1: 2010/03/20(土) 16:10:20.66 ID:K4wQQqA0


最初から読む:【禁書×DMC】ダンテ「学園都市か」

前回:【禁書×DMC】ダンテ「学園都市か」【その06】

一覧:ダンテ「学園都市か」シリーズ

「デビルメイクライ」シリーズと「とある魔術の禁書目録」のクロスです。

現在は外伝を投下中。

ARTFX J デビル メイ クライ 5 ダンテ 1/8スケール PVC製 塗装済み完成品フィギュア

4: 2010/03/20(土) 20:11:46.33 ID:K4wQQqA0

―――

ダンテは再び屋上にいた。

ケルベロスが匂いで関係者を探すとはいえ、この魔狼が知っている者など極一部だ。

アレイスターの後に一方通行の所にも行ったが、
「知らねェ!さッさと失せやがれ!また厄介事に巻き込まれるのはゴメンだ!」とのことだ。

ダンテ「あ~、参ったぜ」

ケルベロス『…』

ダンテ「どうすっかな」
その時だった。
離れた場所で巨大な爆炎が立て続けに上がった。

ダンテ「へえ…ここって案外楽しいところかもな…」

ケルベロス『どうするのだ?』

ダンテ「ハッ!決まってんじゃねえか!人探しは中断だ!とりあえずアレ見に行こうぜ!」

―――

5: 2010/03/20(土) 20:19:38.86 ID:K4wQQqA0
―――


天井が大きく崩れた地下駐車場。
瓦礫の中に絹旗最愛はいた。
全身が傷だらけだ。

周囲には彼女とステファニーという名の頃し屋との戦いによって戦闘によって生じた炎。

絹旗の正面にはドレスを着た少女が立っていた。
彼女もまた絹旗と同じく学園都市の暗部の者だ。

このドレスの少女が有する能力は『心理定規』。

対象の心理を読み取り、「他人に対して置いている心理的な距離」を自由に操作できるのだ。
それで敵意を削いだり、逆に猛烈な殺意を抱かせることもできるという危険極まりない能力だ。

そしてその二人の周囲をドレスの少女に率いられている特殊部隊が囲んでいた。
その兵士達は皆銃口を絹旗に向けている。

絹旗「…超追わないんですか浜面を?超逃げちまいますよ」

ドレス「別働隊が動いてるから問題ないわよ。ま、すぐに処分できるわね」

浜面仕上。絹旗の仲間だ。今あの男はもう一人の仲間、滝壺と共に逃げている。

絹旗「…!!絶対に…!そんな事超させません!!」

ドレス「やめといた方がいいわよ。拘束しろって命だけど、抵抗したら頃しても構わないって言われるからね」

6: 2010/03/20(土) 20:24:23.85 ID:K4wQQqA0
絹旗「…!!」
絹旗は周囲の窒素を集める。

彼女の力は『窒素装甲』。
体から数センチの範囲の窒素を自在に操ることができる。
範囲は非常に狭いものの、それで銃弾を防いだり自動車を片手で持ち上げたりもできる強力な能力だ。

ドレス「やめとけってば」

ドレスの少女が絹旗の心の距離を操作する。

絹旗「…くッ!」
今や、絹旗にとってドレスの少女や周囲の特殊部隊は家族同然の存在になってしまった。
頭ではわかっているのに体が攻撃することを拒否する。

ドレス「おとなしく掴まって。ね♪」


「あ?もしかしてもうお開きか?」


突如聞こえた声。
皆が一斉にその方向を振り向く。

20m程離れた場所の瓦礫の上に、赤いコートを着た銀髪の大男がだらしなく座っていた。

特殊部隊の者達がその第三者へ銃口を向けた。

7: 2010/03/20(土) 20:29:19.19 ID:K4wQQqA0
ドレス「…あなた誰?」

ダンテ「気にすんな、ただの通りすがりだぜ。構わずドンパチやってくれ」
手を広げ薄ら笑いを浮かべながら緊張感無く言葉を返す。

絹旗「…(一般人では…超無いですね…)」
あの男は十を越える銃口を向けられても一切動じていない。

ドレス「そう」

ドレスの女が軽く手を振った。
それと同時に特殊部隊の銃口が鳴り響く。
耳をつんざく銃声の合唱と共に、大量の銃弾が男を蜂の巣にする。

だが。

ドレス「…うそ…?」

8: 2010/03/20(土) 20:31:49.52 ID:K4wQQqA0
絹旗「!!?」

男の体から血しぶきが上がり、ドングリ大の穴が体中に空く。

それなのに。

ダンテ「おいおい容赦ねえな」

男は先と変わらず平然と座っていた。
そして体中の穴が瞬く間に塞がっていく。

銃弾を能力等で防ぐのならわかる。

だがこの目の前の男は異常だった。

銃弾が体を引き裂いたのにも関らず氏んでいない。

9: 2010/03/20(土) 20:37:00.13 ID:K4wQQqA0
ドレス「チッ!!」

動揺している隊員を下がらせ、ドレスの女はこの男の情報を得るために心理を読み取ろうとする。
彼女の力は記憶などを読むことはできないが、名前や所属等簡単な情報は読み取れる。

ドレス「―――痛ッ!!」
だが予想外の事が起こった。あの男の心理を読み取ろうとした途端、急に頭痛が襲ってきたのである。
どす黒い何かが凄まじい勢いで彼女の頭へ流れ込んできた。

ドレス「…!」
すぐに接続を切る。

ダンテ「へえ」

男も気付いたようだった。

ダンテ「そういう力か。やめた方いいぜお嬢ちゃん」

半人半魔、人間が混ざっているとはいえ、根本的に精神の構造もその力も全く別物だ。
古来から悪魔の念は多くの人間達を簡単に惑わしてきた。
そんな物を直に開いて見てしまうと人間程度では精神崩壊しかねない。

しかもこのダンテはその悪魔の中でも桁違いの存在だ。

それに例え心理操作に成功したとしても、必要があれば家族すら頃す覚悟があるダンテには効くはずも無いが。

10: 2010/03/20(土) 20:43:48.52 ID:K4wQQqA0
ドレス「…ッ!こうなったら!」

絹旗「…え?」

ドレスの少女が絹旗の心理を操作する。あの男に強烈な殺意を持つように。

絹旗「…あッ…ぐ!」

ドレス「あんたが戦うのよ!頃しなさい!」

ダンテ「随分とえげつねえなそれ」

絹旗が男の方へ向き、拳を強く握りながら歩いていく。
あの男には別に恨みも無い。

だが、強烈な怒りと殺意が彼女の心を圧迫する。

絹旗「…く…ぁぁああああああ!!!」

地面を蹴り突進する。
圧縮した窒素を纏った右の拳を振り上げ、

そして男の顔面へ叩き込んだ。

鋼鉄の隔壁さえ大きくへこむ程の拳がダンテの顔面へ直撃する。

11: 2010/03/20(土) 20:48:26.36 ID:K4wQQqA0
だが男は微動だにしなかった。

ダンテ「見かけによらず良いパンチ持ってるじゃねえか」
拳の下で不気味な笑み。

絹旗「!」
その強烈な威圧感で彼女の背中がざわつく。
絹旗は咄嗟に10m程後方へ飛ぶ。

ダンテ「(さーて…どうすっかな)」
ゆっくりと立ち上がる。頃すなら簡単だ。少し力を入れて小突けば簡単にバラバラになるだろう。
だが人間の少女を頃す気にはなれない。ましてや強制的に戦わされてる者だ。

ダンテ「(…しゃあねえな)」

絹旗は近くの巨大な瓦礫を持ち上げる。自分の身長の数倍、重さにして3t以上の塊だ。

絹旗「あああああ!!!」
そしてダンテへ向けて思いっきりぶん投げる。

だがダンテはまるで蚊を手で払うかのような簡単な仕草でそれを弾いた。

ドレス「…な、何なのよあいつ!!!」

12: 2010/03/20(土) 20:53:14.32 ID:K4wQQqA0
絹旗は再び突進する。

絹旗「はぁあああああ!!!」

そして顔面へ飛び膝蹴りを食らわす。
まるで車が衝突したかのような凄まじい激突音が響く。

絹旗「!?」
だがそれと同時に胸が急に引き寄せられた。

絹旗「…え?」
ダンテが彼女の胸ぐらを掴んだのだ。そして顔を大きく覗き込む。

ダンテ「よう」

ダンテの瞳が赤く輝く。
その瞬間絹旗を含む周囲の者を形容し難い凄まじい恐怖が襲った。

絹旗「…ひ…ぁ…」
ダンテが手を離すと、絹旗は力なく地面にペタリと座り込んだ。

ダンテがやったことは簡単な事だった。
人間の感情で一番強いのは『恐怖』だ。
人間界の生物は皆その感情に縛られている。

殺意を削ぐにはそれを遥かに越える絶対的な恐怖を与えれば良い。

大悪魔の殺意を向けられて恐怖しない人間などそうそういない。

17: 2010/03/20(土) 21:02:46.17 ID:K4wQQqA0

ダンテ「で、お前らもか?」

赤い瞳のままドレスの少女や周囲の特殊部隊へ目を向ける。
その瞬間隊員達のマスクの下から短い悲鳴が漏れた。皆小刻みに震えて固まっている。

ドレス「…あ…ぁ…ひ…」

ダンテ「さっさと失せな」
その声で解放されたのか、ドレスの少女と特殊部隊は一目散に逃げていった。

ダンテ「さて…」
足元にへたり込んでいる少女に再び目を向ける。ダンテの瞳から赤い光は消えていた。
少女は虚ろな目で呆然としていた。

ダンテ「(やべえな…少しやりすぎたか?)」
あまり強烈な恐怖を与えると精神崩壊してしまう恐れがある。
かなり抑えたのだが、それでも人間には耐え難いレベルの恐怖だ。

ダンテ「おい」
少女の傍に屈み、その小さな頬を軽くはたく。

絹旗「…え?」
その愛らしい瞳に感情の光が戻った。

絹旗「あ…れ…私…超何が…」

ダンテ「ま、大丈夫みてえだな」

18: 2010/03/20(土) 21:08:15.37 ID:K4wQQqA0
ダンテは立ち上がる。

ダンテ「ったく…」
何か面白いことが見れると思ったのだが、予想外の面倒臭い事になってしまった。

どうやら学園都市は治安が悪くダンテにとって『楽しい』場所のようだが、
さすがに人間の子供と頃し合いする気にはなれない。

『楽しい』事件なのに、『楽しめない』。

少しイラついてくる。

ダンテ「ケルベロス、再開すんぞ。誘導しろ」

ケルベロス『御意』
コートのヌンチャクが返事をする。

絹旗「…!滝壺!!浜面!!」
絹旗が突如叫ぶ。

少女は仲間の危機を思い出し立ち上がろうとするが、
足元がふらつきそのまま傍に立っているダンテに倒れこむ。

ダンテ「おい。無茶すんな」

19: 2010/03/20(土) 21:13:12.49 ID:K4wQQqA0
絹旗「こ、こんな所に超いてらん無いんです!!あいつらが!!」
ダンテにしがみ付きながら叫ぶ。

ダンテ「…あん?」

絹旗がダンテのコートを握り締め、今にも泣きそうな顔でダンテを見上げる。

絹旗「あいつらが!!!あいつらが超氏んじまいます!!!」

ダンテ「…」

ネロなら二つ返事ですぐに協力するだろうが、ダンテはそこまでお人好しではない。
別にいつ誰がどこで殺されようと知ったこっちゃ無い。

だがさすがに目の前でそれを聞かされたのを無視するのも後味が悪い。
それにこの少女が動けなくなった原因はダンテにも多少ある。

一瞬、トリッシュの「あなたはいつも厄介事に自分から首を突っ込む」という言葉を思い出す。
コートにしがみ付く、ボロボロになった少女の顔を見る。

ダンテ「…しゃあねえな」
頭を乱暴に掻きながら諦めたように言葉を吐いた。


―――

20: 2010/03/20(土) 21:19:32.29 ID:K4wQQqA0
―――

インデックス達と別れた後、ネロと神裂はあちこちを奔走していた。
あの後に立て続けに悪魔が出没したのである。
この一時間の間に二人が処理した悪魔の数は100体を超えた。

二人はとある野原に立っていた。
地面は戦闘によって大きく抉れていた。

神裂「マズイですね…」

一帯は高濃度の魔力によって覆われていた。あの学園都市の時のように。
魔窟と化す一歩手前だ。

ネロ「どこから漏れてやがる…」
嫌な感じがする。

この魔力の感じはあのムンドゥスの封印が解けた時のものに似ている。
魔界の大気が漏れ出しているのではない。

かなり強大な何者かの力が漏れ出しているのだ。

21: 2010/03/20(土) 21:24:25.50 ID:K4wQQqA0
ネロ「益々やっかいな事になってきたぜ」

神裂「ええ…」

神裂も感じ取っていた。
この力の根源の者は確実にとてつもなく強大だ。
恐らく神裂程度では到底太刀打ちできない。

だが幸いな事にこの場にはネロがいる。

神裂「あの…万が一の時は…」

ネロ「ああ、わかってるさ。任せとけ」
自分の異形の右手を見つめながらネロは言葉を返した。

ネロ「…」
最悪、魔人化してこの手の中にある魔剣『スパーダ』を使う事も考える。

ネロはあのムンドゥスと戦った際、一度の氏を経て完全に悪魔の血が覚醒し、
スパーダの一族としてとてつもない力を手に入れた。

だがその分、制限も強くなった。
今はその力が強すぎて簡単に魔人化できなくなっていた。
人間界に強い負荷がかかるのだ。
下手すると今のイギリスの状況を更に悪化させる危険性もある。

ネロ「クソッめんどくせえな」

22: 2010/03/20(土) 21:29:55.42 ID:K4wQQqA0
神裂の顔の前に紙が出現する。

建宮「プリエステス!次はそこから南西へ4kmの地点、」
建宮「もう一箇所は南南東へ2kmの地点なのよな!」

神裂「わかりました」

ネロ「これ、時間稼ぎかもな」

神裂「…」
何者かがネロと神裂の行動を制限しようとしているのかもしれない。
事実、イギリスの主要戦力は分散している。

この召喚式はその為のエサ。本命は別にあるかもしれない。

ネロ「まあ、トリッシュとウィンザー城の連中に任せるしかねえな」
ネロ「俺達は俺達の仕事をやろうぜ」

神裂「そう…ですね」

トリッシュがインデックスから受信した情報を調べている。
ウィンザー城でも例の少女を調べている。

いずれ必ず糸口が見つかるはずだ。
ちなみに人手不足なので、ネロは先ほどダンテを呼ぼうとトリッシュに連絡したところ、

「ダンテ?さあ。今いないわよ。行方不明」
との返事が返って来た。

―――

23: 2010/03/20(土) 21:35:59.04 ID:K4wQQqA0
―――
窓の無いビル

アレイスター「…来たか」

彼が入っている水槽の5m程前方に黒い円が浮かび上がり、赤いマントに純白のスーツを来た壮年の男が現れた。

アレイスター「アリウス」

アリウス「久しぶりだ。アレイスター」
葉巻の煙をくゆらせながら、傲慢な態度を隠しもせずに言葉を返す。

アレイスター「君の仕業だろう?イギリスの件は。まさかもうやるつもりなのか?」

アリウス「本番ではない。テストだ。何しろ2000年以上眠っていたのだからな」

アレイスター「…君がやろうとしている事にとやかく言わないつもりだが、私の邪魔をしないでくれないか?」

アリウス「自業自得だ。そもそもの始まりは貴様が禁書目録を受け入れたせいだろう」

アレイスター「…」

アリウス「貴様の使えるものは全て使う・不測の事態も逆に利用するという柔軟性は良いと思うが、」
アリウス「行き過ぎると気付いた頃には手に負えなくなるぞ? 昔からそれで何度も自滅してるではないか」

アレイスター「君の何が何でも計画通りに押し通す強引なやり方もだ」

24: 2010/03/20(土) 21:40:32.87 ID:K4wQQqA0
千年に一人現れるか現れないかの天才魔術師。
そんな者がかつて二人同時に現れた。

アレイスターとアリウス。

二人ともとてつもない才能と頭脳を持っていた。
そして若かりし頃の一時期、共に行動し互いを切磋琢磨した。二人とも野心に溢れ、魔術の極みを目指した。

だがある時、アリウスがその道から外れた。
彼は人々が掲げる『神』や通常の魔術よりも更に強大な存在、『悪魔』に魅了されたのだ。

そしてアリウスは悪魔の力を求めるようになり、隠者となり魔術界から姿を消した。

アレイスターが史上最強の魔術師としての絶大な名声を手にしていた時も、
アリウスはただ一人、影で人知れず悪魔学の高みを目指した。

アレイスターが魔術の限界を知りその壁に打ち倒され、科学の道へ歩もうとした時、
アリウスは再び彼の前に姿を現した。

アリウスもまた科学を使うことを考えていたのである。

利害が一致した事により、二人はパートナーとして科学を求めた。
人類トップクラスの頭脳を持つ二人にとって簡単な事だった。

アレイスターは学園都市を、
アリウスはウロボロス社を持つ程にまでその勢力を発展させた。

そして二人はそれぞれの目的を遂げるために突き進む。

25: 2010/03/20(土) 21:45:11.86 ID:K4wQQqA0
アレイスター「私がなぜ悪魔の力を求めなかったかわかるだろう?」

アリウスは鼻で笑った。

アリウス「昔から臆病な奴だったな貴様は」

アレイスター「我々人間がかの者達の力を支配するなど根本的に不可能だ」
アレイスター「君は必ず失敗する。アーカムの二の舞になるぞ」

つい二ヶ月前、実際にその力を目の当たりにした。
絶対に手の届かない領域。あの日、アレイスターはそれを再確認した。

アリウス「その言葉を返そうか。貴様は必ず失敗する。既にプランとやらは穴だらけではないか」

アレイスター「君は…本当に勝つ気でいるのか?かのスパーダの子達に」

アリウス「今は勝てない。だがいずれ勝つ。そしてその力も我が物にしてくれよう」

アリウス「それに。スパーダの孫は今回で殺せるかもしれん」
アリウス「いくら完全に血が覚醒したとはいえまだまだ未熟だしな」

26: 2010/03/20(土) 21:48:38.36 ID:K4wQQqA0
アレイスター「…驕りだと思わないか?」

アリウス「ハッ!!貴様がどの口でそれをほざく!」
壮年の男は豪快な笑い声を上げた。

アリウス「人間が魔界や天界の者達に唯一勝っている点は?知っておるだろう?」
アリウス「貴様もその穴をつこうとしているではないか」

アレイスター「…」

唯一勝っている点。それは『進歩』。
力が無いからこそがむしゃらにそこを補おうと発展させ進歩させる。

現に魔界や天界は今も昔も、100万年前も何一つ変わっていない。
だが人間界は僅か2000年で大きく様変わりした。

アリウス「最期に勝つのは我々『人間』だ」

27: 2010/03/20(土) 21:52:03.78 ID:K4wQQqA0
アレイスター「ふむ…まあこの話はいい。飽きるほど交わしてきたのでな」

アレイスター「当面の問題はな、君の行動が間接的に私のプランに干渉しているという事だ」
アレイスターはアリウスの後ろに目を移す。
壁にあいた高さ3m程の穴。

アリウス「ダンテか」

アレイスター「彼がな、私の重要な案件に今首を突っ込んでいる」

アリウス「それで?」
葉巻を咥え、挑発的な態度でその先を促す。

アレイスター「プラン修正を手伝ってくれないか?パートナーだろう?」

28: 2010/03/20(土) 21:57:39.69 ID:K4wQQqA0
アレイスター「ダンテを処分しろとはいわない。そんな事できる訳がないだろうからな」

アレイスター「君には一人の少年を処分して欲しい。名は『浜面仕上』。現在第23学区に向かっている」
アレイスター「当初は特に問題も無く処分できる予定だったのだがな」


アレイスター「恐らくダンテが現れる」


アリウス「いいだろう。一度直でダンテの力も見ておきたいしな」

アレイスター「…悪魔の召喚には目を瞑るが…ダンテとの大規模な交戦は避けてくれないか?」
アレイスター「くれぐれもだ。彼を刺激しないでくれ。これ以上この街が破壊されるのは避けたい」

アリウスは大きく、短く笑った。

アリウス「誰がこの間の復興資金を出したと思ってる?心配するな」
バカにするような笑い声を上げながらアリウスは黒い円の中に沈んでいった。

―――

29: 2010/03/20(土) 21:58:58.88 ID:K4wQQqA0
10時20分まで休憩

31: 2010/03/20(土) 22:22:40.52 ID:K4wQQqA0
―――

御坂は路上の公共の電子端末の前に立っていた。

黒子「お、お姉さま、もう戻りましょう?」
隣で黒子が落ち着かない感じで御坂を催促する。

御坂「まだ。あと五分待って。それで何も無かったら戻るから」

ダンテが来た後、御坂は黒子を連れて叫ぶ教師の声を無視して学校を飛び出して来た。
御坂には妙な胸騒ぎがあったのだ。

まさかまたあのツンツン頭の少年が、何か厄介ごとに巻き込まれたのか と。
そう考えるといてもたってもいられない。

関係無いのかも知れないが、あの少年は事あるごとに何かに巻き込まれている。

その御坂の勘は当たっていた。
あの少年は学園都市ではなく地球の裏側にいるが。

32: 2010/03/20(土) 22:26:06.03 ID:K4wQQqA0
御坂「…これ…」
端末をハッキングしていた御坂の目に何かが映る。

黒子「…何かありましたの?」
黒子はうんざりしていた。

風紀を重んじるジャッジメントが学校を抜け出して、更にハッキングを許しているとは。

御坂「…第23学区で一部に退避命令がでてるわ」

黒子「…」

御坂「いくわよ」

黒子「ふぁああぅああうああああ」


―――

33: 2010/03/20(土) 22:30:46.78 ID:K4wQQqA0
―――

第23学区の地下。
新型航空機の実験場であり、広大な空間が広がっている。

そこを麦野は歩いていた。
彼女の右目と左腕は無い。

変わりにかつて右目があった穴から青白い光が溢れ、
左肩からはこれまた青白く輝くアームのようなものが生えていた。

麦野「どーこかなぁ?」

麦野はある少年を探していた。
無能者のゴミでありながらレベル5第四位である彼女の右目と左腕を奪った少年。

麦野「はまづらぁ」

例の学園都市の件で彼女も動員された。
詳しい事は分からないが、化物を片っ端から処分しろという命令だった。

その引き換えにあの少年の居場所をいずれ教えるというものだった。

学園都市上層部は信用できないものの、何も無いよりはマシと考えた彼女は命令に従うことにした。

34: 2010/03/20(土) 22:35:04.32 ID:K4wQQqA0
学園都市中に出現していた化物達。
最初は彼女も驚きはしたものの、特に問題は無かった。

彼女の能力である『原子崩し』によって放たれた、
青白い巨大な光の矢はその化物たちを難なく焼き捨てた。

一時間ほど立った頃だろうか、化物たちがいなくなり空が青空に戻った。

それでその日は終わった。
その後二ヶ月待った。

そして遂に今日、あの浜面の居場所を知らせる電話が来た。

この第23学区の地下実験場に浜面と滝壺が向かっていると。

やっとこの日が来た。
この手で浜面を頃す。

自分の何もかもを壊したあの男。
あの男が来たときから全てが少しずつ、確実に壊れ始めた。

そして崩壊した。
狂った歯車は元に戻らずに完全に砕けちった。

自分と同じようにあの男の何もかもを壊して苦しめて頃してやる。

彼女は最早それしか考えていなかった。
それが今の彼女を生かし続ける原動力だった。

35: 2010/03/20(土) 22:40:30.69 ID:K4wQQqA0
麦野は暗い空間の向こうに何かを見つける。

複数の人影。
金属やプラスチックが当たる音が聞こえる。

恐らく学園都市の部隊だ。

麦野「みぃーつけたっ」

邪悪な殺意の篭った笑み。

そして青白い光の塊のアームを上げ、その集団に向ける。
立場的には、その部隊も彼女の味方なのだがそんなのは関係なかった。

あの男を誰にも殺させるわけにはいかない。
自らの手で頃すのだから。

アームが大きくうごめく。

そして麦野はためらい無くその集団に攻撃を放った。

青白い光の束がまるでレーザー砲のように射出された。


―――

36: 2010/03/20(土) 22:43:00.38 ID:K4wQQqA0
―――

アリウスは暗く広大な地下空間を歩いていた。
金属の床と靴底がぶつかる音が響く。

彼は古代ギリシャのフルフェイス兜に似た金色の仮面を被っていた。
いや、厳密に言うと被っているのではなく、顔の皮膚の形を変えていた。

アリウスは表の世界では顔の知れた大物だ。
ダンテに顔を覚えられる訳には行かない。同時に己の魂にも身分を誤魔化す術式をかけていた。
これで外見で見破られることも、悪魔の嗅覚で魂を特定されることも無い。

