5: 2010/04/20(火) 00:49:02.36 ID:pqf.Puk0


最初から読む:【禁書×DMC】ダンテ「学園都市か」

前回:【禁書×DMC】ダンテ「学園都市か」【その09】

一覧:ダンテ「学園都市か」シリーズ

―――

常盤台女子寮。

御坂「あが……ぐぐぐ…」
御坂は机の上に広げている冊子と睨めっこをしていた。
荷造りはすでに終わり、任務要項に目を通していた。

辞書程の厚さがある。
とてもじゃないが一晩で暗記できるレベルではない。
前頁に目を通しきれるかどうかも危うい。

しかもその内容。様々な事態への備えなのだろうが、余りにも多岐にわたりすぎている。

規則や報告の仕方等事務的な物から、悪魔との戦闘方法、
奇襲された場合の上条の保護の仕方等のボディガード術、
負傷した場合の応急手当の仕方、
現地で買える食材で作る病み上がりの上条の為のレシピ、
様々な日用品の現地での呼称などなど。

御坂「…むぐ…」
重要そうな物だけを選別して暗記していくが、それでも頭がパンクしそうだ。
だが御坂はここで弱音を吐くつもりは無い。

御坂は上条の保護役なのだ。
上条はこれから困難に立ち向かおうとしている。
この程度で御坂が負けてしまう訳には行かないのだ。
ARTFX J デビル メイ クライ 5 ダンテ 1/8スケール PVC製 塗装済み完成品フィギュア
6: 2010/04/20(火) 00:50:20.97 ID:pqf.Puk0
黒子「…」
自分の机に向かい、ジャッジメントの書類を書いていた黒子が心配そうに御坂を見る。

黒子「お姉さま、少し休まれては?」

御坂「……むむむ…」

黒子「おっっっねえっさま!!!!」

御坂「……へ?」

黒子「少し息を抜かなければ逆に非効率ですの!」

御坂「……そ、そうね…15分くらい休憩するわ」

御坂がふらつきながら椅子から立ち、そのままベッドに進んでうつ伏せに倒れこむ。

御坂「もがー」

黒子がくるりと体を回し、椅子に前後逆の姿勢で座り、背もたれの部分に両腕を乗せる。

黒子「無理はいけませんの!行く前から疲労を溜めてどうするんですの!?」

御坂「うーん……そうだよねぇ」

7: 2010/04/20(火) 00:52:56.77 ID:pqf.Puk0
上条と同じく、御坂も例のダミーの計画に参加するという事でしばらく学校・寮から離れる事になった。
もちろん関係者である黒子は真実を知っている。

黒子「全く……体調だけは崩してはいけませんの!!向こうでは何が起こるかわかりませんのよ!!」

御坂「……はいはい……ごもっともで…」

黒子「ですから…」

御坂「?」

黒子「わたくしも連れて行ってくださいましぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!」
黒子がテレポートしてうつ伏せになっている御坂の背中へ飛び掛った。

御坂「うげぇ!!!!ちょっと!!!」

黒子「お姉さまと離れるなんて!!!黒子はぁ!!!黒子はぁあああああ!!!!ほひょぉぉぉぉぉおお!!!!」

御坂「だぁああらぁあああ!!!!」
御坂の体が放電する。

黒子「うぎぃぃぃぃぃ!!!!久しぶりですのおおおおお!!!!」

8: 2010/04/20(火) 00:56:26.82 ID:pqf.Puk0
数分後。

毛先が少し縮れている黒子が御坂の方を向きながら自分のベッドに腰掛けていた。
御坂はさっきと同じ姿勢で寝そべっていた。

黒子「…離れるどころかあの類人猿と一緒に行くなんて……これは正に試練ですの……」

御坂「えへへへへ…そう…一緒に行くの。あいつと一緒一緒♪」
寝そべり、顔を黒子のほうに向けたまま御坂はニヤニヤする。

黒子「全く……お姉さま。一つ言わせて頂きますの」

御坂「なぁに?」

黒子「あの殿方には修道服を着た方がいますの。お姉さまは気付いておられないようですが、あの関係はどう見ても―――」

御坂「うん。知ってる」

黒子「」

御坂「いいの」

黒子「お、お姉さま…?」

御坂「そりゃ悔しいけど…でもあいつが笑ってくれるなら良いかなって」

黒子「…んまぁ……」

10: 2010/04/20(火) 01:06:42.25 ID:pqf.Puk0
御坂「それに……確かにあたしはあいつにそういう風に見られてないけど…」

御坂「でも大事に思ってくれてる」

御坂「あの子には負けるけど、でもあたしの事も凄く大事にしてくれてる」

黒子「お、お姉さま……」

御坂「大満足ってわけじゃないけど、それでも充分嬉しいかなって」

御坂「あいつが笑ってくれて、それでその顔が見れるなら何だって良いの」

黒子「なんと……まあ……」

御坂は四六時中上条の事を強く想い続けるあまりある種の境地に達してしまったのだ。
正に『聖女』だ。少なくとも黒子の目にはそう映った。

黒子「素晴らしい……美しいですの…お姉さまが今まで以上に輝いて見えますの…後光が差しておりますの……!!!」
黒子がプルプルと震え始める。

御坂「……でも…諦めたわけじゃないから」

黒子「……ん、んん?」

御坂「隙があったら押しまくるわよ。残念ながら今のところ隙は無いみたいだけど」

御坂「でも一つくらいあるでしょ?何年でも何十年でも待つわよ」

御坂「最後に一緒の墓に入ったほうが勝ちなんだから」
御坂が狡賢そうな笑みを浮かべた。

黒子「……」
黒子の見解は外れていた。
どうやら『聖女』ではなく、メーターが振り切れてぶっ飛んでしまったようだった。

黒子は思った。
どう足掻いても御坂には勝てないと。

―――

12: 2010/04/20(火) 01:14:10.93 ID:pqf.Puk0
―――

上条宅。

上条「ふぅ~」
風呂から上がり、歯磨きを終えたところだ。

タオルを肩にかけ、バスルームのドアを開けリビングにでる。

白いパジャマを着てもう寝る準備が出来ているインデックスがベッドに寄りかかりながらテレビを見ていた。
芸人が出ているのであろう。賑やかなざわめきがテレビから発せられていた。

禁書「おかえりなんだよ!ちゃんと暖まったかな?」

上条「おう、ほかほかで上条さんは幸せですよ!」

この時期、長時間夜風に吹かれるのはさすがに身に応える。

そのおかげ(?)で家に着いた時、
繋いでいた手がかじかんで中々外れなかったというささやかな事件があった。

上条「さて…」
玄関に向かい、やや大きめのバッグを開ける。
忘れ物が無いかどうか荷物の再点検だ。

上条「…おし……全部あるな」

別に忘れてもトリッシュがいればすぐ戻れるのでどうにかなるだろうが、
無償でお世話になるのだ。できるだけ迷惑をかけたくない。

病院にいた時にステイルから聞いたが、通常のダンテの依頼料は、
僅か数分で終わるような簡単な仕事でも日本円に換算すると最低でも数十万単位らしい。

そのダンテを数週間拘束するなどとんでもない額になる。

13: 2010/04/20(火) 01:21:05.48 ID:pqf.Puk0
イギリスもネロをアドバイザーとして雇うのに、
学園都市製の最新鋭の戦闘機が数機買える程の金を積んだという。

あのスパーダの一族だ。それでも安いだろう。

ダンテやネロ達は別に金にはこだわり無く、気に入ったらタダでも依頼を受ける。

というかネロは寄付したりフォルトゥナ復興の為に使い、ダンテの場合はレディ等に持っていかれる為、
両者の手元にはほとんど残らない。


だがそこは人間側の、依頼する側の体裁というものだ。
人間にとっての額の多さはその契約の信頼度・重要度を表すものだ。

ましてやイギリスの場合は国家としてのプライドがある。


そんな話を聞いて上条は鳥肌が立ったが、幸いにも今回は報酬無しでやってくれるらしい。
どうやらインデックスのおかげらしいが彼女はあまり詳しくは話してくれなかった。

そんな事で、貧乏・質素倹約が板についている上条は、ダンテとトリッシュにとにかく迷惑をかけないようにと心に決めていた。
それこそご飯仕度や掃除など何でもやるつもりだ。

そして上条のせいで同行するハメになった御坂にもだ。
(御坂は嬉々として行くが)

上条「よし…」
上条は立ち上がり、玄関から離れると机を挟んでインデックスの向かいに座った。

14: 2010/04/20(火) 01:26:37.87 ID:pqf.Puk0
上条「ふひ~、あちいあちい…お?」
シャツをパタパタと捲り扇ぎながら携帯を開く。
御坂からメールが来ていた。

禁書「とうま~湯冷めしちゃうんだよ~」
インデックスがテレビの方を向きながら気の抜けた声で言う。

顔を見なくても分かる。眠いのだろう。昨日から色々あって疲れが溜まっているはずだ。

上条「へいへい~」
御坂からのメールを見ながら軽い返事をする。

明日からの事についての業務的な内容だったが、
その下の方には、可愛らしい絵文字が使われたまるで旅行に行くようなテンションの文があった。

上条「(あいつ……俺の為にこんなに明るく振舞って……うう…)」
御坂は本当に楽しみなのだが、当然の如く上条は勘違いして受け取った。

上条「ん?」
ふと気付くと、小さな寝息が聞こえていた。

顔をあげると、インデックスが目を瞑っていた。頭がゆらゆらと揺れている。

上条「そうだな……もう寝るか」
御坂に手早く返信し、目覚めのアラームを設定して携帯を閉じて机の上に置いた。

目覚まし時計もあるのだが、明日は絶対に寝坊は出来ない。
上条もそれなりに疲れが溜まっているので、ほっとくと昼まで寝てしまいそうなのだ。

15: 2010/04/20(火) 01:32:52.18 ID:pqf.Puk0
上条「よっこらせっ……とな」
上条は静かに立ち上がり、テレビの前まで行きくと屈んで電源を切った。

その時だった。

上条「…ッ」

消えたテレビに映った自分の顔。

瞳が赤く輝いていた。
その光はすぐに消えたが、上条はそのままの姿勢で数秒間固まっていた。

上条「……」
インデックスの方を向き、彼女を抱き上げようと膝の裏と背中に手を回した。

上条「……よっと」
立ち上がり持ち上げる。
すんなりと特に重みも無く。

上条「……」
インデックスが軽いのではない。

この感覚は前にも経験済みだ。


上条の腕力が異常に増しているのだ。


上条「…わかってるさ……わかってる…」

16: 2010/04/20(火) 01:37:07.89 ID:pqf.Puk0
上条はインデックスを静かにベッドの上に降ろし、優しく掛け布団をかける。
そして電気を消した。

カーテンの間から月明かりが差し込み、インデックスの透き通るような白い肌を淡く照らす。

そっとその顔を撫でる。

しっとりしつつハリのある肌。
女の子特有の甘美な香りがほのかにしてくる。

細い首。パジャマの襟の間から鎖骨が見える。

上条「……」
上条はただ見つめていた。
いつもなら思春期男児特有の欲情が湧いてきただろう。
いや、今もその感情が一切無い訳ではない。

飛び掛りたいという下劣な思いも確かにある。

だがそれ以上に。

その感情が脇に簡単に押し退けられてしまうほどに。

上条は彼女の事を『純粋』に『美しい』と思った。
あまりにも美しく、触れると壊れてしまいそうだ。

天使とはこういうのを言うんだろうな と上条は思った。

実際に存在している『天使』ではなく、芸術的概念で言う『天使』だ。

17: 2010/04/20(火) 01:40:50.24 ID:pqf.Puk0
上条はベッドの脇に座った。
ベッドに軽く肘を付き、インデックスの寝顔を見つめる。

いつものようにバスルームで寝ようと思っていたが、考えが変わった。
できるだけこの『天使』の姿を目に焼き付けておこうと思ったのである。

寝ている女の子を、本人の知らない間に見まくるというのはいただけない。
それは上条の良心にも思いっきり引っかかる。

だが今日だけは。

上条「今日ぐらいは……神サマだって許してくれるさ…」

今日ぐらいはわがままをしてもいいだろう。

インデックスの顔を眺めながら小さな声で呟く。

上条「俺、絶対に戻ってくるからな」

上条「全部…今までどおりに戻る…」


上条「また一緒に笑って」

上条「一緒に泣いて」

上条「一緒にご飯を食べて」


上条「一緒に暮らそうぜ」

18: 2010/04/20(火) 01:45:57.62 ID:pqf.Puk0
上条「一緒に冒険…いやそれはもうお腹一杯だな」

上条「……平和に暮らそうぜ」

小さな寝息を立てているインデックスに向けて言葉を続ける。

上条「そうだ…俺、言ってないことがあるんだ…」

上条「俺……記憶が無いんだ…」


上条「お前と会った頃の……あの時の俺とは違うんだ…」


上条「……」


上条「…俺」


上条「俺、お前の事が―――」


上条「―――」


上条は言った。
素直な気持ちを。

当然、寝ているインデックスからは反応は返ってこない。

19: 2010/04/20(火) 01:48:12.09 ID:pqf.Puk0
上条「……ぶっ…はははは」
上条は小さく笑った。

あまりにも卑怯で無様だ。ムードもクソも無い。
それどころか相手は寝ているのだ。

これがネロなら強くストレートに、ダンテならクールにカッコよく、
最高のオーラを放って起きている相手にキメただろう。

上条「……まだまだですね上条さんは…今のはナシで」


上条「戻ったらちゃんと言うよ」


上条「戻ったらな……」


そのまましばらくインデックスの顔をぼんやりと眺め続けた。
そしていつしか眠気が襲ってきて、上条はベッドに顔を突っ伏した。
ほのかなインデックスの香りの中で、上条はまどろみへ落ちて行った。

夜が更けていく。


上条は知らない。知る術がないだろう。

しばらくの後に彼が『戻った』とき。

最愛の少女は彼の言葉を『聞ける』状態では無いという事に。

―――

36: 2010/04/20(火) 23:03:48.09 ID:pqf.Puk0
―――

事務所『デビルメイクライ』の地下のトリッシュの仕事部屋。

薄暗く埃っぽい部屋の壁は全面が本棚で覆い尽くされており、
本棚に入らない書物がその前に平積みにされていた。

あちこちに魔具や魔界の言語が書かれた古めかしい紙、魔導書が無造作に積みあがっている。

人間が入るには余りにも危険すぎる部屋だ。

トリッシュはその部屋の中で、書物の山を漁っていた。
アレイスターに見せたいものがあるのだ。

それはトリッシュが長年研究してきた『人間界』についてのレポート。

トリッシュから見れば、先の寿命の件の他にも人間界にはおかしい点がある。

『力』についてだ。

魔界も天界も全ての世界は元は同じ『種』から成長した。
だがなぜ人間界だけ、人間界に住まう者達だけがこんなにも非力なのか。
数多の世界があるが、その弱さはダントツの最下位だ。

そういう法則が元からあったとしても余りにも弱すぎる。
まるで『何か』によって強引に押さえつけられているような感じだ。

そしてその『何か』の拘束は、2000年前の魔界による侵略防がれた直後から更に強まった気がする。
そう、天界からあの『神の子』が降りてきた時期から。

37: 2010/04/20(火) 23:09:53.35 ID:pqf.Puk0
『天界』がこの件に何らかの形で関っているかもしれない、とトリッシュは思った。
魔界と比べればその力は小さいが、一癖も二癖もある油断できない勢力だ。

神として降り、信仰を集める。更には力を垂れ流し、人間はそれを『魔術』と称して使っている。
フォルトゥナ等魔界から力を引き出している人間達もいるが、天界の場合は自らが進んで放出しているのだ。

なぜ天界の神々はこんなに人間界に関っているのだろうか。

そしてなぜ。

人間界そのものの『神』はいないのだろうか。

魔界には魔帝をはじめ何人もの『神』が歴史上登場した。
天界なんか今でも多数の『神』が乱立している群雄割拠だ。

魔界の神も天界の神も、元々は熾烈な競争を這い上がってきた強者だ。

ではなぜ『人間』の中からそういう者が這い上がって来ない?

なぜ人間界から『神』は生まれない?

なぜ人間界そのものの『力』が使えない?

38: 2010/04/20(火) 23:13:36.02 ID:pqf.Puk0
トリッシュはダンテと共に人間界に住まうようになってからその異常な点に気付いた。
そしてしばらく調べてみたものの、疑問を解決する手がかりはないまま月日は過ぎた。

いつしか『学園都市』、『超能力』という言葉を耳にするようになったが、
それも天界の力を行使する魔術の一種だろうと思っていた。

二ヶ月前までは。

だが実際にその力を目の当たりにし、自分の予想が外れていたことが分かった。

彼等の『能力』は天界でも魔界のものでもない、全く別の力だった。

そしてトリッシュの頭に一つの説が浮かんだ。
この『能力』こそが『何か』によって押さえつけられていた人間界そのものの『力』の一部ではないのか? と。

そして能力について調べ始めた結果、
『魔術』は『能力者』に対抗する為に構築された、『能力』と『魔術』を同時に見に宿すと肉体が破壊される、
と言われているらしい事がわかった。

トリッシュは思った。やはり天界の曲者共が何らかの形で関っているかもしれないと。
トリッシュは天界の事が嫌いだ。

中にはそれこそ人間に崇拝されるに相応しい良心的な者達もいるが、大半は自らの権力の拡大に固執している。

それも魔界のように潔い力と力の正面衝突ではなく、姑息でセコイ手段を使ってだ。

ついこの間、天界の一部の者達ととある人間達の教団がジュベレウスを復活させようとしたが、それでも纏まらなかったのだ。

そんな天界が人間界に何らかの形で関っているとしたら。
そしてそれが人間を虐げるものならば。

『デビルメイクライ(こちら側)』としては黙っているわけには行かない。

39: 2010/04/20(火) 23:18:29.63 ID:pqf.Puk0
トリッシュ「あった」

トリッシュが書物の山から一枚の古めかしい紙を引っ張り出した。
魔界の言語だが、アレイスターなら大体はわかるだろう。

全部読んでもらわなくてもいいのだ。

トリッシュがその人間界の『謎』に気付き意識しているというのを伝えられればいい。

言葉で喋るのも良いが、こうして実際の研究資料を直接見せたほうがインパクトがあるだろう。
こちらの本気度がわかるはずだ。

あの男は恐らくこの謎の答えを知っているはずだ。

そしてあわよくばもっと情報を得ることが出来るかもしれない。
力ずくで吐かせる事もできるが、相手は学園都市のトップだ。人間の社会的に少しマズイ。

トリッシュ「ふふ…」
トリッシュは小さく笑った。

計画に無かった思いつきの行動だが、それもまた楽しい物だ。
トリッシュだってダンテ程ではないがたまには思いつきで行動することもある。

あのアレイスターがどんな反応をするか。

人間の反応を見るのは面白いのだ。

トリッシュ「さて、『坊や』、今行くからね」

その古い紙をひらひらさせながらトリッシュは黒い円に沈んでいった。


―――

40: 2010/04/20(火) 23:22:29.09 ID:pqf.Puk0
―――


バッキンガム宮殿の一室。

薄暗い質素な部屋に、神裂、ネロ、最大主教、そして女王エリザードがいた。

この埃っぽい部屋は女王がいるにはあまりにも相応しくないが、何百年も前から王室が使っていた秘密の場所である。
結界が何重にも張られ、いざという時のシェルターでもあるのだ。

