675: 2010/04/08(木) 23:32:58.07 ID:f3Vqx320


最初から読む:【禁書×DMC】ダンテ「学園都市か」

前回:【禁書×DMC】ダンテ「学園都市か」【その08】

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―――

東棟三階。 

一方通行と赤い瞳の上条が20m程の距離を隔てて向かい合っていた。

その少し離れた所の壁際で御坂が屈みなが、涙を浮かべた瞳でら二人を見ていた。


一方「…行くぜ」

一方通行が軽く地面を足で叩いた。
一方通行は上条を頃すのではなく、彼の周囲を瓦礫で固めて動きを止めるつもりだ。
次の瞬間、崩れた天井の瓦礫が宙に浮き、凄まじい速度で上条へ放たれた。

あの右手は一方通行のベクトル操作すら簡単に無効化してしまう。
だが以前戦った記憶によると。
飛ばした物体は止められない。

能力から生まれた慣性は消されるかもしれないが、
数百キロある瓦礫はただ重力にしたがって落ちるだけでかなりの破壊力になるだろう。

だが。

上条はまるで飛ぶ蚊を軽く叩くかのように左手を振るった。
瓦礫が手に当たる瞬間白い光が放出され、瓦礫の砲弾がスナック菓子のようにあっけなく砕かれ四散する。

一方「―――あァ?」

どう見ても右手の力ではない。
見覚えがある。

二人でバージルからインデックス奪還しようとした時。
あの時使っていた力と似ている。

いや、おそらく同じ物だろう。
そしてあの時よりも遥かに強力だ。
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678: 2010/04/08(木) 23:38:07.77 ID:f3Vqx320
一方「―――チッ」

今度は上条の下の床へベクトルを収束させる。
床が盛り上がり、爆発するように破片が飛ぶ。

上条はその攻撃を逆に利用する。

上条は身を捻り、その周囲を舞う破片を一方通行へ向け『蹴り』飛ばした。
その場でさらに何度も体を回し、まるでダンスでもしているかのように華麗に次々を蹴り飛ばす。

音速を超えた破片の雨が一方通行へ向かう。

一方「ハッわかッてンだろ!!!無駄だぜ!!!」

当然一方通行には傷一つつかなかった。
全て上条へ反射され、散弾の雨が彼を包んだ。

一方「…ッて…テメェも無傷かよ」

だが、粉塵の中上条は何事も無かったように立っていた。
上条が自分の右手を眺める。

そして一方通行の方へ向き、

不気味な笑みを浮かべた。


一方「―――準備運動は終わりッてか」


そして上条は床を蹴り、一方通行に真っ直ぐ突進する。

679: 2010/04/08(木) 23:41:47.69 ID:f3Vqx320
上条が蹴った床が爆散する。

予想以上の凄まじい速度だった。
爆風が吹き荒れたと思った次の瞬間、上条が目の前に現れた。

一方「―――ッ!!」

上条は右手を一方通行の顔面に伸ばす。

その右手が触れる寸前。

一方「オァ!!!!!」
収束した大気を上条の腹部へ叩き込む。

衝撃で周囲の床が大きく抉れる。

だが至近距離でそれ程の衝撃を与えても上条を弾き飛ばすことはできなかった。
僅かに速度を削っただけだった。

しかしそれで充分だった。

今度は自分の体を後方へ瞬時に移動させる。
鼻から僅か数センチのところを上条の右手が通過する。

一方「―――ファッ!!!」
反射的に安堵の感情の篭った息が一方通行の口から漏れた。

そしてそのまま後方へと飛ぼうとした時。

上条が目の前で駒のように一回転し、強烈な回し蹴りを一方通行へ放った。

680: 2010/04/08(木) 23:46:21.98 ID:f3Vqx320
巨大な鉄塊がぶつかり合うような轟音が響く。
発生した爆風が天井と床を大きく砕き、吹き抜けを作る。


凄まじい衝撃を受け、一方通行は15m程後方にずり下がった。
能力でブレーキをかけなければこのまま壁を貫いてビルの外へ叩き出されていただろう。

一方「…ぐぉ………」

体の内部が軋み、痛みが走る。

一方通行は15m先の上条を睨んだ。

蹴りの『物理的』な衝撃波は全て難なく反射した。
だがそれ以外の『何か』が。

あのバージルと戦った時も経験した。
反射どころか感知すらできない『何か』が、体をすり抜けてスタミナそのものを削り取った。

明らかに自分の生命力が減ったのがわかる。

悪魔特有の攻撃だ。
直接の破壊と同時に相手の魂へもダメージを与える。

一撃で体を簡単に大きく引き裂くバージルの攻撃と比べればかなり可愛いものだが、
それでも何発も喰らって耐えられる代物では無い。

そして上条の蹴りを放った足は、その莫大なエネルギーを反射されたにも関らず無傷だった。


一方「……マジかよ…クソがッ…!!!」

681: 2010/04/08(木) 23:48:49.68 ID:f3Vqx320
更にあの右手に当たっている間は能力を行使できない。
もし掴まれたりすれば。

能力の鎧を失った一方通行は簡単に叩き潰されるだろう。

凄まじい身体能力を誇る悪魔の体と能力を無効化する幻想頃し。

一方「(―――そりゃァ反則過ぎじゃねェか?…三下ァ……)」

完璧すぎる。

正に今の上条は『能力者キラー』だ。

あの右手も左手や他の部分と同様凄まじい力を持っているのかどうか。
その疑問も浮かんだが、今は問題ではない。

怪力があろうが無かろうが右手に掴まった時点で一方通行は『終わる』。


一方「(―――無傷は―――ムリだ)」

傷つけないように保護するのはどう考えても不可能だ。

頃す気で全力で向かわねば到底押さえ込めない。
今ここで一方通行が氏ぬと後は誰がいる。

すぐ近くにネロがいるらしいが、土御門の話によると上条を殺そうとするかもしれない。

今、この少年を確実に生かしたまま確保できるのは一方通行しかいないのだ。

682: 2010/04/08(木) 23:52:58.39 ID:f3Vqx320
一方「(―――手加減はナシだ)」

こうなったら手足をもぎ取ってでも押さえるしかない。


一方「オァアアアアアアアア!!!!!!」

能力を最大限引き出し、周囲のベクトル全てを掌握する。

このフロア内の壁際にいる御坂の前に、彼女をこの激突から守る為に一部の力を割いて壁を作る。
そして残りの莫大なエネルギーで二つの瓦礫を上条の下半身へ飛ばす。

両足を吹き飛ばすために。

音速の数倍にまで一気に加速された瓦礫が大気との摩擦熱で輝き、まるで光線のようになる。

二本のオレンジの光の線が上条へ突き進む。
床がその凄まじい熱と衝撃波を受け砕け散る。

だが上条には当たらなかった。
上条は上へ跳ねてそれをかわした。

一方「チッ―――!!!」

二つのオレンジの槍が床を貫き、そのまま斜め下へビルを貫通していった。

上条そのまま空中で体を縦に180度回転させ、天井へ『着地』する。
そして天井を蹴り一方通行へ一直線に向かった。

683: 2010/04/08(木) 23:55:17.12 ID:f3Vqx320
一方「ハァアアアアアアアア!!!!!!」
一方通行は向かってくる上条へ向けて更に二発放つ。

同時に上条がそれを避けるべく体を捻る。
二発は難なくかわされた。

だが。

三発目が向かう。

一方通行は上条が回避するのを見越して時間差で三発目を放ったのだ。

その三発目のオレンジ色に輝く瓦礫の砲弾が。

上条の左腕に直撃する。



次の瞬間、上条の左肩から先が吹き飛んだ。

赤い肉片が飛び散る。

684: 2010/04/08(木) 23:59:26.75 ID:f3Vqx320
一方「(―――クソ…!)」

いつもなら敵の体を引き裂けば最高の快感が込み上げて来る。
だが今のこの少年相手ではそんな感情はとても起こらなかった。

一方「(―――あァ?)」
更にもう一発放って右足を吹っ飛ばそうとした瞬間。

その向かってくる上条の姿を見て一瞬思考が停止する。

一方「(―――)」

左腕が無くなったのに苦痛の色どころか表情が一切変わらない上条。

一方「(―――ッ!!!)」
数百分の一秒の僅かな反応の遅れが追い討ちのタイミングを逃し、更に隙を生んだ。

上条が再び右手を一方通行の顔面へ向けて放つ。

一方「オァッ!!!!」

咄嗟に身を屈め、交わす。
頭のすぐ真上を上条の右手が通過する。

一瞬でも当たってしまったらそこで終了だ。

一方「ラァアアアア!!!!!」
腰を落とし、右手にベクトルを収束させる。
大気が一瞬で圧縮されプラズマ化する。

その輝く右手を上条の腹部へ放つ。
だが有り得ない速度で反応した上条が左足の蹴りを一方通行の拳へ重ねた。

白く光る拳と足が正面から激突する。

685: 2010/04/09(金) 00:02:48.32 ID:Sr.H6fA0
一瞬音が消える。

そして次の瞬間ビル全体が大きく振動し、天井が上の階ごと吹き飛んだ。
破壊の嵐は七階まで達した。


一方「(―――イケるぜ!!このまま―――!!)」

上条の左足が大きくひしゃげていた。

残るは右足。

これさえ奪えばあとはどうとでもなる。

残る右足を吹き飛ばそうとベクトルを収束―――

―――させようとしたが。


一方「―――!!!!」


能力が発動しなかった。
同時に体が急に重くなる。体を支えていた能力も切れたのだ。

『ア゛ァ゛ァ゛ァ゛』
その時、不気味な笑い声が上条の口から発せられた。
上条の顔に邪悪にせせら笑うかのような笑みが浮かんでいた。

そして左腕の感触に気付く。

一方「―――しまッ―――」

上条の右手が彼の左腕を掴んでいた。

686: 2010/04/09(金) 00:07:19.45 ID:Sr.H6fA0
どうやらこの右手にはあの凄まじい怪力は無いようだが、
今はもうそんな事は問題ではなかった。

驚愕し目を丸くしている一方通行に上条が不気味な笑みを向ける。


上条の左足が元の形に戻っていく。
左腕が瞬く間に再生していく。

一方「―――!?」

わずか一秒で上条の体は傷一つ無い完全体に戻った。


そして左手を握り、大きく後ろへ引いた。
一方通行を叩き潰し肉塊へと変えるパンチを放つべく。


一方「―――クソガァアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


その時。

突如雷鳴が響いた。

そして上条の側頭部を巨大な電撃の槍が直撃した。

687: 2010/04/09(金) 00:11:07.56 ID:Sr.H6fA0
上条の上半身が横に大きく曲がり押しのけられる。

その拍子で一方通行を掴んでいた右手が離される。

一方「アアア!!!!!」
拘束から解き放たれた一方通行はすぐに能力を復旧させる。

その時、電撃が放たれた方向から御坂の声が聞こえた。

御坂「当麻を―――!!!!」
電撃を放ったのは彼女だ。
一方通行と上条の戦いを目の当たりにし、自分の電撃では上条には到底効果が無いのを知った。

だがそれが逆に彼女が電撃を上条に直撃させる勇気を与えた。


一方「あァ―――」

地球の自転ベクトルを捕え、右手に集める。

一方「任せろ―――」


一方「俺が―――起こしてやンぜ―――」


そして上条の顔面へ―――。


あの日、上条が一方通行の目を覚まさせた時のように―――。


今度は一方通行が右の拳を叩き込む―――。


―――

688: 2010/04/09(金) 00:14:48.67 ID:Sr.H6fA0
―――


佐天「……は?」

禁書「……」

二人はさっきと同じ地下駐車場に立っていた。
ひしゃげたトラック、大きく崩壊し穴が開いている天井。

だが人間は誰一人いなかった。

周囲には二人以外誰もいない。
人の気配が全く無い。

佐天「…皆…は?…あれれ?」
佐天が状況を掴めずにキョロキョロする。

禁書「…これは…」
インデックスが何かに気付いたように声をあげた。

佐天「な、何…?」

禁書「…よくまわりを見てみるんだよ」

佐天「?」
インデックスに促され周囲を改めて見回す。

689: 2010/04/09(金) 00:18:50.63 ID:Sr.H6fA0
佐天「…別に何も…あれ………えぇ!!!」
佐天もその異常に気がついた。

全てが『左右反対』だったのだ。

トラックの配置、出入り口の位置、柱の並び、そして柱に刻印されている階数を表す数字。

佐天「な、何これ!!!」

インデックスが屈み、足元の小さな瓦礫を手に取る。
するとその数秒後にその瓦礫が消え、同時に元にあった場所に『現れた』。

元の位置に戻ったのである。

禁書「…鏡の世界……『ゲヘナの鏡』……」

ここは鏡の世界。表の世界のコピー。

瓦礫が元の位置に戻ったのもそのせいだ。
表の世界の位置にあわせて修正されたのだ。

禁書「……まずいんだよ…」

ゲヘナの鏡だとすると。
ここは『牢獄』。

つまり―――。


その時、どこからかまるで地の底から響くような何かの咆哮が聞こえた。

690: 2010/04/09(金) 00:22:15.00 ID:Sr.H6fA0
佐天「ひゃッ……な、何よぅ今の…!!!」

禁書「……あぅ…」

続けて何かを引きずるような音と、重い何者かの足音が聞こえてきた。
徐々に近付いてくる。

佐天「な、何…!!!何よ…!!!」

禁書「静かにするんだよ……こっちに…」
インデックスが佐天の手を掴み、小走りで潰れたトラックの陰に連れて行った。

禁書「隠れるの…静かに…」

佐天「へ……う、うん…」
足音と何かを引きずる音が更に近付いてくる。もうこの地下駐車場内にその何かがいる。

二人はトラックの影に屈み、息を頃して身を潜める。

佐天「…ふ、ふぇぇぇぇ…」
極度の緊張で佐天の気分が悪くなってきた。

禁書「シーッ……」

あの音の主は確実に悪魔だ。
それも魔界において『罪人』の烙印を押された悪魔。

あまりにも危険すぎる。

禁書「(…ど、どうすれば…)」

このままではいずれ見つかる。


691: 2010/04/09(金) 00:24:48.19 ID:Sr.H6fA0
音の主が更に近付いてくる。

このまま進んできたらトラックの影に隠れている二人から見える位置を通りそうだ。

禁書「目を覆って。見ちゃダメなんだよ」

佐天「…へぁ?」

禁書「早く」

佐天「う、うん」
佐天は理由を聞かず言われるがままに目を両手で覆った。

その数秒後。

禁書「…!!」

二人の位置からその音の主が見えた。

体高は2m程。黒い肌に山羊の頭に巨大な角。
ゴートリングだ。

だがその背は老人のように曲がり、口からはだらしなく舌が出ていた。
体が傾いており、まるで片足を引きずっているかのように歩いている。
体表の所々が焼け爛れているかのようにグロテクスなっていた。

禁書「…ッ!!!」

通常のゴートリングの禍々しくも神々しい威厳溢れる佇まいは欠片も無かった。

693: 2010/04/09(金) 00:28:06.14 ID:Sr.H6fA0
人間と違い、悪魔の外見はその者の精神的な面や魂の性質に大きく影響され変化する事がある。

この罪人のゴートリングも、元は神々しく威厳が溢れていただろう。
だがこの牢獄に長きに渡って閉じ込められ、その精神は完全に破壊されてしまったのだ。

高等悪魔のゴートリングの知性や精神レベルは人間のそれよりもかなり高い。
だがあのゴートリングにはその欠片すら見えない。

今は殺戮と破壊を貪るタダの『獣』だ。

禁書「…」
ジリッと肌が焼け付くような悪寒。

あの姿になっても未だに圧倒的な力は健在のようだ。
むしろそれだけしかないと言っても良いだろう。

その悪魔が歩き進み、全身が見える。
そして右手で引きずっていた物も。

禁書「…ッ!!!」

それは戦闘服を履いた人間の下半身だった。
インデックス達の少し前に鏡の世界に吸い込まれた兵の成れの果てだ。

佐天「……な、何……??」

禁書「だめ…絶対に見ないで…」
佐天のような一般人には見せてはいけない。
悪魔に何度も触れているインデックスとは違う。

しかも相手は高等悪魔のゴートリングだ。
初めて目にすれば精神が不安定になりパニックになりかねない。

695: 2010/04/09(金) 00:30:33.89 ID:Sr.H6fA0
ゴートリングが床に屈み四つんばいになった。
なにやら床に鼻先を近づけている。匂いを嗅いでいる様な動作だ。

そこは先ほどインデックスと佐天が立っていた場所。

禁書「(…まずいんだよ…!!!!)」

ゴートリングが顔を上げた。

その目が。

真っ直ぐとインデックス達の方へ向いていた。

禁書「(―――!!!)」

次の瞬間醜いゴートリングが凄まじい咆哮を挙げた。
建物全体が振動する。

佐天「ひぁ―――」
その拍子で顔を覆っていた手を外してしまった。

禁書「だ、だめ―――!!」

そして佐天は見てしまった。


佐天「―――」


その悪魔の姿を。

彼女も遂にその『世界』を見知ってしまった。

698: 2010/04/09(金) 00:40:24.91 ID:Sr.H6fA0
佐天「あぁああああ―――」
頭の中が真っ白になる。何も考えられなくなる。

残る感情はただ一つ、本能的な恐怖。
だがその恐怖に埋もれそうになったところを小さな温もりが引き止めた。

禁書「大丈夫!!私がここにいるから!!」
インデックスが佐天の手を固く握っていた。

佐天「ああ……ああああ…」
佐天がその手を握り返す。

禁書「行くよ!!!」
もうあのゴートリングは二人の位置を把握した。逃げるしかない。

どこまでこの命を永らえさせることができるか。
恐らくもって数十秒だろう。
だがそれでもインデックスには諦める気が無かった。

禁書「(とうまなら―――)」
上条なら絶対に諦めない。
こんなところで彼女が諦めてしまったらどうする。

佐天の手を強く引っ張り一気に駆け出す。

そしてゴートリングの反対側へ走り、トラックの間から抜け出す。
次の瞬間轟音を響かせて背後のトラックが何かによって叩き潰された。

その衝撃で二人が転ぶ。

禁書「うぅ!!!」

佐天「あぁ゛ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁあ!!」

無残な姿になったトラックの上にゴートリングが二人を見下ろしながら立っていた。

だらしなく半開きになっている口から、涎のような黒い液体が糸を引いて落ちる。

699: 2010/04/09(金) 00:45:05.90 ID:Sr.H6fA0
禁書「うううう!!!!」
インデックスが佐天を庇うかのように覆いかぶさる。
無駄だとはわかっている。

だがそれでも体が佐天を守ろうと動いた。

まるで上条のように。

無駄とでも言いたそうにゴートリングが不気味な笑い声をあげた。

そして二人に飛び掛った。

二人の少女は目を瞑った。

次の瞬間、凄まじい衝突音が響く。

だが二人の上に『氏』は来なかった。
インデックスが恐る恐る目を開ける。

禁書「―――」

すると目の前には。

巨大な金属のケースを背負った、青いコートに銀髪の男の後姿。
その少し前の床にペシャンコになったゴートリングがめり込んでいた。

ネロ「いつもギリギリでワリィな」
その背中から救いの声。

禁書「ど、どうしてあなたもここに!!!??何で!!!」

700: 2010/04/09(金) 00:47:11.88 ID:Sr.H6fA0
禁書「な、何で!!!?」
助けてくれたのは嬉しい。

だが何でこの鏡の世界に。
ネロなら鏡の世界に囚われるどころか易々とシェオルを打ち破れるはずだ。

ネロが振り向く。
ネロ「アンタ等が入っちまったからじゃねえか」

佐天「へぁ……ネロ…さん…?」

禁書「私達の為に…!!!?」

ネロ「うるせぇ黙れ」

禁書「……うぅ…た、確かに私が重要なのは知ってるけど…」

禁書「……で、でもそれよりもあなたの方が…!!」
スパーダの一族の一人と魔剣『スパーダ』が無くなるなど人間界を越えた問題になる。

ネロ「ハッ」
ネロは軽く鼻で笑った。


ネロ「生憎―――オンナを捨てれる程の『度胸』は無ぇんだ」


周囲に大量の黒い円が浮かび上がる。


ネロ「それに―――」

ネロが心底楽しそうな笑みを浮かべた。


ネロ「―――こんな楽しそうな『パーティ』を欠席する気もねえよ」


―――

714: 2010/04/09(金) 23:41:57.44 ID:Sr.H6fA0
―――

黒子と初春とある路上にいた。

テ口リストが大きなデパートに立てこもるという大事件が発生し、
ありったけのアンチスキルとジャッジメントが現場にまわされた。

当然黒子と初春も向かった。

付近一帯を封鎖し上からの指示待ちで待機していたが、突如デパートの西棟続けてすぐに東棟が大きく揺れ、
窓が割れ爆発したかのように粉塵が噴き出した。

周りは大騒ぎとなった。
爆発物が大量にある可能性が高いと判断し、アンチスキルとジャッジメントは半径1kmの民間人全員を避難させた。


ジャッジメントはその外円部の封鎖を任されていた。


黒子「…初春。何か情報は?」

初春「…い、いえまだ何も…」

この位置からでも遠くに現場のデパートが見える。
そしてこの距離からでも地響きが伝わってくる。
先ほどよりも更に激しくなっている。

まるで爆弾が連続して炸裂しているかのように外壁が飛び散り、そのたびに巨大な粉煙が噴き出している。

715: 2010/04/09(金) 23:46:11.54 ID:Sr.H6fA0
本部は内部で高位の能力者同士が戦っていると予想した。
まあ大体はあっているだろう。

