1: 2016/06/03(金) 15:12:46.88 ID:j6T0EZtm.net
英玲奈「人口1億5000万。このあたりで2番目に大きい国だな」

ツバサ「良いところじゃない。のどかで空気も美味しくて」

ツバサ「このまま一緒に永住しちゃう?」

英玲奈「永住するのは悪くないが、お前と一緒だけは勘弁して欲しいな……」

ツバサ「相変わらず嫌われているのね」

英玲奈「世話役が欲しいなら他を探せ。仕事以外でお前の面倒は見たくない」

ツバサ「私だって英玲奈の面倒を見てあげてるんだからお互い様でしょ?」

英玲奈「抜かせ」

ツバサ「そういえば、あんじゅは?」

ツバサ「この前の一件から姿を見ないけど」

英玲奈「お隣のビビ帝国で遊んでいるんだろ。田舎の空気は合わないと普段から言っているからな」

ツバサ「なるほどね」

3: 2016/06/03(金) 15:18:08.26 ID:j6T0EZtm.net
英玲奈「首都まであと30分と言ったところか……」

ツバサ「着いたらまずは腹ごしらえね。空気のおいしいところはご飯もおいしいはずだわ」

英玲奈「私は先に宿を探すよ。長旅で少し疲れた」

ツバサ「ってことは着いてからは別行動?」

英玲奈「休暇の時までお前に振り回されたくないからな」

ツバサ「私もこんな素敵な場所に来てまで英玲奈の小言を聞きたくないわ」

英玲奈「悪かったな……黙っててやるから川のせせらぎでも聞いておけ」

ツバサ「お気遣いありがとう。でも聞こえるのは荷台が揺れる音だけだわ」

英玲奈「鉄の馬の鳴き声に比べればマシだろう」

ツバサ「ふふ、間違いないわね」

6: 2016/06/03(金) 15:23:04.77 ID:j6T0EZtm.net
英玲奈「……」

ツバサ「……」


―――ヒヒィィィン!!


英玲奈「……」

ツバサ「……」


―――ブォォォォ!!


英玲奈「……今の音、なんだと思う?」

ツバサ「見れば分かるんじゃないかしら」

英玲奈「っておい、危ないぞ。座れ」

ツバサ「立たないと見えないじゃない」

英玲奈「馬車が動いてる時に立つヤツがあるか、転ぶぞ」

ツバサ「そのときは英玲奈が受け止めてちょうだい」

英玲奈「あのなぁ……」

7: 2016/06/03(金) 15:29:26.41 ID:j6T0EZtm.net
ツバサ(鉄の馬が走ってる……すごいスピードね……)

ツバサ(その前を走っているのは……白い馬……? 人が乗っているけれど……)

英玲奈「……何が見える?」

ツバサ「白い馬を鉄の馬が追いかけているわ」

英玲奈「鉄の馬……?」

英玲奈「まさか自動車が走ってるのか?」

ツバサ「そうね。白い馬には少女が乗っているわ」

英玲奈「少し隣を空けろ」

ツバサ「結局英玲奈も見るんじゃない」

英玲奈(車が馬を追いかけている……?)

英玲奈(なんだこれは、一体どういう状況で……)

8: 2016/06/03(金) 15:38:09.57 ID:j6T0EZtm.net
ツバサ「ねえお嬢さん、馬を一頭私に貸して貰えないかしら」


 「へ……? て、てか何してるんですか!? 危ないですから荷台に戻ってください!」


ツバサ「借りるだけだから。絶対に返すから、ね?」


 「だだ、ダメですダメです! そんなこと出来ません! って、ちょ、きゃっ……!?」


英玲奈「おいツバサ……何をするつもりだ……?」

ツバサ「追いかけっこに参加してくるわ。少し様子が変だから」

英玲奈「だからと言って馬を強奪するヤツがあるか!?」

9: 2016/06/03(金) 15:38:56.21 ID:j6T0EZtm.net
英玲奈「騒ぎになればこの国に居られなくなるぞ!?」


ツバサ「英玲奈、あとは任せたわ」ニコ


英玲奈「っ……」


ツバサ「っと!? 馬の上って意外と揺れるのね……!」

ツバサ「さあ行きなさいお馬さん! 目標はあの白馬よ!」


―――ヒヒィィィン!!


英玲奈(あのバカ……!)


 「わ、私の馬がぁ……」


英玲奈「……すまないお嬢さん。馬は絶対に返すから、今はこの金で……」

10: 2016/06/03(金) 15:45:01.69 ID:j6T0EZtm.net
     
――――――――――――――――――――――――――――――
       
ツバサ(流石に最先端技術なだけあって速いわね……)

ツバサ(追いつけそうにない……あの鉄の塊は疲れ知らずだろうし、このままじゃジリ貧ね)

ツバサ(さて、どうしたものかしら……)


 「もっとスピードを上げてください! あの馬は並みの速さじゃ追いつけません!」

 「む、無理です! これ以上は車体に影響が出ます!」

 (くっ……! 帝国の産物に頼った私がバカでした……!)

 (大人しく他の馬を出していれば……!)

 「大丈夫ですよ兵長! このジドーシャは疲れ知らず!」

 「あの白馬の体力もいずれ限界が来るはず……! 追いつくのは時間の問題です!」

 「……その言葉を信じます」


ツバサ(構造から察するに、あのぐるぐる回っている部分を狙えれば動きは止まるはずだけど……)

11: 2016/06/03(金) 15:54:44.92 ID:j6T0EZtm.net
ツバサ「お馬さん、もうちょっとだけ頑張れる?」


―――ヒヒィィィン!!


ツバサ「ふふ、良い子ね……お願い! 力を振り絞って!」

ツバサ「目標は鉄の馬よ!」



 「へ、兵長! 後ろからすごい速さで馬が近付いてきます!」

 「馬……?」

 (な、なんですかこれは……!? 一体誰が乗って……!?)


ツバサ「ハロー、お嬢さん方」

12: 2016/06/03(金) 16:00:10.34 ID:j6T0EZtm.net
ツバサ「女の子1人追いかけるのにそんなもの持ち出すなんて、少し大袈裟じゃないかしら」


 「誰ですか貴女は!? 危ないから離れなさい!」


ツバサ「あなたたちどうしてあの子を追いかけているの?」

ツバサ「事情を教えてくれれば協力するわ」


 「部外者には関係ありません! 離れなさい!」


ツバサ「その格好から察するに、あなたたち衛兵か騎士でしょう?」


 「!」

ツバサ「胸元の紋章はルビーで出来ている。相当な位の高さのはず」

ツバサ「そんな高貴な人たちがこんなにも必氏になって1人の女の子を追いかけるなんて……一体何が起きているのかしら?」

13: 2016/06/03(金) 16:07:04.21 ID:j6T0EZtm.net
   
  
 「……もう一度だけ言います。離れなさい」


ツバサ「事情を説明する気はない?」


 「言ったはずです。部外者には関係のないことです」

 「これ以上命令に従わないのなら公国の権限で貴女を牢に入れます」

 「最終通告です。今すぐ離れなさい」


ツバサ「正直に言えば協力してあげようと思ったのに……」


 「離れなさい!」


ツバサ「分かった、離れるわ」スチャ


 「!?」


―――バァンッ!!


ツバサ「離れるのは貴女たちだけど」


―――キィィィィィ!!


 「「きゃああああああ!!?」」


ツバサ(あの様子じゃ追って来れないでしょう……案外脆くて助かったわ)

15: 2016/06/03(金) 16:11:48.46 ID:j6T0EZtm.net
ツバサ(さて、あとは目の前を走ってる白馬さんだけど)

ツバサ(流石に撃つわけにはいかないし、どうすれば……)


 「……」


ツバサ(……お嬢さん、どうやら後ろの様子に気付いたようね)

ツバサ(スピードが緩まった……)

ツバサ(これでゆっくり話が出来そうね)


 (馬のお姉さん、近付いて来る……)
 
 (やっぱり逃げた方がいいのかな……でも、悪い人じゃ無さそうだし……)

 (それに、追われていた私を助けてくれて……)


ツバサ「ハロー、お嬢さん。ご機嫌はいかが?」


 「あ、あの……」


ツバサ「随分と熱心なファンがいるみたいだけど、アイドルでもやっているの?」

 
 「アイドル、と言え無くもない……のかな……?」


ツバサ「?」

16: 2016/06/03(金) 16:20:41.74 ID:j6T0EZtm.net
   
   
 「え、えっと、助けてくれてありがとうございました!!」


ツバサ「どういたしまして」


 「あの、どうして……?」


ツバサ「可愛い女の子を助けるのに理由がいるかしら?」


 「か、可愛いだなんて、そんな……」


ツバサ(照れてる……よく見ると本当に可愛いわねこの子……)

ツバサ(容姿からして普通の田舎娘には見えないけど……)


 「あの、本当にありがとうございました……このお礼はいずれ必ずさせて頂きます」

 「だから、その……お名前、教えて頂けませんか……?」


ツバサ「ツバサ。綺羅ツバサよ」


 「綺羅、ツバサさん……」

17: 2016/06/03(金) 16:27:20.61 ID:j6T0EZtm.net
ツバサ「あなたは?」


 「私はこ……じゃなくて、えっと、穂乃果って言います」


ツバサ「穂乃果……穂乃果さんね」

ツバサ「これからよろしくね、穂乃果さん」

穂乃果「え、これから……? あ、よろしくお願いします……」

ツバサ「この馬借りているものだから、穂乃果さんの馬に乗せてもらってもいい?」

穂乃果「え? あ。は、はい……」

ツバサ「あと、この辺の地理には詳しい?」

ツバサ「私余所者でこの国には先日来たばかりだから、何も分からなくて」

穂乃果「余所者……? ってことは、外国から……?」

ツバサ「出身はまた別なんだけどね」

穂乃果(この国のことを知らないってことは、私のことも……)