中央に大きな机があり、上座に女王が座していた。
その右側に最大主教が座り、神裂は下座の方に立っていた。
ネロはドアの横の壁に寄りかかっていた。

神裂は先日の『謎の襲撃者』について報告していた。

世界最高峰の魔術的要塞である聖ジョージ大聖堂に易々と侵入し、
そして天使化していなかったとはいえ、この神裂を圧倒した女だ。

目的はわからない。

トリッシュの提案で、この件は保留する事となった。
今現在、イギリス国内の悪魔掃討、そして例の『覇王』の事件の調査で手が一杯なのだ。

実際に戦った神裂は、これ程の新たな脅威を放置するのは納得しづらかったが、
この目の前にいるイギリスのトップ二人がトリッシュの案に同意した為従うしかない。

42: 2010/04/20(火) 23:26:53.23 ID:pqf.Puk0
エリザード「ふむ……お主の刀を見て退いたのか」

神裂「はい」

最大主教「ネロ殿。どう思いになりける?」

ネロ「……」
実はまだ、魔具と化した神裂の七天七刀の『親』がバージルだということは誰にも言っていない。

言うか迷ったが、先にトリッシュやダンテに言った方がいいだろう。
この場は適当に流すを事にした。

ネロ「さぁな」
ネロは軽く首を傾けて肩を竦めた。

エリザード「お主でもわからぬか……」

エリザード「ご苦労。戻ってもいいぞ」

神裂とネロがドアの方へ向く。

ネロが木製の分厚いドアを開け、レディファーストで神裂を先に行かせた。
そして自分も出ようとした時。


最大主教「ネロ殿。そなたにはもうしばし話がありけるのよ」

ネロ「あ?」

43: 2010/04/20(火) 23:30:15.88 ID:pqf.Puk0
エリザードが扉の向こうの神裂に合図をする。

その意味を悟った神裂は部屋から離れ廊下を進んでいった。
ネロが扉を閉める。

ネロ「秘密の話ってか?何だってんだ?」
ネロがめんどくさそうな表情でエリザードへ目を向けた。


エリザード「『自動書記』についてだ」


ネロ「なんだそりゃ?」

最大主教「禁書目録の自動防御及び制御魔術でありけるの」

ネロ「で?」

エリザード「それの遠隔制御霊装がの」


エリザード「四日前の深夜に強奪されてな」


ネロ「……」
四日前の晩、つまり例の覇王の事件の時だ。

44: 2010/04/20(火) 23:34:39.10 ID:pqf.Puk0
エリザード「あの混乱を利用されたのだ」

神裂・ステイル・ネロは人工悪魔と不完全ながらも現出した覇王と戦い、シェリーは北部で上条達を保護、
バッキンガム宮殿を守っていた騎士団長ら騎士の精鋭部隊は王室の避難に付き添った。

戦力が分散し、一時的にバッキンガム宮殿の防備が手薄になったのだ。

ネロ「どういう物なんだそれは?」

エリザード「その名の通り、禁書目録の自動書記を遠隔操作できる。つまり禁書目録の行動を制御できるのだ」

最大主教「そして禁書目録内の『記録』も引き出せる事が可能でありけるのよ」

エリザード「もちろん、フォルトゥナ製の『魔界術式』の魔導書もな」


ネロ「へぇ……犯人は?」


最大主教「それが分かりけるなら苦労はせぬの」


エリザード「だから今、全力で調べているのであろう」


ネロ「……なるほどね」

強大な力がある者が襲撃してきたにもかかわらずその件を保留し、
未だに手がかりがつかめない、特定できそうも無い、
四日前の事件の黒幕探しに全力を注いでいるのはその為だろう。

45: 2010/04/20(火) 23:40:13.44 ID:pqf.Puk0
エリザード「ウィンザーに残留していた力と、宝物庫に残留していた力が完全に一致したのだ」

最大主教「同一犯、もしくは同組織の犯行」

ネロ「神裂達には教えねえのか?」

最大主教「ふふ、色々事情がありけるのよ」

最大主教がイタズラ好きそうな笑みを浮かべる。
彼女は結構な歳だが、見た目は『かなり容姿の整った18歳』だ。

だがそんな可愛らしさもネロには逆効果だった。

ネロ「……(好けねえババアだ)」

エリザード「これは最高機密だ」

ネロ「……で、俺に手伝えと?」

エリザード「うむ。手を貸して欲しい」

ネロ「悪魔掃討はどうする?」

エリザード「もちろん、平行して」


ネロ「チッ……」

どうやら更に忙しくなるようだ。
だが断るわけにも行かないだろう。

イギリス側は最後の頼みの綱としてネロに頼んでいるのだろう。
国内の仕事がおろそかになる危険を知っていながらだ。

46: 2010/04/20(火) 23:43:58.04 ID:pqf.Puk0
エリザード「現状を見る限り、まだ使用されてはいないようだ」

エリザード「だが盗って行ったからにはいずれ使う気なのは間違いない」

ネロ「だろうな」

最大主教「よきかしら?」


ネロ「……良いぜ。その依頼も受けてやる」


エリザード「当然、報酬は上乗せする」

ネロ「別にいらねえよ。その金でウィンザーの街でも直すんだな」

エリザード「それはありがたい」

エリザード「後々、そうだな……明日辺りからでも動いてもらおうぞ」

ネロ「……OK」

ネロはそっけなく返事をしながら二人に背を向け、扉を乱暴に開けて出て行った。


―――

47: 2010/04/20(火) 23:47:00.39 ID:pqf.Puk0
―――

窓の無いビル。

アレイスター「……」

水槽の前5m程の所にトリッシュが立っていた。

アレイスター「何の用だ?世間話しにきたのではないだろう?」

トリッシュ「ええ」
トリッシュがニヤリと笑い、右手に持つ紙を顔の横にあげる。

アレイスター「何だそれは?」

トリッシュが無言のまま笑みを浮かべ、水槽の方へ歩いていく。
そしてアレイスターが読めるように、逆さまに紙を水槽に押し付けた。


アレイスター「…………」


トリッシュ「へぇ……」

人間なら気付かないだろう。

だがその紙を見た瞬間。

アレイスターの心拍数があがり、僅かに彼の心がブレたのをトリッシュは察知した。

48: 2010/04/20(火) 23:50:43.09 ID:pqf.Puk0
アレイスター「………」

トリッシュ「どう思う?私間違ってるかしら?」

アレイスター「……そこに気付くとは……さすがだな」

トリッシュ「ありがと」

アレイスター「……」
トリッシュは一体どこまで知っているのだろうか。
なぜこのタイミングなのか。

そして。

アレイスターの目的に感づき始めているのだろうか。

全てを見通す彼の目でも、トリッシュの真意は見えなかった。
彼女はただ不気味に笑っていた。

49: 2010/04/20(火) 23:55:10.32 ID:pqf.Puk0
トリッシュ「あら、かわいい顔するじゃないの。あなたもやっぱり人間ね」

アレイスター「……」

このタイミングでこれを伝えるか。
この金髪の妖艶な女が何を考えているのかわからない。

これ以上関らせるのを阻止する為に、上条当麻の学園都市外への『連れ出し』を却下することもできる。

だがそんな事をしたってどの道彼らは易々と連れ出してしまうだろう。
彼らが はいそうですか と悪魔化している上条をほおっておくはずも無い。

なにせ上条の体の中の力はあのベオウルフのものなのだ。
そこらの雑魚悪魔ならまだしも、大悪魔レベルとなれば彼らとしても黙って見ているわけにはいかないだろう。

わざわざアレイスターに許可を求めに来たこと自体がかなり良心的なのだ。

アレイスター「……」

慎重に言葉を選ばなければならない。
この場での選択を間違えば、最悪プランが完全に瓦解する可能性がある。

元々悪魔達の思考など予想がつかない。
似た部分は多くあれど、根本的なところが全く別物だ。

50: 2010/04/20(火) 23:58:33.50 ID:pqf.Puk0
アレイスター「……何が知りたい?」

トリッシュ「そうね…」
トリッシュが小首を傾げ、色っぽい半目をアレイスターに向ける。

トリッシュ「じゃあ、今の私の考えを簡単に述べるから、よかったら添削して?」

アレイスター「……話せ」

トリッシュ「寿命。あれは人為的なモノ。人間界の外の『誰かさん』が作った」

トリッシュ「人間の魂は固く繋がれ、生氏の『運命』は外部から操作されている」

トリッシュが両手を広げてアレイスターの返答を促す。

アレイスター「……続けて」

トリッシュ「そしてそれと同時に人間界の真の姿が隠蔽されつづけている。今の人間界の姿は偽物」

アレイスター「……」

トリッシュ「『能力』は『それ』が僅かに溢れ出てきたもの。つまり人間界そのものの力」

トリッシュ「で、『誰かさん』はそれを処分するために能力の無い人間に力を与え、『魔術』として行使させた」

トリッシュ「それでしばらくは安定していた」

アレイスター「……」

51: 2010/04/21(水) 00:03:32.39 ID:gOAfcgs0
トリッシュ「でも月日が流れ、人間が『科学』を手にした時、その安定は覆された」

トリッシュ「『とある人間』がその『科学』を使って能力者を人工的に増やしたから」
トリッシュがアレイスターの目を真っ直ぐ見つめる。

トリッシュ「『誰かさん』達は人間がここまで頭を使える種族とは思っていなかったみたいね」

トリッシュ「そしてその『人間』は徐々にその力を引き出し強め、範囲を広げていっている。『AIM拡散力場』と呼んで」

トリッシュ「で、その『人間』の目的は?」

トリッシュ「戦争?」

トリッシュ「報復?」

トリッシュ「力を解放して己が人間界の神になる?」

トリッシュ「人間界を新しく作り直す?」


トリッシュ「それとも人間達の魂の解放?」


トリッシュ「どう?」

アレイスター「……言う事は無い」
それは間違っている部分が無いという意味か、それとも何も教えないという意味か。

トリッシュ「……」

52: 2010/04/21(水) 00:07:40.66 ID:gOAfcgs0
アレイスター「少し補足を付けてあげよう」

トリッシュ「あら。嬉しいわね」

アレイスター「スパーダがやってくる遥か前、人間界にも『神々』や『天使』がいた」

トリッシュ「……」

アレイスター「人間界の中にも『天界』と呼べる層が存在していたのだよ。魔界での魔帝の『玉座の界』のようにな」

トリッシュ「……」

アレイスター「ある時、彼らは不意をつかれ『奴等』によってその『界』ごと封印された」

アレイスター「『神』はバラバラにされ、『天使』は『器』を砕かれた」

アレイスター「その時から人間界は力の根源を失ったのだ」

アレイスター「そして侵略者の『奴等』が入れ替わりに『神』と称して降臨し、人間達の魂を『鎖』に繋いだ」

トリッシュ「そんな事があったのね」

アレイスター「当時の出来事は人間の歴史から抹消された」

トリッシュ「へぇ」

アレイスター「ふん、こんな辺境の小さな世界など魔界は一切意識してはいなかっただろう」

アレイスター「それに君達は多くの世界を滅ぼしている最中で忙しかっただろう?」

トリッシュ「ふふ、そうね」

53: 2010/04/21(水) 00:10:24.93 ID:gOAfcgs0
アレイスター「だがその『界』と『力』が失われたわけでは無い」

アレイスター「事実、『力』は能力として現出している。そして『神』や『天使』達も氏んではいない」


アレイスター「私はその『天使』の一人と会った」


トリッシュ「……へぇ…私も会いたいわね」


アレイスター「そう簡単に会わせる訳にはいかないよ。こちらも色々事情があるのでな」

実はもしかしたら二ヶ月前に人間界側の戦力として
動員されていた可能性があったのだが、それは言う必要は無いだろう。

アレイスター「……今言えるのはここまでだ」

トリッシュ「いいわ。面白い話聞かせてくれてありがとうね」
トリッシュは紙を丸め、それを顔の横で軽く振った。

トリッシュの足元に黒い円が浮かび上がった。


アレイスター「待て。こちらも聞きたいことがある」

54: 2010/04/21(水) 00:13:08.05 ID:gOAfcgs0
トリッシュ「何?」


アレイスター「なぜスパーダはこれを黙認していたのだ?」


スパーダは人間の味方だ。
ではなぜ魂が虐げられ自由を失っていた人間達を解放しようとしなかったのか。

彼程の力なら解放することはできただろう。


トリッシュ「さぁ」

アレイスター「君でもわからないのか」

トリッシュ「スパーダが何を思っていたのかなんて彼自身にしかわからないわよ」

アレイスター「……」


トリッシュ「でもただ一つ言える事は」


トリッシュ「彼が愛したのはその時の『力なき弱き人間達』だったってことね」

55: 2010/04/21(水) 00:15:34.49 ID:gOAfcgs0
アレイスター「……」

トリッシュ「もし人間界が力を失ってなかったら」

トリッシュ「彼の心を揺さぶる事は出来なかったかもしれないわね」

アレイスター「……最後にもう一つ」

トリッシュ「どうぞ」


アレイスター「私の目的。その答えを知りたくは無いのか?」


トリッシュ「知りたいわよ」

アレイスター「ではなぜそこを直接聞かない?」

トリッシュ「だって、楽しみじゃない?」


トリッシュ「人間が懸命に足掻いて自分自身の力で立ち上がる姿はイイ物よ」


トリッシュ「その目的がどうあれね。それはあなた達『人間の歩み』なんだから」

56: 2010/04/21(水) 00:18:30.31 ID:gOAfcgs0
『人間の歩み』。

その歩みに『外』からの意思が関与しているのならばダンテ達は介入するだろう。
だがこれは人間自身が決めた行動だ。

『今のところ』はダンテ達が割り込む余地は無い。

ダンテ達は人間同士の戦争などにも介入しない。
その行動目的が悪意であろうと、当事者が人間である限りそれは『人間の歴史』だ。

それもまたダンテ達が守るべき人間の一面なのだ。


アレイスター「……」

トリッシュ「ま、楽しみにしてるわね」


トリッシュ「でも」


だが『今のところ』だ。


トリッシュ「『見てる』からね。常に」

57: 2010/04/21(水) 00:21:13.49 ID:gOAfcgs0
この件は人間界だけの問題では無い。
いずれ『外』とも摩擦を起こすだろう。

アレイスター「……」


トリッシュ「じゃあね」
トリッシュが笑みを浮かべながら黒い円に沈んでいった。


アレイスター「……」

果たしてダンテ達が敵となるか味方となるか、それとも最後まで傍観するのか。
その時になってみなければわからない。

アレイスターにも予測できない。

だが彼は止まるつもりは無い。
もし刃を交えなければならなくなったら。

全力で戦うまでだ。
勝ち目が無くてもだ。

それが全てを捨て、この道を信じ進んだ彼の信念だ。

―――

58: 2010/04/21(水) 00:23:06.06 ID:gOAfcgs0
―――

翌日の正午ちょうど。

とある病院の会議室。

ここに上条、インデックス、ダンテ、御坂、そして一方通行と土御門がいた。
上条は大きなショルダーバッグを肩に掛け、御坂は彼女の体に似合わぬほど大きなキャリーバッグを脇に置いていた。

インデックスは着替え等が入った小さなバッグを持ちながら上条の隣に立ち、
ダンテはソファーに寝そべり小さな寝息を立てていた。

上条はそんなダンテを見て少し面白かった。
あのダンテがこんなに可愛らしい寝息を立てるとはかなりギャップがある。

まあ、逆に豪快なイビキをかくのもなんか似合わない気がするが。

別のソファーには一方通行と土御門が座っていた。

土御門はアレイスターの代理として見送りに立ち会うことになったらしい。
インデックスはこの後そのまま一方通行と共に行動する手はずになっている。

上条「……」

落ち着かない。
旅行に行く直前の、空港で飛行機を待っているような感覚だろうか。

隣にいるインデックス、そして近くにいる御坂もそわそわしているのが分かる。

60: 2010/04/21(水) 00:27:07.77 ID:gOAfcgs0
禁書「とうま……」
インデックスが上条の袖を引っ張る。

上条「な、何だ?」
上条はインデックスの顔をぎこちなく見下ろした。

少し照れくさいのだ。
あのままベッドの脇で突っ伏したまま寝てしまい、朝起きた時はなんとインデックスが彼の頭を抱きしめていたのだ。

その前の晩は少し自分のわがままを許したが、さすがにこの朝の件のレベルまでは無理だった。
上条は動揺しながらすぐに跳ね起きた。

幸いな事にインデックスは起きなかった。

果たしてインデックスはそれを知っているのだろうか。
寝てるままの無意識でそうしたのか、それとも一度起きてそうしたのか。

上条にそれを聞く勇気は無かった。

禁書「電話するんだよ」

上条「お、おう、毎日するぜ」

そんな二人の会話(主に上条)を見ながら、
御坂は一見すると穏やかだがどこかに陰のある笑みを浮かべていた。

御坂「(……あたしは一緒に行ける。あたしは一緒に行ける。だから悔しくないだから悔しくない)」

61: 2010/04/21(水) 00:32:02.20 ID:gOAfcgs0
土御門「……最近随分とお熱いぜよ、あの二人」
土御門が隣に座っている一方通行を肘で突きながら呟く。

一方「知ッたこッちゃねェよ」

土御門「手出すなよ?」

一方「氏ね」

土御門「まぁ、お前にすればちょっと成長しすぎか。心配ないにゃーかみやん」

土御門「それにこいつには愛しい愛しいラストオーダーちゃんもいるから大丈夫だぜよ」

一方「テメェいつかマジで頃してやる」


そうやってしばらく適当に時間を潰していると、
部屋の中央に黒い円が浮き上がりトリッシュが現れた。

トリッシュ「揃った?行くわよ」

一方通行と土御門が立ち上がり、
インデックスと上条、そして御坂が緊張のせいか特に意味も無いが姿勢を正した。

トリッシュ「……」

相変わらず寝息を立てて安らかに眠っているダンテにトリッシュは視線を落とす。
そして歩いて近付きソファーを強く蹴った。

62: 2010/04/21(水) 00:35:49.30 ID:gOAfcgs0
ダンテ「……んぁ……」

トリッシュ「起きなさい。時間よ」

ダンテが髪を掻き上げながらかったるそうに上半身を起こす。

ダンテ「……時間かッッッ……ぁぁぁあ」
そして体を伸ばして大きな欠伸をした。

土御門がトリッシュの方に向かう。

土御門「かみやんの事頼んだぜよ。規則は守ってな」

トリッシュ「ええ」

土御門「なあ、聞いていいか?アレイスターに何か言ったか?」

先ほどアレイスターの所に呼ばれたとき、彼は見るからに不機嫌だった。
感情の欠片すら今まで見せてこなかったアレイスターが、眉間に皺を寄せてしかめっ面をしていたのである。

あんな顔を見るのは初めてだ。

トリッシュ「さぁ」
トリッシュは軽く流した。心当たりは大有りだが。

土御門「そうか……まあいいぜよ」

土御門は上条の方へ向いた。

土御門「かみやん」

上条「おう」

63: 2010/04/21(水) 00:39:41.82 ID:gOAfcgs0
土御門「頑張るんだにゃー」

上条「ああ」

土御門「できれば俺にも毎日電話欲しいにゃー」

上条「そ、そうか……いいぜ!」

土御門「……冗談だぜよ。かみやん緊張しすぎだにゃー!」

上条「あは、ははははは…」
上条がばつが悪そうに苦笑いする。

土御門「まあ、インデックスは任せるんだにゃ。24時間とはいえないが、俺も見張るぜよ」

上条「そいつは頼もしいぜ!!ありがとな!!」


土御門「『膜』もしっかり守るにゃー。あの口リコンにはやらねえぜよ」


上条「ぶッ!!!バカッてめぇ!!!!!い、いらねぇよ!!!い、いや、違う!!そ、それはマジで困る!!!」

上条「い、いやいや!!!ち、違う!!!そういうことじゃなくてな!!!ぁああ!!!!」
上条が手を激しく動かしながら動揺する。

何のことを言っているかわからないインデックスと御坂はキョトンとし、
一方通行は額に青筋を浮かび上がらせていた。

トリッシュとダンテはニヤニヤしながら生暖かい目で上条を見ていた。

土御門「はっは~落ち着くにゃ。ちょっとからかっただけだぜよ。ほら、体がほぐれただろ?」

65: 2010/04/21(水) 00:45:05.07 ID:gOAfcgs0
上条「…………………………はぁ……」
緊張は確かに無くなったが、逆に力が抜けすぎてしまった。


