764: 2010/09/21(火) 23:04:03.69 ID:lizh526o


最初から読む:【禁書×DMC】ダンテ「学園都市か」

前回:【禁書×DMC】ダンテ「学園都市か」【その18】

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―――

学園都市。
午後5時過ぎ。

季節は冬、外は既に薄暗くなり乾き冷たい風が吹く中、
第七学区ではあちこちに巨大な作業灯が聳え立ち、
瓦礫除去作業を行う多くの重機を煌々と照らし上げていた。

第七学区に刻まれた、先日の凄まじい戦闘の傷跡。
今現在、24時間体制で作業が行われている。

そんな第七学区の端、被害を免れたとある病棟一階の大きなフロア、
そこの長椅子の一つで、上条とルシアは並んで座っていた。

フロアの端にある、大きなテレビから流れてくる報道を見ながら。

先日の戦闘による、一般人の被害は負傷者は約8000人(魔の力による意識昏倒も含め)、
氏者は3人、行方不明者は8人(生存は絶望的とされている)。

負傷者の数・都市の破壊規模からすれば奇跡的な程に犠牲者は少ない。
少ないのだが。


上条「…………」


やはり、上条当麻にとってはかなり心が痛む事実だった。
自分達の戦いで犠牲者が出た、それも一般の学生。

上条「クッソ…………」

こみ上げてくるやり場の無い怒り。
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765: 2010/09/21(火) 23:06:45.68 ID:lizh526o

だが、報道の仕方や世間の反応を見ると、この件はさほど重大視されていないようだった。
『平時』ならば、学園都市にてこれ程の規模の『テロ』が起こったとなれば、世界的な話題となるだろう。

だが今は違う。

世界はもうそれどころではない。
世間では、この程度の事など最早小さな因子に過ぎない。

WW3の中の小さな戦闘の一つとしてしか認識されていない。

学園都市の件も今やさらりとしか報道されず、メインは世界各地の戦闘状況。

上条「…………」

それがまた、上条にとってもどかしい怒りとなる。

彼は今の状況の全貌を掴んでいるわけでは無い。

だが、己がこの戦争の『本当の核』の場所に立っていることぐらいはわかる。
この戦争がタダの『人間同士の戦い』ではなく、もっと巨大な別の姿を持っていることも。

ステイルからも、午前中にいくらか話は聞いた。
ウロボロス社とローマ正教側に纏わる人造悪魔兵器の件、そして己達が戦っているちょうどその時、
ヴァチカン・フォルトゥナにても異界の力・存在による大規模な戦闘があった事を。

まだまだ全貌は掴めないが、上条ははっきりと認識していた。
己もこの戦争の『要因』の一つである、と。
この忌まわしい物語の主要登場人物の一人だと。


これは己の戦いでもある、と。

766: 2010/09/21(火) 23:08:33.00 ID:lizh526o

上条「…………」

トリッシュからも話を聞くべきだろう。
きっと何かを知っているはず。
事実を知っていなくても、彼女の人間とは格の違う頭脳から導き出された推測や助言はかなり役に立つ。

あの『良くわからない作業が』一段落でもしたら、今日にでも上条は聞くつもりだ。
(何かの術式を解く、という話らしいが上条にとってはチンプンカンプンだった)

上条「…………」

そんな事を上条は考えながら、
横にいる赤毛の少女の方へさりげなく目を向けた。

ルシアはちょこんと座りながら、ジッとテレビの報道を見ていた。
その大きなクリッとした目を開き、報道の内容に集中しているのではなくテレビそのものを珍しそうに。

その瞳は一欠けらの濁りも無く純粋そのもの。
かといって、ウィンザー事件の時のように無感情ではない。

宿っているのは純粋な感情だ。
清すぎる心。

上条「…………」

上条はふと思う。
面白いもんだな、と。

悪魔が天使のような心を有しているとは。
(ここの天使と言う表現は、種族を指したものではなく概念的な例えだ)

インデックスの瞳にも少し似ている。

767: 2010/09/21(火) 23:10:06.12 ID:lizh526o

こういう瞳の悪魔は、上条はこの二ヵ月半の間見た事が無かった。

ダンテやトリッシュ・ネロのような人間側に立っている悪魔、
更にステイル等の元人間の者でさえ、
その瞳のどこかには悪魔特有の影の部分が見え隠れしていた。

上条自身、己の瞳を鏡で見た時に感じる。

恐怖、絶望、力の渇望、底無しの闘争欲、そして人間には到底理解できない凄まじい狂気、
それらが不気味な光を放っている事を。
人間にとっては災厄そのもの、悪魔にとっては『真理』であるその影の面。

上条自身でさえこうなってしまった以降、戦闘を楽しんでいる自分がどこかにいる事を感じていた。
昨日の戦闘の時でさえ、上条は言いようの無い昂ぶりを感じていた。

フィアンマに魔弾を撃ち込み、彼の体が爆散する瞬間、
上条は不気味な快楽に浸っていた己をも認識した。


上条「…………」

だがこの隣の少女は、そんな感情など一切無いのだろう。
悪魔特有の気質が全く感じられない。

上条自身がこう思う。
元人間の俺よりも人間っぽいな、と。

なんという皮肉か。

忌まわしき人造悪魔として生み出された存在が、人間よりも遥かに高潔な心の持ち主だとは。

人々が当たり前のように感じ、その美しさや愛おしさを忘れかけているこの人間世界、
その姿を彼女は瞳一杯に捉え、そして本当の価値をしっかりと認識しているとは。

上条「…………」

768: 2010/09/21(火) 23:12:25.85 ID:lizh526o

ルシア「?」

そう上条が考えていた最中。
ルシアが上条の視線に気付き、その愛くるしい瞳を彼の方へと向けた。

それに対し、上条は眉を軽く上げて笑い、
肩を小さく竦めて「なんでもない」と意思表示。

ルシアは軽く首をかしげながらも再びテレビの方へと目を戻した。

とその時。

ピクリと背筋を伸ばし、テレビではなくフロアの入り口の方をジッと見つめ始めたルシア。

上条「……?」

数分間、彼女はそんな調子で固まっていた。
不思議に思った上条が声をかけようと思ったその時。

上条「……ん?」

彼も廊下の方から近付いてくる、二つの人間の気配を察知した。
片方は上条が慣れ親しんだ気配。

上条「(御坂?)」

そして徐々に聞こえて来た軽い足音の後。


フロアに姿を現す、


御坂「あれ?」

佐天「あ!!」


二人の中学生。

769: 2010/09/21(火) 23:14:06.46 ID:lizh526o

上条「おーっす」

ソファーに座りながら、御坂とその友達らしき人物へ向けて軽く手を振る上条。
その御坂の隣の子を以前見たことあるような気がしていたが、この時はまだ思い出せていなかった。

