1: 2012/05/16(水) 23:19:17.11 ID:f2pJ33CAo


最初から読む:【禁書×DMC】ダンテ「学園都市か」

前回:【禁書×DMC】ダンテ「学園都市か」【その39】

一覧:ダンテ「学園都市か」シリーズ

「デビルメイクライ(+ベヨネッタ)」シリーズと「とある魔術の禁書目録」のクロスです。

○大まかな流れ

本編 対魔帝編

外伝 対アリウス&口リルシア編

上条覚醒編

上条修業編

勃発・瓦解編

準備と休息編

デュマーリ島編

学園都市編(デュマーリ島編の裏パート)

創世と終焉編(三章構成)←今ここの第三章(スレ建て時)

ラストエピローグ
ARTFX J デビル メイ クライ 5 ダンテ 1/8スケール PVC製 塗装済み完成品フィギュア

2: 2012/05/16(水) 23:23:55.42 ID:f2pJ33CAo

だがその程度で竜王の関心を逸らすことは不可能だった。

竜王『―――はッ!!』

ネロに殴り飛ばされたも、
竜王は彼ではなく再び上条の方へと向きなおし、
猛然と突進してきたのである。


上条『―――スフィンクス!』


上条にとっては距離を詰められては一貫の終わり。
すかさず白虎を促しては距離を開けようするも、
やはり余りにも力の差が有りすぎた。

本気で向かう竜王にとってはもはや、
スフィンクスの全力疾走ですらも止まっているに等しいものだ。


羽から光矢をこれでもかと放ち、向かってくる聖剣は迎撃し、竜王は一気に爆進。


スフィンクスがようやく一歩目を踏み出した頃には、
彼は上条達の頭上に到着していた。


そして彼らが認識する暇もなく――――魔剣スパーダの狂刃が振り下ろされた。

3: 2012/05/16(水) 23:25:52.77 ID:f2pJ33CAo

上条達が破壊の刃に気づいたのは、脇の石畳が大きく穿たれた後だった。

ネロの再びの牽制によって、
竜王の攻撃はまたもや外れたのだ。


竜王を追いネロも爆進し、
間一髪のところで振り下ろされかけたスパーダを魔弾で弾いたのである。

そしてそのままの勢いでネロは体当たり。
ぶつかり合っては落下、石畳の瓦礫と爆轟の中で再び刃を散らすこととなった。

ネロ「撃ちまくれ上条!!」

竜王『チッ!!』

しかしもちろん竜王の意識は、
こうしている中も聖剣を放ってくる上条当麻へ。

魔剣が壊れようが身にダメージを受けようが、
上条を優先すべく追おうとする竜王。

そんな彼を執拗に妨害するネロ。

竜王が地を踏み切った瞬間、
逃がすかとばかりにデビルブリンガーで掴み落とし、レッドクイーンを叩き込む。

その一撃が複数のスパーダで防がれては、
数にモノを言わせて逆に押し弾かれ、再び逃れられそうになろうとも、
魔弾とデビルブリンガーを駆使してまた引き倒し―――

―――互いに身を顧みない壮絶な攻防を繰り広げていく。

4: 2012/05/16(水) 23:28:35.76 ID:f2pJ33CAo

無論、上条当麻もその外にいられるわけではない。

名実共に『主役』の座に立った以上、
