226: 2010/08/22(日) 16:26:23.82 ID:LRi8jbso


最初から読む:【禁書×DMC】ダンテ「学園都市か」

前回:【禁書×DMC】ダンテ「学園都市か」【その16】

一覧:ダンテ「学園都市か」シリーズ


準備と休息編

―――

デュマーリ島。

この名は、新大陸の外れにあるとある二つ島の事を指す。

南北20km東西15kmの北島『デュマーリ=セプテントリオ』。

その南東、幅4kmの海峡を挟んで寄り添っている南島『デュマーリ=メリディエス』。
南北40km、東西17km。


この南島が、近世になってデュマーリ島の名を世界に知らしめる引き金となった。

40年前、この二つの島の権利を手に入れたウロボロス社が、
南島の地下に莫大な規模のレアメタル鉱脈を発見。

今のような精密電子機器が一般に行き渡っていない当時から、
ウロボロス社は先を見てこの島の開発に専念する。


その結果、2000年以上もほとんど変化が無かったこの島の風景画一変する。

以前のデュマーリ島の面影を残すのは、
南島の南端にある寂れた廃村周辺のみ。


北島には高層ビルが連なる近代都市が広がり。
更にその下には、地上の規模を遥かに凌ぐ研究・開発の為の地下都市。

そして南島には、採掘施設と直結する形でその上に工場施設が立ち並ぶ。


島の人口は50万人。
その98%は北島に集中している。
ウロボロス社社員、技術者、工員、そしてその家族等だ。
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227: 2010/08/22(日) 16:30:49.55 ID:LRi8jbso
ウロボロス社の本社は別にあるが、
この島が実質的な心臓部と言っても過言ではない。


世界的軍事大企業ウロボロス社。


その心臓部であるデュマーリ島の名が知れ渡るのも当然。

だが、この島の実像は全くといって言い程に知られていない。

学園都市にも引けを取らない、厳重な情報・渡航規制が敷かれているのだ。
いや、学園都市よりも厳重だ。


地理的観点から見ると、この島は隣接する某超大国の領土ではあるが、
ここも学園都市と同じく完全自治権を有する『独立国家』だ。

周囲の海域には重武装の警戒艇やヘリが行きかい、
海底には最新の聴音・ソナー網が隙間無く張り巡らされ、
島の周囲にはあらゆるセンサーが取り付けられている物々しい堤防が連なっている。

防空網も強固であり、最新のレーダーや衛星とリンクした監視網、
高出力マイクロ波攻撃を行える無人機から、様々な迎撃用レーザー兵器等々、
正に難攻不落の要塞島である。


この内側で、ウロボロス社は人知れず様々な研究開発を行っているのである。
それも最先端技術を出し渋る学園都市とは違い、実際に大量生産し輸出される為のモノを だ。


『技術のデモンストレーション』ではなく、実際に戦場で使われる為の兵器を だ。

228: 2010/08/22(日) 16:32:48.18 ID:LRi8jbso

これ程の厳重さ。
一見すると度を越していると感じるかもしれない。

だが決して過剰ではない。

実際にこの島を標的にしたテロが後を絶たないのだ。

以前には、小型の核兵器が持ちこまれそうになった事件なんかもある。
当然全て未然に防がれたのだが。


こういう背景もあり、『まああの島ならばそれも仕方無いだろう』 というのが世間の認識である。

危険な火種となりうる施設を一箇所に集める事が、
テロに巻き込まれる一般被害を未然に防ぐ形にもなっている、と一部からは賞賛もされている。


禍の種である闇を一箇所に集めている と。


だが外の人々はデュマーリ島の真の姿を知らない。
いや、この島に住んでいる者達のほとんども知らない。


この島の深淵にある『本物の闇』の事は。

229: 2010/08/22(日) 16:35:37.46 ID:LRi8jbso

ウロボロス社、その創始者でありCEOであるアリウスがなぜこの島に目をつけたのか。
それはレアメタルの大鉱脈なんかでは無い。

そんな『小さなモノ』の為ではない。


ここに彼が真に求めるモノの『手がかり』があったからだ。


魔界魔術を極め、そして強大な力に魅了されたアリウスが望むモノへの。



デュマーリ島。

そこはスパーダと覇王の最後の戦いの場。

この地で覇王は敗れ、そして『虚無の底』に封印された。



その際に作られたのが『アルカナ』と呼ばれる『鍵』であり、
長きに渡って南島の地下深くに隠されていた。

つまり、このレアメタルの鉱脈そのものが隠れ蓑でもあったのだ。


この『鍵』を掘り出す為の。

230: 2010/08/22(日) 16:38:00.07 ID:LRi8jbso

開発が進む中、アリウスは裏でアルカナの発掘作業を進めた。

それと同時にデュマーリ島の闇の底では、様々な悪魔関連の実験が繰り返される事になる。
実験体となる悪魔はもちろん、島内には『人間』も腐る程いる。

それらを使った、非人道的実験も数え切れないほど行われてきた。
住民の失踪に関しては、洗脳魔術でもかけておけば何も問題は無い。

つまり背景や取り扱っている力は違うものの、
裏でやっている事は学園都市もウロボロス社も似ているのだ。

それどころか学園都市における御坂のような、闇に抵抗する者すら出てこない以上、
ウロボロス社の方がかなり徹底していたと言えるだろう。


これはトップの性格の違いでもあるだろうが。

一方のアレイスターは『偶然』を誘発させ、それらの因子を利用してプランを急速に進めていく。
強い刺激を与えて育てていくといった、ギャンブル性の強いやり方だ。


かたやもう一方のアリウスは当初の計画通り慎重に、
段階を確実に踏んでいきながら手堅く進んでいくやり方だ。

だが、慎重だからといって臆病という訳では無い。

計画通りに少しずつ進めるのだが、その計画内容は大胆極まりないのだ。

231: 2010/08/22(日) 16:39:30.13 ID:LRi8jbso
そんな『計画通り』を第一にしているアリウス。
彼は今、その貫いてきた理念を曲げざるを得ないのを感じていた。


北島『デュマーリ=セプテントリオ』を覆う大都市。
その中でも一際高く聳え立っている、地上580mにも達するビル。

そこの最上階のホールにアリウスはいた。

上質な椅子に深く腰かけ、葉巻を燻らせ、左手には水晶型の通信霊装を持ちながら。
彼の横には奇妙な古めかしい杖が宙に浮いていた。

『アルカナ』だ。


アリウス「…………」

覇王の封印を解く為の『鍵』は全て揃った。

あとは自分と融合できるよう少し調整するだけであり、
アリウスの『方』では三日もあれば準備が整う。


アリウスの『方』は だ。

今の問題は別の『方』。
彼を不機嫌にさせているのもそれだ。


フィアンマの『方』だ。

232: 2010/08/22(日) 16:40:23.65 ID:LRi8jbso

アリウス「…………ふん…………それでだ…………」


アリウスは苛立ちを隠さぬままを開く。


アリウス「―――随分と無様な結果だな。小僧」


通信霊装の向こうの―――。






フィアンマ『―――そう言わないでくれ』





―――学園都市にいる共謀者に対し。





フィアンマ『俺様とて好き好んで「ここ」にいる訳じゃあない』

233: 2010/08/22(日) 16:44:40.11 ID:LRi8jbso

アリウス「ハッ。そのザマになったのも自惚れるからだ」

フィアンマ『それは否定しないが、お前もわかるだろう?不測な事態が立て続けに起こったんだ』

アリウス「それは単にお前の判断ミスが積み重なっただけだ。己の経験不足を呪うんだな」

アリウス「悪魔と戦うのは初めてだったのだろう?言った筈だ」


アリウス「お前のそのチャチな『幸運』とやらは『魔』に通じんとな」


フィアンマ『はは、随分と言ってくれるな……』

アリウス「……それで用件は?」


フィアンマ『……俺様はこの通り、「肉体が無い」んでな。お前に天界の口も開けてもらいたい』


アリウス「……それはお前に言われなくともやる」

アリウス「『戦争』は必要だからな」


フィアンマ『天界の「鍵」は一週間もあれば複製できるだろう?どうせお前の事だ。影で情報を抜いていただろう?』


アリウス「お前があえて俺に流したのだろう?気付かないとでも思ったか」


フィアンマ『ははは、そうだろうな』


アリウス「生意気な口を叩くな小僧。俺はここでお前を切っても良いのだぞ?」


フィアンマ「……だろうな。だが俺様を切ったら『創造』は手に入らない。違うか?」


フィアンマ「『創造』の力が無いと『完全体』にはなれんと思うが?」

234: 2010/08/22(日) 16:46:30.66 ID:LRi8jbso
アリウス「…………」

ピクリと眉を動かすアリウス。

そう、『創造』が無いとアリウスが望む『全能』にはなれない。

覇王と、封印の底にあるスパーダの力。
それだけでもかなりの存在にはなれる。

だが、それだけじゃあダメだ。


覇王とスパーダ。

その強大な礎の上で創造の力を行使し、そして己を新たな唯一無比の存在へと創り変える。
スパーダの一族やジュベレウスすら敵ではない、想像を絶する力を持った『人間』へと。


『人間』として、だ。


勘違いされがちだが、彼は強大な力に魅了されているだけであり、
決して『悪魔になろう』としている訳では無い。

逆に人間としての誇りを持っている。
それは一般からすればかなり歪んでいるようにも見えるが。

いや、その誇りが強すぎるのだ。

アレイスターにかつて放った、『最期に勝つのは人間だ』という言葉は嘘ではない。
悪魔も天使も何もかもを越えた、頂点に君臨する『全能の人間』となるのが彼の野望だ。


そして『創造』が無いとその境地にはたどり着けない。


覇王とスパーダを手に入れただけでは、
悪魔に転生したままで終わる。


これでは意味がないのだ。

235: 2010/08/22(日) 16:49:50.34 ID:LRi8jbso
魔帝の氏で一時は諦めかけた夢。

アリウス「……」

これも人間の性か、彼は二度目の諦めはどうしてもできなかった。
この恵みともいえるチャンスを逃す『勇気』は無かった。


その『高み』を見定めてしまった以上、今更妥協などできない。

もう覇王とスパーダだけでは納得できない。


アリウス「……いいだろう」


フィアンマ『はは、良かったよ。さすがに拒否されたら俺様もどうしようもないからな』


アリウス「…………それでだ。当然、お前は『戻る方法』は既に見つけているんだろうな?」


フィアンマ『心配しなくても良い』


フィアンマ『俺様はただ時期を待つだけで良い』




フィアンマ『アレイスターが全てやってくれる―――』




フィアンマ『―――何も知らずにあの男は俺を「復活」させてしまうのさ』

236: 2010/08/22(日) 16:54:05.85 ID:LRi8jbso
フィアンマ『器に使うであろう能力者のガキもな、ちょうど俺様の目の前で進化した』

フィアンマ『殺さなくてよかったよ全く』


フィアンマ『アレイスター風に言えば「ホルス」の世代の「種」か』


アリウス「そのガキは『界』を超えたのか?」


フィアンマ『腕だけな。まあ、一旦変化が始まったらすぐだ』


フィアンマ『で、俺様の「復活」もすぐ、と』


アリウス「ふん」


フィアンマ『この点ではアレイスターに感謝すべきだな』

フィアンマ『「手」の「結合」の手間も大きく省けるしな』


アリウス「それにしてもだ。お前は良くそんな所に潜り込んだな。中々やるな。まるでゴキブリだ」


フィアンマ『……賞賛の意もあるのだろうが、全く嬉しくないなその言葉は』


フィアンマ『まあ、アレイスターがこの「手」の事を詳しく知らなかったのも幸いだ』

フィアンマ『右方の前任者がこの「力」を使わなかった事にも感謝しなければな』

237: 2010/08/22(日) 16:56:11.08 ID:LRi8jbso
アリウス「お前もその力を使うのは初めてだったのだろう?」

フィアンマ『そうだ。一か八かで使ってしまったよ。恐らく本当に使った右方は俺様が初だろうな』

アリウス「それにしても厄介な技だ」


フィアンマ『だがまあ、今の学園都市でなくては意味を成さないからな。この状況があってこその結果だ』


アリウス「ハッ」


フィアンマ『そうだ。そいういえばな、面白い話を聞いた』

アリウス「なんだ?」


フィアンマ『アレイスター、どうやらお前が天界の口を開けるのを察知しててな』

フィアンマ『お前のところに能力者の部隊を送る気だ』


アリウス「ほぉ……」

238: 2010/08/22(日) 17:00:37.55 ID:LRi8jbso
フィアンマ『油断はしない方がいい。お前にとってはゴミ同然だろうが、一人注意するべき人物がいる』

フィアンマ『覚醒してるアラストルを所持した女だ。バージルともある程度やり合ったようだ』

フィアンマ『そこにフォルトゥナ騎士団やスパーダの孫の行動が重なれば、色々と面倒な事になるだろうな』

フィアンマ『ダンテもどう動くかはわからん』

フィアンマ『しっかり頼むよ?お前が潰されたら俺様も終わりだからな』


アリウス「ふん……」


フィアンマ『それと「エサ」がこっちにいるのだが。マーキングは完了してるのか?』

アリウス「まあな。ちょっとした『オマケ』も一緒だ。アレでスパーダの孫は一週間は俺に手を出せんだろうよ」

フィアンマ『はは、「あれ」か……お前も随分とセコイ手を使うな』


アリウス「貴様に言われたくは無いな」


フィアンマ『ま、お互い様だ。人間らしく存分に足掻こうじゃないか』


アリウス「ハッ…………それでだ……『連中』はどうなんだ?」



フィアンマ『…………バージルと魔女……か』

239: 2010/08/22(日) 17:03:31.99 ID:LRi8jbso

アリウス「なぜバージルがそこにいた?奴は何を企んでいる?」


フィアンマ『知っていたらこんな苦労はしない』


アリウス「……」


フィアンマ『今更情報収集に専念する事はできない』

フィアンマ『あんな連中の事を懸念していたら一歩も進めなくなるだろう?』

フィアンマ『とにかく、今は出来るだけ事を速く進めるべきだ』


フィアンマ『幕は上がったのだからな。歩みを緩める訳にはいかない』


アリウス「……」


フィアンマ『お前はさっさと口を開けて、覇王とスパーダ、ついでにスパーダの孫の力も手に入れろ』

フィアンマ『そうすれば連中にも正面から対抗できる』


アリウス「黙れ小僧。貴様に指図されずともやるわ」


フィアンマ『はは、それはそれは頼もしい』


―――

246: 2010/08/22(日) 23:24:53.20 ID:LRi8jbso
―――

とある病棟の一階。

複数の長椅子と薄型テレビが設置されている大きなフロア。
つけっ放しのテレビから響く、緊急放送の機械的な声。


その大きなフロアの片隅で、とある二人の少女が向かい合って硬直していた。
お互いの距離は5m。


一方は瞳を見開き、瞬きもせずに無表情の赤毛の幼い少女。

警戒心の篭められた鋭い眼差しのルシア。
警察犬が吠えも唸りもせずに、耳を立ててジッと見据えているように。



もう一方はその強烈な目に囚われて、
金縛りにあったかのように固まっている佐天。


佐天「………………ッ…………!!!」

全身から冷や汗を噴き出し、一歩も動けない。


どうしてこうなったのか。

247: 2010/08/22(日) 23:29:25.06 ID:LRi8jbso
自動販売機で苦戦しているルシアを助けようと、親切心から彼女に近付いていった佐天。
当然、ルシアは未確認人物の急な接近に反応する。

佐天が彼女まであと5mというところまで来た時。

ルシアは突如振り返り、佐天をその強烈な視線で押し留めたのだ。

まだ人間との交流経験が少ないルシアは、
佐天は何が目的で近付いてきたのかがよくわからないのだ。


そこに警戒心が生まれるのもまた当然。

確かに相手はどっからどう見ても、『匂い』もただの人間であり、
ルシアやトリッシュといるキリエにどうこうできるとは思えない。

だがルシアは決して油断はしない。


一方の佐天は。


佐天「……………………(ちょ、ちょっと…………これ……)」


久しぶりのこの『悪寒』。
デパートでの悪夢が脳裏を過ぎる。

この体の芯が急激に凍り付いていくような、
それでいてジリジリと焼き焦がされていく感覚。

佐天はその前回の経験から本能的に感じ取る。

この子は人間じゃない、と。

248: 2010/08/22(日) 23:31:09.24 ID:LRi8jbso
と、感じてはいたが。

佐天の心はあまり焦燥してはいなかった。

佐天「…………」

というのも何となくだが、あの瞳がネロに似ているような気がしたのだ。
全体の雰囲気もだ。

というか服装の系統もどことなく似ているような。

かなり一方的なのだが、佐天はこの目の前の赤毛の少女に対し、
勝手に親近感を持ってしまっていたのだ。

そして幸いな事に。


ルシアの側でも、似たような事が起きていた。


ルシア「……」

彼女はふと佐天の髪飾りに気付いた。
極僅かにだが、ネロの匂いがする髪飾りに。

そしてこう判断していく。

『この女はネロと何らかの面識があるかもしれない』

『人間の子供であるから、敵対関係とは考えにくい』

『こちらを欺こうと、何らかの術式で姿を変えている痕跡もない』、と。

249: 2010/08/22(日) 23:32:55.72 ID:LRi8jbso

警戒心を解いていったルシアの眼差しから威圧が消えていく。

と同時に、今度は佐天の事など一切気にする風なく、
ルシアは再び自販機の方へと目を戻した。

そしてまた同じく、自動販売機を軽く叩いては首を傾げて、と。


佐天「………………………………え、えーっと…………」


強烈な威圧から解放された佐天がようやく口を開き、そして一歩前に進む。

と同時にルシアはまたまた佐天のほうへと振り向く。
今度は威圧的な無表情ではなく、どことなくキョトンとした顔で。
何か用ですか?とでも言いたげにだ。


佐天「……ハ、ハロー……アーっと…………ジャパニーズ……アンダスタンド?」



ルシア「あ……に、日本語わかります」


佐天のたどたどしい英語に対し、
少し戸惑いつつも流暢な日本語で言葉を返すルシア。

250: 2010/08/22(日) 23:36:16.27 ID:LRi8jbso

佐天「あ、そ、そう!!えーっと…………飲み物買いたいのかな?」

お互いの距離は開いたままで、少しよそよそしい会話が続く。


ルシア「……はい」


佐天「…………買い方、わからないのかな?」


ルシア「はい」


佐天「じゃあ……お姉さんが教えてあげよっか?」


ルシア「…………………………………………」

その佐天の言葉を聞き、自販機と佐天の顔を交互に見るルシア。

そして視線を4往復させた後。


ルシア「……お願いします」

ペコリと頭を下げるルシア。


佐天「よっしきたぁ!!!!!!」

佐天はあっけらかんとした笑みを浮かべ駆け寄り、
ようやくその中途半端だった距離を詰めた。

251: 2010/08/22(日) 23:38:10.06 ID:LRi8jbso

佐天「じゃぁ……それ貸して!」

佐天に促され、ルシアは右手に持っていた硬貨を佐天に手渡し。

佐天「一番最初にね、お金はここに入れるの」

佐天はその硬貨を専用の口へと入れた。

次の瞬間自販機のボタンのランプが付き、
それを見たルシアは驚いたのか、僅かに体を小さく揺らした。

佐天「よしっと、これで欲しいとこのボタンを押せば買えるよ」

少し誇らしげに笑いながら、傍らの赤毛の少女の顔を見る佐天。


ルシア「……水は……どれですか?」

佐天「えっと水?水ならここはタダで貰えると思うけど……」


ルシア「…………ではワインはありますか?」


佐天「ワ……さ、さすがにそれは無いなあ」


ルシア「……では……お茶はありますか?」

252: 2010/08/22(日) 23:43:11.91 ID:LRi8jbso

佐天「お茶……」

自販機に目を戻す佐天。

お茶、と言っても色々な種類がある。

パパイヤ風味、焼肉風味等々。

学園都市住みの佐天にとっては普通なのだが、
学園都市の外ではこれらがかなりのキワモノとして扱われてる位は知っている。


佐天「(……無難なのでいった方がイイよねやっぱり)」

ここは普通のを選んだ方が良いのは当然。


佐天「OKOK、お茶ね♪」


普通の冷たい緑茶のボタンを押す佐天。


ガタンと取り出し口にペットボトルが落ちる音。
そこでまたルシアはビクッと体を小さく揺らし怪訝な表情を浮かべた。

253: 2010/08/22(日) 23:45:32.74 ID:LRi8jbso

そんな彼女が見守る中、佐天はペットボトルを取り出し。

佐天「はいどうぞ♪」

にっこり微笑みながらルシアに手渡した。


ルシア「…………?????????」

ルシアはそのペットボトルを両手で恐る恐る受け取ると、
角度を変えながらまじまじと観察し始めた。

『お茶』と言えば、『カップに入ってる暖かい紅茶』というのがルシアの中での小さな常識。

だが今手の中にあるのは、母マティエがいつも作ってくれた『お茶』とは似ても似つかない。

『妙な容器に入っている冷たい液体』だ。
どこからどうやって飲むのかもわからない。

香りもしてこない。

というかこの容器のままで出てくるとは思ってもいなかったのだ。

あのディスプレイのところに置いてあるのはタンクか何かで、
そこからカップに注がれるとルシアは思っていたのだ。

254: 2010/08/22(日) 23:49:31.53 ID:LRi8jbso
佐天「……(ペットボトルも……知らないのかな?)」

そのルシアの仕草を見て、佐天も何となく彼女の困惑に気付いた。
さながら、時代を飛び越えてきた100年前の女の子、といった感じだろうか。

佐天「っとね、そこの先っちょの部分をこう、クイッと軽く回せば蓋が開くよ」

ジェスチャーを交えて、ルシアに優しく促す佐天。

ルシア「?」

佐天の仕草を真似て、ペットボトルの蓋の部分を握るルシア。

佐天「クイッと、ほら、こうクイッと」

ルシア「…………くいっ……と?」

メキンと『バリ』が裂ける音がし、蓋が一回転。
そこでまたルシアが驚き手を止める。

容器を壊してしまったとでも思ったのだろう。

佐天「ううん、そのままでいいんだよ。そのままクルクルッてまわして」

ルシア「…………?」

佐天に促されるまま、恐る恐る蓋を回し。

佐天「ほ~ら!そこから飲めるよ!」


ルシア「!!」

ようやくルシアはお茶にありつく事ができた。
『冷たい奇妙なお茶』だが。

255: 2010/08/22(日) 23:51:20.80 ID:LRi8jbso
ペットボトルを両手で握り締めたたまま、
その場で口をつけゆっくりと一口飲むルシア。

