759: 2011/09/17(土) 02:20:12.74 ID:dZSZ/9Mjo
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―――
アイゼン『―――うん。掟、か』
静まり返る中、アイゼンがぼそりと口を開いた。
その言葉の響きを確認するかのように、小さく頷きながら。
そして赤く光る瞳を真っ直ぐにローラへ、
声にびくっと身を震わせる彼女に向けて『分析』を始める。
この者が如何なる禁術を使用したのか。
ジャンヌから聞いていたとある姉妹の件と
神儀の間が現出していたという事実、
そして彼女達の瓜二つの顔と、その力と魂の構成。
ローラの口から話を聞く必要など無い。
史上最高の長と謳われた彼女にとってはそれだけの情報で充分だった。
アイゼン『……なるほど』
事情を意図も簡単に把握したアイゼンは一言呟いて。
軽く指を弾くような動作で小さな光の矢をインデックスへと飛ばした。
すると矢が当たった瞬間―――インデックスが赤い光の衣に包まれ、
時間が止まったかのように完全に硬直した。
神裂『―――!!インデックス!!』
アイゼン『心配するな。ひとまず状態を「固定」しただけだ』
アイゼン『こうでもしなければ、落ち着いて話もできぬであろう?』
アイゼン『―――うん。掟、か』
静まり返る中、アイゼンがぼそりと口を開いた。
その言葉の響きを確認するかのように、小さく頷きながら。
そして赤く光る瞳を真っ直ぐにローラへ、
声にびくっと身を震わせる彼女に向けて『分析』を始める。
この者が如何なる禁術を使用したのか。
ジャンヌから聞いていたとある姉妹の件と
神儀の間が現出していたという事実、
そして彼女達の瓜二つの顔と、その力と魂の構成。
ローラの口から話を聞く必要など無い。
史上最高の長と謳われた彼女にとってはそれだけの情報で充分だった。
アイゼン『……なるほど』
事情を意図も簡単に把握したアイゼンは一言呟いて。
軽く指を弾くような動作で小さな光の矢をインデックスへと飛ばした。
すると矢が当たった瞬間―――インデックスが赤い光の衣に包まれ、
時間が止まったかのように完全に硬直した。
神裂『―――!!インデックス!!』
アイゼン『心配するな。ひとまず状態を「固定」しただけだ』
アイゼン『こうでもしなければ、落ち着いて話もできぬであろう?』
760: 2011/09/17(土) 02:23:36.96 ID:dZSZ/9Mjo
驚く神裂を尻目に、
アイゼンは変わらぬ調子で言葉を続けていく。
アイゼン『さてとまず彼女についてだが』
アイゼン『我が技と力をもってすれば、まあまず間違いなく救うことが可能である』
アイゼン『ただ掟は―――それを許さぬであろう。その採決は長の手に委ねられ、導かれる結論は明白』
神裂『そんな―――!!』
アイゼン『―――黙れ。口を出すな』
そんな横からの声も強い口調で一蹴。
うずくまるローラへ向けて連ねていく。
更なる残酷な言葉を。
アイゼン『そなたの境遇に同情はする。しかし―――犯した罪が重すぎる』
アイゼン『掟に則れば酌量の余地は無い。弁明の機会も与えられぬ。そなたの言葉は一切意味を持たぬ』
ローラ『…………』
それがアンブラ、鉄の掟の答えであった。
ローラの方が決別して自由を得ても、
今度は掟がその鎖を伸ばし、あの手この手で縛り続ける。
因果は彼女を繋ぎとめて、ふたたびアンブラへと引きずり戻す。
いくら彼女の精神が解き放たれようと、その肉と血と魂はアンブラのものだと。
返せ、と。
アンブラの掟の下に―――その身を返還しろと。
アイゼン『それはわかっていただろう?』
だがそれをローラも充分承知していた。
その上で彼女はここに来て懇願したのだ。
母なるアンブラの答えがわかっていながら、それでも一縷の望みを―――母なるアンブラに縋るしか。
761: 2011/09/17(土) 02:26:02.28 ID:dZSZ/9Mjo
『―――ならぬ!!』
『決して許すまじ!!』
『掟は絶対である!!』
『―――罪人に速やかなる罰を与えよ!!』
そんな彼女へ容赦なく浴びせられる古の母達の言霊。
神儀の間の隣にある霊廟から、怒りに満ちた声が放たれてくる。
アイゼン『そうだ。その通り』
そしてアイゼンがその声に準じるかのように―――頷いたのも束の間だった。
アイゼン『―――だぁぁぁが。ここで一つ問題があってな』
突然、魔女王は声の調子を変えてわざとらしい口調で声を放ち始めた。
アイゼン『そなたを縛る掟は、アンブラの「魔女」のもの』
更に意地悪そうな笑いがうっすらと混じる。
アイゼン『しかしな、我は今や「長」でもなければ―――「魔女」の身ですらない』
そしてローラを覗き込むように大きく身を乗り出して、
鳥の頭蓋を模した仮面、その眼孔からのぞく己が『赤き瞳』を見せ付けて。
アイゼン『即ち困ったことに―――決定権と執行権を持っておらぬのだ』
762: 2011/09/17(土) 02:28:00.70 ID:dZSZ/9Mjo
ローラ『―――……』
顔上げアイゼンの瞳を見つめるローラはきょとんと、
いまいちアイゼンの言葉を理解していない表情。
アイゼン『故に、我がこの件に何かしらの決を下すことはできぬ』
アイゼン『必要なのは―――「本物の魔女」の長の採択である』
そんな彼女をお構い無しに。
まるで劇でも演じているかのように、
優雅に歩き手を広げながら更に声を放っていくアイゼン。
アイゼン『さてそこでまた問題がある。現長の座が空白なのだ』
アイゼン『今、魔女は僅か四名しか生存しておらぬ。だが幸いなことになんとそのうち二名が―――「コレ」を持つに相応しき強者である』
そして袖口から、一つあるもの取り出した。
それはアイゼンが被っている「鳥の頭蓋」と同じ形で、赤い羽根飾りがついている腕輪―――。
長に相応しき者しか嵌めることができない―――『長の証』。
アイゼン『まずその一人をあたってみよう―――セレッサ!!!!』
ベヨネッタ『んーっ面っ倒臭そうだからイヤ。そんなガラじゃないし』
そのアイゼンの呼びかけにベヨネッタは即答。
棒付きキャンディを口で転がしながら、彼女はあっさり辞退してしまった。
763: 2011/09/17(土) 02:29:51.02 ID:dZSZ/9Mjo
アイゼン『うん。そなたは破天荒すぎる。己を律さぬこんな馬鹿が長など笑止千万だからな』
ベヨネッタ『むっ』
アイゼン『となるとだ、相応しき者は「もう一人」の方となる』
アイゼン『あの者が断る理由は無い。長になるために生まれてきたような者。確定だ』
アイゼン『そうなるとこれまた幸いなことに―――もうあの者に採決を聞く必要は無い』
ローラ『―――……っ』
そこまで聞いてようやく。
アイゼンがどこへ話を持っていこうとしているのか、ローラは感づき始めて。
そして今度は―――『板ばさみ』となる。
インデックスが助かるという希望と。
アンブラの誇り、それへの鉄の忠誠との間で。
アイゼン『答えは既にここに示されているのだからな―――』
なにせ、掟を『こんな風』に解釈するなど。
アイゼン『―――そなたを救い、生きてここまで寄越した、これが明白なあの者の意思表示となりうる』
無理がありすぎる。
まさしく冒涜行為なのだから。
764: 2011/09/17(土) 02:33:17.24 ID:dZSZ/9Mjo
『―――アイゼン!!気が狂ったか!?』
強く響き渡る、
そんな『解釈』を受けいられぬ母達の声。
アイゼン『だから我はもう関係ない。聞いておっただろうに』
『否!!詭弁だ!!』
―――詭弁。
母達の発したそんな表現をアイゼンは否定するどころか。
アイゼン『ふっふっふ。そうよ―――これは詭弁よ』
あっけらかんと笑ってはあっさり肯定。
『アイゼン!!貴様ともあろう者が何を抜かしておる!!』
『そなた自身も制定に名を連ねた掟だぞ!!その血盟を反故にする気か!!??』
アイゼン『はっきり言うとな、もうついていけぬわこの腐り切った亡霊共めが』
アイゼン『掟がどうのこうの。飽きもせずいつまでもよくやりおるわ。おお、腐臭が匂う匂うくっさいのう』
『ふざけたことを!!ええい!!―――セレッサ!!この愚か者に鉄槌を下せ!!』
ベヨネッタ『あー、私は掟とかそういう堅苦しいの?あんまり』
『貴様も背く気か!?』
ベヨネッタ『なぁにを今更。背くのは今に始まったことじゃないし』
ベヨネッタ『なにせ私は―――生まれついたその瞬間から―――禁を破りし「呪われし子」なんだから』
765: 2011/09/17(土) 02:34:23.99 ID:dZSZ/9Mjo
うふん、と舐めきった調子でそうベヨネッタにも拒否された声達。
そこで次に頼るは。
『―――ええい貴様ら!!』
『スパーダの子よ!!かつて共に魔帝と対した一族の仲だ!!この者らを斬り捨てい!!』
スパーダ像の前で瞑想しているバージル。
だがこれの判断は、どう考えても『無謀』極まりないもの。
この男を頼ることは大きな過ちだ。
バージル『―――黙れ』
対してバージルの示した反応、それはアンブラの母達の求めを拒否したのか、
それともただ煩かっただけなのか。
少ない言葉と変わらぬ表情からでは、そのどちらなのか判別できなかったが。
―――問答無用だった。
ぱちりと目を開いたバージルが神速で刃を抜き、空間に光の筋を走らせた瞬間。
―――『声』がぶつりと途絶えた。
766: 2011/09/17(土) 02:38:00.39 ID:dZSZ/9Mjo
そして『最強』は静かに納刀して、再び目を瞑り。
バージル『茶番は終わりだ。早くしろ』
そう吐き捨てて再び瞑想に入った。
ベヨネッタ『そうそう意ぃ地わっる。どうせ決まってんだからチャッチャとやってあげれば良いのに』
続けて近くのある天使の像に寄りかかって、呆れがちにそう零すベヨネッタ。
その通り、掟の解釈以前に、元々計画にはインデックスが必要だ。
彼女を治療しないという選択肢など存在しないのだから。
アイゼン『「茶番」と言うかそなたら。全くわかっておらぬな』
だがそれとはまた別、とばかりにアイゼンが言葉を返す。
アイゼン『如何なる存在にも頭を垂れず、また頼りもしないそなたらには理解し難いだろうが―――』
アイゼン『―――本来、何事にも「順序」というものがある』
そして目を丸くし、小刻みに震えているローラの前に静かに屈んでは、
その彼女の頬に手を当てて。
アイゼン『聞いたな。あれは氏者。古の残像、ただの亡霊のの声である』
今度は優しく語りかけた。
アイゼン『今やあの「声」は如何なる力も有してはおらぬ―――全て「虚構」に過ぎぬ』
アイゼン『怨嗟の果てに堕ちた、恨みと憎しみだけの腐敗せし残りカス。それが現の姿だ』
その放たれた言霊は、母なるアンブラ、
そこに儚い幻想を抱いていた娘の心へと突き刺さる。
決して覆りようの無い、残酷な現実を突きつける。
戻れば自身は決して救われない、母なるアンブラの掟には希望など存在しない。
それでも。
掟に背いておきながら、矛盾していると自覚しながら、それでも最後に母なるアンブラを頼った子に。
絶対的な母なるアンブラならば何とかしてくれると、信じ誇っていた娘に。
アイゼン『そなたが見ている「母なるアンブラ」は―――――――――500年前に氏んだのだ』
静かに、穏やかに、それでいて鋭くはっきりと。
現実を突きつける。
767: 2011/09/17(土) 02:41:20.99 ID:dZSZ/9Mjo
気高き意志、「誇り」こそがアンブラの魔女の強さを支える一面。
掟に背いた逆賊でも、その血の誇りを決して捨てない。
アンブラの魔女が魔女たる存在証明なのだから。
しかし存在が強すぎる『誇り』は、一度何かが捩れてしまったら―――『呪縛』に成り果ててしまう。
このローラもまた、自由になったのも束の間、
そこに『ありもしない幻想』を見てしまい戻ってきてしまったのだ。
自ら火に飛び込む虫のように。
そんな再び囚われかけてしまった彼女を―――アイゼンがゆっくりと、『順序立って』解き放ってゆく。
アイゼン『恐れなくても良い。そなたの真の名は?』
ローラ『……あ…………それ……は……』
アイゼン『過去のものではない。「今」のそなたのありのままの名だ。さあ、真名を口にしろ』
ローラ『……………………ローラ……ローラ=スチュアート』
アイゼン『ローラ。聞えるか?己が名を口にした声が』
幼い少女のように頷いたローラを見て。
穏やかに微笑んでは、今度はその手を彼女の胸に添えて。
アイゼン『己が声が聞こえるようになったのならば、次はその声に従え』
そうささやきながら血まみれの胴へかけてなぞってゆく。
すると淡い光を発しながら、傷口が見る見る塞がっていき。
アイゼン『アンブラの「誇り」は過去の虚構にではなく、今この瞬間からの「己」に見よ』
アイゼン『母なる存在はそなた自身の中に存在しているのだ』
アンブラの呪縛からも解き放ち。
アイゼン『我が証人となり、ここに宣言する。ローラ=スチュアート、この者の血と肉―――そして魂は―――』
『正式』に。
アイゼン『―――気高き「アンブラ」そのものであると』
ローラ=スチュアートの存在をここに証明した。
768: 2011/09/17(土) 02:44:07.05 ID:dZSZ/9Mjo
ローラは呆然としていた。
硬直し目を見開いたまま、アイゼンをただただ見上げて。
その瞳からは不安、苦悩、後ろめたさといった陰りは全て消えていた。
そんな彼女の頭を軽くぽんと叩いては、アイゼンは立ち上がって。
アイゼン『本来ならばここまでがジャンヌの仕事なんだがな』
アイゼン『まあなんだ、「向こう」は色々込み入っておったようだし方あるまい。代理の我で我慢しろ』
マントと羽飾りを颯爽と翻しながら、『固定』状態のインデックスの下へ歩んで行き。
アイゼン『さてともう一人の子、そなたの妹も解き放たねば』
横渡る少女の傍に屈み、その手を額に添えた。
その声を聞いてハッとしたかのように立ち上がり駆け寄るローラ。
そんな風にして治療が始まる中。
ベヨネッタ『……なぁんとなく。わかったような気がする。この「茶番」の必要性』
天使像に寄りかかりながら、ベヨネッタがそう口を開いた。
アイゼン『なんとなくでは足りぬ。魔女の上に立つ者は、ただ強者であれば良いというわけではない』
手を動かしながら答えるアイゼン。
ベヨネッタ『魔女は「悪魔」ではなく「人間」なのだから、でしょ。思い出した。昔習ったっけ』
アイゼン『そうだ。そなたたちのような一部の者を省き、人の心を宿す者はみな何かに縋って生きておる』
アイゼン『信頼、希望などと呼ぶそれらは最高の力となりうるが、一方で人の心に絡まった時は実に厄介な代物となる』
アイゼン『こればかりは力ずくでどうにかできるものでもない』
アイゼン『絡まった茨を強引に取り除こうとすれば、周りの「肉」をも引き千切ってしまうのと同じだ』
アイゼン『「弱者」の「肉」はな、そなたらのように頑丈ではないのだからな』
アイゼン『それ故に「弱者」であり。故に、誰かが手を差し伸べて救わねばならない』
ベヨネッタ『…………ふぅん。ところでグランマ。グランマも何かに縋ってんの?』
アイゼン『もちろん―――』
アイゼン『この老体はな―――そなたら、「子ら」に縋っている』
769: 2011/09/17(土) 02:47:36.33 ID:dZSZ/9Mjo
そこでアイゼンは顔をあげて。
ベヨネッタと―――瞑想しているバージルの背へと視線を巡らせた。
ベヨネッタ『私たち?自分で言うのもアレだけどさ、バージルも私も自分の望みどおりにヤルことしか頭に無い「バカ」よ』
ベヨネッタ『バージルの「弟」も「息子」も似たようなもんだし。まともなのジャンヌくらい』
アイゼン『それで良いのだ。そなたらが好き勝手踊り、この世界を掻き回し』
アイゼン『あらゆる「絶対的存在」を叩き潰し、忌々しい「絶対的概念」を踏みにじる』
アイゼン『それが見てて最高に楽しくてたまらんのだからな』
アイゼン『ほれ、またひとつ見せてくれ』
そしてアイゼンは袖口からあるものを取り出して、ベヨネッタへ放り投げた。
それは―――あの『長の証』。
アイゼン『新たな歴史を紡ぎはじめる時だ。「新生したアンブラ」を見せよ』
放られたその腕輪を、
ベヨネッタは指に引っ掛けてはくるりと回して。
アイゼン『絶頂の腕輪―――調整は済んでおるな?』
ベヨネッタ『ちょうど』
そして握り、キャンディの柄をくいっとあげては笑みを浮べて頷いた。
アイゼン『―――ならば行けい。そして長の証を「相応しき者」に届けよ』
ベヨネッタ『りょーかい。グランマ』
―――
779: 2011/09/20(火) 01:54:20.08 ID:wmMZBHsqo
―――
それを例えるに、まさに総力戦という表現が相応しい。
不浄の王を打ち倒すべく、多数の魔具、多様な魔獣の力が入り乱れてゆく。
龍騎士が豪快に振るう巨大なハルバードをかいくぐり。
ジャンヌ『―――YeeeYA!!』
目にも止まらぬ連撃を叩き込んでゆくジャンヌ。
アスタロトの攻撃が一つに付き、彼女は10倍近くの手数で返していく。
そのたびに龍騎士の体は大きくよろめいては、
身を震わせてダメージ・苦痛の反応を示したが。
アスタロト『―――ははははは!!!!』
しかしそれでも依然、アスタロトには余裕が溢れていた。
ジャンヌ『―――チッ』
このアスタロトは悪趣味な、人界の俗っぽい言い方をすれば極度の『マゾ』なのは、
言動の節々からでも容易にわかる。
だが、氏に至るまで快楽とし続けるほどイカレてもいないはず。
そこまで自滅的ならば魔界の十強に上り詰めることなどまず無理だからだ。
ある程度保身的でなければ決して不可能。
つまりまだまだ追い込めてはいない。
アスタロトにとってはジャンヌのこの攻勢でもまだ生ぬるいのだ。
780: 2011/09/20(火) 01:55:13.91 ID:wmMZBHsqo
これは少し奇妙なことであった。
アスタロトとジャンヌ、両者の間に圧倒的な差があるわけでもない。
その上でここまでジャンヌの手数が圧倒的に多ければ、アスタロトの底、
もしくはその力量の大体の全容が見えてきても良い頃だ。
だが実際はまるで見えない。
10から確かに3を引いたのに答えがなぜか10、
まさにそんな奇妙な状態なのだ。
そしてその原因を悠長に探る余裕も、今やなくなってきていた。
ジャンヌ『―――ぐッ!!』
猛烈な勢いで右から薙ぎ振るわれるハルバードを、魔刀で打ち流しすジャンヌだが。
その凄まじい刃は、
今やそうそう打ち流せる水準ではなくなっていた。
あまりのパワーと鋭さに魔刀が悲鳴をあげ、
柄を握る手も痺れ感覚が一瞬飛ぶ。
しかも凄まじい衝撃と共に浸透してくるアスタロトの力が、
毒となって体を蝕んでいき、
魔女の要とも言える体内の『式』や力の統制に障害が生じてしまう。
この強烈な毒性、
複雑な魂と力の構造をしている魔女にとっては、非常に相性が悪いものであったのだ。
781: 2011/09/20(火) 01:57:14.78 ID:wmMZBHsqo
アスタロトの攻撃は一撃に留まらなかった。
ジャンヌの一瞬の怯みを見逃さずに、ここぞとばかりに攻撃が続く。
続く二撃目はハルバードの直後、流した刃の火花がまだ散りかけのところに。
龍騎士の翼が鎌のように、同じく右からジャンヌの魔刀に衝突した。
ジャンヌ『―――ッく!!』
流しきれずに後方へ大きく弾きこまれてしまうジャンヌの体。
踏ん張る両足がガラスのような地面に突き刺さり、線路のように二本一対の溝を大地に刻んでいく。
そこで更に三撃目。
踏み込んできたアスタロトがハルバードを返し、今度は左から薙ぎ振るう。
凄まじい立て続けの攻撃に、ジャンヌでももはや打ち流すなどできなかった。
魔刀を左に持って行き、体を叩ききられるのを防ぐだけで精一杯。
一段と壮絶な衝撃。
そして斜め後方へ、先よりも更に距離長く弾きだされるジャンヌの体。
両足が地面を抉り砕いては大量の破片を巻きあげて。
200mほどまた『線路』を刻んで、彼女の体はようやく制止した。
しかしここで一息つくにはまだ早い。
瞬間、ジャンヌは気配を覚えて上を見上げた。
その視線の先ちょうど真上に見えたのは―――翼を広げ、ハルバードを掲げた龍騎士。
そして振り下ろされる―――四撃目。
782: 2011/09/20(火) 01:58:02.83 ID:wmMZBHsqo
ただこの時、ジャンヌもやられてばかりではなかった。
一撃目から三撃目までのと比べて、
この四撃目までの間はそれなりに長かったのだ。
彼女は即座に魔刀を頭上にかざし、打ち流す構えを取り同時に―――ウィケッドウィーブを発動させた。
そして振り下ろされたハルバードが魔刀と衝突した瞬間。
すれ違いに、巨大な足に突き上げられる龍騎士の腹。
まさに圧倒的な一撃の『交換』。
空間が目に見えて大きく歪んでは波紋を生み出していく。
そんな激突の中、龍騎士の巨躯は大きく吹き飛ばされて、
そしてジャンヌの体は大きく陥没した地面に叩き込まれた。
クレーターの底、つみあがる破片の耳障りな音がしつこく響く中。
ジャンヌはゆらりと立ち上がった。
ジャンヌ『―――クソッ……』
小さく悪態を付きながら。
四発も連続で受けた魔刀は今や刃こぼれが酷く、
肘辺りまでもひどく痺れている。
腕だけではなく全身の節々が痛み、そして体内にもあちこちに障害が生じている。
一方でアスタロトは。
ジャンヌ『…………』
遥か上空にて羽ばたく龍騎士。
先のカウンターもかなり手応えはあったものの、
やはりアスタロトに消耗の色はまだ見られなかった。
783: 2011/09/20(火) 01:58:33.92 ID:wmMZBHsqo
これではきりが無い。
ここまでの攻撃を与えてもこれでは、このまま続けていても仕方無い。
一体どんなカラクリがあるのかはわからないが、
力をぶつけて削りとる正面勝負ではどうしようもないのは確か。
ジャンヌ『……』
そしてそのカラクリを暴くこともかなり難しいか。
ここまで戦っていても、そのヒントは一つも見当たらないのだ。