格段に弱いからと手加減されるわけもない。

上条『―――ッ!!』

わずかな差で目の前に果てしない溝を穿っていく、
魔剣スパーダの極なる斬撃。

飛び散る閃光と石畳の破片、そのなかを駆けていく彼らへと、
次いで襲いかかってくるは空を覆いつくすかという光矢の雨。

スフィンクスの高速機動でなんとか回避しても、
至近弾による衝撃が二人を着実に蝕んでいく。

直撃はしなくとも、
この空間を満たす力の嵐には無傷ではいられなかった。

目に見えて消耗していく二人。

スフィンクスの速度が低下し始め、
回避行動が鈍りはじめてはより至近距離の光矢の炸裂を許し、
さらなる余波を浴びるという悪循環。

そして揺らぎかけているとはいえ、
不氏の身という竜王の優位性もいまだ効力が強く、
ネロの猛攻をもってしても徐々に上条へと接近。

突進してくるもデビルブリンガーによって引き倒される竜王、
それでも明らかに肉薄しつつあった。

5: 2012/05/16(水) 23:30:04.28 ID:f2pJ33CAo

破片と光の雨の中、
疾走するスフィンクスの背から上条は銃撃を続けはするも、
命中しているのかは全くわからなかった。

彼らの存在を覚える方向へと連射するも、
実際のところ、竜王とネロの動きに全く意識がついていかないのである。

だがこれだけははっきりとわかっていた。


竜王『―――上条当麻ッ!!』

上条『―――ッ!』

爆轟の中に混じる声が近づいてきていることは。

圧倒的な力の奔流と共に、
おぞましい殺気がすぐ傍にまで迫りつつある。
衝撃が重なるたびにより近く、より濃厚に。


―――彼がそう悟った時には、実際に状況はもう数段『先』に展開していた。

竜王の方が格段に行動速度が速いのだから当然のこと、
『その時』はすぐに訪れた。


瞬間―――これまででもっとも近い『至近弾』が上条達を襲った。

上条『ッがッ!!』

目の前を塞ぐようにして、まるで巨壁のように迸る赤黒い閃光。
魔剣スパーダの超大な斬撃。

あまりの近さに上条達の身も倒されてしまう。
ただし幸いなのは、またしてもネロの妨害によって、
この一撃が狙いを外したという事だ。

だだし今回ばかりは『それだけ』では済まなかった。


次いで竜王が降り立ったのは―――上条達の目の前だったのだから。

6: 2012/05/16(水) 23:31:13.91 ID:f2pJ33CAo

存在を認識するや、
スフィンクスもとろも横倒しになったままであっても上条は即座に発砲、
至近距離から聖剣を放つも。

竜王が素早く―――いや、彼にとっては特に急いだ動作でもなかったであろう、
右手にある魔剣スパーダを盾にしたことで、聖剣は全て防がれてしまう。

上条『―――くそ―――』

どれだけ連射しようが無駄だった。
いくら創造の加護を剥がそうとも、
魔弾そのものの威力では、スパーダの刃に傷一つつきやしなかった。

次にはどうなるか、上条は全てを察知していた。
直後には竜王の左手のスパーダで斬り殺されるのだと。
恐らくこちらが認識する暇もなく、氏んだことすら気付かない速度で。