佐天「……どう?おいしい?」

その佐天の言葉に、ルシアは嬉しそうに微笑み返し小さく頷いた。

佐天「よしよし!よくできました!!」



ルシアの笑みは、ただ飲み物を手に入れたという事だけに対してでは無い。

本当の意味で『生』を知って未だ数週間。
こうした小さくささやかな出来事も、ルシアにとっては大きな大きな宝物なのだ。

人間との関わりが何よりも嬉しい。
人間の優しさと温もりが何よりも彼女の心を充実させていく。


この世界と人類へ向けた少女の淡い『初恋』。


人造悪魔という忌まわしき存在である以上、どんなに近付いてもその恋は決して実らないだろう。
少なくとも彼女自身は幼いながらもそう思っている。


だが彼女は幸せだった。


こういう、小さな小さな人間世界との繋がり。
それが何よりもルシアにとってはかけがえの無いものだった。

256: 2010/08/22(日) 23:53:34.69 ID:LRi8jbso

佐天「♪」

この出来事がルシアにとってどれ程のモノかは露とも知らずに、
佐天は赤毛の少女を穏やかな目で眺めていた。


とその時。


ルシア「―――」

突如目を見開き、ピタリと硬直するルシア。


佐天「?」


ルシア「(帰ってきた!)」

ダンテが帰ってきたのを感じたのだ。


ルシア「あ、あの!!!ありがとう御座いました!!!」

今度はハッとしたかのように、慌てて佐天に頭を下げるルシア。


佐天「え?あ、いーってことよ!!あははははあは!!!」

257: 2010/08/22(日) 23:54:45.17 ID:LRi8jbso
ルシア「で、では……あ、あの失礼します!」

再度ぺこりと頭を下げ、ルシアは踵を返してパタパタとフロアの出口へと向かう。

佐天「―――あ、ちょ、ちょっと待って!!!!!」

とその時、佐天はそんなルシアの小さな背中に慌てて声を飛ばした。

ルシア「はい!?」

落ち着き無く、これまた慌てて振り返るルシア。


佐天「名前教えて!!私は佐天涙子!!!」


ルシア「え……あ!!る、ルシアです!!」


佐天「この病院にしばらくいるの?!」


ルシア「は、はい!!!」


佐天「じゃあ……ね、ねえ!また今度話さない!!!!??」


ルシア「…………は、はい!!お願いします!!」


三度ルシアは頭を下げると、パタパタと廊下の方へと消えていった。

佐天「……ルシアちゃんかぁ……」

その少女の背中が見えなくなって尚、
佐天は廊下の方を見つめていた。

穏やかな笑みを浮かべながら。

―――

275: 2010/08/24(火) 23:55:11.54 ID:hmyUMVAo
―――

とある病棟の廊下の突き当たりにある、小さな談話フロア。
そこのソファーに患者衣を纏った麦野はだらしなく座り、背もたれに頭を預けて天井をボンヤリと仰いでいた。

さすがにあのボロボロの、胸の下着が見えてしまう服を着ている訳にもいかず、
とりあえず病室にあった患者衣に着替えたのだ。

左肩から伸びるアームは今は消している為、患者衣の左手の部分は一応残っている。
僅かに漏れている閃光で肩口のあたりが少し焦げていたが。


麦野「……ふぅぅぅ……ぁぁ……」

チリチリっと小さな閃光を右目眼窩から漏らしながら、
麦野は気の抜けた息を吐く。


アラストル『何しているんだ?マスターに会いに来たんじゃないのか?』

そんな彼女に対し、右脇に立てかけられている銀色の大剣が声が飛んできた。
ややナルシストっぽい、妙なエコーのかかかった脳内に直接響いてくるような声色。


麦野「……うっせえ」


アラストル『全く。人間の思考回路は理解しかねるよ。先程の威勢はどこにいった?』


麦野「……つーかさ、アンタだってアイツの前じゃコロッて態度変わるじゃん。口調も声の高さも」


麦野「なんかこう、“Yes, My Master.” とかって妙にかしこまっちゃってよ」

英語の部分だけを、ダンテを前にしているアラストルに真似て低い声で言う麦野。


アラストル『当然だ。マスターの前だ。無礼は許される訳がないだろう?』

276: 2010/08/24(火) 23:58:40.21 ID:hmyUMVAo
麦野「……」

麦野はそういうのでは無く、裏表がある点に対して言及したつもりなのだが。

だがそんな事は別にどうでも良い。
この妙なガラクタの『性格』など別に興味無い。

聞きたい事は別にある。


麦野「つーか聞くけど、アンタ達って一体何?」

そう、麦野は未だに知らないのだ。
神と呼べる程の存在をダンテに預けられていながら、だ。


アラストル『悪魔だ』


麦野「…………それは何となく聞いてたけどさ、具体的にどんなのよ?」


アラストル『別世界の住人だ』

アラストル『この世界にお前ら人間が存在しているのと同じく、魔界には我々悪魔が存在している』


麦野「……っつーこと事は、アンタも私達と同じ『生き物』って事?」


アラストル『表現上は同じくそう呼べるな。ただ理も法則も全く異なっているが』

277: 2010/08/25(水) 00:02:07.20 ID:rn7q9i.o

アラストル『そうだな……一番わかり安い違いはだ、この世界の生命は物質的な面で縛られている』

アラストル『だが魔界は違う。魔界の生命は「力」に縛られてる』

麦野「……はぁ?」

アラストル『お前らには肉体の物理的限界がある。例えば寿命とかな。「魂と器」が無傷でも、肉体の損壊で簡単に氏ぬ』

麦野「…………はぁ」

アラストル『だが我々魔界の存在は違う。我々は力、魂、器が破壊されれば、肉体が無傷でも命を落とす』

アラストル『逆に言えば、「単なる」肉体の損壊では氏なない。ダメージすら無い』


麦野「……つまり今アンタをへし折って砕いても氏なないって事?」


アラストル『いや。俺を折れる程の攻撃ならば俺は氏ぬかもしれん』


麦野「はぁぁぁ?」


アラストル『これはまた別の事でな。お前ら人間の肉体の強度は決まっているだろう?』

アラストル『お前のような能力者でも、肉体はただの生肉だ。どんなに鍛えようとこの世界の物理的限界は超えられないはずだ』

278: 2010/08/25(水) 00:08:25.83 ID:rn7q9i.o

アラストル『だが我々にはその物理的限界が存在しない。有する力に比例して、肉体も強化する事ができる』

アラストル『いくら肉体の損壊が問題なくとも、いちいち手や足が千切れていたらまともに戦えないだろう?』


麦野「……そりゃあ……」


アラストル『だから悪魔は戦う時は常に肉体の強度を最高に保つ』

アラストル『例外はあるがな。マスターや兄上殿のような、』

アラストル『あまりにも超越している存在は、相手の力量や状況に合わせて強度を決めている』

アラストル『そもそもマスターは娯楽も兼ねているからな』

アラストル『二ヶ月半前や先程の兄上殿との時のような事態でも無い限り、最高強度にはそうそうしない』


麦野「…………その最高強度状態の肉体を壊せば……』

アラストル『そうだ。それは悪魔にとって氏に直結する』

アラストル『ただ「力」で強化された肉体には、「力」で強化された攻撃を叩き込まねばほとんど効果は無い』

アラストル『どれだけ物理的破壊力が高くともな』


アラストル『特に我々のような高位の存在にはな』


アラストル『下等な者達ならば物理的破壊でもそれなりに通じるが、俺のような高位の存在には一切ダメージにならん』

麦野「じゃあ……例えば核兵器が使われてもアンタは無傷って事?」

アラストル『ふん。笑わせる。その程度の「単なる」花火など、例え一万発貰ってもサビにすらならないさ』

麦野「……それじゃあ逆に言えば、物理的破壊力が針で指す程度でも、その『力』が莫大だったら殺せるって事?」

アラストル『そうだ。まあ、大体は力に比例して物理的破壊力も増すがな』

279: 2010/08/25(水) 00:12:03.23 ID:rn7q9i.o

麦野「…………へえ…………あ~……」


アラストル『難しく考えるな。存在する界が違う。根本的に格が違うんだ』

アラストル『紙の上の二次元世界で何をされようと、三次元の書き手と筆には何も影響は無いだろう?』


麦野「……………………まあ……」


アラストル『それと似たような概念だと思えば良い』

麦野「(何言ってんだよコレ。ますますわかんねーよ)」


アラストル『とりあえずそこは深く考えない方が良い。別次元・別の界の事をこの程度で、お前らの思念で理解できる訳も無いからな』

アラストル『そもそも、お前は頭で理解する必要は無いだろう?実際に俺と同化したのだ。本能的に感じることができるはずだが』


麦野「…………さっきの?」


アラストル『そうだ。兄上殿との戦いの際だ。あの時お前は俺と同化して、お前の「理」は魔界のモノとなった』

アラストル『その上での俺の力による強化が無ければ、兄上殿の刃の直撃を受けずとも「圧」だけでお前の肉体が消失していただろうな』


麦野「…………ちょっと待て。確か、前にアクセラレータもバージルと戦ったらしいけど、その時アイツも悪魔の力を使ってたって事?」


アラストル『…………あの白髪の小僧か?俺はその時の戦いを見ていないから確かな事は言えんが……』



アラストル『あの小僧は恐らく、「自分の力」で肉体の強度を上げているぞ』

280: 2010/08/25(水) 00:16:44.15 ID:rn7q9i.o
麦野「はぁ……??じゃあ何??能力者でもできんのその『強化』って??」

アラストル『能力もどうやら「力」の一種だからな。可能と言えば可能だろうな。ただお前は無理だが』

麦野「何??どういう事??」


アラストル『少し見た程度だから断言はできんが、あの小僧は界を越えかけている』

アラストル『「既存」の人間界の理から外れかかっている』

アラストル『それで可能なのだろう。本人は気付いていないかもしれんが、生存本能で無意識下の内に強化されることもある』


麦野「…………」


アラストル『それにだ、あの小僧は自分自身の「力」を使ってるようだ。二ヵ月半前の時点で既にそうだったらしい』

アラストル『俺の感覚だと、お前らも含め他の能力者の「力」は借り物に過ぎん』

アラストル『同じ能力者という枠内であるだろうが、あの小僧とお前らが使っている力は根本的に「格」が違う』

アラストル『あの小僧は特別だ』


麦野「……」

そう言われればそんな気もする。
あの一方通行の黒い腕。
かなり異質だ。

そもそも、普通に考えてあのバージルの刃を生身で受けて生きている訳が無いのだ。
実際に打ち据えた麦野だからわかる。

二ヵ月半前、一方通行はバージルによって瀕氏の重傷を負ったと聞いたが、
あんな刃で切り裂かれて『その程度』で済むはずが無いのだ。

そう考えると、『一方通行が特別』というのも納得できる。

281: 2010/08/25(水) 00:19:31.03 ID:rn7q9i.o

麦野「じゃあさ、アクセラレータはアンタとかとも普通に戦える訳?」


アラストル『はは、それはまた話が別だ』

アラストル『あの小僧程度の者など、魔界には腐る程いる』

アラストル『俺のような列神・諸王の存在にはどう転んでも勝てんよ』

アラストル『良くて地方の田舎領主程度だろうな』


麦野「……は?そっちの魔界とやらにも『領主』とかってあんの?」


アラストル『こっちの言語だとこれが一番意味合いが近いと思うが』


アラストル『魔界のgakillahha語だとlaoatyighh、kajahgga語だとkjhggaeuueだな。kahagff語だと……』

次々と、様々な魔界の言語の該当する単語を口にしていくアラストル。


麦野「はぁ?」

だが当然、『界』が違う麦野には妙なノイズにしか聞こえない。

282: 2010/08/25(水) 00:24:12.63 ID:rn7q9i.o

アラストル『―――jhslia、ytarwiil語だと(ry』


麦野「あー!!!わかったからもう良い!!!普通に話せ!!!」

麦野「で、こっちみたいにそういう、行政システムみたいのあんの?」

アラストル『……行政、ではないな。その地域地域、「界」でトップの奴の事を指す』


アラストル『魔界は「力」の強弱が全てだ。単純に強い者が上に立ち生き永らえる権利を持ち、弱い者は殺されるか奴隷となる』

アラストル『力を強くするには、戦い続けるか他者を喰らい続ける』

アラストル『そして強くなれば強くなるほど、別の強者が戦いを挑んでくる』

アラストル『殺さねば殺される。力の高みに昇る為に他者を頃し喰らい続け、強くなり続ける』

アラストル『敗者は氏ぬか、取り込まれて勝者の力の一部となるか、それとも永遠の奴隷となるか、だ』


アラストル『これが魔界の一番のルールだ。お前ら人間界の者には忌まわしく聞こえるかもしれんが、』


アラストル『我々にとってこれが当たり前なのだ。これが魔界の理だ』


アラストル『お前らが当たり前のように呼吸するのと同じく、我々は戦い頃し合う』


アラストル『お前らが本能的に生の保全を図るように、我々は本能的に力を求める』



麦野「……随ッッッ分殺伐としてるわね………………ちょっと面白そうだけど。いいわねそういう力至上主義って」

283: 2010/08/25(水) 00:35:17.59 ID:rn7q9i.o

アラストル『その戦いを這い上がり、億を越える悪魔を支配しその界を征服した者は「領主」と呼ばれる』

アラストル『この辺りから俗に言う「大悪魔」だな』


麦野「……………………億…………って……!!!」


アラストル『魔界は広いからな。人口も面積も人間界とは比べ物にならんぞ』

アラストル『魔界がこの世界の大洋規模とするなら、人間界の規模は浜の一粒の砂に過ぎん』

アラストル『領主の人数は大体5万だな。ただ広い分、名が知られていない者もいるだろうから、実数はこの1.5倍はあるかもしれん』


麦野「………………………………」


スケールの違いに最早言葉が出ない麦野。
あの一方通行と同等、もしくはそれ以上の奴が5万、場合によってはその1.5倍とかおかしい位にぶっ飛びすぎだろ、と。

先程の『面白そうね』という言葉を発した、自分の『世間知らず』っぷりがアホらしく感じる。


アラストル『そして50以上の領主を支配しうる力を有する者は、人間界の単語で現すと「王」や「神」と呼ばれる』

アラストル『俺やトリッシュがこの位置だ』


麦野「……………………じゃあ……アンタも『王』って事は国とか持ってんの?」

アラストル『これは行政的な意味ではなく「格」の表現だ。皆がみな国や領地を持っている訳では無いさ』

アラストル『悪魔にもそれぞれ個性がある。上の者ほど個性的になりがちだ。力が強くなれば強くなるほど自我の部分が大きくなるからな』

アラストル『国を持ち兵を率いる者もいれば、一人でより強い相手を求めて放浪する者もいる。俗世を捨てひっそりと暮らしている者、』

アラストル『より強い存在の下で、主の為に戦う道を選ぶ俺のような者も。様々さ』

284: 2010/08/25(水) 00:37:23.56 ID:rn7q9i.o

麦野「へえ……つーかさ、アンタも結構スゴイのね」


アラストル『小娘、俺を誰だと思ってる。雷刃魔神「アラストル」だ』


アラストル『お前は今や、自らを遥かに超越した神を手にしているのだ。しっかりと自覚してくれ』


麦野「わかったって。喋る古臭い剣にしか見えないけど、アンタが凄いのはわかるって」

アラストル『ふん、俺の解放された真の姿を見たらそんな減らず口など叩けないさ」

麦野「じゃあ見せなよ。両手合わせて拝んでやるから」

アラストル『……それにはマスターの許可が必要でな…………で、俺は今謹慎中の身だ……』

麦野「なんでよ?」

アラストル『…………少し前に無断で外出してな…………いや、お前にこれを喋る筋合いなど無い』


麦野「あ、そう」


アラストル『それでだ、その「王」と「神」は俺が知る限りじゃ、今の人数は大体800前後だ』


麦野「……………………ちょ、ちょっと待て……アンタとかトリッシュみたいなのが800もいるの?」


アラストル『これでも「2000年前の対人間界戦時」以前に比べれば「三分の一」にまで減ったんだがな』


アラストル『それに俺やトリッシュのような、と言うのは少し間違ってる』

アラストル『同じ「王」や「神」の領域でも、上と下は天と地ほどの差がある』

アラストル『俺やトリッシュはこの位の中では「中の上」だ』

アラストル『俺達よりも強大な存在は200以上はいるだろうな』

285: 2010/08/25(水) 00:41:14.35 ID:rn7q9i.o
麦野「…………なんつーか、もう呆れるしかないわね」

アラストル『お前らが先程話してた天界と比較するとだ』

アラストル『天界にいる、魔界の「領主」と同等の連中は多くても800、魔界の「神」や「王」に比する者は30程度だ』

アラストル『天界の現最高位の四元徳だが、魔界にはそいつらと同等の者が今も100以上はいる』

アラストル『中には遥かに凌ぐ者もな』


麦野「…………は…………ぁ…………」

いきなり言われても具体的にはわからないが、
とにかく魔界という世界のスケールの規格外さはわかる。

もしステイルや土御門が聞いていたらこう思うだろう。
『そりゃあ天界ですら恐れるわけだ』、と。

数も強さも桁違い。

この規格外の規模、そしてその熾烈な競争の中から頭角を現す規格外の『怪物』達。
魔界の『力のピラミッド』は、その裾野の幅に比例して頂点も凄まじい高さなのだ。

これが魔界の強大さの根源だ。


麦野「てかさ、天界と魔界って仲悪いんでしょ?良く言うわよね天使と悪魔は敵だって」


アラストル『まあな。一応今も戦争状態だ』


麦野「じゃあなんでとっとと潰さねーのよ?戦力の差は圧倒的なんでしょ?」

アラストル『今の魔界内ではな、諸王・諸神らが勢力争いしていてな、凄まじい内戦状態なんだ』

麦野「……………………へえ」


アラストル『「外」に構っている余裕など無い』

アラストル『天界のような小勢力の事など、今や誰の眼中にも無いのさ』

286: 2010/08/25(水) 00:47:11.49 ID:rn7q9i.o

麦野「ところで…………アイツ……ダンテってどの位強いの?」

麦野「アンタ達よりも強いのはわかるけど、その魔界の基準とやらじゃどの辺よ?」


アラストル『最強だ』


麦野「…………!」


アラストル『頂点さ。マスターと兄上殿、一対一の決闘でこの二方に勝てる者は今の魔界にはいない』

アラストル『どの王も神も勝てん』


麦野「………………………………………!!!!!」


アラストル『単体で強いのなら「魔帝」がいたが、マスターと兄上殿、そして兄上殿の息子の三人に破れた』

アラストル『そもそも距離を詰めた接近戦に限定すれば、マスター達は一人でも魔帝を圧倒できるしな』


麦野「良くわかんないけど…………じゃあアイツらより強いのは今どこにもいないって事?』


アラストル『いや……魔帝よりも強いジュベレウスを屠った例の魔女ならば…………』

アラストル『…………いや待て。そもそも魔女は魔を召喚して力を借りている…………』


麦野「……………………は?」

287: 2010/08/25(水) 00:50:36.06 ID:rn7q9i.o

アラストル『ジュベレウスの際は確か……「クイーン=シバ」を召喚したと聞いたが……』

アラストル『いや、そもそも「クイーン=シバ」は単一の悪魔ではなく「魔界そのもの」の「力場」の……』

アラストル『そうだな……アレは完全に反則だな……』


アラストル『アレがOKならばマスター達も……いや……それは無理か……?』


麦野「…………何ブツブツ一人で言ってんのよ?」


アラストル『いやすまん…………「単体」で強い者は俺の知る限り、存在しないな。「互角」はいくらかいるが』

アラストル『まあマスター達や例の魔女、魔帝やジュベレウスの領域になると、相性の問題がより強く絡むから一概には言えないな』

アラストル『魔帝のような、力の強弱が関係無い反則的な力を持っている場合もあるしな』

アラストル『そもそもどんな状況で戦うかでかなり変わる』


アラストル『俺が断言できるような事では無い』


麦野「…………ねえ、マテイとかジュベ何とかって誰よ。それに魔女って」

288: 2010/08/25(水) 00:53:37.71 ID:rn7q9i.o

アラストル『魔帝はかつて魔界に君臨していた統一王だ』

麦野「統一?さっき魔界は内戦中って言わなかった?」


アラストル『そうだ。だが魔帝は2000年前に玉座から引き摺り下ろされ、そして二ヵ月半前にマスター達の手で滅んだ』

麦野「!!!」

アラストル『だから実質、マスター達が今の魔界の基準では最強なのさ』

アラストル『更に言うとな、魔界のルールからしたらマスター達が魔界の頂点の座に付くべきなのだがな、』

アラストル『あの通り本人達はその玉座には一切興味が無い』


アラストル『だから今、その空座を巡って内戦が激化しているのさ』


麦野「そう……で、ジュベ何とかって?」

アラストル『主神ジュベレウス』


アラストル『約1500万年前、魔帝・覇王そしてスパーダの三人によって敗れた、全ての世界を統べていた最上主神だ』

アラストル『そのスパーダがマスターと兄上殿の父君だ』


麦野「父…………はおうってのは?」


アラストル『当時の魔界の三番手だ』

麦野「……じゃあ、アイツらのおやっさんは?」

289: 2010/08/25(水) 00:55:55.80 ID:rn7q9i.o

アラストル『スパーダの地位は二番手だったな。「単純」な力量は魔帝をも凌いでいたが』

麦野「じゃあ何で二番手なのよ?」

アラストル『父君は支配欲はなかったからな。それに魔帝の無二の友でもあった』

アラストル『そもそも、この二人が戦っても「完全」な決着はつかん』


麦野「何でよ?おやっさんの方が強かったんでしょ?」


アラストル『単純な戦闘能力はな。だが魔帝にはそれとは別に特殊な力があってな』

アラストル『覇王も同じく特殊な力を持っていてな』

麦野「?」

アラストル『まあ色々あるという事だ。先程言ったとおり、この領域は誰が誰よりも強いなどとそう断言できんのさ』

麦野「……あ、そう」

アラストル『それと、覇王についてはお前らにも関係あるぞ?』


麦野「何で?」

290: 2010/08/25(水) 00:57:57.87 ID:rn7q9i.o

アラストル『お前らの標的のアリウスという男はな、この覇王を復活させようとしている』

麦野「っ……!!!」

アラストル『まあ、その方面ではマスター達が何らかの手を撃つと思うがな』

アラストル『一応言っておこう。もし鉢合わせたら逃げるぞ。俺でもどうしようもないからな』


麦野「……アンタより強いの?」


アラストル『当たり前だ。魔帝と父君がいなくなった後、あの魔界をたった二ヶ月で三分の二まで掌握した者だぞ?』

アラストル『俺があの「怪物」に敵う訳が無いだろうが』

アラストル『マスター達か、例の魔女じゃないと相手にできんよ』


麦野「………………その魔女って?」


アラストル『アンブラの魔女。一応人間なのだが、生まれながらにして「魔」でもある者達だ』

アラストル『お前ら普通の人間とは全く別の「界」にいる者だ』


麦野「…………?」

291: 2010/08/25(水) 01:01:32.77 ID:rn7q9i.o

アラストル『この者達は、我等から言わせてもかなり異質でな』

アラストル『彼女達自身の力も強大だが、それ以上なのが「召喚技術」だ』

麦野「召喚?」

アラストル『原理は詳しくは知らんがな、それを極めた者は魔界の諸王・諸神と同化でき、その強大な力を自由に扱えるらしい』

アラストル『強者となれば、一人で何体もの王や神の力を使う事も可能だと』

麦野「……それってスッゴク強くなれるんじゃ……」

アラストル『そうなるな』


アラストル『中には「魔界そのもの」、我等が「クイーン=シバ」と呼んでいる存在の召喚に成功した者もいるらしい』

アラストル『その瞬間火力はマスター達をも上回るだろうな』

アラストル『ただ瞬間火力は、だ。どちらが強いかはまた別の話になる』

アラストル『そもそも「クイーン=シバ」の「性質上」、これをマスター達相手に使えるかどうかはわからんしな……』

麦野「…………はい?」


アラストル『いや……最後の部分は気にするな』

アラストル『でな、この魔女の生き残りがつい最近ジュベレウスに止めを刺した』

アラストル『「クイーン=シバ」を使ってな』


麦野「……へえ……なんつーか、色々と凄いわね色々と……」


麦野「頭がこんがらってきたけど」

292: 2010/08/25(水) 01:04:59.26 ID:rn7q9i.o

アラストル『無理して覚えるな。人間の思考力など所詮高が知れている。雰囲気だけを掴め』


麦野「あ?私の事バカだっつってんの?」


アラストル『なに、そう悔しがる事ではないさ。人間と高位の悪魔じゃデキが違うからな』

麦野「……舐めてんじゃねーぞガラクタ。テメェで生ゴミ箱引っ掻き回すぞ」

麦野「ぐっちゃぐっちゃのゲチョゲチョになりてーの?」

麦野「それともお花付けたり模様書いたりして、カッッワイイデコレーションしてあっげようかにゃーん?」


アラストル『…………口を慎めよ小娘。俺を誰だと思ってる?』

麦野「テメェこそ。『今の主』は誰だと思ってんだよ」

麦野「私がアイツからお前を預かった。こっちはアイツのお墨付きなんだっつーの」

アラストル『…………』


麦野「じゃあじゃあそれを踏まえて聞きましょーねぇん。テメェの今の主は?」


アラストル『…………』


麦野「さっさと言えよコラ。落描きすっぞ」


アラストル『………………………………お前だ』


麦野「よろっっっすい」

293: 2010/08/25(水) 01:08:23.40 ID:rn7q9i.o
とその時。

廊下の先からパタパタと走ってくる赤毛の少女の姿。
ルシアだ。

麦野「……」

ルシアはそのまま走ってきて、ソファーに座っている麦野の前で立ち止まった。

麦野「何?」

ルシア「あ、あの……暇潰してないで来いって……」

ルシア「ダンテさんとトリッシュさんが……」

麦野「!」

ダンテの名を聞き、ビクッと一瞬身を硬直させる麦野。


アラストル『ほら。さっさと行けよ。マスター代理』


麦野「……!」


アラストル『立てよ。行かないのか?マスター代理。ほれ。行くぞ?おら。何をして(ry』


麦野「う、うっせぇ!!!!!!!」


―――

294: 2010/08/25(水) 01:12:21.53 ID:rn7q9i.o

―――


何も見えない。

感じるのはズキン、ズキンと鼓動のような『胸の鈍痛』だけ。

それ以外には何も感じない。

触覚も。
気配も。
温度も。
匂いも。

それでいながら意識だけは妙にはっきりとしている。

「………………」

その明瞭な意識の中にあるもの。


それは罪悪感。

それは嫌悪感。

形容しがたいほどに凄まじい後悔の念。


295: 2010/08/25(水) 01:14:53.97 ID:rn7q9i.o

聖人。

天使。

その存在の真実が、守ろうとしていた者達をどれ程までに傷つけていたことか。
どれ程の人間の犠牲の上にあったのだろうか。

何も疑問を抱かずに使ってきたこの力。

その力は一体何人の人間の『命』だったのだろうか。

千か。万か。いや、高位の天使に匹敵する力を使った以上、『億』に届くかもしれない。


彼女は心優しい。
高潔でそして清い心の持ち主。

そんな彼女だからこそ、この真実には耐えがたかった。
とてつもない自責の念に押し潰されてしまった。

「…………あぁぁ…………」

彼女にとって、これが何よりも苦痛だった。


何よりも。


肉体の痛みよりも。
肉体の陵辱よりも。


素晴らしいほどに清い精神から来る、この自責の念が何よりも耐え難かった。


これが彼女に与えられた罰。

これが彼女に課された地獄。

彼女の『芯』を折り、叩き潰し続ける苦痛。

296: 2010/08/25(水) 01:16:42.61 ID:rn7q9i.o

気が狂えばどんなに楽か。

精神が消失してしまったらどんなに楽か。

だが意識は以前明瞭としたまま。


「…………」


時を刻んでいるかのような胸の鈍痛。

それが否応無く彼女を向き合わせる。

己の存在の罪に。


目を背ける事ができない。


「…………」


『完全な氏』という許しは与えられないのだろうか。


永遠の時をこのまま過すのだろうか。


―――と思ったのも束の間。

297: 2010/08/25(水) 01:19:23.57 ID:rn7q9i.o
ふと気が付くと。

「………………………?」

彼女は古めかしい白亜の大きなホールの中央に立っていた。
つまり、視覚が戻っていたのだ。

自分の体をぼんやりと見る。

そして目に入る己の胸を貫いている『愛刀』。

「………………」

彼女はおぼろげに自分の身に起こったことを思い出した。

そう、己は敗北しこの愛刀で胸を貫かれたのだ。


そして彼女はゆっくりと顔を上げ、周囲へと目を向けた。

そこは球天井の、列柱に囲まれた円形のホール。

「…………」

その列柱のところに沿って、彼女を取り囲むように並んでいる奇妙な女性達。


人数は25人。


皆、彫像のように白い無表情で彼女を見つめていた。
いや、本当に彫像なのかもしれない と思える程に血の気の無い顔で。

異常な程に整った顔立ちや、非の打ち所の無いスタイルがその感をより一層際立たせていた。


袖口や裾は大きく開いているが、体の部分は肌に密着している豪華な衣服を纏っている。
全体の雰囲気は修道服に似ているだろうか、だがその荘厳な装飾はまるで王族や貴族のようだ。

