1: 2011/05/29(日) 16:25:51.19 ID:OL+FuFJro
最初から読む:【禁書×DMC】ダンテ「学園都市か」
前回:【禁書×DMC】ダンテ「学園都市か」【その27】
一覧:ダンテ「学園都市か」シリーズ
「デビルメイクライ(+ベヨネッタ)」シリーズと「とある魔術の禁書目録」のクロスです。
○大まかな流れ
本編 対魔帝編
↓
外伝 対アリウス&口リルシア編
↓
上条覚醒編
↓
上条修業編
↓
勃発・瓦解編
↓
準備と休息編
↓
デュマーリ島編
↓
学園都市編(デュマーリ島編の裏パート)←今ここのはじめ(スレ建て時)
↓
創世と終焉編(三章構成)
↓
ラストエピローグ
○大まかな流れ
本編 対魔帝編
↓
外伝 対アリウス&口リルシア編
↓
上条覚醒編
↓
上条修業編
↓
勃発・瓦解編
↓
準備と休息編
↓
デュマーリ島編
↓
学園都市編(デュマーリ島編の裏パート)←今ここのはじめ(スレ建て時)
↓
創世と終焉編(三章構成)
↓
ラストエピローグ
22: 2011/06/02(木) 23:56:27.84 ID:8NCaMGgCo
―――
遡ること数時間前。
学園都市、現地時間18:10時。
窓の無いビル、大きな水槽の壁面内側にはホログラム映像が浮かび上がっていた。
映し出されているのは、第23学区から飛び立つデュマーリ島へ向けての編隊。
護衛のための戦闘機と無人機、
そして能力者を積んだ輸送機が続々と飛び立ってゆく。
そんな映像を、アレイスター=クロウリーは静かに眺めていた。
と、その時。
「大勢の運命を背負って、この世の地獄へ戦いに行く。年端もいかない子供達が」
水槽の前、5m程の所に立っていた初老の女性がそう口にした。
学園都市総括理事会の一人、親船最中が。
アレイスター「君が不快に思う原因の倫理は所詮、人が勝手に作り出した人の社会のみに適用されるルールだ」
アレイスター「今の状況に当て嵌めるのは場違いも良い所だ」
アレイスター「この人の社会の外のルールは常にシンプル。力を持つ者が戦う。『今回』はそれが彼らだったに過ぎない」
そう返されてきた一連の言葉に、
親船はふんっと鼻を鳴らして。
親船「随分と饒舌だこと。以前お会いした際はそれはそれは無愛想でしたのに」
嫌悪感を少しも隠さずにそう言葉を返した。
遡ること数時間前。
学園都市、現地時間18:10時。
窓の無いビル、大きな水槽の壁面内側にはホログラム映像が浮かび上がっていた。
映し出されているのは、第23学区から飛び立つデュマーリ島へ向けての編隊。
護衛のための戦闘機と無人機、
そして能力者を積んだ輸送機が続々と飛び立ってゆく。
そんな映像を、アレイスター=クロウリーは静かに眺めていた。
と、その時。
「大勢の運命を背負って、この世の地獄へ戦いに行く。年端もいかない子供達が」
水槽の前、5m程の所に立っていた初老の女性がそう口にした。
学園都市総括理事会の一人、親船最中が。
アレイスター「君が不快に思う原因の倫理は所詮、人が勝手に作り出した人の社会のみに適用されるルールだ」
アレイスター「今の状況に当て嵌めるのは場違いも良い所だ」
アレイスター「この人の社会の外のルールは常にシンプル。力を持つ者が戦う。『今回』はそれが彼らだったに過ぎない」
そう返されてきた一連の言葉に、
親船はふんっと鼻を鳴らして。
親船「随分と饒舌だこと。以前お会いした際はそれはそれは無愛想でしたのに」
嫌悪感を少しも隠さずにそう言葉を返した。
23: 2011/06/02(木) 23:58:01.45 ID:8NCaMGgCo
アレイスター「5年振りか。君は随分と老け込んだな。美容整形は受けんのか?20歳は若返り寿命もその分延びるぞ」
親船「まさか、あなたから美容整形を進められるとは。あなたも本当に『一応』人間でしたのね」
アレイスター「……さて、世間話はこの辺で止め本題に入ろう」
その話の切り替えと同時に水槽内のホログラムが消え、
今度は親船の前に浮かび上がった。
映されているのは正規命令発行用の画面。
アレイスター「学園都市総括理事長令 第3号、私、アレイスター=クロウリーは、」
そしてアレイスターが口を開くの同時に、
その言葉が画面に入力されていく。
アレイスター「ここに学園都市行政権、及び『軍』とアンチスキルの指揮権を理事長代行、親船最中に委譲する」
アレイスター「ただし、『プラン』に付随する諸権限は例外とする」
アレイスター「それら残りの権限は『プラン』が完遂次第、全て親船最中に委譲し、私は理事長を辞する」
言葉を連ねた後、最後に彼が右手指を小さく動かすと。
その動きに連動して画面にもサインが書き込まれ、
続けて親船も指でなぞるようにして署名した。
24: 2011/06/03(金) 00:01:23.92 ID:DdeePM8ko
アレイスター「これで晴れて君が理事長代行、この街の最高指揮官だ」
委譲が完了してすぐさま。
親船「第一級警報発令、状態はデフコン1、シェルターへの市民の避難を開始します」
親船はアレイスターの声を無視しては、
続けてホログラムの端末を操作し命令を下した。
親船「全理事会員は、今現在この街が置かれている状況を『熟考』の後、理事長令に同意の署名を」
親船「『熟考』した上で、それでもこの決定に納得できない場合」
親船「その意思を示してください。こちらも相応の姿勢で対応します」
そして強い口調でそう締めくくった。
アレイスター「委譲する前に、利己的な理事会員を罷免しておけば良かったかな?」
親船「どの道変わらないでしょう。この期に及んで己の欲望を優先するような者は」
そんな親船の言葉を裏付けるかのように。
親船「その点は、彼らを指名したあなたが一番ご存知でしょうに」
ホログラムに表示される各理事会員の署名は、全員分は揃わなかった。
ただ、その点については親船も充分想定内。
彼女が掃うようにして手を振った瞬間、ホログラム映像が消え。
親船「出ます」
そう呟くと、親船の隣に一人のテレポーターの少年が出現して彼女の肩に手を置いた。
親船「これ以上、この街の子供達を巻き込まないで下さい」
アレイスター「犠牲が0とは約束できんが、私のプランが滞りなく進んだ場合は、『ほぼ全員』生き残る。そこは保障しよう」
親船「……」
最後は言葉を返さず、アレイスターを見据えながら。
親船はテレポーターによって運ばれていった。
25: 2011/06/03(金) 00:02:59.64 ID:DdeePM8ko
「『この街』の子供達はほぼ全員」
と、その直後。
壁際の薄闇の中から、白衣を着た男がアレイスターの言葉を繰り返しながら歩み出てきた。
「能力開発を受け、セフィロトの樹から外れかかっている者は生き残る」
そして、アレイスターの口からは出なかった事柄を『補填』して。
「犠牲はセフィロトの樹に繋がっている世界全ての者達『だけ』」
水槽の前、4m程のところで立ち止まりアレイスターを見据えた。
アレイスター「君はそれを承知の上であの日、私を生かした」
アレイスターはそう言葉を放った。
その男、カエル顔の医者に。
カエル「…………わかっているよ。忘れたことは一時も無い……あれから60年、常に頭にあり続けた」
アレイスター「…………」
カエル「…………エドワード。ジョン。そして僕。人々は決して、僕等を許しはしないだろうな」
アレイスター「構わんよ」
アレイスター「許しは請わん」
―――
26: 2011/06/03(金) 00:04:29.14 ID:DdeePM8ko
―――
第七学区、とある寮1階の入り口。
そこの壁に、ステイル=マグヌスは腕を組んで寄りかかっていた。
ステイル「……」
思い出せば半年以上前、
この寮の一画にてとある男と戦い、豪快に殴り飛ばされて敗北した事がある。
あの時は思ってもいなかったであろう。
『あの男』こそ、インデックスにとって―――。
ステイル「…………チッ」
そこまで思考が及んだ瞬間、ステイルは小さく舌打ちをしたが。
それは別に不機嫌を示すものではなく、
素直ではないこの男の精一杯の『喜び』の仕草であった。
ただそこには少々、人間らしいささやかな『羨ましさ』も混じっていたが。
ステイル「……………………長いな」
上階にいるであろう上条とインデックス。
インデックスの衣類などを取り行くとのことだったが、少々時間がかかり過ぎでは。
そう思うも、彼女達が何をしているのか確認する気も、
そして急かす気も特には無い。
ステイル「…………」
それこそ、彼等が男と女の一線を越えたとしても、だ。
第七学区、とある寮1階の入り口。
そこの壁に、ステイル=マグヌスは腕を組んで寄りかかっていた。
ステイル「……」
思い出せば半年以上前、
この寮の一画にてとある男と戦い、豪快に殴り飛ばされて敗北した事がある。
あの時は思ってもいなかったであろう。
『あの男』こそ、インデックスにとって―――。
ステイル「…………チッ」
そこまで思考が及んだ瞬間、ステイルは小さく舌打ちをしたが。
それは別に不機嫌を示すものではなく、
素直ではないこの男の精一杯の『喜び』の仕草であった。
ただそこには少々、人間らしいささやかな『羨ましさ』も混じっていたが。
ステイル「……………………長いな」
上階にいるであろう上条とインデックス。
インデックスの衣類などを取り行くとのことだったが、少々時間がかかり過ぎでは。
そう思うも、彼女達が何をしているのか確認する気も、
そして急かす気も特には無い。
ステイル「…………」
それこそ、彼等が男と女の一線を越えたとしても、だ。
27: 2011/06/03(金) 00:05:34.94 ID:DdeePM8ko
口では文句を言い、心の表面を嫉妬で埋め尽くすだろうが、
本音では祝福し絶対に彼等の間の邪魔はしない。
ステイル自身がそう決めているし確信しているのだから。
ステイル「…………」
まあ、それ以前にあの男が今一線を超えられるわけも無いが。
良くてキス止まりだろう。
そうしなければインデックスの命が無い、となれば彼は迷わずするだろうが。
そうでなければここぞという時でヘタれ、結局事を済ますことは適わず。
自身の欲求には変に厳しく、そして自信も無い。
有事には最高のヒーローになるが、平時にはどうしようもない馬鹿少年。
例えインデックスに迫られたとしても、
実年齢はわからずとも外見上から未成年と捉え、
そして何よりもシスターであるという事を『振りかざして』、彼は逃げる。
上条当麻とはそういう男だ。
まあそれも、人を想い大切にする『彼らしさ』だ。
ステイル「…………」
そういう男だからこそ、
安心してインデックスを預けていられるのではないか。
一線をいつか越えるにしても、それまではとことん大切にしてもらおうではないか。
28: 2011/06/03(金) 00:06:52.27 ID:DdeePM8ko
もし彼がこうではなく、己の欲望にどこまでも忠実な男であったら。
その場合は、まず誰よりも神裂が黙ってはいなかったはずだ。
インデックスを預ける、なんてイギリスからの通達を聞いた途端、
何から『ナニ』まで叩き切る勢いで怒り狂っていたことだろう。
神裂。
ステイル「…………」
巡らせた思考の中で彼女の名を響かせ、そして顔を描く。
彼女がここにいたら。
もし今も、隣に立っていたら。
上条とインデックス、今の二人を見て神裂は何を思うだろうか。
それはきっと、笑ってくれていただろう。
己のように捻くれた態度ではなく素直に。
ステイル「…………」
凛々しく微笑んでいる彼女の横顔が、脳裏を過ぎる。
長い長い鞘を手に、黒く艶やかな髪を靡かせて。
勇ましくて気高き友の姿。
そして―――動かなくなった姿。
胸に愛刀を突き立てられて、静かに沈んでいったあの光景―――。
29: 2011/06/03(金) 00:07:47.40 ID:DdeePM8ko
そんな、脳裏に焼きついている亡き友の姿に浸りながら。
ステイル「………………ふーっ……」
小さくため息をついては、星が瞬く夜空を見上げた。
デュマーリ島へ向かう、複数の航空機の爆音が奮わせる冬の大気。
そこに白い吐息が蒸気のように立ち昇って行く。
空高くにて響く爆音を省けば、周囲は静寂そのもの。
この第七学区は、先日の戦闘以降住民が立ち退かされており無人。
気配は上条とインデックスのものしか無く。
それはそれは静かなものであったが。
ステイル「…………」
突如、その静けさをけたたましくかき乱す音が響いた。
それは街頭などに備え付けられているスピーカーからのサイレンの音。
ステイル「(……警報か)」
その大きな音にステイルは一瞬眉を細めたものの、特に気にもしなかった。
なにせ今は戦時下、
サイレンが鳴るくらい別におかしいことでもないだろう。
だが、その直後。
別に聞えてきたとある『音』が、ステイルの平静を乱した。
それは脳内に響いてきた、
ローラ『おい―――聞えたるか?』
ステイル「―――ッ」
元最大主教、ローラ=スチュアートの声。
30: 2011/06/03(金) 00:09:38.14 ID:DdeePM8ko
ステイル「アーク……!」
アークビショップ
今までの癖でついつい最大主教と口にしかけるも。
ローラ『あるじ様と呼べ。我が「使い魔」ステイル』
すぐさまローラがそう遮るように言い。
ローラ『追っ手が「この街」に既に着きたるの』
ステイルの反応を待たずに話を進めた。
ステイル「……追っ……手……?」
そのローラの声には、どことなく焦りの色が滲んでいた。
いつもの飄々とした余裕が無く、早い口調は苛立っているように感じられる。
ステイル「……」
また、ローラの「この街」という言い回し。
それは彼女が既に学園都市に来ている、という事を匂わせる。
そして追っ手も彼女に続いて学園都市へ。
そんなところであろう。
ステイルは瞬時にローラの言葉から状況を読み取り、
この突然の上司の登場に驚きつつも、冷静に思考を進めるも。
ステイル「して追っ手とは、イギリス清教の者ですか?」
次のローラの言葉で、その思考が一瞬停止する。
ローラ『いえ。我が「同胞」でありけるのよ』
ステイル「―――」
31: 2011/06/03(金) 00:10:38.34 ID:DdeePM8ko
ローラが言う『同胞』。
それはつまり魔女。
ステイル「―――ッ……!」
魔女が既に来ている―――だと?
バチカンでの戦い、そして先日のフィアンマ戦におけるインデックス。
その光景と魔女達の姿が脳裏に蘇る。
今のステイルにとっても『化物染みた』、あの魔女の力。
そこに続くローラの言葉が、更にステイルを焦燥させた。
ローラ『「使い魔」も連れたる。それと私のみならず、禁書目録をも狙いたるようなの』
ステイル「―――」
インデックスも標的―――だと?
ローラ『これ以上の接続は探知される。じきに合流したるわ。それまで「堪えろ」』
ステイル「―――堪え……ろ?!待―――待て!」
そしてローラはステイルの言葉になど聞く耳も持たず、
そう早口で告げた後。
ローラ『くれぐれも警戒を怠ること無き、よ』
ステイル「おい―――!!!」
一方的に会話を打ち切った。
ステイル「―――…………ッ……」
―――
32: 2011/06/03(金) 00:12:23.09 ID:DdeePM8ko
―――
学園都市、とあるビルの屋上。
ジャンヌ『禁書目録の位置、特定した』
神裂「……どこです?」
その淵にて神裂は、通信魔術先のジャンヌに問い返した。
冬の夜風に、高く結った長い黒髪を緩やかに靡かせつつ。
爆音が轟く下に広がる夜景を望みながら。
ジャンヌ『あー、第七学区の……』
手元にある地図と照らし合わせているのか、
ジャンヌはまるまる読み上げる口調で住所を告げてきた。
神裂「……」
覚えのある住所を。
神裂は静かに、
告げられた第七学区へ向けその視線を動かした。
白い作業灯と、最低限の街灯の光が点在する暗い一画へ。
神裂「……」
この通信を共有している五和が、
斜め後ろにてその顔を強張らせているのを感じる。
だが、神裂はその点については言及することもなければ意識するそぶりも見せず。
暗い第七学区を見つめながら、淡々と言葉を続けた。
神裂「助かります。それでローラ=スチュアートの方は?」
学園都市、とあるビルの屋上。
ジャンヌ『禁書目録の位置、特定した』
神裂「……どこです?」
その淵にて神裂は、通信魔術先のジャンヌに問い返した。
冬の夜風に、高く結った長い黒髪を緩やかに靡かせつつ。
爆音が轟く下に広がる夜景を望みながら。
ジャンヌ『あー、第七学区の……』
手元にある地図と照らし合わせているのか、
ジャンヌはまるまる読み上げる口調で住所を告げてきた。
神裂「……」
覚えのある住所を。
神裂は静かに、
告げられた第七学区へ向けその視線を動かした。
白い作業灯と、最低限の街灯の光が点在する暗い一画へ。
神裂「……」
この通信を共有している五和が、
斜め後ろにてその顔を強張らせているのを感じる。
だが、神裂はその点については言及することもなければ意識するそぶりも見せず。
暗い第七学区を見つめながら、淡々と言葉を続けた。
神裂「助かります。それでローラ=スチュアートの方は?」
33: 2011/06/03(金) 00:19:38.06 ID:DdeePM8ko
ジャンヌ『ある程度位置は絞れた。じきに確保できる』
神裂「そうですか」
ジャンヌ『それとお前に言っておくことがある』
そうジャンヌは言うと、一度咳払いして。
ジャンヌ『禁書目録だが幻想頃しと一緒にいるようだな。すぐ近くにはイギリスの炎の悪魔もいる』
神裂「……」
五和「……」
先日あんなことがあったばかり。
二人がインデックスの傍を離れることはまず無いのも当然。
充分予想していたことだ。
元々、神裂は上条とステイルにも協力を仰ぐつもりだ。
面と向かって丁寧に話しさえすれば、彼等はきっとわかってくれるはずなのだから。
そう、丁寧に話をできさえすれば。
こちらの言葉を聞いてくれれば、の話だが。
続くジャンヌの言葉は―――。
ジャンヌ『そしてローラと炎の悪魔が通信を交わした痕跡があったが、明らかに「契約関係」の上のものだ』
神裂のその展望をあっさりと―――。
神裂「……ということは―――まさか―――」
ジャンヌ『はっきり言うぞ。あの炎の悪魔はローラの「使い魔」―――「敵」として考えろ』
―――破壊した。
34: 2011/06/03(金) 00:21:51.01 ID:DdeePM8ko
神裂「―――」
五和「―――……!!!なっ……!!!」
ジャンヌ『下手な望みは持つな。ある程度の意思の自由はあるが、最終的に主に従いざるを得ない。それが使い魔だ』
神裂「……」
ジャンヌ「『お前』もわかるだろう?」
神裂「……」
そう。
ステイル自身がどう思おうと、
主であるローラがこちらを敵として認識している以上、そこはどうしようもない。
それは神裂自身この身をもって知っている。
なにせ今は、バージルの使い魔という属性なのだから。
主であるバージルのやり方で、
今の神裂には主従関係による支配的な縛りは一切無いが。
それでも神裂がバージルの意向に反する行為を行い続ければ、
最終的に『バージルの子』たるこの力は、神裂火織という人格を食い潰し傀儡とするだろう。
(ただバージルとなれば、その前に直接ケジメをつけに神裂の元に現れるだろうが)
ジャンヌ『じゃあ、しっかりな』
言葉の調子を変えぬまま、そうジャンヌとの通信は終わった。
神裂「……………………」
35: 2011/06/03(金) 00:23:16.42 ID:DdeePM8ko
直後。
五和「あの―――!」
五和が背後から何かを言いかけたも。
神裂は即座に振り向き、鋭い視線でその口を制した。
いや、目で制すまでも無かったかもしれない。
五和はその神裂の顔を見た瞬間に、
既に言葉を詰まらせていたのだから。
不気味なほどに冷たい無表情を。
それは完全な―――。
神裂「私は正面から行き、『まず』は話し合いを試みます」
話し合い、という言葉が余りにも不釣合いである冷酷な『仕事の顔』。
神裂「五和、あなたは後方に周り―――」
神裂はその顔のまま、
淡々と事務的に五和に命令を告げた。
神裂「―――交戦準備を整え待機を」
五和「……了解」
五和は頷いた。
張り裂けそうな想いに胸を圧迫されながらも、
一方では戦士としての揺ぎ無い覚悟を決め。
五和はジャンヌから授かった槍を、胸に抱くようにしては強く握りしめて。
―――
36: 2011/06/03(金) 00:24:06.72 ID:DdeePM8ko
―――
キスした瞬間に覚えた不思議な感覚。
不思議だが決して不快ではなく、むしろ心地の良い感覚。
彼女の『存在』を感じるのだ。
外からの知覚ではなく『内側』から。
それがゆっくりと、全身へと染み渡っていく中。
上条「…………」
上条は彼女に心奪われて、言葉を失っていた。
淡く光を帯びているような艶やかで柔らかい青い髪。
陶器のように清廉な肌。
やや赤みを帯びている頬。
滑らかな首筋。
透き通る瞳。
甘い香り。
柔らかい唇。
上条「……」
まるで言葉が出ない。
腕の中で、やや恥ずかしげに微笑むインデックス。
この存在を語る言葉は、上条は持ち合わせていなかった。
キスした瞬間に覚えた不思議な感覚。
不思議だが決して不快ではなく、むしろ心地の良い感覚。
彼女の『存在』を感じるのだ。
外からの知覚ではなく『内側』から。
それがゆっくりと、全身へと染み渡っていく中。
上条「…………」
上条は彼女に心奪われて、言葉を失っていた。
淡く光を帯びているような艶やかで柔らかい青い髪。
陶器のように清廉な肌。
やや赤みを帯びている頬。
滑らかな首筋。
透き通る瞳。
甘い香り。
柔らかい唇。
上条「……」
まるで言葉が出ない。
腕の中で、やや恥ずかしげに微笑むインデックス。
この存在を語る言葉は、上条は持ち合わせていなかった。
37: 2011/06/03(金) 00:24:56.63 ID:DdeePM8ko
上条「―――……」
もう何も考えられない。
上条にとってのインデックスの魅力は、
下階で待つ『誰か』の予想を遥に超えていたようだ。
彼の鉄の如き自制心ですら、
彼女の存在の前にはすぐに錆び朽ちてしまい。
インデックスを抱いたまま、ゆっくりと押し倒す。
ベランダの床に緩やかに倒れた瞬間、
彼女は小さな声を漏らすも、言葉を発さず無言のまま。
他に発された声といえば、
スフィンクスが跳ねるようにして、二人の間から脱した際に挙げたものだけ。
三毛猫は室内のベッドの上に飛び乗り、
「お構いなく」とでも言うように二人に背中を向けて丸まった。
そしてインデックスは上条に覆いかぶさられる形になったも。
禁書「……」
抵抗の色など一切見せず。
更に恥ずかしげに少しうつむきながらも、
心地よさそうな面持ちで彼の顔を見上げていた。
上条「…………」
そんな彼女の少し乱れた前髪を、撫でるようにして整え。
頬に指を伝わせ。
彼女の瞳を見つめながら上条は再び、顔をゆっくり近づけ。
インデックスが応じるようにして静かに目を瞑った―――その時。
聞き覚えのあるサイレンが鳴り響いた。
38: 2011/06/03(金) 00:26:45.01 ID:DdeePM8ko
上条「……」
禁書「……」
上条はピタリと硬直し、インデックスが瞼をぱちりと開き。
驚き鳴きわめいてはスフィンクス。
そして聞き覚えのあるサイレンに重ねて、『あの日』と同じく。
『第一級警報及び第一級戦時態勢が発令されました』
『市民の皆さんはアンチスキル及びジャッジメントの指示に従い―――』
『最寄のシェルターへ迅速に避難してください。繰り返します―――』
機械的なアナウンスが繰り返し流れていく。
そんな音が街全体に響く中、
二人は鼻先を軽くぶつけてはおかしそうに笑い。
上条「…………そろそろ……戻ろうか」
インデックス「うん」
二人はもつれるようにお互い茶化しながらも、
立ち上がっては服についた塵を払い。
上条はインデックスの衣類が入ったバックを肩にかけ、
インデックスはスフィンクスを胸に抱き。
部屋を後にし、寮の階段を降りて行き。
そして寮の入り口にいる、ステイルの姿を捉えた。
上条「おーわざわざ来てくれたのか?病院で待っててって言ったのに」
39: 2011/06/03(金) 00:28:42.46 ID:DdeePM8ko
もしかして待っちまったか?、と上条はやや申し訳なさそうに。
そしてインデックスも気まずそうに苦笑するも。
ステイル「…………ん?あ、ああ、別に構わないよ」
当のステイルは心ここにあらず、といった風。
狐につままれたような面持ちだ。
いや、慌てて平静を装っているようにも見える。
上条「……」
まさか悪魔の感覚で、上での『一部始終』を見ていたのでは、と上条は一瞬思うも。
もしそうだとしたら、彼の意識は真っ直ぐこちらに向いているはずだ、
だが今ステイルの意識は、
どう見ても己とインデックスには向いていない。
上条「……おい。何かあったのか?」
すかさず上条は敏感に『何か』を感じ取り、
雰囲気を切り替えてステイルにそう問うたが。
ステイル「いいや。気にするな」
ステイルはそれでも言おうとはしなかった。
禁書「……」
上条「そうか……」
さすがに納得したわけではないが、
彼が今は言わないと決めたのならば無理にそれを穿ることもない。
インデックスは未だにステイルを訝しげな目で観察していたが、
上条はすぐに切り替えて。
上条「じゃあ戻ろうぜ!腹減ったしな!」
そう一行を引っ張るように促した。
40: 2011/06/03(金) 00:32:52.62 ID:DdeePM8ko
片側三車線の大通り、多様なデパートや店が並ぶこの大通りは、
普段ならば今の時間でも充分人で賑わっている。
だが今は軒並みシャッターが閉じ、
大きな道路を走る車は一台も無く、寂しそうに信号が黄色く点滅していた。
サイレンが響くそんな無人の街の中、
何気ない会話を重ねながら三人は歩き進んでいく。
ステイル「このサイレン、確か……」
禁書「ダンテといた時にいきなり鳴ったんだよ」
上条「魔帝の件の時にな。避難命令だよ」
ステイル「ああ、聞き覚えがあるよ。僕がこの街に到着した時も鳴っていた。その後すぐに止んだけどね」
ステイル「話に聞くと、前回の事をうけてシェルターは随分と強化されたとか」
上条「ああ。かなりの予算つぎ込んだらしいぜ」
上条「魔帝の時はだだっ広いところにスシ詰めだったらしいが、今のは普通に二、三ヶ月は暮らせるくらい快適だとか」
禁書「全市民分の個室を確保したって聞いたんだよ」
一方通行の下、厳密には教師でありアンチスキルの黄泉川宅に居候していた際に聞いたのだろう、
インデックスがそう補足した。
ステイル「すごいな。ロンドンにもあれば……」
ステイルはそこで思わず、
今までの癖でそう考えてしまったが。
ステイル「…………はっ……」
すぐさま、小さく呆れたように笑った。
今の己は『反逆者』であることを思い出して。
41: 2011/06/03(金) 00:34:31.10 ID:DdeePM8ko
気付くと空の轟音は止んでいた。
第23学区から飛び立った編隊は、
もう遥か彼方へ行ってしまったようだ。
上条「………………土御門。御坂」
静かになった空をふと見上げながら、上条は友の名を口にした。
そして名も知らない他100名余りの者達の存在を思い浮かべながら。
上条「あいつら、大丈夫か……な」
そう、寂しげに呟いた。
禁書「…………うん。きっと戻ってくるよ」
その上条の言葉に、
同じく見上げたインデックスが優しげな口調で。
ステイル「…………土御門がいるしね。まず心配は無いだろうさ」
ステイルも夜空を見上げながらそう続けた。
そして、三者が視線を降ろしたその時。
彼等は目にした。
いつのまにか20m程前方、道路の真ん中に立っていた―――ひとりの女。
鞘に納まった長い長い日本刀を手にした黒髪の『元』聖人を。
42: 2011/06/03(金) 00:39:26.79 ID:DdeePM8ko
奇しくも状況は、
かつて上条が体験した『とある日』をなぞるかのようであった。
同じこの場所で同じ人物に―――同じように冷酷な眼差しを向けられて―――出会った『あの日』を。
ただ、あの時と違う点もいくつかある。
「人払い、今回は必要ありませんでしたね」
女がぼそりと、言及したその点と。
目を丸くして硬直しているステイルと、
上条の右手を不安げに握りしめるインデックスがいる点と。
赤く光っている女の―――神裂火織の瞳。
ここに綴られる神話の役者は。
友の価値を失ってから知った炎の悪魔と、友と斬り合う覚悟を決めた元聖人。
幻想頃しを有する少年と、能力者の壁を越えて神域へと昇華しつつあるレベル5の少年。
己の出生を知らぬ幼い魔女と、一つの願いを胸に生き延びてきた魔女。
そして、ここに綴られる神話の書き手は。
孤高の天才魔術師と―――太古からの復活と『全て』を求める強欲な『竜』と。
観測者の目を持つ『最強の魔女』と、アンブラの精神を具現化したかの如き『最高の魔女』と。
