1: 2016/06/25(土) 08:18:41.23 ID:iuBhl2oR.net
 
 
〈放課後、部室〉


花陽「チェ、チェックメイト」コン

真姫「そ、そんな……私が頭脳ゲームで負けるなんて……」

凛「かよちん強いにゃー」


花陽(わたしが、勝った……あの真姫ちゃんに……)

花陽(それに――)

花陽(チェックメイト、なんて気持ちいいんでしょう!)


  ガチャ


絵里「あら、3人とも楽しそうね。何してるの?」

凛「チェスだよ!」

真姫「みんなが揃うまでの間って、けっこう待機時間あるでしょ?」

真姫「だから時間つぶしとして家から持ってきたんだけど――」

真姫「正直、花陽に負けるとは思わなかったわ」

絵里「花陽は結構やるの?」

花陽「わたし、さっきルール教えてもらったばかりで」

凛「それで真姫ちゃんに勝っちゃうんだもん」

凛「かよちんは天才にゃー」

花陽「そ、そんな///」

絵里「でもそれって、花陽が強いというより……」

真姫「わ、私だって駒の動かし方くらいしか分からないだけで!」

真姫「このチェスセットだって、パパがインテリアとして飾っていただけで!」

絵里「わ、分かったから……そんなに興奮しなくても」
 

3: 2016/06/25(土) 08:22:45.31 ID:iuBhl2oR.net
 
 
絵里「それにしてもチェスかぁ。懐かしいな」

花陽「絵里ちゃんはやったことあるの?」

絵里「ええ。子どもの頃はよくやったわ」

凛「じゃあ次は、かよちんと絵里ちゃんで対戦だね」

花陽「ええ!?」

真姫「そうね。私も絵里の実力を見せてもらいたいし」

絵里「私も、この駒たちを見てたらやりたくなっちゃった」

絵里「花陽、いいかしら?」

花陽「うん」

絵里「それじゃ、よろしくお願いします」

花陽「よろしくお願いします」


花陽(絵里ちゃんと勝負だなんて、緊張するなあ)

花陽(でも、勝負は勝負)


凛『かよちんは天才にゃー』


花陽(負けません!)

4: 2016/06/25(土) 08:24:17.07 ID:iuBhl2oR.net
 
 
   ・
   ・
   ・


花陽「ま、参りました……」

絵里「はい、ありがとうございました」

凛「絵里ちゃんすごい」

真姫「認めざるを得ないわね」

花陽「そ、そんな……」

花陽「最強の駒クイーンを一方的に取った。ルークも2つ取った」

花陽「なのに負けるなんて……」

絵里「チェスはキングを取るゲーム」

絵里「いくら相手より駒を多く取っていても、チェックメイトされたらそれで終わり」

絵里「花陽は初心者にありがちな、攻め一辺倒の駒さばきで」

絵里「肝心のキングの守りを怠っていたの」

花陽「……」


凛「絵里ちゃんって、もしかして相当強い?」

絵里「強いかどうかは分からないけど、ロシアにいた頃は結構ハマってたわ」

真姫「本場といってもいいくらい、ロシアはチェスが盛んな国――」

真姫「レベルの高い環境で揉まれれば強いはずよ」

凛「じゃあ絵里ちゃんはチェスの世界チャンピオンを目指すにゃー」

絵里「む、無茶言わないでよ」


  ワイワイ


花陽(……)

花陽(……く)

花陽(悔しいです)プルプル
 

6: 2016/06/25(土) 08:26:24.91 ID:iuBhl2oR.net
 
* * * * *


凛「今日の練習も疲れたー」

真姫「休憩中もはしゃぐからでしょ」

凛「だって楽しいんだも~ん」


花陽「凛ちゃん、真姫ちゃん」

花陽「わたし、ちょっと本屋寄っていくから、こっち行くね」


真姫「そう、分かったわ」

凛「かよちん、また明日ねー」


  バイバーイ


花陽「……」

花陽「さて、行きますか」


   ・
   ・
   ・


〈花陽の家〉


花陽「とりあえず、入門書とチェスソフトを買いました」

花陽「チェスセットはネット通販で購入したから、いずれ届くでしょう」

花陽「では、これから猛勉強します」

花陽「そして、必ず強くなる」

花陽「目標はもちろん、打倒 絵里ちゃん!」

8: 2016/06/25(土) 08:27:28.98 ID:iuBhl2oR.net
 
 