彼女達は手に皆それぞれ違う武器を持っていた。
古代ローマのグラディウス風の剣、クレイモアのような長剣、クロスボウ、ハルバード、等その種類は様々。
中には日本刀らしき物を持っている者も。

どうやら時計回り順に、武器の類が近代的になっていっているようだった。

11時方向を越えた女性は、フリントロック式の拳銃を両手に一丁ずつ持っていた。

298: 2010/08/25(水) 01:20:52.66 ID:rn7q9i.o
「…………」

そして彼女達の頭上には、赤い光の紋章と奇妙な文字が浮かび上がっていた。

その奇妙な文字。
見たことは無い。

だがなぜか一目で意味がわかった。

あれは『エノク語の数字』だと。

武器の系統が古い所から『1』、一番最後のフリントロック式の拳銃を持っている者の上の数字は『26』。


25人で『26』。


そう、一つ数字が欠けていた。

その数字は『10』。


「…………」


と、彼女がその点に気付いた時。



『さて、気分はいかがかな?』



突如背後から聞こえてきた、透き通りつつも湿っぽい妖艶な女性の声。
口調は威厳のあるモノだがその声色が妙に色っぽい。

299: 2010/08/25(水) 01:25:04.31 ID:rn7q9i.o
「!」

彼女が慌てて振り返ると。

3m程の所に一人の女がいつのまにか立っていた。

周囲に立っている女性等と同じく豪奢な衣服を身に纏ってはいたが、
それだけではなかった。

その上に羽織っている、カラスの羽のような飾りが付いた黒いマント。
そして顔の上半分を隠している、鳥の頭蓋骨のような不気味な仮面。

手には武器のような物は持っていなかったが、手首には大量の腕輪。


周囲の女性達とは何かが違う。

仮面の下から見える口も、周りの者とは違い薄い笑みを浮かべていた。

鳥の頭蓋骨状、その仮面の眼窩の向こうに見える瞳も生気が宿っていた。

少なくとも感情の色が見える。


『驚かしたか?まあまず自己紹介せねばな』

仮面の女が薄く笑いながら、呆然としている彼女に対し言葉を続ける。




『我は「第10代」アンブラが長―――』





『―――魔女王アイゼン』


300: 2010/08/25(水) 01:26:08.36 ID:rn7q9i.o

魔女王アイゼン。
そう、女は両手を広げ少し顎を上げて誇らしげに名乗った。


「…………魔女王…………?」

だが彼女は魔女の事など何も知らない。
名乗りから王族、長なのはわかるがそれ以上の事は何も。


そんな彼女の様子に気付いたアイゼン。

アイゼン『ほれ、「クイーン=シバ」の召喚式を完成させ、初めて召喚に成功した者と言えば……………………わからぬか』


「……?」


アイゼン『22の魔界の王・神にアンブラへの専属契約を結ばせ、下々の者でもウィケッドウィーブを扱えるようにした……』

「…………?…………いえ……」

アイゼン『これでもわからぬか。仕方無い。大ヒントだ。『長の証』の腕輪を作ったのが我だ』


「………………………?…………………あのう……」


アイゼン『…………』

「…………」



アイゼン『―――――――――貴様ァァァァァァァアアアアアアアアアアア!!!!』



「ひっ…………!!!」

302: 2010/08/25(水) 01:28:31.84 ID:rn7q9i.o

アイゼン『もしや魔女については何も知らぬ身で―――!!!』



アイゼン『―――ここに来たというのではあるまいなァッッッ??!!!ハァンン!!!!』


大きく身を捻らせ、腕を振るってその片方の指先で彼女を指すアイゼン。


アイゼン『アアァァァァァァァハァァァァァァァァァァアアアアアアアアアンンンッッッッッ!!!!!!!????』


そのオーバーな、かつしなやかな動き。
激しくもしっとりと捻られた腰。


「…………あ……!!!す、すみません!!!!!!すみません!!!!!!」


それに凄まじい既視感を感じながらも、
彼女は勢いに押されて平謝りしてしまった。

なんだがついさっき似たような挙動を見た気がするのだ。


この胸に愛刀が突きつけられる直前に、だ。


彼女がアンブラの魔女についてそれなりに知っていたらこう思っただろう。

この連中は、大昔からこういうノリが共通だったのだか と。

303: 2010/08/25(水) 01:30:41.35 ID:rn7q9i.o

アイゼン『ハッッッッ!!!!!!もしやのもしやだが……まさか……なぜこの今の状況なのかも理解しておらぬのか!?』


「はい…………すみません……」


アイゼン『………………全く。何も教えとらぬとは……「表」の者共は何を考えておるのだ』

アイゼン『スパーダの息子といい我が子孫らといい……最近の若い連中はどうにも真剣身が足らん』


「……………………わ、私は……」

真剣身が足らない。
そう言われて、礼を重んじる彼女は反射的に反応した。

名乗られたのならば名乗り返す。
それが礼儀だ。

礼が染み付いている彼女は咄嗟に名乗り返そうとしたが。



「―――…………ッ……」


なぜか己の名前が出ない。
己の名前がわからないのだ。

言葉が出せず、金魚のように口をパクパクさせる彼女。

アイゼン『あ~名乗らなくとも良い。そもそも名乗ることが「できぬ」だろう?』

そんな彼女を見てクスリと口の端を上げる魔女王アイゼン。


アイゼン『そなたの名は今は「奪われておる」からな』


アイゼン『その胸の魔剣にな』

304: 2010/08/25(水) 01:32:46.92 ID:rn7q9i.o

アイゼン『それとこの者達はな、我も含めて―――』

仮面の女が腕を広げ、ぐるりと回転して周囲を見るように促しながら。

アイゼン『―――3万4千年のアンブラの歴史そのものだ』

そして告げる。

アイゼン『かつての長達だ』

彼女達はアンブラの歴代の長だと。

アイゼン『皆氏んでいる。いわば亡霊だ。魔に完全転生した我を省いてな』

アイゼン『さて、改めて歓迎しよう』

そして再び彼女の方へと向き直り、手を一度叩き歓迎の言葉を述べた。


アイゼン『ようこそ。煉獄最下層、「アンブラ列長の墓場」へ』

アイゼン『ここでそなたを見定めよう。「表」に戻すか否か』


『天の者』に対する裁きの始まりと。


アイゼン『永遠の地獄へ幽閉するか否か、をな』



アイゼン『―――神裂火織よ』



神裂「―――」


彼女の名を。


―――

314: 2010/08/27(金) 00:08:21.75 ID:rHThjHko

―――

無能力者の元スキルアウト。
替えの利く駒として暗部に回された『タダ』のチンピラ。

ある時は撒き餌に。
ある時は切り捨てられ。
ある時は上位組織の雑用に。
ある時は幹部達のストレスのはけ口に殺され。
そしてある時は利用価値無しとされ処分される。

人権など笑止千万。
名すら呼ばれぬモブ。

泥にまみれ道端で無様にのたれ氏に、墓も作られずに氏体は焼却処分される。

学園都市の『闇の底』に積もっていく、小さな小さな塵の粒子の一つ。

『カス』が氏のうと、姿を消そうと誰も気にも留めない。

誰の記憶にも残らない。
誰も彼らを探そうとしない。
誰も彼らの氏を嘆き悲しまない。

そんな最底辺のゴミクズ。
部屋の隅に溜まるようなクズボコリ。


彼もまた、その中の塵の一つであったはずだった。


浜面仕上は。

315: 2010/08/27(金) 00:12:18.14 ID:rHThjHko

この少年。

アレイスターのプラン上では、彼は暗部組織同士の抗争の中で
既に氏んでいなければならなかった。

なのに生きている。
それどころかレベル5に打ち勝ってまでだ。

これはアレイスターにとって異常事態であった。


格の違う悪魔達や天使達、魔界や天界の力に強く影響されている一部の人間を省き、
全ての人類の行動とそこから来る結果をアレイスターは予測できる。

いや、厳密に言うと『予測』ではなく、『知っている』のだ。

とある力を使うことで、今のアレイスターは短時間ながらも人間達の『未来を見る』事ができる。

限界が無いとは言えないが、
それでも学園都市内の人間達の未来を把握するのは簡単だ。

学園都市内の人間達の未来は完全に把握していたのだ。


だからこそ。


だからこそ、浜面仕上の生存が異常事態だったのだ。

316: 2010/08/27(金) 00:25:32.84 ID:rHThjHko

『知っている未来』から、ずれ始める分岐点となった二ヵ月半前の事態。

その『後』に起こった事ならばまだアレイスターは納得がいく。
そうならば説明はいくらでもできる。

事実、二ヵ月半前を発端とする悪魔達との関わりで、
浜面仕上のように『レール』から脱線しだした者が続出した。

だが浜面仕上は、悪魔達の介入以前に脱線したのだ。
それも前触れ無く突然。

理由を把握していれば、一方通行や上条のように『進路』を修正していく事もできる。

だが理由がわからなければ―――。


果たしてプランを根底から破壊するような『爆弾』なのか、
それとも僅かなズレから生じた、小さな小さなタダのバグなのか。
それすらも判断がつかない。

いや、現状では何も影響の無い小さなバグとは言い切れない。
第23学区の一連の騒動だって、それの大元の原因は浜面仕上だ。

一体因果はどこから繋がっているのか、この男が作り出した小さな渦が、
巡り巡ってアラストルが原子崩しの手に渡る要因にもなっている。

悪魔サイドの関わりが源となっている二ヵ月半前の件とは違う。
第23学区からの一連の件は、浜面仕上から始まっている。

彼は大きな流れに飲み込まれたのではなく、
逆に自ら一つの流れを作り出したのだ。

アレイスターの方が浜面仕上が作り出した渦に巻き込まれた、と言っても過言では無い。


これぞ正に『イレギュラー』。

317: 2010/08/27(金) 00:28:16.07 ID:rHThjHko

ある意味アレイスターは、浜面仕上という存在に恐怖したのだ。

この不穏な、ダンテ達とはまた別の意味で未知である存在に。


唯一の解決策は排除する事。

経緯は違えど、そしてタイミングは違えど、
アレイスターが見た未来と同じ『氏』という結果を与えること。

だがイレギュラーはイレギュラー。

何を引き起こすか全くわからないこそイレギュラー。
何がどうなり、どんな事態になるかがわからないからこそイレギュラー。


結局、浜面仕上の殺害は失敗した。

それも最悪の形で。
浜面仕上の物語は、別の巨大な物語と合流してしまったのだ。

ダンテの物語に。

浜面仕上の協力者である、絹旗最愛に差し向けた部隊はダンテに一蹴され。
それを見てアリウスに協力を求めたがそれも失敗。

更にアリウスが召喚した悪魔達のせいで、麦野はダンテに救われ懐柔されて改心。


あげくに浜面仕上もダンテに救われた。


これでアレイスターは最早手が出せなくなってしまった。


『浜面仕上の命はダンテに救われた』


この正にイレギュラーすぎる結果のせいで。

318: 2010/08/27(金) 00:31:47.12 ID:rHThjHko
ダンテが守った命である以上、そう易々と手を出すわけにもいかない。
今はアレイスターにとって非常にデリケートな時期。

ダンテを刺激してしまうような因子は、どれだけ小さくとも避けたかった。
その為、浜面仕上の殺害の件については完全に保留状態となったのだ。


そういう事もあり、
この数週間浜面達は束の間の平穏の中へ。




その浜面仕上は今、第五学区にあるとあるビルの階段を昇っていた。


浜面「……」

携帯でテレビ放送を見ながら。


浜面「…………」


案の定、放送では何が起きたかなどという詳細は全く伝えていない。

絹旗に『情報収集してきてください』言われ、
外に出て辺りを行きかう人々にも話を聞いたが、皆言っている事がバラバラだった。

タンクローリーが爆発しただのテロが起きただの、
高位の能力者同士の戦いだの、ローマ正教側が和平協定を破って攻撃してきただの。

どれもこれも確かな証拠無く、誰が見たという訳でも無く。
人伝いに回ってきた噂に尾ひれが付いたようなものだった。

319: 2010/08/27(金) 00:36:17.10 ID:rHThjHko

このどれかに真実が紛れ込んでいる可能性もあるだろう。

だが浜面そうは思えなかった。
絹旗や滝壺もこれには同意していた。

少なくとも、この『程度』の騒動ではない と。

遂先程、突如感じた強烈な悪寒。
近くにいた絹旗や滝壺も感じた、あの意識がすり潰されてしまいそうな威圧感。

彼ら三人はこれには覚えがあった。

数週間前の、第23学区に纏わる一連の騒動で味わったのと同種の感覚だ。

絹旗曰く、『私はあの日、もっと強烈なのを味わって超トラウマですよ』、

滝壺曰く、『あの時とおなじ。信号が強すぎて何もみえなくなっちゃった』との事だ。


あの日味わった今まで経験したことの無い、
今までの暗部生活が生易しく感じてしまうような『本物の狂気と闇』。

それと今日のは同じだった。

あの日の後、レベル5第三位に紹介してもらったカエル顔の医者。
滝壺の容態を安定させてくれた、浜面にとっては救世主的な人物だ。
(実はこのビルのアジトも、彼が手配してくれた)

彼はこの異質すぎる『何か』について良く知っているらしかったが、
浜面達には何も教えてくれなかった。

『これ以上踏み込んじゃいけないよ。一度深く関ったら二度と戻れなくなるよ』と。

320: 2010/08/27(金) 00:38:35.26 ID:rHThjHko

浜面「どおなってんだよ…………」


だが知るなと言われれば、より興味が沸いてしまうのも人間の性。
というか、ここまで派手にされれば注意を向けざるを得ない。

今回は第七学区の中央辺りが騒動の中心地らしかった。

その規模は凄まじく、10km以上は離れているここにも、
例の悪寒や大地震のような揺れが到達し、
遠くの雷鳴のような凄まじい爆音が大気を大きく震わせ。

ここからでもはっきりと見えた、空を照らす様々な異質な光達。


そしてその光の中に、ビルの七階の窓から浜面は見覚えのある閃光を目にした。


それは青白いビーム。


見えたのは一瞬。
だが決して見間違えることは無い。

浜面は瞬時に確信した。


あれは麦野の力だと。


この距離からもはっきり見えるくらい、その太さも長さも光の強さも、
今までとは比べ物にならないサイズだったが。

それも一本だけではなく数え切れないくらいに大量に。

321: 2010/08/27(金) 00:40:51.18 ID:rHThjHko

浜面「……」

麦野沈利。
あの第23学区での再開のシーンが、浜面の中でフラッシュバックする。


『は~まずらぁ』


地下駐機場の闇の中から、青白い閃光を迸らせながら現れた麦野。
残った左目を大きく見開き、口を大きく引き裂いて笑うあの姿。

浜面にとって、狂気・氏そのものに見えたあの女。


彼女があの後、どうなったのかがかなり気になっていた。
氏んだのか、それとも生きて再び己達の前に立ち塞がる時が来るのだろうか と。

だが先程見たとおり、麦野は生き延びていたらしかった。
それどころか、今まで見たこと無いくらいの強大な力を行使していたようだった。

これは黙ってはいられない。
あの女が生きているとなると、非常に危険だ。


浜面「……………………」


だがその一方で、浜面はなぜだか彼女が生きていた事に安堵をも感じていた。
なぜなのだろうか。

相手は自分達をただ頃すだけでなく、
最悪の苦痛を味合わせようとしていた天敵なはずなのに。

なぜ憎み切れないのか。
なぜ完全な敵意を向けられないのか。

浜面自身でさえ、なぜそう思うのかがわからなかった。

322: 2010/08/27(金) 00:42:35.00 ID:rHThjHko

あの第23学区での彼女の雰囲気。

何となくだが、今思えばどことなく悲しげなオーラがあった。

自暴自棄のヤケクソになり、泣き喚きながらとにかく暴れているような。

こんな事を直で言ったら殺されるだろうが、
浜面は彼女に恐怖する一方でこういう妙な感情をも抱いていた。


一体なぜ麦野はああなってしまったのか。


どうしてこうなってしまったのか。


アイテムとして過した日々。
お互い達の間にはそれなりの距離があり、とてもじゃないが友情と呼べる暖かい繋がりはなかったものの、
それとはまた別の仲間意識、いわば『戦友』と言えるような、
殺伐としながらも決して弱くは無い繋がりを浜面はメンバー間に見ていた。

浜面は人の心理を読むのに長けている訳では無い。
むしろ鈍感かもしれない。

だがスキルアウト時代の経験から、そういう組織内での空気というのには敏感だ。

駒場達との繋がりも感じたし、
自分がリーダーとなった時に、他の仲間達が己をどんな目で見ているかもはっきりと感じていた。


メンバーが女性であるアイテムはそういう男社会とはま別だろうが、
浜面は何となくその空気も読んでいた。


滝壺、フレンダ、絹旗達の関係は当然、
口や態度では突き放すような麦野も、根にはその繋がりがあったのでは? と。

彼女もまた、あのファミレスでのくだらない時間潰しの日々が楽しかったのではないか? と。

323: 2010/08/27(金) 00:45:12.38 ID:rHThjHko

浜面「(…………何考えてんだよ俺……)」

と、そこで浜面は溜息を混じらせて小さく頭を振った。

そう、今更麦野の事を考えたって無駄だ。
何かが変わる訳でもない。

例えそういう繋がりを麦野が持っていたとしても、フレンダを手にかけた時点で彼女は一線を越えた。
これもまた、こういう世界で生きてきた浜面だからこそわかる。

何かとんでもない事が無い限り、こういう人物はとことん暴虐に手を染め決して戻らない と。
己の立ち位置にさえ気付かずに、とことん底に堕ちていく と。


何かこう、規格外の『大きさ』の救いの手が無い限り決して這い上がれないと。



浜面「…………」

そもそも浜面は、こう麦野の事を気にかけている余裕すらないのだ。
彼は今、どうしても守らなければならない人物、滝壺理后がいる。


それだけで一杯一杯だ。


滝壺が全てなのだ。

絹旗と共に彼女を守る。


それが今の浜面の『全世界』だ。

324: 2010/08/27(金) 00:47:00.43 ID:rHThjHko

そう、あれやこれや考えながら、
浜面は階段を上がりそして七階の廊下へと。


浜面「―――!!!!!!!!!!!!」


と、その廊下の先を見た時だった。

浜面の目に入る、黒服の屈強な男達。
その者達は滝壺と絹旗がいる部屋のドアの前に立っていた。


経験上、ああいう連中はほぼ100%上層部の手の者。


浜面「(―――クッソッッッッ!!!!!!!!!!!!)」


最悪の事態が浜面の脳裏に浮かぶ。
手に持っていた携帯を放り投げ、即座に腰に差し込まれている拳銃に手を伸ばし―――。


―――そうとした瞬間。


真後ろから別の男に一瞬で組み伏せられてしまった。

325: 2010/08/27(金) 00:49:47.15 ID:rHThjHko

数々の修羅場を越え、そして腕っ節にもそれなりの自信がある浜面だが所詮はチンピラ上がり。

一回りも二回りも体が大きい、正規の訓練を受けた屈強なプロには到底敵わない。
浜面は腕を捻り上げられ、足を掃われてあっさり床にうつ伏せに叩きつけられる。


浜面「―――がぁっっっ!!!!!!!」


「落ち着け」

黒服の男からの低い声。
だが熱くなった浜面は聞く耳を持たず、無駄にもがいては廊下の先を見据えて叫ぶ。


浜面「滝壺ぉぉぉぉぉぉッッッッ!!!!!!!!!!絹旗ぁぁぁぁああああ!!!!!!」


とその時。

廊下の先の扉が開き。


絹旗「超うるさいです。少しは空気を読んでください。相変わらず猿並に頭の中まで超筋肉状態ですね浜面は」

何事もなかったかのように姿を現した絹旗。

そしてその背後からヒョコッと顔だけを出す。


滝壺「はまづら、あわてないで。だいじょうぶ」


滝壺。

326: 2010/08/27(金) 00:52:19.39 ID:rHThjHko

浜面「―――な…………??」


二人の様子を見ると、拘束されたどころか特に何もされていないように見える。
てっきり襲撃されたと思っていた為に拍子抜け。

そんな呆然としている浜面を見て、
押さえつけていた黒服の男がゆっくりと彼を解放した。


浜面「何なんだよ……?何が……?」

強く捻られた腕を軽く摩りながら、眉を顰めて立ち上がる浜面。


絹旗「話は後です。とりあえず超早く入って(ry」


「いや、君達からゆっくり話してくれ」

とその時。

絹旗の後ろ、部屋から出てきたこれまた屈強な男。


「我々はこの辺でお暇させてもらうよ」

立ち振る舞いから、ここにいる黒服連中のトップに見える。

327: 2010/08/27(金) 00:54:04.19 ID:rHThjHko

絹旗「……」

滝壺「……」

それに対し何も言わずに鋭い視線を返す絹旗と、
相変わらずボーっとしている滝壺。

浜面「……?」

とりあえず『敵』というわけではなさそうだが、
滝壺はともかく絹旗の様子を見る限りでは友好的でもないらしい。

その頭であろう男はあからさまな作り笑いを浮かべながら、そのまま浜面の方へと廊下を進んできた。
それに他の男達も続く。

「忘れないでくれ。『彼』もだからな」

そして男は浜面とすれ違うかという時。
彼の肩へ軽く手を乗せ、絹旗の方へ半身振り返って。


「『三人』で来い。『全員』でだ」

「明日の午前11時だ。遅れるな」

それだけ言うと再び視線を前に戻し、浜面の肩から手を離すと階段の方へと消えていった。
他の男達もそれに続いていった。


浜面「…………おい……何なんだよ……?」

状況が掴めず、腑抜けた声色で口を開く浜面。


絹旗「…………仕事ですよ。『最後』の『引退試合』です」


浜面「し、仕事?……最後のって…………はぁ?」

328: 2010/08/27(金) 00:55:21.52 ID:rHThjHko

絹旗「…………ッッッだあ゛ぁ゛ー!!!超ヤバそうです!!!!これは超超ヤバそうな気がします!!!!」

絹旗「ぎーぃぃぃぃぃ超ォォァァァァアアア!!!!!!!」

そんな浜面の返しなど聞こえていないかのように、突如うなりイラつきながら声を張り上げる絹旗。
小さい両手で、これまた小さい自分の頭を掻き毟る。

滝壺「でも、しょうがないよ。こればっかりはやらなきゃ」

絹旗「確かに!!!確かに超そうですがッッッ!!!!!って何でそう超落ち着いてるんですか滝壺さんは!!!!!」

滝壺「だいじょうぶ。皆で力を合わせればきっとうまくいくよ」

絹旗「こういう『最後』の大仕事に限って超最悪な事になるんです!!!!」

絹旗「大体にして、私達みたいなはぐれ者まで召集する必要がある程なんて、超超超超ォ~ヤッッバイ事に決まってます!!!」

絹旗「条件も条件で!!!!!どうせ超氏ぬから大盤振る舞いしとけって感じじゃないですか!!!」

絹旗「氏亡フラグが超ビンビンですよ!!!!!!万年発情期の浜面よりも超ギンギンにおッ勃ッてますよコレは!!!!!!」

滝壺「??……きぬはた、何言ってるかちょっとわからないよ?」

浜面「………………なあ……」

絹旗「浜面!!!!!!!!」

浜面「お、おう!?」

絹旗「いつまで超アホ面してんですか!?さっさと入ってください!!!!」

絹旗「滝壺さんも!!!!」


滝壺「きぬはた、おちついて。深呼吸(ry」


絹旗「だぁぁッッッッきぁああああああ!!!!!!!!!!!」


滝壺「う、うん。わかった」

―――

329: 2010/08/27(金) 01:00:22.99 ID:rHThjHko
―――

とある深い森の中にある洋館。


ベヨネッタ「―――Hahahahahahahahahahahahahahahahahahahaha!!!!!!!!!」


ソファーに寝そべり、テレビを見て馬鹿笑いを上げているベヨネッタ。

ベロンベロンに酔っ払い赤くなっている頬。
全身で爆笑して身をよじる為、着ていたTシャツが捲り上がり、
パンツとしなやかな腹部が露になり、O房の下方が見え隠れしていた。

更に事あるごとに、手に持っているビール缶から中の液体が零れ落ちる。
周囲には山積みになった空のビール缶。


ジャンヌ「……………………」

ジャンヌはそんな相棒の有様を冷たい視線で眺めていた。
部屋の片隅にある椅子に軽く腰かけ、優雅に足を組みながら。


ベヨネッタが見ているもの。
それは映画のDVD。

どこから持ってきたのか、いつのまにかかなりの本数がこのアジトに集められていた。

テレビの下に散乱しているパッケージ。
そのタイトルは、『オー○ティン=パワーズ』だの『ほぼスリー○ンドレッド』だの『ホッ○ショット』だの。


ジャンヌ「………………………………………………………………」

330: 2010/08/27(金) 01:03:02.59 ID:rHThjHko

ベヨネッタ「んふ、んふふ、あははははははははははははははははは!!!!!!!」


ジャンヌ「…………」

確かに、アンブラの魔女は色々とトンでいる。
それは否定しない。


超近距離下での肉弾戦を好む、猛々しいアマゾネス的気質。
『魔女』という、色欲も重んじている淫魔的気質。
禁制などクソ喰らえとそれ以外の欲も否定しない、天界から言わせたら罰当たりな気質。

これらが組み合わさり、アンブラの魔女は一風変わった文化と気質を持つ集団となっている。

端から見ればハイテンションクレイジー集団に見えるだろう。


ベヨネッタ「ひっひ、へぁあははははははははははははは!!!!ちょっと!!!!こ~れへあははっははは!!!!」


ジャンヌ「…………」

だが、そうだからといっていつもいつもクレイジーではない。
アンブラの魔女にも法と礼がある。

いや、むしろその部分を特に重んじている。

アンブラの魔女たる者、高潔にそして美しく、『品』の高き色魔であるべきである と。


ジャンヌもヒートすればぶっ飛ぶ事もある。
だが決して礼と品を保った威厳のある姿勢を崩さない。

331: 2010/08/27(金) 01:05:22.74 ID:rHThjHko

ジャンヌ「…………」

ベヨネッタもベヨネッタで普段はそうだ。
バカな行動に見えるモノも、必ず一定の品と風格を保っている。
色情的でありながらも下品ではないのだ。


ベヨネッタ「あははははっはははっっっっ……!!!……げぇっふ…………ははははっははは!!!!!!」


ジャンヌ「…………」

だが今はどうだ。

馬鹿笑いし衣服をはだけさせ、
ベロンベロンに酔っ払ってビチャビチャとビールを零しているこの姿。

どこに品がある?