トリッシュ「さて、禁書目録」

一方「おィ」
一方通行がインデックスに顎でこっちに来いと合図をする。

インデックスが上条の正面に行き、顔を見上げた。

禁書「……」

上条「アクセラレータ」

一方「あァ?」

上条「頼んだぞ」


一方「チッ……俺を誰だと思ッてやがンだァ?」


一方「サッサと済ませて帰ッてこィや三下ァ」


上条「おう!」

66: 2010/04/21(水) 00:47:38.13 ID:gOAfcgs0
ダンテとトリッシュが上条と御坂の方へ向かい、二人を挟むように並ぶ。

禁書「トリッシュ」

禁書「短髪」


禁書「ダンテ」


インデックスが順に三人の顔に目を向けていく。

トリッシュ「ええ」

御坂「う、うん」



ダンテ「任せろ。お嬢ちゃん」



インデックスが再び上条の顔を見上げた。

上条「大丈夫だ」

禁書「……絶対に戻ってくるんだよ」

上条「おう」

67: 2010/04/21(水) 00:51:27.61 ID:gOAfcgs0
禁書「……約束して」

上条「誓うよ」

禁書「絶対なんだよ」

インデックスが左手を上条に伸ばした。
上条は右手で優しく掴んだ。


上条「絶対戻って来る」


御坂「……(あばばばばばばば)」

トリッシュ「行くわよ」
四人の足元に大きな黒い円が浮かび上がり。


禁書「とうま」

上条「インデックス」


そして姿が消えた。
インデックスの左手から暖かい感触が消えた。

彼女はそのままの姿勢で数分間立ちつくしていた。
背後の二人はその間何も言わず、ただ黙って待っていた。

―――

上条覚醒編 おわり

81: 2010/04/22(木) 23:08:32.55 ID:EXBrS4Y0
上条修行編

―――
『こちら』の時刻は深夜。


上条「ここが……」

御坂「………へ?」

四人は事務所デビルメイクライの一階に立っていた。
床は木目、壁は石造りで洋風の古い建物だ。

一階はホールとなっていた。

壁には得体の知れない金属の彫刻らしき物や、
何か得体の知れない剥製のような物がたくさん雑に掛けられている。

あちこち傷だらけのビリヤード台、所々カバーの剥げたくたびれたソファー。
所々色がくすんでいるドラムやギター。
ホールの隅にある古いジュークボックス。

そしてホールの中央辺りに置かれている大きな机。
机の上には古いレトロな電話と積み上げられた雑誌。
その後ろには大きめの『二つ』の椅子があった。

その机と椅子の後ろ側は物置のように様々なガラクタが積み上げられていた。

82: 2010/04/22(木) 23:12:59.80 ID:EXBrS4Y0
上条「おおお……」
上条はホールの中をまじまじと見渡した。

以前ベオウルフを介してダンテの記憶も見た。当然この事務所も見た覚えがある。
だが実際に来て見るとやはり違う。妙に感動する。

あのスパーダの息子、ダンテの家なのだ。
その感動もまた記憶を見た上条だからこその物だろう。

それにあの時よりも随分と様変わりしている。
当時はまだ物がほとんど無くガラガラだった。

御坂「わぁ……」

トリッシュ「ようこそ」


トリッシュ「『デビルメイクライ』へ」


御坂「あ、お、お邪魔します!」

上条「お、お世話になります!!」
二人がダンテとトリッシュに礼をする。

トリッシュ「ええ」

ダンテ「ふぁ……ああ」
ダンテが大あくびをしながら、ゆらゆらと歩いて離れていった。

そしてコートを脱ぎビリヤード台の上にぶん投げ、
そのまま歩きながら今度はベストとその下の黒いインナーを脱いでソファーにぶん投げた。

上半身裸のまま更にそのまま歩き、ホールの隅のドアを開けて中に入っていった。
シャワーを浴びに行ったのである。

84: 2010/04/22(木) 23:16:32.17 ID:EXBrS4Y0
トリッシュ「まあいつもあんな感じだから」

トリッシュ「じゃあ来て」

トリッシュがホールの奥へ歩き始めた。
上条はショルダーバッグを背負い、御坂はキャリーバッグを引きながらその後に続いた。

トリッシュ「このホールは主に来客用、事務所の顔ね」

トリッシュ「さっきダンテが入ったところがバスルームとトイレ」

一向はそのまま進み、ホールの隅の階段を上がる。
一段一段上がるたびに古い木目の板が軋む。

御坂「む!むん!むむむっ!!!」

大きなキャリーバッグを持ち上げようと御坂が奮闘していた。
金属製のキャリーバッグなので電磁力で持ち上げることも出来るが、中に電子機器もいくつか入っている為それは論外だ。

上条「俺が持つよ」

見かねた上条がキャリーバッグの取っ手を掴みヒョイと軽々と持ち上げた。

御坂「ありがとッて…わっ!!あんたそんなに…」
力があったっけ? と続けようとしたが、ハッと気付いて言葉を止めた。
悪魔化してきているため腕力があるのだ。

86: 2010/04/22(木) 23:22:02.95 ID:EXBrS4Y0
御坂「…ご、ごめん」

上条「ははは!!!いいって!!行こうぜ!!!」
上条は一切気にする風も無く階段を上がっていった。

御坂「(あたしってば早々……だめね…)」
御坂は少し肩を落としながらその上条の後を追って上がって行った。


階段の上は薄暗い廊下だった。

トリッシュ「この部屋はダンテの仕事部屋」
トリッシュは階段に一番近い所にある扉を指差した。

ダンテが主に銃器の改造を行う部屋である。
また、良く使う魔具等も置いてある。

トリッシュが廊下を進み二人がついていく。

二つ目の扉の前でトリッシュが止まった。

トリッシュ「イマジンブレイカー。ここがあなたの部屋よ」
そして扉を開け、電気を付けた。

上条「……」

部屋の中央には大きな薄汚いベッド、壁際にある今にも倒れてきそうなぼろいクローゼット。
それだけしかなかった。

窓のカーテンすらない。
そして裸の室内灯は不規則に点滅していた。

トリッシュ「もともとダンテの部屋だったんだけどね」

トリッシュ「彼はいつも下のソファーで寝てるから」
ちなみにダンテの着替えはさっきの仕事部屋に置いてある。

87: 2010/04/22(木) 23:26:53.30 ID:EXBrS4Y0
上条「……」

上条は恐る恐る部屋に入り、ベッドにショルダーバッグを下ろした。
その途端凄まじい量の埃が舞い上がった。

まるでスモークが炊かれたかのような「もや」の中に上条の姿が消える。

上条「……」

トリッシュ「あとで自分で掃除しなさい」

トリッシュ「じゃあ来て」
呆然としている上条をほっといてトリッシュは御坂に顎で合図をした。

御坂「う、うん」

その隣の部屋の扉の前でトリッシュは止まった。

トリッシュ「ここがあなたの部屋」

御坂「……」
御坂は緊張した。

上条と同じく、自分の住む部屋の惨状を覚悟した。

トリッシュが扉を開け電気をつけた。

御坂「……へ?」

88: 2010/04/22(木) 23:29:32.71 ID:EXBrS4Y0
その部屋の中は余りにも予想外だった。

上条の部屋とは正反対に、埃っぽさの欠片も無かった。
たった今掃除されたかのようにキレイだった。

アンティーク調のおしゃれなベッド、同じくきれいな装飾が施された化粧台と大きなクローゼット。
床に敷かれた高そうな絨毯、そしてこれまたアンティークな小さな机がベッドの傍にあった。

壁際にはもう一つ大きな机と椅子。机の上には電気スタンドがあった。

窓には高そうなしっかりとした生地のカーテンがついていた。

その部屋はまるで映画の中に出てくるような洋風の美しい空間だった。

御坂「な、な、な……!」

トリッシュ「10年位前にある女の子が一時期居候してたの」

トリッシュ「その子の家具よ」

トリッシュ「今でもたまに遊びに来るからダンテが撤去しないで残してるの」

トリッシュ「それと私が一応掃除しておいたから」

御坂「うぅううう!!!ありがとう!!!本当にありがとう御座います!!!」

トリッシュ「当然でしょ。女の子を廃墟部屋に住まわす訳にいかないわよ」

上条「……うう…くそッ…」
扉の所に立っていた上条はうな垂れていた。

89: 2010/04/22(木) 23:32:38.16 ID:EXBrS4Y0
トリッシュ「じゃあ今日はもう休んでいいわよ」

トリッシュ「二人とも色々とやることあるでしょ」

上条「……掃除とかな……」

御坂「……あ、あたしも手伝ってあげるから」

トリッシュ「それと、時差もあるし眠くないと思うけど早めに寝たほうがいいわよ」

トリッシュ「シャワーはダンテがもうすぐあがるから少し待ちなさい」

御坂「あの……キッチンはどこ?」
任務要項によれば御坂が上条のご飯を作ると言う事になっている。

トリッシュ「あ~、あそこ」
トリッシュは廊下の突き当りの左側を指差した。

トリッシュ「一階にもあるんだけど、もう何年も使ってないから」

トリッシュ「使うのなら二階のね」

御坂「は、はい」

91: 2010/04/22(木) 23:36:22.95 ID:EXBrS4Y0

トリッシュ「あと二階のトイレはそっち」
トリッシュは廊下の突き当たりの右側の扉を指差した。

トリッシュ「それと言っておくけど、ダンテの仕事部屋と地下の私の仕事部屋には勝手に入らないように」


トリッシュ「下手したら氏ぬわよ」


上条「…おう」

御坂「わ、わかりました」

きっととんでもなく危険な物が無造作にゴロゴロ置かれているのだろう。
この二人にもそれは簡単に想像できた。

トリッシュ「じゃあ、朝までごゆっくり」
トリッシュは踵を返して階段を降りていった。

上条「……」

御坂「よ、よし!!掃除しよっか!!!」

上条「うう……ありがとう…ありがとう…」

93: 2010/04/22(木) 23:44:17.09 ID:EXBrS4Y0
上条は部屋の惨状を見て、掃除は朝までかかると思っていた。
というか掃除機どころか箒も雑巾もないのにどうやって掃除しようか考えていたが、
それは御坂が解決した。

御坂が静電気を使って埃を器用に集めていった。
まるで綿菓子のように埃がボール状に纏まっていく。

そんな事で僅か10分で部屋は綺麗になった。

上条「すげえな!!!お前本当に器用だな!!ありがとな!!」
上条はもう埃の舞い上がらないベッドにショルダーバックを置き、
中から服やら何やら生活用品を出しながら賛美の声をあげた。

御坂「へへん!!こんぐらい簡単よ!!」
御坂はしばらくそのまま上条をニコニコしながら見つめていた

上条「……ん?お前も自分の荷物出して来いよ?」

御坂「あ、そ、そうね!!あははははは…!」

と、その時一階のホールで扉が乱暴に開け放てる音が響いた。
続いて重い乱暴な足音。

上条「んあ、あがったみたいだな。御坂先に入って来いよ」

御坂「う、うん!!そ、そうする!!」
御坂は小走りで部屋を出て行った。

上条「……あいつもこれからの事で緊張してんだろうな…」

上条は荷物の中からバスタオルと着替えを出し、部屋を出て1階へ降りていった。
それと同じく御坂も風呂道具を持って階段を降りていった。

95: 2010/04/22(木) 23:47:19.45 ID:EXBrS4Y0
ダンテは上半身裸で椅子に座り、机の上に足を組んで上げていた。
そしてワインボトルをラッパ飲みし雑誌を捲り始めた。

御坂「あの~……お風呂いい?」

ダンテ「ご自由に」
ダンテがそっけなく答え、御坂はバスルームの方へ向かって行った。

上条がゆっくりとダンテの方へ向かい、机に寄りかかった。
ダンテは特に気にすることも無くワインを飲み雑誌を読んでいる。

上条「なあ……聞いていいか?」

ダンテ「何だ?」
雑誌に目を向けたままダンテが返事をする。

上条「具体的に……何するんだ?」

ダンテ「まずお前に悪魔の力を引き出させる」

上条「へ?」

ダンテ「お前が悪魔化している時の状態を調べたいんだとよ。トリッシュが」

96: 2010/04/22(木) 23:52:24.11 ID:EXBrS4Y0
ダンテ「それを調べてから解決策を探すって訳だ」

上条「なるほど……」

ダンテ「それと平行して俺がお前に悪魔の力の使い方を叩き込む」

上条「……」

ダンテ「治すまで時間がかかりそうだしな。その間、ただ垂れ流しておくわけにもいかねえだろ」

上条「そうだな……」

ダンテ「覚悟しとけ坊や」
ダンテがニヤリと笑みを浮かべ上条の顔を見た。

上条「?」

ダンテ「言ったろ?血ヘド吐くってよ」

上条「……おう」

上条「上等だ。何だって乗り越えてやる」

ダンテ「ハッ。良い根性だ」

97: 2010/04/22(木) 23:55:26.09 ID:EXBrS4Y0
バスルーム。

御坂は呆然としていた。

御坂「何よ……コレ……」

広いがらんとした部屋の隅にバスタブがありその上にシャワーが付いている。
その周りにカーテンがあるいかにも欧米的な作りだ。

それと対角線の角に便器。
そしてまた別の角には、
コインランドリーに置いてあるようなドラム式の洗濯機がドンと無造作に置かれていた。

だが御坂を驚かせたのは別の事だ。


その汚さだ。


御坂「…ここも掃除しなきゃね…」
御坂の前髪に電気が走る。

そのまま御坂は思いつきで掃除をし、
上条がシャワーを浴びる事ができたのは一時間後であった。

―――

99: 2010/04/23(金) 00:00:06.00 ID:mTc0LDc0

―――

学園都市。
こちらの時刻は午後二時を過ぎたところだ。

一方通行はとあるマンションの一室にいた。
教員でありアンチスキルでもある黄泉川の家だ。

家主である黄泉川本人は当然仕事中で家にいない。

今、その家の中はかなり賑やかになっている。

二人の騒がしい少女がいるのだ。

一方「……るせェな…クソッ…」
ソファーに座り缶コーヒーを飲みながら一方通行は呟いた。

芳川「とか言いつつまんざらでもない」

向かいの椅子に座り小難しい本を読んでいた芳川が、
一方通行のその言葉にいらぬ捕捉を付けた。

一方「テメェもうるせェ」

100: 2010/04/23(金) 00:07:14.78 ID:mTc0LDc0
上条達が出発した後、土御門と別れたインデックスと一方通行は
この黄泉川のマンションに向かった。

二人はその間無言だった。
インデックスはうつむき、一方通行も何も喋らなかった。

そのまま二人は目的地であるマンションにつき、
一方通行は黄泉川宅のインターホンを鳴らした。

そして重苦しい空気を纏った彼らを出迎えたのは。

ドアから飛び出して来た、はち切れんばかりの笑顔の打ち止めであった。

思わぬ再開に戸惑うインデックスに打ち止めは飛びつき、
そしてそのまま家の中へ引っ張り込んでいった。

黄泉川・芳川には昨日の夜に「もう一人居候が増える」と伝えてあった。
なにか訳ありなのもいつもの事と、二人とも理由を聞くことなく快諾した。

黄泉川にいたっては やったじゃん!家族が増えたじゃんよ! と喜んでいた。

裏の事情を知っている打ち止めは当然快く受け入れた。
なにせインデックスは、打ち止めや一方通行にとってとある事件以来の恩人でもあるのだ。


二人が来てから一時間。

今のインデックスは打ち止めとテレビを見ながらぎゃあぎゃあと楽しそうに騒いでいる。

一方通行は顔には出さなかったが、少し安堵した。
ずっとあんな陰気な感じでいてもらったらさすがに困る。

102: 2010/04/23(金) 00:12:26.46 ID:mTc0LDc0
一人になるとインデックスはまた沈んだ顔になっているが、
打ち止めと一緒に騒いでいる間は笑顔だ。

まあ初日なのだ。
強引なやり方であろうが、笑顔を浮かべてくれたら上々だ。

だが。

一方「……チッ…」

予想はしていたが、さすがにうるさ過ぎる。
インデックスにはもう少し『落ち込んで』いてほしいとさえ思った。
今すぐにでもチョーカーのスイッチを入れて音を遮断したい気分だ。

この空間に数週間も居なければならないとは。
24時間の護衛という任務、そして上条の大事な者を預かっている以上、そう簡単に離れるわけにはいかない。

芳川「今日はハンバーグだって。材料は黄泉川が買ってくるってさ」

一方「……」

打ち止め「ハンバーグ!!!?わーい!!!ってミサカはミサカは晩ごはんが待ちきれずに跳ねてみたり!!!!」

禁書「むむむッ!!!!!!!!おおおおおお腹減ったんだよ!!!!!!」

一方「………アァ……早く帰ッてこィや三下ァ……頼むぜェ…」

一際大きな声で騒ぐ二人。
それを無視して読書し続ける芳川。
そしてソファーでうな垂れる一方通行。

彼の苦行も始まったばかりである。

―――

104: 2010/04/23(金) 00:18:17.55 ID:mTc0LDc0

―――

事務所デビルメイクライ。

翌朝。

上条「……」
意識が徐々に戻っていく。

上条「……う…ん…」
まぶた越しに強い光が差し込み、彼の睡魔のベールを剥ぎ取っていく。

上条「………(?)」
ぼんやりした意識の中で、誰かの気配を感じた。
誰かがすぐ傍で自分を見ているような感覚。

上条「……」
そして上条はパチッと目を開けた。

視界に入ってきたのは痛んだ木目の天井と。

御坂の顔だった。
ベッドの端に腰掛け、彼の顔を覗き込んでいた。

上条「…………み……さか?」

105: 2010/04/23(金) 00:22:27.05 ID:mTc0LDc0
御坂「んはぁっ!!!!」
御坂が跳ねるように慌てて立ち上がった。

上条がそんな御坂を特に気にすることも無く欠伸をしながらゆっくりと上半身を起こした。

上条「ふぁああああッ………あ~、おはよ……」
上条がトロンとした目で御坂に朝の挨拶をする。

御坂「お、お、おはよ!!!さ、さっさと起きなさいよ!!!」

御坂が顔を真っ赤にしながら言葉を返した。
10分ほど上条の寝顔を眺めていたなど口を裂けてもいえない。

上条「……なんだそのカッコ?」

気付くと、御坂はラフな私服の上にゲコ太を模した大きな緑色のエプロンを付けていた。

御坂「!!!あっえ、えーっと!!!あ、朝ご、ご飯作ったから!!!そ、そ、その!!!アアアアアアアンタの分も!!!」

御坂「キ、キッチンにいるから!!!さ、さっさと目覚まして来るのよ!!!」
言うだけ言って御坂は小走りで部屋を出て行った。

107: 2010/04/23(金) 00:26:14.46 ID:mTc0LDc0
上条「……お~、ありがとな…」
一人になった上条は寝ぼけたまま礼を言った。

窓から朝日が差し込む、
ベッドとクローゼットしかない廃屋のような部屋でその声は小さく反響した。


数分後。


上条「ぷはっ…うう…さぶッいな…」

上条は二階のトイレに備え付きの洗面台で顔を洗っていた。
今の季節、冷水で顔を洗うのは厳しい。

鏡で自分の顔を見る。

上条「おし!」
そして遂に始る試練に向けて気合を入れ軽く両頬を手で叩いた。

トイレから出て、すぐ近くのキッチンのドアを開ける。
その途端、食欲を刺激するおいしそうな香りが鼻の中を満たした。

上条「おおお…」

御坂「あ、そっちに座って」
キッチンに向かっている御坂が背を向けたままテーブルの端を指差した。

上条がいそいそと席に着く。

108: 2010/04/23(金) 00:28:37.09 ID:mTc0LDc0
御坂「はいはいはいはい」

御坂がキッチンとテーブルを行き来し、朝食を並べていく。

バターが塗られたトースト、レタスやトマト等のサラダ、スクランブルエッグとベーコン。
そして牛乳と水とフォーク。
小さなテーブルの上はそれだけで埋まってしまった。

上条「お~」

御坂「よしっと」

御坂が上条の向かいの席に付く。

上条「お~うまそうだぜ」
上条がまじまじとテーブルの上を眺める。

御坂「……」
御坂はその上条の姿を見つめていた。顔が徐々に赤くなっていく。

御坂「(ヤバイってこのシチュエーション!!!!)」

御坂「(これじゃあまるで……!!!まるで夫婦みたいじゃない!!あああああばばっばああ!!!)」

御坂「ちょ、ちょっと適当でゴメンね。夜はちゃんとしたの作るから」

上条「お前……飯作れたんだな…」

御坂「ッ!!!何よ!!!あたしだってこんくらい……!!!」

109: 2010/04/23(金) 00:32:55.71 ID:mTc0LDc0
上条「おおおお悪い悪い!!!あ、ありがとな!!く、食おうぜ!!!」

御坂「ったくッ!……いただきます!」

上条「い、いただきます」
二人は手を合わせ、そしていそいそと食べ始めた。

上条「んん、んまいぞ」

上条がトーストに噛り付きながら言う。

御坂「……嬉しいけど、トーストを褒められてもねえ」

御坂「そうそう、これ、全部今朝あたしが買ってきたの」

上条「?」

御坂「何も食べ物無かったのよココ」

上条「あ~…」
まあ予想できたことだ。あの二人が料理を作る姿など想像できない。

大方いつも外食やデリバリーで済ませているのだろう。
というか生粋の悪魔であるトリッシュは物を食べる必要があるのだろうか と上条は思った。
一応一階のホールに冷蔵庫らしき物があったが、恐らく飲み物系しか入っていないだろう。