―――最強の兄と最強の弟と―――新たな伝説へと成る息子―――。
――――――――――――――――
学園都市編
――――――――――――――――
『表』では、望む『未来』を守るべく少年少女が地獄へ向かった頃。
『裏』では、纏わり付く『過去』を振り払うべくの戦いが始まる。
―――
51: 2011/06/07(火) 22:18:00.43 ID:g5k8u3BLo
―――
東の空が白け、
広大なスラム街にも徐々に光が差し込み始めている。
その街の中にあるとある小さなバー、ゲイツオブヘル。
ここは今、店閉まいの時刻を向かえていたが、
一人の客がいまだに図々しく居座っていた。
そのカウンターにふてぶてしく座っている馴染みの客を、
いや、何食わぬ顔で『戻ってきた』男を、
マスターはカウンターに両手の平をつきながら。
ロダン「……ほぉう」
わざとらしく大げさな表情で見ていた。
ダンテ「よう」
ロダン「まだ30分も経ってねえが。『誰かさん』が用事ができたとかで出て行ってからな」
ダンテ「へえそうかい。なんかくれよ。喉乾いたぜ」
カウンターを人差し指で叩く、
他人事のようにそ知らぬ顔のダンテ。
ロダン「お客さんよ、もう店閉まいの時間なんだが。お帰りになってくれねえか?」
ダンテ「あー、それなんだがな」
そこでダンテは。
ロダンに対抗するかのようにこれまた大げさに肩を竦めて。
ダンテ「ちょいと状況が変わってな、『足』が無くなっちまって『お帰り』できなくなった」
ロダン「人造悪魔のお嬢ちゃんはどうした?」
ダンテ「ルシアちゃんはちょうどさっき、デュマーリ島に行ったらしい」
ロダン「ほう、そいつは難儀だな……それでだ。それはお前さんがここに居ることと関係あるのか?」
ダンテ「…………」
ロダン「…………」
ダンテ「お前が俺を送t」
ロダン「失せろ」
東の空が白け、
広大なスラム街にも徐々に光が差し込み始めている。
その街の中にあるとある小さなバー、ゲイツオブヘル。
ここは今、店閉まいの時刻を向かえていたが、
一人の客がいまだに図々しく居座っていた。
そのカウンターにふてぶてしく座っている馴染みの客を、
いや、何食わぬ顔で『戻ってきた』男を、
マスターはカウンターに両手の平をつきながら。
ロダン「……ほぉう」
わざとらしく大げさな表情で見ていた。
ダンテ「よう」
ロダン「まだ30分も経ってねえが。『誰かさん』が用事ができたとかで出て行ってからな」
ダンテ「へえそうかい。なんかくれよ。喉乾いたぜ」
カウンターを人差し指で叩く、
他人事のようにそ知らぬ顔のダンテ。
ロダン「お客さんよ、もう店閉まいの時間なんだが。お帰りになってくれねえか?」
ダンテ「あー、それなんだがな」
そこでダンテは。
ロダンに対抗するかのようにこれまた大げさに肩を竦めて。
ダンテ「ちょいと状況が変わってな、『足』が無くなっちまって『お帰り』できなくなった」
ロダン「人造悪魔のお嬢ちゃんはどうした?」
ダンテ「ルシアちゃんはちょうどさっき、デュマーリ島に行ったらしい」
ロダン「ほう、そいつは難儀だな……それでだ。それはお前さんがここに居ることと関係あるのか?」
ダンテ「…………」
ロダン「…………」
ダンテ「お前が俺を送t」
ロダン「失せろ」
52: 2011/06/07(火) 22:21:53.18 ID:g5k8u3BLo
そう一蹴したロダンは、
ダンテに背を向けてはカウンターの後ろを整理し始めた。
ダンテ「おいおい、つれねえな」
ロダン「お前さんが自分でやれば良いだろうが」
ダンテ「俺は二度とやらねえって決めたんだ。アレは向いてねえ」
ロダン「知るか」
ダンテ「ヘイ、いいじゃねえか。パッと俺を飛ばすだけだパッてな」
ロダンは続けて、今度はいそいそとカウンターを布巾で磨き始めたが。
ダンテ「ま、それとついでに天界の知り合いにもちょっくら口添えしてくれりゃあ、俺としては言うこt」
ロダン「―――待て」
そのダンテの言葉を耳した瞬間はたと手を止めて、
彼の声を遮った。
そしてダンテの方へと向き直り。
ロダン「…………お前さんよ、天界の連中と会うつもりか?」
そう、確かな口調で問うた。
そんな関心を示したロダンを見て、ダンテはニヤリと笑みを浮かべ。
ダンテ「ああ。良い機会だから一度話してみたくてな。お前が居てくれりゃあ随分と助かるんだが」
肘をカウンターに載せ、ロダンの方へと身を乗り出して。
ダンテ「大昔は良く慕われてたんだろ?『ファーザー・ロダン』さんよ」
それに対抗するように、
ロダンも肘をついては身を乗り出して睨み。
ロダン「……何度も言ってきたが、今一度言わせてもらう」
ロダン「俺は中立だ。どの勢力にも加担はしねえ」
53: 2011/06/07(火) 22:23:51.55 ID:g5k8u3BLo
そうはっきりと告げて。
ロダン「さっさと出ろ」
ロダンは再びカウンターを磨き始めた。
ダンテは鼻を軽く鳴らしては、
カウンターに肘を乗せて頬杖をし。
ダンテ「そうかい。じゃあいくつか答えてくれ。満足したら出る」
ロダン「……とりあえず聞いてやろう」
ダンテ「お前は何で堕天した?」
ロダン「何度も言っただろう。退屈だったからだ」
ダンテ「……それだけか?ちゃんと答えるまで出ねえぞ」
ロダン「…………奴らとソリが合わなかった、それもある」
ダンテ「奴ら?」
ロダン「四元徳だ」
ダンテ「へぇ……人間界に来たのは?」
ロダン「制限隔離された中で形成された人間の技術。これに未知の拡張性を見たからだ」
ロダン「まだまだ未熟だが、力との併用・応用次第ではとんでもねえ『ツール』になる」
お前さんの銃なんかがその最たる例だな、とロダンは続けた。
54: 2011/06/07(火) 22:27:43.56 ID:g5k8u3BLo
ダンテ「へぇ……中立にこだわるのは?」
ロダン「面倒だからだ。特定の勢力に肩入れすれば、いつか必ず窮地に陥る」
ロダン「例えば、どんな強大な勢力でも必ず終わりが来る。ジュベレウス、そして魔帝の天下のようにな」
ロダン「その後はどうなる?天界ではイカレタ四元徳共の狂信的な粛清、魔界では後釜を巡っての大内戦だ」
そこでロダンは再び手を止めてはダンテの方へと向き。
ロダン「んな騒動に巻き込まれるのは『もう』ゴメンだ」
ロダン「だから俺は分け隔てなく売る。悪魔にも天使にも、悪魔を頃す道具も天使を頃す道具も」
ロダン「俺の店で作られた武器が、完璧に動作すれば満足だ。俺は黙々と武器を作り研究したい、それだけだ」
ロダン「俺、もしくは俺の店を潰そうとする奴等だけが敵、それ以外は敵も味方もねえ」
ダンテ「まるで退職して趣味に浸るジジイだな」
ロダン「否定はしねえ。俺は一線から引退したからな。それでまだ話は続くのか?」
ダンテ「ああ、次が最後だ」
そう言うとダンテは一息ついて。
ダンテ「要は、店のためなら戦うんだな?」
55: 2011/06/07(火) 22:29:17.08 ID:g5k8u3BLo
ロダン「……そうだ。俺は俺の店を守るためだけに動く」
ダンテ「なら、店を壊そうとする連中は潰さなきゃな」
ロダン「ああ。もちろんだ」
ダンテ「この店がある街を壊そうとする連中も潰さなきゃな」
ロダン「…………ああ」
ロダンはここで、ダンテのその物言いで彼の意図を悟ったが。
ダンテ「となると、この街が属しているこの国を」
時既に遅し、流れを逆転させる余裕はもう無く。
ロダン「この国が属している人間世界を」
ダンテの言葉を否定できる道理も無く。
ダンテ「ああ、そうなるとだ。今回の騒動は」
ロダン「……黙って見ているわけにはいかねえ、ってか」
ロダンはそのスキンヘッドの頭に手を当てては、
諦めがちに笑った。
そんな彼を見て、ダンテは無言のままニヤけて両手を広げた。
その仕草は「これで俺の話は終わりだ」とも、
「俺の言葉に何か間違ってることはあるか?」とも取れる。
いいや、両方の意が篭っているのだろう。
ダンテは、広げた手を再びカウンターに載せては身を乗り出し。
ダンテ「『諦めな』、ファーザー・ロダン。まだ引退には早えってこった」
ロダン「…………」
ロダンはしばらく言葉を返さずそのまま押し黙った。
何か思考を巡らせているのか、
ゆっくりとした一定のリズムでカウンターを人差し指で叩きながら。
そして。
ロダン「………………仕方ねえ」
ダンテ「ハッハー、決まったな。そうだ楽しめ」
56: 2011/06/07(火) 22:38:20.56 ID:g5k8u3BLo
ロダン「だが言っておくからな。俺は何も気分で引退を決め込んでるわけじゃねえ。理由もしっかりある」
ロダン「実際、天界にいた頃に比べりゃ、今の俺は酷く衰えている」
ロダン「恐らく全力で戦えるのは一瞬だけだ」
ダンテ「なあに。お前に『獲物』は分けねえから心配するな」
ロダン「それともう一つ」
ロダン「お前さんの親父さんがなぜジュベレウス派の行動を黙認したか、それは良く考えてあるんだろうな?」
ダンテ「ああ」
ロダン「俺がお前に協力すれば、スパーダの一族はジュベレウス派と完全に敵対することになる」
ロダン「天界と和解する道は―――」
ダンテ「―――無くなると思え、だろ?」
そこでダンテは半ば立ち上がっては再び身を乗り出して。
ダンテ「わーかってるってロダンちゃん。君は、本当はそこが気がかりだっただろ?んん?」
手の平で一度、カウンターを掃い叩いてそう言った。
いかにも愉快気に、からかいの笑い声を混ぜて。
ロダン「…………………………」
ダンテ「それに和解できなくなるのは『ジュベレウス派の天界』とは、だろ?」
そしてどかりと、再び椅子に座り直してダンテは続ける。
ロダン「……」
ダンテ「問題があるなら潰して別の派閥に『交代』させればいい」
ダンテ「言ってたじゃねえか。天界も一枚岩じゃねえって。お前みたいな奴も残ってるんだろ?」
ダンテ「ソリが合わなくともしぶしぶ従ってる連中が」
ロダン「……天界と話したいってのはそれか?」
ダンテ「あー、さあな。話すことは会ってみてから決める」
ダンテ「ジュベレウス派ととことんやり合うかどうか、もな」
57: 2011/06/07(火) 22:41:34.01 ID:g5k8u3BLo
ロダン「……そうか。一応、これは肝に命じておけ」
ロダン「ジュベレウス派は、ジュベレウス信奉への自己犠牲心に『溢れすぎて』イカれてる連中だ」
ロダン「決して譲歩せず、決して妥協せず、決して敗北を認めず、目的を達するためには手段を選ばない」
ロダン「もしお前さんと正面から敵対した場合は、連中は必ず人間を人質にする」
ロダン「そしてお前さんが折れるか氏ぬかしないと、最終的には本当にセフィロトの樹で人間の魂を引き抜く」
ダンテ「わかってる」
ロダン「真正面から武力で来る魔界とはまた違うからな。状況を見誤るんじゃないぞ」
ダンテ「なあに―――人間社会と似たようなもんだろ」
ダンテは相変わらずの軽い調子で、
ロダンの問いにそう答えていった。
ロダン「……ふふん、まあな」
ロダンはカウンターを磨き終えると、
背後の棚の整理を再開し。
ロダン「いくつか、状況を確認させてもらおう」
背を向けつつ話を続けた。
ロダン「バージルのやろうとしている事に横から割り込む、それが一応、お前さんが明確にしてる、数少ない『確かな』目的だな?」
ダンテ「まあな」
ロダン「つまり、お前さんとしても天界の門は開いて欲しい」
ダンテ「そうだ」
58: 2011/06/07(火) 22:45:38.03 ID:g5k8u3BLo
ロダン「では、学園都市に降りる天界の軍勢はどうするつもりだ?」
ロダン「いくらお前さんでも一人では無理だろう?学園都市を破壊しないように全て押さえ込むってのは」
ダンテ「考えてあるさ。心配するな」
ロダン「…………魔界の門はどうなんだ?それも開かせるのか?」
ダンテ「バージルが必要としている以上当然だ。ま、そこも考えはある」
ロダン「魔界の軍勢もか?」
ダンテ「それはもっと簡単だ。天界と違って魔界にはいつでもいけるだろ。こっちから乗り込んで先に『大将』共を狩っちまえば良い」
ロダン「……ほう」
ロダン「じゃあバージルの息子にはどう説明するつもりだ?」
ロダン「放っておくと、天界の門も魔界の門も何から何まで潰しかねないぞ」
ダンテ「ああ。このままだとバージルとぶつかっちまうだろうな」
ロダン「状況を説明するのか?」
ダンテ「しない。したらしたで面倒くせぇ」
ロダン「じゃあどうする」
ダンテ「説明はしない。だが承諾してもらう」
ロダン「ん?」
ダンテ「素直に頼むのさ」
ロダン「……………………まあ、その辺はお前さんに任せておこうか」
59: 2011/06/07(火) 22:51:52.29 ID:g5k8u3BLo
その会話を交わしている間に一通り店の作業が終わり、
ロダンはカウンターに両手をのせてダンテと向かい合い。
ロダン「さて、OK、まずはどこに行くつもりだ?」
ダンテ「魔女の根城に行けるか?魔界にあるんだろ?そこにバージルもいると思うんだが」
ロダン「『魔女の煉獄』か、確かに魔界にあるが……」
ロダン「『魔女の煉獄』はその名の通り、魔女の怨念が積もり積もって形成された『閉鎖領域』だ」
ロダン「魔女共の思念に受け入れられない限り、入ることはできねえ」
ダンテ「……入る方法は他には無いのか?」
ロダン「ああ。魔帝統一時代でも治外法権だった領域だからな。ま、実質は実害が無い小さな辺境だということで放置されてただけだが」
ダンテ「じゃあソレは後回しだ。先に天界の奴に会おうじゃねえか」
ロダン「ならば『プルガトリオ』だな。あそこの天界に近い領域なら、天使共が大勢たむろしてる」
ダンテ「『狭間の世界』か。良く話は聞くが行ったことはなかったな」
ロダン「いやいや。お前さんだって数え切れないほど行ってるはずだぜ」
ダンテ「そうなのか?」
ロダン「悪魔が獲物を引き込んだりする際に良く『プルガトリオ』を使う。常套手段だろうが。もしかして知らなかったのか?」
ダンテ「へえ。今知ったぜ」
ロダン「……お前さんって奴は、本当に良くわからんな。『気味が悪い』くらいだ」
常識を知らぬ癖に、何人も気付かなかったことを容易に見出してしまう。
そんなダンテの『得体の知れなさ』を再度認識しながら、ロダンはため息混じりに笑った。
ダンテ「おっと、その前にとにかくネロだネロ」
と、そこでダンテは椅子から跳ねるようにして立ち上がり。
ダンテ「ネロを拉致するぜ」
―――
60: 2011/06/07(火) 22:53:12.06 ID:g5k8u3BLo
―――
神裂火織。
氏んだと思われていた彼女が生きていた。
それは非常に喜ばしいことなのに。
この相容れぬ距離感は一体。
なぜ―――こんなに空気が張り詰めている?
上条「…………」
そんな疑問を抱いても、まるで納得できなくとも。
とにかく否定はできなかった。
研ぎ澄まされた直感が嗅ぎつけた、この明確な『戦意』を。
神裂の姿に安堵と喜びを抱く一方、
鍛えられた本能は、その姿を見て自動的に体を警戒状態へと移行させる。
脇のインデックスが握る右手、そこから彼女の緊張も伝わってくる。
そして逆側の隣にいる、ステイルの緊張も空気を伝って。
上条「……」
いや、ステイルはそれだけではなかった。
喜びと戸惑いと緊張は上条と同じだが、それ以上に彼は。
上条「ステ……イル?」
どうしてお前はそんなに―――『敵意』を滲ませているんだ?
思わず彼の横顔を見て、上条は心の中でそう呟いてしまった。
ステイルはどう見ても、戦意を捉えた本能だけはなく。
心までもが戦闘態勢に入っていたのだ。
そしてそれに呼応するかのように。
共鳴するかのように、輝きを強める神裂の瞳。
神裂火織。
氏んだと思われていた彼女が生きていた。
それは非常に喜ばしいことなのに。
この相容れぬ距離感は一体。
なぜ―――こんなに空気が張り詰めている?
上条「…………」
そんな疑問を抱いても、まるで納得できなくとも。
とにかく否定はできなかった。
研ぎ澄まされた直感が嗅ぎつけた、この明確な『戦意』を。
神裂の姿に安堵と喜びを抱く一方、
鍛えられた本能は、その姿を見て自動的に体を警戒状態へと移行させる。
脇のインデックスが握る右手、そこから彼女の緊張も伝わってくる。
そして逆側の隣にいる、ステイルの緊張も空気を伝って。
上条「……」
いや、ステイルはそれだけではなかった。
喜びと戸惑いと緊張は上条と同じだが、それ以上に彼は。
上条「ステ……イル?」
どうしてお前はそんなに―――『敵意』を滲ませているんだ?
思わず彼の横顔を見て、上条は心の中でそう呟いてしまった。
ステイルはどう見ても、戦意を捉えた本能だけはなく。
心までもが戦闘態勢に入っていたのだ。
そしてそれに呼応するかのように。
共鳴するかのように、輝きを強める神裂の瞳。
61: 2011/06/07(火) 22:54:37.51 ID:g5k8u3BLo
上条「(―――だめだ―――)」
理解が把握できなくとも、肌で感じる。
これはだめだ、とにかくだめなんだ、と。
このままだと悪循環、負の方向へと転がっていく。
何がどうなるか、具体的にはわからないがこれだけは簡単に悟れる。
酷いことが起きてしまう、と。
だが何もできなかった。
あの神裂の佇まいを見てしまった瞬間、上条は何もできなくなってしまっていたのだ。
特に構えをとるどころか警戒すらしていない、リラックスしているように見えながら。
どこからどう踏み込んでも、間合いに入った瞬間に切り捨てられてしまう、そんな鉄壁の隙の無さ。
上条「―――……」
冷たく無機質な完璧さ。
まさしく―――。
禁書「………………バージル」
禁書目録としての目を持つインデックスが呟いた。
禁書「……あの力の組成…………9割以上……バージルと同一だよ」
その瞳で捉えた、
的確で具体的な答えを。
63: 2011/06/07(火) 22:56:57.71 ID:g5k8u3BLo
その確かにされた事実は、状況を好転させたりなどはしない。
むしろこの緊張をもっと強くして。
更に状況を負の方向へと転がしていく。
上条とインデックスの緊張を張り詰めさせ、
ステイルの目を鋭くさせていき。
神裂「―――インデックス、ステイル、上条当麻」
彼等の名を口にする神裂の無機質な声が、更に場の空気を軋ませる。
ステイル「…………神裂……」
瞬き一つせず彼女を見据えているステイルから搾り出された声も。
神裂「はい」
ステイル「……生きていたのか」
二人が交わすこの声は、本来は喜びに満ち溢れていなければならないのに。
神裂「……はい。正確には、あの時確かに一度氏んでいますが」
ステイル「転生、したんだな」
神裂「はい。ステイル―――あなたと『同じ』ですよ」
ステイル「ああ、―――『同じ』だな』
ここで放たれた声には情など欠片もなかった。
そして。
ステイル「ところで、僕達に何か用があるように見えるが」
神裂「はい。インデックスに協力していただきたいことがありまして」
神裂のその言葉で、場の空気が一変した。
ステイル「協力…………そうか―――」
特に。
ステイル「―――『やはり』。インデックス、か」
ステイルの醸すオーラが―――。
64: 2011/06/07(火) 23:03:13.32 ID:g5k8u3BLo
いまやステイル自身、この衝動は抑えられなかった。
身の内から湧き上がる敵意を。
確かにローラの話や今の神裂を見れば、警戒も必要な相手であることもわかるが、
それだけでは生成し得ないこの過剰の敵意。
ステイル「―――」
生きている神裂を前にして心の底から嬉しいのに。
本当に、涙が出てしまうほどに嬉しいはずなのに。
彼女の凛々しい顔がどれだけ―――『恋しかったか』というのに。
それを力ずくで捻じ伏せてしまう―――奴は敵だ、戦え―――殺せ、という衝動。
これは別に謎の衝動では無い。
ステイル自身、大本の原因はわかっていた。
己は使い魔―――『魔女の奴隷』なのだから当然の事。
ローラ=スチュアートに体のみならず、心をも奪われているのなら。
いや、『なら』ではなく確実に奪われていた。
なにせ今のステイルにとって、ローラはインデックスと『同じ』。
頭では別人だとわかっていても、惹きつけられた心は―――嘘がつけなかった。
インデックス
『ローラ』が戦えというのなら―――ステイルは戦う。
65: 2011/06/07(火) 23:04:53.56 ID:g5k8u3BLo
神裂「……まず話を聞いていただけませんか?」
聞くべきだ、彼女の話を聞くんだ、
という声が心の隅で発されるもすぐに衝動に押し潰され。
ステイル「その前に説明してくれ―――」
最悪の答えを彼女から引き出そうとする。
神裂はきっと正直に答えてしまう。
そしてその答えを聞いてしまったら、もう後戻りはできないのに。
それを聞いてしまったら『敵』だと―――。
ステイル「―――君の力から、バチカンにいた『あの魔女の匂い』がする理由を」
―――『確定』してしまうのに。
神裂「―――……転生の際、彼女達の『協力』がありましたから」
そしてその答えを聞いた瞬間。
ステイルの脳内に『愛おしい声』が響き。
インデックス
『「 私 」のために戦え―――我が使い魔よ。さあ―――』
ステイル「―――」
彼を押し留めていた最後の箍がゆっくりと。
軋みながら弾け切れていく。
66: 2011/06/07(火) 23:07:14.06 ID:g5k8u3BLo
ステイル「―――君達は離れてくれ」
直後、ステイルのその手、腕から炎が湧き上がり、
上条とインデックスは後ろへと慌てて身を引いた。
上条「おい……!待て―――ステイル!とりあえず神裂の話も―――」
インデックスを庇うような体制のままの上条、
彼が飛ばしてきた言葉を最後まで聞かずに遮っては。
ステイル『誰も信じるなと言ったはずだ』
紅蓮の瞳を向け、そしてエコーのかかった声でそう突きつけた。
ステイル『―――だから「僕達」から離れろ。今すぐに』
僕達、と自分も含める精一杯の『抵抗』も篭めて。
その時。
神裂「ステイル、私の話を―――」
禁書「すている!―――話を―――」
上条の腕の中から叫ぶインデックスの声と。
神裂「―――ステイル!!!」
無機質だったのが、その時だけ僅かに熱を帯びた風に聞えた神裂の声と、
目の覚めるようなインデックスの声。
それが一瞬だけ、ステイルの動きを止めるも。
直後『脳内』に直接響いてきた、
『―――私のために戦って!』
『インデックス』の声が彼の背中を押した。
『ここにいるインデックス』ではない、『彼女の声』が。
その瞬間、ステイルは全身から炎を吹き出しては魔人化。
角のある炎の衣と、手先には炎剣を形成―――。
67: 2011/06/07(火) 23:10:02.45 ID:g5k8u3BLo
上条はインデックスがいる以上、
その場を離れざるを得なかった。
咄嗟に彼女を抱えた上条が離れた直後、
吹き荒れた魔界の業火が何もかもを溶解させ、周囲は一瞬でオレンジの灼熱の海に変わったのだから。
神裂「―――っ」
その時、神裂が前へと一気に跳び出した。
それはステイルを無視して上条を追う軌道であったが。
直後、彼女の前の『炎の中』からステイルが出現しては立ち塞がった。
体を炎にして先回りしたのだ
この一帯は今や、ステイルの『体の中』。
神裂「…………そう……ですか」
灼熱の飛沫をあげなから、ステイルの前20m程で停止した神裂は
何かに納得したかのように小さく呟き。
鞘に納まっている七天七刀の柄へ、添えるように手をかけた。
神裂『―――わかりました』
そして声にエコーがかかり、輝きを増す瞳と。
淡い『青い光』を纏い始める体。
68: 2011/06/07(火) 23:11:59.94 ID:g5k8u3BLo
ステイル『―――』
もう止まらなかった。
もう後戻りもできない。
もう選択は無い。
戦う、その一本道のみ。
いくら上条が庇ってくれてるとはいえ、インデックスに万が一あることを考えて、
さっきのような追い払い方は絶対にしてはならないのに。
でも己はやってしまった。
どうかしている。
どうにかなってしまっている。
『どうしてこんな―――』
なんとか全うでありつづけた一部の心が、
衝動の荒波に揉まれながらも懸命に叫んでいるが。
『僕はどうしたら―――僕はどうなって―――僕は一体何を―――僕はなぜ―――わからない』
到底、流れを曲げる力など無かった。
『教えてくれ、上条』
『教えてくれ、土御門』
『教えてくれ、インデックス』
『教えてくれ―――』
そんな懇願の声をあざ笑うかのように、
戦いの火蓋はあっけなく切られ。
『助けてくれ―――』
次の瞬間には、炎剣と七天七刀の鞘が衝突する。
明確な殺意を帯びて。
『――――神裂』
―――
69: 2011/06/07(火) 23:16:26.25 ID:g5k8u3BLo
―――
スフィンクスを抱えて丸まっているインデックス、彼女を腕の中に抱き、
上条は懸命に遠ざかっていた。
後方で荒れ狂っている炎から。
当然着替えの入ったバッグなんかも持っている場合ではなく、早々に手放し。
道路を壊す事もやむなし。
一歩一歩アスファルトを大きく砕くほどの力で地面を蹴っては、
インデックスが耐えられる範囲の最高速度で飛び進む。
上条「―――」
だがその行動とは逆に、意識は離れるどころか後ろに向いたまま。
ステイルと神裂に。
あの二人が本気で頃しあうなんて―――絶対あってはならない。
誰よりもインデックスのために戦い続け彼女を守ってきた二人なのだ。
そんな二人が―――。
上条「―――」
しかし。
あの瞬間は離れるしかなかった。
離れなければ、インデックスもステイルの業火に巻き込まれていたのだから。
防衛としてまた魔女の力が発動するにしても、
再びあんな彼女を状態にさせるなど論外。
下手な刺激は絶対に与えられないのだ。
スフィンクスを抱えて丸まっているインデックス、彼女を腕の中に抱き、
上条は懸命に遠ざかっていた。
後方で荒れ狂っている炎から。
当然着替えの入ったバッグなんかも持っている場合ではなく、早々に手放し。
道路を壊す事もやむなし。
一歩一歩アスファルトを大きく砕くほどの力で地面を蹴っては、
インデックスが耐えられる範囲の最高速度で飛び進む。
上条「―――」
だがその行動とは逆に、意識は離れるどころか後ろに向いたまま。
ステイルと神裂に。
あの二人が本気で頃しあうなんて―――絶対あってはならない。
誰よりもインデックスのために戦い続け彼女を守ってきた二人なのだ。
そんな二人が―――。
上条「―――」
しかし。
あの瞬間は離れるしかなかった。
離れなければ、インデックスもステイルの業火に巻き込まれていたのだから。
防衛としてまた魔女の力が発動するにしても、
再びあんな彼女を状態にさせるなど論外。
下手な刺激は絶対に与えられないのだ。
70: 2011/06/07(火) 23:23:25.80 ID:g5k8u3BLo
だが、一旦離れてここから戻る、という選択もある。
むしろ今の上条はそれを考えていたのだが。
そこで大きな問題にぶち当たった。
禁書「―――戻ろうよ!!!」
腕の中で上条の襟元を強く掴んでは、
グイッと顔を近づけて。
禁書「―――とうまっ!!!戻らなきゃ!!!」
そう叫ぶインデックスの声をも、黙って無視しなければならない問題が。
上条「……」
一帯は業火に包まれているであろうから、
インデックスを中に連れてはいけない。
となると当然、
二人を止めに行くのならば彼女を外に置いて行く必要がある。
禁書「―――止まってよ!!!止まって!!!!!」」
上条「―――」
そして当然、それは不可能。
状況が状況、彼女を一人にしてはいけない。
それは絶対に避けなければならない。
何が何でも、だ。
インデックスに上条一人だけでは、戻ることなどできなかった。
71: 2011/06/07(火) 23:25:16.79 ID:g5k8u3BLo
と、その時。
上条「―――」
大通りの向こうに一つ、
見覚えのある人影が飛び出てきたのが見えた。
長い槍を頭上に掲げ、
目立つように腕を振っている女性。
上条「い、―――五和?!」
禁書「―――あっ!」
上条は即座に両足でアスファルトを削り飛ばしては、
急ブレーキをかけて豪快に止まった。
五和「―――上条さん!!」
舞い上がった粉塵に少し顔を背けながらも、
二人の下へと駆け寄ってきた五和。
五和「―――っ……」
とそこで、彼女は上条の前にきて急にピタリと立ち止まった。
インデックスの顔を見ては、驚きの色を浮べて。
五和「……ぁ…………本当に……最大主教と……」
そしてそう呟いた。
それとほぼ同時に。
禁書「…………その槍……」
こちらはやや訝しげな表情で五和の槍を見ながら。
72: 2011/06/07(火) 23:28:02.58 ID:g5k8u3BLo
上条「……!」
インデックスの反応の意味はわからずとも、
五和の方はすぐに上条は悟った。
ローラ=スチュアートとインデックス、
両者のとんでもない類似性を直に『気付いて』驚いているのだろう。
五和もまた、
何らかの方法でローラ=スチュアートが纏っていた『偽装の認識』を破っていたのだろう。