どこに魔女の高潔さがある?

ジャンヌ「…………」

この姿を見たら、偉大なる祖先達は一体何を思うのだろうか。
これが一介の魔女であるのならばまだ良い。


だがベヨネッタは特別だ。

『世界の目』を持ち、そしてジュベレウスをも倒した歴代最強の魔女だ。

アンブラ史上最高の戦士だ。

そんなアンブラの究極の境地である存在が、こんな有様とは。

332: 2010/08/27(金) 01:07:00.95 ID:rHThjHko


だが。


ジャンヌ「…………」

これもまたいいのかもしれない。


確かに、アンブラの基準に沿っても『普通』とは言いがたいが、
普通じゃないからこそ、ベヨネッタは今まで誰も出来なかったことを成し遂げ、
そして前人未到の境地へと到達したのだ。


そして何よりも。

ジャンヌはこのベヨネッタの一面を否定するつもりはない。

これもまた大事な友の人柄の一面だ。

ジャンヌの大切な宝の一つだ。


ジャンヌ「…………」

と、しばらくすると。
いつの間にかベヨネッタの笑い声は止んでいた。


ソファーの上から聞こえてくる小さな寝息。

333: 2010/08/27(金) 01:09:30.73 ID:rHThjHko

ジャンヌ「(……まるで子供だな)」

小さく笑いながらジャンヌはゆっくりと立ち上がると、ベヨネッタの傍へと向かった。

ベヨネッタは見ていたその姿勢のまま、口を小さく開けたままスースーと寝息を立てていた。
メガネが微妙にズレているのはご愛嬌だ。

ジャンヌはそのベヨネッタの手からビールを静かに取り、そしてはだけている彼女のTシャツを元に戻す。

とその時。

ベヨネッタ「Hummmmm............................」

寝ぼけているのか、薄目を開けていきなり唸り始めたベヨネッタ。
そしてふわりと手を伸ばし。

ベヨネッタ「.......Yeah.......」

ジャンヌの胸を鷲掴みにした。

ジャンヌ「…………………………………………」


ベヨネッタ「....Yes..........middle size......Wow...........Yeeaaha-ha-ha...........」.


ジャンヌ「―――HA!!!!!!!!!」

次の瞬間、ベヨネッタの顔面に叩き降ろされた拳。
メガネが景気良く割れる音が聞こえ、
いや、ソファーが潰れ下の床板が砕ける音に、その小さな破砕音はかき消された。


ジャンヌ「黙って寝てなホルスタイン野郎」


そしてジャンヌは表情を一切変えずに口を開いた。

上半身が床下までめり込み、
足が床から生えているように見える体勢のベヨネッタに。


―――

343: 2010/08/28(土) 23:11:56.82 ID:6uASVZQo
―――

とある病室。

トリッシュ「へぇ…………なるほどね」

頭の中を整理しつつ小さく呟く、シーツに包まりベッドに座っているトリッシュ。
首から上だけを出しており、全身は完全に白いシーツで覆われている。

彼女の隣に横たわっているキリエは以前意識を失ったまま。
まあ単に気を失っているだけであり、明朝にもなれば目を覚ますのはほぼ確実だろう。


ダンテ「まだわかんねえ所が結構あるがな」

そして部屋の隅にあるソファーに寝そべりながら、
軽く手を挙げてトリッシュに言葉を返すダンテ。

アレイスターからの証言により、二人共一応の見解は纏め上げた。
とりあえず、バージルらはセフィロトの樹を破壊しようとしているらしい と。

だが『とりあえず』だ。

まだ謎は多い。
天界の軍勢を誘き出すのはわかるが、アリウスの方面はなぜ支援しているのか。
何となく思いつく事はあるものの、具体的な答えが未だに出てこない。

セフィロトの樹を破壊するにしても、具体的な方法は見当もつかない。

しかもそれはあくまで『過程』であり、真の目的はその向こうにあるようにも思える。

344: 2010/08/28(土) 23:16:34.30 ID:6uASVZQo

ダンテ「……後で事務所に戻る。そのついでにロダンの所にも行って来る」

ダンテ「アイツなら色々知ってるだろうからな」

トリッシュ「よろしく。あ、あと私の銃もね」


シーツの下で突き出された左手により、ピンと張る純白の柔らかい布地。
その『頂点』は、ベッドの隅に置いてある二丁の大きな拳銃を指していた。

ルーチェ&オンブラだ。


右手がバージルに切り落とされた際、その莫大な力が流れ込んだのか、
その手に持っていた方の『内部構造』が破壊されていたのだ。

自動装填の術式はもちろん、
トリッシュが自作し刻み込んだ様々なシステムが悉く崩壊したのだ。


一応今の状態でも発砲はできるが、
悪魔的な力が全て削ぎ落とされている以上、最早『タダの大きめの拳銃』だ。


時間をかければトリッシュでも修復できるが、ロダンに頼んだ方がかなり早い。

二丁共持って行けば、無傷な方の一丁を参考にして
一日二日程度で完全修復してくれるだろう。

345: 2010/08/28(土) 23:18:56.16 ID:6uASVZQo

ダンテ「おー」

トリッシュ「まあでも、これが直ったとしても私が治らなきゃほとんど意味が無いけど」

ダンテ「ハッハ、お前は『一回休み』だ」

ダンテ「黙ってここで寝てな」


         ソ イ ツ ラ
ダンテ「ルーチェ&オンブラは俺が可愛がってやるさ」

トリッシュ「あら、それは嬉しいけど。どうやって『四丁』使うのよ?」


ダンテ「…………さぁな。足にでもつけっか?」


トリッシュ「ふふ、いいかも知れないわねソレ」


ダンテ「(…………ギルガメスに同化させりゃいけるかもな)」


トリッシュ「……ってちょっと。本気で考えてんの?」

ダンテ「あ?面白そうじゃねえか」


トリッシュ「(まーた変な遊び方思いついたみたいね)」

346: 2010/08/28(土) 23:20:58.53 ID:6uASVZQo

ダンテ「なあ、面白そうだと思わねえか?」

そうダンテは寝そべりながら頭だけを動かし、



麦野「…………っ!」



部屋の隅の椅子に座っている麦野へと言葉を飛ばした。
ここだけ日本語で。

突如話を振られ、えっとでも言いたげに目を少し見開く麦野。
というか、それ以前の会話が早口の砕けた英語だった為、
ほとんど聞き取れなかった。

銃を持って行ってどうのこうのっと、それぐらいしかわからない。

麦野「あー…………私は……良いと思う……かな?」

とりあえず良く分からないが、
ダンテに肯定的に答える。


それを聞きダンテはニヤリと笑い、
トリッシュは小さく頭を振りながら、呆れたように溜息。

麦野「…………あれ…………(ちょっと、私何かミスした?言葉の選択誤った?)」

347: 2010/08/28(土) 23:23:43.42 ID:6uASVZQo

トリッシュ「あーところでアナタ。アラストルと結構仲良くなったみたいね?」

麦野「っ……!!!」

トリッシュ「さっき廊下で色々話し込んでたみたいだけど」

麦野「あーっと…………ま、まあ……(おい、なんか喋りなさいよ。聞こえてるんでしょ?)」

苦笑いしながら、頭の中でアラストルへ向けて言葉を放つ麦野。

アラストル『…………』

麦野「(何黙ってんだよ)」

アラストル『(俺はマスターの前ではヘラヘラと余計な事は喋らない。臣下たる者、寡黙であるべきなのさ)』

麦野「(寡黙だぁ?テメェこの野郎………………)」


トリッシュ「…………アラストル。どうなの?」

アラストル『問題はありません。我が主の命を忠実に果たしております』

アラストル『マスター代理の為、命を賭して戦い支援していくつもりです』

トリッシュ「あ、そう」

麦野「(………………………………言った傍からペッラペラかよクソッタレ)」

アラストル『(なあに、場合によりけり、だ。優秀な臣下たる者、場の空気を読み柔軟に(ry)』

麦野「(うっせえ)」

348: 2010/08/28(土) 23:25:54.59 ID:6uASVZQo

トリッシュ「だってさ~」

トリッシュが視線をダンテの方に戻し、続けて彼の方へと言葉を飛ばした。
それに対し、ダンテは特に興味無さそうに手を軽く振った。

トリッシュ「あ、そうそう、アナタさ」

そこでまたトリッシュは麦野の方へと視線を向け。


トリッシュ「少し手入れた方いいわね」


麦野「…………………………………へ?」


トリッシュ「カッコ」


麦野「……かっこ?」


トリッシュ「服よ服。もっとちゃんとしなきゃ。女の子なんだから」

349: 2010/08/28(土) 23:28:41.19 ID:6uASVZQo
麦野「服……」

トリッシュ「今日着てたの破れちゃったみたいだけど、その前からボロボロだったわよね」

麦野「…………」

そう、バージルに切り裂かれる前から既に服はボロボロだった。
更に季節はずれの秋物で、そしてあちこちが破れススだらけ。

以前は身なりにかなり気を使っていたが、
左手と右目を失って以降全くと言って良い程に気にしなくなってしまった。

いくら気を使ったところで、こんな化物染みた姿じゃ意味が無い、と。

右目は無くなり、眼窩から光が漏れ出し周囲はケロイド状。
こんな顔じゃ、例え左手が残っていたとしても化物だ。

今までかなり気にしていたその反動か、
この自慢でもあった顔が、悲惨な状態になった事でプッツリと関心を失ってしまったのだ。

今はただ、『着れればいい』という考えしかなかった。


アラストル『(そうだな。この俺を持つ以上、お前には身なりを整えてもらうぞ)』

アラストル『(よしてくれよ?仮にも「主」がみすぼらしい姿じゃ、俺の名にも傷が付く)』

麦野「(うるせーっつってんだよ黙って『寡黙』になってろやボケ)」

麦野「今更……どんなカッコしたって同じよ。こんなナリじゃ」

内心ではアラストルにツバを吐き、
外面では小さく鼻で笑いながら、己を卑下して吐き捨てる麦野。


トリッシュ「そう?そう悪くないと私は思うけど」


だがトリッシュはそんな麦野の表情など一切気にすることも無く、
相変わらず淡々と言葉を続けた。

350: 2010/08/28(土) 23:30:27.18 ID:6uASVZQo


麦野「……ハッ……どこがよ……」

トリッシュ「ダンテだってアナタの事ホットだって言ってたわよ。ねえ」

その言葉に合わせダンテが軽く手を挙げ。

ダンテ「スカーフェイスがクールになんのは男だけとは限らねえってな」

トリッシュ「傷が付いたのなら、それをカバーできるカッコにすればいいのよ」

麦野「………………??」

トリッシュ「さっき見た感じだと、今までのアナタの服装の系統じゃカバーするの難しいわね」

そう独り言のように呟きながら、トリッシュは包まっているシーツの下から左手を出し、
その指を軽く鳴らした。

すると小さな金の電撃が一瞬迸りその閃光が止むと、
どこから現れたのか小さな紙がトリッシュの前に浮いていた。

更に、これまたいつのまにか左手には万年筆。


トリッシュ「あー…………っと」

そして麦野の方をチラチラ見ながら、
なにやらその宙に浮いている紙に書き込んでいった。

352: 2010/08/28(土) 23:32:14.98 ID:6uASVZQo

麦野「………………何してるのよ?」

トリッシュ「アナタのサイズ見てるの」

麦野「はぁ?」

トリッシュ「……85……。股下は…………」

怪訝な表情の麦野を尻目に、
トリッシュはブツブツ呟きながら手を動かしていく。

トリッシュ「ダンテ」

ダンテ「あ?」

トリッシュ「ダークグレーでいいと思う?」

ダンテ「知るか。俺に聞くんじゃねえ」

麦野「ちょっと……何の話してるのよ?」

トリッシュ「あ、ちょっといい?」

麦野「何?」

トリッシュ「アナタのその光、最高温度はどれくらい?」

麦野「…………最大出力で射出すれば……多分4万度とかまではいくかも」

トリッシュ「……射出じゃなくて……じゃあ今の『右目』内の温度は?」

麦野「?わかんないけどそんなに高くは無いと思うわよ」

麦野「……あんまり高かったら私が焼けるし」

353: 2010/08/28(土) 23:36:41.78 ID:6uASVZQo

トリッシュ「そう…………ま、少し余裕あった方がいいわね……」

ダンテ「あ~、タングステンの合金とかでいいんじゃねえの?目からビーム出さなきゃ充分だと思うが」

トリッシュ「ええ。それにこの街にはもっとすごい耐熱材あると思うわよ多分」

ダンテ「まあな。つーか最初からアラストルに強化させればいいじゃねえか」

トリッシュ「そうね。それで充分ね」


麦野「?????????」


トリッシュ「……こんな所ね」

と、一通りの記述を終えたのか、トリッシュは紙を軽く指に挟み。

トリッシュ「ルシア」

窓枠に座っていた少女の名を呼びながら、ピッと軽く上げた。
それとほぼ同時に、即座にトリッシュの傍へと駆け寄るルシア。

トリッシュ「これ、ある人に届けてきて欲しいんだけど?」

ルシア「?」

トリッシュ「さっきダンテが言ったところ、『匂い』で位置はわかるわよね?」

ルシア「は、はい」

トリッシュ「そこのビルの中に、逆さまに水槽の中に入ってる変な人いるから、そいつにコレ渡してきて」

354: 2010/08/28(土) 23:41:11.85 ID:6uASVZQo

ルシア「?…………はい」

トリッシュの説明に首を傾げながらも、紙を手にするルシア。
まあ、実際に行って見ればトリッシュの言葉通りだという事がわかるのだが。

それはそれでまたルシアの純粋な疑問となるだろう。

あの人はなんで服を着たまま、逆さまにお風呂に入っているのだろう?と。


ダンテ「あー待て。ワインとピザはまだかって伝えてくんねえか?」

ルシア「あ、はい」

小さく頷くと、ルシアは即座に円に沈んでいった。



麦野「……ちょ、ちょっと……一体何よ?」


トリッシュ「ん?ああ、近い内に大仕事があるんでしょ?デュマーリ島で」


麦野「何でそれを……!?」


トリッシュ「それで、よ。大仕事だからこそビシッと決めなさい」


麦野「……もしかして…………私に服をって事?」

356: 2010/08/28(土) 23:42:44.21 ID:6uASVZQo

トリッシュ「スーツとコートと……あといくつか小物ね。ホルダーとか。アラストルだって四六時中手に持ってる訳にはいかないでしょ?」

トリッシュ「その右目だって丸出しにしとく訳にもいかないし」

麦野「んな…………」

トリッシュ「文句言わないで受け取りなさい」

トリッシュ「これはアラストルの士気にも影響する事でもあるし」

アラストル『(正にその通り。みすぼらしい「使い手」など願い下げだ)』

アラストル『(「力と容姿」、そして立場に「見合った」服装をしてもらわなきゃな。「麦野沈利」よ)』

麦野「……」

トリッシュ「あ、でも着こなしは任せるわよ。アナタ結構センス良さそうだし」

トリッシュ「多分、明日の朝とかにでもアナタのところに届くと思うから」


麦野「……わかった。じゃあ有難くもらうわ」



トリッシュ「気張りなさい。そして堂々と。アナタは誰にも負けないわよ」



麦野「…………………………あ……ありがと」


―――

357: 2010/08/28(土) 23:45:58.73 ID:6uASVZQo
―――

少女は長い長い、そして奇妙な夢を見ていた。

はっきりとした映像ではない。
おぼろげな、断片的な光景。

見た次の瞬間、何を見たかを忘れてしまう。
いや、走馬灯のように次々と流れていくせいで、頭の処理が追いつかないのかもしれない。

だが何を見たのかを忘れても、何を思ったのかははっきりと胸の中に残っていく。


妙に懐かしい、遠い昔のような感覚。

心が温まる穏やかな感覚。

気高き戦士達。尊敬する『英雄』。

そして『家族』がいたあの遠い日々。


それは彼女の魂の中にあった記憶の断片。
先程『拘束』が外れた際に漏れ出した、彼女自身の『過去の物語』の一部。


彼女が見てきた、そして経験してきた『歴史』。


彼女はとある理由で、脳内のエピソード記憶は一年おきに完全削除されてきた。

だが、魂に刻まれていく記憶は決して消えない。
魂が経験してきた歴史は決して消えない。

それは彼女自身のモノ。
彼女だけの、彼女たる存在を示す証。

358: 2010/08/28(土) 23:48:18.24 ID:6uASVZQo
その断片的な淡い物語。
穏やかな日々は突如終焉を迎える。

それは彼女がその日の勤めを追え、
近衛にいる『――――』の帰りを待ちながら自宅の庭の椅子に座り、日向ぼっこをしていた時だった。

突如脳内に響く、緊急の通信魔術。

そしてその瞬間、周囲の状況は一変した。


「―――うう…………」

突如現れた、空を覆い尽くす『白金の軍勢』。
凄まじい地響き。
飛び交う怒号。
響き渡る掛け声。

耳を劈く様々な破砕音。
飛び散る瓦礫と倒壊していく建物。

辺りを照らす赤や青、濃い紫の光。
それを一瞬でかき消していく白金の閃光。

そして斃れてく気高き戦士達。


少女は走った。
恐怖を感じ。

この空の下で今も激闘を繰り広げているであろう『――――』を探すべく。

古いホールを抜け。

崩れ落ちた噴水のある、
大量の天使の氏骸と、多勢に無勢で斃れた戦士たちの亡骸が散らばっている庭を横断し。

列柱廊を駆け抜け。

そして少女は遂に探し人を見つけた。
『――――』は血にまみれ、傷を負いながらも生きていた。


青い髪の最愛の―――。

359: 2010/08/28(土) 23:51:21.64 ID:6uASVZQo

『夢を見ている側の彼女』は、その人物の名が思い出せなかった。
顔はわかる。
いつも傍にいたのもわかる。

だが、なぜだが思い出せなかった。



その相手は彼女を見た瞬間、顔色を変えて駆け寄ってくる。

彼女も走り出―――。


―――そうとした瞬間。



「―――…………あ……………………」



胸からいきなり『生えてきた』、豪華な装飾の白金の槍。
背後から放たれた槍は、彼女の胸をいとも簡単に貫通していた。

次の瞬間、『――――』が上げるとてつもない咆哮。
いや、それは正に絶叫だった。
今まで彼女が聞いた事の無い程の悲痛な叫びだった。

そして放たれる魔弾と、青髪のウィケッドウィーブ。

彼女はゆっくりと地面に倒れ意識が薄れる中、
鬼神の如く奮戦する『――――』をぼんやりと眺め。


そこで『夢』は途絶える。

360: 2010/08/28(土) 23:53:11.41 ID:6uASVZQo


ゆっくりと暗転したのではない。

真っ暗になった訳でもない。
ノイズ・砂嵐のようなモノに夢が消されたのだ。

まるで何者かによって『塗り潰された』かのように。


そして『夢を見ていた側の彼女』は、具体的に何を見ていたのかを再び忘れる。

残ったのは『心の震え』のみ。


そこからまた夢は飛ぶ。

今度はうって変わって近代的な風景。

さっきの夢とは、何だか己の感覚がどこと無く違う。
確かに同一人物なのだが。
別人のような気もする。

例えるならば、先程の夢が『前世』といったところか。


そしてそこから、また短くも穏やかな日々が始まった。

361: 2010/08/28(土) 23:54:17.70 ID:6uASVZQo
彼女の『護衛』である、『――――』・『――』と共に過す日々。

『護衛』と言っても役職上のモノだけではなく、三人の中にはもっと強い繋がりが生まれていった。
まるで家族、兄弟のような。

だがそれも突如終焉を迎えた。


『最後の日』。


怯える彼女に対し、『――――』・『――』は言った。

「いつまでも友達だから。ずっと。ずっと」と。

それに対し、彼女は泣きじゃくりながらこう言葉を返した。

「絶対に忘れない。絶対に忘れないから」 と。


そしてこの『夢』も終わる。
見終わった瞬間、彼女は何を見たのかを忘れた。

何かに遮られ『記憶』できない。

だが心には響く。
揺れ動く魂は止まらない。


そして再び。


別の夢が始まる。


いや、ここからは『思い出』だ。

ここからは彼女の『頭』の中にも記録されている。
そして何よりも。

彼女の魂に、今までで最も深く刻み込まれた記憶だ。

もし彼女が今脳内をリセットされたとしても、
ここからの物語は決して忘れないだろう。

決して。

362: 2010/08/28(土) 23:56:43.62 ID:6uASVZQo
彼女の思い出。

誰に出会い、そして何を見て、彼女がどうなったのか。
説明は不要だろう。


彼女の為に、そして彼女の為だけではなく、出会う人全ての為に戦おうとする少年。
決して諦めず、決して立ち止まらず、ただ人の為に突き進んでいく少年。


彼女はそんな少年の姿を傍で見続けてきた。
そして何度も救われ、いつもいつも守られてきた。

そんな日々の中、彼女の中で今までとは違う妙な感情が生まれた。
彼女自身は気付いていなかったが。

当初は『守られている恩』、『保護に対する』感情と区別が付かなかったのだ。
そもそも、そういう自己分析なども彼女はしない。

だが膨れ上がっていくその感情は、
いつしか無視出来ないほどにまで巨大化していった。


二ヵ月半前、その強烈な『胸の痛み』をようやく彼女は認識し。

デパート事件までの日々の中でその正体に思い悩み。

デパート事件の後、正体がわからぬままも彼女は惚けて。


そして今日。


彼に抱かれ、彼の顔を見た瞬間彼女は遂に知る。

遂に完全に認識する。

己のこの感情が何なのかを。



「―――とうま―――」

363: 2010/08/28(土) 23:59:28.42 ID:6uASVZQo

彼女は聞いていた。
先程の戦いの中の上条とステイルの会話を。

それを聞き、すぐにピンと来た。

思えば、おかしなことは多々あった。
出会った頃の話をすると彼はなぜだか相槌だけになり、話を広げようとはしなかったのだ。

上条は隠していたのだ。

記憶を失った事を。


だが、彼女はそれを確信しても何も思わなかった。

いや何も思わなかった訳では無い。
怒りも失望も、裏切られたというそういう負の念は何も思わなかったのだ。

出会った頃の、そこまでお互いを知っていなかった頃は怒ったかも知れなかったが、
強い絆で結ばれている今はそんな事など思わなかった。


ただ嬉しかった。


そして愛おしかった。


早く彼に触れたくなった。


再び彼の笑顔が見たくなった。

364: 2010/08/29(日) 00:03:19.68 ID:RJQ8j0go
「…………とうま」

彼女は最早立ち止まれなくなった。
この感情に全てを委ねたくなった。

これは拘束が外れ、『生来の気質』が一部沸き出したせいでもある。

彼女の脈々と受け継がれてきた『血』に刻まれた『本能』だ。
この感情を知り、そして相手を見定めてしまったこの『魂』は止まらない。

この一年間の『彼女』も。
そして深淵に眠っていた、別の『彼女自身』も。

『二人』とも、上条当麻という少年に心を囚われてしまった。


―――『恋する魔女』は強い。


―――『恋する魔女』の気持ちは永遠のモノ。


魔女が本当に恋するという事は、ある意味『呪い』でもある。

何としてでも成就させるか、それとも氏か。
それだけしかこの『呪い』から脱する術は無い。


そしてそのような『恋』は、必ず巨大な『うねり』を作り出す。


宿敵であるルーベンの賢者の長に恋し、
後にアンブラの運命を変える子を産み落とした、あの黒髪の魔女のように。

魔女王アイゼンの孫であり後に長の座に付くと言われていながらも、
愛する者の為に都から離れ、全ての力を捨て一介の人間の身に落ちてまで


『最強の魔剣士』を追い、種族の壁を越えて結ばれたあの金髪の魔女のように。

365: 2010/08/29(日) 00:03:55.66 ID:RJQ8j0go

「…………う…………ん……」

そして少女はベッドの上で目を覚ます。
手から伝わってくる、温もりを感じながら。

「…………」

寝ぼけ眼のまま、ぼんやりとその手の先を見ると。
上条が彼女の手を固く握り締めたまま、ベッドに顔を突っ伏して寝息を立てていた。

「…………えへへ…………とうま~♪……」

少女は穏やかに笑い、今の歓びに浸る。

「…………」

話したい事はたくさんある。
伝えたい事もたくさんある。
先程見た、『忘れてしまった夢』もかなり気になる。

だが今はこのまま、穏やかな温もりの中に浸っててもいいだろう。
この気持ちをもっとかみ締め、そして包まれたい。

彼女はもぞもぞと上条を起こさぬように体の位置を少し変え。

そして彼の頭に己の頭を寄り合わせるようにして、
手を優しくそれでいながら強く握り締めながら、ゆっくりと目を閉じた。


彼の空気と。
彼の体温と。
彼の存在を全身で感じながら。


インデックスは再びまどろみの中に落ちていった。


―――

380: 2010/08/31(火) 20:45:23.50 ID:yeP4fM6o
―――

神裂「………………裁き……」

神裂「それは……私が「天の者」となったからでしょうか?」

アイゼン『まあな』

神裂「…………」


アイゼン『勘違いはするな。これは我等の「復讐」ではない』

アイゼンがゆっくりと、神裂を中心に円を描くように歩き始めた。


アイゼン『確かに、確かに我等は怒っておる。この者達は天界を憎み、恨みながら氏んでいった』

アイゼン『そして成仏を許されず、今だにその怨念に縛られ続けている』


アイゼン『だがな、この行いはその怒りを晴らすためでは無い』


アイゼン『これは「裁き」だ』


アイゼン『「誓い」を破った者達への―――』



アイゼン『我等を「裏切り」、そして策略に嵌めた天界へのな』



アイゼン『そして我等の「贖罪」だ』



アイゼン『「過ち」を正す為のな』

381: 2010/08/31(火) 20:46:33.65 ID:yeP4fM6o

神裂「う、裏切り…………ですか?」


誓いと裏切り。
この言葉が出てくるとは思ってもいなかった。

天界と魔女が協力していた時代があった、とでも言うのか と。

だが、時に真実は物語よりも奇である。


アイゼン『500年前にかの者達は我等を裏切りおった』


神裂「…………」

500年前。
神裂も聞いた事はある。
500年前に魔女が天界の手によって滅んだと。

数ある『伝説』の一つとしてだが。

アイゼン『まあ、今思えば2000年前の「あの時」から既に予兆はあったのだがな』


アイゼン『向こうはそれの二万年前からその気だったらしいが』


神裂「…………」

2000年前。
その時に何があったか。

魔界の人間界侵略と、スパーダの反逆だ。

神裂「…………裏切ったとは……どういう事ですか?」

382: 2010/08/31(火) 20:48:29.82 ID:yeP4fM6o

アイゼン『知らぬか……』

アイゼン『本来はここに来る前に知っておいて貰う予定だったのだがな』


アイゼン『真の歴史背景を知った上で、そなたの答えが聞きたいのだ』


アイゼン『それが「この場」の判断材料となるのでな』


神裂「?」


アイゼン『どれ、一通り話してやろう…………立ち話もあれだな』

と、アイゼンが呟いたと思った次の瞬間。

神裂「……!」

突如、アイゼンの後ろに出現した古めかしい石造りの椅子。
そこにアイゼンは、手首の大量の腕輪をジャラジャラ鳴らしながら腰を降ろし、
長い美脚を見せ付けるように優雅に足を組んだ。

