830: 2012/01/10(火) 02:54:48.12 ID:+94TzkIko
最初から読む:【禁書×DMC】ダンテ「学園都市か」
前回:【禁書×DMC】ダンテ「学園都市か」【その34】
一覧:ダンテ「学園都市か」シリーズ
―――
ダンテの顔から、彼のトレードマークとも言える軽薄な色が潜んでしまう状況というのは、
大きく分けて主に二つのパターンがある。
一つはまず家族やそれに比する近しい者達に関係する問題だ。
とは言ってもよほど切迫した場合で無い限り、彼の軽々しい態度は消えはしない。
だがもう一つのパターンの場合、
それは彼にとってまさに『劇薬』と称しても過言ではない作用を有している。
その状況に置かれた瞬間、一瞬にして彼の調子は冷え切ってしまうのだから。
そして今、ダンテはまさしくそんな只中に置かれていた。
ダンテ「……………………」
己よりもずっと軽薄で―――遥かに『お喋り』な者に遭遇という、最も気乗りしない状況の中に。
得てして不快な物事というのは、いつまで経っても克明に記憶しているものだ。
広大な回廊の中に響くこの狂気染みた笑い声の主を、
ダンテは聞き覚えがあるどころか昨日の事のように覚えていた。
耳障りな声を耳にした途端もはや反射的といった具合に、彼は目を細めて、
あからさまに不機嫌な面持ちでむっと口を尖らした。
彼に同じく、脇にて蒼い巨馬ゲリュオンもまた鼻息荒く不快気にいななく。
「―――それにしても本当にごリッパになっちゃって。す~っかりオトナじゃないか。今じゃアッチの方も余裕たっぷりテクニカルかな?」
次にその声が聞えたのは、耳元すぐ近くであった。
ダンテ「…………」
振り向き目に捉えなくとも、その容姿も身元もすでに知っている。
『娘』と同じオッドアイを有する―――魔に堕ちた魔術師。
どう見ても人間のそれではない槍のように突き出ている長い鼻に、
濃紫色の道化衣装に身を包んでいる『この状態』の名は―――『ジェスター』だ。
831: 2012/01/10(火) 02:57:10.16 ID:+94TzkIko
不快気にだんまりを決め込むダンテを更に挑発するようにして、ここでようやく、
道化はその姿をダンテの視界の中に現した。
ジェスター「―――おやおやおやおやムッツリしちゃってどうしたンだい?」
いちいち癪に障る挑発的な立ち振る舞いでダンテの前へと躍り出るジェスター。
ジェスター「こうして冥土からお友達がはるばる再会しにきたってのにお口チャックはイタダけないぜ」
ジェスター「んん?『アレ』のし過ぎで舌でも無くしたのかい?ちなみに『アレ』ってのは今じゃ当然わかるよな?」
そうしてダンテの反応など鼻から待たずに捲くし立て、
これまた挑発的に一人でげらげらと馬鹿笑いをする。
ダンテ「…………」
まさにあの頃と寸分違わぬ、間違いなくあの『クソッタレのピ工口』そのものであった。
その姿や調子といった表面的なものだけではない、この肌に覚える感覚から声に宿っている濁った思念まで、
何から何までもが在りし日と変わらない『本物』だ。
そう。
あの日に完全に魂そのものを砕かれ『完全に滅んだはず』の男が、こうして目の前にいたのである。
ダンテ「…………」
この事実だけである部分が確定する。
この男は確かに本物ではあるのだが―――。
トリッシュ『彼は「本物」じゃないわね』
オリジナルではない、と。
今日ここまで遭遇してきたこの塔の『普通の住人達』とは違う―――この道化は創造と具現の産物である、と。
道理も因果も捻じ曲げられ、歪められた現実の中に出現した、
存在するはずの無い『影』であるのだ、と。
832: 2012/01/10(火) 02:59:20.68 ID:+94TzkIko
そこまで考えが及んだところでダンテとトリッシュは、
共にふとある推論に達した。
この道化を蘇られた源は具現が捕えた負の感情であろうが、それの出所はダンテではない。
確かにダンテも並々ならぬ嫌悪を抱いてはいるも、決して尻尾を巻いて逃げたくなるようなものではない。
むしろ進んで何度でも叩き潰してやるといった塩梅だ。
では誰か、とそこでわざわざ思索を巡らす必要も無いであろう。
これは明らかだった。
トリッシュ『レディね』
ダンテ「……」
間違いなくレディだ。
この男にありとあらゆる負の感情を抱く『娘』。
そしてここまで分析が至ったところでもう一つ、二人はある別の推論をも導き出す。
この男の存在基盤の源がレディならば―――と。
そこでダンテはそれら推論の確認のため、
手早く腕のギルガメスを稼動させてはそこにある拳銃を握り。
ダンテ「わざわざ化けて出てきてくれたところ悪いが」
口早にそう、一切の笑みを含まずに吐き捨てて。
ダンテ「―――『今回』はお前の案内は必要じゃあない」
道化の鼻先に銃口を押し付け、相手の反応を待たずに引き金を絞った。
ただ、確認のためとは言うが、この方法を選んだ動機の割合は、
単にムカついただけというものが大部分を占めていたが。
833: 2012/01/10(火) 03:02:25.38 ID:+94TzkIko
この男に向けて銃撃した事は初めてではない、
以前であった当時に、むしろそこらの悪魔よりもかなりの数を撃ち込んである。
ただし、それら雨あられと放たれた弾丸の大半はこの道化に掠りもせず、
彼は狂気染みた笑い声と共に悠々と踊ったものだ。
元々当時は、ダンテの側もそうして意地悪く小突く意図もあったが。
しかし今はまるで異なっていた。
ダンテの側にはそんな遊びの意図は微塵もなく、それ以前に彼の力は、当時よりもずっと強大になっていたのだから。
次の瞬間、道化は少しの回避をとることも叶わずに。
凶悪な魔弾にその頭を貫かれては木っ端微塵に吹き飛ばされ―――首のない体が、
硬質な床に何度も打ちつけられながら大きく後方へと吹っ飛んでいった。
と思ったのも束の間、15mほど吹っ飛んだところで突如、首のない体が軽やかに高く跳ねてはくるりと宙返り。
その宙返りから見事な着地を決める間に、失われた頭部はすっかり元通りになっていた。
ジェスター「フゥー!やっぱり―――」
そうして道化が笑い混じりにそう声を漏らしたところでまたもや唐突に。
「―――あの頃のようにはいかないか」
突然フィルムを切り替えたかのように、男の姿は道化のそれから切り替わっていた。
その風貌は、皺一つ無い黒の神父の服に身を包んだスキンヘッドの長身の男。
道化時との共通点はオッドアイくらいか。
ダンテ「……」
これもまたダンテは知っていた。
これこそこの男の真の姿であり、この場合の名は―――『アーカム』。
アーカム「一発の鉛玉にまで、時を経て成熟し洗練された力が顕著に表れている」
調子は一転、まさに道化時と対極か。
落ち着き払った佇まいに、尊大で仰々しくも静かで聞えによい声色と、
ダンテの調子を狂わせる要因は全て取っ払われているか。
ダンテ「―――ハッハ。なあに。あの頃だって当てようと思えばいつでも当てられたぜ」
キャラクター性の重複を解消した事によって、
自然と不敵な調子と薄笑いが戻っていった。
834: 2012/01/10(火) 03:06:51.47 ID:+94TzkIko
そうして軽口を吐く傍らも、分析もしっかり欠かさないダンテ。
今の確認作業は成功だった。
この一発で、己とトリッシュの推論が正しいと決定付けるに足る情報が得られたのだ。
手加減無しの魔弾を打ち込み、確かに命中したも、当のアーカムにはダメージの跡が一切無い。
このような現象はダンテは何度か見覚えがあった。
魔帝との戦いの中で、彼が使っていた創造の作用と非常に似ていたのである。
単刀直入に結論を言うと、アーカムはこうしている今も恒常的に、
その存在は具現と創造の力によって維持されているのだ。
言い方を換えれば―――具現と創造が機能している限り『不氏身』、か。
いや、厳密に言えば完全に不氏身というわけでもないであろう。
具現に関する己とトリッシュの解釈が正しければ、具現・創造を止めるほかにもう二つ、
アーカムを再び冥土へ叩き返す方法がある。
それはこの『存在の源』、『影の光源』たる―――レディを頃すか。
もしくはレディ自身がこの『負の感情』の象徴たる存在を真っ向から制し、
アーカムという男を心に留めぬ存在にまで除けられるか、だ。
ダンテ「…………」
トリッシュ『全く……そこにイマジンブレイカーがいてくれれば、色々と捗るのだけれど』
意識内で響くトリッシュの声に、ダンテは頷いた。
レディを頃すという選択肢はまず無く、
上条当麻がいない以上、竜を倒すまでは創造と具現の効力は持続する。
となると、レディ自身の手でこの男を消し去ってもらわねばならないのだが。
レディならば成せるとダンテは確信はしているが、
それはそては困難な試練で、最悪の場合彼女自身も大きな犠牲を払ってしまうかもしれないか。
なにせ現にこうしてアーカムが現れている事が、
この男の影が今も彼女の中にどれだけ色濃く染み付いているかを物語っているのだから。
835: 2012/01/10(火) 03:08:57.63 ID:+94TzkIko
アーカム「力のみならず、機知もまた相応になったようだな。気付いたか」
そんなダンテの分析を悟ったのか、アーカムは小さく嘲笑的に喉を鳴らした。
対して普段の調子を取り戻したダンテは、
脇で猛るゲリュオンを宥めながら言葉を返す。
ダンテ「まあな。それにしても趣味が悪いぜ。よりによってお前なんかを蘇らせるとは」
アーカム「いいや。あの高慢で愚劣な竜は、私がこうして現れることは意図していなかったようだ」
アーカム「私は誰に求められることも無く、自律稼動している具現と創造によって予期せずしてこの舞台に招かれたという訳だ」
ダンテ「へえ。竜のことも今の状況も知ってるのか?」
アーカム「知っている。顕現の際にどうやら私は知識と記憶を与えられたようだからな」
ダンテ「なら話は早いな。今はお前が氏んでからもうずいぶん経つんだぜ」
とここでアーカムは一歩。
今のダンテの言葉を遮るかのように踏み出しては。
アーカム「いいや。正確に言えば、この私は『氏んではいない』」
やや声色を強めてそう口にした。
この返答だけでは、ダンテは彼の声の意図を掴みかねたが。
アーカム「『この私』はお前達兄弟に敗れる直前の私―――『氏ぬ前の私』だ」
次いで放たれた言葉で、
アーカムが何を言わんとしているかを即座に悟った。
836: 2012/01/10(火) 03:10:48.90 ID:+94TzkIko
トリッシュ『なるほどね』
同じくして理解したトリッシュが相槌を打つ。
ダンテ「…………」
このアーカムは彼の言葉そのままの通り、『あの日あそこで討ち倒される前のアーカム』なのである。
具現はご丁寧にも、レディがもう己は付いていけぬと悟り、
父を止めてくれとダンテに思いを託した瞬間のこの男を、
彼女の絶望や恐怖、無力感が頂点に達した瞬間のアーカムを引き出していたのである。
まさにタイムスリップしてきたとでも例えられるか、
つまりこの目の前に存在しているアーカムには、野望砕かれ命落とした『事実』は『無い』のである。
ダンテ「……本当に悪趣味なこった」
アーカム「奇妙なものだ。お前達の刃に敗れ、我が娘に止めを刺された記憶はあるにもかかわらず」
アーカム「『私』はそれを『まだ』体験してはいない、とはな」
と、そんなアーカムの感慨話なんざ知ったこっちゃないとばかりに、
ダンテはぱんっとゲリュオンの鼻先を叩き。
ダンテ「それはそうと」
こともなげに、世間話のような調子でこう問うた。
ダンテ「ところでお前は、今は何をしにここにいるんだ?」
837: 2012/01/10(火) 03:13:10.30 ID:+94TzkIko
とはいえこの疑問の答えに関しては、
ここまでの分析やアーカム自身の話を踏まえれば大方予想がつくものであった。
それはわかっているだろう、といった風にアーカムも口角を歪めて薄い笑みを浮かべ。
アーカム「最終的な目的は当然『同じ』だ。あの頃とな」
やはり、といった具合か。
これは明白であったと言ってもよいものであった。
『あの日スパーダの息子達に破れる前のアーカム』なのだから、
その胸の内も同じなのは当然だ。
そしてこのアーカムの目的が何だったのかもダンテは良く覚えている。
悪の大玉が考えるような、よくあるパターンの野望。
神の領域たるより大きな力を得て、魔界と人間界を繋げて―――この世界を魔に捧げて支配することである。
ダンテ「言っておくが、フォースエッジはもう無えぜ」
ダンテのその言葉に対してアーカムは驚くどころか、
更に歪んだ笑みを浮べ返して。
アーカム「知っているとも。バージルの子が魔剣スパーダを破壊したのであろう?」
アーカム「あの頃とはいささか状況が異なっていることは承知している」
両手を広げ、よく響く重い声で宣言した。
アーカム「かの愚劣な竜の道化になるつもりは無い―――」
アーカム「―――この状況に則した手段で、私は私の目的を果す」
そして次の瞬間。
ダンテ「…………」
アーカムの姿は消えていた。
現れたときと同じく、フィルムが切れたように一瞬にしてぷっつりと。
838: 2012/01/10(火) 03:16:04.73 ID:+94TzkIko
そんな、冥土から蘇ってきた男の再挑戦の声を受けて、
ダンテは小さく笑い。
ダンテ「……らしいぜトリッシュ?」
ゲリュオンの鼻先を掻きながら相棒へと声を投げかけた。
トリッシュ『私に振らないでよ。私は面識無いのよ』
トリッシュ『それにしても困ったものね。あの男も何をしでかすか。縛り上げておいた方が良かったんじゃないの?』
ダンテ「奴を守ってるのは創造と具現だぜ?何が起こるかわかったもんじゃねえ。レディに任せようぜ。これ以上仕事を増やすのはゴメンだ」
トリッシュ『……本当にもう。次から次へと厄介ごとばっかり』
そしてここでいつも通りの小言が並びだすパターンに入りかけたが、
遮るようにしてダンテは、その時目にした『助け舟』へと声を放った。
ダンテ「おうおう噂をすればなんとやらだ」
彼の視線の先、回廊の向こうから現れたのは、
普段よりも更に物々しいフル装備の『麗しいデビルハンター』、レディであった。
彼女は、大の大人でも立ち上がれるかどうかという量の装備を身にしながらも素早く軽快に、
むしろ常人とは思えない速度で駆けて来。
一際大きな、装備類が打ち鳴らす音を奏でてはダンテのすぐ前で急停止。
そうして挨拶もせぬまままず第一声。
レディ「―――アーカムは?」
あの男の行方を問うた。
目を血走らせ、怒りか力みか―――それとも恐怖か、判断がつかない小さな震えがある声で。
839: 2012/01/10(火) 03:20:10.75 ID:+94TzkIko
ダンテ「さあな。どっか行っちまった」
そんな彼女の様子などまるで気にも留めぬ風に、そっけなく答えるダンテ。
レディ「…………そう」
するとそう小さく頷くレディだが、
今度はその声どころか表情にまで、何の感情か判断が付きかねない色が僅かだが確かに滲んでいた。
寸でのところで取り逃がした残念な思いか、
それとも―――出会わなかった―――『安堵』か。
レディ「何を話したの?」
だがそんな揺らぎが見えたのもごく僅かな間だった。
すぐに彼女は表情を確かなものへと『取り繕って』は、
オッドアイの瞳を真っ直ぐに彼へ向けて続けて聞いた。
トリッシュ『話しながら行きましょう。ここで立ち話はさすがに時間が惜しいわ。話す事も多いし』
ダンテ「進みながら行こうぜ」
意識内のトリッシュの言葉に同意したダンテはそう返しながら、
そろそろデカイ図体を消せとゲリュオンを小突いたが、巨馬は明らかに不服そうだった。
足を踏み鳴らし、鼻先で荒々しくダンテを小突き返したのである。
そんなやや滑稽な主と使い魔のやり取りを眺めながら。
レディ「そっちは……この塔を起動させるつもり?」
今度は呟くように声を発するレディ。
840: 2012/01/10(火) 03:22:34.84 ID:+94TzkIko
ダンテ「そうだ。あの何ていったっけ」
ルドラ『我らは礼典室へ向かうところだ』
そこでダンテの言葉の足りない部分を捕捉する背中の魔剣。
更にそれだけに留まらず。
ダンテ「そうそう礼典室だ。とりあえずそこまで一緒に行こうぜ」
ルドラ『ちょうど良いではないか。起動には巫女の血も必要なのだからな。しかしダンテよ。先ほどから思っていたのだが』
続けて今度はこの主が忘れていたある点を指摘した。
ルドラ『アミュレットはどうするのだ?魔剣スパーダは失われたのであろう?』
ダンテ「……ん?……あー……」
トリッシュ『―――ちょっと良い?アミュレットに関しては、今回は必要ないと私は思うわよ』
とそこで次に放たれるはトリッシュの声。
更に続けて、トリッシュの声が聞えるのはダンテのみであるのだが、まるで彼女に準じるかのごとく。
レディ「スパーダ・巫女の血とアミュレットが必要だったのは、フォースエッジの秘匿された封印場へ繋ぐためよ」
レディ「封印場へ行くんじゃなきゃ必要ないけど」
841: 2012/01/10(火) 03:25:00.38 ID:+94TzkIko