だが八方塞というわけでもなかった。
アンブラの魔女は、ただ叩き潰すだけが能じゃない。
少なくともジャンヌの頭の中には、効果的と思われる別のアプローチがあった。
ただもちろん簡単なことでもないが。
具体的に言うと『それ』は結構な大技であり、また非常に繊細かつ正確な作業が求められ、
更に成功には少しの間、アスタロトの動きを完全に封じる必要がある。
しかし成功さえすれば―――その一度で確実にアスタロトを廃することができる。
784: 2011/09/20(火) 01:59:05.64 ID:wmMZBHsqo
彼女はこの一手に全てを注ぐことを決定した。
その時、そんなジャンヌの表情を見て何かに気付いたのか。
アスタロト『何か見せてくれるのか?』
忌々しく笑いながら挑発する恐怖公。
ジャンヌは一言も返さず―――かわりに鋭い視線を向けて、
足で地面を打ち鳴らしては、妖艶に大きく体を躍らせて。
ジャンヌ『―――AGRAM ORS!!』
そしてエノク語で詠唱。
その瞬間、彼女の周囲から逆向きの滝のように大量の髪が立ち昇った。
凄まじい勢いで伸びた髪は、空高くで渦を巻き。
―――巨大な魔方陣が出現し―――その中からこれまた巨大な怪鳥が飛び出し現れた。
漆黒のその魔獣の名は―――『マルファス』。
召喚された名だたる大悪魔―――マルファスは、
魔方陣から飛び出すや凄まじい速度でアスタロトへと飛翔し。
アスタロト『―――ぬっ―――』
まさに体当たりとも言える勢いで激突した。
785: 2011/09/20(火) 02:00:51.86 ID:wmMZBHsqo
その光景は壮絶なものであった。
轟音を響かせては、
巨鳥と龍騎士がもつれあって一気に落下。
怪鳥は鋭い爪を持つ足を龍騎士に食い込ませて、
更に龍の首にクチバシを突き刺し肉を引き千切っていく。
肉片と羽が飛び散り、龍か怪鳥か、轟くどちらのものか判別がつかない咆哮―――。
―――だが地に着くまでに残った咆哮は『一つ』。
凄まじい衝撃をともなって大地に激突、
巻き上がる粉塵の中からまず現れたのは―――痙攣して萎縮する漆黒の翼。
そして靄が晴れていくと―――悠然と立っている龍騎士。
痙攣している翼はその屈強な四肢の下―――無残な形となっている肉塊から伸びていた。
だがそれを目にしてもジャンヌは怯まない。
ジャンヌ『―――TELOC VOVIM!!』
更に踊り、立て続けに詠唱する。
先と同じように巨大な魔方陣が出現し―――次に現れるは巨大なムカデ―――『スコロペンドラ』。
786: 2011/09/20(火) 02:02:11.04 ID:wmMZBHsqo
アスタロト『―――お次はフレジェトンタの血竜と来るか!!』
銀髪を纏ったスコロペンドラがすかさずアスタロトの騎士部分の胴、
腕に一気に絡み付いていき。
そして凄まじい力で締め上げていく―――が。
アスタロト『―――はッ!!!!』
それでもアスタロトを封じるには足りなかった。
龍騎士は真っ向勝負とばかりに肉を張り、弓の弦をゆっくり引くかのようにスコロペンドラの体を軋ませていく。
そして―――その力勝負は僅か5秒で決する。
耐え切れずに弾け飛ぶ―――スコロペンドラの胴。
悲鳴にも聞える咆哮が響き渡り、千切れた長い胴が力なく落ちていくが。
ジャンヌ率いる『総力』はこれだけでは終らない。
大悪魔の連続召喚は通常、どれだけ優れた魔女でも行わない。
理由は簡単、累積する負荷があまりにも危険すぎるからだ。
しかし彼女は立て続けに大規模召喚を続けていく。
ジャンヌ『―――IZAZAS PIADPH!!』
その口から―――血を吐きながら。
次に魔方陣が浮かび上がったのは大地―――アスタロトを中心として、直径200m以上にもなるほど巨大に。
そして円の中の大地が消失しては虚無の大穴が出現し―――
―――その中には、大穴を塞ぐほどに大きな『蜘蛛』―――『ファンタズマラネア』。
787: 2011/09/20(火) 02:03:27.47 ID:wmMZBHsqo
アスタロト『―――ははんっ!!これはこれは!!』
その大蜘蛛の体は、実にアスタロトの10倍以上。
アスタロトの全身ほどもある頭部から発せられる咆哮は、
それだけでこの階層が砕けてしまうかというほど。
だがそれでも―――このアスタロトは全く怖気つかない。
龍騎士は落ちるどころか、自らその頭部に急降下してゆき。
『英雄』は凄まじい勢いで降下しては一突き―――『怪物』の口に中へと、ハルバードを突き刺す―――。
それはまさに、巨大な怪物に立ち向かう騎士―――英雄にも見える光景。
この一瞬だけを切り取れば至高の芸術品にもなるであろうか。
だがそれだけ。
次の瞬間、これまた猛烈な咆哮と共に噴き上がってくる血。
それを全身に浴びながら笑う龍騎士の姿は、果てし無き狂気に満ち溢れていた。
アスタロト『―――……はは、ふうむ』
だが。
アスタロト『ははん、さすがは炎獄の熔蜘蛛王、一撃では斃れないか』
ファンタズマラネアの八本の足からは、まだまだ力は抜けない。
大蜘蛛は、巨大な足の先端で八方から挟み込むようにして
アスタロトの龍部位を強く押さえつけた。
788: 2011/09/20(火) 02:04:36.94 ID:wmMZBHsqo
更に血吹き出る口から、朱に染まった―――鋼のような糸が勢い良くのび、
騎士部位にも纏わりついていく。
アスタロト『ふん、だが芸が無い。こんなもの―――』
しかしファンタズマラネアができたのはそこまでであった。
アスタロトはこれでも全く余裕を崩さず、不気味にほくそ笑み。
そしてハルバードを勢い良く引き抜いて。
確実にこの蜘蛛王を倒す第二撃を食らわすべく、大きく掲げた―――その瞬間。
境界の主よ 汝の名の下に征せ
ジャンヌ『―――PANPIR TELOCH OIAD ZIRE ZILODARP!!』
それは最後でありジャンヌ最大の召喚。
直径100m程の魔方陣がアスタロトの正面に浮かび上がり。
そして姿の現したのは、まさしく―――『白銀の女王』。
翼かそれとも長い髪か、光り輝く銀の尾を全身から引く―――妖艶な魔人。
全身召喚された―――マダム=ステュクスそのもの。
789: 2011/09/20(火) 02:05:16.36 ID:wmMZBHsqo
現れた白銀の女王は、素早くハルバード持つアスタロトの手首を掴み。
もう片方の腕でその首を握り、凄まじい力で押さえつけた。
アスタロト『―――っ』
意識の隙、とでも呼べるか、ここでようやく生じた二回目の『間』
この王の中の王たる存在の連続の出現に、
さすがのアスタロトも驚きの色を浮かばせて反応が一瞬止まった。
そしてもちろんジャンヌはその隙を見逃さない。
待っていたとばかりに素早く動き出す。
一気に駆け跳ねてゆき、
マダム=ステュクスの全身から伸びる、白銀の虹のような『尾』を走り抜けて。
飛び出して―――女王が押さえつけるその首の上、アスタロトの鼻先に着地した。
アスタロトは明らかに驚き、そしてジャンヌの行動の意図を量りかねていたようだった。
表情どころか目も口もないクチバシ型のその頭でも、
ありありと感じ取れるほどにそんな意思がにじみ出てきている。
ジャンヌ『―――覚えてるか?私がさっき言った言葉を』
そんな龍騎士へ向けて、ジャンヌはそう声を放って。
掲げていた魔刀をアスタロトの鼻先へと―――突き刺した。
そして『流し込み』、『施す』。
一度で確実にアスタロトを廃することができるあの『術式』を。
それは500年前、ベヨネッタに施したあの『術』の応用。
その効果は実に単純明快―――『封印』だ。
790: 2011/09/20(火) 02:06:44.04 ID:wmMZBHsqo
次に放たれた龍騎士の声には。
アスタロト『貴様――――――何をした?』
体内に流れ込んでくる『もの』の異常さに気付いたのか、
明らかに余裕が消えていた。
一方でジャンヌは薄く笑みを浮べて。
ジャンヌ『私はこう言っておいたはずだが。このプルガトリオの最果てが―――』
ジャンヌ『―――「終点」だと』
言葉を確かめるように、自身と確信に満ちる声ではっきりと告げた。
そう、もう確実だ。
アスタロト『―――きっ貴様ッ―――!!この―――!!』
明らかに焦り混じるアスタロトの声。
だがもう遅い。
既に術式は起動されている。
この術の前にカラクリなど問答無用。
魂、力そのものを、目障りな『小細工』まるごと閉じ込めてしまう―――――はずだったのだが―――。
アスタロト『――――――――――――なーぁんてな』
791: 2011/09/20(火) 02:08:50.03 ID:wmMZBHsqo
勝利を隠した瞬間―――絶望への転落。
ジャンヌ『―――…………な……に?―――』
あまりの展開に信じられず、思わずジャンヌはぼそりと呟いてしまった。
何も起こらないのだ。
何も。
術式は完璧であったはず。力の量も適切であり、どこにもミスは無い。
それなのに―――術の効果が一切現れない。
アスタロト『ははは、惜しかったな。あと少し、少しだった』
そして対照的なアスタロトの声色。またあの余裕たっぷりの調子に戻っていた。
アスタロト『300年ほど前の俺だったらお前は間違いなく勝っていたのだが』
アスタロト『生憎、俺もずっと「昔のまま」というわけじゃあないんだ』
ジャンヌ『―――な、これは……!!』
一体どういうことなのだ。
こんなことは有り得ない―――有り得ないのだ。
ジャンヌ『―――』
そう―――『有り得ない』。
その脳裏に木霊した言葉で、ジャンヌはようやく気付いた。
彼女はそんな『有り得ない』を知っていたのだ。
このような有り得ない事象を起こす領域の力を知っている。
すぐ傍にいたではないか。
スパーダ
バージルの―――父から受け継いだ『破壊』の力。
セ レ ッ サ
そしてベヨネッタの―――『闇の左目』。
『力』とはまた別の―――規格外の『特性』を有した者達を。
そんなジャンヌの思考をまるで覗いていたかのように、
アスタロトが相変わらずの調子で口を開いた。
アスタロト『「これ」を見たのはお前が一人目だしな、せっかくだから教えてやろう』
アスタロト『俺は「これ」を――――――――――――「維持」と呼んでいる』
792: 2011/09/20(火) 02:11:37.93 ID:wmMZBHsqo
ジャンヌ『―――がっ―――あ!!!!』
その時。
ジャンヌは腹部に、魂が震え気が遠くなるほどの激痛を覚えた。
しかし攻撃は受けていない。
己の腹部を見ても無傷だ。
そう、彼女は攻撃を受けていなかった。
受けたのは―――マダム=ステュクスだった。
龍の頭部が、その頭が埋まってしまうほどに女王の腹部に深く噛み付いていた。
主契約による一心同体化で、そのダメージがそのまま伝染してきているのだ。
しかも―――あの毒性が今までとは比べ物にならないくらいに強い。
立て続けの召喚に術式でほとんど力を使ってしまったせいで、抵抗もまるでできない。
白銀の女王と同時に、ジャンヌの体は硬直麻痺しては痙攣し始めてしまった。
そんなふうに体の自由を一瞬で奪われた彼女を尻目に。
アスタロト『これは「創造」や「具現」そして「破壊」と同じ、元々はジュベレウスが有していた、万物を司る因子が形を変えたもの
だ』
アスタロトは変わらぬ調子で言葉を連ねていく。
アスタロト『如何なる外的要因の影響も受けず、俺の意志のままあらゆる事象を―――「継続」することができる』
アスタロト『つまりこの「維持」が機能しているかぎり、俺は消耗もしないし氏にもしない』
アスタロト『その間に受けた「痛み」も継続してしまうが…………まあそれも別段悪くは無い』
そして騎士部位の鼻先、ちょうどジャンヌの前にあの『美男子』の上半身を出現させて。
アスタロト『―――俺は大好きなのでな。血肉を滾らせて、熱く火照らせる「苦痛」が』
大きく身を乗り出しては、その醜悪な笑顔を彼女の耳元に近づけて。
アスタロト『―――この傷から痛みが悲鳴となって、お前の後悔、憤怒、恐怖が聞えてくる』
おぞましく囁いた。
身の毛がよだつ吐息を吹きかけて。
793: 2011/09/20(火) 02:15:06.74 ID:wmMZBHsqo
アスタロト『しかし驚いた。これを一番に見せた相手もまさか人間になるとはな』
アスタロト『喜べ。この頂点たる俺を知ったのは、お前が初めてだぞ』
ジャンヌ『―――…………ぐっ』
そうもはやアスタロトは、十強『なんてもの』ではない。
この恐怖公は間違いなく覇王と同等、もしくはそれ以上の領域に達していた。
アスタロトに関するアンブラの情報や様々な伝聞も、今やもう過去のものか。
魔界―――そこは常に進化し成長し続ける世界。
古から続く力こそ全ての苛烈な競争は、ジュべレウスをも廃した『三神』を生み出すに至る。
そしてその神を生み出した頃と同じく、今でも魔界は競争が続いている。
そう、過去に三柱も現れた以上、いつ新たな『神』がひょっこり出てきてもおかしくないのだ。
むしろ必然ではないか。
今魔界で最も強い者の一人がその領域に達するのも、時間の問題だったわけだ。
ジャンヌ『…………ぐ……は、そうか、わかったぞ……』
そしてそう考えると、今更であるがアスタロトの行動も繋がっていく。
この恐怖公は魔帝の騒乱の際には一切動かなかった一方、
今回の覇王の件では一番に動いた、その理由がここにあった。
ジャンヌ『お前……魔帝には勝てないが…………覇王には「勝てる」と目論んだのだろう?』
アスタロト『ふむ、俺よりも強ければ忠誠を再び誓い、良き臣下となろう』
アスタロト『俺よりも弱ければ―――打ち倒し―――魔界の統一玉座と「具現」を頂く』
そしてアスタロトは当然のようにそう答えた。
いや、『よう』ではない、これが当然だ。
アスタロトが覇王の復活に協力したのは、この二重の目的があったからなのだ。
この恐怖公はまぎれもない―――いずれ帝王になる一柱。
アスタロト、その存在は魔界の欲望を濃縮し体現したような、非の打ち所が無いまさに『圧倒的な王』であった。
794: 2011/09/20(火) 02:16:01.42 ID:wmMZBHsqo
アスタロト『―――さて。そろそろ幕引きにしようか』
そうして、アスタロトは一際強く女王の腹部を噛み千切った。
ジャンヌ『―――ぐッ!!!!』
それを見たファンタズマラネアの足、そして糸の締め付けが一層強くなるも、
アスタロトは苦痛を見せるどころか完全に無視して。
アスタロト『ほう、興味深いな。マダム=ステュクスとお前、どちらを先に殺せば面白くなる?』
アスタロト『ははは、もしかすると片方を殺せば、もう片方も共に氏ぬのか?』
鼻先から生やした上半身の首を大げさにかしげて醜く笑った。
と、その時。
アスタロト『おおっとその前にだ、これがあった』
ぱん、と、下のクチバシ型の大きな頭部を一度叩いては、
何かを思い出したのかそう口にして。
アスタロト『お前ほど強き魔女ならばかなり高位のはず、知っているだろう』
アスタロト『―――「闇の左目」はどこにある?あれも欲しい』
だが。
その答えを、この魔女から聞きだせるわけがなかった。
返ってきたのは凄まじい形相と、血走った突き刺さるような視線。
アスタロト『……まあいい』
その返答もアスタロトの予想範囲内だったか。
龍騎士は驚きも怒りもせず、逆に満足そうに大きく笑い。
アスタロト『俺が憎いか?憎いであろう、はっははは』
龍のその鋭い牙を、マダム=ステュクスの首下に持っていき。
アスタロト『―――楽しい一時だったよ』
噛み付き、噛み砕こうとした―――その時であった。
『―――おいコラ、アンタ「ウチ」の「新しいボス」に何してくれてんの?』
突然、真横すぐ間近からそんな女の声が響いた。
そして直後、アスタロトがそっちに意識を向ける前に―――その頭部が砕け散った。
802: 2011/09/23(金) 01:19:24.64 ID:E2jOzdGco
頭を失った龍騎士の巨躯が横へと大きく吹っ飛んでいく。
それと同時に白銀の髪束へと姿を変えて、そして消失するマダム=ステュクスとファンタズマラネア。
大穴も消え元のガラス状のものに戻った大地、
そこにジャンヌが乱暴に着地した。
強く膝をついて、衝撃で口から紅の液体を滴らせながら。
ジャンヌ『…………ぐッ…………』
『随分と苦戦のご様子』
そんな彼女に向けて、すぐ横から放たれてきた声。
ジャンヌがジ口リと睨みつけるように見上げると、そこにはベヨネッタが横に立っていた。
髪留めを外して、その艶やかな黒髪を大きくなびかせながら。
ジャンヌは言葉を返さなかった。
声の代わりとばかりに血混じりの唾を吐き捨て、相変わらずの目でただただ睨みつける。
ベヨネッタ『……ははあ……』
その相棒の様子を一目見て、ベヨネッタは彼女の精神状態を把握した。
ジャンヌはブチギレている、と。
よっぽど癪に障ることがあったのか、戦っていた相手がよっぽど―――ムカつく奴であったのか。
いや―――まさにその通りなのだろう。
相手はあの―――アスタロトなのだから。
あの存在を前にして、怒りに満ちないアンブラの者などいない。
とくにアンブラの全てを背負ったジャンヌの怒りは計り知れないだろう。
ベヨネッタ『……そう……』
803: 2011/09/23(金) 01:20:37.90 ID:E2jOzdGco
とにかくジャンヌは、
どこからどう見てもいつもの調子で言葉を交わす気分ではない様だ。
ベヨネッタは一度小さく肩をすくめたのち、
指に引っ掛ける形で長の証を取り出して。
単刀直入、本題に入ろうとしたところ。
ベヨネッタ『コレさ、グランマから預かったんだけど―――』
ジャンヌ『―――そいつを寄越せ』
その本題を告げきる前にジャンヌがそう言い放った。
血走った目で長の証を見つめ、低く張り詰めた声で。
そしてその時だった。
ジャンヌがを求めた瞬間―――まるでその言葉に呼応したかのように―――
―――仄かに赤黒い光を放ち、熱を帯び始めていく長の証。
ベヨネッタ『―――…………』
そんな未知の熱を感じながら、
ベヨネッタはその腕飾りを覗き込むようにして眉を顰めた。
そう、『未知』。
自分が使っていた時、この腕飾りはこんな反応など示さなかった。
ベヨネッタ『わぉ………………何コレ』
804: 2011/09/23(金) 01:22:40.71 ID:E2jOzdGco
反応を示したと思った僅か1秒後には、長の腕輪は光で叫び始めていた。
強く濃く瞬き、順じて『力の熱』も一気に増していく。
ジャンヌ『―――寄越せ』
そしてその怪しき輝きに惹き付けられているかのような、
ジャンヌ亡霊染みた声色。
ベヨネッタは目を細めて、そんなジャンヌと腕飾りを交互に見やった。
訝しげな表情を浮べて。
ベヨネッタ『……』
この時、彼女の中で一つの疑心が湧き上がっていたのだ。
元々、生まれも育ちも究極の『アウトロー』であるベヨネッタは、
アンブラの血は誇りに思っているものの、その『体制』は信用していない。
あの干からびた亡霊共然り、カビの生えた掟然り、そして―――この長の腕飾りもだ。
この時ベヨネッタには、ジャンヌがとり憑かれてしまっているように見えたのだ。
アンブラの果てしない怒りに。
この不気味に呼応する腕飾りをつけてしまったら、
自我を奪われかねないのではないのか。
今の酷く消耗している状態ならば尚更―――。
ジャンヌ『―――私に寄越せ。「セレッサ」』
ベヨネッタ『……』
だがその直後だった。
―――真名が放たれたと同時に。
ジャンヌの瞳の奥底にて光が煌いた。
確かな意志の光が。
805: 2011/09/23(金) 01:24:33.20 ID:E2jOzdGco
この疑心はどうやら杞憂だったか。
ベヨネッタ『…………』
この相棒はそんなにヤワじゃない。
この程度で潰れてしまう女なんかではない。
それを一番良く知っているのがベヨネッタ、己自身ではないか。
500年間、自分を守り続けてきてくれたのは誰か?
ジュベレウスに取り込まれた己を救いに、氏の淵から帰って来たのは誰だ?
わかりきっていることではないか。
アイゼンの言葉と直前のローラの事で、少し神経質になり過ぎていただけか。
ベヨネッタ『…………』
―――事実は明白だ。
ジャンヌが怒りに押し負けることは無い、
彼女の意識は完全に支配する側にある。
ジャンヌが長の証に相応しいのではない、ジャンヌに「長の座」とこの腕飾りが相応しいのだ。
今一度ベヨネッタは、ジャンヌの瞳の煌きを確認して。
ベヨネッタ『タダじゃだめ。これは元々私が苦労して手に入れたもんだし』
今度はあっけらかんと、意地悪そうにそんなことを告げた。
指先でくるくると腕飾りを回して、顔にはいつもの不敵な笑み。
ジャンヌがじろりと一際鋭い視線を向けたが、
普段の調子でニタつくベヨネッタに結局負けてしまう。
ジャンヌ『……………………今度……ゲイツオブヘルで奢ってやる』
彼女はため息混じりにそう調子を合わせた。
呆れたように首を小さく振りながら。
ベヨネッタ『まるごと一晩分』
ジャンヌ『……わかった。だからさっさと寄越せバカ野郎』
806: 2011/09/23(金) 01:25:27.23 ID:E2jOzdGco
そうして投げ渡された長の証を、
手首へと素早く嵌めるジャンヌは。
ジャンヌ『ぐ―――!!!!』
すると赤黒い光がジャンヌの全身へ纏わりつき、
彼女の色である銀と混ざり合っていく。
やはり負荷がかなり強いのか、その過程でジャンヌは苦悶の声を漏らしてた。
ベヨネッタ『気をつけて。それ私の時よりもずっとギンギンだから』
ベヨネッタ『私よりもジャンヌの方が好みみたいね。あ、もしかしてボインは好きじゃないのかしら』
ジャンヌ『―――うるさい黙ってろ……』
と、いつもの「やり取り」をしていたところ。
遠くにて、吹っ飛ばされたアスタロトの体がむくりと起き上った。
ベヨネッタ『……』
身震いして地面の破片をふるい落とす龍騎士。
その様子を見てベヨネッタは目を細めた。
みるみる再生していく頭部は別に珍しくも無い。
だが―――ダメージの痕跡が無いのはなぜか?