彼がゆっくりと歩いていると、その時施設全体が大きく振動した。

アリウス「…」
アリウスは立ち止まる。だがその振動で立ち止まったわけではなかった。

彼は感じ取った。
強大な力を持った者が高速でこちらに近づいてくるのを。

37: 2010/03/20(土) 22:47:42.92 ID:K4wQQqA0
アリウス「さすがだな」
その人物は特に力を解き放っていない非戦闘状態だろう。

にもかかわらず並みの大悪魔を遥かに上回る力だ。

アリウス「こちらも準備するとしよう」
足で軽く地面を叩く。
すると水晶の乗った円筒形の台が床から生えてきた。

手を水晶に置く。

アリウス「χ、始めろ。『蓋』を開け。それと…」


アリウス「ついでだ。禁書目録の首も取って来い」


―――

38: 2010/03/20(土) 22:50:34.82 ID:K4wQQqA0
―――


ステイルは壁に寄りかかっていた。
正面、部屋の中央には小さな椅子に赤毛の少女が座っている。

ステイル「…」
手の上に火を発生させ、形を変えたりして暇を潰していた。

ステイル「…うん…?」
そうしている中、妙な空気を感じた。

ステイル「…」
手の火を消し、赤毛の少女をジッと見る。

周りの騎士や修道女は特に異変に気付いていない。
だがステイルは確実に感じ取った。

39: 2010/03/20(土) 22:53:20.17 ID:K4wQQqA0
ステイルは壁から離れ仁王立ちする。

ステイル「…出るんだ」

ステイルの言葉に周りの者が首を傾げる。

ステイル「ここから出るんだ!!早く!!!」

そのステイルの怒号と同時に赤毛の少女がゆっくりと椅子から立ち上がった。
そして目が金色に輝きだす。

騎士と修道女達が慌ててドアに向かう。

赤毛の少女は腕を広げ、手のひらを下に向けた。
すると真下の床小さな金色の円が二つ。

その円から一本ずつ曲刀が出現し、それぞれの手に収まった。

ステイル「…クソッ!!」
ステイルも両手を広げる。全身から炎が噴き出し、手には炎で形作られた篭手が出現する。

いまや目の前の少女は強烈な力を放っていた。
紛れも無く大悪魔クラスの。

40: 2010/03/20(土) 22:57:29.03 ID:K4wQQqA0
金色に光る虚ろな瞳が真っ直ぐとステイルを見ていた。

ステイル「…チッ…!」
勝てるかどうかわからない。
かつてあのベリアルと相対した時の感覚と似ている。
そしてその時はイフリートがあったが今は無い。

この少女がこれ程までの危険因子としては誰も認識していなかった。

部屋の中がステイルの放つ熱でまるでオーブンの中のような高温に包まれる。
彼の足元の石畳の床が溶け始める。

少女がゆっくりと両手の剣を調子を確かめるかのように振るう。

凄まじい威圧感の津波が押し寄せてくる。
二人の距離は3m。

ステイル「…」

二人が同時に動く。
小さな地下室で二つの桁違いの力が激突した。

―――

41: 2010/03/20(土) 23:04:18.18 ID:K4wQQqA0
―――

上条・インデックス・五和はウィンザー城のホールにいた。

三人で白い小さな円テーブルを囲んでいた。
机の上には紅茶が入ったカップ。

ホールは淡いろうそくの優しい光に包まれていた。

上条「…」

五和「…」

禁書「…」
三人は同じ事を考えていた。あの赤毛の少女。
『助けたい』なんて事は到底言える状況ではないし、言おうとも思わない。

上条「あ~…」
それは良くわかっている。だが仕方ないのだけども後味が悪すぎる。

五和「まあ…仕方ありませんね」

禁書「…うん」

上条「…だな」

その時だった。急に城内が慌しくなった。

42: 2010/03/20(土) 23:08:20.91 ID:K4wQQqA0
上条「…?」

五和「ここにいて下さい」
一瞬で五和が戦士の顔に切り替わる。彼女は立ち上がり、傍らの槍を手に取る。

騎士が慌しく走る金属音が響く。
アニェーゼが険しい顔つきでホールに駆け込んできた。

アニェーゼ「退避です!!早くしやがってください!!!」

上条とインデックスも立ち上がる。

五和「何があったんですか!?」

アニェーゼ「『アレ』が動きやがったんです!!早く!こっちに!!!」

アニェーゼに先導され、一行は慌ててホールの出口へ向かう。

その時だった。鼓膜が裂けそうな轟音が響き、ウィンザー城全体が大きく揺れる。
4人は揺れに耐えられずに出口の辺りで倒れる。

ホールの天井が崩れ、上条達がさっきまでいたテーブルが大きな瓦礫に叩き潰された。

上条「…!」

その崩れた天井の穴から。

夜空に高く聳え立つ巨大な爆炎が見えた。

43: 2010/03/20(土) 23:11:09.73 ID:K4wQQqA0
五和「…あれは!?」

アニェーゼ「ステイルが交戦してんです!ほら、さっさとこっちに!」

崩れたホールの反対側、
上条達から30m程離れた場所の入り口から騎士が一人駆け込んできた。

上条「!!!」

遠くても良くわかった。
騎士の左腕が無い。甲冑が真っ赤に染まっていた。

「逃げろっ!!!行け!!!」
騎士が剣を振り上条達へ叫ぶ。

44: 2010/03/20(土) 23:13:34.04 ID:K4wQQqA0
上条達が慌てて立ち上がる。
その時、甲高い金属音がホールに響いた。

一瞬全てが止まり静寂。

上条「―――」
何かを感じて振り向く。

騎士のいる側のホールの壁に複数の筋。
その筋は壁を貫通してホールの中ほどまでの床にまで達していた。

次の瞬間、壁が筋にそってずり落ちて崩れる。
騎士の上半身も同時にずり落ちる。

そして。

壁の穴の向こうに『それ』が立っていた。

金色に輝く瞳の赤毛の少女。

45: 2010/03/20(土) 23:18:14.66 ID:K4wQQqA0
上条「…な…あ…!!」
何も考えられなかった。何が何だかわからない。頭が真っ白になった。

赤毛の少女は無表情のままゆっくりと瓦礫が降り注ぐホールの中へ入ってくる。
その目は真っ直ぐと上条達を見ていた。

アニェーゼ「来るんです!!!来い!!!」

アニェーゼに腕を強く引かれホールを後にする。

長い廊下を四人が懸命に走る。
所々が壊れていた。

アニェーゼ「…チッ!」
あの人造悪魔が現れたと言う事は。

ステイルは―――

そしてすぐに移動せずにわざわざこっちに向かってくるということは―――

アニェーゼは前を走るインデックスの背中を睨む。

アニェーゼ「クソです!!マジでクソッタレですねチクショウ!!」

46: 2010/03/20(土) 23:22:09.32 ID:K4wQQqA0
先頭が五和、殿がアニェーゼとなって長い廊下をとにかく走る。
一行は城内の騎士の詰め所に向かっていた。

詰め所で騎士達と合流、そしてそのまま場外に離脱する寸法だ。

長い廊下を曲がる。するとその先に騎士の一団が剣と盾を構えてこちらに向いていた。

五和「味方です!!」

五和が槍を高く掲げる。
騎士の盾の壁の中央が開く。

そのまま一行は騎士団の中へ駆け込んだ。

「禁書目録か!」

兜を被っていない、豊な髭を蓄えた騎士が一人駆け寄ってきた。
甲冑には精巧な装飾が施されている。

ウィンザー城に駐屯している300人の騎士の隊長だ。

47: 2010/03/20(土) 23:25:21.15 ID:K4wQQqA0
「怪我は無いか!?」

五和「…は、はい」
五和が肩で息をしながら答える。

アニェーゼ「敵は一体、例の人造悪魔、こっちに向かってきやがります」

「わかった。我々が時間を稼ぐ。君達はその間に退避しろ」

皮膚が焼け付くような強烈な悪寒が強くなる。

「来ました!40秒後に視認域に!」
石版を見ていた騎士が叫ぶ。


「行け!」

騎士隊長が叫ぶ。

五和「はい!」

一行が再び走り出し、騎士団の後方のドアへ向かう。

48: 2010/03/20(土) 23:30:27.33 ID:K4wQQqA0
騎士隊長は殿のアニェーゼがドアを抜けたのを確認した後、廊下の先を見据えた。

この場には混乱の中で集結できた20人の騎士がいる。
皆、数多の戦いを生き延びた歴戦の戦士だ。

騎士隊長「今日この場を我らの氏場とす!!」

騎士隊長「今こそ騎士の誓いを果たせ!!」

騎士隊長「God Bless Knights of United Kingdom!!!!!」

騎士達が一斉に盾と剣を打ち鳴らす。

騎士隊長「For Britain's!!!!!」

「For Britain's!!!!!!!!!!」
全員が鬨の声を上げる。


廊下の向こう。

曲がり角からゆっくりと姿を現した。

金色に光る目の赤毛の少女が。

―――

49: 2010/03/20(土) 23:32:12.93 ID:K4wQQqA0
―――

ステイルと少女の激突によって地下室は完全に消滅し、
直径80m、深さ300mの巨大な縦穴を作った。

穴の内側は高熱で溶け、あたかも溶岩が絶え間なく噴き出す噴火口のようになっていた。

その破壊によって真上にあったウィンザー城の一部が跡形も無く消し飛んだ。

ステイル『ッ…!』

ステイルはその穴の底の溶岩溜りから這い出し、溶け残っている瓦礫の上に上がった。

腹が大きく裂かれている。

あの瞬間すぐに魔人化、『イノケンティウス』となって渾身の力を込めた炎拳を叩き込んだ。
だがそれは剣によって簡単に上に弾かれた。

制御からあぶれたその拳が地下室を蒸発させ、
真上のウィンザー城を吹き飛ばすほどの穴を作った。

そしてカウンターとなる形でもう一本の剣が彼の腹を裂いた。
体を炎化させてそらす暇が無いほどに速い剣が。

50: 2010/03/20(土) 23:38:38.44 ID:K4wQQqA0
ステイル『ぐ…ぁ…!』

胴体が一度炎となり、再び戻ると傷は消えていた。

あの少女の一撃はとてつもなく強烈なものだった。

魔人化が僅かに遅れていたら彼は即氏していただろう。

ステイルは穴の上を見上げる。
まだあの少女の存在を感じる。離脱することなく城内にいる。

つまり何か目的があるのだ。

ステイル『…まさか…!』

そうかもしれないがそうでないかもしれない。
だがそう考えるには充分だ。

ステイル『インデックス!!』


―――

51: 2010/03/20(土) 23:42:55.73 ID:K4wQQqA0
―――


上条達は門を抜け、ウィンザー城の広大な庭園を走り抜けていた。
後方からはあの騎士達のと思われる交戦音が聞こえている。
何かの炸裂音と共に瓦礫が崩れる音が聞こえる。

上条「はぁ…!はぁッ…!」
心臓が爆発しそうだった。

頭の中にあの騎士の顔が思い出される。
今、彼らが自分達を逃がす為に戦っている。

あの少女と。
あのパンを黙々と食べていた少女と。
そして五和の問いかけにも答えた少女と。

あの時は敵意など何も感じられなかった。

そして同じくあのホールで騎士を頃した時も―――

何もその瞳には宿っていなかった。

52: 2010/03/20(土) 23:47:04.90 ID:K4wQQqA0
上条「…!」
あの光景を思い出し吐きそうになる。慌てて口を押さえる。

禁書「…とうま!?」

上条「だ、大丈夫だ!」
気付くと後方の城が静かになっていた。

交戦音が止んでいる。

誰もそのことには口を開かなかった。

皆わかっているのだ。
城内に残ったあの騎士達の結末を。

振り返らず、四人は広大な草地をただ走った。

53: 2010/03/20(土) 23:53:33.95 ID:K4wQQqA0
その時。

一行の前方に突如大量の瓦礫が降り注いだ。

五和「!!!」
五和が姿勢を低くして急ブレーキをかける。
インデックスと上条が五和の広げた腕で急停止させられる。

上条「おおおあ!!!」

降り注いだ瓦礫は一行の退路を塞ぐように、半円状の巨大な壁を築いた。

アニェーゼ「…下がれ!!!」
殿のアニェーゼが叫ぶ。
上条達が彼女の方を振り返ると。

40m程の場所に赤毛の少女が燃えるウィンザー城をバックにして立っていた。
ゆっくりと歩いてくる。

アニェーゼが杖を構える。
五和も前に出て彼女の横に並び、槍を構える。

上条はインデックスを自分の後ろ側へ手で引っ張る。

アニェーゼ「…そうですか…ここが氏場っつーことですか!」

アニェーゼ「上等です!せいぜい足掻かせてもらいますよ!!」

54: 2010/03/20(土) 23:57:51.00 ID:K4wQQqA0
アニェーゼと五和が何やら呟く。
するとアニェーゼの杖が白く輝き、同様に五和の槍も輝く。

悪魔の力を使ったブースト魔術。もともとフォルトゥナ騎士が使用していた対悪魔用の魔術だ。
己の力が数倍底上げされる。イギリスにおいても一部の優秀な者しか習得していない。

力による負荷で二人のこめかみの血管が浮き出る。

五和「くッ…はっ!!」

アニェーゼ「相変わらず…クソみてぇな術ですね!!」

赤毛の少女がゆっくり歩いてくる。

アニェーゼ「らぁッ!!」

アニェーゼは杖を大きく振り上げ、そして足元の地面に叩き付ける。
そしてその一秒後に。

赤毛の少女を、真上から巨大な衝撃波の塊が襲う。
粉塵と地響きを起こし、直系10m程地面が大きく陥没する。

五和「シッ!!!」

すかさず五和がその場で槍の突きを繰り出す。槍自体は届かない。
だがその穂先から白い光の刃が高速で伸び、赤毛の少女の顔面に直撃する。

アニェーゼと五和は交互に攻撃を繰り出す。彼女達の前に広がる草地がどんどん形を変えていく。

上条はインデックスを背にしてそれをただ見てるしかなかった。

55: 2010/03/21(日) 00:03:20.69 ID:trTvIYo0
アニェーゼ「はぁッ!!!!」

五和「…くっ!!!」

負荷によって体中に激痛が押し寄せる。
膝が震える。体の中からまるでゴムが切れるような不気味な小さな音が聞こえる。

地響きの連続。
だが少女は傷一つ付かず、その嵐の中を普通に歩いてくる。

距離は20mにまで詰まった。
赤毛の少女がゆらりと手を広げる。白いマントから不気味に光る二本の曲刀が顔を覗かせた。

五和「…ここまで…のようです…」

上条「…ッ」
言葉が出なかった。インデックスの震えが背中越しに伝わってくる。

56: 2010/03/21(日) 00:05:16.79 ID:trTvIYo0
禁書「とうま…」

上条「…」
インデックスの方へ振り向き、小さな体を覆うようにして抱きしめる。

アニェーゼ「…まあ、次は『向こう』で会いましょう」

そして。

甲高い金属音が響いた。



その時、同時に真上から黒い何かが降ってきた。

巨大な地響きを立ててアニェーゼと五和の前に着地する。

57: 2010/03/21(日) 00:07:20.31 ID:trTvIYo0
上条「…?」

生きている。腕の中のインデックスも。

ふと振り返ってあの少女の方へ目をやる。
すると五和達の前に高さ5m程の黒い巨大な壁がそそり立っていた。

その下に。

金髪にゴス口リ姿の女。
足には黒い脛当てのような物。

上条「へ?」

アニェーゼ「…ははっ!!!おせぇですよ!!!」

58: 2010/03/21(日) 00:10:03.29 ID:trTvIYo0
五和「!!!」

上条「シェリー?!」

シェリー「てめぇらそこから動くんじゃねえぞ!!!」

シェリー「エリス!!!」

黒い壁がシェリーに倒れこんだかと思うと、
まるで布のように波うち彼女の体に巻きついて覆っていく。

そして彼女を核とした身長4m程の巨人が現れた。

彼女は悪魔化したゴーレムに体の中に自らを埋め込んだのだ。

シェリー『ぶっ潰すッ!!!』

巨人が両腕を振り上げる。

そして前に踏み出しながら巨大な拳を二つ、少女へ向けて一気に振り下ろした。
かなりの巨体にも関らず、その動きは上条の目では追えないほど速いものだった。

59: 2010/03/21(日) 00:15:46.28 ID:trTvIYo0
シェリー『チッ!!!』

少女はその強烈な攻撃を剣で防いでいた。
ゴーレムの固い拳に刃が食い込んでいる。

シェリー『はぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
咆哮と共にゴーレムの背中から二対の巨大な腕が生える。
そしてその四つの拳を更に連続して叩き込む。

大地が揺れ、地面に巨大な窪みが次々と刻まれていく。
計六本の槌が凄まじい速度で叩き込まれる。

だが。

少女は軽い身のこなしでそれらを簡単にかわし、
また一本、また一本と腕を切り落としていく。

60: 2010/03/21(日) 00:17:55.47 ID:trTvIYo0
刎ねられた巨大な腕がそのパンチの推力と少女の剣撃によって、
とんでもない勢いで吹っ飛んでいく。

六本にまで増えた腕は瞬く間に最初の二本に戻った。

シェリー『―――はッ!』

だがシェリーは笑い声を上げた。
そして急に五和達の方へ振り返り、4人に覆いかぶさった。

上条「―――へ?」

その瞬間、シェリーの背後で巨大な炎が吹き荒れる。

シェリーの巨体がその炎から四人を守る。

―――

68: 2010/03/22(月) 23:06:10.33 ID:AmdTTFk0


ステイルは穴から飛び出し、塔の上に上がる。

そしてすぐに彼らを見つけた。
城から少し離れた庭園の中央。

インデックス達と、その前で戦うシェリーのゴーレムと赤毛の少女。

ステイル『―――クソッ!!』

塔の屋根を思いっきり蹴る。塔が炎に包まれて爆散し、彼の体が砲弾のように射出される。

右手に力を集中させ、巨大な炎の刃を精製する。

赤毛の少女の背中へ一直線。

シェリーが跳んでくるステイルの姿を確認してインデックス達へ覆いかぶさる。

赤毛の少女が振り向く。

ステイル『おぁあああああああ!!!!!』

同時に、ステイルの炎剣が少女の胸を貫いた。


―――

70: 2010/03/22(月) 23:11:02.20 ID:AmdTTFk0
―――

浜面は暗く広大な地下空間を走っていた。
両側には実験機が大量に駐機されている。

浜面「なんで!!…なんであいつがいるんだよ!!!」

先まで、彼と滝壺は謎の特殊部隊に追われていた。
そして追い詰められもう終わりと思った時。

目の前の特殊部隊が青い閃光で一瞬で消し飛ばされた。

そして。

彼にとっての死神が現れた。

麦野沈利。レベル5。第四位。

彼が守るべき滝壺はあっさりとあの死神に奪われた。

浜面「クソ!!クソ!!!」
なんとかして滝壺を救わねば。


「はーまーづーらぁ!どーこ行くつもり?!」


青白い閃光がどこからともなくほとばしり、暗い空間が一気に明るくなる。

71: 2010/03/22(月) 23:13:21.48 ID:AmdTTFk0
浜面「ぐぁあああッ!!!!」

すぐ傍を光の束が通過し、衝撃で大きく吹っ飛ばされた。
金属の床がオレンジ色の液体に変わる。

20m程奥から麦野と彼女に首を押さえつけられている滝壺が姿を現す。

滝壺「はまづらぁ!!はまづらぁ!!」

麦野「悲劇のヒロインぶっちゃって!泣けるわねぇ!!」

浜面「滝壺…!」
腕を突き、ぎこちなく立ち上がろうとする。だが強烈な全身の痛みがそれを邪魔する。

麦野「悲劇のヒロインと逆境に立ち向かうヒーローかよ。あ~、むかつく。」

麦野「でも」

麦野「頃すのがもっと楽しそうになるわね」
不気味な笑み。右目のあった穴から更に青白い光が溢れる。

浜面「…!」

72: 2010/03/22(月) 23:16:48.42 ID:AmdTTFk0
麦野「さあて、どうしよっかなー♪ まず左腕を無くそうか?それとも先にこいつを焼こうかな?」
滝壺を引き寄せる。

浜面「…や、やめろ…」
体に力が入らない。

麦野「決めた。そこでじっとしてな。楽しいショーを見せてあげるから ね♪」

浜面「…頼む…やめてくれ…」
床に這いつくばりながら消えそうな声で懇願する。

浜面は一度麦野を倒した事がある。だがそれは運が良かっただけなのだ。
今はもう何もできない。

立てもしないでどうやって勝てる。

どうやって滝壺を救える。

所詮この程度。隅であっさり氏ぬ脇役。

いかに己が無力か。

浜面「…く…そ…」

その時だった。

浜面「…へ?」

浜面と麦野のちょうど中間に黒い円が浮かび上がった。

73: 2010/03/22(月) 23:18:30.50 ID:AmdTTFk0
麦野「―――」
『あの日』に動員された麦野はこの現象に覚えがある。

あの。奇妙な怪物達が出てくる穴。

黒い円から赤い光が溢れ、案の定飛び出して来た。

赤いトカゲのような巨人。青く輝く瞳に巨大な角。
手には大きな赤く輝く刃がついた鎌。

『アビス』と呼ばれる魔界の精兵だ。

浜面の方へ真っ直ぐ向き、鎌を大きく振り上げる。

浜面「なッ―――」

そして振り下ろされる瞬間。

その悪魔の胸を青白い閃光が貫いた。

74: 2010/03/22(月) 23:25:50.11 ID:AmdTTFk0
麦野「ッたく!!またかよ!!!よりによってこんな時に!!!」
麦野は滝壺を横に突き飛ばし、更に攻撃を放つ。

怪物の腕が飛び、頭部が消し飛ぶ。

残った胴体が轟音を立てて倒れこんだ。

浜面「…な、な、…!!!?」
何が何だかわからない。

周囲にも大量の黒い円が浮かび上がる。
そしてそこから一斉に赤い怪物が出現し、浜面へ飛び掛る。

麦野「はああああああああ!!!!!」
その瞬間、麦野の咆哮と共に彼女の体から青白い閃光が溢れ、何本もの光線が放たれる。

浜面に飛び掛った怪物達がまとめて焼き払われる。

浜面「うおおおおお!!!」
腕で顔の前を覆い、押し寄せる熱風と降り注ぐ怪物達の燃えカスを凌ぐ。

だが怪物たちの出現は止まらない。
再び黒い円から現れる。当初は浜面だけを狙っていたようだが、今度は皆一斉に麦野へ飛び掛った。

麦野「あああああウゼェ!!!氏ねよ!!!」
閃光の塊の左のアームを巨大化させ、一気に横へ薙ぐ。
複数の怪物が一気に焼き切られる。

75: 2010/03/22(月) 23:28:51.07 ID:AmdTTFk0
浜面「滝壺!滝壺!!」

閃光と焼ききられた怪物の破片が降り注ぐ中、浜面は這いながら滝壺の下へ向かう。

浜面「大丈夫か!!?」

滝壺「うん…はまづら…」

浜面「何だかわからねえが今のうちに!!」

麦野は怪物の相手をするのに夢中になっている。
怪物たちも麦野へ集中している。

浜面は疲労困憊の体に鞭を打って立ち上がる。そして滝壺を抱き上げる。

浜面「く…あ…!!」
膝が震える。力が抜けそうになる。

浜面「くそ!!行くんだ!!」
自分に言い聞かせ、地面を蹴りがむしゃらにとにかくその場を離れようと走った。


麦野「はまづらぁ!!!」


背中越しから交戦音と共に麦野の怒号が聞こえる。
だがそのまま走り続ける。

とにかく走った。

―――

76: 2010/03/22(月) 23:36:52.63 ID:AmdTTFk0
―――


御坂と黒子は広大な地下施設の中を歩いていた。
実験機の駐機場なのか、奇妙な形をした戦闘機らしき機体が延々と並んでいる。

その空間の広さは幅200m、奥行きは数キロにもなるだろうか。
どこかで何者かが戦っているのか、低い地響きが連続して聞こえる。

黒子「お姉さま…」

御坂「…あんたは戻りなさい」
御坂の手には万が一に備え、ゲームセンターのコインが握られていた。

黒子「それはダメですの!戻るときは一緒に!」

その時、背後から足音が聞こえた。

御坂「!」
咄嗟に振り向き、コインを持った手をその音の方へかざす。

御坂「…へ?」
そこにいたのはついさっき会った者だった。



「よう、また会ったな」

77: 2010/03/22(月) 23:40:55.08 ID:AmdTTFk0
御坂「ああ!」

黒子「いましたの!!」

ダンテ「何してんだ?」

御坂「こ、こっちのセリフよ!」

ダンテ「俺はただ人探ししてるだけだぜ」

黒子「まだトリッシュさんを探しておられるのですか?」

ダンテ「いや、今は別の奴を探してる」

遥か向こうから戦闘音が響いてくる。

ダンテ「多分あっちにいるな」

御坂「ね、ねえ…何か起こってるの?あいつが巻き込まれたりしてないよね?」

ダンテ「あいつ?」

御坂「と、とととと…と、当麻」
なぜかその名を口に出して頬を赤らめる。

黒子「(チッ)」

ダンテ「イマジンブレイカーの坊やか。学園都市にはいねえみてえだぜ」

御坂「は?」

78: 2010/03/22(月) 23:45:57.98 ID:AmdTTFk0
ダンテ「探したんだけどな。いねえ」

御坂「それってどういう―――」
言い掛けた所で、ダンテが手を挙げて遮る。

ダンテ「へえ…」
何やら急ににニヤけ始める。

御坂「?」

黒子「お、お姉さま!!!」
黒子が指を刺す。その先の床に黒い円が。

御坂「!!まさかまた!!!」


ダンテ「なあお嬢ちゃん、ひとつ頼んでもいいか?」

周囲に黒い円が大量に浮かび上がる。

御坂「ななな?」

ダンテ「人探し。浜面っつーボーヤと滝壺っつーお嬢ちゃんを見つけてくれ」

黒子「へ?」

79: 2010/03/22(月) 23:49:43.51 ID:AmdTTFk0
ダンテはコートのポケットからヌンチャクを取り出し、放り投げる。

ダンテ「誘導と護衛してやれ」
その瞬間、ヌンチャクが巨大な三頭の狼の姿になる。

黒子「ひぁああああ!!でたあああああ!!!」

御坂「ちょッ!ちょ!?」


ケルベロス『また会ったな小娘よ』


ダンテ「アラストル!!」
その声と同時にどこからともなく大剣が飛んで来て床に突き刺さる。

刃は銀色、柄が黒く鍔の部分に大きな翼の装飾。
そして全体に青い電撃がまとわり付いている。

ダンテ「あの茶髪のお嬢ちゃんに力を貸してやれ。体がふっ飛ばねえように調節しろよ?」

アラストル『ああ』
床から飛ぶように抜け、御坂の前に浮かぶ。

御坂「え!?な、何!?」

ダンテ「使え」

80: 2010/03/22(月) 23:55:18.19 ID:AmdTTFk0
御坂は恐る恐るその大剣の柄を握る。

御坂「わッ!!」
その瞬間、凄まじい電撃が発生する。

御坂「何これ…凄い凄い!!」
良く分からないが、とてつもない力を感じる。
体中に凄まじい何かが流れ込んでくる。

アラストル『よろしく。お嬢さん』

ケルベロス『さあ我に乗るがいい』

ケルベロスが伏せる。

御坂「黒子ォ!!!行くわよ!!!」
アラストルの力のせいか、御坂は少しハイになっているようだ。


黒子「は、はいですの!」


二人がケルベロスの背中へ飛び乗る。

82: 2010/03/22(月) 23:57:47.30 ID:AmdTTFk0
黒子「ひぁ!や、やはり…冷えますの…」

ダンテ「いいな」

御坂「わかったわよ!!!任せなさい!!」
アラストルから流れ込んでくる力でハイになった御坂がケルベロスの背中の上で叫ぶ。

ダンテ「任せたぜ」


御坂「行くわよ!!!進みなさい!!!」

ケルベロス『…掴まっておれ』
そしてケルベロスは地面を蹴り、一気に加速した。
金属の床がケルベロスの爪によって抉られる。

御坂「あははははは!!!もっと!!もっと速く!!!」
アラストルをぶん回し、御坂が叫ぶ。

黒子「ふぎゃあああああ」
御坂の背中にしがみ付きながら黒子が悲鳴をあげる。

その姿はさながら『魔狼騎士』とでも言うべきか。

二体の大悪魔を従えた御坂と、それにしがみ付く黒子は広大な地下施設を突き進んでいった。

83: 2010/03/23(火) 00:02:27.49 ID:lfnvTwE0
ダンテ「…」
アラストルにもう少し抑えろと言えば良かったかもしれない。
あの少女は見た感じ、典型的な『悪魔の力に魅了されている者』だ。