上条「まあ、水が出て火も使えただけでも良かったってか」

御坂「そうね」

110: 2010/04/23(金) 00:36:04.42 ID:mTc0LDc0
上条「てかよ、金あんのか?」

御坂「学園都市製のATMあったから。換金もそのままATMでできたし」

上条「そうか…って御坂英語喋れたのか?」

御坂「簡単な話はできるわよ」

上条「……」

御坂「しばらくこっちにいるからアンタも覚えたほうが良いんじゃない?」

上条「覚えたほうがいいって……そう簡単にできませんよ御坂さん…」

その時、部屋のドアが開きトリッシュが現れた。

トリッシュ「おはよ」

上条「おはよう」

御坂「おはようございます」

トリッシュはそのままテーブルに進み、サラダの皿から一枚のレタスを摘み上げ口に運んだ。

トリッシュ「うん、うん」
口を動かしながら何やら小さく頷いている。

トリッシュ「あ、そうそう、10時になったら始めるから」

上条「……」

御坂「……」

二人の顔が引き締まる。今の時刻は9時を回ったところだ。

112: 2010/04/23(金) 00:40:51.10 ID:mTc0LDc0
トリッシュ「あなたはダンテと一緒に」
トリッシュが上条を見ながら言う。

上条「ああ」

トリッシュは御坂に目を移した。

トリッシュ「あなたはここに残りなさい」

御坂「……へ?」

トリッシュ「今後の生活用品や食材買ったりとか色々用事があるでしょ?」

御坂「い、いや、あたしも同行しなきゃ……!」

トリッシュ「今日はそんなに大事なのじゃないから。それに見ないほうがいいと思うわよ」

上条「(見ないほうがいい……)?」

御坂「で、でも!!」

トリッシュ「言う事聞かなかったら学園都市に戻すわよ?」

御坂「ぐ、ぐぅ…」

トリッシュ「大丈夫だから。今日はコッチにいなさい」

上条「(コッチ?どこかに行くのか?)」

御坂「うん…」

113: 2010/04/23(金) 00:43:43.59 ID:mTc0LDc0
朝食と歯磨きを終え、上条は自室に戻っていた。
ベッドに腰かけ、深く息を吐く。

上条「……遂に始まるんだな…」

上条「あっ」
上条はふとある事を思い出し、バッグから携帯を取り出した。

上条「向こうは……そろそろ寝る時間かな?」

そしてとある番号に電話をかけた。
コール音は一度、すぐに相手が出た。

禁書『とうま!!!!!!!』

上条「おう!そっちはどうだ!?」

禁書『大丈夫なんだよ!!!晩ごはんもたくさん食べたんだよ!!とうまは!?」

上条「おう!特に問題はねえぜ!」
まだ寝ただけで本題は始まっていないが、問題ないのは確かだ。

上条「…って随分そっち賑やかだな?」
携帯越しからかなり賑やかな女性と幼い女の子の声が聞こえる。

上条「(…?どこにいんだ?)」

その時、部屋のドアが開きトリッシュが顔を出した。

トリッシュ「時間よ」

114: 2010/04/23(金) 00:47:15.60 ID:mTc0LDc0
上条「あ、お、悪い!時間だ!」

禁書『時間?』

上条「ああ!また夜に…そっちは朝か、そん時に電話するぜ!」

禁書『あ、う、うん!!待ってるんだよ!!!』

上条「じゃあな!!迷惑かけるなよ!」

禁書『うん!!がんばるんだよ!!!』

携帯を切りポケットに入れトリッシュを追って部屋を出て、一階に降りた。
その上条の姿を見てダンテがソファーから立ち上がる。

ダンテ「行くぜ」

上条「おう!……ってどこにいくんだ?」
トリッシュが上条の横に並ぶ。


トリッシュ「ネバダ」


トリッシュが笑みを浮かべながら答えた。
同時に黒い円が出現する。

上条「……へぁ?」

三人の姿は消えた。

115: 2010/04/23(金) 00:51:17.32 ID:mTc0LDc0
ダンテ、トリッシュ、上条はネバダ砂漠のど真ん中に立っていた。
ジリッと肌が焼けるような日差し。乾いた埃っぽい空気。

そして見渡す限りの荒野。

上条「……一体何すんだ?」

トリッシュ「半径10km圏内には人間はいないから好き勝手できるわよ」

ダンテ「OK」

上条「……好き勝手?」

トリッシュ「終わったら呼んで」
トリッシュがダンテに黒い石のようなものを投げ渡した。

そしてすぐに黒い円に沈んでいって姿を消した。

上条「なあ…一体…?」
これから何をするのか検討が付かない。

ダンテ「あ~、そうだな……」
ダンテが顎をさすりながら上条を見る。

ダンテ「上は脱げ」

上条「は?」

ダンテ「さっさとしろ。上半身裸だ」

120: 2010/04/23(金) 00:57:23.48 ID:mTc0LDc0
ダンテ「『力を使って』俺に向かって来いって事だ」

上条「……どうやって?」

ダンテ「暴走した時の事でも思い出しな」

上条「あ、ああ」

上条は目を瞑り、この間のデパートの事を思い出す。

上条「……」

上条「……」

上条「……」

上条「……あの……難しいです……」

ダンテ「しょうがねえな」

ダンテは首を鳴らし、続けて手の骨を鳴らした。
いかにも 殴り合いの準備中です と言っているような仕草だ。


ダンテ「やっぱこうするしかねえか」


上条「……あの~……何をするんでせう?」
凄く嫌な予感がする。

121: 2010/04/23(金) 01:02:47.66 ID:mTc0LDc0
ダンテ「さっさと『覚えろ』」


ダンテ「さもねえと氏ぬぜ?坊や」


次の瞬間ダンテは地面を蹴り、一気に距離を詰めてきた。


上条「―――いぃ゛?!!!」


反応する間も無く。


上条の胸にダンテの右拳がめり込んだ。
体内から何かが折れる湿った不気味な音。

上条「がぁッッッッ!!!!」

口からを血を噴き出しながら上条の体が5m程宙を舞い、地面に叩き付けられた。

ダンテ「おいおい、このレベルでもまともに受けちまうのか?」
ダンテが手を広げて、嘲笑的な笑みを浮かべた。

ダンテにとってはかなり優しく、遅めに小突いただけだ。

123: 2010/04/23(金) 01:06:11.49 ID:mTc0LDc0
ダンテ「あ~、暇つぶしにもなんねぇな」

ダンテは呆れたような目を上条に向けながら歩いていく。

上条「がッ……!!」
胸を凄まじい激痛が襲う。
肋骨が何本も折れているらしい。

肘を地面に突き何とか起き上がろうとした時。



ダンテ「いつまでオネンネしてる?」


ダンテの蹴りが上条のわき腹に食い込んだ。

上条「ガフッッッ……!!!」

更に5m程上条の体が吹っ飛んだ。
そして間髪いれずに宙を舞う上条の足が掴まれ。


ダンテ「ほら、濃厚なキスしてやれよ。『ネバダ』にな」


そして地面に思いっきり叩きつけられた。
肉片が飛び散り、不気味な篭った破砕音が響く。

124: 2010/04/23(金) 01:11:20.55 ID:mTc0LDc0
上条「……あがぁッ……」

あっという間に血まみれになった上条は地面の上で力なくもがいた。
体が全く動かない。

列車に撥ねられるレベルの衝撃だ。
全身の骨が砕け内臓は潰れた。

視界が徐々に暗くなっていく。

ダンテ「……」

血まみれでボロボロな、
どこからどうみても『助かる見込みの無い』上条をダンテは見下ろした。

ダンテ「hummm.....」

だが上条は氏ななかった。
傷がゆっくりと塞がっていき体が再生しつつある。

僅かだが、氏の危険によって悪魔の力が引き出されているようだ。
体も一応人間以上には頑丈らしい。


しかしこの程度ではまだまだ全然足らない。

125: 2010/04/23(金) 01:13:40.99 ID:mTc0LDc0
上条「ぶはぁッ……!!!」
上条は勢い良く起き上がった。

上条「はぁッ…」

ダンテ「起きたか」
近くの岩の上に座っていたダンテから声。

上条「……」
上条は先ほどの情景を思い出す。
ダンテに『瞬殺』された。

だがその瞬間、体の中からあの『力』が少し湧き出てきたのを感じた。

上条「そうか…」
上条は理解した。
この『やり方』が一番手っ取り早いのだ。

ダンテ「立て。もう一度だ」

上条「……ああ」

上条は表情を引き締め地面に手を付いて立ち上がった。

ダンテが岩から跳ねるように降り、
手を広げて小馬鹿にするような笑みを浮かべた。

ダンテ「来い。坊や」

129: 2010/04/23(金) 01:19:51.09 ID:mTc0LDc0
その後、約三時間の間ダンテの『しごき』は続いた。

三時間とだけ聞けば、『苦行』としては短いように感じるかもしれない。
だがその内容は凄まじく『濃い』ものだった。

頭を割られ、骨を砕かれ、内臓を叩き潰され、
普通の人間なら200回以上も氏んでいるであろう凄まじい苦痛に満ちた地獄の三時間だ。

しかし上条はその『氏』の痛みを堪え何度も何度も立ち上がり、ダンテに向かっていった。
ダンテはその上条を容赦なく叩きのめした。

そしてこの一方的な組み手が始まってから三時間後、上条は遂に完全に意識を失った。
地面に力なく横たわり、ピクリとも動かなくなった。

だがその傷の再生速度は明らかに速くなっていた。徐々に悪魔の力が引き出されてきているのだ。

ダンテ「……」

ダンテは意識を失っている上条の腕を掴み、乱暴に担ぎ上げた。
そしてコートのポケットから通信用の黒い石を出し握った。

ダンテ「トリッシュ。来い」

トリッシュ『あら、終わったの?』

ダンテ「とりあえずな。のびちまった」

トリッシュ『ふふ。今行くわ。次は私の「番」ね』

ダンテは黒い石をコートのポケットに放り込み、
その手で上条の服を拾った。


ダンテ「まあ初日の『前半』としちゃあ上々だぜ。坊や」


―――

145: 2010/04/23(金) 23:09:05.20 ID:mTc0LDc0
―――


御坂「はぁ…」

御坂は一階のホールのくたびれたソファーに座っていた。
上条が出発してから三時間が立つ。

トリッシュは帰ってきたかと思うと、
鍵を御坂に投げ渡し「ちょっとでかけるから」とすぐにまたどこかに消えていった。

御坂はトリッシュを見送った後外出し、適当に買い物を済ませた。
ちなみにここ一帯はスラム街でかなり治安が悪いが、当然御坂の場合は心配は無い。

実際、買い物を済ませて事務所に帰って来る際に、
視点の定まってない見るからに薬中のチンピラが、
聞き取りにくい崩れた英語で御坂に絡んできた。

御坂は『いつも通り』軽く電撃を放って追い払った。

通常、学園都市外での能力使用は固く禁じられているが、今回は当然許可されている。

147: 2010/04/23(金) 23:16:44.38 ID:mTc0LDc0
御坂「あ~ぁ……」
特に意味も無く気の抜けた声を放った。
空しくホールに響く。

ヒマなのだ。

こう何もしていないと、あの少年の事ばかりを考えてしまってますます心配になる。

荷物も整理したし、生活用品等も一通り調達したし、今日の夜の献立ももう決めた。
買い物の帰りに小さな汚い本屋に寄ってみたが、御坂がいつも読んでいる週間の漫画雑誌は無かった。
それどころか日本語の書籍自体が無かった。
まあ当然だが。

英語もそれなりに読めるので、英語媒体の物でもいいかと思ったが、御坂が読みたくなるような物は無かった。
そして目を背けたくなるような本が多かった。

思いっきり成人向けの雑誌が、とくに分けもされずに棚のあちこちに陳列されていた。
グラマラスな金髪女性が股を大きく開けていたりなどなどその表紙もかなりどストレートな物ばかりだった。
御坂は顔を真っ赤にさせて店を後にした。


御坂はソファーに座りながら携帯を見た。
黒子にでも電話をかけようかと思ったが今日本は深夜だろう。

御坂「あ~…」


その時、ホールの中央に黒い円が出現した。

148: 2010/04/23(金) 23:19:22.78 ID:mTc0LDc0
御坂「!!!!」
御坂は飛び上がるようにソファーから起き上がった。

黒い円からトリッシュとダンテ、そしてダンテに担がれた、上半身裸の上条が出現した。

御坂「お、おかえりっ!!!……って!!ちょ、ちょっと!!!えっえっえええ!!!!!」
血まみれで力なく体が伸びている上条。
御坂はすぐにダンテの所に駆け寄った。

当然御坂は半ばパニックになりかけるが、トリッシュが制止した。

トリッシュ「大丈夫。すぐ起きるから」

ダンテは持っていた上条の服をビリヤード台の上に放り投げ、彼をを担いだままバスルームに向かった。
御坂がその後を小走りで追った。

ダンテは上条をバスタブに乱暴に放り込み、シャワーの蛇口を捻った。
大量の冷水が容赦なく上条の体を打ち付ける。
こびり付いた血や砂が流されていき、バスタブの底に赤い水が溜まる。

ダンテ「おら」
ダンテがシャワーを掴み上条の顔に至近距離からぶっかけた。

上条「ぐぶほぉあああ!!!ぶへぇえええ!!!!」
しばらくして上条が口を金魚のようにパクつかせながら目を覚ました。

150: 2010/04/23(金) 23:28:12.42 ID:mTc0LDc0
上条「ぶはッ…!!!ごはッ…!!!ふぁあああ…」
上条がバスタブの中で上半身を起こし顔を擦った。

ダンテ「よう」

ダンテがシャワーを止め、ふざけた調子の笑みを浮かべる。

御坂「だ、だいじょうぶ!!!?」
御坂がバスタブの脇に屈み、上条の方へ上半身を伸ばす。
今にもバランスを崩してバスタブの中へ転げ落ちそうな体制だ。

上条「あ、ああ…大丈夫だぜ」

御坂「一体何があったのよ!!!?」

上条「あ~…」
上条がダンテの顔を見上げた。

ダンテはニヤリと笑みを返した。

上条「……『修行』だ」

御坂「しゅ、しゅぎょう?」

トリッシュ「次コッチ」
トリッシュが開いたドアから顔と手だけを出して手招きした。

トリッシュの顔には不気味なほどに妖艶な笑みが浮かんでいた。

151: 2010/04/23(金) 23:32:56.44 ID:mTc0LDc0
バスルームから出て、一向はトリッシュの地下の仕事部屋に向かった。

薄暗く埃っぽい部屋の壁は全面が本棚で覆い尽くされており、
本棚に入らない書物がその前に平積みにされていた。

普段は魔導書が無造作に開かれたまま置かれていたりと、人間にとってはかなり危険な部屋だが、
上条と御坂が入るとあってトリッシュは少し片付けた。

少なくとも見ただけで精神が侵されるような物は見えないように閉まった。

上条「つ、次は何すんだ?」
上条は濡れたままの上半身を擦り、寒そうにしながらトリッシュに聞いた。


トリッシュ「脱ぎなさい」


上条「……………………へ?」

御坂「……………………え?」

今、上条は上半身裸だ。この状態の上条に「脱げ」と言うことは。

トリッシュ「早くしなさい」

上条「……下をか?」


トリッシュ「当然」


トリッシュ「全部」


御坂「ぶふッッッッ!!!!」

152: 2010/04/23(金) 23:38:31.20 ID:mTc0LDc0
上条「ちょちょちょちょ!!!!おおおいぃぃぃぃ!!!」

トリッシュ「何?何でもやるって息巻いてたのにこんなのに尻込みするの?」

上条「うぐっ……どうしてもか…?」

トリッシュ「全裸の方が見やすいのよ」

トリッシュ「そのチンケな羞恥心で効率を下げたいなら別に良いけど」

上条「……わ、わかった…」
上条が意を決してベルトに手をかけた。

御坂「あわわわわわあわあわあがががががが」
御坂には出来るだけ多くの事を見聞きして報告する義務がある。
そしてそれ以上に上条の事には常に立ち会っていたい。

だがさすがに。
いや、嬉しくない訳ではないのだが、余りにも急な展開過ぎて心の準備が出来ていないのだ。

トリッシュ「……あなたは出てれば?」

御坂「んぎぎぎぎ………」

上条「……御坂は見たく無いだろ?出てた方が…」

御坂「いや!!!いいえ!!!って違くて…いやいやいあやじゃへgヵういmkあsp」

トリッシュ「じゃあ目瞑ってなさい。私達の会話だけでも充分でしょ」

御坂「は、はいぃいぃぃぃぃぃ!!!」

153: 2010/04/23(金) 23:42:06.10 ID:mTc0LDc0
御坂が顔を両手で覆った。
背を向ければいいのだが、体は前を向いたままだ。

ダンテはニヤニヤと笑っていた。

上条「よし…じゃあ…」

上条は神妙な面持ちで下を脱いだ。
覚悟は決めていたのだが、やはり少し内股になってできるだけイチモツを隠そうとしてしまう。

当然、そんな抵抗も無駄だ。丸見えだ。

トリッシュ「じゃあそこに寝て」
トリッシュが近くの大きな木製の古い机を指差した。

トリッシュの態度は先と全く変わらない。
ダンテが出発前日に言った通り、トリッシュにとって上条は『モルモット』なのだろう。
上条のブツを見ても全く反応を示さなかった。

ダンテ「へえ、結構立派なのもってんじゃねえか」

だがダンテは思いっきり反応した。
反応したというよりは上条をからかっているのだろう。

上条「る、るせぇ!!」

御坂「へ?!へ?!何が!!?」

上条「き、気にすんな!!!そのままにしてろ!!!」

156: 2010/04/23(金) 23:48:50.32 ID:mTc0LDc0
上条はぎこちなく指示されたテーブルの上に仰向けに寝そべった。

トリッシュ「さてと…」
トリッシュの手には鉛筆ほどの大きさの、先端が尖った金属の棒らしきもの。

上条「……」
とてつもなく嫌な予感がする。

トリッシュ「ほら寝てなさい」

上条「お、おう」
上条は頭を倒し、天井を仰いだ。

トリッシュ「じゃあちょっと痛むけど我慢して」
次の瞬間、上条の胸に凄まじい激痛が走る。


上条「んぎぃ!!!いってぇええええええええええ!!!」


上条が驚いて顔を上げ自分の胸を見る。
トリッシュは黒い金属製の杭を突き刺していた。
しかもその痛みは尋常じゃない。

まるで体内を無数の針で刺されているような激痛だ。
トリッシュが力を流し込んでいるせいだ。


トリッシュ「ん~良い声ね。人間の悲鳴って最高。正に芸術ね」

そう言いトリッシュは更に深く差込んだ。


上条「ぎゃひぃいいいいいああああああ!!!!」

157: 2010/04/23(金) 23:53:06.74 ID:mTc0LDc0
御坂「な、なに!!?なにやってんの!!!!??」
顔を両手で覆っている御坂が声をあげた。

上条「何でもねええええええ!!見るなああああああああ!!!!」

トリッシュ「寝てなさい」
トリッシュは足を素早く上げ、起き上がりかけていた上条の顎をヒールのかかとで強く抑えた。

上条「んぐぉおお!!!!」

トリッシュは杭をゆっくりと引き抜いた。
そして傷口が塞がっていくのをまじまじと見つめていた。

トリッシュ「へぇ」

トリッシュは上条の体の中の力の動きを見ているのだ。
どのように反応しているか、流れは、量は、性質は。

この方法が刺激を与えられて一石二鳥だ。

ちなみに麻酔は効果が無いので使わない。
悪魔に効く麻酔なんかあれば対悪魔戦術の革命が起きるだろう。

こうして上条の苦行の後半戦が始まった。

『一日目』の分の。

158: 2010/04/23(金) 23:56:53.40 ID:mTc0LDc0
上条「ひぃいいいっぃぃぃぃぃいいいい!!!!!

