325: 2010/11/01(月) 23:11:43.94 ID:smIwbYso


最初から読む:【禁書×DMC】ダンテ「学園都市か」

前回:【禁書×DMC】ダンテ「学園都市か」【その20】

一覧:ダンテ「学園都市か」シリーズ

―――

とある病棟の廊下。

昼食と休憩を済ませたインデックス、上条、ステイル。
この三名がトリッシュとキリエの待つ病室へと向かっていたところ。

禁書「あ」

彼らの正面、廊下の先から御坂が手を振りながら歩み寄ってきた。

御坂「いたいた」

上条「?」

御坂「えーっと…………話があるんだけど良いかな?」

上条「ん?」

御坂「あのさ。アンタに……その……『伝えておきたい』ことがあるの」

上条「………………………………………………」

今の上条ならここでピンとくる。
御坂が自分に伝えたい事は何なのかが。

禁書「うん……………………ステイル、先に私と一緒に戻るんだよ」

『同じく』恋する乙女の感覚で敏感に状況を把握したインデックス。
影の全く無い微笑みを浮かべると、脇のステイルの袖を引っ張りながらこの場を離れるよう促した。

ステイル「……い、いや…………待て……」

ステイルもその妙な空気を感じ取り、
『二人っきりにして良いのかインデックス?』と言いたげな表情で戸惑い始めたが。

禁書「良いんだよ。私は部外者。『アレ』はあの二人の事なんだから」

禁書「さ、さ、ほら!!何モタモタしてるのかな!?さっさと行くんだよ!」

尻を叩かれるようにインデックスにまくし立てられ、彼女に押されるような形でその場から離れていった。
その際。

御坂「……」

インデックスがちらりと御坂の方へと振り向き、穏やかな表情で小さく頷いた。

御坂「(……………………ありがとう)」
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326: 2010/11/01(月) 23:14:28.20 ID:smIwbYso
上条「…………」

御坂「…………」


御坂「…………ふーっ……『先』にこっち言うか」


上条「?」


御坂「あー、私、デュマーリ島に行くの。明日の夕方に出発」


上条「………………………………はっっ…………はぃぃぃ??!!!!」


御坂「だーから、ちょっくら暴れてくるって言ってんの」

パチリとウインクし、可愛らしく笑いながら告げる御坂。
まるで遊びに行くようなノリで。

上条「い、いや……!!!!ちょっと待て待て待て!!!!わかってんのか!!!??あの島は―――」


御坂「いまや千、いや万を超える悪魔が巣くう『魔境』。わかってるって。多分アンタよりも詳細把握してるわよ」


上条「わ、わかってるなら何で……!!!!??」


御坂「『なんで』?」

御坂「おかしな事聞かないでよ。決まってるでしょ―――」



御坂「アンタの『世界』―――」



御坂「―――私も守りたいからよ。。」


上条「―――」

327: 2010/11/01(月) 23:16:17.48 ID:smIwbYso
上条「―――……」


御坂「……私も一緒に戦いたいなーって。少しでも役に立ちたいなって」

上条「…………で、でも御坂……」


御坂「言わないで」


御坂「っていうか、アンタに私自身の気持ちの事、何だかんだ言われる筋合いはないでしょ」

御坂「これは『私のもの』」

御坂「これは私がやりたい事なんだから」

御坂「私自身が決めた事なんだから」


御坂「それにそろそろ、守られ続けてきた『借り』返さないとねっ」

御坂「私にも、自分で言うのもアレだけどそれなりの『プライド』ってもんがあるし」

上条「…………御坂……」

328: 2010/11/01(月) 23:18:41.34 ID:smIwbYso
御坂「それに厳密に言うと、『アンタの為』に戦うだけなわけじゃあない」

御坂「これは私自身の戦いでもあるの」


御坂「『アンタが好きな私自身』の為の戦いでもあるんだから」


上条「…………………………」

御坂「……………………あ……………ちょ………っ!!!!!」

御坂「…………うっ…………ん…………ぐぐぐ…………!!!!

勢いでもう一つの『伝えたいこと』の一部を言ってしまった御坂。
一瞬ドモり、俯いたが。

御坂「―――んぱあああああああああああああぁぁぁもうっっ!!!!!!!!!こぉなったらはっきり言うわっっ!!!!」

今にも爆発しそうなくらい顔を真っ赤にしながらも、気合を入れるような声を発しながら、
真っ直ぐと顔を上げて上条の顔を見据え。


御坂「私さ、アンタの事が―――」


堂々と前に歩みだし。


御坂「―――当麻の事が―――」


宣言し。


御坂「―――大好き!!!!!」


己の想いをぶつけた。


御坂「氏んじゃいそうなくらい大好きなの!!!!!!」


上条「―――…………」

329: 2010/11/01(月) 23:23:33.12 ID:smIwbYso
御坂「ッ…………………………………………」

上条「…………………………………………」

そして流れる数十秒間の沈黙。

上条「………………………………お、俺は……」

御坂「あ…………気使わないで。……私、その……わかってるから……」

上条「へ??」

御坂「…………アンタ、あの子に心底惚れてるでしょ」

上条「!!!知ってたのか!!!!!??」

御坂「知ってるも何も見ればわかるってのよ!!!!!!この単細胞!!!」

上条「な、な!!!!お、俺だって知ってたぞ!!!!御坂が俺の事好きなのは!!!お前の方こそ単純じゃねえか!!!!」

御坂「はぃ!!??ちょ、ちょっと!!!それどういうことよ―――!!!!」

上条「どういうことも何も!!!!お前こそ―――!!!!」

御坂「―――…………」

上条「―――…………」

御坂「…………ぷは、ははっはははは!」

上条「…………へっ……ははははははは!!!」

御坂「……あーあ、なーんかガンって構えてたのがバカらしくなってきちゃった」

上条「……はぁ~、俺も。どう返そうか悩んでたのがアホみたいだ」

御坂「でも良かった」

上条「?」

御坂「こうでなくちゃ。変にこじれるの嫌だもん」

上条「はは、そうだな。お前がウジウジしてるのは似合わないな」

上条「笑ってる顔が一番だ」

御坂「……………………まーたそういう事言う」

上条「……な、何だよ?」

御坂「いんやーなーにもー」

330: 2010/11/01(月) 23:26:12.68 ID:smIwbYso
御坂「…………あ、ねえねえそれでさ」

上条「ん?」

御坂「当麻の事、ずっと好きでいて良い?」

上条「(…………なんつー質問だよ……女って良くわからねえな……)」

上条「……いや、さっき自分で言ったろ?俺に『気持ちの事何だかんだ言われる筋合いは無い』って」

御坂「あ……あはは、そうだったっけっ。じゃあお言葉に甘えて、ずっと当麻に惚れさせ続けてもらうわ」

上条「……俺はどうこうしろとは言わないけど、いいのかそれで?」

御坂「余裕だっつーの。恋する乙女は強いのよ」

上条「……そうだ。はっきり俺の方からも言わせてくれ」


御坂「……今更変にオブラート包まないでね」


上条「おう……俺は、その気持ちに応える事は無理だ」


上条「その気持ちはインデックスにしか向けられない」


御坂「…………うん。OK、わかってるわ」

331: 2010/11/01(月) 23:32:55.59 ID:smIwbYso
上条「それともう一つ」

御坂「?」


上条「ありがとう」


御坂「―――」


上条「こんな俺にその気持ちを向けてくれて嬉しい」


上条「…………その気持ちに応える事はできないけど」


上条「お前は俺にとって大事な人の一人だ」


上条「何があってもお前の世界は守る」


御坂「あのさ………………アンタさ、私をこれ以上惚れさせてどうするつもりよ?何考えてんの?本当にバカなの?」

上条「ぐぐ………………………………」

御坂「―――って冗談よジョーダン!好きだから別に問題無いわ。ドンと来いって感じよ」

御坂「ただ、そこらの女の子にはもうそういう事言わないの。これ以上手を広げるとそのうち暗殺されそうだし」

御坂「そういう事あっちこっちにポンポン言うから色々面倒なことになるのよ」

御坂「私はさ、もう結構前からちゃんと覚悟決めてたからこうだけど、他の子じゃこうは済まないかもよ。もっとドロドロするかも」

上条「は、はい…………肝に命じておきます……」

332: 2010/11/01(月) 23:35:26.37 ID:smIwbYso
御坂「あ~……最後に一つだけ聞いて良い?もしさ、もし」

上条「?」


御坂「当麻があの子の事好きになる前に……」


御坂「……わ、私が気持ち伝えてたら…………『見込み』あった?」


上条「…………かもしれない『けど』……」


御坂「……『けど』?」


上条「……今となっちゃはっきり答えられない。『もし』が想像しにくいんだ」



上条「今の俺、あいつに思いっきり惚れちまってるから」



御坂「………………ふふ、やっぱ、私が惚れた男なだけあるわね」

御坂「ムカつくぐらい『痺れる』わ。そういうところ」

上条「……」


御坂「……ねえ、当麻。約束して。あの子の傍にいてあげて。ずっと」


上条「……ああ。約束する。誓うよ」

333: 2010/11/01(月) 23:37:16.91 ID:smIwbYso
そして上条がスッと右手を差し出し。

上条「―――『美琴』」

彼女の下の名を読んだ。

御坂「―――…………うん。『当麻』」

同じく御坂も上条の下の名を呼び。
彼の右手を固く握った。
がっちりと。

それはお互いへの敬意と信頼と。

対等な『絆』の証明。


御坂「………………この時を夢見てたの」


御坂「当麻に……こうして『認められる』日を」


恋仲ではない。
だが。
御坂は上条に最も近付いた一人となった。
彼女もまた、上条にとって特別な者の一人。

それを肌で、手で、魂で確認し知り合えた今。

御坂にとって、今までの人生で最高の瞬間となった。


御坂「……ありがとう。本当に」


上条「『こちらこそ』な」


上条「それと絶対帰って来いよ。帰って来なきゃ許さねえからな」


御坂「当麻も。『約束』破ったら承知しないから」

334: 2010/11/01(月) 23:42:23.65 ID:smIwbYso
御坂「―――そーれじゃ!行って来るわね!留守番、頼むわよ?」

そして二人は手を離し。

澄み渡る笑顔を浮かべ、手を振りながら御坂は後ずさりし。

上条「おう。任せとけ」


御坂「あと!!!!!!私が『こう』したんだから―――」


御坂「―――モタモタしてないで当麻も『こう』しなさいよ!!!!あの子に!!!!!」


上条「―――」


御坂「じゃーあねー!」

踵を返し、
軽く明るくそれでいて確かな『重さ』をもった、揺ぎ無い足取りで彼から離れていった。


上条「……………………俺も……『俺自身』のやるべきことをさっさとやらなきゃな」

上条は穏やかな表情を浮かべつつ、
遠ざかる御坂の背を見つめながら小さく呟いた。


上条「御坂に負けてられねえぜ」

先ほど握手を交わした右手を固く握りながら。




―――さっさと伝えよう。インデックスに―――全部―――。





335: 2010/11/01(月) 23:44:19.19 ID:smIwbYso
病棟の廊下を軽やかな足取りで進む御坂。

御坂「~♪」

不思議な感覚だ。
この想いが実らないことが確定的になったというのに、
心は晴れ渡っている。

いや、よくよく考えれば不思議なことではないかもしれない。

心のどこかでは、上条が応えてくれるのを期待していたかもしれないが、
それは今となっては御坂の本望ではない。

ブレてしまう上条なんか『嫌い』だ。

そんな奴、『上条当麻』ではない。


御坂ではなくインデックスを迷い無く選ぶのが上条当麻。
己の心に素直で芯が通っているのが上条当麻。

その顔がどれほど愛おしい事か。
そんな彼がどんなにかっこいい事か。
そんな彼に御坂美琴は惚れている。
だからこれで良いのだ。

例え彼の目が己に向いていなくとも。


これで良い。


あれが、彼女が望む『上条当麻』の姿なのだから。

336: 2010/11/01(月) 23:45:25.43 ID:smIwbYso
御坂「よし…………」

吹っ切れた御坂の足取りは確かなものであり、そして揺ぎ無い。

ただ吹っ切れたと言っても恋が冷めたというわけではない。
むしろ余計に火がついた。

その『方向』に吹っ切れたのだ。

今なら御坂は学園都市中、いや世界中に向けて堂々と宣言できる。

私は当麻に惚れたんだ、と。

私は当麻の事が大好きだ、と。

負い目や恥ずかしさなど微塵も無い。
それが彼女の『誇り』であり、全てを受け入れ前に歩みだした『自分自身』なのだから。


御坂「……おっけー。気合入ったわ。とことんやったるわ」


一回りも二回りも『強く』なった御坂美琴。

純真無垢な乙女は突き進んで行く。
陰りの無い歩みで。

―――

337: 2010/11/01(月) 23:49:05.62 ID:smIwbYso
―――

フォルトゥナ。

フォルトゥナ魔剣騎士団本部。

再建された堅牢な本部のとある大きな一室。
広めの部屋の中央に大きな円テーブルが置かれており、
複数名の騎士の最高幹部、そしてネロが立ちながらそのテーブルを囲んでいた。