だがこの時―――そんな氏を前にしていながら、上条は小さく笑った。


実は『もう一つ』の結果をも察知し、
そして今―――流れはそちらに傾こうとしているのを確信したからだ。

その最大の理由は竜王の背後、迫るネロだ。

7: 2012/05/16(水) 23:32:28.00 ID:f2pJ33CAo

このとき本来ならば竜王は、
ネロの接近などこれまで通り気にしなかったであろう。
レッドクイーンに断ち切られてでも上条を頃したはずだ。

だが今度ばかりはそうではなかった。

一足遅れに『ある悪寒』を察知した竜王、
上条殺害を中断してまで振り返った彼の眼に映ったのは。


ネロ「―――『コイツ』がそんなにおっかねえのか?!」


ネロの姿とその左手に握られいている金色の光剣―――ミカエルの聖剣だった。


これまで放たれたうちの一本を掴んでいたのである。
竜王の意識が上条当麻に集中しているのを逆手にとった行動だ。


竜王は、そのまま振り返りざまに斬り弾こうとするも。
生憎、彼の右手のスパーダは直前に創造の加護を失っており、
ここまでのダメージを修復できぬまま。

先に振り下ろされたレッドクイーンによってあっけなく破断され。

そうして防護策を失った竜王の眉間を―――


ネロ「―――そらよ!!プレゼントだ!!」


―――聖剣が貫いた。

8: 2012/05/16(水) 23:34:51.88 ID:f2pJ33CAo

直後、業火に焼かれる罪人のごとき咆哮が響いた。

まさに炎のように『像』がぶれる竜王、制御がくずれ、荒れ狂う力の渦。
過去の竜人たる姿と、現在のフィアンマの姿が交互に明滅を繰り返していく。

上条『―――ッ!』

そうした竜王の反応に、
上条は早くも身の内から湧く勝利の喜びを覚えていた。

なにせ効いたのだ。
ミカエルの聖剣が明らかに作用していたのである。

竜王の精神を一気に乱し、力の制御が困難な状況に叩き落したのである。


ネロ「はッ!お気に召したようで結構!!さっさと氏ね!!」


悶え苦しむ竜王へと、容赦なくレッドクイーンの追い討ちを叩き込むネロ。
スパーダごと切断される左腕―――しかし再生はなされない。


竜王『―――おッおおおお!!』


苦痛の叫びがより色濃くなり、
ついに竜王の魂も氏から逃れられない領域へ―――そのはずだったのだが。

上条が覚えていた勝利の喜びは、
次の瞬間にまたすぐに消失してしまう。


禁書『だめ―――足りない!』

スフィンクスの目から見ていたインデックスが告げたからだ。


禁書『―――――――――これじゃ干渉が弱くて!!精神を破壊しきれないんだよ!!』


ミカエルの聖剣、その作用が不完全であると。

9: 2012/05/16(水) 23:36:19.33 ID:f2pJ33CAo


上条『なっ……?!』

その意識内の声に、思わず上条は認識を疑いそうになった。
だが彼女の言霊には偽りなどはなく、
自身の認識も残念なことに正常。

彼自身も一足遅れに、目の前の現象から認めざるを得なかった。


竜王の左腕が再生を始めたからだ。
それだけじゃない、
力の混乱も徐々に収まりつつあるのだ。

確かに正常時のように、
フィルムをつなぎ合わせたかのように一瞬では再生しない。

だがそれでも、
ネロによる続けざまの損傷を上まわるには充分な速度で、
竜王の状態が復元されてつつあったのだ。

ネロ「―――Sit!!」

刃振りながらも悪態を付くネロ、

上条もまさに同じ気持ちだった。
勝利を確信した直後にそれがなかった事になるなんて、最悪以外の何ものでもない。

10: 2012/05/16(水) 23:37:54.85 ID:f2pJ33CAo

上条『―――くそっ―――』

今のままでは一時的に、
それも半端に機能不全に陥れるだけで、
決定的打にはなりえないのは明らか。

打開策、もしくは戦法の改良策を見出さねばならない―――

―――このような時こそ頼りになるのがインデックスである。

特にこの聖剣といった、複雑な機構には彼女の洞察と技能が真価を発揮するのだ。
かつてのアンブラの主席書記官の冠は伊達ではない。

そうしてこの時もまた、彼女はすばやく分析を完了しては、
的確に問題点と打開策を提示してくれた。


ただしその内容については―――二人にとってはとても安易に成せるような代物ではなかったが。


禁書『効力不足の原因は、所持者から離れたことによる処理の停止、それを解決するには―――』


続いた彼女の声は少しひきつり、
