1: 2010/10/05(火) 23:32:58.52 ID:qhpTqigo


最初から読む:【禁書×DMC】ダンテ「学園都市か」

前回:【禁書×DMC】ダンテ「学園都市か」【その19】

一覧:ダンテ「学園都市か」シリーズ

「デビルメイクライ(+ベヨネッタ)」シリーズと「とある魔術の禁書目録」のクロスです。

○大まかな流れ

本編 対魔帝編

外伝 対アリウス&口リルシア編

上条覚醒編

上条修業編

勃発・瓦解編

準備と休息編←今ここの後半(スレ建て時)

デュマーリ島編

(ここより予定。変更する場合も有り)

学園都市編(デュマーリ島編の裏のパートです。こんがらってしまうので、デュマーリ島編から分離して進める予定です)

創世と終焉編(三章構成)

ラストエピローグ


○ダンテ「学園都市か」で検索すればまとめて下さったサイトが出てきます。
編名も一緒に検索すると尚良しです。
ARTFX J デビル メイ クライ 5 ダンテ 1/8スケール PVC製 塗装済み完成品フィギュア

7: 2010/10/06(水) 00:31:06.82 ID:Ip2Ds8co

ステイル「…………いいか、僕が今言った事、強く意識しつつ右手を頭に当ててみろ」

ステイル「できるだけ強く意識しながらな」

上条「お、おう……」

怪訝な表情をしながらも、傷まみれで震えている右手を額に軽く当てる上条。

その瞬間。


上条「―――う、嘘だろ…………!!?」


ようやく完全にこのベールを打ち破り。
上条はやっと認識する。

二人の顔の類似を。


ステイル「…………」


上条「―――似てるってもんじゃねえぞ…………親子……姉妹レベルじゃねえか…………」


上条「い、いや、双子ってくらい激似だぞこれ…………」


ステイル「…………」

どうやら上条は、
直接脳に右手を突っ込む展開は避けられたようだ。

8: 2010/10/06(水) 00:33:50.56 ID:Ip2Ds8co

上条「ど、どういう事だよ……!まさか本当に最大主教の妹とか娘かなんかか?!」

ステイル「いや……そこは確実な事は何も……」

ステイル「確かなのは二人ともアンブラの魔女、という事だ。だから何らかの血の繋がりがあってもおかしくない」

上条「…………」

ステイル「……いいか、僕らは彼女の『力』に対する考えを、根本から改める必要がある」

ステイル「彼女は『後天的』に、完全記憶能力やあのような力を身に宿した訳ではないかもしれない」

ステイル「『禁書目録』になる為に『人体改造』された者ではないのかもしれない」


ステイル「それらは全て、彼女自身の『生まれながら』の部分に起因しているかもしれない」


ステイル「あれは彼女自身の『本当の力』かもな」


ステイル「僕らが見てきた今までの姿の方が、『偽り』だったという訳なのかもな」

9: 2010/10/06(水) 00:36:12.51 ID:Ip2Ds8co

上条「…………」

そう、この事実はインデックスの認識が根本から崩れていく。

そして。


『彼女を救う』、という事を更に困難にしていく。


インデックス彼女自身がその力。
今やっと、その本当の姿が見え始めてきた。

ステイルの言葉通り、
インデックスの存在そのものが上条の考えていた『諸悪の根源』だったら。


『本当のインデックス』自身が、彼女の身に降りかかる災いの源だったら―――。


どうやって『彼女』を『解き放て』と―――。


どうしろと―――。

10: 2010/10/06(水) 00:40:03.81 ID:Ip2Ds8co

ステイル「……………………」

上条「……………………」

ステイル「…………他にも伝えることはある。実はな、ローラ=スチュアートと僕、そしてインデックスは―――」


ステイル「―――反逆の徒として、イギリスから国家の敵と認定された」


上条「―――…………は?」


ステイル「僕らはもう帰る場所が無いんだ」

ステイル「残された居場所はこの忌々しい街だけだ」


ステイル「いまや、イギリスは僕らの敵だ」

ステイル「全軍にこう命じられている。『ローラ=スチュアートとステイル=マグヌスは発見次第殺せ、』」


ステイル「『禁書目録は四肢を落とし、舌をそぎ落とした後に回収しろ』、とね」


上条「な、なんでだよ!!!!!どうしてそんな―――!!!!!!??」


ステイル「『魔女』だからさ」


上条「―――…………ッ…………!!!!!」

11: 2010/10/06(水) 00:43:16.46 ID:Ip2Ds8co

ステイル「つまり僕は魔女の『使い魔』」

ステイル「インデックスも、話によるとローラ=スチュアートがどこからともなく連れて来て擁立したらしいしな」

ステイル「彼女の本当の身分はローラ=スチュアートしか知らない、」

ステイル「そしてローラ=スチュアートは魔女だった」

ステイル「後はわかるな?イギリスがどう思うかが」

上条「だ、だがよ……!!!そんな…………!!!?」

ステイル「もう一つ言うとだ。十字教国家は基本的に天界の強い影響下にある」

ステイル「使用魔術も、天界の力を借りているものばかりだ」

ステイル「イギリスは最近になって魔界魔術も使うようになったが、」

ステイル「それでも直接国を纏めている基盤は天界魔術」

ステイル「カーテナ等も全て天界の支援の元にある産物だ」


ステイル「そして天界とアンブラの魔女は仇同士だ。決して相容れない」


ステイル「決して、だ」


上条「…………」

12: 2010/10/06(水) 00:45:43.13 ID:Ip2Ds8co

ステイル「イギリス清教、いや天界に起因する魔術サイドの者は、基本的に全員敵と思え」

ステイル「君が親しい天草式も。無論、土御門もだ」

上条「……………………………………………………」

ステイル「それと…………これも言っておこう。今日からのトリッシュ達に協力する作業あるな、」

上条「ああ…………」

ステイル「君は席を外していたから聞いていないだろうが……いや、聞いていたとしてもわからないだろうが」

ステイル「あれはフォルトゥナの、ネロの恋人にかけられた術式を外す為のものだという所まではわかるな?」

上条「そこまでは……聞いたぜ」

ステイル「その術式というのがな、首謀者に傷を付けると彼女も傷を負ってしまう、という代物だ」

上条「…………」

ステイル「その首謀者が、今の大戦を引き起こした張本人の一人でもある」

上条「…………!!」

ステイル「更に現在は『まだ』人間同士の戦争だが、その者の手によって近い内に魔が割り込んでくる。魔が人間界を席巻する事になる」

上条「なッ…………!!!!!!」

ステイル「それで、トリッシュ達は彼女にかけられた術式を剥がそうとしている。そうしないとネロが動けないからな」

上条「…………な、なるほど……」

13: 2010/10/06(水) 00:48:15.83 ID:Ip2Ds8co

ステイル「その一方でだ」

上条「……………………まだ何か……あるのか?」

ステイル「その首謀者は、天界の口を開こうとしている」

上条「…………天界……」

ステイル「天界と魔を激突させ、恐らくそこから更なる戦火を招こうとしているのだろう」


上条「!!!!!!!」


ステイル「なぜそうするかの理由は想像も付かないがな。知りたくも無い」

ステイル「そして更にだ。天界は―――」


ステイル「―――この学園都市をも潰そうとしている」


上条「―――…………」

ステイル「能力者の殲滅のためにな。詳しくは知らないが、魔女と同じく能力者も天界にとっては究極の敵として見なされている」

ステイル「いいか、『あの魔女』達が大勢いたアンブラの都を、天界は一夜で滅ぼしたんだ」

ステイル「それと同規模の総攻撃が行われれば、学園都市など一時間もしない内に人間界から完全に消えるだろうさ」

ステイル「この街の全ての能力者と共にな」


上条「……………………」

14: 2010/10/06(水) 00:51:12.84 ID:Ip2Ds8co

ステイル「君はわかるだろう?実際にガブリエルの力を目の当たりにしたらしいからな」

上条「ああ…………夏にな…………」

ステイル「そのレベルの連中が大勢、『本体』をもって『直接』人間界に降臨する」

ステイル「『本当の力』をもって、だ。君や神裂が相対した時よりも強大だろうよ」

ステイル「更にその十字教の四大天使を遥かに上回る、規格外の存在もいるらしい」

ステイル「その軍勢に学園都市が対抗できると思うか?」

上条「…………む、無理だな…………で、でもよ!!!!それだけの事ならダンテ達が動くんじゃねえのか!?」

ステイル「確かにダンテ達なら、その軍勢を簡単に蹴散らす事ができるだろう」


ステイル「だがその『戦場』が学園都市だ」


上条「…………ッ……」

ステイル「…………聞いた話だがな、かつて魔女の中にも、天界の誰にも負けぬ強者が何人かいたらしい」

ステイル「だがな。天界の軍勢は奇襲をかけ、都に直接降りてきたらしい」

上条「…………つまり…………その魔女達は全ての力を解放できなかった…………と?」

ステイル「そうだ。あまりにも強大すぎる力は、周囲の守るべき存在をも巻き添えにして滅ぼしてしまう」

上条「じゃ、じゃあよ、二ヵ月半前みたいに別の世界で戦ったら……」

ステイル「…………あれは魔帝自身が己も全力になる為に招いたのだろう?今回、こちらが用意しても天界側が素直に来ると思うか?」

ステイル「この奇襲・相手方の力の制限が、彼らにとっての最大の武器でもあるのにだ」

15: 2010/10/06(水) 00:53:22.03 ID:Ip2Ds8co

上条「…………」

ステイル「大体にして、僕達には新しく『戦場』を作る力も方法も無い」

ステイル「あれは魔帝の底無しの力と『創造』があったからこそ、可能だった事だろ」

ステイル「ダンテ達もそれは不可能だろうよ」

ステイル「もしできるのならば、もしその分野に干渉できるのならば、」

ステイル「わざわざああやって人間界への負荷を警戒するような戦い方はしないだろ」

上条「……」

ステイル「それ以前にだ」

ステイル「スパーダの一族は、天界の件については動かない可能性も考えられる」

上条「……は?」

ステイル「アンブラが滅亡した時、天界の大攻勢をスパーダは黙認してたらしいからな」

上条「…………」

16: 2010/10/06(水) 00:54:34.16 ID:Ip2Ds8co

ステイル「今の学園都市の置かれている状況は、アンブラ滅亡時とかなり酷似してるらしい」

ステイル「有史以前から長きに渡って続けられてきた、天界の力の支援による能力者狩も、スパーダは黙認し続けたらしい」

ステイル「それに今回の天界の目的には、人間界に蔓延し牙を向いている魔の廃絶もある」

上条「…………」

ステイル「要するにだ、人類という『種全体』の保護を掲げているスパーダの一族にとって、」


ステイル「必ずしも天界が敵とは限らない場合も充分考えられる」


ステイル「少なくとも。少なくとも天界側は、彼らは今回も手を出して来ないと思ってるんだろう」


ステイル「今まで『通り』にな。過去という『現実』がそれを『証明』している」


ステイル「むしろ魔の廃絶に関しては、自分達をスパーダ一族への『援軍』と思っているかもな」


上条「…………」

17: 2010/10/06(水) 00:56:41.83 ID:Ip2Ds8co

上条「…………じゃ、じゃあどうするんだよ…………始まっちまったら、インデックスをここには置いておけえねえぞ……」

上条「天界は魔女も目の仇にしてんだろ…………『ミーシャ』みたいな連中が大勢来たら、俺らだけじゃ手の打ちようがねえぞ……」

上条「どこか遠くに逃げるしか…………この街の皆もどこかに…………」

ステイル「230万もの『忌まわしき避難民』をどこが受け入れる?天界によって監視されているこの人間界の中で」

ステイル「どこに逃げても一緒だ。散り散りになっても結局は追い詰められて殲滅される。それこそ魔界にでも逃げない限りな」

ステイル「そして、魔界ははっきり言って『どこよりも』危険だ。獣がひしめく檻に裸で入っていくようなものだ」


上条「………………………………」


ステイル「……永久の安寧の地など、今のインデックスにとってはどこにも存在しないんだ」


上条「………………………………」


ステイル「…………だがな、学園都市側もただ怯え縮こまっている訳ではない」

上条「…………?」

ステイル「アレイスターが天界の口が開く前に、決着をつけようとしているんだがな…………」

上条「アレイスター……って……?」

ステイル「君程の者がまだ会ったことが無いのか?この街の最高権力者に」

上条「名前だけは聞いていたがまだ……」

18: 2010/10/06(水) 00:58:29.89 ID:Ip2Ds8co

ステイル「まあいい。そこは後だ」

ステイル「アレイスターは、その天界の口を開こうとしてている者をどうにかしようとしている」

ステイル「どうやるか等の詳細は聞いていないが、土御門やアクセラレータ達と共同でな」

ステイル「恐らく、主要戦力を総動員してその首謀者を強襲する、といった感じだろう」

上条「ほんとか!!?………………ってちょっと待て…………」

上条「た、確かその天界の口を開く奴には手が出せないんじゃ…………ネロの恋人の件が片付くまで…………」


ステイル「……………………………そうだ」

上条「………………それって……かなりマズイんじゃないか?」

ステイル「……………………さっき立ち聞きした限りじゃ、トリッシュ達は恐らく知っている」

ステイル「学園都市側は知らないだろうがな。そもそも知ってたら、まず先にあのネロの恋人をどうにかしようとしてくるだろう」

ステイル「今の学園都市はな、天界の口の開放を防ぐ為ならば手段を選ばない状況だからな」

ステイル「大戦が始まっているのにも関わらず、そしてここから更に過酷な戦況になるとわかりつつ、」

ステイル「主要な戦力を学園都市の防備ではなく、そちらに裂くぐらいだからな」

上条「…………………………」

ステイル「………………」

19: 2010/10/06(水) 00:59:32.85 ID:Ip2Ds8co

ステイル「…………と、まあな。僕が知っている範囲内での今の状況はこんなところだ」

上条「…………」

一通りの状況説明を聞いた上条。
その表情は曇り、まるでどん底に叩き落されて絶望しているかのようだった。

状況はかなり複雑。
その上、どれも頭を悩ます重すぎる事柄ばかり。

いつもならば、パッと己が進むべき道が見えるのに。
今までは、迷い無くストレートに決断できたのに。

今は全く考えが纏まらない。
その道が『見えない』。

何をすればいいのか、どうすればいいのか。

どの行動が良くて、どの行動が悪いのか。

どれが正解で、どれが間違いなのか。


そして。

誰が味方なのか、どこの側につけばいいのかが。

20: 2010/10/06(水) 01:00:46.12 ID:Ip2Ds8co

上条「…………」

手をこまねいて待っているのはもちろん駄目だ。
そんな事などできない。

しかし。


何も決断できない。


何も判断できない。


答えが導き出せない。


己の考えに疑問を持ってしまう。


それでいいのか、と。


己を信じ切る事ができない。

21: 2010/10/06(水) 01:03:39.57 ID:Ip2Ds8co

さながら地球に落下する超巨大隕石を、人々がぼんやりと見ているかのように。
その迫り来る終末の時を呆然と見つめているかのように。

どうしようもなかった。

何も思いつかない。


何も。



上条「…………」

夕方にニュースをぼんやりと見ていた時、この騒乱は始まりに過ぎないと思っていた。
ここから更なる問題が出現するすると確信していた。

だがその『壁』は、想像を遥かに超える代物だった。

手の付けられないあまりにも巨大な、だ。


己の小ささを、矮小さを改めて思い知る。


己とインデックスの置かれていた状況は、想像を絶する崖っぷちだったのだ。


そんな上条の心の内を悟ったステイル。

ステイル「…………僕もだ……」

深く息を吐きながら彼の苦悩に同調する。

ステイル「僕もわからないんだ…………どうすればいいのかがな…………」

上条「……………………………クッソ…………」

22: 2010/10/06(水) 01:07:12.50 ID:Ip2Ds8co

ステイル「…………一応、これだけは意識しててくれ」

上条「…………」


ステイル「バージルはどうやら魔女と繋がっているらしい」

ステイル「その一方で、彼はフィアンマを守ろうとしていた」

ステイル「インデックスをフィアンマに攫わせようとしていたのかもしれない」

ステイル「そしてこれは僕の個人的な解釈だが、ダンテやネロ達の側は天界の大侵攻をあまり重要視していないようにも思える」

上条「…………」


ステイル「もう誰が『どちら側』なのか、『敵』か『味方』なのか、というのは考えるだけ無駄だ」


ステイル「―――誰も信じるな」


ステイル「―――例外は無い。もちろん僕をもだ」


ステイル「常に疑いを持て。己以外を頭っから信用するな」


ステイル「君は己だけを信じ、インデックスの事だけに意識を集中しろ」


上条「……………………………………………………」

23: 2010/10/06(水) 01:09:06.73 ID:Ip2Ds8co

無言のまま口を引き締める上条。

ステイル「そして、今一度約束してくれ」

そんな彼の瞳を見つめステイルは言葉を続けた。


ステイル「決して―――」


ステイル「―――決してインデックスの事だけは何があっても諦めない、と」

すがりつくような願いの意思を篭めて。


上条「…………………………当然だろ」


上条「…………俺は絶対に諦めねえ」


上条「今は何もわかんねえ。わかんねえけど―――」


上条「―――諦めてたまるか」


上条「学園都市の事も。皆の事も―――」



上条「―――そしてインデックスも」



上条「―――絶対に諦めねえ」

24: 2010/10/06(水) 01:11:15.91 ID:Ip2Ds8co
ステイル「…………フン…………」

こんな絶望的状況を聞かされた直後に。
そして頭の中も絶望に満ちているはずなのに。

それでも潰えない上条の奥底の炎。

それを垣間見たステイルは小さく笑った。
今度は安堵の気持ちを篭めて。

ステイル「………………今はここまでにしておこう」

ステイル「やや長くなってしまったな。君はシャワーを浴びて来るんだ。少しは頭もすっきりするだろう」

上条「…………ああ」

ステイル「いや…………」

上条「………………?」

ステイル「最後にもう一つだけ良いかい?君自身について聞きたい事がある」

上条「……何だ?」



ステイル「いつからだ?どこまでだ?」



ステイル「『覚えていない』のは」



上条「―――…………ッ…………」

25: 2010/10/06(水) 01:13:41.71 ID:Ip2Ds8co

上条「……………………………俺が覚えている一番古い記憶は…………」


上条「…………七月二十八日の病院だ」


ステイル「……………………となるとだ。彼女に会った時の事は何も覚えていないんだな?」

ステイル「彼女を初めて守った時の事も」

上条「…………ああ。七月二十八日以前は何も」

ステイル「………………」

上条「………………」

ステイル「……彼女は知っているのか?」

上条「…………俺からは何も言ってないが……」

上条「…………今は……わからない」

ステイル「……………………チッ…………君には本当に呆れるよ……」

上条「……………………すまん……」


ステイル「………………まあ今は………………君を思いっきりぶん殴るのは保留しておこう」

ステイル「ここで騒ぐ訳にもいかないしな。その話は後だ……さっさと行って来い」


上条「……………………ああ」

26: 2010/10/06(水) 01:15:49.08 ID:Ip2Ds8co

上条は小さく返事をした後、ドアを抜けて病室から出て行った。

ステイル「…………」

彼が抜けていった後も、
そのドアをしばらく見つめていたステイル。

その後、深く息を吐き呆れながら赤髪を一度掻き揚げ。

ステイル「…………君は本当に馬鹿野郎だな……」

小さく呟いた。


上条が何で隠していたのかは容易にに想像付く。
それに対し言いたい事がたくさんある。
一気に罵り捲くし立てたかった。

君はインデックスを舐めてるのか、と。

君はインデックスを馬鹿にしてるのか、と。

なぜ彼女が、君をここまで慕っているのかわからないのか、と。

ステイル「……本当に…………馬鹿だ。大馬鹿野郎だ……馬鹿めが…………」

ドアに向けて彼は何度も呟いた。

何度も。

何度も。



背後のベッドの上に横たわっているインデックスの目が。

己が入って来た時から、薄く開いていた事に気づかずに。

そしてゆっくりとその目を閉じ、再びまどろみの底へと戻っていった事に。

―――

44: 2010/10/11(月) 23:18:23.28 ID:IxADFqYo
―――

とある深い森。

地平線スレスレの太陽から、
分厚い雲を潜り抜けるように斜めに朝日が差込み、
常に薄暗いこの地が最も明るくなる時刻。

冬の澄んだ大気によって、淀みのない『清潔』な光が真っ直ぐと降り注ぐ。

森の中に、孤島のように聳えている古めかしい洋館も、
この時だけは光を浴びてその姿を清める。

そんな洋館の中。

ある小部屋にて、五和はふと目を覚ました。

五和「…………」

壁に半ば寄りかかるように寝そべっていた五和。
彼女の上には、一枚の厚手の毛布が掛けられていた。

五和「…………」

ぼんやりとした眼差しで、小部屋の中をゆっくりと見渡す。
一方の恐らく東側の壁には小さな窓。

そこから朝日がレーザーのように差込み、
室内を舞うほこりを照らし上げながら彼女の足先に落ちていた。

その反対側の壁には、
質素でありながらも精巧な掘り込みがなされているドア。

五和「…………」

そこまでを見て、五和はようやく脳を覚醒させていき、
己の置かれている状況を思い出し始めた。

45: 2010/10/11(月) 23:20:06.56 ID:IxADFqYo

いくらか睡眠をとったおかげか、思考が徐々に明晰になっていく。

五和「…………」

己はここに連れてこられた。
神裂を軽々と屠り、ステイルを一蹴した怪物染みた女達に。

その後は嘆き。

その後は嘆くのすらやめ。

その後は呆然とし。

絶望するのもやめ。

そして。


五和「…………………プリ……エステス…………?」


女教皇を見た。

生きている神裂を見た。

彼女は、己の抱きかかえていた鞘に七天七刀を納め。

泣きじゃくる己を優しく、頭を撫でながら慰めてくれ。

それから。

それから―――。

46: 2010/10/11(月) 23:21:10.53 ID:IxADFqYo

五和「―――」

完全に眠気が吹き飛んだ五和。

目を見開き、己の上に掛けられていた毛布を勢い良く剥ぎ取った。
朝の冷気が一気に押し寄せ、未だエンジンのかかっていない彼女の体に瞬時に染み渡っていくが。

五和「―――ッ」

そんな事など今の五和は気にも留めていなかった。
彼女の意識は、あったはずの物が『無かった』事に集中する。

五和「…………………無い……」


先ほど一瞬、こう思ってしまった。

あれは夢だったのではないか、と。

疲労のあまり己は寝てしまい、その中で幻を見ていたのではないか、と。


だが。

『夢』が持って行くか?
『幻』が持って行くか?



七天七刀の鞘を。

47: 2010/10/11(月) 23:22:53.76 ID:IxADFqYo
五和は跳ね上がり。
毛布を部屋の隅に投げ捨て、ふらつく足ながらもドアの方へと駆け。

ノブを握り。
勢い良くそのドアを開け放った。


五和「―――」


ドアの先は広めの広間だった。
中央には大きな不恰好なソファー(『まるで』、ひしゃげたのを強引かつテキトーに修理したかのような)。

その上に寝そべってり、目を瞑っている黒いボディスーツを纏った黒縁メガネの女。

五和「―――」

神裂を屠った女の姿を第一に捉え、五和は一瞬顔を引きつらせた。

その時。


「やっと『動いた』な」


静かに響く、気の強そうな女の声。

五和「…………」

五和はその声の方へと恐る恐る視線を移すと。

部屋の角、椅子に座り長い足を優雅に組んでいる銀髪の女。
赤いボディスーツを身に纏っており、
手に持っている小さな本に目を落としていた。

やや乱暴な気がありながら、品と威厳をも兼ね備えているその雰囲気。

五和「…………」

この女も見覚えがある。
いや、見覚えがあるというレベルでは無い。

しっかりと目の当たりにした。

この女が、ステイルを赤子のように手玉に取っていたことを。

48: 2010/10/11(月) 23:24:27.54 ID:IxADFqYo

「眠れたか?」

女は本のページを捲りながら、声だけを五和の方へと飛ばす。

五和「………………………」

それに対し、五和は戸惑いながらも小さく頷く。
相手は本に視線を落としているにも関わらず。

「そいつは良かった」

その五和の仕草を、
女は目で捉えずとも認識したらしかった。

五和「……………………」

相変わらず戸惑いと警戒の色を滲ませながら、
五和は探るようにその女をジッと見つめる。

そんな彼女へ、これまた相変わらず淡々とした調子で口を開き。

ジャンヌ「私はジャンヌだ」

名乗る女。


五和「……………………は、はい…………」

これは自己紹介なのか。
攫って来た『敵』に自己紹介とは?

五和は、己の置かれている状況が今一つ掴めなかった。

49: 2010/10/11(月) 23:25:44.60 ID:IxADFqYo

五和「………………五和です」

今だ戸惑いながらも、空気に押され気味でとりあえず名乗り返す五和。
と、その時。

ソファーの方から妙に色っぽい『唸り』声と、ごそごそと衣擦れの音が響いた。


「…………あ~…………おはよ…………あぁ゛~…………」

直後にむくりと身を起こし、背もたれの上にヌッ頭を出す感じで五和をジトッと見つめる、黒縁メガネの女。
寝癖なのかあちこちで黒髪がピンと跳ね、明らかに寝覚めが悪い不機嫌そうな薄目をした顔で。