先の横からの一撃は確かに命中し巨大なダメージを与えたのだが、
その様子が全く見られないのだ。
ジャンヌ『…………「維持」、だそうだ……』
807: 2011/09/23(金) 01:26:25.88 ID:E2jOzdGco
そんな疑問に、
横からジャンヌが苦悶混じりにそう告げた。
ベヨネッタ『「イジ」?』
ジャンヌ『……お前の「闇の左目」と……ぐッ!……同類らしい……』
ベヨネッタ『はぁーん……どういう性質?』
ジャンヌ『事象の……継続……状態を維持できるから……消耗知らずだとさ』
ベヨネッタ『なあるほど。それでそのカラクリを潰す「穴」は……』
と、言葉を続けながらそこでジャンヌを一度見て。
その彼女の、「穴」を見つけていたらまず有り得ない消耗っぷりを確認して。
ベヨネッタ『―――まだ無し、か。まあ、とりあえずボコリ放題ってことでOK?』
ジャンヌ『…………ふん』
そうしていると、遠くでアスタロトがハルバードの先を地面に突き刺して、
仁王立ちしてじっと佇み始めた。
『ご親切』に、こちらの準備を待っていてくれるのか。
それを見たベヨネッタ、
色っぽく喉を鳴らしてはキャンデイを口で転がして。
ベヨネッタ『さーて「長殿」。向こうは第二ラウンドの準備が整ったようでございますが』
ベヨネッタ『長殿の準備完了まで、わたくしめが「お客様」のお相手いたしましょうか?』
ジャンヌ『…………悪いな、任せる―――だが―――可能だとしても頃すなよ――――――――――――奴は私が頃す』
ベヨネッタ『―――Yes,Ma'am』
808: 2011/09/23(金) 01:29:25.49 ID:E2jOzdGco
次の瞬間、ベヨネッタは黒豹に姿を変え、
猛烈な速度で駆け進んでいった。
先ほどジャンヌの強さに疑問を抱いてしまったことを、ふと思い出しながら―――。
なんて愚かなことか。
皆が皆迫害する中ただ一人慕ってくれて、
背を預けて戦ってきた唯一の家族の強さを、今更、今更になって疑ってしまうなんて。
まさしく「この部分」だ。
『魔女の上に立つ者は、ただ強者であれば良いというわけではない』
ベヨネッタ『……』
そのアイゼンの言葉が示すのはこの部分。
この部分が長になるためには足りないのだ。
他者の視点を理解できても、他者と同じ視点から見ることはできない。
等身大のアンブラ魔女として何かを見て語ることはできない。
―――『それ』はどう足掻いても手に入らないもの。
絶対的な力の一つ―――因果を無視しながら事象を『現実』と証明できる特性―――『闇の左目』を有しているのだから。
ジャンヌは彼女のことを全て理解してくれているのに、
彼女はジャンヌの全てを理解しきることはできない。
ジャンヌが彼女と同じ視点に立って、彼女の意志を代弁することが可能でも。
彼女はジャンヌと同じ視点には立てず、ジャンヌの意志を代弁することもできない。
つまり『一方的な孤独』―――それが『観測者』であるが故の代償。
809: 2011/09/23(金) 01:34:42.78 ID:E2jOzdGco
ベヨネッタ『…………』
だが。
別に彼女はその『孤独』を嫌ってはいなかった。
ジャンヌはそんな『孤独なセレッサ』を、
ありのまま丸ごと慕って信頼してくれているのだから。
『呪われた子』、彼女が賢者と魔女の合いの子である件に関しても、ジャンヌは『気にするな』とすら言ったことがない。
それをマイナスに捉えることすらしないのだから。
迫害し笑う者に対して「セレッサのどこが悪い」、「どこがおかしい」と本気で問い詰めるのがジャンヌなのだ。
どこまでも生真面目でバカ正直で、阿呆みたいに義理堅い、アンブラの理想の化身とも言える『正統派』のお嬢様。
『お前がどこまでも走れるよう、私が道を作ってやる―――決して立ち止まるな―――』
『―――何も恐れるな、誰よりも速く、強く、高く―――――――――走り続けろ―――』
ずっと昔のある日、まだ成人する前にジャンヌから告げられたものだ。
将来の長と持て囃されるのを嫌がっていながらも、
こんなことを素面で言ってしまうあたり、まさに長になるべくして生まれた子か。
あれ以来、この言葉がこの身の奥底に染み付いている。
封印され、500年ぶりに目覚めて記憶を全て失っていた際も、この刻み込まれた『本能』だけは残っていた。
ベヨネッタ『―――はんッ!!』
だからだ。
ア ウ ト ロ ー
『私』はただただこうして―――気の向くまま『究極の自由』の中この『道』を突っ走るのだ。
何人も追いつけぬ速さで、何人も侵害できぬ『強き孤独』を構築して。
そうして突き進む―――『最強の魔女道』。
810: 2011/09/23(金) 01:36:08.04 ID:E2jOzdGco
豹は咆哮をあげて、大きく空へ跳ねた。
そして―――再び人の姿に戻っては、身を翻して―――アスタロトの前へ着地。
最強の魔女はそのようにして、
恐怖公から30mほどの大地に豪快かつ優雅に降り立った。
ベヨネッタ『アンブラに「泥を塗り続けて」530年、最後にして「最悪」の「鉄砲玉」――――――ベヨネッタ。よろしく』
飛び散る破片の中、華麗にポーズを決めては改めて自己紹介。
アスタロト『恐怖公アスタロトだ!!先の一撃はお前か!!これはまた素晴らしい!!今日は正に祝うべき日のようだ!!』
ベヨネッタ『そうそう、盛大に祝って。新しい長が誕生したから』
アスタロト『……んん?長だと?…………お前が長では無さそうだな』
ベヨネッタ『……』
どうやら傍から見ても、
どうも自身は長という柄では見えないようだ。
ベヨネッタは無言のまま、後方向こうのジャンヌを親指で指した。
そしてその上で。
ベヨネッタ『ただ、退屈はさせないわよ。単に強さだけなら――――――私が上だから』
811: 2011/09/23(金) 01:38:25.04 ID:E2jOzdGco
アスタロト『ふぅむ…………』
そんなベヨネッタの返答に引っかかったのか、
恐怖公はこれまた意味深に喉を鳴らして。
アスタロト『もしかして………………お前が「闇の左目」か?』
単調直入にそう問いかけた。
これに対しベヨネッタは拒否はせずあっさりと。
ベヨネッタ『あー、これが欲しいの?』
肯定の上の言葉を返した。
ベヨネッタ『そこまで良い物でも無いと思うけど。創造とか……その維持だっけ、そんな感じのを想像してると痛い目みるわよ』
ベヨネッタ『体力バカ喰いするし、汎用性ゼロで使いどころも全然無いし』
―――孤独だし。
アスタロト『一つの事しかできなくとも、その一つが絶対的ではないか』
だがアスタロトは小さく笑っては、愉快そうに言葉を続けた。
ベヨネッタ『これの性質知ってるの?』
アスタロト『もちろんだとも。創世記にジュベレウスのその力を散々見たからな』
アスタロト『お前たち人界に生命が形成される以前から、俺は既に王だったのだぞ』
ベヨネッタ『へえ、年下の魔帝とかスパーダが頂点に上り詰めたのに、まだ「こんなところ」ウロウロしてるの、お疲れ「グランパ」』
アスタロト『…………』
812: 2011/09/23(金) 01:42:04.39 ID:E2jOzdGco
そこで暫し。
アスタロトの声が切れた。
ベヨネッタの言葉に腹が立ったのだろうか、そして再び放たれた声は。
アスタロト『心配しなくても良い。俺も実質、今や連中と同じ領域だからな』
やや語気が強くなっていた。
そこにここぞとばかりに、ベヨネッタは龍騎士の全身に、
わざとらしくジロジロと視線を巡らせて。
ベヨネッタ『ふぅん、私はスパーダの息子たちを「直」で知ってるけど―――』
ベヨネッタ『ついでに言うと、私もその領域なんだけど――――――』
ベヨネッタ『―――ぶっちゃけアンタ、そこまでには見えない』
そして最後に軽く『吹き出し』ながら、そう告げた。
そんな挑発は効果覿面だった。
直後―――凄まじい勢いで振り下ろされるハルバード。
そして強烈な衝撃と激突音。
その瞬間―――火花と共に飛び散っていく『炎と雷』。
ベヨネッタ『―――はッ!!このパワーはかなり良い線行ってるけど思うけどさッ!!!!』
ベヨネッタはその一振りを、ドゥルガーによって形成されている片手三本爪、
計六本の両手の爪を交差させて受け止めていた。
アスタロト『―――「けど」、何かな?』
そして高まる圧で響く、叫び声のような金属音の中、
彼女は妖艶な吐息混じりに答えて―――。
シビレルもの
ベヨネッタ『―――「けど」、やっぱり――――――「 色 気 」が無いッ!!!!』
刃を一気に弾きあげて。
解放状態のウィケッドウィーブ、まずは凄まじい正面蹴りを放った。
813: 2011/09/23(金) 01:44:11.73 ID:E2jOzdGco
絶頂の腕飾り、その効果は単純明快。
魔女の技の限界を容易に超えさせてくれること。
ウィケッドウィーブにしかり魔獣召喚にしかり、発動には常に準備動作が必要になる。
魔獣召喚には舞と詠唱が必要であり、
修練によって簡略化できるウィケッドウィーブもラグは必ず生じてしまう。
つまりマシンガンの如くの本物の連射は性質上、根本的に不可能なのだ。
だがこの絶頂の腕飾りは―――その不可能を突破してしまう。
ベヨネッタ『―――YA-HA!!!!YeeeeeeeeeeeeeeYA!!!!』
直後、アスタロトはその身に―――ウィケッドウィーブの連蹴りを受けた。
巨大な黒き足が宙空から出現しては、まさにマシンガンのごとくその鋭いかかとを叩きこんでいく。
瞬く間にひしゃげ凹んでいくアスタロトの胸、
だが負けじとアスタロトもハルバードを薙ぎ振るうが。
まるでかすりもしない。
最強の魔女はスレスレながら鮮やかにかわし、それどころかかわすたびに更に『加速して』いく。
アラストルの巨躯が一際強烈な一撃を受けて、大きく吹っ飛ばされ―――かけたところ。
ベヨネッタ『―――YA!!』
ベヨネッタの腕から突如伸びた『ムチ』―――クルセドラがその龍の首に巻きついた。
そして彼女はその身を一気に龍騎士のもとへと引き寄せては。
ベヨネッタ『―――Ho!!Hu!!HA!!!!』
連撃を叩き込み。
最後に上方から、これまた巨大なウィケッドウィーブの腕で叩き落とした。
814: 2011/09/23(金) 01:47:46.66 ID:E2jOzdGco
地面に叩きつけられたアスタロト、いや、
叩きつけられる前から既にその体は弾けていた。
地面に降り注ぐのは肉片の雨。
まるでショットガンのように、凄まじい勢いで落ちてきた破片が大地を穿っていく。
そして回転する巨大なハルバードが激音を奏でては突き刺さり。
その柄の先に、ベヨネッタは優雅に降り立った。
ベヨネッタ『Huuum……』
口の横についた返り血を、妖艶に舌で舐め取りながら。
絶頂の腕飾り、試運転は好調だ。
その効果はこれほどまでの火力を実現しているのだ。
ただそこはもちろん、ベヨネッタの圧倒的な実力あってのもの。
この腕飾りも、他の曰くつきの魔導器と同じく化物染みた『受け皿』が必要になる。
実際に過去、幾人もの高名な魔女がこの腕飾りの起動を試みて命を落とした。
全盛期のアイゼンですら起動には失敗し、手ひどく傷を負ってしまった代物だ。
だがそんな負荷も―――ベヨネッタにとっては良い『酸味』。
若い柑橘系を口にしたかのような、爽やかな『刺激剤』となる。
しかし―――。
ベヨネッタ『…………』
視線の先には今、その心地よさを妨害する『苦味』の種があった。
どこからともなく破片が集まってはみるみる巨大化し――形を整えていく肉塊だ。
815: 2011/09/23(金) 01:49:00.62 ID:E2jOzdGco
ベヨネッタ『…………はぁん……なるほどねぇ』
確実にダメージは通っているのに、アスタロトの魂にはまるで変化が無い。
なるほど、これが『維持』か。
あのジャンヌがあそこまで追い込まれてしまうだけあるか、確かにとんでもなく厄介な、規格外の特性だ。
これは単なる力のゴリ押しではどうにもならない類。
創造や具現といった、『ある程度戦うことは案外容易でも、打ち負かすのは果てしなく困難』なもの。
火力はこちらが勝っているし、アスタロトの攻撃も確かに強いが充分凌げる範囲。
つまりその場その場の戦いではこちらに負ける要素は無い。
しかし。
いくら最強の魔女といえでも、スタミナは無限ではない。
時間勝負に持ち込まれれば、いずれこちらが先に尽きてしまうのだ。
ベヨネッタ『ったく……厄介な…………』
こういったことは、『直線番長』を地で行く彼女はあまり好きではなかった。
決して苦手ではない、むしろ最強の魔女と謳われるにふさわしく、
その知略の面でもこと戦闘に関しては非常に優れている。
そう、優れているのだが。
いかんせんこの性格だ、気が進まないことにはどうしようもない。
それに知略ならもっと上がいるのだから、別に無理してやる必要は無い。
アイゼンの方がずっと頭がキレるし、その魔女王が一目おいて認める―――我らが新『長』がいるのだから。
ジャンヌ『―――待たせたな』
そしてちょうどそんな『長』が、轟音を打ち鳴らして降り立った。
ベヨネッタが立っているハルバード、その地面に突き刺さっている横に。
816: 2011/09/23(金) 01:51:39.19 ID:E2jOzdGco
そのジャンヌの様子は、どう見ても大丈夫と言えるものではなかった。
息は荒く熱を帯びていて、
表情や全身の佇まいにも消耗の色がありありと滲んでいる。
ベヨネッタ『無理してない?ベッドでも召喚して寝ててもいいのよ?それとも長らしく玉座がいいかしら?』
ジャンヌ『そうだ無理してハイになってんだよわかるだろうがいちいち気を散らすなバカ野郎』
だが精神状態は良好のようだ。
発せられた声の調子は、いつもの気が強そうな相変わらずのもの。
その言葉をより乱暴にさせている原因、強烈な憤怒に満ち満ちているのも、先から相変わらずであったが。
ベヨネッタは満足そうに小さく微笑んでは、
再生を続けている肉塊へと目を戻して。
ベヨネッタ『それで、「維持」の「穴」は見つかった?』
ジャンヌ『……「維持」は、機能している間に受けた「痛み」も継続する、と』
ジャンヌ『そうしないと記憶すらできないからなのか、どうやら精神面領域に対しては「維持」の仕方が違うらしい』
ベヨネッタ『ふぅん、それで?』
ジャンヌ『そもそも奴は、苦痛自体そのものが好きだとか』
ベヨネッタ『……で?』
ジャンヌ『最悪のドマゾ変態ゲス野郎だ。お前がまだ清楚な乙女に思えるくらい気色悪いぞ』
ベヨネッタ『あらやだ、私は永遠に乙女でしょ。それで?』
ジャンヌ『つまりだな、先ほど正攻法で挑んだのは間違いだった。今度は逆に、奴の望みをかなえてやろうかと思う』
ベヨネッタ『……?』
新長の意図をいまいち掴めないベヨネッタが、
怪訝な表情で彼女の方へとまた顔を向けた。
ジャンヌはそれに応じるかのように、同じくベヨネッタの顔を見上げては。
ジャンヌ『―――「苦痛に関する悪趣味」さで言えば、アンブラは負けてはいないだろう?』
817: 2011/09/23(金) 01:53:48.51 ID:E2jOzdGco
そのジャンヌの言葉で、ベヨネッタは全て把握した。
そして邪悪にかつどこまでも美しく妖艶に微笑んで。
ベヨネッタ『「あっち路線」で「セめる」わけね、はぁん、良いんじゃない?』
ジャンヌ『お前を見て思いついたんだ』
ベヨネッタ『あらまあ、バカ正直な正当派お嬢様にインスピレーションを差し上げられて光栄ですわ』
ジャンヌ『いいから始めるぞ』
そうしている内に再生は終ったのか、
アスタロトはふたたび一切のダメージの痕跡無く悠然と佇んでいた。
ジャンヌ『よう。先は悪かったな。「無礼」だった』
アスタロト『こちらこそ。まさか「長」だとはね』
ジャンヌ『そう、長だ。その長として、アンブラと古くからの馴染みがあるお前を―――』
ジャンヌ『―――あつく「アンブラ式」でもてなそうと思う』
アスタロト『ほおう。何を見せてくれるのかな?』
相変わらず余裕たっぷりな、そして興味津々なアスタロト。
そんな忌々しき恐怖公に向け、ジャンヌは小さく笑い―――。
ジャンヌ『気に入ると思う―――』
ジャンヌ『――――――きっとな!!!!』
そして一撃、ウィケッドウィーブによる正面蹴りを繰り出した。
818: 2011/09/23(金) 01:56:30.13 ID:E2jOzdGco
その渾身の一蹴りは凄まじいものであった。
いくら長の証によってブースト状態でも、
とても消耗しきっている者の攻撃とは思えないもの。
圧倒的な衝撃ともに、アスタロトの巨躯を大きく後方へと吹っ飛ばしてゆく。
だが。
アスタロト『何だ、同じでは―――』
恐怖公は期待はずれとばかりに、宙を舞う中でそう零した。
同じ打撃だ。
確かに、このジャンヌの火力もさきよりも増してはいるが、同じ。
別に目新しくも何ともない。
良くしみる苦痛ではあるが、これにはもう飽きていたのだ。
―――しかしそう断じてしまうのは少々気が早すぎだった。
なにせ次の瞬間―――アスタロトは未知の苦痛に出会えたのだから。
いままで味わったことの無い、ただ純粋に『苦痛を与えるためだけに生み出された苦痛』に。
直後、恐怖公の体は。
アスタロト『―――』
その巨躯がすっぽりちょうど収まるほどの―――大きな『箱』に叩き込まれてた。
内側に『大量の針』が突き出ている箱に。
そして箱に叩き込まれた瞬間、一気に襲い掛かってくる――――――『許容』を遥かに越える―――。
アスタロト『―――ッお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!!』
―――『苦痛』。
819: 2011/09/23(金) 01:58:06.15 ID:E2jOzdGco
―――何なんだこの苦痛は。
ダメージは然したるものではない。
むしろ全く無いに等しい。
だが―――だが痛みだけが、想像を絶するほどに強い。
背中全体に突き刺さる無数の針から、
まるで肉を溶かす液が流れ込んでくるよう。
その地獄の中、彼がふと前の地面を見やると。
斜め前、開かれている『蓋』のところにベヨネッタが立っていた。
アスタロト『―――な―――なんだコレは―――!!!!』
彼が声を荒げてそう問いかけると。
ベヨネッタ『―――人間界式アンブラ風――――――――――――――――――拷問♪』
彼女は素晴らしいくらいに『にこやか』にそう答えて―――蓋を乱暴に蹴り閉めた。
この瞬間、アスタロトはその長き人生の中で初めて―――『愛せない苦痛』があることを知った。
アスタロト『―――がッ!!ぐうううがああああああ!!』
820: 2011/09/23(金) 02:00:35.59 ID:E2jOzdGco
『拷問』
その最たる目的は処刑ではない。
ダメージを与えるためのものでもない。
ただ純粋に苦痛を与えるためのものだ。
より長く生かしながら苦しめるため、むしろダメージはできるだけ軽減させる。
それが肉体の損壊で容易に氏んでしまう世界で生まれた、『人間界式拷問』。
ジャンヌ『力が制限されてる分――――――こと「悪趣味な発明」に関しては、人間の右に出る種は無いだろうさ』
そんな拷問概念が魔女の技で徹底的に昇華されたとき――――――それは類を見ない程の、魔界にすら存在しないほどの『苦痛』を生み出す。
そして。
ジャンヌの思惑通り、アスタロトはその身を捧げるほど苦痛に『狂って』はいなかった。
悪趣味な性癖持ちではあるが、根は王者に相応しく『まとも』なのである。
まともであるが故に、欲望にブレーキも利くし―――許容限界もちゃんと決めてあるのだ。
これがもし生粋の『苦痛狂』ならば、これでも喜びの声を挙げていただろうし、
アスタロトの『維持』を破る穴にもならなかったはずだ。
そう―――ジャンヌの狙いはそこにあった。
即ち、アスタロトが苦痛の継続に耐えかねて―――『維持』の『機能』を切ってしまうこと。
アイアンメイデン
ジャンヌ『そいつは「鉄の処O」、使い方と効果はの説明は……いらないな』
優雅に歩きながら近づく彼女の声は、どうやらアスタロトに届いてはいなかった。
今たっぷりと体感中で悲痛な咆哮を放っていたのだから。
だがまだ完全ではない。
アスタロトが腕で堪えているのか、蓋は完全に閉まりきってはいなかった。
821: 2011/09/23(金) 02:04:18.57 ID:E2jOzdGco
ベヨネッタ『ほんっと!!パワーだけはあるわね!!』
ベヨネッタが足で強引に押し付けても、なかなか閉まる気配も無い。
それを見たジャンヌがベヨネッタの横に並び、おなじく足をあてがって―――。
ジャンヌ『そう遠慮するな!!「好き」なんだろ!?――――――「苦痛」が!!』
押し込んだ。
長と最強、この二人の魔女の馬力の前には、アスタロト自慢のパワーもまるで通用せず――――――――――――。
アスタロト『―――止せ!!止せェェェ!!』
ベヨネッタ『喚くな工口トカゲ!!さっきの余裕どこいったのさこのタマ無し!!』
さあ―――清算の時間だ。
奢り高ぶった不浄の王よ。
悪魔以上に魔に染まった女達、その怒りを買ってしまった不幸を呪え。
彼女達の魂を奪い貪ったその代価を支払え。
―――その悲鳴で己の鎮魂歌を奏でろ。
覚悟せよ―――これは序章、始まりに過ぎない。
ジャンヌ『―――すぐにイくなよ、お楽しみはこれからだ』
アンブラの復讐はすぐには終らない―――ここからだ。
アスタロト『――――――――――――やめろォォォォォォォォオ!!!!』
アスタロトの叫びなどむなしく。
巨大な『鉄の処O』、その蓋が轟音を伴って完全に閉じた。
―――
843: 2011/09/27(火) 00:31:13.87 ID:D1NmHT08o
―――
塔のごとく聳える巨大な箱。
それは人間の知恵と創造性、悪意による発明の一つ―――『鉄の処O』。
氏による『破壊』ではない、苦痛の『継続』与えるために生み出された狂気の棺おけ。
そこに魔女の技が組み合わされると、そんな拷問概念が更に昇華する。
注がれた力は攻撃力にではなく―――全て『痛み』に変換されるのだ。
それは魔界や天界などには存在しない『独自の系統』の、かつとことん悪質な『痛み』だ。
特に最強と長、その二人の魔女の莫大な力から生み出された『痛み』に至っては―――
―――魔界の大悪龍からをも『悲鳴』を引き出してしまうほど。
ジャンヌ『―――……』
聳える『鉄の処O』からは、
今にもその蓋が弾けとんでしまうかという程の咆哮が発せられていた。
いや、現実に鉄の処Oは大きく歪み始めていた。
暴れる龍騎士のパワーはやはり凄まじく、
強烈な激音を伴ってはまるで泡が沸いてくるかのようにみるみる表面が膨らんでいく。
ベヨネッタ『わぉ、すぐヘタれたかと思ったけど案外耐えるじゃないの』
蓋を足で押さえている二人の魔女、その馬力に関しては問題ないが、
棺おけの側がどう見てももちそうもなかった。
塔のごとく聳える巨大な箱。
それは人間の知恵と創造性、悪意による発明の一つ―――『鉄の処O』。
氏による『破壊』ではない、苦痛の『継続』与えるために生み出された狂気の棺おけ。
そこに魔女の技が組み合わされると、そんな拷問概念が更に昇華する。
注がれた力は攻撃力にではなく―――全て『痛み』に変換されるのだ。
それは魔界や天界などには存在しない『独自の系統』の、かつとことん悪質な『痛み』だ。
特に最強と長、その二人の魔女の莫大な力から生み出された『痛み』に至っては―――
―――魔界の大悪龍からをも『悲鳴』を引き出してしまうほど。
ジャンヌ『―――……』
聳える『鉄の処O』からは、
今にもその蓋が弾けとんでしまうかという程の咆哮が発せられていた。
いや、現実に鉄の処Oは大きく歪み始めていた。
暴れる龍騎士のパワーはやはり凄まじく、
強烈な激音を伴ってはまるで泡が沸いてくるかのようにみるみる表面が膨らんでいく。
ベヨネッタ『わぉ、すぐヘタれたかと思ったけど案外耐えるじゃないの』
蓋を足で押さえている二人の魔女、その馬力に関しては問題ないが、
棺おけの側がどう見てももちそうもなかった。
844: 2011/09/27(火) 00:33:01.23 ID:D1NmHT08o
そうしてついに箱の上辺が内側から破れ、
突き出される金色のハルバードの穂先。
アスタロト『―――お前らァアア゛ア゛ア゛ア゛!!!!』
そしてその穴から放たれる、これまた凄まじい怒号。
その声には、今までの『戯れ』の調子は欠片も無かった。
苦痛とともに満ちているのは―――強烈な憤怒と殺意。
ジャンヌ『―――はッ!』
かなりの苦痛を受けてはいるものの、アスタロトの意志はまだ折れてはいないか。
この鉄の処Oももう限界、そろそろ『次』のために『処分』する時間か。
蝶番が弾け飛んだところで、彼女達は顔を見合わせては小さく頷いたのち。
一気に鉄の処Oを駆け上がって、この棺おけを挟むように反対側へと降りるベヨネッタ。
そして。
アスタロト『――――ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッ!!!!』
叫ぶ棺おけに向けて。
ジャンヌ『Shut up―――!!』
両側から―――特大のウィケッドウィーブの蹴りを叩き込む。
ベヨネッタ『―――Bad boy!!』
瞬間、虚空から出現した銀と黒の巨大な足。
それが鐘を叩く撞木の如く、棺おけへと叩き込まれた。
この凄まじい挟撃に耐えられるものなど存在しない。
ましてや、主に『廃棄処分』とされ見放された鉄の処Oなど尚更だ。
これまた鐘のように響く激音を轟かせて、さながらアルミ缶の如く大きくひしゃげてしまう鉄の処O。
―――そして隙間から噴出するアスタロトの咆哮と体液。
845: 2011/09/27(火) 00:34:18.82 ID:D1NmHT08o
だが棺おけの中から出てきたものはそれだけではなかった。
二人の魔女の蹴りを受けた直後、今度は鉄の処Oが爆裂して弾け飛んだ。
内側のアスタロトによる、光の衝撃波によって。
鉄の処Oが破壊されその機能が完全に停止した瞬間、
拘束性もなくなってしまったのだ。
そうして自由となったアスタロトは、その傷ついた身が再生するのをも待たずに―――。
アスタロト『―――人間ごときがァァァァァァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッッッ!!!!』
怒号を発しながら一回転。
猛烈な勢いでハルバードを薙ぎ振るう。
その強烈なパワー、それは今この時最大出力となっていた。
衝撃波が大地を広範囲にわたって剥ぎ取り抉っていき、
剣筋が通った空間は分断され、あらゆる像が歪んでいく。
魔界十強、その名に相応しき絶大な力が、憤怒に後押しされて圧倒的な破壊を撒き散らす。
だが―――。
―――もう遅い。
相手が一人だったうちに、戯れなど捨ててこの剛たる本領を発揮していれば結果は大きく変わっていただろう。
しかし。
史上最強と長、この二人の魔女を同時に相手にしてしまった瞬間―――アスタロトの勝利は消えた。
彼の渾身の一薙ぎは、派手に一帯を破壊しただけ。
標的には両方とも掠りもしていなかった。
彼女達は即座に跳んではあっさりと回避し―――今度はアスタロトの頭部目掛けて―――蹴りの挟撃。
846: 2011/09/27(火) 00:35:50.89 ID:D1NmHT08o
これまた特大のウィケッドウィーブが、槌となりアスタロトの頭部を叩き潰す。