そして。

アイゼン『座れ』

顎で神裂の背後を軽く指しながら一言。

神裂が振り向くと、彼女の背後にはいつのまにか
『背もたれの無い』椅子が出現していた。

背もたれが無いのは、神裂の胸を貫通している七天七刀が引っ掛らないよう配慮したのか。
それとも、立場の違いを暗に示す為なのか。

そんな事をふと考えながら恐る恐る座り、アイゼンと再び向かい合う神裂。

383: 2010/08/31(火) 20:51:58.57 ID:yeP4fM6o

そんな神裂の心中を察したのか、アイゼンが思い出したように。

アイゼン『あ~、既に何となく気付いておると思うが、その刀は抜かぬようにな。それは後でだ』

神裂「……?はい」


アイゼン『さて……まず話の前に一つ言っておく』

アイゼン『これから我が言う事は、我等の「視点」からだ。我等の考えからの「表現」を使って言葉を選んでいく』


アイゼン『ここからは「アンブラの魔女」の側からの語りだ』


アイゼン『「天界」や「魔界」、そして「一般の人間」の視点からならばまた違った語りになるだろう』


アイゼン『真実は常に多面的な性質を持つ。片方の側からだけで全てを物語ることは不可能』


アイゼン『全てを纏め綺麗な1本筋にする事もまた不可能だ』

アイゼン『真実の反対は虚構だが、真実の反対はまた別の真実である場合も存在する』


アイゼン『そこを踏まえ、そなたには我の言葉を客観的に聞いて欲しい』

アイゼン『納得するのも、疑念を抱くのもそなたの自由だ』

アイゼン『そこから導き出された、そなたなりの答えを知りたいのだ』


アイゼン『あ~それとだ、我は嘘を言うつもりという事では無いからな。我は我の方で出来るだけ客観性を保つようにする』


神裂「…………わかりました」

384: 2010/08/31(火) 20:55:32.70 ID:yeP4fM6o
アイゼン『うんぬ……では話そうか』


アイゼン『2000年前のあの時まで、我等と天界は「建前上」は同盟を結んでいたのだ』

アイゼン『そして約520年前までは、表向きは敵対関係でもなかった』



アイゼン『それとな、天界による人間の魂の管理、「セフィロトの樹」も元々は我等の承諾の上だった』



アイゼン『つまり、「我等」もこの今の「人間界の体制」を作った者の一部、だという事だ』



神裂「なっ……………………はぃぃッッ…………??!!!!!」


アイゼン『その体制が作られた当時は、そうせざるを得なかったのだ』

アイゼン『人間界を守る為、いや―――』


アイゼン『―――少しでも滅びの日までの時間を稼ぐ為にな』


神裂「っっ……!!!……魔界の侵略……ですね」

アイゼン『そうだ。今の短命な世代の人間達からすれば「長き時」だが、当時の者達にとっては最早秒読み段階だった』

アイゼン『本来ならば人間界は人間界で団結して立ち向かうべきだったのだがな、肝心の「人間界の神々」が腑抜けでな』

アイゼン『どいつもこいつも危機感無く、いつまでも自分勝手だった』

アイゼン『人間界を心の底から守ろうとしているものなど片手で数える程度だけだった』


神裂「……?『人間界の神々』……ですか?」

385: 2010/08/31(火) 20:57:59.38 ID:yeP4fM6o

アイゼン『ん?ああ、そこから知らぬのか』


神裂「……」


アイゼン『当時の人間界には本物の神々と天使が君臨していた。「竜王」と呼ばれた者を一応の頂点としてな』

アイゼン『「人間の神族」だ。魔界に諸神、そして魔帝が君臨するのと同じく、「人間界生まれ」の神々が存在していた』

アイゼン『これがまた強欲で我侭、自己中心的でとてつもなく優柔不断な連中ばかりでな』

アイゼン『まあ、ある意味「人間界らしい」といえばそうなのだがな』

アイゼン『だが連中は度を越していた。魔界による人間界の滅亡が目前に迫ろうとも、連中はいつまでも呆けて好き勝手戯れていた』


アイゼン『我等「下位の人間」の方が「大人」だったのだよ。全く笑い話だなこれは』



神裂「…………」



アイゼン『そして我等「下位の人間」は立ち上がった。とは言っても、時間の猶予はない。じっくりと各々の力を成長させる余裕など無い』

アイゼン『だから我等が取った行動。それは別の世界から力を授かることだった』


アイゼン『半分の者は天界へと支援を求めた。これが「ルーベンの賢者」の祖だ』



アイゼン『そしてもう半分は魔界へと支援を求めた。これが我等「アンブラの魔女」や、フォルトゥナ等の祖だ』

387: 2010/08/31(火) 21:00:50.54 ID:yeP4fM6o

神裂「………………はい?それって……」

そう、今の部分は矛盾している。
天界へ支援を求めるのは良いとして、
魔界の侵略に立ち向かう為に、魔界の者に支援を求める とは。

話が合わない。

アイゼン『ハハン』

そんな神裂の心中に気付いたのか、アイゼンは軽く笑い。


アイゼン『聞いた事は無いか?2000年前にスパーダと共に戦った人間の戦士がいたと。そして彼らは魔の力を使っていたと』


アイゼン『普通に考えて分かるだろう?彼らが魔の力を使えたのは、魔界にも協力者がいたからだ と』

アイゼン『そもそも、昔も今も人間達が「なぜ魔界魔術を使えるのか」を考えたことが無かったのか?』


神裂「…………確かに……で、ですが……どうして魔界が人間に協力を……?」


アイゼン『ん?ああ、まあ厳密に言うと、「影で魔帝を憎んでいた諸王・諸神」だ』


神裂「…………あの、当時の魔界って魔帝に完全統一されてたんじゃ……?」


アイゼン『まあな。表向きはだ。だが魔界の理を考えてみろ』

アイゼン『確かにより強き存在に完全服従するのは道理。だが力によって抑圧され、強引に奴隷化されるのを嫌うのも道理』

アイゼン『力こそすべてだ。誰もが力のヒエラルキーの頂点を本能的に目指しておる』

アイゼン『機会さえあれば、下克上を狙うのもまた道理だ』


神裂「……」

388: 2010/08/31(火) 21:04:59.79 ID:yeP4fM6o

アイゼン『確かに魔帝、そしてその横にいるスパーダと覇王の存在はとてつもなかった』

アイゼン『大半が彼らの力に心酔し、そして完全な奴隷と化した』

アイゼン『だが全員が全員そうでは無い。中には表向きは服従しつつも裏では激しく憎んでいた者もいた』


アイゼン『そして我等は、水面下でその「反逆者」達と結託したのだ。利害が一致してな』

アイゼン『我等は魔帝軍に対抗する為、できるだけ早くより強大な力を持たねばならなかった』

アイゼン『そして反逆者達は、魔帝の勢力が少しでも削れる事を目論んだ』

アイゼン『彼らは人間界は結局滅ぶと思っていたようだがな。とにかく魔帝勢力に傷を負わせたかったのだろう』


神裂「……」

アイゼン『フォルトゥナの祖も然り、各地のデビルハンターも然り、「魔に属す人間」の元を辿れば全てここに行き着く』

アイゼン『彼らの扱う魔界魔術は全てこの「対魔帝反逆一派」の力だ』

アイゼン『当然我等「アンブラの魔女」が扱う力も、そして召喚する存在も大抵はこの反逆者の一派だ』

アイゼン『ちなみに、そなたをつい先程叩き潰したヘカトンケイルもその諸神の一人だ』

アイゼン『悪魔という存在の全部が全部、人間を憎んでいるわけでは無いぞ』


アイゼン『そもそも「人間を憎む」というのも、そして「スパーダの一族」を憎むのも、』

アイゼン『「魔帝の侵略」が失敗した事を発端としているしな』


アイゼン『反逆者達は基本的にスパーダを憎んではおらぬ。人間を憎んでもおらぬ』



アイゼン『彼らからすれば、今やスパーダは「英雄」であり、そして「魔に属す人間」は共闘した「気高き戦士」だからな』

389: 2010/08/31(火) 21:08:16.26 ID:yeP4fM6o

神裂「………………」

確かに。
アイゼンの言葉は道理にかなってる。

「全ての悪魔が人間を憎んでいる」という、今までの一般常識が正しかったのならば、
アイゼンの言うとおり人間は魔界魔術など扱えない。

魔界の存在から力を借りるなど到底不可能だ。


アイゼン『……まあ、そういう事で我等は力を手にした』

アイゼン『ある一派は天界の力を、ある一派は魔界の力を、とな』

アイゼン『行動を起こし始めたのは大体5万年前、力が高まり組織としてそれぞれが纏まったのが約3万4千年前だ』

アイゼン『そこからアンブラの「正史」も始まった』


神裂「あの……少し聞いてもいいですか?」

アイゼン『何だ?』

神裂「魔に属すということは……あなた方魔女もデビルハンターもフォルトゥナの方々も、」

神裂「『人間でありながら私達とは違う人間』という事ですか?」

神裂「あなた方魔女は、魔界の理で生きる『魔界の人間』、という事ですか?」

アイゼン『まあ……そうなるがな。だが一つだけ捕捉しておくぞ』


神裂「?」


アイゼン『我等の方が本物の「純粋な人間」だからな』

アイゼン『「ルーベンの賢者」もだ。彼らは今や絶滅したがな』


アイゼン『そなたらの世代の人間は「純血」とは呼べぬ』

390: 2010/08/31(火) 21:10:09.63 ID:yeP4fM6o

神裂「………………?!」

アイゼン『確かに我等の理は魔界のモノ。だが本質、存在自体は正真正銘の「純粋な人間」だ』

アイゼン『だがそなたらの、今の世代の大半の人間は違う』

アイゼン『いわばそなたらの魂は「改造済み」だ』

アイゼン『生まれ着いた時からセフィロトの樹によって管理され、天界の手が入っておる』

神裂「……!」

アイゼン『この人間界の法則も、天界の手で大きく変えられた』

アイゼン『セフィロトの樹に繋がっていなくとも、この変化の影響は出てくる』

アイゼン『フォルトゥナの者も各地のデビルハンターも、いくらか影響を受けており我等ほど純粋ではない』


アイゼン『肉体の「老化」という現象に制限される命、「寿命」がその一番わかり安い例だ』


アイゼン『言い方を変えればな、深く魔に入り込んだおかげで我等は「本物の人間」の「純血」を保ち続けたのだ』

アイゼン『より強い異界の力が「人間界の変化」を跳ね付けてな』



神裂「……じゃあ……太古の人々は不老だった……と?」



アイゼン『精神の成熟度に左右されるが「基本的」にはな』


アイゼン『肉体の老化には左右されん。というかそなたらのように急速な老化は無い』


アイゼン『我等魔女のように、生粋の真人間は「魂と器」が存続する限り「不老」だ』

391: 2010/08/31(火) 21:12:03.18 ID:yeP4fM6o

アイゼン『これも疑問に思わなかったか?』

アイゼン『スパーダは2000年前、魔界の侵略を退けた直ぐ後に「一人の純粋な人間」の女と結ばれた』

アイゼン『この「女」はスパーダと共に侵略軍に立ち向かい、そして「魔界の口」の封印にも立ち会った』

アイゼン『そしてその「女」が息子達を生んだのはつい30数年ほど前だ』


神裂「…………」


アイゼン『客観的に考えてみればわかるだろう?この事実が何を意味してるか』

神裂「…………そ、そう……ですね」

アイゼン『では話を戻してもいいか?」

神裂「……はい」


アイゼン『さて………………………………ん?…………どこまで話したか?』


神裂「あなた方が魔界の反逆者達と手を結び、力を手に入れたところまでです」


アイゼン『おお、そうだった』

アイゼン『すまんな、ゆっくりとまともに会話できる者が来たのは久しぶりだからな』

アイゼン『中々口が止まらずに話があちらこちらに飛んでしまう』


神裂「……」

392: 2010/08/31(火) 21:16:56.32 ID:yeP4fM6o

アイゼン『それでな、我等がそうして力を手に入れたのだがな、そうしたら今度は人間界の神々が難癖をつけてきた』

アイゼン『「貴様等如きが何を勝手な事をしている?立場をわきまえろ」とな。それはこっちの台詞だ全く』

アイゼン『我等の成長に危機感を抱いたのだろうな。魔界ではなく我等に矛先を向けるとは愚かな連中だ』

アイゼン『現に、我等は人間界の神々を超える勢いで力をつけていったからな』


神裂「…………」


アイゼン『そうして、今度は人間界の内部がキナ臭くなってきた。誰もが内戦が始まると思っていた』

アイゼン『そしてちょうどその時だ。天界の者達が直接やって来たのは』


神裂「…………」


アイゼン『当時は天界のかの者達も、今程「狂って」はなくてな』

アイゼン『今とは違い、当時の彼らは尊敬に値する高潔な者達だった』

アイゼン『信じられぬかもしれんが、かの者達が人間界にやってきた理由も当初は「救う」為だった』


神裂「…………っ!!!?」


アイゼン『近場である人間界の勢力基盤を固め、前哨とする思惑もあったかもしれぬ』

アイゼン『界の位置関係、順序で言えば魔界の侵略は人間界から天界へと繋がっていくからな』

アイゼン『だがそれ以上に彼らの当時の第一目的は人間界の住民を守ることだった』

393: 2010/08/31(火) 21:18:50.23 ID:yeP4fM6o

アイゼン『当時の彼らはな、本物の「慈愛」と高潔な使命感で溢れていた』

アイゼン『ジュベレウスが立ち上げた、魔界への対抗の旗印。天界はその本拠の一つだ』

アイゼン『当時の天界の者達は、今のように「読み違える」ことなくその主の命に従っていたのだ』

アイゼン『ジュベレウスが敗北し眠りについても尚、彼らは魔と抗おうとし続けたのだ』

アイゼン『そしてそういう純粋な、高潔な者達から見たらどうなる?』

アイゼン『人間界に君臨していた自分勝手な神々は?』


神裂「………………それは……」


アイゼン『天界の者達が、人間界の神を排除しようと決意するのには時間はかからなかった』

アイゼン『人間界内で、神々と魔の者達の間で内戦が勃発するのは秒読み状態だったからな』


アイゼン『まあその天界の行動は、我等にすれば結構な時間を有したが』

アイゼン『これも天界の気質だな。かの者達は人間界の神々に丁寧に呼びかけ、そして団結するよう何度も説得した』

アイゼン『だが当然、それは逆効果だった。神々は逆鱗し、中には魔帝側に付こうと言い出す者まで現れたのだ』


アイゼン『ここまで来れば、基本的に争いを嫌う天界の者達も動かざるを得なかった』


アイゼン『我等と天界は協力し、そして神々を策略に陥れた。これで連中は滅んだのだ。一人残らずな』


神裂「…………全員氏んだのですか?」


アイゼン『ああそうだ。己の力に喰われ、そして共食いをしてな』

394: 2010/08/31(火) 21:20:40.97 ID:yeP4fM6o

アイゼン『その亡骸、残った大量の力は一塊にされ、そして固く封印された』

アイゼン『同時に人間界の力場も封印され、これによって人間界生まれの「神」は誕生しなくなった』

神裂「……?なぜそこまでしたんです?氏んだのならほっといても消えますし……それにわざわざ『誕生』を遮ってまで……」


アイゼン『氏した者がどうなるかは知っているか?』


神裂「………………いえ……確実な事は……」

魔術関係で色々と教わったこともあるが、
それらの信憑性がなくなってしまった以上、最早己の既存の知識に頼ることができない。

現にセフィロトの樹の真実を知り、
今までの認識の多くの部分が崩壊していた。


アイゼン『魂と器が砕けた者の力は、「故郷の力場」へと還る。そこでゆっくり「浄化」、』

アイゼン『つまり個人的感情や記憶・人格が消え、溶け込んでいく』

アイゼン『そして、新たに生まれる者の糧となる』


アイゼン『例えば、炎獄生まれの悪魔は氏せば、その亡骸の力は炎獄の力場へと還る』

アイゼン『そして長い時間をかけて溶け込んでいき、その力場から新たな炎獄の悪魔が誕生する』


アイゼン『炎獄生まれ特有の特徴と性質を持ちながらな』


アイゼン『つまりこうも言える』

アイゼン『個人の人格や性格が消えようとも、力に刻み込まれている本能的な部分はしっかりと受け継がれていく、とな』

395: 2010/08/31(火) 21:22:29.52 ID:yeP4fM6o

アイゼン『ではだ。人間界の神々が一度に氏んだ。その莫大な量の力や、「強くなった本質」が力場に還るとする』

アイゼン『どうなる?』

神裂「………………新たな神が誕生しますね。人格や記憶は違えど、その本質を受け継いで」

アイゼン『そうだ。連中の自己勝手な気質はな、全ての人間に共通する本質的な部分だ』


アイゼン『ここまでくればわかるだろう?』


神裂「………………ええ。防ごうとしたんですね?自己勝手な神がまた現れるのを』


アイゼン『そうだ。まあ、かなり強引だったがな、時期が時期だ。手早くこうするしか方法が無かった』

アイゼン『ただまあ、その力場の封印も不完全でな。時たま神の因子を持った人間が出現したが、それは然したる問題でも無い』

アイゼン『コレに関しては天界が処理してきたからな』


神裂「…………」


アイゼン『と、こうしたところで今度はまた別の問題が出てくる』

アイゼン『人間達は「力場」を失ったのだ。その日、人間界は「白紙」となったのだ』

アイゼン『我等や賢者のような他世界に「間借り」している者は問題は無かったが、そういう者は極一部』

アイゼン『大半の人間達が「拠り所」と「還る場所」、そして「存在の基盤」と「理」を喪失した』



アイゼン『全ての「法則」を失った「本物の混沌」。「虚無」だ』



アイゼン『曲がりなりにも魔術に精通しているそなたなら、その恐ろしさはわかるだろう?』


神裂「……………………はい……」


アイゼン『そしてその解決策こそがセフィロトの樹だった』

396: 2010/08/31(火) 21:24:30.07 ID:yeP4fM6o

アイゼン『別の力場、つまり応急処置的に「天界の力場」と接続し、新たな「理」で人間達の存在を保つ。そして人間界を安定させる』

アイゼン『セフィロトの樹が作られた本来の目的はそれだ』

アイゼン『後世の者達から見れば「天界による支配体制」と捉えることもできるが、』

アイゼン『少なくとも当時の我等はこれが人々の為だと思っていた』


神裂「…………では……いつから今のように……?」

神裂「人間の魂を操作し、搾取して吸い取るようになったのですか?』

神裂「確かに当時はそうだったとしても、今や『奴隷』じゃないですか」

神裂「『今の私』が言えた口ではありませんが…………やっている事の本質は正に『虐殺』です」


アイゼン『ふふん、「虐殺」か。その表現を使うか……』


アイゼン『いつから、か。それは我等も確実な事はわからぬ』


アイゼン『愚かな事だが、我等は天界を信じきって全権を委ねてしまっていたからな』


アイゼン『言い訳するつもりは無いが、当時の天界の者達は非の打ち所が無い程に高潔だったのだ』


アイゼン『それにだ。例え疑念を抱けたとしても、状況が状況なだけに荒波を立てる訳にはいかなかった』


アイゼン『魔界の脅威が何よりも大きかったからな』

アイゼン『とにかく手を結んで共闘せざるを得なかった』


アイゼン『異界に「間借り中」の我等には、人々に新たな力場を与える方法も無かったしな』


神裂「…………」

397: 2010/08/31(火) 21:26:14.48 ID:yeP4fM6o

アイゼン『ただまあ、何が原因で天界の者達が変わってしまったかはわかっている』

神裂「…………何です?」


アイゼン『闇の左目と光の右目、二つ合わせて「世界の目」。これらの存在だ』



アイゼン『天界の者達は、人間界の中にこれらの存在を見つけてしまったのだ』

神裂「……世界の目?」


アイゼン『主神ジュベレウスのrjjalaoa…………うん?……』

アイゼンが何か言おうとしたところで、妙なノイズで言葉が潰れた。

神裂「……?」

アイゼンのその言葉はエノク語ではないのは確かだ。
天の者となっている神裂は、今はエノク語がわかる。

                 コッチ
アイゼン『すまぬな。魔界に慣れすぎてしまったようだ』

アイゼン『魔界のgakillahha語はわからんだろう?』


神裂「……はい」


アイゼン『うん……さて、どうしたものか、当てはまる言葉が中々思い出せん』

398: 2010/08/31(火) 21:27:58.75 ID:yeP4fM6o

アイゼン『世界の目は過去を認識し、観測者となることでkhayhwp…………ぐ……」

神裂「……」

アイゼン『いや、時空をopikqall…………うん……」

神裂「……」

アイゼン『wolkjaqk…………ぎ……』

神裂「……………」


アイゼン『……っ……』


神裂「…………」


アイゼン『―――ンハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!』


神裂「……ひっっ!!!??」


アイゼン『…………ええいもう面倒だ。あれだ、要するにだ、それを使えば主神ジュベレウスを復活させる事ができたのだ』


アイゼン『ジュベレウス復活の為のカギだ』


アイゼン『原理は聞くな。とにかくそういうモノだ』

アイゼン『いいか?世界の目の概要に関してはここで終わりだ。わかったか?ハン?』


神裂「……は、はい!」


399: 2010/08/31(火) 21:29:19.88 ID:yeP4fM6o

アイゼン『でな、片方の「闇の左目」は魔女、片方の「光の右目」は賢者が有していた』

アイゼン『いつ、どこからこのジュベレウスのrjjalaoa……ん、いや「世界の目」が人間界に落ちてきたのかは我等も知らん』

アイゼン『魔帝・スパーダ・覇王に敗れた際の激闘の中で零れ落ち、時空を越えて人間界に落下してきたか』

アイゼン『それともジュベレウス自らがpoaalqoの保全を図る為に、この辺境の目立たぬ人間界に隠したか』

アイゼン『どういう経緯かは今や誰もわからぬ。いつの間にかあったのだよ』

アイゼン『500年前まで、我等はこれがジュベレウスのrjjalaoaとは知らなかった』

アイゼン『真の正体を知らぬまま、強大な力を持つ最上級の秘宝の一つとして所有していたのだよ』


神裂「……」


アイゼン『まあそれでだ。これらの存在を知った天界がどうなったかは想像が付くだろう?』

アイゼン『彼らの行動指針の優先順位が変わったのだ』


アイゼン『最早、人間達の守護は重要な事では無い。その世界の目を手に入れることが最優先事項となった』

神裂「…………」

アイゼン『光の右目はルーベンの賢者、つまり間接的に天界の手中』

アイゼン『残るは魔女の所有する闇の左目、だ』

400: 2010/08/31(火) 21:33:08.51 ID:yeP4fM6o

アイゼン『そしてかの者達は、セフィロトの樹を利用し、我等の知らぬ所で人間界の支配を着々と強めていった』

アイゼン『世界の目を手に入れるまでは人間界を手放す訳にもいかぬからな』

アイゼン『そして人間界が魔界に滅ぼされる瞬間、どさくさに紛れて奪い取っていくつもりだったのだろう』


アイゼン『その時の為に、更にジュベレウスの復活の時に向けて天界内の強化も始めた』

アイゼン『人間の魂を吸い取ってな』

アイゼン『ジュベレウスの為に強い軍勢を、とな。上手い具合にセフィロトの樹の利用方法を見出したのだよ』


アイゼン『正に一石二鳥。全く、こういうところは抜け目が無いな天界は』


神裂「……あなた方は気付かなかったんですか?」


アイゼン『氏した魂が力場に還るのは当然の事。我等は、人間の魂が天界に流れていく事を何も疑問に思っていなかった』

アイゼン『実はその先は力場ではなく、天界の者達の「腹の中」とは知らずにな』


アイゼン『まあ…………そこが我等の落ち度だな』


神裂「…………いえ……仕方ない事だと思います。巧みに隠されて来たのでしょうから……」

神裂「あなた方が気付けなかったのならば、誰にとっても不可能だったでしょうし……」

アイゼン『仕方ない…………か。当事者である我等はそのような軽い言葉では済まんがな』


神裂「い、いえ……あの……すみません」

アイゼン『気にするな。少なくともそなたが謝る道理は無い』

神裂「……」

401: 2010/08/31(火) 21:35:19.01 ID:yeP4fM6o

アイゼン『そうしてだ。しばしの時の後、遂にかの運命の時がやってきた』

アイゼン『人間界への魔界の侵攻が始まったのだ』


神裂「……」


アイゼン『我等魔女や戦巫女、それらの魔の戦士達はその侵略軍に立ち向かう為に動き』

アイゼン『そして天界も表向きは共闘の為、実はどさくさに紛れて背後から魔女を叩き潰し、闇の左目を奪取する為、』

アイゼン『人間界の直ぐ「外」に軍勢を集め待機した』

アイゼン『ルーベンの賢者は、当時はその真意は知らされてなかっただろうが、天界と共に戦闘態勢を取り待機していた』


神裂「……」


アイゼン『このまま事が進んでいたら、我等は挟み撃ちにされ全滅し、人間界は滅んでいただろうな』


アイゼン『だがこの時、誰しもが予想し得なかったことが起きた』



神裂「……スパーダの反逆ですね?」



アイゼン『そうだ』

402: 2010/08/31(火) 21:37:09.86 ID:yeP4fM6o

アイゼン『突如、スパーダが魔帝に反旗を翻したのだ』

アイゼン『魔帝の右腕・魔帝の友、唯一魔帝と対等に振舞え、魔帝もそれを許していた存在』

アイゼン『魔帝を頂点とする支配体制の中核の一つ』