ダンテ「まあいいか」
だが短時間ならそう悪い影響もないだろう。


ダンテ「ハッハ~、それじゃこっちも始めようぜ!!」

周囲に八個の黒い円。

ダンテ「…つーか…たまにはな」
一瞬顔を下ろし考える。そして再び勢い良く顔を上げる。


ダンテ「ルシフェル!!!」


その瞬間、ダンテの左肩に奇妙な装具が現れる。
髑髏をあしらったようなバスケットボール大の塊、そしてそこから伸びる二本の鎌のような巨大なアーム。

ダンテの口にはなぜかバラが咥えられていた。

周囲の穴から巨大な光る鎌を持った赤いトカゲのような悪魔が這い出してくる。


ダンテ「さあお楽しみの時間だ!!ここから先はR18だぜ!!」

85: 2010/03/23(火) 00:09:16.23 ID:lfnvTwE0
悪魔達が一斉に飛び掛る。

ダンテは同時にアームの先へ手を伸ばす。

ダンテ「Ha!!!」

するとアームから赤い剣が何本も生えてくる。
それらを掴むと、一気に腕を振って前方にぶん投げる。

前から突進してきた三体のアビスの口・胸・股間に一本ずつ、一体に三本ずつ突き刺さる。

ダンテ「攻めは同時に!」

更にアームから赤い剣を取り出すと身を捻り、今度は左右両側のアビスへ放つ。
放つと同時に身を低くしてかわしたアビスの鎌同士が頭上で衝突し、甲高い金属音と共に火花を散らす。

放たれた赤い剣は先のと同じく口・胸・股間に一本ずつ、計六本が二体を貫く。

86: 2010/03/23(火) 00:12:54.81 ID:lfnvTwE0
ダンテ「焦るな!慎重に!」

更に赤い剣を手にすると、今度は真上から来るアビスへ二本放つ。


ダンテ「それでいて息つく暇も無く!」


1本は人間でいう肛門の位置に、もう1本はそのすぐ傍、女性でいう秘部の位置に。


ダンテ「深く!強く!的確に!」


そしてすかさず後方から来る二体へ更に放つ。
胸の中央、人間でいう心臓の位置へ一本ずつ。

ダンテ「ハートも忘れずにだ―――」

一連の動作は一瞬の出来事だった。八体のアビスがほぼ同時に倒れこむ。

ダンテは咥えていたバラを手に取り



ダンテ「―――そして絶頂へ」


軽く投げた。
同時に悪魔達の体に突き刺さっていた赤い剣が爆発する。
八体の悪魔は木っ端微塵となった。

―――

95: 2010/03/23(火) 19:57:22.90 ID:lfnvTwE0
―――


浜面「ぐッ!!はぁ…!!」

浜面は滝壺を抱えてただ走っていた。
体中が痛む。

本来は立っていることすらやっとなのだ。

滝壺「はまづら…」

浜面「大丈夫…大丈夫だ!!」
何が起こっているのかわからなかった。
所詮、脇役の彼には事態の全貌を知ることなど不可能だ。

彼がやらなければならない事は唯一つ。
この腕の中にある少女の命を守ること。

だがそれすらも危うかった。

浜面「…!!!」

前方に複数の黒い円が浮かび上がる。

96: 2010/03/23(火) 20:02:04.13 ID:lfnvTwE0
浜面「うぉお!!」
止まろうとして踏ん張ったが、足に力が入らず転んでしまう。

咄嗟に身を捻り、滝壺が金属の床に打ち付けられるのをなんとか防ぐ。
だが絶望は今、彼の目の前に迫っていた。

浜面「くそ…!」

黒い円から、あの巨大な赤い怪物が姿を現した。
大きな鎌を振り、浜面を不気味な赤く輝く瞳で睨む。

浜面は立てなかった。
ただ滝壺を抱きしめるしかできなかった。

怪物が鎌を振り上げ、奇妙な咆哮を上げて浜面達へ突進してくる。

浜面「(―――やっぱり)」

どう足掻いても氏ぬ。

浜面「(―――俺はこの程度かよ)」

何もできずに。この腕の中のかけがえの無い少女を守れずに氏ぬ。

浜面「(―――滝壺)」

腕の中の滝壺に顔をつけ目を瞑る。氏を覚悟する。

その時だった。

とてつもない轟音が響く。

97: 2010/03/23(火) 20:06:19.58 ID:lfnvTwE0
浜面「―――?」

顔を伏せていたため、何が起こったのかわからない。
だがあの巨大な鎌は振り下ろされていないようだった。

生きている。

何やら冷たい空気を感じる。
恐る恐る顔を上げると。

浜面「な―――」

『それ』を見て体が硬直する。

巨大な氷の塊。

いや、氷に覆われた頭が三つある狼のような怪物。
突き破って隣のフロアから来たのか、
背後の金属製の頑丈な壁に高さ10mはあろう大穴があいていた。

その怪物の大きな爪がある足の下から、先ほどの赤い怪物が持っていた鎌がひん曲がりながら突き出ていた。

浜面「お…あ…」
頭の中が真っ白になる。

救いではない。更なる絶望がやってきた。
そう浜面は感じた。

「あんた、名前は?」

その時、怪物の背中から少女の者らしき声が聞こえた。

99: 2010/03/23(火) 20:10:39.23 ID:lfnvTwE0
浜面「…は?」

怪物の背中から小さな人影が一つ飛び降りた。

「名前は?浜面ってのと滝壺って人探してるんだけど」

声の調子のとおり、浜面よりも一回り小さいくらいの少女だった。
どこかの学校の制服を着ている。
右手には電気が迸っている、身長ほどもある巨大な剣。

どう考えても只者じゃない。
浜面の『チキンレーダー』が直感的に反応する。
この目の前の少女は彼らを一瞬で殺せる力を持っていると。

浜面「…」
答えるかどうか迷う。
理由は分からないが、今日に入ってから大勢に命を狙われている。
この目の前の少女も浜面達の命を狙っているのだろうか。

もしそうだとしたら、こんな時間稼ぎは無意味なのだろうが。

「ひぁあああ…お腹が…」

そうこう考えてると、怪物の背中からもう一人小さな少女が降りてきた。
ツインテールで、茶髪の少女と同じ制服を来ている。

浜面「(あの制服、どこかで…)」

100: 2010/03/23(火) 20:14:06.20 ID:lfnvTwE0
浜面「…お前らは?」
睨み、警戒しながら問う。

滝壺「あ」
新たな来訪者の顔を見た滝壺が小さく声を上げる。

「…あ、あんた!!あの時の!!」
滝壺の顔を見た茶髪の少女も声を上げる。

二人は面識がある。その時は敵として。
あの妹達の、レディオノイズ事件の際とある研究施設で麦野と滝壺とフレンダ、そして御坂は氏闘を繰り広げた。

浜面「し、知ってる奴か?!」

滝壺「常盤台の…レールガン」

浜面「…!!」

息を呑む。
常盤台のレールガン。浜面でも知っている。レベル5第三位。
あの麦野よりも序列が上の存在。

浜面「(やべえ…!!)」
敵だとしたら危険すぎる。

レベル5は変わっている。それは浜面は麦野としょっちゅう共に行動してきたので良く知っている。
だがこの目の前の少女は『変わっている』なんてレベルではなかった。

巨大な三頭の獣の怪物に乗って現れ、奇妙な大剣を持っている。

101: 2010/03/23(火) 20:20:39.31 ID:lfnvTwE0
「…まさかあんたが滝壺?」

滝壺「うん…こっちがはまづら」

浜面「うおい!!」

「そう、見つけたわ」
ニヤリと笑う。

浜面「クソッ…!!」

「…まあ細かい事は後にするわ。ほら、さっさと逃げるわよ」

浜面「―――へ?」

滝壺「?」

「あなた達を守れって頼まれているんですの」
隣のツインテールの少女が答える。

浜面「…頼まれた?」

「ダンテによ」

浜面「だんて?」

「あれ、知り合いじゃないの?あの銀髪の変な白人よ?」

浜面「…滝壺知ってるか?」

滝壺「ううん」

102: 2010/03/23(火) 20:25:42.14 ID:lfnvTwE0
「…まあ…あの方の事ですから色々と…」

「…全く…良いから行くわよ」

浜面「お、おう…」

御坂「御坂美琴」

黒子「わたくしは白井黒子ですの」

浜面「おう…っくぁ…」
立ち上がろうとしても体が言う事を聞かない。
最早限界だった。

御坂「…黒子、乗せて」

黒子「はいですの」
黒子が浜面達の傍に行き、しゃがんで二人の肩に手を当てる。

黒子「ちょっと冷たいでしょうが我慢して下さいまし」

浜面「へ?」
その次の瞬間、視界が豹変する。

浜面「…おッおおッ!!冷ぇッ!!!」

滝壺「ふぁ!!」
気付くとあの氷の怪物の背中に乗っていた。

103: 2010/03/23(火) 20:29:42.24 ID:lfnvTwE0
御坂もケルベロスの背中に飛び乗る。

御坂「…ところでどこに行けばいいの?」
股の下の氷の肌を軽く手のひらで叩きながら問う。

ケルベロス『…遠ざければいいのではないか?』

浜面「しゃしゃしゃべ…!!」

黒子「黙ってて下さいまし」

背後の声を無視して御坂は続ける。

御坂「じゃあとりあえず出るわよ。多分真っ直ぐ行けば地上に繋がるゲートがあると思うし」

ケルベロス『では掴まっておれ』

周囲の床や壁に黒い円が多数浮き上がる。

御坂「周りは任せて」

ケルベロス『何を言う。全て我の獲物だ』
その言葉と同時にケルベロスの巨体が前方へ向けて急加速する。

浜面「うぁおおおおおお!!!!」

滝壺「…ぁああッ…!!」

104: 2010/03/23(火) 20:31:46.94 ID:lfnvTwE0
多数の悪魔達が飛び掛ってくる。

ケルベロスの頭部の一つが咆哮を上げる。
それと同時に前方が一瞬で氷で覆われ、悪魔達が纏めて凍結する。

御坂「そりゃあああ!!!」

御坂がアラストルをケルベロスの背中で振るう。

その穂先から巨大な電撃の斬撃が飛び、
悪魔達をなぎ払い壁や床に長さ30mはあろう巨大な溝を刻む。

御坂「凄い凄い!!!何これ!!!」
御坂はあまりの力に大はしゃぎする。

黒子「お姉さま!!いいから次ですの!!」
浜面と滝壺が振り落とされないように手で押さえながら黒子が叫ぶ。

105: 2010/03/23(火) 20:35:34.78 ID:lfnvTwE0
御坂「もういっちょおおおお!!!!」

今度は更に力を篭めて振るう。
大気を引き裂く音と共に先のよりも二回り以上大きな電撃の刃が、
地下の巨大な駐機場を破壊する。

複数の悪魔が巻き込まれ跡形も無く消える。

支柱が折れたのか、一部の天井が大きく歪み崩れ始める。

浜面「…うおおお…」

浜面は氷にしがみ付きながらその光景を見ていた。

あの麦野もかなりふざけたレベルの力だったが、この少女は更に馬鹿げてる強さだと。

さすがはあの麦野よりも上の第三位なだけある と彼は思った。
今の強さはアラストルによるブースト効果が大きいのだが。

とはいえ、通常時の彼女本来の力もそれなりに馬鹿げているレベルだ。


―――

106: 2010/03/23(火) 20:39:28.67 ID:lfnvTwE0
―――



ステイルの炎剣が少女の胸を貫く。

凄まじい衝撃波と炎の壁が周囲を焼きながら薙ぎ倒していく。

ステイル『―――』

だが少女は怯む様子も無くそのままステイルに剣を振るう。

ステイルはもう一方の腕の炎の篭手でそれを受け止める。

そして同時に腰から下を回し、少女の側頭部へ強烈な蹴りを放つ。
爆炎を引きながら小さな体が横へ吹っ飛び、地面にめり込んで大地を揺るがす。

ステイル『シェリー!!インデックス達を神裂の所に!!!』

シェリー『ああ!!』
インデックス達に覆いかぶさっている、魔像化しているシェリーの足元に巨大な黒い円が浮かび上がる。

109: 2010/03/23(火) 20:46:27.03 ID:lfnvTwE0

その時。
粉塵の中から少女が飛び出して来た。

ステイル『おあああああああ!!!』

シェリー達の方へ行かせまいとステイルが飛び込む。

炎剣と曲刀が交わる。
再び金と赤の光の塊が激突し、爆炎の嵐。

その隙にシェリー達が黒い円に沈んでいった。

ステイル『行かせはしない!!!』
その虚ろな瞳を睨む。

鍔迫り合い。

刃が交わる点から赤と金の巨大な火花が散る。



―――

110: 2010/03/23(火) 20:50:07.10 ID:lfnvTwE0
―――


神裂は一人荒野に立っていた。
周囲の草地はまるで絨毯爆撃にあったように広範囲に渡って抉られていた。

神裂「…なんでしょう…」
つい先ほどから妙な感覚がする。世界が別物になったような。
あの学園都市で魔帝の封印が解かれた時と『大気の匂い』が似ている。

その時、すぐ目の前の地面に直径10m程の巨大な黒い円が浮かび上がった。

神裂は慌てることなく七天七刀を構える。

神裂「―――」
だが穴から出てきたのは悪魔ではなかった。

いや、それを見たこと無い者は悪魔だと思っただろう。

神裂「シェリー!」
赤い瞳の黒い巨人が屈んでいる。その巨体の下にも見慣れた人物達。

112: 2010/03/23(火) 20:54:29.77 ID:lfnvTwE0
神裂「皆さん!!一体何が…?」

シェリー『あの人造悪魔が動き始めやがった!!今ステイルと交戦してる!!』
巨人がエコーのかかった声を発する。

アニェーゼ「ウィンザー城は陥落しやがりました!!」



神裂は簡単に状況を聞いた。

神裂「私はウィンザーに行きます。あなた方はネロさんと建宮達を合流してください」

シェリー「ああ!」

神裂はそれだけ言葉を交わすと、すぐに移動用の穴を作り沈んでいった。


―――

113: 2010/03/23(火) 21:01:12.21 ID:lfnvTwE0
―――

ステイル『はああああああ!!!』
両手に力を篭め思いっきり弾く。

お互いが吹っ飛ばされる。

ステイルは後方へ飛び、距離を置く。

ステイル『さあ…仕切りなおそうじゃないか』

その時。
少女の体が急に輝き始めた。

ステイル『おい…』

あの少女の力が更に高まるのがわかる。

ステイル『冗談だろ…?』

そして光の爆発。
その中から姿を現したのは。

背中に翼を生やし、全身が羽に覆われたまるで鳥人のような悪魔。

体の大きさからあの少女だという事がかろうじてわかる。


赤毛の少女は魔人化したのだ。

114: 2010/03/23(火) 21:07:38.14 ID:lfnvTwE0
ステイル『…ッ!!クソ!!!』

一気に突進する。

そして炎剣、オレンジ色の大剣を両手に発生させ振りぬく。

だが魔人化した少女は軽く身を捻り、それをかわす。

そして流れるような動作で二刀を繰り出す。
ステイルはその乱撃を両手の炎剣で捌く。

少女の攻撃は凄まじかった。
速く、そして重い。

ステイル『ぐッ!!!』
体を炎化させ捌けなかった剣撃をかわす。
だが次第に間に合わなくなる。

そして限界が来る。

ステイルの胸が淡く光る曲刀に大きく裂かれる。

ステイル『ぐぉおおおお!!!!』

115: 2010/03/23(火) 21:12:19.44 ID:lfnvTwE0
ステイルの胸を裂き、少女は振りぬいた剣の慣性を利用して体を回転させる。
そしてその小さな足でステイルの顔面に強烈な蹴りを放つ。

凄まじい衝撃波が周囲の地面を大きく抉り、ステイルも大きく吹っ飛ばされる。

ステイル『がッ…!!』
何とか身を捻って着地し両足でブレーキをかける。
粉塵を上げ彼の足が二本の筋を20m程地面に刻んだところで体が止まる。

ステイル『…くそ…!』
すぐに胸の傷が塞がるが、『魂』そのものに与えられたダメージは着実に彼を蝕んでいた。

ステイルは50m先の小さな少女を睨む。
相変わらずの無表情。

至近距離で全力で刃と拳を交わらせて力量の差を痛感した。
己よりも遥かに強い。

―――イフリートがあれば。

一瞬そう思ったがすぐに否定する。
無い物の事を考えても意味が無い。

ステイル『はは…まいったな…』
力なく笑う。

その時、ステイルの右20m程の地点の地面に金色の円が浮かび上がった。

116: 2010/03/23(火) 21:18:35.44 ID:lfnvTwE0
ステイル『遅いよ…』

神裂が現れる。
その目は真っ直ぐとあの鳥人、魔人化した少女へ向けられていた。

大きく倒壊し黒煙が何本も立ち上がっているウィンザー城をバックにして
赤毛の少女が悠然と立っている。

神裂「そういうことですか…どうです?」
声だけをステイルへ飛ばす。

ステイル『強いよ。とてつもなくね』

神裂「…」
神裂の瞳と体が金色に輝く。
左腕に重なるように巨大な金色の腕が出現する。

神裂『私達二人で勝てますか?』

ステイル『さあね。試してみようじゃないか』

神裂『ですね』

魔人化した少女が腕を広げ、両手の剣をゆっくりと振るう。
まるで挑発しているかのように。

ステイル『行くぞ』

神裂『ええ』

その言葉と同時に二人が一気に地面を蹴る。

117: 2010/03/23(火) 21:26:28.09 ID:lfnvTwE0
金と赤の光が猛烈な速度で突き進む。

だが少女はその二人と激突しなかった。
突然真上へ高く跳躍する。

神裂『!?』

そして空中から何かを投げる。

それは小さなナイフ。神裂とステイルのどちらにも向けられたものではなかった。
何も無い地面に突き刺さる。

ステイル『―――?』

二人は一瞬困惑する。
だがすぐにわかる。

ステイル『まさか』

あのナイフの刺さった場所。それはシェリーが先程までいたところだった。
地面に刺さっているナイフが光る。すると一瞬だけ、シェリーが使用した黒いの円が浮かび上がった。

僅かに残留した力の名残を探知し、ナイフがその移動式の情報を読み取る。

そして『シェリーが向かった場所』を特定する。

神裂『―――くっ!!』

直接手を下せないのなら、居場所を探知して別の悪魔を遠隔召喚して送ればいい。

そしてその悪魔に禁書目録の首を。

―――

119: 2010/03/23(火) 21:33:42.75 ID:lfnvTwE0
―――

シェリー『…おい、待てよ…』
シェリーは異変を感じ取った。

五和「どうしました?」

上条「?」

シェリー『来る』
その言葉と同時に30m程離れた所に巨大な黒い円。

アニェーゼが杖を、五和が槍をすぐに構える。
だが穴から出てきた悪魔はどう見ても彼女達の攻撃が通じるような相手では無かった。

禁書「あれは…!!」

上条「うぉおおお?!」

それは高さ5mはある巨大な悪魔だった。
シェリーのゴーレムに似ている。全身が黒い巨人。図太い胴体・腕・足。
小さな頭部が二つあり、目の位置から淡い青い光が漏れていた。
腕の先には鎖に繋がった巨大な鉄球のようなもの。

胴体には拘束具のような金属のベルトが何重にも巻かれていた。


『タルタルシアン』と呼ばれる大悪魔。

かつて魔帝に反旗を翻した高名な戦士であり罪人。
その力の有用性を認められ、殺されること無く使われていた存在である。

魔帝が作り出した拘束具に囚われていて尚その莫大な力が溢れ出す。

120: 2010/03/23(火) 21:38:58.85 ID:lfnvTwE0
シェリー『下がってろ!!!』

上条達が慌てて駆け出し離れようとする。

シェリー『エリス!!!!!』
シェリーの体を覆うゴーレムが軋むような音を立てて巨大化する。

『ヴオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!!!』
ゴーレムの瞳が赤く輝き口が大きく開き、
シェリーのものとまるで巨大な恐竜のような低い声が混ざった咆哮が響く。

シェリーを核としたゴーレム=エリスはタルタルシアンと同じサイズまで巨大化した。

タルタルシアンが腕を大きく振るう。
先端から伸びる鎖に繋がった鉄球が凄まじい速度でゴーレムの巨体へ向かう。

ゴーレムはそれを腕で防ぐ。
内臓が震える程の地響きが起こる。

シェリー『おおおおおあああああ!!!!』
咆哮しながらもう一方の腕を振り、その巨大な拳をタルタルシアンの胸部へ叩き込む。
大地を割るほどの強烈なパンチが直撃し再び大地が震える。

だがタルタルシアンは僅かに揺れただけだった。
悪魔は更に腕を振り鉄球をぶん回す。

シェリーはそれを捌きながら拳を叩き込む。
巨大な爆弾が連続して爆発するような炸裂音が連続する。
そのたびに凄まじい爆風が起こる

巨人同士の規格外の殴り合いが始まった。


―――

122: 2010/03/23(火) 21:45:20.40 ID:lfnvTwE0
―――

麦野「…ッはぁ!!」
麦野は一人立っていた。
周囲の床や実験機は悉く破壊されていた。

彼女に群がる怪物達は姿を消していた。
どうやら攻撃は収まったようだ。

麦野「っチッ!!とんだ邪魔が入ったわね!!」
こんな状況でも彼女の考えてることは一つしかない。

麦野「はまづらぁああ!!!!」
声が反響する。
どこかで誰かが戦っているのか、戦闘音が響いてくる。

麦野「ったく!!逃がさねーっつーの!!」
浜面達が向かった方へ数歩歩いた時。

再び気配を感じた。

麦野「…またぁ?」

振り返ると。

麦野「…?」

20m程先の宙に奇妙なものが浮いていた。

123: 2010/03/23(火) 21:50:08.35 ID:lfnvTwE0
巨大な白い翼が生えた、いや生えていると言うよりは翼の固まりだ。
胴体は巻きついている翼で見えない。

その翼の塊の頂点に角の生えた黒い頭部。
目らしき切れ込みからは赤い光が漏れていた。

全身から淡く金色の光が溢れている。あたかも天使のようだ。

実際はかつて本当に『天使』だった存在だ。
その名は『フォールン』。太古の戦乱の際、魔界に寝返り悪魔に転生した堕天使。

麦野「…悪いけど、私そういうメルヘンなのには興味ないの」

青白いアームを向ける。

麦野「邪魔。氏んで。ね?」

そして彼女のイラつきに比例した特大の光線が放たれた。
施設全体が大きく揺れ、床がめくり上がり赤い液体となって飛び散る。

だが。

麦野「…え?」

125: 2010/03/23(火) 21:55:09.05 ID:lfnvTwE0
『天使もどき』は先と変わらず宙に浮いていた。
傷一つつかず。怯んだ全く様子も無い。

麦野「チッ!!!」
麦野の全身から青白い光が溢れる。

麦野「おぁあああああ!!!!」
そして更に大きな、太さ2m以上はあろう光の束が放たれた。

その破壊の槍は周囲を溶けた金属の海にし、施設の天蓋を貫いて地上へ続く穴を形成した。

だがそれでも。

『天使もどき』は相変わらず宙を漂っていた。
穴の空いた天蓋から外の太陽の光が差し込み『天使もどき』を照らす。
あたかも天使が降臨したかのような光景だった。

麦野「うそ…マジ…?」
唖然とする麦野を尻目に、今度は天使もどきが動く。

翼の隙間から黒く細い腕が1本でてきた。
そして鋭い爪のついた手のひらを上に向け掲げる。

するとその上に長さ50cm、太さ5cmほどの青白い槍のようなものが出現した。

126: 2010/03/23(火) 21:58:45.04 ID:lfnvTwE0
頃し合いの闇の世界で培った麦野の勘が反応する。

あれはヤバイと―――

麦野「―――ッ!」
能力を利用し、体を一気に後方へ加速させる。

それと同時だった。
天使もどきの青白い槍が猛烈な速度で放たれた。

100分の一秒という時間差で麦野が一瞬前までいた床に突き刺さる。

静寂。一瞬全てが止まったように感じた。
次いで響き渡る轟音。

麦野「くぁ…!!!」
体の前に青白い壁を作り爆風を遮る。

麦野「…!」
麦野は天使もどきが放ったその青白い槍の破壊痕を見た。

直径5m程の綺麗な円が金属の床に穿たれていた。
それだけならどうって事は無い。たしかに凄いが麦野にも出来る。

だがその穴はよく見ると異常だった。

127: 2010/03/23(火) 22:03:18.70 ID:lfnvTwE0
穴の淵が綺麗過ぎるのである。切ったのでも溶かしたのでもない。
まるで床そのものが消えてしまったような。