レディが、魔女を省く人間側の中で最もテメンニグルの塔について知っているのは当然のことだった。
まずアーカムが調べに調べつくし、次いで彼を追った彼女もまた調べ上げているのはもちろん。
更にアーカムを打ち倒した後も、この男が遺した業を研究する過程でより深く知ることもあったであろう。
レディ「ただゲートとして稼動させるだけなら、膨大な力が篭められてる『人間の血』だけで充分よ」
レディ「だから前回のダンテの血はスパーダの息子としてと、人間としてのものという二重の鍵の意味を帯びていたわけね」
ダンテ「……」
そしてダンテへの知識披露の際に、自慢げな饒舌になるのも普段通りか。
それはいつもの彼の無知を小馬鹿にしている調子なのであるが、
今に限っては『助かった』とでも言うか。
おかげで少しばかり、彼女の緊張が解れているように見えた。
ダンテ「なあルドラ」
ルドラ『うむ』
ダンテ「お前ここに『住んでた』癖にそこんところは知らなかったんだな」
ルドラ『む…………ぐぐ……』
まるで子供のように素直に悔しがる魔剣をよそに、ダンテはマントを翻して。
レディ「じゃあ、まず行きましょ。話も聞きたいし」
ダンテ「待て。もう一つ―――あのお嬢ちゃんは?」
レディの言葉も遮って、
さながら斜に銃を構えるかのような姿勢で彼女の背後、回廊の奥を指差した。
すると数秒ののち。
その指の先、40mほど離れた壁の出っ張りの影からひょっこりと。
発見され観念したかのように、魔女の槍を手にした一人の少女―――五和が姿を現した。
レディ「さあ。知らない」
それと同時に、彼女はそっけなく呟いた。
振り向きもせずに。
842: 2012/01/10(火) 03:28:09.74 ID:+94TzkIko
五和は、『なぜか』申し訳なさげに姿勢低くぱたぱたと駆けて来ては、
主にレディを意識しながら縮こまり。
五和「あのっ……すみません!!」
レディ「何が?」
その突然の謝罪に、レディはこれまたそっけなく。
それどころか今度は突き放すような声色。
五和「…………ここに入ってしまって……」
レディ「あれだけ私が言った上でここに居るってことは―――あなた自身にも相応の理由があるんでしょ」
だがその真意は決して五和を嫌ってのものではない。
状況を把握した上でここにいる彼女の決意を認め、相応の厳格な態度を示したのである。
五和「―――はいっ」
レディ「それなら別に。私に謝る必要はどこにも」
ダンテ「…………」
そしてダンテは、
そんなレディの調子の中に彼女のもう一つの気持ちを見て取った。
突っぱねてしまうような態度になっているのは、この感情もまた原因の一つであろう。
こんな塔の中にいる彼女が心配で、不機嫌になってしまっているのだ。
ダンテ「OK、とりあえず行こうぜ」
長い付き合いでなければ決して気付かない不器用な彼女なりの意思表示を横目に笑いながら、
ダンテはこの回廊の外縁部へ向け駆け出した。
そうしてマント靡かせるその男の後を、レディと五和が何も言わずに追い。
いまだにその大きな肉体を顕現させたままのゲリュオンが、高らかにいななき続いた。
この大悪魔は、久々に肉体解放したことが嬉しくて嬉しくてたまらないのであろう。
これだけはと主の命を拒み、もはやその巨体をどうにかするつもりは無さそうだった。
そして当の主ダンテもまた、そんな強情に呆れ諦め。
この馬の好きにさせようとの結論に至っていた。
―――
857: 2012/01/13(金) 03:27:32.49 ID:OrzSZEDlo
―――
ステイル『―――クソッ!』
今しがたのアレイスターとの問答で明らかになった事柄も大きな問題であるが、
それについて腰を据えて考える暇など無かった。
今、至急対処しなければならないのは虚数学区に侵入したかの天使―――カマエルだ。
カマエルと風斬氷華、データ上においては力の総量は互角程度であるが、
データに記されない経験や技術で大きく覆ることをステイルは身をもって知っている。
カマエルは、恐らく現生人類が歴史を有するよりも大昔から刃を振るってきた百戦錬磨の戦士だ。
決して風斬氷華の戦闘能力を信頼していないわけではないが、
それでもステイルには、彼女だけではこの天使をどうにかするには厳しく思えた。
それに天使達には復活の可能性があるため尚更だ。
ステイル『―――アグニッ!!上に行ってくれるか?!』
そこで彼は、この炎の魔剣の大悪魔を指名した。
イフリートはこの場を守る最後の砦、ましてやベオウフルは論外、
己は上に言っても、風斬とカマエルの剣間に飛び込むには力量が心細い。
海原は戦いについていくことすら厳しいかもしれないし、
そもそも彼には魔術と科学が同居するこの場を統べるという重要な仕事がある、
という考えの上のものだ。
ステイル『―――クソッ!』
今しがたのアレイスターとの問答で明らかになった事柄も大きな問題であるが、
それについて腰を据えて考える暇など無かった。
今、至急対処しなければならないのは虚数学区に侵入したかの天使―――カマエルだ。
カマエルと風斬氷華、データ上においては力の総量は互角程度であるが、
データに記されない経験や技術で大きく覆ることをステイルは身をもって知っている。
カマエルは、恐らく現生人類が歴史を有するよりも大昔から刃を振るってきた百戦錬磨の戦士だ。
決して風斬氷華の戦闘能力を信頼していないわけではないが、
それでもステイルには、彼女だけではこの天使をどうにかするには厳しく思えた。
それに天使達には復活の可能性があるため尚更だ。
ステイル『―――アグニッ!!上に行ってくれるか?!』
そこで彼は、この炎の魔剣の大悪魔を指名した。
イフリートはこの場を守る最後の砦、ましてやベオウフルは論外、
己は上に言っても、風斬とカマエルの剣間に飛び込むには力量が心細い。
海原は戦いについていくことすら厳しいかもしれないし、
そもそも彼には魔術と科学が同居するこの場を統べるという重要な仕事がある、
という考えの上のものだ。
858: 2012/01/13(金) 03:30:23.10 ID:OrzSZEDlo
アグニ『うむ』
頭の無い大きな傀儡を奮わせて頷く大悪魔。
次いですぐにステイルの判断を理解した海原が、打ち止めへ向けて素早く声を放った。
海原「ラストオーダー!彼を虚数学区へお願いします!」
打ち止め「うん!準備するから少し待っ―――たったくさん侵入してきたよ!!」
その時、少女は返事も半ばで、
慌しく新たな一団の学園都市への侵入を告げた。
ステイル「―――数は?!」
打ち止め「200……ううん300はいる!!」
数を耳にし、一瞬の痙攣させるように小刻みに目を細めるステイル。
これまで虚数学区から毀れてきていたのは多くても一度に10体程度であり、
この300という数字は遥かに多いものである。
風斬がカマエルの出現の為に、『雑魚狩り』に手が回らなくなってしまっているのであろうか。
しかし。
ステイル「僕が向かう!!アグニを早く上に!!」
海原「わかりました!」
打ち止め「―――ちょっとまって!!何かこれは感じが違うの!!」
呼び止めるように放たれ、続く彼女の声が、
この一団の出現はステイルが考える事情とは少し異なっていることを仄めかしていた。
打ち止め「虚数学区からじゃないし、『一体』を省いて天使じゃない!!天使と同じ感じもあるけど違う!!」
打ち止め「よくわからないけど―――『悪魔みたい』なのも混ざってる!!」
859: 2012/01/13(金) 03:32:22.87 ID:OrzSZEDlo
ステイル「ッ……」
虚数学区からじゃない、そして悪魔。
それらの言葉を耳にしてステイルは一瞬、
欧州やロシアを席巻した悪魔達の残党でもやってきたのだろうか、とも思えたが、
それだと彼女が告げた『天使と同じ感じがする』という点の説明がつかない。
海原「……」
しかしその正体は特に難しいものでは無かった。
少し考えを巡らせれば、打ち止めが提示した条件に合う者達がすぐに浮かび上がってくるものだったのである。
天使と悪魔の感じ、つまりは天界と魔界の力の『両方』を纏い、
それでいながら『天使でも悪魔でも無い』一団。
海原には思い当たる節があり、ましてやステイルに至っては『特に良く知っていた』。
言葉交わさずとも、互いの考えは一致した事を確認する二人の魔術師。
ステイルは海原と一瞬顔を見合わせては小さく頷いて。
立場的に二人と同じ見解に達しようがない打ち止めと芳川、
そしてその方面の知識不足で話にすらついていけずに困惑している初春をよそに、
ステイル「僕が向かおう」
彼はもう一度そう告げて、
いまや壁の二面がないこの『窓のないビル』から飛び出して行った。
860: 2012/01/13(金) 03:35:03.06 ID:OrzSZEDlo
通信魔術を介して海原から送られてくる座標へと、
ステイルは烈火の尾を引いて薄闇の町の中を突き抜けていく。
そうしてすぐのこと、この『謎の一団』とは簡単にすることが接触できた。
相手方も特に隠れ潜もうとはしていなかったようだ。
両側には商店などが入っている比較的低い雑居ビルが続いている、
比較的広めの片側一車線の通り。
その道路の中央にて、彼は立ち止まった。
ふと未知なる気配に気付いたからだ。
それも『背後』に―――少し前からつけて来ていたであろう何者か達の存在を。
そうして数秒間、気配を研ぎ澄ませて様子を伺っていたところ、
徐々に己の置かれている状況に彼は気付くこととなった。
こちらをつけて来ていた者達は、ここでわざと気配を漏らして己に気付かせたのだ、と。
その証拠に周囲、ビルや道路の闇の中に隠れ潜んでいた者達が戦闘用の魔術を稼動させていき、
それによって宿った力の香りが辺りを満たし。
『獲物』がかかったため、もはや隠す必要もなくなった『陣』を浮き上がらせていくのである。
ステイル『……なるほど』
気付くと、彼は既に包囲されていた。
861: 2012/01/13(金) 03:38:28.08 ID:OrzSZEDlo
背後からがちゃり、と重々しい金属音が響いた。
静かに振り返ると、20m程離れた場所にて白金のフルアーマーの騎士が三人ほど立っていた。
中央の者は大剣、両側の者はランスを右の手にしており、
左手には皆巨大な羽を模した盾。
それら装備類は数百キロ、いや、
重厚さや巨大な盾やランスを含めるとトン単位でもおかしくないほどのものか。
更にそんな物理的な外面のみならず、
ステイルはそれらに練りこまれられている多くの魔の力を悪魔の知覚で見て取った。
そして―――盾に刻まれている赤い紋章。
ステイル『―――本家本元の「プロ」の悪魔狩人達をも連れてきているとはね』
ステイルは皮肉めいた声色でそう呟いた。
その赤き印を―――人間界最大規模かつ屈指の対魔組織のものである―――フォルトゥナの魔剣騎士団の印を見て。
すると騎士達とは反対側、正面の道先から、
いまや懐かしくも思える聞きなれた女の声が響いてきた。
『―――やっぱりお前も生きていたか』
862: 2012/01/13(金) 03:39:40.60 ID:OrzSZEDlo
ステイル『やあ』
半身振り返るようにして、背後の騎士達へも意識を残しつつ『彼女』を見やった。
道先の闇の中に幽霊のように立っていたのは、
ぼろぼろの黒いドレスにごわついた獅子のたてがみのごとき金髪の女、
ステイルが良く見知っている人物である。
ただし。
彼女の容姿も力も、記憶の中に残っていたものとは少々異なっていたが。
彼女の左肩から腕先、下腹部から両足は黒く蠢く魔の血肉で覆われていて、
顔も左半分が覆われており、左目が赤い魔の光を灯していたのである。
そして纏っている魔の力も莫大なものだ。
ステイル『少し見ないうちに随分と色濃くなったね。見た目も僕よりもずっと悪魔らしいじゃないか』
更に皮肉めいたステイルの声に、女も乾いた笑い混じりに返答した。
『大物を「喰う」機会があってな。そのおかげよ。ウィンザーの後に大悪魔の残骸を保存・回収しただろ。あれだ』
ステイル『ああ、確かタルタルシアンとか言ったか』
『それと勘違いするなよ。お前とは違って、私自身は肉体も含めてまだ人間よ』
ステイル『なるほど。僕が知らない間に、そっちでも色々あったみたいだね』
そうステイルはもっともだという風に演技染みて頷いて、
「ところで」と切り替えしてはこう問うた。
ステイル『彼女は?』
ちょうどすぐ傍の―――ガードレールの上にふわりと降り立った―――『天使』を目で指して。
863: 2012/01/13(金) 03:42:32.88 ID:OrzSZEDlo
『彼女』は明らかに『天使』だった。
19世紀頃のフランスに見られた庶民のものと同じ形状の黄色の衣服を纏い、
大量のピアスをした若い女性、その肉体の大まかの特徴はこの程度か。
その格好は世間離れはしているも、まだまだ人間の枠内である―――が。
その他の点はとてもその枠内には収まりきらないものであった。
翼があり、全身からも光が溢れ、瞳には金色の輝きに―――纏い放つ凄まじい力。
紛れも無く天使だ。
間違いない。
直に天使を頃したステイルにとって、そう断定せざるを得ないほどの材料がそこに揃っていた。
そしてこの時、ステイルの脳裏をある懸念が過ぎる。
この一団が、天使と共に行動しているということは―――。
するとその時、今度は更に別の女の声が響いてきた。
正面の金髪の女の背後からだ。
『―――案ずるな』
ステイル『―――……っ……』
強く逞しく、それでいながら心地よい品に満ちた高貴な言霊。
以前からこの声はそんな魅力を有していたが、
今はそこに異界の力が宿りますます拍車がかかっていた。
この声を耳にした瞬間、ここまでは動じなかったステイルも、驚きのあまり言葉を詰まらせてしまう。
これほどの人物が、こんな状況下の学園都市に現れるなんて誰が予想できたであろうか。
面を下げて半歩引く金髪の女、その奥から出でるは―――赤き甲冑を纏った『本物の獅子』たる『王女』であった。
その顔を目にした瞬間、これまでの癖か。
いまやこの王女の下から離反した身であるにも関わらず、
内心では唖然としながらも、ステイルの体がその場で深々と頭を垂れてしまった。
『私含め、ここにいる輩はお前と「同じ」―――「反逆者」だ』
そんな彼を見ながら、王女はあっけらかんとした笑い混じりにこう続けた。
『さーてと。そーいうことでちゃっちゃと案内しろステイル=マグヌス』
がんっと、右手に持つ剣―――『カーテナ』を肩に乱暴にぶつけ載せて。
『―――我らが人類の敵の面前へ』
―――
864: 2012/01/13(金) 03:44:32.91 ID:OrzSZEDlo
―――
カマエル。
かのミカエルやガブリエルほどではないしても、
他宗教文化圏の一般人にも広く知られる高名な天使だ。
様々な記述の中で示されている性格は一貫して攻撃者、戦いの天使という要素が強い。
異端教義においては悪魔として扱われる場合すらあるほどだ。
では実像、それら伝説伝承のモデルとなった『本物』はどうか。
人間界で語られるカマエルのこのような性格は、人から人へ、
書物から書物へ渡されていく間に尾ひれがついがついてしまった過大なものなのであろうか。
―――否。
実像はそんな伝承どおり、いいや、むしろ人間界における認識は過小だった。
虚数学区にて、赤き天使と紫電の天使が激突した。
迸る紫電の刃による神速の突き―――それは大盾の上に僅かに出ている、
カマエルの頭部を狙ったものであった。
緊張が頂点に達した弦がはちきれるようにして飛び出した風斬は、
一切の手加減もせずに全力で突き進み、カマエルの額をピンポイントで貫こうとしたのである。
風斬『―――ッ』
しかしそれだけで決するほどには、この相手は甘くなかった。
カマエル。
かのミカエルやガブリエルほどではないしても、
他宗教文化圏の一般人にも広く知られる高名な天使だ。
様々な記述の中で示されている性格は一貫して攻撃者、戦いの天使という要素が強い。
異端教義においては悪魔として扱われる場合すらあるほどだ。
では実像、それら伝説伝承のモデルとなった『本物』はどうか。
人間界で語られるカマエルのこのような性格は、人から人へ、
書物から書物へ渡されていく間に尾ひれがついがついてしまった過大なものなのであろうか。
―――否。
実像はそんな伝承どおり、いいや、むしろ人間界における認識は過小だった。
虚数学区にて、赤き天使と紫電の天使が激突した。
迸る紫電の刃による神速の突き―――それは大盾の上に僅かに出ている、
カマエルの頭部を狙ったものであった。
緊張が頂点に達した弦がはちきれるようにして飛び出した風斬は、
一切の手加減もせずに全力で突き進み、カマエルの額をピンポイントで貫こうとしたのである。
風斬『―――ッ』
しかしそれだけで決するほどには、この相手は甘くなかった。
865: 2012/01/13(金) 03:47:10.65 ID:OrzSZEDlo
カマエルは僅かに大盾を上に動かし、端数㎝の縁の部分で彼女の刃を防いでいたのである。