上条「五和!」
ただ、彼女が戻るのを黙って待っている時間は無い。
五和「あっ……!す、すみません!」
びくっと体を揺らしては、五和は慌てた調子で。
五和「プリエステスとステイルさんは……やっぱり……!!」
上条達が確かに二人しか居ないこと、
そして背後で立ち上る業火を見てそう続けていたところ。
上条「………………」
ステイルと神裂、合流した五和。
そこで上条は思い当たった。
五和がいる今なら、『戻れる』のではないか、と。
73: 2011/06/07(火) 23:30:54.93 ID:g5k8u3BLo
ステイルと神裂を止める間、インデックスは五和に守ってもらうのだ。
さすがに大悪魔などを相手にすればどうしようもないものの、
五和だってかなりの手錬れだというのをウィンザー事件の時に再確認している。
彼女も信頼できる強さを有している。
五和「あの―――」
上条「細かい話は後に!」
五和が何かを口にしかけたところで上条は言葉を被せ、
上条「まずはステイルと神裂を止める!」
禁書「ついて来るんだよ!!」
上条の言葉に力強く頷いては。
五和「―――はい!!」
五和も言おうとしてたこともそれだったのか、
特に戸惑うことなく彼女も強く頷いた。
そして一行が踵を返し、夜空を照らし挙げる業火の方へと向か―――おうとしたその瞬間。
「―――だめよ」
立ち塞がれた。
そこに響いた四番目の声、いつの間にか背後にいた魔女。
長い長い、金色に輝く髪をふわりと靡かせている―――ローラ=スチュアートに。
74: 2011/06/07(火) 23:33:36.54 ID:g5k8u3BLo
三人はまさにその瞬間、言葉を失っていた。
ローラが背後に突然現れた、という事と。
『偽装の認識』をもう纏ってはいない彼女の姿を見て。
特にインデックスは、完全に頭が真っ白になっていたらしく。
禁書「……あなたは………………あなたは…………」
目を大きく見開いてはじっと。
禁書「…………『夢』で…………」
吸いつけられるようにしてローラの顔を見つめていた。
と、その時。
五和が一瞬で凄まじい形相になって動く。
彼女はフリウリスピアを握りこんで、その切っ先をローラへ向け―――ようとしたが。
両手で槍の柄を掴むことすら叶わないほどに早く。
五和「っ―――」
ローラが右手に持つ、青いフリントロック式拳銃の口が五和に向いていた。
上条「―――っ」
それを見て咄嗟に。
左手で腰から黒い拳銃を引き抜いては、
上条もローラの頭に突きつけて。
上条「なっ……何してやがる!!!降ろせ!!!!」
だがローラは余裕たっぷりに。
ローラ「―――果たして撃てるのか?んん?」
そんな彼をあざ笑った。
ローラ「―――『想い人』を」
その左手が力み、激しく震えている上条を。
75: 2011/06/07(火) 23:34:45.99 ID:g5k8u3BLo
当然。
上条「―――………………!!!!!」
上条には引き金が引けるわけが無かった。
頭ではわかっていても。
心が判別できない。
同じと認識してしまう。
この目の前のローラとインデックスが『同一人物』だと。
上条「うるせえ!!!!降ろすんだよ!!!降ろせ!!!」
息を荒げていくら叫んでも、それはハリボテ。
どう足掻いても彼がローラに危害を加えることなどできなかった。
彼がインデックスを想う限り、永劫に。
五和「上条さん!!!逃げてください!!!早く!!!!早くっ!!!!!」
そして半ば叫びながら五和はそう上条に言葉を放つも。
それも彼の性分上、不可能なこと。
上条「…………!!!!」
その時、ローラは。
いかにも耳障りといった顔で五和へと顔を向けては、ジ口リと睨んだ。
そして。
ギチりと、ローラの拳銃の引き金が軋み―――。
ローラ「―――邪魔でありけるのよ。『ネズミ』は」
―――魔弾が放たれた。
だがその魔弾は、五和の魂を刈り取りはしなかった。
直前に標的が変わったのだ。
それは、一気に後方から伸びてきた―――『銀髪』のウィケッドウィーブ。
この時、一瞬で形相が変わったのは―――今度はローラの方であった。
76: 2011/06/07(火) 23:37:51.65 ID:g5k8u3BLo
上条「!!!!」
五和「―――!!!!!」
その突如起こった出来事は、
上条ですらまともに認識できない程の速度で。
そして上条を遥かに超える規模の力が爆発的に吹き荒れては激突した。
ローラは瞬時に振り向むいては両手両足から、
まるで舞うような挙動で魔弾を立て続けに放ち、地面を蹴って空高く跳ね飛んだ。
放たれた大量の魔弾が、どこからともなく現れたウィケッドウィーブに叩き込まれていき。
鉄線が弾け切れるように、銀髪がどんどんぶち切れていく。
しかし焼け石に水とはこのこと。
ローラの弾幕などものともせず、
ウィケッドウィーブは再生どころかさらに増強・加速されて彼女へと伸びていく。
ローラ『―――Ha!!』
それへ向けて、今度はローラもウィケッドウィーブを放つ。
金髪で形成された巨大な足が虚空から出現しては、彼女の動きに連動して放たれ、
銀髪の束を弾き飛ばしていく。
だがそれでも状況はまるで好転しない。
ローラ『チッ―――!!!!』
彼女の放つウィケッドウィーブの威力はそれはそれは並外れていたが、
この銀髪はまさに桁違いだった。
遥かに上回る力と規模の前に、ローラは見る見る追い込まれていき。
そして上方の気配に気付くが、既に遅し。
77: 2011/06/07(火) 23:39:24.87 ID:g5k8u3BLo
ローラ『―――』
この銀髪の主、真っ赤なボディスーツを纏った『正統派』最強の魔女がすぐ真上にいた。
くびれた腰を更に捻り、
長くしなやかな足を溜めて―――今、この瞬間に蹴りを放つ姿勢で。
ジャンヌ「―――Yeeaaa!!!!」
そして放たれた蹴りが、
振り向いた瞬間のローラのわき腹に食い込み。
彼女は衝撃で声を漏らす暇さえなく、その強烈な一撃で沈み。
下方に待ち構えていたウィケッドウィーブに叩き込まれた。
それは本当に一瞬の出来事。
上条達が地に伏せることすらできなかった程。
そしてその一瞬で、ローラは捕縛されていた。
五和「―――ジャンヌさん……!!」
ジャンヌ「―――また会ったな。ローラ」
―――ジャンヌの圧倒的な力で。
78: 2011/06/07(火) 23:40:47.25 ID:g5k8u3BLo
ローラ「………………………」
地面の上に仰向けに横たわる姿勢で、
ローラは頭上に立っているジャンヌをジ口リと見上げていた。
銀髪のウィケッドウィーブにきつく巻かれながら、無言のまま。
ジャンヌ「……悪いな。状況が整理できるまで拘束させてもらうぞ」
ローラ「………………………」
それでもローラは無言。
キッと口を引き締め、目を細めて睨み上げていた。
上条「な、な…………」
禁書「え…………え!?」
当然上条とインデックスは状況がまるで掴めず。
ジャンヌ「五和。状況を説明してやんな」
そこで彼等二人に話をするよう、
促しつつジャンヌが振り向いたその時。
彼女がインデックスの顔を『直に初めて』見た瞬間。
ジャンヌ「――――――――なっ―――」
禁書「…………?」
ジャンヌは完全に硬直してしまう。
ジャンヌ「―――メアリ―――いや―――ローr」
これが、彼女がここで犯したたった一つのミス。
この正統派最強の魔女にできた唯一の『隙』であった。
そして当然。
ローラはこの瞬間を見逃さなかった。
79: 2011/06/07(火) 23:47:22.89 ID:g5k8u3BLo
ニッと、ローラが笑った刹那。
禁書「―――ッ゛」
上条「!」
インデックスの体がビクンと跳ねた途端。
直後、どこからともなく溢れ出した『青い髪』のウィケッドウィーブが、周囲を一気に覆い尽くした。
ジャンヌ「―――!!しまっ―――」
そこにいる者達が皆、お互いの姿を確認できないほどの密度で。
いや、実際に一時的に全ての知覚を完全遮断していた。
そしてこの青髪の舞は瞬時に終わる。
『全て』をまんまと運び去った上で。
ローラもインデックスも。
上条も五和もまるごと全てを。
晴れ上がり、青い髪が姿を消した後には、
ジャンヌと彼女のウィケッドウィーブしか残っていなかった。
上条・インデックス・五和がいた場所は、
地面ごとおおざっぱに抉り取られて消えており。
ローラが巻かれていた空間は蛻の殻。
ジャンヌ「クソッ―――!!!!!」
そしてそのウィケッドウィーブの束の淵には、今しがたつけたばかりのキスマークと。
金髪で編みこまれた「Dear Janne」という言葉が添えられていた。
ジャンヌ『―――ロォォォォラァァァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ!!!!!!!』
後に響いたのはとてつもない怒号。
ミスを犯した不甲斐ない己。
そして己を舐めてコケにしているローラ。
それらへの憤怒に駆られたジャンヌの、
腹の底から放たれた化物染みた咆哮であった。
―――
84: 2011/06/11(土) 13:40:28.58 ID:qpa7IMCBo
―――
天は漆黒の空、地は黒い『霧状』の浅い海。
そんな光景が広がる魔界の奥底の一画、煉獄の中に、ぽつりと二つの円形ドームが並んでいた。
一つは魔女の歴代長の像が並び立っている霊廟。
もう一つは、カンタベリー大聖堂の地下から運び出された『神儀の間』。
『今の人間界』に深く関わった存在らの像が連なっている巨大な神殿だ。
そしてこの神殿のホールの中央には今、
小さな円テーブルを挟んでチェスに興じている二人の魔女がいた。
安価な俗っぽいソファーに寝そべって、キャンディを咥えているベヨネッタと。
精巧な彫刻が施されている玉座に座す魔女王アイゼン。
二人は黙々端端と駒を動かしては、
作業が始まる時間までの暇を潰していた。
アイゼン『ほう。人間界侵攻に備えてアスタロトとその軍がプルガトリオ入りしたらしい』
どこからかリアルタイムで情報を仕入れているのか、
駒を動かしながらアイゼンが魔界10強の一柱の動向を口にした。
ベヨネッタ「ふうん」
それにベヨネッタは、特に関心無さ気に相槌を打つ。
口の中でキャンディを転がして、その柄を唇で振りながら。
魔界10強が一柱、恐怖公アスタロト。
アリウスのパトロンであり、覇王復活と人間界侵攻を目論む強大な存在だ。
そしてアスタロト本人のみならず、配下のその勢力も絶大。
良くも悪くも様々な方面へ強く影響を及ぼす。
魔界における諸勢力へは当然、ここ一連の騒動で神経質になっている天界もだ。
むしろ、悪魔達が大挙してプルガトリオに進出したとなれば、
天界は到底黙ってはいられない。
天は漆黒の空、地は黒い『霧状』の浅い海。
そんな光景が広がる魔界の奥底の一画、煉獄の中に、ぽつりと二つの円形ドームが並んでいた。
一つは魔女の歴代長の像が並び立っている霊廟。
もう一つは、カンタベリー大聖堂の地下から運び出された『神儀の間』。
『今の人間界』に深く関わった存在らの像が連なっている巨大な神殿だ。
そしてこの神殿のホールの中央には今、
小さな円テーブルを挟んでチェスに興じている二人の魔女がいた。
安価な俗っぽいソファーに寝そべって、キャンディを咥えているベヨネッタと。
精巧な彫刻が施されている玉座に座す魔女王アイゼン。
二人は黙々端端と駒を動かしては、
作業が始まる時間までの暇を潰していた。
アイゼン『ほう。人間界侵攻に備えてアスタロトとその軍がプルガトリオ入りしたらしい』
どこからかリアルタイムで情報を仕入れているのか、
駒を動かしながらアイゼンが魔界10強の一柱の動向を口にした。
ベヨネッタ「ふうん」
それにベヨネッタは、特に関心無さ気に相槌を打つ。
口の中でキャンディを転がして、その柄を唇で振りながら。
魔界10強が一柱、恐怖公アスタロト。
アリウスのパトロンであり、覇王復活と人間界侵攻を目論む強大な存在だ。
そしてアスタロト本人のみならず、配下のその勢力も絶大。
良くも悪くも様々な方面へ強く影響を及ぼす。
魔界における諸勢力へは当然、ここ一連の騒動で神経質になっている天界もだ。
むしろ、悪魔達が大挙してプルガトリオに進出したとなれば、
天界は到底黙ってはいられない。
85: 2011/06/11(土) 13:43:11.63 ID:qpa7IMCBo
『プルガトリオ』。
水面に映る月の姿のように、各世界の像が投影されて交差する領域、
それが『プルガトリオ』、『狭間の世界』。
虚無に投影されて形成している領域のため、果てが無く無限に広がる世界だ。
その遥かなる奥底では、
各世界の像が無秩序に混ざり合った混沌とした光景が広がっており。
逆に各世界に近い階層では、その世界と瓜二つの光景が広がっている。
例えば人間界に特に近い領域では、人間界そのままの空間が形成される。
更に、全く同じ物理的世界の像が形成されるほどに近ければ、
間接的に干渉することも可能である。
そして人間界には直接行けない天界の存在は、この作用を上手く利用して来た。
この最も人間界に近い階層を陣取り、ここから間接的に手を下すのだ。
ただ、このやり方は最終手段であり、
セフィロトの樹などといった制御機構でも解決できない問題のみに限るが。
その『問題』の最たる例といえば、当然魔女であろう。
天使達はここを拠点として魔女に間接攻撃を仕掛け、
乗り込んできた彼女達を迎え撃つ。
魔女にとっても天使の本体を直接殺せる領域であるため、
彼女達は自らプルガトリオに乗り込んで行ったのだ。
そうやって熾烈な戦いが幾多も繰り広げられ。
それでも魔女勢力に決定打を与えることはできなかったため、
四元徳の判断で特例中の特例として、天界の門が開かれて軍勢が直接降り。
アンブラの都が滅んだ後、
このプルガトリオの人間界に近い階層は完全に天界の勢力化になった。
そんなところに、今のこのアスタロトの進出である。
人間界侵攻が目的なのだから、
プルガトリオ内の人間界に近い階層に向かうはず。
となると。
天と魔の者達の衝突が避けられないのは当然となる。
86: 2011/06/11(土) 13:52:29.24 ID:qpa7IMCBo
ベヨネッタ「それじゃやっぱり戦争が始まるの?」
ベヨネッタはチェスの思考の傍ら、そう問い返した。
これまた関心なさ気な、そっけない声色で。
アイゼン『場合によっては太古以来の衝突に発展するかもしれぬな』
襟元を飾っている黒い羽毛をゆっくりと撫でながら、
ベヨネッタの手を待ちつつ答えるアイゼン。
スパーダが人の味方についた2000年前は、天界は参戦せずに様子見、
アンブラの魔女との闘争も、直接悪魔と戦った事例は極僅かでどれも小競り合い程度。
まとまった規模の天界と魔界の衝突となれば、セフィロトの樹が形成される以前の出来事、
『常闇ノ皇』と呼ばれる存在に率いられた一大勢力と天界の天津神一派との戦争以来となり。
天界と魔界の総力戦となれば、
全盛たるジュベレウスが軍を率いていた遥か太古の昔、かの魔界との『ファーストハルマゲドン』以来になるのだ。
ベヨネッタ「へぇん。そーれはそれは面白そうじゃないの」
ベヨネッタは駒を動かしてソファーに寝そべり、
神殿の高い天井を仰いではふふんと笑みを浮べた。
アイゼン『行ってはならぬぞ。そなたはここで重要な任があるのだからな』
そんな彼女をジ口リと仮面の中から見える瞳で睨んでは、
アイゼンは戒めるように声を放った。
すぐさま駒を動かしながら。
87: 2011/06/11(土) 13:54:46.25 ID:qpa7IMCBo
ベヨネッタ「はいはいわかってマスマスはいはい」
そのアイゼンの一手がよほど厳しいものであったのか、
ベヨネッタはむくりと起き上がってはチェス板に面と向かって。
アイゼン『そなたには何度言っても足りぬからな。目を離すとすぐどこかに消えておる』
ベヨネッタ「……ここでの作業片付けたなら……行っても良いでしょ」
アイゼンの言葉にそっけなく返しながら。
目を細めてはチェス板を睨み、尖らした口でキャンディの柄を転がし始めた。
アイゼン『ハン、構わぬが、そなたが自由になる頃には既に事は終わっておると思うぞ』
そんな彼女の様子を見てアイゼンは得意げに笑ってはそう続けた。
背もたれに寄りかかり、襟元の羽飾りを悠々と撫でつつ。
アイゼン『総力戦に発展する可能性は極めて低いしな。魔界が一塊になっての全面戦争は起こりえん』
アイゼン『覇王を討ち漏らさぬ限り、な』
そして仰ぎ見るようにして横を向き言葉を飛ばした。
ホールの北端、一際大きなスパーダ像の台座に寄りかかっている―――
アイゼン『のう?そなたが討ち漏らさぬ限り』
―――バージルへ。
バージル「……」
88: 2011/06/11(土) 13:56:48.29 ID:qpa7IMCBo
バージルは相変わらずの冷たい表情のまま、
右手首に嵌められている銀色の腕輪を眺めていた。
琥珀色の時計版がついている骨をモチーフにした造形、『時の腕輪』を。
アイゼンの言葉が間違いなく聞えてるにもかかわらず、
完全に無視し続けて。
アイゼン『ハッ。相変わらず無愛想な男よ。父親と母親の硬質な面のみを抽出したようだな。全く』
アイゼン『やれやれどうしてこうも極端な者ばかりなのか。力ある者達の子孫は』
ベヨネッタ「『グランマ』、ちょっと黙ってて」
一人話を続けるアイゼンに向け、顔を上げぬままベヨネッタはそう言い放った。
苛立ち混じりの鋭い口調で。
しかしそれは逆効果だった。
アイゼン『グランマだと?ふん。事実上不氏の我らにとって年齢などなんの尺度にもならぬ』
アイゼン『外見だって安定期を越えれば、変わりなど無いわ』
アイゼン『むしろ、やや童顔な我の方がそなたよりも若く見えるかもしれぬな』
アイゼン『のうバージル!セレッサよりも我の方が若く見えるだろう!?うん!?』
火に油を注いだかのように、アイゼンの話がみるみる加速していく。
ベヨネッタ「ねえ黙っててってば」
アイゼン『まーた反応せんのあの小童めが。女っ気の欠片も無い奴め。人を虜にする魔女の血を本当に受け継いでおるのか?』
アイゼン『そういえばジャンヌもジャンヌだ。歴代最高峰たる魔女の癖して、あそこまで色気が無いとはいかなることか』
アイゼン『その点、全身から溢れるそなたは良い魔女になったな。まあ、ややハレンチ過ぎr』
ベヨネッタ「黙れつってんだろ糞婆」
89: 2011/06/11(土) 13:58:51.60 ID:qpa7IMCBo
ベヨネッタがそう吐き捨てながら、ようやく駒を進めた直後。
ジャンヌ『アイゼン様』
通信魔術によるジャンヌの声が、虚空から響いた。
ベヨネッタとは違う、アイゼンへの並々ならぬ厳かな敬意を篭めた声が。
アイゼン『お、噂をすればとやらだ。ローラ=スチュアートを捕えたか?』
アイゼンは相変わらず仮面の下から薄笑いを覗かせ、
ベヨネッタは不機嫌そうに口を尖らせていたが。
ジャンヌ『いえ…………それが……』
そのジャンヌの口ぶりで、場の空気が変わる。
バージルはスッと顔を挙げ。
ベヨネッタはピクリと目尻を動かしては細めた。
そしてアイゼンは真顔なのかまだ笑みを浮べているのか、判別がつかない『不確かな』表情に。
ジャンヌ『…………捕え損ねました。完全な私のミスです』
アイゼン『ふふふ、さすがは天界どころか我らの目をも逃れてきた程。精強優秀なアンブラの子であることは間違いなさそうだな』
ジャンヌ『そこに関してもう一つあります………………………………禁書目録をも奪われました』
アイゼン『…………………………ほう……うん……ふむ……』
90: 2011/06/11(土) 14:04:16.79 ID:qpa7IMCBo
その瞬間、バージルが台座にもたげていたその身を起き上がらせた。
素早く閻魔刀の鞘を手に取って。
だがそんな彼を、アイゼンは緩やかな視線でなだめる様に止め。
アイゼン『どうせそなたの事、傷一つつけまいとして向かったところをつけこまれたのだろう?』
ジャンヌ「…………その通りです」
微笑しているとも見える表情のまま、
ゆっくりとチェス板に手を伸ばしては一つの駒を取り。
アイゼン『ならば次は』
こつん、と叩くように置いては一手を下して。
アイゼン『殺めるも已む無し』
さらりとそう口にした。
アイゼン『話ができる程度に生きてれば良し、としておったが仕方あるまい』
ジャンヌ『……………………』
アイゼン『人間時間で50分以内に「障害」を全て「排除」し、禁書目録を神裂に合流させておけ』
そして同じ涼やかな調子で告げた。
アイゼン『それが成されなければ、我が出向き手を下す。よいな?』
ジャンヌ『…………わかりました』
91: 2011/06/11(土) 14:06:41.41 ID:qpa7IMCBo
アイゼン『して、どこに禁書目録を連れ去ったのかは把握しておるのか?』
ジャンヌ『はい。プルガトリオに。人間界に近い階層のどれかに逃れたかと』
アイゼン『ほおう。ならばこれを念頭に入れておけ。アスタロトの軍勢がプルガトリオに進出したらしい』
アイゼン『当然、人間界寄りの階層を目指しておることだろう。では励め。早急なる報告を待っておるぞ』
ジャンヌ『……はい』
ベヨネッタ「…………」
ジャンヌとの通信がそこで終わったところで、
さて、とアイゼンは玉座から立ち上がり。
アイゼン『仕舞いだ。片付けておけ』
ベヨネッタ「……じゃっ私の勝ちってことでOK?」
アイゼン『なあに寝ぼけておる。良く見ろ』
軽く指を鳴らしては床に魔方陣を出現させて、
己の玉座を沈ませて片付けて、バージルの方へと歩いていった。
アイゼン『聞いたな。人間時間で50分、これまでに我らも作業しておくぞ』
アイゼン『そなたも「絶頂の腕輪」の最終調整を済ませておけ』
そう離れ際に、背中越しに告げながら。
ベヨネッタ「…………………………………………げっ……チェックメイトかよ……」
そしてぼそりと呟く、
食い入るようにチェス板を睨んでいるベヨネッタの声が静かに続いた。
―――
92: 2011/06/11(土) 14:08:44.11 ID:qpa7IMCBo
―――
学園都市。
とある病棟の一室。
キリエ、ルシア、佐天を『見送った』ばかりの二人、
トリッシュとレディが無言のまま佇んでいた。
トリッシュはシーツをマントのように羽織ってはベッドに腰掛け、
レディは病室の角にある椅子に足と腕を組んで座っていた。
交わされる言葉は無い。
二人とも押し黙り、病室の中を重苦しい空気で満たされていく。
キリエ達三人が拉致されたことは一応、
銃でダンテを繋がりをもっているトリッシュが彼に事情を伝えたが。
トリッシュ「…………さて……私達はどうしましょ」
それだけだった。
今、ここでできることは。
キリエ達は完全に手を離れ、ここにいる彼女達からは一切干渉できないのだ。
レディ「…………何も無いわね」
沈黙を破ったトリッシュに、
レディは呟くようにして声を返しては。
窓向こうの闇夜の学園都市、そしてその夜空を見やった。
街中には少し前から鳴り始めていた避難を促すサイレン、
空からは複数の爆音が響いていた。
レディ「…………」
レディが見知っている二人の少女を乗せた、
地獄へと向かう編隊の轟音が。
学園都市。
とある病棟の一室。
キリエ、ルシア、佐天を『見送った』ばかりの二人、
トリッシュとレディが無言のまま佇んでいた。
トリッシュはシーツをマントのように羽織ってはベッドに腰掛け、
レディは病室の角にある椅子に足と腕を組んで座っていた。
交わされる言葉は無い。
二人とも押し黙り、病室の中を重苦しい空気で満たされていく。
キリエ達三人が拉致されたことは一応、
銃でダンテを繋がりをもっているトリッシュが彼に事情を伝えたが。
トリッシュ「…………さて……私達はどうしましょ」
それだけだった。
今、ここでできることは。
キリエ達は完全に手を離れ、ここにいる彼女達からは一切干渉できないのだ。
レディ「…………何も無いわね」
沈黙を破ったトリッシュに、
レディは呟くようにして声を返しては。
窓向こうの闇夜の学園都市、そしてその夜空を見やった。
街中には少し前から鳴り始めていた避難を促すサイレン、
空からは複数の爆音が響いていた。
レディ「…………」
レディが見知っている二人の少女を乗せた、
地獄へと向かう編隊の轟音が。
93: 2011/06/11(土) 14:10:13.45 ID:qpa7IMCBo
とその時だった。
トリッシュ「―――」
トリッシュが何かを感じ取ったのか、ピンと背を伸ばしては目を大きく見開いて。
レディ「―――」
次いでレディも気付いて立ち上がったその瞬間。
窓の外の夜景が、突如紅蓮の光りで溢れ。
遠くにて巨大な噴炎が一斉に巻き上がっては、一つの区画ごと飲み込み。
そして大地を伝ってきた衝撃波が、
病棟を大きく揺るがした。
トリッシュ「あれは―――」
まぎれも無くステイル=マグヌスの炎。
トリッシュがその言葉を言い切る前にレディは、
壁際に置いている巨大なバッグの方へと駆けては屈み、すばやく『準備』をし始めた。
嬉しそうにほくそ笑みながら。
バッグから取り出した格子状の拘束具で固定されている魔導書を、鎖で腰の後ろにひっかけ。
銃の弾倉が入っているポーチを腰の両側へと素早く装着していき。
30cm近くの黒い杭が差し込まれているベルトをブーツ、更に前腕に手甲のように巻き。
サブマシンガンのベルトを交差するように肩から襷がけ。
手榴弾やその他霊送の類が入った小さなリュックを背負い、
反対側の肩の後ろには、短いソードオフショットガンの入ったホルスターを。
そしてロケットランチャーに巨大な弾を装填しては。
レディ「『フル』で持ってきた甲斐があったわね」
レバーを引き、仰々しい駆動音を立ててニヤリと一笑い。
94: 2011/06/11(土) 14:12:14.78 ID:qpa7IMCBo
トリッシュ「見越してきたかのようね」
そんな準備の良い完全武装のレディを眺めつつ、トリッシュが目を細めてボソリと。
トリッシュ「少しガツガツしてみっともないんじゃない?」
レディ「仕方ないじゃないの。最近は欲求不満なの」
トリッシュ「まず、彼が戦ってる相手が何者なのk」
レディ「はいはいはいOKOK大丈夫だから。怪我人は黙って寝ていなさい」
トリッシュの小言染みた言葉を流して、
レディはサブマシンガンの片方を手に取ると窓に向けて一連射。
高度な術式が施された魔弾は、
学園都市製の強化防弾ガラスをいとも簡単に突き抜け。
続けてロケットランチャーを大きく引いては。
レディ「Si―――Ha!!」
ハンマーのように振って、亀裂が入った窓を叩き割った。
そして破片散らばる窓枠にひょいとあがり。
レディ「変な事しようとするんじゃないわよ。どう見ても自覚している以上に弱ってるから」
サングラス越しにそうトリッシュに言いつけをし、
返答を待たずに飛び降りて夜の街に消えていった。
トリッシュ「………………わかってるわよ」
―――
95: 2011/06/11(土) 14:14:38.63 ID:qpa7IMCBo
―――
「…………あァ?」
ふと気付くと、
そこは奇妙な場所であった。
見慣れた学園都市の街並み、ではあるのだが、
まるで『陽炎』のように像がぼやけ揺れている。
明るさと色合いは、
昼と夜を混ぜたかのようななんとも居心地の悪いもの。
「…………ンだここは?……あの夢じゃあねェな……」
かつて己が殺めた、
『空洞の目』をした大勢の妹達に見つめられるあの夢を思い出すが。
確かな共通点は、この独特の不安感のみ。
そもそもこうして『夢なのか?』とはっきり疑念を抱ける時点で、
いつもとは大きく違う。
妙に意識がはっきりしているのだ。
まさしく普通に起きているかのよう。
「…………」
ふと思う。
まさかこれは現実では?
以前の彼ならありェねェと一蹴しただろうが、今は違う。
天界や魔界、そして現実離れした存在を現に知っている。
何らかの影響で、一瞬で世界が変わってしまったのかもしれない。
もしかするとダンテのような規格外の存在の力で、
巻き添えを喰らって気付かぬう内にもう氏んでしまっているのかもしれない。
と、思考を巡らせていくが。
次にこの奇妙な世界で起きた出来事、
『よう。「メインプラン」』
『とある男』と再開したことが、
やはり『現実ではない』と彼が決定付ける大きな証拠となった。
ただそれも、すぐ後に認識が甘かったと言わざるを得なくなるが。
「…………あァ?」
ふと気付くと、
そこは奇妙な場所であった。
見慣れた学園都市の街並み、ではあるのだが、
まるで『陽炎』のように像がぼやけ揺れている。
明るさと色合いは、
昼と夜を混ぜたかのようななんとも居心地の悪いもの。
「…………ンだここは?……あの夢じゃあねェな……」
かつて己が殺めた、
『空洞の目』をした大勢の妹達に見つめられるあの夢を思い出すが。
確かな共通点は、この独特の不安感のみ。
そもそもこうして『夢なのか?』とはっきり疑念を抱ける時点で、
いつもとは大きく違う。
妙に意識がはっきりしているのだ。
まさしく普通に起きているかのよう。
「…………」
ふと思う。
まさかこれは現実では?
