269: 2011/11/06(日) 22:54:10.64 ID:7wFHTcxWo
最初から読む:【禁書×DMC】ダンテ「学園都市か」
前回:【禁書×DMC】ダンテ「学園都市か」【その32】
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―――
第一学区地下深く。
とあるシェルターの一室にて。
芳川「―――っな」
芳川は硬直していた。
持ち歩いている携帯端末、更に打ち止め専用に整備した、この一室を埋め尽くす各種機器。
それら全てが突然エラーを起こしたからだ。
芳川「ちょっ……!!待って!!どうして!!」
それも、部屋の中央のベッドに横たわっている氏に瀕している打ち止め、
今からその彼女にできるだけの処置をしようとした矢先にだ。
彼女だ飛びついた近くの端末、そこに表示されてたエラーの原因は、
ネットワークとの接続が切れてしまったからというもの。
芳川「…………」
一体なぜか。
これもアレイスターの仕業か、それともまた別の―――と、
思考を一気に巡らせるも、彼女はこの問題にぞの思考の全力を注ぐことはなかった。
原因が何であれ、今最優先すべきことは誰が何をしたかではなく、
どうすれば接続を復旧できるかなのだ。
彼女は数秒間、画面を凝視しては押し黙ったのち。
芳川「―――貴女!!やってほしい事が!!」
部屋の隅に身を小さくして立っていた少女、
初春の方へとふり向いては声を張り上げた。
初春「―――はい?!」
芳川「―――来て!!ここ座って!!」
270: 2011/11/06(日) 22:56:58.88 ID:7wFHTcxWo
初春飾利。
僅か13歳にして、厳重な監視体制が敷かれるほどのハッキング技術の持ち主。
この狂った街が生み出した、『異常な才を持つ子供』の一人。
そこで、と芳川は考えたのだ。
この少女ならば繋ぎ直すことができるかもしれない、と。
芳川は半ばまくし立てるようにして、
勢いで彼女を端末に向かわせた。
初春は最初は困惑していたものの、
席についた瞬間からはまさに人が変わったかのようにその才を見せた。
管理者である芳川の権限もあったが、
それを差し引いてもおかしなくらいの速度で、彼女はここのシステム解析してしまったのだ。
それも作業の傍らに芳川からの仕様説明を聞きながらだ。
だが。
そんな初春の手にかかっても、この問題は手に負えなかったらしく。
初春「―――……うぅん、無理ですね」
彼女はため息混じりに首を横に振りながら。
初春「どうも、この『MNW』は完全に独立化されたみたいですね」
芳川「独立化……?」
初春「はい。ここだけじゃなく、見える限りでは、他との接続も全部切断されているみたいです」
271: 2011/11/06(日) 23:01:01.88 ID:7wFHTcxWo
芳川「…………」
完全な独立化なんて、今までに起きたことなど無かった。
それも少しの状態すらもわからないくらいに強固に。
ミサカネットワークに未知なる現象が起きているのは確実か。
こんな異常なことをやってのけているのは、やはりアレイスターなのか。
と、その時であった。
再び思考のために押し黙りかけていた芳川に向けて。
初春「あ、あと…………この子のバイタルが正常値に戻りつつありますよ」
芳川「……え?」
そう指し示された、
打ち止めの肉体の状態を表示している画面へと目を向けると。
脈、血圧、呼吸、脳波、体温、それらが全て、徐々に安定しつつあった。
完全に正常とまではいかないものの、
さっきまでの氏に瀕していた状態からすれば嘘のように落ち着いていたのだ。
芳川「ラストオーダー?聞える?」
すぐに彼女の傍に向かい、耳元でそっと呼びかけると。
打ち止め「…………ねえ……」
彼女は意識が回復していたどころか、確かな意思を示した。
薄く目を開いては微笑んで。
芳川「……っ?」
打ち止め「ミサカを……あの人のところに連れてって……ってミサカは……ミサカは……」
272: 2011/11/06(日) 23:02:22.57 ID:7wFHTcxWo
芳川「……」
意識が戻ってすぐのその言葉。
だが当然、芳川は二つ返事で首を縦に振るわけにはいかない。
まず、地上に今向かうのはとにかく危険すぎる。
次に肉体が安定しつつあるからとはいえ、
ミサカネットワークの状態が全くわからない以上、安心はできない。
むしろ未知の現象続きなのだから警戒しなければならない。
この安定は、台風の目に入ったように一時のものかもしれず、
次の瞬間にはまた急激に悪化するかもしれない。
とにかくまずは、ミサカネットワークの状態を少しでも把握しなければ。
芳川「……ねえ、ミサカネットワークに何が起こったの?」
打ち止め「…………わからないの……だからそれを確かめに行きたいの……ってミサカは……」
芳川「今の状態は?正常に稼動しているの?」
打ち止め「……うん……」
芳川「……」
だが息も絶え絶えに答える打ち止めを見ては、口頭でこれ以上聞き込むのも憚られた。
いくら安定しつつあるとはいえ、まだまだ絶対安静が必要な水準。
意識を失うかどうかという境目で朦朧としていて、喋るのもやっとな状態であろう。
打ち止め「……おねがい……」
そう、そんな状態なのだから、打ち止めの頼みなど承諾してはならないのに。
そこには考慮の余地さえ無いのに。
芳川「……」
芳川は迷っていた。
273: 2011/11/06(日) 23:05:25.15 ID:7wFHTcxWo
こんなこと考えるのはどうかしてる。
そう自覚しながらも彼女は考えてしまう。
もしかして、彼女の希望通りにするべきなのではないか、と。
常識的に考えれば、
保護者という立場の己は絶対にそんな事をしてはならない。
だが―――今の状況のどこが『常識的』だというのだ、と。
それに非常識な状況下においてはいつも、
一方通行の元にいることで打ち止めが救われる、
または打ち止めが現場にいたことによって一方通行が救われてきたのだ。
そこで、だったら今回も、と。
芳川は考えてしまう。
今や状況は、脇役でしかない己の手には負えないのだから、
一方通行や打ち止めのような―――主役達に直接委ねるべきなのでは、と。
ここまで来てしまったらもう子供も大人も関係なく、
運命は彼ら自身の手で決めさせるべきでは、と。
芳川「……」
芳川は自覚していた。
この考え方は勇気とも優しさとも言えるものではない、と。
その実は、それはそれは愚かしくて、勝手で無責任な『甘さ』であることを。
そしてこう、
こんなことだから夢であった―――『教師』にはなれなかったのだ、と心の内で己を笑いながら。
芳川は打ち止めを抱き上げて、ドアの方へと進んだ。
274: 2011/11/06(日) 23:06:54.25 ID:7wFHTcxWo
と、その時。
初春「―――待ってください。どこへ行くつもりですか?」
背後から呼び止める初春の声。
打ち止めとのやりとりとこの芳川の行動を見ては、誰が見ても明白であろうか。
呼び止める初春のその声は、制する意図がはっきりと見える強き響きを有していて。
芳川「……貴女はここに残っていて」
初春「まさか地上に出るつもりですか?」
芳川「…………」
初春「ダメです!!絶対ダメです!!」
そして示すは、ジャッジメントとして当然の態度。
椅子から勢い良く立ち上がっては一気に駆け出て、
芳川とドアの前に割り込んで立ち塞がった。
だがそんな彼女の断固とした態度も、
次に返された芳川の言葉ですぐに揺さぶられてしまった。
芳川「……お願い。貴女だって友人のために第七学区に行ったのでしょ?」
初春「―――……」
そこから暫し数秒間、
この幼い風貌の少女は繭を顰めては黙りこくって。
こう、静かに慎重に問い返してきた。
初春「……………………向かおうとしている先には、何があるのですか?」
対する芳川は即答した。
芳川「この子にとって一番大切な人」
275: 2011/11/06(日) 23:08:11.27 ID:7wFHTcxWo
初春「………………………………」
それを聞いた初春の判断は、答えを聞くまでも無かった。
不満ながらも諦めたように何度も頷く彼女の仕草が物語っていたのだから。
芳川「じゃあ貴女はここにいて……?」
だが、そう答えが示されたにも関わらず初春はドアの前から退こうとはしなかった。
そして首を傾げた芳川が口を開くよりも先に。
初春「私も一緒に行きます!!」
大きな声でそう宣言した。
芳川「ちょ、ちょっと!」
初春「何と言われようが私も行きます!!」
芳川の言葉を遮るようにして、
かつ己を奮起させるようにより強く。
初春「運動不足では?!そんなのじゃとても行かせておけません!」
そうして今度は芳川の方が制圧されてしまった。
初春がそう指摘するとおり、芳川はもう既に肩で息をしている状態だったのだから。
打ち止めは今しがた抱き上げたばかりなのに、
もう腕にはかなり疲労が溜まっていたし、心なしかいつも以上に己の体も重い。
まさに初春の言葉通り、日ごろの運動不足がたたってしまっていた。
芳川「………………」
これを聞き入れてしまうのもまた、無責任で弱くて『甘い』か。
芳川はそう再度自覚しながらも、素直な己の判断に逆らいはせずに。
芳川「……行きましょう」
―――
276: 2011/11/06(日) 23:09:21.61 ID:7wFHTcxWo
―――
アレイスター『―――』
答えを見つけた、と。
この少年は今、一方通行という人格で確かにそう口にした。
その言葉が発された時点で、
その意味を探る必要はもう無かった。
答えは、今のこの状況がはっきりと明示していたのだから。
一方通行と言う人格は何らかのイレギュラーで復活し、
その力と魂と器の支配権を取り戻したのだと。
更にミサカネットワークを独立させて、打ち止めと妹達をも己の保護下にして。
アレイスターはこの現実を、信じ難くも認めざるを得なかった。
緻密に慎重に築きあげてきたプランの大柱の一本が、
ここにきてあっけなく崩壊したのだと。
一方『……おィ。上条に何をした?』
正常な認識に戻りようやく気付いたのだろう。
アレイスターの背後の宙に磔にされ、だらりと力なく頭が垂れ下がっている上条当麻。
更にエイワスからの光の根が絡まりついてるのを見て。
一方『―――答えろ!!何をしやがったッ?!』
放たれる強烈な圧を帯びた怒号。
アレイスター『―――』
答えを見つけた、と。
この少年は今、一方通行という人格で確かにそう口にした。
その言葉が発された時点で、
その意味を探る必要はもう無かった。
答えは、今のこの状況がはっきりと明示していたのだから。
一方通行と言う人格は何らかのイレギュラーで復活し、
その力と魂と器の支配権を取り戻したのだと。
更にミサカネットワークを独立させて、打ち止めと妹達をも己の保護下にして。
アレイスターはこの現実を、信じ難くも認めざるを得なかった。
緻密に慎重に築きあげてきたプランの大柱の一本が、
ここにきてあっけなく崩壊したのだと。
一方『……おィ。上条に何をした?』
正常な認識に戻りようやく気付いたのだろう。
アレイスターの背後の宙に磔にされ、だらりと力なく頭が垂れ下がっている上条当麻。
更にエイワスからの光の根が絡まりついてるのを見て。
一方『―――答えろ!!何をしやがったッ?!』
放たれる強烈な圧を帯びた怒号。
277: 2011/11/06(日) 23:11:18.67 ID:7wFHTcxWo
アレイスター『っ……』
強烈な圧迫感の中、その声にアレイスターの『目』は捉えた。
今までの一方通行のものとは違って『陰り』が無い、
腹のそこから噴き上がってそのままの純粋な怒りを。
一方通行はまるで―――上条当麻のように『素直』に怒り狂っていたのだ。
今や少年の思念には付け入る隙が無かった。
アレイスターが今まで植えつけてきた虚栄、幻想、絶望、
そして悲観的な覆いは全て払拭されており、根底に鎮座しているのは確たる自己意識だ。
一方通行と言う人格には、もう如何なる精神攻撃も効かない。
刺激を与えられたとしても、その結果はもう予測できる範囲のものでもない。
今までのやり方は通用しなくなっていた。
アレイスター『………………』
その現実が、アレイスターにとてつもない焦燥となって襲い掛かる。
熱を帯びる呼吸、加速する鼓動、アドレナリンが分泌されて覚える寒気と筋肉の震え。
ダンテやバージルに覚えたこの言い知れぬ恐怖を、ここでまた、それもまさか一方通行相手に―――。
―――だが。
その一方で彼は、
別の自分がこの状況で快感を覚えているのも認識していた。
278: 2011/11/06(日) 23:13:03.70 ID:7wFHTcxWo
それは60年以上前に『敗北』してから封印した『人間性』。
プランの担い手である以前に、
魔術師であり戦士であり挑戦者であった頃のエドワード=アレグザンダー=クロウリー。
追い詰められた究極の状況下にて、
思考がいつもとは比べ物にならないほどに飛躍し、ありとあらゆる力が漲り、
不可能なことなど無いように思える感覚。
そして、本当に不可能を実現するとてつもない力にもなりうる衝動。
だが。
一方でそれは、代償として―――何もをも失う結果にもなりかねないこともある。
故にアレイスターはこの弱き人間の性を『憎み』そして封印したのだ。
確証も確実性も無い―――『希望』なんて幻想は。
なにせ本当に一度、
これを信じたせいで掛け替えの無い存在を全て奪われたのだから。
アレイスター『―――』
しかし眼前の状況下では、もうそんなことも言ってはいられなかった。
管理から人間性を排した緻密なプランは今崩壊し。
残された手段は、
このイレギュラーな衝動任せの『アドリブ』だけだったのだ。
279: 2011/11/06(日) 23:18:47.96 ID:7wFHTcxWo
そうしてアレイスターは再び。
もう一度。
もう一度、その憎き人間的な衝動に身を任せて、状況の解決を試みる。
今眼前にある問題は、まず一方通行をどうやって制圧するかだ。
精神面からの刺激はもちろん、
小細工も通用しないとなれば今や方法は一つ。
強制的手段によって捻じ伏せるだけだ。
ただそれは先に証明した通り非常に困難だ。
エイワスの全力を投じようが、正攻法で挑めば確実に力負けするのだ。
さらに一方通行に知性が戻っている以上、その困難さは先よりも更に増している。
一方『―――おィ!!なンとか言ェやクソッタレ!!』
たが一つ。
一つだけ、それを覆す一手がまだアレイスターの方にあった。
一方通行は今すぐに、
確実にこちらの肉体を制圧しにかかってくるだろうが、絶対に頃しなどはしない。
上条当麻がこちらの手中にあるのだから。
己を取り戻し精神が正常に戻ったおかげでアレイスターの支配から抜け出した一方、
彼はアレイスターをそう易々と殺せなくなってもいたのだ。
280: 2011/11/06(日) 23:22:33.29 ID:7wFHTcxWo
それだけじゃない。
上条当麻は、今や覚醒を待つだけの段階である―――竜王の顎でもあるのだ。
そこを踏まえてアレイスターは、ここで一つの打開策を組み上げた。
それはプラン上では全く想定していなかったタイミングと運用法。
いかに確実に思えるとはいえ、そう『思うだけ』で、
実際それはイレギュラーなアドリブであることには変わりなく、
ここまでプランが崩壊していなければ絶対に手を出さない策ではあるが。
彼にとっては、これしか選択肢が見出せなかった。
その策の内容は単純。
覚醒させた竜王の顎で一方通行を丸呑みにするのだ。
ただ、丸呑みにする前に全力で応戦されてしまったら、やはり勝ち目は無い。
確かに竜王の顎の許容はまさに『無限大』。
スパーダや魔帝ほどの存在でも、さらには魔界丸ごとであっても、
力の強弱規模関係なく、理論上は存在そのものを腹におさめることができる。
ただし。
それらが『無抵抗』のまま飲み込まれてくれた場合だけだが。
もし魔帝を飲み込もうとしても、その前にあっさりと一撃で滅ぼされるであろう。
更に現状、エイワスと統合して『生』に転換した『程度』の竜王の顎では、
一方通行と正面から挑むのがきわめて無謀なのも変わらずだ。
しかし、それはあくまで一方通行が全力で抵抗したらの場合。
そしてそんな事、彼が彼のままであったら不可能なのだ。
竜王の顎を破壊する、つまりは上条当麻を頃すことなど絶対に。
打ち止めも妹達も手中から失った今、
アレイスターの手の中に残る、まさに唯一の一方通行の『弱み』なのだから。
281: 2011/11/06(日) 23:24:35.92 ID:7wFHTcxWo
その刹那。
アレイスター『―――』
アレイスターは成すすべなく、その場の床に仰向けに打ち倒された。
一瞬にして距離を詰めてきた一方通行によって。
いや、もはや抵抗しようとしても一切できなかったであろう、
それほどの差が両者の間に存在していた。
一方通行は彼の首の付け根を踏みつけながら見下ろして。
一方『―――いィ加減にしやがれ!!』
アレイスター『……』
これまた強烈な威圧感と殺意を覚えるが、
その声を最も占めているのはそんな負の感情よりも上条へ対するもの。
優しい。なんと素直で純真で優しき少年か。
そんな一方通行の本来の人間性が。
一方『―――何をしやがった?!あァ゛?!』
こちらの勝機となるのだ。
アレイスター『―――何をしたか?その目で直接見るといい』
そうしてアレイスターは手を下す。
彼の意識内の命令が飛び―――竜王の顎が『覚醒』。
遂に『氏』から『生』へと転換し―――その鼓動が再び打ち紡がれる。
それはイレギュラーに対抗するために下した、
彼が自ら選択した半世紀ぶりにして最後であろうイレギュラー。
そんな彼の苦渋の決断は決して無駄ではなく、
まさに一方通行に対する最高の1手である―――。
―――はず―――であったのだが。
282: 2011/11/06(日) 23:30:24.71 ID:7wFHTcxWo
唐突に響く。
エイワス『――――――なんだ。やれやれ、もう少し「楽しませてくれる」と思っていたのだがな』
場違いなまでに淡々とした声。
一方『っ!!』
その不意の声に、勢い良く顔を挙げて警戒の色を示す一方通行。
だが誰よりもその亡霊の声に驚いたのは。
アレイスター『―――ッ』
アレイスターだった。
エイワス『君には今までのやり方を貫いて欲しかったが。ここでそんな外法に頼るとはね』
アレイスター『―――なッ』
なぜエイワスが喋っている?
竜王の顎が覚醒し統合された時点で、エイワスと言う亡霊の思念体は消え去るのに。
それも一体―――何を喋っている?
エイワス『やはり因果に見放された子には、この障壁はさすがに無理があったか』
しかし事態はそれだけに留まらなかった。
この場の状況の全ての主導権が、遂にアレイスターの手から完全に離れていく。
次に続いた言葉は。
『『―――興醒めしたよ。エドワード』』
エイワスのものだけではなく、
宙に磔にされていた―――
一方『おィ―――か、かみ―――?』
上条当麻の口からの声も重なっていた。
283: 2011/11/06(日) 23:33:47.09 ID:7wFHTcxWo
上条、一方通行はそう呼びかけたも、彼はすぐにその口を閉じた。
彼もまた、その異質な存在に気付いたのだろう。
喋っているのは―――上条当麻ではない、と。
アレイスターと一方通行。
それぞれがそれぞれの立場から、この異様な事態をなんとか見極めようとしている中。
『『ただ、それでも君は称賛に値する男だ。そして礼を言おう。良い暇つぶしとなり、そして―――』』
謎の存在は言葉を続けていく。
それも徐々に、その平坦な声にせせら笑うような色を滲ませつつ。
と、ここでようやくだった。
エイワスの像が上条当麻の体に重なるようにしては消え、その存在が竜王の顎に統合されていく―――のだが。
『―――蘇らせてくれたのだからな』
思念は明らかにそのまま存続していた。
『この―――「俺様」を』
一方『―――ッ!』
『俺様』、その特徴的な声色で発された一人称を耳にして、一瞬にして凍りつく一方通行。
そして同じくしてアレイスターも。
いや、彼は一方通行以上にその声に衝撃を覚えていた。
その『目』ははっきりと、上条の口から漏れる声の思念を認識していたのだ。
『相手』は隠そうともせず、挑発するかのように声に己の証拠を載せていたのだ。
284: 2011/11/06(日) 23:36:22.78 ID:7wFHTcxWo
だが。
そこまではっきり示されていてもその身分は。
アレイスター『何者―――だ―――?』
こうして直接目にしていても尚、到底信じられるものではなかった。
まさに悪い夢を見ているとしか。
アレイスター『―――誰だお前は?!』
認められるわけがない。これが現実なんて。
目覚めたのが、竜王の顎『だけ』では―――『無い』なんて。
アレイスターは放った。
この『ふざけた事態』向けての、混乱と憤怒が混じった怒号を。
アレイスター『―――誰だ?!何者だ―――答えろォォォッ!!!!』
一方通行の足の下から放った。
すると。
『全く、この俺様がわからんのか?』
突然乾いた破裂音が響いては、宙の拘束が解けて上条当麻の体が―――。
―――いいや。
床に降り立つ前にはもう、その体は『上条当麻』ではなかった。
286: 2011/11/06(日) 23:42:23.29 ID:7wFHTcxWo
燃える夕日のごとき光が一瞬溢れ、その体を包みこみ。
そして光の中から床に優雅に降りたその姿は―――。
光と同じ色をした髪に、端整な中性的な顔。
その細身に着ているのは、同じ色彩の独特な意匠のスーツ。
一方『――――――ンなっ……ウソ……だろ―――なンでオマエが―――』
その姿を見て絶句する二人。
だが、現れた男はそんな彼らと対照的に。
『まあ良い。誤解も無いよう、改めて―――劣等種のお前達でも理解できるように自己紹介してやろう』
揺ぎ無い自信と力に満ち溢れる声を発しながら、
その面をゆっくりと上げて。
カ ル コ ス
『平伏せ―――下賤の「青銅の子」らよ―――』
炎ごときゆらめく、黄昏色の光を仄かに纏わせて。
圧倒的なまでに堂々と、そして神々しくまでに『尊大』に。
名乗り、そして同時に宣言する。
『我が王号は「人王」にして――――神号は「 竜 」』
暴虐なる人界の『古王』の復活と。
『そして全宇宙、因果の新たな主に成る――――――「唯一にして全て」』
第二の『創世主』へと成る者の誕生を。
『―――我が真名を魂に刻め。今宵から全宇宙の不変の真理となる言霊を―――』
『その輝きは、旧世界を焼き払う黄昏の光であり―――新世界を鋳造する暁の光』
フィアンマ
『その響きは―――――――――「 焔 火 」だ』
―――
308: 2011/11/10(木) 00:41:48.77 ID:YXw5gbk1o
―――
アグニ『ダンテ。まだ待つのか?』
ルドラ『ダンテ。まだ動かないのか?』
プルガトリオ、学園都市を映し出すとある階層にて。
ビルの壁面にしがみ付きながら、その双子の大悪魔は屋上にいるダンテに問いかけた。
もし彼らの肉体に頭部があれば、
ダンテから見てちょうど淵から突き出ているように見えるだろうか、
小さな子供が覗き込んでいるような姿勢だ。
もちろん、その筋骨隆々とした巨体を抜きにした場合の例えだが。
ダンテ「ああ。待つ」
落ち着かない双子にさらりとそう返す、足組み寝そべるダンテ。
彼らとは対照的に、静かに目を閉じているその佇まいは、
今にも寝入ってしまうのではというくらいにリラックス状態だ。
アグニ『いつまでだ?』
ダンテ「さあな」
ルドラ『わからないのか?』
ダンテ「ああ、わからない」
309: 2011/11/10(木) 00:43:00.59 ID:YXw5gbk1o
アグニ『……』
ルドラ『……』
簡潔明瞭に即答され沈黙する双子。
その肉体に頭部は無く声のトーンも一定、
彼らの本体である魔剣の柄先の顔も見えないとなれば、その感情を読み取るのは難しい。
ダンテ「……」
だがある程度この双子と過ごせば誰でもが、
そんな無表情な彼らの感情を読み取ることができるようになる。
いや、厳密には読み取るのではなく『推測』か。
彼らはとても単純なのだ。
思考は常に直線的で、ダンテほど近しくなれば
その行動どころか次の一語一句までほぼ完璧に予想できる。
ダンテ「…………」
故にダンテは彼らの『おしゃべり』が耐え難い。
ろくに意識せずとも簡単に一語一句正確に予測してしまって再生し、
一歩遅れて本物がこだまのように同じ言葉を発する。
それのなんと、なんと騒々しいことか。
そんなやかましい合唱を防ぐに最も有効なのは、
彼らの単純な思考が話を拡大させていく前に、きっぱりと明言して出鼻を挫く。
つまり今のように受け答えすることだ。
310: 2011/11/10(木) 00:43:54.15 ID:YXw5gbk1o
確かに付き合いが悪い態度ではあるが、
アグニ&ルドラ相手にはこのくらいがちょうど良い。
それにただ聞き流してわけではなく、
質問に対しては本当の事を返している。
アグニ『何を待っているのだ?』
ルドラ『何が来るのだ?』
ダンテ「さあな。わからない」
これも嘘ではない。
いつになったら何が来るのか、ダンテもわかってはいないのだ。
ただ。
その『何か』こそが、
この筋書きの核への入り口になることは確信していた。
ネロが魔剣スパーダを折ったことで、この『クソッタレな筋書き』はより雑に、
『本線』が浮き彫るになるのも躊躇わないくらいに大胆な『修正』をかけてくるはず。
塞き止められた水が溢れ支流を作るかのように、必ず別の形で莫大なストレスが噴出す。
その噴火口に飛び込み、突き進んだ先にこそ―――ぶっ壊すべき『何か』があるのだ。
311: 2011/11/10(木) 00:45:17.88 ID:YXw5gbk1o
そして噴火は今や秒読み段階。
ダンテ「―――」
瞬間、ダンテは異様なざわつきを覚えて跳ね起きた。
今までには無い衝撃が電撃のように全身を走ったのだ。
それは彼のような領域、『筋書き』の存在を認識した者にだけ聞こえる、
この現実と呼ばれる『生』の世界が軋む音。
筋書きの『修正』が開始される音。
たった『今』、その始点として『何か』が『どこか』に現れたのだ。
その衝撃はもちろん他の超越者達にも到達していく。
魔界の深淵。
煉獄にて作業の傍ら、互いに顔を見合わせる―――。
バージル『…………』
ベヨネッタ『…………』
―――最強の魔剣士と最強の魔女。
そして。
プルガトリオの魔界に近い階層にて。
ネロ「……何だ……今のは……?」
アリウスを倒した後、
アスタロトの軍勢の残党狩りを再開していた『最強の人間』にも。
312: 2011/11/10(木) 00:47:55.14 ID:YXw5gbk1o
そうしてダンテは立ち上がり。
ダンテ「ハッ―――ハッハ!!」
鋭い笑い声を発しながら、
確認するかのように両手両足の魔具と魔銃を軋ませる。
これまでは準備体操、さあここからだ、と。
巨大な流れは今、重要な局面を迎えたのだ。
それは最終ステージへと繋がる大きな布石。
『筋書き』と複雑に絡み合っているスパーダの血の宿命と、バージルの判断と魔女達との行動、
対する己の考え方とネロの選択。
そして今現れた―――『何か』。
役者と舞台は全て揃った。
ダンテ「―――トリッシュ!!準備は良いか?!」
この先には一体、
どんなクソッタレな展開が待ち受けていることか。
繋がりの向こうで見ている相棒へ声を飛ばしながら、
ダンテは嬉々としてビルから飛び降りた。
―――
313: 2011/11/10(木) 00:49:12.28 ID:YXw5gbk1o
―――
ミ カ エ ル
上条当麻は戦慄していた。
この身その魂の主導権を握る人格―――豪胆かつきわめて聡明な王を。
なぜ上条は戦慄しているのか。
それらの特徴を有しているのならば『優れている王』の範囲では、と普通は捉えられるであろうが。
実は王の特徴はそれだけでは無く、以下のことを更に有していた。
―――欲深く、嫉妬深く、傲慢で、倫理観は完全に欠如―――。
すると賢王は一転、『知性豊かな暴君』という最悪の君主像となり。
ここにもう一つ、『無邪気』というある特徴を加えると。
誰しもが戦慄する暴虐の君主、竜王となる。
かの暴虐なる王は、知性と力を持った『子供』そのものだった。
彼は崇高な目的意識など有してはいない。
更なる力の入手や勢力拡大といった、具体的な願望も無い。
彼の行動を掌握しているのは、ただ純粋な―――『娯楽欲』だ。
そしてとことん無邪気であるが故に、
それは今の人間の価値観からすれば常軌を逸しているほどだった。
興味惹かれ意外性があり刺激が強ければ、『何でも』構わないのだ。
ミ カ エ ル
上条当麻は戦慄していた。
この身その魂の主導権を握る人格―――豪胆かつきわめて聡明な王を。
なぜ上条は戦慄しているのか。
それらの特徴を有しているのならば『優れている王』の範囲では、と普通は捉えられるであろうが。
実は王の特徴はそれだけでは無く、以下のことを更に有していた。
―――欲深く、嫉妬深く、傲慢で、倫理観は完全に欠如―――。
すると賢王は一転、『知性豊かな暴君』という最悪の君主像となり。
ここにもう一つ、『無邪気』というある特徴を加えると。
誰しもが戦慄する暴虐の君主、竜王となる。
かの暴虐なる王は、知性と力を持った『子供』そのものだった。
彼は崇高な目的意識など有してはいない。
更なる力の入手や勢力拡大といった、具体的な願望も無い。
彼の行動を掌握しているのは、ただ純粋な―――『娯楽欲』だ。
そしてとことん無邪気であるが故に、
それは今の人間の価値観からすれば常軌を逸しているほどだった。
興味惹かれ意外性があり刺激が強ければ、『何でも』構わないのだ。
314: 2011/11/10(木) 00:51:26.08 ID:YXw5gbk1o
喜びなどといった快楽は当然、
怒りや悲しみ、恐怖といった絶対的な負の感情、
更には己の氏でさえ、彼にとっては娯楽欲を充足させる『嗜好品』。
怒りや恐怖を抱かないというわけではない、
彼らもまた、生命の危機に瀕したり圧倒的な存在を前にすれば、その顔を引きつらせて恐れおののく。
そんな負の感情を彼らは娯楽として認識し求めるのだ。
俗な表現をすれば、とんでもなく恐ろしいホラー映画を見て怖がりたがるようなものか。
これだけならば今の人間にだって良くある傾向で、特におかしなものでもないが。
その娯楽を空想虚像ではなく、現実に『際限なく』求めるとなれば間違いなく異常であろう。
フィアンマという人間として、戦い、そして学園都市で予期せぬ敗北を味わったのも、
彼の根底の思念にとっては『意外性のある刺激的な展開』なのだ。
そんな狂った価値観と聡明な思考が組み合わさればどうなるか、その結果は自明の理だ。
問題を十二分に理解しながら、解決しようとはせずに更に効率よく油を注ぎ、
更なる『刺激的』な出来事を引き起こそうとする。
竜王は愚鈍ではない。
己にどうしようも無いほど酔狂していながらも、決して盲目ではない。
現実は嗜好品の塊、故に周囲にある小さなありとあらゆる存在が、彼の娯楽になり得るのだ。
瞬間の己の一挙一動、更には仄かな一風から雨の一雫までも。
彼は己の根底にある『娯楽欲』に忠実に従い、その力と知能をもって周囲全てを『嗜好品』にしようとする。
少し見方を変えれば―――『機械的』とも言えるくらいに。
315: 2011/11/10(木) 00:53:44.21 ID:YXw5gbk1o
かつては、魔界による侵略が目前に迫っても尚、
圧倒的な魔の力に恐怖し絶望する、それも『楽しみ』。
カ ル コ ス
最下層の人間、『青銅の種族』の中から魔女・賢者という集団が台頭してきた際も、
彼らの力が巨大化するまで敢えて放置し事態を複雑化させて『楽しみ』。
魔界に抗うどころか敢えて優柔不断な姿勢でその綱渡りを繰り返し、
更に状況を悪化させて、それによって生じる人々の苦痛や争いを『楽しみ』。
そしてその先にある滅亡をもすら『楽しもう』とした―――狂気の王。
だが当時の人間界内における価値観では、
そんな竜王の人格も別段異常なものとしては特に認識されてはいなかった。
竜王とは、太古の人間界のあらゆる面を凝縮し抽出した『パンドラの箱』的存在。
つまりこの竜王から垣間見えるは、
天界によって解放される前までの『本当の人間界』の姿。
当時の人間界の中では、秩序だって明確な目的を掲げた魔女や賢者の方が異端であり、
他の大多数の神族は、竜王ほどでは無いにしてもこのような『狂った』価値観のもとに動いていたのだ。
そんな当時の人界が、天界の目にはどう映るか。
それはまさに狂気に満ち溢れた世界だ。
天界の価値観からもってすれば、
その世界は目を覆いたくなるほどに何もかもが狂っていた。
魔界が『暴力』ならば、人界は『混沌』の世界だった。
316: 2011/11/10(木) 00:56:54.67 ID:YXw5gbk1o
善悪、正否、白黒を明確にしようとする天界にとって、
その情景は魔界以上に見るに耐えない世界であった。
故に天界はそれを問答無用で『悪』と断じ、武力介入を決意し、そうして一人の戦士が―――。
ミ カ エ ル
―――上条当麻がその任の要となり竜王に挑むこととなった。
混沌に苦しむ下層の人間達を解き放つ、その大義の下に。
無論、後世の人類にとってもその存在は『悪』にほかならない。
天界によって界の基盤を再構築され、
天の倫理観・価値観の元に現代世界は成り立っているためそれは当然である。
また現生人類は、魔女賢者から一般人までその全てがかつて虐げられていた最下層の人間、
『青銅の種族』の末裔であるのだから、例え天界に植えつけられた倫理観が無くとも、
古の神族が絶対的にして永遠の『悪』であることには変わりないのだ。
それは決して災害なんかのような、『仕方ないもの』ではない。
苦痛・絶望・氏を楽しむために求めて、そして無邪気に笑う。
それを最下層の人間から見て『悪』以外に何と呼べるのだ。
己が負の感情や氏までをも娯楽と判定する、そんな機械的な―――ただ『純粋な悪』、それ以外に何と。
317: 2011/11/10(木) 00:59:06.64 ID:YXw5gbk1o
ミ カ エ ル
故に上条当麻は戦慄する。
そんな古王の復活に。
楽しむために人間界を潰すのも厭わなかった竜王が、
創造、具現、破壊、その三つ創世主の因子を有して再誕することに。
それがどれだけ危険なことなのか。
三つの因子を統合し、かの創世主に並びそして超える『真の全能』と成った時。
この怪物は、全ての現実をどんな『嗜好品』に換えてしまうのだ?