僅かながらに震えていた。


禁書『所持者が「直接」刺して―――ミカエルの聖剣の効果を完遂させること』


聖剣の効果を完遂させること、
つまりは過去と『同じ』―――ミカエルが竜王を滅ぼしたのと『同一のやり方』でなければならないということだ。


具体的には彼女の言葉通り、聖剣を右手にしたまま突き刺し、処理を行い作用を完遂させるのだ。

そして当然の事ながら結果も『同じ』になる。
竜王の精神が完全に崩壊し、
一方で聖剣の所持者も―――竜王と融合して――――――『道連れ』になる、と。

11: 2012/05/16(水) 23:39:19.41 ID:f2pJ33CAo

上条当麻、その名の少年は狂った正義の戦士であり、
目的のためならば己が身をも犠牲にしようとするいわば『善の狂信者』。


ゆえに本来ならば―――必要とあれば己の犠牲は迷わなかった。


だがこの時は違っていた。
上条は即断できなかった。


これによって犠牲になる存在が、上条だけではなかったからだ。


ミカエルの聖剣、その作用を完遂すると、
この身の内にある『全て』が道連れに飲み込まれるのだ。


上条当麻の魂はもちろん―――――――――『ここ』に『いる』インデックスの思念までもが。


上条『――――――』


その瞬間、まるで時が止まってしまったような感覚だった。


聖剣の稼動維持にはンデックスの力が必要。
しかし事を成してしまったら、魂が同化状態にある彼女も運命を共にしてしまう―――

12: 2012/05/16(水) 23:40:47.79 ID:f2pJ33CAo

これは上条当麻という少年の根幹を揺るがす『選択』だった。


――――――『アイツ』を殺そうとする『世界』なんざ―――全部―――ぶっ壊す――――――


力を求めた理由にして、
昔からこの瞬間までの戦う理由、その基盤には常にインデックスの存在があった。

突き詰めれば、今や彼女を守り愛することこそ彼の存在理由としてもいい。


だがそんな彼に、この最終手段は示していたのだ。


―――インデックスも氏ぬ、と。


これまで覚えたことのない驚愕と衝撃、
恐怖と絶望に襲われる中、上条当麻は認識した。


これぞ筋書き、宿命に抗うということの本当の意味―――『選択』であると。


全てにおける主役の座に立ったことにより、
彼の手中にも筋書きの存在を左右できる『究極の選択』が生じたのである、と。

そう、ネロやバージル、そしてダンテに突きつけられたのと『同じ』。
その者がその者であるがゆえに決して成せぬ形によって。


上条当麻にはこう提示されていた。


『最愛の者を道連れにしてまで―――筋書きに抗うのか』、と。

13: 2012/05/16(水) 23:42:26.78 ID:f2pJ33CAo

それはごくごく僅かな時間ではあったも、
上条当麻には永遠にも思えた間だった。

ネロ「―――離れろ上条!!」

状態を修復しつつある竜王と刃を散らすネロ。
しかし目の前で圧倒的な力が振るわれようと、
上条当麻は動かなかった。

ネロの声すらも聞えていなかった。

意識は全て内に向き、これまでにない速度で巡っていく。



インデックスは氏なせない。
絶対に、何があってもだ、そのためにここまで戦ってきたと言っても良い。

だがそうしてしまったら。
ここで彼女の命を優先すれば―――別の多くのものが犠牲になる。


これまでの『全て』が水の泡となり、真の意味を喪失してしまう。


古から続いてきた天魔人の関係、
天界の前世の家族達、人間界の人々、学園都市の仲間たち、

そしてネロ、バージル、ダンテの戦いと選択も。


多くの命が注がれた―――アレイスターの戦いも。


これら全てが無駄になってしまう―――


上条『―――』


――――――インデックスの戦いすらもだ。

14: 2012/05/16(水) 23:46:33.90 ID:f2pJ33CAo

インデックスの戦い、
過去と向き合い、そして受け入れた彼女の戦いも。

それだけじゃない。
ここまでの彼女との日々も、彼女と交差した想いも、
その全てが真の意味を失う。


二人の想いが重なったのは単に―――『筋書きにそうあっただけ』なのだから、と。


この愛情は―――与えられたものでしかない、と。


上条『―――……』

そこまで抉ってしまうと、
もやは上条とインデックスだけの関係に留まらなかった。
この世界の全ての人間の繋がりが、
かつてミカエルを魅了し、スパーダの心すらをも惹き付けた『人間の愛』が、