以前の彼ならありェねェと一蹴しただろうが、今は違う。
天界や魔界、そして現実離れした存在を現に知っている。
何らかの影響で、一瞬で世界が変わってしまったのかもしれない。
もしかするとダンテのような規格外の存在の力で、
巻き添えを喰らって気付かぬう内にもう氏んでしまっているのかもしれない。
と、思考を巡らせていくが。
次にこの奇妙な世界で起きた出来事、
『よう。「メインプラン」』
『とある男』と再開したことが、
やはり『現実ではない』と彼が決定付ける大きな証拠となった。
ただそれも、すぐ後に認識が甘かったと言わざるを得なくなるが。
96: 2011/06/11(土) 14:17:32.64 ID:qpa7IMCBo
「―――オマエは…………」
背後から響いてきた、聞き覚えのあるその声に。
一方通行はすぐに振り向き、彼の姿を見た。
長めの茶髪に、スーツを着崩したホストのような格好の男を。
『元気にしてたか?』
男はポケットに手を突っ込んでは、
その端正な顔が台無しになる程にニヤニヤと下品に笑った。
「……チッ……夢の中にまで、オマエのその胸クソ悪ィ面を見るなんてなァ」
彼は舌打ちをしては、
こんな苛立つ幻想を作り出してしまう己の脳を恨んだが。
『ああ夢、夢か。確かに「コレ」は夢だな。テメェにとっては』
「……………………あァ?」
そんな男の、意味深な言い回しに違和感を覚えた。
『おっとそんなに身構えなくて良い。俺は別にテメェを憎んだりはしていねえ』
彼の目が鋭くなったのを警戒されたと捕えたのか、
男は今度はいかにもな表情で爽やかに笑みを浮かべ。
『「こっち」に来て様々なことがわかってな。俺がこのザマになったのは俺の自業自得だとも知ったし』
ポケットから右手を出しては、その己を手を見つめ、
ゆっくりと顔の上にかざして。
『俺がやってた事も、まるでムダだったというのもな』
「(………………こィつ)」
その口ぶり、言葉を聞いた彼の意識の中に、
ふと一つの推測が沸いた。
『メインだろうがサブだろうが、アレイスターの手の上にいる以上、「結果」は同じだって事だ』
「(俺の意識とは―――)」
かつて己が叩き潰して『脳だけ』にしたはずの『この男の映像』が。
今目にしているレベル5第二位―――
『要は、俺は見誤ってだ訳だ。アレイスターの大きさを』
―――『垣根帝督』が、己の意識とは全く違うもので成り立っているのでは、と。
「(―――完全に隔絶してやがる?)」
己の深層意識が形成した像ではない?、と。
97: 2011/06/11(土) 14:19:56.73 ID:qpa7IMCBo
それを裏付けるかのように。
垣根『色々「メガネちゃん」に聞いたんだ。ああ、メガネちゃんってのは「ここ」の「先客」な』
垣根は彼の今の意識などに一切影響されず、そのまま話を続けていく。
垣根『この世界の構造、俺達の力の本質、魔術、魔界、天界の存在』
垣根『俺達はどれだけ井の中の蛙だったか。外を知らずに、狭い底辺世界で足掻いていたってわけだ』
「…………ハッ。テメェがどれだけ『世間知らず』だったかは俺も去年気付いたぜ」
推測が徐々に確信に変わる中、彼の方からも言葉を交わらせていく。
反応を見て更に正確に判断するべく。
垣根『スパーダの息子を知った時はそれはそれは驚いたな』
垣根『その直後に、接続したテメェの「起動」で脳を少し持ってかれちまったけどな』
「……そィつは悪かったな。全部焼き潰しておけば良かったか?脳だけだと惨めだろ?」
垣根『いや、今となってはその必要は無い。「もうすぐ」残りも焼かれるんでな』
「―――……何だと?」
垣根『俺はもうすぐ氏ぬ』
「―――焼かれて、だと?」
『焼かれて』、そう、ここが重要であった。
あの魔帝の件の時と『同じよう』に焼かれるのか、と。
垣根『ああそうだ。前と同じようにな。今度は全部もってかれる』
「―――」
そしてあの時と同じように焼かれるということは―――同じようにミサカネットワークに接続し―――。
98: 2011/06/11(土) 14:23:10.45 ID:qpa7IMCBo
と、そこでその内面が表情に滲み出ていたのか。
ラストオーダー
垣根『ん?「最終信号」の今回の調整、テメェも許可したんじゃなかったのか?』
垣根が肩を軽く竦めながらそう聞いてきた。
「…………」
それは確かに。
しぶしぶだが、彼女に手が加えられることを了承した。
アレイスターのプランが、学園都市を窮地から救う策だと聞いて。
具体的な内容はいまだ教えられていないが。
「……あれはソレのための調整か?」
垣根『ソレだけじゃないがな』
「……俺とオマエをまた繋げて、アレイスターは何をするつもりだ?」
「またあの―――『黒い羽』を俺に生やさせるのか?」
その彼の問いに、
垣根はニヤリと薄笑いを浮かべては。
垣根『それ以上だ。次はそこから更に「先」に進む。革新的な「進化」がテメェに起こる、らしい』
愉快気にそう告げた。
「…………」
進化。
その言葉を受けて、彼は己の両手にふと目を降ろした。
肘から先が黒い両手を。
垣根『詳しくは知らない。メガネちゃんから聞いただけだ。そのメガネちゃんも、「同類」から聞いただけらしいしな』
その彼の次なる言葉を予測してか、
垣根はそう先に答えては。
垣根『だがただ一つ、俺でも保証して言えることがある』
続けて告げた。
垣根『テメェのその体の変質が「完了」するってことは確かだ』
一つの確定事項を。
99: 2011/06/11(土) 14:25:41.06 ID:qpa7IMCBo
その言葉を受けた彼は、
数秒間ほど己の両腕を見つめて。
「……はどォなる?」
垣根『あん?なに?』
「……ラストオーダーはどォなる?」
そのまま声だけを垣根に飛ばした。
垣根『知らんよ』
垣根は即答しては、呆れがちに溜息をついて。
垣根『……こんな時まであのガキかよ。自分がどうなるかに興味は無いのか?』
「…………じゃァ聞こォか。俺はどォなる?進化とやらが『完了』したら」
垣根『アレイスターが必要としているのは、その進化が完了した力と器のみ』
垣根『テメェの人格は消去するつもりだろう。必要ないらしいからな』
「……つまり俺は氏ぬのか?」
垣根『氏ぬとも言えるな。永遠に目覚めない眠りにつく、といった感じか』
垣根『実は俺も同じだ。脳が全て焼かれるよりも前に、俺はAIMごとテメェに取り込まれて自我を失うからな』
「……なるほどなァ。『結果は同じ』、か」
そこで、先ほど垣根が口にした表現の意図に気付いた。
プランのメインだろうがサブだろうが、文字通りその結末は同一なのだと。
100: 2011/06/11(土) 14:29:21.03 ID:qpa7IMCBo
そんな、己の両手を眺めたままの彼を見ていて。
垣根『随分と落ち着いているんだな』
垣根がつまらなそうに口にした。
「ハッ。ここ最近は色々あったからなァ。図太くもならァ」
それに対して、彼は吐き捨てるように返した。
垣根『つまんねえ。リアクションは重要だろうが』
「悪ィな。焦っても意味が無い時くらいはわかるよォになってきたからな」
垣根『ふん。今は落ち着いて考えて状況分析をってか』
とその時。
「―――……っ」
突如、この陽炎の街の像が大きく乱れ始めた。
映像に激しくノイズが走ったかのように。
垣根『誰かがドでかい力を学園都市の中で解き放ってるな、そのせいでこの街のAIMが乱れてるみたいだ』
そして垣根の姿も大きく乱れていた。
「……誰かが?」
垣根『ああそうだ。話したかった事がもっとあったが、これじゃあ仕方無いな』
乱れている像の垣根は、いかにも残念そうに溜息をついては。
垣根『「外」が騒がしくなって来たぜ。「起きた」方が良いんじゃねえのか?、一方通行』
一方「…………そうか」
垣根『哀れな第一位。またすぐに会える。そして次が最期だろうなあ―――「お互い」にとって』
そしてそう別れを告げかけたところで。
垣根『って待て待て。これだけは言っておかねえと』
何かを重要な事を思い出したのか、慌てて早口で
垣根『フィアンマとかいったか、あの優男が氏んだ瞬間から、「ここ」が妙にshjさjdssakdsd』
だが間に合わなかった。
垣根の言葉は途中でノイズの音となり。
一方「―――」
一気に暗転、この夢は終わった。
101: 2011/06/11(土) 14:31:00.36 ID:qpa7IMCBo
一方「……」
瞼を開くと、見慣れた無機質な天井が見えた。
仰向けのまま、首を横に向けると同じく見慣れた広い部屋の光景。
グループが所有しているアジトの一つ、
そこの中にあるソファーに寝そべっていた。
一方「…………」
寝起きの目を眩しそうに細めながら、むくりと身を起こす。
外からは壁を越えて聞える、非常事態を告げるサイレンの音と。
一方「…………」
漆黒の両腕の肌で感じる、表面が焼け付くような触感―――。
―――戦いの『熱気』。
サ ブ
一方「……だからオマエは万年第二位なンだよ』
最後に肝心な部分を良い損ねた垣根に悪態を付きつつ、
前にあるテーブルから水の入ったペットボトルを手に取り。
能力を使わずの『馬鹿力』で蓋を弾き飛ばしては大きく二口ほど飲み。
まだ残りが残っているそのペットボトルを
明後日の方向に投げ捨てては立ち上がった。
一方「クソの役にも立たねェチンピラが」
そう再度、垣根へ向けて吐き捨てて。
―――
112: 2011/06/17(金) 23:53:07.45 ID:cEjIRFJfo
―――
暗赤色の空の下の薄闇。
殺風景なその風景が陽炎のように揺らぎ、実体感がどことなく怪しく空間。
朽ちた白亜の柱が転々と、白い靄がかかった地面に連なっている。
ネロ「…………………………………………………………………………」
その傾いた柱の一つに、ネロは寄りかかり腕を組んでいた。
目を細めて難しい顔をして。
彼の3m程前には、地面に倒れている柱に寝そべってる叔父。
ダンテ「……」
無言のまま手を広げるようにして、ネロに話の先を促すダンテ。
少し離れたところの柱には、
二人の会話に耳を傾けているロダンが寄りかかっていた。
ここ魔界に非常に近いプルガトリオの階層にて今、
『拉致』したネロを交えての話し合いが行われていた。
その内容は、ダンテが一通りを『頼んだ』ところまで進んでいた。
ネロ「…………何度も悪いが。今一つ理解できないから、もう一度確認させてもらう」
しばらく押し黙っていたネロがそう口を開いた。
難しい表情で低い声色のまま。
ダンテ「おう」
ネロ「あんたの俺への要望は、覇王復活と魔界・天界の門の開放を済ませるまでアリウスに手を出すなと」
ダンテ「そうだ」
ネロ「そして『なぜ』は聞くなと」
ダンテ「OK、その通り」
ダンテは相変わらずのふざけたノリで、
ぱん、と手を叩いては大げさに頷いては満足そうに笑った。
暗赤色の空の下の薄闇。
殺風景なその風景が陽炎のように揺らぎ、実体感がどことなく怪しく空間。
朽ちた白亜の柱が転々と、白い靄がかかった地面に連なっている。
ネロ「…………………………………………………………………………」
その傾いた柱の一つに、ネロは寄りかかり腕を組んでいた。
目を細めて難しい顔をして。
彼の3m程前には、地面に倒れている柱に寝そべってる叔父。
ダンテ「……」
無言のまま手を広げるようにして、ネロに話の先を促すダンテ。
少し離れたところの柱には、
二人の会話に耳を傾けているロダンが寄りかかっていた。
ここ魔界に非常に近いプルガトリオの階層にて今、
『拉致』したネロを交えての話し合いが行われていた。
その内容は、ダンテが一通りを『頼んだ』ところまで進んでいた。
ネロ「…………何度も悪いが。今一つ理解できないから、もう一度確認させてもらう」
しばらく押し黙っていたネロがそう口を開いた。
難しい表情で低い声色のまま。
ダンテ「おう」
ネロ「あんたの俺への要望は、覇王復活と魔界・天界の門の開放を済ませるまでアリウスに手を出すなと」
ダンテ「そうだ」
ネロ「そして『なぜ』は聞くなと」
ダンテ「OK、その通り」
ダンテは相変わらずのふざけたノリで、
ぱん、と手を叩いては大げさに頷いては満足そうに笑った。
113: 2011/06/17(金) 23:53:48.43 ID:cEjIRFJfo
そんな彼の態度に堪らずと。
ネロ「あんた―――ふざけてんのか?」
ネロがやや早口で言葉を放った。
声色は低く確かなままであったが、その調子には明らかに困惑と苛立ちが滲んでいる。
ダンテ「いいや。思いっきり真面目だぜ」
だがネロのその苛立ちに気付いているにも関わらず、
全く気にする風もないダンテ。
ネロ「そうかい、じゃあマジでイカれちまったのか?」
ダンテ「ハッハ、俺がイカれてるのは今に始まったことじゃねえだろ」
ネロ「ああそうだったよな全くよ」
彼の変わらぬ態度にネロは投槍に言葉を返しては、
額に右手を当てて俯いて。
平静を保つためか一度、大きな溜息を付いた後。
ネロ「…………親父が関わってるんだろう?」
ゆっくりと確かめる口調でそう問うた。
ダンテ「……」
同じく低い声であったが、
今度は重く存在感のある覇気が篭められて。
114: 2011/06/17(金) 23:55:28.62 ID:cEjIRFJfo
ネロ「俺が状況を知っちまえば、俺は絶対に黙っていられねえ」
ダンテ「……」
ネロ「あんたはそう考えてるんだな?」
ダンテ「……」
ダンテは何も答えなかった。
柱にだらしなく寝そべり空を仰いでは、薄い笑みを浮べているだけ。
そしてその薄ら笑いが元々の鋭い目つきをより一層鋭利に、
かつ不穏な存在感を際立たせている。
ネロ「……」
ネロは知っている。
そんな佇まいも、ダンテの『真面目な時』の意思表示の一つだと。
一見すると無視を決め込む風でありながら、
実は表情豊かに答えを示しているのだ。
顔を挙げて直接見ずとも、その様子はありありと肌でわかる。
ネロは『答え』を受け取っては言葉を続けた。
ネロ「……まあ、そいつは当たってる」
ネロ「間違いなく俺はそっちにも顔を突っ込むだろうな」
とそこで。
ダンテ「……俺はお前ら親子の問題には口を出さない」
ダンテが空を仰いだまま口を開いた。
表面上は気だるそうでも、その中には確かな熱が篭められている声色で。
ダンテ「お前がバージルに勘当されようが溺愛されようが知ったこっちゃ無え」
ダンテ「だからお前も『兄弟』の問題には口を出すな」
ダンテ「これは『俺達』の問題だ」
ネロ「…………」
と、そこでダンテはむくりと上半身を起こしてはこう言い直した。
ダンテ「いやまて、違うな、これは『俺達の世代』の問題だ」
115: 2011/06/17(金) 23:56:51.00 ID:cEjIRFJfo
ネロ「世代……」
ダンテ「俺達は『これまで』を。お前達は『これから』を。それがお互いの領分だ」
ネロ「…………」
スパーダ
ダンテ「俺達は『 親 』の『尻拭い』をしなくちゃなんねえ」
ダンテ「だがこれがまた難儀でな、色々なのが山積みでそれも全部がただの『やり残し』の作業じゃねえ」
ダンテ「大事なところがスパーダすら把握しきれていない、あやふやなもんまであると来た」
これまた大げさに肩をすくめ、
眉を顰めては笑いつつダンテは言葉を続け。
ダンテ「しかもそれが一番重要な件で、『解釈』は俺達にまるごと任されてるんだぜ?笑っちまうだろ?」
ハッと笑い声を挙げて、
倒れこむように再び柱に寝そべって。
そして。
ダンテ「『俺達の親』の尻拭いだ」
ぽつりと吐き捨てるようにそう呟いた。
ダンテ「甥やガキにやらせる訳にいかねえだろうが」
笑いを含んでいない、小さな声で。
ネロ「……」
116: 2011/06/17(金) 23:58:46.83 ID:cEjIRFJfo
そんなダンテの言葉を聞いて、
ネロは数十秒間押し黙った後これまた大きく溜息をついては。
ネロ「……あんたも親父と根は一緒だ。自分勝手すぎるってな」
頭を掻きながら、諦めがちに口を開き。
ネロ「だったらやっぱり……一番『まとも』な俺が許容するしか無いじゃねえか」
ネロ「わかったよ。仕方ねえ。承知した」
そして一先ずの納得の意を示した。
親兄弟の馬鹿馬鹿しくなるくらいの頑固さは重々知っているネロとしては、
ここはYESと頷くしか無かったのだ。
いいや、もしNOとする選択肢があったとしても、
ダンテの言葉を聞いたネロはそんな選択は選ばなかっただろう。
何よりもこの親兄弟を信頼しているのだから。
ダンテ「おう」
ネロは柱からもたげていた身を起こし、
立て掛けていたレッドクイーンをその背に背負った。
ネロ「それで親父とあんたが今向かってるのは、そのスパーダがやり残した仕事なんだな?」
ダンテ「ああ」
ネロ「…………対するあんたの心持はまあまあわかったが……親父はどうなんだ?」
ダンテ「見ている『もの』は同じだ。だが『解釈』の仕方が俺とは丸っきり違う」
とそこでダンテは手を広げて、ネロをジ口リと見やった。
聞くなと言わんばかりに。
ネロ「あああそうそうわかったわかったよ、これ以上は聞かねえ」
117: 2011/06/18(土) 00:04:09.40 ID:bEXiuiEWo
ロダン「話はついたな」
そんな二人の話し合いが終わるのを見て、
ロダンが二人に近づきつつ声を挙げた。
ロダン「OK、ではそうと決まったらまずこれを見てくれ」
その彼の声に合わせて、ダンテとネロのちょうど間の中空に、
金色の魔方陣が出現し。
ダンテ「お、何だこれ」
そして『球状の映像』が出現した。
映し出されているのは、静まり返る薄闇の中の巨大な都市。
ロダン「デュマーリ島の今の映像だ」
ダンテ「生中継か?どうやってんだ?」
ロダン「『セフィロトの樹』に侵入して盗み見してる」
ダンテ「ひゅー、さすがだな。どこまで見れる?範囲は?」
ロダン「んなもん今はどうだっていいだろうが、重要なのは彼女がいるってことだ―――」
ダンテの言葉を切り捨てて、
ロダンがパチリと指を鳴らすと映像は一気に都市の『地下』へと潜り。
ロダン「―――フォルトゥナのお姫サマがな」
広大な、とある地下空間を映し出した。
ダンテ「あ、悪ぃ、これまだ言ってなかったぜ」
そこにいる三人―――ルシアと佐天と。
ネロ「―――……ッ?!!キリエッ!!!!!!」
そしてキリエを。
118: 2011/06/18(土) 00:07:10.57 ID:bEXiuiEWo
ネロが形相を変えてダンテの方へと振り向き、
その口から噴火の如く声を。
ダンテ「待て待て待て待て、まず話を聞け」
発しようとしたした瞬間、ダンテは柱から飛び降りてはそう彼の言葉を封じ、
なだめるように両手の平を向けてどうどうと続けた。
ひとまず声を荒げはしなかったものの、
鼻息荒くダンテを睨むネロ。
ロダン「大丈夫だ。アリウスは彼女を頃しはしない」
ロダン「覇王の力など諸々を手に入れて万全の準備が整うまでは、絶対に彼女に手を出しはしないはずだ」
そこでロダンが横からそう告げた。
ロダン「奴はな、『愛する者を救うが為に修羅となるネロ』を求めている」
激流のように猛烈に駆けていく衝動。
彼女が『まだ生きている』という希望があるからこそ、衝動は攻撃性を強めより焦燥し怒りに満ち溢れる。
しかしキリエが氏んでしまっては、そんなリアルタイムな衝動は終わってしまう。
確かに愛する者を奪われた怒りは濃く強いものではあるが、覇気も動きも無い。
落ち着いて『冷めて』しまっているのだ。
ロダン「お前さんの『生』に対する激情、それを欲しているようだな。あの男は」
ロダン「『最も力が漲っている瞬間』のお前さんと戦いたいらしい。全く命知らずな野郎だぜ」
ネロ「…………ッ」
119: 2011/06/18(土) 00:09:51.93 ID:bEXiuiEWo
そのように新たな情報と状況を告げられて、
喉元まで込みあがっていたネロの怒気もとりあえずは徐々に押さえられていく。
ダンテ「それにな、キリエちゃんを助ける前にお前にやってもらいたい仕事があるんだなこれが」
そこでダンテがそう話に加わって来た。
ロダン「以前、フォルトゥナの地獄門が開いて悪魔が雪崩れ込んだな?」
ネロ「……?……ああ」
いきなりのその確認に意図かつかめずとも。
ネロはかつての記憶を思い出しては小さく頷いた。
教皇サンクトゥスの引き起こした騒乱の際、
フォルトゥナの空を夥しい数の悪魔が覆い尽くしたあの光景を。
そして次の瞬間。
ロダンが指を鳴らして切り替えたその映像に同じ『光景』を見た。
ネロ「―――」
いや、『同じ』ではない。
ロダン「アスタロトのこの第一陣『だけ』で、あれの1万倍以上の規模だ」
規模が桁違いであった。
魔界のどこかなのか、見渡す限りの多種多様の悪魔が地表を多い尽くし、
空もどこまでも多い尽くしている。
ネロ「―――なんだよこれはっ……」
ロダン「プルガトリオに悪魔が大挙して侵入を始めた。人間界に近い階層に向けてな」
ネロ「―――」
ロダン「魔界の門が開けばその瞬間、最初にこいつらが一気に人間界に雪崩れ込む」
ロダン「そうしたらまずは、復活した覇王がいるデュマーリ島にアスタロトをはじめとする首脳が集う」
ロダン「そして覇王が魔界の統一王として名乗った瞬間、他の十強、諸侯の勢力がその旗の下に続き」
ロダン「デュマーリ島から人間界侵攻が『再開』されることになる」
120: 2011/06/18(土) 00:12:15.87 ID:bEXiuiEWo
ネロ「……」
最初は戸惑ったものの、次第に落ち着いたネロは、
最終的にジッと黙ってロダンの言葉を聞いていた。
ロダン「最終的には間違いなく魔界の全戦力が加わる総力戦となり、2000年前の侵攻以上の同じ規模となるかもな」
ロダン「そして人間界が戦場となった時点で、お前さん達でももうどうにもならないだろう」
ネロ「…………」
そう、このシナリオ通りになってしまったら、
最終的にはどうしようもなくなる。
フォルトゥナだって、襲撃してきた悪魔の規模からすれば被害は最小限に抑えられたものの、
結局あそこまでの廃墟と化した。
この規模では、人間界に進入されたら『無事では済まない』どころの話ではない。
進入してきた悪魔達を全て排除できる頃には、
とうの昔に人間界は完全に滅亡しているだろう。
ネロ『個人』としては悪魔に負けることは無い。
しかし人間勢力は完全に敗北する。
ネロ「……」
そこを考えると話が徐々に見えてくる。
人間界に進入された時点でこちらは敗北。
となるととるべき手はただ一つ、
人間界に進入する前にこの軍勢を『解決』することだ。
『前回』の勝利を導いた、スパーダと同じ戦法で。
ネロ「……つまりだ、俺がやることは―――」
ダンテ「戦場が人間界に移る前に、連中のど真ん中に殴り込み―――」
先手をとり―――。
ダンテ「―――アスタロトの首を獲り、奴の軍勢を魔界へと追い払う」
―――出鼻を挫くどころか完膚なきまで『叩き潰す』。
いつの間にか、再び柱に寝そべっていたダンテがそう横から核心を告げた。
ダンテ「奴等はお前の『獲物』なんだしな」
ニヤリと薄ら笑いを浮べて。
121: 2011/06/18(土) 00:16:42.75 ID:bEXiuiEWo
ネロ「…………はっ……」
ダンテのその言葉を聞いては、ネロは目を細めて乾いた笑い声を漏らした。
学園都市の病室で、
アスタロトとトリグラフ達は己の獲物だ、とした事を思い出して。
そして別に今もその気は変わっていない。
ネロは右手を力ませては、その指の骨を鳴らして。
ネロ「ああ、さっさとやろうじゃねえか」
そう『快諾』した。
ネロの言葉を聞いたロダンは、サングラス越しにニッと笑い。
ロダン「お前さんが成し遂げればアスタロトの軍は瓦解し、他の十強や諸侯は様子見に入り」
ロダン「その間にお前さんがアリウスを覇王ごと潰し、助けた彼女と共に島を後にする」
ロダン「これの成功に重要なのが『速度』だ」
次は注意する点を告げていく。
ロダン「人間界みたいに界への負荷は考えなくて良い。プルガトリオは基盤が虚無だからな。決して壊れはしない」
ロダン「だがこれだけは覚えておけ。プルガトリオ内からでも、人間界に近い階層では物質領域限定だが人間界に干渉できる」
ネロ「……」
そこまでで、ネロは彼の言わんとしている事を把握。
人間界に干渉できる階層では、その戦いの余波が人間界に達してしまうのだ。
物質領域限定とは言っても、解放された魔剣スパーダのその破壊は想像を絶する。
つまりはタイムリミットは魔界の門の開放ではなく、
アスタロトの軍勢が干渉階層に侵入する前、ということなのだ。
122: 2011/06/18(土) 00:18:01.87 ID:bEXiuiEWo
ロダン「プルガトリオ内の行き来の仕方はわかるか?」
ネロ「ああ、あんたに拉致された時に『式』は見た」
ネロはロダン達から少し離れては、地を足で軽く叩いた。
すると赤い魔方陣が彼を中心として浮かび上がる。
そして、ダンテとは違って一応使えるからな、と続けて。
ネロ「苦手だが、ま、負荷を考えなくて良いのならいくらでも使える」
ロダン「人間界に近い階層なら俺が迎えに行ってやる」
ネロ「ああ、頼む」
そう頷いては背中のレッドクイーンの柄を握り、
刃の背を肩に乗せてイクシードを噴かす。
ネロ「OK、一発ぶっ飛ばしてくるか」
続けてネロの足元の魔方陣の光りが増して。
ネロ「ダンテ、一つだけ聞かせてくれ」
と、そこで思い出したようにダンテの方へと振り返り。
ネロ「親父は、『これ』をどうするつもりだったのか。あんたは知ってるのか?」
そう問うた。
己達がここに気付づかずに動いていなかったら、
果たしてバージルはどうするつもりだったのだ、と。
己達が動かない場合において悪魔達を追い払う計画があったのか、それとも。
この問題には目を瞑り、人間界の多大なる犠牲をも厭わないつもりだったのか。
ただ目的のために、と。
123: 2011/06/18(土) 00:20:52.43 ID:bEXiuiEWo
そんなネロの疑問にダンテはさらりと答えた。
ダンテ「物事ってのは、最後には治まるところに治まる。誰しもが思っている以上に、物事の連なりってのは『規則正しい』からな」
確かに声色はさらりとしていたが、妙に意味深な言い回しで。
ネロ「……」
ダンテ「あいつは知ってるのさ。『結果』を。俺と同じくな」
ダンテ「今回の結末は、『過去をなぞりつつ新しい英雄談』になるってな」
ネロ「――――――――――――」
それは表面上は漠然としてて唐突な言葉であるが。
スパーダの孫にあたるネロにとっては、『強烈』な具体性を一瞬で帯びる言霊。
ダンテのその言葉が電撃のようにネロの意識内を走っていく。
過去をなぞる、その部分が突如閃光を発するかのごとく思考の底で主張する。
そう、今この状況はダンテの言葉通りではないかと。
魔剣スパーダを手に。
人間界侵攻というこの良く似た状況で。
同じ戦法で魔界の軍勢に挑もうとしている。
まるで、いいや『まさしく』―――スパーダの生き様をなぞるかのよう。
そこまで思考が至った瞬間。
ネロは『なぜか』戦慄した。
理由は良くわからないが。
これが、なぜかとてつもなく恐ろしい事だと感じてしまったのだ。
そしてダンテがそれに準じるようにぽつりと続けた。
ダンテ「―――それが果たして本当に良いか悪いかは別として、な」
そう、またもや意味深に。
124: 2011/06/18(土) 00:23:01.79 ID:bEXiuiEWo
ネロ「―――…………」
ダンテ「『そこ』がな、あいつと俺の『解釈』の違いだ」
ダンテ「バージルは『そこ』に気付いてはいるが、問題視はしていない」
ダンテ「俺は『そこ』が核心だと思ってる」
ネロ「…………俺は……」
続けられたダンテの言葉を飲み込んで。
少し黙った後、ネロは口を開きかけたが。
ダンテ「焦るな。お前もいずれ『実感』するさ」
ダンテ「そしてそこでどう解釈するかも、お前次第だ。好きにするがいいさ」
ネロ「………………………………」
ダンテは相変わらず寝そべって空を仰いだまま。
そんな彼をしばらく無言のまま眺めていた後。
ネロ「ああ、そうさせてもらうぜ」
彼に背を向けてはそう言葉を返して。
ネロ「好きにやらせてもらう。俺の気の向くままに―――」
そして魔方陣に沈んでいき、姿を消した。
ダンテ「―――ああ、気まぐれのままに、な」
その返されたダンテの声を聞かずに。
125: 2011/06/18(土) 00:25:08.40 ID:bEXiuiEWo
ロダン「いいのか?もっと詳しく話してやっても良かったんじゃないのか?」
ネロの姿が消えた後、
ロダンはコートのポケットから葉巻を取り出しては火をつけながら。
ロダン「お前さんと同じような視点で『問題』を捉えたようだが?」
煙を煙突のように上方に吐き出しながら、声のみをダンテへと放った。
それに対し彼は答える。
ダンテ「いんや―――『同じ』じゃあないぜ」
同じく相手を見ずに空を仰いだまま。
ダンテ「似ていても根本的な部分が違う」
ダンテ「あいつは『人間』だからな」
そして空を仰いだまま、言葉を続けた。
ダンテ「ま、…………せいぜい気張れよ、ボーヤ」
今度はロダンではなく、『これから』を担う若き青年へ向けて。
いかにも楽しげに。
愉快気に。
そしてどことなく僅かに。
―――寂しげに。
―――
134: 2011/06/21(火) 01:10:35.28 ID:sDAaF+n5o
―――
噴き荒れる灼熱の炎が、第七学区の一画を飲み込んだ。
物質領域のみならず、魂までを焼き焦がす炎獄の業火が。
並び立っていたビル街は一瞬で溶解し、通りとの境目はもはや判別不能。
オレンジの液体へと姿を変えたコンクリートや鉄骨が、
混ざり合っては火の粉を巻き上げて『川』を形成。
炎獄と見まがうほどの禍々しい様相へと、あたりの景色が豹変していく。
そしてその中、炎となって駆け巡る悪魔『イノケンティウス』、ステイル=マグヌス。
実体化しては炎となりを繰り返し。
領域の中を縦横無尽に移動し、業火の柱を放っては両手先にある炎剣を振り抜く。
その超高速で繰り出されてくる刃を、
七天七刀の鞘で防く神裂火織。
彼女の体は、衣状の青い光に包まれていた。
周囲の景色とのギャップで、まるでオアシスのように涼やかに。
そして涼やか清廉なのは風貌だけではない。
靡く長い髪、しなやかな体、そしてその身のこなしも全て無駄なく洗練されたもの。
神裂『―――シッ』
彼女は全く苦を感じさせずに、
ステイルの繰り出す炎の刃を弾いては鞘を滑らせて打ち流していく。
ステイル『―――オォオオオオオオ!!!!』
この場で彩られる二人の衝突は、
それはそれは壮烈なものであった。
噴き荒れる灼熱の炎が、第七学区の一画を飲み込んだ。
物質領域のみならず、魂までを焼き焦がす炎獄の業火が。
並び立っていたビル街は一瞬で溶解し、通りとの境目はもはや判別不能。
オレンジの液体へと姿を変えたコンクリートや鉄骨が、
混ざり合っては火の粉を巻き上げて『川』を形成。
炎獄と見まがうほどの禍々しい様相へと、あたりの景色が豹変していく。
そしてその中、炎となって駆け巡る悪魔『イノケンティウス』、ステイル=マグヌス。
実体化しては炎となりを繰り返し。
領域の中を縦横無尽に移動し、業火の柱を放っては両手先にある炎剣を振り抜く。
その超高速で繰り出されてくる刃を、
七天七刀の鞘で防く神裂火織。
彼女の体は、衣状の青い光に包まれていた。
周囲の景色とのギャップで、まるでオアシスのように涼やかに。
そして涼やか清廉なのは風貌だけではない。
靡く長い髪、しなやかな体、そしてその身のこなしも全て無駄なく洗練されたもの。
神裂『―――シッ』
彼女は全く苦を感じさせずに、
ステイルの繰り出す炎の刃を弾いては鞘を滑らせて打ち流していく。
ステイル『―――オォオオオオオオ!!!!』
この場で彩られる二人の衝突は、
それはそれは壮烈なものであった。
135: 2011/06/21(火) 01:12:14.34 ID:sDAaF+n5o
刃と鞘が衝突するたびに、凄まじい衝撃が空間を揺らす。
猛々しく燃え盛る炎そのもの、修羅の形相のステイルの攻撃はより苛烈に、
『主である魔女』の意志をうけて更に攻撃的に熱と圧を帯びていく。
神裂『―――』
足元に気配を感じ、後方へと瞬時に跳ねる神裂。
直後に、一瞬前まで立っていたその地から吹き上がる巨大な火柱。
そしてその火柱が。
噴出した炎が形を変え、一瞬で『構えているステイル』へとなる。
神裂『―――ッ』
瞬間、後方へ跳ねた体制のままの神裂めがけ、
ステイルの左の炎剣が振るわれた。
神裂は即座に見切り、鞘先で上方へと弾く。
振るわれた炎の刃はとてつもなく重く、
衝突で刃の力が漏れ出しては、強烈な衝撃を周囲にへと撒き散らしていった。
二人を中心として、
足元のオレンジの海がクレーター状に吹き飛ばされ―――るそれよりも早く。
ステイル『―――カッ!!!!』
そんな短いステイルの息継ぎと同時に、右の炎剣で突きが放たれた。
先の一振りを上方へと弾いた直後の、腹部ががら空きとなっている神裂目掛けて。
136: 2011/06/21(火) 01:15:04.92 ID:sDAaF+n5o
神裂『―――』
神裂と良く慣れ親しみ、何度も手合わせをしてきたステイルだからこその、
彼女の隙を狙った一撃。
どんな風に打ち流しどんな軌道をとりどう立ち回るか、
ステイルはそれを良く知っているのだ。
もちろん彼女も即座に反応し、
長い長いその鞘をバトンのようにくるりと回して逆側の先端、
その柄先で打ち流すも。
完全に防ぐことは叶わず。
鞘と激しく擦れ合い、放たれた炎剣の突きは軌道を逸らされるも。
切っ先が彼女のわき腹を焼き抉っていく。
神裂『―――ッ!!!!』
魔の炎はそのわき腹だけではなく、
全身へと焼きつく痛みを走り巡らせる。
歯を食いしばっては、
『音にならない呻き』を漏らしつつ彼女は後方に更に跳ねた。
その時―――前方のステイルの姿が再び炎となり消失。
神裂『―――』
彼の次なる出現地点を割り出すべく、
彼女は瞬間的に今まで培った経験を『直感』で分析。
ステイルの戦闘行動、戦闘時の思考の仕方、そして彼の直感の動き方まで全てを。
ステイルは神裂の戦闘テンポを隅々まで知っている一方、
同じく神裂も良く知っているのだ。
次にステイルが形を成したのは神裂の斜め右後方であった。
炎剣を構え、即座に攻撃を放てる体制で。
しかし彼は先手を取れなかった。
神裂の回し蹴りが一『足』先に放たれていたのだから。
出現したステイルを、
彼のその顎先の未来位置を正確無比に予測して。
そして―――叩き込まれた。
137: 2011/06/21(火) 01:18:42.38 ID:sDAaF+n5o
ステイル『―――ごァ゛ッ―――』
そんな潰れた呻き声を漏らして、
上半身を大きく仰け反らせるステイル。
神裂は振り抜いた足を戻しては軽く一回転して。
続けて鞘の突きを放った。
仰け反っている彼の腹部へと。
鈍くもとてつもない衝撃を伴ってめり込む鞘先。
そして次の瞬間。
強烈な二撃をストレートに受けてしまったステイルの体は、
凄まじい勢いで弾き飛ばされていく。
だが彼の体が地に、
そのオレンジの灼熱の海にぶち込まれることは無かった。
直後。
神裂は引き戻した鞘を腰に構えては柄を握り。
僅か1cmほどだけ刃を抜く。
するとその瞬間、少しだけ見えた刀身から青い光が迸り。
漏れ出したそれらの光が一瞬で伸び―――糸状となり、周囲に走る。
『七閃』。
走る線は従来の『鋼糸』ではなく、バージルから授かった力による『斬撃』が姿を変えたもの。
青い光の筋が瞬く間に格子状に走り、
伸縮しては網のようにステイルを包み込み。
そして神裂が指で引くような動作と連動して絞られ。
ステイル『―――』
ステイルを拘束して縛り上げた。
両足を纏めて縛り、腕は両側に広げるようにして。
そう―――十字状に吊るし上げて。
138: 2011/06/21(火) 01:20:25.97 ID:sDAaF+n5o
ステイル『―――!!ぐッ!!!ア゛ア゛ア゛ッ!!!』
目の周り、顔、首筋に筋繊維と血管がありありと浮き上がるほど、
力んでは潰れた咆哮を挙げて暴れるステイル。
だが光の糸はびくともしない。
むしろ彼がもがくたびにその締め付けを強め、彼の肉を抉っていく。
神裂『おとなしくした方が良いですよ』
そんな彼の『足元』へと神裂は歩み進み、
冷酷な無表情のまま彼を見上げた。
神裂『抵抗するほど、この糸は拘束力と切れ味を増していきますので』
その神裂の言葉を聞いて、ステイルの動きがぴたりと止まった。
ただ、それは諦めたのではなく。
ましてや抵抗の意志が潰えたわけでもなく。
ステイル『…………ナメて……いるのか?』
そう神裂を見下ろした彼の声は潰れ、地響きの如き音。
尋常じゃなく力んでいるためか、
首の動きは油の切れた機械のようにぎこちなく。
神裂『―――……』
そしてその彼の顔をはっきりと見た瞬間、神裂は息を呑んだ。
決して表情には出さぬも。
彼女の呼吸がその一瞬、止まった。
真っ赤に光り輝くも虚ろな、
極度の異常な興奮状態で自我が朦朧としているその瞳を見て。
139: 2011/06/21(火) 01:23:22.89 ID:sDAaF+n5o
植え付けられた戦意に抗えず精神の独立性を失い。
疑念を抱くことすら許されず、ただただ主の意志に沿う傀儡。
これが魔女に心を奪われた者の末路。
だが、彼はまだ完全に傀儡とは化していなかった。
もう『手遅れ』なのだがステイル=マグヌスの意志は確かにそこにあった。
なぜ今もあんなに力み、苦痛に喘いでいるのか。
なぜなら、今だに彼は全てを魔女の意志に明け渡しきってはいないのだから。
ステイル=マグヌスという往生際の悪い男は、いまだに内側で無謀な戦いを続けていたのだ。
神裂『―――』
そしてそこに気付いてしまった瞬間。
彼女の鉄壁の仮面の下、心の奥底。
硬く硬く、何度も心の中で言い聞かせて何重にも固めた『覚悟』に。
その難攻不落の城塞に大きな亀裂が一筋―――。
今、己は妥協することは許されない。
主たるバージルが掲げる目的のため、障害は確実に排除する。
だがそこに、神裂の個人的願望が混じっていないとなれば答えは否だ。
なぜバージルが、神裂を傀儡化せずにその自我をそのまま残したのか。
そのはっきりとした理由は彼女はわからないが、これだけは確かだ。
己が抱く想いが、信念が、バージルの目的にも沿うものであると認められた、ということだけは。
その想い、それは。
『救われぬ者に救いの手を』
世を守り。
人を守り。
友を守る。
何よりも大切な『友』を。
彼等が望む未来を、そして彼等の『生きる未来』を。
140: 2011/06/21(火) 01:24:48.95 ID:sDAaF+n5o
そのためだったら何だってする。
そう胸にして生まれ変わりここに来た。
今までとは違う、これは『真実』を知った上での本当の戦い。
望んでいた戦い、望んでいた場。
バージルに仕え、彼の目的の成就の一手を担い、
そして個人的に己が望む未来をも引き寄せるため、この自分自身の意志をもって刃を再び手にした。
そうしてきたのに―――。
ステイルが完全に傀儡化していたら。
もしくは己が傀儡化していたら、どれだけ『良かった』だろうか。
神裂『―――』
考えては駄目だ、考えるな、と悪魔の心が声高く戒めてくる。
しかし人の心の思考が留まらない。
ここに来る前に押し頃して、完全に隠しこんだ想いが再来する。
何重にも縛したのに、いとも簡単に引き千切って肥大化する。
一時の緩み、一瞬の迷い、一縷の甘さが、彼女の整えられた内面を連鎖崩壊させていく。
人の心とはなんと不安定なのか。
一体どれだけ揺れ動けば、その情念を収まらせてくれるのか。
感情的で、直情的で、道理が通っていない願望は留まるところを知らない。
バージルの気高き僕として仕事は確実に成す、そう、『使い魔』の己がこの障害の排除を望む。
その一方で。
バージルに存在を認められたこの『人』の心が諦めきれない。
『友が生きる未来』―――『ステイルが失われない未来』をも。
どんなに鉄壁の覚悟を決めても、
元から彼女がこれに抗えるわけが無かった。
どれだけ精神を鍛えて戒めて、固く決意しても関係が無い。
最も近き友への、インデックスそして―――ステイルへ想いは本来。
その『城塞』の内側にあるべきものだったのだから。
141: 2011/06/21(火) 01:28:11.61 ID:sDAaF+n5o
どうすればいいのか。
どうしたら。
我が主よ―――教えてください―――私は一体―――。
神裂『―――』
だが声は聞えない。
柄を握っても、主は黙ったまま。
声は何も聞えない。
逆に聞えるのは。
ステイル『―――……抜かない気か?』
地響きの如く低い『友』の声。
神裂『―――』
そしてその声を耳にして、『直感』が余計なことをしてしまう。
良く慣れ親しんだステイルの思考を完璧にシミュレートして『しまって』。
ステイル『…………刃を…………抜かないまま……』
―――刃を抜いて―――いっその事―――
瞬時に頭の中に正確に構築されたステイル像が、声を重ねる。
魔女の意志に潰されて発する事を許されなかったであろう、彼の『本音』を。
ステイル『………僕に……』
―――僕を―――
ステイル『……勝てるとでも……?』
―――頃してくれ―――
神裂『―――』
142: 2011/06/21(火) 01:29:50.18 ID:sDAaF+n5o
神裂『―――』
その表情はいまだ冷静を保っているも、
いまや神裂の内面は乱れに乱れてしまっていた。
このまま彼が縛されていてくれれば、どれだけ良かったか。
ジャンヌがローラを捕らえ、ステイルの契約を解除させることも可能であっただろうに。
時間があれば確かな解決法を見出せていたであろうに。
だがしかし。
最も彼女が安心して背中を預けられるこの男は。
当然、この程度で縛し続けられる程弱くは無かった。
ステイル『オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!!』
一際大きな咆哮と共に、彼の全身から業火が溢れ出し。
『七閃』の糸が一本、また一本と弾け切れていく。
神裂『(待って―――!!)』
焦燥する思考が一気に回転を増す。
とにかく解決策を見出すために。
『次元斬りで破断しては?』
閻魔刀のクローン、『子』としても良いくらいにその力を与えられたこの七天七刀。
セフィロトの樹に手を入れるため、その『破断』の性質を特に濃く受け継いでいる。
その力を使えば、ステイルと魔女の繋がりを切断するのも可能か?