20: 2016/06/03(金) 16:35:04.68 ID:j6T0EZtm.net
ツバサ「お腹減ったから何か食べたいんだけど、ここから城下町までの道は分かるかしら?」

穂乃果「え……ツバサさん城下町に行くんですか……?」

ツバサ「もしかして不都合だったりする?」

穂乃果「い、いえ! そんなことは!」

ツバサ(嘘つくと分かりやすいわねこの子)

穂乃果「え、えっと、城下町ならここをまっすぐに行くと教会が見えるので、そこを右に曲がって10分くらいすると見えて来ます」

ツバサ「なるほど、案外近いのね」

穂乃果「私は、その、ここから離れた村に用があるので、そっちに行きますね」

穂乃果「短い間でしたが、ありがとうござ……」

ツバサ「じゃあ私もそこに行こうかしら」

穂乃果「へ?」

ツバサ「ご飯が食べれればどこでもいいから。穂乃果さんに付いて行くわ」

穂乃果「ほ、本当にいいんですか……?」

ツバサ「ええ。この国には休暇で訪れただけだから、これと言った目的も予定もないし」

ツバサ「しばらくはあなたとご一緒させて貰えれば嬉しいのだけど……ダメかしら?」

21: 2016/06/03(金) 16:41:08.50 ID:j6T0EZtm.net
穂乃果「……私と関わり過ぎると、迷惑、かかっちゃうと思います」

穂乃果「だから、その……」

ツバサ「心配してくれてありがとう。なら、こう言えばいいかしら」

ツバサ「穂乃果さんと一緒にいたいわ」

穂乃果「へ……?」

ツバサ「あなたのことが気になるの。だから、あなたと一緒にいてあなたのことが知りたい……これでもダメかしら?」

穂乃果「うぇ……え、えと。その……」

ツバサ「……」

穂乃果「っ……」


穂乃果「よろしく、お願いします……」


ツバサ「こちらこそ。よろしくね♪」

22: 2016/06/03(金) 16:50:37.78 ID:j6T0EZtm.net
                
――――――――――――――――――――――――――――――


 「……」


英玲奈「……本当に申し訳ない」


 「いえ、いいんです。あなたは何も悪くないので……」


英玲奈「いや、私のツレがしたことだ。止められなかった私にも責任はある」


 「で、でも、何か事情があったのかもしれませんし、それに馬も絶対に返すと言っていたので……」


英玲奈「もし帰って来なかったら新しい馬の代金を支払わせてもらうよ」


 「ええ!? そ、それは流石に……」


英玲奈「君にとって愛着のある大切な馬だったかもしれないんだ。それで償えるのなら安い買い物だ」

英玲奈「城下町に着いたら馬の捜索を手伝おう。見つかるに超したことはないからな……」


 「ありがとうございます。本当に助かります……」


英玲奈「君が礼を言うことはない……当然の報いだ」

23: 2016/06/03(金) 16:54:01.70 ID:j6T0EZtm.net
英玲奈(ここから城下町までの道のりで見つかれば話は早いのだが……)


 「!」

 「あれって……」


英玲奈「何か見つかったのか?」


 「鉄の馬が……」


英玲奈「鉄の馬……?」


 「馬主のお嬢さん、少しお時間を頂いてもよろしいですか?」

 「は、はい、なんでしょうか……? って、その紋章は……!?」

 「公国親衛軍の者です」
 
 「突然で申し訳ないのですが、2人ほど城下町まで乗せては貰えませんか?」

 「今は持ち合わせがありませんが、前料金としてこれくらいで乗せて頂けるとありがたいのですが……」

 「ここ、こんなにも……!?」

24: 2016/06/03(金) 17:00:57.32 ID:j6T0EZtm.net
英玲奈(この鉄の馬はさっきツバサが追いかけていたものだ……)

英玲奈(見た感じ故障しているみたいだが……あのバカ、まさか……)


 「あ、あの。すみません。相席になるんですが、もう2人ほど乗せていってもいいでしょうか……?」


英玲奈「あ、ああ。構わない。元より私も乗せてもらっている身だ。断る権利なんてない」


 「ありがとうございます!」

 「さ、騎士様。どうぞ中へお入りください」

 「お気遣い痛み入ります」


英玲奈(コイツが鉄の馬の飼い主……)

英玲奈(この身なりに胸の紋章……公国の人間か……)

英玲奈(ツバサのヤツ、またとんでもないのに喧嘩を売ったな……流石に庇いきれんぞ……)


 「旅の人、迷惑をかけます」


英玲奈「……とんでもない。短い間だがよろしく頼む」

26: 2016/06/03(金) 17:06:23.76 ID:j6T0EZtm.net
英玲奈(きっとコイツはツバサの顔を見ているし覚えているだろう……)

英玲奈(何かのきっかけで私とツバサが繋がっているということがバレたら……厄介なことになるぞ……)


 「……」


英玲奈(現時点で疑われるようなことは無いと思いたいが……)


 「……旅の人、少しいいでしょうか?」


英玲奈「……なんだ」


 「貴女……この国の人間じゃないですね」


英玲奈「……ああ、そうだ。この国には休暇旅行でつい先日やってきた」

英玲奈「出身はUTXだ」


 「UTX……」


英玲奈(下手な嘘はつかない方がいいな……)

27: 2016/06/03(金) 17:11:44.70 ID:j6T0EZtm.net
   
   
 「その服飾と髪飾りはUTXのものですか?」


英玲奈「……いかにも」


 「ありがとうございます。初対面にも関わらず、無粋なことを訊いてしまい申し訳ないです」


英玲奈(こんな小さな国にわざわざやってくる外国人なんてそう多くはないはずだ)

英玲奈(怪しまれるのも無理は無い)

英玲奈(ツバサと繋がっているということだけは知られたくないが……)


 「あああああーーーー!!」


英玲奈「な、なんだ?」


 「どうかされましたか、馬主殿?」

 「う、馬……私の、馬が……」

 「馬……?」


英玲奈「なに!? 見つかったのか!?」

28: 2016/06/03(金) 17:18:54.02 ID:j6T0EZtm.net
     
     
 「はい……そこの川で水を飲んでました……」

 「うぅ、良かったぁ……良かったよぉ……」


英玲奈「そうか……見つかったか……」

英玲奈「はぁ……肩の荷が下りたよ。本当に良か……」

英玲奈(待てよ、この馬は確か……ツバサが……)


 「……馬主殿。少し訊いてもいいですか」

 「は、はい……?」

 「この馬は貴女のもので……?」

 「は、はい! そうです!」

 「見つかった、ということは……行方不明だったのですか?」

 「はい、実は……その……えっと、旅の人に貸したままになっていて……」


英玲奈(これは……まずいぞ……)

31: 2016/06/03(金) 17:25:39.90 ID:j6T0EZtm.net
    
    
 「……その旅の人について詳しく訊かせて頂いてもよろしいですか?」

 「それなら彼女に訊くのが良いと思います!」

 「馬を持って行った方はお連れの方らしいので!」

 「……ほう」


英玲奈「……はぁ」

英玲奈(どうしてこうなるんだ……)


 「旅のお方。少し話を伺ってもよろしいですか」


英玲奈「……」


 「いえ、話を伺うという表現は……少し違いますね」

 「先に名乗らせて頂きます。私はプランタン公国親衛軍兵長、園田海未と言うものです」

海未「公国親衛軍の権利により、今から貴女に取り調べをさせて頂きます」

海未「場合によっては貴女の身柄を拘束することになるかもしれません。事はそれほどまでに重大です」

海未「今からする質問に、嘘偽り無く全て答えて頂きたい」

英玲奈「……私の身内がしたことだ、なんでも答えよう」

海未「聡明な方のようで何よりです」
 

英玲奈(……長い一日になりそうだな)

34: 2016/06/03(金) 17:35:46.99 ID:j6T0EZtm.net
   
――――――――――――――――――――――――――――――
   
穂乃果「……」

ツバサ「穂乃果さん?」

穂乃果「え、あ、はい?」

ツバサ「何も頼まないの?」

穂乃果「あ、えっと……お腹空いてないので!」

ツバサ「……本当に?」

穂乃果「……」

穂乃果「あ、あの……私、お金持って無いんです……」

ツバサ「あはは、やっぱり」

ツバサ「はい、好きなの頼んでいいわよ」

穂乃果「へ……?」

ツバサ「穂乃果さんが水だけ飲んで、私だけ食べるわけにもいかないから」

穂乃果「助けてもらった上にご飯までご馳走になるなんて……そ、そんなのダメです!」

36: 2016/06/03(金) 17:37:22.77 ID:j6T0EZtm.net
ツバサ「随分と律儀な性格なのね」

穂乃果「これ以上お世話になるわけには……」

ツバサ「でもお金がないってことは、今晩の宿代も私が払う事になるだろうから」

穂乃果「ぎくっ」

ツバサ「遅かれ早かれ、私のお世話にならないとどうしようもないわよ?」

穂乃果「……の、野宿します」

ツバサ「流石にそれは……」

穂乃果「これ以上ツバサさんに迷惑かけられません……」

穂乃果「知り合って間もない人にそんなこと……」

ツバサ「分かった。じゃあ、私も何も頼まないわ」

穂乃果「へ?」

ツバサ「夜も穂乃果さんと一緒に野宿する」

穂乃果「え、えっと……」

ツバサ「何も頼まず水だけ飲んでると追い出されるのかしら」

ツバサ「そうだ、何分居座り続けられるか勝負してみましょうか」

穂乃果「あの……冗談、ですよね……?」

37: 2016/06/03(金) 17:42:23.17 ID:j6T0EZtm.net
ツバサ「ふふ、冗談に見える?」

穂乃果「……」


 「ご注文はお決まりでしょうか?」


ツバサ「水を2つください」


 「は、はい。少々お待ちください」


穂乃果「……」

ツバサ「♪」

穂乃果「ツバサさん……お願いします。何か頼んでください……」

ツバサ「頼んだわよ? 水」

穂乃果「そ、そうじゃなくて、何か食べ物を……」

ツバサ「じゃあ穂乃果さんが選んで? 同じものを食べるから」

穂乃果「そんなこと、出来ません……」

ツバサ(思った以上に強情ね……)

