318: 2010/04/30(金) 23:24:58.13 ID:jDb3X/w0


最初から読む:【禁書×DMC】ダンテ「学園都市か」

前回:【禁書×DMC】ダンテ「学園都市か」【その10】

一覧:ダンテ「学園都市か」シリーズ

―――

翌日。

ネバダ砂漠のど真ん中。

地面に仰向けに倒れている上半身裸の上条。

上条「ぐふッ…いってぇ……」

その上条から20m程離れた場所に、ニヤつきながら立っているダンテ。

そしてその二人から40m程離れた所にある岩に座っている御坂とレディ。
二人はダンテと上条の組み手を眺めていた。

上条が立ち上がり、ダンテに再び突進し攻撃する。
それをダンテは軽々といなしかわし、上条を一方的にぶちのめす。
そして上条はまた地面に倒れる。

その繰り返しだ。

上条が倒れるたびにそれを見ている御坂の体もビクンと跳ねる。
大丈夫なのはわかっているのだが、さすがに想い人が何度も何度も半頃しにされるのを見るのは少々キツイ。

だが御坂は目を背けようとはしなかった。

試練に立ち向かう上条を見守るのもまた彼女の義務であり、そして彼女自身が決意したことだ。
(さすがにまだトリッシュの『検査』を見る勇気は無いが)
ARTFX J デビル メイ クライ 5 ダンテ 1/8スケール PVC製 塗装済み完成品フィギュア
319: 2010/04/30(金) 23:30:35.67 ID:jDb3X/w0
御坂「……うひぁ…」

レディ「へぇ~。タフねあの坊や」

レディはあの二人を眺めながら少し懐かしい気持ちになった。
かつて、若かりし頃自分もダンテにあんな感じで遊ばれたのだ。

あの今の二人のように友好的な関係ではなかったが。

なにせレディは本気でダンテを殺そうとして向かっていたのだから。


もう十数年前の事件の事だ。

その事件の中心地、『テメンニグルの塔』に飛び込んでいく前まで、彼女は己を最強のデビルハンターと自負してた。

だがその自信はあっけなく砕かれた。

次々と現れる、伝説級の神クラスの大悪魔達。
そしてそれを軽々と打ち破っていくスパーダの息子。

悪魔と人間の圧倒的な差を見せ付けられた。
その凄まじい悪魔同士の戦いを見た。

彼女はそれを目の当たりにして恐怖した。
だが彼女は止まらなかった。

その圧倒的な力を見るたびに、恐怖を上回るどす黒い怒りが彼女を覆い尽くした。

あの力を手に入れる為に父は悪魔に転生したのだ。

その『くだらない欲望』のせいで母は生贄にされ殺された。

そんな力なんて、悪魔達なんて全て滅ぼしてやる と。

父を頃し。
悪魔を頃し尽くす。

当然、ダンテ達半人半魔も例外ではない。

その底なしの怒りが当時の彼女の原動力だった。

320: 2010/04/30(金) 23:33:17.53 ID:jDb3X/w0
そしてその過程で遂にダンテと直接激突した。

己の持ちうる全ての技と力をダンテにぶつけた。
全ての怒りを叩き付けた。

だがあっさりと完敗した。

戦いが始まってからダンテに当てることができた銃弾はたった一発。

それもダンテはわざと避けようとしないで額で受け止めた。

まるで彼女のと憎しみと怒りを知り、それを全て正面から受け止めるかのように。
お前の苦しみを全部背負ってやるとでも言うかのように。

彼女の信念に正面から向き合い、あえて徹底的に捻じ伏せた。
彼女の中に渦巻いていた禍々しい思念を吐き出させ、叩き潰したのだ。


最終的に、レディは父を殺害するという目的を己の手で果たした。

だがその直後に流した『涙』。

ダンテが彼女の中に渦巻いていた、負の思念を叩き潰していなかったら、
その儚い雫は落ちていなかったかもしれない。

ダンテに会っていなければ、彼女は底無しの憤怒に身を任せ、どこまでも堕ちていったかもしれない。
そのまま父の遺体を八つ裂きにしていた事だろう。

ダンテが彼女の心を『人間』のまま繋ぎとめたのだ。

321: 2010/04/30(金) 23:38:15.45 ID:jDb3X/w0
今も一見遊んでいるように見えて、実はダンテはあの少年を救おうとしている。

欠伸をし、緊張感の欠片も無い舐めたような態度をとり、ヘラヘラと笑う。
『どうでもいい』だの『めんどくせぇ』だの『しるか』などなどの適当な言動。

だがその下、誰にも見せない底の部分では、絶対に揺るがない熱い信念が常に力強く鼓動している。

悪魔的な絶対に揺るがない芯と人間的な強く純粋な情念。
それが見事に融合した、彼の『最強』たる所以の『魂』。

一見何も考えて無さそうであり、全ての行動が行き当たりばったりに見える。

だが蓋を開けてみれば、最初から計算していたのか?と聞きたくなるくらいに、
完璧なタイミングでピースが組みあがっていき、全てが丸く収まりダンテの狙い通りの結末となる。

レディはそんなダンテに神秘性を感じる事が多々あった。

まるで本物の『全能の神』だ。
全ての事象が彼の思い通りに動いているように見えた。

ダンテにそんな事を言ったら鼻で笑われ一蹴されるだろう。

しかし、彼に惹かれる者は皆意識していなくとも、
どこかで無意識の内にそういう目で彼を見ているはずだ。
トリッシュもレディも、あの少年も皆。


レディは常々思う。

ダンテは不思議な存在だ と。


レディは組み手をする二人を懐かしそうな目で見ながら、小さな笑みを浮かべていた。

322: 2010/04/30(金) 23:41:04.81 ID:jDb3X/w0
レディ「……全く…相変わらずね」

御坂「…?」

御坂が隣のレディの小さな笑みに気付く。

レディ「何?」

御坂「い、…なんでもない」

レディ「……あ~そうそう聞いたわよ」

御坂「?」

レディ「私から弾買いたいんだって?」

御坂「あ、うん。ダンテがあたしの作ってくれるって…」

レディ「いいわよ。売ってあげる。口径は?」

御坂「……へぁ?」

レディ「ああ、まだ何も聞いてないのね」

御坂「うん……まだ何も。今作ってくれてる最中らしいけど…」

ふと気付くといつのまにか静かになっていた。

特に汗もかいてない普段どおりのダンテがコートをなびかせて颯爽と、
血と汗と土にまみれたズタボロの上条がヨロヨロと御坂達の方へ歩いてくる。

ダンテ「休憩だ」

上条「ふへぁ……」

御坂がタオルを手にして岩から飛び降り、上条の元へ駆け寄った。

323: 2010/04/30(金) 23:46:06.50 ID:jDb3X/w0
御坂「だ、大丈夫?!」

上条「はは、いつもの事だぜ。大丈夫だ」
上条が御坂の手からタオルを受け取ろうとしたが。

御坂「あ、あたしが拭くから!!!!す、座って休んで!!!」
御坂がタオルを持つ手を引っ込める。

上条「おう、いいのか?サンキュ!」

上条は近くの岩へ腰かけ、その前に御坂が屈んで上条の顔を少しぎこちなく拭いていく。

上条「う……お」

御坂「ん……むむ…」

上条「……」

御坂「……」

さすがの上条も、このシチュエーションがどういったものなのか気付く。
二人とも少し目を俯き、ぎこちない。


レディとダンテは少し離れた、大きな岩に寄りかかりながらその二人を眺めていた。

レディ「何アレ?なんか妙にムカつくんだけど」

ダンテ「あ?いつもの事だ。気にすんな。ほっとけ」

325: 2010/04/30(金) 23:46:58.91 ID:jDb3X/w0
レディ「そうそう、あの電気使いに銃を作ってあげてんでしょ?」

ダンテ「まぁな」
ダンテ自身が手作りしているのは、別に御坂の為に特別なのを作ろうとしているからでは無い。

そっちの方が安上がりなのだ。
ロダン等のその線のスペシャリストに発注するとかなりの金がかかる。
ダンテとしては借金が別に増えても良いのだが、トリッシュがうるさいのである。

それに御坂『程度』にロダンが作った業物を持たせても、その性能を100%引き出すことはできないだろう。

そしてダンテは銃弄りが好きだ。そこで娯楽も兼ねて作っている。

レディ「で、口径は?」


ダンテ「12.7x99mm」


レディ「……は?」


ダンテ「大体…そうだな、6,000m/sでも融解しないようにお前お得意の術式で強化」

ダンテ「それと対悪魔仕様で。一発でゴートリングを三体貫けるくらいにしてくれ」


レディ「…………………………あの子に何持たせる気?」

329: 2010/05/01(土) 00:00:21.95 ID:g084P7k0
ダンテ「いや、あの嬢ちゃんはもうでっけえ大砲持ってるからよ」

ダンテ「俺はその性能を効率よく引き出せる『銃身』を作るだけだ」

レディ「ベースは?」


ダンテ「ブローニングM2」


レディ「……ぶふッ……デカ過ぎんじゃないの?」

ダンテ「お前あのお嬢ちゃんの必殺技見たらデカ過ぎとは言えなくなんぜ」

レディ「必殺技?」

ダンテ「どうやってんのか知らねぇけどよ、コインを電気で飛ばすんだとさ」

ダンテ「ゴートリングも一発で貫いたぜ?」

レディ「………電気…」
レディが御坂の方を見る。

相変わらず固まっている上条の体を御坂は頬を赤らめながらぎこちなく拭いていた。


レディ「レールガン?リニアモーターガン?コイルガン?」

ダンテ「あ?……お前何喋ってんだ?」

レディ「あ、わからないか」
超ド級の機械音痴のダンテに次世代の技術の事を言っても無駄だ。


レディ「ってあんた原理も知らないで何作ってんの?」

ダンテ「知るかよ。俺は頑丈なのを作るだけだ」

レディ「……」

330: 2010/05/01(土) 00:06:20.25 ID:g084P7k0
ダンテ「何だ?何か文句あっか?」

レディ「……なんていうか…本当に相変わらずね…」

ダンテ「まあ後にしようぜ」

ダンテ「おい!!!イマジンブレイカー!!!始めんぞ!!」
ダンテが上条の方へ叫ぶ。

上条「お、おう!!!!」

ダンテ「次はお前だぜ。レディ」
ダンテが岩に肘を乗せて寄りかかりながら頭を傾けレディを見る。


レディ「あ、やっとね。待ちくたびれちゃった」

レディがつかつかと上条の方へ向かい、
御坂が小走りで慌てて離れていていく。


上条「へ?」

レディ「次は私」

歩くたびに体中の装備同士が擦れる音。
そしてレディが上条から20m程離れている所に立つ。

331: 2010/05/01(土) 00:10:56.38 ID:g084P7k0
ダンテ「ちょっと趣向と相手を変えてな!いつも同じやり方じゃ飽きちまうだろ?!」
30m程離れた場所の岩に寄りかかっているダンテが声を飛ばす。

上条「……い、いや…」
上条にとって飽きるとか感じる余裕すらない日々だったのだが。

ダンテ「違う戦い方も経験しとけ!坊や!」

上条「お、おう」

レディ「はじめるわよ」

レディ「……」

上条「……」

静かに、向かい合ったまま10秒ほどが経過した。

レディ「何?来ないの?」
レディが不機嫌そうに首を傾げる。


上条「だって……なぁ、レディさん『人間』だろ」

上条「能力者でもねえし…」

上条「もし間違って頃しちゃったりでもしたら……俺まだそういう加減できねえし…」


レディ「……………へぇ」
その上条の言葉でレディの表情が変わった。

空気が凍る。


ダンテ「あ~……やっちまったな坊や」
ダンテがそのレディの様子を見ながらポツリと呟いた。

333: 2010/05/01(土) 00:14:25.58 ID:g084P7k0
レディ「まぁまぁまぁ……こんなに舐められたの久しぶりね」

レディは相変わらず笑みを浮かべているものの、
さっきまでのふざけたような空気は完全に消えていた。


レディがサングラスを外し、胸元にかける。

凍て付くような鋭いオッドアイの瞳が上条へ向けられた。

上条「うお……あれっ俺なんかしたか……?」
その異様なレディの威圧感に押され上条が少したじろぐ。


レディ「ダンテェェェェッ!!!!」


レディが上条を見据えながら声を張り上げた。
突然の大声で上条がビクっとする。

ダンテ「あぁ?」


レディ「このクソガキさぁ!!!!」


レディ「頃しても良い?!!!」


ダンテ「……まぁ程々にな!!!」



上条「……あれ、俺もしかしてヤバイ…感じ?」
鈍感な上条がようやく自分の置かれている状況に気付く。

337: 2010/05/01(土) 00:19:51.92 ID:g084P7k0
先に動いたのはレディだった。

レディが右手を腰のMP5Kにまわし、左手で手榴弾を二つほど、指にピンの輪を引っ掛けるようにして取る。

上条「―――」
レディが目にもとまらぬ速さで、二つの手榴弾をピンを抜かないまま上条の方へ高く放り上げた。
その二つはどう見ても上条の所へ落ちる軌跡ではなく、それぞれ離れた場所に向かって放物線を描いた。

上条「?」
そして次の瞬間、レディの右手のMP5Kから大量の銃弾が放たれた。

上条「―――うぉ!!!」
いきなりだったが、上条は悪魔の感覚で反射的にかわす。

上条「(あれっ……これだけか?)」

上条はひらりひらりと銃弾をかわし、素早く跳ねながらレディへと進む。
サブマシンガン程度の弾速ならば、今の上条にとってかわす事は容易だ。

記憶によれば、レディの身体能力はあくまでも人間のレベル。
破魔の銃弾はかなりの威力だが、避けてしまえばどうってことは無い。

つまりそのまま距離を詰めて近距離戦に持ち込めば勝利 と上条は思っていた。

―――と思っていたのだが。

上条「―――へ?」
気付くと、先ほど宙に放り投げられていた手榴弾が顔のすぐ真横に降って来た。

そしてその手榴弾にレディの銃弾が直撃した。

顔から僅か30cmという至近距離で、尋常じゃないくらいに強化された対悪魔用の手榴弾が爆発する。

339: 2010/05/01(土) 00:25:07.46 ID:g084P7k0
無数の破魔の破片と爆風を浴び上条の体が大きく横にぶっ飛ぶ。

上条「んぐぉおおお!!!!」

開始早々ズタボロになった上条の体が宙を舞う。
そして地面に叩きつけられる瞬間。

上条はその地面に見た。

先ほどレディが投げたもう一つの手榴弾が地面に転がっていた。

上条「やっべ―――!!!」
気付いた時は既に遅し。

その手榴弾にもレディの銃弾が食い込んだ。

そして再び至近距離で爆発した。
上条の体が再び宙を舞った。

上条「ぐぁ……」
地面に叩きつけられる。


レディ「なっさけないわね。この程度でも喰らっちゃうなんて」


レディ「さっさと立てやクソガキ」

340: 2010/05/01(土) 00:29:05.03 ID:g084P7k0
上条「痛ッ…!!」
体に食い込んでいる破魔の破片が、傷の再生を阻害する。いつもよりもかなり遅い。
体内の力がかき乱される。

世界最高峰のデビルハンターのレディが作った弾なのだから当たり前だ。
悪魔の治癒能力を妨害する機能があってもおかしくはない。
むしろ当然だろう。

そしてさっきの戦術も。
上条が銃弾を避けることを見越され誘導されていたのだ。

完璧に動きが読まれている。完全にレディの手中だ。

数多の氏線で培ってきた経験と、鍛え上げられてきた技と感覚。

世界最高峰のデビルハンターの名は伊達ではない。


上条「くっそ……!!ああ、甘く見て悪かったぜ!!!」
上条が口から溢れる血を左手で拭いながら立ち上がる。

レディ「そうその意気。もっと苦しんでもがいて」

上条「……上等だぜッ!!野郎!!!」



レディ「頃してあげる」


レディ「バッラバラにして ね」



レディが心底嬉しそうな、そして不気味な笑みを浮かべた。


上条「……………………い、いや、それはカンベンしてください……さっきの事なら謝りますので…」
その強烈な本物の殺意に上条は完全に押されてしまった。


ダンテ「ま、せいぜい頑張れや。坊や」
ダンテは相変わらずニヤニヤしていた。


―――

342: 2010/05/01(土) 00:35:28.75 ID:g084P7k0
―――


イギリス。

バッキンガム宮殿の地下室。厳重な結界が張られている蔵書。

ネロ「………………んが…」

ネロは本に埋もれたその部屋で、机の上に足を組んで上げて寝ていた。
先日から例の事件の黒幕、『遠隔制御霊装の強奪犯』の捜索に就く事になった。

とは言うものの、実際に各地で情報を集めているのは王室直属の、学園都市風に言えば『暗部』の者達だ。
今のところ、ネロ自身がやることはその集められた情報を選別し統括することである。

要するにヒマなのだ。

掛け持ちである対悪魔戦のアドバイザーという仕事ももうほとんど終わっている。
イギリスの騎士や魔術師達の中には、もう一人前の『デビルハンター』と言っても過言ではない者達も続々と増えつつある。

机の上には様々な書類、そして遠隔通信用の書物型の霊装が開かれたまま置かれていた。

その通信霊装が光出す。

ネロ「んあ……」

ネロの目がゆっくりと開く。
そしてぎこちなく腕を上げ、体を伸ばして大あくびをする。

343: 2010/05/01(土) 00:39:22.66 ID:g084P7k0
ネロ「……」
眉間に皺をよせ、寝起きの不機嫌な顔で、机の上の光る通信霊装をジロっと睨む。

そしてその上に足を乱暴にドンと載せた。
本来は手を載せて起動するのだが。

ネロ「……なんだ?」

『お時間はよろしいでしょうか?』
通信霊装から若い男の声。

ネロ「良いからさっさと用件を言え」

『ヴァチカンに潜入していた者より報告です』

ネロ「続けな」

『枢機卿の者数人が、ウィンザー事件の直後にロシア成教『殲滅白書』の幹部と秘密裏に接触していました』
例の事件はウィンザー事件と呼ばれている。

『目的は不明です。ただ、かなりの隠密行動でした』

ネロ「へぇ…」
ローマ正教とロシア成教の同盟は周知の事実だ。
それなのにわざわざ影でコソコソ動き接触するということは、外に『知られたくない』事情があるのだろう。

『それと、ヴァチカンでは『悪魔の力』の痕跡は発見されませんでした』

『現地の指揮官によると、少なくとも「ヴァチカンには悪魔の力を行使する者はいない」との見解です』

『後ほど詳細なデータをそちらに』

ネロ「……」

345: 2010/05/01(土) 00:42:57.38 ID:g084P7k0
『もう一点、興味深い報告がありました』

ネロ「言え」

『「悪魔と融合した銃」が三つ、リスボンで目撃されました』

ネロ「……」

『ウロボロス社製の小銃に複数の下等悪魔のムシラを結合した、恐らく人造悪魔かと』

ネロ「恐らく?」

『はい。捕獲はできませんでした。発見と同時に攻撃を仕掛けてきたため応戦、その後逃げられたと』

ネロ「……」
人造悪魔。
例の事件の黒幕もその線のスペシャリストだ。
何せ大悪魔クラスの人造悪魔を生み出したのだから。

ネロ「完成度は?」

『8名でも捕獲できませんでした。その内3名が氏亡』

騎士団や必要悪の教会から選抜された、「デビルハンター」として認められた者が猛者が8人。
それを退けて離脱したとなるとかなり完成度が高い人造悪魔だ。

346: 2010/05/01(土) 00:47:50.73 ID:g084P7k0
ネロ「作った野郎の痕跡は?なんかねえか?破片とかよ」

『何も入手できなかったと』

ネロ「……チッ…」

銃の現物の破片でもあれば、
そこからその銃の購入者を割り出して特定することもできるが、それは無理なようだ。

『続けてもう一つ。ローマ正教及びロシア成教圏内に多数の霊装兵器が配備されつつあります』

『全容はつかめませんが、その形式は第二次大戦時の戦時体制に酷似しています』

『ただ、同じような演習が何度も、一昨年にも行われていた為、これが本物の実戦配備なのかどうかは判断しかねます』

ネロ「…………」

『それともう一つ。これは科学側の件ですが……何しろかなり大きな動きですので。よろしいでしょうか?』

ネロ「言え」

『ウロボロス社が、隠密裏にかなりの低価格で大量の兵器を売りさばいているようです』

『未発表の最新兵器まで元値の1割程度です。中にはタダ同然の取引も。買い手はロシア、イタリア、フランス』

『各国とも凄まじい量の兵器を買い漁っています』

ネロは少し引っかかった。
この三国はローマ正教・ロシア成教と強いつながりを持ち、
ウロボロス社や学園都市等の多国籍にまたがる科学勢力を敬遠していた国だ。

民間同士のつながりはあったとしても、国が進んで前に出てくることは無かった。

この三国は、兵器は自国開発を主としていたはず。

ネロ「……全部隠密裏か?」

『はい。完全に水面下の行動です。一切公表されていません』

『ウロボロス社は共同関係にある学園都市側にもその事実を隠しています』

347: 2010/05/01(土) 00:53:56.52 ID:g084P7k0
ネロ「……で、イギリスは?買ってねえのか?」

『報告の中にはありませんでした。その点はご自身で「上」にお聞きになった方が確実かと』

ネロ「……そうだな」

ネロ「……」
明らかに不穏な動きだ。どうみても戦争準備だ。
だがウィンザー事件と結びつけるにはまだ早い。

ローマ正教もロシア成教も、そして各国も悪魔達の力を目の当たりにして急いで軍備拡張をしているのかもしれない。

それにもし大きな戦争が起こるとしても、今のところそれは人間同士の戦いと思われる。
ネロが出る幕ではない。

ネロは『イギリスの為』に動いているわけではないのだ。

悪魔の関わりが無いのなら、ネロには関係ない事だ。

人間同士の戦争なら好き勝手やってくれというスタンスだ。

ネロ「他は?」

『以上です』

ネロ「下がれ」

『了解』

ネロ「―――」
とその時だった。

ネロの頭に突如一つの、『最悪の説』が浮かんだ。


ネロ「待て」

348: 2010/05/01(土) 00:55:49.46 ID:g084P7k0
それはあまりにも突拍子も無い荒唐無稽な説だ。
ネロ自身でさえ疑いたくなるような内容だ。

だがどんなに小さな、有り得無そうな可能性でも一応調べる必要がある。

ネロ「最後に一ついいか?」

『なんでしょう?』

ネロ「リスボンの人造悪魔、ウロボロス社製の銃だったな?」

『はい』



ネロ「ウロボロス社の件で、それと同型の銃は取引されてるか?」



『少々お待ちを』
通信霊装の向こう側から紙を捲るような音が聞こえてくる。
おそらく報告書を調べているのであろう。

『ありました』

ネロ「数は?」


『ロシアに3万丁、イタリアに5000丁、フランスに2万丁』

350: 2010/05/01(土) 00:59:18.19 ID:g084P7k0
ネロ「……………」
ウロボロス社製のメジャーな商品の一つだ。
大量に取引されていてもおかしくない。

だが、もし今頭の中に浮かんでいるこの荒唐無稽な説が正しかったら。


人造悪魔を作った者はウロボロス社自体に関る者で。


この銃全てが人造悪魔だったら。


そしてもしそうならば。


取引されている他の兵器も人造悪魔の可能性がある。



そしてリスボンの人造悪魔は報告を聞く限りではかなりの完成度。
その製造者がウィンザー事件の黒幕と同一犯だったら。

ネロ「……」
これが正しかったらとんでもない事態になる。

だがそうと決めるのはまだまだ証拠が足らない。
証拠も無く推測に推測を重ね、飛躍させたものはただの妄想であり狂言だ。

だが可能性はゼロとは言いきれない。

『この報告書も後ほどそちらに』

ネロ「……ああ」

351: 2010/05/01(土) 01:06:20.69 ID:g084P7k0
通信を追え、ネロは机に足を乗せたまま、静かに考え込んでいた。
突拍子も無い説だというのは分かっている。

だが妙な胸騒ぎがする。
悪魔的な勘が何かに引っかかる。

この事も頭に留め、一つの答えの姿として候補に入れて置くべきだ。
そして女王達にも報告しておくべきだ。

ネロの頭の中で様々な憶測が飛び交う。
相手の狙いは戦争。それも人造悪魔を使った。

取引している国、そしてその規模から、相手はイギリスか学園都市、もしくはその両方。
魔術サイドと科学サイド、それぞれの内部が割れて全面戦争が起こるというのか?

最終的な目的は?
裏で手を引いてるのは魔界で、再び侵略する為の橋頭堡作りなのか?

それとも人間自らが悪魔の力に手を染め、その力を人間同士の戦争に使うつもりなのか?