御坂「おー……ってアンタ、ここで何してるの?インデックスちゃんはどうしたのよ?」

御坂「っていうかその子は?まさか『また』…………」

どことなく不審げな表情をしながら上条達の方へと向かう御坂。

上条「な、なんだよっ……あー、この子はな……」

なぜかやや不機嫌になった御坂に戸惑いながらも、
上条は説明しようとしたその時。

佐天「ルシアちゃん!!!」

満面の笑みでルシアの方へと駆け寄っていく佐天と。

ルシア「さ、佐天さん!!!」

上条の隣で更にピンと背筋を伸ばし、笑顔を浮かべるルシア。



上条&御坂「…………はい?」

770: 2010/09/21(火) 23:18:59.38 ID:lizh526o
~~~~~

数分後。

首を傾げていた二人に、出会った時の状況を佐天は一通り説明し終えた。

佐天「…………って事で、昨日ここで知り合ったんですよ」

ルシア「そ、そうなんです」

その佐天の言葉に合わせ、すこし恥ずかしそうにも相槌を打つルシア。

上条「へぇ~…………で…………その、御坂の友達か?」

御坂「うん、佐天さん。黒子繋がりで」

佐天「あ、佐天涙子です。どうも。お話は色々と御坂さんから……」

上条「俺の話?どんな?」

佐天「そりゃぁ、めちゃくちゃかっこ良くt」

御坂「え゛へェ゛ンッッ!!!!!」

その時、突如響く御坂の大きな咳払い。

佐天「あ…………そ、その~とにかく強いって」

上条「?」

御坂「い、良いから、その子の事も紹介してくれない?」

上条「おおう、この子はルシアだ」

ルシア「は、はじめましてっ。る、ルシアです」

立ち上がり、ペコリと御坂に対して頭を下げるルシア。

御坂「(い……良い…………持って帰りたい……)」

上条「ダンテの同業者だ。この子もあk……え~っと…………」

傍らのルシアを御坂に対して紹介する上条。
だが何かを言いかけたところで少し言葉を濁した。

771: 2010/09/21(火) 23:21:16.83 ID:lizh526o

佐天「?」

上条「佐天さんもここにいるって事は、一応『関係者』だよな?」

御坂「え?あ、うん。普通に喋っても言いと思うわよ。佐天さん、セキュリティレベル満たしてるわよね?」

佐天「あ、はい(セキュリティ?良くわかんないけど多分OKっしょ)」

上条「おお、それなら良いか。この子は悪魔だ」

御坂「へぇ~!」

佐天「(やっぱり……)」

上条「ステイルとか神裂よりも強いらしいぜ」

御坂「へぇ~すっごいわね。アンタより強いの?」

上条「うーん、そこはやってみないとわからないなー。な?な?」


とその時。


ルシア「私の方がだいぶ強いです」


ルシアは疑問に対して事実を素直に答えた。


上条「……………………だそうです……」

その言葉を聞き、わかってはいたがどストレートではっきりと言われ、
少し肩を落とす上条。

772: 2010/09/21(火) 23:23:03.30 ID:lizh526o

御坂「へぇ~!具体的にどんくらい差があるの?!」

ルシア「わ、私はステイルさん・神裂さん二人を相手にしてちょうど互角でした」

御坂「なるほど……ステイルさんと神裂さんってルシアちゃんの見立てだとどのくらい?」

ルシア「えっと……ウィンザー事件時のステイルさんよりも、今の上条さんはやや劣ります」

上条「…………う……」

ルシア「ですがその差は極僅かなので、戦闘内容によってはどちらは勝つかはわかりません」

上条「だ、だよな!?つまり互角っていうk」

御坂「アンタはちょっと黙ってて。で、神裂さんの方は?」

ルシア「か、神裂さんはもっと遥かに強かったので、上条さんが勝つ事はまず不可能だと思います」

上条「………………う……ま、まあ神裂にはどう転んでも勝てないかな……」


御坂「まあまあ、そう気を落とさないでって!ねえねえ、ところで私ってどのくらい?!」


ルシア「…………そ、そうですね……確かレディさんから魔弾を貰ったんですよね?」

御坂「そうそう!」

773: 2010/09/21(火) 23:28:37.32 ID:lizh526o

ルシア「その魔弾を一発でも直撃させられれば、上条さんに勝利する展開も望まれますが、」

ルシア「レディさんのような豊富な経験と鍛え上げられた感覚か、高度な術式による照準補正が無いと、」

ルシア「上条さんの今の身体能力ならば射線を読まれて簡単に避けられてしまいます」

御坂「…………」

ルシア「そ、そして一気に距離を詰められてすぐに決着がつきます」

ルシア「中近距離戦に持ちこまれた場合は、御坂さんでは上条さんの速度に全くついていくことができません」

ルシア「現状の御坂さんレベルが4人いれば上条さんを弾幕で圧倒できますが、一対一ではかなり厳しいです」


御坂「………………うう」


上条「ま、現実はそういうもんだ!な!御坂!落ち込むな!!!ははは!!!」


佐天「じゃあじゃあ私は?!」


上条「……」

御坂「……」

ルシア「…………あ、あの……」

佐天「……って、じ、冗談!!冗談ですよ~もう!!」

御坂「だ、だよね~!」

上条「ま、まあそうだよな!」

佐天「私は皆の友達ってだけで、か弱い非戦闘員ですもん!!」


ルシア「(友達…………友達……私の……友達……)」

774: 2010/09/21(火) 23:31:31.36 ID:lizh526o

上条「あ、そうだ御坂」

御坂「何よ?」

上条「レディが来てるぜ」

御坂「うっそ!!?どこ!?」

上条「トリッシュの部屋に。今よくわかんない作業しているから、俺締め出されたんだけどな」

上条「インデックスも今その仕事やってる。でもそろそろ終わるんじゃねえかな?夜には今日の分は終わるって言ってたしな」

御坂「じゃ、じゃあ、会いに行っても良いのかな!?」

上条「お、俺じゃなくてルシアに……」

御坂「良い?!」

ルシア「あ、は、はい。良いと思います」

佐天「あ、あの~…………私は……?」

御坂「佐天さんもおいでよ!レディさん紹介してあげる!」

上条「トリッシュにも紹介すると良いぜ?な?ルシア。『友達』だって」

ルシア「は、はい!!」

佐天「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えてお邪魔しちゃおっかな~!」

上条「じゃあ、ルシア、二人を連れて行ってくれ」

775: 2010/09/21(火) 23:34:31.05 ID:lizh526o

御坂「へ?アンタは?」

上条「お、俺はもうしばらくここにいるかな」

御坂「何で?」

上条「な、なんとなく」

やや顔を引き釣らせて笑う上条。
だがそんな彼に対し、鋭い声色で言葉を放つ御坂。

御坂「ダメ。大体にしてアンタがインデックスちゃんと別行動してる時点で問題ありなんだから」

上条「い、いや、護衛については問題ないだろ?ステイルとレディ、そこにルシアが加われば俺なんかよりも……」

御坂「そういう問題じゃないでしょーが。アンタはあの子の傍から離れちゃ(ry」

上条「あ、あのな!!!……じ、実はこ、これから別の約束があってな!!」

ルシア「?わ、私は聞いてませんが予定があったんですか?」

上条「(純粋で素直すぎですよルシアさん!!!)」

御坂「ですって。あ!!!アンタもしかして…………」

上条「ち、違うぞ!!!!良くまた女かって何だか言われるけど違うぞ!!!」

御坂「いや、そうじゃなくて……もしかしてレディさんが怖いとか?」

上条「―――!!!!!!!!」

776: 2010/09/21(火) 23:35:52.25 ID:lizh526o

御坂「全く……や~っぱり……」

上条「いやいやいやいやいやいやいやいや」

御坂「大丈夫だって。冗談だってあの人なりの。レディさんって結構優しいわよ?」

上条「いやいやいやいやいやいやいやいやあれはマジです」

御坂「……ルシアちゃん。当麻をさ、あの良く悪魔が使う魔法陣みたいので運べる?」

ルシア「あ、はい、できます」

上条「ちょっと待って待ってちょっと」

御坂「じゃあ、当麻を押さえつけて、それで(ry」

とその時。
ルシアと上条は、再び別の気配の接近に気付いた。

そしてその存在。

それは正に上条にとって助け舟だった。


フロアの入り口に姿を現す―――。



一方「あァ?」


一方通行。

777: 2010/09/21(火) 23:38:54.56 ID:lizh526o

上条「おおおおおおおおおおおう!!!!!!!!!!!」

その場から一気に跳躍し、一方通行の脇に飛び込むように移動する上条。

上条「ま、待ってたぜアクセラレータ!!!さ、さあ行こうぜ!!!」

一方「アァ?!!!なン―――」

見るからに嫌悪感むき出しの表情で、
杖をつきよろめきながらも身を仰け反らせる一方通行。

上条「良いから調子を合わせてくれ頼む頼むマジで頼むお願いします」

上条はそんな彼に対し、高速で小さな小さな声の言葉を一気に並べた。

御坂「ちょっとアンタ達」

上条「い、いや、俺はアクセラレータと約束しててな!な?!な?!」

一方「…………」

御坂「……いや、当麻は黙ってて。本当?」

一方「まァ…………用事があるってンのは嘘じゃねェ」

上条「(おっけーおっけー!!!!!!!)」

御坂「へぇ……どんな?」

一方「俺がオマェにベラベラ話すと思ってンのか?」

778: 2010/09/21(火) 23:41:01.38 ID:lizh526o

御坂「………………………そう。まあいいわ」

御坂「とにかく、できるだけ早く戻ってきなさいよ?」

上条「お、おう!!!わかった!!」

疑惑の目をしながらも、御坂はそのままルシア・佐天と共にフロアを後にしていった。
そんな三人の姿が消えた後。

上条「ふぅ~~~~~~~!!!!いやぁ~助かったぜ!!!」

一方「…………オィ、オマェあのガキの傍にいなきゃなンねェンじゃねェのかよ?」

上条「……ま、そうなんだけどよ。今だけは別だ今だけは……」

一方「アァ?オマェあンな事がつい昨日あったくせにまだンな事を(ry」

上条「ああ、そっち方面なら別に問題ないぜ。御坂とステイルがいるし、」

上条「更にもう二人、俺なんかじゃ手も足も出なさそうな強い奴がいる」

上条「今インデックスを狙うよりかは、俺かお前が一人で護衛している時を狙った方が楽な状況だぜ?」

一方「…………ハッ……つー事は、その二人はダンテのお仲間か同業者って所かァ?」

上条「そうだけど……なんでわかった?」

一方「こっち側につくそォいう連中ってのは大体そっち方面だろォがよ。別勢力にもンな野郎がいるンじゃたまンねェよ」

上条「あ~、まあ確かにな。それにしても助かったぜ!お前が話し合わせてくれてな!」

一方「ちょォど良かっただけだ」

上条「…………はい?」

一方「オマェの右手を借りようってよォ、これから探そォとしてたところだ」

そこで一方通行は右手を顔の前当たりに挙げ、上条に見せ付けるように握っては開きながら、
不敵な笑みを浮かべた。


上条「…………な、なんの用でせう?」


一方「ちょっとした『実験』だ。付き合えや。なァに、すぐ終わるぜェ」


―――

779: 2010/09/21(火) 23:43:06.94 ID:lizh526o
―――

窓の無いビル。

アレイスターは、己の直ぐ前に浮かび上がっているホログラム画面を閲覧していた。

浮かび上がっている画面は三つ。

一つは、今行われている能力者部隊の調整作業の経過報告。
一つは、現在の世界情勢の様々な情報。

そしてもう一つは。

一方通行の進化により大きく変化した、学園都市全体のAIM拡散力場のデータ。


アレイスター「…………」

封印された力場から引き出しているのではなく、己自身の魂から力を放出し始め、
『生きたAIM拡散力場』の核へと変化しつつある一方通行。


『生きているこの力』を実際に見るのは、アレイスター自身も始めての事だ。
数千年振りに生れ落ちた、『人間界の天使の卵』。


彼の類稀なる頭脳は、間接的なデータだけで確実性の高いモデルを構築できていたが、
現物を実際に調べてみると少々誤差が見られる。

やはり計算上の理論だけでは、いくらアレイスターでも完璧なモデルは構築できなかったようだ。
まあ、それも当然。

ここからは人知を超えた、未知の領域なのだ。
それなりに確実性の高いモデルを構築できたのはアレイスターだからこそ。

それに、その誤差もどうってことは無い。

どれも少しの修正で事足りる。


しかし一つだけ。


一つだけ、とある懸念事項がある。


それは、この『誤差の原因』が調べられない事だ。

780: 2010/09/21(火) 23:46:27.53 ID:lizh526o

想定モデルと、一方通行の『現物』との微妙なAIM拡散力場のズレ。
既存の、学園都市が有するAIM拡散力場への、一方通行の力場から来る影響。

そして『幻想頃し』、いや『竜王の顎』への小さな干渉。

全体に極僅かずつ見られる、このアレイスターの想定モデルとは一致しない微妙な誤差。

アレイスターならば、一ヶ月かければ全てを調べ上げられるのだが、
この通りその時間的余裕は全く無い。


アレイスター「…………」


状況的に、この点は見過ごすしかないだろう。
修正は簡単だ。
プランの障害とはまず成り得ない。

この小さな問題の原因はわからなくても、プラン成功の確率はほぼ全く変動しない。


『計算上』は全く問題ない。
この点は目を瞑るべき。

いや、残された時間的余裕を見ると、目を瞑るという選択肢しかない。


そうアレイスターの頭脳は答えを導き出し、そして判断を下した。
迷い無く。


しかし。


この判断が、後にアレイスターにとって最悪の事態を招く。

781: 2010/09/21(火) 23:48:32.38 ID:lizh526o

勘や感情を一切信頼せず、己の類稀なる頭脳の、
正確な計算に絶大な信頼を寄せているアレイスター。

心があったからこそ彼は一度大敗北をし、
心を捨て頭で動くようになってからこそ、彼は勝ち続け再起を果たし、
そして今のこの局面にまで到達した。


二ヵ月半前からその『戦い』は苦しくなったが、
それでも彼は様々な手を冷静に講じて己の道を勝ち続けた。


悪魔、そしてスパーダ一族と言う、規格外の存在に揺さぶられながらも、彼は決して道を外さなかった。

確かに辛く苦しい『峠』だったが、
その一方で彼自身はそ、こを乗り越えつつある己のやり方に絶大な信頼を寄せていた。

あのスパーダ一族の介入があったにも関らず、プランの芯は瓦解せずにここまでやってきたのだ、と。

感情には一切左右されない、
この完璧な頭脳が彼の最大最強の強みなのだ。


だがアレイスターはまだ自覚していなかった。


この点が究極の弱点ともなり。


たった今、最大級のミスを犯してしまった事に。

782: 2010/09/21(火) 23:50:22.96 ID:lizh526o

とその時。


「一方通行、彼はやはり興味深い」


どこからともなく、いや、彼の脳内に直接飛び込んでくる声。
それはアレイスターの守護天使、『エイワス』の言葉。

アレイスター「君か。彼がどうした?」



エイワス「系統はやはりハデスに似ているな。それとあの危うさと戦気はクラトス、アレスにも類似している」


エイワス「懐かしいな。在りし日の彼らの顔があの少年と重なる」


アレイスター「……君が『懐かしい』という表現を使うとはな」

エイワス「私にも一応は、君達で言う『感情』に比する意識反応はある」

エイワス「例え壊れた思念と記憶の集合体であっても、その残滓は在りし日のような反応を見せる事もある」

エイワス「それにだ。『生の力』は少なからず私にも影響を及ぼしているな」

エイワス「意思に反する終焉を迎えた氏者は、どこの世界でも生者を羨むものだ」

エイワス「意味の無い『記号の集合体』であってもな」

783: 2010/09/21(火) 23:52:23.26 ID:lizh526o

アレイスター「…………わざわざ私に対してその『表現』を使う必要は無い」

エイワス「そうか。まあそれはどうでも良い。表現の仕方など腐る程あるしな」

エイワス「話を戻すか」


エイワス「やはりあの少年がガイアの血族に似るのは、君がグノーシス式をベースに現出理論を構築した影響だな」


アレイスター「…………」

エイワス「グノーシス式は汎用性が高いからな」

エイワス「天の検閲を免れた因子が多々ある、数少ない理論の一つだしな。そのおかげで魔にも天にも応用が利く」

エイワス「扱いにくさと天の意志による十字教への同化によって、魔術世界一般では本来の姿を失ったがな」

エイワス「確か、君の『旧友』もグノーシス式をベースにしてたなかったか?」


アレイスター「君は何が言いたい?ガイアの血族に似た事への指摘か?」


エイワス「いや、批判するつもりは無い」

エイワス「それに心配には及ばない。かつての者達に似ることは合っても、本質は別物」

エイワス「あの少年は誰とも血の繋がっていない、新世界の『現初神』の卵だ」

エイワス「おめでとう。君は人間界の、新たな神族世代の第一子を、遥かな時を越えて誕生させた」


エイワス「やはり君は最も興味深い。私を楽しませてくれるな」


アレイスター「…………」

784: 2010/09/21(火) 23:55:53.59 ID:lizh526o

エイワス「それとこれは私の戯言だが、あの少年はアキレウスとも重なる部分が多い」

エイワス「一体いくつの『偶像』をあの少年に重ねていたのだ?」

エイワス「君との関係性を見れば、ヘラクレスとも重なる」

エイワス「その場合、君はプロメテウスだな。君がこの『偶像』を重ねたのか?」


アレイスター「いいや。ヘラクレスの像とは重ねていない。勝手に現出しただけだ」


エイワス「なるほど……ヘラクレスは偶然であり、一方で必然か。君をこの闘争から『解き放つ』者だな」

アレイスター「…………」

エイワス「『君』は人間に『火と文字と知恵』を与え、つまり新世界へと導き、」

エイワス「そして『親』の怒りに触れ、磔にされ半永久的に肝臓を喰われ続けた」

アレイスター「厳密には『私』の相手は天だったがな。それに永遠に奪われたのは『全ての肉』だ」

エイワス「そうだったな。その苦痛の終焉を、この若き『ヘラクレス』は君に届けに来る」


エイワス「そして最期は。『皆』が『竜』に飲み込まれる」


エイワス「同じだな。君達は『歴史は繰り返す』と言ったが、正にその通りだ」

アレイスター「…………」

エイワス「人間界そのものが過去の『偶像』に囚われ、その歴史を再現しようとしている」


エイワス「古の人間界の『像』が、今の人間界へ重なり映し出されている」

785: 2010/09/21(火) 23:58:53.77 ID:lizh526o

エイワス「君はやはり天才だな。人間界そのものに『偶像の理論』を照らし合わせ、」

エイワス「その虚像の力を利用して、望む方向へと局面を運んでいくとは」

アレイスター「元の技術自体は2700年前にホメロスが確立させてある。私はそれを実用段階まで完成させただけだ」

アレイスター「それに『私如き』ができたのだ。魔界にはこの程度など、居眠りしながら構築できる者もいるだろうな」

エイワス「いや、『実像』とは別物の、『作られ与えられた世界』だからこそ、」

エイワス「『偶像』に仕立て上げることが可能だ」

エイワス「魔界や天界では、決して考えられぬやり方だ」

アレイスター「それは必要性が無いからだろう?この方式が通じるのは『今の人間界』だけだからな」

アレイスター「それにだ。偶像の理論自体、力なき人間界独自のやり方だ」

アレイスター「オリジナルの力が手に入らないからこそ劣化コピーで賄う、付け焼刃な子供だましだ」


エイワス「確かに、『偶像の理論』から生み出されるのは複製」


エイワス「あくまで再現。オリジナルとは別物。100%完全同一体ではない」


エイワス「だが、君は逆にそこを逆手にとったではないか」


アレイスター「……」


エイワス「再現度を抑え、己の手を加え、似ているようで全く別の帰結へと方向修正」

エイワス「全体像は似ていても、『竜』に今回飲まれる対象は別物」

エイワス「結末も違う。大いなる破壊により、大いなる時代を誕生させる」


エイワス「こういう君の発想が私は好きなのだよ」

786: 2010/09/22(水) 00:01:35.11 ID:NgSVEzIo
エイワス「その『偶像』に重ねる事のできない、『幻想頃し』の手綱取りも見事だった」

アレイスター「周囲を固めれば、自ずと所定の位置に嵌り込んでくれる」

アレイスター「あの少年自身の思考回路は単純だからな。誘導は簡単な事だ」


アレイスター「ただ、この二ヵ月半の間はかなり厳しかったがな。半世紀振りに精神疲弊した事もあったよ」


エイワス「確かに。君があんな精神状態に陥ったのを見るのは久しぶりだったよ」

エイワス「だが君は着実に成し遂げてきた。数々の最大級のイレギュラーをも利用してな」

エイワス「そして過去の『偶像』にはもう囚われない、全ての因果と理を消去した新たな人間世界、」


エイワス「『ホルスの劫』の始点が、つい先日構築された」


エイワス「古の神々の『偶像』へと仕立て上げられた、あの少年の昇華でな」


エイワス「あと一歩だな。『エドワード』。君が思い描く未来まで」


アレイスター「『思い描く』、ではない。私が『見て知っている未来』を、だ」


エイワス「表現の違いに一々突っ込むな。言葉は違えど、私の認識は君と同一だ」

エイワス「まあ、やはり君は最高だ。よく縛された人の身でここまでやったな」

エイワス「君が舞台を整え、脚本を書いたこの『劇』ほど楽しいものは無い」

エイワス「過去の事実因子を組み込みながらも大幅加筆し編纂、全く新しい『神話体系の始まり』を君は書き上げた」

エイワス「君の目論見が成功すれば、後世の者達は君の名と共に、『今』というこの瞬間から始まっている『神話』を詠うだろう」

エイワス「ホメロスを越える偉業だな。あの『者達』は結局世界を変える事はできんかったからな」

エイワス「まあ、時期が悪かったという事も原因だが」

787: 2010/09/22(水) 00:04:33.34 ID:NgSVEzIo

エイワス「それに君の守護天使となったおかげで、かのスパーダ一族の戦いも間近で見れた」

エイワス「見ていて楽しいよ。ここから更に私を楽しませてくれ」


エイワス「私にすら見えぬ、私ですら認識できぬこの大渦」


エイワス「その中央で、不測の事態に陥った君がどう動くかが見たい」


エイワス「非常に興味がある」


アレイスター「……その言い方、今後も何かあるように、何かある事を期待しているように聞こえるが?」

エイワス「何が起こるかはわからない。だが何かを期待しているのは否定しない」

エイワス「それにだ。状況的に見て何かが起こるのは確実だろう?」

アレイスター「……わかっている。ところでエイワス」

エイワス「何だ?」

アレイスター「……私の許可無しで勝手に現出するのは止めてくれないか?」

エイワス「声だけでもか?良いでは無いか。今くらい大目に見てくれ」

エイワス「私だって話し相手が欲しくなる時がある」

アレイスター「ヒューズ=カザキリで我慢してくれ。君が勝手に動くと様々な方面に影響が出てくる」

アレイスター「それにだ。もう少し我慢すれば『自由』だぞ?」

エイワス「ああ、あの『少年』との件か。いつだ?」

アレイスター「どうせ盗み聞き盗み見しているだろう?一週間以内だ」

エイワス「楽しみだ。それにあの少年の目に早く入ってみたいよ」

エイワス「私を『知った』彼がどんな反応するか、非常に興味深い」

788: 2010/09/22(水) 00:06:00.81 ID:NgSVEzIo

アレイスター「一方通行には数日中に会わせてあげよう。彼も『ドラゴン』には会いたがっていたようだしな」

エイワス「楽しみだ」

アレイスター「だから(ry」

エイワス「わかったわかった。現出するなと言いたいんだろう?わかったよ」

アレイスター「そうか」

エイワス「ではここらでお暇させてもらおう。ちょうど君の『旧友』が通話したがっているようだしな」

アレイスター「…………」

とその時。
エイワスの声が途絶えたと同時に、
ホログラムに表示される、通信が届いてきたと知らせる通知。

その相手は。

通話元の場所は。


アレイスター「…………」


ウロボロス社、デュマーリ島の。


アリウスの専用回線。


アレイスター「………………」

無言のまま、脳信号で回線を開くアレイスター。

