509: 2010/09/05(日) 23:30:37.54 ID:fKIUncwo
最初から読む:【禁書×DMC】ダンテ「学園都市か」
前回:【禁書×DMC】ダンテ「学園都市か」【その17】
一覧:ダンテ「学園都市か」シリーズ
―――
イギリス。
とある沿岸部にある、打ち捨てられた小さな小屋。
この屋内、床の上で、一人の女が横たわり小さな寝息を立てていた。
女の『下』には、長い長い金髪が広がっていた。
まるで金色の『ござ』が敷いてあるようにも見える。
ただその『ござ』の中央、女の腰の下辺りは真っ赤に染まっていたが。
そして女のベージュの修道服も、その腹部が同じく真っ赤に染まっていた。
彼女の名はローラ=スチュアート。
『元』イギリス清教最大主教にしてアンブラの魔女。
彼女は今、『逃亡の身』だ。
警察・正規軍は当然、必要悪の教会・騎士達からも追われている。
その罪は、『表向き』はイギリス女王の殺害を謀った事。
そして真の罪状は『魔女』であった事。
そのどちらの『罪状』も、彼女と女王エリザードにとっては作戦の内であり、
こうしてローラが追われているという事は成功した訳である。
まあ、その成功の『代償』は小さくなかったが。
イギリス。
とある沿岸部にある、打ち捨てられた小さな小屋。
この屋内、床の上で、一人の女が横たわり小さな寝息を立てていた。
女の『下』には、長い長い金髪が広がっていた。
まるで金色の『ござ』が敷いてあるようにも見える。
ただその『ござ』の中央、女の腰の下辺りは真っ赤に染まっていたが。
そして女のベージュの修道服も、その腹部が同じく真っ赤に染まっていた。
彼女の名はローラ=スチュアート。
『元』イギリス清教最大主教にしてアンブラの魔女。
彼女は今、『逃亡の身』だ。
警察・正規軍は当然、必要悪の教会・騎士達からも追われている。
その罪は、『表向き』はイギリス女王の殺害を謀った事。
そして真の罪状は『魔女』であった事。
そのどちらの『罪状』も、彼女と女王エリザードにとっては作戦の内であり、
こうしてローラが追われているという事は成功した訳である。
まあ、その成功の『代償』は小さくなかったが。
510: 2010/09/05(日) 23:32:54.96 ID:fKIUncwo
エリザードはローラの魔女の力によって左手を失い、更に胸部にも大きな傷を負い瀕氏の重傷。
ローラは、エリザードによるカーテナ=セカンドの最大出力の攻撃によって、
腹部に大きな『穴』を穿たれた。
双方とも手負い。
ローラは逃げ。
エリザードは追跡できず。
これによってどちらかが氏ぬ事無く、天界を信用させる事に成功した。
この『作戦』はこの二人しか知らない。
重傷を負ったエリザードの代理として実権を握るキャーリサも。
次の正式な最大主教が決定するまで、その代理の座に着いた者も。
そしてローラに続き神裂・ステイルが抜けた事により、実質的な指揮権が集中するシェリーも。
今やエリザード以外の者は皆、心の底からローラが敵だと思い込んでいる。
反旗を翻したのが人望の厚かった神裂ならばまた別だったろうが、ローラでは誰も庇おうとはしないのは当然。
それどころか、『ああ、そうか。そういう感じが前からあったな』と納得する声がちらほら出てきている事だろう。
ただまあ、普通ならローラ捜索に全力が注がれるだろうが、
今は状況的にそれどころではない。
たった一日。
それだけで世界の空気は変わった。
街中には開戦を告げる号外が溢れ。
テレビやラジオ、そしてネット上も戦争の話題で一色。
非常に嘆かわしいことだが、少なくとも『今』の逃亡中のローラにとっては好都合だった。
いくらアンブラの魔女といえでもこう手負いでは、
魔術師や騎士の実働部隊に徹底的に追い込まれたらどうしようもない。
実は言うと、彼女は『寝た』という訳ではなく、
半ば意識を失いかけ倒れ込んだのだ。
こんな状態では一介の平の魔術師相手ですら少々厳しい。
ローラは、エリザードによるカーテナ=セカンドの最大出力の攻撃によって、
腹部に大きな『穴』を穿たれた。
双方とも手負い。
ローラは逃げ。
エリザードは追跡できず。
これによってどちらかが氏ぬ事無く、天界を信用させる事に成功した。
この『作戦』はこの二人しか知らない。
重傷を負ったエリザードの代理として実権を握るキャーリサも。
次の正式な最大主教が決定するまで、その代理の座に着いた者も。
そしてローラに続き神裂・ステイルが抜けた事により、実質的な指揮権が集中するシェリーも。
今やエリザード以外の者は皆、心の底からローラが敵だと思い込んでいる。
反旗を翻したのが人望の厚かった神裂ならばまた別だったろうが、ローラでは誰も庇おうとはしないのは当然。
それどころか、『ああ、そうか。そういう感じが前からあったな』と納得する声がちらほら出てきている事だろう。
ただまあ、普通ならローラ捜索に全力が注がれるだろうが、
今は状況的にそれどころではない。
たった一日。
それだけで世界の空気は変わった。
街中には開戦を告げる号外が溢れ。
テレビやラジオ、そしてネット上も戦争の話題で一色。
非常に嘆かわしいことだが、少なくとも『今』の逃亡中のローラにとっては好都合だった。
いくらアンブラの魔女といえでもこう手負いでは、
魔術師や騎士の実働部隊に徹底的に追い込まれたらどうしようもない。
実は言うと、彼女は『寝た』という訳ではなく、
半ば意識を失いかけ倒れ込んだのだ。
こんな状態では一介の平の魔術師相手ですら少々厳しい。
511: 2010/09/05(日) 23:35:33.65 ID:fKIUncwo
そんなローラ。
彼女は今、とある夢を見ていた。
冷や汗が滲み出ている顔、その瞼が少しだけ動き、
『夢の中』で視線をせわしなく動かしている。
彼女が見ている映像。
それは『500年前の記憶』。
力を解き放ったと同時に、その力に刻み込まれていた『思念』も
一気に彼女の中で湧き上がってきたのだ。
そしてそれは、決して『良い夢』では無い。
『悪夢』だ。
しかも『二つの視点』からの。
片方は姉を前にして、命を散らす『妹からの視点』。
もう一つは、それを目の当たりにして絶望の底に叩き落された『姉の視点』。
その『両者からの視点』と『両者の思念』。
それらを『同時』に見て、そして感じる。
『両方』が『自分』―――。
『自分』が『二人』―――。
512: 2010/09/05(日) 23:37:31.47 ID:fKIUncwo
ローラ「…………う…………ん……」
悪夢にうなされ、熱い息を吐きながら身をよじるローラ。
何も知らぬ男がこの光景とローラの仕草を見れば、それはそれは刺激的に映るだろう。
しなやかな体つきの美しい顔立ちの娘が、顔を火照らせて息を吐きながらゆっくりと身をしならせる。
魔女の独特のオーラもあり、腹部の血が不気味な官能さを際立たせている。
当のローラはそれどころではないのだが。
彼女の眉を顰ませている悪夢は、クライマックスへと向かっていく。
一見すると平和な穏やかな日々。
だがその裏で、張り詰めた糸は着々とその緊張を増し。
そして遂にはち切れる。
入り乱れる天の兵と同胞達。
一つ一つの粒子が天の兵である、都を覆う金色の『雲』。
そこから大量の氏が降り注いでくる。
どこを見ても氏、氏、氏。
最後に『彼女自身』が遂に『氏ぬ』。
最後に彼女は『自分自身』の『氏』を目の当たりにする。
『二つ』の視点。
片方は途切れ。
もう片方は思考が崩壊し、爆発する。
513: 2010/09/05(日) 23:39:02.04 ID:fKIUncwo
そして彼女は跳ね起きた。
ローラ「―――――――――『ローラ』ッッッッ!!!!!!!!!!!!」
瞬時に両手に『青い』装飾のフリントロック式拳銃を出現させ、構えながら。
ローラ「…………ぐ……………………」
そして一気に炸裂し、染み渡ってくる腹部の鋭い痛み。
その痛みはローラの顔を歪ませると同時に、
彼女が今見ていた映像が過去の『夢』であったことを告げる。
ローラ「…………ふ……は……」
彼女は少し肩を震わせつつも再び上半身をゆっくりと倒した。
血の気が引き、冷や汗が噴き出してる額に片手を乗せながら。
ローラ「…………」
焦点の定まらない目で小屋の天井を仰ぎ見る。
屋根板が所々割れ、その穴から夜空に輝いている星が見えていた。
その星々を見つめながら、ローラはボンヤリと考えていた。
今の状況。
これからどうするか。
学園都市にいる、姉であり妹でもあり―――。
―――そして『もう一人の自分』でもある少女に関する事を。
514: 2010/09/05(日) 23:43:23.85 ID:fKIUncwo
あの少女の身分が天界にバレているのは確実。
学園都市にそう長く置いておく事もできない。
ベヨネッタやジャンヌのような、『余りにも強大すぎて狩れない』という訳では無いため、
天界が本気を出せばいとも簡単に仕留められてしまうだろう。
セフィロトの樹経由で全て特定されている以上、
今までのように身分を偽装して身を隠す事も最早不可能だろう。
ローラ「(……潮時……でありけるか……)」
そう、そろそろ限界だ。
これ以上『こっち側』の力が回復するのは待ってられない。
500年前、中途半端にしか出来なかった『とある仕事』をやり遂げるべき時期だ。
あの時『姉』は、主席書記官の『妹』の頭の中にあったとある『禁術』を使った。
それはアンブラでは使用は禁止されていた技。
どんな事態であろうとどんな者であろうと、例え『長』でも使った者は処刑、だ。
なぜなら、この禁術は同胞を『喰らう』モノ。
なぜなら、この禁術は祖先達を侮辱するモノ。
なぜなら、この禁術はアンブラの3万4千年の歴史を冒涜しうるモノ。
安らかな眠りについている、偉大なる祖先達の魂を引きずり出しそして『喰らう』禁術。
いわば『共食い』だ。
歴史、伝統、礼を重んじるアンブラにおいては究極の忌まわしき技、だ。
515: 2010/09/05(日) 23:45:43.03 ID:fKIUncwo
だが。
当時の『姉』には、この禁術を完全起動させる程の力は到底無かった。
禁術中の禁術。
その謂れが匂わす通り、使用にも莫大な力が必要だ。
英雄でも長でもなかった、
精鋭といえども一介の兵にしか過ぎなかった姉にはそんな力は無かった。
『妹の魂』が喰らった魂はただ一つ。
『姉の魂』だけ。
それも『消化』しきれずじまい。
本来ならば『姉』は『妹』に溶け込んで『消滅』するはずだったのだが、
そのせいで二つの別人の力はうまく同化せず、
結果、『彼女』は姉と妹の『両方』の記憶と意志を『同時』に持ってしまった奇妙な存在に。
中途半端に溶け合ってしまったのだ。
『思念』が無秩序に絡み合ってしまい不安定。
そして今度は内部崩壊の危険性。
そこで『彼女』は、応急措置的に己を分離させた。
『力の核』と『思念』に。
『人形』と『感情』に。
『禁書目録』と『最大主教ローラ』に。
516: 2010/09/05(日) 23:48:35.82 ID:fKIUncwo
ローラ「…………」
そして感情と思念を有する『最大主教ローラ』は身を隠し、力を蓄え続けた。
もう一度あの禁術を起動させ、今度こそ『妹』を完全に蘇生させる為に。
今も溶け合わずに残っている『姉』の部分を完全に『消化』し、
更に英霊の魂をも喰らって『燃料』とし、完璧に成功させる為に。
成功すれば。
あの『人形』とこっちの『思念』が完全に融合し。
そしてそこから『主席書記官ローラ』が再び生れ落ちる。
それは『魔女の再興』を可能にする。
禁書目録側の魂の奥底には、アンブラの魔女のありとあらゆる知識と情報が眠っている。
完全記憶能力を有した主席書記官、その存在自体がアンブラの新たな核と成り得るのだ。
517: 2010/09/05(日) 23:49:35.19 ID:fKIUncwo
ただ、そのアンブラ再興は『姉』にとっては実は建前。
『姉』の本当の願いは。
『妹』を蘇生させる事それ自体。
言わば私益の為に禁術を勝手に使い、
祖先や家族、英霊達の魂を喰らおうとしている、
正にアンブラの法に乗っ取れば愚かしい冒涜行為だ。
だが姉はそんな事など最早どうでも良い。
妹を完全蘇生できるのならば、反逆者となっても良い。
誇りも何もかもを捨てても良い。
『姉』は『妹』を蘇らせたい。
『妹』は蘇りたい。
その二つの強い思念が、今の『元最大主教ローラ』の核となっているのだ。
518: 2010/09/05(日) 23:51:52.12 ID:fKIUncwo
その目的の前では、今の『人形』の中に宿っている『インデックス』という人格などどうでも良い。
あれはこちら側から言わせればタダの『幻影』。
『インデックス』という人格はアンブラの魔女ローラでもメアリー『本人』でもない。
この二者の記憶がベースとなった、タダの『疑似人格』。
『力の核』を隠蔽する為の『偽装人格』。
『思念』である側の元最大主教ローラの人格が『本物』なのだ。
つまり、少し可哀そうだがあの『疑似人格』は最終的に『消えて』もらわねばならない。
『思念』である元最大主教ローラにとって、正に自分の生き写し。
その姿が姉にも妹にも重なる。
だが幻影は幻影。
幻想は幻想。
『本物』は元最大主教ローラ側に。
『人形』に『思念』が戻った時、彼女の目的が達成された時、
あの『偽装人格』は用済みとなる。
ローラ「……………………」
『インデックス』という一人の少女の『夢物語』は終わってもらわねばならない。
『消滅』してもらわねば。
そう、『氏んで』もらわねば―――。
519: 2010/09/05(日) 23:54:41.16 ID:fKIUncwo
だがこの時、彼女はまだ知らなかった。
あの『インデックス』という『疑似人格』が魔女の部分と固く結合し―――。
―――『本物』になりつつあったことを。
決してまがい物ではない。
決して幻影などではない。
『本物の人格』として、一人の少年を愛し始めていた事を。
『インデックス』という『本物』の魔女の人格は、
上条当麻という人物を愛している。
かつて姉が妹を愛したように―――。
かつて妹が姉を慕ったように―――、だ。
果たしてどちらがより『本物』なのか。
果たしてどちらが『幻影』なのか。
元最大主教ローラはしばし後に、その『究極』の判断を迫られる事になる。
―――
520: 2010/09/05(日) 23:55:40.76 ID:fKIUncwo
―――
禁書「―――――――――『ローラ』ッッッッ!!!!!!!!!!!!」
冷や汗を滲ませながら、
『本物の人格』を手に入れ始めた『人形』は跳ね起きた。
当然、その悲痛なインデックスの叫び声を聞き、
傍で寝ていた上条も飛び上がるように身を起こし。
上条「―――ッ!!!!!!ど、どうした!!??」
禁書「う…………なんだか……よくわからないけど………………ひっ……えぐ……」
そんな上条の顔を見てインデックスは体を震わせながら、
瞳から大粒の雫を滴らせ始めた。
上条「…………大丈夫だ。大丈夫」
上条は握っていた彼女の手を優しく引き、そして抱き寄せ。
インデックスは上条の服の胸の部分を固く握り締め、顔を埋めた。
上条「…………怖い夢でも見たか?」
胸の中でうずくまり、静かな泣き声を上げるインデックスの頭を左手でゆっくりと撫でながら、
優しく囁きかける上条。
禁書「……えぐ…………覚えてない……覚えて……ないんだけど……」
禁書「何だか……ひっ……すごく……悲しいんだよ……」
禁書「―――――――――『ローラ』ッッッッ!!!!!!!!!!!!」
冷や汗を滲ませながら、
『本物の人格』を手に入れ始めた『人形』は跳ね起きた。
当然、その悲痛なインデックスの叫び声を聞き、
傍で寝ていた上条も飛び上がるように身を起こし。
上条「―――ッ!!!!!!ど、どうした!!??」
禁書「う…………なんだか……よくわからないけど………………ひっ……えぐ……」
そんな上条の顔を見てインデックスは体を震わせながら、
瞳から大粒の雫を滴らせ始めた。
上条「…………大丈夫だ。大丈夫」
上条は握っていた彼女の手を優しく引き、そして抱き寄せ。
インデックスは上条の服の胸の部分を固く握り締め、顔を埋めた。
上条「…………怖い夢でも見たか?」
胸の中でうずくまり、静かな泣き声を上げるインデックスの頭を左手でゆっくりと撫でながら、
優しく囁きかける上条。
禁書「……えぐ…………覚えてない……覚えて……ないんだけど……」
禁書「何だか……ひっ……すごく……悲しいんだよ……」
521: 2010/09/05(日) 23:57:44.76 ID:fKIUncwo
ステイル「―――どうしたッッッ!!!!?」
とその時。
病室の扉が勢い良く放たれ、赤毛の大男が凄まじい形相で乗り込んできたが。
ステイル「―――…………悪い…………どうしたんだい?」
二人の姿、主に泣きじゃくっているインデックスの姿を見て、
瞬時に穏やかな口調に切り替えた。
上条「…………何かの夢を見たらしい」
そんなステイルに向け、小さな声だけを飛ばす上条。
ステイル「……………………そうか……」
禁書「…………う……………………もう大丈夫なんだよ…………」
その時、インデックスは両手で目を擦りながらも、
上条の顔を見上げてにっこりと微笑んだ。
己のせいで、いらぬ心配をかけてしまっていると思ったのだろう。
少し無理をして堪えているのを、上条とステイルも瞬時に感じ取っていた。
522: 2010/09/05(日) 23:59:13.15 ID:fKIUncwo
上条「…………本当に大丈夫か?」
禁書「……うん」
ステイル「いらぬ助言かもしれんが、『泣ける時』は泣いた方が良いと思うがな」
ステイル「何で泣いているかは知らないがね」
禁書「……うん、ありがとう。でもね」
禁書「『笑える時』は笑った方が良いとも思うんだよ」
禁書「…………少なくとも……みんなとこうしていられる時は私は笑いたいんだよ」
ステイル「…………そうか。それならば何も問題は無いな」
上条「……」
ステイル「さて、じゃあ僕は君達の朝食を取って来よう」
上条「ん?いや、俺が取ってくるよ」
ステイル「余計な遠慮はしないでくれ」
ステイル「君は彼女の傍にいてくれよな」
上条「……おう……じゃあ甘えさせてもらうぜ」
523: 2010/09/06(月) 00:01:14.95 ID:.W.mGWEo
ステイルがいそいそと病室から出て行った後。
上条「……本当に大丈夫か?」
腕の中で目を擦っているインデックスを覗き込みながら、心配そうに話しかける上条。
それに対し、インデックスは背筋をいきなりピンと伸ばし
禁書「もう大丈夫なんだよ!!私は笑うの!!」
ぱあっと太陽のような笑顔を浮かべながら上条の顔を見つめた。
と、その二人の体勢。
上条「……………………」
禁書「……………………」
ベッドの上で、上条に抱えられる形のまま背筋を伸ばしたらどうなるか。
当然、二人の顔は至近距離。
鼻先が触れ合うくらいに。
時間が一瞬止まり、極僅かな時間の間だけ二人は硬直する。
そして次の瞬間。
両者の顔が一気に赤くなる。
524: 2010/09/06(月) 00:02:33.57 ID:.W.mGWEo
上条「―――お、おおおおお、おおおお俺おおおおおおおぉおぉおお!!!」
禁書「―――わ、わたたたたあわわわわわわひゃ!!!!