まるで熟れた卵の如く弾け、跡形も無くなる龍騎士の頭。
そして巨体がゆらりとふらめいた一瞬の隙に―――『次』が用意される。
ベヨネッタ『Ha-HA!!』
次の瞬間、アスタロトの身長を越えるかというほどの金色の巨大な壁、
それが二枚、龍騎士を挟み込む形で両側に出現した。
そして下には歯車のついた土台―――。
―――それは巨大な『万力』であった。
そして一瞬のうちに。
けたたましい音を立てては歯車が回り、
アスタロトの巨体を挟み込んでしまった。
アスタロト『―――ぐッッッ!!』
潰されまいと必氏に両腕を広げて懸命に堪えようとするも。
ベヨネッタ『―――ふんッ!!』
取っ手を掴み、歯車を豪快に回して行く彼女ベヨネッタによって、
無常にもぎちり、ぎちりと徐々に締まっていく万力。
そうしてこれまた莫大な力が全て痛みに変換され、アスタロトの精神を圧迫していく。
アスタロト『オォォォォ!!―――アスタロト!!俺は―――アスタロトだッ!!!!』
そんな更なる苦痛の中、アスタロトは怒りに満ちた声でそう己が名を叫んだ。
その言葉は、聞いた者には耐え難い畏怖を刻み込むものであろう。
だがそれは下位の者に対してだけ。
対等以上の者には通用するはずも無く。
ジャンヌ『――――――知っているさ』
847: 2011/09/27(火) 00:37:04.05 ID:D1NmHT08o
ジャンヌは冷ややかな調子であっさりとそう答えた。
アスタロト『―――お前らをこの手で叩き潰してやるッ!!!!』
ジャンヌ『潰れるのはお前だ』
煩わしそうな、やや薄めの目つきで見上げながら。
直後、巨大な生木が裂け折れるに似た音を響かせて、
アスタロトの左腕がひしゃげ潰れた。
アスタロト『―――犯し潰し捻り噛み砕いてやる!!!!!!』
龍部位の足も翼もすでに万力に負けてひしゃげてしまっており、
『つっかえ棒』は残るは―――右腕のみ。
それを見たジャンヌがふと思い出したように。
ジャンヌ『ああ、右腕。右腕だ。お前、さっき奪ったよな右腕―――――――――「あの子」から』
その刹那。
アスタロト『―――ッ』
アスタロトの右腕が、肩口から分離して上へと吹っ飛びあがった。
神速で切り上げられたジャンヌの魔刀、
そこから伸びたウィケッドウィーブの刃によって。
そして。
ベヨネッタ『―――HuuumHa!!』
『つっかえ』が無くなった万力は、完全に締め切られた。
今まで押し留められていた緊張が一気に弾け、
万力そのものが砕けてしまうかというほどに凄まじい勢いで。
848: 2011/09/27(火) 00:38:28.53 ID:D1NmHT08o
最早それは『叫び』ですらなく。
アスタロト『ご―――ぐぁ―――』
万力の隙間、そこに詰まっている歪な肉塊から漏れてくるのは、
そんな露混じりの奇怪な『音』。
ベヨネッタ『……』
ジャンヌ『……』
そんな風にして痛みに蝕まれていくのを、
二人は無言のまま暫し、興味深そうに『見守っていた』。
ある小さな変化に気付いたのだ。
アスタロトの空気から、先ほどまでの『緊張』がなくなっている、と。
そこで蓋路は何かに気付いたように再び顔を見合わせて。
ベヨネッタが指を軽く鳴らすとその瞬間、万力がぼろぼろと崩れ去っていった。
そして地に落ち転がる巨大な肉塊。
アスタロト『…………』
その塊は、今までと同じく猛烈な速さで再生を始めていった。
龍、その上にある騎士の上半身、そして左腕とハルバード。
しかし―――。
ジャンヌ『……』
右腕だけは再生する気配が無い。
ジャンヌに切り落とされた右腕だけが。
849: 2011/09/27(火) 00:40:34.56 ID:D1NmHT08o
魔女の拷問器具はその力をほぼ全て痛みに変換するため、ダメージ自体はほとんど大したことが無い。
つまり、何かの特別な力を使わずとも悪魔の基本で瞬時に治癒する。
だが―――許容範囲を超えた力による傷は、簡単には治癒しない。
アスタロトにとっては、ジャンヌが振るった絶大な刃などによるものこそがまさにそれだ。
だが彼には特別な力がある。
『維持』だ。
これさえあれば、自身の許容を遥かに超える力でも―――たとえそれがスパーダの刃であっても、
彼の傷は『無かったこと』になる。
ジャンヌ『……』
しかし―――この時は、その右腕が再生しなかった。
ベヨネッタ『あーら、イっちゃったの』
そう、これが物語るはつまり―――今、『維持』は機能していないということ。
アスタロトから緊張が無くなったのは―――蓄積して維持していた痛みが消えたからだ。
―――刹那。
維持の再起動、その邪魔を防ぐためか。
言葉を発する間すら与えずに即座に左腕を掲げて、怒りを載せたハルバードを振り降ろすアスタロト。
だがその刃には先までの圧倒的なものに比べれば、
パワーも速度も明らかに見劣りしていた。
ジャンヌに落とされた右腕、
そしてそこから魂に受けたダメージはもちろん回復していないのだから。
850: 2011/09/27(火) 00:42:17.21 ID:D1NmHT08o
その振り下ろされた刃をジャンヌは魔刀を掲げて。
ジャンヌ『―――はッ!!随分軽くなったじゃないか!!』
―――意図も簡単に弾きいなす。
そして維持を再起動する隙など与えずに―――横にいる最強の魔女を―――解き放つ。
ジャンヌ『―――セレッサ!!』
ベヨネッタ『―――はぁいドゥルガー!!』
両足にドゥルガーの稲妻を噴出させながら
長の命を受けた最強は弾ける様にして飛び出し。
ベヨネッタ『Hu-Ho-Hu-HA!!―――』
目にも留まらぬ打撃をアスタロトの巨躯に叩き込んでいき―――。
ベヨネッタ『―――――――――キルゴアッ!!!!』
その瞬間、アスタロトは衝撃の中で見た。
ロケットランチャー
この魔女の足に巨大な『 火 筒 』が出現するのを。
そして彼女はその足を瞬時に引き、『溜め』―――。
―――神速の連続蹴りを放つ。
アスタロト『―――』
その巨大な砲口から放たれる―――無数の『弾頭』を伴って。
851: 2011/09/27(火) 00:46:55.99 ID:D1NmHT08o
ウィケッドウィーブ混じりに乱舞する大量の弾頭。
それも髪を解放し、絶頂の腕飾りを装着した最強の魔女からのもの。
その火力は最早常軌を逸していた。
アスタロト『―――おぉぉぉおおおおおお―――!!』
一瞬にして―――強烈な爆発の嵐に飲み込まれていく悪龍。
維持の加護をなくし、ジャンヌの一斬りを直に受けて手負いの身。
そんな彼には、今やこの壮烈な弾幕に耐える力は残っていなかった。
ベヨネッタ『――――――…………あ…………』
締めとなる一際巨大なウィケッドウィーブを打ち下ろし、
もうもうと立ちこめる炎混じりの粉塵の中に降り立ったとき。
ベヨネッタはそんな、やや間抜けな声を漏らしてしまった。
大地に穿たれた巨大なクレーターの中には、アスタロトの姿が無かったのだ。
いや、『全て』無かったわけではない。
ところどころに龍騎士のものと思われる肉片が散らばっていたのだから。
そしてそんな惨状こそ、彼女のこの間抜けな声の原因。
ベヨネッタは気まずそうな笑みを浮べてジャンヌの方へと振り向いた。
するとジャンヌは呆れたような表情で。
ベヨネッタ『……もしかして私、ヤッちゃった?』
ジャンヌ『……セレッサ……やり過ぎだ』
ベヨネッタ『……ごめん、ノリでつい……』
852: 2011/09/27(火) 00:48:22.71 ID:D1NmHT08o
そう、この魔女はついついアスタロトを頃しにいってしまったのだ。
つい先ほど、長から直々に「頃すな」と命じられていたにも関わらずに。
だが『幸い』にも。
ジャンヌ『いや……まあ……奴はギリギリのところで逃げやがったみたいだがな』
アスタロトは生きていたか。
爆炎の中、ジャンヌの目はこの階層から離脱する龍騎士をはっきりと捉えていたのだ。
それを聞いてけろりとベヨネッタの表情は一変、一切悪びれることも無く。
ベヨネッタ『あら良かった。追う?』
相変わらずの笑みでそう返した。
ジャンヌ『……もちろん。まだ時間もあるしな』
ベヨネッタ『でもアンタはそろそろ休んだほう良いんじゃない?』
ベヨネッタ『この通りアスタロトを追い返したし、そもそもアスタロトの排除は計画に無いし』
ベヨネッタ『「弟」か「ボーヤ」がちゃんと狩るでしょうし』
ベヨネッタ『もし魔界に帰れたとしてもあそこまでボロボロじゃ、どうせ他の十強にすぐ殺されるわよ』
ジャンヌ『…………』
そんな彼女の言葉にジャンヌは無言ではあったが、その疲労が滲む顔は「それも一理あるか」といった表情。
ベヨネッタ『なんなら私がカタをつけてこよっか?』
ジャンヌ『…………いや……時間の許す限り追おう』
だがそれでもジャンヌは首を振りそう告げた。
ジャンヌ『奴の首は、魔女の刃で刎ねねばならない』
ベヨネッタ『じゃあ私でも良いじゃん』
ジャンヌ『セレッサ、お前は雑なんだよ。あれじゃ一瞬だろうが。あれじゃダメだ』
ジャンヌ『奴の喉下に刃を付けて焦らし、魔女に喧嘩売った事をとことん後悔させ自覚させた上で―――刎ねて――』
ジャンヌ『魔女の意志に焼かれる中、ゆっくりと己の魂の崩壊を味わってもらう』
ベヨネッタ『………………おー怖い怖い』
―――
853: 2011/09/27(火) 00:51:41.21 ID:D1NmHT08o
―――
魔界の覇権を握るには、ただ強く剛毅なだけではダメだ。
確かに大胆さが必要ではあるが、一方で徹底した慎重さも必要となる。
ジュベレウスも魔帝もスパーダも覇王も、
その力に過信せずに徹底した慎重さを持ち合わせていた。
それらの存在のような、覇道を駆け上がる前から既に完全な存在だったわけではない『彼』にとって、
そんな慎重さは尚更重要となる。
維持を開花させたのだってつい先日、人間界時間にして300年ほど前。
今の座に到達してかなりの年月が経ってからだ。
そう、確かに圧倒的では合ったが、決して無敵なんかではない。
故にある程度保身的でなければ覇王の側近、そして十強の座までは昇ることなど不可能なのだ。
つまりそれを成し遂げた彼、アスタロトも狂ってなんかいない。
狂気に満ちているも、それが行動の指針ではない。
大胆ではあるが―――無謀ではない。
アスタロト『―――ッはッぐ……!!』
彼もまた慎重に慎重を重ねて、
生き長らえるための保険は常に『複数』用意していた。
あらゆる状況に備えて、逃走手段の確保はいつどこにいても欠かせないものだ。
魔帝ですら完膚なきまで叩きのめされる、スパーダの力を受け継ぐ者が三人もいる時代なのだから。
魔界の覇権を握るには、ただ強く剛毅なだけではダメだ。
確かに大胆さが必要ではあるが、一方で徹底した慎重さも必要となる。
ジュベレウスも魔帝もスパーダも覇王も、
その力に過信せずに徹底した慎重さを持ち合わせていた。
それらの存在のような、覇道を駆け上がる前から既に完全な存在だったわけではない『彼』にとって、
そんな慎重さは尚更重要となる。
維持を開花させたのだってつい先日、人間界時間にして300年ほど前。
今の座に到達してかなりの年月が経ってからだ。
そう、確かに圧倒的では合ったが、決して無敵なんかではない。
故にある程度保身的でなければ覇王の側近、そして十強の座までは昇ることなど不可能なのだ。
つまりそれを成し遂げた彼、アスタロトも狂ってなんかいない。
狂気に満ちているも、それが行動の指針ではない。
大胆ではあるが―――無謀ではない。
アスタロト『―――ッはッぐ……!!』
彼もまた慎重に慎重を重ねて、
生き長らえるための保険は常に『複数』用意していた。
あらゆる状況に備えて、逃走手段の確保はいつどこにいても欠かせないものだ。
魔帝ですら完膚なきまで叩きのめされる、スパーダの力を受け継ぐ者が三人もいる時代なのだから。
854: 2011/09/27(火) 00:56:58.44 ID:D1NmHT08o
そうした予め用意していた逃走ルートを抜けて、
アスタロトはプルガトリオの別階層に落ち延びていた。
アスタロト『…………かッ…………』
酷く傷付いたその巨体を引き摺りながら、
アスタロトは自身の状態を素早く分析していく。
『維持』の再起動は、力の消耗激しく現時点では不可能。
再起動には力をある程度の水準まで回復させるしかない。
アスタロト『…………』
その回復については、魔界の根城に戻ればかなり早く済む。
しかし現状、単独で魔界に戻るのは非常に危険であった。
こんな満身創痍の状態で戻ってしまったら、まず他の十強が動き出すからだ。
自分自身、他の十強の立場だったら必ずそうするのだから、まず間違いない。
だからと言って、いつまでもプルガトリオに潜伏などしていられない。
それも選択肢の一つではあるのだが、あの魔女達による追跡のリスクを考えると戻った方が好ましい。
だが、単身で戻るのも無謀。
そこで彼は護衛の将を伴うことにし。
アスタロト『―――おい!!サルガタナス!!』
ダンテ討伐には加わっていないその側近の名を呼ぶも。
反応は無し。
アスタロト『おい!!誰も聞えないのか?!』
サルガタナスだけではなく、
他の将にも届くように意識を広げるが―――それでも声は返ってこなかった。
855: 2011/09/27(火) 00:58:40.20 ID:D1NmHT08o
だが―――。
暫しそう呼びかけ続けていたところであった。
『―――大公』
アスタロト『―――聞えたか!!』
一つ、確かな声が返って来た。
それは間違いなく臣下の将の一柱、あの『魔狼』のものであった。
『そんなところにおりましたか』
アスタロト『―――至急俺のところに来いッ!』
『我も今ちょうど、大公の下に行こうと思っていましてな。今そちらに』
アスタロト『―――急げ!!「カール」!!』
だが焦燥していた彼は気付いていなかった。
その愛称で呼んだ相手―――グラシャラボラスの主は、今や己ではなかったことに。
アスタロトのすぐ前に浮かび上がる魔方陣。
そこから飛び出してきたのはグラシャラボラス―――
いや、正確にはグラシャラボラスを従えた――――――『破壊』。
『――――――――――――――――――――――――見つけたぜ』
スパーダを構えた―――スパーダの孫だった。
アスタロト『―――』
856: 2011/09/27(火) 01:01:17.07 ID:D1NmHT08o
咄嗟に左腕のハルバードを構えるも―――消耗しきったその身では、
魔剣スパーダの刃を防ぐことなど到底できず。
その破壊の刃は金色のハルバードを、一切の抵抗無く分断し―――そのまま龍騎士の左腕を斬り飛ばしていった。
アスタロト『―――おおおおおお!!』
勢いで吹っ飛び、
そのアスタロトの巨体が倒れては強く地面に打ち付けられた。
ネロ「……あぁ?お前ボッロボロじゃねえか」
そんな彼の無残な姿に斬ってから気付いたらしく。
魔人化を解いて不機嫌そうにそんな声を漏らすネロ。
ネロ「どうなってやがる?お前の軍団にも大悪魔が一体もいねえ」
アスタロト『―――グラシャラボラス―――お前!!』
だがアスタロトはネロの言葉ではなく、
まずは彼の左腕に嵌められている魔具―――グラシャラボラスへ向けて声を放った。
アスタロト『―――反逆か!!しかもスパーダの血へ従うとは!!』
グラ『ふっふふは、すまぬ大公。だがこれも魔道よ、スパーダの血筋、その力はなんとも素晴らしいものだ』
そのようにして無視されていることに業を煮やしたのか。
ネロがアスタロトに近づいては、足で踏みつけるようにして乱暴に小突き。
ネロ「―――おい俺の質問に答えろ。なぜ氏にかけてやがる?ダンテにやられたのか?」
857: 2011/09/27(火) 01:02:34.29 ID:D1NmHT08o
アスタロト『―――は―――はは、氏にかけている、確かに俺は氏にかけているな』
だがネロの質問には答えず。
アスタロトは彼の言葉を確認するように繰り返しては。
その巨体の形を瞬時に変えて―――人の身、美しい人間の姿へとなって不気味に笑った。
アスタロト『は―――ははは―――』
鱗剥げ肉落ち骨砕けているその傷塗れの姿を隠そうとしたのか。
右腕は肩から、左腕は肘先から無くなっていたのは相変わらずであったが。
それとも人の姿になることで、ネロの心に何かを訴えて隙でも作ろうとしたのか。
どちらにせよ、彼が姿を変じたところで。
ネロ「さっさと答えろ」
このネロに隙など生まれなかった。
彼の示した反応は僅かに目を細めたに過ぎなかった。
アスタロト『…………』
逃走手段は常に『複数』用意している。
今この瞬間も、ここから離脱する手はいくつも控えている。
だが―――隙が生じなければどうしようもないのだ。
こうして静かに、こちらの一挙一動をスパーダの孫が見据えている以上、
飛ぶための僅かな作業ですら行えない。
その気配を少しでも見せてしまったら―――次の瞬間、あの破滅的な刃がこの身を斬り飛ばしてしまうのだろうから。
858: 2011/09/27(火) 01:05:44.97 ID:D1NmHT08o
だが。
ネロ「答える気は無いか。じゃあ―――」
その時だった。
ここでアスタロトに運命が微笑んだ。
ネロが魔剣スパーダを握る手に力を篭め、そして掲げようとした―――直後。
ネロ「―――」
背後から響いた金属の激音。
それは『四つの銃口』が大地に衝突したためのものであった。
その覚えのある異質な気配に、ネロが即座に振り向くと。
そこには二人の魔女が立っていた。
ジャンヌ『―――』
ベヨネッタ『―――』
ネロ『―――あんたらは……』
さすがに彼らと言えども、
この予想外の大物登場に互いに驚いてしまうもの。
いや、彼ら同士だからこそ、今この時間この場における遭遇がその意味をより強めるのだ。
そしてその一瞬こそ―――アスタロトにとって運命が微笑んだ瞬間。
―――ただ、正確には。
その運命の采配は実質―――悪魔の微笑みだった。
何せ次に飛んだ先こそ―――彼の終焉の地となったのだから。
859: 2011/09/27(火) 01:09:12.41 ID:D1NmHT08o
いや、そもそも彼は、
『その地』に足を踏み入れるかどうかは中を確認してからのつもりであった。
ネビロス率いる臣下団とダンテ、その戦いの結果を、だ。
ネビロスどころか誰一人声に応じないところをみると、
結果は最悪なものになったのかもしれない。
しかし絶対にそうとも言い切れない。
兎にも角にも大悪魔の護衛を必要としている今、
彼はあの階層を覗いてはっきり確認したかったのだ。
それに覗くだけならば、中の者達からはそうそう感付かれもしない。
臣下団が敗北していたのならばさっさと離れて、仕方が無いが逃走に徹するだけだ。
―――と、そう考えていたのだが。
アスタロト『―――』
彼はこれまた知らなかった。
あの階層の境界には彼が蔑む人間、
その人の手業で創られた『周到な罠』が張り巡らされていたのだから。
アスタロト『―――ッ』
飛んだ直後、突然その身を走る『奇妙』な痛み。
そして一瞬にして。
抵抗することすらできず、彼の体はその階層へと一気に引き釣り落とされていった。
落下し、人間界を映し出した街の地面に打ちつけられる体。
その身はまるで縛されているかのように全く自由がきかず。
アスタロト『―――ぐっ―――』
自身の状態を確かめようと、
なんとか意識を自身に向けてみると、その体には無数の黒い杭が突き刺さっていた。
表面に、人間界式の文字や文様が所狭しと刻まれている大きな杭が―――。
860: 2011/09/27(火) 01:12:50.97 ID:D1NmHT08o
アスタロト『なっ―――』
ただこれだけでは、己の身に何が起こったのかまるで理解できない。
次いで彼は、すぐ近くの複数の気配に気付きそちらへと順に意識を向けていった。
一人目は近くの建物の上から不思議そうにこちらを見下ろしている、赤き衣を纏ったスパーダの息子。
二人目は前方にあぐらをかいて座しながら、目を丸くしている人間のメス。
そして三人目は、その座っている人間の横に立っていた、これまた人間の―――。
―――――――――その三人目の人間の瞳を見てしまった瞬間、アスタロトは凍りついた。
アスタロト『―――』
己の行く末、己の結末に気付いてしまって。
今回の『魔女狩り』に際し、『戯れ』ではなく最初から一撃必殺の心で向かっていれば、
結果はまた変わっていたのかもしれない。
それ以前に『魔女狩り』に動かなければ―――いや。
そもそもあの『人間のメス』に会っていなければ、『魔女狩り』なんて選択肢すら無かった。
そう、あの『人間のメス』。
成人しているどころか魔女ですら無いにもかかわらず―――成人用の魔女の槍を持ち―――。
『今』、『ここで』―――計り知れない『怒り』に満ちた眼差しで、こちらを見ている―――
―――『あの小娘』にさえ遭遇しなければ―――。
アスタロト『お前……―――』
こうして彼は『舞い戻ってしまった』。
何もかもをひっぺ剥がされては縛されて、さながら執行準備整った―――氏刑囚の如く。
矮小だと、彼がとことん蔑んだ人間の少女。
そんな彼女こそ、アスタロトのこの『最期の災難』の『始まり』であり。
――――――真の『終点』だった。
―――
871: 2011/09/30(金) 01:35:05.33 ID:WR80fNXvo
―――
遡ること少し。
プルガトリオのとある階層、学園都市を映し出した領域。
五和「…………………………」
五和は槍を抱きかかえるようにして座り込みながら、
レディの罠の設置作業を静かに見守っていた。
ただ、『作業』とはいっても今のところ、
当のレディはなにやら思案気な面持ちで佇んでいるだけであったが。
道路のど真ん中にあぐらをかいて座り込んでは、小さなナイフを指先で回して。
股の上にある古めかしい分厚い本を、もう片方の手の指先で叩きながらぶつぶつ独り言。
さっきからこのような調子だ。
五和「…………」
遠くからは、凄まじい圧迫感を伴った轟音が断続的に聞こえてくる。
その圧の波にあわせて振動する槍。
余波からこの身を防いでくれているのだろう、圧を肌で感じるも、
こうしている今も精神・肉体ともに実害はほとんど無かった。
だが当然、今までの疲労は溜まっているため、
また現在進行形で気がかりにしていることがあるため、その表情は陰りがあった。
五和「……プリエステス……上条さん…………」
ステイル、インデックス。
思わず口からぼそりと漏れてしまう彼らの名。
あれからどうなっているのだろうか、気になって心配で仕方が無い。
果して彼らは合流できたのか、そしてその後は。
神裂達が向かっていったのとダンテの戦場も同じ方向であるため、尚更気がかりであった。
遡ること少し。
プルガトリオのとある階層、学園都市を映し出した領域。
五和「…………………………」
五和は槍を抱きかかえるようにして座り込みながら、
レディの罠の設置作業を静かに見守っていた。
ただ、『作業』とはいっても今のところ、
当のレディはなにやら思案気な面持ちで佇んでいるだけであったが。
道路のど真ん中にあぐらをかいて座り込んでは、小さなナイフを指先で回して。
股の上にある古めかしい分厚い本を、もう片方の手の指先で叩きながらぶつぶつ独り言。
さっきからこのような調子だ。
五和「…………」
遠くからは、凄まじい圧迫感を伴った轟音が断続的に聞こえてくる。
その圧の波にあわせて振動する槍。
余波からこの身を防いでくれているのだろう、圧を肌で感じるも、
こうしている今も精神・肉体ともに実害はほとんど無かった。
だが当然、今までの疲労は溜まっているため、
また現在進行形で気がかりにしていることがあるため、その表情は陰りがあった。
五和「……プリエステス……上条さん…………」
ステイル、インデックス。
思わず口からぼそりと漏れてしまう彼らの名。
あれからどうなっているのだろうか、気になって心配で仕方が無い。
果して彼らは合流できたのか、そしてその後は。
神裂達が向かっていったのとダンテの戦場も同じ方向であるため、尚更気がかりであった。
872: 2011/09/30(金) 01:35:41.91 ID:WR80fNXvo
と、そうしていたところ。
レディ「よしっ」
レディがぽん、とやや強く本を叩いてはそう快活な声を挙げ。
少し腰を上げて屈む姿勢になっては、
意気揚々と道路にナイフ突き刺しなにやら刻み始めた。
五和「……」
術式の類であろう。
使われている字や構文は未知のものであったが、
大まかな書式は五和の知る魔術と同じだ。
ただ、その規模が五和にとって少々意外であった。
レディの口ぶりからだとかなりの大仕事だと思っていたが、
実際彼女が刻んだのは直径30㎝ほどの小さな魔方陣だけ。
しかも見た目にも隙間が結構ある、なかなか簡素で地味なものだ。
五和「…………?」
そんな五和の怪訝な表情など気にもせず。
レディは魔方陣の前にまたどかりと座り込み、あの古めかしい本を手にとって五和の方へと声を放った。
レディ「ちょっと『コレ』開けるから、中身見ないようにね」
そして本を開き目当てのページまで捲っては、
その広げた方を下にして、持ち上げた本を魔方陣の上で揺さぶり始めた。
873: 2011/09/30(金) 01:37:07.15 ID:WR80fNXvo
明らかに本物の魔導書であろう、
その本からは開いた瞬間から異様な空気が漏れ出していたが。
五和「!」
次の瞬間、それ以上の光景が彼女の目の中に飛び込んできた。
バラバラと、本の中から大小さまざまな杭が大量に出てきたのだ。
更にそれだけではない。
魔方陣の刻まれた地面が水面のように波うち、その降って来る大量の杭を次々飲み込んでいく。
五和「なっ…………!」
先端が地面に沈んだ時はまだ尻が本の中にあったため、
そのはっきりとした長さはわからないが、大きい杭は太さ10㎝以上、長さ数メートルにもなるか。
一方で小さい釘程度のものも大量に落ちては沈んでいく。
レディ「この階層の境界に『針』を埋め込んでるの」
彼女はそうやって本を揺さぶる傍ら、
目を丸くしている五和へ向けて言葉を向けた。
レディ「スパーダの息子が暴れてるって聞けば、大抵の大悪魔は飛んでくるものよ」
レディ「勝ち目が無いと自覚してても、憎しみと最強の力への好奇心には負けられない。その大悪魔が強ければ強いほどね」
レディ「そうやって来た連中がこの階層の境界に触れた瞬間、『コレ』を撃ち込む」
五和「―――っ!それじゃあ上条さんとかがもし……!」
レディ「大丈夫。一応私が知る連中は除外しているし、高等悪魔程度であれば氏なないわよ』
レディ「そもそも『針』の機能自体が殺傷用じゃなくて拘束用、一時的に麻痺するだけのものだし」
874: 2011/09/30(金) 01:38:13.73 ID:WR80fNXvo
五和「そ、そうなんですか……」
レディ「そもそも、この程度の『嫌がらせ』で大悪魔を殺せたら苦労はしないわよ」
五和「はあ……なるほど」
レディ「一度試してみたかったのよね~この罠。こういう場所じゃないと使えないし」
レディ「大悪魔を待ち伏せできる機会なんて滅多に無いし」
レディ「埋め込んだ『針』も回収できないから、コスト的に実験すらできないし」
レディ「あ、そういうことだから、成功の確率は半々ってところかな」
五和「成功したらどうなるんです?」