ただそんな有様なのにも関わらず、
もう一人のジャンヌと名乗った女と同じく品と威厳が不思議な事に保たれており、
そしてそれ以上の妖艶な空気。


ベヨネッタ「…………私ベヨネッタ…………本名はセレッサだけど……そっちで呼ぶのはジャンヌとアイゼン婆さんだけ…………」


警戒の表情を崩さない五和に向け、どう見ても寝ぼけている状態でたどたどしく自己紹介。


ベヨネッタ「ン~…………良い体してるわね…………お尻もおっOいも合格…………美味しそうんふうふふ……おやすみ…………」

その後、ちょっと意味がわからない事を喋りそのままパタリと再び寝てしまった。


五和「………………………………」

ジャンヌ「基本的にだ。ソイツの言葉は真に受けるな」

五和「…………は、はい…………」

50: 2010/10/11(月) 23:27:27.43 ID:IxADFqYo

一人はリラックスしながら本を読み。
もう一人はゴロゴロと二度寝。

五和「…………」

このあまりの緊張感の無さに五和は、
かなり警戒し緊張している己が段々と馬鹿らしくなってきてしまった。

そう、ここで身構えていても何も意味が無い。

警戒などいくらしてても、この二人がその気になれば己は一瞬で塵と化すだろうし、
こっちから攻撃しようと動き出しても、どうせ同じく一瞬で返り討ち。

五和「…………」

五和はここで認識する。
今の己には、『場』に抗う権利が無い事を。

ただ周囲に同調しその空気に身を委ねるしかない。


五和「はぁ…………」

肩の力を抜き、一度軽く息を吐く五和。
ある種の諦めをしたことにより、フッと緊張が抜けていく体。

そして柔軟になった思考で、最も重要なことをようやく口に出した。


五和「…………あの…………プリエステス……は?」

51: 2010/10/11(月) 23:30:15.66 ID:IxADFqYo

ジャンヌ「プリ…………ああ、神裂か」

五和「は、はい!!!どこに……!?」

ジャンヌ「…………」

ジャンヌは本に目を落とし無言のまま、軽く顎を上げた。
五和の『後ろ』を指すような仕草。

五和「―――」

とその時。

真後ろから扉が開く音。
勢い良くその音の方へと振り向く五和。

そして。

目に入る、顔を火照らせている神裂。
長い黒髪は結われておらずに大きく広がり。
その頭の上には軽くタオルが掛けられていた。


神裂「おはようございます」


五和の姿を見、
シャワー上がりの神裂がさらりと『いつも』のように挨拶。

五和「お、おはようございます!!!!!!!プ、プリエステ―――!!!!」


神裂「まず湯浴みをして身なりを整えなさい。その後に朝食です。良いですね?」

そして小さく微笑みながら、まずは朝の嗜みを行うよう促した。


五和「…………は、はい!!!!!!」

52: 2010/10/11(月) 23:33:11.22 ID:IxADFqYo
元気な神裂。
いつも通りの女教皇。

その姿と声により、五和の中が一気に活気に溢れた。

色々と話したい事があるものの、彼女はまず先に神裂の声に従い、
軽い足取りで神裂の傍をすれ違いながら浴室に向かっていった。

神裂「ふふ……」

神裂は小さく穏やかに笑いながら七天七刀を壁に立て掛け、
頭のタオルを取り、その柄の上に軽くかぶせて置き。

どこからともなく取り出した髪紐を指に引っ掛けながら、
両手で長い長い髪を纏め始めた。

ジャンヌ「…………良い子だな」

そんな彼女の方へ、相変わらず本に目を落としながら声だけを飛ばすジャンヌ。

神裂「……ええ。素晴らしき友であり、最高の戦士です。幼き部分が多少ありますが」

壁の方を向き、髪を纏めながら同じく声だけを返す神裂。

ジャンヌ「…………そこも気に入ってるんだろ?」

神裂「…………ふふ、まあ……」

ジャンヌ「……ところでバージルは知らないか?いつの間にかまた消えちまったんだが」

神裂「恐らく『時の腕輪』の調整の為、アイゼン様の下に行かれたかと」

ジャンヌ「そうか。で、『段取り』は聞いたか?」

神裂「はい。私がやるべき動きだけは一通り」


神裂「バージルさんの命が下り次第―――」



神裂「―――まずインデックスを『回収』、そして『設置』に向かいます」



神裂「用意が整っているのならば五和も連れて」

53: 2010/10/11(月) 23:36:31.82 ID:IxADFqYo

バージルはフィアンマの行動を利用してインデックスを『所定の位置』に動かそうとしたが、
元々はこちら側が動かすつもりだった。

神裂が『回収』に向かうのが元の計画通りだ。


ジャンヌ「…………やれるか?」

神裂「……」

ジャンヌのやれるか?と言う問い。
神裂はすぐに悟った
それは『戦力的』な面ではなく。

『いざという時―――』


ジャンヌ「禁書目録の周囲、お前の『知り合いら』が固めてるんだろ?」


『―――その大事な戦友らに刃を振るえるのか?』という意味だと。

神裂は髪を結い終え、キュッと引き締め。
数秒間程押し黙った後。


神裂「………………………………ご心配なく」


ぽつりと言葉を返した。

小さくも強く響く声で。


神裂「やるべき事はやります。『必要』ならば」

54: 2010/10/11(月) 23:39:31.76 ID:IxADFqYo

ジャンヌ「…………」

神裂「ところで、ジャンヌさんはどう動くんです?少し予定が変わったと聞きましたが」

ジャンヌ「私は明日からローラを追う。その後、時間になったらお前らに合流する」

神裂「……ベヨネッタさんは?」

ジャンヌ「バージル・アイゼン様と共に『神儀の間』にて『時の腕輪』の起動させる」

ジャンヌ「そしてお前が『事』を済ませ次第、『闇の左目』を覚醒させ『絶頂の腕輪』を持って出撃する」

ジャンヌ「バージルはそのまま、私らが『事』を済ませるまで『時の腕輪』の起動を維持する」

神裂「…………」

ジャンヌ「で、『大掃除』が終わり次第…………その後はバージルの『仕上げ』だ」

神裂「わかりました」

ジャンヌ「ああ、それとバージルの判断によるが、お前らはデュマーリ島にいつでも行けるように準備しとけ」

ジャンヌ「今はまだ想定範囲内だが、万が一がある」

神裂「…………」

そう、天界の口と魔界の口の開放が防がれたら全て瓦解だ。

ジャンヌ「そうだ。『弟と息子』が割り込んでくる以上、いつ何が起こるかわからん。右方の時もそうだったしな」

神裂「…………アリウスが作業を『代行してくれて』幸いでしたね」

ジャンヌ「まあな」

55: 2010/10/11(月) 23:41:38.19 ID:IxADFqYo

神裂「ふぅ…………」

ひと段落おいてくるりと振り向き、ようやくジャンヌの方を見やった神裂。

神裂「…………ところで、何の本読んでるんですか?」

ジャンヌ「ああ、古本屋で見つけた詩集だ。授業に使えそうな感じでな、とりあえず目を通してる」

神裂「授業?」

ジャンヌ「まだ言ってなかったか?私は高校の教師をやっている」

神裂「きょ、教師ですか……!?」

ジャンヌ「今は一週間ほど出張、という事にしてるがな」

神裂「…………な、なるほど……」

ジャンヌ「そんなに意外か?」

神裂「い、いえ……あの…………『一般の魔術サイド』ならともかく…………」

神裂「『あなた方の世界』の方が、表世界の普通の職に就くとは思ってなかったので…………」

ジャンヌ「まあ、結構珍しいだろうな」

神裂「では…………ま、『まさか』ベヨネッタさんも何か……?」

ジャンヌ「…………こいつが普通に働くと思うか?」

神裂「いえ」

ジャンヌ「その通り」

56: 2010/10/11(月) 23:45:12.15 ID:IxADFqYo
神裂「…………さて…………では……」

神裂「キッチンはどこにあります?朝食を用意したいのですが」

ジャンヌ「そっちのドアを抜けて、廊下の奥から二番目の両扉」

今だ本に目を通したまま軽く右手を挙げ、その指で一方のドアを指すジャンヌ。

ジャンヌ「だが水は出ないぞ。年季の入ったネズミのクソなら山ほどでてくるが」

ジャンヌ「それと辛うじて動いてる冷蔵庫の中は酒だけだ」

神裂「…………はいぃぃ?」

ジャンヌ「残念だったな。ここで『日本風の朝』を再現するのは『裸踊り』しても不可能だ」

神裂「…………で、では、あなた方はいつも何を??!」


ジャンヌ「マクドナル○かバーガーキン○。たまにピザ。セレッサはスナック菓子で済ませる事もある」

ジャンヌ「奥のテーブルに昨日買ったバーガーとポテトが上がってるぞ。確か10個はあった」

ジャンヌ「菓子は冷蔵庫のとなりの棚だ」


神裂「(最ッッッ悪の食生活ですね…………)」


ジャンヌ「お前は悪魔なんだから気にするな。元々飲まず食わずでも問題ない」

神裂「ですがぁ…………やっぱり昔からの習慣でして……お味噌汁とご飯をお腹に入れなきゃエンジンがかからないというか……」

神裂「そ、それに!五和は普通の人間ですよ!五和の為に何か……!!」

ジャンヌ「……どうせここにはあと3、4日しかいないんだから我慢しろ。とりあえず今日はここにあるもんを食え」

ジャンヌ「私だって我慢してるんだ。普段はこんな『豚のエサ』なんざ食わん」

神裂「………………はぃぃ」

―――

57: 2010/10/11(月) 23:47:47.69 ID:IxADFqYo
―――

学園都市。

午前二時、深夜。

とある病棟の一室。
その中央に無機質な業務用の机が置かれ、向かい合うように座っている二人。

一方は、浅く腰かけ背もたれに後頭部を乗せるように、だらしなく座っている麦野。
机に対し横向きに座り、長いその足を優雅に組み、
右手には能力者達のデータが記された書類。

ジャケットは背もたれにかけ、着ているワイシャツははだけており、
隙間から『調整』の為のチューブが伸び近くの電子機器に繋がっていた。

それと向かい合って座っているのは土御門。
左手には書類、右手指先でクルクルとボールペンをまわしていた。

二人の間の机の上には様々な書類が散乱し、
PDAやペットボトル飲料が無造作に置かれていた。

彼らは今、能力者達の配属と編成を決めてる真っ最中だ。
適材適所、約100名のそれぞれの系統をしっかりと把握し、バランスよく決定していかねばならない。

ただ、今ここで最終決定という訳では無い。

この後数日間の能力測定・演習データを見て、変更するところは変更しなければならない。

調整・強化後の見積もりはデータとして手元にあるが、
やはり現物を確認する必要があるのだ。

そこも踏まえ、
今はそのままでも行ける、それでいて容易に変更を加えられる編成図を決める必要がある。

58: 2010/10/11(月) 23:50:02.21 ID:IxADFqYo

土御門「…………あ~……ちょっと休憩するぜよ……」

書類とペンを机の上に投げ出し、どかりと背もたれに寄りかかり天井を仰ぐ土御門。
疲労の色が濃く滲んでいる溜息を吐きながら、サングラスの下辺に起用に指を突っ込んで目を擦る。

麦野「さっきから休憩ばっかり。もっと働けよ」

書類に目を通しながら、そっけなく声だけを飛ばす麦野。

土御門「……誰かさんが隻腕だから、俺が二人分ペン動かしてるんだぜい?」

麦野「何?どうせシコる時はさんざん動かせる癖にして、こういうのはダメって?」

土御門「バカ野郎、誰が4時間もトップスピードで擦り続けるかよ。磨り減っちまうぜよ」

麦野「はん…………」

土御門「…………………………そういえばちょうど今だな」

土御門「ラストオーダーの調整」

麦野「…………」

土御門「これで『めでたく』、結標と滝壺理后は昇格だな」

麦野「……メデタク……か」

59: 2010/10/11(月) 23:51:59.91 ID:IxADFqYo

土御門「滝壺理后のデータ見たがな、元々かなりの『素材』らしいな」

麦野「…………」

土御門「時期が今じゃなく、そして別の形で順当に成長してたらとんでもないのになってただろうな」

土御門「対象のAIMを完全に掌握するのなら、アクセラレータ以上になってたかもしれないな」

麦野「あいつが第一位……ね」

土御門「…………」

麦野「…………」

土御門「…………レベル5の序列、何で決まるか知ってるか?」

麦野「能力の商業利用価値……と、最近までは思ってたけど……」

土御門「違うだろうなそれは。建前だな」

麦野「だろうね」

土御門「本当の意味を示しているのはな、恐らくアクセラレータの『アレ』だ」

麦野「…………『腕』か」

60: 2010/10/11(月) 23:53:08.09 ID:IxADFqYo

土御門「第一位と第二位は、『アレ』の為の『素材』だったんだろう」

麦野「序列はその順位か」

土御門「それについては……これを見ろ」

と、そこで土御門は徐にポケットから、丸まった薄めの書類を取り出して麦野の方へと放り投げた。

麦野は今まで見ていた書類を太ももの上に置き、
その書類を手に取り目を通し始め。

麦野「…………これはどこから手に入れた?」

重く、確かめるような口調で呟いた。


土御門「アレイスターからだ」


麦野「…………はぁ?本当にか?」


土御門「本当だ。あの野郎、本気で今回は俺らに手伝って欲しいみたいだな」

土御門「簡単に情報を明かしてくれた。ま、『具体的に聞かなきゃ教えてくれない』んだけどな」


麦野「…………」

その、土御門がアレイスターから手に入れた情報。
そこに記されていたのは。

能力の性質と。クラス分け・序列決定について。

61: 2010/10/11(月) 23:58:16.13 ID:IxADFqYo

麦野「…………」

まず、レベルの区分はAIMの強度の数値によって決まっているとの事だ。
基本的にAIM拡散力場が強ければ強いほど、それに比例してパーソナルリアリティがより色濃くなり、
周囲の法則を捻じ曲げていく、と。

つまり、それは言葉を変えると『世界を作り変える』力の強さ。

麦野「…………」

土御門「……前にトリッシュから、雑談がてらにチラッと聞いたことがあるんだがな」

麦野の目を追い、彼女が今どこに目を通しているかを確認した土御門が、
いかにも思い出したかのように口を開いた。

土御門「悪魔はな、その凄まじい力で己の周囲の世界を『捻じ曲げる』らしい」

土御門「いや、『作り変える』、といった方が良いか」

土御門「既存の法則が意味を成さなくなり、唯一のルールは『力』の『大小』と『増減』となる」

土御門「これが可能な程の力を有してる連中が、大悪魔と呼ばれてるらしい」

土御門「このクラスになるとな、全ての行動現象が物理的な界を超えちまうらしい」

土御門「つまりだ、例えば大悪魔の戦闘速度なんかも、あれは『物質的な速さではない』ということだ」

土御門「高位の悪魔同士の戦いは物理的な界を超越、魂と力の削り合い」

土御門「ちなみにこれが、悪魔には通常兵器がほぼ全く効果が無い理由でもあり、」

土御門「『力』には『力』を、という事で能力者が今回駆り出される理由でもある」

土御門「で、『物質的な』というのはどういうのかというと……」


麦野「『世界の基本法則』」


土御門「そういう事だ」

62: 2010/10/12(火) 00:01:20.48 ID:orWlyWwo

麦野「…………」

その土御門の話。
彼が何を言わんとしているのかは明白。

『同じ』だと言うことだ。

言葉の表現は違えと。

能力と悪魔の力の基本的な性質は同じだと。

いや、ただどこの世界の物かでの違いであって、どちらもが同じく『力』と一括りにできる、と。

麦野「…………待て……それじゃあ、この能力の『力』の出所は?」

麦野「まさか、私らも悪魔と同じく個々の『魂』とやらから放出してるのか?」

土御門「そこんところはだ。『俺ら』は悪魔とは少し事情が違うらしくてな。まあ書いてある。先を読め」

麦野「………………………………」

土御門に促され、先に目を通していく。

そして少し進んだところに。

麦野「…………………ッ……」

彼女は土御門の言っていた部分を見つけた。


そこ説明の部分を含め、要約するとこう書かれていた。


グレイブヤード
『 墓 所 』への『接続』。


       ダウンロード
『AIM』の『引き出し』、と。

63: 2010/10/12(火) 00:04:40.75 ID:orWlyWwo

麦野「…………『墓所』……」

土御門「どうやら、その『墓所』とやらが能力の元ネタらしいな」

麦野「『引き出し』って事は…………」

土御門「魔術に似てる。『他から力を借りる』事だな」

麦野「『借り物』、か」

土御門「さあ、『盗んだ物』かもな。墓所の正体は今のところ知りようが無い」

土御門「ここだけはアレイスターも明かさなかった……いや……『アクセラレータに聞け』、と言った」

麦野「……あいつが知ってるのか?」

土御門「まだ聞いていない。明日にでも聞くぜよ。時間があればな」

麦野「…………まあ、それはおいておくとしてだ」

麦野「とにかく、その『墓所』とやら多くの力を引き出せる程、レベル序列も上って事?」

土御門「レベル4まではな」

麦野「?」

土御門「次の頁を見ろ。レベル5は必ずしもそうとは限らないらしい」

麦野「…………」

再び土御門に促され、頁を捲る麦野。

次の頁には表となっており、様々な数値や表記と共に大勢の名前が載っていた。

パッと上の部分の説明を見た所、AIM拡散力場の強度順に、
全能力者のトップ40を記しているとの事だ。

64: 2010/10/12(火) 00:06:33.93 ID:orWlyWwo

麦野「…………」

ふん、と小さく鼻を鳴らしながら麦野は目を通していく。

トップはやはり一方通行だった。
名の横、数値に続いて『Priority 1st』と記されていた。

これは『何か』別の事柄の優先順位らしい。

二番目は、一方通行の半分程の数値の未元物質。
表記は『Priority 2nd』。


ここまでは予想通り。
こうでなければおかしい、と言ったところだが。


麦野「…………はぁ?」

その次。

三番目の名前が。


麦野「―――うそ―――」


麦野にとってかなり予想外であった。
いや、誰もこの三番目の名を予想できなかっただろう。


そこに、未元物質と遜色の無い程の数値と共に、『Priority 3rd. //Reservation』と記されていた名。


それは元アイテムであり、麦野の部下。


滝壺理后だった。

65: 2010/10/12(火) 00:10:52.93 ID:orWlyWwo

麦野「―――」

レベル5ですらなかった滝壺が三番目。
『何か』の優先順位も、後ろに『//Reservation』(保留)と記されながらも三番目。

麦野自身、アイテム時代から彼女の力の片鱗を感じていたが。
まさかここまでの強度を誇っていたとは夢にも思っていなかった。

四番目に名が記されていたのはレベル5第七位、削板軍覇。
『何か』の優先順位はガクンと下がり『Priority 53rd』。


更に、五番目が再びレベル4の者。


結標淡希。


優先度表記は『Priority 4th. //Reservation』。

滝壺と同じく保留ともされている。


続けて六番目にて『心理掌握』。
表記は『Priority 12nd』。


七番目には御坂美琴。
表記は『Priority 5th』。



そして八番目でやっと麦野自身の名が現れた。
表記は『Priority 6th. //Reservation』であった。

66: 2010/10/12(火) 00:15:11.87 ID:orWlyWwo

麦野「…………」

ここまででわかる。
まず、このAIMの強度が必ずしも能力の実際的な強さに比例し切ってない事を。
確かに強度があればあるほど能力も強まる傾向にあるらしいが、そうとも限らないようでもあった。

レベル5として数年前から君臨していた御坂と麦野を、
現に滝壺と結標のAIM強度は遥かに上回っている。


土御門「能力の実際の行使規模は当然として、『強度』と『優先度』も見て上位の序列は決まってるらしい」

麦野「…………」

強度が高くても、優先度が低ければレベル5入りは難しいようだ。
それこそ、削板程の強度でも無い限り。

恐らくこの優先度が、
学園都市側がどれだけ能力開発に手をかけるかかにも大きく影響しているのだろう。

だが滝壺と結標は、その優先度ど強度の高さにもかかわらず能力の実際的な強さは低い。
これについては、優先度表記後ろの『//Reservation』(保留)が意味を物語っている。

結標は、話を聞くところによると能力実験中に大きな事故に合い、
そのショックによって以降の開発が一時中断状態らしい。

そして滝壺は言わずもがな。
体晶の使用でボロボロになっていた。

これが二人の『//Reservation』(保留)の理由だろう。
優先度が高く強度もありながら、それを実際の能力行使に反映できずにレベル4止まりという事だ。

麦野「…………」

麦野も『//Reservation』(保留)とされていたのは、
恐らく浜面に敗れ、左手と右目を失った事が原因だろう。

67: 2010/10/12(火) 00:17:02.00 ID:orWlyWwo

この優先度。

恐らく。

いや確実に。

アレイスターの『プラン』とやらの優先度だ。

麦野「…………」

土御門「何かが違ってたらだ。滝壺理后と結標がお前らの上の序列に君臨していたかもな」

麦野「…………」

いや、『かも』では無い。
強度と優先順位から見て、
彼女達が能力を完全に開花させていたら必ず上の序列になっていたはずだ。

麦野「…………」

土御門「……これは俺の予想だがな、優先度と強度から見ても、」

土御門「第一位と第二位がアレイスターのプランとやらの『メインの部品』だ」

麦野「……『一方通行』と『未元物質』……」

土御門「二人とも、そもそも能力の根本的な部分から他とは格が違う」

土御門「強度の数値も、他とは3桁も違うしな。まあ滝壺理后もなんだが」

土御門「二人の実際の能力も、どちらもこの世界の『理』を根本から捻じ曲げてるようなもんだ」

土御門「本当に、特に今のアクセラレータは大悪魔みたいなもんだぜよ」

麦野「…………」

68: 2010/10/12(火) 00:19:35.51 ID:orWlyWwo

麦野「……ところで第六位は?これにも書いて無いけど」

土御門「……さあな。第六位だけは何も聞いたことが無い。お前は何か知ってるか?」

麦野「何も」

土御門「……………………アレイスターにとっての虎の子か」

麦野「そもそも欠番とかじゃないの?」

麦野「それか大分昔にでも、第二位みたいに冷蔵庫風に『加工済み』とか」

土御門「かもな」

麦野「というか、もうレベル5云々なんざ今更どうでもいい」

土御門「まあな。今の状況に比べたらな……問題はそこじゃない」


麦野「ああ……アレイスターの目的だ」


土御門「…………今のアクセラレータ、『アレ』でアレイスターは何をしようとしている?」


230万もの人間に手を加え、180万の能力者を作り出してまで何を?
巨大なAIM拡散力場を作り出して何を?
一方通行のような『能力の怪物』を生み出してまで何をしようとしてる?


麦野「それがわかったんなら苦労しねえだろ」

土御門「だな…………その点についてはその資料がいくらか役に立つだろ」

土御門「充分有益な情報だ」

土御門「まあ、状況的に今は後回しにするしかないがな」

土御門「そもそも、アレイスターがこう明かしてくれる時点でもう手遅れかもしれないが」

麦野「…………」

69: 2010/10/12(火) 00:21:43.58 ID:orWlyWwo

麦野「…………」

土御門「話し変わるが、元アイテム勢の配置、本当にお前の直下じゃなくて良いんだな?」

麦野「ええ」

土御門「へぇ…………というかお前、直属は一人もつけないのか?」

そう、この今決めている最中の編成図。
100名の能力者は10に小分けされているが、その全てが結標の直下。

その結標の上に麦野、という図であるのだ。
つまり、実際に各々を指揮するのは結標だ。

麦野はからでは、各チームへの細かい指揮を下すことができない。
この強襲部隊全体への大きな指示しか出せないのだ。

土御門「……」

麦野「……私が何の為にアラストルを持ってると思ってるの?」

麦野「『最前線』で暴れる為よ」

麦野「周りでうろちょろされてたら邪魔。私『も』一人身が動きやすいって訳」

土御門「……」

麦野「結標は、いざとなったら周りの部下達をどっかに飛ばすとかして退避させられるだろ?」

麦野「でも私は無理。周りにいる連中もろとも、敵味方関係なく消し飛ばしちまうから」

麦野「私の力は壊し頃す事しかできない」


麦野「今も昔も」


麦野「そこだけは変わってない」


土御門「……」

70: 2010/10/12(火) 00:23:55.61 ID:orWlyWwo

土御門「…………」

麦野の言葉も一理ある。
彼女としては、元アイテム勢を己自身の傍には絶対に置きたくないのだ。

部下達にとって、己自身の力がとんでもない脅威となりうるのだから。

巨大すぎる力はあるラインを超えてしまうと、
『守る対象』すらをも傷つけてしまう。

守る為に戦おうとすれば、何もかもを破壊してしまう危険性が常に付き纏う。

手加減も小回りも非常に難しい。
挙句に身動きできなくなってしまう事も。

更に麦野は、以前能力が暴走してしまった事もある以上、
今も己の力の安全性は全く信用していない。

むしろ規格外の力を手に入れたことで更に慎重に。

いや、正に『臆病』になっているのかもしれない。


土御門「…………そうか」


麦野「それに幸い、結標は能力的にも指揮技術でもそれなりだから」

麦野「というかアンタも直属一人もつけないんでしょ?」

土御門「そりゃあ、俺は戦闘要員じゃないからな。『兵』じゃないぜよ」

土御門「頭で勝負するタイプなんでな」

麦野「……ふん」

71: 2010/10/12(火) 00:25:45.17 ID:orWlyWwo

不機嫌そうに鼻を鳴らしながら、再び土御門から渡された書類に目を落とす麦野。
そして最後の頁にまでたどり着いたが。

麦野「……………………」

その最後の頁がまた、特に異質なものだった。

頁のど真ん中にポツリと記されている情報。
その形式は先ほどの表と同じだったが、この頁にはたった一人の名前しか記されていなかった。
強度の順位を示す数字も無く。


麦野「…………」

そこにはこう表記されていた。


上条当麻。


『幻想頃し』。


強度は『実数測定不能、推測最低値』とされ。


その推定数値は、実に一方通行の『100倍』以上。


表記は『Priority 000』、と。

72: 2010/10/12(火) 00:27:51.15 ID:orWlyWwo

実数は測定不能。

推定数値も規格外過ぎる。

優先順位の表記の仕方も。

明らかに『特別』。


一方通行よりも、だ。


麦野「…………ねえ」

土御門「ん?」

麦野は、その頁を土御門に見せ付けるように突き出し。

麦野「…………もしかして、『コレ』がアレイスター虎の子の第六位ってこと無い?」


土御門「はは、いやいやいや違うぜよ」


土御門「そいつはそもそもレベル0だ」


麦野「…………はぁぁ?『コレ』で?嘘だろ?私から見ても化けもんだぞコレ」


土御門「どうやら、『レベル』程度の物差しじゃ図れない代物らしいぜよ」

土御門「俺もあいつの力については詳しくは知らないがな」

―――

84: 2010/10/13(水) 23:22:06.44 ID:2og95pco
―――

深い森の中にある、とある古い洋館。
その一画の広間ににて、四人の女がそれぞれの時間を過ごしていた。

ソファーに優雅に足を組みながら座り、棒付きキャンディーを口で艶かしく弄びながら、
大型テレビのテキトーにまわしたチャンネルを何気なく見ているベヨネッタ。

彼女の隣には、少し緊張しかしこまって五和が座っていた。
やや戸惑いの色を浮かべながら。
なぜかというと。

ベヨネッタ「ボインボイン」

テレビを見ながら、ベヨネッタがボッと奇妙な事を突如言い出すからだ。

五和「…………はぃ?」

ベヨネッタ「良いBODYしてるわねアンタ。顔も一級品だし」

五和「…………い、いえ…………」

ベヨネッタ「天草式十字凄教って言ったっけ、所属に関しては顔の審査でもあんの?」

五和「いえいえいえそんな事は全く……」

ベヨネッタ「ふーんあそう」

五和「…………」

85: 2010/10/13(水) 23:24:41.69 ID:2og95pco
ベヨネッタ「で、結構な数の男を悩ましてきたでしょ?」

五和「ッ……!そ、んな事はありません!」

ベヨネッタ「へぇんあそう」

五和「…………」

ベヨネッタ「というかもしかして…………まだ男を知らないとか?」

五和「し、知りません!!!!」

ベヨネッタ「じゃあ女が好き?」

五和「何で『じゃあ』なんですか!!?どっちも知りません!!!」

ベヨネッタ「じゃあ悪魔とかは?」

五和「だから無いです!!!!」

ベヨネッタ「へぇ。じゃあ私が『教えてあげよっか』?手取り足取り」

五和「―――ッッッ!!!!!!!い、いりません!!!!!!!!!!!!!」

ベヨネッタ「そう?魔女は病み付きになるわよ?私ら、棒付きでも穴でも触手でも何でも差別しないし」

五和「いりませんって!!!!!!!!というか差別とかの問題じゃないですよねそれ!!!!!??」

ベヨネッタ「あーら。あなた結構美味しそうだったのに残念」

五和「…………ッ…………はぁ…………」

86: 2010/10/13(水) 23:27:16.85 ID:2og95pco
ベヨネッタ「じゃあ、武と忠義に身を捧げるって感じ?」

五和「…………」

ベヨネッタ「あ、違うわね。恋してるわねその顔」

五和「―――なッッ!!!!!い、いや…………そ、その…………!!!!!!!」

ベヨネッタ「好きで好きでたまらない、生まれた時のカッコーでとことん絡みたいのにでも実りそうも無いと」

五和「――――――はぁああああストップ!!!そこでストップ!!!!!やめてくださいお願いします!!!!!!!!」

ベヨネッタ「ん~んふふ」

五和「………………はぁ………………(この人といるとすごく疲れる……寮に帰りたい……)」

ソファーでぎゃあぎゃあ騒ぐ五和と、そんな彼女をニヤニヤとしながらからかっているベヨネッタ。
その二人を後ろの壁際で、神裂は壁に寄りかかりながら眺めていた。
隣には、相変わらず本を読んでいるジャンヌ。
彼女はゆっくりとページを捲りながら。

ジャンヌ「確か、あの子は槍使いだったな?私が粉砕しちまったけども」

神裂「ああ…………そうですね、五和の武器も調達しなければ……」

ジャンヌ「OK、なら」

そこでジャンヌはパタリと本を閉じ。


ジャンヌ「五和」

五和「……はい。なんですか?」

背後から呼ばれ、ソファーの背もたれ越しにジャンヌの方へと振り返る五和。

キャンディーの棒を口の端から突き出しながら、同じように振り返るベヨネッタ。
何するの?と、興味津々な表情を浮かべ。

87: 2010/10/13(水) 23:29:37.65 ID:2og95pco
ジャンヌ「来い」

五和「………………?」

首を傾げながらも立ち上がり、ジャンヌの前へと歩き進んできた五和。

ジャンヌ「そこで止まれ」

と、ジャンヌまであと2mという所で彼女は制止された。

五和「???」

ジャンヌ「使ってた槍、フリウリのコルセスカだったな?」

五和「?はい、フリウリスピアでしたけど……?」

ジャンヌ「よし」

いま一つジャンヌの意図が掴めず、きょとんとした表情を浮かべている五和。
そんな時、ジャンヌは右手を軽く挙げ。

パチンと指を鳴らし。

その次の瞬間。

五和「―――!!!!」

ジャンヌと五和の間の床に、赤い魔方陣が浮かび上がり。

するりと、床から生えてきたかのように10本程のフリウリスピアが姿を表した。

88: 2010/10/13(水) 23:31:22.49 ID:2og95pco

五和「こ、これは……?!」

さながらちょっとした竹林のように聳え立つ、
フリウリスピアの『林』。

ジャンヌ「お前に使えるレベルのを選んだ。どれでもいい。好きなのを選べ。くれてやる」

ジャンヌ「何だったら全部でもいい」

五和「い、良いんですか……!?」

ジャンヌ「私が持ってても使わないしな」

ジャンヌ「全てアンブラ製だ。質は保証する」

ジャンヌ「術式の事前のすり合わせをしなくとも実戦で問題なく扱える」

ジャンヌ「こいつらの『方』からお前の属性に合わせてくれるからな」

五和「………………」

恐る恐る槍の林に歩み寄り、それぞれに触れていく五和。
基本的な形状は同じだが、どれも様々な形をしている。

色は銀や黒、金や、それぞれが混ざり赤や青い装飾が施されていたり。
穂先も肉厚なのから薄め、刃渡り50cm程のから15cmとコンパクトなものまで。
穂先の下にあるウイング状に突き出た刃の、本数と角度、反りの形も様々。

材質もそれぞれ違うのか、いや全ての材質がいままで五和が触れたことの無いものばかりだった。
柄の部分も合成樹脂でも木製でもなく、既存の金属でもなく。

ガラスのように滑らか繊細であり硬質でありながら、
触れた瞬間に手に程よく馴染み、しっかりと滑らず握りこめる奇妙な触感。

全金属製のどっしりとした重量感と安定感がありながら、一方で羽のような軽さ。


五和「………………す、すごい……」

89: 2010/10/13(水) 23:34:16.26 ID:2og95pco

五和「(…………これ…………)」

しばらく各槍をまじまじと眺めては軽く握ったりしていた五和。

彼女は時間を掛け、一つの槍を固く握り締めた。
全体が純銀のような艶かしい光を放ち、穂先から柄まで全て同一のガラスのような質感の素材で形成されている槍。
金の若木をあしらったらしき装飾が、穂先から柄の先まで掘り込まれていた。

五和は周囲の間合いを確認し、
その槍を己の体の方へと引き寄せては軽く両手で構えを取り。

バランス、握った感覚、しなり方、その他の感覚を軽く確認。

五和「…………」

何もかもが完璧だった。
誰もが唸る業物。
こんな代物扱い切れるのか、と己が役者不足に感じてしまう程。

五和「本当に……良いんですか?」

ジャンヌ「構わん。好きに使いな。今からお前の物だ」

五和「あ、ありがとうございます!!!!!」

ジャンヌ「礼は寄せ。そもそもお前の槍砕いちまったの私だしな」

五和「いえ…………あれは私が制止を聞かずに向かって行ったからであって……」

ジャンヌ「グダグダ抜かすんじゃないよ。良いから受け取っておけ」

五和「……は、はい!!すみません!!」

90: 2010/10/13(水) 23:37:25.89 ID:2og95pco
新たに手に入れた槍を、向きをかえ持ち方をかえ眺める五和。
その瞳は子供のように輝いていた。