花陽「……」フムフム

花陽「……」ナルホド

花陽「……」チェスソフト キドウ

花陽「……」ジッセンデス

花陽「……」セヤ ハッ

花陽「……」ソレ チェックメイト

花陽「……」フウ

花陽「……」ショシンシャレベルジャ アイテニナリマセン



花陽「よし、いける!」
 

11: 2016/06/25(土) 08:30:20.38 ID:iuBhl2oR.net
 
 ―――――――


《翌日》


〈放課後、部室〉



   ガチャ


海未「穂乃果、ナイトの動きはそうじゃありません」

穂乃果「あ、ごめんごめん」

真姫「まったく、何回言わせるのよ」

穂乃果「だって、この馬の動き複雑なんだもん」


花陽「あ、あの――」

穂乃果「花陽ちゃん、どうしたの?」

花陽「穂乃果ちゃんたちもチェスやるの?」

穂乃果「私は今はじめてやってるんだー」

海未「私もです。将棋ならある程度分かるのですが」

真姫「それで、いま私が教えてあげてるのよ」

海未「ですが、駒の動かし方はもう完璧に覚えました」

海未「いまなら一局できそうです」
 
花陽「それなら、わたしとやらない?」

海未「花陽と? ――ええ、もちろんいいですよ」

花陽「よろしくお願いします」

海未「お願いします。負けませんよー」
 

12: 2016/06/25(土) 08:33:21.63 ID:iuBhl2oR.net
 
 
   ・
   ・
   ・


花陽「チェック!――チェック!――チェック!」

海未「くっ、だんだんとキングが追い詰められて……」

海未「もう、逃げ場はここしか――」

花陽「」キラン

 
  スウー 

  コトン


花陽「チェックメイト」

海未「ああっ!」

海未「――ま、参りました」

花陽「ありがとうございました」

真姫「き、昨日とは見違えるほど強くなってる」

穂乃果「おおー」パチパチパチ

海未「は、花陽」

海未「もう一度です! 次こそ勝ちます!」

穂乃果「ダメだよ海未ちゃん! 次は私の番。順番は守ってよね」

海未「そんな殺生な」

穂乃果「さ、花陽ちゃん、やろう!」

花陽「はい」
 

14: 2016/06/25(土) 08:37:42.78 ID:iuBhl2oR.net
 
 
   ・
   ・
   ・


穂乃果「ま、参りました」

花陽「ありがとうございました」

真姫「一瞬だったわね」

海未「さあ、私とです!」


花陽(海未ちゃんや穂乃果ちゃんには悪いけど)

花陽(やっぱり、駒に触ったばかりの初心者じゃ物足りない)

花陽(絵里ちゃんはまだですか!)



  ガチャ



絵里「あ、またやってるのね」

花陽「!」

絵里「ふふ、みんなすっかり――」

花陽「絵里ちゃん!」


ほのうみまき「!」ビクッ


絵里「は、花陽!? どうしたの?」

花陽「昨日のリベンジです!」


絵里(そんなに悔しかったのかしら?)

絵里(花陽ってば、意外と負けず嫌い?)