ウィンザー事件の際にアリウスの技によって、ルシアに繋がれ囚われたネロ、
その繋がりをバージルが斬り捨てた時のように。
いいや―――これは不可能。
神裂はその『繋がり』が認識できないのだから、斬りようが無い。
ウィンザーの件は、バージルの超越した感覚と識別眼があったからこそのもの。
到底、神裂にはできない芸当であった。
143: 2011/06/21(火) 01:31:10.88 ID:sDAaF+n5o
そんな無駄に終わった思考の間に。
ステイル『オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!!』
糸が全て弾け切れ。
ステイルは縛から抜け出して、神裂の前に着地した。
今まで以上の熱と力をその身に帯びて。
噴き荒れる『光』の爆風と渦を巻いて舞う火の粉。
そして。
彼は低い姿勢のまま神裂を凄まじい形相で見据え。
ステイル『―――神裂ィィィィィィィ!!!!』
口から炎を吐き出して叫び、
彼女めがけてその溶けた大地を踏み切った。
神裂『―――』
その咆哮を神裂ははっきりと覚えていた。
つい最近にも耳にしていたことを。
同じ声色で、同じ言葉を。
バチカンで。
ベヨネッタに串刺しにされて横たわり、意識が薄れる中で。
こちらに向かってくるこの声と言葉を―――。
―――力強く呼びかけてくれた彼の声を。
あの時、言葉を返せなかった。
そして今も言葉を返せず。
代わりに返したのは。
神速の一振りであった。
144: 2011/06/21(火) 01:32:51.47 ID:sDAaF+n5o
幸か不幸か。
武人としての体は即座に反応する。
神裂の迷いなどお構い無しに、防衛本能が突き動かす。
瞬時に柄に手をかけては軽く握り。
そして前に踏み込み。
すれ違いざまに抜刀。
以前とは比べ物にならない程の、莫大な力を篭められた七天七刀は、
青い光の軌跡を描いては鋭い金属音を響かせて。
ステイルの首、左側半分を切断した。
ステイル『―――』
神裂『―――』
『悲しき』ことに、それは完璧な必殺の一振りであった。
刃はその一撃で彼の魂へも到達し。
直後、まるで頚動脈からの血飛沫のように。
傷口から真っ赤な炎を噴出しながら、ステイルは倒れこみ。
突進の慣性のまま溶けた大地を抉り飛ばして吹っ飛んでいった。
145: 2011/06/21(火) 01:35:28.75 ID:sDAaF+n5o
そしてそのステイルの体がようやく止まった頃。
神裂『―――ッ―――!!』
神裂の冷徹な仮面が遂に『崩れ』を見せる。
直後、彼女はハッとした表情となり。
ステイルの方を勢い良く振り向いては、
大地に倒れこんでいる彼を見て。
神裂『……ステ……イル?』
呆然とした調子でそう彼の名を発した。
当然、ステイルは反応しない。
彼の体から迸っていた光は消え、
魔人化が解けた事で体の組成が基本形状に戻ったのか、
首から放出していた炎が本物の血へと変わっていた。
神裂『―――…………』
数秒間、神裂は動けず硬直していた。
怖くて、怖くて。
彼の生氏を確認するのが。
だがその時、ステイルの体がピクリと動いたのを見て。
神裂『―――』
即座に彼女はその場を蹴って、
文字通り彼の元へと飛んでいった。
146: 2011/06/21(火) 01:38:38.04 ID:sDAaF+n5o
熱してた魔の力が途絶えたからか、
周囲は物理法則では考えられない速度で冷え固まっていく。
そんな固まりかけの地に横たわっているステイル。
彼のすぐ横に神裂が滑り込むように着地しては、
鞘に納めた七天七刀を脇に置いて彼を抱き上げた。
膝の上に彼の上半身を引き寄せ、左手で彼の頭を支えて。
神裂『―――…………ッ…………』
そして何か声をかけようとするが言葉が出なかった。
ステイルの『毒気』が抜けたような、穏やかな顔を目にしてしまって。
彼はそんな、彼女のぎこちない顔を虚ろながらも涼やかな目で見上げて。
ステイル「…………何も……わからなくなった……何も…………」
優しく語りかけるように口を開き始めた。
ステイル「僕自身すら……信用できなくて……」
その声は今にも消えそうなほどにか細くも。
そこには確かにステイルが『いた』。
神裂『…………』
魔女の意志から解き放たれた彼が露になっていた。
ステイル「だが……良かったよ…………」
ステイルはゆっくりと右手を挙げては、
己の頭に回されている彼女の左手先にあて。
『救われぬ者』に差し出された手に。
ステイル「どうやら……君だけは……」
そして言葉を続けた。
神裂の瞳と。
ステイル「―――……君のまま……だったからね……」
彼女の頬の上辺を―――そこに毀れだした一筋の雫を見て。
神裂『―――』
この瞬間、神裂の中で轟音が響いた。
心を固めた城塞が、あっという間に崩れ落ちていく轟音が。
147: 2011/06/21(火) 01:40:24.75 ID:sDAaF+n5o
やっと真実を知って、本当の戦いに乗り出し始めたばかりなのに。
こんな早々に失ってしまう。
最も失いたくない存在の一つを。
しかも己が手で。
最も並び立って共に戦いたかった友を、この手で。
耐えられない。
どれだけ冷酷に徹しようとしても。
根の優しさを偽れない。
善良な心を持つ、人をこよなく愛する女だから。
『聖人』に相応しい清廉な者だからこそ。
耐えられない。
神裂の顔を覆っていた仮面は砕け散り。
彼女の顔は感情に溢れ大きく歪み。
神裂『―――あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!』
放たれた叫びはどこまでも悲痛な色を滲ませて。
彼女はステイルを抱き寄せて。
そして右手で七天七刀を取っては、その柄先を額に当てて願った。
絶大な力を持つ主へ、何とかしてこの男への救いを与えてくれるよう。
救われぬこの不幸者への救いを。
148: 2011/06/21(火) 01:42:13.38 ID:sDAaF+n5o
抱き寄せている手から胸、首元を伝わってわかる。
ステイルの体からみるみる力が抜けていくのを。
ステイル「…………イン……デックス……を…………」
耳元で発せられるステイルのか細い声。
聞きたくない。
最期の言葉なんて聞きたくない。
耐えられない。
耐えられなかった。
そして彼女は、いまだ声を発さぬ主に二つ目の願いを望む。
その頬を濡らして、額に当てている刀に願う。
己の傀儡化を。
この自我を奪ってください、と。
耐えられない―――私はあなたに成れませんでした。
あなたが求める強さは―――私にはありませんでした。
私は―――悪魔に成りきれませんでした、と。
そして願いは受理された。
『二つ目』ではなく―――『一つ目』の願いの方が。
149: 2011/06/21(火) 01:43:42.95 ID:sDAaF+n5o
神裂『―――』
その瞬間、柄を握る手に熱を感じ。
直後、意識内にイメージが湧き上がり。
こう告げた。
―――己が転生した際と同じ事をしろ―――。
神裂『―――』
主から届いたのは、たったその一文。
だが神裂にとってはそれで充分だった。
そう、同じ事をすればいいのだ。
煉獄にてバージルが―――氏んだ神裂に行ったことと同じように。
氏を『許さず』に捕えてしまえ。
力ずくで従属させてしまえ。
縛して隷属させてしまえ。
―――使い魔にしてしまえ。
神裂は迷わなかった。
人の心の『わがまま』に一切抵抗せずに身を委ねた。
確かにこれは非常に身勝手な行為だ。
神裂自身、そんなことは充分自覚している。
だが今もし、その点を誰かに指摘されていたら。
神裂には似合わずとも中指立ててこう返しただろう。
『クソ喰らえ』、と。
―――
155: 2011/06/25(土) 01:18:28.49 ID:10ySVIwUo
―――
上条「―――!」
何が起こったかわからない、突然の場面転換。
青い影が突如視界を覆ったと思った次の瞬間、周囲は一変していた。
違う場所どころではない、
世界ごと別物になっていた。
そこは超高空の宙。
淀んで陰湿でむせかえるような『力』が充満している、人間界とは明らかに違う空気感。
薄暗い空の遥か下には、巨大な濃赤色の湖群と幾本もの大河と荒んだ鉛色の大地。
それらが『球状ではない地平線』の彼方まで延々と続いていた。
そう、この世界は。
上条「(―――魔界!?)」
悪魔の世界だった。
同化したベオウルフ、
更にそこから垣間見たダンテやバージルの記憶がはっきりと裏付ける。
そして組成の大半が悪魔となっているこの体が、
『故郷』への帰還に歓喜して高揚しているのか。
ざわついた異質な高揚感とともにその事実を告げてくる。
上条「―――!」
何が起こったかわからない、突然の場面転換。
青い影が突如視界を覆ったと思った次の瞬間、周囲は一変していた。
違う場所どころではない、
世界ごと別物になっていた。
そこは超高空の宙。
淀んで陰湿でむせかえるような『力』が充満している、人間界とは明らかに違う空気感。
薄暗い空の遥か下には、巨大な濃赤色の湖群と幾本もの大河と荒んだ鉛色の大地。
それらが『球状ではない地平線』の彼方まで延々と続いていた。
そう、この世界は。
上条「(―――魔界!?)」
悪魔の世界だった。
同化したベオウルフ、
更にそこから垣間見たダンテやバージルの記憶がはっきりと裏付ける。
そして組成の大半が悪魔となっているこの体が、
『故郷』への帰還に歓喜して高揚しているのか。
ざわついた異質な高揚感とともにその事実を告げてくる。
156: 2011/06/25(土) 01:20:57.89 ID:10ySVIwUo
上条「―――!」
そして当然のように、支えの無い体は下方へ向けて落下を始めた。
ただ重力が不安定なのか、
落下速度が空気抵抗に負けて急に減速したと思いきや、
逆に唐突に加速したりなどしつつ。
しかしそれも、人間界とは全く違う世界なのだから別段不思議でもないだろう。
この魔界は物理法則とは別に当たり前に『力』が作用するため、
人間界からすればあらゆる物理法則が不確かであると言えるのだから。
そして落下し始めてすぐ。
「―――上条さん!!」
上条の耳はその落下の暴風の中からも、
通常の人の聴覚ではかき消される声をはっきりと捉えた。
上条「―――五和!!」
上方からの五和の声を。
157: 2011/06/25(土) 01:22:17.83 ID:10ySVIwUo
上条はすかさず彼女の姿を捉えては、
宙で体と四肢を上手く動かしては制動し、
徐々に五和に接近して。
篭手で守られている右手で彼女の左手を取った。
そのまま上条は風に煽られながらも、
更にもう『一人』の姿を探して周囲を見回したが、見つけられず。
一瞬前まで一緒に居た大切な彼女、
インデックスの姿がどこにも見当たらなかったのだ。
上下左右、全方位どこにも。
上条「―――イン―――!」
そして声を張り上げて、目の前の五和にも問おうとしたが、
その言葉を言い切る前に上条は口を留めてしまった。
上条「―――」
この時、唐突に『わかってしまった』のだから。
彼女はここにはいない、と。
ここにインデックスはいないと確実に『告げてくる』。
つい先ほど、寮で唇を重ねた瞬間からのあの感覚が。
はっきりとこの体の奥底から感じる、彼女の存在とその繋がりが。
158: 2011/06/25(土) 01:24:14.14 ID:10ySVIwUo
上条「―――」
惚けた熱気、高揚感からの気のせいとも思えていたが、
決してそんなものではなかった。
確かに実際の現象としてこの体の奥底にあるのだ。
なぜ上条がすぐにそう確信したのか、
それは以前にも酷似した感覚を覚えていたからである。
ベオウルフをこの体に装着していた時のような『繋がり』、
あの魂のリンクに非常に似ているのだ。
五和「―――インデックスは!!??」
まるで上条の言葉を引き継いだかのように、
直後に五和から放たれたその問い。
それに対し、上条はこの落下の行き先である遥か下界を見据えながら。
上条「ここにはいない!!!!」
そう即答しては今後のやるべき事に素早く思考を巡らせた。
まずやらなければならない事は、
インデックスの居場所を特定してそこに向かうこと。
そして具体的にどう特定するかは、特に問題はなさそうであった。
この『繋がり』に意識をより集中させればわかるだろう。
問題なのはどうやって向かうか、どうやってここから抜け出すか、だ。
上条「(……ッ)」
悪魔の移動術は使えない。
あれは下等悪魔にも扱える非常に簡単な技らしいのだが、
上条はまったくやり方がわからないのだ。
そして恐らく五和も使えない。
悪魔の力も扱える精鋭の魔術師であるとはいえ、人間である彼女は使えないと考えた方が良い。
人間『最凶』たるレディも、
上条の覚えでは一度も使っていなかったのだから。
159: 2011/06/25(土) 01:25:11.25 ID:10ySVIwUo
五和「とりあえず!!人間界に戻りましょう!!」
落下の暴風の中、同じく考えたのだろう、
五和がそう声を張り上げた。
と、同じく考えたといっても一つだけ上条とは異なっている点があるだろうが。
恐らく彼女は、上条もステイルや神裂と同じくあの移動術を使えると思っていたのだろう―――と。
上条「無理だ!!俺はあれ使えないんだ!!」
上条はそうとらえて、そう己が使えないあまを口にしたが。
次に五和から返って来た言葉は予想外のものであった。
五和「―――私がやります!!」
上条「―――でっ―――できるのか??!!」
五和「人間界に戻るだけなら!!」
五和「教わりました!!非常用に!!」
そう五和は叫び、
右手にある銀色の槍を強調するように突き出した。
上条「―――」
その事を聞いて、上条の脳内で瞬時に段取りが組みあがる。
すぐに人間界に戻って、
素早く神裂とステイルを止めて彼等の助力を、と。
160: 2011/06/25(土) 01:26:16.26 ID:10ySVIwUo
上条「すぐにできるか?!!」
五和「地面が無いと!!!」
となると、作業は着地してからとなる。
そうして上条が、
着地点を見定めようと遥か下方を意識して見た時であった。
上条「―――」
かなり落下したのだろう、
地表の様子が良く見える高さにまで到達しており。
巨大な濃赤色の湖群と、幾本もの大河と荒んだ鉛色の大地―――と思っていたものが違っていたことに気付いてしまった。
湖や大河が濃赤色を帯びているのは、無数の『赤い瞳』のせいだ。
そう、あれは巨大な湖ではなかった。
果て無く伸びる大河なんかでもなかった。
大挙してどこかへと向かっている―――夥しい数の悪魔の群れであった。
161: 2011/06/25(土) 01:28:15.30 ID:10ySVIwUo
上条「掴まってろ!!」
上条はそう声を張り上げては、
素早く五和を一気に引き寄せて抱き上げた。
五和「―――ッ!」
突然の彼の行動に、五和は驚きの表情を浮べるも。
左手で銃を引き抜く上条の行動を見て彼女もすぐに状況を察し、
両腕を彼の首にかけて固くしがみついた。
彼女がそうしてる間に、
上条の瞳が魔を帯びて赤く輝き出し。
右肘から先を省く全身から、白銀の光りが漏れ出し、
左手と両足に光で形成された脛当てと篭手が出現。
全身から放出する力で、爆発的に落下速度を増させ。
上条『しっかりな』
この暴風の中でもはっきりと聞える、
エコーのかかった異質な声で一言告げて。
上条『―――結構揺れるぜ』
そして『強行着陸』を行った―――悪魔の群れの只中に。
162: 2011/06/25(土) 01:29:58.19 ID:10ySVIwUo
それは天頂から、小さい彗星が落下してきたような光景であった。
直下にいた悪魔数体は一瞬で消滅。
衝突点から半径30mは、白銀の光の爆発で吹き飛ばされクレーターを形成、
周囲を木っ端微塵になった大量の悪魔の肉片が飛び散っていく。
上条『――――――ハッ』
その中心地にて全身から魔の光を放つ上条は、周囲を見据えた。
溜め込んでいた息を短く鋭く吐き出して。
五和は飛び降りるように上条の手から抜け、瞬時に戦闘用の魔界魔術を起動し、
彼と背中合わせに構えた。
魔の赤い光を帯びるアンブラの槍を握り込んで。
クレーターの淵には当たり前だが大量の悪魔達がいた。
ダンテやバージル、ベオウルフの記憶にも無い種も多く入り混じっており、その形状は様々。
だがその仕草は、一様に似通っていたものであった。
固い甲殻状の体表を鳴らし、牙を向いては身の毛がよだつ唸り声を鳴らし。
瞳を輝かせ、口らしき部分からおぞましい粘液を滴らせて二人をジッと見据える。
いきなり『振って』沸いた『餌』を前にして。
仲間が踏み殺され吹き飛ばされた事などまるで気にも留めず、
ただただ貪欲に残虐性と暴力性を滲ませて。
163: 2011/06/25(土) 01:32:17.66 ID:10ySVIwUo
五和「…………上条さん……ど、どうしますか?」
周囲からのおぞましい視線の中、背中合わせに五和が口を開いた。
静かだが張り詰めた声色で。
上条『……………………すぐできるか?』
五和「……すみません。準備に時間が。一、二分は……それに……実際に使うのは初めてなんです……」
上条『……』
一、二分。
平時ならばごく短時間であろうが、このような状況では『長い時間』。
だが現状、それしか道は無い。
そして初めてであろうが、
とにかく一発で成功してもらわねばならない。
上条『五和は作業を始めてくれ。その間―――』
上条は篭手に包まれた右拳を握り込んでは、背後の彼女に。
上条『―――俺がお前を守ってやる。頼んだぜ』
五和「―――は、はいぃ!!」
背中越しに彼の言葉を受けて、
彼女はすぐにその魔術的な作業を開始した。
槍を鉛色の地面に突き立てては、
脇から出した短刀で術式を手早く大地に刻み込んでいく。
164: 2011/06/25(土) 01:34:32.72 ID:10ySVIwUo
その背後の作業の音の中。
上条は周囲の悪魔達を見据えながら、ふととある以前の事を思い出していた。
上条『……』
ダンテとトリッシュが留守の時に受けたあの依頼、
寂れたバーにたむろしてた悪魔達を狩った時の事。
その際に放った、自身の言葉を思い返す。
人間界に『押し入った』悪魔へ向けての言葉を。
なぜここで思い出すのか、それは今、『押し入っている』のはこちら側だからだからだ。
己達が魔界に侵入してしまっているのだ。
上条『……』
ただ、そこに関しては特に負い目は感じはしなかった。
ここで問答無用の暴力に手を染めることに、特に後ろめたさなど無い。
これ こっち
『暴力』が『 魔 界 』の『真っ当』なやり方なのだから。
その時。
前方から二体、五和を挟んで後方から一体。
周囲のこの包囲網から飛び出してくる悪魔がいた。
165: 2011/06/25(土) 01:37:12.45 ID:10ySVIwUo
前から来る二体は、角の生えた体毛の無い猿のような悪魔であった。
ただ3m以上の体に、1m近い巨大な鉤爪を有す『猿』だったが。
一体目は、その大きな両手の爪をかざして一気に踏み切って突進。
対して上条は特にその場から動かずに。
上条『―――シッ』
強烈な正面蹴りで迎え撃つ。
光の装具で覆われた右足が突き出された爪と腕、
そしてそのまま頭部を簡単に粉砕。
次いで上条は、蹴り出した足を引き戻さずに、
更にそのまま押し込んでは『足場』にして。
その右足を軸にし、今度は左足で薙ぐように蹴りを放つ。
続けて突っ込んできた二体目へ向けて。
上条『―――カッ!』
光で形成された装具に覆われたその右足は、まるで巨大な鎌のように。
その悪魔の上半身を丸ごと横から砕き狩った。
強烈な衝撃と共に二体の悪魔の破片が飛び散る中、
更に上条は二蹴り目の慣性のまま体を回転。
そして後方へ向き。
五和へと迫っていた悪魔へと、左手銃の引き金を絞る。
五和「―――!」
黒い銃口から放たれた魔弾は、
五和の横を掠め通っては正確に悪魔の頭部を吹き飛ばしては貫き、
そのまま向こうの包囲網へと飛んで更に数体の悪魔をぶち抜いていった。
166: 2011/06/25(土) 01:39:03.01 ID:10ySVIwUo
瞬く間に三体を屠り、軽い身のこなしで着地する上条。
一瞬の出来事に驚いている五和に、手を休ませるなと目で合図して、
彼は再び周囲の悪魔達へと視線を向けた。
今一連の動きを見てか、周囲の悪魔達の空気が変わっていた。
茶化しからかうような色は影を潜め、場を支配するのは張り詰めた鋭い殺意。
満ちるは本気の戦意。
上条『……』
大雑把に力をばら撒くのは、近くに五和がいる以上不可能。
そして元より、あの空から見た全ての悪魔を狩る力なども無い。
専念するべきなのは悪魔を倒すことではなく、
五和の移動術が完成するまで耐え切ること。
と、理性はそう判断する一方―――体は喜んで魔界のルールに染まろうとしていた。
その身に宿す、人のものではない『もう一つの本能』が。
理性は冷めて涼やかに、一方、心と体は熱く猛々しく―――。
167: 2011/06/25(土) 01:41:07.11 ID:10ySVIwUo
この力の親である武人ベオウルフからの影響か、
もっと根の部分の悪魔の性質か。
それともあの『ぶっ飛んでる師』の影響か、上条ははっきりと自覚していた。
到底手に負えない規模の悪魔達、守らなければならない五和、
そして離れてしまったインデックスの問題。
それらで焦燥する一方、この綱渡りのプレッシャーを―――『楽しんでしまっている己』がいたことを。
上条はそんな自身の一面に激しく嫌悪しつつも、拒否はしなかった。
今必要なのはより強い暴力性、より強い攻撃性、『力』だ。
目的のためなら何だってする。
人々を救うためなら、友を守るためなら―――インデックスのためなら何でも。
極悪な殺人鬼にでも微笑みかけて手を差し伸べてやる。
それが目的のために必要ならば。
綺麗事などもう気にしていない。
とっくにその一線は越えている。
あの日、ベオウルフを受け入れた瞬間から―――悪魔に魂を売った瞬間から。
上条は煮えたぎるこのおぞましい高揚に身を委ねては、
手招きするように銃口を揺らして。
上条『五和に指一本でも触れてみろ、クソッタレ共―――』
挑発的な言葉を悪魔達へ向けて放った。
上条『―――片っ端からぶち頃してやるぜ』
口角を歪ませるようにして、影の強い笑みを浮べながら。
輝きを一気に強める瞳が、仄かにその表情を照らし上げていた。
禍々しく赤々と。
―――
168: 2011/06/25(土) 01:42:45.93 ID:10ySVIwUo
―――
聞きなれたネコの泣き声と、ざらついた舌が頬を撫でる感触で、
目をうっすらと開け。
禁書「…………うっ…………」
そして胸や腹を圧迫する固いアスファルトの感触にたまらず息を吐き出して。
うっすらと目を開けつつ起き上がると。
さっきまで居たと所とは違うものの、
見慣れた第七学区の町並みが続いていた。
一切迷うことなく寮まで帰られる、良く見知った場所―――なのだが。
違う。
禁書「―――ッ」
明らかに『いつもの学園都市』とは同一ではない。
注意して見ると、周囲全てが陽炎のように僅かに像が揺らいでおり。
夜だったはずの空は明るく、オーロラのようにおぼろげな光りが揺れており。
頬を撫でていく空気も、冬の夜風ではなく妙に生ぬるい微風。
まるで夢の中にいるような、実体感の欠如した風景と居心地。
そしてその光景を『一目』見て、彼女の意識は瞬時にこう断じた。
ここはプルガトリオである、と。
イギリス清教の禁書目録として蓄えた情報ではなく、
この魂の奥底に眠っていた―――アンブラ魔女の知識によって。
禁書「―――」
しかしこの時、彼女の関心はそこに向かわなかった。
フィアンマとの一件以降『なぜか知っている』アンブラの知識よりも。
なぜ自身がプルガトリオにいるかなどよりも。
この時はそれらよりも遥かに重要な事があったから。
禁書「―――とうま!!」
上条と五和の姿が見当たらなかった、という事が。
聞きなれたネコの泣き声と、ざらついた舌が頬を撫でる感触で、
目をうっすらと開け。
禁書「…………うっ…………」
そして胸や腹を圧迫する固いアスファルトの感触にたまらず息を吐き出して。
うっすらと目を開けつつ起き上がると。
さっきまで居たと所とは違うものの、
見慣れた第七学区の町並みが続いていた。
一切迷うことなく寮まで帰られる、良く見知った場所―――なのだが。
違う。
禁書「―――ッ」
明らかに『いつもの学園都市』とは同一ではない。
注意して見ると、周囲全てが陽炎のように僅かに像が揺らいでおり。
夜だったはずの空は明るく、オーロラのようにおぼろげな光りが揺れており。
頬を撫でていく空気も、冬の夜風ではなく妙に生ぬるい微風。
まるで夢の中にいるような、実体感の欠如した風景と居心地。
そしてその光景を『一目』見て、彼女の意識は瞬時にこう断じた。
ここはプルガトリオである、と。
イギリス清教の禁書目録として蓄えた情報ではなく、
この魂の奥底に眠っていた―――アンブラ魔女の知識によって。
禁書「―――」
しかしこの時、彼女の関心はそこに向かわなかった。
フィアンマとの一件以降『なぜか知っている』アンブラの知識よりも。
なぜ自身がプルガトリオにいるかなどよりも。
この時はそれらよりも遥かに重要な事があったから。
禁書「―――とうま!!」
上条と五和の姿が見当たらなかった、という事が。
169: 2011/06/25(土) 01:44:13.75 ID:10ySVIwUo
呼びかけても反応は返ってこなかった。
禁書「とうま!!いつわ!!」
立ち上がりスフィンクスを胸に抱いては、更に強く大きく声を張るも。
この異質な街中をむなしく響くのみ。
それでも何度も彼女は呼びかけ続けたが、
実は気付いていた。
ここに上条当麻はいないと。
わかるのだ。
彼の存在を感じる、彼の鼓動が聞える。
だがそれはこの階層からではないと。
禁書「……とうま。どこに行っちゃったのかな……」
ただわかってはいても、どうしても探してしまう。
あのツンツン頭のシルエットを。
スフィンクスを胸に抱いたまま、
当ても無く辺りを歩いては、恐る恐るこの異界の学園都市の町並みを見渡していく。
