別れたのか?」
X中佐「どうだろう? H大将からは、彼らは聞く耳を持たなかったって言ってたけど……」
提督「喧嘩別れっぽいってか。それならそれで好都合だ」
X中佐「……それはどういう意味だい?」
提督「気にすんな。それより今更訊くが、H大将が俺たちの話を聞いて方針を変えてくれたのは、なぜなんだ?」
提督「もともとは深海棲艦と繋がってるであろう俺をしょっ引くために島に来たんだろう?」
X中佐「中将閣下が教えてくれたんだけど、H大将が深海棲艦を撃滅しようと考えたのは、中将と何度も話し合った結果だって聞いてるよ」
X中佐「中将が深海棲艦に足首を触られて以来、その足を悪くして杖が要るようになったことは君も知ってるよね?」
提督「ああ。そういう相手だから、滅ぼすしかないって頭だったんじゃねえのか?」
X中佐「……以前はH大将も、人の姿をしていて言葉も話せるんだから、こちらの言葉も通じるんじゃないかと考えていたそうだ」
829: 2023/03/12(日) 23:54:33.62 ID:leJDf/pio
X中佐「でも、艦娘という、人間の姿をして、人間の味方をする、人間ではない存在が確認できてしまった」
X中佐「だとすれば、人間の姿をした、人間ではない人間の敵がいることも、同じように認めないといけない、って」
提督「……」
X中佐「なにより、海軍は人間の……国民の命と財産を守ることが本分だ」
X中佐「言葉が伝わらず、深海棲艦に触わられた人間がただでは済まないとあっては、その本分を守り切ることができないと考えた」
X中佐「だからH大将は、深海棲艦を敵と見なして撃滅することを選んだんだ」
提督「……手前の考えより海軍の本分かよ。そりゃご苦労なこった」
X中佐「そこは君も同じじゃないか。自分の命より艦娘の未来を重んじていたんだろう?」
提督「……」
X中佐「とにかくH大将は、そういう理由で深海棲艦を殲滅しようと決めた。でも、その前提がひっくり返された……話ができるようになった」
X中佐「だから、H大将の行為は裏切りなんかじゃない。H大将は、人間を守るためにできることをやっているだけにすぎないんだ」
提督「……なんにせよ、それが曽大佐は気に入らなかったってこったな?」
X中佐「そこはその通りだ。残念だけどね」
提督「やれやれ、J少将には殺されかけて、今度は別の部下に見限られてるとか、ついてねえにも程があるな」
830: 2023/03/12(日) 23:55:18.58 ID:leJDf/pio
提督「朧が一体なにをしたのかは知らねえが、氏なずに済んだことくらいは、不幸中の幸いってことでいいよな?」
X中佐「そう思いたいね。ただ、もうひとつ頭が痛いのが、J少将のことなんだ」
X中佐「実は、J少将がH大将を暗頃しようとしたって話自体が、海軍の中でも結構衝撃的な話でね……」
提督「なんだそりゃ? J少将って、そんなに外面良かったのか?」
X中佐「評判は良かったと思うよ。深海棲艦の撃滅を主張してたけど、おおやけには和睦派にも理解を示すような発言があったというし」
X中佐「曽大佐たちのような過激派には、和睦派を責めるなとなだめつつ激励するような、バランス感覚と取れた人物だと聞いてたよ」
X中佐「だからこそ、J少将があの大佐と一緒にメディアの前に出ることを当時の本営が善しとしたわけだし」
X中佐「海を守る仕事を艦娘に奪われたことを嘆いてたことも、人間味があったと共感を買っている」
X中佐「それでいて艦娘を率いる『提督』になった人たちにも分け隔てなく接していたくらいだから」
X中佐「J少将を悪者にしたくないと思う人もそれなりにいて、H大将から距離を置こうとする者も増えているというわけなんだ」
提督「そいつは面倒臭えな……」
X中佐「……でも、大将2人の殺害を計画したことは間違いないんだ」
X中佐「それに、F提督たちの乗った船を襲った事件に、J少将が関わっていたという調査結果もある」
831: 2023/03/12(日) 23:56:03.08 ID:leJDf/pio
X中佐「深海棲艦の撃滅という目標は同じはず。深海棲艦製の銃弾を使いたいからという理由だけで、こんなことをするだろうか?」
提督「……」
提督(まあ、かなり入念に猫をかぶってたんだろうなあ……だからこそ、青葉の写真に過剰反応した、ってことだろうな)
X中佐「そこを解明しないと、海軍内部が……っと、ごめん、この話は、いまの君には関係ないね」
提督「……そうだな。それはそっちで片付けてくれ」
提督「とにかく、曽大佐がH大将の下から抜けて、この島に攻めてくるかもしれねえ、って話だな?」
X中佐「うん。僕たちもWを通して可能な限り引き留めるけど……」
提督「前も言ったが、攻めてくるなら命の保証はしねえぞ。大目に見てやれるのは最初の一回きりだ」
提督「最初だからこそ、最悪の見せしめにしてやろうとも思ってるからな。曽大佐にはそんな感じで釘を刺しとけ」
X中佐「……わかった。できれば、お手柔らかに頼むよ……?」
提督「ああ。できる限り、手心は加えてやるよ」スクッ
扉<チャッ パタン
廊下に出た提督「……悪いほうに、な」ポツリ
834: 2023/04/02(日) 22:16:32.98 ID:G/cakfhvo
* 墓場島 新埠頭倉庫内 仮設休憩スペース *
時雨「良かった、この島にもこんなスペースができてたんだね」
提督「仮設だけどな。とりあえずお前の言う通り人払いもしたし、ニコにも話はつけた。俺が話すまで動くなと釘も刺したしな」
時雨「知る限り、メディウムのみんなは提督の言うことに従順だしね。これなら安心して相談してもいいかな」
提督「……」
時雨「提督。これから僕が話すことを、疑わないで聞いてほしい」
時雨「僕が見てきた、この島から君がいなくなった後の未来のことを……」
提督「……わかった」
* *
時雨「……僕はエフェメラの力で、あの溶岩で燃え盛る島に幽霊の姿で送られたんだ」
提督「……」
時雨「そして僕は、女神妖精さんの復活のために、ベリアナが持っていた魔法石を利用した」
時雨「そのあとは、君が不知火から聞いた通り。復活した妖精さんが、墓場島で眠っていた魂の力を呼び起こして、提督たちを脱出させた」
時雨「僕はその時、エフェメラに引っ張られて、燃える島から脱出するところを見届けられなかったんだけど……」
時雨「代わりにあの世の入口でのんきに寝ていた提督と無事邂逅できた、というわけだね」
提督「……」
835: 2023/04/02(日) 22:17:16.93 ID:G/cakfhvo
時雨「僕が見てきた、この島から君がいなくなった後の未来と、僕が戻ってきてからの話は、そんな感じかな」
提督「……」
時雨「……」
提督「……」
時雨「提督? 聞いてる?」
提督「……情報量が多すぎる」
時雨「え?」
提督「ちょっと整理させろ……えーと、まずなんだ? ベリアナが俺たちを助けた場合、俺が如月たちと融合したんだって?」
時雨「うん」
提督「で、如月たちがメディウムに生まれ変わって、俺が上半身だけになって……?」
提督「俺を復活させるために、ニコたちが俺を向こうの世界へ連れてって……そっちの世界の人間を手当たり次第頃したと」
提督「で、いつの間にかこっちの世界の横浜の施設を乗っ取ってて、そっちでも人間を手当たり次第頃して?」
提督「そこで俺が、いろいろあって氏んだ人間の魂に操られた魔神として復活して、艦娘たちを攻撃して」
提督「そいつをメディウムと艦娘が倒して俺を助け出して……そのまま俺と艦娘がまたニコたちの世界へ行って?」
提督「数年後には残っていたうちの艦娘がボロボロで……政権も変わって艦娘の立場が悪くなって……」
提督「で、俺がこの世界を潰しに帰ってきた……」
836: 2023/04/02(日) 22:18:01.75 ID:G/cakfhvo
時雨「いくらか抜けてると思うけど、だいたいそんな感じかな」
提督「いやいやいや、なんだよそりゃあ……」アタマカカエ
時雨「提督? 大丈夫?」
提督「……あんまりよろしくねえな。とにかく、お前が見てきた向こうの俺は、艦娘たちを守れなかったんだな……?」
時雨「そうだね。少なくとも、いまと同じ姿を保ったままの艦娘は、あんまりいなかったよ」
提督「だからマジで世界を滅ぼす気になったってことだろうな……どうしようもねえな」ハァ…
時雨「それで、提督。ここまでの話で、なにか聞きたいことはあるかな?」
提督「ああ、とりあえず順番に聞くか。俺の体が艦娘と融合してたってのは、どういうことなんだ?」
時雨「うーん……多分だけれど、近代化改修に近いことが起こっていたんじゃないかな? 提督も半分は深海棲艦だからね」
時雨「みんな弱ってて氏にかけていたというのも、その一因になってるのかも」
時雨「あとは……ブラックホールなんて珍しい空間内にいたからとか? 入ったことないから、どんな感じかわからないけど」
提督「だんだん人間離れしていくな……つうか、魔力槽に入った時点でそうなってたか」
時雨「あれ? 提督は、人間を辞めたかったんじゃなかったの?」
提督「辞めたいとは言ったが、そこまで常識はずれな存在になりたいわけじゃねえよ……」
時雨「贅沢だね」
提督「そう言うなよ。魔神としていろんな力を身に着けるのはいいが、いるだけで無意識に艦娘を傷つけるような能力は望んでねえ」
837: 2023/04/02(日) 22:18:46.79 ID:G/cakfhvo
提督「ただでさえ積極的にくっついてくる艦娘が多いからな。如月とか大和とか金剛とかはっちゃんとか軽巡棲姫とか初雪とか……」ユビオリカゾエ
時雨「……くっついてくるのを拒否はしないんだ?」
提督「ちょっと拒否したところで聞かねえよ。悪化する奴もいるくらいだから諦めてる」トオイメ
時雨「……ふーん」
提督「それから、いまの話で聞いてて一番やべえと思ったのは横浜の研究施設だ」
提督「深海棲艦だけじゃなく、艦娘も研究とか言ってバラしてたんだって?」
時雨「うん。鹵獲した深海棲艦の調査から、どんな命令も聞く艦娘を作り出す研究や、艦娘から深海棲艦を作りだす研究をしてたみたい」
提督「艦娘から深海棲艦を作りだす……って、なんだそりゃ?」
時雨「おそらくだけど、J少将は、深海棲艦も艦娘も、海から排除するつもりでいたんだと思う」
時雨「J少将は、制海権……自分の仕事場である海を、艦娘と深海棲艦に奪われたことを嘆いていたそうだからね」
時雨「艦娘が、本当は恐ろしいもの……艦娘が深海棲艦になりうるものだと公表できれば……」
時雨「深海棲艦を滅ぼしたあとに艦娘を海から追い出すこともできると考えたんじゃないかな?」
提督「……」
時雨「それから、深海棲艦から武器を製造する研究も、ここで続けられてたようだよ」
提督「そうか……そいつらが、あの大佐たちの研究を引き継いでやがんのか。ってことは、深海棲艦の鹵獲も続けて……ん?」
838: 2023/04/02(日) 22:19:31.92 ID:G/cakfhvo
提督「もしかして、深海棲艦の鹵獲じゃなくて、艦娘の深海化でそれをやろうってことか……?」
時雨「提督もそう思うのかい……?」
提督「ああ。H大将も言ってたな、深海棲艦の鹵獲はリスクがありすぎる、って」
提督「艦娘を建造するのはそれよりはるかに簡単なんだから、そいつを深海棲艦にしちまえば生産性も格段に変わる」
提督「もしかして榛名や那珂が言ってた養成所とか言う施設も、そこなんじゃねえだろうな……!」
時雨「かもしれないね……ねえ、提督はその施設をどうするつもり?」
提督「……どうする、っつっても……今はどうにもできそうにねえな」
時雨「弱気だね?」
提督「慎重と言えよ。そもそも片手間で始末できるような相手とは思えねえ」
提督「かといって放っておいていい相手でもねえと思うが、今はこの島の体制を整えるほうが先だな」
提督「そもそもその施設に関する情報が全然揃ってねえし、中途半端に動いて向こうに気取られるのも面白くねえ」
提督「やるんならちゃんと情報を揃えて、関わってる奴全員集めて一網打尽にしてやらねえと駄目だな」
時雨「確かにそのほうが良さそうだね」
提督「あと、そのほかに警戒しなきゃいけねえのは、父親に味方したほうのエフェメラだ。あいつがどこまでこっちに絡んでくるか……」
提督「俺たちに味方したエフェメラは、俺たちとかろうじてコンタクトできる状態だった」
提督「向こうのエフェメラには察知されてないと思いたいが、あくまで希望的観測と見ておいた方がいいよな?」
時雨「そこはなんとも言えないけど、慎重に動いた方がいいのは同感だね」
839: 2023/04/02(日) 22:20:16.91 ID:G/cakfhvo
時雨「ただ、もともと提督を魔神の生贄にすることがあっちのエフェメラの目的の一つらしいからね。もしその目的が変わってないとしたら……」
時雨「僕たちを支援してくれたエフェメラの存在に関係なく、今後も提督を絶望させようとしたり、怒りを煽ったりする可能性は高いと思うよ」
提督「……くそ面倒臭え……!」
時雨「ただ、魔神に忠誠を誓ってるわけだから、仮に君が魔神として完全に覚醒すれば、跪いてくれるかもしれないよ?」
提督「それはそれでなんか嫌だな……」
時雨「嫌がらせされるよりはいいんじゃない?」
提督「かもしれねえけどよ……どうせなら俺は、俺たちを助けてくれたエフェメラこそ迎えてやりたいぜ」
時雨「……うん。それは、そうだね」
提督「ああ……あとは……」
時雨「?」
提督「時雨、ちょっとつらいことを訊くが……お前以外の、この島に埋葬された艦娘の魂がどうなったかは覚えてるか?」
時雨「僕以外の……?」
提督「ああ。俺を助けようとしたエフェメラが、どうしてお前を選んだのか考えてたんだが……」
提督「それは、俺だけじゃなく、例えば扶桑のように、お前が他の艦娘たちのことをずっと気にかけていたからじゃないか、と思ったんだ」
時雨「……」
840: 2023/04/02(日) 22:21:01.80 ID:G/cakfhvo
提督「よくよく考えてみれば、お前以外はほぼ無縁仏なんだ」
提督「電が所属していたB提督の部下だった艦娘や、初春と同じ鎮守府で初春と同じように捨て艦にされた艦娘も、この島に流れ着いている」
提督「だが、俺たちはそいつらと直接話をしたわけじゃない。お前のように看取ったわけでもなければ、生前に言葉を交わしたわけでもない」
提督「そこへ行くとお前は、俺より扶桑や山城と付き合いがあったし、朝雲や五月雨とも話しただろ?」
時雨「うん……」
提督「だからお前が俺たちの……いや、扶桑たちのか。未来を見ることにつながったと思ってる。だからエフェメラにも声をかけられた」
時雨「そうかもしれないね……」
提督「この島に埋葬された艦娘は多い。いま、お前や早霜たち以外の艦娘の魂が、どこへ行こうとそいつらの自由ではあるんだが……」
提督「……できれば、望む通りのところに行きついて、穏やかでいてほしいもんだな。虫のいい話だけどよ……」
時雨「……」
提督「悪い。今の話は聞かなかったことにしてくれ。氏んだ連中の話は、俺にはどうにもできねえからな」
時雨「……」
提督「時雨?」
時雨「……僕以外の、か……そういえば、あまり気にしてなかったというか、気にかけていられなかったよ」
時雨「提督は、心配性が過ぎるね。艦娘に好かれるわけだ」
提督「……そういうもんか?」
841: 2023/04/02(日) 22:21:47.21 ID:G/cakfhvo
時雨「そういうものさ。自分がひどい目に遭ってるのに、艦娘のことを気にかけるんだもの」
時雨「僕たちだって、誰かのために……艦娘のために、自分が犠牲になることをいとわない人がいたら、好意を抱くのは当然さ」
時雨「かつての僕たちもそうだったんだからね。僕たちは、好きな人たちのために……好きな人たちの未来のために、命を懸けたんだ」
提督「……」
時雨「さてと。僕が伝えたいことは一通り伝えたかな」
提督「……ああ。ありがとな」
時雨「提督? どうしてそんな浮かない顔をしてるんだい?」
提督「……いや。なんでもねえ」
時雨「そういう思わせ振りな態度は良くないね。ちゃんと話してよ」ウデツカミ
提督「……っ、だからなんでもねえよ。俺はただ……」
時雨「ただ?」ズイ
提督「……ただ、その、好きってのが、いまいちわからねえってだけだ」
時雨「まだそんな寝ぼけたことを言ってるの? やれやれ、提督には失望したよ」カタスクメ
提督「……」
時雨「提督はそんなもの、もうとっくに理解していると思ったんだけど」
842: 2023/04/02(日) 22:22:33.60 ID:G/cakfhvo
時雨「実際に、提督はここの艦娘たちから愛されてるじゃないか。僕は単純に、提督がそれを認めようとしないだけに見えるよ?」
提督「あ、愛され……そ、そんなわけねえだろ!?」
時雨「どうしてそんなに自己肯定感が低いのかな。あれだけの人数の艦娘がいて、みんなが君を認めているっていうのに」
提督「そ、そういうのは信頼ってやつで、好きとか愛とかとは違」
時雨「そうやって艦娘の気持ちを否定して蔑ろにするのはやめてくれないかな」ジロリ
提督「ぐ……」
時雨「提督がそうやって艦娘たちの好意を頑なに拒否し続けていたのは、最終的に提督が艦娘たちの前から後腐れなく消えるためだったよね」
時雨「それが今は、もう簡単に氏んじゃいけない立場になってんだ。以前とは状況が違うんだよ? 自分でもそう言っていたじゃないか」
時雨「提督は、これから先ずっと艦娘たちと一緒なんだ。それを『契り』と呼ぶ以外になんて呼べばいいのさ?」
時雨「ずっと誰も受け入れないで、みんなには片思いを強いるくせに、みんなで仲良く暮らせって?」
時雨「不満の火種になっているのは君だっていうのに、まるで自分は部外者だと言わんばかりに他人事だ。呆れて物も言えないよ」
提督「……い、いや、そうじゃなくてだな、そういうのは普通一対一で」
時雨「だったら一人選びなよ。どうせ選べないくせに」
提督「……」
時雨「誰かを選んだら他の人が傷付くから選べない、なんて臆病者の情けない言い訳なんか聞きたくもないね」
843: 2023/04/02(日) 22:23:16.71 ID:G/cakfhvo
時雨「そういう腑抜けた考えなんか捨てて、もう観念して全員と『契り』を結べばいいんだよ」
提督「んな……っ!?」
時雨「艦娘はジュウコンカッコカリくらい気にしないよ。一夫多妻制が認められている国だってあるんだし、そもそもこの島に男は君だけなんだ」
時雨「順番くらいは気にするかもしれないけど、この島で暮らそうって時点で不貞なんて最早存在すらしてないはずだよ?」
時雨「あ、メディウムや深海棲艦はそうでもないかな? だとしたら頑張って機嫌を取ってあげなきゃね」
提督「……」アッケ
時雨「ほら、提督。みんなで幸せになろうよ?」ニチャァ…
提督「どこまで本気なんだお前は……」
時雨「僕はどこまでも本気だよ?」ニコ
時雨「まあ、あとは提督がどこまで耐えられるかなんだけど……」
提督「……俺の精神がどこまで持つかってか? ったく、軽々しく言いやがって……」
時雨「ん? そうじゃないよ。精神じゃなくて、えOちに関しての話だよ」
提督「ブハッ!?」
時雨「……リアルに噴き出す人、初めて見たよ。っていうか、言ったじゃないか、『契り』って。何をカマトトぶってるのさ」
時雨「とはいえ、提督は性交渉に嫌悪感を持ってるみたいだから、どうやって克服してあげたらいいかな。荒療治で悪化させても問題だし」
提督「……」アタマカカエ
844: 2023/04/02(日) 22:24:01.75 ID:G/cakfhvo
時雨「頭を抱えてないで、提督も真剣に考えてよ。どうして君のシモのお世話を僕が考えなきゃならないか、少しは自覚して」
提督「お、お、お前なあ」セキメン
時雨「提督がはっきりしないから僕がここまで言うんじゃないか。文句があるなら自分で何とかしてよ」
提督「……くそ。言い返せねえ」
時雨「とにかく、僕たち艦娘を大事だと思ってるんなら、態度で示しなよ。それが出来なきゃ、僕は提督のことをヘタレって呼び続けるよ」
提督「……」
時雨「なに? まだ悩んでるの?」
提督「……いや、そうじゃなくて……何をしてやったらいいかわからねえ」
時雨「は?」
提督「わかんねえんだよ。あいつらに何をしてやったらいいか!」
提督「俺はあいつらがにこにこ笑っていられりゃそれでいいんだ。それで足りないからと肉欲に走るのはどうなんだ?」
提督「愛情ってのはそんな短絡的なもんでいいのか? そういうのがわからねえのに体ばかり求めんのは間違ってるだろ……!」
時雨「……提督は本当に真面目だね」
提督「こちとら生憎と童Oなもんでな……そうでなくとも、あいつらをいたずらに弄びたくねえんだよ」
時雨「短絡的なんて言うけど、提督こそ難しく考えすぎだよ」
時雨「とにかく、君を慕う誰でもいいから、逃げずに真剣に向き合ってみなよ。相手が求めているものを、君は見落としてるかもしれないよ」
提督「……」
845: 2023/04/02(日) 22:24:46.86 ID:G/cakfhvo
* 執務室(家具なし) *
クレア「どうしたのまっさん? 元気ないね?」
提督「……お前のその個性的過ぎる俺の呼び方はどうなんだ。魔神だからまっさんか」
クレア「そだよー。てっさんのほうがいい?」
提督「あまり変な呼び方すんな。呼ばれたときに俺のことかどうかが判断できないから、反応できねえぞ」
クレア「そう? じゃあ、混乱しないように、これまで通りまっさんて呼ばせてもらうね!」
提督「……」
リサーナ「んもう、マスターったらノリが悪いぞぉ~? もっと元気出して! ね?」ピョンピョン
提督「俺はいつもこんなもんだぞ」
ベリアナ「ええ~? いつもより静かだってば~。ほらぁ、こっち向いてぇ? 私をもっと見て元気になってぇ~!」フワフワー
提督「……ふわふわ浮きながら脚おっ拡げてんじゃねえよ。少しは恥じらえ」
ベリアナ「やぁん、そんな石ころでも見るみたいな冷めた眼差し向けないでよぉ! 心が冷たくなっちゃうからぁ、温めてぇ~」ピトッ
リサーナ「ベリアナばかりずるーい! ほらぁ~、ウサギは寂しいと消えちゃうんだぞ~?」ピトッ
提督「……」
ヴェロニカ「まったく……坊やが呆れてるじゃない。おこちゃまは引っ込んでなさい」
ベリアナ「おこちゃまってなによぉ~! こぉんなカラダの持ち主を、おこちゃま呼ばわりするぅ~?」
846: 2023/04/02(日) 22:25:32.61 ID:G/cakfhvo
ヴェロニカ「図体ばかりで肝心のおつむが追い付いてないじゃない。エミルのほうがまだ大人の自覚がありそうね」
ベリアナ「むー! なによう!」プンスカ!