それら存在の全てが、
ここで筋書きに屈してしまうと―――『造られたもの』と決定付けられてしまう―――







―――そこに気付いた瞬間、上条とインデックスの意志は決定した。

15: 2012/05/16(水) 23:48:20.45 ID:f2pJ33CAo

決断は早かった。
これは賢明だったのかもしれない。
時間をかければかけるほど、このような苦悩は深みにはまってしまうもの。


ネロやバージル、ダンテと同じく―――二人は即断した。


禁書『……とうま―――』

意識ないに響く、穏やかで優しく。
まるで子守唄のような声。

上条『ああ―――』

上条も頷き、そして立ち上がった。


禁書『―――いこう』


筋書きに突きつけるために。
これまでの全てを価値あるものにするために。

スパーダが見た愛も、天界の家族達が知った愛も、
人間界にある全ての愛も。


この胸の中にある愛も。


筋書きを潰すことで―――全て『真のもの』、『自分だけ』のものであると。

16: 2012/05/16(水) 23:49:21.28 ID:f2pJ33CAo

ネロ「何してる?!離れ―――」

ネロの声を押しのけるようにして立ち上がった上条当麻。
その足は前に向いていた。

体も、顔も、そして盲目の瞳も。


その彼の姿を見て、ネロは完全に悟ってしまう。
具体的な部分はわからぬとも、彼が今何を行おうとしているかは。

ネロ「――――――上―――!!」

目の前で自己犠牲を敢行されると、
理由がどうであれまずは止めたくなるのが正義の心。

清き愛を知るネロもまたこの時、身を呈してまで上条を止めなければ、
という衝動に駆られてしまう。

しかし彼は動けなかった。
もう一つのこともわかってしまったからだ。


これが上条当麻の―――究極の選択であるのということが。


飛び出した上条を、ネロは止めなかった。
むしろ竜王の刃を弾き、デビルブリンガーでその体を押さえつけて―――


ネロ「――――――やれ!!」


そしてついに、上条の体が竜王に激突する形で。

かつてミカエルが行ったように。
彼の右手から延びた光刃が―――竜王フィアンマの胸に深く沈んでいった。

17: 2012/05/16(水) 23:50:49.56 ID:f2pJ33CAo

瞬間、ひときわ大きく爆発する竜王の咆哮と力。
姿がより激しく明滅し、
あまりの壮絶さに思わずネロも身を引いてしまうほど。


猛烈な閃光の嵐の中、上条は的確に処理を行っていった。

インデックスとの共同作業によって、
竜王の滅亡、そして『己達の氏』を組み上げていく。


上条『―――』


『生』への願望はあった。

二人で生きる未来は、もちろん夢見ていた。

意識の繋がりだけじゃない、
肌の暖かさが伝わる傍に寄り添い、共に過ごし、この世界の向かう先を見届け。

そしていつか子をもうけ、人並みに家庭を築き、子の成長を見守り。
一人前に成長した子が羽ばたいていく、そんな日を迎えることも。

だがそう心から願ったゆえに、何よりもそう願わせる愛を信じているがゆえに。
二人はそれらが叶わぬこととなろうとも―――前に進む。


禁書『―――大丈夫』


とはいえ、たった一つだけであるが夢は叶いそうだった。


禁書『何があっても私たちは―――』


上条『―――そうだ。一緒さ。どこまでも』


もう離ればなれになることは二度とないのだから―――

18: 2012/05/16(水) 23:52:39.87 ID:f2pJ33CAo





だがいつまで経っても―――二人の意識が融合する時は訪れなかった。


『氏』はやってこなかった。


上条『―――……ッ?!』


ミカエルの聖剣、その処理が全て終ってもだ。
二人は生きていたのだのである。

だがこのとき二人に降りかかったのは、氏を免れたという『幸運』ではない。
むしろその『逆』であった。


二人どころか、目の前の竜王すらも―――そのままだったのだから。


禁書『そ、そんな……―――!』


ここまできても聖剣の機能は―――不完全だったのである。

選択をしたのにその決断が反映されない。
突然のしっぺ返し、この痛烈かつ鮮烈な返答には、上条もインデックスも絶句してしまった。

全て完璧だったはず。
上条もインデックスも、互いに己の成すべき作業は正確にこなした。
ありとあらゆる情報をもとに、『現在の竜王』用に完璧に調整したはずなのに。


原因は、決して二人の作業ミスではなかった。

19: 2012/05/16(水) 23:55:01.81 ID:f2pJ33CAo

何が足らなかったのか。

知らない情報の欠落を、
事前に知ることが出来ればそれはもう『知らない情報』ではない。

知らないからこそ欠落に気付くことができず、
また実際に稼動させてからでなければわからないのである。

特にテストなど望めないこのような一発勝負の場ではそうだ。