この説が正しければネロも介入せざるを得ない。
これは『人間同士の枠』を越えたモノになる。

覇王とウィンザー事件、禁書目録の遠隔制御霊装、ローマ正教側の不穏な動き。

ネロの頭の中でギチギチと音を立てるかのように、この不吉なピースが結びついていく。

ネロ「………………」

まだまだこの図式にの空き埋めるべき、見つかっていないピースは大量にある。
もともと結びつかない、ただの妄想かもしれない。

だがこれがもし正しかったら。

正に最悪のパターンだ。

2000年前の大戦に匹敵する、とんでもない規模と領域の戦火が人間界を包むかもしれない。

ネロ「………マジでクソだな」

―――

361: 2010/05/01(土) 23:30:28.08 ID:g084P7k0
―――


上条が銃弾を掻い潜りながらレディに突進する。

だが避けているはずなのに上条の体に何発も食い込んでいく。
レディは上条の回避先を事前に的確に予想しその空間へ銃弾を『置いて』いっているのだ。

そこへ上条が自分から突っ込んでくる形になる。

かわせなかった分も、力を左手や両足の脛に集中させて銃弾を弾き捌くが、その動きすら予測されていたのか、
手足の間を潜り抜けて銃弾が食い込んでくる。

上条の動きは、このデビルメイクライでの『修行』が始まった頃に比べれば別人のように見違えたが、
相手のレディは一枚どころか何枚も上手だ。

上条「いぎッ!!!!」
激痛が走り、銃弾に刻まれている術式によって傷口が痺れて治癒が遅れる。
そこに再びレディの銃弾がピンポイントで食い込んでいく。

この銃弾に対抗する為に右手を使おうとも思ったが、術式がなくなっても相手は『銃弾』。
発砲には見たところ通常の炸薬も使われている。

つまり生身の右手で受け止めて術式を破壊しても、銃弾がそのまま人間程度の耐久力しかない右手を貫く。

前日に実験したとおり銃弾は砕け散るだろうが、それはこの状況を打開する役には立たない。
ただ『散弾』に変わるだけだ。

右手があっという間に蜂の巣になってしまうだろう。

右手に出来ることは、傷口に指を突っ込んで体内の銃弾に触れてその効果を打ち消すことだけだ。

飛んでくる銃弾はかわすしかない。

362: 2010/05/01(土) 23:33:01.82 ID:g084P7k0
上条はなんとか避けようと、出来るだけ変則的な動きを心がける。
だがレディはそれでも軽々と銃弾を上条に当ててくる。

上条「(クッソ!!!!!こうなったら!!!!)」

上条は顔をガードするかのように左手を前にかざし、力を集中させる。
左手が眩く白く輝きだす。

上条「おぁあああぁあああああ!!!!!」
そして真っ直ぐに突進していく。

ゴリ押しだ。

レディ「芸が無いわね」

レディが突進してくる上条に大量に銃弾をぶち込んでいく。

全弾が上条の守られていない腹部へと食い込んでいく。

だが彼は腹を守ろうとはしなかった。
左手は顔の前から動かさなかった。

もし腹を守ろうと左手を下ろしたら、レディは確実に顔面へ銃弾を叩き込んでくる。
そうなれば絶対に怯んでしまい、また手榴弾等で吹っ飛ばされるのがオチだ。

上条「んがああああああああああ!!!!!!」
上条は激痛を堪えて突き進む。

レディ「(……それなりに考えてるみたいね)」


レディ「(甘いけど)」

363: 2010/05/01(土) 23:38:43.63 ID:g084P7k0
上条が遂にレディの所へ到達する。
もう手を伸ばせば届く距離だ。

上条「ハァアアアア!!!!!」
上条がガードに使っていた左手を勢い良く伸ばした。

レディを掴んで取り押さえるべく。
その手は人間では到底捕捉出来ない速さだ。

レディも避けれなかった。

まあ避ける必要が無いのだが。

左手を伸ばしたと同時に上条の瞳に、平行に並ぶ二つの大きな銃口が映った。
レディがソードオフショットガンをいつの間にか手に持ち、上条のがら空きになった顔へ向けていた。


レディ「ハロー」


上条「―――」


次の瞬間、至近距離でショットガンがぶっ放された。

364: 2010/05/01(土) 23:43:19.33 ID:g084P7k0
顔面へとてつもない衝撃を受け、上条の頭部が大きく仰け反った。

そして首から下は突進の慣性によって前方に跳ね上がり、
上条はまるで足を滑らせて転んだかのように、その場の地面に背中から叩きつけられた。

上条「げぼぁ――!!!」

ミンチ状態になった顔面から血が噴出す。

視界が点滅しぼやける。
立ちくらみをおこしたかの様ににそのぼやけてる景色が回転する。
耳鳴りがし、周囲の音をまともに聞く事ができない。


上条「…がッ……んぁ……んぎ!!!!」
そうしていると突如左手の肘辺りに激痛が走り、そして何かで固定でもされたのか全く動かなくなった。

上条「!!!」
何が起きているのか分からないうちに続けて右足と左足の膝の部分にも激痛が走り、同じく動かなくなった。
そして最後に胸に激痛。

上条「んぐあああああああああああああああああああ!!!!!」
トリッシュの『拷問』の痛みに似ている。

やっと頭部が再生してきたのか、視界と聴覚が徐々に元に戻る。

そして上条は自分が置かれている状況をようやく見て確認する事ができた。

レディが、先端に刃が付いている巨大なロケットランチャーを上条の胸に突き立てていた。

左手の肘、両足の膝には複雑な術式が表面に刻まれている杭形のロケット弾頭が突き刺さり、
上条を地面に磔にしていた。

弾頭に刻まれている術式のせいか、力が全く入らない。

そして右手はワイヤーのような物で地面に固定されていた。

365: 2010/05/01(土) 23:48:42.28 ID:g084P7k0
レディ「おはよ」

レディがニヤつきながら上条を見下ろす。

上条「クソッ…!!!」
なんとかして抜け出そうとするも力が入らない。

レディ「クソガキ。あんたの負け」

上条「………ぐッ…」
どうやらそのようだ。

これが実戦だったのなら、今頃弾頭が炸裂して上条は見るも無残な姿になっていただろう。

体に突き刺さっている今の状態でもこうなのだ。
この弾頭の破片を全身に満遍なく大量に浴びてしまったら、再生どころの話では無いだろう。

上条「俺の……負けです」

レディ「そうそう」

レディ「で、あんたを負かした相手の名は?」

上条「…?」
なんでそんな事を聞くのだろう。

上条「レ、レディさん」

レディ「違う」
レディが足で上条の喉元を踏みつけて押さえつけた。

上条「ふが!!!」


レディ「『世界一美しくそして最強のデビルハンター、レディ様』」

366: 2010/05/01(土) 23:50:59.97 ID:g084P7k0
上条「へ、へが??」

レディ「で、あんたを負かした相手の名は?」

上条「…………『世界一美しくそして最強のデビルハンター、レディ様』」

レディ「OK」


ダンテ「いいか、お嬢ちゃん。この世には絶対怒らしちゃなんねえモンがある」
そんなレディを遠くから眺めながら、ダンテは横にいる心配そうな表情を浮かべている御坂へ声をかけた。

御坂「……は、はい」


レディ「じゃあおしまい」


レディは上条の顎から足を離し、

上条「んぐ!!!」

胸に突き刺していたロケットランチャーを乱暴に引き抜き、そのままスタスタと離れていった。
相変わらず上条は地面に磔にされたままだ。

上条「へっ?……ま、まて!!!」

367: 2010/05/01(土) 23:54:07.89 ID:g084P7k0
上条「お、おい!!!これ外してくれよ!!!」
地面に磔にされている上条が、離れていくレディの背中へ叫ぶ。


レディ「頃すつったでしょ。バラバラにして」


レディが背中越しに上条に声を飛ばした。
そして指を軽くパチンとならした。

上条「……へぁ?」
その時、カチンと妙な音が三つ。
弾頭の方からだ。

ふと目をやると。

弾頭に刻まれている術式が淡く光り始めていた。

上条の悪魔の目に、その弾頭の中に莫大な力が渦巻き、圧縮されていくのが映った。

上条「……ま、マジかよ!!!!」


上条「……ちょ、ちょ、ちょっとまてぇええええああああ!!」

レディは聞く耳を持たずにどんどん離れていく。

上条「頼む!!!!頼むからあああああ!!ごめんなさいいいいい!!!!!」


上条「お願いします!!!!!俺が悪かったです!!!!だかr


次の瞬間三つの弾頭は爆発した。

ダンテ「……あ~」

369: 2010/05/01(土) 23:59:27.42 ID:g084P7k0
ダンテ「……あ~………」

大爆発。
轟音が響き、衝撃波が発生し、無数の破片が飛び散る。

そして上条も『飛び散った』。

粉塵が辺りを覆った。

御坂「……!!!!!ちょ、ちょっと!!!!!……うそッ………まってよ!!!!!」

御坂が形相を変えて走り出そうとした時。
ダンテがその手を掴んだ。

ダンテ「ここにいな」

御坂「な、ななッ!!!!!!!!離してってば!!!!!」

ダンテ「おとなしくしてろ」
ダンテがもう一方の手で御坂の顔を、無理やり覆った。
今御坂が言ったら、とんでもない姿に成り果てた上条を見るハメになるだろう。

御坂「離してよ!!!!!離せあああああああ!!!!」
御坂が放電しジタバタするもダンテの拘束はびくともしない。

レディ「何?随分荒れてるみたいだけど」
レディが何事も無かったかのような顔で近付いてくる。

御坂「あああああああああああ!!!!!」


ダンテ「………お前少しやりすぎだぜ」


レディ「何よ。頃しても良いって言ったじゃないの」

370: 2010/05/02(日) 00:02:36.73 ID:8hUunYQ0
「がふ!!!うげふッ!!!!うげえええええっっっふ!!!!んがああああいってぇえええええ!!!!!」

その時だった。
粉塵の向こうから少年の咳と雄叫びが聞こえた。

「んぎぃいいいあああ……んぐぉいおお…」

ダンテ「お」
とりあえず生きていたようだ。
そして声が出ているという事は少なくとも頭部は元に戻ったらしい。

御坂「―――!!!!」


レディ「………チッ」


御坂「ちょ、ちょっと!!!!!大丈夫!!!!??」
御坂が粉塵の向こうへ声を張り上げた。

上条「だ、げふッ!!!…いじょうぶだ!!!!大丈夫!!!!」

粉塵の向こうから上条の声が返ってくる。

上条「今そっちに……い、いや!!!!!待て!!!!!」
上条が何かに気付いたかのように声を強めた。

御坂「な、何!!!!??怪我でもしてるの!!!!!??」

上条「い、いや、そうじゃなくてな!!!!!それは大丈夫なんだが……」

上条「なんつーか……そのよ、と、とにかく来るんじゃねえ!!!!」

371: 2010/05/02(日) 00:03:41.30 ID:8hUunYQ0
ダンテ「ハッハァ」
ダンテは笑った。
上条が何に慌てているか分かったのだ。

レディ「……」
レディも当然気付いているだろう。
肩を小さく竦めてダンテと顔を見合わせた。

トリッシュの必殺の弾頭三つの大爆発だ。

上条は全て剥ぎ取られたのだ。体の大半も吹き飛ばされて総取っ替えしたのだろう。

つまり全裸だ。

ダンテはニヤつき、御坂の手をわざと放した。
御坂が形相を変えて、能力まで使って弾丸のように上条がいる粉塵の中へ消えていった。

砂漠という環境もあってか、粉塵はもうもうと立ち込めて一向に晴れる気配が無い。

ダンテ「……」

レディ「……」

しばらくして御坂の怒号とともに雷鳴が響いた。
そして慌てながら御坂をなだめようとする上条の叫びが続く。


ダンテ「へっへっへ」

レディ「……ほんとガキ臭いこと好きね」

ダンテ「なんだよ。面白えじゃねえか」

372: 2010/05/02(日) 00:05:40.42 ID:8hUunYQ0
レディ「あ~、それにしても本当に腹立つわ」

ダンテ「あ?まだやり足らねえか?」

レディ「それもあるんだけど……あれほど頑丈とはね」


レディ「私の特製弾頭三発も喰らっておきながら氏なないなんて」


ダンテ「つーかよ、今のあれ、結構ギリギリだったぜ?」
もう一発弾頭があったら上条は本当に氏んでいたかもしれない。


レディ「うん、足らなかったみたい」


レディ「もう一発持ってきてれば良かったわね」


ダンテ「……………おぃお前マジで…」


レディ「冗談よ冗談」


レディはニコッとあざとい作り笑いを浮かべた。

ダンテ「……」

373: 2010/05/02(日) 00:10:10.12 ID:8hUunYQ0
レディ「ま、本元がベオウルフだしね。今回はこんなもんでしょ。ろくに準備もしてなかったし」

レディ「次はフル装備で本気でやらせてもらうから」


ダンテ「ハッ。(もう呼ばねえよ)」


レディ「で、どんくらい引き出してんの?力。二割ってところ?」

ダンテ「……そんぐれえだな」

レディ「ふーん。じゃあ私が勝てるのも今のうちね」


ダンテ「まあな(もう戦わせねえけどな)」


レディ「何普通に同意してんの?もっと何か良い言葉かけれないの?」

ダンテ「(相変わらず面倒くせぇ奴だな)」

今回はレディが圧勝したが、実際に持っている『力』の量なら現時点でも上条の方が遥かに強大だ。
だが力の量は必ずしも戦闘の強さに直結するわけではない。

確かに今のレベルでも上条は既に強大な力を有しているが、戦い方はまだまだ未熟だ。
だがそのレディとの差も時期に埋まるだろう。


レディ「本当に悪魔って『ふざけてる』連中よね」

ダンテ「良く言うぜ。お前も充分ぶっ飛んでるじゃねえか。それ以上いくと一生独身だぜ」


レディ「……ねえ、あんたにリベンジして良い?もう一発くらいぶち込ませてよ」

ダンテ「ハッハァ。やれるもんならやってみな。『お嬢ちゃん』」

374: 2010/05/02(日) 00:14:14.99 ID:8hUunYQ0
相変わらず粉塵の向こうからは雷鳴とともにぎゃあぎゃあと少年と少女の叫び声が聞こえる。

ダンテ「おい!!!次はじめんぜ!!!!」
ダンテが粉塵の向こうへ声を飛ばした。

上条「おう……って!!!!なんでもいいからなんか着る物を……だぁああああっあぶね!!!いってぇええ!!!」

上条「よ、よせってば!!!つーか直撃してんじゃねえか!!!お、おいココは寄せ!!!どこ狙って…んぐぅうぅぅぅぅうおおおお!!!!」

御坂「んぎゃああああああああああ!!!いやああああああ!!」

ダンテ「お嬢ちゃん!!!!お前はこっちに来いや!!!!」

ダンテ「騒がしい連中だぜったくよ」
ダンテが近くの岩の上にかけてあった、上条の上着を右手で掴み上げ、
左手で上条の使う黒い銃を取る。

そして気だるそうに粉塵の中へ向かっていった。

レディ「あら、すっかり『保護者』ね」
レディがそのダンテの背中に小馬鹿にしたような声を飛ばす。

ダンテ「お前もナデナデしてほしいか?『お嬢ちゃん』。可愛がってやんぜ?」
ダンテが歩き離れながら、ふざけた調子の声を背後のレディに飛ばす。

レディ「嫌よ。かわりにトリッシュでも撫でてあげれば?」

ダンテ「ハッ。そいつはお断りだ。殺されちまう」

ダンテはヘラヘラと笑いながらそのまま粉塵の中を進んでいく。
時間がたったせいか粉塵が少しづつ晴れてきている。

しばらく進んだところで、今にも蒸気を噴出しそうなくらい顔を真っ赤にした御坂が猛ダッシュですれ違っていった。

376: 2010/05/02(日) 00:20:09.20 ID:8hUunYQ0
ダンテは更に進む。
粉塵が徐々に晴れ、直径20m程のクレーターが姿を現す。

上条「いってぇ……」

そしてその真ん中に全裸の上条が両手で股間を覆いながら立っていた。
やはりあの爆発で服は全て吹き飛んでしまったらしい。

右手の防具も、表面の強化ギプスが跡形もなく消え、
魔界の金属生命体製の黒い手甲が剥き出しになっていた。

ダンテ「なさけねえな」

上条「う、うるせえ!!!あいつココに当てやがったんだぜ!!!」

上条が右手で自分の股間を指差した。

ダンテ「…………」

そんな上条を見た時、ダンテの脳裏にいつかの記憶が蘇った。

ギター形態のネヴァンを抱いたまま寝てしまい(ry


ダンテ「………ああ……そいつは……キツィな……」

上条「……へ?」
突然のダンテの同意に上条は少し戸惑った。

ダンテ「まあいい」

ダンテは右手に持っていた上条の上着を彼へ向けて放り投げた。
上条がそれを掴み、腰に巻く。

上条「ふぅ……」
これで一応大事なところは隠れた。風が吹いたり激しく動けばチラチラ見えるだろうが。

ダンテ「ほれ」
ダンテが左手の銃を差し出した。

上条「……?」

ダンテ「次はコレの練習だ」

―――

377: 2010/05/02(日) 00:26:25.27 ID:8hUunYQ0
―――

ネロはバッキンガム宮殿の豪奢な廊下を早歩きで歩いていた。
左手には黄ばんだ古めかしい羊皮紙の冊子。

たまにすれ違う者はそのネロの見るからに不機嫌な顔を見て一瞬凍り、
そして慌てて脇に寄って頭を下げる。

イラついているネロは無視して進む。

そして、とある大きな扉の前まで来た。
衛兵がその扉の横に立っている。

「お、お待ちを!!!」
衛兵がネロを制止させようとするが、ネロは無視してそのまま突き進み、扉を乱暴に蹴り開けた。

部屋の中には長い机。
見るからに高そうなスーツを着た、上層部の者達がその机を囲んで座っており、
上座にシンプルでありながら豪奢なドレスを着たエリザード女王が座していた。

皆大きく目を見開いて、いきなり部屋に踏み込んできたネロを見る。

恐らく何かの会議中であったのだろう。
机の上には書類らしきものが並んでいた。

ネロ「全員出ろや」

ネロが強烈なオーラを放ちながら、威圧的な声を放った。

378: 2010/05/02(日) 00:28:36.68 ID:8hUunYQ0
ネロの凄まじい空気に圧倒され、女王を省く全員が慌てて逃げるように部屋を出て行く。

エリザード「……ふむ」
エリザードはネロの非礼を特に咎めなかった。
彼がここまでするのなら、それ相応の理由があるのだろう。

ネロがつかつかとエリザードのいる上座へ向かう。

ネロ「読め」

ネロが持っていた冊子をエリザードの前へ乱暴に放り投げた。
机にバサリと音を立てて落ちる。

ネロは近くに会った椅子を引き寄せ、乱暴に座った。

エリザード「……」
それはネロが作った報告書だ。

先の『最悪の説』のだ。

エリザード「……」
エリザードは無表情のまま目を通していく。

379: 2010/05/02(日) 00:29:56.97 ID:8hUunYQ0
エリザード「……証拠は?」
エリザードが報告書を捲りながら声だけをネロに飛ばす。

ネロ「ねえよ」

エリザード「ではなぜ?」

ネロ「勘だ」

エリザード「……」
これがネロではなかったら、エリザードは聞く耳を持たなかっただろう。

だがネロだ。

『ネロ』の、『スパーダの孫』の勘だ。

到底無視することはできない。


エリザード「……これは…困ったものだな…」

エリザードが冊子を閉じ、軽く前に放り投げながら天を仰いだ。

380: 2010/05/02(日) 00:31:34.11 ID:8hUunYQ0
ネロ「まあ、可能性の一つだ」

エリザード「……」

確かに荒唐無稽だ。
証拠も何も無い。

だがこのネロの説は、エリザードも妙に納得した。
今までの事件が見事に繋がる。

エリザード「……」
信じたくは無い。否定したい。
だが納得してしまっている自分もいる。

エリザード「これが正しい確率は?」

ネロ「さぁな。裏付ける証拠もねえし。今の状況を見る限りじゃ、かなり低いだろうな」

エリザード「……問い方をかえよう。『悪魔の勘』は何と言っておる?」


ネロ「……100%だ」


ネロの言葉を聞いてエリザードの顔から血の気が引いていく。

381: 2010/05/02(日) 00:34:40.34 ID:8hUunYQ0
エリザード「……」

『表』の部分だけでも、人間社会全体を揺るがす規模の、
それこそ第三次世界大戦と呼ばれてもおかしくない戦争になる。

表の部分だけでそれだ。

そこに魔術サイドと科学サイドの『裏』、更には悪魔の力さえも加わる。
そしてネロの報告書は、それさえもただの『始まり』に過ぎないかもしれないと暗示していた。

もっと大きな何かが起こると。

エリザード「……」

ネロ「一つ言っておくぜ」

ネロは重く、確かな声をエリザードに放った。

ネロ「わかってるだろうけどよ、ちゃんとハッキリさせておく」


ネロ「俺は『イギリス』の味方じゃねえからな」


エリザード「……それはわかっておる」


そもそもネロがイギリスと契約を交わしたのも、イギリスに悪魔が大量に出没するからであって、
そこに住まう『人間』達を悪魔達から守る為、そして自らの力で身を守る術を教える為だ。

『イギリス』を守る為ではない。
たまたまその土地の国がイギリスだったというだけだ。

遠隔制御霊装の件に協力しているのも、その強奪犯がウィンザー事件の黒幕との関係が濃厚だからだ。

382: 2010/05/02(日) 00:37:57.64 ID:8hUunYQ0
戦力だけで言えば、今のイギリスはローマ正教側と全面衝突しても互角以上に渡り合える。

『悪魔』と『天使』を保有し、対悪魔戦で鍛え上げられ、『魔界魔術』を習得した百戦錬磨の騎士・魔術師の大部隊もある。

圧倒的な戦力だ。

だがそれが逆にイギリスの足枷にもなるのだ。

今のところネロは『こちら側』だ。
相手陣営の裏で手を引いているのはウィンザー事件の黒幕なのだから。

だが一旦戦争が始まったら。

イギリスはその『悪魔の力』の使い方には注意しなければならない。
使い方を誤れば、ネロが味方では無いどころか『敵』として対峙する事も充分有り得る。

人造悪魔を狩り、黒幕を追い詰めるのには制限は無い。
むしろその為の戦力なのだ。どんどん使って良い。

だがもしイギリスが自国の保守に走りすぎた場合。
悪魔の力を本来の用途以外に大々的に使った場合。

極端に言えば、『勝利』を求めるあまり、悪魔の力を使ってローマ正教側の『人間』を徹底的に殲滅し滅ぼそうとするなどだ。


その場合、ネロとダンテの『人間という種族の保護』の信念に抵触する可能性がある。

383: 2010/05/02(日) 00:39:36.42 ID:8hUunYQ0
ネロ「アンタらがどう動こうと知らねえがよ」


ネロ「自重しろよ」


エリザード「……重々承知だ」


ネロ「ま、とにかくまず今やることはだな、」

エリザード「戦争を避ける。これが第一だな」

ネロ「だな。俺もできるだけ動く。先に『根元』を狩っちまえば戦争なんざ起きねえしな」

エリザード「うむ。頼んだぞ」


ネロ「まぁ俺としちゃ、今すぐヴァチカンに乗り込んで片っ端から尋問してぇんだけどよ」


エリザード「ははッ。そんな事をやられてはこちらが困ってしまうわ」
今そんな事をしてみれば、ローマ正教側からはイギリスがネロをけしかけたと見えるだろう。

いや、彼らもネロが『イギリス』の為に動く事は無いというのは知っているが、格好の開戦の口実になるだろう。

今のネロは何かと動きにくい立場なのである。

ネロ「まあな」

384: 2010/05/02(日) 00:41:37.32 ID:8hUunYQ0
ネロが椅子から立ち上がり、扉の方へ向かう。

ネロ「ああ、そうだ」
ネロが立ち止まり、振り返った。

ネロ「トリッシュもこの間から動いてくれてるからよ。今後は少しばかり捗ると思うぜ」

エリザード「それは頼もしい。……で、どこまで話したのだ?」

ネロ「遠隔制御霊装以外は全部」

エリザード「……ふむ…そうだ。こちらも一つ」

ネロ「あ?」

エリザード「先ほどな、ローマ正教側からある申し出があってな」

エリザード「ウィンザー事件の捜査に協力したいと」

ネロ「ぷッはははっ!!」
ネロは拭き出した。

裏で戦争準備をしておきながら、表では歩み寄ってくるとは。
あからさま過ぎる。ますます怪しくなってくる。

エリザード「さっきの会議もな、その為の緊急招集でな」

ネロ「ハッそいつは悪いな邪魔してよ」

エリザード「なぁに。自らの地位を守ることしか能が無い、氏に底無いのジジイ共のボヤキを聞くこと無くてせいせいしたわ」

385: 2010/05/02(日) 00:43:26.52 ID:8hUunYQ0
ネロ「で、どうすんだ?」

エリザード「当然、こっちも『歩み寄って』やる」

ネロ「まあ、だろうな」
突き放すよりは、応じた方が得る物も多い。

まだ確実な向こうの狙いはわからないが、こちらは戦争を回避したいのだ。
それならばどんな形でも、例えそれが策略が張り巡らされたまがい物のパイプでも、
とにかく繋がりを持っておいた方が言い。

こちらの言葉を伝える手段が何も無いよりはマシだ。

エリザード「大使をヴァチカンに招待したいとな」

ネロ「大使の使命はあったか?」

エリザード「それはない。高官なら誰でもかまわないと」

ネロ「じゃあこれから決めるのか?」

エリザード「もう決めておる」


エリザード「神裂だ」


ネロ「……へぇ」


本物の『天使』の神裂がヴァチカンへ。


ネロ「……お似合いじゃねえか」 

―――

402: 2010/05/03(月) 23:40:03.77 ID:GdSv2rI0
―――

学園都市。

時刻は夜中。

とある路肩に止めてあるキャンピングカー。

その中に土御門、結標、海原の三人のグループメンバー。

そして。

アイテムの元リーダー、麦野沈利がいた。

彼女は一方通行がいつも使っていた簡易ベッドに座っていた。
失われた右目と左腕の肩口からは青白い光が迸っている。

右手の袖口からチューブが伸び、隣においてある、
取っ手が付いた一辺が30cm程の箱に繋がっていた。

彼女の体はボロボロなのだ。
この機械はその彼女の生体活動を補佐する物だ。

麦野がなぜここにいるかというと、
彼女は一方通行の代わりとしてグループに所属する事になったからだ。


麦野「で、……もう終わったんでしょ?」
麦野が苛立ちの篭った声を放つ。

たった今、4人は任務を済ませてきた。
先日のデパート立てこもり事件を起こしたテ口リストの残党を皆頃しにしてきたのだ。

403: 2010/05/03(月) 23:43:43.58 ID:GdSv2rI0
土御門「仕事はな」

土御門「だけどよ、もう少しばかり付き合って欲しいぜよ」

土御門が運転席の方を向きながら壁を強めに叩いた。
それに運転席の男が反応し、キャンピングカーを出す。

麦野「……はあ?悪いけど帰るわよ」
麦野が脇に置いている箱型の機械の取っ手を右手で掴み、立ち上がろうとする。

海原「そう言わずに。少し話しませんか?」

麦野「何?グループって馴れ合いチームなの?随分とまあ、めでたいわね」

土御門「少しお前の事調べさせてもらったぜよ」

麦野「……あ゛?」
麦野の残った左目がかすかに殺意を帯びる。
右目の穴の光が彼女の感情に合わせて強まる。

海原「全部知ってますよ。アイテムの内部抗争、あなたがそうなった訳、下っ端と元同僚を殺そうと追い回していたこと」

麦野の眉間に皺が寄り、右目の光がますます強くなる。

麦野「あ~着任早々なのに。もう頃したくなってきちゃった」

だが海原は一切動じずに言葉を続けた。


海原「それと先日の第23学区の件」

麦野「……」
その言葉を聞いて、麦野の眉がピクリと動いた。

404: 2010/05/03(月) 23:48:37.79 ID:GdSv2rI0
土御門「あの件の事を調べてるな?」

麦野「……」

そう、確かに調べている。

あの日から麦野の目に映る世界が変わった。

『上』に良いようににこき使われ利用され、頃し殺される『日常』。
それが今まで麦野にとって『普通』だった。

だがあの日以降、そう思えなくなってしまった。

もう今や、この光の差さないどん底の世界にいるのは我慢できなかった。


暗い地下駐機場での戦い。

彼女の前に現れた正に『天使』のような怪物。
その圧倒的な存在の前に彼女のアイデンティティは脆くも砕け散った。
全てを捨て氏を受け入れかけた。

そこに現れた赤いコートの男。

どん底まで堕ち、怒りも憎しみも全て剥がされ、諦めと絶望の海に沈んでいた彼女を軽々と運び上げた男。

血なまぐさい濁った過去と思念を脱ぎ捨てて上へ上へと向かった。

一度手に入れかけた彼女の魂を逃さないと言うかのように、崩れ押し寄せてくる壁と天井。
その間を突き抜けて彼女の体を運んでいく真紅の烈風。

駆け抜けた爽やかな風。

全ての闇から、全ての重石から解き放たれ、まるで翼が生えたかのような浮遊感。

そして眼前に現れた、突き抜けるような青い空。

それと男の放った『自由』という言葉。


麦野は思った。

あの瞬間、自分は『自由』だったと。

あの時、麦野は知ってしまった。

そこから『見える』景色を知ってしまった。

405: 2010/05/03(月) 23:50:11.17 ID:GdSv2rI0
あの日以来、彼女の心が叫ぶ。

あの『翼』が欲しい と。

このクソッタレな世界から。

このクソ溜めに繋ぎとめる足枷から。

この体を解放し空高く運びあげる『翼』が。


「何様だ。そんな権利でもあると思っているのだろうか。
 散々血にまみれ、数多の人生を断ち切ってきた分際で。
 せせら笑い、快感を感じながら儚い命を叩き潰してきたクズの癖に。

 地を這い無様な断末魔を上げ、肉と血を腐らせ腐臭を放ち、蛆に食われ朽ち果てていくのがお似合いだ」


そんなことは分かりきっている。
自覚している。

だがそれでも。

それでも『翼』が欲しいのだ。


一度絶望の底に落ち、何もかも諦めたのだ。
もう何も怖くない。 もうなりふり構わない。

プライドも、暗部としてのケジメも、闇の世界のルールも何もかもクソ喰らえだ。
わがまますぎると言われようが、筋が通ってなかろうが、自業自得・因果応報だろうが知ったこっちゃ無い。
誰一人許さないとしても、彼女は『自由』が欲しい。

とにかくもう一度あの『高さ』からの景色を見たいのだ。

408: 2010/05/04(火) 00:04:53.28 ID:OLEJxXQ0
あの日以来、麦野は一人で事件の事を調べていた。
あの異質な怪物たちの正体、そして赤いコートの男の事が何としても知りたかった。

そして麦野はしばらくして、例の事件は最重要機密となった事を知った。
それも麦野にとってうってつけだった。

具体的に自由を手に入れる方法も見えてきたのだ。

自由になるにはまず上層部との関係を覆す。

『上層部』が軟化してしまうほどのネタをちらつかせてだ。
そして体の完全な治療、暗部からの完全離脱、そして『自由』の保障を確約させる。
(ちなみに彼女の体を完全に治療しないのも、彼女を繋いでおく為の『首輪』の一つだろう)

ネタとしてあの事件はかなり良い物だろう。

あれ程の異質すぎる存在だ。
レベル5の麦野でさえ手も足も出ない力の存在だ。

きっと重要度はレベル5よりも遥かに上の『何か』だ。正に御あつらえ向きだ。

ネタとしても充分、そして純粋に知りたいという欲求もある。

そういうことで麦野はあの怪物共、
そして彼女に一瞬だけ『翼』を与えてくれた、あの男の情報をとにかく集めはじめた。

だが得られる結果は芳しかった。
というか10日以上も奔走したが、何も情報は得られなかった。

というか、麦野は戦闘や作戦指揮は得意だが、諜報活動は元々あまり得意では無い。
下されてくるオーダーも大抵が戦闘主体のものだった。

それにいくらレベル5といっても、麦野一人でやれることは高が知れている。
アイテムとしてその力をフル活用できたのも下部組織のサポートがあってこそだ。

彼女の自由への道、『翼』を手に入れる という目的は早くも頓挫し始めていた所だった。

409: 2010/05/04(火) 00:08:10.48 ID:OLEJxXQ0
麦野「……」

土御門「お前の事は全部調べさせてもらったぜよ。メルトダウナー」

土御門が身を乗り出し、不敵な笑みを浮かべながらサングラスの上端から目を出して麦野を見上げた。

土御門「あんまり捗ってねえだろ?情報収集」

麦野「……」
麦野が立ったまま、土御門を鋭い目で見下ろす。

麦野「で、何よ?それがどうかしたの?」


結標「言っておくけど、どの道そのネタじゃアレイスターを揺さぶれないわよ」

結標が壁に寄りかかりながら、軍用ライトを右手でクルクルと回す。


麦野「……」
麦野の表情が殺気を帯びる。

アレイスターに自分の動きがバレているのか?
このクズ共は自分の殺害を命じられているのか?