動転し、言葉にならない声を漏らす二人。
混乱のあまりそこまで思考が回らないのか、その体勢を崩そうともしないのはご愛嬌だ。
密着する体、相手の体温、そして香り。
それらが更に二人を動転させる。
もし二人に恋愛経験があれば、向かい合ったときにそのまま『甘い一歩』を踏み出していただろうが、
経験ゼロの彼らにそれは難しい。
そうやってしばし、時間にして15秒ほど経った頃。
ようやく二人は自分達の体勢に思考が向けることが出来た。
上条「―――ちょ、ちょっと!!!!タンマ!!!!!タンマ!!!!!」
禁書「―――えっあっっっっ!!!!!う、うん!!!!!!」
何を『タンマ』なのかはさておき、上条はバッ手を広げ立ち上がり彼女から離れた。
そして壁際へと向かって駆け出し、両手を壁についてうな垂れた。
上条「(……落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け(ry)」
頭の中で、興奮している己に言い聞かせながら。
525: 2010/09/06(月) 00:03:42.76 ID:.W.mGWEo
禁書「…………………………………………」
インデックスはそんな上条の背中をチラチラと恥ずかしげに見やり。
禁書「………………えへへ……」
下唇を軽く噛みながら小さく笑った。
当然、頬を赤らめさせて。
そんな最中、病室のドアが開き。
トレイを両手に一枚ずつ持ったステイルが姿を現した。
両手が塞がっていた為、足で起用にドアを開けたようだ。
ステイル「待たせ―――…………」
当然、この室内に立ち込めている妙な空気を彼は感じ取った。
ベッドの上で、頬を赤らめて俯いているインデックス。
そして壁際で何やらブツブツ言いながらうな垂れている上条。
ステイル「…………………………………………おい。朝食を持ってきたが」
ステイル「おい」
526: 2010/09/06(月) 00:04:50.89 ID:.W.mGWEo
上条「んぉ!!?お、おお!!!そ、そうかッッ!!!!」
そのステイルの二度目の言葉でようやく気付いたのか、
妙に焦りながら言葉を返す上条。
ステイル「…………」
そんな上条と、相変わらず何かに惚けているいるようなインデックスを怪訝な目で見ながら、
ステイルは持ってきたトレイをベッド脇の小さな机の上に載せた。
上条「……あ、あのよ!!!お、俺!!ちょっとトイレいって来る!!!!!」
とその時、微妙に腰が引けている、
少しばかり前傾姿勢ぎこちない動作で上条がそそくさとドアの方へと向かっていった。
上条「ステイル!!!!少し頼む!!!!」
ステイル「………………ちょっと待て!」
そんな上条の後を追い、ステイルも駆け出した。
そして廊下に出て、インデックスに直ぐ済むからと軽く促した後、扉を閉めた。
ステイル「………………」
上条「な……なんだよ……急いでるんだ」
もぞもぞと、ぎこちない上条。
そんな彼を怪訝な目つきでジロジロと見ながら、ステイルはゆっくりと口を開く。
527: 2010/09/06(月) 00:06:53.49 ID:.W.mGWEo
ステイル「……トイレに行くって?」
上条「あ、ああ、そうだって言ったろ!」
ステイル「……」
そこでステイルは一際鋭く睨むような薄目をし。
そしてゆっくりとその視線を上条のちょうど股間の辺り、
妙に『盛り上がっている』部分に降ろした。
そして一言。
ステイル「…………『抜き』にか?」
上条「ばッ……!!!!!『抜かねえ』よ!!!!!」
上条「ちょっと押さえて沈めて来るだけだって!!!!!!」
ステイル「…………」
上条「………………しまっ…………」
ステイル「…………何を抜かないだ?何を押さえて沈めるって?ええ?おい?」
上条「……!!!!い、いや…………!!!!」
528: 2010/09/06(月) 00:08:35.62 ID:.W.mGWEo
ステイル「おいおいおいおいおいおい待て待て待て待てちょっといいか?何をした?何を彼女にした?おい言え」
上条「な、何もしてねえよ!!!!!何も!!!!!」
ステイル「本当にか!?本当に何もしてないのか!!?誓えるか!!!??」
上条「誓う!!!!誓って何もしてねえ!!!!」
ステイル「では『それ』は何だ!!!?随分元気だな!!?ええコラ!!!??」
上条「ち、違え……!!!!こ、これは…………!!!!」
上条「―――あ、朝立ちだッッッ!!!!!!!」
ステイル「ほぉ!!君はあんな状況でも普通に朝立ちするのか!!!??彼女が涙している時もか!!!??」
ステイル「なんという男だ!!!せめてこう言ってくれないか!!!?彼女に対してそうなってしまったと!!!」
上条「ああわかった!!!そうだ!!!!正直に言うとそうだこんちきしょう!!!!」
ステイル「……………………………やはりな……」
上条「…………………あっ…………」
529: 2010/09/06(月) 00:11:20.44 ID:.W.mGWEo
上条「…………す、すまん……」
ステイル「…………まあ謝る事はない……………………僕もその気持ちはわかるさ」
上条「おう………………………………え?」
ステイル「後ろの方は忘れろ。と、とにかくだ。あまり気を緩めないでくれ」
上条「ああ、もう二度とこんな事は無いようにするよ。気を引き締めなきゃな」
ステイル「いや…………だが、それが彼女の望みだというのならば……」
ステイル「それが彼女が求めることならば、僕からは君たちについては何も言わ…………」
上条「………………はい?何の事言ってんだ?」
ステイル「…………い、いや全て忘れろ」
ステイル「トイレに行くならさっさと行け。いや、もう収まったか?」
上条「あ~、そっちの方は収まったが今度はマジで小便が……」
ステイル「じゃあさっさと行け。早く行け」
上条「お、おう」
上条は途中からどことなくおかしくなったステイルに対し、
少し首を傾げながらも足早に廊下を進んでいった。
ステイル「全く…………僕は何言ってるんだ」
そんな上条の遠のく背中を見つめ、
半ば呆れがちに小さく笑いながら溜息を付くステイル。
ステイル「(…………これじゃあ、まるで僕は『父親』だな…………)」
ステイル「(はは、『お前なんぞにあの子はやらん』とでも怒鳴れば良かったか……………)」
ステイル「(…………………………………僕も変わったな。こんな事で笑うとは)」
―――
530: 2010/09/06(月) 00:11:52.76 ID:.W.mGWEo
今日はここまでです。
次は火曜か水曜に。
次は火曜か水曜に。
536: 2010/09/07(火) 23:38:02.30 ID:hqGGq5Mo
―――
第一学区。
とあるビルの中の大きなフロア。
壁の一面を覆っている大きなスクリーン、その脇に置かれている演壇を正面にし、
大量のパイプ椅子が無造作に並べられていた。
そしてそれらの椅子に座っていく、少年少女達。
ほとんど会話せず、皆一様に警戒心を示しながら。
室内は異様な緊張感で張り詰めていた。
そして常盤台の制服を纏ったツインテールの少女、
黒子もその椅子の一つに座りながら周囲をさりげなく観察していた。
黒子「(なんか……社会不適合者達の集会みたいですの……)」
一見すると普通の中高生達だが、良く見ると皆やけに目が据わっており、
異様なオーラを醸し出している。
それこそ、一人や二人は平気で頃しているような。
黒子はまだ知らないが、実際に周りの者達は当たり前のように人を頃してきたのであるのだが。
と、その黒子だが、彼女自身は気付いていないが、
実際に今の彼女も端から見れば目が据わっていた。
暗部の者達から見ても、コイツは相応の修羅場経験あるな と納得させる程の空気を纏いながら。
第一学区。
とあるビルの中の大きなフロア。
壁の一面を覆っている大きなスクリーン、その脇に置かれている演壇を正面にし、
大量のパイプ椅子が無造作に並べられていた。
そしてそれらの椅子に座っていく、少年少女達。
ほとんど会話せず、皆一様に警戒心を示しながら。
室内は異様な緊張感で張り詰めていた。
そして常盤台の制服を纏ったツインテールの少女、
黒子もその椅子の一つに座りながら周囲をさりげなく観察していた。
黒子「(なんか……社会不適合者達の集会みたいですの……)」
一見すると普通の中高生達だが、良く見ると皆やけに目が据わっており、
異様なオーラを醸し出している。
それこそ、一人や二人は平気で頃しているような。
黒子はまだ知らないが、実際に周りの者達は当たり前のように人を頃してきたのであるのだが。
と、その黒子だが、彼女自身は気付いていないが、
実際に今の彼女も端から見れば目が据わっていた。
暗部の者達から見ても、コイツは相応の修羅場経験あるな と納得させる程の空気を纏いながら。
537: 2010/09/07(火) 23:39:00.87 ID:hqGGq5Mo
そしてまた別の一画には、同じように鋭い目つきで座っている三名。
いや、真ん中の一人は普段どおりの少し眠そうな目をしていたが。
絹旗「…………」
絹旗は小さな両手を膝の上で軽く擦り、『窒素装甲』の調子を確認しながら。
滝壺「…………」
隣の滝壺は、周囲の大量の『信号』を受信し、少し頭をゆらゆらさせながら。
浜面「…………」
その隣の浜面は鋭い目つきで周囲を見据え、
万が一に備えて腰にある拳銃を強く意識しながら。
浜面「……おい……あいつも確か……」
小さな声で隣へと声を飛ばす浜面。
滝壺「うん、あの人はレベル4の(ry」
絹旗「ええ…………わかってますから超静かにして下さいっっ」
絹旗も同じように小さな声を返す。
538: 2010/09/07(火) 23:40:21.63 ID:hqGGq5Mo
元アイテムの彼らにしてみれば、ここに集ってきている面子の中には
かなりの知っている顔がある。
どれも暗部だ。
とある任務の時に共同で動いた事がある者、
同じ獲物を狙って鉢合わせになり、一触即発になった者等々。
中には、このフロアに入ってきて彼らの顔を見つけた途端、軽く会釈してきた者もいた。
そういう連中がオールスターとなれば、他の知らぬ顔も恐らく暗部。
共通しているのは皆高位の能力者、それも戦闘向きの者ばかりだ。
つまり、暗部の能力者戦力が集められているという事だろう。
浜面「……」
そんな事からすれば、浜面にとっては己がとんでもなく場違いな者に思えてしまう。
なにせ無能力者だ。
ここにいる連中は能力者の中でもレベル4。
それも一般のレベル4とは違い、戦闘に長けている者達ばかり。
浜面「(…………くっそ………………)」
浜面のチキンレーダーがビンビンと反応する。
これはかなりヤバそうだ、と。
539: 2010/09/07(火) 23:43:01.01 ID:hqGGq5Mo
そうやってそれぞれが一通り座した。
ちょうど100人程度だろうか。
それを見てか、壁際に立っていた一人のスーツの男が演壇に立ち。
「おはよう。諸君」
「さて、簡単に説明を始めよう」
「君達には最後の任務に就いてもらう」
「報酬は既に聞いているだろうが、望む物全てをあげよう」
「金が欲しいのなら金を。10億でも100億でもくれてやる」
「体に何らかの異常があるのならば治療を」
「暗部から抜けたいのなら好きなようにするがいい」
「自由が欲しいのなら自由をやる」
「戦いそのものが好きならば、この任務自体が報酬にも成り得るし、」
「その後も暗部に留まれば良い。好きなだけこき使ってやろう」
「君達の望みを叶えてやる」
「ただし条件は」
「任務に全力を尽くし、各々の仕事を完遂させる事、だ」
「物理的な報酬ならば、いくらか『前払い』もしてやる」
「だが、最終的な支払いは任務が完遂されてからだ」
540: 2010/09/07(火) 23:44:59.03 ID:hqGGq5Mo
集っている少年少女達は誰も、一言も口を開かなかった。
皆鋭い目つきで演壇の男を見据えていた。
「さて……ここまでで気に食わないのならば、退出してもらってもいい」
「学園都市が無くなってもかまわない、というのならばな」
「こちらから頼もう。戦う意志の無い者は出て行ってくれ」
「ここから『先』の話を聞けば後戻りはできんからな」
それでも誰も動かなかった。
皆表情を変えず沈黙。
「良いだろう。全員承諾したと受け取る」
「では具体的に話そうか」
そして男の声にあわせて、巨大なスクリーンに複数の画像が表示された。
それを見た瞬間、少年少女達は皆一様に反応を示した。
声は相変わらず上がらなかったが、皆目を見開き息を飲み込んでいた。
その画像。
それは悪魔達の写真。
二ヵ月半前、そして第23学区の件で捉えられたモノだ。
541: 2010/09/07(火) 23:46:28.54 ID:hqGGq5Mo
「ここにいる者は皆、それぞれこのような人外の存在を『認識』しているはずだ」
「まず君達の大半は二ヵ月半前の動員の際に交戦したことがあるだろう」
「その他の者も、その後に様々な理由で関っただろう」
「君達の今回の任務はこれに大きく関係している」
「今までの概念と常識を捨ててくれ」
「相手は常識の外、全く異なる世界の存在だからな」
そして男は細かく作戦の内容を口にしていった。
麦野や一方通行達と同じ知識レベルまで。
当然、天界だの『口を開く術式』だの言われれば、大半の者はチンプンカンプンだ。
というか大半が、この場で初めて『魔術』という存在を認識したほどだ。
徐々に少年少女達の顔が曇っていく。
こいつは何を言ってるんだ? とでも言いたげに。
だがそれが『デタラメ』『嘘っぱち』と疑う者は誰一人いなかった。
皆、現に悪魔と言う存在と直接関わり、
常識では説明が付かない現象を実際に目の当たりにしているのだ。
理解不能でも、最初から突っぱねるのではなく皆わかろうと懸命に思考を巡らせていた。
542: 2010/09/07(火) 23:47:58.75 ID:hqGGq5Mo
「…………わからないか。まあ、仕方無いだろうな」
「今は簡単にこれだけ覚えておいてくれ」
「学園都市を守る為、時間稼ぎをする為にデュマーリ島に行く」
「そして向こうで悪魔達と戦いつつ都市を破壊、そして状況によってはこのアリウスへと戦力を投入する」
「こんな所だな」
「さっき言った通り、様々な情報を『学習装置』で君達の中に書き込む。そうすれば詳細も理解できるだろう」
「さて、そろそろ紹介しておくか……」
一通り皆の顔を見渡した後、軽く両手を叩いて呟く男。
滝壺「―――!!!!!!!」
とその時だった。
浜面と絹旗の間にいた滝壺が、突如ビクンと体を揺らし、そして目を見開いた。
浜面「…………お、おい?」
絹旗「…………どうしたんです?」
小声で、滝壺に両側から囁きかける二人。
滝壺「………………む…………む……む……」
浜面「む?」
滝壺「六時方向から…………信号が……」
543: 2010/09/07(火) 23:49:39.35 ID:hqGGq5Mo
六時方向。
その言葉を聞き、軽く身を捩って後ろに視線を向けようとする絹旗と浜面。
同時に、タイミング良く響く。
「お、来たな。では後ろを見てくれ。君達のリーダーだ」
演壇の男の、フロアの後方へと視線を向けるよう促す声。
そして絹旗と浜面と同じく、皆も一斉に後方に振り返った。
そして目に入る。
二人の女の姿。
スーツを纏い眼帯をしている女はパイプ椅子の一つに足を組んで座っており。
その隣には、長い髪を二つに結っている、サラシを巻いているような奇妙な格好の女。
近くの壁によりかかり軍用ライトをクルクルとまわしていた。
絹旗「―――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
浜面「―――――――ッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
その片方の女の顔を見て、二人は硬直した。
特に浜面は、まるで世界の終わりを見ているかのような悲壮すぎる表情で。
一方とある一画では、もう一人の方を見て驚愕の表情を浮かべている少女が一人。
黒子「(…………あの女はッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!)」
544: 2010/09/07(火) 23:51:46.81 ID:hqGGq5Mo
「右側が今作戦の副指揮官」
「レベル5第八位昇格予定、『座標移動』 結標淡希」
黒子「!!!!!!!」
「左側の眼帯をしている方が総指揮官」
「レベル5第四位、『原子崩し』。麦野沈利」
絹旗&浜面「!!!!!!!!!!!」
「それと……おい、彼はどこだ?」
結標「ああ、アイツはトイレだって。もう来ると思うけど」
とその時。
フロアの扉が開き。
土御門「ひゃー、スマンスマン、遅れたぜよ」
ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべながら、姿を現す金髪にサングラスの少年。
「ああ、彼が土御門元春。今作戦のアドバイザーであり『頭脳』だ」
「君達はこの三名の命令に従って行動してもらう」
「『原子崩し』と『座標移動』はその必要はないだろうが、土御門については全力で守護してくれ」
土御門「はは、せいぜい俺の邪魔しねえように頼むぜよ」
黒子「(あの殿方は確か……………………)」
546: 2010/09/07(火) 23:57:07.45 ID:hqGGq5Mo
男の声が響く中、一人の無能力者は冷や汗を垂らして体を震わせていた。
浜面「(やべえ!!!!!!マジでやべえ!!!!!!こ、こ、こ、―――)」
浜面「(―――殺される!!!!!!!!本当にやべえ!!!!!)」
麦野沈利。
正に浜面にとって死神。
彼女については色々思うこともあるものの、
やはり現に目にしたらそんな事など頭の中からすっ飛んでしまう。
目を合わせないように意識しながらも、麦野の方をチラチラと見てしまう。
ダークグレーのスーツを身に纏っている麦野は無表情。
いや、少し目を薄めて気だるそうにしているか。
長い足を優雅に組み、首を少し傾けやや流し目で
演壇の男の方を真っ直ぐに見ている。
その醸し出しているオーラ。
異様な威圧感。
不気味なほどの落ち着きっぷり。
浜面「(……………………??)」
そう、今の麦野は不気味な程に『安定』している。
今までのような、全身から狂気を噴き出してはいない。
浜面はそこでようやく気付いた。
麦野の何かが違う、と。
あのフレンダの上半身を引き摺って現れた時のような。
あの第23学区で見た時のような、狂気と殺意が今の麦野からはまったく出ていない。
それどころか、麦野が豹変する『前』よりも妙に安定しているような。
547: 2010/09/07(火) 23:59:10.64 ID:hqGGq5Mo
絹旗「ちょっと浜面ッッ!!!何超ジロジロ見てんですかッッ!!!!」
小さくも、張り詰めた声を浜面に飛ばす絹旗。
浜面と同じく、彼女も冷や汗を滲ませていた。
浜面「お、おう……」
そう言われても見てしまうのが人というもの。
これが最後だと、もう一度チラリと麦野の方へ視線を向けた浜面。
浜面「―――」
すると。
目が会う。
麦野も真っ直ぐと浜面の方を見ていた。
無表情のまま。
鋭く凍て付くような左目。
そして。
一瞬だけ。
一瞬だけ、その左瞳が赤く光ったような―――。
浜面「―――うぉぉぉッッッッッ!!!!!!!!!!」
思わず彼は大きな声を上げてしまった。
全身の毛穴が開くのを感じ、その強烈な悪寒に耐えかねて。
548: 2010/09/08(水) 00:01:20.11 ID:SX9yjlMo
絹旗「―――バッッ!!!!超バカ浜面ッッ!!!!!!」
そして同じく大きな声を上げる絹旗。
当然、皆の視線が一気に彼らの所へと集中する。
「どうした?何か問題でもあるか?」
その男の声に対し、
浜面は口を固く結びながら無言で首を左右に振った。
絹旗も同じく、小刻みに首を振った。
「……そうか。ああ、それとだ」
男が小さく頷いた後、思い出したように呟きながら浜面と絹旗の『間』へと視線を動かし。
「滝壺理后」
滝壺「…………?」
「君の事も皆に紹介しておかねばな」
「レベル5第九位昇格予定、『能力追跡』。滝壺理后」
浜面「―――レベル5…………!!!!???」
絹旗「!!?はぃぃぃぃッッ!!!!?」
滝壺「………………………………………………??????」
549: 2010/09/08(水) 00:04:47.66 ID:SX9yjlMo
驚く両脇。
そして状況を掴めず、相変わらずポカーンとしている滝壺。
そんな三名を気にも留めず、男は皆に説明する。
「彼女は今作戦における、皆の管理・統率を担う」
「運用面における『核』だ」
「彼女の守護にも全力を尽くしてくれ」
「さて、ここまでで何か質問は?」
「何もなければ、この後直ぐに能力調整と知識面の書き込み作業に入ってもらうが」
「ちょっと待て」
とその時。
浜面達から見て3列前にいた、高校の学生服を着ている一人の茶髪の少年が立ち上がった。
「要は戦えば良いんだろ?なんなら一人でやらせてくんね?」
「チームとかに入りたくねえんだけど」
「つーか部隊とかウゼエ。全部俺の下っつうなら別にいいけどよ」
「大体にして『あのアマ』が頭なんざ気に食わねえ」
そして少年は半身振り返り、麦野と結標を鼻で小さく笑いながら見やった。
550: 2010/09/08(水) 00:06:21.82 ID:SX9yjlMo
「それとも何?レベル5ってだけで頭になれるくらいのバカしかいねえの?」
「強けりゃ階級も上ってか?なんだよそれ。組織として最悪じゃねえか」
少年の言葉に同意し、少し笑みを浮かべている者も幾人かいた。
まあ、端から見ればそうだろう。
土御門が総指揮官、となればまた違った風になるかもしれないが、
少なくともレベル5(予定)の麦野と結標がトップとなれば、
能力重視で命令系統を決めたようにも捉えられてしまうだろう。
浜面や絹旗等は、麦野の指揮能力の高さを良く知っているが、
それを知らない者にしてみればそう思ってしまうのも当然。
「いや。指揮系統の人選はしっかりと指揮能力を考慮して行ったが」
男が少年に対して返答するも。
「俺はんな事知らねえ。信用できねえよ。第四位に関して聞いたことと言やあ、」
「部下をも機嫌の良し悪しでぶっ頃す『虐殺女帝』ってだけだが」
「『血に狂ってるバケモノ』ってな」
それは明らかに挑発だった。
一瞬にして室内の空気が張り詰める。
551: 2010/09/08(水) 00:10:40.33 ID:SX9yjlMo
その沈黙の中。
不気味に響く小さな笑い声。
麦野「はは、あははは」
麦野は眼帯の隙間から青白い光を漏らしながら、乾いた笑い声を発した。
そしてゆっくりと立ち上がり、少年をまっすぐと見据え。
麦野「ま、それは間違ってないわね」
麦野「私は頃しまくった。アンタら全員が頃した分よりも恐らく多く、ね」
麦野「昨日も『散歩がてら』に、潮岸と奴の部隊350人をシェルターごと『蒸発』させたし」
麦野「そして部下も頃した事があるわ。下っ端じゃない幹部をね」
浜面「…………」
絹旗「…………」
滝壺「…………(むぎの……)」
麦野「でも、そこだけを見て『バケモノ』って呼ぶのは間違えてるわよ」
麦野「その評判が出回った頃の私は、『まだ』本物のバケモノじゃ無かったんだから―――」
552: 2010/09/08(水) 00:13:23.71 ID:SX9yjlMo
次の瞬間。
皆が麦野の姿を見失った。
フロアの後方のパイプ椅子の前に立っていた麦野。
その姿が、小さな空気を裂く音と共に一瞬にして掻き消えたのだ。
だが誰も探そうとはしなかった。
なぜなら、再び姿を現した麦野はあまりにも『目立ち』過ぎていたからだ。
視覚的にも。
そして感覚的にも。
茶髪の少年。
そのすぐ背後に、麦野は瞬時に移動していた。
左瞳を眩いほどに赤く光らせ、
背中から青白い光に包まれている紫の翼を出現させ。
周囲の者達が驚き、その威圧に押されてパイプ椅子から転げ落ちたり、
咄嗟に立ち上がって後ずさりし、麦野と少年から離れた。