ミ カ エ ル
そして上条当麻は絶望し、憤怒した。
絶対に力が渡ってしまってはならない者に、究極の力が集ったこの皮肉な現実に。
一体何の『因果』でこんな―――こんな上手い具合に『最悪の展開』になるのだ、と。
「―――」
と、そう上条当麻の思考が至った―――その瞬間だった。
三つも創世主の因子を有したからか、『彼』はそこで認識してしまう。
フィアンマ
竜王がその領域に到達するということは、一心同体である彼の思念もまた同じく。
本来、何人も知ることの無い存在を上条は知ってしまうこととなった。
『現実』を構成する因果の連なり、それを支配する―――『筋書き』を。
318: 2011/11/10(木) 01:00:46.22 ID:YXw5gbk1o
それは、いち個体の何者かの意志によるものではなかった。
無数の者の願望が集っては流れを形成して、
誰かが統率せずとも同じ方向へと向かう大河。
川筋を決められるジュベレウスが存在しない今、
その流れを支配しているのは、全宇宙、無数の生者の『無意識下』の本能的思念だ。
とはいえ、その集合体は明確な方向性を定めることは無い。
それぞれ世界やその中での立場でまさに千差万別で、統一など成されるはずもない。
その無数の願望の中で特に共通すること、
それが更に単純化されたものが、その時その時の流れの向きを決定していく。
そして今、ジュベレウスも魔帝も滅びこの混迷きわまる情勢。
先の見えない不安の中における流れの向きは。
―――三度、『絶対的英雄』を求める。
一度目、魔界とその他全ての世界の間で行われた、終わりの見えない戦争の終焉させる英雄を。
二度目、他全ての世界を飲み込む勢いの魔界の拡大、それを終焉させる英雄を。
そうして今もまた同じく、この『不安定な状況』を終焉させる英雄を。
「―――」
その英雄とは誰か。
それはもちろん―――スパーダの血族だ。
319: 2011/11/10(木) 01:05:06.13 ID:YXw5gbk1o
誰しもがそう考え、そう望む。
上条自身も例外ではなくそう願う一人だ。
ダンテ、バージル、ネロ。
皆が皆、彼らスパーダの血に絶対的な英雄性、
もしくはいかなる存在にも打ち勝つ最強性を、彼らの姿に見ているものだ。
人界側の者達にとってはもちろん、
他の世界の者達からしても、魔界の拡大を防ぎ魔帝覇王を打ち倒した英雄の血族であり。
魔界の者達からしてみても、
裏切りに対する怒りよりも前にまずスパーダの力への最強性の認識と、それへの崇拝があった。
だからこそ、裏切られたことに対して異常なまでの怒りを覚えるのだ。
―――そう。
これが、この『最悪の展開』が生み出された原因だった。
どの世界の者達のの願望にも共通している点は、
スパーダ血族の英雄がここでまた躍り出て、
『どういった形』であれ、この混迷する状況を終焉させること。
つまりは、いかなる思いであれ、今この状況において『全ての意識』がスパーダの血族に集中しているのだ。
―――そんな願望は、『願望のまま』であったのならば特に問題は無かった。
こうして上条当麻が衝撃を受けることも無い。
しかし実際は、願望はその範囲には留まらず一人歩きして。
絶対的な影響力を有する『筋書き』となって現実に作用していたのだ。
このように。
英雄を、絶対的な英雄たらしめるためには――――――小さな希望の欠片一つすらない『絶望の舞台』と。
―――『最強の敵』が存在しなければならない―――、と。
320: 2011/11/10(木) 01:08:09.70 ID:YXw5gbk1o
「―――」
ミ カ エ ル
上条当麻はこの筋書きの存在に只ならぬ恐怖を覚えて拒絶する。
その『筋書き』とは、もう理解を超えてしまっている概念域だった。
それまでの価値観を持ち出すのも場違いな領域であるため、
これが正しいのか間違っているのかも判断がつかない。
しかし。
ありのままの上条当麻の感情だけは、素直に―――きっぱりとこの筋書きを拒絶した。
ふざけんな―――んなもん納得できるわけがねえ―――何余計なことをしてやがる、と。
『どうしようもないからこそヒーローを求める』のと、
『ヒーローを出すために世界をぶっ壊しにかかる』はまるで意味が違うのだから。
ただそんな上条当麻に対して、『もう一人の彼』は真逆の反応を示した。
フィアンマ オ モ チャ
筋書きは『 竜 王 』にとっては―――最高の『嗜好品』に見えたのだ。
『―――我が真名を魂に刻め。今宵から全宇宙の不変の真理となる言霊を―――』
彼は知っていながら。
『その輝きは、旧世界を焼き払う黄昏の光であり―――新世界を鋳造する暁の光』
あえて筋書きに沿い、
むしろこの騒乱をより複雑に、かつ巨大化させようとする。
フィアンマ
『その響きは―――――――――「 焔 火 」だ』
なぜか、それはもちろん、
こうして乗りに乗ってその『役』になりきっている通り。
筋書きに沿った方が――――――――――――『楽しそう』だから。
理由はただそれ『だけ』だ。
―――
342: 2011/11/13(日) 03:05:12.57 ID:xxUCz63jo
―――
一方『何しやがった?!何をッ―――』
皆で倒したはずのあの男の姿を目にして、一方通行はアレイスターに詰め寄った。
足蹴にしていた彼の体をベクトル操作で宙に放り、
その胸倉を黒き腕で掴みあげて。
一方『―――なンであのカマ野郎が?!上条はどォした?!アイツはどこに行った?!!』
乱暴に揺さぶりこの理解し難い状況の説明を求めるも。
一方『―――答えろアレイスターァァァッ!!』
アレイスターは呆然としたまま。
瞬き一つせずに目を見開いては、あの中性的な男を見つめ続け、
まるで一方通行の言葉など届いてはいない様子だった。
そんな時。
『―――上条当麻ならここにいるぞ』
『ご親切』にそう告げてくる高慢な声。
一方通行はアレイスターの胸倉を掴みあげたまま、その声の源へと顔を向けた。
一閃するかのごとく鋭い視線を飛ばし、横目に睨みつけて。
その視線の先4m程の位置、そこには例の中性的な男。
一方通行の鋭い視線に彼は不敵な笑みを返し、己が胸に指先を当てこう言い放った。
『―――俺様が上条当麻だ』
一方『何しやがった?!何をッ―――』
皆で倒したはずのあの男の姿を目にして、一方通行はアレイスターに詰め寄った。
足蹴にしていた彼の体をベクトル操作で宙に放り、
その胸倉を黒き腕で掴みあげて。
一方『―――なンであのカマ野郎が?!上条はどォした?!アイツはどこに行った?!!』
乱暴に揺さぶりこの理解し難い状況の説明を求めるも。
一方『―――答えろアレイスターァァァッ!!』
アレイスターは呆然としたまま。
瞬き一つせずに目を見開いては、あの中性的な男を見つめ続け、
まるで一方通行の言葉など届いてはいない様子だった。
そんな時。
『―――上条当麻ならここにいるぞ』
『ご親切』にそう告げてくる高慢な声。
一方通行はアレイスターの胸倉を掴みあげたまま、その声の源へと顔を向けた。
一閃するかのごとく鋭い視線を飛ばし、横目に睨みつけて。
その視線の先4m程の位置、そこには例の中性的な男。
一方通行の鋭い視線に彼は不敵な笑みを返し、己が胸に指先を当てこう言い放った。
『―――俺様が上条当麻だ』
343: 2011/11/13(日) 03:07:47.12 ID:xxUCz63jo
からかっているのか、と。
常識の範囲内ならばその言葉を聞いて一蹴するであろうが。
たった今あの男の一連の登場の仕方を見、
その力の動きも観測した一方通行にとっては、ただの妄言なんかには到底聞えなかった。
一方『―――…………』
そう言い放ったあの男は、こちらの言葉を待っているのか、
高慢さが滲む薄ら笑いを浮べたまま黙っている。
一方通行は一度大きく深呼吸しては興奮した気を沈め。
アレイスターを、あの中性的な男とは反対の方向に放り捨てるように降ろして。
一方『…………フィアンマ、つったか?オマエの中にアイツがいるのか?』
今度こそその身も振り向かせて、正面から向かい合った。
と、そこで彼が放った声、その問いの内容よりもまずは『呼び方』に引っかかったのか、
相手は露骨に不機嫌そうな表情を浮べてこう続けた。
『フィアンマ、か。確かにそれは俺様の今の真名ではあるが』
『お前のその言霊は、「青銅の種族」として生きた最後の一世しか指していない』
もはや面目など気にならないであろう、
聞いている方も清々しくなるほどに突き抜けた酔狂っぷりで。
『真の俺様を指すのならばこう呼べ。「焔竜神王フィアンマ」、と』
一方『はッ……相変わらず口が減らねェ野郎だ。いンや、それどころかウザさ五割り増しか』
竜王『フン、まあ、「竜王」でもいい。お前等の乏しい記憶力でもこれならば大丈夫だろう』
344: 2011/11/13(日) 03:09:39.72 ID:xxUCz63jo
一方『……知るか。オマエの「ただしいおなまえ」なンざどォだっていいンだよ』
一方『それよりも質問に答えてくれねえェか?竜王さンよ』
嫌味を篭められても一応『竜王』と呼ばれたことに満足したのか、
竜王は再び笑みを浮べながら「そうだったな」と髪を掻きあげて。
竜王『俺様の中にいる、という考え方は少し間違っている』
竜王『俺様が上条当麻、その言葉のまま受け取ってくれ』
一方『あァ?』
竜王『大昔にちょっとした事があってな。その際に彼と同化してしまったのさ』
竜王『その頃から俺様達は「同一人物」であり、この「青銅の種族」として生きた千世代の間が「片割れ」同士であっただけだ』
一方『…………』
竜王『だから、上条当麻を構成していた人格は俺様自身でもあるのだ』
一方『―――オマエそのものが上条当麻だァッ?』
とそこでこれ以上言葉を続かせないとばかりに、
耐えかねた一方通行が強く声を発した。
竜王の言葉は、どうやっても納得できないものだ。
竜王がもし上条の姿のままであっても、これだけは間違いはしない。
この竜王という人格が、
己の知っている上条当麻という男であるわけがない、明らかに別人だ。
345: 2011/11/13(日) 03:12:51.92 ID:xxUCz63jo
一方『―――黙って聞ィてりゃ好き勝手言ィやがってよォ』
その下種な姿と口、そして明らかにあの『フィアンマ』として覚えている人格が、
己が上条当麻だと自称するのは不愉快極まりない。
竜王『おいおい、そんな言い方は無いじゃないか。インデックスを取り戻すために「共」にバージルに挑んだ仲だろう?』
一方『………………………………おィ。いい加減にしろよ』
インデックスを攫おうとした人格が、インデックスを守った男を自称するなんて。
許し難いにも程がある。
そんな風にして怒りに滾る一方で、彼は冷静にこの竜王の言葉も分析していた。
竜王の声、表面的な言葉には真実も含まれているのであろうが、
その根底にある意図は明らかに『冷やかし』だ。
挑発し茶化しているだけ。隠そうともしていないので明らかだ。
ここから更にこちらを逆撫でするために、誇張や嘘を平気で混ぜてくるとも考えられる。
となれば。
この竜王の声は今、真剣に耳を傾ける価値など無いに等しい。
そこから上条を『取り戻す』方法のヒントを得るのは困難だ。
そうして状況を分析した彼の考えは、このような結論に至った。
やはり―――まずはアレイスターから聞くしかない、と。
それはつまり。
一方『……チッ……』
なんと『胸糞悪い』展開か。
アレイスターはまだ『頃すわけにはいかない』。
この背後にいるどれだけ憎んでも憎み足りない『クソ野郎』を―――『絶対に守らなければならない』ということだ。
346: 2011/11/13(日) 03:15:01.79 ID:xxUCz63jo
そして同じく。
これまた癪なことに、この竜王を頃すことも出来ないのだ。
上条とフィアンマが『同一人物』、
それがどんな仕組みで成り立っているのかわからない以上、あの男を頃すという選択など有り得ない。
一方で、アレイスターを連れてここから離脱するという選択も危険だ。
これまた何もわからない以上、最初から竜王を完全に放置する選択をするわけにもいかない。
今ある選択肢は一つ。
この男をできるだけ傷つけないように素早く制圧すること、それだけだ。
一方『(……クソッタレ)』
なんとも面倒極まりない状況か。
更にこの竜王も、一筋縄ではいかないのは明らかか。
ただの『フィアンマ』として相対した前回とは、人格と表面的な姿形は同じであるが、
同一なのはその点だけだ。
他の要素は全くの別物、規格外もいいとところだ。
こうして対峙しているだけでも、その存在や力の異質さを肌に覚える。
しかもその存在を構成している要素は単一なものではなく、
様々なものが混ざっているように見えた。
一方『……』
悪魔のものから、能力者や己と同じ力の他、
海原から覚えていたまた別系統の匂い、
そしてそれら『三つの系統が融合している』―――独特な上条当麻の匂いも、確かに存在している。
だが最も色濃く、その割合の多くを占めていたのは、
去年の『あの日』、異世界上で繰り広げられた魔帝とスパーダの一族の戦い、
その戦場を満たしていたのと同じ強烈な『匂い』。
そう、魔帝やダンテ達と『同一』にして飛びぬけて圧倒的な力だ。
347: 2011/11/13(日) 03:16:32.67 ID:xxUCz63jo
なぜこの男からダンテ達と同じ匂いがするのか。
その理由なんか想像すらつかなかったが、それでもこれだけはわかる。
この竜王は紛れも無い―――『怪物』だと。
竜王『―――まあ、お前の話は後で聞いてやる』
と、ここで。
気を張り詰めらせる一方通行とは対照的に、これまた潔いくらいに高飛車な表情と声で。
竜王『その前に、「彼女」と話をさせてくれないかな?』
竜王は彼の背後のアレイスターを指差した。
その肉体は『美しい女性』である彼を。
竜王『―――おっと失礼。その「麗しい姿」でついつい』
続けて『わざとらしく』そんな言い訳をして。
竜王『では改めて。そこの「彼」、アレイスターと話をさせてくれないか?』
一方『…………』
その言葉に応じる理由など無かった。
具体的な用件はどうであれ、動機が悪意に満たされているのは明らか。
一方通行は声にしてではなく、その身に纏う張り詰めた戦意で返事を示した。
そんな彼を目にしては、竜王はため息混じりにこれまたわざとらしく苦笑いを浮べて。
竜王『おやおや、お前達はどうしてそうすぐ野蛮な方向に物事を考える?』
一方『隠してるつもりか?プンプン匂ってるぜ。雑な殺意がなァ』
そして次の瞬間。
竜王『なるほど、前回よりも随分と―――感覚が洗練されているようだな』
―――『オレンジ色の光』が瞬いた。
348: 2011/11/13(日) 03:19:38.77 ID:xxUCz63jo
両者の間は僅か4m。
彼らほどの存在にしてみれば、
物理的には『距離』なんて言葉で表すのも馬鹿馬鹿しい程度の空間。
しかしそれは物理的な観点のみの捉えだ。
人界の古王と、人界の新たな王に相応しき領域の者。
そんな両者の圧倒的な力がひとたび放たれれば、
その空間は途方も無く危険で濃密な領域となる。
刹那。
竜王のすぐ頭上の空間から放たれた―――夕日色の光の筋。
一方通行の頭部、ちょうど眉間目掛けて真っ直ぐに伸びていく。
いや、放たれた時には既に『着弾していた』。
見切ることなど不可能とも思えるほどの速度だ。
しかし。
物理領域においてどれだけ速かろうが、例えそれが光速に等しかろうが、
物理領域から飛び出してしまっている今の彼らにとっては大した意味を成さない。
『速い』か『遅い』か、この神の領域でそれを決める要素はただ一つ。
『力のあり方』だ。
どれだけの量を篭められるかのパワー、どれだけ集束させて高密度を維持できるかのテクニック、
そしてその攻撃に的確な『意思』を載せられる精神力と判断力、
それらによって形作られる力によって全てが決まるのだ。
そうして開戦の狼煙たるこの初撃については。
一方『―――』
一方通行に軍配が上がった。
349: 2011/11/13(日) 03:21:46.01 ID:xxUCz63jo
光が着弾したのは、彼が己が顔の前にかざしていた左手の平。
その蠢く闇を貫くことはできず、
光は斜め後方へと強引に向きを変えてられて、壁にバスケットボール大の穴を穿った。
弾きいなされても尚その集束は維持されたまま、
一切の余波も衝撃波も生じさせずに、不気味なまでに滑らかな切り口の穴を。
そのように捻じ曲げた光を横にすれ違うようにして、
一方通行は前へと瞬時に踏み込む。
全身の漆黒の闇から、真っ赤な火の粉を散らしながら―――。
ここで―――距離は3m。
と、それとほぼ同時にして、竜王の掲げた右手先に新たな光が出現、
莫大な力が一気に集束しては、オレンジ色の『光剣』を形成し。
それを手にしては、そのまま振り下ろすべく竜王もまた前へ―――距離は2m。
一方通行はそれを見ては更に姿勢を落とし。
次いで竜王の首元を掴み押さえ込むべく、引いて『溜めていた』右手を―――凄まじい速度で突き出した。
しかし。
この二合目で勝ったのは。
一方『ぐッ―――!』
今度は、振り下ろされた竜王の刃であった。
350: 2011/11/13(日) 03:24:22.69 ID:xxUCz63jo
それは一瞬のタイミングの遅れと、
『速度』を決定付ける力の僅かな甘さが招いた敗北だった。
次の瞬間、一方通行の右手首から先は―――切り落とされていた。
一方『―――』
更に彼の目が捉えるは、竜王の左手に出現していた光剣。
その切っ先はまっすぐにこちらへと向いており、
今にも喉元へと突き上げられる直前だった。
だが。
状況的に必殺であったはずのその三合目は、竜王の思惑通りにいかなかった。
振り下ろされたばかりの竜王の右手、
その手首を一方通行が上から押さえるようにして掴み。
一気に引き寄せたからだ。
―――瞬時に再生させた『右手』で。
竜王の刃、その力の密度は確かに凄まじいものであったが、
一方通行から右手の存在を奪う水準にはあと少しのところで達していなかったのだ。
その右手で一気に引き寄せられ―――両者の距離は1m。
突き上げられた竜王の左の切っ先は、一瞬の差で一方通行の喉を捉えきれず。
彼の耳の後ろ、その黒く変質している髪先を掠り落としていくことしかできなかった。
竜王『―――ッ』
この時の竜王は、左手は振るわれたばかり、右手は押さえ込まれているという状態。
そう、一つの攻撃の失敗が、この無防備な瞬間を生み出してしまっていたのだ。
彼には、周囲からの『光』による対応という選択も確かにあったのだが、
この瞬間を見逃さずにして一瞬にして伸びてくる―――漆黒の左腕には到底間に合うものでは無い。
だが―――かの竜にはまだ別の選択肢があった。
一方『―――!』
その瞬間。
一方通行が掴む彼の右手首が突然、「ばちん」と『弾け切れた』のと同時に。
竜王の体が―――消失した。
351: 2011/11/13(日) 03:27:01.61 ID:xxUCz63jo
それは『前回の戦い』でも多用していた―――『瞬間移動』。
いや、あの時よりも更に洗練されているか、
魔術や能力による『まがい物』ではなく正真正銘の空間移動だ。
竜王は消失しのたと全く同時にして―――彼の背後に出現していた。
その左手の刃で、彼の首を切り落とす瞬間の体勢で。
だが前回とは格が違うのは、一方通行もまた同じであった。
瞬間、彼は一瞬にして今の竜王の行動の把握し。
進化した知覚を最大限に稼動させて、相手の力の動きを感じて、
そこから『飛行先』の先読みを行い―――難なく読み切る。
故に、竜王が飛んだ先で目にしたのは―――翼で弾き上げられ、軌道を逸らされる己の刃。
この闇の主の首を落とすはずだった光剣が、
またしても、同時に屈んだ一方通行の髪先を掠るだけに終り。
次いで、振り向きざまに放たれてきた黒き裏拳が彼の視界を覆った。
竜王『がッ―――』
顔面に拳を叩き込まれ、
足が宙に跳ね上がるまでに仰け反りかえる竜王の体。
だが、彼の体がその莫大な衝撃で吹っ飛んでいくことは無かった。
次の瞬間、彼が弾き飛ばされていくよりも速く。
更に身を翻した一方通行が半ば殴るようにして竜王の胸倉を掴み。
そのまま床に―――叩き落したからだ。
一瞬にして割れて陥没する床、
しかしそこから破片が飛び散る事すら始まらないうちに、
間髪入れずに一方通行の翼が踊り。
そして一気に竜王の全身へと絡まっていき。
竜王をその場に固定し―――制圧した。
352: 2011/11/13(日) 03:28:55.92 ID:xxUCz63jo
圧倒的な力の炸裂によって界が軋んだも、
物理領域まで届いた衝撃は、大地とビル全体をやや強く震わす程度のもの。
床は大きく割れ陥没してしまったものの、顕在化した破壊の跡はそれだけ。
半ばぶっつけ本番で、しかも打ち止めが同じ学区内にいるという状況で、
これほどの力を振り回すことにはいくらかの懸念もあったが、
どうやらほぼ完璧に統制し切ったか。
最初から最後まで力の集束は維持でき、ほとんど余波を生じさせずに済んだようだ。
一方『―――…………ッふゥッ』
腰を落とした姿勢でその竜王の胸倉を押さえ込んだまま、
一方通行はその安堵の意味も篭めて、一区切りを示す息をついた。
そんな彼を見上げて。
竜王『ッは……殻を破ったばかり、その力を到底扱いきれるとは思っていなかったが』
苦痛を滲ませながらも、
未だに不敵な表情のままの竜王が声を放ち。
竜王『十二分に使いこなしているじゃないか。「竜王として」の俺様をここまで圧倒するとは』
そして高らかに叫んだ。
竜王『―――なあエドワード!!本当に良い「駒」に仕上げたな!!』
奥にて、膝をついているアレイスターへと向けて。
竜王『―――その「駒」に守られる気分はどうだ?!はははは!!』
竜王『それも「その体」の「仇」からな!!』
353: 2011/11/13(日) 03:31:47.65 ID:xxUCz63jo
一方『―――』
そんな竜王の言葉が放たれた途端、
一方通行は確かな気配の変化に気付いてその顔を向けた。
アレイスターへと。
瞬間、抜け殻のようになっていた彼の気配に、
いや、それ以前に元から『中身』の無いまるで機械のようなあの男に。
微かに―――ほんの微かに、『生々しい熱』が生じたのを敏感に察知したのだ。
しかもそれはどす黒くて強烈な、
こうして僅かな分だけでも瞬時に把握できる、一方通行が良く知っている『熱さ』。
そう―――『憎しみ』だった。
竜王『これは傑作だ!!聞えているのだろうエドワード!!どんな気分だ?!』
竜王『是非聞かせてくれ!!礼として俺様は「ローズの歯ごたえ」を聞かせてやるぞ!!』
明らかに挑発し侮辱している竜王の言葉、
当事者ではない一方通行ですら耳障りの忌々しい声、それが連なっていくたびに。
竜王『お前の「妻」の魂を引き裂いた俺様の爪から、「駒」に保護される気分は?!ははははは!!』
一方通行ははっきりと感じ取った。
俯いているアレイスターのその背に、全身に、色濃く重なっていく『憎悪』の影を。
今まで一度たりとも、
人間性の欠片も覚えなかったこのアレイスター=クロウリーに。
一方『…………ッ!』
生々しすぎる程に煮え滾った感情を。
354: 2011/11/13(日) 03:33:29.41 ID:xxUCz63jo
―――そして。
その体の仇。
お前の妻。
魂を貪った俺様。
それだけの言葉で、
竜王とアレイスターの間にあった過去の因縁はおおまか予想が付いてしまう。
一方『―――…………つ……ま……』
素直で純真な一方通行、
そんな根が露になっている今の彼としては、絶対に知りたくも無かった過去が。
竜王『知りたいか?聞きたいか?この男の哀れで無様で罪深き所業の全てを―――』
一方通行の反応を見て、ここぞとばかりといった調子でニッと笑い、
これまた明らかに冷やかしの声を放つ竜王。
その時―――これはマズイ、一方通行は瞬時にしてそう状況を分析した。
ここはあのまま『動かないで』いて欲しかったアレイスターが。
面を遂に挙げて―――竜王を真っ直ぐに睨んでいたからだ。
―――その瞳を血走らせて。
竜王『あの男は昔―――』
そして彼は、そう口を開きかけた竜王の言葉を。
アレイスター『――――――――――――黙れ―――』
静かながらも、鋭いその一声で封じた。
355: 2011/11/13(日) 03:34:55.51 ID:xxUCz63jo
竜王『ほお……これはこれは……』
そんなアレイスターの声に、
これまたわざとらしく嬉しそうな声を漏らす竜王。
対して一方通行は真っ直ぐにアレイスターを睨み、強烈な威圧感を放つ。
一方『―――アレイスター。黙ってろ』
しかし。
その制止の声にアレイスターが応じる気配はなく、
床に転がっていた銀のねじくれた杖を手に取り。
一方『やめろ―――止せ』
一方通行が他の翼を大きく広げ、
武力行使の意思を示しても、彼は留まる気など微塵も見せず。
一方『―――おィ、こィつは最後の警告だ』
そして立ち上がった。
その瞬間、容赦なく一方通行の翼が伸び、
アレイスターを再制圧―――。
―――するはずだったのだが。
一方『―――』
伸びていくはずの翼が―――根こそぎ『切り落とされていた』。
いつの間にか周囲の宙に出現していた―――『真っ赤』な光の筋に。
竜王『さてと、そろそろ俺様も―――「新しい力」を試させてもらうぞ』
356: 2011/11/13(日) 03:36:15.03 ID:xxUCz63jo
何が起きたのか。
それを把握するどころか、
こうなる僅かな兆しすら全く知覚出来ず。
一方『―――』
続けて更に間髪入れずに。
彼がわき腹に強烈な衝撃を覚えた瞬間、
その身が一気に吹っ飛ばされてしまった。
何が起き何で攻撃されたのか、彼がようやく知ったのは、
そうして壁に磔にされてからであった。
一方『―――ッかァァァア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!』
腹部を貫通していたのは―――『赤き光の槍』だった。
今の今まで竜王が行使していたものとは明らかに違う、
そして桁外れの力が篭められている凄まじい刃―――。
その刹那。
一方通行の思考は、この『赤き槍』の姿を過去の記憶の中にも見出す。
―――どこかで、どこかで見たような。
いいや、はっきりと覚えている。
あんな代物を忘れるわけも見間違えるわけもない。
あの赤い、赤い光の『矢』。
一方『なッ―――』
去年のあの騒乱の際。
あの異世界の決戦の時―――かの魔帝が使っていた―――。
一方『―――なンでコレをッ―――オマエがァァァァ゛ァ゛ッッ!!!!!!』
ダンテ達に雨のように放っていた―――無数の赤い『光の矢』だ。
357: 2011/11/13(日) 03:38:46.88 ID:xxUCz63jo
響く、苦悶に染まりあがった一方通行の怒号。
そして彼の問いに返されたのは言葉ではなく。
立て続けに放たれた―――同じ六発もの『赤い矢』だった。
それらが一気に、彼の腹、胸、そして首へと突き刺さっていく。
一方『―――ァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!!』
その魔帝の力による激痛と衝撃は、まさに今まで味わったことのないもの。
あまりの刺激に耐えかねた彼の咆哮は、内臓が口から飛び出してしまうか、というまでの勢い。
そんな、磔になっている彼の様子を見て、
竜王『はは、これまた驚いた。馬鹿みたいに頑丈だな』
いつの間にか自由の身になっていた竜王が、呆れがちに笑った。
竜王『これは魔帝の矢だぞ?そこらの大悪魔なら一撃で即氏しかねない代物だ』
竜王『いくら俺様でも、「竜王だけ」としてだったら、立て続けに七発も浴びれば声すら出ないものなのだがな』
竜王『さて……お前に昔話を聞きかせるところだったかな?』
そうして再度、『昔話』を始めようとしたところ。
アレイスター『―――黙れと言っただろう』
またしてもアレイスターがその声を遮った。
358: 2011/11/13(日) 03:44:34.03 ID:xxUCz63jo
竜王はそんなアレイスターの顔をまじまじと眺め、「ふむ」とわざとらしく声を発しながら、
お馴染みの酔狂しきった高慢な笑みを浮べて。
竜王『一端の責任感はまだ健在だったか』
竜王『真の大罪を背負うのは己のみ、如何なる形であれ、他者の記憶に残り偲ばれる事は拒絶する―――』
一方『―――やめろアレイスタァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ!!』
闇や翼をいくら伸ばしても赤き光の筋に切り掃われ、両者には欠片も届きもせず。
その咆哮も、もうアレイスターには届いていなかった。
彼がどれだけ大きく叫ぼうが、憎悪に滾る男の熱は冷めず。
それどころか、ますます激しく荒々しく噴き上がっていく。
竜王『―――そんなところかな、お前のケジメは。全く、非業の魔術師であり親であり夫であり一人の男だな。泣かせるよ』
アレイスター『黙れと言っているのだがこの腐れ竜が。私に用があるのだろう?』
竜王『ああ、そうだ、お前に用があったんだ。エドワード』
一方『―――――――――逃げろッッ!!逃げやがれッッッ!!』
ダメだ、これではダメだ―――上条を取り戻すためには、あの男が必要なのに。
万回頃したとしてもまだ頃したり無い、そんな男でも。
絶対に―――絶対に生きていてもらわなければならないのに。
アレイスター『…………………………………………』
それこそ今この瞬間においては―――打ち止めたちと『同じくらい』に、失ってはならない命であるのに。