麦野は右袖のチューブを引き抜いた。


麦野「戦るってんの?」

土御門「落ち着け。そうじゃないぜよ。戦う気は無い」

410: 2010/05/04(火) 00:13:07.05 ID:OLEJxXQ0
麦野「じゃあ?飼い主に尻尾ふりながら今の事を報告しにでもいくってんの?」
右目から閃光が空気を切り裂く音を立てて、威嚇しているかのように噴出す。

海原「違います」

土御門「はっきり言っちまうとな、お前と俺達の最終目的は一緒だってことだぜよ」

麦野「………は?」

土御門「理由は知らねえし知ったこっちゃねえが、とにかく『上』と同じテーブルに座りたいんだろ?」

麦野「……」

海原「こちらにも皆それぞれ訳アリでしてね」

麦野「……」

土御門「いや~良かったぜよ。お前が『忠犬』じゃなくてな」

麦野「なるほど…ね……」
『忠犬』という表現で意味が分かる。
このいけ好かない連中は、飼い主に噛み付き、
『首輪』を外そうと画策している『狂犬』のようだ。

自分と同じだ。

麦野「……とりあえず…話だけでも聞くわ」

麦野はゆっくりと簡易ベッドに座った。
だが右袖のチューブはいつでも戦闘態勢に入れるように外されたままだった。

411: 2010/05/04(火) 00:15:27.39 ID:OLEJxXQ0
土御門「まずな、これから起こる出来事なんだが、」

土御門「近い内にな、とんでもない事が起きる可能性が高い。世界規模のな」

麦野「……?」

土御門「『世界』が変わっちまう程のだ。それこそ、学園都市でさえ存亡の危機に立たされるレベルのだ」

麦野「ぶはっ」
いきなりの突拍子も無い話で麦野は思わず笑ってしまった。

海原「……」


土御門「かなり信用できる確かな情報だぜよ。俺がそっちのスジからさっき手に入れたばかりのな」


麦野「ざけんな。んな与太話を聞く暇なんざ……」

海原「ウソを言う必要なんて無いでしょう」

麦野「……ま、いいわ。で、それが起こるとして?」

土御門「つまりその時は学園都市も切羽詰る」

海原「そこを利用するという訳です」

麦野「へぇ……なるほどね」

413: 2010/05/04(火) 00:20:21.74 ID:OLEJxXQ0
土御門「一方通行を含めた俺達、そしてお前」

麦野「……」

土御門「どうだ?面白くなると思わねえか?」

麦野「………」

存亡の危機に立たされるレベルの事態。
学園都市は当然、その問題を解決する為に全力を尽くすだろう。

そこで暗部の反乱。
外に全力で集中するべき時に内で発生した大きな問題。

学園都市側にある選択は二つ。

武力による強引な解決か、軟化して交渉のテーブルにつくか。

だがこの反乱を起こす者の中にはレベル5第一位がいる。
更に第四位が加われば、それはそれは強大な勢力になるだろう。

鎮圧は不可能ではないだろうが、もし戦うとすれば学園都市も大きなダメージを負うだろう。
上層部としては、そんな重要な時期にこんな事態は避けたいはずだ。

となると上層部は交渉のテーブルにつく可能性が高い。

414: 2010/05/04(火) 00:28:52.58 ID:OLEJxXQ0
土御門「確かに動きとしてはデカ過ぎるかもしれないけどよ、もうなりふり構ってらんねえぜよ」

土御門「学園都市自体が危ねえんだ。このまま大人しくしてれば俺達もどうなるかわからねえぜよ」

麦野「……」
それは言えている。
最悪、自分達は二ヶ月半前と同じく戦力として狩り出されるだろう。
道具として。捨て駒としてだ。

土御門「この大きなチャンスは逃すわけにはいかねえ」

海原「こちらの駒はできるだけ多い方が良いのです。今の時期にこうして会えた事はお互いにとって幸運でしょう」

結標「相手が相手なだけにね。戦力が充分って事は有り得ないの」


土御門「この『船』に乗る気はねえか?メルトダウナー」


結標「お互いにとって利益があると思うけど」

海原「それぞれ理由と目的を持つ者同士として、お互い『利用』し合いませんか?」

学園都市への反乱。
それぞれが絶対に引けない理由を持っている。

ある者は何かを守る為に。
ある者は何かを得る為に。

その為に『学園都市の前』に立つ必要があるのだ。

麦野もまたその一人だった。

麦野「……」

これを断る理由は見当たらない。
彼女の目的への歩みは完全に頓挫していた所だ。

そんな時に受けた、この土御門達の誘いは正に救いだ。

麦野「―――いいわよ。乗る」

415: 2010/05/04(火) 00:31:22.26 ID:OLEJxXQ0
土御門「はは、決まりだぜよ。じゃあ―――」

麦野「その前にちょっといい?」

土御門「何だ?」

麦野「一つ条件があるんだけど」

土御門「言ってみろ」


麦野「この船にさ、もう『三人』分の席空いてない?」


土御門達はニヤリと笑った。
麦野の行動は全て掴んでいるのだ。
彼女が誰の事を指して『三人』と言っているのか容易に想像がつく。

その点は麦野も先からの土御門達の言動で気付いている。
だからあえてその三人の名前を出さ無かった。

土御門「へぇ~………」

海原「……」

土御門達が手に入れた情報によると、麦野はあの三人を殺そうとしていたらしいが、
第23学区の件で何か考えが変わったのだろうか。

だが、ここは暗部。他人のプライベートなどお互いに興味が無い。
ただ力を提供してくれればそれで充分だ。
理由を聞くのは野暮というものだ。

麦野「答えは?」

土御門「いいぜ。構わねえぜよ」

海原「まあいいでしょう。その内の二人はかなり使えそうな方ですし」

416: 2010/05/04(火) 00:35:43.66 ID:OLEJxXQ0
麦野「それでさぁ、もうちょっと要望があるんだけど」

土御門「へぇへぇお次はなんでしょうかい?」

麦野「その三人さ、『ゲスト』として乗せて」

土御門「……ぁ?」

海原「それは……どういう意味ですか?」

麦野「私一人で四人分の『切符』買うから、あとの三人は交渉する時に乗せて」

結標「………『乗組員』じゃなくて『ゲスト』 って意味ね…」

土御門「……らしくねえなメルトダウナー」
さすがの事に土御門も思わず突っ込んでしまった。

冷酷非道の虐殺女帝として暗部の間で名を馳せていたこの怪物女が、つい最近まで殺そうとしていた三人を自由への船に乗せ、
更にその『切符』を無償で配ろうとしているとは。

どういう心境の変化があったのか、土御門もさすがに少し興味がわいた。


麦野「うるせぇよ。どうなのよ。無理っつんなら乗らねーわよ」

土御門「……お前が他の三人の分も働いてくれるってんなら問題はねえぜよ」

海原「……まあ、呑みましょう。レベル5がもう一人加わるなら安いもんでしょう」

麦野「ならよし」

417: 2010/05/04(火) 00:39:57.67 ID:OLEJxXQ0
麦野「じゃあ話続けて」

土御門「OK。一つずつ話していくぜよ」
土御門が身を乗り出し、仕切り直すようにパンと一度手を叩いた。

土御門「まず…第23学区の件からは手を引け。忘れろ」

麦野「……はぁぁあ?」

土御門「あのネタじゃ『上』は揺さぶれない。学園都市自体にはあんまり関係ねえんだぜよ」

土御門「というか下手にアッチに進むとだな、もっと『ヤバイ連中』に目をつけられるかも知れねえ」

もっとヤバイ連中。
学園都市よりも敵に回すと恐ろしい勢力があるとでも言うのか。

麦野「……」

土御門「お前も見ただろ?『あの力』の矛先がこっちに向いたら全部終わる」

海原「『彼ら』を絶対に敵に回してはいけません」

結標「下手に動かれて敵対でもしたら困るからね。そっちは土御門に任せて」

土御門「俺が専門なんでな。そっち方面は任さしてもらう」

麦野「……なっ…」

418: 2010/05/04(火) 00:43:00.13 ID:OLEJxXQ0
麦野はコートの内ポケットに入っているバラを意識する。
彼女にとって『自由』の象徴。

忘れろと言われてもそれはできない。
むしろ麦野は知りたい。
今の目的とは関係な無く純粋にだ。

だがそれは後回しにした方が良いだろう。
今は自由、『翼』を手に入れるのが先決だ。

麦野「……わかったわよ」

土御門「よし」

麦野「で、具体的に何をするの?まさか事が起きるまで待ってろって言うつもり?」

土御門「いや、動いてもらうぜよ。できるだけ交渉用のネタを集めといたほうが良い」

麦野「まあ、それも言えてるわね」

切羽詰った事態の時に、レベル5が二人と歴戦の暗部組織という時点でネタとしてはかなりの物だが、相手が相手だ。
充分ということはない。


麦野「何か良いネタでもあるの?」


土御門「『ドラゴン』」

419: 2010/05/04(火) 00:43:59.30 ID:OLEJxXQ0
麦野「……はぁ?」

ドラゴンと聞けば普通は竜の類を思い浮かべるだろう。
このときの麦野も同じだった。

その麦野の反応を見て三人は やっぱり という仕草をする。

土御門「知らねえか。ま、当然だな」

麦野「何よそれ?」

土御門「知らない」

麦野「からかってんの?」
麦野の右目と左肩口から青白い閃光が迸る。

土御門「これから調べるんだぜよ」

土御門「滞空回線の機密コードの一つだ」

麦野「……」

土御門「ドラゴン。このコードだけ一切情報が無い。この文字だけだ」

麦野「……なるほどねぇ」

土御門「興味あるだろ?アレイスターが何としても隠したがっているモンだ」
土御門が狡賢そうな笑みを浮かべた。

土御門「調べてみる価値はあると思うぜ?」

土御門「いい『ネタ』になるかもしれねえぜよ」

420: 2010/05/04(火) 00:49:05.51 ID:OLEJxXQ0
麦野「……調べる方法は?」
麦野が土御門に合わせて不敵な笑みを浮かべた。

土御門「『色々』だ。ま、間に合いそうも無かったら理事会の一人でもとっ捕まえて無理やり吐き出させるぜよ」

土御門「襲撃でもしてな」

麦野「それは私の得意分野ね」

土御門「ああ、それとな、もう一ついい切り札がある」

海原「こちらはもう手に入れてましてね。上層部もまだ気付いていません」

土御門「いや~、掘り出すのは苦労したぜよ」

麦野「…?」

土御門「それはな、強力なネタにもなるし、何よりもお前がいることでかなりの戦力増強ができる」

海原「これも我々にとってかなり幸運でしてね。あなたのような能力の持ち主じゃなきゃ到底扱えないブツでして」

土御門「本当はレールガンが適任だったんだけどな、お前でも充分扱えるモンだ」

海原「まあ、使い方を間違えたら皆終わりなんですが」

結標「綱渡りなんだけどね。ま、今更そうも言ってられないでしょ」


麦野「ちょっと、今度は何?」



土御門「―――『アラストル』って聞いたことあるか?」


―――

422: 2010/05/04(火) 01:01:50.30 ID:OLEJxXQ0
―――


事務所デビルメイクライ。

上条「いひぃいいいいいいいいでええぇええええええ!!!!」

上条の悲鳴が響く。
午前中のダンテのしごきを終え、いつも通り事務所に戻ってのトリッシュの『検査』だ。

全裸で机の上に仰向けになっている上条。
その上条に、相変わらずご機嫌な顔で杭をブッスブッス差しているトリッシュ。
それを見ながら壁に寄りかかってニヤニヤしているダンテ。

御坂は『色々』あって精根尽き果てたらしく、今ホールのソファーで休んでいる。


トリッシュ「……と、OK、おわり」

トリッシュが古い布で杭についている血を拭き取る。

上条「うへぁ………うぅ…」
上条はヨロヨロと、ぎこちなく机の上から降り、近くにおいていた上着を先と同じように腰に巻きつけた。


その上着には、ドングリ程の淵が焦げた穴が所々に開いていた。

銃弾が貫いた跡だ。

423: 2010/05/04(火) 01:08:00.46 ID:OLEJxXQ0
レディの『制裁』の後、上条の修行のメニューに新たな要素、『銃』が加わった。
戦い方の幅を広げる便利な物である。

しかし、別に戦闘能力を強化するのが目的ではない上条からすれば、特に必要が無い様に感じられたが、
ダンテ曰く『銃は悪魔狩りに欠かせないスパイス』とのことで『必修科目』らしい。

それにこれはただ単にダンテの趣向という訳ではない。

銃を使わせ、体内の力を収束させて弾頭強化を行わせる。
つまり悪魔の力を更に上手く扱えるように鍛えるのである。

それは上条の中の力にも刺激を与え、
『悪魔の力をより引き出す』というダンテ達の一番の目的にも繋がる。


ということで上条は銃の扱い方を半ば強引に教わされる事になった。
当然ろくに説明も無くいきなり使わされる形で。

だが新たな要素が加わったとはいえ、組み手の内容が劇的に変わったわけではない。
変わった点は、上条が負う傷の種類に銃傷が加わったぐらいだ。

上条が銃弾を放ってもダンテはひらりひらりとダンスしているかのようにかわし、
上条の放った銃弾を銃弾で『撃ち落し』、更に指でデコピンするかのように弾き返す。

そして「こうやれ」と言い、弾頭強化した魔弾を放ち、上条へ何発も叩き込んだ。

相変わらず上条はぶちのめされ、新要素の銃でぶち抜かれ地面に何度も倒れた。
 
その後いつも通り最終的に意識を失ったという訳だ。

424: 2010/05/04(火) 01:11:55.20 ID:OLEJxXQ0
ダンテ「どんくれぇだ?」
相変わらず氏相が出ている上条を、ダンテが壁に寄りかかり横目で見ながらトリッシュに声を向けた。

トリッシュ「驚くわよ。大体35くらい。レディがかなり刺激になったみたいね」
昨日までは20%いくかいかないか程度だった。
たった一日で、約15%も引き出したのだ。

ダンテ「へぇ」

トリッシュ「……レディにはもうやらせないでね」

ダンテ「……わかってる」

上条「上条さんも……もう嫌です……」

確かにこの成長は素晴らしい。
だがあまり急激に引き出すと、暴走して元に戻らなくなってしまう可能性もある。
いくら上条の魂が頑丈とはいえ、何度も暴走させてしまうとかなりの負担がかかってしまうだろう。

というか暴走するかどうか以前に、レディの『制裁』は本当に氏んでしまうかどうかというギリギリのラインだった。


ダンテ「ま、結果的には良しとしようぜ。大分レベルアップしたしな」

トリッシュ「まあ上手く力を使えてるかどうかはまた別の話だけどね」

トリッシュも横目で上条を見やる。

力をかなり引き出してはいるが、実際に上手く使えているのは半分程度だろう。
まあそれでも状態としてはかなりいい方だ。

425: 2010/05/04(火) 01:14:30.80 ID:OLEJxXQ0
トリッシュ「ああそう……ちょっと良いかしら?」

トリッシュがダンテの顔を見つめる。
そして眉をピクリと動かした。

ダンテ「……」
ダンテはその意図を悟った。

ダンテ「イマジンブレイカー」

上条「んぁ……なんだ?」
上条が虚ろな目でダンテの顔を見る。

ダンテ「さっさと服着てソファーで寝てるお嬢ちゃんのとこ行ってやれ」

上条「はぃ?」

ダンテ「お前の『坊や』見たからああなってんだろ。ちゃんとフォローしてやれ」

上条「へ……あ、あれは…」

ダンテ「良いからさっさと行け」

上条「お、おう…」

上条が腰に巻かれている上着を抑えながら、少しふら付きながら地下室から出て行った。

トリッシュ「あら、あなたにも一応乙女心のフォローとかの概念あったのね」

ダンテ「うるせぇな。で、何か話があんだろ?」


トリッシュ「まあね。ネロから面白い話聞いちゃったの」

426: 2010/05/04(火) 01:17:58.26 ID:OLEJxXQ0
トリッシュはネロから聞いたことを簡単にダンテに説明した。

ウロボロス社とローマ正教側の動きと人造悪魔。

ネロの説によればウロボロス社にウィンザー事件の黒幕が関っており、
人造悪魔がローマ正教側へ大量にばら撒かれつつあると。

悪魔の力が行使される戦争が起こるかもしれないと。


ダンテ「……ハッハァ…随分と派手なパーティになりそうだぜ」
ダンテが不気味な笑みを浮かべる。

トリッシュ「でしょ、面白そうよね」

トリッシュ「とりあえず私が探るから。あなたは坊やの件を今まで通りに進めて」

今のダンテが『暇』じゃないのは幸運だった。
上条の件が無かったら、ダンテは単身ウロボロス社にすぐに乗り込んで大暴れするだろう。

だがこの件は非常にデリケートだ。
フォルトゥナの時と同じく、先にトリッシュが影で動いて下地を作っておいた方が良いだろう。

ダンテを解き放つのは勝負を決める時だ。

それにネロの話によれば、今見えている事の後ろにももっと何かがある可能性が高いとの事だった。
それにはトリッシュも同意した。

ウィンザー事件の黒幕の目的の一つが、覇王の完全復活というのは確実だ。
だが、それだけではこれ程までの戦争を起こそうとする理由にはならない。
復活と戦争。

この他にも『何か』があるのだ。
この二つのワードを繋げる『何か』が。

その辺りもトリッシュが先に探りを入れておいた方がいいだろう。

ダンテ「OK」

トリッシュ「ああ、そうそう、坊やの件が終わる前にパーティが始まったらどうする?」

ダンテ「さぁな。そん時はそん時だ」
ダンテはわざとらしく方を竦めた。

トリッシュ「ま、任せるわ」

427: 2010/05/04(火) 01:22:11.13 ID:OLEJxXQ0
トリッシュ「……それにしてもね。覇王なんて……お馬鹿さんはいつもどこかにいるわね」

トリッシュ「スパーダの一族も忙しいわねぇ」

ダンテ「なぁに、『親』の尻拭いは『子』がするもんだ」

ダンテ「それにあの野郎とは色々とあってだな」

ダンテ「また遊びてえと思ってたんだ」

あの野郎。ウィンザー事件の黒幕。
学園都市でダンテと戦った後、ウィンザーで覇王の力の一部を引き出したあの男。


ダンテ「覇王―――最高の『暇つぶし』になりそうだ」


口を横に裂き、殺気と狂気と喜びの混じった笑み。
一瞬目が赤く光り、トリッシュでさえ息が詰まるような威圧的なオーラが噴出す。


ダンテ「ヘッハァ。俺の獲物だぜ」


トリッシュ「……見つけたらちゃんととっておいてあげるから」

そんなダンテを見て、トリッシュは少し例の黒幕に同情した。
この男にこれ程までに気に入られているとは、本当にご愁傷様だ。

まあ、相手もわざわざダンテに直に喧嘩売る辺り、それを承知しているだろう。
人間にも結構骨のある奴がいるらしい。

そういう勝ち気がまたダンテをそそるのだ。

ダンテ「待ち遠しいぜ。よろしくな。俺はいつでもいい」

一瞬姿を見せた悪魔の『顔』は影を潜め、いつものふざけた笑みに戻っていた。

ダンテはコートをなびかせて、扉に向かい地下室から出て行った。


トリッシュ「……本当に相変わらずね」

そんなダンテの逞しい背中を眺めながら、トリッシュは微笑しながら呟いた。


―――

428: 2010/05/04(火) 01:23:03.58 ID:OLEJxXQ0
今日はここまで。
明日は投下できるかわかりません。
明後日は確実に投下できます。

429: 2010/05/04(火) 01:24:36.82 ID:ZlA2XsAO
乙なのよな

430: 2010/05/04(火) 01:24:53.18 ID:xG1DYqEo
いい物語をありがとう乙!

436: 2010/05/06(木) 00:06:30.83 ID:A74GXvE0
―――

窓の無いビル。

アレイスターはミサカネットワークから送られてきたデータを閲覧していた。

アレイスター「……」
上条は安定したまま急速に悪魔化していっている。
恐らく、体組織はもう既にかなりの部分が悪魔のものとなっているだろう。

トリッシュの『検査』自体の映像は御坂が目を伏せているため無いものの、何をやっているのかは容易に想像が付く。
それにトリッシュはご丁寧に解説までしてくれている。
この解説は御坂とミサカネットワークの向こう側、このアレイスターへ向けられているものだろう。

アレイスター「……」
今のところ順調だ。
このまま上手くいけばプランも大きく短縮できるだろう。
それこそ一気に最終段階まで飛ぶ事ができる。

元々あの『竜王の顎』を本格的にフル稼働させる為に、彼の魂の『器』としての強化が必須だったのだ。
この過程が一番デリケートであり、そして手間も時間もかかるものだった。

だが悪魔化によってその過程が一気にすっ飛ぶのだ。

二ヶ月前からの悪魔サイドの関りによって、一時はプラン全体を停止する必要もあるのではと思われたが、
幸いな事にこの巨大なイレギュラー因子は彼のプランを成功へと導きつつある。

だがあくまでイレギュラーであり、それなりに危険も伴う。

彼のプランも急速に進んでいくが、
それと同時に世界の流れも予測がつかない方向へ変わりつつあるのだ。

437: 2010/05/06(木) 00:09:34.39 ID:A74GXvE0
根絶したと思われていた魔女によるジュベレウスの氏。
それに起因する天界の混乱と、その戦いによる弱体化。

バージルの復活、ネロの覚醒による魔剣スパーダの完全な覚醒。

魔帝の氏による魔界の混乱。
それによる各世界間のパワーバランスの崩壊。

『悪魔』と『天使』を手に入れ力を増大させたイギリス清教。

それを見て学園都市に不気味な程に低姿勢で歩み寄ってきたローマ正教とロシア成教。
それと同時に行方を眩ませたローマ正教、『神の右席』のトップ。

イギリスを始めとする人間界の歪み。
それに起因するアリウスの動き、解けかかっている覇王の封印。

その後のアリウスとローマ正教・ロシア成教の不穏な動き。
とんでもない低価格で最先端兵器を売りさばき大国へ根を回していくウロボロス社。

兵器として世界中へ拡散されていく『人造悪魔達』。

水面下で莫大な力が渦巻き、徐々に崩れ行く人間社会。


今の人間界は、いつ炸裂するかもわからない爆弾の上に載っている状況だ。

438: 2010/05/06(木) 00:11:13.02 ID:A74GXvE0
数多の世界の者達がこの人間界を中心とする、魔界と天界の動乱に注目している。
アレイスターとしてはこれは避けたかった事態だ。

なにせ、その動乱の中心にあの『上条当麻』もいるのだから。
無数の者達が上条を『見る』。

そうなれば誰かが上条の中にあるモノに気付くのも時間の問題だ。
アレイスターの目的に気付くのもだ。

そして天界に気付かれれば。
天界の者達は全力で、あらゆる手段を使ってでもアレイスターを止めにかかるだろう。

そうしなければ天界そのものが結果的に『滅ぶ』のだから。
学園都市に天界の軍勢が直接押し寄せてくるかもしれない。

そんな事態になればアレイスターは完全に孤立する。
今は一応同盟を結んでいるイギリス清教も、その本質は『天界』に帰属する組織だ。

もし気付いていたら、この瞬間にでも彼らは宣戦布告し、全魔術サイドが敵にまわるだろう。



そして魔界。
この勢力はどう動くか予測がつかないが、味方につくことは絶対にありえない。

なにせ絶頂を極めていた魔界の覇権が地に落ちたのは人間界のせいなのだから。
そして魔帝の氏により、その怨嗟には更に拍車がかかっている。

何かあったら、その混乱に乗じて魔界は必ず動く。

ましてやアリウスの目的が達成され覇王が復活したら、魔界はその旗の下に集い再び大規模な侵略行動を起こすかもしれない。
あのスパーダの一族がいるとはいえ、全面戦争となれば人間界には必ず大きな傷跡が刻まれる。

これ以上人間界を歪ませられると、アレイスターのプランにとって障害となりうるのだ。
現にイギリスを中心として人間界に流れ込んで来る魔界の力が、AIM拡散力場に徐々に干渉し始めている。

439: 2010/05/06(木) 00:13:00.12 ID:A74GXvE0
スパーダの一族。これは最大の懸念の一つだ。
守護者でありながら大きな障害でもある。
離れたくとも、今は離れられない。

今の上条を育てるにはダンテ達の手が必要なのだ。

今、上条当麻は悪魔化し、その内包する力も徐々に覚ませながら成長してきている。
その傍にはトリッシュとダンテ。

トリッシュは見たとおりかなり頭がキレる。
そしてダンテも一見なにも考えて無さそうだが、その嗅覚と頭の回転はトリッシュ以上かもしれない。

そんな二人が上条を、『幻想頃し』を見ているのだ。
今のところ、トリッシュ達は『幻想頃し』を調べないという条件をしっかり守ってくれている。

だがその内、調べる事も必要が無いくらいに丸わかりな状態になってしまうかもしれない。
上条が成長するにつれてその可能性が徐々に高くなってきている。

いつか、彼の中の『モノ』が何かの衝撃で溢れるかもしれない。


彼がその右手で触れてきた『記憶』が。


どうやって『力』を消し、『構造』を崩壊させてきたか。

どうやって『相殺』と『分解』を行っているのか。

その原理が知られてしまえば大変な事になる。

441: 2010/05/06(木) 00:18:47.76 ID:A74GXvE0
アレイスターにとってその中に詰め込まれている『記憶』は必要ない。
成長しきって完全に目覚めた、フル稼働できる『竜王の顎』が必要なのだ。

ダンテ達もその『記憶』の存在を知ったとしても興味は無かっただろう。
二ヶ月前までは。


あの右手が魔帝の『創造』に触れるまでは。


これはアレイスターにとって一番大きな誤算であり、利用しようがない要素だ。
あの二ヶ月前の件はアレイスターにとって鬼門だった。

彼の当初の計画では、ダンテとバージルが衝突、その隙に一時的に強化された一方通行が禁書目録を奪還するという物だった。
上条が悪魔化するのも戦線に加わる事も完全に予想ができなかった。