上条「本当にごめんなさいいいいい!!!!!ごめんさないいいいいい!!!!!」

上条の脳裏に今までの思い出(約半年分しかないのだが)が駆け巡った。
走馬灯だ。

それはどっからどう見ても拷問にしか見えなかった。
いくら体が治るとはいえ、あまりにもキツイ。

トリッシュは場所を移して上条の体中を何度も差して回った。
胸から始まり、腹、上腕、下腹部、首、太ももといった風に徐々に範囲を広げて。

そのたびに上条が悲痛な叫びをあげ、ダンテはニヤニヤと笑い、
トリッシュは色っぽい不気味な笑みを浮かべていた。

トリッシュの力が流れ込んでいる杭は正に最凶の拷問器具と化している。


まあここまで力を流し込む必要は無いのだが、そこはドSなトリッシュの趣味だ。


上条「んきゃああああああああぁふおおああああああああああああ!!!!!!!」

ダンテ「ハハ、お前喜んでねえか?」


トリッシュ「あなた、本当に良い声で『鳴く』わね」

そこはドSなトリッシュの趣味だ。

159: 2010/04/24(土) 00:01:07.01 ID:urstnuE0
トリッシュ「……」
トリッシュの手が上条の股の真上で止まった。

上条「―――ま、まさかッ…!!!」
そのまさかだ。

上条「そ、そこは……!!そ、そこだけはッ……!!た、頼む!!!!」
上条が泣きそうな顔で懇願する。

ダンテ「ぷははっ!!お前本当に面白えな!!!いいじゃねえかどうせ治るんだしよ!!!」
ダンテがそんな上条を見て吹き出す。


上条「マジであんたら悪魔だ!!!悪魔だぁあああああ!!!!いやあああああああ!!!!」


トリッシュ「あらまぁ良い顔ね。喜んでくれてお姉さん嬉しいわよ」


トリッシュ「ご褒美あげちゃう」


トリッシュが足で上条を押さえながら、不気味なほどに美しい笑みを浮かべた。
そして杭を持つ手を躊躇い無く降ろした。


上条「んぎゃぁあああああひぃぃぃぃぃいあああああああんぐぉあああああひぃぃぃぃぃぃ!!!!!」

上条は正に地獄を味わった。

ダンテは血ヘドを吐くと言っていたが、それはダンテがやる事ではなく、
トリッシュがやる事を言っていたようだ。

厳しい事になるとは聞いていたが、上条の予想を遥かに超えていた。
そもそも、あの『ダンテ』が『血ヘドを吐く』という表現を使う時点で気付いておくべきだったのだ。

163: 2010/04/24(土) 00:07:14.02 ID:urstnuE0
数分後。
ゲッソリとした上条はメソメソと泣きながら服を着ていた。

上条「…………うう……おうち帰りたい……」

御坂「ね、ねえ……だ、大丈夫だからね、ね?」
その横で御坂が慰めていた。

ダンテ「どうだ?」

トリッシュ「ん~2%ってところね」
まだその程度しか上条の悪魔の力は引き出されていない。

ダンテ「どのくらいまで必要だ?」

トリッシュ「50か60。そこまで行けば『見えて』くるわよ」

ダンテ「具体的には?」

トリッシュ「そうね……あの暴走時のレベルを制御して維持できれば完璧」

ダンテ「あ~、時間かかりそうだぜ」


トリッシュ「もう少し厳しくしてもいいんじゃない?」


ダンテ「だな」


トリッシュ「まあコツを掴めばすぐに伸びると思うけど。記憶もあるし」

上条は以前ベオウルフを使ったし、暴走時の事も覚えている。
その時の感覚を上手く利用する事ができればすぐに力の使い方を覚えるだろう。

165: 2010/04/24(土) 00:14:21.47 ID:urstnuE0
トリッシュ「はい、じゃあこれで今日は終わり」


トリッシュ「これが『一日分』のメニューね」


上条「…………ま、待て…まさか今のも毎日やるのか?」

トリッシュ「当然でしょ」

上条「………………あひぃ……」

ダンテ「なぁに、一週間もすりゃあそんくれえの痛みなんざ慣れるさ」

御坂「ねえ、な、何したの?」
御坂はずっと顔を覆っていたため、上条の身に降りかかった災難を知らない。
ただ、とてつもなく苦痛に満ちていたのは分かるが。

上条「………御坂……お前は『人間』だよな……ううううう」

御坂「?」

ダンテ「ウダウダうるせぇな。お前も『悪魔』になりかけてんじゃねえか」

トリッシュ「さ、ちょっと遅いけどお昼にしましょ」

ダンテ「ああ、腹減った」

上条「……うああああ……」

四人は地下室から出て行った。
こうして上条の一日目の試練は幕を下ろした。


―――

169: 2010/04/24(土) 00:22:15.99 ID:urstnuE0
―――


ロシアの内陸部。

季節は冬。
ロシア名物冬将軍が猛威を振るい、
一帯には人の存在を示すものは何一つ無く、見渡す限りの無人の雪原だ。

だがその地下は違った。

地下にある巨大な円形状のホール。
元々はロシア成教の『殲滅白書』の拠点であったが、今は別の者が占有している。

中央に大きな机と椅子が一つずつ置いてあった。

その椅子に一人の華奢な、一見すると若い男が座っていた。
赤い長めの髪に赤のストライプのスーツ。
何もかもを見下しているような高慢な目つき。

ローマ正教、『神の右席』のリーダーであり事実上のローマ正教のトップである男。

右方のフィアンマ。

椅子の手すりに肘をつき、こめかみに人差し指を当てて思想にふけっていた。


その時。

すぐ背後に気配を感じた。

171: 2010/04/24(土) 00:27:16.85 ID:urstnuE0
フィアンマ「俺様の後ろに立つとはな」
その背後の人物にフィアンマは振り返らずに言葉を飛ばした。

フィアンマ「アリウス」

葉巻の匂いが漂ってくる。


アリウス「後ろに立ったらどうだというのだ?」


フィアンマ「反射的に頃してしまいそうだよ」

アリウスは咳き込むような低い声で嘲笑的に笑った。

アリウス「試してみるか?ん?小僧」

アリウスがゆっくりと歩き、フィアンマの横へ向かった。

フィアンマ「ふん。で用は?」

アリウスが机の上に何かを乱暴に置いた。
重い金属音が響く。

フィアンマ「……もう少し丁寧に扱ってくれないか?これは大事なモノなのだが」

アリウスが置いた物。
それは小さな円筒形の金属の塊。
小さなリングが多数ついており、ダイヤル式の南京錠のようにも見える。

つい最近イギリスから消えた、禁書目録の『自動書記』の遠隔制御霊装だ。

172: 2010/04/24(土) 00:31:11.37 ID:urstnuE0
フィアンマ「まあ、とりあえず礼を言おうか。聞いたよ。大変だったのだろう?」

フィアンマ「スパーダの一族に散々な目に合わされたらしいじゃないか」

アリウス「他人事にできるのも今だけだぞ小僧。いずれ貴様も奴等の刃の前に立つ事になるのだからな」

フィアンマ「それは恐ろしい。せいぜい楽しみにしておくよ」
フィアンマが軽く笑みを浮かべた。

そう、『いずれ』だ。

『今の状態』ならば軽く一蹴されてしまうだろう。

アリウス「それで、準備はどうなっておる?」
アリウスが机に尊大な態度で腰掛け、葉巻をくゆらせる。

フィアンマ「七割というところだ」

フィアンマ「『こっち』の準備はほぼ完了したがな、『向こう』は予想以上にてこずっている」

アリウス「あの『魔女』か……」

フィアンマ「そうだ。建て直しにはまだしばらく時間がかかる」

フィアンマ「そっちはどうなんだい?」

アリウス「六割程度だ。まだ『アルカナ』が全て揃っていない」

フィアンマ「頼むよ。雑魚悪魔共なんかいくらいたって意味が無いんだからな」

173: 2010/04/24(土) 00:34:06.86 ID:urstnuE0
アリウス「……」

フィアンマ「動けるのはお互い早くて一ヶ月後か」

フィアンマ「……少し危険だな」
フィアンマが机の上の遠隔制御霊装を見ながら呟いた。

アリウス「……」

フィアンマ「あのネロが『コレ』の捜索に参加する事になったらしい」

アリウス「それは貴様の問題であろうが。せいぜい隠れるんだな」

フィアンマ「そう言わないでくれ。冷たいな」


アリウス「他にも問題はあるぞ」
アリウスが顔をしかめながら煙をゆっくりと吐いた。


アリウス「『魔女』とバージルが接触している可能性が高い」


フィアンマ「……ふん」

174: 2010/04/24(土) 00:40:28.84 ID:urstnuE0
フィアンマ「……」
ダンテとネロ、そしてイギリス清教と学園都市の監視はいくらかできている。

だがあの二人の動きはほぼ全く『見えない』。

もしこちらが動く前に、向こうが察知して動き出したら。

あの『魔女』とバージルの手にかかれば、
準備の整っていないこちら側など一夜で叩き潰されてしまうだろう。

フィアンマ「全く……碌な情報を持ってこないなお前は」


アリウス「……それとダンテと幻想頃しとやらだ」

アリウス「貴様の大事な『核』であろう?どうするのだ?その内大悪魔並みの力を行使できるようになるぞ?」


フィアンマ「なぁに。それにはいくつか方法はあるさ」
フィアンマは手を軽く広げ不敵な笑みを浮かべた。

フィアンマ「とにかく、今は見ているしか無いだろう」

フィアンマ「ダンテの所にいる以上、手は出せないしな」

アリウスは低い笑い声を上げた。
そして机から離れ、フィアンマに背を向けて歩き始めた。

175: 2010/04/24(土) 00:44:07.33 ID:urstnuE0
フィアンマ「氏なないでくれよ?俺様の事が終わるまでは生きていてくれ」
フィアンマがアリウスの背中へ言葉を飛ばした。

アリウス「それはこっちの台詞だ。小僧」
アリウスは振り返りフィアンマの顔を見据えた。

フィアンマとアリウスはお互いに挑発的な笑みを向けた。

それは仲間に向けるものではなく、敵へ向けているようなものだった。

実際、二人はいずれぶつかるかもしれない。
計画が成功すれば力の頂点に二人が君臨する事になるのだ。

今は当面の利害が一致している為に、お互い『協力』という名目で利用しあっているだけだ。

この二人にとって、『味方』というものは存在しない。

利用できるか敵か。それだけだ。

黒い円が出現し、見下すような笑みを浮かべたままアリウスは沈んでいった。

フィアンマ「ふん……クソジジイが…」

―――

176: 2010/04/24(土) 00:48:06.79 ID:urstnuE0
―――


御坂は自分の部屋にいた。
四人でピザを食べ、この後は自由時間だ。

トリッシュは再びどこかに消え、ダンテは下のソファーで昼寝をしている。
上条も自室で疲労の為寝ている。

御坂「……」
机の上に、報告用に渡されたミサカネットワークに接続できるイヤホンが置かれていた。

このイヤホンには今回の為に少し手が加えられており、接続すれば自動で御坂が見聞きした情報がそのまま送信されるらしい。
つまり報告書なども作らなくて良いというわけだ。それと昨日以前の情報は引き出されないとの事らしい。

過去のプライベートの記憶を妹達に見られることは無いとの事だ。

御坂「じゃあ……いっちょやりますか」
御坂はそのイヤホンを手に取り、恐る恐る耳にかけた。

その瞬間。

『お姉さま』
『お姉さま』
『お姉さま』
『お姉さま この女狐め』
『ミサカ一同お待ちしておりました』
『抜け駆けお姉さま』
『お姉さま』
『わーい!!お姉さまだー!!』
『ずるいですお姉さま』
『お姉さま』
『お姉さま』
『お姉s

御坂はすぐにイヤホンを外した。

177: 2010/04/24(土) 00:51:39.70 ID:urstnuE0
御坂「……」

予想はしていたが、それはそれは凄まじい物だった。
ずっとつけていると頭が狂いそうだ。

御坂「はぁ……もう一度やるか」
御坂は再び耳にかけた。

『お姉さま』
『お姉さま』
『お姉さま』
『なぜ切ったのですか?』
『お姉さま』
『この女狐め』
『ノリが悪いですお姉さま』
『お姉さま』
『おn

御坂「ストォォォォオッッッツップ!!!!!静かにッ!!!!」

『ミサカ達静かに!!!これはお姉さまの命令だよ!!』
『……』
『……チッ』
『……』
『……ケッ』

御坂「っよし……いい?一度に喋らないでね」

180: 2010/04/24(土) 00:55:09.95 ID:urstnuE0
御坂「っていうか、あんた達この中では普通に喋れるのね?」

『データ量が無駄に増えますので』
『お姉さまのつけている受信機はそこらへんを削除してます』

御坂「へぇ…」

『では早速データを』
『早く見せてください』
『どれどれ』
『ぐふふ』

御坂「……」

『ほうほう』
『なるほどなるほど』
『おお、おお』
『ふむふむ』

御坂「……」
御坂の脳から情報が送信され妹達が目を通しているのだろう。

~~~~~~~~

『おや、素晴らしい寝顔』
『保存』
『保存』
『何でここで決めないんですか?弄り放題じゃないですか』
『根性ありませんね』

御坂「……」

182: 2010/04/24(土) 00:59:35.40 ID:urstnuE0
『一緒にご飯ですか』
『これどうにかして感覚共有できないんですか?』
『憎…いや羨ましい』
『デレちゃって不甲斐ないですねお姉さま』

御坂「……」

~~~~~~~~

『ほう……上半身裸とは』
『素晴らしい』
『水も滴る良い男とはこの事を言うのですね』
『あの水いくらですか?』
『保存』
『あ、この臆病な子犬みたいな顔も素晴らしいですね』
『保存』
『けっこう筋肉質ですね素晴らしい』
『いや~本当に素晴らしい』


御坂「……」

183: 2010/04/24(土) 01:04:36.34 ID:urstnuE0
『なん……だと……?』
『ほう………下も脱ぐと……』
『トリッシュさん良い事言いますねいやホント』
『うひょひょ』
『トリッシュさん神です』
『トリッシュさんになら抱かれても良いです』
『なるほど……なるほど…』
『ミサカ達よ、刮目せよ。我等は進化する』


御坂「……」


『……ってなんでそこで見ないんですか』
『……あれ、黒くなったんだけどコレはデータ破損ですか?天狗の仕業ですか?』
『……なんですかコレは。最悪です。最悪すぎます』
『……さんざんひっぱっておいてこれですか』
『意気地無しお姉さま』
『こらー!!!お姉さまをいじめちゃダメだよ!!!!』
『うっさいチビ』
『黙れクソ上司』
『氏ね』
『腰抜けお姉さま』
『バーカお姉さまのバーカ』
『お姉さまは一万人を失望させました』
『臆病女狐』
『根性無し』
『バーk

御坂「だぁあああああうるさいうるさい!!!!」
御坂はイヤホンをむしりとり、部屋の隅へぶん投げた。

その後、上条の悲痛な叫びのオーケストラでミサカネットワークは大混乱に陥ったという。

―――

203: 2010/04/27(火) 00:11:04.15 ID:rHfIezA0
―――


とある大陸の内陸部にある古い洋館。
うっそうと茂る深い森の中にその城のような館は立っていた。
壁面をツタが覆い、ところどころ崩れている。

『人間』はここ数十年住んでいない。

『人間』はだ。


辺りはしんと静まり返り、動く者の気配は無い。
風による木の葉のざわめきすら無い不気味な静寂。

だがその静寂が突如破られた。

凄まじい炸裂音が響き、洋館の二階の壁が爆散し爆炎が噴き出し、窓ガラスが飛び散る。

続けて乾いた銃声が連続する。

そしてもう一度凄まじい炸裂音。

その後、再び辺りは静寂に包まれた。

204: 2010/04/27(火) 00:13:19.64 ID:rHfIezA0
洋館の二階。

その大きな部屋は床板が剥げ、天井や壁が崩れていた。
残っている壁には無数の巨大な弾痕。

そして部屋の中央に一人の女性が立っていた。
手に持つサブマシンガン、MP5Kの銃口から一筋の煙がゆっくりと上がっていた。

胸元が大きく開いた白いジャケットに、パンツが見えそうなくらいギリギリのホットパンツ。
高そうなサングラスをかけ、無造作なショートヘア。
露になった太ももには銃と弾装、腰にも多くの武器がぶら下がっており、
背中には先端に巨大な刃がついた身長ほどもありそうな大きなロケットランチャー。

人間の中では世界最高峰のデビルハンター。

レディだ。

レディ「これだけ?」
レディは左手を腰にあて、右手に持つMP5Kで軽く肩を叩きながら、
少し残念そうに呟いた。

この洋館に居座っているという悪魔狩りの依頼を受けてきたのだ。

レディは心躍らせながらここに来たが、
出迎えてくれたのは『ムシラ』という猿のような下等悪魔ばかりだった。

205: 2010/04/27(火) 00:17:30.69 ID:rHfIezA0
レディ「……何よ…つまんないわね」
レディは呟いた。

そして踵を返して部屋を出ようとした時。

レディ「―――」
胸の奥で妙なざわつき。
高等悪魔が出没する時の感覚だ。

レディは振り返った。

すると5m程のところ、この大きな部屋の中央に。

ゴートリングが立っていた。
全身から黒いもやが溢れ、目が赤く輝いている。

高等悪魔の中でも上位に位置する、強大な力をもった存在。
到底人間の手には負えないと言われている悪魔。

部屋全体、そして建物全体がこの高等悪魔の放つ力で振動する。

レディ「あはっ―――」

だがレディは笑った。
つまんなそうだった顔に見る間に心底嬉しそうな笑みが浮かぶ。


レディ「―――『当たり』 ね♪」

207: 2010/04/27(火) 00:24:43.66 ID:rHfIezA0
ゴートリングが憤怒の篭った咆哮をあげ、次の瞬間猛烈な速度でレディに飛び掛った。