と、そうしている時であった。
突如、胸のスフィンクスが威嚇するように唸り声を上げた次の瞬間。
「―――無駄よ」
禁書「ッ!」
すぐ背後で聞き覚えのある声が響いた。
その一言だけ聞いてすぐにわかる。
声の主は、今は既にその位を剥奪されている元イギリス清教のトップ―――最大主教。
しかし、こうして脳内にすぐ羅列された情報は、
すぐに彼女の意識外へと吹き飛んでしまった、
振り向いて、背後のその顔を『再び』見てしまったから。
禁書「―――」
170: 2011/06/25(土) 01:46:20.32 ID:10ySVIwUo
ローラ「この階層にはいない。奴らは。テキトーに飛ばしてやったわ」
ローラの顔を直に見るのは、つい先ほども含めてこれで二度目で。
ローラ「魔界の淵にでもおりけるかもな」
禁書「―――」
この二度目は前回のような突然の魔女乱入も無く。
邪魔されること無く、彼女の意識は当然のように己の真の存在を認識してしまった。
なにせフィアンマの一件によって。
彼女のアンブラの記憶を封じる錠は、既に解き放たれていたのだから。
ローラの顔は三つの意味で見覚えがあった。
一つ目、上司としての顔。
禁書「………………ッ…………」
二つ目、見慣れた己の顔。
まさに文字通り、『鏡を見ている』ようであった。
相違点は成長具合と髪色だけでそれ以外は瓜二つ。
そして三つ目。
夢で見たあの顔。
フィアンマとの一件の翌日に見たあの『夢』。
おぼろげにしか覚えていなかった『夢』が脳裏に鮮明に蘇る。
いいや、それは決して『夢』ではなく―――本物の『記憶』。
禁書「…………あっ…………あ…………」
彼女は言葉にならない声を漏らして、思わず後ずさりしてしまった。
様々な感情が入り混じった形容しがたい色を顔に滲ませて。
脳内に目まぐるしくフラッシュバックしていく。
開かれた深層の扉、そこから堰を切って一気に溢れ出した―――この500年間の記憶と。
想いが。
171: 2011/06/25(土) 01:49:59.17 ID:10ySVIwUo
近衛所属の精鋭たる青髪の姉、メアリー。
幼くして主席書記官である金髪の妹、ローラ。
姉が生まれたのは520年前。
その10年後に妹が生まれるも、母は出産の際に氏亡。
以後、姉が母代わりとなり妹を育て上げるが、その妹が齢10となった時。
幼くして彼女が主席書記官となった年の夏。
アンブラに終焉の日が訪れた。
妹も、姉の眼前で天使に殺され。
姉は妹の頭の中にある禁術を起動して、
妹の蘇生を試みるも力が全く足らずに、術は不完全に終わり魂は『安定』せず。
そこで姉の意思がとった次の行動は、
崩壊を留める為に力を精神の分離させること。
そうして分離された『力の入った器』は、
次こそは術を完成さえるために封印して長き休息の眠りへ。
『精神の入った器』は、当時のイングランド地下に隠れ場所を見出し。
『力の入った器』が安置された神儀の間にて守り続けた。
そして450年後のある日、ふらりと迷い込んできた王族の少女と出会って。
500近い歳の差の奇妙な友情を結び。
お互い秘密裏に助力しあい、王族の少女は政敵を排除して王位を継承。
『精神の入った器』はローラ=スチュアートと名乗り、表舞台に長き時を超えて再び立った。
女王の推薦でローラが最大主教の座に付いたのは、
アンブラ終焉の日から470年経った年の夏であった。
そしてそれから25年後、今から5年前。
ローラは来る日に備え『力の入った器』を再起動、
齢10で止まっていた彼女の時を、再び刻み始めさせ―――『禁書目録』として己が手の中に置いた。
『精神の入った器』、その管理人格ローラのモデルが、
『妹を蘇らせるという願望を抱く姉』であったことが起因したのか。
この時、『力の入った器』の管理人格である『インデックス』のモデルとなったのは―――在りし日の『妹』であった。
172: 2011/06/25(土) 01:52:15.35 ID:10ySVIwUo
そして更に記憶は蘇る。
魂の奥深くに刻まれていた光景が。
禁書「―――あッ………………な…………」
音が。
香りが。
感情が。
失っていた空白の間の全て、
『禁書目録』として目覚めた時から今までの『全て』を。
魔術知識を記録するために、
各地を飛び回っては様々な人々と出会った日々を。
ルーン
『これは―――大切な人を護るために創った―――新しい文字だ』
禁書「―――『ステイル』―――」
とも
『お護りです―――私達がこれからも、良き仲間でいられるように』
禁書「―――『かおり』―――」
忘却の彼方へと奪われた宝物、かけがえのない友の記憶を。
そして記憶は繋がった。
禁書「―――……『とうま』……」
今や愛してやまない彼と出会う―――あのベランダへの瞬間へと。
173: 2011/06/25(土) 01:53:42.72 ID:10ySVIwUo
止め処なくまぶたから露が溢れ流れていく。
取り戻した喜びと、失っていた悲しみを混じらせて。
彼女は力なくその場に座り込んでしまった。
取り戻した過去の感情、想いに一気に身を浸らしてしまったせいで、
精神を急激に消耗してしまって。
禁書「………………………わ……私……」
ぼんやりと口を開いたものの、
次に何を並べて良いかがわからず、言葉は続かず。
気付くとローラが眼前に立っていた。
ローラ「…………」
禁書「…………」
無言のまま、冷徹な眼差しで見下ろして。
そしてインデックスの頭の上に手を乗せるように手をかざしたが。
ローラ「…………ッ……」
『何か』に躊躇ったかのように手を一度、戻しかけた。
涙を湛えるインデックスを顔を見て。
堪えるように力んだのか、頬をわずかに震わせて。
だがそれは一瞬だけ。
即座にローラは手を動かしては、当初そうしようとした通りインデックスの頭にかざした。
すると次の瞬間、インデックスを中心として、
巨大な魔方陣が浮かび上がった。
半径15mにも及び何重にも。
174: 2011/06/25(土) 01:57:12.73 ID:10ySVIwUo
これから何が行われるか、その結果をインデックスは知っていた。
詳しい手順はわからずとも。
最後の結果は、離する前に既に決められていたから知っている。
胸の中のスフィンクスが唸り声を上げているが、何も出来ない。
いつの間にかローラの術にかかっていたのか、
この体はピクリとも動かなくなっていた。
いいや。
禁書「…………っ…………」
何かの術をかけられたのではなく、
前からあった『機能』の一つで単に制御を奪われただけだ。
『私』は、この『力の入った器』の管理人格に過ぎないのだから。
そして今、この『力が入った器』を返すため、『私』は消える。
ステイルと神裂と過ごした私は消える。
彼等との大切な記憶を取り戻したばかりに消える。
上条当麻と出会った私は消える。
上条当麻を好きになった私は消える。
その自身の心にやっと気付いたばかりなのに―――私は消えるのだ、と。
涙が更に勢いを増す。
嗚咽を起こさずに穏やかに、それでいながら大量に毀れ出て行く。
そんな穏やかな泣き方と同じくして。
ローラ「…………ご苦労であったのよ―――」
ローラが沈黙を破って。
ローラ「―――眠りなさい。ゆっくり……安心して」
そう穏やかに告げた。
まるで優しき姉が―――愛しい妹に捧げるような声で。
175: 2011/06/25(土) 01:58:56.74 ID:10ySVIwUo
と―――その時だった。
突然。
禁書「―――ッあ゛ッ!!」
強烈な痛みが胸の奥底を襲った。
そしてタイミング同じくして。
ローラ「―――あッ―――ぐッ!!!!」
顔を歪ませてローラも苦悶の声を漏らした。
即座にインデックスの頭から手を離しては、
跳ね飛ぶようにして後ずさりして。
禁書「―――」
その様子を見ると、どうやらこちら以上の痛みに襲われているようであった。
そしてこの痛みの原因はわからなかったが、体に大きな変化があった。
禁書「!」
体が自由になっていたのだ。
激痛に喘ぎながらも彼女は素早く立ち上がり、
ローラと距離を置くべく後方に下がり、
身構えるようにして少し身を屈めた。
176: 2011/06/25(土) 02:00:17.62 ID:10ySVIwUo
一方のローラは胸を押さえては、
いまだに呼吸がままならない程に喘いでいたが。
ローラ「―――なッ―――なッ…………な、な??!!」
彼女の瞳に映る意識は、
痛みそのものではなく痛みの『原因』に全て向けられていて。
ローラ「―――馬鹿なッ…………!!!結んだ??!!!結んだのかッッッ??!!!!」
そしてローラは声を荒げた。
ローラ「―――あの小僧かッッッ??!!あのクソガキと結んだのか??!!!」
インデックスへ向けて、眼を大きく見開いて。
ローラ「―――『契約』をッッ!!!!」
禁書「―――けい―――やく―――?」
ローラ「有り得ない!!!そんなこと絶対に有り得ない!!!!認めぬ!!!決して認めたるか!!!」
感情が入り乱れ、
酷く混乱した凄まじい形相で。
ローラ「『お前』は人形なのに!!!―――ただの『模造』なのに!!!―――」
ローラ「―――ただの『幻想』なのに!!!!」
―――
181: 2011/06/29(水) 03:23:23.03 ID:R6KekFd3o
―――
魔界の淵の一画。
この界の境界がおぼろげな領域は今、無数の悪魔達で埋め尽くされていた。
大地を遥か彼方まで、大海のように覆い尽くす軍団。
しかしそのとある只中、一箇所だけ、極端に『人口密度』の低い場があった。
半径1km程の円形のその場には下等悪魔は決して踏み入らず、
中にいるのは、群れを監視するように仁王立ちしている少数の高等悪魔と。
そして場のちょうど中央、ちょっとした岩場の頂点に座している、とある一体の悪魔。
身長は3m程で、くすんだ緑色のマントのようなもので、
翼で体を包むように己を覆っており。
頭部には烏帽子の如く尖っている、同じく緑色の兜のようなもの。
兜の淵からは、幾本も伸びている羽飾りに似た光の靄。
その『羽飾り』と『マント』をまるで水の中にいるかのように揺らがせながら、
『彼』は下等悪魔を一切寄せ付けない強烈な圧を放っていた。
正真正銘の大悪魔の圧を。
『彼』は配下に更に複数の大悪魔をも従えているという、
その領域の中でも上位の存在。
そしてこの一画を占めている無数の悪魔達の指揮官でもあった。
魔界の淵の一画。
この界の境界がおぼろげな領域は今、無数の悪魔達で埋め尽くされていた。
大地を遥か彼方まで、大海のように覆い尽くす軍団。
しかしそのとある只中、一箇所だけ、極端に『人口密度』の低い場があった。
半径1km程の円形のその場には下等悪魔は決して踏み入らず、
中にいるのは、群れを監視するように仁王立ちしている少数の高等悪魔と。
そして場のちょうど中央、ちょっとした岩場の頂点に座している、とある一体の悪魔。
身長は3m程で、くすんだ緑色のマントのようなもので、
翼で体を包むように己を覆っており。
頭部には烏帽子の如く尖っている、同じく緑色の兜のようなもの。
兜の淵からは、幾本も伸びている羽飾りに似た光の靄。
その『羽飾り』と『マント』をまるで水の中にいるかのように揺らがせながら、
『彼』は下等悪魔を一切寄せ付けない強烈な圧を放っていた。
正真正銘の大悪魔の圧を。
『彼』は配下に更に複数の大悪魔をも従えているという、
その領域の中でも上位の存在。
そしてこの一画を占めている無数の悪魔達の指揮官でもあった。
182: 2011/06/29(水) 03:24:18.32 ID:R6KekFd3o
現在、配下軍団の行軍は順調に進んでいた。
下等悪魔共も命令に良く従い、
このような軍団に付き物の『共食い』による兵員消耗率も低く上々だ。
さすがにこの愚鈍な下等悪魔共も、今回は特別だと認識しているのだろう。
なにせ、これは悲願の人界再侵攻。
2000年前の雪辱を晴らす祭り。
この淵を超え、プルガトリオを越えた先には至上の宴が待っているのだ。
と。
そんな、この一大イベントの行く末を思い描いて内でほくそ笑む一方。
今現在、彼には一つ気になることがあった。
魔界の淵の別階層を進んでいる他軍団、
そのいくつかの反応が、先ほどから妙に乱れ始めたのだ。
確かに、元々この淵の領域は不安定な場。
これだけの軍団と百を超える大悪魔が集結すれば、相当な負荷がかかるのも当然であるが。
そこを鑑みても、それでもこのタイミングにこの乱れ方はおかしく、
更に何よりもこの大悪魔としての直感が叫ぶ。
何かが起こっている、と。
考えられる最も確率の高い可能性は、
敵対する十強勢力がこの期に及んで妨害をしてきたということか。
十強勢力、そして内戦に表立って参戦していない有力な諸侯の中にも、
覇王の復活と魔界統一を望んでいない者達がいるのだから、不思議ではない。
ともかく十強が一柱である『主』に報告すべきかもしれない、と彼は静かに思い始めていた。
とその時であった。
183: 2011/06/29(水) 03:25:17.54 ID:R6KekFd3o
『―――』
それは唐突に、何の前触れも無く起こった。
突然、この階層が大きく揺れた。
大地は波打ち、空間が歪み界が軋む。
次いで遥か遠方にて赤い光が瞬き。
高さ数キロに渡って、大量の悪魔が塵のように巻き上がって、
強烈な衝撃と共に無数の悪魔達の断末魔が重なり轟いた。
その光景を見、そして放たれている力を感じ取って彼は確信した。
やはり襲撃者だ、それもあの力の規模から見て、間違いなく大悪魔であると。
だがこの分析は『足りなかった』。
現れた襲撃者は、『大悪魔』という言葉だけで片付けられるような存在では無かったのだ。
ただその点に早く気付いていたとも、彼に出来ることはなかったであろう。
彼の末路は既に決していた。
あの襲撃者が彼の力の圧を嗅ぎ付け、
彼を狙ってこの階層に現れた時点で。
184: 2011/06/29(水) 03:26:24.52 ID:R6KekFd3o
相手が『大悪魔』とわかっていれば、そこに手加減は何も必要ない。
探りを入れる先手も最高出力で放つべし。
その時、彼が戦闘状態に移行するのを察知してか、
周りの高等悪魔達が瞬時に彼から離れていき。
更に下等悪魔達も悲鳴に似た声を挙げながら、大挙して一気に彼から離れていく。
そして半径2km程が無人となったその場の中央にて、彼はふわりと岩場の上に浮いた。
すると体を包んでいた『マント』が翼のように大きく広がり、
その下から屈強な金色の腕が一対現れて。
片手にエメラルド色の光で形成された巨大な弓が出現。
もう片方の手で弦を引くと、同じ光で形成された矢が現れた。
彼は古来より、魔界にて特に優れたの射手の一柱として知られていた。
更に十強による内戦の中で、最高の射手としてその武名を馳せてきた。
そして名に負けず、彼が放つ矢はまさに圧倒的。
その矢の性質の最たるものは、標的の最も弱い部位を正確無比に打ち抜くと言う点。
それも力の防御、幕を飛び越えて、
魂そのものを射抜相手を一矢にて絶命させる、という超攻撃特化の矢撃。
彼はこの力を築き上げ、無数の悪魔の中から這い上がって大悪魔になり、
大悪魔世界における更に苛烈な競争にも打ち勝って今の領域にまでのし上がった。
そして最近の内戦では、実際にこの矢で大悪魔を何体も一撃の下に屠ってきたのだ。
彼は弦を目一杯引き、そして力を極限まで収束させていき。
自身の生き様に裏付けられた、絶大な自信と確信を持って―――矢を放った。
遥か彼方に現れた襲撃者めがけて。
185: 2011/06/29(水) 03:28:07.36 ID:R6KekFd3o
エメラルド色に輝く矢が、線となって空間を次元を超越した速度で走っていく。
漏れ出した僅かな余波が、矢の軌道の周囲を消し飛ばしていきながら。
放たれた瞬間の彼の周りの大地、逃げ遅れた下等悪魔達の群れを『掻っ捌き』。
間にある大きな丘を根こそぎ蒸発させ。
そして襲撃者の魂に命中した。
寸分の狂いも無く、今までの彼の実績と同じく正確無比に。
だが―――。
『―――』
―――結果は今までと異なっていた。
手応えは感じた。
いいや―――これでは感じすぎだ。
手応えが『強すぎる』―――『固すぎる』。
それは明らかに―――貫けていない。
あまりに魂が固く、矢が負け砕けた感触であった。
そして彼はここで悟った。
襲撃者は、敵対する十強勢力の手勢などではない。
もっと強大な。
己が主のような十強、諸神、諸王級―――いいや―――遥かにもっとだ、と。
正真正銘の―――『怪物』だ、と。
186: 2011/06/29(水) 03:29:22.24 ID:R6KekFd3o
彼の矢は、襲撃者にな何もダメージを与えられていなかった。
矢が行ったことと言えば、お互いの間の障害物を取り除き、綺麗な一本道を形成してしまったことだけ。
更に強いて言えば、そのせいで彼自身の週末を僅かに早めてしまったことと。
良くも悪くもその一本道のおかげで、物理的な姿をお互い目視したという事。
彼はここで襲撃者の姿を見た。
今まで感じていたものとは比べ物にならない、一気に強まった圧と共に。
大剣を両腕に携えて、
全身から赤、青、そして紫が混じった光を放出している―――魔騎士の姿を。
左手にあるのは、人間界風のギミックから業火を噴出す大剣。
そして右手には―――。
『―――』
その右手にあった大剣を、彼は3万年ほど前に見た記憶があった。
圧倒的な力の存在と共に。
『主』付き従って、三神の謁見に同席した際の事だ。
『主の主』である覇王アルゴサクス、
その上座に座していた、魔界の頂点―――魔帝ムンドゥス。
そして魔帝のすぐ横に立っていた、魔界史上最強の剣士―――スパーダ。
その魔剣士が背に携えていたのが―――あの大剣だ。
魔騎士の湾曲した角やその体躯も、
かつて見たスパーダと非常に良く似ており、間違いない。
スパーダの血族の者が、魔剣スパーダを手にここに現れたのだ。
187: 2011/06/29(水) 03:30:48.96 ID:R6KekFd3o
そう気付いた瞬間、彼は生涯初めて、
真の意味で『戦慄』という感覚を覚えた。
今までだって、幾たびも遥かに格上の大悪魔と戦い、
何度も己が終焉を覚悟した経験はあったが。
これはそんな生易しいものではない。
『覚悟』ではなく揺るぎのない事実、『確信』だ。
あの魔剣、そしてその力を振るう存在から逃げ延びた存在は、今まで一つたりとも居ない。
一つたりともだ。
ジュベレウス、魔帝や覇王といった名だたる天辺の存在達でさえ、
最終的に廃され封じられた。
具体的にどう打ち倒されるかは問題ではなく、あの剣に狙われた時点で終わりなのだ。
いわば氏の宣告。
逃げ伸びようとするだけ無駄。
そしてそんな絶望と比例して肥大化する感情がもう一つ。
それは魂を焦がす憤怒。
これほどの力をもって、魔界を裏切った存在への激情。
そう、まさしく魔界に生まれついた者の本能的な底なしの怒り。
最悪最凶の仇敵、魔界の敵たるかの者を決して許すまじ。
これらの絶望と憤怒に魂を染めて。
明らかに勝ち目が無いとわかっていながら、彼はこの襲撃者に挑戦していった。
今まであの剣、あの血族に挑んだ多くの同胞達と全く同じように。
188: 2011/06/29(水) 03:31:48.94 ID:R6KekFd3o
即座に彼は再び弦を引いた。
絶望と憤怒に身を任せて、いや、最早抗えず。
その時。
魔騎士が両腕の魔剣を、その切っ先で大地に叩き付けるように乱暴に下ろしては、
ジ口リと彼の方を見据えた。
魔騎士の兜隙間から見える真っ赤に光り輝く二つの瞳。
彼はそれを目にした直後、第二矢を放った。
同時に踏み切り、彼の方へと突進を始める魔騎士。
再び、凄まじい速度で突き進んでいくエメラルド色の壮烈な矢。
しかし魔騎士の瞬発速度は、その矢をも上回っていた。
矢と魔騎士が接触したのはずっと彼よりの場所であり、
しかも矢は直撃すらせず、魔騎士の体2m程前の空間で霧散。
そして魔騎士はその直後、『水平』に跳ね飛んでは更に爆発的に加速して来て。
『―――B――――last!!!!』
くぐもった人語の掛け声を放っては、
左手の業火を噴出す大剣で横に薙ぎ斬った。
宙に浮遊していた―――彼の胴を。
189: 2011/06/29(水) 03:33:07.12 ID:R6KekFd3o
その一振りで、彼の挑戦はあっけなくここに決した。
ただ『あっけなく』とは言うが、その一振りは諸神諸王級すら
一撃で廃されてしまう程に強烈すぎるものであったが。
一瞬彼の意識が途切れ、再び再起動した頃。
魔騎士は、切り落とした彼の上半身を
左手の業火を吐く大剣、その切っ先で突き刺して持ち上げていた。
『……』
朦朧とする意識の中、間近で魔騎士の姿を見た彼はそこで気付いた。
魔騎士の腰に、見慣れた部位がいくつもぶら下がっているのを。
それは別の軍団を率いていたはずの大悪魔達のもの。
名だたる将たる彼等の特徴的な部位が、
無造作に引き千切られては、この魔剣士の腰にぶら下げられていたのだ。
魂が崩れていくこの氏の感覚を味わう中、彼は静かに悟った。
このスパーダの眷属は、軍団の指揮官達を片っ端から狩って来ているのだと。
別階層の軍団達の反応が乱れていたのは、
頭を失い烏合の衆となり、右往左往していたからなのだ、と。
190: 2011/06/29(水) 03:34:06.24 ID:R6KekFd3o
とそこで。
魔騎士は右手の魔剣スパーダを肩に乗せて、
『ここの群れのアタマだな?名は?』
エコーの効いた人語でそう問うて来た。
『―――Kjshdhagyhgapoekha』
意識がおぼろげな彼は、
それに対して魔界の言語で返したが、
彼の意識をはっきりさせようとしたのか、
魔騎士が彼を持ち上げている大剣を大きく数回揺らして。
『人語で言え』
そう、どことなく作業的な声を飛ばしてきた。
いや、実際に作業化しているのだろうか。
腰にぶら下がっている彼等の今わの際にも同じようにしたのだろうから。
レラージュ『我が名は……レラージュ』
そして彼、レラージュは人語で己の名を答えた。
『OK、レラージュ』
それを聞いて、魔騎士は小さく頷いては。
『テメェの親玉をここに呼べ』
191: 2011/06/29(水) 03:35:12.47 ID:R6KekFd3o
レラージュ『…………』
彼はただ沈黙を返した。
それで充分であろうから。
従う気はないという意思表示は。
『もう一度だけ言う』
魔騎士再度、大剣を揺らして『宣告』した。
『アスタロトをここに呼べ』
レラージュが返したのは、先と同じく再び沈黙。
『だろうな』
魔騎士は予想通りといった風にそう呟いては、
魔剣スパーダを肩から下ろして―――。
そしてその次が、レラージュが最期に見た『光』となった。
それは魔剣スパーダが放つ一瞬の赤い閃光。
己の首が落とされる瞬間の。
―――
192: 2011/06/29(水) 03:36:42.33 ID:R6KekFd3o
―――
上条『―――ツァッ!!!!』
群がってくる悪魔達を蹴り掃い、吹き飛ばす。
クレーターは新しい穴がいくつも穿たれいて、いまや原型を留めておらず、
そして大量の悪魔の氏体で埋め尽くされていた。
上条『―――ッシ…………!!』
だが悪魔の数は一向に減ることは無かった。
倒した数は、空から見た全体の100万分の一にも達していないだろうか。
そして悪魔達も、その攻撃に衰えを見せない。
むしろ倒せば倒すほど、火に油を注ぐように悪魔達の憤怒が強まっていくのがわかる。
そろそろだ。
五和を守りながら戦い続けるのはもう限界だ。
上条『―――五和!!まだか?!』
上条は声を張り上げた。
回し蹴りで悪魔の首を叩き千切り、左手の銃で別の個体を撃ち抜きながら。
その時、こんな事が上条の脳裏をふとよぎった。
こういう時に限って作業はギリギリ間に合わず、
そして事態は更に悪化の一途を辿る、と。
ただ幸いなことに、その直感は外れてはいた。
五和『―――行けます!!』
半分だけは。
そして残り半分は不幸なことに―――当たっていた。
上条『―――』
上条『―――ツァッ!!!!』
群がってくる悪魔達を蹴り掃い、吹き飛ばす。
クレーターは新しい穴がいくつも穿たれいて、いまや原型を留めておらず、
そして大量の悪魔の氏体で埋め尽くされていた。
上条『―――ッシ…………!!』
だが悪魔の数は一向に減ることは無かった。
倒した数は、空から見た全体の100万分の一にも達していないだろうか。
そして悪魔達も、その攻撃に衰えを見せない。
むしろ倒せば倒すほど、火に油を注ぐように悪魔達の憤怒が強まっていくのがわかる。
そろそろだ。
五和を守りながら戦い続けるのはもう限界だ。
上条『―――五和!!まだか?!』
上条は声を張り上げた。
回し蹴りで悪魔の首を叩き千切り、左手の銃で別の個体を撃ち抜きながら。
その時、こんな事が上条の脳裏をふとよぎった。
こういう時に限って作業はギリギリ間に合わず、
そして事態は更に悪化の一途を辿る、と。
ただ幸いなことに、その直感は外れてはいた。
五和『―――行けます!!』
半分だけは。
そして残り半分は不幸なことに―――当たっていた。
上条『―――』
193: 2011/06/29(水) 03:37:57.59 ID:R6KekFd3o
五和がその朗報を口にしたと同時に、この場の空気が豹変した。
周囲の悪魔達の醜悪な奇声も一瞬で止み、一気に静まり返り。
そして圧し掛かる―――この独特なプレッシャー。
上条『―――』
紛れも無い。
強大な存在が現れたのだ。
その視線を感じ、11時方向のクレーターの淵を見やると。
周囲の悪魔達が退いたその空間の真ん中に、
身長2m半程の細身の人型悪魔が立っていた。
その風貌は、目の部分が窪んだ穴になっている銀色の仮面のような顔に、
赤いマントをフード上に頭からすっぽり身に巻きつけている。
そしてマントの隙間からは、奇妙な模様が刻まれた細い手足が見え隠れしていた。
そんな体躯のみ比べてしまえば、
周囲の悪魔達に見劣りしてしまうだろうが。
上条『―――ッ』
放つ力はまさに圧倒的、間違いなく周囲とは次元が違う―――大悪魔であった。
194: 2011/06/29(水) 03:40:48.38 ID:R6KekFd3o