五和「……………………」

と、そうして槍を眺めていた時。
彼女は槍のとある部分に目を留めた。

柄の握りのすぐ先に彫られてる妙な文字。
五和は全く読むことができなかったが、
並々ならぬ神秘性がじわじわと染み込んでくる。

五和「…………」

彼女はその文字の上を指でゆっくりとなぞり、
この文字の放つオーラを魂で感じていた。

さながら歴史的な芸術品を見、
どこが素晴らしいのは分からずともその空気を何となく感じるように。

そんな彼女に向け、気づいたようにジャンヌが。

ジャンヌ「ああ、それは前の主の名だ」

ジャンヌ「エノク語だ。無理に読もうとしない方が良い」

五和「……その……前の持ち主のお方は……?」

ジャンヌ「500年前に戦氏したさ」

五和「……」

ジャンヌ「銃よりも槍を好んでた奴でな。最期の時もその槍を握ってた」

五和「……」

ジャンヌ「代わりにお前が大事に使ってやんな。『そいつ』も本望だろ」

五和「…………」

91: 2010/10/13(水) 23:39:20.30 ID:2og95pco

これらの槍は、天界の破壊を免れ人知れず世界中に散らばっていた『遺品』。
ジャンヌが500年掛け回収してきた、同族達の『遺品』。

今五和の前にある槍達は、ジャンヌの『コレクション』の極一部に過ぎない。
膨大な数・種類の武器をジャンヌはかき集め、回収してきた。

ある時は、見当違いの札を貼られて博物倉庫に置かれていたのを、忍び込んで回収したり。
ある時は、骨董品店に置かれていたのを買い取ったり。
ある時は、ゴミ捨て場や泥の中から見つけ出し。

全て丹念に汚れを落とし、手入れをし、修復し。
そっと誰の手にも届かない場所に保管し続けている。

家族の氏に様が刻まれた遺品を。
一族の生き様が刻まれた遺品を。

彼女達の『生きた証』を。


今は亡き『故郷の一部』を。


ジャンヌ「…………」


その遺品の一つが今、『生』を受けて再び武人の手に収まったのを、
ジャンヌは穏やかな気持ちで見守っていた。

92: 2010/10/13(水) 23:41:59.03 ID:2og95pco

ベヨネッタ「じゃあ…………」

しばらくした後、黙って見ていたベヨネッタが立ち上がり、
背伸びをし腰をしならせながら。

ベヨネッタ「ちょっと相手してあげる。少し教えてあげる。アンブラ式のやり方」

五和「…………というと……?」

ベヨネッタ「手合わせ。やっぱ『試運転』も必要でしょ」

五和「あ…………で、では…………」

ベヨネッタ「C'mon. Get out」

ベヨネッタは小さく、そして艶かしく笑みを浮かべながら、
大股のキャットウォークで足早に外へと繋がるドアの方へと向かっていった。

五和「あの!本当にありがとうございます!!!」

槍を胸に抱きかかえるように持ちながら、再度ジャンヌに礼を言う五和。

ジャンヌ「良いからとりあえず行け。セレッサを待たせると後悔するぞ?」

ジャンヌの言葉にタイミング良く。


ベヨネッタ「―――Hurry!!!! Hurry up!!!!」


外から響いてきた、ベヨネッタの大声。

それを聞き、五和は慌てながら外に駆け出て行った。

93: 2010/10/13(水) 23:45:25.81 ID:2og95pco
ジャンヌ「…………五和、か。セレッサに気に入られたみたいだな。良かったな」

神裂「…………」

ジャンヌ「意外だろうが、あいつあんな風に見えても実は結構人見知りだからな」

ジャンヌ「表では笑ってふざけた事を抜かしていても、内心ではあまり他人に近付こうとはしていない」

神裂「…………訳は何となくわかります。アイゼン様から、ベヨネッタさんの生い立ちは少しだけ聞きましたから」

ジャンヌ「そうか」

神裂「……」

ジャンヌはそっけなく返事を返し、再び本を開いては黙々と読み始めた。
その隣で、神裂は壁に寄りかかりながら様々な思索に耽っていた。

ジャンヌ「……」

神裂「……」

ジャンヌ「……」

神裂「…………質問がいくつかあるのですが、良いでしょうか?」

ジャンヌ「話せ」

神裂「あなた方の扱う召喚術って、通常の物とはかなり違いますよね?」

神裂「いや、私も、そのような大規模な召喚術は悪魔と関わるようになってしか見てませんけど……」

94: 2010/10/13(水) 23:48:42.71 ID:2og95pco
ジャンヌ「何だ?魔女の技に興味があるのか?」

ジャンヌ「もしかして魔女の技を使いたいのか?それは無理だ」

ジャンヌ「太古の『真人間』の系列でなければな。それもアンブラの血を継ぐ」

神裂「いえ、そういう訳ではなく、純粋に気になるというか」

ジャンヌ「職業病だな」

神裂「はは……まあ……そんなところです」

ジャンヌ「まあ良い。少し話してやる。別段秘密という訳では無いしな」


ジャンヌ「先のお前の推測、正解だ。私らの召喚術は普通の悪魔召喚とは全く違う」

ジャンヌ「まず、アンブラの召喚術は二つに大分される」


ジャンヌ「契約召喚と強制召喚」


ジャンヌ「一つ目の契約召喚。これが基本的に使われる召喚術だ」

ジャンヌ「契約内容のお互いの関係は様々。主従、共友、『恋人』関係などな」


神裂「…………『恋人』というと?」


ジャンヌ「そのままの意味だ。『主契約』はこの恋人関係である場合が多い」

ジャンヌ「『主契約』とは、十字教系から言わせれば『聖守護天使』みたいなもんだ」

ジャンヌ「一人につき一体つく、どちらかが氏ぬまで永続する終身契約」

神裂「なるほど」

ジャンヌ「『主契約』をする事により、その悪魔から恒常的に力が供給される、いや、常に『半身同化』と言った方が良いな」

神裂「その主契約は恋人関係が多い、ということですが、具体的にはどうやって契約を……?」

ジャンヌ「契約の際には、『肉体の繋がり』を必要とする。      性的な意味合いが強めで」

神裂「…………!!!」

95: 2010/10/13(水) 23:50:44.76 ID:2og95pco
神裂「……ッな、なるほど……!!!!」

ジャンヌ「大抵は、強大な悪魔になればなるほど『とことん求めて』くる。場合によっては、耐え切れずに氏ぬこともある」

神裂「…………そ、その……『営み』で氏ぬのですか…………?」

ジャンヌ「ただの体の交わりではない。魂と魂を繋げ、力と力を捻り合わせ、存在そのものから一体となる」

ジャンヌ「相手の悪魔の力に見合わぬのならば、その時の負荷で氏ぬ」

ジャンヌ「相手が認めなかったら、その場で殺されもする」

神裂「…………」

ジャンヌ「私の『主契約』相手はマダム=ステュクスなんだが、契約の儀の時はそれはもう凄まじかったぞ?」

ジャンヌ「セレッサのマダム=バタフライはもっと過激だったらしいが。あいつが疲れきって辟易としてたぐらいだからな」

神裂「……………………やはり…………やはり『魔女』とはそういう……」

ジャンヌ「ま、十字教が言う『色情魔』であるのは間違いないな」

ジャンヌ「ただ、『尻軽女になれ』ということではない」

ジャンヌ「誰でもかんでも股を開く奴はタダの『売女』だよ。そんなアホなど『魔女』ではない」

ジャンヌ「心身を全て捧げる高潔な儀。快楽などタダの付属品」

ジャンヌ「求めているのは強大なる力と強固なる繋がりだ」

神裂「…………なるほど…………」

ジャンヌ「それにな、対象の悪魔によって契約の儀の内容も様々だ」

ジャンヌ「何度も交わりを求めてくる者から、軽い口づけ、それどころか握手のみで済む者もいる」

ジャンヌ「要は、重要なのは物質的な肉体の接触ではなく、精神体のすり合わせという事だ」

ジャンヌ「心を通じ合わすのさ。完璧にな」

神裂「…………」

96: 2010/10/13(水) 23:54:18.38 ID:2og95pco
ジャンヌ「ま、『主契約』はそんなところだ。そして主契約とは他に、別の複数の悪魔とも契約を結ぶことがある」

ジャンヌ「セレッサがお前に向けて喚び出したヘカトンケイルなどだ」

神裂「……」

ジャンヌ「そちらは『魔獣契約』と呼ばれてる」

ジャンヌ「恒常的に力を受け、詠唱も術式構築も無しで即座に召喚もできる『主契約』とは違い、」

ジャンヌ「『魔獣契約』の召喚の際はそれ相応の作業をしなければならない。かなりの力も消耗する」

ジャンヌ「つまりだな……『主契約』は既に『半召喚済み』であり常時術者の体内に『宿っている』が、」

ジャンヌ「『魔獣契約』は遠くから一々引っ張ってこなければならない、という事だ」

ジャンヌ「準備に手間もかかりある程度の時間もかかる訳だ」

神裂「……では、主契約の方が使い勝手が良いのでは?わざわざそんな事をしなくとも」

ジャンヌ「いや、利点もある」

ジャンヌ「まず力の上乗せ。『主契約』によって強化された力に、更に別の悪魔の力をいくつも上乗せできる」

ジャンヌ「二つ目、『主契約』の場合は、対象の悪魔が傷つけば同化状態にある術者も傷を負う、」

ジャンヌ「対象の悪魔が氏ねば術者も氏ぬ。つまり一心同体だ」

ジャンヌ「だが『魔獣契約』の場合は、喚び出した悪魔がいくら傷付こうが氏のうが術者には何らダメージが無い」


神裂「そういうことですか……なるほど」

97: 2010/10/13(水) 23:57:35.89 ID:2og95pco
ジャンヌ「『主契約』は一心同体となり生氏を共にする。その代わり、常に同化しあいお互いの力で強化しあっている」

ジャンヌ「その関係上、契約の儀は濃密なものになりがちだ」

ジャンヌ「それと比べ『魔獣契約』は緩やかな繋がりだ。同化せず、助っ人・援軍・仲間という術者とは『別体』で動く」

ジャンヌ「そのおかげで術者とは離れた場所に遠隔召喚、つまり遠地に送り込む事もできる」

ジャンヌ「また、緩やかな繋がりの分、召喚が拒否される場合もあるし、」

ジャンヌ「契約の儀の内容も簡単なものだ。大半が血の印を捺すだけで契約成立する」

ジャンヌ「まあ、中にはセレッサのように力ずくで叩きのめして屈服させたり、主契約と何ら変わらずに『営み』をする者もいるがな」

神裂「…………やっぱり、ベヨネッタさんは基本的にそういうのが好きなんですね?契約どうこう以前に」

ジャンヌ「…………まあな。アホなのか魔女の鑑なのか……どっちもだろうな」

ジャンヌ「セレッサと魔獣契約結んでる輩らは、皆あいつに心底惚れている。一人を省いてな」

ジャンヌ「名だたる諸神・諸王ともあろう連中がデレデレしやがる。見てられないよ全く」

神裂「ははあ」

ジャンヌ「だがまあ、さすがのセレッサでも唯一『ハート』を落とせなかった者がいる」

ジャンヌ「普通に、口頭で契約しただけのな」

神裂「?」


ジャンヌ「バージルさ」

98: 2010/10/13(水) 23:58:54.70 ID:2og95pco

神裂「!!バージルさんとも契約してるんですか!!??」

ジャンヌ「まあな」

ジャンヌ「お互いの力を認めてな」

神裂「!!!」

ジャンヌ「特に使う予定は無いんだが、一応いつでも喚び出せるには越したことが無いしな」

ジャンヌ「バージルの性格的に、本当は私が術者であった方が良かったと思うんだが、私は一歩力が及ばずな」

ジャンヌ「いや、できることはできるんだが、召喚したら私がスタミナ切れで動けなくなる」

ジャンヌ「バージルをも召喚して飄々としていられるのはセレッサぐらいさ」

ジャンヌ「ま、さすがのあいつでも、闇の左目が起動時でなきゃ無理らしいがな」

神裂「…………そう……なんですか……」

99: 2010/10/14(木) 00:01:40.80 ID:7tYZ2N2o
ジャンヌ「とりあえず、『契約召喚』の簡単な区分と仕組みはこんなところだ」

神裂「では、『強制召喚』というのは?」

ジャンヌ「そのままの意味だ」

ジャンヌ「契約無しで、力づくで引っ張り出す。相手の意思などお構い無しにな」

神裂「かなり難しそうですね」

ジャンヌ「いや、これ自体は難しくない。そもそも、アンブラの者が一番最初に覚える召喚術だ」

神裂「?」

ジャンヌ「『契約する事が不可能』な存在を喚ぶのが可能」

ジャンヌ「『非生命体』も手元に喚び出す事ができる」

ジャンヌ「さっきのフリウリスピアを持ってきたのもこれだ」

神裂「ああ、そういう事ですね」

ジャンヌ「界の違いなど関係なく、『どこからでも』引っ張り出せるアンブラの召喚術の基本中の基本だ」



ジャンヌ「そして、この強制召喚の究極が『クイーン=シバ』だ」

100: 2010/10/14(木) 00:04:00.46 ID:7tYZ2N2o
神裂「あ……それもアイゼン様から少し聞きました。確かベヨネッタさんがジュベレウスを倒した時に……」

ジャンヌ「そうだ」

ジャンヌ「あれはな、悪魔を喚ぶのではない」


ジャンヌ「『魔界そのもの』、『魔界の力場そのもの』から直接引っ張り出すのさ」


ジャンヌ「『力の塊』をな」


神裂「…………」

ジャンヌ「クイーン=シバとはな、元々は魔界での『力場』に対する通称だ」

ジャンヌ「畏敬の念と『母』という意味合いが篭ってる。魂の還る地であり、そして生まれる地」

ジャンヌ「魔帝もスパーダも、元はここから誕生したのだしな。魔界の基盤であり理であり、そして母であり父である」

神裂「…………」

ジャンヌ「その強大さに、かつて私らの『母達』は目をつけた」

ジャンヌ「元々これは対魔界用に作り出された術式だ」

ジャンヌ「魔界の侵略に備え、私らの『母達』は力を蓄えていたが、それでもまだまだ足りなかった」

ジャンヌ「決定的な切り札が必要だったんだ。それこそ魔帝やスパーダをも上回るな」

ジャンヌ「そして母達はこの考えに帰結した。唯一彼らを上回り得るのが、『魔界の力場』ではないか、と」


ジャンヌ「つまり『魔界そのもの』ではないか、と」

101: 2010/10/14(木) 00:06:35.49 ID:7tYZ2N2o
ジャンヌ「それで遂にある時、この召喚式をアイゼン様が完成させ、試しに起動してみたらしい」

神裂「…………それでどうなったんですか?」

ジャンヌ「『召喚には』成功した。10秒程度だったらしいが、魔界の力場の一部が姿を変え現出した」

神裂「……召喚には…………ですか?」


ジャンヌ「実際に現物を召喚した際に、とある問題が判明したのさ」


ジャンヌ「力場自体には、『確たる意志』が存在していなかったのだ」


神裂「?」


ジャンヌ「力場は力場、『単なる』莫大な力の溜り場にしか過ぎなかった」


ジャンヌ「そして、『魔界の生者』と密接な繋がりを持っていた」

ジャンヌ「生者である無数の悪魔達が、力場に強く影響を与えていた」

神裂「…………」


ジャンヌ「特に魔界の『生者』の頂点であった魔帝。その莫大な力は当然、力場にも大きな影響を与えていた」


ジャンヌ「『魔帝の意志』が、『魔界そのもの』にも影響を与えていた」


ジャンヌ「つまり、『魔帝を頂点とした生者』達の意志が、『魔界の意志』でもあったのさ」


神裂「……」

ジャンヌ「どういう事かはわかるな?」

102: 2010/10/14(木) 00:08:48.72 ID:7tYZ2N2o
ジャンヌ「基本的にだ。生者が氏ぬと、生れついた力場に還っていく」

ジャンヌ「その際、個々人の記憶は薄れ消えていく」

ジャンヌ「だが本質的な本能部分は残り続け、次に誕生していく生者に受け継がれていく」

ジャンヌ「そしてそれが、その世界の理となっていく」

神裂「……」

その点についてはアイゼンからも聞いた。
だからこそ、天界や魔女・賢者達はセフィロトの樹と新たな力場を人間に与え、

本来の力場から完全分離させ、
人間界の古き神族の系列が生まれ出でないようにしたと。


神裂「…………つまり……現出したクイーン=シバは……」


ジャンヌ「『魔界寄り』だったのさ」


ジャンヌ「はっきり言うとだ。『当時の状況下』では、対魔界、魔帝・スパーダに対して使用できるものではなかった」

ジャンヌ「『魔界の意志』がほぼ完全に一つとなっていた当時ではな」

ジャンヌ「魔帝の支配に対し裏で反抗していた者達もいたが、」

ジャンヌ「数的に見て、魔界全体の意志を塗り替えることなど到底無理なのはわかるだろ?」

ジャンヌ「それどころか、『よそ者』である我等が『魔界の意志』を塗り替える事など」

神裂「…………」


ジャンヌ「クイーン=シバは武器になり得なかったのさ。『当時の魔界』に対しては」

103: 2010/10/14(木) 00:12:02.07 ID:7tYZ2N2o
ジャンヌ「ただまあ、瞬間的な力の総量は魔帝やスパーダをも上回っており、手を加えればいくらでも使えそうに見えた」

ジャンヌ「それで様々な方法が試されようとされた。どうにかして意志を上書きする方法、」

ジャンヌ「引き出した力を魔界から完全に分離させ、魔女に宿す方法などがな」

ジャンヌ「だがどれも失敗だった。そもそも試す事自体が不可能に近かった」

神裂「?」

ジャンヌ「クイーン=シバの術式自体は単純だ。だがな、術者にかかる負担はとてつもなかった」

ジャンヌ「強制召喚は、力の負荷が全て術者にかかってくる」

ジャンヌ「そのせいで、その後一度もテストできなかったのさ」

ジャンヌ「史上最強と謡われていたアイゼン様でさえ、最初の一度で数十年間も床で氏の境をさ迷った」

ジャンヌ「その他の者はほとんど起動できなかった。起動できたとしてもすぐに命を落としていった」

ジャンヌ「誰一人、その後一度もクイーン=シバを完璧に現出させた事ができた者はいなかった」

ジャンヌ「更に、見かねた長や長老達は術式を下々の者にまで公開し、身分を問わずに使用できる者を募った」

ジャンヌ「だがそれでも現れなかった」



ジャンヌ「セレッサがやっちまうまではな」



神裂「…………」


ジャンヌ「即ち、あいつはんな代物を一発勝負でやり遂げちまったのさ」


ジャンヌ「しかもかのジュベレウス相手に、完璧に」

104: 2010/10/14(木) 00:17:07.19 ID:7tYZ2N2o
ジャンヌ「アイゼン様の時よりも遥かに多い量の力を引き出し、それらを完全に制御しジュベレウスに全てを叩き込んだ」

ジャンヌ「どうやったかは私も知らないが、セレッサはクイーン=シバの意志を支配できちまったようだ」

ジャンヌ「後でアイゼン様から聞いたんだがな、その時、セレッサは魔界の全力場の6分の1もの力を引き出してたらしい」

ジャンヌ「人間界を3万回以上は破壊できる量だ」

ジャンヌ「アイゼン様でさえ20分の1でやっとだったらしいのに、とんだぶっ飛び具合だなコレは」

神裂「……………………」

ジャンヌ「まあ、状況がアイゼン様の時代よりも良かった点もあったがな」

ジャンヌ「魔帝は封印中、スパーダは反逆。つまり魔界には、全てを纏め上げる強固な意志が無かった」

ジャンヌ「ジュベレウスも、セレッサに闇の左目を奪われたことによる不完全復活だったしな」

神裂「…………」

ジャンヌ「だが…………それでも、無数の悪魔達の意志を纏め上げた事、」

ジャンヌ「とんでもない量の力を、完全に統率下においた事の凄まじさは変わりないがな」


ジャンヌ「セレッサは紛れも無く史上最強の魔女さ」


神裂「……」

105: 2010/10/14(木) 00:21:16.63 ID:7tYZ2N2o
神裂「…………あの、ふと思ったんですが、そのクイーン=シバ、」

ジャンヌ「何だ?」

神裂「もしも、もしもですよ」


神裂「今のスパーダの一族に向けて使えばどうなるのですか?」


ジャンヌ「…………さあな。ある程度はどうなるか考えられるが」


ジャンヌ「スパーダ一族もその魔の『原点』は魔界の力場」


ジャンヌ「その意志が力場に影響を及ぼし、セレッサの意志を上回る事があれば、まずクイーン=シバ自体が武器になり得ない」

ジャンヌ「ましてや、直接相対するとなれば、力場を解さなくともその場で魔自体が共鳴しあってしまう可能性もある」

ジャンヌ「最終的には、それぞれの『個人の本質の強さ』で決まるな」

ジャンヌ「精神が勝った方がクイーン=シバという『力の塊』の主導権を握る」

神裂「なるほど…………」


ジャンヌ「ま、スパーダ一族相手なら、そもそもクイーン=シバを使わない方が良い」

ジャンヌ「クイーン=シバはお荷物にしかならんさ」

神裂「…………」


ジャンヌ「アンブラ魔女の王道である格闘戦で挑んだ方が、私らにとっては『かなり強くいける』」


ジャンヌ「『かなり』、な」

106: 2010/10/14(木) 00:24:36.22 ID:7tYZ2N2o
神裂「…………」

ジャンヌ「ははは、試してみたいな。私じゃあ中々厳しいかもだが、セレッサならばバージルや弟相手でも『かなり』いけるはずだ」

ジャンヌ「というか、セレッサは思いっきり勝つ自信があるだろうな。私もそう思ってる。セレッサが勝利を収めるとな」

ジャンヌ「ま、それと同じくバージルらも思いっきり勝つ自信があると思うが」

ジャンヌ「こればっかりは、実際にやって見なきゃわからん」

ジャンヌ「だがまあ、楽しそうだが試す事はできない」



ジャンヌ「実際にんな事をしたら、どっちが勝とうが人間界は確実に終わっちまうからな」



神裂「確かに。考えたくないですねそれは」

ジャンヌ「我等が我らの芯を通す限り、そしてスパーダの一族がその信念を貫く限り、」

ジャンヌ「我等が正面から頃し合うことはまず有り得ない」


神裂「ですね」


ジャンヌ「あ~タダな、これだけは確かだ。私らはバージルの息子にはまず負けない」

ジャンヌ「セレッサはもちろん、私もあのガキには絶対に負けんよ。ま~だまだ青すぎる。あのガキは」


神裂「…………」

―――


140: 2010/10/21(木) 00:17:25.63 ID:mRdgekMo
―――

学園都市。
第二学区、とある施設。

薄暗い一室にて、一方通行は壁に寄りかかりながら、
ガラス壁で隔てられている隣の部屋を見つめていた。

ガラスの向こうには、学習装置に寝かされている打ち止め。
打ち止めの周りには複数の白衣の者がおり、それぞれが電子機器の端末を弄っていた。
そしてその作業を横で確認しつつ、手元のPDAで打ち止めの状態を見ている芳川。

一方通行は、能力をONにし様々な情報を確認しながら、
ガラス壁越しにその打ち止めのインストール作業を『監視』しているのだ。

一方「…………」

作業が始まって15分。
一時間ほど前、打ち止めにインストールされるプログラムに芳川と共に何度も目を通したが、
特に異常は無かった。
それに量自体もそこまで多く無く、内容も特に難しいものではなかった。

その為、実際のインストール作業も実はもう終わっており今は再確認中。

もうそろそろ全ての行程が終わる頃だ。

141: 2010/10/21(木) 00:21:49.49 ID:mRdgekMo
一方「…………」

案の定、一段落ついたかのように白衣の者達がそれぞれ動き出し。
芳川はPDAから顔を挙げ、ガラス越しに一方通行に目配り。

と、ガラス越しとは言うものの、実はマジックミラーになっており、
芳川側からは彼の姿が確認できないのだが。

その為、芳川の視点は当然一方通行には全く定まってはいなかった。

一方「…………」

芳川がそうやって『鏡』を見た直後。

芳川『完了したわ』

一方通行のいる側の部屋に響く、通話機越しの彼女の声。

一方「問題は?」

淡々とした口調でそっけなく言葉を返す一方通行。
芳川からの声はスピーカーとなっているが、彼側からの声は彼女の耳の通信機へ届くため、
他の作業員や打ち止めには聞こえない。

しかし芳川が誰と話をしているのかは明白だった。

打ち止めにとっては。

少女はリクライニングチェア風の学習装置から体を起こし、
その大きな瞳で『鏡』の方を見つめていた。

悲しげな、かつ泣きそうなのを堪えているかのような複雑な表情で。

142: 2010/10/21(木) 00:23:49.30 ID:mRdgekMo
芳川『何も。そっちからは何か見えた?』

一方「何もねェ」

芳川『OK……』

一方「じゃァ後は黄泉川と合流した後、指定のシェルターに向かえ」

芳川『……顔ぐらい見せてあげれば?』

一方「いらねェ。さっさと行け」

芳川『……そう。わかった』

一方「…………」

打ち止めを抱き上げ、学習装置からゆっくりと降ろす芳川。
そして少女の背中を押し、退室を促したその時。

打ち止めが芳川の手を払いのけ、ガラス壁に向かって一気に駆け出し。


打ち止め「そこにいるんでしょ!!!!!!!ねえ!!!!!!ってミサカはミサカは…………」


小さな両手の平を叩き付けながら、瞳を潤ませ体を震わせ叫んだ。


打ち止め「…………あなたが『見えない』…………ひぐ…………うぁ…………いやだって…………ひぐ…………」

そして泣き崩れた。
小さな頭を鏡に当てて。

潤んだ吐息で鏡を曇らせて。

しかし。

一方通行は一瞬だけ、ピクリと目を細めただけ。

彼が示した反応はそれだけだった。

そして彼は踵を返し、少女に背を向けてドアの方へと向かって行った。
少しばかり早足で。

―――

118: 2010/10/20(水) 23:17:05.48 ID:n04WsQMo
―――

バッキンガム宮殿地下深く。

物理的な分厚い隔壁、更に伝説級の結界に何重にも守られながらその深部に広がる、
東西南北200m、天井は50mにも達する広大な地下空間。

ここがイギリスの中枢。

イギリスの魔術・正規軍両方の軍事の心臓部。

北側の壁面は一面が巨大なモニターに覆いつくされ、各地の地図・各軍の動きなどをリアルタイムで表示しており、
その前にはNASAの管制室のように大量の端末が並び。

軍服や修道服、騎士の礼装を纏った者があちこちを行きかい、
様々な言葉が飛び交っていた。

ウェストミンスターにある国防省地下の指令センターともリアルタイムで接続されており、
ここで今のイギリスの『全て』が把握できるようになっているのだ。

国防省は正規軍の指令本部、
そしてここはその他の騎士・清教の本部も含めたイギリス全軍の総司令部といったところだ。

北側のモニター、その前での作業を見下ろすように配置されている、南壁面のテラス。
そこには、巨大なV字上の机が上辺が北側に向くように置かれ、イギリスの『上層部』と呼ばれる閣僚や将官、
『老人達』が席に着いており。



南側、V字状の机の頂点には、質素でありながらも荘厳な木製の椅子に座す

イギリス王室、第二王女であり―――


そして現在のイギリス最高司令官である―――


―――真紅のドレスを纏ったキャーリサ。

119: 2010/10/20(水) 23:21:34.22 ID:n04WsQMo

この南側のテラスの手すりにあたる場所には、上層部集団から見て北側の大モニターと重なるように、
魔術による立体映像が更に詳細な情報を示しながら浮かび上がっていた。

最新の通信設備と通信魔術の併用、最新のモニターと魔術の映像、
そして行きかう、様々な所属の人々。

ここの指令センターは、正に科学と魔術が混在していた。
もちろん、この場に勤めている者達は皆厳格な審査を通った者ばかりであり、
この場で見たこと経験した事の口外は当然禁止とされている。


軍事の長でもあり、今は母から全権を委任されている第二王女。
肘掛に左手で頬杖を付き、右手には既に起動状態である、淡く輝いているカーテナ=セカンド。

彼女はその最強クラスの霊装の切っ先で杖のようにコンコンと床を叩き、
不機嫌そうに眉を顰めながら手すり付近の立体映像を睨んでいた。

彼女の右斜め前には騎士派の長、騎士団長。
左側の清教派の長が着く席は空いていた。

最大主教『代理の代理』、清教派の実働最高指揮官シェリー=クロムウェルの席なのだが、
現在彼女はキャーリサの『特命』によりとある場所にて作業を行っている為席を外していた。

キャーリサ「…………」

飛び交う、各地の戦況。
それと同時にモニターと立体映像に、各情報が目まぐるしく表示されていく。

ここにいる者達は皆、表面上では冷静を装いながらも内心では焦燥していた。

キャーリサと、彼女の隣に侍る騎士団以外は。

120: 2010/10/20(水) 23:23:38.69 ID:n04WsQMo

イギリスが国家の存亡そのものの危機に陥るなど、正に第二次大戦以来。

ここにいる者達は誰一人経験したことが無い。

先日のクーデターは国家全体を揺るがしたものの、この国自体の『滅亡』とはまた違う。
ウィンザー事件はその規模は国家全体の危機だったが、本格的にイギリスが動く前に早々に集結した。