『大体』はだ。

黒子の考えは少し違う。

西棟の屋根から飛び出し、天を貫いた青い光の柱。
能力でもああいう現象を起こすのはあるかもしれない。

だが黒子はあの光は能力によるものとは思えなかった。
何となく匂う。

二ヶ月前に知り、足を踏み入れたあの『世界』の力。

黒子「(…また…ですの…)」
黒子としては封鎖半径を3kmくらいにしたい気分だ。
いや、それだけでも足らないだろう。

三日前の事件でさえ、長さ数kmに渡る地下駐機場が全壊した。
二ヶ月前なんかは学園都市全体だ。

とにかく『外』の何も知らない人々をあの『世界』からできるだけ遠ざけたかった。

黒子「…チッ…」

封鎖バリケードギリギリまで近寄って集って来ている野次馬達を見て舌を鳴らす。

来ないでくださいまし!!!!さっさと消えますの!!!!と叫びたい気分だった。

716: 2010/04/09(金) 23:48:17.47 ID:Sr.H6fA0
初春「きっと…人質の皆さんは助かります」
苛立つ黒子を見て初春が声をかけた。

黒子「…そう…ですの」
心ここにあらずといった感じで返事をする。

ここにいる野次馬達でさえ、黒子の経験上かなり危険だ。
次の瞬間氏んでいてもおかしくないのだ。

あの現場にいる人質はどうなってしまうのだろうか。

黒子「………」
考えたくも無かった。
ぼんやりと煙の上がっている現場の二つのビルを眺める。

その時一際大きな地響き。
同時に西棟の五階から白い光が溢れ、そこから上階が全て吹き飛び爆散した。


黒子「―――!!!」

続けて西棟から300m程離れた場所に、巨大な粉塵が周囲のビルを巻き込んで噴きあがった。

初春「…ひゃぁ…!!!!」

黒子「伏せて!!!!!!」
黒子が腹に力をこめて思いっきり叫んだ。

その数秒後、鼓膜が破れそうな程の爆音と衝撃波が押し寄せてきた。

717: 2010/04/09(金) 23:52:32.42 ID:Sr.H6fA0
距離があった為、人が薙ぎ倒される程の強さではなかったが、
それでも優しい物ではなかった。

黒子「初春!!!!」

初春「あぅぅぅぅ…」

黒子「大丈夫!!!?」

初春「は、はい…」

黒子は思った。

ほらですの と。
あの手の力のから逃れるには1km程度じゃ全然足らないと。

その時。

黒子「―――」
慌てふためく雑踏の中に黒子は見た。

銀髪に赤いコートの男が―――

ニヤけながら立っていた―――。


黒子「―――ッ」

だが次の瞬間その姿は消えていた。
見間違いだったのか。

それとも。

―――

718: 2010/04/09(金) 23:56:55.38 ID:Sr.H6fA0
―――

東棟三階。

天井と階上が完全に消え、青空が広がっていた。

一方「……」
一方通行は険しい顔のまま、その廃墟と貸したビルの上から300m程離れた場所の街を眺めていた。
粉塵でその中心地が見えない。

あの右の拳はキレイに直撃した。
その余波でビルの上半分が完全に吹き飛び、弾き飛ばされた上条の体は300m離れた場所の街に叩き込まれた。

上条は氏んではいない。

直撃の瞬間に感じた。
上条の体が更に輝き、例の悪魔的な力が増幅されたのを。

そしてあのパンチを食らっても体が吹き飛ぶどころか顎が砕けもしなかった。

まるで能力オフのまま殴ったような光景だった。
口の中が切れているだろう。だがおそらく傷はそれだけだ。

それに一方通行のこの拳に比べたらあの叩き込まれた街などクッションみたいな物だ。

ほぼ無傷だろう。


一方「……」
その恐ろしいまでの頑丈さを目の当たりにし、少しショックを受けたもののそれはバージルで経験済みだ。
それよりも上条の体が完全に破壊されなかった事に安堵していた。

だがその一方で。

果たしてその『程度』であの上条の目を覚まさせることができたのか。

719: 2010/04/10(土) 00:02:42.82 ID:A4YykO.0
御坂「ねぇ…」
御坂がその一方通行の背中に声を飛ばした。

御坂の周りの床だけはキレイに円形に残っていた。
一方通行がベクトル操作で彼女を衝突の激流から守ったのだ。

一方「あァ…?」
一方通行は振り返らずに返事をする。

御坂「………」
御坂は言葉を続けなかった。


だが一方通行は彼女の考えてる事がわかっていた。
そして言葉を返す。

一方「……任せろ」


一方「ぜッてェ連れ戻す」


御坂「……うん」


そして一方通行は跳ね、
ベクトル操作で一気に加速させその上条の落下地点へ向かった。
御坂はその背中を静かに見送った。

御坂「…お願い…」

720: 2010/04/10(土) 00:05:05.08 ID:A4YykO.0
一方通行が目的地に降り立つ。

一方「……」
ベクトル操作で辺りを包んでいる粉塵を払いのけた。

辺りの姿が露になった。
上条の落下によって生じた直径50m程のクレーター。
その周囲の崩れたビルと瓦礫の山。

そしてクレーターの中央に立っている上条。
その目は相変わらず赤く輝いていた。

一方「……チッ…やッぱりなァ…」

どうやらあの一撃でも『上条当麻』には届かなかったらしい。

一方「(……どォすンだ…どォすりゃァ…?)」

先ほど御坂に任せろと言ったが、
どうやって上条の目を覚まさせるのか方法は考えていなかった。
あの一方通行の攻撃で上条は更に力を強めたらしい。

今の状態では手足をもぎ取る戦法は厳しいだろう。

一方「(……クソ…)」

ならばどうする。
方法は何も思いつかなかった。

721: 2010/04/10(土) 00:08:56.00 ID:A4YykO.0
一方「……あァ?」
一方通行はその上条の異変に気付いた。

上条の左手と両足が白く輝き始める。
そしてその光がまるで立体映像のように何かを浮かび上がらせた。

篭手と脛当て。

その半透明の光り輝く装具が少年の左手と両足に現れた。

それはその力の『母体』とそっくりだった。


ベオウルフ。


遂に上条はその『心臓』が持つ力の本来の領域に達した。

一方「…オィ……ンだそりゃァ…!!!」
上条から放たれる威圧感が更に強まった。

上条が調子を確かめるように足踏みをし、左手を握ったり開いたりする。
そのたびに篭手と脛当てが眩い白い光を放つ。

そして一方通行へ目を向けて不気味に笑った。

723: 2010/04/10(土) 00:15:55.15 ID:A4YykO.0
上条は笑いながら左拳を握り天に掲げ、

一方「あァ…?」

そして瓦割りでもするかのように真下に拳を放った。

次の瞬間大地が揺れ、その上条の拳を中心として巨大な亀裂が四方に走った。
その亀裂の長さは300mにも達した。そして亀裂の間から一瞬だけ白い光が溢れ。

一帯の地面が爆発するように粉々になって真上に吹き飛んだ。

白い光が周囲を包む。


一方「―――!!!!!!」
咄嗟に後方に体を飛ばしその光の嵐から脱出する。

だが次の瞬間。

一方「―――なッ」

腰を低く落として身構えている上条が目の前に。


一方「オァァァァ―――!!!!!」

一方通行は瞬時に体を横に移動させる。
その瞬間、僅かに遅れてわき腹の30cm右側の空間を上条の左手が貫いた。

一方「ぐォ…!!!!」
かわしたはずなのにわき腹に激痛が押し寄せる。

724: 2010/04/10(土) 00:18:37.71 ID:A4YykO.0
一方通行は瞬時に周囲の地面をベクトル操作で吹き飛ばして上条に牽制し、
その隙に自らの体も飛ばして50m程距離を開ける。

一方「クソ…!!!」
着地し、わき腹を見る。
うっすらと血が服に滲んでいた。

もし直撃したら。
物理的な部分は反射できるかもしれない。

しかし。

一方「(……ッ!!!)」

バージルに比べたら上条は遅いしその攻撃の破壊力も微々たるものだが、それでも今のはギリギリだった。

このままでは必ず負ける。

そして殺される。

だがここでただ氏ぬ訳には行かないのだ。

725: 2010/04/10(土) 00:19:55.25 ID:A4YykO.0
依然上条の目を覚まさせる方法は思いつかない。
だがここで戦うのを辞めたら。
ここで一方通行が氏んでしまったら。

もう後が無い。

上条の無差別の殺意が学園都市へ解き放たれる。

そしてダンテ達に気付かれたら。
いや、もう気付かれているかもしれない。

今すぐにでも乱入してきて上条を頃してしまうかもしれない。

一方通行が今戦うしかないのだ。

学園都市を。

あの小さな少女の生きる世界を守る為に。

上条を救うために。

今、一方通行が上条の全て受け止めるしかないのだ。



もっと力が必要だ。

一方「(―――こォなったら―――アレを)」

726: 2010/04/10(土) 00:24:04.87 ID:A4YykO.0
上条がゆらりと一方通行の方へ向く。

一方通行は深呼吸して精神を落ち着かせ、集中する。

そして二ヶ月前の感覚を思い出す。
あの黒い翼を自在に操った時の感覚。

あの時と同じ黒曜石のような洗練された翼程の物は使えないのは知っている。

だが今なら。
あの時の感覚を思い出せば。

あの時の物に近い、
二ヶ月前までの雑な黒いざわついた翼以上の物を出せるはずだ。

一方「……」

感情を暴走させずに。
己の意思で。

平常の意識下で冷静に使えるはずだ。

上条が一方通行の方へ一歩、また一歩と揺れながら近付いてくる。

728: 2010/04/10(土) 00:28:42.30 ID:A4YykO.0
一方「(……そォだ…)」
背中の辺りがざわついてくる。

力を感じる。
冷静なまま更に引き出す。

上条がゆっくりと腰を落とした。
一気に距離を詰める気だ。

一方「(……落ち着けェ…)」
自分に言い聞かせ、更に集中する。

上条が地面を蹴る。
その衝撃で砲弾が炸裂したかのように地面が抉れる。

一方「―――」

凄まじい速度で上条が突き進んでくる。
一瞬で一方通行の目の前に。

そして体を横に倒して駒のように回転し。

白く輝く脛当てが装着されている左足を一方通行目がけて縦に振り下ろした。

次の瞬間、大気が激しく振動し白い光の衝撃波が周囲を薙ぎ払った。

730: 2010/04/10(土) 00:32:44.08 ID:A4YykO.0
だが上条のその蹴りは止められていた。

一方『オァ―――』


黒い棒状の物に。


一方『アアアアアアアアアア!!!!!!!』


一方通行の背中から長さ10m程の黒い『杭』が何本も生えていた。

あの二ヶ月前の黒曜石のような翼の足元にも及ばないだろうが、
それ以前の物と比べれば差は歴然だ。

今までのは無駄に長く巨大で肥大化した翼だった。
それをコンパクトに、かつ力を凝縮させ安定させたのが今の杭だ。
一点の破壊力は今までの雑な翼の数倍だ。

一方『ガァァァァァァァ!!!』
杭を大きく振り上条の足を弾く。


上条は一方通行から20m程の場所に着地した。

一方通行は残りの杭を上条へ向けて音速の数十倍もの速度で突き出す。

731: 2010/04/10(土) 00:35:47.14 ID:A4YykO.0
一方『オァアアアアア!!!!!!』

黒い杭を音速の数十倍もの速度で繰り出していく。
無数の黒い杭が周囲を行きかい、地面や瓦礫の山へ突き刺さり抉られていく。

だが上条はその乱撃の網をトリッキーな動きで軽々と交わす。
氏角からの攻撃も全ていなされかわされ当たらない。

左手や足で強烈な攻撃を繰り出して杭を弾く。
そのたびに上条の手足から白い光が溢れ、その光の衝撃波が一方通行の黒い杭の衝撃波を合わさり渦となる。

そして右手で杭を掴み破壊する。
右手に触れられた黒い杭は僅かな時間を置いて砕け散る。

どうやらこの強大な力が篭められている杭を、
完全に処理しきるには少し時間がかかるらしかった。

だがそれは今は問題ではない。

問題は今の攻撃でさえあっさりとかわされているという事だ。

一方『(クソッ……!!!!!)』

完全に見切られている。


732: 2010/04/10(土) 00:39:22.20 ID:A4YykO.0
一方『ァアアアアアアアア!!!!』
攻撃の手を休めずに更に激しく速く振るう。

一瞬負荷で頭が痛んだが、それでも更に強く速く。

もっと速く。

もっと強く。

そして一本の杭が。
上条の顔面へ直撃した。

顔の左側半分を抉った。

一方『―――!!』
一瞬やってしまった と思ったがその心配は無用だった。
残った右目が真っ直ぐと一方通行を見据えていた。

そして上条は左拳を握り杭の間を掻い潜って一気に踏み込み。

一方通行の顔面へお返しとばかりに振るった。

一方『ッアァ―――!!』
咄嗟に四本の杭を顔の前に交差させ盾を作る。

その盾に上条の左拳が叩き込まれた。

金属が激しく衝突するような轟音が響く。

734: 2010/04/10(土) 00:45:18.58 ID:A4YykO.0

一方『ぐッッッ―――!!!』

杭の盾が大きく歪む。
だがその拳はそこで止まった。

何とか防ぎきった。

すかさずその盾の杭を上条の左手へ巻きつける。

一方『オオオオオオ!!!!』
そして残りの杭をねじり合わせて大きな1本に集約し、上条目がけて突き出す。

上条も右足で大きく蹴り上げてくる。

莫大な力同士が衝突する。
白く光る足と漆黒の杭が正面から激突する。

その衝突点を中心として半径200mの物全てが粉砕され吹き飛んだ。

735: 2010/04/10(土) 00:48:37.89 ID:A4YykO.0
お互いが弾かれ後方へ吹っ飛ばされる。

一方『―――ッ!!!』
能力を使いブレーキをかけて静止する。


上条も地面に左腕を付きたて、乱暴にブレーキをかける。
彼の腕が地面を抉り、長さ30m程の筋を刻んでようやく止まった。

一方『ハッ…ghaiik……とンでもねェ野郎だぜ…』
自分の背中から伸びている黒い杭を見る。
数本の杭が大きくひん曲がっていた。

一方『…』
そして100m程前方にいる上条を見る。

上条の右足の半透明の脛当てが大きく歪んでいた。

ちょうど互角といったところか。
いや、上条の方がやや強い。
そしてこれが果たして全力なのかどうかわからない。

一方「………強すぎンぞテメェ…」

曲がっていた杭を修復する。
それと同じように上条の右足の脛当ても元の形に戻っていく。

736: 2010/04/10(土) 00:50:54.10 ID:A4YykO.0
一方『…チッ…』
一方通行は焦り始める。

いつまでも戦って入られない。
時間が経つにつれダンテ達が乱入してくる可能性も高くなる。

それにこの黒い杭も。

今でもしきりに頭の中が痛む。
明らかにかなりの負荷がかかっている。

気を緩めてしまうとこの杭が肥大化して以前の雑な翼に戻ってしまいそうだ。

それどころか消えてしまうかもしれない。

だがこの戦いを終わらす方法が見つからない。

一方『(……クソ…どォすりゃァ良いンだチクショウ…)』

737: 2010/04/10(土) 00:52:00.20 ID:A4YykO.0
どうやって彼を救うのか。

どうやれば救えるのか。

一方『(おィ―――)』

もし逆の立場だったら。

一方『(―――教えてくれよ)』

上条はどうしたのだろうか。


一方『(―――テメェならどォすンだ?)』


終わりが一方通行には見えなかった。

『救える』結末など。

738: 2010/04/10(土) 00:54:38.90 ID:A4YykO.0
上条が右手を虚ろな赤い目で見て、何やら頭を傾げている。

一方『(なンだッてンだ……?)』
嫌な予感がする。
まさかまだ『隠し玉』があるのか。


上条『ア゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!』
上条が右手を押さえながら突如咆哮を上げた。


一方『―――』

一方通行のその予感は的中した。


次の瞬間。


上条の右手に重なるように。


半透明の巨大な『竜の頭』が出現した。


―――『竜王の顎』が。

―――

747: 2010/04/10(土) 21:37:35.58 ID:A4YykO.0
―――

さかのぼる事数分前。


鏡の世界。

周囲に黒い円が浮かび上がる。


ネロ「おでましか」

ネロが背中の巨大な金属ケースを乱暴に足元の床に投げ落とした。
その拍子でケースが大きく開く。

すると同時に巨大な赤い大剣レッドクイーンが跳ねるように飛び出し、
まるで磁石に吸い寄せられたかのようにネロの手におさまった。

ネロ「動くなよ」
レッドクイーンのアクセルを吹かしながら背後のインデックスと佐天に声を飛ばす。
赤い大剣からエンジンの駆動音のような音と共に炎が噴き出す。

インデックス「う、うん!!!」
佐天に覆いかぶさるような姿勢のインデックスが返事をする。

その腕の中で佐天が縮こまっていた。

佐天「ひぁああ……うぅうう…」

749: 2010/04/10(土) 21:42:55.86 ID:A4YykO.0
周囲の黒い円から悪魔達が飛び出して来た。
ゴートリング・フロスト・アサルト等の成れの果ての醜い怪物達。

いや、元を特定できるだけマシだ。
元が何だったのかわからないほどに姿が崩れている者が大半だ。
肉が腐ったような異臭が充満する。

ネロ「……ひっでぇ匂いだな。たまには風呂入れよ」
ネロが顔を歪め、手で匂いを掃う。

それぞれが生理的に悪寒が走る粘ついた液体を撒き散らしながらネロに一斉に飛び掛った。


ネロ「Get out―――」

腰を屈めレッドクイーンを大きく引き。


ネロ「―――Here!!!!! Fuckin' Scums!!!!!!」


前方を横一線になぎ払う。

レッドクイーンから生じた剣撃と爆炎が複数の悪魔達をなぎ払い灰に変える。

750: 2010/04/10(土) 21:46:12.74 ID:A4YykO.0
そして今度は右を向き、レッドクイーンを返して斜めに振り下ろす。
同時にデビルブリンガーを巨大化させ、左の方へ裏拳を放つ。

ネロ「Blast!!!!!!!」

巨大な青い拳がインデックス達の真上を通過して行き、
そのまま左側から迫ってきていた複数の悪魔達をぶっ飛ばした。

同時に振り下ろされたレッドクイーンが右側の悪魔達をなぎ払う。

衝撃波で床が捲りあがり、地下駐車場の柱が寸断される。
悪魔達の体が引き裂かれ、黒い腐った体液が飛び散る。

その飛沫の数滴がネロのコートにつく。

ネロ「あ~…きったねぇなクソ…」
ネロは右手でコートを摘み上げながら悪態を付いた。

そして周囲の悪魔達を睨む。

続々と現れてきて、三人を囲む数がどんどん増えてきている。
長き間牢獄として使われていたのだ。こちら側にいる悪魔達の数は相当なものだろう。

ネロ「汚しやがったなクソ野郎…」
長期戦になるだろう。
ゆっくり脱出策を考えられるのはもうしばらく先のようだ。

ネロ「?」

ふとネロは今切断した柱を見た。

その逆再生でもするかのように欠片が戻り、柱が一瞬で元の姿に戻った。

751: 2010/04/10(土) 21:49:38.92 ID:A4YykO.0
ネロ「へぇ…」

ここは鏡の世界。表の世界のコピーだ。
いくら破壊しても表の世界に合わせて元に戻る。

つまり。

ネロ「ハッ!!!こいつは良いぜ!!!」

暴れ放題だ。
力を使い放題だ。

いくらこっちで暴れても人間界自体には負荷がかからない。

ネロ「来い!!!場所を移すぜ!!!」
ネロがインデックス達の方へ振り向き、二人を軽々と担ぎ上げた。

そしてそのまま真上へ飛び上がり、天井貫通して1階に行く。

禁書「わ!!!わぁ!!!!」

佐天「にゃああああああ!!!!!」

ネロ「黙ってろ!!!舌噛むぜ!!!」

1階に降り立つと今度は壁へ突進する。
後方からネロ達を悪魔達が追いかけて天井を突き破ってくる音。

ネロはそのまま壁をぶっ壊し、ビルの外へ出た。
そしてそのまま人影の無い街を突き進む。

752: 2010/04/10(土) 21:53:33.23 ID:A4YykO.0
ネロはビルから200m程離れた路上で止まり、二人を降ろした。

ネロ「ここらでいいか」
周囲のビルは低く、見通しが良い。

『フルパワー』で薙ぎ払うには最適だ。

ネロ「…?」
ふと先ほどまでいたデパートを眺めてその惨状に気付いた。
東棟の上半分が無くなっていたのだ。

爆発でもしたかのような酷い有様だ。

ネロ「(『アレ』か…)」
もう一体いた、上条らしい悪魔。

それしか原因が浮かばない。

どうやら表の世界でも派手にやっているらしかった。

ネロ「(ゆっくりしてらんねぇな)」

753: 2010/04/10(土) 21:55:30.91 ID:A4YykO.0
ネロはインデックスの前の地面にレッドクイーンを勢い良く突き立てた。

禁書「わわ!!!!」

ネロ「コレを核にしてトリッシュが作った防護壁を張れ」

禁書「へぁ?」


ネロ「『スパーダ』を使う」


禁書「―――」
インデックスも理解した。

二ヶ月前に、魔帝との戦いからの余波を防ぐ為にトリッシュが作った術式。
レッドクイーンを動力にしてそれを起動させインデックスと佐天を守れという事だ。

それが無ければ、『スパーダ』の余波で二人は一瞬で塵になってしまう。

禁書「う、うん!!!!わかったんだよ!!!」


ネロ『急げ。来たぜ』
目を赤く光らせながらネロが急かした。


デパートの方から黒い波のような物が押し寄せてくる。
悪魔達の群れだ。
そして周囲にも大量の黒い円が浮かび上がった。

754: 2010/04/10(土) 21:58:56.90 ID:A4YykO.0
ネロ『まだか?』
三人を囲む悪魔達の群れの輪が凄まじい勢いでどんどん狭まってくる。