そして画面に表示される、豪華な椅子にふんぞり返りながら、

葉巻の煙を燻らせているアリウス―――。

789: 2010/09/22(水) 00:08:15.22 ID:NgSVEzIo

二人の天才魔術師。

彼らはかつて若かりし頃、同じ魔術結社に属していたライバルであり学友であった。
お互いを切磋琢磨し合い、共に高みを目指していた。

だがある時。

この天才達の道は大きく分かれた。

一人は魔術世界からも姿を消し、
影で魔の力を追求し人知を超える究極の存在を目指し始めた。

もう一人は天の力を追求しその名を魔術世界に轟かせたが、
掘り当ててはならない『真実』を我が物にしてしまい、天の怒りに触れ。

そして途方も無い戦いの道を決意した。



そんな二人が今。


『最期の会話』として言葉を交わす。

半世紀以上昔、時に罵りあい、時に殴りあい、
そして時に笑いながら肩を組み合った男達が。


当時の感じに似た口調で。
半ば懐かしみながらも。


お互いの『氏相』を見、そしてほくそ笑む。


相手の氏を望みながら。

790: 2010/09/22(水) 00:10:46.48 ID:NgSVEzIo

アリウス『…………アレイスター』


アレイスター「……………………意外だな。何の用かな?」

アリウス『いやなに、挨拶でもしておこうとな』

アレイスター「それはそれは。遺言でも伝えておきたいのか?」

アリウス『はッ、生憎氏ぬつもりは無い。お前こそ身辺整理を始めた方が良いんじゃないか?』

アレイスター「………………整理する程の私物は無いんでな。まあ、するとしたらお前が氏んでからにしよう」

アリウス『相変わらず寂しい男だな』



アリウス『―――エドワードよ』



アレイスター「…………君には言われたくないな。『ジョン』」


アレイスター「少なくとも私は一度伴侶を得ている」


アリウス『ふん…………そうだ、エド。どうやら俺に、今週中にでもプレゼントを贈ってくれるらしいな』

アレイスター「まあな。香典代わりだ。返送は受け付けんからな」

アリウス『…………はッ、ありがたく受け取っておこう。精一杯可愛がってやる』

791: 2010/09/22(水) 00:12:18.23 ID:NgSVEzIo

アレイスター「…………それでだ…………そちらは順調か?」

アリウス『万事良し。問題は何も無い。お前は?」

アレイスター「こっちもだ。ただ、君という大きな問題があるがな」

アリウス『それはスマンな。同じ時代に生を受け、同じ時代を生きた事を呪え』

アレイスター「全くだ。ただな、一応君にも感謝している」

アレイスター「君がいなければ、学園都市はこんな短時間でここまで発展しなかっただろうしな」

アリウス『まあ、それは俺も同じだ。おかげで我が社はここまで大きくなれた』

アリウス『俺が設計した人造悪魔もな、その生産ラインはお前から貰った技術を一部使わせてもらってるしな』

アレイスター「それを言うならば、学園都市の初期の設備代も全て君からの資金提供だからな」

アレイスター「このビルの初期設計も、確か君のところからのモノだと記憶している」

アレイスター「私の延命措置技術開発の資金も、君が出してくれたしな」

アリウス『正にお互い様だな』

アレイスター「そうだな」

792: 2010/09/22(水) 00:14:33.01 ID:NgSVEzIo

アリウス『…………』

アレイスター「…………」

アリウス『…………こうは思った事は無いか?俺とお前が「同じ側」に立っていたら、と』

アレイスター「…………」

アリウス『俺とお前。二人で共に歩んでいたら、正に不可能は無かっただろうな』

アレイスター「…………確かに、『目的』は即遂げられていただろうな」



アリウス『お前が俺と共にこちらの道を歩んでいたら、』

アリウス『そんな小細工をし、「展示ケース」に入らぬとも1000年の命は約束されていただろうに』


アレイスター「生憎、欲しかったのは寿命ではない。君のように力に渇望もしていない」


アリウス『それでは何だ?その「原石」とやらの「体」が欲しかったのか?』


アレイスター「……止してくれ……」


アリウス『名は何と言ったか?そこまでしてその女と一緒に―――』


アレイスター「―――黙れ」

793: 2010/09/22(水) 00:16:36.51 ID:NgSVEzIo

アリウス『ふん…………お前はいつもそうだった。そこは昔から変わっとらん』

アレイスター「……何がだ?」

アリウス『常に冷静沈着、感情には一切左右されぬ、完全無欠の思考』

アリウス『心を捨て、神の視点から世界を見る達観者』

アリウス『意識体が人の領域から離れた超越者』

アリウス『―――そう思っているようだが、所詮お前も人間だ』

アリウス『どうした?その「肉体の能力」で「未来を視て」いる内に、己が他の人間とは存在が違うと思い込み始めたのか?』


アレイスター「…………何が言いたい?」


アリウス『そのままだ。所詮お前も俺と同じ。そこらの愚民共と同じ「タダの人間」だ』


アレイスター「…………」

                                      セ レ マ イ ト
アリウス『欲望、欲求、感情と完全に剥離し、「真の意志」に従っているだと?』


アリウス『お前はそう己に言い聞かせているだけだ』



アリウス『心の痛みに怯え、目を背け、鍵をかけて震えている負け犬に過ぎん』

794: 2010/09/22(水) 00:19:22.99 ID:NgSVEzIo

アレイスター「…………」

アリウス『人間の俗世を忌み、その存在から目を背けた者が、』

アリウス『その人間達を全て理解して昇華させるなど笑止千万』


アリウス『お前は全てを理解していると自負しているだろうが、何もわかってはいない』

アリウス『お前の、人は個々の不可侵の「真の意志」を有しているという自論はある意味正しい』

アリウス『だがな、その「真の意志」が欲求・欲望とは隔絶すべき存在と言うのは間違いだ』

アリウス『常に揺らぎ続ける欲求・欲望・感情こそが人間の核。この人間界に生まれし者の真理』


アリウス『人間の「真の意志」とは、それらの混沌の中で構築される「願望」だ』


アリウス『「真の意志」とは、欲求・欲望・感情のまた別の姿。これらは完全に同一。剥離など不可能」


アレイスター「…………」


アリウス『お前は人間を舐めているのか?』


アリウス『―――貴様如き負け犬が、愚か者が「先導者」とは成り得ない』


アリウス『そして俺は違う』

アリウス『俺は「俺の全て」受け入れた』

アリウス『怒りも。憎しみも。喜びも快楽もその全てを』


アリウス『その上で俺は己の「真の意志」に従う』


アリウス『「人の身」で「全能」を』


アリウス『―――必ず「全能の人間」になって見せよう』

795: 2010/09/22(水) 00:22:11.93 ID:NgSVEzIo

アレイスター「…………」

アリウス『お前の「夢物語」は終わる』

アリウス『確かに新たな時代がやってくるだろう』

アリウス『だがお前の言う、「ホルスの劫」などという時代は来ない』


アリウス『それは「亡霊共」の戯言に過ぎん』


アリウス『氏した愚かな神々の、壊れた記憶と思念の混ざり合った残骸が吐き出した、ただの「幻想」だ』

アリウス『お前はそれらの「記号」を掬い取り、事実から目を背け、都合よく解釈したに過ぎん』


アリウス『お前の「視た」未来は到来し得ない。存在しない「幻」だ』

アリウス『現代の人間共が、お前の描く「神の領域」に昇華することはできぬ』


アリウス『更に言わせて貰うとな、お前のやろうとしている事は「人類の昇華」ではない』


アリウス『根拠の無い自己解釈に沿い、人間を異質な存在へと作り変えようとしているだけだ』


アリウス『人間ではない「ゴミ」へとな』

アリウス『人類の95%を生贄にしてな』



アリウス『そしてそれすらも建前』



アリウス『お前の真の目的は「復讐」だ』


アレイスター「…………」



アリウス『―――天界へのな』

796: 2010/09/22(水) 00:24:09.40 ID:NgSVEzIo

アリウス『……とな、まあこれが―――』

画面の向こうでアリウスは葉巻を咥えながら、
己の前の机の上へ何冊も魔導書を乱暴に積み上げた。

それらはアレイスターが記した魔導書の写本。

『法の書』や『嘘の書』など。
様々な魔術結社や、ローマ正教・イギリス清教等が理解に多大なる労力を費やしてきたものの、
未だに一ページも正しく解読されていない代物だ。

アリウス『お前が書いたコレらの魔導書を読み―――』

そんな物らをアリウスは、まるで読み終わった週刊誌を投げ捨てるように、
無造作に積み上げ。


アリウス『―――お前の人生を見てきた俺の「一個人として」の感想だ』

葉巻の煙を燻らせながら、片方の眉を上げて小さく笑った。

アリウス『まあ、読み物としては中々であったな。それに面白い見方や概念もあった。術式の参考書としてもそれなりに役に立ったぞ』

少し小馬鹿にするように。

アリウス『倫理書、歴史書、思想書としては紙クズだがな』


アレイスター「……それは手厳しい評価だな」

アリウス『どうせ最後だからな。言いたい事は一応言わせて貰ったぞ?』

アリウス『少しでもお前の「アドバイス」になればな』


アレイスター「…………なるほど。それは嬉しいな。腐っても友情は残っていたという訳か」

アリウス『俺達の仲だ。氏に行く友には花くらい贈っても良いだろう?』


アレイスター「ならば、私からも一応言わせてもらおうか」

797: 2010/09/22(水) 00:28:46.42 ID:NgSVEzIo

アレイスター「私から見ればな、君のやっている事は『真の意志』ではない」

アレイスター「ただの『猿真似』だ」

アレイスター「愚かな猿が、樹の上の実をどうやって手に入れようか足りない頭を使って悩んでいるようにしか見えん」

アリウス『ほぉ…………』


アレイスター「私は私自身の理論を正しいと認識している。君に何と言われようが、私からすれば君の言葉が戯言だ」

アレイスター「ありふれた欲求・欲望・感情に『だけ』支配された存在はタダの『獣』だ」

アレイスター「君は獣、猿に過ぎん」

アリウス『…………』

アレイスター「確かに、『真の意志』の始まりが、人としての欲求・欲望・感情と密接に繋がっているという君の理論は面白い」

アレイスター「だが、『真の意志』に従い動くには欲求・欲望・感情は障害にしかならん」

アレイスター「それは陳腐な衝動にしか過ぎん」


アリウス『…………』


アレイスター「君はな、獣染みた低俗な欲求に従い、過去の遺物を奪い取ろうとしている『盗人』だ」

アレイスター「己自身の手では何も作り出せない」

アレイスター「過去の存在達が生み出した力を、その器を横取りし、そこに居座ろうとする『賊』に過ぎない」

アレイスター「そんな者が『全能』になどなれるか?答えは否だ」

アレイスター「奪い借りる事しか出来ぬ者は、『生みの親』を越えることは出来ない」

アレイスター「君がどんなに強大な力を手に入れようとも、その力の元の主を超えることはできない」

アレイスター「単純な力量ならば一時だけでも上回れるかも知れんが、格は越えられない」


アレイスター「覇王、スパーダ、魔帝、君が彼らの力に憧れ欲している限り、彼らを越えることは不可能だ」


アレイスター「はっきり言おう。君に全能になる資質は無い」

798: 2010/09/22(水) 00:31:29.81 ID:NgSVEzIo

アリウス『…………ふむ』

アレイスター「君は先ほど、私に『事実から目を背けている』と言ったな?」

アレイスター「だが私から言わせれば盲目になっているのは君の方だ」

アレイスター「『オリジナルのスパーダの血』を目の当たりにし、その刃を身に受けてまでわからないのか?」

アレイスター「彼らが今まで、彼らの血がどれだけ『理』を容易く曲げてきたのかがわからないのか?」

アレイスター「君は、あれ程の存在に対して何かできると思っているのか?」

アレイスター「確かに、私の目的も困難な物だ。だが、達成の確率を示すデータによって裏打ちされている」

アレイスター「そして目的の達成の為には何が必要か、何をすればいいのかを私は考える」

アレイスター「目的の次に方法をな」

アレイスター「私はそれに従い歩んで来た。これからもそうしていく」


アリウス『…………』


アレイスター「だが君はどうだ?論理的思考から打ち出された答えよりも、感情・欲求を優先する」

アレイスター「この手法で目的を達成したい、この道を通ってあの場所に到達したい、とな」

アレイスター「目的と方法を同時に考え、しかもどちらも好ましい方向に捻じ曲げようとな」

アレイスター「わからないのか?その行動倫理の行き着く先は自滅だ。そのやり方は『スパーダの一族』にしかできん」

アレイスター「彼らのような、無意識の思念が世界の運命を変える程の存在であってこそ、初めて通じるやり方だ」

アレイスター「君は私を卑下し、己自身が人間のあるべき姿と自負している」


アレイスター「だが私から言わせれば、君の方が人間と言う存在を見誤っている」


アレイスター「愚かな過信だよ。身の程を知った方が良い」


アレイスター「君こそが思い込みと根拠の無い自信で、己の論理を固めているのではないか?」

799: 2010/09/22(水) 00:33:26.84 ID:NgSVEzIo

アリウス『ハッ…………ハハハハハハ!!!!!!!』

アレイスターの話が終わった直後、アリウスは画面の向こうで豪快な笑い声を挙げた。

アレイスター「…………ふっ」

それにつられ、アレイスターも少しだけ口の端を細める。

アレイスター「ついでにもう一つ言わせるとだ、私のやり方では確かに人類の95%は氏ぬが、」

アレイスター「君のやり方ではそれがほぼ100%ではないか。この点では五十歩百歩だと思うが」

アレイスター「いや、私はその95%の犠牲と引き換えに、残りの5%を超越者へと昇華させ『救う』が、君の場合は正に絶滅だ」

アリウス『ハハハ……いや確かに。それはご尤もだな……それにしても懐かしいなエド。あの頃のようだ』

アレイスター「…………確かにな。よくこう議論を交わしていたものだ』

アレイスター「何年ぶりかな、ジョン。君とこうして『罵り合う』のは」

アリウス『さあな。一世紀近くは経っていると思うがな。それにしても、やはりお前と議論を交わせば終わりが見えんな』

アレイスター「当時でも意見の一致はそうそう無かったんだ」

アレイスター「今更言い合っても、お互い納得し合う事など到底不可能だ」

アリウス『徐々に喧嘩腰になり、仕舞いにはお互いの論理の真っ向否定だ。あの頃と正に同じだな』

アレイスター「そしてそのまま殴り合いか」

アリウス『確かに。だが、あの頃とは一つだけ違う』

アレイスター「…………そうだな」


アリウス『あの頃は殴り合い。だが今は頃し合い、だ』

800: 2010/09/22(水) 00:34:58.27 ID:NgSVEzIo

アレイスター「皮肉なものだな」

アリウス『人生とは面白いものだ』

アリウス『これぞ人間の世だ』

アレイスター「…………」

アリウス『一応最期に言っておくが、俺はお前を憎んでいる訳では無い。むしろ感謝している』

アレイスター「わかっているよ。私も同じだ。君はどう思っているかはわからないが、」


アレイスター「私は今でも君の事を友人だと思っている」


アリウス『ハッ、お互い共数少ない友人だな』


アレイスター「…………」


アリウス『…………ではせめてもの手向けだ』

アリウス『お前ができるだけ楽に氏ねるよう、祈っておいてやる』


アレイスター「それは嬉しいな。私も君の氏を称えてあげよう」

801: 2010/09/22(水) 00:36:58.33 ID:NgSVEzIo

アリウス『さて、もう二度と生きて顔を合わせる事は無いだろう』


アレイスター「ああ」



アリウス『さらばだ。エドワード=アレグザンダー=クロウリー』



アリウス『汝の上に速やかな、そして慈悲のある「氏の祝福」があらんことを』



アレイスター「ああ。『達者』でな。ジョン=バトラー=イェイツ」



アレイスター「汝の上に、早急なる『穏やかな氏の救い』があらんことを」


そして画面は消え、通信は途絶えた。

ここで終わった。
お互いの氏を望む、旧友同士の最期の談義が。

アレイスター「……………………」

その漆黒となった画面を、アレイスターはそのまましばらく見つめていた。
表情を一切変えずに。

静かに。

沈黙したまま。



―――

811: 2010/09/24(金) 17:21:55.93 ID:GQakPlQo
―――

学園都市。

午後5時過ぎ。

第一八学区。
とある研究施設の地下。

広大な空間の中ズラリと並ぶ、
様々な電子機器が取り付けられているリクライニングチェア風の椅子。

それらにデュマーリ島強襲作戦に選抜された能力者達が、
戦闘機パイロットのヘルメットのようなモノを被り座っていた。

夢を見ているかのように、皆が体を小さく動かしたり、指先を小刻みにピクリピクリと動かしながら。

それらの間を、端末を操作したりPDAに目を通しながらせわしなく行きかう白衣を着た者達。


今ここで行われている作業は、学習装置による能力の最適化・必要知識と技術の『インストール』だ。

ちなみにレベル5昇格予定の結標・滝壺は、更に特別な作業が必要な為別施設で調整が行われている。


そんあ地下空間の北側、管制室のような一室。

そこの大きな窓から、麦野は右手を腰のアラストルの柄に軽く乗せながら、
その隣で土御門は腕を組みながら、この広大な地下空間を見下ろしていた。

二人の後ろには大量の端末が並び、
数人の白衣の者達が業務的な言葉を発しながら淡々と操作している。

812: 2010/09/24(金) 17:25:51.12 ID:GQakPlQo

土御門「壮観だな」

100を越える能力者達のインストール作業を眺めながら、ぽつりと呟く土御門。

土御門「毎度毎度思うが、良くやるぜよこの街は」

麦野「…………たった100ちょいよ?連中は2万体以上にもこういう事したんだからどうってことないわよ」

土御門「……まあな………………」


作業が始まってから3時間。
そろそろ終わる時刻。

ちらほらとインストールが終わり、
白衣の者達に促されて起き上がる能力者が見える。


土御門「…………そろそろだな」

麦野「…………」

土御門「この後は?」

麦野「コイツらは今日このまま、あの病院に叩き込む。そして明日の朝6時から、第二学区で能力測定及び演習」

土御門「…………へえ。ダンテ達と同じ病棟か?」

麦野「んなわけないでしょ。別病棟」

麦野「結標と滝壺は同じ病棟だけど」

813: 2010/09/24(金) 17:27:39.62 ID:GQakPlQo

土御門「そうか……」

麦野「あ、そうそう、アクセラレータに伝えておいてくれない?」

麦野「ラストオーダーの書き込み作業、今日の26時から行うって通達があったわよ」

土御門「おう。じゃあアレか?結標と滝壺理后は明日からもうレベル5か?」

麦野「ミサカネットーワークに接続されればね」

土御門「ひょー、そいつはすげえぜよ」

麦野「で、アンタのこの後の予定は?」

土御門「あ~、結標達の方を確認して……今日はそれで終わりだぜよ」

麦野「衛星写真の鑑定も終わったの?」

土御門「ああ。俺は何も見つけられなかった。明日にでもインデックスに見せる」

麦野「じゃあ今日の夜はヒマ?」

土御門「おう……ってもしや、俺を誘ってるのかにゃー?」


麦野「そうそう。一晩付き合ってくれない?」


土御門「ほっほーう…………いやぁ、俺には女がいるんだが、お前がどうしてもと言うのなら一晩だけ相手してやってもいいぜぃ」

土御門「で、俺とナニをしたいのかにゃー?まさか女王様プレイならぬ女帝様プr」


麦野「コイツらのデータ確認して配置決める作業と、その報告書の作成」

麦野「明朝までには仕上げるから」


土御門「………………………………ま、そんなもんだと思ってたぜよ」

814: 2010/09/24(金) 17:30:14.66 ID:GQakPlQo

麦野「一つ言っておくけど、アンタとヤるくらいならアラストルとヤッた方がマシだから」

アラストル『だそうだ。小僧。残念だったな』

土御門「…………」

麦野「今日の……夜9時くらいに私の病室に来い」

土御門「へいへい……」

麦野「結標にも伝えておいて」

土御門「あいよあいよっと」

苦笑いし頭を掻きながら、部屋を後にしていった土御門。
その姿が消えた後。

アラストル『で、この俺と寝たいのか?ちょうど良い。俺も人間の女とそれなりにs』


麦野「勘違いすんな。土御門よりはアンタの方がマシ、」


麦野「で、アンタとヤるくらいなら氏んだ方がマシって事」


アラストル『………………………………お前、女の方が好きなタチか?』


麦野「んな訳ねえだろうが」

815: 2010/09/24(金) 17:34:57.16 ID:GQakPlQo

ぽつぽつとインストール・調整作業を終え、起き上がる能力者。
その中に常盤台の制服を着たツインテールの少女、白井黒子もいた。

黒子「…………っ……」

ゆっくりと身を起こし、台の上に座りながら体と頭の調子を確認する。

黒子「…………」

頭の中。

不思議な感覚だ。

今まで知らなかったあらゆる知識が、既に普通に頭の中にある。

より高度な応急処置の仕方、様々な兵器の扱い方や構造、
その威力やどれ程の遮蔽物があれば遮れるか、

戦闘時における動き方、デュマーリ島の位置関係やその全体図、
そして複数の悪魔の種類や弱点と戦い方、アリウスの顔まで。

黒子「…………」

更に能力についても感覚がかなり違っている。

目で見た瞬間、対象の座標位置が瞬時に認識できる。
計算で割り出すのではなく、視界に捉えた瞬間に正確に頭の中に浮かぶのだ。

しかも複数を同時に。
数値化せずともその位置や質量、体積をも即座に手に取るように完全に把握できる。

816: 2010/09/24(金) 17:36:27.14 ID:GQakPlQo

今まで彼女が能力を使う際、
11次元上の座標、飛ばす物体の質量・体積、
それらを正確に割り出さなければならなかった。

そしてその作業には1、2秒ほどのラグが常に伴っており、また冷静な思考を必要とする為
精神的な面でもかなり慎重にならねばならなかった。

黒子「…………」

だが今は少し違うようだ。
まだ能力を試してはいないが、まずそのラグがかなり短くなっている事は確実だ。
手に触れたとほぼ同時に、即その物体を飛ばせるだろう。

恐らく同時に飛ばせる個数、その質量制限の上限も大幅に伸びている。

己自身のテレポートなら、超高速で何度も連続してできそうだ。

さらに緻密な思考を意識することなくとも即必要なデータを認識できる為、
精神が少し不安定な状況でもそれなりに使えるだろう。



また別の一画では。

絹旗「……」

絹旗が同じように台に座りながら、己の手を眺めていた。

817: 2010/09/24(金) 17:38:33.71 ID:GQakPlQo
調子を確かめるように、手のひらを開いては握ってをゆっくりと繰り返す。

絹旗「…………」

窒素装甲。
体の表面数センチの範囲だけだが、大気中の窒素を自在に操り、
圧縮し装甲代わりにしたり、大質量の物体を持ち上げたり等もできる彼女の能力。

それらの特性が、全体的に大幅グレードアップしたようだ。

操作範囲は体表から20cm程にまで広がり、
掌握できる窒素量は、簡単な見立てだと約200倍にまで増加していた。
当然、圧縮密度も以前とは桁違い。

絹旗「…………」

『暗闇の五月計画』という、一方通行の演算パターンを参考にした、
最適化開発の被験者でもある絹旗。

その下地があったおかげか、かなりの能力強化が可能となったのかもしれない。

絹旗「…………」

ふと顔をあげると。
何やら複雑な表情で、頭を掻きながら近付いてくる浜面が目に入った。

絹旗はそんな彼に、小さな右手の平をおもむろに向け。

浜面「絹旗、お前も終わったk―――」

その次の瞬間。

浜面「―――んぐッッッッ!!!!!!!ごぁッ!!!!」

突如喉を押さえ、その場で苦悶の声を挙げながらもがき始める浜面。

818: 2010/09/24(金) 17:40:44.75 ID:GQakPlQo