アイゼン『そんな存在が人間界側に付くなど誰が予想できた?』


アイゼン『我等についている魔界の諸神も、そして天界の者も混乱した』


アイゼン『あまりの事に我等でさえ混乱し、組織としての機能は完全に停止してしまった』


アイゼン『まあ、一番混乱したのは魔帝勢力だろうがな。正にパニックだ』


神裂「……」


アイゼン『誰しもが混乱している中スパーダは魔界にとんぼ返りし、』

アイゼン『瞬く間に魔帝配下の諸神・諸王達を片っ端から切り捨てていった』


アイゼン『そして頭を次々と失っていった魔帝軍は見る間に崩壊していった』

403: 2010/08/31(火) 21:41:30.76 ID:yeP4fM6o

アイゼン『我等魔女の中には瞬間的にならば、火力のみならばスパーダを上回る規模を 発揮しうる事が可能な者もいた』

アイゼン『我もその一人だ』

アイゼン『ちなみにそなたを屠った者もだ』

神裂「…………!」

アイゼン『だがあくまで一瞬だ。時間にすればもって十数秒がいいところだ』

アイゼン『そしてそんな事をすれば力はスッカラカンになり、下手すれば命を落としかねん』


アイゼン『だがスパーダは違う。そんな時間制限などない。スタミナという概念など存在しないに等しい』


アイゼン『彼は正に鬼神の如く、休む暇なく立て続けに魔帝傘下の強者を屠っていった』

アイゼン『人間界の時間にしてたった三日で、魔界の全諸神・諸王の人数を半分にまで減らした程だ』


神裂「…………なっ……!」


アイゼン『「魔界最強の矛」、「主神の首を裂きし刃」、「究極の破壊」』


アイゼン『その名で呼ばれた力が、完全に解き放たれた瞬間だ』


アイゼン『一体どれ程の王や神達が切り捨てられたか、一体どれ程の力が放出されたか』


アイゼン『たった三日間でのこの大記録は、未来永劫破られることは無いだろうな』


アイゼン『「アンブラの魔女」という我等も大概だが、スパーダの血も我等に負けん程に「ふざけておる」存在だな全く』

404: 2010/08/31(火) 21:44:03.76 ID:yeP4fM6o

アイゼン『そんなこんなでだ。我等がようやく状況を把握し始めた時には、既に魔帝軍は崩壊していた』

アイゼン『一部では、統率が残って進軍を続けていた一群もいたが、全体としては最早壊滅だ』

アイゼン『だが依然としてな、我等は組織としては今だ混乱していて動けなくてな』


アイゼン『それを見かねた者達が、組織を離脱しスパーダと並び「個人的」に戦い始めた』


アイゼン『組織という構造は戦力としては強みだが、やはり即応性が低いのが難点だな』

アイゼン『想定外の事態を前にすると足が止まってしまう』

神裂「…………ええ……わかります」


アイゼン『そういう事でだ。アンブラの魔女という組織自体は動けぬまま、戦いは終わりへと近付いていった』


アイゼン『その締めこそがスパーダと魔帝の決闘だ』

アイゼン『そしてそれこそが最大の難関であった』

アイゼン『スパーダにとってでさえ困難な、だ』

アイゼン『魔帝がどのような力を持っていたかはわかるだろう?』



神裂「ええ……聞いただけですが『創造』だと」

405: 2010/08/31(火) 21:48:19.95 ID:yeP4fM6o
アイゼン『そうだ。それでな。スパーダもその点を懸念していた』

アイゼン『魔帝は創造がある限り「頃しきる」事ができんからな。そう簡単に戦いに決着はつかん』

神裂「…………でも確か……打ち勝って封印に成功したのでは?」


アイゼン『……まあな。スパーダは激戦の末、「一人」で打ち勝った。「封印」は彼一人ではできんかったが』

神裂「?」

アイゼン『そもそもだ。封印するには、相手が止まっていてくれなければならん。そしてそうするには、大きなダメージを与えなければならん』

アイゼン『だがな、魔帝は素早く己を「創り直し」、そしてリセットだ』

アイゼン『封印を施す隙が無かったのだ』

アイゼン『スパーダがいくらダメージを負わせようが、封印できるレベルまで落ち込む前に魔帝は元通りだ』


神裂「…………ですが二ヵ月半前は……」


アイゼン『二ヵ月半前あの「人間の少年」が創造を壊せたのは、』

アイゼン『スパーダの息子達と孫の三人で、力ずくで一気に押し切ってできた隙のおかげだ』


アイゼン『スパーダと並ぶ二人、そしてそこに匹敵しうる一人』

アイゼン『その三人を相手にしたら、さすがに「完全体の創造」もその作業が追いつかんかったのだろう』

アイゼン『だが2000年前の当時、スパーダ一人ではそこまで圧倒して押し切ることはできんかった』

アイゼン『封印する隙を作れなかったのだ』


神裂「……ではどうやって?前から懸念していたのなら何か策があったのですよね?」


アイゼン『そうだ。その問題を解決する為に、「時の腕輪」という魔導器が創られた』



アイゼン『スパーダと「契約」した、とある一人の強大な魔女の手でな』

アイゼン『彼女の全ての力と引き換えにな』

406: 2010/08/31(火) 21:50:47.45 ID:yeP4fM6o

神裂「…………契約……スパーダと……」

アイゼン『彼女は先程言った、組織を離れ個人的に戦い始めた者の一人だ』

アイゼン『後々の長の座が約束されていながらも、彼女は掟を破り離反しスパーダの傍に付いた』

神裂「離反……」

アイゼン『掟は掟だ。例外は決して認められん』

アイゼン『誰しもがその行動を内心で褒め称えながらも、事実上彼女はアンブラへの「反逆者」となった』


神裂「……」


アイゼン『……でな、その彼女が最も得意としていたことはな、「時空魔術」だ。その分野の第一人者だった』

神裂「時空魔術?」

アイゼン『ウィッチタイムは知ってるか?』

神裂「……いえ」


アイゼン『周囲の空間の時間軸を切り離し、擬似的に過減速する技術だ』

アイゼン『ウィケッドウィーブと並ぶ、魔女の秘技の一つだ』

アイゼン『これにより、強大な存在との超高速下の戦闘を可能としている』

アイゼン『諸神・諸王以上と刃を交えるならば、こうでもしないとついて行けんからな』

アイゼン『まあウィケッドウィーブと同じく、境地に達すれば諸王すら圧倒できるが』

407: 2010/08/31(火) 21:53:26.66 ID:yeP4fM6o

神裂「……」

時空魔術。
概念だけは聞いた事があるが、実現していたとは今まで聞いた事が無い。

身体の感応速度を加速させる魔術は神裂も知っているが、それは身体強化の延長線。

時間軸を捻じ曲げるのとは原理が全く違う。


アイゼン『現にそなたも先程、これで圧倒されておったではないか』


神裂「…………あ……」

そう、今思えば、先程の魔女も突如スピードが上がったりしていた。
力を解放し、感応速度が爆発的に高まっていた神裂ですら認識できない程に速く。

アイゼン『この技術はな、魔界の力の特性を再現した物だ』

アイゼン『魔の力というのはな、大きければ大きいほど「界」に負荷をかけ、空間を捻じ曲げていく』

アイゼン『あげくに、周囲の空間の「理」をも変えていく』


アイゼン『力こそが唯一のルール。その前には時間軸ですら捻じ曲げられていく』

アイゼン『境地に達した力は、外界とは隔絶した独自の時間軸を保有する、といったところか』


神裂「…………?」


アイゼン『ん……まあ簡単に要点を言えばだ。力が強い程、そして解放すればするほど、悪魔は動きが加速していく』

アイゼン『まあ、その加減は個人個人の気質や性格、そして戦闘スタイルにかなり影響されるがな』

アイゼン『スパーダの一族のような超肉体派の連中は、それはそれは凄まじい速度になるぞ』

408: 2010/08/31(火) 21:55:18.99 ID:yeP4fM6o

アイゼン『ん……また話が逸れたな。まあとにかくだ。その分野に精通した魔女がスパーダに付いたのだ』

神裂「…………」

アイゼン『そして、彼女はスパーダの力を元に究極の時空魔術が刻み込まれている魔導器、』


アイゼン『「時の腕輪」を創りだした』


アイゼン『ちなみに彼女は、それと引き換えに魔女としての全ての力を失ったがな』


神裂「で、その『時の腕輪』というのが魔帝を封印する切り札だったのですか?」


アイゼン『まあな。封印できる「役」はやはりスパーダだけだったが。元々彼の力を動力源としているからな』

アイゼン『その莫大な力が必要なのだよ』


アイゼン『本来の性能は「彼の血」にしか引き出せん』


アイゼン『この方法を使えるのはスパーダのみだった』

409: 2010/08/31(火) 21:56:52.14 ID:yeP4fM6o

アイゼン『ま、使い方はこうだったらしい。まず「時の腕輪」を閻魔刀と結合』

アイゼン『魔剣スパーダでできるところまで魔帝にダメージを負わせ、そこにこの閻魔刀を叩き込む』

アイゼン『そして、「魔帝という空間」に時の腕輪の効力を刻み込んでいく』


アイゼン『それを何度も繰り返す。いくらスパーダの力を受けた時の腕輪でも、魔帝相手では、一発二発では全く効果が出てこないからな』

神裂「魔帝の動きを緩める為にですか?」

アイゼン『いや……少し違うな』

アイゼン『魔帝の戦闘速度自体は変わらん』

神裂「?」



アイゼン『狙いは「創造」だ』


アイゼン『魔帝の力はスパーダと並ぶ。格が同じだ。いくらスパーダでもその力自体の時間軸は支配できん』

アイゼン『だが創造はまた別だ。あれはある意味、「方程式の塊」だからな』

アイゼン『魔帝自身が戦闘に使う力とは分離している、また別の機構だ』

アイゼン『ダメージを負わせれば、「創造」が損壊部分を創り直そうと稼動する』

アイゼン『そこに閻魔刀で空間を裂き、「時の腕輪」の効果を少しずつ刻み込んでいく』


アイゼン『これでどうなっていくかはわかるな』


神裂「…………最終的に『創造の時間軸』、つまり『稼動速度』が極端に落ち込む……という事ですね』

410: 2010/08/31(火) 21:59:28.64 ID:yeP4fM6o

アイゼン『そうだ』

アイゼン『これで結果的に隙が生まれる。封印を施す充分な隙だ』


アイゼン『傷を負った魔帝を、スパーダは余裕を持って封印した』

アイゼン『そして更にスパーダは閻魔刀と時の腕輪を使い、』

アイゼン『魔界の大穴からの「侵食速度」を緩め、己の魂の多くの部分を礎としてその口を封印した』

アイゼン『その後、覇王をも封印』


アイゼン『これでかの大戦は終結した』


アイゼン『人間界にはほとんど被害なく、まさに完全な勝利…………だったはずなのだがな』


神裂「……?」


アイゼン『綺麗さっぱり解決とはいかなかった。色々とまた別の問題が残ってな』

411: 2010/08/31(火) 22:01:27.14 ID:yeP4fM6o

アイゼン『まず、魔帝の存在。生きて存在している以上、復活の時がいつか訪れるのは必然だ』

アイゼン『覇王も、だ』

アイゼン『そして「魔界の口」も問題だった』


神裂「……それは閉ざされたのでは?」


アイゼン『……ああ、閉ざされただけだ。「穴自体」は今も存在している』


アイゼン『そしてその封印も不完全でな』


神裂「―――……!!!つまり、また開く時が来ると?!」


アイゼン『…………まあな。まず、スパーダでさえ、この口を完全に消すことは出来なかった』

アイゼン『魔帝軍と魔帝の戦いで、底なしの力を誇るさすがのスパーダも疲弊してな、封印も不完全』

アイゼン『かといって魂の大部分を使ってしまった為、再封印を施す力も無い』


アイゼン『いつか復活する魔帝を再び封印するのも困難だった』


アイゼン『魔帝は馬鹿では無いからな。同じ手で負けることはまず有り得ん』


アイゼン『時間をかければスパーダの力も癒えただろうが、人間界でそうするには少なくとも数万年はかかる』

アイゼン『魔界ならば治癒速度も速いのだがな』

アイゼン『そして魔界の口の封印は、それよりも速くに崩壊するのは確実だった』


アイゼン『更にだ。実は今な、二ヵ月半前の戦いの負荷でその封印がかなり揺らぎ始めておる』

412: 2010/08/31(火) 22:03:27.71 ID:yeP4fM6o

神裂「!!!!!」


アイゼン『だがまあ、スパーダはこの事態を見越していた』


アイゼン『そして後に、その解決を委ねる事になる。「次の世代」にな』



神裂「…………それって……つまり……!!」


アイゼン『皮肉な事だな。最愛の息子達に困難な宿命を背負わせるとは』



アイゼン『それこそ、血の滲む思いだっただろうなスパーダは』

アイゼン『できれば自分で全てを成し遂げたかったはずだ』

アイゼン『せめて家族達はそういう連鎖の外におきたかったはずだ』


アイゼン『だがそれは許されなかった』


アイゼン『彼はこうせざるを得なかったのだ』


神裂「…………」

413: 2010/08/31(火) 22:05:00.33 ID:yeP4fM6o

アイゼン『それでだ。スパーダの願いどおり、まず魔帝の件は息子達、そして更に次の世代の手によって解決した』

アイゼン『二ヵ月半前にな』

アイゼン『残るは覇王と魔界の口』

神裂「そ、それは……どうするんですか?」

アイゼン『ん~ハッハァ。心配には及ばん。もう解決の目星は付いておる』


神裂「―――!!!本当ですか!!!!!」


アイゼン『これは我も意外だったな。てっきり先に動くのは「弟」の方だと思っていたのだが』


神裂「……!!!??じゃあ……つまり……!!!」


アイゼン『今、「兄」が主導して動いておる。バージルがな』


神裂「!!!!!!!」


アイゼン『まあ、閻魔刀をバージルに授けた時点でスパーダは予見してたのかもな』


アイゼン『性格もバージルの方が父に似ておるしな』

アイゼン『力を追求してきたが、ある日を境に何かを守る為に戦い始める、という境遇も似ておる』

アイゼン『背景は全く違うが、まるで父の半生をなぞっておるようだ』

アイゼン『逆にダンテの方は母似だな。というか母の「生まれの気質」が見事に受け継がれておる』

アイゼン『まあ、母はあそこまでトンではいなかったが。息子二人とも両極端だな全く』

神裂「……?」


414: 2010/08/31(火) 22:08:15.63 ID:yeP4fM6o

アイゼン『ま、そういう事でバージルが動いておる。魔界関係の事は心配ない』

アイゼン『困難すぎる事なのは違いないが、スパーダの血は必ずやり遂げる』

神裂「……そう……ですね」



アイゼン『それどころかな。彼は「人間界そのもの」の問題も「己の身と引き換え」に解決しようとしておる」


アイゼン『我等「魔女の義務」をも、あの男は引き受けた』


アイゼン『いやはや、その度量には驚かされるな全く』


神裂「……また別に何か問題が?」


アイゼン『2000年前の大戦の後、魔界に纏わる問題も残ったか、人間界の問題も同じく残ってな』

アイゼン『セフィロトの樹だ。依然、人間達の魂は天界の手の中にあった』

アイゼン『天界は大戦の際に一気に動くつもりだったが、スパーダの介入でその機会が無くなってしまったからな』

アイゼン『そしてスパーダが人間界に残った以上、天界も天界で容易に手が出せなくなってしまった』


神裂「……スパーダはセフィロトの樹について何も言わなかったのですか?」


アイゼン『ん?ああ、まあ彼も最初は驚いていたな。だがな、我等と同じく彼も天界の真意までは気付けなかった』

アイゼン『我等からすれば、力場を失った一般の人間達を天界は懐で守ってくれている、といった認識だったからな』


神裂「…………」



アイゼン『そういうことでスパーダも容認したのだ。セフィロトの樹の存続をな』

415: 2010/08/31(火) 22:10:58.05 ID:yeP4fM6o

アイゼン『それにな、当時はセフィロトの樹が起動してから既に二万年以上経っていてな』

アイゼン『人間達はその中で既に安定しつつあったのだ』

アイゼン『「この人間達」は確かに弱い。寿命に縛られ容易に氏ぬ』


アイゼン『だがな…………その分、極端な「変動」はおきなかった』

神裂「……」


アイゼン『全体的に穏やかだったのだよ』

アイゼン『まあ、人間同士の戦いはいつの世もあったが、』

アイゼン『それでも古き神々が君臨していた時代よりは遥かに秩序が保たれていた』

アイゼン『人間達は次々と。我等からすれば、かなり早いサイクルで氏に、そして世代を連ねていった』

アイゼン『そしてその中で紡がれる無数の物語』

アイゼン『短命だからこそ、一瞬に全てをかけて燃え上がる美しい灯火』


アイゼン『短命だからこそ、限りある寿命だからこそ、彼らは勇気と誇りを持ちその一瞬に全てをかけていく』



アイゼン『敵意も。愛も。喜びも。悲しみも。短命な分、全てが濃密であり、まるで芸術品だ』



神裂「……………………………………………………」

416: 2010/08/31(火) 22:12:23.70 ID:yeP4fM6o

アイゼン『我等もな、そしてスパーダも。この「人間界の姿」に愛着をもってしまったのだよ』



アイゼン『そもそも、スパーダは「この人間界の姿」を見て、「この人間界の為」に立ち上がったのだ』


アイゼン『彼が心奪われ、そして愛してしまったのは「この状態」の人間界なのだからな』



アイゼン『更にそれ以前に、「この人間界」の体制を壊す訳にはいかない』

アイゼン『セフィロトの樹をいきなり全て取っ払ってしまえば、大半の者達は「力場」を失う』

アイゼン『それは正に最悪だ。滅ぶに等しい事だ』


神裂「…………」


アイゼン『だから誰も変化を望まなかったのだよ』

アイゼン『我等はこの人間界を守る為、そして愛してしまった為』

アイゼン『そして天界はいずれ闇の左目を手に入れる為、そして力を拡大させる為にな』

アイゼン『これまた皮肉な事にな、双方の望みが一致した訳だ』

417: 2010/08/31(火) 22:13:19.54 ID:yeP4fM6o

アイゼン『だが人間界には天界とルーベンの賢者、魔界の諸神に支援されている我等、そしてスパーダ』

アイゼン『この三勢力が半永久的に留まる事になる』

アイゼン『それはそれで、また様々な問題の火種となり得る。そもそも天界と魔界は完全には相容れないからな』


アイゼン『そこでそれぞれの権利の領分を取り決め、誓いを立てた』


アイゼン『天界は人間達のこの世界を管理させ安定させる事。大きく動けるのは人間界の為である事のみ』

アイゼン『我等魔女は天界とルーベンの賢者を監視』

アイゼン『ルーベンの賢者は我等魔女を監視』

アイゼン『スパーダの役目は、魔界からの脅威を退ける事とそれぞれの力関係を監視する事』



アイゼン『そして人間界の保全が最優先になるように行動する事、だ』



アイゼン『こうして相互監視、それぞれの領分に取り入らないよう、バランスが保たれた』


アイゼン『今から約520年前まではな』


神裂「…………確か、アンブラが滅亡する頃ですね?」



アイゼン『…………正しくな。このバランスが崩壊したのだ』


アイゼン『天界の策略でな』

418: 2010/08/31(火) 22:14:29.15 ID:yeP4fM6o

神裂「何があったんです?」

アイゼン『色々と複雑でな……』

アイゼン『まず当時のルーベンの長、「バルドル」。光の右目を所有していた男だ』


アイゼン『この男は天界と深く繋がっていてな。彼もまた、天界の意志に沿いアンブラの魔女から闇の左目を奪取しようとしていたのだ』


アイゼン『そして奴は、アンブラを陥れた』


アイゼン『奴の光の右目は、既に天界の協力で本来の姿で覚醒していてな、その目を使ってlkoiagffda、いや……』

アイゼン『うん…………「観測者として因果律を見定めた」…………これは何か違うな』


神裂「……あの、正確でなくとも大体で良いですよ?』


アイゼン『……………まああれだ。かなり簡潔に言うと未来を見たようなものだ』


アイゼン『とにかくだ。奴は「後に闇の左目が継承されるであろう者」を特定し、その者が「生まれる前」に手を加えたのだ』


アイゼン『まあ、闇の左目は特殊な体質と血筋の者しか継承できんからな。そこまで大変な作業ではなかっただろう』


アイゼン『そしてバルドルは「その者を生む予定」の母を誑かし、そして子を儲け、「後の闇の目の継承者」を「自分の娘」としたのだ』

アイゼン『いわば未来を変えたのだな』

アイゼン『その娘は順当に成長していれば、若き戦士として後にアンブラに君臨し、長の座さえ狙えた者となっていただろう』

アイゼン『アンブラの核の一つとなり、そして民を守る者となっていたはずだろう』


アイゼン『だが彼女の未来は書き換えられた』


アイゼン『賢者一族と魔女一族の禁忌の子』


アイゼン『アンブラの運命を変えた子となった』

419: 2010/08/31(火) 22:15:51.02 ID:yeP4fM6o

神裂「…………」

アイゼン『互いに距離を置き、お互いに干渉せずにバランスを保っていた我等と賢者』

アイゼン『この二者間が繋がり、子を儲けたとなっては大問題だ』

アイゼン『更にだ。その子は闇の左目を継承してきていた血筋』


アイゼン『この事で一気に緊張が増した』


アイゼン『これは一部の上位の者達にしか知らされていなかったが、我等はその子の父がバルドルである事を突き止めた』

アイゼン『そして光の右目も覚醒している事をもな』

アイゼン『当時の我等は、この目がジュベレウス復活のカギである事は知らなかったが、それでも相手の狙いが闇の目である事はわかる』


アイゼン『「闇の目を狙った戦争行為」。我等はそう捉えた』


アイゼン『賢者も賢者で、裏を知っているバルドルを省き、上層部は魔女が光の目を狙って動いたと捉えたようだ』

アイゼン『バルドルがそう煽ったんだろうな。戦争を起こす為に』


神裂「…………」


アイゼン『そして魔女と賢者は衝突し、100年に渡る戦いの後、賢者が絶滅するという形で決着が着いた』



アイゼン『魔女が勝利したのだ』


アイゼン『だがな。それがまた問題となった』

420: 2010/08/31(火) 22:17:54.49 ID:yeP4fM6o

アイゼン『どちらが先を手に出したか、どちらに非があったかなどは最早どうでも良かった』


アイゼン『問題はパワーバランス』

アイゼン『ルーベンの賢者の絶滅。それにより大きく傾いた人間界のパワーバランスだ』

アイゼン『更に、その戦争から消すことの出来ない巨大な火種が誕生した』


アイゼン『賢者と天界は繋がっている』

アイゼン『当然、我等魔女は天界に対しても疑念を抱き、そして敵意を抱く』

アイゼン『魔女の怒りは爆発したのだ。こちらは裏切られたと認識しているのだからな』

アイゼン『あちこちで天使と魔女の戦いが散発的に起こり、更に我等は他の人間の天界勢力、』

アイゼン『十字教徒達にも敵意を向けるようになった』


神裂「…………!!!!」


アイゼン『当然、天界はそれ相応の行動をとる』



アイゼン『その結果がこのザマよ』



アイゼン『そなたが知っている伝説通りの「結末」だ』


神裂「ちょ、ちょっと待ってください!スパーダは結局介入しなかったのですか?!」

421: 2010/08/31(火) 22:21:27.33 ID:yeP4fM6o

アイゼン『介入できなかったからな。状況的に』

アイゼン『まず魔女と賢者、どちらに非があるかは、第三者のスパーダからは確かめようが無い』

アイゼン『というかだ、彼が話を聞く前にに戦火が開いたからな』

アイゼン『そしてその後の天界の総攻撃による「魔女狩り」』

アイゼン『これも彼は動けなかった』


アイゼン『彼の最も重要な理念は「人間界の為」』


神裂「…………」


アイゼン『では、その天界が動く直前の状況を見てみると?』

神裂「…………そ、それは……魔女の方が……」


アイゼン『そうだ。我等こそが人間界への脅威となりつつあった』


アイゼン『大勢の一般の人間達へ敵意を向け、そしてあちらこちらで無差別に天使を狩る』


アイゼン『スパーダにとって、双方が掲げる「正義」のどちらが正しいかは二の次だった』



アイゼン『より大勢の命が救われる方を選ぶしかなかった』



アイゼン『だからこそ、スパーダは天界の動きを黙認した』

422: 2010/08/31(火) 22:23:05.00 ID:yeP4fM6o

アイゼン『彼もその時、これは天界が太古から張り巡らせてきた罠だと感付いたかもしれない』

アイゼン『だがな、そこに気付いたとしても当時の彼にできる事は無かった』

アイゼン『状況的に見て人間達は人質。その魂は天界に握られていた』

アイゼン『閻魔刀を使えば、セフィロトの樹を切断する事は出来たかも知れぬ』

アイゼン『だがな、それには莫大な力が必要だ。それこそ全力の一振りを必要とする』

アイゼン『当然人間界内でそんな力を行使すれば、被害は莫大な規模になる』

アイゼン『最悪、人間界が崩壊する恐れがある』


アイゼン『これも天界の「保険」だろうな、セフィロトの樹の強度は人間界の器の強度を遥かに上回っていたのだ』


アイゼン『そして天界の軍勢と正面から戦うのも被害が伴う』

アイゼン『そもそもどうにかして天界を退けたとしても、あるいはセフィロトの樹を破壊できたとしても、』