禁書「待って!!!もう少し…!!!」
レッドクイーンに触れながら頭の中の術式を整える。

ネロ『早くしろ』
ネロの体から青い光が溢れ出てくる。

悪魔達がもう目の前に迫る。

ネロ『まだか?!!』

禁書「うぅ…!!!!」

悪魔達との距離が20mを切った。

その時、インデックスと佐天を囲むように直系3m程の青い魔法陣が浮かび上がった。

禁書「良いんだよ!!!!!」


ネロ『Ha!!!!!Do it!!!!!』


その瞬間、青い光が周囲を包んだ。
光の衝撃波が周囲のビルを砕き、迫ってきていた悪魔達の群れを吹き飛ばした。

そして光がやみ。


魔剣『スパーダ』を持った魔人化したネロが現れた。

755: 2010/04/10(土) 22:04:18.99 ID:A4YykO.0
二ヶ月前の覚醒で手に入れたネロ・アンジェロと瓜二つの姿。
そして左手には赤く輝く魔剣『スパーダ』。

ネロは全てを解き放った。

ネロ『Huuh............』
深く息を吐く。

二ヶ月前に完全に覚醒して以来、全てを解き放って魔人化したのは二回目だ。
つまり前回の魔帝戦以降一度も完全な魔人化はしていなかった。
ネロやダンテ、バージルクラスとなるとそう易々と人間界で魔人化する訳には行かないのである。

ましてや魔剣『スパーダ』を持った状態での完全解放など。

だがこの壊れることの無い鏡の世界では使い放題だ。

この世界は魔帝でさえ抜け出せないと言われている。
脱出の事を考えると色々と面倒だが、力を行使するには好都合だ。


ネロ『Ha......Hahahahaha!!!!!! Yeah!!!』


気分が良い。

あの二ヶ月前もそうだったが、今までの人生で味わってきたどの快楽よりも甘美だ。

最高に気持ち良い。

756: 2010/04/10(土) 22:06:32.48 ID:A4YykO.0
ネロ『気を抜くんじゃねえぜ!!!』

禁書「う、うん!!!」
まだ戦闘が始まっていない今の段階でさえ防護壁にかなりの力がぶつかってきている。


一瞬でもこの防護壁を破れば二人の少女は瞬時に命を落とすだろう。


周囲の崩れたビルが逆再生でもしているかのように元に戻っていく。
それと同時に再び無数の悪魔達が群がってくる。

見えるだけで千はいるだろうか。
それも極一部だろう。

だがネロは一切動じない。

ネロ『OK、じゃあ「試して」みるか』

ネロは今、とある戦法を試そうとしている。

757: 2010/04/10(土) 22:08:44.52 ID:A4YykO.0
前々から興味があった。

基本的にダンテやネロは、
一対一等の少数での悪魔とのでは剣に力を凝縮させ、
全ての破壊力が刃面に集中するようにしている。

だが今の相手は悪魔達の無数の群れ。

その莫大な力を圧縮せずに外に解き放てば、雑魚悪魔の群れなら一掃できるのではないか?

魔界の戦争では、高位の大悪魔が一振りで千や二千の雑魚悪魔を薙ぎ払う。

その戦場は人間界で例えるとまるで特大の水爆が何発も連続して炸裂するような光景になるらしい。

当然ネロにもできるはずだ。

その『魔界の戦争』の攻撃方法を真似ようという事である。

ここはいくらやっても壊れない世界。
実験にはおあつらえ向きだ。


ネロ『ハッハァ!!!派手に行こうじゃねえか!!!』

758: 2010/04/10(土) 22:14:19.16 ID:A4YykO.0
ネロが魔剣『スパーダ』を大きく引き。

ネロ『B――――laaaaaaaaaaaaast!!!!!!!!』

そして横一線に振るう。

目の前の悪魔の群れを

その瞬間スパーダからとてつもなく巨大な赤い刃が300m以上も伸び、そして斬撃となって飛び全てを薙ぎ払った。

斬撃と衝撃波によってネロから前方の半円状の一帯が数kmに渡って吹き飛ぶ。
鏡の世界の学園都市の街並みが一瞬で砕け散り、更地と化す。

禁書「―――!!!」
そのあまりの破壊力にインデックスは目を丸くし硬直する。

前々からスパーダの一族の力は『人間界』そのものを破壊できるレベルというのは知っていた。

「人間界を破壊する」、「ムンドゥスやスパーダ等の頂点の悪魔達は「世界」そのものを崩壊させる力を持っている」
そう言葉ではわかっていたが、実際にその破壊の片鱗を具体的に目の当たりにするとやはり驚愕する。


「頂点の大悪魔達は人間が掲げる天使や神々を遥かに超えた力を持っている」、
「この斬撃は・あの攻撃は人間界を破壊させる力を持っている」、と頭では知っていてもいまいちピンとこない。


「では、その凄まじい攻撃が実際に『人間界向け』に行使されたらどうなるか」、
その答えを今インデックスは具体的に目の当たりにしていた。


このスパーダの一族や上位の大悪魔達が一体どれ程の力を持ち、どれ程人間とかけ離れた存在なのか。
改めてインデックスは知った。


759: 2010/04/10(土) 22:19:03.15 ID:A4YykO.0
ネロ『Ha-ha!!!!!!』

今の一振りで千体以上の悪魔を一瞬で処理できた。
実験は成功だ。

『魔界の戦争』方式はうまく機能した。


更地になった街がすぐに元に戻っていく。

ネロ『ハッハァ!!!便利だぜ!!!人間界もこうだといいぜ全く!!!!』


悪魔達がまだまだ押し寄せてくる。

ネロ『ハハハ!!!良い度胸だ!!!!』

この鏡の世界にいる無数の罪人達がまるで明りに群がる虫のように集ってきているのだろう。



ネロ『もういっちょ行くぜ!!!もっとでけえのをよ!!!!』


ネロが再びスパーダを振う。


ネロ『Yeaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaahhhhh!!!!!!!!!』


更に力を篭め、かつ一切圧縮せずに。

761: 2010/04/10(土) 22:22:32.77 ID:A4YykO.0
その瞬間、学園都市全体がネロを中心として消し飛ぶ。
まるで大きな隕石が衝突したかのような破壊。

大悪魔ならこの拡散された攻撃を受けても傷一つつかないだろう。

だが雑魚悪魔や脆い人間は一瞬で消し飛ぶ。


大地が抉れ、地殻ごと歪む。
学園都市は跡形も無く消え、半径数十キロがまっ平らの更地になった。
そしてその物質的な破壊以上にとてつもない力の負荷。

その攻撃に篭められていた力の総量は魔帝と戦った時の斬撃と同等だ。
それが無圧縮で拡散されて放たれればこうなる。

ネロ『あぁ?』

突如地震が起きたかのように大地が揺れ始め、周囲の景色に『ヒビ』が入る。
『景色』がガラスのように砕け落ちていく。

禁書「……!!」
この鏡の世界の『人間界』がネロと魔剣スパーダの力に耐えられずに崩壊を始めた。

762: 2010/04/10(土) 22:24:45.12 ID:A4YykO.0
ネロ『………やべぇ…やりすぎたか?』

そう思ったのも束の間、
その景色の破片が逆再生されているかのように元の位置に戻り始める。

ネロ『……ハッ!!驚かすんじゃねえよ!!!』
どうやら鏡の世界内では人間界その物すら修復可能らしい。

禁書「…」
だがインデックスにとってはその事は大した問題でもなかった。
問題は実際にネロの力によって人間界が本当に崩壊しうるという事だ。

完全に力を解放したネロ・覚醒したスパーダによる、今の数回の攻撃が人間界の『器』が耐えられる限界点だ。

その圧倒的な力を直に目の当たりにし鳥肌が立った。

あの二ヶ月前の異世界での魔帝戦。
もしその余波が漏れていたら。

太古の昔、魔帝達は多くの世界を滅ぼしたという。
人間がそう聞いても、脳内にその映像は浮かびにくいし、現実としては受け入れにくい。
神話的・抽象的なイメージしか浮かばない。

だが今、目の前で『世界が崩壊する』のを擬似的にだが具体的に目の当たりにした。

禁書「…」

佐天は地面に顔を伏せてうずくまっている。
インデックスがそうさせたのだ。

悪魔の力をできるだけ見せないほうが良い。
それが頂点のクラスだと尚更だ。

763: 2010/04/10(土) 22:26:45.63 ID:A4YykO.0
無数の黒い円が浮かび、理性を失った罪人の悪魔達が更地に次から次へと現れる。
人間界自体の土台は修復されるものの、あまりの破壊にビル等などの物質的な構造物の修復が追いつかない。


ネロ『Hahahahahaha!!!!!!! So fuckin' sweet!!!!!!!!!!! Sweeeeeeeeeeeet!!!!!!!!!!!!!!!』


恐らくダンテですら味わったことの無い大規模な力の行使でネロは最高にハイになっていた。
まるで子供のようにはしゃぎ、歓喜の声を上げながら何度もスパーダを振るう。

力を一切圧縮せずに。
そのたびに無数の悪魔達が一瞬で消し飛び、平らになっている更地を数十kmに渡って更に削っていく。


ネロ『Hooooooooooooo!!!!!! Craaaaaaaaazy!!!!!! Huuuuuuuuuuuuuuuuuaaaaaaa!!!!!!!!』

もうしばらくしたら終わるだろう。
太古の昔から溜まり続けていた罪人達のストックもこのペースで行けば時期に切れるはずだ。

禁書「……うぅ」
今のネロにはとてもじゃないが声をかけづらい。

だんだんエスカレートしていき、更に破壊力が高まっていく。

もし二千年前にスパーダが人間側につかなかったら。
寝返ることなくスパーダが人間界を攻めていたら。
当然人間はあっさりと絶滅し、人間界は跡形も無く消滅だ。

その有り得たかもしれない『if』の未来を思い浮かべるとゾッとする。


ネロ『Yes!!!!! Yeeeeeeees!!!!!!!! Yeaaaaaaaaaaahhhhhahahahah!!!!!!!』



―――

766: 2010/04/10(土) 22:37:24.39 ID:A4YykO.0
―――


ダンテは崩れかけているビルの上にいた。

ダンテ「へぇ…」
1km程先の瓦礫の山の間で戦う二人の少年。

凄まじい閃光とともに地響きが連続して聞こえてくる。

ダンテ「随分とはえぇじゃねえか…」

上条当麻。

インデックスと話し合ったさっきの今だ。

あの少年の悪魔化は予想以上のスピードだ。

いずれ何かの形で悪魔の力が発現すると予想はしていたが、それは10年20年のスケールだ。
まさかたった二ヶ月でここまでになるとは。

それも母体となったベオウルフの力を7割近くまで引き出すとは。

767: 2010/04/10(土) 22:42:03.27 ID:A4YykO.0
ダンテ「…」

あのイマジンブレイカーという能力は前々から奇妙に感じていたが、今確信する。
あの少年は元から普通では無い。

ダンテ達と運命が交差する以前からあの体の中に異質な何かが宿っていたのだ。

恐らく二ヶ月前に一時的に悪魔に転生し、魔帝の力にあの右手で触れてしまい、
そして悪魔の心臓を手に入れたことで『何か』の歯車が動き始めたのだ。

すぐにあの場に行って直に見てみたいが、先客がいる。

あの白髪の少年の覚悟を決めた戦いに乱入するのも無粋だ。

人間が何かの為に命を賭して戦う姿は良いものだ。
見てて嬉しくなる。

乱入したいが、それ以上にあの覚悟に水を差すのは気が進まない。

ダンテ「ま、いいか…」
もう少し様子を見る事にした。

何かがあれば。

一方通行の手に負えない事態になったらダンテが行けばいい。

768: 2010/04/10(土) 22:44:00.33 ID:A4YykO.0
今度はデパートの方へ目を向けた。

ダンテ「あっちは良いとしてよ……」

ダンテ「こっちのワルガキは何考えてやがんだ」

シェオルの件。

ネロがシェオルに取り込まれたのは知っている。
つまりシェオルを頃すわけには行かない。

ダンテ「ったくよ…」

先ほどダンテはトリッシュに連絡し、どうにかしてネロを救い出せる方法が無いか聞いた。
今はその答え待ちだ。

だがただ待っているのもヒマだ。

ダンテ「とりあえず…拝みにいくか」

シェオルを野放しにしとく訳にもいかない。



その時だった。

769: 2010/04/10(土) 22:47:15.29 ID:A4YykO.0
ダンテ「―――」

妙な感覚。

まるで自分の『気配』が消されるような。

ダンテ「何だこりゃ―――」

自分の体から溢れていた悪魔の力が消えた。


ダンテ「―――」

目を赤く光らせ力を強めてみる。
いつもなら赤い光のもやが体を覆うはずだが。

今は何も出てこなかった。

体内の力には異常は無い。

だがその力が肌を越えて体外に出た途端に消えるのだ。

770: 2010/04/10(土) 22:49:02.74 ID:A4YykO.0
ダンテ「―――へぇ」

更に力を強めると通常通り体から光が溢れた。

どうやら無条件で消えるわけではなく、消せる力の量の上限があるらしい。


ダンテ「こいつぁ―――」


この『消え方』に覚えがある。
彼が思い当たるのはタダ一つ。

ダンテは再び二人の少年の方へ目を向けた。
そして悪魔の目で見た。

上条の右手に重なるように竜の頭のような物が出現していた。


ダンテ「―――面白ぇ」

ダンテは不気味な笑みを浮かべた。


―――

771: 2010/04/10(土) 22:50:54.03 ID:A4YykO.0
―――


『竜王の顎』が上条の右手に重なって出現する。
その瞬間、左手と両足の半透明のベオウルフの装具は消失した。

一方『―――』

そしてその装具と同じように。

一方通行の背中から伸びている黒い杭が風に吹かれたかのように消えた。

一方「―――なン―――」

体が急激に重くなる。

能力が発動しなくなったのだ。

そして。

何も考えられなくなった。

彼が失った脳の機能を補助していたミサカネットワークも消失したのだ。
この辺り一帯の能力が全て消された。

一方「あァ……がッ……」

一方通行は地面にうつ伏せに倒れこんだ。

773: 2010/04/10(土) 22:53:17.09 ID:A4YykO.0
一方「おご…あァ……」
何も考えられない。

目が見えているのに。
音が聞こえているのに。

それを意識することができない。


一方「がッ………」

そして意識が遠のき始める。


だが。


一方通行の左手が腰の後ろの方へゆっくりと動いた。

意識したのではない。

自然に。

何かに突き動かされるように動いたのだ。

一方通行は腰から小さな拳銃を引き抜いた。

そして震えるその手で銃口を上条に向ける。

774: 2010/04/10(土) 22:55:53.56 ID:A4YykO.0
もう何も考えていない。
生きているのか氏んでいるのか。
これが現実なのか幻なのか。

「どっちなのか?」という疑問すら頭に浮かばない。

だが彼の体は動いた。

頭が機能停止していても。

魂は叫ぶ。

木原と戦った時と同じように。

魂に刻み込まれた闘争心が雄叫びをあげ体を突き動かす。

―――戦え と。

距離は100m。
いくら精度のいい学園都市の最新の拳銃でも、今の状態では当たらない可能性が高い。

だがそんなのを考える事すらできなかった。

一方「アアアアアア!!!!!!!」

咆哮をあげ。

無心で引き金を何度も引いた。

775: 2010/04/10(土) 22:57:20.16 ID:A4YykO.0
乾いた銃声が連続して響く。

そして。

その内の一発が上条の腹部に命中した。


一方『―――』

一瞬だけ上条の体が僅かに跳ねるように揺れた。

上条がゆっくりと自らの腹に目を向けた。

シャツにどんぐり大の穴。

そしてそこがじんわりと赤く染まっていく。


一方『―――』

776: 2010/04/10(土) 22:59:00.98 ID:A4YykO.0
上条が無表情のまま、自分の腹から流れ出る大量の血を眺めている。

次の瞬間。

上条がよろめき、そして膝をついた。

そして。

『竜王の顎』が風に吹かれたかのように消失した。



一方『―――オァアアアアアアアア!!!!!!』

同時にミサカネットワークが復旧し、一方通行の能力が再起動する。

意識が元の調子に戻る。

何本もの黒い杭が一気に背中から伸びる。

777: 2010/04/10(土) 23:00:35.84 ID:A4YykO.0
一方『ファッ!!!!』
能力を使い一気に跳ね起きる。

そしてすかさず黒い杭を地面に膝を付いている上条へ突き出す。

一方『ラァアアアアアアアア!!!!!!!』

だが。

『竜王の顎』が消えたと同時に、再び上条の左手と両足に半透明の装具が出現した。

そして上条はその場で天を仰ぎ、

上条『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!』

咆哮をあげた。
その瞬間上条の体から光が溢れ、凄まじい爆発を起こした。

一方『―――ッ!!!!』

一方通行の黒い杭が弾かれ、大きくひん曲がる。

すぐに自分の前へ他の杭を集め盾を作り、その光の衝撃波を防いだ。

778: 2010/04/10(土) 23:02:16.80 ID:A4YykO.0
光がやむ。

一方『―――』

100m前方の上条は何事も無く立っていた。
銃撃によって生じた腹の傷は跡形も無く消えていた。

一方『(―――何があッた)』

一方通行はついさっき見た記憶を思い起こす。
今はしっかりと分析ができる。

あの竜の頭らしきものが現れた瞬間、能力は全て消された。
一方で、上条の装具も消えた。

そしてその状態の時に撃ち込んだ銃弾は難なく上条の体を裂いた。

先程までの上条だったら傷一つつかないはずだ。
それどころか銃弾を易々を避けていたはずだ。

ではなぜ。

一方『(そォか―――)』

導き出される答えは一つ。


あの竜の頭が出ている時の上条の体は『人間レベル』だ。

779: 2010/04/10(土) 23:04:19.27 ID:A4YykO.0
一方『ハハッ―――!!!!』

僅かに希望の光が差す。

一方『―――同時に使えねェッてのはありがてェぜ!!!!』

一方通行は笑った。勝算が見えたのだ。
どうにかして上条にあの竜の頭を使わしてその『人間』の状態のうちにぶっ飛ばして気絶させる。

あの竜の頭が出ている間は一方通行の体は鈍くなり、論理的思考もできない。

だが。

頭が止まってても体を突き動かす信念がある。

一方『行くぜェ!!!!!』

状況は悪化している。
だがその一方で微かな希望の道が見えた。



『能力者』である一方通行にとっての最大の脅威。


それが『人間』である一方通行
にとっての最大のチャンスとなる。


その小さな希望を掴み取るため。


一方通行は前へ進む。


―――

780: 2010/04/10(土) 23:10:06.66 ID:A4YykO.0
―――



鏡の世界。
頭がイカれているさすがの罪人達もネロのあまりの力に恐怖して逃げてしまったのか、
ネロ達に群がってくる悪魔達はだいぶ減った。

鏡の世界の学園都市はゆっくりとその姿を修復している。

ネロ『もう終わりかよ。根性ねえな』
どれだけイカれていてもあんな物を見せられたら退くしかないだろう。

その時だった。

ネロ『…あ?』

周囲に立ち込めていた余波の力が消失した。

ネロ『なんだこれ…』
左手のスパーダを見る。

スパーダから伸びる赤い光の刃は未だに健在だが、ネロはかすかに感じた。
その光の刃が僅かづつ削り取られていくような感覚。

781: 2010/04/10(土) 23:12:45.89 ID:A4YykO.0
その削り具合は気にしなくても良いレベルだが、それは問題ではない。

『スパーダ』の力を得体の知れない『何か』が削り取っているというのが問題なのだ。

莫大な力をぶつけて削るのならわかる。

だが、『これ』は違う。

まるで硫酸の霧の中に置いている様な感覚。

体内の力は全く異常ない。
だが肌や剣身から外に出た力が削られている。

ネロ『…』

禁書「ちょっ!!!ちょっとネロ!!!!!」

突如インデックスが慌てた声をあげた。

782: 2010/04/10(土) 23:14:25.56 ID:A4YykO.0
ネロ『あぁ?』
ネロが振り向く。

すると。

インデックスと佐天を囲んでいる防護壁の魔法陣が、
まるでテレビの砂嵐のようなノイズでかき消されそうになっていた。

ネロ「―――ッ」
ネロがすぐに魔人化を解く。スパーダの光もおさまった。

その一瞬後に魔法陣が割れ、防護壁が消失した。

禁書「!!!!」

あと少しでもネロが魔人化を解くのが遅かったらインデックスと佐天はその圧力に潰されていただろう。

禁書「…これ…!!!」

なぜ魔法陣が壊れたのか。

ネロ「……」

二人ともこの現象に覚えがある。


『幻想頃し』だ。

783: 2010/04/10(土) 23:17:13.55 ID:A4YykO.0
禁書「これ…とうまの…!!!!」

ネロ「……」

その時だった。

鏡の世界が大きく歪み始めた。
まるで蜃気楼のように景色がゆらめく。

禁書「…!!!」

佐天「へ……?」

ネロ「は…なるほどね」


なぜ幻想頃しの効果が全域に、そしてこの鏡の世界にまで到達しているかは分からないが、
どうやらあの力はこの世界にも効果があるらしい。


この鏡の世界が不安定になり始めた。

おそらくシェオル本体にも何らかの異常が起こったのだろう。

784: 2010/04/10(土) 23:18:47.52 ID:A4YykO.0
ネロ「ここから出るしかねえ!」

禁書「!!!!」

ネロ「何かねえか!!」

禁書「え、えーっと!!!ちょ、ちょっと待って!!!」

ネロ「このまま『ここ』にいれば多分ヤバイぜ!」

このまま崩壊に巻き込まれれば。
一緒に消えてなくなるか、虚無の世界に放り出されて永遠に閉じ込められるのがオチだ。

ネロ「―――」
その時ネロは閃いた。

ここまで上条の力が到達していると言う事は。

向こうと繋がっている。

恐らくシェオルの入り口が開いている。

その穴を見つければ。

785: 2010/04/10(土) 23:24:23.77 ID:A4YykO.0
ネロはスパーダを右手に収納し、地面に突き刺さっていたレッドクイーンを背中にかける。