レディ「―――」

そして普通の人間には到底見えない速度でゴートリングはその拳を振り下ろした。
だがその拳は当たらなかった。

レディはギリギリのところで横に跳ね転がり、その振り下ろされた『破壊』から逃れた。

ゴートリングの拳が床をスナック菓子のように粉砕する。

レディの頬には一筋の赤い線。
飛び散った床の木片がかすったのだ。
そしてじわりと赤い液体が垂れ、顎先へと伝っていく。

レディはその血を下で軽く舐めた。

レディ「んん、そうこなくっちゃね」
そして笑みを浮かべた。

レディは能力も無い『人間』だ。
だが『普通』では無い。

先のゴートリングの攻撃は『見えて』いたわけではない。
勘で避けたのだ。

レディの先祖は戦巫女。
2000年前に先祖はスパーダと共に魔界と戦ったと代々伝えられてきた。

優れた戦巫女の母、そして数百年に一人現れるかどうかという天才的な素質を持っていた父、『アーカム』。

彼女はその二人の『才能』を色濃く受け継いでいる。

聖人が天界の加護を受けているのなら、レディは魔界の加護を受けているのだ。
そして何よりも彼女の強さの根源は、数多の戦いによって鍛え上げられた超人的な感覚と経験だ。

208: 2010/04/27(火) 00:27:41.44 ID:rHfIezA0
レディは屈んだままの姿勢で右手のMP5Kを向ける。
そして引き金を絞った。

複雑な術式が刻まれ、大量の魔力が篭められた破魔の銃弾がばら撒かれる。

その大量の銃弾がゴートリングの側面にめり込んでいく。
だがゴートリングの外皮は非常に固く、このレディの作った破魔の銃弾でさえ貫通しなかった。

レディ「やっぱ固いわね」

ゴートリングは咆哮をあげ、振り返るようにレディの方へ腕を振るい横に薙ぎ払った。
衝撃波で床板が剥げていく。

人間程度の脚力では、横や後方に避けても間に合わない。
ましてやダンテ達のように真上に高く跳躍することも出来ない。

レディ「はッ―――!!!」

レディは前に飛び出した。
その凶悪な腕の下を掻い潜ってゴートリングの懐に飛び込んだ。

ちょうど、屈んでいるレディの背中に背負っているロケットランチャーの砲口が、ゴートリングの顎の真下に来る。
レディは瞬時に背中へ手をまわし、ロケットランチャーの引き金に指をかける。

レディ「これはどう?」

そしてそのままの姿勢で引き金を引いた。
轟音が響き、燃焼ガスが噴出し床板が捲れあがる。
表面に術式の刻まれた、先端の尖った杭のようなロケット弾頭がゴートリングの顎下に食い込んだ。

209: 2010/04/27(火) 00:31:18.63 ID:rHfIezA0
顎下に杭のような弾頭が突き刺さり、ゴートリングが呻く。
レディは瞬時に身を低くして前に飛び、ゴートリングの股下を滑り込むようにして潜り抜けた。

そしてレディがゴートリングの背後に『脱出した』と同時に弾頭の遅延信管が炸裂した。
大爆発が起こり、崩れかかっていた天井や壁、床が更に吹き飛んだ。
だがゴートリングの体が盾となってレディにはその爆発は到達しなかった。

レディはスライディングしながら振り返り、腰に下がっているソードオフショットガンを左手で引き抜いた。
そしてゴートリングの膝裏へ一発ずつ、至近距離から放つ。

通常のショットガンなら傷一つつかないが、
レディの放つ銃弾は術式が刻まれ、莫大な量の魔力が練り篭められている。

散弾の雨を浴び、ゴートリングの膝が力なく曲がり、巨体が仰向けに倒れる。

ゴートリングの顎から胸にかけて、先の爆発で大きな穴。

レディは立ち上がり、右手のMP5Kを放り投げ腰についている手榴弾を一つ手に取る。
この手榴弾もまた対悪魔用に凄まじく強化されているものだ。

レディは親指で安全ピンを器用に引き抜き。

レディ「まあ暇つぶしにはなったわよ」

後ろに跳ねながら、仰向けに倒れているゴートリングの胸の傷穴に放り込んだ。

次の瞬間、ゴートリングの体が爆散した。
レディの凄まじい畳み掛けるような攻撃により、傷を再生させ治すヒマもなくゴートリングは敗れ去った。

210: 2010/04/27(火) 00:34:26.49 ID:rHfIezA0
レディ「さて……」
レディは体についたチリを手で払いながら、MP5Kを拾う。
そして弾倉を交換しながら粉塵に包まれている『爆心地』へゆっくりと歩いていった。

粉塵が徐々に晴れる。

すると、ゴートリングの鎖骨辺りから上が転がっていた。
その目はまだ赤く光っていた。

レディ「『こっち』来ないでよ。向こうで大人しくしてれば良いものを」
レディはMP5Kの銃口を向けた。

『…来る……』
脳内に直接響いてくる低い声。

レディ「うるさいわねとっとと氏になさいよ」
レディの指が引き金を引き始めたが。

『我等が王、我等が主が……』

その言葉を聞いてふと止めた。


レディ「―――は?」

211: 2010/04/27(火) 00:38:47.12 ID:rHfIezA0
『あのお方が再び『立つ』…我等が王よ…………』

その悪魔の言葉を聞いてレディの顔が段々引きつっていく。

覇王の事を言っているのだろうか?

いや、それはない。

悪魔達が『主』、『王』と呼ぶ存在は一人しかいない。

『魔帝』だ。

覇王は魔界の統一玉座に座る前にスパーダによって封印されたため、そうは呼ばれていない。
だが魔帝は二ヶ月前にスパーダの一族達の手によって完全に滅んだはず。

魂ごと完全にだ。
どこにもその『力』の欠片は存在していないはずだ。

つまり復活の可能性はゼロ。

ではこの目の前の氏にかけの悪魔は『誰の事』を言っているのだろうか。


レディ「―――何を言ってんの?」
レディがゴートリングの頭部へ銃口を向けたまま問う。


だが悪魔は何も言わなかった。
ただ小さく、その山羊のような口が曲がった。
レディにはわかった。

この悪魔は笑っている と。

次の瞬間、ゴートリングの頭部が白くなりひび割れ、砕け散って砂となって消えた。


―――

212: 2010/04/27(火) 00:44:15.90 ID:rHfIezA0
―――


上条がデビルメイクライに居候して10日経った。

上条はこの生活にすっかり慣れていた。

さすがにあのトリッシュの凌辱的な『拷問』は厳しいが。
(御坂は相変わらず顔を手で覆いながら立ち会っている)

朝起きて御坂の手作りの朝食を食べ、
ダンテと共にネバダ砂漠に行き文字通り『挽肉』になるまでしごかれ、
戻ってすぐにトリッシュの地獄の検査を受けて遅めの昼食。

その後は昼寝したり御坂と話したり、また彼女に英語を教わったりして過す。

たまに御坂の買い物に付き添い外出し、周辺をぶらぶらしたり
ちょっとした喫茶店に寄ったりして時間を潰した。

心の底から嬉しそうに振る舞う御坂を見て上条の疲れも癒された。
整った顔の女の子の笑顔を見るのは悪くは無いものだ。

ちなみに御坂にとっては昇天してしまいそうなくらい幸せな時間だ。

そうやって午後を過ごし、夜に御坂の手作りの晩御飯を食べ、
インデックスに電話して眠りにつく。

それが上条の一日だ。

213: 2010/04/27(火) 00:48:26.99 ID:rHfIezA0
上条の内なる悪魔の稼働率は15%。

ダンテやトリッシュの予想を上回る速度で上条は力を引き出し始めていた。
感覚が鋭くなり、身体能力、反射速度が軒並み向上していった。
ダンテ達から見ればまだまだだが、高等悪魔とそれなりに戦えるレベルだ。

更に上条はその力を使いこなし始めてきていた。

その上条の習得速度やセンスにはダンテすら少し驚いた。
ダンテ達と比べれば遠く及ばないものの、かなりの素質がある。
本当に元は人間だったのか? と疑いたくなる程だ。

元々かなり喧嘩慣れしており、右手1本でとんでもない敵を打ち倒してきたが、
それでも説明できないレベルだった。

そしてトリッシュが少し驚いた点がもう一つあった。
これには御坂も驚いた。

御坂から英語を教わっているのだが、その習得速度が異常なのだ。

ここに来たときは挨拶や簡単な単語程度しか分からなかった上条が、
いまや、簡単な日常会話なら特にどもることなくスラスラと喋れるようになっていた。
(それに伴ってダンテやトリッシュも『いつも通り』英語を使い始めた)

たった10日でだ。

その覚え方も面白い。
ノートに何度も書きこんだりするのではなく、直感的に飲み込んでいったのである。

上条曰く「あれっ俺今英語で喋ってるな」という感覚らしい。

『覚える』のではなく、気づいたら『知っている』というものだ。

どう考えても先の力の使い方を学ぶ速度と言い英語の件といい、普通では無い。

214: 2010/04/27(火) 00:53:39.83 ID:rHfIezA0
トリッシュは二ヶ月前から思っていたが、この少年は実は馬鹿に見えてかなり頭が冴えているらしい。
そして直感的な感覚もかなり鋭い。

馬鹿と天才は紙一重と言うが、正にその言葉通りだ。

というか、この少年は『元』から少し人間離れしている。

大体、右手にしか無効化の力が無い。それ以外はタダの人間。
それなのに御坂が勝てないとは。

トリッシュはそれを最初聞いた時は信じる事ができなかった。

普通の人間が雷速に反応するなど到底無理だ。
避雷針になったとしても話が出来すぎている。

あの二ヶ月前にベオウルフをつけて無理やり蘇生させた時も、すぐにベオウルフの力を使い始めた。
ステイルなんかは無数の術式でガチガチに固めてやっとイフリートを操作する事ができた。
御坂は電気の性質を完璧に理解していた為にアラストルを使えた。

だが上条の場合は、
PCを触ったことも無いアナログ人間が、OSの入ってないPCをいきなり使いこなすようなものだ。
『ベオウルフの記憶を見たから』だけでは説明がつかない。

そして彼の『魂』の頑丈さも普通では無い。
先日暴走した時も、彼の本来の魂が耐えられずに押しつぶされて消滅していてもおかしくないのだ。
たとえ消滅しなかったとしても、確実に破壊され廃人と化してたはずだ。

トリッシュからすれば暴走した時点で完全アウトなのだ。

だが上条はまともなまま、そして五体満足で生き延びた。
しかもその次の日には退院できるレベルまで回復だ。

前々からトリッシュは疑問を持っていたが、先日の件とこうして一緒に過す事で確信した。
この少年は元から普通では無いと。

216: 2010/04/27(火) 00:58:26.83 ID:rHfIezA0
『上条当麻』という研究材料はトリッシュの好奇心をくすぐる。

上条が普通じゃない原因は彼が元から持っている『幻想頃し』によるものなのだろうか。
それが悪魔化の刺激によって顕著になってきているのだろうか。

彼の力もまた他の能力と同様、天界でも魔界の物でもない、『人間界の隠された力』か。
だがそう決め付けるのは早計だ。

なにせ他の能力と比べれば余りにも異質すぎる。

『人間界の隠された力』としても、少なくとも『全く一緒』ではないだろう。

通常の『能力』と上条の『幻想頃し』。

トリッシュからすると、魔界で例えるなら通常の悪魔の力と魔帝の『創造』の力のように、
生まれた場所は同じでも本質的な次元が違うような関係に見える。

このまま悪魔化が進み、魂と力の器が肥大化したら、彼が元から持つ力はどうなるのだろうか?

彼の中に巨大な『何か』が眠っているとするのなら、それが目を覚ますのだろうか?

彼の右手自体も悪魔化したらどうなるのだろうか?


この『上条当麻』という少年は一体何者なのだろうか?


この『研究素材』はトリッシュの好奇心を強く揺さぶる。
しかし今の彼女には答えを出すことは出来なかった。

何せ『幻想頃し』の情報が無いのだ。
『人間界の隠された力』などつい最近気付いたことで、トリッシュにとってはまだまだ未知の領域だ。

それに一応『幻想頃し』について調べることも固く禁止されている。
今、それをわざわざ破って学園都市との関係をこじらせるのはあまり好ましくない。

だが彼女はほくそ笑む。
いずれ答えを出してやる と。
とにかく知りたいのだ。

それこそ、今の仕事をほっぽり出して上条を徹底的に解剖してみたいくらいだ。

その執念じみた知識欲もまた、『力』に固執する悪魔の本能からくる衝動だ。

―――

217: 2010/04/27(火) 01:06:19.79 ID:rHfIezA0
―――


ネバダ砂漠のど真ん中。

上条は仰向けで地面に倒れていた。

上条「がぁ……」
全身の傷が湿った軋むような音を立てて塞がっていく。

上条「ッ…」
ぎこちなく上半身を起こした。
裸の上半身は相変わらず血まみれだったが、傷は全て消えていた。

右手以外はだ。

上条「……」
白いギプスのような物に覆われている右手を見る。

右手の地肌が一切見えないように包帯を巻き、
その上にトリッシュとダンテが加工した魔界の金属生命体のプレートを被せ、
そして学園都市製の強化ギプスで固定しているのだ。

これぐらいしないと、この激しい組み手の中で右手は簡単に千切れ飛んでしまうだろう。

トリッシュによると、ほんの僅かだが徐々にこの右手も悪魔化してきているという。

だが、依然この右手の治癒力・耐久度は相変わらず人間並みなのだ。

ダンテ「ヘィ!!どうした!?もう降参か!?」
10m程の所に立っていたダンテがまるで犬を誘っているかのように手を叩きながら挑発する。

上条「へっ!!!」
上条が左手で口の血を拭い勢い良く立ち上がった。

218: 2010/04/27(火) 01:09:53.23 ID:rHfIezA0
上条「おおおおおお!!!!」
上条が地面を蹴りダンテに突進する。
人間の限界を遥かに超えた脚力は上条の体を一瞬でダンテの前に運んだ。

上条は左拳をダンテの顔面目がけて振るう。
だがダンテは欠伸をしながら顔を軽く傾けそれをかわした。

そして次の瞬間、上条の顎に下からダンテの膝蹴りが振るわれた。
上条の顎が一発で粉砕され、彼の体は20m程宙を舞った。

しかし上条は地面には叩きつけられなかった。
空中で体制をひらりと身を建て直し、地面に着地した途端、再びダンテへ向けて一気に突き進んだ。

ダンテ「humm......」

その突進してきた上条へ向けてダンテは足を振るう。

完璧なカウンターのタイミングだったが、上条は瞬時にそれに反応した。
咄嗟に左手をかざしガードする。この速度に慣れ始めてきたのだ。

更に、徐々に悪魔としての力を使いこなし始めている。
左手が白く輝き、悪魔の力で『強化』される。

ダンテ「いい動きだが―――」


だがまだまだだ。


ダンテの蹴りは上条の左手を砕き、そのまま首に炸裂した。


ダンテ「―――避けるか防ぐかの判断はまだつかねえか」

上条の首があさっての方向へひん曲がり、彼の体は大きくスピンしながらぶっ飛んでいった。

219: 2010/04/27(火) 01:15:01.14 ID:rHfIezA0
上条「んぐぁっ!!!!!」
首が大きく曲がり、骨が粉砕される。

上条の体は人形のように地面を弾み、20m程吹っ飛ばされた。

普通なら氏ぬだろう。

上条「ふんがぁ!!!」
だが上条は僅か5秒後に再び立ち上がった。
あさっての方向に曲がっていた首も砕かれた左手と顎も完全に再生していた。


上条「ぶはぁ!!!まだまだぁ!!!」
上条が血を吐き、右手で拭いながらダンテを睨む。

ダンテ「(……慣れてきたな……もうちょっと強くいくか)」

ダンテ「来い」

上条「らぁ!!!」
上条が再び地面を蹴り突進する。

だが次の瞬間、ダンテの姿が消えた。

上条「へぁ―――?」

そして赤い光の塊が目の前に現れたと思った瞬間に胸に強い衝撃。
肋骨が砕け、肺と心臓が潰される。
何が起こったのかわからないまま上条は後方に大きく吹っ飛ばされ地面に叩きつけられた。

上条「げはぁ…!!!」

気付くとダンテが地面に這いつくばる上条を見下ろしていた。


ダンテ「おめでとさん。レベルアップだ。坊や」


上条「……ハッ!!!上等だぜ!」

上条は口から溢れる血を左手で拭い、勢い良く立ち上がった。



―――

231: 2010/04/27(火) 23:44:09.46 ID:rHfIezA0
―――


御坂は事務所の一階のホールのソファーに座っていた。

御坂「あ~…」
気の抜けた声。
ダンテと上条は毎度の如く『修行』に行き、トリッシュもいつもと同じくどこかに外出中だ。

この時間帯は特に何もする事が無く、いつもヒマなのだ。
洗濯も掃除も済ませ、晩の献立も考え終わり、そして留守番。
いつもの事だ。

それにこの事務所には不思議なくらい客が来ない。
少なくとも御坂達が滞在してから一度も来ていない。

ここの経営は大丈夫なのだろうかと御坂は時々思う事がある。

だが今日は違った。
御坂がソファーでのびていると、突如玄関の大きなドアが乱暴に開いた。

一瞬トリッシュが帰ってきたと思い上半身を起こしたが、入ってきたのは別人だった。

胸元が大きく開いた白いジャケットに、パンツが見えそうなくらいギリギリのホットパンツ。
高そうなサングラスをかけた、無造作なショートヘアのグラマーな女性であった。
露になった太ももには銃と弾倉、腰にも多くの武器がぶら下がっており、
背中には先端に巨大な刃がついた身長ほどもありそうなロケットランチャーを背負っていた。

御坂「……ッ!!」
明らかに、どっからどうみてもカタギではない。

御坂は立ち上がり、前髪に電気を走らせながらその奇妙な客人を警戒して見据えた。

その女はそんな御坂の緊張なんか気にも留めずに普通に入って来た。

「ダンテは?いないの?」

女が事務所の中を見渡しながら、流暢な英語で呟いた。

御坂「い、いないわよ!」
御坂がぎこちない英語で返す。

232: 2010/04/27(火) 23:48:39.44 ID:rHfIezA0
女が軽く鼻を鳴らし、御坂の方を向いた。
そしてサングラスの端を摘み、軽く下ろした。

下げられたサングラスの上端から、赤と青のオッドアイの瞳が現れた。

御坂「…!」

女は上目遣いのまま御坂を舐めるように見た。

御坂「……」
御坂は前髪に電気を走らせながらジッと睨み返した。


「ところであんた誰?」


御坂「あ、あんたこそ何よ!?」
御坂は言いながらあたしは何様よ と思った。
相手は少なくともダンテの知人だろう。

恐らく御坂が部外者なのだ。
だが、この目の前の女から向けられる異様な威圧感と殺気で、
反射的に敵対的な態度を取ってしまった。

女はそんな御坂を見ながら、首を傾け小さく笑った。
まるで小馬鹿にしているかのように。

御坂「な、何よ!?」

233: 2010/04/27(火) 23:54:08.51 ID:rHfIezA0
「まあいいわ。待たせてもらうから」

女はそっぽを向いて、近くのビリヤード台に腰掛けた。
そして恐らくダンテが適当に置いたであろう、ビリヤード台の上にある雑誌を手に取り捲り始めた。

御坂「……」
御坂は電気を前髪に走らせたまま、警戒の態度を崩さずにソファーに座った。

数十分。

重苦しい沈黙の空気。
重苦しい空気を醸し出しているのは御坂だけなのだが。

女はそんな御坂を気にも留めず、
まるでカフェテリアで午後の休息をとってるかのように優雅に雑誌を捲っていた。

と、そんな時、再び事務所のドアが大きく開けられた。

「よう!!ダンテェ!!トリッシュ!!いるか!?」

またもや御坂の知らない人物だった。

姿を現したのは小太りのチビな男だった。
くたびれたコートにハットとサングラス。脇には大きなトランクを抱えていた。

御坂「わひゃ!!!」
御坂は驚き、先よりもさらに放電しながら再び立ち上がった。

女も流し目で凍て付くような視線をその男に向けた。

234: 2010/04/27(火) 23:58:13.61 ID:rHfIezA0
「……って!!!おおおおい!!何だよ!!!」
男が二人の視線を浴びて玄関のところで戸惑う。