しかも「それは間一髪のところで」といったものではない。
完全に見切った上での必要最小限の回避行動だ。
激音と光が迸り、
余波の衝撃が周囲の空間を歪める中で、彼女はこの赤き天使の『強さ』の片鱗を更に目にする。
紫電の突きが直撃したカマエルの大盾は、
完全なる無傷であるにもかかわらず―――風斬の光剣は、その穂先が砕けたのである。
風斬『―――ッ!』
一突きでわかるカマエルと己の間にある『差』。
力の総量はほぼ同じ、いや、こうして直に相対しているとむしろ己の方が多いとも思えるのに、
衝突は完全に押し負けている。
その原因は明らかに―――『技術』、力の使い方。
力の密度の差が歴然だった。
そうして初撃たる突きは弾かれた刹那。
今度はカマエルが動いた。
一瞬動きが止まった風斬へ向けて、薙ぐように振りぬかれる大剣。
とんでもない密度の力が宿る、天に仇なす者を斬り捨てる極限の刃である。
瞬間、彼女は思わずひゅっと息を吸っては跳躍。
間合いからの離脱に間に合わなかった翼の内二枚がスッパリと切断されるも、
僅かの差で彼女本体はそのとてつもない刃を回避。
そのままカマエルから付かず離れずといった距離で軽く飛び越えるようにして、
彼の頭上を抜けつつ。
くるりと身を翻して―――上から翼を掃い振るった。
866: 2012/01/13(金) 03:51:30.87 ID:OrzSZEDlo
風斬の思惑では、この翼の一撃は空いたカマエルの後頭部から背後にかけて直撃するはずであった。
しかしそれもまた叶わず。
カマエルは完全に風斬の動きを読み、完璧に追っていた。
上から振るい落とされた翼が当たったのは、またもやカマエルの大盾だった。
まるで自動追尾し、常に敵の方向へと向くシステムでもあるかのように、
大盾は常に彼女へと向き、そのまま『追ってきていた』のである。
大盾にぶち当たり、堤防に砕ける波の様に電光と共に割れ散っていく雷翼。
その閃光の中、飛び越えていく彼女には以前大盾は向き続き、
次いで赤き天使自身も振り返る。
そのため、カマエルの正面から飛び越えた風斬が降り立ったのは、
またもやカマエルの正面であった。
風斬『―――ッ』
更にそれだけではない。
風斬が着地した瞬間に目にしたのは―――大盾、カマエルの体、
そして続く―――振り向きざまに天頂から振り落とされてくる大剣だった。
―――回避できなかった。
間に合うことのない回避行動に移れば半身持って行かれる―――そう瞬間的に判断した彼女は、
今度は歯を食いしばり、光剣にありったけの力を集めて。
この天の正義たる刃を受けた。
867: 2012/01/13(金) 03:53:18.03 ID:OrzSZEDlo
風斬『―――っくッ!!』
それはまさに強烈の一言。
とんでもない衝撃が刃から腕を経て全身に巡り、声を漏らさずにはいられない刺激を刻み込んでいく。
それは物理的損壊の信号ではなく、
カマエルの刃に宿る力による破壊によるもの―――『魂』に傷がついた『痛み』と同種のものである。
そう、これぞ『生きている』というその証明になる刺激であり、
風斬氷華にとっては大いなる意味を有する事柄であったのだが、
ここでその喜びに浸っている暇など無かった。
光の衝撃波の中、目の前で己が剣が、
カマエルの剣圧に耐えかねてみるみるひび割れていくのを見て浸っていられるわけがない。
紫電の刃がカマエルの剣を受け止めていられたのは一瞬の間だけだった。
それでも僅かに生じた間に、一端間合いから抜けようと彼女は後方へと跳ねたが。
ほんの僅かに遅かった。
刹那、紫電の剣がガラスの様に砕け散り。
風斬『―――ッ』
赤き天使の大剣が、退きかけていた彼女の右爪先を『掠っていく』。
そう、掠っただけだ。
しかし全くの用意無しに『本体』に刻まれたその傷、
そこから一気に流れ込んだカマエルの力による『痛み』は、先のものとは比べ物にならなかった。
風斬『―――あ゛ッッッぐぅッ!!!!』
868: 2012/01/13(金) 03:56:14.11 ID:OrzSZEDlo
―――押し頃しきれない叫び。
しかも100m以上は距離を開けるつもりであったのに、
今の一振りに爪先が『引っかかってしまった』ことで、彼女が着地したのは僅か10m程の場所、
少し下がった程度の距離だった。
慣れない激痛に思念も乱れに乱れ、同じく大きく崩れている物理的な―――体勢。
ここで痛みの中、瞬間的に彼女の脳裏にとあるイメージが過ぎった。
それは『氏』―――『生きている存在』のみが覚える概念だ。
瞬間、振り下ろしたばかりの刃を、
叩き割ったアスファルトの破片が舞い上がりもしない内に引き戻し、
追い討ちをかけるべく前へと踏み出してくるカマエル。
風斬はその姿に重なって、己の足先から飛び散る―――『血』を見た。
いつかのように皮膚がひび割れて、中の『空洞』を晒すことはなかった。
生々しく切り開かれた肉の間から『血』があふれ出ており、
その淵に覚えるは激痛と連動する『脈』と熱。
この戦いの中で『魂の痛み』を覚えて、間違いなく己は『生きている』、
そう彼女の無意識の『核』が自覚したことによって、肉体に影響を及ぼした結果であった。
まず肉体ありきの人間とは違い、天使や悪魔の肉体の形が思念によって大きく変わる事と同じ現象だ。
ここで彼女は初めて、決してまがい物でも幻でもない、己の『本物の生ある肉体』を見たのである。
ただこれも皮肉か。
彼女がそれを見たのも束の間。
『生』を示している血飛沫は、一方でそれ自体が彼女の『生』が追い詰められていることを物語っており。
血飛沫の向こうからは、今の彼女にとって『氏』の象徴たる赤き天使が向かってきていたのだから。
869: 2012/01/13(金) 03:57:51.82 ID:OrzSZEDlo
そう、この瞬間、
彼女は生ある者が絶対に逃れられない概念―――『滅び』―――『氏』にも囚われてしまったわけである。
単なるデータの塊ならば、それらをフィードバックして構築しなおせば、
虚数学区が存続する限り何度でも顕現できるが、
命ある唯一の『個』として成立してしまった以上、
その思念及び核、つまりは『魂』を完全に破壊されたら―――『氏ぬ』。
ただし。
彼女が生という自己認識を手に入れたことで付随したものは、『氏』だけではなかった。
彼女はもう、力の寄せ集めに人格を持たせていただけの存在ではない、生きているのだ。
彼女へと集っていた『力』は『魂』と結びつき、完全に―――彼女の『もの』となるである。
一方通行が借り物の力を引き出す『ただの能力者』から―――自ら力を生み出す存在になったのと同じように。
風斬『―――ッ』
それまでただの『物』であった力が、彼女の意志を帯びて自ら動き出す。
そうして一瞬にして修復された光剣の力の密度は、今までとは比べ物にならないものであった。
すかさず振るわれてきた追い討ちの薙ぎ払いを、風斬は真っ向から受け止めたのである。
今度は―――今度こそ。
紫電の剣は見事に―――完全に耐えていた。
870: 2012/01/13(金) 04:02:18.45 ID:OrzSZEDlo
風斬『―――く―――はっ!』
飛び散る閃光の中、食いしばる歯の間から思わず笑みがこぼれてしまう。
激痛に苛まれて半ば歪んでいるその表情は、少々おかしいものであったかもしれない。
ましてや力を篭めて鍔迫り合いしているのだから尚更であろうか。
対して交差する刃の向こう。
古代ローマの将官用のものに似た兜の下、彫像のように変わらぬ天使の顔であったが、
空気からは充分に彼がこの彼女の変化に驚いていると感じることができた。
ただそれでも隙などは生まれなかったが、その点は風斬も充分に理解していた。
新たな領域に進化できたからといって自惚れはしない。
鍔迫り合いの中、すかさず彼女は体勢を立て直し。
風斬『―――はぁッ!!』
渾身の力を篭めてカマエルの刃を弾くと同時に後方へと跳ね、
今度こそ100m程の距離をとった。
風斬『―――ふぅッ』
着地してはカマエルを見据えつつ、素早く己が状態をチェックしていく。
右足先からのダメージは無視できないものであったが、どうやら戦闘行動には特に支障はないか。
カマエルの力がいまだに残留して、物理的な傷すらも塞がらないもしばらくすれば完全に治癒できる程度だ。
とはいえ、そんなことなどとても気休めにはならない。
これまでは互いの様子を探る程度の手合わせであり、ここからが本番であるのだから。
871: 2012/01/13(金) 04:05:48.36 ID:OrzSZEDlo
なにせ、己は今やっと生者としての『同じ地面』に立っただけ。
確かに今の一連の手合わせで自身は正しい力の使い方を知ったが、
一方で己とこの歴戦の戦士の間にある、
太古の昔から練り上げられてきた戦闘技術の大きなの差も手に取るように『わかってしまった』。
こちらはダメージを負い消耗してしまっているが、カマエルは依然無傷、
力も全くと言っていいほど消耗していないであろう。
それに、『天使達は復活が可能』という問題も、
このカマエルの向こうに聳えている。
風斬『(…………どう攻めよう……)』
相手の強さが図れない場合も動きづらいものであるが、
一方でそのとてつもない底力をはっきりと知ってしまった場合もまた変わらずに動きにくい、
そんな八方塞に近い状況に彼女は置かれていた。
さっぱり思いつかなかったのである。
あの、再び大盾をがっしりと構える堅牢な赤き天使を崩す戦い方が。
ましてや、己があれに打ち勝つイメージなど―――
と―――その時だった。
カマエルのすぐ脇の虚空から突然―――頭のない、赤き巨躯の『傀儡』と。
―――炎の魔剣たる大悪魔アグニが出現したのは。
瞬間、虚数学区全体を振るわせる凄まじい『雄たけび』とともに、業火が一気に噴き荒れて。
歪な形をした魔剣が巨躯によってカマエルに叩き込まれた。
872: 2012/01/13(金) 04:08:12.71 ID:OrzSZEDlo
響くは、天と魔の金属同士が衝突する激音。
赤き天使の大盾は、
不意のその横からの一撃をも風斬の時と同じく見事に防いでいた。
ただしその後が彼女の時とは大きく違っていたが。
刃は防いだもアグニの膂力によって大盾ごと、赤き天使は後方に押し込まれていたのである。
アスファルトやら何やらを削り飛ばして20mほどずり下げられていくカマエル、
その一瞬を風斬は見逃さなかった。
彼女は飛び出し、
さながら空間ごと斬りさばいて行くほどの速度で一気に距離を詰めて。
風斬『―――はぁッ!!!!』
いまだ体勢を持ち直していないカマエルの脇目掛けて―――二度目となる神速の突きを放った。
だがこの新生した突きといえども、赤き天使を貫くことは叶わなかった。
これまた目障りな大盾が即座に彼女の側に引き寄せられ、その端で弾かれたのである。
ただし貫きはできなかったも―――彼女の刃は遂に届いていた。
数cmの深さでしか無いが、
赤き胴鎧の表面に筋を刻み込みこんでいたのだ。
873: 2012/01/13(金) 04:10:10.40 ID:OrzSZEDlo
結果としてはダメージをほとんど与えられなかったも、これは大変良い兆候であった。
甲冑が大盾と同じ水準の強度を有していたとしたらどうしようもなかったが、
執拗に大盾で身を守る通りやはりそうではないのである。
更にこの瞬間、これは実に単純なことであったのだが、
『素人』の風斬でもこのカマエルへの攻め方を見出すことが出来た。
カマエルの戦闘スタイルは一対一、相手を一つの面のみに捉えられる状況ならばその守りは鉄壁であるが、
相手が複数かつ多方向からとなると途端に厳しくなるのである。
無論、その要因だけでこの歴戦の戦士が急激に弱体化するわけでも無いが、
それでも彼の優勢たらしめる土台は大きく揺らぐのである。
こうして今、横の風斬に大盾を振るった以上―――正面から距離を詰めてくるアグニに対しては、
防御に穴が空くのも当然のこと。
ぬん!とずしりと界を揺らす声と共に容赦なく叩き降ろされる魔剣―――アグニの本体。
それを防ぐは大盾ではなく大剣だった。
ここで初めてカマエルは防御に刃を使ったのである。
それはもちろん盾が塞がってしまったが故の余儀のない行動。
そして余儀がないからこそ―――立て続けに鞭の様に振るわれた、風斬の翼を防ぐ手段は無かった。
874: 2012/01/13(金) 04:14:32.71 ID:OrzSZEDlo
大きくしなった翼は大盾を回避するように伸びては、
カマエルから見て正面下方、十字に重なるアグニと彼の刃の下を抜けて、
その赤き胴鎧の腹部を強く打った。
瞬間、翼の紫電の閃光と飛び散る赤い金属片。
そしてこれまた後方へと、弾き押し込まれるカマエル。
風斬『(いける―――!!)』
ここでアグニと共にラッシュをかければまずは『一回殺せる』、そう風斬が思ったその瞬間―――
アグニが現れたのと同じように、カマエルの後方の虚空からまた新たな者が出現した。
それは黒い、蠢く血肉で形成された―――『魔像』。
タルタルシアンを貪り、より強化されたゴーレムを纏ったシェリー=クロムウェルだ。
かの魔像は出現したその瞬間から、
指も手首もない破城槌のごとき図太い腕を、すぐにでも叩き下ろすべく振り上げており。
刹那、全身が完全に虚空から出でるよりも前に、
カマエルへ向けて容赦なく振り落とした。
大きく陥没する大地。
ただ、やはりこの天使は『強い』。
この完全な不意打ちたる強烈な一撃をも、カマエルは見事に大盾で防いでいたのである。
―――が。
ここに更に続いた『不意打ち』は、そんな彼の平静を崩すに充分な威力を有していた。
風斬から数えて四人目と五人目の相手にして、
カマエルにとって最大の『不意打ち』であったのだ。
何せその人間達に力を与えていたのが―――『身内』だったのだから。
875: 2012/01/13(金) 04:17:24.19 ID:OrzSZEDlo
虚空の中から、カマエルの左脇に出現するは―――――圧倒的な『風の刃』を出現させている『半人半天』の女。
ヴェント。
同時に右脇に現れるは真紅の甲冑を纏い、いまや箍が外れている霊装カーテナを手にしている猛々しい『姫』。
キャーリサ。
彼女達は出現した途端、シェリーと同じくその全身が現れるのを待たずに。
ましてやこの高名な天使に挨拶もすることなく。
左右両側からそれぞれの刃を容赦なく薙ぎ振るった―――が。
一切留まることなく、勢いそのままで振る掃われる疾風の刃と金色に輝く霊剣。
抵抗も無く抜けたのは、刃が何にも触れなかったからだった。
ヴェント『……』
キャーリサ『チッ。退きやがったか』
ここで初めて―――カマエルが自ら退いたのである。
赤き天使は瞬間大地を一気に蹴っては、
彼女達から50mほど離れた場所まで跳ねて後退。
そうして地面に降り立ったカマエルは大盾を構えもせず、
直立したまま彼女達をじっと見据えていた。
風斬、シェリー、アグニ達には目もくれず、ただただキャーリサとヴェントのみを。
876: 2012/01/13(金) 04:20:35.05 ID:OrzSZEDlo
キャーリサ『なるほど。カマエルか』
そんなカマエルを訝しげに眺めながらここでようやく、
彼女はかの天使の名を挨拶代わりに口にした。
道中にステイルからもカマエルの存在は聞いていたが、
それとはまた別にカーテナを介して、
彼女の意識内にその『先の存在』からもリアルタイムで知識が流れ込んできていた。
カマエルの素性から、その戦術や正確まで。
なんとも頼りになる『スパイ』か。
そのアドバイスに心の耳を傾けつつ、カーテナを乱暴に肩に載せては、
邪魔そうにマントをばさりと後ろに払い除けて。
キャーリサ『ヴェント。あいつお前に何か言いたそうだぞ。いや、正確にはお前の「後ろにいる奴」に、か』
脇の半人半天に声を放つ。
するとヴェントもまたその輝く目を細めながら。
ヴェント『殿下の事も見ておりますが』
するとその時であった。
突然、カマエルが声を発したのである。
それは介せぬものにとっては不可思議な『ノイズ』にしか聞えなかったであろうが、
天の協力者とリンクしている二人は容易にに聞き取ることが出来た。
鬨の声のように猛々しく勇ましい言霊、そこに乗せられていた内容は。
キャーリサ『はは、存外、お前達もいー具合に人間臭いじゃねーの』
人間界の言語で該当する単語を探すのも一苦労といったほどの、
とても天の言葉とは思えない―――裏切り者達への痛烈極まる『罵声』だった。
そしてその言霊の中には、天界の声を解すことができぬ者でも聞き取れる単語が二つほどあった。
一つ目は、ヴェントの方へと向けられた声の中にあった。
カマエル『―――Uriel―――』
彼女に、実に三分の二もの力を分け与えている天使の名、『ウリエル』である。
そして二つ目は、キャーリサの方を向き放たれた―――彼女に力を与えている存在の名。
カマエル『――――――――――――Yahweh―――』
877: 2012/01/13(金) 04:22:39.63 ID:OrzSZEDlo
キャーリサ『―――は、っはははは!!』
その名を聞いた瞬間、彼女は思わず大きな声で笑ってしまった。