41: 2016/06/03(金) 17:49:50.30 ID:j6T0EZtm.net
ツバサ「そんなに人を頼るのは嫌?」

穂乃果「……」

ツバサ「今までも貴女は誰かを頼って、誰かの助けを得ながら生きてきたはずだけれど……」

ツバサ「私の頼りになるのと誰かの頼りになるのとで何がそんなにも違うのかしら?」

穂乃果「それは……」

ツバサ「……ごめんなさい、少しいじわるな質問だったわね」

ツバサ「分かったわ。それなら穂乃果さん、仕事をしましょう」

穂乃果「仕事……?」

ツバサ「私ね、休暇と観光が目的でこの国に来たから、この国に詳しい人がそばに居てくれるととても助かるの」

ツバサ「なおかつ身の回りの世話もしてくれるような人がいれば最高なんだけど……」

穂乃果「ツバサさん……」

穂乃果(見ず知らずの私のわがままを聞いて、こんな条件まで出してくれるなんて……)

ツバサ「出来るなら穂乃果さんみたいに可愛い子がいいわね」

穂乃果「か、可愛くはないですけど……わ、私で良ければ! そのお仕事させてもらいたいです!」

42: 2016/06/03(金) 17:50:21.47 ID:j6T0EZtm.net
ツバサ「ぜひお願いするわ」

ツバサ「期限は穂乃果さんの気が済むまででいいから、よろしくね」

穂乃果「はい!」

ツバサ「じゃあ改めて注文しましょうか」

ツバサ「ウェイターさんの視線がそろそろ痛くなってきた頃だし」

穂乃果「あはは……」

ツバサ「この国でしか食べれないものが食べたいわ。何かおすすめはある?」

穂乃果「あ、それなら良いものがあります! プランタンには特産品の……」

43: 2016/06/03(金) 17:56:40.02 ID:j6T0EZtm.net
   
――――――――――――――――――――――――――――――
   
英玲奈「一国のお姫様が家出ね……」

海未「昔からやんちゃな子で、城を抜け出すことはよくあったのですが……」

英玲奈(それはそれで城の警備体制に問題があると思うのだが……)

海未「今までは城を抜け出したとしても監視の目は行き届いていました」

英玲奈「わざと泳がせていた?」

海未「少しでも外の世界を見た方が姫のためにもなるという、陛下のお考えもありましたので」

英玲奈「今回は首輪を付け忘れたのか?」

海未「付け忘れたというべきか、自ら首輪を取って逃げ出したというべきか……」

英玲奈「それは逃げ出される貴女方に問題があるのでは……」

海未「返す言葉がありません……しかし、姫は今後の国を一身に担う存在でもあるのです」

海未「城から逃げ出すということは国を放り出すということと同義」

海未「もう少し責任感を持ってもらいたいものです……」

英玲奈「責任か……年端も行かぬ16歳の少女に背負わせるには重過ぎると思うが……」

海未「一国の姫君なのです。一般的な16歳の少女と同じにしてもらっては困ります」

44: 2016/06/03(金) 18:00:36.14 ID:j6T0EZtm.net
英玲奈「外聞ではそうでも中身は一般的な16歳の少女と変わらなかったということだ」

英玲奈「だから逃げ出した。今まで育った城を捨て、外の世界へ」

海未「……一刻も早く連れ戻さないといけません」

英玲奈「気が済めば帰って来るだろう。放っておいてもいいのでは」

海未「姫の身に何かあってからでは遅いのです!」

英玲奈「……ウチのはアホだがそこらの用心棒よりかはよっぽど腕が立つ」

英玲奈「姫君と行動を共にしているのなら、危険が及ぶことは万に一つない」

海未「あの者が姫に危害を加えないという保障はありません。何より異国の者……信用出来るはずがない」

英玲奈「まあアレは女好きだからな……処Oの一つくらい散らしそうではあるが……」

海未「ななっ……!?」

英玲奈「無くなって困るものでもないし、まあいいだろう」

海未「良くないです!? 姫は婚姻を控えているのですよ!?」

45: 2016/06/03(金) 18:04:51.86 ID:j6T0EZtm.net
英玲奈「婚姻? そうなのか?」

海未「本当に国外の者なんですね……連日取り上げられているニュースですのに……」

英玲奈「相手は誰だ? 一般人なわけもあるまい」

海未「ビビ帝国の第一皇女です」

英玲奈「なるほど、政略結婚か……逃げ出したくもなるわけだ……」

海未「……全ては国のためです」

英玲奈「国のために望まぬ結婚、望まぬ人生……」

英玲奈「やりたいことの一つも見つけることを許されぬまま、国のため、国のため……」

海未「黙りなさい。貴女のような異国の鼠に何が分かると言うのです」

英玲奈「何も分からない。ただ、私は鼠の生まれを悔いたことは一度もない、鼠に生まれて幸せだとさえ思う」

英玲奈「貴女はどうだ? 騎士に生まれて幸せか?」

海未「っ……」

英玲奈「姫君が逃げ出した理由は、そういうことだと思うが」

47: 2016/06/03(金) 18:14:14.63 ID:j6T0EZtm.net
海未「……私たち貴族はみな生まれながらにして使命を負うのです」

海未「それは国を守り、民を幸福にすること……」

英玲奈「……」

海未「投げ出すことは許されません」

海未「例えそれが不幸であったとしても、それが選ばれた人間の生き方なのです」

海未「姫を連れ戻します……協力してください」

英玲奈「断ったら?」

海未「姫を拉致した逆賊の一味として牢に入れた後、極刑に処します」

英玲奈「……姫君を連れ戻した時、私とアイツはどうなる?」

海未「貴女の身柄は保障します。が……あの者の身柄は保障しかねます」

英玲奈「……」

海未「……」

英玲奈「交渉決裂だな……協力はしない」

海未「極刑に処すと言ったはずですが」

英玲奈「仲間を売るくらいなら……氏んだ方がマシだ」

海未「……この者を拘束しなさい」

48: 2016/06/03(金) 18:22:39.28 ID:j6T0EZtm.net
      
――――――――――――――――――――――――――――――

ツバサ「穂乃果さん、あなた結構食べるのね」

穂乃果「ご、ごめんなさい! お腹減ってたからつい……」

ツバサ「いいのよ、いっぱい食べる女の子は好きだから」

穂乃果(恥ずかしい……)

ツバサ「とても良かったわ。空気も食べ物も美味しいし、ここは本当に良い国ね」

穂乃果「そう言ってもらえるとすごく嬉しいです!」

ツバサ「ふふ、この国のことが好きなのね」

穂乃果「はい……人も、町も。大好きです」

ツバサ(世間知らず、ってわけではなさそうね)

ツバサ(この落ち着き方を見ても、見聞はむしろ広いように思える……)

ツバサ「お腹もいっぱいになったし、少し歩きましょうか」

49: 2016/06/03(金) 18:28:15.04 ID:j6T0EZtm.net
ツバサ「観光名所的なところは知ってる?」

ツバサ「とても大きな城がある、ってくらいしかこの国のこと知らなくて」

穂乃果「観光名所ですか……」

ツバサ「そうね……出来れば静かなところがいいわ」

穂乃果「有名なところではないんですけど……ここの近くにとても綺麗な湖があります」

穂乃果「そこで良ければ……」

ツバサ「湖……素敵ね。案内してもらえるかしら?」

穂乃果「喜んで!」

ツバサ(人気が少ない場所なら、穂乃果さんにとっても嬉しいでしょう)

ツバサ(そこで少し込み入った話を訊こうかしら)

ツバサ(薄々気付いてたけど……彼女、ただ者じゃ無さそうだしね)

50: 2016/06/03(金) 18:34:36.80 ID:j6T0EZtm.net
    
――――――――――――――――――――――――――――――

あんじゅ「はぁー、ショッピングも飽きたなー」

あんじゅ(一人だけじゃつまんない。そろそろツバサと英玲奈に合流しようかな……)

あんじゅ(あの2人どこに行ったんだっけ……田舎らしいから一度は断った記憶はあるんだけど……)

あんじゅ「確か……えーっと……プラチナ、じゃなくて……プラナリア、でもなくて……」


 『ニュースです。ビビ帝国第一皇女絵里様とプランタン公国第一王女穂乃果様の婚儀がいよいよ一週間前に迫りました』

 『婚儀が行われるプランタン公国大聖堂では今から準備が行われており……』


あんじゅ「そう! プランタン!」

あんじゅ(都会は満喫したし、たまにはのどかな場所の良い空気も吸わないとね)