絵里「ええ、いいわよ」

花陽「よろしくお願いします」

絵里「はい、お願いします」
 

17: 2016/06/25(土) 08:45:30.54 ID:iuBhl2oR.net
 
 
   ・ 
   ・
   ・


花陽「……」

花陽「参り……ました……」グス

絵里「な、泣くことないじゃない」

絵里「よしよし」ナデナデ

花陽「うう……」ズビー


穂乃果「花陽ちゃん、負けたのがよっぽど悔しいんだね」

海未「アイドル以外のことには大人しい子と思っていたんですが」

真姫「花陽にこんな一面があったなんて」

凛「凛はこっちのかよちんも好きだよ!」

真姫「いつの間に!?」


絵里「で、でも、花陽ってば昨日とは別人のように強くなってたわ」

絵里「私、もうちょっとで負けるかもって思ったもの」

花陽「うう……同情するなら勝ちを……」ウワーン

穂乃果「は、花陽ちゃん」アセアセ

真姫「どうするのよ、絵里」

海未「もう一回勝負して、わざと負けたらどうですか」ヒソヒソ

絵里「……」
 

18: 2016/06/25(土) 08:48:04.04 ID:iuBhl2oR.net
 
 
絵里「いい加減にしなさい!」


花陽「ひっ!」ビクッ

絵里「花陽、勝負の世界は厳しいの」

絵里「負けて、ただ泣くだけなら、初めから手を出しちゃダメ」

絵里「それはきっと、ラブライブでも同じことが言えるはずよ」

絵里「あなただって、それくらいは分かっているはずでしょ?」

絵里「どんな才能も、泣いて腐らせたら消えてしまうわ」

絵里「私は、花陽にはそんなふうになってほしくない」

凛「え、絵里ちゃん……」

海未「ちょっと言い過ぎでは……」

花陽「……」

花陽「絵里ちゃん……」

花陽「うん……ありがとう……」

花陽「もう、負けても泣かないよ」

凛「かよちん、偉いよー」グス

真姫「なんで凛が泣くのよ」

花陽「だから――」

花陽「今度また、勝負してくれる?」

絵里「ええ、もちろん」



花陽(ありがとう、絵里ちゃん)

花陽(やっぱり、絵里ちゃんはすごいや……)
 