ましてや魔帝の『創造』に触れてくるなど。

あの少年はとんでもない物を身に宿してしまった。


ダンテ達が上条のにある『記憶』に気付いたら。
いや、もう薄々感づき始めているだろう。

最悪、上条が処分されるかもしれない。
いくらダンテが約束を守る男でも、『創造』とあれば何よりもその処分を優先するはずだ。


なにせスパーダの一族の運命を2000年に渡って縛り続けた存在なのだ。
2000年に渡って人類を脅かし続けた力なのだ。


どんな手を使ってでも最終的に処分しようとするだろう。

442: 2010/05/06(木) 00:20:54.79 ID:A74GXvE0
今のアレイスターは正に綱渡り状態だ。

だが今、上条を成長させるにはダンテ達の手が必要だ。

これを避けて通るわけにはいかないのである。
ゆっくり上条を成長させている暇は無い。

今の状況からプランを成功させるには、ダンテ達に上条を預けるしかないのだ。

もう時間は無い。
世界の流れは止まらない。

巨大な爆弾の導火線には点火され、カウントダウンが始まっている。

今のアレイスターに出来ることは一つ。

『流れ』に『追いつかれる』前に事を成し遂げる。

どうやら1000年以上の寿命はいらなかったらしい。
この一度きりで全てが決まる。

今しか無い。

学園都市が滅ぼうが知ったこっちゃない。

今、この時の為に築いてきたのだ。
成功の為とあらば、全てを失っても良い。

この命もだ。

443: 2010/05/06(木) 00:24:03.48 ID:A74GXvE0
ちなみもう一つ、先日アレイスターの耳に飛び込んできた情報があった。

『グループ』とその周辺の動き。
『一方通行』と『原子崩し』の結託。

だがこれはアレイスターにとって特に問題でもない。

彼らはこの戦争に付け込んで、学園都市そのものを人質にとってこちらと交渉するつもりらしい。
だが前述の通り、アレイスターはこの戦争以降は学園都市がどうなろうと知ったこっちゃ無い。

残念ながら、哀れなネズミ達の計画は最終的に瓦解するだろう。

この行動を半年前にでも起こしていたら、少しはアレイスターを困らせた事ができたかもしれない。
だがもう遅い。

今のアレイスターにとって学園都市の保守は二の次なのだ。

理事会の者を殺され、『ドラゴン』の情報を引き出されたところで痛くも痒くも無い。
もう隠し隠れる必要も無いのだから。

むしろ、これはアレイスターにとって好都合だ。

444: 2010/05/06(木) 00:25:30.75 ID:A74GXvE0
いまや彼のプランの要の一つとなっている『一方通行』。
彼が自ら進んで『舞台』に上がってくる。

『ドラゴン』に接触したいのなら。

『エイワス』に会いたいのならお望み通りそうしてあげるだけだ。
ちょうどアレイスターもそうさせようとしていた所なのだから。

学園都市内、科学サイド内の動きなら全てアレイスターの手の平の上だ。
彼らは知らず知らずの内にアレイスターの敷いた線路の上を進んでいくだろう。

アレイスター「……もう少し…もうすぐだ」
水槽の中で小さくほくそ笑む。


歯車は更に加速していく。

その流れは彼をも運んでいく。

アレイスターは確信していた。
不安要素はたくさんあるが、最後の最後に勝つのは己だと。


確かに、彼が『知る限り』の状況からならそう確信できるだろう。


だがアレイスターが『知らない』要素が目の前にあった。
彼は気付いていなかった。

その歯車の一つに大きなほころびがある事に。

プランそのものを一瞬で砕いてしまう程の巨大な爆弾が紛れ込んでいた事に。

学園都市外、科学サイド外、そして人間界の外からやってきた最悪のイレギュラー。

ここに来て彼は見誤ってしまった。

この猛烈な速度の流れの中で、見落としてしまったのだ。


『アラストル』を。


―――

445: 2010/05/06(木) 00:30:57.27 ID:A74GXvE0
―――

事務所デビルメイクライ。

二階のキッチン。
上条と御坂は夕食を食べ終わり、食器を並んで洗っていた。

御坂「……」

上条「……」

会話は無い。
午前中、御坂は上条のムスコを見てから一言も口を聞いてくれなかった。
顔を真っ赤にして俯き、上条に何かを聞かれたときは頭を振って答えた。

上条は最初は怒っているのかと思っていたが、言葉を放たないとはいえ、
一応首振りで話に答えてくれるのでそうではないらしい。

乙女心がわからない上条は、自分のムスコが見られた事が原因とは全く考えていなかった。

上条「……(こいつ……風邪でも引いたのか?)」
顔を少し火照らせてる御坂を見ながら上条は思った。

そうではなく、御坂は未だにパニック状態が冷めていないだけなのだが。

上条「なあ……」
食器を洗いながら、となりの御坂に声をかけてみる。

御坂「……」
御坂がやや俯き加減で上条に顔を向ける。

上条「お前具合悪いのか?」

御坂は頭を横に強く振る。

上条「いやいやいや無理すんなよ?明日は休んでも良いぞ?たまには俺が飯作るから」

御坂は更に強く頭を振った。

446: 2010/05/06(木) 00:33:18.68 ID:A74GXvE0
上条「(う~ん……こいつ絶対に何かおかしいぞ……体調が悪いんじゃねえかな…)」

上条「(あ、もしかして……女の子の日ってやつか?)」

上条「(でもなあ……インデックスはこうはならないしなあ……やっぱ違うかな…)」
インデックスは『お腹が減るといつも以上に不機嫌になる』という症状だった。

まあ、ともかく上条の推理は全て的外れだ。

上条「……」

御坂「……」

そのまま二人でしばらく後片付けをしていると、一回の方から勢い良く扉が開く音が聞こえてきた。
いつもこの時間帯はダンテがシャワーを浴びている。

これはダンテがあがった音だろう。
その証拠に、乱暴な足音のあとに椅子にドカリと座る音、そして机の上に足を叩きつけるように乗せる音が聞こえた。

上条「お……あがったな…御坂、入ってきて良いぞ。俺が片しとくからよ。今日は早く寝な」

御坂が首を横に振る。

上条「う~ん……じゃあ俺が先にパッて入って来るぜ?」
上条が手を軽く振って水を切った後、タオルで拭く。

と、その時だった。

上条「……ん?」

御坂が俯きながら上条の袖を掴んでいた。

447: 2010/05/06(木) 00:35:54.99 ID:A74GXvE0
上条「どした?」

御坂「……」
御坂は俯き、モジモジしている。

上条「――――」
そんな御坂の姿を見て上条はハッとした。

上条「(………………………そうか…)」

上条「(わかった……わかったぞ……)」

上条「(御坂お前………)」

上条は御坂がこうなっている原因を突き止めた―――


上条「(見ちまったんだもんな……)」


―――つもりだったが。


上条「(俺が半頃しになるのを。怖かったんだな……そりゃそうだ……)」

上条「(俺が午前中何をしているか、初めて具体的に知ったんだもんな……)」

相変わらず大ハズレだ。

448: 2010/05/06(木) 00:37:29.13 ID:A74GXvE0
上条「御坂……すまん……」

御坂「……?」

上条「すまん。あんなモン(俺のスプラッタ)見せちまって……」

御坂「―――ーッ!!!!!」

上条「そりゃあ見たくねえよな……あんなモン……」

御坂「い、いや……そ、その…!!!」
御坂の顔が一気に真っ赤になる。


上条「でもよ………俺はああしなくちゃダメなんだ」


御坂「―――ッ!!!!!!!!!!!(何が!!!??見せなきゃダメってんのッッッ!!!??)」

御坂「(も、ももももももももしかしてそういう性癖!!!!!??)」


上条「俺が(この道を)選んだ。俺が決めたんだ。これは俺が自分から求めてやってることなんだ」


御坂「(自分から……決めて……選んで……あたしに……求めて…にゃばばばばばぁああぎkhぐんmsヴぁぁああ!!!!!!!!!!)」
最早思考は昼辺りから色々とぶっ飛んでいる。
そしてこれだ。

遂に御坂の中で何かのピンが弾け爆発する。

御坂の頭の中が晴れ渡った。
爽やかに。


御坂「(うん、問題ない。そんな性癖どうってことない。当麻なら問題ない。別にOKOK。むしろ頂きます全部あたしが見ればいいだけ)」

御坂「(つーかコレってもしかして勝った?あたしあのシスターに勝っちゃった?)」

―――

449: 2010/05/06(木) 00:40:30.32 ID:A74GXvE0
―――

トリッシュは例の件の調査を終え、事務所に戻ってきた。

トリッシュ「……?」

だが一階のホールは無人だった。
いつもなら、この時間はダンテは定位置で飲んだくれてるはずだ。

トリッシュ「……」
まあ行きつけの店にストロベリーサンデーでも食べに行ったのかもしれない とトリッシュは思った。
何も言わずにフラッと行ってしまう事も多々ある。

トリッシュはホールを通り抜け、地下室の仕事部屋に向かおうとした。
だがその時、二階から僅かな気配がした。

トリッシュ「……ダンテ?」

妙だ。これはあえて気配を消している。
誰にも見つからないようにだ。
いつも傍にいるトリッシュじゃないと察知できないくらいに反応が小さい。

この事務所にいる非番の時は一切抑えずに垂れ流しているはず。

これは完璧に仕事モードだ。

トリッシュ「……」
トリッシュの目の色が変わる。

トリッシュは気配を消し、一切音を立てずに、二階へと続く階段を上がっていった。

そして二階の廊下に出ると。


トリッシュ「……あなた何やってんの?」
トリッシュが呆れた声を放った。

廊下の先、キッチンの扉の横の壁に、ダンテがワインボトルを片手に寄りかかっていた。
足元には、黒い布に包まれた長さ1m程の棒のような物が転がっていた。

キッチンの扉の向こうからは上条と御坂の声が聞こえてきている。

ダンテはトリッシュの姿を見ると、ニヤけながら人差し指を口に添えた。

トリッシュ「……」

静かにしろという合図だ。

―――

450: 2010/05/06(木) 00:45:04.92 ID:A74GXvE0
―――


上条「あれはキツイだろうな……」

御坂「……」

上条「……嫌なら無理して見なくてもいいぜ。お前はいつも通りこk」

御坂「んんんんん!!嫌じゃない!!!!!見る!!!!!!!見たい!!!!」
御坂がいきなり顔を上げ、上条の目を真っ直ぐ見て大声で叫んだ。
その顔は湯気が上がりそうなくらいに紅潮していた。

上条「うぉぉお!!!!!」
あまりのオーラに上条は圧倒された。

上条「み、見たいって?!!!!(俺のスプラッタを)」

御坂「み、見る!!!!(上条の×××を)」

御坂「アンタが見せたいってんなら良いわよ!!!!!見る!!!!アンタがそうしたいってんなら!!!!」
御坂は最早自分が何が言っているのか良くわかっていなかった。

御坂「んぎぃいいいいいい!!!!!!ハァッ!!!!」

御坂が口を固く縛り、拳を握り、仁王立ちする。


御坂「さあいいわよ!!!!見せなさい!!!!思う存分!!!!」



上条「…………はい?」


御坂「C'mon! Hurry up!!!!」

451: 2010/05/06(木) 00:48:41.21 ID:A74GXvE0
上条「……あのう……見せろって……今でしょうか?」
上条は思った。この場でスプラッタ状態になれとでも言うのでしょうか と。

御坂「な、何よ!!!!」

上条「い、いや……大体どうやるんだよ!!!!」

御坂「ど、どうって……!!!!!」
御坂は思った。 ベルトを外してズボンを脱げば降ろせば と。

上条「つうかよ!!!相手は!?御坂がやってくれるのか!?」

御坂「あああああああああああたしいぃぃぃぃ!!!!??」

御坂「(あたしが降ろすの?!!!って相手って……まさかぁあああああああああああああ!!!!!)」

御坂「いぃいいいいいいいいいいい良いわよ!!!!!」


上条「っていうか、それ以前に家の中じゃダメだって!!!」


御坂「な、何で??!!!!!!!外の方が問題じゃない??!!!!!!」


上条「だって戦(ヤ)れば事務所壊れんだろ!!!!ダンテさんに怒られんぞ!!!」


御坂「(ヤればって……本当に…!!!!!ちょ、ちょっと待って!!!!!!そんなに激しいの!!!!!!!???)」


御坂「ま、待って待ってよ!!!!あたし………そ、その……!!!!!」

上条「?」

453: 2010/05/06(木) 00:52:29.50 ID:A74GXvE0
御坂「そ、そういうことするの……は、初めてだし……そ、その……優しくしてくれないかな……」

上条「……は?何言ってんだお前?(戦うの)初めてじゃないだろ。散々やってるじゃねえか」

御坂「―――ッ!!!!!ヤ、ヤってないわよ!!!!!!!!」

上条「おい……お前本当に大丈夫か?もしかして頭でも打ったんじゃあ……」

御坂「ヤってない!!!!!ヤってないつーの!!!!!!」
御坂が凄まじい形相で上条に突っかかる。


上条「い、いや、二ヶ月以上前から思いっきり悪魔ぶっ頃してんじゃねえか!!!!」


御坂「だからぁあああああ!!!あたしは処j……………………は?」


上条「へ?」

御坂「はい?」

上条「……ど、どうしたんでせう?」


御坂「………」

上条「………」

とその時だった。

「ぷふッ……」
扉の向こうから、微かに笑い声が聞こえてきた。

御坂「………」

上条「………」

454: 2010/05/06(木) 00:56:23.43 ID:A74GXvE0
上条「………」

御坂「ねえ……あたしがこうなってる理由、何だと思ってる?」


上条「み、見ちまったからだよな?」

御坂「……何を?」


上条「俺が半頃しになるの」



御坂「………う……うわぁあああああああああああああああああああああんんんんんん!!!!!!!」
御坂が顔を真っ赤にして、扉に突っ走る。

上条「お、おい!!!!!!なんだってんだよ!!!!!」

御坂が勢い良く扉を開けた。
だがキッチンの外には出れなかった。


ダンテ「………ププププ……いやあ、ヤるなら家の中でもいいぜ?思う存分、盛っちまいなよ。…プフッ」

トリッシュ「人間の思春期って面白い思考回路してるわね」
口を抑えて笑いを堪えているダンテと、穏やかな笑みを浮かべているトリッシュが立っていたからだ。


御坂「ひあああああああああああああああああああんんんんんん!!!!!!!!」

459: 2010/05/06(木) 01:04:47.50 ID:A74GXvE0
上条「へ?!へ!?」

ダンテ「へっへへへへはぁ……坊や…へっへ……お前はパーフェクトだ」

ダンテ「ぶふッ…パーフェクトすぎる。パーフェクトな『0点』だ。世界遺産並だ。非の打ち所がねえへっへへへ」

ダンテが笑いを漏らしながら上条を『採点』する。

ダンテ「Devil May Amazed(悪魔も呆れる)ってか?ヘッヘヘヘハハハヘヘヘ……」

上条「な、なにがだよ?!」


御坂「ひぃいいいいあああああああんんんん!!!!!!」

ダンテ「だから………ハハッ…言ったじゃねえか…このお嬢ちゃんがへばった理由hんkぎggg」
次の瞬間、トリッシュがダンテの首に手を当て電気を流した為、彼の言葉がそこで遮られた。


トリッシュ「ほんとガキね。あなたも。このクソガキ共」


そして上条の頭の顔に小さな電気を飛ばした。

上条「いぎッ!!!!いでぇえええ!!!!俺が何したってんだよ!!!!」

御坂「……ひあああああ!!!!!どいてえええええええええ!!!!!!」

御坂がトリッシュとダンテの間を抜けて自分の部屋に向かおうとする。

と、その御坂の手をトリッシュが掴んだ。

御坂「はなしてぇえええええええ!!!!!もう寝るぅうううううううううう!!!!!!」

トリッシュ「ダンテがあなたに用があんだって」

ダンテ「………………完成したぜ。お嬢ちゃんの『大砲』がよ」

首元から煙が上がっているダンテが、足元に置いていた長さ1m程の包みを持ち上げた。

御坂「…………ふぇ?」

461: 2010/05/06(木) 01:11:06.91 ID:A74GXvE0
10分後。
四人はキッチンの小さなテーブルを囲み、その上に置いてある黒い包みを眺めていた。

御坂は疲れてしまったのか、それとももうどうでもよくなってしまったのか、腑抜けた顔をしていた。
ちなみにダンテの首元からはまだ煙が上がっていた。

ダンテ「ほらよ」

ダンテが黒い布を剥ぎ取った。
姿を現したのは、黒い金属の塊。

直径15センチはあろう丸太のような棒の先に長方形の箱がくっついているような形だった。
その箱からは斜めに棒が突き出していた。
一見すると、柄が曲がっている棍棒のようだ。

その箱とは反対側の先に、直径1cm弱の穴、銃口が開いていた。

御坂「こ、これが……あたしの?」

ダンテ「ああ」

ダンテがあり合わせで作った御坂専用の銃だ。
ブローニングM2重機関銃をベースに、その銃身を魔界の金属生命体の物と取替え、
駆動部も同じ金属生命体でコーティングしたものだ。

462: 2010/05/06(木) 01:12:54.90 ID:A74GXvE0
完成した現物の重量は50kgを越えている。
そして引き金とグリップ、例の曲がった柄のような部分の配置も反動を一切考慮していない。

だが御坂専用なのだ。
重さも反動も考慮する必要は無いだろう。


ダンテ「発射速度は500発/分。連射可能だ。ま、装弾数は10から200までお好みで」

ダンテ「銃身は7万度まで耐えられる。一万発連射したところで銃身は一ミクロンも歪まねえぜ」

ダンテ「ライフリングの磨耗も心配しなくていい。自動で修復する」

ダンテ「射程はお前がどんだけ力を流し込むかで決まる。まあ、最大出力にすりゃ地平線の端までは届くだろ」

ダンテ「それと安全装置はねえから注意しな」
首元からまだ煙が上がっているダンテが立て続けに説明をした。

上条「……」

トリッシュ「……」

御坂「……」

ダンテ「とりあえず持ってみろ」

463: 2010/05/06(木) 01:18:37.48 ID:A74GXvE0
御坂が恐る恐る手を伸ばし、柄のようなグリップを握る。
そして能力を使い持ち上げた。

ダンテ「どうだ?」

御坂「……良い感じかも…!」
手にしっくりくる。
グリップも握りやすい。

ダンテ「お前砂鉄集めて剣とかに出来るんだろ?それも銃身の形変えられるぜ?」

御坂が頷き、力で操作する。
すると銃身が薄くなり、長さ1.5m程の漆黒の刃となった。

御坂「な、なにこれえええええ!!!!す、すごいすごいすごい!!!!!!」

ダンテ「強度はそうだな……それで撃つ弾を弾けるレベルだ」

御坂「!!!!」

トリッシュ「(『魔具もどき』ってところかしらねアレ)」

上条「(これが本物の『魔改造』ってか)」

ダンテ「操作をやめれば元の形に戻る」

御坂が操作をやめると、刃は元の銃身の形に戻った。

御坂「きゃああああああああ!!!!!!すっごい!!!!やばいやばい!!!!!」

464: 2010/05/06(木) 01:25:34.39 ID:A74GXvE0
御坂「ありがとうございます!!!!!!!ありがとうございます!!!!!!!」
御坂がその巨大な大砲を抱きしめ、ダンテに何度も礼をする。

ダンテ「大事にしろよ」

御坂「はい!!!!!抱いて寝ます!!!!!!!」


トリッシュ「(……こんなもん持たせてどうすんのよ……)」
トリッシュが、首元からいまだに煙が上がっているダンテを呆れた目で見た。

ダンテ「なんだよ」

トリッシュ「やりすぎ」

ダンテ「これは男のロマンだ」

トリッシュ「女の子が持つ物に男のロマン追求してどうすんの?」

トリッシュ「何考えてんの?頭おかしいの?バカなの?もっと欲しいの?これ?」

トリッシュが右手を顔の横にあげる。
指先には金色の電気が走っていた。

ダンテ「……明日にしてくれや。俺は寝る」

トリッシュ「いいわよ。一発で寝かせてあげる」

ダンテ「ハハ、生憎子守唄はいらねえよ」

トリッシュ「遠慮しないで」
トリッシュがダンテの首へ再び手を当てた。

ダンテ「お前nglsgれぎksss」

―――

478: 2010/05/07(金) 00:12:06.35 ID:02VBpOI0
―――


バッキンガム宮殿。

地下の蔵書。

ネロは机の上に足をあげ、だらしなく椅子に座っていた。
相変わらず蔵書の中は散らかっている。

壁際には古めかしい本が積み上げられ、机の上にも黄ばんだ羊皮紙が大量に散らばっていた。

そしてその机の前。

ネロの向かいの椅子に、神裂が座っていた。
その後ろの扉には腕を組んでるステイルが寄りかかっていた。

神裂「五日後に決まりました。向こうは枢機卿を出してくるそうです」

ネロ「誰が同行する?」

神裂「五和を」

ネロ「へぇ……まあ、とにかく気をつけな」

神裂はイギリス清教の大使として、ローマ正教の総本山であるヴァチカンに向かうのだ。
今の時期、わざわざ相手の本拠地に赴くと言う事は自殺行為に等しい。

例えるならば、大きく顎を開いた獅子の口の中に飛び込んでいくようなものだ。

だから。

神裂「ふふ、心配いりませんよ」

だからイギリス清教はその口の中に巨大な爆弾を放り込む。

もし噛み砕こうとすれば、頭もろとも吹き飛んでしまうほどの爆弾を。

479: 2010/05/07(金) 00:17:29.24 ID:02VBpOI0
神裂「ネロさんは自分の仕事の心配を」

神裂がイタズラっぽく笑う。
こうしてみると年相応の18才の女の子だ。

ネロ「ハッ良く言うぜ」

ステイル「万が一の対策もちゃんとある」
扉に寄りかかっていたステイルが薄く笑いながら話の輪に加わってきた。

ステイル「『神裂を救出』しなければならなくなった場合、僕がヴァチカンに『投下』される」


ステイル「弾道弾ミサイルでね。15分で行ける」


ステイル「その間、シェリーがココを守護する」

ネロ「……ま、問題ねえな」

ステイル「そうするのは最後の手段なんだけどね」

ステイルが『投下』されるのは、どう足掻いても全面戦争が避けれなくなった場合だ。
ヴァチカンでイギリス清教所属の『悪魔』が戦闘行為をするのだ。
宣戦布告に等しい行動だ。

そもそも神裂に救出が必要と言う時点で、ヴァチカンは廃墟になっている可能性が高い。
それはもう既に戦争状態だ。


神裂「その必要ありません」
神裂が顔を引き締め、毅然とした声をあげる。

ステイル「……」


神裂「……絶対に戦争は起こさせません」

480: 2010/05/07(金) 00:22:59.48 ID:02VBpOI0
ステイル「……ああ、同感だ。絶対に避けなければならない」

ネロ「……だな」

だがそれはタダの気休めにしか過ぎなかった。
悪魔の勘が行っているのだ。

絶対に戦争は起こると。

同じく悪魔であるステイルも微かに感じていた。
そして天使である神裂も。

三人は、心の奥底ではもう確信している。
いずれ戦争が起きると。

神裂「……」

ネロ「……」

ステイル「……」

ネロ「まああれだ」
重苦しい空気を断ち切るかのように、ネロが両手を広げ軽い声色で声を放った。

ネロ「神裂が戻ったら飲もうぜ。また非番の連中片っ端から集めてよ」

ステイル「いいね。僕も君にリベンジしたいしね」

ネロ「ハハッ上等だぜ。もう一度フォルトゥナ式で教育してやる」

神裂「……あのぅ……」

ネロ「あ?」

神裂「その……私飲めません…」

ネロ「知るかよ。茶でも飲んでな」

481: 2010/05/07(金) 00:27:47.74 ID:02VBpOI0
ネロ「とにかく付き合え」

ステイル「ああ、次は君がメインなんだ」

ネロ「顔ぐれえ出しな」

神裂「……は、はあ。わかりました。ではそろそろ時間ですので」

神裂が椅子から立ち上がり、それに合わせてステイルも扉のノブに手をかける。

神裂はこれから出発するのだ。
五日後と言ったが、それは会合の日時だ。

事前にイタリア入りし、済ませなければならない事務処理がたくさんあるのだ。


ネロ「待て」


ネロがその神裂の背中に声を飛ばした。

神裂が振り向くと、ネロは右手拳を差し出した。

ネロ「とにかくだ。お前が『戻ったら飲む』」


ネロ「キャンセルはナシだ。許さねえ」


ネロが神裂の目をジッと見つめ言い切る。

482: 2010/05/07(金) 00:29:04.51 ID:02VBpOI0
神裂「……ふふ…」

それは、言い換えれば「神裂が戻った時、宴会が『できない』状況は許さない」ということだ。

戦争は避けようはないのかもしれない。

だが先延ばしは出来る。
できるだけ時間を稼ぐ。

そうすれば、戦争を避けるという道も見つかるかもしれない。


神裂がネロの方へ進み、彼の右拳に自分の左拳を軽くぶつけた。


神裂「当然です!当たり前ですよ!」

ネロ「OK。問題はねえ」


ネロ「行って来い。神裂火織」


神裂「はい!!行ってきます!!!」


―――

483: 2010/05/07(金) 00:31:59.83 ID:02VBpOI0
―――

事務所デビルメイクライ。

上条は自分の部屋のベッドに寝そべり、天井をボーっと見上げていた。

上条「……いてぇ…」
先ほどトリッシュによって、電撃を鼻先に叩き込まれたせいで未だにヒリヒリ痛む。

一応右手をかざしてみたが、トリッシュの力は体内の奥深くまで浸透しているらしく効果は無かった。
鼻を引きちぎり右手を突っ込めばこの痛みは消えるだろうが、それだと比べ物にならない激痛を味わうので本末転倒だ。

上条「……」
隣の部屋からは御坂の嬉しそうな声が聞こえる。
さっきからスゴイだのヤバイだのを連呼している。

恐らく部屋の中でいろいろ弄ったり、剣型に変形させては戻したりを繰り返しているのだろう。


上条「……んあ?」
ふと携帯の時刻を見た。

上条「お、そろそろいいな」
学園都市はちょうど朝だ。
もうインデックスも起きている事だろう。

上条は携帯を握り、お馴染みの番号へ電話をかけた。

ワンコールで相手が出る。


禁書『とうま!!!!!おはようなんだよ!!!!!』

484: 2010/05/07(金) 00:40:19.73 ID:02VBpOI0
上条「おおう…相変わらず出るのはええな!!!おはよ!!!」

上条は知らないが、彼はいつもこの時間帯にかけているので、
インデックスは毎度欠かさずスタンバイしている。

禁書『そっちはどう!?大丈夫!?』

上条「おう、問題はねえぜ」
いつものやりとりだ。

ちなみに、インデックスは上条が具体的にどんな目に合っているかは知らない。
もし知ってしまえば発狂してしまうだろう。

上条「お前はどうだ?ちゃんと飯食ってるか?」

禁書『うん!!!あのね―――』

インデックスが昨日一日の出来事を嬉しそうに事細かく喋る。
上条は穏やかな笑みを浮かべ相槌を打ち、彼にとって心温まる歌のような少女の声に聞き入る。

上条にとって最高の癒しだ。
この声を聞けば、全ての疲れが吹き飛び、そして安眠できる。

486: 2010/05/07(金) 00:45:48.05 ID:02VBpOI0
禁書『―――なんだよ!!!』

上条「はははそうか~!」

禁書『でねでね……んん?』

上条「?」
インデックスが向こうで誰かに話しかけられ、言葉を止めた。

禁書『ちょっとまって。あくせられーたが話があるって。今かわるんだよ』

上条「お、おう」
上条は少し嫌な予感がした。
まさかインデックスが何か迷惑かけたのか と。

電話越しに 少しだけなんだよ!!!すぐ終わらせて!!! とインデックスの声が聞こえた。

上条「……」


一方『よォ』

上条「おう」

一方『どォだ?そっちはよォ』

上条「……へ…あ、ああ、特に問題ねえぜ」
少し拍子抜けした。
開口一番に文句を言うと思って身構えていたのだ。

487: 2010/05/07(金) 00:50:48.66 ID:02VBpOI0
一方『そォか。そィつはイイ』

上条「ま、まあな」

一方『……』

上条「……」

少しばかりの沈黙。

お互いともなんとなく古い友人のように思っていたが、お互いをそこまで知っているわけではない。

確かに拳を重ね、魂をぶつけ合い会話をし、背中を合わせてお互いを信頼して共闘もしたが、
こういう平時ではどういう風に接すればいいのかお互いともわからなかった。
何を話せばいいか分からないのである。