「―――ッ…………………………………………!!!」
少年は動けなかった。
直ぐ背後の凄まじい存在を本能的に感じ。
そんな少年の耳元に軽く麦野は顔を寄せ。
麦野『バケモノってはね。今の私を見てから言いな』
麦野は囁くように、そして少しエコーのかかった声を発した。
麦野『―――今の私は「本物」だから』
麦野『覚えとけ。「バケモノ」ってのはこういうのだ』
553: 2010/09/08(水) 00:17:03.66 ID:SX9yjlMo
結標と土御門以外、少年少女達は皆硬直し息を呑んだ。
レベル5というのは、能力者達の中でもかけ離れている存在とは常識的に知っていたが。
これはあまりにも異質すぎた。
最早人間とは呼べない。
皆が皆、本能的に感じ取った。
正に『バケモノ』、と。
絹旗「(あ、あの目は…………!!!!!!!!)」
一人の少女は、以前とある白人男に直視されたトラウマ的記憶を思い起こしながら。
黒子「(あのお方も…………悪魔……ですの!!!??)」
また、周りの者よりも『アレ』が何なのかを良く知っている別の少女は、知識を元に麦野の存在を確認しながら。
皆が皆、麦野を見つめていた。
麦野『私の事は信用しなくて良い。だがこの「私の力」は「信用すべき」だと思うけど」
麦野『勘違いすんなよ。今はもう、テメェらの命は私のモノ』
麦野は少年の耳元に顔を寄せたまま。
麦野『ここにこうして残っている時点で、テメェらは承諾したはず』
フロアにいる全員へ向け言葉を発した。
麦野『私は「私のモノ」をもう誰にも「壊させない」』
少年越しに、3m先で固まっている浜面を見つめながら。
554: 2010/09/08(水) 00:20:11.28 ID:SX9yjlMo
浜面「…………!!!!」
麦野『約束はできないけど一応の最善は尽くしてあげる』
麦野『任務の成功の次に、テメェら「私の所有物」共の保全を優先してやる』
麦野『「おりこう」にしてくれたら、「この私」がテメェらの為に戦ってあげる』
麦野『テメェらが生きて帰れるよう、それなりの努力はしてやる』
麦野『それと「コレ」は「約束」するわ』
麦野『私のモノになりたくないってーのなら、今ここで壊してあげる』
麦野『私に従わないっていうのなら―――』
麦野『―――今ここでブチ頃してあげる』
555: 2010/09/08(水) 00:21:16.65 ID:SX9yjlMo
誰も言葉を発しなかった。
ここにいた少年少女達、皆が麦野に飲み込まれていた。
選択の余地は無い。
麦野の下につくか、それとも全てを水の泡にして氏ぬか。
ここにいる者は皆 生きる為、もしくは生きて何かを欲している為に集っているのだ。
今ここで氏ねば元も子もない。
もう、麦野に対して反旗を掲げる者はいなかった。
茶髪の少年は小さく頷き、
麦野に目を合わせないように自分のパイプ椅子に座った。
土御門「ひゅ~」
そんな異様な沈黙を容易くぶち割る、
ニヤニヤ笑っている土御門の口笛とテキトーな拍手。
同じく、結標も小さく笑っていた。
556: 2010/09/08(水) 00:23:43.40 ID:SX9yjlMo
土御門「さっすがだぜよ~」
抗いようの無い恐怖を一気に与えた後、
今度はその『圧倒的な力』が自分を守ってくれると認識させ。
最後に氏か服従かを叩きつけ、
圧倒的『異常な存在への畏怖』を、絶対的な『主従関係の畏敬』にすり返る。
これぞ正に帝王学。
ここだけを見ても麦野は上に立つ素養を充分に秘めている。
それが良いか悪いかを別として、だが。
軽口を叩く土御門を、赤い瞳のまま睨み返す麦野。
土御門「ひゃー、おっかねえおっかねえ」
それを見て、左手をひらひら振りながら相変わらず笑う土御門。
皆が一様に顔を引きつらせている中での、土御門と結標の小馬鹿にしたような、
半ば呆れがちな笑顔はかなり異質なモノに見えた。
そして、これも他の少年少女達の中に無意識の内に刷り込まれていく。
この土御門と結標は麦野と『同等』であり、自分達の『上司』である、と。
つまり土御門と結標は、麦野のばら撒いた恐怖を利用して、
自分達の『格』をも示して刷り込ませたのだ。
557: 2010/09/08(水) 00:25:34.50 ID:SX9yjlMo
グループのメンバーは皆キワモノだ。
それぞれが、別のところでは一組織を纏め上げてしょって立つような素養を持っている。
そこが他の暗部組織との大きな違いだ。
一方通行と土御門は言わずもがな。
エツァリは、アステカ魔術師の中から選抜され学園都市に送り込まれた最エリート。
向こうにいた頃は、組織内では幹部級の立ち位置。
結標は、グループに入る以前までとある一つの組織を率い、
学園都市に対して計画的な反抗を目論んでいた策士。
そして言わずと知れた麦野はアイテムの元リーダー。
学園都市にとって、一歩扱いを間違えると爆弾となりうる者達が集められているのがグループなのだ。
危険物の掃き溜めとも言えるし、頭が『飛んでいる』者達が集められた最精鋭とも言える。
上に立つ素養は麦野だけではなく、
グループの現メンバー五人ともそれぞれが有しているのだ。
皆が皆、それぞれかなりの切れ者だ。
そうやって、一応の認識が全員に染み渡ったところで。
「……さて、そろそろいいかな?」
男が演壇に寄りかかりながら、タイミングを見計らって口を開いた。
「原子崩し。他に言いたい事は?」
その男の言葉に対し、麦野は背を向けたまま左手を軽く振り、
何もいう事は無いあまを示しながらツカツカとフロアの後ろの方へと戻っていった。
男は続けて視線を土御門と結標に移し。
二人は麦野と同じように、先を続けてくれと軽く眉を動かして意思表示した。
559: 2010/09/08(水) 00:27:38.44 ID:SX9yjlMo
「では、これから調整に入ってもらう」
「一階に降りてくれ。そこで別れ、それぞれの施設へと向かってもらう」
その男の言葉を合図に、皆が無言のまま立ち上がりドアの方へと歩き進んでいく。
そんな中、常盤台の制服を着た少女はふと足を止め。
黒子「…………」
結標の方へと視線を向けていた。
相手も彼女の方を見ていた。
そして結標は軽く微笑んだまま、小さく顎を揺らす。
何かの意思表示か。
挨拶のようなものか。
黒子「…………」
それに対し黒子は小さく眉を顰めただけで、
再び前に向き直るとそのまま人の流れに乗ってフロアを後にした。
560: 2010/09/08(水) 00:29:29.78 ID:SX9yjlMo
土御門「…………そういえば、お前ら前に頃し合ったんだっけか」
そんな二人のテレポーターの一瞬のやり取りを見ていた土御門が、
相変わらず不敵な笑みを浮かべながら結標の方へと言葉を飛ばす。
結標「…………まあね」
土御門「はは、お前の方に配属したらどうだ?『息が合う』んじゃないか?」
結標「うっさい。私よりも濃い因縁持ちはココにいるでしょ」
からかうような土御門の言葉を一蹴しながら、結標は顎で横にいる麦野を指した。
麦野「……」
土御門「おお、そうだったぜよ」
ちょうどと言うべきか。
そんな麦野を、座っていたパイプ椅子のところから見ている一人の無能力者の少年。
浜面「…………」
絹旗「ちょ、ちょっと浜面!!!!滝壺さんも!!何超見てんですか!!!さっさと行きますよ!!!」
滝壺「……むぎの…………なんか違う……あの時と……」
浜面「…………ああ」
絹旗「滝壺さんも何言ってるんですか!!?超意味不明ですが!!!??」
561: 2010/09/08(水) 00:30:56.47 ID:SX9yjlMo
浜面「……お前ら先行っててくれ。俺…………ちょっと確かめるわ」
絹旗「はぁ?!浜づッッ…………!!!!!」
そんな絹旗の声など気にも留めず、早歩きで浜面は歩き進んでいった。
ドアの方ではなく。
麦野の方へ。
彼は麦野の前、一メートルのとこまで迫った。
そんな浜面を、軽く咳払いし足を組み替え、
無表情のまま鋭い視線で見る麦野。
浜面「…………………………………………よ、よう……ひ、久しぶりだな」
それが、異常な程にぎこちない苦笑いを浮かべている浜面の第一声。
麦野「……………………何か用?」
それに対し、相変わらず冷めた調子で淡々と言葉を返す麦野。
麦野「何か質問ならあの男に聞け」
浜面「……い、いや…………そうじゃなくてな……」
絹旗「はぁ?!浜づッッ…………!!!!!」
そんな絹旗の声など気にも留めず、早歩きで浜面は歩き進んでいった。
ドアの方ではなく。
麦野の方へ。
彼は麦野の前、一メートルのとこまで迫った。
そんな浜面を、軽く咳払いし足を組み替え、
無表情のまま鋭い視線で見る麦野。
浜面「…………………………………………よ、よう……ひ、久しぶりだな」
それが、異常な程にぎこちない苦笑いを浮かべている浜面の第一声。
麦野「……………………何か用?」
それに対し、相変わらず冷めた調子で淡々と言葉を返す麦野。
麦野「何か質問ならあの男に聞け」
浜面「……い、いや…………そうじゃなくてな……」
562: 2010/09/08(水) 00:31:40.14 ID:SX9yjlMo
麦野「……じゃあ何?さっさと言えよ」
浜面「……………………………あのよ…………」
麦野「…………」
浜面「…………」
麦野「…………何?」
浜面「あ……あのよ!!!―――」
浜面「―――俺を殺さねえのか!!!!!???」
浜面「―――こんなに近くにいるんだぜ!!!!!???」
浜面「―――今更無能力者の一人や二人なんかどうってこと(ry」
麦野「おい」
浜面「…………ッ!!!!あ、ああ何だっ!!!!??」
麦野「…………言いたい事はそれだけ?」
浜面「…………お前は…………何か無いのか?俺達に……?」
麦野「…………………………………それだけならさっさと行け」
563: 2010/09/08(水) 00:33:37.86 ID:SX9yjlMo
浜面「…………麦野…………お前どうしちまったんだ?」
麦野「…………」
浜面「おい…………」
その浜面の問いかけはそれはそれは奇妙なものだっただろう。
まるで氏にたがっているような。
当然、浜面は生きたい。
それなのに、『俺を頃したかがってるはずじゃなかったのかよ!?』と聞くとは。
むしろ『俺を頃す約束じゃなかったのかよ!?』と怒っているかのように。
麦野が自分達への殺意を見せない事に対し、『失望』しているかのような。
明らかに浜面の行動は矛盾している。
だが、この時の浜面の『お前どうしちまったんだ?』という問いには、別の意味も篭められていた。
浜面自身認識していなかった、別の『感情』が。
浜面は心のどこかで麦野を心配していたのだ。
彼女が豹変したのは二度目。
そのどちらも劇的に。
この今の二度目は確かに狂気も薄れて、客観的に見れば好ましい変化かもしれない。
しかし浜面はどうしても気になってしまっていた。
浜面は、この麦野がますます自分の知る『リーダー』の姿からかけ離れて行くのを感じていた。
殺意を見せないのは好ましいことなのに。
自分達の最大の脅威が無くなっているのは手を叩いて喜ぶべきなのに。
それでいて、数少ない『友人』が消えていってしまうような―――。
更に遠くに行ってしまうような―――。
564: 2010/09/08(水) 00:35:16.05 ID:SX9yjlMo
そんな、得体の知れない感情を同じく滝壺も感じていたのか、
見るからにハラハラしている絹旗の隣で、彼女は哀しげな目で麦野と浜面を見ていた。
浜面「…………なあ……一体どうしちまったんだ?」
浜面「おい…………」
麦野「うるせえ」
だが麦野は表情を全く変えない。
そして相変わらず淡々とした口調で。
麦野「さっさと行け。『命令』だ」
命令を下す。
浜面「…………」
在りし日の頃のように。
浜面「………………ああ、了解」
そして浜面もスッと踵を返し、
絹旗と滝壺に目で合図をしてドアの方へと向かう。
565: 2010/09/08(水) 00:36:59.60 ID:SX9yjlMo
とその時。
麦野「――――――浜面―――」
浜面がドアから出るかどうかのところで、麦野の声。
浜面「……お、おう??!!!!」
少し焦りながら慌てて振り向く浜面。
麦野「……………………………………………………………………………………」
そんな浜面の顔を、そしてその向こうの少し悲しげな目の滝壺と、
警戒心むき出しの絹旗の顔を麦野はしばらく見つめ。
何かを言いたげに口を少し開いたが。
麦野「……………………………………………………………………………………何でもない。さっさと行け」
再び閉じ、最後に目をそらしながらポツリと呟いた。
これまた淡々と。
感情が一切読み取れない、揚場の無い声色で。
浜面「……………………あ、ああ」
566: 2010/09/08(水) 00:39:22.67 ID:SX9yjlMo
浜面達が退室し、フロアには説明していた男と、三人の『幹部』だけが残った。
麦野「…………」
土御門「……麦野」
麦野「何?」
土御門「言いたいことがあるなら、言える内に伝えておいた方がいいぜよ」
麦野「……ほっとけ。余計なお世話だ」
土御門「…………それともう一つ」
土御門「任務の完遂が最優先だからな」
土御門「―――『あいつら』を優先するなよ?」
麦野「…………んなもんわかってる…………」
アラストル『(心配するな。俺がいる)』
麦野「(…………)」
アラストル『(お前なら出来る。俺の名に賭けてやる)』
アラストル『(そもそもだ。お前が満足いくまでやり遂げてくれなきゃ、俺がマスターに会わせる顔が無くなるし、)』
アラストル『(お前を選んだマスターの顔にも泥を塗ってしまう)』
アラストル『(マスターの名を汚す事態だけは全力で避けさせてもらうからな)』
麦野「(…………ええ……わかってるって)」
―――
584: 2010/09/09(木) 23:17:24.82 ID:HjU1p5.o
―――
とある病棟の廊下を歩く、一人の成人女と一人の幼い少女。
一人はシャレたサングラスをかけ、胸元が大きくはだけたジャケットにホットパンツ。
背中に巨大なロケットランチャーを背負い、腰や太ももに大量の銃器や弾倉をぶら下げている、
美しくもかなり危険な香りを漂わせている白人女性。
人間界最高峰のデビルハンター、レディ。
そして足長なレディの歩行ペースにあわせ、
やや早歩きでヒョコヒョコとその隣についている褐色の肌に赤毛の少女、ルシア。
少女は背中に、彼女の体の1.5倍はあろうかという巨大なバッグを二つ背負っていた。
端から見ればなんとバランスの悪い光景か。
このバッグには、ルシアから話を聞いたレディが選んだ一式の道具が入っている。
様々な魔導器、魔導書等、その分野は魔界関係だけではなく天界関係にまで及んでいる。
当然それらの大量の物資など、筋力は一介の人間と同レベルしかないレディは運ぶことが出来ない。
戦闘時に時々使う肉体強化魔術を使用すればまた別だが。
しかしそれは切り札の一つであり、物を運ぶ為だけに使う訳には行かない。
それに彼女の肉体強化魔術は、
パワー等の身体能力面では無く感応速度を爆発的に高める仕様であり、力仕事には全く向いていない。
そもそもパワー面は様々な武器で十二分に補強している為、特に必要としていないのだ。
とまあ、そういう事もあり荷物はルシアに運んでもらっているという訳だ。
実際、少女が背負っているバッグの一つは重量が約200kgだ。
とある病棟の廊下を歩く、一人の成人女と一人の幼い少女。
一人はシャレたサングラスをかけ、胸元が大きくはだけたジャケットにホットパンツ。
背中に巨大なロケットランチャーを背負い、腰や太ももに大量の銃器や弾倉をぶら下げている、
美しくもかなり危険な香りを漂わせている白人女性。
人間界最高峰のデビルハンター、レディ。
そして足長なレディの歩行ペースにあわせ、
やや早歩きでヒョコヒョコとその隣についている褐色の肌に赤毛の少女、ルシア。
少女は背中に、彼女の体の1.5倍はあろうかという巨大なバッグを二つ背負っていた。
端から見ればなんとバランスの悪い光景か。
このバッグには、ルシアから話を聞いたレディが選んだ一式の道具が入っている。
様々な魔導器、魔導書等、その分野は魔界関係だけではなく天界関係にまで及んでいる。
当然それらの大量の物資など、筋力は一介の人間と同レベルしかないレディは運ぶことが出来ない。
戦闘時に時々使う肉体強化魔術を使用すればまた別だが。
しかしそれは切り札の一つであり、物を運ぶ為だけに使う訳には行かない。
それに彼女の肉体強化魔術は、
パワー等の身体能力面では無く感応速度を爆発的に高める仕様であり、力仕事には全く向いていない。
そもそもパワー面は様々な武器で十二分に補強している為、特に必要としていないのだ。
とまあ、そういう事もあり荷物はルシアに運んでもらっているという訳だ。
実際、少女が背負っているバッグの一つは重量が約200kgだ。
585: 2010/09/09(木) 23:20:36.33 ID:HjU1p5.o
レディ「…………」
廊下を進みながら、さりげなく周囲を観察するレディ。
彼女が学園都市に来るのは初めてだ。
実は二ヵ月半前の『パーティ』にもかなり参加したかったが、まあそれは置いておくとして、
実際に来て見ると、レディが聞いた話だけで思い描いていた学園都市像とは少し違っていた。
もっとこう、近未来的な姿を思い描いていたのだが、それ程ではなかった。
病院の中を多くのロボットが行きかい、様々な情報端末はホログラム化し、
どこにいても手をかざすだけでその立体映像の端末が出現するような、そんな未来都市がレディの想像だったが。
現に来て見ると、ヨーロッパの先進的な病院とほとんど変わりが無い。
ちらほらと清掃用のロボットを見るが、未来要素を醸し出しているのはそれだけだ。
まあ、まだ病院しか見ていないから、それで学園都市全体を判断するのは早計だろうが。
レディ「…………(ま、後でゆっくり出来るようになったら観光しようかしら)」
レディ「…………(でも日本語できないのよね~)」
そう、実は彼女、日本語が喋れない。
何でもかんでも直感的に把握し、『覚える』のではなく『知っている』状態に持ちこめる悪魔とは違う。
人間である以上、頭を使ってコツコツ記憶していかねばならないのだ。
ヨーロッパの主な言語は堪能だが、今まで日本に関ることは無かった為習得していないのも当然。
レディ「…………(誰かついて来てくれれば良いけど)」
586: 2010/09/09(木) 23:23:54.39 ID:HjU1p5.o
と、そうやって適当な事を考えながら廊下の突き当りを曲がると。
レディ「……あそこ?」
ルシア「はい」
廊下の先、とあるドアの直ぐ前で、
ダンテがシーツでぐるぐる巻きになっている
トリッシュを抱きかかえながら突っ立っていた。
ダンテは立ちながら器用に眠っているのか、目を瞑って頭をだらしなく傾けており。
そんな彼にお姫様抱っこされているトリッシュは、何か思考を巡らせているのか、
焦点の定まってない目でボーっと天井を眺めていた。
レディ「(……何やってんのアイツラは)」
ルシア「……?」
それは何とも奇妙な光景だった。
ただ見ただけでは、
何であんな事になっているのか、なぜああしてるのかその意図が全くわからない。
レディは呆れたような表情で、ルシアは不思議そうに頭を傾けながら、
その奇妙な二人の下へと進んでいった。
587: 2010/09/09(木) 23:27:17.75 ID:HjU1p5.o
トリッシュ「あら、来たわね」
そんな二人の接近に気付き。
ふとトリッシュが視線を降ろし、レディ達に向け口を開いた。
レディ「………………何してんの?」
レディ「とうとう『教会』に行くつもり?それがウェディングドレス?」
小馬鹿にするように笑いながら、二人の姿をまじまじと眺め、
そしてトリッシュの体に巻かれているシーツを指すレディ。
ちなみにダンテは相変わらず、立ちながら器用に眠っていた。
トリッシュ「……………………笑えないわねその冗談は」
トリッシュ「違うわよ。フォルトゥナの『お姫様』が目を覚ましたの」
トリッシュ「それで今、中で『王子様』と二人っきり」
トリッシュ「そんなとこに部外者がいるのは野暮でしょ」
レディ「あ~……そう。で、気使ったのはわかるけど、それなのに何でドアの直ぐ傍にいんのよ?」
トリッシュ「そりゃあ、『聞きたい』から。面白いじゃないの。『人間式の交尾』の音って」
レディ「…………」
トリッシュ「でも中々始まんないのよね~ボソボソ喋ってるばっかで。時々キスの音は聞こえてたんだけど」
トリッシュ「ダンテなんか待ちくたびれてこのまま寝ちゃったし」
レディ「……………………(コイツ等本当にアホね)」
588: 2010/09/09(木) 23:30:47.77 ID:HjU1p5.o
ルシア「?な、何か始まるんですか?」
レディ「何も始まらない。アンタはまだ知らなくて良い事だから。忘れろ」
トリッシュ「あ、勘違いしないでね。ダンテは違うけど私は学術的な意味で(ry」
とその時。
ドアが勢い良く開け放たれ。
ネロ「うっせーな、丸聞こえなんだよ」
見るからに不機嫌そうなネロが姿を現した。
その奥のベッドの上には、少し恥ずかしそうな表情のキリエ。
トリッシュ「あら、もう『済ませた』の?」
ネロ「んな訳ねえだろうが」
ネロ「くだらねえ期待してねえでさっさと入れよアホ共」
トリッシュ「ふふふ、じゃ、ほら起きなさい」
トリッシュがダンテの腕の上で軽く足を跳ね上げ、大男の大きく揺さぶった。
ダンテ「………………あぁ…………?何だ?もう『終わった』のか?随分『早え』な」
ボンヤリと目を開き、腑抜けた声を発しながらネロの方へと目を向けるダンテ。
ネロ「何をだ?何をだよバカ野郎?それと俺はんな『早く』ねえからな。舐めんなよ」
ダンテ「…………へっへ……ああそうかい」
589: 2010/09/09(木) 23:32:59.94 ID:HjU1p5.o
ネロもネロの方でストレートな言い様。
ベッドの上で恥ずかしそうにしているキリエを尻目に、
飄々とダンテは病室に入り、トリッシュをキリエの横に降ろし。
それに続いて入室するレディと大きなバッグを背負ったルシア。
そして依然不機嫌なままのネロが、最後にやや乱暴にドアを閉め。
ダンテはトリッシュを降ろした後、壁際のソファーへと向かい腰を乱暴に降ろし。
ネロはベッド脇でやや眉を顰めながら腕組をし、
ルシアはベッドの近くにバッグを下ろして、定位置の窓枠にピョンと乗り。
レディはその大きなバッグの上に腰を降ろす。
トリッシュ「気分はどう?」
何事も無かったかのように、隣のやや俯き気味のキリエへ声をかけるトリッシュ。
キリエ「あ……もう大丈夫です。すみません……色々とご心配をおかけしてしまい……」
トリッシュ「気にしないで。それと無理もしないでね。まだ少しめまいとかだるさがあるでしょ」
キリエ「……………………はい」
590: 2010/09/09(木) 23:34:50.49 ID:HjU1p5.o
トリッシュ「さてと…………レディ」
レディ「一応使えそうなのは一通り持ってきたけど」
トリッシュ「ええ、確かに大荷物ね。じゃあ早速見てちょうだい」
トリッシュ「彼女の右手首よ」
その声に合わせ、キリエがスッと右腕をレディの方へと差し出した。
レディも立ち上がり、サングラスを外し胸元に引っ掛けながら、
もう片方の手でキリエの腕を軽く掴んで顔を近付け。
レディ「……………………………………コレ…………随っっっっ分厄介ね……」
そして軽く舌打ちしながら、溜息混じりに呟いた。
レディ「『アイツ』のやり方に似てるけど…………もっと洗練されてるみたいね」
ダンテ「『親父さん』にか?」
トリッシュ「……『アーカム』?」
レディ「………………………………その名は言わないで」
トリッシュ「あらゴメン」
591: 2010/09/09(木) 23:38:29.83 ID:HjU1p5.o
レディ「ちょっと我慢して」
レディはそう小さくキリエに良いながら、腰に大量にぶら下がっているポーチの一つから小さな黒い針を取り出し、
数ミリほど彼女のアザの中心に突き刺した。