あんじゅ「そうと決まれば早速プランタンに行きましょう」

あんじゅ「巷で噂の自動車で♪」

52: 2016/06/03(金) 18:43:32.02 ID:j6T0EZtm.net
   
――――――――――――――――――――――――――――――

ツバサ「……とても良いところね」

穂乃果「そう言ってもらえると嬉しいです」

ツバサ「緑が豊かで、空気も澄み切っていて……」

ツバサ「太陽の光で煌めく湖面がすごく綺麗……まるで宝石のようだわ」

穂乃果「実はここ、私だけが知ってる秘密の場所なんです」

穂乃果「辛いことや嫌なことがあった時は、よくここに来てこの湖を眺めています」

穂乃果「そうすれば、明日も頑張ろうって元気が沸いて来るから……」

ツバサ「いいの? そんな大切な場所に私なんかを連れて来ちゃって」

穂乃果「ツバサさん、いつまでもこの国に居られるわけじゃありませんよね」

穂乃果「だから、この国こと、少しでも覚えていてもらえたらな、って」

ツバサ「……絶対に忘れないわ。この国も、この景色も」

ツバサ「もちろん、穂乃果さんのこともね」

穂乃果「っ……」

54: 2016/06/03(金) 18:49:50.09 ID:j6T0EZtm.net
ツバサ「……」

穂乃果「……ツバサさん」

ツバサ「?」

穂乃果「驚かないで、訊いてもらえますか」

ツバサ「愛の告白?」

穂乃果「か、からかわないでください!」

ツバサ「あはは、冗談よ。で、何かしら。サプライズの内容は」

穂乃果「実は私……この国の第一王女なんです」

ツバサ「……そう」

ツバサ(想像の遥か上ね……貴族だとは思っていたけれど、プリンセスだったなんて)

穂乃果「あの、信じられないですよね……?」

ツバサ「確かに信じ難い話だけれど、穂乃果さんが嘘を言うとは思えないから」

穂乃果「あの……」

ツバサ「?」

穂乃果「どうしてそんなにも、私のことを信じてくれるんですか……?」

55: 2016/06/03(金) 18:56:59.36 ID:j6T0EZtm.net
穂乃果「ツバサさんからすれば、私はさっき出会ったばかりの異国の人間で」

穂乃果「しかも衛兵にまで追われていたのに……」

ツバサ「穂乃果さん、すごく可愛いから」

穂乃果「え、えっと……」

ツバサ「っていうのが最初助けた理由だったけれど……今でも一緒にいる理由は……そうね。目、かしら」

穂乃果「目……?」

ツバサ「職業柄いろんな人を見て来たから、目を見ればどんな人なのかおおよそ分かるのよ」

ツバサ「私は穂乃果さんほど綺麗な目をした人、他に知らないから」

穂乃果「……」

ツバサ「っと、話が逸れているわね。貴女を信用している理由は……そうね」

ツバサ「自分を信じてるから、かな」

56: 2016/06/03(金) 18:59:19.00 ID:j6T0EZtm.net
穂乃果「自分を、信じる……」

ツバサ「私、今までいろんな経験をして来たけれど、全部なんとかしちゃってるから」

ツバサ「その積み重ねかしら。まあ、単に自信過剰なだけよ」

穂乃果「……」

ツバサ「人間、やろうと思えば大抵のことはなんとか出来ちゃうのよね」

ツバサ「自分の力だけじゃなんとかならないことも……人の力を借りれば乗り越えられるし」

穂乃果「!」

ツバサ「何かお悩みがあるのなら力になるわよ? プリンセス」

穂乃果「……」

穂乃果「ありがとうございます、ツバサさん」


穂乃果「そのお気持ちだけで……十分です」ニコ


ツバサ「…………」

57: 2016/06/03(金) 19:06:58.58 ID:j6T0EZtm.net
    
――――――――――――――――――――――――――――――
     
英玲奈「はぁ……」

英玲奈(あのアホが変な気を起こさなければ、今頃ホテルの一室でのんびり出来ていたんだろうな……)

英玲奈「まあ、私にはこの固いベッドの方がお似合いなのかもしれないが……」

英玲奈(前向きに考えるのであれば、あんじゅが一緒じゃなくて良かったことか)

英玲奈(耳元で延々と愚痴を吐かれていただろうからな……静かに眠れるだけ救いだ)


 「……ねえ、そこのアンタ」


英玲奈「……」


 「聞こえてるんでしょ、無視してるんじゃないわよ」


英玲奈(他の囚人もいるのか……)


 「ちょっと!!」


英玲奈「……何の用だ」

58: 2016/06/03(金) 19:15:04.33 ID:j6T0EZtm.net
   
     
 「見慣れない格好してるけど、アンタ余所者?」


英玲奈「答える理由がない」


 「暇なのよ。話相手になりなさい」


英玲奈「長旅の疲れが溜まっているんだ、少し寝させろ」


 「聞こえなかったの? 暇だから話相手になれって言ってるんだけど」

 「アンタが寝たら誰がにこと話するのよ、ねえ」


英玲奈(なんだコイツ……)

にこ「ちょっと! 無視するんじゃないわよ!」

英玲奈「……5分だけだぞ」

にこ「ふざけないで。にこの気が済むまでよ」

英玲奈「……お前、友達いないだろ」

にこ「なっ……」

61: 2016/06/03(金) 19:21:53.93 ID:j6T0EZtm.net
にこ「ああ、アンタに何が分かるってのよ!?」

英玲奈「お前が自己中心的な性格であることは分かったが……」

にこ「いけすかないヤツね……!」

英玲奈「その通りだ。だからもう話しかけてくるな」

にこ「そんなこと言って寝るつもりなんでしょ? そうはいかないんだから」

英玲奈(どうしてこう私の周りには面倒なヤツが集まって……)

にこ「で、アンタ。なんでこんなところにいるのよ」

にこ「ここは囚人の中でも極悪人が入る場所よ。外でなにしたの」

英玲奈「何もしていない。私は無実の罪で入れられただけだ」

にこ「嘘吐きなさい。無実の罪でこんな場所に入れられるわけないでしょ」

英玲奈「そういうお前はどうしてここにいるんだ」

にこ「にこ? にこはこの国の第二王女に呪いをかけたからぶち込まれたのよ」

英玲奈「呪い……? お前、魔法使いか」

にこ「ご名答。この国で一番の魔法使い。それがこの矢澤にこ様よ」

62: 2016/06/03(金) 19:30:36.90 ID:j6T0EZtm.net
英玲奈「この国で一番ね……」

にこ「なに? 疑ってるの?」

英玲奈「そんな優秀な魔法使いが人間に捕まるとは思えないんでな」

にこ「に、にこだって人間がこんなもの持ってるなんて知ってれば油断しなかったわよ!?」

英玲奈「ふっ、帝国製の対魔兵器か……しかも最新式……」

にこ「この首輪が無けりゃこんなとこ今すぐにでも出られるわ!」

英玲奈「魔力が無ければ魔女もただの人、か……」

にこ「……取引よ。この首輪を外してくれたらアンタを外に出してあげるわ」

にこ「だからにこに協力しなさい」

英玲奈「……魅力的な話だが、それを外す術を私は持ち合わせていない」

にこ「にこが得た情報によるとね、親衛軍兵長の部屋にこの首輪の鍵があるの」

にこ「それをアンタが何かしらの方法で盗み出して……」

英玲奈「それを盗める時点で私は外に出ているわけだが」

63: 2016/06/03(金) 19:34:27.32 ID:j6T0EZtm.net
にこ「……」

英玲奈「……」

英玲奈「お前が人間に捕まった理由が分かったよ……」

にこ「どういうことよ!!」

英玲奈「5分経った、私は寝る」

にこ「ちょ、ちょっと! 話はまだ終わってないわよ! 寝るな! こらっ!」

英玲奈(第二王女に呪い、か……)

英玲奈(この国の情勢に何か関わりがありそうだな……もう少し情報が欲しいが……)

にこ「無視するなーー!!」

英玲奈「少し寝てから考えよう……」

64: 2016/06/03(金) 19:49:08.45 ID:j6T0EZtm.net
         
――――――――――――――――――――――――――――――


―――ブォォォォ


あんじゅ「ふふ、やっぱいいなー。これ」

あんじゅ(ちょっと音が気になるけど、私は馬よりも断然こっち派♪)

あんじゅ(仕事にも使えそうだし、この素晴らしさをツバサや英玲奈にも知ってもらわないと)


 「……」


あんじゅ(このスピードならプランタンなんてすぐね。燃料の心配も……)


 「……」


あんじゅ「……?」

あんじゅ(こんな辺鄙な場所に女の子……?) 

あんじゅ(何か紙みたいなものを持ってる……何か書いてあるけど……)


 『のせてください』


あんじゅ「のせて……ください……?」

65: 2016/06/03(金) 19:53:55.88 ID:j6T0EZtm.net
   
     
 「あ、あの! 待って! 待ってください!」


あんじゅ(なんか喋ってる……)

あんじゅ(どうしよう、止まってあげた方がいいのかな)

あんじゅ(一見悪い人には見えないけど……むしろ可愛い女の子で……)


 「ま、待ってください! お話だけでも!」


あんじゅ(すごい走って来てる……めちゃくちゃ遅いけど……)


 「ま、待ってぇ……」


あんじゅ(ふふ、面白い子ね。お話だけでも聞いてあげようかしら)


 「はぁ……ぁ……」
 
 (もうダメ……追いつけな……)
 
 「!」

 「と、止まった……!」

66: 2016/06/03(金) 19:59:56.24 ID:j6T0EZtm.net
あんじゅ「こんばんわ。可憐なお嬢さん」


 「こ、こんばんわ!」


あんじゅ「どうしたの? 私に何か用?」


 「あ、あの……初めましてで、こんなこと、失礼、なんですけど……」


あんじゅ(よく見るとこの子本当に可愛い! お人形さんみたいで……!)