レディ「成功したら、全身『針』まみれの麻痺状態でダンテの前に到着」
レディ「失敗したら、大悪魔が普通にダンテのところに行くだけ。特に問題は無し」
そうしている内に『埋め込み』が完了したのか、レディがぱたんと片手で魔導書を閉じ。
もう片方の手を魔方陣の上に載せては数語呟いた。
すると魔方陣が霧のように消失。
レディ「OK、『嫌がらせ』の準備完了」
そしてサングラスを外して背伸びしながら、
レディは全作業の終了を宣言した。
875: 2011/09/30(金) 01:40:14.33 ID:WR80fNXvo
そうして暫しの沈黙。
五和「…………」
レディ「…………」
いわゆる『待ち時間』だった。
特にやることも無い二人は静かに佇んでいたものの、やはり暇をもてあましたのか。
レディ「五和ちゃんもやっぱり、物心ついた時から魔術師の道?」
そうレディが、世間話をする調子で話を切り出した。
ナイフを再び指先で回しながら。
五和「あ、はい。天草式十字凄教という結社で小さい頃から……」
レディ「母親の顔も覚えてない?」
五和「……………………」
その時。
五和はこのレディの問いに、なぜか違和感を覚えてしまった。
何かが妙に引っかかったのだ。
五和「はい。両親とも魔術師でしたが、私が生まれてすぐに二人とも亡くなったらしくて……」
ただ、その違和感の正体はこの時はわからず。
彼女は一先ず問いに答えた。
五和「でも素晴らしい仲間がいましたから、寂しい思いをしたことはありません」
五和「同じ歳ほどの方は皆兄弟同然、年長の方は親同然ですし」
レディ「そう…………」
五和「………………レディさんもやっぱり……?」
そして話の流れで聞き返すと。
返って来た答えは予想外のものであった。
レディ「いいえ―――16までは一般人だったから」
876: 2011/09/30(金) 01:42:00.79 ID:WR80fNXvo
五和「―――え?」
ネロの話によると、フォルトゥナも皆幼少期から専門教育を受けるとのことであったから、
魔界魔術系でも魔術師の生き方は同じようなものだと五和は思っていた。
ましてやこのレディほどならば、
当然幼少期から英才教育を受けていてたのだろうと。
レディ「そうよ。その頃までは悪魔どころか、魔術すら信じていなかったの」
だがその思い込みはあっさりと否定されてしまう。
五和「そ、そうなんですか?」
レディ「ただ、母方がかなり血の濃い戦巫女の家系だったの」
レディ「それに自分で言うのもあれだけど、私って『お嬢様』でね、それで代々の教養として様々なことを母から教えられたわ」
レディ「歴史にラテン、ギリシア、ゲール、シュメール……人間のものだけじゃなくエノク語に魔界の主な言語も」
レディ「あらゆるものの見かたと考え方、価値観、護身術として体の動かし方まで」
五和「なるほど……」
レディ「でもそれがこんな世界に繋がるとは思ってもいなかった」
レディ「むしろこの『宗教と伝統を重んじる家柄』が嫌いだった、普通の高校生だったのよ」
877: 2011/09/30(金) 01:44:51.92 ID:WR80fNXvo
五和「……では……なぜデビルハンターに?」
そうして続けて問うたが。
すぐに五和は後悔してしまう。
レディ「……あー……」
レディがやや声を声を濁らせたのだ。
己は聞いてはいけないところに首を突っ込んでしまったのか、そう焦ってしまう五和。
五和「あッあのすみま―――」
レディ「―――ある男がいてね」
だがレディははっきりと言葉を続けた。
幾分か、先ほどまでよりも確かな声色で。
五和「………………ある男……?」
あやふやな表現で明言しないところを見ると、これ以上突っ込むなと言う暗喩である可能性も捨てがたいが。
しかしこのレディの、短時間の間でもはっきりとわかる性格。
そこを鑑みれば、イヤならはっきりと拒否するであろう。
この考えに加算される好奇心に負けて
お伺いしても、と前もって告げたのち五和は更に問うた。
五和「その男の人って、ダンテさんですか?」
ただこの問いの答えもまた、予想とは違うものであった。
レディはクスりと小さく笑っては首を横に振って。
レディ「あいつも確かに大きな要素だったけどね。でも『始まり』は別人―――」
レディ「―――ある一人の魔術師から」
878: 2011/09/30(金) 01:46:40.55 ID:WR80fNXvo
五和「魔術師?」
レディ「そう、この罠どころか私が使ってる術式のベースは全て、その男が作ったもの」
五和「す、凄い方なのですね。レディさんのお師匠さまとかですか?」
その時。
五和が返したその言葉、それが『何か』よっぽどおかしかったのか。
レディ「―――……師匠……あはっ師ね。確かにそうも言えるかも」
レディ「悪魔と戦う理由を『指し示してくれた』のもその男だし」
自らの膝を叩いて、くすくすと笑い混じりにそう答えた。
ただその声色と表情には、可笑しさの他に―――
五和「……………………」
どことなく―――陰りもあったが。
そうして続いた言葉。
レディ「……あそこまでの魔術師には会ったことないわ」
レディ「どこまでも天才的で芸術的で―――」
レディ「―――底無しに強欲で残虐で」
レディ「魔術師としては最高―――『人間』として、『夫』として、『人の親』としては――――――最悪」
五和「―――――――――……」
―――『人の親』としては最悪。
その表現を認識した瞬間、五和の中で一気に『糸』が繋がった。
女の勘とでも言うべきか、レディの言葉に覚えた違和感の源がわかってしまったのだ。
それは『親の顔』でもなく『両親の顔』でもなく―――わざわざ『母親の顔』という表現を使用していたから。
先ほどレディが自ら口にした簡単な生い立ちに関しても、
ここが不自然なくらいに『欠落』していた。
そう―――『父親』という存在が。
879: 2011/09/30(金) 01:49:00.43 ID:WR80fNXvo
五和の中で、これ以上首を突っ込むなという声が響く。
だが魔術師とは好奇心の塊だ。
彼女もその抗いようの無い誘惑に駆られて。
五和「それで…………その方は……?」
わかっていながらその先を問う。
返って来るレディの言葉が更に強くはっきりしていっても尚。
レディ「その男は結局、力に魅せられて悪魔に転生したわ」
レディ「――――――自分の『妻』を生贄にしてね」
そして今度こそ、返って来た言葉は予想通り。
五和「―――その後……は?」
いや―――予想を超えていたか。
レディ「色々合ったけど、まあ最終的には――――――私が頃した」
五和「―――…………」
そんなあっさりと、それでいて確かな言葉とともに向けられくるオッドアイ。
吸い込まれてしまいそうな美しくも危うげな煌き、そこから目が離せない。
―――『大切な人』が『大切な人』を生贄にして魔に堕ちて、そして自分がケリをつける―――。
一体どんな想いで、どんな気持ちなのだったのだろうか。
880: 2011/09/30(金) 01:50:55.37 ID:WR80fNXvo
この女は人間であるにも関わらず、
発する言葉がまるで悪魔のもののように染み込んでくる。
まるで自分の事のように―――感情が刺激されてしまう。
そしてここでまた覚える―――今度は『別』の違和感。
五和「―――……」
どこからともなく奇妙な―――黒い靄のような『何か』が心の中に染み込んでくる。
不安で、怯えて、悲しげで、そして―――『孤独』。
レディの言葉に刺激されて現れてはいるものの、その言葉自体からではない。
どこか別のところから漏れ出てきている『何か』だ。
レディの言葉でもなければ―――もしかして源は己なのか。
今まで自覚しなかった自身の何かが、奥底から滲み上がってきているのか。
不安で不安で仕方がなくなって思わずすがるように、
槍を抱きかかえる腕に力んでしまうも。
こればかりは、この槍も助けてくれなかった
五和の心の中を覆う靄は、晴れはしなかった。
むしろ怯えにつけこむかのように―――更に濃くなっていく。
そんな彼女とは対照的な。
レディ「ああ、難しく考えないで。ご大層な大義があったわけでもないし、かしこまった覚悟とかも別に抱いてなかったから」
これまた涼しげでありながら、妙な重さがある声。
レディ「確かにあの時は人間界全体に関わる問題でもあったんだけど、どの道それはダンテが止めてくれてただろうし」
レディ「結局は私はただ、あいつが『憎かっただけ』―――それだけよ」
五和「……憎かった……だけ」
881: 2011/09/30(金) 01:54:44.39 ID:WR80fNXvo
『憎かっただけ』
その言葉にまたこの黒い靄、未知の思念が呼応する。
まるで胸の中が焼け付きそうだ。
五和「……っ」
そしてこの反応でまた一つ、この未知の思念の因子がわかってしまった。
不安で、怯えて、悲しげで、『孤独』で―――『憎い』。
―――強烈な憎しみ。
これほどまでの憎しみなど、五和は抱いた事が無かった。
相手が人類史上最高の善人であろうと、笑って殺めてしまうような―――果てしない『恨み』。
五和はもう考えたく無かった。
この未知の思念が自分のものかもしれないと思うと、怖くて怖くて仕方が無い。
自分はいつどこでこんな憎しみを溜め込んでしまったのか。
一体だれに、何に対して―――。
レディ「奴を頃しても母が蘇ることはないし、これを見た母が喜ぶわけがないのも知ってた」
と、そうしている直後。
この思念の持ち主は一体誰のものなのか、その疑問に対する答えはすぐに示されることとなった。
続いて響く呪文のようなレディの言霊が、これまでと同じように引き出してくれたのだ。
レディ「起きてしまったこと、『氏んだ者』の『事実』は何も変わらないし、復讐を果たしても心が晴れることもない」
レディ「でもずっと見続けていた――――――――――――『悪夢』はそこで終ったわ」
五和は『幸い』にもこの思念が―――。
五和「―――あッ……ぐっ……!」
―――自分のものではないことを知る。
引き換えにかなりの『苦痛』と、その身の暫しの『自由』を代償に。
ついに堪えきれず、苦悶の声を漏らして蹲ってしまう彼女。
抱きかかえている槍が、この苦悩から守ってくれるわけも無かった。
源は―――この槍そのものだったのだから。
そう、この『思念』は――――――絶望の中息絶えて行った―――『アンブラ魔女の怨念』であった。
882: 2011/09/30(金) 01:56:32.04 ID:WR80fNXvo
レディ「―――――――――って五和ちゃんどうしたの?」
五和の状態の急激な変化に気付き、駆け寄るレディ。
そしてその手を彼女の肩に載せ―――ようとした時。
レディ「―――っ……!」
激しい空電音と火花を伴って、その腕が勢い良く弾かれてしまった。
まるで五和の周りに結界でも―――いいや。
レディ「―――コレは―――……」
―――まさに『結界』そのものであった。
弾かれた手を押さえながらレディは、驚きの表情を浮べていた。
その理由はもちろん、五和の体が結界に守られていることでもあるが―――もう一つ。
こうして触れてしまうまで、自身が結界の存在に全く気付かなかったことだ。
長年の経験で鍛えた目と感覚、それをもってしても感知できないのだ。
レディ「……チッ」
次いですぐさまその場の地面にナイフを突き立てて解析。
すると、その正体は案外すぐに判明した。
解読は即座にはできないが、その独特の様式で一目瞭然。
レディ「………………」
この結界は―――アンブラの技。
883: 2011/09/30(金) 01:57:42.99 ID:WR80fNXvo
その正体を判別した次は、どうやって結界を解くかだ。
レディ「んー……」
原因が五和が強く抱きかかえている槍、というのはわかるが現状はそこまで。
身を動かせない原因は術式の負荷か、
それとも術式に拘束機能も含まれているのか。
何を核にして稼動しているのか、それらによって対処方法も大きく変わってしまうものだ。
兎にも角にもまずは解析して、
それら最低限の仕組みを見極める必要がある。
レディがその場、五和と面向かうようにして再び座り込み、
魔導書を手にとって解析の準備に入った―――その時。
「―――よう、どうしたんだ?」
斜め上方、近くの建物の上からそんな聞きなれた声が放たれてきた。
レディ「―――あら」
五和との話とこの状況に気を取られてたのか、
辺りが『静か』になっていたのが気付かなかった。
どうやらあれほどの戦いすら、『最強』はもう―――。
レディ「―――早いわね」
―――終らせてしまったようだ。
ダンテ「おう。大盛況だったぜ」
884: 2011/09/30(金) 01:59:18.30 ID:WR80fNXvo
アグニとルドラを肩に載せているダンテ、
その面持ちは特に疲れた様子も無いいつものもの。
ダンテ「そのお嬢ちゃんは?随分と気分悪そうじゃねえか」
レディ「あー説明は後で」
ただレディとしては今この男には特に用は無い。
彼女はそういつものようにあしらっては、
再び五和の方へと向き―――と『また』―――その時であった。
レディ「―――」
瞬間、彼女の手にある魔導書から響いた、耳鳴りに似た金属音。
それは『アラーム』―――罠が稼動したことを知らせる音。
そして魔導書の革表紙に浮かび上がる、かかった大悪魔を示す『記号』―――――それは思わぬ大物。
レディ「―――うそっ」
―――――アスタロト。
直後。
一行の前に、人の姿をした『モノ』が振ってきた。
ローブを身に纏うその身には両腕が無く―――全身に杭が突き刺さっている傷まみれの『男』が。
885: 2011/09/30(金) 02:01:43.24 ID:WR80fNXvo
ダンテ「―――あ?」
レディ「―――」
その突然の出来事に当然レディは驚きの色を浮かべ、
罠の存在すら知らないダンテは思わず声を漏らしまった。
そしてそのまましばらく言葉交わすことなく、
酷い有様の男を静かに見つめる二人。
男は拘束を解こうと暫し悶えて。
それが無駄だとわかったのか、今度は周囲に視界をめぐらせて。
ダンテ、レディ、そして―――。
レディ「―――え?」
男の視線が己の横に動いたとき、その視線の角度がおかしかったことにレディは気付いた。
少し上を向いていたのだ。
そうして横、その視線の先を追うと。
そこには―――男を真っ直ぐに見据え―――仁王立ちしている五和がいた。
荒れていた息は、今や確かでいながら熱くそして深く。
苦痛に歪んでいた顔は憤怒に染まりあがり。
虚ろだった瞳には―――槍のごとく鋭い。
五和の中ではこの時、彼女だけではなく『大勢の女』の思念が渦巻いていた。
少し前に五和がアスタロトによって受けた耐え難い屈辱、そうして植えつけられた強烈な『心の闇』。
それが、このアスタロトによって貪られた者達の怨念を呼び起こして結びついたのだ。
彼女の肩には魔女の絶望も、彼女の胸には魔女の不安も、
彼女の腕には魔女の意志が、彼女の涙には魔女の悲しみが、
そして彼女の刃には――――――魔女の怒りが重なり宿る。
この時、五和の意識内ではとある声がはっきりと木霊し続けていた。
それは先ほどのレディが発したあの呪文のような言霊―――。
「起きてしまったこと、『氏んだ者』の『事実』は何も変わらないし、復讐を果たしても心が晴れることもない」
「でもずっと見続けていた――――――――――――『悪夢』はそこで終ったわ」
886: 2011/09/30(金) 02:02:09.59 ID:WR80fNXvo
ぶつ切りですが今日はここまで。
次は明日に。
次は明日に。
894: 2011/09/30(金) 22:34:44.17 ID:WR80fNXvo
ダンテ「―――アレはなんだ?」
暫しの沈黙を破ったのは、変わらぬ調子の彼の声であった。
レディ「アスタロト」
ダンテ「へえ……すげえじゃねえか。いつココまでできる技作ったんだ?俺には間違っても使わないでくれよ」
レディ「違うわ……」
彼女は五和が気にかかるも、
ダンテの声に従うようにしてアスタロトに視線を戻して答えた。
レディ「私のあの罠には攻撃性は無いから。拘束だけ」
レディ「ま、そこらへんは一先ずおいといてさ、パッパとトドメ刺しちゃってよ」
ダンテ「Humm...」
そのレディの言葉に納得するようにダンテは喉を鳴らした。
確かに彼女の言葉通りであろう。
相手が相手だ、一見するとかなり手負いであるがこれが何かの策とも限らない。
それにダンテ自身、先ほどのネビロスの件で少々『イラついて』いたため、
あまり悪ふざけ染みたノリも気が進まなかった。
ダンテ「だな」
気だるそうに立ち上がってはアグニ&ルドラを背にかけ、
代わりにリベリオンの柄を握そう頷いたダンテ。
その白銀の大剣を煌かせながらビルから飛び降りて、
アスタロトのすぐ前に着地した。
895: 2011/09/30(金) 22:36:26.66 ID:WR80fNXvo
人間の姿をしているアスタロト、その表情は様々な感情が無秩序に入り乱れていた。
混乱、焦燥、憤怒、驚愕―――ただ、徐々にこの状況を把握しつつあったのか、
収まりも見え始めていたが。
そんな地に這い蹲っているアスタロトを前にして、ダンテは今一度振り返った。
ダンテ「レディ、お前やるか?」
拘束しているのは少なくともレディの技であるのだから、
それなりの割合が彼女の手柄である、とふと思ったのだ。
それにレディは常々、自分の取り分にはかなりうるさい口だ。
レディ「いらない」
ただ今の彼女はあまり関心が無いらしく。
レディ「ねえ五和ちゃん?どうしたの?とりあえず座って、ね?」
アスタロトの方などもう見てもおらず、
仁王立ちして固まっている五和に心配そうに囁きかけていた。
ダンテ「……………………」
その少女の明らかに強烈な怒りに染まっている瞳。
レディの口ぶりから魔術の類なのだろう、少女は何かに取り憑かれているのか。
そんな瞳を数秒間、ダンテは目を細めて興味深そうに眺めていたところ。
『―――は、はははっはははは!!』
前の下から男の笑い声が聞えてきた。
視線を戻すとそこには、身を起こし跪く姿勢の―――アスタロト
896: 2011/09/30(金) 22:38:07.87 ID:WR80fNXvo
ダンテ「……」
精神の乱れはある収まったのか。
自身の置かれている状況を受け入れたのだろう。
その表情は清々しい諦めと自信に満ち溢れ、
傷まみれで酷い状態にもかかわらず佇まいも威風堂々。
アスタロト『光栄だぞスパーダの息子、ダンテ―――』
そしてアスタロトは力強く声を放った。
アスタロト『―――そして光栄に思え。お前の武名に更なる箔がつくからな』
アスタロト『スパーダの息子の手により―――スパーダが創りし刃によって終焉する』
無駄な抵抗も試みず、無用な言葉も吐き捨てず、そして引き際は潔い。
アスタロト『―――――まさにこの俺に相応しき最期だ』
魔界十強、これぞまさに王者たる風格か。
ダンテ「Hum......」
だがそんなアスタロトの言葉は、当のダンテにはまるで届いていなかった。
恐怖公をまともに見てもすらいず、
何か思考を巡らせているのか顎をさすっては喉を鳴らす。
当然、こんな扱いをアスタロトが許すわけも無く、
彼が不満げに口を開いた―――その時。
アスタロト『……おい。お前―――』
これまた無視して、ダンテが勢い良く後方へと振り向いて。
ダンテ「――――――五和ちゃん、だったか?」
ダンテ「―――やりたそうだな。お嬢ちゃん」
897: 2011/09/30(金) 22:40:11.03 ID:WR80fNXvo
そのダンテの言葉で。
五和「…………っ…………」
硬直していた五和が、僅かだがここで反応を示した。
今までレディの声にもまるで返答しなかったが、
ダンテのこの『誘い』には―――口を少し動かして、何か声を発しようとしたのだ。
更にアスタロトに釘付けであったその視線もダンテの方へ。
それだけでダンテも彼女の答えがわかったのか。
アスタロト『――――――なに?』
意図がわからず困惑しているアスタロトを横目に、
肩をすくめて「どうぞ」と彼女へ仕草で返した。
そしてその後の光景で、アスタロトも状況をすぐに把握することになる。
ダンテが離れていき、すれ違いに歩み近づいてくる―――五和。
状況を示す材料はこれだけで充分。
アスタロト『―――ッ―――――』
彼は悟った。
己の最期は魔界十強、王者に相応しきダンテの刃では―――ない。
アスタロト『なっ―――こんな―――――』
最期を穢される―――それはこの誇り高き王者にとってまさに最悪の屈辱か。
傲慢で豪胆で、高き武名に名誉。
自他共に認める魔界屈指の覇者――――――それなのに―――。
アスタロト『―――――――――――――――ダンテェェェェェェェェェ!!!!』
スパーダの息子が示した答えは――――――無視。
アスタロトの生き様、築き上げてきた世界、彼の『全て』を前にして―――――否定した。
たった『一匹』の―――『人間のメス』のために。
898: 2011/09/30(金) 22:42:46.66 ID:WR80fNXvo
アスタロトの叫びは、
もう誰にも届いてはいなかった。
アスタロト『俺は―――――――――アスタロト!!!!』
その声に反応を示す者はいない。
ダンテとレディは、それぞれ離れて眺めていて。
そしてアスタロトの前に立つ―――五和。
アスタロト『―――5百の界を征し!!6万の位階と8千万の領を治め!!』
彼女を見上げて今一度、己が何たるかを宣言するが。
アスタロト『配下二千柱!!統一玉座に最も近き覇者!!!!』
アスタロト『――――――恐怖大公―――アスタロトだ!!!!』
魔女の怨念には効果があるわけもない。
むしろその憤怒の炎に―――更に油を注ぐ。
次の瞬間、五和はアスタロトの体を蹴り飛ばした。
背を強く地面にうちつけ、仰向けに倒れる恐怖公―――。
899: 2011/09/30(金) 22:43:49.14 ID:WR80fNXvo
アスタロト『―――その俺が矮小な塵共に!!!!たかが人間ごときに―――!!!!』
そうしてまだ叫び続けている彼の胸、鎖骨あたりを踏みつけては、
覗き込むようにして顔を近づけて。
五和『―――あなたが「人の姿」になる理由、何でしたっけ。忘れてしまいました』
魔女の怨念宿る、エコーのかかった声でそう声を放った。
これまた魔女と繋がっているためか、少し前、
自らに放ったアスタロトの言葉をそのまま返すかのように『魔界の言語』で。
その言葉は―――彼女の『悪夢』の始まりの再現だ。
五和『ともかくこちらとしても、あなたが人の姿になってくれて助かります―――』
そして『復讐』を告げる声だ。
五和はそこで身を起こして―――――――――槍を大きく横に振り上げて。
アスタロト『―――やめ―――』
五和『―――――――――首を刎ねやすい』
アスタロト『―――たの―――む―――』
アスタロトの首めがけて――――――薙ぎ降ろした。
900: 2011/09/30(金) 22:45:20.64 ID:WR80fNXvo
振るわれた槍の穂先は赤黒い光を引いて、
恐怖公の首どころかその下のアスファルトにも深い溝を刻んだ。
そして、まるで放られたボールのように無造作に転がっていく―――アスタロト頭部。
その後を、五和はゆっくりと歩き追っていった。
アスタロト『……か………………あ……』
恐怖公、その意識は一応健在のようであるが、最早消失する寸前か。
言葉をはっきり発することすら出来ず、無様に口をパクつかせているだけ。
五和『……』
憤怒に染まる強張った表情のまま、五和は暫しそんな頭部を眺めたのち。
今度はその頭に槍を突き刺し、その場の地面に固定した。
そして腰の後ろ側に左手を伸ばして――――――そこから『黒い大きな拳銃』を引き抜き。
その銃口をアスタロトの頭部に向けた。
―――『次』は『こちら』の番だ。
さっきの刃は―――魔女の分。
この銃弾は―――――――――上条さんと―――『私』の分―――。
アスタロト『――――――やめ……ろ―――俺は……アス……タ―――』
そうして彼の最期の言葉であろう、その自身の名すら最後まで発させず。
銃声が鳴り響いた。
901: 2011/09/30(金) 22:47:51.73 ID:WR80fNXvo
こうして、ある魔界の王者の滅亡とともに。
大勢の亡き魔女と―――とある一人の、生ける少女の悪夢は終った。
五和「―――…………」
直後、少女の体からは一気に毒気が抜けて行った。
彼女のに宿っていた灼熱の怨念は引いていき、
その体からも陰も緊張もなくなり。
その顔は、二重がぱっちりとした可愛らしいいつものものへと戻り。
五和「……あっ……………………」
その場、無残な肉塊の前に力なく座り込んでしまった。
五和「…………う……ひぐ…………」
その瞳から大量の露を一気に滴らせて。
さながら今や亡き魔女達の代わりに流しているかのように。
そして。
レディ「……」
昔、復讐を果したとあるデビルハンターの少女と同じように。
レディはそんな彼女の傍へ寄り添っては屈み、その肩を抱きしめた。
そして優しく髪を撫でながら呟いた。
レ デ ィ
レディ「―――良くやったわ。『お嬢ちゃん』」
とある男が昔、そのデビルハンターの少女に手向けた言葉をそのまま。
ダンテ「―――……ああ、パーフェクトだ」
―――
909: 2011/10/04(火) 02:19:12.53 ID:+bghOJ05o
―――
その三者の邂逅は、
とても穏やかとは言い難い空気から始まった。
ネロ「…………」
ジャンヌ「…………」
ベヨネッタ「…………」
互いにとってそれまでの目的を一時中断せざるを得ない、まさに最優先とするべき相手であった。
アスタロトが実質脅威では無くなった現状、この『遭遇』の優先順位を落とす材料など他に存在しない。
驚きはしたが慌てず、双方とも一言も発さずに向かい合い、
慎重に相手の呼吸・鼓動を静かに探っていた。
一触即発の危うい緊張を伴って。
ネロ「……」
敵対関係では無い、というのは互いに認識している。
ジャンヌ「……」
ベヨネッタ「……」
味方でもなく―――この場における『やり取り』によっては、その関係が大きく変化する可能性があることも。
そしてその変化が双方の陣営や、その周りの世界に多大な影響を及ぼしうることも。
ジャンヌ「私はジャンヌ」
ネロ「………………ネロだ」
この沈黙を破ったのはまずはそんな自己紹介の声だった。
そしてジロりとジャンヌの横へ動いたネロの視線、それに応えて。
ジャンヌ「こいつには会っていたな」
ベヨネッタ「ハーイ、ベヨネッタよ」
ネロ「…………」
その三者の邂逅は、
とても穏やかとは言い難い空気から始まった。
ネロ「…………」
ジャンヌ「…………」
ベヨネッタ「…………」
互いにとってそれまでの目的を一時中断せざるを得ない、まさに最優先とするべき相手であった。
アスタロトが実質脅威では無くなった現状、この『遭遇』の優先順位を落とす材料など他に存在しない。
驚きはしたが慌てず、双方とも一言も発さずに向かい合い、
慎重に相手の呼吸・鼓動を静かに探っていた。
一触即発の危うい緊張を伴って。
ネロ「……」
敵対関係では無い、というのは互いに認識している。
ジャンヌ「……」
ベヨネッタ「……」
味方でもなく―――この場における『やり取り』によっては、その関係が大きく変化する可能性があることも。