当然、熱も感じられないし砂粒程度の破片すら飛び散ってない。

麦野「(これは…!!)」
原理も力の正体もわからない。
だが一つだけわかる。

明らかにヤバイ代物だ。

己の力で防げるかどうかわからないし、試そうとも思わなかった。

麦野「ッ!!」
こちらの攻撃が通じない。
そして相手の攻撃は明らかに異常。

そうなると手段は一つ。
逃げるしかない。

彼女はこんな所で氏ねないのだ。

あの少年、浜面と全てを清算するまで。

128: 2010/03/23(火) 22:07:32.51 ID:lfnvTwE0
麦野「―――」

だがそう易々と逃げるのが許されるはずが無かった。

天使もどきはもう1本腕を出し両手を掲げる。
すると今度は頭上に四本、青白い槍が出現した。

麦野「クッソ!!!」
体を再び急加速させる。
避けれるかはわからない。だがとにかく動かないといけない。

己の反応できる限界を超えた速度でとにかく離れようとする。

だが天使もどきは難なくその速度に合わせ、彼女を追ってくる。

一発、二発と青白い槍が放たれる。

彼女は方向を急転回させ体を思いっきり横へ飛ばす。

麦野「くあッ!!!」
直撃は免れたが凄まじい衝撃波が彼女を襲う。

だが痛みに悶えている暇は無かった。

もう更に二発。

彼女へ放たれる。

130: 2010/03/23(火) 22:12:58.74 ID:lfnvTwE0
麦野「ッ!!!!」

体を更に飛ばす。
一発はかわした。

だが二発目。

麦野「あああああああ!!!!」
スレスレの所で生身の部分への直撃は免れた。

だが左のアームがその破壊に巻き込まれる。

彼女の能力の産物であるアームが全く抵抗無くあっさりと肘から先が消し飛ぶ。

麦野「!!!」

間接的に証明された。
あの天使もどきの攻撃に彼女の力では耐えられない。

防ぐことは不可能だ。

仮説が証明されたが絶望を再確認させるありがたくない答えだった。

麦野「―――ざっけんなクソッ!!」

そしてその絶望が更に上乗せされる。

天使もどきが再び腕を掲げる。
すると今度は長さ5mはあろう巨大な槍が現れた。

誰がどう見ても、今までとは格が違う破壊力をもっているというのが予想できる。

132: 2010/03/23(火) 22:16:28.12 ID:lfnvTwE0
麦野「(ヤバイ!!マジでヤバイ!!!)」

先とは比べ物にならない重圧が圧し掛かる。

麦野「(…?)」
気付くと、自分の足が震えていた。

彼女自身は気付かなかったが体は目の前の絶対的な力に素直に恐怖していた。

麦野「(は…は…)」
それを自覚した途端、急に恐怖の感情がこみ上げてきた。
ここ数年忘れていた感情。

レベル5位となり、闇の世界へ身を投じていくにつれ彼女の感情は徐々に欠落していった。
頃し殺される世界。

いつしか周りの人間がゴミと同じに見えるようになった。
そして己は怪物だと。

怪物。

だがそんな幻想も今叩き壊された。

この目の前の存在こそ正真正銘の怪物だ。
レベル5第四位が聞いて呆れる。

この目の前の存在にしてみれば、彼女は傷一つつけれずにあっけなく殺される小物に過ぎなかった。

133: 2010/03/23(火) 22:23:29.30 ID:lfnvTwE0
麦野「…」
言葉が出なかった。

自覚してしまったのだ。

その恐怖を。

恐怖が彼女の体を固く縛る。

嫌な汗が額を、頬を伝う。
まるで彼女の萎縮した心に比例するかのように、右目と左肩から溢れる青白い光がどんどん小さくなる。

そして彼女の中で何かが音を立てて切れた。

その場に力なくヘタリと座り込んでしまった。

麦野「あはは…」
心ここにあらずといった感じで、天使もどきを見つめながら虚ろに小さく笑う。

天使もどきがその巨大な槍を掴み、投擲の構えをする。

134: 2010/03/23(火) 22:28:57.93 ID:lfnvTwE0
脳裏に一人の少年の顔が浮かぶ。
憎み憎んで、何が何でも殺そうと誓った少年。彼女の全てを破壊した男。

麦野「…ここで終わりみたい…」


麦野「はまづらぁ…」


その名を発した時の彼女の表情は歪んでいた。

今にも泣き出しそうに。

青白い槍がそんな彼女に向かって放たれた。
一際大きな轟音が響く。

だが。

彼女の体は残っていた。

麦野「…?」

その時、声が聞こえた。


「ハッハ!!おい大丈夫かお嬢さん!?」

136: 2010/03/23(火) 22:34:24.46 ID:lfnvTwE0
目の前が赤い何かで覆われていた。

麦野「?」
良く見るとそれは人間の後姿だ。
銀髪の大男。足元には大きなギターケースが置かれていた。
肩には髑髏型の奇妙な金属の塊。
そしてそこから大きなかぎ爪のようなアームが伸びている。

ダンテ「こいつ俺が貰ってもいいか?」

麦野「…え?」
どうやら麦野へ向けられた言葉らしい。

その時、突如奇妙な咆哮が響く。
あの天使もどきが翼を大きくうねらせ、両手に巨大な青白い槍を出現させた。

ダンテ「ハッハ~♪そこから動くんじゃねえぞ」
ダンテは背中に手を回し、アームから赤い剣を複数引き抜く。

天使もどきが槍を放つ。

ダンテ「Huh!!!」
ダンテも赤い剣を放つ。

ちょうど中間の位置で赤と青の光が衝突し、爆風が吹き荒れる。

天使もどきの攻撃が相殺される。

137: 2010/03/23(火) 22:39:06.65 ID:lfnvTwE0
麦野「…なッ!!!」

ダンテは間髪いれずに赤い剣を次々と放つ。

だが。
天使もどきの頑丈な翼がそれを弾く。

ダンテ「へえ…そういえばそういう奴だったな…」
不気味にニヤける。

天使もどきの翼が更にうねり、瞳も輝きを増す。

ダンテ「最高じゃねえか!ガードが固い子は燃えるぜ!!」

麦野「へ…?」

楽しそうな声を上げながらダンテが一気に跳躍する。
一瞬で天使もどき真上に移動する。

140: 2010/03/23(火) 22:46:06.20 ID:lfnvTwE0
ダンテ「ガードが固いなら―――」
バラを加えながら飛ぶ。

宙で身を捻り真上から複数の赤い剣を放つ。
金属がこすれるような音を立てて天使もどき、「フォールン」の翼の羽の隙間に突き刺さる。

ダンテ「慌てず焦らず慎重に―――」

フォールンが咆哮をあげ、手に持つ青白い槍をぶん回す。
凄まじい衝撃波の刃が周囲を刻んでいくもダンテは笑いながらそれを軽々とかわし、更に真上から何本も放つ。

ダンテ「だが大胆に!」

そしてそのままフォールンの頭部、ダンテを見上げている顔面に着地する。

ダンテ「濃厚な口づけも忘れずに だ。」
足の下のフォールンへ軽くウインク。

ダンテ「ムード作りには必須だぜ」

逆鱗したフォールンが多きく身を捻りダンテを振り落とす。

ダンテは落下しながら、赤い剣をアームから引き抜きフォールンの正中線にそって何本も叩き込んでいく。

首、胸、そして腹を伝い股間の位置へ。胴体を覆っている羽の隙間へ突き刺していく。

ダンテ「そして間髪入れずにに―――」

着地したダンテは真上、フォールンの下側へ更に放つ。

ダンテ「刺激の波を」

141: 2010/03/23(火) 22:47:58.66 ID:lfnvTwE0
フォールンは両手の青白い槍を振るう。

ダンテは難なく後ろに下がってかわす。

金属の床に巨大な溝が刻まれる。

ダンテ「すると―――」

バラを咥たままポーズを決め、


ダンテ「秘密の花園が口を開く」


顔の横で軽く手を叩く。

その瞬間フォールンの翼に突き刺さっている20近くの赤い剣が一斉に爆発した。

翼が千切れフォールンの咆哮の中、美しく輝く羽が周囲に散る。

そしてフォールンの胴体が姿を現す。
黒くおぞましい醜い胴体が。

143: 2010/03/23(火) 22:49:54.12 ID:lfnvTwE0
ダンテ「後は―――」

体をその場で回転させ、そのフォールンの剥き出しになった胴体へ何本も放つ。

ダンテ「挿れ―――」

何本も何本も。
赤い剣がフォールンの胴体へ抵抗も無く次々と刺さっていく。

ダンテ「激しく突く!」

フォールンの咆哮が響く。
なんとか青白い槍で弾こうとするも、その数が多すぎる。

ダンテ「次第に強く!速く!」

フォールンの胴体が突き刺さった赤い剣で埋まり、剣山のようになった。

144: 2010/03/23(火) 22:52:09.15 ID:lfnvTwE0
ダンテ「そして…」


ダンテ「Finish…」

振り返りフォールンを背にして、呆然としている麦野の目を真っ直ぐに見つめる。

ダンテ「押し寄せる波に身を委ねよう」


咥えていたバラを手に取る。



ダンテ「君は―――自由だ」



そして麦野の方へ軽くバラを投げた。

そのバラが床に座り込んでいる麦野の太ももの上へ落ちる。

それと同時に背後のフォールンが大爆発を起こす。

147: 2010/03/23(火) 22:56:11.89 ID:lfnvTwE0
麦野は呆然としてだた見ていた。
何も言えなかった。

誰がこの目の前で起こったことを説明できよう。

ただ一つわかることは、あの麦野が手も足も出なかった天使もどきを
この目の前の男はまるで劇でもやっているかのように簡単に倒してしまったことだった。

まるでくっだらないB級映画のように。

ダンテ「よう、大丈夫か?」
ダンテが麦野の前に立つ。

麦野「…あ…ま、まあ…」

ダンテ「立てるか?」
ダンテは麦野に左手を差し出す。

麦野「…」

麦野は黙ったままその手を『生身の右手』で掴み立ち上がる。

149: 2010/03/23(火) 23:01:04.35 ID:lfnvTwE0
麦野は気付いた。
この目の前の男は、左腕と右目が無くそこから青白い光を放出している麦野の姿を見ても、
一切動じていない。

麦野「…」

立ち上がった時に太ももに乗っていたバラが落ちる。

ダンテ「おっと」

それをダンテは右手で掴み取った。

ダンテ「ほれ」

ダンテはバラを麦野に差し出す。

麦野「…」
正直、そういうガラではないのは自覚している。
ましてや男から花を貰うなど。

ダンテ「とっとけ」

麦野「…」
だが黙って受け取った。この男の異様なオーラにでも押されてしまったのか。
自分でも良くわからなかったが、なぜかこれは受け取らないといけないように感じた。

ダンテ「OKOK。似合うぜ。美女に花ってな」
ふざけた調子で笑う。

150: 2010/03/23(火) 23:07:12.03 ID:lfnvTwE0
麦野「…ふっ…」
自嘲気味に笑う。

麦野「…私は怪物よ。どこからどう見ても。」

ダンテ「よく言うねえお嬢さん。」

ダンテ「俺からすればどっからどう見ても人間のカワイコちゃんだぜ?」
肩を竦めながら、馬鹿にしたような態度で言葉を返す。

麦野「どこがよ!私なんか頃ししか能が無い化物よ!」
麦野「今までずっと頃し続けてきた!それがこの有様よ!」

麦野「これからも頃す!全部ぶっ壊してやる!」

ダンテ「おーおーせっかくの良い顔がもったいねえぞ」

麦野「どこが!!ッざっけんな!!」
感情が高ぶり右目の焼けただれた様な穴から青白い光が噴き出す。

ダンテ「へーへー」
肩を竦め手をひらひらする。

ダンテ「あ~そうだ、浜面・滝壺って知ってるか?」

その名を聞いて麦野の顔が一瞬で強張る。

ダンテ「…へえ」
ダンテはその表情の中の強烈な殺意を読み取った。
どす黒い感情の篭った殺意。

151: 2010/03/23(火) 23:11:07.15 ID:lfnvTwE0
麦野「…知らない」
この目の前の男があの二人を頃すつもりなのか、
それとも助けるつもりなのかわからない。

だがどっちにしても彼女の壁になる。
自分より遥かに強いのなら尚更だ。

うやむやに答えるのが一番と彼女は判断した。
だがそんな事はすぐに見破られる。

ダンテは顔を思いっきり麦野に近付ける。
そしてまじまじと眺める。

麦野「…ちょ、ちょ!!」

ダンテ「へえ」

麦野「…ッ!!な、何よ!?」

152: 2010/03/23(火) 23:13:49.18 ID:lfnvTwE0
ダンテ「そんなに頃してえのか?そいつら」

麦野「…!?なッなんで…!!」

ダンテ「親でも殺されたか?」

麦野「だ、だまれ!!」

ダンテ「ま、好きにしな」

ダンテ「悪いが俺は助けるつもりだぜ」

麦野「…ッ!」

ダンテが後ろに数歩下がり、手を広げた。
何かを誘うように片眉を上げる。

麦野はその行動の意味がわからなかった。

ダンテ「どうした?来いよ?」

ダンテ「全部壊して頃すんだろ?」

154: 2010/03/23(火) 23:18:22.35 ID:lfnvTwE0
麦野「…!!!」

ダンテ「頃してみろよ?」
ニヤりと笑う。

ダンテ「それともダンスでもするか?」

ダンテ「俺はどっちでもいいぜ?」

麦野「―――ッ」
良くわからない。
男の真意が全く読めない。

その得体の知れない笑みは喜びと殺意、
穏やかな慈愛と男特有の下品な欲望が混ざっているようだった。

以前の彼女なら躊躇うことなく殺そうとしただろう。
だが今はなぜかできなかった。

言葉が出ない。体が固まる。
自分がどうすればいいのか。

圧倒的な力と絶望を目の当たりにし、一度生を諦めた事で心の中で何かが変わったのか。

わからなかった。

ダンテ「ま、いーか」
ダンテは少し残念そうに手を下ろした。

ダンテ「じゃあな」

ダンテは踵を返して歩き、麦野から離れ始める。

155: 2010/03/23(火) 23:24:07.46 ID:lfnvTwE0
麦野「ねえ…」

その背中に麦野は声を飛ばした。

麦野「私…どうすれば良いの…?」
なぜそんな事を聞いたのかわからない。
だがこの目の前の男はその何かの答えを知っているような気がする。

ダンテは振り向かずに答える。

ダンテ「知らね。自分で考えな」

また数歩進み、思い出したように再び止まる。

ダンテ「さっき言ったろ」



ダンテ「お前は『自由』だ」



そう背後に言葉を飛ばし、再び歩き始めた。
今度は止まらずに。

麦野はその離れる背中をただ見ていた。

彼女の生身の右手には一輪のバラが固く握られていた。


―――

156: 2010/03/23(火) 23:30:10.15 ID:lfnvTwE0
―――



神裂『はぁああああああ!!!!』

七天七刀を一気に振るう。

少女が1本の剣でそれをいなす。
そしてもう一本の剣で、円を基調とした流れるような動作で神裂の顔面を貫こうとする。

神裂『―――ッ』

咄嗟に顔を傾ける。
金色に輝く曲刀が頬をかする。

神裂のシールドを難なく引き裂き、彼女の頬に一筋の赤い線。

ステイルが跳躍し、少女の頭上へ現れる。
少女は彼を見上げる。

神裂『シッ!!!』
その僅かな隙の間にゴッドブリンガーを伸ばし少女の小さな体を鷲掴みにする。

157: 2010/03/23(火) 23:37:47.11 ID:lfnvTwE0
ステイル『おぁあああああ!!!』
ステイルが真上から足を叩き下ろす。

身動きの取れない、少女の羽に覆われた顔面へ直撃し巨大な地響き。

ステイルは身を捻り更に二発、拳を叩き込む。

そして左手で三発目を叩き込もうとした時。

その放った拳が手首の所から分離した。
輝く曲刀が刎ねたのだ。

ステイル『ぐぁ!!!』

神裂『!!!』
同時に神裂のゴッドブリンガーも指が切り落とされる。

そして少女が身を捻りながら飛び出す。

小さな足を大きく広げ二人を同時に蹴り飛ばす。

ステイル『がッ!!!』

神裂『くッ!!!』

二人が大きく吹っ飛び、宙を舞う。
地面にゆっくり着地する暇は与えられなかった。

158: 2010/03/23(火) 23:42:46.40 ID:lfnvTwE0
少女がそのまま体を駒のように一回転し剣を振るう。
そして巨大な金色の斬撃が宙を舞う神裂とステイルに向け放たれた。


神裂は咄嗟にゴッドブリンガーを、ステイルは力を集中させた右手をかざす。

宙で二つ、まるで花火のような巨大な光の爆発。

その弾けた光の雨の中から神裂とステイルが飛び出し、乱暴に着地する。


神裂『ステイル!!!』
神裂が叫ぶ。

ステイル『大丈夫だ!!』
ステイルの手首から先が無くなった腕は一度炎となり、再び元に戻る。
すると失った手首が再生していた。
同様に先の攻撃を防いだ右手の傷も無くなっていた。

ステイル『そっちは?!!』

神裂『私もなんとか!』
ひしゃげていたゴッドブリンガーの形が元に戻る。
神裂の額や二の腕の傷も塞がる。

159: 2010/03/23(火) 23:47:24.93 ID:lfnvTwE0
二人はあの少女を見る。

少女の額から血が出ていた。

ステイル『まあ、なんとかなりそうだな』

神裂『…少なくとも当たれば切れます』


ステイル『まあね…それが難しいんだがな』

少女が剣を振り、そして地面を蹴り一気に距離を詰めてくる。
ステイルが両手を地面に突き立てる。

すると少女の足元の地面が割れ火柱が噴き上がる。
少女は横に跳ねかわすもその回避先の地面からも火柱が噴き出す。

ジグザグでかわしながら距離を詰める。

ステイル『(そうだ!そのまま来い!)』
避けられるのは予想済みだ。ステイルはそこを逆に突いた。

わざと避けさせ、誘導して進路を限定させる。

神裂『ハァッ!!!!』
その回避先を読み、神裂が突進して七天七刀を振るう。

横に薙いだ一撃目はいなされる。
神裂は間髪いれずにゴッドブリンガーで強烈なフックを放つ。

160: 2010/03/23(火) 23:53:00.10 ID:lfnvTwE0
それも剣で防がれる。

だが三撃目。

神裂『―――飛べぇええええええ!!!』
神裂が七天七刀を返し、下から渾身の力を篭めて切り上げる。


少女が二刀をクロスさせるかのように振り下ろす。



三本の剣が激突する。
突如甲高い金属音が響いた。

神裂『―――!』

銀色の金属の破片が飛び散った。

少女の二本の剣が折れたのだ。

そして。

神裂の七天七刀も折れた。

だが神裂は慌てなかった。

無防備となった少女の腹へゴッドブリンガーで強烈なアッパーを叩き込む。

少女の小さい体が高く打ち上げられる。

161: 2010/03/23(火) 23:55:40.32 ID:lfnvTwE0
その真上に跳躍したステイルが現れる。

ステイル『Break!!!!!』
少女の背中へ強烈なかかと落しと叩き込んだ。

爆炎を身に絡ませながら少女の体が今度は真下、神裂の目の前の地面へ叩き込まれた。

神裂『オ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛!!!』
腹の底から息を吐くような低い咆哮を上げ神裂がゴッドブリンガーを振り上げる。

ゴッドブリンガーが白く眩く輝き一気に巨大化する。

そしてそれが目の前の少女に振り下ろされた。

轟音が轟き、大地が大きく揺れて割れる。
生じた衝撃波が半壊していたウィンザー城を更に破壊する。

162: 2010/03/24(水) 00:01:08.59 ID:m.Pbsa20
神裂が大地に深くめり込んだゴッドブリンガーを引き抜く。

それと同時にステイルが真上から巨大なオレンジ色の剣を突き立てる。
とてつもない高温によって割れた大地が一瞬で溶岩の海に変わる。

ステイルは更に深く突き刺す。

そしてその剣の先に。

少女の体へめり込む感触。


ステイル『―――喰らい尽くせ。―――焼き尽くせ』


その瞬間、オレンジ色の剣が太陽のように輝く。

地響きを起こし、溶岩の海が大きく盛り上がる。
まるで海面下で核爆発が起こったように。

次いでその高圧から解き放たれたエネルギーが弾け、
高さ300mはあろう巨大な火柱が噴き上がった。

火山の噴火のように。


―――

163: 2010/03/24(水) 00:02:18.01 ID:m.Pbsa20
今日はここまで
再開は今日と同じ時間辺りからです

169: 2010/03/24(水) 20:33:01.79 ID:m.Pbsa20
―――

シェリー『らぁああッ!!!』

鼓膜が破れそうな、内臓が飛び出してきそうな大気と大地の震動。
ゴーレム化したシェリーがタルタルシアンと凄まじい殴り合いを続ける。

タルタルシアンのパンチでゴーレムの黒い外皮が飛び散り、
ゴーレムのパンチでタルタルシアンの黒い肉片が飛び散る。

二人の巨人の戦い。

まるで怪獣映画のような光景だった。

上条「うぉおおおお!!!」

五和「こっちへ!!!」
五和がインデックスと上条を誘導しその場を離れる。

アニェーゼが殿となって、飛んでくる瓦礫などを杖の力で打ち落とす。


だがタルタルシアンは見逃さなかった。

左腕を高く掲げ、上条達の方向へ振るう。

すると腕に繋がっている鎖が一気に伸び、その先の巨大な鉄球が上条達へ向かう。

アニェーゼ「左に!!!」

その声で4人が慌てて左へ跳ねる。
そのすぐ横に巨大な鉄球が叩き下ろされ、地面が大きく窪む。

171: 2010/03/24(水) 20:38:18.35 ID:m.Pbsa20
上条「うぉッ!!おおッ!!」
その大きな窪みに上条が転げ落ちた。
まるでアリ地獄に飲み込まれるように。

禁書「とうま!!!」

上条「あだッ!!」
勢い良く転げ落ちた上条は窪みの中央に
めり込んでいるタルタルシアンの鉄球に体を強く叩きつけられた。

五和「上条さん!!」

上条「ッ!だ、大丈夫だ!!」
痛みにこらえ、立ち上がろうと右手をつく。

タルタルシアンの鉄球に。

するとその瞬間何かガラスが割れるような音が響いた。

上条「…へ?」
ふと傍の鉄球に目をやると。

172: 2010/03/24(水) 20:42:33.10 ID:m.Pbsa20
鉄球にヒビが入っていた。
それに繋がっている鎖も砕け落ちていた。

『拘束具』の鎖が。

その時エコーのかかった怒号が響く。

シェリー『上条ぉぉぉぉぉぉおお!!!!何しやがったぁああああ!!!?』


上条は慌てて窪みから這い上がる。

そしてシェリーとタルタルシアンの方を見た。

上条「―――!」


タルタルシアンの体に巻きついていた金属のベルトのような物が砕け落ちていた。

そして。

タルタルシアンの二つの頭部に巨大な角が生え、瞳の赤い輝きが更に強くなった。

魔帝の作った拘束具が上条の右手に破壊されたのだ。

タルタルシアンは縛から解き放たれ真の力を取り戻した。

176: 2010/03/24(水) 20:47:01.32 ID:m.Pbsa20
自由の身となったタルタルシアンの咆哮が響く。

シェリー『クソッタレがぁああああ!!!!』

ゴーレムの背中から更に二対の腕が生え、計六つの拳を放つ。
タルタルシアンの体にめり込み、黒い肉片が弾ける。

だがこの力を解放された大悪魔は怯まなかった。

タルタルシアンは解放されカギ爪の生えた腕をシェリーへ叩き込んだ。

一際大きな轟音が響き、ゴーレムの胸部が砕け大きく抉られる。

シェリー『がッ!!』

タルタルシアンは更に腕を振るう。
シェリーは六本の腕を体の前で交差させ、防御の姿勢をとる。

再び大地が震える。

シェリー『…!!!!』

六本の腕のうち四本が大きくひしゃげ、体ごと100m程後方へ粉塵を上げながらずり下がる。

すかさずタルタルシアンが跳躍し、腕を振り上げながらシェリーの上方へ。

177: 2010/03/24(水) 20:51:31.34 ID:m.Pbsa20
シェリー『(マズイ―――)』
今使える腕は二本。残りを再生している暇は無い。
避けるにしても体勢が整っていない。

シェリー『くっそぉおおおおおお!!!!』
シェリーは玉砕覚悟で、残りの二本の腕で上から来るタルタルシアンへカウンターを放つ。

シェリーの拳に強烈な衝撃。

そして当然、シェリーの体にも強い衝撃。

シェリー『ごぁああああああ!!!!!』
胸部の外皮が飛び散り、シェリーの巨体がバウンドしながら200m程ぶっ飛ぶ。

タルタルシアンのパワーは先の5倍以上になっていた。

その前までは互角に殴り合えた。

だが今は到底正面からやり合える訳が無い。

179: 2010/03/24(水) 21:00:28.06 ID:m.Pbsa20
シェリー『(くっそ…こうなったら!!!)』

シェリーの体を包むゴーレムの皮膚が蠢く。

六本の腕の内の1本だけ残り、あとの五本は全て体に溶け込む。
背中側の外皮がうねりながら体の前面へ向かう。

続けて集った外皮が全て、残った1本の左腕に向かう。

不要な外皮が剥げ落ち、シェリーの生身が剥き出しになる。

力を全て左手へ集中させる。

それはもうゴーレムではなかった。

シェリーが左腕に巨大な棒を持っているような光景だった。

シェリー『(頃す!!!頃してやる!!!!!)』
全ての力を左腕の塊へ集中した、防御を無視した超攻撃型だ。

シェリーは命を捨ててでもこのタルタルシアンを頃す気だった。

全てをその一撃に賭けて。

180: 2010/03/24(水) 21:07:33.38 ID:m.Pbsa20
タルタルシアンがそのシェリーの覚悟を悟ったのか咆哮を上げる。
そして一気に突進してくる。

シェリー『来い!!!』

この衝突で恐らくシェリーは消し飛ぶ。
だが同時にこの左腕を叩き込む。

シェリー『おあああああああ!!!!!』
突進してくるタルタルシアンにタイミングを合わせ、渾身の力を篭めて左腕を振るう。

だがそれは空振りだった。

タルタルシアンが来ない。

シェリー『―――!』

シェリーの目に光景。
タルタルシアンの胴体が青い何かによって絡めとられて制止されていた。

その青白い何か、それは巨大な腕だった。


「悪い!!!遅れたぜ!!!」


男の声がその向こうから響く。

シェリー『ッ!!おっせーんだよ!!!』

181: 2010/03/24(水) 21:10:49.49 ID:m.Pbsa20
禁書「ネロ!!!」

ネロ「皆無事か!?」
伸ばしたデビルブリンガーでタルタルシアンの腕を押さえながら声を上げる。

上条「お、おう!!」

五和「はい!!」

アニェーゼ「さっさとやっちまってください!!!」


ネロ「Ok!...This may be fun!!!!」

タルタルシアンが体を回転させデビルブリンガー振りほどくと、
ネロを見据えて咆哮する。

そして腕を振り上げる。

ネロ「ハハ!力比べか!?上等だぜ!!」

タルタルシアンがネロへ向けて突進する。
そして全体重をかけた巨大な拳を放つ。

ネロ「Huh!!!!」

ネロはその拳へデビルブリンガーを重ねる。

金属の塊が衝突するような炸裂音。
ネロに軍配が上がった。タルタルシアンの拳がひしゃげる。

183: 2010/03/24(水) 21:13:18.77 ID:m.Pbsa20
ネロ「ハッハァ!!残念だったな!!!そら!」

タルタルシアンの腕を掴み一気に引き寄せる。

その巨体が目の前に来た時。

ネロ「ハァアア!!!」
アクセルを思いっきり捻り、炎が噴き出すレッドクイーンを下から振り上げる。

直撃の瞬間に更にアクセルを捻る。

Max-Act!!!