 「その、クルマ、乗せてください!!」


あんじゅ「うん、いいよ。どこまで行きたいの?」


 「へ!? い、いいんですか!?」


あんじゅ「いいよー。1人でドライブ寂しかったから、可愛い子が隣にいてくれたら素敵だわ♪」

68: 2016/06/03(金) 20:06:00.24 ID:j6T0EZtm.net
   
    
 「あ、ありがとうございます!!」

 「ほ、本当に……ぐず、ありがとう……ございますぅ……」


あんじゅ「あはは、大ピンチだったみたいね。お力になれて嬉しいわ」


 「わ、私、亜里沙って言います! よろしくお願いします!」


あんじゅ「私はあんじゅ。よろしくね亜里沙ちゃん♪」

あんじゅ「で、どこ行きたいの? お母さんのところ?」

亜里沙「ま、ママのところは、いいです……その、プランタンへ行きたくて……」

あんじゅ「あら、奇遇ね。私もプランタンに行くところだったの」

亜里沙「本当ですか!? ハラショー!」

あんじゅ「亜里沙ちゃんはどうしてプランタンに行きたいの?」

亜里沙「……コイビトのお見舞いです」

あんじゅ「え、すごい! 亜里沙ちゃん彼女いるんだ! やるー!」

亜里沙「えへへ……」

あんじゅ「お見舞いってことは……病気だったりするの?」

69: 2016/06/03(金) 20:08:56.41 ID:j6T0EZtm.net
亜里沙「はい……そうなんです……」

亜里沙「ずっと前から、治らなくて……」

あんじゅ「そうなんだ……」

亜里沙「でももう大丈夫です! 薬、作ってもらったから……これで、治ります!」

あんじゅ「そっか。彼女さん、早く良くしてあげないとね」

亜里沙「はい!」

あんじゅ「ちなみに、ここからプランタンってどれくらいかかるか知ってる?」

亜里沙「えっと、現在地はここで。国境はここだから……」

あんじゅ「うんうん」

亜里沙「3日くらいです!」

あんじゅ「……え」

72: 2016/06/03(金) 20:15:32.30 ID:j6T0EZtm.net
   
――――――――――――――――――――――――――――――

ツバサ「落ち着いた雰囲気の良い宿ね」

穂乃果「そうですね……」

ツバサ「穂乃果さんは落ち着かない?」

穂乃果「お恥ずかしながら、こういう場所に泊まった経験がなくて……」

ツバサ「ふふ、流石はプリンセスね。今度お城に招待されたいわ」

穂乃果「ぜひ。たくさんおもてなししますね」

ツバサ「楽しみにしているわ」

穂乃果「今からどうしますか?」

ツバサ「そうね……とりあえず夕食と入浴を済ませて、あとはのんびりでいいんじゃないかしら」

穂乃果「分かりました。じゃあ、お風呂の準備しときますね」

ツバサ「お願いするわ。私はその間に夕食を貰って来るわね」

ツバサ「食堂に行くのは落ち着かないだろうし」

穂乃果「すみません、気を遣ってもらって……」

73: 2016/06/03(金) 20:21:59.76 ID:j6T0EZtm.net
ツバサ「気にしなくていいのよ。私も人が多いところは苦手だから」

ツバサ「お風呂の準備が済んだら先に入っちゃってね」

穂乃果「ツバサさんは?」

ツバサ「私、入浴は食事の後がいいから。あとでゆっくり入るわ」

穂乃果「分かりました」

ツバサ「それじゃあ。また後で」



ツバサ「……さて、情報収集と行きましょうか」

ツバサ(あんな顔を見せられて……何もしないわけにはいかないわ)

ツバサ(そういえば英玲奈なにやってるんだろう……こういう時に居てくれたら助かるのに……)

ツバサ「まったく、困った子ね」

74: 2016/06/03(金) 20:27:57.48 ID:j6T0EZtm.net
   
――――――――――――――――――――――――――――――

海未「食事です」

英玲奈「兵長様直々の給仕とは、気遣い痛み入るな」

海未「……気は変わりましたか」

英玲奈「これでも頑固な性格なものでな」

海未「……」

英玲奈「姫は見つかったのか」

海未「囚人と交わす言葉などありません」

英玲奈「言葉を交わすうちに何か情報を吐くかもしれないぞ」

海未「……姫は以前、見つかっていません」

海未「ただ、各地に姫が行方不明になっているというニュースは行き届いています」

海未「見つかるのは時間の問題です」

英玲奈「なるほどな……」

76: 2016/06/03(金) 20:31:11.80 ID:j6T0EZtm.net
にこ「あのアホ娘、またいなくなったのね」

英玲奈「知り合いなのか?」

にこ「ただの顔見知りよ」

海未「……知らないうちに随分と仲良くなっているみたいですね」

にこ「ふざけんじゃないわよ。誰がこんなヤツと」

英玲奈「一方的に話しかけられているだけだ」

にこ「お姫様、婚姻まであと一週間なんでしょ? このまま見つからないとヤバいんじゃないの?」

海未「必ず見つけ出すので心配はご無用です」

にこ「私の魔法なら一発で見つけられるわよ」

海未「……」

英玲奈「そんなことも出来るのか……」

にこ「索敵魔法なんて初歩中の初歩よ」

77: 2016/06/03(金) 20:36:24.68 ID:j6T0EZtm.net
にこ「この首輪を取ってもらえればー? お安い御用なんだけどなー」

海未「そんな言葉、信用するとでも思っているのですか」

にこ「ぜーんぜん」

にこ「ただ、出られる可能性は1%でも上げておいた方がいいかなー、って」

海未「魔女の力を借りるくらいなら氏んだ方がマシです」

にこ「ふっ、酷い言われようね」

海未「そもそも貴女が呪いをかけさえしなければ、姫は……!」

にこ「今すぐ解いてあげるわよー? 首輪外してくれたら」

海未「それ以上減らず口を叩くなら、その首ごと跳ね飛ばします」ギロ

にこ「ふっ、やってみなさいよ。第二王女の首も飛ぶわよ」

海未「っ……!」

英玲奈「……第二王女の呪いとやらはそんなにも複雑なのか」

にこ「術者に危害が加われば相応の苦しみを与える。呪術の基本よ」

78: 2016/06/03(金) 20:42:15.18 ID:j6T0EZtm.net
英玲奈「どうしてそんな呪いをかけた?」

にこ「コイツらが私の住処を荒らしたからよ」

海未「あの森は公国の管理下にあるものです。そもそも貴女のものではありません」

にこ「私たちは代々あの森で暮らして来たの」

にこ「誰がなんと言おうとあの森は私たちのものよ」

海未「魔女風情が……何の権利があってそんなことを……」

にこ「隣の芝生はそんなにも青く見える?」

にこ「工業化のためにこの国の美しい土地を汚すなんて、人間も墜ちるとこまで墜ちたものね」

海未「高度に政治的な問題が絡んでいるのです」

海未「何も事情を知らない者が勝手な事を言わないでください」

にこ「知ってるわよ。知った上で言ってるの。バカで愚かで情けないってね」

海未「……」ギロ

英玲奈「はぁ……その辺にしておけ」

にこ「ふんっ」

79: 2016/06/03(金) 20:48:00.03 ID:j6T0EZtm.net
海未「……矢澤にこ。第二王女の呪いが解けたときが貴女の氏刑執行の日です」

海未「その日まで自分のした行いを懺悔することですね」



にこ「相変わらずの減らず口ね……」

英玲奈「随分と恨まれているみたいだな」

にこ「先に喧嘩売って来たのは向こうよ」

英玲奈「お前の住処を荒らした云々のことか?」

にこ「連中、私の森を焼き払って自動車工場を建てようとしたのよ」

英玲奈「自動車工場……」

にこ「私の森はプランタンとビビの国境にあるわ」

英玲奈「なるほどな、工場を建てるのにこれ以上打ってつけの場所は無いってことか」

にこ「で、何度追い返してもしつこいから第二王女に呪いをかけたのよ」

英玲奈「どんな呪いだ?」

にこ「植物人間になるだけの可愛いヤツよ」

にこ「一応顔見知りだからね、私だって手荒な真似はしたくないわ」

80: 2016/06/03(金) 20:51:51.42 ID:j6T0EZtm.net
英玲奈「……呪いを解く気はないのか」

にこ「連中が土下座して謝って二度と森に近付かないって誓ったら解いてやってもいいけど?」

英玲奈「ふっ、あり得ないだろうな……」

にこ「でしょうね。ま、せいぜい苦しむといいわ」

英玲奈(おおよその話の流れが見えて来たな)

英玲奈(ツバサも私も、この国の泥沼に腰まで浸かっているようだ……)

にこ「で、アンタ。私を助ける策は思い浮かんだわけ?」

英玲奈「そんなものを思いついていたらこんな場所にはいない」

にこ「たっく、使えないわね……」

英玲奈「その言葉、そのまま返させてもらうよ」

にこ「ふんっ」

83: 2016/06/03(金) 20:56:29.27 ID:j6T0EZtm.net
    
――――――――――――――――――――――――――――――
     
      
 『ニュースです。プランタン公国とビビ帝国の同盟条約の締結が一週間に迫りました』

 『両国首脳は2日後の会談で条約内容の最終調整を行いーーー』


あんじゅ「へえー、プランタンとビビって同盟になるんだね」

亜里沙「え……知らなかったんですか……?」

あんじゅ「うん。私この国の人間じゃないから」

亜里沙「ハラショー……」

あんじゅ「でもこの2つが同盟って何か意味あるの?」

あんじゅ「私のイメージだとプランタンって平和な農業国って感じで、ビビは軍事大国って感じだから」

あんじゅ「ぜんぜん相性良くないと思うんだけどなー」

亜里沙「今回の同盟はプランタンがビビに持ちかけた話なんです」

あんじゅ「へー、そうなんだー」

亜里沙「軍事力を持たないプランタンが軍事大国のビビと同盟を結ぶことで、戦火から自国を守ろうという考えです」

84: 2016/06/03(金) 20:59:19.05 ID:j6T0EZtm.net
あんじゅ「プランタンの周り最近落ち着かないもんね。よくドンパチやってるし」