その輪から少し離れる形で、壁際にて椅子に座っている現フォルトゥナ騎士団長。
既に髪は無くなり白い髭を蓄えた老齢80だが、
その眼光は今だ鋭く鍛え上げられた体も全く衰えてはいない。

彼はかつて教皇サンクトゥスに反発し、
その結果現役を退き隠居する事となった最高幹部の一人であった。

清き全うたるフォルトゥナ騎士道を体現していたこの老人にとって、
騎士精神を曲解した教皇サンクトゥスのやり方はどうしても馴染めなかったのだ。

騒乱後の騎士団再建の際、ネロを騎士団長にとの声が高まったが、
ネロは騎士団長の座を辞退し代わりに彼を推したのだ。
皆もそのネロの言葉に賛同し、滞りなくこの老齢な最高峰の戦士が騎士団長の座についた。

ネロ以外ならば彼しかいない、と。

ちなみにこれは余談だが、
ネロが敬語を使って話す相手は存命人物の中でこの騎士団長のみでもある。

ネロが幼少の頃、騎士の初歩教育の際に教鞭を持ち、
フォルトゥナ騎士道の何たるかを叩き込んだ人物がこの現騎士団長なのだから。

338: 2010/11/01(月) 23:50:29.10 ID:smIwbYso
ネロ「…………」

テーブルの上には様々な報告書・書類が載せられており。
ネロはその一つ、騎士団の編成状況が記された報告書に目を通していた。

重装騎士が82名。
軽装騎士が311名。
騎士見習いが66名。

計459名。

これらが現フォルトゥナ騎士団所属の全戦闘要員。

人数だけで見ればかなり心細い規模だろうが、
人間世界最高峰のデビルハンターが393人も含まれていると考えれば、
その圧倒的なパワーが分かりやすいだろう。

更にそれとは別に市民からの義勇兵が約600名。

これが現在のフォルトゥナにおいて剣を持つ者達だ。
この内、騎士団所属の200名がネロに率いられてデュマーリ島に向かう手はずになっている。
残りはフォルトゥナの守護だ。

340: 2010/11/01(月) 23:55:32.18 ID:smIwbYso
ネロ「…………」

と、ネロを含む幹部達が様々な報告書に目を通していたところ。
一人の若い騎士が書類を手に部屋に入ってきた。

その者が腰に差している細い剣。
積極的対悪魔戦用ではなくあくまで護身用のもの。
身なりから察するに、戦闘員ではなく技術部門の者だ。

その若い騎士は簡単な礼を済ませ、書類に目を落としながら。

「デュマーリ周辺の遠隔監視調査を行っていた隊からより報告」

「かなり巧妙に偽装されていましたが、『糸』の発見に成功しました」

「デュマーリ島より世界各地の人造悪魔一体一体へと接続されてました」

淡々と報告を読み上げた。

「解析はできたか?」

その男に向け、ネロの左隣にいた屈強な初老の幹部が言葉を飛ばす。

「ある程度は。基本的にそれぞれの個体が命令に従って独立活動するらしいですが、完全にではありません」

「常に『糸』により制御を受けております。知能の低い下等悪魔を組み合わせたからでしょう」

ネロ「…………」

そう、ルシアやセクレタリーのような高度の知能を有する高等存在ならまだしも、
下等・低知能ならばある程度の制御は必要になってくるはずだ。

フロストやアサルトのような命令にどこまでも忠実な『生粋の戦士タイプ』の悪魔でもない限り、
放っておくと命令なんかそっちのけで、欲望のまま好き放題やらかす可能性もあるのだ。

341: 2010/11/01(月) 23:58:18.56 ID:smIwbYso
「万が一の為の強制停止用の記述も発見できました」

「意図に沿わない暴走を防止する為のものでしょう」

ネロ「…………」

まあ、相手を考えるとそういう万が一の対策をとっているのも当然だろう。
ルシアにも似たような術式が魂に刻み込まれているのを先日直に目にした。

「浸入は可能か?」

今度はネロの右斜め前方、やや細身の30代後半の幹部が口を開いた。
一応聞いておくか、といった投げやりな声色で。

『糸』にそのような機能があれば浸入は誰でも考える。
破壊できれば悪魔の統制を失わせる事が可能であり、更にジャックをできれば一気に強制停止もできる。

だが。

アリウスならば、いや彼でなくとも普通に考えれば分かるだろう。
フォルトゥナ側が浸入を試みるという事は。

そして若い騎士からの返答は予想通り。

「『防護隔壁』が非常に強固であり、回線浸入は困難を極めております」

「現在の状況は?それとどれだけの時間があれば隔壁を破れる?」

「回線浸入を試みましたが、そのたびに防護記述が自動更新され、自動修復と更なる隔壁強化が行われる仕様です」

「現在はまずその更新用記述の破壊を試みてますが、最低でも2ヶ月かかるかと」

「……やはり論外だな」

ネロ「…………」

342: 2010/11/02(火) 00:00:47.92 ID:LWRiYboo
だが、この報告が無益だったというとそれは違う。

少なくとも世界中に散らばっている人造悪魔兵器を、
一つ一つ潰す必要なく一度に全て強制停止できる方法があるのがわかったのだ。

「……即座に手を出せる方法はあるか?」

「デュマーリにあるであろう『コア』から浸入できれば即座に」

「その為には現地にて『コア』を探し出し、直に接続する必要がありますが」

「ちょうど良いな。よし、2時間以内に術式構造の詳細を含む報告書をネロに提出してくれ」

「了解」

ネロ「(…………向こうでの仕事が増えたな)」

アリウスの処理、魔界の門と天界の門の件。
そこに更に加わった人造悪魔の制御コア奪取とジャック、そしてその破壊。

騎士200を連れて行くとはいえ、少々ハードスケジュールだ。

ネロ「(ま、やってやるさ)」

ただ、もちろんハードな『だけ』であり『困難』ではない。

343: 2010/11/02(火) 00:06:52.63 ID:LWRiYboo
「それとは別に、『糸』の末端解析はできたのか?」

「はい。各地にある人造悪魔兵器の総数とおおまかな配置は判明しました」

「島外の人造悪魔の総数は13万5732体」

「この内の31%がフランス北部に、25%がイタリア中部に、17%がロシア東部に集中、その他は各地に点在」

ネロ「(…………イタリア…………ローマ正教自体も標的か……)」

ネロ「(天界系の人間勢力を全て破壊する気だな。天界を更に刺激する為に)」

と、その時。


『ネロ様。ネロ様あてに極秘回線からの通信が入っております』

室内に響く、通信魔術からの声。
皆一旦手を止めネロの方へと目を向けた。

ネロ「…………イギリスか?」

『いえ。それが…………』


『ローマ正教、教皇用の回線からです』


ネロ「…………相手は?まさか教皇サマか?」


『いえ。こう名乗っております』



『「神の右席」―――』



『―――「前方」を冠す者だと』



ネロ「………………………………へぇ」

『どう致しますか?』

ネロ「とりあえずこっちに繋げてくれ」

『了解』

344: 2010/11/02(火) 00:13:22.40 ID:LWRiYboo
ネロ「OK、俺に用か?」


『…………アンタが……スパーダの孫か?』


ネロの呼びかけに対し返ってくる、やや性格がきつそうな若い女の声。



ネロ「そうだが?」

『…………意外だったわ。こうもすんなり繋げてもらえるなんて』

ネロ「……『前方』は何ヶ月か前に空座になったと聞いたが」


『今日返り咲いたのよ』


ネロ「そうか。それで何の用だ?とりあえず聞いてやる」

『……私の身分確認とかはいらないのか?そんなにすぐに信じるのh』

ネロ「誰も信じるとは言ってねえ。とりあえず聞くっつってるんだ。それに一応教皇用回線使ってるしな」

『この秘密回線がどこのかバレてるのか。さすがはフォルトゥナといったとこr』

ネロ「御託はいいからさっさとしろ。こっちは忙しいんだ」

『わかったわよ。単調直入に言う』


『アンタ達、フォルトゥナの力が借りたい―――』



『―――兵の一部をこちらに寄越してくれない?』



ネロ「…………あぁ?」

345: 2010/11/02(火) 00:15:24.21 ID:LWRiYboo
『……もう一度言う』


『精鋭部隊を貸してくれない?』


「…………この者は何を……」

「ふざけた事を抜かすな」

「笑えぬ冗談だな」

『前方』からの申し出。
その内容に対し、呆れかえった声が幹部達から漏れる。

ネロ『…………ワケは?』

しかし、ネロと壁際の騎士団長だけはそんな素振りなど微塵も見せなかった。
この『前方』の声に微かに見える心の内を、その『重さ』を的確に読み取っていたのだ。


『…………「私ら」は今、人間同士の戦争を「終わらせる」最終兵器―――』


                     V I P
『―――20億人が掲げる「 旗 」を「保護」してる』



ネロ「―――…………………………」

346: 2010/11/02(火) 00:18:32.78 ID:LWRiYboo
ここで周りの幹部達の空気も変わった。
嘲笑的な部分は跡形も無く消え、皆の顔に武人としての確かな緊張が滲む。

ネロ「20億の旗、ね。そいつはご大層なVIPだ」

『放っておくと殺されそうだったから。この「旗」が戦火に巻き込まれて折れちまったら、人間はもう後には退けなくなる』

『アンタ達が悪魔諸々の件を解決してくれたとしても。それで人間界自体は救われたとしても―――』


『―――24億の全十字教徒間の、「人間同士の戦争」は絶対に終わらない』


 わたしら
『十字教徒はアンタ達と違って馬鹿で無知で臆病な子羊達の集まりに過ぎないから』

『後で「真実」を明かされてもどうにもならないの。むしろ受け入れられずに確実に更に暴走するわ』

『わかるだろ?十字教の根本が覆ったら、いや、全ての「天界系宗教」の真実が明かされたら人間社会は完全に崩壊する』

『異世界間の問題が解決したとしても、これ以上「旗」や「聖地」が陵辱されたら人間世界は千年の内戦に突入する』

ネロ「…………だろうな。『保護』、良い判断だと思うぜ」

ネロ「それで俺達に具体的に何をして欲しい?」


『まず一つ目。この「旗」を守るのを手伝って欲しい』


『私もそれなりにやれるけど、やっぱり頭数が足らない。というか私ぐらいしかまともに対抗できる奴が「今ここ」にはいない』

『「半悪魔兵器共」はこの「旗」をも狙ってるの。先ほども襲撃されたわ。純正の高等悪魔も複数紛れてたし』

ネロ「…………」

347: 2010/11/02(火) 00:20:44.13 ID:LWRiYboo
『二つ目。「子羊達」の保護。イタリアでは、もう一部の「半悪魔兵器共」が活動し始めてる』