ネロ「Craaaaaaaaazy!!!!!!!!Yeahhhhhhh!!!!!!!!!」


炎がジェット噴射になり、タルタルシアンに食い込むレッドクイーン、そしてネロの体ごと高く打ち上げる。

そしてすかさずデビルブリンガーでタルタルシアンを鷲掴みにすると

ネロ「Crash!!!!!」

地面へ思いっきりぶん投げる。

184: 2010/03/24(水) 21:17:28.66 ID:m.Pbsa20
粉塵が上がり瓦礫が飛び散り巨大なクレーターが大地に刻まれる。

ネロはそのクレーターの淵へ着地した。

ネロ「まだ生きてんのか?」
レッドクイーンを肩に乗せ、呆れたように声をかける。

タルタルシアンが腕をつき立ち上がろうとする。
その体はボロボロだった。
腹から首の根元までネロのレッドクイーンで大きく裂かれている。

ネロ「Tough guy, huh...」

ネロ「But....」

クレーターの底に這いつくばるタルタルシアンの上に影が落ちる。
タルタルシアンが見上げる。

そこには左腕を振り上げたシェリー。


ネロ「You dead. Bye-Bye」


それがタルタルシアンが聞いた最期の言葉だった。
次の瞬間、シェリーの全ての力を篭めた槌が真上からタルタルシアンの頭部を叩き潰した。


―――

185: 2010/03/24(水) 21:21:20.08 ID:m.Pbsa20
―――

ケルベロスは御坂、黒子、浜面、滝壺を乗せ広大な地下空間を疾走していた。
迫り来る悪魔達の群れをケルベロスと、アラストルを持った御坂がなぎ倒す。

一行が通り抜けた後は氷と電撃の破壊の痕だけが残った。

御坂「最っっっっ高!!!あははははははは!!!!」
御坂は完全にアラストルの力に魅了されていた。

黒子「お、お姉さま!!戻ってきてくださいましぃいいい!!!」

ケルベロス『む?』
その時ケルベロスが急ブレーキをかけ止まる。

御坂「ッ!ちょ、ちょっと!どうしたのよ!?」

黒子「…お姉さま!前!」

その言葉で御坂も前を見る。

30m程前方に赤いコートを羽織った男が立っていた。
何やらギリシャ兜のようなものを被っていた。

御坂「…」

ケルベロス『ほう…』
気付くと先まで押し寄せてきていた悪魔達の群れがいなくなっていた。

186: 2010/03/24(水) 21:23:53.97 ID:m.Pbsa20
御坂「…『普通』じゃないってわけね」

ケルベロス『…一度降りるが良い』

御坂「ええ」
御坂は軽々とその背中から飛び降りる。

黒子も浜面・滝壺と共にテレポートして降りる。

アリウス「ケルベロスに…アラストルか」
兜から篭った声。

アリウス「浜面仕上」


浜面「!」


アリウス「貴様か」
兜の隙間から目の不気味な輝き。
浜面を見据え、ゆっくりと歩いてくる。

御坂「止まりなさい!」
御坂がアラストルの切っ先をその男に向け制止しようとする。

アリウス「やめておけ。無闇に学園都市の者は頃したくない」

187: 2010/03/24(水) 21:26:49.76 ID:m.Pbsa20
ケルベロス『止まれ。人間』

アリウスは小馬鹿にした感じで笑う。

アリウス「飼い犬は黙っているがいい」
そしてその場の床を軽く足で叩く。

その瞬間。

ケルベロスの巨体が一瞬で消失した。
そして青白いヌンチャクが音を立てて金属の床に落ちた。

御坂「!!!!」

ケルベロス『貴様!!』
ヌンチャクから怒りの感情が篭った声。

アリウス「貴様の主のせいだ。命令系統の防護を全くしていない。いくらでも割り込める」

188: 2010/03/24(水) 21:29:26.77 ID:m.Pbsa20
御坂「黒子!!その二人頼むわよ!!!」
御坂はアラストルを振り上げる。

黒子「は、はいですの!!!」

アリウス「やめておけというのがわからんのか?」

アリウスの前に黒い円が浮かび上がる。
そして一体の大きな悪魔が現れた。

金属のような外皮に包まれた太い腕に足。頭部から伸びる一本の長い角。
全身を覆う金色の電気。

御坂「!!!」

黒子「あ、あれは…!!!」

二人は良く知っている。
以前とてつもない力で圧倒され殺されかけた。

『ブリッツ』が再び御坂達の前に立ち塞がる。

189: 2010/03/24(水) 21:32:49.03 ID:m.Pbsa20
ブリッツが咆哮を上げる。
そしてその体が電気に変わり、凄まじい速度で周囲を移動する。

御坂「!!」

その時、御坂の手にある大剣が声を上げた。

アラストル『任せろ』

その瞬間大量の青い電撃が周囲一体に網目状にほとばしる。

そしてブリッツの金色の電気とぶつかり大気が引き裂かれる音。

御坂「(…!)」
先まで捕え切れなかったブリッツが御坂のレーダーに反応する。

アラストルが周囲に張った電気の網に邪魔されブリッツの移動速度が落ちたのだ。
更にレーダーと同時にアラストルからも情報が来る。

アラストルの視覚と繋がり、御坂の目にもブリッツの姿が映る。

御坂「(見える!!!)」

ブリッツが一気に接近してくる。

御坂はアラストルでブーストされた能力を使い後方へ跳ねた。

190: 2010/03/24(水) 21:35:52.09 ID:m.Pbsa20
ブリッツの振り下ろされた爪は空を切り、そのまま真下の金属の床を抉る。

御坂「らぁ!!!!」

御坂はすぐに前に飛び出しアラストルをブリッツの頭部目がけて振り下ろす。

ブリッツの電撃の衣をアラストルの電撃が相頃し、その刃が食い込む。

金属音と共に火花が散る。
そしてブリッツの頭部に大きな切れ込み。

御坂「(いける!!!)」

ブリッツが咆哮し、周囲に電撃の網が出現する。

御坂「チッ!!!」

御坂は一旦後方へ飛び距離をあける。
だがそれは無意味だった。

ブリッツが両手を御坂へ突き出す。

御坂「(まさか!あの…!)」
以前もあの構えを見た。

そして予想通り。

その手から極太の金色の電撃の束が射出された。

191: 2010/03/24(水) 21:40:38.45 ID:m.Pbsa20
御坂「おぁあああああああ!!!!!」

咄嗟にアラストルをその向かってくる束へ突き出す。
その刃にブリッツの電撃がぶち当たり、まるで連続して爆発する花火のように光の線が周囲に飛び散る。

御坂「ぐッ…!!」
アラストルがその電撃の乱流を何とかせき止める。
だがそれを持つ御坂の手が軋む。

アラストル『集中しろ人間!!委ねろ!!』

御坂「くぁ…!!!」

アラストル『求めろ!!!我の力を!!!』

御坂「…!!!」

御坂「…を…!!!」


御坂「もっと!!!力をぉぉぉぉおお!!!!」

御坂の目が僅かに赤く光り、その瞬間彼女の全身から青い電気が噴き出す。

192: 2010/03/24(水) 21:44:24.64 ID:m.Pbsa20
御坂「ぁああああああああああ!!!!!」

アラストルから青い電気がほとばしり―――

ブリッツの電撃の束を押し返していく―――


御坂「らぁあああああ!!!!!」


ブリッツの電撃が御坂とアラストルの青い電撃の嵐に飲み込まれていく。

ブリッツの金色の電撃も巻き込んだその巨大な槍が凄まじい轟音を上げて突き進む。


そして。


ブリッツの上半身が消失した。

それだけでも止まらなかった巨大な電撃の嵐が壁を貫き、直径10mはあろう巨大な穴を作り出した。

195: 2010/03/24(水) 21:46:40.22 ID:m.Pbsa20
ブリッツの下半身がぐら付き、床に倒れこむ。

前回は圧倒されたが、今回は御坂が圧倒した。

御坂「…ッはぁああ!!!」
大きく息を吐く。

御坂は感じていた。
今までとは体の感じが違う。

今まで体験したことの無い感覚。

力が全身にみなぎってくる。


御坂「あはっ最ッ高♪」


御坂はアリウスの方へ振り返り、そしてアラストルの切っ先を向ける。

御坂「次は?もっと楽しませてよ ね?」

196: 2010/03/24(水) 21:51:25.77 ID:m.Pbsa20
御坂の体をアラストルの力でブーストされた電撃が覆う。

アリウス「…哀れな小娘よ」

御坂「何よ。うっさいわね」

黒子「(お姉さま…)」

アリウスは再び床を足で軽く叩く。
すると彼の前に大きな黒い円が浮かび上がる。

御坂「で、次は?」


アリウス「その程度で粋がるな。小娘」


アリウスの前には銀色の金属に覆われたような、
機械とも生物とも見れる奇妙形の巨大な塊が現れてた。

正面にはまるで目のような青白く輝く円形の窪み。

アリウスが作った魔導生物兵器の一つだ。

ダンテならこう思っただろう。
「ナイトメアに似てるな」と。

198: 2010/03/24(水) 21:56:46.68 ID:m.Pbsa20
御坂「へえ…今度は変なのね。どれ…」

御坂「はぁああああああ!!!!」
御坂はアラストルの力を使い、再び巨大な電撃の槍を放つ。

だがその凄まじい破壊力を秘めた槍はアリウスまで到達せず、少し前で何かにぶち当たった。
飛び散った電撃が周囲を襲う。

先のブリッツの電気の束を圧倒した攻撃があっさりと防がれる。

御坂「…へ?」


アリウス「アラストルを使ってもその程度か」

アリウス「器が小さすぎる」

あの奇妙な塊の前に、白い半透明の壁が現れていた。

御坂「も、もういっちょおおおおおおお!!!」
再びアラストルを振り電撃を放つ。
金属の床を大きく抉る。

その白い半透明の壁に再び難なく防がれる。

御坂「うそ…あれ…?」

199: 2010/03/24(水) 22:03:14.61 ID:m.Pbsa20
アリウス「無駄だ」

魔導兵器からお返しとばかりに白い光線が放たれた。

御坂「!!!」
ブーストされた能力を使い一気に横に跳ねる。
その白い光線は彼女のすぐ傍をつき抜け、壁に巨大な穴を穿つ。

御坂が周囲に張った電撃の網を易々と裂く。

御坂「(何よアレ!!!)」

続けて更に三本の白い光線が彼女に向かう。

二本は先と同じように横に跳び避ける。

御坂「(まずい!!!!)」

だが最後の一本が彼女の回避先を予測して飛んでくる。

御坂「あっ!!!!」
咄嗟にアラストルを掲げる。

その銀色の刃に白い光線が直撃する。
凄まじい衝撃。

御坂「くぁッ!!」

アラストルでさえ防ぎきれず、御坂の体が衝撃で弾かれ宙を舞う。

201: 2010/03/24(水) 22:08:22.08 ID:m.Pbsa20
いくらアラストルの力が大きいとはいえ、使用者が非力なら意味が無い。

確かに人間の中では御坂はかなり強いほうだろう。
だが魔界のレベルと比べると良くて高等悪魔の下だ。

実際御坂がこの魔具から引き出せた力は1割にも満たないだろう。

器が小さすぎるのだ。

神クラスの莫大な力を小さな人間が扱いきれるわけも無い。

御坂は大きく後方に跳ね飛ばされるものの能力を使い、
なんとか体制を整えて着地する。

アリウス「どうした?さっきの勝気はもう砕けたか?」

御坂「うっさい!!!」

202: 2010/03/24(水) 22:12:35.43 ID:m.Pbsa20
御坂は圧倒された。
だがその目の前の圧倒的な力が幸いな事に御坂の堕ちかけていた心理状態を元に戻した。

彼女の頭に冷静さが戻る。

御坂「(どうすれば…!!)」

あの弾幕で近づけない。

御坂「(…そういえば…)」
だがもう一つ。
あの男自身は直接手を下していない。

とてつもなく強いのか弱いのかのどちらかだ と御坂は推理する。

御坂「…」
危険な賭けだが突破口はそこしかないように思われた。

どうにかして懐まで近づく――。

203: 2010/03/24(水) 22:15:21.22 ID:m.Pbsa20
御坂「(でも…どうすれば…)」
だが簡単にできたら苦労しない。
この距離でもあの弾幕を避けるのが精一杯だ。

御坂「あ」
その時御坂の頭の中に一つの方法が浮かんだ。
なぜこんな事が思いつかなかったのか不思議な程簡単な事だった。

御坂「黒子ォ!!!!」

黒子「へ?」

御坂「来なさい!早く!」

黒子は浜面達のところから御坂の方へテレポートで移動する。

アリウス「…」

205: 2010/03/24(水) 22:18:16.01 ID:m.Pbsa20
御坂「黒子。あたしをあいつの所に飛ばして」
小さな声で言う。

黒子「え?え?」

その時、魔導兵器から再び白い光線が放たれた。

御坂「チッ!!!」
御坂は黒子を抱き上げ横に跳ぶ。

御坂「早く!!!」

黒子「で、ですが!!!」

御坂「いいから!!」

黒子「ええい!!ままよ!!」
黒子が御坂の腕を掴む。

その瞬間御坂の体が消える。

そしてアリウスの目の前に。

アラストルを振り上げた御坂が現る―――

206: 2010/03/24(水) 22:22:38.21 ID:m.Pbsa20
アリウス「―――」

アリウスの首から僅か数ミリのところにアラストルの刃。

御坂「動かないで」

御坂がアリウスにアラストルを突きつけ、全身から放電しながら凄む。

御坂「これ、止めなさい」
目で後ろの魔導兵器を指す。

アリウス「ふむ…」

御坂「早く」

アリウス「甘いな小娘」

御坂「…」

アリウス「どうした?相手が人の姿だと殺せぬか?」
兜越しでも分かる余裕の態度を崩さずに問う。

207: 2010/03/24(水) 22:24:58.52 ID:m.Pbsa20
御坂「早くしなさい!!!」

アリウス「それに。いくらアラストルを持っているとはいえ―――」

御坂「――チッ!!!」
もう迷っている暇は無かった。

この機を逃すと後が無いのは明白だ。
殺らなきゃ殺られる。

御坂は意を決してアラストルを押し込む。

刃がアリウスの首へ食い込む―――

とはならなかった。

御坂「―――へ?」

相手の体が固いのか、それとも見えない壁でもあるのか。
アラストルの刃はアリウスの首に食い込むことなく止まっていた。


アリウス「その程度では殺せんぞ」


アリウスの手がアラストルへ触れる。
その瞬間妙な金属音が響いた。

208: 2010/03/24(水) 22:28:42.22 ID:m.Pbsa20
御坂「…え?」
その異変はすぐに現れた。
この手にある剣から、今まで供給され続けていた莫大な力が急に止まったのだ。

アリウスは簡易の封印術をアラストルにかけたのだ。
これで数分は力を止める事ができる。

魔具は強大な力を秘めているとはいえ、それは使用者によって大きく左右される。
アラストルは高名な大悪魔だが、今の使用者は所詮人間だ。

ダンテが使用していたのならとてもじゃないが封印式などかけられないが、
ただの人間相手ならどうとでもなる。

御坂「え…え?どういう――」

アリウス「残念だったな」

アリウス「氏ね。小娘」
御坂の後ろにある魔導兵器が輝き出す。

御坂「―――」

その時、御坂の背中を小さな手が掴んだ。
それと同時に彼女の体が消える。

次の瞬間、彼女が一瞬前までいた空間を白い光線が貫いた。

209: 2010/03/24(水) 22:33:45.29 ID:m.Pbsa20
御坂「ッはぁ!!!」
嫌な汗が全身から吹き出す。

黒子「お姉さま!!」

御坂達はアリウスから30m程離れた場所にいた。
あの瞬間黒子がテレポートで救い出したのだ。

御坂「…くッ!!」
右手に握っている、今はガラクタと化したアラストルを見る。

打つ手無しだ。

浜面「お、おい!!大丈夫か!?」

御坂「黙ってて!!」

ケルベロスは体を封じられ、アラストルは力を封じられた今、
御坂にはもう打つ手は無いように感じられた。

レールガンを使うという方法も浮かんだが、
あのアラストルの強烈な電撃を簡単に防がれていた時点で効果がある望みは薄い。

211: 2010/03/24(水) 22:41:00.43 ID:m.Pbsa20
御坂「くそ…」

いつかの記憶が蘇る。
何度も氏闘を繰り広げた二ヶ月前の『あの日』の記憶。

氏ぬ。

その恐怖が再び背筋を這い上がる。

黒子「…」
黒子もその恐怖を感じていた。
残る手段は一つ。逃げる事。黒子ならできる。

だが彼女が一度に運べる人数は『二人』が限度だ。

御坂「…黒子。その二人をお願い」

黒子「!!!!ダメですの!!!!それだけは!!!!お姉さま!!!!」

御坂「あたしが食い止めるからその間に!!!」
黒子の移動速度は秒間約80m。

その程度ではあの魔導兵器が簡単に撃ち落してしまうだろう。
壁も盾にならない。
ここは最も強い自分が残るべき、と御坂は考えた。

黒子「イヤでございますの!!!!!!!」
自分の命を捨ててでも御坂を守ろうとする黒子が、御坂を置いていくなどできるわけも無い。

214: 2010/03/24(水) 22:49:34.86 ID:m.Pbsa20

浜面「…俺が残る」

御坂「何よ!!あんた何か力持ってるの!?」

浜面「無えけどよ…!!でも!!!あんたと滝壺が行ってくれよ!!!頼む!!!」

御坂「黙ってなさいよ!!!!」

黒子「お姉さまあああああああああ!!!!!イヤですの!!!!イヤぁああああ!!!!」

最早纏まるわけが無かった。それぞれの決氏の覚悟が衝突しているのだ。
簡単に答えが出るわけが無い。

アリウス「慌てるな」
アリウスが声を放つ。静かに。重く。

それは氏の宣告。

アリウス「四人一緒に逝けば問題は無かろう」


御坂が仁王立ちし叫ぶ。

御坂「行って!!!!早く!!!!」

だが返事は予期していなかった者から返って来た。


「おーおー。こっちも随分と派手になってんな」

―――

215: 2010/03/24(水) 22:55:30.24 ID:m.Pbsa20
―――


シェリー『…終わったようね』

ネロ「だな」

シェリーとネロはクレーターの淵に立ち、タルタルシアンの残骸を見下ろしていた。

二人の目の前でその悪魔の体は石化して砕け、砂となって散っていった。

シェリー『ぐっ…』
シェリーが膝を付く。
それと同時に左腕の槌にヒビが入り砕け始めた。

大量の破片が落ち、砕け砂となって消える。
そしてあっという間に消失した。

後には息が荒いシェリーだけが残った。

ネロ「大丈夫か?」

シェリー「…ちょっと…使い過ぎたわ…」
神裂やステイルと違い彼女は完全な人間のままだ。
いくら彼女の制御下とはいえ、大悪魔並みの力を纏うとかなりの負荷が来る。

216: 2010/03/24(水) 22:59:22.42 ID:m.Pbsa20
ネロ「禁書目録達を頼む」

ネロ「…と、その前に俺をウィンザー城に運んでくれ」

シェリー「わかった」

アニェーゼ「シェリー!」
離れていた四人が駆け戻ってくる。

上条「お…おい…」

シェリー「てめぇ…」
シェリーが上条を鋭く睨む。

上条「…す、すまん…」

シェリー「…手袋でもはめとけよ馬鹿野郎」

ネロ「インデックス。トリッシュからなんか報告ないか?」

禁書「まだ何もこないんだよ…」
インデックスが黒い石を握りながら申し訳無さそうに答える。

ネロ「そうか…とりあえず行くか。シェリー」

シェリー「ええ」

―――

217: 2010/03/24(水) 23:03:05.28 ID:m.Pbsa20
―――

トリッシュは暗い一室にいた。
ここは事務所『デビルメイクライ』の地下。

壁は全て本棚、大量の古めかしい本が並べられ、その前にも大量に平積みされていた。

全てトリッシュが古今東西から集めたコレクションだ。
童謡から神話、聖書関係から魔導書まで様々だ。

そして中には『人間界製』では無い物もある。


トリッシュ「あ~、無いわね」
古い椅子に座り、机に向かっていたトリッシュは今読んでいた書物を乱暴に閉じて後ろに放り投げる。

宙を舞った書物は見事に後ろに積まれている本のタワーの上に乗る。

トリッシュ「次」

インデックスから送られた例の一節。
それが手がかりだ。

召喚式の構造等の情報も送られたが、そもそも未知のオリジナル術式であった為それほど役に立たなかった。
その召喚式に含まれていた、恐らく二重に機能する謎の構文の解読もできなかった。

トリッシュが次に開いた書物。

『狩人への道標』。

218: 2010/03/24(水) 23:07:42.12 ID:m.Pbsa20
かつてスパーダが書いたと言われる物だ。
本人は特に意識していなかっただろうが、この本は後に魔導書と化してしまった。

スパーダの力が強すぎる為、彼が書いた書物は全て強力な『魔導書』と化し、
彼が戦いに使ったものは例えそれがタダのスプーンだとしても伝説の『霊装』と化してしまう。

この『狩人への道標』も例外ではない。
つい最近まで、とある戦巫女の守り手によって厳重に封印されていた。

トリッシュはそんな代物を、頬杖を付きながらまるで雑誌を飛ばし読みしてるかのようにページを捲っていく。

そしてとあるページで手が止まった。

トリッシュ「…あった」

例の一節を遂に見つけた。
そのページを読み進んでいく。

トリッシュ「…これは…」

彼女の頭の中でそれぞれのピースが組み上がっていく。
召喚式。謎の構文。謎の一節。

219: 2010/03/24(水) 23:10:00.89 ID:m.Pbsa20
そのパズルが組みあがり、一つの明白な答えを示す。

トリッシュ「…あら…マズイわねこれ」

事態は予想を遥かに超えていた。

トリッシュ「『具現』と魔剣『スパーダ』…それとこの術式…」

黒幕がやろうとしている事が明白になる。


トリッシュ「へえ…全て手のひらの上ってこと…」


一連の出来事は全て相手の計画通り。


トリッシュ「ネロを止めなきゃ…ってもう遅いわね」


―――

220: 2010/03/24(水) 23:13:43.98 ID:m.Pbsa20
―――

ネロは完全に廃墟と化したウィンザー城を前にしていた。
彼を送ったシェリーはすぐにまた上条達の下へ戻っていった。

ネロ「ま、残念だったな」

神裂『ええ…』
神裂が哀しそうな顔で折れた七天七刀を眺めていた。
本当は泣き喚きたいくらいなのだが、今はそれどころではない。

ネロ「つーか派手にやったな」

ステイル『ああ』

神裂『ですが…』

目の前の溶岩の海。溶け残っている台地も大きく抉れている。
三人はあの少女の力を感じていた。まだ生きている。この下にいる。

神裂『様子を伺ってるのでしょうか?』

ステイル『ネロが来たしね』

ネロ「…しゃあねえな」

ネロはデビルブリンガーを出現させ大きく振り上げた。
一気に巨大化する。

ネロ「かくれんぼは終わりだぜ」

そして目の前の溶岩の海に叩き込んだ。
オレンジ色に輝く飛沫が上がる。

221: 2010/03/24(水) 23:16:59.89 ID:m.Pbsa20
ネロ「どこだ?」

ネロはデビルブリンガーを伸ばし更に溶岩の海の奥深くへ潜り込ませる。
進路はデビルブリンガーに任せる。

ネロの右手は悪魔の力を探知し、居場所を知ることができる。
そしてそれに直結しているデビルブリンガーも同じだ。

ネロ「そら捕まえたぜ!」

デビルブリンガーが小さな体を鷲掴みし、一気に引き上げる。

溶岩の海から、デビルブリンガーの拳に覆われた赤毛の少女が飛び出して来た。
力を使い尽くしたのか、魔人化はしていなかった。

ネロはデビルブリンガーを縮め、目の前に少女を引き寄せる。

ネロ「…抵抗しねえのか?」
少女は攻撃どころかデビルブリンガーを振りほどこうともしない。

ネロ「そうか。じゃあ終わりだ」

ネロが左手のレッドクイーンのアクセルを捻る。

その時、少女がゆっくりと手をネロの方へ伸ばした。

222: 2010/03/24(水) 23:20:01.91 ID:m.Pbsa20
ネロ「何だ?」

神裂とステイルは咄嗟に構える。

ネロ「…悪いな。用を聞いてる暇は無えんだ」

ネロがレッドクイーンを掲げた直後。

少女がネロのデビルブリンガーへゆっくりと手を付いた。

ネロ「―――あ?」
瞬間、右手から何かが引き出される感覚。

初めてでは無い。慣れている感触だ。
収納している『魔剣』を引き出す感覚。

ネロ「ぉおおおぉおおおおお!!!!」

それに伴いとてつもない激痛が全身を襲う。

ネロの異形の右手から彼の魔剣『スパーダ』が出現した。
あの少女が何らかの術を使って引き出したのだ。

それは少女の中にあった、召喚式の影に隠蔽されていた術式の作用の一つ。

アリウスの切り札が発動した。


―――

223: 2010/03/24(水) 23:24:27.83 ID:m.Pbsa20
―――

皆その新たに現れた第三者を見ていた。

御坂「ダンテ!!!」

黒子「来たぁぁあああああ!!!来ましたのぉおおおおお!!!!」

ダンテの実力を知る二人は顔一杯の笑顔を作り歓喜の声を上げる。

浜面「(あれが…だんて?)」
やはり会った事は無い。 隣の滝壺もキョトンとしている。
だがあの二人が喜んでいるあたりかなり強い助っ人らしい。



アリウス「スパーダの息子、ダンテか」

ダンテ「よう」
ダンテが緊張感の無い顔でニヤけながら手を広げる。

ダンテ「お前か、悪魔を召喚してるめでてえ野郎は?」

224: 2010/03/24(水) 23:27:07.88 ID:m.Pbsa20
アリウス「そうだが?」
アリウスも相変わらず他人を見下すような態度を崩さない。