ただ一度動かせば、欠落部分は実に簡単にわかるものでもある。
この時も二人は特に精査分析する必要はなかった。


少し前のアレイスターによる失敗の原因は、
竜王への認識が不完全であったことだ。

具体的に何が欠落しているかは別として、
実は上条達も彼とおなじ失敗を犯してしまっていた。

認識が不完全だったのだ。

では何の認識が欠けていたのか。


竜王『――――――は……はっははははは!!』

アレイスターとは違い、人間性は完璧に有している。
また現在の竜王の状態も、上条が同一体であったために誰よりも理解している。


竜王『そうだ!そうだとも上条当麻!』


だがたった一つだけ、彼には大きく欠けていた要素があった。


竜王『お前は俺様が―――――――――「視えてはいない」のだからな!!』


―――それは『視覚』である。

20: 2012/05/16(水) 23:57:34.84 ID:f2pJ33CAo

視覚の欠如はいくら他の四感と力で補えるとはいえ、
視覚そのものが存在しないことには変わりない。

上条にはそれが決定的に欠けていたのだ。


今この瞬間、嘲りの声を吐く竜王の顔が笑っているのも、
その笑みにどんな感情が含まれているのかもわかる。


しかしその『笑顔』だけは―――『映像』だけは、上条の中には存在しなかった。


ゆえに上条の竜王の認識は―――『不完全』。


それは言い換えればこうも形容できた。
『ミカエルとして』、つまりは聖剣の所持者としても不完全である、と。

当然のことながら、当時のミカエルは盲目ではなかったのだから。

そして筋書きの視点からはこうも言えただろう。
『選択肢』を手にすることは可能でも、選択の『決定権』を有するには役者不足である、と。


上条『―――ッ……!』

こればかりはどうしようもなかった。

聖剣所持者としての認識が必要なのだから、スフィンクスの目でも代用は不可能。
無論、ここにインデックス本人を連れて来ても無意味。
上条当麻の『本物の目』で見なければならないのだ。


そしてそのようなことは事実上―――二人がどうにかできることではなかった。

21: 2012/05/16(水) 23:59:10.77 ID:f2pJ33CAo

言葉も思考も失いかけてしまう上条当麻。

そんな彼とは対照的に、
今だ創造の機能不全に悶えながらも、竜王はこれでもかというくらいの笑みを浮べて。

竜王『―――そういえばだ、このような時に言うべき言葉があるじゃないか』

上条の胸倉をつかみ、引き寄せながらこう告げた。
いや、『言い返した』。

少し前に、『殺される』際に上条から受けた言葉を。



竜王『―――「不幸」、だとな!!はははは!!』



そして竜王は笑い続けた。
直後、飛び込んできたネロによってすかさず腕を斬り落とされ、
上条を手放してしまっても尚。


竜王『言っただろう!ここではお前は何も出来ない「カス」だと!!いや、たった一つだけある!!』

ネロの脇を抜けさせる形で、
吹っ飛んでいく上条の腹に―――赤き光矢を一本―――叩き込んで。


ネロ「―――上条ォォッ!!」



竜王『――――――犬氏することだ!無様にな!』




―――

43: 2012/05/22(火) 00:52:34.02 ID:0Xg6eH5Ho

―――

筋書きからは遠ざかり、
ダンテをはじめとする者達の手に納まりつつあった世界の流れの主導権。


それがこの瞬間、彼らから離れて再び―――不安定な宙空に漂いつつあった。


『主役』の危機、その影響は一気に伝播していく。
絶望の影となって世界に浸透していく形でも、また目に見える形でもだ。



ローラ「あぁ―――!」

神儀の間で響くのは、倒れこむ『妹』を抱き寄せた『姉』の悲痛な叫び。

これは単なる契約を超えた繋がりによる弊害の一つ、
上条当麻とインデックスの魂は余りにも密接すぎたために、
彼の腹を貫いた魔帝の矢は、彼女の魂にも達していた。

『姉』は言葉にならない声をあげては、小さな体を抱きしめてうずくまった。
弱まっていく生命力を胸にして、この命の生を懇願しつづけた。

一度氏に、故郷を失い、家族を失い、過去を失い、右腕まで喪失した『妹』。

だが運命はそれだけじゃ飽き足らず、今度は未来さえも奪い、
めぐりめぐって出会った最愛の者と共に滅べと告げているのだ。

しかもこれ以上ない無念の中で、と。

44: 2012/05/22(火) 00:53:33.38 ID:0Xg6eH5Ho

時同じくして、学園都市の一画では。

御坂「当麻ッ―――!」

映像を前に悲鳴に似た声を挙げてしまったとある少女。
たとえ善悪の判断が揺らごうと、心は素直に彼の危機に震えてしまう。

これこそ彼女が求めていた答えの一つ、
上条当麻に惹かれたのは彼が絶対的『正義』だったからではない、
彼そのものに惹かれたという証でもあるのだが、
今そこに気づく心的余裕はあるわけがなかった。