一方『――――止せェエェェェ゛ェ゛ェ゛ェ゛!!』
そんな一方通行の叫びも虚しく。
竜王とアレイスターの姿は次の瞬間。
彼の目の前から消失した。
―――
385: 2011/11/17(木) 03:04:26.36 ID:ex0W4kCWo
―――
19世紀末、ある魔術結社に二人の若き魔術師がいた。
片方は物静かで紳士的、もう片方は活発で傲岸不遜と、
その人格は似ても似つかない正反対のものであったが、
一つだけ、彼らの間には『彼ら同士』にしかない共通点があった。
非凡なる頭脳を有していたことである。
これもまた不思議な縁か、
それとも『何か』が明確な意志の元にそうしたのか。
1000年に一人、いいや、その程度では収まらないほどの才が同じ時代に生まれ、
魔術界へと入り、同じ結社に属し、そして肩を並べていたのだ。
そうして、対等に知的共有できる相手が互い以外にはいなかった彼らの間に、
他には無い特殊な関係が形成されるのも当然の成り行きか。
それは実に奇妙な『信頼関係』。
生活スタイルも価値観も、
付き合う人の種類もまるで違うにも関わらず、
彼らは互いを最も理解し唯一の『親友』であり『ライバル』と認め称え合う。
そして互いに理解しきっているが故に相容れず、
彼らの間は常に一定の緊張感で満たされる、というものだった。
それだから、結社の同士達の目にはまさに犬猿の仲に映り、
そんな二人の一触即発の緊張に周囲は常に気をもんでいた。
当の二人にとっては最も気兼ねなく接することができる相手であるのだが、
喧嘩腰に聞える魔術談義が白熱し、実際に殴り合いにまで発展することもしばしばあっては、
周りからは到底『親しく』見えるわけも無いのである。
19世紀末、ある魔術結社に二人の若き魔術師がいた。
片方は物静かで紳士的、もう片方は活発で傲岸不遜と、
その人格は似ても似つかない正反対のものであったが、
一つだけ、彼らの間には『彼ら同士』にしかない共通点があった。
非凡なる頭脳を有していたことである。
これもまた不思議な縁か、
それとも『何か』が明確な意志の元にそうしたのか。
1000年に一人、いいや、その程度では収まらないほどの才が同じ時代に生まれ、
魔術界へと入り、同じ結社に属し、そして肩を並べていたのだ。
そうして、対等に知的共有できる相手が互い以外にはいなかった彼らの間に、
他には無い特殊な関係が形成されるのも当然の成り行きか。
それは実に奇妙な『信頼関係』。
生活スタイルも価値観も、
付き合う人の種類もまるで違うにも関わらず、
彼らは互いを最も理解し唯一の『親友』であり『ライバル』と認め称え合う。
そして互いに理解しきっているが故に相容れず、
彼らの間は常に一定の緊張感で満たされる、というものだった。
それだから、結社の同士達の目にはまさに犬猿の仲に映り、
そんな二人の一触即発の緊張に周囲は常に気をもんでいた。
当の二人にとっては最も気兼ねなく接することができる相手であるのだが、
喧嘩腰に聞える魔術談義が白熱し、実際に殴り合いにまで発展することもしばしばあっては、
周りからは到底『親しく』見えるわけも無いのである。
386: 2011/11/17(木) 03:05:57.56 ID:ex0W4kCWo
ただ彼らのこの奇妙な関係は、その密度に反比例するかのように短いもの、
僅か二年の間だけであった。
いいや、近い内に別の道を歩むことになることを互いに感づいていたのかもしれない。
だからこそ、周囲からは犬猿の仲と認識されるくらいに、
その思考をとにかく吐き出しては激しくぶつけ合っていたのかもしれない。
そうして二人が出会って二年が過ぎた頃、彼らの道は遂に別れることとなる。
活発で傲岸不遜であった一人は、次第に『魔界魔術』に傾倒していき、
その力に魅せられては天界魔術に見切りをつける形で突然離団。
更には魔術界の表舞台からも姿を消し。
人間の―――『力』を証明するために、ただそれだけに己が才と人生の全てを賭す。
そして物静かで紳士的であったもう一人もまた、
唯一対等な者がいない結社には、これ以上身を置く意味も無いと結社を離れ。
その才を惜しみも無く発揮し、魔術界を席巻し、革命を起こす―――そんな『隠れ蓑の裏』で。
一人の特別な女性と出会い、そして彼女の力から『真実』を知り。
古の天の英雄に共感し心酔し、かつその手段を否定して。
人間の―――『未来』を手に入れるために、ただそれだけに己が才と人生の全てを賭すようになる。
387: 2011/11/17(木) 03:08:40.12 ID:ex0W4kCWo
―――ただ、と。
『今』になって『彼』は再認識する。
人間の未来を手に入れる、
その理想をただただ純粋に追い求めることができていたのは、60年前までだったのだ、と。
一度完全なる敗北を喫したとき、
エドワード=アレグザンダー=クロウリーなる人物は、
もう素直に前に進めなくなってしまっていたのだと。
アレイスター『……』
その人間性は全ての喪失に耐えられるほどに強くは無く、
中身はどす黒くなってしまったのである。
だからこそでもある。
二度目のプランを進めるにあたって、己から人間性の全てを除外したのは。
だが。
ここでもまた彼はようやく気付いた。
そのような人間性から完全に逃れること、絶対になどできないのだと。
いくら外装を取り替えても、
こうして根源の魂から絶え間なく噴き上がってくるのだから。
ミカエルに心酔し、そして―――ある女性を愛した『人間の男』のままの魂から。
アレイスター『…………』
怒りが。
憎しみが。
抗いようも無いほどに強く。
389: 2011/11/17(木) 03:12:09.92 ID:ex0W4kCWo
意識内にて、最後に交わしたあの友の声が再び木霊する。
『―――お前の真の目的は「――」だ』
その言葉に今の彼は「そうだ」と返す。
そうだジョン―――その通りだ。
その点については君が正しかったよ、と
60年前のあの日から、この魂を突き動かしていた最大の原動力は理想を遂げることではなく―――
―――怒りだ。
ローズ
―――『彼女』を奪った全ての存在への、と。
今まで対していた敵は天界。
彼女の仇とはいえ、その関与はあの状況を整えたという『間接的』な範囲に留まっている。
それ故だろう、魂の奥底に渦巻いていた憎悪は、理性による封印を破ることは無かった。
アレイスター『……』
しかし今や違う。
対面している存在は―――『直接的』に手を下した者。
その『行使の手』で彼女を噛み砕いた神の右席。
彼女を侮辱しその氏をあざ笑う古の怪物だ。
彼の激情は今や、理性で抑えきれる範囲を遥かに超えていた。
390: 2011/11/17(木) 03:15:16.86 ID:ex0W4kCWo
彼はもう諦めていた。
己を律することは止めた。
プランも終わりだ。
敗北したのだ。
この『二度目』もまた、完全に敗北し失敗した。
もう良いのだ。
もとより生に執着は無く、後悔はあれど未練など一欠けらも無い。
二度も敗北して、もう三度目に挑む気力も無い。
どうしようもなく疲れて、どん底まで絶望して、
二度と色を落とすことが出来ないくらいに憎悪に染まってしまった。
そして感情に再び身を委ねてしまったからこそ認識する―――これまでの行いに対する、桁違いの『罪の意識』と。
とてつもない『失望』。
元から人の命など全く気にしていない人格だったアリウスとは、決定的に違う。
本来のアレイスターは、古の英雄に思いを馳せ、一人の女性を愛し、
そして人間の未来を救おうとした『馬鹿正直な理想家』なのだ。
そんな彼が耐えられるわけも無い。
この60年の間に犠牲にしてきた存在―――大勢の子供達の『命』が、全て『無意味』だったことに。
己の行いはただ―――事態をかき乱し―――
救うはずの人類を―――更なる窮地に追い込んでしまったのだと。
391: 2011/11/17(木) 03:16:47.43 ID:ex0W4kCWo
そうして絶望と失望に打ちひしがれて、憎悪に身焼くアレイスター
そんな彼に今できることはただ一つ。
それは些細な『後始末』であり、今や己にしかできないこと―――竜王を廃することである。
竜王『―――ッ』
アレイスターと竜王、次の瞬間に彼らが立っていたのは、
学園都市の薄暗いビルの中ではなかった。
黄昏色の光に満たされた大気、空。
黄金の縁取りが施された、延々と続く白亜の石畳。
そして崩れかかった、金銀煌びやかな装飾過多の列柱。
アレイスター『―――覚えているな?』
そこは古の人界に存在していた神族の界域、
その中でも最上層の『人界王』の間であり。
そして―――――――――竜王とミカエルが共に滅んだ地であり。
アレイスター『―――この場所を』
60年前、先代の右方と―――ローズが氏んだ地。
392: 2011/11/17(木) 03:18:59.85 ID:ex0W4kCWo
そこはアレイスターによって、
かの『界域』が学園都市の『中』に限定的に『再現』されたもの。
そう、『再現』だ。
それもアレイスターが再現しているのはこの風景だけではない。
かつてある時、そこで行われた出来事―――。
―――ミカエルが竜王に喰われ、融合し、そして竜王の思念を破壊して自滅させるに至るかの決戦。
その過去の『事象』をまるごと『今』に重ね合わせているのだ。
竜王『―――』
これこそ60年前に『行使の手』を打ち破った、
竜王の力に対するアレイスターの究極の切り札。
『彼女の目』が竜王の力から正確無比なる記憶を引き出し、
アレイスターの業で偶像となり『再現』される。
効果はもちろん文字通り―――過去の正確な再現。
かつてと同じようにして、
『竜王役』の思念は破壊されその力で自滅するのである。
そしてこれまた同じく。
代償として『ミカエル役』の魂も―――飲み込まれて共に氏ぬことになる。
393: 2011/11/17(木) 03:20:21.90 ID:ex0W4kCWo
だがそんな代償も、
今のアレイスターにとっては何の障害にもならない。
むしろ彼はある種の悦びを覚えていた。
竜王『―――これは―――』
なぜなら。
一度目、人界を救うためにミカエルが。
二度目は、己を生かすためミカエルをローズが演じ。
この三度目にて。
アレイスター『……これも覚えているだろう?』
己が演じるのだから。
どういった形であれかの英雄、
そして妻と同じ『時間』と『苦痛』を体感できることは、
この瞬間の彼にとって唯一の―――そして最期の光であった。
アレイスター『―――この―――「右剣」を』
394: 2011/11/17(木) 03:23:41.18 ID:ex0W4kCWo
竜王は突然切り替わった周囲を見、
そしてアレイスターの『右手』を見て、その目を大きく見開いた。
煌々と輝く彼の右手―――そこに握られている白金の『光剣』を。
ツルギ
それはミカエルの剣の偶像である。
かつて、かの偉大なる英雄が振るった十字教最高の刃。
更にあの決戦の際には、大任を果すべく天界のあらゆる力が集積されていた極限なる『右剣』。
この刃をもってミカエルは竜王に挑み、
喰われると同時にその魂を貫き、竜の思念を破壊したのだ。
そんな刃が、アレイスターの魂と意識と―――類まれなる『業』が許す限り、最大限にまで再現される。
アレイスター『―――ぐ―――がッッ―――!!!!』
その身を震わせるのは想像を絶する負荷。
しかし彼の意識が鈍ることなど無かった。
―――果てしなく強い憎しみと怒りが、その命続く限りは眠ることなど許してはくれなかったのだから。
彼は己の魂や体の悲鳴などお構い無しに、
全ての力をこの術に注ぎ込んでいく。
墓所はもちろん魔界からも、
もう隠れる必要も無いのだから天界からさえも、力を強引に引き出して。
395: 2011/11/17(木) 03:25:23.77 ID:ex0W4kCWo
そうして。
彼の類まれなる技術と、莫大な力が集束したとき。
この術式の『強制力』は、
まさしく大悪魔・神の域と称される『世界への干渉権』をも手に入れて。
たちまち周囲の現実に―――偶像を上書きしていく。
竜王『こ―――』
竜王が何かを言おうと口を開きかけた瞬間、
その『前世』のフィアンマと言う人間の姿が―――剥がれ―――飛び散っていき。
かつての決戦の時と同じ、『竜』の真の姿へと変じさせられる。
黄昏色のたてがみのある竜の顔に、体表を覆うはさながら黄金の如く煌く鱗。
隆々とした胸板に、鉤爪のあるたくましい腕。
しっかりと床を踏みしめるこれまた屈強な獣脚。
そして後方に大きく開き伸びる―――翼と長い長い尾。
力図強く悠然としているその立ち姿は、まさに『竜人』とも言えるか。
心奪われる神々しさに満ち溢れながらも、
装飾過多の域に達している煌びやかさは、一方で形容し難い嫌悪と不安を抱かせる―――。
―――混沌の竜王。
396: 2011/11/17(木) 03:27:45.27 ID:ex0W4kCWo
刹那。
黄昏色の光の衣を、炎のように揺らめかせながら。
力ずくで真の姿を暴かれた竜王は、
同じく光が篭る『竜の目』でアレイスターを真っ直ぐに見た。
かの時に抱いた驚きと怒りもまた、正確に『再現』されているのであろう、
アレイスター『―――はッはははは―――!!!!』
異形の瞳にそれらの感情を見て、アレイスターはたまらず笑った。
苦痛に顔を歪めながら、憎悪と絶望を滲ませて。
ミ カ エ ル
上条当麻。
彼の思想に共感して、彼の英姿に心奪われ、
そして彼に成り代わってその理想を現実にしようとこの生涯を費やした。
志半ばで敗北し、掛け替えの無い存在を失っても、
それでも何度も己に自問し再び立ち上がった。
何があっても絶対に立ち止まるわけにはいかない、
何のために妻がミカエル役を自ら引き受けて己を生かしたのだ、と。
そうして二度目も60年かけて挑んだが。
結果はこのザマだ。
現実は懲りない彼に突きつけた。
お前は―――本物のミカエルになどなれやしない、と。
お前はどれだけ足掻こうが―――『生涯ただの一度も勝てやしないのだ』、と。
397: 2011/11/17(木) 03:29:48.69 ID:ex0W4kCWo
―――ならば、と。
彼は最期に望む。
それができぬのならば。
せめて。
せめて、最期に一度だけ。
ミカエル
思いを馳せた、かの偉大なる『英雄』を演じ切らせてはくれないか、と。
アレイスター『―――はッ!!!!』
アレイスターはねじくれた銀の杖をその場に放り捨て、
『右剣』を一度大きく振るっては。
愛する妻の体で、尊崇するミカエルを演じて―――竜王へ向けて踏み切った。
できることならミカエルの抱いた理想を、その一片でもこの手で成し遂げたかった。
例え『ゆめまぼろし』でも。
一時の『幻想』でも良かったから―――。
―――それがローズの願いなのだから。
しかし、彼に対する現実の仕打ちはどこまでも冷酷だった。
彼のその最期の望みですら、返答は。
更なる『絶望の上書き』だった。
409: 2011/11/20(日) 01:59:51.41 ID:qEQJ4VGio
駆ける一つの女体。
駆ける一人の男。
そして突き出される光り輝く天の剣。
その刃の前進には抵抗など無かった。
前へと突き進んだ勢いはそのまま、一切衰えることなくするりと。
竜の鱗に覆われた胸部に沈み―――そして貫通し―――背から切っ先が頭を出す。
そうして、アレイスターの魂はその刃を通り。
竜王に飲み込まれると引き換えに、怪物の思念を崩壊させる。
古の決戦を60年前と同じように、絶対的な強制力の下に完全再現する。
竜王役はミカエル役と共に自滅する、その完全再現からは神の領域の存在ですら逃れられない、
アレイスターの全ての技術と業が結集した、完璧にして究極の魔術。
人界の神を頃す――――――『神浄』の術式。
――――――そのはずだったのだが。
刃が竜王の胸を貫いた、それ以降は―――。
アレイスター『―――………………………………………………なぜ―――』
―――再現が『止まっていた』。
410: 2011/11/20(日) 02:02:13.99 ID:qEQJ4VGio
ここまできても、
彼の腕は些細な勝利すらをも掴み取ることはできなかった。
最後の最後まで、彼の運命は決して微笑むことは無く。
一回限りの究極の切り札は、その効果半ばで完全に停止してしまっていた。
これで全ての気力が失われた、そう言ってもいい。
アレイスターはこの状況を前にしては、
絶望と失望『だけ』の表情を浮べて、硬直し唖然とすることしかできなかった。
そんな彼に向けてか、これまた酔狂した独り言なのか。
竜王『―――「俺様を倒す」』
竜は仄かに瞳を輝かせながら、連なる牙の間から音を漏らした。
左手先の爪で、胸を貫いている刃をなぞりながら。
竜王『ただそれだけのために、天の力と技術の粋を集めて生み出された刃』
竜王『ミカエルの右腕に埋め込まれし、「俺様にしか効果が無い聖剣」―――』
そして今度こそ、
確かにアレイスターへと向けた声であった。
竜王『―――そうだ。お前への用はこれだ。俺も「これ」が確認したかった』
411: 2011/11/20(日) 02:06:51.25 ID:qEQJ4VGio
そうして竜王は、
その異形の顔でもはっきりと読み取れるくらいに『微笑み』。
竜王『そこまできわめて特化してる性質ゆえ、この「聖剣」に関することでは俺様も確証が持てなくてな』
竜王『例えこうして三神の力を持っていようが、直に俺様の魂に作用しかねない代物なんだよ。この剣は』
そう続けて、今度は刃を指で叩いた。
目障りだといった風に、大げさに目を細めて。
竜王『そうだ、この剣は俺様の唯一の弱点なのだ』
竜王『―――だが実に喜ばしいことに』
と一転、ここでまた演技がかった笑いを浮かべ。
竜王『二度とその弱点に怯えなくとも良いということが今証明された』
竜王『完全体である俺様の思念を崩すには、完全なる聖剣が必要』
そして今度は強く刃を握り締めながら。
鼻先同士が触れるかというくらいまでにその竜の顔を向き合わせて、強く確かにこう続けた。
竜王『だがお前でも、かの聖剣の完全再現は不可能であり』
オリジナル
竜王『そして「ミカエル」は俺様と同一体』
まるで裁きを言い渡すかのように。
竜王『つまり今、何人たりとも―――』
竜王『―――この三神の力を突破せずして―――俺様の魂に届くことはかなわないのだ』
412: 2011/11/20(日) 02:08:22.67 ID:qEQJ4VGio
アレイスター『……ッ』
竜王『はは―――なぜ60年前と結果が違うのか、』
竜王『それは俺様がオリジナルであり完全体である一方、お前は本物のミカエルでは無いからだ』
竜王『その「女の目」で正確無比な情報を引き出しても、お前の魂程度では、完全なる聖剣の依り代の役は果せなかったということだ』
竜王『―――再現は再現。所詮はまがい物の域を出ない』
竜王『同じまがい物や、60年前の俺様のように不完全体には効果を発揮できるであろうが』
竜王『生憎―――今の俺様はまがい物でも不完全体でも無い』
アレイスター『―――そんな―――はずが…………』
そんな竜王の口から放たれた理論は、
アレイスターの認識とは全く異なっていたものだった。
確かに60年間のあの時は、半ば即席染みた短期間でこの術式を作り上げた。
だがその後の60年間の緻密な解析、更にこの10年間、幻想頃し、
すなわち『竜王の顎』という現物を前にしてのより正確な研究で、怪物の力の性質は全て調べ上げて得たデータは、
この『神浄』の術式は、
竜王の力に対して完璧な作用を有していると確かに裏打ちしているのだ。
413: 2011/11/20(日) 02:11:39.35 ID:qEQJ4VGio
油は、その量をどれだけ増やそうが、
火を投げ込めばたちまち引火するという性質は変わらないように。
不完全体であろうが完全体であろうが、
竜王の魂である以上絶対にミカエルの聖剣の効果からは逃れられない。
『神浄』の術式は『絶対に効果がある』のだ。
だがいくら、アレイスターがそう断じても。
確かなデータと証拠を元にどれだけ完璧に、確実に、非の打ち所なく「こうだ」と叫んでも。
目の前の『現実』は、そんな『幻想』をぶち壊すには充分すぎる威力を持っていた。
竜はあざ笑う。
隠すことも無く、そんなアレイスターをあからさまに嘲笑する。
竜王『確かにお前は良くやったよ。お前は、俺様自身の次に俺様の力の性質を理解しているだろうな』
怪物は刃を握っていた手を離すと、今度はアレイスターの首を掴みあげて、
その顔を更に前に突き出して。
竜王『着眼点も良かった。プランとやらは中々良く出来ているものだ。素直に感心するよ』
竜王『しかしお前はたった一つだけ。重大なミスを「犯し続けた」』
牙をむき出しにして彼の耳元で囁いた。
竜王『「人間的な感性」無くして―――』
竜王『理解しきれるとでも思っていたのか?―――――――――人の王であり「祖」である俺様の全てを』
414: 2011/11/20(日) 02:14:42.32 ID:qEQJ4VGio
アレイスター『―――…………―――』
そう、アレイスターの認識は確かに正しかった。
彼の揃えたデータはどれも正確無比なもの。
問題なのは、それだけでは『足りなかった』ことである。
彼をここまで成功させた『やり方』。
人間的な感覚の一切を廃した徹底した論理実証主義。
人の感情すらも完全に数値化することも、彼にとっては不可能なんかではなく、
現に一方通行を筆頭に大勢の人々の人格をこうして操作してきた。
だがそれも『可能である』だけで、決して『完全』なんかではなかったのである。
竜王『お前は、俺様の顎も行使の手もただの「力の塊」、「道具」として見ていなかった』
竜王『上条当麻とフィアンマという二つの魂、それらと切り離して考えてしまい、』
竜王『その人間性が力に及ぼす影響や、力の相互干渉について正確に認識することができなかった』
アレイスター『…………』
竜王『確かに、お前が「AIM」と呼ぶ我等神族の残骸の力そのものは氏んでいる。またそこには如何なる意志も含んではいない』
竜王『しかしな、単に意志を保有していないだけで、外部の意志の影響を受けないというわけではない』
竜王『例え氏んでいようが、意志を与えれば、または影響を受ければ、ただの残骸の力であろうがある程度の意志を宿せるのだよ』
竜王『お前自身、その証拠は現に目にしていたじゃないか。「エイワス」や「ヒューズ=カザキリ」として』
アレイスター『…………ッ』
竜王『お前の言い方をすれば、「彼女達」はただの記号の集合体、プログラムか』
竜王『はははは、俺様には確かな「人格」にしか見えんがな。特にヒューズ=カザキリは、現世を生きている人間と何ら変わらない程に』
竜王『人の王であり祖としてここに保障してやってもいい。あの「小娘」は、紛れも無く人間と呼ぶに相応しい思念だぞ』
415: 2011/11/20(日) 02:17:21.73 ID:qEQJ4VGio
そこで竜王は少し頭を引いては再び向き直り。
竜王『だが愚かなことに。人間的な感性を廃していたが故に、お前はその点に気付けなかった』
竜王『目の前で人間性に溢れた者達が干渉しあい、運命を捻じ曲げる物語を紡ごうとも、それでおもお前は見向きもしなかった』
竜王『それがお前が犯した最大にして唯一の失敗さ』
竜王『それでもある程度はこうして騙し騙しやってこれたが』
アレイスターの失敗、どの実像をここに明確に明示し弾劾した。
竜王『やはり全てが露になってくるこの佳境では誤魔化し切れず。結局、あの「ハデスもどき」の最後の進化を見誤ることとなる』
「プラン」、それは確かに完璧だった。
的確で非の打ち所の無い計画だ。
しかし。
その手綱を握るアレイスター自身が不完全だったののである。
だからこそ、つい先ほど、ほんの僅かなイレギュラー因子が原因で、
一方通行へのこれまでの操作が一瞬にして打ち崩されたように。
アレイスター『―――ッ』
竜王『そしてこの術式だ。そんな欠如したお前自身の認識で、俺様の人間性に直接影響する聖剣の性質を―――』
そして今、こうなったように。
竜王『―――完全に具体化できるわけもないだろう?』
失敗し敗北した。
そう、術式は『完璧』だったのにも関わらず。
アレイスターが不完全であったから―――。
416: 2011/11/20(日) 02:20:35.91 ID:qEQJ4VGio
それはアレイスターにとって、これまでの半生の全てを否定されるに等しい事実だった。
感情の類を完全に己が内から廃し、血も涙も無い鉄の人形となり。
ただただ目的のため理想のためにあらゆる犠牲を払ってきたその60年間、それが―――。
全て―――『最初』から過っていたのだ、と。
元から成功するはずが無かったのだと。
緻密に計算した正しいと思われた行動も、当然の如く全て裏目に出て。
中途はあたかも上手くいっているように見せかけて、結果は確実に最悪なものを引き寄せるのだ。
アレイスター『―――あッ…………』
―――どうしてだ、と。
どうしようもない、己という存在への更なる怒りと絶望と失望に沈み、
これでもかとばかりに苛まれていく。
―――しかしそれだけでは物足りないとばかりに。
竜王『おっと待て。お前の「罪」はこれだけではないぞ?』
竜はアレイスターの顔を覗き込むようにして、更なる残酷な真実を告げようとした。
竜王『もう一つ教えてやろう。厳密には、俺様が復活したのは「今」ではない』
竜王『完全体に戻ったのが今であるだけで、この意識が覚醒したのはもっと前―――』
倫理観が未だ定まっていない子供のような、純粋であるからこその残虐さか。
更なる絶望に落ちるアレイスターが見たい、
そんなただの『好奇心』を満たすためだけに。
竜王『―――「60年前のあの日」、あの瞬間だよ』
417: 2011/11/20(日) 02:24:40.70 ID:qEQJ4VGio
アレイスター『―――』
一瞬、その竜王の言葉を理解できなかった。
いや、正確にはもう理解したくなかった、か。
だが彼の意識はここまでのストレスに晒されても、
皮肉なことにその聡明さが陰ることは無く。
知らなかった方が良かった―――あまりにも残酷すぎる真実を聞いてしまう。
竜王『60年前のあの瞬間、この術式の再現によって、俺様の意識は「竜王として」存在していた』
竜王『そしてそのまま忠実に再現されていれば、竜王の魂はまた破壊され、その意識と記憶は再び完全に封じられ、』
竜王『1000代繰り返してきたようにまた一人の青銅の種族として輪廻する』
竜王『しかしこのとおり、この術式の再現性は不完全だ』
竜王『その時は、俺様が不完全体であったこともあって力の暴走による自滅には追い込めたものの、』
竜王『魂への影響は表層の記憶を飛ばしたのみ。そして「その状態」のまま―――俺様は輪廻したのだよ』
それはすなわちこういうこと。
竜王『俺様の意識が「竜王として覚醒」したのは―――60年前。お前がこの術式を使ったあの瞬間だというわけだ』
アレイスター『―――』
この状況の原因、
竜王を蘇らせたのは紛れも無い―――アレイスター自身であった、と。
竜王『だからお前に礼を言っただろう?俺様を復活させてくれて感謝する、と』
しかも結果として。
竜王『ローズを捧げてまでしてくれてな』
―――最愛の女性の命と『引き換え』にする形で。
418: 2011/11/20(日) 02:26:10.63 ID:qEQJ4VGio
その事実を認識した瞬間。
彼の意識は絶望の底へと向けて更に加速していく。
アレイスター『…………はァっ……―――!』
感情は爆発し。
鼓動が高鳴り、胸の中で不快な感触渦を巻く。
空気を求めて喘ぎ、呼吸が加速し、吐息には熱が篭っていく。
竜王『そして記憶無くとも意識と本能が存続している以上、』
竜王『輪廻した俺様が、自ずと「聖なる右」の完全なる力と「幻想頃し」を求めたのもまた必然』
体中が火照り、
その熱で揺らがされているかのように視界が霞んでいく。
竜王『前世の「右方のフィアンマ」も、その実は単なる記憶喪失状態であっただけで、厳密にはそのまま俺様だったということだ』
神浄の術式が完全に砕け、聖剣は霧散。
竜王が手を離すと、彼はそのまま白亜の床に跪くようにして落ち。
アレイスター『―――ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛―――!!』
彼は身の内を焼く絶望に耐えかねて咆哮した。
419: 2011/11/20(日) 02:32:04.46 ID:qEQJ4VGio
己の何もかもが憎かった。
彼女の命と引き換えにのうのうとここまで生きてきた己が、
己の存在そのものが憎くてたらまらない。
60年前のあの時、己はおとなしく氏んで、彼女を生かし逃がしていたら―――結果は変わっていたのか。
少なくとも、こんな最悪の状況になんかにはなってはいなかったのかもしれない。
己は一体何をしたのだ。
己は一体、この世界に何を残したのだ。
ただぶっ壊しただけだ。
この手で、彼女も理想も何もかもを自ら破壊してしまっただけ。
ミカエルがその身と引き換えに打ち倒した竜王を―――再び解き放っただけ。
人類の確かな未来を手に入れようとするつもりが。
引き寄せた未来は、天と魔の衝突に巻き込まれるという人類終焉のシナリオと―――古から蘇った悪しき混沌。
人類を解き放つことはできず、逆にパンドラの箱の中身を解き放ってしまう始末。
アレイスター『―――ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ―――……!!