そして二人を乱暴に担ぐ。

ネロ「来い!!!」

禁書「あぅ!!!」

佐天「ひゃああああ!!!!」

ネロは体から僅かに力を放出させる。
当然それは消された。

だがそのスピードに差があった。
消される速度が速い方向。

そっちからこの幻想頃しの力が流れてきているという事だ。

ネロ「行くぜ!!!掴まってな!!!!」

二人がネロのコートにしがみ付く。

ネロの発する力に二人の少女が晒されるが、今は辛抱してもらうしかない。

ネロが自らの感覚を頼りに突き進んでいく。

シェオルと繋がっている『入り口』へ。


―――

786: 2010/04/10(土) 23:30:02.34 ID:A4YykO.0
―――


シェオルは地下駐車場にいた。
先ほどネロ達を吸い込んだ場所だ。

シェオルは移動できなかった。
いや、移動しようと思えばできるがそれどころじゃなかった。

己の鏡の入り口が『何か』によってかき回された。
今はその嵐は止んでいるものの、この短時間の間に大きく破壊された。

その奇妙な力が鏡の世界にも流れ込んでいったのだ。

シェオルは感じていた。
鏡の世界も不安定になり崩壊しかかっているのを。

シェオル『……!!!』

これは一体。

だが原因を探りに行く余裕すらなかった。

シェオル『ぐぉ…!!!』

力を安定させようとするので精一杯だ。

何とかして扉を閉じなければ。

あの男が出てきてしまう。

―――

787: 2010/04/10(土) 23:34:06.94 ID:A4YykO.0
―――

ネロはインデックスと佐天を担ぎながら猛烈な速度で道路を走っていた。

あの幻想頃しの力はすぐに消えた。だが扉が閉じたわけではない。

ダンテや、その上条らしき悪魔の力を右手が感知している。
まだ繋がっている。

そしてそのおかげでより明確に入り口の位置がわかった。

その後ろを大量の悪魔達が追って来る。

どうやら彼等もこの世界が崩壊しつつあるのに気付いたのだ。

逃れようと出口に殺到してきているのだ。

悪魔の移動術の黒い円はこの世界が大きく歪み始めている為使えないのだろう。

皆猛烈な速度でがむしゃらに走ってくる。

788: 2010/04/10(土) 23:36:07.02 ID:A4YykO.0
デパートの東棟の壁をブチ破り、屋内に侵入する。

すかさず今度は床を思いっきり踏みつける。
すると床が砕け、そのまま地下駐車場までぶち抜いた。

地下駐車場に降り立つ。

ネロ「OK!!!!」

そして見つけた。

黒い小さな楕円形の影が地下駐車場の中央に浮いていた。

ネロが突き進む。

後を追ってきていた悪魔達も同じように床に穴を開けて地下駐車場に侵入し、
その出口へ向けて突き進んだ。


ネロ「―――ちょっとやべぇな」

ネロは気付いた。

このままだとこの悪魔達も表の世界に飛び出す。
あのフォルトゥナで地獄門が開いた時のように大軍が学園都市に放出されてしまう。

789: 2010/04/10(土) 23:42:19.16 ID:A4YykO.0
出た瞬間に入り口のシェオル自身を殺せばいいかもしれない。

だがやけくそになったシェオルがそのまま罪人達を解き放つかもしれない。
一瞬遅れればシェオルの周囲は大量の悪魔達で埋め尽くされる。
そうなれば最悪の事態だ。

ネロ「Shit―――!!!!!!!」

ネロは出口の目前で止まり二人を乱暴に降ろした。

禁書「わわ!!!」

佐天「うにゃあああ!!!!」

ネロ「行け!!!!」
ネロがレッドクイーンに手をかけ悪魔達の方へ向き仁王立ちする。

禁書「……!!!!」

ネロ「出たらすぐにここから離れろ!!!!」
ネロはギリギリまでこの悪魔達を抑え、そして崩壊の直前に脱出する気だ。

禁書「…で、でも!!!!」

悪魔達が飛び掛ってくる。


ネロ「Go Now!!!!!! Run!!!!」
ネロが叫びながらレッドクイーンで一気に薙ぎ払った。


禁書「―――う、うん!!!」
インデックスが佐天の手を取り出口に向かう。
その瞬間二人の体が残像を引き始める。

790: 2010/04/10(土) 23:45:48.92 ID:A4YykO.0
ネロ「―――あぁそれと」
ネロが振り返る。


ネロ「上条はダンテに任せろ」


禁書「―――え?」
その言葉を聞いた瞬間インデックスの顔が固まった。

禁書「それってどういう―――」

だが聞き返す前にその姿は消えた。二人は表の世界に戻っていった。

ネロ「―――Ha」
そういえばまだインデックスには伝えてなかった。

ネロ「―――まぁなんとかなるか」
ネロが前を向く。
地下駐車場は大量の悪魔で覆い尽くされていた。

ネロ「OK―――」

挑発的な笑みを浮かべる。


ネロ「悪ぃな―――切符は残り一枚だ!!!」


ネロ「―――欲しけりゃ取りに来いや!!!」



ネロ「遊んでやるぜ!!!」

―――

791: 2010/04/10(土) 23:54:19.29 ID:A4YykO.0
―――


禁書「あぅうう!!!!!」

佐天「うきゃああ!!!!」

二人は地面に叩きつけられた。

禁書「うぅ…」
地面に手を突き頭を上げる。
そこはさっきと同じ地下駐車場だった。

だが周囲には悪魔の姿は無い。

そして柱に刻印されている数字。
左右反転していなかった。

禁書「―――出たんだよ!!!!」

佐天「ふえ…ほぁ…?」
何がどうなっているのか理解していないであろう。

792: 2010/04/10(土) 23:57:50.99 ID:A4YykO.0
その時インデックスは気配を感じた。

振り返り見上げると。

禁書「―――!!」

2mほどの場所に小さな鏡、シェオルが浮かんでいた。

インデックスは佐天の手を握り勢い良く立ち上がる。

禁書「行くんだよ!!!!!」
とにかく離れるのだ。

佐天「わぁ!!!!わああああ!!!!!」

幸いな事にシェオルは今それどころじゃないらしい。
二人を完全に無視していたようだ。

インデックスと佐天はとにかく走った。
地下駐車場の出口へ向かい、地上へ続いている傾斜路を走り抜ける。

793: 2010/04/11(日) 00:01:40.12 ID:BPV9cRE0
外へ出てそのまま無我夢中でしばらく走り、二人は道路の真ん中で膝をついた。

禁書「……ふぁ…」

佐天「はぁはぁはぁ…」

心臓がマシンガンのように鼓動を打っている。
ここまで離れれば大丈夫だろう。

佐天「もう…終わった…の?」
佐天が安堵と不安が混ざった声でインデックスに聞いた。

禁書「……」
インデックスは答えなかった。

まだ終わってはいない。

ネロがまだ帰ってきていないしシェオルも生きている。
そしてネロが最後に放った言葉。

上条について。

794: 2010/04/11(日) 00:04:03.26 ID:BPV9cRE0
その時、凄まじい轟音と地響きが起こった。

佐天「ひゃああああ……今度は何よ……」

インデックスはその轟音が来た方角を向いた。
300m程離れたところだろうか。

巨大な粉塵が上がっていた。

禁書「……とうま!!!!!」

インデックスが立ち上がり、その方角へ駆けて行く。

佐天「ちょ、ちょっと!!!!どこ行くの!!!!!」

禁書「あなたはここから離れるんだよ!!!!」
インデックスが走りながら佐天に叫んだ。

佐天「ま、待って!!!!!」

佐天「…ひ、一人にしないでよぉぉぉぉぉ!!!!!」

佐天も立ち上がり、インデックスの後を追って走っていった。



―――

795: 2010/04/11(日) 00:08:16.39 ID:BPV9cRE0
―――


東棟三階。大きく崩れ、四階から上は消えていた。
天井は青空だ。

その崩れたビルの淵に御坂は立っていた。

そして氏闘を繰り広げる二人の少年を涙が浮かんでいる瞳で見ていた。
両手を胸の前で固く握り締めている。

御坂「……ひぐっ……お願い…お願い…」

あの上条の姿から目を逸らしたかった。
だがそれでいて不安で不安で見ないではいられなかった。

御坂「……うぐ……えぐ…」

「あんま泣くと目が腫れるぜ?お嬢ちゃん」

その時だった。真横から聞き覚えのある声。

一度聞いたら絶対に忘れない声。

ダンテが彼女の横に立っていた。

796: 2010/04/11(日) 00:12:28.08 ID:BPV9cRE0
御坂はダンテの方を向かないまま震える声を飛ばした。

御坂「…ど、どうなっちゃうの…ひぐッ…アイツ……」

ダンテ「心配すんな」
ダンテが特に緊張もしてない声を返した。

御坂「……アンタも…アンタも行ってよ!!!!」
御坂が今度はダンテの方を向き声を荒げる。

御坂「……アンタなら…アンタなら…!!!!」

ダンテ「そう焦んな。今はあのボーヤに任せようぜ」

御坂「……!!!!」


ダンテ「あいつならできる」
ダンテは断言した。

揺ぎ無い確信が篭っていた。

御坂「………?」

ダンテ「大丈夫だ」

798: 2010/04/11(日) 00:16:32.39 ID:BPV9cRE0
ダンテが乱入しない理由は二つ。

一つ目はあの上条に余計な影響を与えないためだ。

今の上条が大悪魔クラスの力を持っている。
あれを抑えこむにはダンテもそれなりに力を解放しなければならない。

上条はダンテの莫大な力を浴びる事になる。

ここまで至った理由も考えると、必ず何らかの影響が上条に残る。

今は抑えこめても、後々に更に悪化するかもしれない。


そしてもう一つの理由。

それは一方通行の目。

覚悟を決めた、揺ぎ無い信念が篭った『人間』の瞳。

799: 2010/04/11(日) 00:18:56.78 ID:BPV9cRE0
ダンテ「(良い目だ。痺れるぜ)」
ダンテは人間のそういう姿が大好きだ。

それでこそ人間だ。

『守り』甲斐がある。

どうしようもなくなった場合にダンテは行くつもりだ。
だがギリギリまで待つ。待っていたい。

『人間』と『悪魔』。

両者の間には到底越えられない壁が存在する。

だがその壁を越えて。

『悪魔』が『悪魔』を打ち倒すのではなく、


『人間の意思』が『悪魔』を打ち倒す。


それに意味があるのだ。


ダンテ「(―――やってみろ。ボーヤ)」


―――

801: 2010/04/11(日) 00:22:35.96 ID:BPV9cRE0
―――

インデックスはその激しい爆音が響き続けている場所へ向かって走り続けていた。

禁書「はぁ―――はぁ―――」
心臓が今にも弾けそうだ。全身が脈打っているのがわかる。

頭が酸欠でざわつく。

だが彼女は速度を緩めることなく走り続ける。

途中で瓦礫に躓き激しく転ぶ。
膝がすりむけ、白い修道服に赤い染みが浮かび上がる。

それでもインデックスは止まらなかった。


立ち上る粉塵の中から見える白い光。


あの時の光と一緒だ。


二ヶ月前、ある少年がインデックスを救うために身に纏っていた光。

あの場所にいる。

インデックス「はぁっ―――はぁっ―――とうま―――」

―――

802: 2010/04/11(日) 00:27:40.09 ID:BPV9cRE0
―――


一方『オァアアアアアアアア!!!!!!』
全力で黒い杭を上条に打ち込みながら突進する。

あの右手を恐れている『余裕』は無い。

とにかく猛攻撃を加え、能力を消さざるを得ない、
あの竜の頭を出さざるを得ない状況を作り出さなければ。

遠距離攻撃のみでは不可能だ。

右手をかわしつつ近距離戦で圧倒するしかない。

一方通行が凄まじい衝撃波を纏いながら突き進む。

そして両手に数本の杭を巻きつけ覆う。

近距離で叩き込むべく。


その時。

上条が軽く地面を蹴り、5m程真上に跳び足を畳んだ。

一方『―――!』

上条の体を光が覆う。

803: 2010/04/11(日) 00:33:57.26 ID:BPV9cRE0
次の瞬間。

光の爆発と共に上条が一方通行へ『射出』された。

斜め上から。

光の筋を引きながら上条が飛び蹴りを放つ。

一方『ッ―――!!!』

瞬時に周囲に展開していた杭を全てからだの前に押し出して盾を作り、
さらにその後ろで黒い腕を交差して二重の防壁を作る。


その分厚い盾に。

上条の飛び蹴りが炸裂する。
金属音と爆音が混じり、光の洪水と共に一方通行の盾の黒い破片が散弾のように周囲に飛び散った。

一方『ッッッ!!!!』

一枚目の盾が砕かれる。
だが上条の蹴りは交差している一方通行の腕で止まった。

一方『ラァ!!!!』
手を一気に押し出してその足を弾く。

804: 2010/04/11(日) 00:37:51.88 ID:BPV9cRE0
だが上条は後方には吹っ飛ばされなかった。

左腕を地面に突きたて、まるで崖にぶら下がっている姿勢を逆さまにしたような体勢で制止した。

そして足を返し、逆さまに『蹴り上げる』。
上条の光り輝く左足が一方通行の顔面へ向かう。

一方『―――』
体を捻り交わす。顔の真横を爆圧の塊が突き抜ける。頬に焼けるような痛みが走る。

だがその痛みを無視し、腰を落とし。

一方『オオオァ!!!!』

黒い杭が巻きついている左腕を逆さまに上条のがら空きの腹部に叩き込んだ。

だがそれは上条の右膝に止められた。

一方『チッ―――!!!』

上条が体を捻り、そして左腕で地面を『蹴り』、左足を振るう。

一方通行はそれを右手の肘で防ぐ。
長い針が突き刺さるような痛みが腕を走る。

805: 2010/04/11(日) 00:41:37.68 ID:BPV9cRE0
その凄まじい衝撃で一方通行の体が10m程後方にずり下がった。

上条が右足を軸にして上下を元の姿勢に戻し、
一方通行の後を追うようにそのまま距離を詰める。

そして更に『蹴り』を放つ。
体を何度も回し、光り輝く足を一方通行へ向け放つ。


一方『オァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!』


その凄まじい蹴りの嵐を捌きながら一方通行も杭と拳を繰り出す。

時たまのびてくる右手をスレスレでかわす。

二人の間を白い光と漆黒の筋が行きかい、火花のように光が飛び散る。
地響きが連続し、周囲の地面や瓦礫が粉となり散っていく。


806: 2010/04/11(日) 00:42:37.51 ID:BPV9cRE0
一方『―――ッ!!!!』
一方通行の頭の中が痛む。

だがそれを無視する。

互角ではダメなのだ。
上条にあの竜の頭を使わせるには更なる猛攻を加えなければ。

持っている全ての力を注ぎ込む。

全ての力を、意識を、演算を黒い杭に集中させる。


一方『アアアアアアアアアアアア!!!!!!』


そして。

一方通行の左手が上条の胸に届く。

上条の光の衣を貫通し、肋骨を砕き肺へ黒い左拳が突き刺さる。


807: 2010/04/11(日) 00:44:40.84 ID:BPV9cRE0
一方『ラァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!』
続けて無数の杭を上条の体に打ち込んでいく。
右肩、左肩、両脇腹、下腹部、両太もも。

大量の黒い杭が上条の体を貫通し、彼の体の自由を奪う。


一方『―――使えやァ!!!!!』


さあ。

今こそ使う時だ。

使え。

あの竜の頭を使え。


その瞬間、一方通行の能力が『消えた』。

黒い杭が『ひび割れ』て崩れ落ちる。


808: 2010/04/11(日) 00:49:58.87 ID:BPV9cRE0
一方『―――』

ひび割れて。

あの竜の頭の効果とは違う。


一方『クソッ―――』

一か八かの捨て身の賭け。
振られたサイコロは一方通行の負けを示していた。

上条の体を貫いていた左腕に。

幻想頃しの右手がかざされていた。

上条が笑みを浮かべた。

赤く輝く瞳が一方通行へ氏の宣告を下した。


その時だった。


どこか離れたところから声が聞こえた。


「とうまああああああああああ!!!!!!!」


―――

809: 2010/04/11(日) 00:53:33.40 ID:BPV9cRE0
―――


どれだけの時間が過ぎたのだろうか。

全てが闇だ。
音も風も感触も無い。

何も無い。

自分は何者かわからない。

「……いい…」

でも思い出そうとはしなかった。
理由は分からないが、なぜかどうでも良い。

大事な事も。

やらなければいけない事もたくさんあったような気がする。

でもどうでもいい。

「……」

810: 2010/04/11(日) 00:55:48.03 ID:BPV9cRE0
これだけはわかる。

思い出せばきっと苦しむと。

その時だった。



この『無』の世界に明らかな『有』が。

それは声だった。



―――!!!

声が聞こえる。

「……」

誰の声か知っている。
この声を聞くと心が休まる。


「………ス」

811: 2010/04/11(日) 00:58:25.64 ID:BPV9cRE0
「……インデックス?」

その瞬間、心が開いた。

そしてそれと同時に。

この数十分の間、彼がばら撒いた氏の記憶も流れ込んできた。


「……え?」


白く輝く己の腕が黒ずくめの兵に伸び、引き裂く。

「……!!!!!」

頭を掴み叩き潰す。


「な、なんだよこれ!!!!」


壁に猛烈な力で打ち付けられ、跡形もなく弾け飛ぶ兵士。


「お、おい!!!!やめろ!!!!!!!」

812: 2010/04/11(日) 01:02:56.59 ID:BPV9cRE0
『何ってお前が望んだもんだろ』

どこからか別の声が彼に答えた。

「俺が…?!!!」

銃を捨て、喚きながら逃げる兵の背中へ飛び掛る。
そして八つ裂きにする。
生暖かいすえた蒸気が鼻に入る。

「ウソだ!!!!!こんな……!!!!!ああああああ!!!!!」


『何寝ぼけてやがる。お前が望みお前がやった』


命乞いをする兵の頭を引きちぎる。


「やめてくれ!!!!!やめろおおおおお!!!!!」


次は良く知っている少女が現れた。

「!!!!」

御坂美琴。

813: 2010/04/11(日) 01:05:45.02 ID:BPV9cRE0
『彼』を見て涙を流す少女。


「逃げろ!!!!おい逃げろよ!!!!!」

だがその声に御坂が反応するわけも無い。
この映像はもう起こった過去の記憶なのだから。

「頼む…!!!!やめてくれ……やめてくれよ……!!!!」


彼女の顔は恐怖ではなく悲しみで歪んでいた。


その頭へ。


「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」


『上条』の左腕が振り下ろされた。


「あああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」



―――

814: 2010/04/11(日) 01:07:22.65 ID:BPV9cRE0
―――

上条『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!』


禁書「とうまあああ!!!!!とうまああああああ!!!!」

突如上条が両手で頭を抱え凄まじい咆哮をあげた。
地響きのような凄まじい声。
全身から今まで以上の光が溢れる。

その右手は当然一方通行の腕から離れた。

一方通行の能力が復旧する。

一方『―――ッ』

なぜあの少女がこんなところにいるか。
そんなのを考えている暇は無い。

左腕を引き抜き、そしてすかさず杭を突き出した。

悶えてる上条は回避行動を一切取らなかった。

杭が直撃する。

だがその切っ先は上条の肌を貫かなかった。

一方『―――!』

杭の先端がひん曲がっていた。

上条の光が更に強まる。

815: 2010/04/11(日) 01:09:58.54 ID:BPV9cRE0
一方『―――テメェはなンなンだよチクショウ!!!!』

明らかにヤバイ。

更に力が強まっている。
この黒い杭ですら傷がつかないレベルにまでに。

禁書「とうま!!!とうま!!!!」
インデックスが危険を省みずに今にも泣きそうな顔で真っ直ぐ上条に走ってくる。


一方『―――』

その姿にデジャヴを感じた。

二ヶ月前。

あの打ち止めが一方通行の元に駆け寄ってきた時と今の光景が重なる。

禁書「とうまああああ!!!!」
上条を呼びながらどんどん近付いてくる。

名前を呼ばれるたびに上条の光が揺らぎ、顔が歪む。
先ほどまでの人間性の全く無い表情とは正反対だった。

嫌になるほどの人間的な苦痛の顔。

817: 2010/04/11(日) 01:13:25.11 ID:BPV9cRE0
一方『―――』
上条とインデックスを交互に見る。

一方『(―――考えろ!!!!)』

上条の力は更に強化され、武力で抑えこむのは絶望的だ。

だがきっと何か方法があるはずだ。

あの二人。

その関係は?
今の状況は?