絹旗「(……圧縮した窒素の撃ち出しも可能、集中すれば射出後のある程度の操作も可能、距離は少なくとも5mは有効、ですか)」

絹旗はちょっとした人体実験で、別の新たな使い方を確認、
その数秒後、哀れな無能力者を窒素の縛から解放した。

浜面「げほぁッ!!!!がはッ!!!!…………クッソ!!!な、なんだってんだよ!!!?」

その場の床に膝を付き、むせ返りながらも言葉を吐く浜面。
そんな彼に向け、絹旗は台からピョンと飛び降りながら。

絹旗「超おおげさですね。大丈夫ですよ。超優しくしましたから」

浜面「お、お前か!!!何だよ!!!俺で人体実験しやがったのか!!?」

絹旗「ぎゃあぎゃあ喚かないで下さい。超みっとも無いですよ。ところで気分はどうですか?」

浜面「ん?あ…………まあ何か不思議だよな……知らない事をちゃんと知っているってのは……」

喉を軽く摩りながらも立ち上がり、言葉を返す浜面。

浜面「なんつーか、すっげえ違和感が……お前はどうだ?能力者だとやっぱもっとアレだろ?」

絹旗「私は過去に何度も経験してますから、超どうってことありません」

浜面「そうか……それにしても……何で無能力者の俺がこんな所にいるんだろうな」

絹旗「……知りません。でも超良かったじゃないですか。とにかく滝壺さんの傍にいれますので」

絹旗「まあ、私達の足を引っ張らないよう、せいぜい超頑張ってください」

浜面「……おう」

―――

819: 2010/09/24(金) 17:42:35.51 ID:GQakPlQo
―――

とある病棟。

廊下を進む、二人の高校生。
片や右手に不気味な篭手を付けている、
健康的でありながらもどことなく不気味なオーラを纏っているツンツン頭の少年。
もう一方は杖を激しく軋ませながら歩く、白髪の華奢な少年。

上条当麻と一方通行。

上条「……」

一方「……」

上条「……」

一方「……」

上条「なあ」

一方「あァ?」

上条「お前とこうして、平時に一緒にいるってのは初めてじゃねえか?」

一方「それがどォした?」

上条「いや……なんて言うかさ、お前の事良く知ってる気がしたんだが、よくよく考えてみるとほとんど関わり無かったなって」

上条「なんかな、なんで俺はお前の事こんなに信頼してるか、俺自身不思議なんだ」

一方「こンな殺人鬼野郎に、なンで大事なガキ預けちまったンかってか?」

820: 2010/09/24(金) 17:43:42.78 ID:GQakPlQo

上条「殺人k……!!い、いや……!お前はそんな奴じゃあ……!!」

一方「変に気ィ使ってンじゃねェよ。気持ち悪ィなおィ」

上条「お、俺はな!!もうお前の事をんな風には……!!!」

一方「うぜェ。オマェがどォ思ってるかなンざ知ったこっちゃねェ」

一方「黙ってろクソが」

上条「…………」

一方「……」

上条「…………なあ」

一方「……今度はなンだ?」


上条「…………ありがとな。インデックスの事」


一方「…………………………………………チッ」

上条「……」

一方「……」

821: 2010/09/24(金) 17:44:53.83 ID:GQakPlQo

二人は無言のまま、廊下を進み。
エレベーターに乗り込み。

そして地下4階に降り、再び長い廊下を進んでいく。
地上階の患者用のエリアとは違い、壁はコンクリートむき出し、
天井は様々な配管が走り、所々にあるドアも大きな金属製の無機質なモノ。

上条「ところでよ、何するつもりなんだ?」

一方「黙って来ィ」

そして一方通行はとあるドアの前で止まり、片手で押し開けた。


上条「……」


長袖の手首の先から出ているその漆黒の手。
光も反射せず、漆黒な為当然陰影も無い為、
質感が全く感じられない奇妙な手だ。

正に影自体が立体的になって動いている感じだ。

上条「そういえば、お前その手どうしたんだ?」

一方「どォなってンのかは俺が聞きてェよ」

上条「?」

不思議そうな顔をする上条を気にする風も無く、
一方通行は室内へと入って行き上条もその後に続いた。

822: 2010/09/24(金) 17:47:08.54 ID:GQakPlQo
ドアの向こう。

そこは少し広めの、恐らく器材置き場として使われていた場所のようだった。
今は何も置かれてなく、ガランとしていたが。

その部屋の中央まで一方通行は歩き進んだところで立ち止まり。
手首で起用にチョーカーのスイッチ部分を押し上げ、咥えて能力を起動させ、
杖を部屋の壁際へと放り投げた。

上条「…………?」

一方「よし…………握れ」

そして上条の方へ向けて右手を差し出した。
握手を求めているように。

上条「……お、おう」

戸惑いつつも、上条は彼に促されて恐る恐る右手で握り返した。

その次の瞬間。

上条「―――!!!」

響く特徴的な、耳鳴りに似た金属音。
そして上条の右手に伝わってくる、幻想頃しが発動した時の感触。

だが。

一方「…………」

一方通行の漆黒の手は、まったく変わっていなかった。
通常の手と同じように、上条の右手をしっかりと握っていた。


一方「………………なるほどなァ」

823: 2010/09/24(金) 17:48:44.92 ID:GQakPlQo

上条「…………お、おい…………これ一体……??」

一方「良いから離せ。いつまで握ってやがンだ」

上条「お、おうスマン……」

パッと手放す上条。
その開放された己の右手を、一方通行はまじまじと見つめた。

背中から噴出する黒い『影』、そしてその『影』で形成された杭は、
多少のラグがあったが以前上条の右手であっさり消されていた。

一方「……」

だが、同じように『影』で形成されているこの義手には全く変化が無い。
表面のちょっとした靄がかき消されただけで、腕自体には全く影響が無かった。

一方「……おィ」

上条「……な、なんだ?」

一方「オマェの右手、能力とかを消す際の条件とかあンのか?」

上条「あーっと……そうだな、俺もはっきりとは知らねえけどよ、経験上だと、まずデカ過ぎる力は消せない、」

上条「ただ、力の量が大きすぎてもそれが方程式とか何かで形を保っている存在ならば、」

上条「その方程式とかをぶっ壊して分解できる、ってらしいのと……」

上条「あ、そうだ、大前提が『生命体そのものには一切効果が無い』って事だ」

上条「生き物の『肉体そのもの』、またその生き物の『本来の性質』とかには全く効かないって感じだ」

824: 2010/09/24(金) 17:52:05.85 ID:GQakPlQo

一方「…………」

大きすぎる力は消せない。
まずこれに該当するわけがない。

一方通行は上条の右手が処理できない程、
そこまで己の力が大きくない事は重々認識している。

上条が消せないというのは、それこそダンテやバージル、ネロの本気の斬撃や、
魔帝が放ったような赤い光の大剣等の、
この世界が簡単に壊れてしまう程の規格外クラスの代物に当たる。

それらと比べれば、この義手などオモチャに過ぎない。
力の総量では、余裕で上条の右手の許容範囲内なはずだ。

次に方程式の破壊。

一方「…………」

このやり方ならば、力の大小に関係なく作用するのだろう。
一方通行は詳しくは知らないが、恐らく魔帝の『創造』とかいう力が破壊されたのもこの作用だろうと推測した。

だが、上条の右手に握られた義手は変化なし。
何らかの方程式等や『能力による制御』等で、この形が形成されてはいる訳ではないようだ。

つまり、残るは。


一方「(肉体……ねェ……)」

825: 2010/09/24(金) 17:55:26.92 ID:GQakPlQo

一方「…………」

この漆黒の腕の正体を解き明かそうと、上条の協力を得た今。
その謎の一部の答えが浮き彫りとなった。

消去法で導き出された結果。


一方「…………(『義手』じゃねェ…………)」


一方「(『俺自身』の……新しい『生身の腕』…………か?)」


少し信じ難い。
だが、こうして漆黒の腕がある時点で既に信じ難いこと。
最早彼は驚きはしなかった。

というか、薄々どこかで気付いていたかもしれない。

見た目や腕力は全く別物だが、感覚自体は生身の時とは何一つ違いが無いのだ。
それに黒い杭とは違い、能力のONOFF関係なく普通に存在している。
カエル顔の医師によれば、ミサカネットワークとも関係ないとの事。

それらの状況証拠がこう示しているように聞こえる。

一方「チッ…………」


これはお前自身の腕だ、お前自身の肉体そのものだ、と。

826: 2010/09/24(金) 17:56:52.03 ID:GQakPlQo

一方「(……俺はどォなっちまうンだ?マジでバケモノになろォとしてンのかよ……)」

一方通行は己の状況に、彼らしくもなく少しだけ戦慄した。

こうしている時も感じる。
己が少しずつ。

少しずつ。

穏やかに、緩やかに。

この影に侵食され、徐々に肉体が『入れ替わって』きていることを。


一方「(…………チッ………………)」


そして彼は少し焦りを感じ、顔を顰めた。

もしかしたら、己に残された時間はもう僅かしかないのではないか、と。


果たして己は持ちこたえてくれるのだろうか?


打ち止め達を『解放』するまで、と。

827: 2010/09/24(金) 17:59:15.87 ID:GQakPlQo

一方「……おォ、悪かったな。もォ済ンだぜ」

ベクトル操作で杖を引き寄せた後、
能力をOFFにしながらそっけなく言葉を飛ばす一方通行。

そのまま、杖を軋ませながら足早にドアの方へと向かって行った。

上条「…………待て…………あのよ……」

そんな彼の背中を、上条は呼び止めた。
何かを言いたげに恐る恐る。
上条もまた、一方通行の漆黒の腕を握った瞬間、とある異質な感覚を覚えていたのだ。

一方「あァ?」

半身だけ振り返り、横顔を上条の方へと向ける一方通行。

上条「良くわらんねえけどよ……お前のその手握った時な……」


上条「あいつの……フィアンマのデカイ手を触った時と同じ『感触』だったんだが……」


一方「…………それは正しいかもしれねェな……」

一方「あのクズ野郎曰く、『アレ』は俺の力の『上位互換』つゥ事らしィぜ」

上条「?……それってどういう……」

一方「俺が聞きてェよ」

それだけ吐き捨て、一方通行はそそくさと退室していった。

そんな彼の後姿を上条は怪訝な表情で見つめながら。

上条「…………上位……互換…………」

ぽつりと、その言葉を確認するかのように呟いた。

己が、その『上位互換』の『片割れ』を有していることなど露とも知らずに。

―――

828: 2010/09/24(金) 17:59:43.90 ID:GQakPlQo
とりあえず今はここまで。
七時半辺りに再開します。

833: 2010/09/24(金) 19:56:27.81 ID:GQakPlQo
―――

某大陸沿岸部の都市の一画に広がる、
広大なスラム街。

時刻は、あと数時間で日が昇る頃。
辺りはまだ深い闇に覆われ、点滅する街頭の淡い光が、
その犯罪都市の陰湿な姿をおぼろげに照らし上げていた。

その埃っぽく薄暗い街並みの一角に佇む、
一際不気味な空気を漂わせてあるバー。


ゲイツ・オブ・ヘル。


さまざまな犯罪組織・凶悪犯罪者が大勢潜んでいるこのスラム街の中でも、
この店にだけは手を出してはいけないという暗黙のルールがある。

やってくる客の大半が札付きの無法者。
それだけではない。

『普通では無い人間』、『人間ではない者』もやってくる。

834: 2010/09/24(金) 19:57:46.66 ID:GQakPlQo

そんな店に今、常連の中でも特に規格外な客の一人が来店する。
そのドアを乱暴に開けた銀髪の白人男。

真紅のコートを靡かせ、分厚いブーツの靴底を打ち鳴らし、
ニヤニヤと掴みどころの無い笑みを浮かべかったるそうにカウンターへと向かう、
背中に背負っている大剣をもう隠す気ゼロの大男。

ダンテ。

ダンテ「よぉ」


そんな彼を、ワイングラスを磨きながらカウンター越しに一瞥する、
ダンテにも引けを取らない体躯の黒人の大男。


「……久々だな」


地の底から響いてくるような低い声。
タトゥーが掘り込まれているスキンヘッドにサングラス。
ワニ皮の分厚く重厚なコート。


この店のマスター、ロダン。



ロダン「ダンテェ……」

835: 2010/09/24(金) 20:01:13.33 ID:GQakPlQo

ダンテ「悪ぃな。最近は予定が埋まっててな。顔出す機会が無くてよ」

薄ら笑いを浮かべたまま、ダンテはカウンターに片肘を乗せ、
これまた乱暴に椅子に座り込んだ。

ロダン「だろうな。お前さんの話は色々と聞いてるぜ」

ロダン「最近は随分と派手に動き回ってるらしいじゃねえか」

ダンテ「ハッハ~、まぁな。とりあえず退屈はしてねえな」

ロダン「とりあえずだ……一杯いくか?それともストロベリーサンデーか?」

ダンテ「あ~……まずはワインくれ。銘柄は任せる」

ロダン「よし……」

棚から一つ、赤ワインの1500mlボトルを取り出したロダン。

ロダン「こいつはどうだ?シャトー・ペトリュス 1947年もの。結構な上物だぜ?」

ダンテ「…………上物はよしてくんねえか?高えんだろ?」

ロダン「なぁに、一杯くらいは奢ってやる。久々だしな」

ダンテ「ハハッ。それじゃあ貰うぜ」

ロダン「どうせ毎度の如く、今日の分もツケにするつもりだったんだろう?」

ダンテ「まあな」

ロダン「だと思ったぜ」

836: 2010/09/24(金) 20:04:43.47 ID:GQakPlQo

ロダン「OK……」

ロダンはそのボトルをカウンターに置き、ワイングラスを出そうと。

したその時。

ダンテは普通にそのボトルを手に取り、片手で弾くように手際よく栓を飛ばし。


豪快に『ラッパ飲み』し始めた。


ガブガブと。

ダンテ「…………っは…………結構旨えなコレ」

ロダン「……………………」

ダンテ「いやぁ、ありがとな。いいもん貰ったぜコイツぁ」

ロダン「……………………」

ダンテ「どうした?」

ロダン「…………ツケとくぜ。5万ドルだ」

ダンテ「んあ?じゃあ返すぜ。まだ一杯分しか飲んでねえから大丈b」

ロダン「お゛ぉ゛ッ??聞こえねぇな。今何て抜かしやがったお前さんよ?」

ダンテ「………………………………OK……ツケといてくれ」

837: 2010/09/24(金) 20:08:32.58 ID:GQakPlQo

ロダン「…………ところでだ。今日は何の用で来やがった?」

ロダン「どうせお前さんの事だ。ただ飲みに来たわけじゃねえだろう?」

ダンテ「へっへ…………」

そこでダンテは腰に手を回し、
二丁の大きな拳銃をカウンターの上に乗せた。

その白と黒の拳銃が置かれた瞬間、
確かに大きめだが、そのサイズとは余りにもかけ離れた重い音が響いた。

ロダン「…………トリッシュのか?」

ダンテ「そうだ」

ロダン「相手はバージルだな?」

ダンテ「もう知ってんのか?速えな」

ロダン「当然だ。片やスパーダの息子、片やもう一人のスパーダの息子の相棒、かつての魔帝軍の重鎮」

ロダン「その激突は魔界でも噂されてるぜ?」

ロダン「ここからお前さん達兄弟の頃し合いに発展しねえかってよ、そう望んでる声が多い」

ダンテ「……へぇ……」

838: 2010/09/24(金) 20:11:05.66 ID:GQakPlQo

ロダン「で、だ。コイツを直せって?こりゃあまた派手にやったみてぇだな」

ダンテ「そうだ。できそうか?」

ロダン「俺を誰だと思ってる。そうだな、15分もありゃあ作業は終わる」

ダンテ「何だ?随分速えな」

ロダン「こういう事もあろうかとよ、お前らの銃のパーツは一通りスペアを揃えてる」

ロダン「それにだ。『片割れ』が残ってるからな。術式構造もコピーするだけで良い」

ダンテ「そうか。そいつは良かった。でよ、他にも聞きてえ事があんだが」

ロダン「…………魔界の動きか?」

ダンテ「おう。アスタロトってのとトリグラフって野郎の事で、何か知らねえか?」

ロダン「…………お前さん達も連中の関与に気付いたか」

ロダン「二人共、覇王の元直下の幹部だった野郎だ。特にアスタロト」

ロダン「コイツ自身の力もデカイが、有する兵力も魔界きっての規模だ」

ダンテ「確かよ、今の内戦で良い線までいってるって聞いたが?」

ロダン「そうだ。現時点で魔界の10強の勢力の一つだ。更にその10強の内、四つの勢力がコイツに靡き始めてる」

ロダン「例の人間、名はアリウスだったか、その野郎が提示している覇王復活という餌が魅力的なんだろうよ」

ロダン「覇王の旗印の下、再び集おうとしてやがる」

ダンテ「…………」

839: 2010/09/24(金) 20:12:21.71 ID:GQakPlQo

ロダン「そうなっちまえば、覇王シンパ共による魔界の統一も時間の問題だ」

ロダン「そうならなくとも、この10強の内の一勢力だけでも人間界に向かい始めれば、かなり危険だがな」

ロダン「そして少なくともアスタロトは、覇王復活のため軍勢を人間界に放とうとしている」

ロダン「もちろん奴自身が直接率いてな。どうやってその大軍勢を一度に送り込むかは知らんが、既に待機状態になっている」

ダンテ「…………軍勢を送り込む方法、俺は知ってるぜ」

ロダン「ほう?」

ダンテ「アリウスはな、親父が封じた魔界の大穴をも開けようとしてやがる」

ロダン「…………そいつはマズイな。そうなると一勢力どころじゃないぜ?

ロダン「魔界中のクズ共がそこを通って一気に押し寄せてくるぞ?」

ロダン「更に覇王復活とほぼ同時だろう?群がってきた連中は覇王の下で一気に統一軍に変貌するかもな」

ロダン「いくらお前さんでも、人間界にいる限りその物量を押し切ることは不可能だろうぜ」

ロダン「お前さんが人間界への負荷を気にしないのならば別だが」

ダンテ「……」

ロダン「随分とデカイパーティだな。バージルも動いてんだろ?こいつは面白いモンが見れそうだ」

ダンテ「まぁな…………まあ魔界の事はそんぐらいでいい」

ロダン「次はなんだ?」



ダンテ「天界の事でなんかねえか?」



ダンテ「『ファーザー=ロダン』さんよ」

840: 2010/09/24(金) 20:13:48.57 ID:GQakPlQo

ロダン「………………………………参ったぜ。お前さんの口からその名が出てくるとはな」

ダンテ「ま、詳しい事は俺も知らねえけどよ。お前が『どこ生まれ』なのかぐらいは知ってるぜ?」

ダンテ「800万年前に魔界に来るまで、その『故郷』で『ふんぞり返ってた』のもな」

ロダン「……誰から聞いた?」

ダンテ「勘と風の噂だ」

ロダン「…………なるほどな。本当に油断ならねえ奴だなお前さんは」

ダンテ「で、『古巣』の事情はそれなりに知ってんだろ?」

ロダン「……ある程度はな。お前さんが最近顔出してる学園都市を……」

ダンテ「知ってるぜ。天界はあそこを潰す気なんだろ?」

ロダン「そうだ。四元徳が自ら軍勢を率いてな」

ダンテ「四元徳って野郎については?」

ロダン「少し前な、俺の知り合いに四人とも魔界送りされたんだが、二人がそこから脱出して復活してる」

ロダン「更に今、天界で『大食い』して力をかなり増強してるらしい」

ダンテ「大食い?」

ロダン「セフィロトの樹経由で吸い出された人間の魂、本来は天界の者達全員に平等分配されるんだがな、」

ロダン「今はこの二人が占有してるらしいぜ。たった一人の魔女に敗れた事がよっぽど悔しかったんだろうよ」

ダンテ「へぇ……」

841: 2010/09/24(金) 20:16:11.68 ID:GQakPlQo

ダンテ「そうだ、後もう一つ聞きてえ」

ロダン「何だ?」


ダンテ「魔女」


ロダン「……」

ダンテ「お前の事だ、知ってるんだろ?バージルと魔女が一緒に動いてる事ぐれえ」

ダンテ「その四元徳ってのとジュベレウスをぶっ倒した例の女、ここの常連なんだろ?」

ロダン「……さぁて。どうだかな」

ダンテ「おいおいおい教えてくれよ」

ロダン「……OK、教えてやるが後だ。先にコイツを直してくるぜ?壊れたままの銃を見てると落ちつかねえ」

カウンターの上に置いてあったトリッシュの二丁の銃を掴み挙げ、薄く笑うロダン。

ダンテ「……OK、さっさと済ませてくれ」

842: 2010/09/24(金) 20:17:36.58 ID:GQakPlQo

トリッシュの銃を手に、ロダンはカウンター後ろの部屋の方へと消えて行き。
ダンテは一人、カウンターにてワインボトルをラッパ飲みしていた。

そうして5分程経ったころか。

ダンテ「…………」

ピタリと動きを止め、少しだけ目を細めるダンテ。
その次の瞬間。

バーのドアが、来客を知らせる鈴の音と共に大きく開き。
そして入ってくる一つの足音。

ダンテ「……」

ダンテは振り向かずに、そのまま背後の足音を聞いていた。
その優雅な足音からして、スタイルのいい高身長の女、と即判別しながら。

ダンテ「…………」

そして足音の主は、
カウンターのダンテの右三席ほど離れたところに着いた。

それと同時に、ダンテは小さく笑いながら横目を向け。

ダンテ「ヒュー」

足音の主の、予想以上の『どストライク』な姿を見て、
思わず軽く口笛を吹いた。

843: 2010/09/24(金) 20:19:20.06 ID:GQakPlQo

ダンテの右側、少し離れた所のカウンターに着いた女。

肌にフィットしている黒いボディスーツが、その抜群のスタイルを更に強調している。
端正な顔立ちに黒縁のメガネ、高く結っている長い長い黒髪、そして口元のホクロ。

咥えてる棒つきキャンディーを、愛撫するかのように口で弄んでいる。

全身から凄まじい妖艶なオーラを醸し出している。

ダンテ「(ン~ン。最高だ)」

軽く口の端を上げ、斜めに顔を傾けながら、
その女の全身を舐めるように見回すダンテ。

恐らく最初から意識してたのか、
相手の女も艶やかな笑みを浮かべながら、ゆっくりとダンテの方へと顔を向けた。


ダンテ「Hello Beautiful」


薄く笑いながら、軽く挨拶をするダンテ。
それに対し女も棒つきキャンディーを含みながら軽く唇を舐め。


「Hey.Baby」


艶やかな声色で言葉を返す。
同じく小さく微笑みながら、誘うような妖艶な目つきで。

844: 2010/09/24(金) 20:21:58.68 ID:GQakPlQo

ダンテ「…………」

「…………」

ダンテ「…………」

「…………」

小さく微笑みながら、
お互いの全身を舐めるように見る女と男。

「ねえ」


ダンテ「何だい?子ネコちゃん」

「ン~、ロダンは?」


ダンテ「アイツなら席を外してるぜ」

ダンテ「今ここにいるのは俺とお前だけだ」

「ふふ……二人っきりって訳」

845: 2010/09/24(金) 20:23:13.72 ID:GQakPlQo

「そう、とりあえずロダンはいないのね。は~ん、喉乾いちゃった」

そこで女はそう呟きながら、
ダンテの手にあるワインボトルを流し目で見つめた。

意図を察したダンテは、スッとそのボトルを差し出すも。
当然、三席分も離れている為、手渡す事ができる訳が無い。
それどころか、ダンテは手を伸ばそうとせずに軽く突き出しただけ。

それでありながら、小さくボトルを振りほらどうぞと言いたげな表情。


女はそれを見て、小さく笑いながら椅子から降り。
キャンディーを艶かしく口に含みながら、ゆっくりとダンテの方へと歩き進み。

ダンテの隣の席に、身を寄せるようにして座りながら、
差し出されているボトルを彼の大きな手ごと握り締め。

ダンテの顔を見つめながら、そのままゆっくりと口に運び一飲み。

その時、ダンテはさりげなく女の馨しい香りを鼻に含んだ。

ダンテ「(ン~ン…………こいつぁ『大当たり』だ)」


女は少し名残惜しそうに、ボトル口から唇を離し。

「ンハん…………結構な上物ねこれ。美味しい」

熱い吐息を交じらせながら、小さく笑った。


ダンテ「……ああそうだな。『旨い』ぜ」

846: 2010/09/24(金) 20:24:25.40 ID:GQakPlQo

「それにしても……セクシーねアンタ。完璧」

ダンテ「お前もな。最高だぜ」

「でも私って、完璧すぎる男はあんまり好きじゃないのよねぇ」

ダンテ「へぇ、そうかぃ?」

「そう、だって完璧だったら『攻める』隙が無いじゃない?可愛げが無いし」

ダンテ「成る程な。だが難攻不落を『攻め落とす』のも面白いと思わねえか?」

「んは、それもそうね。でもアンタ、かなり『攻め落とす』の難しそう」