『できる限り道中の者を保護する。兵・民・勢力・国籍・魔術科学関係なく』

『三つ目。「旗」と「子羊達」の群れを「しかるべき場所」に届ける』

ネロ「…………」

『その「しかるべき場所」に受け入れられてもらうには、アンタ達が共にいなければ難しいの』

ネロ「…………」

『アンタに来てくれとは言わない。デュマーリ島に行かなければならないのは知ってるわ』

『フォルトゥナの騎士と紋章があればいいの』

ネロ「…………」

『頼む』


『スパーダの孫、ネロ。アンタが作ってくれた「信頼」とアンタとフォルトゥナの「威光」が―――』


『―――長きに渡って分裂していた「子羊達」がやっと手を取り合える切り札なのよ』


 わたしら
『十字教徒にとって、いや、全ての子羊達にとってこれは運命の時となるの』


ネロ「…………」

前方の言葉を聞き、ゆっくりと周りの幹部達の顔を見やるネロ。
その視線が交わるたびに、幹部達は無言のまま頷いた。

それは賛同の意思表示。


前方の言葉を受け入れた記し。

348: 2010/11/02(火) 00:23:45.57 ID:LWRiYboo
彼らは24億とフォルトゥナを天秤にかけた訳ではない。

どちらも人間。
どちらも守るべき人間界の存在。

フォルトゥナ騎士団は『その為』に生まれた組織だ。


『前方』の申し出を断る道理など存在しない。

皆が無言で互いの意志を確認した後。

ネロ「……騎士団長殿。兵員を裂けますか?」

静かに、ゆっくりとネロは口を開いた。
壁際の恩師に向けて。

「……ネロ君が必要と考えるのならば構わん」

小さく一度咳払いした後、
穏やかでありながら厳かな空気を伴った騎士団長の声が放たれた。

ネロ「…………デュマーリ島には俺一人で行きます」

ネロ「俺が率いる予定だった200名を彼女の方にまわして下さい」

「…………ネロ君に聞くのも愚問だが……ネロ君は一人でやれるかな?」

ネロ「問題ありません」

ネロ「それにデュマーリでの人手の件なら『別のあて』があります」

「ほう。別のあてとは?」


ネロ「『東の友人』達です。この件に関しては当初は疎ましく思っていましたが」


ネロ「どうせ現地で鉢合わせするので」

                           フリー
ネロ「それに俺、やっぱり戦いは『独り身』の方が好きなんで」


「……ほっほ。ネロ君らしいのう。ならば良し。好きにするが良い」

349: 2010/11/02(火) 00:27:58.70 ID:LWRiYboo
   ここ
「フォルトゥナの防衛から少し裂いて増員しよう」

「フォルトゥナ城に全市民を避難させ、周囲を結界で固めれば問題ない」

「都市結界の修復は後にして先に城の周りに構築させよう。あの規模なら一日でできる」

周りの幹部達もネロに続いて、
それぞれがこの計画を全力でサポートすべく素早く判断していく。

ネロ「……聞いてたか?そういう事だ」

『…………礼を言うわ。正直、受け入れてくれるとは思ってなかった』

ネロ「フォルトゥナは変わったのさ」

『……』

ネロ「では作戦の練り直しと戦闘準備がある。諸々の体制が整うのは12時間後だ」

『じゃあ12時間後に「船」を送る。海岸の結界を解いておいて』

ネロ「船?んなもんなくとも行けるが。重装騎士ならここから一時間半で地中海入りできる」


『「今の私の船」ならそこから30分で地中海に入れる』


ネロ「……………………へぇ……天界魔術も捨てたもんじゃねえな」

『私が使う力とそこらの天界魔術を比べてもらっても困る』

『規格外のアンタにとっちゃ微々たる物かもしれないけど、』


『一応「今の私」はウリエルの力を「全て内包」できるんだからな』


ネロ「へぇ……」


―――

365: 2010/11/04(木) 23:07:49.85 ID:21Z5I3oo
―――

学園都市。

午後九時。

とある病棟の一室。


御坂「とーま!!!!!とーまよ!!!!!!!アイチュろり良い男なんれいりゃあしぬあい!!!!!!!!!」


御坂「だっしゃああああああああ!!!!!!!ヤバイヤバイ!!!!!何れあんなかっほいいの!!!!!!!」


その中にて響き渡る、呂律の回っていない御坂の大声。
長椅子の上に寝そべり、クッションを抱きしめながら喚き悶えるレベル5第三位。
視点が定まっておらず、前髪をパチパチと鳴らし顔を真っ赤に火照らせ。

御坂「とうまぁあああ~……んふんふふふふ…………とうま~♪ちゅー♪」

抱いているクッションに口付けを何度もするこの有様。
もう自分でも何を言っているのか、何をしているのか分からないだろう。

土御門「(酒が入ったら色々壊れるタイプか。それにしても……何かあったみたいだな)」

一方「(…………ウゼェ…………)」

麦野「(私、こんな奴に負けたのかよ……)」

結標「(私、こんなのから逃げたのね……)」

エツァリ「(ああ…………酔っている御坂さんもまた……あの火照ってる頬がたまらないですね……)」

そんな彼女を眺めている五人。
それぞれ違った表情を浮かべてはいるものの、
朗らかな表情の約一名を省き皆が冷めた目なのは共通していた。

366: 2010/11/04(木) 23:09:24.03 ID:21Z5I3oo
一方通行、土御門、麦野、結標は、
部屋の中央に置かれた低い机を取り囲むように配置されているソファーに腰掛けていた。
黒服の連中に運ばせたものだ。

机の上には、同じく黒服の男に手配させたさまざまな酒が置いてあった。

片側のソファーには一方通行と土御門。
そのソファーの隣に車椅子のエツァリ。

机を挟んで向かい合うもう片方のソファーには、麦野が足を組みながらどかりと座り、
その隣にて、一段高くなる形で結標が背もたれに軽く腰掛けていた。

そして、泥酔している御坂は彼らの輪から外れ壁際の長椅子にて、
一人で意味不明なことを喚きながら悶えていた。


この宴会が始まってから約一時間。


土御門のノロケ話とそれに対する弄り。

結標の少年院にいる仲間達の話。

麦野の今までの恋愛癖。
高慢・高望みしすぎて、身なりに反し一人の恋人さえもてなかった事に対する驚きと弄り。

エツァリの故郷での話し。
土御門と共に魔術の談義講釈。

これらの中身があって無い様な話が交わされた。


言葉はやはりやや棘があったが、内容は『普通』の年頃の少年少女達の会話。


そして『暗部構成員同士』としてはあまりに『異質』な会話が。

367: 2010/11/04(木) 23:11:01.32 ID:21Z5I3oo
本来、能力者を中心とした暗部組織内では、特に明確に禁止されているわけでのないのだが、
こうしたプライベート時間の関りはタブーとされている。

少なくともこの『グループ』ではそうだった。

勤務時間外は赤の『他人』。
勤務時間内は同僚である『他人』、だ。

普段だったら、一方通行も土御門も結標もエツァリも出席しなかっただろうし、
そもそも麦野がああして声を挙げることもまずなかっただろう。

だが今は違っていた。

状況が状況だった。
皆心のどこかでこう思ったのかもしれない。

『終末』となるかもしれないのなら。

せめて少しでも。

少しでも、失ってしまった『普通の青春』の時間を味わっておきたい、と。

例えそれが『張りぼて』の演出だろうと。

決して『本物の時間』にはなれない『偽物』だろうと。


そしてこの時間の中、皆の中にはある心境の変化が起こっていった。

368: 2010/11/04(木) 23:13:52.75 ID:21Z5I3oo
結標は、少年院にいる仲間には今自分がやっている『影』は決して話せない。
土御門は妹にはもちろん、親友である上条にでもすら、『影』の部分は打ち明けられない。
故郷の組織から破門されたエツァリ、唯一の『家族』ショチトルがいるものの、やはり『影』を話すことはできない。

一方通行は、唯一の『家族達』からつい最近身を置いたばかり。

そして麦野は『誰一人』いない。


だが、ここにいる五人は皆『影』を共有している。

同じ血を啜り同じ闇を被っている。


そして皆は『気づいた』。

考えてみれば、自分の事を『影』も全て明かしてここまで話せる『繋がり』は、
この暗部の『クズ仲間』しかいなかった事を。

この面子しかいなかった事に。


仮初でも建前でも。


とりあえず『対等の友』と呼べるのはこの面子しか―――。

369: 2010/11/04(木) 23:15:03.29 ID:21Z5I3oo
ちなみにこの時間を作った仕掛け役。

今は泥酔し見るも無残な有様になっているが、実はその御坂だ。

どことなく吹っ切れたような彼女のノリにより、
この場の空気が形成されたのだ。

『本物の時間』を知っている彼女の放つ空気が。
仮初・偽りでありながらも、暗部に堕ちた者達にわずかな灯火の種を与えた事となった。


土御門「そういえば……ここにいる面子って、全員レールガンとそれなりに関わってきたんだったな」

会話の切れ目。
背もたれに寄りかかり、思い出したように口を開いた土御門」

結標「世間は狭いって言うけど、案外本当にそうね」

一方「上位能力者世界が狭いンだろ」

麦野「暗部に関わったレベル5勢が顔を合わせるのなんて時間の問題でしょ。いつか会うわそりゃ」

麦野「アクセラレータと私は、第六位以外は全員面識あるんじゃない?」

一方「あァ」

結標「そういえば私、第七位だけまだ会ったことないけど。私が『運び屋』やってた間はアレイスターのところにも来なかったし」

一方「あァ~……」

麦野「アイツね…………」

370: 2010/11/04(木) 23:16:15.32 ID:21Z5I3oo
一方「一言で言うと『バカ』だ」

結標「?」

一方「いや…………『アホ』か?」

結標「能力は?」

一方「……良くわかンねェ。前に実験でやりあわされた事あるンだがな、」

一方「妙な力の塊をぶつけてきやがった。とんでもねェ量のな」

一方「反射は完璧にできたがあの野郎、反射されたのを『根性』とか喚きながら受け止めて、ンで叫びながら『喜びやがった』」

結標「はあ?バカじゃないの?」

一方「だろ」

麦野「ああ、そういえば根性根性うるさい奴だったわ」

麦野「前に私も一度戦わされた事あるんだけど、アイツ私の粒機波形高速砲を『口』で塞き止めやがったし」

麦野「んで喚いて笑ってた」

結標「……バカだけど強さもバカみたいなのなんだ」

一方「今はどォかわかンねェが、前までは俺とダークマターとアイツの三強だったろォよ」

結標「…………へえ~」

371: 2010/11/04(木) 23:19:36.91 ID:21Z5I3oo
土御門「あ~、そうそうダークマター。お前ら二人マジで頃し合いしたことあるんだろ?」

麦野「私はサラリとしかやり合ってないけどアクセラレータはガッツリやったんでしょ?」

一方「俺のポジションを狙ってやがったなァ。アレイスターと交渉する為に」


麦野「今思うと……アイツの方が私よりもよっぽど『生きてた』かもしれないわね」


一方「かもな……反吐が出るクソ野郎なのは変わりねェがな」

麦野「それは言えてる」

一方「あァ。つゥか脳ミソも全部消し飛ばしてた方が良かったかもな」

一方「まさかアレで生きてるとは思わなかったぜ」

土御門「でもアイツが氏んでたら、お前は魔帝騒乱の時戦えなかったんだぜぃ?」

土御門「今の『その力』にも目覚めて無かったかもだしな」

一方「……………………まァな」

麦野「あ、話しか聞いてないんだけど、あの時のアクセラレータってどのくらいまで強化されたの?」


一方「『今の俺』なンざゴミレベルだ。桁違いだぜ」


麦野「…………」


土御門「あの時のアクセラレータはな、あのバージルに血を流させたんだぜい」


麦野「―――…………『アレ』に傷かよ……」

結標「すごいわよね」

                                  オ ー ル ワ ン
麦野「ははっ…………さすがは『優先度・AIM強度序列・レベル序列一位』ってところか」

372: 2010/11/04(木) 23:22:45.19 ID:21Z5I3oo
と、その時。

少し前からピタリと静かになっていた御坂が。

御坂「…………う……んぐぅ…………吐きそうっ…………」

前髪周辺をパチパチと鳴らしつつむくりと起き上がり、
目を潤ませ小刻みに震えながら悲壮な声を挙げた。

麦野「はあ?ふざけんな。結標、こいつをさっさとトイレに飛ばせ」

一方「チッ。酒も飲めねェ中坊が」

エツァリ「そう言わずに…………最初は誰でもこういうものでしょう」

麦野「あ、アンタいたの?忘れてたわ」

結標「仕方ないわね。能力切れる?トイレに送ってあげるから」

御坂「……ご………めん…………………」

そして謝りながら口を押さえ込んでいる彼女の姿が、結標の能力によってフッと消え。

その十数秒後。


一瞬だけ天井の電灯が点滅した。
恐らく病棟全体の明かりが明滅しただろう。


土御門「さすがは電撃姫。スケールのでかい嘔吐だぜよ」

結標「普通の施設だったら完全にブレーカーとんでたわねこれ」

373: 2010/11/04(木) 23:24:02.76 ID:21Z5I3oo
土御門「さて……俺はそろそろお暇させていただくにゃー。妹が待ってるんでな」

結標「私もそろそろ面会時間だから」

エツァリ「自分も…………ショチトルの面会時間ですので」

麦野「ああ?ノリ悪いなアンタら」

一方「俺とこのアマ残す気かァ?」

土御門「そう言うな。二人とも積もる話もあるだろ」


土御門「お前らは『似た者』同士なんだからな」


麦野「…………」

一方「…………」

じゃあね、と結標は手を振りながら姿を消し。
エツァリもついでに結標の能力で飛ばされ。

そして土御門は、いつもの不敵な笑みを浮かべながら退室していった。

374: 2010/11/04(木) 23:26:27.71 ID:21Z5I3oo
麦野「……」

一方「…………」

二人は『似た者』同士。

結標と土御門は違う。
あの二人は、今までの己の行い全体に対する後悔は無い。

グループに入る前から、暗部に堕ちる前からあの二人は自身の芯を貫き真っ直ぐに生きてきた。
殺戮に対し快楽を見出すことなどしなかった。
常に等身大で激突し抗ってきた。