このカーテナの向こうから一体『誰』がこうして己を扇動しているか。
ここまでのことをやらかすのだからかなり高位の存在とは思っていたが、
まさかこれほどまでの大物であったとは想像もしていなかった。
キャーリサは人間界における十字教と言う『信仰』としてはともかく、
『天にある本体の意志』それ自体についてはさらさら信用してはいなかったが。
キャーリサ『ははっははは! これは随分と気が合いそーね!』
これはそんな考えを、180度転換するに充分なタネ晴らしであった。
キャーリサ『決めたぞ! 私は今後一生「祈り」を欠かさないよーにするわ! もちろん真心でな!』
と、その時。
彼女の笑い声を断ち切るかのように突然―――激昂したカマエルが大盾で地面を打ち鳴らした。
ただ、決して怒りを抑えきれずの行動ではなかったが。
それを示すかのように直後―――カマエルの両脇後方に、左右二つずつの計四つ―――光点が出現し。
次の瞬間。
―――遥か天空から猛烈な勢いで四つの『光体』が降下して来。
それぞれが四つの光点の上に『落下』した。
878: 2012/01/13(金) 04:30:31.56 ID:OrzSZEDlo
キャーリサ達の傍に移動してきていた風斬は、
何が上から降ってきたのかを一目で悟った。
カマエルが現れた時と同じだったのである。
それらの正体は、落下点を覆っていた光の幕がおさまることで他の者達も知る事となった。
カマエルの両側後方には二体ずつ、それぞれ甲冑を着込み武装した天使が立っていた。
どれもこれも間違いなく、カマエルと同じく『柱』で数えられる領域たる力を放ちながら。
並び立つ彼らを見ては、キャーリサは不遜にふん、と鼻を鳴らして。
カーテナから送られてくる知識をもとにシェリー、風斬とアグニにも教えるために、
向かって右側から彼らの名を口にしていった。
キャーリサ『ラジエル、ザフキエル―――』
続き、中央のカマエルを挟んで。
キャーリサ『―――ザドキエル、ハニエル』
名だたる天使―――セフィロトの樹の守護者の名を。
Anjels of Sepihiroth
キャーリサ『「生命の樹の守護天使」か。なるほど―――』
キャーリサ『―――潰しがいがある』
―――
906: 2012/01/15(日) 18:52:12.83 ID:PLHZW8uJ0
-------------------------------------------閑話休題-------------------------------------------
908: 2012/01/17(火) 02:29:30.25 ID:KbaGCBnho
―――
イギリスからの一団が合流し、
あの天使―――カマエルと言ったか―――が一気に劣勢に追い込まれたことで、
カマエルに加勢するために『増援』が下に送り込まれるであろう事は予想できていた。
そこで一方通行は、今度はカマエルのように通しはしないと待ち構えていたのだが、
結果はこの通り。
四体の天使の虚数学区到達を許してしまった。
一方『チッ―――』
しかも今回は封鎖線を突破されたわけじゃない。
彼らはここを通らずに下に降りたのである。
そうしてまたもや一つ、大きな厄介ごとが浮き彫りになった。
ここの門と回廊を通らずとも下まで行ける『別ルート』がある、ということだ。
『今のところ』は、その『別ルート』はどうやら大軍勢を通せるような代物ではないらしい。
ここを抜けずに虚数学区に現れたのは四体の天使のみ、続いて軍勢がなだれ込む様子は無く、
この門前の天使達の軍勢は、依然がむしゃらにこちらに群がり、
犠牲をものともせずに数に任せて強引に突破しようと試みているのだ。
だがそれでもとても放置しておける事ではない。
軍勢が抜けられないと考えられるのもあくまで今のところだ。
ここが己によって封鎖されたために作られた新たな門で、
今この瞬間も軍勢を通すべく拡張中かもしれないのである。
それに大軍勢が抜けられなくとも、
カマエル達のような強大な個体は抜けられるとはっきりしている以上、到底看過できたものではない。
909: 2012/01/17(火) 02:31:41.02 ID:KbaGCBnho
状況はいまのところ一進一退。
天の軍勢に備えてこちらが虚数学区を敷いたら、
天は数に任せてこちらを釘付けにし、一部を学園都市へと繋がる穴の捜索へ向ける。
そこで今度はこちらが天に乗り込み門ごと封鎖すると、次は『別ルート』の出現だ。
一方『……』
では次にこちらはどのような一手を打つか。
相変わらず群がってくる雑魚共を薙ぎ払いつつ、一方通行は瞬時に思考を巡らし、
この状況に置いてもっとも適切だと思える作戦を導き出した。
敵が二つ目の門を作ったのなら。
こちらはその二つ目の捜索にうつるためにも、まずここの一つ目の門を使えなくしてやろう、と。
元々これは二つ目の門の出現がなくとも、当初から戦術の一つとして頭の中にあった。
そのためにこうして乗り込んで暴れる傍ら、しっかりとこの門と回廊の状態も行っていたのである。
一方通行は早速この一つ目の門の封鎖作業に取りかかった。
封鎖のやり方は以前、
ダンテ・バージル・ネロと魔帝との『戦場』を外から『閉じ込めた』際と基本的に同じだ。
惜しみも無く莫大な力を流し込んだ翼を、大きく伸ばしては門に被せて固めていく。
以前、学園都市で同じく行った際は、
翼によって覆われた門は目に見える黒い球体になったが、今回の見え方は異なっていた。
球ではなく、天空の一部分をただ黒く塗り潰していくように見えるのである。
さながらこの大いなる空の景色の一部分を削り落としていくともでも言うか。
ただ、表面的が見え方は異なっているだけで、
行われている事は前回と特に変わりないが。
910: 2012/01/17(火) 02:33:56.72 ID:KbaGCBnho
これでもかとばかりに彼は力を流しこみ、より強固に門を塞いでいく。
惜しんではならない、注ぎすぎるなんて事はないのだ。
力を与えれば与えるほど『蓋』は固くなり単独でもより長持ちするのだから。
そうして成された門の完全封鎖は完璧なものであった。
一方『ッかはッはは!』
いくばか消耗したせいで軽く肩で息しながらも、
彼は眼下の漆黒に塗り潰された空の一角を見て、満足げに笑った。
ぶちりと翼を切り離し、『門の蓋』をこちらの意識化から外しても、
門を覆っている力は問題なく稼動し封鎖はしっかりと保たれていた。
刹那。
翼による砲撃が突然止んだ隙にと、無数の雑魚天使達が群がるも。
―――封鎖はびくともしない。
崖に砕ける波のごとく、天使の大軍は激突しては無力に散っていく。
まさに完璧だった。
当分の間はこの門は使用できないであろう。
その間に二つ目の門を探し出し―――と。
彼が意識の向かう先を、次なる標的へと切り替えた時だった。
早くもこの一手に対し、天からも対抗の一手が打たれた。
911: 2012/01/17(火) 02:37:05.53 ID:KbaGCBnho
その兆しは、遥か高空が突然眩く輝き出したこと。
只ならぬ圧を覚えて瞬間的に顔を挙げた一方通行は、そんな輝く光の中にある『シルエット』を捉えた。
―――『双頭のドラゴン』、とでも言えるか。
どっしりとした胴に二本の長い首に大きな翼、蛇のように伸びる尾に、
鉤爪のついた足を有する―――『巨大な何か』を。
それが姿を現した瞬間、さながらこの世界に緊張の亀裂が走っていくかのように、
周囲を満たす光の質、一帯の大気の質が激変し。
向けられてくる敵意の圧も―――桁違いのものに豹変する。
一方『―――ッ』
刹那、彼は悟った。
『アレ』は、ここまで遭遇してきた天使達のすべてとかけ離れている、
あのカマエル達ですら霞むほどの存在だと。
そのように相手を認識した次の瞬間、
シルエットを中心にして放射状に赤い光が煌き。
次いで―――『業火の滝』が一方通行へ向けて雪崩落ちてきた。
タイミング悪く、消耗していたばかりの一方通行にはとても回避できるものではなかった。
天から降り注がれた炎の滝の流れはきわめて速く、
かつ篭められていた力の規模も凄まじいものであったのだ。
彼が咄嗟に翼で己が身を覆った一拍後、業火の濁流は彼を飲み込んだ。
一方通行に放たれたものであったのだから彼が炎に晒されるのは当然として、
これまたなんと冷酷で容赦の無い攻撃か、
業火は同時に彼の周囲にいた無数の天使達をも、区別せずにひとまとめに焼き掃った。
一方『ッ―――』
復活できるからこそのこの行為なのかもしれない。
ただそれでも。
仲間を少しでも『思いやる』気持ちがあれば、こんな手段は到底選べないものであろう、
と、一方通行はふと頭の片隅で思った。
盾にした翼表面が業火によって焼き『削られ』る中、周囲の天使達の壮絶な悲鳴を耳にしながら。
912: 2012/01/17(火) 02:39:33.48 ID:KbaGCBnho
業火が駆け抜けていくのは実質数秒であったが、
天使達の悲痛なオペラは何時間も続いたように思えたか。
一方『くッ……はッ』
炎過ぎ去り周囲が静かになると、一方通行は翼と体表面にこびり残る熱に表情を歪めながらも、
盾にしていた翼を戻しては肉眼で辺りを見回し。
ここを通過した『虐殺』の苛烈さを再確認した。
辺りに溢れていた天使達は、灰の一粒すらをも残さずに忽然と姿を消していた。
天上からの業火は本当に、一切の容赦なく天使軍団もろとも何もかもを焼き払ったのだ。
業火の滝の本流自体は太さ10数mほどという、その勢いにしてはかなり細いものであった。
少し離れれば天から注ぐ真紅の光線に見えたであろう。
ただ見た目はそうであっても、
そこから周囲にあふれ出た『天の熱』の降下範囲はきわめて広いものであった。
いまや最寄の天使の集団でさえ遥か彼方、数十キロ先の煌く雲であるのだから。
一方『―――ッ』
―――と、そのまま悠長に分析にしている暇などは無かった。
迫る脅威を知らせる悪寒を受け一方通行が見上げると―――僅か100m程上空。
一瞬前までは遥か高空の光の中にいた―――あの双頭のドラゴンがいた。
翼を広げると50m以上になろうかというそのスケールと共に、
肉眼でもシルエットだけではわからなかった細部をはっきりと捉えることができた。
全体的には甲冑とも鱗ともわからぬ外殻に覆われた、『ひどく』煌びやかで装飾過多なもので、
双頭のうち一方通行から見て左側の外殻は色青、右側は赤、
同じく両側の翼も、腕の部分はそれぞれ青と赤色といった具合に。
そして―――それら身体的特長などとても目に留まらないほどの、特別印象的な部分があった。
ドラゴンの胸部にある―――彫像のごとき『逆さまの巨大な顔』だ。
ただもちろん、ここでゆっくりと観察している猶予も無かったが。
双頭のドラゴンはただここに降りてきていた訳ではなく、猛烈な速度で滑空してきていたのだ。
鉤爪がある巨大な足を開き、こちらを掴んでは潰し引き千切ろうと。
913: 2012/01/17(火) 02:42:02.41 ID:KbaGCBnho
たとえ自身が消耗していなくとも、まともに受ければかなりのダメージを受けるであろう滑空攻撃。
消耗している今となっては、翼の盾すらももしかするとぶち抜かれかねない。
一方『―――ッ』
そう瞬時に認識した彼は、すかさず回避行動に移った。
翼をぎゅんとしならせ、勢いをつけて一気に右方へ向けて体を射出、
ドラゴンの滑空コース場から離脱を試みたのだ。
刹那、まさに紙一重だった。
僅か数cmの差で彼が一瞬前までいた空間に、
入れ違いにドラゴンが侵入し突き抜けていく。
鉤爪が彼の『黒髪』の先を掠り、
彼の腕を、逃がさぬとばかりに大きく開かれた片方の顎がかすめ、
輝く巨大な翼と黒曜石のように鋭い翼とがこすれ、光と火の粉を散らす。
そうして行き違い。
双頭のドラゴンはそのまま降下を続け、直下の『門の蓋』に激突した。
元々こうする意図もあったのであろう、爪をしっかり立ててありったけの力を叩き込んでの一撃だった。
その傍ら、回避しきった一方通行も尚そのまま、
一先ず距離を開けるためにしばらく飛翔を続け、20km以上もの充分に離れた空飛ぶ城塞の一つに着地。
乱暴に石畳を割りながらある広場に降り立ち、
ここで遠くの双頭のドラゴンを真っ直ぐと見据えなおした。
914: 2012/01/17(火) 02:44:17.94 ID:KbaGCBnho
20kmとはいえ、鋭敏化された知覚にはなんてことはない距離だ。
それにここは延々と続く『天空』であり、大気は澄み渡っており間に障害物もない。
一方『…………』
双頭のドラゴンは、漆黒の『門の蓋』の上で地団駄とも見える仕草をとっていた。
あの凄まじい滑空の一撃をも、『門の蓋』はびくともせずに見事耐え切っていたのだ。
ドラゴンは虚数学区に降りたカマエル達どころか、
どう軽く見繕っても少し前に『すり潰した魔鳥』や下にいるイフリート、
窓のないビルにて魔帝の矢を使う前の『フィアンマ』よりも強大か。
たった今間近で攻撃を目の当たりにしたことで、そのようにある程度具体的に力量を図った上で、
一方通行はこう断言できた。
『あの程度』の攻撃など、いくら打ち込んでも蓋は壊れやしないと。
確かに今まで遭遇した天使の中で飛びぬけて強大では有るも、
それでもスパーダの一族の戦いで生じる、尋常ではない衝撃に比べればずっと生ぬるいものである。
一方『(……いけるか)』
続き更に彼はこう考えた。
消耗している今の己でも、充分にあの双頭のドラゴンには充分に勝てる、ならばここは一つ、と。
あのレベルの強大な天使でも果たして復活可能なのか、そして『残機』がどの程度あるのか、
この手で直接、少しばかり試してみるのも良いだろう、と。
二つ目の門を探すという重要な目的もあるが、そもそもどこからどう探せば良いのかすらわからない始末。
ならば、あの総大将クラスと思える存在から力ずくで聞きだせるかどうかも兼ねて、
情報収拾のため少し『痛めつける』べきであろう。
―――と、考えたも。
それは少々楽観的すぎたと、彼はその目に突きつけられる事となった。
915: 2012/01/17(火) 02:45:52.50 ID:KbaGCBnho
突然の事だった。
強固な蓋に苛立っていた双頭のドラゴンがふと翼を広げ、
二つの首から強烈な咆哮を発したその瞬間。
一方『―――ッ!』
その纏う力が急に一回り、いや二回りほどにも強大になったのだ。
己よりも明確に下と見積もれたのが一瞬のちには―――『同等程度』になっていたのである。
ドラゴンの周囲には、目に見えた変化も起こっていた。
金色の稲妻のような電光が、空間を切り裂くように迸り、
首周りには、それぞれの首の色に合わせて青と赤の光がぼうっと纏わり付いている。
それらのどれもこれもが、とてつもない濃度の力が篭められた破壊的な閃光。
ここで一方通行は、打ち止めを介して聞いたステイルとアレイスターの先の会話を思い出した。
天界が人間界から吸い取った魂の使い道は主に二つ。
『強化』と『復活』だと。
すなわち、たった今目にしたあの現象が『強化』だ。
下々の天使達がぽんぽんと復活する一方、下で苦戦したカマエルですらで強化していないということは、
強化は復活と比べてそう簡単に使えるものではないのであろうか。
恐らく使用者に対する何らかの制約や、
特別高位の者でしか使えないなどの厳しい条件があるのであろう。
そうでなければ余りにも『反則的』すぎる。
いや―――それら制約があるであろうことを鑑みても、効果のほどは充分に『反則的』であるが。
916: 2012/01/17(火) 02:49:58.29 ID:KbaGCBnho
ゆらり、とドラゴンの尾が掲げられ。
次の瞬間、足に広がる門の蓋に叩きつけられる。
その衝撃は桁違いだった。
先は微動だにしなかった漆黒の外殻が、今度は大きく軋み震える。
一方『―――……クソッ!』
この状況に打ち込まれた、予想外の更なる天の奥の手に、
思わず悪態をつかずにはいられなかった。
あの力すらをも門の蓋は耐えてくれたが、どう見積もっても破られるのは時間の問題だった。
数日か、数時間か、それとも数十分か、いつぶち抜かれるかはわからない。
なぜならば、今の一撃でも足りぬと見た双頭のドラゴンは、
またもや更に力を強化してもう一度門を叩いたのだ。
そうしてそれでも割れなければまた少し強化しては一撃、と繰り返し始めたのである。
ゆえに『いつ破られる』かはわからず、『いつか破られる』のは確実だった。
そしてもう一つ、これもまた当たり前。
こうして見物しているこちらの存在を、双頭のドラゴンが放って置くわけもないということは。
10回程度、尾が蓋に打ちつけられたところで。
ゆらりと長い首が一方通行の方へと向き、次いでのっしりと巨体も振り向かせた。
一方『……』
あの『強化』によって、彼の置かれている状況は一変していた。
まず負けないであろう相手が、勝てるかどうかわからない互角の相手になったのだ。
いや、こうしている間も強化は続き、徐々に『互角以上』になりつつあるのだから尚更か。
更にはどれだけ残機があるかもわからぬ復活の件があり、