だが今回は違う。

クーデターの時とは違い、今の敵は『外』。
ウィンザー事件の時とは違い、今の問題は特定の存在を排除すればキレイさっぱり済むというものでもない。

ドロドロと陰湿であり、ヘドロのようにいくら洗っても淀みは抜けない。
ネットリとし、非常に後味が悪い戦い。

それが国家同士の全面衝突。
それが人間勢力と人間勢力の殲滅戦。

それが世界大戦。

キャーリサ「…………」

現在の戦況は、未だどの勢力も手探り状態。
イギリスも、そして実際に先頭切ってこの国と激突するフランスも、
どちらも既に開戦状態にあるにも関わらず未だに準備が整っていない。

小規模な戦闘は各地で頻発しているものの、
依然、両陣営とも大規模な作戦には乗り出せないでいた。

121: 2010/10/20(水) 23:27:07.47 ID:n04WsQMo
キャーリサ「…………」

この状況の中、イギリスはどう戦えば良いのか。

学園都市側とも真っ向から対立してしまった以上、今のイギリスは孤立無援。
兄弟国アメリカからの支援は、『とある理由』で今現在は全く無し。

それらをも鑑みて、キャーリサはとりあえず守りに徹する事を考えていた。

確かにイギリス本土の防衛の為にも目と鼻の先のフランスを叩き潰しておきたいが、
それは全体的・長期的に見て不利になる点の方が多い。

中立の姿勢を示している北ヨーロッパ・北欧系諸国を省き、
東欧・南ヨーロッパは敵。
更に東にはロシアも控えている。

一画に過ぎないフランスを落とした所で、この陣営が全て崩れるとは思えない。
むしろローマ正教側の怒りを更に掻き立て、戦況は更に泥沼化する可能性が高い。

(以前キャーリサは、クーデター成功の折にはカーテナを手にヨーロッパ蹂躙を目論んでいたが、
 それは圧倒的な力を見せつけ、電撃的に突き進んで一国一国屈服させて行くつもりだった。
 最初から諸国が固い連合を組み徹底抗戦を掲げている今では、そんなやり方はもう通じないだろう)

また一方で、イギリスの軍事的大陸進出により、中立国らも何かしらの行動を始めるかもしれない。
ヨーロッパが戦場となる以上、ドイツ等も黙ってはいられない事態となるのだ。

キャーリサ「…………」

大陸進出による補給線の拡大と戦線の肥大。
『頭数』の少なさが表面化し低下する全体の戦力密度。

煮えたぎったフランス・ローマ正教との激烈を極める戦闘。
『降伏』の二文字がどちらにも存在しない徹底的な殲滅戦。
そして、更に敵として増えるかもしれない強大な兵力。

キャーリサ「…………」

アメリカの支援無しという現状において、
攻勢に出て大陸進出するにはリスクがあまりにも大きすぎるだろう。

少なくともキャーリサは、そんな危険な賭けで祖国と民を道連れにする事などできなかった。

122: 2010/10/20(水) 23:29:23.74 ID:n04WsQMo

キャーリサ「(………………さて…………どうするか……)」

と、一応の方針はこう決めていたものの。
キャーリサはこの戦争の着地点が見出せないでいた。

いや、正確に言えば『丸く収まる着地点』を、だ。

既に交渉の余地が無い程に、両陣営の世論は煮えたぎっている。
イギリスも、国民も軍部も魔術側も皆怒り狂っている。

関係の修復は最早不可能。
戦うしかない。

誰も退く事ができない。
退く事が許されない。

どの陣営も、この底無しのアリ地獄のような戦いに身を投じていくしかないのだ。

見える着地点はただ一つ。

どちらかの『滅亡』だ。

キャーリサ「(…………まあまあ、なんつーうまい具合に整ったもんだ)」

現状のこの有様に第二王女は頭の中で呆れ果て、小さく笑ってしまった。
最早笑うしか無いだろう。

だが、彼女は決して現状を見放した訳ではなかった。
現実から逃げた訳でもない。


キャーリサ「(…………そーれでだ。誰がこのクソッタレな舞台を整えた?)」


彼女は冷静に前を見据え、渦巻く闇を見つめながら。
最も重要な部分への疑問を投げかけた。

『着地点の鍵』へ向けて。

123: 2010/10/20(水) 23:30:37.49 ID:n04WsQMo
既に戦争が始まっている今ではさほど重要視され無さそうな、
皆が見失いがちなこの部分。

戦争の発端理由は今やどうでも良い。

問題はどうやって勝つかだ、と今大半の者は思っているようだが。


実はこの部分が最も重要でもある。

ここにキャーリサと共に座している各首脳達も、
騎士団長を省き誰一人そこを見てはいない。

問題の『核』はそこにあるのに。

この妙な『違和感』の発信源が。

キャーリサ「…………」


今、軍事に精通するこの第二王女ははっきりと感じていた。

魔術世界と表の世界両方を知る彼女は認識していた。


この戦争は何かがおかしい。


普通の『人間の戦争』ではない、と。

124: 2010/10/20(水) 23:32:47.57 ID:n04WsQMo

キャーリサ「…………」

冷静に一歩引いてみれば何もかもが、『何か』がおかしいのが感じ取れる。
この状況はどこかが『ズレて』おり、世界が『狂っている』。

先日、魔女だったというローラが女王エリザードを頃しかけた。

その後、ローラの部屋がくまなく調べられ
ローマ正教側への通信履歴が残っていた霊装が発見され、
魔女ローラはローマ正教側の刺客であり裏切り者だったと断定されたのだが。

キャーリサ「…………」

どうにもこうにも納得できない。
反証はできないのだが、何かがひっかかる。

ローマ正教は、ヴァチカンの一件がイギリス清教の手によるものだと発表したが、
キャーリサから言わせればそんな事は絶対に有り得ない。

とんでもない言いがかりだ。

最大戦力であり重要な指揮官の一人でもある神裂を失ってまで、
窮地に追い込まれる形で開戦する馬鹿がどこにいる。
(そもそもイギリス側は、緊張と解き開戦を回避することに全力を尽くしていた)

そのヴァチカンにて、神裂とステイルが得体の知れない存在と交戦したらしく、
神裂の従者として共に赴いていた五和を含め三人とも忽然と姿を消した。

あそこで一体何があったのだろうか。

あの一件がローマ正教側の自作自演と考えるのも無理がある。
それはローマ正教諸国の反応を見て一目瞭然だ。

自作自演だったのならば、前もってある程度の準備はしておくはずだろう。
こんな大混乱など起こさずに、だ。

125: 2010/10/20(水) 23:36:23.65 ID:n04WsQMo

キャーリサ「…………」

また、ローマ正教諸国やロシアにある人造悪魔兵器の動向もおかしい。
配備状況が今一芳しくないのだ。

切り札と考えているのならば、いや実際に切り札であり今イギリスが最も恐れている存在の『一つ』なのだが、
なぜかどこの国も配備を最優先にはしていない。

各地に潜伏している諜報員から、
人造悪魔兵器の輸送を後回しにして霊装兵器が優先されたという報告もいくつもきている。

そんな物よりも人造悪魔兵器の方が、戦力としては明らかに上なのに。

最優先にすれば、一日もかからずに最前線に運べるはずだ。
しっかりと揃わなくても、着いた分から解き放っていけばそれだけでかなりの戦力となりうる。

それなのに現在の輸送状況では、第一陣が前線にてお目見えするのは早くても三日後。

キャーリサ「…………」

ここでキャーリサは一つの推測に思い至った。

もしかすると。


フランス、いやローマ正教一般諸国達は、人造悪魔兵器を『知らない』のではないか、と。


非活動状態の人造悪魔兵器の見た目は、通常の銃器や装甲車両・戦闘ヘリ・戦闘機。


まさか、各国もその『見た目どおり』としての認識しか持っていないのではないか、と。


ローマ正教諸国・ロシア全体としてはその兵器が『悪魔』とは知らずに、
ただ単に通常戦力の増強として、ウロボロス社から『最新兵器がお買い得』という感覚で購入したのではないか、と。

126: 2010/10/20(水) 23:38:42.99 ID:n04WsQMo

キャーリサ「…………」

恐らく、それら取引の場を仲介した連中が黒幕かもしくはその手先。

人造悪魔兵器という事実を隠しつつ、各国に忍び込ませる為に手を打った者達が。

それはまず、ウロボロス社上層部が一枚噛んでると見て間違いない。

いや、大規模にそんな事をできる権限を持つ者など一人しかいない。

CEO、アリウス。

これは以前からのウィンザー事件・人造悪魔兵器に関する調査報告が裏打ちしている。


そして一方で、ローマ正教側からも全てを知りつつ結びついた者がいるはず。

キャーリサ「…………」

ローマ正教全体に絶大な権限を誇る者は?
有無を言わせず、疑うことを許さずに絶対の命令を下せる者は?

ローマ正教徒にとって、その言葉は神のものに等しい真のトップは?


答えは簡単。


キャーリサ「(…………神の右席か)」

127: 2010/10/20(水) 23:41:31.17 ID:n04WsQMo
残った唯一の神の右席。

『右方』。

キャーリサは『核』を見定めた。


この騒乱の本当の『コア』の一部を。


キャーリサ「…………」

と、ここまで彼女はたどり着いたものの。

キャーリサ「(……手詰まりか)」

現在、どちらにもすぐには『手が出せない』。

右方のフィアンマとウロボロス社CEOアリウス。

フィアンマの現在の所在は不明。
先日に学園都市に出現したらしいが、その後は全くわからない。
(学園都市でのフィアンマの一件は、その直後に情報規制され学園都市がイギリスとも関係を絶った為、
 正確な情報は何一つ伝わってきてはいない)

一方でアリウス。

居場所はわかる。
だがその居場所の『状態』が問題だ。

各方面の報告によると。


どうやら今現在のデュマーリ島は、正に『魔窟』と化しているらしいのだ。

128: 2010/10/20(水) 23:44:02.00 ID:n04WsQMo
魔術の海中移動要塞の一つをあの島の沖に潜伏させているが、その報告からも明らか。

あの島は今、大量の悪魔達によって占有されている、と。
『本物の地獄』が出現した、と。

そんな地にはそうそう簡単に手が出せない。

もし攻勢を仕掛けるとしたら、通常兵力は対悪魔にはほぼ全く意味を成さない為、
魔術サイドの兵力をかなりつぎ込む必要があるが。

『孤立』している現状では兵力を裂く事ができない。
欧州戦線での大きな通常兵力差を、魔術サイドの兵力でやっと補完しているのだ。
(それでも頭数は明らかに劣っている。孤立無援の長期戦となると正に絶望的だ)

アメリカは今、太平洋側では全力で学園都市・日本と共に戦線を固めているが、
こちらの大西洋側では『別の事』に力を入れている為、現在イギリスには直接的な支援を行ってはいない。

キャーリサ「…………」

欧州戦線では正にイギリスは孤立無援なのだ。

今は裏世界の魔術サイドにおける『小競り合い』ではなく、国家同士の殲滅戦だ。

相手がフランス一国ならば勝ち目はあっただろうが、
今は一国のみでユーラシア大陸と渡り合おうとしている状況だ。

裏の魔術世界では、イギリスはローマ正教ともある程度渡り合っていたが、
表も裏も無い、ストレートに『国力』がものを言う全面戦争において不利なのは自明の理。

現にフランスには今、あの国のだけではなくローマ正教・ロシア盛教からの精鋭魔術部隊が続々と集結しつつある。
同じくローマ正教側各国の連合正規軍も、その歩みは魔術系統よりは鈍重だが集まりつつある。

数日中に本格的な大規模激突が始まるのは確実だ。

こんな現状の中では、イギリスが攻勢に出るにしろ守勢に回るにしろ、
どの道デュマーリ島に兵力を裂く事など論外だ。

129: 2010/10/20(水) 23:45:25.45 ID:n04WsQMo
学園都市・日本・アメリカは完全に防御に徹している。
ロシア本土に侵攻する気配が一切無い。

この太平洋側の連合軍がロシア入りしてくれれば、
いくらかはこっちに向かってくる戦力が減るだろうに。

キャーリサ「…………チッ…………」

関係を切った学園都市からのささやかな嫌がらせってか と、
第二王女は舌打ちしながら頭の中ではき捨てた。


ちなみにアメリカがイギリス支援を行っていない理由。
決してイギリスを見放したと言うわけではない。

大西洋側にて、アメリカにとって更に重要な問題が発生したのだ。
それが今、アメリカが集中している『別の事』だ。

いや、『別の事』と表現するのは間違いか。


なにせアメリカが大西洋側で集中しているのは、


正にこのデュマーリ島の件なのだから。


当初イギリス支援の為に出航した二つの空母打撃群が、
突如デュマーリ島へ進路を変えたのだ。

あの島の異常から2時間後の出来事だ。

130: 2010/10/20(水) 23:49:33.02 ID:n04WsQMo
キャーリサ「…………」

デュマーリ島の異常はアメリカに大きな衝撃をもたらしたらしい。

あの典型的な『科学脳』の国が悪魔の事を理解しているのか、
いやそれ以前に存在自体を認識しているのかどうかすら怪しいが、それでもその多大なる危険性は認識できたようだ。

なにせ、ウロボロス社の自治域とはいえアメリカ本土の目と鼻の先の『領土』でもある。

あの好戦的な国家が、本土近くの脅威には特に神経質に成りがちなあの国家が、
そんな不気味な爆弾を近くに放って置く訳が無いだろう。

確かにウロボロス社とは根強い繋がりがあるが、そんな事など国家の保全と天秤にかけるまでも無い。
人間同士ならばそれぞれの思惑の駆け引きがあるが、相手は『人外』。

さすがのアメリカでも、人外を手なずける気は起きなかったのだろう。
あの国が放った艦隊の動きから見て、デュマーリ島に攻撃を仕掛ける気なのは明白だ。

キャーリサ「…………」

アメリカ軍は、技術面においては学園都市・ウロボロス社に遅れを取っているが、
それでも世界の正規軍の中では技術水準も規模もダントツのトップ。

学園都市の奇妙奇天烈な『デタラメ』兵器群も、
初戦は優位に立てるだろうが、本腰入れて正面からじっくりやりあったら最終的に押し負けるのは明らか。

魔術や能力と言った超自然的な力は全く無い代わりに、通常兵力は堂々の地球最強だ。

そのアメリカ軍から放たれた二つの空母打撃群。
そしてデュマーリ島の地理から見て、本土からも向かうであろう大規模な航空戦力。

小国ではないそれなりの国でも、2、3日あれば丸々叩き潰せる程の規模だ。

だが。

キャーリサ「(…………全く。兵力がもったいないっつーの。それをこっちに寄越せよ)」

悪魔が巣くうあの魔境に対してはほぼ無力だろう。
戦力どうこう以前に、存在している次元の格が違うのだ。
相性がとことん悪すぎる。

結果は目に見えている。

『通常世界無敵』、『物質的な戦闘』に関しては最強の米軍といえども。


『別次元世界』、『物質的な』限界を軽々超えていく存在相手ではどうしようもない。

131: 2010/10/20(水) 23:51:14.33 ID:n04WsQMo
キャーリサ「…………」

ただまあ、イギリスにとってはその犠牲から得る物もいくつかあるだろう。

今キャーリサの周りにいる、非魔術の正規軍最高幹部達は、
未だに悪魔というものについてはピンとこないらしい。
ここ二ヶ月、イギリス全土の悪魔掃討作戦で魔術部隊と共同で動いてはいたものの、やはり非魔術人。

悪魔どうこう以前に魔術云々自体、正しい認識を持つ者は極少数だ。
将軍の中にも未だに胡散臭げな反応を示す者もいる。

(そもそも正規軍の一般常識では、魔術も能力と同じものと考えており、
 イギリスも非公式でありながら学園都市のような能力開発を行っている、というのが暗黙の認識となっている。
 最高幹部以外では、悪魔も生物兵器の一種と認識されている)

だがキャーリサにとって正しく理解しようがそうでなかろうかはどうでも良い。

彼女が望んでいるのは、その多大なる脅威性を『正しく』認識し見に染みこませて貰う事だ。

現に、正規軍の武官は皆デュマーリ島の事を全く重要視していない。

危機感が足りないのだ。

確かに目下の欧州戦線は重要だが、一方でこのデュマーリ島の件も実際は同じくらいの重要度なのだが。

間に大西洋という巨大な海域が広がっている事も、その的外れな安心感の源となっており、
本気になった米軍が向かったことで『これでこの件は一件落着、もう話し合う必要は無い』と言う者までいる。

キャーリサ「…………」

つまり、そんな連中にとってはこの米軍の行く末はいい薬になるに違いないのだ。
頭で理解しなくとも良い。

恐怖と脅威を認識さえしてくれれば、と。

132: 2010/10/20(水) 23:56:47.19 ID:n04WsQMo

と、キャーリサが相変わらず不機嫌そうな表情で思考を巡らせていた最中。

『緊急報告。米統合参謀本部からの情報です』

響く通信霊装からの声。
ちょうどキャーリサが欲しがっていた報告だ。

『デュマーリ島周辺の最新報告です。同島沖にて監視を行っていたセルキー8も確認済み』

その言葉に、正規軍の幹部は見るからに『戦勝報告か』と思っているであろう明るい表情を浮かべた。

何も知らずに。

対照的に、結果を正しく予想できている魔術系の幹部達は皆一様に眉を顰めていた。

キャーリサ「OK、話せ」

そして告げられていく。


『デュマーリ島に向け展開していた米海軍第3・第7空母打撃群が「消息を絶った」模様』


『艦船からのミサイル攻撃、本土及び艦隊からによる航空攻撃、艦積のレールガンによる砲撃らは全て失敗』

『空母ジョン・C・ステニス、ロナルド・レーガンを含む全ての艦船、及び本土からの空軍機約110機が「消息不明」との事』

『その後、軌道上の衛星からによるレーザー照射も行ったとのことですが、これも失敗した模様』

『衛星は初弾照射4秒後に撃墜されたと』


米軍の末路。

134: 2010/10/21(木) 00:01:22.22 ID:mRdgekMo
その報告を聞いていた正規軍の幹部達。
いつのまにか皆、魔術系の幹部達と同じような表情に変わっていた。

キャーリサ「ほーら見ろ、言わんこっちゃねーっつーの」

そんなどんよりとした空気を切り裂く、いつも通りの軽い口調の第二王女。

騎士団長「……正に大敗ですね。ベトナム以来じゃないでしょうか?」

キャーリサ「一戦闘での損害規模ならWW2以来だろ。いや、あの国の歴史上堂々一位の最悪の規模かもな」

『またセルキー8からの追加報告によると、高出力の魔が検出されたとの事です』

キャーリサ「悪魔の種類と数は判明したか?」

『おおよそは。大悪魔はいませんでしたが、最高等悪魔はブリッツが5体、リヴァイアサンが7体確認できました』

キャーリサ「…………」

ブリッツ、リヴァイアサン。

こんな悪魔なんぞ、デビルハンターの名を称すことを許された最精鋭の英騎士・英魔術師も手が出せない。

現有イギリス戦力の中では、シェリー・シルビアかカーテナ装備の王家・騎士団長ぐらいしか『処理』できない。

雷速で行動可能、戦闘能力は大悪魔に匹敵すると言われているブリッツに至っては、
この面子でもそれなりに厳しいかもしれない。

それが最低でも計12体とは。

『その他にも500体以上の悪魔が出現した模様です』

『また、それとは別に人造悪魔兵器と思われる個体も1300体程確認』

キャーリサ「………………………キ○ガイ染みすぎだっつーのその規模は」

騎士団長『…………これでもまだ氷山の一角でしょう。気が滅入りますね………本当に』

135: 2010/10/21(木) 00:05:49.84 ID:mRdgekMo
キャーリサ「…………さてと。じゃあ皆の者、耳を闊歩じって聞け。命を下す」

キャーリサ「まずデュマーリ島の件」

キャーリサ「外務大臣。ヤンキー共にはとりあえずこう伝えとけ。『止めておけ。お前らじゃ何をやっても無駄だ』、」

キャーリサ「『その島は無視してこっちに援軍を派遣しろ。そうしたらこっちがその島の事を処理してやる』、ってな」

キャーリサ「それとビスケー湾のイラストリアスの艦隊、カヴン=コンパス(魔術移動要塞)を大西洋側に向かわせ哨戒網を強める」

キャーリサ「特に、デュマーリ島と我が国を結ぶ直線ラインを重点的にだ」

キャーリサ「ビスケーの開いた穴はクイーン・エリザベスに一時補完させ、後にインヴィンシブルを叩き起こして向かわせ埋める」

キャーリサ「セルキー9とセルキー10を更にデュマーリ島沖へ向かわせ、あの島の周囲の監視網を強化させろ」

キャーリサ「ヤンキー共の『生存者』は収容してやれ」

キャーリサ「どうせそこまで『数は多くない』だろ。可能な限り載せてやれ」

キャーリサ「デュマーリ島そのものについては保留。現状では手を出す余裕は無い」

137: 2010/10/21(木) 00:10:09.95 ID:mRdgekMo
キャーリサ「次に欧州戦線。状況に進展があるまで本土防衛に氏力を尽くす」

キャーリサ「騎士と清教。禁書目録の回収、及びローラ=スチュアート、ステイル=マグヌスの討伐は一時凍結する」

キャーリサ「どうせ連中は国内にはいない。討伐部隊を解体し各地に配備し直せ」

キャーリサ「海軍はビスケー湾、ケルト海の封鎖を維持」

キャーリサ「ジブラルタルの監視を続けろ。ドゴールのジジイ(空母シャルルドゴール)を地中海から出すな」

キャーリサ「空軍も現状を維持。如何なる勢力にも我が国の空をのさばらせるな」

キャーリサ「騎士と清教の該当部隊も同じく」

キャーリサ「迎撃は苛烈を極めさせ、我が国の領内に武器を伴って侵入する者は何人も生きては返すな。全て血祭りに上げろ」

キャーリサ「それと近衛侍女長、シルビアをさっさと呼び戻せ。魔神崩れと孤児付きでもかわまんと言え」

キャーリサ「騎士団長もだ。ウィリアム=オルウェルをちゃっちゃと呼べ」

キャーリサ「騎士の誓いを果たしに来い、ってな。さもないとヴィリアンを前線に向かわせるつーの」


キャーリサ「まあ、こんなところだ。では各々、祖国への忠誠を示せ。ユニオンジャックへの誓いを果たせ」


キャーリサ「以上。さっさと動け」


「「「「「「「Yes, Ma'am.」」」」」」」

138: 2010/10/21(木) 00:13:09.91 ID:mRdgekMo
キャーリサの言葉がしめくられ、堰を切ったかのように動き出す幹部達。

ある者は立ち上がり、携帯や通信機を耳に当てながらそそくさと退席し、
ある者はその場から下界のフロアへ指示を飛ばす。

そんな中。

キャーリサ「…………何してる?さっさと動けっつーの」

隣にて、未だ動く様子の無い騎士団長へ、
目を細めながら高圧的に言葉を飛ばすキャーリサ。

騎士団長「…………ウィリアムですが、呼ぼうにも連絡手段がありません」

キャーリサ「どこにいるかもわからんの?」

騎士団長「正に」

キャーリサ「却ーッ下。その言葉は認めない。遅くとも三日以内に呼べってーの」

騎士団長「いえ、そもそも呼ぶ必要はありませんかと」

騎士団長「あの男は自ずとやって来ます。必ず」

キャーリサ「……ふん」


―――

144: 2010/10/21(木) 00:27:01.05 ID:mRdgekMo
―――

学園都市。

翌日。午前10時。

第二学区、とある地下演習場。

灰色の壁の広大な地下空間、床には1mごとに縦横に線が引かれ、
屋内は白いライトの光で満たされていた。

その中央に一人立ち目を閉じて精神を集中している、
見た目は小学生にも見えてしまう事がある、可愛らしい小柄な一人の少女。

だがその能力は今や、見た目からは考えられないほどに強力。


『調整』によって新生した『窒素装甲』、絹旗最愛。


彼女の前方には、不規則に置かれている自動車や、
シェルターの扉のような分厚い特殊素材の塊が点在していた。

これらは『的』。

絹旗から見て奥になればなるほど、
並べられている『的』の大きさきさや重量、強度が増していた。

145: 2010/10/21(木) 00:29:21.29 ID:mRdgekMo
これはいわばタイムアタック。
制限時間内にどれだけ多くの物を破壊できるか、
そしてどこまで突き進めるか、を見る為のものだ。

更に、ただ一方的に破壊していくだけではない。
壁には等間隔で穴があいており、時折そこから銃弾等が放たれてくる事もある。

AIMの最大値測定・能力の完成度チェックも兼ねた、
暗部戦闘要員向けの『身体測定』といったところか。

この形式のテスト、絹旗は以前にも何度も受けたことがある。

ここでやったからこそ、己の窒素装甲が銃弾を弾ける強度だとわかったし、
大質量の物を分投げる際の演算の仕方等、そして能力を合わせた体の動かし方を覚えたのだ。

一方通行や未元物質も、その能力が完成する前の初期の頃は、
これと同じようなテストを何度も受けた事だろう。


絹旗「…………」

目を閉じ、能力に意識を集中する絹旗。
昨日の調整によって窒素装甲の厚みは20cmにまで増し、その密度も桁違い。
更に装甲の外、半径5m程の空間を周囲の窒素の流れで視覚せずとも知覚できる。

これも応用すれば、防御面で更に素晴らしい恩恵を受けることが可能だ。

146: 2010/10/21(木) 00:30:52.34 ID:mRdgekMo
絹旗「…………」

集中し、沈黙。

そしてしばし立った後。

屋内にブザーの音が鳴り響き、どこかのスピーカーから。

『「窒素装甲」。始めろ』

測定員のテスト開始の合図。


絹旗「―――ッ―――!!!!」


その声とほぼ同時に絹旗は、音にならない『掛け声』を発し、
正拳を放つような動作で右手を前に突き出す。

瞬間、高密度に圧縮された『窒素弾』が放たれ。

まず15m程前方、一番近くにあった乗用車が一瞬にして砕け散る。

潰れたのではなく、ひしゃげたのでもない。
榴弾が叩き込まれたかのように、内側から破裂した。

147: 2010/10/21(木) 00:33:38.87 ID:mRdgekMo
乗用車の破片が飛び散り、中を舞う中。
その金属の雨の中を、猛烈な速さで突っ切り衝撃波で破片を撒き散らす小さな影。

以前は窒素を動かして『運ぶ』だけであったが、
今の絹旗は別のやり方を併用して更に高速に動ける。

窒素を高密度まで圧縮し、それを任意の方向へ解き放つ。
別段、難しいことではない。
今日の工業界では極当たり前のように使われている。

圧縮窒素ガスだ。

このジェットが、絹旗の体を一瞬にして音速近くまで爆発的に加速させた。

砲弾の如き飛び出した絹旗。
そのままの勢いで二台目の車、アンチスキルなどで使われる装甲バンに体ごと突っ込む。

一台目と同じく、まるで紙細工のように装甲バンは一瞬にして粉砕―――


―――したかと思った次の瞬間。


飛び散りかけた破片と残骸が、今度は瞬間的に一点に集まり超圧縮。

50cm程の金属球体に。

絹旗は、その窒素で力ずくに圧縮した『ボール』を掴み上げ、
次の標的へと圧縮ガスのジェットを使いつつ思いっきり分投げた。

音速の数倍にまで加速され、更に圧縮窒素ガスの『炸裂剤』まで負荷された砲弾。

放たれた先は、シェルターの隔壁などに使われる厚さ1mにも達する特殊素材の壁。

砲弾はその中ほどにまで食い込み、そして。

ガスの圧縮が解き放たれ爆散。

特殊素材の壁は意図も簡単に砕け散った。

148: 2010/10/21(木) 00:36:50.03 ID:mRdgekMo
絹旗「(―――超素晴らしいです)」

能力の状態を己自信で確認し、満足げに薄く笑う絹旗。
そのまま、更に奥の標的に向かおうと再び自身を加速させた次の瞬間。

絹旗「―――」

周囲の知覚域に侵入する、未知の物体。
飛び散る破片ではない。

大口径の銃弾だ。

それも複数。四方八方から彼女を包囲する形で。

以前の絹旗なら、装甲が貫かれることはなくとも衝撃をダイレクトで受けてしまうため、
体が弾き飛ばされたりもした。

だがそれは前までの話。

そもそも、以前ならばこうして銃弾の飛来を感知する事もできなかったが。

今は違う。

知覚域の進入物体を捉え、一方通行の演算をモデルとしたシステムが自動で働く。
彼女自身の能力行使が強化された為、この演算モデルの真価がやっと発揮される。

銃弾の飛翔ルートを割り出し、ピンポイントで窒素を圧縮。

そして装甲表面から窒素弾が放たれ、自動的に銃弾を『迎撃』。

銃弾程度では『窒素装甲』に触れることすら叶わなかった。

『窒素装甲』はあくまで『装甲』。
鎧はあくまで鎧。

確かに心強いが、一番良いのは。


接触さえしない事だ。

149: 2010/10/21(木) 00:41:58.10 ID:mRdgekMo
銃弾を難なく退けた絹旗。

そのままの勢いで最後の標的、更に分厚いシェルター隔壁素材へと突進し。
宙で身を捻り。

絹旗「―――やぁああらぁあ!!!!!!!!!!!!」

雄たけびを上げながら、飛び回し蹴り。

水平に振るわれた小さな足で抉られぶち切られ。
隔壁素材は上下真っ二つ。

更に絹旗は空中で身を捻り、右手で割れた上方を掴み。

絹旗「―――はぁああ―――!!!!!!!!!!!」

一気に叩き降ろす。

上と下の二つに分かれた隔壁素材。
それが再び一つになる。

次の瞬間には、二つどころではなく無数の破片となって飛び散ったが。


標的を全て破壊しつくし、ひらりと舞い降りる絹旗。
ジェットの浮力により、優しく優雅にかつ可憐に少女は軟着陸。

絹旗「…………ふぅ…………超良い感じですね」

そして小さな両手を叩き合わせ、埃を掃うような仕草で軽く息を吐いた。
窒素の幕と装甲で守られているため、実際はチリ一つついていないが。

『タイムは1.57秒』

その時、スピーカーから響く測定員の声。

絹旗「…………」

『おめでとう。タイムは午前の部のレベル4勢のメンバー中では4位だ』

『能力行使の完成度も満点だ。AIM強度がしっかり反映されている』


絹旗「すみません。1位は誰ですか?」


『テレポーターだ。ジャッジメントから選抜されたな。タイムは0.52秒だった』


―――

150: 2010/10/21(木) 00:43:11.93 ID:mRdgekMo
―――

同じく第二学区、また別の地下演習場。
絹旗がいたところと同規模のその地下空間。

だが、中の有様は全く違っていた。
大量の金属片が散らばっており、並大抵の事ではヒビすら入らない演習場の床や壁も、
あちこちが大きくへこんでは割れたりしていた。

そんな中、一画にあるひしゃげた金属塊の上に腰掛、
軍用ライトをクルクルとまわしながら何食わぬ顔で鼻歌を歌っている少女。

暫定的でありながら、晴れてレベル5入りした第八位、結標淡希。

この演習場の爪痕は彼女がつけたものだが、これでもまだまだ極一部。
ただの演算確認のため、かなり力を制限しただけでこの有様になってしまったのだ。

結標自身は未だ知らないが、彼女のAIMの強度は全能力者中、事実上『第五位』。
麦野や御坂をも遥かに上回っているそのAIM拡散力場が、ストレートに実際の能力行使に反映されればどうなるか。