叫びながら内では「なぜだ」、と。
アレイスターは自問する。
なぜお前は生まれた。
エドワード=アレグザンダー=クロウリー、なぜお前は誕生したのだ、と。
しかしそんな問いになど答えは返ってこない。
ただ告げられるのは。
竜王『因果はもとより、己が運命からすらも見放された、人界の不運不幸の全てを背負ったかの如き哀れな男よ』
竜王の口からの冷酷にして残酷な―――。
竜王『人は、誰もお前を許しはしない。誰もお前に同情などしない。誰もお前に慈悲など与えやない』
―――否定しようの無い事実。
竜王『誰しもがお前に失望し、誰しもがお前を憎み恨む―――そうだ。ローズさえもな』
420: 2011/11/20(日) 02:34:01.61 ID:qEQJ4VGio
竜王『結果としてお前は人類を裏切り。ローズを裏切ったのさ』
アレイスター『―――ア゛ア゛ッ…………あぁ……』
竜は俯く彼の傍に屈み耳元で告げる。
その声には欺瞞と嘲りが満ちてはいるが、紡がれる言葉は真実しかない。
竜王『常に勝者であり挑戦者であり続け、スパーダの一族と刃散らしてまで己が望みを成し遂げたアリウスともまるで違う』
アレイスター『……………………』
まさにその通り。
あの友のように己の芯を貫けなかった。
ありのままの己を、その全てを受け入れることが出来なかった。
この耐え難い感情を制する強さは無かった。
竜王『お前は一度も因果を味方につけることはできぬまま』
そう、一瞬たりとも英雄になどなれず、演じることら叶わず。
竜王『ただの一度も勝てぬまま』
そう、如何なる戦いにも最後の最後には無様に敗北し。
竜王『ただの一度も救われぬまま』
そう、どんな運命にも英雄に救われることも無く―――。
竜王『失意と絶望と後悔の中で氏ぬのだ』
―――ここで終るのだ。
421: 2011/11/20(日) 02:35:23.29 ID:qEQJ4VGio
次に何が起こるか。
竜王によって、『神浄』の術式と共にこの身ごと消し飛ばされるのだ。
俯き地しか見えていなくともわかる。
竜王の腕に出現しているであろうあの魔帝の矢によって、
周囲がぼんやりと『赤く』照らされているのだから。
アレイスター『…………』
哀れで愚かで不運で罪深い、人類最高の天才であり魔術師。
そんな彼の最期の言葉は。
アレイスター『………………………………………………………………すまない……ローズ………………』
亡き妻への、無念に染まった謝罪の言葉。
ただそれだけだった。
直後、周囲が『赤き光』に満たされて。
強烈な衝撃と共に全ての近くが途切れ。
そしてあっけなく終った―――。
422: 2011/11/20(日) 02:35:53.55 ID:qEQJ4VGio
―――はず、だったのだが。
アレイスター『…………』
不思議なことに、意識は今だ存続しており。
一瞬の知覚の途切れも、次の瞬間にはすぐに回復していた。
アレイスター『…………』
見えるのは白亜の床に、『赤』。
それも赤は赤でも、魔帝の矢の光ではなく―――カーテンのようにたなびく、『真紅の皮革』。
見上げると。
カーテンの正体は『真紅のコート』で。
その上に見えるは『銀髪』に―――肩に載っている『白銀の大剣』。
そう、眼前にあったのはまさしく。
アレイスター『…………………………』
正真正銘の『英雄』の背中だった。
423: 2011/11/20(日) 02:38:54.75 ID:qEQJ4VGio
だが。
『救われた』彼の内を満たしたのは歓喜ではなく、
安堵でも救済でもなかった。
アレイスター『なぜだ……なぜ…………』
こみ上げてくるのは。
アレイスター『なぜ「今頃」になって―――ッなぜだ?!なぜあの時―――私達の前に現れなかったッ?!!!』
怒り。
お 前 ら
アレイスター『なぜ60年前のあの日に―――「スパーダの一族」は私達の前に―――…………ッ?!!!』
己と言う存在をこの世界で躍らせる、『気まぐれな現実』への憤怒だった。
アレイスター『―――……なぜだ……?!…………なぜ……私とローズは…………今の時代に…………生まれなかった…………』
その男の叫びに、英雄は背中越しにさらりと告げた。
一切の感情が除かれた、平淡で冷ややかな声で。
『―――何をやっても常に遅れ、時にはどうしようもねえくらいに完全に手遅れになる―――』
ヒーロー
『―――悪いな。そういうクソッタレな存在なんだ。「英雄」ってのは』
―――
451: 2011/11/24(木) 02:01:36.56 ID:c9WGBkWGo
>>448
現時点におけるインデックスが扱える規模は、『量だけ』ならば下位の大悪魔、ケルベロスなどをも越えています。
ただ彼女は、力の量がそのまま戦闘能力にはならない特に良い例です。
インデックス(妹)は魔女の戦闘訓練の一切を受けておらず、かつ彼女の性格上、戦うという行為自体にまるで向いていないため、
扱える総量がずっと小さいローラにも徹底的に押されしまった通り、物量ゴリ押しが通用しない相手だとどうしようもありません。
当然、ケルベロスなどが相手となれば戦いにすらなりません。
現時点におけるインデックスが扱える規模は、『量だけ』ならば下位の大悪魔、ケルベロスなどをも越えています。
ただ彼女は、力の量がそのまま戦闘能力にはならない特に良い例です。
インデックス(妹)は魔女の戦闘訓練の一切を受けておらず、かつ彼女の性格上、戦うという行為自体にまるで向いていないため、
扱える総量がずっと小さいローラにも徹底的に押されしまった通り、物量ゴリ押しが通用しない相手だとどうしようもありません。
当然、ケルベロスなどが相手となれば戦いにすらなりません。
452: 2011/11/24(木) 02:02:15.07 ID:c9WGBkWGo
―――
一方『―――がァッ……!!』
魔帝の矢により壁に磔にされてしまった少年、
一方通行は未だその縛から脱せずにいた。
胸から胴に連なって突き刺さる七本もの矢、その中の一つを両手で握り引き抜こうとするも。
麻痺とも言えるか、絶え難い激痛によて力も意識もかき乱されて『力む』ことができない。
一方『……ッンンン゛あ゛ァ゛!!クソがッ!!ァァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!』
情けなく痺れ震えるだけの己が手に、
彼は口から血の如き『黒い飛沫』を吐きながら罵った。
こうしている間にもアレイスターの命が失われかねないのだ。
いいや『かねない』ではない、このままでは確実に失われる、一方通行はそう確信していた。
今の一方通行の目には、一目瞭然だったのだ。
こちらの声などまるで聞かず立ち上がったアレイスター=クロウリー、
その姿はまるで鏡を見ているくらいにまで―――『同じ』だったのが。
『ついさっきまでの己』と。
そう―――『氏ぬため』に戦おうとしていた大馬鹿野郎と。
一方『アレイスターァァァァァ!!』
一方『―――がァッ……!!』
魔帝の矢により壁に磔にされてしまった少年、
一方通行は未だその縛から脱せずにいた。
胸から胴に連なって突き刺さる七本もの矢、その中の一つを両手で握り引き抜こうとするも。
麻痺とも言えるか、絶え難い激痛によて力も意識もかき乱されて『力む』ことができない。
一方『……ッンンン゛あ゛ァ゛!!クソがッ!!ァァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!』
情けなく痺れ震えるだけの己が手に、
彼は口から血の如き『黒い飛沫』を吐きながら罵った。
こうしている間にもアレイスターの命が失われかねないのだ。
いいや『かねない』ではない、このままでは確実に失われる、一方通行はそう確信していた。
今の一方通行の目には、一目瞭然だったのだ。
こちらの声などまるで聞かず立ち上がったアレイスター=クロウリー、
その姿はまるで鏡を見ているくらいにまで―――『同じ』だったのが。
『ついさっきまでの己』と。
そう―――『氏ぬため』に戦おうとしていた大馬鹿野郎と。
一方『アレイスターァァァァァ!!』
453: 2011/11/24(木) 02:04:01.61 ID:c9WGBkWGo
と、無駄だとわかっていながらももがいていたその時。
先ほど彼が壁をぶち抜き入ってきた穴から、恐る恐るといった歩みで一人の少年が姿を現した。
「……?!」
海原光貴、いや。
『化けの皮』はもう脱ぎ捨てている褐色の肌に、
スーツを纏ってはいるも普段とは違いタイ無しでラフな格好のこの場合は、『エツァリ』と呼ぶべきであろう。
一方『―――海原ァッ!』
ただ、常日頃から呼びなれた名はそう簡単に変えられるものではない。
特にそこまで意識をまわせる余裕など無い彼にとっては。
エツァリ「―――!―――これは……一体何が……?!!」
オレンジの光を宿す瞳に真っ黒な髪、顔は普段の状態を遥かに通り越して蝋人形のように『生気が無い白さ』、
その上を浮き上がった血管のごとき走る黒い筋、そして蠢く闇に覆われている全身。
そんな変貌していた一方通行を一目見て、エツァリは一瞬警戒と躊躇いの色を見せたものの。
すぐに意を決するかのように表情を引き締めては彼の傍へと駆け寄った。
一方『……こィつをっ……!!抜け!!』
エツァリ「わ、わかりました!!」
そして言われるがまま、彼の体を貫いている矢の一本を握ろ―――うとしたが。
エツァリ「つ゛ァッ―――!!」
刹那、光が瞬き、彼の手が勢い良く弾かれてしまう。
苦痛の声を漏らし弾かれた右腕を押さえるエツァリ、
その右手の平の半分が火傷したかのように酷く爛れていた。
454: 2011/11/24(木) 02:05:55.39 ID:c9WGBkWGo
エツァリ「……ッ!!何ですかこれは?!」
これは予想できた結果であろう、なにせ魔帝の矢だ。
肉体はあくまで生身の『ノーマル人間』であるエツァリが触れる訳が無いのも当然のことか。
エツァリ「―――とても自分には―――!!」
一方『……ッチッ!』
そんな結果を目の当たりにし、一方通行は即座に思考を切り替えて。
一方『クソッ!!俺は後にしろ!!今はアレイスターだ!』
エツァリ「アレイスター?!彼があなたをこんな―――?!」
一方『……ンぐッ……いやッ……!!』
エツァリ「何があったんですか?!ではあの男がまた何かを企んでいるのですか?!」
一方『違ェ!黙って聞け!!アレイスターが上条の命綱だ!!奴を守れ!!』
エツァリ「………………は?…………上条さんの……命綱?」
上条の命綱、その言葉から伺える事情を瞬時に悟ったのか、
その褐色の肌でも目に見えて一気に青ざめていくエツァリ。
一方『そォだ!!とにかくアレイスターを―――!!』
と、その時。
突然、ここに新たな第三者の声が響き渡った。
『―――――――――アレイスターは大丈夫だ!』
455: 2011/11/24(木) 02:06:48.60 ID:c9WGBkWGo
一方『!』
エツァリ「!」
それはちょうど一方通行の正面だった。
一瞬にして警戒姿勢に移行して振り返るエツァリの視線の先、
その宙の空間から突然噴出す炎―――そして。
ステイル『―――ダンテが今向かった!!』
中から飛び出してくるは―――ステイル=マグヌス。
更にそれだけではない。
次いでビル全体が大きく振動し―――左側からは『白銀の巨獣』、右側からは『炎を纏う巨人』。
それぞれが壁を『ぶち破って』中へと入ってきたのだ。
それもとてつもない力、
一瞬にして「間違いなく大悪魔、それもかなり高位」、
だと確信できるまでに濃厚な大気を纏って。
一方『―――ッ!!』
刹那、これはエツァリにはもちろん、一方通行にとっても最悪の事態に見えた。
力量は己の方が上か、この大悪魔二体を相手にしても楽でもないが、確実に勝てるであろう。
しかしこうして動けない以上はどうしようもない。
ステイルやエツァリがどうにかできる相手ではないのも一目瞭然。
彼ら二人は蹴散らされ、己は嬲り殺される―――と、一方通行の頭脳は瞬時に状況分析し、
そんな最悪なシナリオを導き出したも。
それは杞憂だった。
456: 2011/11/24(木) 02:08:22.44 ID:c9WGBkWGo
数秒後、次に覚えるは炎の巨人からのステイルと、
白銀の巨獣からの―――上条と同じ力の匂い。
そしてそれを裏付けるように。
ステイル『―――心配するな!!彼らも味方だ!!』
駆け寄ってきたステイルがそう口にした。
ステイル『―――イフリート!ベオウルフだ!』
イフリート『ダンテは我が呼び寄せておいたぞ』
ステイル『向こうはダンテに任せろ!』
一方『―――ッ……』
ダンテが向かった、この状況下でそれ以上に耳に良い言葉があるか。
さすがに安心したとまでは言えないものの、
それでもこの焦燥感を一先ず抑えるには充分だった。
そうして一方通行が小さく息を吐いたところ、次いでのそり、と。
慌てて脇へ退けていくエツァリと入れ替わるようにして炎の魔人が彼の前に出て屈み、
これまた大きな、彼の腕よりも太い指で、魔帝の矢の尻を摘んだ。
イフリート『耐えよ小僧。少々痛むぞ』
そしてそう告げて。
一方『―――ガァアアアアアアアアッ!!!!』
とても丁寧とは言えない手付きで引き抜いていく。
もちろんその痛みは『少々』なんかではない。
457: 2011/11/24(木) 02:10:27.17 ID:c9WGBkWGo
響く一方通行の叫びなど気にもせず、次から次へと引き抜いていくイフリート。
赤き矢は床に落ちた瞬間、まるでガラス細工の様に砕け散り消えていく。
そんな作業の傍ら、エツァリはステイルに向かい。
エツァリ「上条さんに何があったのですか?!知っているのですか?!」
ステイル『……彼は復活した竜王の一部になった!!』
一瞬、その褐色の肌の少年を見てステイルは目を細めたも、
すぐに悪魔の感覚で一方通行の仲間の『海原』であると認識してそう放った。
一方通行にも聞えるように声を張り上げて。
エツァリ「リュウオウ?!」
一方『ッツン゛ン゛ァア゛ァ゛ッ!!!なンッ!!だよあィつァァァァァァッ?!』
ステイル『詳しくは知らない!昔に氏んだ神としか聞いていない!僕だってさっき聞いたばかりの話だ!』
イフリート『竜王か。昔に耳にした事がある。人間界に君臨していた古き王だ』
イフリート『だが名しか知らぬ。天界が囲い込む以前の人間界など、悪いが誰も関心など持っておらんかったからな』
そこでそう、横から補足するイフリート。
炎の魔人は最後の一本を放り捨てて、
イフリート『貴様はどうだ?』
これまで沈黙していたベオウルフの方へと横目を飛ばした。
だが白銀の巨獣はその問いかけには言葉を返さず。
ベオウルフ『……小僧。そのアレイスター、と言う輩が「我が息子」の命運を握っておるのだな?』
解放され床に膝をついている一方通行に向けて声を放った。
まるでその場にお互いしかいないように、真っ直ぐと彼を見据えて。
458: 2011/11/24(木) 02:13:56.61 ID:c9WGBkWGo
その刹那。
一方『………………』
彼は妙な感覚を覚えた。
巨獣のこちらを見据える『視線』、その源の―――赤く輝く『瞳』。
あの目をどこかで良く知っているような―――そんな感覚を。
いや、これはそんな『あやふや』なものでは無かった。
あの『目』を間違えるわけが無い―――
一方『……おィオマエ……上条に「何をした」?』
確信した少年は問い返す。
一方『なンでオマエが―――アイツの「目」を持ってやがる?』
その身からただならぬ一触即発の気配を醸し、
目を見開き修羅の表情へと豹変させて。
するとベオウルフはこう即答した。
ベオウルフ『ふん。親と子の「契り」を交わしたまでだ』
その変わらぬ態度を見て、一方通行は真っ直ぐとベオウルフを見据えたまま。
脇のイフリートへ向けて声を放った。
一方『…………よォ、おたくやケルベロスっつったかァ?あの三つ頭の犬コロは問題ねえが』
一方『―――こィつは信用ならねェ。絶対にだ』
対しベオウルフも牙の隙間から、
明らかに嘲りと敵意の滲む笑い声を漏らして。
ベオウルフ『当然だ。その小僧は味方と言ったが、我はそのつもりは無いからな』
ベオウルフ『誰が貴様ら下種な人間共に肩入れなんぞするか』
459: 2011/11/24(木) 02:16:13.02 ID:c9WGBkWGo
一方『―――はッ。言ゥじゃねェか』
そんなベオウルフの『素直な態度』と返答で、一方通行は確信した。
上条との明確な関係がわからない以上、即座に頃すわけにもいかないが、
この信用無い巨獣は今すぐに手足でももぎ取って行動不能にしておくべきだ、と。
そう長く見張っていられることなどできない。
状況が状況だ、いくらダンテが向かったからといって、
「そうですか」とおとなしく待っていられる訳も無いのだから。
と、そうして一方通行が立ち上がった時。
ステイル『―――落ち着くんだ!!大丈夫だアクセラレータ!!』
ステイルが駆け、彼の前に割り込み。
ステイル『確かに僕の言い方が悪かった!!ああそうだ、彼は僕等の味方では無い!!』
ステイル『だが「上条の味方」だ!!これだけは確実だ!!』
そして一方通行の胸倉を掴み、こう声を放った。
ステイル『それに今はそれどころじゃない!!アクセラレータ!!他にも重要な話がある!!』
一方『……あァッ?!』
ステイル『―――海原!!君もだ!!』
エツァリ「……じ、自分もですか?!」
ステイル『―――ああ!!君も必要だ!!』
460: 2011/11/24(木) 02:19:39.02 ID:c9WGBkWGo
そうして半ば強引に、二人の返答など待たずに一方的にステイルは言葉を連ねていった。
最初、一方通行はベオウルフやアレイスターが気になって仕方が無かったが、
ベオウルフは己が見ている、アレイスターの状況もダンテとの『繋がり』を通して見ている、
何か問題があったら知らせるというイフリートの言葉でようやく納得し、
やっと耳をしっかりと傾け始めた。
ステイルの口からは放たれる話、
その内容は『陽炎の学園都市』―――虚数学区上で会った風斬氷華なる少女との話と、
一方『垣根……だとォ?』
エツァリ「……彼が?」
―――垣根帝督という胡散臭い男から聞いた、天界の侵攻に備える『策』とやらだった。
ステイル『これは彼の言葉を丸暗記したものだ。学園都市側の者としての意見を聞きたい』
一方『……虚数学区を実体化させて展開か。すまねェが、俺は「界」がどォのこォのって話は良くわからねェ。海原』
エツァリ「殻となった虚数学区が壊れない限り『本物の学園都市』には被害は及ばず、」
エツァリ「かつフル稼働のヒューズ=カザキリも加勢してくれるとなると悪い策では無いですね」
エツァリ「ただその策の実現には、いくつか解決しなければならない問題が」
エツァリ「まず一つ目、大悪魔の領域の莫大な力を持つ「能力者」が必要ですね。AIMを扱うわけですから悪魔の方では代わりは出来ません」
そう告げながら、その例を示すようにイフリートとベオウルフを横目で見やるエツァリ。
そこに一方通行はこう声を放った。
一方『俺ができそォだな』
エツァリ「本当ですか?」
一方『あァ。多分いける。どォやらアレイスターは、俺にこの世界をまるごと掌握させるつもりだったらしィからな』
一方『現に、そこのイフリート達よりも俺の方が「馬力」はあるしなァ』
461: 2011/11/24(木) 02:22:17.27 ID:c9WGBkWGo
エツァリ「では……次の問題はその『像』の具体化ですね……どうやって界を被せる形で実体化させるか」
一方『海原。オマエの魔術とやらでどォにかならねェのか?』
エツァリ「無理に決まっているでしょう。自分の魔術は天界系ですよ?」
エツァリ「それに今話してる次元の理論だってここ半年の付け焼刃ですし、とてもぶっつけ本番でAIM用の『方程式』なんか組めません」
一方『じゃァどォすンだ?』
エツァリ「……一番現実的な方法は、ミサカネットワークと滝壺さんに「設計」してもらい」
エツァリ「接続しているあなたが増幅させて実体化、といったところなのですが…………」
とそこで、エツァリが急に口ごもってしまった。
それを見て首を傾げるステイル、そして対して―――
一方『…………ッ』
思い当たる節があって、表情が固まる一方通行。
エツァリ「今はなぜか通信が出来ないのですよ。土御門さんとも」
エツァリ「彼は自分以上に魔術科学両方に精通していますから、意見を聞きたいのですが」
一方『…………悪ィ、最低限の維持機能を省いて俺が凍結遮断しちまったンだ」
462: 2011/11/24(木) 02:24:52.84 ID:c9WGBkWGo
それは正に、あの強襲部隊にとって矛を封じられているに等しい状態だ。
各々の能力強化はもちろん、何よりも滝壺の部隊全体の掌握があるからこそ、
地獄とも呼べる魔窟のど真ん中に飛び込んでも、正確に任務を遂げ帰って来る一つの『生きた戦闘集団』となるのだ。
だがその機能が喪失されているとは。
更に、その状態に左右されない最大戦力―――麦野とアラストルを失っているともなれば。
エツァリ「何ですってッ……!!つまり今の彼らは演算支援も受けていないということですか?!」
それを知った彼が、思わず声を荒げてしまったのも当然の事か。
しかし。
一方『すまねェ……黙っていたのも悪かった。シスターズから負荷を取り除くにはこォするしか無かったンだ』
エツァリ「…………ッ」
簡潔に述べられるその理由も、これまた咎められるものではなかった。
それに今までに無いくらいに素直に、真摯に謝る一方通行にも驚きを覚えたのか。
エツァリ「そうでしたか……すみません、事情を知らずに」
エツァリもすぐに己を落ち着かせて、そう謝り返した。
一方『いや、良ィンだ。少し待て、再構成して連中との回線だけ修復する』
エツァリ「……急いでください。それとステイルさん」
エツァリ「魔術師の拒絶に関しては、あなたがどうにかできるかもしれない、という事でしたが……?」
463: 2011/11/24(木) 02:27:02.11 ID:c9WGBkWGo
0930事件の例から見ても、恐らく実体化した虚数学区内では、
魔術師にかかる「拒絶」反応は凄まじいものになるであろう。
それに高濃度のAIMで人間界が満たされてしまったら、全世界にも影響が及ぶはず。
つまりこの街にいるエツァリやショチトルを含む、天界系魔術師全員の命を奪いかねない氏活問題なのだ。
その問題については、ステイルによると彼の側で対処するという話であったが。
ステイル『もうこの話は伝えてある。僕が虚数学区を出た瞬間から、神裂との繋りが回復しているからな』
エツァリ「神裂さんが?」
いざエツァリが具体的に聞くと。
ステイル『ああ、だが……最終的な判断をするのは神裂の上のバージルだ。だから確実にどうにかできるとは…………』
エツァリ「バージル……?!が……神裂さんの上?!ちょっと待ってください話が見えないのですが?!」
一方『―――バージルだと?おィ?何の話だ?』
とんでもない名が、
そのステイルの口から飛び出してくることになった。
ステイル『……すまない、僕も黙っていた。実は、もう「拒絶」とかの話じゃないんだ』
そこで彼は申し訳無さそうに額に手を当てて。
魔術師であるエツァリにとっては更に突拍子も無い、出来の悪い冗談のような事を口にした。
ステイル『今、僕達はバージルの下に属していてね……神裂はセフィロトの樹の全切断を命じられているんだ』
464: 2011/11/24(木) 02:31:15.55 ID:c9WGBkWGo
エツァリ「セフィロトの樹の……せ、切断?」
ステイル『ああ。今ちょうどその作業の最中だ』
ステイル『全切断だから、もちろんその中にはテレOマの供給線も、能力者に供給させないための拒絶機能も含まれてる』
ステイル『だから拒絶は起こらないだろうが、通常の天界魔術も全て使えなくなる』
エツァリ「……………………これもですか?」
そこで脇のホルスターに収まっている原典の本体を見せるエツァリ。
ステイルは眉を顰めてやはりといった具合で。
ステイル『ああ。天使や神と「直接」繋がってでもいない限り無理だ』
エツァリ「……………………」
ステイル『僕はもちろん、事情を知った神裂も今、同じくテレOマの供給線だけは残したいと「言っている」』
ステイル『残しておいて使えれば、それだけで魔術師という戦力が増えるし、』
ステイル『怒った天界が「蛇口」を閉めてテレOマを流し込まなくなっても特に実害は無いからね』
ステイル『だが決定権はバージルにある。僕達はその彼の判断には干渉できない』
ステイル『魂で主従関係が結ばれているからね。魔のそういう繋がりは絶対的なんだ』
エツァリ「……まあ、……ならば仕方ないでしょうね。ここで何を言っても」
465: 2011/11/24(木) 02:37:24.33 ID:c9WGBkWGo
バージルが判断する、その言葉は、
ダンテがアレイスターの所へ向かったというのと同じく、
否応無く納得せざるを得ない絶対的な響きを有していた。
エツァリ「……とにかく、全世界の天界魔術師が氏なないだけずっとマシですね」
それにそもそも、ステイルの話は悪いことではない。
拒絶が無くなることはまず確実なのだから、先ほど想定していた状況よりもむしろ良くなっている方だ。
ステイル『それにこの面子なら、まあ増援が無くとも何とか凌げるかと思うけどね』
一方『戦力なら俺がいるしヒューズ=カザキリも加勢するしなァ』
ステイル『もちろん僕もいるし、作業が終ったら神裂も、そして何よりも魔女も来るぞ。ダンテに引けを取らないね』
一方『はッ!そィつは良ィじゃねえか!』
イフリート『我もいるぞ。そして我がダンテの友らもな』
そうして続いたイフリートの声に、
一方通行はニヤリと不敵に笑い。
一方『この面子に学園都市の損害を気にしなくて良ィってンなら―――充分じゃねェのか?おもックソ暴れてやンよ』
エツァリ「ふっ…………いけますか、いけますね」
釣られるようにして、エツァリも小さく笑い返して。
エツァリ「それとこの際、『私情』は抜きにしてくださいね」
一方通行の顔を真っ直ぐに見てそう言い放った。
薄く微笑みながらも、鋭く制するような声色で。
一方『……』
『私情』という言葉、それは半ば不意打ちで返された言葉であったが、
それが指す意味を一方通行は瞬時に悟った。
打ち止めとの関係―――彼女と頑なに距離を置こうとしていたことか、と。
466: 2011/11/24(木) 02:39:59.26 ID:c9WGBkWGo
虚数学区の展開は、要となる一方通行とミサカネットワークの連携が重要になってくる。
エツァリは、その連携を如何なる理由があろうと滞らせてしまうことは無いように、と告げていたのだ。
ただ、そんな彼の懸念も今や杞憂に過ぎない。
一方『あァ、わかってる。心配するな』
確かに一方通行は、今でもその問題については色々思うことはあるものの。
もう考え方もその結論も、これまでとは真逆なのだから。
そう。
今はもう、あの少女から―――
一方『「アレ」はもう…………やめたからなァ』
―――逃げやしない、と。
言葉少なくも、その一方通行の確かな反応を見て納得したのか、
エツァリは小さく頷いてそれ以上は言葉を発しなかった。
そうして一方通行は勢い良く立ち上がり。
一方『おィ!!アレイスターはどォなってる?!』
イフリート『大丈夫だ。今アグニがこちらに連れてくるぞ』
ベオウフルを見張るようにして向かい合っていたイフリートへ向かい、
状況を確認するべく声を放った。
一方『よしッ。それとあの「竜王」とやらを頃してねェだろォな?ダンテ』
イフリート『それも問題は無い。きゃつがあの小僧でもあることも気づいておる』
すると。
一方『そォか。できれば縛り上げるでもしてココに連れて来てもらいてェンだが、頼めるか?』
イフリート『―――…………ううむ。それがな…………』
なにやら急に口ごもり、その瞬間。
突然の―――凄まじい『地響き』が周囲を襲った。
467: 2011/11/24(木) 02:42:30.18 ID:c9WGBkWGo
否、それはただ『地響き』と呼べる代物ではなかった。
一方通行『―――!!』
厳密には『力の振動』だった。
床やこのビルはもちろん、大気も、物理的には一切変わりない。
激しく揺れているのは『力』だ。
ステイル達が醸す魔、エツァリの天、そして一方通行のAIM。
それらの力の次元においてだけ、何かが大爆発したかのような衝撃が襲ってきたのだ。
エツァリ「!!」
ステイル『なッ!!』
一体何が起こったのか、少なくともその表面的な事象はすぐに認識できた。
イフリートがこのビルに入ってくる際に穿った、
穴と言うよりも最早一面まるごとを剥ぎ取ったかの如き壁の側。
その向こうに広がる『学園都市の上』に、その場にいた全員が見た。
巨大な―――太さ数百メートル、高さはkm単位に及ぶであろう『黒い塔』が―――
―――天へと向けて勢い良く伸びつつあったのを。
『地面を割って学園都市から』、ではない、『学園都市の上から重ねられて』、だ。
塔の『幽霊』が現れた、といった表現がまさに適しているか。
勢い良く突き上がる塔に吹っ飛ばされるように、
50m以上にもなろうかという巨大な瓦礫や土砂の塊が飛び散るも。
『学園都市の地面』は割れもしていなければ、ビルも何も変わりなくそこに建っている。
だからこそ『幽霊』、まるで巨大な立体映像が投影されているような光景である。
質感も距離感も明らかに現実離れしており、どの学区の上に重ねられているのかすらもまるでわからない。
そもそも、物理領域にて明確に位置づけられるものではないのかもしれない。
さながら蜃気楼の如き、近づこうとしても絶対に到達できない『幻影』だ。
だが実際は、それは決して幻影なんかではなく―――『別位階上』に実際に存在していた。
一方『……!!』
皆が肌で確かに感じ取っていた。
この学園都市に重なる『界上』に出現した、あの黒き塔の存在を。
468: 2011/11/24(木) 02:45:49.40 ID:c9WGBkWGo
目を疑う光景に一方通行、エツァリ、ステイルが言葉を失う中。
傍にいた二柱の大悪魔は、それぞれの反応を見せていた。
イフリート『あれは……』
ステイル『……………………知っているのか?』
イフリート『…………直接は無いが……ダンテの記憶の中に垣間見た……まさか……なんと……』
炎の魔人は、驚きと嫌悪の滲む声でそう呟き。
白銀の巨獣は笑った。
異形の怪物そのものといった、地響きを伴う笑い声を発して。
ベオウルフ『竜王とやらも随分愉快な事を考える!!』
嫌悪は同じくも、一方でイフリート違って可笑しそうな色を滲ませて。
ベオウルフ『よもやこの忌々しい「塔」を再顕現させるとはな!!』
ベオウルフ『バージル!!ダンテ!!貴様ら兄弟の墓場に似合いの舞台ではないか!!』