19: 2016/06/25(土) 08:48:45.66 ID:iuBhl2oR.net
 
 
《その日の夜》


〈花陽の部屋〉


花陽「今日は絵里ちゃんから、くじけぬ心をもらいました」

花陽「ならば前進あるのみです」

花陽「明日は休日、練習は午後から」

花陽「――夜食のご飯よし、おにぎりよし」

花陽「さあ、チェスの研究です!」



花陽「……」フムフム

花陽「……」ナルホド

花陽「……」パクパク

花陽「……」コレダ

花陽「……」ジッセンデス

花陽「……」モグモグ

花陽「……」ソレ チェックメイト

花陽「……」フウ

花陽「……」チュウキュウレベルモ ヨユウ

花陽「……」ガツガツ

花陽「……」ムシャムシャ

花陽「……」ゴクゴク

花陽「……」ペロン


花陽「よし、明日もリベンジ戦です!」
 

20: 2016/06/25(土) 08:50:39.67 ID:iuBhl2oR.net
 
 
―――――――


《翌日》


花陽「zzz」


  ガチャ


花陽ママ「花陽、いつまで寝てるの!」

花陽「ん……」パチ

花陽ママ「早く朝ご飯食べちゃいなさい」

花陽「ふぁい……」

花陽ママ「それと、荷物が届いてるわよ」

花陽「にもつ……?」

花陽「!」



花陽「ふふ、ふふふ」

花陽「ついに届きました」

花陽「チェスセットです!」ジャーン


花陽「これでさらに練習がはかどります」
 

21: 2016/06/25(土) 08:51:38.86 ID:iuBhl2oR.net
 
 
〈音ノ木坂学院、屋上〉


  ワンツー ワンツー


花陽「そこでナイトを動かし……ルークで……」ブツブツ

海未「花陽」

花陽「いや、ここはビショップでピンを……」ブツブツ

海未「花陽!」

凛「か、かよちん」ユサユサ

花陽「――はっ! な、なに……」

海未「動きにキレがありません」

花陽「ご、ごめんなさい」

海未「体調でも悪いのですか?」

花陽「そんなことないよ」

海未「ならいいのですが……」


  ワンツー ワンツー


花陽「この局面ならクイーンを……」ブツブツ

海未「花陽!」
 

24: 2016/06/25(土) 08:52:46.49 ID:iuBhl2oR.net
 
 真姫「花陽、今日どうしたの?」

凛「全然レッスンに集中できてないよ」

にこ「しっかりしなさいよね」

花陽「すみません……」

ことり「何か心配事でもあるとか?」

花陽「そ、そういうわけじゃないよ」


希「花陽ちゃん、どうしたのかな?」

絵里「……」

希「えりち?」

絵里「ふふ、まったく花陽ったらしょうがないわねー」

希「?」



絵里「花陽」

花陽「絵里ちゃん」

絵里「ちょっと来て」

花陽「うん」


花陽「なに、絵里ちゃん」

絵里「今日の練習が終わったら――」

絵里「私の家でいっぱいチェスしましょう」

花陽「!」

花陽「いいの?」

絵里「もちろん」

絵里「花陽も、私にリベンジしたくてうずうずしてるんでしょ?」

花陽「分かってたんだ……」

絵里「だから、今は練習に集中よ」

花陽「はい!」
 

26: 2016/06/25(土) 08:54:27.73 ID:iuBhl2oR.net
 
 

   ・
   ・
   ・


海未「では、今日の練習はここまでにしましょう」


  オツカレサマデシター


凛「あー、今日も疲れたにゃー」

にこ「それだけたくさん練習したってことよ」

にこ「その分だけ、私たちは上に近づいてるんだから」


花陽(にこちゃんの言う通りです)

花陽(上を目指すには練習あるのみ!)