一方彼は門を作ったばかりで消耗気味、紛れも無くこの一場面の状況は劣勢だ。
瞬間的に一方通行の思考は巡り、
この場における最善の行動を分析選別していく。
選択肢はそれほど多くなかった。
無理を承知で挑むか、それとも―――とその時。
打ち止め『―――だめ!!今戦えば氏んじゃう!!』
917: 2012/01/17(火) 02:52:06.30 ID:KbaGCBnho
なんとも気持ちよく、有無を言わさずにはっきりと『命じて』くれるものだ。
意識内に響いてくる、『この命のオーナー』の的確な声。
打ち止め『一度そこから離れて!!とにかく力を立て直すの!!』
いつか門の蓋が破られるのは確実であっても、別に今この瞬間に破られるわけではない。
強化の幅は、最初の一回以降は軒並み少しづつ。
そして門の蓋も軋んではいるも、今のところはまだまだ耐え切っている。
それらを鑑みると、消耗した力を取り戻す時間も充分にあるか。
一方『―――あァ!!』
一方通行は迷うことなく打ち止めの声に従い、
すかさずその場から遠ざかろうとしたその刹那、思いもよらぬ出来事が起こった。
確かにこの戦争、ここに至るまでは予想外の事態の連続であったが、
それでも動揺するほどにまで度肝を抜かれるようなことは無かった。
だがこの瞬間、彼はこの戦争において初めて。
本当に言葉を失うほどに―――心の底から驚愕してしまった。
一方『―――』
気配に気付き振り返った彼は硬直する。
突然背後に現れたその『者』は、『天使』であったのだが。
『同時』に―――『人間』でもあったのだから。
918: 2012/01/17(火) 02:55:01.15 ID:KbaGCBnho
支離滅裂に聞える表現であろうか。
だが『これ』を説明しろといわれれば、まず一番最初にそう言うべきだ。
『天使であり人間』、と。
その『天使』は『30』を越えていると思われる数の翼を有し、
孔雀の羽のように壮麗に重なり広げていた。
体に纏うは、白銀の胴鎧に同じ趣向のフルフェイスの兜。
他の天使たちとは違って装飾量は過多ではなく地味目だが、シンプルながら非常に上質・上品であり、
一切の引っかかり無く『美しい』と断言できる芸術品であった。
手足にも同じ趣向の篭手とすねあてに、右手には短槍とも言える杖。
そして装具や、その下に纏っている絹に似た質感の衣の隙間、
首や腕、指先には彼の肉体の『地肌』が覗いていた。
一方『―――!!』
乳白色でも彫像のような白亜色でもない、
どこからどう見ても『血の通った人の肌』が。
人間界の古代地中海風な兜に穿たれている眼孔、
その奥に覗くのもまた―――他の天使達と同じく金の光を宿しているも―――その輝き以外は、完全に人間と同一のもの。
また背丈も約190㎝ほど、やや高めの白人程度のものであった。
919: 2012/01/17(火) 02:57:48.79 ID:KbaGCBnho
もちろんそれら見かけだけではない。
この存在に覚える感覚もまた、
天使でありながら『人間そのもの』でもあった。
一方『なッ…………!』
人界の神たる領域の知覚が、人間か否かを見誤ることなどは無い。
頭では理解が追いつかぬとも、彼は己の知覚を信じる以上断言せざるを得なかった。
天使であり人間、支離滅裂なその表現が合致していると。
しかも表面的に覚える力量だけでもあの『魔鳥』やイフリートと同等かそれ以上という、
双頭のドラゴンほどではないにしても、それでも他天使とはかけ離れていてきわめて強大だ。
いや―――『それだけ』ではなく。
双頭のドラゴンがいるこの領域から離れなければならないにも関わらず、
とても易々と動ける状況ではなかった。
放つ空気が、極限まで研ぎ澄まされた尋常ではないものだったからだ。
こちらが僅かでも動けば、その『意識の隙間』を見逃さずに正確無比に一撃を叩き込んでくるであろう。
それこそ比べられるものではないが、まさに―――バージルに相対した際と同じ『類』の緊張か。
一種のトラウマ、条件反射的に、
一方通行はその身を硬直させてしまった。
920: 2012/01/17(火) 02:59:45.38 ID:KbaGCBnho
その場の全てが凍結したかのように思えた。
『天使であり人間』である相手は、15mほど先でじっとこちらを見据えている。
兜の下にある人と同じ瞳が、時たま瞬きをしながら真っ直ぐに。
一方『…………』
一方通行も負けじと気を研ぎ澄ました。
消耗してはいるが己の方が単純な力の総量はずっと上、だがそれでも決して油断ならない相手だ。
何もかもの技術・経験の差は、図りようがないくらいにかけ離れているのであろうから。
さしあたりこちらは腕っぷし勝負の巨大な『熊』ならば、相手は非常に経験豊富な『狩人』か。
背後からは覚えるは、例の双頭のドラゴンの強烈な圧。
ここに留まれば留まるほど状況は悪化していくのは明白だった。
『狩人』と双頭のドラゴン、両方を同時に相手にすることになってしまえば、
よっぽど上手く立ち回らぬ限りもはや負け戦。
動けないなんて言ってはいられないのである。
ここから離脱するために今やらねばならないのは―――早急にこの狩人を倒すことだ。
そうして瞬間―――初撃のその一発で屠るべく、彼が自身の漆黒の両手を『意識』したとき。
ただそれだけなのに。
一方『―――』
一方通行は気づいた。
その時点で、すでに何もかもが『読まれていた』のだと。
もちろん、気付いたときには遅かった。
921: 2012/01/17(火) 03:05:29.65 ID:KbaGCBnho
『狩人』は、一方通行の無意識下の力の微小な流れをも見逃さなかったのだ。
呼吸も、どこをどう狙ってどう攻撃するかの意図も、
その行動にうつるタイミングすらも的確に読み、それに合わせて狩人は先に動く。
一方通行が動き出す一瞬前に踏み切り。
一撃で狩人を屠るべく、力を篭めた漆黒の腕があげられた瞬間には、
その『射線』にはもう狩人の体は重なっておらず。
代わりに一方通行の喉が、狩人が突き出した杖の切っ先の『射線上』に―――。
―――そんな結果になっていた『かもしれない』。
逆に一方通行が見事に修正を成功させ、狩人の頭をもぎ取っていた結果も大いに有り得る。
だがこの勝敗の結果は、結局わからずじまいであった。
直前にその場に新たなる第三者が現れ、両者の間に割り込んだのだから。
一方『―――!』
『六枚』の翼を有する、今度ばかりはどこからどう見ても『天使である天使』が。
『彼』もまた他の天使とは違い、
『狩人』と同じ趣向の地味ながらきわめて上質・上品な身なりであった。
石灰岩の彫像の如き硬質ながら、絹にも似た質感も見せる白亜の肉体に、
纏うのは『深緑』に『黄金』の装飾が施された甲冑。
兜はかぶってはおらず、武器も腰に剣を下げているだけで手に持ってはいない。
それだけでも、この天使がここでは戦うつもりがないということが用意に想像できたし、
何よりも盾になるようにしてこちらへ向けているその背に滲む空気で明白だった。
一方『……』
一方通行には一欠けらの敵意も向けず。
それどころか―――この天使は狩人に敵意を向けていたのだ。
922: 2012/01/17(火) 03:08:14.51 ID:KbaGCBnho
『深緑の天使』の登場に、この『狩人』ですら調子を狂わされてしまったようだ。
たんっと狩人は軽く跳ねては1mほど下がり、
杖の先で石畳を叩いては、真っ直ぐにこの天使を見据え始めた。
一方『……』
その時一方通行は見た。
兜の下に覗く人と同じ瞳に、ほんの僅かに―――妙な『翳り』を。
彼の人間性の観察眼に狂いが無ければ、確かに暗い感情の色だった。
怒りとも、憎しみとも、悲しみとも―――そして『迷い』とも見える色である。
それが垣間見えたのはごく一瞬の事であり、
次の瞬間には綺麗さっぱり消えまたあの一切の隙のない不気味な輝きに満たされていたも。
決して見間違いではない。
確かに一瞬、この深緑の天使を見た瞬間に現れていたのだ。
なぜ狩人がそんな目をしたのか。
その原因の一つを、一方通行は直後に悟る事となった。
数秒間の沈黙ののち、静かに深緑の天使がぼそぼそと天の言葉を声を発し。
狩人も同じように言葉数少なく答えた。
『言語』としては認識できずとも、
言霊として付加されている意図は、一方通行にも手に取るようにわかるものである。
会話の中で語られていたことは、大分して三つ。
一つ目、狩人と深緑の天使は『家族』であること。
二つ目、深緑の天使『達』(彼は自らの方を複数形で指していた)は、此度の人間界侵攻には参じず、
逆に人間界の側につくこと。
そして三つ目。
彼らの『父』とやらも―――この深緑の天使と同じ側であるということ。
923: 2012/01/17(火) 03:12:22.76 ID:KbaGCBnho
会話の中、『父』という言葉が発されたあたりであろうか、
またしても狩人の瞳にあの陰った感情の色が見えたが、同じくすぐに消えた。
交わされた声は終始、調子も何もかもがひどく淡々としていたものだった。
言語として理解できずとも、事務的な口調であるとわかるほどである。
その間、例の双頭のドラゴンは、
門の蓋の上にて二つの首をもたげて悠々とこちらを眺めていた。
『反乱宣言』とも受け取られるこの言葉は恐らく聞えているであろうにも関わらず、だ。
さながら暇つぶしに下々の対立を観ているかのごとき王者の風格か。
この時唐突ではあるが、一方通行はあの双頭のドラゴンの態度に無性に腹が立った。
心の奥底では様々な感情を巡らしながらも、その真意は徹底的に仮面で覆い隠し、
互いに『家族』という絆で繋がっている相手に対し、ただただ戦士として徹する狩人と深緑の天使。
ドラゴンはそんな両者を見ては、裏切りに怒るのでも嘲笑するのでもない、
一切感情が篭っていない『事務的』な視点で眺めているだけ。
彼らの内面に興味を向けないどころか、興味を向けるか否かという選択肢すら無いのだ。
人間が、例えば細菌なんかの「個人的感情」などまったく意識しないのと同じように。
なぜ腹に立ったのか、別にこの二体の天使に感情移入してしまったわけではない、
あの双頭のドラゴンの態度『そのもの』が気に喰わないのだ。
あの態度を、醸す空気を、
一方通行は一目見ればわかる、わかってしまう。
今までもずっとあのような目に見られて生きてきたのだから、わかって当然だ。
己のみならず学園都市の子供達を、『ただの部品』として見てきた『あの男』と同じ目だ、同じ空気だ、同じ態度である、と。
924: 2012/01/17(火) 03:15:28.90 ID:KbaGCBnho
一方通行は嫌悪と苛立ちを、隠そうともせずにドラゴンに向け放ち続けた。
顔を横に向けジロりと彼方のドラゴンを睨み、鋭く切り裂くような視線を送り込む。
狩人と深緑の天使の会話は、徹頭徹尾淡々としたまま終った。
一方『…………』
すると直後、深緑の天使から一方通行の足元にかけて、
石畳に浮かび上がる白金の魔方陣。
悪魔が移動に使うものと同じ類のものであろう。
一方通行は特にその場から離れようとはせず、己が身をそのまま魔方陣が運ぶに任せた。
なぜかといえば。
その様子や話からこちらの見方であろうことは伺うことが出来たし、
更に決定的だったのは、魔方陣が浮かび上がった際、
深緑の天使が横顔を向けるようにして半身こちらに振り返り、こう告げてきたからだ。
『来ていただければ、あなたの疲れを早く癒すことが出来ます』
やや早口ながらも、狩人に対していた時とは全く違う、
穏やかで透き通る声で。
『ご心配なさらず。あなたが築かれた「門扉」はしばらく持ちこたえ、軍団はその間足止めとなるでしょう』
『第二の門も、軍勢が抜けられるにはもうしばし時間がかかります』
完璧な『日本語』で。
『―――さあ、我らが「兄弟」の友、「上条当麻」の共よ。どうぞご一緒に』
925: 2012/01/17(火) 03:17:18.52 ID:KbaGCBnho
そうして一瞬。
視界が光に包まれたのち、目に写った景色は一変していた。
そこはどこかの『丘』だった。
涼やかな風に靡く、延々と続く新緑の原。
大気は穏やかで心地よい、柔らかな光に満たされていた。
同じく神々しくも、先の門があった界域のどぎつい、
さながら電子レンジに放り込まれたような錯覚を覚える光とは大違い。
一瞬、人間界とも思えてしまうくらいに身近で親しく感じられる場だ。
一方『―――……』
優しげな陽光に、頬を撫でていくそよ風と、さあっと波打つ原が奏でる心地よい音色。
今や世界を跨いで切迫した『戦争』が繰り広げられているというのに、
獣のように戦うことしか能がない(彼自身がそう思っているだけであるが)彼ですら、
柄にも無くこの場に留まりたい、そんな願望がふと湧き上がるくらいだ。
傍ら、それと同時に。
彼はこんな禍々しい容姿の己がひどく場違いに思ってしまっていたが。
そんな彼の思いに気が付いたのであろう、
深緑の天使はお気になさらず、とだけ優しげに告げて、ついてくるよう身振りで示した。
丘の峰に沿い、一筋の舗装されていない道が続いており、
そしてその先の丘の頂上には、二本の細い若木が立っていた。
いや、若木に見えたのはざっと遠くから覘い場合で、
よく観察してみると、その木皮のくたびれた具合からかなりの樹齢を誇っているとも取れるか。
ただし若木か老木か、明確に判断を付けれるほどにまでは彼は固執しなかった。
すぐに別のものに意識が移ったからだ。
彼からみて奥側の木の根元に―――二体の天使が座っていた。
926: 2012/01/17(火) 03:20:29.55 ID:KbaGCBnho
一方は黄金と言うよりは黄色か、そのようなこれまた上質な甲冑を纏った、
面長のほっそりとしたやや厳しい顔つきの男性的天使。
もう一方は甲冑ではなく緩やかな衣に身を包んだ、
(と言ってもそれが本当に衣なのか、それとも皮膚なのかは判断付かないが)
穏やかそうな女性的天使であった。
一方『……』
二体は一方通行の姿を目にすると、その彫像のごとき顔向けて小さく会釈。
そしてすぐさま再び顔を戻して座ったまま動かなくなった。
その様子は『瞑想』しているようにも見えるか。
そんな二方を横目に、先導していた深緑の天使に促されるままに手前の木の根元に座る一方通行。
そこから彼はてっきり、先のこの天使の言動からも治療的なものでもするかと思っていたのだが。
深緑の天使はそんな一方通行の傍にて、静かに佇んでいるだけであった。
まさか木陰で休めば、疲れが癒されるのが早くなるとでも言うのか。
そんな風に思った―――その矢先。
ここで、彼はやっとここで休む本当の意味を理解する。
一方『……………………』
なんと座っているだけで―――いいや、違う、この木の根元にいるだけで、
みるみる力が回復していくのである。
己の奥底から滲み出てくるかのように、全身が癒されていく。
生まれて初めてとも言って良いくらいの安からな感覚だ。
『ここならば、しばらくの間は四元徳公閣下の手も及びません』
傍らから、穏やかな口調でそう告げる深緑の天使。
この時ふと、一方通行は彼が口にした『四元徳』という言葉に意識を留めて。
一方『…………アレが四元徳か?』
そんな風にぼそりと問うた。
『アレ』とはもちろん双頭のドラゴンであるのだが、
その部分をばっさり省略するという、聞きようによっては漠然としすぎて誤解を招きかねない言葉数で。
ただ意図は正しく伝わっていた。
深緑の天使はするりと滑らかに答えた。
『はい。かの御方が四元徳が一柱、フォルティトゥード公閣下です』
927: 2012/01/17(火) 03:23:05.78 ID:KbaGCBnho
一方『……』
やはり、と言った所か。
あれがアレイスターの話にも前から出ていた四元徳、天界の親玉か。
この時一方通行は、少しばかり安堵の息を吐き出した。
確かにあの四元徳とやらはいまや己と互角かそれ以上の強敵だ。
だがそれでも―――十二分に勝負できる相手であることには変わりない。
ダンテやバージルのような、もう何をどうしたって勝てそうもない存在ではない、
それだけがはっきりしただけでも充分に良い兆候である。
そうして一方通行は、この味方であろう深緑の天使に重要な事柄を続けて問うた。
一方『なァ、その四元徳も復活はできるのか?できるとしたら何回だ?』
これもはっきりしなければならない。
この点の正否が、今後執るべき戦い方を大きく左右するのだから。
と、そこで告げられた答えは。
『大まかに見積もるとフォルティトゥード公閣下は、かの御方の専用貯蔵量だけでも約6000回、復活が可能かと』
愕然とせざるを得ない数字だった。
だが直後、そんな絶望に叩き落された一方通行を一転して引き上げる答えが続く。
『ただし「加護」は、二つの併用は叶いません』
『フォルティトゥード公閣下は現在、「強魂」の加護をご使用中ですので、復活は不可能です』
928: 2012/01/17(火) 03:26:58.71 ID:KbaGCBnho
一方『―――あン?』
『強魂』とはあの強化のことであろうか。
強化を使用中の今は―――復活できない?