『―――ほぉ。これはこれは』
それは魔界の言語の一つであった。
五和にはエコーの効いたノイズにしか聞えなかったであろう。
しかしベオウルフを祖としてその記憶を受け継ぐ上条には、
その意味がはっきりと認識できた。
こうして限界までその力を覚醒させているせいもあるだろう、より色濃く、
深淵のベオウルフの部分が浮き上がってきているのだ。
『そちらの人間のメスは…………おやおや、これも驚きだ』
赤いマントに身を包んだその大悪魔は、そう呟きながらクレーターの内部に降りて。
暗い眼孔の奥底を赤く光らせながら、固まっている五和に向けて続けた。
『アンブラの技を扱う者は、強大な二者しか生き延びておらんと聞いていたがな』
そして今度は上条の方を見。
『ベオウルフの眷属たる力に人間の器、そして僅かに香る―――憎きスパーダ血族の匂い』
『―――「例の右手」を持つ半魔か』
そう続けながら何気ないように一歩、また一歩と二人の方へと歩み寄ってきた。
上条『―――』
しかし、見た目は何気ない仕草でも。
隙がどこにも見当たらなかった。
この大悪魔は、この場の隅々まで意識を完全に張り巡らせては掌握しており、
こちらが僅かにでも動きを見せたらその瞬間、相手も必ず動く、と。
そしてもし、そのような状況になってしまうと。
まず人の体である五和がタダでは済まないのは確実。
一挙一動が五和の命に直結する以上、上条は無闇に動けなかった。
そして当の五和は、完全に圧倒されてしまっていた。
体を硬直させ、目を見開いて瞬き一つせず。
小刻みに体を震わせては、歩み寄ってくる大悪魔を凝視していた。
195: 2011/06/29(水) 03:42:40.43 ID:R6KekFd3o
『あの血族には、「個人的」に思うところもある』
大悪魔はそんな二人の様子など全く気にもせず、
ゆっくり歩きながら言葉を続けた。
『かつての人界侵攻の折、先遣隊に我が配下の将が一人加わっていたのだがな』
『聞けば今は、スパーダの息子の使い魔に成り下がっているらしいではないか』
『ナベルスという名、いいや、人界ではこちらの響きが馴染みがあるか?―――「ケルベロス」、と』
上条『……!』
その名を聞いた瞬間、受け継いだベオウルフの記憶がこの大悪魔の名を瞬時に導いた。
ケルベロスの以前の主となれば、該当する存在はただ一つ。
『ネビロス』という非常に高位の大悪魔。
そしてこの大悪魔も、更なる高位の悪魔に付き従える存在であり、
かつての魔帝を頂点とする『ピラミッド』の一員だ。
魔帝の側近たる覇王アルゴサクス、
その配下に座す王の一人『アスタロト』。
そのアスタロト配下の大将の一人、それがケルベロスの主たる『ネビロス』だ。
196: 2011/06/29(水) 03:43:54.02 ID:R6KekFd3o
ベオウルフの記憶に残る特徴との類似性から見ても、
この大悪魔はネビロスで間違いなさそうであった。
ただこの確信は、この場の解決には何も繋がらなかった。
逆に、相手が名だたる大悪魔中の大悪魔と確かにしてしまったせいで、
状況の困窮度が更に浮き彫りになってしまった。
上条『(―――……!どうする!!)』
見据え構えたまま、
上条は思考を更に加速させていく。
五和までは4mの距離。
瞬時に横に行き完成した術式で飛ぶ、それは果たして可能か。
いや、それはどう考えても非常に厳しい。
では先手を打ち数撃、このネビロスに叩き込んでは怯ませて、
その隙に飛ぶか。
否。
それも厳しい。
ベオウルフの記憶にもこのネビロスがどんな性質の力を持っているかは無く、
それ以前にどう解釈してもこの力の圧は―――遥かに格上だ。
以前相対したベリアルが優しく思えてしまうほど。
ベオウルフ本体を装備していたあの時と比べてもそう思えてしまうのだから、
その差は正に歴然としている。
これでは危険すぎる。
そしてそう考えている内に、状況は更に悪化していく。
上条『―――ッ』
その瞬間、もう『一つ』。
上条は敏感に察知した。
今度はこのネビロスのように『いつの間にか』ではなく、
遥か遠方から莫大な力を放ちながら接近してくる―――別の大悪魔を。
197: 2011/06/29(水) 03:46:25.13 ID:R6KekFd3o
『噂に聞く、かの創造を破壊せし―――幻想頃しとやらか』
そう上空から良く響く声を放って。
上条『!!』
二体目の大悪魔が、このクレーターの淵に地響きを立てて豪快に降り立った。
風貌は巨大な翼を有する体長4m程の巨狼、といったところか。
ただその体表は毛皮ではなく、鋼のように黒光りしたうろこ状のものであったが。
その特徴的な格好、そしてアスタロト配下のネビロスと同じこの場に現れたという点から、
この二体目の大悪魔の名はすぐに導くことが出来た。
『カークリノラース』―――人界で良く通っている名は―――『グラシャラボラス』。
ネビロス直下の将であり、同じくアスタロトの勢力に属するこれまた強大な大悪魔だ。
『面白い、その力を見せてもらおうか』
そしてグラシャラボラスは牙をむき出しにして、
上条へ向けそう吼え笑った。
と、そんな巨狼を制止するようにネビロスが片腕を挙げて。
『―――待て。まずは「大公」にお見せする』
そう声を放っては、掲げた指を軽く鳴らした。
その響きは上条にとって。
この絶望的状況を決定付ける最後の止めを刺す音でもあった。
198: 2011/06/29(水) 03:47:59.27 ID:R6KekFd3o
ネビロスが指を鳴らした瞬間、
クレーターの真上に巨大な魔方陣が出現し。
『―――ほほほはははっはははは!!』
その陣の中から良く通る高笑いと共に。
上条『―――!!』
この場最大の絶望が降臨した。
―――それは異形の龍に跨る、翼を生やした騎士―――。
いいや、良く見ると一体となっており、
ケンタウロスのような身体構造か。
『跨る龍の部分』は、鼻先から尾まで20m強、騎士の部分は身長4m程。
騎士の頭部には目も口も無く、顔は鷲のクチバシのような形状で前に突き出しており、
湾曲して上方へ伸びる大きな角。
それこそ、まるで鷲のクチバシを模した兜を深く被っているよう。
右腕には長さ10m近くにもなる、蛇を模したような金色の矛。
そして跨っている部位の異形の龍は三対の屈強な足に、
対照的に片面三つの計六つの瞳を赤く輝かせ、騎士とは対照的に『表情豊か』に唸り声を上げていた。
『はははは!!「例の右手」にアンブラの魔女か!!』
そして、恐らく騎士の部分からであろう声が高笑いを交わらせながら、
先のグラシャラボラス以上に豪快にクレーターの淵へと着地した。
物理的だけではなく、前二者をも遥かに上回る力を放ちながら。
その余りの圧に、上条はこの界が歪むのをも覚えていた。
また遂に耐えかねたのか、崩れ落ちるようにその場に膝を付いてしまう五和。
激しく肩を上下させ、汗を滲ませているその表情は虚ろであった。
今にも意識が飛んでしまいそうな程に。
199: 2011/06/29(水) 03:49:39.71 ID:R6KekFd3o
『思わぬ「獲物」がかかったものだな!!ネビロス!!!』
『正に仰るとおりで御座います。大公』
舞い降りた龍騎士に対し、
ネビロスは腰を低くし一礼しては、そう礼儀正しく言葉を返した。
上条『(―――ッ…………ク……ソ……)』
そのネビロスの態度、そして大公という呼び方。
最早確実。
この龍騎士がかの―――『恐怖公アスタロト』であるということは。
とその時、笑い声を挙げているアスタロトの体が突如『分離』した。
今度こそ、騎士と龍に。
騎士の部分が、
ギチギチと組み合っていた組織が外れていくを鳴らしながら龍の背から降りて。
次いで、騎士の体が一気に縮んで―――。
上条『!!!』
そして上条は一瞬、己が目を疑った。
変化後の、アスタロトの騎士部位の姿を見て。
その姿は白銀のゆったりとしたローブに身を包んだ―――神々しい程の美男子であった。
―――『人間型』の。
200: 2011/06/29(水) 03:51:14.89 ID:R6KekFd3o
ダンテやネロとは別方向の境地に位置する、
まさに場違いの『天使』のような『清廉』な容姿。
ローブとともに爽やかに靡く長い金髪、その宝石のような髪のきらめきが、
空間に柔らかい光を満たしていく。
だがしかし。
上条『ッ……』
上条は確かに感じ取っていた。
そんな表面的な美しさの下に潜む、おぞましく醜悪なオーラを。
造形的には文句無しでも、
どれだけ暖かそうな表情を浮べてもとことん不気味極まりない。
吐き気を催す嫌悪が込み上げてくるのだ。
アスタロトは、体に合わせて3m程に縮んだ槍を片手に。
髪とローブをなびかせては軽やかにクレーターの中に降り。
上条から8m程の一定の距離、そこから彼を中心にして円を描くようにゆっくりと歩き始めた。
彼を検分するかのように、あらゆる方向からその隅々を見ては、
一人何かを確認しているかのように頷きながら。
この時、上条の緊張は最高値に達していた。
散歩しているかのように歩むアスタロト、その身から放たれてくるプレッシャーは、
ネビロスのそれを遥かに凌駕していたのだ。
何か行動を起こすどころか、息を吐くことすら間々ならない重圧。
こんなところで立ち止まっている時間は無いのに。
こんなところで立ち止まっていてはならないのに。
4m程横にいる、今にも卒倒してしまいそうな五和を守らなければならないのに。
そして救いに行かなければならないのに―――インデックスを。
201: 2011/06/29(水) 03:53:43.96 ID:R6KekFd3o
その思いが上条を突き動かす。
例え無謀でも、例え勝算が0であっても。
戦士には進もうとしなければならない時がある。
決して諦めてはいけない。
上条は篭手に包まれた右手を静かに開け閉めして。
左手も、銃のグリップをゆっくりと握りなおして、
足も静かに調子を確認するように動かした。
大悪魔達を刺激しないようにゆっくりと、ゆっくりと。
その僅かな動きや力の流れをも感じ取ったのか、
グラシャラボラスがその身を乗り出したが、ネビロスが再び制止した。
上条『…………』
まず最優先の第一は、五和の安全。
そして第二は飛ぶ時間を確保すること。
そう念頭で何度も確認しながら、
上条は五和の方へとゆっくりと視線を向けたが。
五和の状態は悪化の一途を辿っていた。
座り込んではうつむき、今にも倒れそうなのを、
地に付き立てている槍にしがみついては懸命に耐えていたが。
既に限界であった。
意識を失いそのまま絶命、その結末がもう目の前にまで来ていた。
そんな彼女を様子を見て、遂に上条は動く。
無謀だと確信していた上で。
202: 2011/06/29(水) 03:54:49.23 ID:R6KekFd3o
そしてその確信はやはり『正しかった』。
上条が跳び出した瞬間、いや、実際は飛び出しも出来なかった。
ほんの1cmも移動することが叶わず。
上条『―――ぐッ!!!』
『はは!!生きが良いな!!!!』
アスタロトの高らかに笑う声が響く中。
上条『がああああ―――!!!!』
上条の体が静止して、そして次は僅かに浮いて大の字に宙に『固定』された。
いや、空間に磔にされた、とした方が正しいか。
どんなに力をこめても、まるでびくともしない。
1mmも揺れ動かないのだ。
ただ口や目が動くことから顔は固定されていないか、
そして右手首から先もその幻想頃しのおかげで自由に動いてはいた。
が、それだけであった。
大の字になって手首まで固定されていて、
どうやって右手で体に触れろというのだろうか。
それも物理的な力は人並みでしかない右手で。
この状況に置いて右手は、
状況打開のキーとはならなかった。
『おおお、凄いな。これが幻想頃しか』
右手先から先のアスタロトの縛を壊した、
そんな『見世物』となった程度である。
203: 2011/06/29(水) 03:57:28.05 ID:R6KekFd3o
『いかが致します?』
上条が咆哮をあげている中。
ネビロスはアスタロトの斜め後ろに進んではそう声をかけた。
『そうだな。コレはお前に一任する』
そして、少し思索の間を開けて答えるアスタロト。
『―――!』
『好きにするが良い。ただ調査結果は逐一寄こせ。俺も興味があるからな』
そう続けたアスタロトへ向け、
ネビロスが歓喜に体を震わせながら深々と頭を下げているところ。
『では大公。あのメスは我に?ちょうど小腹が好いてきたところでしてな。それに人間を喰らうのも久々なもんで』
クレーターの淵に陣取っていた巨狼、グラシャらボラスがそう口にした。
上条『―――!!!』
当然、それは上条にとって到底聞き流せる話ではなく。
上条『よせ!!!やめ―――!!!』
だが彼の声など完全に無視して、
アスタロトは会話を続けた。
『バカ言え「カール」。アンブラの魔女は今や絶滅種だ。ここで逃したら永劫喰らえん。悪いが俺が頂く』
グラシャラボラスを『カール』と呼んで。
上条『―――近づくな!!!おい!!!てめぇ!!!!』
五和の方へと、ゆっくりと歩を進めながら。
『はは!!そういえば「カール」、お前は魔女を喰らった事が無かったな!!』
心底嬉しそうに声を挙げながら。
『昔、契約をせがんできた魔女共を喰らったが、癖になる旨さでな!!あれは最高だったぞ!!』
上条『―――やめろ!!!近づくんじゃねえ!!!!!』
響く上条の絶叫が、アスタロトの歩みを止めるわけもなく。
『腹の底で響く断末魔、滲む苦痛、魔と人が混ざった魂の歯ごたえ、それはそれは甘美なものだ!!』
にこやかに笑う『恐怖公』は進んでいった。
五和のすぐ前にまで。
205: 2011/06/29(水) 04:00:41.15 ID:R6KekFd3o
だがそこで唐突に、アスタロトはふと笑みを潜め。
座り込んでいる五和を見下ろしながら
何かを嗅ぐように鼻を鳴らした後。
『おい、ネビロス。このメスは処Oだぞ。成人した戦士ではない』
不満げにそう口にした。
『そうでしたか?武装は成人のものでしたので、私はてっきり……』
次いでアスタロトは、背後から返されたネビロスの言葉を手を挙げてにして遮り。
もう片方の手の指で五和の槍の柄を軽く弾いては。
『いや、待て……アンブラの魔女ですらない』
その鈴のような音を耳にして断じた。
上条『―――……?!』
『槍と技は確かにアンブラの類だが、このメスはただの人間だ』
『では―――』
その言葉を耳して、ここぞとグラシャラボラスがその狼の顔を再び持ち上げたが。
『やらんよ。こいつは俺の物だ。俺が喰らう』
上条『!!!!』
『我慢しろ。じきに向こうでたらふく喰らえる』
再び笑みを浮べては、アスタロトはこの部下にそう返した。
そして五和の前に屈んでは、
うつむいている彼女の顎に手を差し伸べて。
『タダの人間は、これはこれで「旨さ」があるしな』
まるで救い主かのように、彼女の顔を優しく上げて微笑んだ。
おぞましい事を魔界の言語で口にしながら。
206: 2011/06/29(水) 04:03:14.05 ID:R6KekFd3o
上条『やめッ―――!!!!』
『中々の良い造詣だ』
彼女の顔を見。
『肉体も良い』
続けて体をまじまじと眺めてはそう呟き。
そしてアスタロトは、ふと顔を五和の顔に近づけて。
上条『―――!!』
頬を一舐めした。
その瞬間、五和の表情が変わった。
人間である五和も直で触れて、
ようやくアスタロトの醜悪極まりない強烈な内側を感じたのだろう。
更にそれは幸運なことに、
虚ろだった彼女の意識を呼び戻す強烈な『刺激剤』にもなったようだ。
次の瞬間、彼女の瞳に理性の光が戻り、
凄まじい嫌悪感を露にして顔が歪み。
ペッと一回、アスタロトの顔に唾を吐き捨てた。
まさに『吐き捨てた』の文字通りの仕草で。
207: 2011/06/29(水) 04:05:54.26 ID:R6KekFd3o
ただその行為は火に油を注ぐか、
もしくは然したる変化をもたらさなかったか。
そう判断せざるを得なかった。
吐きかけられた唾を拭わずにそのまま微笑み。
『―――魂も旨そうだ』
そう口にしたアスタロトの様子を見ては。
そして直後、ここでようやくこの恐怖公が上条当麻の方へと振り返り。
『人間と会う際―――』
今度ははっきりとした「人語」で。
『―――俺がなぜ、わざわざ人の「オス」の姿をとるかわかるか?』
そう問い。
上条『―――』
ニコリとこれまた文句の付けようのない、
造形だけは完璧な最高の笑顔を浮べて。
『―――犯しやすいからだよ』
さらりと続けて答えた。
そして次の瞬間、今までとは打って変わって。
上条『―――ッ!!!!!!』
五和の髪を乱暴に掴み、彼女を地面に押さえつけて―――。
上条『―――やめろおおおおおおおおおおおおおああああああああああああ!!!!!!』
208: 2011/06/29(水) 04:07:31.58 ID:R6KekFd3o
と、ここで『また』だった。
上条にとって幸か不幸か、そのどちらなのか判別しがたいが。
このアスタロトとは、非常に気まぐれな性分の持ち主でもあったようだ。
いざ五和に乱暴をはじめるかというその時。
アスタロトは突如ピタリとその動きを止め、また何かの匂いを嗅ぎつけたのか、
鼻をすんと鳴らした。
上条『―――てめぇコラ!!!!頃してやる!!!!ぶっ頃してやるクソがああああああああ!!!』
続けて叫んでいる上条の方へも振り返っては、再び鼻を鳴らして。
そしてスッと立ち上がっては五和の元から離れ、
何事もなかったかのように『龍』の方へと歩いていった。
更に続けて、固定が解ける上条の体。
上条『ッ―――?!』
何が起こっているのかわからぬも。
地に落ちた彼はすぐに五和の元へと駆け出して、彼女を抱き上げた。
上条『五和ッ??!!』
五和『だ、大丈夫です!!!』
幸いなことに五和の意識ははっきりしているようではあった。
五和『は、はい、なんとかッ……!!!』
上条にやや異常なほど力んで固くしがみつき。
上条『本当に大丈夫か??!!本当か??!!』
もう片方の腕の袖で、舐められた頬を執拗に何度も拭いながら、
アスタロトの背を凄まじい嫌悪混じりの目で睨んではいたが。
209: 2011/06/29(水) 04:08:47.43 ID:R6KekFd3o
このアスタロトの突然の行動は、
ネビロスやグラシャラボラスにも不可解なものであったようだ。
とはいえ普段もよくある事で慣れているのか、
首を傾げる一方で落ちついていたが。
当のアスタロトは龍に跨っては同化、
そして人の姿を解いて元の姿に戻って、上条達に向けてこう告げた。
『さっさと行け』
上条『―――?!』
確かにアスタロトからのプレッシャーが急激に薄れていったところを考えると、
本当に逃がそうとしているようであるが。
全く意図がわからない。
あんな存在に人で言う『善意』も『慈悲』もあるわけが無い。
逃がす事に何らかの利益があるのだろうか、それこそ『罠』か。
と、いくらでも考えられ、そして非常に『臭い』状況ではあるが。
上条達には、このアスタロトの言葉を拒否するという選択肢は元より無かった。
上条が頷いたのを受けて、
五和は抱かれたまますぐに槍の柄を握り、そして足元の陣を起動。
次の瞬間、二人の姿が魔方陣の中に沈み消えていった。
210: 2011/06/29(水) 04:11:28.36 ID:R6KekFd3o
『……さて、今度は一体どのような遊興を思いつきになられたので?』
ネビロスが空になったクレーターの中央を見つめながら、背後のアスタロトへと向けて口を開いた。
幻想頃しというサンプルを失ったせいかやや残念そうに。
それを悟ってはアスタロト。
『すぐに幻想頃しもまた手に入る』
そうネビロスの関心の元に前置きして、こう続けた。
『幻想頃しの向かう先には、「本物のアンブラ魔女」がいる。それも複数体だ』
『なるほど……』
そこでネビロスは納得した。
幻想頃しとあの人間の女から、
この大公は本物のアンブラの魔女の匂いを嗅ぎつけたのだろう、と。
『ネビロス、精鋭たる一隊を選び、率いて俺の後を追え』
『お前の軍団は「カール」に、軍の総指揮はサルガタナスに任せる』
それを聞いて、グラシャラボラスはその身を伏せるようにして一礼した後、
翼をはばたかせて飛び立っていった。
『……しかし大公は、あの人間の覇王復活の支援もなさらねb』
『俺はいらんだろ。あの「陰気なネコ野郎」と「魔剣マニア」がいれば』
退屈な連中だが力は確かだからな、とアスタロトは続けた後。
巨大な翼を大きくはばたかせて、金色の巨槍を掲げ飛び立った。
『では俺に続けネビロス!!―――狩りだ!!!「魔女狩り」を始めるぞ!!ほほほはははっは!!!!』
そう高笑い交じりに声を張り上げながら。
211: 2011/06/29(水) 04:15:26.20 ID:R6KekFd3o
―――それからしばしの後。
アスタロトに『カール』という愛称で呼ばれているグラシャラボラスは、
その翼を巨狼の身を大地に横たわらせながら、
周囲を流れていく悪魔達の群れを眺めていた。
ネビロスから預かった軍団の行軍は一切滞りはない。
そう、確かに問題が無いのは良き事である、
が一方で非常に退屈でもあった。
先ほどに、主に付き従うと申し出ていた方がずっと楽しめていただろうか。
そうそんな事を考えても、今となってはただただ無駄であるが。
とその時。
『……』
ふと彼は違和感を覚えた。
別階層を行く他の軍団の反応に。
突然、妙に乱れ始めたのだ。
―――何らかの問題か発生したか?。
不謹慎ながらもそう心躍らせながら、
彼がその狼の頭を持ち上げた瞬間であった。
遥か彼方にて赤い閃光が迸り、
そして大量の悪魔達が巻き上がって。
遂にこの階層『にも』現れた―――『怪物』が。
確かに退屈していた彼が欲していた『刺激』ではあったが、
それはあまりにも『強すぎた』。
強すぎたのだ。
とにかく強すぎた。
―――
216: 2011/07/02(土) 20:52:51.72 ID:73RNg6C9o
―――
―――『主契約』。
魔女一人につき一体がつく、どちらかが氏ぬまで永続する終身契約。
魂と魂を繋げ、力と力を捻り合わせ、存在そのものから一体となり、
そして『肉体的接触』で結ばれる強固な『絆』。
それはアンブラにおける『成人』の証、すなわち―――『真の魔女』たる証。
紛れも無い正真正銘のアンブラ魔女たる証。
そう、『本物』の―――。
ローラ「―――有り得ない!!!そんなこと絶対に有り得ない!!―――」
その揺るぎの無い事実が今、
『とある一人の魔女』の存在をはっきりと証明してしまっていた。
『力の器』に宿っていたのは、
管理しやすいようにと組み込まれた『擬似人格』。
妹の偶像であり模造であり、姉の記憶の中にあった『幻想』―――では―――なくなっていた。
ローラ「『お前』は人形なのに!!!―――ただの『模造』なのに!!!―――」
喚いても怒鳴っても、もうその『事実』は覆ることは無い。
彼女自身がアンブラ魔女として『主契約』の性質を良く理解しているのだから、
そこに疑問を抱けるわけも無い。
ローラ「―――ただの『幻想』なのに!!!!」
だが彼女には到底受け入れられなかった。
頭では理解して認識していても、己の『存在理由』が拒絶する。
そう、『インデックス』という人格の元が、
管理のために作られた『擬似』的存在であったのと同じく。
いいや、むしろそれ『以上』に。
『ローラ=スチュアート』という人格は、この時のために形成された『擬似』的存在だったのだから。
成すべき『使命』―――『あの日に氏んだ妹』の復活を果すための『プログラム』だったのだから。
―――『主契約』。
魔女一人につき一体がつく、どちらかが氏ぬまで永続する終身契約。
魂と魂を繋げ、力と力を捻り合わせ、存在そのものから一体となり、
そして『肉体的接触』で結ばれる強固な『絆』。
それはアンブラにおける『成人』の証、すなわち―――『真の魔女』たる証。
紛れも無い正真正銘のアンブラ魔女たる証。
そう、『本物』の―――。
ローラ「―――有り得ない!!!そんなこと絶対に有り得ない!!―――」
その揺るぎの無い事実が今、
『とある一人の魔女』の存在をはっきりと証明してしまっていた。
『力の器』に宿っていたのは、
管理しやすいようにと組み込まれた『擬似人格』。
妹の偶像であり模造であり、姉の記憶の中にあった『幻想』―――では―――なくなっていた。
ローラ「『お前』は人形なのに!!!―――ただの『模造』なのに!!!―――」
喚いても怒鳴っても、もうその『事実』は覆ることは無い。
彼女自身がアンブラ魔女として『主契約』の性質を良く理解しているのだから、
そこに疑問を抱けるわけも無い。
ローラ「―――ただの『幻想』なのに!!!!」
だが彼女には到底受け入れられなかった。
頭では理解して認識していても、己の『存在理由』が拒絶する。
そう、『インデックス』という人格の元が、
管理のために作られた『擬似』的存在であったのと同じく。
いいや、むしろそれ『以上』に。
『ローラ=スチュアート』という人格は、この時のために形成された『擬似』的存在だったのだから。
成すべき『使命』―――『あの日に氏んだ妹』の復活を果すための『プログラム』だったのだから。
217: 2011/07/02(土) 20:54:51.52 ID:73RNg6C9o
血走る瞳、紅潮する頬、爆発的に鼓動を速める心臓。
それらをまるで握り潰そうかというほどに力み震える手で、
ローラは顔と胸を押さえこんで激痛に喘いだ。
痛みの原因は、インデックスに接続を試みた際の『拒絶』によるもの。
アンブラの契約術に組み込まれている強力な防御機構が、
『侵入者』の魂に向けて凄まじい攻撃を放ったのだ。
ローラ「……がっ!!あァ゛ッ…………!!」
顔を覆う指の隙間から見える、5m程先のインデックス。
猫を胸に、こちらを睨みながらやや腰を落として身構えている少女。
その目には、表面上に動揺と困惑が見えていたも。
奥底には、作った当初は無かったはずの確かな光が宿っていて。
いつの間にか―――『魔女の瞳』に。
ローラ「―――」
どうしてなの、なぜなの―――。
私は何がいけなかったの?―――私はいつどこで失敗してしまったの?