ダンテ「そうか?試してみなきゃわかんねえぜ?」


ダンテ「案外簡単に落ちるかも知れねえ。特にお前相手ならな」


「へぇ。どうすれば落ちるかしら?」


ダンテ「なぁに、難しい事は必要ねえ」

ダンテ「ちょっとばかし『運動』をするだけだ」

「ン~ホットな『エクササイズ』、ね。二人っきりの」

ダンテ「ああ、二人っきりでじっくりな」

847: 2010/09/24(金) 20:25:37.90 ID:GQakPlQo

「それで、アンタの事は置いとくとして、私を『攻め落とす』自信はあるのかしら?」

ダンテ「そいつも試してみねえとな」

「自信あるのねぇ?」

ダンテ「お前もそうだろう?俺の『動き』を『感じたい』んだろう?全身で、な」

「アナタも私を『感じたい』んでしょ?そして私の事が『隅々』まで『知りたい』んでしょう?」

ダンテ「まぁな。隅々まで、包み隠さず『全て』をな」

キャンディーをほお張りながら、グッとダンテに身を寄せる女。
ダンテも、手に持っていたボトルをカウンター脇に寄せ、彼女の腰に手をあてがう。
二人の顔の距離はわずか10cm。

相手の唇と瞳を交互にゆっくりと見ながら、
熱い吐息を交じらせる。

「ン~欲張りね。そういうボーヤはオシオキしたくなっちゃう」

ダンテ「ヘッハァ、舐めてると痛い目見るぜ。火傷しても知らねえぜ?」

「大丈夫、熱いのダイスキだから」

ダンテ「OK、それなら火ィつけてやる。今までお前が味わった事のねえ火をな」

ベヨネッタ「一生かけても忘れられない火を。それで朝まで私を熱してちょうだい」

と、その時響き渡る。


ロダン「おい……お前ら」


地の底から聞こえくるかのような低い声。

カウンターの後ろのドアからロダンが顔だけ出し、
今にもそこで絡み合いを始めそうな二人を睨んでいた。

848: 2010/09/24(金) 20:26:35.14 ID:GQakPlQo

「は~い、ロダン。お邪魔してるわよ」

ロダン「ベヨネッタ…………お前さん達よ、場所をわきまえやがれ」

ダンテ「よお、見物しててもいいが、混ぜはしねえぜ?」

ロダン「馬鹿野郎。俺の店でヤルんじゃねえ。どっか他所に行きやがれ」

ベヨネッタ「だってさ」

ダンテ「仕方ねえ。ちょっとばかし移動するか」

ベヨネッタ「そうね」

二人はひらりと椅子から降り、

ダンテ「ロダン、朝までには戻る」

ベヨネッタ「私も」

そして並びながら、優雅に店内から出て行った。


ロダン「全く、本当にイカれてる連中だぜ」


ロダンはそんな二人の後姿を見送った後、
小さく頭を振りながら呆れがちに笑った。

849: 2010/09/24(金) 20:27:14.12 ID:GQakPlQo

ゲイツ・オブ・ヘルのすぐ前。
街頭が照らす、薄暗く小汚い路地。

二人はそこに並び立っていた。

ダンテ「ふー……」

星が瞬く空を見上げながら、
真冬の大気中に白い息を吐くダンテ。

ベヨネッタ「…………冷えるわね」

ダンテ「だな。さっそく『暖める』か?」

ベヨネッタ「もちろん」

ダンテ「ヘッヘ…………そうか……」

ベヨネッタ「ふふ……」

小さく笑い、ふとお互いから目を逸らす二人。



その次の瞬間。



瞬時に。
神速でダンテは背中からリベリオンを引き抜き―――。



同時にベヨネッタは両手に派手な拳銃を出現させ―――。

850: 2010/09/24(金) 20:29:53.07 ID:GQakPlQo

ぶわりと、路地の中を吹き抜けていく疾風。
それは衝撃波。

ダンテが振るったリベリオンの剣風。

ベヨネッタが身を翻した爆風。


その猛烈な風が止んだ時。


ベヨネッタの喉元にはリベリオンの銀の刃が突きつけられており。
その大剣と交差するように、ベヨネッタの二丁の拳銃がダンテの顔面へ向けられていた。

そして二人はニヤリと。
武器を向けたまま不敵な笑みを浮かべ。



ダンテ「ヘッハァ…………ビンゴ。たまんねえぜ」



ベヨネッタ「ン~ンアンタも。『お兄ちゃん』よりもタイプ」



そして顔で笑いつつも凄まじい殺気を漲らせ、軽く言葉を交わす。



ダンテ「そいつは嬉しいぜベイビー。お前に会いたかったんだ」



ベヨネッタ「私もね。一度会いたかったの」

851: 2010/09/24(金) 20:31:39.61 ID:GQakPlQo

ダンテ「知りたい事がある」

ベヨネッタ「何が知りたいの?」

ダンテ「全部だ。当然お前の事もな。『全て』、赤裸々に、だベイビーちゃん」

ベヨネッタ「はぁん初対面なのに積極的ねぇもう……」

ベヨネッタ「じゃあ私を『楽しませ』て。満足させてくれたら、欲しいモノをアゲル」

ダンテ「ヒュー、OK、そういうのは得意だ。忘れられねえ夜にしてやるぜ」

ダンテ「最高の夜にな」

ベヨネッタ「それはン~、また火照ってきちゃった。早速クールダウン、頼めるかしら?」

ダンテ「生憎俺は熱することしかできねえんだ。悪いな」


ベヨネッタ「じゃあ暖めて。『蒸発』しちゃうくらいに」


ダンテ「ン~ンお安い御用だぜ」


ベヨネッタ「さて……ここでヤるとロダンに怒られるから、場所移しましょ」

ダンテ「ああ。人気の無い所にな」

ベヨネッタ「そう、二人っきりになれるバショに」

ダンテ「早く行こうぜ。俺はさっきからギンギンなんだベイビー」

ベヨネッタ「ハァン慌てないで。前戯は丁寧に。ガツガツしてると見っとも無いわよ」

ベヨネッタ「ついて来て」

852: 2010/09/24(金) 20:33:21.53 ID:GQakPlQo

ダンテ「ヘッヘ、どこに連れてってくれるのかな。『ウサちゃん』」


ベヨネッタ「『魅惑の夢の世界』よ」


ベヨネッタ「つかまえてごらん、『アリスボーイ』」


そしてベヨネッタは天高く跳躍し、スラム街の屋根の上を一瞬で駆け抜けていった。


ダンテ「ハッハァ、まずは追いかけっこか。ン~、良いねえ」


ヘラヘラと笑い、独り言を言った後。
ダンテも同じく跳躍し、彼女の後を猛烈な速度で追いかけていった。


星が瞬く中、スラム街の屋根を凄まじい速度で駆け抜けていく黒と赤の『魔』。


二人の顔には笑み。

だが、その放つオーラは凄まじい殺気に満ちていた。



朝まではまだまだ時間がある。


二人の怪物の、激しい激しい『デート』は始まったばかりだ。


―――

866: 2010/09/27(月) 23:17:27.17 ID:RzOmPFQo
―――

遡ること数分前。

同じ病棟のとある廊下。
そこを歩く、三人の少女。

ルシア、御坂、そして佐天。

御坂「あーっと、インデックスちゃんもいるんだっけ?」

ルシア「は、はい」

佐天「い、インデックスちゃんって…………あ、あのシスターっ娘のですか?」

御坂「そうそう、青い髪の。ってあれ、佐天さん会った事あるの?」

佐天「あ……はい。あの……デパートの事件の時に……」

御坂「あ~…………なるほど……それでさ、三人で何やってるの?」

御坂「当麻の話だとなんかの作業してるみたいだけど?」

ルシア「み、皆さんでキリエさんの術式の解析作業を行ってます」

御坂「きりえさん?」

ルシア「え、えっと……フォルトゥナの方です」

御坂「?なんかの重要人物?」



ルシア「……あ…っと……ね、ネロさんの婚約者です」



佐天「―――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

867: 2010/09/27(月) 23:22:32.82 ID:RzOmPFQo

御坂「へぇ~、ネロさんって婚約者いたんだ」

特に驚きもせず、普通の反応を示す御坂。
だが彼女の横にいた黒髪の少女、佐天は。


佐天「――――――」


その場で歩みを止め完全に硬直していた。
目を見開き、口を半開きにし。
さながら時間停止の魔法でもかけられてしまったように。

御坂「……佐天さん?」

佐天「―――はッッッ!!!!!!!!はい!!!!!!!!!!」

御坂「どうしたの?」

佐天「い、いえええええいえいえええだッッだだだだだだだだっだだ大丈夫ででででです」

佐天「(どうしようどうしようどうしよう何何何何何何よくわかんなくなってきた)」

ルシア「あ、あの?佐天さん?」

佐天「あは、あははははあはははああああさささささあ行こ行こ行こ行こ!!!!」

佐天「(ねねねねねネロさんののののののここここあばばばばあああ)」

868: 2010/09/27(月) 23:27:00.89 ID:RzOmPFQo

複雑すぎるこの感情。
まだまだ佐天には、自分自身でも理解しがたいものだった。

そんな挙動不審な彼女に対し、不思議そうな顔をしながらも御坂とルシアは歩き進み。

そしてひとつのドアの前で止まった。

佐天「(こ、こここここここここの向こうに…………)」

ごくりと喉を鳴らす佐天。

そして、ルシアによって開かれるドア。

佐天「―――」

広めの病室。
くっ付けられてその部屋の中央に置かれている大きなベッド。

そこの上に座っている二人の女性。
片方はシーツに包まっている、気が強そうなシャープな顔立ちの金髪の女。
もう片方は、栗色の髪で穏やかそうな清楚な女。

そんなベッドの脇に座っている、短めの黒髪・白いジャケットにホットパンツという出で立ちの女と。
ちょこんと小さな椅子に座っている、修道服を纏った青髪の佐天が見知っている少女。

白人四人のそれぞれ整いすぎているかと言う程の端正な顔が、ドアの方へと一気に向いた。

それらの視線を浴び固まった佐天は、一瞬こう思ってしまった。

ここは本当に日本なのか? と。

そして思う。

頭が割れそうなくらいに、思っては思っては更に思い、考える。

シスターを省く、この三人のどれかがネロの婚約者なんだ、と。

869: 2010/09/27(月) 23:29:04.25 ID:RzOmPFQo

トリッシュ「あら」

レディ「あ」

禁書「あッ!!」

御坂「どうもどうも!」

入って来た三人に対し、相変わらずのクールな反応を示すレディとトリッシュ。
御坂と佐天の姿を見た瞬間、ぱあっと笑みを浮かべるインデックス。

そして御坂達に向け、スッと小さく上品に会釈するキリエ。

御坂「(わっ……これまたすごい美人さん。この人がねえ……うん、お似合い)」

禁書「短髪!!」

御坂「やっほー。具合はどう?」

禁書「うん!!良いんだよ!!」

御坂「そう、それは良かったわ」

禁書「るいこ!!ひさしぶりなんだよ!!」

佐天「あ…………う、うん!!」

870: 2010/09/27(月) 23:33:05.10 ID:RzOmPFQo

トリッシュ「お友達?」

御坂「あ、うん!佐天さん!」

佐天「あ……は、始めまして!!!」

佐天「佐天涙子です!御坂さんとルシアちゃんのお友達をやらせていただいてます!!!」

トリッシュ「ルシアの……?」

そこでトリッシュは少し意外そうに、目を少し見開いた。

佐天「はい!!昨日お会いしまして!!」

トリッシュ「あ~、じゃあアナタが自販機の」

佐天「はい!!そ、そうです!」

トリッシュ「少しだけだけど話は聞いてるわよ。ルシアが嬉しそうに話してたから」

先日、ルシアがニコニコとして病室に戻ってきたのだ。
ペットボトルを大事そうに抱きかかえながら。

佐天は、ルシア自身による初めての『普通の友達』だ。

佐天「…………!!!」

トリッシュ「お友達ねえ。大事にしなさい。ルシア」


ルシア「は、はい!!!!!!」

871: 2010/09/27(月) 23:34:45.16 ID:RzOmPFQo

レディ「何?何だって?」

そこで、キョトンとしながら英語でトリッシュの方へと声を飛ばすレディ。
ここまでは全て日本語で会話が行われていた為、当然彼女は話についていけない。

キリエ「?」

同じくキリエも。

トリッシュ「ルシアに友達ができたの。この黒髪の子」

レディ「へぇ~」

キリエ「良かったねえルシアちゃん」

ルシア「はい!」

レディ「あ、そういえばミコトちゃん、私の弾結構使ったみたいね」

御坂「はい。も~う凄かった!」

レディ「思いっきりどっかんどっかん撃ちまくると気持ちいいでしょ?」

御坂「か・な・り」

レディ「アンタもわかるコね。中々素質があるわ」

御坂「えへへへへ……」

トリッシュ「…………」

なぜそこでレディは素質があると言うのか。
そしてなぜそれで御坂が喜んでいるのか。

いつかこの日本人の少女が、イカれたデビルハンター『レディ二号』に
なる姿が一瞬トリッシュの脳裏を過ぎったが。

彼女は最早突っ込む気にもならなかった。

872: 2010/09/27(月) 23:36:16.27 ID:RzOmPFQo

佐天「え~……っと?」

次は英語の会話。
当然、佐天が置いてきぼり。

トリッシュ「あ、一応紹介しといた方が良いわね」

そんな佐天に気付き、トリッシュが今度は日本語で口を開いた。

トリッシュ「私はトリッシュ」

トリッシュ「そっちがレディ」

レディ「今はサイン受け付けてないから」

佐天「…………」

トリッシュ「…………で、この子が……」

ポンと隣のキリエの肩に手を乗せ。

トリッシュ「レールガンも初対面ね」


トリッシュ「キリエ。フォルトゥナの『お姫様』よ」


キリエ「Hello」


そしてにこりと、穏やかな笑みと透き通っている優しい声で挨拶をするキリエ。



佐天「―――!!!!!!!!!!!!!!」

873: 2010/09/27(月) 23:38:09.88 ID:RzOmPFQo

『キリエ』。

その名を聞いた途端。
佐天は彼女を見つめたまま硬直した。
先ほど、ルシアの口からその名を聞いている。

佐天は遂に『捕捉』した。

この女性がネロの婚約者だ、と。


御坂「―――お、お姫様ぁ!!??」

トリッシュ「そう」

御坂「へぇええええ!!!!!!すごいすごい!!」

『お姫様』という単語を聞き、瞳を輝かせる御坂。
彼女の頭の中では、このキリエが豪奢なドレスを纏い、
メルヘンな城に住んでいる光景が瞬時に浮かび上がっていた。

キリエの品に溢れる佇まいからしても、全く違和感が無い。


ただ実際の住まいは、ネロと営む事務所と自宅を兼ねた小さな一軒屋であり、
その生活もかなり質素なものなのだが。

874: 2010/09/27(月) 23:39:52.26 ID:RzOmPFQo

キリエ「???」

なぜ御坂が突然はしゃぎ始めたかがわからないキリエ。
自分の事らしいのはわかるが、いかんせん日本語が全くできない為話の内容も全然わからない。

彼女は、御坂のキラキラ光る『夢見る少女』の瞳にただただ苦笑いを返すしかなかった。


トリッシュ「あ~、本当の意味での王家とかの『princess』じゃなくて、何ていうのかしら」

そんな御坂が何を思い描いているか、
即座に察知したトリッシュが軽く補足する。

トリッシュ「皆の憧れのアイドルみたいな?まあ血筋は由緒あるモノだし、いわば貴族の系列なのは間違いないけど」

レディ「そりゃ~もう結構な血筋よね。             私に負けないくらいの」

禁書「そしてこの若さであのフォルトゥナの修道女長なんだよ!」


御坂「じゃあ本物のお姫様じゃん!!!きゃー!!!!!」


補足も空しく、御坂の妙な誤解は解けなかったらしく。
レディのさりげない自己主張とインデックスの追加情報も見事にスルーされた。

トリッシュ「…………」

レディ「…………まあいいわ」

禁書「…………むう」

875: 2010/09/27(月) 23:45:04.90 ID:RzOmPFQo

キリエ「……???」

と、そうしていた所、キリエはもう一つの熱烈な視線に気付いた。
未だに目をまん丸にし、彼女をジッと見つめている佐天の眼差し。


佐天「(こ、ここここここの人が……………………綺麗…………)」


禁書「あれ、そういえばとうまは?ルシアと一緒じゃなかったのかな?」

御坂「え?なんかアクセラレータとどっか行っちゃったわよ。すぐ戻るって言ってたけど……」

禁書「…………あ……」

御坂「……よし、アイツを探しに行こっか?」

禁書「うん!」

トリッシュ「じゃあさっさと連れて来なさい。今日の作業はもう終わったって伝えて」

御坂「はいはいよっと」

レディ「さっさと、ね。早く、ね早く」

御坂「了解了解~」

御坂とインデックス、二人は姉妹のように並びながら病室から出て行った。

インデックスの移動を察知し、どこからともなく即座に現れたのか、
ステイルらしき男の声が少し聞こえ。

そして彼らの足音が離れていった。

876: 2010/09/27(月) 23:47:17.44 ID:RzOmPFQo

病室に残ったのはトリッシュレディ、ルシア。


と、カチコチに固まっている佐天。


トリッシュ「……知り合い?」

そんな佐天の、キリエへの『熱烈』な視線に気付いたトリッシュ。

佐天「え……あ、いや……!!!」

慌てながらも顔を勢い良く何度も横に振るう佐天。
そんな時。

ルシア「さ、佐天さんはネロさんと面識があるんですよね?」

純粋すぎるルシアがご親切に補足をした。

佐天「―――えッ!!!!!ええええッ!!!!!!!」

トリッシュ「へぇ~……」

レディ「なぁに?何だって?」

キリエ「ネロ?」

ネロという部分だけを聞き取れた二人。
キリエは不思議そうに首を傾げてたが、レディは佐天の反応の意味を即読み取り、
ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべていた。

トリッシュ「あ~、この子、ネロと面識があるみたい」

トリッシュはそんな彼女達に英語で補足。

877: 2010/09/27(月) 23:51:21.51 ID:RzOmPFQo

レディ「経緯は?ねえ経緯は?どうやってどこで知り合ったの?お姉さん知りたいなあ」

トリッシュ「このイカれ女がどこでどう会ったのか知りたいって」

佐天「あ…………二、三週間前に………」

トリッシュ「あ~、ウィンザー事件の直後にここに滞在した時みたい」

レディ「へぇ…………なぁるほどなるほど」

キリエ「……そういえば、ネロがその時の学園都市のお土産でブレスレットくれたんだけど……」

キリエ「それ選んでくれたのが現地の女の子って。もしかしてあなたかな?」

トリッシュ「ブレスレット選んだのかって?」

佐天「は、はい!!!!」

キリエ「やっぱり!ありがとう!!!」

キリエ「ゴメンね、今はつけてないんだけど、すごく可愛いので素敵だったよ」


トリッシュ「可愛いのをありがとうだって」


佐天「いえいえいえいえいえいえいえこここここちらこそ!!!」

878: 2010/09/27(月) 23:54:57.30 ID:RzOmPFQo

トリッシュ「って、通訳面倒ね」

トリッシュ「ルシア。あなたが佐天ちゃんに通訳してあげなさい」

ルシア「は、はい!」


レディ「それにしてもあのボーヤが赤の他人と仲良くなるなんて」

トリッシュ「あら、イギリスでも結構ハッちゃけてたわよ」

キリエ「……………………」

トリッシュ「あ、男特有のバカ騒ぎね。女関係ってわけじゃなく」

レディ「でもそれってアレでしょ、なんていうか、脳筋猿共の土人的な宴みたいな」

レディ「このコみたいな一般人の、しかも一回りくらい年が下っぽい女の子と仲良くなるなんて」

レディ「イメージとしては、どっか消えなとか言ってそっぽ向くと思ってたんだけど」

トリッシュ「まあ、大人になってある程度丸くなってきたんでしょ」

キリエ「あ、元々ネロは子供には優しいですよ?」

キリエ「昔からよく孤児院に顔出したりして、皆の面倒見たりしてましたし」

トリッシュ「へぇ~」

トリッシュ「でもこういう、プライベートの事には一切他人を関らせないでしょ?」

トリッシュ「イギリスでも、一介の騎士とか魔術師達ととは、やっぱり上の立場としての一線を引いてたし」

キリエ「あ……そう……ですね。最初、ネロからあのブレスレットの話聞いたときは驚きました……」

879: 2010/09/27(月) 23:57:10.74 ID:RzOmPFQo

レディ「ていうかさ、自分の女へのプレゼントを別の女に選んでもらったって、普通言うの?」

レディ「それもこんな、まだ毛さえ生えてないような子に選んでもらったなんて。なんか見っとも無いじゃないの」

佐天「…………」

トリッシュ「正直で良いんじゃない?ネロらしいって言えばネロらしいし」

トリッシュ「そんくらいキリエにゾッコンなんでしょ」

レディ「へぇ~」

キリエ「……あははは…………」

佐天「…………」

レディ「それにしてもネロがデレデレするのってなんか想像つかないわね。そこのところどうなの?」

キリエ「ええ?!……どう…………なんでしょうね…………??」


レディ「最近みたいに忙しくなる前は、週何回くらいヤッてたの?」


キリエ「えええええ!!!!!!!!!!!!!!」

レディのあまりにもどストレートな問いに、顔を真っ赤にして声を挙げてしまったキリエ。


そして、隣のルシアの一語一句間違い正確な訳を聞いていた佐天も。

佐天「―――!!!!!!」

身を硬直させた。

880: 2010/09/27(月) 23:58:19.82 ID:RzOmPFQo

トリッシュ「何回?」

キリエ「し、知りません!!!!!!!」

レディ「あ~、覚えてられないくらい、普通に回数多くって事ね」

キリエ「ち、ちちちち違います!!!!!!!!!!!!!!!」

トリッシュ「やっぱり、出張から返ってきた久しぶりの晩には燃えるの?」

レディ「いや、昼から始めるんじゃない?で、晩も、と」

キリエ「わわわっわわあわわわわかりません!!!!!!!!!!!!!」

レディ「ネロってリード上手いの?」

トリッシュ「どうかしらね。どっちも相手が初めてみたいだったから。二人一緒に成長してんじゃないの?」

レディ「あ~なるほど」

トリッシュ「で、二人とも同じくらいのテク、と。ね、そうでしょ?」


キリエ「あああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」


佐天「(きぃぃぃぃぃぃいあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!)」


もしこの場にダンテがいたら、ニヤニヤしながらこう思っていた事だろう。


全く女というやつは、と。

複数集ったらロクな事にならねえ、と。


―――

882: 2010/09/28(火) 00:00:33.47 ID:msuwctQo
―――

とある深い森の中にある、大きな寂れた洋館。

その一画にある、小さな薄暗い小部屋の片隅。

そこに七天七刀の鞘を抱きかかえながら、五和が蹲って座っていた。

髪はボサボサ。
服はところどころ黒ずみ小さく破け。
その破れた服の隙間から、小さな擦り傷等の固まった血が見えている。

だが、五和は今やもうそんな己の身なりの事など全く気にしてはいなかった。
いや、そんな小さな事など考える気にもなれなかった、と言った方がいいか。

頭の中は真っ白。
もうどうでもいい。

己の置かれているこの状況ももう興味が無かった。


目の当たりにした、神裂の最期。
心の底から敬愛していた女教皇の氏に様。


それが彼女の心を空っぽにしてしまった。
もう涙も枯れたようだった。

鞘を抱きしめる腕に顔を埋め。
外界からの気配も音も全て興味なく聞き流し。


彼女はただ一人、この『無の殻』の中に閉じこまっていた。

883: 2010/09/28(火) 00:03:06.77 ID:msuwctQo

五和「…………」

ふと気付くと、扉の向こうの大部屋にて複数の足音が聞こえた。
二人、いや、三人か。

なにやらボソボソ話をしている。

だが五和にとってはそれだけ。
ただの『音』。

ぼんやりしているこの頭では、
その足音と声が女のものなのか男のものなのかすらわからない。
そして、五和はそれすらをも確認しようとはしなかった。

どうでもいい。
ただ聞き流す。


と、その時。


今度はこの小部屋の扉が開いた。


五和「…………」


だが五和はそれでもピクリとも動かず、
一切の興味を持たなかった。

入って来た人物の正体など露とも知らずに。

884: 2010/09/28(火) 00:04:05.64 ID:msuwctQo

その『衝撃』はすぐに彼女を覚醒させる。

五和「―――…………」

何者かが入ってきたと思ったその瞬間。
抱きかかえている鞘に走る、あの『感触』。

スルリと。

鞘に刃が納められていくこの触感―――。


そして。


五和「―――」