一方『……つーかよ』
先に口を開いたのは一方通行だった。

一方『話し長ェよあのガキ。テメェもよ』

上条「あ、あ~、もしかして待ってたのか?」
30分以上もインデックスと話していたのである。
代わるタイミングを待っていたが、ついに耐えかねてインデックスに代われと言ったのだろう。

一方『まァな。まァ……ガキは話が長ェってのはどこも共通みてェだな』

上条「みたいだな。ま、お互い色々と苦労してるみたいだな」

一方『まァな………って、ンなこたァどォだっていィんだよ!!!クソがァ!!!』

いきなり一方通行が語気を荒げ、凄まじい勢いで自分に突っ込みを入れた。

上条「……」

488: 2010/05/07(金) 00:54:31.52 ID:02VBpOI0
一方『なンでテメェなンぞとグダめいて、苦労を共有しなくちゃなンないんですかァァ゛?!!!!アァァ゛ァ゛!!!??』

上条「……なんか…その……すまん」
上条は お前がその話を振ってきたんじゃねえか と思ったが、
それを突っ込むと色々面倒になりそうだったのでここは謝った。

一方『チッ………つーかよ、テメェはいつ帰ってくンだ三下ァ?』

上条「あー、まだわかんねえな」

一方『大体でもわかンねェのか?』

上条「ん~……全然」

一方『……クソッ』

上条「?何かあんのか?……まさかインデックスがなんか迷惑を……」

一方『それはねェ。あのクソガキにも見習わしてェくれェに大人しくしてる」

上条「おおおお……そうか……良かった……」
上条は心の底から安堵した。

一方『色々あンのは俺だ』

上条「?」

一方『……「用」があンだ。大事な「用」がな』

489: 2010/05/07(金) 00:59:06.45 ID:02VBpOI0
上条「いつだ?」

一方『さァな。だが近い内にだ』

上条「う~ん……丸一日とかあける位の用か?」

一方『まァな』

上条「むむむむ……とりあえずステイルに連絡してみるぜ」
ステイルなら二つ返事ですぐに飛んでくるだろう。

一方『つーかよォ、そっちに連れてけや』

上条「そ、それは……」
それは色々と面倒な処理が必要になるのは上条も知っている。

上条「うーん………待てよ……そうだ」

上条「俺が一時的に戻るってのはどうだ?その日だけ俺が代わりに面倒を見る」

一方『いや……代わりじゃねェ。『交代』だ。俺はその日以降面倒は見ねェ』

上条「……そんな長い期間の用事なのか?」

一方『多分なァ』

上条「……と、とにかく、とりあえず近い内に一度帰れないかトリッシュさんに話してみるからよ」

上条「できればだが、そん時にちゃんと話そうぜ」

一方『……あァ。早く帰って来い。三下ァ』

上条「ああ、できるだけ早く行くよ」

490: 2010/05/07(金) 01:05:37.97 ID:02VBpOI0
一方『話してェのはこンだけだ。じゃァガキに代わんぜ』

上条「おう」

一方『いや……最後に一つ聞く』

上条「?」

一方『ダンテよォ……なンか言ってねェか?』

上条「何かって……何が?」

一方『学園都市に関係することでだ』

上条「……特に何も聞いてないけど……なんかあったのか?」

一方『いや、何も聞いてねェなら別に言い』

上条「……ちょっとまてよ……そうだ、確かまだ魔具の一つが返って来ないって言ってたな」

上条「『まあいつか返ってくる』っていつも通り笑ってたけどな。それだけかな、学園都市の話が出たのは」


一方『……………………………………………………へェ。そいつは「知らなかった」ぜェ』


一方『じゃァな三下ァ。早く帰って来い』

上条「おう」


―――

491: 2010/05/07(金) 01:10:48.11 ID:02VBpOI0
―――


とあるマンション。

一方通行はインデックスに携帯を投げ渡した。

インデックス「わ!!!ちょ、ちょっと!!!」
インデックスがわたわたと慌てながらキャッチし、すぐに耳にあて大声で再び喋りはじめた。

一方通行はソファーに乱暴に座った。
背もたれの上辺に後頭部を当て、天井を仰ぐ。

一方「……」
黄泉川がつくっているのだろう、朝食の香りが鼻腔を優しく刺激する。

一方「……」
こうやって過してもう二週間が経とうとしている。

あまりにも場不相応だ。
こんな自分がこんなに明るいところで暮らしているなど。
そしてそれを悪くは無いと思っている自分もいる。

誰も殺さず、笑顔に囲まれてだ。

一方「……」

そう、この笑顔。

この笑顔をなんとしても守らねばならない。

492: 2010/05/07(金) 01:15:11.04 ID:02VBpOI0
とんでもない何かが起ころうとしている。
恐らく戦争だろう。

相手が誰かは知ったこっちゃ無いが、土御門曰く学園都市は厳しい戦いを強いられるとのことだ。

自分は必ず戦力として動員される。
ミサカネットワークという強い情報網を持つ、妹達と打ち止めも利用されるかもしれない。
アンチスキルである黄泉川は兵として動員されるかもしれない。

前線に立つことはないであろう芳川も、この学園都市に残れば危険かもしれない。

このままだと全て壊れるかもしれない。

一方「……」

だから彼は動く。


打ち止めを守る為に。

その少女の周りの『世界』を守る為に。

学園都市に固く繋がれている鎖を断ち切る為に。

『アレイスター』という死神から逃れるために。

今が立ち上がる時だ。

493: 2010/05/07(金) 01:20:03.37 ID:02VBpOI0
中に住まうものにとって最大の禍である『学園都市の危機』は、一方通行達にとっても最終通告だ。

だが皮肉な事に、一方で彼らにとってこれ以上ない程の最大のチャンスともなる。

役者は全て揃った。

『アラストル』もある。

後はとりあえず『ネタ』をできるだけ漁りながら時期を待つだけだ。

一方「……」

『アラストル』。

一方通行はこれには少し迷いがある。
使って良いのだろうかと。

土御門や海原は使う気マンマンらしいが、一方通行は少し気が引ける。

確かにアラストルがこちらにとって究極の切り札になるだろう。



今、こちら側にはレベル5が二人いる。

しかし、いくらレベル5がとはいえ、『学園都市の能力者』である。
つまりアレイスターの手の平の上だ。

だからアレイスターの裏をかくには彼の手の外、彼の手が届かない領域の力が必要なのだ。

そこで『アラストル』なのだが。

494: 2010/05/07(金) 01:28:17.07 ID:02VBpOI0
確かに有用だ。

だが一方通行は知っている。

実際に直で目にしたことの無い土御門や海原とは違う。

彼はその領域の力を直にこの身で味わっている。
圧倒的な破壊を目の当たりにし、底なしの恐怖と絶望を味わった。

『あんな物、あんな力、人間の手には到底扱えない』

それが一方通行の考えだ。
あのアレイスターでさえ及び腰になってしまう領域だ。

一方「……」

一方通行は迷っていた。
事を成し遂げるには『アラストル』の使用が必要なのだ。
それはわかっている。

自分達だけじゃ、あまりにも頼りなさすぎる。

だが『アラストル』を使うという事には、自滅するという可能性も含れている。

アレイスターにとってイレギュラーだが、一方通行達にとってもイレギュラーなのだ。

一方「……クソッ…」

あまりにも危険すぎる。
しかし使うしかないのだろう。躊躇っている余裕は無い。

一か八かの賭け。
負ければ全てを失う。
そしてこの賭けを降りればもう二度と立ち上がれない

だから道はただ一つ。

勝つだけ。

絶対的な勝利を手にする。

そしてその為には『アラストル』が必要なのだ。

一方「…………」

495: 2010/05/07(金) 01:36:55.97 ID:02VBpOI0
鎖を砕き、自由への切符を手に入れる為の戦い。
かけがえの無い存在をその『船』に乗せる為の戦い。

当然、彼は己自身がその『船』に乗るつもりは無い。
クソはクソ溜めに残るのが相応しい。

学園都市が滅ぶというのなら共にする。

一緒に消えて無くなるべきだ。

一方「……カカッ…」
一方通行は天井を仰ぎながら小さく笑った。

こんな自分達の姿が何となく滑稽だ。

あまりにも無様なだ。
クズが寄り集まって足掻く。

見るに耐えない薄汚れた戦いだ。

所詮悪役のカス共だ。
こういう戦い方しか出来ないのだ。

ヒーローの様に己が身一つで、拳のみで掴み取ることは出来ないのだ。


一方「……」
己が見たヒーロー達の姿を思い出す。


ボロボロになりながらも前に突き進むツンツン頭の少年。

赤いコートをなびかせ、華麗に疾駆していく銀髪の男。


忍び寄ってくる運命をねじ伏せ、鎖など自力で簡単に引き千切ってしまう強き『主人公達』を。


一方「………かっけーなァ…おィ…」


―――

506: 2010/05/09(日) 00:12:47.23 ID:efQIU8E0
―――


事務所デビルメイクライ。
時刻は深夜。

ダンテは一階のホールのソファーに寝そべり、うとうとしていた。
いい具合にアルコールがまわり、極上の一時だ。

だがその至福の時間が、電話のけたたましい音で中断される。

ダンテ「………」
だがダンテはソファーから動かない。
面倒臭いのだ。

机の上の電話は相変わらず鳴り響いている。

ダンテ「………」

根競べだ。
電話の主が先に諦めるか、ダンテが降参して受話器を取るか。

ダンテ「………」

電話が鳴って3分が経過した。
徐々にダンテの苛立ちがつのってゆく。

ダンテ「………」

だが彼は負けない。
そうと決めたのなら、意地でも突き通す。
どんな戦いだろうと負けねえ と。

その時だった。

トリッシュが早歩きで地下室へ続く階段の方から、
ダンテが寝そべっているソファーの方へ真っ直ぐに進んで来た。

トリッシュ「出なさいよ」

そしてソファーを思いっきり蹴飛ばした。衝撃でダンテは床に転げ落ちた。

508: 2010/05/09(日) 00:17:08.12 ID:efQIU8E0
ダンテの小さな戦いはそこで終わった。

トリッシュ「いい歳こいて居留守とか。ホントしょーもないわね」

トリッシュはそう吐き捨て、早歩きで机に向かい受話器を取った。
ダンテは悪態を付きながらモタモタとソファーに這い上がっていた。

トリッシュ「Devil May Cry」

机に軽く腰掛け一言。

トリッシュ「ねえ。合言葉アリだけど」

トリッシュが、再びソファーの上に寝そべっているダンテへ声を飛ばした。
その言葉を聞いてダンテが勢い良く上半身を起こした。

ダンテ「場所は?!」
ダンテが見るからにワクワクしている笑みを浮かべトリッシュに声を飛ばした。

トリッシュ「というかかわって。エンツォだから」

ダンテ「ハッハァ!」
ダンテがひらりとソファーから飛び起き、一切無駄のない華麗な動きで進みトリッシュから受話器を奪い取った。

ついさっきソファーから無様に蹴落とされた男とは別人のようだ。

トリッシュ「……ったく…」
トリッシュはそんなダンテを呆れた目で眺めた。

509: 2010/05/09(日) 00:21:19.04 ID:efQIU8E0
ダンテが相槌をし、ハハッと笑い、そして 任せろ と言って受話器を放り投げる。
宙を舞った受話器は、まるで磁石にでも吸い寄せられているかのようにストンと元の位置に収まった。

トリッシュ「何だって?」

ダンテ「タレコミだ。四日後にリスボンの港に例の人造悪魔を積んだ船が入るとよ」

トリッシュ「へぇ……ウロボロス社の?」

ダンテ「ああ。その次の日もだ。二日続けて入るとよ」

トリッシュ「面白いわね。そろそろ現物が欲しかったところなのよね」
現物が手に入れば、
それを調べる事によってかなり詳細な黒幕についての情報を掴むことができる。

トリッシュ「いいわ、私がいk」

ダンテ「俺が行く」

トリッシュ「……」

ダンテ「そろそろパーっとやりてぇんだよ。良いだろ?」
ダンテが軽く手を広げニヤける。

トリッシュが呆れたようなため息を付く。

トリッシュ「ま、いいわよ。あなたが決めることだし。じゃあ私はその二日間の間坊やの面倒を見るから」

ダンテ「ヘッハァ!」

510: 2010/05/09(日) 00:28:47.79 ID:efQIU8E0
トリッシュ「わかってると思うけど」

ダンテ「あんま暴れんな だろ?わかってる」

トリッシュ「……」
わかってはいるが、その言いつけを守るとは言わない。
いつもの事だ。

どうせその船が真っ二つに折れて爆沈でもするのだろう。
先にトリッシュが早めに何体か捕獲しておかないといけない。

その時、階段を降りてくる音が聞こえた。

トリッシュ「あら、まだ起きてたの?」

上条が階段の所に立っていた。

上条「おう。電話しててな。でさ、ちょっと話あんだが……いいか?」

トリッシュ「どうぞ」

上条は簡潔に説明した。
インデックスの面倒を見ていた一方通行が、近い内にその役から降りなければいけないと言う事。
とりあえずその事を話す為に、今週中にでも少しだけでも向こうに顔を出したいと。

トリッシュ「……へぇ」

511: 2010/05/09(日) 00:30:42.25 ID:efQIU8E0
トリッシュ「ちょうど良いわね」

ダンテ「だな」

上条「?」

トリッシュ「良いわよ。ダンテが四日後から出かけるから。二日間」

上条「!!」

トリッシュ「一日目はあなたの力を調整するわ。二日目はお休みにしてあげる」

今の荒削りのままだと、ダンテやトリッシュの傍から離すのは少し不安だ。
一日かけて『バリ』を削り落とし、上条の力をある程度安定させてからの方が良いだろう。

上条「ってことは………戻って良いのか!!!?」

トリッシュ「ええ。一日だけだけど」

上条「おう!!!全然おっけーだぜ!!!!」

ダンテ「ま、久々に羽伸ばしてきな」

上条「ああ!!!サンキュ!!!」

こうして上条は五日後に一時帰宅する事になった。


―――

512: 2010/05/09(日) 00:39:55.06 ID:efQIU8E0
―――


バッキンガム宮殿地下。
とある蔵書。

ネロは険しい表情で椅子に座り足を机に乗せていた。

ネロ「……」
この妙な胸騒ぎ。日に日に徐々に強くなってきている。

悪魔の勘が叫ぶ。
『数日中に開演する』と。

ネロ「……」

一番近い、大きなイベント。それは五日後に行われる神裂とローマ正教の枢機卿との会合。

ネロ「……」
神裂を信頼し任せるか。
それとも女王に直談判でもして中止させるべきなのだろうか。

だが悪魔の勘は「そんな事は無駄だ」という。
どちらの道を選んでも結局『開演』すると。

ネロ「……最悪だな……ホント最悪だぜ畜生が…」

その時、机の上の通信霊装が光りだした。

513: 2010/05/09(日) 00:42:03.85 ID:efQIU8E0
ネロ「……」
報告の時間はいつも大体決まっている。
つまり、この通信はそれ以外。

嫌な予感がする。

机に乗せている足で通信霊装を乱暴に叩き起動する。

ネロ「あ?」

『フォルトゥナからネロ殿に』
通信霊装からの男の声。

ネロ「……」
予想通り報告ではなかった。

そしてフォルトゥナから。
ネロの顔が少し引きつる。

心当たりがある。
ここ最近なんやかんやでしばらく家に帰っていない。

ネロ「……つなげ」

『了解』

数秒後。

『ネロ?』
通信霊装から、穏やかで優しいハープの音色のような透き通った女性の声。

その声を聞いてネロは机から足を下ろし、一瞬で姿勢を正した。

ネロ「悪い!!色々忙しくてっ!!!……本当に悪い!!!」
そしてネロは相手の話を聞かずに即座に謝罪をした。

相手はキリエだ。

514: 2010/05/09(日) 00:48:16.40 ID:efQIU8E0
キリエ『うん、いいの、それはしょうがないよ』
声だけで分かる。
素直で優しい、まるで天使のようなキリエは何も怒っていないだろう。
だが逆に素直すぎて、彼女の寂しさもビシビシ伝わってくる。

ネロ「すまん!!!本当にすまん!!!!」

キリエ『いいってばもう……そうそう、ご飯とかちゃんと食べてる?』

ネロ「ああ、大丈夫だぜ」

キリエ『洗濯とかちゃんとしてる?』

ネロ「お、おう、してるぜ。そっちはどうだ?」

キリエ『うん、特に何も問題ないよ。あ、そうそう……』

そこからキリエは女の子特有の世間話を始めた。
その内容は、同じ世界にいるのかと思いたくなる程に微笑ましいものだった。

キリエの話した内容はお隣さんのわんちゃんが子犬を無事出産したとか、
家の前の花壇のお花が咲いたとか、孤児院の子が元気 などなど。

その美しい歌のようなキリエの話をネロは穏やかな笑みを浮かべ、優しく相槌を打ちながら聞いていた。

今のネロにとって最高の安らぎだ。

515: 2010/05/09(日) 00:53:01.26 ID:efQIU8E0
しばらくそうしてキリエの話を聞いていると、蔵書のドアが軽くノックされた。

ネロ「(チッざけんな誰だクソッタレぶっ頃すぞクズ野郎)」

ネロ「おっと、わりぃ!ちょっと待ってろ」

キリエ『…それでね…えっ?、あっうん』

ネロは通信霊装の書物を閉じ、緩んだ表情を一瞬でいつもの冷たい仕事モードに戻した。

ネロ「入んな」
そして扉に向けそっけなく声を飛ばした。

扉が開き、黒いローブに身を包んだ背の高い修道女がいそいそと入ってきた。
緩いローブ越しからでもわかるそのグラマーな体。
ローブについている帽子を深く被り、俯いている為顔は見えない。
手には黄ばんだ古めかしい紙。

特におかしい点は無い。
こうして『暗部』の者が報告書を直に持ってくる場合も多々ある。

ネロ「……」

だがネロはその妙な『空気』に気付いた。


ネロ「―――止まれ」


ネロの制止を受けて、『グラマー』な修道女は部屋に数歩入ったところで止まった。

516: 2010/05/09(日) 00:59:43.19 ID:efQIU8E0
ネロは椅子の背もたれに寄りかかりながらその修道女を睨む。

ネロ「―――で、どちらさんだあんた?『来客』の予定はねえはずなんだが」

修道女が顔を上げた。
ローブの帽子の下から、黒縁のメガネをかけた整った女性の顔が見えた。
そして―――口元のほくろ。

女は色っぽい笑みを浮かべている。

ネロ「………」

ネロは一目で気付いた。
この顔やほくろ、メガネや体格は神裂の証言と完全に一致している。

聖ジョージの襲撃犯だ。

「はじめまして。坊や」

女が口を開いた。
その声は不気味なほどに色っぽい妖艶な物だった。

ネロ「遊びてえのか?バァさん」

ネロは右手を隠しもせずに顔の横にあげ、指を曲げながら力んで関節を鳴らした。
異形の右手の青い光が強まる。

同時に目が赤く光る。

「あら、ダディに似て冷たいのね。でもそういうところもセクシーで可愛いわよ」

そんなネロを見ても女は一切動じずに、余裕の篭った妖艶な笑み。


ネロ「……(ダディ……?)…親父を知ってんのか?」

518: 2010/05/09(日) 01:06:44.59 ID:efQIU8E0
「よ~く知ってる」

女が熱い吐息を漏らし、身をくねらせる。

ネロ「……」
なぜか無性に腹が立つ。今すぐにでも叩き切りたい。
なんというか、初めてダンテに会った時の感覚に似ている。

自分が幼稚園児扱いされているのだ。

ネロ「……へぇ…じゃあ聞かせてもらおうか?ああ?」
ネロが苛立ちを隠しもせずに上半身を起こし、机の上に右手を叩きつけるように乱暴に乗せた。

「待って。私は別に『遊び』に来たわけじゃないの」

ネロ「へぇ。てっきりそうだと思ってたがよ」

右手の光が増す。
ネロは後ろに立てかけてあるレッドクイーンを意識する。

何かあればすぐにデビルブリンガーを伸ばし、そして叩っ切る為に。

「可愛い子ねぇ。ちゃんと聞きな。アンタのダディから『伝言』よ」


ネロ「……あ?」


「『今すぐイギリスと縁を切れ』」


「『魔術サイドとも学園都市とも、どの人間の勢力とも関るな』」


「『即刻フォルトゥナに戻れ』」


ネロ「………………は?」

519: 2010/05/09(日) 01:11:03.91 ID:efQIU8E0
「ちゃんと伝えたわよ。じゃあね」
女は手をひらひらさせ、ファッションモデルがターンするかのように華麗に踵を返して扉の方へ向かった。

ネロ「おいッ!!!……待てやババア!!!」
ネロが勢い良く立ち上がる。
その反動で座っていた椅子が後ろに倒れた。

「……あんまりババアって言わないでくれる?」
女が立ち止まり、振り向かないまま不機嫌そうな声を背後のネロに飛ばす。

「それ結構ムカつく」

ネロ「るせぇ!!!」

ネロがデビルブリンガーを一気に伸ばした。
女を鷲掴みにしそのまま扉に叩きつけるべく。


「You want to touch me? Huuummhum....Bad boy」


その巨大な右手が女の体に触れる瞬間。

ネロ「―――!」

女の体がバラバラに、いや、小さな無数の黒い蝶になった。
ネロのデビルブリンガーはその蝶の群れを突き抜け、そのまま扉をブチ破った。

ネロ「―――チッ!!!!」

女の体はどこにも無かった。
そして蝶の群れも一瞬で掻き消えた。

520: 2010/05/09(日) 01:15:49.36 ID:efQIU8E0
ネロは机を飛び越え、女が最後に立っていた場所に着地する。
そしてその床に右手を当てる。

力が僅かに残留していたものの、追跡に利用できるような情報は一切無かった。

ネロ「……何だってんだクソ……」

父が伝言とは?

あの女は何者か?

その関係は?

あの女が先日の聖ジョージ大聖堂襲撃犯なのは確実だ。
イギリスに対して友好的では無いのは確実だ。

もしかして父もあの女と同じくイギリスに対して非友好的なのか?

そしてあの伝言の内容。

ネロ「……」

これは確実にこれから起こる戦争に深く関係しているはずだ。

一体何がどうなっているのか。

父は何を知っているのか。

何を望んでいるのか。

そして何をしようとしているのだろうか。

521: 2010/05/09(日) 01:18:29.26 ID:efQIU8E0
ネロは己の異形の右手に目を落とす。
いつもと変わらず、この『向こう』側に父の存在を感じる。


ネロ「なあ……知ってんだろ?」
右手を見ながら小さく呟いた。


ネロ「教えてくれよ……何が起こってんだ?……親父ィ…」


『ネロ?ネロ?』


その時、自分を呼ぶ透き通った声に気付いた。
どうやら先ほど右手を机に叩き載せた拍子で起動してしまっていたらしい。

ネロは慌てて机の方に戻る。

ネロ「悪い!!!…色々立て込んでてな…」

ネロ「……ってどこから聞いてた?」

キリエ『えっと……女の人が「遊びに来たわけじゃない」って……」

となると本題は全て聞かれていた。

ネロ「(クソ…)」
ネロは、このキリエだけはこういう暴力と殺戮の禍々しい世界から遠ざけておきたかった。

彼女だけは触れさせてはならないのだ。
絶対に関らせてはならないのだ。

ネロ「……」

523: 2010/05/09(日) 01:25:55.00 ID:efQIU8E0
キリエ『それと…お義父さまの伝g』

ネロ「キリエ。今の事は絶対に誰にも話さないって誓ってくれ」

キリエ『……うん』

ネロ「……よし。じゃあまた後で、次はこっちから連絡するよ」
背後からざわめきが聞こえる。
大方、扉が破壊された騒ぎで警備の魔術師達が大慌てでこの地下に降りてきたのだろう。

キリエ『待ってる』

ネロ「じゃあ―――」

キリエ『ネロ』

ネロ「……ん?」

キリエ『愛してる』

ネロ「俺も愛してるぜ」
通信霊装の向こうから照れくさそうな小さな笑いが聞こえた。

キリエ『じゃあね』

ネロ「おう」
ネロは通信霊装をゆっくりと閉じた。

頭の中が混乱している。

ネロ「……………何が何だってんだよ…」

ネロは机に手を突いて、寄りかかった姿勢のまま一人吐き捨てるように呟いた。

―――

524: 2010/05/09(日) 01:28:06.88 ID:efQIU8E0
―――


事務所デビルメイクライ。

上条は自室のベッドの上に座っていた。
下でトリッシュと日程を話し合った後、すぐにインデックスへ電話を掛け、彼女と一方通行に伝えたところだ。

五日後の朝にトリッシュに学園都市に送ってもらう、つまり向こうに着くのは五日後の夜だ。
それから丸一日の自由時間という訳だ。

インデックスはこれでもかという位に大はしゃぎし、
上条にも聞こえてくるくらいに一方通行に うるせェ!!!! と向こうで怒鳴られていた。

上条「ははぁ~!!」
上半身を勢い良く倒し、天井を見る。

上条「久々だな~……」

考えてみると、インデックスとこんなに長期間離れたのは初めてだ。

上条「………うへへ…へへはあ……」
久々にあの愛おしい天使に会えると思うと、ニヤニヤしてしまう。
自分でも分かる。今の己の顔はかなり気持ち悪いだろう。

上条「……ん?」
そうやってニヤニヤしていたところ、ふと隣の部屋からの声に気付いた。

御坂が何やら大声をあげている。

上条「……」
まだあの大砲ではしゃいでいるのかと一瞬思ったが、どうやらそれは違うようだ。
何やら誰かと話しているようだ。
電話でもしているのだろうか と上条は思った。

525: 2010/05/09(日) 01:31:00.88 ID:efQIU8E0
「うるさい!!!!皆黙っててば!!!黙りなさい!!!」

上条「……」
誰かと電話越しか何かで喧嘩しているようだ。

「ちょ、ちょちょちょ…!!!!!消しなさい!!!!」

「見ないで!!!!見ちゃだめだって!!!」

「共有って……ダメだって!!!お願い!!!!いやぁあああ!!!!」

「全部消せってば!!!!だめぇ!!!!見んな!!!」

「ちょっと!!今『保存』って言ったの出てきなさい!!!出て来い!!!!出て来いやぁあああああ!!!!」」


「保存すんなゴルァアア!!!!!!!そこさりげなく長さ測ろうとしてんじゃねぇええええ!!!!」


「てめぇら試し撃ちの的にすっぞウラァァァァアア!!!!!!!」


「アァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛!!!!…………へ?……ウソ…そんなに長いの…?…た、確かに…そんぐらいあったような…」


「……え?!もっと大きくなるの?!!に、二倍ぃい?!!」


「………ってうるせェエ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛!!!!!!!!!!!」

上条「……」

526: 2010/05/09(日) 01:34:44.48 ID:efQIU8E0
上条「……」
そういえば、五日後に学園都市に帰る事を御坂にも伝えとこうと思っていたのだが、
今はやめておこう と上条は判断した。