一方『―――おィ!!なンなンだよありゃァ?!』
ベオウルフ『知らぬのか?!「我等」人界に残りし魔達の牢獄であり―――!!』
ベオウルフ『―――かつて、魔剣スパーダの「芯」が封印されていた領域へのかの「階段」を!!』
エツァリ「な……?!なッ……?!」
ステイル『おい!!イフリート!!答えろ!!向こうで何が起こってる?!』
そうして半分激怒し半分笑う、そんな奇妙な調子で昂ぶるベオウルフの言葉に続き、
遂にイフリートが口する。
イフリート『あれは……』
かつて、二人の若き魔剣士が剣を交え、その『宿命』を決定付けた―――。
イフリート『……………………………………………………テメンニグルの塔だ』
―――あの『始まりの塔』の名を。
―――
484: 2011/11/27(日) 02:53:18.87 ID:9fD6OnLMo
―――
学園都市の『界上』に限定的に再現されている『人界王の間』。
延々と続く黄金の縁取りがなされた白亜の石畳に、大気を満たすは黄昏色の光。
人間界本来の夕暮れとは色具合は似ていても本質はまるで違う、
篭められているのは退廃的な終末感と享楽的な狂気で彩られた混沌だ。
そんな、何もかもをコントラスト強く浮かび上がらせていくオレンジの光に。
ダンテ「…………」
ダンテは煩わしそうに目を細めながら、正面10m、割れた石畳に埋まっている『竜』を見ていた。
ここに飛び込んだ初撃で頭を『斬り飛ばし』、
更に蹴りの連撃を加えて胴を粉砕して石畳に叩き込んだ竜、周囲には破片と肉片が混じり広く散っている。
そして背後からは途切れ途切れの、言葉にならない悲壮な呻き声。
膝をつき蹲っている男、アレイスター=クロウリーのやり場の無い怒りと悔しさに満ちた声である。
周囲は無風、割れた石畳の欠片が落ちる小さな音のみ、そんな中で彼の慟哭が一際大きく響いていた。
そんな彼に対しては、ダンテは特には反応を示してはいなかった。
その面持ちは一見すると何を考えているのかわからない無表情、
よくよく見ると僅かに薄ら笑いが滲んでいる、非常に冷ややかなもの。
つまりは彼の『真顔』だ。
彼のその『真剣身』の原因はもちろん、
目の前のあの『竜』から覚える―――様々な匂いや感覚だ。
ダンテ「…………」
そう、良く見知った力や親しい者。
魔帝と『創造』、父と『破壊』。
そして―――上条当麻。
学園都市の『界上』に限定的に再現されている『人界王の間』。
延々と続く黄金の縁取りがなされた白亜の石畳に、大気を満たすは黄昏色の光。
人間界本来の夕暮れとは色具合は似ていても本質はまるで違う、
篭められているのは退廃的な終末感と享楽的な狂気で彩られた混沌だ。
そんな、何もかもをコントラスト強く浮かび上がらせていくオレンジの光に。
ダンテ「…………」
ダンテは煩わしそうに目を細めながら、正面10m、割れた石畳に埋まっている『竜』を見ていた。
ここに飛び込んだ初撃で頭を『斬り飛ばし』、
更に蹴りの連撃を加えて胴を粉砕して石畳に叩き込んだ竜、周囲には破片と肉片が混じり広く散っている。
そして背後からは途切れ途切れの、言葉にならない悲壮な呻き声。
膝をつき蹲っている男、アレイスター=クロウリーのやり場の無い怒りと悔しさに満ちた声である。
周囲は無風、割れた石畳の欠片が落ちる小さな音のみ、そんな中で彼の慟哭が一際大きく響いていた。
そんな彼に対しては、ダンテは特には反応を示してはいなかった。
その面持ちは一見すると何を考えているのかわからない無表情、
よくよく見ると僅かに薄ら笑いが滲んでいる、非常に冷ややかなもの。
つまりは彼の『真顔』だ。
彼のその『真剣身』の原因はもちろん、
目の前のあの『竜』から覚える―――様々な匂いや感覚だ。
ダンテ「…………」
そう、良く見知った力や親しい者。
魔帝と『創造』、父と『破壊』。
そして―――上条当麻。
485: 2011/11/27(日) 02:54:20.24 ID:9fD6OnLMo
ダンテ「よお、いつまでオネンネしてる?客に挨拶も無しで寝てるつもりか?」
リベリオンで肩を軽く叩きながら、ダンテはこれまた平淡な声を放った。
いつのまにか肉体の損壊部が元に戻っていた竜に。
竜王『…………無茶を言うな。お前の不意打ちを受けたんだぞ』
すると瓦礫を除けながら上半身を起こす竜。
いかにもつらそうにゆっくりとぎこちなく。
そして大きく翼を広げては一度羽ばたいて。
竜王『やあ、ダンテ。俺様は初めてではないが、「この状態の俺様」は初めてだな』
穴からようやく出てその淵、ダンテの前5mほどのところに立った。
ダンテ「みたいだな」
そんな竜を改めて見て、ダンテは片眉を細めた。
魔帝の力や上条当麻がこの竜に含まれていると確信したのだ。
今のは傷の『治癒』ではなく、ダメージが一切蓄積されていない状態への『己の新規作り直し』。
つまり『創造』の働きだ。
そしてこの竜という存在、肌に覚える感覚はまさに上条当麻そのものだ。
ダンテの確かな感覚は、この目の前の存在を上条当麻であると明確に認識しているのだ。
姿形、そして数語交わしただけでもわかるくらいに人格が違っていても、魂は確実に彼のものでもある、と。
ダンテ「………………」
そう状況の一端を把握した瞬間、
彼のこの場における、ある一つの選択肢が潰れた。
今ここでぶちのめす、という最も単純明快な選択が。
486: 2011/11/27(日) 02:57:30.13 ID:9fD6OnLMo
だがそれは充分予想は付いていた。
具体的にはともかく、このような手を出しにくい状態になることはわかっていた。
今挑んでいる本当の敵、『筋書き』が、そう簡単にコトを終らせてくれるわけが無いのは当然。
現状ではまだまだ『弓の弦』の引きは甘い。
ストレス
この程度の『世界の困窮』では、筋書きが望むような絶対的な『一矢』は放てないのだ。
現段階では、ダンテもコトを終らそうというつもりではない。
(もちろんもし可能だったのならば、さっさと片付けるが)
今の目的は、流れのど真ん中へ飛び込み割り込むことだ。
そしてどうやらその目的は達された様か。
この流れに新たな、かつ大胆な変化をもたらす筋書きの『修正点』、それが今―――目の前にあったのだから。
間違いなくこの―――竜だ。
ネロが魔剣スパーダをへし折る、そんなとんでもない事態に釣り合い、
そして上回るために、これでもかとばかりに重要な要素が集められている。
魔帝と父、加えて恐らく覇王、そして―――上条当麻、と。
ダンテ「……」
そう。
上条当麻という存在もまた、
ダンテにとっては大義的・個人的の両方で『とある意味』を持っていた。
487: 2011/11/27(日) 02:59:10.29 ID:9fD6OnLMo
竜王『さて、何から話そうか……』
ぱきりと、陶器の像が砕け散る光景を逆再生したかのように。
竜の外皮の上をどこからともなく出現した『殻』が覆っていき。
竜王『話したいことはかなりあるのだが、いかんせん、今は時間も限られているしな』
そうして竜はその異形から、一瞬にして人間、赤毛の華奢な男の姿へと変じた。
これまた陶器のように整った顔は、傲慢と嘲笑を隠しもせずに鋭い笑みを浮べている。
そんな中性的な容姿を、ダンテは細目で訝しげに眺めて。
ダンテ「なら俺が聞いていいか?」
竜王『構わない』
ダンテ「『お前』は上条当麻か?」
そうして単刀直入、そう簡潔に核心の一つを問うた。
竜はやはり察しがいいな、と小気味良さそうに口角を上げては。
竜王『そうだ。俺様は上条当麻。魂は完全に同一』
竜王『俺様の氏は、上条当麻の氏でもある』
ダンテ「………………へぇ」
488: 2011/11/27(日) 03:01:49.46 ID:9fD6OnLMo
現状では手を出しにくいという原因には、
もちろん『創造』という厄介な力が存在もあるが。
上条当麻という存在のよるところも大きい。
上条当麻。
かの少年は失われてはならない。
生い立ちや力の差はあれど、その本質的な意味はネロと同じ。
これからの人間世界を守るであろう、『次代』の強き意志の一つ。
受け継がれる『正義』の一欠けら。
ボーヤ
己の全てに換えてでも守り遺さなければならない『子供達』の一人である。
ここでそんな存在を、仕方の無い犠牲と割り切ってもろとも頃すか。
そう、確かにそうせざるを得ない状況か。
かつてネロが神像に取り込まれた時のような状態とはまるで違う。
竜の魂は上条当麻そのもの、完全な同一人物。
客観的に見ると、ダンテの記憶にある『上条当麻という少年』は―――氏んでしまったも同然であろう。
すなわち『今まで通り』―――『手遅れ』なのだ。
ここからダンテが専念するべきなのは、更なる被害の拡大を防ぐため、
創造を打ち破り竜を頃す、ただそれだけ。
そしてそれが成されれば、この騒乱の大部分は収まるだろう。
しかし。
それでは今までと『同じ』―――単なる『受身の現状維持』でしかないのだ。
根本的には何も解決しておらず、一歩も前には進めない。
そしてスパーダの一族、その血の破滅的な力が『救い』として称えられ、
それを維持するために、たびたび避けようの無い絶望的なイベントが繰り返される未来が続くことになる。
つまりは、ここで今まで通りのやり方で解決してしまったら。
そのあり方が―――揺ぎ無く『再肯定』されてしまうということだ。
489: 2011/11/27(日) 03:03:07.37 ID:9fD6OnLMo
ダンテ「……」
当然。
今のダンテは、そんなこれまで通りのやり方をするつもりなど無かった。
ネロはそんな筋書きを真っ向から拒絶し。
ダンテは筋書きをぶっ潰すために今ここに立っているのだから。
そう、今この状況こそ、
ダンテとネロの選択と筋書きの流れの向きが、『初めて』真っ向から対峙した瞬間だ。
これこそ筋書きの明確な、ダンテ達へ向けての『反応』だ。
スパーダの一族が、スパーダの力を否定し捨て去ることは許さない。
そしてスパーダの一族ではない者が、スパーダの意志を受け継ぐことはできない、させない。
スパーダの一族ではない絶対的英雄など、必要ない、認めない、と。
『そんな者達』など、こうして舞台装置の一つにしてやろう、と。
つまりこの『修正点』の本質は―――筋書きからの『宣戦布告』。
万物を統べる因果、その全体意志には逆らえぬと、
反逆者に首輪を再認識させるための。
それはそれは付け入る隙の無い、ダンテの弱点を的確に抑えた一手であった。
このような状態に置かれれば、
普通ならば怒りを覚えるか、または焦燥し絶望するか。
しかしこれを認識したダンテがまず最初に示したのは。
ダンテ「―――ハッ」
―――笑み。
490: 2011/11/27(日) 03:03:50.70 ID:9fD6OnLMo
やはり相変わらずの薄いものではあったが、
瞬間、彼はこの場で初めてはっきりとした笑みを浮べたのだ。
それはそれは危うい戦気と昂揚―――『期待感』が滲んだ、見た者を戦慄させる不敵な笑い。
獲物を眼前に捕捉した獣、戦いを生業にする闘士そのものの瞳。
この男には、追い込まれて消沈する『神経』など存在していない。
困窮に陥れば陥るほど、彼の原動力たる魂は熱く噴き上がる。
不可能だと?、上等じゃねえか。
上条当麻、必ずお前を臭え竜の口の中から―――引きずり出して。
クソッタレな筋書きは綺麗さっぱり消し飛ばしてやるよ、と。
竜王『―――…………はは、これは恐ろしい』
一瞬、そんな顔と瞳に捕捉されていた竜は、
その端正な顔を僅かに引き釣らせた。
竜王『聞いてはいたが、やはり実際に相対すると凄まじいな』
ダンテは「そうか?」といった風に少し肩を竦めて。
肩に載せていたリベリオンを降ろしては足元に突き立て、その柄に肘を載せながら。
ダンテ「創造、どうやって動いてるんだ?」
そして左手で顎先をさすりながら、まるで何気なく雑談するような声色でそう問うた。
ただもちろんそれは表面的な部分だけで、
その全身からは強烈な威圧感が一定して放たれていたが。
ダンテ「ボーヤの右手に収まってたのはまあ薄々気付いてたが、それでも徹底低にぶっ壊れてるはずだぜ」
対して竜はそのダンテの圧で火照った熱を冷ますように、一度大きく息を吐いて。
竜王『アリウスさ』
その目をダンテの背後下、
アレイスターの方に向けながら、かの魔術師の名を口にした。
491: 2011/11/27(日) 03:06:30.25 ID:9fD6OnLMo
竜王『彼はその「負け犬」とは違い、本当にとんでもない男でな』
竜王『覇王とスパーダの力を「生きた状態のまま」で統合し、器に組み込み完全に己がモノにしてしまったのさ』
竜王『そんな彼の器さえあれば、創造も具現も負荷は全く気にしなくて良い。問題なく稼動する』
竜王『そして創造の破損部は、具現を組み合わせる形で修復した』
そうして右手をポケットに突っ込み、
左手で得意げに髪をかきあげて言葉を続ける。
竜王『創造と具現は、元はある同一因子からの派生系だからな』
竜王『違いは精神領域か実体領域か、作用原理が異なっているだけ。その差異は魔帝と覇王の性格によるところか』
竜王『そこだけを除き、他の点はほぼ同一だ。共に絶対的な己の存続を約束し、広範囲に絶大な影響を及ぼすまさに支配者に相応しい力』
竜王『またそうした側面から「保身」の意味も強いため、使用者には比較的優しいものだ』
と、そこで竜はふとわざとらしく眉をしかめて、
「だがな」と一度話を区切って。
左手をふと顔の高さにまで掲げて。
竜王『まあ少し話変わるが、逆に―――』
紫とも赤黒いとも言える『光』を灯した。
竜王『―――「破壊」はとんでもなく扱いにくいな。「やはり」』
492: 2011/11/27(日) 03:12:35.98 ID:9fD6OnLMo
そんな、笑み交じりにも辛そうな顔を見せる竜に、
ダンテは「そりゃそうだろう」といった表情を浮べて。
ダンテ「昔、俺も気ぃ狂いかけたからな」
ダンテ「免疫の無い『赤の他人』が、親父のモンそのまんま入れちまえばキツイに決まってるさ」
絶え間なく際限なく湧き出してくる力。
ダンテも過去に一度、その『破壊』の性質の境地にまで到達しかけた。
かつてマレット島で、覚醒した魔剣スパーダを手に魔帝と相対した際にだ。
余分なものを何もかも取り払い、ただ純粋な力の亡者と変貌する―――『真魔人化』。
ダンテ自身、あのまま『破壊』に身を委ね続けていれば、
自我を失い『闘争の獣』へと変じてしまっていただろうか。
だからこそあれ以来、ダンテは魔剣スパーダを使おうとはしなかった。
竜王『本来、まことの創世主の因子とは創世主のみに許される力だ』
破壊の負荷に苛まれているのか、
竜は小さく歯噛みしながら更に言葉を連ねていく。
竜王『その力を創世主ではない者が扱うには、ある程度「薄める」必要がある』
竜王『創造や具現は、現に創世主たる力をコンパクトに簡素化したものだ』
竜王『魔帝や覇王は現実家だからな、そんな彼らの性格上、発現する創世主の因子もまた使い勝手の良い形となる』
竜王『しかし同じ創世主の因子でも―――「破壊」は違う』
竜王『スパーダはただ純粋に力を求めた。己が保身も野望も一切無く。力だけをな』
竜王『結果、発現した「破壊」は―――全く薄まることなく―――創世主のそれとほぼ同一のものであった』
竜王『それがどのような意味なのかはわかるな?』
ダンテ「…………『まことの創世主の因子とは創世主のみに許される力』、か」
竜王『その通り。いくら超越者とはいえ―――創世主ではないスパーダには手に余る代物だったのさ』
竜王『故に彼自身ですらその身に収めておくことに耐え切れず、魔剣スパーダとして分離させることとなる』
493: 2011/11/27(日) 03:16:42.27 ID:9fD6OnLMo
ダンテ「…………」
それが魔剣スパーダの誕生の物語。
初めて聞く、それも相手からして真偽不明の逸話。
だがそれが真実であったとしても何ら不思議ではない。
いいや。
むしろ、真実はこうでなければ筋が通らない。
ダンテは知っている。
スパーダが何よりも、そして唯一恐れていたものこそ―――己の力だったのを。
魔界の門の錠に己の半身を惜しみなく使い、
更に魔剣スパーダもただ封印するだけではなく三つに分解までする。
そんな己の力に対して一片の未練も愛着も感じさせない様は、
フォルトゥナの地獄門ですらを、故郷魔界への情緒から残してしまったような男の行いとは思えないものだ。
だが。
この竜の話でその糸は全て繋がる。
その過去の父の行動も、ダンテ自身の魔剣スパーダを使った時の体験も。
二つの魔剣を双子の息子達に授けてしばらくの後、父がふと姿を消した―――その理由も。
そうして、母は父をこよなく愛していたにも関わらず――――――失踪した彼を一切探そうとしなかったのも。
ダンテ「Humm」
諸々の記憶から、随分と前から薄々はそうであろうと思ってはいたが、
やはり第三者からの筋の通る情報がなければスッキリしないものだ。
そこをようやく埋める確信を手に入れられて、
顎をさすりながらダンテは小さく喉を鳴らした。
長年、その頭の片隅を占有してきた『もどかしい問い』と決別できるのだ、と。
その一方で少し名残惜しいが、
今までもどこかで抱いていた、一縷の『期待』とも別れなければならないが。
ダンテ「…………………………………………」
そう、―――『父は既に氏んでいる』、そうはっきりしたのだから。
494: 2011/11/27(日) 03:20:37.86 ID:9fD6OnLMo
ダンテ「それにしてももの知りだな「じいさん」、一体いつから生きてんだ?」
竜王『創世記からさ。創世主の座に君臨していた頃のジュベレウスの御業も、直に目の当たりにしてきた』
竜王『そういえば、俺様の自己紹介がまだだったな』
と、そこでふと思い出したかのように、
竜は左手に灯していた破壊の光を収めては改めてといった面持ちで。
竜王『我が王号は「人王」にして――――神号は「 竜 」』
これまた、いや、これまで以上に酔狂して声高に仰々しい名乗りを始めた。
竜王『そして全宇宙、因果の新たな主に成る――――――「唯一にして全て」』
竜王『―――我が真名を魂に刻め。今宵から全宇宙の不変の真理となる言霊を―――』
しかしこの名乗りは、今の相手には大層たまらなかったものだったらしく。
竜王『その輝きは、旧世界を焼き払う黄昏の―――』
ダンテ「ふはっ……はっ―――おいおいちょっといいか?自己紹介くらいもうちっとサクサクやってくれ」
思わず噴出して笑い堪えるダンテに遮られてしまった。
竜王『……………………』
ダンテ「拝むたびにんなコテコテの前置き聞かされるなんてたまんねえぜ。『ありがたみ』も薄れちまう」
あからさまに不機嫌な表情を浮べる竜とは対照的に、
彼は小刻みに肩を揺らしながらお返しとばかりに言葉を連ねていく。
軽く飄々と、普段と同じの半笑いの冷やかし声で。
ダンテ「ママに教わっただろ?人と話すときは要点をわかりやすくってな。ん?何?教わってねえのか?」
ダンテ「じゃあパパにこう教わらなかったか?ケンカの時に言葉で自分を飾る奴は―――」
しかしその言葉の最後には。
ダンテ「―――案外大したことはなかったりするって、な」
笑みは含まれてはいなかった。
ただその表情の変化は、竜の目に映ることはなかった。
なぜならその直前。
竜王『―――』
彼の端正な顔にダンテの無骨なブーツの裏――
495: 2011/11/27(日) 03:25:36.76 ID:9fD6OnLMo
―――正面蹴りが叩き込まれていたのだから。
確かにこの竜を倒す選択なんて、現時点ではまず有り得ない。
しかし確保するかしないかはまた別の話である。
強烈な一撃を受けて竜の頭部は砕け散り―――首から下が、放られた人形のごとく吹っ飛んでいく。
いや、厳密にはその一行動の合い間に『三撃』加えられていた。
一撃目はダンテの靴裏。
二撃目は瞬時に出現したギルガメスの鋭い歯車。
そして三撃目は、そのギルガメスに組み込まれている拳銃からの魔弾。
はじけ飛んでいく竜の体は最初に穿った床の穴の上を越え、
そしてその規模をも遥かに越える穴を100mほど向こうに穿った。
ド派手に石畳を捲りあげ大量の欠片を撒き散らして。
その様子を前に、ダンテは魔剣を引き抜いてはたんっと颯爽と前へと踏み出し。
ダンテ『アグニ。ルドラ』
魔人化し、かの双子の大悪魔の名を口にした。
すると瞬間。
咆哮染みた声を轟かせながら、すぐ上方の虚空から呼ばれた双子が出現、
アレイスターの盾となる位置に、石畳を割って豪快に降り立った。
そうして彼らにアレイスターを任せ、ダンテはクレーターに降り立つ。
竜はクレーターの底にて、崩れた石畳に埋まっていた。
出ているのは手先と足のみ、胴部分は全て瓦礫の下、
先ほど砕け散った頭部だけは埋まってはいないか。
ただその事実も、創造によって即変更。
竜王『……ッ……二度も不意を突くか』
瓦礫の下から放たれるは、無いはずの口からの声。
ダンテ『ハッハ、ケンカに不意打ちもクソもねえさ「王サマ」』
そして『新造』されたのは頭部のみならず。
竜王『はは―――それも尤もだな』
『翼』もだ。
刹那、瓦礫を一気に吹き飛ばすようにしてその下から大きな竜の翼が出現―――
―――薙ぎ振るわれたその両翼から、無数の魔帝の矢を放った。
496: 2011/11/27(日) 03:30:01.39 ID:9fD6OnLMo
懐かしい、いや、これを見たのはつい半年前、
懐かしむほどの時間など経過していないか。
ダンテ『―――Ha!』
ダンテは小気味の良い声を漏らしては、この壮絶な弾幕へと真っ向から飛び込んだ。
無数の魔帝の矢、それらが壁となって押し寄せてくる光景はまさに圧巻か。
しかし。
表面的にはそうは見えても実際に飛びこむと、この竜のと、本物の魔帝のそれとは大きく異なっていた。
本物の魔帝が放つ弾幕は一見無造作に見えても、
実は一本一本隅々までまで意識が行き届いていて、その起動は全て計算ずくであった。
一本避ければ別の一本のコースへとどうしても出てしまい、その一本を弾けば、
今度はその手が届かないコースで別の一本が、といった具合にだ。
だが竜のこれは、『ただのばら撒き』だ。
数多く放たれているだけで、その実は無秩序、
コース修正もなくただ真っ直ぐにしか飛ばないため、突破ルートは簡単に複数見出せてしまう。
ダンテはその中の一つ、あえて幅が狭いルートを選び身を投じた。
頬を、首を、脇を、無数の矢が凄まじい勢いで掠めていく。
だがどれも数cmいや数mmというところで当たらない。
身を捻り、ギリギリながらも正確無比に、
紙一重ながらも余裕たっぷりに赤き魔剣士は抜けていく。
更にここで彼特有の遊び心か。
彼はあえてルートを外れ、わざと矢のコースへと身を投じ。
ダンテ『――Siii―Ha!!』
身を回転させては左足、右足と連蹴りで掃い―――最後に魔弾で蹴散らし、完全に弾幕を突破。
そして。
竜王『―――』
新造されたばかり、かつ瓦礫からちょうど出たばかりの竜の顔へ目掛けて。
今度はリベリオンの刃を突き立てた。
同時に両足でその胴体を踏みつけつつ。
もちろんその足は『一蹴三撃』という凶悪なもの。
そんなこれまた豪快過ぎる着地に、クレーターは一際大きく深く陥没した。
497: 2011/11/27(日) 03:33:41.84 ID:9fD6OnLMo
魔帝の矢。
これには特に、マレット島における戦いの際に幾度と無く苦しめられた、
『イカれてるダンテ』でさえもが『嫌いな』攻撃だ。
だがそれもこの通り、使用者次第。
ダンテがかつて苦しめられた原因は、もちろんその威力が凄まじいこともあるが、
魔帝の豊富な経験と極められた戦闘技術によるところもかなりの比重を占めるものだ。
ダンテ『まだまだ甘いな。力に遊ばれてるぜ』
確かにその力の規模だけでも充分脅威ではある。
だが同じく力が桁違いで、かつ戦闘技能も極められている相手、
例えばこの通りダンテなどが相手では、そう簡単に通用などしないのも当然の事である。
だが。
だからといって、充分脅威であることが打ち消されることもない。
技術、経験など時には関係なく、
インフレした量の力というものは存在するだけで、何人にとっても一定の脅威であることもまた真理。
リベリオンで再び瓦礫の底へとぶち戻した竜へそんな軽口を飛ばしていたところ。
ダンテ『―――』
ふと気配に気付き、ダンテがその面を挙げると。
正面上方にて長さ5m近くにもなる、赤い―――『光の大剣』が浮遊していた。
これもまた、つい最近に嫌と言うほど見たものだった。
平時の人間界ならば、一撃の下に消し飛ばせる規模の―――圧倒的な『力の塊』。
かの魔帝の―――絶なる刃だ。
次の瞬間。
これを見たダンテの一言を待たずして、大剣が打ち出された。
498: 2011/11/27(日) 03:38:41.45 ID:9fD6OnLMo
迸る閃光、激突する赤と赤の力。
衝撃に晒された石畳は広範囲にぶっ飛び、いいや、削り取ってしまったかのように綺麗さっぱり蒸発。
欠片一つ飛び散らず、滑らかな擂鉢上の地面へと変貌する。
だがこれも漏れ出したほんの僅かな余波によるものにしか過ぎない。
放たれた莫大な力は、同じく莫大な力の篭められた極なる『一突き』によってほぼ全て相殺されていた。
ダンテ『―――ふッはッ―――!』
総出力の力を集め極限まで圧縮して。
それを載せて叩き込む、シンプルかつ最大火力のダンテの十八番、『スティンガー』。
彼の白銀の刃は強烈な『魔の熱』を帯びて、周囲を蒸発した爆心地にて金属音を奏でていた。
ダンテが先か、それともリベリオンが先か、この場合いはもう関係ないであろう。
『仇』の力を受けた刃の高鳴りに同じく、ダンテも思わず昂揚した声を漏らす。
ヒメイ
この衝撃、この痺れ、このリベリオンの刃から響く歓喜の『共鳴』。
頭では魔帝は氏んだとわかっていても、
この身を流れる父と母の血が沸騰していく。
―――ぶっ殺せ、クソ野郎をぶっ殺せ、と。
だがそんな魅惑の闘争心にのせられるほど、彼の理性は弱くも無い。
ダンテは即座にそんな危うい声を遮断して竜の方へ。
今の隙に脱し、10mほど前方に立っているあの華奢の男へと目を向けた。
499: 2011/11/27(日) 03:41:44.43 ID:9fD6OnLMo
竜王『つッ―――はっはァ!!』
興奮しているのか、口を引き裂くようにして短くも大きな声を発する竜、その姿形は既に新造されていた。
魂にも器にもダメージの痕跡も全く無い。
ダンテ『……』
対照的にすぐに己を落ち着かせたダンテは、
冷静に今の一連の状況を分析していく。
今の攻撃は確保を試みたものであったが、どうやら確保することもかなり難しいか。
その力の使い方は到底及ばないものの、その総量は紛れも無く魔帝に匹敵、いいや。
覇王とスパーダの片割れをも吸収している今はそれ以上か。
そんな莫大な器上で創造が稼動している限り抑え込むことなど不可能、
身を縛しようが今の通り力の放出を留める術は無いようである。
ダンテ『……』
これは面白いといえば面白いが、一方で面倒臭い、
それがこの結果に対するダンテの率直な心境だった。
さて、ではここからどうするか。
気まぐれ気の向くままに進むことは変わりないが、
それでもある程度の向きと目的を定めておく必要がある。
まずここでこのまま戦い続けていても、上条当麻を引きずり出す方法が見つかるとは思えない。
バージルの件もあるためあまり長くダラダラと付き合ってもいられない。
そして兄のみならずもう一度、あの黒髪にイイ体の『素晴らしい魔女』とも接触したい。
無論、イイ女であるからではない、
彼女もまたバージルやネロと同じ重要な世界の要素であると直感しているからだ。
と、竜に相対する傍ら、ダンテが頭の半分では思考を巡らせていたところ。
同じくして思考を巡らせていたのか、竜がふと何かを思いついたような笑みを浮べて。
竜王『……この戦いが含む意味、お前にとっては人間を守るためというだけでは無いな』
500: 2011/11/27(日) 03:46:20.29 ID:9fD6OnLMo
ダンテ『……』
一瞬、唐突に何を言い出すかと思ったがすぐにダンテは気付いた。
恐らくこれが具現という力の作用の一つか、と。
どういったものかは、ある程度は話に聞いている。
ウィンザー事件もあって、
トリッシュの言いつけで否応無くそれなりに学び研究せざるを得なかったのだから。
だた。
トリッシュ『他者の精神、記憶へと侵入し干渉、干渉できなくとも全て覗き通すことができるみたいね。嫌な力。デリカシーがないわ』
こうして繋がりを介してトリッシュが補則してくれるのならば、
別に自身が学ばなくとも良かったのでは、ともダンテは一瞬思ってしまうが。
竜王『スパーダの血族。その世界の歪みたる、因果に食い込む「宿命」を清算する戦い、か』
竜王『自らの存在が、大乱を誘発させる潜在的な原因であると考えての、な』
竜王『具体的には、人間界の時間軸を「塞き止めている」バージルと魔女の本拠へととりあえず殴りこみたい、違うか?』
ダンテ『…………へぇ。便利な力だな。まあそんなところだ』
そしてこれまたいつもの事。
嫌悪を示したトリッシュとは反対に、
まるで意地になって対抗するかのようにある程度の許容の反応を見せるダンテ。
竜は可笑しげに小さく笑いこう続けた。
竜王『ならば、少しお前手助けをしてやろうか』
501: 2011/11/27(日) 03:51:05.63 ID:9fD6OnLMo
ダンテ『……Humm』
そこでピクリと。
笑み交じりに、わざとらしく訝しげに眉を細めるダンテ。
竜王『俺様が考えるに、こんなことをやってのけられる場所は「神儀の間」しか考えられない』
竜王『「神儀の間」とは俺様が倒された折に建立された神域の一つだ』
竜王『かの神域にて魔女とその側に付く魔、賢者と天界の間で誓約が交わされ、セフィロトの樹の原型が築かれ、そして2000年前』
竜王『戦勝の英雄たるスパーダが、諸神らの前で人界と共に生きることを誓った』
そんな彼に対して、
竜は右手を肩の高さに掲げて得意げに続けていく。
竜王『とまあ、概要はそんなところだが、重要なのは今、バージルはかの領域を完全に支配しており』
竜王『彼の意志無くして、何人も不可侵ということだ』
ダンテ『……』
竜王『お前でもな、もちろん俺様でもだ』
そしてこれまた大げさな表情を浮べて。
竜王『だが一つだけ。彼の意識外からかの領域に侵入できるルートがある』
竜は不気味にほくそ笑んだ。
その端正な顔を醜悪に歪め、享楽的酔狂に満ちた息を吐いて。
竜王『お前にとっては懐かしいものであろう』
そうして。
竜が掲げた右手を軽く振り下ろした―――その瞬間だった。
光が溢れ―――竜の姿が一瞬で忽然と消え。
入れ替わるようにして、延々と続く白亜の石畳の果てにて―――突然、地を割って巨大な『塔』が出現した。
ダンテ『……』
幅数百m、高さは数kmにも及ぶであろう『黒い塔』。
その姿まさしく。