クレア「ちょ、ちょっとぉ、落ち着きなよ!」
ヴェロニカ「私は落ち着いてるわよ。だいたい、坊やも落ち着きたくてこの部屋に来たんでしょう」
ヴェロニカ「もっとも、くつろぐはずが椅子すら置いてないから、当てが外れたみたいだけど?」
提督「まあな。昔はここに執務用の机と椅子もあったし、ソファもあったからな」
提督「ぶらぶら歩いてもしょうがねえし、部屋の下見も兼ねて腰を落ち着けて一息入れて、考え事をしたくて足を運んだんだが……」
リサーナ「えっ? なになに? どんなお悩み? 可愛いバニーさんがお悩み聞いてあげちゃうぞっ?」
提督「……」アタマオサエ
ヴェロニカ「リサーナ、あなたもお呼びじゃないみたいよ」
リサーナ「むー! そんなことないったら!」プンスカ!
クレア「だ、だから落ち着いてってば! ほら、まっさんの悩みって、明るく話せるような内容じゃなさそうだし!」
リサーナ「私は別に茶化してるつもりもないんだけどぉー!?」
ヴェロニカ「そうねぇ……険しい顔も嫌いじゃないけど、少しはまともにこっちを見てほしいわね?」
ベリアナ「そうよ~!? 私たちだって、ご主人様のことは心配してるんだからァん!」クネクネ
847: 2023/04/02(日) 22:31:01.88 ID:G/cakfhvo
提督「……」
クレア「……うん、ベリアナはちょっとアレだね」
リサーナ「そうねぇ、ちょっとアレよねぇ?」
ベリアナ「アレってドレなの!? ナニなのお!?」
ヴェロニカ「言い回しがまさしくアレじゃない。解ってて言ってるわよね」
ベリアナ「ふふっ、やだぁ、どんなことかしらぁ? もしかしてぇ、ご主人様もそう思ってるぅ? 教えてほしいなぁ……!」
提督「面倒臭え……」
ベリアナ「めんどう!?」ガビーン
ヴェロニカ「……ねえ坊や、場所を変えたほうが良くないかしら。私が見ててあげるから、静かなところで……ゆっくりと、ね」
リサーナ「そう言って独り占めする気でしょ!?」ヒシッ
ベリアナ「抜け駆けは許さないんだからっ!!」ヒシッ
ヴェロニカ「あら、なんのことかしら」シレッ
提督「……わけわかんねえな」ハァ
クレア「えっ、なにが?」
提督「お前らが真面目に俺を心配してくれているかどうかは別にしてだ。そうやって俺にくっついてくるのはどうしてだ?」
848: 2023/04/02(日) 22:31:49.63 ID:G/cakfhvo
提督「俺が魔神だからか?」
ベリアナ「それはそうねえ~」
リサーナ「そこは大前提よね?」
ヴェロニカ「坊やが魔神じゃなかったら、こんなふうに付き合ってなんかいないわ」
クレア「うんうん! それは当然!」
提督「……そうか」
リサーナ「あ、でもぉ、こうやって甘えさせてくれるマスターだったってところは、予定外に嬉しい誤算かなっ!」
クレア「それはあるね! 私、ニコちゃんが言う魔神様ってどんな感じなのか、ぶっちゃけわかんなかったし、もっと怖いと思ってたから!」
提督「まあ……お前らがどんな連中かって考えれば、束ねる親玉もそうはなるか……」
リサーナ「聞いてた話と全然違うんだもの! 楽しくおしゃべりできるし、艦娘ちゃんたちも面白い子が多いし!」
ベリアナ「ニコちゃんが言ってたんだけどぉ、本当は魔神って、すっごくおっきくてぇ、とっても逞しいのよ~?」
ヴェロニカ「ええ。私たちのことを片手で握り潰せる程度には、ね」
提督「んん? そういう意味の『でかい』なのか? それじゃまるで巨人じゃねえか」
ヴェロニカ「ええ。圧倒的な力で私たちを捻じ伏せ従わせる。それが私たちメディウムを統べる魔神という存在……と、聞いていたわ」
クレア「そういえばまっさん、魔神の腕を召喚したことあるでしょ? あれが本来の魔神の大きさだって!」
提督「あれがか……」フーム
849: 2023/04/02(日) 22:32:32.10 ID:G/cakfhvo
リサーナ「あの巨体が、いまはこの体の中に納まってる、ってことになるのよね」ペタペタ
ベリアナ「うふふっ、いまのご主人様のカラダも……あん、こっちもすっごぉい……!」サワサワモミモミ
提督「……」ガシ
ベリアナ「えっ? やん、私の頭を、ちょっとごしゅじ……ふえっ、いっ、痛い痛いいたたたた!?」メキメキメキ
リサーナ「……わぁお。それが噂のアイアンクローね?」ヒキッ
ヴェロニカ「その気じゃないのにそんなとこ触ってたら、そうもなるわよ。呆れた」ハァ…
ベリアナ「んもう、ご主人様が難しい顔してるから、やわやわ~ってして、緊張をほぐしてあげようと思っただけなのに~」アタマサスリ
クレア「っていうか、そこは……うん、いろいろ間違ってない?」セキメン
ベリアナ「あ、そうよねぇ! アソコは揉んだら逆にカタくなっちゃ……」
提督「……」テノヒラワキワキ
ベリアナ「やぁんっ! 暴力反対っ! 女の子を泣かせていいのはベッドの上でだけなんだからっ!」ピュイッ
提督「逃げるくらいなら最初から言うなっての……それになんなんだ、そのベッドの上ってのは」
ベリアナ「んもう、ご主人様のニブチン! ムッツリ! こういうときは、余計な力を抜いて全部私たちに任せちゃえばいいのよぉ!」
ベリアナ「たまったものを吐き出して、スッキリしちゃえばいいのよ? 私がぜぇんぶ、悩みも一緒に綺麗に吸い取ってあげちゃうんだから!」
ヴェロニカ「……この子の言い方はともかく、坊やが悶々としてる様は、少し気にはなるわね」ズイ
提督「……!」
850: 2023/04/02(日) 22:33:17.28 ID:G/cakfhvo
ヴェロニカ「何をそんなに憂いているのか……何をそんなに躊躇っているのか。少しは白状したらどう?」
提督「……」
ヴェロニカ「……」ジッ
提督「えらい心配してくれるな? お前らとはまだ付き合いも長くねえってのに……」
ヴェロニカ「それは坊やが魔神だからよ。あなたが私たちメディウムのあるじだから」
ヴェロニカ「メディウムは魔神にとって道具以外の何物でもない。坊やが私たちを使うのは、至極当然のこと」
ヴェロニカ「行けと命じれば行くし、氏ねと命じれば氏ぬ。それだけよ?」
提督「……」
ヴェロニカ「ただ……そうね。まさか坊やに使われてから、感謝されるとは思ってもなかったわね」
提督「!」
クレア「あ、それはそう! まっさんもただじゃすまなかったのに、それを怒らないで褒めてくれたの、びっくりしたよ!?」
リサーナ「そういえば、初めて艦娘のみんなと出撃したときも、頼む、なんてお願いされちゃった時も、胸の奥が熱くなったわね!」
ベリアナ「うふふっ、とっても熱烈なハ・ジ・メ・テ、だったわねぇ~」
提督「普通だろ?」
クレア「普通なの!?」
ベリアナ「全然普通じゃないわよ~? 私たちの関係からしたら、アブノーマルもいいところよぉ?」
提督「……」
851: 2023/04/02(日) 22:34:03.33 ID:G/cakfhvo
ベリアナ「うふふ、だからこそ……ご主人様には、私のことをたくさん見てほしいな~って……!」
クレア「ちょ、ちょっと!? なんで脱ごうとしてるの!?」ガシッ
ベリアナ「あん、なんで邪魔するのぉ?」
提督「やれやれ……野暮なこと訊いたな」アタマガリガリ
ヴェロニカ「それで? 坊やの悩みは、少しは解消したの?」
提督「……まあ、手掛かりにはなったかもな」
ヴェロニカ「そう。なら、今度お礼をもらいに行くわね?」
提督「……ああ。何を用意すればいいかわからねえが……」
リサーナ「むぅー! マスター!? 私にもお願いします~!」
クレア「あっ、私にもお願い!」
提督「わかったわかった。後でな」
ベリアナ「やぁん、ご主人様どこに行くのぉ!?」
提督「散歩だよ。適当に歩かせてくれ」ガチャ
扉<パタン
ベリアナ「ああん、ご主人様待ってぇ!」
ヴェロニカ「追わないほうがいいわよ」
クレア「な、なんで!?」
ヴェロニカ「あれでも、逃げようとしていないから、よ……ふふふ……はぁ」
ベリアナ「??」
クレア(なんで溜息ついてんだろ)
リサーナ(マスターを言いくるめて手籠めにするあてが外れたから、かしらねぇ……?)
855: 2023/04/23(日) 22:12:16.42 ID:CS8kn2M7o
* その翌日 夜明け前 *
* 墓場島沖 医療船 甲板上 *
(船尾の甲板上に溶接された長椅子に、毛布に身をくるんだ提督が座っている)
コツコツ…
提督「!」
如月「司令官……?」
提督「よう、来たか。悪いな、こんな時間に呼び出して」
如月「それは構わないけど、司令官こそ大丈夫? お鼻の先が赤くなってるわ」
提督「寒いと言えば寒いが大丈夫だ。誰にも邪魔されたくなくてこんな時間にしたんだが、こんなに冷え込むとは思ってなかった」
提督「お前こそ寒いだろ? 俺の毛布で悪いが、ここに入って座ってくれ」ファサ
如月「ええ、そうするわね」コク
提督「……」
如月「……」
ザザァ…
856: 2023/04/23(日) 22:13:01.79 ID:CS8kn2M7o
提督「……なんか、嬉しそうだな?」
如月「そうね。こうやって、肩を並べてふたりで海を見るのなんて、初めてじゃないかしら」
提督「……そうだな」
如月「しかも、こうやって星空の下で、ふたりでひとつの毛布にくるまって……まるで恋人同士みたい。うふふっ」
提督「……」
如月「……司令官?」
提督「ん、ああ……恋人っていうのがどういうもんか、よくわかってなくてな。ちょっと考え込んじまった」
提督「けど、恋人か……こういうのを嬉しく思うのが、恋とか言うんだろうな」
如月「……ええ、そうよ。きっとそう」
提督「なあ、如月?」
如月「なあに? 司令官」
提督「少し、俺の独り言に付き合ってほしいんだ」
如月「……わかったわ。いくらでも付き合ってあげる」
提督「ありがとな……」
如月「うふふっ、いいのよ、司令官のお願いなんだもの。好きにお話ししていいから……ね?」
857: 2023/04/23(日) 22:13:46.56 ID:CS8kn2M7o
提督「ああ」
如月「……」ジッ
提督「俺は……お前たちに幸せになってもらいたいと思ってる」
如月「ええ、知ってるわ」
提督「そのためには、俺がいたらいけないって考えてたのも、多分知ってるよな?」
如月「……ええ、知ってるわ」
提督「俺はちっちゃいころから親に否定されて……目に見えるありのままを伝えても、誰にも信じてもらえなくて……」
提督「俺は、みんなにとって……人にとって、一体何なんだろうな、って思ったことが何度もある」
提督「妖精たちは俺のことを理解してくれたが、その妖精たちのことは誰も信じてくれなくて」
提督「結局、俺は人間社会じゃ誰にも相手してもらえなかった。でも、妖精が間違ったことを言っているとも思えない」
提督「じゃあ、俺は一体なんなんだ? 俺は異質なのか? 人じゃないのか、って、疎外感を感じるようになって……」
提督「俺には『人』が信じられないものになってた」
如月「……」
提督「とどめになったのは、あの島で大勢の艦娘の亡骸を見た時だな。艦娘が、人間の言う通りに従った結果が、これか……って」
提督「『人じゃないもの』は、人間に関わったら幸せになんかなれない……ってよ。あのときは漠然とだが、そういうふうに思えたんだ」
858: 2023/04/23(日) 22:14:31.46 ID:CS8kn2M7o
如月「……だから、司令官は私たちから離れようとしたのね?」
提督「ああ。俺は、お前たちを不幸にしたくない。あいつらを沈めた人間と同じになりたくない、って……嫌だったんだ、一緒に思われるのが」
提督「けど、俺はその逆も望んでた。あの島が溶岩に覆われて、俺たちが焼け氏にそうになったときに口に出ちまったんだ」
提督「俺は、お前たちと普通の人間の生活がしたかった、って」
如月「……」
提督「俺だけじゃなく、お前たちも一緒に、普通の人間に生まれて、こんな戦争とは縁のない、普通の生活が送れたら……」
提督「無意識のうちに、俺はそういうのに憧れてたんだな、って……これでお前たちを幸せにできるのか、って、まあ、いろいろ考えてたんだ」
提督「人間の言う普通のただの何でもない人間になるかか、艦娘たちに普通の暮らしを提供できる人間以外の何かになるか……」
提督「そのどっちかになるのが、俺の望みだったのかって、今更ながら思ったんだ」
如月「……もし、司令官が普通の人だったら、私はここにいなかったわね?」
提督「ああ、そうだな。けど、それで良かった。俺に妖精が見えたのは、結果的には正解だったと思ってる」
如月「!」
提督「自分の正体を知った今だから言えるのかもしれないが……俺は最初から、人の世界の住人じゃなかったんだろうな」
提督「俺が誤って人間の世界に生まれてきたのを、妖精たちが見つけて連れ戻しに来たんじゃないか、って……ま、都合のいい解釈だけどな」フフッ
如月「司令官……!」
859: 2023/04/23(日) 22:15:16.85 ID:CS8kn2M7o
提督「まあ、何でこんなことを考えてたか、って言うと……俺がお前たちと一緒にいて問題ない理由を探してただけなんだ」
提督「俺がこれからお前たちと一緒に過ごすんなら、ちゃんと向き合えって言われてな。お前に聞いて欲しかったんだ」
如月「そ、それって……」
提督「……なあ、如月?」ジッ
如月「っ!」ドキッ
提督「もうしばらくの間でいい。俺は、お前たちの近くにいたい」
如月「……!!」
提督「俺は、お前が誰かと楽しそうに笑っているのを見たり、俺を見つけて手を振ってくれるだけで、満ち足りた気分になってたんだ」
提督「この島に流れ着いたあの時と比べて、本当に見違えるようになったし……体の傷が消えたのも、本当に良かったと思ってる」
提督「お前たちのそういう姿を、俺は、もう少し眺めていたいんだ」
如月「な、眺めて、って……司令官は、それだけでいいの?」
提督「ん? ああ……あまり多くは望んでねえしな」
如月「ふぅん……もうちょっと踏み込んで欲しかったんだけど。ねえ、司令官?」
提督「なんだ?」
如月「この話をどうして私にしようと思ったの?」ズイ
860: 2023/04/23(日) 22:16:01.28 ID:CS8kn2M7o
提督「んん? そ、そりゃあ、大事な話だと思ったし、それならまず最初にお前に聞いて欲しくて……」
如月「……それで、こんな時間に呼び出したの?」
提督「ま、まあ……話は、それだけじゃねえけどよ」セキメン
如月「えっ?」
提督「……」マッカ
如月「し、しれい、かん?」
提督「俺は、お前たちが幸せそうなら、それで良いんだ」
提督「けど、お前たちは……その、それ以上のことを、俺に望んでるわけだろ?」
如月「……!」
提督「その……俺がどこまで受け入れたらいいのか、つうか、お前がどこまでしたいのか、その、確認、したいというか、教えてほしくてな……」
提督「まあ、なんだ、その……ずっと一緒にいるって言うお前たちに、我慢させるのは、よくねえんだろ?」アセアセ
如月「……」
提督「い、言っとくけど、俺はよくわかってねえからな!? その、恋とか愛とか、そっち系の話は……」マッカ
如月「……」
提督「……」
861: 2023/04/23(日) 22:16:46.33 ID:CS8kn2M7o
如月「……」テヲノバシ
提督「んん……?」ヒッパラレ
チュー
提督「……!!」
如月「……」チュー…
提督「……」
* *
提督「……」
如月「……」
提督「……その、きさら」
如月「司令官?」
提督「っ……!」
如月「ああいうときは、ちゃんと私を抱き寄せて支えてくれないと駄目よ?」
提督「……そういうのはする前に教えてくれ、っつうか、そうじゃなくてだな……でも、まあ、いいか」ダキヨセ
如月「!」
862: 2023/04/23(日) 22:17:31.49 ID:CS8kn2M7o
提督「これまでそういうのを拒絶してきたからな。お叱りは甘んじて受けるようにする……」
提督「ただ、こっちはこういう駆け引きは初めてなんだ。ご期待に沿えるよう努力はするから、お手柔らかに頼むぜ……?」
如月「……もう……」
提督「? 如月……?」
如月「……もう……やっと、司令官が、私を見てくれた……!」ポロッ…
提督「お、おい、泣くほどか……!?」
如月「そうよ? これまでずーっと、あなたは私たちに背中を向けて……」
如月「庇ってくれたり、背負ってくれることはあっても、こっちを向いて抱きしめてくれることはなかったんだもの……!」
提督「……そう、だな。いずれ、出ていくつもりだったからな。まともに、向き合ってなかったのかもな……」
提督「ごめんな、如月」ダキヨセ
如月「司令官……っ!!」ヒシッ
*
提督「……」ナデナデ
如月「~♪」スリスリ
提督「如月。寒くないか? 大丈夫か?」
863: 2023/04/23(日) 22:18:16.39 ID:CS8kn2M7o
如月「このままで大丈夫よ?」
提督「そうか」
如月「~♪」
提督「……」
如月「ねえ、司令官?」
提督「ん?」
如月「司令官は……私のこと、好き?」
提督「ん゛ん゛っ!?」
如月「……司令官、私のことは、好きって言ってくれないの?」
提督「……」
如月「……」
提督「いや、その……好きかと聞かれれば、好きなんだが……」
如月「だが?」
提督「こう……面と向かって言うと思うと、すげえ恥ずかしいな」メソラシセキメン
如月「」キューン
如月「も、もう! 司令官ったら、可愛いんだから!」
提督「あまりからかってくれるなよ……」
864: 2023/04/23(日) 22:19:02.18 ID:CS8kn2M7o
如月「うふふ……司令官、こっち向いて?」
提督「ん……?」
如月「」チュッ
提督「!?」
如月「うふふふ……!」
提督「……頼むから手加減してくれよ。あいつらが真似しだしたらたまったもんじゃねえ」
如月「そうねぇ……どうしようかしら?」
提督「せめて人前では勘弁してくれ……見られんの、恥ずかしいんだからよ」マッカ
如月「うふふっ……あ、見て。日の出よ……!」
提督「……」
如月「……」
提督「……そろそろ、戻るか。あいつらも起きてくるころだろうしな」
如月「ねえ、司令官?」
提督「ん?」
如月「私を最初に選んでくれて、ありがとう」
提督「一番苦労をかけたからな。これからも、よろしく頼むぜ」
如月「ええ!」ニコッ
865: 2023/04/23(日) 22:19:46.41 ID:CS8kn2M7o
* 朝 *
* 医療船内 大会議室 *
提督「強情張ってたが、お前らに気苦労かけせちまうってんなら、みっともなくても変えたほうがいいだろ」
提督「メディウムの連中も、自分たちは魔神様の道具だなんて、この前までの俺みたいなこと言いやがるからな……」
提督「俺の悪いとこ見習わせるわけにはいかねえよ。今後は、そういう話は控えるようにする」
吹雪「司令官……!」パァッ
大和「やっとわかってくださったんですね!」パァッ
提督「ああ。ただ、俺も俺で守られっぱなしってわけにも」
朧「だからそういうのをやめてください」
電「司令官さんは危ないところに出てこないでほしいのです!」
時雨「そういうところは相変わらずだね?」
榛名「榛名は心配で大丈夫ではありません!」
提督「……お前らこそ過保護が過ぎねえか?」
霞「あんたはもう少し自分の立場を自覚しなさいよね。わかってない行動が多すぎるのよ」
如月「そうね、そこは司令官の日頃の行いの賜物よ?」
866: 2023/04/23(日) 22:20:32.20 ID:CS8kn2M7o
提督「せめて如月くらいはフォロー入れてくれよ……」
如月「あら、ごめんなさい? うふふっ」
朝潮「ご安心ください! かくなる上は朝潮が司令官を全力でお守りします!」ビシッ!