亜里沙「プランタンは農業国で豊かな土地を持っているため、他国から狙われやすいっていう背景もありますね……」

あんじゅ「同盟ってさ、プランタン的には万々歳だけどビビにはメリットあるの?」

亜里沙「食料物資の安定補給などもありますが、一番は自動車の輸出ですね」

あんじゅ「自動車?」

亜里沙「自動車はビビが開発した最先端科学の粋です」

亜里沙「それを他国に輸出することは自国の莫大な利益に繋がります」

あんじゅ「あ、そっか。場所的にビビが物運ぶにはプランタンを経由した方が便利だもんね」

亜里沙「そうなんです。この先、ビビが勢力を拡大するにはプランタンが必須というわけなんです」

あんじゅ「じゃあお互いにウィンウィンな同盟なんだね」

85: 2016/06/03(金) 21:05:01.65 ID:j6T0EZtm.net
亜里沙「ただ、仰っていたとおりプランタンとビビは真逆の文化を持っているため、同盟に反対する声も小さくはないんです……」

あんじゅ「あー、確かに。みんなプランタンの田舎な感じが良いって言ってるもんね」

あんじゅ「そこにビビの都会的な物が溢れると、風流がなくなっちゃうかも……」

亜里沙「ビビとしては物の交易が増えて良いことずくめなんですが……」

あんじゅ「うーん、でもしょうがないと思うけどなぁ」

あんじゅ「お国柄が大切なのは分かるけど、攻め込まれたらそれどころじゃなくなっちゃうんだし」

亜里沙「プランタンを守るための同盟にも関わらず……」

亜里沙「ビビがプランタンを侵略するために話を持ちかけた、なんて噂も出ていて……」

あんじゅ「おっかないね……」

亜里沙「そう言った悪い噂を払拭するためにも、交友の証として両国の王女の結婚が必要不可欠なんです」

あんじゅ「同盟と言えばお偉いさん同士の結婚がしきたりだしね」

あんじゅ「でも私だったら嫌かな、好きでもない人と結婚するなんて」

亜里沙「!」

あんじゅ「それに他に好きな人がいたら地獄よね……国のためとはいえ、悲し過ぎるよ……」

亜里沙「……」

86: 2016/06/03(金) 21:11:18.38 ID:j6T0EZtm.net
あんじゅ「亜里沙ちゃん?」

亜里沙「へ? あ、ご、ごめんなさい……少し、ぼーっとしちゃって……」

あんじゅ「にしても亜里沙ちゃん政治に詳しいんだね。まだ14歳なのにすごいよ」

亜里沙「しゃ、社会は得意なんです……」

あんじゅ「私も見習わないとね」

あんじゅ(でも、そういうのは英玲奈の役割だし、別にいっか)

あんじゅ「もう良い時間だし、どこかホテル探そっか」

あんじゅ「流石に車の中で寝るのは嫌だし」

亜里沙「あ……ご、ごめんなさい。私、お金少ししか持って来て無くて……」

あんじゅ「いいよ、気にしないで。私が出してあげるから」

亜里沙「でも……」

あんじゅ「色々教えてくれたお礼♪。だから、ね?」

亜里沙「っ……」

亜里沙「ありがとうございます!」

87: 2016/06/03(金) 21:14:07.39 ID:j6T0EZtm.net
  
――――――――――――――――――――――――――――――

ツバサ(おおよその流れは掴めたわね……)

ツバサ(公国と帝国の同盟、両国王女の政略結婚)

ツバサ(穂乃果さんの抱えているものが少しは見えて来た)

ツバサ「……ま、事情を知ったからと言って、何かするわけでもないんだけどね」

ツバサ「全ては彼女の御心のままに……」


―――ザァァァ


ツバサ(まだお風呂に入っていたのね、随分長風呂だけど……)

ツバサ(いや、たぶんお風呂を沸かすのに時間がかかっただけね)

ツバサ(ふふ、可愛いお姫様……本当に何も知らないのね)

ツバサ(いろんなことを教えてあげたくなっちゃう……)


―――ザァァァ


ツバサ「私もお風呂入ろうっと♪」

89: 2016/06/03(金) 21:28:56.41 ID:j6T0EZtm.net
    
  
―――ザァァァ


穂乃果「……」

穂乃果(いつまでもこんなことしてちゃダメだよね……)

穂乃果(私のわがままのせいで、海未ちゃんやみんなに迷惑かけて……)


 『いいですか、姫。貴族はみな生まれながらにして使命を負うのです』

 『それは国を守り、民を幸福にすることであって……』

 
穂乃果「……私、お姫様だもんね」

穂乃果「この国に暮らしている人たちのためにも……頑張らないとだよね」

穂乃果「頑張らないと……」


―――ガチャ


穂乃果「へ?」

ツバサ「湯加減はどう? 穂乃果さん」

穂乃果「ふぇええ!!?」

91: 2016/06/03(金) 21:32:28.35 ID:j6T0EZtm.net
ツバサ「あら、以外と広いのね。これなら2人入れそう」

穂乃果「なな、ななな……!」

ツバサ「大丈夫? 顔真っ赤になってるけど、少しのぼせているんじゃ……」

穂乃果「なにしてるんですかツバサさん!?」

ツバサ「お風呂に入ろうと思って」

穂乃果「あ、あの、すぐ上がるので、もう少しだけ待って頂けたら……」

ツバサ「背中、流してあげるわ。ほら、座って?」

穂乃果「だ、ダメです……こんなの、破廉恥です……」

ツバサ「どうしてそんなにも初々しいのかしら……」

ツバサ「お姫様ってメイドさんに身体洗ってもらうって聞いたけど……」

穂乃果「自分で洗ってます!」

ツバサ「そうなんだ。じゃあ今日は私が洗ってあげるわね」

穂乃果「つ、ツバサさん……」

92: 2016/06/03(金) 21:38:02.30 ID:j6T0EZtm.net
ツバサ「私と一緒は嫌?」

穂乃果「嫌では、ないですけど……」

穂乃果「恥ずかしいです……」

ツバサ(なにこれ襲ってもいいのかしら)

ツバサ「本当に嫌なら出て行くけど……」

穂乃果「っ……」

穂乃果「だ、大丈夫です……」

穂乃果「私、妹ともお風呂入ったことあるから……その、大丈夫です」

ツバサ「そう? じゃあお言葉に甘えて♪」

穂乃果「ただ、恥ずかしいので……あんまり見ないでもらえると嬉しいです……」

ツバサ「分かったわ。出来るだけ目を瞑っておくわね」

穂乃果「お願いします……」

93: 2016/06/03(金) 21:43:43.49 ID:j6T0EZtm.net
   
   
―――ザァァァ


ツバサ「……」

穂乃果「……」

ツバサ「力加減はどう穂乃果さん? 痛くない?」

穂乃果「大丈夫です……すごく、気持ち良いです……」

ツバサ「そう。なら良かったわ」

穂乃果(他人に身体を洗ってもらうなんて、本当に久しぶりだ……)

穂乃果(懐かしい感じがする……)

ツバサ(……綺麗な身体ね。細くて、真っ白で)

ツバサ(この小さな背中に一国を背負わせるなんて……)

穂乃果(気持ち良い……)

94: 2016/06/03(金) 21:49:34.48 ID:j6T0EZtm.net
ツバサ「穂乃果さん、少し腕をあげて?」

穂乃果「腕?」

ツバサ「脇を開く感じで」

穂乃果「えっと、こんな感じですか……?」

ツバサ「ええ、そんな感じね」ズリュ

穂乃果「ひゃああ!?」

ツバサ「脇を締められると洗えないわ」

穂乃果「そそ、そこは洗わなくていいです! 自分で出来ますから!」

ツバサ「そう? じゃあ次は……」

穂乃果「つ、ツバサさん……?」

ツバサ(もう少しイタズラしたかったんだけど、そんな顔されると弱るわね)

ツバサ「冗談よ。次は穂乃果さん、お願いできる?」

95: 2016/06/03(金) 21:56:47.05 ID:j6T0EZtm.net
穂乃果「え……? いいんですか……?」

ツバサ「誰かに素肌を触らせるのは初めてだから、優しくしてね」

穂乃果「分かりました……えっと、失礼、します……」

ツバサ「っ……」

穂乃果(今、びくってした……)

ツバサ(ほ、本当にくすぐったいのね、これ)

穂乃果(ツバサさんの肌、すごく綺麗……)

穂乃果(華奢だな……抱きしめたら折れちゃいそう……)

ツバサ(うん、気持ち良い……悪くないわね、これ……)


穂乃果「……」

ツバサ「……」


穂乃果(雪穂の身体を洗っていたときも、こんな感じだったな……)

穂乃果(懐かしい……いろんなことを思い出して……)

96: 2016/06/03(金) 22:00:13.00 ID:j6T0EZtm.net
ツバサ「……?」

穂乃果「……」

ツバサ「穂乃果さん、どうかしたの?」

ツバサ「手が止まって……」


ツバサ「……」


穂乃果「え……?」


ツバサ「……」

穂乃果「あ……ご、ごめんなさい……!」

穂乃果「なんか、そのっ……妹のこと、思い出しちゃって……」

穂乃果「きゅ、急に泣き出しておかしいですよね! 本当に、ごめんなさ……」


ギュウ…


穂乃果「……」

97: 2016/06/03(金) 22:02:59.28 ID:j6T0EZtm.net
ツバサ「ごめんなさい。辛いことを思い出させて」

穂乃果「ツバサさんは……何も悪くないです……」

穂乃果「私が……勝手に泣いているだけで……」

ツバサ「……妹さんの話。少しだけど噂で聞いたわ」

ツバサ「魔女に呪いをかけられて、眠りから覚めないって……」

穂乃果「私が悪いんです。私を庇ったから、雪穂は……」

ツバサ「……」

穂乃果「もうすぐ、結婚も控えてたのに……」

穂乃果「それなのに、私のせいで……」

ツバサ「妹さんは自分の意思で貴女を守ったのよ」

ツバサ「穂乃果さんは何も悪くないわ」

穂乃果「ひぐっ……ぐず……」

ツバサ(あなたはいろんなものを背負って生きているのね……)