だが一方通行と麦野は。


道を見つけられず、歩みを誤り。
己の手で、本来救うべき守るべき存在を破壊してしまった過去がある。

快楽に浸りながら手を血に染めた事実がある。

それが二人の上に重く圧し掛かっていた。
凄まじい後悔の念が。


一方「……」

一方通行は感じ取る。

麦野沈利。

この女も俺と『同じ』だ、と。

そして麦野も同じく感じ取っていた。

麦野「…………」

この男は『同類』だ、と。

375: 2010/11/04(木) 23:28:23.49 ID:21Z5I3oo

土御門の言う通り、正に『似た者』同士だ。


今まで何をしてきたのか。

どのような経緯で己の過ちに気づき今に至るのか。

それらは違うだろうが、だが『今は同じ』だ。

一方通行は上条によって。

麦野はダンテによって。

二人とも、同じく本物のヒーローによって目覚めさせられた者。

彼らは奇妙な感覚に陥っていた。
自分自身を鏡で見ているような。

一方「……」

麦野「……」


不思議な共感覚。


二人っきりとなり、こうして無言のままお互いを見ていると更に強調される。

なぜかどことなく『居心地の良い』、嗅ぎ慣れた同じ匂いが。

376: 2010/11/04(木) 23:29:39.16 ID:21Z5I3oo
麦野「………………ねえ」

一方「…………なンだ?」


麦野「…………今まで頃した連中の顔、全部覚えてる?」


一方「…………………なンでンな事聞く?」

麦野「…………何となく。私は、少なくとも顔を見て頃した奴は全員覚えてる」

麦野「…………いや……『最近』になって思い出してきた」

麦野「顔も……最期の声も……頃した時の感触も」

一方「…………」


麦野「その連中の、蝋人形みたいな蒼白な顔がしょっちゅう浮かぶの」

麦野「この潰れた右目の『向こう』に。無表情で私をずっと見てる」


一方「…………」

一方「……そォかィ…………俺はな。寝るとたまに見る。いや…………」


一方「『強化されたあン時』からしょっちゅう見るよォになった」


一方「『同じ顔した一万人』の女が、眼球のねェ真っ黒な眼窟を俺に向けてるンだ」


一方「何も言わずにジッと立ちながらな。そして俺は何もできねェ。その場から離れる事ができねェンだ」

一方「後ろには下がれず。ただその視線を受け続けるだけだ」


麦野「……………………その『夢』の終わりは?」


一方「『夢』?違ェな。これは『過去』っつゥ『現実』だ」


一方「それに『終わる事』は無ェ。永遠にな。むしろ『始まってすら』いねェ」

一方「これから行く。『連中』の所に行かなきゃなンねェンだ。『こっち』でやる事をさっさと済ませてなァ」

麦野「…………」

377: 2010/11/04(木) 23:32:21.09 ID:21Z5I3oo
一方「…………それでオマェの見る映像には『終わり』はあるのか?」

麦野「………………無い」

一方「…………そォか」

麦野「……」

一方「……」

麦野「……私もね。アンタと同じく『向こう』に行かなくちゃならないと思ってるの」

一方「……『だろうな』」

      黄泉の川
麦野「『向こう側』に会わなきゃならない『仲間』がいる」

麦野「そして『伝えなきゃいけない』事もある」

麦野「今更伝えてもどうにもならないんだけど。でも言わなきゃならない『言葉』がある」


麦野「でもね…………」


一方「…………?」


麦野「…………私は……これはわがままなのはわかってるけど……」

麦野「こんな薄汚れてどの口でって言われるだろうけど……」



麦野「生きたい」



一方「―――…………」

378: 2010/11/04(木) 23:34:23.93 ID:21Z5I3oo
一方「……………………」

一方通行の中で、
この身勝手な麦野の発言に対し怒りがこみ上がってきた。

このアマはアホだ。

往生際が悪い。

ふざけてやがる、と。


『氏刑囚』が『生きたい』と口にするのはあまりにも身勝手な話だろう。

大勢を頃しておきながら何を抜かす?と言われるのが当たり前だ。

自分の事を疑うことなく無実と思っているのならまだしも、
罪を認識した上でそんな事を口にするとは。


一方「……」


と、そう思う一方で、彼の心の片隅では。


一瞬だけ、何となく妬ましいような。


そう、『羨ましい』と思ってしまった。


己と同じく闇に堕ち、そして己自身の罪をしっかりと認識し向き合った上で、
素直に『生きたい』と言える彼女の姿が。

これはただ単に身勝手なだけなのだろうか。

ただ往生際が悪いだけなのだろうか。


それとも―――。


―――『勇気』の一種なのだろうか。

379: 2010/11/04(木) 23:36:26.09 ID:21Z5I3oo
麦野「こんな風に…………思えるのは初めてだわ……」

麦野「いえ…………たぶん特別クラスに入る前のずっと『昔』もこう思えてたみたい」


麦野「なんだか凄くなつかしい感覚でさ。不思議な…………うん……」


一方「…………」


麦野「…………あー。悪い。ムカつくでしょ?腹立つわよね」

麦野「何言っちゃってんのよね私は。わかってるっつーの。こんな事言える分際じゃないことぐらい」

麦野「今の言葉は忘れろ」

麦野は背もたれに後頭部をだらしなく預け、自分自身に呆れ返るような声を挙げた。

麦野「悪い。シケた話振っちまって」

一方「…………」

それに対し一方通行は沈黙だけ返した。
何を言えば良いのかわからなかったのだ。

どの言葉を使えば良いのかが。

380: 2010/11/04(木) 23:37:22.34 ID:21Z5I3oo
ここで言葉の選択を誤ると。
これ以上この話に、この女の言葉に入り込んでしまったら。


自分の何かが壊れてしまいそうな気がしたからだ。


つい先日、『最期の繋がり』を自ら絶ったばかりの『自分』が。


あの自分が『否定』されてしまいそうだったから―――。


だがその一方で。


一方「…………」


実は危うい興味も沸いていた。
麦野ともっと話したいという、奇妙な願望が。


麦野の『視点』が知りたくなってきたのだ。

己と同じく大きなものを背負っていながら、最終的な結論が食い違う彼女。

一体何を感じ、何をどう思っているのかを。

381: 2010/11/04(木) 23:39:07.41 ID:21Z5I3oo
ここで少し、一方通行の中でブレーキがかかる。
いや、誘惑に負けたと言った方が良いか。

自分はやる事をやったら『氏ぬべき』という結論を曲げた訳ではない。

ただ。

ケジメをつけるのは麦野の話を聞いてからでも良いのではないか、と。

それぐらいならば。

一方「……」

決して彼女の言葉を受け入れようという訳ではない。
ただ、一つの客観的な意見として。

純粋に知りたい、それだけだ。


一方「……………………よォ。帰ってきたら……また飲まねェか?」

麦野「………………こういう風に誘われたの初めてだわ。私の『中身』を知った上で誘うなんて物好きね」

一方「勘違いすンな。特に深い意味はねェ。そのまンまの意味だ」

麦野「だからそれ。深い意味無しにさらりと言われたのが初めてなんだって」

一方「…………そォかィ。で、返事は?」

麦野「……いいわよ」

麦野「付き合ってあげる。生きて帰ってこれたらね」

一方「ハッ。無理はしなくていいぜ」

麦野「それどういう意味?『氏なないように無理するな』って事?」

麦野「それとも『無理して生きて帰ってくるな』って事?」

一方「両方ォだ」

麦野「…………誘った女に対しては、口先だけでも良いからせめて前者の答えをするべきだろ普通」

一方「うるせェな。一応前者も入れて答えてやったンだ。ウダウダ言うンじゃねェ」

麦野「『一応』、ね。はっ……私もヒデェ男に誘われたもんだ」

一方「悪かったな」

―――

382: 2010/11/04(木) 23:41:47.87 ID:21Z5I3oo
―――

翌日。

第23学区。

午後三時。

地下の長い長い通路を土御門は進んでいた。
車椅子に乗っているエツァリを押しながら。

土御門の格好は至っていつも通りの私服。

だがその他に纏っているものらは、明らかに『普通』とは呼べなかった。

はだけたシャツの下、Tシャツの上には煙幕弾や手榴弾を大量にぶら下げているベルト状の弾帯。
右側の腰には大きな拳銃を下げ、左側の腰には弾倉。
腰の後ろ側にはさまざまな物が詰まっている幅30cmほどのバックパック。
太ももには予備の弾倉と救急セットがベルトで括り付けられ。