アイゼン『それと引き換えに「この人間の世界」は理を失い崩壊する』



アイゼン『これは見方を変えれば、スパーダの生涯でたった一度の「敗北」と言えるだろうな』


神裂「…………」


アイゼン『彼は戦わずして、戦うことすら出来ずに「負けた」』



神裂「…………」


アイゼン『そしてスパーダは我等を見捨てた。見頃しにした』


アイゼン『より大勢の人間の世界と命を守る為にな』


423: 2010/08/31(火) 22:24:46.45 ID:yeP4fM6o

アイゼン『それにだ。スパーダが天界を当初信頼してしまった理由は、』


アイゼン『彼が直に会った者が十字教の神であった事が原因でもある』


神裂「…………?」

アイゼン『四元徳率いるジュベレウス派、十字教はその下部派閥だ』

アイゼン『この十字教の者はな、どちらかというと人間を慕っていてな』

アイゼン『できるだけ人間達を守りたがっていた連中だ』

アイゼン『天界内の穏健派とでも言うか』

神裂「……」

アイゼン『ジュベレウス派はそこを上手く利用したのだろう。人間界の実質的管理をこの十字教に任せ、』

アイゼン『2000年前の大戦後の誓いの場でも、スパーダと十字教の神を面会させた』

アイゼン『そしてスパーダは「彼」を見て信頼してしまったのだ』

アイゼン『彼には人間に対する「本物の愛」もあったからな』


神裂「……そう……なんですか……」


アイゼン『……少しほっとしたか?そなたの慕う神が穏健派で』

神裂「あ、いえ…………」


アイゼン『これは忘れるな。天界は天界。どれだけ穏健派だろうと、セフィロトの樹を創った張本人の一人だからな』


神裂「…………はい」

425: 2010/08/31(火) 22:25:48.46 ID:yeP4fM6o

神裂「…………ところで……あなた方は憎んでいますか?スパーダを?」


アイゼン『ん?いや。我等は全く憎んでおらん』

アイゼン『確かに哀しい結末だが、我がスパーダと同じ立場なら確実に同じ選択をとっていた』


アイゼン『誰も彼を責める事が出来ん』


アイゼン『我等が彼を責める事は絶対に許されん』


アイゼン『そして、この件について彼を責める者は我等は絶対に許さぬ』


アイゼン『絶対にだ』


アイゼン『これは、天界の目的を知りえる機会があったのにも関らず、見過ごしてきた我等の自己責任だ』

アイゼン『スパーダにセフィロトの樹の事を伝え、心配ないと教えたのも我等だ』



アイゼン『全てが我等アンブラの魔女の責任だ』



神裂「…………」

426: 2010/08/31(火) 22:28:14.61 ID:yeP4fM6o

アイゼン『…………まあ、そんなこんなでな』

アイゼン『この問題は我等がケリをつけねばならん事』

アイゼン『セフィロトの樹も、今の状況も、我等が創ったようなモノ』


アイゼン『我等が清算するべきなのだ』


アイゼン『これが今の「魔女の義務」だ』



神裂「……それで、バージルさんはそれをも引き受けたのですか?」


アイゼン『まあな。彼は彼で、父の行動に色々責任を感じておるらしい』

アイゼン『彼が思い悩む事ではないのだがな。まあ、彼が共闘してくれるのならば百人力』

アイゼン『拒む理由も余裕も無い』



アイゼン『ようやく本格的に動けるのだ』



アイゼン『ただ、全てを彼に押し付ける訳では無い』


アイゼン『我が子孫の二名にも身を粉にして動いて貰っておるし、』


アイゼン『我も可能な限りサポートする』

427: 2010/08/31(火) 22:30:15.11 ID:yeP4fM6o

アイゼン『そしてそれが今だ』


アイゼン『そなたの先程の戦いと氏も、この始まりの一部に過ぎん』


神裂「じゃあ私が戦った魔女は……」


アイゼン『彼女もバージルと共闘している』


アイゼン『もう一方は会っておらんだろうが、二人の魔女とバージルは共に動いておる』

アイゼン『この二人共、我に並ぶ、いや我以上のアンブラ史上きっての強者だ』

アイゼン『決してバージルには引けをとらん』


神裂「…………」


アイゼン『こう思えば、少しは誇りになるのではないか?』

アイゼン『バージルと同等の者に一切り加えることができた と』


神裂「……ま、まあ……」


アイゼン『ま、本気の本気、全力でやっていたとしたら掠りもせんだろうがな。そなたは一撃で即氏だ』


神裂「……………………………でしょうね(ここで上げて落とすんですか)」

428: 2010/08/31(火) 22:32:15.76 ID:yeP4fM6o

神裂「……あの、清算……ってつまりすべてを解決することですよね?」


アイゼン『そうだ』

神裂「スパーダでさえ動けなかった問題を解決できるんですか?」

アイゼン『あの時と今は状況が違っていてな』

アイゼン『まずバージルは全盛期、つまり一連の大戦で疲弊する前のスパーダと同等の力を有しておる』

アイゼン『傷の癒えていなかったスパーダには出来ずとも、今のバージルにはできうる事がある』


アイゼン『そして主神ジュベレウスの氏。これにより、天界内も混乱がおき始めている』


神裂「ジュベレウスって……さっき言ってた……」

アイゼン『そうだ。つい数年前、生き残っていたバルドルと天界は光の右目と闇の左目の両方を手に入れてな』

アイゼン『ジュベレウスを復活させた』

アイゼン『だがその直後に、そなたを屠った者が打ち倒した』

神裂「!!!!!」


アイゼン『これにより、天界は人間界を手中に収めておく最大の目的を失い、そして天界内でも火種が生まれ始めた』

アイゼン『ジュベレウスの為に今まで耐え忍んできたのだ。その最大目的が消失した今、』

アイゼン『ジュベレウス派の四元徳を筆頭とした、天界の体制に揺らぎが生じ始めておる』


神裂「……」


アイゼン『そして魔帝の脅威も失せ、覇王の件の解決も秒読み段階』


アイゼン『正に好機。今こそ「時代の変わり目」だ』



アイゼン『今こそ動く時だ』

429: 2010/08/31(火) 22:33:54.66 ID:yeP4fM6o

神裂「…………では具体的に何を?」


アイゼン『まあ、「まず」はセフィロトの樹を破壊する。いや「一発で切断」する、か』

アイゼン『覇王の排除・魔界の口の件を平行しつつ―――』



アイゼン『―――そして「利用」しつつ、な』



神裂「―――破壊って……!!!!??」


セフィロトの樹の破壊。それが状況的にできないからこそ、スパーダは動けなかったのではないのか?
先の話の通りだと、それは人間にとって最悪の結末を引き寄せるのではないのか?

さっきまでとは食い違う、矛盾している言葉に神裂は興奮して立ち上がろうとした。

だがそんな彼女を、アイゼンは軽く左手を挙げて制止し。



アイゼン『ただ切る訳がないだろうが』



アイゼン『だから「まず」と言っておるだろうが』



アイゼン『全ての問題を解決する算段は既に出来ておる』

430: 2010/08/31(火) 22:37:12.26 ID:yeP4fM6o

アイゼン『魔界の口や覇王の件はもちろん』


アイゼン『セフィロトの樹の破壊と、それに纏わる被害の件、』

アイゼン『それと力場の件も全て入念に練っておる』

アイゼン『「全ての問題」を今の一度で解決させる』



神裂「…………で、ですが……さすがに一度にそんな……!!!!」


アイゼン『いいか、これだけは我が魂に賭けてやる』


アイゼン『「闇の目を覚醒させた魔女」と「列長を越えた魔女」、』


アイゼン『そして完全なる成長を遂げた、「全盛期のスパーダの血」に不可能は無い』



アイゼン『それぞれが己の力を信じ、道を歩み通せば必ず成就する』




アイゼン『必ずな』




神裂「………………ッ!!!!」

431: 2010/08/31(火) 22:38:22.45 ID:yeP4fM6o

アイゼン『………………と、はいったもののだ』

と、アイゼンは瞳を光らせキメた次の瞬間、今度は力が抜けたようにヘラヘラ笑いながら、
息を吐き背もたれにだらしなくよりかかった。


アイゼン『重要な「パーツ」、「駒」が依然足らなくてな』

アイゼン『ハッハー、まだ準備が整っておらんのだなこれが』

アイゼン『このままでは計画がオジャンだ』


神裂「―――じゃ、じゃあダメじゃないですか!!!!!???」


その呆れ笑いのように口の端を上げているアイゼンに対し、
声を張り上げて立ち上がる神裂。


アイゼン『ハァン待て待て。あるにはある。どの道手に入れる』

アイゼン『だがな、その「候補」がいくつかあってな』



アイゼン『どれを選ぶか、迷っておるのだ』

432: 2010/08/31(火) 22:40:07.86 ID:yeP4fM6o

アイゼン『まあ、第一候補は「今」手中に収めているのだがな』

興奮する神裂とは対象的に、
アイゼンは落ち着いたままニヤニヤ笑い、顎の下を摩りながら彼女をジロジロと眺め始めた。

アイゼン『これは相手側の意志も関係しておってな』

アイゼン『相手の答えを聞き、その心を確かねばならん』


神裂「で、では!!!さっさと決めてください!!!!!もう計画は始まってるんですよね!!!!」


神裂「なんでそう悠長に構えているんですか!!!!!!!???」

アイゼン『なぜそなたがそんなに興奮する?』




神裂「――――――な、なな、―――」




神裂「――――なぜって当然だろうが!!!!!!!!!皆の命がかかってんだっつうううんだよ!!!!」




アイゼン『ほぉう?そなたは「天の者」。立場的には我等の敵だぞ?』

433: 2010/08/31(火) 22:42:48.06 ID:yeP4fM6o

アイゼン『我等の計画に不備があるのを喜ぶべきでは無いか?」



神裂「―――ふ、ふざけんじゃねーぞアバズレが!!!!!!!!!!違う!!!!!!!!!!!」



アイゼン『何がどう違う?言って見ろ。「天使」よ―――』



アイゼン『―――天の手先よ』


今にも跳びかかってきそうなくらい興奮している神裂に対し、
相変わらず平然と言葉を返すアイゼン。


神裂「私は……!!!!!!!私は!!!!!!!!」



神裂「確かに身は天の者!!!!!!」



神裂「だけど―――!!!!!!!!!」



                  
神裂「―――――――『私自身』は『人間』だッッッッ――――――――!!!!!!!!!!!!!!」




神裂「――――――舐めてんじゃねーぞコンチクショォォオォォォォォォオ!!!!!!!!!!」



434: 2010/08/31(火) 22:44:32.50 ID:yeP4fM6o

その激昂した神裂の言葉。

アイゼンはそれを聞き、小さく笑った。

そして一回だけ手を叩き。


アイゼン『ハァ~ハン。これで決まったな』



神裂「…………………………………………………………ハァ??」



アイゼン『合格だ』


アイゼン『神裂火織』




アイゼン『我等はそなたに決めた』




神裂「――――――……………??????」

435: 2010/08/31(火) 22:46:13.37 ID:yeP4fM6o

突如放たれたアイゼンの言葉。

神裂は口をぽっかりと開け、呆然として立ち尽くしていた。
何を言われたのか、そしてその意味は。

それらを理解するまでにいくらか時間が必要だった。

そんな彼女に対し、アイゼンは淡々と言葉を続けた・


アイゼン『いいか、よく聞け。裁きを下す』


アイゼン『そなたに科せられる「刑」は―――』



アイゼン『我等の「駒」となり、我等と「共に」戦い―――』




アイゼン『―――人間達を救う為に氏力を尽くす事だ』




アイゼン『―――この戦いに身を捧げろ』




神裂「―――」


そして完全に思考が停止する。

一体この魔女は何を言っているのか。

437: 2010/08/31(火) 22:49:12.17 ID:yeP4fM6o

固まって15秒後。


神裂「………………………………い、いいんですか……?……『私』で……………?」


それが、この判決を聞いた彼女の第一声だった。
停止しそうな思考の中、彼女がどうにかして吐き出した一言だ。

『いいんですか?私で?』


これは彼女の今の純粋な気持ちだったのだ。


知らずとはいえ、天界の手足となった身。
その罪は重い。


そんな自分なんかがバージル達と並び。

そして人間を救う為の大仕事を担うなど。


アイゼン『そう思えるからこそ、そなたが良いのだ』


そんな神裂の心の中を察したようなアイゼンの言葉。



アイゼン『答えは聞かぬ。そなたのことだ。聞いたところでそれは「無駄」な事だ』



神裂「………………………………………………………あ、ありがとうございます…………」

そして神裂はその場で、アイゼンに深く頭を下げた。

瞳から大粒の雫を落としながら。

438: 2010/08/31(火) 22:50:59.52 ID:yeP4fM6o

それは嬉し泣きだった。

己の「存在の過ち」を償う機会に対しての。


この突如舞い降りてきた、二度目のチャンスに対しての。


『本当の意味』で人間達の為、そして友の為に戦える機会を与えられて。

彼女はその場に泣き崩れた。
両手で目を擦り、言葉にならない声を上げながら。


激昂していた分その興奮の反動で、彼女の心が一気に溶け落ちていった。


数十秒後、黙って見ていたアイゼンは椅子から立ち上がり進むと、
そんな神裂の前に屈み、彼女の顎を右手で軽く上げた。

そして神裂の鼻先と仮面の先端が触れそうな距離から、彼女の顔を覗き込み。


アイゼン『神裂火織』


神裂「うぅ゛…………はぃ゛………」


アイゼン『立て』


神裂「―――………………」

439: 2010/08/31(火) 22:53:08.36 ID:yeP4fM6o

アイゼンの言葉に促され、そして顎に優しく添えられている手に従い、
神裂は依然泣きながらゆっくりと立ち上がった。

アイゼン『さて、決まったならさっさと事を進めようか』

アイゼン『具体的な計画内容は後だ。まずはそなたの身を「清め」ばならん』


アイゼン『「絶大なる魔」でな』


アイゼンは手を神裂の顎から頬へと優しく伝わせ。
もう片方の手で己のマントの端を掴み、一度大きく広げて仰がせた。


アイゼン『少し痛むが、しばしの辛抱だ』


神裂「………………?」


その瞬間。

仰がれたマントの向こうから姿を現す。



バージル。



神裂「!!!!!!!!」

そして次の瞬間。


神裂「―――――――――ぐがァッッッッ!!!!!!!!」


バージルは左手に持っていた閻魔刀、その鞘の先で彼女の首へと強烈な突きを放った。

440: 2010/08/31(火) 22:54:28.10 ID:yeP4fM6o

一気に後方に吹っ飛ばされ、柱列の一本に叩きつけられる神裂。
背中から突き出ていた七天七刀の刃が柱に突き刺さり、磔状態となった。


神裂「が…………ぁ……!!??」

両手で喉を押さえ、もがく神裂。
そんな彼女の元へとバージルは進み、そして彼女の胸から突き出ている七天七刀の柄を握った。


その瞬間。


神裂「―――!!!!!!!!!!」


七天七刀から流れ込んでくる思念。


神裂はこの瞬間に知った。
七天七刀が魔剣化したのはバージルによってだと。


神裂「――――――…………あ、あなたが―――」



バージル「黙れ」

441: 2010/08/31(火) 22:56:15.84 ID:yeP4fM6o

神裂「―――」

そしてこれから何が起こるかも。
己がどうなるかも、この七天七刀を介して彼女は理解した。


―――己は悪魔に完全転生する、と。


バージルの力によって。

バージルに影響された、バージルの系統の悪魔へと。


バージル、そして閻魔刀の『子』である七天七刀を核とした悪魔へと。


神裂にとって、バージルは『主』となる。
神裂にとって、バージルは『師』となる。
神裂にとって、バージルは唯一の『神』となる。



バージル「―――『名』を『与える』。『名』を『返す』」


凍て付くような無表情、鋭い突き刺さるような眼差しのまま、
『主』は『子』に言霊を刻み込む。




バージル「『神裂火織』」





バージル「―――『俺』の為に戦え」





神裂「―――」

442: 2010/08/31(火) 22:57:37.26 ID:yeP4fM6o

バージルの思念、その信念の強さを感じ一瞬にして彼女は思った。

この男なら確実にやり遂げる。

この男についていこうと。

この男が望む『世界』の礎となろうと。

そして神裂は即答する。



神裂「――――――はい。あなたの為に―――」



その神裂の答えを聞き、バージルは七天七刀を一気に引き抜いた。
次の瞬間、神裂体から溢れる青い光。


そして響く咆哮。


そして響く雄叫び。



それは『産声』。


二度目の『チャンス』と。


『真の戦い』を始めるべく生れ落ちた―――。




―――魔剣士 『神裂火織』の。




―――

467: 2010/09/02(木) 23:38:39.76 ID:Y9sHpogo
―――

翌日。

日本標準時間で午前3時頃。

この時、人間世界の大局が大きく変わった。

ローマ正教は、ヴァチカンの破壊は学園都市とイギリスの共謀によるテロと発表。
これにより、『聖地』を破壊されたローマ正教諸国は激怒する。
一気にイギリスと学園都市に対する敵意が爆発した。

それに対し、ほぼ同時刻にイギリスはその『テロ』の関与を完全否定。
全ては学園都市の単独行動と発表。

更に、バッキンガム宮殿がローマ正教によるいわれの無い『報復テロ攻撃』を受け、
女王エリザードが重傷を負ったと発表。


これによって全イギリス中が逆鱗。


逆に学園都市は『テロ』はイギリス単独によるもの、
そしてこちらもいわれの無い言いがかりで、ローマ正教の『報復テロ攻撃』を受けたと発表。


ロシア、ロシア成教は当然の如くローマ正教を最大限支持する事を表明。

更に国内の学園都市系列企業が、国家乗っ取りを目論んだと発表。

468: 2010/09/02(木) 23:41:53.68 ID:Y9sHpogo

イスラエルを省く中東諸国と中国・インドは中立を表明。


北欧諸国はプロテスタント色が強いものの、カトリックの影響も強く正に板ばさみ。

魔術的方面では北欧神話系統が最大派閥である事もあり、どちらに付くかをはっきりと決めるとのは困難を極めた。
そこでドイツ、デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド等はとりあえず中立的立場を表明。


十字教徒が中枢を占めるアメリカ、カナダ、オーストラリア等も混乱したが、
魔術サイドが直接国家の根幹に関ってはいない、ある意味『科学サイド的』な政治体制である為、
『物理的な利益』をも鑑みてイギリスよりの意志を表明。

アメリカ等にとって、ローマ正教諸国よりも
兄弟・家族国家であるイギリスの方が信頼できるのは当然だ。


イギリスが無くなれば事実上、大西洋の覇権の半分がアメリカの手の中から離れる事になる。


更にアメリカは、学園都市(というよりはその母体の日本)を支持する意志も示した。

これはロシアによる太平洋進出を懸念して、
更に不気味に沈黙し、虎視眈々と漁夫の利を狙っているであろう中国を牽制する目的もある。


十字教内の危機的な対立はアメリカにとっても大問題だが、

それ以上に物理的な『太平洋と大西洋の覇権』維持が、
この超大国の最優先事項となったのだ。

469: 2010/09/02(木) 23:43:10.46 ID:Y9sHpogo
そして当の日本は確たる意志を表明せず、いわば中立的立ち位置を望んだが。

学園都市がある以上、そして様々な恩恵を受け深く繋がっている以上、

更に何としてでも太平洋覇権を維持しようとする、形振り構わないアメリカの意志が関ってきたことにより、
第三者的位置に付くのは当然不可能だった。

少なくとも、学園都市・日本をセットとして敵意を向けているロシアに対して、断固たる対応を迫られた。


こうしてそれぞれの勢力の、『表向き』の見解が出揃った。

どの勢力の言葉も真っ向から食い違っていた。
どれが正しいのか、それが真実なのか、どれが嘘なのか。

一般の人々には知る由がなかった。

だが、極一部の人々は何となく気付いていた。


この『世界』のとある『違和感』に。


何かがおかしいのだ。
何かが狂ってるのだ。
何かが病んでいるのだ。


中立を表明した国はそれなりにあるものの、なぜか開戦を防ごうという意志を表明する国は一つも無かったのである。
どの国も、戦争勃発自体を拒否しようという姿勢を見せなかったのだ。

各国の配置は、なぜか上手い具合に『二分』。
そして各国の声明はどれも対立を仰ぐようなものばかり。

ローマ正教諸国もロシアも、アメリカ・イギリス等のアングロ=サクソン諸国も、
皆あまりにも挑発的・攻撃的すぎる声明を出している。

中立を表明した国も、戦争自体には否定的ではない。
いずれ参戦していくのが目に見えている。


これでは、まるで『世界そのもの』が大戦を『やりたがっている』ような―――。


皆が口裏合わせて、世界大戦が泥沼と化すように動いているような―――。

470: 2010/09/02(木) 23:44:44.88 ID:Y9sHpogo

しかし、極一部の冴えてる者でも気付けるのはここまで。

ここから先は『物語』の『中心人物達』しか知る事が出来ない。


この『違和感』と『狂気』の正体は深い深い影の底。


その闇の底からの『意志』で、世界各国は踊らされているのだ。
どの国も、人知を超えた巨大すぎる『うねり』に流されているのだ。


フィアンマに影から扇動されている十字教も然り。
ウロボロス社と軍需産業で深く繋がっているせいで、踊らされるアングロ=サクソン諸国も然り。


当の国々はそんな事には全く気付いていない。
己の行動は、全て己達の意志だと認識している。


だが違う。


全て『茶番』だ。

より大きな火種が形成されるよう、
より大勢の命が失われ、大きな戦火が起きるように巧妙に誘導されていただけ。


彼らは『道化』。

彼らは『生贄』なのだ。

471: 2010/09/02(木) 23:45:53.20 ID:Y9sHpogo

これらは全て『表向き』に過ぎない。

これらの『虚構』の下にある、『巨大な爆弾』。


これこそが本物の『危機』。


第三次世界大戦など、ただの『小さな火花』だ。


魔界と天界の全面衝突という巨大な爆弾を点火する為の。

更に、その破滅的な衝突でさえ、極一部の者が超越した存在になろうと企んだ『隠れ蓑』。



ここからとある『変革』が始まる。

そしてこの争乱が終わった時。

そこからは誰にとっても『新たな時代』となる。

一般の人々が気付かないような『些細な変化のみ』で留まるか。
それとも全人類が認識する劇的な変化か。

それは想像を絶する苦難の時代か、逆に希望に溢れた時代か。


それとも『終末の最期の時代』か。


『誰の目的』が遂げられるかで、未来は千差万別。

変化の度合いも様々。

472: 2010/09/02(木) 23:47:43.72 ID:Y9sHpogo

この『うねり』の主人公・中心人物達。

『荒波』の中、懸命にもがきながらも、望む未来を手に入れようとする『少年少女達』。

『全て』を統べる力を手に入れようと、野心に溢れる『挑戦者達』。

そして己自身の強大な力と宿命に縛られつつも、その義務を全うしようとする『怪物達』。


皆が皆、己の信念を貫くべく突き進む。


激突し、絡み合う信念と運命。

その紡がれる物語は今、ついに佳境を迎える。


ついに始まる。


ここがこの物語の『終わりの始まり』。


姿を現す『戦いの終点』。



その『ゲート』の向こうにあるのは『清算』と『成就』―――。


―――そして『終末』。


どれが誰の手に渡るか。


誰がどれを掴み取るのか―――。


―――

473: 2010/09/02(木) 23:48:18.56 ID:Y9sHpogo
―――

午前9時半。

学園都市、第一学区のとあるビル5階の薄暗い一室。

会議室として使われていたのか、部屋の壁の一面には巨大なスクリーン。
そのスタンバイ中の白い光が薄暗い室内を淡く照らしていた。

部屋の中央には、金属製の無骨な大きな机。
20人くらいが一同に会することが出来るくらいの大きさだ。

そんな机の周囲に、ぽつぽつと互いに距離を開けながら座っている三人の少年少女。

一方通行、結標、土御門。
三人の前の机の上には、それぞれ分厚い冊子とPDAが無造作に置かれていた。

部屋の片隅には医療用のベッドが置かれており、その上には包帯とギプスに覆われた褐色の肌の少年が横たわっていた。


『海原光輝』、いや。


化けの皮が剥げたアステカの魔術師、『エツァリ』だ。


この部屋の中にいるのは彼らだけではない。

壁際に並んだ椅子に、スーツを着た男や制服のままの高校生程の女、常盤台の制服を着た見るからに高慢そうな少女、
白衣を着た初老の男など、計10人ほどがそれぞれ足を組んだりしながら座っていた。

どれもこれも、暗部や学園都市の根幹に関っている者達だ。

474: 2010/09/02(木) 23:49:47.30 ID:Y9sHpogo

この集まりの目的は?