―――私は、わたしは、ワタシハ―――。
さまざまな感情が入り乱れて、困惑と混乱の極みに陥っている人格をよそに、
行動の主導権を握る『プログラム』は冷酷に機能していく。
『あの日氏んだ妹』を復活させる、ただこのためのだけに。
プログラムは状況を分析し判断していく。
力の器に干渉できない理由は、
宿っているインデックスたる存在が『主契約』を他者と結んでしまっているため。
ならば邪魔でしかない、排除すべき障害物である。
主契約を無効化する唯一の方法、『氏』をもって。
力の器を武力行使により『初期化』せよ。
ローラ「―――」
インデックスたる存在は―――『破壊』せよ。
218: 2011/07/02(土) 20:58:22.40 ID:73RNg6C9o
喘ぐローラ=スチュアートから5m程先にて。
禁書「―――」
インデックスは乱れる己が内面に戸惑っていた。
蘇る記憶と湧き上がる想いが作る渦は、
次から次へと多種多様な感情で彼女を大きく揺らがせる。
頬を滴っていく雫は、恐怖、愛しみ、懐かしみ、悲しみ、喜び、それら全てを含んでいた。
彼女は、安定しないこの己に強烈な不安を覚え、
発作的に手を合わせて祈りたい衝動に駆られた。
耳を塞ぎその場に蹲りたい、と。
雑然としたこの感情の嵐から逃れ、閉じ篭りたい、と。
禁書「―――……ッ」
だが祈りはできなかった。
過去の記憶がその衝動を正面から叩き壊したのだから。
一体何に向けて祈るというのか。
まさか天界にいる十字教の主か?。
魔女であるお前が祈るのか?、と。
禁書目録として生きた半生、
その間に何度記憶を失っても唯一変わらなかった十字教への信仰。
そんな彼女のたった一つのアイデンティティが、
ここにあっさりと否定されたのだ。
今や、彼女に『逃げ場』は無かった。
219: 2011/07/02(土) 21:00:22.44 ID:73RNg6C9o
そもそも彼女は今、祈ることなどできやしなかった。
その腕の中にはスフィンクスがいたのだから。
そう、まるで祈りを妨げるかのように、爪を立てているこの三毛猫が。
重み、温もり、呼吸鼓動、生命力に満ち溢れた確かな存在感をそこに放って、
彼女を見上げていた。
槍のように鋭い眼差しで。
禁書「―――……」
そして次の瞬間、スフィンクスは腕をするりと抜け、
インデックスの右肩に飛び乗って。
彼女の涙の一滴を頬から舐め取った。
禁書「……スフィ……ンクス……」
その三毛猫に導かれて、
彼女の意識はこの己が涙へと向かい。
そこにはっきりと明示されていた答えに気付く。
なぜ涙を流しているのか、なぜこの涙はここまで濃いのか。
それは自分自身の想いだからだ。
決して他人事ではない、正真正銘の己の所有物なのだから。
そして彼女の思考を導くかのように、
スフィンクスが肩の上で爪を立てた。
まるで『逃げるな』と。
『耳を塞ぐな』。
『目を逸らしてはいけない』、と。
220: 2011/07/02(土) 21:07:31.68 ID:73RNg6C9o
自分から目を逸らすために祈ってはいけない。
己を偽るために願ってはいけない。
禁書「……」
ここで逃げたら、全てを失ってしまう。
ここで目を逸らして他者に願ってしまったら、もう二度と己は己を認識できなくなる。
『これは私自身のこと』
目を逸らしてはならない、
この身に宿すものを全て受け入れるのだ。
愛しき姉と妹、気高きアンブラの家族。
それら『過去の己』を真とすれば。
ステイル、神裂、そして今までであって来た人々との思い出。
そして上条当麻という存在に与えられた日々と想い。
これら『今の己』も確実な真となり得り。
魔女の過去を受け入れたことにより、魔女の技も真となり。
その『魔女の技』、愛する人と『主契約』を交わしたという事実により、
『己が本物』だとここに証明される。
逃げる必要も目を逸らす必要も無い、あるがままの自分自身がここにある。
重なり同化する過去と今、恐れずその先を見つめれば。
そこにしっかりと存在しているでは無いか。
他者に願って与えられずとも、最初からここにあるではないか。
禁書「―――」
もう二度と覆ることの無い、完璧なアイデンティティが。
疑う余地の無い、確かな存在である―――唯一無二の『私』が。
221: 2011/07/02(土) 21:09:52.17 ID:73RNg6C9o
全てを受け入れたインデックスは、過去の自分自身の衝動に従う。
今の己のベースとなっている、『妹』の想いに。
彼女は喘ぎ身を震わせるローラを見つめて。
禁書「―――あ…………姉う―――」
『姉』へと呼びかけ―――たが。
最後まで声を続けはしなかった。
ローラの瞳の色が、混乱から明確な戦意に移り変わっていくのを見て。
そして認識した。
ローラの意識が、己とは違う結果に帰結したことを。
己とは違って―――自分自身の存在を見定める前に、『プログラム』が決定を下してしまったのを。
ローラの結界により、
彼女を打ち倒さぬ限りこの階層から脱出はできない。
戦いは避けられない。
インデックスは『力の器』であるため、宿す力の総量はずっと多い。
それに主席書記官としての記憶、アンブラの叡智が大量に詰まっている。
だがしかし、その存在のベースは妹。
基礎戦闘訓練を受けていない、まともなパンチ一発すら放てない幼き文官だ。
一方でローラのベースは姉。
成人した正式な戦士どころか、栄えある近衛所属という精鋭中の精鋭。
百戦錬磨の正真正銘の武人である。
222: 2011/07/02(土) 21:13:11.79 ID:73RNg6C9o
それに戦闘用の魔女の技のほとんどが、
基礎戦闘技術を前提としている以上、インデックスに扱える技は限られてくる。
ウィケッドウィーブや『主契約』による魔の力は、
バレットアーツと組み合わせることでその真価を発揮するもの。
禁書「……」
これは力の総量の差を埋めるどころではないほどの違いだ。
総量が上回っていても決して有利ではない。
むしろどう考えても『不利』そのものであった。
だが、それがインデックスの心を挫く要因にはなり得なかった。
彼女は知っている。
はっきりと理解している。
ここで屈して諦めてしまった、その先に待つ結末がどういったものかは。
それは、決して受け入れられることの無い結末。
だから彼女は、勝算を考えるよりも先に選んだ。
戦うことを。
容認し難き現実が避けられぬのならば―――戦え。
己の存在を失わぬために、己が望む未来を護るために―――抗え。
そして。
たった一人の『家族』に―――『姉』に救いと安らぎを与えるために。
223: 2011/07/02(土) 21:18:08.13 ID:73RNg6C9o
その時、スフィンクスが再び彼女の頬を舐めた。
そしてこれも魔女の技か。
絆を介してこの三毛猫、スフィンクスと意志疎通した彼女は。
禁書「ありがとう―――スフィンクス」
この友にささやかな礼を告げた。
その声を聞いてスフィンクスは肩から飛び降りた。
彼女の前で四肢を力強く踏みしめ、ローラを見据えて。
そんな『彼の申し出』を受け入れてインデックスは、
屈んでその小さな背に手を乗せ。
屹立せよ 汝の牙は我が刃なり
禁書『BIAH, NONCI BUTMON NOAN NAZPS』
エノク語の詠唱を口にした。
屹立せよ 汝の眼は我が光なり
禁書『BIAH, NONCI OOANOAN NOAN PIAMOL』
それは記憶の中の、
使える魔女の技を組み合わせた即席の術式。
この『友』を一体の強き戦士とするべくの。
そして透き通る声で唱え終わった瞬間。
小さな小さなこの三毛猫は姿を変え。
アンブラ文化の特有飾りとエノク語の文様が全身に刻まれた―――体長3mの白亜の猛虎となった。
224: 2011/07/02(土) 21:19:40.06 ID:73RNg6C9o
その『赤い瞳』の猛虎が、
全身からの白銀の光と共に凄まじい咆哮を放つ。
そう、『白銀』。
上条当麻がその身に宿す魔と同じ、『白銀色』の。
その咆哮にまるで応えるかのようにローラがその時、
足で大地を踏み鳴らした。
何度も何度も戦太鼓の如く轟く地響き。
そしてローラが面を上げて手を広げると、
金髪が大きく広がってはうねりその体を包み始めた。
『金の繊維』が、ゆったりとした修道服に瞬く間に編みこまれていき。
修道服は肌にフィットする、体のシルエットが際立つ形状に変わり。
ローラが纏うは―――金刺繍が施された、アンブラの戦闘装束。
広がった裾と袖口から覗くは、
青に飾られたフリントロック式の拳銃。
その『かかとの銃口』でローラは再度二回、大地を踏み鳴らして。
ローラはインデックスを真っ直ぐと睨んだ。
225: 2011/07/02(土) 21:22:50.40 ID:73RNg6C9o
すぐさまインデックスは、
スフィンクスから振られたその長い尾に捕まっては彼の背に飛び乗り。
奏でるは汝の滾り 謳うは聞き手無き詩
禁書『NONCI HE VNPH, AFFA HE FAAIP BIALO』
即席で作り上げた複合術式の詠唱を続けていく。
禁書『(とうま―――お願い―――)』
心の内で、愛する彼へ向けて呼びかけながら。
与えしは名誉と栄光
禁書『NONCI DLUGAR BUSDIR OD IAIADIX』
禁書『(―――私に分けて―――)』
耳を塞がずに全てを聞き入れた上で、彼女は願った。
捧げるは血と霊
禁書『ZORGE DLUGAM CNILA OD GAH』
己の全てを受け入れた上で、彼女は祈った。
屹立せよ アンブラの鉄の処O
禁書『BIAH, IAIDA PARADIZ OL UMBRA』
禁書『(あなたの―――勇気を!!)』
この声は―――『真の祈り』はきっと届くと信じて。
スフィンクスの背にて、真っ直ぐにローラを見据えるインデックス。
頭上にエノク語の術式を浮かべ、髪を光輝かせて。
そして彼女は遂に、ここに真っ向から立ち向かうため前へと踏み出した。
己が力で、己が意思で。
己の『真の物語』を決着させるべく。
―――
234: 2011/07/06(水) 00:33:49.90 ID:98Sc9bWAo
―――
この感覚を味わったのは二度目であった。
ただ、全てが前回と同じという訳もなく。
成り行きは最初から最後まで同じでも、『逝き先』はどうやら全く別であったようだ。
この意識が最後に『逝き』付いたのは、
業火の只中に落ちていくイメージ―――『今の己』の魂が帰属する『炎獄』の風景。
訪れるのが初めてでありながら、生まれ故郷でもある領域。
人であった心がその業火に喘ぎ苦しむ一方、
この魂と力は落ち着き安らかに。
本来はそのまま、ここで全てが朽ちていくまで漂っているのだろう。
だが『今回』も、『成り行き』に関しては最初から最後まで同じ。
細かい点は異なっているも、前回と同じように彼は再び再生する。
彼の氏は絶対に受け入れんとした友の、いいや、『新しい主』の手によって。
その炎獄の黄泉の領域から、彼は引き上げられていった。
この感覚を味わったのは二度目であった。
ただ、全てが前回と同じという訳もなく。
成り行きは最初から最後まで同じでも、『逝き先』はどうやら全く別であったようだ。
この意識が最後に『逝き』付いたのは、
業火の只中に落ちていくイメージ―――『今の己』の魂が帰属する『炎獄』の風景。
訪れるのが初めてでありながら、生まれ故郷でもある領域。
人であった心がその業火に喘ぎ苦しむ一方、
この魂と力は落ち着き安らかに。
本来はそのまま、ここで全てが朽ちていくまで漂っているのだろう。
だが『今回』も、『成り行き』に関しては最初から最後まで同じ。
細かい点は異なっているも、前回と同じように彼は再び再生する。
彼の氏は絶対に受け入れんとした友の、いいや、『新しい主』の手によって。
その炎獄の黄泉の領域から、彼は引き上げられていった。
235: 2011/07/06(水) 00:35:32.49 ID:98Sc9bWAo
「…………」
まるで霞のようであった精神が再び固定化、
己の存在意識を取り戻して、彼は静かに目を開けた。
視界は酷くぼやけていた。
全体的に黒い中、中央の一画が温かみを帯びて明るく、微妙に動いているか。
わかるのはそれだけ。
視覚だけではなく聴覚、嗅覚、触覚、
力の感覚などなど全ての知覚がかなり鈍っている。
だが徐々に回復してきており、ぼんやりとそのまま目を開けていると、
視界の中にある像の輪郭が徐々にはっきりとしていく。
そして意識も明瞭となると同時に響く、全身からの、特に胸から腹にかけての痛み。
「…………」
回復してきた触覚で己が仰向けになっていることを認識しながら、
彼は記憶を遡っては事の成り行きを確認し、状況を分析していった。
まずこうして肉体と確かな意識が存在していることから、
どうやら己は『また』蘇生したようだ。
236: 2011/07/06(水) 00:36:17.69 ID:98Sc9bWAo
外面の分析はこれぐらいで良いだろう。
次に分析するのは己が内面。
この肉体と力の感覚、確かに魔のもの。
変わらず存在は悪魔だ。
そしてこの胸から腹にかけての痛み。
記憶によると、これが黄泉の世界を垣間見る原因となった傷。
とある強烈な一太刀によるものだ。
「…………」
そう。
自分は魔女に『そそのかされて』とにかく戦って、
そして切り捨てられたのだ。
この、こちらの顔を至近距離から覗き込んでいる―――
「…………」
―――神裂火織によって。
やっと回復した視覚は、目新しい涙の跡が残る彼女の顔をはっきりと捉えていた。
同時に嗅覚が彼女の香りを、触覚が空気を伝わった体温を。
237: 2011/07/06(水) 00:37:27.87 ID:98Sc9bWAo
彼はそこで、全ての知覚で彼女を捉えた。
今度こそ魔女の意志の邪魔を受けず、
自分自身の意識で認識した。
黄泉を越えた『再会』を。
彼女はこちらの安定した視線を見て、
緊張が解けたように穏やかに微笑んで。
神裂「ステイル」
呼びかけてきた。
心なしか、泣き跡の目立つ目をまた潤ませて。
そして彼女はゆっくりと両手を彼の顔に伸ばして、
頬を挟み込むように優しく触れて。
鼻先が触れるかというくらいまで顔を近づけた。
ステイル「―――」
その瞬間。
一気に、ステイルの中に彼女の思念が流れ込んできた。
さまざまな情報、記憶、感情、想い、神裂がその心の中に持つありとあらゆるものが。
ステイル「…………」
バチカンの後の神裂の動向。
バージル・魔女との関わりと神裂がここに来た理由。
そして今、己の置かれているこの状況。
ステイルはそこでようやく把握した。
ああ、そういう事か、と。
『今度』は神裂が僕の主になったのか、と。
今度こそ魔女の意志の邪魔を受けず、
自分自身の意識で認識した。
黄泉を越えた『再会』を。
彼女はこちらの安定した視線を見て、
緊張が解けたように穏やかに微笑んで。
神裂「ステイル」
呼びかけてきた。
心なしか、泣き跡の目立つ目をまた潤ませて。
そして彼女はゆっくりと両手を彼の顔に伸ばして、
頬を挟み込むように優しく触れて。
鼻先が触れるかというくらいまで顔を近づけた。
ステイル「―――」
その瞬間。
一気に、ステイルの中に彼女の思念が流れ込んできた。
さまざまな情報、記憶、感情、想い、神裂がその心の中に持つありとあらゆるものが。
ステイル「…………」
バチカンの後の神裂の動向。
バージル・魔女との関わりと神裂がここに来た理由。
そして今、己の置かれているこの状況。
ステイルはそこでようやく把握した。
ああ、そういう事か、と。
『今度』は神裂が僕の主になったのか、と。
238: 2011/07/06(水) 00:39:28.20 ID:98Sc9bWAo
無言のまま、呆れたように息を吐いては静かに頷くステイル。
そんな彼に向けて神裂は顔を近づけたまま。
神裂「先に……こうして話ができたら良かったのですが」
ステイル「…………ああ……それは悪かったな」
神裂「まあ仕方の無いことですし。結果良ければ良しとしましょう」
ステイル「ふん……結果良ければ、か」
神裂「何か不満でも?あるなら今の内ですよ」
ステイル「果たしていつまで僕は、君の奴隷を勤めればいいのかな?」
神裂「さあ……」
そのステイルの問いに、
神裂はわざとらしく首を傾げて。
神裂「私の気分次第、ですね」
意地が悪そうに笑てそう告げ、
そしてこれまたわざとらしく。
神裂「まさか嫌ですか?」
そんな事を聞き返してきた。
239: 2011/07/06(水) 00:42:20.81 ID:98Sc9bWAo
嫌か。
神裂の使い魔となるのは嫌か。
ステイルは数回、神裂の問いを意識の中で繰り返し確認し、
ぽつりと答えを返した。
ステイル「腹が立つね」
―――それも悪くもないなと思ってしまう自分に、と。
そしてその意識内の声は、
音に出さなくとも今や筒抜けであった。
ステイルがそう答えた瞬間。
神裂は嬉しそうに、満足そうに笑みを浮べた。
ステイル「―――」
透き通る子供っぽさと、大人びたの美しさが混じった最高の笑みを。
神裂のこんな表情は今まで見たことも無かった。
インデックスと彼女と同じに感じるローラ以外では絶対に心が動くことが無いステイルですら、
この瞬間は意識が惹き付けられてしまっていた。
そして彼は思った。
君はそんな顔もするのだな、と。
認めよう。
君は最高の友であるが、一方で素晴らしく魅力的な女性でもある、と。
さすがにインデックスには到底及ばないがね、と続けて。
240: 2011/07/06(水) 00:44:14.21 ID:98Sc9bWAo
もちろんそんな心の声も筒抜けであったようで。
彼女はすばやく跳ねるように、
ステイルから離れ立ち上がっては一度咳払いして。
神裂「ッ。くだらない事を考えてないでさっさと立ちなさい。今はそれどころではありません」
取り繕っているのが明らかにわかる調子で、
そう冷ややかに声を放って。
彼の前に左手を差し出した。
ステイルは上半身を起こしてその左手を取る―――というところで、
何かを思い出しかかのようにふと動きを止めて。
神裂「……?」
ステイル「ああ一つ、言いたかったことがある」
確かに今は、心の中で呟くだけで通じる。
声にしてはっきり言っておきたかった言葉があったのだ。
ステイルは神裂の左手をとっては握り締めて。
ステイル「―――おかえり。神裂」
改めての『再会の言葉』を向けた。
神裂「―――」
その言葉を受け止めて神裂は、
一瞬の驚いたような表情ののち、再びあの最高の笑みを浮べて。
神裂「―――ただいま帰りました。ステイル」
そう、良く響く声を返して。
彼の手を強く握り返してその体を引き上げた。
ステイル「―――では急ごうか。我が『主』殿」
神裂「ええ。インデックスの下に―――」
―――
241: 2011/07/06(水) 00:45:24.65 ID:98Sc9bWAo
―――
プルガトリオ、魔界に近いとある階層にて。
ダンテ「……」
ダンテは相変わらず朽ちて倒れている柱の上に寝そべりながら、
ロダンが宙に映し出した『球状の映像』を眺めていた。
ダンテが指を動かすたびに、
まるで見えないリモコンに操作されているかのように
球体は次から次へと新たな映像を映し出していく。
ただその範囲は、
この映像の抽出元であるセフィロトの樹の影響域に限られているが。
魔界などの異界はもちろん、人間界でも元から魔寄りのフォルトゥナ、
今や魔境と化しているデュマーリ島などの領域を見ることはできない。
そしてもう一箇所。
ダンテ「おいロダン。学園都市がうつらねえ」
ダンテは寝そべったまま、球の向こう少し離れたところにいるロダンへ向けて、
そう声だけを飛ばした。
その風体や仕草はまるで、
テレビを見ていたところチャンネル変更が効かなくなって、文句を垂れているよう。
プルガトリオ、魔界に近いとある階層にて。
ダンテ「……」
ダンテは相変わらず朽ちて倒れている柱の上に寝そべりながら、
ロダンが宙に映し出した『球状の映像』を眺めていた。
ダンテが指を動かすたびに、
まるで見えないリモコンに操作されているかのように
球体は次から次へと新たな映像を映し出していく。
ただその範囲は、
この映像の抽出元であるセフィロトの樹の影響域に限られているが。
魔界などの異界はもちろん、人間界でも元から魔寄りのフォルトゥナ、
今や魔境と化しているデュマーリ島などの領域を見ることはできない。
そしてもう一箇所。
ダンテ「おいロダン。学園都市がうつらねえ」
ダンテは寝そべったまま、球の向こう少し離れたところにいるロダンへ向けて、
そう声だけを飛ばした。
その風体や仕草はまるで、
テレビを見ていたところチャンネル変更が効かなくなって、文句を垂れているよう。
242: 2011/07/06(水) 00:47:52.58 ID:98Sc9bWAo
ロダンは球を挟んでの反対側、
少し離れたところにて葉巻片手に佇んでいた。
一見すると、ただなんとなしに立っているようではあったが、
実は意識内で様々な作業の最中であったらしく。
ロダン「―――んん?あん?何?今何つった?」
ダンテ「学園都市が見れねえ」
ロダン「知るか。セフィロトの樹の機能に何かの障害が及んでいるんだろう」
そしてダンテが声をかけたそのタイミングもちょうど良かったらしく、
彼はダンテの声に簡単に答えて。
ロダン「それと準備が出来た。行くぞ」
ダンテ「ん?何の?」
ロダン「天界の奴と会うって話だろ。アポとったぞ」
ダンテ「あ~……そうだったな。エライ奴に会えるか?メタトロンとか」
ロダン「馬鹿言うな。セフィロトの樹の管理を任されてる連中はジュベレウス派のお膝元だ」
ロダン「その辺の奴等と接触を図ったら速攻でバレちまう」
243: 2011/07/06(水) 00:50:49.28 ID:98Sc9bWAo
では誰に会える、
と言いたげにダンテは肩を竦めた。
相変わらず寝そべり、しかもその視線は映像に向けたまま。
ロダン「……天津神とアース神族のアタマ連中が馴染みでな。昔、一緒に無茶を色々とやった連中だ」
ロダン「ウンザリするくれえに『愉快』な連中だぜ。きっとお前さんともウマが合う」
ダンテ「へえ……そいつぁイイ」
ロダンへの答えも半ば話を聞いていないようなもの。
ロダン「おい聞いてるのか?行くぞ」
ダンテ「ああ、行ってきてくれ」
ロダン「……あ?何?」
そして続けられたダンテの言葉。
それはまさに段取りなんかあったもんじゃないものであった。
ダンテ「お前が話をつけてきてくれ。任せる」
ロダン「…………」
全くわかりきってはいたことだが、
ロダンはつくづくこのダンテという男の『やり方』を思い知らされた。
ロダン「……………………ああわかったわかったよ。お前さんに従うぜ」
拒否する術もない事も。
そしてここではっきりと自覚してしまった。
ちょっと協力するだけの予定であったのが、
気付くと思いっきり片棒を担がされ『首謀者の一人』となってしまってた点に。
もう後戻りはできなくなってしまってたことに。
ロダン「(全く…………俺も遂に悪乗りが過ぎてきたか)」
244: 2011/07/06(水) 00:52:14.86 ID:98Sc9bWAo
ロダン「お前さんは何を?」
ダンテ「これから決める」
ロダン「……ネロから何か連絡あった場合はどうする?俺がいないと繋げることができないが」
ダンテ「あいつなら大丈夫だろ」
ロダン「……」
そしてそんな風に簡単に確認したのち。
ロダン「……お前さんが任せるっつったんだ。向こうでの俺の判断に文句は言うなよ」
ダンテ「おう」
ロダンはそう告げ、
姿を消して『会談』に臨んでいった。
ダンテ「………………」
一人残ったダンテは柱の上にて。
寝そべりつつ片方の手を上にかざしては、その手の平を見つめた。
指無しグローブに刻まれている一筋の裂け目を。
そして意識する。
その裂け目の下に重なっている『二重』の古傷を。
二度とも同じ状況で二度とも同じ刃で刻まれた、
それも『彼』らしく寸分たがわず見事に重なった傷を。
245: 2011/07/06(水) 01:00:25.71 ID:98Sc9bWAo
ダンテは感じていた。
今もどこかでこの傷をつけた彼が―――バージルが、
こちらに意識を向けて集中していると。
自分と同じく、互いの動きを悟ろうと感覚を研ぎ澄ませていることを。
ダンテ「…………」
かざしているその手は少しばかり汗ばんでいた。
気付かぬうちに緊張しているのか、
いや、当然しているのだろう。
思い出せば、
バージルとこうして真っ向から意を反したときははいつもこうであった。
幼い頃の兄弟喧嘩の時も。
時を経てテメンニグルの塔で再会したときも。
マレット塔で二度目の再会の時も。
あのネロアンジェロがバージルだったと気付く前から手には力が入っていた。
魔帝を滅亡に追い込むことになったあの騒動、バージルと三度目の再会を果すことになったあの時も。
そして先日、学園都市で刃をぶつけあった際も。
いつもであった。
ダンテ「…………………………………………」
体の芯から滾る、あまりにも破壊的なこの血。
『血族の共食い』こそ至高とばかりに、忌々しくも強烈な快感を与えてくれるこの感覚。
そう、この感覚は凄まじい快感を与えてはくれるが、
ダンテの理性には度が過ぎていた。
ダンテという人格にとってこの快感は、過去も今も変わらず―――果てしなく不快なものであった。
246: 2011/07/06(水) 01:02:14.47 ID:98Sc9bWAo
そんな風に過去の記憶に浸り。
遠い領域にいる兄の意識を肌で感じる中で、
ダンテは静かに上半身を起こして。
ダンテ「ケルベロス。アグニ。ルドラ。ネヴァン。イフリート」
良く使うお気に入りの使い魔達の名を口にした。
その瞬間、呼び出された魔具達が虚空から降って現れ、
周囲の地面に勢い良く突き刺さって林立した。
ダンテは彼等を一瞥しながら
傍に立て掛けてあったリベリオンの柄をとっては背中にかけて。
ダンテ「さてとだ。お前らにも存分に働いてもらうぜ」
ダンテ「ただ、今回は人手が要りそうでな。魔具としてではなく、それぞれの体で動いてもらう」
柱の上であぐらをかいては、
不敵な笑みを浮べてそう告げた。
247: 2011/07/06(水) 01:05:51.08 ID:98Sc9bWAo
その彼の言葉を聞いた直後、魔具達は一斉に真の姿へと形を変えた。
ケルベロスは三頭の氷の巨狼、
アグニ&ルドラは首のない青と赤の二体の巨人へと、
ネヴァンは妖艶な淫魔へと、
イフリートは巨躯の筋骨隆々とした炎の魔神へと。
それぞれの炎、冷気、雷、嵐が入り混じり、
周囲は一気に混沌とした様相へとなっていく。
アグニ『遂に戦か?!』
ルドラ『戦なのか?!』
そしてまず声を挙げたのは二体の巨人達であったが。
ダンテ「でけえ祭りになるからいいから黙って聞け」
ダンテは騒がしい彼等を手早く受け流して。
ダンテ「事を始める前に言っておくことがある」
そして本題へと入った。
ダンテ「―――今ここで、お前らとの主従関係は無効とする」
あっさりと、まるで何でもないことかのように、
不敵な笑みと変わらぬ軽い声色で。
ダンテ「―――つまりお前らは自由の身ってこった」
248: 2011/07/06(水) 01:08:27.51 ID:98Sc9bWAo
長い付き合いの使い魔の彼らでさえ、
さすがにこの言葉は予想外であったらしく。
皆が皆動きを止めてはしばらく押し黙ってしまった。
だがダンテはそんな彼等の様子もまるで気にする風もなく。
ダンテ「お前らとは長い付き合いだからな。『皆勤賞』だ。そろそろ解放してやる」
軽い調子のまま、彼等にとっては重い言葉を続けて言った。
ダンテ「そんでもってだ。俺に協力するかどうかは各々の判断に任せる」
そこで再びの沈黙。
だが、この二度目の沈黙はそう長くは続かなかった。
ぼそりと。
イフリート『愚問』
イフリートがそう口にしたのを皮切りに。
ケルベロス『魔狼の忠誠心を舐めるな、我が主よ』
ネヴァン『要するに「僕」から「友」に格上げということよね?良いわぁ良いわねぇ。これで正式にあなたへ求(ry』
そしてネヴァンが言い切る前に騒がしい双子が続いて。
アグニ『対等な友ならばダンテの言伝に』
ルドラ『無理に従わなくとも良いということか』
ダンテ「ああ強制しねえが『黙っててくれ』と心を篭めて頼む」
249: 2011/07/06(水) 01:10:30.75 ID:98Sc9bWAo
そうやって『元』使い魔達はここで、
僕ではなく『友』としてダンテについていくと意志を明らかにしていった。
ダンテ「…………」
とそこで彼はふと肘を付き、急に思案気に黙った。
実はもう一体いたのだ。
ここで解放しようと思っていた使い魔が。
ただ、その使い魔との関係は少々厄介であり。
だがもたもた考えるのはいらないとばかりに、
彼は笑い混じりに膝を叩いて。
ダンテ「―――ベオウルフ。来い」
最後の使い魔を呼んだ。
すると正面に現れて地面に突き刺さる―――銀の具足。
ダンテ「元の姿に」
そしてダンテがそう言霊を放つと。
獣の顔をした、一角の巨人が姿を現した。
獣脚と鉤爪のある手足は筋骨隆々として、
背中にはその巨体と釣り合っていない小さな翼。
そして刃の傷で潰れた両目と―――同じく刃による、頭部を十字に走る大きな傷。
強烈な圧が混じった咆哮を挙げて、
ベオウルフはその真の姿へと成った。
250: 2011/07/06(水) 01:14:22.61 ID:98Sc9bWAo
ダンテ「ハッハ~、お前と『対話』するのは随分と久しぶりだな」
そんなどう見ても穏やかではない彼へ向けて、
ダンテは相変わらずの軽い調子で言葉を飛ばした。
ダンテ「お前とも長い付き合いだ。解放してやるぜ。世話になったな」
ベオウルフ『―――解放―――だと?』
そしてこの大悪魔は示した反応は当然のもの。
怒りがありありと滲む声をダンテに向かって放つ。
ベオウルフ『見えるか、我が面が―――』
脚を踏みしめては大地を砕き。
ベオウルフ『―――左目は貴様の父に!!右目は貴様に!!』
全身から力を放ち。
ベオウルフ『そして貴様の兄に割られたこの傷を!!』
牙をむき出しにして。
ベオウルフ『―――この呪われた血族め!!忌まわしき反逆者共が!!穢らわしき混血めが!!!!』
251: 2011/07/06(水) 01:15:28.13 ID:98Sc9bWAo
その時、
ダンテへ向けられた挑発と侮辱の言葉に耐えかねたのか。
イフリート『―――黙れ下賤の者めが』
イフリートがダンテとベオウルフの間に割って入るように踏み込んだ。
全身から、ベオウルフを遥かに上回る諸王としての力を放ちながら。
そう、彼はかつて炎獄の頂点に君臨していた紛れも無い『王』。
大悪魔の中でも随一の領域に属し、
この場にいる元使い魔達の中でも一人だけ飛び抜けている存在だ。
ベオウルフ『黙れ!!貴様も同罪だ!!それでも誇り高き魔神たる一柱か!!否!!!貴様は恥の塊だ!!!!』
だがベオウルフも退くことなく、
更にイフリートにも向けて言葉を叩き込んだ。
イフリート『これは滑稽。完全なる敗者の分際で、いつまでも吼える弱者が誇りを語るとは。愚かな負け犬には我慢ならん―――』
その言葉を受けて、イフリートも更に圧を強めて前へと踏み出して―――。
ダンテ「おいおいタンマタンマ落ち着けってお前ら」
252: 2011/07/06(水) 01:17:24.03 ID:98Sc9bWAo
と、その一触即発の中、
ダンテが言葉を飛ばしては宥めて。
まるで他人事のように相変わらずニヤつきながら。
ダンテ「イフリート、お前も言いすぎだ」
ダンテ「ベオウルフは強い。こいつには俺も世話になったし―――」
何気なしにこう続けていく。
ダンテ「―――こいつの力を貰った『あのボーヤ』も今やめっぽう強いぜ」
ベオウルフ『………………』
そしてこの時、ベオウルフがピタリとその動きを止めた。
ダンテが口にした『あのボーヤ』の事を耳にして。
ダンテ「あー、よしわかった。だったらはっきりさせようぜ。お前が望むなら勝負を受けてやる」
ダンテ「次は魔具にはしねえ、お前の望みどおり…………どうした?」
ベオウルフ『………………………………………………』
何かを考え込んでいるようにも見えるベオウルフは。
潰れた目の眉をピクリと動かして。
こう続けた。
今度はうって変わって、冷静に淡々と。
ベオウルフ『気が変わった。良いだろう。貴様に付き合ってやる』
253: 2011/07/06(水) 01:20:31.17 ID:98Sc9bWAo
ダンテ「ハッ!中々付き合いいいじゃねえか!いいねえ!!そうだそのノリだぜ!!!」
その答えを聞いて、
ダンテは嬉しげに手を叩いて笑った。
特に理由を聞くことも疑うこともなく、
ベオウルフの言葉をすんなり受け入れたのだ。
他の元使い魔達は―――特にイフリートは嫌悪と疑念を強烈に露にしていたが。
イフリート『妙な真似はするな。貴様を見ている』
元の位置へと去る際、炎の魔人はそう言葉を残し。
ベオウルフ『カッ。腰巾着は失せるがいい』
ベオウルフも下がり際、敵意をむき出しでそう吐き返していった。
とその時。
ロダン『ダンテ、聞えるか?』
突然に、中空に浮かんでいる球状の映像からロダンの声が響いてきた。
ダンテ「お、どうした?もう話し終わったのか?」
ロダン『いや……待て……とにかく急展開だ』
早口で、彼にしては珍しく慌てている声。
ロダンがここまで動揺しているとなると相当の何かが起こったのか。
そしてそのダンテの推測は正しかった。
254: 2011/07/06(水) 01:22:02.25 ID:98Sc9bWAo
続く早口のロダンの声。
ロダン『まだ概要は詳しく聞いていないが……タイミング的に喜ばしいのは間違いない』
ロダン『以前から計画していたようで、連中はジュベレウスの完全滅亡を機に始動していたらしい』
ダンテ「落ち着け。要点を言え」
ロダン『蜂起だ―――天界で反乱が始まる。打倒ジュベレウス派のな』
ダンテ「―――…………」
それは間違いなく『相当の事』であり、
ロダンの言葉通り状況的に『喜ばしい事』でもあった。
だがしかし。
ダンテは非常に気に入らなかった。
再度あからさまに見えてしまったからだ。
この状況が『作られたもの』だと。
まただ、と。
またタイミングが良すぎる、と。
―――『お膳立て』が過ぎるぞ、と。
ダンテ「……………………ハッハ~、匂うぜ。プンプン匂ってるぜ」
そして感じる。
姿無き形無き、それでいて『どこにでも』存在している『この敵』の存在を。
―――
255: 2011/07/06(水) 01:23:14.63 ID:98Sc9bWAo
今日はここまでです。
次は金曜か土曜に。
次は金曜か土曜に。
256: 2011/07/06(水) 01:26:29.70 ID:i3PDHv6to
乙ー
アグルドの勇士が見られるのかな?楽しみだ
アグルドの勇士が見られるのかな?楽しみだ
257: 2011/07/06(水) 01:39:16.95 ID:NpngN4gzo
ようするにベオちゃんはツンデレなんだね
258: 2011/07/06(水) 01:39:50.22 ID:IoA36g7DO
ベオウルフは上条さんと同化してたから何か知ってるみたいだな
261: 2011/07/06(水) 07:25:15.22 ID:98Sc9bWAo
当SSにおけるメタトロンですが、某イーノックさんとは特に関係はありません。
また、今後にストーリーに関わる形で別作品が新たにクロスすることもありません。
ちょっとした小ネタ程度です。
また、今後にストーリーに関わる形で別作品が新たにクロスすることもありません。
ちょっとした小ネタ程度です。
次回へ続く:【禁書×DMC】ダンテ「学園都市か」【その29】
コメントは節度を持った内容でお願いします、 荒らし行為や過度な暴言、NG避けを行った場合はBAN 悪質な場合はIPホストの開示、さらにプロバイダに通報する事もあります