ツバサ(帝国王女との婚姻も、きっと……)

穂乃果「うっ……うぅ……」

ツバサ「…………」

98: 2016/06/03(金) 22:07:45.28 ID:j6T0EZtm.net
  
――――――――――――――――――――――――――――――

ツバサ「タオル、持って来たわ。渇かさないと風邪を引くわよ」

穂乃果「ありがとうございます……」

ツバサ「……」

穂乃果「……さっきはすみません。取り乱してしまって」

ツバサ「気にしないで。女の子だもん、涙の一つくらい流さないと保たないわ」

穂乃果「……」

ツバサ「……公国と帝国の政略結婚は、本来なら第二王女同士の話だったのね」

穂乃果「政略結婚なんかじゃないです……2人は互いに愛し合っていました」

穂乃果「幸せな結婚式になるはずでした」

穂乃果「でも、魔女の呪いのせいで雪穂は……」

ツバサ「……第二王女が目覚めぬ以上、婚儀は不可能」

ツバサ「迫る同盟条約の締結をずらせるはずもなく、第二王女がいつ目覚めるか分からない今……」

ツバサ「婚儀は第一王女同士のものになった」

穂乃果「……もうそこまで知っているんですね」

ツバサ「国民にとっても大きな出来事なんでしょう、嫌でも耳に入って来たわ」

99: 2016/06/03(金) 22:12:15.57 ID:j6T0EZtm.net
ツバサ「城から逃げ出したのは……結婚が嫌だったから?」

穂乃果「結婚のことは……もういいんです」

穂乃果「そこから逃げ出したら、いろんな人を不幸にしちゃうから……」

ツバサ「……自分の幸せは考えないの?」

穂乃果「みんなを幸せにするのが私の使命だから」

ツバサ「……」

穂乃果「……私、旅人になるのが夢だったんです」

穂乃果「いろんな国を回って、いろんなものを見て……たくさんの人と出会って、お話をして……」

穂乃果「旅をする中で素敵な人と出会って、恋をして……一緒に美味しいものを食べて、たくさん笑って……」

ツバサ「……」

穂乃果「でも私はお姫様で……もうすぐお城の中から出られなくなるから……」

穂乃果「だからその前に、ほんの一瞬だけでもいいから夢を叶えたかったんです」

ツバサ「……」

穂乃果「ツバサさんには本当に感謝しています」

穂乃果「もしあのとき助けてくれていなかったら……私は……」

100: 2016/06/03(金) 22:20:13.87 ID:j6T0EZtm.net
ツバサ「……初めてね」

穂乃果「え……?」

ツバサ「今初めて……あなたの本心が聞けた気がするわ」

ツバサ「プランタン公国第一王女としてでは無く、1人の少女としての本心を」

穂乃果「……」

ツバサ「穂乃果さん、私ならあなたに見せてあげられるわ」

ツバサ「あなたの知らない、あなたが知りたい世界の景色を」

穂乃果「ツバサさん……」

ツバサ「私と一緒に来て」

ツバサ「私ならきっと……あなたの夢を叶えられるから」

101: 2016/06/03(金) 22:24:22.30 ID:j6T0EZtm.net
穂乃果(そんなこと、あり得ない)

穂乃果(絶対に無理に決まってる)


ツバサ「手を取って、穂乃果さん」


穂乃果(それなのに……どうしてだろう?)

穂乃果(ツバサさんの目を見ていると)

穂乃果(もしかしたら、って思ってしまう)


ツバサ「私を信じて」


穂乃果(この人なら……私を……)

穂乃果(小さな世界から……救い出して……)



 「動くな!!」


穂乃果「!?」

ツバサ「……」

102: 2016/06/03(金) 22:31:11.78 ID:j6T0EZtm.net
   
  
 「兵長! 姫がいました!」

 「賊と思われるものも一緒です!」


海未「姫の保護を最優先に。賊への警戒を怠らないでください」

穂乃果「海未ちゃん……」

海未「探しましたよ姫……さあ、帰りましょう」

穂乃果「っ……」

海未「姫……?」

ツバサ「女性の部屋にノックもせずに入るなんて、騎士様はマナーがなっていないのね」

海未「……やはり貴女でしたか。姫を攫っていたのは」

ツバサ「攫うだなんて人聞きが悪いわ。デートしていただけよ」

海未「黙りなさい。一国の主に対してこのような蛮行……ただで済むと思わないことです」チャキ…

穂乃果「や、やめて海未ちゃん! ツバサさんは何も悪くないの!」

海未「な……」

穂乃果「だから剣をおろして! みんなも!」

103: 2016/06/03(金) 22:39:18.58 ID:j6T0EZtm.net
ツバサ「お姫様はこう言ってるけど、どうする? 騎士さん」

海未「……姫に何をしたのです?」

ツバサ「背中を洗ってあげただけよ」

穂乃果「海未ちゃん、お願い……お城には帰るから、ツバサさんには酷いことしないで……」


 「姫様……」

 「どうしてそのような者の肩を持って……」


海未「……洗脳術かもしれません」

海未「全員気を付けてください。魔術の心得があるかもしれません」

ツバサ「ふっ……洗脳ね……」

海未「何がおかしいのです?」

ツバサ「穂乃果さんのこと何も分かってないようだから、滑稽に思えてね」

104: 2016/06/03(金) 22:44:44.02 ID:j6T0EZtm.net
海未「貴女に姫の何が分かると言うのです……?」

ツバサ「夢なら聞かせてもらえたわよ?」

ツバサ「あなたたちの誰も知らないだろう、とっても素敵な夢をね!」シュッ

海未「!」

海未「全員伏せて!」


―――ドォォォン!!


海未(くっ……! 前が……!)


ツバサ「穂乃果さん、ちょっと怖いだろうけど我慢してね」

穂乃果「きゃっ……!?」

ツバサ「流石お姫様ね、めちゃくちゃ軽い……ちゃんと食べてるのか心配になるわ」

穂乃果「ツバサさん!? なな、なにを……!?」

ツバサ「安心して。逃げるのは本職だから♪」

106: 2016/06/03(金) 22:49:12.91 ID:j6T0EZtm.net
 
 
―――パリーン


 「窓から逃げたわ!」

 「追え! 絶対に逃がすな!!」


海未「姫の安全が第一です! 銃は使用しないでください!」

海未(賊め……!)



ツバサ「~♪」

穂乃果「わ、わわわ……!!」

ツバサ「さーてどこまで逃げようかしら。穂乃果さんどこに行きたい?」

穂乃果「絶対に逃げられるわけありません!」

穂乃果「私を置いてツバサさんだけでも逃げてください!?」

ツバサ「そんなことするなら氏んだ方がマシよ」

穂乃果「でも……!」

107: 2016/06/03(金) 22:53:26.44 ID:j6T0EZtm.net
  
  
 「居たぞ!」

 「追えー! 逃がすなー!」


ツバサ「流石に近衛兵だけあって動きが良いわね、もう追いついて来るなんて」

穂乃果「ツバサさん、ダメです……」

穂乃果「これ以上逃げたら、本当に逆賊にされて……」

ツバサ「私からすれば連中のがよっぽど逆賊なんだけど……そんなこと言ってる場合じゃないのよね」

穂乃果「おろしてください……今なら私が話を付けられます、だから……」

ツバサ「それがあなたの望みなの?」

穂乃果「っ……」

ツバサ「夢を諦めて、好きでもない人と結婚して」

ツバサ「狭いお城の中、一生国のために生きて行くのがあなたの望み?」

穂乃果「それは……」

108: 2016/06/03(金) 22:56:31.87 ID:j6T0EZtm.net
ツバサ「そんな顔をしているうちは、とてもじゃないけど離してあげられないわ」

穂乃果「……」


―――ザッ


ツバサ「!」


海未「シッ!!」


ツバサ「っぶな……!?」

海未(躱された……!?)


ツバサ(ここに彼女がいるってことは……どうやら囲まれたようね……)

海未(あの距離からの私の斬撃を躱すなんて……)

海未(この賊……一体何者で……)

109: 2016/06/03(金) 23:02:33.02 ID:j6T0EZtm.net
穂乃果「だだ、大丈夫ですかツバサさん!?」

ツバサ「大丈夫。前髪が少し短くなったくらいよ、心配しないで」

ツバサ(……囲まれているわね)

穂乃果(もうこれ以上は……)

ツバサ「穂乃果さん、危ないから下がってて」

穂乃果「まさか……戦うつもりなんですか……!?」

ツバサ「あんまり得意じゃないんだけどね」

穂乃果「無理です! 勝てるわけありません!」

ツバサ「あはは、随分と信頼されてないのね」

海未「私たちは親衛軍の中でも選りすぐりの精鋭です」

海未「それをこの人数相手に賊ごときが太刀打ち出来ると思いますか?」

ツバサ「さあ、やってみないと分からないんじゃない?」

海未「愚か者め……姫を誑かした罪、氏で償ってもらいます!」

110: 2016/06/03(金) 23:05:37.84 ID:j6T0EZtm.net
ツバサ(前に1人……右から1人……後ろから2人か……)
 

 「やあああ!!」
 

ツバサ(まずは前から突っ込んでくるのを右に受け流してっと……)

 
 「なっ……!?」

 「ちょっ……!?」


ツバサ(交通渋滞が起こって2人はそれで終わり)