鞘に伝わるやや大きめな振動と共にチンッっと響く、小さな金属音。

そう。

それは。



鞘の口と鍔が『完璧』にかみ合った音色―――。



五和「――――――ッ」

885: 2010/09/28(火) 00:05:29.86 ID:msuwctQo

その音色でようやく五和の心が反応し。
そして一気に躍動する。

五和が目を見開き、顔を勢い良くあげたその瞬間。


彼女の瞳に映る―――。



「五和」


小さな微笑を浮かべ、穏やかな瞳で五和を見下ろしている―――。



五和「―――…………あ―――」


「何たる醜態ですか。髪ぐらい梳かしなさい」


五和「―――…………あぁぁぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛―――!!!!!」


「『我ら』天草式十字凄教たる者、その身なりは常に整えておきなさい」



―――女教皇、神裂火織。

886: 2010/09/28(火) 00:07:35.74 ID:msuwctQo


その姿と見、声を耳にした五和の瞳から、
一気に透き通った雫が溢れ出し。

五和「うぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛う゛ぅ゛う゛あ゛あ゛あ゛う゛い゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!」

彼女は言葉にならない声を挙げながら、
七天七刀の納まった鞘を抱えながら神裂の足にしがみ付いた。

幼児のように泣きじゃくり。


神裂「…………ふふ」

神裂はそんな五和の頭に軽く手を乗せ。

神裂「大丈夫。大丈夫です……」

ゆっくりと、彼女の髪の毛を梳くように美しい指先で撫でた。
母親が小さな娘を安心させようとするかのように。

優しく。

優しく。

慈愛に溢れたその美しい指先で。

887: 2010/09/28(火) 00:09:43.56 ID:msuwctQo

そんな二人の姿を開かれたドア越しに、大部屋の方から眺めていた二人がいた。

腕を組み、口の端をあげ薄っすらと笑みを浮かべているジャンヌと。
相変わらずの無表情であるバージル。

ジャンヌ「……それでだ。うまくいったみたいだな?使えるんだな?あの元天使は」

バージル「一応はな」

ジャンヌ「そうか。そいつは良かったよ」

バージル「……」

ジャンヌ「……」


バージル「………………あれは何のつもりだ?」


ジャンヌ「ん?」

バージル「あの人間の女だ」

ジャンヌ「あ~……」

バージル「……」

ジャンヌ「そうあからさまに嫌悪感出すな。小間使いにでも何にでもすればいいさ」

ジャンヌ「こっちは少し頭数が足りなかったしな。雑用が一人くらい欲しかったところだろ?」

バージル「……」

ジャンヌ「心配するな。忠誠心も折り紙つきだ。あの元天使がお前に与した以上、あのコも従うさ」

ジャンヌ「それにもし邪魔になるようだったら、私が責任持って『処理』する」

888: 2010/09/28(火) 00:11:15.68 ID:msuwctQo

バージル「……………………勝手にしろ」

ジャンヌ「OKって事だな」

バージル「どうでも良い。それよりも貴様等に話がある」

バージル「…………待て、もう『一匹』はどこだ?」

ジャンヌ「ああ、セレッサはロダンの所に行った」

バージル「そうか。まあ良い。貴様に聞く」


バージル「イギリス清教最大主教。知ってる事を全て吐け」


ジャンヌ「……あ~…………」

バージル「貴様等の同族だと聞いたが?」

ジャンヌ「それか……アイゼン様は何て?」

バージル「『発見次第、捕縛し連れて来い。話ができる程度に生きてれば良し』」

ジャンヌ「…………あ~」

バージル「恐らくその魔女、『神儀の間』をイギリスに現出させた張本人だ」


ジャンヌ「―――…………は……………はぁぁッッ?!!!!!」


バージル「知らないのか?」


ジャンヌ「ちょ、ちょっと待ちな!!!!!『神儀の間』がどうしたって!!!!??」

889: 2010/09/28(火) 00:13:56.01 ID:msuwctQo

イギリス清教、ローラ、それらの単語。
さらに突如声を荒げたジャンヌに対し、小部屋の方の神裂も二人の方へと顔を向けた。

五和は相変わらず彼女の足にしがみ付き泣きじゃくっていたが。

それに気付いたジャンヌがさりげなく手を振り、魔術で扉を閉めて神裂の視線を遮った。

バージル「カンタベリーの地下に現出してた。現出の時期は貴様等の都が滅んだ直後だ」

バージル「先ほど、俺が煉獄に移動させた」

ジャンヌ「…………なッ……!!!??……はぁ!!!!??あのコが!!!!!??」

バージル「身分を知ってるのならさっさと言え」


ジャンヌ「ッ…………私等の世代の、そして最後の『主席書記官』だ。恐らく、な」

バージル「…………恐らく、だと?」

ジャンヌ「そこがまだ良くわからん。ただ、主席書記官の『頭』を有しているのは確実だ」

バージル「…………まあいい。それでだ、その女は『神儀の間』を現出させる事が可能だったか?」

ジャンヌ「……力はとても足りない」

ジャンヌ「……だが、主席書記官は禁術も記憶してある。個人のオリジナル技以外は全ての術を網羅してる」

ジャンヌ「更にそれらの術を組み合わせ、新しい術式を作る事も可能」

ジャンヌ「つまり力が無くとも、どうにかして騙し騙し禁術を起動させることも理論上可能だ」

バージル「…………」

890: 2010/09/28(火) 00:16:01.87 ID:msuwctQo

ジャンヌ「んな事をすれば、通常は即座に近衛か執行部隊に捕えられ、」

ジャンヌ「即決裁判でその場で極刑に科せられるが……」

ジャンヌ「時期が『あの時』だとするとどさくさに紛れて起動したか、それとも滅亡後に悠々と行ったか」

バージル「禁術の種類は?何に『神儀の間』を使った?」

ジャンヌ「それはなんとも言えない。現物を綿密に調べればある程度はわかるだろうが……結局は本人に直接聞くしかないな」

バージル「そうか」

ジャンヌ「……………………で、狩れって?」

バージル「そうだ。最優先ではないが」

ジャンヌ「……………………」

バージル「幸い、こちらに時間的余裕は二日、三日程ある」

そう口にしながら、バージルは軽く閻魔刀の柄に手を添えた。

ジャンヌ「…………」

それを見てジャンヌは思った。
バージルにローラ追跡を任せてしまったら。


ローラ確保の条件は『話ができる程度に生きてれば良し』。

その条件内ならば、確実にバージルは容赦なく刃を振るう。
手足を全て切り落とすくらい普通にやるだろう。

それどころか、何かがあれば独断で頃しかねない。

891: 2010/09/28(火) 00:19:22.73 ID:msuwctQo

そして、バージルが勝手な判断をしてもジャンヌ達は何も言えない。
こちら側の要はバージル。
彼が全ての核であり、最終的な権限は全て彼が有している。


表向きは利害の一致による共闘だが、
バージルの方は彼単独でも、多少難しくなるがやり様によっては目的を遂げることも可能なのだ。

だが一方で、ジャンヌ達はバージルがいないと目的を達することは絶対に不可能。
アイゼン、ベヨネッタ、ジャンヌにとって、バージルと彼の有する閻魔刀が必要不可欠なのだ。


ジャンヌ「……私に任せな。身内の事だ。私がやる」

そこを踏まえ、ジャンヌは自らその任を担うことを名乗り出た。
バージルにやらせてしまったら、ローラがどうなるかはわからない。
そしてそれを防ぐ事もできない。

どんな者でも、これ以上『家族』を傷つけたくないジャンヌはこうするしかなかった。


バージル「…………」

そんな彼女の思惑を見透かしているのか、
バージルは彼女の方を横目で見ながら小さく鼻で笑い。


バージル「下手な真似はするな」

それだけ言い残し、外へと繋がっている扉の方へと歩を進めていった。

892: 2010/09/28(火) 00:20:30.71 ID:msuwctQo

ジャンヌ「…………わかってる」


そんなバージルの背中へ言葉を飛ばすジャンヌ。


ジャンヌ「ローラの事も私が責任を持つ」


その言葉が聞こえたのかどうか。
バージルは一切反応を示さず、そのまま室外に姿を消していった。


その開かれたままの扉をジャンヌはぼんやりと見つめながら。


ジャンヌ「(…………ローラ……………………)」


あの金髪の。
『少女』の顔を思い浮かべていた。


ジャンヌ「(お前………………このままじゃ……)」


―――

893: 2010/09/28(火) 00:21:15.27 ID:msuwctQo
今日派ここまでです。
続きは明日の夜か水曜に。

897: 2010/09/28(火) 23:31:49.93 ID:msuwctQo
―――

とある街の郊外、森の近くの開けた原地。
今だ闇の深い時刻、この人気が無い地。
草の原からは虫の鳴き声、近くの森からはフクロウらしき鳥の鳴き声が聞こえていたが。

突然、全ての音が止む。
草の海を撫でていた風も止み。
鳥と虫の声も止み。

森の葉の音も止み。


シンッと不気味な静寂。


そして。


その原のど真ん中にふわりと降り立つ―――。


黒髪・黒いボディスーツのグラマラスな女。


ベヨネッタ。


その格好は黒ずくめでありながら、
なぜかこの光の無い闇の中でもはっきりと浮かび上がっていた。
異質すぎる程に。

まるで『黒い光』が照らし上げているかのように。

898: 2010/09/28(火) 23:33:27.56 ID:msuwctQo

彼女は片足に体重をかけて腰をしならせ、
薄く笑いながら星が瞬く夜空を見上げた。

その瞬間。

彼女の視線の先、天の彼方に赤い光が瞬き。


『落下』してくる真紅のコートを纏った男。


ダンテ。


彼はベヨネッタの正面20m程の所に降り立った。

先に降り立ったベヨネッタとは対照的に、
凄まじい地響きを打ち鳴らしながら。

地面が割れ、彼の着地点を中心に円形に10cmほど窪む。
深さはそれだけだが、範囲は半径10mも。


ダンテ「さて…………へっへっへ…………」

ダンテはリベリオンを肩に乗せ、
もう片方の手でコートについた土ぼこりを掃う。

ベヨネッタ「ン~~~ン」

銃を持つ右手で、
己の腹部から胸をなぞりながら喉を鳴らすベヨネッタ。


交わり絡み合う色気タップリの二人の視線。

899: 2010/09/28(火) 23:36:23.32 ID:msuwctQo

お互い、無言のままほくそ笑む程数十秒。

先に動いたのは。


ベヨネッタ「―――mm―――HA!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


ベヨネッタ。

掛け声と共に体を激しく素早く、キレよく躍動的に捻り。
両手を大きく振るい。


一拍置いた後、足を大きく開き胸張り、腰をくねらせ。
持っている銃をクルクルと回しながら両手を頭上で交差し。

軽く舌で唇を舐めながら、その二の腕に己の顔を摺り寄せ。


ベヨネッタ「―――huuuuuuuuuum.......Yesyesyeeeeeeeees.......」


誘うような横目でダンテを見ながら熱い息を吐き。


ベヨネッタ「HmmmHA!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


最後にもう一度掛け声をし、再び勢い良く両手を広げ彼女はキメた。

完璧に。

最後の掛け声の瞬間、
彼女のバックで鮮やかな(主にピンクを基調とした)光が溢れ出した。


ベヨネッタ「(…………んふん…………)」

そして彼女は得意げに勝ち誇った笑みを浮かべた。


完全に勝った、と。

900: 2010/09/28(火) 23:38:55.33 ID:msuwctQo

それを見て目を見開くダンテ。

ダンテ「(―――……………………なッ……ん……だと……?)」

だが、この程度では彼は負けない。
逆に彼のハートに火がつき。

ダンテ「(へっ………………中々……いや、かなり…………だがよッ―――!!!!!!!!!!!!!)」

『応戦』。


ダンテ「Hooooooouuuuha!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

リベリオン、続けて腰に差していたエボニー&アイボリーを華麗に天高く放り投げ。

ベヨネッタに負けないくらい激しく、かつキレ良くステップを刻み。

ダンテ「Yeah―――HA!!!!!!!!!!HA!!!!!!!HA!!!!!!!!!」

重力に従い落ちてきた二丁の拳銃を指に引っ掛けキャッチし、そのまま西部劇のようにクルクルまわし。
放り投げて己の腰へとスッポリト差し込ませ。

左手指を顔のとなりで鳴らしながら、右手を天にかざし。

そしてどこからともなく出現したバラを咥え、
右手で同時にリベリオンをキャッチし、正面を一刀両断するかのように振り下ろし。


ダンテ「Sweet....Baby......」


ベヨネッタに半身を向け、大剣の切っ先を地面に向けながら。
左手で口のバラを取り彼女の方へとスッと差出し、そして軽く指で弾きながら手放した。

901: 2010/09/28(火) 23:40:29.81 ID:msuwctQo

ダンテの余裕タップリな笑みと、ふわりと地面に落ちるバラ。

ベヨネッタ「(―――……………………なッ……んですって………………??)」

今度はベヨネッタが目を丸くした。

思わぬハイレベルな応戦。

その凄まじい『威力』。

ベヨネッタ「(―――…………チッ……中々…………まさかここまでとはね……少し甘く見てたわこのボーヤの事……)」

まさかこの『分野』で己に正面から対抗できる者がいたとは。
彼女は夢にも思っていなかった。

ダンテ「(…………これでも互角……か。…………こいつは手強いぜ……)」

ダンテも同じく。


ダンテ「Yeah-Ha-Ha-Ha-Ha...............」

ベヨネッタ「Ya-haha-hahahaha-ha...................」


そしてわざとらしく笑い、お互いから一旦目を背ける二人。

ダンテは『いやあまいったぜ』と言いたげに軽く右手を振り。
ベヨネッタは、それに対し『ええそうね』と返事しているかのように、
咥えてるキャンディーの棒を軽く指で弄びながら。


その次の瞬間。


ダンテ「―――Yeeeeeeeeeeaaaaaaaaaaaaaahhhhhhhh!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


ベヨネッタ「―――HAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

904: 2010/09/28(火) 23:45:59.65 ID:msuwctQo

二人は雄叫びをあげながら同時に地面を蹴り。

ダンテはリベリオンの切っ先を向けスティンガー。

ベヨネッタは即座に出現させたウィケッドウィーブと連動した右足の蹴り。

凄まじい衝撃波と余波で周囲の地面を抉りながら、二人は激突した。

第一撃から容赦なく、ノーマル状態最大戦速の
音速の数十倍もの速度で。

ウィケッドウィーブとスティンガー。

とてつもない金属音と共にお互いが弾かれたが。

だが二人共、後方に吹っ飛ばされること無くその場で難なく持ちこたえ、即座に次の動きへと移る。

ダンテ「―――Hu!!!!!!!!」

ダンテは即座に腰から、左手でエボニーを引き抜き。
弾かれた反動を利用して身を捻り、その銃口をベヨネッタの顔面へ。
そして躊躇い無く、超高速で引き金を何度も引く。

ベヨネッタ「―――YA!!!!!!!!!」

同じくベヨネッタも反動を使って素早く身を捻り、回し蹴り。
更にその足首についている銃口から大量の魔弾を放つ。


お互いへ至近距離で放った、両者の大量の魔弾。


ダンテは闘牛士のようにコートを靡かせて半身を捩り。
ベヨネッタは仰け反り。

そして両者とも、軽々とそれらの魔弾の雨を回避。

905: 2010/09/28(火) 23:49:05.89 ID:msuwctQo

そのまま、二人は至近距離で撃ち合う。
神速で振りぬかれる刃。
同じく神速で放たれるウィケッドウィーブ。

そして飛び交う大量の魔弾と二人の掛け声。

余波と流れ弾により、
周囲の地形が見る見る、そして目まぐるしく変わっていく。

地響きと凄まじい光の明滅を伴って。

ダンテ「ヘッヘ!!!刺激的で良いぜ!!!」

リベリオンを振るい、引き金を絞りながらダンテは心底楽しそうに声を挙げた。

ベヨネッタ「最ッッッッ高!!!!痺れちゃうわッッ!!!!」

同じくベヨネッタも。

ベヨネッタ「でもまだ足りないわ!!!!もっと―――もっと―――!!」

白銀の刃がベヨネッタの頬をかすり。


ベヨネッタ「―――もっと感じさせて!!!」


宙から出現した巨大な足や拳が、ダンテの周囲を突き抜けていく。


ダンテ「OK!!!果てまで連れてってやるぜベイビー!!!」


それはあまりにも。

あまりにも常軌を逸している、そして禍々しく殺気に満ちた舞い。


正に狂気のダンス。

906: 2010/09/28(火) 23:50:35.99 ID:msuwctQo

そんな最中。

ベヨネッタが後ろに跳ね、宙で身を捩り。


ベヨネッタ「ホットに痺れて―――!!!!!!」


ベヨネッタ「―――ドゥルガーッ!!!!!!」


その瞬間、ベヨネッタの手足に金を基調とした大きな装具が出現。

魔導器、魔具ドゥルガー。

両手先端のポータルからは稲妻が迸り。
両足先端のポータルからは業火が噴き出す。

着地した瞬間、足元の地面を溶かしそして抉っていく。


ダンテ「―――ホットかつクールにな!!!!!!」


ダンテ「―――アグニ!!!!ルドラ!!!!」


同じく、ダンテの左手には柄が繋がった双戟状態のアグニ&ルドラ。
二つの刃から業火の渦が巻き上がり、
周囲の地面を溶かしては、その灼熱の液体と火の粉を天高く舞い上げさせる。


ベヨネッタ「YA-HAHAHA!!!!!!!!!!!!!YEAAAAAAAAAAAAAAhummmmm-HA!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


ダンテ「HAHAHAHAHA!!!!!!!!!!!!!YEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEESBABY!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


この場に更に加わった、強大な魔の『雷』・『風』と二つの『炎』。


狂乱は更にヒートしていく。

熱く熱く。

全てを燃え尽くさんばかりに。

907: 2010/09/28(火) 23:52:29.31 ID:msuwctQo

右手にリベリオン、左手には結合した双戟状のアグニ&ルドラを握り、
ダンテは一気にベヨネッタに突進する。

ベヨネッタ「―――YAA!!!!!!!!!!!!!!」

それを見、左手で一気に前面を凪ぐように振るうベヨネッタ

その瞬間。

青白く、巨大な鍵爪状の雷性を帯びたウィケッドウィーブが出現。
突進するダンテを地面ごと真横から抉り取ろうかと、一気に横に振るわれた。

ダンテ「―――Hum―――」

鉤爪は三本。水平に、そして縦に積みあがっているように並んでいる。
それらの隙間は訳50cm。

数千分の数秒という極僅か一瞬で、横目でその巨大な鍵爪らを即座に認識したダンテ。

彼は軽く地面を蹴り、僅かに跳ね。

そして身を翻しながら、仰向けに。
空に横たわるような姿勢に。

それと同時に『すり抜けていく』巨大な鉤爪。

ダンテ「―――Ha!!!!!!!!!!!!」

いや、ダンテがすり抜けたのだ。
爪と爪の間の極僅かな隙間に飛び込み、身を滑り込ませ。

文字通りダンテ『本体』にはかすることも無く、鉤爪は一体を凪ぎ、
地面を抉り飛ばしていった。

彼の翻ったコートの一部を削いでいったが。


それらの凶爪の通過後、
即座に体勢を直し、勢いを頃すことなくそのままベヨネッタに向かうダンテ。

908: 2010/09/28(火) 23:57:10.45 ID:msuwctQo

ベヨネッタ「Huuum―――HA!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

小さく笑いながらベヨネッタは続けて体を回転させ、今度は右足で回し蹴りを放つ。
前方に迫っているダンテ目がけて。

すると今度出現したのは、炎に包まれた同じく巨大なウィケッドウィーブの蹴り。
さながら、いや正に火柱が『横向き』に噴き出すかのように、凄まじい爆発を伴って。

ダンテ「Ha-Ha!!!!!!!!!!!!!!」

それを見たダンテ。
今度は両足で即座にブレーキをかけ―――。

そして左手に持っていたアグニ&ルドラを放たれた巨大な『業火の蹴り』に向け。

バトンのように素早く回す。



『―――ASH to ASH!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』



                                                         Twister
次の瞬間、この魔具の掛け声と共に、『横向き』に巻き上がる灼熱の『 竜 巻 』。


真正面から激突する、業火のウィケッドウィーブと業火を纏った爆風の渦。
その激突点から、二人を軽く飲み込む程の直径50mに及ぶ火球が形成され。

そして破裂する。

周囲へと吹き荒れる、近くの森の木々をも焼き払い薙ぎ倒す爆炎―――。

909: 2010/09/28(火) 23:59:27.97 ID:msuwctQo

その中でダンテは一瞬ベヨネッタの姿を見失った。

だが見失っただけ。
視界の外に逃れられただけ。

彼女の気配は手に取るようにわかる。


ダンテ「Hey,don't Hide.C'mon―――」

ダンテは即座に相手の位置を把握し。


ダンテ「―――BABY!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


振り向きながら横一線に右手のリベリオンを背後に振るった。

剣風で爆炎が一気に掃われ、周囲が晴れ渡る。

そしてダンテの斬撃を仰け反り、鼻先で華麗に回避したベヨネッタの姿も露に。

ベヨネッタ「You want to touch me? Humhuhu―――」

爆炎の布を剥がされた彼女は薄く笑い。


ベヨネッタ「―――Badboy!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


仰け反り、そのままバック転しながら、今度は両足の二連撃。
ダンテの顎を下から蹴り上げようと、再び出現する業火のウィケッドウィーブ。

910: 2010/09/29(水) 00:00:41.13 ID:vetDFyAo


その一撃目をダンテは、左手のアグニ&ルドラで華麗にいなし。

そして。


ふわりと跳ね、彼は二撃目の上に『乗った』。


ウィケッドウィーブをジャンプ台代わりにし、一気に天に跳ね上がるダンテ。
更にその直後に、真下のベヨネッタへ向けて。


ダンテ「DRIVE!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


リベリオンから特大の赤い斬撃を放つ。

それを見て小さく笑うベヨネッタ。
彼女は小さく笑いながら、先ほどのバック転蹴り上げの動作からそのまま逆立ちし。

蹴り上げた両足を大きく広げ、先端のドゥルガーから炎を噴き上げながら、
ヘリのローターのように高速で一回転。


ベヨネッタ「YA-----HA!!!!!!!!!!!!!!!!!」


ダンテの放った斬撃を、
その業火のローターで難なく叩き割り霧散させた。

911: 2010/09/29(水) 00:02:24.51 ID:vetDFyAo

ベヨネッタ「―――YeeeeeeeeYA!!!!!!HA!!!HU!!!!HA!!!!!!!!―――」

次いで放つ、四肢のウィケッドウィーブの連発。
真上のダンテ目がけ繰り出される、ブレイクダンスのように踊りながら次々と破壊的過ぎる攻撃。

ダンテ「―――Yeah-HA!!!!HA!!!!HA!!!!HU-HA!!!!!!―――」

それらをダンテは左手のアグニ&ルドラで弾きいなし、

ダンテ「ONE!!!!!!!TWO!!!!!!」