一方通行は思考を巡らした。

以前の一方通行の陥った状況と良く似ている。

自分と置き換えてみる。

己が今の上条だったら。

どのような状況であの竜の頭を使う?

一方『―――』

そして一つの『悪』の方法が浮かんだ。

818: 2010/04/11(日) 01:20:05.84 ID:BPV9cRE0
一方『ハハッ』
思いついた策。
それに対して一方通行は軽く笑った。

上条なら絶対に考えない方法だ。

闇を這う悪党の一方通行ならではの策だ。

自覚し受け入れていたが、改めてそんな自分が嫌になる。


それでいてこうも思った。

やッぱり俺はこォあるべきだ と。


一方通行は杭の一本を操作し、そして突き出した。

その行き先は上条ではなく。

走ってくるインデックスへ―――


―――少女の小さな顔へ伸びる。

819: 2010/04/11(日) 01:22:01.65 ID:BPV9cRE0
上条『―――』
上条の表情が変わる。

一方『―――ハハァ!!!!』

インデックスへ伸びた杭は彼女へは達していなかった。

彼女の顔の僅か10cm前で寸止めされていた。
そしてすぐに引き戻した。

インデックスは軽く尻餅をついた。
そして不思議そうに周囲を見渡していた。

音速の数十倍もの速度で動く杭が彼女に見えるはずも無い。

それにベクトル操作で衝撃波もまとめているため、
ちょっと強めの風くらいしか当たっていないだろう。

上条が凄まじい形相で一方通行を睨んだ。

一方『ギャハハハハハ!!!いィぜェ!!!!そォだ!!!!!』

820: 2010/04/11(日) 01:23:38.51 ID:BPV9cRE0
あの上条の反応、それだけで充分だ。

一方通行の予想は当たった。
その顔は上条とは正反対に歓喜の笑みが浮かんでいた。

一方『そォだ!!!!これだぜェ!!!!』

上条の真似をしてもやはり無理だ。

自分のやり方で。
悪党は悪党のやり方で。

それが合っている。

上条が地面を蹴り、今まで以上の速度で突進してきた。

それと同時に一方通行は全ての杭を放った。


一方『アアアアアアアアア!!!!!!!』


上条ではなく。

インデックスの方へ再び。

今度は無数の黒い帯がインデックスへ突き進む。

821: 2010/04/11(日) 01:25:52.94 ID:BPV9cRE0
一方『ほォら―――使え』

上条の目の色が変わる。
そしてインデックスの方へ向いた。


一方通行はもちろんインデックスに当てる気は無い。
傷一つつける気は無い。

だが先の反応を見る限り、上条はこの安いこけおどしにあっさり乗ってくるはずだ。

まんまとハマるはずだ。


一方『―――使ェやァアアアア!!!!!』


その一方通行の叫びと同時に。

上条がインデックスを『守る為』に『竜王の顎』を出現させた。
そして左手と両足の装具が消える。


一方『目ェ覚まさせてやらァ三下ァァァァアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!』


インデックスに向かっていた大量の黒い杭も消えた。

822: 2010/04/11(日) 01:29:42.87 ID:BPV9cRE0
そしてミサカネットワークも消え、再び何も考えられなくなる。
平衡感覚が狂い、どっちが上か下かもわからなくなる。
だが一方通行は前へ強く地面を蹴った。

体の動くがままに。

無心で突進する。


上条はインデックスの方へ向いている。


その左側の頬に。

硬く握った右拳を。

『魂』が乗った拳を。


全てを終わらせるべく。


一方「がああああああああああああああああああああ!!!!!!」


―――上条を救うべく。


全体重を乗せて倒れこむように放った。


そしてその拳が遂に『上条』に届く―――。



―――

823: 2010/04/11(日) 01:33:43.18 ID:BPV9cRE0
―――


ネロ『―――』
その瞬間、鏡の世界が今まで以上に強く揺らいだ。

肌の表面の力が削られるのを感じる。

またあの幻想頃しの力が流れ込んできている。


そしてこの二回目の幻想頃しの嵐がこの鏡の世界に決定打を与えた。

景色に黒いノイズが混ざり、徐々に消えていく。
足元の地面がうっすらと黒くなっていく。

ネロ「そろそろ時間か―――」

周囲の景色が見る見る消失していく。
そして悪魔達も消えていく。

ネロは真後ろの出口へ跳ぶ。

体が残像を引き始める。

そのネロを追うかのように悪魔達が押し寄せてくる。
ネロはブルーローズを向ける。


ネロ「失せな―――閉店だぜ!!!!!」


そして連射した。

その悪魔達の姿が見えなくなるまで引き金を引き続けた。

―――

824: 2010/04/11(日) 01:36:57.18 ID:BPV9cRE0
―――

シェオル『ぐぉぉぉおお!!!!!!』
シェオルは感じていた。あのスパーダの孫の存在を。
この開け放たれている扉のすぐ向こうにいる。すぐ近くだ。

その時、声が聞こえた。


「鏡よ鏡―――」


シェオル『―――!』

その発信源は。
鏡のすぐ向こう側から。


「―――てめぇをぶっ頃すのは誰だ?」


そしてその声の主が突如目の前に現れた。
ネロが後ろ向きで、シェオルに銃口を向ける形で鏡の世界の崩壊と同時に飛び出して来た。
ネロの顔には挑発的な笑み。


シェオル『―――』


ネロ「―――俺だ」


次の瞬間、ブルーローズの銃口から巨大な砲炎が噴き出した。

826: 2010/04/11(日) 01:42:39.32 ID:BPV9cRE0
放たれた銃弾がシェオルを貫き砕く。

鏡が砕け散る。

欠片がダイヤモンドダストのように煌きながら飛び散った。

ネロは床に着地し、そしてブルーローズを腰に納めた。


ネロ「次はトランプの兵隊でも用意しとくんだな」


その物言わぬただのガラス片になったシェオルに言葉を飛ばした。


ネロ「―――ってそれは違う話か…」


ネロ「鏡が出るのは……シンデレラだったか?」

一人どうでも良い事に悩み頭を掻く。


ネロ「あ~…クソ……しまらねぇな」



―――

828: 2010/04/11(日) 01:47:01.80 ID:BPV9cRE0
―――

鈍い炸裂音が響く。

そして二人の少年は並ぶように地面に倒れた。


一方「あ……が……」
地面に体を打ちつけ、鈍痛が全身に走る。

無心で放った拳。

それが当たったのかどうか。
効いたのかどうかわからない。

だがその答えはすぐにわかった。


徐々に思考が元に戻り始める。

能力を感じる。

一方「―――ッつ…」

地面に手をつき起き上がる。
ベクトル操作によって補佐され、楽々立ち上がったが体が軋む。


一方「…」

そして。

すぐ隣の地面に仰向けに倒れている上条―――。

829: 2010/04/11(日) 01:52:33.60 ID:BPV9cRE0
あの竜の頭も、全身を包んでいた光も消えている。
そし一方通行の拳が炸裂した左頬が赤くなっている。

さっきまでのような体の修復はしていないようだ。

一方「………」

その上条の顔はまるで寝ているかのように穏やかだった。

どうやら生きてはいるようだ。

胸がゆっくりと上下し、小さな呼吸音が聞こえている。


一方「はは…ははははははははは!!!!!」

一方通行はその場の地面に乱暴に座り込んだ。

そして天を仰ぎ大声で笑い始めた。


一方「ギャハハハハハハハハハハハ!!!!!ハハハハハ……ハハ……」

830: 2010/04/11(日) 01:58:38.69 ID:BPV9cRE0
一方「はははは……はは……」

顔を下ろし、目の前に横たわっている上条を見る。
気を失っているようだ。


一方「おィ……三下ァ……」

上条には聞こえていないだろう。
だがそれでも一方通行は言葉を続けた。


一方「テメェはそッちに行くンじゃねェよ…」


一方「そこは俺の席だ……」

その声色は刺々しくも、まるで旧友に会っているかのような優しさも篭められていた。

一方「テメェは『こっち』の席だろ…」



一方「二度と……俺にテメェの真似事なンざさせるンじゃねェよ三下ァ」

831: 2010/04/11(日) 02:02:12.23 ID:BPV9cRE0
その時、気配に気付いた。
一方通行はふと顔をあげた。

一方「……テメェか…」

上条を挟んだ向かいに赤いコートに銀髪の男が立っていた。


ダンテ「よう」


一方「……テメェ見てやがッたな……」


ダンテ「まぁな」


一方「……」


ダンテ「心配すんな。頃す気はねぇ」


一方「そォか…」

少女の声が聞こえる。
インデックスが叫びながら走ってきているのだ。

832: 2010/04/11(日) 02:05:07.84 ID:BPV9cRE0
一方「……なァ…コイツどォなンだ…?」

ダンテ「さぁな」
ダンテが上条を眺めながらそっけなく言葉を返した。

ダンテ「しばらく様子見だ」

一方「……またこォなるかもしれねェのか?」

ダンテ「多分な。いずれ」

一方「―――!」

ダンテ「心配すんな。俺がいる」


ダンテ「それにココには―――」


ダンテが一方通行の顔を見た。


ダンテ「―――お前がいるじゃねぇか」

833: 2010/04/11(日) 02:09:17.78 ID:BPV9cRE0
一方「―――」
その思わぬ返しに一瞬動揺する。


一方「ハッ…俺かよ…」

ダンテ「そうだ」

一方「……」

ダンテ「このボーヤとはもう戦いたくないか?」


一方「……るせェ」


禁書「とうま!!!!とうまああ!!!!」

インデックスが走りこんできて上条のすぐ傍に屈む。

ダンテ「大丈夫だ。気絶してるだけだぜ」


禁書「とうま…うぅ」
インデックスが上条の右手を握る。

ダンテは肩を竦め、踵を返して歩きその場から離れていった。

834: 2010/04/11(日) 02:10:24.35 ID:BPV9cRE0
と、3歩程歩いたところで足を止めた。
そして振り返り一方通行を真っ直ぐ見た。

ダンテ「おぃ」

一方「……あァ?」


ダンテ「良いもん見せてもらったぜ―――」


一方「……」



ダンテ「上出来だ―――」



ダンテ「―――『アクセラレータ』」


それだけ言うと再び前を向き歩いていった。

一方「………」

一方通行は離れていくダンテの背中をずっと見ていた。


ずっと。


―――

835: 2010/04/11(日) 02:13:26.63 ID:BPV9cRE0
とりあえずこのパートは終了です。

今回のエピローグは月曜日までには投下します。
可能ならば明日投下しますがまだ未定です。

867: 2010/04/18(日) 14:07:16.46 ID:1qn0RGw0
事件の翌日。

とある病院の会議室。
ここにダンテ、トリッシュ、ステイル、ネロ、そしてカエル顔の医師がいた。

部屋の中央に大きな机があり、トリッシュがそれに寄りかかるような形で軽く腰をかけ、
そのすぐ横でダンテが椅子にだらしなく座り、足を机の上に組んで座っていた。

机を挟んで二人の向かいにステイルとカエル顔の医師が椅子に座っている。

そして壁に寄りかかって腕組をしているネロ。
五人の話の議題はもちろん『上条当麻』。

彼の意識はまだ戻っていないが特に外傷も無く、
カエル顔の医師によればそのうちすぐに意識が戻るから心配は無いとの事だった。
そのまま即日退院できるだろう。

だが全てが元通りというわけではない。

上条の体は少しずつ変化し始めていた。

868: 2010/04/18(日) 14:13:06.35 ID:1qn0RGw0
事件後すぐに彼の体を検査した結果、
心臓の周辺の肋骨や肺の一部の組織が『悪魔』に変異していたのだ。
今現在も少しずつ侵食が進んでいる。

上条はゆっくりと、確実に『悪魔』になりつつあるのだ。


トリッシュ「さぁてどうしましょ」
トリッシュが首を傾げながら特に緊張感の無い、それでいて鋭く冷たい声色で皆に声を飛ばした。

カエル顔「このままのペースだと遅くてもあと二ヶ月で完全に人間では無くなるよ」

ステイル「……止める方法は無いのか?どうにかして悪魔の部分を取り除けないのか?」

トリッシュ「できるわよ」

ステイル「…!!!なら…!!」

トリッシュ「でも氏ぬわよ」

ステイル「…ッ」

870: 2010/04/18(日) 14:17:02.09 ID:1qn0RGw0
ステイル「……」
ステイルも悪魔に転生した。

だが彼の場合は、多くの保護術式を使って意識を保ちながらの比較的緩やかな転生の仕方だった。
そのおかげか、転生しても人間の精神は失わずに済んだ。

だが上条の場合は違う。
完全な暴走による強引な転生だ。

いや、『侵食』と言ったほうが正しいだろう。

二ヶ月前に神裂が陥った状況に似ている。
人間としての精神が潰され、悪魔の純粋な闘争欲に覆い尽くされ破壊と殺戮を吐き出すだけの怪物と化す。

あの時の神裂は、体内の悪魔の力が上条の右手で壊された為に彼女は助かった。
悪魔の『魂』では無く、『力』の部分だけ取り込んでいた為右手の効果があったのだ。

だが上条は場合は違う。

彼の心臓は『生きている悪魔』であり、幻想頃しでは消えない。
ドラッグ的な効果で悪魔の力を手にした神裂と違い、
上条の場合は彼の魂と悪魔の魂が複雑に絡み合っている。

彼の人間の魂を繋ぎとめている生命維持装置の役割をしているのだ。

その悪魔の部分を壊すと言う事は上条の氏を意味する。

ステイル「……クソッ…」

871: 2010/04/18(日) 14:23:20.86 ID:1qn0RGw0
トリッシュ「イギリスとしてはどう考えてるの?あの子、禁書目録の管理者なんでしょ?」

ステイル「……」

カエル顔「…僕は外すよ」
イギリスの根幹に関る話だ。
部外者が聞くわけには行かない。

カエル顔の医師は足早に部屋を出て行った。

ステイル「…まだ答えは出ていないよ」
イギリスの上層部では意見が二つに割れている。

一方は、今回の上条の暴走はインデックスを守ろうとしての行動というのを踏まえ、
上条はインデックスを守るに足る戦闘能力もあるということで、
このまま彼の元に置き続けようという案だ。

管理者と護衛の二役を任せられると考えたのだ。

それにインデックスによって、上条をイギリス清教側に繋ぎとめておくことができる。
『幻想頃しを持つ大悪魔』ともなれば魔術サイドにおいて究極の切り札となりうるのだ。

それに対立している一方は、さすがに危険すぎるのではと、
インデックスをイギリスに戻すことを提言している。

ステイル「…恐らく……僕が持って帰る報告で決まるだろうね」

今ここでのダンテ・トリッシュ・ネロの見解をイギリスは待っているのだ。

872: 2010/04/18(日) 14:29:01.34 ID:1qn0RGw0
ステイル「………」

トリッシュ「じゃぁはっきり言っておくわね。このまま悪魔化させるか、それとも『最期だけでも人間に戻してあげる』かの二択」

最期だけ人間に戻す。せめて人間のまま氏なせようという事だ。
それはつまり上条を頃すという事だ。

トリッシュ「まあ、どっちの方向にいっても最終的には手をうたなきゃね」
悪魔化した場合はそれこそ『敵』として狩られ処理されるだろう。

ステイル「………」

トリッシュ「―――と、まあここまでが『私』の意見」

ステイル「……?」

トリッシュ「決めるのは『ボス』だから」
トリッシュはそう言いながら、今まで黙っていたダンテの顔を見た。


ダンテ「却下」


ダンテは話を振られた瞬間即答した。


ステイル「……は?」

873: 2010/04/18(日) 14:30:44.33 ID:1qn0RGw0
ステイル「……な、何が?」

ダンテは肩を竦めてニヤけた。
ダンテ「だからトリッシュの意見は却下だ」

ステイル「…それは…どういう意味だ?」


ダンテ「頃しはしない」


ダンテ「悪魔化も止める」


ダンテ「あの坊やはいずれ人間に戻す。OK?」


ステイル「…な!?で、できるのか?!方法は?!!」


ダンテ「さぁな」


ステイル「お、おい!!!!」

874: 2010/04/18(日) 14:34:59.78 ID:1qn0RGw0
ダンテ「依頼されたんだ」

トリッシュ「また勝手に……こういう時ばっかり依頼引き受けるのね……」
トリッシュは呆れ顔で小さく息を吐いた。

ステイル「……はぁ?」

ダンテ「禁書目録のおチビちゃんにな」


ステイル「……」


ダンテ「大丈夫だ。出来ねえ依頼は引き受けねえ」


ダンテ「方法はこれから探す」


ダンテ「必ず戻す。氏なせもしねえ」


ステイル「……」
これが他の者の言葉だったらステイルは絶対に納得しなかっただろう。
だがこの男は『ダンテ』。

この男が断言したら、過程はどうあれ最終的に必ずその通りになる。
少なくともステイルはそう思っている。

877: 2010/04/18(日) 14:42:52.03 ID:1qn0RGw0
ステイル「……本当にできるのか?」

ダンテ「ああ」

トリッシュ「あなたは?」
トリッシュは壁に寄りかかって黙って聞いていたネロに顔を向けた。

ネロ「ダンテに賛成だ」
ネロは手を軽くあげ承諾の仕草をした。

トリッシュ「OK、そういう事で『こちら側』の意見は決まったわ」
トリッシュは再びステイルに目を戻す。

トリッシュ「イマジンブレイカーは処分せずに人間に戻す方向で」

ステイル「……わかった。報告しとくよ」

トリッシュ「最後に聞いておくけど、あなた自身の意見は?」

ステイル「…僕か…?」

インデックスが危険に晒されるのは絶対に許すことは出来ない。
だがそれでいて彼女が悲しむ結末だけは見たくない。
上条が消えればあの少女はどうなってしまうのだろうか。

あの笑顔はどうなってしまうのだろうか。

ステイル「彼を……」

だからステイルは願う。
ダンテにその望みを託す。


ステイル「彼を……戻してくれないと色々困る」


ステイル「彼は『インデックスの管理者』なんだからね」

878: 2010/04/18(日) 14:47:56.71 ID:1qn0RGw0
トリッシュ「OK、とりあえずこの場は満場一致ね」

ダンテ「終わりか?腹減ったぜぇぇぁ」
ダンテが欠伸をしながら頭を掻き、大きく伸びをする。

トリッシュ「まだ。これからアレイスターの所に行くわよ」

ステイル「僕もか?」

ダンテ「……俺もか?」

トリッシュ「当然でしょ。ネロ!!あなたもよ!!!」
こそこそとさりげなく部屋を出ようとしていたネロの背中に声を飛ばす。

ネロ「あ~…」

ダンテ「何で行くんだ?」



トリッシュ「イマジンブレイカーを『引き取る』の」




ダンテ「………何?」

ネロ「………あ?」

ステイル「………は?」

―――

879: 2010/04/18(日) 14:52:23.78 ID:1qn0RGw0
―――

とある病院の一室。

小さな病室の壁際には多くの電子機器が並んでいた。
そして部屋の中央に置かれていたベッドに一方通行は腰掛けていた。
そのベッドのすぐ脇の椅子に打ち止めが座り、近くの小さな机に載っているリンゴ見つめていた。

一方「……」

昨日の戦闘で脳にかなりの負荷がかかったらしいが検査によれば脳神経の損傷はほとんど無く、
外傷も擦り傷程度しかない。

それに打ち止めやミサカネットワークにも特に異常は見当たらなかったらしい。
今日このまま退院できるとの事だ。

一方「ハッ……」
少し新鮮だ。ここ最近、大きな戦いばかりしてそのたびに暫く入院していたのだ。

打ち止め「う~…」

一方「あァ?」
妙なうなり声をあげた打ち止めを見る。
すると少女の手に小さなリンゴがあり、もう片方の手に握る小さなナイフで皮を剥こうとしていた。
その手つきはかなり危なっかしく、今にも指を切りそうだ。

880: 2010/04/18(日) 14:55:06.33 ID:1qn0RGw0
一方「……ラストオーダーァ…何してやがるンだァ?」

打ち止め「皮が上手く向けないの!!ってミサカはミサカはイライラしながら返事してみる!!」

一方「……いらねェ。危ねェからやめろ」

打ち止め「……」
打ち止めが何やら恥ずかしそうに一方通行の顔を見る。

一方「なンだよ?」

打ち止め「……あのね……その…ミサカが食べたいの……ってミサカはミサカは恥ずかしいけど頑張って伝えてみるの」

一方「……テメェ…チッ…貸せ」
一方通行は打ち止めからリンゴを奪い取り、チョーカーのスイッチを入れると、
まるで指で撫でるかのようにリンゴの皮をスルスルと剥いていった。