 「「はう!!?」」ガツーン


海未「な、何をしているんですか! 早く仕留めなさい!」


 「おのれええ!!」

 「うおおおお!!」

111: 2016/06/03(金) 23:11:38.41 ID:j6T0EZtm.net
ツバサ「あなたたち2人は隙だらけね」


 「ッ……!?」


ツバサ「そんな大振りじゃ当たるものも当たらないわよ?」


 「貴様ぁ!!」ブォン

 「はうっ!?」

 「しまっ……!」


ツバサ(挑発に乗って同士討ち……周りが見えて無さ過ぎね……)ガシュ


 「なへえ!?」


海未「な……」

穂乃果「すごい……もう4人やっつけちゃった……」

ツバサ「親衛軍の精鋭さんたちがこれって、穂乃果さんの身が心配になるんだけど……」

海未「姫の前でなんたる醜態を……」

ツバサ「あなたもこの調子だったら本気で穂乃果さんを攫うことになりそうね」スチャ…

海未「ご心配なく。他の者とは鍛え方が違いますので」チャキ…

穂乃果「ふ、2人とも……」

112: 2016/06/03(金) 23:15:43.52 ID:j6T0EZtm.net
ツバサ(流石に兵長なだけあって威圧感があるわね……)

海未(赤子の手を捻るように、近衛兵4人を容易く屠った……)

海未(この賊、やはりただ者ではない)

ツバサ「この勝負で勝った方がお姫様を頂く、それでいいかしら?」

海未「姫は誰のものでもありません。ふざけたことを言うのも大概にしなさい」

ツバサ「連れないわね……美人なのに頭は固そうだし、英玲奈にそっくりだわ」

海未「英玲奈……そういえばあの賊は貴女の仲間らしいですね」

ツバサ「あら、英玲奈を知ってるの?」

海未「ええ、馬車で一緒になったところを拘束させてもらいました」

海未「姫を攫った者の仲間ですからね」

ツバサ「っちゃー……それは普通に申し訳ないわね。あとで謝らなくちゃ」

海未「同じ牢に入れてあげますのですぐに会えますよ……」

海未「生きていればの話ですがッ!!」

ツバサ「!」

113: 2016/06/03(金) 23:20:33.27 ID:j6T0EZtm.net
海未「シッ!!」

ツバサ「っつ……!!」

ツバサ(速い……)

ツバサ(不意打ちとは言え躱せないなんて……)

海未「やああ!!」

ツバサ(まともに喰らったら氏ぬわね、これ)

ツバサ(流石に兵長は伊達じゃない、か……)



穂乃果「だ、ダメだよ……2人とも……危ないよ……」

穂乃果「こんなのって……」

115: 2016/06/03(金) 23:28:13.16 ID:j6T0EZtm.net
海未「はぁ!!」

ツバサ「っと」

海未「……」

ツバサ「流石にやるわね、兵長さん」

ツバサ「さっきの4人とはレベルが違うわ」

海未「……随分と舐められたものですね」

ツバサ「……なんのことかしら」

海未「貴女の獲物は銃ですが……急所に向かってまだ一発も撃たれていません」

ツバサ(あはは、本当にすごいわねこの子)

海未「気付かないとでも思っているのですか……?」

ツバサ「別に手を抜いているわけじゃないわ。頃しは趣味じゃないってだけよ」

海未「ふざけたことを!!」

ツバサ(でも流石にこのままじゃキリが無いわ)

ツバサ(スタミナは向こうの方が上だろうし、そろそろ勝負を決めないとヤバそうね)

116: 2016/06/03(金) 23:32:34.19 ID:j6T0EZtm.net
ツバサ(あんじゅから教えてもらったアレ、やってみようかしら)

ツバサ(才能ナシって言われてるからまず出来ないと思うけど……)

ツバサ「……土壇場で決めるのが私なのよね」クス


パチチ…


海未「!」

海未(この感じ……魔力……!?)

ツバサ「はぁ!」

海未「ぐっっ!!」

海未(しまっ……)


ツバサ「チェックメイトよ」スチャ


穂乃果「!」

117: 2016/06/03(金) 23:39:09.35 ID:j6T0EZtm.net
ツバサ(足に二、三発撃って動けなく……)


穂乃果「ダメ! 海未ちゃんを殺さないで!!」ガッ


ツバサ「なっ……!?」

海未「!」

ツバサ(やば……!?)

海未「シッ!!」


―――ザシュッ!!


ツバサ「ッ……!?」


穂乃果「え……?」


海未「セァ!!」

ツバサ「がっ……」

118: 2016/06/03(金) 23:46:16.16 ID:j6T0EZtm.net
海未「はぁ……はぁ……」


ツバサ「ぅ……ぁ……」


穂乃果「ツバサ、さん……?」

ツバサ「ごほっ……ごほっ……!!」

穂乃果「嘘、嘘だよ……こんなのって……」

海未「……姫、離れてください」

穂乃果「いや、嫌だよ……氏んじゃ嫌……」

穂乃果「ツバサさん……ツバサさん……」

ツバサ「大丈夫よ……穂乃果さん……心配しないで……」

穂乃果「ツバサさん!!」

海未「……」スチャ…

穂乃果「ダメ! これ以上ツバサさんに酷いことしないで!」

穂乃果「ツバサさんを頃したら私も氏ぬから!」

120: 2016/06/03(金) 23:50:01.86 ID:j6T0EZtm.net
海未(穂乃果……)

ツバサ「はぁ……ぁ……」

穂乃果「ああ……血が、こんなにも……」

穂乃果「はやく、止めなきゃ……」

穂乃果「出ないで……お願い、お願いだから……」

海未「……」

穂乃果「海未ちゃん、ツバサさんを助けて……?」

穂乃果「ツバサさんは、とても大事な人なの……だから、だから……!」

海未「……申し訳ありません」

穂乃果「え……?」


―――トス


穂乃果「ぁ……」

121: 2016/06/03(金) 23:57:16.20 ID:j6T0EZtm.net
海未「……」

ツバサ「プリセンスの扱いが……なっていないんじゃないかしら……」

海未「……まだ喋れるのですね」

ツバサ「おかげさまでね……」

海未「……姫の言葉に免じて、貴女の命は取りません」

海未「婚儀が終わった後、友人も解放してあげます」

ツバサ「……」

海未「だから……二度と私たちの前に現れないでください」


海未「貴女の存在は……姫を……穂乃果を不幸にするだけです」


ツバサ「あなたたちは……彼女を幸せに……出来るというの……?」

海未「……1人の奴隷の話をしましょう」

122: 2016/06/04(土) 00:02:09.67 ID:+QL4cFwg.net
海未「この奴隷は主の館以外に一歩も外に出ることを許されていません」

海未「氏ぬまで館の中、鎖に繋がれ奉仕する運命にあります」

海未「つまりこの奴隷にとっての世界の全ては館の中です」

海未「この奴隷を束の間の時間でも館の外に出してあげることを……貴女は善行だと思いますか?」

ツバサ「……」

海未「私は善行だとは思いません」

海未「むしろ吐き気を催すほどに残酷な行為だと思います」

海未「この奴隷は外の世界を知らなければ……世界とは館の中だけであると思ったまま、氏ぬ事が出来たからです」

ツバサ「……詭弁だわ」

海未「それは貴女が広大な世界を知っているからこその言葉です」

123: 2016/06/04(土) 00:09:48.35 ID:+QL4cFwg.net
海未「私たちは穂乃果の望みを叶えることは出来ません……」

海未「ただ、幸せにすることなら出来ます」

海未「いや、してみせます。この命に代えても……必ず」

ツバサ「……」

海未「もう一度だけ言います」


海未「二度と穂乃果の前に現れないでください」

海未「貴女の存在は穂乃果を不幸にするだけです」

海未「もし、もう一度穂乃果の前に姿を現そうものなら……」


―――ザンッ!!


海未「今度こそ命は無いと思いなさい」

124: 2016/06/04(土) 00:15:58.57 ID:+QL4cFwg.net
  
――――――――――――――――――――――――――――――


―――ザァァァ


ツバサ「……」


―――ザァァァ


 『―――私、旅人になるのが夢だったんです』

 『―――この奴隷を束の間の時間でも館の外に出してあげることを……貴女は善行だと思いますか?』

 『―――いろんな国を回って、いろんなものを見て……たくさんの人と出会って、お話をして……』

 『―――この奴隷は外の世界を知らなければ……世界とは館の中だけであると思ったまま、氏ぬ事が出来たからです」

 『―――旅をする中で素敵な人と出会って、恋をして……一緒に美味しいものを食べて、たくさん笑って……』

 
 『―――今度こそ命は無いと思いなさい』


ツバサ「……」


―――ザァァァ

   

125: 2016/06/04(土) 00:21:00.25 ID:+QL4cFwg.net
    
――――――――――――――――――――――――――――――

ツバサ「ん、んぅ……」

ツバサ(ここは……どこ……?) 

ツバサ(私は一体……何をして……)


 「!」


ツバサ「……」


 「あ、あの! 聞こえますか!? 大丈夫ですか!?」


ツバサ(誰かしら、この人……)
 
ツバサ(人、なのかしら……天使に見えるけど……)


 「良かった……生きてた……」


ツバサ「あなたは……だれ……?」


 「私はことり……」


ことり「南ことりです」


前編 終わり

126: 2016/06/04(土) 00:22:14.61 ID:+QL4cFwg.net
書き溜めなくなったので終了です
続きは一文字も書いてないです
気が向いたら書きます

ありがとうございました

127: 2016/06/04(土) 00:23:57.95 ID:mTa70Ka8.net

面白かったよ
それにしても続きが気になる

128: 2016/06/04(土) 00:24:20.22 ID:2XMS9r7U.net

出てないのは一年生と希?

引用: ツバサ「ここがプランタン公国……」