山城「それはいいけど、結局何も変わらないんじゃないの? 提督自身の破滅的な言動が減るってだけでしょ」
提督「まあ、山城の言う通りだな。普段通り過ごす分には特に何も変わらねえ」
提督「何かあるたび抱き着いてくるのも、膝枕しろってのも、俺の布団に入ってくるのも、これまで通り受け入れるってだけだ」
初雪「うん……それなら、何も変わらない」
伊8「そこが変わってたら、はっちゃんブチ切れてました」
那智「さすがに一番最後はどうかと思うのだが?」
提督「そこは俺もそう思う」
大淀「そうは仰いますが、これまでもそれは許容してきたわけですし、無理に変えないほうがよろしいかと」
陸奥「そうね。それより、そこに深海棲艦たちも入ってくるわけでしょ? 提督と一緒にいたがる子、ますます増えるんじゃないの?」
提督「軽巡棲姫あたりはそうだろうな……ちゃんと言い聞かせてやらねえとなあ」
武蔵「是非そうしてくれ。あいつはお前たちが溶岩に飲まれて心中しようってときに、一人だけその場から追い出されたわけだからな?」
提督「わかってるよ……フォローはする」
867: 2023/04/23(日) 22:21:18.63 ID:CS8kn2M7o
由良「提督さんは、そういう女性の細やかなところが理解できてないから心配よね」
敷波「でも、いいんじゃない? これからは気を付けるって言うんだから。司令官がおかしなこと言ったら注意していいって話だよね」
提督「まあ、そうだな……だからってあまり無理な要求されても困るが」
扶桑「そのあたりは大丈夫だと思いますよ。提督がかなえられないような無理なお願いを言うような人はいないでしょうから」
初春「提督が受け入れられるかどうかはまた別の話じゃがの?」ニヤニヤ
那珂「那珂ちゃん的には、コンサートホール建ててくれたのがびっくりしたけどなあ~。提督さん、できないことないんじゃない?」
榛名「深海の皆さんと協力できるようになったから、ある程度のことは何でもできてしまいそうですね」
提督「まあ、極力お前たちが過ごしやすいように手配はするつもりだからな……設備面は頑張らせてもらうさ」
提督「それから最後にもうひとつ、お前たちが本当に島に残る上での心配事も伝えておきたい」
早霜「まだ心配事があるのですか……?」
提督「ああ。俺が今後あの島で生活するうえで避けて通れないのが人間と艦娘との戦いだ」
全員「「!」」
提督「あの島で氏んだ海軍の人間の中にも、いい奴がいたかもしれないし、そうでなくてもそいつらにも家族がいただろう」
提督「ついこの前も、盗掘しに来た連中を全員始末した。そいつらの境遇を知れば、助けるべきだった奴もいるかもしれねえ」
提督「それに、深海棲艦やメディウムたちは、当然のように人間を頃す。俺も大佐たちを殺ると決めた時から、覚悟は決めたつもりだ」
868: 2023/04/23(日) 22:22:31.93 ID:CS8kn2M7o
提督「正直に言えば、もともと国防のため、人を守るために生まれた艦の化身に、人頃しを受け入れろと言うのは俺もどうかと思ってる」
提督「で、そういう人頃しをやる以上、誰から恨みを買うかわからねえし、いい奴を頃したら罪の意識に苛まれることだって起こるはずだ」
提督「そして、自分と同じ顔をした艦娘とやり合う可能性もある。そこが一番心配だ」
全員「「……」」
提督「まあ、これから俺がやることに少しでも疑問を覚えたんなら、白露が言ってたみたいに、一度離れてもらうのもいいと思ってるんだ」
提督「留まるにしても離れるにしても、自分の意思が一番大事だからな。お前たちの気分のいいように過ごしてほしいというのは変わってねえ」
提督「俺が島に移るまでの間に、考えといてくれ。一度島に渡ってから出ようと思うと、外野がなんて言ってくるかわかんねえからな」
武蔵「ふむ……」
提督「多分、まだ悩んでんのは武蔵と那智あたりじゃねえか? お前たちはそこまで人間を恨めしく思ってないだろう?」
那智「確かにそうだが、余所に行くにしても当てがないからな。白露たちのように連絡員と言うのも考えたが、私の場合は練度が足りないだろう」
提督「まあ、確かになあ……」
那智「とにかく、私はもう少し考えさせてもらおう。幸いにも私にはまだ時間がある」
提督「ああ。それからここにはいないが、個人的に心配なのが金剛なんだ」
榛名「! と、仰いますと……?」
提督「あいつ、誰にでも優しいっつうか、博愛主義的だからな。俺と一緒にいて本当に大丈夫なのか、すげえ心配なんだよなぁ」
大和「そういえば、金剛さんも前の鎮守府に向かったんでしたね」
869: 2023/04/23(日) 22:23:16.15 ID:CS8kn2M7o
提督「外泊許可下りるのが遅えんだよ。Q中将の墓参りくらいさっさとやらせてやれってのによぉ」
扉<コンコン
提督「ん?」
隼鷹「隼鷹でーす! 提督、いるんでしょ? 入っていい?」
提督「おう、いいぞ」
隼鷹「失礼しまーす! うおぅ、いっぱいいる!」ガチャー
隼鷹「前の鎮守府とかに行った艦娘が多いんじゃなかったの?」
提督「戻る必要のない艦娘も多いからな。それより、隼鷹はもう本営から戻ってきたのか?」
隼鷹「まあね~、いろいろお叱りは受けたけど、やっぱりやりすぎじゃないか、ってことで……」
飛鷹「失礼します」スッ
R提督「失礼いたします!」ケイレイ
隼鷹「紹介するよ。うちの提督、R提督と、あたしの姉妹艦の飛鷹だよ~」
R提督「あなたが隼鷹を保護してくださった提督ですか……! 本当にありがとうございました!」
提督「そんなに畏まんなくていいぞ? 俺、どうせ海軍辞めんだし」
R提督「いやいや、重要なのはあなたが隼鷹を立ち直らせてくださったことです。言わば隼鷹の恩人!」
870: 2023/04/23(日) 22:24:04.49 ID:CS8kn2M7o
飛鷹「そうですよ、隼鷹が自暴自棄だったところを、提督が助けてくださった、って聞いていますよ」
R提督「あなたのおかげで、また隼鷹と一緒にいられることができるようになったんです。この感謝の気持ちは言葉に表せないほどです!」
提督「大袈裟だな。俺は、隼鷹があんたたち2人に会いたいっつうから、それなりの手助けをしただけだ」
隼鷹「えぇ~? 提督ってば、ぐでんぐでんのあたしを無理矢理立ち直らせてくれたじゃんか~」
提督「それこそお前があの時に話を聞く気がなかったら、そうはなってねえだろうがよ」
飛鷹「……なんていうか、謙虚なんだかそうじゃないんだか、よくわからない人ね?」
隼鷹「ちょっと面倒臭い人なんだよ。自分が悪者になりたがるタイプの善人って言ったらいいのかねえ……」
提督「違えよ、人付き合いが面倒臭えってだけだ」
隼鷹「身も蓋もないね!?」ガビーン
提督「俺はやりたいようにやってるだけで、お前たちの状況が好転したのも運が良かっただけだと思ってるぜ?」
飛鷹「ええ……? 私たち、お礼を言いに来たんだけど……」
提督「いいんだよそんなの。お前たちはお前たちのこれからのことを考えてりゃいいんだ。また離れ離れになったら困るだろ」
R提督「そうならないように、私はこの2人を絶対に離しません! 絶対に幸せにして見せます!」
隼鷹「ちょっ!?」セキメン
飛鷹「R提督!?」セキメン
871: 2023/04/23(日) 22:24:46.68 ID:CS8kn2M7o
提督「おう、是非そうしてくれ。また俺んとこに隼鷹が来るようなことがあったら容赦しねえぞ」
那智「貴様は隼鷹の父親か」
提督「んん? どういう意味だ」
由良「R提督さんのさっきのセリフが、まるで父親に対する『娘さんは僕が幸せにします』的なセリフに聞こえたんですけど」
R提督「あ……」セキメン
隼鷹(そこで赤くなるってことは、自覚なかったんだね……)
武蔵「それを受けての貴様のセリフが、まるで父親みたいだったからな」
提督「いや、それを言うなら『お前に娘はやらん』みたいなこと言うのが父親っぽいセリフなんじゃねえの?」
朧「認めたうえで『不幸にしたらただじゃおかない』みたいなこと言うのもよくある話じゃないですか?」
提督「うわ、そういう話かよ……! あるな、確かに……」アタマオサエ
初雪「……パパって呼んだほうがいい?」
吹雪「お父さん……!?」キラキラッ
提督「お前ら何考えてやがる」ヒキッ
敷波「あたし的には、パパって言うよりお兄ちゃんかなー」
陸奥「お兄ちゃん……ありかも」キラッ
朝潮「む、陸奥さん!?」
872: 2023/04/23(日) 22:25:31.26 ID:CS8kn2M7o
初雪「むう……お兄ちゃん……兄さん……にーにー……悩む」
提督「なんだその三つ目の呼び方……!?」
如月「それじゃ私はダーリンって呼ぶわね?」ニコニコ
榛名「」シロメ
伊8「だから榛名さんも白目むいてないでそう呼べばいいんじゃない?」
飛鷹「え、ここの提督って口リコンなの……?」
隼鷹「いんや? 艦種問わず無差別に好かれまくってるだけだよ? 大和とかも提督のこと好きだよね?」
大和「えっ!? は、はい! それはもう!」
飛鷹「え、ここの提督ってあの見た目で女たらしなの……?」
隼鷹「飛鷹も評価の仕方が極端過ぎるよ!?」
陸奥「女たらしではないと思うわ。艦娘たらしではあると思うけど」
隼鷹「それフォローになってなくない!?」
R提督「隼鷹……おまえ、ツッコミ役だったのか」
隼鷹「R提督も何を言ってんのさ!?」
霞「ああ、もう……全然収集つかないじゃない。いい加減にしなさいよ!」
隼鷹「あたしもそうしたいんだけど……」
873: 2023/04/23(日) 22:26:16.39 ID:CS8kn2M7o
霞「とにかく、飛鷹さんに誤解のないように言わせてもらうけど、あの島に来た艦娘はみんな訳ありなのよ」
霞「捨て艦にされたとか、追放されたとか脱走してきたとか、とにかく前の鎮守府で嫌な目に遭わされた艦娘しかいないの」
飛鷹「そうなの?」
R提督「そういえば、轟沈経験艦もいると聞いていますが」
霞「それは一部の人たちね。沈んでないから不幸じゃないなんて言えたものじゃないけど」
扶桑「ええ。そういった状況から提督に救っていただいたのが私たちですので、提督に過剰に好意的なのは当然と言えば当然なのかと」
山城「扶桑お姉様!?」ガーン
R提督「救われた……か。そう言ってもらえているということは、彼はすごいんだな」
飛鷹「で、どうして山城はショック受けてるの?」
時雨「ああ、それは、自分は提督が好きじゃないアピールが通用してないのと、扶桑を提督に寝取られたショックを受けてるんだよ」
山城「しぐれぇぇぇ!?」イヤァァァ!
時雨「でも、山城も提督のことは好きでしょ? 見ていればわかるよ?」
山城「す、好きとか、そんなわけないじゃない!」
時雨「じゃあ嫌いなの?」
山城「そ、そういうのじゃないわよ。あの男がいたから扶桑お姉様が轟沈せずに済んだこととか……」
874: 2023/04/23(日) 22:27:01.42 ID:CS8kn2M7o
山城「那珂ちゃんと出会えたのだってあの島があったからだし……し、時雨だって、まさか蘇ってくるなんて、思いもしなかったし……」
山城「み、認めてはいるわよ、提督のことは! 結果論的にだけど! けど、私が好きなのは扶桑お姉様と那珂ちゃんよ!?」
扶桑「山城……」
那珂「山城ちゃん……!」
時雨「……ふーん。僕は?」
山城「うぐっ……!! そ、それは……き、嫌いじゃない、わよ……!」
時雨「えー? 僕のことも好きだって言ってほしいなあ。僕は、山城のこと……好きだよ?」テレッ
山城「」ズギューン
扶桑「山城?」
飛鷹「なんか固まってない?」
山城「」
山城「」
山城「可愛い……」バターン
扶桑「えっ!? 山城!? どうして今の流れで倒れるの!?」
時雨「ちょっとタメを作ってあざとかったかなって思ったけど、いくら何でも装甲が薄すぎるよ!?」
那珂「山城ちゃん! だからその顔は駄目だって! 山城ちゃん!?」
875: 2023/04/23(日) 22:27:46.54 ID:CS8kn2M7o
霞「……本当に収集つかないから、その辺にしてほしいんだけど」
時雨「うん、ごめんね?」シレッ
隼鷹「いやー、このドタバタが見られなくなるのも寂しいけど、しょうがないねえ」イヒヒッ
隼鷹「そういえばさ、千歳と足柄はどうしたの? 酒飲み友達として挨拶したかったんだけど」
提督「あいつらならお前同様に少し前から外に出てるぞ。確か、古鷹たちと一緒にL大尉んところに行ってたよな?」
那智「ああ、海風に会いに行っているはずだ」
朧「そういえばL大尉も提督との面会を希望してましたが、まだ鎮守府から離れられないみたいですね」
R提督「L大尉殿……? もしやあの神戸の、練習巡洋艦姉妹を連れた提督のことですか?」
飛鷹「いま、忙しいんじゃないかしら。聞いた話だと、その鎮守府にいろんな提督が殺到してるみたいよ?」
吹雪「なにかあったんですか?」
R提督「実は、彼があの墓場島と呼ばれた島に何回か行き来していたと噂が……というか、実際に提督はお知り合いなんですね?」
提督「ああ」
R提督「みんなあなたに関する情報を欲しがっているんですよ。そもそもあの島がどういう島なのか、その島にいた提督がどんな人物なのか」
R提督「それを知りたい提督たちが、大尉殿のもとに押しかけてきているらしいんです」
朧「うわあ……それで忙しいって言ってきてるんですか」
876: 2023/04/23(日) 22:28:32.18 ID:CS8kn2M7o
提督「面倒臭え……超面倒臭えことになりそうだ」ゲンナリ
吹雪「司令官!?」
敷波「しょうがないよねー。司令官はこれまでさんざん人に嫌われてきたわけだし」
敷波「それがいきなり、深海棲艦と対話できる唯一の人だって理由で、その人たちが手のひら返してすり寄ってくるわけでしょ?」
由良「提督さんじゃなくても気に入らないわよね。これからたくさんのそういう人を相手にしなきゃいけないとなると」
初春「それに、これまで提督は、深海のスパイだの裏切者だのとさんざ疑われてきておる」
初春「信用できないと警戒を強める者もおるじゃろうし、そもそも受け入れられぬ者もおるじゃろう」
初春「ややもすれば、かつての大佐のように、この御時世に関わりなく私情や私利私欲のために、戦争を続けようとする輩もおるやもしれぬ」
初春「そ奴らが、提督を利用しようとしたり、或いは気に入らぬからと暗殺を企てたりする可能性も無きにしも非ず……と、わらわは見ておるが?」
提督「最悪を想定するなら初春の言う通りだな。そもそも俺は人間のために戦っちゃいねえんだ、裏切者扱いはまあ妥当なんじゃねえの」
飛鷹「ええ……?」
隼鷹「提督の場合は、艦娘のために、ってやつだね~」
R提督「……一応確認ですが、提督は、深海勢力に情報を渡していたとか、そういうスパイ行為は行ってはいなかったわけですよね?」
提督「おう。やったことと言えば、艦娘と同じように深海棲艦を保護して、飯食ったり雑談したり、ってくらいだな」
877: 2023/04/23(日) 22:29:17.13 ID:CS8kn2M7o
R提督「どうやって仲良くなったんです?」
提督「あー……その深海棲艦、まともに砲撃戦したことがなかったんだよ。で、うちの長門と思う存分戦わせたら、まあ仲良くなったっつうか」
飛鷹「よくご無事でしたね……」
提督「で、それ以降はちょくちょく飯を食いに来て、演習にも付き合ってもらって……それでうちの鎮守府が攻め込まれたとかはなかったな」
提督「むしろ逆に姫級が攻めてくるって話はそいつに聞いたくらいだしなあ。こっちが間諜行為をさせてたってことになるのか?」
R提督「そういう経緯だとすれば、提督を裏切者と呼ぶのは少し違いますね。提督の行いが利敵行為につながったわけでもないようですし……」
提督「それから、そいつのおかげで島の海域の深海棲艦が減ったっつう実績もあるっちゃああるんだよな」
提督「はぐれ深海棲艦を保護して、余所の海域に移動させたりしたとかって聞いてる。だからこの島近海の航路も開けてたんだ」
隼鷹「島に近づきすぎると潮の流れに押し流されて酷い目に合うけどね」
提督「ま、どっちにしろ俺たちは海軍のやることの蚊帳の外だったさ。それを今更どうのこうのと言われる筋合いはねえ」
扉<コンコン
提督「ん?」
扉<チャッ
香取「失礼いたします。提督少尉はこちらにいらっしゃいますか?」
提督「んん? お前……」
R提督「香取?」
880: 2023/04/29(土) 14:10:32.17 ID:BxAZ/rvao
香取「ご無沙汰しております、少尉。こちらの方は……?」
L大尉「少尉! いるんだね!?」タタッ
提督「お前……!!」
隼鷹「ええ!? L大尉!?」
R提督「この方が……!?」
L大尉「良かった、無事だったんだね! 変わってないみたいで安心したよ……!」
提督「いや、何でここにいるんだよ! 丁度いま、こっちのR提督から、来客が多くて大変だって話を聞いたとこだぞ!?」
L大尉「そうなんだよ! 君のことを教えろと、あちこちから同業者が集まってきてて、どんな人だとか目的はなんだとか……」
L大尉「どんな食べ物が好きだとか艦娘は誰が好きだとか! ひっきりなしに面会の申し入れが来て休む間もないんだよ!」
朧「これって、さっきの話の……」
初春「そうじゃろうなあ。好みを聞いてくるあたり、提督にゴマをすりたい者がL大尉のもとへ殺到しておるんじゃろうな」
L大尉「そうなんだよ! 僕に訊かれても困るようなプライベートな質問も多くて!」
L大尉「わからないと答えても『わからないじゃ困るんだよ』とか言って逆切れしてくるし!」
L大尉「そうでなくても、これまでさんざん、僕のことも含めて君のことを扱き下ろしてきた人たちがだよ!?」
L大尉「これまでのことを都合よく忘れて、ニタニタ笑いながら圧をかけてくるんだよ!!」ウガー!