上条「……明日でいっか」
上条はティッシュを耳に詰め、部屋の電気を消し床についた。

相変わらず隣の部屋からは御坂の怒号が聞こえてくる。

上条は夢にも思っていなかった。
自分のムスコの映像が一万人の手に渡った事に。

己が今リアルタイムで公開処刑されているなど。

上条「……まあ元気そうでなによりだぜ。早く寝ろよ。御坂。おやすみ」
壁に向かって小さく呟く。

そして。


上条「おやすみ。インデックス」


五日後に会えるであろう、地球の裏側の少女へ向けて。

そう、『五日後』。

それは『開演』の時。

―――

528: 2010/05/09(日) 01:37:14.78 ID:efQIU8E0
―――


とある深い森の中にある、古い廃屋。

時刻は深夜。
満月の月明かりが、周囲をぼんやりと照らしていた。

その廃屋の前に、黒いボディスーツに身を包んだグラマラスな女が立っていた。
右足に体重を乗せ体をしならせ、右手にはスティックの付いたキャンディ。

魔女、ベヨネッタ。

ベヨネッタ「ヴァチカンに行くのあのエンジェルちゃんだって」

ベヨネッタ「五日後の昼に会合を開くみたい」

ベヨネッタ「どうする?良い機会だと思うけど」
ベヨネッタが星空を仰ぎながら声を放った。

その声の相手は、廃屋の屋根に座って瞑想している男。

後ろに撫で付けた銀髪。
青いコート。傍らには黒い鞘に納まった日本刀。

バージル。

529: 2010/05/09(日) 01:41:40.75 ID:efQIU8E0
ベヨネッタは廃屋の屋根に座っているバージルへ向けて言葉を続ける。

ベヨネッタ「も~う待ちくたびれちゃった。これ以上おあずけなんか無理」

ベヨネッタ「アンタももうそろそろ暴れたいでしょ?」

バージルが静かに目を開け、傍らの閻魔刀を掴み立ち上がった。

ベヨネッタ「どう?」


バージル「……異論は無い」

ベヨネッタ「じゃあ『天使』は任せて」
その言葉を聞いてベヨネッタが甘い吐息を吐き、妖艶な笑みを浮かべる。


ベヨネッタ「で、思いっきりブッ差してもいいの?あの『刀』?成功する確率は半々だと思うけど」


バージル「構わない。『天使』は殺せ」


ベヨネッタ「Huuum.Okaaay」

530: 2010/05/09(日) 01:44:04.47 ID:efQIU8E0
ベヨネッタ「そうそう、ところで坊やはどうすんの?一応伝えたけど」

ベヨネッタ「結局動かなそうよ坊や。『親』に似てガンコっぽいし」

ベヨネッタ「アンタの『弟』も。それとあの金髪悪魔が色々嗅ぎまわってるけど」

バージル「……必要な場合は俺が行く」

ベヨネッタ「……手を引かなかったらどうするの?」

バージル「その時はその時だ」

ベヨネッタ「……………仲良いんだか悪いんだか。面白い家族ねえ」

ベヨネッタ「じゃあもう行きましょ。色々下見も必要だし」

バージル「一人で行け」

ベヨネッタ「?」
ベヨネッタが大げさに首を傾げる。

ベヨネッタ「一緒に来ないの?」

バージル「さっさと行け」


ベヨネッタ「もう……ノリ悪いったらありゃしないわね」

531: 2010/05/09(日) 01:49:20.74 ID:efQIU8E0
ベヨネッタ「じゃあ何かあったら『喚ぶ』から。ダディ♪」

ベヨネッタが腰をくねらせ軽くウインクをする。


バージル「失せろ」


バージルが親指で閻魔刀の鍔を弾いた。
僅かに姿を現した刃が月明かりを浴びて不気味に光る。


ベヨネッタ「もう、そんなに嫌われてると悲しくなっちゃう」

ベヨネッタ「恐い恐いって坊やに言われない?ダーディ?」

ベヨネッタがキャンディを咥え、相変わらず舐めた態度で笑みを浮かべる。
このバージルにこんな態度で接する事ができるのはダンテか彼女ぐらいだろう。

バージル「……」
バージルが猛烈な殺意の篭った赤く光る瞳で睨み返す。

だがその瞳に晒されても尚ベヨネッタは一切動じなかった。

ベヨネッタ「はいはいわかったってば。じゃあね」
ベヨネッタは踵を返して森の中へ、腰をくねらせながら消えていった。


バージル「……………」

―――

542: 2010/05/10(月) 01:03:43.24 ID:mJZkMyM0
―――

四日後。夜

事務所デビルメイクライ。

上条は自室のベッドに寝そべっていた。
朝の内にダンテはトリッシュに送られて、嬉々としてリスボンに向かった。

トリッシュはすぐに帰って来て、そのまま上条の調整に入った。
全身にいつものように杭を差して。

上条にとっていつもと同じ『拷問』だったが、トリッシュ曰く違うらしい。
まあ、とにかくこれで暴走する可能性はほぼゼロだという。
今日一日は絶対安静という条件付だが。

その後、トリッシュは再びダンテの元にいった。
明日の朝に上条を学園都市に送る為に戻ってくるという。

上条「……へへへへ…」
今から半日後はもう学園都市だ。
インデックスが傍にいることだろう。

そう思うと自然と顔が綻んでしまう。

543: 2010/05/10(月) 01:07:51.54 ID:mJZkMyM0
ドアが軽くノックされる。

上条「おう」

ドアが開き、隙間から御坂がヒョコッと顔を出した。

御坂「えへへへ……準備できた!」

上条「おいおい、気が早いな。明日の朝なんだぜ?」

御坂「だって……久しぶりに戻るんだし…」
もう荷物を持って、今すぐにでも出発できる体勢の御坂が部屋に入ってくる。

上条「………って!それも持ってくのか!!?」
上条は勢い良く上半身を起こした。

彼が突っ込んだのは御坂の背中にある黒い棒状の大きな包み。
例の『大砲』だ。

良く見ると、手にも大きな箱型のバッグを持っている。
あのバッグにも見覚えがある。
昨日レディが持ってきた、術式強化を施した弾が300発程入っているバッグだ。

御坂「へ?うん。そうだけど」
御坂が 何かおかしい? とでも言いたげな顔で上条へ言葉を返した。

544: 2010/05/10(月) 01:16:05.21 ID:mJZkMyM0
上条「持ってってどうすんだよ!!!使う気かよ!?」

御坂「だ、だって!!!あたしはアンタの護衛なんだから!!!万が一に備えなきゃ!!!」

上条「……」
決して自惚れているわけじゃないが、自分には到底護衛が必要とは思えない。
この二週間でかなりダンテに鍛えられたのだ。

あの暴走時程とはいかないものの、光を集めて擬似的にベオウルフ風の装具も出現させられる。
学園都市の基準に照らし合わせれば、今の自分はレベル5クラスだと上条は思っている。

だが護衛も御坂の仕事であり義務の一つなのだから、しょうがないだろう。

上条「まあ……無闇に使うなよ」

御坂「フンだ!!……ってアンタはアレ持ってかないの?」
御坂が部屋の隅にある、小さなテーブルに乗っている黒い拳銃を指差した。

上条「……俺はいいかな」

持っていく気は無い。
インデックスにはあまり見られたくないのだ。

いつも通り、『ただの上条当麻』として会いたい。

御坂「……そう…」

とその時だった。

一階の電話がけたたましく鳴り響いた。

545: 2010/05/10(月) 01:20:16.16 ID:mJZkMyM0
上条「……一応出た方が良いよな?大事な件かも知れねえし」

御坂「……うん」

上条がベッドから飛び起き、廊下に出て階段を駆け下りていく。
御坂が荷物を上条の部屋に降ろして、そのすぐ後ろに続く。

上条は1階に降りると、素早く滑り込むように机の上の受話器を取って耳に当てた。

上条「はいはいこちらDevil May Cry」

エンツォ『んお?あの坊主か?俺だ俺。エンツォだ』

上条「あ、あ~どうも」

エンツォ『ダンテかトリッシュいるか?悪魔狩りの依頼が入ったんだがよ』

上条「いや、まだ二人とも帰って来てないぜ」

エンツォ『ああ、クソッ……そういやぁそうだったな……参ったぜ…』

エンツォ『…………待てよ。おい坊主!』

上条「ん?」


エンツォ『お前がやってみねぇか?』

547: 2010/05/10(月) 01:24:47.47 ID:mJZkMyM0
上条「……はい?何をでせう?」


エンツォ『お前が悪魔退治すんだ』


上条「………………はぃいいいいいいいい?!!!!」


御坂「何!!どうしたの!!!?」

エンツォ『お前強いだろ!?何せベオウルフだしよ!!二ヵ月半前も魔帝軍とやりあったんだろ!?なら余裕だぜ!!!』

エンツォ『ギャラも出るぜ?1万5千ドルだ。悪くはねえだろ?』

上条「いやいやいやいや……すんません……無理です。動くなって言われてるし…」

エンツォ『ダメか?!できるだけ早く!!!い、いや、今すぐやってもらわなきゃヤベェんだ!』

上条「ああ……悪いけど………(……って『今すぐじゃないとヤバイ』?)」
エンツォが言ったその言葉が妙に引っかかる。
そんなに急を要する自体なのだろうか。

エンツォ『そうか……悪いな。邪魔したな。他を当たってみるぜ』

上条「……ちょっと待ってくれ。今すぐじゃないとヤバイってどういう意味だ?」

エンツォ『んあ?……まあ…その悪魔共な、ココ最近毎晩のように人間をぶっ頃して喰ってるらしい』

上条「!!!!!」

エンツォ『退治が一日遅れるたびに人間が殺されるってこった』


上条「………ッ!!!!!!!!!」
そんな事を聞いてこの上条が黙っていられるわけがない。

良心の塊であるこの少年が、人が殺されるのを黙って見ているわけがない。

エンツォ『まあそういうことだ……じゃあn』


上条「―――俺がやる!!!今すぐ行く!!!!」

548: 2010/05/10(月) 01:29:48.18 ID:mJZkMyM0
御坂「ちょ、ちょっと……どうしたの…!?」
いきなり声を荒げた上条に驚き、御坂がオロオロする。

エンツォ『うおおおお!!!!良いのか!!!!?』

上条「当然だ!!!!俺がそいつら全員ぶっ飛ばす!!!!」

エンツォ『こりゃあ良い!!!場所は―――」
エンツォが場所を伝える。

上条が相槌を打ち即座に暗記していく。
こういう時の彼の頭の回転は人間離れしているのだ。

その悪魔達がいる場所は、ここから20km程離れた街のスラム街にあるそうだ。
悪魔の力を使って駆ければ10分もしない内に行けるだろう。

エンツォ『連中は全員下等悪魔らしい。お前なら5秒もしねえ内に片付けられるだろ。じゃあ頼んだぜ!!!』

上条「おう!!!!任せな!!!」

ちなみにトリッシュから絶対安静と言われ、当然悪魔の力の使用も禁止されていたが、
上条にとって、人の命と天秤にかける間でもない。

それに下等悪魔が相手なら、暴走するような状況にはほぼ確実にならないだろう。

上条は受話器を置き、御坂の方へ向いた。

御坂「ね、ねえ…ど、どうしたの?何かあったの?」


上条「悪魔狩りだぜ!!!!」
そう一言だけ告げると、上条は階段に向かい一気に駆け上がっていった。


御坂「……はぃ?ちょ、ちょっと!!!」
御坂がその後を追う。

551: 2010/05/10(月) 01:43:02.60 ID:mJZkMyM0
上条は自室に駆け込み、真っ直ぐに小さな机に向かい銃を左手で取る。
そしてスライドを引き、動作を点検した後に慣れた手つきで弾倉を入れ、
力を流し込んで自動装填の術式を起動する。

上条「よし」

その銃を腰のベルトの部分に差込み、今度はクローゼットに向かい右手を保護するための手甲を手に取った。

御坂「ね、ねえ……悪魔狩りって?」

上条「これから退治に行く」
手甲を右手に装着しながら上条が答える。

御坂「こ、これからって…!!?」

上条「俺は行くぜ」
右手を開いたり閉じたりして馴染ませる。
金属生命体である手甲は上条の腕の形に合わせてフィットするように形を変えた。

手のひらの部分だけは素肌が出ている。
これはダンテと相談の上で、戦闘中にも幻想頃しを使えるようにした物だ。
右手を守るときは手を拳を握れば良い。

御坂「だ、ダメよ!!!トリッシュさんが……!」


上条「すぐに退治しねえと人が氏ぬ。理由はそれだけで充分だろ」


御坂「……」
その上条の目を見て御坂は諦めた。
彼の心に火がついたのだ。
こうなるとてこでも動かなくなるのは何度も経験済みだ。


御坂「……わかった。でもあたしも行くから。拒否する権利は無いからね」
御坂が踵を返し、足早に荷物の方へ向かい、大砲の包みを剥す。
そしてバッグを開け弾を取り出し、装填していく。

上条「おう。だがお前は見てるだけでいいぜ」

上条「俺に任せろ。全部俺の獲物だ。全員俺が叩きのめす」

御坂「……そう」

―――

553: 2010/05/10(月) 01:50:21.83 ID:mJZkMyM0
―――

リスボンの港。

ダンテはコンテナを下ろす為の大きなクレーンの鉄骨の上に寝そべっていた。


ダンテ「……」
正面は月明かりが反射している水平線。
後ろはリスボンの夜景。

空はうっすらと明るくなりつつある。
もうすぐ日が昇るだろう。

ダンテ「……つまみには悪くはねえ景色だ」
ワインボトル片手に一人呟く。

そうやってしばらく時間を潰していたところ、背後に気配を感じた。

ダンテ「見つけたか?」
ダンテがワインボトルに口をつけながら、振り返らずにそのまま声を放った。

トリッシュ「ええ」
そのトリッシュの言葉と同時に、ダンテの前に黒い小銃が放り投げられてきた。
クレーンの鉄骨とぶつかり金属的な音を放つ。

トリッシュ「小銃はざっと500丁ってところかしら。それと戦車が三台、戦闘ヘリが一台」

トリッシュ「小物は無理やり合成した人造悪魔ね。デカブツはインフェスタントかそれ系統のが複数取り憑いてるみたい」

トリッシュがダンテの後ろからそのまま説明する。
ダンテは放り投げられてきた小銃を手に取り眺めていた。

ダンテ「おい、随分おとなしいな。コレ」

トリッシュ「それは持ち帰りやすいように封印式ぶちこんであるから。中に入ればかなり盛大におもてなししてくれると思うわよ」

ダンテ「それなら文句はねえ」
ダンテが後ろのトリッシュの方へ小銃を放り投げた。

554: 2010/05/10(月) 02:03:48.57 ID:mJZkMyM0
ダンテ「で……どの船だ?」

ダンテが上半身を起こし、トリッシュの方を見る。

トリッシュ「あそこ」
トリッシュが1kmほど離れた所に停泊している巨大な貨物船を指差した。

トリッシュ「船倉のカーゴに」

ダンテ「へぇ…」

トリッシュ「いい?二隻目が来るまで待ちなさいよ?」

今やってしまうと、襲撃の報を受けた二隻目が引き返してしまうかもしれない。
狩られるとわかっててみすみす寄航はしないだろう。

トリッシュ「下手したらお楽しみが半分になるわよ」

ダンテ「へーへー」

ダンテが手をひらひらさせ、再び寝っころがった。

トリッシュもその場に座った。

ダンテ「……帰らねえのか?」

トリッシュ「見張り。あなたの」

ダンテ「……」

トリッシュ「ワインちょうだい」

ダンテ「……これは俺んだ」

トリッシュ「ケチ」

ダンテ「……」

―――

555: 2010/05/10(月) 02:10:20.75 ID:mJZkMyM0
―――


とあるスラム街。

時刻は午前二時。

その寂れた町の一角、路地の裏に薄汚いクラブがあった。
日中も常に影になって日の光がささない。
夜の今はその闇が更に強い。

路地の奥。

唯一の光源である、オレンジ色のランプが照らしていた薄汚い木製の扉。
扉には手描きで「OPEN」と書かれているプレートが下がっていた。

その前に、フードを深くかぶった全身黒尽くめの少年が立っていた。

フードのついた黒い皮製のくたびれたジャケット、黒いカーゴパンツ、そして黒いハイカットの革靴。
フードの影がまるで黒いアイマスクのように落ち、少年の鼻から上を隠していた。

だがその瞳だけはその影のカーテンを貫いて光を放っていた。

少年の左手がゆっくりとノブに伸びる。
そして掴み、まわし、扉を開けた。

来客を知らせる鈴の音色とともに、少年はその暗いクラブに入っていった。

556: 2010/05/10(月) 02:14:00.54 ID:mJZkMyM0
クラブの中はガランとしていた。
掃除の時のように円テーブルの上には椅子が上げられ、ステージの上にも誰も立っていない。

三人の客と思しき、見るからにカタギではない目つきの悪い男が奥の机を囲んで酒を飲んでいた。
カウンターには顔に傷があるこれまた強面のバーテンダーが一人。

クラブの中にはこの四人しかいなかった。
音楽も鳴っていない。

唯一営業中と思わせてくれるのは暗めに設定されている室内灯だけだ。

客やバーテンダーの睨むような視線を向けられたが、
少年は特に気にするそぶりも見せず、カウンターに進み円椅子に腰掛けた。

バーテンダー「よう、坊主。ここはガキの来るところじゃねえぜ?」

バーテンダーが嘲笑的な笑みを浮かべ、少年に言い放った。
少年の背後から客のものと思しき笑い声。

「水、くれないか?」

少年が口を開いた。

バーテンダー「んなもんは置いてねえ。これしかねえよ」
バーテンダーがショットグラスにウイスキーを注ぎ、少年の前に乱暴に叩きつけるように置いた。

「……これだけか?」

バーテンダー「ああ」

「他にもあるんじゃねえのか?」


「―――人間の『血』とかよ」

557: 2010/05/10(月) 02:17:27.51 ID:mJZkMyM0
少年のフードの下の、光に当たっている口の端が僅かに上がる。
探りを入れているかのような、挑発的な笑みだ。

バーテンダーは相変わらずニヤニヤしていたが、その目の色が鋭く冷たいものに変わった。

「なあ、妙な話を聞いたんだ」
少年は笑みを浮かべたまま言葉を続ける。

「なんでもこの辺りで人を喰う『悪魔』が出るってよ」

バーテンダー「……」

「笑っちまうよな。なんのホラー映画だっつーの」

バーテンダー「……」

「でもよ、あながち嘘でも無いらしいんだ」

「実際に何人も跡形も無く失踪してるらしいぜ」



「んで、ここも血の匂いがプンプンしてるしよ」



バーテンダー「……」
バーテンダーは相変わらず笑みを浮かべていた。

少年の背後に座っていた三人の男が立ち上がる。

559: 2010/05/10(月) 02:21:33.77 ID:mJZkMyM0

「へっへ。血の匂いか」

三人の内の一人が、不気味に笑いながら、カウンターに座っている少年の背中へ声を飛ばした。

「確かに匂うぜ。へっへへへ。腹ぁ減ってきちまった。そろそろ『仕入れ』の時間だなぁおい」
もう一人も下品な笑みを浮かべながら呟く。

「しょうがねえ。俺が―――」
三人目がゆらりと前に出る。
見開かれた目が赤く輝き、指先から黒く巨大な爪が皮膚を裂いて生える。

そして。

「―――奢るぜぇぇえええええ!!!!」

カウンターに座っている少年の背中へ、手を振り上げ人間離れした脚力で一気に飛びかかった。

その凶悪な爪が少年の背中に食い込もうとした時。

一発の銃声が鳴り響いた。

突進していた男は額から赤い液体を撒き散らせながら大きく仰け反り、後方に吹っ飛ばされ、テーブルを叩き潰して床に転がった。

バーテンダー「―――」

二人の男とバーテンダーの顔が一瞬凍る。

カウンターに座っていた少年がゆらりと立ち上がった。
左手には、一筋の煙があがっている黒い拳銃。

「俺が奢るよ」

少年が深く被っていたフードを右手で降ろし、微笑を浮かべながら声を放った。


『遠慮はしなくていい―――』


瞳が赤く輝いているツンツン頭の少年。
声は『悪魔特有』のエコーがかかっている。


『―――上条さんが奢ってあげるぜ!!たっぷりとよ!!!』

560: 2010/05/10(月) 02:23:30.67 ID:mJZkMyM0
二人の男が、到底人間の物とは思えない咆哮を上げた。
その瞬間、皮膚がはち切れる様に裂け、その下から黒いザラついた『本体』が姿を現した。

トカゲ人間のようなシルエットの、全身が黒い悪魔。
瞳は赤く輝き、手足の先には鋭い爪、そして大きく裂かれ開かれた口からはおぞましい牙。


上条『来いよ』


上条が笑みを浮かべ、右手で手招きをした。

それに応じたかのように二体の悪魔が一気に飛びかかる。
同時に上条が前に踏み込んだ。

上条『―――』

一体目が上条の顔面へ手を突き出す。
だが上条は軽く頭部を傾けてスレスレでかわした。
右頬から僅か数センチの所を黒い巨大な爪が突き抜けていく。

そしてかわすと同時に、左肘の突きを悪魔の胸部へ叩き込んだ。
鈍い炸裂音と共に、突進してきた慣性もかかって悪魔の体が大きく『く』の字に曲がる。

だがその衝撃で後ろに吹っ飛ぶのは許されなかった。

上条は、肘の突きが炸裂したと同時に、畳んでいたその左腕を一気に伸ばす。

上条『―――ハァ゛ッ!!!!』

銃を握っている拳が悪魔の顔面へ叩き込まれた。

一瞬の間の二連撃。
悪魔の体はその場で床に叩きつけられた。
木製の床板の破片が飛び散り、大きな穴が穿たれる。

561: 2010/05/10(月) 02:25:54.58 ID:mJZkMyM0
それはほんの一瞬の出来事だった。

常人なら何も見えなかっただろう。
そして飛び掛っている悪魔達自身も何が起こったのかわからなかった。

ほぼ同時に突進していた二体目の悪魔は、
その上条の異常な戦闘能力を『認識する前』に、彼の間合いへと侵入してしまった。

上条は左腕を勢いよく引き、その反動で体を『駒』のように回転させる。

上条「―――ッ―――」

そしてその『駒』は一回転し再び元の方向、二体目の悪魔の方へ向く。
白く光り輝く『左足のハンマー』を引き連れて。

上条「―――ッラァァァァァァァァァァァァァアア!!!!!!!」

上条の回し蹴りがカウンターとなって二体目の悪魔の顔面へめり込んだ。
直撃の瞬間、白い光がその『ハンマー』から溢れ、柔らかい肉を金属の塊で打ち付けるような炸裂音が響いた。

衝撃波でクラブ内の机・椅子・ステージありとあらゆるものが薙ぎ倒され、床板が捲れ上がっていく。
そして悪魔の体は跡形も無くチリと化した。

上条「―――シッ!」
振り切った左足を畳み、息を短く吐きながら右足で軽く跳ねる。

562: 2010/05/10(月) 02:27:57.23 ID:mJZkMyM0
バーテンダー『なッ―――』
先の三体の悪魔と同じように、本来の姿を現していた『バーテンダー』の悪魔が、
カウンターの影でその上条の立ち回りを見て固まっていた。

バーテンダー『(ここは逃げるしか―――)』
バーテンダーの足元に黒い円が浮かび上がる。

そして直ぐにバーテンダーの体が沈み始めていく。

だが次の瞬間。

上条「待てや―――」

上条がバーテンダーの方へ振り向き、跳躍し一瞬でカウンターを飛び越えて、彼の目の前に着地した。

そして上条は右手を床に叩きつけた。
ちょうどバーテンダーの足元に浮かび上がっていた、黒い円の『淵』に。

次の瞬間、黒い円は割れ砕け散った。


悪魔の使う移動用のこの黒い円。
原理は、悪魔の力で強引に空間を切り裂いて『穴』を作るという物だ。

ただの空間の亀裂である『穴』自体には、上条の右手の効果は無い。
だがその淵、『身から離れた』悪魔の力によって、空間を切り崩し『穴』の形を維持している部分。
亀裂を元に戻そうとしている空間の力を塞き止めている堤防。

そこには上条の右手は通じる。

そしてこのバーテンダーのように移動途中に、下半身だけ沈んでいる時にその穴を塞がれたらどうなるだろうか。

空間を自分自身の手で歪められる程の力を持っていない、
このバーテンダーのような下等悪魔達は当然真っ二つになる。


激痛に襲われたバーテンダーの咆哮が、半壊したクラブの中に響いた。

563: 2010/05/10(月) 02:35:27.88 ID:mJZkMyM0
上条がその上半身だけとなったバーテンダーを光輝く足で蹴り、踏みつけて押さえる。
そして左手の銃をバーテンダーの顔へ向けた。

上条『奢るって言ったじゃねえか。ノリが悪いな』

バーテンダー『……!!!!』

上条『まあ、「向こう」に帰るってんのも別にいいけどよ、』

上条『どうせまた来るんだろ?人間はお前等にとってご馳走だもんな』

バーテンダー『……我等にとって餌。本来は我等の糧となるべき卑小で下等な存在。何が悪い』

上条『いいか?人間はそんなもんじゃねえ』

上条『お前等よりも高潔とはいわねえ。でもよ、「下」でもねえ』

上条『お前等の生き方もルールも分かる。だがよ、それは「向こう」での話しだ』

上条『確かによ、お前等の行動自体は向こうのルール通りだ』

上条『だがよ、ここは魔界じゃねえ。人間界だ』

上条『「こっち」にも『こっち』のルールがある』


上条『「こっち」にいる限り、間違ってんのはお前等だ』


バーテンダー『………ふざけるな……』

566: 2010/05/10(月) 02:41:44.84 ID:mJZkMyM0
上条『勘違いすんじゃねえ。こっちはお前等の庭でも領地でもねえ』

上条『人間はお前等のもんじゃねえ』

上条『お前等には人間を頃す権利はねえ』

上条『もしその権利があると思ってんなら―――』


上条『もしそう思ってんならよ―――』



上条『―――そんな幻想ぶっ頃す』


上条の顔に怒りの色が現れる。
それは虐げられ殺された人間達を代弁しているかのような憤怒。


銃を握る手に力が入り、引き金が小さな軋む音を立てて徐々に引かれていく。

バーテンダー『黙れ小僧!!!!……そもそも貴様も我等が眷属でありながら……忌まわしき逆賊めが!!!』
バーテンダーの目が更に強く赤く光る。
その声も、光もどす黒い、救いようの無いほどの憤怒が篭っていた。

いや『救う』という表現は合わないだろう。
改心させる事が出来たとしても、それは彼らの概念からすると堕落だ。

悪魔達と人間達の概念は根本的な部分から違うのだ。
人間が救いと考える物も彼らにとっては拷問と化す。

人間の正義が彼らにとっての悪であり間違いである。

567: 2010/05/10(月) 02:49:32.17 ID:mJZkMyM0
バーテンダー『なぜわからぬ!!!』

上条『わかってるさ。その上で言ってる』

バーテンダー『ではなぜ人間共に付く?!!!なぜだ!!!?貴様は悪魔だ!!!』

なぜ?