当然、凄まじい事になる。

更に元々、テレポート系統は能力者世界でも特異な存在であり、
11次元まで干渉するという他と一線を画すその性質上、AIM強度も他よりも高い傾向がある。

そのテレポート系の頂点に立つ結標。

彼女が真の素養を最大限活用したら、どうなるかはお察しの通りだ。

151: 2010/10/21(木) 00:47:18.28 ID:mRdgekMo
ちなみに、この彼女の強化の全てが、ミサカネットワークの演算補助のおかげというわけではない。
むしろ演算補助はちょっとしたスパイスに過ぎない。

演算補助をするだけで爆発的に能力行使を高められるのなら、
それこそ妹達のどれかが御坂並の力を発揮できてもおかしくない事になる。

この能力の強化は、強大なAIM拡散力場という『材料』があってこそ。

『材料(AIM強度)』が無ければ、どれ程優秀な『料理人(演算)』がいても無意味なのだ。

そもそもこの演算補助自体も、彼女の『元の素養』から割り出された数値を下地にして構成されている。
彼女自身がいずれ身に付け得ることが可能なであろうレベルの、だ。

あくまで演算補助は、『順当に成長していった場合』の、
『未来の彼女の演算力』を擬似的にシミュレーションしているだけなのだ。

それは一方通行にも当て嵌っている。

ミサかネットワークは能力の演算スペックだけなら、
かつての一方通行自身の脳を上回っている。

だが現に見るとおり実際の演算補助は、
脳を失う以前の彼と同じ水準『までしか』できない、という事だ。


これまた彼女自身は知る由が無いが、もし何かが違っていたら。
例えば能力実験中に『あの事故』が起きず、順当に成長していたら。

そうだったのならば、その優先度から見てもレベル5第三位の座に上り詰めていたことだろう。

152: 2010/10/21(木) 00:50:25.43 ID:mRdgekMo
そんなテレポート系の『女王』、結標淡希。
悠々と鼻歌を奏でながら、心地よさ気に廃墟と貸した演習場ど真ん中で佇んでいた。

と、しばしそうしていたところ。

演習場に二人の少年が入ってきた。

一方通行と土御門。

二人は金属塊の下から結標を見上げ。

土御門「おっす。どうだ調子は?」

一方「随分とゴキゲンだなァ」

土御門はニヤニヤと不適な笑みを浮かべながら、
一方通行は相変わらずトゲのあるオーラを放ちながら声を飛ばした。


結標「良い感じ。色々と面白いわ」


土御門「で、具体的にはどうなった?スペックはどれだけ伸びた?」

154: 2010/10/21(木) 00:54:25.20 ID:mRdgekMo
結標「まず、ここでやってみた分から見て計算すると」


結標「一度に掌握できる質量は大体1万トン」


結標「掌握可能域は500m」


結標「転移距離は一度で飛ばせるのが約4000m、秒間にすると最大約12km移動可能」


結標「同時に転移処理できる数は大体1万2千」


結標「あと、昨日の調整の時にアクセラレータの演算モデルも入れてもらったから、『転移膜』も有りってところ」


淡々と、別段何でも無い様にとんでもない推定スペックを羅列していく結標。


結標「ま、この最高スペックを行使すればスタミナ切れで大変なことになると思うけど」


土御門「ひゃ~…………おっそろしや……」

一方「まァ、やっとそれなりに使えるレベルになったじゃねェか」






155: 2010/10/21(木) 00:58:06.83 ID:mRdgekMo
結標「それと、ただ飛ばすだけが能じゃなくなったわよ」

土御門「?」

結標「そうそう、これをアクセラレータに見てもらいたかったの。能力ONにして」

一方「ンだよ。少しだけだかンな」

そこを見てて、と20m程離れた場所の直径2mほどの金属塊を指し、
とひと段落置いた結標。

そしてくるりと軍用ライトを回した次の瞬間。

『無音』で金属塊が砕け、粉末の山へと姿を変えてしまった。

どう、と得意げな笑みを浮かべる結標。
はン、と小さく笑う一方通行。

土御門「………………今のは何だ?」

そしてポカンとする土御門。


土御門「…………今何やったんだ?……」


一方「『同じ点』に向けて、『同時』に『複数』を転移させたか」


結標「そうそう」

156: 2010/10/21(木) 00:59:40.93 ID:mRdgekMo
テレポートは、三次元上では一瞬で消え別の場所に同時に出現しているように見える。

だが実際は十一次元上を『移動』させており、当然ベクトルも発生している。

そして十一次元を通し三次元上に転移させる際、物体は三次元上に『抵抗無く割り込む』。
物体同士の衝突も反発も一切起きない。
するりと、『最初からその場にあったかのよう』に出現する。

より高次元の物体の方が、『存在』が優先されるのだ。


だが同じ十一次元からの物体が同時に重なれば?


当然『衝突』する。


転移途中の十一次元ベクトルの激突。
しかし転移作業はそのまま進み、その十一次元上の衝突エネルギーが三次元上に『変換』されて出現。

その異次元の力が、ストレートに溢れ出す。

これは結標も、試してみるまでは何が起こるかがわからなかった。
何かが起こるという事は予想できていたが、いかんせんかなり緻密な作業を必要とする為実際にはできなかった。

(転移のタイミングは完全に同一でなければならない。
 精神状態によって演算の時間的ラグが常に発生していた以前では、実験が不可能だった)

157: 2010/10/21(木) 01:03:33.75 ID:mRdgekMo
そして今、こうしてやっとその実験ができた訳だ。
結果は。

とにかく高濃度の得体の知れない『力』が、凄まじい勢いで放出された。
放出された、とは言うものの『爆発』とは言い難い。

エネルギーの伝播は空気を介すのではなく、空間そのものを介しているらしかった。
その為、俗に言われている『衝撃波』は発生しない。

更に一瞬で一定域の空間が『同時』に歪んでいるため、『伝播』と言えるのかすらも怪しい。
周囲の破壊の仕方も、『波』で押しつぶしていくのではなく、『同時』に崩壊させて『粉化』しているのだ。

その為、物体の姿を変えた粉が周囲に飛び散ることも無くその場に普通に降り積もる。

一方「おもしれェな」

結標「ま、指向性の『局点粉砕技』ってところかな」

結標「触れながらとか、手のすぐ近くに『点』を設定すればもっと威力増すみたいだけど」

一方「昔、一度だけ見たことあンぜ。前にテレポーターを反射した時もこォなった」

結標「…………具体的にどうなったの?」

一方「同じだ。そいつの体が崩壊して粉化した」

結標「…………………………まあそれはおいといて。それで何か見えた?エネルギーとかどう動いてんのこれ?」

一方「わかる事ァわかるが、説明しろっつゥのは無理だ」

結標「じゃあ、ネットワークにそのデータ流せない?欲しいんだけど」

一方「無理だ」

159: 2010/10/21(木) 01:06:54.06 ID:mRdgekMo
結標「じゃあ…………今は1立方cmの大気を1000個、同点に転移したんだけど、」

結標「やっぱり転移物の質量が増せば範囲とか威力も増す?」

一方「当然」

結標「そう……それとさ、こういう局点的なのも使い勝手良いんだけど、『普通の爆発』は起こせない?」

一方「広域にエネルギーを『拡散』させてェのか?」

結標「そう。どーんといける手法も欲しいなって。コレだけのエネルギー、どうにか『拡散』させればかなり吹っ飛ばせるでしょ」

一方「なら『土台』は揃ってンだろ」

結標「?」

一方「物体を十一次元に通す時、『変換』してンだろォが」

一方「その『変換』を完全に掌握すれば良い。今のは、十一次元のエネルギーを強引に三次元上に『押し付けてる』だけだ」

一方「正しく『変換』し、出力の仕方を変えれば『拡散』させるも『圧縮』させるも思いのままだ」

一方「『拡散』させりゃァ、威力は落ちる代わりに広範囲を吹っ飛ばせる」

一方「『圧縮』させ一点集中させりゃァ、範囲は小さくなる代わりに局点の破壊力は増す」

結標「…………理論は何となくわかるけど、具体的にどうすれば良いのよ?」

一方「『力』を認識しろっつゥ事だ」

一方「『能力』じゃねェ。その能力を発動し行使する際の『力』、だ」

結標「……………………簡ッッッ単に言うわね」

160: 2010/10/21(木) 01:10:53.64 ID:mRdgekMo
一方「簡単ではねェよ。力の『拡散』も『圧縮』も、俺もつい最近悪魔共と戦うよォになってから覚えたことだしな」

結標「………………ねぇぇーー、どうにかしてその『認識』、ネットワークに流せない?」

一方「無理だ。コレばっかりは自分で覚ェなきゃどォにもなンねェ」

一方「そこをマスターすりゃァ、『座標移動』つゥのは『オマケ』にしか過ぎねェくらィの力を行使できンぞ」

結標「オマケ?」

一方「一昨日の『クソ野郎』が言ってやがった。俺のベクトル操作も『オマケ』ってな。俺も今なら何となくわかる」

一方「つまりだ、オマェも俺もベクトル操作と空間操作っつゥ『アプローチ』は違うが『行き着くゴール』はほぼ同じもン、だって事だ」

結標「じゃあ何よ、私もいつか『そういう腕』みたいなのつけちゃう事になっちゃうの?」

結標「それは嫌よ。四六時中、長黒手袋付けてるような体なんて」

一方「あ゛ァ゛ァ゛???」

土御門「まあまあ………………とりあえずこれに目を通せば、アクセラレータの言いたい事がわかるぜよ」

そこで土御門が一つの丸まった書類を取り出した。
と、次の瞬間、彼の手からその書類がフッと消え。

結標「これは?」

金属塊の上の結標の手の中に移動していた。

土御門「…………『能力』についての色々な情報だ。アレイスターから貰った」

結標「…………アレイスターから?信頼性は?」

土御門「少なくとも俺達のお墨付きだ。見てみろ。お前にもかなり関係あるぜよ」

土御門「ま、俺はこれから『野暮用』あるから席を外させてもらうぜよ」

土御門「なんかあったらアクセラレータに聞け。『優先度第四位さん』よ」


結標「…………はあ?」

―――

161: 2010/10/21(木) 01:12:25.28 ID:mRdgekMo
今日はここまでです。
次は明日に投下したいと思っておりますが、無理だった場合は月曜の夜となります。

169: 2010/10/22(金) 00:04:27.13 ID:ap56yVco
―――

とある病棟の一階のフロア。

ずらりと並んでいる長椅子の一つにて、『ジャッジメントから選抜されたテレポーター』、

白井黒子がボンヤリと天井を仰ぎながら座っていた。

つい先ほど、第二学区の地下演習場でテストを終えてきたばかり。
調整によって、新生した己の能力を実際に確かめてみたのだが。

黒子「…………」

はっきり言って想像以上だった。
自分自身が怖くなるほどに。

測定員達の話を聞くところによると、昨日の調整はAIM自体を強化するのではなく、
今まで垂れ流していたAIMを全て能力として扱えるようにしただけ、との事だ。
それが最適化、効率化だと。

つまるところ、元々このレベルの力の素養はあった、という事だ。
昨日の調整を受けなくとも、順当に成長していればいずれどの道到達していたと。

黒子「…………ふう…………」

ただ、順当にじわじわ成長していたらこんな違和感も感じなかっただろう。
いきなりドンと跳ね上がれば、やはりどことなく奇妙な感覚が纏わりつく。

ただまあ、大きな力と引き換えならば安いものだ。

170: 2010/10/22(金) 00:07:12.60 ID:ap56yVco
とはいえ、かなり能力が強くなったものの、
経験からすると悪魔と戦うにはまだまだ心もとない。

黒子は思う。

この程度じゃダメですの。

こんな程度じゃ、お姉さまの傍では戦えませんの、と。

決定的な何かが足りない。
まだまだこれでは、御坂の隣で戦う事ができない。

だが、その打開策も無い訳ではない。
御坂にあのとんでもない銃弾を与えたレディ、という人物。

己も、御坂レベルとはいかないまでもああいう何かしらの武器が欲しい。
悪魔に対抗するための大きな武器が欲しい。


しかし御坂の話を聞く限り、到底黒子には資金的に手が出せないものらしかった。

御坂に直接掛け合い数発譲ってもらうにしても、
『お姉さま』は確実に追求してくる。

何に使うの?と。

そして必ず察知する。
黒子が『危険地帯』に行こうとしている事を。

黒子は、己がデュマーリ島に赴く事はなんとしても伏せておきたい。
御坂には絶対に知られたくない。

なぜなら。

あの優しい優しい『お姉さま』は必ず胸を痛め、
黒子の事をどうしようも無いほどに心配してしまうだろうから。

171: 2010/10/22(金) 00:08:17.69 ID:ap56yVco
それとは別に一瞬、ほんの一瞬だけ、御坂の部屋に忍び込み、
バッグからあの銃弾を数発だけ『借りて』行こうとも思い浮かべてしまったが、
この黒子にそんな事ができる訳が無かった。

盗むという以前に、己が取ってしまった数発が、
いざという時の御坂の命を左右するかもしれないと考えると、絶対にできない事だった。

そうやって、少女はぼんやりとしながらも頭を悩ませていた時。

フロアの奥の方から足音が響いてきた。

黒子「…………」

足音は三つ。
一つは、かちゃかちゃと金属が軽くぶつかり合う音を伴っている。

そんな音に何気なく耳を傾けていた時。


「あ!!!!!」


その足音の方から響く、聞きなれた声。


「白井さん!!!!!」


黒子「(…………佐天さん……?)」

172: 2010/10/22(金) 00:09:38.27 ID:ap56yVco

むくりと、ややだるそうに身を起こし声の方へと振り向く黒子。
ちょうど長い黒髪の友人、佐天が駆け寄ってくる最中だった。

そんな彼女の後ろを、優雅かつ力強く歩きながら付いてくる、
巨大なロケットランチャーを背負っているサングラスをかけた白人女。
その脇を、ちょこちょこと早歩きで付いてくる赤毛の幼い少女。

黒子「…………」

二人とも見覚えないが、その身なりと雰囲気で一瞬にして分かる。

悪魔関係の者達だ、恐らくダンテやトリッシュ繋がりの、と。


佐天「おはようございます!!!」

黒子「おはようですの」

佐天の相変わらずの元気溢れる笑顔とは対照的に、
苦笑いのような笑みを浮かべながら挨拶を返す黒子。

佐天「……あれ、どうしたんです?」

黒子「少しばかり、『お仕事』の疲れが残ってますの」

佐天「あ~……お疲れ様です」

173: 2010/10/22(金) 00:11:07.96 ID:ap56yVco
黒子はゆっくりと立ち上がり、緩やかな仕草で服の皺を整えながら。

黒子「え~っと…………それで、その方々はどちら様ですの?」

佐天「あ、そうだ!紹介しますね!」

一泊置いた後、佐天の少し後ろに来ていた二人を、彼女は指しながら。

佐天「そっちの可愛い子がルシアちゃん!」

佐天の紹介に合わせ、ルシアがペコリと頭を下げ。


佐天「こちらが、レディさん!!!!御坂さんが言ってた方ですよ~!」


レディは軽く口の端を上げた。


その『レディ』の名を聞いた瞬間。

黒子は目を丸くし固まった。
当然だろう。


黒子「―――」


つい先ほども、この女関係で色々と考えていたのだから。

174: 2010/10/22(金) 00:12:49.70 ID:ap56yVco
佐天「……………………白井さん?」


黒子「――――――」

佐天の呼びかけにも応じず、石化したかの如く固まり続ける黒子。

首を傾げるルシア。
レディも訝しげに目を細めたのがサングラス越しからでもわかる。

佐天「あのう……………………どうしt」

数秒間の沈黙の後、再び佐天が呼びかけようとした瞬間。


黒子「―――はぁあああああああああ!!!!!!!!」


彫像のような佇まいから一変し、凄まじい形相で声を張り上げながら跳ね―――。


レディ「―――」


レディの前に『平伏した』。

完璧に。

さながら、武士の世の忠臣が如く。

175: 2010/10/22(金) 00:15:01.85 ID:ap56yVco
佐天「え?!えええ?!!!し、白井さん!!!!??」

ルシア「…………?」

突然の友人の不可思議な行動に、思わず声を大きくして驚く佐天。
『新た』に目撃した、『人間の行動』にポカンとするルシア。

そして。

レディ「………………はぁ?」

いかにも、『何コイツ』とでも言いたげに眉を思いっきり顰めるレディ。


黒子「―――あなた様にお願いが!!!!この無精黒子!!!!一生のお願いがありますの!!!!!!!!!」

黒子はそんなレディに向け、平伏したまま声を張り上げた。

レディ「?」

だが日本語。
当然レディは全く分からず、更に『はぁ?』っと全く隠すことなく怪訝な表情。

ルシア「……こ、このお方が、お願いがあるそうです」

そんなレディに向け、ルシアが横から英語で補足。

176: 2010/10/22(金) 00:16:26.73 ID:ap56yVco
その英語の会話を聞いた黒子。
すかさず今度は英語でもう一度同じ事を口にした。

やはり日本人的な癖がややありながらも、即座に英語を口から奏でられるのは、
さすがは名門常盤台といったところだろうか。

当の黒子は英語をすんなりと口にできた事になど全く関心を寄せていなかったが。
それどころではない。

レディ「…………何の用?」

黒子「わたくしめ!!!あなた様の武器を買いたいんですの!!!!」

黒子「お姉さまに売っていただけた程の物で無くともいいので!!!!」

黒子「お一つ!!!!お一つだけでいいですのでお売りになって下さいまし!!!!!」

レディ「姉?」

黒子「常盤台の超電磁砲、御坂美琴お姉さまですの!!!!」

レディ「あ~、ミコトちゃんの妹か。似てない姉妹ね」

レディ「それで武器は何?どんなの?」

黒子「…………このような物を」

黒子は恐る恐る顔を上げながら、太もものベルトから一本の鉄釘を抜き取り、
上納品を差し出すかのように頭の上に掲げてレディに見せた。

177: 2010/10/22(金) 00:18:27.16 ID:ap56yVco
レディ「……釘?どうやって使ってるの?」

黒子「わたくしめの能力で飛ばしますの。テレポートですの」

レディ「へぇ……アンタも能力者ね」
                                  ゴールド
レディ「で、予算は幾らあんの?ドルで。『 金 』が一番好きなんだけど、まあそこまでは期待しないわ」

黒子「…………ドル換算ならば……今すぐにお支払いできるのは××××ドル程ですの…………」

レディ「…………」

そこでレディはピクリと眉を動かした。
御坂に撃った弾よりも少し格下げした物が一つだけしか買えないレベルだ。

中学一年生にしてはかなりの額だが、レディにとってははした金同然。
取引する気すら起きない、興味が一切沸かない商談だ。

普段なら一笑し、『舐めてんの?』と吐き捨てる程度のだ。

レディ「…………」

だがこの時は、レディはそうはしなかった。

眼前にて平伏し、半ば潤みかけた瞳で己を見上げている少女。
もう退くことができない、何かにすがりつくような眼差し。

こんな目を向けられてまで、『残念でした』と見捨てるほど彼女の心は冷酷ではない。
いや、むしろこういう目が大好きだ。

儚い『弱者』でありながらも、なりふり構わず強引に進もうとするその少々危なげな心意気。

レディ「へぇ…………」

黒子を見下ろしながら、
『オッドアイ』の『人間最強』のデビルハンターは小さく笑った。

十数年前の、若き『オッドアイの誰か』さんもこういう目をしていたんだろうか、と思いながら。


こういう目で、同じく若かったあのスパーダの息子に詰め寄ったのだろうか、と。

178: 2010/10/22(金) 00:21:22.78 ID:ap56yVco
黒子「…………」

レディ「ちょうど良い有り合わせが無くて、今はこれぐらいしかないんだけど」

暫しの沈黙の後、レディは背中からロケットランチャーを降ろし。
ランチャーの尻の部分についている巨大な弾倉を開け、そこから一本の大きな黒い金属製の杭を引き抜き、
黒子に見せるように掲げた。

それは長さ20cm、太さ5cmの大きな杭。
表面には得体の知れない紋様が刻み込まれていた。

これはレディのランチャーから射出する為の杭。
以前、上条に対しても似たようなのを使ったが、今手に持っているのはそれよりも更に強力なもの。

レディの、『本気の勝負用』弾頭だ。
当てることさえできれば、大悪魔にも充分過ぎるほど通用する代物だ。

当然、黒子はその弾にどれ程の技術が集約されているかなど知る由は無いが、
御坂の弾よりも明らかに高価そうなのは誰が見ても一目瞭然。

黒子「………………………………お幾らで……ありますの?」

恐る恐る値を聞く黒子。


レディ「私が使う為の特製品だから、本来は売り物じゃないのよ」

そして帰って来た答えの値は。


レディ「まあ『もし』、『もしも』値をつけるとしたら…………一本×××××××ドルくらいかしら」


桁が違っていた。


黒子「――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!」

179: 2010/10/22(金) 00:23:11.50 ID:ap56yVco
レディ「どう?これしかないけど?」

硬直する黒子に、ニヤリと悪戯っぽく笑みを浮かべながら声を飛ばすレディ。
これはある種のテストだ。

とても身の丈に合わない、後の人生が潰れてしまいそうな重い『借し』を背負ってまで前に進む覚悟があるのか。
なりふり構わず前に進もうとする信念があるのか。

黒子「―――」

いくら『お嬢様』といっても、とても中学生では背負いきれない金額。
レベル5の御坂が異常なだけであって、さすがの常盤台の生徒でもそんな額などポンと出せるわけが無い。

しかし。

黒子「―――わかりましたの―――」

黒子は即答した。
迷い無く。

その『程度』で揺らぐ程ヤワな決心では無い。


黒子「お代金は必ず―――何十年かかかってでも必ずお支払い致しますの―――」


黒子「この身、臓物を売ってでも必ず―――」


そして黒子は再び頭を下げ、その額を背負う事を誓ったが。
思わぬ返答がレディから帰って来た。


レディ「あ、勘違いしないで。さっきのは『もし値を付けたら』の『if』だから」


黒子「―――は……ぃ?」


レディ「―――これは『売らない』」

180: 2010/10/22(金) 00:24:16.63 ID:ap56yVco
黒子「―――そ、そんな!!!!!!!!!!」

ニヤニヤと意地が悪そうに、ケ口リと『売買』を断るレディ。


レディ「毛も生えてないようなチビが、この私の『スペシャル』な非買品を『買い取ろう』なんざ10年早い」

レディ「普通に『売る』と思ってんの?返済能力がどう見ても無さそうなガキに」

レディ「残念だけど、『貧乏人』は相手にしないの」


黒子「―――」

告げられる冷酷な言葉。
だが、そんな言葉とは正に矛盾している行動をレディは取り始めた。

その手に持っていた大きな杭を乱暴に。

黒子「―――え?」

黒子の前に落とし。


レディ「だから―――」


更にベルトのバックパックから、刃渡り5cm程の投擲用のナイフを5本取り出し。
同じく黒子の前に投げ落とした。

黒子「え?はい?は?」

レディの行動の意味がわからず、キョトンとする黒子。



レディ「―――今は『試供品』で我慢してね。おまけも付けとくわ―――」


そんな黒子に向け、小首を傾げながら相変わらず意地が悪そうに小さくレディは笑った。


レディ「―――意味、わかる?」


黒子「――――――」


―――

181: 2010/10/22(金) 00:27:18.67 ID:ap56yVco
―――

学園都市、とある病棟の一室。

そのドアの前に、赤毛の長身の男とつんつん頭の少年が突っ立っていた。
ドアに背を向け、さながら門番のように。

上条「……」

ステイル「……」

なぜ二人がこうして、無言のまま突っ立ているのか。
それはインデックスが着替えているからだ。
今朝洗い上がり乾いたばかりのいつもの修道服に。

上条「…………」

ステイル「…………」

それを無言のままただ待つ、人の域を超えた感覚を持つ二人。
そんな彼らの耳に入る、背後の室内から聞こえてくる衣擦れの音やインデックスの息遣い。
悪魔的な感覚で、例え目で見ずとも気配で彼女が今どんな動きをしているか、
どんな姿勢なのかが手を取るように分かってしまう。