これまでの思考が飛び、意識は上条当麻の命のことで一杯。


これらの者達の想いこそ、『大いなる悲劇』を彩る一つの大きな要素である。


確かに、『添え物』でしかなかった少年が『主役』になったことは、
筋書きに反する上で決定打になり得る。

しかし逆もまた然り。

試みが失敗した際の反動もまた大きいものになる。
なにせ無念の中での『主役の喪失』だ、これほどの悲劇があろうか。


この状況における上条当麻の氏は、計り知れない影響力を有している。
筋書きを破壊する切り札である一方、
筋書きにもなかったほどの『悲劇』をも生み出しかねない、とんでもない爆弾にもなり得るのだ。

45: 2012/05/22(火) 00:54:58.19 ID:0Xg6eH5Ho

アレイスター「……」

御坂美琴の正面にいたこの男もまた、
その未知数の影響から逃れられることはできなかった。

それどころではない。
あらゆる糸が、彼を『筋書きに使い捨てられた』という立ち位置から引き剥がしつつあるのだ。

特に太い糸は二つ。
一つは、彼の戦いを引き継ぐと宣言し、
主役の座にまで達してしまった上条当麻のもの。

そしてもう一つは、こうしている今も抜け殻であるはずの魂を震わせる不可解な衝動、
そのきっかけとなった『ダンテの後姿』だ。

これについては単に影響されたというだけではない、
もっと重要な意味が含まれている。


このアレイスター=クロウリーが―――ダンテに救われた『最後の者』なのである。


とはいえ、あくまでダンテは補助しただけであっても
上条復活に手を貸してしまっているために正確にはこう形容すべきだろう。



ダンテの魂の熱が――――――『最後に飛び火した者』、と。

46: 2012/05/22(火) 00:56:54.83 ID:0Xg6eH5Ho

そのように魂を震わせる不可解な衝動をいまだ理解できぬ中。


アレイスター「……」


この男は何を視るか。

アレイスター=クロウリーから『戦い』を引き継ぎ、
さらにその先の筋書き―――宿命に挑んだ英雄、

ミカエル―――上条当麻の危機に、彼は何を思うか。

疑うことも怒ることも忘れ、
彼の危機に悲鳴をあげては涙ぐむ御坂美琴。

理想のための犠牲として、己がその未来を捻じ曲げた―――新世界の礎になるはずだった子供が涙する姿に、
このアレイスター=クロウリーは一体何を感じるか。

そして湧き出たその思いと感情の源の正体、
この不可解な衝動を理解したとき、彼はどうするのか。

それらはもう決まっていた。

上条でもダンテでもない、実は彼自身の魂がすでに決めているのである。
だからこそ拳が握られているのだ。


しかしこの通り依然、彼自身がそれに気付けないでいた。



なぜなら、『選択』が『重複』しまっているせいで。

47: 2012/05/22(火) 00:58:05.24 ID:0Xg6eH5Ho




ダンテ『―――』


兄と打ち鳴らす刃の音に混じって、嘆きが聞えていた。

意志を分け与えた上条当麻と、
契約したインデックスの魂の叫びが聞えてきていた。

それだけじゃない。
流れの中枢、分岐点にいるためにあらゆる声が聞えてくる。
背負ってる人間界の未来、その色が見えてくる。

直接的に二人の危機を見知っている御坂美琴やローラから、
より濃く広がっていく絶望に、無意識のうちに気力を失っていく数多の者達まで。


そして―――『魂の迷路』で立ちすくんでいるアレイスター=クロウリーも。


なぜ進まないのか。
なぜアレイスターが歩めないのか。
その訳ならば、ダンテは知っていた。

『選択』が『重複』してしまっているからだ。


単純な話だ。
こちらの選択が果される前に上条当麻の番が来てしまい、
流れが滞ってしまっているのだ。

言い換えれば、筋書きに代わる『台本』のうち、ダンテが書くべき部分がまだ完成しておらず、
次の執筆者を待たせてしまっている状態なのだ。

ゆえに上条当麻の選択が反映されず、
その先にあるアレイスターの『真の物語』も始まらない。


全てはここでの戦いが長引いているせいなのである。