ダンテ「へえ…」

ダンテがアリウスの前にある魔導兵器をまじまじと眺める。

ダンテ「ナイトメアに似てるな」

アリウス「当然だ。アレを参考にして作ったのだからな」
アリウス「オリジナル程とは言わんが使える物だ」

ダンテ「つーことはだ、そこまで知ってんなら」
ダンテが頭を傾けニヤける。

ダンテ「俺がそのオリジナルをぶっ壊したことも知ってるな?」

それは警告のようなものだ。
その『模倣品の魔導兵器』では俺を倒せない という。

アリウス「当然だ」

もともとアリウスもここでダンテを倒せるとは思っていない。
ただ一度直にその力の片鱗を知っておきたいのだ。

いずれ訪れる決戦の時の為に。

ダンテ「OKOK」
ダンテは手をひらひらと振る。

225: 2010/03/24(水) 23:34:27.33 ID:m.Pbsa20
ダンテ「いいぜ、ちょっと遊ぼうじゃねえか。こっちは最近物足りなくてよ」

アリウス「望むところだ」

その言葉と同時に魔導兵器が金属音を上げる。
そして金属の外皮が割れたかと思うと大きく形を変えた。

まるで変形ロボットのように。

そして長さ6m、太さ80cm程の大砲のような形状になる。
攻撃特化型に変形したのだ。

ダンテ「うお!!すげえな!!オリジナルはんな機能無かったぜ!!!」
ダンテはオモチャを前にした子供のような顔でははしゃぐ。

ダンテ「ハッハァ!!!たまんねえぜ!!OK!!」


ダンテ「パンドラ!!!!」


スーツケースのようなトランクがダンテの前に現れる。
中央には髑髏をあしらった様な金属製の紋章。
ダンテは乱暴にそのトランクに片足を上げる。

ダンテ「変形マシン対決としけこもうじゃねえか!!!」

235: 2010/03/25(木) 20:52:08.19 ID:GmUvwPQ0
アリウス「災厄の箱『パンドラ』か」

アリウス「そんな物まで貴様が持っていたとはな」
パンドラ。魔術にかかわる者なら誰しもが知っている。

その現物がこのダンテの持つスーツケース型のトランクだ。
魔界で創られた最悪の魔導兵器。

古の戦いでこのパンドラは数々の世界を破壊した。
その事は人間界にも伝説として今日まで残り続けている。

アリウス「面白い」

アリウスの魔導兵器の砲身に光が集中する。

ダンテ「おい、離れてろ」
ダンテが背後の御坂達に声を飛ばす。


ダンテ「巻き添え食っても知らねえぜ!」
その声を受け、四人が慌てて下がる。


ダンテがパンドラの取っ手に足をかけ、上に蹴り上げるようにして飛ばす。

237: 2010/03/25(木) 21:01:53.44 ID:GmUvwPQ0


ダンテ「Ha!!!」

パンドラが空中で大きく割れ、その中から機械のような塊が溢れ出てくる。
そして金属音を立てながら巨大なサーチライトのような形に変形する。

そしてダンテがその淵を掴み、アリウスの方へ向ける。


リヴェンジ―――


そしてサーチライト型になったパンドラから極太のレーザーが放たれた。

同時にアリウスの魔導兵器の特大の大砲から白い光線が放たれた。

二つの光の束が激突する。
真下の金属の床が一瞬で蒸発し、凄まじい爆風が地下駐機場の中を吹き荒れる。

御坂「!!!」
御坂は咄嗟に周囲の金属片を集め、四人の前に盾を作りその嵐を凌ぐ。

238: 2010/03/25(木) 21:08:12.45 ID:GmUvwPQ0
二つの魔導兵器の光の束がせめぎ合う。
鼓膜が裂けるほどの鋭い炸裂音が連続する。


そしてお互いが打ち消し同時に消える。


ダンテ「へえ、結構やるじゃねえか」
パンドラが音を立ててトランク型に戻る。


アリウス「…」
アリウスから、先までの余裕が消えていた。
皮膚が兜のように変性しているため表情は変わらないが。

アリウスの魔導兵器がうごめく。
そして体の両脇から小さな砲身が多数生える。

ダンテ「ハッハ~♪今度はそう来るか」

その大量の砲身から今度は小さな白い光線が放たれた。
無数の矢が雨となってダンテへ向かう。

ダンテ「いいねえ!!」

239: 2010/03/25(木) 21:10:41.97 ID:GmUvwPQ0
ダンテは屈み、トランクの形に戻ったパンドラを地面にたたき付けるようにして置く。

それと同時にパンドラが開く。
すると中から巨大なガトリングガンが飛び出してきた。

ダンテ「お次は弾幕勝負か!!!」

ガトリングガンが回転し、凄まじい轟音を立てて無数の弾丸をばら撒く。

その破壊のカーテンに突っ込んだ白い光線が次々を相殺されていく。

アリウスの魔導兵器が絶え間なく白い雨を放つ。
だがそれをダンテの銃弾の雨が押し込んでいく。

そして遂に押し切る。
ダンテの破壊の壁がアリウスの魔導兵器へ到達する。

アリウス「―――」

小さな、それでいて凄まじい爆発の雨が一気にアリウス達を覆う。
クラスター爆弾が投下されたかのように。

ダンテ「おあ?やっちまったか?」
ダンテがパンドラをもとの形に戻す。

240: 2010/03/25(木) 21:14:34.97 ID:GmUvwPQ0
だがダンテのその心配はいらなかったようだ。

粉塵が何かによって吹き飛び、
その中から、魔導兵器が展開した白い壁に守られたアリウスが現れた。

ダンテ「よう!心配したぜ!」

アリウス「…」
彼の表情は険しかった。
一瞬遅れていれば体がミンチになっていた。

ダンテの力を見る。それはすなわちリベリオンを使ったダンテの力を見ることだ。
だが現状はどうだ。

リベリオンを使わせるどころか遊ばれている。

ここまでの力の差があるとは予想していなかった。

アリウス「ははははははは!!!」
だが彼は笑った。
確かに恐怖もある。
しかしそれ以上に。

いつかこれと同等の力を手に入れられると思うと嬉しくてたまらなかった。

アリウス「いいぞ!スパーダの息子よ!!」

だが数十秒後にはそんな喜びに浸っている所では無くなる。

243: 2010/03/25(木) 21:21:07.89 ID:GmUvwPQ0
※幸運な事に転職はすんなりと成功しました。最近の開始時間が夜なのは仕事がちゃんと午後五時まであるからです。

ダンテ「あ~、一ついいか?それ、確かにイイ線いってるが―――」
ダンテがアリウスの魔導兵器を指差しながら言葉を続ける。

ダンテ「色気がねえ。足りねえよ」


アリウス「リベリオン」


ダンテ「あ?」

アリウス「使わないのか?」

ダンテ「あ~慌てんな」


ダンテ「その前に―――」


そう呟きダンテはパンドラを持ったまま高く跳躍した。

パンドラが一気に形を変える。ダンテの体を包むように直径2m程の金色の輪が現れ、
そしてそれにそって小さな砲塔のような物が並び出現する。


ダンテ「お前に変形マシンの何たるかを教えてやるぜ」

245: 2010/03/25(木) 21:24:42.23 ID:GmUvwPQ0
輪の中央には黒い椅子が現れダンテがそこに座る。
まるでコックピットのような光景だ。


アリウス「――!」
危険を感じ、アリウスが白い光の防護壁をさらに分厚くする。


ダンテ「カッコいいだろ?」
ニヤリとそのコックピットの中でダンテが笑う。

ダンテ「よ~く見とけ」



ダンテ「―――これが」


ダンテ「―――『男のロマン』ってやつだ」



アーギュメント―――


次の瞬間その無数の砲塔から小さなミサイルのような物が大量に発射され、
アリウスへ向かって降り注ぐ。

246: 2010/03/25(木) 21:29:36.70 ID:GmUvwPQ0
アリウス「おおおおおおおお!!!!!!」
凄まじい爆撃の雨が降り注ぐ。

その爆発は地下駐機場の天蓋を大きく吹き飛ばし爆炎と粉塵が空高く立ち上る。
地上から見たらまるで火山が噴火したように見えただろう。


アリウス「―――ぉッ!!!」
白い壁はなんとかその猛攻を防いだ。
だがアリウスの力、そしてそれを供給されていた魔導兵器はもうボロボロだ。

アリウス「(マズイ…少し長居しすぎたか…!)」

その時。

声がする。

「そら、待たせたな」


「『コレ』が見たいんだろ?」


次の瞬間、周囲に立ち込めていた粉塵が一気に晴れ―――

アリウスの魔導兵器の前にリベリオンで突きの構えをしたダンテが現れる―――

248: 2010/03/25(木) 21:34:22.25 ID:GmUvwPQ0
アリウス「―――ッ!!!」


ダンテ「Yeahhhhhhhhhhhh!!!!!!!!」


Stinger―――


ダンテの十八番の『突き』。

単純でありながら一撃の破壊力は最高。
正に彼の戦い方を体現している業。

魔人化のフルパワー状態で放たれればその一撃は人間界ごと吹き飛ばす程の破壊力。

非魔人化状態の今でさえこの攻撃を止められる者は数える程度しかいない。


桁違いの赤い衝撃波の渦が周囲を大きく抉る。

その『最強の突き』が魔導兵器を簡単に貫き砕け散らす。


アリウス「―――」


そして『最強の刃』がアリウスの喉もとへ向かう―――

249: 2010/03/25(木) 21:38:50.85 ID:GmUvwPQ0
次の瞬間、全ての音が止まる。
続けてその静寂の時間を取り戻そうとするかのように大気が大きく振るえる。

赤い光の嵐が全てを薙ぎ払った。

御坂達四人は頭を抱え咄嗟に地面に伏せる。
彼女達の前の金属の壁がその赤い光の直撃を受け一瞬で砕け散る。


そして再び静寂が戻った。


御坂「…終わった?」
御坂が顔を上げる

ダンテが粉塵の中に立っていた。

ダンテ「…逃げやがったか」

アリウスの氏体は無かった。


―――

250: 2010/03/25(木) 21:41:32.29 ID:GmUvwPQ0
―――

神裂『な、な?!!』

ステイル『…!!』

ネロ『離れろ!!!!』

ネロの体中から青い光が溢れ、声にエコーがかかり始める。
彼の体内の力が何かによってかき回される。

ネロ『ぐ…ぁッ!!!!』
凄まじい激痛が右腕、そして全身へ向けて走る。

デビルブリンガーが緩み少女の体が落ちる。

だが少女の背中からオレンジ色の光の束が伸び、
ネロのデビルブリンガー、そして体に巻きついていく。

ネロ『(クソッ!!!何だってんだこれ!!!!)』
スパーダを握る右腕が全く動かない。
まるで周りの空気が金属にでもなって固定しているかのように。

少女の顔が火照って大量の汗が噴き出している。

顔はつらそうに歪んでいた。

251: 2010/03/25(木) 21:45:09.53 ID:GmUvwPQ0
神裂『!?』
胸を貫かれようが顔面をぶっ飛ばされようが全く表情が変わらなかった少女。

それが今目の前で苦悶の表情を浮かべている。

神裂『(何が…!?)』

何らかの特殊な負荷がかかっているのだろうか。

ネロ『クソ!!!!』
ネロが言葉を吐きながら右腕をガッチリ固定している『何か』を解こうとする。
だがビクともしない。

その時だった。

「…少し遊びすぎたな…危うく氏ぬところだった」

少女の隣に赤いコートに純白のスーツを着た、
ギリシャ兜のようなものを被った男が現れた。

252: 2010/03/25(木) 21:48:19.84 ID:GmUvwPQ0
アリウス「だがこっちは順調なようだ」

神裂『…!!!』

ステイル『!!!』
口ぶりからしてどうやら黒幕のようだ。

アリウス「スパーダの孫、か」

ネロ『てめぇかッ!!!!』
ネロが苦痛に耐えながら睨む。

アリウス「素晴らしい」
予想以上に上手くいったようだ。

魔剣『スパーダ』の記憶をもとに『具現』して覇王の力を一時的に復活させたのだ。

『覇王アルゴサクス』を。

253: 2010/03/25(木) 21:50:25.14 ID:GmUvwPQ0
だが、この完全に覚醒し更にスパーダを所持しているネロと正面からぶつければ、
不完全体の覇王では勝ち目は無い。

そこでアリウスは一つの策をとった。

ぶつけるのではなく、無理やりネロの体内に覇王の力を流し込んだのだ。

強引な悪魔の力の融合は身を滅ぼす。
それを逆手に取った攻撃だ。

完全な悪魔として二ヶ月の『生まれたて』の未熟で確立されていないネロの力が、
外部から流れ込む力でかき回され暴走を始めている。

相手がそこらの悪魔ならネロにとってどうってことは無いだろう。

だがその相手が『スパーダに匹敵する者』の力なら。

ネロはいまや己の莫大な力で身を滅ぼそうとしていた。

254: 2010/03/25(木) 21:55:18.84 ID:GmUvwPQ0
アリウス「味わえ。『悪魔』よ。これが『力なき人間』の戦い方だ」

ネロ『クソが…!!!!』
ネロは己の力と魔剣『スパーダ」を抑えこむので精一杯だ。

こんな状況で戦闘しようとしたら、一瞬で彼の中の全エネルギーが爆発するように解き放たれて最悪の事態になる。

下手したら『世界地図を書き換える』ハメになる。

アリウス「…ふむ」
アリウスは傍らで苦痛の表情を浮かべている少女を見る。

アリウス「やはり…耐えられんか」
この少女が全ての核となっている。
この少女の体を経由して覇王の莫大な力をネロに流し込んでいるのだ。

恐らくこの一回の起動で少女はもう使い物にならなくなる。

アリウス「まあいい。スペアはいくらでもある」

ネロ『おおぉおおおお!!!!!』

ネロが咆哮を上げ、レッドクイーンを持っている左腕を掲げた。
その僅かな動作でもネロの体内の力が乱れ、彼の体を蝕んだ。

全身に血が滲む。だがネロは無視した。

そのままレッドクイーンをアリウスへ向けぶん投げる。

直後、赤い鮮血が噴水のように周囲に飛び散った。

255: 2010/03/25(木) 21:59:28.86 ID:GmUvwPQ0
ネロ『ごぁッ…!!!』

ネロの口から大量の血が噴き出す。
暴走している己の力が体内を引き裂いたのだ。

ネロが投げたレッドクイーンは外れ、
アリウスの後方100m程の溶岩の海にぶち込まれ特大の赤い柱を噴き上げさせた。

アリウス「その状態でもそこまで動けるとはな…」

ネロ『…がッ…』
最早ネロには言葉を返す余裕も無かった。

アリウス「(今のも…危なかったな…)」
手負いとはいえ腐っても最強のスパーダの一族。

僅かな一撃でさえ致命傷になる。

256: 2010/03/25(木) 22:01:33.28 ID:GmUvwPQ0
その時。

ステイルと神裂が地面を蹴る。

ステイルは真っ直ぐアリウスヘ向かう。

神裂はアリウスの横を通り過ぎ、そのまま後方100m程の地点に向かった。

そして溶岩の海に手を突っ込み、

神裂『借ります!!!』
ネロへ向けて叫ぶ。
そして手をその灼熱の海から勢い良く引き抜いた。

その神裂の手にはレッドクイーンが握られていた。


ステイルがアリウスに特大の炎剣を振り下ろす。

だが剣には何も感触が無かった。

ステイル『な…!!』

まるで空気を切るようにそのアリウスの体をすり抜けた。

257: 2010/03/25(木) 22:03:55.25 ID:GmUvwPQ0
アリウス「ふむ…少し試してみるか」
唖然としているステイルを尻目に呟く。

アリウスの体がオレンジ色に輝く。
少女の体を経由し、覇王の力の一部がアリウスにも向かい始める。

アリウス「素晴らしい」

莫大な力が集って行く。
アリウスの光が増し体が太陽のように輝く。

「あぁああああああああ!!!!」

少女が苦痛に耐え切れぬかのように絶叫する。
初めて発した声。

その瞬間、周囲の溶岩の海が一瞬で黒く変化していく。

いや『溶岩の海が変化する』というよりは黒い地面が突如現れたといった方がいいか。

既存の地面がかき消されるように消え、その上に黒いまっ平らの地面が広がっていく。
そして夜空に瞬いていた星が消え、漆黒のベールが大空を覆っていく。

258: 2010/03/25(木) 22:07:54.49 ID:GmUvwPQ0
「あぁッ!!!うッ!!!あああああああ!!!!」

少女が叫び悶えながら黒い地面に膝を付く。
その瞬間、黒い地面に赤く輝く巨大な魔法陣が現れた。直径200mはあろうか。

そしてアリウスを包む光の塊が爆発する。

その光が止むと。

アリウスの姿が消え、入れ替わったかのように人型の『何か』が現れた。

体はオレンジ色の光で形作られている。
身長2m程で、頭部には長い角。背中からは大きな翼。

神裂『?!!』

アリウス『素晴らしい…一部でもこれほどとは…』
その光の魔人が己の手や体を眺めながら声を発する。

ネロ『ぐぁ…!!!』
ネロが遂に膝を付く。

ステイル『(マズイな…)』
ネロの体力が確実に減ってきている。いつまでその力を抑えこんでいられるかわからない。

アリウス『始めよう』
覇王の力の一部と融合したアリウスが翼を広げる。

神裂『(来る―――!!)』

260: 2010/03/25(木) 22:11:33.35 ID:GmUvwPQ0

アリウスがゆっくりと翼を振った。

そしてオレンジ色の光の衝撃波が発生する。

ステイル『―――!!!!』

その光の壁は全てを圧倒した。
至近距離にいたステイルの体が一瞬にして大きく後方へ吹き飛ばされ、ウィンザー城の瓦礫の中へ叩き込まれた。

だが神裂はその衝撃波に弾かれること無く耐えていた。

神裂の前には青く輝くレッドクイーン。

レッドクイーンは元々人間の手で作られた一霊装に過ぎない。
だがネロが使い、更に魔人化したバージルが使ったこともあって半ば魔剣と化していた。

その圧倒的な力が今溢れ、神裂を守りそして更に強化する。

神裂『(…ネロさん…?)』

ネロの力を感じる。
レッドクイーンから流れ込んでくる。

261: 2010/03/25(木) 22:17:42.56 ID:GmUvwPQ0
ネロの方へ目を向ける。

血まみれのネロが神裂を見ながら小さく頷いた。

神裂も小さく頷く。

そしてアリウスを睨み、

神裂『おぁああああああ!!!!!』

炎が噴き出すレッドクイーンを振り上げ突進する。

そして思いっきり振り下ろす。

今度はすり抜けなかった。

音速の数十倍もの速度で振るわれたレッドクイーンから、
青と金が混ざった光の衝撃波が発生し黒い地面を捲りあげていく。

凄まじい金属の衝突音が響く。

263: 2010/03/25(木) 22:20:02.43 ID:GmUvwPQ0
アリウス『―――ほう』

アリウスはそのとてつもない剣撃を左手でいなしていた。

だが神裂の攻撃は止まらない。

神裂『シッ!!!』
神裂がゴッドブリンガーをすかさず伸ばす。

その巨大な腕は、従来の白い光に青い光が混ざって更に強化されていた。

アリウスがその巨大な拳にオレンジ色の拳を重ねる。
青と金、そしてオレンジの光が混ざった光の渦が発生し、金属がぶつかり合うような凄まじい轟音が響く。

神裂はすぐに身を捻りレッドクイーンを横からアリウスのオレンジ色の胴体へ振るう。

そして直撃する。

その瞬間アクセルを捻る。

Max-Act!!!!!!

264: 2010/03/25(木) 22:22:50.58 ID:GmUvwPQ0
神裂はレッドクイーンの使い方を知っていたわけではない。
だがこの剣に宿るネロの力が知っている。

神裂はその力に身を委ねたのだ。

全てをネロに。

神裂『らぁああああああ!!!!』
炎が噴射し刃が更に覇王のわき腹に食い込む。

だがその時。神裂の目の前からアリウスの姿が消えた。

神裂『―――』
獲物をなくしたレッドクイーンが虚しく空を切る。

そして突如背中に激痛が押し寄せる。

神裂『がッ!!!!』

胸からオレンジ色の槍のような物が彼女の皮膚を貫いて現れた。

265: 2010/03/25(木) 22:24:47.81 ID:GmUvwPQ0
アリウス『その剣か…』
背後から声が聞こえた。

神裂『がぁああああああ!!!!』

一気に振り向き、ゴッドブリンガーで裏拳を放つ。
だがそれも空を切った。

真後ろに気配を感じた。背後にあの光の魔人がいたはずだ。

だがその姿を再び見失った。

その瞬間今度は側頭部に強い衝撃。

神裂『ぐッ!!!』
首が折れるかとうぐらい曲がり軋む。
いや、実際に一瞬折れたかもしれない。

体が大きく横へ吹っ飛ばされ―――

―――る所を瞬時にレッドクイーンを地面に突き立て堪える。

そして低く腰を落とし。

神裂『ハァァァァァァァァァ!!!!』

振り向きながら引き抜き、攻撃が放たれた方向へレッドクイーンを神速で振るう。

金属音が響く。

266: 2010/03/25(木) 22:27:33.16 ID:GmUvwPQ0
今度は命中した。アリウスは翼で防いでいたが。
だが神裂が小さく笑う。

神裂『(捕えた!!!)』
神裂はゴッドブリンガーで強烈なストレートを放つ。

轟音が響きその巨大な拳が翼の盾へ激突する。
その拳は大きく弾かれた。

しかしその反動を逆に利用し、アクセルを思いっきり捻ったレッドクイーンで下から切り上げる。

神裂『Blaaaaaaaaast!!!!!!!!』

巨大な火花が散り翼に刃が食い込む。
しかし次の瞬間。

再び姿が消えた。

神裂『―――(また!!!)』

次の瞬間。

レッドクイーンを持つ右手に激痛が走った。

神裂『がぁあああああ!!!!!』

レッドクイーンを握る腕が彼女の体を離れ宙を舞う。
肘から先が後方から伸びたオレンジ色の刃によって刎ねられたのだ。

咆哮を上げながら振り向き再びゴッドブリンガーを食らわそうとするも。
振り向いた神裂の首をオレンジ色の腕が掴む。

神裂『んぐッッ!!!』

267: 2010/03/25(木) 22:31:40.85 ID:GmUvwPQ0
アリウスが神裂の喉を掴み締め上げながら持ち上げる。

神裂『…がッ…ぐうッ!!!!』

胸に開いた傷や、切り落とされた右手は再生した。
だが当然の如くその手にはレッドクイーンは戻ってこなかった。

レッドクイーン、つまり『ネロの加護』を失った。

アリウスが神裂に顔を近づける。
その顔はオレンジ色の光の塊であるため表情が全く読めない。

アリウス『ふむ…聖人と天使の混血か…』

神裂『ッ…!!!』
アリウスの手が神裂の喉を締め上げる。

アリウス『面白い』


アリウス『氏体は持ち帰るか』

269: 2010/03/25(木) 22:34:28.62 ID:GmUvwPQ0
ネロは苦悶の顔を浮かべながらその光景を見ていた。

なす術がなかった。ただ見てるしかなかった。

ネロ『(神裂!!!!クソ!!!!)』
怒りに同調しネロの体から青い光が溢れ出す。

だが慌てて押さえ込む。
覇王の力を付け足された、スパーダを持ったネロの魔人化。
その力の暴走は確実に大規模な破壊をもたらす。

ネロはかき消されそうな意識をなんとか保ち、己の力を押し込めようとする。

その時。

ネロの頭の中に声が聞こえた。


―――無様だな―――


この力の乱流の中でも揺ぎ無い確たる声。

声の発信源は右手―――


その右手の『向こう側』―――

270: 2010/03/25(木) 22:38:15.75 ID:GmUvwPQ0
ネロ『―――』
聞き覚えのある声だ。

そう、もう一人のあの青い『最強』の悪魔。



―――右手のせいで動けないのなら―――


声が続く。



―――『捨て』ればいい―――



その声はネロを突き動かす。

ネロが笑う。

ネロ『―――ああ、そう、か』

271: 2010/03/25(木) 22:40:32.13 ID:GmUvwPQ0
神裂『(あ…あ…)』
首を掴まれながら神裂は氏を覚悟する。
光の魔人がもう一方の手を神裂の顔の前に運ぶ。

その手のひらに光が集中する。誰にでもわかる。
神裂に止めを刺すべく何らかの攻撃を放つ気だ。

神裂『(皆…ネロさん…申し訳ありません…)』

アリウス『心配するな。一瞬だ』

神裂は離れたところで膝をついているネロに目を移す。

神裂『―――?』
だがそこにネロはいなかった。

その場所にあったのは魔剣『スパーダ』と―――

それを握るネロの『異形の右腕』のみ―――

ネロの『体』が無かった―――


アリウス『―――』
アリウスもその異変に気付き、ネロの方へ顔を向けようとした時。


『オ゛オ゛ォ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!!!』

青い光の塊のような物がそのアリウスの顔面へ直撃する―――

273: 2010/03/25(木) 22:43:20.70 ID:GmUvwPQ0
オレンジ色の光の魔人が青い光の塊に吹っ飛ばされる。

神裂『―――がはッ!!!』
アリウスの拘束から解放された神裂の体が地面に落ちる。
そしてその神裂の上に影が落ち、続けて大量の赤い液体も地面に滝のように降ってきた。

神裂『―――』

喉を押さえながら見上げると。

右腕の無いネロが仁王立ちしていた。
右肩から大量の血が噴き出し、全身のあらゆる所からも血が溢れていた。

神裂『ネロ――さん―――?』


ネロ『女にだけ戦わすのはやっぱ性に合わねえ』


ネロ『それに―――』


ネロ『「怒られ」ちまったからな』


大量に血を吐きながらも笑う。
いつもの顔で。

ネロは強引に己の右腕を引きちぎったのだ。

未だに相手の力が流れ込んで暴走気味になっているとはいえ、
拘束は解けたのだ。

275: 2010/03/25(木) 22:46:24.38 ID:GmUvwPQ0
神裂『腕が…!!!!!!』
神裂が血まみれのネロを見て慌てて立ち上がろうとする。

だがネロは残った左腕を向け制止させる。

ネロ『あんたは休んでろ』

ネロ『言ったろ?―――』



ネロ『―――俺に任せろ ってよ』 



神裂はその赤く輝く瞳を見て何も言えなかった。
どう見ても満身創痍の危険な状態なのに、絶対に負けるようなことは無いように感じた。

揺ぎ無い強さ、絶対的な強さが溢れている瞳。

それでいて慈愛のような優しさが篭められている瞳。


神裂『…はい。お願いします』
神裂の心を覆っていた絶望の雲が全て吹き払われた。

278: 2010/03/25(木) 22:50:38.71 ID:GmUvwPQ0
ネロ『さあて』
アリウスの方を向く。

アリウスは50m程離れたところに立っていた。

アリウス『……』

ネロ『どうした?ビビってんのか?』

アリウス『…さすがだな』

ネロ『ハ!舐めてもらっちゃ困るぜ!』

ネロ『こう見えても俺はかなりしぶといんでね!』
血が絶え間なく溢れ出しているもその余裕の表情は崩れない。

アリウス『そうか…だが』

アリウスが左手を掲げた。

アリウス『コレを―――』

するとその手の上に。

アリウス『―――制御下から外したのは大きな間違いでは無いか?』

ネロのちぎれた右腕に握られた『スパーダ』が移動してきた。

279: 2010/03/25(木) 22:53:07.72 ID:GmUvwPQ0
ネロ『扱えると思ってんのか?やめとけ』

アリウス『知っている』

アリウスもこのスパーダの力を今この場で吸収しようとは思っていない。
そんな事をすれば自滅するのは百も承知だ。

だから。

アリウス『こうするのだ』


アリウス『己の刃で氏ぬがいい』


アリウスが左腕をネロの方へ振るう。
すると宙に浮いていた『スパーダ』が赤い光の帯を引きネロへ向けて放たれた。

ネロ『―――』

凄まじい爆風を伴いネロへ突き進む。

そして――

ネロの胸に突き刺さり串刺しにする―――

281: 2010/03/25(木) 22:55:34.30 ID:GmUvwPQ0
ネロの胸を巨大な赤い刃が貫く。鮮血が噴き出す。

アリウス『残念だったな。スパーダの孫よ。ここで終わりだ』

だが。

ネロ『チッ。そりゃねえぜ…ああ、残念だ』
ネロの血が溢れる口から先と同じ調子で声が放たれた。

アリウス『―――なに?』
アリウスは一瞬戸惑う。

今の一撃は確実に致命傷を負わせたはずだ。それなのになぜあの男は余裕を崩さない?