思わず一方通行は聞き返し、己の認識が正しいかどうか確認した。
一方『つまり強化中に頃しちまえば、そのまま氏ンじまうってことか?』
『はい』
これはなんと素晴らしい情報か。
一度の勝利であの親玉を倒せるとなれば、この戦争における勝利もぐんと近づく。
『ですが油断なさらぬように。最大まで「強魂」なされた四公閣下は、全天が反逆したとしても敵わぬ武を誇ります』
『あなたよりも確実に強いでしょう』
だがそんな良い兆候の頭を押さえつけるかのごとき、
やや声のトーンを落としての重量ある忠告。
一方『……』
恐らくこの天使も門の前における己の戦いを見、ある程度こちらの力量も知っているであろう。
その上でのこの物言いは、信じるに足る忠告と判断できる。
最大まで強魂した四元徳は己よりも強い、と明言するのならば、恐らくその通りなのであろう。
それにこれがもしも、もし万が一に誤りである忠告だとしても、過小評価して失敗するよりもずっとマシだ。
一方『スパーダの一族並みに強くなンのか?』
そしてそれらを踏まえて、一方通行はすっぱりとした口調でそう問い返した。
これもまた再度確認しておかなければならない。
『強さ』という尺度には『戦える限度』と言うものがあるのだ。
929: 2012/01/17(火) 03:32:05.20 ID:KbaGCBnho
対して答えは。
『いえ、さすがにかの領域までは至りません』
これには深緑の天使もきっぱり。
その声を聞いて、一方通行は小さく笑みを浮べた。
一方『なら―――イケる。少なくとも一切歯が立たねェなンてこたァねェ』
そして特に意識しているわけではなかったが、
どこかの『誰か』に似た不敵な笑を。
一方『ぶン殴れるなら―――それで充分だ』
それは決して慢心からくるものではない、
己の力と己そのものを知り尽くし信頼している上での自身だ。
この時、ふと一方通行は傍の深緑の天使の顔を、
己と似た表情を浮べている彼を見て、こう確信した。
この天使はこちらい大体の力量どころではない、
過去にバージルに血を流させたことすらも知っている、と。
930: 2012/01/17(火) 03:35:44.25 ID:KbaGCBnho
ふん、と笑いまじりに鼻を鳴らし、
一方通行は更なる情報収集を試みる。
一方『ちなみに他の天使達はどォなンだ?「残機」は?連中も強化中なら一度で殺せるのか?』
『あれほどの「強魂」は四公閣下しかできません。他の者ができたとしても、負った傷を癒す程度です』
一方『……』
その言葉で一方通行は悟った。
今の己を治癒している現象も―――『ソレ』なのであろう、と。
ただそこで彼は話を止めはしなかった。
更に続けて天使が重要な事を口にしたからだ。
ヘイロウ
『それと四公閣下の「強魂」は、きわめて莫大な量の「魂」を消費します』
『今頃フォルティトゥード公閣下の専用貯蔵庫は空となっており、更に軍団用の各貯蔵庫からも吸い上げていることでしょう』
一方『そィつは、つまり……』
『はい、全軍団の復活の残り回数も必然的に減ります』
『そしてもし、フォルティトゥード公閣下に続きテンパランチア公閣下も最大まで「強魂」なされれば―――全ての貯蔵庫が空となるでしょう』
一方『そォなれば全部の天使が復活できなくなるってわけか』
『はい』
これもまた納得か。
四元徳の強化とやらは、とても易々と使えるものではないのだ。
長き時をかけて溜めに溜めてきた魂を、天の軍事力の要たる桶をたったの一度で空にしてしまう、
まさに天界の総力と引き換えにする『最終奥義』なのである。
一方『四元徳ってのは何人いる?』
『現在は、フォルティトゥード公閣下とテンパランチア公閣下のお二方です』
931: 2012/01/17(火) 03:39:15.06 ID:KbaGCBnho
なんと素晴らしい情報か。
この二人を追い詰めてこの最終奥義を使わせてしまえば、もう天使達は不氏の軍勢ではなくなる。
天界という勢力としての力は一気に凋落するのだ。
確かにあれほどの存在を追い詰めるのは非常に難しいことであろうが。
それでも頭数では圧倒的に劣勢である以上、
何千回も復活する天文学的数の軍団を相手にするよりは、標的を二個体に絞った戦いの方が遥かに易い。
と、頭数の問題が頭に浮かんだところで、一方通行はこう問うた。
一方『そォいえば、オマエ達は下に行けねェのか?できれば下に加勢してもらいてェンだが』
『人間界へと続く門は、四公閣下の許可無く通過できません』
『私達程度では強行突破も叶いません。現在形成中の第二の門も同じく、ですから―――』
一方『―――ヴェントって奴か』
と、そこで一方通行はふと思い至って、
打ち止めを介して伝えられてきた名を口にした。
ローマから来た半天使とやらである。
そしてこれまた、その名だけでこちらが言わんとしている事が伝わったようだ。
『そうです。強き人の子に力を託し、その身で戦えぬのならば、せめて彼らの刃となり盾になるのです』
深緑の天使は、首を小さく掲げるようにして背後、
奥の木の根元に座っている二体の天使を指して答えた。
932: 2012/01/17(火) 03:42:57.64 ID:KbaGCBnho
一方『そォか。オマエは、誰にも力を与えてねェみてェだな』
『はい……私と互換する者は、少し前に命を亡くなりまして』
その時、金色の光を湛えた彫像の優しき瞳がゆらりと、
申し訳無さそうに細く煌いた。
一方『……』
それもまあ仕方の無いことであろう。
神の領域の力を、そう簡単に誰でも関係なく託せるわけがない。
素養がある者を探すのも一苦労なのが用意に想像できる。
一方『気にするな。別に文句がある訳じゃねェ』
一方『そのおかげって言っちまゥのも難だが、こォしてオマエに助けてもらってるしな』
そこで会話が途切れ、
両者の間に静かな空気が流れ数秒、一方通行がぼそりと、思い出したように口を開いた。
一方『家族、なのか?俺をここに連れて来る前にいた奴は?』
深緑の天使は少し言葉を溜め込むようにして答えた。
『……はい。彼の生まれは私とは違い人間界ですが、共に同じ血と力と杯と―――父の祝福を受けた愛する兄弟です』
一方『元人間……か』
それならあの人間としか思えない感覚も納得であろう、とここで確信する傍ら、
一方通行は少し心にトゲが刺さる思いを覚えた。
『愛する兄弟達』、臆面も無くそう口にできる相手に向けて、
この天使があのように淡々と宣戦布告していた光景を思い出して。
そして同じく『真の絆』を有していたからこそのであろう、
あの狩人の瞳に微かに見えた―――翳りの色を。
933: 2012/01/17(火) 03:44:43.00 ID:KbaGCBnho
深緑の天使は小さく頷くと、奥の木の方に顔を向けて、
すっと伸ばした手で二人の天使を指して。
『手前の彼はウリエル。奥の彼女はガブリエル。同じく私の兄弟です』
『そして下に降り、あなたの同志方と刃交えている五名も同じく』
一方『……皆、生まれも天界か』
『そうです』
これはあえて確認することでもなかった。
どこをどう見ても彼らが生粋の天界の者だとわかるのだから。
だが一方通行は、わかっていながら問うたのだ。
次に続く質問の準備として。
一方『…………上条は?アイツとも兄弟なのか?』
そして彼は、ついに真に聞きたかった問いを放った。
対して深緑の天使は、小さく微笑み。
より丁寧により優しくこう答えた。
『はい。彼の遥か前世から。そして彼が人となり魔となった今も変わらず』
934: 2012/01/17(火) 03:46:18.93 ID:KbaGCBnho
一方『…………アイツに会いたいか?』
『ええ。それはもう。ガブリエルは先に会いましたがその時、彼女以外は皆ちょうど席を外しておりまして』
一方『…………』
それ以上何を聞く事があろうか。
この微笑み、この空気、この声色。
瞬間の深緑の天使の様子が、
知りたかったことを全て、充分すぎるくらいに物語っていた。
そう、わかるとも。
あの男は遥か前世ずっと大昔空も何一つ変わらず、
短絡的で偽善者で救いようのない馬鹿な人格そのままであったのだと。
そんな『嬉しさ』に思わず、一方通行の口端から笑いが毀れた。
そしてまた数秒の会話の途切れののち、彼はもう一つ問うた。
これもまた聞きたかったことだ。
いや、今こうしてこの天使と話したからこそ聞きたくなったことだ。
この深緑の天使達の目的が知りたかったのだ。
一方『オマエ達はなぜ、俺達の味方をする?』
ここまで強い絆で結ばれた家族を、
真っ二つに割ってしまうことも厭わずになぜ戦うのだ、と。
935: 2012/01/17(火) 03:50:29.71 ID:KbaGCBnho
一体どんな理由が、そこまでしなければならないほどに追い詰めるのだろうか。
己の身に置き換えてみると、一方通行にはとても考えられなかった。
いや、考えたくも無かった。
黄泉川や芳川、そして打ち止めと頃し合うことも辞さないほどに対立するなんて。
深緑の天使は少し押し黙り。
静かに、一言一言確認するかのような口調でこう答えた。
『私達も、また四公閣下の側についた者達も、信じるもの―――戦う理由は同一です』
『古から今までも一切変わらず、みな愛する者達のために刃を振るっております』
『ただ……唯一異なっているのは―――選んだ「手段」ですね』
一方『……』
何のために家族を切り捨てたか、という一方通行の問いの真意に対して、
この天使は、その問い自体が間違っていると返したのだ。
『何かのために家族を切り捨てた』わけじゃない、
それぞれが信じる道を進んでいる内に―――道の方が勝手に分かれていったのだと。
一方通行が天使の答えをかみ締め、続く問いの言葉を選んでいたとき。
ここで深緑の天使は思い出したように声を切り替えて。
『それと失礼、申し送れました。私の名は―――ラファエルです』
一方通行に名乗った。
一方『……ラファエル、か。アイツに会ったら伝えておくぜ。オマエに会いに行くように』
一方通行はあえて、上条当麻が『引きずり出される』ことが決まりきっているような口調で返した。
対してラファエルもまた、同じ調子でこう言った。
ラファエル『ええ。いずれ機会があったらどうかよろしくお願いいたします』
ちなみにこの後、一方通行は再び上条当麻に会うことができたが、
ラファエルが再会することは結局叶わなかった。
一方通行が上条当麻と再会した頃には、この天使は氏んでいたのだから。
―――
958: 2012/01/20(金) 02:09:58.68 ID:6VFmKQ1po
―――
学園都市の防衛戦は現在、
何もかもが切羽詰まっている猫の手も借りたい状況である。
ステイルとの繋がりから見える一進一退の戦況を視て、
今まさに神裂もこの防衛戦に参じようとしていた。
竜王、上条、テメンニグル等々、問題は次から次へと生じ山積みであるも、
それらは己の仕事ではないと彼女は悟っていた。
竜王に関しては先ほどバージルとベヨネッタが今後の方針を速やかに定めたし、上条当麻のことだって。
神裂「……」
こうしてすでにインデックスが取り組み始めている。
小さな魔女は神裂手を握りながらも、
まるで彼女の存在など『忘れてしまっている』かのような様子であった。
肩に乗っている相棒たる子猫ですらも、意識の外に締め出されているかもしれない。
瞬きもせずに床の一点を見つめ、細かに口を動かしては『声のない独り言』を呟く。
全ての意識が内側へと向き、猛烈な速度で思考が巡っているのであろう。
繋いでいた手をそっと離しても、彼女が気付いた様子は無かった。
神裂はそのまま静かな足取りでアイゼンの脇まで歩み。
神裂「私は学園都市へ」
アイゼン『…………うむ』
学園都市の防衛戦は現在、
何もかもが切羽詰まっている猫の手も借りたい状況である。
ステイルとの繋がりから見える一進一退の戦況を視て、
今まさに神裂もこの防衛戦に参じようとしていた。
竜王、上条、テメンニグル等々、問題は次から次へと生じ山積みであるも、
それらは己の仕事ではないと彼女は悟っていた。
竜王に関しては先ほどバージルとベヨネッタが今後の方針を速やかに定めたし、上条当麻のことだって。
神裂「……」
こうしてすでにインデックスが取り組み始めている。
小さな魔女は神裂手を握りながらも、
まるで彼女の存在など『忘れてしまっている』かのような様子であった。
肩に乗っている相棒たる子猫ですらも、意識の外に締め出されているかもしれない。
瞬きもせずに床の一点を見つめ、細かに口を動かしては『声のない独り言』を呟く。
全ての意識が内側へと向き、猛烈な速度で思考が巡っているのであろう。
繋いでいた手をそっと離しても、彼女が気付いた様子は無かった。
神裂はそのまま静かな足取りでアイゼンの脇まで歩み。
神裂「私は学園都市へ」
アイゼン『…………うむ』
959: 2012/01/20(金) 02:11:46.43 ID:6VFmKQ1po
アイゼンの返事は力のないものだった。
先ほど激昂してしまったためか、少々疲れを覚えているのであろう。
仮面の下に見える瞳の輝きもややおぼろげに揺れていた。
神裂「では」
じゃらじゃらと腕輪を鳴らすアイゼンに軽く礼をし、
次いでバージル、ベヨネッタ、ジャンヌへと目配せ。
そして出撃の前にもう一度、インデックスの方を見ようとした時。
禁書「―――かおり!待つんだよ!」
振り向くよりも僅かに早く、当のインデックスに呼び止められた。
あのフル回転の思考はもう一段落したのか、片腕の無い小さな魔女はぱたぱたと走り寄って来。
禁書「私も一緒に連れて行って!」
神裂「っ?」
禁書「―――ベオウルフと話がしたいの!」
これに対する神裂の返答は、声にするまでも無かった。
その表情にはっきりと示されていたのだから。
960: 2012/01/20(金) 02:13:49.43 ID:6VFmKQ1po
神裂のベオウルフへの印象は、ステイルの認識と同じく最悪どころではない。
人物としてはその来歴からしてとても信用できるわけがなく、
また現在、上条当麻から『視覚』を奪いかつての力を取り戻しているため、
脅威度も遥かに跳ね上がっている。
この大悪魔と見張っているイフリートが形成しているあの場は実質、
極度の緊張が張り詰める『冷戦地帯』なのである。
そんなただ中へインデックスを連れて行くなんて、とても承諾できることでは無い。
神裂「それは―――」
そうした考えを明確に示す表情に続き、彼女が声にもして返答しようとすると、
インデックスは大きな瞳で神裂を見上げ。
禁書「ベオウルフの力も必要なの―――!」
ここで勇気と覚悟を胃の中に落とし込むように一度ごくりと喉を鳴らして、
『小さな魔女』は更に確かな声でこう告げた。
禁書「―――とうまを『強制召喚』するために!!」
―――
961: 2012/01/20(金) 02:15:59.28 ID:6VFmKQ1po
―――
ステイル「……」
イギリスからの一団の到着によって、
学園都市の置かれている状況は幾分か好転していた。
確かに虚数学区上では、カマエルに続き四柱もの強大な天使の降臨を招く結果となったが、
それでもアニェーゼ隊と天草式隊の刑98名、
フォルトゥナ騎士団192名という戦力が学園都市に配備されるのは願ってもないことであった。
それにキャーリサ率いる一団が来なくとも、
カマエルが己だけでは風斬とアグニを処理できないと判断すれば、
いずれは他の四柱も降臨していたであろう。
また、このイギリス隊の到着の直後に完了した、
一方通行による天の門の封鎖も非常に良い兆候である。
門はもう一つ存在すると示唆されているが、そちらもまだ完全に使える状態ではないらしく、
現在、天の軍勢の後続は完全に途絶えていた。
ステイル「…………」
ステイルはアスファルト状に浮かび上がっている魔術による立体映像、
学園都市と虚数学区の簡略化された地図を眺めていた。
そこは窓のないビルのすぐ脇に置かれた臨時の『本陣』。
大悪魔の突入によってビルの壁が完全に倒壊しているため、