頭部には、ミサカネットワークを介し通信できるよう調整された軍用のヘッドセットを装着していた。

エツァリ「……後三時間後ですね…………出撃」

車椅子を押されながら、真後ろの土御門へ向けて口を開くエツァリ。

土御門「はは、腕が鳴るにゃー」

それに対し、いつものの軽いノリで土御門は言葉を返した。

383: 2010/11/04(木) 23:44:19.56 ID:21Z5I3oo
エツァリ「…………結局、あの島の術式解析は間に合いませんでしたね」

土御門「確かに用途がわからず仕舞いだったが、位置は特定できたんだ」

土御門「こうなったらもうやるしかないぜよ」

土御門「結構行き当たりばったりでも何とかなるものだしな」

エツァリ「……はは…………」

土御門「そういえば……滝壺理后のデータには目を通したよな?」

エツァリ「はい、一通り」

土御門「そのデータ見て思ったんだがな……」

エツァリ「?」

土御門「AIMの完全掌握ができるって事はだ」



土御門「AIMを『全て奪う』、つまり『能力の剥奪』、もしくは『完全抑制』が可能かもしれないという事か?」



エツァリ「……さあ、はっきりとは言えませんが……でも個人的な印象だと可能に見えます」

エツァリ「その点に何か?作戦に関係する事なら話しておいて欲しいですが」


土御門「いんやあ。『俺の個人的』な事でちょっとな」


エツァリ「……個人的……ですか?」

土御門「ま、気にするな。忘れてくれ」

384: 2010/11/04(木) 23:48:16.51 ID:21Z5I3oo

土御門「あー、そうそう、話し変わるが知ってるかにゃ~?日本も『魔術的』に動き始めたぜい」

土御門「『宮内庁陰陽寮』から『天社土御門神道本庁』に命が下された」

エツァリ「……やっと重い腰を上げましたか」

土御門「ああ。『あの部門』が正式に、こうして大規模に動くのは半世紀振りだ」

       カ ミ カ ゼ
土御門「『神代ノ風』の発動陣構築が急ピッチで進められている」


土御門「防衛ライン維持が不可と判断された場合、自衛艦艇を駒として日本海で発動される予定だ」

エツァリ「…………あんな術式を使うのですか?被害は日本側にも……」


土御門「それだけじゃあない。最悪の事態の場合、『天之瓊矛』の使用が認められた」


エツァリ「――――――!!」


土御門「人造悪魔兵器の軍が日本に上陸」

土御門「各主要都市及び首都圏が悪魔の手に落ち、国家機能が完全に停止。防衛機能の完全喪失」

土御門「そして国民の国外退避が不可能とされた段階で『起動』される」


エツァリ「―――自国土ごと『消す』気ですか!!!!??あんな物を使うなんて―――」


土御門「…………まあ、この国は消えるだろうな。『列島ごと砕け』、『大洋の中に沈む』」


土御門「だが『あそこ』はこう判断した」

土御門「逃げ場を失った国民を、みすみす悪魔の手にかけさせるわけにはいかないってな」

土御門「悪魔に貪られ体を引き散られ、永遠にその魂が苛まれないようにだ」


土御門「つまり『安楽氏措置』だにゃー」


エツァリ「―――…………」

385: 2010/11/04(木) 23:52:07.09 ID:21Z5I3oo
土御門「どうせ氏ぬのなら一瞬で氏に、そして魂が解放された方がマシだろ?」

土御門「悪魔に殺されるということは、それでオシマイとはいかない」

土御門「むしろ始まりだ。『永遠に魂を囚われ続く』、想像を絶する苦痛のな」

エツァリ「…………確かにそうですが…………」

土御門「それにだ、それが起動されるって時は、もう『何もかも』が絶望的な時だけだ」


土御門「俺らが俺らの仕事をしっかりとやり遂げれば、そんな展開は来ない『だろう』ぜい」


エツァリ「…………………」


エツァリ「…………ちょっと待ってください」

土御門「ん?」

エツァリ「その件の事は置いておくとして……」


エツァリ「あなたの話を聞く限り、宮内庁も人造悪魔兵器の件を把握しているようですが」


エツァリ「あそこは一体どうやってその情報を?」


土御門「…………」

387: 2010/11/04(木) 23:58:30.38 ID:21Z5I3oo
エツァリ「いや…………当てましょう」


エツァリ「土御門、あなたですね。向こうの機密情報をあなたが知っているのも納得できる」


土御門「…………俺の仕事は学園都市・イギリス清教間のパイプ役だけじゃあない」


土御門「そもそも俺が『どこで』陰陽術を習得し、『陰陽博士』の位を与えられたか、な」


エツァリ「…………そこが……『本当の古巣』ですか?」

土御門「まあな。俺はエリート中のエリート、キャリア組み昇進まっしぐらの『特別国家公務員』だったんだぜぃ」

土御門「それがなんでこんな所に『飛ばされた』のか……泣けるにゃー」

エツァリ「…………まだ籍を置いているのですか?あそこに?」


土御門「籍を置いてるも何も、まだ特命任務継続中だ」


エツァリ「なるほど……学園都市・日本間の『裏のパイプ役』、及び『アレイスターの監視』ですか」


土御門「そこはご想像にお任せするぜい」


エツァリ「ん…………っ―――ちょっと待ってください。先ほどの滝壺理后の能力云々の話……」

エツァリ「まさかあなたは……自身のAIMを消させて『元の力』を…………?」


土御門「はっは、うまくいけば良いけどな。失敗したら多分『バイバイみんな』だぜよ」


―――

400: 2010/11/05(金) 23:15:37.24 ID:0EciNH6o
―――

一方その頃。

同じく第23学区。

別の地下通路を、
麦野と一方通行が並び歩いていた。

一方「……」

麦野「……」

出撃メンバーではない一方通行は当然として、麦野の方も服装は昨日と変わらなかった。
高級なスーツをしっかりとキメ、金属製の眼帯を右目に、腰にはアラストル。

レベル4勢のメンバーには戦闘服が支給されているが、
レベル5・指揮幹部クラス(滝壺を省く)のメンバーは服装が自由となっている。

まず麦野と結標、御坂は戦闘服なんか着ていても意味が無い。
意味が無いのならば普通に精神的に慣れた服装の方が良い。

そして土御門は後の『個人的』な事も考え、
『魔術的』に融通の利く自身の私服、というわけだ。

麦野「……」

ちなみに昨晩のあの後、
あのまま二人は酔いつぶれて寝てしまった。

その気になればアルコールを分解できる一方通行も。
酒には絶大な自信があり、どんなに飲んでも潰れない麦野も。

昨晩だけは酔った。

今後『一生分』の『酔い』を前払いさせてもらったかのように。

一方「…………酔いは抜けたか?」

麦野「抜けた。シャワー浴びれば一発よ。アンタは?」

一方「百分の一秒能力起動させりゃァすぐだ」

麦野「へぇ。便利ね」

401: 2010/11/05(金) 23:18:14.60 ID:0EciNH6o
一方「…………」

麦野「…………」

中身があって無い様な短い会話の後、
再び無言のまま二人は歩き進んで行き。

数分後、T字路に突き当たった。
右側は出撃組の集合場所のハンガーがある、四番エプロンに繋がっている。
左側は、その四番エプロンからの出撃が見渡せる管制室に。

二人はそこで止まり、向かい合い。

一方「………………準備は?」

麦野「完璧」

一方「アラストル。このクソアマの事任せンぜ」

一方「任務さえ完遂してくれりゃァこの女の生氏なンざどォでも良いが、氏なれたら『気分が悪ィ』」

アラストル『任せろ』

麦野「気分が悪い、ね」

麦野「私もアンタがどなろうと知ったこっちゃないけど、氏なれたら『ムカつく』」

麦野「せいぜいそっちもがんばりな」

一方「はッ」


一方「…………じゃァ行って来い。カス共に引導を渡して来い」


麦野「ええ。行って来る。クソ共は皆ゴロシにしてくる」


そして麦野は踵を返し、四番エプロンに繋がる方へと歩みだした。

と、数歩進んだところで、ふわりと髪を靡かせて振り向き。

麦野「あ、一つ良い?」

一方「あァ?」


麦野「帰った時の飲み、アンタの奢りだかんね」

402: 2010/11/05(金) 23:20:09.76 ID:0EciNH6o

麦野「それと私、がぶ飲みするから」

一方「カッ。わァってるよ。たンまり資金は用意しといてやる」


一方「良いからさっさと済ませて来いやクソアマ」


麦野「はっ……じゃあね。そっちもよろしく」


一方「…………おゥ。任せな」


そして麦野は再び前を向き、
歩き進んで行った。

そんな彼女の後姿を、相変わらずの冷徹な目で眺めていた一方通行。


一方「……………………ハッ。とことン図太い野郎だ」


小さく呟き。


一方「嫌ェじゃねェぜ。オマェみてェなアマは」


そして吐き捨てながら踵を返し、
管制室へ繋がる方へと進んでいった。


―――

403: 2010/11/05(金) 23:21:16.32 ID:0EciNH6o
―――

学園都市、午後4時ちょうど。

この科学の街にて、この時一人の『アンブラの魔女』が人知れず侵入した。

アレイスターを含む誰一人にも気づかれずに。



「学園都市か……」


魔女はとあるビルの上に立ち、その科学の町並みを見渡していた。


「(何だかんだで、直に訪れたるのは初でありけるか)」


そよ風が彼女のベージュの修道服、
そして長い長い金髪を優しく撫でていく。


「(……科学の街と言いたるも……)」


「(……風は世界共通でありけるわね)」


「(……)」



「(さーて………………どこにいたる?我が『片割れ』は)」


―――

404: 2010/11/05(金) 23:23:28.31 ID:0EciNH6o
―――

学園都市。

第23学区、午後4時半。

広大な地下施設の一画、長く続く通路の半ばにある広めのフロア。
そこに並べられていた長椅子の一つに、浜面仕上と絹旗最愛が並んで座っていた。

絹旗最愛は、学園都市最新の黒い戦闘服に身を固めていた。
一見すると投擲用の催涙弾にも見える液体窒素缶を、大量に腹・腰周りに装着。
太ももには、万が一のサブとして小さな拳銃。

絹旗「……」

姿勢正しく座り、彼女はゆっくりと呼吸しながら目を瞑っていた。

その隣の浜面仕上も同じく黒い戦闘服。

唯一の無能力者である彼は、物々しい通常火器武装をしていた。
最新式のアサルトライフルを肩からぶら下げ、大量の弾倉を防弾ベストの腹回りに装着。
腰には拳銃、太ももにはその拳銃用の弾倉も。

浜面「………………」

隣で落ち着き払っている絹旗とは対照的に、
彼はベストの胸元にあるフックを指でせわしなく鳴らしていた。


二人はここで滝壺理后を待っていた。

ちなみに今朝命じられた編成位置は、
二人とも滝壺理后の護衛だった。

405: 2010/11/05(金) 23:26:44.63 ID:0EciNH6o
絹旗「……超うるさいですね」

浜面「……わ、悪い」

絹旗「せめて出撃前くらいは超静かにして欲しいです」

浜面「そ、そうだよな」

絹旗に冷ややかに一喝され、フックから手を離す浜面。

とその時。

長い通路の向こうから、トコトコと歩き進んでくる人影。

あの歩き方や仕草、この二人にとっては一目瞭然。

滝壺理后だ。

格好も絹旗らと同じく黒い戦闘服。
唯一違うのは、武装類の装備を一切装着していないところか。

絹旗「……行きましょう」

浜面「……おう」

ぴょんと跳ねるように立ち上がる絹旗と、
装備の擦れる音を鳴らしながらゆっくりと立ち上がる浜面。

そして二人は並び歩き、友であり護衛対象である滝壺と合流した。

406: 2010/11/05(金) 23:28:58.30 ID:0EciNH6o
絹旗「おはようございます、と言っても今朝も超一緒でしたね」

浜面「おーす」

滝壺「……」


滝壺「やっぱりはまづらが当たってた」


絹旗「…………はい?超いきなり何ですか?」

浜面「ん?何がだ?」


滝壺「むぎの、もう私たちのこと怒ってないよ」


絹旗「……………………どうしてそう思えるんですか?」

滝壺「……実は昨日、むぎのが言ったの」


滝壺「最期になるかもしれないから、はまづらときぬはたの所に行けって」


絹旗「…………で?それだけですか?」

滝壺「うん。でもこれで充分だと思うよ?」

浜面「……………………」

絹旗「……超舌舐めずりしてるような顔とかしてませんでしたか?こう……超上げて落とすみたいな……」


滝壺「ううん。さびしそうな顔してた」


絹旗「…………」

浜面「…………」

407: 2010/11/05(金) 23:30:39.12 ID:0EciNH6o
浜面「……なあ……絹旗……やっぱり……」

絹旗「………………認めたわけではありませんが、一応心に留めておきます」

浜面「……いや、わかるだろ?麦野はもうそんな……」

絹旗「滝壺さんも浜面も忘れたんですか?」


絹旗「麦野はフレンダを頃しました」


絹旗「確かにフレンダにも落ち度がありました。捕らわれた際に情報を漏らしたんですから」

絹旗「ですが、元を辿ればそのような状況を超作ったのは麦野です」

絹旗「フレンダをあんな窮地に追い込んでしまったのは麦野です」

絹旗「フレンダは麦野の事を本当に慕っていたのに、麦野はそんなフレンダに自身の負の面を全て押し付けようとしたんです」


絹旗「私達を超裏切ったのは麦野の方です」


絹旗「それは超揺るぎの無い事実ですから。今がどうだろうと『消えません』」


滝壺「―――……」

絹旗「―――……」

408: 2010/11/05(金) 23:32:57.55 ID:0EciNH6o
絹旗「……一応、今ここで超はっきり言っておきましょう」



絹旗「私は『あの女』を超憎んでますから」



絹旗「私はともかく、理不尽な怒りであなた達までも殺そうとした事は絶対に許しません。絶対に」



絹旗「私が『あの女』に超言いたい言葉は『氏ね』。その一言だけです」


滝壺「……」

絹旗「……」

絹旗「……この話は終わりです」

絹旗「これからという時に超余計なことは考えないで下さい」

絹旗「あなた達がどう思おうと別に良いですが、今はそれに構ってる余裕は超無いはず」


絹旗「今超大事なのは。任務を完遂し、三人全員でこの街に生きて帰ってくる」


絹旗「頭の中はそれだけにして下さい」

滝壺「…………………………うん」

浜面「………………おう」


絹旗「……では行きましょう」

―――

409: 2010/11/05(金) 23:36:16.90 ID:0EciNH6o
―――

午後5時11分。

この時、もう一人のアンブラの魔女が学園都市に浸入した。
同じく誰にも気づかれずに。

アンブラ魔女史上、間違いなく『最強の一人』である強者が。

先に侵入した魔女とは違い、
彼女はグレーのスーツを纏って変装して街中を歩いていた。

印象的な銀髪とトレードマークの赤縁メガネはいつも通りだが。


「(学園都市か)」


彼女は街中を歩みながら、路上を行きかう人々をじっくりと観察する。
少年少女の割合が異常に多い。


「(学生の街、か…………やり難いな)」


神裂・バージルらによる『舞台準備』が済む前に、
力を解放して戦闘しなければならない場合もある事考えると非常にやり難い。

巻き添えが出てしまう可能性が非常に高い。


「(どこにいるんだ?さっさと出て来な……頼むから抵抗するなよ)」


「(私にやらせるな)」


「(………………ローラ)」


この時、彼女はまだ知らなかった。

この街にいる魔女の人数が『二人』ではなかった事に。

『四人目』の幼い生存者がこの街にいた事に。


―――

410: 2010/11/05(金) 23:38:33.41 ID:0EciNH6o
―――

学園都市。

午後5時27分。

第23学区4番エプロン18番ハンガー。

大きな格納庫内にて、無造作に並べられている大量の椅子に座っている少年少女達。
公表はされていないものの、初めて能力者による正式な軍事的組織として編成されたこの部隊。