881: 2023/04/29(土) 14:11:17.08 ID:BxAZ/rvao
L大尉「ああ……もう相手したくない。思いっきり帰れって言ってやりたい!」
香取「思いっきり帰れと叫んでいたではありませんか……あんなL提督、見たことありませんでしたよ」
L大尉「あれ、そうだっけ……?」
隼鷹「予想した出来事が実際に起こってるわけだねぇ……」
L大尉「って、うわっ!? あのときの酔っ払い艦娘!!」
隼鷹「や、やだなあ、今日は飲んでないよ? シラフだよぉ~」
L大尉「本当だろうね……?」タジッ
香取「……もしや、そちらの提督は、隼鷹さんのもとの提督さんでいらっしゃいますか」
R提督「R提督と申します。うちの隼鷹がご迷惑をおかけしたようで……申し訳ありません」
香取「いえいえ。いろいろと大変だったようですね」
早霜「司令官? この人、確か……」
提督「あ、そうか。お前、こいつ来た時に氏んでたんだっけな」
L大尉「氏ん……ひいい!? き、きみ、生きてるぅぅ!?」
R提督「轟沈艦を復活させたのですか……!?」
882: 2023/04/29(土) 14:12:02.58 ID:BxAZ/rvao
提督「いや、そうじゃねえ。ちゃんと海から見つかったんだが、記憶を引き継いできたっつう、ごくごくレアなパターンなだけだ」
時雨「僕もそういうことになるのかな」
L大尉「もうなんでもありだね、君のところは……!?」
扉<ガチャー
鹿島「失礼します……あー! 大尉さんも香取姉も、少尉さんを見つけたのにどうして報告してくれないんですか!」ヒョコッ
提督「鹿島も来てたのか……」
鹿島「あっ、少尉さんお久し振りです! みなさーん! こちらの部屋に少尉さんたちがいましたよー!」
提督「皆さん?」
ゾロゾロ…
加古「いやあもう、あっちじゃゆっくり寝られなくて散々だったよぉ~……ふわあ」
海風「提督少尉さん、お久し振りです」ペコリ
ガンビアベイ「Oh... みなさん、この部屋にいらっしゃるんですか」
山風「……こんにちは」ペコリ
千歳「あら? そっちにいるのは飛鷹? もしかしてそちらの男性がR提督?」
R提督「私を知っているのですか?」
883: 2023/04/29(土) 14:12:48.42 ID:BxAZ/rvao
足柄「隼鷹から聞いてるわ。ということは、隼鷹たちは日本に戻れるのね?」
隼鷹「そうなんだよ、これで舞鶴に戻れるんだよぉ~!」
古鷹「おめでとうございます! 良かったですね!」
朝雲「おめでたい話が多いと、これまで頑張ってきた甲斐があったって思うわね~」
提督「お前たちも一緒に戻ってきたのか。山雲と加古は大丈夫だったか?」
朝雲「今のところは心配なさそうよ? L大尉は山雲のことを歓迎してくれたし!」
山雲「そうね~、ちょっととぼけてるけど、いいひとそうで安心したわ~」
古鷹「山雲さんは大丈夫そうでしたが、加古は相変わらずあくびばっかりしてました……」
香取「先程も申し上げました通り、鎮守府に少尉の情報を欲しがる提督が殺到してまして。加古さんにはつらい環境でしたね」
加古「電話のコール音がずーっと鳴りっぱなしでさあ……香取と鹿島がてんやわんやだったよぉ」
L大尉「今回ばかりは時期が悪かったなあ。とにかく、しばらく神戸には戻りたくないよ……そうも言ってはいられないけど」ハァ…
提督「それで逃げてきたってか」
L大尉「正直に言えばね。それで、君が滞在しているこの船の所有者であるX中佐に、香取からお伺いを立てて貰ったんだ」
L大尉「他にも相談や報告したいこと……というか、会わせたい人もいて」
提督「……俺にか?」
884: 2023/04/29(土) 14:13:33.11 ID:BxAZ/rvao
L大尉「提督少尉にも無関係じゃないから、連れてきたんだ。来てるよね?」
鹿島「はい! ふたりとも、入ってください!」
スッ…
クルー6「……ど、どもっす」
波元大尉「こ、こんにちは~」ペコペコ
霞「……あー! あなた……!」
提督「んんん? 誰だ? どっかで見た覚えがあるんだが……」
如月「あ、あなたは……医療船で会った女性提督さん!?」
波元大尉「あ! あなた、あのときの如月ちゃん……!? えっと、その……あの時はごめんなさい」チヂコマリ
足柄「提督は覚えてないかしら。以前私たちがいた鎮守府の提督、波大尉よ! 退役しちゃって元がつくけど!」
提督「ああ……あったな、そんなこと。悪いことは忘れるようにしてっから、あまり顔覚えてなかったぜ」
千歳「で、こちらの男性は、昔、あの島を取材に来たテレビクルーのひとりです」
クルー6「ど、どもっす」ペコリ
提督「鹿島を襲った連中とは別の部屋にいた奴か?」
足柄「そうそう! あの騒ぎのときに私たちと飲んでた彼よ!」
885: 2023/04/29(土) 14:14:17.03 ID:BxAZ/rvao
大和「まだテレビ局でお仕事をなさってるんですか?」
クルー6「いえ、あの後、まもなくバイトの期間が終わったんで、もう無関係っす。今は翻訳の仕事をしてるんすよ」
香取「海外から艦娘に関する情報を提供してほしいと依頼がありまして。そのお仕事の一部を彼のいる事務所にお願いしているんです」
電「と、ところで、どうしてそのおふたりが、一緒にいるのですか?」
波元大尉「え、えっと、私たち、結婚したんです!」キャー!
霞「ええええ!?」
初春「なんじゃとおおお!?」
大和「け、結婚ですか!?」
朝潮「存じ上げていませんでした! おめでとうございます!」ビシッ
波元大尉「ありがとう……!! 朝潮ちゃん、本当にいい子だわ……!」ウルッ
千歳「あら? 初春は知ってたんじゃなかったの?」
初春「波大尉が退官してから結婚したことまでは聞いておった! しかし、相手がこの男だとは知らなんだぞ!?」
那智「生憎、私は二人とも面識がないが、おめでたい話じゃないか」
吹雪「なんか全然接点がなさそうじゃないですか!? どこで知り合ったんですか?」ワクワクッ
波元大尉「え? えっとね、私が退院してから退官手続して、そのあと一般企業に入社したんだけど、そこに彼が同時期に入ってきたの!」
886: 2023/04/29(土) 14:15:02.13 ID:BxAZ/rvao
クルー6「テレビ局のバイトの契約が終わって、そのあと何社か面接受けて、たまたま同じ会社に試用期間で入ったんす」
クルー6「で、たまたま艦娘を知ってるって話から元提督だってことが分かって……」
波元大尉「あーちゃんとちーちゃんの話になってからはもう早かったわよね~」
那智「あーちゃん?」
足柄「う、うん」セキメン
隼鷹「で、ちーちゃん?」
千歳「ええ」ニコ
クルー6「一晩だけとはいえ、一緒にお酒飲んでいろいろ話しましたからね。面白い話も、大変な話も。波さんのことも少し聞きました」
波元大尉「このふたりがいなかったら、私の結婚はなかったわ! 本っ当に感謝してる!!」
那智「それでその企業で職場恋愛、ということか」
クルー6「いえ、俺は結局その会社をすぐ辞めて、そこで紹介された翻訳家の人のところで一緒に仕事することになりまして」
クルー6「でも、彼女との付き合いはそのまま続いて、付き合ってるうちに……まあ、こうなったっす」テレッ
香取「その翻訳家の方が海軍とお付き合いがありまして。その縁で彼にお仕事をお願いしているんです」
提督「んじゃ、海軍とは無関係ってわけじゃねえってか」
887: 2023/04/29(土) 14:15:47.85 ID:BxAZ/rvao
R提督「しかし、普通の企業が中途採用を半年で手放すでしょうか……?」
L大尉「それが今ちょっと問題になっているんです。社会復帰した元提督の離職率が高いんだそうで」
R提督「そうなんですか?」
香取「はい。提督業を経験した方は、それまで最初から艦娘を部下として扱ってきたためか……」
香取「逆に自分が誰かの下について仕事をすることができない人が多いようなんです」
L大尉「着任初期は駆逐艦が主力になるが、その見た目が可愛らしい女の子だ」
L大尉「なかにはつんけんする子もいるが、基本的に指示には従順で、目的も明確だから軍務に対する理解も深い」
L大尉「そういう環境下にいれば、それが普通になって感覚が麻痺してしまう、と言うことらしいんだよ」
波元大尉「私のときも、その会社が私にほとんど仕事を回してくれなかったんですよ。元提督ってことで気を使われたみたいで……」
クルー6「なんか理不尽に干されてたってことらしいんす」
波元大尉「確かに海軍にいた時は、あーちゃんたちに色々教えてもらいながら提督のお仕事してたから」
波元大尉「OL時代と比べると、上げ膳据え膳で何でもやってもらって、って感じだったのよね」
香取「そのせいか、元提督というだけで雇用を躊躇する企業が増えてまして。おそらく波さんもその煽りを受けたのではないかと……」
波元大尉「私はもともと普通に働いてたから、そんなことないと思ってたんだけど……でも、結果的に私は辞めてよかったと思ってますよ」
波元大尉「わかりやすい嫌がらせしてくるお局様もいたし……まあ、嫌がらせって言っても大したことなかったけど」
888: 2023/04/29(土) 14:16:32.90 ID:BxAZ/rvao
足柄「ねえ千歳? もしかして波提督、そのお局様に反撃して恐れられたせいで追い出されたんじゃないの?」ヒソヒソ
千歳「ありそうね。割と気が強いから、そのお局様がこのままじゃ自分の椅子が危ういと思ったとか?」ヒソヒソ
波元大尉「あの時は反動で超やる気だったし、確かにちょっとビビらせすぎちゃったかなー。自分が納得できない仕事させられるの嫌いだし」
足柄「」
千歳「」
隼鷹「こりゃあ、かかあ天下になりそうだねえ」イヒヒッ
クルー6「……や、まあ、確かに姉さん女房ですけど……俺には、いい奥さんっすよ」テレッ
扶桑「まあ。のろけられてるわ」ニコニコ
伊8「末永く爆発してください」
早霜「そうね……ずっと幸せなままでいられる呪いをかけてあげるわ」
武蔵「爆発とか呪いとか、その言葉のチョイスはなんなんだ」
時雨「そういうスラングがあるんだよ」
L大尉「さてと、少尉! いろいろ積もる話もあるけれど、それとは別に後日でいいから時間を貰ってもいいかな?」
L大尉「君がこれからどうするつもりか、とか、僕が君に関して対外的にしていい話がどれくらいか、と言うのを確認しておきたいんだ」
889: 2023/04/29(土) 14:17:17.57 ID:BxAZ/rvao
L大尉「今すぐは決められないだろうから、日程調整をお願いしたくてね!」
香取「可能な限り、あなたに向かう問い合わせをこちらで完結させようと思っています。ご協力をお願いいたします」ペコリ
提督「……面倒臭えが、そういう話ならしょうがねえな」ハァ…
霞「来るのはいいけど、もう少し人数絞って来れなかったの?」
L大尉「だって少尉の無事を確認したかったんだよ? みんな少尉やこの鎮守府の艦娘たちに会いたいだろうし」
L大尉「それに、この島に関わったことのある艦娘は全員退避させたかったしね。誰か残したら質問攻めにあうだろうからね」
霞「ああ、そういうこと……なら、仕方ないわね」
山風「白露お姉ちゃんは、いないの……?」
ガンビアベイ「ヒエイも、いませんね?」
提督「白露は青葉たちと一緒に、今後の仕事の話で本営に行ってる。比叡はW大佐のところの榛名に会いに行ってるな」
山風「そうなんだ……」ションボリ
L大尉「間が悪かったなあ、そこも今度来るときに調整したいな」
L大尉「それから、君は海軍から離れるんだろう? 少尉でなくなるわけだし、今後は君を何と呼べばいいかな」
提督「提督でいいだろ。そこは何も変わらねえよ」
L大尉「そうか、じゃあ今後はそう呼ばせてもらうよ」
扉<ガチャー
少女?「邪魔するぞ!」
全員「「!?」」
890: 2023/04/29(土) 14:18:05.06 ID:BxAZ/rvao
敷波「え、今度は誰?」
L大尉「軍服着てるけど誰だろう……香取、知ってる人かい?」
香取「いえ、ちょっとわかりませんが……あの階級章ですと、少将になるかと」
L大尉「は!?」
少女?「ふぅむ……あの島で魔王になったという提督は誰じゃあ!?」
R提督「魔王……ですか!?」
早霜「魔神の間違いなら、司令官のことですよね……?」
提督「まあ、そうだが……ありゃ誰だ?」
大和「なんだか、本営で見た記憶が……」
少女?「むむっ!? おおお、大和型が揃っちょるじゃとぉー!?」
仁提督「し、失礼する! こちらに与少将殿は……いた!!」ガチャー
武蔵「与少将……だと!?」
少女?→与少将「そうじゃ! いかにも、わしが与少しょ」
仁提督「うおおお!? 武蔵がいるのかああ!?」
与少将「わしの名乗りを邪魔するな馬鹿者おお!」
891: 2023/04/29(土) 14:18:47.35 ID:BxAZ/rvao
提督「……」
朧「あの人が与少将……!?」
電「なんとなく初春ちゃんに似てるのです」
初春「いやいやそんなことはなかろう……わらわはあそこまで落ち着きがなくはないぞ?」
香取「そ、その与少将殿が、いったいどのようなご用件で」
与少将「決まっておろう! わしは魔王提督と条約を結ぶために来たのじゃ!」
提督「聞いてねえぞ、そんな話」
仁提督「すまんな……少将殿は思い立ったら止まらんのだ」
提督「お前そっくりだな」
与少将「それにしても……よもや大和と武蔵が揃っちょるところをこげんところで見られるとは! どうじゃ! わしの艦隊に来ぬか!」
大和「うわぁ面倒臭……じゃなかった、お断りいたします」
与少将「いま面倒とか言わんかったか!?」
大和「何のことでしょう?」
武蔵「」
提督「お前の上官、本当にお前そっくりだな」
仁提督「貴様の大和も貴様にそっくりじゃないか……」
892: 2023/04/29(土) 14:19:32.69 ID:BxAZ/rvao
与少将「な、なぜわしの誘いを拒む! 魔王の軍勢などに居っては、逆賊と謗られることになるのじゃぞ!?」
大和「逆賊? それは聞き捨てなりませんね、どういう意味です?」
与少将「考えてもみい! 艦娘は、世界の脅威である深海棲艦に対抗しうる希望ともいうべき存在じゃ!」
与少将「その深海棲艦と手を結び、人の世の平和を脅かそうとする魔王に与するということは、そういうことになるんじゃぞ!!」
L大尉「え? 提督は艦娘の保護を目指してるのであって、別に人の世の平和を脅かすつもりはなかったよね?」
提督「ああ。むしろ極力関わりを避けたいんだが」
与少将「なぬ?」
如月「なんか、聞いてないぞって顔ね?」
仁提督「おい、こっちの……すまん、誰だ?」
香取「L大尉です」
仁提督「あ、ああ、すまん。俺は仁提督だ。提督、L大尉の話も本当なんだな?」
提督「もう本当に面倒臭え……」
波元大尉「なんか、あの人見てると、他人の話を聞かない昔の私を見てるみたいで、苦しくなってきたわ……」
クルー6「どっかで休ませてもらいましょう」
霞「とりあえず椅子ならあるから、座ってるといいわよ。ほら」スッ
波元大尉「うん、ありがとう霞ちゃん……大好き」スワッテダキツキ
霞「!?!?」カオマッカ
893: 2023/04/29(土) 14:20:32.13 ID:BxAZ/rvao
大淀「とりあえず、条約の話をするのでしたらH大将やX中佐へも同席していただきませんと。確かX中佐は今も船内に……」
与少将「何を呑気な! H大将閣下は今、本営で会議中じゃぞ! 本営がお偉方を招集し、魔王提督の扱いについて、まさにいま談義しておる!」
与少将「じゃけぇ、身動きのとれぬ大将たちに代わって、わしがこの場を収めるため出向いてやったという話じゃ!」
提督「帰れ」ギロリ
与少将「!?」
L大尉「おお、やっぱり提督の帰れは迫力あるなあ」
香取「何を呑気なことを……」
与少将「き、貴様、上官に向かって何を無礼な!」
提督「上だろうが下だろうが、最初から俺たちを頭から抑えつけるつもりでいる奴らの話なんざ聞く気はねえよ」
提督「どうせ本営でも、俺のことをまともに知らない連中があーだこーだ決めつけで喋って、手前に都合のいい結論を出すんだろ?」
仁提督「そうかもしれんが……」
与少将「仁提督!?」
仁提督「申し訳ありません。自分が引き取った雪風にまつわる顛末を考えると、彼らが提督の望む結論を導き出してくれるようには思えんのです」
仁提督「勿論、中将閣下やH大将閣下は確かな見識をお持ちでしょうが……」
提督「H大将が有能だとしても、H大将はH大将で腹に一物抱えてるようだしな。俺はそこまで信用しちゃいねえぞ?」
朧「提督、それはしょうがないですよ。H大将は海軍のことも考えなきゃいけないんですから」
提督「んー、そこはどっちかっつうと海軍と言うより人間のために動いてる印象だな」
894: 2023/04/29(土) 14:21:17.28 ID:BxAZ/rvao
提督「人間のために譲れるところと譲れないところを、ちゃんと示してくれそうだってところは信頼できそうではあるが」
提督「何を要求してくるかって点では、油断ならねえと思ってるぜ」
L大尉「えーと、少将殿? そもそも提督は海軍を離れるんですから、上も下もなくなるのでは?」
香取「L大尉!?」ギョッ
L大尉「ん? 僕、何か変なこと言った?」
クルー6「いや、でもその通りじゃないすか? 転職先の業務に口を出す上司はちょっとないっすよ」
仁提督「少将殿、勇み足が過ぎます。L大尉の言う通り、提督は少尉どころか海軍の人間ではなくなります。そのように上からでは不興を買うのも……」
与少将「馬鹿者、ここで怖気づいてどうする! 深海棲艦に屈しろと言うか!」
仁提督「ですから、そういうわけでは……」
提督「そもそも、俺のこともまともに知らずに、いきなりしゃしゃり出てきて場を仕切ろうとする奴を信用しろってのが無理だろ」
提督「おまけに大和を見つけて当初の目的を忘れて口説きだす始末だ。んなド近視眼的な奴と将来の話なんかしてられっか」
与少将「ぐぬぬ……!」
扉<チャッ
X中佐「提督はいるかい……うわあ、何この大人数」
提督「もう勘弁してくれよ……」
吹雪「司令官、大人気ですね……」タラリ
895: 2023/04/29(土) 14:22:01.96 ID:BxAZ/rvao
与少将「むむ? 貴様はあの大将の甥っ子殿ではないか」
朝潮「この医療船の管理をなさっているのがこちらのX中佐です!」
X中佐「ああ、あなたが仁提督から報告のあった与少将ですね。初めまして」ケイレイ
提督「船の主に挨拶もなしに入ってきたのかよ……」
大和「今の海軍は階級にフランクになりすぎなのでは……」
X中佐「外に待たせていた金剛は、仁提督の所属だね? 外で待たせないで中に入ってもらおう」
祥鳳「そういうわけですので、どうぞ」
仁金剛「し、失礼しマース」
提督「黒潮たちは連れてこなかったのか?」
仁提督「ああ、そうなると雪風たちも連れてくることになりそうだからな。伊勢たちとうちの戦艦の交流もさせたいし、留守を任せている」
提督「そうか、仲良くやれそうなら、それでいい。で、X中佐は何かあったのか?」
祥鳳「つい先ほど辞令が出まして、X中佐が大佐に昇進しました」
与少将「辞令……!」
電「そうなのですか!? おめでとうございます、なのです!」
896: 2023/04/29(土) 14:22:47.08 ID:BxAZ/rvao
那智「もしや、今回の提督の件でか?」
X大佐「そういうことだね。これから更に君との付き合いは深くなりそうだから、改めてよろしくお願いしたい」
提督「ああ、まあ適当にな。で、それだけを言いに来たのか?」
X大佐「君に縁のある尉官佐官についても、伝えておこうと思ってね」
X大佐「まずN大尉。彼には、もうしばらく特別警察的な仕事をお願いすることになって、大将殿から特務大尉に任命された」
提督「ん? 尉官のままなのか?」
仁提督「いや、取り締まりの観点で言えば、特別警察の権限は将官と変わらんはずだ。だからこその『特務』大尉では?」
X大佐「そういうことになりますね。それから、そちらにいるL大尉、あなたは少佐へ昇進です」
鹿島「本当ですか!?」パァッ
香取「おめでとうございます、少佐」
L少佐「……」
古鷹「どうなさったんですか?」
L少佐「いや、元に戻ったっていうのもあるんだけど、タイミング的になんか素直に喜べないなあ」
L少佐「提督と関わりのあった僕に、それ系の仕事が増えそうな気がする」
仁提督「何か困ることでもあるのか」
L少佐「島に関わる仕事となると、古鷹や朝雲たちの負担が大きくなりそうだし……」