ネロ『せっかく女の前でかっこつけようと思ってたのによ』

アリウス『…』
意味が良くわからない。話を聞くだけでは己の負けを認めているようだ。
だが何かが引っかかる。

アリウス『…終わりだな』
確認するかのように声を飛ばす。だが返ってきた言葉は。



ネロ『ああ、お前がな』



次の瞬間―――

アリウスの胸から青く輝く刀の刃が『生えた』―――

283: 2010/03/25(木) 22:57:48.19 ID:GmUvwPQ0
アリウス『―――な…に?』

アリウスが不思議そうにその胸から突き出す刃を見る。

アリウス『お…おおおおおおおお!!!!』

その瞬間、その刃が上に向かって進みアリウスの頭部を裂いた。
続けて何かの強烈な衝撃を受けたのか、アリウスの体が大きく横へ吹っ飛ばされる。


「―――弱い」


低くそして冷たい声が響く。

ネロ『…あ~、俺の獲物が…』
ネロが苦笑しながら、残った左手で頭を掻く。


『最強の男』が突如その舞台に乱入した。

後ろに撫で付けた銀髪。
青いコート。

そしてその手にある日本刀。



バージル。

286: 2010/03/25(木) 23:03:02.06 ID:GmUvwPQ0
彼は凍て付くような目でネロと神裂の方を見る。
その目は「この程度のゴミに何をてこずっている?」とでも言いたげであった。

ネロが苦笑しながら肩を竦める。

神裂『―――あぁ』
今まで感じたことが無いほどの強烈な威圧感と恐怖が彼女に押し寄せた。


アリウスがバージルから30m程離れた所に降り立つ。

アリウス『なぜ…なぜ貴様がここに!!!』
その声の調子は誰が聞いても明らかに焦りの色が見えた。


バージル「雑魚が」

アリウスの姿が消える。

バージル「…」
バージルは突如背後へ振り向き閻魔刀を一気に抜刀。

アリウスが出現したと同時にその体を閻魔刀が両断する。

アリウス『ぉお―――』

バージル「弱すぎる―――」

そう呟きさらに一振り。

全てを断つ凶悪な刃、次元斬が至近距離で放たれアリウスの体を木っ端微塵にする。

288: 2010/03/25(木) 23:06:55.01 ID:GmUvwPQ0
神裂『ああ…』

神裂はその力に圧倒されていた。
ふと思った。
学園都市で暴走した時、出会ったのがバージルでは無くてネロでよかったと。


離れた所に光が集りアリウスが再び姿を現す。

アリウス『スパーダの息子!!バージル!!!』

バージルは冷たい視線を返す。

彼はイラついていた。
覇王アルゴサクスの力を感じ、いざ来て見ればそこには不完全体しかいなかった。
わざわざ出向いてきたのに相手は本来の力には全く届いていない出来損無いだ。

バージル「…」

スパーダに串刺しになっているネロの方を見る。彼はバージルの姿を見て微笑んでいた。
バージルはそのネロの熱い眼差しに冷たい視線を返す。

バージル「無様な奴だ」

そして閻魔刀の柄を握り。

バージル「いつまでその醜態を晒してる」
ネロへ向け抜刀した。

289: 2010/03/25(木) 23:10:47.66 ID:GmUvwPQ0
神裂『!!』

甲高い音が響き次元斬の嵐がネロを覆う。

だがネロには傷が付いていなかった。
バージルが切断したのは覇王とネロの接続だ。

いや、厳密にいうと傷は一つついた。

ネロの頬に一筋の赤い線。

ネロ『はは…』
バージルが操作を誤るわけが無い。

明らかにわざとだ。
挑発なのか嘲笑か、それとも歪んだ愛情表現か。
真実はこの二人以外知る術が無い。

ネロ『ッはぁ!!!』
力の乱流から解放されたネロが大きく息を吐く。
全身から光が溢れ体中の傷が一気に塞がっていく。

胸に突き刺さっているスパーダを握る形で右手が一瞬で再生する。

ネロ『オァ!!!!』
そして短い咆哮を上げ一気に引き抜いた。

アリウス『おおおおおおおおお!!!!!』
アリウスが突然咆哮を上げる。
今までネロに向かっていた覇王の大半の力が一気にアリウスに流れ込んできたのだ。

光の体が大きく蠢く。

291: 2010/03/25(木) 23:13:44.56 ID:GmUvwPQ0
アリウス『おぉおおお!!!!』
まるでダムが決壊したかのように莫大な覇王の力が流れ込む。

アリウス『ぐぁあああ!!!!』

アリウス『ふ、ふざけるな!!!!穢れしスパーダの一族!!!逆賊が!!!悪魔共がぁあああ!!!!』
流れ込む覇王の思念とアリウスの思念が混ざり始める。


バージル「黙れ」


バージルの体が青く輝き瞳が赤く輝く。


バージル『失せろ』
そして光が溢れ、バージルの体が変形する。

彼は人間界への負荷など一切躊躇わずに魔人化したのだ。


アリウス『おぉおおおおおおおおおお!!!!!!』

肥大化したアリウスが凄まじい速度で一気にバージルへ突進する。

神裂ですら全く見えない速度で。

だが。


バージル『遅い』


バージルが閻魔刀を神速で抜刀する―――


特大の次元斬がそのアリウスへ完璧なタイミングで放たれた―――

293: 2010/03/25(木) 23:18:02.19 ID:GmUvwPQ0
人間界全体が大きく軋んだ。

青い閃光が甲高い音を立てて一瞬で大地に巨大な筋を刻む。

その筋は長さが800mにも達した。
だがその地面の傷はほんの一部の余波に過ぎない。

莫大な力のほとんどはアリウスへ一点集中した。


アリウス『―――』


アリウスの体から大半の光の衣が剥ぎ取られた。


その凶悪な一撃で、覇王の力のほとんどが吹き飛ばされたのだ。


バージル「さっさと片付けろ 役立たずが」

バージルは閻魔刀を納刀しながらネロへ声を飛ばす。
魔人化は既に解いていた。

ネロ『ああ!!!サンキュ―――!!!』

ネロがスパーダを振り上げる。
その体を青い光が包んでいた。半魔人化とでも言うべきか。以前のネロの魔人化に似ていた。

今のあのアリウスの有様なら完全な魔人化せずとも充分だ。

ネロ『始めんぞ全身タイツ野郎!!!!』

295: 2010/03/25(木) 23:23:19.19 ID:GmUvwPQ0
ネロが地面を蹴り一気に突進する。

そしてスパーダを引き。


ネロ『Blaaaaaast!!!!!』

踏み出すと同時に一気に横を薙いだ。

とてつもない斬撃を受けアリウスの体が大きく後方へ吹っ飛ばされ―――

ネロ『おっと!!!』

―――るところをネロのデビルブリンガーがその宙に浮いたアリウスの足を掴む。

そしてスパーダを振り上げながら思いっきり引き寄せる。

ネロ『覚悟はできてるな?』

ネロ『たっぷりお礼させてもらうぜクソ野郎が!!!』
そして目の前に戻ってきた覇王へ思いっきりスパーダを振り下ろす。

何度も何度も。

上へ下へ。

赤く輝くスパーダが覇王の体にめり込み更に大地を砕き割っていく。
まるで巨大地震が起きたのかのように一帯が激しく揺れる。

296: 2010/03/25(木) 23:27:12.04 ID:GmUvwPQ0
アリウス『おおおお!!!!』

アリウスもただやられている訳ではなかった。
翼を伸ばし凄まじい速度でネロの顔へ振るう。

ネロ『Ha!!!!!』
ネロがそれをスパーダで軽々と弾き、そのまま赤い大剣をアリウスに突き立てる。

アリウス『ぉ…!!!』

そしてデビルブリンガーで翼を掴み。


ネロ『羽なんざ似合わねえよ!!!』


一気にその翼を引きちぎり乱暴に分投げる。


ネロ『これでスッキリ良い男だぜ!!!』


続けてデビルブリンガーを高く掲げる。
左手でスパーダを勢い良く引き抜く。その反動でアリウスの体が少し浮く。

ネロ『Ha-ha!!!!!!!Dance dumb!!!!!! Fuckin' Ass hole!!!!!!!』

そこにデビルブリンガーを叩き込む。再びアリウスの体がめり込んだ。

298: 2010/03/25(木) 23:36:28.46 ID:GmUvwPQ0
そして続けてスパーダを振り下ろす。

デビルブリンガーとスパーダ。

交互に叩き落される『破壊』の乱撃。

アリウスの体を構成していたオレンジ色の光が飛び散っていく。



そして。

スパーダとデビルブリンガーを同時に振り上げ


ネロ『Get lost!!!!Babe!!!!Time to Finale!!!!!!!!』


渾身の二撃が同時に叩き込まれた。


アリウスの光の体が全て弾け飛ぶ―――


ネロ『Ha!!!!!Sweet!!!!!!!!』

299: 2010/03/25(木) 23:39:22.88 ID:GmUvwPQ0
光が爆発し、アリウスが跡形も無く散る。

その周囲の黒い空間にもヒビが入り、轟音を立てながら『景色』が砕け落ちていく。

そして地面が破壊された草地に戻り、空に星が再び瞬き始めた。


ネロ『…』

神裂『…』


ネロ『…ああ?随分とあっけねえな』


神裂『終わった…んでしょうか?』


ネロ『…』

神裂『…』

二人は少し沈黙し、何か来ないか待った。
だが何も来なかった。
何も力を感じない。

神裂「やっぱり終わったようですね…」
ほっとしたように神裂が天使化を解く。

ネロ「だな」
ネロの青い光もやみ、声の調子も元に戻る。

300: 2010/03/25(木) 23:41:05.92 ID:GmUvwPQ0
ネロ「もう…行っちまったか…」
バージルの姿はどこにも無かった。

ネロ「…お」

神裂「あ」

二人はふと気付いた。
あの赤毛の少女に。

地べたに座り、不思議そうにキョロキョロしている。
先の無表情の顔とは打って変わって困惑している。

ネロ「…」
ネロがブルーローズを引き抜く。

神裂「ちょ、ちょっと待ってください!」
ネロのやろうとしている事に気付いた神裂が慌てて制止し、
赤毛の少女に近付く。

301: 2010/03/25(木) 23:43:19.61 ID:GmUvwPQ0
神裂「何も…感じませんよ」

ネロ「…確かに」
ブルーローズを構えたまま返事をする。
あの少女からいまや何の力も感じられない。
そしてあの瞳には感情らしきものが見える。

赤毛の少女が驚いたような怯えてたような顔をして硬直する。

少女「あ…あ…」

口からは言葉にならない声が漏れている。

神裂「…」

そして少女が恐る恐る口を開いた。


少女「…ここは…どこ?」


―――

302: 2010/03/25(木) 23:47:17.40 ID:GmUvwPQ0
―――

ダンテ「逃げたか…」

ダンテ「まあいいか」
ダンテはリベリオンを背中にかける。

ダンテ「さ、行こ―――」

その時だった。
奇妙なうめき声のような音が聞こえた。

ダンテ「…」
嫌な予感がする。

慌ててあるものを思い出して振り返る。

その先にあったのはパンドラ。

開きかかっており、そこから光が溢れ出てきている。
だらしないダンテはしっかり閉めるのをまた忘れていたのだ。


ダンテ「うぉ!!!待て待てタンマタンマ!!」


暴走しかかっている『災厄兵器パンドラ』へ駆け出す。

304: 2010/03/25(木) 23:51:41.36 ID:GmUvwPQ0
御坂「へ?」

浜面「?」

ダンテがパンドラへ到達した瞬間。光が周囲を包む。

黒子「!!!!」

滝壺「ふああああ!!!!」

それは最早音ですらなかった。とてつもない大気の振動で四人は咄嗟に耳を塞ぐ。

光が放出される。

その日、学園都市中の者が目撃した。
大地が揺れ、第23学区から天へ伸び宇宙まで到達していた直径300mはあろう光の柱を。

そしてそれは扇状に広がり、学園都市全体をその光の壁が押しつぶ――

―――そうとした瞬間に消えた。


ダンテ「……今のはマジでやばかったな」
ダンテが肩を竦めパンドラを踏みつけながら呟く。

光の嵐は収まっていた。

あとほんの僅かでも閉めるのが遅かったら学園都市ごと消滅していただろう。
そしてそのまま連鎖していたら―――。
それが『災厄兵器パンドラ』。

307: 2010/03/25(木) 23:56:39.30 ID:GmUvwPQ0
ダンテ「おい、大丈夫か?」
ダンテがパンドラを担ぎながら地面に這いつくばっている四人へ声をかける。

御坂「…え、ええ」

浜面「くっそ…なんだってんだよ…」

四人がふらつきながら立ち上がる。

ダンテ「OK、じゃあさっさと―――」
その時地下駐機場が突然揺れ始めた。

ダンテ「あ~。またこのパターンか」

そして崩れ始めた。
ダンテが暴れすぎ、そしてパンドラの暴走が止めを刺してしまったのだ。

黒子「く、崩れていますの!!!!」

浜面「うぉおおお!!!!」
周囲の壁が歪み、土砂が流れ込んでくる。
床全体が大きく沈み始める。


ダンテ「OK!頑張ったお前らに―――」

いきなりダンテが御坂と浜面の服を掴む。

御坂「へ?」

ダンテ「―――楽しい楽しい空の旅をプレゼントしてやるぜ!!!」

そして先ほどパンドラが開けた天蓋の穴へ向け、二人を分投げた。

308: 2010/03/26(金) 00:01:08.62 ID:3UQM9bQ0
浜面「うぎゃああああああああああ!!!!」

御坂「いやああああああああ!!!!」

悲鳴をあげながら二人は地上へ、空高く打ち出された。

続けてダンテは黒子と滝壺を掴む。

黒子「え!え!わ、わたくしは…!!!!」

滝壺「ふあ?!!!わっ!!わ!!」

ダンテ「黙ってろ。舌かむぜ」

そして御坂達と同じく放り投げた。
二人は悲鳴をあげて地上へ飛んでいった。

ダンテ「ネヴァン!!!」
その瞬間ダンテの右手に紫の大鎌が現れた。

ダンテ「この上に飛んでる4人のガキを拾え」
そして4人が飛んでいった方向に分投げた。

ダンテ「さてと…」

瓦礫が降り注ぎ床が沈んでいく中ダンテは悠然と歩き、ケルベロスを拾う。
そこでふと顔を上げる。

ダンテ「…ま、一応確認するか」

そして崩れていく地下駐機場の中へ猛烈な速度で駆け込んでいった。

―――

309: 2010/03/26(金) 00:06:26.26 ID:3UQM9bQ0
―――

アリウス「ぐ…!!!」

アリウス本体はあのネロの最後の一撃が振り下ろされる直前に逃げ、
デュマーリ島のウロボロス社ビルに戻っていたのだ。

広いホールで一人膝をつく。

アリウス「ぐはッ…!!」

全ては順調だった。
だがただ一つの誤算。

それはバージルの出現。

アリウスはネロの右手とバージルが繋がっていたことは知らなかったのだ。

ダンテとバージル。
あの双子、そしてネロによって今日は何度も氏にかけた。

アリウス「…はははははは!!!」
だがアリウスは笑った。

一番の目的は達成されたのだ。
『覇王アルゴサクス』の力は『生きている』。

310: 2010/03/26(金) 00:09:10.93 ID:3UQM9bQ0
アリウス「…ぐ…上々ではないか…!」
一人呟く。

懐から葉巻を取り出し咥え、火をつける。
その動作だけでも体が軋み痛む。

アリウス「…」

今日、スパーダの一族の力の片鱗をその身を持って思い知った。
予想はしていたが、やはりとてつもない領域の強さだ。

あれ程なら、例え覇王アルゴサクスを完全復活させても一人を相手にするのが精一杯だ。
三人同時で来られたらあのムンドゥスのように一方的に蹂躙されるだろう。

だが他にも手があるはずだ。

実際に直接刃を交えなくてもあのネロと魔剣『スパーダ』を一時的に抑えこむ事に成功した。

アリウス「ふむ…」
思考を巡らす。

それが人間の強み。

力が無いからこその別の強さ。

アリウス「いずれ…駆逐しその力を我が物にしてくれよう…」

アリウス「悪魔共が…スパーダの一族めが…」


―――

311: 2010/03/26(金) 00:13:45.04 ID:3UQM9bQ0
―――

ステイル、退避していたシェリー達、そしていつの間にかトリッシュもネロ達に合流していた。

ステイルが巨大な炎剣を発生させ、少女の頭上にまるで首切りの処刑人のように振り上げていた。
僅かでも力の片鱗をみせたらその首を刎ねるつもりだ。

少女は怯えた瞳で縮こまっている。

インデックスが赤毛の少女の前に立ちジッと見つめて解析している。

そして少しはなれたところでシェリーとアニェーゼが「殺せ、頃しちまえ」と呟いていた。

禁書「…もう召喚式も無いんだよ。この子を操っていた遠隔式も全部壊れてるんだよ」

五和「何か覚えてないかな?」
五和が優しく少女に問いかける

少女が泣きそうな顔で首を横に振る。

少女「…ここはどこ?あたしは…だれなの?」

上条「…パンは覚えてるか?」

少女「…」

上条「マーマレードののったパン」

少女が小さく頷く。

312: 2010/03/26(金) 00:16:18.59 ID:3UQM9bQ0
禁書「…力を解放していた間の記憶は無いみたいなんだよ」

少女が己の置かれている状況をなんとなく理解し始めたのか、
体が小刻みに震え始める。

アニェーゼ「さっさと処分しちまいましょう」
憎しみが篭った目で少女を睨みながらアニェーゼが冷たく言い放つ。

五和「…」
一瞬反論したいとも思ったが、この少女が多数の同胞を頃したのも事実だ。

上条「おい…」
何かを言いかけた上条をシェリーの鋭い目が制止する。

上条「…」
その目に圧倒され上条が押し黙った。

重い沈黙。

313: 2010/03/26(金) 00:19:12.89 ID:3UQM9bQ0
ステイル『…じゃあやっても良いんだな?』

その声にシェリーとアニェーゼが頷く。
神裂はただ黙っていた。

少女がステイルを見上げた。
瞳が潤んでいた。

ステイル『…悪いね』
そして振り下ろそうとした瞬間。

彼の腕が止まった。

シェリー「おい?」

ステイル『―――』
ステイルは見てしまった。

その少女の瞳から零れ落ちる雫を。

315: 2010/03/26(金) 00:22:50.14 ID:3UQM9bQ0

ステイル『―――クソ』
もう彼はその腕を振り下ろす事ができなかった。

―――「悪魔は泣かない」―――

あの日ダンテから授かった一言。
それが今の彼を支えている。

この少女を今頃してしまうと言う事は。
己を否定してしまうような気がした。

ステイルは顔を上げインデックスを見る。

インデックスは悲惨な光景を見たくないのか顔を小さな手で覆ってうずくまっていた。


ネロ「OK、ここまでだな」
ネロが手を叩きながら軽い調子で声をあげた。

続けて今まで黙っていたトリッシュが口を開いた。


トリッシュ「ダンテならどうするかしら?」


トリッシュ「私を『許してくれた』けど。ダンテは」

316: 2010/03/26(金) 00:26:53.72 ID:3UQM9bQ0
そのトリッシュの問いかけはその場にいる全員の胸に突き刺さった。
トリッシュはかつて魔帝軍の幹部として、この赤毛の少女とは比べ物にならないほどの悪行を繰り返してきた。

だがダンテはそんな彼女を受け入れた。
過去の事なんか一切気にせず。

再び沈黙が覆う。

神裂がシェリーとアニェーゼの顔を見る。

シェリー「…チッ…あー!!!わかったわよ!!!」

アニェーゼ「……しょうが…ありませんね」
アニェーゼ「スパーダの一族がでてきちゃあどうしようもありませんよ」

神裂はトリッシュの方を向く。
神裂「では、我々イギリスは、この子の件についてはそちらに任せます」


ネロ「OK、ウチのフォルトゥナの孤児院で引き取る」

トリッシュ「普通の人間の子に混ぜるのはいくらなんでもダメでしょ」

ネロ「じゃあどうすんだ?あんたとダンテの養子にでもすんのか?」

トリッシュ「…それどういう意味よ」
トリッシュ「まあそれはおいといて、私に任せて。良い預け先知ってるの」

ネロ「?」

トリッシュ「この子は覇王の力も浴びちゃったしね。ちょうどそれにお似合いの場所があるの」

317: 2010/03/26(金) 00:31:13.07 ID:3UQM9bQ0
トリッシュが少女の手を取り皆から少し距離を置く。

シェリー「…」

アニェーゼ「…」
二人が恨めしそうな目で睨む。

トリッシュ「そんな目しないの。なんかあったら私とスパーダの一族が責任持ってカタを付けるから」

ネロ「ま、その怒りはこれからに取っとけ。もうしばらく悪魔出没が続くだろうしな」

トリッシュ「そゆこと」
トリッシュが不気味なほど美しい作り笑いを浮かべ、少女と共に黒い円へ沈んでいった。

神裂「…では…」

ステイル「…ああ。仕事が山積みだな」

神裂「…ああああ!!!」
神裂が何かを思い出したように突然叫ぶ。
そして腰に挿している七天七刀の柄を握りすぐに抜刀した。

その刃は中ほどで折れていた。


神裂「いやあああああああ!!!!うわああああああん!!!!」


緊張の糸が切れた神裂は我を忘れて泣き喚いた。

周りの者は目を丸くしてただ眺めていた。


―――

318: 2010/03/26(金) 00:35:18.43 ID:3UQM9bQ0
―――

麦野は呆然と立ったままだった。
地下駐機場が大きく崩れ始め、周囲には巨大な瓦礫が降り注いでいる。

麦野程の力を持っていたら抜け出せるだろうが、
今の彼女にはその気は無かった。

麦野「…」
右手のバラを眺める。

麦野「…『自由』…か…」
あの一言がやけに頭の中に残っている。

このまま何もせずにここにいれば氏ぬことはわかっている。

麦野「…」
だがそれもいいかもしれないと思った。全て忘れることができる。

全てから自由になってこのクソッタレな世界から。
闇の世界から抜け出せるかもしれない。

麦野「…疲れたわね…」

頭上の天蓋が大きく歪む。麦野はそれに気付き見上げる。

黒い金属の壁が真上から彼女を押しつぶそうと迫ってくる。

麦野は目を瞑った。

だがその氏の壁はいつまで経っても彼女の体へ到達しなかった。

319: 2010/03/26(金) 00:37:00.73 ID:3UQM9bQ0
目を開くとその黒い天蓋が僅か1mのところで止まっていた。


「よう」


前方から声が聞こえた。
顔を下ろし前を向くと。

目の前に先程の赤いコートの銀髪の男が立っていた。
右手を掲げ天蓋を支えていた。

「やっぱり な」


「世話が焼けるお嬢さんだぜ全く」


麦野「…え?」


そして左手で麦野を抱き寄せ軽々と持ち上げる。

「掴まってろ」

麦野は言われるがままにその銀髪の男の胸にしがみ付いた。

320: 2010/03/26(金) 00:39:23.88 ID:3UQM9bQ0
銀髪の男は麦野を抱いたまま、降り注ぐ瓦礫の雨の中凄まじい速度で疾走していった。

麦野は風を感じていた。
吹き抜けていく大気。
気持ちよかった。

この状況でそんなことを思うなど奇妙な事だっただろう。

だが麦野は小さい頃から忘れかけていたその感覚に身を任せていた。

その疾風で右手のバラが抜け落ちそうになり慌てて握り締める。
別段花なんて好きでもない。
だがなぜかコレだけは絶対に手放す気にはなれなかった。

まるで高速の列車に乗っているように景色が流れていく。

そして。


「出たぜ」


暗い景色が光の世界に一変する。
突き抜けるような青空が広がる。

銀髪の男に抱えられ麦野は大空を舞う。

彼女は微笑んでいた。
無邪気な子供のように。

―――

321: 2010/03/26(金) 00:41:22.25 ID:3UQM9bQ0
今日はここまで
これで外伝のメインは終了
明日はエピローグ的なのを投下します
開始時間も夜から

322: 2010/03/26(金) 00:42:10.58 ID:WSJh7/Ao
乙!
外伝のボリュームじゃねえww

331: 2010/03/26(金) 21:03:04.77 ID:3UQM9bQ0
―――

上条とインデックスは学園都市に向かう超音速旅客機に乗っていた。
相変わらず乗り心地は最悪だ。

あの後、すぐにステイルが上条とインデックスを空港に運びこの機体に乗せた。
悪魔出没が頻発するイギリスにインデックスを置いておきたくは無かったのだろう。

学園都市でも悪魔が現れ、それをダンテが駆逐したという情報は既に伝わってきていた。

つまり、学園都市でも悪魔の魔の手が伸びる可能性があるということだが、
イギリス上層部は「ダンテがいるなら地球上で一番安全」と判断したのだ。

上条「…」
心の中で思う。

俺は今回何の為にイギリスに行ったんだと。
この右手は役に立つどころか、事態を悪化させた。

332: 2010/03/26(金) 21:10:27.25 ID:3UQM9bQ0
多くの血が目の前で流れた。

時間稼ぎし上条達を生き長らえさせる為に命を捨てた騎士達。

あのウィンザー城の戦闘で計80人以上が戦氏したと聞かされた。


上条は隣の席に座っているインデックスを静かに見る。
絶対に守ると誓った少女。

今回はどうだっただろうか。

どうみても上条は守れていなかった。
運が良かっただけだ。

いかに己が無力か。


無力。


力が無い。

上条「(クソ…)」
どす黒い何かが上条の胸にこみ上げてくる。


心の奥底から―――。

心臓から―――。

333: 2010/03/26(金) 21:15:50.55 ID:3UQM9bQ0
禁書「…とうま?」
隣に座っているインデックスが何かを察したのか心配そうに声をかける。