未成年の中高生達が、皆一様に黒い最新式の戦闘服で身を固めているその光景は異質なものであった。
人権保護団体がこの光景を目にしたらそれはそれは大騒ぎになるだろう。

そんな少年少女達は今、このハンガー内に響き渡る麦野沈利の力強い声に耳を傾けていた。

作戦の最終確認を行う麦野の声。

威厳があり、一切のブレが無い絶大な安定感のある確かな声色。

その音色が少年少女達の勇気の土台となり、静かに戦気を高揚させていく。

ただ、『一部』を省いて。


黒子「―――」

その『一部』の一人、

この集まりの一画にいた黒子の耳には、最早麦野の言葉は入っていなかった。
集まりの前の方、大きなスクリーンの傍にそれぞれの姿勢で佇んでいる幹部達。


その中に、臨戦状態の御坂の姿を見つけてしまったから。


私服、弾の入ったバッグを背負い、反対側の肩にはあの『大砲』。
腕を組みキッと顔を引き締めてる彼女は、どう見ても出撃メンバーの一人だった。


黒子「―――お……ね…………えさま…………なぜ……??」

411: 2010/11/05(金) 23:41:44.52 ID:0EciNH6o
ここにいる者達と同じく黒い戦闘服を纏っている白井黒子。

腹回りには大量の合金製の杭。
太ももには、レディから譲り受けた奇妙な紋様が刻み込まれている投擲用のナイフ。
そして背中の薄めのバックパックの中には、
彼女が有する最大の切り札であるレディ特製の大きな杭。

御坂にはとにかく秘密にしてこのメンバーに入り、戦闘態勢を整えてもう出撃、というところまで来た黒子。
そんな彼女にとって、こんなところで御坂の姿を見てしまうなどあまりにも衝撃的な事だった。

昨日の夕方、黒子は御坂に会いに言ったものの、
彼女はこの部隊に所属していたことなど寸分も匂わしてはいなかったのに、と。

黒子「…………………………………………」



麦野「……こんなところだな」

そんな中、麦野の淡々とした説明が終わり。


麦野「……じゃあ……最後に言わせろ」

最高指揮官は皆の顔をジッと見つめ、最後の言葉を送る。


麦野「向こうは本物の『地獄』だ」


麦野「この中の内、必ず生きて帰って来れない奴が出てくる」

麦野「いや、『全員』生きて帰って来れないかもしれない」

麦野「だが人間はいつかは氏ぬもの。必ずその時が来る」


麦野「……オメデタイ『大義』に命を懸けろとは言わない。ただ―――」


麦野「―――人生で一度くらい、圧倒的な『勝ち』を手に入れたくはないか?」

412: 2010/11/05(金) 23:42:49.01 ID:0EciNH6o
麦野「私も含め、テメェらは今まで『負け続け』の人生で反吐を啜ってきたはずだ」


麦野「良いように扱われて、決められた『レール』の上を進むだけの『負け犬』人生を歩んで来たはずだ」


麦野「だが」


麦野「ここからは『レール』は存在しない。私ら自身が歩む『進路』を決められる」


麦野「いいか、これは今までの『ツケ』を『ぶっ飛ばす』唯一の機会―――」


麦野「―――地の底に堕ちヘドロに囚われた私らが『自由』になる唯一の道だ」


麦野「―――人生で『初めて』生と氏を、そしてその『意味』を『自分達の手』で左右できるんだ」


麦野「―――そうするとだ。これ以上の『戦場』は無ぇだろ?」


麦野「―――氏んでも勝ち、生きて帰れば更に圧勝。これ以上の『パーティ』が他にあるか?」



麦野「―――ビビるなよ。私達は『勝つ』。それは絶対だ」



麦野「―――世界に『魅せて』やれ。私達の生き様と氏に様を」




麦野「―――そして『勝ち様』をな」

413: 2010/11/05(金) 23:44:17.58 ID:0EciNH6o
少年少女は呼吸すら止まったかようにシンと静まり返っていた。
彼らから静かに溢れ出した戦気が、ハンガー内に充満し空気がこれまで無いほどに張り詰める。

声に出して返事をする者は一人もいないが。


だが『返答』は態度と表情で返ってきた。

パーフェクトな返答が。

彼らの意志に満足し、軽く目を細め小さく笑う麦野。
そして土御門、結標、御坂の方へと目を向けた。

土御門は不敵に笑いながら。
結標は呆れたようでありながらも楽しそうな笑みを浮かべながら。
御坂は口元を引き締めながら無言のまま頷きを返した。


麦野「OK、じゃあさっさと各自指定の機に搭乗しろ」


麦野「―――パーティの時間だ」


そして矢のような声を放ち、出撃の時を告げた。



麦野「―――――――――行こうぜクズ共」



『声』の返事は未だ無い。
だが少年少女たちは態度で示した。

皆一斉に勢い良く立ち上がり、力強く歩み出す。

一切の物怖じ無く。

迷い無く自ら前へと。


ただ、黒子と麦野以外の元アイテム勢だけは顔に陰りがあったが。


―――

414: 2010/11/05(金) 23:47:48.36 ID:0EciNH6o
―――

デュマーリ島。

今や島全土には何よりも濃い漆黒の闇がかぶさり、
焼け付くようでありながら凍り付いてしまいそうでもある空気に覆われていた。

この魔境の北島。

島全体を覆う巨大な近代都市。
普段ならば大勢の者が行きかうその通りも、しんと静まり返り今や無人。

あちこちにある生々しい血痕が、その『日常』の末路の一遍を物語っていた。

そんな静まり返った街を静かに見下ろしている超高層ビル群の中、
一際大きく飛びぬけている巨大なビル。

『貪られた50万人』の墓標のように聳え立つその塔の最上階にて、
この悪夢の元凶アリウスが座していた。

最上階フロア大きなホール、その中央に置かれている椅子に。


フィアンマ『準備は?』

どこからともなく響いてくる、学園都市に『潜伏中』のフィアンマの声。


アリウス「……それを聞いてどうする?整おうとも整っておらずとも今がその時だ」


フィアンマ『確かにな』

415: 2010/11/05(金) 23:50:09.33 ID:0EciNH6o
フィアンマ『こうなったら多少計画と食い違っても良い』

フィアンマ『「過程」に対しては何も言わん』

フィアンマ『とにかく天の門と魔の門を開き、覇王とスパーダの力を手に入れろ』

フィアンマ『その「結果」だけを求めろ』


アリウス「……随分とあからさまになって来たな小僧。焦っているのか?」


フィアンマ『この際言うか。はっきり言うと「俺様も」覇王とスパーダの力が欲しいのでな』


フィアンマ『そしてお前が引き出してくれなければ手に入らない』

アリウス「ふん、たかが竜王になっただけで、その域へと達した俺から力を奪えると?」

アリウス「かの『創造』の方程式を竜王程度で扱えるとでも?」

フィアンマ『なあに、しっかりと考えてある。お前がその心配をする必要は無いだろう?気にするな』

アリウス「言っていろ。『創造』は後で頂く」

アリウス「勝つのはこの俺だ」

フィアンマ『…………はは、楽しみにしてるよ。お前が最期にどんな顔するのか―――』


フィアンマ『―――「興味がある」』


アリウス「…………ふん」

416: 2010/11/05(金) 23:51:46.85 ID:0EciNH6o
フィアンマ『ではさっさと「駒」を起動して騒ぎを起こしてくれ』

フィアンマ『早く天界の目を逸らしてくれ。ただでさえ「ここ」は天界の意識が集中しているんだ』


フィアンマ『「俺様」の復活は目立ちすぎる』


アリウス「…………急かすな」

スッと右手の平を上に向けるアリウス。
するとその上に直径30cm程の魔方陣が浮かび上がり、拳大の水晶玉が出現した。


アリウス「…………」

その水晶玉を握り、『糸』を通じて世界中の人造悪魔兵器へとリンクする。

世界中に散らばっている人造悪魔兵器。
予定よりも少し配置が違うが、全体的には問題ない。


アリウス「(では時間だ)」

一斉起動する時。

十字教を皮切りに、人間界の天界系勢力に対し大きな爪痕を刻む。
決して癒えない巨大な傷を。
そして目障りな学園都市にも牙の圧力を。


―――人を殺せ。



アリウス「宴の時間だ。目覚めろ。忌まわしき魔の子らよ」


―――目に付いた人間は残らず殺せ。



アリウス「地獄の釜の蓋を解放しろ。この世を人の血と叫びで染め上げろ」


―――一切の例外なく。


―――

417: 2010/11/05(金) 23:53:45.52 ID:0EciNH6o
―――

『それ』は世界中で始まった。

フランス北部、とある陸軍野営地では。

集積されていた装甲車両が突如軋み。
装甲の上に黒い肉塊が浮き上がり、巨大な瞳が開き、そしてその大口径の砲から四方八方に『氏』をばら撒き。

イタリア中部の兵器集積場ては、
ケースに入れられ積み上げられていた小銃から手足が生え、一人でに動き出し無差別に発砲し始め。

ロシア東部のとある空軍基地では、無人の戦闘機の表面に同じく黒い肉塊が浮き上り、
勝手に離陸してつい先ほどまで駐機していた基地を灰燼に変え。

日本海上空では、学園都市の最新鋭戦闘機部隊が、悲鳴の通信を最期に忽然と姿を消して行き。

ジブラルタル海峡では、ここを見張っていたイギリス海軍の潜水艦が突如爆沈した。

これらの例は極一部。

世界中で、一方的な『虐殺』が同時に大量に引き起こされた。

その災厄を最も濃く受けてしまったローマ正教・ロシア盛教、この連合勢力の指揮系統は完全に崩壊する。
いや、指揮系統だけではない。

最早何もかもが一気に崩壊した。


『人類』はこの大戦の主導権を奪われたのだ。


遂に世界は移行する。


異界の者達の壮絶な戦場へと。


『本物の地獄』が始まった。


そして桁が見る間に膨れ上がっていく『氏者数』を受け、
天界の目は否応無くそちらへと向けられる事となった。

418: 2010/11/05(金) 23:55:51.32 ID:0EciNH6o
ドーバー海峡近くの後方指揮所にいた、
シェリーも対岸の惨状の報告を受けていた。