キリエ「…………」
そしてスッと引き抜き、今度は指した周辺をやや強めに指圧し、血を数滴分染み出させ。
その血を人差し指で撫でるように掬い取ると。
一旦キリエから離れてバッグの方へと向かい、もう片方の手で起用に荷物のゴツイ拘束具を外し、何やら漁り始めた。
ネロ「…………『構成』を見んのか?」
レディ「ええ」
ネロ「禁書目録もここにいる。アイツに見てもらった方早くねえか?」
レディ「…………術式構造はともかく、その力の根源が神クラスだったらどうするのよ」
そんなネロの素朴な疑問に対し、レディは荷物を漁りながら淡々と答える。
レディ「そしてそれで精神汚染するようなトラップがあったら?」
レディ「禁書目録がどんだけの『器』持ってるか知らないけど、用心に越したことは無いでしょ」
レディ「表面見た感じだと、『コレ』作った奴は本当に化物染みた頭しているみたいだし、」
レディ「何が仕掛けてあるかわからないわよ」
ダンテ「お前の『親父さん』よりもか?」
レディ「…………多分。少なくとも私よりは頭がぶっ飛んでる」
592: 2010/09/09(木) 23:41:09.99 ID:HjU1p5.o
レディ「…………っと……」
と話している間に、レディは目当てのとある魔導書を探し当てた。
表紙が黒ずんでいて古めかしく、
その姿を見ただけでこれがどれ程おぞましい存在かがわかるくらいに、
不気味な空気を漂わせていた
レディは再びバッグの上に腰を降ろし、その魔導書を膝の上に乗せると、
片方の手で再びサングラスをかけ。
レディ「キリエ」
上目遣いで、サングラスの上辺からオッドアイを覗かせながら
キリエの方をチラリと見やった。
その意図を察し、
ネロ「キリエ。目瞑ってろ」
ネロの声も受けて、キリエは目を瞑ってレディから目を背けた。
ネロ「俺が良いって言うまでそうしててくれ」
キリエ「……うん」
レディ「じゃ、始めるわね」
キリエの状態を再度目で確認した後、レディはそっと魔導書を開き。
そっとページを捲り始めた。
その瞬間、明るかった病室が一気に暗くなり、
凄まじい重圧が充満していった。
593: 2010/09/09(木) 23:43:07.19 ID:HjU1p5.o
魔導書の中身。
そのページは『白紙』だった。
何も書かれていない。
だが。
レディ「…………」
先ほど指先でとったキリエの血をそのページに擦り付けると。
黒い染みのようなモノが一気にページ全体に染み出し、
そして様々な魔法陣や奇妙な紋章を浮かび上がらせた。
レディ「………………………はッ……」
それを見た瞬間、レディは短い笑い声をあげた。
本当に呆れてしまっているかのように。
トリッシュ「…………どう?」
レディ「…………術式の系統は様々ね……古代ギリシャのグノーシス式がメインだけど…………」
レディ「歴代のフォルトゥナ式も混ざってるし、天界魔術の構造も見えるわね……エノク語の式もあるし、最近のアレイスター式もあるわ」
レディ「ごちゃ混ぜ……っていうか、本当に良いとこ取りしてるわ。こんなの見たこと無いわ」
レディ「なんちゅー応用の仕方よ…………コレ作った奴イカれてるわ本当に」
594: 2010/09/09(木) 23:45:33.32 ID:HjU1p5.o
トリッシュ「…………力の根源は?『誰』の力?」
レディ「……………………大量の高等悪魔の魂ね…………待って。大物がいたわ」
レディ「『トリグラフ』、それと恐怖公『アスタロト』」
トリッシュ「………………随分デカイのが釣れたわね」
ダンテ「?誰だそいつら?強えのか?」
トリッシュ「ええ。私よりも強いかしら。覇王の直属だった『神』よ」
レディ「『アスタロト』の方は確か今、魔界の内戦で10強に入ってるって聞いたけど」
トリッシュ「2000年前、覇王と一緒に別の世界へ侵略に行ってたから、スパーダにやられずに済んだ連中よ」
トリッシュ「レディの言うとおり、今は覇権争いで『頑張ってる』みたい」
レディ「ま、そういう連中が覇王復活の支援するのも理にかなってるって所ね」
ダンテ「…………へぇ…………そいつは面白えじゃねえか」
ネロ「待て……こいつらは俺の獲物だからな」
595: 2010/09/09(木) 23:46:50.66 ID:HjU1p5.o
ダンテ「おいおいつれねえな。お前は覇王があんだろ?一体くらい寄越せよ」
ネロ「うるせーな、アンタはアンタの方で取り分があるだろ」
トリッシュ「……ダンテ。ネロの言う通り、この連中は彼の領分よ」
ダンテ「…………………あ~」
ネロ「そういう事だ。ま、気が向いたら一体くらいやっても良いけどな」
ダンテ「本当だな?」
ネロ「気が向いたらな」
トリッシュ「あ、そうそうダンテ、向こうに行ったらこの二人の事もロダンに聞いといて」
トリッシュ「彼なら魔界の『近況』知ってると思うから」
ダンテ「へーへー」
596: 2010/09/09(木) 23:49:36.90 ID:HjU1p5.o
トリッシュ「で、どう?外せそう?」
レディ「…………多分ね。慎重に行けば」
レディ「私の監督で一層一層しっかりと見てけば大丈夫だと思うから、禁書目録の目も借りたいわね」
レディ「禁書目録ってどの程度まで『受け止められる』の?」
トリッシュ「…………少なくとも、二ヵ月半前には私が直接力流し込んでも平然としてたわね」
レディ「じゃあ一応大丈夫ね」
レディ「この『二人』の力は精神系特化型でもないし、トラップの方も多分問題ないわ」
ダンテ「ソイツら、直接攻撃型か?」
レディ「まあね。記録が正しければ」
ダンテ「ヒューッッハッハァ、ますます面白そうだな」
ネロ「だからアンタのじゃねえって。俺のだ」
ダンテ「わぁってるって」
597: 2010/09/09(木) 23:54:33.21 ID:HjU1p5.o
レディ「それともちろん幻想頃しも借りたいわね」
トリッシュ「大丈夫なの?あの子の手って加減できないで、一気に全構造ぶっ壊しちゃうみたいだけど」
アンタ達
レディ「……それは様子を見ながらね。幻想頃しが使えない場合も考えて、『スパーダ』の血もちょうだい」
レディ「この大物二人の力を打ち消せると思うから」
ダンテ「………………………………どんくれえだ?」
レディ「数滴で充分だから。何ビビッてんのよ」
ダンテ「…………お前が血寄越せとか言うとシャレになんねえんだよ」
ネロ「…………はは……」
レディ「ちょっと。アンタ達私を何だと思ってんの?こんな『か弱い』人間の『乙女』を捕まえておいて」
ネロ「………………乙女……ね。笑えるぜ……」
レディ「あ?どこが笑えるって?」
ネロ「……………………いや、すまん。笑えねえな……悪い……」
598: 2010/09/09(木) 23:55:52.14 ID:HjU1p5.o
トリッシュ「じゃ、そういう事でなんとかなりそうね。時間はどのくらいかかる?」
レディ「まだ何とも言えないけど…………四日あればいけるかも。遅くても一週間あれば」
ネロ「OK、早くて四日な」
ネロ「術が解け次第、俺とフォルトゥナの選抜部隊がデュマーリ島に乗り込む」
ネロ「それまでは監視に留めておいてくれ。絶対に『直接的』に手を出すなよ」
そこでネロはダンテの方へと振り向き。
ネロ「―――な。その事を頭に刻んでおいてくれ」
破天荒な叔父に対して念を押す。
そんなネロの言葉を受け、ダンテは苦笑いを浮かべた。
正にその点についてとある問題があると言いたげに。
当然、ネロもそのダンテの表情をすぐに読み取った。
ネロ「………………何かあんのか?」
ダンテ「…………ん~……まあな」
599: 2010/09/10(金) 00:01:46.29 ID:Z1S.LJco
ダンテ「手を出すなって事だが…………」
トリッシュ「…………」
ダンテ「実はな、学園都市側でもデュマーリ島強襲をするらしくてな」
ダンテ「アリウスに対する妨害作戦らしい」
ネロ「…………どういう事だ?」
ダンテ「何でも、天界の口が開く件にもアイツが絡んでるらしくてな」
ダンテ「で、その天界の軍勢は学園都市を潰したがってるらしい」
ネロ「………………………俺らの事について、アレイスターは何か知ってるのか?」
ダンテ「いいや。知ってたら、そこの『お姫様』をどうにかしようとなんか仕掛けてくるだろうよ」
ダンテ「今のアレイスターは形振り構わない感じだったからな」
ダンテ「目的の為なら、俺らを敵に回す事をも厭わないだろうよ」
ネロ「…………そうか……」
ダンテ「どうする?」
ネロ「………………俺は『俺のやり方』を貫くだけだ」
ネロ「さっき言っただろ。キリエの術が解けるまでは『絶対』に手を出させねえ」
ネロ「如何なる理由があろうとな」
トリッシュ「…………」
ダンテ「実はな、学園都市側でもデュマーリ島強襲をするらしくてな」
ダンテ「アリウスに対する妨害作戦らしい」
ネロ「…………どういう事だ?」
ダンテ「何でも、天界の口が開く件にもアイツが絡んでるらしくてな」
ダンテ「で、その天界の軍勢は学園都市を潰したがってるらしい」
ネロ「………………………俺らの事について、アレイスターは何か知ってるのか?」
ダンテ「いいや。知ってたら、そこの『お姫様』をどうにかしようとなんか仕掛けてくるだろうよ」
ダンテ「今のアレイスターは形振り構わない感じだったからな」
ダンテ「目的の為なら、俺らを敵に回す事をも厭わないだろうよ」
ネロ「…………そうか……」
ダンテ「どうする?」
ネロ「………………俺は『俺のやり方』を貫くだけだ」
ネロ「さっき言っただろ。キリエの術が解けるまでは『絶対』に手を出させねえ」
ネロ「如何なる理由があろうとな」
600: 2010/09/10(金) 00:03:58.42 ID:Z1S.LJco
ネロ「…………アラストル持ちもそれに絡んでるのか?」
ダンテ「まあな」
ネロ「じゃあアンタがそっちからなんとかしろ」
ネロ「こっちから先に手を出すつもりは無い」
ネロ「術が解けた後なら自由にしてもらって構わない」
ネロ「応援は喜んで受け入れる」
ネロ「だがその前に、先に勝手に動いたらそれ相応の『手段』をとるからな」
ダンテ「……………………あーへいへい。了解だ」
レディ「……ところで、ココに天界の軍勢が来るのよね?私達が間に合わなかったら?」
ネロ「ルシア。その時はキリエをフォルトゥナに運べ」
ルシア「は、はい」
レディ「フォルトゥナの結界は全部ぶっ壊れてるんじゃ?」
ネロ「今ウチの連中が再構築してる。一週間で元通りだ」
レディ「…………そう……」
小さく頷きながら、レディは魔導書をゆっくりと閉じた。
それと同時に、ネロはキリエの肩に手を置いてもう良いぞと小さく声をかけた。
トリッシュ「…………じゃ、今はこんな所ね」
トリッシュ「またなんかあったらルシアに迎えに行かせるから」
ネロ「ああ」
601: 2010/09/10(金) 00:07:21.43 ID:Z1S.LJco
そしてネロは軽くキリエに挨拶した後、ルシアと共にフォルトゥナへと向かっていった。
レディ「…………それにしても随分と厄介な事になってるじゃないのよ」
トリッシュ「そうね。私はこのザマだから、ここはダンテに頑張ってもらわなきゃ」
ダンテ「………………あ~……」
トリッシュ「頼むわよ?ルシア戻ってきたらすぐ向こうに行って」
ダンテ「…………おー」
レディ「あ、その後でもいいから、あの子に禁書目録と幻想頃しも呼んできて貰って。早速始めたいから」
トリッシュ「ええ」
キリエ「あの、私は何をすれば……?」
レディ「右手を出してくれていればそれで充分よ。ただ、術式を弄る際はいくらか負荷が掛かるかも知れないから、」
レディ「ま、そこは様子を見ながら休み休み、ね。私もかなり疲れそうだし」
トリッシュ「禁書目録もそうだけど、人間には無理させないようにね。代わりに幻想頃しはいくらでも使って良いから」
レディ「当然でしょ。あんのクッッッッッッッッッソガキは氏ぬまでこき使ってやる」
レディ「ていうか普通に頃したいんだけど。今日はしっかりフル装備で来たわよ?」
レディ「私としては、そろそろ頃しておかないとさ」
レディ「人間に戻ったら戻ったでつまんないし。今が旬の頃し時だと思うんだけど」
トリッシュ「それはさすがにダメ。半頃しなら別にOKだけど」
ダンテ「(へっへ、マジでご愁傷様だな坊や…………同情すんぜ)」
―――
602: 2010/09/10(金) 00:09:20.06 ID:Z1S.LJco
―――
一方その頃。
別の病室。
上条「うぉぅッッッッッ!!!!!!!!!!」
悪魔の感で、その強烈な殺意を感じ取った上条。
体を一気に駆け巡った冷気に溜まらず声を上げてしまった。
禁書「?どうしたのかな?」
上条「い、いや…………何か一瞬だけ…………」
この感覚は前にも一度経験がある。
レディを怒らせてしまった時だ。
あれ程おっかない『人間』はそうそうお目にかかれない。
悪魔ならまだしも、ただの人間でありながら上条にトラウマを刻み込んでしまう、正にある種の『怪物』だ。
力としての問題ではなく、もうなんだか本能的に『あの女には勝てない』と思い込んでしまう程だ。
上条「(………………まさか……学園都市にいるわけねえよなあ……気のせいだよな……)」
禁書「とうま?」
そんな上条を、軽く首を傾げながら不思議そうに見るインデックス。
上条「ん……あぁ……はは……なんでもねえぜ」
一方その頃。
別の病室。
上条「うぉぅッッッッッ!!!!!!!!!!」
悪魔の感で、その強烈な殺意を感じ取った上条。
体を一気に駆け巡った冷気に溜まらず声を上げてしまった。
禁書「?どうしたのかな?」
上条「い、いや…………何か一瞬だけ…………」
この感覚は前にも一度経験がある。
レディを怒らせてしまった時だ。
あれ程おっかない『人間』はそうそうお目にかかれない。
悪魔ならまだしも、ただの人間でありながら上条にトラウマを刻み込んでしまう、正にある種の『怪物』だ。
力としての問題ではなく、もうなんだか本能的に『あの女には勝てない』と思い込んでしまう程だ。
上条「(………………まさか……学園都市にいるわけねえよなあ……気のせいだよな……)」
禁書「とうま?」
そんな上条を、軽く首を傾げながら不思議そうに見るインデックス。
上条「ん……あぁ……はは……なんでもねえぜ」
603: 2010/09/10(金) 00:12:32.86 ID:Z1S.LJco
上条「あ~、それにしてもなあ……。こうゆっくりしてると色々思い出しちまったぜ」
禁書「?」
上条「まず、ウチの窓とベランダぶっ壊れちまっただろ?」
禁書「あ…………」
上条「…………金はそれなりにあるし修理はできるんだけどなぁ……」
上条「なんかそろそろ追い出されちまいそうな気がするぜ」
禁書「?あそこって学園都市側から借りてるんじゃないのかな?」
上条「そうだけど、こうも色々あるとご近所さんがさすがに怒るだろ?」
禁書「そう?つちみかどは怒らないと思うんだよ!」
上条「その反対側とか上とか下とかもいんだろ」
禁書「…………う……じゃ、じゃあいつかお引っ越しするの?」
上条「うーん…………まあ……考えてる」
604: 2010/09/10(金) 00:14:16.26 ID:Z1S.LJco
上条「寮じゃなくて一軒屋みたいなところとか。良く考えると、今回だって巻き添え出てたかも知れねえしな」
上条「できるだけ、他の人が近くに住んでいないような状況がいいかなってよ」
上条「それにお前もいるとなるとな~。さすがに『二人で暮らす』には少し狭いだろ今のまま…………じゃっっっ……!!!」
自分が何気なしに口にした言葉で自爆する上条。
上条「い、いやっ…………ま、まあそんな感じでな……!!」
禁書「…………ふ、ふ、ふ、ふふ『二人』でっ……ねっ………!!」
そして同じく、飛び火して少し恥ずかしそうに俯くインデックス。
上条「そ、そうっ!!!そういう事でな!!!引っ越すのを考えてる訳だ!!」
禁書「う、うん!!!ちゃ、ちゃんと選ぶんだよっっ!!」
上条「お、おう!!!」
その時、病室のドア向こうに門番よろしく立っている、
赤毛の大男の舌打ちが小さく響いた。
惚けている二人の耳には当然入らなかったが。
605: 2010/09/10(金) 00:16:06.37 ID:Z1S.LJco
禁書「……あ、でもね。こもえとかあいさの家が遠くなるのはイヤなんだよ」
上条「あ~、そこら辺も考えておかなきゃな。学校までの距離もだな」
上条「別に遠くても今の俺なら問題ねえけど、人間に戻ったら通学大変だしな」
禁書「とうま、もう学校いかなくていいんじゃない?」
上条「え?いやいやいや、それはさすがにマズイですよ~インデックスさん」
上条「確かに学校とか言えるような『世間』から、俺はもうだいぶかけ離れちまったけどよ…………」
上条「やっぱり、一応高校ぐらいまではしっかり出ておきたい訳ですよ、上条さんとしては」
禁書「…………ふーん……そういうものなのかな」
上条「友達もいるしな。あいつらとも一緒に過したいしなやっぱり」
禁書「あっ!!!!じゃあ行かなきゃダメなんだよ!!!ともだちは大切にするんだよ!!!!」
上条「おう。ははは、そうだな」
上条「まあ、大学まで行きたかったけどな。だがさすがに『ココ』までくりゃあ、そういう『普通の世界』にはもう戻れないだろ」
上条「だからせめて高校くらいはって感じだな」
606: 2010/09/10(金) 00:17:59.08 ID:Z1S.LJco
禁書「…………………………とうま、後悔してる?『ココ』まで来て……」
上条「ん?ま、少し残念って感じかな」
禁書「……」
上条「あ~、でもな。後悔はしてねえ」
上条「色々大変だが、今は『不幸』とも思わねえ」
禁書「………………ぇ?」
上条「お前がいりゃあ充分だ」
禁書「―――」
上条「お前に会えたんだ」
上条「それなのに『不幸だ』なんて言ってりゃあ、それこそバチが当たっちまうじゃねえか」
607: 2010/09/10(金) 00:19:57.23 ID:Z1S.LJco
禁書「……と、とうまっ…………」
上条「それにな、確かに大変だったが、それこそ一度氏んじまったぐらいだけどな、」
上条「それ以上に色々な事を知る事が出来たし、色々な人にも会えた」
上条「例えば一方通行があんな風に、誰かの為に戦ってくれる事も知れたし」
上条「ステイルとか神裂がどれだけ『友達』の事を思ってたのかももっとわかったし」
上条「御坂が……そのなんつーか、アイツの想いもわかって、俺はちゃんと向き合う覚悟ができたし」
上条「悪魔とかも、こっちから見ればとんでもねえ連中だけど、向こうの立場から見れば人間達が憎いのも仕方ねえことだし」
上条「そんな悪魔の中でも人の為に戦ってくれる人がいて、そいつらの方が俺ら自身よりもよっぽど人間らしかったり」
上条「本当にたくさんな。今挙げたのは極一部だ」
上条「これらもな、元を辿れば全部お前がくれた『贈り物』だ」
禁書「…………」
上条「だから後悔なんざしてねえ」
上条「もし、これを『不幸だ』なんて言いやがる『俺』がいたら、思いっきりぶん殴ってやる」
上条「『今の俺』は『幸福』だよ。本当に恵まれてるさ」
608: 2010/09/10(金) 00:22:12.41 ID:Z1S.LJco
上条「…………っって……おいぃ?」
と、そうやって一通り言い終わったところで。
上条はようやく、インデックスが瞳を潤ませて
今にも泣きそうな顔をしているのに気付いた。
上条「…………ど、どうした?」
禁書「ううん!なんでもないんだよ!」
心配そうに覗き込む上条に対し、インデックスは今まで以上の笑みを浮かべた。
頬に水晶のような雫を伝わせながら。
上条「そ、そうか?」
禁書「うん!」
上条「い、いや…………俺がなんか悪いこと言ったのなら……」
禁書「ううん。でも…………まだまだ……」
禁書「…………………かん…………!」
上条「……へ?」
禁書「―――鈍感なんだよっっっとうまはっっっ!!!!」
609: 2010/09/10(金) 00:23:37.30 ID:Z1S.LJco
泣きながら、そして笑いながら、一気に上条に飛びついたインデックス。
彼の胸に飛び込み、そしてギュッと抱きついた。
上条「うぉぉ!!!ちょ、ちょ!!!!!!」
上条「い、インデックス!!!!!い、いいいいいいいいいいいいきなり何をッッッッッ……!!!!!!!」
禁書「……ねえ、とうま」
慌て焦る上条など全く気にせずに、
インデックスは彼の胸の中で目を瞑りながら小さく呟いた。
上条「……お、おうぅっ!!!?」
禁書「お引越しする前に、何回かあの家に戻るの?」
上条「ま、まままままあな!!荷物も運ばなきゃだしな!!!飛び散ったガラスとかも掃除しなきゃ(ry」
禁書「私も行きたいんだよ」
上条「……へ?」
禁書「だって、あそこはとうまと出会った場所」
禁書「とうまの思い出がたくさんある場所」
禁書「―――私の『聖地』だもん」
上条「―――…………」
610: 2010/09/10(金) 00:25:09.56 ID:Z1S.LJco
その言葉で上条の体から緊張が一気に引いていった。
そして彼はようやく。
ようやく静かにインデックスを抱きしめた。
上条「ああ。一緒に行こう」
禁書「…………でもね、本当はね、私はあそこで暮らしたいんだよ」
上条「……じゃあ、こういうのはどうだ?」
上条「あそこは別荘にする」
上条「普段の家は別に買って、休みの日とかにあそこに行く」
上条「いつでも好きなときに」
禁書「…………好きなときに……二人で?」
上条「もちろん。『俺達の聖地』だ。一緒に、な」
禁書「…………うん……それなら…………良い…………んだよ…………」
上条「………………?」
急にテンポが遅くなったインデックスの声。
上条は首を傾げながら、少し頭を傾けて腕の中を覗き込むと。
上条「(はは……寝ちまったのか。早業だな…………)」
上条「(ま、昨日の今日だしな。疲れてんだろうな…………)」
インデックスは、上条の胸の中で小さな寝息を立てて蹲っていた。
心地よさそうに。
まだ少し目の辺りを濡らしながら。
―――
624: 2010/09/12(日) 00:06:36.35 ID:lj6gqawo
―――
魔界、煉獄の深淵。
暗く淀んだ『怨念の海』の上に佇む、白亜の大きな列柱廊円形ホール。
上も下も漆黒の闇である為、
その白き建造物とのコントラストが異様に際立っていた。
そのホールの中。
そこに今、一人の古の魔女と。
一人の最強の悪魔が立っており。
その前で、一人の『生れ落ちたばかり』の悪魔が床に四つんばいになり、
肩を大きく揺らしながら激しく呼吸していた。
アイゼン『…………それでこの者、使えそうか?』
第10代目アンブラの長、『魔女王』と称えられたアイゼンが、神裂を見下ろしながら
隣のバージルへ向けて口を開いた。
バージル「…………まだだ。少し『足りん』」
バージルはそれに対しそっけなく答えた。
全く感情の読めない冷たい眼差しを神裂に向けながら。
神裂「……はぁっっ…………ふっ…………?」
魔界、煉獄の深淵。
暗く淀んだ『怨念の海』の上に佇む、白亜の大きな列柱廊円形ホール。
上も下も漆黒の闇である為、
その白き建造物とのコントラストが異様に際立っていた。
そのホールの中。
そこに今、一人の古の魔女と。
一人の最強の悪魔が立っており。
その前で、一人の『生れ落ちたばかり』の悪魔が床に四つんばいになり、
肩を大きく揺らしながら激しく呼吸していた。
アイゼン『…………それでこの者、使えそうか?』
第10代目アンブラの長、『魔女王』と称えられたアイゼンが、神裂を見下ろしながら
隣のバージルへ向けて口を開いた。
バージル「…………まだだ。少し『足りん』」
バージルはそれに対しそっけなく答えた。
全く感情の読めない冷たい眼差しを神裂に向けながら。
神裂「……はぁっっ…………ふっ…………?」
625: 2010/09/12(日) 00:08:49.00 ID:lj6gqawo
アイゼン『調整できるか?』
バージル「ああ」
アイゼン『間に合うか?』
バージル「間に合わなかったら別の候補を使えば良い」
アイゼン『そうか…………一つ言っておくぞ。この者はそなたの力から生れ落ちた、いわば「子」だからな』