897: 2023/04/29(土) 14:23:32.11 ID:BxAZ/rvao
L少佐「提督としても、僕が好きか嫌いかは別にしても、僕自身が島と関わるのは控えてほしいと思ってるんじゃないかな?」
提督「それはそうだな」
L少佐「僕も提督に迷惑をかけたくはないしね……何より、提督目当ての上官に押しかけられるのは嫌だなあ」
与少将「なにを言うか! 我らが国民の命を守るための……むもがっ!?」
仁提督「少将殿、この場はひとまずお納めください」クチフサギ
L少佐「そんなことより提督だよ。なんで今の今まで少尉のままなのかが一番意味不明だよ」
仁提督「そこは俺も同意する。轟沈経験艦の対応など、佐官どころか将官の仕事だろうに」
提督「役職なんざいらねえよ、くっそ面倒臭え」
海風「少尉さんは本当に相変わらずですね……」
X大佐「とは言うものの、海軍としては功労者にまともな役職を与えなかったというのは後々の遺恨をもたらすだろう、という話でね」
X大佐「退職の前に、提督は中佐に昇進してもらうことになったよ」
提督「なんだそりゃ……」
R提督「二階級どころじゃない特進ですね……」
武蔵「階級はファッションじゃないんだぞ」
L少佐「これまでが不当に低すぎたんだよ!」
898: 2023/04/29(土) 14:24:17.55 ID:BxAZ/rvao
電「そういえば、仁提督とR提督の階級は何なのですか?」
仁提督「俺はずっと少佐だ。大した実力もないし、そんなもんだろう」
那珂「仁提督はもっと上だと思ったんだけどなー」
仁提督「与少将配下の提督はそれなりに精鋭揃いなんだ。そこから見れば俺は新参者だし下の方だ」
R提督「あ、ええと、私は今は大尉です。先日まで処分されてましたので中尉でした……その前は少佐だったのですが」
香取「あら、それではL提督と一緒ですね」ウフフッ
鹿島「そうだったんですか!?」
朝雲「あの時は頭も丸めてたもんね」
L少佐「もう掘り返さないでくれないか……」
香取「ですが、そのおかげで中将閣下に目をかけていただいたのですから、塞翁が馬ですよ」
L少佐「そこは間接的に提督のおかげだと思うよ」
与少将「……」ジロッ
X大佐「ああ、その中将閣下なんだけれど、引退をお考えらしいんだ」
与少将「んなっ、なんじゃとおお!?」
L少佐「中将が……!?」
899: 2023/04/29(土) 14:25:02.31 ID:BxAZ/rvao
提督「ふーん……ま、齢が齢だししょうがねえだろうな。足も悪いし治療に専念……」
与少将「こ、こりゃ! 魔王提督! 貴様も大恩あるであろう中将閣下に何たる無礼な口を!!」
提督「ああ? いちいちうるっせえな小姑が」
与少将「」ピシッ
R提督「……」アゼン
L少佐「よ、容赦ないね……?」
提督「これでも気を使ってババアと言ってねえ」フンッ
与少将「」
波元大尉「」
霞「ちょっと!?」
仁提督「……」アタマオサエ
クルー6「マジ容赦ないっすね……」
与少将「おのれ……わしはともかく、貴様には中将閣下に対する敬意はないのか! 不敬者め!!」
提督「あ? 俺の態度なんかどうでもいいだろ。中将が辞めるってのに俺がどうこう口を出す方が余程無粋だろうが」
提督「そんなに中将に敬意を示したいなら、お前が示しゃいいじゃねえか。俺に押し付けてんじゃねえよ、くそが」
与少将「」ビキビキッ
時雨「言葉を失うってこういうことなんだろうなあ……」
900: 2023/04/29(土) 14:25:47.11 ID:BxAZ/rvao
波元大尉「……うん、まあ……でもさ、提督も中将にはお世話にはなったんだよね?」
提督「まあ……不知火の件じゃ世話になったな。まともに俺の相手してくれたのも中将くらいだったし、恩義を感じてねえわけじゃねえよ」
提督「ただ、中将の階級が階級だから、そこまで頼りたくなかったっつうのと、息子の大佐がくそ過ぎたせいでなあ……」
波元大尉「中将の息子さん? って、もしかして……氏んじゃったらしいからあまり悪く言いたくないけど、あの気持ち悪い人?」
提督「知ってんのか?」
波元大尉「ちょっとだけね。ぞわぞわするくらいねっとりした感じで見られたことがあって、ひたすら気持ち悪いって印象しかなかったんだけど」
大和「……っ!」ゾワゾワッ
提督「その感想は正解だな。如月は大佐のところから逃げてきたんだ」
波元大尉「うえっ!? 如月ちゃんて……そういうことなの!? そんなひどい! あんまりすぎよ!? やだっ、鳥肌立ってきちゃった!」ゾワワッ
波元大尉「ううう、私ったら如月ちゃんに本当にひどいこと言っちゃったんじゃない……本当にごめんなさい!」
如月「大丈夫よ波さん、かたきは取ってもらったし、あの傷も司令官のおかげでちゃんと治してもらえたわ」
波元大尉「そ、そうなの!? 良かったぁ……本当に良かった」ウルッ
仁提督「……かたきを取ってもらった?」
X大佐「あ、その辺はコレで」シー
仁提督「は、はい……」
提督(まあ、言えねえよなあ……大佐の身柄を深海棲艦に受け渡した、なんて)
901: 2023/04/29(土) 14:26:32.54 ID:BxAZ/rvao
X大佐「とにかく、あの大佐は、実父である中将殿の暗殺も企てていたほどだ。艦娘の命も何とも思っていなかったんだろうね」
提督「ん? 実父? あいつ、中将と血ぃ繋がってねえんだろ?」
X大佐「……は?」
与少将「……なんじゃと?」
L少佐「ほ、本当なのか、その話」
提督「あれ? 知らねえの? あのバカ、後妻の連れ子だって」
R提督「わ、私は初めて聞きました」
仁提督「俺もだ……」
大和「だ、誰か知ってる方はいます?」
全員「「……」」
香取「どなたも、御存知ないようですね」
提督「言っちゃまずい話だったか?」クビカシゲ
X大佐「……いや、そ、そんなことはないと思うけど……そう、だったのか?」
大淀「提督、そのお話は誰から訊いたんですか?」
提督「大佐の秘書艦やってた赤城からだ」
仁提督「ああ……あの『鉄の赤城』か? だとしたら満更嘘でもなさそうだな」
902: 2023/04/29(土) 14:27:19.30 ID:BxAZ/rvao
与少将「そうじゃったか……ああ、そうじゃろうなあ! 彼奴が中将閣下の息子など、何かの間違いであると思っておったんじゃ!」
与少将「それを、中将閣下は誰にも言わず……なんとお労しや……!!」ボロボロボロ
千歳「与少将!?」
武蔵「与少将は随分と中将に入れ込んでいるようだが、なにかあったのか?」
仁提督「与少将殿は、幼いころに中将閣下にお会いしたことがあるそうだ」
仁提督「その中将閣下に憧れて猛勉強し、努力の末、神童と呼ばれるほどの成績で海軍に入ったと聞いている」
仁提督「その真偽はさておいても、その艦隊指揮能力の高さから、いまこの方は若くして少将という地位にいるというわけだ」
X大佐「僕も聞いただけだけれど、与少将が中将と会う方法を僕の叔父さん……T大将殿にも聞いていたそうですね」
与少将「ああ、そうじゃ……わしはあのお方の隣で、艦隊の指揮を執るのが夢じゃった!」
与少将「それをことごとくあのジジイが潰してくれおって……」
与少将「わしが崇拝しているのは中将閣下であって、呉の和中将なんぞではないと言うんじゃあ!」
足柄「和中将?」
L少佐「和中将ってもしかして……」
提督「……」ウヘェ
与少将「X大佐よ! 先刻の辞令に、わしを呉へ異動させる人事はないか!?」
祥鳳「……X提督、こちらに」サッ
X大佐「……ありますね」
与少将「やはりか……あのタヌキジジイめが! どうあってもわしを呉へ連れ去る気か!!」ブワッ
903: 2023/04/29(土) 14:28:02.14 ID:BxAZ/rvao
提督「まぁたどっかで聞いた名前だな……なあ那智?」
那智「ああ、よく覚えているな……私もあまり思い出したくはないのだが」ハァ
那智「確かに、実力のある女性提督がまったく靡かなくて困っている、というような愚痴を聞かされたことはある」
提督「それ、まさしくこいつのことじゃねえのか?」
那智「かもしれないな……男らしいところを見せてやれとは返したが」
海風「あの、那智さん? いまは、あなたはその和中将から連絡とかはないんですか?」
那智「それはないな。そもそも何も言わずに出てきたし、この島への着任は海で見つけてもらったことにしてもらっている」
那智「だから彼は私がここにいること自体知らないはずだ。そうでなくても、和中将はあの島を蛇蝎のごとく忌み嫌っていたようだからな」
那智「仮に私がここにいたことを知ったとしても、二度と連絡を取ろうとすることもあるまい」
与少将「ぬ……? ぬしら、和中将を知っちょるのか?」
提督「ああ。お前、あいつに困ってるのか?」
与少将「そ、そうじゃが……」
提督「だったら、この島の関係者だって言えば、あいつ勝手に嫌ってくれるぞ?」
与少将「」シロメ
与少将「」
与少将「」
与少将「わしのこれまでの抵抗はなんだったんじゃ……」ヒザカラクズレオチ
仁提督「少将殿! しっかりしてください!」
904: 2023/04/29(土) 14:28:48.04 ID:BxAZ/rvao
提督「なあ、L少佐? あんたんとこにも和中将からは連絡は行ってねえだろ?」
L少佐「来てないはずだなあ。僕たちも和中将からは呉に来るなと言われたし……香取と鹿島も連絡受けてないよね?」
香取「はい、受けていません」
鹿島「呉の中将さんは気難しいお方だと聞いていましたから、意固地になっているんじゃないかと思います」
与少将「……」マッシロ
仁提督「少将殿、お気を確かに」
X大佐「そういえば提督、君のところにいた不知火は、中将の部下じゃなかったのかい?」
提督「ああ。今は中将のところに戻ってもらってるが」
仁提督「そうなのか? ……すまん、恥を忍んで頼みたいのだが、不知火を通して中将閣下への御目文字はかなわないだろうか」
提督「……そういうのは本人の口から言わねえと」
与少将「頼めるのか!?」ガバッ
提督「……」
与少将「であればこの通りじゃ! 何卒! 何卒、中将閣下との御目通しを!! この通りじゃあ!!」ドゲザ
与少将「これ以上、和中将に邪魔されとうないんじゃ!! 後生じゃ……お願いできまいか!!」
仁提督「少将殿!?」
905: 2023/04/29(土) 14:29:32.13 ID:BxAZ/rvao
与少将「頼む……わしにできることがあればなんでもしよう! 何か良い方法はないか!?」
提督「……」ハァ…
仁提督「……」
提督「本人の口から、って言ったの、俺だしなあ……」ガックリ
提督「仕方ねえ……おい、那智」
那智「む?」
提督「不知火に事情を説明して、この二人が中将と面会できないか交渉してもらっていいか?」
与少将「……!!」
提督「俺にそんな権限があるかはわからねえ。とりあえず、どんな理由で会うのか、与少将たちとすり合わせしてほしいんだが」
提督「で、そのついでにお前の知ってる和中将の弱みも適当に教えてやれねえか」
那智「それは構わないが……いいのか?」
提督「我ながら甘いと思うが、ここまでやったんなら、それなりの対応はしてやらねえとな……」ハァ
与少将「なんと……なんとありがたい……!!」
提督「中将に会う口実とか、そういうものに俺は口を出さねえからな。那智と不知火とで、うまいことやってくれ」
与少将「感謝! 感謝する!!」ゴンッ
与少将「であればわしに何か手伝わせてくれ! わしができる範囲で面倒ごとを引き受けようではないか!」
仁提督「少将殿!! そのように軽々しく引き受けては……!」
906: 2023/04/29(土) 14:30:34.76 ID:BxAZ/rvao
提督「……んじゃ、L少佐のところに来てる同業者をなんとかしてくれねえか?」
与少将「ど、どういうことじゃ?」
提督「こっちにいるL少佐は、まあまあ長い付き合いでな。今は神戸で新米提督相手にいろいろ教えてるんだっけか?」
L少佐「うん」
提督「でだ、俺との付き合いがあったせいで、俺のことを知りたがってる提督が神戸に押し寄せてるんだと」
仁提督「つまり、そいつらを追い払えと?」
提督「L少佐の業務に支障をきたさないようにしてほしい、ってことだ」
L少佐「ちょ、ちょっと! 確かに少将に出てきてもらえば助かりそうだけど……恐れ多いよ!?」
提督「そうか? この上なく都合のいい話だろ? 少なくとも格下の佐官には強く出られるだろうし……」
提督「与少将にしてみても、島に何度か上陸したことのあるL少佐と一緒に仕事をしたっつう実績になるんだ」
提督「お前目当てに来た連中が与少将に追い返されたって話が広まれば、和中将もどう思うかねえ……?」ニタリ
与少将「……!」
香取「それでは提督、与少将からL少佐が御助力賜る旨を、不知火さんから中将殿へ報告していただいてもよろしいでしょうか?」
与少将「!!」
907: 2023/04/29(土) 14:31:17.48 ID:BxAZ/rvao
提督「いいんじゃねえかな。ただ協力しただけだとちょっと弱いかもしれねえが……」
L少佐「それならいっそ、与少将も、一度でもあの島に上陸した実績を作ったほうが早くないか?」
提督「それもそうだな、手っ取り早いのはそれか……深海棲艦たちと迂闊に鉢合わせしないようにしないといけねえな」
提督「あ、そうだ、俺たちと会話を持ったことは他言してもいいが、くれぐれも那智のことは伏せろよ。下手に復縁求められても困るからな」
与少将「う、うむ! 合点承知の介じゃ!!」コクコク
L少佐「とりあえず、僕としては提督のことを訊かれたときにどこまで話していいかを確認したいんだけど、いつ話ができそうかな?」
提督「あー……そうだな……」
如月「ねえ司令官、直近の日程だと、今日の午後にX大佐と話す予定でしょ? 一緒に話をしてもらったらいいんじゃないかしら」
X大佐「……いいよ、話す内容は前後するけど、必要な情報だ。調整しよう」
L少佐「本当ですか!」
香取「ありがとうございます」ペコリ
仁提督「悪いが、その話に自分たちも参加させてもらえないだろうか。少将殿も参加させてもらえると話が早いだろうし……」
仁提督「それに以前、俺のところにテレビ局の関係者が聞きに来たこともあるんで、俺としても対策を取りたい」
提督「関係者?」チラリ
クルー6「お、俺っすか? いや、俺もうテレビと無関係すよ?」
波元大尉「そうなの? この前、そのテレビ局の知ってる人からメールが来たって言ってたじゃない」
908: 2023/04/29(土) 14:32:02.50 ID:BxAZ/rvao
クルー6「あー、4さんからの写真すか……これっすね」スマホトリダシ
山風「! ちょっと、見たい……!」
仁提督「俺にも見せてくれ」
提督「……」チラッ
スマホ『おっさんが滅茶苦茶いい笑顔で択捉ちゃんと記念撮影してまーす』
クルー6「なんか、新しく、かいぼうかん? って艦娘が発見されたらしくて。その取材に行ったときに撮ってもらったらしいっす」
山風「……」
提督「ああ、こいつが乱暴やめろって叫んでた奴か。まだ艦娘がらみの仕事続けてんのか?」
クルー6「あの一件以来、艦娘の取材には必ず引っ張られてるみたいっすよ」
仁提督「俺のところに来てた奴とは違うな……」
クルー6「そうなんすか? それだと接点あったかどうかわかんないっすね」
R提督(これ、職権乱用にならないかな……?)タラリ
山風「……」ムッスー…
仁金剛「……なんであの山風はご機嫌斜めデース?」
仁提督「さあ……?」
ガンビアベイ(自分を助けてくれた人が、他の艦娘といい笑顔で映ってるのが気に入らないんでしょうネ……)
909: 2023/04/29(土) 14:45:03.03 ID:BxAZ/rvao
提督「あ、そうだ。おい、仁提督」
仁提督「ん?」
提督「与少将の部下に、深海棲艦は絶対ぶっ倒す、みたいな考えの奴はいるか?」
仁提督「んー……いや、どちらかと言えば俺がそうだったんだが、逆に窘められたことはある」
仁提督「深海棲艦がなぜ人間を襲うのか、その目的や理由がわかれば、無駄に消耗しないし住み分けできるんじゃないか、と……」
仁提督「与少将が部下を集めたときも、そもそも深海棲艦とは何者か、という議題で話が始まったときもある」
仁提督「お前がやってのけた深海棲艦との対話なんてのは、与少将にとっては願ったり叶ったりだと思うんだが」
提督「あいつ、俺たちのことを逆賊とか言ってやがったぞ」
仁提督「おそらく『魔王』のフレーズだけでお前を悪者だと思い込んだんだろう……で、本当に『魔王』になったのか?」
提督「『魔王』じゃなくて『魔神』って呼ばれてる。まあ、大差ないとは思うけどよ」
提督「いずれにしろ人間じゃなくなったし、物騒な連中が増えたから、あまり気軽に島に来て欲しくはねえな」
仁提督「……まあ、たまに黒潮たちが遊びに来たいと言うようなら、それもいいだろう?」
提督「おう。それは一向に構わねえよ、元気なのを定期的に連絡してくれるなら、それもそれで安心だ」
仁提督「ということは、アレか。深海棲艦は絶対ぶっ倒す、みたいな連中に目をつけられたってことか?」
提督「ああ……『説得』できりゃあいいんだがな」
912: 2023/05/14(日) 13:10:47.37 ID:HHe/6brVo
>>911
日進みたいな子を連想していただければと。
続きです。
日進みたいな子を連想していただければと。
続きです。
913: 2023/05/14(日) 13:11:32.18 ID:HHe/6brVo
* 同時刻 *
* 鹿屋 W大佐鎮守府 *
最上「へーえ、僕にも第二改装がくるのか~」
W熊野「ええ、計画されていると、本営からのお達しがありましてよ」
W鈴谷「いつ来るかってのはわかんないんだけどね~」
最上「三隈にはそういう話はないのかな?」
W熊野「残念ながら、そういう話があったのは今のところ最上さんだけですわね……」
最上「そっかー、残念。三隈と一緒に改装出来たら嬉しいんだけどなー」
三隈「最上さん……!」
W鈴谷「なーんか二人ともすっごい仲良しだよね。なになに、なにかあったの? ワケアリって感じ?」
最上「なにかあったってわけじゃないけど、三隈が単に僕のことを気に入ってくれてるみたいでさ」
三隈「最上さん!?」カオマッカ
W鈴谷「ははーん、そういうこと! 大丈夫だいじょーぶ、この鎮守府にふたりの仲を引き裂こうなんてヤボな人はいないから!」ニヒヒッ
三隈「……ここの日向さんが最上さんを狙ってるように見えるんですが」
914: 2023/05/14(日) 13:12:16.75 ID:HHe/6brVo
W熊野「あの方は、瑞雲の素晴らしさを広めたいだけですわ。三隈さんにも日向さんからのアプローチがあったのではなくって?」
三隈「ええ、まあ……でも、熱心だったのは最上さんに対してですわ」
最上「多分だけど、僕が瑞雲をもっと使うようになれば、三隈もそうしてくれるって思ってるんじゃない?」
W鈴谷「そこまで深く考えてないんじゃないかなあ? フツーに見どころあったんじゃない? 艦載機の搭載機数が多いからとか」
最上「ああ、なるほどー」
W熊野「ところで、おふたりはこの鎮守府へ転籍を決めたんですの?」
最上「そうだね。W大佐にもお願いされたし、航空火力艦が多いここなら、僕たちも役に立てそうだしね」
三隈「ええ。最上さんがセクハラ被害にあうこともなさそうですし、三隈もご一緒できればと思いますわ」
W鈴谷「やっりぃ! これで最上型勢揃いじゃーん!」
W球磨「これで頭に『ミ』って書いた頭巾を被らせられずに済むクマ」ニュッ
三隈「はい?」
最上「ああ、ミ、球磨ってこと?」
W球磨「クマー」ウナヅキ
W鈴谷「てゆーか、そんなことやってないし~!」
915: 2023/05/14(日) 13:13:02.23 ID:HHe/6brVo
最上「それじゃ、僕の代わりはどうするつもりだったの?」
W球磨「北上に『モ』って書いた上着を着せてやるクマ」
最上「あはは、それだと『もかみ』だね!」
W熊野「言っておきますけど冗談ですわよ? そもそもこの鎮守府に雷巡は不在ですわ」
三隈「球磨さんも航空攻撃はできませんわよね?」
W球磨「できないけど、そもそもW提督が伊勢を改装するまでは、普通に砲雷撃戦に重きを置いてたクマ。その当時は球磨も優秀だったクマ」
W球磨「自分で言っちゃうけど、球磨はここの艦隊の中でも古株クマ。非航空部隊の中では一番練度が高いクマ」フフン
W鈴谷「そうそう! 意外じゃなく今も今で優秀なんだよね~」ナデナデ
W球磨「クマァ~」ウットリ
W球磨「……って、そこでなでなでしないクマ!」プンスカ!