僅か数秒で皮は全てキレイに向け、真紅で煌びやかだったリンゴの姿は黄色の球体に変わった。

一方「おゥ」
一方通行はそのリンゴを打ち止めに乱暴に投げ渡し、チョーカーのスイッチを切った。

打ち止め「わーい!!!やっぱりあなたって優しい!!!……でも切ってくれればもっと嬉しかったかなってミサカはミサカは(ry」

一方「るせェ。そンぐれェ自分でやれや」

882: 2010/04/18(日) 14:59:04.27 ID:1qn0RGw0
一方「行くぞ」
一方通行はベッドから立ち上がりドアに向かった。

打ち止め「ふが」
その後ろをリンゴに噛り付きながら打ち止めがひょこひょことついて行く。

病室を出て長い廊下を歩く。
所々に暗部の者であろう屈強な黒服の男が立っていた。

この棟は例の件の関係者以外立ち入り禁止になっているのだ。
上条と一方通行の戦いを目撃した者、デパート内でネロの立ち回りを目撃した一般人もここに押し込められて、
見聞きしたものを絶対に口外しないという誓約書にサインさせられているだろう。

一方「……」

静かな廊下を歩いていると、その先から常盤台の制服を着た少女が歩いてきた。
見慣れている姿だ。
一万人も頃したのだから忘れるわけが無い。
オリジナルか、それとも妹達のどれかか。

別にどうだって良い一方通行は特に気に留めることも無くその少女とすれ違おうとした。

だがその少女は一方通行の前で止まった。


御坂妹「いつも通りの物騒な目つき、陰険な雰囲気、元気そうでなによりです。とミサカはあなたの様子を見て少し安堵します」

一方「……喧嘩売ッてるよォにしか聞こえねェぞおィ」

883: 2010/04/18(日) 15:03:26.95 ID:1qn0RGw0
御坂妹「ところでもう帰るのですか?とミサカはリンゴでべちゃべちゃになっている上位個体を見て見ぬ振りをしながら聞きます」

打ち止め「美味しいよ!食べたい?食べたい?あげないよーだ!!ってミサカはミサカは(ry」

一方「なンだ?文句でもあンのか?」

御坂妹「少しぐらいあの方の顔を見ていってもいいんじゃないでしょうか?とミサカは上位個体を無視しながら話を進めます」

一方「三下の顔なンざ見たくもねェよ」

御坂妹「まだ意識が戻っていません。心配は無いそうですが」

一方「……」

打ち止め「ねえねえ、見ていった方がいいよ。あなたの数少ないお友達なんだしってミサカはミサカは(ry」

一方「ハッ……あィつと友情を築いた覚ェはねェ」

打ち止め「むー、あなたって素直じゃないんだから!ってミサカはミサカは背中を押してみる!」
打ち止めが一方通行の腰の辺りをリンゴの汁がたっぷりついた小さな手で押す。

一方「オィガキッ!!その手で触ンじゃねェッ!!!」

御坂妹「行きましょう。とミサカは小汚い上位個体と今だけ共同戦線を張ります」
御坂妹が一方通行の手を取りひっぱる。

一方「オィ!!!!」

一方通行は二人の少女に押され引っ張られ、上条のいる病室へ連れて行かれた。


―――

884: 2010/04/18(日) 15:08:13.25 ID:1qn0RGw0
―――


とある病院の一室。

佐天はベッドの上で、上半身を起こして窓の外を見ていた。
昨日のデパートはここから結構な距離があるが、それでも遠くに崩壊した建物が見える。

佐天「……はぁ…」

昨日は色々な事がありすぎた。

ネロがテ口リスト達を一瞬でぶっ飛ばして解放されたと思ったのも束の間、
今度は左右逆の奇妙な世界に連れて行かれ、おぞましい化物に襲われた。
そして再びネロが現れ、その化物達を軽々と薙ぎ払った。

その後はインデックスの指示で顔を伏せていたが、まるで絨毯爆撃でもされているかのような地響きが連続した。
そして一瞬だけ目を開いて何が起きているかを見た。

甲冑を来た様な姿のネロが300mはあろう赤い光の大剣をぶん回し、街を吹き飛ばしていた。

良く分からないがその後はネロに担がれて奇妙な世界を脱出した。

そしてインデックスの後をついて行ったが、その先で待っていたものは白髪の少年とツンツン頭の少年の凄まじい戦いだった。
インデックスは迷うことなくその中心へ走っていたが、佐天は瓦礫の影で身を竦めていた。

885: 2010/04/18(日) 15:09:45.35 ID:1qn0RGw0
暫くの後にその戦場も静かになった。
恐る恐る顔を瓦礫の影から出して見て見ると、ツンツン頭の少年は仰向けに地面に倒れ、
その傍に白髪の少年とインデックスが座っていた。

そしてその近くに立っている銀髪の赤いコートの男。

少し前に喫茶店にいた時に目撃した男だ。


赤いコートの男は何やら話した後、踵を返して離れていった。

そのしばらく後に今度は御坂が能力でも使っていたのか、雷鳴を響かせながら彼等の元に猛烈な速度で突っ込んで来て、
まるでスライディングするかのように、倒れているツンツン頭の少年に何やら喚きながら覆いかぶさった。

意外な知人の登場に佐天は驚いたものの、その時背後から声が聞こえた。
振り向くとそこにはネロが立っていた。

そして彼は言った。

終わったぜ と。

そこで佐天の記憶は途絶えた。
緊張から解放され、気が緩んだのだろうか。

佐天はそこで意識を失ったらしかった。

886: 2010/04/18(日) 15:16:36.78 ID:1qn0RGw0
佐天「あは…ははは…」

昨日見た一連の出来事は到底信じられない。
理解したいとも思わない。

まるで夢を見ていたかのような感覚だ。
だが夢ではなかった。

この病室で目を覚ましてすぐに黒服の男達が数人現れ、
そして昨日の事を絶対に口外しないという誓約書を書かされた。
男達は言った。この誓約を破るつもりならいかなる手段を講じてでも妨害すると。

頃してでも という事は佐天にもわかった。

昨日の事が『何なのか』はわからないが、これだけはわかる。
あれは見てはいけない、踏み込んではいけない『世界』だったのだ。

今までも何度か御坂や黒子つながりでスキルアウトとの抗争に巻き込まれたりもしたが、
昨日のは次元が違った。

今後どうなるかは分からないが、少なくとも墓まで背負っていかなければならない闇を知ってしまったのだ。


佐天「あ~…あたしの平和な学生ライフが……」
窓の外を遠い目で眺めながら呟く。

とその時、病室のドアがノックされた。

佐天「……どうぞ~」
窓の外を眺めながら気の抜けた返事をする。

887: 2010/04/18(日) 15:20:24.67 ID:1qn0RGw0
ドアが開き、小さな足音が近付いてくる。
そして聞きなれた声が耳に入ってきた。

「具合はどうですの?」


佐天「へ…?」

その意外な声に振り向く。

佐天「し、白井さん…?」

黒子「少しやつれてますわね」
黒子はベッドの脇の丸椅子に座った。

佐天「……な、なんでここに?」

黒子「何でってお見舞いですの」

佐天「ふ、ふああああああああああ!!!!」
馴染みの顔を見て佐天は泣き崩れてしまった。

目を覚ましてからというもの、彼女が会った人物は黒服の屈強な男達や
無愛想な看護士達や、まるでモルモットを見ているかのような目をした研究者みたいな者ばかりだった。

あんな誓約書を書かされたのだ。
もう元の生活には戻れないかもとも思い始めていたのだ。

888: 2010/04/18(日) 15:24:26.74 ID:1qn0RGw0
黒子「あらあら……大変でしたのね」

黒子は佐天の手を取りなだめる。

佐天「うぅ゛…ごわがったぁあああ……」

黒子「……さあ、もう大丈夫ですの」
黒子はこの佐天の姿にいつかの自分の姿を重ねた。

あの路地裏で山羊の悪魔と対峙した時、
御坂はこの佐天のように泣く黒子をやさしくなだめてくれた。

黒子は思った。
やっぱりわたくしも普通の女の子でしたの 2ヶ月前までは と。

10分程だろうか、佐天はしばらく泣いたあと落ち着きを取り戻してきた。
そして段々と思考が冷静になっていく。


佐天「……そ、そういえば…というか…白井さんはなんでここに入れるんですか?」
佐天が目を拭いながら、震える声で黒子に聞いた。

この棟は部外者が入れないはずだ。
直接は聞いていないものの、あんな誓約書を書かされたり黒服の男達がうろうろしていれば佐天にもわかる。

黒子「……」

889: 2010/04/18(日) 15:29:23.74 ID:1qn0RGw0
黒子「……まあ…一応関係者ですの」

佐天「……白井さんも…あのデパートにいたんですか!?」

黒子「昨日のとは無関係ですの」

佐天「ッ!!じゃあ…他に…もしかしてあの空港の事件とか??!」

黒子「……これ以上は喋れませんの」

佐天「……そう…」
佐天はその黒子の返答で感じ取った。
黒子は佐天よりも更に深く関っていると。

佐天「御坂さんは…?」

黒子「同じく喋れませんの」

佐天「初春は?」

黒子「『一般人』ですの」

佐天「……」

黒子「一つ申し上げておきますの。絶対に部外者には口外しないように。初春にも」

佐天「だ、だいじょうぶだって」

890: 2010/04/18(日) 15:31:13.77 ID:1qn0RGw0
黒子「では…まあ喜ばしいことではありませんが…『ようこそ』」

黒子が手を差しだした。

佐天「…は、はい」
佐天がその小さな手を握り返した。


佐天「そ、そうだ…御坂さんもあたしみたいに入院してるんですか?」

黒子「お姉さまは…入院なさってはおりませんが…」

佐天「が…?」


黒子が呆れた顔をしながらため息をする。


黒子「とある殿方に付き添って泊り込んでおられますの」
そう腹立たしげに言い放ち、最後に小さく舌打ちをした。



―――

891: 2010/04/18(日) 15:37:14.16 ID:1qn0RGw0
―――


窓の無いビル。


アレイスター「……」

今回のテ口リスト達の動きは以前から知っていた。
当初は暗部を動かしてさっさと駆逐する予定だった。
そこに上条達が遭遇することも無かったはずだ。

だが実際に上条は巻き込まれた。
イレギュラー因子であるネロの存在によって。

アレイスター「……」
やはり悪魔サイドが関ってくると計算外の事態になってしまう。

最悪、プランの要である上条当麻を失うところだった。

だが得る物も多くあった。

さすがはどんな不足の事態でも利用するアレイスターといったところか。
別の見方をすればアリウスが言った通りギャンブルともとれるが。

892: 2010/04/18(日) 15:41:44.32 ID:1qn0RGw0
まず上条当麻の『竜王の顎』。
詳細なデータを得ることが出来た。
そして『上条』単体で『竜王の顎』の力をあそこまで使用できたことも素晴らしい。

人間のままの『器』ではあそこまでは不可能だ。

あの瞬間半径1kmのAIM拡散力場が消失し、その範囲内の能力者は一時的に無能力者となった。
悪魔としての『器』が無ければその範囲は10m程度だっただろう。

これなら大幅なプラン短縮も可能だ。
悪魔化を危惧していたが、うまく操作すれば良い方向にも動きそうだ。

そして二つ目は一方通行。
彼もまた上条程では無いが大きく進化した。
さらに『足を踏み込んだ』。
上条と同じくプランの『要』に格上げしてもいい。

だが逆に言えば換えの聞かない重要な歯車になったという事だ。

しかしそれは第二候補であった未元物質をエサにしてまで一方通行を育てる事を決めた時に覚悟していた。

アレイスター「……」
悪魔サイドの関わりによって幸か不幸か、プランは不安定ながらも急速に進んでいっている。

ここで止めるつもりは無い。

利用できるならそのまま突き進めるだけだ。

893: 2010/04/18(日) 15:45:14.65 ID:1qn0RGw0
その時、水槽の前5m程の床に大きな黒い円が浮かび上がり、四人の悪魔が現れた。
トリッシュとステイル、そして気だるそうなダンテとネロ。

アレイスター「そろそろ来ると思っていたよ」

トリッシュ「挨拶は無しでさっさと本題に入るわよ」

アレイスター「何だ?」


トリッシュ「イマジンブレイカー、借りてもいいかしら?連れて行きたいんだけど」


アレイスター「………何?」
余りにも意外な事で一瞬アレイスターは言葉を失った。

トリッシュ「人間に戻すためにね」

アレイスター「待て…つまり…君達の所に幻想頃しを?」


トリッシュ「そう。デビルメイクライか、それともフォルトゥナか」


ダンテとネロが驚いた顔でトリッシュを見た。


ダンテ「おいおいおい待て待て待て、ウチに連れてく気か?」

ネロ「うぉい!!俺んちも候補かよ!」

896: 2010/04/18(日) 15:53:27.19 ID:1qn0RGw0
トリッシュ「何、あんた達治すとか言っておきながらこのまま置いておくつもりだったの?」

ダンテ「…だからって…なぁ」
ダンテがネロの顔を見る。

ネロ「……俺の仕事じゃねぇぜ。ダンテが引き受けたんだからな。俺は知らねぇ」

ダンテ「お前ッ…この野郎…」

ネロ「うるせぇ!俺はアンタと違って暇人じゃねえんだよ!他にも仕事が山積みなんだぜ!?」

ダンテ「……」
ダンテが顔をしかめ軽く頭を掻く。

トリッシュ「本当に何も考えてないのね…」

トリッシュ「色々調べたり、治すまで暴走しないように力の制御方法教えたりしなきゃダメでしょ」

ダンテ「……あ~」


ステイル「……(本当に大丈夫なのか…いや大丈夫だろうが…)」

アレイスター「………」

アレイスターは黙って聞いていた。
上条を人間に戻されるとかなり困る。

悪魔化した前提でプランを組みなおしたばかりだ。

だがその一方で、力の制御は良い。
また何度もあのように暴れられたらさすがに困る。

897: 2010/04/18(日) 15:59:41.21 ID:1qn0RGw0
アレイスター「ふむ……」

トリッシュ「どう?」

アレイスター「いいだろう。だがいくつか条件がある」

トリッシュ「何?」

アレイスター「まず、『幻想頃し』の力の情報は一切公開しない。また『幻想頃し』について調べるのも禁止する」

トリッシュ「当面の目的は悪魔化の状態を調べるためだから良いわよ」

トリッシュ「だけど悪魔化と彼の『幻想頃し』が何らかの関係があった場合は…」

アレイスター「その時はまたこうして協議しよう」

アレイスター「二つ目、経過報告を毎日すること。専用の通信機器を渡そう」

トリッシュ「OK」

アレイスター「三つ目、私の許可なく彼の体に何らかの手を入れることは禁止する」

トリッシュ「まあとりあえず最初は調査だけだから」

アレイスター「…四つ目、監視として学園都市側の者を一人同行させる」

アレイスター「最後に、彼を人間に戻す際には私も立ち会う」

トリッシュ「……OK」

898: 2010/04/18(日) 16:05:28.60 ID:1qn0RGw0
アレイスター「ならばとりあえず彼の学園都市外へ移送及び『悪魔』部分の調査は許可する」

アレイスター「それと悪魔の力の制御についてはこちらからもお願いしよう」

トリッシュ「ええ」

ダンテ「……」

ネロ「言っておくがよ、俺は結構家を空けるしそんな暇はねえぜ。キリエは日本語喋れねえし」

ダンテ「……俺も(ry」


トリッシュ「何?暇でしょ?こっちで引き取るわよ」


ダンテ「……めんどくせぇな」


ステイル「一ついいか?インデックスはその間どうするんだ?」

はいそうですかとそのままインデックスも連れて行かせるわけにはいかない。
ステイルは別にそれでも良いが、イギリスの上層部は許さないだろう。

899: 2010/04/18(日) 16:11:03.98 ID:1qn0RGw0
アレイスター「イギリスの老人達が決めるまで預かってやっても良い」

ステイル「どうやって?」


アレイスター「第一位を護衛につかせよう」


ステイル「……」

アレイスター「戦力としては文句は無いだろう?彼等同士も顔見知りだしな。最大主教には私から伝えておく」

ステイル「……そうか」

トリッシュ「で、イマジンブレイカーの付き添いは?」

アレイスター「もう少し待ってくれ」

トリッシュ「そう、明日の午後にでも発つからそれまでにね」

アレイスター「わかった」

900: 2010/04/18(日) 16:16:53.73 ID:1qn0RGw0
トリッシュ「じゃあ……」

ネロ「なあ、俺はもう行っていいか?用事があるんだが」

ダンテ「……飯食わせろ」

トリッシュ「いいわよ、とりあえず夕方まで自由行動で」

ネロ「なあ、出口はどこだ?」
ネロが辺りを見回しながら聞く。

アレイスターがそれに反応し、トリッシュを鋭い目で睨む。

トリッシュ「……あ~そうね…」
トリッシュがアレイスターから目を移し、後方の壁を見る。
そこの壁の部分だけ周囲よりも色が違って真新しかった。

以前ダンテがぶち抜いた場所だ。


トリッシュ「じゃあ皆で一旦出るわよ」
トリッシュを中心として大きな黒い円が床に浮き上がった。

ステイル「最後にいいか?」
ステイルがアレイスターを睨む。

ステイル「インデックスに妙な真似はするなよ」
敵意むき出しの顔をしたまま、ステイルは他の三人と共に黒い円に沈んでいった。

アレイスターは鼻で小さく笑った。

903: 2010/04/18(日) 16:25:31.41 ID:1qn0RGw0
アレイスター「さて…」

誰を同行させるか。

まず万が一の事態に備えて高位の能力者である事が望ましい。
雑魚悪魔達を軽々と薙ぎ払えるレベルのだ。

そしてダンテ達と面識がある人物の方が良い。
更にできれば上条当麻とも。

アレイスター「…」

絹旗最愛が真っ先に浮かんだ。
高位の能力者であり、ダンテとも面識がある。
だが上条当麻とは面識が無い。

アレイスター「……」

妹達のどれかではどうか?ネットワークもありリアルタイムで情報が届く。
だが能力についてはやや不安が残る。

ではついこの間生産したばかりのレベル4相当の番外個体ではどうか?
だが性格に難がある。プログラムを書き換える時間も無い。

アレイスター「……やはり…」

もっと身近にその条件に当てはまる人物がいる。
だがレベル5で学園都市側の重要な戦力である。
できれば外に出したくは無い。

しかし上条の件が最優先だ。


アレイスター「仕方ない。『超電磁砲』か」


―――

909: 2010/04/18(日) 19:34:56.36 ID:1qn0RGw0
―――



一方通行は上条がいる病室のドアの前に立っていた。

一方「……チッ…」

御坂妹「ここまで来て何をおよび腰になっているのですか?とミサカは情けない一方通行の姿を見て内心ほくそ笑みます」

打ち止め「ねぇねぇ、いつまでそうしてるの?ってミサカはミサカは(ry」

一方「るせェ…テメェらが勝手に連れてきたンだろうが」

御坂妹「拒否できたのに流されてノコノコここまで連れて来られて何を言いますか。とミサカは(ry」

一方「アァウゼェ!!!行きゃァいいンだろ!!!」

一方通行が病室のドアを開け、中に入った。

一方「…」

そして上条の姿を見た。
部屋の中央のベッドに横たわっていた。

その両脇、左側には御坂が、右側にはインデックスがそれぞれ椅子に座って、ベッドに顔を突っ伏して寝ていた。
彼女達は上条のそれぞれの手を握っていた。

一方「……意識を失ッてても相変わらずだなァ三下ァ」

910: 2010/04/18(日) 19:38:35.43 ID:1qn0RGw0
一方通行は上条のベッドへゆっくりと近付く。
三人の寝息が小さく聞こえてきた。
その内一人は寝ているのではなく気を失っているのだが。

一方通行はドアの方を振り返った。

一方「テメェらは入らねェのか?」

同じ顔をした二人の大小の少女がドアの影から顔を出して手を振っていた。
そしてゆっくりと閉めた。

一方「チッ……」

静寂が部屋を包む。小さな寝息だけが聞こえる。
ベッドの向かい端、上条の足の方へ進んでいく。

一方「随分とまァ気持ちよさそォな顔だな」
上条の安らかな寝顔を見て呟く。

数分間、黙って上条の顔を眺めていた。
こうしていると色々な事を思い出し考えてしまう。

一方「………なンでテメェの顔を見ながら感傷に浸らなきゃなンねェンですかァ」

一方通行は頭を不機嫌そうに振り、足早にドアへ向かった。
その時だった。

背後から声。

「…アクセラレータ」

911: 2010/04/18(日) 19:42:32.24 ID:1qn0RGw0
一方「…起きやがッたか?」
一方通行は振り返らずに言葉を返した。

上条「……ああ」

一方「覚えてるか?」

上条「おう…全部な……」

一方「そォか」

上条「……お前の言葉も覚えてるぜ」
笑いを含んだ弱弱しい声。

一方「……るせェ」
そういえば、今思えばこっ恥ずかしい事も言ったような気がする。


上条「……ありがとよ」


一方「俺じゃなく脇に侍らせてるそィつらに言ェや」
この二人の少女がいなかったら一方通行は敗れ、最悪の結末となっていたかもしれない。

上条「ははは………」

912: 2010/04/18(日) 19:46:39.65 ID:1qn0RGw0
背を向け、互いの顔を見ないまま会話が続く。

上条「なあ……」

一方「アァ?」

上条「俺……御坂を…殺そうとしたんだよな…」

一方「……『テメェ』じゃねえだろ。『テメェ』にンな度胸はねェ」

上条「……」

一方「ウジウジすンじゃねェよ情けねェ。生きてンならそれでいィじゃねェか」
先日ダンテに同じ事を言われた。それを自分が上条に言うとは。

上条「……一つ頼みがある」

一方「あァ?」



上条「―――御坂をよろしく頼む」



一方「……あァ?」
一瞬聞き間違えたような気がして、一方通行は振り返った。

914: 2010/04/18(日) 19:49:41.92 ID:1qn0RGw0
上条はベッドに横たわりながら、顔だけを一方通行の方へ向けていた。
その瞳は僅かに赤みを帯びていた。