アイゼン『粗末にするのではないぞ?例え本命に使えずとも、別の使命を与えるのだぞ?』
アイゼン『意志を全うさせてやれ』
バージル「黙れ。口を出すな」
神裂「………………はぁっ…………っ…………!!」
と、その時。
息を切らしながら、神裂はゆっくりと顔を上げバージルの目を真っ直ぐと見つめ。
神裂「……誓って……失望…………は絶対にさせません……如何なる事であろうと……必ずやり遂げます……」
途切れ途切れながらも、
己の心の内をバージルへ向けて宣誓した。
バージル「…………」
その言葉を聞き、バージルは表情を変えぬまま、
右手に持っていた抜き身の七天七刀を神裂の前へと放り投げた。
626: 2010/09/12(日) 00:09:57.71 ID:lj6gqawo
鋭い金属音を響かせながら神裂の直ぐ前、
白亜の床の上に落ちる七天七刀。
神裂「…………っ……!?」
バージル「さっさと拾え」
神裂「は、はい…………!!!」
その七天七刀の柄を握り締め、
神裂は震えながらぎこちなく立ち上がった。
アイゼン『もう始めるのか?』
そんな神裂の様子を見つつ、
アイゼンが小さく笑いながらバージルへと言葉だけを飛ばす。
アイゼン『まだ誕生したばかりだぞ?安定もしておらん。もうしばし時間を……』
バージル「不安定な今だからこそだ」
バージル「今が一番作り変えやすい」
アイゼン『ふ…………何とも……容赦の無い男よ』
627: 2010/09/12(日) 00:12:56.57 ID:lj6gqawo
神裂「…………まず……私は………何をすれば良いのでしょうか?」
息を切らし肩を揺らしながらも、神裂はしっかりとした目と声色で、
力強く主に対して問うたが。
バージル「…………二時間で『俺の全力の次元斬り』を使える様になれ」
神裂「…………!!?」
バージル「自由に扱える程とは言わん」
バージル「一発だ。一発使える様になれば充分だ」
目を丸くしている神裂を尻目に、
淡々と言葉を続けるバージル。
バージル「お前はその『一発の為』に生かされている」
そんな彼の瞳が徐々に赤い光を増していき―――。
628: 2010/09/12(日) 00:13:52.75 ID:lj6gqawo
バージル「もし使えぬのなら。そこまで到達できぬのなら―――」
次いで全身から青い光を放出し―――。
バージル『所詮その程度だったのならば―――』
バージル『その力を持つに足らぬ存在ならば―――』
バージル『―――さっさと氏ね。邪魔だ』
―――そして魔人化する。
神裂「―――」
次の瞬間。
閻魔刀の鞘の先端が神裂の腹部に食い込こんだ。
湿った、不気味な破砕音を響かせながら。
629: 2010/09/12(日) 00:16:04.83 ID:lj6gqawo
先程とは桁違いの威力の突き。
例え真剣ではなくとも、魔人化したバージルの突きはそれはそれは凄まじいモノだった。
神裂「―――」
一瞬にして神裂は突き飛ばされ、
ホールの外の漆黒の海の上を1km以上も跳ねながらぶっ飛んでいった。
巨大な黒い飛沫をいくつもぶち上げ、凄まじい地響きを響かせて。
ココ
アイゼン『…………あまり暴れるなよ?確かに「煉獄」が崩壊することは無いが、さすがに大きく軋むからな』
アイゼン『他の界の連中にそなたの匂いが気付かれて、下手すると諸神達が軍勢を引き連れて群がってくるぞ?』
バージル『ならばその連中も殺せば良い』
アイゼン『はは、うむ、確かにそうだな。そなたには要らぬ心配だったか」
バージル『…………「時の腕輪」は?』
アイゼン『ああ~、「あやつら」、「この間」かなり酷使しおったようだな。それはそれは修復が大変だったぞ』
アイゼン『ま、ジュベレウスを廃したのだ。この程度の損傷で済んでいた事に喜ぶべきだがな』
バージル『御託は良い。済んだのか?』
アイゼン『おおスマン。もう修復は完了した。使えるぞ』
630: 2010/09/12(日) 00:20:30.90 ID:lj6gqawo
アイゼンはゴソゴソと、袖口から一つの奇妙な腕輪を取り出した。
骨をモチーフにしたような、銀色の不気味な腕輪だ。
琥珀色の奇妙な時計盤が、張り出している鉤爪で固定されていた。
アイゼン『ほれ』
とその時。
『―――オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!!!!!!!!!!』
エコーのかかった凄まじい『女』の咆哮が、煉獄中に響き渡り、
周囲を大きく奮わせた。
そして神裂が吹っ飛んで行った方角で瞬く、青い閃光。
アイゼン『ほぉう。中々素養があるようだなあの者も』
バージル『…………腕輪は後で良い』
その光を見ながら、バージルは呟いた。
バージル『コレが済んでから受け取る』
アイゼン『……そうか…………しつこいようだが、くれぐれも力加減には気をつけるのだぞ?』
アイゼン『このやり方は危険だ。そなたであろうとミスはあるだろう?』
アイゼン『その小さなミスであの者は簡単に氏にかねんからな。例え鞘でも、な』
バージル『…………言ったはずだ。口を出すなと』
念を押してくるアイゼンに対し、そう吐き捨てたと同時にバージルは一気に床を蹴り、
もう一つの『青い光』の方へと爆進していった。
アイゼン『…………………ふふは、スパーダの血は相変わらずだな』
631: 2010/09/12(日) 00:22:16.22 ID:lj6gqawo
煉獄を覆っている漆黒の海。
ただ、海と言ってもその水深は10cm程しかない。
底はまるで肉を踏んでいるかのように少し軟質だ。
更に、海を形成しているのは液体とは断言しづらい、得体の知れないモノだ。
液体のように波打ちながらも、霧のようにもやもやとして重量感がほとんど感じられない。
しかし、今の神裂にはそんな事に首を傾げている余裕など無かった。
神裂『ガァッッ…………ァァァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ!!!!!!!!!!!』
漆黒の海の上、神裂は全身から青い光を放ち瞳を赤く輝かせながら、
苦痛に顔を歪めて咆哮していた。
あの突きの一撃で、肋骨は粉砕。
複数の臓物も一瞬にして破裂した。
と同時に、内部の『何か』が『点火』されたようだった。
全身から噴き上がる、今まで感じたことの無いような莫大な力。
その力のおかげで損傷した腹部は一瞬にして再生したが、
今度はその凄まじい量の力で体中、内部をも全てをとんでもない激痛が襲い始めた。
七天七刀を握る手も焼かれていくような感覚。
632: 2010/09/12(日) 00:24:44.62 ID:lj6gqawo
神裂『ぐゥ…………!!!!!ァ゛ァッッ!!!!!!!!』
激痛の中、先程のバージルの言葉を思い出す。
「『俺の全力の次元斬り』を使える様になれ」
そして今のこの状況。
何の為にこうしているのかは、一目瞭然。
バージルクラスの次元斬りを放てる水準まで、神裂は到達しなければならないのだ。
それも二時間以内に。
今すぐに、だ。
このやり方はかなり強引だ。
例えるならば、身長を伸ばす為に体を力ずくで引き伸ばすような。
一歩間違えると、体が引き裂かれて命を落とす。
だがもう後には引けない。
既に始まっている。
バージルの力から生まれた七天七刀が、ついに神裂に対して全ての力を傾け始めた。
バージルの力から生れ落ちた彼女自身の力が、彼の突きで『点火』され最大出力で暴れ始めた。
これらを抑え込み、我が物とできるかどうかは彼女次第。
もしそれが出来なければ力との序列が覆り、彼女は飲み込まれて消滅する。
そして完全制御ができるようになったとしても、
今度はその水準がバージルの求める値まで到達していなければ、
用無しとしてあっけなく『処理』される。
633: 2010/09/12(日) 00:26:18.96 ID:lj6gqawo
これらは、一見すると不条理・理不尽な仕打ちに見えるだろう。
神裂『ぐッッッ…………!!!!!!』
だが、巨大な力がそう易々と手に入る訳が無い。
ましてやスパーダの血の系統の力。
この程度の苦痛など、かなり『割引』されている方だ。
そして何よりも、神裂がまず求めたのだ。
本当の意味で人々の為に戦いたい。
本当の意味で、『友』を救いたい。
そしてその為の『資格』が欲しい。
その為の『力』が欲しい。
なんとしてでも。
これは神裂自身の試練なのだ。
本当の意味での『彼女自身』の戦いの始まりだ。
神裂『(―――良いでしょう―――!!!!!!)』
神裂は苦痛を全身で味わい、そして受け止めながら心する。
必ずこの試練を乗り切る事を。
好機を与えてくれた『師』、彼女の『神』であるバージルを
決して失望させない事を。
634: 2010/09/12(日) 00:30:39.07 ID:lj6gqawo
神裂『―――』
ふと気付くと。
20m程正面に、いつのまにか『師』が悠然と立っていた。
魔人化し、周囲の空間を界ごと大きく歪めながら。
そして、鞘に入ったままの閻魔刀を軽く振り。
バージル『頃すつもりで行く。それしか見せ方は知らん』
バージル『直に見て、直に身に受けて「知れ」』
神裂『…………』
それに対し、神裂は固く口を結び、
全身を這い回る激痛を気にも留めずに独特の構えを取った。
七天七刀を体の前に突き出し、
己の中心線に重ねるように、手首を捻って垂直に刃の先を真下に向け。
そしてもう一方の手を軽く刀身に添え。
神裂『―――わかりました。始めましょう』
その神裂の言葉と構えを見、
バージルも閻魔刀を腰にあてがい構えを取った。
鞘での『お遊び』はもう終わり、だ。
ここからは『真剣』勝負。
日本刀をこよなく愛する一人の武人が、
史上最高最強の日本刀使いに認められる為に。
今、その最強の刃を前にする―――。
―――
635: 2010/09/12(日) 00:31:42.41 ID:lj6gqawo
―――
一方その頃。
とある深い森の中にある、古びた洋館。
時刻は深夜。
昼間でも薄暗いこの地は、今や異様な程に濃い闇のカーテンに覆われ、
風も吹かず音一つ、虫の鳴き声さえなかった。
そんな洋館の中、大き目の広間。
片側が大きくブッ潰れ、床下まで突き抜けているソファーの上で、
大きく股をおっぴろげて寝ていた妖艶な黒髪の女がもぞもぞと動き出し、目覚めの時を迎えた。
ベヨネッタ「……………………痛ッ…………」
と、起き上がろうとした瞬間、額から鼻先にかけて響く鈍痛。
軽く片手をあてがい、寝ぼけ眼、いや、寝起きの不機嫌そうな薄目で周囲をジロジロ見渡しながら
起き上がるベヨネッタ。
ベヨネッタ「…………ん……?……あ?……どーなってんのこれ?」
当然、周囲の惨状が目に入る。
と、そうやってボーっとしているベヨネッタへ向け。
ジャンヌ「おはよ」
壁際の椅子に座り、優雅に足を組みながら小難しい本を読んでいるジャンヌが、
そっけなく声だけを飛ばした。
一方その頃。
とある深い森の中にある、古びた洋館。
時刻は深夜。
昼間でも薄暗いこの地は、今や異様な程に濃い闇のカーテンに覆われ、
風も吹かず音一つ、虫の鳴き声さえなかった。
そんな洋館の中、大き目の広間。
片側が大きくブッ潰れ、床下まで突き抜けているソファーの上で、
大きく股をおっぴろげて寝ていた妖艶な黒髪の女がもぞもぞと動き出し、目覚めの時を迎えた。
ベヨネッタ「……………………痛ッ…………」
と、起き上がろうとした瞬間、額から鼻先にかけて響く鈍痛。
軽く片手をあてがい、寝ぼけ眼、いや、寝起きの不機嫌そうな薄目で周囲をジロジロ見渡しながら
起き上がるベヨネッタ。
ベヨネッタ「…………ん……?……あ?……どーなってんのこれ?」
当然、周囲の惨状が目に入る。
と、そうやってボーっとしているベヨネッタへ向け。
ジャンヌ「おはよ」
壁際の椅子に座り、優雅に足を組みながら小難しい本を読んでいるジャンヌが、
そっけなく声だけを飛ばした。
636: 2010/09/12(日) 00:33:08.67 ID:lj6gqawo
ベヨネッタ「…………………これ……何?」
相変わらず思考が完全に覚めていないベヨネッタが、
やや呂律の回っていない声で呟いた。
ジャンヌ「あー、それか…………」
ジャンヌ「…………お前が寝ぼけて、一人でヘッドバッドかましたんだ」
ベヨネッタ「あ、そう…………」
ジャンヌの即興の嘘。
普通ならこれで誤魔化せないだろうが、相手はベヨネッタだ。
ベヨネッタは普通に納得した。
たまにだが、寝ぼけて周囲をぶっ壊すこともある。
ベヨネッタ「…………あ~、私のメガネ知らない?」
ジャンヌ「普通に木っ端微塵だろ」
ベヨネッタ「…………………………そう……」
ベヨネッタがぼーっとしながら呟き、軽く手を振った。
するとパチン、という音と共に、その指先にお馴染みの黒縁メガネが出現する。
そしてそのメガネを、依然のろのろと気だるそうな仕草でかけた次の瞬間。
ベヨネッタ「―――ッッッッハフェェェェェェェッッッッッッッ――――――ッッッッッキシッッッ!!!!!!!!!!!!!!!」
今度は全身を大きく躍らせながら、豪快なくしゃみを轟かせた。
637: 2010/09/12(日) 00:35:27.75 ID:lj6gqawo
ベヨネッタ「……ウ゛ゥ゛ー……」
ジャンヌ「…………んな格好で寝るからだろ」
鼻をズズっと鳴らし唸っているベヨネッタに向け、
ジャンヌは呆れたように吐き捨てた。
ベヨネッタ「……もっかいシャワー浴びる……」
そんなジャンヌの言葉など聞こえていないかのように、
ベヨネッタは歩きながら服を脱ぎ捨てて、浴室の方へとフラフラと向かい始めた。
歩いているにも関らず、起用にパンツをも脱いでいく。
ジャンヌ「セレッサ」
その時、ジャンヌは瞬く間に全裸になっていたベヨネッタを呼び止めた。
ベヨネッタ「んあ?」
ジャンヌ「ロダンのとこ行くんだろ?早めにメンテ済ませてきな」
ベヨネッタ「あー……」
そう、これから大仕事がいくつも控えている。
様々な銃器をしっかりと手入れしておく必要がある。
ベヨネッタ「…………浴びたら行くわ……アンタは?」
ジャンヌ「私はもう済ませてきた」
ベヨネッタ「あ……そう……」
―――
638: 2010/09/12(日) 00:37:17.84 ID:lj6gqawo
―――
とある病室。
そこで今、上条当麻は冷や汗を垂らしながら硬直していた。
つい先程まで浸っていた『素晴らしい時間』。
今はそれとは真逆だった。
何もせず、こうして部屋の片隅の椅子に座っているだけだが、
それだけでも上条の精神はみるみる疲弊していった。
人生とは良い事もあれば、悪いこともある。
良い思いをすれば、悪い思いもする。
何事もバランスだ。
今の上条の『苦行』も、先ほどの甘い時間の分の『支払い』のようなモノ。
あくまで中立である『運』は、『なぁにいっちょ前に惚けてだクソッタレ』 と上条を叩きのめしたのだ。
先程、彼はこう言った。
『俺は幸福だ』、と。
だが、今はとてもそんな風には言えなかった。
これぞ正に『不幸だ』という台詞が相応しい。
まさか学園都市にあの女が来ていたとは―――。
とある病室。
そこで今、上条当麻は冷や汗を垂らしながら硬直していた。
つい先程まで浸っていた『素晴らしい時間』。
今はそれとは真逆だった。
何もせず、こうして部屋の片隅の椅子に座っているだけだが、
それだけでも上条の精神はみるみる疲弊していった。
人生とは良い事もあれば、悪いこともある。
良い思いをすれば、悪い思いもする。
何事もバランスだ。
今の上条の『苦行』も、先ほどの甘い時間の分の『支払い』のようなモノ。
あくまで中立である『運』は、『なぁにいっちょ前に惚けてだクソッタレ』 と上条を叩きのめしたのだ。
先程、彼はこう言った。
『俺は幸福だ』、と。
だが、今はとてもそんな風には言えなかった。
これぞ正に『不幸だ』という台詞が相応しい。
まさか学園都市にあの女が来ていたとは―――。
639: 2010/09/12(日) 00:39:25.68 ID:lj6gqawo
上条「…………」
部屋の片隅で縮こまっている上条を尻目に、
キリエの手首を調べ、何やら彼にはわからない単語を並べて話している三人。
レディとトリッシュ、そしてインデックス。
その表情、喋りからも、三人はかなり集中しておりピリピリしているのがわかる。
だが上条にとっては、更に別の緊張感があった。
レディだ。
別に今何かされた訳ではない。
赤毛の褐色肌の少女に連れられ、この病室へやって来た上条とインデックス。
そんな二人を、レディは素晴らしい笑みで迎えた。
これでもかというくらい最高ににこやかに。
インデックスは普通に挨拶していたものの、
以前色々と関わりを持った上条にとっては、その笑みはまるで死神の微笑だった。
その瞬間から彼は生気を失い顔面蒼白となった。
上条はしっかりと感じ取っていた。
レディの笑みの下にある、己に対して真っ直ぐに向けられていたどす黒い狂気を。
猛獣が、最高のご馳走を前にしたようなあのオーラを。
640: 2010/09/12(日) 00:41:26.68 ID:lj6gqawo
上条「…………」
三人は上条などいないかのように集中して作業を行っている。
レディはちょうど彼に背を向けて。
だが、その小さな動作一つ一つが、
どことなく背後で縮こまっている上条を意識しているかのようだ。
本人にその気があるのかどうかはわからなかったが、少なくとも上条は潰されかけていた。
レディの放つ無言、無視、沈黙の威圧によって。
そんな上条の恐怖を、定位置の窓枠に座っていたルシアは敏感に感じ取っていた。
彼が『何』に怯えてるのかまではわからず、不思議そうな表情を浮かべながら。
そして赤毛の少女はひょいっと窓枠から飛び降り、
硬直して妙に姿勢の良い上条の方へと近づいて行き。
ルシア「……あ、あの……どうしたんですか?」
心配する親切心から、彼女は上条に向けて口を開いた。
上条「!!!!!!あっ…………い、いや!!!!!」
そして思わぬ方向からの思わぬ声に、これでもかと言う程に焦る上条。
641: 2010/09/12(日) 00:42:59.81 ID:lj6gqawo
トリッシュ「あ~、ルシア」
とその時、一旦作業を止めて隅の二人の方へと向きながら、少女の名を呼ぶトリッシュ。
ルシア「はい」
トリッシュ「そこのお兄さんを連れて少し散歩してきなさい」
ルシア「?」
トリッシュ「そのままだと窒息氏しそうな感じだから」
ルシア「…………具合が悪いんですか?」
禁書「とうま、どうしたの?」
上条「い、いや…………!!!!!!」
トリッシュ「良いから行きなさい。そこでガタガタされてると気散るの」
とその時。
レディ「は?何で?別に大丈夫でしょ?何か問題でも?」
いかにもわざとらしく、あっけらかんとした声色で口を開くレディ。
だがそんな彼女に対し、
トリッシュ「レーディ。『遊ぶ』のは後にして。今は集中して」
目を細めて叱るように言葉を放つトリッシュ。
レディ「……………………………………………………チッ」
上条「すんませんっっ!!!すんませんっ!!!!!じゃ、じゃあ…………あ、あの少し外の空気を吸ってきます…………」
すかさず椅子から立ち上がり、トリッシュの助け舟にしがみ付いた上条は、
レディに目を合わせぬようにそそくさとドアの方へと向かった。
642: 2010/09/12(日) 00:45:27.68 ID:lj6gqawo
禁書「とうま?大丈夫?」
上条「いいいいい、いやだだだっだだ大丈夫だ」
上条「なななんかあったらドドドドドドアの直ぐそそそそそ外にステイルがいるから」
禁書「??」
トリッシュ「良いからさっさと行きなさい」
上条「はははい!!!!ありがとうございます!!!!!」
そう最後に礼をトリッシュに言い、相変わらず不思議そうな表情を浮かべているルシアと共に
上条は素早く退室していった。
トリッシュ「…………相当アナタが怖いみたいね」
レディ「ねえ、アンタどっちの味方?」
トリッシュ「どっちの味方でもないわよ。ただ氏なれたら業務上困るの。ウチの失態だから」
レディ「…………その契約、私に売らない?『悪いよう』にはしないから」
トリッシュ「売らない」
レディ「借金全部チャラでどう?」
トリッシュ「…………………………………………うーん…………それは…………少し考え(ry」
禁書「ちょ、ちょっと何の話してるのかな!!??」
禁書「その契約って、『私の』のような気がするんだよ!!!!」
643: 2010/09/12(日) 00:49:32.72 ID:lj6gqawo
レディ「あ、アンタがクライアント?あのクソガキを人間に戻すってやつの」
禁書「そ、そうなんだよ!!!ってクソガキってっっっっ!!!!!!」
禁書「その言葉撤回して欲しいかも!!!!!!」
トリッシュ「まあまあ、いい?確かのあの坊やは立派な面もあるけれど」
トリッシュ「レディに言ってはいけない事を言っちゃったのよ」
禁書「…………ほぇ?」
トリッシュ「たまーに物凄くデリカシーの無い事言うからねあの子は。しかもヘラヘラ笑いながら」
トリッシュ「更に、相手に怒られても何がいけなかったのか気付かず仕舞いとか」
トリッシュ「アナタならわかるでしょ?」
禁書「う…………」
トリッシュ「今までアナタもそれで怒ったこと無い?」
禁書「…………い、いっぱいあるんだよ…………」
レディ「アンタってずっと一緒にいたらしいけど、私は会った次の日でいきなり言われたんだから」
トリッシュ「だから、レディの怒りもあの坊やの自業自得ね」
レディ「そう、だから私はクソガキって言っていいのよ」
トリッシュ「そうそう」
禁書「そ、そうなのかも………………そうなのかな…………?」
レディ「そしてついでに頃して良いの」
トリッシュ「そうそ………………いやそれは無しだってば」
禁書「えっ?えっ?ええ、えっ!!!!??」
トリッシュ「気にしないで。イカれ頭の戯言だから」
レディ「私のどこがイカれてるってのよ?」
トリッシュ「……………………全て」
―――
644: 2010/09/12(日) 00:50:51.54 ID:lj6gqawo
―――
事務所、デビルメイクライ。
シャワーから上がったばかりのダンテは、
片手で頭にタオルを押し当て乱暴に拭い、
もう片方の手でワインボトルをラッパ飲みしながら階段を上がり。
そして廊下を進み、己の作業部屋の扉を足で蹴り開け。
持っていたタオルを無造作に放り投げ。
様々な部品や工具で散らばっている机の上に、ワインボトルを叩きつけるように起き。
着替えが入っている古いクローゼットへと向かい、これまた乱暴に開けた。
ダンテ「…………」
とその時。
開けた拍子でクローゼットの上の棚から、黒い小さな何かが『二枚』。
ひらりと舞い落ちた。
事務所、デビルメイクライ。
シャワーから上がったばかりのダンテは、
片手で頭にタオルを押し当て乱暴に拭い、
もう片方の手でワインボトルをラッパ飲みしながら階段を上がり。
そして廊下を進み、己の作業部屋の扉を足で蹴り開け。
持っていたタオルを無造作に放り投げ。
様々な部品や工具で散らばっている机の上に、ワインボトルを叩きつけるように起き。
着替えが入っている古いクローゼットへと向かい、これまた乱暴に開けた。
ダンテ「…………」
とその時。
開けた拍子でクローゼットの上の棚から、黒い小さな何かが『二枚』。
ひらりと舞い落ちた。
645: 2010/09/12(日) 00:58:03.72 ID:lj6gqawo
ダンテ「…………」
それは黒い皮製の指無しグローブ。
二枚とも、手の平の部分に鋭い筋。
注意しないと見落としてしまいそうな程に細い裂け目。
だがダンテが見落とすはずが無かった。
それは彼の超人的な感覚からの事では無い。
『見なくても』。
『意識しなくても』。
その裂け目は彼は絶対に見落とさない。
何せ、二つとも『兄』が引き裂いたのだから。
閻魔刀の切っ先で。
一枚は手放してしまった方。
『二度目』のもう一枚は、しっかりと捕えた方 だ。
決して手放さなかった―――。
―――兄を『繋ぎとめた』方だ。
646: 2010/09/12(日) 00:59:01.92 ID:lj6gqawo