負けずにリベリオンで赤い斬撃をぶっ放す。

弾いては避け、避けては相手の急所に打ち込み。
そしてお互いが再びその攻撃を弾いては避け。

身を捻り、ステップし、掛け声と圧倒的過ぎる『破壊』の応酬。

空に大量の光が瞬き、地面は削れ。



ベヨネッタ「――――――Get out!!!!!!!!!!!!」


そしてベヨネッタは真上に渾身の蹴りを放ち。



ダンテ「――――――Blast!!!!!!!!!!!!!」



ダンテはリベリオンとアグニ&ルドラを交差させ一気に振り下ろし、
地面のベヨネッタの元へと突き進み。


激突。

二度目の、そして先ほどよりも凄まじい『破壊』。
空間が歪み、あまりにもド派手すぎる『衝撃』―――。

912: 2010/09/29(水) 00:04:13.55 ID:vetDFyAo

数十秒後。

迸った爆炎が晴れ、そして舞い上がった粉塵が納まり。

15m程の距離を開け、荒地と化した地のど真ん中に二人は向き合いながら立っていた。
先ほどのお互いへ向けられた攻撃。

両者とも直撃した。

大悪魔ですら、それこそ致命的な傷を負ってしまう程の強大な攻撃。

それが直撃したのだが。


二人は完全に無傷。

衝撃を受けた肌が赤くすら、それどころか衣服の乱れさえない。


そしてダメージなど一切感じさせない表情。
素晴らしい程にうれしそうな笑み。


ダンテ「たまんねえ……たまんねえぜッッ!!!!!!ハッハーァッッ!!!!!!!最高の女だぜお前は!!!!」


ベヨネッタ「はぁあああああああああああああんもうダメ!!!!!もう我慢できないッッッ!!!!!!!」


二人はもう限界に達していた。

これ以上、力が抑えきれない。

ダンテの瞳が眩く赤く輝き始め、全身からも赤い光が溢れ出し。

ベヨネッタは身を情熱的にくねらせ、両手を後頭部に。
髪留めの所に手を当て。

913: 2010/09/29(水) 00:06:51.01 ID:vetDFyAo

ベヨネッタ「……そろそろ『本気』で…………『愛でて』いいかしら……?」


ダンテ「良いぜ……『前戯』は終わりだ……『本番』を始めようぜ子ネコちゃん……」


そして二人は力を解き放つ。


ダンテは魔人化し―――。


ベヨネッタは『髪』を全て開放し―――。




―――そうしようとした時だった。



「まああああああああああああああああああああてえええええええええええええええええい!!!!!!!!!!!!!!!」



地響きを伴程の低い声が周囲を揺るがし。

二人の間、ちょうど中間の地面から突如赤い光が迸り。


その光の中から姿を現す―――。



ロダン「―――もう終わりだ!!!!!いい加減にしろ!!!!お開きだ!!!!!!!!!!!」


ロダン。

914: 2010/09/29(水) 00:09:50.97 ID:vetDFyAo

ダンテ「……………………あぁ?」

ベヨネッタ「……………………はぁぁ?」


ロダン「こんな所でバカ騒ぎするんじゃねえ!!!」


あからさまに煙たそうな表情を浮かべる二人に対し、
青筋を立てながら声を荒げるロダン。


ロダン「目立ち過ぎだ!!天界からも魔界からも思いっきり注目されてるぜ!!!!」

ロダン「このままじゃ『ココ』が『崩壊』しちまう!!!イギリスみてぇな『界の穴』をもう一つ作る気かお前さん達よ!!!」

ロダン「これ以上続けたいなら魔界にでも行け馬鹿野郎共!!!」


ダンテ「……」

ベヨネッタ「……」


ロダン「おいおいおい何だその目は!?俺は間違ってねえぞ!!!!」

ロダン「このままヤリ合ったら一番困るのはお前さん達だろう?!!!!」

ロダン「いい加減少しは大人になりやがれアホ共!!!!発情期の猿か!!!!!」


ロダン「ここは猿山じゃねえぞ!!!!!」

915: 2010/09/29(水) 00:11:51.70 ID:vetDFyAo

ダンテ「…………あ~……こりゃあヒデェ生頃しだ……空気読めねえな」

ベヨネッタ「……チッ……………………この『ゴリラ天使』め」

二人はブツブツ愚痴りながらもロダンの言葉に従い、
武器を名残惜しそうに納めて行く。

ロダン「(こんの野郎共…………)」

ロダン「ダンテェ」

ダンテ「あ?」

ロダン「ほれ。直ったぞ。だから今日はさっさと失せやがれ。少しは頭冷やして来い」

そう言葉を発しながらロダンはコートの下から二丁の拳銃、
トリッシュのルーチェ&オンブラを取り出し、ダンテの方へと放り投げた。

ダンテ「ハッハー、頭じゃなく『セガレ』が火照ってんだがな」

それらをキャッチしながらヘラヘラと笑うダンテ。


ベヨネッタ「私も疼いちゃってるのよね。Gスポt」


ロダン「うるせえ黙ってろ」


それに同調し卑猥な言葉を口に仕掛けたベヨネッタだが、
ロダンの一声で一蹴された。

916: 2010/09/29(水) 00:14:39.16 ID:vetDFyAo

そしてロダンは一歩ずつ、大地を響かせながらベヨネッタの方へと向かう。
それと同じように、ベヨネッタはさりげなくロダンから離れようとするが。

                                コ
ロダン「俺に用があるんだろう?俺の『銃』達を診てほしんだろう?」

ベヨネッタ「あははうふふ。もういいわ。大丈夫みたい」

ロダン「ダメだ。お前は良くとも俺は良くねえ」

あえなく彼女は、その黒髪をムンズと鷲掴みに髪にされ。

ベヨネッタ「いやあーーーーー」

ズルズルと引き摺られていく。

ダンテ「ヘッヘ、乱暴にしないでくれよな?また今度その子ネコちゃんとイチャつきてえからよ」

そんなベヨネッタの姿を見、面白げに手を叩きながら言葉を飛ばすダンテ。

ロダン「お前さん達を会わせると碌な事になりゃしねえ。良いからお前はさっさと帰れ。『金髪美女』が待ち焦がれてるぜ?」

ダンテ「ハッハー、止してくれ。お袋の顔した女とじゃれあう気にはなれねえよ」

ロダン「フン」

ロダンと、彼に掴まれているベヨネッタの周囲に赤い光が溢れ出す。

ベヨネッタ「バーイ。またね」

ダンテ「あばよ。子ネコちゃん」

そして二人の姿が光に包まれ、消えていった。

917: 2010/09/29(水) 00:19:14.13 ID:vetDFyAo

残ったダンテは一人、何となく手にあるトリッシュの愛銃を眺めていた。

ダンテ「…………」

そうしてたところ。
ふと、先ほどのベヨネッタの戦い振りを思い出した。

あの動き。
四肢に取り付けた銃の連動した戦法。

ダンテ「Hum...............」

『何か』を思いついたダンテは一度喉を鳴らした後。


ダンテ「―――ギルガメス!!!!!!!!」


一つの魔具の名を高々と叫んだ。
次の瞬間、両手両足に出現する、銀色の『魔導金属生命体』。
ギチギチと機械的な音を響かせ、彼の手足の先端を包み込む。


ダンテ「Ha!!!!!!!!」


次いでダンテは、手に持っているルーチェ&オンブラを頭上に放り投げ。

まずは右足を大きく蹴り上げるように真上に振るった。

その右足先端のギルガメスにルーチェが当たり。
次の瞬間、金属生命体がダンテの意思に沿い、ギチギチと音を響かせながら変形し―――。


―――ルーチェのグリップ部分を掴み、そのまま同化。

918: 2010/09/29(水) 00:22:12.55 ID:vetDFyAo

ダンテ「Hooooha!!!!!!!!!!!!」

続けてダンテは跳ね上がるように、今度は左足を大きく天に振るい。

同じように、次はオンブラを左足先端のギルガメスと同化させ。

そして宙で一回転しながら、腰からエボニー&アイボリーを引き抜き。



ダンテ「Yeaaaaaaaaaaaaahhh!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


先ほどのベヨネッタの動きを真似て、空中で手足を鮮やかに振るい、


ダンテ「Ha!!!! Hu!!!!! Ha!!!!!YeeeeeeeeaaaaaaaaaHA!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


四つの銃口から華麗に魔弾を放つ。
ギルガメスの歯車で火花を散らしながら蹴りとパンチ。
それと連動して絞られる引き金。

放たれる、赤い光を帯びた魔弾。


一通り動作を宙で確認した後、彼はコートを靡かせながらふわりと着地し。

低く腰を落とし両手を広げながら、そこでポツリと。


ダンテ「So Sweet」


ニヤリと笑みを浮かべながら歓喜の一声。

彼はここに新たな『スタイル』を手に入れた。


アンブラの魔女の近接格闘術、『バレットアーツ』。


史上最高の使い手からコピーする形で。

919: 2010/09/29(水) 00:23:52.47 ID:vetDFyAo

ダンテ「ハッハ~、こいつぁいい」

エボニー&アイボリーをクルクルと回しながら腰に差し込み、
次いで軽く蹴り飛ばすように足先のルーチェ&オンブラを解放して放り投げ、手に取った。

そしてギルガメスを戻し小さく笑った。

ダンテ「燃えてきたぜ。ロマンがある」

これを応用すれば、例えば別の魔具をギルガメスに同化させ、
四肢の刃で『踊る』事も可能だ。

ベヨネッタからは、結局バージルの事については聞き出せなかったが、
それでも彼にとってはこの『プレゼント』が素晴らしいものだった。

ダンテ「本当にいい女だぜ」


ダンテ「喜べトリッシュ。『お前』も戦えるぜ」


ダンテが小さく笑いながら、手の中にある銃に言葉を飛ばしたその時。


トリッシュ『何その口ぶりは?私はまだ氏んでないんだけど』


直った銃を通じて、即座に彼女の声が聞こえてきた。

920: 2010/09/29(水) 00:26:06.76 ID:vetDFyAo

ダンテ「あ~そうだったな」

そんな、銃を介して脳内にリンクしてきたトリッシュに向け、笑いかけるダンテ。

トリッシュ『というか、結局何も聞けなかった訳?』

ダンテ「まあな。でも良いじゃねえか。お前も『戦える』方法が見つかったぜ?」

トリッシュ『……まあ。悪くは無いわね。というか案外楽しそう。「眺め」が最高だし。足蹴にされてるのが少し癪だけど』

ダンテ「動けねえお前の代わりに俺が連れて行ってやる」

ダンテ「どこに行きてえ?」

トリッシュ『……そうね。とりあえず私の所に戻ってきて。…………いえ、それは「最期」でいいわ』

ダンテ「……」

トリッシュ『……どこでもいいわよ。アナタの行きたい所に連れてって』

トリッシュ『あ、そうそう。「楽しい所」にして。これだけは外せないわ』

ダンテ「OK、しっかり見てな『そこ』でよ」

トリッシュ『すぐ傍で見てるわよ。片時も目を離さずに。勝手されちゃ困るもの』

ダンテ「おっと、変なところは見せられねえな」

トリッシュ『何を今更。んなもん見慣れてるわよ』

トリッシュ『いつからアナタを見続けてると思ってるのよ』

ダンテ「ハッハー、確かにな。  『相棒』」

―――

952: 2010/10/04(月) 23:42:21.17 ID:zP2YhGwo
―――

学園都市。

午後6時過ぎ。

とある病棟の一室では。
壁際に並んでいる電子機器に囲まれ、その中央のベッドに一方通行は横たわっていた。
半裸の彼の足から腰、背中にかけて、テーピングのように白い布状の物が巻かれていた。

そんな彼のベッドの傍らにはカエル顔の医師。

一方「……………………終わったか?」

一方通行は、薄めで天井を眺めながら小さく口を開いた。

カエル「終わったよ。気分はどうだい?」

一方「…………最悪だ」

カエル「薬が抜けるまであと20分はかかる。新しい電極を確かめながらでもいいから、しばらくはそのままにしてなさい」

一方「…………」

カエル顔の医師の言葉を聞き、彼は頭の中で能力の起動を意識した。
すると。

一方「(…………へェ)」

彼の要望どおりの物をカエル顔の医師はたった一日で仕上げたようだ。
脳信号によって能力が即座に起動。

彼は漆黒の右手をゆっくりと掲げ、手のひらを開いたり閉じたりして、
能力の状態を確認していった。

このとんでもない『暴れ者』の手の握る、開くという動作。
そこから生じるベクトル。

それらを正確に検知し、そして向きを変えては自由に動かしていく。


一方「(…………問題はねェな)」

正に完璧。
一方通行の希望通りの品だ。

953: 2010/10/04(月) 23:50:11.94 ID:zP2YhGwo

一方「…………おィ」

と、そうした後に。
一方通行は目が覚めた先ほどから、疑問に思っていた事を口にした。

一方「コレはなンだ?」

軽く頭を上げ、寝ながら顎で己の下半身に巻かれている妙な物を指す。

カエル「ああ、それはだね。君の歩行支援の機器だよ」

一方「あァ?」

カエル「発条包帯に少し手を加えた物でね。電極を通して君の運動信号を直接送り込み、筋肉に刺激を与えて動かす」

カエル「通常の歩行は杖無しでも容易に行えるよ。全力疾走はさすがに厳しいと思うが」

一方「……こンなもンまかねェで演算補助だけでどォにかできねェのかよ?」

カエル「君自身の伝達神経にも損傷があるからね。そこを直すならば、本格的な手術が必要だよ」

カエル「そして今の君には、そんな時間的余裕は無いだろう?」

一方「……………………そォか。まあアリガトよ」

軽くそっけない礼を述べながら、一方通行はゆっくりと上半身を起こした。

カエル「まだ安静にして―――」

一方「薬は今分解した」

カエル「…………そうかい。それなら良いね」

954: 2010/10/04(月) 23:54:11.58 ID:zP2YhGwo

一方通行は起き上がった後、
ゆっくりとベッド脇にある己の衣服を着始めた。

カエル「…………ああ、それとだね……」

そんな彼の背中に向け、
手元にあるPDAに目を落としながら言葉を放つカエル顔の医者。

カエル「君の『その手』、いや、その『黒い物質』が君の体細胞と入れ替わっていく速度がね、」

カエル「やはり少しずつ加速してきているね」

一方「…………全部入れ替わっちまうのはいつだ?」

カエル「…………この速度だとね、96時間以内に……」

一方「…………」

カエル「……すまない。その方面では、僕はどうしようもない」

一方「…………ハッ、さすがの冥土帰しサマでもお手上げってか」

カエル「…………」

一方「……そんなに自分の患者に手ェだせねェのが辛いのか?大した『聖人』さンだなァ全くよォ」

カエル「……………………君は良く耐えているね。その激痛に。顔には全く出さないが、データにはしっかりと出てるよ」

一方「…………」

カエル「せめて、痛み止めだけでも処方させてくれ。少しは痛みが和らぐだろう」

一方「ンなもんいらねェ。元々オマェに『こィつ』どうこうしてもらうつもりはねェよ」

一方「『こィつ』は俺の自業自得だ」

一方「俺に課された『刑罰』みたィなもンだろ」

一方「『氏刑なンざ生温ィ、テメェは苦痛の中で化物に成り果てろ』、ってよ」


一方「しっかりタップリ骨の髄まで味わってやンよ」


カエル「…………」

955: 2010/10/04(月) 23:57:06.81 ID:zP2YhGwo

カエル「…………いや。その痛みはね、元を辿れば君のせいではない」

一方「ハァ?俺が自分でやった事だ。俺のもンだ。どォせ記録だの映像だの見てンだろ?オマェの目は節穴ですかァ?」

カエル「いや………………………………一つ、とある昔話を聞いてくれないか?」

一方「あァ?ジジイのボケ話なンざ聞きたくねェよ」

カエル「そう言わないでくれ。すぐ済む」


とその時。

病室のドアが勢い良く開け放たれ、姿を現すアホ毛が特徴的な少女。

一方「―――」

打ち止め「あなた元気ー!?、ってミサカはミサカは通い妻よろしくまたあなたの所に来てみたり!!」

一方「……なンでオマェがここに(ry」

打ち止め「ミサカの情報網を舐めちゃだめだよ!!、ってミサカはミサカは、本当はネットワークで拾っただけなのを隠していばってみたり!」

あからさまに眉を顰め、カエル顔の医者を睨む一方通行。
それに対し、彼は僕じゃあないと言いたげに肩を少し竦めた。

そんな彼等などお構い無しに、打ち止めは一方通行の近くの小さな椅子にピョンと乗り。
今だ着替えの最中の一方通行をニコニコしながら眺め始めた。

カエル「…………」

一方「…………」

カエル「…………」

一方「…………何見てやがる?」

カエル「……いや。特に何でも無いよ」

一方「オマェじゃねェ。ガキの方だ」

打ち止め「あなたの事、見てちゃだめ?、ってミサカはミサカは少し上目使いで(ry」

一方「ぶっ飛ばすぞクソガキ」

956: 2010/10/04(月) 23:59:47.05 ID:zP2YhGwo

一方「チッ…………調子が狂うぜ…………話を続けろ。手早くな」

カエル「…………昔の話だ。僕はかつて若い頃、一人の患者を助けて『しまった』」

カエル「僕は知っていた。彼が何者かを。そして僕は理解していた。彼の存在が、後に多くの命を奪うことを」

カエル「だが僕は助けた」

一方「…………なンでンな野郎を助けた?」

カエル「彼に『夢』を見たからだよ」

カエル「彼の中に、若かった僕は『救世主』の姿を見たのだよ」

一方「カッ。随分なアマちゃんだなァ」

カエル「まあね。それにその時の僕は若くてね。彼にすがりたかったのさ」


カエル「僕には彼が『孤高のヒーロー』に見えたのさ」


遠くを見ているような眼差しをしていたカエル顔の医者だが、
そこで一方通行をジッと見据え。


カエル「全ての罪をたった一人で背負い、命と引き換えに己の正義を貫こうとした、ね」


一方「………………………………」

957: 2010/10/05(火) 00:02:59.93 ID:qhpTqigo

カエル「…………彼に会うまで、僕は常々思っていた。そして怒りを覚えていた」

一方「…………」

カエル「処置は完璧、容態は安定していたはずなのに。どこにも以上が無いはずなのに」

カエル「それなのに命を落としていく者が大勢いる、不条理さに」

カエル「人は『そういう運命だった』という。だが僕はそれが納得できなかった」

カエル「偶然ならば。偶然の『事故』等ならばわかる。だが『何も』異常が無いのに、『不自然』に命を落とすのは」

カエル「僕はいつしか、『何か』の存在を意識し始めた。人々の生氏を決定している『何か』をね」

カエル「憎くて憎くてたまらなかった。その『何か』を打ち負かすことができるのならば、僕は何でもやるつもりだった」

一方「…………」


カエル「そして彼はその『正体』を知っていたのだよ。『打ち勝つ』方法も」


カエル「更に二度と虐げられることの無い、二度と『他』から『干渉』を受けない、」


カエル「『強固』で『隔絶』された世界へ人々を『押し上げる』方法も」


一方「……」

958: 2010/10/05(火) 00:07:17.47 ID:qhpTqigo

カエル「僕等が意識していたその相手の正体、今の君ならピンと来るだろう?」

一方「……………………なンとなくはな……」

カエル「いや、むしろ『君達』の方が、僕よりもそういう存在には詳しいかもしれない」


カエル「『天』に立っている存在だ。今も昔も、常に人間達を監視し、その運命を手中にし」

カエル「そして今、この学園都市を消そうとしている者達だ」


一方「…………」


カエル「それでね、彼は治療の際に僕にこう言った」

カエル「『私を生かせば、私は君によって救われたその命で大勢の命を奪うだろう』、と」

カエル「『だが約束する。誓う。私は必ず、必ず目的を遂げてみせる。それらの命を無駄にはしない』、とね」


一方「…………」


カエル「そして僕は彼を救った。彼の魂を『あの肉体』に繋ぎとめた」


カエル「僕は目が眩んでしまったのさ。怒りに。若き僕は、人々の命よりも『報復』を優先してしまった」

カエル「凄まじい数の命が失われるのも省みず、僕は彼の掲げた『旗』を再び建て直したしまったのさ」

一方「…………」

959: 2010/10/05(火) 00:09:59.33 ID:qhpTqigo

一方「………………で、いつになったら俺と関係がある話になンだ?」

カエル「…………彼はその後、言った通り多くの命を奪った。目的の為にな」

一方「…………」

カエル「……そして『君』のような『駒』を、『被害者』を生み出し続けた」


一方「…………………………何ィ?」


カエル「君は己の事を『加害者』と思っているだろうが」


一方「―――あァ?」


カエル「僕から言わせれば、君も被害者の一人だ」



カエル「彼によって、君は人としての大事な部分を全て『破壊』され―――」


カエル「―――哀れな少女を一万も殺させるよう、『仕向けられた』」


一方「―――」


カエル「それも彼の計画の一部に過ぎない」

カエル「彼は今、天を滅ぼし、人間達を二度と虐げられることの無い強き存在へと押し上げようとしている」


カエル「この街の、大勢の子供達の今までの人生も。無論、君が歩んで来た道も―――」


カエル「―――その全てがこの目的の為だ」

961: 2010/10/05(火) 00:16:17.76 ID:qhpTqigo

一方「―――」

カエル顔の医者が言っている『彼』が一体誰なのか。

ここまで来れば誰だってわかる。

その人物を確信した一方通行の顔に、一気に憎悪の色が滲みあがってきた。
そしてその瞳を、矛のような視線をカエル顔の医者の顔に『突き刺す』。

あの男が何をするかを知りつつ救った男に。


アレイスター=クロウリーを救った男の顔に。


一方「――――――オマェ―――………………!!!!」

話を聞いた一方通行。
彼は今、それだけしか言葉が出せなかった。
一方通行自身はここまで言われても、妹達を殺めた罪は自分自身のモノだと思っている。

そして、その引き金を引いたアレイスターをも自分と同じく呪っている。
決して許せない、己と同じく悲惨な結末を迎えるべきだと。

だが。

この『聖人』すぎるカエル顔の医者は―――。

一方通行は知っている。
この男は、患者を救うことに命を賭けている。
昔がどうだろうが今はとにかくそうだ。

まさに善人、上条と同じような『光の住人』。
妹達はもちろん、上条や一方通行達にとっても、決して足を向けられない恩人。


しかしその『恩人』は独白した。

過去の行いを。

そしてその過去の行いが今、巡りめぐってこの街の子供達を酷な世界に縛り付けているとは―――。

962: 2010/10/05(火) 00:21:25.83 ID:qhpTqigo
カエル「僕を憎んでくれてもかまわない。いや、僕はそうされるべきだ」

カエル「僕の行いが、結果的に君の手をも血で染め上げてしまった」

カエル「君を含む、多くの子供達を闇の底に突き落としてしまった」


カエル「『僕等』の罪を背負わないでくれ」


カエル「君はもう充分苦しんだ。充分苦痛を味わった」


カエル「『僕等』が撒いた罪でこれ以上、己を貶めないでくれ」


カエル「それは僕等のものだ」


カエル「アレイスターと僕の、だ」


一方「―――ッ!!!ざけンじゃねェぞクソがッ!!!!!!!!!!」

一方通行はこの男を『どう見れば』良いのかがわからず、たまらず苛立ち声を荒げた。

何が悪か。
何が善なのか。

誰が悪人で。
誰が善人なのか。

その線引きが、ラインが、境界が、彼の中であやふやになっていく。


話を聞けば、カエル顔の医者は悪人にもなり得る。

だがその一方で、アレイスターは善人にもなり得る。


皆が悪人であり、それでいて善人でもあるのか―――。

その視点で、『客観的』に己を見てしまったら―――。

そして『罪』の根源がカエル顔の医者の言う通りだとしたら―――。


一方「―――」


こんな己ですら―――。

963: 2010/10/05(火) 00:24:32.47 ID:qhpTqigo

一方「――――――ふッッッざけンじゃねェッッッ!!!!!!!!!!!!」


一方「―――俺は認めねェ!!!!!!!絶対に認めねェッッ!!!!!!!!!!」


彼の頭脳は、客観的にその答えを導き出してしまった。

だが一方通行は絶対に認めたくない。
氏んでも認めることができない。


カエル「本当にすまない。本当に―――」


一方「オマェに謝られる筋合いなンざねェッッッ!!!!!!」


一方「『コレ』は俺ンだ!!!!!俺のもンだッッッ!!!!!!!!」


そんなふざけた事。
理解できない。
理解したくも無い。


確かに、