最上「でも、気持ちよさそうにしてたよ?」ジリッ
W球磨「ちょっと待つクマ。どさくさにまぎれて撫でようとするなクマ」ジリッ
W伊勢「あっ、いたいた!」
W熊野「あら? 伊勢さん、お戻りになられてましたの?」
916: 2023/05/14(日) 13:13:47.49 ID:HHe/6brVo
W球磨「ということは、提督も戻ってきてるクマ?」
W大佐「ああ、最上たちはここにいたのか」ヌッ
最上「どうしたの? 僕たちに何か用?」
W大佐「ちょっとまずい状況になった。俺と同じくH大将の部下だった曽大佐が、H大将のもとを離れたことは聞いているか?」
W熊野「まあ……あのリベンジャー提督が?」
最上「なんだいそのリベンジャーって」
W鈴谷「文字通り深海棲艦に復讐したがってるって言うか。その人、とにかく深海棲艦をすっごい恨んでるみたいよ?」
W伊勢「そそ。そういう人だから、深海棲艦と交渉の場を持ったH大将に激怒したらしくてさ」
三隈「ああ……それで、H大将を見限って離反したと?」
W伊勢「そういうこと」ウンウン
W大佐「今回の事件は想定外の出来事が多すぎたんだ。J少将による大将暗殺計画といい、提督が深海棲艦と交遊できていたことといい……」
W鈴谷「海底火山の噴火と、メディウムもね?」
W大佐「ああ。そんな状況から、提督を助けようとした深海棲艦たちと対話することになるなんて、誰にも予見できなかったと思う」
W大佐「H大将殿が、不本意であってもご自身の方針を変えざるを得なかったのも、俺は仕方のないことだと思っている」
W大佐「それが曽大佐には受け入れがたいんだろうな。あいつは、深海棲艦の存在そのものを許せない男だ」
917: 2023/05/14(日) 13:14:31.74 ID:HHe/6brVo
W球磨「それ、まずくないクマ? 海軍と曽大佐の意思が乖離してたら、曽大佐の行いを海軍が止めないといろいろ厄介になるクマ」
W熊野「そもそも、あの方の気質からして、深海棲艦と話し合う気は毛頭ありませんわよね? 曽大佐はこれからどうするつもりなのかしら」
W大佐「曽大佐は、自分と考えを同じくする他の将官に、自分を売り込もうとしているらしい」
W大佐「ただ、その将官たちも、さすがに今は慎重になるべきと考えているようで、曽大佐はなかなか新しい後ろ盾を見つけられずにいる」
W熊野「そうなりますわよね」
W大佐「曽大佐は焦っているんだ。このまま世界が深海棲艦を迎合してしまったら、自分の理想は遂げられないからな」
W大佐「ここから先は俺の想像だが……そうなると、次に矛先が向くのはあの島だろうと思っている」
三隈「まさか……提督を狙うつもりですか!?」
W大佐「提督と深海棲艦のどちらが先か、というのはあるが、曽大佐に狙われるのは間違いないだろう」
W大佐「彼は深海棲艦を滅ぼすべき敵だと認識している。それを受け入れて保護している提督も、曽大佐が放っておくとは思えない」
W大佐「曽大佐が動けていないのは、おそらく、彼に賛同する将官や、協力して艦隊を出そうとする提督が集まっていないからだろう」
W伊勢「戦争を終わらせるための大事な拠点になるかもしれないってのに、それを台無しにできる度胸があるか、って話だもんね」
W球磨「一歩間違えば全面戦争クマ。慎重にならないほうがおかしいクマ」
W伊勢「それにあの島、注目されたせいで、今頃になっていろんな物騒な逸話が出てきてて、みんな及び腰になってるんだよねー」
W鈴谷「物騒な逸話? なになに? 何があったの?」
918: 2023/05/14(日) 13:15:16.86 ID:HHe/6brVo
W伊勢「うーん、例えば、あの島は海流の影響で、行ったらなかなか戻ってこれない場所だったんだって。かつては流刑地同然だったとか?」
三隈「ああ……」
最上「流刑地かあ。ある意味、僕たちもそんな感じだったよね?」
三隈「最上さん!?」
W熊野「……そ、そういう自覚がおありだったんですの?」ドンビキ
最上「まあね。僕たち、当時の提督に歯向かっちゃったから」
最上「日常的にセクハラされてたってみんなに証言してもらってなかったら、解体処分だったと思うよ?」
三隈「……」
W鈴谷「うえー、セクハラされて反撃したから島流しになったの? 仕方ないかもしんないけど、なーんかヤだ~」
W伊勢「あと、幽霊が出るって話もなかったっけ?」
最上「そうなの? それは僕たちは聞いたことないかも」
三隈「でも、轟沈した艦娘が流れ着く島だったんですもの。少なくとも、あの丘の上に並んだ艤装の数だけ、轟沈艦がいたわけですし」
三隈「幽霊くらいいてもおかしいとは思えませんわ」
W球磨「……深海棲艦が住むことになっても不思議じゃない島な気がするクマ」
919: 2023/05/14(日) 13:16:01.60 ID:HHe/6brVo
最上「住んではいなかったけど、僕が来た時には戦艦ル級が普通に遊びに来てたよ?」
W伊勢「は?」
W熊野「マジですの?」
W鈴谷「あはは、熊野が『マジ』だって! ウケるー!」
W球磨「そこ笑うところクマ!?」
W熊野「鈴谷!? 私がマジとか言ったらおかしいとでも言うんですの!?」
W球磨「今その話はしてないクマ。話が逸れるから静かにするクマ」
W熊野「厳しくありませんこと!?」
W伊勢「ちょっと待って。ル級?」
最上「うん、深海棲艦の戦艦ル級。割と昔から、あのル級とは交流があったみたいだよ」
三隈「あくまで提督との個人的な付き合い、ということらしいですわ」
最上「大佐が連れてきた泊地棲姫を追い返すときも協力してくれたから、仲は良いんだろうね」
W球磨「どうやって仲良くなったんだクマ……」
W鈴谷「きっかけはとにかく、仲良くなれたのをわざわざぶち壊そうとしなくてもいいと思うんだけどー」
三隈「それだけ、曽大佐の深海棲艦への恨みは深いということなんでしょうね……」
920: 2023/05/14(日) 13:16:46.80 ID:HHe/6brVo
W鈴谷「あそこの鎮守府の艦娘、あたし苦手なんだよねー。みーんな曽大佐に感化されてて、すっごいピリピリしまくっててさぁ」
W球磨「わかるクマ。全然余裕がなさそうで息苦しい鎮守府クマ」ウンウン
W伊勢「とにかくそういうわけだから、最上と三隈はしばらくあの島には戻らないほうが良さそうだ、って伝えたかったの」
三隈「……とりあえず、わかりました」
最上「あーあ、提督も大変だね。曽大佐がどんな恨みを持ってるのかしらないけど、提督にしてみればとばっちりだよ」
W熊野「とばっちり……」
最上「そうじゃないのかな? あの島に集まった深海棲艦のうちの誰かが曽大佐に何かしたって言うんならわかるけど、そうじゃないんでしょ?」
最上「例えば、ある国の人に家族や友達を殺されたからって、その国に住む人間は全員悪だ、なんて理屈は横暴だと思わない?」
最上「その人が嫌いになるのはしょうがないと思うけど、それで皆頃しにするほどかな? 提督にしてみたら絶対にとばっちりだよね?」
三隈「とばっちりかもしれませんけど、どちらにしても、あの提督にはきっと関係ないでしょうね」
W大佐「……最上たちに訊きたいんだが、島に住む深海棲艦が提督に、ある場所を攻撃してほしい、と頼んだらそれは聞き入れると思うか?」
最上「そこは深海棲艦のお願いの内容によるんじゃないかな?」
最上「お願いを聞くにしても、提督は島にいる艦娘や深海棲艦が巻き込まれないようにするだろうし、無理なお願いなら突っぱねると思うなあ」
三隈「かつての島の、ゆるりとした生活を取り戻したいとは思っているでしょうけど……そのために他の国や拠点を攻撃するとは思えません」
三隈「そもそも厭世的な方でしたから、他国を攻めたりして目をつけられることのほうが嫌だと思うのではないでしょうか」
921: 2023/05/14(日) 13:17:32.01 ID:HHe/6brVo
最上「そうだね。島の住人が増えたとしても、提督自身は人の世界に関わろうとはしないんじゃないかな?」
三隈「その島の住人が、提督に黙って勝手にどこかへ攻め込むことはあるかもしれませんね」
最上「……そうなったら、提督はどうするかなあ」ウーン
W大佐「なるほど。提督が、自分の意志で外へ攻め込む可能性は低いとみていいのか?」
最上「だと思うけど、そこまで突っ込んだ話だと、僕たちに訊くより比叡さんのほうが詳しいんじゃないかな?」
最上「僕たちよりずっと前から鎮守府にいたって言うし」
W大佐「ふむ……後で聞いてみるか」
W伊勢「ちなみにその比叡は?」
W熊野「榛名さんと一緒に工廠の方に行っているはずですわ」
W鈴谷「めっちゃテンション高かったよねー。あんなに笑ってる榛名さんは初めて見たよ?」
W熊野「せっかくですわ、あの比叡さんもこちらに移籍していただいたほうがよろしいんじゃありませんこと?」
W球磨「球磨もそれがいいと思うけど、あの比叡は轟沈を経験してるクマ。そのあたり、大丈夫なのかクマ?」
W鈴谷「うあー、そっかー。そのへんダイジョブになんないと、確かにいろいろ怖いよねー」
922: 2023/05/14(日) 13:18:16.88 ID:HHe/6brVo
W熊野「……うーん、仮に比叡さんが深海棲艦になったとしても、話が通じれば良いのではなくて?」
W球磨「ちょっと何を言ってるかわからないクマ」
W熊野「艦娘が深海棲艦になったとしても、人を襲わないのなら問題視しなくても良い、と思ったのだけれど……そうではないのかしら」
W熊野「話が通じなくて、かつ、分別なく人を襲うからこそ危険なのは、なにも深海棲艦に限った話ではなくてよ?」
W伊勢「あぁ……まあ、そうなるかな?」
W球磨「熊野の言わんとしてるところはわからなくないクマ。でも、艦娘が深海棲艦になるって状況自体、相当のことだと思うクマ」
W球磨「球磨は、艦娘が正気を保てなくなったから深海棲艦になると思ってるクマ」
W球磨「轟沈自体が艦娘にとって絶望的なものなんだから、深海棲艦になった時点でまともじゃなくなってると思ってるクマ」
W熊野「でも、あの島には話の通じる、まともな深海棲艦がいたんでしょう? 深海棲艦がまともじゃない、という理屈は通じませんわ」
W球磨「そう言われればそうなるクマ……」ウーン
三隈「いずれにせよ、艦娘が深海棲艦になった記録もあの島にはありませんし……」
最上「あの島にいて誰も深海棲艦にならなかったんだから、あの話自体がでたらめなのかもね?」
全員「「……」」
W大佐「いずれにしろ、安易に引き取るというわけにはいかないだろう。向こうの都合もあるだろうしな」
W鈴谷「手続きもいろいろ面倒臭いもんねー」
923: 2023/05/14(日) 13:19:01.82 ID:HHe/6brVo
*
W大佐「最上たちの話を聞く限り、提督が島から外へ出てどこかへ攻め込むということはなさそうだな?」
W伊勢「そうみたいですね。船であちらの提督の話を聞いたときの話と、だいたい符合してますし」
W大佐「Xが作った共存への道を曽大佐が潰すのは避けたいが、深海棲艦の跋扈を許したくない曽大佐の気持ちもわかる」
W大佐「できればうまく潰しあって痛み分けになってくれればいいんだが……」
W伊勢「W提督は、あの島に深海棲艦がいないほうがいいとお考えでしたよね?」
W大佐「ああ。そうでなければ、あの島に深海棲艦がいたとしても、海軍が支配した状態になっているのが望ましい」
W大佐「あの提督がいる限り、それも難しそうだがな」
W伊勢「海軍に協力してくれなさそうだ、って意味で?」
W大佐「……ああ。二度も海軍の人間に殺されそうになったんだ。俺たち海軍は……いや、人間は恨まれていると思ったほうがいいだろう」
W大佐「Xのように協力的な姿勢を見せる人間がいなければ、彼が人間を滅ぼそうと考えてもおかしくないように思えるしな」
W大佐「そもそも、妖精と話ができる人材をあんな離島に追いやったことを、なぜ上は誰も疑問視しなかったのか……」
W伊勢「そこはもう、手遅れだったとしか思えないけどなあ。W提督も聞いてるでしょ? あの島の提督、もとから相当な人間嫌いだって」
924: 2023/05/14(日) 13:19:48.15 ID:HHe/6brVo
W伊勢「艦娘を唆して人間を裏切るんじゃないかってことを懸念して、中将閣下とその息子である大佐に押し付けたって、誰かも言ってたし」
W大佐「だったら、海軍が信頼できる組織だということを、彼に示せば良かったんだ」
W大佐「妖精から不祥事を聞かれたくないというのなら、普段からそういう行動をしていればいいだけのこと……」
W大佐「裏切る要素があるからと、保身のため、責任逃れのためにたらい回しにしたのでは、不信感を持たれて当然だ……!」
W大佐「もっとも……あのとき、J少将の目論見を見抜けなかった俺が言っても、説得力がないのかもしれないがな」ハァ…
W伊勢「……」
W大佐「いずれにしろ、いまは提督の言い分を聞くしかないだろう」
W大佐「不本意だが、リンガ泊地の城塞鎮守府も、あの提督のおかげで落ち着きを取り戻したとO大尉から報告を受けた」
W大佐「彼が海軍のために動いてくれたのであれば、我々も応えるのが礼儀、と言うものだ」
W伊勢「……曽大佐はやりづらいでしょうね」
W大佐「だろうな。曽大佐は、あの島を攻撃する口実を作ろうとしているようだが……いま動くのは下策と言わざるを得ん」
925: 2023/05/14(日) 13:20:31.73 ID:HHe/6brVo
* 一方 *
* 曽大佐鎮守府 *
曽大佐「なぜだ!? あれほど深海棲艦の撃滅に協力的だった仲間が、あいつらの撃滅を躊躇するんだ!!」
通信『し、仕方ありませんよ大佐! もしかしたら、この戦争を終わらせることができるかもしれないんですよ!?』
曽大佐「なにが終戦だ! 人に仇なす存在でしかない深海棲艦がいる限り、戦いが終わるわけがないだろう!」
曽大佐「これまでさんざん戦ってきた深海棲艦がどういうものか、お前は忘れたのか!?」
曽大佐「あいつらと人間が共生できるわけがない!? 寝言は寝て言えと言うんだ!」
通信『し、しかし、共生は無理でも、住み分けが……』
曽大佐「あいつらのために譲っていい場所などあるものか!! 奴らは侵略者だぞ!? 甘い顔を見せつけあがらせる気か!」
曽大佐「海の平和を乱すものを徹底的に叩いて排斥し、海に秩序をもたらすのが俺たちの使命じゃないのか!!」
通信『で、ですが、その秩序を作るために話し合いを……』
曽大佐「あいつらに我々の望む秩序を守れると思っているのか!? 人ですらないんだぞ!」
926: 2023/05/14(日) 13:21:16.48 ID:HHe/6brVo
曽大佐「駆逐艦を見ろ! あれを人と呼べるのか!? 戦艦棲姫を思い出せ! 誰もが化け物だと言わなかったか!!」
曽大佐「人間は、深海棲艦に恐怖したんじゃなかったのか!! 陸の人間はもう忘れたのか!! 俺たちはまだ戦争中なんだぞ!!」
通信『……』
曽大佐「情けないことに、我々人間が奴らに直接対抗する術はない。未だに艦娘頼みだ……!」
曽大佐「その状況で深海棲艦と和睦だと!? 思い上がりも甚だしい!! 身の程を知れと言うんだ!!」
通信『お、落ち着いてください大佐……!』
曽大佐「落ち着いていられるか……! 深海棲艦が領土を持つことの重要性と危険性を、本営は何も理解していない!」
曽大佐「最悪、我々だけであの島から深海棲艦を追い出す算段を考えねばならん……!」
曽大佐「だからこそ戦力を募っているというのに、終戦などという世迷言に惑わされる愚物ばかり……お前はどうなんだ」
通信『っ……じ、自分は、まだ……』
曽大佐「そうか。俺はまもなくあの島への攻撃を予定している。準備しておけ」
通信『……い、急ぎ、準備、いたします……!』
プツッ
曽大佐「そこで『はい』と言えんのか……!? 腰抜けばかりか、この国は……!!」ギリッ
927: 2023/05/14(日) 13:22:02.12 ID:HHe/6brVo
* 翌日 *
* 墓場島 埠頭 *
提督「はぁ……こんなに早く人間を上陸させることになるとはな。ま、与少将がうまく抑止力になってくれりゃいいんだが」
ヲ級「!」
提督「ん? お前、あの打ち合わせに出てたヲ級か? お前が時雨を見つけてくれたんだったな?」
ヲ級「提督ヒトリカ……コンナトコロデ、ナニヲシテイル」
提督「散歩だよ。新しい鎮守府がどういう感じか、見て回ってる」
ヲ級「艦娘ハドウシタ」
提督「人間が島に来てるんで、護衛を押し付けてきた。俺もたまにゃあひとりで適当にぶらぶらしたいときがあるんでな」
ヲ級「……」
イ級「」ザバー
ロ級「」ザババー
提督「おー……作った水路、いい感じに機能してるみたいだな」
ヲ級「……」コク
928: 2023/05/14(日) 13:22:47.44 ID:HHe/6brVo
提督「深海の駆逐艦って、改めて見るとでけえな。イルカよりでかいか? イルカの実物、見たことねえけど」
ヲ級「イ、ルカ……? アア、アイツラヨリハ大キイナ」
提督「けど、分類としては駆逐艦なんだよな。こうやって見ると、お前やル級より装甲硬そうに見えるんだが」
ヲ級「イイヤ、ソウデモナイ。ソレニ、私タチヨリ身体ガ大キイブン、被弾モ多イ」
提督「ああ、なるほど……確かに、そこはでかけりゃいいって話じゃねえか」
提督「それにしても……なあ、知ってたらでいいから教えてほしいんだが、いいか?」
ヲ級「ナンダ?」
提督「深海の駆逐艦が人型じゃないのはどうしてなんだ?」
ヲ級「……」
提督「軽巡は顔が隠れてるが人の体や腕を持ってるし、潜水艦も人の顔を持ってるけど、駆逐艦は人らしい要素がないんだよな」
提督「逆に艦娘はどんな艦であっても人型だ。この違いは一体何だろうな、と思ってな」
ヲ級「……ソレハ、考エタコトモ、ナカッタ……」
提督「そうか。まあ、生活に不自由しなきゃいいなと思ってるだけだから、あまり深く考えなくていいぞ」
ヲ級「……生活?」
提督「ああ。俺や艦娘、それからメディウムたちも一応は人の姿を取ってるから、人間と同じような生活をしてるんだが」
提督「お前たちは海中で過ごすんだろ? 寝るときに布団に入ったりしないだろうし、風呂の習慣もないよな?」
929: 2023/05/14(日) 13:23:47.53 ID:HHe/6brVo
提督「食事だって、まさかテーブル囲んで食べてるとは思えねえ。お前もそうだが、あの駆逐艦たちは普段は何を食ってんだ?」
ヲ級「食事? ……燃料補給ノコトカ。ソレナラ海底ノ重油ダナ」
提督「油か。まさか、自分で堀りに行ったりしてるのか?」
ヲ級「場所ガワカッテイルカラ、ソコマデ行クトキモアルシ、オマエタチガ鬼級ヤ姫級ト呼ブ艦ニ用意シテモラウトキモアル」
ヲ級「泊地棲姫ノトコロニイタトキハ、駆逐艦ガ集メタ燃料ヲ分ケテモラッテイタ」
提督「その時も燃料なのか。魚とかは食べないのか?」
ヲ級「タマニ魚モ食ベルガ、エネルギーヘノ変換効率ハ良クナイト思ッテイル」
ヲ級「ソレニ私ハ、アマリ生魚ヲ美味シイト思ワナイカラ、イツモ燃料ヲ貰ッテイル」
提督「そうか。じゃあ、補給用の設備が整ってれば、いまのところは安泰と思っていいか」
提督「ん? となると、俺たちと同じ飯を食うル級は変わり者ってことになるのか?」
ヲ級「イヤ……タブン、私タチニハ調理トイウ概念ソノモノガ、抜ケ落チテイタンダト思ウ」
ヲ級「深海ニイタトキニ、アタタカイ食ベ物ヲ摂ルコトハ、ナカッタ。ソレガ普通ダッタカラ、ナ」
提督「なるほど。駆逐艦の見た目も食い物も、指摘されるまで疑いすらしなかった、ってことか」