今でもダンテの脳裏に焼きついているあの―――テメンニグルの塔そのものであった。
502: 2011/11/27(日) 04:02:48.60 ID:9fD6OnLMo
竜王『―――そう、テメンニグルの塔だ』
そしてこれも具現の力の一つなのか、
この場には存在していないにも関わらず、そして『繋がり』なども形成してもいないのに。
トリッシュのそれと同じように直接意識内に響いてくる声。
竜王『人界に踏み入った魔達の牢獄であり、魔剣スパーダの「芯」の封印領域へと繋がる「階段」』
竜王『だがな、それらは「アレ」の本質ではない』
ダンテ『……』
どこかへ離脱してしまったのだろうか。
ただダンテは、そんな竜の突然の逃走にも特に動じはしなかった。
創造が機能している以上、逃げる気になった竜を留めておける方法など現状は無いのだ。
竜王『アレはかつて魔女の手によって、神儀の間と共に建立された「神域」の一つ』
そうして、声のみとなった竜の言葉が続いていく。
竜王『本来の機能は―――あらゆる領域へと繋げられる―――「門」だ』
竜王『築かれた当初の目的は、魔界による侵略の際に異界から直接増援を引き出す、というものであった』
竜王『ただ結局、その主目的では使われ無かったがな。開門に必要な力が莫大過ぎることもあって―――』
ダンテ『―――ハッ。長ったらしいご講釈はもう充分だ。要はなんだ?』
と、そこでダンテは耳障りとばかりに目を細めて、
そう単刀直入に切り返す。
竜王『……ふん。要はだ。お前がかの塔に血を注いだ時、門はお前の望む場へと開く』
竜王『お前はバージルの下へと到達できる。一切の障害無くな』
503: 2011/11/27(日) 04:08:07.23 ID:9fD6OnLMo
ダンテ『……』
これは一体―――如何なる意図があるのだろうか。
じっと塔を遠めに眺めながらそう、ダンテが意識内でふと思うと。
竜王『現時点において、お前と俺様の利害は一致してるのだよ』
竜が口を開き、これまた『ご丁寧』に述べてくれた。
竜王『俺様は、筋書きの従うことを決めた。だがな、なにもその目的に同調したわけではない』
竜王『俺様が求めるのはその「過程」だ。意外性に満ち溢れ、あらゆる刺激を有する激動の物語。それを見、体験したいのだ』
竜王『筋書きは、ただ俺様とお前が氏力尽きるまで激闘を繰り広げること、そしてお前が「上条当麻を頃す」結果を望んでいる』
竜王『だがそんな流れなど、お前は望んではいないし何より―――つまらないだろう?』
竜王『そして俺様も―――まだ終らせたくはない。更に愉快な展開にしたい』
ダンテ『…………Humm』
竜、その人格はどうにも信用ならず、
そして何よりも生理的に気に喰わない。
『ムカつく』野郎だ。
だがそんな人格とは相反して、
その良し悪しはともかく吐かれる言葉は全て合理的。
それにこれまた『腹立たしいこと』に。
ダンテの冴え渡る直感が、竜の言葉は全て真実であると揺ぎ無く肯定していた。
ダンテ『…………』
504: 2011/11/27(日) 04:19:29.85 ID:9fD6OnLMo
トリッシュ『一端退きましょう、ダンテ。イマジンブレイカーの坊やの件もあるし、これは良く考えなくちゃ』
内から、一時退却を促すトリッシュの声が共に思考の中に響く。
彼女の言うこともごもっとも、それが『普通』の考えであろう。
先行きが読めず、かつ複数の未解決の問題が積みあがっていれば、
誰でも一先ず歩みを止めて状況を分析しようとするものだ。
だが生憎―――ダンテは普通じゃない。
彼は正真正銘『イカれている』。
どうしようもないくらいに常軌を逸して、他の悪魔とも人間とも違って何かが『ズレている』。
竜王『再びかの塔を昇り、己の血で扉を開け』
それこそ『ダンテ』が『ダンテ』たる個性であり、
そして―――筋書きに気付き反旗を翻す、という『狂気の沙汰』へ至った種だ。
竜王『お前の宿命が決定付けられたかの塔の門の先で―――』
つまりはこの『狂気の沙汰』を昇華し貫くことこそ―――筋書きをぶっ潰すに至るのだ。
竜王『―――お前の宿命の決着が待っているであろう』
それに竜の言葉通りならば。
竜王『そして―――「全」へと成っている俺様もその先にな』
『上条当麻』も塔の先にいるということだ。
これはもう、ダンテにとってこの『挑発』を断る道理など無い。
ダンテ『―――ハッハッッ!!面白え!!乗ったぜそのゲーム!!』
進んで飛び込み何もかもを盛大にド派手にぶち壊す。
宿命の本質へと到達するこの戦いは、まさにこれまでを再度なぞる集大成。
そうだ。
何だってそうだ。
クライマックス
―――『最 期』はこうでなければいけないものだ。
505: 2011/11/27(日) 04:28:31.09 ID:9fD6OnLMo
そうして。
魔人化を解いては、ダンテは一ッ跳び。
マントと翻してアレイスターの盾となっていたアグニとルドラの傍へと降り立ち。
ダンテ「聞えてたな!そういうことだ!俺はもう一度あの塔に登る!」
アグニ『我らも共に』
ルドラ『我らも同行を』
ダンテ「良いぜ!来な!『思い出巡り』だ!」
そうして、猛々しい喜びの雄たけびを上げる双子を傍らにダンテは歩き進み。
ダンテ「…………よお、お前も来るか?」
因果からダンテがもぎ取った命、アレイスターへと言葉を放った。
哀れで罪深い彼は相変わらず俯き、廃人のようにただ呆然としている。
だが。
ダンテ「お前に何があったのかは知らねえ。だがこれだけはわかるぜ」
ダンテ「お前は因果とやらに吐き捨てられたってな」
因果。捨てられた。
その言葉を投じられた瞬間、僅かにアレイスターの肩が動き。
ダンテ「どうだ? んなクソッタレな『お前の筋書き』―――ぶっ飛ばしたくはねえか?」
そして微かに、『動き』のある硬直を見せたが。
それでも結局は、彼は立ち上がるそぶりは見せなかった。
506: 2011/11/27(日) 04:31:11.04 ID:9fD6OnLMo
そんな彼を見て、ダンテは両脇の双子へ向けて声を飛ばして。
ダンテ「………………おい、どちらか、コイツを学園都市に戻してきてくれ」
アグニ『ふむ、では一先ず兄の我が』
ルドラ『ふむ、では我が先にダンテと共に行こう』
ダンテ「なあ、アレイスター。お前の宿命を潰せるのは、お前しかいねえんだ」
アグニがその巨体をアレイスターの傍に屈める傍ら、
まるで何気なくの独り言のように、あっさりとした声色で連ねた。
ダンテ「『英雄』ってのはそりゃあ表向きは大勢を救えるが、それはあくまで表向きでしかない」
無数の救うべき命が、
どうしても『手遅れ』となりその手をすり抜けてきた者としての言葉を。
ダンテ「―――20年も『ヒーロー屋』やってりゃ、嫌でもわかるぜ」
ダンテ「『宿命』ってのから本当にそいつを救えるのは―――そいつ本人だけだってな」
彼らの屍の上に立っている―――『血まみれ』英雄としての言霊を。
ダンテ「何が言いたいかわかるか?要はな、」
ヒーロー
ダンテ「本来、『英雄』ってのは―――誰でもなれるもんだってことだ」
アレイスター「…………」
それらの響きが、この男の内にどこまで浸み込み。
どんな波紋を描くか、それを明確にこの場で知る術は無かった。
だが。
確実に、何らかの波紋を生じさせたのは確かであった。
アグニに連れられ、彼の姿が消える際にダンテは見た。
アレイスターのその拳に力が僅かに戻り―――握り締められたのを。
ダンテ「ハッハ。まずはステップ1はクリアだ。そうだ―――その通り―――」
そしてダンテは小さく笑い。
ダンテ「―――ぶっ飛ばすには、はじめに握り拳を作らなきゃあな」
彼方の塔へとその面を向けた。
―――
507: 2011/11/27(日) 04:32:05.65 ID:9fD6OnLMo
今日はここまでです。
次は火曜に。
次は火曜に。
508: 2011/11/27(日) 04:38:51.19 ID:mw0/2TeTo
なんちゅう時間に
乙
乙
515: 2011/11/30(水) 02:22:18.39 ID:FyE4RatUo
―――
何もかもから隔絶された領域、虚無の彼方にて。
神裂『…………』
禁書『…………』
互いにしっかりとその手を握りしめながら、
二人は静かに待ち続けていた。
眼下に広がる大樹は、5%ほどの線を残してほぼ二分されている。
インデックスの正確な解析のもと、神裂が次元斬りで少しずつ切り離していったのである。
今頃天界は大騒ぎであろう。
セフィロトの樹、そのシステムを全てチェックし、何とかして侵入者を見つけ出そうとしているはずだ。
しかし見つかるわけが無い。
こうして虚無から刃を振るっているのだから。
彼女達は一切邪魔されること無く、ここから悠々と切断していったのである。
そしてその残る『枝』は―――人間への各種テレOマの供給線のみ。
彼女達は今、その供給線を前にして作業の手を止めていた。
ステイルからの報告を踏まえての、テレOマの供給線に関するバージルの判断を待って。
516: 2011/11/30(水) 02:25:14.95 ID:FyE4RatUo
ただ。
神裂は、己とステイルの要望が通るとはどうにも思えなかった。
バージルからすれば天界魔術師など微々たる存在であろう。
いてもいなくてもさして変わらない、いや、むしろ彼の性格からすれば、
余計な事をされないよう供給線も切り力を奪った方が良い、と考えるかもしれない。
そもそも計画は当初から、セフィロトの樹は全切断する方針。
ここで供給線だけを残すよう要望する神裂やステイルの方が、その計画から逸れてしまっているのだ。
テレOマの供給線を残して、実際的な利点は何がある?
計画をここで変更するに足るものがあるか?
むしろこのまま計画通り全切断し、天界魔術を人界から一掃してしまった方が、
多くの争いの原因を根絶することができて良いのではないか?
そう返されてしまえば、神裂とステイルは何も言えなくなってしまう。
『理由付け』の殻は全て剥ぎ取られてしまい、こう曝け出されてしまうのだから。
根は単なる『私情』、『己が育った世界、そして今も仲間達が所属している世界を失いたくないであるから』、と。
しかしそうした『私情』を抱いてしまうのも、人の心を持つものとしての性である。
どれだけ小さくとも確かな機会と理由を手に入れてしまったら、
誰しもがその私情を叶えることを試してみたくなってしまうもの。
それが例え、拒絶されるとわかっていてもだ。
神裂『あのう!聞えますか?!答えを!』
神裂『お願いします!!どうか―――!!』
517: 2011/11/30(水) 02:28:07.05 ID:FyE4RatUo
沈黙を通す主に向け、再度声を放つ神裂。
そんな彼女とは対照的に。
禁書『…………』
傍らのインデックスは、
この件に関しては未だ明確な意志を示さずにいた。
彼女は少し俯きながら下唇を噛み、じっと押し黙ったまま。
神裂『……っ』
魔女の身としてはセフィロトの樹の全切断、
天界と人界の完全決別はまさに悲願であろうか。
更に二度目の人生も魔術世界で道具として良いように扱われて、
天界魔術が引き起こした騒乱の数々を目にしてきた彼女からすれば尚更か。
と、そんな自身の思いの一方。
神裂やステイルの立場でもしっかりと考えているのだろう、
一切口を出そうとはしない。
神裂『…………』
しかし彼女、インデックスはいささか不器用で素直すぎるところがある。
彼女自身は隠しているつもりなのであろうが、繋がりを介すまでもなく、
その表情や佇まいで心情は丸わかりだ。
一度、そんなインデックスを見て。
神裂と繋がりの先にあるステイルは、やはり己達の私情が過ぎていたと認識して。
神裂『………………す、すみません。やっぱり―――』
そう、バージルへ向けて声を発しかけた時。
ほぼ同時に、そして鋭く鮮烈に。
バージル『――――――好きにしろ』
声が放たれてきた。
518: 2011/11/30(水) 02:31:11.97 ID:FyE4RatUo
神裂は一瞬、己が耳と意識を疑ったが、
それは確かにバージルの声だった。
普段どおりの冷ややかで無感情な声色である。
神裂『―――な、ほ、本当ですか!』
バージル『二度言わせるな』
神裂『―――は、はい!すみません!!ありがとうございます!!』
ダメとわかってはいても、何事も言ってみるものである。
バージルはここにはっきりと、その声と繋がりをもって神裂達の要望を許可してくれたのだ。
しかしこれで万事良しというわけでもない。
もう一人、その前にはっきりとした答えを聞かねばならない者がいる。
神裂『―――……インデックス。私はあの線だけは残したいと思っています』
神裂はそうしてインデックスへと向き求めた。
この判断についての確かな、彼女自身の答えを。
神裂『あなたは……どう思っていますか?』
禁書『……………………わ、私は…………う……うぅん……』
と―――その時だった。
アイゼン『―――そなたら、少しよいか』
突然、この場に割り込み二人の意識内に響くアイゼンの声。
アイゼン『いまやセフィロトの樹は陥落したも同然、そればかしの供給線など、いつでも人間界からでも切断できる』
アイゼン『だからそれらの是非を論じるのは後にせよ。今はとにかくはよう戻って来い』
その声は少し張り詰めているか、神裂にはどことなく、
アイゼンのいつもの余裕が全く含まれていないように聞えた。
禁書『……?』
インデックスも似たような印象を抱いたのか怪訝そうな表情を浮べており。
神裂『何か問題でも起こったのですか?』
そして神裂がそう問うと。
アイゼン『うむ。特に「主席書記官」。そなたに強く関係しておるぞ』
禁書『―――わ、私?』
―――
519: 2011/11/30(水) 02:32:43.58 ID:FyE4RatUo
―――
学園都市、第七学区。
複数の大悪魔の力が立て続けに振るわれたその一画は、今や瓦礫散らばる荒野と化していた。
いいや、『瓦礫』として認識できるほどに、
『普通の形』を留めているものはまだ良い方なのかもしれない。
五和「……」
レディに続き無残な更地の中をゆく五和、
第七学区の奥へと進むにつれ現実離れしていく周囲の環境を見て、五和はふとそう思ってしまった。
光源がどこにも無いのに、満月が『五つ』くらいでもなければというくらいに、
青白くぼんやりと浮かび上がっている地面。
それも照らされているのではなく、光を帯びているのだ。
瓦礫や鉄くず、爪先で蹴ってしまう小石までもが。
そして冬の冷たい風が吹き荒んでいるにもかかわらず、
ふわふわと穏やかに宙を舞う、ガラスとも氷とも判別がつかない不気味な煌きを帯びた『細かな砂』。
人類が周知しているどの法則でも説明がつかないであろう、
神の領域の力による現象の数々であろうか。
レディ「大丈夫だとは思うけど、下手にあれこれ触らないようにね。まだこの辺りは『全て』に力が濃く残留してるわ」
一際強く光を帯びている瓦礫の一欠けらを脇に目にしての、
そう一応といった忠告を飛ばしてくるレディ。
五和「…………」
力の残留、それは五和もはっきりと認識していた。
この特有の息苦しさはもちろん。
手にある魔女の槍、そして腰に刺している上条当麻の黒い拳銃からも熱を帯びて感じる。
いいや、今やこの第七学区だけではない。
先ほどから第一学区であろうか、その方向からこことは比にならないプレッシャーが放たれてきており、
更に学園都市中が『悪魔のもの』とは明らかに違う『異質な圧力』に覆われている。
学園都市、第七学区。
複数の大悪魔の力が立て続けに振るわれたその一画は、今や瓦礫散らばる荒野と化していた。
いいや、『瓦礫』として認識できるほどに、
『普通の形』を留めているものはまだ良い方なのかもしれない。
五和「……」
レディに続き無残な更地の中をゆく五和、
第七学区の奥へと進むにつれ現実離れしていく周囲の環境を見て、五和はふとそう思ってしまった。
光源がどこにも無いのに、満月が『五つ』くらいでもなければというくらいに、
青白くぼんやりと浮かび上がっている地面。
それも照らされているのではなく、光を帯びているのだ。
瓦礫や鉄くず、爪先で蹴ってしまう小石までもが。
そして冬の冷たい風が吹き荒んでいるにもかかわらず、
ふわふわと穏やかに宙を舞う、ガラスとも氷とも判別がつかない不気味な煌きを帯びた『細かな砂』。
人類が周知しているどの法則でも説明がつかないであろう、
神の領域の力による現象の数々であろうか。
レディ「大丈夫だとは思うけど、下手にあれこれ触らないようにね。まだこの辺りは『全て』に力が濃く残留してるわ」
一際強く光を帯びている瓦礫の一欠けらを脇に目にしての、
そう一応といった忠告を飛ばしてくるレディ。
五和「…………」
力の残留、それは五和もはっきりと認識していた。
この特有の息苦しさはもちろん。
手にある魔女の槍、そして腰に刺している上条当麻の黒い拳銃からも熱を帯びて感じる。
いいや、今やこの第七学区だけではない。
先ほどから第一学区であろうか、その方向からこことは比にならないプレッシャーが放たれてきており、
更に学園都市中が『悪魔のもの』とは明らかに違う『異質な圧力』に覆われている。
520: 2011/11/30(水) 02:35:51.85 ID:FyE4RatUo
と、そうして二人が更地の中を歩み進んでいたところ。
先を行くレディがふーん、と鼻を鳴らして。
レディ「この有様の原因は主にイポスとケルベロスの力、それとシャックスが戻ってきたみたいね」
力を分析する魔術的な判別紙であろうか。
三つの異様な紋章が浮かび上がっている、その葉書ほどの古びた紙を指の間に挟みこむようにして、
ひらりひらりと振るいながらそう口にした。
五和「名くらいは私でも知ってはいますが……それも三つとも、やっぱり大悪魔なんですか?」
レディ「そうね。ケルベロスはダンテの『飼い犬』で、シャックスとイポスの飼い主はアスタロト」
五和「その……彼らがここで戦いを?」
レディ「みたい。詳しい流れはよくわかんないけど、とにかく人類の敵であるシャックスとイポスはとりあえずくたばったみたいね」
オーブ
レディ「ここはあいつらの『血』で満ちてるわ。おかげでホクホクだしいい気味だし最高ね」
五和「それでもう一体は?」
オーブ
レディ「ケルベロスね、うぅん、あちこちに彼の『血』も飛び散ってるのだけれど、盛大にってわけでもないのよね」
五和「では……生きてると?」
レディ「あー……微妙ね。氏んでてもおかしくない量でもあるし」
521: 2011/11/30(水) 02:37:31.14 ID:FyE4RatUo
そうした会話を続けていると、
二人は大地に穿たれた大きな窪みの淵に辿りついていた。
一方に向けて巨大な溝が続く大きなクレーター、その様はさながら、
地面とほぼ水平の角度で隕石が衝突してきたかのよう。
レディ「ま、一応知ってる顔だし、そんなワンちゃんの安否でも確認してあげようとっねっ」
そこでレディはそう口にしながら淵から飛び降り、クレーターの底へ滑り降りていった。
ワンちゃん、そんな表現に少し意表を付かれるも、一先ずと五和も続き飛び降りていく。
クレーターの底の深さは20mほどか、これまた光を帯びた大量の異質な瓦礫で覆われているため、
実際の深さはもっとあるか。
そんなクレーターのちょうど中心辺りにて、
ロケットランチャーを箒のように振るい、乱暴に瓦礫を除け始めるレディ。
そして。
レディ「?いたいた」
五和「…………?」
その欠片の合い間にて、青く透き通る水晶のようなものに覆われた『何か』が見え。
更にがらがらと周りの瓦礫を除けていくと、そこから現れたのは大きな―――『獣状の足先』だった。
人の胴五本分はあろうかという巨大なそんな爪先を今度はレディ、
ロケットランチャーの尻で乱暴に叩き。
レディ「良かった。一応生きてはいるわね」
今の行動でどのようにして判別したのか五和にはさっぱりであったが、
一先ず彼女はそう確認の声を口にした。
レディ「『冬眠』に入りかけてるけど」
五和「……と、冬眠ですか?」
レディ「復活まで『一時的に氏んでいる』状態ね。魂と器の治癒待ち」
レディ「悪魔の習性ってところかしらね」
522: 2011/11/30(水) 02:38:57.77 ID:FyE4RatUo
そう傍らの五和に告げながら、
ロケットランチャーでごんごんと更に叩くレディ。
レディ「話はできる? ああそれも無理、ね」
レディ「じゃあ……とりあえずここに放置するわけにもいかないし、もうちょっと運びやすいサイズになってくれない?」
とその時、彼女がそう巨大な爪先に言い放った途端、
突然その場が大きく陥没した。
深さ幅共に5mほどが一気に沈んだのである。
五和の体は条件反射ですかさず飛び退き、陥没に巻き込まれることなく穴の淵へ。
そこでようやく彼女の意識は驚きという感情を滲ませた。
五和「……っ!!」
レディ「ごめんびっくりしたでしょ」
対して逃げなどせずに地面と一緒に陥没したレディは、
そんな彼女を見上げて意地が悪そうな笑みを浮べて。
足元に転がっていた『あるもの』を爪先にひっかけ、
五和へと向けて蹴り上げた。
それは青い結晶のような質感の―――三棍のヌンチャク。
五和「っきゃ……つ、つめたっ……!」
『冷たい』、それがヌンチャクを抱きとめた彼女が最初に覚えた感覚だった。
そんな彼女の反応を見てまたもやレディはにやにやと笑みを浮べて。
レディ「それがかの名だたる三頭の魔狼、ケルベロスよ」
523: 2011/11/30(水) 02:40:17.34 ID:FyE4RatUo
五和「…………」
ケルベロス。
数々の神話や記述にその名がある存在。
それら伝聞の元となった本物の『神』が今、己の手の中にある。
それはそれはとんでもないコトなのであろうが、
不思議な事に、内に何かの衝撃が走ることは無かった。
ここ半年、悪魔という存在とは特に強く関わってはきたせいか、
そしてウィンザー事件やヴァチカン、先のアスタロトという一連の流れの中で慣れてしまったのだろうか、
これといって強く思うことが何も無い。
五和「…………」
『冬眠』であるせいか、ヌンチャクからはこれといった重圧も覚えないことも、
その『新鮮味』の欠如に拍車を駆けているか。
この神が通常の状態であれば、
きっと慣れ不慣れ関係なく精神を揺さぶられるのであろうが、
今伝わってくるのは氷を持っているかのような冷気のみだ。
五和はそう何気なしといった面持ちで少しこのヌンチャクを眺めて、
陥没穴から上がって来たレディに手渡した。
そんな彼女の様子を見てレディが一言。
レディ「いい顔してるわね」
524: 2011/11/30(水) 02:41:23.86 ID:FyE4RatUo
五和「…………」
それは一体、どういった意味なのか。
先ほどのアスタロトの件から精神状態がほぼ回復し
落ち着いていることを指しているのか。
それともこうして妙に冷めて、
神たる存在を手にしても全く怖気もしていないことなのか。
五和「は、はい。どうも」
その意図はどうにも分かりかねたが、レディの表情を見る限り、
少なくとも悪い意味は一切含まれていないよう。
そうしてここは一先ず素直にと、五和は褒めの言葉に対して礼を返し―――
―――と、その時であった。
それは突然の『異質な衝撃』。
地面は揺れてもいないのに『地鳴り』が響き、倒れてしまいそうになるくらいの振動。
そしてある方向の彼方にて。
距離感がなぜかまるでわからないが、
それでもとてつもなく巨大だと瞬時にわかる、
今まで人類が築いたどの建築物よりも高いであろう―――『黒い塔』が出現した。
525: 2011/11/30(水) 02:42:38.65 ID:FyE4RatUo
刹那、五和はとても信じられない『もの』を目にしてしまった。
五和「―――っ」
もちろん突然現れたあの異質な塔でもあるが、
それとは別にもう一つ、彼女の目は捉えてしまったのだ。
それは振り向き、あの黒い塔を見たレディ。
一瞬だけ見えた―――ひきつった横顔。
それを覗かせたのはほんの僅かな時間だけ、
しかしそれでもはっきりと認識できるくらいに、そこにはとてつもなく色濃く負の感情が―――
―――嫌悪、憤怒、そして―――恐怖が滲んでいた。
五和「―――」
しかもそれは程度の差はあれど、
少し前に五和がレディの中に目にした色と同質のものであった。
先ほど、アスタロトが罠にかかる直前、
彼女がデビルハンターとなる道を決定付けたある男―――『父親』の話をしていた時に垣間見せた『陰り』と。
526: 2011/11/30(水) 02:44:38.81 ID:FyE4RatUo
レディ「―――…………」
レディ、その目に映るかの塔の姿に、『メアリ』は何を抱き見るか。
それは今でも脳裏に焼きついている凄惨な過去。
彼女だけの―――そして彼女にとって唯一たった一度の―――『悪夢』。
だが今は、その悪夢を見ている存在はもう『彼女だけ』ではなく。
たった『一度』でもなくなってしまった。
メアリ=アン、彼女が悪夢の象徴としてかの塔を意識したとき。
かの塔も彼女を意識し。
かの塔を顕現させている要素の一つ、『具現』も彼女を認識し捉えることとなる。
それはつまり、かの力に精神が囚われてしまうことを意味する。
『具現』、それを前にして僅かな恐怖でも見せてしまったら、
この恐怖を主食とする忌まわしき力に、恐怖の源たる記憶を抉られ―――そして曝け出され。
あの日終ったはずの、その手で自ら終らせたはずの悪夢が――――――再現される。
レディ「………………………………」
この瞬間、彼女の脳裏に『悪夢』が鮮明に復元されて。
同時に再顕現されたテメンニグルの塔内には、その『悪夢』が再び『実体化』する。
この呪縛から抜け出すにはただ一つ。
再びその恐怖の権化たる試練に立ち向かい、
『前回』と同様、その手で決着をつけるほか無い。
そう。
レディ「……………………………………………………………………」
自らの意志でもう一度、あの重くて痛くて苦しくてたまらなかった――――――――――――『引き金』を絞らねば。
―――
527: 2011/11/30(水) 02:47:06.06 ID:FyE4RatUo
―――
学園都市の界上にて、
創造と具現の『御業』により再顕現したテメンニグルの塔。
それは古の世にて魔女の手で築かれた『門』であり
2000年前のかの魔界による侵略の際は、
漏れ出した魔界の欠片と悪魔達を封じる牢獄として使われ、その後。
その後は魔剣スパーダの芯、フォースエッジの封印領域へ続く、唯一の門となった。
もちろん、そうした経緯からこの塔そのものも強固に封じられることとなる。
スパーダは己が半身を魔界の錠にしたように、
七柱の大悪魔を礎に『七つの大罪』をなぞる『七つの封印』を敷く。
それは如何なる事があろうと、
フォースエッジを持つに足るものでなければ決して解くことのできない錠。
すなわちスパーダの二人の息子達のみということだ。
更に、ここにスパーダはもう一つの『カラクリ』を仕込む。
七重の封印を解けるのは双子のみであるが、
双子だけではその封印の位置を絶対に見つけられないようにしたのである。
封印の位置に関する記述は、魔術の暗号言語でのみ残して。
これぞ、息子達が人間と共に歩むことを願ったスパーダの遺言の一つだ。
我がスパーダの力を受け継ぐ時は、人間の協力と許可が必要である、と。
学園都市の界上にて、
創造と具現の『御業』により再顕現したテメンニグルの塔。
それは古の世にて魔女の手で築かれた『門』であり
2000年前のかの魔界による侵略の際は、
漏れ出した魔界の欠片と悪魔達を封じる牢獄として使われ、その後。
その後は魔剣スパーダの芯、フォースエッジの封印領域へ続く、唯一の門となった。
もちろん、そうした経緯からこの塔そのものも強固に封じられることとなる。
スパーダは己が半身を魔界の錠にしたように、
七柱の大悪魔を礎に『七つの大罪』をなぞる『七つの封印』を敷く。
それは如何なる事があろうと、
フォースエッジを持つに足るものでなければ決して解くことのできない錠。
すなわちスパーダの二人の息子達のみということだ。
更に、ここにスパーダはもう一つの『カラクリ』を仕込む。
七重の封印を解けるのは双子のみであるが、
双子だけではその封印の位置を絶対に見つけられないようにしたのである。
封印の位置に関する記述は、魔術の暗号言語でのみ残して。
これぞ、息子達が人間と共に歩むことを願ったスパーダの遺言の一つだ。
我がスパーダの力を受け継ぐ時は、人間の協力と許可が必要である、と。
528: 2011/11/30(水) 02:48:46.55 ID:FyE4RatUo
しかし。
さすがのスパーダであっても未来を正確に見通すことは不可能であったか、
その後には誤算が生じていく。
いいや、結果をみれば誤算ではないであろうか、
だがその経緯はとても彼が望んだものではなかったはずである。
彼が消えてすぐに妻が生き絶え。
息子達の道が完全に分かれ。
そして。
兄がフォースエッジを求めて七つの封印を解こうとした際、
得られた協力者は、悪意に満ちた狂気の魔術師だった。
それも妻を生贄に悪魔に転生した『元人間』の。
そこから繰り広げられたのは、兄弟の血で血を洗う闘争。
二人の宿命を分かち、そして冷酷に突き付ける戦いだ。
竜王『……』
そんな、かの魔剣士の刃の記憶に優雅に浸って。
竜はその鮮やかな髪を風に揺らしながら、
テメンニグルの塔の頂上、『七つの柱』が物寂しげに立っている広間に佇んでいた。
529: 2011/11/30(水) 02:49:47.58 ID:FyE4RatUo
竜王『「七つの鐘を打ち鳴らし、我らは祝福するだろう」―――』
竜王『―――「太古の恐怖の再来、魔界の王の降臨を」』
その『祝福の鐘』が吊り下げられるであろう柱の一本を見上げながら、
口から漏れるは、『七つの封印』の錠とされた大悪魔の一柱が最期に残した言葉。
竜王『―――はは、面白い。中々風情がある』
そうして小さく笑っては柱に軽く寄りかかり、
ゆっくりと眼下へと目を向けた―――ちょうどその時であった。
『―――まさか今一度、貴様と言霊を交わす日が来ようとは』
突然響く、低く篭った異質な声。
ただ竜王は特に驚きなどしなかった。
むしろ待ちかねたといった表情を浮べて。
竜王『やあ、久しぶりだな―――』
そして相手の名を口にした。
竜王『―――フォルティトゥード』
530: 2011/11/30(水) 02:51:22.66 ID:FyE4RatUo
フォルティトゥード『我が名を気安く口にするな……腐れ竜めが』
現天界の頂点にして四元徳が一柱、忍耐フォルティトゥード。
まるで隠すつもりもないのであろう、
その声にはとてつもない嫌悪がありありと滲み出ていた。
しかし竜王はそんな相手の声色など全く気にもせず。
竜王『昔の蟠りは抜きにしよう。時間が惜しいしな。すぐ本題に入らせてもらうよ』
フォルティトゥード『何用だ?』