凛「んー、着替え完了」

凛「かよちん早く帰るにゃ」

花陽「あ、凛ちゃん、ごめん今日は――」

凛「?」

絵里「ごめんなさい凛。今日、花陽は私と一緒に帰るの」

凛「絵里ちゃんと?」

花陽「うん……」

凛「そっか、じゃあ凛はにこちゃんと帰ってやるにゃー」

にこ「何なのよその言い草は」

凛「さっ、かーえろぉ」

にこ「ちょっと抱きつかないでよ!」
 

29: 2016/06/25(土) 08:56:14.80 ID:iuBhl2oR.net
後編に続きます

45: 2016/06/25(土) 14:21:05.64 ID:iuBhl2oR.net
 
 
―――――――


〈絵里の家〉


絵里「さ、上がって」

花陽「お邪魔します」


花陽(ここが絵里ちゃんのお家かぁ)ドキドキ


絵里「ねえ花陽」

花陽「ん?」

絵里「明日は日曜日だし、どうせなら今日泊まっていく?」

花陽「いいの?」

絵里「私は全然平気よ。ただ、花陽のほうは――」

花陽「まったく問題ないです!」

絵里「そう、なら今夜は――」

花陽「チェス三昧だね!」



花陽「それでは早速――」

絵里「花陽、その前にやることない?」

花陽「?」

絵里「練習後の、乙女のケアよ」

花陽「??」

46: 2016/06/25(土) 14:22:59.17 ID:iuBhl2oR.net
 
 
  カポーン


絵里「ふう、いいお湯ね」

花陽「はい」

絵里「うちの浴槽、狭くないかしら?」

花陽「全然大丈夫だよ」

花陽「それより、お風呂までお世話になっちゃって……」

絵里「気にすることないわ」

絵里「こうやってメンバーとお風呂に入るの、私すごく楽しいの」

花陽「うん、わたしも」


  ピュッ


花陽「ひゃあ!」

絵里「ふふ、エリチカ水鉄砲をくらえくらえ~♪」

花陽「もう、やめてよ~」キャッキャ
 

47: 2016/06/25(土) 14:24:02.41 ID:iuBhl2oR.net
 
 
    ・
    ・
    ・


花陽「いただきます」

絵里「白いご飯もいっぱい用意したから、遠慮なく食べてね」

花陽「ありがとう」モグモグ 

花陽「」モシャモシャ

花陽「」バクバク

花陽「」オカワリ

花陽「」ガツガツ

花陽「」ペロンペロン

花陽「」オカワリ

絵里「……」


    ・
    ・
    ・


絵里「歯ブラシはこれを使って」

花陽「でもこれ、新しいのじゃ」

絵里「当たり前じゃない」

絵里「まさか私のを使わせるわけにもいかないでしょ」

花陽「でも……」

絵里「いいのよ。私が誘ったんだから遠慮せず甘えて。ね?」

花陽「うん、ありがとう絵里ちゃん」
 

48: 2016/06/25(土) 14:25:00.07 ID:iuBhl2oR.net
 
 
    ・
    ・
    ・


絵里「さ、ではいよいよやろうかしら」

花陽「はい!」

絵里「それじゃ、白と黒どっちにする?」

花陽「わたしのほうが弱いから、先手の白でいい?」

絵里「ええ」

絵里「それにしても、花陽ってばよく勉強してるのね」

花陽「へへ///」

絵里「確かにチェスは先手のほうが有利なゲーム」

絵里「でも、実力さえあれば黒でも十分勝てるわ」

絵里「負けないわよ、花陽」

花陽「わたしもです!」
 

49: 2016/06/25(土) 14:26:19.55 ID:iuBhl2oR.net
 
 
    ・
    ・
    ・

  
絵里「こ、これは――」

花陽「互いのキングだけが盤上にある状態、つまり――」

花陽「引き分け、ですね」

絵里「ハラショー!」

絵里「花陽ってば、たった2日でここまで強くなるなんてすごいわ!」

花陽「でも、絵里ちゃんだって大分ブランクがあるんだし」

絵里「そんなの関係ないわ。花陽、あなた、かなり努力したわね」

絵里「よし、もう一回よ!」

花陽「はい!」

絵里「これからはもう、あなたを初心者とは見なさない」

花陽「え?」


  スッ


絵里「――っ!」ギラン


花陽(え、絵里ちゃんの目つきが、鋭く!?)


絵里「さあ、来なさい」

花陽「は、はい!」
 

50: 2016/06/25(土) 14:27:38.22 ID:iuBhl2oR.net
 
 
    ・
    ・
    ・


絵里「チェックメイト!」コン

花陽「!」


花陽(これぞ瞬殺……)

花陽(ま、まったく手も足も出なかった……)


花陽「次元が違う……」

絵里「花陽、この3手前、なぜあそこでポーンを進めたの?」

花陽「そ、それは……」

絵里「おかげでキングへの攻撃が遥かに容易となったわ」

絵里「いい? 駒を動かす前に全体の局面を眺めることは基本中の基本よ」

絵里「それとも、早々に駒得できて油断していたのかしら?」


花陽(うう、痛いところを)


絵里「さ、もう一度よ」

花陽「はい」

絵里「花陽、私ね、嬉しいの」

花陽「え?」

絵里「あなたのような強者に出会えて」

絵里「私の中で久しく眠っていたチェス魂が蘇った」

花陽「え? え?」

絵里「かつてロシア政府からプロスカウトを受けたこともある」

絵里「このエリーチカの実力、思う存分発揮させてもらうわ!」

花陽「ええぇぇぇええーー!?」
 

51: 2016/06/25(土) 14:28:58.99 ID:iuBhl2oR.net
 
 
    ・
    ・
    ・


絵里「チェックメイト」コン

花陽「ア、アハハ」

花陽「ダレカタスケテー」

絵里「ふう、さすがに疲れたわね」

絵里「今日はこれでお終いにする?」

花陽「ハイ、ソウシマス」


花陽(一体、何連敗したんだろう……)


絵里「じゃ、最後にこの対局を振り返りましょう」

花陽「感想戦だね」

絵里「……」スッ スッ スッ


花陽(すごい……さっきの対局での駒の動きを全部記憶してるんだ……)


絵里「ここがポイントだったわね」

花陽「ここ?」

絵里「ええ。花陽、あなたはこのナイトをどう動かした?」

花陽「ええっと、確か――」

花陽「こうだったような」コン

絵里「けど、そこはこうするべきだったの」


  ギュッ


花陽(あ……)ドキ

花陽(絵里ちゃんの手がわたしの手の上に///)

花陽(――って、なんでわたしドキドキしてるの)

花陽(同じ女の子なのに)

52: 2016/06/25(土) 14:29:38.74 ID:iuBhl2oR.net
 
 
絵里「見て、ナイトをこっちに動かしたら――」



花陽(ううん、同じ女でも、絵里ちゃんとわたしとでは全然違う)

花陽(絵里ちゃんは、とても美人で、頭もよくて、運動も得意で)