ヲ級「私タチノ名前モソウダ。私タチニハ、名前トイウ概念ガ、ナカッタ。名前ヲツケル自由ガアルコト自体、考エニ至ラナカッタ……」
ヲ級「ダカラ、人間タチガツケタ名前ヲ、私タチモ使ウヨウニシタ。私タチガ、イッタイ何者ナノカ、考エラレナカッタカラ……」フラッ
提督「お、おい、大丈夫か!?」
ヲ級「……少シ、記憶ガ、混乱シテイル」
930: 2023/05/14(日) 13:24:31.93 ID:HHe/6brVo
ヲ級「オマエト、話シテイルト、イロイロナコトヲ……忘レテイタコトヲ、思イ出スヨウデ……」
ヲ級「……私ハ……ワタシ、ハ……」
提督「おい!? しっかりしろ!」
ヲ級「……ッ!?」
提督「大丈夫か……? 何かしら思い出すのはいいのかもしれねえが、ふらふらしてたぞ?」
ヲ級「……大丈夫ダ。私ガ何者ナノカ、思イ出セソウナ、感ジガシタダケダ」
提督「……」
ヲ級「艦娘ニハ、艦名ガアル。ダガ、私タチニハ、ナイ」
ヲ級「タブン、私タチガ、自分自身ヲ何者ナノカガ、ワカラナイカラダト思ウ」
ヲ級「私タチ……『ヲ級』ト呼バレル個体ノ姿ガ似テイルノモ、艦娘ノヨウニ、本来ノ自ラノ艦名ヲ、思イ出セナイカラダト、思ウ」
提督「そうなのか……?」
ヲ級「……ナントナク、ソウ思ッタダケダ。当タッテイルカドウカハ、ワカラナイ」
ヲ級「私ガ推測シテ、納得デキソウナ答エヲ考エタ結果、ソウイウ結論ニ至ッタダケダ」
提督「そうか。どっちにしても、無理はすんなよ」
ヲ級「……?」
提督「なんでそこで不思議そうなするんだよ。お前が何かを思い出そうとしてたとき、倒れそうだったじゃねえか」
931: 2023/05/14(日) 13:25:17.10 ID:HHe/6brVo
提督「体を壊したら元も子もねえ。少し休んでからでもいいだろ、って思っただけだ」
提督「忘れてる、ってことは、もしかしたら思い出したくないことかもしれないからな。やばいと思ったら無理すんな」
ヲ級「……ソウカ」
提督「さてと、俺はもう少し館内を見回ってくる。お前はまた哨戒に行くのか?」
ヲ級「……」コク
提督「んじゃ、気を付けて行けよ。何かあったらすぐ連絡しろよ」
ヲ級「待テ」
提督「なんだ?」
ヲ級「ナゼ私ガ、時雨ヲ見ツケタ個体ダトワカッタ?」
提督「ん? 普通に顔を見てわかったんだが」
ヲ級「……ソウカ」
提督「おう。んじゃな」
スタスタ…
ヲ級「……」
ヲ級「ナルホド。アノ、ル級ガ、ヨク笑ウワケダ」
932: 2023/05/14(日) 13:26:01.68 ID:HHe/6brVo
イ級「」ザバー
ロ級「」ザババー
ヲ級「……!」
イ級「ホキュウオワリ」
ロ級「ミマワリデカケル」
ヲ級「……ソウダナ」
ロ級「?」
イ級「ナニカアッタッポイ?」
ヲ級「……イヤ。今日ハ、アタタカイナ」
イ級「タシカニ、イイオテンキ」
ロ級「オデカケビヨリ」
ヲ級「……サア、行クゾ」ザァッ
イ級「リョウカイ」ザバー
ロ級「ナノデス」ザババー
933: 2023/05/14(日) 13:28:32.14 ID:HHe/6brVo
* その少し後 *
* 埠頭そばの休憩スペース *
(屋外にいくつか並んだ丸いテーブルの一つに、泊地棲姫とル級が向かい合って座っている)
泊地棲姫「自分ノ名前?」
ル級「海域ノ哨戒ヲ任セテイタ、ヲ級ガソウ呟イテイタノヨ」
ル級「私ハ一体、何ダッタノカ、ッテ」
泊地棲姫「……オ前ハ、考エタコトハ、ナイノカ?」
ル級「……ウッスラト、ソレジャナイカ、トハ思ッテイルケレド、アマリ深ク考エナイヨウニシテルワ」
泊地棲姫「考エナイヨウニ、シテル? ドウシテダ?」
ル級「イロイロ思イ出セバ、私ガ変ワッテシマイソウダカラ。今ノママガ、一番良イ気ガスルノヨネ」
泊地棲姫「……アノ男トノ関係ヲ、変エタクナイカラ、カ?」
ル級「……マア、ソウイウコト、ネ」
泊地棲姫「フフ……可愛イコトヲ言ウヨウニナッタナ。オ前モソノウチ、変異スルンジャナイカ」
ル級「……ナニソレ」
泊地棲姫「私ノコレマデノ見立テデハ、人ノ愛憎ヲ多ク知ル者ガ、強大ナ深海棲艦ニナルト考エテイル」
泊地棲姫「強イ感情ガ、強イ意志ヲ生ミ、強イチカラヲ作ル。憎悪ヤ未練ガ残ッテイルホド、ソレガ私タチノチカラトシテ顕現スル」
934: 2023/05/14(日) 13:29:18.72 ID:HHe/6brVo
泊地棲姫「生マレタテノ深海棲艦ガ、最初ニ破壊衝動ヲ抱クノモ、同ジ理由ダト思ッテイル」
ル級「憎悪ヤ未練ガアッタカラ、無意識ニ人間ヲ襲ッテイタ……ッテコト?」
泊地棲姫「私ハ、ソウ考エタ。オ前モ、提督ガ氏ニカケタトキ、突然パワーアップシタダロウ? ダカラ、ソウ考エタンダガ」
泊地棲姫「考エレバ考エルホド、感情ヲ知レバ知ルホド、私タチハ深化シ、知恵ヲ得テ、ソレガチカラト成ル……オ前モソウジャナイノカ?」
ル級「……」
泊地棲姫「イマノ話カラスルト、ソノヲ級ノ身ニモ、ソノウチ何カ起コリソウダナ」スクッ
ル級「……? ドコヘイ行クノヨ」
泊地棲姫「ドコニモ行カナイゾ。コーヒーヲ淹レルダケダ」
ル級「コーヒー?」
タタタタッ
ロゼッタ「やっほー! 美味しいコーヒーがあるって聞いてきたんだけど!」
ル級「!?」
タチアナ「不躾に申し訳ありません。ロゼッタ、はやる気持ちはわかりますが……」
タ級「姫ー! コーヒー、アルンダッテ? 早ク出シテクレ!」シュバッ!
タチアナ「……」
935: 2023/05/14(日) 13:30:16.76 ID:HHe/6brVo
ル級「ドウイウコトダ?」
泊地棲姫「オ前ハ聞イテナイノカ? 提督ガ、知リ合イノ艦娘カラ、コーヒーヲ貰ッタンダ。ソレヲ分ケテ貰ッタ」
泊地棲姫「良イ豆ダッタカラ、飲ミタイ者ヲ誘ッテイタンダガ……」
タチアナ「私どもは、こちらのタ級さんたちがコーヒーの話をしていた時に丁度居合わせまして」
タ級「賑ヤカナホウガイイダロウ? 他ニモ誘ッテルゾ」
ヲ級「……誘ワレタ」(←哨戒中のヲ級とは別個体)
ツ級「同ジク」
ヘ級「同ジクー」(←ツ級に背負われている)
泊地棲姫「ヨシ。デハ少シ待ッテイロ」
ロゼッタ「えへへー、楽しみ!」
ヲ級「哨戒中ノアイツハ誘ワナカッタノカ?」
タ級「アイツ、真面目ダカラ、仕事ガ終ワッテカラ、ッテ言ッテタゾ」
ル級「……」
936: 2023/05/14(日) 13:31:03.28 ID:HHe/6brVo
*
タ級「コレ、ウマイナ!」キラキラッ
ロゼッタ「おーいしーー!」キラキラッ
タチアナ「良い香りですね……!」ウットリ
ヲ級「……」キラキラッ
泊地棲姫「フフ、ソウダロウ?」ドヤッ
ツ級「……」チュー
ヘ級「……」チュー
タチアナ「あちらのお二人はストローで飲んでいるのですが……」
タ級「マスクガ邪魔ダカラナ」
ツ級「!」キラキラッ
ヘ級「!」キラキラッ
泊地棲姫「好評ダナ」ドヤァァ
937: 2023/05/14(日) 13:32:01.70 ID:HHe/6brVo
ル級「コレハ、アメリカンテイスト、トイウヤツカ」
泊地棲姫「私ハ軽イ方ガ好キダカラナ。アノ男ハ、濃イ目ノエスプレッソノホウガ好ミダソウダガ」
タチアナ「お茶でも渋いほうが好きだと仰っていましたね」
泊地棲姫「ル級ハドウナンダ? 濃イ味ノホウガイイノカ?」
ル級「濃サハ、アマリ、気ニシナイガ……ナントイウカ……」
泊地棲姫「?」
ル級「……懐カシイ、香リダナ……」
タ級「ル級ハ、コーヒーヲ飲ンダコトガアルノカ」
ル級「イヤ、紅茶ヲ勧メラレタコトハアルガ、コーヒーハ初メテダ。ナノニ、懐カシイ、ト……」
ヲ級「確カニ……言ワレテミレバ」
タ級「……?」
泊地棲姫「カツテ艦ダッタコロノ記憶ガ、ソウ思ワセテイルンダロウナ」
タ級「私ガ、コーヒーガオイシイト思ウノモ、昔ソウダッタカラダッテ言ウノカ……?」
泊地棲姫「カモシレナイ、ナ」
タ級「……フーン」
ル級「……」ズズッ
938: 2023/05/14(日) 13:33:02.31 ID:HHe/6brVo
ロゼッタ「あ、お菓子食べる?」
ヲ級「……イタダク」
タ級「太ルゾ?」
ヲ級「私ハ大丈夫」パク
ヘ級「……」チュー
ツ級「……」ズゾゾゾ…
泊地棲姫「……フフ。平和ナモノダ」
ル級「……」
タチアナ「どうしました?」
ル級「……泊地棲姫モ、変ワッタナ」
タチアナ「現状に満足しているというのであれば、良い傾向だと思います」
ル級「……提督モ、ソウダ。今ノトコロハ、良イホウニ変ワッタト思ウ」
ル級「メディウムノ奴ラニ、身体ヲイロイロ弄ラレテイルノハ、気ニ入ラナイガ」ジロリ
タチアナ「……」
ル級「誰モカレモ、提督ニ多クヲ求メスギナノヨ。提督デアリ、魔神デアリ、イマヤコノ島ノ最高責任者」
ル級「アノ男ガ壊レルヨウナコトガアレバ、私ハ……!」
タチアナ「……」
泊地棲姫「メディウムガ、アノ男ヲ崇拝シテイルノハ、理解シテイル」
泊地棲姫「ダガ、ダカラト言ッテ、オ前タチノ好ミニ作リ変エラレルノハ、艦娘モソウダロウガ、我々モ黙ッテハイナイゾ……?」
泊地棲姫「アノ小娘ニ伝エテオケ。アレハ、オ前タチノモノデハナイ、トナ」ニヤリ
タチアナ「……ええ、承知しました。確かに、伝えておきましょう」ニヤッ
942: 2023/06/04(日) 22:31:31.49 ID:MAX3x8VTo
* 昼過ぎ *
* 鎮守府本館から埠頭への通路 *
キャロライン「ふええ……ダーリン、ごめんネー……」グスグス
提督「別にお前が悪いわけじゃねえだろ。それとこれとは話が別だし、そもそもありゃあ事故だ」ナデナデ
如月「あら? 司令官、こんなところに……どうしたの? メディウムの子を泣かせるなんて」
提督「ん、如月か。なんつうか、キャロラインがニコたちの会話を聞いたらしいんだけどよ……」
提督「深海棲艦の連中が俺の心配をしてるらしくて、メディウムにクレームいれたんだと」
如月「クレーム?」
提督「ああ。俺をこれ以上、作り変えるな、ってよ」
如月「……」
提督「俺が一番最初に魔力槽に入ったときに、俺の体が溶けて消えて、一から作り直されたって話は覚えてるよな?」
如月「え、ええ……」
提督「その時に一緒にいたのがキャロラインだったんだが、その出来事が結構ショックだったらしくてな」
キャロライン「ダーリンが消えちゃったトキは、本当にビックリしたノー……」グスグス
提督「それが忘れられなくて、また同じことが起こったらどうしよう、ってことで、俺のところに相談しに来たんだ」
キャロライン「ダーリンが、まだホントの魔神のチカラに目覚めてない、って、ニコちゃん言ってたノ」
943: 2023/06/04(日) 22:32:16.08 ID:MAX3x8VTo
キャロライン「ワタシ、ダーリンが強くなったり、ワタシたちと仲良くなるのは嬉しいケド……」
キャロライン「今の優しいダーリンが消えちゃうのもイヤなノ……!」グスッ
如月「……そういうことだったのね」
提督「まあ、人間じゃなくなるのは俺としては嬉しい話だったんだが……」
提督「この島を守るためには、少し人間の部分が残ってねえと、ちょっと都合が悪いかも……って考えてる」
如月「それって、外交的な意味で?」
提督「ああ。どうせ人間どもは自分たちとは違う連中に『権利』を持たせる気がねえはずだ」
提督「人に近しい艦娘に人権を持たせてねえのが、その証左だ。だから、この島の支配を『権利』として主張するためには……」
提督「俺に人間である要素がちょっとでも残ってねえと、連中との話し合いに不利になりそうな気がしてんだよな」
如月「うーん……」
提督「まあ、なるようにしかならねえけどな、こういうもんは。結局は、自分に都合のいい屁理屈の押し付け合いだ」
提督「そこで折り合いがつかないから戦争が起こる。自分の言うことを聞かせたくて、屈服させるために、武器を振りかざして命を脅かす」
提督「そもそも、人間どもが俺たちにそういう譲歩をするつもりがあるか、ってのも疑わしいが……」
提督「そういうのが面倒臭いから、引き籠るっつってんのによぉ……本っ当に面倒臭え」
キャロライン「ダーリン……?」
944: 2023/06/04(日) 22:33:00.79 ID:MAX3x8VTo
提督「まあ、話が脱線したが、俺も俺が俺以外の誰かの意志で変えられちまうのは御免だ」
提督「できればこのまま、いまのままで過ごせりゃあいいんだけどな」
キャロライン「? なら、そうすればいいんじゃないノ?」
提督「そのつもりだけどよ。どうしても長く生きると、考え方とかが知らないうちに偏っちまう」
提督「これからメディウムや深海棲艦と一緒に過ごすわけだが、俺の考え方がいつの間にかそいつらに染まったりするかもしれないし」
提督「俺がジジイになったら、いろいろボケて馬鹿なこと言い出すかもしれねえし……そういう人間もたくさん見てきたからなあ」ウーン
如月「そういうことなら大丈夫よ、きっと。私たちが、お傍にいますから、ね?」
キャロライン「ワタシモ、ダーリンとずっと一緒にいるヨ!」ダキツキー
提督「……まあ、そうだな。キャロラインも俺のことが心配で話しに来てくれたんだろうし」
提督「如月も、俺が変なら何かしら言ってくれるだろうしな。そこは頼りにさせてもらうぜ」ナデ
如月「うふふっ、任せてちょうだい」ニコニコ
キャロライン「ダーリン、優しくてダイスキー!」スリスリ
キャロライン「ニコちゃんが言ってた魔神って、ワタシたちが失敗したら消しちゃうかも、って言ってたカラ、ちょっと怖かったノ!」
提督「……」
如月「なんだか、他人事とは思えないわね……」
提督「気を抜かないように、って考えてのブラフなのかもしれねえが……もしかしたら、どこの組織も、似たようなもんなのかねえ」
如月「ニコちゃんもああ見えて責任感っていうか使命感が強いし、誰にも容赦しないタイプなのかもしれないわね?」
提督「そうだなあ……適度に肩の力が抜けるようにしてやるか」
945: 2023/06/04(日) 22:33:46.43 ID:MAX3x8VTo
* 午後 *
* 医療船内 大会議室 *
与少将「まさか本当に深海棲艦と話ができるとはのう……」
仁金剛「緊張しましたケド、意外とフレンドリーでしたネー」
X大佐「今日はお土産のコーヒーがあったおかげかな? 前回よりいくらかフランクに話せましたね」
提督「ガンビアベイには礼を言っとかねえとな。それにしても、仁提督はビビりすぎだろ」
仁提督「仕方ないだろう! 俺は昔、あいつらに砲撃されてるんだからな!?」
仁提督「個人的な恨みがないわけでもないし……艦娘を使って間接的に恨みをぶつけてきた自覚もある」
提督「だったら島に行かなきゃ良かったじゃねえか」
仁提督「そんな真似ができるか! 少将だけ行かせて何かあったらどうする!」
提督「ぶっちゃけ護衛のために金剛だけ行かせても良かったろ。一番後ろで青い顔してたくせに」
仁提督「ほっとけ!」
与少将「そがいにからかってやるな。聞けば、あの島に漂着した艦娘の艤装も、みな焼失したんじゃろう?」
与少将「仁提督からは、演習と、沈んだ艦娘に手を合わせるために島へ行くと、何度か報告を受けちょったからのう」
提督「……ふーん」
946: 2023/06/04(日) 22:34:32.27 ID:MAX3x8VTo
仁提督「まあ……自分が雪風たちを連れてこの島へ来るための口実に使ったところもあったが……」
仁提督「事情はともかく戦って沈んだことに変わりはない。最後に手を合わせておきたいと思うくらいはいいだろう?」
仁提督「俺がこの島に来る機会も、もうないと思っているからな」
仁金剛「ン-? そこは黒潮次第ではありまセンカ?」
仁提督「……」
仁金剛「ヘーイ、テイトクー? まーだ魔神提督に苦手意識持ってマスカー?」ズイ
提督「別に苦手でいいぞ? 俺自身、人間と関わる機会は減らしてもらったほうがいいと思ってる」
提督「普通の人間なら深海棲艦を恐れるだろうし、深海棲艦に生活圏を脅かされたなら憎いと思うのも当然だ」
提督「うちに来た深海棲艦にも、人間と関わりたくない、艦娘に攻撃されたくない、って奴がいるからな」
提督「そういう時ゃあ、お互い無理にお近づきになる必要はねえ。距離取って関わらないようにすりゃいいんだよ、こういうのは」
与少将「まさしく大人の対応じゃな……」
提督「普通だろ? 犬嫌いに犬を押し付けても、ろくなことにならねえのと一緒だ」
仁提督「確かにな。下手をすると、犬が怪我させられかねん」ウンウン
仁金剛「なんだか実感こもってますネー……」
947: 2023/06/04(日) 22:35:17.45 ID:MAX3x8VTo
与少将「魔王と言うからもっと好戦的かと思っちょったが、思いのほか話せる男じゃな……」
仁金剛「イエース。ついでに少将ー? 魔王じゃなくて魔神デス、マジン提督デース」
与少将「んむ……ま、まあとりあえずじゃ、わしはこれから神戸に向かう。L少佐がどんな鉄火場を迎えちょるんか、見とかんとな」スマホトリダシ
与少将「それから部下にも事の次第を伝えにゃあならんし……時間だけ決めとくかのう」シャシャシャッ
提督「電話機でできるのか?」
仁提督「電話機……お前はスマホを知らんのか」
提督「ほぼ触ったことねえな」
X大佐「提督にもスマホを持ってもらったほうがいいかな?」
与少将「いや、まお……魔神提督が個人のスマホを持つのはもう少し先でいいと思うがのう?」
仁提督「便利だと思いますが……」
与少将「うんにゃ、この大事な時期に、魔神提督がスマホの説明書とにらめっこしちょる暇はないじゃろ」
与少将「使えるようになったらなったで、スマホいじりに夢中になってもらっても困るけえ」
948: 2023/06/04(日) 22:36:01.07 ID:MAX3x8VTo
与少将「それに万が一、海軍内で魔神提督の連絡先が流出でもしたら、そこに電話が殺到するはずじゃ」
X大佐「……なるほど。L少佐の事務所と同じことになる、と」
与少将「じゃけえ、スマホでもガラケーでもピッチでも、持たせるにはもちっと余裕ができてからのほうが良えと思っちょる」
与少将「大淀あたりに持たせるんならええかもしれんが、それよか今は海軍の中に正式な窓口を設けたほうが良えじゃろ」
与少将「X大佐たちにとっても、魔神提督に接触を図りたい者が誰なのか、把握も管理もしやすくなるけえの」
X大佐「それが良いですね、承知しました。そのように取り計らいましょう」
与少将「魔神提督も、ひとまずそれで良いな?」
提督「ああ、その方が助かる」
仁提督「むしろ当分持たないほうがいいだろうな……」
仁提督「お前の場合、ただでさえ対応が面倒だと言いそうだし、電話口でどんな暴言をひり出すかわからん」ハァ…
提督「おう。よくわかってんじゃねえか」ニタァ
仁金剛「相変わらず悪い笑顔デース……」ヒキッ
与少将「……ほんに大丈夫なんじゃろな、この男」ヒキッ
X大佐「え、ええ、まあ、大丈夫ですよ。多分……」タラリ
949: 2023/06/04(日) 22:36:46.20 ID:MAX3x8VTo
* 本営 中将の執務室 *
H大将「結論から言えば、あの島は深海棲艦へ割譲する扱いになった」
H大将「提督は中佐として海軍を退役。戸籍や国籍の問題は残るが、そのまま島に残り、その島に住む深海棲艦をまとめてもらう運びとなる」
中将「不知火と赤城には、海軍の代表として、引き続き提督の応対とX大佐の補佐を頼みたい」
不知火「承知しました」
赤城「お任せください」
H大将「大井、俺たちはひとまずこの件から離れることになる。もし何か問題が発生すれば、まず北上に対応してもらうことになるだろう」
H大井「そうですか……わかりました」
中将「それから早速だが、政府から提督と面会したいとの申し出があった」