そしてその変化が双方の陣営や、その周りの世界に多大な影響を及ぼしうることも。
ジャンヌ「私はジャンヌ」
ネロ「………………ネロだ」
この沈黙を破ったのはまずはそんな自己紹介の声だった。
そしてジロりとジャンヌの横へ動いたネロの視線、それに応えて。
ジャンヌ「こいつには会っていたな」
ベヨネッタ「ハーイ、ベヨネッタよ」
ネロ「…………」
910: 2011/10/04(火) 02:19:54.30 ID:+bghOJ05o
そんなベヨネッタの改めての自己紹介、
ネロが示した反応は芳しいものではなかった。
より一層鋭くなる視線と、明らかに疎ましそうな彼の表情。
ベヨネッタ「あーらぁ、もしかして私嫌われちゃってる?」
ジャンヌ「…………」
ネロ「…………」
自己紹介を経ても尚、空気はまるで変わぬまま。
にやつき茶化すベヨネッタ自身、銃を握る手、
そこへの意識の集中は一切緩めていなかった。
ここでまた少しの沈黙が続く。
次に相手が放つ言葉を予想し、
次に己は何を放てばいいのか、その言葉を慎重に選び―――タイミングを見極める。
先手を打ったのは。
ネロ「―――親父」
ネロ「親父がそっちにいるんだろ?」
バージルの息子であった。
まるで矢の如く放たれる鋭い問い。
ジャンヌ「―――ああ」
対してジャンヌの声もまた、
その問いを予想していたかのように矢継ぎ早に返された。
それが何か、と暗に含む挑発的な色合いを帯びた声で。
ネロ「……」
911: 2011/10/04(火) 02:20:36.38 ID:+bghOJ05o
続く短い言葉の応酬は。
ネロ「どこにいる?」
ジャンヌ「私達の拠点」
ネロ「案内してくれと頼めば?」
それでいながら一方で、互いの認識の探り合いの面もあった。
どこまでが許容範囲で―――。
ジャンヌ「断る」
ネロ「理由は?」
ジャンヌ「お前に答える必要は無い」
―――どこからが許容限界なのか。
ネロ「……」
めきり、と両足の魔具の牙が地面に食い込み、
銃を握る魔女の手も軋む。
ネロ「なぜ?」
ジャンヌ「それも答える必要は無い」
ぎちり、と魔剣スパーダの柄を握る拳に力が入り―――そして。
ネロ「じゃあ仕方無えな、話はここで―――………………………………いやっ……違う」
緊張の糸がついに弾け飛ぶ―――その直前であった。
ジャンヌ「…………?」
突然、ネロが自らの言葉を止めるように右手で額を押さえて。
そして深く呼吸を整えながら、小さく頭を振りながら。
ネロ「…………………………悪い、今のは忘れてくれ」
912: 2011/10/04(火) 02:21:31.03 ID:+bghOJ05o
この時、ネロの脳裏には先ほどのダンテの言葉が響いていた。
―――『兄弟』の問題には口を出すな―――。
―――これは『俺達の世代』の問題だ―――。
木霊の如く何度も何度も。
ネロ「……」
そう、これは『彼ら』の世代の問題。
己が踏み込む余地など今のところ無いのだ。
父のことは、この右手からの繋がりで知っている。
ダンテでも知らない父の一面を知っている。
だがそれだけだ。
ダンテよりも良く知っているのは『父親』という像においてのみ。
他の父の面についてはまるで知らない。
今の父を支配している行動指針、『父親』ではなく―――『バージル』という像については。
そして『バージル』を知っているのは―――『ダンテ』のみ。
それにネロには現状、最優先に果すべき使命がある。
デュマーリ島、アリウス、そして―――キリエだ。
だがそれらを鑑みても。
息子である以上ここは強引にでも割り込んでいくべき、
というのが皆が納得する『正攻法』なのであろう。
もちろんネロも、これには黙っていられるかとばかりに突き進んだはずだ。
このダンテの言葉を聞いていなかったら、だ。
―――これは『過去をなぞりつつ新しい英雄談』になる―――。
913: 2011/10/04(火) 02:22:36.29 ID:+bghOJ05o
この言葉を受けて、今の状況に見たある認識が拭えなくなってしまった。
何もかもが『ドラマチックでできすぎてる舞台』。
スパーダの生き様をなぞるかのように戦い、
そしてスパーダの血を継ぐ者達が一同に介しその意志を衝突させる。
さあ来い、お前が必要だ、お前の席を用意してあるぞ、
そんな声がどこからともなく聞えてきそうだ。
『何か』が―――得体の知れない『何か』が―――誘い込もうとしているように思えてしまう。
具体的には言及できないものの―――それが果てしなく気に食わない。
気に入らないのだ。
やはりどうしてもこの問題の中心には、『飛び込んではいけない』気がする。
ネロ「……」
今のこの用意してくれたかのような『参入機会』、『偶然の邂逅』。
更に思わず衝突寸前まで迫ってしまったことで、
ネロの中ではより一層、その認識に対する警戒心が強くなっていったのだ。
ネロ「……今のはナシだ。気にしないでくれ」
彼はそう口にしながら、スパーダに右手を当てて『光』にして『収納』。
そして今解き放ちかけた交戦の意志が誤りであったことを示した。
914: 2011/10/04(火) 02:26:13.58 ID:+bghOJ05o
ジャンヌ「……………………理解してくれて助かる」
ベヨネッタ「Huuuuum.Good boy」
このネロの行動は二人にとっても好ましいものであった。
もちろん衝突など望んではいない。
一定の警戒を保ちながらも、
彼女達もネロに順じてその身に纏う戦意を解いていった。
ネロ「ただ、アスタロトは俺が貰う」
ベヨネッタ「だってさ。いいの?」
そのネロの提示した『条件』を聞いて、ジャンヌは少し押し黙ったものの。
ジャンヌ「……………………コレとソレは比べられるものでもないだろう。好きにしてくれ」
やはり優先度は明白、天秤にかけることではなかった。
ベヨネッタも、疲労の色滲むジャンヌの横顔を眺めながら。
ベヨネッタ「まあ、アンタもそろそろ限界だしね。あと私達には『大仇』がまだいるし」
ジャンヌ「それにあいつの『悲鳴』はもう聞いたからな」
ベヨネッタ「あは、あれ人間だったらチビッてるわよねきっと」
そうして二人は視線を少し交わらせてニヤリと笑った。
ネロ「俺の方はこんなところだ。そっちは何かあるか?」
ジャンヌ「こちらも一つ言っておこう。これを記憶に留めておけ」
ネロ「何だ?」
ジャンヌ「天の門と魔の門の件に関しては、そっちも把握しているな?」
ネロ「ああ」
ジャンヌ「だがこれは知らないだろう?それらが開いた後は―――人間界の中でも全力を使えるようになる」
915: 2011/10/04(火) 02:27:27.81 ID:+bghOJ05o
ネロ「……」
ジャンヌがあっさりと告げたその内容は、一瞬耳を疑ってしまうほどのものであった。
ネロですら数回、頭の中で確認する作業が必要であり。
ネロ「人間界の『中』で、か?」
更に受け取った認識が正しいか、問い返して今一度確認。
ジャンヌ「そうだ」
ネロ「へえ…………理由はもちろん……」
ジャンヌ「ああ。問うな。今信じろとは言わない。その時になればわかるからな」
ネロ「いや、信じるさ。お前は信用に値する女だろう。だが―――」
と、そこでネロはベヨネッタを疎ましそうな目で見て。
ネロ「―――アンタはどうしても生け好かねえ」
背を向けながらそう吐き捨てた。
ベヨネッタ「ふふ、うふん、そう、やっぱりダディとおんなじ。シャイなの一緒一緒」
ネロ「……」
そしてそこでもう一度横目で睨み返した。
足の魔具を打ち鳴らしては、この使い魔に移動用の魔方陣を出現させて。
ネロ「…………クソババァが―――」
ベヨネッタ「―――オイコラ待てクソガキ」
今一度そう吐き捨てながら、魔方陣の中に消えていった。
916: 2011/10/04(火) 02:28:18.07 ID:+bghOJ05o
彼が残していったその言葉は、
この魔女が本気で怒る罵詈雑言の一つでもあった。
ベヨネッタ「あのクソガキ―――」
ジャンヌ「セレッサ…………」
だが。
身を乗り出した彼女を制止しようと、
ジャンヌが呆れがちな声でその名を呼んだ時はもう既に。
ベヨネッタ「………………」
ジャンヌ「……セレッサ?」
彼女の顔からは怒りの色が消えていた。
代わりにあるのは―――狐につままれた様な、目を見開いた表情。
半開きになった口からキャンディが落ちてしまうほど、彼女の顔は驚愕一色に包まれていたのだ。
ジャンヌ「おいどうした?」
ベヨネッタ「…………『何か』……あのボーヤに『集まってる』………………」
そして『観測手』は答えた。
彼女はそのジュベレウスにしか見えなかった領域、『闇の左目』で垣間見てしまったのだ。
誰一人、ネロ自身すら気付いていない微かな、それでいて明らかな異変を。
因果を超えた何かの『歪み』が、あの青年に着々と圧し掛かりつつあったのを。
セレッサ「何?何が見えた?」
ベヨネッタ「………………『何』かしら……アレ」
のちの―――『覚醒』と―――続く『悪夢』の予兆を。
―――
917: 2011/10/04(火) 02:30:00.30 ID:+bghOJ05o
―――
グラシャラボラスにアスタロトの痕跡を追わせて、そして飛ぶ。
元々この『移動』が大の苦手だというその弱点を、使い魔に作業させることで弱点をカバー。
ネロはこうして悪魔を吸収ではなく生かしたまま使役する利点、
それを早くも使いこなしていた。
ただ、大量の使い魔を有しているにも関わらず飛べないダンテのような例もあるが、
これもやはり使い魔も主の性質に大きく影響されてしまうことが原因だ。
問題はあっても目的地には一応飛ぶネロと、
目的地とは全く違う場所に飛んでしまうダンテとでは、
同じ『苦手』でもその度合いはまるで違うものなのだ。
とにかくネロはそんなダンテとは違い、救いようの無いほどの『不器用』では無く、
使い魔のサポートで容易に飛べるまでになっていた。
ただ。
この時、魔女と別れてのこの一回については、『全て』が上手くいったわけではなかったが。
ネロ「―――っ……」
アスタロトの跡を辿って着いたそこはプルガトリオの一画、
不気味に広がる学園都市の幻の中。
そこにいたのは。
レディ「……あれ?」
ダンテ「おい、ネロじゃねえか」
剣や銃を手にそれぞれ、まるで待ち構えていたかのような二人。
そしてそのレディの足元で座り込んでいる―――。
ネロ「五和……?」
―――良く知っている魔術師の少女。
グラシャラボラスにアスタロトの痕跡を追わせて、そして飛ぶ。
元々この『移動』が大の苦手だというその弱点を、使い魔に作業させることで弱点をカバー。
ネロはこうして悪魔を吸収ではなく生かしたまま使役する利点、
それを早くも使いこなしていた。
ただ、大量の使い魔を有しているにも関わらず飛べないダンテのような例もあるが、
これもやはり使い魔も主の性質に大きく影響されてしまうことが原因だ。
問題はあっても目的地には一応飛ぶネロと、
目的地とは全く違う場所に飛んでしまうダンテとでは、
同じ『苦手』でもその度合いはまるで違うものなのだ。
とにかくネロはそんなダンテとは違い、救いようの無いほどの『不器用』では無く、
使い魔のサポートで容易に飛べるまでになっていた。
ただ。
この時、魔女と別れてのこの一回については、『全て』が上手くいったわけではなかったが。
ネロ「―――っ……」
アスタロトの跡を辿って着いたそこはプルガトリオの一画、
不気味に広がる学園都市の幻の中。
そこにいたのは。
レディ「……あれ?」
ダンテ「おい、ネロじゃねえか」
剣や銃を手にそれぞれ、まるで待ち構えていたかのような二人。
そしてそのレディの足元で座り込んでいる―――。
ネロ「五和……?」
―――良く知っている魔術師の少女。
918: 2011/10/04(火) 02:31:16.10 ID:+bghOJ05o
ネロ「なあ、これは―――」
どうして彼女が、それも含めたこの場の事情を聞こうと、
レディへ向けて口を開こうとしたその時。
ネロ「ッ……」
そこで彼は両足の違和感にようやく気付いた。
いや、正確には両足ではなく―――両足を包んでいる魔具の状態にだ。
突如力が硬直し始めたのだ。
その異常に気付きすぐさま目を向けると。
ネロ「ああ?なんだよこれ」
両足の魔具に、大きな杭が大量に突き刺さっていた。
グラ『……うぅぅうううぅぅ……』
ネロ「おい?どうした?」
と、そこでそれを見たレディ、
苦笑交じりに納得したかのような表情を浮べてこう口にした。
レディ「あ……―――それがもしかしてグラシャラボラス?」
ネロ「これどうなってんだよ」
レディ「ごめん、その子が麻痺してるの、私のせいだわ」
919: 2011/10/04(火) 02:33:51.06 ID:+bghOJ05o
ネロ「あぁ?」
レディ「私の設置した罠にかかっちゃったみたい。でもしばらく麻痺するだけだから心配しないで」
ネロ「……麻痺だけ?」
レディ「ええ。放っておけば治るわよ」
ネロ「どれくらいで?」
そこでレディはさあ、と肩を竦めて。
レディ「この罠の術式、起動したのすら初めてだし。10分か……大体そんくらいじゃない?」
ネロ「だとよ。おい大丈夫か?」
足踏みしながらそう声をかけるも、
使い魔から返って来るのは苦しそうな呻き声だけ。
ネロ「……」
『彼女』がしばらく使い物にならないのは確実か。
そう判断した彼は魔具を外して、
魔剣スパーダにしたように同じく触れてその右手に『収納』した。
ダンテ「お前の右手って本当に便利だな」
それを見た、近くのビルの壁に寄りかかっているダンテ。
ネロ「アスタロト、やっちまったのか?」
ダンテ「先に言っておくけど俺じゃねえぞ。俺は手出してねえ」
レディ「トドメ刺したのは五和ちゃん」
920: 2011/10/04(火) 02:37:08.80 ID:+bghOJ05o
そうレディは笑みを浮べながら、
ぽん、と横にいるその少女の頭に手を置いた。
それに合わせてぎこちなく頷く五和。
うつむくその顔には露っぽい泣き跡が目だってはいたが、
一方で少し小さな笑みも毀れていた。
ネロ「へえ……なるほどな。すげえな五和。良くやったぜ」
そんな彼女を見て、ネロもまた小さく微笑み返し。
そして表情を一変させてダンテの方へと再び向き直り。
ジ口リと一睨み。
ダンテ「何だ?俺じゃねえぞ」
思い当たる節があるのだろう、彼は『先』に否定するも。
ネロ「それはわかったって。他の連中知らねえか?」
ダンテ「他の連中?」
ネロ「アスタロトの軍勢に大悪魔がいねえんだよ。100以上率いてきたらしいのにまだ10少ししか潰してねえ」
アグニ『おお、そやつらならばダンテが皆打ち倒したぞ』
ルドラ『うむ、皆切り捨ててしまったぞ』
彼の足元に突き刺さっている、これまたお喋りな悪魔がついつい真実を口に。
ネロ「…………」
ダンテ「……わかってる。確かに連中はお前の分だけどよ、だが仕方なかったんだ。なあレディ!」
レディ「ああ……まあね。話すと長いんだけど、これは私にも責任もあって……」
ネロ「……………………ま、いいさ」
921: 2011/10/04(火) 02:39:00.23 ID:+bghOJ05o
過ぎてしまったこと、それを今とやかく追求することもないであろう。
特にこの男相手には。
色々借りを返させるのは後でゆっくりとやればいい。
ネロ「わかったわかった。いいさ」
そうネロは諦めがちに手を振って、
道端に落ちている『肉塊』の一つの前に屈んだ。
アスタロトの頭部であろう、わずかに造形が残ってる塊だ。
レディ「さて、そういうことで私はとりあえず五和ちゃん連れて人間界戻るけど?」
ネロ「俺は……アスタロトの軍勢を追い返す」
そしてその『肉塊』をつまみあげ、眉を顰めながら眺めつつ。
そう背後のレディに向けて声を返していく。
ネロ「『飼い主』を無くしてウロウロしてやがるからな。あの数はさすがに放ってはおけねえ」
レディ「ダンテ?」
ダンテ「俺はだな……まあ、そこら辺をブラブラ……」
と、その時だった。
ロダン『―――お、お前さん達集まってるのか。ちょうどいい。デュマーリ島の件で少し話がある』
その場にどこからともなく響き渡るロダンの声。
レディ「ロダン?何してるの?」
ロダン『俺も今回は色々会ってな。まあ細かいことは後にしてくれ』
ダンテ「デュマーリ島の話だって?」
ロダン『そうだ』
ダンテ「じゃあネロだ」
ネロ「何かあったのか?」
ロダン『おお、ちょいとまあな。学園都市の――――――――――――土御門元春って坊主知ってるか?』
―――
926: 2011/10/06(木) 23:17:55.27 ID:tRLkTcuRo
―――
「―――…………っあぅ……」
意識は、一切の淀みなく一瞬の内に覚醒した。
思考にも揺らぎはなく平常。
その目覚めの滞りのなさは小気味よいくらいだ。
禁書「―――」
そうしてぱっちりと見開かれた大きな目。
まず最初に捉えたのは―――『馴染みの友人』―――神裂火織の顔であった。
神裂「インデックス!!ああっ!!良かった!!良かった……!!」
神裂は彼女の開かれた目と合った瞬間抱きついて来、
そうまだまだ湿っぽさが残る声で言葉を漏らした。
インデックスの小さな額に当てられる頬も乾いてはいない。
神裂は圧し掛かるようにして抱きついてきていたが、
それもまた心地よい圧迫感。
彼女の香り、昔から『良く知った』温もりをしっかりとその身で感じながら。
禁書「……『かおり』。苦しいんだよ」
インデックスは満更でも無さそうに彼女の名を口にする。
これまた『昔』と同じように。
その言葉が発された瞬間、神裂が今度は飛びあがるようにしてその身を起こした。
そしてハッとした表情を見せては、再び瞳潤む顔を綻ばせて。
神裂「……良かった……本当に良かった……」
「―――…………っあぅ……」
意識は、一切の淀みなく一瞬の内に覚醒した。
思考にも揺らぎはなく平常。
その目覚めの滞りのなさは小気味よいくらいだ。
禁書「―――」
そうしてぱっちりと見開かれた大きな目。
まず最初に捉えたのは―――『馴染みの友人』―――神裂火織の顔であった。
神裂「インデックス!!ああっ!!良かった!!良かった……!!」
神裂は彼女の開かれた目と合った瞬間抱きついて来、
そうまだまだ湿っぽさが残る声で言葉を漏らした。
インデックスの小さな額に当てられる頬も乾いてはいない。
神裂は圧し掛かるようにして抱きついてきていたが、
それもまた心地よい圧迫感。
彼女の香り、昔から『良く知った』温もりをしっかりとその身で感じながら。
禁書「……『かおり』。苦しいんだよ」
インデックスは満更でも無さそうに彼女の名を口にする。
これまた『昔』と同じように。
その言葉が発された瞬間、神裂が今度は飛びあがるようにしてその身を起こした。
そしてハッとした表情を見せては、再び瞳潤む顔を綻ばせて。
神裂「……良かった……本当に良かった……」
927: 2011/10/06(木) 23:19:34.76 ID:tRLkTcuRo
禁書「…………えへへ……」
そうしてこの懐かしい安心感に浸っていると。
精神が落ち着いたためか、
ここで彼女は己の中に生じていたその微かな異変に気付いた。
禁書「……?―――とうまは?」
それは主契約魔、上条当麻との繋がり。
その繋がり自体は正常であるのだが、双方向の意識の反応が皆無なのだ。
電話は通じているのに音が互いに届かないといった具合か。
だがその疑問はすぐに解消した。
神裂が口を開きかけるよりも速く―――
『すまぬが、一時的に遮断させてもらったぞ』
禁書「…………アイゼンさま」
横から放たれてきた魔女王の声によって。
アイゼン『そなたの「目」に不純物が混じると作業に支障が生じるのでな』
アイゼン『案ずるな、作業が終れば繋がりは復旧する』
禁書「うん……」
その横に立っているアイゼンの方を見やると、
魔女王越しに少しはなれたところにいるローラの姿が見えた。
彼女は近くの彫像の土台に身を委ねて―――すやすやと寝入っていた。
アイゼン『あやつは我が眠らせた。そろそろ休ませねば身が持たんかったからな』
とここでまた、
インデックスの視線の向きから悟ったのか、アイゼンが先回りするようにしてそう補足。
飾りがついた袖口をちゃらりと揺らしながら、魔女王は小さく笑った。
928: 2011/10/06(木) 23:21:32.29 ID:tRLkTcuRo
禁書「………………」
そしてそこまで気を巡らせた所で、
彼女の意識はようやく己自身に向く。
気遣う神裂に穏やかに微笑み返しながら起き上がる彼女。
そうして身を起こしきったところでゆっくりと。
禁書「………………」
自身の右胸から、そのまま徐々に右方へと視線を動かしていく。
目に入ってくるのは己の胸、鎖骨、肩―――そして『何も無い』空間。
さっきまであった肩から先が、今はもう消えていた。
禁書「…………」
右袖の無い修道服、
その肩口はローラとアイゼンのものであろう金の繊維で固く塞がっていた。
その金の繊維が修道服の下にも伸びていて、包帯のように上半身に巻きついているのだろう、
地肌に直接面して少し締め付けられる感覚も。
神裂「……インデックス…………」
かける言葉が見つからず、
ただその名を呼びかけるしかない神裂の声。
そんな彼女に対して、インデックスは微笑を返した。
これ『くらい』で心を痛めないで、と小さく顔を横に振りながら。
そう、この程度で済んでむしろ幸運だ。
相手はあのアスタロト、魂全てを根こそぎ持っていかれててもおかしくはない。
それに―――彼に比べたら。
禁書「……」
―――光を喪失した上条当麻に比べたら。
彼を想うその心の痛みに比べたら、この程度の喪失感など―――。
929: 2011/10/06(木) 23:22:37.56 ID:tRLkTcuRo
アイゼン『……すまぬな。我の力が及ばなかった』
禁書「ううん、アイゼンさまが謝ることなんて一つも無いんだよ」
彼女はアイゼンにも微笑み返し、
そして少し見繕いするように背筋を伸ばして。
禁書「アイゼンさま……本当に―――」
アイゼン『―――言うな』
だが続く感謝の言葉は塞き止められてしまった。
アイゼンは屈みこんでは、インデックスと向かい合うようにして顔を近づけて。
アイゼン『うん……そうだな、我は今、そなたの口から別の言葉を聞きたい』
アイゼン『神裂から聞いておるであろうが、もう一度問おう』
そしてインデックスの小さな顎先にそっと手を添えて。
アイゼン『―――我等に手を貸してくれぬか?そなたの目が必要なのだ』
禁書「―――はい!」
アイゼン「うん、良い返事だ。やり遂げられる自信はあるかな?」
禁書「うん!完璧にやってみせるんだよ!」
930: 2011/10/06(木) 23:23:51.97 ID:tRLkTcuRo
アイゼン『うふふううふふ』
そうして、返って来た確かな返事ににっこり。
アイゼンは仮面下から見えるその口を綻ばせて、今度はインデックスの顔に両手を添えて。
アイゼン『うんうん、頼もしい子。さすがはアンブラの子だふうふふうふ』
禁書「ううぁあぅわううわひゃアイゼンさまちょっとっ!」
彼女の頭を、そのフードの上からもみくちゃにするように撫で回した。
神裂はその魔女の戯れを穏やかな表情で眺めていたが、
しばらくしたところでふっと一度短く息を吐いては表情を引き締めて、
七天七刀片手に立ち上がり。
神裂「では私は上条当麻とステイル、あと五和を迎えに―――」
アイゼン『―――ならぬ、それは後だ』
だが鋭い声に遮られた。
声を発したアイゼン、その佇まいは先とは一変。
柔らかなものから冷然とした空気に一瞬で切り替わっていた。
魔女王は、インデックスとの戯れを名残惜しむそぶりすら見せずに立ち上がり、
仮面の眼孔から覗く鋭い瞳を彼女に向けて。
アイゼン『あの少年に会いたいであろうが、先に済ませてもらうぞ―――』
アイゼン『―――「時間」だ。準備を整えよ』
禁書「―――は、はい!」
931: 2011/10/06(木) 23:25:52.43 ID:tRLkTcuRo
ジャンヌ「…………」
そんな彼らのやり取りを、ジャンヌは遠くから眺めていた。
スパーダ像の台座の下にて胡坐をかき、
疲れ滲む表情ながらも慈愛に満たされている瞳で。
視線の先には今、こちらに向かって歩いてくるアイゼン。
ベヨネッタ「良かったわね」
そんな彼女の横で台座に寄りかかり、キャンディを口で転がすベヨネッタ。
ジャンヌ「……ふん。安心するのは早い。これからだ」
向かってくる魔女王の姿を見ながら、
ジャンヌはそうぶっきら棒に言葉を返して。
ジャンヌ「頼むぞ」
そして己の前に視線を向けて、そこに佇んでいる男を見上げた。
このスパーダ像の前に佇み瞑想している―――バージルを。
彼はぱちりと目を開き、
そしてコートを翻してこの大きな聖堂、神儀の間の中央へと歩を―――。
ベヨネッタ「はーいちょい待ちぃ」
一足、進んだところであった。
そこでベヨネッタが、やや強い声で彼を止めた。
ベヨネッタ「―――ねえ、一応『アレ』言っておいた方が良いのかな?」
ジャンヌ「……それはセレッサ、お前に任せる」
そしてジャンヌに簡単な確認をとって。
バージル「……」
ベヨネッタ「じゃあ言うわ、あのボーヤに会ったんだけどさ」
バージル「……」
ベヨネッタ「あの子、何かおかしくない?」
ベヨネッタ「なんかこう……『重い』っていうか、あの子を中心にして『沈みつつある』というか」
バージル「……」
そう、あの青年に『見たモノ』をありのまま告げた。
父親の大きな背中に向けて。
932: 2011/10/06(木) 23:27:52.54 ID:tRLkTcuRo
父親は反応を特に示さなかった。
背を向けたまま、振り向くどころか微動だにせず。
ベヨネッタ「……」
だがその『無反応』こそ、彼を知る者には『答え』である。
ベヨネッタ「『やっぱり』知ってたのね。だから―――避けてるの?」
バージル「……」
ベヨネッタ「……そう。別にダディの『放任主義』に文句を言うつもりは無いけれど」
ベヨネッタ「それで私達の仕事に何か―――」
バージル「―――影響は無い」
ベヨネッタ「……………………」
遮ぎ斬り捨てるがごとく鋭い声。
バージルが示した初めての反応であった。
振り向かなくてもわかる、あの冷徹な無表情から発された言葉。
ジャンヌ「……」
ベヨネッタ「……ああそう」
対するベヨネッタの反応は、
明らかに納得してはいないであろうつっけんどした声だった。
933: 2011/10/06(木) 23:32:44.75 ID:tRLkTcuRo
そうして彼女はその不満げな表情も調子も隠しもせず、
バージルの背へ言葉を放っていく。
ベヨネッタ「どんな者でも『生者』である以上、その意識に揺らぎが生じ判断ミスをしてしまうことは避けられない」
彼の方へと歩き進みながら。
ベヨネッタ「ジュベレウスでも魔帝でも、スパーダでも」
そして意地悪そうな笑みを浮べ、横並びになったとき。
ベヨネッタ「ジャンヌでも私でも―――ダンテでも――――――そしてアンタでも」
バージルの肩に寄りかかるようにして肘を載せて。
バージル「……………………」
ベヨネッタ「でも心配しないで。皆余裕が無くて意識が揺らいでいる時でも―――」
もう片方の手の指二本で、自分の『瞳』を指し示して。
ベヨネッタ「―――私は常に平常運転。常に公平に疑い、常に公平に目を光らせているから」
ベヨネッタ「ジャンヌほどじゃないけれど、ダディのことも信用してるわ。でもね―――人格と現象は別」