上条「今後なんかあった時、こいつを守ってくれないか?」

一方「……何をほざきやがッてんだァ…?」

上条「俺、誓ったんだ。こいつとこいつの世界を絶対に守るって」

一方「だッたらテメェで守れよ」

上条「悪い…でもな、このままだと守るどころか……壊しちまいそうなんだ」

一方「……」

上条「頼む」


一方「………つーかよ、テメェはどォいう気だ?それにそのガキは?」
一方通行が顎でインデックスを指す。

上条「…インデックスはステイルに任せる…俺は…」


上条「遠くへ行くよ。絶対に手の届かない場所に」


一方「……テメェ……まさかしn」


上条「いいか?御坂のこと」

915: 2010/04/18(日) 19:55:00.63 ID:1qn0RGw0
一方「……ざけンなクソ野郎……チッ…一つ条件がある」

一方「戻ッて来い。逃げるんじゃねェ」


一方「それを誓うッつーンなら良い。しばらくは守ッてやる」

上条は答えなかった。ただ小さく穏やかな笑みを浮かべた。
一方通行は上条に背を向けドアの方へ向き、取っ手に手をかけた。

一方「許さねェからな」

背中越しに上条に言葉を飛ばす。



一方「氏ンで逃げでもしたら―――」



一方「―――地獄まで追ッかけて八つ裂きにしてぶッ頃してやる」



一方通行は上条の答えを聞かぬままドアを開け病室を出て行った。

上条は、ベッドの両側に突っ伏して可愛らしい寝息を立てている二人の少女をぼんやりと眺めていた。

両手から伝わってくるかけがえの無い温もりを感じながら。

―――

916: 2010/04/18(日) 20:02:10.70 ID:1qn0RGw0
―――

佐天と黒子は他愛も無い話をしていた。
佐天の緊張も解け、この場の空気はいつもの二人の物に戻っていた。

佐天「…ははは!でさぁ~!!」
佐天の笑顔もいつも通りだ。

黒子はそれを見ながら感じていた。
幸いな事に彼女も黒子と同様、あの世界を知った『ショック』に耐えられ、乗り越えられる人間だったようだ。

いや、むしろ黒子よりも開き直るのが早い。
黒子は二ヶ月前の件は一週間ほど引きずった。
御坂は翌日にはケロッとしていたが。

そんな御坂を見て、ある意味単純というか能天気というか、どこかネジが外れている方が良いのかも知れないと思っていた。
(黒子も色々なところでネジが外れているが彼女自身は自覚していない)

だがこの佐天もそうだったとは。
ごくごく普通の典型的な一般人だと思っていたが、彼女の精神は少なくとも黒子よりも頑丈らしい。

黒子「(むむ…)」
僅かだが敗北感があった。

その時、ドアがやや乱暴にノックされた。

佐天「はーいどうぞー!」

ドアが開き、紺色のコートを着た銀髪の男が姿を現した。


ネロ「よう」

917: 2010/04/18(日) 20:06:52.08 ID:1qn0RGw0
佐天「ネ、ネロさん!!」
佐天の顔が一気に明るくなる。

大暴れする狂気に満ちたネロも目撃したが、頼もしく守ってくれたのだ。
恐怖よりも嬉しさの方が上回った。

ネロ「元気そうで何よりだぜ」
ネロがコートをなびかせながら部屋に入ってくる。

佐天「は、はい!…まぁ…はい!」
佐天の顔色が今度は少し恥ずかしそうになる。

黒子が軽く会釈し、ネロが手を軽く挙げて答える。

黒子「……」
黒子がそのままジトッとした流し目でネロを睨んだ。

ネロ「あ~悪ぃ。案内してくれるっていうからよ」
佐天が巻き込まれた原因はネロにもある。

黒子「はぁ……まぁおきてしまった事はどうしようもありませんの」

ネロ「無事ならいいじゃねえか」

黒子「あなた方はそれでいいかもしれませんが……もういいですの」
黒子は何かを諦めたかのようにため息をついた。

佐天「そ、そうですよ~結果的に守ってくれたんだしあたしはおっけー!」

918: 2010/04/18(日) 20:10:50.40 ID:1qn0RGw0
佐天「あ、そういえば」

黒子「?」

佐天「ネロさん嘘ついてましたよね?」

ネロ「あ?」

佐天「無能力者だって」

ネロ「……あれはアンタらの言う『能力』じゃねえぜ。あれは…」
その時黒子の鋭い視線に気付き、言葉を止めた。

黒子「わたくし達の定義から言うと能力ではありませんの」

佐天「へ?それって…」

黒子「能力ではありませんの」
黒子は強い口調でもう一度佐天に言った。

佐天「……むむむ」
その黒子の態度でもわかる。これもまた極秘事項なのだ。


ネロ「あ~そうだ。ほら」

ネロが話を変え、コートのポケットからある物を取り出した。

919: 2010/04/18(日) 20:14:07.53 ID:1qn0RGw0
佐天「…こ、これ…」
ネロの手には花の飾りがついた髪留めが乗っていた。
昨日、デパートにいた時にいつの間にか無くしていた物だ。

佐天がゆっくりそれを手に取る。

ネロ「忘れもんだ」

佐天「あ、ありがとう」

ネロ「じゃあな」
ネロは踵を返し、ドアへ足早に向かった。

佐天「あ、あのもう行っちゃうんですか!?」

ネロは振り返ることなく手をひらひらさせそのまま出て行った。

佐天「……行っちゃった…」

黒子「ほぉぉぉぉう」

佐天「…な、何ですか?」

920: 2010/04/18(日) 20:17:35.63 ID:1qn0RGw0
黒子「まぁまぁまぁ。あらあらまぁまぁ。あらあらまぁ」
黒子がニヤリと笑った。

黒子「そうですか。そうでしょうね。そうですの」

佐天「な、何がですか?」

黒子「あれだけ端正な顔立ちで長身で鬼のように強くてクールでどことなくダークな空気があって」
黒子「それでいて子供っぽくもあるミステリアスな雰囲気で一見すると冷たくてでも根は優しい」
黒子「そんな殿方に守られ抱っこされたらウブでスイーツな佐天さんがときめくのも仕方ありませんの」

黒子が息つく間もなくぶっ続けで言葉を並べた。

佐天「ちょ、ちょっと!!!何を!?ってか抱っこって?!!」
確かに何度か担がれたが、あれはとてもじゃないが抱っことは呼べる代物ではない。
まるで米袋を肩に乗せているようなスタイルだった。

黒子「あら覚えてませんの?」

黒子「あなたをこの病院まで運んできたのはネロさんですの。お姫様抱っこで」

佐天「ふぎゃああああああ」

黒子「全く……」

佐天「違う!!違いますってば!!!」

黒子「あら、その割には随分と頬を赤らめておいでですが?」

佐天「た、確かに恋人とは言っ…いやいやいやそれは違くて!!!」

黒子「恋人?」

921: 2010/04/18(日) 20:20:27.20 ID:1qn0RGw0
佐天は事の顛末を簡単に説明した。
デパートを見てまわったこと、人質になってしまったときに恋人と咄嗟にウソをついてしまった事。
そしてネロには本当の恋人がいると言う事。

黒子「……なるほど…」

佐天「う~……」

黒子「あんな高レベルの殿方は忘れてしまったほうがいいですの。理想が高すぎて今後の恋愛に支障をきたしますわ」

佐天「だ~から違うんですってばぁ~」

黒子「所詮叶わぬ恋心。恋人がいるどころか生きてる世界が違いますの」

佐天「むぅ……」
それは黒子には言われたくない。
黒子の場合は世界どころか性別が違う。

いや『同じ』なのだが『違う』。

黒子「ともかく、もう二度と会わないという心構えで吹っ切ってくださいまし」

佐天「……えっ…も、もう会えないんですか?」

黒子「……」

922: 2010/04/18(日) 20:23:40.28 ID:1qn0RGw0
黒子「いや……確率はゼロとは言えませんが…」
黒子の経験上、また再び遭遇する可能性も結構ある気がする。

佐天「ほんと!?」


黒子「ですが関るとまた巻き込まれますの。いつ氏んでもおかしくない事態に」


黒子が鋭い目つきと強い声色で断言した。
これも経験の上でだ。
何度氏闘に巻き込まれて氏を覚悟しただろうか。

そして話を聞く限り、佐天も今回氏に掛けたらしい。

佐天「……うん」
佐天はその剣幕に押されうつむく。
手の中にある髪飾りが目に入った。

佐天「……でも…」
佐天はその手を握り顔をあげて笑顔を作った。

黒子「……」

佐天「それでもいいかな!もう今更だし!もう何見ても驚かないです!……多分」

黒子「……(こ、こいつ…!……本物のバカですの…!!!)」


―――

923: 2010/04/18(日) 20:28:07.79 ID:1qn0RGw0
―――


一方通行は廊下を足早に歩いていた。
杖と靴底が床にぶつかる音が響く。
その後ろを打ち止めが小走りでついていく。

一方「……」
彼の顔は険しかった。

上条の言葉。

一方「……ざけンじゃねェ…クズ野郎が…」

打ち止め「……なにかあったの…?ってミサカはミサカは不機嫌なあなたを見て恐る恐る声をかけてみるの」

一方「あァ?……気にすンな。なンでもねェ。帰ンぞ」

打ち止め「…帰る?も、もしかしてあなたも一緒に!!?ってミサカはミサカは(ry」

一方「あァァうるせェ!!!そォだ!!!」

打ち止め「わーい!!!!いつまで一緒にいれるの!!!?ってミサカはミサカは胸を躍らせて聞いてみるの!!!」

一方「とりあえず明日までだ」

打ち止め「じゃあ今日は皆一緒に晩御飯食べれる!!!!ってミサカはミサカは全身で喜びを表してみる!!!」
打ち止めが跳ねるような動作をする。

一方「……」
その時、携帯が鳴った。

924: 2010/04/18(日) 20:31:41.83 ID:1qn0RGw0
一方「あァ?」

乱暴に携帯を開き耳に当てる。

『今いいか?』
聞こえてきた声。

いつも上層部からの指令を伝えてくる男の声だ。


一方「………今は非番のはずなンだがよォ?アレイスターの許可もおりてンぜ?」

『これも理事長命令だ。だが急の用事では無いから心配しなくていい』

そして電話の男は用件を手短に伝えた。
それを聞くにつれ一方通行の顔がどんどん曇っていく。

傍らで打ち止めが心配そうに一方通行を見上げていた。

925: 2010/04/18(日) 20:34:10.33 ID:1qn0RGw0
『……ということだ。場所はいとわない。幻想頃しが戻るまで常に監視し護衛しろ。明日の午後からな』

『この件を当面の間最優先とする。他の任務はできるだけまわさないようにする』

『子供の扱いは慣れているだろう?黄泉川宅で暮らすのも許可する』

一方「……俺は保育士じゃねェぞ」

『そう言うな。頼んだぞ。長期休暇だと思え』
そこで通話は切れた。


打ち止め「…何かあったの?ってミサカはミサカはもしかして一緒に晩御飯食べれないのかなと心配しながら聞いてみるの」

一方「そォじゃねェ。……子守だ」

打ち止め「?」
打ち止めが首を傾げる。


一方「三下ァ……」

どうやら御坂を守る必要は無さそうだが、
そのかわりインデックスの面倒を見なければならないらしい。


―――

926: 2010/04/18(日) 20:42:21.93 ID:1qn0RGw0
―――

禁書「う…うん…」
インデックスは目を覚ました。
手からは温もりが伝わってくる。

昨日一晩中、上条が目を覚ますのを待っていたのだ。
御坂も同じく。
そしていつしか二人は疲労もあって寝てしまった。

禁書「ふぁ…」
寝ぼけ眼のまま顔をあげる。

すると上条と目があった。
彼の目が開いていた。


上条「おぉ、起きたか?」


禁書「とう…ま…?」


上条「よっ」


その上条の顔を見てインデックスの顔が見る見る歪んでいく。


禁書「とうまあああああああああ!!!!!ふああああああああああ!!!!!!」

927: 2010/04/18(日) 20:49:06.16 ID:1qn0RGw0
泣きながらインデックスが上条に飛びついた。

上条「うぉおお!!!」

御坂「!!!!!!!」
御坂がそのインデックスの大声で跳ね起き、そして上条の顔を見る。

そしてインデックスと同じように顔を歪ませ。

御坂「あぁぁあああぁあああああああ!!!!!」

これまた同じく上条に飛びついた。

上条「うぐぅッ!!!」

二人の少女が上条に思いっきり抱きつく。
ぎりぎりと締め上げられていく。

だが上条は拒否することなく、その二つの背中に優しく手を置いた。


上条「……すまん…」


禁書「よがっだぁあああああよがっだんだよおおおお!!!!!」

御坂「ばがああああああああ!!!!!ばがばがばがあああああ!!!!!」

928: 2010/04/18(日) 20:54:46.21 ID:1qn0RGw0
上条「ああ……」

上条は二人の背中を優しく撫で続けた。
そして思っていた。

やはり自分は消えるべきだと。

上条があんな事をしたにもかかわらず、この二人の少女は彼を想って泣いてくれている。

まるで太陽のように明るく、そしてダイヤモンドのように美しく思えた。

だからこそなのだ。
その輝きを、透き通る美しさを影で覆ってはいけない。
光を遮ってはいけないのだ。

だが今の上条は。

闇そのものだ。


上条「……本当にすまん…」

上条は呟いた。
泣き喚いている二人の少女に。

932: 2010/04/18(日) 22:05:14.20 ID:1qn0RGw0
サム…あああああああああああ

933: 2010/04/18(日) 22:05:54.08 ID:1qn0RGw0
しばらくし、インデックスと御坂も落ち着いてきた。

禁書「そ、そうだ?!お腹へってない!!?いっぱいあるんだよ!!」
インデックスが机の上にあった果物が山積みになっているバスケットを持ち上げた。

御坂「ほ、ほら、喉も渇いてるでしょ!!?飲みなさい!!!!」
御坂が水の入ったペットボトルを上条に差し出す。

上条「お、おう」
上条がバナナを1本取り、ペットボトルを受け取る。

上条がぎこちない手つきでバナナの皮を剥こうとすると、
インデックスが手を差し伸べた。

禁書「私がむくんだよ!!!」

上条「おう、頼む」

今度はペットボトルの蓋を開けようとするも、力が入らない。

御坂「あ、あたしが開ける!!!」

上条「ああ、頼むぜ」

935: 2010/04/18(日) 22:13:11.60 ID:1qn0RGw0
バナナを食べ、水を口に含む。

インデックスと御坂がその上条の姿をジッと見つめる。

上条「うん、すごく旨いぜ。ありがとな」

その言葉を聞いて二人の顔が一気に明るくなる。

上条は社交辞令で言ったのではない。

確かにバナナは少し傷み始め、水も温かったが本当に美味しかった。
五臓六腑に染み渡るとはこの事を言うのだろう。

バナナを一気に平らげ、水を飲み干した。

御坂「…ちょ、ちょっと待ってて!!!今持ってくるから!!!!」
御坂が立ち上がり、水を取りに病室を駆け足で出て行った。

禁書「もっと食べる!!!?」

上条「いや…とりあえずいいよ」

936: 2010/04/18(日) 22:18:08.36 ID:1qn0RGw0
禁書「そ、そう!!!」

上条「なぁ……インデックス」
上条が神妙な面持ちでインデックスを見つめる。

禁書「……な、何かな?」

上条「俺……『堕ち』ちまったよな…」

禁書「ううん。いいの」

上条「……」

禁書「例え堕ちたとしても」


禁書「『とうま』は『とうま』だもん」


上条「……」


禁書「それにこうしてまた戻ってきてくれたんだよ」

937: 2010/04/18(日) 22:23:22.26 ID:1qn0RGw0
禁書「人間でも悪魔でもどっちでもいいの」

上条「……『怪物』でもか?」


禁書「うん!!」
インデックスは素直な笑顔を崩さずに迷い無く即答した。


上条「そうか……」
そのインデックスの笑顔が眩しかった。

愛おしい。
心が安らぐ。

離れようと、そしてもう戻らないと決めた覚悟が揺らいでしまう。

離れたくない。

だがそれではダメなのだ。
このままだと絶対に。

禁書「……とうま?」
インデックスが上条の曇った表情に気付く。

938: 2010/04/18(日) 22:28:11.86 ID:1qn0RGw0
上条「……すまん…インデックス」

禁書「……何…?」
インデックスが薄々気付く。
二人の間には深い絆がある。お互いの考え方は大体わかるのだ。

上条「……次は…『無い』…」

禁書「…な、何を言ってるの…?」
インデックスの瞳が潤んでいく。
その顔が上条の心に深く突き刺さる。だがその痛みを無視し、心を鬼にする。

上条「俺は行く」

今まで通りではダメなのだ。
感情で突っ走って乗り越えられるほど甘くは無い。

禁書「……き、聞きたくないよ…」

上条は覚悟を決め言葉を放つ。


上条「次は―――」


その時、ドアが勢い良く開いた。


「よう、今いいか?」


上条「―――戻……んん?」

939: 2010/04/18(日) 22:34:36.73 ID:1qn0RGw0
突如割り込んだ声で上条の覚悟の一言は遮られた。

禁書「…ふあ?」
インデックスが泣きそうな顔のままドアの方を見た。

そこにはダンテが立っていた。その後ろには水の入った紙コップを持った御坂。
御坂の顔も今にも泣きそうだった。
ドアの前で上条とインデックスの会話を聞いていたのだ。


ダンテ「お取り込み中のとこ悪いが話がある」

ダンテがそんな空気などお構い無しにずかずかと病室の中へ入っていく。

上条「…少し待ってくれ」


ダンテ「…」
ダンテは上条を眺めながら、顎をさすり鼻を鳴らした。

この少年が思っている事がなんとなく予想がついた。

簡単に言えば『サヨナラ』をしたいのだろう。
自分が大事な者達への脅威となると考えて。

ならば尚更先に話を聞かせなければならない。

940: 2010/04/18(日) 22:41:02.53 ID:1qn0RGw0
ダンテ「(なんともまあいいタイミングだぜ)」

ダンテ「俺の話を先に聞け。お嬢ちゃんも入れ」

ダンテが御坂へ手招きをする。

御坂がゆっくりと恐る恐る入ってきた。

上条「…なんだ?」

ダンテ「お前は俺が預かる事になった」

上条「………へ?」
上条は目を見開きダンテを見た。インデックスと御坂も目を丸くする。


上条「……な、何を…何で……?」


ダンテ「お前を治すんだよ」


上条「……ッ!!!!!!」
そのダンテの言葉を理解するまでに数秒かかった。


上条「……な、治す?」


ダンテ「ああ。元通りにな。全部」

943: 2010/04/18(日) 22:48:14.09 ID:1qn0RGw0
上条「おぉ…うぁあッ!!!!!!!」

その言葉を聞いて彼の闇に覆い尽くされていた心に一筋の光が差し込んだ。
もう何もかも諦めていたのだ。
己の命を断つ覚悟をしていたのだ。

上条「ほ、本当にか……??!!!」

禁書「治す!!!?」

御坂「え、え?!!!」


ダンテ「ああ」

上条の先ほどの決心が崩れていく。

インデックスとまた暮らせる。
その希望が彼の心を照らした。

さっきの今で考えが一気に180度変わってしまったがそんな体裁にこだわるつもりは無い。


上条「…本当に…!!!!?」


ダンテ「そうだ」

944: 2010/04/18(日) 22:53:32.19 ID:1qn0RGw0
ダンテ「後はお前次第だぜ」


ダンテ「答えは?」


上条「……お、おう―――」

当たり前だ。
拒否する理由は一つも無い。

禁書「と、とうま!!!」

御坂「と、当然よね!!!!」


上条「決まってんじゃねえか!!!行くぜ!!!!行く!!!!」


ダンテ「OK」


禁書「うん!!!」

御坂「よしよしよしいいいい!!!!!」

二人の少女が大はしゃぎする。

946: 2010/04/18(日) 22:59:59.18 ID:1qn0RGw0
ダンテ「明日の昼ぐらいに出発する。準備しとけ」

上条「おう!!!インデックス!!!早く帰って荷造りだぜ!!!」

禁書「うん!!!」

御坂「あ、あたしも!!!!行きたい!!!」

ダンテ「あ~…それはお前さん達のボスに聞かなきゃな」

御坂「ボス…?」

ダンテ「理事長だったか?」

御坂「……つ、つれてって!!!!ほ、ほら、トリッシュさんでパッっと!!!」

ダンテ「許可無しじゃダメだ」
ダンテとしては別にいいが、トリッシュは絶対に許さないだろう。

御坂「ぐっ…」

ダンテ「それと禁書目録」

禁書「?」

ダンテ「お前は行けねえ事が決まってる」

禁書「…へ?」

948: 2010/04/18(日) 23:09:33.81 ID:1qn0RGw0
ダンテは簡単な説明をした。
インデックスは学園都市に残り、一方通行が上条の代わりを務めると。