シェリー「(……向こうでは……一体何が起こってる?)」

血相を変えた者達が周囲を行きかう中、
シェリーは目を見開き、机の上の通信魔術映像に次々と表示されていく報告に目を通していた。

突如人造悪魔兵器が一斉起動した。
その事については、いつか確実に来ると構えてはいたが。

それは『フランスがこちらに対し使う』という想定だ。


こんな『形』など。


これでは『第三次世界大戦』なんかじゃ―――。


シェリー「(違う―――これは―――)」


何がどうなってこうなってしまったかの経緯なんかはまるでわからない。
だがこれだけは確実だった。

今、『戦争の主題』が大きく変わった。


そう、もうこれは。


『イギリス清教対ローマ正教・ロシア成教』の戦争ではない。



『人間対悪魔』の戦争だ。

419: 2010/11/05(金) 23:57:51.69 ID:0EciNH6o
シェリー「キャーリサ様!」

通信霊装の向こうの最高指揮官へとシェリーは大声で呼びかけた。

キャーリサ『報告は見た。命ずる。今より最敵性勢力は悪魔とする』

そして返ってくる、冷静沈着な声。
まるでこの事態を予期していたかのような。

キャーリサ『フランス人は二の次だ。対悪魔を国防最優先事項とする』

シェリー「了解!!!」

キャーリサ『お前はドーバー前線に出ろ。騎士団長も前線に送る。お前ら二人が全軍を率い抑え込め』


キャーリサ『こっちはリメリアに任せ、私がそこの後方指揮所に移る。そして場合によっては私も前線に立つ』


シェリー「了解!!ウィリアム=オルウェルとシルビアはまだですか?!」


キャーリサ『まだだ。二名とも連絡がつかない。連中の増援は「まだ」期待するな』


キャーリサ『それと敵は悪魔だ。作戦など無く真っ直ぐ力ずくで来るはずだ』

キャーリサ『つまりドーバーが要となる』

キャーリサ『そこが我らの最後の防壁だ。あの数に上陸されたら手の内ようがない』

キャーリサ『人造悪魔だけではなく、純粋な高等悪魔が紛れているのも確実』

キャーリサ『そんな軍の上陸を許してしまったら、我が国土は必ず灰燼に帰す』


キャーリサ『何があってもそこを通すな』



キャーリサ『氏守せよ』



シェリー「……了解ッ!!!」

420: 2010/11/06(土) 00:00:33.36 ID:b6Co5Sco
シェリーはキャーリサとの通信を切断し、今度は各地への通信回線を開き。

シェリー「オルソラ!!!!対魔結界をできるだけの数ドーバー全体に張るよう命じろ!!!!」

オルソラ『了解でございます』

シェリー「建宮!!!そこの師団を率いてドーバーに急行しろ!!!」

建宮『了解なのよな!』

シェリー「アニェーゼ!!今から私もそっちに向かう!!!」

アニェーゼ『早く来やがって下さいっ……!ヤっバイですよ!連中が向こう岸に集まってます!!!』

アニェーゼ『とんでもねえ数の赤い光が水平線の向こうを覆ってます!!!!』


アニェーゼ『あああああ奴らの声が聞こえやがる!!!!!いつこっちに来てもおかしくない状況です!!!!』


シェリー「待ってろ!!!今行く!!!」

―――

バッキンガム宮殿地下、総合指揮センターから伸びる長い廊下を、
従者を連れて足早に歩いていたキャーリサ。

振り向きもせずに後ろの従者へと淡々と口を開いた。

キャーリサ「国内及びドイツ・ベルギー・オランダ・デンマーク・ノルウェー・スウェーデン・フィンランドの全魔術結社のリストを挙げろ」

キャーリサ「そして全ての魔術結社に現在の状況報告を流せ。もちろん該当国の政府にもだ」


キャーリサ「それとこう伝えろ。『この戦争は変わった。今より人対魔の戦いである』、と」


「……伝えるだけでございますか?」

キャーリサ「それで充分だ。これで立ち上がらなかったらそいつらはカスだ」


キャーリサ「人として氏んだも同然だっつーの。何の為の『力』だ」


キャーリサ「『力』を持ちながら動かない連中は、『人間』を名乗りこの世界に生きる資格は無い」


―――

421: 2010/11/06(土) 00:02:30.17 ID:b6Co5Sco
―――


アリウス「…………」

『隠れ蓑』の起動は済んだ。

ここからはアリウス自身の計画を本格起動させる時だ。

まず、天の門の術式。

天界が今、世界各地の惨状に意識を集中している以上、
門を開く『鍵』のチェックは必ず疎かになる。

とにかく早く門を開こうと、『照合作業』をいくつか飛ばす事も考えられる。
『模造品』の鍵を使おうとしているアリウスにとっては好都合だ。

天界側は、相手がアリウスではなくフィアンマと思い込んで作業するだろう。

アリウス「…………………………」


とその時。

そう思考を巡らせつつ作業を行っていた彼は、
ふと『とある点』に引っかかり手を止めた。

天の門の術式も、この鍵の設計も、元は全てフィアンマから盗み出したもの。
そしてフィアンマは言った。

『その情報はわざと流した』、と。

つまり。

フィアンマの手が加わっていてもおかしくはない。

アリウスに対する『保険』のような仕掛けが入っていても―――。

422: 2010/11/06(土) 00:04:13.40 ID:b6Co5Sco
アリウス「…………」

だが、もしそうだっだとしても問題は無い。

何が仕込まれていようとも、アリウスにはそれを打ち破る絶対の自信がある。
フィアンマにとっては、アリウスが覇王とスパーダの力を手に入れてくれなければ困る。

そしてアリウスとしては。

その状態となった自身が、そんな小ざかしいせこい罠に嵌るとも思っていない。


覇王とスパーダ。
その両方を手に入れた時点で、フィアンマはこちらには手を出せないはず、と。


アリウス「(愚か者めが。底が浅いぞ。この俺の裏をかくなど100年早いわ小僧)」


小さく笑い。
葉巻を噛み締めながら、アリウスは再び手を動かし始めた。

アリウス「(問題はない)」


天の門の起動。

魔の門の現出。

そしてアルカナによる覇王復活。

その全ての作業が順調に始まった。

423: 2010/11/06(土) 00:05:21.61 ID:b6Co5Sco
アリウス「では始めるか」

そしてアリウスは最後の一手。

この『舞台』の完成の為の最後のピース。

開幕を告げる狼煙へと手をかけた。


それはネロの恋人、キリエにつけた『マーキング』。


そもそもはキリエを拉致するのがフォルトゥナ襲撃の最重要目的だった。
そしてそれが失敗した場合の為の保険があのマーキングだ。

直後にネロに見せたアリウスとキリエの『同期術式』は、
マーキングを利用しただけのあの場で作った即効技だ。

つまり。


アリウス「開演だ」


マーキングの『本当の仕事』はここから。


あの女へ手をかけた本当の目的は『盾』にする為ではない。


『エサ』だ。


アリウス「お前の為の舞台を用意してやったぞ」


アリウス「スパーダの孫、ネロよ」



アリウス「楽しむが良い」



―――

424: 2010/11/06(土) 00:06:43.03 ID:b6Co5Sco
―――

遡る事数分前。

学園都市。

とある病棟の一室。

トリッシュ「……」

ベッドの上には、相変わらず毛布に包まっているトリッシュ。
その彼女の視線の先には。

レディ「……」

部屋の壁際にて、荷物を空けさまざまな道具を散らかして何やら作業を行っているレディ。
彼女はサングラスを頭の上にあげ、オッドアイの瞳を凝らしながら、
長さ15cm、太さ2cmほどの杭に小さなナイフで術式を刻み込んでいた。

ちなみにキリエはルシアとお馴染みとなった佐天と共に、病棟内の散歩に出ていた。

そして彼女の術式解析はもう完了した。

術式内容全てを知りつくしたという訳では無いが、
ひっぺ剥がす方法は完璧に確立できたのだ。

レディが今行っている作業は、その解除用の『鍵』の作成だ。

425: 2010/11/06(土) 00:07:45.38 ID:b6Co5Sco
トリッシュ「もう終わる?」

レディ「あと一分で」

トリッシュの言葉にそっけなく返答しながら、
レディは床にナイフで魔方陣を刻み込んだ。

その魔方陣の中央からポッと青い炎が吹き上がり。

レディは横にあったバッグの中に手を突っ込み、
赤い液体が入っている小さな小瓶を取り出した。

この間採取したネロの血だ。

その小瓶の栓を指で器用に弾き飛ばすと、もう片方の手に持っていた杭にかけ始めた。

そして一通り血で染め上げた後、先ほど点火した炎でその杭を焙り、
血液から水分だけを飛ばして組織を膠着。

レディ「……OK、完成」

これで鍵は完成。

後はしかるべき術式でキリエを保護した後、
同じくしかるべき術式で彼女の体内にこの杭を溶け込ませるだけ。


それで解除だ。

426: 2010/11/06(土) 00:08:18.00 ID:b6Co5Sco
レディ「じゃあ呼んで来るわね」

杭を手に立ち上がり、ドアの方へと向かうレディ。

トリッシュ「さっさと済ませちゃって」

レディ「はいはい」

適当な答えを返した後、廊下に出て足早に進んでいくレディ。

しばらく進み廊下の突き当りを曲がると、その向こうにキリエ・佐天・ルシアの姿が見えた。
三人とも並びながら歩き、ちょうどこっちに戻ろうとしていたのだろうこちらに向かってきていた。

レディ「キリエ。出来たわよ」

レディは声を飛ばしながら、今しがた完成したばかりの『鍵』である杭を軽くかがけ―――。



―――たその時。


レディ「―――」


彼女の鍛え上げられた勘が捉えた。

この場の空気の何かが変わったのを。

同じく感じたのだろう、キリエの隣にいたルシアも硬直する。


そしてその直後。


異変が始まる。

427: 2010/11/06(土) 00:09:12.88 ID:b6Co5Sco
キリエ「―――……ッ……」

突如手首を押さえ顔を歪めたキリエ。

『あのアザ』付近に鈍痛が走り始めたのだ。

ルシア「―――」

佐天「―――?!」

両側にいる二人の少女が、キリエを見て言葉を放とうと口を開きかけたが。

『現象』はすぐに始まった。

言葉を交わす暇なく。


キリエの足元に浮かび上がる『赤い魔方陣』。



そして。


キリエ「―――」



一瞬にして『沈み込む』キリエの体。


佐天「―――」


両脇のルシアと佐天ごと。

428: 2010/11/06(土) 00:10:47.28 ID:b6Co5Sco

ルシア「(―――これは―――)」

ルシアは一瞬にしてこれが何なのかを把握した。
彼女自身もいつも使っていた悪魔の移動術の一種だ。

だが普通ではない。

明らかに何らかの目的の為に改造されている。

その速度も取り込む吸引力も強すぎる。

ルシアならともかく、佐天とキリエはもう引っ張り上げられない。
強引にこの『吸引』に逆らったら、彼女達の体が千切れてしまう。


ルシア「―――」

ルシアは即座に判断する。


己も二人に付いて行かなければ、と。


向こうに悪魔でもいたら。

いや、確実にいる。


そんな場所で、彼女達二人だけになってしまったら抗う術は無い。


その瞬間、ルシアは二人の手を取り固く握った。
バラバラに飛ばされないように。

429: 2010/11/06(土) 00:11:53.86 ID:b6Co5Sco
そして廊下の先、15m程の場所でその現象を見ていたレディ。

彼女も即座に判断を下した。

手に持っていた杭を振り上げ。



レディ「―――Take it!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



閉じつつあった魔方陣の中へと放り投げた。

あとわずかという所、放られた杭はギリギリの穴を抜け。


ルシアがその杭を口でキャッチ。


そして次の瞬間、穴は完全に閉じ。


三人は『どこか』へと『転送』されていった。

430: 2010/11/06(土) 00:13:55.16 ID:b6Co5Sco
レディ「―――Fuckfuckfuck!!!!!!!!!!!!!!!!!!Damn it!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

杭をギリギリのところでルシアに授けたレディ。
即座に魔方陣の浮かんでいた床に滑り込むように駆け、
手早くナイフで解析用の術式を床に刻んでいく。


トリッシュ「何が―――!!??」


その時、彼女の後方20m程の場所、
壁に寄りかかっているトリッシュが声を張り上げた。

彼女も異質な空気を感じ、その動かぬ身に鞭打って壁伝いになんとかここまでやってきたのだ。


レディ「やられた!!!!!連れて行かれた!!!!!!!!」


トリッシュ「―――転移先は!!!??」




レディ「―――……………………デュマーリ島…………!!!!!!」




ナイフを固く握り締めながら。
解析結果を告げるレディ。


トリッシュ「―――……まずい―――……まずいわ!!!!!!」


トリッシュ「ネロは?!繋がる?!」


レディ「いや……多分もうデュマーリ付近にいるのかもしれない……妨害されてて繋がんないわ」


トリッシュ「(こんな時―――私が動ければ―――!!!!!!!)」

431: 2010/11/06(土) 00:15:13.19 ID:b6Co5Sco

トリッシュ「―――ダンテ!!!!聞こえてる!!??」

そしてトリッシュは天井を仰ぎ声を張り上げた。
頭の中で呼びかけるだけで通じるのだが、衝動的に今は大きな声で。


ダンテ『聞いてたぜ。ハッハァ~盛り上がってきたじゃねえか』


トリッシュ「何が盛り上がったのよ!!!!??どうにか―――」


ダンテ『―――大丈夫だろ。心配ねえさ』


トリッシュ「―――またアナタはそんな事を―――!!!!」


ダンテ『うるせえな。良いから信じろ。何とかなる』



ダンテ『―――向こうにはネロがいるんだからな』



ダンテ『―――アイツは負けねえさ』



トリッシュ「―――…………」


―――

432: 2010/11/06(土) 00:16:27.74 ID:b6Co5Sco
―――

学園都市。

第七学区、上条宅。

午後6時を過ぎた頃。

上条「あ~……やっぱり今度掃除しなきゃな」

禁書「うん……」

夜風が吹き抜ける薄暗い宅内を、きょろきょろと見回しながら言葉を交わす上条と。
小萌に預けていたスフィンクスをようやく迎えに行き、
胸元に大事に抱えているインデックス。