ベヨネッタ「『現象』については―――誰が関与していようと―――私は絶対に信用しない」
―――『観測者』は言い放った。
ベヨネッタ「周りの――――――この世界を信用しすぎちゃダメよ」
934: 2011/10/06(木) 23:35:14.09 ID:tRLkTcuRo
それは『言い方』間違えれば、
もしくは言う人物がそぐわなければ、『口にした者』が一瞬で斬り殺されかねない言葉であった。
言葉の裏に何かの意味があるわけでもない、至ってシンプル文面通りそのままだ。
意味するのはまさしく、
「私は誰よりも優れた観察眼と客観性を有している、バージル、アンタよりも」という己の優位性。
やや厳しい表現にするのならば、つまりは―――「身の程を知れ」ということ。
こんな事をこのバージルに言えるのはまさに―――ベヨネッタ。
かのジュベレウスの視界―――『闇の左目』の保有者である彼女だけだ。
恐ろしいまでに冷静であるバージルももちろん―――その事実を否定することなどしない。
バージル「…………」
ただ、この女に対して抱く感情についてはまた別であるが。
彼は顔を動かさぬまま、瞳だけ鋭く動かした。
『冷え切り』すぎて『焼き付いて』しまいそうな視線を。
ジャンヌ「はっ……」
思わずといったジャンヌの短い笑い声。
そしてベヨネッタは不敵にニヤけ、そんな冷ややかなバージルの横顔を眺めながら。
ベヨネッタ「『刃』は『刃』―――『目』は『目』、お互い『割り当て』通り精進しましょ。ねぇん?」
耳元に口を近づけ、吐息を小さく吹きかけながらそう囁いた。
魔女の魅惑の甘い息、
どんな者でも『男』であれば陥落するであろうその魔性のオーラ。
しかしその誘惑も―――このバージルにだけは届かない。
ベヨネッタ「やっぱりアンタも―――イイ男ね」
だがそれがまた、と彼女は嬉しそうに笑い、
囁き言葉を連ねて。
ベヨネッタ「いっぺん丸ごと私のモノにして――――――めっっっっちゃくっっっっちゃにしたい」
軽く唇を噛みながらその言葉で締め括った。
これもまた男を陥れてしまう魔性の声であったが。
一方で、この世のモノとは思えない恐怖をも植えつけるであろう。
なにせ、篭められていたのは甘い色欲だけではなく―――――危うい『闘争欲』もあったのだから。
935: 2011/10/06(木) 23:37:32.30 ID:tRLkTcuRo
バージル「……………………………………」
そしてその『戦意』の誘惑には反応したのか。
きちりっ、と軋む閻魔刀の鞘―――。
―――だがその殺意が―――ここで解き放たれることは無かった。
アイゼン『うん?―――どうした?』
ちょうどここに辿りついたアイゼンの声が間に飛んできたからだ。
ベヨネッタ「いーや特になーにも」
バージルの肩に肘を載せたままにこやかに返すベヨネッタ。
だがこの場を満たしている緊張した空気は隠せるわけもなく。
いや、彼女は別に隠そうともしていなかったか。
アイゼン『そなたら……もう少し穏便にできぬのか?ここまできて内輪揉めは困るぞ』
ジャンヌ「ご心配なさらずにアイゼン様。セレッサでも時と場をわきまえるくらいの脳は一応ありますから」
ベヨネッタ「だーいじょうぶ。じゃ、よろしくねん」
頭を抱えるアイゼンを尻目に、
ベヨネッタはバージルの肩を叩いてはその背を押して。
ベヨネッタ「―――始めましょ」
最強の魔剣士は振り向きもせず、
この聖堂の中央へと向かっていった。
無言のまま、コートを揺るがせて悠然と。
936: 2011/10/06(木) 23:39:42.76 ID:tRLkTcuRo
そして彼は神儀の間の中央、
この場の全ての神像―――スパーダ像の視線が収束する点の上にて立ち止まり、
己が魔剣を体の前に掲げ、その柄を握り締めた。
閻魔刀握るその手首には―――『時計盤に喰い付く骨』といった造形の腕飾り―――
―――『時の腕輪』。
―――かつて魔帝が人間界侵攻を目論んだ時。
このスパーダは己が名を冠する魔剣と「時の腕輪」を用い、
『創造』打ち破りこの帝王を虚無へと封じた。
そして閻魔刀と「時の腕輪」を用いて、魔界から人間界への侵食を『緩め』。
その隙に、己の魂の一部を礎として魔界の大穴を封印。
それにより、かの2000年前の伝説は終結した。
だが今回は違う―――。
『この伝説』は―――『そこ』から始まる。
勢い良く鞘から抜かれた魔剣、その刃が向かうは―――『床』。
閻魔刀が突きたてられたその瞬間、
柱、床、天井あらゆる場所から淡い光を発し始める神儀の間。
そして地の底から響いてくるかの如く、耳鳴り染みた『駆動音』。
これは『目覚め』の声であり。
―――『叫び』だ。
魔界からの『大侵食』を―――『塞き止める』。
そこに用いられる途方も無い規模の力と―――世界の摩擦が奏でる―――『はじまりの悲鳴』だ。
―――
942: 2011/10/09(日) 01:52:35.61 ID:84nR88wNo
―――
照明かそれとも辺りを埋め尽くす機器のものか、
その薄闇の広い空間は、淡いオレンジの光に満たされていた。
中央には大きな円筒形の―――『中身』の無い水槽。
上条「…………」
その前5m程の宙空にて彼、
上条当麻は水槽と面するようにして空間に磔にされていた。
上条「……ぐっ……」
徐々に明瞭になっていく意識の中。
全身に滲む奇妙な倦怠感に呻きながら、彼はその垂れ下がっていた首をゆっくりと上げていく。
そして――――――水槽と己のちょうど中間にいるその『人物』を―――『捉えた』。
今何が起こったのかここは一体どこなのか、
それらもこの『異質な人物』を前にして吹き飛んでしまった。
上条「―――……!!」
その人物には覚えがあった。
そう―――あの時。
先の『逃走劇』の始まり、
『三つ巴』の会合から飛ぶ直前、その瞬間に彼方に見た姿。
緑の手術衣を纏い―――男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも『見える』―――銀のねじくれた杖を手にしている者。
「―――目が覚めたか」
そして発せられる、『彼』のものであろう良く響く低い声。
ゆるやかな長い髪に女性的な体つき、
そう上条が『認識』するその姿とはまさにかけ離れていた声であった。
「まず自己紹介しよう」
上条「―――……」
アレイスター「学園都市総括理事長、アレイスター=クロウリーだ」
照明かそれとも辺りを埋め尽くす機器のものか、
その薄闇の広い空間は、淡いオレンジの光に満たされていた。
中央には大きな円筒形の―――『中身』の無い水槽。
上条「…………」
その前5m程の宙空にて彼、
上条当麻は水槽と面するようにして空間に磔にされていた。
上条「……ぐっ……」
徐々に明瞭になっていく意識の中。
全身に滲む奇妙な倦怠感に呻きながら、彼はその垂れ下がっていた首をゆっくりと上げていく。
そして――――――水槽と己のちょうど中間にいるその『人物』を―――『捉えた』。
今何が起こったのかここは一体どこなのか、
それらもこの『異質な人物』を前にして吹き飛んでしまった。
上条「―――……!!」
その人物には覚えがあった。
そう―――あの時。
先の『逃走劇』の始まり、
『三つ巴』の会合から飛ぶ直前、その瞬間に彼方に見た姿。
緑の手術衣を纏い―――男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも『見える』―――銀のねじくれた杖を手にしている者。
「―――目が覚めたか」
そして発せられる、『彼』のものであろう良く響く低い声。
ゆるやかな長い髪に女性的な体つき、
そう上条が『認識』するその姿とはまさにかけ離れていた声であった。
「まず自己紹介しよう」
上条「―――……」
アレイスター「学園都市総括理事長、アレイスター=クロウリーだ」
943: 2011/10/09(日) 01:54:30.46 ID:84nR88wNo
上条「…………総括理事長……」
上条はその『目』の前の彼の言葉を、
もう一度その思考に染みこませるかのように繰り返し。
そしてその『意味』を何度も確認する。
学園都市総括理事長、つまりは――――――この『狂った街』の『トップ』。
上条「ということは…………」
すなわち、能力者たる数多くの少年少女の人生を狂わせた―――『根源』。
いくらこのような状況でも。
そんな存在を前にしては、この少年が声を荒げないわけもなかった。
上条「―――てめえが―――御坂のッッ―――!!」
アレイスター「もちろん。学園都市内で完結する件に関しては全て、私の完全な管理下のものだ」
アレイスター「確かに彼女にとっては苦難であっただろうが、一方で充実していたとも言えるはずだ」
上条「な―――ふっざけんな!!そこ動くんじゃねえ!!ぶっ飛ばしてやる!!」
アレイスター「『同じく』君も―――享受しているではないか」
アレイスター「土御門元春、吸血頃し、超電磁砲、一方通行……―――そして―――――――――禁書目録」
アレイスター「どのような過程であろうと、彼らと『出会えた』―――『その結果』を」
上条「―――っ!!!!」
944: 2011/10/09(日) 01:55:38.25 ID:84nR88wNo
確かに。
彼らとの出会いが無くても良い、といえばそれは嘘になる。
今や彼らは心の一部を構成する大切な存在。
そこが空白になるなんて、全く想像できない。
だが、もし全てを『リセット』するスイッチがあれば。
皆が皆、普通の中学生高校生として生きていける道があるのならば、
こんな血みどろの世界に沈むことなく、平凡でも平和な日常を彼らが送っていけるのならば。
上条「―――――だからなんだってんだよ!!!!んなもんと―――比べてるんじゃねえよ!!」
例え誰とも接点を持たない人生になろうと―――上条当麻は迷い無くそのスイッチ押す男だ。
それこそ自分だけが全ての苦難を背負うことになっても、だ。
上条「ぐっ!!あぐっ!!!!」
だが今ここでは、その叫びも無意味なものであった。
一体どのような力でやっているのか、いくら力を篭めても『磔』はびくともしない。
上条「―――ッ…………ふっ……はっ……クソ」
力ずくでは不可能、上条はすぐにそう悟ると
今だ心は熱く滾らせながらも思考を落ち着かせていく。
アレイスター「そうだ。相手には一先ず危害を加える意思が無いのであれば、会話を保ちつつ状況を分析し打開策を探す。それが正解だ」
そんな彼の意図を、
透かし見ているかのように言葉を続けるアレイスター。
そして彼は数歩上条に近づき、身を乗り出すようにして見上げて。
アレイスター「私は君の『全て』を知っている」
アレイスター「君の『魂』の本来の『出生』、1000代を超える人の生」
アレイスター「当然、今の―――上条当麻としての君の思考、記憶、見聞きしたものも全て」
アレイスター「無論、今の君は光を喪失していることもだ」
945: 2011/10/09(日) 01:56:39.89 ID:84nR88wNo
上条「―――…………ふん」
そう確かに告げるアレイスターの顔に、上条の眼球はしっかりと向いてはいた。
傍から見れば、そこに異常など微塵も感じられないであろう。
だが。
実際はアレイスターの言葉通り、もう光は捉えてはいない。
このアレイスター=クロウリーの存在、
彼の一挙一動、髪の毛一本一本の揺らぎから鼓動まではっきりと認識していながら、
『姿そのもの』は一切―――『見えて』はいない。
『映像』は存在しない。
『姿』を視覚的に認識できなかった。
アレイスター「全てを知っているとはいえ、その目も含めて最近の君の行動には苦労したよ」
アレイスター「修正にはかなりの手を焼いた」
上条「……………………」
それまでの言葉、その口ぶり、そして『修正』という単語。
これらで充分であろう。
上条は否応無く確信せざるを得なかった。
自分は、このアレイスター=クロウリーの手の平の上で暮らしていたのだと。
946: 2011/10/09(日) 01:58:14.64 ID:84nR88wNo
そんな今の彼の思考も、
『全てを知っているアレイスター』には手をとるようにわかるのだろう。
彼は上条の盲たる瞳をまっすぐ見上げて。
アレイスター「その通りだ。君の周囲の環境は全て私が『制御』し『誘導』していた」
アレイスター「悪魔達の介入が始まってからは、何度も私の影響下から外れたがな」
アレイスター「この半年は、本当に肝を冷やしたことも幾度となくあった」
上条「お前が……『俺』を…………」
アレイスター「そうだ。『今の君』ならば理解できるであろう?」
上条「…………」
アレイスターに示された一つの事実。
そこに向く上条の意識に応じて、
奥底に沈んでいた記憶が呼び覚まされていく。
記憶も力も全て封じ、人間として生まれては一生を終えて。
そして再びこの世界のどこかで人の子として誕生し、新たな人の名を授かる。
そうやって1000回以上繰り返した輪廻。
アレイスター「私がいなければ、『今の君』は存在していない」
アレイスター「私が、この世界に埋もれ続けていく君を――――――この『舞台』に呼び戻したのだよ」
だがこの男が―――その循環を終らせたのだ。
そしてここまで手繰れば、当然一つの疑問が浮かび上がってくる。
では―――。
上条「―――なぜ―――なんで俺を―――?」
―――理由は、と。
947: 2011/10/09(日) 02:00:35.25 ID:84nR88wNo
アレイスター「―――『なぜ』、だと?」
その上条の言葉を彼は一度繰り返した。
表情自体は変わらぬものの、声に少し滑稽といった空気を滲ませて。
アレイスター「君は己が何者かわかるか?今は理解しているはずだが」
そしてそう問い返した。
自己を認識すれば自ずと答えは浮かび上がってくる、と。
上条「……俺は―――……」
その通り。
奥底から呼び起こされた記憶、魂にある記録がはっきりとここに明示する。
『なぜ』、はおかしいのだ。
―――あたかも身の覚えが無いようなそんな言い方では。
この『配役』になったこと、そこに幸運も不運も無い。
偶然にして『役』を授かったわけでも、
何者かの意志で選ばれたわけでもない。
元から全て、他でもない『自分自身』なのだから―――。
―――この役を引き受けたのは、遥か太古の己自身だ。
竜王と同化して道連れにしたのも―――封印されしその『顎』を有しているのも。
上条当夜の子でありながらベオウルフの子であり、そして―――永遠に『主』の息子でもある『男』。
ミ カ エ ル
―――上条当麻。
ミ カ エ ル
古の人間界の王―――『竜王』の『顎』を宿す―――悪魔に『半堕天』した上条当麻だ。
上条「………………………………っ」
948: 2011/10/09(日) 02:02:37.58 ID:84nR88wNo
そうして認識を新たにして。
上条「…………『これ』で何をするつもりだ?」
改めて上条は正しく問うた。
アレイスター「そう。それが正解だ。目的は君と同化している―――『竜王の顎』だ」
アレイスター「では何をするか。その前に聞きたい」
こうしている今も何かの作業を進めているのだろうか、
顔の前に浮かび上がったホログラム映像に目を移しながらアレイスターは。
アレイスター「君はどう考える?」
問い返す。
アレイスター「恐怖と絶望、嫉妬と疑心に駆られ隣人を殺める―――怨嗟が渦巻くこの『暗黒時代』」
アレイスター「君が太古の昔、暴虐な王から解放した―――この世界の末路について」
上条「―――」
その言葉はまさに銃弾の如く上条の意識を貫いた。
そして再び古の記憶を呼び起こし―――ある『食い違い』を明示する。
上条「…………『違う』!!こんな―――こんなはずじゃ!!」
――ー人間界はこうなるはずではなかった、と。
上条「天界は人界を守り、そして共に歩み、人は完璧な平和と完全な安寧を享受するはず――――――」
竜王を廃せば、人間界にはそのような未来が到来していたはず―――。
だが現実は違っていた。
アレイスター「その人の目で何を見てきた?―――『上条当麻』」
アレイスター「今でも君は、天の存在が人間の親しき隣人と言えるか?―――――『ミカエル』」
現実はアレイスターの言葉通り。
そして己がその目で見てきた通り。
アレイスター「果たしてこの今の世界が――――――約束された『天の国』と言えるか?」
上条「―――………………」
949: 2011/10/09(日) 02:04:09.90 ID:84nR88wNo
かつて自分が約束した未来とは違う。
そう自覚し認識した瞬間、上条の心を埋めるはやり場の無い憤りと。
そして戸惑い。
上条「ど、どうして……こんな…………」
『なぜ』こんな状況に、と。
アレイスター「そうか。『君』は知らないのであったな」
そう、どのようにしてその約束が反故にされたのか、
上条はその経緯は『知らなかった』。
竜王の滅亡と同時に記憶を封じ一介の人へとなった彼は、
そんな高次元の事情の変化など知り得る訳が無かったのだ。
アレイスター「確かに竜王亡きあと暫し、君が描いていたその時代はあった」
相も変わらずアレイスターは、
何かのデータが表示されているホログラムに目を通しながら連ねていく。
アレイスター「現代時間に照らすと1000年程度か。天は人を慈愛し人は天を敬愛する、隣人らの穏やかな時代だ」
アレイスター「一時期『常闇ノ皇』などの魔界勢力の大規模な妨害もあったが、この期間の中では人間はこれまでにない安寧を享受したよ」
アレイスター「天の者へと転生することを許された人間達もいた。彼らの中には、大柱に成り上がり現在も君臨している者もいる」
上条「―――……」
彼が『知らない』、真の歴史の空白を埋める言葉を。
アレイスター「だがそんな豊かな時代もすぐに『打ち切られた』。古き主神の遺産、ジュベレウスの『目』が人間界の中に見つかったからだ」
上条「……主神…………ジュベレウスの……」
アレイスター「『遺産』そのものついては、君の方がずっと詳しいだろう」
950: 2011/10/09(日) 02:06:27.26 ID:84nR88wNo
上条「…………」
アレイスターの言葉通り、それについては知っていた。
確かな天の頃の記憶に残っている。
主神ジュベレウスの力、『世界の目』。
『光と闇』、すなわち存在の『有と無』を定義することから始まる、万物を司る絶対的な存在。
そんな代物が人間界に見つかっていたとは―――。
アレイスター「当時の天界にとって、それはまさに『恵み』ともいえよう」
上条「…………」
その通り。
ジュベレウスが敗北した後は、もはや魔界に立ち向かえる勢力など存在していなかった。
天界もまた、滅亡の時を先送りにするしか術がなかった『餌食世界』の一つだ。
そんな天界にとって、この発見は―――文字通り『逆転の一手』と成り得る。
アレイスター「なにせ絶大な『主神』を復活させる事が可能なのだから―――そうなのだろう?」
完全復活したジュベレウスこそ、
魔帝、スパーダ、覇王、そして彼らに率いられた魔界に真っ向から立ち向かうことが出来る唯一の存在なのだ。
これほどの大事とくれば、
それまでの天界の有り方を一変させてしまうことはもちろん―――易い。
上条「………………っ」
ここまで聞いてしまえば、あらかたその概要を理解するのも上条にとっても易い。
自分が太古の昔に帰属していた一派が、そしてその上位たるジュベレウス派がどんな判断を下し―――どのような行動指針を定めるか。
全ては主神復活のため。
そんな指針の変更により、天界の掲げていた弱き者達の保護は、
その優先順位を大きく下げることとなり。
天界は魔の手から守る心優しき隣人では無く――――――厳格な管理者へと変わる。
アレイスター「そうしてセフィロトの樹に新たに加えられた機能によって、あらゆるものが徹底的に管理されそして―――掠奪された」
人間達に与えられるは安らかな恩恵ではなく―――絶対的支配。
アレイスター「歴史、文化、概念、寿命、そして――――――『生氏の自由』―――氏者の『魂』さえも」
951: 2011/10/09(日) 02:08:32.57 ID:84nR88wNo
そうして今に繋がる。
上条「そ、そんな…………なんて…………」
埋められた高次元における歴史の空白、
それらのピースは彼にとってまさに信じ難い、そして信じたくもないものであった。
だが皮肉にも。
そんな感情とは違い、この思考は客観的に精査していく。
アンブラの魔女、インデックス、天界、そして今の状況とこれまで見聞き経験してきた全てが物語っていると。
これは事実なのだと。
上条「……こんな…………」
救ったはずのものがいつのまにか――――――堕ちてしまっていた悲しみ。
心を振るわせるはどうしようもない喪失感とやり場のない憤り。
それらが上条に襲い掛かる。
この1000代の間に何かできなかったのか、と。
己の不甲斐なさと無力を呪うのも―――既にもう遅い。
彼が今、こうして『故郷』と『第二の故郷』の正確な状況を把握して気付いたとき。
二つの世界はもう―――滅茶苦茶になってしまっていたのだから―――。
―――とその時。
アレイスター「だが一つだけ―――君が描いた未来をもう一度、今から人間に与えられる方法がある」
アレイスターの口からそんな言葉が響いた。
特に重みも含ませずにあっさりとた声で、まるで独り言のように。
上条「―――」
俯いていた上条はすぐに顔を上げて、そのアレイスターの顔を見るも、
その変わらぬ表情からは、彼が今何を思ってそう告げたのかはまるで掴めない。
そう、怪しくも無ければ―――信用する材料も無い「0」たる言葉だ。
952: 2011/10/09(日) 02:09:57.89 ID:84nR88wNo
だが言葉だけではなくこの人物のこれまでの言動、
そして行ったことを鑑みれば当然信用の針は―――マイナスに触れる。
上条「お前が―――……?」
喜ぶことなどせず、むしろ疑心を強めて目を細める上条。
対してアレイスターは。
アレイスター「実はそれが私の目的でもある」
これまた特に重要でもないとばかりに、
そう淡々と口にし。
上条「―――は?」
アレイスター「聞えなかったか?私の目的は―――君の理想を永劫のものにすることだ」
はっきりと確かに告げた。
今度ばかりは上条の顔を真っ直ぐ見上げて。
上条「――――――……っ!!な、何?!」
そうして彼は驚く上条を尻目に、
具体的にどうやるかというとと続けてた。
アレイスター「簡潔に話そうか。竜王の胃は無限だ。その容量に限界は無い」
アレイスター「君が魔に転生したことによる器の強化と、力の認識の取得、それによって『竜王の顎』は今―――完全に『蘇る』ことが可能だ」
上条「…………」
アレイスター「その完全に覚醒した『竜王の顎』で人間界を飲み込み―――『胃の中』に内包してもらう」
アレイスター「つまり君、竜王は―――『新しき器』となり」
アレイスター「天界の支配から完全に解き放たれた『新しき人間界』の土台となるのだ」
上条「―――……」
953: 2011/10/09(日) 02:10:46.37 ID:84nR88wNo
さらりとアレイスターが提示したプラン。
だがそこには大きな問題があることに、上条はすぐに気付いた。
上条「……おい待て。天界からどうやって離れるんだ?」
人間界は天界から離れられないのだ。
天界が人間界に力場を提供し『理』を維持しているのだから。
竜王ら古の神々をその力場ごと封印してしまったことで、従来の理と力を失った人間界。
本来『セフィロトの樹』が作られた目的も、その人間界に新たな理と力場を与え補完するためだ。
つまり切り離してしまえば、当然人間界は理を失い―――生が生として存在できなくなる。
封印されし本来の人間界の力場は既に『氏んで』しまっているし、
新たに界の力場を作るにしても、そんなことジュベレウスでも無い限り不可能。
その疑問に対するアレイスターの答えは。
アレイスター「もちろん、理と力場は今まで通りセフィロトの樹と天界のものを使う」
上条「―――な、何だって?」
予想外の返答に再び驚きの色を隠せない上条、
そんな彼の様子など気にもせずアレイスターは再びホログラムに目を戻し。
アレイスター「セフィロトの樹を『反転』させるのだよ」
データを閲覧しながらこれまたあっさりと―――簡潔すぎる説明を口にした。
954: 2011/10/09(日) 02:11:49.01 ID:84nR88wNo
上条「―――反……転……?!」
アレイスター「その詳しい原理は説明しないぞ。どうせ君に人間の魔術学はわかるまい」
上条「その反転ってのはどうなるんだ?!」
アレイスター「反転が遂げられれば、人界と天界の関係は逆転する」
アレイスター「そうだな、今まで人間に布かれていた制限を受けて天界の者達は―――力を喪失し―――」
アレイスター「―――魂を人間界に取り込まれ、その基盤の礎となろう」
上条「なっ―――!!」
それは耳を疑う言葉であった。
意味することはつまり―――天界の氏。
今の上条にとっては、そんなことを許せるわけも無い。
父、兄弟、同胞といった、天にも大切な家族がいるのだ。
いや、人間界に進入し人を貪り食う悪魔達にでさえ、一定の慈悲を抱く男だ。
例え家族なんかいなくたって彼は絶対に認めなどしない。
上条「おい―――!!!!ふっざけんなバカじゃねえのかてめえ!!!!」
これはあんまりだ、と。
一つの世界を皆頃しにするなんて。
だがアレイスターは特に気にもしていない様子。
この上条の怒りも全て予想済みといった具合だ。
955: 2011/10/09(日) 02:13:30.58 ID:84nR88wNo
上条「そもそも上手くいくはずねえ!!セフィロトの樹を管理できる人間なんかいねえよ!!」
上条「あれの維持にはでっけえ力が必要なんだからな!!!!」
そんな余裕を見せるアレイスターに堪らず、
磔の身を揺さぶりながら、とにかく否定する材料を探してはぶつけていく上条。
上条「―――力を奪いきる前に四元徳に奪還されてどうせ失敗するさ!!!!」
だがそんな上条の反論も、アレイスターにはお見通しだったのであろう。
アレイスターは特に表情も声の調子も変えず、データに目を通しながら。
アレイスター「なるほど。セフィロトの樹を掌握できる人間はいないというか」
アレイスター「それがバージルに血を流させた者でも――――――足りないか?」
上条「―――」
それは完璧な答えであった。
これには反論の余地が全く無い。
アレイスターの促すとおり。
上条「あ……あいつが……」
アレイスター「そうだ。心配しなくても良い。『彼』が制御する」
アレイスター「一方通行がセフィロトの樹の新たな主だよ」
アレイスター「最も正確には。君と彼、そして私の意志が一つとなった存在が、であるが」
アレイスター「そうして始まる新世界にて」
アレイスター「学園都市の能力開発を受けた子供達は、『始祖世代』としてこの上ない安寧を享受するであろう」
956: 2011/10/09(日) 02:14:19.22 ID:84nR88wNo
上条「―――……っ」
と、その時。
上条はこのアレイスターの言葉に、
この男から聞いた話の中で最も聞き捨てならない『言い回し』を耳にした。
彼は今―――『能力開発を受けた子供達は』、と限定された表現をしたのだ。
ではだ。
その枠に入らないグループは―――?