禁書「そ、そんなぁ……」

御坂「…アイツが…」

ダンテ「まあ後でイギリスが許可するかもわかんねえが今はいけねえ。我慢しろ」

上条「……そうか…」


上条「インデックス。おとなしく待ってるんだぞ。あいつに迷惑はかけるなよ?」
上条がベッド脇のインデックスをジッと見つめる。

一方通行なら大丈夫だ。
信頼できる。

禁書「う、うん…わかったんだよ。ちゃんと待ってる」

949: 2010/04/18(日) 23:10:55.39 ID:1qn0RGw0
上条「御坂」
上条が御坂の方を向く。

御坂「うん…」

上条「絶対に戻ってくるからな」
言葉にはしなかったが、心の中で 誓いも絶対に守る と呟いた。

御坂「…うん。待ってる」


ダンテ「言っておくがよ、血ヘド吐くぜ」


上条「…おう。治るってんなら何だってやる」


ダンテ「トリッシュの事だ。モルモットみたいにあちこち弄られるぜ」


上条「う……覚悟してる」

ダンテ「OK、じゃあ明日の昼まで自由だ。好きにしな」

ダンテは手をひらひらさせ、病室を後にした。

上条「……おし…今日は皆で飯でも食おうぜ!」

禁書「うん!!!」

950: 2010/04/18(日) 23:16:47.07 ID:1qn0RGw0
御坂「あ、あたしも…いいかな?」

上条「当然だろ!!!来ないと怒るぜ!!!」

御坂「う、うん!!!行く行く!!!」

その時、病室のドアが開いた。

三人が一斉に振り向く。


御坂「…あ、あんたは!!!!」

そこには長い赤毛を二つに結い、短いスカート、
胸をサラシのようなもので巻き方に制服のブレザーを引っ掛けている少女が立っていた。

上条「…知り合いか?」

禁書「…?」

御坂「何でここに!!!?」

結標「常盤台の超電磁砲。ちょっといい?」

951: 2010/04/18(日) 23:23:09.82 ID:1qn0RGw0
御坂「な、何…?今ものすごっっっっく大事なところなんだけど!」
御坂が敵意むき出しの邪魔者を見るような目をむける。

結標「仕事。あなたを連れて来いって」

御坂「…へ?」

結標「理事長命令よ。出頭しろって」

御坂「…ど、どこに?」

結標「アレイ……いや、理事長の所に」

御坂「へ?ちょ、ちょっと…!」

結標「黙っててくれない?失敗してコンクリに埋め込まれても知らないわよ」

御坂「ちょ(ry」

何かを言いかけたところで二人の姿は消えた。
ポカーンと口を開けている上条とインデックスが残された。

―――

952: 2010/04/18(日) 23:31:17.67 ID:1qn0RGw0
―――


窓の無いビル。

トリッシュ「決まった?」

アレイスター「ああ。超電磁砲を同行させる」

トリッシュ「ああ……あの電気使いの子ね」

トリッシュ「もう伝えたの?」

アレイスター「今使いを送った。もう来るだろう」
そのアレイスターの言葉と同時に、結標と御坂が現れた。

トリッシュ「噂をすれば」

御坂「な、な、な、何ここ!!?」
薄暗い屋内をキョロキョロと見渡す。

アレイスター「超電磁砲」

御坂がその声に反応し、水槽の中に逆さまになっているアレイスターに目を向けた。


御坂「……何アレ?」
御坂が小さな声でとなりにいる結標に聞く。

結標「理事長」

953: 2010/04/18(日) 23:37:42.19 ID:1qn0RGw0
御坂「……!!!!!!アンタが!!!!」
御坂の目つきが変わる。

あの姿に驚いたがそれ以上に。

妹達の事件の元凶だ。
全ての黒幕。
いつかぶっ飛ばしてやろうと思っていた張本人だ。

御坂「このやろおおおおおおおおおおおおおあああああああ!!!!!!!!!」
御坂の全身から放電し始める。

結標「―――ちょ、ちょッ!!!や、やばッ!!!!」
結標が慌てて走って離れる。

トリッシュ「待ちなさい」
トリッシュが強い声の調子で御坂を制止した。

それと同時に御坂の体に金色の電気が巻きついた。

御坂「ぐ…!!!!」
体が動かない。
電気もうまく操作できない。

トリッシュの電気が御坂を縛ったのである。

アレイスター「……ここで悪魔の力を使われると困るんだがな。魔力が残留してしまう」

トリッシュ「あら、こうでもしないと話が出来ないでしょ」

954: 2010/04/18(日) 23:45:02.96 ID:1qn0RGw0
御坂「お願いいいいい!!!あいつを一発だけでも!!!!」

トリッシュ「ダメ。いいから聞きなさい」

御坂「むぐぅううういぎぎぎぎぎ!!!!!!!」
御坂が身をよじり拘束を解こうとするもびくともしない。

トリッシュ「…ったく…いい?ダンテから聞いたでしょ?その件でね」


トリッシュ「あなたは同行しなさい」


御坂「………へ?」
まるで幻想頃しにでも触られたかのように御坂の電気が消えた。
トリッシュもそれを見て拘束を解く。


トリッシュ「あなたも行くの。イマジンブレイカーの坊やと一緒に」


御坂「…あ、あたしが…アイツと一緒に…」
御坂はヘナヘナと座り込んでしまった。


トリッシュ「いい?」


御坂は首振り人形のように何度も首を縦に振った。

955: 2010/04/18(日) 23:49:33.89 ID:1qn0RGw0
アレイスター「これは理事長命令だ」

御坂「…あは…ははははは!」

御坂は強引にでもついていこうと思っていた。
だが学園都市側の許可がおりるどころかそれを命令されるとは。

御坂「じょ、上等よ!!!言われなくても行くもん!!!」

どこからともなく現れた黒服の男が御坂に辞書程もある分厚い冊子と小さな黒い金属のケースを渡した。

アレイスター「任務要項だ。目を通しておけ。全部頭に叩き込め」

御坂「ふ、ふん!!!」

トリッシュ「ところであなた英語喋れるの?」

御坂「……ま、まあ多少は…」
常盤台はお嬢様学校だ。当然外国語も実用的な物を教えている。
簡単な会話程度なら易々とできるレベルだ。

トリッシュ「まあ、何も無いよりはマシね。あなた頭良いんでしょ?」

御坂「…む…多分」
自分で言うのもあれだがレベル5だ。頭の出来はかなり良い方だ。

トリッシュ「なら色々使えそうね」

956: 2010/04/18(日) 23:53:23.68 ID:1qn0RGw0
御坂「これは?」
御坂が小さな黒いケースを開け、中から耳掛け式のイヤホンのようなものを取り出した。

アレイスター「ミサカネットワークに接続できる。それで報告しろ」
相互通信する場合は脳波を変換する為にもっと大きな物が必要だが、
御坂と妹達の脳波は同じだ。

それならば少し補助をする機器だけで事足りる。
このイヤホンは元々は接続不良を起こした妹達の為に作られたものだ。

御坂「ふぅん…これで晴れてあたしもあの子達と繋がれる訳ね」

アレイスター「ネットワークのアーカイブの閲覧は出来ないが、妹達との会話はできる」

御坂「……」
あの妹達の事件の情報を更に知ることが出来ると思っていたが、それは無理なようだ。
情報を規制するのも当然だろう。


アレイスター「だが長時間の使用はやめといたほうが良い」

アレイスター「一万人の相互通信を一度に聞くと脳に負担がかかる」


妹達は専用のプログラミングを施されている。
いくら脳波が同じで、処理能力の高い御坂の脳でもいきなり長時間接続してしまうとかなり負荷がかかるだろう。

御坂「……わかった」

トリッシュ「明日の昼迎えに行くから。それまでに準備しときなさい」

御坂「うん。わかった」
御坂の顔がキッと引き締まる。

957: 2010/04/18(日) 23:58:39.44 ID:1qn0RGw0
アレイスター「座標移動。送れ」

結標がゆっくりと御坂の方へ歩いていく。

アレイスター「頼んだぞ。超電磁砲」

御坂「ふん。言われなくても」

御坂「それと一つ」

アレイスター「何だ?」

御坂「許したわけじゃないから」
御坂の前髪に電気が走る。

結標「ねえ…電気出すのやめてくんない?演算狂っちゃいそうなんだけど……」


御坂「絶対にいつかツケを払ってもらうわよ。二万人分のね」

結標を無視して御坂は言葉を続けた。


アレイスターは小さく微笑んだ。

958: 2010/04/19(月) 00:02:18.37 ID:.dTo5V60
御坂「ふん!!」
御坂は電気が迸る中指をアレイスターへむけて立てた。

そしてそのままの姿勢で結標と共に消えた。


トリッシュ「あなたって随分と『人望』が厚いのね」


アレイスター「長く生きていると色々あるのだよ」

トリッシュ「そう?私はあなたの10倍以上生きてるけどここまで人気者じゃないわよ」

アレイスター「近くに魔帝やダンテという避雷針がいつもあっただろう」


トリッシュ「そう……まあどうでもいいけれど」

アレイスター「……」


トリッシュ「どうでもいいけれど」


アレイスター「わかったから二度は言うな」


―――

971: 2010/04/19(月) 23:11:04.20 ID:.dTo5V60
―――

その日の夜。

上条は第七学区の夜道をインデックスとともに歩いて帰路に就いていた。
つい先ほど、焼肉屋でクラスメイトほぼ全員+小萌+インデックスで打ち上げをしてきたのだ。

当初は土御門や青ピ、吹寄や姫神等の特に近しい人物のみで晩御飯を食べるつもりだったが、
裏の繋がりで上条の事情を知っていた土御門は
「何言ってんのベオやん!!!重要な旅立ちなんだから皆呼ばなきゃダメだにゃー!!」と、クラス全員に召集をかけたのだ。
急の誘いにもかかわらず、ほぼ全員が集りそしてなぜか小萌も加わり焼肉屋へ行くこととなった。

上条は皆に「新しい能力開発プログラムを受ける生徒として選抜された。しばらくは会えない」と伝えた。

病院を出る頃にはもう既にそのダミー計画はしっかりと仕込が終わっていたらしく、
上条はそのダミーの書類を渡されたし小萌も上からの通達で知っていた。

唯一真実を知る土御門は小さく上条に呟いた。

「待ってるぜよ。『かみやん』」と。

ちなみに御坂は来れなかった。
病院を出る頃に電話があり、なんと御坂も同行する事になったのだ。
その準備で忙しくて来れないらしい。

というか、来ても上条のクラスメイトに混ざるのは少し居心地が悪かったかもしれない。

インデックスにもその事を伝えた。
彼女はいつもなら嫉妬するところを、この時はすんなりと快諾した。

972: 2010/04/19(月) 23:16:18.85 ID:.dTo5V60
上条とインデックスは夜道を並んで歩く。
空は晴れており、大量の星が瞬いていた。

上条「腹いっぱい食ったか?」

禁書「うん!!我が人生悔い無しなんだよ!!」

上条「おいおいここで人生終わってもらっちゃ上条さんは困りますよ」

禁書「えへへへ……」

禁書「ねえとうま」

上条「うん?」

禁書「帰ってきたらね…その…私がご飯つくってあげるんだよ!!!」

上条「ぶふッ!!」

禁書「な、何で笑うのかな!!!ちゃんと練習するんだよ!!!」

上条「悪い悪い……おう。わかったぜ!」

上条がインデックスの頭を撫でる。
そして優しい笑みを向ける。

上条「楽しみにしてるぜ!」

禁書「うん!!!」
インデックスが上条の顔を笑顔で見上げた。

975: 2010/04/19(月) 23:21:29.06 ID:.dTo5V60
禁書「……綺麗なんだよ」
インデックスがそのまま上条越しに夜空を見上げ、上条もつられて見上げる。

上条「おお…凄えな…ここでもこういう夜空見れたんだな…」

禁書「わぁ~……」
インデックスが空を見上げたままひょこひょこと歩く。

上条「お、おい、ちゃんと下も見ないと…」
転ぶ と続けようとしたが見事に間に合わなかった。

禁書「わひゃぁ!!」
インデックスが躓きよろめく。
その瞬間上条が右手で彼女の左手を掴み、体制を立て直した。

上条「あっぶねえな…!!!」

禁書「ご、ごめんなんだよ…」

上条「…んまぁいいぜ!怪我もねえしさ!」

インデックスが、彼女の左手を握る上条の右手に目を移す。

上条「……」

禁書「……」

お互いがその手と相手の顔を交互に見る。

976: 2010/04/19(月) 23:23:28.50 ID:.dTo5V60
上条「す、すまん!!!」
少し動揺しながら上条がバッと手を離した。

禁書「あ……あの…その…」
インデックスが顔を赤らめながらもじもじし始める。

上条「わ、悪い…いきなり…」

禁書「ち、ちがうんだよ…そ、その…」

禁書「私は……さっきのままの方がいいかなって…」


上条「……へ?」
その言葉を理解するまで数秒かかった。


禁書「む…むぅ…だから……手を…」
インデックスが左手を差し出した。

上条「……な、な、な…?」
上条の思考がその手を見て凄まじい速度で回転する。

空回りだが。

977: 2010/04/19(月) 23:26:26.74 ID:.dTo5V60
禁書「……手」
顔を真っ赤にしているインデックスが呟く。

上条「お、おう…」
言われるがままに右手を差し出す。そして握手をした。

禁書「むきぃいいいい!!!ち、違うんだよ!!!だ、だから……こう…」
インデックスがもう片方の手で上条の右手を動かし。

自分の左手と繋がせた。

禁書「こう!!!こうなん…だ……よ……よよよよよ…」
自分の行動に気付き更に顔を赤らめた。

上条「お……お…おう」
鈍感すぎる上条もようやく状況を理解し始め顔を赤らめる。

上条「……」

禁書「……」

上条「…じ、じゃあ……い、行こうぜ」

禁書「う、うん…」

二人はぎこちなくも手を繋ぎながら黙って家路に就く。
とても会話が出来る状態ではなかった。

―――

978: 2010/04/19(月) 23:32:38.59 ID:.dTo5V60
―――

とある病院の待合室にダンテとトリッシュ、ネロがいた。

普段は患者専用の待合室なのだが、
この棟は閉鎖され一般人は締め出されている為、この部屋は三人が独占していた。

壁際に長椅子が並んでおり、その一つにダンテが寝そべっていた。
そして小さな机を挟んで向かいの長椅子にトリッシュが腰掛けていた。
そのトリッシュの隣にネロがだらしなく座っていた。

ネロはこの後、イギリスでの仕事があるのだがギリギリまでこの場にいるつもりだ。

彼等の間の机の上にはピザの箱と数本のワインボトルが並んでいた。

三人は一通り今後の事を確認していた。

トリッシュ「……ということでいい?」

ダンテ「……めんどくせえ」
ダンテが天井を仰ぎながら呟く。

最初の一週間はまず上条の悪魔化の状態をトリッシュが詳細に調べる。
それと平行して、ダンテが上条に悪魔の力の制御方法を教えるのだ。

教える、といっても教壇に立ち講義する訳ではない。
言葉ではなく体で覚えてもらう。

つまりダンテがとことん叩きのめして鍛え、ズタボロになるまで絞り上げるのだ。

979: 2010/04/19(月) 23:40:27.68 ID:.dTo5V60
ダンテ「……」
ダンテは誰かをそういう風に教育したことは無い。
初めてだ。

ふと自分の幼い頃を思い出す。
バージルと共に父に徹底的にしごきあげられた時代。

それはそれはもう過酷な物だった。

『父と息子』ではなく、『捕食者とエサ』だ。
戦い方を覚えなければ殺されるという覚悟でその修練の日々を乗り越えた。

史上最強の魔剣士から直に教わるなど、多くの武闘派の悪魔達が羨むだろう。

だが当時はそんな有り難味を感じる余裕など無かったし、
それどころか、なぜそこまでして力をつけなければならなかったかのすら分からなかった。

今だからその意味はわかるが、当時はイヤでイヤで仕方が無かったし、別に力なんて欲しくは無かった。
その一方でバージルは弱音一つ吐かずに過酷な修練に励んでいた。

同じ時に生まれ同じように過ごしてきた双子なのに、
更に氏んで復活するまでの10年程のブランクがあるにもかかわらず、
今でもバージルの方が僅かに強いのはその幼い頃の積み重ねの差だろう。

ダンテは過去を思い出して鼻で笑った。

トリッシュ「……何?」

ダンテ「いや……めんどくせえが、面白そうだなってよ」

982: 2010/04/19(月) 23:47:44.69 ID:.dTo5V60

ダンテは父がやったような正に『悪魔的』な過酷な教え方しか確か知らない。
だが上条は幼い頃の自分よりはマシだろう。

確固たる目的と決意があるのだ。
バージルのように懸命に励むだろう。

ダンテ「OK…しごきは任せろ。で、そっちの目安はついてんのか?」

トリッシュ「そうね…まず見てみないことにはね。あなたが彼の力を引き出してね」

ネロ「人間の意識を保ったまま転生させるのはどうだ?ステイルみてぇに保護術式組んで」

トリッシュ「難しいわね……魂が溶け合っちゃってるから」

ネロ「……魔剣とか…あいつの場合はベオウルフか、それを心臓にブッ刺して一発で覚醒は?」

トリッシュ「そのやり方で覚醒できるのはあんた達ぐらいよ」

スパーダ一族が行う特徴的なその『成人式』は、魂の殻を叩き壊し力を爆発させるような物だ。

そんなやり方をするのは大悪魔の中でもそうそういない。
そんな事をすれば一瞬で自我が砕け散って完全に消えてしまう可能性がある。

トリッシュ「まあそれも調べてみなきゃね。もしあの子が耐えられるってんならそれでもいいけど…」

トリッシュ「少し力が漏れただけでああ暴走しちゃうようじゃ、今の段階では無理ね」

983: 2010/04/19(月) 23:52:37.81 ID:.dTo5V60
ダンテ「おい、忘れてねえか?最終的には人間に戻すのが目的だ」

トリッシュ「でも禁書目録はどっちでも良いって言ってるんでしょ?」

トリッシュ「人間の精神が残ってれば」

ダンテ「まあ…な。だがそれはあくまでも一時的にだ」

ダンテ「肉体が完全に悪魔のままじゃ永遠にあの姿だぜ?」

トリッシュ「へぇ……あなたもそういう事考えるのね…」

ネロとトリッシュが小さく笑う。

ダンテ「何が?」

トリッシュ「つまり禁書目録ばっかり年取って先に氏んであの坊やが残るってのが可哀そうなんでしょ?」

ダンテ「かもな」
ダンテは動じずに答えた。

988: 2010/04/20(火) 00:06:50.57 ID:pqf.Puk0

ネロ「俺達みてぇに半人半魔にすれば言いんじゃねえか?とりあえず年はとるぜ?」

トリッシュ「でも結局はあの子は永遠に生きちゃう可能性が高いけど」

ネロ「…」
ネロは自分にも当てはめた。
60年か70年程先の未来、キリエが人間としての寿命を全うしてそれを見送り永遠に残る自分。

ネロ「……あ~、そりゃ……キツイぜ」

トリッシュ「ま、結局はまず調べてみなきゃって事ね」

半人半魔についてはダンテ達以前の前例が無い為、確実な事は分からない。
だがかなり正確な予想はできている。

ダンテ・バージル・ネロは半人半魔であり、人間としての姿は普通の人間と同じ速度で老化していっている。
だが 人間と同じく寿命という命のタイムリミットがあるか?という点では否定せざるを得ない。

人間の部分は老化しているが、悪魔の部分は『通常通り』年月を追うごとに大きく成長していっている。
バージルの復活の例もあり、彼等の『生き方』は人間には当てはまらないだろう。

トリッシュの導き出した予想は、
人間の部分は最終的に朽ち果てて彼等の姿は悪魔そのもの、
つまり魔人化の姿が普通になり、その後は悪魔の法則通り永遠の寿命 という物だ。

ただダンテ達ならスパーダのように仮の人間の姿を持つこともやろうと思えばやれるので、
結果的には今とほとんど変わらないだろう。

990: 2010/04/20(火) 00:13:28.69 ID:pqf.Puk0
というか、トリッシュからすればこの人間界の『寿命』という仕組み自体が珍しいのだ。
魔界や天界をはじめ、ほとんどの世界では寿命という概念が無い。

『生きる』のを辞めない限り『生き続ける』のだ。
氏にたければ氏ぬ。生きたければ生きる。

人間界のように生まれついた時からタイムリミットがあり、
強制的に命が絶えるというルールは独特だ。


ネロ「……じゃあ今話す事はもうねえな」

トリッシュ「ええ」

ネロ「トリッシュ。イギリスに送ってくれ」

トリッシュ「OK」

ネロとトリッシュが立ち上がる。

トリッシュ「そうそう、何か持って来て欲しいのある?事務所に寄って来るけど」

ダンテ「あ~…特にねえ」

トリッシュ「そう。少し遅くなるから」

ダンテ「仕事か?」

トリッシュ「ちょっとね。ネロ送って事務所に行った後、アレイスターの所に行くの」
トリッシュがニヤリと笑いながらネロと共に黒い円に沈んでいった。

ダンテ「……」


―――

991: 2010/04/20(火) 00:15:03.11 ID:pqf.Puk0
次スレ立ててきます

994: 2010/04/20(火) 00:39:40.32 ID:pqf.Puk0
このスレはHTML化依頼します。
続きは次スレから。


993: 2010/04/20(火) 00:34:28.56 ID:eECmtwAO
>>992 スレ立て乙
修業編すげー楽しみ

996: 2010/04/20(火) 00:42:32.13 ID:pqf.Puk0
埋めます

998: 2010/04/20(火) 00:45:01.72 ID:pqf.Puk0
ダンテ「パーティ(このスレ)はお開きだぜ!!!フィナーレだ!!!」


 次回へ続く:【禁書×DMC】ダンテ「学園都市か」【その10】


引用: ダンテ「学園都市か」【MISSION 02】