確かに昨日のフィアンマとの戦いの中でも彼は感じた。
もう、悪人などヒーローなどどうのこうのはどうでもいい、守りたいから守る。

ただその為に戦う、と。

しかし。

それとこれとは別だ。


全く別すぎる。

964: 2010/10/05(火) 00:27:15.96 ID:qhpTqigo

何かを守る為に、無我夢中で戦う事は出来ても―――。


カエル「違う。もし君に罪があったとしても、君はもう充分やった。振り返るな」

カエル「君は自分自身の為、そして愛する者の為だけに、前だけを見るべきだ」

カエル「氏に場所を求めるような戦い方はもう止すんだ」

一方「―――」


自分を『認め』、自分の為に戦う事など―――。


カエル「妹達は。もちろんラストオーダーも。彼女達は君が生きる事を望んでいる」

カエル「罪を背負い、悔やみながら生きろという事では無い」

カエル「それとは別に、彼女達は君にただ純粋に生きて欲しいと願っている」

カエル「もう良いだろう?素直に応えてあげてk―――」


そんな事など―――。


一方「―――ッッッるせェェェェェェェェェッッッッッッ!!!!!!!!!」


彼が受け入れることなど到底不可能だった。


ある意味、『純粋すぎる』一方通行には―――。


一万の血に染まった己の手から、目を逸らす事など不可能だった。

965: 2010/10/05(火) 00:30:50.98 ID:qhpTqigo

肩を震わせ。
目を充血させ、顔を火照らせている一方通行。

今にもカエル顔の医者に飛びかからんとばかりに。

一方「二度とだ!!!!二度とンな口を聞くんじゃねェ!!!!!」

一方「次はそのクソ頭叩き潰してやる!!!!!!!!」

カエル「…………じゃあやってくれ。君が僕をやるべきだ。その権利がある」


一方「うるせェってンだよクソが!!!!!!!!黙れ!!!!!」



一方通行の隣で、黙って話を聞いていた打ち止め。

声を荒げた一方通行に体を一瞬ビクっとさせながらも、彼女は椅子から降り、
心配そうな表情で彼の背後に行き。


そして優しく握り締めようと、彼の漆黒の手に触れたが。



一方「――――――触ンじゃねェェェェッッッ!!!!!!!!!!!!!」

966: 2010/10/05(火) 00:33:05.32 ID:qhpTqigo

手を振りほどき、凄まじい剣幕を今度は打ち止めに向ける一方通行。

打ち止めはビクリと再び体を震わせたが、彼の瞳から目を離そうとはしなかった。
泣きそうな顔をしながらもジッと。

そんな彼女の大きな瞳を見た一方通行、少しずつ興奮が和らいできたのか、
深く息を吐き。

一方「……二度とだ……」

顔から感情の一切を消し去り、
少女から顔を背けドアの方へと向かいながら。

一方「……二度と俺に会いに来るんじゃねェ」

告げていく。


一方「―――二度と俺に近づくンじゃねェ」


そしてはっきりと示していく。


一方「二度と―――」


打ち止め「―――」



一方「――――――俺に触るンじゃねェ」



己が何たるかを。

967: 2010/10/05(火) 00:35:04.92 ID:qhpTqigo

そして。

打ち止めの方を一切見ず、カエル顔の医者にも一瞥もせず、
一方通行は病室を後にした。


その時後ろからは。


幼い少女の小さな泣き声が聞こえてきていた。
己の名を弱弱しくも何度も呼ぶ声も。

だがその声は彼の心には届かなかった。


いや、届いてはいた。

あの少女の声は、他の誰よりも彼の心を揺さぶる。


だからこそ。
だからこそ、彼は絶対に応えなかった。


彼は振り返らず。


足を止めずに、表情を一切変えずに廊下を進んでいった。


徐々に遠ざかり、
小さくなっていく少女の泣き声を聞きながら。

968: 2010/10/05(火) 00:37:11.32 ID:qhpTqigo

一方「…………」

先ほど激昂した瞬間。

カエル顔の医者の言葉を聞いた瞬間。

彼は一瞬だけ思い描いてしまった。


己が打ち止めと共に生きていく未来を。


己が、彼女と共に『普通』の生活をしている未来を。


一方「…………」

状況的にそれどころではないのに。

命と引き換えに、彼女と彼女の世界を守るだけで精一杯なのに。

己自身が彼女を傷つけてしまうのに。


己自身が、彼女達にとっての『最大の傷』であり『痛み』でもあるのに。

969: 2010/10/05(火) 00:37:57.56 ID:qhpTqigo

一方「……………………クソが…………」

彼は吐き捨てる。
そんな『生ぬるい夢』を描いてしまった己に対し。


彼は今一度、己の淡い『幻想』を叩き壊し。
この『願望』を一切認めずに。


己の背中にある『重り』を背負い直す。


あいつらを何が何でも守る『だけ』、『それだけ』だ、と。



近づく事など許されない、触れる事など許されない。



用が済んだらさっさと氏ぬべきだ、と。



―――『救い』などクソ食らえ、と。


―――

983: 2010/10/05(火) 23:38:44.26 ID:qhpTqigo
―――

学園都市。

午後九時。
とある病棟の一室。

病室の中央のベッドには、
患者衣を着たインデックスが蹲りながら小さな寝息を立てていた。

日中の、集中して行った解析作業により彼女はかなり疲たらしく、
この部屋に戻り夕食、シャワーに入った後すぐに眠りについた。
(ちなみに彼女の白い修道服その他は、先日の件でかなり汚れていた為、病院の洗濯に出されている)

もともと昨日の今日。
その時の疲労もまだ抜けきってなかったのだろう。

彼女は深い深い眠りについていた。

ベッドの傍らの椅子に座り、
彼女を見守っている上条の右手をぎゅっと握り締めながら。


上条「…………」


長く美しい青い髪を広げ、スヤスヤと心地よさそうに眠っているインデックス。
そんな『天使』の寝顔を、上条はボンヤリと眺めていた。

穏やかでありながら、どことなく影のある表情で。

984: 2010/10/05(火) 23:41:12.14 ID:qhpTqigo

上条「…………」

この青い髪。
改めて見ると、あの時の事を思い出す。

フィアンマとの攻防の終盤。

彼女の前に浮いていた魔法陣を破壊した直後、
上条・一方通行・ステイルを一瞬にしてねじ伏せたこの青い髪。

それまでのインデックスもかなり凄まじい力を行使していたが、
この青い髪が動き出したときは正に規格外だった。

手負いとはいえ、大悪魔に匹敵しうる三人をあっという間に制圧するとは。

一瞬だけの出来事であり『アレ』が全力なのか、
それとも極一部の片鱗に過ぎないのかはわからないが、これだけは確実だ。

あの時のインデックスは、明らかにあの場にいた三人よりも遥かに強かった。

もしかしたらフィアンマをもすら上回っていたかもしれない。

上条「…………」

985: 2010/10/05(火) 23:43:21.85 ID:qhpTqigo

インデックスが『タダ』の魔道図書館ではない、というのは上条も前から知っていた。

『今の彼』にはその時の記憶が無いが、
どうやら周囲の話を聞くと彼女は以前にも凄まじい力を行使したらしい。

先日の件でもステイルの反応を見る限り、
あの魔方陣が出現していた状態が当時と同一のようであるらしかった。

そこまでは良い。
その辺まではある程度は認識していた。

だが。

あの巨大な鞭のように伸びてはしなる青い髪は、想像を遥かに超えていた。
最早『人間レベル』ではない。

上条の経験から言わせれば、二ヵ月半前のベリアルやボルヴェルグと同等にも思える。

当時のステイルや神裂は、魔具等の力を受けた身を滅ぼしかねないドーピング状態であったからこそ、
かの大悪魔達とやり合えたのであって、現在の人外となっている二人でも再戦は不可能だ。
(当然上条は、現在の神裂が魔に転生し凄まじくパワーアップしているのは知らない)

上条「…………」

少し、いやかなりインデックスの事について考えを改めねばならない。

986: 2010/10/05(火) 23:45:21.26 ID:qhpTqigo

彼女は想像を遥かに超える、とんでもない『何か』を奥底に宿している。
今の上条では到底手に負えない『何か』を。

上条は、二ヵ月半前にこの凄まじい『世界』に飛び込んだ訳ではなかったのだ。


『最初』からだ。


最初から、この少女と出会ったその瞬間から、彼は既に飛び込んでいてしまったのだ。

そして知らぬまま過ごして来たのだ。

己の隣にいたこの少女が、『本物』の神に匹敵するレベルの力を秘めていた事を。

上条「…………」

上条は何も知らなかったのだ。

こんなに近くにいて。

彼女にもっとも慕われる者であったにも関わらず。


彼女の本質を何も。

987: 2010/10/05(火) 23:48:21.36 ID:qhpTqigo

上条「…………」

今思えば、奇妙な事もいくつかあった。
なぜ今まで疑問を抱かなかったのか。

まず、彼女が魔導書を際限なく記憶できること。
そういう体質・能力だと言われれば『ああそうか』、と今までは返してきたが。

今ここではこう思う。

『何で』そういう体質なのか、と。
『どうやってるのか』、その『メカニズムは?』、と。

更に、これは二ヵ月半前にわかった事だが、
彼女の記録の中には悪魔関係のかなり危険な術式もあるようだ。

触りしか聞いていないが、それらは『魔剣の精製』等の規格外の代物らしい。
使い方によっては容易くこの世界を破壊できる術式達だ。

そして上条は続けてこう思う。

インデックスが学園都市に留まり、
己が保護者・護衛、そして『暴走』を止める『首輪』代わりとして預けられたらしいが。


当時の右腕一本しか武器がなかった『己程度』が、そんな大役などどう考えても担える訳がない、と。


イギリスの判断は明らかにおかしい。


どう考えても。

988: 2010/10/05(火) 23:50:55.27 ID:qhpTqigo

バージルのような者ですら、彼女の頭の中にある代物を必要としていた。
そうならば、普通に考えて他の悪魔達が襲撃してくる可能性だって当然あったはずだ。

上条の右手が全く意味が成さない、『本物』の悪魔が。

今でこそフロストレベル等ならば瞬殺できるが、当時の上条だったら逆に瞬殺されている。

悪魔でなくとも、聖人のような者がインデックスを狙って来ていたら、
上条ではどうしようも無かったはずだ。


そしてインデックスの武器化したあの青い髪。

あれに右手が利くかどうかはわからないが、そんなことを試すのは不可能。
今の悪魔化してる上条ですら反応できない速度なのだから。

昔の上条なら、文字通り『何が起こったかわからないまま』木っ端微塵だ。


だから彼は思う。


護衛であり『暴走』を止める『首輪』の役、というのはおかしい、と。

989: 2010/10/05(火) 23:53:13.45 ID:qhpTqigo

またこれは以前から思っていたことだが、インデックスがイギリス清教の最重要の存在なのに、
彼女が何か危機・もしくは事件に巻き込まれても
当のイギリス清教はあまり動かない、という事だ。

いつも小規模の人員、しかもギリギリの分しか派遣してこない。

上条の認識ならば、それこそ大部隊を送り込んで大規模な保護作戦を行いそうなものであるが。
というか、本当に彼女に『保護と護衛』が必要ならば、そもそも学園都市になどに置いたりはしないはずなのだ。


そこから一つだけ確かな事がわかる。
イギリス清教の上層部、もしくはトップの最大主教はこう思っていたはずだ。


インデックスには護衛も保護も必要無い、と。


さすがに二ヵ月半の前のような事態では、
ダンテ側と共同で動き本気でインデックスを回収しようとしたらしいが。

あのレベルでもない限り、インデックスは基本的に『単独』でも切り抜けられる、と。


恐らく追い詰められた最後の最後には、
先日見た究極の防御機構のような何かが発動するのだろう。

そして圧倒的な力を持って、彼女に危害を加えようとした『愚か者』を叩き潰すのだ。

一方的に、だ。

990: 2010/10/05(火) 23:56:44.40 ID:qhpTqigo

上条「…………」

上条はそんな事を考えながら、
とてもそんな力を秘めているようには見えない、この可愛らしい少女の寝顔を見つめていた。

ステイルとの会話が思い出される。
彼は言った。

『彼女を救ってくれ』、と。

上条は改めて認識し直す。
彼女を固く縛っている、その『鎖』のとてつもない頑丈さを。

どうすれば良いのか。

己程度で彼女を解き放てるのか。

上条「…………」

だが彼は、この目の前の困難に打ちひしがれてはいたが、
決して諦める事は無い。
そんな選択肢など元々彼の中には存在していない。


少年は改めて決意する。

己自身は絶対に人間には戻らない。

彼女を戦火の『中心』から救い上げる『まで』は。

戦いの連鎖から解き放つ『まで』は。

魔に完全に食われてでも、必要な限り使える力は使い続ける。

例え命を落としても。


それで彼女が救われるのならば何も『問題』は無い、と。

991: 2010/10/06(水) 00:01:23.76 ID:Ip2Ds8co

上条「…………」

と、そうしていた時だった。
病室のドアがゆっくりと静かに開き、
ステイルが指先で小さな炎を弄びながら室内に入ってきた。

ステイル「君もシャワーに行くといい。その間は僕が見てる」

そしてインデックスを起こさぬよう、小声で上条に向けて口を開いた。

ステイル「少し匂うしな。君は」

上条「はは……悪いな。俺はまだいくらか人間の部分が残ってるからよ。あれだけ動けば汗臭くもなるんだ」

ステイル「まあ、僕の鼻が効き過ぎてる事もあるがな。どうにも人間の時よりも敏感になりすぎてる」

ステイル「君の体臭を鼻いっぱいに吸い込み、否応無く『堪能』してしまう僕の気持ちがわかるか?」

上条「ははは、悪い悪い」

上条は軽く笑いながら、ゆっくりとインデックスの手を解いて椅子から立ち上がり。
ステイルとすれ違うようにドアの方へと向かったその時。

ステイル「…………………待て」

ステイルはその瞬間ある匂いを捕らえ、やや強めの口調で上条を留めた。

何の匂いか。

それは『血』。

生温い、『鮮度』の良い血と肉の香り。

992: 2010/10/06(水) 00:03:13.38 ID:Ip2Ds8co

上条「ん?」

そしてステイルはその匂いの元を捕らえ。

ステイル「…………篭手。外してけ」

覆いかぶさり、『源』を隠している金属生命体製の篭手を外すよう上条に促した。
やや強めの口調で。

上条「…………ここでか?」

ステイル「ああ」

上条「いや、脱衣所で外すから(ry」

ステイル「良いから今外せ」

上条「…………………………わかったよ」

強く押してくるステイルに負け、
上条はその場で右手を覆っている篭手を手際よく外し始めた。

上条「…………ッ…………」

少し顔を歪ませながら。

そしてステイルは見た。

魔界製の金属生命体の篭手が引き剥がされていく瞬間を。

それはただ包んでいただけではなかった。
無数の針が伸びており、上条の右腕に深く食い込んでいた。

がっちり固く肉に食いつき。

993: 2010/10/06(水) 00:04:57.47 ID:Ip2Ds8co

あまりにも痛々しい光景なのだが、上条は軽く眉を顰めただけで、
手馴れた動作で針を引き抜いては、ぶちぶちと引き剥がしていった。

そして露になった『生身』の右手。


ステイル「……………………」


普通なら目を背けたくなるほどに生傷だらけ。

生々しい打撲跡、裂けた皮膚。
血はまだ乾かず、その傷口の中の『肉』は未だに湿っていた。

それらの下には、大量の直りかけの傷や古傷。

更にそれだけではない。

腫れ具合から見てもまず確実に筋繊維のかなりの断裂、
それどころか、骨が折れているか少なくとも骨にヒビが入っているように見える。


ステイル「………………」

上条「…………まあ…………こんな感じだ……」

ステイル「………………右手は……人間のままか?」

上条「ああ。手首から上は『純正』だ」

上条「その下も、肘の辺りまではかなり人間の割合が大きい」

上条「二の腕から肘までは完全に悪魔化してるんだけどな。肘から先がやっぱり中々……」

994: 2010/10/06(水) 00:07:49.48 ID:Ip2Ds8co

ステイル「…………新しい傷は昨日のか?」

上条「…………多分な」

ステイル「多分だと?」

上条「いや、なんというか…………わかんないんだよな。デビルメイクライの時の傷がまだ全部治り切ってないしな」

ステイル「…………」

傷が治っていないからわからない。
それはつまり。

常に激痛に襲われているという事だ。
新しく傷を負っても分からない程の。

ステイル「……手当てを…………する必要があるな」

上条「いやいや、別にいいぜ」

そんな事など一切表に出さず、上条はいつもの笑顔を浮かべる。

上条「見た目ほどじゃねえんだ。骨がいっちまってもこの篭手が補強してくれるし」

ステイル「(…………骨…………)」

上条「どういう原理かはわかんねえけど、食い込んでる針が血を止めてくれるし、消毒もしてくれてるらしい」

上条「この篭手をつけてれば、そこらの手当てよりも全然効果があるんだ。治りもそこそこ早いしな」

995: 2010/10/06(水) 00:12:38.98 ID:Ip2Ds8co

ステイル「…………」

さらりと、上条は別になんでもないように言葉を続けた。
ステイルに心配させないよう、明るく振舞いながら。

実際に、彼本人は本当にそれほど重要には思っていないのだろう。

ステイルからすれば、どう見てもそうは思えないのだが。

まあ、普通に考えて『この有様』でなければおかしい。

先日のフィアンマとの戦いの際も上条は、魔の物である両足左手に比べればかなり劣るが、
それでもこの右手も凄まじい速度で振るっていた。

1mに満たない距離の中で、『悪魔化してる二の腕まで』の力で音速近くにまで押し出す凄まじい加速度。
更にその速度での激突による衝撃。

いくら周りを強固に補強していたとしても、
やはり『それ自体』は『無強化』である、生身の人間の肉や骨が耐えられるわけが無い。

篭手があるからこそこの程度で済んでいるのであって、
篭手が無ければその加速度で一瞬にして、熟れたトマトのように弾け押し潰されてしまうだろう。

まあこの程度、と言っても、見ればわかるとおりとんでもない損傷具合だが。

悪魔と人間の痛みの『感度』は、経験者のステイルから言わせれば基本的に同一だか、
その痛みの『捕らえ方』が全く違う。

悪魔は痛みに慣れ、最終的には全く気にしない事もできる。
『苦痛』ではなく、タダの『肉体の損壊信号』として捕らえられるようになれる。

だが人間は違う。
小さな傷はまだしも、こういう大きな傷に慣れる事はまず無い。
意識と痛みを『分離』することは不可能に近い。

人間なのに痛みを意識しなくなってしまったら、それは慣れたのではなく『麻痺』・かなりの興奮下の『トランス状態』であり、
判断力の低下等々重大な障害が起こっている可能性が高い。

更に悪魔は短時間にして治癒する為、
その痛みもすぐに消え去るが、人間はそうもいかないのだ。

996: 2010/10/06(水) 00:15:18.90 ID:Ip2Ds8co

上条「はは……気味悪いもん見しちまって悪いな」

その痛みが今も猛威を振るっているにも関わらず、
相変わらずのノリで笑う上条。

上条は袖を下ろして右手を隠しつつ、苦笑しながら再度ドアの方へと半身を向け。

ステイル「いや…………」

上条「じゃ、行って来るぜ。インデックスを頼む」

ステイル「…………待て。先に話しておきたいことがある」

上条「?」

ステイル「…………後にしようと思っていたが気が変わったよ。今話す」

上条「へ?」

ステイル「インデックスの事についてだ。君も知っておくべき事だ」


上条「…………」


ステイル「僕らが見た、あの『青い髪』の攻撃に関する事だ」


上条「…………」

997: 2010/10/06(水) 00:17:25.16 ID:Ip2Ds8co

ステイルは一度小さく咳払いした後、ゆっくりと口を開き始めた。

一語ずつ確認しながら。

ステイル「まず最初に結論を言う。確実ではないが、状況証拠的にもう否定しようが無い」

上条「…………何だ?」



ステイル「インデックスはアンブラの魔女だ」



上条「あんぶら…………魔女?」


ステイル「…………まずはそこからか」

首を傾げてる上条へ向け、
ステイルは己の持っている知識と経験の範囲内で簡単に説明した。

かつて人間界に、アンブラの魔女と言う勢力が存在していたこと、
その勢力の者達は魔の力を使い、上位の者になれば普通に大悪魔クラスの力を行使すること、
ある時、天界の総攻撃によって文明としては滅んだが、一握りの頂点クラスの強者が生き延びていたこと、

ステイル自身の経験では、ヴァチカンに現れた魔女達はそれこそスパーダ一族のような規格外の力を有していたこと、
その際に見た攻撃の仕方が、インデックスのあの髪を使った攻撃にかなり類似、いや、完璧に同一だったこと。

そして。

イギリスの最大主教ローラも魔女であった事と。

インデックスと彼女の異常な程の『何か』の繋がりを。

誰も『気づかなかった』、『意識できなかった』二人の瓜二つの顔について。

998: 2010/10/06(水) 00:20:14.68 ID:Ip2Ds8co

上条「………………ッ…………!!!!………………なッ…………はぁ!?」

いきなり、しかも一気に言われ、
頭がついていかない上条は言葉が出なかった。

上条「ま、待て……!!」

己の額に軽く左手を当てながら、
ステイルの言葉を脳内で反芻し、確認していく。

上条「…………は…………えっとよ…………あーっと……あの最大主教とインデックスが……?」


上条「確かに結構似てる気もするが……そこまでか?」

ステイル「……君でもってしても完全に『破れ』てなかったのか」

『結構似てる』という印象を持っている以上、
少なくとも以前のステイルよりも認識は強いようだが。

やはりあの二人の関係性に覆いかぶされている『ベール』からは、
上条ですら完全に逃れられていないらしかった。


ステイル「…………」

ステイルの推測だと、このベールは恐らく視覚から進入し脳に影響を及ぼす術式。

光に乗せられているような感じだろう。

そしてその光を捉えた者の脳、
二人の容姿に関する認識には永続的に術式がかかり続ける、といった形だろう。

999: 2010/10/06(水) 00:23:24.63 ID:Ip2Ds8co
空間そのものに直接かかる術式ならば、
ヴァチカンにてステイルは魔女モードのローラの姿を見ても、
この容姿の類似を認識できなかったはずだ。

ステイルが認識できたのは、『ベールに包まれていない』光を捉えたことによる『矛盾』で、
彼の認識を縛っていた術式が破綻をきたし崩壊した為だ。

それに空間そのものに直接かかる術式ならば、
上条は気づかぬ内に右手で周囲の空間を浄化し、術式を打ち破ってるはず。

つまり上条の今の状態も、この術式が光に乗せられている事を裏付けている。

上条の右手は、何らかの物理現象に付加されて形を伴っている術式は、
直接触れないと打ち消すことができないのだ。


ステイル「…………」

そうなれば。

上条がこの術式から逃れるには頭に触れれば良い。
それが駄目だったら頭をかち割り、直接脳に右手を突っ込む。


普通の人間なら氏ぬが、今の上条ならばできる。
『多少』苦しいだろうが。

1000: 2010/10/06(水) 00:24:07.21 ID:Ip2Ds8co
Jack pot!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

979: 2010/10/05(火) 13:34:47.32 ID:.VzZuDEo
ふおぉほおおおおおおおおおお
泣いちまったぜ・・・・いいねいいねぇ、最っ高だよぉ!!

次も待ってるぅ('ω`)

980: 2010/10/05(火) 23:03:18.74 ID:oOOBuEA0
もう埋めちゃっていいのかな?

981: 2010/10/05(火) 23:04:33.52 ID:TMmOcj60
どうなんだろね。次スレへの誘導は残しといた方がいいんじゃないかと


 次回へ続く:【禁書×DMC】ダンテ「学園都市か」【その20】


引用: ダンテ「学園都市か」【MISSION 05】