上条「…………………」

ステイル「…………………」

彼女の白い素肌が、このドアの向こうにある―――
彼女の美しい髪が、その白い肌と共に解放されている―――という煩悩が二人の中で渦巻く。

悪魔の超感覚は、こんなところでもウブな若者を『苦しめて』しまっていた。

いや、無視すれば良いではないか と言ってしまえばそれまでなのだが、二人にとってそれは不可能に近い。
いかんせん、二人とも彼女に心奪われているのだ。

どうしようも無いほどに。

182: 2010/10/22(金) 00:29:46.60 ID:ap56yVco
上条「…………」

ステイル「…………」

上条「……………………………………ステイル」

ステイル「…………何だ?」

上条「……………………しりとりでもしないか?『暇』だろ」

ステイル「………………………………ああ、それは『名案』だな。付き合ってやっても良い」

と、ちょうどその時。

『苦しい暇』を持て余していた二人に助け舟が到来する。

上条「……お」

廊下の先から、ニヤつき手を小さく振りながら進んでくる金髪サングラスの『親友』。

土御門。

ステイル「…………あの顔に救いを見たのは初めてだな」

そんな彼の姿を見て、ステイルが皮肉を篭めて小さく呟いた。

183: 2010/10/22(金) 00:30:57.02 ID:ap56yVco
土御門「おはようさん」

上条「おう、おはよう」

ステイル「やあ。助かったよ」

土御門「?」

上条「いや、こっちの話だ」

土御門「……つーか、どうしたんだにゃー?ゲッソリしてこんなところに突っ立って」

上条「…………今、インデックスが着替えてる」

土御門「……………………あ~、なるほど。悪魔もツライもんだな」

ステイル「それよりもだ。何しに来た?」

土御門「うおい、その言い草はひどいぜよ。友達に朝の挨拶しに来て悪いかにゃー?」

ステイル「どうせ君の事だ。用件はそれだけじゃないだろう?」

土御門「はは、おっしゃるとおりで」

184: 2010/10/22(金) 00:32:11.66 ID:ap56yVco
土御門「よしよし……こいつをな…………」

一泊おきながら、おもむろにポケットを漁り丸まった一束の書類らしきものを取り出す土御門。
そしてそれを広げながら二人に見せるように突き出し。

土御門「インデックスに見てもらいたいんぜよ」

さらりと告げる。

その書類らしきもの、広げられてみると実は航空写真のようなものだった。

上条「……これ、何だ?」


土御門「デュマーリ島」


ステイル「…………ッ……これが……」

土御門「あ~、聞いてるよな、天の門がどうのこうのって話は」

上条「ああ、それなりに」

土御門「そいつを開く術式が、この島のどこかにある『かも』しれないんだぜよ」

上条「―――!」

土御門「だから、インデックスにも目を通してもらいたい」

185: 2010/10/22(金) 00:34:54.42 ID:ap56yVco
上条「……なるほど…………」

ステイル「…………それで、発見できた場合はどうするんだい?まだそこは詳しく聞いてなかったが」

土御門「んまあ、発見『してもしなくとも』、能力者の部隊をデュマーリ島に投入するって段取りだぜよ」

上条「能力者の部隊?」

土御門「通常兵器がほとんど効果が無いのは知ってるだろう?だから能力者だ。『力』には『力』をってな」

ステイル「それはわかるが、術式を発見できなければ送る意味が無いんじゃないか?」

土御門「いんやあ、妨害して時間稼ぎはできる。レベル5、それもアホみたいに強化された『三人』も行くしな。戦力的には充分だぜよ」

上条「アクセラレータも行くのか?」

土御門「いや、アイツは学園都市で仕事がある。詳しくは聞いてないが、アレイスターと『共同』の作業があるらしい」

上条「じゃ、じゃあまさか御坂が!?」

土御門「レールガンも行かない。『ベオやん』とは面識無い三人だぜよ」

186: 2010/10/22(金) 00:36:57.42 ID:ap56yVco
上条「……………………」

土御門「で話を戻すが、デュマーリ強襲と同時進行で、アレイスターが学園都市側からも手を撃つらしいぜよ」

土御門「元々そっちが本命で、強襲作戦はその時間稼ぎが主目標ってわけだ」

ステイル「アレイスターが?信用できるのか?」

土御門「こればっかりは信用するしか無いだろ。あの野郎も今回はマジだと思うぜよ。あのアレイスターが珍しくキレ気味だったしな」

土御門「切羽詰ってるあの野郎を見るのは初めてだったにゃー。何せ俺達に協力を素直に頼み込んでくるくらいだったからな」

ステイル「…………そうか……君も行くのか?」

土御門「そうだにゃー。明後日か明々後日に出撃だ」

上条「………………………………………………………………なあ」


土御門「ん?」



上条「―――――――――俺も行く」



ステイル「…………………………………………はぁ?」

187: 2010/10/22(金) 00:38:12.96 ID:ap56yVco
ステイル「―――」

上条の唐突な言葉。
ステイルは否が応にも思い出してしまう。

上条はこういう男だ、と。
いや、普通に考えれば予想できただろう。

上条が土御門の話を聞いて何を思うかが。

これが上条の強さの源であるのは確かだろう。
とにかく前に進む。
とにかくやってみる。

誰かが戦いに行くのを黙って見てはいられない、と。

だが、これが彼の一番の『危うさ』でもある。

『危うすぎる』。



ステイルとしては、上条を絶対に行かせるわけにはいかない。


何せ彼はインデックスの―――。

188: 2010/10/22(金) 00:40:16.20 ID:ap56yVco
ステイル「――――――ふざけるな!!!絶対にダメだ!!!!」


上条「わかってる!!!何でダメかは!!!だがよ!!!!」


上条「術式ってんなら俺の右手が切り札になるじゃねえか!!!!」


上条「黙ってられるかよ!!!!!!この右手を持っておいといて傍観なんかできねえ!!!!!」


上条「―――俺にも戦わせろ!!!!!!!!!!!!!!」


ステイル「ダメだ!!!」

上条「俺の右手が天の門の解放を防げるかも知れねえんだ!!!!それに自意識過剰じゃねえが俺は戦力にもなる!!!!!」

上条「天界云々はインデックスにも関係が―――!!!!」

ステイル「大有りだ……!!!!!……大有りだ。だが―――」


ステイル「―――君はまたインデックスの傍から離れる気か?」


ステイル「―――先日あんな事があったのにまだそう言うのか?」



上条「―――ッ……」

189: 2010/10/22(金) 00:41:57.54 ID:ap56yVco
ステイル「それに相手が相手だ。右手で触ってすぐカタが付くとは到底思えない」

ステイル「そしてあそこは大悪魔が徘徊しているかもしれない魔境らしいじゃないか」

ステイル「そんな地獄に君を送り出す訳にはいかない」


ステイル「君を『失わせる』訳にはいかない」


上条「……………………」

土御門「…………もしステイルが許可を出しても、俺は連れて行かない。かみやんは残るんだ」

土御門「言ったろ?向こうで術式が壊せなくたって問題ない、学園都市の方でも策があるって」

土御門「元々、デュマーリ強襲作戦は術式が壊せない事を一番の前提として練られてる」

土御門「術式破壊はできたらの目標」

土御門「メインは妨害・時間稼ぎだ。わざわざかみやんが行く必要は無い。戦力は充分だ」

上条「…………」

ステイル「インデックスはまず君を止めはしないだろう。『今』の彼女は、君が望むなら何も言わずに従うはずだ」

ステイル「だが彼女のその好意に『甘える』な。これ以上彼女に…………彼女の心に負担を与えないでくれ」

ステイル「『君』は、やっと彼女が手に入れた『居場所』なんだ」


ステイル「頼む。君の安寧を祈らせるような事はさせないでくれ」


上条「…………」



土御門「かみやんの悪い癖だにゃー。一人で全部やろうとするのは」



土御門「たまには頼りにしてくれ。同じ志の戦友を」

上条「…………………………………………………………………………わかった……」

190: 2010/10/22(金) 00:43:56.16 ID:ap56yVco
と、三人がドアの前でそうしていたところ。

そのドアがゆっくりと開き、

インデックス「終わったんだよ~」

ひょっこりと、修道服に着替え終わったインデックスが顔を出した。

ステイル「…………ああ、土御門が君に手伝って欲しい事があるらしい」



インデックス「うん、『聞こえてた』。良いんだよ」


上条「…………………………………………」

ステイル「…………………………………………」

『聞こえてた』。
その言葉に押し黙ってしまった二人。

そんな彼らとは正反対に、何事も無かったかのようにいつもの笑みを浮かべながら。

土御門「それなら話は早いにゃ~」

インデックスに写真を差し出す土御門。

彼女はそれらを受け取り、
水晶の様に透き通り美しい目を大きく開き、一枚一枚を綿密に解析していく。

そしてしばしの後。

彼女は一枚の写真、デュマーリ北島の大都市の全体を写した写真で目を留めた。

インデックス「…………何か書くものあるかな?」

ステイルが袖から出した小さな鉛筆を受け取り、
彼女は写真をドアに押し付けて、その上に何やら描き始めた。

インデックス「ここ……こう…………こうなって」

まず、都市全体をキャンバスにする程の直径5kmにもなる大きな円。
その曲線上に、等間隔で小さな○マーク。

そして、あちこちに奇妙な文字らしきものを書き込んでいった。

191: 2010/10/22(金) 00:45:48.23 ID:ap56yVco
土御門「………………」

彼女が何かを見つけたのは確かだろう。

だが魔術に精通している土御門でさえ、何を描いているのかは検討も付かなかった。
まず一番最初の円。

『円』は魔方陣の基本。
あらゆる術式の土台。

だが今インデックスが描いた円は、土御門からすればどう見ても何かをなぞったり結び付けているようには思えなかった。
都市の構造物とは全く関係なく、ただ単に落書きでもしているかのような。

続けて書き足していくのも、いまいちピンと来ない。
少なくとも土御門の知識の中には、このような形式は存在していない。

土御門「…………」

インデックス「ほんの微かにしか見えないけど…………確かに『何か』が隠されてる」

インデックス「それが何なのかはわからないけど…………何かの魔術的意味を持った構造体なのは確実みたいかも」

インデックス「エノク語だと思われる因子があるんだよ」

インデックス「意味はわからないけど、『法の書』の中に記述されてた文字と同じ形のがいくつか」

192: 2010/10/22(金) 00:52:12.40 ID:ap56yVco
土御門「……となると、これが天の門を開く術式か?」


インデックス「……うーん…………それはわからないんだよ……別の用途の可能性もあるし」


インデックス「それと、術式にも見えるけど『何かの建築物』を『真上から見た図』ともとれるんだよ」


インデックス「…………あ……『設計図』とかかも」


土御門「建築物の?設計図?」



インデックス「そう。私の感覚からだと、大きな『円形ホール』を上から見た図で―――」



インデックス「―――外周部には『柱』か『像』がたくさん並んでるんだよ」



土御門「何かはわからないか?どんな小さなことでも良い」

インデックス「…………ごめん……」

土御門「…………そうか。とりあえず何かあるのは間違い無いんだな?」

インデックス「うん。あとこれが何にせよ、とても普通の人間が扱える代物ではないんだよ」

インデックス「間違いなく神の領域のものだよ」

インデックス「前にバージルが私から抜き取って使った、魔帝の封印を解くような水準の」

土御門「……それで、ランドマーク(地表の目印)はあるのか?」

インデックス「あるよ」

インデックス「私がマークしたところ、座標は間違いないから、あとでもっと大きな写真と照らし合わせればいいんだよ」

インデックス「そうすれば位置をちゃんと特定できると思うから」

193: 2010/10/22(金) 00:53:51.51 ID:ap56yVco
土御門「OK、助かったにゃー。これから詳しく調べるが、とりあえず得る物はかなりあったぜよ」

土御門「何かが見つかっただけでもかなりの前進だ」

インデックスから写真を受け取り、丸めて再びポケットに突っ込む土御門。

土御門「さーて、俺は忙しいからここらで」

土御門「また後で、暇があったら顔をだすにゃー」

そして相変わらずのノリで簡単な挨拶をすると、足早にその場から離れていった。

上条「…………」

ステイル「…………」

その土御門の背中を見送りながら、同じく相変わらず押し黙っている二人。
さっきの言い合いが明らかにインデックスに聞かれていた事で、二人ともかなり居心地が悪かったのだ。

とにかく己の短絡さを呪う上条とステイル。
普通に考えれば聞かれてしまうのは当たり前なのに、と。


禁書「あ、さっきの事なんだけどね」


そんな二人に向けてインデックスが。
特に気にすることなく、これまた天使のような笑みを浮かべ。



禁書「私はね、何も『言わない』んだよ」


優しく、穏やかな声で告げた。

上条「…………」

194: 2010/10/22(金) 00:55:13.33 ID:ap56yVco
『何も言わない』。

ステイル「…………」

これは決してどうでも良いという事ではない。
上条が決める事には何も文句を言わない、という事だろう。

つい最近まで、インデックスは上条の行動に悉く文句を付けたりしていた。
もちろんそれらも上条の身を案じてだ。

だが、今回の騒動で上条への思い方は彼女の中で更に『進化』してしまったらしく、
本当に『天使』のようになってしまったのだ。

上条がYESと言えばYES、NOと言えばNO。
正に上条の全てが彼女にとっての全て、だ。

ステイル「…………」

彼女が上条にここまでの幸せを感じているのなら、
これほどまでの拠り所を彼の中に見出したのならば、それは最高に素晴らしいことだ。

だがステイルはこうも思ってしまった。

どいつもこいつも己の身を省みない者ばかり。
何かの為に全てを賭けようとする自己犠牲心の塊。
少しくらい『わがまま』に、己の望む事だけに素直になったらどうだ、と。

たまには、そのとんでもない心の力を『己のみ』の幸せに傾けたらどうだ、と。

前のように『お腹がすいたー!!!!』と喚き散らしたり、上条に縋りよって『行かないで!!!』と言ったりすれば、と。

どいつもこいつも正に『聖人』なみの清さ、清すぎる、と。

尤も、ステイル自身もそう言えた口ではないが。

というかここまでインデックスの事を案じるのも、
まさしくステイルの思う『どいつもこいつも』なのだが。


そんなステイルの思いなど気づかずに、インデックスは軽い足取りで前に歩み出て。

禁書「さ、私達はトリッシュのところにいこ!今日もお仕事があるんだよ!」

二人の方へ振り向き、春の優しい太陽のような笑顔と透き通った声を振りまいた。

ステイル「…………ああ」

上条「…………おう。行こうぜ」

195: 2010/10/22(金) 00:57:20.90 ID:ap56yVco
病棟の静かな廊下を進む土御門。

彼はポケットの中に入っている写真を意識していた。

何かの、神の領域の術式がある可能性大。
かなり素晴らしい情報だ。
これ自体が天の門を開く術式ではないにしても、重要なのは確実。
少なくとも妨害の為の大きな目標物となる。

ちなみに。

先ほど上条には、術式破壊は二の次という風に言ってしまったが。

あれはやや過剰表現だ。
というか、上条を説得させる為の嘘だ。

時間稼ぎ、と言っているのはアレイスターであり、土御門達はそうは思ってはいない。
彼らはこう思っている。


何が何でも術式を破壊せねば、と。


まあ、それと上条がデュマーリに行くかどうかはまた別の問題だが。

土御門「…………」

廊下はシーンと静まり返り、無人と思ってしまいそうなぐらい静かだ。
悪魔ならそれなりの人の気配や音を感じるのだろうが、ノーマル人間の土御門にとっては静寂そのもの。
聞こえるのは、己の響く足音だけだった。


廊下の突き当たりの角を曲がる直前までは。

196: 2010/10/22(金) 00:58:39.37 ID:ap56yVco
角に差し掛かったその瞬間。

パチンと鳴る、小さな何かの炸裂音。


そう、火花が散ったような―――。


土御門「…………」

そして角の向こうから聞こえる。


「ちょっと良い?」


女の声。


土御門「あ~、どちらさんかにゃー?」

そんな言葉を発しながらも、
直前に鳴った音とその声を聞き、角の向こうに何者がいるか即座に判別した土御門。
相変わらずのノリでその角の方へと歩き進んで行き。

腕を組みながら壁に寄りかかっている茶髪の少女を横目で一瞥した。



土御門「おお、これはこれは―――麗しの『レールガン』」

197: 2010/10/22(金) 01:00:14.99 ID:ap56yVco
御坂「………………少し話さない?『さっき』の事」


土御門「さっき?さあ、何の事だがさっぱりわからないぜよ」

御坂「とぼけないで…………あれだけ大声で言い合ってたら嫌でも聞こえるわよ」

土御門「ま、それもそうか……………………で、俺に何の用かにゃー?」

御坂「そのデュマーリ島云々の話、詳しく聞かせて」


御坂「それと―――」



御坂「―――『一つ』、『席』空けてくれない?」



土御門「………………お前には声はかかって無いんだぜい?」


御坂「―――私も『同じ志の戦友』」


御坂「たまには休んでもらって欲しいの。当麻には」

198: 2010/10/22(金) 01:02:04.90 ID:ap56yVco
土御門「お前は『かみやん付き』っていう任務が継続中だろう?」

御坂「そう、私は当麻の世話係。護衛からご飯作り、洗濯からお使いまで。いわば当麻専用の『何でも屋』」

御坂「だからコレもその一つ。当麻が動けないのなら、代わりに私が行くべきでしょ」

土御門「……超拡大解釈だな。ま、その気持ちは素晴らしいと思うがな、生憎戦力は整ってる」

土御門「向こうに行くレベル5三名だって、『普通のレベル5』じゃあない」

土御門「どいつもこいつも『化け物』揃いだぜよ。それにお前はかみやんのような『手』は無い」


御坂「でも『コレ』がある」

と、そこで御坂は腕組していた手を外し、右手を軽く掲げた。
その指先には。

レディ製の12.7mm魔弾。


御坂「『コレ』、欲しくない?確かに私は、化け物面子に比べれば総合的に力はかなり低いけど―――」


御坂「―――『矢』が最高レベルなのは自負してるわよ。特に悪魔に対しては―――ね」


土御門「…………そいつは確かに『おいしい』ぜよ…………OK、とりあえず『検討』しとく」

御坂「うん、ありがとね」

土御門「………………もちろんかみやんには内緒かにゃー?」


御坂「当然」


―――

206: 2010/10/22(金) 19:10:33.06 ID:ap56yVco
―――

某大陸沿岸部の都市の一画に広がる、
広大なスラム街。

その荒んだ街の中にある、とある小さなバー。

『ゲイツ・オブ・ヘル』。

店内には今、二人の男がいた。
カウンター向こうで、グラスを磨き丁寧に並べているこの店のマスター、ロダン。

そして彼の馴染みの客であり、ツケと言う名の無銭飲食の常習犯、ダンテ。

ロダン「………今日は何の用だ?ベヨネッタをここで待ってたって無駄だ。アイツはしばらくは来ないぞ?」

ダンテ「そおじゃねえ。あの後、昨日一日考えててな。それでまたいくつか聞きたい事が出たんだ」

ロダン「……言っておくが、俺は中立だからな。どこの側にもt」

ダンテ「そう言うな。人間界に店を構えてる以上、お前にも関係あるだろ」

ロダン「…………なるほど」

ロダン「仕方ねえ。できる限りは協力してやろうじゃねえか」

ロダン「こっちとしても金を全く落としていかねえ奴はさっさと追い出したいんでな」

ロダン「何が聞きたい?」


ダンテ「セフィロトの樹。こいつを『切断』すればどおなる?」


ロダン「………………」

208: 2010/10/22(金) 19:11:57.27 ID:ap56yVco
ロダン「…………それは言葉通り繋がりを『ぶった切る』のか、それとも『破壊』なのかどっちだ?」

ロダン「具体的にどう『切る』かでも大きく変わる。それにそもそも、アレを切るなんざ不可能に近いぞ?」

ダンテ「バージルが切りたがってるらしい」

ロダン「……閻魔刀か。それならば『刃』はあるな。だがバージルと言えどもそれだけじゃあ無理だ」

ロダン「セフィロトの樹はな、天界の者にしか認識できん。こればっかりは、いくら強力な『刃』があっても無理だ」

ダンテ「そこを解決する方法も、バージルは手に入れたらしいぜ。まだ確認はしてねえが多分な」

ロダン「どういうことだ?まさか上位の天使を寝返らせたとかか?」

ダンテ「イギリス清教に天使がいたろ?」

ダンテ「ヴァチカンで魔女と戦った後、『行方不明』だ」

ロダン「…………なるほどな…………とりあえずそのお前の推測が正しければ、」

ロダン「バージル達はセフィロトの樹を切る『刃』と『認識』を手に入れているな」

ダンテ「これでバッサリいけるだろ?」

ロダン「…………いけることはいけるがな」

ダンテ「……まだ何かあるのか?」


ロダン「切断『は』可能だ。『単純』に切断するだけならば、な」

209: 2010/10/22(金) 19:13:42.84 ID:ap56yVco
ダンテ「…………どういう事だ?」

ロダン「『アレ』は下手に切るととんでもない事になる」

ロダン「『構造』を理解していなければな。そして『切る場所』を選ぶ必要がある」

ダンテ「…………」

ロダン「セフィロトの樹はな、ただの魂を吸出し管理する為の『パイプ』でも『操作用通信線』でもない」

ロダン「その機能は無数にある、巨大な『多目的複合システム群』だ」

ダンテ「…………もうちっとわかりやすく頼む。重要なところだけをな」

ロダン「……セフィロトの樹の大きな役割の一つにな、人間達への『力場』の提供がある」

ロダン「大昔にこの人間界の『力場』が封印されたのは知っているな?」

ダンテ「サラッと聞いた。詳しくは知らねえが」

ロダン「その時、魔や天と繋がっている者達を省き、一介の人間達は『存在する土台』を失った訳だ」


ロダン「力場が無くなる、という事はその世界の『理』が消失する。残るのは空洞化した無の空間だけ。虚無だ」


ロダン「生も氏も無い。足場を失った生命はその存在を保つ事ができなくなる」


ダンテ「…………」

ロダン「そこでだ。それを免れるため、天界は人間達に『仮の力場』を用意した」

ダンテ「…………」

ロダン「つまり、今は『天界が人間達の力場』代わりとなっているという事だ」

ロダン「ま、一介の人間達を繋ぎ止めておく『生命維持装置』みたいなもんだ」

ダンテ「『氏ねば天に召される』って言うしな。この言い方もあながち間違ってなかったって訳か」

210: 2010/10/22(金) 19:14:53.89 ID:ap56yVco
ロダン「ここまでくればわかるな?」

ロダン「セフィロトの樹は『人間の存在』を証明する命綱でもある」

ダンテ「…………」

ロダン「アレを丸ごと切っちまったら、当然天界の力は弱まるが大半の人間達も消滅する」

ダンテ「…………………さっき言ったな、『切る場所を選ぶ必要がある』って」

ロダン「…………そうだ。セフィロトの樹を切断する、と言っても天界への『魂の供給線』を切るのか、」

ロダン「人間への『テレOマの供給線』か、または魂の『支配線』を切るか」

ロダン「それとも、『力場への繋がり』を切るのか。どれを切るかで結果は千差万別だ」

ロダン「そしてその選別に必要なのが―――」


ロダン「―――セフィロトの樹の『設計図』、もしくは『構造図』」


ロダン「とにかく、アレの内部を全て把握できなければな。『刃』と『認識』だけでは手を出せねえ」


ダンテ「…………」

ロダン「いいか、コイツは人間の脳や心臓の手術をするようなものであり、慎重かつ正確な作業が必要だ」


ロダン「バージルが、一般の人間の事なんざどうでも良いってんなら話は別だが」

211: 2010/10/22(金) 19:15:49.18 ID:ap56yVco
ダンテ「…………へっへ……なるほど……」

その時、ダンテが小さく不敵な笑みを浮かべながら呟いた。
ここまでの話を聞き、彼の中での空いていたピースが埋まり始めたのだ。

彼はまた一つ、とある確信をもった。

バージルの『あの行動』の意味が繋がった。


なぜバージルは―――。


―――フィアンマにインデックスを攫わせようとしたのかが。



ロダン「………………何かあるのか?」


ダンテ「対象を『見ただけ』で術式構造を『全て解析』できる『目』ってのはどうだ?」



ダンテ「『一目で構造図が手に入る目』、それと『天使の認識』と『閻魔刀の力』―――」



ダンテ「―――これでセフィロトの樹、好き勝手弄れるだろ?」


ロダン「…………それならば問題無い」

ダンテが何を指して『目』と言っているのか、
その意図を悟ったロダンも薄く笑いながら言葉を返した。

212: 2010/10/22(金) 19:16:52.78 ID:ap56yVco
ロダン「そうなると前みたく、『目』に記録されてるフォルトゥナ製の『トンデモ術式』も目的の一部かも知れねえ」

ダンテ「使えるのあるか?」

ロダン「魔剣精製、界の封印式等々、人間には扱えんがバージルなら余裕で起動できるのが目白押しだ」

ロダン「それらにちょっと手を加えりゃあ、様々な用途に使えるしな」

ロダン「それでだ。その『目』、今はどこにいる?」

ダンテ「学園都市だ」

ロダン「なるほどな。近い内、再びバージル達は何らかのアクションを仕掛けてくるぞ」

ダンテ「それは間違いねえな」

ロダン「注意しとけ。まあ、これでとりあえずアイツの行動と目的の一部が固まったな」

ダンテ「…………『一部』だがな」

ダンテはポツリと、もう一度ロダンの言葉を強調しながら復唱した。

そう、まだわかったのは一部だけ。

最も重要なのは、バージルは何を目的としてセフィロトの樹を切るか、だ。

何がしたいのか?
切断してその後は?

ロダン「問題は、セフィロトの樹に手を加えて何をするか、だな」

ダンテ「いや」

ダンテ「アイツは最終的にセフィロトの樹を全部切っちまう気だ。丸ごとぶっ壊すつもりだろ」

ロダン「…………何だと?さっき言ったとおり、んな事しちまったら人間は氏ぬぞ?何を根拠にしてる?」

ダンテ「勘だ」

ロダン「…………」

213: 2010/10/22(金) 19:17:46.70 ID:ap56yVco
ダンテ「……もう一度確かめさせてくれ」

ダンテ「セフィロトの樹を全部切っちまったら、人間は氏ぬんだな?」

ロダン「もちろんだ。部分部分の切る順序を問わず、最終的に全部切断しちまったら結果はそうなる」


ダンテ「…………『力場』を失ったからそうなるんだな?」


ロダン「そうだ」


ダンテ「―――へっへ、そうかい。じゃあつまりだ―――」




ロダン「―――『新しい力場』を与えれば問題は無えって事か?」




ロダン「………………………………そう来たか」


ダンテ「これで人間は氏なねえだろ。むしろ―――」



ダンテ「―――天界から完全に『解放』されて『万々歳』じゃねえか?」



ダンテ「みんな『ハッピーエンド』だろ?」



ダンテ「どうだ?」

214: 2010/10/22(金) 19:19:03.43 ID:ap56yVco
ロダン「…………」

ダンテ「ん?問題ねえだろ?」

ロダン「まあ…………『理論的』にはそうだな。『理論的』には」

ダンテ「あ~、まーたこれにもなんかあるのかよ」

ロダン「ありまくりだ」

ロダン「新しい『力場』を作るという事は困難だ」

ロダン「魔帝の創造でも不可能だ。生命が宿り輪廻する一世界、『界と力場』を『セット』で創るとすればジュベレウスしかできねえ」

ロダン「そのジュベレウスの力も、光の右目が完全に破壊されちまった以上、もう存在しない」

ダンテ「いや、何も新しく作らなくていいだろ。封印されてた元の人間界の『力場』を割り当てれば」

ロダン「ダメだ。『あのまま』繋げても機能しねえ。なにせ―――」


ロダン「―――あの『力場』は既に『氏んじまってる』からな」


ロダン「あそこは今や『ただの墓場』に過ぎねえ。古の神々の『残留物廃棄場』だ」

ダンテ「…………じゃあ新しく作るのは?可能だろ?天界がそうしたんだからよ」

ロダン「厳密に言うとアレは新しく作った訳ではねえ。元からあった天界の力場を少し調整して繋げただけだ」

ダンテ「…………あ~、めんどくせえな。はっきり聞くぜ。さっき理論的に可能つったな?どおすれば可能だ?」


ロダン「…………唯一の方法は…………封印されてる人間界の力場を『再利用』することだ」

215: 2010/10/22(金) 19:20:12.66 ID:ap56yVco
ダンテ「ん?さっき言ったじゃねえか?あれは使えねえって」

ロダン「『あのまま』だと、だ。『再利用』すれば使える。『再利用』ならばな」

ダンテ「……あのよ、一々もったいぶった口調は止してくれ。要点だけをスパッと言えないか?」

ダンテ「シンプルにだ。シンプルに」

ロダン「黙れ。これは癖だ」

ダンテ「『古巣』の癖か?やっぱ天界ってみんなそうクドイ言い方するのか?」

ロダン「ええいうるせえ!!!お前さんにわかり安く言ってやろうとしてんだ!!!」

ダンテ「パパパパって言ってくれた方が分かり安い」

ロダン「わかった!!!わかった!!!この野郎…………!!!」

ダンテ「で、どうやって『再利用』する?」


ロダン「『再点火』すれば良い」


ダンテ「………………………………どういう意味だ?」

ロダン「ほら見ろ!!!!シンプルに言ったってわかりっこねえだろうが!!!!」

216: 2010/10/22(金) 19:21:22.41 ID:ap56yVco
ダンテ「わかった。じゃあ好きに説明してくれ」

ロダン「…………良いか?つまりだ、氏んじまった力場を『生』に転換する『強烈な火種』、」

ロダン「力の流れを巻き起こす『莫大な動力』、新たな『理』を刻み込んだ『超巨大な器』、いや、一纏めに言えば」



ロダン「力場全体の氏を『塗り替える程』のとてつもなく『強大な生』を叩き込めば良い―――」



ロダン「―――理を自在に歪めてしまうほどの力、精神の強固さ、要は全てにおいて『完璧』な―――」



ロダン「―――『人柱』が必要ってことだ」



ロダン「もちろん、人間の為の力場なら―――」



              ・ ・ ・
ロダン「―――『人の血』が入った『人柱』をな」



ロダン「―――何にもかき消されない、『濃厚な人間性』を持った『人柱』を、だ」


ダンテ「―――――――――………………………………………………」

217: 2010/10/22(金) 19:22:08.65 ID:ap56yVco
そのロダンの言葉を耳にしたダンテ。

彼の脳内の中で、『全て』のピースが埋る。


『スパーダ』。


人間界の為、『全て』を捨てて『全て』を捧げた男。


その息子である―――。


―――バージルとダンテ。


なぜ、バージルはあの場で『スパーダの息子』という表現を使ったのか?


なぜ、バージルはあの場で二人の違いを指摘したのか?


なぜ、バージルは双子で生まれてきた事の意味を問うたのか?


それらが。


ダンテ「―――」


ダンテの頭の中で、ロダンが発した『濃厚な人間性』という言葉と結びついた。

218: 2010/10/22(金) 19:23:23.66 ID:ap56yVco
ダンテとバージル。


その内面の違いは?


どんなショックがあっても感情を爆発させることは無いダンテ。

一方で家族を守りきれず、母を氏なせてしまった己の非力さに激昂し、
『激怒し続けたまま』全てを投げ打って無我夢中で力を求めたバージル。


知らず知らずの内に保護者のような視点から人類を見守ってしまうダンテ。

一方で、そもそも視点の違いなど存在せずに常に正面から等身大で激突していくバージル。


特定の女性を愛すことが無い、『恋』を知らないダンテ。

一方で、立派に意志を受け継いだ息子をもうけたバージル。


そしてテメンニグルの塔における兄弟同士の頃し合いの際。

最期の最期まで感情を押し頃し、刃を振り切ったのはどっちだ?

最期の最期に感情を滲み出させ、刃を止めたのはどっちだ?


―――悪魔の力の陰に潜む、『強烈すぎる』人間性を有しているのはどちらだ?


―――どちらが、本物の『愛』と『怒り』を知っている?



一体どっちが―――。



―――『人間らしい』?

219: 2010/10/22(金) 19:24:50.28 ID:ap56yVco
どちらが、何を母と父から受け継いだのか。

浮き彫りになる双子の違い。

見事に別れている違い。


それは『力』の違いではない―――。


『人間性の濃さ』。

『危うく激しい心』、だ。


ダンテは色んな意味で『バランス』が良すぎる。
完璧な程に『安定』しすぎている。


一方で。

バージルは―――。

その悪魔の性質に隠れがちであり、一見すると正に悪魔の気質と言ってしまいそうだが。


よく見てみると。


実際は良くも悪くも―――。


―――――――――人間的過ぎる―――。


バージルを今まで突き動かし続けてきたのは、根の根は『悪魔の本能』ではない。

『危うい感情』だ。

『不安定な凄まじい激情』だ。


―――頑固で短気。そして強固な芯が通っていながらも、一方で非常に『不安定』。

決して、決して表には出さないが内面はとんでもない激情家―――。


―――これぞ、正に『強烈な人間性』ではないか。

220: 2010/10/22(金) 19:25:45.76 ID:ap56yVco
ダンテは『人』を守る為の『盾』。

人の心を理解し、その最も熱きハート『も』有している『悪魔』。


バージルはその『盾』の前にある『矛』。

『究極の矛』となる為、人のハートではなく『魔』にとことん染まりあがった『悪魔』。


そしてネロは『人』。

外面的には悪魔だが、中身は正真正銘の『人間』。


『家族』に何かの意味をつけるとしたら、以前のダンテはこう考えただろう。


だが実際は違っていた。


バージルはダンテという『盾』の後ろにいた。


バージルは『人』そのものだった。


良くも悪くも『人のハート』の猛々しさを最も体現していたのがバージルだった。


バージルの方が、ダンテよりも人としてのハートが猛烈に『熱かった』。

その身を焦すほど。
己の何もかもを燃やし尽くすほど。


悪魔の強烈な本能でさえ丸呑みにし、区別できないくらい完全に同化してしまうほどに。

221: 2010/10/22(金) 19:26:45.49 ID:ap56yVco
ダンテ「―――」

なぜあの時、バージルがあんな問いを己にぶつけてきたのか。

それを今、ダンテは理解し。


―――『知る』。

バージルの考えがわかる。
兄が見えている景色がようやく写る。

バージルは『役割』を見出したのだ。

己の存在の『意味』を。

生まれついたその時からの『宿命』を。


その最期の使命は―――。


―――『人柱』、と。


確かに。

確かにロダンの言葉通りならば、その役目はバージルが最適となる。


だが。

ダンテ「(ふざけんな―――何でそうなるんだよ―――)」

ダンテはバージルの考えを理解した上で、それを真っ向から否定する。


ダンテ「(―――お前は『極端』すぎる―――)」


なぜいつもいつもバージル『だけ』が。


ダンテ「(―――底無しの馬鹿野郎だ―――バカ正直すぎる)」

失い続けなければならないのか、と。

背負い続けなければならないのか、と。


『いつも』進んで貧乏くじを引くのか、と。

222: 2010/10/22(金) 19:27:40.99 ID:ap56yVco
生きていくという事は、己自身の手で道を開くということ。

外部の『何か』が敷いたレールになんざ従う道理は無い―――。


―――『宿命』だからといって、それに身を捧げる道理は無い―――。


父スパーダは、そんな『宿命』をへし折る為に抗い続けてきたのではないのか?