ダンテはクローゼットの扉に手をかけたまま、
静かにその足元に落ちているグローブを見下ろしていた。
この作業部屋には、例の『おしゃべり』な双子の魔具も居座っている。
だが彼らは一言も話さなかった。
彼らでも空気を読み、思索に耽っている主の邪魔はしなかった。
一分ほど経ったころだろうか。
ようやくダンテは動き出した。
無表情のままクローゼットの中から上着を取り、手早く着込み。
ベストに腕を通し、胸の中央のバックルをきつく締め。
真紅の、トレードマークであるお馴染みのコートをバサリと羽織り。
そして。
屈み、足元の指無しグローブを手に取り。
片方を手に嵌めた。
兄を繋ぎとめた方を―――。
647: 2010/09/12(日) 01:00:32.73 ID:lj6gqawo
『掴めなかった方』をクローゼットの棚の上へと放り上げ、
新品を一つ取り出してもう片方の手へと嵌めた。
こういう『思い出の品』、というのは、
衣服に限って言えばダンテは二度と身に着けない。
だが彼はこの時、再びこの品を手に嵌めた。
なぜか、その理由を聞けばダンテはこう答えるだろう。
『気まぐれだ』、と。
それは決してごまかしている訳では無い。
本当に『気まぐれ』なのだ。
だが、その『気まぐれ』こそが彼自身の強固な芯。
他の者ならば『信念』、もしくは『覚悟』と呼べる部分。
今の彼は『本気』だった。
ダンテ「…………」
スパーダの息子。バージルの弟、ダンテ。
彼は再びこのグローブを手にする。
その手で再び兄を『掴むべく』。
今度は『刃』ではなく。
あの大きな『背中』を。
先を進み、そのまま遠くへと突き抜けてしまいそうな兄の『背』を繋ぎとめるべく―――。
648: 2010/09/12(日) 01:02:02.44 ID:lj6gqawo
アグニ『主よ、「戦の猛気」の匂いがするぞ』
ルドラ『主よ、我等も馳せ参じる「機」があるか?』
タイミングを見計らい、
机の傍に立てかけられていた双子の魔具が口を開いた。
ダンテ「……おー、準備しておけ」
ダンテ「まだわかんねえが、お前らを『総動員』するかもしれねえ」
ダンテ「―――『全員』、な」
背中にリベリオンを背負い、
トリッシュの分をも足した四つの拳銃を腰に差していくダンテ。
アグニ『おお、戦。戦だ。愛おしき戦』
ルドラ『ああ、戦。戦だ。この芳しい香り』
アグニ&ルドラ『かの大戦と同じ香りよ―――』
アグニ&ルドラ『―――これ程の戦気は2000年振りよ』
ダンテ「ハッハ~、今までで一番でけえパーティかもな」
ダンテ「楽しみにしてな」
649: 2010/09/12(日) 01:03:03.69 ID:lj6gqawo
ダンテ。
多くの大悪魔や、諸神を従えている最強の男。
その規模は、魔界の基準から見ても一大派閥だ。
言葉を変えれば、
ダンテはとんでもない魔の軍事力を率いている頭領なのだ。
普段使っている魔具はほんの極一部。
大半がエンツォ等への質に回され、狩ったっきり会ってない大悪魔達。
一度も魔具として使ったことの無い連中がほとんどだ。
だがダンテがひとたびその名を呼び、
号令をかければ皆が一気に集結するだろう。
それだけの『権限』が今のダンテにはある。
それこそ、『全て』のパワーバランスを覆してしまう程の。
ダンテは今までそんな権力になど全く関心が無かった。
そんな『派閥』など一切興味が無かったし、それどころか意識した事も無かった。
だが、今のダンテは違った。
彼は今、場合によってはその『権力』を使う事も考えていた。
650: 2010/09/12(日) 01:04:39.21 ID:lj6gqawo
確かに気に喰わない。
己のポリシーに反する事だ。
しかし、バージルの事だけで一杯一杯になってしまう可能性がある以上、
他の者の手が必要な場合だって当然考えられる。
いや、彼は確信していた。
どういう形かはまだわからないが、手段を選んではいられない事態が必ず訪れる と。
一人の最強は、遂にその力の『玉座』を使う事を意識し始めた。
そして胎動をし始め、徐々にその姿を形成していく―――。
スパーダの血に集い、
その力に心酔し、
―――心奪われた強者達の『一大派閥』。
『最強の首領』に率いられた、悪魔の『一大軍団』―――。
アグニ『戦だ』
ルドラ『戦ぞ』
アグニ『我等が双剣の刃を』
ルドラ『我等が双刀を牙を』
アグニ&ルドラ『今こそ解き放(ry』
ダンテ「黙ってろ。いちいちキメてんじゃねえ。声揃えんな」
アグニ『ふむ、我等は主を見習い』
ルドラ『うむ、主の流儀に沿(ry』
ダンテ「うるせえわぁったから喋んな」
―――
660: 2010/09/14(火) 23:16:33.92 ID:rnKXC16o
―――
イギリス。
カンタベリー大聖堂の地下2000m。
百を越える強固な結界に守られている、地下宝物庫の最下層。
聖遺物や霊装、歴史的遺産、
そして、かつて実際に使われた魔女狩り用の魔導器などが大量に眠っている。
イギリスが誇る、魔術物資の最大最古の集積場だ。
いや、『封印庫』と言った方が良いか。
ここに収蔵される物は全て、今後一切使われる事は無い。
用途も名前も封印が完了次第、全て抹消される。
それがこの封印庫の『掟』。
収蔵に関与した者は、一部の者を省いて作業が完了次第、
関係する記憶をも抹消される。
破壊する事が出来ない物、もしくは使ってはならないが破壊する事もいけない物、
用途は無いが魔術的遺産として残すべき物、
そして破壊して良いのかどうかすら『わからない』物、
破壊の仕方が全くわからない物がここに集められる。
中には建設が始まった紀元597年よりも『前』から収蔵されている物、
収蔵されるよりも『前』から用途不明・由来不明、名すら判明していない、完全に正体不明な物まで存在している。
イギリス。
カンタベリー大聖堂の地下2000m。
百を越える強固な結界に守られている、地下宝物庫の最下層。
聖遺物や霊装、歴史的遺産、
そして、かつて実際に使われた魔女狩り用の魔導器などが大量に眠っている。
イギリスが誇る、魔術物資の最大最古の集積場だ。
いや、『封印庫』と言った方が良いか。
ここに収蔵される物は全て、今後一切使われる事は無い。
用途も名前も封印が完了次第、全て抹消される。
それがこの封印庫の『掟』。
収蔵に関与した者は、一部の者を省いて作業が完了次第、
関係する記憶をも抹消される。
破壊する事が出来ない物、もしくは使ってはならないが破壊する事もいけない物、
用途は無いが魔術的遺産として残すべき物、
そして破壊して良いのかどうかすら『わからない』物、
破壊の仕方が全くわからない物がここに集められる。
中には建設が始まった紀元597年よりも『前』から収蔵されている物、
収蔵されるよりも『前』から用途不明・由来不明、名すら判明していない、完全に正体不明な物まで存在している。
661: 2010/09/14(火) 23:19:46.77 ID:rnKXC16o
ローマ正教がバチカンの地下深くに、巨大な宝物庫を持っているように。
フランスがルーブル美術館の真下に、厳重なシェルター倉庫を有しているように。
アメリカがエリア51の地下に、様々な『手のつけられない』極秘物を集積しているように。
それと同じく、ここがイギリスの決して表に出してはいけない、
表には知られてはいけない、それでいて隠滅が不可能な物の『終点』だ。
そんな、イギリスの闇の闇の底。
地下2000mの薄暗い廊下を、
先程『必要悪の教会』の実働指揮権を委任されたシェリー=クロムウェルと、
彼女の補佐の地位に就いたアニェーゼが歩いていた。
この『封印庫』の管理人である、フードを深く被った一人の魔術師を伴いながら。
今現在。
最大主教ローラ=スチュアートは、その忌まわしき正体を明かし、女王殺害を企てて『反逆』。
神裂が『氏亡』、ステイルはローラと共に『離反』。
この様に、立て続けにイギリス清教と『必要悪の教会』の実働指揮官が消え去り。
残った経験豊富な最高幹部は、シェリーただ1人。
最大主教の座を始めとし、空いた位にも代理の者が就いたが、
やはり皆が頼っているのは実際に指揮をとってきた英雄シェリーだ。
挙句に上司である最大主教の代理の者が、シェリーに全実働指揮権を委任し、
実質的に彼女が今、『必要悪の教会』のトップであり、イギリス清教の代表代理だ。
662: 2010/09/14(火) 23:23:20.33 ID:rnKXC16o
シェリー「…………」
シェリーはたった二ヵ月半で、中間管理職的立場から一気に組織のトップへと、
軍隊の階級で言えば尉官から将官へといった風に、凄まじい飛び級昇進を成し遂げた。
元から優秀だったとはいえ、彼女は様々な騒動を起こしてきた問題児。
上からは煙たがられ、キャリア組みから外されていた。
というか彼女が優秀でなければ、もしくは上層部がその点に利用価値を見出さなければ、
今頃過去の大逆罪によって氏刑か終身刑が科せられていただろう。
それほどまでの厄介者だったのだ。
そこを鑑みれば、この昇進劇は正にミラクルだろう。
だが、実際はそうも喜んで入られない。
彼女の目覚しい昇進劇の背後には、組織の人材不足・戦力不足という大きな問題があるのだ。
『たかがシェリー程度』が重要な心臓部となってしまう程に、
今のイギリス清教、そして『必要悪の教会』は力を失っているのだ。
実質的な戦力だけではなく、最大主教が反逆した事による信頼性の失墜も大きなダメージだ。
騎士派・王室派の高官の中には、イギリス清教という組織を一時凍結するよう提言している者も。
シェリー「…………」
今のイギリス清教、そして『必要悪の教会』に必要なのは『力』だ。
崩れてしまったバランスを持ち直せるほどの大きな『力』が必要だ。
実質的な戦力も、そして信頼性と人脈を確たるモノにする力も。
確かにこの戦争の危機を乗り越え、イギリスを守るという事にも必要だ。
更にその一方で。
イギリス清教と『必要悪の教会』、
シェリーにとっての戦友・同志達の居場所を守る為にも必要だ。
663: 2010/09/14(火) 23:26:02.32 ID:rnKXC16o
現時点では、一応シェリーは正規軍への権限も有しているが、
このままだといつか全ての権限を凍結され、
『必要悪の教会』そのものが一度解体されてしまう可能性もある。
純イギリスの魔術師達は再びどこかに配属されるだろうが、
ローラの一存で吸収された、天草式十字凄教やアニェーゼ隊等がどんな処遇を受けるかはわからない。
確かに彼らは今やイギリスに心から忠誠を誓った者達だが、そんな彼らを未だに忌み嫌っている者も多い。
上層部には、いくらでも消耗して良い傭兵部隊的見方をしている者もいる。
確かに、敵対組織を吸収するのは今までの歴史の中で珍しいことでは無いが。
問題はそこでは無い。
女王殺害を目論んだ、魔女ローラの一存で所属したという事が問題なのだ。
ローラが作った体制も集めた人材も、その全てが今疑われつつあるのだ。
今はまだ大っぴらでは無いが、その疑惑の目はシェリーにさえ向けられて来ている。
挙句にこういう声すらある。
ネロを雇いデビルハンターを育成しようとしたのも、
後にその魔界魔術を使う軍勢を率いて、イギリスを乗っ取る気だったのではないか、と。
そしてそれを否定できる証拠は無い。
魔界魔術の浸透も、全てローラが中心となって推し進めたからだ。
664: 2010/09/14(火) 23:27:42.42 ID:rnKXC16o
シェリーはその危機感を感じていた。
基本的に、十字教国家であるイギリスは魔とは相容れない。
スパーダ一族、特にネロの献身的な姿勢を見て、ここ最近はその姿勢も軟化しつつあったが、
魔女であったローラの反逆は、それらを全てひっくり返すには充分過ぎた。
上層部はこれで再認識し、その決意を固めただろう。
魔に対する絶対的な敵意を抱いたはずだ。
それなりに魔という存在を身を持って知っているシェリーとは違い、
上層部は聞いた話のみで認識している。
その『老害』共は、『魔』を全て一括りにして毛嫌いし始めたのだ。
過剰反応とも言えるが、
上層部にとってはそれを認識する判断材料が無く、これも仕方のないことだろうが。
この戦争を乗り越え、平和がやってきた時。
このままだと、イギリスの魔術世界では歴史的な大粛清が行われるかもしれない。
天草式十字凄教やアニェーゼ隊はもちろん、
魔界魔術を習得した魔術師、そして騎士達も。
魔に関与しその力の恩恵を受けた者は、全て抹殺されるかもしれない。
それどころか、今大戦において捨て駒として使用され、
困難な任務に送り出される可能性も高い。
665: 2010/09/14(火) 23:30:53.58 ID:rnKXC16o
シェリー「…………」
だからこそ、決定的な『何か』が必要なのだ。
彼女の肩にはイギリスを守るという使命の他にも、
数千に達する同志・戦友達の命もかかっている。
彼女の敵は、イギリスを陥れようとする者全て。
そして良く調べもせずに鼻っから毛嫌いし、ゴミのように切り捨てる上層部の老害共。
そんな氏にぞこない共の、理不尽な感情的一声で消え去っていく。
国家の為、民の為、家族の為、友の為、そして愛する者の為に忠誠を誓い身を捧げた戦士達が。
確かに。
確かに、状況的に切り捨てねばならない事態もあるだろう。
そうせざるを得ないのならば、シェリーも他の戦士達も進んで身を捧げ、そして喜んで氏ぬ。
それもまた、忠誠を誓った戦士の義務の一つなのだから。
だが救えるのに、切り捨てる必要の無い命まで切り捨てるなど到底許せない。
臆病な老害共の、頑固な思い込みで高潔な者達が犠牲になるのはもう見たくない。
そう。
『エリス』のように―――。
666: 2010/09/14(火) 23:32:24.23 ID:rnKXC16o
「こちらです」
シェリーを案内していた魔術師が、とある一つの扉の前で止まった。
黒い金属製の、いかにも頑丈そうな扉だ。
アニェーゼ「……すげえ嫌な空気ですね…………」
シェリー「…………記録は?」
シェリーの声を聞き、案内人の魔術師がその扉に軽く手を当て、
目を瞑り閲覧用の術式を起動する。
案内人の手には元の肌が見えないくらい、難解な術式の刺青が刻まれていた。
閲覧専用の術式だろう。
「はい、1522年6月7日に封印、その後ウィンザー事件の翌日に一度開かれ、再封印なされてます」
シェリー「封印した者の名は?」
「…………一度目の名は抹消されております。二度目は、先代最大主教ローラ=スチュアートでございます」
シェリー「…………中身は?」
「それはご自分の目で確認なさって下さい。記録はありません」
シェリー「……」
アニェーゼ「開けて見てからのお楽しみってやつですかね」
667: 2010/09/14(火) 23:35:49.35 ID:rnKXC16o
実は、今この二人が封印庫に来ているのは極秘事項だ。
重傷を負い床についているエリザードから、
直々にこの扉の番号と『行って来い』とだけ言われたのだ。
そしてキャーリサの許可と命を受け、二人はここに来ている。
あの第二王女は他の上層部とは違い、シェリーら魔の力を手に入れた者を特に嫌ってはいない。
というかその力の根源がなんだろうと、『戦力』と成りうるのならばキャーリサは全く構わないのだ。
ある意味、超現実主義者と言うべきか。
イギリスを守り得る力ならば、例え魔でも彼女は大歓迎、
イギリスに危害を与えうる力ならば、『天の意志』に逆らってでも拒否するだろう。
そしてキャーリサはシェリーに向けこう言った。
『母上の思惑は知らんが、使えそうな物は全て使うの。どんな力でも構わない。「武器」は「全て」持って来い』、と。
「ではごゆっくり」
案内人の魔術師は深々と頭を下げ、踵を返して元来た方向へと進み始めた。
アニェーゼ「…………ちょ、ちょっと待ってください!鍵は?!」
そんなアニェーゼの声など聞こえぬかのように、そそくさと魔術師は去っていった。
シェリー「慌てなくてもいいわよ。ここ封印庫の扉には鍵はかかってねえ」
アニェーゼ「……はい?」
シェリー「扉が入室者を『選ぶ』から」
668: 2010/09/14(火) 23:37:16.40 ID:rnKXC16o
アニェーゼ「…………もしかして……そのパターンって……」
アニェーゼ「入室者として認められなかったら氏んじまうとかそういう……」
シェリー「そう」
アニェーゼ「……………………お先にどうぞ行きやがってください」
シェリー「…………順番は関係ないわよ。氏ぬときゃどの道氏ぬ」
シェリー「グダグダ抜かして無いで、良いからついて来い」
アニェーゼ「…………うーぁー…………」
心底嫌そうな表情を浮かべ杖を握り締めるアニェーゼと、
目を細め怪訝な顔のシェリーは、ゆっくりと扉を押し開けた。
一見すると非常に重そうな扉だったが特に抵抗無く、
いや、異常な程に重量感を感じさせずにすんなりと開いた。
扉の奥は完全な闇だった。
廊下のろうそくの光が全く届いていない。
その闇の奥からもわりと、冷たく古い空気が漂ってくる。
そしてシェリーは物怖じせずにズカズカとその扉の向こうへと進み。
その背後を、アニェーゼが杖を構えながら忍び足で付いて行った。
669: 2010/09/14(火) 23:38:35.60 ID:rnKXC16o
と、3m程進んだその時。
アニェーゼ「―――ッッ!!!!!!!!!!!」
シェリー「!!!」
突如響く耳鳴りのような音。
いや、音とも耳鳴りとも言い難いかもしれない。
一瞬だけの、頭が割れそうになる程の金属音のような『何か』。
暗闇の中二人は食いしばり、その異質な激痛に堪えながら咄嗟に身構えた。
シェリー「…………」
アニェーゼ「…………」
その異常な音はほんの一瞬で鳴り止んだ。
だが。
シェリー「…………アニェーゼ」
アニェーゼ「…………はい……」
シェリー「…………『コレ』が何かわかるか?」
アニェーゼ「…………わかんねーですよ」
二人共、今度は別の違和感を感じていた。
なんと表現すれば良いのか、それはそれは奇妙な感覚。
自分が自分ではないような―――。
あの耳鳴り以前の己と、今の己は何かが違うような―――。
670: 2010/09/14(火) 23:40:17.92 ID:rnKXC16o
シェリー「…………明りを点けろ」
アニェーゼ「はいはい」
アニェーゼは暗闇の中、杖で一度床を叩いたが。
アニェーゼ「…………ありゃりゃ?」
シェリー「どうした?」
アニェーゼ「ちょっと待ちやがってください…………『こっち』は……」
そしてアニェーゼはもう一度床を叩いた。
すると。
杖の頂点に赤い光が灯り、周囲を赤々と照らした。
周囲とはいえ、壁らしき者は一切見えなかった。
室内はかなり広いのか、そして妙に闇が濃く、
その光はアニェーゼのまわり半径3mを照らしただけ。
アニェーゼ「っと……」
シェリー「『そっち』の明りを使ったのか?」
アニェーゼ「ええ、魔界魔術は問題ねえですが……天界魔術はウンともスンとも言いませんね」
アニェーゼ「この部屋の中じゃ、なぜだが『天界魔術が使えねえ』みたいです」
シェリー「…………」
今この二人は知る由は無いが、実はこの部屋で天界魔術が使えない、という訳では無い。
厳密に言うと彼女達自身が、『未来永劫』既存の天界魔術を使えなくなったのだ。
この部屋に入ると同時に、セフィロトの樹が切断された事によって。
671: 2010/09/14(火) 23:41:59.88 ID:rnKXC16o
アニェーゼ「―――っておおおおぅううわッ!!!!!!!」
とその時。
シェリーの姿を見たアニェーゼが跳ね上がるように驚き、シェリーに対して杖を向けた。
まあそれも当然。
シェリーはあの耳鳴りの瞬間、咄嗟に魔像の一部を引き出したのだろう。
今の彼女の体は、黒い魔像の『スーツ』に覆われていた。
どっからどう見ても『人型の黒い悪魔』だ。
シェリー「おいおいおい待て!!待ちな!!!私だって!!!!」
アニェーゼ「……………………っくっはぁ……心臓にすごく悪いですね…………その格好はやめてやがって下さい」
何度か見たことがあるとはいえ、さすがに暗闇が明けた中から
ヌッとその禍々しい姿を露にされると反射的に驚いてしまう。
シェリー「…………あ?この『芸術』がわかんねえのかよ」
シェリーは魔像の形を身に纏ったまま、己を見せ付けるように手を広げた。
アニェーゼ「…………はいはい凡人の私にゃあわかんねーですよ。良いからさっさと脱ぎやがってください」
シェリー「…………ったく……」
ブツブツと呟きながら、術を解除し脱ぎ捨てていくシェリー。
ボロボロと彼女を覆っていた黒い装甲が剥げ落ち、床に落ちては砂となり掻き消えていく。
672: 2010/09/14(火) 23:44:07.05 ID:rnKXC16o
シェリー「じゃあ…………もっと光強めて」
アニェーゼ「アイアイ」
シェリーに促され、もう一度杖を床に叩きつけるアニェーゼ。
その赤い光が一気に強まり、今度こそ室内全体を照らし出した。
そして。
姿を現す、その部屋の異質な光景。
シェリー「……………………なんだよコレは…………?」
アニェーゼ「………………………………っ?!」
その光景。
『倉庫』とはとても言い難かった。
二人はてっきり、さまざまな物が山済みにされている宝物庫のような光景を思い描いていたのだが。
全く違っていた。
そこは広大なホール。
いや、大聖堂と行った方が言いか。
奥行きは300m以上、横幅もそれぐらいはあろうか。
高さも50mはある。
大量の柱が立ち並び、上は荘厳な装飾と絵が描かれている球天井。
正に地下に埋もれた古代の遺跡のようだ。
673: 2010/09/14(火) 23:46:25.32 ID:rnKXC16o
アニェーゼ「…………ほぁああ……」
二人は上下左右キョロキョロと見渡しながら、
そのホールの中央辺りへ向けて歩き進んでいく。
巨大なホール、その構造に沿い何本も円形に立ち並んでいる巨大な柱。
100本以上はあるだろうか。
それらの柱の前、1本につき一体ずつ、これまた巨大な彫刻が並んでいた。
普通の人間女性に見える物から、どうみても人外の異質な物まである。
そして柱にも得体の知れない彫刻。
何かの戦いの様子や、長か貴族かと思われる者達の姿が描かれていた。
シェリー「…………」
芸術の観点からそれらを見ていくシェリーだが。
彼女でさえ、その壁画や彫刻の文化や年代を割り出せなかった。
色々な文化が混ざっているようでありながら、根本的なところがなんだか違う。
はっきり言うと、こういう芸術文化はいままで見たことが無い。
少なくとも、彼女氏自身が初めて目にする物だ。
そして他にもう三つ。
彼女が気付いたとある点。
一つ目。
刻まれている文字。
それらを見る限りこの場を築いた者、もしくはここを何らかの目的で使っていた者達は、
少なくとも『普通の人間』ではなかったらしい。
いや、人間ですらなかった可能性が高い。
刻まれている言語の一部はエノク語。
人間には到底扱えない、天界の公用語だ。
シェリーでもさすがに解読は出来ない。
それにもし解読できたとしても、その意味を理解した途端精神汚染される可能性が高い。
他にも別の言語が刻まれているらしかったが、どれも人間世界では使われていない物だ。
以前書物でチラリとしか見た事が無いが、中には魔界で使われている言語らしき物も。
二人は上下左右キョロキョロと見渡しながら、
そのホールの中央辺りへ向けて歩き進んでいく。
巨大なホール、その構造に沿い何本も円形に立ち並んでいる巨大な柱。
100本以上はあるだろうか。
それらの柱の前、1本につき一体ずつ、これまた巨大な彫刻が並んでいた。
普通の人間女性に見える物から、どうみても人外の異質な物まである。
そして柱にも得体の知れない彫刻。
何かの戦いの様子や、長か貴族かと思われる者達の姿が描かれていた。
シェリー「…………」
芸術の観点からそれらを見ていくシェリーだが。
彼女でさえ、その壁画や彫刻の文化や年代を割り出せなかった。
色々な文化が混ざっているようでありながら、根本的なところがなんだか違う。
はっきり言うと、こういう芸術文化はいままで見たことが無い。