二人は荷物を取りに数日振りに我が家に帰ってきたのだ。

上条「…………でも改めて見ると案外、そこまで壊れてないな」

禁書「そうかも…………」

あの時はそこまで意識が回らなかったが、思ったほど部屋は破壊されていなかった。
一方通行が室内から窓をぶち抜いたからだろう、ガラス片もほとんど内側には飛散していなかった。

ベランダの手すりも、まるで鋭利な刃物で切り落とされたかのようにきれいさっぱり消え、破片も全く落ちていなかった。

破壊の仕方がキレイ、スマートと言うのだろうか。
こう言うのもおかしな事だが、一方通行の破壊の仕方は無駄が無いと称すべきかもしれない。

上条「でも靴は脱ぐなよ?やっぱ少しガラス片が散らばってるから」

禁書「うん……ちょっと待って。土足で上がって良いのかな?」

上条「どうせ後で掃除すんだ。今は良いさ」

433: 2010/11/06(土) 00:18:13.44 ID:b6Co5Sco
そして二人はいそいそと荷物を集めてはバッグに入れ始めた。

荷物は少ない。
ほとんどがインデックスのだけ。
上条の着替えの大半はデビルメイクライにあり、後で取りに行けば問題ないからだ。

それならば当然、すぐに作業は終わる。

インデックス「…………」

インデックスはスフィンクスを抱きしめながら、
ふわりと修道服を靡かせてベランダへと出た。

手すりの無いベランダ。
そこから見える第七学区。

先日の激戦地となったこの区画からは一般市民が皆避難させられており、
立ち並ぶビルや寮には灯りが全く灯っていなかった。

インデックス「…………」

地上の光は、ポツポツとあるアンチスキルの作業灯のみ。

そしてそれだからこそ。


インデックス「……」


普段は夜景に掻き消されていた、冬の早い夜空の光が、
静かに優しく降り注いでいた。

434: 2010/11/06(土) 00:19:13.37 ID:b6Co5Sco
煌々と瞬く大量の星。
それらを見上げながらインデックスはポツリと呟いた。

インデックス「キレイ……」

あの時と。
上条がデビルメイクライに行く前、二人っきりで夜道を歩んだ時と同じように。

そんな彼女の背中にふわりとかけられる毛布。

上条「寒いだろ。暖かくしなくちゃな」

そして言葉に続き、彼女の横に並び立つ上条。

禁書「とうまも暖かくしなくちゃダメなんだよ」

上条「はは、俺は問題ないさ。冷凍庫の中だろうとオーブンの中だろうと屁でも無いんだからな」

禁書「…………うーん……でも私だけ暖まるのもイヤだから、建前だけでも良いからとうまも」

そう言うとインデックスはその場にゆっくりと座り込み、
そして毛布を広げて上条に隣に座るように促した。

禁書「ほら、さっさと座ってくれないかな?寒いんだよ」

上条「…………はは……わかったわかった」

435: 2010/11/06(土) 00:21:57.20 ID:b6Co5Sco
一つの毛布に包まりながら並び座る二人。

穏やかでありながら、どことなく意識が別のところへと離れているような会話。
二人は何となく予感していたのかもしれない。

今起こっていること、そして今後起こる『大きな大きな事象』を。

そして二人とも意識していた。

『話』をできるのは今しか無いかもしれない。

伝えたい事を伝え、その言霊をゆっくり噛み締められるのは今晩だけなのかもしれない、と。

そして先に話を仕掛けたのは。

禁書「……ここで私ととうまは出会ったんだよ」

インデックスだった。

上条「…………」

禁書「今は無くなっちゃったんだけど、私はここの手すりに引っかかってて……」


上条「―――待ってくれ…………それについて伝えたいことがある」


だが上条も押されるばかりではなかった。
彼は既に心に決めていた。

昨日、御坂から貰った。

全てを打ち明ける『覚悟』を―――。


前に踏み出す『勇気』を―――。



上条「………………………………………俺、記憶が無いんだ」



上条「お前と出会った頃の事は…………何も覚えていない」



禁書「…………」

436: 2010/11/06(土) 00:23:15.15 ID:b6Co5Sco
上条「…………」

どんな言葉が返ってくるのか。
インデックスは悲むのか。
それとも体を震わせ怒るのか。

だが、インデックスの反応は上条が予想していたものではなかった。

彼女は何も言わずに、ポスンと上条の肩に頭を預け。


禁書「………………だから、今教えてあげようとしてたんだよ」


そしてこう告げた。
全く動じていない穏やかな口調で。


上条「……………………………………やっぱり知ってたのか?」

禁書「……うん。このあいだ聞いちゃったんだよ」


上条「………………………すまん……ずっと騙しつづけて……本当に―――」


禁書「―――何も言わないで。私は別に良いんだよ」


上条「別に…………って!!!!だってお前と出会った時の記憶すら―――」


禁書「確かに。確かにアレは私の大事な宝物。だけど―――」



禁書「―――『今』に比べたら。。。」



禁書「ずるいよ。とうまは」



禁書「そんな事打ち明けられたって『今の私』は怒れないんだよ」


上条「―――…………」

437: 2010/11/06(土) 00:24:50.38 ID:b6Co5Sco

上条「……でも、俺は……お前を救った上条当麻とは別人なんだ」

禁書「どこが?」

上条「どこがって……だって何も覚えてないんだぞ?俺はただ……前の上条当麻の跡を次いで……」

禁書「それは違うんだよ」

禁書「こうしてるとわかるんだから」

禁書「あの時、私を抱き抱えてくれたとうまと何もかわらないって」

上条「……」

禁書「記憶が無くなろうと。悪魔になろうと。とうまはとうま。何も変わらない」

上条「……」

禁書「皆の為にあちこち走り回ったのも、ただ記憶を失う前の仕事を引き継いだだけって言うの?」

禁書「氏に掛けて……ある時は本当に氏んでまで……」

上条「……」

禁書「あれはとうまじゃなきゃできない。他の降って沸いた誰かができるワケが無いんだよ」

上条「……」

禁書「だからその事はもう何も言わないで。何も」

上条「………………………………」

438: 2010/11/06(土) 00:26:04.73 ID:b6Co5Sco
禁書「あ……そうだ……これも盗み聞きしちゃったことなんだけど……」

上条「……」

禁書「私の『この力』、元を辿ればこれが『元凶』だと私も思う。でも」

上条「…………」


禁書「皆忘れがちだけど、とうまのその『右手』だって『私』と同じくらいの『厄病神』なんだよ」


上条「………………そう……かもな」

禁書「……私が全てから解き放たれるのならとうまも」

禁書「人間に戻って……そしてその右手も普通の手に戻して……そうじゃなきゃイヤなんだよ」

上条「…………」


禁書「私だけが救われてとうまが救われないなんて、そんな世界なんか私にとって意味が無いんだよ」


禁書「もう『守られるだけ』なのはイヤ。私も一緒にとうまと行きたいんだよ。どこまでも」

439: 2010/11/06(土) 00:28:08.38 ID:b6Co5Sco
上条「………………よし、じゃあ約束しよう」

禁書「……うん」

上条「俺とお前は一緒だ。『ここ』から抜けるのも一緒だ」

禁書「どこまでも一緒。『救われる』時も。『堕ちる』時も」

上条「…………絶対にお前一人にはしない」

禁書「…………絶対にとうま一人にはしない」


二人の中にある想いが膨れ上がっていく。


そしてこう告げる。


今がその時だ、と。


禁書「ねえ。とうま―――」


少女はその声に従う。
この胸一杯の、
はち切れんばかりに篭められた想い伝えるべく。



禁書「―――私、とうまの事が好き」




禁書「―――とうまが大好きなの」

440: 2010/11/06(土) 00:29:33.45 ID:b6Co5Sco
上条「―――…………」


彼女の鼓動は波打ち。
体温が一気に上がりつつあるも。

なぜか声色は落ち着いていた。

淡々と冷めていた、という訳ではない。
ぬくもりのある穏やかな声だった。


そして上条も告げる。

今一番彼女に伝えたかったことを。


何も恐れることは無い。
勇気を持ち。



上条「俺も―――」



わずかに体を震わせながらも。



上条「―――お前の事が好きだ」



確かな落ち着いた声で。



上条「―――好きだインデックス」

441: 2010/11/06(土) 00:30:38.96 ID:b6Co5Sco
上条の言葉を受け。

彼に寄りかかりながら顔をあげるインデックス。

その顔にはこれまで上条が見たことの無いほど美しい笑みがあった。

儚く脆く繊細でありながら。
それでいて煌々と輝く暖かい笑顔が。

禁書「……」

上条「……」

両者の顔の距離はわずか15cm足らず。

鼓動を高鳴らせ頬を赤らめるも、二人は決してお互いから目を離さない。

真っ直ぐに見つ合う。

禁書「……とうま、私そのとうまの言葉がずっと欲しかったのかも」

禁書「自分で気づくのが遅すぎちゃったのかな私」


上条「…………俺もだな」

上条「なんでもっと早く言えなかったんだろうな……」

442: 2010/11/06(土) 00:31:55.00 ID:b6Co5Sco
禁書「でも……良かった」

向かい合う二人。

その顔の間の距離が徐々に。


上条「ああ……ちゃんと……言えた」


ゆっくりと狭められていく。


禁書「うん……ちゃんと……」


お互い吸い寄せられるかの如く。

そして二人とも、その引力には逆らわなかった。

素直に。

この胸の高ぶりのまま。


インデックスは静かに目を瞑り。

上条も瞼を閉じ。

443: 2010/11/06(土) 00:33:20.25 ID:b6Co5Sco

星が瞬く夜空の下。

少年少女を『地獄』へと運ぶ超音速機の、大気を切り裂く音が響く中。

緩やかな夜風が吹くベランダの上で。

始めて出会ったこの『場所』にて。



この物語が始まった『聖地』にて。




二人は唇を重ねた。




優しく―――。


静かに―――。

444: 2010/11/06(土) 00:33:54.69 ID:b6Co5Sco

そしてこの瞬間。


とある『運命のトリガー』がインデックスの中で引かれた。
彼女自身が『まだ』気づいていなかった歯車が回りだす。


今のこの状況。
二人の想い。
そして結ばれる心。

それらの条件が満たされ。


ここに『魔女』と『悪魔』の『絆』が形成された。


種の壁を超えた『上条当麻』と『インデックス』という存在の『魂の癒着』。


一心同体・運命共同体。


決して断ち切ることのできない


何人も間に割り込むことができない


永久の究極の『繋がり』を―――。

445: 2010/11/06(土) 00:35:19.76 ID:b6Co5Sco
意識を共有し。

お互いの上に圧し掛かっている巨大な巨大な『重石』を再認識する二人。

お互いとも、抜け出すのが困難な渦の中心にいる事を。
固く鎖が纏わり付いていることを。


これはとんでもなく危うい賭けなのかもしれない。


両者の破滅へと転げ落ちる片道切符なのか。

それとも一筋の救いの光となるのか。

『今』はわからない。

だが、二人にとってそんな事など今やどうでも良かった。

こうして結ばれたのなら、結末がどうなろうと。

いつまでも『一緒』なのだから。
いつまでも心は通じ合っているのだから。


『二人にとって』のBADENDはもう消え去った。


どんなに過酷な未来が待ち受けていようと。
どんなに凄まじい苦痛がこの先に待ち伏せしていようと。


二人は決して後悔しない。


この『瞬間』の『幸せ』だけは、もう誰の手にも奪われないのだから。

間違いなく今この瞬間『だけ』は。


世界で最も幸せを感じていたのはこの二人であった。

―――

準備と休息編

終わり

447: 2010/11/06(土) 00:36:34.02 ID:b6Co5Sco
今日はここまでです。
デュマーリ島編は来週の水木金辺りに始めます。

448: 2010/11/06(土) 00:36:36.92 ID:SaV0f/w0

449: 2010/11/06(土) 00:44:09.21 ID:OY5lY2DO

453: 2010/11/06(土) 03:13:42.82 ID:RnobDYAO
平穏は御仕舞いか

454: 2010/11/06(土) 03:23:57.53 ID:XSp7Eigo
ワクワクするなぁ
・・・もの凄くワクワクするなぁ


 次回へ続く:【禁書×DMC】ダンテ「学園都市か」【その22】


引用: ダンテ「学園都市か」【MISSION 06】