上条「おい待て……………………学園都市以外の人達は――――――どうなる?」
そして返って来た答えは、これ以上無いくらいに。
想像しうるものの中で最も。
アレイスター「己の存在確立をセフィロトの樹に『完全依存』している者達は、反転の障害に到底耐えらない」
上条「待てよそれはつまり―――」
アレイスター「―――そうだな。氏ぬということだ」
最悪なものであった。
957: 2011/10/09(日) 02:16:51.26 ID:84nR88wNo
上条「なっ……な……………………」
上条の怒りは最早、
声を荒げる水準を遥かに通り越していた。
罵倒の言葉すら怒号すら詰まってしまうほど。
生き残るのは能力開発を受けた子供達、となると
―――70億人―――ほぼ全人類が氏滅することとなる。
上条「……お、お前は…………本当に……それをやろうとしているのか?」
その言葉の意味を再度頭の中で確認して。
低く震える声で上条は今一度問う。
対して答えは。
アレイスター「そうだ」
変わらず、そして確かなもの。
アレイスター「この表現はどうしても安易になってしまうが、まさにこう言わざるを得ない」
アレイスター「―――『仕方の無い犠牲』だ、と」
958: 2011/10/09(日) 02:18:01.57 ID:84nR88wNo
アレイスター自らが安易としたとおり、
その言葉は上条当麻を再噴火させる爆弾となった。
上条「―――ああああてめえフザケてんのかよ!!!」
その身を激しく揺さぶりながら、これまでにない怒号を吐き出す少年。
上条「70億だぞ70億!!!!わかるか?!!ああ?!!」
上条「『仕方が無い』で通る数かよ!!!!ほぼ皆頃しだろうが野郎!!!!」
アレイスター「だが生き延びた者は永劫の平穏を手に入れ、彼らの子は豊かな繁栄を約束される」
対してアレイスターは変わらず冷めた調子のまま。
上条「だからってよ!!!!だからって―――」
アレイスター「君だってわかっているであろう?今の人間界の置かれている状況は」
粛々端端と。
アレイスター「いつ『本当』に『絶滅』してもおかしくない」
アレイスター「それどころか『氏』よりも遥かに過酷な未来が―――到来する可能性だって『充分』にある」
上条「でもダンテ達が―――」
アレイスター「この激動の時代に、百年後、千年後、一万年後まで、今の絶妙なバランスが保たれると思っているのか?」
上条「―――っ!!」
鋭い言霊を放ちそして。
アレイスター「ところで君はわかるか?なぜ、わざわざ私がこうして君と話そうとしているか」
―――唐突に、そんな風に話を変えた。
959: 2011/10/09(日) 02:21:02.68 ID:84nR88wNo
上条「はっな―――?!何だってんだよクソ野郎!!」
突然の進路変更に戸惑いながらも、
しっかりと怒号を返す上条。
アレイスターはそんな彼の方を向き、そこでまた数歩、
彼に手で触れられる距離にまで近づいて。
アレイスター「昔、セフィロトの樹に潜り真実を探る中で、太古のあるの『碑文』を見つけたんだがな」
アレイスター「その青臭く黎明たる言霊で綴られた理想、希望、未来」
上条「そ、それが―――!!」
それがどうした、
今の話とどう関係があるのか、と上条は噛み付くような勢いで睨んだが。
アレイスター「魔界が勢力を広げる絶望的時代の中のものでは、特に異色を放っていてね」
その関係性はすぐにここに―――示された。
アレイスター「私は惹かれて、以来、その言霊は私の目指すものとなった」
アレイスター「私は感化されたのだよ――――――君が残した言霊にね。『上条当麻』」
彼にとって『最悪』の意味を有して。
上条「な―――…………な…………なに?」
960: 2011/10/09(日) 02:23:04.36 ID:84nR88wNo
アレイスター「覚えていないか?出撃の前夜、十字教の『父』にした宣言の言葉だと記録されていたが」
上条「―――」
いや、はっきりと覚えている。
兄弟達と父と最後に集った宴の席で―――発した言葉だ。
確かにあの時描いていた理想の人間界と、このアレイスターが目指す新世界は同じであろう。
非の打ち所が無い、完璧な平和と完全な安寧が約束された世界だ。
だが。
上条「違う――――――違う!!」
誰がこんな形での実現を望むか―――。
馬鹿げている。
上条「違う!!違えよバカ野郎!!!!」
これでは―――全く意味が違ってしまっている。
上条「守るべきなのは今生きてる人達なんだよ!!今この瞬間だ!!!!」
あの時だってそうだ。
あの時代、あの時生きて苦しんでいた人間達を解き放つために戦ったのだ。
上条「―――『今』を救わなきゃ意味がねえんだよ!!!!」
今この瞬間こそが最も重要なのだ。
『今』を守らねば―――それこそ『未来』も何も無くなってしまうのだから。
961: 2011/10/09(日) 02:24:42.25 ID:84nR88wNo
アレイスター「そうやって君は戦ったが――――――その結果がこれだ」
だがその上条の反論も―――このあっさりと告げられた言葉で押さえ込まれてしまった。
上条「―――ッ」
アレイスター「もちろん、君に全ての責任があるわけではない。むしろ君も被害者であろう」
アレイスター「だが『発端』―――『当事者』であることには変わりない」
アレイスター「意志はどうだったであれ、この状況の始まりを定めたのは―――君なのだよ」
上条「……お…………俺が…………」
そして逃れようも無くはっきりと明示される―――その『事実』。
そう。
そうなのだ。
ミ カ エ ル
上条当麻という存在こそ―――。
学園都市数多くの者達、
土御門、姫神、御坂、一方通行、能力者、そして全世界これまでの天界系魔術師。
無数のそれら人々が、
この血塗れた世界に生まれてしまうことを運命付けてしまった――――――『元凶』であり。
アレイスター「だが安心してくれ。君のあの失敗も、これで『無駄』ではなくなる」
この恐るべき男を突き動かした――――――原動力であったのだ。
アレイスター「―――私が成し遂げよう」
962: 2011/10/09(日) 02:26:29.05 ID:84nR88wNo
そこで一つ、
アレイスターの顔の前に別のホログラム映像が浮かび上がった。
それに目を移した彼は少々。
アレイスター「…………………………………………」
一瞬、僅かに表情を『変化』させて黙し。
アレイスター「…………喜べ。デュマーリ島の『問題』が解決したらしい」
そして再び元の表情に戻っては、画面を見つめながらそう告げた。
この朗報に今、上条が反応を示すことは無かった。
まるで殴り飛ばされたかのように、
彼はとてつもないショックで放心状態であったのだから。
アレイスター「では我々も始めようか。こちらも状況が刻々と変わってきているからな」
アレイスター「そろそろ動かねばなるまい」
そしてそう言葉を続けながら、
アレイスターは上条を見上げて。
アレイスター「見ているがいい。君の描いた理想を――――――私が現実にしてみせる」
―――
974: 2011/10/12(水) 00:05:07.06 ID:IOWpRX5no
―――
それは壮絶な激闘であった。
プルガトリオの果て、このとある階層にて衝突した三柱の大悪魔。
アスタロトの腹心サルガタナス、対するは炎獄の王イフリートと―――完全復活を遂げたベオウルフ。
武名轟く戦神の氏闘は、人間界時間にしておよそ30分以上も続いた。
大悪魔同士の戦いだという点を鑑みれば、これはまさしく『超長期戦』だ。
ベオウルフが加わった時点で勝利する側はほぼ決定付けられたものの、
そこからがまた長く苛烈なものであった。
サルガタナスはその忍耐も底力も凄まじく、
30分の戦いの末にこの武神をやっと打ち倒したイフリートとベオウルフもまた、
酷く消耗してしまっていた。
だが。
イフリート『…………』
ベオウルフ『…………』
果てたサルガタナスの躯の前に佇む炎の巨人と光の巨獣、
その彼らの醸す空気を満たしているのは、疲労ではなく歓喜と昂揚。
イフリート『貴様……中々やりおるな』
ベオウルフ『そうであろう?これが我が真の実力よ』
そして。
イフリート『―――素晴らしい。弱者を辱めるのは我が性に合わぬからな』
危うい闘争心。
イフリート『楽しみだ―――貴様との果し合いは』
それは壮絶な激闘であった。
プルガトリオの果て、このとある階層にて衝突した三柱の大悪魔。
アスタロトの腹心サルガタナス、対するは炎獄の王イフリートと―――完全復活を遂げたベオウルフ。
武名轟く戦神の氏闘は、人間界時間にしておよそ30分以上も続いた。
大悪魔同士の戦いだという点を鑑みれば、これはまさしく『超長期戦』だ。
ベオウルフが加わった時点で勝利する側はほぼ決定付けられたものの、
そこからがまた長く苛烈なものであった。
サルガタナスはその忍耐も底力も凄まじく、
30分の戦いの末にこの武神をやっと打ち倒したイフリートとベオウルフもまた、
酷く消耗してしまっていた。
だが。
イフリート『…………』
ベオウルフ『…………』
果てたサルガタナスの躯の前に佇む炎の巨人と光の巨獣、
その彼らの醸す空気を満たしているのは、疲労ではなく歓喜と昂揚。
イフリート『貴様……中々やりおるな』
ベオウルフ『そうであろう?これが我が真の実力よ』
そして。
イフリート『―――素晴らしい。弱者を辱めるのは我が性に合わぬからな』
危うい闘争心。
イフリート『楽しみだ―――貴様との果し合いは』
975: 2011/10/12(水) 00:06:20.66 ID:IOWpRX5no
両者の間にはもはや肩を並べる理由など無かった。
サルガタナスと言う共通の敵を廃した今、互いの関係は『元通り』になる。
敵意と殺意に満ち溢れた、相容れぬ関係へと。
だが。
ベオウルフ『だが今は―――そのような気分でもない』
呪縛から解放され在りしの力を取り戻した巨獣は、
仄かに光を強めながら喉を鳴らした。
サルガタナスの亡骸が徐々に風化し朽ちていくのを眺めながら。
ベオウルフ『気分がよいのだ。今ならば、その貴様の醜い面も特に苦にならぬ』
そのベオウルフの言葉を聞いて、イフリートは小さく鼻で笑い。
イフリート『……ふむ。我もあまり気が進まぬ。今はな』
イフリート『……この場は互いの「息子達」に免じるか』
遠くにいる息子達の方へと、視線を動かしながら。
ベオウルフ『うむ。決着はいずれ。身を癒し力を万全に整えてな』
しかし。
意識を向けたその方向には、いるはずの息子達が『いなかった』
イフリート『―――……』
976: 2011/10/12(水) 00:07:47.70 ID:IOWpRX5no
ベオウルフ『……む?』
気付いたベオウルフもそちらを見やり、その獣の顔を怪訝そうに歪めた。
これは非常に奇妙なことであった。
二人がいなくなったことに『なぜ』―――気付かなかったのか。
彼らは大きな悪魔の力を持っているのだから、
同じ階層にいる動きなど手にとるようにわかる。
ましてやイフリートとベオウルフは、
彼らと力が繋がっているのだから尚更だ。
それなのに。
イフリート『何処に消えた?』
―――気付かなかった。
ベオウルフ『……小僧の気配を感じるのに追跡できん。なぜだ』
更に不思議な事に、
認識できるのに意識を集中することが出来ない。
イフリート『我も同じく…………どうなっているのだこれは』
何をどうすればいいのか、何がどうなったのか、
彼らにはこの不可解な事態を説明できる道理がまるで浮かばなかった。
まさに『魔界の常識』が通じない状況だ。
傷まみれの武神、彼らはその場で見合わせ、
そして互いに顔を顰めるしかできなかった。
―――
977: 2011/10/12(水) 00:09:11.91 ID:IOWpRX5no
―――
遡ること少し。
ステイル「―――くそっ!!」
今だ終る気配のない三神の激闘を遠くに、
ステイルは決断を迫られていた。
とある問題に単独で動くべきかどうか、を。
その問題とは―――アレイスターによる上条の拉致。
これには黙っていることなどできるわけがない。
アレイスターの目的は見当がつかないものの、『友好的』ではないのは明白。
とにかく一刻も早く動かねばならないのだ。
しかし単独で動く場合、懸念すべき点がいくつもある。
学園都市に戻ればトリッシュやレディがいるはずであるが、
これほどの事態ならば彼女達の協力を得られない、もしくは接触すらできない場合も考えられる。
そうとなれば、この件を単独で処理しなければならないが―――
―――果たして己はあの異様なアレイスターに立ち向かえるのか?
―――イフリートやベオウルフの知覚を出し抜くほどのあの存在を?
遡ること少し。
ステイル「―――くそっ!!」
今だ終る気配のない三神の激闘を遠くに、
ステイルは決断を迫られていた。
とある問題に単独で動くべきかどうか、を。
その問題とは―――アレイスターによる上条の拉致。
これには黙っていることなどできるわけがない。
アレイスターの目的は見当がつかないものの、『友好的』ではないのは明白。
とにかく一刻も早く動かねばならないのだ。
しかし単独で動く場合、懸念すべき点がいくつもある。
学園都市に戻ればトリッシュやレディがいるはずであるが、
これほどの事態ならば彼女達の協力を得られない、もしくは接触すらできない場合も考えられる。
そうとなれば、この件を単独で処理しなければならないが―――
―――果たして己はあの異様なアレイスターに立ち向かえるのか?
―――イフリートやベオウルフの知覚を出し抜くほどのあの存在を?
978: 2011/10/12(水) 00:09:55.63 ID:IOWpRX5no
それ以前に自力で『飛ぶ』のは初めてになるのだから、
人間界に到達できるかどうかも怪しい。
ステイル「……っ……!」
だが三神の衝突は長期戦の様相を示し。
ステイル「……神裂……!!」
追っ手から逃れるために声が届かない場所にでも行ってしまったのか、
神裂とも意識の疎通ができないのだ。
今や選択は一つ。
迷っている暇など無い。
上条当麻は絶対に失ってはならない。
あの男は必要なのだ。
この世界にも、そして―――インデックスにも。
一度、確かな深呼吸をしたのち、
彼はその手を地面にかざし―――記憶を頼りに見よう見まねで陣を構築していく。
仄かに浮かび上がる赤き魔方陣。
そして今度は息を浅く吐いては、力を流し込んでいき『稼動』させ。
ステイル「―――頼むぞ」
学園都市で強き協力者を得られることを、
まともに学園都市に到着することを願いながら―――
―――ステイルは飛んだ。
979: 2011/10/12(水) 00:11:33.25 ID:IOWpRX5no
この時―――彼は一つ。
アレイスターの思惑の一端を知ることが出来る重大な事実を見落としてた。
上条の事で頭が一杯であったのだから、これは仕方が無かったのかもしれない。
上条と同じ己を二の次、
その身を大切にしない思考回路がここでその目を曇らせてしまったのだ。
なにせこれは彼、ステイル自身に関わる問題であったのだから。
その問題とは、アレイスターが―――ステイルには『何もしていかなかった』ことだ。
こうして追跡してくることは、少しでもステイルという人物を知っていれば、
誰でも容易に推定できることだ。
更にステイルはアレイスターが常駐している場所―――窓の無いビルを知ってもいる。
ここに気付いていれば、
ステイルは今のこの己の行動がどれほど危険な行為なのか瞬時に悟っていたはずだ。
『罠』があるのではと警戒を抱き、何らかの防護策を練ったかもしれない。
ただ。
どう行動しようが、
結局ステイルはアレイスターの裏をかくことなどできなかった。
彼にはアレイスターの罠を回避する技術は無く、
また彼が学園都市に向かうことを諦めるわけも無かったのだから。
980: 2011/10/12(水) 00:12:53.01 ID:IOWpRX5no
飛んだ先。
そこは確かに見慣れた、目的地の街並みが続いていたが。
学園都市では『無かった』。
連なるビルをはじめ、
あらゆるものがまるで実体が無いかのように揺らいでいるその世界、
ステイル「―――……!!」
ここもまたプルガトリオか、と彼は思ったものの。
肌に感じるこの世界の大気にその考えはすぐに否定されてしまった。
能力者の『匂い』が充満していたのだ。
それも尋常じゃない濃度。
あのフィアンマ戦の際の一方通行が隣にいるような水準だ。
魔界が魔の力に満ちているように、
ここは能力者の力に満たされている世界―――
―――だがここが一体どこなのか、
それは今のステイルにとって重大ごとでもなかった。
飛んだ先が目的地と違ったのならば、もう一度目的地を目指すだけ。
そうして彼が再び地面に手をつき、魔方陣を出現―――
―――させようとしたのだが。
ステイル「……っ?!」
ここでようやく、
自分に関しては鈍い彼も悟ることとなった。
己は―――嵌められたのだと。
魔方陣が出現しなかった。
981: 2011/10/12(水) 00:16:30.20 ID:IOWpRX5no
ステイル「―――くっそ―――」
あそこでアレイスターが己を殺さなかったのは、
こちらがイフリートや神裂と繋がっているからであろう。
こうしている今も、神裂やイフリート生きていることははっきりと認識できる事を踏まえると、
さすがのアレイスターも『氏』は偽装できないのだ。
学園都市で暮らしてきた上条とは違い、
ステイルには全くアレイスターの手も入っていないということも、
直接手を加えられない原因の一つかもしれない。
だからこうして―――生かさず殺さず、ステイル自身には特に手も加えずに隔離するのだ。
ステイル『――――――アレイスタァァァァァ!!!!』
紅蓮の業火を全身から迸らせながら、炎と共に吐き出す怒号。
その怒りに満ちた力が渦となり、この『陽炎の街』にただただ乱暴に―――そして虚しく噴き荒れていく。
ステイル『クソッタレが!!ここは一体……!!』
ただ、この世界にいたのは彼だけではなかった。
『―――「ここ」はどこか、では無い。正確には「これ」は何か、だ』
唐突に。
そして背後間近からの―――声。
982: 2011/10/12(水) 00:18:59.40 ID:IOWpRX5no
完全にステイルは意表を突かれていた。
独り言の悪態に他者が突然言葉を返してくれば、誰だって驚きもする。
しかもその源の気配を一切認識できていなかったら尚更だ。
そう、振り返った先にいた『ソレ』は、あのアレイスターのように気配が無かった。
ステイル『―――っ』
背後5m程のところ。
この陽炎の世界の道路の上にて、一体の人間の形をした『何か』が浮遊していた。
白い無地の装束を纏った、長身の女性『らしき』姿。
長い髪はまるで水中にいるかのように漂い揺れ、
その全身像もこの世界と同じく実体感が無く。
そして―――人の形をしていながら、明らかに人とはかけ離れている顔。
あらゆる感情と無を併せ持つ、異質な面持ち。
ステイル『なっ―――』
悪魔でも天使でも、ましてや人間でもない存在との突然の遭遇に一瞬言葉を失うステイル。
だが『ソレ』は、そんな彼の様子など気にも留めずに。
『そして答えはは「竜の胃袋」、そこから湧き上がった「マグマ溜り」』
平坦で。
グレイブヤード
『「 墓 所 」の「飛び地」』
そしてこれまた異質な声でそう告げた。
『もしくは――――――「虚数学区」』
983: 2011/10/12(水) 00:20:11.26 ID:IOWpRX5no
ステイル『虚数……学区……』
耳にした言葉を反射的に繰り返しながら、
彼は身構えながら『ソレ』の正体を見極めようとしていた。
その姿、その存在の様子からまず最初にわかったのは、
厳密にはアレイスターのように『気配が無い』わけでは無かったことだ。
一度こうして意識すると、確かに力の存在を認識できるのだ。
そうして彼は把握した。
この存在の出現に気付かなかったのは、その力が『周囲と同じ』だったせいだ、と。
『コレ』は―――この世界と繋がっている―――いや―――。
―――ここに充満している能力者の力、『そのもの』なのだ。
ステイル『―――っ……!!』
だがそれはまた、大きな疑問を生み出す答えであった。
『コレ』が悪魔でも天使でも、人間でもないのは明白だった。
どこの界の存在か、という段階ではない。
根本的な部分が明らかに異なっているのだ。
規模はわからないが、領域、階層、世界そのものがこうして何らかの思念を有しているなんて。
ステイル『(一体――――――こいつ―――)』
そして思念を有していながら―――ここまで『生気』も『意志』も無いなんて。
984: 2011/10/12(水) 00:22:31.60 ID:IOWpRX5no
ステイル『―――……………………「お前」は何者だ?』
鋭く睨み。
より意識を集中し、一層警戒を強めながら彼は静かに。
意を決して問うた。
『その問いの捉え方は複数あるが、「私」という思念を指していると仮定すれば』
そして『ソレ』は答える。
『―――「古き人界」の思念と記憶の集合体』
『氏した巨人達の残滓、か』
『君達、魔術に縁がある者達に最も知られている名称は恐らく――――――「エイワス」、かな』
ステイル『―――――エイワス―――だと―――――――――』
ステイルは耳を疑った。
それは魔術に携わるものならば、知らない者などまずいないその名。
だがその知名度に反して、この存在の正体を示す情報は見つかっていない。
清教、正教、その他世界中の野心溢れる魔術師がその謎を暴こうとしたが、誰一人辿り着いたものはいない。
ステイル『お前が―――あの―――「エイワス」―――』
このアレイスターの―――『守護天使』には。
あまりのことに思わず一歩後ずさるステイル=マグヌス。
対して異質な『守護天使』は、その声に僅かに楽しげな色を載せて
エイワス『――――――そう。私はエイワスだ』
もう一度、自己紹介の言葉を繰り返した。
985: 2011/10/12(水) 00:24:05.77 ID:IOWpRX5no
ステイル『―――ッ』
次なるステイルの行動は速かった。
確かに『コレ』があのエイワス、というのは驚きであるが、
アレイスターの息がかかっている存在とくれば、そこに迷う道理など無い。
炎獄の業火が噴き上がり、そして一瞬にして包みこむ。
―――が。
エイワス『「ここ」は話し相手が少なくてな、私としては如何なる客人でも歓迎したいところなのだが』
煌く光の奔流が、一瞬にしてその業火を吹き消してしまった。
エイワス『生憎、如何なる者もここを通すなと「プログラム」されているんだ』
ステイル『―――!!』
エイワス『私は別に味方でも敵でもないのだが、この力の「集合体」の制御はあの男が握っていてね』
エイワス『でも心配はない。頃しはしないよ―――その理由はわかるだろう?』
そう、その理由は知っていた。
知ってはいたが、彼が意識内でそのことを再確認することはできなかった。
なにせ、彼がその耳にした声の意味を認識するよりも速く―――
光り輝く『翼のようなもの』が―――ステイルの胸を貫通したのだから。
エイワス『すまないが少し我慢していてくれ』
エイワス『―――これから面白いことになるからな』
―――
986: 2011/10/12(水) 00:24:40.77 ID:IOWpRX5no
今日はここまでです。
次は金曜に。
次は金曜に。
990: 2011/10/12(水) 11:45:19.77 ID:S9bjrueW0
原石のことやアレイスターのことを考えれば魂管理が完璧じゃないし抜け道があるのは推測出来るけど…
あるいはミカエルをあえて転生させてるとかね。魂は神なんだから糧にするのは忍びないとかで。
で、セットになってる竜王もどうせ復活出来ねーだろと楽観視して放置してた、とか。
まぁ>>1がその内話すだろうから正座待ち。
あるいはミカエルをあえて転生させてるとかね。魂は神なんだから糧にするのは忍びないとかで。
で、セットになってる竜王もどうせ復活出来ねーだろと楽観視して放置してた、とか。
まぁ>>1がその内話すだろうから正座待ち。
991: 2011/10/12(水) 18:32:03.70 ID:EMnM4/v2o
>>989
セフィロトの樹に繋がれてないので、上条とフィアンマの魂は取り込まれることはありません。
古の人間界の神々の性質を受け継ぐ魂は、天界にとって煮ても焼いても食えぬものです。
その性質をとにかく嫌って、後の人間の魂に浸透しないよう力場ごと封印までしたくらいですから。
また、常に一定数の原石が出現するのと同じく、
何度排除しようが必ずどこかで同一の性質を持った魂が出現するといった、
後世の人間界に残った決して取り除けない後遺症の一つでもあります。
ただ他の能力者たちと異なり、ミカエルという天界の因子が入っているので、
十字教の父達を介せばある程度意識へ干渉することも可能です。
そこで【MISSION 04】スレの812の通り、扱いやすい『手』の方は神の右席として再利用し、
一方で触れた力の構造を魂に記憶していくという面倒な機能持ちの『幻想頃し』は、
全く『異能』に触れない平凡な世界におき続ける、というのが天界の方針です。
刺激を与えなければ普通の人間と同一なので、それが最良の管理方法だったわけです。
が、その安定をぶっ壊したのがアレイスターです。
後世の『普通の人間』のうち、唯一名指しで『天界の脅威』と宣言されたに相応しく、
彼の行いは竜王関連の状況を劇的に変えてしまいました。
これまでただの人間と全く変わりなかった幻想頃しを、
生まれる前から全ての準備を整え、生まれた瞬間から周囲の環境を完璧に管理誘導し、そして今に至らせたと。
そのアレイスター辺りの詳細は、作中でもこれからある程度触れます。
フィアンマが己の本質に気付いた理由などものちに。
セフィロトの樹に繋がれてないので、上条とフィアンマの魂は取り込まれることはありません。
古の人間界の神々の性質を受け継ぐ魂は、天界にとって煮ても焼いても食えぬものです。
その性質をとにかく嫌って、後の人間の魂に浸透しないよう力場ごと封印までしたくらいですから。
また、常に一定数の原石が出現するのと同じく、
何度排除しようが必ずどこかで同一の性質を持った魂が出現するといった、
後世の人間界に残った決して取り除けない後遺症の一つでもあります。
ただ他の能力者たちと異なり、ミカエルという天界の因子が入っているので、
十字教の父達を介せばある程度意識へ干渉することも可能です。
そこで【MISSION 04】スレの812の通り、扱いやすい『手』の方は神の右席として再利用し、
一方で触れた力の構造を魂に記憶していくという面倒な機能持ちの『幻想頃し』は、
全く『異能』に触れない平凡な世界におき続ける、というのが天界の方針です。
刺激を与えなければ普通の人間と同一なので、それが最良の管理方法だったわけです。
が、その安定をぶっ壊したのがアレイスターです。
後世の『普通の人間』のうち、唯一名指しで『天界の脅威』と宣言されたに相応しく、
彼の行いは竜王関連の状況を劇的に変えてしまいました。
これまでただの人間と全く変わりなかった幻想頃しを、
生まれる前から全ての準備を整え、生まれた瞬間から周囲の環境を完璧に管理誘導し、そして今に至らせたと。
そのアレイスター辺りの詳細は、作中でもこれからある程度触れます。
フィアンマが己の本質に気付いた理由などものちに。
987: 2011/10/12(水) 00:28:00.91 ID:l7CS0cEDo
お疲れ様でした。
988: 2011/10/12(水) 00:29:33.51 ID:9FkWy+tj0
乙です!!
次回へ続く:【禁書×DMC】ダンテ「学園都市か」【その32】
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