少なくとも、彼女氏自身が初めて目にする物だ。
そして他にもう三つ。
彼女が気付いたとある点。
一つ目。
刻まれている文字。
それらを見る限りこの場を築いた者、もしくはここを何らかの目的で使っていた者達は、
少なくとも『普通の人間』ではなかったらしい。
いや、人間ですらなかった可能性が高い。
刻まれている言語の一部はエノク語。
人間には到底扱えない、天界の公用語だ。
シェリーでもさすがに解読は出来ない。
それにもし解読できたとしても、その意味を理解した途端精神汚染される可能性が高い。
他にも別の言語が刻まれているらしかったが、どれも人間世界では使われていない物だ。
以前書物でチラリとしか見た事が無いが、中には魔界で使われている言語らしき物も。
674: 2010/09/14(火) 23:47:49.51 ID:rnKXC16o
二つ目。
所々にある、人外の怪物のような彫像。
それらの中には、現に直接関った事があるシェリーから言わせると、
確実に『悪魔』だと断定できる像がいくつかあった。
像の土台に刻まれているのは魔界の言語。
紋章の系統もどう見ても魔界由来。
ここまで正確な悪魔像を描いている文化は、
シェリーの知る限りだとフォルトゥナしかなった。
つまり、実際にこの建造物を作った文化は悪魔達と直接深く関っていたか、
もしくは悪魔達自身がここにいたかもしれない。
これだけは言える。
これ程の再現度と、実際に使われている異界の言語。
この聖堂を築いた者は『伝承』や『神話』を元に、これらの芸術品を生み出したのではない。
『現実』を元にしたのだ。
眉唾の物語ではなく、事実として記したのだ。
現代の人々が、古文書を解析して当時の様子を『間接的に推測』するのではなく、
テレビや写真等、もしくは実際に目で見て触れて認識するように、『直接的な現物』がその時に存在していたのだ。
実際に。
現実に、だ。
675: 2010/09/14(火) 23:49:36.53 ID:rnKXC16o
そして三つ目。
人外の彫刻は『悪魔』だけでは無かった。
『天の者』の像もあったのだ。
シェリー「―――………………ッ……」
それらの彫像の前で、シェリーは足を止めた。
彼女は悪魔は見た事があるが、『天の存在』は見た事が無い。
土台に刻まれているエノク語の碑文は読めないが、だが目立つように大きく刻まれているその『紋章』。
それらの中にはシェリーが見た事がある、
いや、魔術師界隈では常識中の常識であるモノもあった。
先ほどの二つ目の事実を踏まえて、この三つ目の点を考えると。
本物の悪魔を知っていた者達が築いたこの聖堂で、
その忠実な悪魔像と同じく並べられている天の者の像。
この状況が何を意味しているのかは、最早自明の理。
シェリー「……………………嘘…………でしょ…………?」
そこから導き出された、当然の帰結を認識したシェリー。
彼女はあまりの事に、半ば放心して思わず呟いてしまった。
天の者の『御姿』を前にして―――。
676: 2010/09/14(火) 23:51:05.05 ID:rnKXC16o
半分はわからない。
だがわかる方の紋章。
その印が示す、彫像の元となった存在の身分。
シェリー「……………………………な…………」
それらを見ていたシェリー、彼女の体は武者震いを起こしていた。
これらの彫像が一体『誰』なのかを認識した瞬間、押し寄せる凄まじい畏敬の念。
彼女はその震える手で十字を切り、胸元で手を合わせていた。
それなりに精通した十字教徒の魔術師なら、
いや、アステカやイスラム、ユダヤ等の魔術師も皆、シェリーと同じ反応を示しただろう。
彼女は思った。
己はもしかして、とんでもない所に今立っているのではないか、と。
己はもしかして、神や天使達の本当の姿を見ているのではないか、と。
そして。
いつの時代かはわからないが、遥か太古の昔に、
今己が立っている場所に、本物の神や天使達が立っていたのかもしれない、と。
677: 2010/09/14(火) 23:52:51.31 ID:rnKXC16o
とある一つの像。
甲冑のような物を纏い兜を深く被り、
右手に持っている細身の長剣を高く掲げている、巨大な翼を背から伸ばして広げている男性像。
背後の柱には何かの戦いの様子が刻まれていた。
その内容はこの『像』の人物が、『竜』の頭部と鱗をした巨人と絡み合って奮戦しているもの。
今にもその像の人物を『丸飲み』にせんとしているかのように、『竜の顎』が大きく開かれていた。
そして。
その土台の紋章は十字教の天使、ミカエルの物。
他にも名だたる宗教の天使や神の像が立ち並んでいた。
大勢。
大勢―――。
恐らく『事実』を元にした彫刻が刻まれた、
背後の巨大な柱とワンセットになって。
678: 2010/09/14(火) 23:54:28.27 ID:rnKXC16o
更にシェリーは目にした。
遂にその『御姿』を見てしまう。
他よりも豪華な装飾が施されていた像の。
その土台の紋章を。
土台の上に立っていた―――。
十字教――――――の―――。
シェリー「――――――」
―――その御姿を。
シェリーはその場で崩れ落ちるように膝を付き、再び十字を切り、
そして無心で祈りを捧げた。
679: 2010/09/14(火) 23:57:10.30 ID:rnKXC16o
シェリー「…………」
としばらくの後。
祈りを終え、顔を恐る恐る上げたシェリーの、
視野の端に入る巨大な像。
それは今正面にある十字教の神像よりも更に豪華に飾られ、そして巨大だった。
シェリーはふと違和感を覚え、立ち上がりながらその隣の像へと近付いた。
『巨大な頭を胴にして』、そこから蛇の頭部に似た触手のような物と巨大な翼を伸ばし、
猛禽類の物に似ている鉤爪のついた足を生やした奇妙な像。
その頭上には『天使の輪』のような、エノク語の奇妙な陣の彫刻が取り付けられていた。
土台の紋章は今まで見たことが無いものだったが、
系統的に『天の者』なのは確かだ。
更にその配置。
十字教の神の横に、豪奢で目立つように置かれているこの像。
どこからどう見ても、こう示しているように見える。
『―――十字教の神がこの像の存在よりも下位である』、と。
こういう並びは、人間世界の遺跡でも良く見られる。
豪奢な像の隣に、あえて更に豪奢な像を置き、
どちらが偉大か、どちらがより高位なのかを意図的に表すやり方だ。
権力誇示のスタンダードなやり方の一つだ。
680: 2010/09/14(火) 23:58:35.19 ID:rnKXC16o
シェリー「…………」
そのような、一際大きく豪奢な像は計『四体』。
どれも奇妙な格好だ。
どこかの天才芸術家が狂って彫ったような、アンバランスでありながら妙に洗練され、
神々しくもどことなく不気味なデザイン。
他の天の者とは一線を画す、凄まじい存在感。
天の者達の間に等間隔で、それぞれがかなり目立つように配置されていた。
両側にはそれぞれ別の宗教の神を侍らせ、
くどいほどにその優位性を誇示する形で。
シェリー「…………………………」
名の知らぬ、存在すら知らなかったその『神』。
シェリーは再認識する。
己はもしや、今とんでもない所に立っているのではないか、と。
ここにあるのは、恐らく『真実』。
ここは、人間界では全く知られていない事実の宝庫、だ。
681: 2010/09/15(水) 00:00:03.82 ID:lbsjmzAo
例えば、この十字教の神よりも高位である存在。
(あくまで配置から見た、状況証拠からの観点だが)
これら四体の存在が周知になるだけで、既存の人間社会の宗教文化は大きく混乱するだろう。
十字教も然りどの宗教においても、一般ではあまり意識されていないが、
裏の魔術世界では、己の掲げる神こそが天の最上の存在だと長年に渡って強く主張してきた。
それで何度も大きな戦争も起こってきた。
魔術師達は、見たことは無いが天界の存在自体は知っている。
彼らにとってこれは概念上の優劣ではなく、現実の序列問題だったのだ。
だが。
ここにある状況証拠はそれらの全てを大きく覆している。
どの存在が最上なのかという議論は無意味だったようだ。
その上には、別の存在がいるらしいのだから。
既存の宗教のどの神よりも、高位の存在が天界には四体も存在している、
と、この聖堂は告げているのだ。
これだけでもとんでもない事実だ。
シェリー「…………………」
エノク語や魔界の言語を読めれば、
更に大量の事実が浮き彫りになってくるだろう。
人間の歴史からは抹消された真実達がゴロゴロと。
682: 2010/09/15(水) 00:01:47.97 ID:lbsjmzAo
昂ぶる鼓動を押さえ、深呼吸した後、
シェリーは再び歩き始め、像達を眺めながら進んでいく。
どうやらこの聖堂の円形ホール、西側の半分は天の者、
東側の半分は魔の者で纏められているらしかった。
アニェーゼはシェリーと平行して魔の方を見て回っている。
彼女もこっちを見て回っていたら、シェリーと同じように震えながら十字を切っていただろう。
シェリー「…………」
と、しばらく進んだところで。
ちょうど北の頂点でシェリーは足を止めた。
彼女の前には、高さ5mはあろう大きな彫像。
柱や壁、他の像は全て白亜にもかかわず、
その彫像だけが黒曜石のような黒い材質で作られていた。
そして瞳の部分にはめ込まれている、ルビーか何かの赤い宝石。
683: 2010/09/15(水) 00:03:04.01 ID:lbsjmzAo
シェリー「…………」
その配置も、作られ方も他の物とは違う。
例の『天の四体』でさえ、並びにはしっかり沿っていたのに、
この像だけは2m程前へ、つまりホールの中心側へと張り出す形で配置されていた。
正に『特別』、だ。
更にその姿。
シェリーは見覚えがあった。
フォルトゥナの書物の挿絵にて。
背中から伸びる巨大な漆黒の翼。
頭から伸びる一対の湾曲した角。
そして。
地面に突き立てられ、柄を胸元で握り済める形で置かれている不気味な大剣。
シェリーは己の知識を元に、小さく呟いた。
シェリー「………………………………………………………………スパーダ…………」
像の元になったであろう存在の名を。
684: 2010/09/15(水) 00:04:37.23 ID:lbsjmzAo
とその時。
アニェーゼ「シェリー!!!!!ちょっとこれを!!!!!!!!!!」
シェリー「?」
ちょうど背後から聞こえてきたアニェーゼの声。
振り返ると150m程後方だろうか、この円形ホールのちょうど反対側、南端に建っている大きな彫像の前で、
アニェーゼがシェリーに向かって杖を大きく振っていた。
シェリー「……」
そのアニェーゼの前にある女性の彫像。
大きさはこのスパーダ像と同じくらい、
ホールの中心点を挟んでちょうど向かい合っているようだ。
アニェーゼ「なにボーっとしてやがるんですか!!!!早く!!!!」
シェリー「わかったから喚くな!!」
アニェーゼの声に引っ張られるように、シェリーはボロボロのゴシックドレスの端を掴み上げ、
小走りで彼女の方へと向かった。
シェリー「何?」
アニェーゼ「この像!!!この像の顔!!!見てください!!!」
そしてアニェーゼは、例のスパーダ像と向かい合っている彫像の顔を指差した。
シェリー「……………………………………え?」
685: 2010/09/15(水) 00:06:46.30 ID:lbsjmzAo
シェリー「この顔ッ…………!!!!」
アニェーゼ「そう!!!あの顔!!!!」
その女性像。
良く見ると、かなり『見慣れた顔』だった。
忘れるわけが無い。
見間違えるわけが無い。
アニェーゼ「―――トトト…………!!!!!
アニェーゼ「―――トリッシュさんですよコレ!!!!!!!」
シェリー「…………トリッシュ…………!」
アニェーゼ「絶対そうです!!!まちがいねーですよ!!!!!」
686: 2010/09/15(水) 00:08:01.05 ID:lbsjmzAo
異様な緊張感と、
次から次へとやってくる謎と衝撃。
驚き、鼓動が高まるたびに精神疲労が募ってくる。
シェリー「…………一体…………どういう……」
ここでシェリーは困り果てた表情を浮かべ、
獅子のようなボサボサの金髪を掻き毟りながら、
背後のスパーダ像と、このどっからどう見てもトリッシュの顔をした像を交互に見やった。
女王エリザードの意図が全くわからない。
これらを見せる為に、ここに向かわせたのか。
それともこれは関係の無い、
女王からすれば別段意味のない事なのか。
女王は別の目的でシェリーをここに向かわせたのか。
シェリー「…………どうしろっていうのよ畜生」
一体ここで何をどうすればいいのか。
687: 2010/09/15(水) 00:09:54.13 ID:lbsjmzAo
ただ、ここに来たのが無意味という訳では無いだろう。
必ず何らかの意味がある。
そしてそれは、少なくともシェリーの推測だと大きな力に成りうる何かだ。
というか、このまま手ぶらで帰ったらあの殺気だっている第二王女キャーリサに何をされるかわからない。
何としてでも何かを手に入れ、持ち帰らねばならない。
シェリー「…………」
シェリーはふと、近くの柱に刻まれているエノク語を見た。
もしかすると、これらをどうにかして解読しなければならないのかもしれない、
真の歴史の中に何らかの武器があるかもしれない、
と思いながら。
とその時。
アニェーゼ「あ!!!向こうにもなんかありやがりますよ!!!!!」
再び何かを見つけ大声を上げ、
その方向へと駆け出していくアニェーゼ。
柱の向こう、大聖堂の外、この大洞窟そのものの壁際に何かがあったようだ。
シェリー「おい!!ちょっと待て!!!」
その後ろを、先程と同じくドレスの端を掴み上げて走ってついて行くシェリー。
688: 2010/09/15(水) 00:10:41.65 ID:lbsjmzAo
アニェーゼ「―――…………ッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
そして。
アニェーゼはその『何か』の全貌を見た瞬間、顔を引きつらせ。
両足でブレーキをかけ急停止し、咄嗟に杖を構えた。
更に、半ば転びそうになりながら慌てて後ずさりした。
シェリー「…………いや……!!!!待て!!!!」
そんなアニェーゼの背中を押さえ制止するシェリー。
シェリー「…………『コイツ』、多分氏んでるわ。大丈夫だ」
アニェーゼ「本当にですか!!!?また『コイツ』と戦うのはゴメンですよ!!!!」
シェリー「大丈夫だって。氏んでやがる」
その二人の前にある何か。
それは岩肌に巨大な『金』色の杭で磔にされている―――。
―――タルタルシアン。
689: 2010/09/15(水) 00:12:37.49 ID:lbsjmzAo
悪魔の氏体は時間と共に風化し、最終的に跡形も無くなるのが常識。
だがこのタルタルシアンの氏体は、何らかの方法で消滅が防がれているようだ。
とはいえ、半分ほどが砕けて見るも無残な姿だったが。
シェリー「これか……」
案内人の話によれば、ウィンザー事件の直ぐ後にここの封印が再び開かれたらしい。
その時に収蔵されたのだろう。
そしてシェリーはピンと来た。
この大悪魔の氏体と、イギリス最高峰のゴーレム使いシェリー=クロムウェル。
シェリー「…………なるほどね。これは良い土産だ」
どうやら、キャーリサに怒鳴られずに済むようだ。
ウィンザー事件の後にネロに聞いた話によると、
この大悪魔は昔はかなり高位の者だったらしい。
魔帝に楯突いた為にその自我を破壊され、
厳重な拘束具で力を抑制、そして人形へと変えられてしまったらしい。
690: 2010/09/15(水) 00:15:59.25 ID:lbsjmzAo
拘束具が解けた状態の力は、それはそれは凄まじいものだった。
シェリーは完全に圧倒され、あのままネロがこなければあっけなくやられていただろう。
そしてその力は、残骸とはいえ今のシェリーにとってはかなりの足しになる。
寄せ集めの下等悪魔の力だけで、今まで騙し騙し頑張ってきたが、
やっと大悪魔の力の片鱗が手に入れられるようだ。
アニェーゼ「…………陛下はこれをシェリーに渡すつもりでしたんですかね?」
シェリー「…………恐らく」
アニェーゼ「なんだ。じゃあ私には何も無いわけですか」
シェリー「そりゃ、陛下は私に対して仰ったからな」
アニェーゼ「…………全く…………驚き損ですね」
シェリー「探せば他に何かあるかもね。そこら辺見て回りな」
シェリー「私は今から、コイツを取り込む術式を作るから、邪魔すんなよ?」
アニェーゼ「へいへい」
地面にオイルパステルで、陣や術式を描き始めたシェリー。
そんな彼女から離れ、
アニェーゼは足を投げ出すような歩き方で、プラプラとホールの方へと戻っていった。
691: 2010/09/15(水) 00:17:04.95 ID:lbsjmzAo
アニェーゼ「…………」
ブラブラと、ホールの中を見て回るアニェーゼ。
アニェーゼ「まだですか!!!??」
そして一分おきくらいの感覚で声を張り上げ。
シェリー「うるせえ!!!!まだだ!!!話しかけんな!!!!!」
シェリーのイラつきの混じった声で一蹴される。
アニェーゼ「…………チッ」
軽く舌打ちをしながら、ヒマを持て余し歩きながら像を指でなぞったり、
あちこちを杖の先でコンコンと叩くアニェーゼ。
アニェーゼ「何も無し……ですかそうですか」
ブツブツと呟きながら。
692: 2010/09/15(水) 00:18:35.74 ID:lbsjmzAo
アニェーゼ「…………」
そして何となしに、とある一つの彫像の前で立ち止まった。
鳥の頭蓋骨のような、奇妙な仮面を被っている女性像の前で。
アニェーゼ「……それにしても……なんでこう、どいつもコイツもボインボインのバルンバルンなんですかね」
アニェーゼ「嫌味ですかこれ。工口過ぎですよ。これ掘ったのは相当なスケベ野郎だったんですかね」
ブツブツと相変わらず呟きながら。
彼女は杖の先で、その彫像を突っつく。
足元、太もも、腹部、そして。
胸の乳首辺りをツンツンと。
と、その瞬間。
『―――何をしおる小娘』
アニェーゼ「…………………………………へ?」
693: 2010/09/15(水) 00:20:23.78 ID:lbsjmzAo
そしてタイミングよく、ちょうど登場するシェリー。
シェリー「こっちは終わったわよ。何か見つけたか?」
アニェーゼ「…………シェリー。今何か喋りやがりましたか?」
シェリー「…………は?」
アニェーゼ「い、いや……あのですね。さっき妙な声が……」
『うん?誰だそなたらは?』
アニェーゼ「ほ、ほら!!!!!!!!!!」
シェリー「―――!!??」
オイルパステルをスッと指先に出し、周囲を見渡すシェリー。
同じく杖を構えるアニェーゼ。
だが周囲には人影は無い。
気配も無い。
694: 2010/09/15(水) 00:21:34.37 ID:lbsjmzAo
そして二人はようやく気付く。
『どこだ?そこはどこだ?どこから我に触れておる?』
その声の源に。
アニェーゼ「…………まさか……」
シェリー「…………」
二人は再び、目の前の奇妙な仮面を被っている彫像に眼を戻した。
その瞬間。
『答えろ。そこはどこだ?』
例の謎の声と共に、像の口が動く。
アニェーゼ「!!!!」
シェリー「―――下がれッッッ!!!!!!!」
695: 2010/09/15(水) 00:24:10.18 ID:lbsjmzAo
響くシェリーの怒号。
それを聞き、慌てて離れるアニェーゼ。
そしてシェリーはすかさずオイルパステルで宙を切り、
まず魔像の一部分を引き出す。
一瞬にして彼女の全身が、黒く蠢く肉のような粘土のようなモノで覆われ。
身長3m程の、ごつい黒い人型の『悪魔』へと姿を変えた。
瞳の部分には赤い光が宿り、全身から禍々しいオーラを噴き出して。
シェリー『―――何者だ?』
そして、シェリーはエコーのかかった声を彫像に向け飛ばす。
『先に答えるのだ。そこはどこだ?場所は?どこの世界か?』
『周りはどうなっておる?』
696: 2010/09/15(水) 00:25:13.51 ID:lbsjmzAo
シェリー『…………』
どうやら、この現象は通信魔術のような物の一種か。
相手は別の場所から、音のみを拾っているようだ。
少なくともこちらの映像は見ていないらしい。
シェリー『…………は、そんなに知りたいのなら見にきやがれ。姿を現せ』
『…………うん?……そうしたいところは山々なのだが、今こちらは色々忙しくてな…………』
『…………しばし待て。ちょいと聞いて来る』
シェリー『………………』
アニェーゼ「……………………なんか……緊張感の欠片もねえ奴ですね」
シェリー『黙って。罠かもしれねえ』
697: 2010/09/15(水) 00:26:39.71 ID:lbsjmzAo
そして約20秒後。
『すまぬ。待たせたな、今行く』
アニェーゼ「―――」
シェリー『―――』
そんな一言が突然聞こえたと思いきや。
彫像の直ぐ前の空間に黒い靄のような物が一気に立ちこめ、
猛烈な速度で滅茶苦茶な渦を巻き始めた。
何本もの、回転方向が違う竜巻が合体しているかのように、その靄の流れが全くわからない。
シェリー『アニェーゼ!!!!もっと下がれ!!!!』
その異常な光景に警戒し、
連れに声を張り上げながら己自身も数歩後ずさりするシェリー。
その次の瞬間。
今度は靄が一気に晴れ、その中心から姿を現す一人の女。
その格好は真後ろにある彫像と瓜二つ。
鳥の頭蓋骨のような仮面を深く被り、襟元には黒い羽飾りがついたマントを羽織っている、
妙に妖艶な空気を醸し出していた。
698: 2010/09/15(水) 00:27:42.48 ID:lbsjmzAo
シェリー『…………!!!!』
アニェーゼ「…………!!!」
更に一段と気を張り詰めさせ集中する二人。
だが、現れた女はそんな二人の闘気など全く気にもせず、
周囲をキョロキョロと見渡し始め。
『………………………………これは………………驚いたな…………』
ぽつりと。
誰が聞いてもわかる、あっけに取られた声を小さく発した。
『………………既に「現出」していたとは……………………』
そしてようやく。
『そなたら。ここはどこだ?どこの世界だ?』
仮面の女は、
ジッと身構えている二人の戦士へ向けて言葉を発した。
699: 2010/09/15(水) 00:29:05.64 ID:lbsjmzAo
シェリー『黙れ。まず名乗れ。何者だ?』
『ああ、そうだな。我が名は―――』
アイゼン『―――第十代アンブラが長、魔女王アイゼン』
魔女。
その単語を聞き、二人の顔が一気に引きつった。
そんな二人に対し、アイゼンは手首の大量の腕輪をジャラジャラ鳴らしながら腕を広げ。
アイゼン『待て待て。そなたらと戦うつもりは無い』
アイゼン『少し話を聞ききたいだけだ』
アイゼン『そこの小娘。そなたも来い』
そして、50m程離れているアニェーゼに向け手招き。
それを見て、アニェーゼは杖を構えながら恐る恐る近付いていき、
シェリーの少し後ろについた。
アイゼン『さてと。もう一度問う。ここはどこだ?』
シェリー『…………イギリス……カンタベリー大聖堂の地下』
戦闘態勢を崩さぬまま、その問いに答えるシェリー。
アイゼン『ほぉう…………人間界か。これは真に驚いたな』
700: 2010/09/15(水) 00:30:19.82 ID:lbsjmzAo
アイゼン『それで、いつからこの「神儀の間」がここに現出しておる?』
シェリー『…………神儀の間?』
アイゼン『何だ?そなたらコレが何か知らぬのにここにいるのか?』
アニェーゼ「………………どれの事を言ってやがるんですか?」
アイゼン『ここ。全て』
アイゼンがもう一度大きく手を広げ、周囲をみるように促す仕草を取った。
アイゼン『この聖堂全体が「神儀の間」だ』
シェリー『…………何かの儀式場か?』
アイゼン『「全て」の、だ。魔界の口の封印も、セフィロトの樹の構築も、人間界の器もその土台も』
アイゼン『更に封印されし人間界の力場も。その「全て」の主だった「儀」がここで行われた』