「相変わらず声がデカイわね。エンツォ」

エンツォ「す、すまん……で、レディ、あっちのガキはなんだ?トリッシュの親戚さんか?」

エンツォ「なんかバリバリ言ってるぜ?」

レディ「知らない」

御坂「……」

エンツォ「ダンテとトリッシュは?」

レディ「知らない。あの子に聞けば?」
レディと呼ばれた女が御坂の方に目を向けた。

御坂「…!」

エンツォと呼ばれた小太りの男がノソノソと事務所内に進み、
下品な笑みを浮かべながら御坂に近付いてくる。

エンツォ「へへへ、なあおチビちゃん……」

御坂「……」
チビにおチビちゃんと呼ばれ少しイラっとする。

御坂の前髪から、それ以上近付くなとでも言うかのように小さな電撃がエンツォの足元に放たれた。

エンツォ「ひぃいいい!!!す、すまん!!悪かった!!!」
跳ねるようにエンツォは数歩後ずさった。

235: 2010/04/28(水) 00:02:43.85 ID:Q.OOMDg0
御坂「な、何っ?」
あからさまな嫌悪感を浮かべた顔でエンツォに言葉を放った。

エンツォ「……ダンテとトリッシュはど、どこかな?」
レディと違い、この男の英語は汚くて少し聞き取りづらい。

御坂「出かけた」

エンツォ「そうか……いつぐらいに帰って来る?」

御坂「知らない」

エンツォ「ああ……ったく何だよ…早く来いって言っておきながらよぉ…」

エンツォがブツブツと不満を漏らした。

エンツォ「あのアマ……なんでこうどいつもこいつも…」


トリッシュ「何?文句ある?」


エンツォ「うひぃいあああ!!!!」
エンツォの背後にいつの間にかトリッシュが立っていた。

236: 2010/04/28(水) 00:06:40.42 ID:Q.OOMDg0
御坂「ト、トリッシュさん!!この人たちは…!」

トリッシュ「ああ、心配しないで。知人だから」

エンツォ「な、なあ、そのお嬢ちゃんなんなんだ?アンタの親戚か?」

トリッシュ「違うわよ。人間よ。訳ありでね」

レディ「……能力者ってやつ?」

トリッシュ「そう」

レディが雑誌を後ろに放り投げ、ビリヤード台から跳ねるように降りて御坂の方へ向かった。
そしてズイッと彼女を覗き込み、珍しそうにジロジロ見た。

御坂「……ッ!!な、な、な…」

レディ「へぇ~……電気使い?」

御坂「そ、そうだけど」

レディ「どんくらい使えんの?」

御坂「えっと……大体10億ボルトくらいの…」

レディ「すっごいわね。人間の癖してそこまでできるなんて。私も能力者になりたいわ」

御坂「……?」

レディ「私も人間。よろしくね電気使いちゃん」

238: 2010/04/28(水) 00:14:46.87 ID:Q.OOMDg0
エンツォ「へっはぁ~すげえな、能力者って始めて見たぜ」

トリッシュ「あなたはあんまり見ないほう良いんじゃない?」

トリッシュ「この子気味悪がってるわよ」

エンツォ「お、おい!それどういう意味だ!!この野郎!!」

トリッシュ「いいから来て」

エンツォ「うおいっ!」
トリッシュがエンツォの襟を引っ張り机の方へ連れて行く。

低身長小太りのエンツォと高身でスレンダー(出るところはかなりでているが)なトリッシュ。
それはまるで教師が肥満の生徒を引っ張っていくような光景だ。

エンツォ「わぁったからよ!」
エンツォがトリッシュの手を振りほどき、机の上に大きなトランクを載せた。

トリッシュ「見せて」

エンツォ「おうおう」
エンツォがトランクのいくつもある複雑な厳重なロックを手馴れた手つきで外していき、開けて広げた。

御坂「?」
その中には、不気味な光沢を放つ奇妙な金属の塊、
古めかしい分厚い本、

そして妙な模様のある黒い拳銃が入っていた。

トリッシュ「ありがと」
トリッシュが金属の塊を手に取り、点検するように眺め机の上に置いた。
次に本を手にとってペラペラと捲り、机の上に置いた。

そして最後にその拳銃を手に取った。

239: 2010/04/28(水) 00:19:33.91 ID:Q.OOMDg0
M1911コルトガバメントを改造した物だ。
通常の物よりも銃身とスライドが長く、そして肉厚になっている。
一見するとダンテのエボニーに似ている。
あれよりも一回り小さいが。

表面は黒く滑らかで、黒曜石のような光沢を放っていた。

スライドの側面には木の枝のような銀色の紋様、
そしてその『枝』の先、銃口あたりには十字を二つ重ねたような、
『光の輝き』をあしらったようなこれまた銀色の紋様。

トリッシュ「へぇ…」
トリッシュはその銃のスライドを引き、マガジンを出し入れし、左手を真っ直ぐ伸ばして構える。

エンツォ「へへへ、どうだ?」

トリッシュ「ええ。さすがロダンね。良い仕事するわ」
そして引き金のところで手馴れた手つきでクルクルと西部劇の一幕のように回した。

レディ「見せて」
御坂の傍に立っていたレディが興味津々の顔をしてトリッシュとエンツォの方に歩いていった。

トリッシュがその拳銃をレディに差出す。

レディ「……」
レディが重そうに受け取った。

レディ「へぇ…良い銃だけど…」

レディ「相変わらずあんた達が使うのって重いわね。どっち?ダンテの?」

トリッシュ「違うわよ。あたしでもダンテでもない」

240: 2010/04/28(水) 00:24:50.91 ID:Q.OOMDg0
レディ「じゃあ?使い魔に持たせるとか?」

トリッシュが顔を横に振った。


トリッシュ「とある坊やにね」


レディ「何?あんた達子供でもできたの?」

トリッシュ「……あなた頃すわよ」

トリッシュ「『居候君』のよ」

御坂「……!!!」
御坂はピンと来た。

恐らく、いや間違いない。
トリッシュが言う居候君・坊やとは一人しかいない。


つまりあの銃は上条に―――。


御坂「(あいつの……!)」

トリッシュ「……」
その時、トリッシュが宙を見つめて動きを止めた。

トリッシュ「ちょっと待ってて。今ダンテ達を迎えに行ってくるから」

241: 2010/04/28(水) 00:28:28.43 ID:Q.OOMDg0
トリッシュは銃を机の上に置き、黒い円に沈んでいった。

レディ「ダンテ『達』?」

と、10秒ほどでトリッシュと共にダンテが戻ってきた。
ダンテの肩には『いつも通り』血まみれでのびている上半身裸の上条。

御坂「お、おかえり!!!」

ダンテ「おう」

ダンテ「お前らも来てたのか」
ダンテがレディとエンツォを見る。

エンツォ「ようダンテェ!!……ってその坊主はなんだぁ?」

レディ「へぇ……その坊や?」

トリッシュ「そう」

ダンテ「ちょっと待ってろ」
ダンテがバスルームの方に向かっていき、御坂がその後を小走りで追っていった。

242: 2010/04/28(水) 00:31:24.10 ID:Q.OOMDg0
開かれたバスルームのドアからシャワーの音が聞こえる。

レディ「で、あの坊や、何?」
机に腰掛け、置かれている銃を指で撫でながらトリッシュに問う。

トリッシュ「まあ、ベオウルフと人間の相の子、ってところね」

レディ「ベオウルフ……ああ、二ヶ月前の例の子ね。ダンテから聞いたわよ」

トリッシュ「そうそう」

エンツォ「……なんだぁ?もしかして『ここ』の新しい従業員にでもすんのか?」

トリッシュ「さぁ。どうかしら」
トリッシュがニヤリと笑った。

「ぶほぁ!!!!げほッ!!!げはぁっ!!!」

バスルームから少年のものと思しき咳が聞。

ダンテ「トーリーッシュ」
続けてダンテの声。

トリッシュ「はいはい」
トリッシュがバスルームに向かった。

243: 2010/04/28(水) 00:34:11.20 ID:Q.OOMDg0
ダンテがバスルームから出て、エンツォとレディのいる机の方へ歩いてくる。

バスルームからはトリッシュに続いて上半身裸の上条と御坂が出て、
そのまま地下室へ続く階段の方へ向かっていった。

レディ「何してんの?」

ダンテ「『育て』てる」
ダンテが机の上にある新品の銃を手に取り、点検するように眺めながら答えた。

レディ「悪魔化させんの?」

ダンテ「まあな。それで終わりじゃねえが。最終的には人間に戻すのが依頼内容だ」

エンツォ「?じゃあさっさと悪魔の部分殺せば良いじゃねえのか?おめぇの剣ブッ差したりしてよ」

ダンテ「それができねえからこうしてんだろ」

レディ「魂ごと融合してんだって」

エンツォ「……それって…無理じゃねえのか?『悪魔を人間に転生』させるなんざ聞いたことねえぜ?」

ダンテ「転生じゃなくひっぺ剥がす」

245: 2010/04/28(水) 00:37:35.12 ID:Q.OOMDg0
エンツォ「それじゃあますます無理じゃねえか。どうやるつもりなんだよ」

ダンテ「だから今その方法を探してんじゃねえか」
ダンテが持っていた銃をエンツォに向けた。

エンツォ「……うぉッ!!!な、何すんだよ!」
弾は入って無いが、さすがにいきなり銃口を向けられると驚いてしまう。

ダンテ「イイ銃だ。ロダンに礼言っといてくれや。近い内に店に顔出すともな」

エンツォ「おおう、そうだ」
エンツォがコートのポケットからくしゃくしゃの紙を取り出した。

エンツォ「その銃の仕様だ」

ダンテがその小さな紙切れを受け取り、鼻を鳴らしながら眺めた。

この銃はダンテがロダンに注文した物だ。

ダンテのエボニー&アイボリーをモデルとし、
ベオウルフの力に耐えられる、またベオウルフの力でブーストできるように、
そして秒間10発の連射に耐えられるように とだ。

つまりダンテのエボニー&アイボリーの下位互換だ。
ちなみに出来上がった現物は15kg程、ダンテのエボニー&アイボリーの約半分の重さだった。

当然、自動装填の術式も組み込まれている。
上条に使わせる場合は右手で触れないようにさせなければならないが。

247: 2010/04/28(水) 00:41:18.17 ID:Q.OOMDg0
ダンテ「いいじゃねえか。最高だぜ」
仕様書を眺めながらダンテが笑みを浮かべた。

エンツォ「へへへ……ところでよ…あのよ…」
エンツォが下品な笑みを浮かべて、胸の前で両手をすり合わせる。

ダンテ「いつも通りツケといてくれ。この銃の代金はお前が立て替えとけ」

エンツォ「………へーへー」
まあいつも通りだ。


「んぎゃあああぁぁぁぁぁあああああひぁああああああああんぎいいいいいいいぁあああああ!!!!!!」


地下室の方から突如悲痛な叫びが聞こえてきた。

エンツォ「うおぃっ!!!!!な、なんだよ!!!!」
エンツォが驚き、慌てふためく。

ダンテ「ハハァ、始まったか。なぁにいつもの事だ」

ダンテが気にする風も無く銃を弄る。
手馴れた手つきで分解し、パーツを机の上に並べていく。

248: 2010/04/28(水) 00:44:16.03 ID:Q.OOMDg0
レディ「で、具体的に何してんの?」
レディが引き金の部分のパーツを持ち上げ、重そうに手の平の上で転がす。

ダンテ「午前中は俺がぶちのめしてその後にトリッシュが『遊ぶ』」
ダンテが銃身の部分のパーツを顔の前に持ち上げ、覗き込みながら答えた。

レディ「面白そうね。手伝ってあげよっか?」

ダンテ「『どっち』を?」

レディ「当然ぶちのめす方。トリッシュの悪趣味なことには付き合いたくないわよ」

ダンテ「いいぜ。朝10時前に事務所に来い」

レディ「OK」

ダンテ「言って置くがよ、油断すると痛い目に合うぜ?あの坊や結構強くなってるしよ」

レディ「私を誰だと思ってんの?『悪魔も見惚れる』世界一美しいデビルハンターよ」

ダンテ「……」

エンツォ「……ぶふっへっへっへ…」

レディ「何がおかしいの豚野郎。金玉ぶち抜くわよ」

エンツォ「……いや……悪い」

250: 2010/04/28(水) 00:50:23.01 ID:Q.OOMDg0
地下室のドアが開く音がする。
そして見るからに機嫌が良いトリッシュが戻ってきた。
その後ろにメソメソと泣く上条と、彼を慰める御坂。

ダンテ「よう、楽しかったか?」
ダンテが銃を組み上げながら三人の方へ声を飛ばした。

トリッシュ「最高よ」

レディ「本当悪趣味ね」

トリッシュ「何よ」

ダンテ「つーかよ、お前は今日何の用だ?また暇つぶしか?」

レディ「あ~……」
例の洋館での件で来たのだ。
なんでもないタダのたわ言かもしれない。だが一応は伝えておいたほうがいいだろう。

レディ「この間ゴートリングを頃したんだけどさ、そいつが氏ぬ前に喋ったの」


レディ「『あのお方が再び立つ。我等が王が』って」


ダンテの手が止まった。


ダンテ「………………へぇ」


レディ「……って、ちょっといい?」
レディがホールの隅でゲッソリしてうな垂れている上条に目を向けた。

251: 2010/04/28(水) 00:54:55.14 ID:Q.OOMDg0
ダンテ「あ~、おい!イマジンブレイカー!来い!」
ダンテが手招きをする。

上条がうつろな目でふらふらしながら彼らの所へ向かった。
御坂が上条の背中をさすりながら後に続く。

レディ「へぇ……この子がベオウルフの…」

上条「ど、どうも…」

レディ「はじめましてって、そっちははじめてじゃないわね」

上条「あ…はい…まあ一応」
上条はベオウルフの『記憶』を見た事によってレディとエンツォを知っている。

エンツォ「この坊主もあれか?能力者ってやつか?」

トリッシュ「まあね。能力者で悪魔ってところかしら」

エンツォ「すげえな坊主!!!聞いてるぜ!よくあんな代物とくっついて生きてられんな!」

上条「は、はあ」

エンツォ「で、能力はなんだ!?火とかか!?」

トリッシュ「なんて言えばいいのかしらね……イマジンブレイカーって言って、魔術とか片っ端から消しちゃうの」

エンツォ「……はぁ?」

252: 2010/04/28(水) 00:57:47.04 ID:Q.OOMDg0
トリッシュ「レディ。弾一つちょうだい」

レディが腰から銃の弾倉を1本引き抜き、銃弾を一つ押し出して机の上に転がした。

表面に術式が刻まれ、魔術的に強化された破魔の弾丸だ。

トリッシュ「これ、触って」
トリッシュが上条へ言う。

上条「おう」
上条が右手の拘束具の人差し指の部分だけ外す。

そしてその弾丸を人差し指で軽く触った。

すると次の瞬間、銃弾にひびが入りそして細かく砕け散った。

エンツォ「うおおお……まじかよ!!!!」

エンツォがその砕けた銃弾を食い入るように見る。

レディ「へぇ~おっもしろいわね」

トリッシュ「凄いのよコレ。魔帝の『創造』もぶっ壊しちゃったんだから」

レディ「あ~そういえばそんな事もいってたわね」

エンツォ「おいおい……マジかよ……すんげえぞそれ……」

253: 2010/04/28(水) 01:01:21.19 ID:Q.OOMDg0
レディ「消せる力の量とかには上限は無いの?」

トリッシュ「一応あるみたい。そうね………ダンテが魔人化した時とかの力は無理かしら」

トリッシュ「でも、純粋な力を消すには上限はあるけど、内部の構造をぶっ壊すのには制限は無いみたい」

トリッシュ「魔帝の『創造』だって力を正面から消したんじゃなくて、『方程式』を破壊して崩壊させたような感じだし」

レディ「へぇ~。原理は?」

トリッシュ「さぁ」

レディ「……」

エンツォ「しっかし……それにしても『ふざけた』力だぜ……お前さん達もアレだが、この坊主も中々やばいじゃねえか」

レディ「ところでさ」

トリッシュ「何?」

レディ「さっきの弾の代金、ちゃんと借金に上乗せしとくから。一発だからって見逃さないわよ」

ダンテ「………」

トリッシュ「………」


―――

277: 2010/04/29(木) 23:09:04.39 ID:OPQrPOg0
―――

学園都市。

とあるマンション。
時刻は夜中。
黄泉川と芳川、そしてインデックスと打ち止めは奥の寝室で並んで寝ている。

リビングの中は静かだった。
ただ聞こえるのは、缶コーヒーをすする音。

一方「……」
一方通行は缶コーヒーを左手に持ちソファーに座っていた。

そしてもう一人。

机を挟んで一方通行の向かいの椅子に座っている赤毛の長身の男。

ステイル。

彼もまた一方通行と同じ銘柄の缶コーヒーを飲んでいた。

ステイル「……そうだな…はっきり言っておこう」
ステイルが手に持つ缶コーヒーに目を落としながら、神妙な面持ちで静かに呟いた。

一方「……なンだ?」


ステイル「これはコーヒーとは言えない。泥水だ」


ステイル「日本人にありがちだけどね、何でも缶に詰めれば良いってもんじゃないんだよ」

一方「るせェ」

278: 2010/04/29(木) 23:13:49.11 ID:OPQrPOg0
ステイルはインデックスの様子を見に来たのだ。
一方通行とステイルは直接会話したことは無かったが、二ヶ月前の事件の後、お互いを病院で何度か目にした。
それにステイルは彼が『学園都市最強』のレベル5第一位というのを知っていた。

彼はいきなりこのマンションに押しかけて来たが、インデックスの友人という事もあって黄泉川は快く家にあげ、
一緒に夕食まで食べたのだ。

ステイルは誰とも馴れ合わない気質だが、黄泉川や芳川はそんな人物を相手にするのは慣れっこだ。
それにステイルも少し上機嫌だった。

インデックスが彼を親しい『友人』のように出迎えてくれたのだ。
彼女が記憶を失ってから、ステイルはあくまで良くて『知り合い』だった。

だが二ヶ月前、ステイルが命を捨てかけてまでインデックス救出の為に戦った事により、
インデックスの中でステイルの株がかなり急上昇していたらしい。

そんな事で、同僚や部下達が見たら、気持ち悪がってしまうほど柔らかい表情でステイルはすごした。


ステイル「とまあ……それはさておき…彼女の件だが…」

一方「……俺は保育士じゃねェ。サービスの文句は受付ねェぞ」

ステイル「いや、今回はただの確認さ。特に文句も無い」

一方「……」

ステイル「彼や土御門が信頼しているのなら構わないんだけどね」

ステイル「彼女を預けるのなら一度直で会っておかないとね」

一方「……へェ」

279: 2010/04/29(木) 23:18:11.76 ID:OPQrPOg0
ステイル「まぁ、君も『それなり』に強いらしいし任せるよ」

一方「……」
そのステイルの言葉で一方通行の眉毛がピクリと動いた。

一方「テメェ……今『それなり』ッつッたな?」

ステイル「それが?この僕が認めたんだ。喜びなよ」

一方「ヘェ。そいつはありがてェ。ガリガリのマッチ棒野郎に認められるとはよォ。俺も随分とエラくなッたもンだ」

その挑発的な言動を聞いてステイルの眉毛もピクリと動いた。

ステイル「僕も本当は信じられないんだけどね。こんな色白のモヤシ野郎が学園都市最強だなんて」

痩せているのはお互いサマなのだが。


一方「そォかいじゃァそのお日サマみてェな頭にねじ込んでやろうかァ?今なら地球の自転ベクトルもプレゼントしてやるぜェ」


ステイル「僕も君を少し焼いてあげようか。こんがり小麦色にね。特別に超新星爆発並のサービスしてあげるよ」


一方「……」

ステイル「……」

二人は小さく笑みを浮かべたまま、笑っていない鋭い目をお互いに向けた。

280: 2010/04/29(木) 23:21:05.36 ID:OPQrPOg0
一方通行は風の噂(主に土御門)により、このステイルが悪魔化した炎使いだと言う事は知っている。
ステイルもまたこの一方通行が、『学園都市最強』の名を冠するに相応しい力を持っているというのは知っている。