愛する者達の為に、だ。


それを踏まえてダンテは真っ向から否定する。


バージルの『宿命』を。


お前一人だけでは抜け出せないのなら。

お前一人の為だけの『宿命』ならば。

お前がおとなしくそんなクソみてえな『宿命』に従うってのなら。


『俺』が豪快に割り込んで、そんな『宿命』なんざ―――と。


ダンテは『生涯最大の敵』をここに見定めた。


それは。

魔界との怨嗟でもない。

魔帝との因縁でもない。


スパーダの『血』そのものに刻み込まれ、そして纏わり付く―――。



―――この『鎖』。



スパーダ血族の『宿命』だ。

223: 2010/10/22(金) 19:28:14.84 ID:ap56yVco
ダンテ「(―――)」


ダンテ「悪い。『用事』ができた。そろそろ行かせてもらうぜ」

ダンテ「『バカ』が『また一人』で『バカ』な事をしようとしてるんでな」


ロダン「………………………………バージルか?」


ダンテ「まあな。アイツの『抜け駆け』は認めねえよ。『これ以上』は」


ロダン「…………」


ダンテ「―――今度は『俺の番』にする。何がなんでもな」


方法はまだ思いついていない。
具体的にどうやるかは以前ピンと来ない。

だが、これだけはダンテは宣言する。


ダンテ「―――ちょっくらぶっ壊してくるぜ」



バージルだけが『貧乏くじを引いてしまう』そんな『運命』なんか―――。


家族に纏わり続けている『宿命』なんか―――。



ダンテ「―――目障りな『鎖』をな」



―――ぶち壊す、と。


―――

248: 2010/10/26(火) 23:30:38.28 ID:Nm.f8P.o
冷たい幸福

249: 2010/10/26(火) 23:31:26.97 ID:Nm.f8P.o

―――

翌日。

午前10時。

学園都市、とある病棟の会議室。
普段は手術の段取り等を話し合うこの部屋にて、デュマーリ島強襲作戦に関係する幹部達が集っていた。

部屋の中央に置かれた、大きな机を囲むメンバー。

右端には一方通行、その隣には土御門。
左端には麦野、その隣に結標。

一方通行後ろの壁際には、車椅子に乗っているエツァリ。
医療用ベッドから車椅子に『昇格』したが、依然彼の全身をギプスや包帯が覆っていた。

現『グループ』の五名がこうして再び集まっていた。


『二つ』の新しい『顔』を更に加えて。


それは結標の隣にいる―――。


―――滝壺理后と。


土御門の隣に座している―――。



―――御坂美琴。

250: 2010/10/26(火) 23:35:14.28 ID:Nm.f8P.o
室内はただただ沈黙。
皆がそれぞれ腕を組んだり頬杖をし、会議が始まるのを静かに待っていた。

御坂「(…………ぐ…………)」

そんな中、御坂はやや俯きがちに机の反対側の面子の顔をチラチラと見ながら、
非常に居心地の悪そうな表情を浮かべていた。

麦野、結標、滝壺。

三名とも御坂は戦ったことがある。

ただ滝壺は第23学区の件もあって、今は敵性とは全く認識していない。
むしろ御坂は、彼女の体調が悪い事を聞いてカエル顔の医者を紹介したりまでした。

その事もあって、現にさっき御坂がこの部屋に入って来て滝壺と目があった際、
彼女は相変わらずボーっとしながらもニコリッと笑って会釈してくれた。

結標も、魔帝の騒乱の際に一瞬だけ『顔』を合わせたのを覚えている。
あの状況から見ても一応『同じ側』であり、
ここでこうして再開することも特に不思議ではないかもしれない。

以前戦って以来まともに話したことが無く、やや気まずいのはあるが。
向こうもそうなのか、それとも特に意識すらしていないのか、
会釈した滝壺とは対照的にチラリと御坂を見ただけだった。

とまあ色々思う事はあるものの、少なくともこの二人に関してはさほどでもない。

(結標がレベル5第八位、滝壺がレベル5第九位となったと、
 土御門からさらりと聞かされた時は、さすがに顔に出して驚いてしまったが)


それよりも何よりも。


麦野。


麦野だ。

252: 2010/10/26(火) 23:37:54.09 ID:Nm.f8P.o
御坂「…………」

麦野沈利。レベル5第四位、『原子崩し』。

それだけの肩書きならば、こうしてここに召集されていてもおかしくは無い。
おかしくは無いが。

御坂が気を張り詰めさせているのはそこではない。

最後に会ったのはシスターズ騒動の時。
あの時の印象によると、非常に危険な『殺戮思考』の持ち主。

この女は『獰猛』、『血に餓えた狂気の塊』、それが御坂の認識だった。

そして麦野の姿をチラチラ眺めていた時に目に入った『ある存在』が、
御坂の緊張を更に高め困惑させていた。


アラストルだ。


なぜあれが?

なぜダンテの魔具があの女に?

ダンテは知っているのだろうか?

いや、知らないはずは無いだろうが、ではなぜこんな危険な女に渡した?

と、そんな事がぐるぐると御坂の頭の中を回るが、
答えが出てくるわけも無い。

253: 2010/10/26(火) 23:41:46.82 ID:Nm.f8P.o
と、そうやってジロジロと麦野を見ていたところ。

麦野「何?」

御坂の視線に対し、
顔を動かさずに眼球だけを向けながら無感情的な鋭い声を放つ麦野。

御坂「…………!」


御坂「…………ア、アラストル」


御坂「わ、私も前に一回だけ使ったことあるの」

アラストル『久しぶりだな。小娘』

御坂「あ、う、うん久しぶり!」

麦野「へぇ。で?」

御坂「きょ、『許可』は貰ってるの?」


アラストル『問題無い。マスターが命じられた』

アラストル『この娘の傍に、とな』


御坂「…………」


麦野「そーゆーこと。文句ある?」


御坂「い、いや…………それなら別に……」

254: 2010/10/26(火) 23:43:50.13 ID:Nm.f8P.o
アラストルが言うのならば間違いないのだろう。
ダンテは麦野にアラストルを託した。

なぜなのかは見当も付かないが。

いや、実は御坂は、たった今のわずかな会話でその答えの『尻尾』が見えた気がした。

御坂「…………」

御坂に対する麦野の態度と、纏っている雰囲気。

淡々。

無感情。

興味なし眼中になし。

少しくらい嫌悪感や敵意を表してもいいのに、とまで御坂は思ってしまった。

以前会った時とは雰囲気が全く違う。

眼帯を付けて片腕を無くし服も高級スーツと、その身なりもかなり変わっていたが。
何よりもその表情やオーラが別人のようだった。

高慢、傲慢、高飛車、以前は全身から醸し出していたそれらの空気が、
今は欠片も無かった。

いや、あるにはあるが、それらが以前のように鼻にはつかなくなっている。
ナチュラルに馴染んでいる、と言った方が良いか。

それよりも今『濃厚』なのは、何があっても揺るがないと思わせてくる根が張りどっしりとした貫禄。
一回りも二回りも『何か』のスケールが大きく分厚く頑丈なったような。

御坂「………………」

以前の麦野を表現するなら、『イカレタ暴れん坊お嬢様』、と御坂はしただろう。

そして今は。

『絶大なる女皇帝』。

この言葉がピッタリだ。

255: 2010/10/26(火) 23:45:41.69 ID:Nm.f8P.o
御坂「…………」

もしかするとこっちが『地』なのかもしれない、とも御坂は思った。

一方通行も初対面時には『アク』が猛烈に強かったが、
そもそもその会った時の状況が特殊だっただけなのかもしれない。

現に今の一方通行もかなり落ち着いており、
シスターズ事件の時のような身の毛がよだつ笑みなども浮かべない。

この部屋に入って目が合った時だって、一方通行はチラリとこちらを見ただけ。
特に何も感情を示してはいなかった。


ただ、この場においての空気が『希薄』、という訳ではない。

皆、強烈な空気を纏っている。
その胸の内に秘めている重く絶対の覚悟から発せられているであろうオーラを。
(滝壺だけは相変わらずボーっとしているが)

御坂「……………………」

こういう雰囲気。
ああいう目。

御坂は何度も見たことがあり、何度も感じたことがある。

上条だ。

256: 2010/10/26(火) 23:47:49.29 ID:Nm.f8P.o
そう、本気になった上条もこういうオーラを纏っていた。
冷徹な鋭い目つき、冷たく引き締まる表情、
それでいて放たれる肌がジリジリと焼けつきそうな熱気。

何があったのかはわからないが、
『今の麦野』にダンテがアラストルを託すのも何らおかしくはないかもしれない。


現に御坂から見ても、今の麦野の雰囲気は本気になった上条と同様のものなのだから。


御坂「(…………そっか…………みんな同じなんだね)」


何の為に、何を背負っているかは皆それぞれだろう。
だがその『覚悟』は皆同じ。

ここにいる者達は皆。

何かの為に戦おうとしている戦士。


御坂「(…………私も…………腹据えなきゃ)」

257: 2010/10/26(火) 23:49:37.94 ID:Nm.f8P.o
と、御坂が心の中で再度覚悟を決めていたところ。

ドアが開き、一人の20代後半らしき黒服の男が入室してきた。
脇には薄い書類の冊子。

そして机の前に立ち、書類を無造作に放り投げるように机に置きながら。

「おはよう諸君」

そっけなく挨拶。
そして開口一番。

「ではまずレールガン」

御坂へ。

御坂「は、はい!」

「理事長から作戦参加の許可が下りた。それと言伝も預かっている」

御坂「…………?」

「『自由にしてくれて良い。私に一々許可を求めるな』だそうだ」

御坂「(…………………………どうでも良いってことね)」

「編成位置は後で土御門と話し合って、そっちで決めてくれ」

土御門「了解だぜよ」

御坂「はい」

258: 2010/10/26(火) 23:55:28.60 ID:Nm.f8P.o
「さて…………本題に入ろう」

「これはまだ一般公表されていない情報だ」

「昨夜、アメリカ軍がデュマーリ島に向け総攻撃を仕掛けたが、返り討ちに合い全滅した」

「これにより、東シナ海から二つの空母打撃群が米本土防衛に向かい、結果的にこちらの戦線の戦力は削られてしまったが……」

「まあそれはどうでもいい」

「この戦闘で、二つの空母打撃群と多数の航空隊が消息不明。軍属18000人以上が行方不明」

「恐らく生存者はほぼいない。絶望的だ」

一方「…………戦ったのは悪魔か?」

「そうだ。悪魔の大軍勢によって一気に駆逐された」

一方「…………」

「我々の調べからするとな、人造悪魔を含め2000体近くが出現したようだ」

土御門「あ~。そいつはどうしようもねえぜよ。一方的だったろ?」

「いくらか悪魔を迎撃できたらしいが、それでも多勢に無勢、まあ一方的虐殺と見て間違いない」

「ただ、我々としては好都合だった。おかげでどのような悪魔がどれだけの規模、あの島に居座っているかが具体的に知ることができた」

「今あの島自体は靄に覆われてて観測が困難だが、この戦闘はデュマーリ島から1000km離れた洋上で行われたからな」

「衛星で事細かに観測できた」

259: 2010/10/26(火) 23:58:55.59 ID:Nm.f8P.o
一方「具体的には?」

「まず人造悪魔兵器。戦闘機型と艦船型が200体、それらによって輸送・投下された小銃・パワードスーツ型が1100体」

「アラストル、『インフェスタント』や『憑き』について補足してくれ」

男の声に応じ、麦野の腰にある大剣から響くエコーのかかった声。

アラストル『大型の奴には「インフェスタント」が取り憑いているだろう。無機質を悪魔化させる連中だ」

アラストル『単体ならば特に脅威でも無いが、何かに憑いた状態は「それなり」に厄介だ」

アラストル『元のお前らの「おもちゃ」のスペックでは見るな。形は似れど、本質は別物だ』

「実際に米艦隊の鉄壁の防空網を易々と突破している。対空ミサイル程度一発二発ではビクともしなかったようだ」

「艦載のレールガンでいくらか撃破できたらしいが、これも多勢に無勢だったようだ」

「だがまあ、ここにいる面々ならば簡単に対処できるだろう。他の隊員も冷静にいけば問題なく処理できる」


土御門「(…………俺以外はにゃー…………)」


「次に、今度は『純粋な悪魔』。500体ほど観測されたが、」

「それらの大半がアサルト、フロスト、ブレイド等で構成されていた」

「滝壺理后以外は皆、フロストとの戦闘経験があるな」

「アサルト・ブレイドも同じ派生系の一種だ。ほぼ同様、と考えてくれてかまわない」

「これも君らにとっては問題ないだろう。『防衛』の場合ならば数を抑えきれないかもしれんが、今回は『強襲』だ」

「まあ、他の隊員達も数的劣勢がそこまで酷くなければ対処できる。部隊単位でしっかりと戦えばな」

「こちら側の損害0とはさすがにいかないが」

麦野「…………」

260: 2010/10/27(水) 00:01:56.59 ID:.bzd8U.o
「それで、問題はここからだ」

と、男はそこまで喋り終えた後、一旦軽く咳払いし、
話を仕切りなおした。


「ブリッツが出現した」


御坂「…………」

その悪魔の名にピクリと眉を動かす御坂。
そんな彼女の反応を見、

「レールガン。二度交戦してるな?」

御坂に声を飛ばす男。

「そのおかげで、元からかなり正確なデータがある」

「悪魔としての格はそれほど高くは無いが、戦闘能力は非常に高い」

「人間界とは全く異なる性質の電撃を纏っており、防御力もかなりのものだ」

「更に全身を雷化して雷速で行動可能。最高で秒速200kmにも達する速度だ」

「物理的なやり方では接近を感知する事はまず不可能」

「ただ、攻撃する瞬間には物体化する必要がある。ここまでは良いなレールガン?」

御坂「そ、そう。いちいち体を戻さなきゃならないみたい」

御坂「あ……あとエレクトロマスターなら、周囲の電気の流れである程度は『動きの予兆』?みたいのはできるわよ」

御坂「これも相手が近距離を飛び回ってくれた場合しか使えないけど」

御坂「遠方からの急速接近、接敵を前もって感知するのはさすがに無理」

「OK、そういう事だ。ただ、君達に接近を感知する術が無い、という訳ではない」

「滝壺理后の、全名それぞれを『支局』とした力の探査網には必ず引っかかる」

「魔の力はAIMとはまた性質が違うが、一応感知はできる」

「そこを『流れる』のならば、水だろうが水銀だろうが『流れ』はとりあえず『見える』ようにな」

「それとメルトダウナーの感知もある。滝壺理后より範囲は狭いが、今の彼女は『正確』に魔を認識できる」

麦野「私はミサカネットワークとも滝壺のAIMネットワークとも接続しないから、知覚共有は無理だけどね」

261: 2010/10/27(水) 00:04:20.30 ID:.bzd8U.o
麦野「近距離高速戦適性評価A-以上の8人。もしくは結標かレールガン。それか私」

麦野「これ以外の者は対応できないわね。他の者は、接敵した場合はすぐに退かせる」

麦野「該当者以外はただの『的』に過ぎない」

御坂「…………ええ。一帯を猛烈な速度で飛び回りながら攻撃してくる」

御坂「高速戦闘ができない人はただの『的』よ。気づく暇なくミンチにされるわ」

「それと適性評価A-以上の者でも、対応はできても処理自体は難しい」

「最終的な『処理』は結標淡希かレールガン、それかメルトダウナーに任せた方が良いだろう」

麦野「そうね」

結標「了解」


「さて、次はコレだ」

一泊置き、今度は机の上の冊子に手を伸ばし、一枚の写真を取り出す男。
そして皆に見えるようにその写真を掲げた。

そこに写っているのは、『クジラ』のような形をした悪魔を真上から捉えた光景。

その悪魔のスケールはとんでもないものだった。
脇に米海軍のものと思われる空母が写っていたが、なんとそれの1.5倍以上の大きさ。

頭部から尾まで、実に400m以上はあるかもしれない。

写真を見つめる皆、彼らの頭にその認識が入るのを待った後。
男がポツリと口を開いた。


「通称『リヴァイアサン』だ」

263: 2010/10/27(水) 00:11:40.44 ID:.bzd8U.o
リヴァイアサン。

旧約にもその名が登場する『海の最悪の怪物』だ。

土御門「…………」

その写真と名、そして知っている魔術的知識を照らし合わせながら、土御門はふと思った。
これが旧約に記されていた存在の『元ネタ』、『本家』か、と。


「リヴァイアサン。この悪魔については、我々側はまともにデータが取れていない」

「魔帝の騒乱の際にも複数体出没したが、いずれもダンテの使い魔に倒され我々は一切関わっていないしな」

「今回の件でも全く手を下してはいない。上空を浮遊していただけでな」

「アラストル、補足を頼む」


アラストル『リヴァイアサンか。また厄介なのがでてきたな』

アラストル『「魔獣」、だ。人間界で例えるならば、悪魔が「人」で魔獣が「動物」といったところさ』

アラストル『鈍重であり知能は極めて低い。これまた人間界ならば魚類程度といったところか』


アラストル『しかしタフさとパワーは並みの大悪魔を凌駕してる。耐久度に至っては特に凄まじい』


アラストル『中には諸王・諸神と肩を並べる力の個体もな。体長が人間界の言い方だと10km以上になるのもたまにいる』

アラストル『本気で振るわれたその尾ひれにでも直撃してしまったら、ここにいる面子でもは皆「即氏」だ。もちろん俺を省いてな』

アラストル『だが、先も言ったとおり動きは非常に鈍重。回避は楽だろうさ。当たらなければ問題無い』

アラストル『それ以前にとりあえず近付かなければ良い。下手に近付けば縄張り意識で興奮するからな』


アラストル『……いや、絶対に興奮させるな。興奮させたらお前らでは手が付けられない』


アラストル『激怒した場合、動きは当然それなりに速くなるしな』


麦野「触らぬ神に祟りなしって事か」

264: 2010/10/27(水) 00:18:07.90 ID:.bzd8U.o
一方「…………おィ。一つ気になるンだが、なンでンな怪物が出現する?」

一方「『人間を殺そう』とかいゥ脳ミソもねェアホなンだろ?わざわざ人間界に来る必要はあンのか?」

アラストル『あの島の術者が引き出したんだろう』

一方「理由は?」


アラストル『単純だ。活用できるからだ』


アラストル『リヴァイアサンは腹の中に無数の悪魔を飼っている。興奮したら大量の悪魔を吐き出す事がある』


アラストル『奴の腹の中が魔界と繋がっている、と考えても良い。いや、リヴァイアサン自体が魔界の『欠片』だ』


アラストル『またその影響で、リヴァイアサンが浮遊する一帯の魔は非常に高密度になる』

アラストル『奴がいる、ということはそこが「生粋の魔境」である証拠だ。魔界の「自然体系」が漏れて来てるという事だ』


土御門「魔界の空母、移動要塞みたいなものか」

麦野「つまりキレイな川を証明する『メダカ』みたいなもんでしょ。サイズがヤバ過ぎるけど」


結標「…………近付かなければ問題ない、って話だけど、何かの理由で倒さざるを得ない場合は?」

アラストル『先も言ったが、近付き怒らせると非常に危険だ。そうなった場合はブリッツなど可愛いくらいに感じるぞ?』

結標「わかってる。どう戦えば?弱点の一つくらいあるでしょ」

アラストル『そうだな……お前らの攻撃が有効的に通る部分は、「外から」では恐らく「目玉」だけだな』

アラストル『他の部分の外皮は硬すぎる。地道に削っていけば理論上は倒せるが、さすがに鈍重でもその前に激怒するだろうな』

アラストル『「外から」、そしてこちらから攻める場合はそれなりの損害を覚悟した方が良い』

土御門「…………『外から』とは?」

アラストル『「内から」ならばかなり有効な攻撃方法がある。奴の最大の弱点は「心臓」だ』

アラストル『そこを攻撃したいのならばわざと飲み込まれれば良い』

結標「…………飲み込まれ…………ゲッ……最悪」

265: 2010/10/27(水) 00:21:15.77 ID:.bzd8U.o
麦野「(…………アンタでも外からじゃ無理って事?)」

アラストル『(いや。俺「単体」ならば容易だ)』

麦野「(…………それ、まるで私がお荷物みたいな言い方なんだけど)」

アラストル「(戦い相手を頃す、という目的だけを見ればな)」

アラストル「(ただ、マスターはお前に俺を託された。俺はお前と共に戦う。それが俺にとっての全てだ)」

アラストル「(俺にとって、お前と共に戦いお前を勝利に導かなければ、俺自身の存在意義は無だ)」

アラストル「(何があっても俺はお前を見放したりはしない)」

アラストル「(お前が氏ぬのならば迷わず共に逝こう。マスターが俺の任を解く命を下さぬ限りな)」


麦野「(…………私の心の内、『知ってる』んでしょ?知っててそう言うわけ?)」


アラストル「(そうだ)」


麦野「(…………………………………『後悔』するなよ)」


アラストル「(こっちは好きでやっている。気にするな)」


麦野「(…………………そう……)」


麦野「…………他には?」

麦野は脳内でのプライベート会話を終え、
少し不機嫌そうにアラストルへと先を促した。


アラストル『…………まあそんなところだ。腹に入る場合は覚悟するんだな。消化される前に心臓を潰せ』

266: 2010/10/27(水) 00:23:13.82 ID:.bzd8U.o
「…………よし、そんなところだな。これに目を通しておいてくれ」

男は冊子から書類を取り出し、机の上に人数分載せた。
今話した悪魔のデータや昨夜の米軍と悪魔との戦闘詳細が記された書類だ。

「それと日程だが……土御門、メルトダウナー、昨日の話で問題ないな?」

土御門「ああ」

麦野「ええ」


「では決まりだ」


「明日17:00時、第23学区4番エプロン18番ハンガーにて、全名を集めた作戦の最終確認を行う」


「その際の説明は土御門かメルトダウナーの口から行ってくれ」



「最終確認の後、17:45時までに各機への搭乗を済ませ」




「18:10時に出撃」




「デュマーリ島降下予想時刻は19:37時」



御坂「(……明日…………)」

268: 2010/10/27(水) 00:26:21.02 ID:.bzd8U.o
土御門「あ~それとだな。インデックスが術式に似た魔術因子の構造体を見つけてくれた」

土御門「今細部の写真と照らし合わせて解析中だ。ランドマークの正確な位置を割り出してる」

土御門「明日の昼までには、正確な報告書を仕上げとく。最終確認前までにはデータを全名に配る予定だぜよ」

「よし、頼んだぞ」

一方「おィ、俺の方についてはどォなンだ?まだ全然話がこねェンだが」

「私も何も聞いていない。待機しててくれ」

一方「チッ…………またかよ」

「あと滝壺理后」

滝壺「…………?」


「『あの力』はメルトダウナー、結標、土御門のどれかの許可が下るまで、もしくはこの三名が氏亡した時以外絶対に使うな」


「それは『最後の切り札』だ。決して独断で行わないように」


「任務成功の前に全滅が免れない事態以外では使うな」

滝壺「うん。わかった」

269: 2010/10/27(水) 00:31:22.89 ID:.bzd8U.o
「レールガン」

御坂「ん?」

「お前は先日渡された受信機で、ミサカネットワークを経由して相互通信を行え」

「飛び入り参加だからな。調整は間に合わない。間に合ったとしても、能力との噛み合わせで『例の大砲』に不都合が出ても困るしな」

御坂「わかった」

土御門「あ~それとここでお前の編成決めちまうぜよ。基本的に単独行動の方がいいだろ?」

御坂「あ、うん、そうかも」

土御門「OK、部隊戦術とかの知識もお前だけは欠落してるからな」

土御門「俺らとは多分行動がかみ合わないぜよ。足引っ張り合うだけだ」

御坂「はあ??私がお荷物って事?」

麦野「叩き上げの『一般人』でしょ。元から戦闘員の私達とは違うって事」

結標「大体にして本物の戦闘カリキュラム系、今まで受けたこと無いでしょ?」

御坂「…………あ…………確かにそう……ね……」

土御門「ま、テキトーに暴れてくれればそれだけで充分だ。俺と同じく『フリー』にしとくぜよ」

御坂「…………」


「ではこんなところだな。後は明日まで、各々それぞれの作業を行ったり体を休めたりしてくれ」


「『最期』になるかもしれない。済ませるべき事は早めに済ませとけ。では健闘を祈る」


そう言葉を締めくくり、男は冊子を手に退室していった。

270: 2010/10/27(水) 00:34:00.38 ID:.bzd8U.o
土御門「あ~…………それにしても肩が凝るぜよ。寝不足にはキツイにゃー」

男が出て行った後、土御門が背伸びを目いっぱいし大きな大きなあくび。


麦野「良いじゃない。もうすぐ『永遠に休める』かもしれないんだし」

土御門「相変わらず女帝サマはドギツイにゃー」


麦野「あーそれにしても…………眠い…………」

と、先ほど土御門に言った癖して、
同じくだらしなく天井を仰ぎうめき声をもらしながら呟く麦野。

麦野「これじゃあ行く前に過労氏だわ…………」

滝壺「……………………むぎのの信号、よどんでる。汚くなってるよ」

麦野「あ、それ多分悪魔の力が混ざってるだけだから。っていうかさ、私を指して『汚い』って表現やめてくれない?」

アラストル『俺の力を汚いとはどういう事だ小娘。氏した者の力を使う分際で汚いと(ry』

一方「どォでも良い事ウダウダ言ってンじゃねェよアバズレ。ガラクタもだ。耳障りなンだよ」

麦野「あぁんだって?蝋人形みてえな肌しやがって。キメェんだよ」

271: 2010/10/27(水) 00:36:48.96 ID:.bzd8U.o
結標「そうねアクセラレータだって、いつも以上に顔色悪くて気味悪いわよ。『化け物』でもさすがに疲れるのね」

一方「あァ?ンだと変態女?貧相な体してる癖して露出してンじゃねェよ」

麦野「言えてる。かわいそーな体よね。ホントか・わ・い・そ・う」

結標「厚化粧しなきゃ栄えない奴に比べたら私なんてまだまだ」

土御門「俺は貧相な体もストライクだぜい」

結標「氏ね」

エツァリ「…………皆さん……落ち着いて下さい……疲れてるのなら……喋らない方が(ry」

土御門「その『ナリ』でそれ言うか」

麦野「黙ってろ氏に底無い。止めさしてあげよっか?」

一方「オマェいたのかよ。まだ氏ンで無かったのか?」

エツァリ「ははは…………やはり皆さんは……犬畜生以下ですね」

土御門「何を今更」

滝壺「…………あ……また受信した」


御坂「…………………………………………………………………………」

272: 2010/10/27(水) 00:39:20.60 ID:.bzd8U.o
御坂「………………」

飛び交う罵詈雑言。

それぞれが好き勝手、聞き手の事を考えずに喋る。

一見すると慣れ親しんだ友人のじゃれ合いのようだが、
良く見てみると皆本気で嫌悪感を剥き出しにしている。

それもかなり冷めたものを。

皆それぞれに対し一定の信頼を寄せているのもわかるが、
その一方で、目的のためならば迷うことなく進んで殺そうともするような。


そんな『冷酷・冷徹・無感情な友情』。


いや、『友情』、と表現しても良いのだろうか。


ともかく一般の『感情豊かな世界』を生きてきた御坂にとって、
このメンバーのお互いの接し方は理解しがたく、
それはそれは奇妙な関係性に見えてしまっていた。

273: 2010/10/27(水) 00:42:15.75 ID:.bzd8U.o
麦野「あー…………………………どうせ最期になるかもなら一発……土御門、付き合え」