それは当然、デュマーリ島の件に関する具体的な話をする為だ。

この後、11時に二階の大きなフロアにて、集められた能力者達への説明がある。
その前に幹部級の見解を一致させておく必要があるのだ。

そして直接的には関らない一方通行やエツァリも、立場的には知っておく必要がある。

彼らグループを核とした反逆派は完全にアレイスター側に組した訳ではなく、
一応今も厳密に言えば敵対関係なのだ。

土御門・結標・麦野等の中核である幹部の身を出す以上、
残る二人も同じように状況を把握しておかねばならない。

そうして集ったものの。


結標「……遅いわね」


一方「チッ……」


肝心の麦野がまだ来ていないのである。
そもそも9時集合だったはず。

彼女はもう30分も遅刻していた。

475: 2010/09/02(木) 23:51:06.22 ID:Y9sHpogo

一方「カッ!……あのクソアマ何してやがンだァ?」

苛立ちを隠せず、義手の指先で机をガリガリと削る一方通行。

彼自身は軽く指先で叩いている感覚なのだろうが、いかんせん力加減難しく、
更に不機嫌な無意識下の行動ということも合間って、黒い指先は金属製の机の表面を見る見る抉っていった。


エツァリ「……落ち……着いて……待ちましょう……」


そんな一方通行を、ベッドの上から途切れ途切れの言葉で宥めようとするエツァリ。


一方「あァ?喋ンじゃねェよ半氏人が。黙って寝てろや」


エツァリ「がッッ…………ぐふッ……!!!」

そんな一方通行の言葉が終わる前に、咳き込むエツァリ。

一方通行はそれを聞き、
そォら言わンこっちゃねェ とでも言いたげに軽く肩を竦めた。


と、そうしていた時。


会議室のドアが勢い良く開け放たれ。



麦野「悪いわね。遅れたわ」

476: 2010/09/02(木) 23:52:17.40 ID:Y9sHpogo

やっと姿を現した麦野沈利。


土御門「…………」

一方「…………」

結標「…………」

エツァリ「…………」

四人ともその麦野の、昨日までとは全く系統が違う格好を見て固まってしまった。


麦野の非の打ち所の無いスタイルを上手い具居合いに強調している、
くびれ、ヒップ、そして太ももにかけての曲線が素晴らしい、
完全オーダーメイドのダークグレーのスーツ。

ジャケットの下には純白のワイシャツ。
タイはなく襟元は大きく開けられており、これまた美しい鎖骨の一部が見えていた。

肩には大きめの黒いコートを腕を通さずに引っ掛けている。
歩くたびにコートの袖と、スーツの『空』の左袖がスカーフのようになびきアクセントにもなっている。

腰には濃い茶色の皮製のような大きなベルト。
その腰の右側にアラストルを吊るしており、麦野は右手をその柄に乗せていた。


そして右目を覆う、大きめの黒い金属製の眼帯。
隙間から青白い光が少し漏れていた。

477: 2010/09/02(木) 23:54:05.31 ID:Y9sHpogo

麦野「……何ジロジロ見てんのよ」


土御門「…………イメチェンしたんだな」


麦野「……………………で?」


土御門「はっは、なんつーか、どっかの女軍人っつーか女将軍っつーか」

結標「なんか威厳あるわね。『大佐』とか『少佐』って呼びたくなるわ」


麦野「あ?何それ。文句あんの?」


土御門「いいやあ、褒めてるんだぜよ。バッチリ決まってるぜよ」

結標「前の格好も良かったけど、そういうのもスゴイ似合うわね」

土御門「俺もこの際だからビシッと決めようかにゃー。結標、お前もそろそろその格好どうにかしろよ」

結標「うるさい。私はいーのこれで」


一方「…………ハッ、少しは貫禄つけたなァ。良いンじゃねェのか?」


一方「少なくとも『今の仕事の間』はそっちのカッコゥのほォがいいかも知ンねェ」


麦野「あ、そう、それはそれはどうも」

478: 2010/09/02(木) 23:56:15.18 ID:Y9sHpogo

そっけなくも、まんざらでもなさそうに麦野は一言返すとコートと左袖、
そして栗色の美しい髪を靡かせながら指定の座に着いた。


それを見て、壁際に座っていた一人のスーツの男が立ち上がり。

「全員揃ったな。では始める」

スクリーンの横に付き、机を囲んでいる四名を見据えた。

「いや、その前にいつくか新情報を伝えておこう」

「ここにいた君達は知らんだろうからな」


「今から26分前、イギリス国内の軍事施設へ向けて、フランス原潜によるミサイル攻撃が行われた」

「今回の件において初めての、通常軍による軍事行動だ」


「三分の一は通常軍が迎撃、もう三分の一はイギリス清教と騎士が撃墜」

「残る三分の一は着弾した」



土御門「……………………被害は?」


「被害は軍属の氏者が23名、一般人が2名、そして迎撃の際に魔術師4名が戦氏」


土御門「…………」

479: 2010/09/02(木) 23:58:40.34 ID:Y9sHpogo

「それに対しイギリスは報復として、17分前にビスケー湾にてフランス海軍の駆逐艦二隻を撃沈した」

「一隻は空軍機の攻撃により、もう一隻は騎士の攻撃によってだ」

「そして現在、双方とも正規軍・魔術師達をドーバー周辺に集結させている。海軍はビスケー湾にも展開しつつある」

「お互いとも今だ相手の動きを監視していている段階であり、攻撃は散発的・小規模なものだが、全面衝突は三日以内に確実だ」

土御門「…………」

「それと平行してな、これはまだ公表されていないが、」

「24分前にロシアは、学園都市及び自衛隊・在日米軍の主要基地へ向けてミサイル攻撃を行った」

麦野「……!」

「それらは学園都市が全弾撃墜した」

一方「ハッ…………なンだ、アンチスキル共のひ弱な『エセ軍』もやりゃァできるじゃねか」

「いいや、アンチスキルはまだ動員されていない。これから召集する段階だ」

「今動いているのは別の部隊だ」

一方「はァ?」

「常識的に考えてみろ。本当に学園都市は純軍事組織を持っていないと思っていたのか?」

一方「……アビニョンに行った連中か?」


「そうだ。アビニョンに動員されたのはこれの極一部だがな」

480: 2010/09/03(金) 00:01:09.08 ID:yoYeaoYo
「まあ、それでな、16分前にその学園都市の『軍』と在日米軍、自衛隊によって日本海及び東シナ海の制空権は完全に掌握された」

結標「じゃあ、ロシアはもうこっちに手を出せないって事?」

「いいや。ロシアはまだ本格的にこっちには動いてきていない。今のところ、国内の学園都市系列施設を制圧している段階だ」

一方「おィ、その系列企業はどォすんだ?」


「当然、切り捨てる。状況的に見てロシア国内へ軍を展開するのは危険だ」


一方「自慢のトンデモ軍でもロシアと正面からやり合うのは不可能ってか?」

「いいや、『通常軍』相手なら圧倒できる。だが、君達は忘れていないか?」


「ローマ正教もロシアも、大量の人造悪魔兵器を保有している」


土御門「……」


「それらが大規模に使われ始めたら、学園都市の軍といえどもかなりの苦戦を強いられるだろう」

「ましてやロシア国内にまで手を広げていたら、包囲され殲滅されるのは確実だ」


「いいか、人造悪魔兵器が大規模動員されれば、この日本海・東シナ海のラインを守るので限界だ」

「いや、いずれ確実に突破される。学園都市の軍も自衛隊も、そして米軍も最終的には粉砕される」

「そもそも、アメリカはウロボロス社と深い繋がりがある為信用できん」


「そしてそれだけではない。時間が経てば今度は『天界』がやってくる」


一方「……」


「だからこそ君達に、その前に動いてもらう必要があるのだ」

481: 2010/09/03(金) 00:03:13.26 ID:yoYeaoYo

「さて、前置きはこのくらいにしてだ、本題に入ろう」

男が手に持っていた小さな端末を操作すると、スクリーンの画面が変わり、
とある二つの島の衛星画像に切り替わった。


「これが俗に言うデュマーリ島だ。北の島が『デュマーリ=セプテントリオ』」

その男の言葉にあわせ、さまざまな情報が衛星画像の上に表示されていく。

「この北島に広がっている都市が『メガス=デュマーリ』」

「人口は現時点で約49万4000人と思われる」

「ウロボロス社の中枢であり心臓部だ」

「そしてこの都市の地下には、地上の規模を上回る研究施設群がある」


「主に地上は経営・管理関係と住居、地下は研究開発だな」



「次にだ、南の島が『デュマーリ=メリディエス』」

「地下には採掘施設が広がり、地上は工場施設となっている」

「南島の人口は一万人弱だろう」

482: 2010/09/03(金) 00:05:10.24 ID:yoYeaoYo

「それでだ。今回、君達の最優先目標である、『天界の口を開く術式』はだ」

男の言葉にあわせ、北島がズームされる。


「ここ、『メガス=デュマーリ』内のどこかにあると思われる」

「ただ、どのような形で存在しているかは不明だ」

「都市全体を覆う規模なのか、それとも手に収まるサイズなのかはわからない」


一方「……使えねェ連中だなオマェらは」


「……この件に関しては反論の余地が無いな」


土御門「大体の位置の目安は付いてないのか?結構な面積もある。一から探してたら一ヶ月はかかるぜよ?」


「ああ。だがまあ、大きさはわからんが術者であるアリウスを『中心としている』のは確実だ」


麦野「居場所は?」


「ここだ」

男の声にあわせ、スクリーンに表示される巨大なビルの画像。
摩天楼の中でも一際高く聳え立っている。

大通りを挟んで二本の棟が聳え立ち、地上500メートルの上空で繋がっている、
凹をひっくり返したような構造の、頂点の高さは580mにも達する巨大建造物。

483: 2010/09/03(金) 00:06:53.57 ID:yoYeaoYo

「ここの最上階がアリウスの住居部分となっている」

土御門「……待て。術式の発動時もそこにいるとは限らないだろう?」

「それはもちろん。これ以上は現地での君達の行動が頼りだ」

「ここにいるのならばここを強襲し、別の場にいるのならば見つけ出す」

「確実なのは、『メガス=デュマーリ』内という事だけだ」


「ただまあ、これだけではさすがに君達でも難しいだろう」


「だからいくつかの、アリウスが使うであろう可能性の高い地点をリストアップしてある。大半が地下の研究施設だ」

「それらは後で各々確認してくれ。配られているPDAの中に情報がある」


「それとだ、土御門。後で君には拡大した衛星画像を一通り見てもらい、該当する魔術的因子がないか確認してもらう」


土御門「……ああ。わかった」


「できれば、君の『友人』に頼んで禁書目録の『目』も借りたいがな」


土御門「……一応話しておくぜよ」

484: 2010/09/03(金) 00:08:37.58 ID:yoYeaoYo

「ただ、それはあくまでも確認だ。アリウスがそう簡単に尻尾を出すとは思えない」

「最悪、最後の時まで術式を発見できない可能性も高いだろう」


麦野「そのジュツシキが見つかんない場合は?」


「術式の捜索と平行し、君達には『メガス=デュマーリ』を完全に破壊してもらう」


結標「…………街を壊すの?」


「そうだ。地上の構造物は当然、地下施設まで全てを徹底的にだ」

「術式があるかもしれない以上、とにかく破壊してもらう」

「できれば島ごと消し去ってもらいたいが、『君達程度』では無理だろう」


麦野「…………どうして?少なくとも『今の私』には不可能とは思えないけど?」


「物理的にではなく、『魔』的にあの島は要塞化している。恐らく、地球上で最も『固い』地の一つだ」

「単純に火力で消し飛ばせるような『存在』ではない」

「あそこは人間界でありながら人間界では無くなっているからな」

「『外側』からダメージを与えるのは難しい」


麦野「…………あ、そう。じゃあとことん『内側』で暴れてぶっ壊せばいいわけね」


「そういう事だ」

485: 2010/09/03(金) 00:10:51.36 ID:yoYeaoYo

一方「ちょっと待て。50万の住人はどォする?」

一方「どうせアリウスの片棒を担いでる連中は極一部で、9割以上は『カタギ』の一般人ってパターンだろォが?」


「気にするな」


結標「…………じゃあ何よ、50万人ごと吹っ飛ばせって言うの?」


「そういう意味ではない。君達が行く頃には、住人は皆居なくなっているのだ」


結標「?」


「これを見てくれ」

その男の言葉と同時に、スクリーンが切り替わった。

表示されたのは、『恐らく』衛星画像。

恐らく、というのも、画像の上端や下端に海面が少し見えているだけで、
大部分が黒い靄のようなモノで覆われていたからだ。


一方「…………?」




「10分前に捉えたデュマーリ島の姿だ」

486: 2010/09/03(金) 00:13:12.39 ID:yoYeaoYo

結標「―――!?」


土御門「………………何が起こってる?」


「アリウスが魔を召喚したのだ」

「人造悪魔ではない、本物の悪魔達を『降ろした』のだ」

「防御を固める為か、より大きな力を必要としているのか」

「それかアリウスも本格的に動き始めたのか、それとも我々がまだ気付いていない別の目的があるのか」

「それらは置いておくとして。とにかくこれにより、デュマーリ島の『存在』は更に異質なモノへと変わった」


「今や魔窟だよ」


「一般人は今頃、悪魔達によって貪られているだろうな」


「アリウスは50万の命を差し出して悪魔達を手なずけたのかもしれん」


「向こうは今正に阿鼻叫喚の地獄絵図だろう」


一方「……………………………………………………チッ……」

487: 2010/09/03(金) 00:15:06.03 ID:yoYeaoYo

「まあ逆に言えばだ。この悪魔達の暴虐の後に『形を保って残っている』構造物は、術式の一部である可能性もある」

「人気がない分、いくらか捜索しやすくなるだろうな」


麦野「…………で、それでもジュツシキとやらがぶっ壊せなかったら?」


「…………その場合はアリウスに対して全戦力を投入してもらう」


「出来る限りあの男を妨害しろ」

「殺せずともいい。時間を稼いでくれれば、学園都市側で別の手を打てる」


一方「……俺が必要ってやつか?」


「そうだ。ただ、今日はまだその事は話さない。概要は後日だ」

一方「ンだと?」


「俺も何も聞かされていない。俺に詰め寄ったところで何も得る物は無いぞ」


一方「…………あァそォですか」

488: 2010/09/03(金) 00:16:27.00 ID:yoYeaoYo

土御門「OK、向こうでやる事は大体分かったぜよ」

土御門「それでだ、これからの日程は?」


「まず今日11時から行われる説明が終わった後、」

「原子崩しと座標移動は、他の能力者達と共に別の施設で『調整』を受けてもらう」

「原子崩しは知識面の『書き込み』だけだが、その他の座標移動達は能力そのものをも調整する」

「その後、二日から四日間をもって『慣れて』もらう」


「それが完了次第、HsB-02七機によって君達をデュマーリ島へ『投下』する」

                                   シ ェ ル
「投下の仕方は、原子崩し以外は専用の『砲弾型カプセル』に入ってもらい、それらを超音速で撃ち込む形になる」


麦野「私は?」


「今の君なら『そのまま』降下できるだろう?」


麦野「…………」


「それと君には編隊の防御も兼ねて貰う」

489: 2010/09/03(金) 00:18:56.47 ID:yoYeaoYo

「『デコイ』も兼ねて護衛機をそれなりの数同行させるが、デュマーリ島の防御は鉄壁だ」

「本物の悪魔達が迎撃してくる可能性もある以上、既存の通常兵器のみでの突破は難しいからな」


「降下が完了次第、後は君等の判断に委ねられる。ミサカネットワークや衛星通信を介してこちらもバックアップするが、」

「最終的な判断を下すのは現地の君達だ」


「わかっていると思うが、降下してからが本番だ。悪魔達は必ず君達に群がってくる」

「氏人は確実に出る。負傷者も出る。だが実質的な支援はこちらからは行えない」


「全て自力で行ってもらう」


「全滅してでも任務を全うしろ」


「もし君達が失敗したら、例え生き残れていたとしても、君達が帰る場所は最早『存在していない』」



「君達の『生きる場所』は地球上から消滅している」



「生きたければ、そして守りたい者がいるのならば命を引き換えにして戦え」



「君達は我々の『希望』だ」

490: 2010/09/03(金) 00:20:04.74 ID:yoYeaoYo

土御門「…………」

そのスーツの男の言葉。
最後辺りは何やら私情が入っているようにも聞こえた。

大体予想が付く。

この男も妻か恋人か、それとも子供か、とにかく大事な者が学園都市にいるのだろう。

ここの集っている者も大半がそうであるはずだ。
これは学園都市の者全員にとっての、決して引けない戦いだ。

机を囲んでいる四人とも、沈黙のまま鋭い目つきで男を見据えた。

何も言葉を返さずに。


「………………ここまでで質問は?」

一度小さく咳払いした後に男が小さく、それでいて良く響き渡る声を発した。


土御門「……デュマーリ島に行くのは『俺達』だけじゃあないだろ?」


土御門「そこら辺の『動き』はどうなってる?」


「それは君達の方から『直接』聞いた方が良いんじゃないか?」


「君達の『友人』だろう?少なくとも我々側からは近付きたくはないからな」


土御門「…………まあな」

491: 2010/09/03(金) 00:21:33.86 ID:yoYeaoYo

「さて、他には?」

一方「……今日から能力者達の『調整』を始めンだろ?」

一方「クソガキの頭を弄るのはいつだ?」


「……書き込むプログラムがまだ完成していないからな、確実な事は言えないが……」

「まあ、明日の夕方までには準備が整うだろう」


一方「で、わかってンだろォな?」


「ああ。もちろん君と芳川桔梗に立ち会ってもらう。当然プログラムのチェックもな」


一方「…………」


「他には?」

男が軽く手を広げ、小さく眉を上げてそれぞれの顔を見る。
逸れに対し、皆小さく頷いた。


「……さて、じゃあ今はこの辺にしておこう」

492: 2010/09/03(金) 00:23:17.08 ID:yoYeaoYo


「出撃前にもう一度集ってもらい、更なる詳細説明と確認を行う」

「それまでに、その手元にある資料に目を通し覚えておいてくれ」

「あー、原子崩しと座標移動。後でついでにその資料も『書き込む』か?」


麦野「……いや。あんまり頭弄られたくないから結構」

結標「……私も遠慮しとくわ」


「よし……ああそれとだ、部隊内の人員編成も君達に任せる。48時間以内に報告してくれ」

「一応、こちらとしては原子崩しが指揮官、座標移動が副指揮官、土御門がアドバイザーと考えているが、」

「そこも好きなように役割分担してくれて構わない」

                                      オ ニ モ ツ
土御門「俺は『アドバイザー』役だけでいい。『部下・護衛』はつけなくていいぜよ」

土御門が薄ら笑いを浮かべながら、麦野の方へ軽く首を傾けながら声を飛ばした。


土御門「『一人身』が好きなんでな」


麦野「はッ、だれがお前なんざに『分ける』かよ。『部下』は『部下』。全部『私のモノ』よ」

493: 2010/09/03(金) 00:25:18.15 ID:yoYeaoYo

土御門「ほぉ~言うぜよ。さすが『女帝』だな」

結標「あー、ちょっと、私には少し『分けて』よね。そこの『アホグラサン』みたいに『雑用』まで全部やりたくないし」


土御門「ヒュ~こっちもこっちで言うぜよ。なあ、何か言ってくれよ『女王サマ』」

土御門は軽く口笛を吹きながら今度は、
壁際の椅子に座っている常盤台の制服を着ている女に視線を移した。


「話しかけないでくれない?私、アンタみたいなバカ男ってキライなの」

それに対し、鼻で笑いながら言葉を返す常盤台の『女王サマ』。

                 ココ
土御門「おーおー、『暗部』にはこういう女しかいねえのかよ全く」

土御門「もうちょっとこう、メイドみたくおしとやかな子はいねえのかにゃー」


「氏ねば?冥土にいけば会えるんじゃない?」

「あ、氏ぬのなら向こうで任務全うしてからね」


土御門「…………はぁ~、俺、任務が終わったら絶対お前らとは会わない生き方するぜよ」

「あら、すっごく嬉しいわねそれ」

結標「そうね。良い心構えよ」

麦野「雑草は雑草らしく、せいぜい目立たないように生きてな」

494: 2010/09/03(金) 00:26:49.07 ID:yoYeaoYo

土御門「…………お前ら…………外見は整ってるけど中身は本当に荒んでるぜよ……」

「アンタみたいなのにはコレで充分」


そんな他愛も無いくだらない会話の中、先程まで説明していた男はやれやれと言いたげに退室し、
一方通行は相変わらずイラつきながら机を指で『削り』。

その一方通行をエツァリはベッドの上から、苦笑いを浮かべながら見ていた。

エツァリ「…………」

一方「……………………こォいう時に一番思う。『脳』を無くす前ならチャッチャと音を排除できただろうってなァ」

エツァリ「…………」


一方「………………………………あァクソ……今のは忘れろ」


エツァリ「…………わかりました」


一方「つゥかおィ、何見てやがンだァ?何が可笑しい?」


エツァリ「……いえ……ははは」


一方「笑ってンじゃねェすり潰すぞミイラ野郎」


エツァリ「…………すみません」


―――

495: 2010/09/03(金) 00:27:40.04 ID:yoYeaoYo
今日はここまでです。
次は土曜か日曜に。

496: 2010/09/03(金) 00:28:36.82 ID:/.nv4YQ0
総力戦の予感乙!

497: 2010/09/03(金) 00:45:26.01 ID:AJU7Kr60
盛り上がってまいりました乙!

499: 2010/09/03(金) 01:25:23.00 ID:JZR40oAO
こんなわざわざメンバー導入するより
ダンテの魔具達を派遣したらドゥマーリ島壊滅しそうだけどな。
統率力0ぽいけど

501: 2010/09/03(金) 18:31:05.40 ID:yoYeaoYo
>>499
ダンテ達はダンテ達で別の方向から動いてます。


それを抜きにして、
一方通行や麦野達はこれが自分達が戦うべき事であるとして、出来る事を最大限やろうとしています。

ダンテ達はダンテ達で動くだろう、こっちはこっちで判断して全力を尽くす と。
ある意味、ダンテ達を信じている訳です。


そしてアレイスターはダンテ達、というかスパーダの血を全く信頼していません。

彼からすれば、ダンテ達がデュマーリ島に関与すること自体をも実は好ましく思っていません。
アレイスターは計算上、この麦野らの戦力で『時間稼ぎ』できると踏んでいますが、

そこにダンテ達が割り込んでくるとこの計算が根底から崩れますから。

良い方向に変わる『かも』しれませんが、
今まで悉くプランを滅茶苦茶にされてきたアレイスターにとっては経験上、悪い方向に変わる確率が高い訳です。


更に言うと、今回の学園都市の危機が500年前のアンブラ滅亡時の状況と被ってる事、
500年前、スパーダは大を救う為に小を切り捨て見頃しにした事、
更に彼は天界による能力者迫害を黙認し続けた揺ぎ無い事実等があり、

アレイスターは今回の件で、必ずしもダンテ達が学園都市を救ってくれるとは考えていません。

上条や一方通行のように人柄を見て『心』で信頼してはいません。
全て計算で物事を判断していくアレイスターは、そういう感情が欠落してますから。

例え助力を求めたとしても、ダンテ勢はそう簡単に動きません。
ダンテ勢はバージルやキリエの件があり、デュマーリ島に関してはかなりピリピリして慎重になってますから。


 次回へ続く:【禁書×DMC】ダンテ「学園都市か」【その18】


引用: ダンテ「学園都市か」【MISSION 05】