だがお互いが二ヶ月前に、誰とどのように戦ったかという事までは知らない。


二人とも戦略兵器級、それこそ小国程度なら一人で滅ぼせる程の力を持っているのは自覚している。
そしてその強さが自分の存在証明でもある。

力にある意味固執しているそんな二人が、それも他人を貶すような態度がナチュラルである彼らが、
こうして二人っきりになるといがみ合うのも当然だ。

黄泉川からすれば正に思春期のガキのガンの飛ばしあいに見えるだろうが、
そのガキ達の力は戦略兵器級なのだから困ったものだ。

二人ともこうして実際に話してみて確信した。
『こいつはいけ好かない』と。

ステイル「……まぁ…」

一方「……アァ」

ステイル「こんぐらいにしておこう」

一方「だな」

だが二人はある方面ではそこらの大人よりも『熟成』している。
二人とも『戦場』が日常の者だ。

一時の感情や衝動に身を任せるのは『戦士』として失格だ。
そんな事をする者はただのケダモノなのだ。

まあ二人ともたまに大事な者を守る為に『ケダモノ』になってしまう事があるのだが。

283: 2010/04/29(木) 23:30:10.93 ID:OPQrPOg0
ステイル「……とにかく、任せるよ」

ステイル「報告はそっちでもしているだろうが、『サブ』として土御門にも報告してくれ」
ステイルが缶コーヒーを口に運びながら言う。

一方「アァ」

ステイル「……それにしてもマズイなこれは」
手に持っていた缶コーヒーを見ながら眉間に皺を寄せる。

一方「チッ……じゃァ飲むんじゃねェよクソが」

ステイル「ああ、悪いね。せっかく出してもらったのに。ちゃんと飲みきるよ」

ステイル「社交辞令さ。イギリス紳士は礼を守らなきゃね」

一方「それを言ッてんじゃねェよ。おしゃべりな野郎だぜ」

ステイル「ああそうそう、一つ言っておくよ」

一方「アァ?」

ステイル「彼女『には』手を出さないでおくれよ?」


ステイル「もし手を出したら少なくとも僕と天草式の『天使』が君を頃しに来るよ」


一方「……」
一方通行の頭の中に、サングラスをかけた金髪のアロハシャツの男の顔が浮かんだ。

一方「……………(土御門の野郎…ぜッてェいつか頃す)」


―――

285: 2010/04/29(木) 23:35:51.34 ID:OPQrPOg0
―――

事務所デビルメイクライ。

レディとエンツォが帰った後、
ダンテ、トリッシュ、上条、御坂は一階のホールで遅めの昼食をとっていた。

机の上には三枚のピザ。
ダンテは椅子に座り、背もたれに思いっきり寄りかかりながら、
上条と御坂は近くのソファーに座ってピザを食べていた。

トリッシュも机に軽く腰掛け、ピザを摘んでいた。

ダンテ「……」

トリッシュ「どういうことかしらね」

ダンテ「さぁな」

ダンテとトリッシュは、先ほどレディが伝えてきたとある悪魔の最期の言葉について話していた。

レディは 氏ぬ間際のうわ言かも と言っていたが、完全に無視することはできない。
その言葉を放ったのが高等悪魔ならば尚更だ。

上条と御坂はピザを食べながら黙って二人の話を聞いていた。

トリッシュ「まあ、復活はありえないわよね」

287: 2010/04/29(木) 23:40:19.33 ID:OPQrPOg0
ダンテ「多分な」

トリッシュ「多分って何よ。あなた達が止めを刺したんでしょ?」

ダンテ「ああ。全部吹き飛ばしたぜ。木っ端微塵で跡形もなくな」

トリッシュ「本当に?」

ダンテ「ウソはいわねえ。魂は完全に消えた。あのクソ野郎は完全に氏んだ」

トリッシュ「……魂はね……でも『力』がどこかに残ってたら?」

ダンテ「んなもんどこかにあったって使えるやつなんざいねぇだろ」

トリッシュ「あなたぐらいなら使えると思うけど?」

ダンテ「……」

トリッシュ「バージルも。ネロもギリギリ使えるわね。あと封印されてる覇王とかも」

トリッシュ「魔界の大悪魔達の中にも何人かいるかもしれないわね」

ダンテ「使う奴がいたらまた叩き潰す。それで文句ねえだろ」

トリッシュ「……」

ダンテ「つーかあんくれぇの力なんざ残ってたら目立ちすぎてすぐに気付くだろ」

288: 2010/04/29(木) 23:44:59.17 ID:OPQrPOg0
トリッシュ「……形を変えて残してたら?」
トリッシュが上条の右手を見た。

魔帝の『創造』に触れ、それを破壊した右手を。

トリッシュ「例えば……『力』ではなく『情報』として。『記憶』とか」

ダンテ「……へぇ」

上条「……ん?」

トリッシュ「案外近くにあったりして」

ダンテ「……面白え」

トリッシュ「まあ、忘れて。ただの一人言」

ダンテ「気にすんな。こっちの話だ」
ダンテも上条を見ながらニヤリと笑った。

上条「……お、俺の事か?」

ダンテ「何でもねえ」

トリッシュ「忘れなさい。ま、そのうち喋ってあげるから」

トリッシュ「今やる事に専念しなさい」

上条「お、おう……」

289: 2010/04/29(木) 23:47:27.92 ID:OPQrPOg0
ダンテ「そうだ、坊や」
ダンテが上半身を起こし、机の上にある黒い銃を手に取った。

そして引き金の部分に指をかけクルっとまわし上条の方に差し出した。

上条「……へ?」

ダンテ「ほれ」

上条「あ、ああ」

上条が不思議そうな顔をしてソファーから立ち上がり、
机の方に行きその銃のグリップを左手で恐る恐る握った。

ダンテ「どうだ?」

上条「どうって……?」

ダンテ「お前のだ」

上条「………………はぃいいい?!!!!」

御坂「(やっぱり……!!)」

ダンテ「お前がこれから使う。名前でもつけてやんだな」

290: 2010/04/29(木) 23:50:22.47 ID:OPQrPOg0
上条「……ナ、ナゼ?」

ダンテ「あった方が色々便利だぜ?楽しいしよ」

ダンテ「スパイスだスパイス」

上条「……………」

トリッシュ「ダンテからプレゼントなんてそうそう貰えないわよ。おめでと」

上条「…………ハ、ハイ…」

上条はその左手にある銃を顔の前に持ち上げまじまじと眺める。

ダンテ「あとよ、生身の右手で触るなよ?」

上条「へ……?」

ダンテ「装填用の術式が剥げる。術式がねえと一瞬で弾が切れんぜ」

上条「そ、そうか……でも俺、銃の使い方なんか…」

ダンテ「教えてやる」

トリッシュ「ああ、そうそう、明日特別講師が付くから」

上条「?」

293: 2010/04/29(木) 23:55:16.62 ID:OPQrPOg0
ダンテ「お前が『知ってる』奴だ。」

上条「……は、はあ」

御坂「ま、まあよかったんじゃない?、ほ、ほら、それも結構サマになってるし!」

上条「そ、そうか?」
上条が戸惑いと嬉しさが混ざった笑みを浮かべる。

御坂「でさ、ところで……一つ良いかな?……」
御坂が何か言いたそうにもじもじする。

トリッシュ「どうかした?」



御坂「そ、その……あたしも……欲しいかな~って…」



御坂が上条の銃をチラチラ見ながら小さな声で言った。

トリッシュ「……」

ダンテ「…………何言ってんだお前?」

294: 2010/04/29(木) 23:59:55.37 ID:OPQrPOg0

御坂「あたしも……何か……そ、その、あたしはそういう為にここに来てるんじゃないのは知ってるけど…」


トリッシュ「……」
トリッシュは二ヶ月前の事を思い出した。
御坂はブリッツをダンテの銃を使って一撃で屠った。

この少女は確かにかなりの力を持っているが、戦闘時はほとんど無駄にしているようだった。
ダンテの銃のように、力を無駄なく束ねて一点集中できる物があればかなり戦い方も効率化されるだろう。

ダンテ「……」
ダンテもまた思い出した。
この少女はダンテの知る限り、『強い』のがかなり好きらしい。

はっきり言うと戦闘狂の気がある。


この間の地下駐機場のときもアラストルを手にしてかなり喜んでいた。
(ちなみにアラストルはまだ見つかっていない)

それに、この少女は上条の傍にいて彼を守りたいからとにかく強さを欲しいのだろう。
上条の横で並んで戦いのだ。

御坂「お願いします!!!お願い!!!」


ダンテ「……あ~」

295: 2010/04/30(金) 00:03:31.43 ID:jDb3X/w0
トリッシュ「……」
トリッシュがダンテの顔を見る。

トリッシュ「いいんじゃないの?パパって作ってあげれば?」


御坂の子猫のような目を見てダンテが手を広げた。

ダンテ「あ~……しょうがねえな」


御坂「!!!!」
御坂の顔がパーッと明るくなった。

ダンテ「だがわざわざロダンに注文はしねえ。俺があり合わせで作るからそれで我慢しな」

御坂「うんうん!!!お願いしますッ!!!!」

ダンテ「あと弾は自分で買え。レディから」

御坂「?レディってさっきの…」

トリッシュ「あなたは悪魔じゃないから弾頭強化出来ないでしょ?」

トリッシュ「チタンとかで強化したのでも別に良いけど、レディに術式で強化してもらった弾の方が安いと思うわよ」

トリッシュ「そっちの方が悪魔には効果抜群だし」

ただし、比べると安いというだけだ。

その分野のスペシャリストが一発一発術式を刻んで作る破魔の銃弾だ。
普通の弾よりは遥かに高い。

296: 2010/04/30(金) 00:05:26.06 ID:jDb3X/w0
ダンテ「明日もあいつ来るからそん時に話しな」

上条「(明日?特別講師ってレディさんか?)」

御坂「は、はぁ…」
少ししか話していないが、あの女はなんか苦手だ。
まあこの感覚は、初めてダンテと会った時も味わっのだから一時的なものだろうが。

トリッシュ「お金はあるんでしょ?レベル5はお金持ちって聞いたけど」

御坂「ま、まあそれなりには……」

ダンテ「油断するなよ」

御坂「へ?何が?」

ダンテ「ぼーっとしてるとよ、全部搾り取られるぜ」

御坂「?」


―――

297: 2010/04/30(金) 00:12:22.54 ID:jDb3X/w0
―――

四人で遅めの昼食を食べた後、
トリッシュはいつも通りフラッとどこかに行き、
ダンテは上条の銃を調整・御坂の武器を作るために仕事部屋に篭り、
上条は軽く御坂と談話した後自室で昼寝していた。

そして御坂は自分の部屋で洗濯物を畳んでいた。

コインランドリーに置いてあるような大型の洗濯機で上条と自分自身の服を洗い、
一番日当たりの良い御坂の部屋で干していたのだ。

当初は上条の服をいちいち手にとっては頬を赤らめてボーっとしていたが、
今はテキパキとこなせるようになった。

相変わらず少し頬を赤らめているが。

ちなみに妹達には
『所帯じみて来ましたね』とか『一つくらいパンツ盗んでもわかりませんよ』
『匂い嗅がないんですか』などなど好き勝手な事を毎晩言われている。

本音を言ってしまえば嗅いでみたいのだが、
それをやってしまうと越えてはいけない一線を越えてしまいそうな気がするのだ。
身近に、その一線を越えてしまった、彼女を「お姉さま」と慕うツインテールの少女等の良い例がある。

それに妹達も見ている。
これ以上『姉』としての威厳を落とすのは御坂のプライドが許さない。

御坂「よしっ…と」

二人分の服を畳み終え、積み上げられている上条の服を見ながら表情を引き締めた。

御坂「じゃあ…行きますか」

上条の服を持ち、立ち上がり部屋を出る。
そしてすぐ隣のこの服の主の部屋の扉の前で立ち止まり、一度深呼吸した後軽くノックをした。

298: 2010/04/30(金) 00:15:58.78 ID:jDb3X/w0
御坂「……」
上条はこの時間はいつも爆睡している。
当然返事は返ってこない。

御坂「お、お邪魔します」
御坂がゆっくりと扉を開けた。

案の定上条はベッドで仰向けに大の字になって寝ていた。

御坂がおずおずと、上条の寝顔をチラチラと見ながら部屋に入る。

御坂「……」
御坂は扉を静かに閉めた後、真っ直ぐと上条の所へ直行した。
そしてベッドの脇へ洗濯物を下ろし、自分も屈んだ。

上条の寝顔をじっくり眺める。
これもは『日課』だ。

御坂「……」
御坂の頬が徐々に赤くなっていく。
これもまた『日課』だ。

そして上条の頬を人差し指で軽くつついた。
これは五日前から増えた『日課』だ。

御坂「(……やっばいって!!ひょおおおおおお!!やばいやばい!!!)」
御坂は声を出さぬままその場でわたわたとはしゃぐ。


上条「んん………」
上条が少し動く。

御坂「(やばい!!!!まじやばいって!!!!!!!あばばばbあmhskkk)」

こうして数十分すごした後、御坂は上条の服をぼろいクローゼットにしまう。
そしてまたベッドの横に座って上条を眺めたり軽く触ってすごす。

これが上条が昼寝している間の御坂の日課だ。

299: 2010/04/30(金) 00:18:46.11 ID:jDb3X/w0
上条の服もしまい終わり、後は上条が目覚めるまで彼の寝顔を眺めるだけだ。
御坂はベッドの横にすわり、両肘をベッドの上に乗せる。

御坂「……ふにゃ~」
ジーっと小さな寝息を立てている少年の顔を見つめる。
ずっとこうしていてもいいくらい幸せな時間だ。

その時。上条がもぞもぞと体勢を変え始めた。

御坂「!!」
一瞬起きたかと思い驚いたがそれは違ったようだ。
そしてそれよりも、この直後に上条が発した寝言の方が御坂の心に強く刺激を与えた。


上条「……イン……デックス」


御坂「……」
その言葉を聞いて御坂の表情に少し影が落ちた。

御坂「……うん。そうだよね」

わかっている。
この少年があの少女の事をどう想ってっているのかなど、端から見れば一目瞭然だ。

御坂「……」
だがそんな事は重々承知だ。

確かに悔しいが、それはもう覚悟して自分でも納得している事だ。

300: 2010/04/30(金) 00:21:10.06 ID:jDb3X/w0
それこそ上条がこっちに振り向いてくれれば最高だが、
今はこうして傍にいられるだけで充分だ。

御坂は上条の顔を見て穏やかに微笑んだ。
一瞬差していた影が彼女の顔から消えた。

こうやって誰かの為に、誰かを思って迷うことなく試練に飛び込んで突き進んでいく上条が好きなのだ。
自分の事など一切顧みず。

インデックスはもちろん、この少年は御坂の事にも命をかける。

この部分がきっかけで惚れてしまったと言っても過言ではない。

彼は御坂に多くの物を与えてくれた。

想い人であり、そして救世主だ。

御坂「……」
御坂は上条の顔を見ながら、心の中で改めて決意した。

彼が望むのなら、自分もそれを命がけで守る と。
彼の大事なもの全てを、彼が守ろうとするもの全てを守る と。

そして彼そのものを守る と。

その優しい目を、優しい笑みを何が何でも守ると。

例え目を向けてくれなくても良い。

だからその背中の後ろで、横で。

傍で彼とともに戦う と。

301: 2010/04/30(金) 00:23:41.41 ID:jDb3X/w0
御坂「……あたしも頑張らなくちゃ!ね!」
御坂は顔を引き締める。

と、その時だった。
いままで上条に夢中なせいで気付かなかったが、
耳を済ませてみると壁の向こうから話し声が聞こえた。

御坂「……?」
ダンテの仕事部屋の方からだ。

今トリッシュはいないはずだ。
では誰と話しているのだろうか。

御坂「……」
あまり良い事ではないが、御坂は聞き耳を立てた。

何やら低い声が聞こえる。

御坂「……」
耳に集中する。

会話の内容が徐々に聞こえてきた。

『なるほど』

『なるほど』

最初は一人の声だと思っていたが、よくよく聞いてみると
同じ声の『二人』の者が喋っているようだった。

『ダンテも優しい』

『優しいダンテ』

『小娘に銃を手作りとは』

『銃を手作りとは』


「お前等しゃべんなつってんだろ」
そしてダンテの不機嫌そうな声。


御坂「……?」

304: 2010/04/30(金) 00:27:23.88 ID:jDb3X/w0
『我は前から思っていた』

『我も思っていた』

『『ダンテは本当は優しいのだ』』


「うるせぇ」


『認めぬのか?』

『認めるのだ』

『主自身が気付かない点を』

『指摘し』

『気付かせるのも』

『『我ら忠実なる僕の使命』』


「黙れつってんだよ。つーかお前ら何でここにいんだよ」


『それは主が』

『我等を』

『『呼んだからだ』』


「それ二ヶ月前の話だろ」

305: 2010/04/30(金) 00:34:13.28 ID:jDb3X/w0
『何?』

『何だと?』

『だが確かに』

『そうだ確かに』

『『あれは二ヶ月前』』


「さっさと帰れ」


この双子の魔具は借金の肩代わりではなく、
ダンテがあまりのうるささに耐えかねてエンツォに売ってしまったのだ。

その為、ダンテが使わない時はいつもエンツォの倉庫の奥底に閉じ込められていた。

だが二ヶ月前に久々に召喚されたのが相当嬉しかったのだろう。
そのままデビルメイクライに居ついているという訳だ。

ちなみに買い取ったエンツォも特に文句は言ってこない。

むしろ厄介払いが出来たと喜んでいた。

なにせ主の命令もろくに聞かないのだ。
エンツォの指示で静かになるわけが無い。

306: 2010/04/30(金) 00:36:19.69 ID:jDb3X/w0
『あの時』

『我等は』

『数年ぶりに』

『『ダンテに召喚されたのだ』』


「いい加減にしねえと換気扇とガスコンロ代わりに使うぞ」


『そしてダンテは』

『我等を手に持ち』

『『振るった』』

『なんとも』

『なんとも』

『『甘美なひとときだったことか』』

『あれはs


「うるせぇ黙れいい加減しろやてめぇら」


次の瞬間、固い金属同士を強くぶつける音が壁越しに聞こえた。


「No talking.」


続くダンテの声。
そして静かになった。

御坂「……」

―――

307: 2010/04/30(金) 00:37:41.48 ID:jDb3X/w0
今日はここまでです。
明日はちゃんと夜11時頃から投下できます。

308: 2010/04/30(金) 00:40:04.11 ID:gQZlKG2o

309: 2010/04/30(金) 00:40:13.16 ID:JzWm8R.0
アグニルドラ相変わらずすぎるwwwwww

310: 2010/04/30(金) 00:45:31.77 ID:NQhyGgSO

健気よのう

311: 2010/04/30(金) 00:48:00.96 ID:g8rXzEAO
乙!
やっぱダンテとアグルドの絡みっていいなww

315: 2010/04/30(金) 04:01:34.44 ID:zKWVXYco
乙!


 次回へ続く:【禁書×DMC】ダンテ「学園都市か」【その11】


引用: ダンテ「学園都市か」【MISSION 03】