酔狂に満ちた声でこう告げた。
竜王『―――俺様と手を結ばないか?』
その瞬間、塔全体が揺れるかというくらいの振動を伴った、
天空からの笑い声が響き渡り、そして。
フォルティトゥード『―――貴様と手を結ぶだと?妄言も甚だしい』
笑いの中に怒りも滲ませての、四元徳の威圧的な声。
しかしその笑いも、次の竜王の言葉で一瞬にして途絶えることとなった。
竜王『―――――――――「創世」。それがお前達の悲願であろう?』
531: 2011/11/30(水) 02:54:20.43 ID:FyE4RatUo
フォルティトゥード『…………』
竜王『世界の目を持ち、完全なる状態で復活したジュベレウス』
竜王『かの存在による御業、全てを無に還し、この世を絶対的な秩序の下で「創世」、それをお前達は望んでいたのだろう?』
フォルティトゥード『…………』
竜王『しかし今や「光の右目」は完全に失われ、ジュベレウスの復活は不可能。創世の可能性は潰えた。だが―――』
竜王『―――俺様なら―――創世も不可能ではない』
竜王『さて、良く考えろ』
竜王『お前達はこれからどうするつもりなのだ?この今の人間界を巡る一戦には「奇跡的」に勝利したとしても、そこからどうする?』
フォルティトゥード『…………』
竜王『わかっているだろう?「俺様抜き」であれば、如何なる選択をしようが今敗北するかいずれ敗北するか、結果はこの二つしかない』
フォルティトゥード『……………………』
竜王『実質、お前達には選択の余地が無いのだよ』
竜王『悪くは無い話だと思うが?俺様と手を結べば、悲願の創世が叶うのだ』
竜王『この世の全ての闇と共に魔界も消え去る。それこそジュベレウスが望んだことではないのか?』
532: 2011/11/30(水) 02:57:28.86 ID:FyE4RatUo
竜の声。
それはとても信頼できるような音ではない、
冷やかしと嘲笑があちこちに色濃く浮かび上がっているもの。
だがそんな表層とは相反して、放たれた言葉自体は全て道理にかなっていた。
そう。
フォルティトゥード『……………………』
彼らにとって選択の余地は無いのである。
ここで竜王の手を取らなければ、天界の滅亡は確定することになる。
ましてやジュベレウスが滅亡した、その衝撃に今だ震撼している天界とっては、
この『創世』の可能性は『救いの光』に等しいものだ。
フォルティトゥード『……………………良かろう』
答えはそれしかなかった。
竜王『心配するな。何も俺様に隷属しろというわけじゃあない』
竜王『三神の力を完全統合し、「全能」となるには少し時間がかかる。その間少し支援して欲しいだけだ』
竜王『学園都市の「洗浄」は当初の計画通り行ってくれても構わない』
フォルティトゥード『……ふん』
そうしてここに、それまでの関係からするとあまりにも意外な、
竜王と四元徳の同盟が成立した。
ただ当然、そこには一欠けらも信頼など存在していないが。
四元徳との交信を終えた後、竜は一人可笑しそうに笑った。
竜王『はっ……相変わらず馬鹿正直で安易な連中だ。それだから戦下手なのさ』
533: 2011/11/30(水) 03:01:50.45 ID:FyE4RatUo
と、そう一仕事終えた後。
竜王『ほぉ……これはこれは、思わぬゲストか。面白い』
さきほどから背後に覚えていた気配に向け、
竜は愉快気に笑みを浮べながら声を放った。
竜王『ちょうど先ほど、この塔と併せてお前についても記憶を遡っていたよ。一度会ってみたかった』
竜王『この時代に生を受け、世界に多大な影響を及ぼした至高の魔術師、その三傑を決めるとすれば―――』
そして振り向き、そこにいた一人の『男』と面と向かって。
竜王『アリウス、アレイスター、そしてお前―――』
竜王『――――――アーカムであろうな』
その名を呼んだが。
アーカムと呼ばれた、スキンヘッドの異様な雰囲気の男は特に反応を示してはいなかった。
人形のようにそこに立ち尽くしているだけだ。
それを見て竜は、まいったといった風に肩を竦めて。
竜王『……ま、所詮は「過去の残像」か。「記憶の主」以外にはまともに反応しないか』
そうして、わざとらしくではあるが寂しそうにため息をついた時。
タイミングよく、ある人物が彼へとアクションを送ってくれた。
それはまず、魂そのものによって形成されていた『特異な繋がり』の『再起動』にはじまり。
竜王『お、やっと「回復」したか』
そして意識内に響くは。
『―――――――――――――――あなたは…………―――だれ?』
かの『愛おしい少女』の茫然自失とした声。
対して竜はけらけらと笑いながら、茶化すようにして言葉を返した。
竜王『誰かって? ひどいな――――――インデックス』
それもわざと―――口調を真似て。
竜王『君が愛する――――――「上条さん」ですよ』
―――
541: 2011/12/03(土) 02:24:35.60 ID:rnNsSxiao
―――
ステイル『テメンニグルの……塔……』
名を聞かされても、いまいち釈然としなかったが、
その響き自体に、とてつもない言霊としての力があるのであろう。
名を耳にし認識した瞬間、神裂から―――いや、これはその先の『大主』のバージルからのものであろうか。
断片的なイメージが繋がりを介して流れ込んできたのだ。
それらは具体的に何の情景なのかは判別できない、ノイズまみれの壊れたイメージ。
ステイル『……』
しかしこれだけははっきりと認識できた。
それらの断片上に渦巻いてる、只ならぬ感情と滾りを。
なんと苛烈で熱く、破壊的で破滅的な滾りか、
その勢いは無二の絶対的恐怖をも覚えてしまうくらいだ。
そう、今この瞬間、バージルはかの塔の存在を認識して『逆鱗』しているのだ。
そんな最強たる『主の主』の強烈な憤怒に晒されてしまうことは、
『使い魔の使い魔』である彼にとって恐怖のどん底に突き落とされるのと同じこと。
ステイルは顔をひきつらせてその場に硬直してしまう。
しかし彼には別の繋がりがもう一つある。
イフリート『何をしておる?―――まずお前達はやるべきことを成せ』
父たるこの大悪魔との繋がりが。
一瞬バージルの激烈な圧に押し潰されそうになったステイルを見て、
炎の魔人は良く響く言霊を放った。
イフリート『恐怖に縛られるのはその後でよい』
ステイル『テメンニグルの……塔……』
名を聞かされても、いまいち釈然としなかったが、
その響き自体に、とてつもない言霊としての力があるのであろう。
名を耳にし認識した瞬間、神裂から―――いや、これはその先の『大主』のバージルからのものであろうか。
断片的なイメージが繋がりを介して流れ込んできたのだ。
それらは具体的に何の情景なのかは判別できない、ノイズまみれの壊れたイメージ。
ステイル『……』
しかしこれだけははっきりと認識できた。
それらの断片上に渦巻いてる、只ならぬ感情と滾りを。
なんと苛烈で熱く、破壊的で破滅的な滾りか、
その勢いは無二の絶対的恐怖をも覚えてしまうくらいだ。
そう、今この瞬間、バージルはかの塔の存在を認識して『逆鱗』しているのだ。
そんな最強たる『主の主』の強烈な憤怒に晒されてしまうことは、
『使い魔の使い魔』である彼にとって恐怖のどん底に突き落とされるのと同じこと。
ステイルは顔をひきつらせてその場に硬直してしまう。
しかし彼には別の繋がりがもう一つある。
イフリート『何をしておる?―――まずお前達はやるべきことを成せ』
父たるこの大悪魔との繋がりが。
一瞬バージルの激烈な圧に押し潰されそうになったステイルを見て、
炎の魔人は良く響く言霊を放った。
イフリート『恐怖に縛られるのはその後でよい』
542: 2011/12/03(土) 02:26:31.24 ID:rnNsSxiao
ステイル『……っ』
そうだ、今こうしている余裕など無いのだ、と。
イフリートのたくましい声が、揺らぎかけていた彼の芯火に再び力を宿させる。
ステイル『ああ……』
『向こう』でも、この状況を前に混乱しているのであろうか。
バージルはもとより、神裂からも具体的な命令は放たれてこない。
となれば今の己の義務は、こちらでやれることをやるのみである。
イフリート『かの塔については今ダンテが動く。彼らに任せるが良い』
そしてまた、イフリートの神たる声は例え繋がりが無くとも、
聞く者の内には言霊の力が届くものである。
一方『…………チッ』
唖然としていた一方通行もまたその頭を切り替えるように、
己が額を叩くようにして手を当てて舌打ち。
エツァリ「……そう……ですね。まずは……」
そうしてエツァリも塔から視線を外して、彼らの方へ振り向いたその―――瞬間だった。
突然彼らの背後、つまり塔から反対側の方向、
すぐこのビル内にて赤い魔方陣が浮かび上がり。
―――筋骨隆々とし、赤い体皮の―――『首なし巨人』が現れた。
『―――届け物だ』
そしてそう告げる巨人の、大木の如き足の前には―――床に膝を付いて俯いているアレイスターがいた。
544: 2011/12/03(土) 02:29:47.53 ID:rnNsSxiao
イフリート『ご苦労であったアグニ』
アグニ『うむ』
ステイル『……アレイスター』
一方『―――はッ』
長い髪が垂れ下がり肩を落としている様からは、例え顔を見なくても充分にわかるほどに、
竜王とアレイスター=クロウリーの勝負の結末が示されていた。
一方通行はそんな彼の姿を見て悟った瞬間「びきり」と。
闇と歪に混じる白い顔に、憎悪と憤怒に満ちた笑みを刻んで。
一方『―――カッカカッ!そォら言わンこちゃねェ!ボロッカスに負けたみてェだな!ザマァねェなァおィ!!』
無様は敗者の元へと、容赦なく言葉を浴びせながら歩んでいく。
彼がその歩を進めるたびに、周囲の虚空から闇の筋が出現し、
アレイスターの体へと今度こそどこにも逃さぬとばかりに巻き付き、その場に完全に拘束固定。
一方『よォ、「負け犬」さン。そこで大人しくしてろ。オマエにァ、ぶっ頃す前に聞きてェことが山ほど―――』
アレイスターの前まで来た一方通行は、その髪を乱暴に掴み、
俯いている顔を強引にあげて覗き込んで―――
一方『(―――っ…………こィつっ…………)』
そうしてその目を見た瞬間。
情け容赦ない言葉を連ねていた口が―――止まってしまった。
アレイスターの見た目は『麗しい女性』の顔、
その目から、透き通った雫が幾筋かの線を引いていたのだ。
そしてその瞳には。
僅かに、それでいて確かに―――先までは無かった何らかの『光』が宿っていた。
545: 2011/12/03(土) 02:32:43.49 ID:rnNsSxiao
―――泣いているのか―――?
こんな普通の人間のような目で?
本当にあのアレイスターなのか?
これが―――憎んで憎み足りない、例え百万回頃しても絶対に気など晴れない、あの男の成れの果てだと?
ステイル『……アクセラレータ?』
一方『…………』
彼は少し混乱し困惑してしまった。
ちょうど己の陰になって、アレイスターの顔が見えていないのであろう、
そんなステイルからの声を受けて、一方通行は訝しげに目を細め。
無言のまま更にもう一重、彼の体に闇を強固に巻き付けては、
その手を乱暴に離して踵を返し。
一方『…………回線の修復が終わりそォだ。土御門と滝壺に繋げンぞ』
笑みを完全に潜めた表情で、そう言葉を放ちアレイスターの傍を離れた。
そんな彼の様子を見て、ステイルとエツァリは顔を見合わせるも。
エツァリ「……まあ、今はまず虚数学区の件を」
ステイル『ああ』
そう頷き、一方通行の方へと向かっていった。
546: 2011/12/03(土) 02:36:32.29 ID:rnNsSxiao
アグニ『手は足りているか?』
イフリート『否。現状において、充分という言葉など存在せぬ。手勢は多ければ多いほど良い』
アグニ『では我もしばらくここに』
イフリート『よいのか?』
アグニ『よい。ダンテの元へはいつでも行ける。ルドラがいる』
そうして首なしの巨人アグニは、その場に『本体』である大剣を突き立て、
のっしりとアレイスターの背後に胡坐をかいて座った。
向かい、アレイスター越しの前方の壁際にはちょうど―――変わらぬ、友好的とは言えない雰囲気を醸すベオウルフ。
アグニ『……ふむ。何を考えている?ベオウルフよ』
この白銀の巨獣がなにやら思案気な目でアレイスターを眺めていることに気付き、
そこでアグニはすかさずそう問うたが。
ベオウルフ『……黙れ「脳」無しが。白痴がうつるわ』
手厳しく一蹴された。
イフリート『構うな。アグニ』
アグニ『ふむ……』
ベオウルフ『…………………………………………』
相変わらずの相容れない威圧感を放ち、じっと佇むベオウルフ。
その赤き光を宿す瞳は、何人も悟れぬ『ある意図』を含み。
ただただ静かにアレイスターへと向けられていた。
そんな白銀の巨獣の背後、
ぶち抜かれた壁から覗く闇夜の空は今、ぼんやりと。
―――徐々に『白金』の輝きを帯び。
虚空の狭間から学園都市へ、幾本もの光の筋が差し込み始めていた。
それはそれは『清廉で神々しい』―――『天からの光』が。
―――
547: 2011/12/03(土) 02:39:42.86 ID:rnNsSxiao
―――
実用に耐える超音速機を所有しているのは、
学園都市とウロボロス社を除けばアメリカとイギリスのみ。
ただイギリスのそれは学園都市からリースした数機のみで、
整備は学園都市の第23学区で、もちろん学園都市のクルーによって行われるというものだ。
もちろんアメリカが所有する超音速機も、
開発した社はウロボロス系列であるため、
限定的にはこのイギリスと学園都市の関係とも重ねられる。
ただそれはあくまで限定的な類似点のみを抽出した見方であり、
一転して超音速機を取り巻く全体状況を有り方は、実質大きく異なってくる。
まず、ウロボロス社の各種軍需品開発の予算の大半はアメリカからのもの。
そして開発は当然米軍主導、量産整備も全てアメリカ国内で行われる。
それゆえか。
こうして生み出された超音速機、いや、
これはウロボロス北米本社傘下の全ての工業製品に言えることだが、
これらは、よく言えば『小奇麗で全てにおいて徹底的に作りこまれた』、
悪く言えば『器用貧乏』といった学園都市の工業製品類とは、『全体的』に大きく異なっている。
特にウロボロス系列の軍用機それは、
乗り心地など『絶え難いストレス』さえ覚えなければそれで充分、
『無駄』に乗り心地なんかを作りこむよりも実用性・保安性にだけ力を注ぎ込み、
できるだけ早く安く簡単に生産できる様にするべし、という思想で作られているのだ。
548: 2011/12/03(土) 02:43:27.09 ID:rnNsSxiao
具体的には、まずこの超音速輸送機だ。
座席は固いしベルトは重く、換気が悪い貨物室内には金属的というか、
こういった『重工業系』機械類特有の油臭さが充満し。
学園都市のそれならば小声で会話するくらい簡単であるが、
ウロボロス社せいのそれは、超音速機用の高出力エンジンの爆音が鳴り響いているため、
隣の席の者と会話する際も大声を発しなければならない。
これは先に学園都市が実用化してしまったことによる圧力から、
早期実用化のため防音性開発の部分が短縮されてしまったことが主な原因である。
ただ、これも『よくあること』。
確かにそれは騒音と呼ぶに相応しいものであるのだが、
実際に搭乗する米軍兵士は皆 軍用機とはそういうものだ、
話したければ従来どおり機内無線を使えばよい、という考えで特に気にもしていない。
しかし。
学園都市で育った『この少年少女』達はもちろんそんな辛抱なんか無く、
尚且つ機内用無線のヘッドセットは数が限られ、個々の通常無線も今は混線防止で切られているため。
「―――決めたァッ!!」
何か他人に伝えたい時は、ただひたすら爆音に負けぬよう怒鳴り散らす。
真っ直ぐ切りそろえた前髪が印象的な、
包帯で作った粗末な眼帯をしている少女は、パーカーのフードの下から叫んだ。
「―――もォ一生飛行機には乗らねェ!!乗らねェぞチクショウがッ!!」
549: 2011/12/03(土) 02:45:16.12 ID:rnNsSxiao
黒子「……」
同感だ、と。
離陸を待つ超音速輸送機のカーゴの無骨な座席にて、
向かいに座っている『Juliett 4』のそんな言葉を聞いて、彼女は一人心の中で頷いた。
学園都市のはもちろん、このウロボロス社製の機にも、
もう超音速で飛行する物体そのものに二度と乗りたくない。
超音速に乗り込み、危険極まりない空の旅へと発つのは本日二度目。
そして下手をすれば、同じく二度目の決氏の降下をも敢行するかもしれない。
それも専用の頑丈な投下用シェルに乗ってではなく、この身のまま空へと飛び出し、
背にあるパラシュートと己が能力で。
これを狂気の沙汰と言わずしてなんと言う。
黒子「……」
更に、そんな狂気の沙汰を自ら行うのは十代の少年少女たち。
これを聞いた世界中の人権活動家や識者達は、一体どんな顔をするだろうか。
まさにイカレテル。
黒子「全く…………『クソッタレ』ですの」
それがなぜかとても滑稽に思えて彼女はにやりと笑い、
おそらく隣の者にすら聞えないであろう小さな声で口汚く呟いた。
少し前はこういった汚らしい言葉は抵抗があったが、今はその逆だった。
これはきっとダンテやネロのせいだ。
彼らの汚い口調に重なると、
自然と力が湧いてきて精神的に図太くなれてしまう。
黒子「ふふ……」
全く、なんと教育に悪いヒーロー達であろうか。
影響力が抜群のため本当にタチが悪い者達だ。
550: 2011/12/03(土) 02:47:25.50 ID:rnNsSxiao
そのようにして彼女が一人笑っていた頃、
カーゴの中ほどでは。
絹旗「……」
浜面「……」
この二人がメンバー内に混じり、並んで座していた。
滝壺は今は一時的に機首側、土御門や結標といったいわゆる首脳陣と共におり、
浜面の隣はその彼女のために空けられている。
浜面「…………」
そんな二人の間には、
しばらく会話が無かった。
話すべきことはあるかもしれない、いいや。
山ほどあるのだが、二人ともわかっていたのだ。
『それ』は今は話すべきではない、と。
言葉を交わさずとも滝壺もわかっていたらしく、
彼女もまた、デュマーリ島を離れてから『それ』に関することは一言も口にしていない。
―――否。
そもそもこれ以上は、特に話す必要は無いのかもしれない。
『あの場あの時』、皆が皆その胸の中のものをまるごと吐き出したではないか。
浜面も、絹旗も、滝壺も。
怒って、泣いて、喚き散らして、荒削りの素のままの気持ちを。
551: 2011/12/03(土) 02:50:06.87 ID:rnNsSxiao
浜面「……………………」
あの時の光景を思い返す中、浜面はぼんやりと顔をあげた。
上方のラックからは、小さなテレビが無造作に吊り下げられている。
映っているのはどう見ても通常番組では無い。
深夜の放送休止時間のようなカラーバーが全面に映り、
下の帯にはしきりに英語のテロップが流れている。
浜面「……なあ!!あれなんて書いてるんだ!!」
ふと何となしに。
爆音の中、隣の絹旗に向けそう叫び問うと。
絹旗「民間人への避難指示ですよ!!最寄の基地か指定の施設に超急いで避難してくださいってところです!!」
浜面「なるほど!!」
絹旗「あの程度の英語も読めないのですか!!全くここまできても浜面は相変わらず超浜面ですね!!」
そしていつもの調子で返される声。
こちらをコケにする普段どおりのその返しが、今はどれだけ心地よかったか。
浜面は思わず「ふっ」と小さく笑って。
浜面「……ああ。お前も普段どおりだな」
そう小さく呟き返した。
と、その言葉は聞えなくとも口が動いたことに気付いたのか、
絹旗「―――はいぃ?!超浜面のくせに何か文句でも―――?!」
絹旗が声を放った―――その時。
突然、方々から大きな声が上がった。
一時的にこの爆音を上書きしてしまうほどにまで、メンバーが皆沸き立ったのだ。
浜面が驚き隣を見ると、
絹旗も周りと同じく目を見開いて、何やら歓喜の声を放っている。
そこで彼が、彼女の耳元で声を張り上げて問うと。
浜面「―――おい?!何があった?!」
絹旗は満面の笑みでこう答えた。
絹旗「―――回復です!!―――演算支援が超回復しました!!」
568: 2011/12/05(月) 05:22:59.32 ID:A3y7G+xXo
そして機首側の『首脳』達の側にも、一気にその騒ぎが波及していく。
その時土御門は、結標と共に米軍の将校と確認作業を行っていた。
土御門「―――?!」
結標「―――演算支援が回復したわ!!」
土御門「―――本当か?!」
彼にとっては全く前触れのない突然の湧き立ちだったが、
驚き面を上げるとほぼ同時、すぐに結標がそう告げてくれた。
滝壺『つちみかど。学園都市との回復したよ』
土御門「―――!」
次いで耳の通信機から『久しく』響いてくる滝壺の声。
当の滝壺は近くの座席にちょこんと座り、
周囲の騒ぎとは対照的に相変わらずのマイペースな空間を形成維持し続けている。
滝壺『アクセラレータから通信が入ってる』
そして彼女はそのまま口動かすことなく、
再構築された回線を介して声を送ってきた。
土御門「―――繋げろ」
一方『―――土御門。聞えるかァ?』
指示すると、続けて学園都市からの彼の声も。
569: 2011/12/05(月) 05:29:11.72 ID:A3y7G+xXo
土御門「何かあったのか」
一方『あァ大アリだ』
結標『学園都市の状況は?』
一方『あァー、色々あり過ぎてだな……』
対する一方通行の反応は、あまり芳しいものではなかった。
伝えることが多すぎるのであろうか、立て続けの質問に押される形で、
一方『……口で伝えるには面倒ォな量だ。まずは滝壺と結標にイメージ流すぞ』
彼はそう、一先ずミサカネットワーク・滝壺の能力経由でデータを流すと告げてきた。
ただその脳内への直接のイメージデータは、
滝壺とAIMで接続されていない土御門は受け取ることが出来ないもの。
しかしそれも考え方次第でどうとでもなることだ。
いつも通り柔軟に働いた土御門の思考は、瞬時に己もイメージデータを受け取れるある妙案を導き出す。
土御門「―――そっちに魔術師はいるか?」
エツァリ『はい、自分が』
ステイル『僕もいる』
土御門『よし、まず海原、今お前は原典起動しているな? 魔術回線を構築して、イメージを直接俺に流してくれないか』
エツァリ『はい?記憶の直接転送が可能なほどに強い魔術回線なんか繋げたら、あなたは―――』
土御門「大丈夫だ。今の俺は魔術障害は一切無い」
エツァリ『ああ…………ふふ、なるほど、「例の件」は上手くいったのですね』
土御門「ああ。成功も成功、思わぬ助けも得ちまったぜよ」
570: 2011/12/05(月) 05:30:04.87 ID:A3y7G+xXo
そうして魔術的位階座標とある程度の術理論を素早く話し合わせ、
土御門も問題なくエツァリ・ステイルからの必要な記憶を受け取った。
土御門「―――」
彼らの見聞きした事柄が一瞬にして、
走馬灯のごとく意識内へと流れ込んでくる。
特にこの一刻のステイルの記憶は壮絶なものであった。
学園都市、そしてプルガトリオを跨いで行われた激しい戦闘と『逃走劇』。
神裂、ローラ=スチュアート、インデックス、魔女、アスタロト。
イフリート、ベオウルフ。
そして虚数学区への『投獄』、アレイスターと―――上条当麻。
土御門「―――……っ……」
それはそれはこちらがデュマーリ島で体験したことにも引けを取らない、
濃密過ぎる出来事の数々。
いや、デュマーリ島よりも更に酷いか。
こちらの出来事は一応一段落ついているのに―――学園都市ではまだ継続中なのだ。
ステイル、エツァリからの記憶は唐突に終っていた。
今すぐにでも天界の侵攻が始まるかという中で―――上条当麻が竜王とかいう存在に『成ったまま』で。
土御門「…………」
結標『…………』
イメージの持ち主・送り元が違うとはいえ、内容はほぼ同一であろう。
顔を見合わせた結標もまた、その表情は唖然としたものであった。
571: 2011/12/05(月) 05:31:51.46 ID:A3y7G+xXo
土御門「……」
天界の門の開放、迫る天の軍勢降臨の時。
ネロとダンテを信じ、同意した結果がこれか。
いや、この言い回しは語弊があるか。
別に土御門は、彼らを信じたことを後悔しているわけではない。
むしろより―――彼らへの信頼を強めていた。
そしてより―――彼らのその『流れの上』の立ち位置と視点に驚かされていた。
ネロが任せとけと言うのだから、
てっきりスパーダの一族が天界関連の問題にも着手してくれるとは思っていたが、
そんなことは無い、学園都市を守るのは自分達自身であったのである。
このイメージに付加されてきた策―――天界の攻撃から本物の学園都市を保護する計画。
虚数学区を実体化させ殻とする、なんて悪い冗談・戯言に聞えてしまう内容だが、
彼らが精査し組み立てたこの仕様を見る限り、決して不可能な話しでもない。
各人材を適切に配置すれば充分に実現可能なものであるのだ。
土御門「……」
具体的にこの状況へとなることを、ダンテやネロが最初から予期していたか、
いいや、それはまず考えられない。
まずこの案の出所は垣根帝督であり、直接の接点があるとは到底思えない。
つまりはこれもまた、彼らにとっては―――『何となく』、『気まぐれ』が引き寄せた展開である。
572: 2011/12/05(月) 05:35:11.70 ID:A3y7G+xXo
ふと脳裏を過ぎる、それらのネロの言霊。
篭められたる意味は決して『無責任に流れに身を任せろ』なんかではない、
『己と直感を信じて進路を定めろ』というもの。
土御門「……」
再度、その単純ながら至難である行動原理の在り方を実感させられた。
一切妥協しない。
どんな恐怖にも屈しない。
何があっても絶対に止まらない。
逆境の中でそれらを貫くのはまさに至難。
しかし、逆境に屈せずに進み続けていれば、
僅かずつでも確かに可能性が積みあがっていき―――その可能性の山がこうして新たな可能性を引き寄せてくれるのだ。
それはそれは、可能性を積み上げて別の可能性を手に入れ、それを積み上げてまた―――という、
きわめて長く険しい綱渡り。
デュマーリ島で散った者達のように、途上で脱落してしまう可能性も大いにあるであろう。
しかし脱落したからといって、それまでの行いが無駄になるわけではない。
手に入れた可能性は仲間に引き継がれてゆくのだから。
そう、今の己達のように。
クソッタレ
――――――麦野沈利を筆頭とした亡き『仲間』達、彼らが築いた可能性の山の上に立っているからこそ、
こうして学園都市に生きて帰還することができ、学園都市を守るために戦える。
土御門舞夏と、彼女の住まうこの世界を守りきれる可能性を捕捉できる。
バカ
そしてあの親友―――上条当麻を引き戻す可能性も必ず―――。
573: 2011/12/05(月) 05:38:24.45 ID:A3y7G+xXo
土御門「……」
結標『―――………………悪くは無い案ね』
そうして結標もまた、己の中である程度の形をもって状況を飲み込んだのか。
唖然とした顔からすぐに切り替え、例の計画についてそう口を開いた。
土御門「滝壺、設計は可能か?」
滝壺『うん、ちょっと待って…………大丈夫、ミサカネットワークに手伝ってもらえれば上手くできそう』
滝壺『でもAIM掌握がミサカネットワーク経由だけだと、すごい量だから少し遅延が出てくるよ』
一方『具体的にはどォいった障害が出る?』
滝壺『例えば、アクセラレータや虚数学区のAIM自体に揺らぎが生じたら、対応処理が遅れて一瞬穴が開くかもしれない』
滝壺『最悪、コンマ数秒くらい』
土御門「……」
コンマ数秒。
普通の人間の感覚からすればごくごく一瞬ではあるが、
異界の戦士達からすれば充分すぎる時間だ。
穴を見つけられたら、本物の学園都市へと一気に雪崩れ込んでくるに間違いないか。
そんな、学園都市が直接戦火に晒されることは何としてでも避けなければならない。
滝壺『でも私が学園都市の真ん中にいけば、直接掌握できるから遅延問題は解消するよ』
土御門「……」
ならば核たる滝壺を危険域の中央に置くのも止むを得ないか。
一方『チッ。仕方ねえな。オマエ達が来るまで穴とやらはこっちで何とか誤魔化してやる』
土御門「頼む。こちらはもうすぐ離陸する。二時間以内にはそちらに着くだろう」
一方『おゥ』
574: 2011/12/05(月) 05:41:26.78 ID:A3y7G+xXo
土御門「それとだな、念には念をいれて外部から常時モニターするエンジニアも欲しい」
土御門「設備と一緒に確保できるか?」
エツァリ『ここは第一学区ですし、アレイスターのものもありますし設備はなんとかなるでしょう』
エツァリ『エンジニアは芳川さんなどは?確かラストオーダーと一緒におられるのでしょう?適任かと』
土御門『妥当だな。頼んだぞアクセラレータ』
一方『…………』
と、そこで急にアクセラレータが押し黙ってしまった。
音声だけでも充分にわかくらいに重く言葉を詰まらせて。
土御門『……アクセラレータ、言っておくが―――』
一方『―――わかってる。そィつはさっき海原にも言われた』
と一転、今度はやや早口で土御門の声を先回りして遮った。
そう、一方通行たる人物を知っている者ならば、
すぐにピンと来る彼の『個人的な問題』。
滝壺『?』
きょとんとしている滝壺を除き、
この会合に参加している者達は皆揃って、含みのある沈黙と相槌を発した。
一方『……あァ。わかってンよ』
575: 2011/12/05(月) 05:43:50.15 ID:A3y7G+xXo
エツァリ『…………さて、それでは、まず実体化はあとどれくらいで?』
滝壺『え?あ、うん、とりあえずあと三分くらいで、一応の形で実体化できるかな』
滝壺『細かいところはその後に加えていくよ。それで完成に固められるのは30分くらいかな』
土御門「よし」
これはかなり良い話しだ。
今や天の軍勢が降臨するかという時なのだから、すぐに実体化できるに越した事は無い。
と、そう話を詰め合わせていたところ。
少し席を外していた米軍将校が再び戻って来、身振り手振りで離陸する旨を告げてきた。
聞いて土御門は、結標と頷き合わせては座席に座り。
土御門「滝壺、この馬鹿騒ぎしてる連中に離陸すると伝えろ。あと黙れともだ」
滝壺『了解』
するとAIMのネットワークを介して彼女の指示の声が伝わったのだろう、
機内のざわめきがみるみる沈み、変わらぬエンジンの爆音独奏へと戻る。
その中、滝壺自身は機の中を小走りで駆け、機の中ほどの己の座席へと戻っていった。
エツァリ『こちらに到着するのは?』
土御門「学園都市領空に到達するのは約100分後だ」
エツァリ『わかりました。では、快適な空の旅を祈ります』