少し声を張れば屋内にいる海原達にも容易に肉声が届く位置だ。
ステイル「……」
イギリスからの一団の到着によって、
学園都市の置かれている状況は幾分か好転していた。
確かに虚数学区上では、カマエルに続き四柱もの強大な天使の降臨を招く結果となったが、
それでもアニェーゼ隊と天草式隊の刑98名、
フォルトゥナ騎士団192名という戦力が学園都市に配備されるのは願ってもないことであった。
それにキャーリサ率いる一団が来なくとも、
カマエルが己だけでは風斬とアグニを処理できないと判断すれば、
いずれは他の四柱も降臨していたであろう。
また、このイギリス隊の到着の直後に完了した、
一方通行による天の門の封鎖も非常に良い兆候である。
門はもう一つ存在すると示唆されているが、そちらもまだ完全に使える状態ではないらしく、
現在、天の軍勢の後続は完全に途絶えていた。
ステイル「…………」
ステイルはアスファルト状に浮かび上がっている魔術による立体映像、
学園都市と虚数学区の簡略化された地図を眺めていた。
そこは窓のないビルのすぐ脇に置かれた臨時の『本陣』。
大悪魔の突入によってビルの壁が完全に倒壊しているため、
少し声を張れば屋内にいる海原達にも容易に肉声が届く位置だ。
962: 2012/01/20(金) 02:18:59.29 ID:6VFmKQ1po
ステイル「…………」
この立体映像は、打ち止めとリンクしている端末からの情報をそのまま魔術映像に投影するという、
海原が作成した魔術・科学の融合技の一つだ。
とはいっても、単にディスプレイ面に魔術を被せ、
表示される情報を人間の目と同じく『見て』読み取っているだけのきわめて簡素なものであるが。
学園都市の地図上には、天使の反応はどこにもなかった。
前述のとおり第一の門が封鎖されてからは、雑魚天使は一体たりとも降りて来ることは無かった。
映像に表示されている敵の天使は、
一層上の虚数学区上にいるかの五柱のみだ。
建宮「配置、整ったのよな」
その光点をジッと眺めていたところ、隣に立っていた建宮がそう報告してきた。
ステイルは物言わずに正面、立体映像を挟んで向かいにいるアニェーゼと、
三十代半ばほどのフォルトゥナ騎士隊長を続けて見やった。
学園都市側の防衛線の主戦力は、192人のフォルトゥナ騎士である。
彼らを8~10人ずつに分け、学園都市の地理に明るい天草式と、
支援要員としてアニェーゼ隊の者達を数人ずつ付けては、
学園都市の要所、主に市民が避難しているシェルターの上に配置。
そして特に精鋭を集めた三組ほどは定点配置せずに、
それぞれが建宮、アニェーゼ、騎士隊長が指揮を執る遊撃部隊とする。
これが学園都市の防衛配置の概略である。
963: 2012/01/20(金) 02:22:22.96 ID:6VFmKQ1po
ちなみにこの街にやって来たアニェーゼ隊は68人、天草式隊は30人だった。
今回、ステイルはイギリスにおける戦闘には参加していないが、
建宮やアニェーゼの表情を見ればどれだけ苛烈なものであったかは一目瞭然。
それゆえにステイルは判断しかねていた。
この68人と30人という数は、『選抜されてきた者達』なのかそれとも部隊の『全人員』であるのかは。
ただ建宮は、ここに合流した際に「天草式隊の『全』戦闘可能人員『30』名」と報告していたため、
ある程度の推断は可能である。
天草式の残りはみな、ひどく負傷してイギリスに残っているか、もうこの世に残ってはいないかだ。
ステイル『…………』
四人の指揮官は一言も発さなかった。
みなじっと立体映像を見据え、戦争のただなかでぽっと生じたこの一時の静けさに浸っていた。
それぞれがふと、『今』の状況では『余計な』ことを考えながら。
アニェーゼや騎士隊長は失った部下や仲間のことを、加えて建宮は神裂のことも考えているのであろう、
彼は無言のままフランベルジュの柄を指で叩きながら、ステイルを数度横目で見やっていた。
そして当のステイルの脳裏をぐるぐる巡っているのは、今しがた神裂越しから聞いたインデックスの話である。
このような状況下におけるやる事が無くただ待機するという時間は、あまり歓迎できたものでは無い。
考えなくてもよいこと、考えても無駄なことを意識しがちになってしまうのだ。
ただそこで意識がふと醒めてしまっても、彼らの集中・緊張の糸が緩むことはなかった。
界上の虚数学区から、この現実から絶対に逃避させてくれない、
断続的な激音が轟いてきていたのだから。
いまにもこの世界の天蓋が割れ落ちてくるかというほどの。
―――
964: 2012/01/20(金) 02:23:21.88 ID:6VFmKQ1po
―――
虚数学区にて行われているのは、
五つの一対一のではなく、一つの五対五の戦いだった。
始まりの一撃は―――
キャーリサ『―――はッ!!』
―――獅子たる姫が撃ち放った一振り。
『父』の力を帯びたカーテナの切っ先が、キャーリサの正面の景色を『両断』する。
アスファルトに不気味なまでに滑らかな溝が走り、
この場に満ちる高濃度の力もろとも大気を分断、空間と次元の何もかもをも切り離していく。
ただしその刃ですらも切断できなかった存在が一つ。
彼女の真正面、50mほどの地点にさながら巨塔のごとく聳えていた―――カマエルの『大盾』だ。
この真紅の防壁の前に、金色の光の刃は無残に砕け散っていった。
ただそれを目にしても、
キャーリサの手は動じることなく流れるように続いた。
キャーリサ『ふッ―――』
軽く息を吐きつつ振り下ろしたカーテナを切り返し、次は水平に薙ぎ振るい―――前方の景観に十字を刻む。
虚数学区にて行われているのは、
五つの一対一のではなく、一つの五対五の戦いだった。
始まりの一撃は―――
キャーリサ『―――はッ!!』
―――獅子たる姫が撃ち放った一振り。
『父』の力を帯びたカーテナの切っ先が、キャーリサの正面の景色を『両断』する。
アスファルトに不気味なまでに滑らかな溝が走り、
この場に満ちる高濃度の力もろとも大気を分断、空間と次元の何もかもをも切り離していく。
ただしその刃ですらも切断できなかった存在が一つ。
彼女の真正面、50mほどの地点にさながら巨塔のごとく聳えていた―――カマエルの『大盾』だ。
この真紅の防壁の前に、金色の光の刃は無残に砕け散っていった。
ただそれを目にしても、
キャーリサの手は動じることなく流れるように続いた。
キャーリサ『ふッ―――』
軽く息を吐きつつ振り下ろしたカーテナを切り返し、次は水平に薙ぎ振るい―――前方の景観に十字を刻む。
965: 2012/01/20(金) 02:26:26.47 ID:6VFmKQ1po
またしても虚数学区上に刻まれる容赦のない断絶。
陽炎の街の続く限り遥か彼方まで、
カマエルの大盾だけを残して、街灯からビルまで何もかもが切り倒されていく。
そしてこの二撃目が、双方にとっての開戦の合図となった。
キャーリサの両脇にいた四者、
魔像を纏う人間、半天使、人工天使、そして炎剣の大悪魔が、この放たれた光の刃を追うようにして飛び出し。
対して。
軽く跳ねてはキャーリサの光の刃を回避していた、カマエル他の四天使達も、
すぐさま宙の『空間』を蹴り、爆発的速度で突進。
両陣営は、ちょうど互いの中間点で激突した。
色とりどりの閃光が瞬き、光の衝撃波が何もかもを砕き掃い、
極度の力の集中が虚数学区に悲鳴を奏でさせていく。
キャーリサはすぐに仲間の四者を追って駆け、その眩い爆轟の中へと飛び込んだ。
その空間はこの時点から、
もうすでに両者入り乱れの混沌とした乱戦となっていた。
両陣営のみなが、特定の相手に狙いを定めてなどいない。
誰のものだろうと関係ない、放たれてきた攻撃は片っ端から防ぎ。
誰であろうと関係ない、目に付いた味方を庇い、
目に付いた敵には片っ端から攻撃を叩き込んでいくのである。
966: 2012/01/20(金) 02:29:47.98 ID:6VFmKQ1po
例に漏れず、飛び込んだキャーリサもまず目にとまった敵へと切りかかっていく。
光で形成されたウォーハンマーを両手に持ったヴェントと
目にも止まらぬ打ち合いを繰り広げていたところの天使、
両手にエストックに似た細身の長剣を有するザドキエルだ。
キャーリサは短く息を吐き。
キャーリサ『―――はッ』
真横から、ザドキエルの首を切り裂くべくカーテナを振るった。
するとこの天使はすかさず半身振り向き、彼女のカーテナを片方のエストックで弾きいなした。
キャーリサ『ッ』
飛び散る閃光、そして柄を握る手に伝わる衝撃。
神域の天使の膂力はそれはそれは凄まじいもの。
カーテナは大きく外へと弾かれて、彼女の体もつられて捩れていく。
だがそこで彼女はあえて慣性に身を任せ、己が体を軽やかに回転させた。
瞬間、彼女には一瞬の隙が生じたが、ここにザドキエルからの反撃が叩き込まれることは無かった。
それとほぼ同時にヴェントがすかさず、
もう一方の手にあるウォーハンマーをザドキエルの胸元向けて振り抜いていたのである。
ザドキエルにとっては片方のエストックはキャーリサの攻撃をいなした直後、
もう一方はこのヴェントの一方のウォーハンマーと激突中、という危機的状況だったか。
だがこの天使は刹那、なんとかカーテナを掃ったばかりの剣を引き戻し、
柄の部分でヴェントの一撃を見事に横に打ち弾いた。
ただそれでも。
直後、ちょうど一回転したキャーリサからによる、
より加速した一撃を防ぐ手は残っていなかったが。
967: 2012/01/20(金) 02:32:28.46 ID:6VFmKQ1po
真紅のマントを大きくなびかせて、カーテナを振り上げるキャーリサ。
勢いに乗った『父』の力に満ちた刃が、ザドキエルの脳天を叩き割る。
完璧な一振りになるであろう。
ザドキエルもその瞬間、己の敗北を確信したはずだった。
もしこの戦場に、他の人物達がいなかったらの話であるが。
キャーリサ『―――』
刹那、己が身に迫る斜め後方からの攻撃にキャーリサは気付いた。
ゆえに。
振り上げられたカーテナが、下ろされて天使の脳天を叩き割ることはなく。
逆に更に押し上げられるようにして、その刃がキャーリサの背面にまで伸ばされた。
そして直後。
僅か一瞬の差で、このカーテナに巨大な曲剣の刃が激突した。
『父の刃』は間一髪のところで、この獅子たる姫の背の分断を防いだのである。
それはラジエルが振るった、
彼の身長の2倍以上、実に6mにも達しているかという巨大な曲剣だった。
キャーリサ『―――ッぐ!!』
なんとか足を踏ん張り、押し出されぬようこらえるキャーリサ。
その間にザドキエルは一歩後方に跳ね。
すぐさま体制を立て直すと再び一歩、前へと跳ねだしてきて、
今度はお返しとばかりにキャーリサへと刃を突き上げてきた。
968: 2012/01/20(金) 02:34:48.75 ID:6VFmKQ1po
瞬間、彼女もこの天使に合わせるように一歩下がりつつ。
カーテナの柄頭をそのまま上方にした背負うような姿勢のまま、
半身そっぽ向くように身を捻ってエストックの一本目を掃い。
もう一歩下がり、今度こそカーテナを振り下ろして二本目のエストックの切っ先を叩き落す。
寄るザドキエルと下がるキャーリサ、その『息の合った』足並みは、
劇中で姫が言い寄る男を避ける一幕にも見えるほどのものか。
飛び交った刃が真剣である、きわめて危険な劇であるが。
そしてこの劇は更に即興で展開していく。
ザドキエルの猛攻を、カーテナで弾きいなしていくキャーリサに向け、
今度はラジエルが横から再度巨大な曲剣を振るった。
と、その刃を受け止めるは―――炎剣の大悪魔、アグニ。
首のない巨体が割り込み、ヘビー級の刃同士が激突。
猛烈な衝撃と業火が吹き荒れ、
ただでさえ砕かれ原型を留めていない街並みが、今度は赤く歪み始めていく。
そんな重い刃の押し合いは、アグニの勝利に終る。
周囲でキャーリサやザドキエルや、他の者達が目まぐるしく打ち合いをする中、
繰り広げられた猛烈な鍔迫り合い。
それは、炎剣の大悪魔がぬんっと一気に押し弾くことで終結した。
大剣ごと大きく後方へと押し出されていくラジエル。
そこへ目掛けすかさず追い討ちをかけるべく、アグニが前へ―――飛び出そうとするもその時。
背丈ほどの大槌を持った、少し小柄な女性的天使―――ハニエルが、
上方からその重き一撃を叩き落してきた。
969: 2012/01/20(金) 02:38:17.51 ID:6VFmKQ1po
この瞬間に示されている状況こそ、この『劇』の大きな特徴である。
双方とも、中々追い討ちをかけることが出来ないのだ。
戦いの最中で瞬間的、局地的に優勢に立つことはできるのだが、
そこから決定打へと繋げることがきわめて難しい。
ここで追撃すれば相手を倒せる、そんな瞬間に、
まるで示し合わせたかのように別の者が割り込み、
状況が仕切り直されてしまう。
そこにはバランスも膠着性も存在していない、あるのは『即興』の書き合いだ。
両陣営とも次から次へと刃で『戦い』を書き連ねていき。
限界に達して、相手がついにアドリブに対応できなくなる瞬間こそが、真の狙い。
それがこの外道非道邪魔者上等、決闘的要素などクソ食らえ、
勝ちさえすえば『全て良し』という乱戦のたった一つの『テーマ』だ。
すかさず本体である魔剣を掲げ、上方からの強烈な一撃を流し落とすアグニ。
ハニエルはひらりと彼の前に下りると、すぐさま地面を踏み返しては突進、
その身と不釣合いな大槌を軽々と振り抜いてゆく。
火花と火の粉を散らし、凄まじい速度で手数を重ねていく炎の魔剣と大槌。
爆轟が何十にも重なり、周囲の者達が放つ衝撃と入り乱れ共鳴、
この陽炎の町を更にずたずたにしていく。
これが学園都市で行われていたら、どれ位の被害を招いていたことであろうか。
『局地的』に見れば、かの魔帝との争乱と並ぶ爪あとを人間界に残していたかもしれないほどである。
970: 2012/01/20(金) 02:41:56.90 ID:6VFmKQ1po
小柄なハニエルと巨体のアグニが切り結ぶ中、そこへほぼ同時に割り込む者が二人。
先ほど押し出されたラジエルと、ザフキエルと打ち合っていたシェリーだ。
両者はハニエルとアグニのすぐ頭上で激突した。
共にこの下で戦っている敵方の者へ、上方から攻撃を放とうとしての宙での出会い頭の衝突である。
シェリー『らぁあああああああ!!』
蠢く漆黒の魔像、その破城槌のごとき巨腕と、
ラジエルの大曲剣が衝突、その結果は―――ラジエルの勝利か。
彼の刃が、巨腕の手首辺りまで食い込んだのだ。
だがそこでラジエルの勝利と明言できるのは、拳と刃という範囲に限定した場合のみだった。
結果として見れば、
ラジエルの大剣は魔像の腕に捕まれてしまった状態だったのだから。
魔像の胸に埋もれる褐色の肌の女が、カッと笑い混じりに息を漏らし。
次の瞬間、もう一方の巨腕がラジエルの顔面を叩き潰す―――かという瞬間、『またもや』だ。
シェリー『ッ!!』
突如魔像に、真横から激突する―――真紅の大盾。
猛烈な勢いで、カマエルが大盾かざして体当たりをしてきたのだ。
衝撃で弾き飛ばされ、30mほど離れた街中へと落下する魔像。
(ただ街中とはいっても、すでに一帯は瓦礫の更地やら溶解した海やらで原型を留めていなかったが)
ラジエルはその直前に大曲剣をひねり、
魔像の手首から先を切り落とす形で刃を解き放っていた。
971: 2012/01/20(金) 02:43:52.29 ID:6VFmKQ1po
シェリー『チッ!!―――クソがッ!!』
一度激しく叩きつけられるも、大地を殴り飛ばしてはにして跳ね、
姿勢を整えて再着地するシェリー。
瞬間、真正面をみやると。
僅か10mほどの場所に、カマエルがもう追いついてきていた。
魔像はすかさず巨腕を構え、この重装の天使を正面から迎え撃った。
巨体のショルダータックルで大盾に激突、衝撃で互いに少し後ろに弾かれ仰け反るも。