上条『違えよ。俺は―――』


守りたいたいからだ。


上条『「上条当麻」だ』


人間達を。
あの愛しい少女を。


上条『それ以外でも。それ以上でもそれ以下でもねえよ』


その為なら戦う。

ありとあらゆる力を使ってでも。


上条『一応聞くぜ。どうすんだ?もう二度と来ねえってんなら見逃しても良い』


バーテンダー『DARBS CNILA OL AMMA (くたばれ 忌まわしき者)』
バーテンダーは猛烈な憎しみの篭ったエノク語を発した。

忌まわしき者。
悪魔達から見れば、魔界のルールに照らし合わせれば今の上条は正にそうだろう。


上条『……そうか』
上条の顔に一瞬悲しそうな影が差す。


上条『じゃあこれは上条さんの奢りだぜ。ちゃんとあの世まで持っていけよ』

上条は引き金を引ききった。
一発の銃声がクラブ内に響く。


―――

579: 2010/05/12(水) 23:50:48.78 ID:UiEp/yE0
―――

『ハァ゛ッ……』

額から赤黒い血を流す悪魔は、闇に包まれた路地を突き進んでいた。
彼は三体の内、一番最初に上条に突進した悪魔だ。

どうやら彼は幸運だったようだ。
あの少年は恐らく威力偵察の為、初撃である彼へ放った銃弾はかなり力を押さえ込んでいたらしい。

そのおかげか、瀕氏ではあるがなんとか命を失うことなく、ドサクサに紛れて逃げることができた。

『恐怖』という感情をこちらの人間界で味わうとは思ってもいなかった。
過去に何度か、魔界で大悪魔を目の当たりにして恐怖した事があったが、
戦闘態勢に入ったあの少年の放つオーラはそれと同じ物だった。

同じ悪魔とはいえ、大悪魔クラスは彼らにとって『神の領域』だ。

どう転んでも勝ち目は無い。
百の仲間がいても到底勝てない。

逃げるしかない。

黒い円も出せなかった。
かなり力を押さえ込んでいたとはいえ、あの銃弾にも彼からすれば莫大な量の力が練りこまれていた。
撃ち抜かれてから、体内の力がかき乱されて上手く使えないのだ。

今は力が回復するまでとにかく走ってできるだけ遠ざかるしかない。

『……ッ』


とその時だった。路地の向こうに気配を感じた。


立ち止まり、悪魔の目で見通す。

その先には。

茶髪の日系の少女が立っていた。

580: 2010/05/12(水) 23:54:33.40 ID:UiEp/yE0
『……』

その少女はキャップを深く被り、灰色のパーカーにベージュの短いスカート、
黒いレギンスに黒いブーツという出で立ちだった。
キャップの下からは短めの茶髪の髪が、路地を吹き抜ける微風で小さくなびいていた。

だが服装なんかはどうでもいい。

彼にとって一番重要なのは、その少女の持っている物だった。
長方形の箱に丸太が付いているような、長さ一メートル半程の金属の塊だった。
少女自体は人間のようだ。

だが、手に持つその金属の塊から莫大な量の悪魔の力が感じられる。

それに見た感じかなりの重量がありそうなのに、少女は片手で軽々と持っている。
明らかに普通では無い。

「見つけたわよ」

少女が彼をジッと見据えながら声を放った。
その英語は癖のある、少しぎこちないものだった。

「全部任せとけって言ってたくせに……ちゃんと逃げられてんじゃないの……」

少女が溜め息混じりにブツブツ呟きながゆっくり歩いてくる。
ブーツの靴底が、アスファルトの地面とぶつかる音が路地に響く。

581: 2010/05/12(水) 23:58:58.71 ID:UiEp/yE0
「ま、試し撃ちになるしいいわね」

少女が小さく笑い、彼から15m程のところで立ち止まった。
そしてその丸太のような金属の塊を軽々と掲げ、先を彼に向けた。

その金属の先端には直径約1cm程の穴。

『……』

誰でもわかる。
あれはきっと銃のような武器だ と。

彼は瞬時に地面を蹴り、射線から逃れる為に真横に飛ぶ。
人間離れした脚力による高速の移動。
それは常人には捕えきれない速度。

常人にはだ。

だが相手は、彼よりも遥かに強大な力を持つゴートリングや、ブリッツを倒した経験がある少女だ。
残念ながら、彼のとった回避行動は無意味だった。


「ごめんね。でもアンタさ、人間頃し捲くったんでしょ?」


大気が切り裂く音。路地裏が青白い光で照らされる。
金属の『丸太』が迸る電気で覆われる。

「自業自得よ。ツケは払ってもらうから」

『―――なッ』

その異変に気付いた時にはもう遅かった。
というか、この少女に出会ってしまった時点で彼の命運は尽きていた。


「バイバイ」


次の瞬間、その金属の丸太の先端から、目を覆ってしまいそうになる位の青白い光が噴出した。

術式で極限まで強化された12.7mm弾が、この少女の能力でブーストされ音速の五倍以上の速さで放たれる。
プラズマを纏った全てを貫く破魔の光の槍が彼に向かった。

衝撃波で路地裏の壁・地面が一瞬で砕かれ捲れる。

その銃弾は彼の体を『貫通』しなかった。

直撃と同時に、弾頭が『貫ききる前』に彼の体は蒸発したのだから。

582: 2010/05/13(木) 00:02:54.75 ID:.DMD5uc0
放たれた弾頭はそのまま斜めに天を貫いて突き進んでいった。
そして3キロ程飛んで行った所で爆発した。

御坂「………」

長さ10cmの巨大な薬莢が地面に落ちる音が響く。

御坂「……ほひゃああああ……」
御坂は目の前に広がる惨状を見て思わずマヌケな声を漏らしてしまった。

崩れている両脇のビルの壁。大きく抉られている地面。
ジリジリと音を立てて、淡く赤く光るガラス化した地面。

路地裏は一瞬で無残な姿に変わった。

御坂「……なによこれ……すごい…すごいけど……さすがに強すぎ……かな?」
御坂は手に持っている『大砲』に目を落とした。


今の一撃の破壊を見てさすがの御坂も少し尻込みしてしまった。

これを渡された時、トリッシュがダンテに怒った理由がわかるような気がする。

ちなみに弾頭が3キロ程で爆発したのはレディの術式の為だ。
最高速6000m / sで放たれる『矢』だ。

打ちっぱなしにしてれば大変な事になるのだ。

ダンテは最大出力にすれば地平線まで届くと行っていたが、
さすがの御坂でもそんな長距離の照準はできないので、そこまでの性能があっても意味が無い。

そこでトリッシュがレディにこの弾頭の自爆機能をつけさせたという訳だ。

御坂「(……使いにくい……)」

583: 2010/05/13(木) 00:06:54.82 ID:.DMD5uc0
上条「御坂ッ!!!!」

上条が御坂の真後ろへ上から飛び降りてきた。
着地の衝撃でアスファルトが割れる。
ビルからビルへ跳んでここまで来たのだろう。

御坂「あ……お、終わったわよ!!!」

上条「うぉい!!!どっからどうみてもやりすぎじゃねえか!!コレ!!」
上条がすぐさまこの惨状に突っ込みを入れた。

御坂「だ、だって……こんなに『コレ』が強いなんて思わなかったんだもん!!一発しか撃ってないのに…」

御坂「それにアンタ達みたいに相手の強さなんかわかんないし……」

御坂は人間だ。
上条や、ダンテ達のように悪魔の感覚で相手の力量をおおまかに知ることは出来ない。
レディのように種類や力関係を理解している訳ではない。

御坂にしてみれば、実際に戦うまで相手の力量が全然わからないのだ。

上条「……あ~…………まあ、最初だし…しょうがねえよな……」
上条が頭を掻きながら、少し申し訳無さそうに答えた。

御坂「え、あ、い、いや!!!別にいいわよ!あたs」

上条「!!!!」
その時上条が血相を変えて顔を上げた。

御坂「―――」
その理由はすぐに御坂にもわかった。

サイレンの音が猛烈な勢いで近付いてくる。
これだけの大騒ぎだ。
当然、誰かが通報したのだろう。

上条「に、逃げんぞ!!!!」

御坂「わひゃ!!!!ちょ、ちょちょちょちょちょっと!!!!」
上条が御坂を抱き上げ、真上へ一気に跳躍した。


―――

585: 2010/05/13(木) 00:11:58.52 ID:.DMD5uc0
―――

一方その頃。リスボン。朝。

クレーンの上にダンテとトリッシュはいた。
ダンテは右手でワインボトルを抱きながら小さい寝息を立てていた。

左手は大きく放り出され、クレーンの鉄骨からはみ出してブラブラと揺れている。

その横にトリッシュが座っていた。
ダンテの左手と同じくトリッシュの足も地上50mの高さで揺れていた。

トリッシュ「……」

そっとダンテの方に手を伸ばす。
その先、目的はワインボトル。

トリッシュ「……」
ボトルの先の部分を掴み、引き抜こうとするが案の定抜けない。

だがトリッシュはそんな事は予想済みだ。

トリッシュはボトルを掴んだまま軽く電気を放った。
その電気がダンテの右手に伝わり、バチンっと勢い良く手のひらが開いた。

その隙にトリッシュは素早くワインボトルを引き抜く。

ダンテは常人なら心停止してもおかしくない電気を浴びても尚、相変わらず寝息を立ていた。
タフすぎるのも考え物だ。

トリッシュ「甘いのよ」
トリッシュは親指で弾くようにコルクを飛ばし、ボトルに口をつけ流し込んだ。

トリッシュ「あ」

三飲みしたところで気付く。
弾いたコルクはそのまま下に落ちていった事に。

降りて探して拾うのは面倒くさい。

トリッシュ「……しょうがないわね…全部飲まなきゃね。私が」

586: 2010/05/13(木) 00:16:37.82 ID:.DMD5uc0
ダンテからワインを奪って15分後。
ボトルは空になっていた。

トリッシュ「……」
トリッシュは空になったボトルを軽く振りながら、港を眺めていた。

トリッシュ「……あ」

水平線の彼方に船。
昨日から停泊しているのと同型の貨物船だ。

トリッシュ「来たわよ」

トリッシュが空になったボトルでダンテの頭を強めに突く。
だがダンテは起きる気配が無い。

トリッシュ「来たってば」
徐々に力を強めて突く、いや、半ば叩いているのだが、それでもダンテは起きない。

トリッシュ「起きなさい」

トリッシュはダンテの頭に思いっきりボトルを振り下ろした。
気持ち良いくらいにボトルが豪快に砕け散った。

ダンテ「……いってぇ」
ダンテがうっすらと目を開け呟いた。

トリッシュ「ほら来たわよ。二隻目」

その言葉を聞いてダンテが跳ね起き、

ダンテ「ハッハ~♪やっとか!!!」
勢い良く立ち上がり、両手を組んで伸ばして骨を鳴らす。

587: 2010/05/13(木) 00:21:22.61 ID:.DMD5uc0
トリッシュ「あそこ」
トリッシュがこちらに進んでくる二隻目の貨物船を指差した。

ダンテ「やっちまっても良いんだな?!」

トリッシュ「ええ。程ほどにね(ワインの事忘れてるみたいね)」

ダンテ「OK!!!」

ダンテが腰を落とし屈む。

トリッシュ「いい?あんまり―――」


ダンテ「It’s SHOW TIME!!!!!!!Yeaaahuuuuha!!!!!」


そしてトリッシュの話を最後まで聞かずに思いっきり跳躍した。
クレーンの鉄骨が大きくひしゃげ、ダンテの姿が一瞬で消えた。

トリッシュ「……」

ダンテであろう、赤い『砲弾』が沖の貨物船へ真っ直ぐに放物線を描いて飛んで行った。

トリッシュ「……やっぱり一隻は沈むわね」

トリッシュは大きく揺れ今にも倒壊しそうなクレーンの上で呟いた。

トリッシュ「……」
停泊しているもう一方の貨物船を見る。

トリッシュ「……向こうは私がやるかしらね」
トリッシュがやれば沈む程の不必要な破壊はまず無い。

これも人間の財産を守る為だ。
ダンテはグチグチ言うかもしれないが、ピザでもあげてればどうせすぐに機嫌が直る。

人の言う事を守らないダンテが悪い。
一隻沈ませたダンテに そら見たことか と突っ込めば強くは出れないだろう。

トリッシュは立ち上がり腰から二丁の拳銃、ルーチェ&オンブラを引き抜いた。

トリッシュ「さ、私もたまには運動しなきゃね」

そして軽く跳躍しクレーンから飛び降りると、もう一隻の方へと向かっていった。

―――

588: 2010/05/13(木) 00:27:00.67 ID:.DMD5uc0
―――

ロシア、とある内陸部の巨大な地下の円形ホール。

そのだだっ広いホールの中央に大きな机と椅子。
フィアンマはその椅子に座っていた。

そして彼の向かい、机の前には葉巻を咥えたアリウス。

フィアンマ「コレの調整は終わった」
フィアンマの右手に持つダイヤル式の南京錠のような禁書目録の遠隔制御霊装。

アリウス「ふむ……」

フィアンマ「それとだ、『四元徳』の内二人が魔界からの脱出に成功した」

アリウス「誰と誰だ?」

フィアンマ「フォルティトゥードとテンパランチア」

アリウス「ほう……」

フィアンマ「だが残りの二人は間に合うかどうかわからない。サピエンチアに至っては絶望的だろう」

アリウス「ふむ……で、その二人は乗り気なのか?」

フィアンマ「もちろん。俺様を全面的に支援してくれる」

『四元徳』。

天界において最上位に位置する四人。
肩書きは一応『天使』だが、それは表現の一つに過ぎない。
『主神ジュベレウス』の僕である『天使』という意味であり、実際は『神』と称されるべきレベルの強大な存在だ。

事実、『四元徳』率いるジュベレウス派が天界における最大派閥である。

忠誠に魔女狩りを扇動し、更に500年前に直接手を下して魔女の本拠地を壊滅させたのも彼らだ。

つい最近、その魔女狩りの『報復』を受けたが。

590: 2010/05/13(木) 00:35:46.65 ID:.DMD5uc0

数ヶ月前に、『プルガトリオ』と呼ばれる狭間の世界で勃発した、ジュベレウスの復活を賭けた魔女との戦い。
それにより『四元徳』は打ち倒され、魔界の煉獄に堕とされた。

魔女に殺された天界の者は皆、魔界に堕ち永遠に『殺され続ける』。
想像を絶する苦痛だ。

だが四元徳の内二人はその圧倒的な力をもって、何とかその煉獄から抜け出した。
『神』と称されてもおかしくは無い彼らだからこそできる芸当だろう。
逆に言えば、彼らでもギリギリであったという事だが。

事実、他の二名は魔女との戦闘による傷が更に深く、その内の一人はもう絶望的だ。

アリウス「動けるのか?まだ力も完全には復活していないだろう?」

フィアンマ「なぁに、どうせ人間が大量に氏ぬ。それで『補充』は充分だろう。すぐに回復する」

アリウス「……『セフィロトの樹』か」
アリウスが嫌悪感を露にして呟いた。

『セフィロトの樹』。

天界の者達と人間達の魂の繋がり。
その実体は天界の神々が作った『エネルギーのパイプライン』であり、
人間の魂を繋ぎ留め管理する制御システムだ。

氏した人間の魂は天界に運ばれる。
『天国へ行く』と言えば聞こえは良いだろう。

だが実際はそれとは程遠い。
運ばれた魂は天界の者達に吸収され力の糧と成る。

運が良ければ下っ端の天使として転生できる場合もあるが、
そうなったとしてもどうせ前線に出され捨て駒のように扱われる。

人間界は天界にとってのエネルギー源であるのだ。
いわば『油田』、『畑』のようなものだ。

人間達の魂は管理され『養殖』されているのである。
頭数は厳格に定められ、その生氏も操作されている。

591: 2010/05/13(木) 00:39:35.62 ID:.DMD5uc0
本来、魂とはその世界の中を輪廻する。
魔界も天界もそうだ。

氏した者は長き時を経て復活するか、
世界の礎である力の源へ帰り、新たに生まれてくる者達の糧となるかである。

だが人間達の魂は違う。

力の源、『人間界の本来の天界』は封印されている為、そこに帰ることはできない。
そして同じ理由で力自体も非常に矮小な為復活もできない。

その無防備な魂を、天界が作り上げた『セフィロトの樹』というシステムが拾う。

人間達の魂はそのパイプを通り、世界の外、天界に吸い出され奪われる。
これは人間界の魂が枯渇するまで半永久的に続くだろう。

(ちなみに『御使堕し』という魔術はこの魂の流れを強引に逆流させるものだ。
人間界の魂の頭数は厳格に管理されている為、予定外の魂の流れは当然エラーを引き起こす)


だが全ての人間がこのシステムの制御下にある訳ではない。
一部はこの『セフィロトの樹』とは繋がっていない。

天界以外の強い力に染まった魂はその制御下に置く事ができないのだ。

フォルトゥナや各地のデビルハンター等と魔女達、


そして人間界の本来の力を行使する者達―――『能力者』の極一部。

592: 2010/05/13(木) 00:43:16.79 ID:.DMD5uc0
天界の手により『人間界の本来の天界』は封印されたが、それは完璧ではなかった。

人間界の本来の力は微弱に漏れ出し、極少数ながらも生まれながらに力を宿した者達が現れてくる。
『原石』と呼ばれている者達だ。

これは天界にとって大いなる脅威だ。
流出する力の量が増えれば封印が砕け、全てのシステムが瓦解する恐れがある。

魂を直接制御できない者は、力をもって強引に押さえつけるしかない。

天界は制御下にある人間達に天界の力を、『魔術』という武器を与え、この能力者達へ対抗させた。
原石と魔術師達の数の差は圧倒的であり、数千年の間、『魔術サイド』の絶対的優位は揺るがなかった。

だがこの数十年の内に、とある人間の手によって人工の能力者が爆発的に増えつつある。
大半はまだ一応形だけ制御下にあるものの、生氏を直接操作する事が出来ない状況にまでなりつつある。

500年前に魔女の本拠地を一気に殲滅した時のように、直接軍勢を降臨させなければならない可能性がある。

だが人間界と天界は『物理的』には直接繋がっていない。
(魔女との戦争はプルガトリオと呼ばれる『狭間の空間』で行われた)

学園都市を直接破壊する為には、物理的に二つの世界を繋げなければならない。
そしてその問題はジュベレウスの復活によって簡単に解決するはずだった。

はずだったのだ。

ジュベレウス程の存在なら一瞬でその穴を繋げる事ができるが、結局は魔女の手によって失敗してしまった。


だが全ての手が尽きたわけではない。
穴を直接繋げる方法は他にもある。

それに悪魔達の人間界への侵入もかなり激化している。
2000年前の戦争前夜とまるで同じだ。

天界の正念場は今だ。
人間界から『魔界の力』と能力者を一掃する。

今を逃せば後はもう立て直しようが無い。
ジュベレウスを失い、続けて人間界をも失ってしまったら天界は一気にその力を失墜させてしまうだろう。

それを回避する為に天界はフィアンマを『支援』するのだ。

そしてフィアンマもそれを『利用』する。

593: 2010/05/13(木) 00:55:04.44 ID:.DMD5uc0
フィアンマ「彼らは乗り気だ。むしろ喜んでいたよ。この『チャンス』に」

アリウス「つまりまんまと貴様の罠に嵌った訳か」

フィアンマ「ああ、向こうは俺様を信じきっている。今の天界には疑問を抱く余裕すらないだろうしな」

フィアンマ「『穴』が開いたらすぐにでも現れるだろうよ」


アリウスの策謀により、人間界に悪魔が溢れ大規模な戦争となる。

そこに直接開いた穴から降臨する天界の軍勢。

そしてこの戦争は天界と魔界の全面衝突に一気に発展する。

確かに魔界の力は圧倒的だ。
だが今の魔界は魔帝の完全な氏によって大きく混乱し、内戦も激化している。
外に注意を払う余裕など今の魔界には無い。

魔界にしてみれば人間界などちっぽけな存在だ。
それよりも、魔界の諸王達は魔界内での覇権を優先するだろう。

天界もジュベレウスという旗印を失い混乱しつつあったが、魔界よりは纏まりがある。
彼らはこの戦争を好機と見て立ち上がるだろう。

魔界が内側に集中している間に一気に勝負をかけるはずだ。
己の『所有物』である人間界を守る為に『能力者』を、そして悪魔を一掃する為に。


それにスパーダの一族にも怯えることはないと天界は睨んでいる。
裏の目的はどうあれ、天界には『人間を守る』という大儀があるのだ。

それに理由は定かではないが、かのスパーダ自身がこの天界の制御機構を黙認した。

天界の者達は、少なくともスパーダの一族が刃を向けてくることは無いと思っているのだ。
もしかして味方として戦ってくれるかもしれない とも思っているだろう。

595: 2010/05/13(木) 01:01:32.66 ID:.DMD5uc0
アリウス「マヌケな奴等だ」

フィアンマ「そう言うな。俺様はこれでも表向きは敬虔な聖職者だ。その絶大な信頼を裏切るのだよ」

フィアンマ「あの正直者達に気付けと言うのは酷だろう」

アリウス「お前は相変わらず醜い。醜いな」

フィアンマ「言ってくれるね。だがお前も協力する振りをして結局は裏切るだろう?魔界を」

アリウス「それは向こうでは当たり前の事だ。裏切りも勝つ為の手段の一つにしか過ぎん」

アリウス「俺の行動は向こうのルールに沿っている」

フィアンマ「ふん……」

その戦争がアリウスとフィアンマにとって隠れ蓑となる。

フィアンマは天界に、アリウスは魔界に表向きだけ協力する。
そして出し抜く。

二人ともその隙に、強大な力を手に入れるのだ。

『哀れな』天界はフィアンマを信頼し、軍と『穴』を開く為の『鍵』を与え、そして『封印』を掛け直す権限を与える。
天界の動きを見た魔界は、アリウスの覇王復活を支援するはずだ。

そして二人ともその二つの強大な力をみすみす返すつもりは無い。

魔界と天界がそれに気付いた頃にはもう遅いだろう。

その頃には、

アリウスは覇王と『魔帝』の力を手に入れ、魔界の統一王に相応しい存在となっている。

フィアンマは『人間界の真の力』と天界の力を全て取り込み手中に収め、天界と人間界を統べる『神上』となっている。


そこまでいった二人が手を結べば、スパーダの一族も魔女達ももう恐れることはない。


フィアンマ「ともかくだ、最高のショーになりそうだな」

アリウス「同感だ」


―――

596: 2010/05/13(木) 01:05:22.85 ID:.DMD5uc0
―――

学園都市。現地時間午後二時。
第七学区、上条宅。

禁書「~まだかなまだかな♪」
上機嫌なインデックスがベッドに腰掛けながら、落ち着きなく足をパタつかせている。

一方「……」
少し離れた所で、壁に寄りかかる形で一方通行が座っていた。

上条が帰って来るのは夜だ。
8時から10時の間辺りと上条は言っていた。

それまでは黄泉川のマンションにいる予定だったのだが、
インデックスが待ちきれずに急かした為、こうしてもう上条宅にいるわけだ。

一方「……」

一方通行にとってはどこで待つかなんて事はどうでもいい。
とにかくこのシスターをできるだけ早く上条に引き渡したいのだ。

彼は今日この後、大事な『私用』がある。

シスターの引き渡しが完了次第、土御門達と合流する。


そして理事会の一人である塩岸を襲撃する予定だ。

597: 2010/05/13(木) 01:08:24.46 ID:.DMD5uc0
元々第四位と土御門達でやる予定だったのだが、
彼も動けるのなら加わった方が良いのだ。

一方「……」
テレビの横に置いてある時計に目を向ける。

三分おきぐらいに見ている。
当然、時間はいつも通り平常運行だ。

三分ごとに見れば、三分しか進んでいないのは当然だ。

一方「……チッ…」

早くして欲しいのだ。
時間もベクトル操作できりゃァなァ と彼は思った。

禁書「あくせられーた?」
インデックスが首を傾げながら彼の名を呼んだ。

一方「あァ?」

禁書「……なんで怒ってるのかな?」

一方「……」
少し顔に出てしまっていたようだ。
それに打ち止めもそうだが、こういう純粋な少女は人の感情を読む事にかなり長けているらしい。

一方「怒ってねェよ」

禁書「ああ!わかったんだよ!!私と離れるのがいやなんでしょ!?」

禁書「だよね!こんな可愛いシスターさんがいなくなったら寂しいもんね!!」
上機嫌なインデックスが天真爛漫な笑みを一方通行に向けた。

一方「ンなわけねェだろクソガキ」

598: 2010/05/13(木) 01:10:39.21 ID:.DMD5uc0
禁書「むぅ!あくせられーたは素直じゃないんだよ!!」

一方「……」
絶対に表には出さないが、確かにインデックスがいなくなる事で少し残念な事がある。

インデックスを見送った打ち止めは少し寂しそうだった。
二人は気が合うようで、いつも一緒に騒いでいた。

芳川もだ。
手塩にかけた生徒が卒業するのを見ているような顔をしていた。


一方「……なァ。一つ頼みがあンだが」

禁書「?」


一方「たまにで良いからよォ。今後もラストオーダーに付き合ってくれや。黄泉川ンとこにも顔をだしてよォ」


禁書「何当然な事言ってるのかな!?皆で遊ぶんだよ!とうまも一緒によみかわの家でご飯食べるんだよ!!!」

一方「はッ……そィつはありがてェ」

彼の頭の中に浮かんだ、黄泉川家の団欒の光景。

だがそこには一方通行自身はいない。


彼はいない。
いてはならないのだ。

599: 2010/05/13(木) 01:15:48.01 ID:.DMD5uc0
今日の夜から、彼は絶対に引き返せない道へと進む。
氏と血にまみれた殺戮への道。

端から見れば大量虐殺を行うテ口リストだ。

彼の手は今以上に血に塗れるだろう。
今まで溜め込んできていた、学園都市に対する怒りが全て噴出すだろう。

確かにこれは自由への戦いだ。だが同時に報復戦でもある。

自分でも分かる。

己は歓喜し、笑いながら学園都市側の者達を引き裂いていくだろう。
彼は己の憤怒を全て受け入れ、そして全てを清算するべく吐き出す。

その大量の血に沈んでいく。
今よりも更に深くへ、深い闇へ堕ちこんで行く。
一切光の差さない、一片の光も浴びる資格が無い奈落の底へと。

全てを背負い、全てを受け入れて。

そんな血に濡れた手で。血を浴びた体で。血を受け入れた瞳で。

再びこの少女達の住まう光の世界に上がれるわけが無い。
そして上がるつもりも無い。


一方「……」

禁書「もちろんあなたも一緒だよ!!!皆一緒に遊ぶんだよ!!!」
インデックスの純真無垢な笑顔。


彼には眩しすぎた。
一方通行は目を細めた。


一方「頼んだぜ」

そして一言。
自分も一緒という言葉には答えず、願いの言葉を。


―――

616: 2010/05/15(土) 00:00:26.46 ID:0mf4Q9Q0
―――


リスボンの港に向かう、全長300メートルはあろう大きな貨物船。
甲板には大量のコンテナが規則正しく積み上げられている。

そのコンテナの『タイル』の上に一発の赤い砲弾が着弾する。

直撃したコンテナは紙箱のようにあっさりと潰れ、
とてつもない衝撃がコンテナの『タイル』全体に伝わり、拘束具が弾け、
数トンはあろうかという大量のコンテナがポップコーンが弾けるかのように飛び散り、海面に落ちていく。

艦橋の船員達は突然の事に皆驚き、喚き立てる。

そして彼らは見た。

無残に倒壊したコンテナ群の中央に立つ、銀髪の赤いコートを羽織った男。
背中には不気味に光る銀色の大剣。

全身を赤い光の靄が覆っていた。
その男の出現と同時に巨大な貨物船全域が、重く圧し掛かるような異様な空気に覆われた。

「氏にたくねえなら降りな!!!!!!」

突如男が叫ぶ。
船員達の脳内に直接響いてくるような、聞く者にとって抗いようのない圧倒的な恐怖を伴った声。
その声は船内にいる者にまで伝わる。

そして男は左手を天に掲げた。
その手には黒い拳銃。

次の瞬間、大音響と共にその拳銃から赤い光の矢が放たれ天を貫いた。

「おっと、救命胴衣とボートは忘れんなよ」

今度は小さく呟く。
だがそれも船員達の脳へ直接響いた。

それと同時に堰を切ったかのように、船に乗っている人間達は我先に走った。

船員達は無我夢中で救命胴衣を着、そしてゴム製のボートを海に投げ込み続けて飛び込んでいった。

皆、何が起こったのかという事を考えている余裕がなかった。
とにかくこの場から、この圧倒的な恐怖から逃げ出したかっただけだった。

618: 2010/05/15(土) 00:05:36.63 ID:0mf4Q9Q0
ダンテ「Humm.......」

ダンテはしばらくその場で人間達が下船しきるのを待っていた。

ダンテ「……」

三分後、最後の一人であろう『気配』が下船した。

ダンテ「……」

そして足の下から別の気配が伝わってきた。
それもかなりの数。

ダンテ「……起きたか」

ダンテの存在を感知し、船倉の人造悪魔達が動き出したようだ。

ダンテは両手にエボニー&アイボリーを持ち、
足元の無残にブッ潰れたコンテナに銃口を向けた。

ダンテ「OK、お邪魔すんぜ」

そして体を駒のように回しながら引き金を凄まじい速度で引いた。
円を描くかのように無数の銃痕がダンテを中心として穿たれていく。

一回転し、

ダンテ「Ha!!!!」

軽く床を蹴った。
次の瞬間、銃痕の円に沿って床が抜け落ちる。
綺麗に円形に切り出された金属の円盤はダンテを乗せたまま真下に落ちていく。

その下階の床も全て撃ち抜かれており、連続して抜け落ちていく。

619: 2010/05/15(土) 00:07:13.92 ID:0mf4Q9Q0
天井と床だった金属の円盤が、パンケーキのように何重にも積み重なって、
轟音を響かせながら船倉の床に落ちた。