アイゼン『「今」の人間界の歴史は全てここから始まっている』
シェリー『………………????」
アイゼン『……まあいい。わからぬのなら。話せば長くなるしな。それよりもだ。いつからコレがここに?』
シェリー『…………記録によれば……1522年にここに封印されたらしい』
アニェーゼ『詳しい記録は残ってねえんですよ。それだけです』
アイゼン『…………誰がここにコレを?』
アニェーゼ『その名も残ってねえです』
アイゼン『………………ふむ……なるほど…………』
701: 2010/09/15(水) 00:31:36.00 ID:lbsjmzAo
シェリー『魔女…………』
とその時。
ポツリとその単語を呟くシェリー。
アイゼン『ん?』
シェリー『お前「も」魔女か?』
アイゼン『そう、我はアンブラの魔女。それで。「も」というのはどういう事かな?』
アニェーゼ「しぇ、シェリー!!!!」
シェリー『落ち着け』
アイゼン『ふむ。何か魔女について思うところがあるようだな?』
アイゼン『我が同族に会ったことが?』
シェリー『お仲間かどうかは知らないけど、会った事はある』
アイゼン『ふむ……それはあれか?黒髪に黒縁メガネをかけていた者か?』
アイゼン『それとも銀髪で派手な赤い服を纏っていたか?』
アイゼン『どちらだ?』
シェリー『どっちでもないわよ。金髪だ』
アイゼン『………………………………………………うん?』
アイゼン『………………………今何と言った?』
702: 2010/09/15(水) 00:33:23.75 ID:lbsjmzAo
シェリー『金髪だ』
アイゼン『金…………髪………………………』
金髪。
その単語を聞き、片手を顎にあて大げさな仕草で唸り始めるアイゼン。
アイゼン『……うん…………』
アイゼン『…………本当に驚いたな。まさか生き残りが他にいたとは』
アイゼン『名はわかるか?』
シェリー『…………ローラ=スチュアート』
アイゼン『……ローラ……金髪……ローラ……ローラ…………金髪……』
ローラの名を何度も呟き、再び大げさな仕草で思索に耽るアイゼン。
そして10数秒後。
アイゼン『わからぬ。誰だそやつは一体』
アイゼン『我が治世よりも大分後の者か、それとも名が残らぬ下位の者か?』
シェリー『…………は?』
アイゼン『いやすまぬ。そなたらに聞いてもわからぬだろうな』
アイゼン『まあいい。後で別の者に聞く』
703: 2010/09/15(水) 00:35:03.67 ID:lbsjmzAo
アイゼン『……それで、そなたらはどうやってその者に会った?』
シェリー『上司だった』
アイゼン『ん?というと?』
シェリー『12時間前までイギリス清教最大主教だった』
アイゼン『なんと………………………………ハァァアアアアンッッッ!?』
アイゼン『そのような話は聞いておらんッッ…………聞いておらぬぞ!!!!!!!』
アイゼンは突如声を荒げ、シェリー達から目を背けるように己の彫像の方へと向き、
その前の空間へと軽く片手を翳した。
すると次の瞬間。
空間が裂けるように影が現れ、先程と同じような靄の塊が出現し。
アイゼンはその靄の中へ頭だけを突っ込み。
アイゼン『おい!!!!!!!!!少し手を休めろ!!!!!!!聞け!!!!!!』
アイゼン『そなたは知っておったのか!!!!!??イギリス清教の頭が我が眷属だったという事を!!!!!??』
そして『こちら側』、シェリー達がいるホールにまでガンガン響く大声で、
靄の向こうの誰かへと叫び始めた。
704: 2010/09/15(水) 00:36:49.69 ID:lbsjmzAo
アイゼン『おい!!!!??ええい無視するな!!!!!!』
アイゼン『ハン!!??喋れ!!!!こんな時まで無口になるでない!!!!』
アイゼン『何?!!!今なんと言った??!!!!』
シェリー『…………』
アニェーゼ「…………」
アイゼン『「黙れババア」と聞こえたが!!!!!!???ハァアアアアアアン??!!!!!!』
アイゼン『答えろこの小童!!!!!いくらスパーダの息子であろうと許さんぞ!!!!我を誰だと知ってのその暴言―――』
アイゼン『―――ううううンンンッッッ!!!!!!???』
そして今度は、いきなり身を仰け反って、
その靄の中から頭を引き抜くアイゼン。
と同時に、凄まじい金属音と共に靄が一瞬大きく縦に歪んだ。
そして一瞬だけ。
一瞬だけ『青い光』が溢れ、その余波のごく一部が『こちら側』にも漏れ出し。
シェリー『―――後ろに!!!!!!』
アニェーゼ「―――やばッッ!!!!!!!」
莫大な魔の衝撃波がホール内に吹き荒れた。
シェリーは反射的に全面の魔像の装甲を強化し、
アニェーゼはその背中に飛びつきしがみ付いた為難を逃れた。
705: 2010/09/15(水) 00:39:22.00 ID:lbsjmzAo
アイゼンは再び、すかさず靄の中に頭を突っ込み。
アイゼン『ふ、ふ、ふ、ふざけるな馬鹿者!!!!!!バーカバーカ!!!!アホたれ!!!!』
アイゼン『んな代物をこっちに放つなでないわ!!!!何を考えておるのだ!!!!!!』
再び向こうの誰かに向かって怒鳴り始めたが。
アイゼン『―――ま、待て!!!!わかった!!!わかった!!!一段落してからで良い!!!』
アイゼン『一段落してからで良いから後で顔を出せい!!!待て待て待て待て待て構えるな構えるな!!!!!!』
何かの『形勢』がまずくなったのか、
今度は相手をたしなめる様な口調で叫び始め。
アイゼン『待て待て待てその「量」は止せ!!!!溜めるな!!!溜めるでない!!!』
アイゼン『落ちt』
そして彼女が何か言いかけたところで再び、
先程よりも大きな金属音が響き渡った。
が、今度はアイゼンの体が『栓』の役割をしたおかげか、
その莫大な量の力はホール内には漏れ出てこなかった。
シェリー『…………』
アニェーゼ「…………」
その代わりと言ってはアレだが、
頭を突っ込んだままのアイゼンの体は力なくダラリと下がり、時折ピクピクと。
そう、氏後痙攣のような動作をしていた。
アニェーゼ「…………何がしたかったんでしょうかね?」
シェリー『……知るか』
724: 2010/09/15(水) 23:41:16.79 ID:lbsjmzAo
4の時も初期と比べてデザがかなり変わりましたし、まだですまだ。
ですがこのままだったら
とりあえず、やや少なめですが今日の分を投下します
ですがこのままだったら
とりあえず、やや少なめですが今日の分を投下します
725: 2010/09/15(水) 23:42:41.60 ID:lbsjmzAo
と、二人は首を傾げ、互いに目を合わせていたところ。
靄の向こう側から、蹴り出されるようにアイゼンの体が軽く吹っ飛び床に落ちた。
そのアイゼンの体。
顎から上が、綺麗さっぱり『無くなって』いた。
鋭利な、まるでレーザーにでも切り落とされたかのように滑らかに。
だが、シェリー達はそんな事になど注意を留める事ができなかった。
原因は、その黒い靄の中から突如姿を現した第三者。
その人物とは二人共面識は無い。
面識は無いのだが、この目の前の存在が誰かは一目でわかった。
ダンテと瓜二つの顔。
それでいて、弟とはかけ離れている冷徹な表情。
そして青いコートと長い日本刀。
これだけで充分だ。
シェリー『…………ッ…………!!!!!』
アニェーゼ「…………………な、なッ……!!!!??」
この目の前の男がバージルだと断定するには。
726: 2010/09/15(水) 23:45:41.12 ID:lbsjmzAo
バージルは左手に鞘に納まった閻魔刀を持ち、その靄の中から半身出現させ。
シェリー達など完全に無視して、
ホールの中を軽く、その鋭く冷たい目で見回した。
次いでゆっくりと、残りの体の部分を靄の中からこちらへと移動させてきた。
シェリー『―――』
アニェーゼ「―――」
そして二人は見た。
バージルが右手で引き摺っていた『モノ』を。
彼は長い黒髪を握り締めていた。
その髪の束の先には。
全身に完全に致命傷である深い傷が刻まれている、
いや、刻まれていると言うよりは、半ば体ごと裂けかけている血まみれの女。
その女体が誰なのかも、二人は一目で判別した。
真っ赤に染め上がりながらも一応残っている白いTシャツ。
右腕『らしき』先に、包帯のような物で括りつけられている長い日本刀。
アニェーゼ「―――…………か…………!!!!!!!!!!
シェリー『―――……………………神裂ッッッッ!!!!!!!!!!』
それは見るも無残な姿の神裂火織『らしきモノ』。
727: 2010/09/15(水) 23:48:17.10 ID:lbsjmzAo
どっからどう見ても氏んでいる。
そしてその『遺体』を乱暴に、ゴミのように引き摺っているバージル。
彼は右手を開き、その髪の束を手放し。
血まみれの頭部らしき部分が、
湿った重い音を響かせながら床に落ちた。
明らかに。
明らかに、どう考えても友好的とは言い難い。
シェリーら二人は、体の底から噴き上がるどす黒い感情に突き動かされ、
鋭く睨みながら構え直すも。
シェリー『…………!!!!!!!!』
その場から一歩も動けなかった。
バージルを前にしているだけで。
その姿を見ているだけで、彼女達は完全に押し負けてしまった。
アニェーゼに至っては、顔中から冷や汗を滲ませ、
息を切らせてその場にへたり込んでしまった。
だがそんな二人など全く気にも留めずにバージルは。
バージル「一段落ついたが」
ポツリと。
少し離れた場所に横たわっているアイゼンの方へと言葉を飛ばした。
すると。
アイゼン『…………そなた…………覚えておけ……この小童めが……』
ムクリと起き上がるアイゼン。
欠けていた顎から上の部分は、いつのまにか元に戻っていた。
728: 2010/09/15(水) 23:50:31.95 ID:lbsjmzAo
アイゼン『我が魔に転生しておらねば氏んでおったところだぞ?』
アイゼン『覚えておけ。いつか必ず、必ずこの魔女王と称された我が力を(ry』
バージル「黙れ。無駄口を叩くな」
バージル「要点だけを言え」
アイゼン『―――…………う……ぐ……」
バージル「なぜ『神儀の間』が既に現出している?ここの位置は?」
アイゼン『…………現出している理由はわからぬ。ここの場所はブリタニ……』
アイゼン『いや今はイギリスか、カンタベリー大聖堂の地下だそうだ』
アイゼン『あの者らの記録によれば、1522年からここにあったらしいが』
バージル「…………」
その言葉で、バージルはアイゼンと軽く目を合わせた。
1522年。
それはアンブラの都が滅亡してからちょうど一年後。
729: 2010/09/15(水) 23:51:50.89 ID:lbsjmzAo
アイゼン『どうやら、見たところだとココは外と剥離されているようだ。恐らくあの者らのセフィロトの樹も切断されておる』
アイゼン『完全に外界と切り離されておるココは。しかもこの封印式はどうやら魔に由来しておるな』
アイゼン『器用なものだ。物質的な干渉は通しつつ、力の干渉は全て切り離しておるとは』
アイゼン『これを行った者は相当の知識と応用力を有しておっただろう』
アイゼン『これならば、我等も天界も気付かぬのは当然だな』
バージル「現出させたのは天界の者では無い」
アイゼン『…………そうだ。実はな、イギリス清教の最大主教が我が眷属であったらしい』
バージル「…………」
アイゼン『そなたはその点について気付いておったか?』
バージル「いや」
アイゼン『ふむ…………まあ大方、生き延びた魔女の一人が、何らかの理由でここに現出させたといったところか』
アイゼン『とりあえずだ。我等が現出させる手間が省けたな』
バージル「…………その魔女、知っている者か?」
730: 2010/09/15(水) 23:53:17.40 ID:lbsjmzAo
アイゼン『いや。だがそのような事ができる者は極僅か、調べれば直ぐに身元が割れるだろう』
アイゼン『諸長に聞けばすぐだ』
アイゼン『お、それとセレッサ達にも聞いておいてくれ。あの者らは何も報告してこんからな』
アイゼン『何か知っておるかもしれん』
バージル「…………その魔女はどうする?」
アイゼン『うん…………どの道捕えねばなば』
アイゼン『「神義の間」を現出させるには諸長の10以上の許可が要る。その者は明らかに掟に反しておる』
アイゼン『それにだ、状況が状況だけに勝手に動かれることがあれば困るからな』
バージル「頃すか?」
アイゼン『……ま、それは見つけ話を聞いてからだな。今のところは、掟に沿うと処刑が妥当だが』
アイゼン『なぜそのような事をしたのか、何の目的で現出させたかが気になるからな』
アイゼン『もしかしたら、一族の為良かれと思ってやった事かもしれぬ』
アイゼン『現出した時期も時期だしな。何かあるだろう』
アイゼン『見つけても直ぐに頃すな。我等の元に送ってくれ』
アイゼン『身内の問題は身内で処理する』
バージル「…………」
731: 2010/09/15(水) 23:54:37.31 ID:lbsjmzAo
アイゼン『さてと…………そのローラとやら、今どこにいるかはわかるか?』
一度手を叩きながらアイゼンは、
シェリー達の方へと向き言葉を飛ばした。
シェリー『知らねえわよ………………おい……』
アイゼン『うん?』
シェリー『彼女を…………返せ』
シェリー『…………神裂をこっちに引き渡してもらう』
アイゼン『お、そういえばこの者もイギリス清教だったか』
バージル「……」
アイゼン『おおう、そうだそうだ。一段落ついたという事だがその者はどうなったのだ?』
アイゼン『結局氏んだか?』
732: 2010/09/15(水) 23:57:09.73 ID:lbsjmzAo
シェリー『…………!!!!』
飄々としたアイゼンの調子と、その言葉で魔像の拳を握り締めるシェリー。
その体は、芯から煮えたぎってくる熱く猛々しい思いで震えていた。
そんなシェリーの憤怒など全く気にもせず、
バージル「さっさと起きろ」
足元に横たわっていた肉塊に言葉を放つバージル。
いや。
シェリー『―――!!!!!!!!!!』
アニェーゼ「―――!!!!!!!!!!!』
ソレは、今やもう肉塊とは呼べなかった。
一体、いつの間に。
ほんの一瞬。
ほんの一瞬の隙に。
肉塊だったソレは、綺麗な神裂の姿に戻っていた。
今にも分離しそうな程の傷も、
全身に纏わりついていた血も跡形もなく消えていた。
この今の瞬間の映像だけを切り取れば、
ただ寝ているだけのようにも見える。
733: 2010/09/15(水) 23:58:09.47 ID:lbsjmzAo
アイゼン『ほぉう。やりおったかこの者は。さすがはそなたが目を付けただけあるな』
バージル「…………」
シェリー『………………か……神裂……?』
傷が治っている、という事は。
まだ神裂は生きている。
生きているのだ。
バージル「コイツを運べ」
アイゼン『うん?』
バージル「俺は『神儀の間』を『向こう』に移動させる」
アイゼン『おお、ん、頼んだぞ』
バージルの声に促され、神裂を意図も簡単にヒョイッと持ち上げて肩に乗せるアイゼン。
そして踵を返し、再び例の黒い靄を出現させた。
734: 2010/09/16(木) 00:00:07.62 ID:FwvNhDco
シェリー『―――…………!!!!!』
三度目の今はもうわかる。
あの靄は『門』、悪魔が使う移動術のようなモノ。
神裂がどこかに連れて行かれる―――。
遺体だけでも回収したかった。
彼女を帰したかった。
それが生きているのなら尚更だ。
このまま見過ごす事など決して―――。
そう思ったシェリーは、先ほど取り込んだばかりのタルタルシアンを解放―――。
『エェェェェェリ――――――!!!!!!!!!!!!!!』
―――しようとした瞬間だった。
「―――やめ―――」
耳に入る、聞きなれた女の声と。
喉元に伝わる、冷たい金属の感触―――。
735: 2010/09/16(木) 00:02:01.09 ID:FwvNhDco
気付くと。
シェリー『―――……ッス……ッ…………!!!!!!』
正面には抜き身の閻魔刀を構え、
その切っ先をシェリーの喉元に突き立てているバージル。
凶悪なその刃は、彼女の体を覆っていた黒い装甲を意図も簡単に、
まるで存在すらしていなかったかのように貫通し、生身の肌に軽く触れるところで静止していた。
シェリーは動いてはいない。
バージルが一瞬で距離を詰めてきたのだ。
彼女は一切目視できなかった。
その動きが全くわからなかった。
彼女は呼吸すらままならない程に、
その狂気の刃を前にして固まっていた。
一ミリも体を動かすことが出来なかった。
そんな中。
神裂「…………お願い…………します…………手を…………お引きになって…………下さい……」
アイゼンの肩の上からバージルへ向けて放たれる、
今にも途切れそうなか細い声。
736: 2010/09/16(木) 00:03:06.92 ID:FwvNhDco
シェリー『…………』
先ほど一瞬聞こえた声も、恐らく神裂のモノ。
バージルへ向けて、殺さないでくれという意味で放ったのか。
それともシェリーへ向けて、バージルに楯突くなという意味で放ったのか。
どちらにせよ、その一声がシェリーの命を辛うじて繋ぎとめたのは確かだ。
神裂「…………お願い…………します…………」
バージル「…………」
その言葉が届いたのか。
それとも単なる気まぐれか。
バージルはスッと閻魔刀を引き、
依然固まっているシェリーの横をすれ違いザマに。
バージル「二分以内にここから失せろ」
それだけ言葉を放ち、ホールの中心へと足早に進んでいった。
737: 2010/09/16(木) 00:05:38.88 ID:FwvNhDco
シェリー『か、神裂…………お前……一体…………』
神裂「事情はまだ話せませんが…………これは私自身の選択です…………」
アイゼン『話なら手早く済ませろ。ああ、そうだ、そなたら、今宵の事は決して他言する出ないぞ?』
アイゼン『己の命を縮める事になるからな』
神裂「あ…………信じてください…………これだけは約束します…………」
神裂「私は…………全身全霊をかけ…………私自身の戦いを成し遂げます…………」
アイゼン『そろそろ行くぞ。ほれ、そなたらも行かぬと氏ぬぞ?』
アイゼンが少し急かしながら、靄の中へと消えていく。
肩に乗っている神裂も。
738: 2010/09/16(木) 00:07:18.72 ID:FwvNhDco
神裂「必ず…………あなた方を守り抜いて見せます…………!!!!!誓います…………!!!!」
そして。
神裂「どうか……!!!!……絶対に氏なないでk―――!!!!!!」
シェリー『待―――!!!!!!!』
言葉を言い切る前に、神裂とアイゼンは靄の中へと姿を消し。
数秒後にその靄も消失した。
跡形も無く。
そして響く。
バージル「後30秒だ」
小さいながらも、突き刺さるように響くバージルの冷たい声。
次いでホール全体に、耳を覆いたくなる程の異質な耳鳴りが響き。
凄まじい量の青い光がホール内を満たし始めた。
739: 2010/09/16(木) 00:09:13.52 ID:FwvNhDco
シェリー『―――神裂ッ!!!!!!神裂ィ!!!!!!!!!』
例の黒い靄が消失しても尚、異常な耳鳴りの中その空間へと呼び続けるシェリー。
アニェーゼ「さっさと行きましょう!!!!!このままじゃこっちがやばいですよ!!!!!」
そんな彼女の、黒い装甲に覆われた手にぶら下がるようにしがみ付き声を張り上げるアニェーゼ。
シェリー『待て……!!!!神裂が…………!!!!』
アニェーゼ「彼女は強い!!!!!!!信じるべきじゃねえーですか!!!!!!!!!」
シェリー『だ、だが…………!!!!!!!』
アニェーゼ「こんな所で氏んじまったら!!!!神裂にどの面下げりゃあいいんですかッッ!!!!!!!???」
アニェーゼ「シェリーィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!!!!」
シェリー『―――』
そのアニェーゼの言葉と。
叫ばれた己の名で、シェリーはようやく動く。
腕にしがみ付いているアニェーゼを瞬時に抱え込み、
魔像の力で床を一気に蹴り、100m以上先にある扉の方へと跳躍する。
砲弾のように射出されたシェリー達は、そのままドアをブチ破って廊下の壁へとめり込んだ。
それとほぼ同時に。
部屋の中から凄まじい金属音と光が溢れ出し。
封印庫全体を大きく震わせた。
例の黒い靄が消失しても尚、異常な耳鳴りの中その空間へと呼び続けるシェリー。
アニェーゼ「さっさと行きましょう!!!!!このままじゃこっちがやばいですよ!!!!!」
そんな彼女の、黒い装甲に覆われた手にぶら下がるようにしがみ付き声を張り上げるアニェーゼ。
シェリー『待て……!!!!神裂が…………!!!!』
アニェーゼ「彼女は強い!!!!!!!信じるべきじゃねえーですか!!!!!!!!!」
シェリー『だ、だが…………!!!!!!!』
アニェーゼ「こんな所で氏んじまったら!!!!神裂にどの面下げりゃあいいんですかッッ!!!!!!!???」
アニェーゼ「シェリーィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!!!!」
シェリー『―――』
そのアニェーゼの言葉と。
叫ばれた己の名で、シェリーはようやく動く。
腕にしがみ付いているアニェーゼを瞬時に抱え込み、
魔像の力で床を一気に蹴り、100m以上先にある扉の方へと跳躍する。
砲弾のように射出されたシェリー達は、そのままドアをブチ破って廊下の壁へとめり込んだ。
それとほぼ同時に。
部屋の中から凄まじい金属音と光が溢れ出し。
封印庫全体を大きく震わせた。
740: 2010/09/16(木) 00:13:04.66 ID:FwvNhDco
数十秒後。
シェリー「………………」
アニェーゼ「………………」
魔像化を解いたシェリーとアニェーゼは、
大きく凹んだ廊下の壁に寄りかかり床に座り込みながら、
反対側の破壊された扉の向こうを眺めていた。
視線の先の闇。
その向こうには先ほどまでの異質な空気も、重苦しい闇も消え失せていた。
廊下の仄かなろうそくのあかりが、さっきとは違い部屋の中にまで良く差し込んでおり。
奥には何も無かった。
何も。
あの巨大なホールは跡形も無くなっていた。
アニェーゼ「………………大丈夫ですよ。神裂なら…………きっと…………」
シェリー「………………」
そして二人はゆっくりと立ち上がり。
アニェーゼ「…………………………行きましょうか。こっちにはこっちで仕事が山積みですからね」
シェリー「…………………………ああ」
二人は一度、壊れた扉の奥へと目をやった後、
正面を向いて力強い足取りで廊下を進んで行った。
アニェーゼ「…………で、どうします?キャーリサ様への報告は?」
シェリー「…………タルタルシアンを手に入れたってだけ言えば充分よ。後は知らぬ存ぜぬで」
アニェーゼ「アイアイ」
―――
741: 2010/09/16(木) 00:15:42.47 ID:FwvNhDco
今日はここまでです。
明日の夜から連休にかけて用事がありますので、
次は月曜の夜か火曜になります。
明日の夜から連休にかけて用事がありますので、
次は月曜の夜か火曜になります。
742: 2010/09/16(木) 00:27:29.54 ID:YSDzIYso
おつ!
743: 2010/09/16(木) 08:45:00.32 ID:8R/7/IDO
最近魔女パートばっかりだったから忘れかけてた
バージルめちゃくちゃ恐い
バージルめちゃくちゃ恐い
744: 2010/09/16(木) 14:54:30.35 ID:.BoL1ADO
噂の名倉メイクライか……
次回へ続く:【禁書×DMC】ダンテ「学園都市か」【その19】
コメントは節度を持った内容でお願いします、 荒らし行為や過度な暴言、NG避けを行った場合はBAN 悪質な場合はIPホストの開示、さらにプロバイダに通報する事もあります