花陽(けどそれを飾らない明るさや優しさも持っていて)

花陽(μ'sの中で人気が高いのも、当たり前だよ)

花陽(それに比べたら、わたしは――)



絵里「花陽?」

花陽「え? あ、うん、そうだね」

絵里「それじゃ、問題。こっちにナイトを動かされた私はどうするべきでしょう?」

花陽「うーんと、このポーンを、こうかな?」コン

絵里「その通り! さすが花陽ね」

花陽「た、たまたまだよ~///」

53: 2016/06/25(土) 14:33:57.85 ID:iuBhl2oR.net
 
 
―――――――


《翌朝》


 チュンチュン


花陽「ん……」


 ガバ


花陽「もう朝か」

花陽「……」

花陽「昨日は結局、1勝もできなかったんだよね……」




絵里「あら花陽、もう起きたの」

花陽「うん、おはよう」

絵里「おはよう。待ってて、いま朝ご飯、用意するから」

花陽「あ、手伝うよ」

絵里「いいわよ別に。お客様なんだから、ゆっくりくつろいでて」

花陽「ありがとう」




花陽「ごちそうさま」

絵里「はい、どういたしまして」

絵里「ところで花陽」

絵里「今日何か予定ある?」

花陽「ううん、特にないよ」

絵里「ならお出かけしない?」

花陽「絵里ちゃんと2人で?」

絵里「ええ。それともイヤ?」

花陽「そ、そんなことないよ!」

絵里「じゃ、決まりね!」

54: 2016/06/25(土) 14:35:13.22 ID:iuBhl2oR.net
 
 
    ・
    ・
    ・


花陽「練習着でお出かけかあ……」

絵里「仕方ないわ。花陽が昨日着ていた服はまだ乾いてなかったんだもの」


花陽(うう、ただでさえ絵里ちゃんと並んだら、わたしなんてその辺の芋なのに)

花陽(こんな恰好じゃますます見劣りしちゃうよ)