ダンテ「Humm……」
そのパンケーキの上に立つダンテ。

船倉の中は一応電気も点いているがかなり暗い。
天井に空いた穴から光が差し込み、ダンテの周りだけを明るく照らしている。

小さなステージに立っているようだ。

船倉の中は、ウロボロス社のマークが入った無骨なコンテナが積み上げられており、
その奥にはシートが被せられている何か大きな物が置いてあった。
一目でわかる。

あのシートの下にあるのは戦車だ。

ダンテ「……へぇ」

静かだ。

物音は軋む船体の音のみ。
他には何も無い。

だが悪魔の気配は充満している。
こちらの様子を静かに見ているのだろう。

620: 2010/05/15(土) 00:11:20.02 ID:0mf4Q9Q0
ダンテ「Hey!!!!! Good Morning Guys!!!!!」

ダンテが両手の銃をクルクルと回しながら叫んだ。
薄暗い船倉にその声が反響し響く。

だが答えは返ってこない。
悪魔達はまだ彼を静かに見ているようだ。

ダンテ「挨拶もねぇとはな。礼儀がなってねえ」

無視されたダンテを小ばかにするかのように、
パンケーキ状のステージの淵から海水がピューっと小さく噴出した。

船底まで貫通しないように力を加減したが、どうやらまだ強すぎたらしい。


ダンテ「ノリわりぃぜったくよ。じゃあ―――」

ダンテが銃を腰に差し込み、そして両手を広げた。

ダンテ「―――無理やりでも踊ってもらおうか」



ダンテ「ネヴァン!!!!!!!」



次の瞬間、ダンテの右手に紫色のギターが出現する。


ダンテ「Let's Rock!!!!!!!!!!!!! Yeeeeeeeeeaaaaaaaaaaaaaaaaahaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!!!」


『ステージ』もある。
『客』も大勢いる(ノリが悪いが)。

狂気のライブを開演させるにはもってこいだ。

―――

621: 2010/05/15(土) 00:16:12.28 ID:0mf4Q9Q0
―――

ローマ。
とある低めのビルの屋上。

ベヨネッタはキャンディを咥えながら、遠くに見えるサンピエトロ大聖堂を眺めていた。

足元には『イギリス清教』の修道服。

ベヨネッタ「……臭っさいわねココは」

ポツリと不機嫌そうに呟く。
人間界において、最も天界の力が充満しているこの街。

ベヨネッタにとってかなり胸糞が悪い。
暴れて暴れまくって掃除して更地にしたい気分だ。

その時、真後ろから足音がした。

ベヨネッタ「……」

振り向かなくても気配でわかる。
良く見知った『仲間』だ。


「着ないのか?もうすぐなんだろ?さっさと着な」


背後の者がベヨネッタの背中へ向けて声を放つ。
いかにも気が強そうな、締りのあるキレの良い女の声。

ベヨネッタ「その時になったら着るわよ」


「ヘマするとまたバージルに嫌われるぞ」


ベヨネッタ「じゃあアンタがこの役やる?ジャンヌ」

623: 2010/05/15(土) 00:22:42.44 ID:0mf4Q9Q0
ジャンヌ「良いのか?あの天使も私がもらうぞ?」

ジャンヌと呼ばれた女性が答える。
短い銀髪、濃い化粧、そしてベヨネッタと同じようなピチピチの赤いボディスーツ。
袖には狐の尻尾のような白い飾りが下がっている。

そしてこれまたベヨネッタと同じくヒールのかかとに取り付けられている巨大な拳銃。

ベヨネッタの唯一無比の親友であり、生き残った魔女の片割れでもある。
お互いとも、相手の為なら命を投げ出しても構わないという程の仲だ。

ベヨネッタ「ん~んやっぱり私がやる。あの天使は私の獲物」


ジャンヌ「チッ。セレッサ、次はアンタが裏方やりな」

ジャンヌ「次は私がメインディッシュを貰う」

『セレッサ』とはベヨネッタの本名だ。
彼女だけはこう呼んでいる。


ベヨネッタ「わかったってば。でも今の『コレ』の裏方も楽しいと思うけど」
ベヨネッタがジャンヌの方へ振り向き、左手のひらを上に向け軽くあげた。

ジャンヌから見て、ちょうどベヨネッタの手にサンピエトロ大聖堂が乗っているようだ。


ベヨネッタ「イギリスが『悪魔』送ってくるかも。弾道ミサイルに乗っけて」

624: 2010/05/15(土) 00:27:52.86 ID:0mf4Q9Q0
ジャンヌ「強いのか?」

ベヨネッタ「それなりに」

ジャンヌ「……」
強いのならば文句は無い。
暇つぶしにもなるし、得る物もあるだろう。

気に入ったら力でねじ伏せて強引に使い魔にするのも良い。
どうしても従わないのならば力を剥ぎ取り吸収してしまうのも一つの手だ。

ベヨネッタ「面白いこと教えてあげる。その来るかもしれない悪魔、こう名乗ってるみたい」

ベヨネッタ「『イノケンティウス』」

ジャンヌ「……はッ」
ジャンヌが小さく笑う。

イノケンティウス。『魔女狩りの王』。
その名を名乗っているとは。

ベヨネッタ「どう?」


ベヨネッタ「ムカつかない?」


ジャンヌ「はははッそいつはイイ―――」

ジャンヌの考えが変わった。
使い魔にする気も、吸収する気も無くなった。


ジャンヌ「その名を冠する資格があるかどうか―――」


ジャンヌ「―――試してやんよ」


―――

625: 2010/05/15(土) 00:32:36.79 ID:0mf4Q9Q0
―――


ロシア、とある内陸部の巨大な地下の円形ホール。

そのだだっ広いホールの中央に大きな机と椅子。
フィアンマはその椅子に座っていた。

フィアンマ「……」

重量感のある禁書目録の遠隔制御霊装を右手で弄びながら思索に耽る。

フィアンマ「……」
この遠隔制御霊装。

禁書目録の制御システム『自動書記』の操作端末であり、これを使うことによって10万3千冊の魔導書の情報を引き出したり、
それを元にして新たな術式を創り出すことも出来る。
(また、『首輪』と呼ばれる防衛システムを起動することが出来、あの少女を『兵器』として使うこともできる)

今のフィアンマには、その莫大な情報と術式を新たに創り出す機能が必要なのだ。

フィアンマには『聖なる右』という絶大な力がある。

『聖なる右』とは『手』だ。

『行使する手』。
確かにコレだけでも力は絶大だ。
その力は圧倒的であり、一振りで地形を変えてしまう程だ。

だが制約もある。

かなり不安定なのだ。
数回使ってしまえば、しばらくはまた安定するまで使えなくなってしまう。

一撃の破壊力は相当なものだが、これから始まる規格外の戦いを考えればかなり心もとない。
神クラスの者達とも合間見える可能性がある以上、まだまだ力不足だ。

このままだと目的を達する前に斃れてしまう事だって在り得るのだ。

626: 2010/05/15(土) 00:35:42.18 ID:0mf4Q9Q0
だからフィアンマにはまず禁書目録が必要なのだ。

禁書目録を手に入れ、『頭』の一時的な代替となる術式を創らせて『聖なる右』を安定させる。
そうすれば『聖なる右』単体でもそれなりの力を連続して使うことが出来る。

それでとりあえずは大丈夫だ。

とりあえずはだ。

元々この『手』は単体で使えるものではない。
禁書目録を使って行う代替の策はあくまでも一時的な物だ。

『手』を動かし、制御して本来の力を発揮するには『頭』が必要だ。
そしてその『頭』と『手』を繋ぎ一つにできる『器』も必要だ。

今のフィアンマには、その『頭』と『器』が無い。

だからこそ『頭』と『器』を手に入れる。
それがフィアンマの一番の目的でもある。

『頭』はとある少年が持っている。
だが『器』は、この力達が切り離された時に砕かれた為、別の物で代替しなければならない。

そこで当初フィアンマが目をつけていたのは、『御使堕し』の際に天界の魂を一時的に宿した、ロシア成教に所属する少女の体だ。
完璧とは言えないが、魂の『器』としての強度は一応最低ラインを越えている。

その少女を手に入れる為にロシア成教に根回しをしたといっても過言ではない。

だが現状を見ると、どうやらそんな必要は無かったようだ。

『頭』を持っている少年がここ二ヵ月半の間に、更に頑丈な『器』も手に入れてしまったのだから。

627: 2010/05/15(土) 00:38:49.75 ID:0mf4Q9Q0
今、『頭』と『器』は一つになっている。

悪魔サイドとの関わりにより、一時はフィアンマでさえ頭を悩ませたが、どうやらそれは杞憂に過ぎなかったようだ。
結果的にフィアンマにとってかなり好ましい事になった。
『頭』と『器』を調整し結合させる手間も省けた。

かなり行程が短縮できる。

後はこちらの『手』を、禁書目録で創った術式で結合させれば良いだけだ。


更に魔帝の『創造』という素晴らしいオマケ付だ。


そのオマケがあるからこそ、アリウスも協力してくれる。

いくらフィアンマでも、アリウスの協力無くして『魔界と天界の全面衝突』という巨大な隠れ蓑を作る事はできないし、
それが無ければ天界の助力も得られなかっただろう。

『創造』という報酬を約束することでアリウスの協力を手に入れることが出来たのだ。

まあ、渡す気はさらさら無いが。
そんな素晴らしい力を手に入れておきながら はいどうぞ と渡す程このフィアンマはおめでたくはない。

アリウスもそれはわかっているだろう。
だが『創造』を引き出すにはフィアンマの目的が成就しなければならない。

だからアリウスはとりあえず協力しているのだ。

フィアンマもわかっている。
その内、機会を見てアリウスは打って出るだろう。
力ずくで奪う為に。

628: 2010/05/15(土) 00:42:17.66 ID:0mf4Q9Q0
フィアンマ「……それにしてもな……面白い」
フィアンマは一人呟いき、右手にある遠隔制御霊装を見つめる。


これを調整していた時に、面白い事実が明らかになった。


禁書目録は元々かなりの魔力を有している様だが、それは全て『自動書記』の維持に使われている。
あの少女自身の意志では魔術を行使できないのだ。

なにしろ10万3千冊の魔導書、更にはフォルトゥナの魔剣生成・人造悪魔・界の封印式等の、
規格外の『魔界魔術』まで記録しているのだ。

『自動書記』はこれを守るという役割もあるが、
また一方でこの少女自身がその力を独断で行使するのを防いでいる訳である。

―――と、ここまではフィアンマも知っていたし、業界内でトップ地位にいる者達の間では常識とされている。

だがこの遠隔制御霊装を詳しく調べてみた結果、とんでもない事が、
それこそこのフィアンマすら驚愕する程の事実が判明した。

自動書記は外に対する防御と、彼女自身への拘束具の役割もしているが、
その外と内に振り分ける力の量が余りにも偏っていたのだ。

実に、力の9割が内側への拘束に使われている。
つまり自動書記と『首輪』が行使する伝説級の魔術、『聖ジョージの聖域』や『竜王の殺息』の源は残りのたった1割の力だ。


あまりにもおかしい。
普通は逆であるはずだ。
いかに元から有する魔力が多いとはいえ、少なくとも『普通の人間』なはず。

だが実際に目の前の証拠は揺ぎ無い事実を告げている。

そしてそこから導き出される答えは?

これ程の力をかけて拘束する必要があるのならば、
その拘束されている『モノ』はそれこそ大悪魔や神クラスの『何か』だ。

つまりあの少女、インデックスの中には、記録してある魔導書以外にとんでもない代物が隠されているという訳である。

629: 2010/05/15(土) 00:44:43.74 ID:0mf4Q9Q0
見つけた物は更にもう一つある。

遠隔制御霊装に篭められている術式。
その言語はラテン語から古代ギリシャ語、ルーン文字等かなりの種類が複雑に組み合わされている。

この遠隔制御霊装の根幹となる術式を作った者は正に天才だろう。
これだけでも、魔術に携わるフィアンマにとってかなり興味深いものだった。

だがそれすらもどうでも良くなってしまうようなモノがこの術式の核の部分で見つかった。
この術式の器であり、核である根幹に使われている言語。


それは『エノク語』だった。


『エノク語』とは主に天界の者達や、魔界の一部の者が使う言語だ。

文字そのものが『生きて』おり、これで祝福の言葉を発せば本当に祝福され、
呪いの言葉を発せば本当に呪いがかかってしまう、運命を捻じ曲げる力を持っている と称されている。

そして人間には扱えないと言われている。
『エノク語』で魔術を行使すれば、効力を出す以前に術者の魂が耐え切れずに崩壊してしまうという。

例えると、持った時点で氏に至る銃だ。
弾丸を放てば圧倒的な力を発揮できるが、使用者自身が引き金を引く前に氏んでしまうので意味が無いという訳だ。

その線のエキスパートであるフォルトゥナの騎士達や、最高峰のデビルハンター達でさえ敬遠しているという言語だ。

『人間には使えない』 それが魔術を行使する者達の間での常識だ。


つまりこの遠隔制御霊装、及び自動書記を作った者は一介の人間を超越しているという事である。

更に『エノク語』を使ってまで抑えこまなければいけないという事実は、
とんでもない『何か』があの少女の中にあるという事を更に裏付ける。

630: 2010/05/15(土) 00:47:33.46 ID:0mf4Q9Q0
フィアンマ「……」

フィアンマの思索は更に深く進んでいく。


ではこの遠隔制御霊装、及び自動書記を作ったのは誰だ?

天界の者か?

だがこの術式の組み上げ方は人間のやり方だ。

つまり、人間界で術式の作り方を学んだ何者かだ。
そしてたった一つだけ、それに該当する者達がいる。


『アンブラの魔女』達だ。


彼女達は好んでエノク語を使った。
『アンブラの魔女』達は一応人間とは呼べるものの、普通とは違う。

生まれながらにして魔界の『祝福』、十字教側から言えば『呪い』にかかっている。
例えるならば魔界版の『聖人』だ。

彼女達は寿命も無く力も絶大だ。
一部の者は神クラスにも達している。
その証拠は、四元徳やジュベレウスが魔女に敗れたという事実で充分だ。

そのレベルの者達なら、この遠隔制御霊装と自動書記を作るのは造作も無いことだろう。

フィアンマ「……魔女か」

そう、つまり魔女の手によって遠隔制御霊装と自動書記は作り出されたかもしれない とフィアンマは推測する。

631: 2010/05/15(土) 00:49:43.49 ID:0mf4Q9Q0
魔女達の手によるもの。

イギリス清教があの少女を『禁書目録』として使い始めたのは10年程前。

だがそれはローマ正教が入手した情報の範囲内での話だ。

あの少女の出身地も親もわからない。
年齢すら確かな事は分かっていない。

『禁書目録』となる前の情報は何一つ無い。


フィアンマ「…………」

疑問。

魔女と関わりを持ったとしたら、それはいつだ?どんな関係だ?

なぜエノク語を使ってまで、内なる『何か』を拘束し封印しなければならないのか?

また、そこまでして封印しなければならない『何か』をなぜ破壊せずに残しておくのか?

『それ』は一体何なのか?

魔女達の手にすら余る代物なのか?―――

―――それとも魔女達が封印しつつも残す という決断を取ったのか?

―――まるで何者かの目から隠すかのように。


―――あの少女は『いつ』生まれた?


―――そして『何歳』なのだ?

632: 2010/05/15(土) 00:51:34.84 ID:0mf4Q9Q0
そう考えると、これまで禁書目録について導き出していた『答え』も全てが怪しく見える。

フィアンマは己の中で、業界内では既に『答え』が出ている疑問を再度反芻し、
もう一度考え直し、この遠隔制御霊装を調べて判明した事実を基に、『別』の『答え』を導き出す。


―――なぜ魔導書を直に見て記憶しても精神が犯されないのか?

それは魂の『器』が大きいからではないか?


―――力に対する嗅覚が異常に強いのはなぜだ?


悪魔や天使が先天的に持っている『感覚』に似ていないか?


―――そしてなぜイギリス清教は記憶を消し続けていた?


生まれも親も隠し、過去を抹消する為では無いか?

つまりあの少女本来の『身分』を隠す為ではないか?



フィアンマ「………まさかな―――」

浮き彫りになった『裏』の答え。
今までの推理をもう一度確認する。

推理から導き出された答えは一つの事実を示していた。

633: 2010/05/15(土) 00:54:39.67 ID:0mf4Q9Q0
フィアンマ「……面白い」

どうやらあの少女を直接迎えに行った方が良さそうだ。

本来はあの少女自身を手元に置かなくても、遠隔制御霊装を使えば術式を引き出せる。
フィアンマも元々はそのつもりだったが、あの少女自体にも興味が湧いたのだ。

使い様によってはかなりの武器になるかもしれないのだ。

フィアンマ「直に行ってやるか」

フィアンマはあの少女も手元に置くことにした。

今は学園都市最強の能力者、あの『境界から半歩踏み出している』少年が護衛しているという事らしいが、
フィアンマの『聖なる右』と遠隔制御霊装があればどうとでもなる。

ついでにその少年を頃しておくのも良いかもしれない。
アレイスターの最終目的は確実ではないものの大体予想がついている。

あの者の行動がこちら側の障害になるのは確実だ。
ならばその者の目的の核の一つを破壊しておくに越したことは無い。


フィアンマ「それにしても……驚いたな―――」


この推理から導き出した答え。
自分でも少し信じられない。

この推理が正しければ。

あの少女の生まれは―――。

あの少女の正体は―――。



フィアンマ「―――こんな所にもう一人いたとはな」


―――

634: 2010/05/15(土) 00:57:31.98 ID:0mf4Q9Q0
―――


リスボン沖の貨物船。船倉。

ダンテは金属板が積みあがった即席のステージの上で、ネヴァンの弦を弾く。
大音響が鳴り響き、船倉を振るわせる。

ネヴァンからは爆音のようなBGMと共に紫色の稲妻が発せられ、船倉の中をクラブのように明滅させて照らす。

ダンテ「Bless me with your gift of light」

ダンテ「Righteous cause on judgment night」

その大騒ぎを受け、ようやく人造悪魔達が動き出した。
積まれていたコンテナが爆発するかのように弾け、中から背中に小銃を括りつけた小さな猿のような悪魔達が飛び出し、
ステージの上で一心不乱にギターを奏で歌うダンテに向かって四方八方から飛び掛る。

ダンテ「Feel the sorrow the light has swallowed」

ダンテは歌いながらギターを掲げ、ネックの部分を掴んでハンマーのように大きく振るった。
ハイになりすぎたギタリストが闇雲に乱暴に振るが如く。

ダンテ「Feel the freedom like no tomorrow!!!」

その瞬間、ギターのボディが変形し巨大な刃が飛び出した。

ダンテ「Yeaaaaahh!!!!!!!!」

巨大な『鎌』となったネヴァンが、飛び掛ってた『客達』を一気に薙ぎ払った。
更にその刃から放たれた紫の稲妻が周囲を穿つ。

船倉の壁や床に穴が開き、辺りに飛び散るバラバラになった悪魔達の破片と火花が、
この狂気のライブをより一層盛り上げる。

635: 2010/05/15(土) 01:00:53.51 ID:0mf4Q9Q0
人造悪魔達は今度はダンテの周りを囲む。
天井・壁にへばりつき、背中の銃をダンテに向ける。

更に船倉の奥から轟音が響いてきた。

重いキャタピラの音。
そしてコンテナを踏み潰しながら、所々が黒い甲羅で覆われた戦車が姿を現した。
船主側からと船尾側から一台ずつ向かってくる。

砲塔にある赤く輝く巨大な目がダンテを真っ直ぐ睨む。

ダンテ「Stepping forth a cure for soul's demise」

ダンテが再びネヴァンをギター型にし、歌いながら前へ踏み出しステージから跳ぶ。
それと同時に小銃型の人造悪魔達の銃口が一斉に火を噴く。

無数の銃炎が連続して明滅し、大量の銃弾が跳び上がったダンテ目がけて放たれた。
上下左右、前後ろ全ての方向から。

ダンテ「Reap the tears of the victims cries」

普通なら逃れようが無い鉛の網。
どこに移動しても、どうかわしても絶対に直撃してしまう―――。

―――普通ならばだ。

ダンテ「Yearning more to hear the suffer」

だがダンテには一発たりとも当たらない。
身を捻り、銃弾と銃弾の僅かな隙間、穴場へと瞬時にそして正確に体を移動させる。
皮膚からわずか数ミリというスレスレのところを銃弾が通過していく。

だが銃弾が接近できたのはそこまでだ。
この『数ミリ』の距離は凄まじく遠かった。

銃弾は無数に放たれているが、ただの一発もその『数ミリ』の距離を縮めることが出来ない。
なびいているコートにすら当たらない。

ダンテ「Of a demon as I put it under」

床に降り立ち、ギターを奏で歌い、ステップをキメながら『華麗』に突進する。
その周りの床に、ダンテを追って無数の銃弾がぶち当たり、大量の火花が彼の足元を彩る。

636: 2010/05/15(土) 01:03:27.85 ID:0mf4Q9Q0
ダンテ「Killed before―――」

ダンテがネヴァンのネックを掴み、再び振るう。
そして今度はそのまま放り投げる。

巨大な鎌型に変形したネヴァンが稲妻を放ちながら、船倉の中を弧を描きながらブーメランのように飛び、
次から次へと人造悪魔達を切り裂き砕いていく。


ダンテ「―――a time to kill them all!!!!!!!!」


同時にダンテは突進し、小銃型の人造悪魔を鷲掴みにする。
そして腰だめに構えた。

ダンテの莫大な力を大量に流され、その人造悪魔は抵抗することすら出来ずに彼に『使われる』。

ダンテはそのままフルオートでぶっ放す。

彼の力を帯びた赤く光る銃弾が一瞬で大量にばら撒かれ、
他の人造悪魔達を穴だらけにしていく。


だが僅か一秒も経たずして、ダンテの抱えていた人造悪魔は流れ込む力に耐え切れずに破裂した。


ダンテ「Passed down the righteous law」

ダンテは残ったグリップを放り投げると、
相変わらず歌いながら今度は正面の戦車の方へ突進した。

639: 2010/05/15(土) 01:08:32.65 ID:0mf4Q9Q0

正面の戦車の砲身が真っ直ぐにダンテの方に向く。
後方の戦車もその砲口をダンテの背中に向けたのを彼は感じ取った。

そして二つの大砲が同時に火を噴く。
120mm滑腔砲弾が1650m/sという速さでダンテに前と後ろから一発ずつ向かう。


だが今度はかわすどころか、ダンテはその二つの砲弾を『掴んだ』。


ダンテ「Lifeless corpse as far as―――」


そして砲弾の慣性を利用して体を回転させ、後方の戦車へ二発続けてぶん投げる。

その僅かな一瞬でダンテの力を注がれた砲弾は赤い光を帯び、
放たれた時の数十倍もの破壊力をもって戦車の砲塔をぶち抜いた。

より一層巨大な爆炎と火花がこのライブを更に彩る。

ダンテは投げた反動を利用してもう一台の戦車の方へ大きく跳ぶ。

そして宙で右手を掲げる。
その右手に、帰ってきたブーメランのように鎌型のネヴァンが収まり―――。


ダンテ「―――the eye can seeeeeeeeeeeeee!!!!!!!!!!!!!!!!」


―――そのまま砲塔の上に着地すると同時にネヴァンを振り降ろす。

紫の電撃を帯びた刃が、分厚い装甲を難なく引き裂き深く食い込む。

640: 2010/05/15(土) 01:11:49.56 ID:0mf4Q9Q0
ダンテ「The eye can seeeeeeeee!!!!!!!!!!!!!!!!」

ダンテはシャウトしながら、ネヴァンをその『砲塔ごと』引っこ抜いた。

車体から砲塔が強引に千切られ、ターレットから大量の火花と悪魔の血が噴出す。
そして今度は、突き刺さったネヴァンをグリップ替りににしてその砲塔を巨大な銃のように腰だめに構えた。


ダンテ「The eye can seeeeeeeee!!!!!!!!!!!!!!!!」


その120mm滑腔砲が今度はダンテの力を帯びて、いまだに船倉に残っている大量の人造悪魔達へ放たれた。
それも単発ではなく、彼の力で強引に連射して。

赤い砲炎を連続して噴出す120mmの『マシンガン』が人造悪魔の群れを吹っ飛ばしていく。


AC-130ガンシップもびっくりの圧倒的な物量の弾幕だ。

天井、床、壁に巨大な穴を穿っていき、そこから大量の海水が雪崩れ込んでくる。

だがハイになっているダンテはお構いナシに撃ちまくる。

爆炎と海水が何重にも絡み合い飛び散る。

そして遂に砲身がその熱と負荷に耐え切れずに歪みはじめた。
熱で誘爆する寸前だ。

641: 2010/05/15(土) 01:14:10.64 ID:0mf4Q9Q0
ダンテは右手でネヴァンを引き抜き、左手で砲身を掴むとそのままハンマー投げのように一回転し、

ダンテ「The eye can see!!!!!!!!」

歌いながら壁際にいる人造悪魔達の方へ砲塔をぶん投げた。
悪魔達が巨大な金属の塊に叩き潰され大爆発を起こす。

ダンテはネヴァンをギター型に戻し、再び弦を弾く。

ダンテの体から赤い光が溢れ、弦が弾かれるごとに巨大な稲妻がネヴァンから四方八方へ放たれる。
雪崩れ込む海水の轟音、軋む船体、船体の壁から弾けるボルトの音、飛び散る火花、業火と稲妻の明滅と爆音。

ダンテ「The eye can seeeeeeeee!!!!!!!!!!!!!!!!」

狂気と破壊のライブは最高潮に達する。

ダンテはネヴァンを抱え前に跳ぶ。

そして両膝で滑り込むように着地し、天を仰ぎ。


ダンテ「THE EYE CAN SEE!!!!!!!!!!!!!」


シャウトをキメ、思いっきり弦を弾いた。
その瞬間、ネヴァンから紫の閃光が溢れ、船倉の中を覆い尽くした。
残っていた人造悪魔達は一瞬で消し飛び、更に天井、壁、床を全て吹き飛ばした。

船底も甲板も何もかもが消失し、ネヴァンの稲妻は天を貫き海を割る。

この瞬間に貨物船の中央の部分、実に全船体の三分の一が『消滅』した。


―――

643: 2010/05/15(土) 01:15:48.65 ID:0mf4Q9Q0
今日はここまでです。
明日は投下できるかわかりません。
恐らく明後日になるかと思います。

644: 2010/05/15(土) 01:25:08.68 ID:q3sHS1Io
乙!

645: 2010/05/15(土) 01:27:05.36 ID:E6eYix6o
乙!
ネヴァンかっこいいよネヴァン

646: 2010/05/15(土) 01:27:20.69 ID:ly4aXkAO
乙!
俺この歌パチスロ版が一番好きだな。歌詞すっげーしりたい。

650: 2010/05/15(土) 04:10:51.80 ID:Abml3EAO
俺のダンテと違う…

651: 2010/05/15(土) 12:05:07.61 ID:hXb33sDO
俺のダンテだと、かなり苦戦してるな。


 次回へ続く:【禁書×DMC】ダンテ「学園都市か」【その12】


引用: ダンテ「学園都市か」【MISSION 03】