土御門「ああ。本当に快適であって欲しいぜよ」
そうして土御門もベルトをしっかりと止め、
徐々に振動を増す機体へと身を委ねた。
一際大きく唸りをあげるエンジン、
その咆哮の音程は、強まる振動と共に徐々に高くなりつつあった。
576: 2011/12/05(月) 05:45:32.50 ID:A3y7G+xXo
その頃、同じく機の一画では。
御坂「―――ねえ、何があったの?」
回復したミサカネットワークを介して、
御坂が妹達からの状況説明を聞こうとしていた。
『……おお』
『……ううん』
『……あー……』
『……本当にこういう気持ちの時はどうすればいいのでしょう。すごくザワザワして気持ち悪いんです』
しかし学園都市で何があったが、
それを問うと妹達は皆口篭り、思わせぶりな声を漏らすばかり。
御坂「ちょ、ちょっと何よ、はっきり言いなさいよ」
『では……先に言っておきますがどうか落ち着いて聞いて下さい。ミサカ達も実は今、頑張ってパニックを抑えている最中なんですから』
ただそれでも最終的には、『長女』たるの命令には逆らえず。
御坂「―――パニック?」
『はい、ぶっちゃけて言いますと――――――』
妹達は学園都市にて起こった事をありのまま―――告げた。
御坂「――――――――――――は―――当麻―――が―――?」
血の気が引く、とはまさに今の彼女の表情変化の事を言うのであろう。
耳の通信機からの声に、御坂美琴の思考は瞬間完全に止まってしまった。
暗いグレーに塗装された大きな機体は、凄まじい出力のエンジンを高鳴らせて。
そんな彼女と他100余りの少年少女を載せてゆっくりと滑走路に進入。
そして離陸許可を受けたのち、みるみる加速して。
高温ジェットの光の尾を引き空を引き裂いていった。
日中であるにも関わらず依然、不気味に闇に淀んでいるその空を。
―――
577: 2011/12/05(月) 05:46:48.95 ID:A3y7G+xXo
―――
学園都市、第一学区。
『窓の無いビル』と呼ばれていた、今や壁が崩壊しているその建物にて。
ステイル『さて、僕は外に出て様子を見てくる』
アグニ『我も逝こう』
土御門達との打ち合わせを一先ず終えて、それぞれが動き出した。
ステイルは『神々しく』白み始めている空を伺いながら、
同時に腰を上げたアグニと共に外へと歩んでいく。
イフリート『我はとりあえずこやつと共にここに居よう』
炎の魔人はそのまま、まずはベオウルフの見張りを続ける事とし。
エツァリ「自分はまずこの施設の設備を見てみます」
エツァリもそう口しながら周囲を見渡して、そして。
エツァリ「あなたは、わかっていますね?」
一方『……』
一方通行へ向けてさりげなく、
それでいながら強く戒めるかのような声色でそう放った。
一方『………………あァ』
何のことか、それはわかっているとも。
大仕事の前に、円滑な作業の障害になりかねない個人的問題を片付けておけ、
つまり―――打ち止めに面と向かって会えということだ。
学園都市、第一学区。
『窓の無いビル』と呼ばれていた、今や壁が崩壊しているその建物にて。
ステイル『さて、僕は外に出て様子を見てくる』
アグニ『我も逝こう』
土御門達との打ち合わせを一先ず終えて、それぞれが動き出した。
ステイルは『神々しく』白み始めている空を伺いながら、
同時に腰を上げたアグニと共に外へと歩んでいく。
イフリート『我はとりあえずこやつと共にここに居よう』
炎の魔人はそのまま、まずはベオウルフの見張りを続ける事とし。
エツァリ「自分はまずこの施設の設備を見てみます」
エツァリもそう口しながら周囲を見渡して、そして。
エツァリ「あなたは、わかっていますね?」
一方『……』
一方通行へ向けてさりげなく、
それでいながら強く戒めるかのような声色でそう放った。
一方『………………あァ』
何のことか、それはわかっているとも。
大仕事の前に、円滑な作業の障害になりかねない個人的問題を片付けておけ、
つまり―――打ち止めに面と向かって会えということだ。
578: 2011/12/05(月) 05:47:50.23 ID:A3y7G+xXo
怖いか。
それはもちろんだ。
彼女に会うことは怖い。
彼女の本当の言葉を聞くのは怖い。
しかしもう逃げることは許されない。
一方『あァ、ンなこたァわかってンよ』
そして先送りにすることなんて、今の己自身が許さない。
すぅっと一度大きく息を吸い。
彼は目を瞑り、己が感覚を研ぎ澄まして彼女の魂の位置を探っていく。
一方『はッ…………』
すると案外、彼女は近くにいた。
第一学区の地下深くではなく地上、それもここから300m足らずの目と鼻の先にだ。
大悪魔が三体も密集しているせいで近づけないのだろうか、
ちょうど圧が急激に濃くなる範囲のすぐ外のところで、他二人の人間と共に留まっていた。
一人は芳川、もう一人はどうやら先ほど保護した『花畑』の少女か。
三人は、あたかもこちらを待っているかのようにじっと動かずにいた。
一方『……来ィってか』
それもまあ当然なのかもしれない。
AIMごと掌握し、あれだけミサカネットワークを力ずくで弄ったら、
こちらの『色々な事』が妹達に筒抜けになっていてもおかしくない。
それこそこちらが今、どんな事を考えているのかも。
そうして一方通行は再度、
己を鼓舞するように大きく息を吸っては吐き。
彼女のもとへと『飛んだ』。
579: 2011/12/05(月) 05:48:46.00 ID:A3y7G+xXo
「―――ひゃわ!!」
その先でまず耳にしたのは、
そんなやや間抜けな少女の声だった。
一方『……』
そこは薄暗い、施設と施設間の壁に挟まれた路地。
やはり同行していたのはあの花畑の少女と芳川だった。
こちらの突然の出現で驚いたのだろう、少女は壁にびたりと張り付き、
かたや地面に座していた芳川は、少々目を丸くしていたも特に驚いてはおらず。
そして芳川の腕の中、毛布に包まった―――幼い少女に至っては。
まるで、いや、予めこちらの出現する場所がわかっていたのであろう、
その大きくて可愛らしい目は一切揺らぎ無く彼へと向けられていた。
一方『………………あッ…………』
透き通る瞳。
そのあまりの澄み渡り具合に瞬間、声が出なくなってしまった。
呼吸、鼓動も止まってしまったのような感覚。
一方『………………』
聞きたい事がある。
大事な大事な、今までずっと聞きたかったことがある。
しかし。
それが喉まで来ているのに言葉が出てこなかった。
580: 2011/12/05(月) 05:50:02.93 ID:A3y7G+xXo
ならば。
声が出なければ、せめて体で示そう。
一方『…………』
そこで一歩、また一歩と前へと踏み出し始める一方通行の足。
地面を踏みしめるたびに闇が擦れて赤き火花が散り、
その重圧で周囲が小刻みに揺れる。
芳川、その腕の中にいる打ち止めに近づいていくたびに、
止まったような感覚に陥った鼓動と呼吸が、
今度はずくずくと形容し難い振動を伴って加速していく。
そして2mというところにまで達したとき。
彼は静かに跪き―――頭を垂れた。
それが今の彼の精一杯の意思表示。
己が魂の采配を全て貴女に委ねよう、と。
一方『……………………』
その時だった。
彼女が芳川の腕の中から降り立ったのが、
細い足が地面に伸びる形で見えた。
今、どんな顔をしているのかはわからない。
今、どんな目をこちらに向けているのかわからない。
だがひたり、ひたりと小さな足が着実にこちらに向かってきて。
手を伸ばせばすぐに届く位置、
僅か30cmのところまで歩み寄ってきて。
そこで彼女の声が発された。
打ち止め「あなたが―――……『見えるよ』って……ミサカはミサカは………………」
穏やかで、幼くて、一方で。
打ち止め「―――…………あなたがそう求めるなら―――ミサカも『裁き』をはじめる」
幼い少女のものとは思えないほどに鋭い声色で。
581: 2011/12/05(月) 05:51:10.95 ID:A3y7G+xXo
一方『……』
ついに始まった。
ここからは聞くべきだった言葉。
聞かなければならなかった言葉。
打ち止め「そうだよ―――――――――――――――ミサカは、あなたに怒り続けてる」
今まで逃げ続けてきた―――
一方『…………』
打ち止め「ミサカは、あなたが―――――――――憎い」
初めて耳にする、彼女の『本音の本音』。
打ち止め「あなたに一万回分―――同じ事をしてやりたい」
一方『………………………………』
打ち止め「―――でもね。困ったことにミサカは、あなたのことを―――これっぽっちも嫌いになれないの」
打ち止め「だってあなたは何度も―――ミサカを守ろうとしたから」
一方『…………』
582: 2011/12/05(月) 05:52:49.44 ID:A3y7G+xXo
それは何の捻りもない、幼く単純な言葉。
だがそれ故に、ありのままの形で彼女の心の内を運んでくる。
打ち止め「ミサカ達を一万回頃した『あなた』のことは憎い―――」
衝撃的で、刺激的で。
残酷で、荒削りで。
打ち止め「―――でも、ミサカを何回も守ってくれた『あなた』のことは、ミサカは―――」
情緒の欠片も無くて。
打ち止め「―――――――――大好き」
どこまでも透き通って明確で。
打ち止め「……ねえ、ミサカはどうすれば良いのかな?」
そして容赦なく―――核心を突く。
打ち止め「『どれ』がミサカの本当の気持ちなのかな?」
打ち止め「―――あなたがミサカだったら―――どうするの?」
一方『………………………………』
583: 2011/12/05(月) 05:54:31.34 ID:A3y7G+xXo
どうするか。
一方通行『……』
己の場合、憎くて憎くてたまらない存在と言えば―――アレイスター=クロウリーだ。
何回殺そうが絶対に気が晴れそうも無い、どれだけ憎んでも憎み足りない相手。
打ち止めが問うのは、
もしあの男が―――打ち止めと同じくらいに己にとって重要なものであったら、ということ。
普通に考えて、そんな感情が肩を並べることなどまず有り得ないであろうか。
愛情が憎しみに変貌することはあっても、それら二つが同化することなく同居するなんてことは。
だが現に打ち止めの中には、そんな二つの感情がしっかり分化したまま同居しているのだ。
一方『………………』
つまりこの問いの本質は『選択』。
―――滾る憤怒に身を委ねるか、それとも。
―――憤怒に耐え、かけがえのない愛情を守るか、というもの―――であるが。
この問題は、今の一方通行にとっては――――――愚問に等しかった。
一方『………………………………』
これについての答えは、少し前に己の中で既に導き出されたではないか。
もう、己の本心から目は背けないと。
もう、苦悩することを恐れないと。
もう、苛まれることも恐れないと。
一方『俺は…………』
もう―――全てを投げ出して―――。
一方『………………「逃げない」』
―――『憤怒』にだけ身を委ねることなんてしない、と。
584: 2011/12/05(月) 05:56:03.42 ID:A3y7G+xXo
己の本心を認められなくて。
己を見失って。
考えるのをやめて。
苦悩に抗うことをやめて。
そして『憤怒』だけを選び『憤怒』だけになったとき、どうなってしまうか。
それは先ほどこの身をもって証明されたではないか。
己は打ち止めのもとから離れ、全てを投げ出して、灼熱の『憤怒』に焼かれて灰になりかけた。
一方『俺は―――』
そこで馬鹿で臆病者だった己はやっと気付いたばかりではないか。
『ある女』のおかげで覚悟を決めたばかりではないか。
一方『―――選択はしない。全て受け入れる』
そう。
その矛先が例え、あのアレイスターであろうが。
『憤怒』と『愛情』を天秤になど絶対にかけない。
己の全てを受け入れ、全てを掌握し、全てを支配してやる、と。
585: 2011/12/05(月) 05:57:00.83 ID:A3y7G+xXo
すると。
頭上から、あの普段通りのけたけたと快活な笑いが毀れて。
打ち止め「あなたって、欲張りさんになったんだね」
打ち止め「でも今のあなたは―――今まで一番好きな『あなた』かもって」
一方『―――っ…………』
鋭さが消え、今度は母性さえも感じさせるような温もりに満ちた声。
そしてふわりと。
一方通行は、己が頭に小さな手が置かれる感触を覚えて。
打ち止め「うぅん、それならミサカも欲張って、都合よく『間』を取っちゃおうかな」
打ち止め「決めたっこうするっ―――」
放たれた『判決』の言葉をその身に刻み込んだ。
打ち止め「あなたは『今後一生』―――ミサカ達の望みどおりにすること!」
一方『…………』
すなわち傀儡と成ること、それが科せられる刑。
この身この魂の未来は、まるごと彼女の所有物。
生きるも氏ぬも全て言いなりの『終身刑』―――
そう、『終身刑』。
一方『―――……ありがとう』
つまり―――『生として存在すること』の承認。
彼女の判決はまさしく、己の存在を拒絶するどころか、
一先ず生きていて良いと認めてくれたのだ。
それも『今後一生』、とは、どれだけ長く刑に服するであろうか。
それだけ長く生きても良いのだろうか。
そんな彼女の言葉が何よりも嬉しくて、その慈悲が何よりも有り難くて。
一方『……………………ありがとう……ラストオーダー』
一方通行はそう再度呟いて、更に深くその頭を下げた。
586: 2011/12/05(月) 05:59:00.38 ID:A3y7G+xXo
すると。
打ち止め「む、……顔を上げてミサカを見なさい!って、ミサカはミサカは第一の命令をしてみる!!」
仰々しく更に低くなる一方通行に対し、早速放たれる命令。
声を受けてゆっくりと彼が面を上げると。
幼い少女は楽しげに、そして穏やかに微笑みを向けてきて。
打ち止め「つづいて第二の命令!って、ミサカはミサカはこれでもかとアピールしてみる!」
それだけ言うと両手を大きく広げてみせた。
第二の命令の内容、それは言葉では示されていなかったが、
その仕草で充分把握できるもの。
両手を広げ、じっと待つ姿勢
一方『………………………………』
つまりは抱きしめろということだ。
そうすぐにわかる。
そう、すぐにわかるも、一方通行はその第二の命令に従えずにいた。
原因は恥ずかしい、そもそも柄じゃない、そんな人並みの普通の感情も含まれていたが。
何よりも大きいのは―――全て闇で形成されているこの今の己の体が信用できなかったから、だ。
587: 2011/12/05(月) 06:01:21.30 ID:A3y7G+xXo
とてつもなく破壊的、で恐ろしく容赦の無い力の塊で、
彼女に触れることはどうしても抵抗が生じてしまう。
もちろんしっかりと、力は隅々まで意識を巡らして制御統率している。
だが得て時間が短い体と力、それでも万が一が考えられる。
一方『…………』
その万が一で、
打ち止めを傷つけてしまう光景が脳裏を過ぎってしまう。
と、そう彼が手を伸ばせずにいたところ。
えい、っと―――打ち止めの方から飛びついてきた。
そして彼の胸にぎゅっと抱きついて。
打ち止め「―――怖がらないで。今のあなたなら大丈夫」
一方『……』
それはさながら呪文のような言葉であった。
声と共に胸に覚える温もりに吸い寄せられ、自然と腕が動き。
彼女の背へと回され―――そして触れた瞬間。
―――すぅっと。
一方『……』
全身を覆っていた闇がみるみる退いていった。
588: 2011/12/05(月) 06:03:15.75 ID:A3y7G+xXo
火花散らしていた翼が、まるで休めるかのように折りたたまれ、
指も腕も、顔も髪も、全てが生身だった頃の姿形へと変じていき。
そうして一方通行は強く抱きしめた。
一切怖気ずくことなく、その小さな体をしっかりと固く―――優しく。
一方『……』
ふわりとした癖のある髪が頬を、そして鼻先を撫でていく。
体温と鼓動、そして呼吸が伝わってくる。
それのなんと暖かいことか、なんて心地よいことか。
打ち止め「良くできました。それじゃあ、次は第三の命令―――」
そして彼の胸に顔を埋めながら、少女は第三の命令を発する。
打ち止め「―――絶対に帰ってきて」
一方『――――――……あァ』
それは命令されるまでも無いことだった。
今から赴くのは―――『生きるための戦い』。
一方『必ず帰る』
絶対に勝って帰らなければならない戦い。
打ち止め「そしてまた皆で、黄泉川と、芳川と、ミサカと一緒に暮らすことって、ミサカはミサカはもっと欲張ってみる」
もちろんだとも。
一方『あァ。誓う』
これ以上、この少女の泣き顔なんか見たくはない。
そして。
『この笑顔』をずっと見続けていたいのだから。
胸から顔を少し放して―――満面の笑みを浮べる打ち止め。
そんな彼女の姿が、そこで徐々に薄れていった。
芳川も、あの花畑の少女の姿も。
それは虚数学区が実体化したことによって、一方通行が虚数学区上に『押し上げられている』から―――。
589: 2011/12/05(月) 06:06:05.67 ID:A3y7G+xXo
その間も打ち止めはずっと抱きついたまま、
彼を真っ直ぐに見上げていた。
透き通り、その触感も重さも消えても。
最後の最後まで。
一方『……』
そうして完全に学園都市が虚数学区と言う殻に覆われて、
彼女含め三人の姿は完全に消えていた。
胸と腕に温もりを。
そして大気には香りを仄かに残して。
だがその僅かな余韻に浸る時間も、今は与えられなかった。
その時突然―――白みを帯びていた天から轟く―――無数の『ラッパ』の音。
一方『―――』
奏でられるは壮大な聖歌のような―――いや、軍歌的でもある、
圧倒的なパワーと畏敬の念を抱かせるもの。
そして目が眩みそうなほどの、白金色の輝きに染まっていく空。
そう―――遂に『始まった』のである。
一方『……来たか』
実はかなり時間的に危ういものだったらしい。
あのように『始まる』前、30秒も無いうちに実体化できたとは、なんと幸いなことであろうか。
590: 2011/12/05(月) 06:12:47.89 ID:A3y7G+xXo
一方通行は即座に飛びあがり、付近で最も高いビルの上へと降り立った。
遠くには依然、遥か高く聳えるテメンニグルの塔。
そして眼下に広がるは、文字通り『無人』の学園都市。
正確には、学園都市を覆う強固な『殻』か。
一方『……』
ステイル達はまだこちらに入ってきてはおらず、
ヒューズ=カザキリも実体化していないか。
虚数学区のAIMは全て認識下にあるため、内側にいる存在は全て把握できるのだ。
その知覚で確認できる限り、今ここの界上にいる生命体は己だけ。
ただここもすぐに大賑わいになる。
一方『…………はッ』
見上げたその空、そこから天のものと思われる莫大な圧が染み出してきているのだから。
きっとすぐあの向こうには、大勢の天使とやらが詰め掛けてきているであろう。
その天使共を迎え撃つため、一方通行は戦闘態勢へ―――再度、己が身を闇へと変ずる。
翼を解放し、全身からも闇を滲ませ、莫大な力を豪快に渦巻かす。
そうして臨戦態勢となり、相手の出現を待つだけとなった時。
一方『おィ―――聞えるか?』
彼はふと―――独り声を放った。
それはある一人の女への『一方的な言霊』。
一方『これ以上、オマエのことをしつこく考えはしねェ』
その胸にぽっかりと穴を空け、
心の一部を『持ち逃げ』していったあの『暴君女』であり。
そして今、こうして存在できている己の最大の『恩人』。
そう、あの―――初めて本気で恋してしまった、今は亡き女。
一方『だからよ、最後に一つだけ頼みがあるンだ―――』
もっともっと話し、知り、触れたかった彼女。
それが叶わなかったとしても、せめてこれだけは知ってほしかったのだ。
これだけは―――伝えたかったのだ。
一方『せめてこの戦いの間だけは―――』
その心に共感し、こうして同じ思いで―――生きて戦おうとしている己を。
一方『―――――――――見ていてくれ。なァ、麦野』
―――
591: 2011/12/05(月) 06:13:58.56 ID:A3y7G+xXo
学園都市編はこれにて終了です。
創世と終焉編は10日開始を予定しております。
創世と終焉編は10日開始を予定しております。
592: 2011/12/05(月) 06:18:35.53 ID:/ab7/RW7o
盛り上がって参りますた乙
593: 2011/12/05(月) 07:06:43.42 ID:kPGuFo+Fo
お疲れ様でした
443: 2011/11/21(月) 11:40:23.15 ID:R1TXV0x6o
竜王にも一方さん≒ハデスみたいな固有の名前があるんですか?
ミカエルとの絡みだと赤龍としてのサタンっぽいけど、そうすると
天界か魔界になりそうだし
ミカエルとの絡みだと赤龍としてのサタンっぽいけど、そうすると
天界か魔界になりそうだし
444: 2011/11/21(月) 20:53:57.59 ID:vqBMy5J6o
>>443
当SSにおいては、竜王は「サタンのモデル」といったところです。
実はこれも阿修羅やケルベロスと同じく、
現代に残る伝承が必ずしも完璧な真実を語っているわけではない例の一つとなります。
「竜王含む人界神の過去は全て葬る」という天界の立場の時点で、まず後世の人間達が実像の全貌を知り得ることは叶わず、
(そもそも「人界神」が存在していたことすら知るのは至難)
僅かな情報ですらも短いスパンで世代が入れ替わっていく人間世界、その目まぐるしい歴史に揉まれて改変されていき、
かつ天界の意識操作で都合良く誘導されてしまった結果、
また悪魔という言葉は、大多数の一般の人々にとっては「魔界の生命種」というよりも
「神と人の敵対者であるとにかく悪しき存在」という認識の方が強いため、
そこも混同されて竜王=神と人の敵対者≒悪魔(サタン)という解釈で現代まで記述されてしまった訳です。
※ちなみにここから以下は、本筋にほぼ全く絡まない完全な蔵入り設定ですが、
イエスと釈迦の名が出たので、ついでということで彼らに繋がる歴史を。
※かなりかなり長いです。
現代では一切の情が入る余地の無い天界と人界の上下関係ですが、
かつては天照達の例のように、天界神が人界に降りて友として関わっていた時期がありました。
しかしある時、「世界の目」の発見によるジュベレウス派の管理方針の変更に伴い、
人間界と天界の物理的な接続は遮断、上下関係を絶対的なものにするため、天界神と人間の直接的かつ友好的な接触を一切禁じます。
そこで天界は、人界内で大きな力が必要とされる作業を行う際は、
特定の人間に力を与えて「使者」とし、天の御業を代理させるという手法を取るようになります。
それがアブラハムをはじめとする「預言者」やメタトロンなどいった者達です。
とはいえ当時の関係も完全に冷え切っていたわけではなく、
それら「使者」の人選は、才能はもちろんですがその他に人徳や、時には暖かい愛情によって加味されていました。
更に中には眷属として天界に受け入られる者もおり、
特にメタトロンなんかは大出世に出世を重ね、元々人間だった経験もあってセフィロトの樹の責任者を任されるに至ります。
しかしこのような関係も、ずっと続くことはありませんでした。
天界神が離れたことによる影響と人間界生まれの魂の本能によってか、
ある時、古代メソポタミアをはじめとして各地で人界神信仰が再燃し、文化の成熟と共に人界神へ近づく学問研究も加速、
最終的には、アレイスターの話でも少し出たとおり古代ギリシャのホメロス達が人界の真理にまで到達してしまいます。
当時の人間界を取り巻く状況は、明日にでも魔界の侵略が始まってもおかしくないものであり、
「世界の目」が存在している人界を失うわけにはいかないジュベレウス派からすれば、
管理体制を崩しかねない人間の探求は、すぐにでも解決せねばならない緊急事態だったわけです。
結果的にはホメロス達は失敗したものの、その後も人界信仰とその学問の波は衰えることは無く、
マケドニアの拡大によるオリエントとの融合、ヘレニズム文化の確立拡大、アレクサンドリア図書館などでの更なる学問探求が進み、
また東では焚書坑儒などの儒教思想弾圧、
西ではギリシャ文化を受け継ぐローマの覇権拡大、
それによるケルト信仰などの天界系他信仰の同化吸収など、天界にとって人界内の状況は更に悪化していき。
遂にジュべ派が「おい良い加減どうにかしろ、これ以上悪化したら武力でもう一度人界洗浄すんぞ」と、
それぞれの下位派閥に圧力をかけるに至り、
それで執られた大規模かつ徹底された「管理強化策」によって、魂のみならずその根底の思想、
価値観や倫理観といった要素も全て「天界風」に「再修正」され、現在の状態へと繋がることになります。
そして当時、その「管理強化策」の使命を与えられた「使者」が、
釈迦やイエスといった現代に続く信仰の直接的な「始まりの者」でした。
そのような背景の元、紀元0年から約±400年の期間中に、
人界神信仰は最盛期を迎えると同時に即座に天界系に廃絶され、
もしくは乗っ取られる形で吸収同化されその後は急激に衰退していくことになります。
ちなみにイエスと釈迦は両者とも各派閥の神に愛された「人間」ですが、
彼らは本筋には絡まないので、天の使者となる詳しい経緯は明確に設定していません。
ただ諸々の事からすると、釈迦はアレイスターと同じく魔神の領域の超弩級の天才で、自力で真理に到達して天に見初められた、
イエスは天に愛されたマリアが生んだ半人半天の選ばれし子(天界視点では管理強化策の要)、といったところが妥当でしょうか。
ということで、ここに設定厨の>>1の余談、長々とお目汚し失礼致しました。
またこれらは全て、あくまでも当SS内における設定です。
当SSにおいては、竜王は「サタンのモデル」といったところです。
実はこれも阿修羅やケルベロスと同じく、
現代に残る伝承が必ずしも完璧な真実を語っているわけではない例の一つとなります。
「竜王含む人界神の過去は全て葬る」という天界の立場の時点で、まず後世の人間達が実像の全貌を知り得ることは叶わず、
(そもそも「人界神」が存在していたことすら知るのは至難)
僅かな情報ですらも短いスパンで世代が入れ替わっていく人間世界、その目まぐるしい歴史に揉まれて改変されていき、
かつ天界の意識操作で都合良く誘導されてしまった結果、
また悪魔という言葉は、大多数の一般の人々にとっては「魔界の生命種」というよりも
「神と人の敵対者であるとにかく悪しき存在」という認識の方が強いため、
そこも混同されて竜王=神と人の敵対者≒悪魔(サタン)という解釈で現代まで記述されてしまった訳です。
※ちなみにここから以下は、本筋にほぼ全く絡まない完全な蔵入り設定ですが、
イエスと釈迦の名が出たので、ついでということで彼らに繋がる歴史を。
※かなりかなり長いです。
現代では一切の情が入る余地の無い天界と人界の上下関係ですが、
かつては天照達の例のように、天界神が人界に降りて友として関わっていた時期がありました。
しかしある時、「世界の目」の発見によるジュベレウス派の管理方針の変更に伴い、
人間界と天界の物理的な接続は遮断、上下関係を絶対的なものにするため、天界神と人間の直接的かつ友好的な接触を一切禁じます。
そこで天界は、人界内で大きな力が必要とされる作業を行う際は、
特定の人間に力を与えて「使者」とし、天の御業を代理させるという手法を取るようになります。
それがアブラハムをはじめとする「預言者」やメタトロンなどいった者達です。
とはいえ当時の関係も完全に冷え切っていたわけではなく、
それら「使者」の人選は、才能はもちろんですがその他に人徳や、時には暖かい愛情によって加味されていました。
更に中には眷属として天界に受け入られる者もおり、
特にメタトロンなんかは大出世に出世を重ね、元々人間だった経験もあってセフィロトの樹の責任者を任されるに至ります。
しかしこのような関係も、ずっと続くことはありませんでした。
天界神が離れたことによる影響と人間界生まれの魂の本能によってか、
ある時、古代メソポタミアをはじめとして各地で人界神信仰が再燃し、文化の成熟と共に人界神へ近づく学問研究も加速、
最終的には、アレイスターの話でも少し出たとおり古代ギリシャのホメロス達が人界の真理にまで到達してしまいます。
当時の人間界を取り巻く状況は、明日にでも魔界の侵略が始まってもおかしくないものであり、
「世界の目」が存在している人界を失うわけにはいかないジュベレウス派からすれば、
管理体制を崩しかねない人間の探求は、すぐにでも解決せねばならない緊急事態だったわけです。
結果的にはホメロス達は失敗したものの、その後も人界信仰とその学問の波は衰えることは無く、
マケドニアの拡大によるオリエントとの融合、ヘレニズム文化の確立拡大、アレクサンドリア図書館などでの更なる学問探求が進み、
また東では焚書坑儒などの儒教思想弾圧、
西ではギリシャ文化を受け継ぐローマの覇権拡大、
それによるケルト信仰などの天界系他信仰の同化吸収など、天界にとって人界内の状況は更に悪化していき。
遂にジュべ派が「おい良い加減どうにかしろ、これ以上悪化したら武力でもう一度人界洗浄すんぞ」と、
それぞれの下位派閥に圧力をかけるに至り、
それで執られた大規模かつ徹底された「管理強化策」によって、魂のみならずその根底の思想、
価値観や倫理観といった要素も全て「天界風」に「再修正」され、現在の状態へと繋がることになります。
そして当時、その「管理強化策」の使命を与えられた「使者」が、
釈迦やイエスといった現代に続く信仰の直接的な「始まりの者」でした。
そのような背景の元、紀元0年から約±400年の期間中に、
人界神信仰は最盛期を迎えると同時に即座に天界系に廃絶され、
もしくは乗っ取られる形で吸収同化されその後は急激に衰退していくことになります。
ちなみにイエスと釈迦は両者とも各派閥の神に愛された「人間」ですが、
彼らは本筋には絡まないので、天の使者となる詳しい経緯は明確に設定していません。
ただ諸々の事からすると、釈迦はアレイスターと同じく魔神の領域の超弩級の天才で、自力で真理に到達して天に見初められた、
イエスは天に愛されたマリアが生んだ半人半天の選ばれし子(天界視点では管理強化策の要)、といったところが妥当でしょうか。
ということで、ここに設定厨の>>1の余談、長々とお目汚し失礼致しました。
またこれらは全て、あくまでも当SS内における設定です。
445: 2011/11/21(月) 21:33:23.62 ID:LZ7vxWHl0
設定が凄過ぎるwどれだけ考えてるんだよw
次回へ続く:【禁書×DMC】ダンテ「学園都市か」【その34】
コメントは節度を持った内容でお願いします、 荒らし行為や過度な暴言、NG避けを行った場合はBAN 悪質な場合はIPホストの開示、さらにプロバイダに通報する事もあります