土御門「俺とヤリたいのか?」

麦野「氏ねカス。飲みだっつーの。浴びるだけ飲みたい」

土御門「…………はぁ?俺は今日は妹と二人っきりで(ry」

麦野「その前でも後でもいいだろ。アクセラレータ、結標もだ。『頭数』が足らねえのよ」

土御門「……」

一方「はァ?ざけンな」

麦野「『どうせ』予定無いだろ?一回くらい付き合え。もしかして飲めないの?私と飲み比べて負けるの嫌?」

一方「ハッ。誰に喧嘩売ってやがる。上等だ」

土御門「(本当負けず嫌いだなコイツは)」

結標「私は予定あるんだけど。それに頭数集めなら『部下』引っ張ってくれば?」

麦野「無えよ。下っ端と飲めるか」

滝壺「むぎの、私は誘わないの?」

麦野「…………私なんざより浜面か絹旗のところにでも行ってろ」

滝壺「……うん」

エツァリ「あの…………」

麦野「そのナリで酒飲んだら普通に氏ぬわよ。別にいいけど。好きにすれば」

エツァリ「…………ですね」

麦野「場所は……ああ、もうこの部屋で良いわ。酒はそこらの黒服に持ってこさせればいい」

麦野「夜8時前に集まれ。以上」

土御門「ひゅー。これは最後の最後まで振り回されそうだにy」



御坂「―――わ、私は!!!!??」

274: 2010/10/27(水) 00:45:53.41 ID:.bzd8U.o
突如声を張り上げながら立ち上がった御坂。
今まで好き勝手話していた面子の会話がピタリとやみ、彼女が集まった。

そして数秒間の沈黙。


御坂「(…………え?……ちょ、ちょっと!!何よこの空気……って私なんで……!!)」


思いっきり名乗り出たのだが、
なぜそうしたのかは御坂自身もはっきりとは分かっていなかった。

このメンバーの奇妙な繋がりをもっと知りたかったのか、
色々聞きたいことが前からあった一方通行や、
様変わりした麦野と腹を割って話す唯一の機会と見たのか。

土御門「……さあ。良いんじゃないか?」

最初に沈黙を破ったのは土御門。
ぽつりと投げやりな一言。

一方「どォでも良い」

麦野「好きにすれば」

結標「別に」

そして続く、そっけなさすぎる返答。

御坂「(………………え?これってOKって事?どっち?OKって事でいいのよね……?)」

麦野「ていうか、飲んだことあるの?レールガン」


御坂「あ、あるわよそのくらい!!!私ってガブガブいける口なんだからッッ!!!!」


麦野「…………へぇ……まあどうでも良いけど(飲んだことすらないかもねこりゃ)」

土御門「(嘘丸出しだな。飲んだことすら無いかもな)」

一方「(…………めンどくさそォだなおィ。コイツが来たらさっさと切り上げるか)」

結標「(そういえばこの中で最年少で中坊なんだっけレールガン)」

エツァリ「(相変わらず……可愛いですね御坂さんは…………その可愛さで氏んでしまいそうです)」

滝壺「(…………あ…………また受信……)」

―――

283: 2010/10/27(水) 18:53:10.29 ID:.bzd8U.o
―――

イギリス。

深夜。

とある片田舎の、打ち捨てられた小さな小屋。

その中に、今にも抜け落ちそうな床板を眺めている一人の女が立っていた。

赤いボディスーツを纏った銀髪の。


ジャンヌ。


ジャンヌ「…………」

彼女は屈みながら、床板の一画を指でゆっくりとなぞっていた。
一見すると別段なにもない。
何かが置かれているわけでもなく、染みがついてるわけでもない。

だがジャンヌははっきりと嗅ぎ取っていた。


この床板についていたであろう、『魔女の血』を。


ジャンヌ「……」


魔女であった『ローラ=スチュアート』の血を。

284: 2010/10/27(水) 18:55:29.79 ID:.bzd8U.o
ジャンヌ「…………どこに行った?ローラ」

その指を唇に運び、ペ口リと舐め呟くジャンヌ。

痕跡が残されている、という事はおかしい。
今までジャンヌに気づかれること無く生きてきたのだから、
全ての痕跡を抹消することもお手の物だろうに。

考えられるとすれば。

ローラはかなり余裕が無くなって来ているという事。

理由はわからないが『とにかく時間が無い』、という事だ。

深手を負ってそこまで頭が回らなくなっている、とも考えられそうだがそれは無いだろう。
ヴァチカンにてジャンヌやベヨネッタに相対したときですら、ローラの思考は冷静そのものに見えた。

ジャンヌ「…………」

また、これは何かの『罠』とも考えられそうだが、
ローラの視点から見れば、まず罠以前に自分の痕跡がジャンヌに渡る事を良しとはしないだろう。

あらゆる力・技術・経験の差から見ても、
ローラ自身がジャンヌやベヨネッタを欺けるとは思っていないはずだ。

そもそも、現にここにこうしてジャンヌがいることも、ローラの想定外もかもしれない。
いや、想定内だとしても何もできなかっただろう。

ジャンヌの記憶によればローラは最精鋭の近衛に所属していた。

だがジャンヌにすれば赤子同然。


魔女の中でもジャンヌは規格外。

幼少の頃から将来は間違いなく長の座に付くであろうと言われ、
アイゼンを超えるかもしれないとも謡われたてきた『正統派最強』の魔女。

彼女と並ぶ魔女はアイゼンのみ。

彼女を超える魔女はベヨネッタのみ。

それ以外に、彼女に並び立つような魔女は今も昔も存在しない。

285: 2010/10/27(水) 18:56:26.94 ID:.bzd8U.o
ジャンヌ「…………尻尾が丸見えだな。まだまた甘いよ」

そんな正統派最強の魔女が、ついにローラの姿を捉えた。

舐めた血。

血は召喚術にも使われる『キー』。

それを体内、魂に直接刻まれている術式で解析する。

強制召喚で引き釣り出すには『キー』が不足だが。
どこをどう通り、どこに向かったくらいは容易に割り出せる。

ジャンヌ「…………」


その位置は。


日本。



関東。




―――学園都市。

286: 2010/10/27(水) 19:02:14.22 ID:.bzd8U.o
ジャンヌ「(…………学園都市か。『ちょうどいい』な)」

学園都市。

その答えを知ったジャンヌは小さく笑い。

そして立ち上がり、左手を宙に円を描くように動かし魔女用の通信魔術を起動させた。
彼女の前に浮かび上がる、直径30cm程のエノク語の光の魔方陣。

ジャンヌ「バージル。捉えた。ローラは学園都市に向かった」

ジャンヌ「私も向かって良いか?」

バージル『任せる』

ジャンヌ「神裂達が来る前に先に『済ませとく』」

ジャンヌ「ついでにこの際だ。私が禁書目録を回収しといても良いが?」

バージル『その必要は無い。その魔女に専念しろ。神裂は明日にも向かわせる』

ジャンヌ「…………また予定変更か?そいつらはデュマーリ島の件が片付くまで待機では?」


バージル『デュマーリで「何か」あった場合は俺が行く』


ジャンヌ「…………わかった(……弟が本格的に動き出したか?)」


ジャンヌ「では私は学園都市に」


バージル『ああ』


―――

287: 2010/10/27(水) 19:03:26.15 ID:.bzd8U.o
―――

学園都市、正午過ぎ。

とある病棟の廊下の中ほどにあるちょっとした談話フロア。
そこの長椅子にてキリエとルシア、そして佐天が腰掛けていた。

ちょうど今は昼の休憩ということで、インデックス・上条・ステイルは昼食を食べに下の階へ、
そしてキリエは運動も兼ねて、少し病棟内を散歩し今は小休止中だ。

ちなみにトリッシュとレディは病室にて、
トリッシュの銃伝いに送られてきた『ダンテからの情報』について色々と話し込んでいる。

キリエ「ルイコちゃん、本当に綺麗な髪してるなあ」

キリエが佐天の長い黒髪を眺めながら、穏やかな声色。

ルシア「~」

そんな彼女の言葉をすかさず通訳するルシア。
もうこの通訳作業は皆慣れ、テンポ良く会話できるようになっていた。

佐天「え、え!?いやいやいやいや!」

キリエ「ちょっとくやしいかも」

佐天「そんな事無いですよ~!キリエさんなんか金髪で……お肌も透き通ってるし本当にお人形さんみたいですよ!」

佐天「憧れちゃうな~。お姫様って」

288: 2010/10/27(水) 19:05:16.55 ID:.bzd8U.o
キリエ「あ……ミコトちゃんも勘違いしてたけど、私そういうのじゃないよ?」

佐天「またまたぁ。あんな強くてカッコいい王子様捕まえといて何言ってるんですかあ」

キリエ「…………ふふ。まあ…………」

佐天「否定しないところがまた羨ましい!あー羨ましい!」

キリエ「ご、ごめんさない」

佐天「いえいえ!冗談ですよ!あ~でも、初めて見たときはびっくりしました」

キリエ「?ネロを?」

佐天「はい。何か……良く分からないけどとにかくすごい雰囲気で」

キリエ「あ……目つきとか風貌が、多分初対面の人からするとすごい近付きにくいところあるもんね」

佐天「…………私も最初見たときはちょっと怖かったです(それ以上にイケメン過ぎてアレでしたんだけどッ)」

キリエ「でもネロはね、本当はすごく優しい人なの」

佐天「…………わかります。表面は冷たいけれど、中はすごくあったかい『人』です」

佐天「まあちょっとしか一緒にいなかった私如きがこう言うのもアレなんですけどねッ!」

キリエ「…………」

キリエは佐天の話を聞きながら思っていた。

この子、ネロを『人』として見ているんだ、と。
ネロのあんな力を見てまで、
この子は彼の事を『人』として特別な色眼鏡無しで見ている、と。

知識が無いから、とも言えない。
逆に知識が無い者の方が、ネロの事を異質すぎる存在として怖がってしまうはずだ。

人は本能的に『巨大な未知』というものの存在をとことん嫌う性質がある。
知識を探求し『知ろう』とする行動もそれの裏返しだ。

更にネロに限って言えば、知識を持ち彼が『何なのか』を知っている者すら彼を恐れ特別視する。
悪魔の力が覚醒する以前からでも驚異的すぎる身体能力を誇っていたネロは、
フォルトゥナでも異質な目で見られ続けてきた。

289: 2010/10/27(水) 19:06:18.62 ID:.bzd8U.o
今となっては、フォルトゥナの者達のネロへの見方は180度変わったが、
それでも『現人神』として見ている以上、彼を『人』とは認識していない。

忌み嫌われる対象から崇拝の対象となっただけで、視線の指している対象は力。
彼自身を色眼鏡無しで見ている者は、同じ孤児院で育ったような若い騎士等極少数だ。

受け入られたフォルトゥナでそれだ。

フォルトゥナの外に出れば、それはそれは恐れられ忌み嫌われる存在だ。

だが、この子は違う。

ネロの力を目の当たりにしてまで、彼の事を等身大で見ている。
『俗っぽい』と言ってしまえば聞こえは悪いが、
そういう視線で彼が見て貰っている、というのは実は素晴らしいことではないか。

キリエ「…………」

現にキリエ自身だって、
『力』や『存在』を無視した『等身大のネロ自身』にどうしようもないほどに惚れているのだから。

ネロが天使だろうが悪魔だろうが、人間の凶悪な犯罪者だろうが、
ネロがネロ自身ならばキリエにとって違いは無い。

キリエにとって、ネロは悪魔ではない。
フォルトゥナの神でもない。

ネロはネロだ。

そして。


佐天にとってもだろう。

290: 2010/10/27(水) 19:07:36.60 ID:.bzd8U.o
キリエ「…………ありがとう。ルイコちゃん」

佐天「…………へ?」

キリエ「ネロをちゃんと見てくれて」

佐天「…………」

佐天「…………」

佐天「…………」

佐天「……………………あーもう!!!はっきり言います!!」


佐天「私、ネロさんに惚れちゃったみたいです」


キリエ「………………えッ…………えええええ?!」


佐天「恋ってしたことないんですけど…………多分『これ』ですよね」


キリエ「…………ッ……」

佐天「ま、わかってますよ!私が勝手に一方的にですから!(わかっててもしょうがないものだよね。失恋上等よ)」

キリエ「…………」

佐天「何も言わないで下さい!私には!これは私の『自業自得』なんですから!」

佐天「…………ってすみません。一人で…………困りますよねこんな事いわれても」

キリエ「ううん。嬉しい」


佐天「へ?」

291: 2010/10/27(水) 19:08:56.07 ID:.bzd8U.o
キリエ「ネロをそういう風に見てくれる人って、ほとんどいなかったから」

キリエ「もう一度言わせて。ネロを人として見てくれてありがとう。本当にありがとう」

佐天「…………あ~、そう言われちゃうとなあ」

キリエ「?」

佐天「いや……すみません、あの…………諦めが付かないっていうか。いや無理なのはわかってるんですけど……」

キリエ「じゃあ…………」


キリエ「『ネロは絶対に渡さないから』」


佐天「…………」

キリエ「…………これでいい?」

佐天「ああーんそれもキツイィィィィィイイ!!!!っていうか『これでいい?』なんて言ったら意味無いですし!!!!」

キリエ「ゴメン。でもこれも本音」

佐天「キリエさん結構キッツイとこもありますよね!!!天使みたいに笑いながらズケズケと!!!」

キリエ「あははは…………何て言ったらいいか……こういうの初めてだから…………どうしよう?」

佐天「…………どうしましょうか?私もわ~かりませんあははははは!」

ルシア「…………??」

どうしようもなく笑いあう二人。
そんな彼女達の間にて、通訳しながらも話の中身が良く分かっていないルシアは
不思議そうに首を傾げていた。

佐天「でも…………私も言いますと」

キリエ「?」

佐天「ネロさんの婚約者さん、キリエさんで良かったです。本当にお似合いです」

キリエ「……ありがとう。本当に嬉しい」

佐天「あーああああその笑顔がまた!もおおおお!!!」

―――

292: 2010/10/27(水) 19:09:31.32 ID:.bzd8U.o
―――

一方その頃。

とある病室。

トリッシュ「…………」

レディ「…………」

トリッシュ「…………」

レディ「……とりあえずはさ。私としては、人間界が無くならず人類も滅ばなければOK」

トリッシュ「……まあ、それは大前提ね」

レディ「あー。ホント複雑ね。どう収拾つけるのこれ」

レディ「ネロに説明しといた方が良いんじゃない?」

レディ「キリエの事があるけど、ネロだって天界の口の件も防げるのならば見過ごすはず無いだろうし」

ダンテがバージルの『使命』を『横取り』するとした以上、ダンテにとっても天界の口は開いてもらわなければならない。
一方でネロは、キリエの件が済み次第アリウスを即刻排除しようとしている。
天界の口の開放も防げるのならば、迷い無く手を打つはずだ。

230万の人命がかかっているのだ。

救うのが可能であるのならば、絶対に見捨てるはずが無い。
いや、むしろ彼は必ず救うつもりでいるはず。

ネロは絶対に、人類全体と230万の命を天秤にかけたりはしない。
最初から『犠牲を承知』するなど、彼は絶対にできない。

何が何でも、一人でも多くとにかく救おうとしているだろう。

学園都市側の動きに対してだって、表面上は冷めて煙たそうな態度を見せているものの、
内心では『俺が全部やるから、俺が全ての責任を背負うから任せてくれ』というスタンスであるはずだ。

293: 2010/10/27(水) 19:10:41.92 ID:.bzd8U.o
トリッシュ「…………」

だからと言って、ダンテやバージルの目的を告げるのもマズイ。

必ずネロは、『俺がやる』と双子に割り込んでくるはず。

『スパーダを持ってるのは俺なんだから、俺が本命だろ』、と。

トリッシュ「説明したらもっと混乱するでしょ。ネロの事だから『はいそうですか』って黙ってる訳が無いし」

トリッシュ「今でさえバージルとダンテの『主導権の奪い合い』なのに、そこにネロが入ったらもうぐっちゃぐっちゃでしょ」

レディ「…………どうしてスパーダの一族って皆そうなのかしらね。良くも悪くも皆アクが強すぎるわ」

トリッシュ「…………」

レディ「説明したらしたらで三つ巴。説明しなくとも三つ巴。参るわねあの家族にはほんと」

そう、どう転んでも結果的に三者の意見が割れてしまうのは目に見えている。

レディ「それと言わなかったら言わなかったで、ぎゃあぎゃあ言うと思うけど。ネロ。また変に荒れそう」

レディ「ダンテとバージルのためなら平気で命投げ出すくらいあの二人に心酔してるし」

トリッシュ「本当に『そうなる』からあの二人は、ネロに知られるの避けてるんでしょ」

レディ「…………」

トリッシュ「…………やっぱり、この件は全てダンテに任せるべきね」

トリッシュ「私達が勝手に動くべきではないわね」

294: 2010/10/27(水) 19:12:08.46 ID:.bzd8U.o
レディ「……………………はぁ~、私ったらとんでもない時代に生まれちゃったわね全く」

トリッシュ「あら、そう言う割にはかなり楽しんでるじゃないの?」

レディ「ま、そうなんだけど」

レディ「ただ、傍観するしかないってのもかなり癪」

トリッシュ「…………まあこればっかりはね」

レディ「…………」

とそんな重苦しい空気が流れる中。

響く、ドアのノックの音。

トリッシュ「はいどうぞ」

そしてトリッシュの声に促され、ドアが開き。


御坂「あの…………」


神妙な面持ちをした御坂が姿を現した。

295: 2010/10/27(水) 19:13:23.24 ID:.bzd8U.o
トリッシュ「あ、イマジンブレイカー達ならもうそろそろ来ると思うわよ」

御坂「…………」

そのトリッシュの言葉に対し、御坂は無言で唇を噛み締めたまま。

トリッシュ「Hum......」

レディ「(…………何かあるか)」

二人ともその御坂の様子を見、
彼女の中にある『何か』の思いの存在を即座に気づく。

彼女に圧し掛かっている何かを。

トリッシュ「なあに?」

レディ「…………」

今度はやや穏やかな口調で、トリッシュは御坂に用を促した。

御坂「…………あ…………挨拶しておこうかなって……」

私服の上着の裾を握り締めながら、ようやく口を開いた御坂。


トリッシュ「何の?」


御坂「お、お世話になった…………というかその……」


レディ「(……なるほどね)」

296: 2010/10/27(水) 19:14:29.15 ID:.bzd8U.o
御坂は隠しているようだが、この二人の目を誤魔化せるはずも無い。
彼女の言葉でトリッシュもレディも即座にピンと来た。

これは戦いに行く際の挨拶だ、と。

そう考えると。

今、御坂がいく『戦場』は一つしかない。


トリッシュ「あ、デュマーリ島に行くの?」


何を隠すことがあるか。

とあっさり、トリッシュはストレートに言葉を飛ばした。


御坂「―――!!!!!!!!!!!!」

当然、慌て焦り始める御坂。

御坂「あ……!!!!ど、どこからそれを?!!!!」

レディ「どこからって。アンタを見りゃわかるわよ」

御坂「…………!!!!!!!!!」

トリッシュ「別に、そう取り繕うとしなくても良いわよ。楽にして」

297: 2010/10/27(水) 19:15:46.33 ID:.bzd8U.o
御坂「…………あッ……………う、うん。私、明日デュマーリ島に行く」

トリッシュ「(……まあ、この子の性格から見て、知ったら行くのは予想できたわね)」

トリッシュ「レディ」

レディ「ん?」

トリッシュ「『先輩』としてアドバイスくらいしてあげれば?」

レディ「あ~、そうね」

レディ「じゃあ…………そうね、『人の先輩』として少しだけ」

レディ「退く時は退きなさい。ただ、戦いから逃げるということじゃあない」

レディ「退いたのならば、まず周りを、状況を良く観察する」

レディ「良い?人間には『頭』がある。『頭』を使いなさい」

レディ「一見手が出せなさそうな存在でも、必ず付け入る隙があるの」

レディ「『チャンス』はそこら中に転がってる。『有効な手段』は時に『近く』を転がってるものよ」

レディ「一見通用し無そうに見えても、実はかなり有効な『切り札』もあるものよ」

レディ「力が劣っていても、それが『最強の武器』になり得るいうこともありえるの」

レディ「ダンテやバージル、ネロの三人でも頃しきるのが不可能だった魔帝を、小さなイマジンブレイカーが『壊した』みたいに」

レディ「……って、これはちょっと例えにしずらいか」

御坂「…………ううん。わかる……わかります」

298: 2010/10/27(水) 19:16:52.97 ID:.bzd8U.o
レディ「…………あー…………」

と、その時レディは立ち上がり。

レディ「怖いんでしょ?」

ニヤリと笑いながら、御坂の方へと歩き進み。

御坂「!そ、そんなんじゃ……!」


レディ「良いじゃないの。それが人間よ」

そして彼女の前で屈み、その頬を右手で優しく撫でた。

御坂「…………!」

レディ「私だって悪魔と戦うのは本当は怖い」

その手から。

指から伝わる温もり。

人間の暖かさ。


レディ「でもね、その恐怖を押し頃して戦おうとする心がある」

レディ「アンタにも。それを誇りなさい」


レディ「アンタは『人間の鑑』」


御坂「―――」


レディ「『人の子』として前に歩み出なさい」

299: 2010/10/27(水) 19:18:03.37 ID:.bzd8U.o
レディの温もりと言霊。

それらを認識した御坂は、目を大きく見開き顔をあげ、
目の前の女性のサングラス越しのオッドアイを見つめた。

そんな彼女の頭に、小さく笑いながら今度はポンと右手を乗せるレディ。

レディ「ま、私ほど『前』に出たら、その恐怖が逆に楽しくなってきちゃうけど」

レディ「そこまでは行くか行かないかはご自由に。でも最っ高に楽しいわよ」

御坂「…………」

レディ「アンタ、直情的、直線的、無鉄砲でしょ?」

御坂「……うん。自覚してる」

レディ「やっぱり。わかるわよ。何となく私に似てるし」

御坂「………………」

レディ「もっと早くどこかで出会ってれば、一から修行させて戦い方教えてあげても良かったんだけど」


御坂「―――……………………………………私も……」


レディ「ま、帰ってきたら教えてあげても良いわ。アンタがその気なら」


御坂「―――っ」

と、御坂がレディに何かを言おうとした時。

レディ「さ、用は済んだでしょ。さっさと他の事も済ませてきな」

くるりと踵を返しながら立ち上がり、御坂に背を向けレディは離れていった。
まるで、御坂の答えを『今は聞かない、帰ってから言え』と態度で示しているかのように。

300: 2010/10/27(水) 19:19:19.58 ID:.bzd8U.o
御坂「―――ッ…………じゃ、じゃあ行ってきます!!!!!」

そんなレディの背中から発せられていた意図を読んだのか。
御坂はハッとしたかのように一度体を揺らし、二人に向けペコリと頭を下げ。

トリッシュ「イマジンブレイカー達にも挨拶しなさい」

御坂「うん!!!」

そしてトリッシュの声にも促され、足早に退室していった。


レディ「…………世話の焼けるガキだこと」

先ほどまで座っていた丸椅子に腰掛け、
ドアの方へと視線を向けながらポツリと呟くレディ。

トリッシュ「……でも、随分とあの子の事気に入ったみたいじゃないの」

そんな彼女へ、同じくドアの方を見ながら言葉を飛ばすトリッシュ。

レディ「かも。私に似て可愛いし。大きくなったら化けるわよあの子は」

トリッシュ「ねえ、そういえば、昨日あの子の『妹』に会ったって言ってなかった?」

レディ「…………そうだけど?」

トリッシュ「言わなくて良いの?」

レディ「言うかどうかは本人達が決めることでしょ」

レディ「『誰かさん』曰く、『家族の問題』には部外者は余計な口を出すなって」

トリッシュ「ふふ、まあそうね」


レディ「……………………ちょっと失礼」


と、その時一泊置いてレディがそそくさと立ち上がり、ドアの方へと向かった。

301: 2010/10/27(水) 19:20:33.62 ID:.bzd8U.o
トリッシュ「………………『大』?『小』?人間って大変よね」

そんな彼女の背中へ、そっけなく言葉を飛ばすトリッシュ。

レディ「……………………『小』。あのさ、私も一応『レディ』なんだから言わせないでくれない?」

トリッシュ「あらごめんなさい」

レディ「……わざと言ってるわね。全く…………」

そう小さくはき捨てながら、レディはそそくさと部屋から出て行った。


トリッシュ「…………」


そして一人になったトリッシュは、ふと思索に耽入った。


いや、正確には『一人』ではないか。


今、彼女の愛銃を持つ『相棒』とリンクし手いる為、
互いの心の内がリアルタイムで筒抜けなのだから。

302: 2010/10/27(水) 19:21:29.62 ID:.bzd8U.o
トリッシュ「…………」

今までもある程度はダンテの内面を見てきたが、今初めて彼女はダンテの中を直接見ていた。

共有して。

ありありと彼の中身が伝わってくる。

戦いの楽しみ。

戦いの快感。

そして『人』への底なしの愛と。


―――底なしの苦悩。


トリッシュ「…………」

今までも、多くの命がダンテの手の平をすり抜けて零れ落ちて行った。
事件の種を排除し結果的に解決できたとしても、救う対象だった存在の多くが消えていった。

ダンテの存在に掻き消されがちであり、彼自身も決して表面に出さないためわかりにくいが、
彼の周りには常に『氏』が纏わりついて来た。


ダンテ自身がどんなに飄々と明るく振舞っても。

事件の核を叩き潰し、毎度の如く圧倒的な勝利を収めても。


トリッシュの知る限り、その周りの『人間』が『幸せ』になったためしなど数える程度しか無かった。

303: 2010/10/27(水) 19:22:18.14 ID:.bzd8U.o
本当の意味で救われたのは『極少数』。
過去から続く怨嗟に『巻き込まれた』人々を引き上げ、『0』に戻しただけ。

いや、『0』になっただけでもマシだ。

大半が『マイナス』のままだ。
それは『マイナス』となった人々の『仇討ち』の戦い。
彼自身の血に刻まれた、過去から延々と続く『贖罪』。

これ以上『マイナス』が『伝染』しないよう、力ずくで闇を『埋め立てる』だけ。


彼は、己自身の事を『ヒーロー』とは思っていない。


彼は、己自身の事を『救世主』とは思っていない。


『罪人』だ。


『疫病神』だ。


必氏に『マイナス』を『0』に戻そうとしている『罪びと』だ。

304: 2010/10/27(水) 19:23:21.49 ID:.bzd8U.o
かつてスパーダは人間界を救った際も、己が救世主として称えられる事を嫌った。
『英雄』として名が広まることを良しとしなかった。

なぜなら。

『プラス』になることなど何もしていなかったから。

人間界にとっての『マイナス』を『0』に戻しただけだから。
しかもその『マイナス』は、己が片棒を担って大きく増幅させてしまった存在なのだから。


そしてダンテもこの父の考えを受け継いでいる。

ダンテはテメンニグルの塔で兄と戦った際、そのスパーダの跡を継ぐことを決心した。

『これ』をダンテは『宿命』と表現したのだ。


父をも縛り上げてた『巨大な鎖』。

それをダンテは『全て』引き受けた。


『人の傍』ではなく離れた位置から『人間界を守る』という『贖罪』。

血に刻まれた『罪』の『償い』。

ダンテは『一人』で背負うことを心に決めたのだ。

ネロでもバージルでもない。


ダンテ自身が『一人』で。


一人で。

そう―――。


一人で全てを背負った『はず』なのに。

305: 2010/10/27(水) 19:24:07.19 ID:.bzd8U.o
今、その巨大な『鎖』はバージルを縛り上げ、そして『奪おう』としている。
このまま行けばネロも。

そしてその先は。

『人間界』も。


『宿命』は『全て』を奪おうとしている。
『全て』に『食指』を伸ばそうとしている。


ダンテがそんな事など絶対に許す訳が無い。


『―――まだ足らないのかよ』


『―――まだ喰らうつもりか?』


『―――ふざけるな。これ以上何も「やらねえ」』



『―――「俺だけ」だったはずだ―――』



『―――「俺だけ」を喰らえ。そう決めたはずだ』



『―――俺を目一杯喰って、腹を壊してとっととくたばれよ』、と。

306: 2010/10/27(水) 19:25:08.23 ID:.bzd8U.o
ダンテは正面から遂に宣戦布告した。

『ここで「お前」を断ち切ってやる』、と。


家族を解放するため。

愛する全てを解放するため。


父も。

母も。

兄も。

甥も。


人類の全てを。


そして人間界そのものを。



この巨大な『宿命』から解き放つため。


全ての『マイナス』を『0』に戻すため。

彼はケリをつけようとしている。


己で全て『清算』しようと。



『「主役」の俺がやるべきだろ』、と―――。

307: 2010/10/27(水) 19:27:02.46 ID:.bzd8U.o
―――と。

ダンテの今の心境を把握したトリッシュ。
それを理解した上で、彼女は告げる。

トリッシュ「(―――ねえ。ダンテ)」

今、己の愛銃を持ち精神がリンクしている『相棒』へ。

ダンテ『(何だ?)』

トリッシュ「(アナタの考えもわかる。アナタが自分の事をどう思ってるかも)」

これは単なるわがままよね、と自覚しながらも。

トリッシュ「(でもね。アナタも今ははっきりとわかるでしょ?私にとっては―――)」

リンクしている以上、ダンテも知っているのは当然であるのだが。


トリッシュ「(―――アナタが『救世主』なのよ)」


彼女は『はっきり』と伝えたかった。


トリッシュ「(私にとってたった一人の―――)」



トリッシュ「(…………―――『英雄』なんだから)」



ダンテ『(そうか)』


トリッシュ「(氏んだら許さないわよ。約束して。約束しなさい)」


ダンテ『(―――………………あ~…………わぁったよ。約束する)』

トリッシュ「(―――…………わかってる?今はアナタの心、こっちに駄々漏れなのよ)」


トリッシュ「(―――嘘吐き)」


ダンテ『(……………………ま、それは最後まで見てから言え)』

―――

308: 2010/10/27(水) 19:28:53.00 ID:.bzd8U.o
今日はここまでです。
次は日曜か月曜の夜に。

来週中にでも伸びに伸びてしまったこの編を終わらせようと、
やや駆け足になっております。
すみません。

309: 2010/10/27(水) 19:35:02.80 ID:20aGucDO
ダンテ氏なんといて


 次回へ続く:【禁書×DMC】ダンテ「学園都市か」【その21】


引用: ダンテ「学園都市か」【MISSION 06】