絵里「でも、そっちのほうが今日は好都合だったりして」

花陽「?」




絵里「わあ! 花陽ってばカワイイ!」

花陽「そ、そんな///」

絵里「やっぱり花陽には女の子らしい服が似合うわあ」

花陽「///」

絵里「さ、脱いで。お会計してくるから」

花陽「ええ!? い、いいよ、自分で買うから」

絵里「誘ったのも、その服を渡したのも私よ」

花陽「でも……」

絵里「もう、少しは上級生を立てなさい」

花陽「μ'sには先輩も後輩も……」

絵里「それはそれ、これはこれ」

花陽「じゃ、じゃあ――」

55: 2016/06/25(土) 14:36:13.23 ID:iuBhl2oR.net
 
 
花陽「はい、絵里ちゃん。買ってきたよ」

絵里「ありがとう」

花陽「ここのアイス、すっごくおいしんだよ」

絵里「どれどれ」パク

絵里「――ハラショー!」

花陽「へへ、良かった」

絵里「ごちそうになって悪いわね」

花陽「そんな、わたしこそ、この服プレゼントしてもらって……」

絵里「いいのいいの」

絵里「それに、あんなふうにジィーっとその服を見ている花陽をみたら」

絵里「だれだってプレゼントしたくなるわよ」

花陽「あ、欲しいって分かってたんだ」

絵里「花陽は素直な子だから」


花陽「……やっぱり、絵里ちゃんには敵わないなあ」


絵里「な、なによ突然」

絵里「花陽はまだチェスをはじめて――」

花陽「チェスだけじゃないよ」
 

57: 2016/06/25(土) 14:39:11.52 ID:iuBhl2oR.net
 
 
絵里「花陽……?」

花陽「わたし、ずっと思ってた」

花陽「絵里ちゃんは、いつもしっかりしていて」

花陽「いつだって、こんなふうに人の気持ちをすぐ察して」

花陽「喜ばせたり、労わったり、時にはびしっと叱ることもできて」

花陽「それに、わたしたちが垣根を超えて仲良くできるのも」

花陽「先輩禁止を提案してくれた絵里ちゃんが――」


絵里「あのね花陽」


花陽「な、なに?」

絵里「前にも、穂乃果に似たようなことが言った覚えがあるんだけど――」

絵里「私ね、よくしっかりしてるとか、冷静だとか、かしこいだとか」

絵里「人からそんなふうに評価されることもあるけど」

絵里「ホントは全然そんなことなくて」

絵里「そんな弱い自分を、ただ必氏に隠しているだけなの」

花陽「そ、そんなこと――」

絵里「でもね、さっき花陽が言ってくれたことが、仮に私に当てはまるとしたら」

絵里「それはきっと全部、μ'sのみんながいてくれたから」

絵里「だから、私はそうなれたんだと思う」

花陽「絵里ちゃん……」

絵里「それでね、もし花陽が私なんかに気後れを感じているんだとしたら」

絵里「それは間違い」

花陽「え?」

絵里「むしろ、私のほうこそ花陽が羨ましい」
 

58: 2016/06/25(土) 14:40:13.44 ID:iuBhl2oR.net
 
 
花陽「絵里ちゃんが、わたしを……?」

絵里「あなたのように、ずっと何かを一途に好きでいられる心」

絵里「私は、ずっと迷ってばかりだったし」

花陽「そんな……」

絵里「そして周囲の人を一瞬で和ませる癒しの雰囲気」

絵里「私、よく怖いって思われがちだから」

花陽「ご、ごめんなさい……」

絵里「そして何より――」


  ムニュ


花陽「ぴゃ!?」

絵里「このプニプニほっぺが欲しいのよ~」プニュプニュ

花陽「や、やめてよ絵里ひゃ~ん///」

絵里「はあ、気持ちいい///」



絵里「ね、隣の氏馬は青いって言うでしょ?」

花陽「うん、そうだね」


花陽(なんか今、ちょっと違う言い方したような気がするけど)

花陽(わたし、気にしないよ)
 

59: 2016/06/25(土) 14:41:06.85 ID:iuBhl2oR.net
 
 
    ・
    ・
    ・  


絵里「さ、花陽。次はどこ行こうか?」

花陽「うーん、どこでもいいよ」

絵里「花陽……こういう時の『どこでもいい』はすごく困るのよ」

花陽「ご、ごめんね」

絵里「まあ、連れ出しといてあれ以上何も考えていない私も悪いけど……」

花陽「でもね、本当にどこでもいいの」

花陽「絵里ちゃんと一緒なら、きっとどこでも楽しいから」

絵里「は、花陽///」

花陽「絵里ちゃん……」


  テ ギュ


絵里「!」

花陽「ダメ、かな?」

絵里「……」

絵里「ううん、そんなことないわよ」

花陽「へへ、ありがとう///」

絵里「じゃ、行きましょうか」

花陽「うん!」
 

60: 2016/06/25(土) 14:45:08.90 ID:iuBhl2oR.net
 
〈数年後〉


実況「さあ20XX年冬季オリンピック」

実況「チェス決勝戦の組み合わせは」

実況「なんと日本人同士の対決だァ!」

実況「果たしてチャレンジャーは」

実況「ロシアの絶対王者、絢瀬絵里を破ることができるのか!?」


絵里「……」


  コツコツ


絵里「よくここまでのし上がって来たわね、花陽」

花陽「……」スッ


実況「対するは、単身アメリカに渡り武者修行を重ねた小泉花陽選手」

実況「勝つのは伝統のロシアチェスか、それともアメリカ仕込みのチェスか」

実況「盤上の東西対決は果たしてどちらに軍配が上がるのか!」



花陽「絵里ちゃん」

花陽「あの時の約束を果たしにきたよ」

絵里「私の卒業式での――」

花陽「うん」

絵里「いつか二人で」

花陽「世界の舞台に」


  スッ チャクセキ


絵里「さ、始めましょう、花陽」

花陽「うん」

花陽「絵里ちゃん、勝負です!」

絵里「負けないわよ?」


おしまい

61: 2016/06/25(土) 14:45:56.68 ID:QSKHtcmN.net
いきなり壮大になって草
よかった!

引用: 花陽「絵里ちゃんとチェスで勝負です」