不知火「……!」
H大将「海軍を離れる提督たちとは、現在X大佐が主体となって対応してくれているわけだが……」
H大将「深海棲艦との話し合いができると聞いた各省庁が、我々に任せてほしいと口を挟んできたらしい」
赤城「それでは、提督少尉は今後、政府と対話を持つということになるのですか」
H大将「どうだろうな。まず、あの男が素直に政府との面会に応じてくれるかどうかがわからん」
H大将「それに俺たちと話した時ですらあの態度だ。国家間交渉の場でどんな物言いをするか……俺は落ち着いて見ていられる自信はないぞ」
950: 2023/06/04(日) 22:37:31.31 ID:MAX3x8VTo
赤城「そうですか? 私は楽しみですよ。政府の要人が彼と話して、いったいどんな顔をするか……ふふふっ」ニヤリ
H大井「赤城さん!?」
中将「赤城は、彼らの話が友好的に終わるとは思っていないのだな?」
赤城「はい。正直に申し上げて、彼らの道理が深海棲艦に通用するかどうかがわかりかねます。私たちがそうなのですから」
H大井「……そう、そうなんですよね。私も心配なのはそこです」
H大井「これまでさんざん戦ってきた私たちだって、深海棲艦と話すとなったら、どう接したらいいかわからないっていうのに……」
H大井「政府は深海棲艦と話をして、なんらかの成果を得られる目算があるんでしょうか……?」
中将「儂はむしろ期待している。仮にも国家の外交のプロが赴くのだ、何らかの成果を出してくれると良いと思っているが」
H大井「そうだと良いんですが……なぜこのタイミングで政府が出てくるんでしょう」
H大将「それは、これ以上、制海権のことで海軍に大きな顔をさせたくないからだろうな」
H大将「深海棲艦の対応に関しては、政府どころかどこの国も、艦娘を統括する海軍に頼りっぱなしだ。そんな状況を打開したいんだろう」
H大将「残念ながら今の元帥も権威主義的なところがあるからな。間違っても『今の状況が続くと良い』なんて考えていなければいいんだが」
H大井「それで提督を政府サイドに引き込もうと……?」
H大将「深海棲艦と話し合うきっかけを作った人間が海軍から出ていくんだ。これ以上ないヘッドハントのチャンスだと考えているんだろう」
赤城「十分考えられますね。提督が応じるかどうかは甚だ疑問ですが」
951: 2023/06/04(日) 22:38:15.89 ID:MAX3x8VTo
中将「不知火はどう思うかね」
不知火「……政府の話が、島にいる艦娘や深海棲艦にとって有益なもの、安全を確保できるものであるならば、司令は応じると思います」
不知火「しかし、皆さんが仰る通り、司令が政府の人間に対しどのような態度をとるかは、不知火も保証できません」
不知火「これまでも、ご自身や艦娘を意のままに操ろうとしたり抑圧しようとしたりする相手を、司令は様々な手段で返り討ちにしてきました」
不知火「いくら政府の人間と言えど、対応を誤れば、最悪の事態になるのではないかと推測します」
中将「ふむ……」
不知火「深海棲艦たちも、おそらくは司令と同じか、それ以上に気難しいと思っています」
不知火「あの島の深海棲艦は、自分たちから人間や艦娘に攻撃しないことを決めただけです」
不知火「彼女たちが認めた人間もおそらく司令だけで、司令以外の人間は敵であるという認識は変わっていないはず」
不知火「そして、彼女たちが人間を頃すことも躊躇しないでしょう。仮にそこに司令が同席していたとしても……」
不知火「話の内容によっては、制止することもしないでしょうし、最悪、司令自ら手を下すかもしれません」
中将「そこまでかね」
不知火「はい」
中将「うむ、よくわかった。となると、先方には慎重になるよう断りを入れるべきだな」ウナヅキ
952: 2023/06/04(日) 22:39:01.18 ID:MAX3x8VTo
赤城「この話は、まだ提督には伝えていませんよね?」
H大将「ああ、まだだ。しかし、確認するまでもなく断りを入れるべきだろう」
中将「結論は出てしまったが、もうひとつ君たちに伝えておきたい情報がある」
中将「政府は、提督と交渉にあたる代表団のメンバーに、彼の弟を参加させるつもりでいるそうだ」
赤城「本当ですか……!?」
中将「うむ。兄と再会の喜びを分かち合いたい、ということだ」
不知火「それは……最悪ですね」
H大井「あの、恐れながら……中将閣下には、あの提督が家族とは絶縁したとご報告していたと思うのですが……」
中将「聞いているとも。日本にいる提督の家族とは、引き合わせるべきではないと言う話だったな。儂もそう思う」
中将「この点についても、政府へは通達しておく。さすがに政府も、虎の尾を踏ませるような真似はさせんだろう」
H大井「……なんだか嫌なフラグが立った気がするわ」ボソッ
中将「ん? どうかしたかね」
H大井「あ、いえ! なんでもありません、ウフフ……!」
中将「そうかね……?」
H大将「……大井、思っていてもそういうことは言うんじゃない。俺もそう思ったのは確かだが」アタマオサエ
953: 2023/06/04(日) 22:39:46.28 ID:MAX3x8VTo
中将「それから、この件に関連して、H大将に謝罪せねばならん」
H大将「? 謝罪、とは……失礼ですが、なにをです?」
中将「儂の倅……大佐が、提督の身柄を海軍に引き渡す名目で、政治家である提督の親へ金を渡していたことについてだ」
H大将「それは……!」
中将「君たちが、その金が流れを調査し、証拠を掴めずにいることも承知している。息子が、本当に申し訳ない」
赤城「中将! それは中将のせいではありません。すべてはこの私が……」
中将「赤城。その責を負うのは君ではなく、大佐とその上官の儂でなければならん。そもそも君すら与り知らなかった件ではないか」
赤城「で、ですが、私は秘書艦です! それに、彼は父親であるあなたすら殺そうと……!」
中将「その父親が悪いから、寝首を掻かれかけたのだ。結局、儂は……あれの父親になりきれなかったということだ」
赤城「っ……!」
中将「この戦争を終わらせるには手段は問わん……そう言い訳してあれを甘やかし、影での悪事を見逃してきた結果である」
中将「妖精と話ができるという提督にも、手段を問わないという意味で、働きを期待しておったのだが……」
中将「結果として彼は海軍を離れた。ひとえに、儂の力不足だ」
赤城「……」
954: 2023/06/04(日) 22:40:30.49 ID:MAX3x8VTo
不知火「中将。司令は中将に感謝しているはずです」
不知火「司令が提案した、轟沈した艦娘を運用する特例を認めてくださったのは、あなたではありませんか」
不知火「それがなければ、私も、司令も、如月も、今頃どうなっていたかわかりません」
赤城「……私も、そうですね。彼に救われたことが、何度あったことか」
赤城「中将も、結果的にですが提督に助けられたではありませんか」
中将「……」
H大井「あの、H提督? ちょっと言いづらいんですけど、大佐を罠にはめるために、提督が中将閣下を利用したという可能性は……」ヒソヒソ
H大将「それはわからん。どうなんだ不知火」
不知火「……それはあったかもしれませんが、そもそも大佐の企みを利用したからそうなったと、不知火は考えています」
不知火「大佐を油断させ、慢心させてその足元をすくう……そのために司令は中将も欺いたのでしょう」
赤城「私ですらひどい目に遭いましたしね……」フフッ
中将「……」
H大将「……あの男は攻撃的な印象があるが、考えなしのバーサーカーと言うわけでもない」
H大将「お互いの思惑の合致による協力、と言う意味では、提督と大佐の間でも成り立っていた部分はあったらしいからな」
不知火「はい。提督は、大佐が提督を他人と接触させないように離島へ隔離させたのは、結果的に都合が良かったと言っていました」
955: 2023/06/04(日) 22:41:16.17 ID:MAX3x8VTo
中将「……思惑か」
中将「提督の……彼の望みは、艦娘と深海棲艦が人間に頼らず安心して暮らせる場所、だったな?」
H大将「はい」
中将「おそらく政府は、海軍任せの現状を打開すべく、世界の混乱の原因になっている深海棲艦との条約締結を目指しているのだろう」
中将「しかし、提督にしてみれば、そんなことは知ったことではない。なぜなら彼らは、深海棲艦と言う種族の一部でしかないからだ」
中将「人間が多くの国に分かれて暮らしているのと同じだ。政府には、それをゆめゆめ忘れぬよう、釘をさしておく必要があるな」
H大将「そうですね。話し合いの場を設けた、程度の認識が適切でしょう」
中将「では、この件については儂がX大佐と協力して対応しよう」
不知火「中将、関連して一つご報告したいことがございます」
中将「? なにかね」
不知火「中将は、与少将と、呉の和中将をご存知でしょうか」
* * *
* *
*
956: 2023/06/04(日) 22:42:01.26 ID:MAX3x8VTo
* 数日後 *
* 墓場島鎮守府 執務室 *
提督「机、もう少しこっちに寄せてもらっていいか? あと2センチくらい」
大和「こんな感じでしょうか?」グッ
提督「……うん、いいんじゃねえかな。曲がってねえよな?」
榛名「はい、大丈夫です!」
ル級「ソファハ、コノ辺デイイノカ?」
提督「ああ、もう少し後ろに下げていいぞ。それだとテーブル近すぎて、足がぶつからねえか?」
タ級「コノクライカ!」
提督「座って確かめてみてくれよ。狭いか遠いか、丁度いいくらいに調整してくれ」
カトリーナ「キャビネットはここでいいのか?」
提督「おう、いいぞ。思ったよりスペースが余ったな」
オリヴィア「いいんじゃないか? ここに神殿のドアを出しておくつもりなんだろう?」
吹雪「司令官! 新しい椅子を持ってきました!」
イブキ「筆記具とかも持ってきたぞ!」
提督「お、やっときたか。んじゃこっちに……」
957: 2023/06/04(日) 22:42:46.46 ID:MAX3x8VTo
如月「電気ポットとティーセットも持ってきたわ!」
アマナ「タオルと布巾もお持ちしました!」
軽巡棲姫「コーヒーメーカーモ持ッテキタワ」
タ級「ココデモコーヒー飲メルノカ!?」キラーン!
提督「俺は別に水でいいんだけどな……」
扶桑「私は冷蔵庫をお持ちしました。自動製氷だそうですよ」
提督「個人的に一番うれしいのが来た」キラッ
如月「そうなの?」
提督「氷作るの地味に面倒臭えんだよ……とりあえずその茶道具は全部そっちの給湯室においてくれ」
如月「はーい」
提督「……ふう。やっと執務室が執務室らしくなってきたな」
カトリーナ「家具が入っても結構広々としてんなあ。ハンマー持ち歩いても余裕だし!」
提督「艦娘や深海棲艦の艤装がでかいからな。それを踏まえて、泊地棲姫がタチアナと相談して広めに作ったらしい」
榛名「これだけ人がいて狭く感じないなんて、すごいですよね!」
958: 2023/06/04(日) 22:43:31.09 ID:MAX3x8VTo
提督「まあ、それはいいんだけどよ。なんでこんなに搬入に時間がかかったんだ?」
如月「それは、調度品をいろいろ選んでいたらすごーく悩んじゃっただけよ?」
提督「じゃあ、寝室のベッドの搬入がくそ早かったのはなんでなんだよ」
如月「それは司令官の体が大事だからじゃないかしら」
大和「最重要事項ですよ?」
榛名「榛名もそう思います!」
ル級「寝床ハ大事ダゾ?」
提督「ル級まで言うのかよ」
ル級「泊地棲姫ガ力説シテタシ、私モ経験済ミダカラネ」フフッ
軽巡棲姫「デ、イツカラ寝ルノ? 一緒ニ寝テアゲルワヨォ……?」ニヤァ
扶桑「提督との同衾は、ちゃんと順番が決まっていますから、日程は確認してくださいね?」
提督(決まってんのかよ……)シロメ
カトリーナ(アニキが白目むいてる……)タラリ
959: 2023/06/04(日) 22:44:16.63 ID:MAX3x8VTo
朧「提督、海軍から預かった資料を持ってきました。これでこっちの荷物は全部です!」
陸奥「提督、終わったらこっちも手伝ってもらえるかしら」
提督「ん? ああ、わかった。資料は後で目を通す、こっちは任せて大丈夫か?」
大和「はい、お任せください! あとは搬入で出たごみをまとめるだけですから!」
アマナ「お掃除なら任せてください!」キラキラッ
ル級「瞳ガ輝イテルナ……」
提督「アマナがやる気ならこの場は任せるか。どこ手伝えばいい?」
陸奥「それじゃ、一緒に食堂に行ってもらえるかしら」スタスタ…
カトリーナ「そんじゃあ、あたしも余所の搬入を手伝ってくるかあ」
オリヴィア「アタイもそうしようかね」ノッシノッシ
タ級「……メディウムノ奴ラッテ、意外トパワータイプガ少ナインダヨナ」
イブキ「そうだなあ、純粋な腕っぷし自慢だと、さっきの二人と、コーネリアとグローディスくらいかな?」
吹雪「どうしてそのコーネリアさんたちは来てないんですか?」
イブキ「コーネリアは戦闘狂だからなあ……」
吹雪「うわー、そういう……」
タ級「戦闘以外ニ興味ガナイタイプカ」
960: 2023/06/04(日) 22:45:01.33 ID:MAX3x8VTo
アマナ「こういった家事全般を積極的に手伝うかと言われたら、グローディスさんはともかくコーネリアさんは来ないでしょうね」
イブキ「グローディスも、そのコーネリアにしょっちゅう勝負吹っ掛けられてるし。良くも悪くもいい勝負すんだよな」
扶桑「……そういえば、深海棲艦も普段は何をしているの?」
タ級「……」
ル級「ソウイエバ、私タチモ、戦ウ以外ハ、ナニモシテイナイワネ」ウフフ
タ級「……アトハ、補給デキル場所ヲ確保スルクライカ? ソレガ時間ガカカルノヨ」ウーン
吹雪「遠征任務みたいな感じですかね?」
大和「そうかもしれないわね」
タ級「コレマデ、『ヒト』ノヨウニ椅子ニ座ッテ、コーヒーヲ飲ムヨウナコトハ、ナカッタカラ……」
タ級「今ノ暮ラシガ、新鮮デワクワクスル、トイウノハ、アルナ」
榛名「なるほど……ずっと海中や海上だと、くつろぐこともできなかったと」
タ級「独自ノ拠点ヲ持ッテタ泊地棲姫ハ、コウイウ暮ラシニ、ソレナリニ慣レテルミタイダケド」ソファニスワリ
タ級「……オォ、コノソファ、柔ラカイナ」ポヨンポヨン
タ級「ル級ハ、一足先ニ、コンナ生活シテタノカ? ズルイナ、オ前」ニヤッ
ル級「アラ、私ガイナカッタラ、コンナ生活デキナカッタワヨ?」ニヤッ
タ級「言イ方ガズルイゾ、オ前」ククッ
吹雪「……なんだか、楽しくなりそうですね!」ニコニコ
如月「そうねえ」ニコニコ
964: 2023/07/20(木) 23:47:49.19 ID:E2wV6OqPo
* 食堂 *
提督「食堂から、直接外に出る出入口作ってどうすんのかと思ったけどよ……」
電「ウッドデッキとオープンテラスなのです! とってもおしゃれなのです!」ワーイ!
提督「良く作ったな、こんなの」
電「このために木材が届くのを待っていたって泊地棲姫さんが言ってたのです!」
陸奥「こうなると景観が大事だからって、メディウムも張り切ってるのよ。ほら、この奥の水路の対岸にも花壇を作ってて……」
提督「ありゃあ、タチアナとニーナか? あいつらが花壇の手入れしてんのか」
電「さっきまでミュゼさんもいたんですが、持ってたテツクマデをどこかにおいてきたらしくて、まだ戻ってきてないのです」
提督「なにやってんだあいつは……」
スズカ「おー、魔神くんきよったんか! 見てみい、綺麗じゃろ? 新しい厨房!」
セレスティア「一応、機材搬入は済ませましたが、シェフ長の比叡さんが不在ですので、かつての厨房の記憶をたどって配置しています」
提督「ふーん……まあ、大丈夫じゃねえか? だいたい似たような配置になってると思うぞ」
セレスティア「そうでしたか。では、これで配線してしまいましょう」
提督「比叡の個人持ちの道具はまだ医療船にあるから、あとで持ってきてもらえばいいな。そういや保冷庫も使えんのか?」
厨房の奥の扉<ガチャッ
明石「うう、さっぶい!」
965: 2023/07/20(木) 23:48:48.67 ID:E2wV6OqPo
ヒサメ「そうかのう? まぁだ、ぬくいと思うんじゃが?」
提督「明石? 工廠にいたんじゃないのか」
明石「工廠の整頓はとっくに済ませましたよ。今は保冷庫の整備に来たんです」
明石「ヒサメさんのせいで、もう保冷庫って言うより冷蔵庫ですけど!」
ヒサメ「もうちょっと冷たくなれば快適じゃ♪」
スズカ「おいおい、ここはヒサメの部屋じゃのうて、食い物の保管場所じゃからな?」
セレスティア「つまみ食いしないようにしてくださいね」
ヒサメ「心配せんでも、そんなさもしい真似はせぬわえ。さっきまでそこにおった悪い見本にこそ、その説教は必要じゃろうて」
セレスティア「……確かに、しょっちゅう足がもつれて転んでいるけれど」
電「もしかしてマーガレットさんですか……」
ヒサメ「そうじゃ。パティシエだからと洋菓子ばかりこさえて、そのたびに自分で平らげておっては、当然の帰結じゃ」
提督「最悪すぎる地産地消だな。で、そのマーガレットはどこに行ったんだ」
セレスティア「今頃危機感を持ったのか、走り込みに行きました」
提督「それ、今やる話かよ……」アタマオサエ
電「今頃テツクマデを踏んづけていそうなのです」
提督「くっそ、目に浮かぶな。あ、そういや、こっちに深海棲艦は来てないのか?」
966: 2023/07/20(木) 23:49:37.97 ID:E2wV6OqPo
電「数人のヲ級さんたちが、厨房を外から興味深そうに眺めていたのですが、どこかに行ってしまったのです」
陸奥「物珍しそうに見てたわよ。椅子や机を運び入れるところは手伝ってたけど、厨房の配置はメディウムに任せてたみたい」
提督「ふーん……この前、ヲ級の一人と話したんだが、深海には調理の概念すらなかったって言ってたんだよな」
スズカ「そうなん? 声かけてくれりゃあウチが教えたったのに!」
電「今は今で、花壇を見に来た深海棲艦がいっぱい集まってるのです……!」
陸奥「花が珍しいのかしら。駆逐艦が集まってて水路が渋滞してるわ」
ヒサメ「ここであの水路を凍らせたら面白そうじゃのう?」ニマァ
提督「やめとけ」ジロリ
ヒサメ「冗談じゃ。おまえさまは毎度毎度、冗談が通じぬのう」ニマニマ
電「……」
陸奥「電ちゃん? どうしたの?」
電「沈んだ敵も助けたい、と思っていたのですけれど……」
電「沈んでなくても、深海棲艦と分かり合えそうな雰囲気がしてきて、ちょっとだけ……嬉しいなって、思うのです……!」
陸奥「フフ、そうね……!」ニコ
提督「……」
967: 2023/07/20(木) 23:51:26.52 ID:E2wV6OqPo
というわけで本当に短いですが今回はここまで。
次スレ準備できたらお知らせします。
次スレ準備できたらお知らせします。
968: 2023/07/22(土) 19:49:21.92 ID:8YcaGZNqo
次スレを立てました。
こちらでもよろしくお願い致します。
【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」ニコ「その3だよ」【×影牢】
こちらでもよろしくお願い致します。
【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」ニコ「その3だよ」【×影牢】
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