上条「?なんだ?」
ハッとした様に振り向く。
その顔はいつもの表情に戻っていた。

禁書「…大丈夫?」

上条「ははは、上条さんはいつも通り、至って大丈夫ですよ!」
そしていつもの調子で言葉を返す。

だがインデックスは確かに感じ取る。

その表情の下に。

心の奥に。

どす黒い『悪魔的な影』が僅かに顔を覗かせているのを。

その時、上条の瞳が赤く輝いた。
一瞬だけ。

だがこれまで以上に強く。

334: 2010/03/26(金) 21:19:57.17 ID:3UQM9bQ0
禁書「…」
インデックスはあの時と同じく何も言わなかった。

だが理由はあの時とは違う。

彼女は思う。
この少年は自覚しているのだろうか。
己の中の『悪魔』が僅かに目を覚ましかけているのを知らないのだろうか。

それともそれを知った上で受け入れ始めているのだろうか。

インデックスは怖くて聞けなかった。

禁書「とうま…」

上条「ん?」


禁書「『とうま』は…『とうま』だよね?」


上条「何言ってんだインデックス」


上条「『俺』は『俺』だぜ」


再び瞳が輝いた。
インデックスはもう何も言わなかった。

言えなかった。


―――

335: 2010/03/26(金) 21:24:50.54 ID:3UQM9bQ0

―――


ダンテは麦野を抱えて広いコンクリートの大地に降り立った。
どうやらここは空港の敷地内のようだ。

延々とコンクリートの地面が続き、所々に巨大な航空機が駐機してある。

ダンテ「おつかれさんだ」
ゆっくりと麦野を下ろす。

麦野はそのまま、何も言わずにその場に座った。


その時、ピンクとも赤とも言える髪の、紫色のドレスを纏ったような妖艶な女がふわりと降り立ってきた。

ネヴァン「あの子達は送ってきたけど。いいんでしょ?目障りだし」

ダンテ「ああ」

ネヴァン「で、コレは『何』かしら?」
ネヴァンがまるで 邪魔者め とでも言いたそうな目を麦野へ向けながらダンテに問う。

ダンテ「ま、知り合いだ」

336: 2010/03/26(金) 21:28:33.67 ID:3UQM9bQ0
ダンテ「ネヴァン、さっさと戻れ。もういいぞ?」

ネヴァン「あら、つれないわねえ。イイことして遊びましょうよ。ダンテ」

ダンテ「……また今度な。戻っていいぞ。早く戻れ。さっさと戻れ」
ダンテの命を受け、ネヴァンが不満そうに何やら呟きながら鎌の形になり姿を消した。

ダンテにとって、ネヴァンは『魔具』としてはかなりお気に入りだ。
暇な時はギター型にしてよく弾いている。

だが『魔具』としてはだ。
『人物』としてはかなり苦手だ。

ネヴァンは淫魔である。
そしてダンテに心酔している。『惚れている』と言えば聞こえは良いかもしれない。

だがそのレベルはとてもじゃないが良いとはいえない領域にまで達している。
『伝説の淫魔』に『心酔』されると言うことは『氏の宣告』と同義だ。

一度、ギター化したネヴァンを弾いて、そのまま抱きながら寝てしまった事がある。
その時は筆舌に尽くしがたい程のえらい目にあった。

このダンテですらドン引きしてしまう程の。

338: 2010/03/26(金) 21:35:12.56 ID:3UQM9bQ0
ダンテ「あ~」

ダンテは頭を掻いた。当初の目的はトリッシュを探す事だった。
だがもうどうでも良くなった。
久々に暴れたし、当面の目的は達成された。

ダンテ「(ピザでも食って帰るか)」

ダンテ「…」
その時、ダンテはある事を思い出した。

忘れていた。

一つの魔具を回収することを。

ダンテ「アラストル!!!」

だがあの魔具は現れない。
アリウスによって一時的に機能停止しているのだ。

ダンテ「…参ったな」

さっさと帰りたいが、あのレベルの魔具をほっぽりだして置いていくのはさすがにマズイ。
だからと言ってあの崩れた瓦礫の中を掘り起こして探すのも面倒臭い。

ダンテ「…しょうがねえな」
顎をさすりながら呟く。

339: 2010/03/26(金) 21:40:38.49 ID:3UQM9bQ0
麦野がぼんやりとした顔でダンテを見上げた。
ダンテがそれに気付く。

ダンテ「帰れるか?」

ダンテが足元に座っている麦野へそっけなく声をかけた。

麦野「…ええ」
麦野がゆっくりと立ち上がる。

ダンテ「OK」

ダンテ「じゃあな」

麦野「ちょっといい…?」
麦野が振り向く。

するとそこにはもうあの男はいなかった。

麦野「…」

現れた時と同じく、ダンテは唐突に姿を消した。

麦野は右手のバラに目を移し、そのまましばらく静かに見つめていた。
爽やかな風が彼女の頬を優しく撫でる。

彼女のウェーブのかかった長い髪がふわりと少し浮かんだ。


―――

340: 2010/03/26(金) 21:45:19.30 ID:3UQM9bQ0
―――


バージルは破壊されたウィンザーの街の中を歩いていた。

激闘の余波で街全体がまるで爆撃を受けたかのような有様だ。
幸いな事に騎士や魔術師の市民誘導が早かったのか少なくとも人間に氏体は見当たらない。

バージルにとってはどうでも良い事だが。

その時、ふと足を止めた。
足元を見る。

そこには半ばで折れた刀の切っ先。

神裂の七天七刀だ。
激戦の凄まじい衝撃で数キロ離れたここまで折れた先端が吹っ飛んできたのだ。

バージル「…」

その折れた刃を足先で小突き、上へ飛ばし右手で掴む。

バージル「…」
まじまじと眺める。
掴み取った瞬間に持ち主が誰かわかった。
強力な力が残留している。

341: 2010/03/26(金) 21:52:19.84 ID:3UQM9bQ0
バージル「…いい刀だ」
バージルは呟いた。

バージルはただ強いってだけで節操無く魔具を集めてるダンテとは違う。

彼が最も大事にする一つの美学。

それは剣。

剣こそが力の象徴。

当然その目はかなり厳しいものの、業物には公平な評価を下す。


折れた刃を握り構える。
一見すると長めのナイフを持っているようだ。

バージル「…」
七天七刀の折れた刃が淡く青い光を放ち始める。

そしてバージルは軽く地面を蹴ると、調子を確かめるように演舞をした。

折れた七天七刀の刃が音速の数十倍もの速度で振るわれ、青い衝撃波を生み出して大気を切断する。
斬撃が瓦礫の街に巨大な筋を刻んでいく。

343: 2010/03/26(金) 21:55:43.80 ID:3UQM9bQ0
一通り演舞をしその刃を再び眺める。

このバージルの力にも壊れることなく付いてきた。
正真正銘の業物だ。

人間製の刀の中では最高峰だろう。

バージル「…」

だがそこまでだった。
今度は興味を失ったかのように地面へ捨てる。

そしてバージルは廃墟と化した街の中へ消えていった。


地面に転がる七天七刀の刃が寂しそうに青く光っていた。


まるで意思があるかのように。


―――

344: 2010/03/26(金) 22:00:41.50 ID:3UQM9bQ0
―――


窓の無いビル

アレイスター「…」

アレイスターは第23学区の被害報告に目を通していた。

アレイスター「散々だな…」
余りにも酷すぎる結果だ。

第23学区の高額の実験機や試作機は悉く破壊。
地下駐機場もろとも崩壊。
あげくに浜面仕上の処分も失敗だ。

浜面仕上の件の結果が同じならアリウスを呼ばなかった方がまだマシだったはずだ。

アレイスター「全く…」

ダンテ。

アレイスターにとってイレギュラーどころではない。
スパーダの一族が関ると結果が全く予測できない。

実際、『パンドラ』によって学園都市が消し飛ぶところだった。

345: 2010/03/26(金) 22:08:38.35 ID:3UQM9bQ0
先ほど、イギリスの現状についても報告が届いた。

ウィンザーの街は廃墟となり、
覇王の力の一部を持ったアリウスはバージルとネロに叩きのめされたらしい。

その過程で『バージルの魔人化』。
人間界にまた強い負荷がかかった。

アレイスターは思った。

だから言っただろう。悪魔関係、そしてあの一族に関ると碌な事が無い と。
それの言葉は自分にも向けられていたが。

いまやアレイスターのプランは悪魔サイド、
そしてスパーダの一族と絡みはじめた事でボロボロだった。

アレイスターが長年かけて慎重に築き上げてきた土台が僅か二ヶ月で大きなヒビが入っのだ。

今回で確信した。

イレギュラーに関るから「イレギュラー」な事態を起こすのだ。
ある程度離れて距離を置いとけば影響も小さい。

346: 2010/03/26(金) 22:12:08.86 ID:3UQM9bQ0
それに「浜面仕上」程度の小さなイレギュラーにこだわっている場合ではない。
「悪魔」という更に巨大なイレギュラーが彼の領域に入り込み始めているのだ。

早急に修正の手はずを整えねばならない。

イレギュラーの塊であるスパーダの一族と出合った者達が今後どのような道を辿るのか。

一方通行、御坂美琴、浜面仕上、麦野沈利、そしてアレイスターのプランの要でもある上条当麻。
その中心人物が、「心臓が悪魔化」という一番大きな影響を受けている。


上条当麻。


アレイスター「…」


『悪魔の心臓』が彼が元からその身に宿す『力』にどのような影響を及ぼすのか。

『悪魔の心臓』がその力を強めれば必ず何らかの影響が出てくる。

アレイスター「参ったな…」

その時。

少し前に、このビルにとある男が空けた穴に人影。

アレイスター「…またか」

347: 2010/03/26(金) 22:17:37.80 ID:3UQM9bQ0
その穴を開けた張本人が再び舞い戻ってきたのだ。

その男がニヤつきながらだらしなく歩いてくる。

ダンテ「よう」

アレイスター「今度は何の用だ?」

ダンテ「あ~、あの空港の下に俺の魔具が埋まってんだ」

ダンテ「鍔に翼が生えてる銀色の剣だ」

ダンテ「見つけたら俺に返してくれ」


ダンテ「見つかるまで『ここ』にいるからよ」


アレイスター「」

なんという凶報だろうか。
アレイスターは一瞬言葉を失った。

この破壊神とも呼べる男がしばらく学園都市に滞在するだと?

348: 2010/03/26(金) 22:23:29.76 ID:3UQM9bQ0
ダンテ「悪ぃな」

アレイスター「かまわんよ」

ダンテ「でよ…」
ダンテが頭を掻く。

アレイスター「心配するな。第23学区の件は君に賠償を求めようとは思わない」
賠償を求めたところで無駄だ。どうせ一円も返って来ない。

ダンテ「ハッハ~そいつは助かる。じゃあな。見つけたら呼んでくれ」
そう言い、踵を返して再び穴へ向かいそのまま姿を消した。

アレイスター「…」

『お呼びでしょうか?』
ノイズの混ざった電子的な声が響いた。

アレイスター「第23学区を掘り起こし、『鍔に翼が生えてる銀色の剣』を探せ」

『…?』

アレイスター「早くしろ。最優先事項だ」

『りょ、了解』
そこで通話は終了した。

アレイスター「…少し休みたいな…」

―――

351: 2010/03/26(金) 22:29:09.43 ID:3UQM9bQ0
―――

御坂と黒子は寮のベッドに寝そべっていた。
時刻はまだ午前。

本当は学校に戻らなければ行けないのだが、そんな体力が残っているはずも無い。
二人はサボる事にした。

あの黒子でさえ二つ返事で同意した。

御坂「あー…凄く疲れた…」

黒子「わたくしもですの…」
生きるか氏ぬかの戦いを越えればその疲労も当然だ。

普通の者なら精根尽き果て意識が飛んでてもおかしくないのだが、この二人は耐えていた。

あのムンドゥスの事件が彼女達の精神の耐久力をかなり強めていたのだ。
あれに比べればマシ と。

浜面と滝壺にはとある病院を紹介した。
話を聞くと、どうやら滝壺は体の具合がかなり悪いらしい。

そこで御坂はあのツンツン頭の少年が良くお世話になっている病院を教えた。
二人はすぐに向かっていった。

352: 2010/03/26(金) 22:35:32.75 ID:3UQM9bQ0
その後、御坂は上条の携帯へ電話をかけた。
騒動の前に何度か御坂は上条の携帯に電話をかけたが繋がらなかった。

だがその時はすんなり繋がった。
どうやらイギリスに行っていたようだった。
そして無事で、特に問題なく今帰っている途中との事だった。

御坂は安心したが、それでいて自分の苦労が全く関係ないものだったということに打ちひしがれた。
(実は関係は大有りなのだが御坂は知る由も無い)

それに。
関係ないとはいえ、人を助けることは悪くない。

御坂「…お風呂…」

黒子「…お姉さまがお先でいいですの」

御坂「…黒子が先でいいわよ」

黒子「…つまりわたくしにお湯を張れと言いたいのですね?」

ベッドから起き上がるのも億劫だ。

353: 2010/03/26(金) 22:38:52.95 ID:3UQM9bQ0
御坂「…お願い。テレポートでパッといけるでしょ?」

黒子「…残念ながら演算するスタミナも残っていませんの…」

御坂「くろこぉおおおお願いいいいいいい」
御坂が駄々を捏ねたようにベッドの上を転げ回る。


黒子「…元気でございますこと…」
いつもならその御坂の姿を見て胸がキュンとするのだが、今はそんな体力すらない。

喚く御坂をよそに黒子はぼんやりと今日の出来事を思い出す。
そして一瞬鳥肌が立つ。

よくよく考えれば自分は『氏の嵐の中』を潜り抜けてきたのだ。

黒子「…」
今までも苛烈な戦闘は何度か経験したことがある。

だがあのダンテが現れてからは、
今までのがまるで小さなお遊びに思えるくらいのとんでもない騒動に巻き込まれた。

黒子「…もう二度と…会いたくありませんの…」
彼女は心の底からそう思った。


数日後に再び会うハメになるのだが。


―――

355: 2010/03/26(金) 22:42:33.22 ID:3UQM9bQ0
―――

神裂とネロはとある大きなテントにいた。
ここはウィンザー郊外に設けられた臨時の指揮所だ。

周囲で魔術師たちがそれぞれの作業を行っている。

神裂とネロはそのテントの隅にある椅子に座っていた。一通り各地の部隊に指示を下し、今は報告待ちだ。
一連の騒動であのクーデターほどとは言わないものの、イギリス中が大きく混乱した。

大規模な悪魔の攻撃。
複数の大悪魔の出現。
それによる戦闘。

魔剣スパーダの一時的な覚醒。
覇王の力の現出。

そしてバージルの魔人化。

今、バッキンガム宮殿では首脳達が頭を悩ませているだろう。

イギリス政府はとりあえず国民に向け『大規模なテロがあった』と報じた。


神裂「…うぅ」
神裂が哀しそうに腰の七天七刀を見つめる。

七天七刀は二つとない名刀だ。
そして長年共にしてきた。人生の、自分の片割れと言っても過言ではない。

折れた部分の刃はまだ見つかっていない。

ネロ「残念だったな」

神裂「…はい…」

356: 2010/03/26(金) 22:47:32.14 ID:3UQM9bQ0
折れた刀を直すことは特に問題ない。

だが強度はガタ落ちになる。
ましてや七天七刀は数百年前に作られた二つとない『令刀』だ。
刀の製造技術の中には失われた業も多い。

この七天七刀もまたその失われた技術で作られた物だ。

刃を繋ぎ直す事はできても、完全に元通りとはならない。
今の神裂が振るえばまたすぐ折れてしまうだろう。

ネロ「『こっち』に預けてみねえか?」
『こっち』とはフォルトゥナの事だ。

長きに渡って『剣』が中心となって発展したフォルトゥナ。
その製造技術も実は世界最高峰だ。
なんと言っても『悪魔を切る』為の剣を作り続け極めてきたのだから。

さすがに『日本刀』となると勝っては違うだろうが、
ネロが言いたいのは「どうしても無理だったら、ダメ元で預けてみろ」という事だ。

神裂「…はい…その時はお願いします」

ネロ「OK」

その時、一人の魔術師が二人におずおずと近付いてきた。
手には赤い布に包まれた棒状の『何か』。

357: 2010/03/26(金) 22:53:24.79 ID:3UQM9bQ0
ネロ「…へえ」

ネロはその包みを見てすぐにわかった。
いや、見たと言うよりは感じたと言った方が正しいか。

神裂「?」

「神裂さん。ウィンザーの街で見つけました」

魔術師が包みを開ける。

すると中には淡く青い光を放つ七天七刀の折れた刃。


神裂「あぁ!!……?」
一瞬喜びと悲しみを混ざった声を上げたが、すぐに不思議そうな顔になった。


神裂「…これは…?…何が…?」
青い光。

ネロは隣で何も言わずにニヤニヤしている。

358: 2010/03/26(金) 22:57:15.27 ID:3UQM9bQ0
神裂が恐る恐るその刃を手に取ると。

神裂「わ!えッ!!わわ!!」
刃の光が更に強くなった。

ネロ「良かったな神裂。運がいいぜ」

ネロ「(…いや悪いかもな…まあなるようになるか)」

神裂「へ!?何がどういう…!?」
確かに神裂は生まれつき『運』が良い。
聖人とはそういうものだ。

だがこの状況が良くわからない。

ネロ「ほら、元に戻りたがってるぜ」
ネロが顎で神裂の腰の七天七刀を指す。

ネロ「繋げてみろ」

神裂が言われるがままに七天七刀を抜刀し、その刃を折れた部分に当てる。

すると周囲が青い光に包まれた。

359: 2010/03/26(金) 23:03:07.52 ID:3UQM9bQ0
神裂「!!!!」

そして光が止むと。

刃が繋がり元に戻った七天七刀が現れた。
全体が淡く青く光っている。

神裂「ふぁあああああああああ!!!!!!!!」

状況が良く分からないが、
元に戻った七天七刀を前にして神裂が喜びの篭った声をあげて泣きはじめた。

指揮所の中の者達がその最高指揮官のあられもない姿を見て目を丸くしている。

その横でネロがニヤついていた。

ネロ「(本当に幸運だな―――)」

だがそこでふと思った。

ネロ「(だが―――ちょっと後先考えなさすぎじゃねえか?)」

かつてスパーダが戦いに使用した物は意思を持ち『霊装』、そして半ば『魔具』と化したという。
そのスパーダに匹敵するバージルについても例外ではない。

そんなに強大な力を持つ物をほいほい作り出すのも考え物だ。

360: 2010/03/26(金) 23:04:45.62 ID:3UQM9bQ0
そこでまた心の中で切り返す。


ネロ「(―――でもまあ―――)」


ネロ「(―――親父の事だから良いか―――)」


ネロは小さく笑った。

神裂の七天七刀はネロのレッドクイーンと同じく、
強大な力を浴び見事それに耐え切って『めでたく?』魔具の仲間入りを果たした。

後にバージルが関ったことを知った神裂は彼を厚く崇拝するようになる。

十字教の神よりもだ。


「生神」として。
最強の日本刀使いとして。

バージル教の信者だ。


―――

364: 2010/03/26(金) 23:10:03.02 ID:3UQM9bQ0
―――

とある海岸沿いの小さな町。

その町には人影が無かった。
数十年前から住む者がいない。
完全にゴーストタウンと化していた。

だがその町の離れに一軒。

明りが灯っている小さな家があった。

その家の中。

年代を感じさせる椅子に一人の老婆が静かに座っていた。

名はマティエ。

かつてスパーダと共に魔界と戦った戦巫女の末裔だ。
彼女の一族は『守り手』として、スパーダの記した『狩人への墓標』を守護してきた。

スパーダの残した一つの命令に従い。

―――2000年の後に現れる―――
―――暗き血の絆に導かれし狩人―――
―――そして許されざる護り手を待て―――

365: 2010/03/26(金) 23:15:52.70 ID:3UQM9bQ0
そして2000年。

マティエの母は彼女こそが『許されざる護り手』と信じた。

彼女の代で全て成就されると。
彼女自身もそれを信じ、全てを厳しい修練に捧げた。
当然、子孫を残すことどころか恋をする事すらできなかった。

だが『暗き血の絆に導かれし狩人』は現れなかった。
一族の者達は「嘘だった」「予言は外れた」と言い一人、また一人と離れていった。
2000年を捧げてきたのだ。その反動の失望は大きかった。

しかしそれでも母は信じ続けた。最期の床まで。その確信を胸にしたまま母は息を引き取った。

そしてそれから数十年。マティエの齢は70を越えた。

一人になった彼女は失望と虚無感に打ちひしがれた。

母には申し訳ないと思いつつも、そもそもスパーダの予言自体が無意味な物だったのだろうかと考えるようにもなった。

366: 2010/03/26(金) 23:21:44.09 ID:3UQM9bQ0
だが数年前のある日、一人の大悪魔が彼女の前に現れた。
その悪魔は「トリッシュ」と名乗った。

そしてスパーダが『狩人への墓標』に施した封印をあっさりと解いてしまった。

マティエは驚愕した。
封印を解いたのも信じがたいことだが、それ以上にトリッシュが封印を解く時に使用した物。

それはかつてスパーダが所持していた『アミュレット』。

トリッシュは答えた。
パートナーから借りたと。

そのパートナーは―――

―――スパーダの息子だと。

遂にマティエと『暗き血の絆に導かれし狩人』が繋がった。

2000年に渡って影で動いていた、運命の歯車が紡いでいた糸が遂に繋がったのだ。

367: 2010/03/26(金) 23:23:48.12 ID:3UQM9bQ0
それから数年。

まだ何も無い。
だがマティエは確かに感じていた。

ムンドゥスが二ヶ月前に遂に滅んだのも知っている。
今、確かに時代が動いている。

その時。

玄関のドアがノックされた。

マティエは感じた。

遂に―――。

ゆっくりと立ち上がりドアに向かう。
そして軋むドアを開けた。

そこにはトリッシュと。

赤毛の少女が立っていた。

368: 2010/03/26(金) 23:25:47.71 ID:3UQM9bQ0
トリッシュ「マティエ」

マティエ「トリッシュ」
マティエがゆっくりと、トリッシュの隣に立っている少女へ目を移す。

少女はトリッシュの手を固く握り、少し怯えているような目でマティエを見ていた。

トリッシュ「この子、ね」

マティエ「ふむ…」

トリッシュが簡単にこの少女の状況を説明する。
人造悪魔という事。
覇王の力を浴びた事。
そしてこの少女自体も大悪魔並みの力を持っている事。

マティエ「…」
マティエは確信した。

『許されざる護り手』。

その「許されざる」の部分はいままで多くの者が解析し、さまざまな解釈を示した。
だがどれもしっくりくる物が無かった。

しかし。
今この目の前にいる少女はどうか。

『人造悪魔』。

人間の手で作り出された悪魔。存在自体が大罪。

正に『許されざる』存在。

370: 2010/03/26(金) 23:27:33.57 ID:3UQM9bQ0
今、全てが繋がった。

『予言の時』は確かにマティエの時代であった。

だがマティエが『予言の者』ではなかったのだ。


トリッシュ「もう制御は切れてるし、大丈夫だと思うけど」

トリッシュ「いい?」

マティエ「うむ」

トリッシュ「じゃあよろしくね」
そう言うとトリッシュはマティエの返事を聞く間もなく消えた。

赤毛の少女が残された。

マティエ「さあ、来なさい」
マティエが優しく手を伸ばす。

少女が恐る恐るその手を取る。

371: 2010/03/26(金) 23:29:55.60 ID:3UQM9bQ0
マティエ「名前はあるのかい?」

少女が頭を小さく横に振る。

マティエ「そうかい…」

マティエ「では授けよう」

老婆は少女の前に屈み、暫く思考を巡らす。

一つの名がすぐに浮かんだ。
一族史上最強と呼ばれた巫女であり戦士。

そして最期の時までスパーダを信じ続けた女性。

マティエの母。

その名をマティエは赤毛の少女に授ける。



マティエ「―――ルシア―――」



―――

372: 2010/03/26(金) 23:37:18.22 ID:3UQM9bQ0
―――

ダンテはとあるビルの屋上に寝そべっていた。

ピザでも食べようかと思ったが、よくよく考えてみると手持ちはゼロだ。
何も考えずに学園都市に来てしまったのだ。

ダンテ「…」

しばらく学園都市に滞在しなければならない。

事務所に電話をかけようにも金が無い。

というかダンテは、実は自分の「デビルメイクライ」の番号を知らない。
厳密に言うと最初は知っていたのだが、
「悪魔狩り」という裏の事情の為、何度も番号を変えた。
妙なオカルト記者から何度も電話がかかってきたりなど、色々都合があるのだ。

そしてダンテは面倒くさくなって覚えるのを止めた。

日頃からトリッシュに口うるさく言われていた。

だがダンテは結局覚えようとはしなかった。

女に口うるさく言われれば反抗したくなるのが男の性というものだ。

ダンテ「Huh.......」

だがまあ何とかなる。なるようになるさ とダンテは思った。
今まで行き当たりばったりの直感で行動してきた。そして全て順調だ。
過程はどうあれ、結果は全て最高のものだ。

その時、下の街が騒がしくなった。

373: 2010/03/26(金) 23:42:31.53 ID:3UQM9bQ0
サイレンの音が響いている。何やら事件があったようだ。

ダンテ「へえ…相変わらず騒がしい街だぜ」
ニヤリと不敵に笑う。

ダンテが勢い良く飛び起き、ビルの屋上の淵に立つ。

ダンテ「ハッハ~♪とりあえず暇つぶしには不足しねえな!」
悪魔狩り程暴れることはできないが、能力者を相手にするのは面白い。
どんな能力で楽しませてくれるのか。

腕でコートを払い大きくなびかせた。

ダンテ「Ok! This may be fun!!」

捲りあがったコートの下から、腰に刺さっている二丁の巨大な拳銃が一瞬だけ顔を見せた。

そして屋上の淵から飛び降りる。





ダンテ「―――Let's Party!!!!!!!」



―――

ダンテ「学園都市か」外伝 おわり

374: 2010/03/26(金) 23:48:23.82 ID:3UQM9bQ0
外伝はこれにて終了です。
読んで下さった皆様、本当にありがとう御座いました。

来週か再来週辺りにでも後日談的なのをグダグダと投下していく予定です。


 次回へ続く:【禁書×DMC】ダンテ「学園都市か」【その08】


引用: ダンテ「学園都市か」【MISSION 02】