これまた同じ速度とタイミングで姿勢を戻し、二撃目を交差。
ただそこまでは互角であったものの、この瞬間に決定的な地力の差が浮き彫りとなる。
シェリー『―――!!』
シェリーは認識した。
ここにいる五柱の天使それぞれが恐ろしく強大な存在ではあるも、
その中でもこのカマエルが特に強いと。
大盾を避けるように、カマエルの頭部めがけて上方を迂回する軌跡で放たれた拳は、
直前にこの天使の大剣で切り落とされていた。
だが彼女もただでは負けない。
魔像は怯むことなくすぐに第二撃―――と、全く同時であった。
カマエルが大盾を一気に前に突き出してきていたのは。
直後、猛烈な激突ののち。
両者は互いに後方に大きく弾き飛ばされた。
972: 2012/01/20(金) 02:46:16.14 ID:6VFmKQ1po
即興の書き合い、そこにはバランスや膠着性など存在していない。
継ぎはぎだらけの不安定極まりない劇であり、
ほんの一瞬、ほんの僅かな衝撃で容易に崩れてしまうことだってある。
それこそが両陣営にとってのこの乱戦の中における唯一の明確な狙いだ。
そしてこの時―――ついにその瞬間が訪れた。
シェリー『―――ッ』
仰向けに地面に落下するシェリー。
刹那。
彼女のその瞳が見るのは、魔像の上に飛び乗ってきた―――ザフキエル。
つい先ほど打ち合っていた天使だ。
見事な甲冑を纏った天使は、壮麗な槍の切っ先をまっすぐに『シェリー本体』に向けていた。
今この瞬間に彼女自身の喉元を貫こうと。
この状況に―――『割り込んでくる者』はいなかった。
キャーリサ『―――はぁぁぁぁぁぁぁ!!』
『天界側』には。
シェリーの瞳にザフキエルに続いてうつるのは。
この天使の背後から切りかかり―――その首を刎ね飛ばしたキャーリサの姿だ。
ついで一拍後。
この獅子たる姫の腹を貫き飛び出してくる、エストックの切っ先も。
973: 2012/01/20(金) 02:47:56.38 ID:6VFmKQ1po
シェリー『―――ッ――――――』
くるくると回り、少し離れた場所にごとんと落ちるザフキエルの首。
そして首のない体から飛び散ってくる鮮血。
高名な天使がここに一柱、その命を絶たれた瞬間だった。
復活する可能性がきわめて高いが。
ただこの時、シェリーの意識が向いていたのはザフキエルの氏ではない。
腹部を貫かれていたキャーリサだった。
キャーリサを追ってきたザドキエルのエストックが、彼女の左腹部を貫通していた。
シェリー『――――――なッ!!!!』
目に見えている光景の意味を理解した瞬間、
シェリーの顔から一瞬にして血の気が失せていった。
その時。
風斬が現れ、ザフキエルへ向け神速で紫電の刃を振り抜くと。
この天使はキャーリサに止めを刺すよりも己の生命を優先したのか、
すぐさま後方に跳ねて離れていった。
974: 2012/01/20(金) 02:50:14.98 ID:6VFmKQ1po
シェリー『―――――キャーリサ様ッッ!!!!』
彼女はすかさず魔像から離れて、己が肉体でキャーリサを抱きとめた。
その体を支えた際の衝撃で、甲冑の穴から鮮血がごぼりと毀れおちるのを見て、
シェリーの表情がますます凍りついていく。
するとキャーリサは歯を食いしばりつつもこう口にした。
キャーリサ『ッッ……わめくなッつーの。カーテナが「生きている」内はこの程度じゃ氏にはしない』
そしてにっと笑みを浮かべ。
キャーリサ『―――それよりも。今のザドキエル、見たか?どう思う?』
正面、100m程離れているところで、
こちらをじっと伺っている四体の天使を視線で差した。
そう、こちらに向かって来ることは無く、静かに身構えている彼らを。
シェリー『…………はい』
この姫の状態が心配でしかたないものの、彼女も言われるがままに思考を向けた。
先ほどザドキエルは、このキャーリサに止めを刺さずに、
風斬の攻撃の回避を優先させたが、実はそれだと『おかしかった』のだ。
事前情報によると、天使達は復活することが可能。
そうなればあの瞬間ザドキエルは、
風斬に殺されてでもキャーリサに止めを差す方が道理に適ってはいないであろうか。
なにせ、人間側はみな一度氏ねば終わりなのだから、
殺せるところでは確実に頃しておくべきであろう。
975: 2012/01/20(金) 02:55:11.71 ID:6VFmKQ1po
キャーリサ『……』
そもそも、今のザドキエルの行動以前にここまでの彼らの戦い自体がおかしい。
戦力はほぼ拮抗しているために普通に戦えば長引くのは必須、ならば、
氏んでも構わないのなら損害を省みずにもっと攻勢に出ても良いではないか。
だがそうしない。
それどころか、こうして一体頃した途端あの通り。
こちらに向かってくるどころか完全な防御体制に移行だ。
シェリー『……』
彼らのここまでの行動は、ある一つの向こうの事情を明確に示していた。
復活できようができまいが、
『そうポンポンと簡単にこの場に増援を送り込むことはできない』、という点である。
風斬『上に行った「彼」によると門は封鎖、第二の門も恐らく使用にはまだ難があるとの事です』
同じく気付いたのであろう、ここで風斬がこの天使達の行動を裏付けるに足る情報を捕捉する。
正面の四体の天使達からは、増援を待つ間は防御に徹するつもりであろうことが伺えた。
劣勢だった情勢がやっと人の側にも傾き始めたのだ。
ここまでは防衛戦だったが、今度は人界側が『攻撃者』となる番がようやく到来したのである。
―――と。
キャーリサ『…………このまま、一気にぶっ潰すぞ』
キャーリサはシェリーの手を振り払い、カーテナを肩に載せて熱の篭った声で呟いたのだが。
直後、彼らの攻勢は結局お預けとなってしまった。
野暮な第三勢力の介入によって。
そのとき突然、至るところから―――無数の悪魔が出現した。
―――
976: 2012/01/20(金) 02:56:13.49 ID:6VFmKQ1po
―――
戦いのなかにぽっかりと生じた、学園都市側の一時の安寧は、
その出現の際と同じように突然終了した。
海原「―――ッ」
無造作に置かれたディスプレイの一つを見ていた彼は、
その瞬間言葉を失う。
打ち止め「たったいへん―――たいへんだッ!!」
慌てふためく打ち止めの声と共に、地図を表示していた画面に表れるは、
侵入者を示すとてつもない数の光点。
天使ではなく―――悪魔の赤い光点だ。
高名な天使の一体を退け、
やっと虚数学区上の主導権を取り戻したと思った矢先に、なんというタイミングの悪さか。
とてつもない数の悪魔が急に現れ、
この瞬間にも虚数学区のみならず学園都市側にまで侵入しつつあった。
海原「ステイルさん!!」
まさに非常事態だ。
彼はすかさず通信魔術を起動させ、待機しているステイルへと呼びかけた。
ステイル『ああ!!建宮達も動かす!!』
ステイル達もここと連動している立体映像を見ていることもあって、状況説明は不要。
準備も万全であったため、その一度のやり取りだけで充分であった。
戦いのなかにぽっかりと生じた、学園都市側の一時の安寧は、
その出現の際と同じように突然終了した。
海原「―――ッ」
無造作に置かれたディスプレイの一つを見ていた彼は、
その瞬間言葉を失う。
打ち止め「たったいへん―――たいへんだッ!!」
慌てふためく打ち止めの声と共に、地図を表示していた画面に表れるは、
侵入者を示すとてつもない数の光点。
天使ではなく―――悪魔の赤い光点だ。
高名な天使の一体を退け、
やっと虚数学区上の主導権を取り戻したと思った矢先に、なんというタイミングの悪さか。
とてつもない数の悪魔が急に現れ、
この瞬間にも虚数学区のみならず学園都市側にまで侵入しつつあった。
海原「ステイルさん!!」
まさに非常事態だ。
彼はすかさず通信魔術を起動させ、待機しているステイルへと呼びかけた。
ステイル『ああ!!建宮達も動かす!!』
ステイル達もここと連動している立体映像を見ていることもあって、状況説明は不要。
準備も万全であったため、その一度のやり取りだけで充分であった。
977: 2012/01/20(金) 02:58:41.93 ID:6VFmKQ1po
そうして学園都市側の防衛線は速やかに稼動を始める。
悪魔との戦闘はプロ達に任せることにして、
海原はすぐさまここの『情報部』としての仕事に立ち戻った。
たった今、至急対処せねばならない大きな問題が新たに出現していたのである。
芳川「―――これはどこから来たの?!」
打ち止め「わからないよ!!」
そう、この大量の悪魔の出所が不明だったのだ。
虚数学区と学園都市の両界両域は、完全に打ち止めの監視下におかれているにもかかわらず、
到来の前兆どころか、こうしている今もどこからやって来ているかがわからない。
前触れもなく虚数学区上に溢れ、更に虚数学区上にある『穴』を通らずに、
直接学園都市側にも湧き出してくる始末である。
海原「……」
だが『出所』が存在しないなんてことは有り得ない。
必ず通過してくる領界や、明確な侵入方法があるはずなのである。
ばたばたする打ち止め、せわしなくモニターを見やる芳川を横目に、
彼は一度気を落ち着かせて、褐色の肌のあごに手を添えてはふと思索を巡らせた。
何かを見落としている気が。
答えがすぐ近く、今見ている視界の中にこともなげに示されている気がする。
そうして一からここまでの経過と周囲状況を、すばやくも丁寧に再精査していくと。
案外、答えは容易に見つかった。
海原「―――」
彼はハッと面をあげると、ぽっかり崩壊した壁の彼方に聳えるあるものを見据えた。
遥か高く聳える魔塔―――テメンニグルの塔を。
978: 2012/01/20(金) 03:00:40.86 ID:6VFmKQ1po
それとほぼ同時であった。
初春「あの!ちょっといいですか?!」
せわしなくキーボードを叩いていた初春が突然声を張り上げた。
初春「気になるものを見つけたんですが!」
座っていた大きな瓦礫から跳ね降りて、彼女の元へと駆け寄る打ち止め、
芳川も後に続き、ひとまず海原も初春の方へと駆け寄り、背後からモニタを覗き込んだ。
初春「ここの階層の位相データに詳細不明のゆらぎがありますよね?」
皆が集まると、彼女は画面上のある部分を指し示した。
芳川「それは異界の力による影響よ。解析しようがないから処理から除外してるのだけども」
異界の力は、ある程度の環境が整えば観測することは比較的容易であるも、
その力を身に持たぬ者が理解するのは本来困難なことである。
『異物』として検知して位置や動きを監視することは可能ではあるも、
その力の性質や働きを解析してシミュレートするとなるとまた別の話。
更にそのような演算処理に関する問題以前に、
力なき者が理解を試みれば、まず普通は精神が汚染されてしまうという最大の障壁が聳えているのだ。
ゆえに悪魔と天使の力は、打ち止めの演算からも除外されていた。
979: 2012/01/20(金) 03:04:56.38 ID:6VFmKQ1po
初春「はい、そうなんですが」
だがそれを『知らない』初春は、今まで通りこの『バグ』の解析を試みていた。
『無知』は時に、画期的なアプローチ方を見つけ出してしまうものだ。
現にここで示した彼女の解析法は、確かに完璧とはとても言い難いも。
初春「少しフォーマットを変えてを再展開してみると……」
一方で精神汚染の危険性もゼロだった。
間にディスプレイを通しているのだから。
魔の力だろうが天の力だろうがAIMだろうが、
彼女にとってはどれもディスプレイ上に表示される数値に過ぎないのである。
キーボードを目にも止まらぬ速さで叩き、
彼女は瞬時に簡略化した解析結果を表示させた。
海原「これは……」
思わず海原は唸ってしまった。
確かに不完全なものではあったが、
大まかな状態を理解するには充分な結果が表示されていたのだ。
テメンニグルの塔は学園都市のある人間界から虚数学区まで、
全ての階層を『貫いて』展開していたのである。
ゆえにここからの悪魔が、虚数学区と学園都市の両方に出現するのも当然の事。
そしてこの『素人』の少女が暴いたのはそれだけではない、
海原がテメンニグルの塔をようやく意識したとき、彼女の視点は更なる先にまで到達していたのだ。
出所が特定されているどころか、
この計算モデルを使用すればある程度の出現位置も特定可能なほどであり。
初春「それとあくまで後手後手で、AIMストーカーが到着するまでの時間稼ぎにしかなりませんが」
初春「虚数学区の一部構造に手を加えることで階層上に『防壁』を敷き、侵入をある程度防ぐこともできます」
彼女は彼女なりの戦う手段も得ていた。
―――
980: 2012/01/20(金) 03:07:25.85 ID:6VFmKQ1po
―――
テメンニグルの塔の中層。
バルコニー状に突き出たとある広間にて。
神父の装束を纏ったスキンヘッドの『亡霊』は、そのオッドアイで遥か下の街並みを眺めていた。
10の『つわもの』達が入り乱れていた虚数学区、
そしてその界下に広がる学園都市―――人間界を。
それらに向けて今、無数の悪魔達が界の割れ目からあふれ出て、
幾本もの漆黒の滝を形成していた。
そんな光景を目にして彼は、小さく歪んだ笑みを浮べた。
まず第一陣の悪魔達の誘導は成功だ、と。
ちょうど魔界の名だたる存在・勢力達がこぞって人間界に向かってきていたところであったため、
さほど難しくも無かった。
そして次にやるべきなのは、この流れの維持である。
つまり今、誰かが行っている魔界の大門の封鎖作業を妨害し、『完遂させない』ことである。
彼は両手を広げて、そのための芸術的な術式を即興で組み上げて稼動させた。
―――この人間の世界を魔に染め上げて、自身は圧倒的な魔の力を手に支配者となる。
そんなおぞましい野望を成就させるために。
手段は状況によって変わってはいるも、その目的は同じ―――あの時と何一つ変わりはしない。
そう、何一つ。
―――
テメンニグルの塔の中層。
バルコニー状に突き出たとある広間にて。
神父の装束を纏ったスキンヘッドの『亡霊』は、そのオッドアイで遥か下の街並みを眺めていた。
10の『つわもの』達が入り乱れていた虚数学区、
そしてその界下に広がる学園都市―――人間界を。
それらに向けて今、無数の悪魔達が界の割れ目からあふれ出て、
幾本もの漆黒の滝を形成していた。
そんな光景を目にして彼は、小さく歪んだ笑みを浮べた。
まず第一陣の悪魔達の誘導は成功だ、と。
ちょうど魔界の名だたる存在・勢力達がこぞって人間界に向かってきていたところであったため、
さほど難しくも無かった。
そして次にやるべきなのは、この流れの維持である。
つまり今、誰かが行っている魔界の大門の封鎖作業を妨害し、『完遂させない』ことである。
彼は両手を広げて、そのための芸術的な術式を即興で組み上げて稼動させた。
―――この人間の世界を魔に染め上げて、自身は圧倒的な魔の力を手に支配者となる。
そんなおぞましい野望を成就させるために。
手段は状況によって変わってはいるも、その目的は同じ―――あの時と何一つ変わりはしない。
そう、何一つ。
―――
981: 2012/01/20(金) 03:08:14.92 ID:6VFmKQ1po
今日はここまでです。
次は日曜か月曜に。
次は日曜か月曜に。
982: 2012/01/20(金) 03:37:26.08 ID:rXjwCMxN0
今夜も乙乙
(;´・ω・`)それにしてもこの気○いピ工口のオッサン、ノリノリである
(;´・ω・`)それにしてもこの気○いピ工口のオッサン、ノリノリである
983: 2012/01/20(金) 07:22:43.78 ID:D+kviPYZo
お疲れ様でした
次回へ続く:【禁書×DMC】ダンテ「学園都市か」【その36】
コメントは節度を持った内容でお願いします、 荒らし行為や過度な暴言、NG避けを行った場合はBAN 悪質な場合はIPホストの開示、さらにプロバイダに通報する事もあります