48: 2012/05/22(火) 00:59:42.39 ID:0Xg6eH5Ho

ダンテ『―――Huh!!』

これ以上時間を消費するわけにはいかない。
結果が『どうであれ』、戦いを早急に終らせなければならない。


ダンテは更に戦いを加速させるべく力を求めていく。


体内で高まった魔の力が溢れ出た、赤黒い光と影。
いつしかそれらが体を覆い、超高密度の漆黒の『鎧』を形成。

隙間から漏れるのは、
ダンテの臨界点すらをも超えた力を示すマグマのごとき灼熱の光であり、
その圧倒的密度の前には、今のバージルのものであっても幻影剣程度では傷一つつかないほど。
非常に強固な『装甲』である。


ダンテ『YeaH-Hu!!』

            ドレッドノート
ただしこの程度の『 強 化 』ならば、今までもたびたび行ってきたもの。

この戦いでは、『今まで』と同じ水準では到底足りないのだ。
必要のなのはこの先、ダンテ自身でさえこれまで極力避けてきた次元の力。

彼はより深淵へと身を投じていった。


『真なる魔人』の領域に。


かつてマレット島における魔帝との戦いとは違い、『父』の『加護』が無いままの身で。

49: 2012/05/22(火) 01:02:09.82 ID:0Xg6eH5Ho

バージルと刃散らす中、ダンテの身の変化がさらに加速していく。

以前、魔剣スパーダを手にして真魔人化した際はその姿も父とほとんど瓜二つとなったが、
自力で変容した今回はその姿が大きく異なっていた。


ドレッドノート
『 装 甲 』が『肉』となり完全に定着、さらに手足先まで覆っては、鋭い爪を形成し。
僅かながらに残っていたコートなどの名残は完全に消失、全身は鱗状の漆黒の外殻に覆われ、
背から伸びるは蠢く光を湛える『翼』。

鱗状の外殻や刺々しさからも、父とは違い『竜』を思わせる姿である。

ただし特徴的な部分は共通していた。
スパーダのシンボルとしてもいい、後頭部から両側に湾曲して伸びる大きな角である。


ダンテ『―――Ha-!!Huuuuuuh!!』


翼広げて力の放散する弟、
その真魔人化を目の当たりにして、揺れるバージルの瞳の光。

彼が何を抱いたのかは、特に探る必要もなかった。
目に見えて『同じ変化』がバージルにも起こっていたからだ。


闇が色濃くなっていく光、そして全身を覆っていく青黒い光と影―――


そして兄の身にも、一拍遅れての変容が始まった。

50: 2012/05/22(火) 01:04:00.96 ID:0Xg6eH5Ho

この急速な変容は、スパーダの血の共鳴によるところも大きい。

互いが魔剣スパーダ代わりの起爆剤になってるのである。
刃を通して力を激突させるたびに、
刺激されて更に力が噴出してきているのだ。


人間の因子を全喪失し『純正の悪魔』となることで極限の域へ達する弟、その一方、
正義と愛を貫き通すことで同じ領域に達していく兄。


到達した姿形は大きく異なっていた。


竜を思わせるダンテとは異なり、バージルはかつてのネロアンジェロとしての姿と瓜二つ、
大きな変化は翼を生やした程度のものだった。

悪魔の姿とは、その存在の魂によって変化するもの。
それはもちろんこの二人にも当て嵌まる。
両者とも現在の魂の在り方が如実に現れていた。


バージルの姿を形成するのは、まさしくネロとの繋がりである。
今のバージルは、英雄的救世主である前に一人の『父』であるということなのだ。


一方ダンテの『竜』は、暴力と狂気と混沌の象徴である。


半身が祖を竜王とする人間界から生まれたために引き継いだ、人類の『闇』の部分。
人間性が全て消え去っても尚、
これだけはダンテの中に大きな影響力を有して留まり続けていた。

無論、彼が人間性への未練で残したわけではない。

単にここでは『役に立つ』からである。
時として人間の強欲的な闇は、悪魔的な狂気をも上まわるものなのだから。

51: 2012/05/22(火) 01:05:43.03 ID:0Xg6eH5Ho

激突する力の箍が外れていく。


真魔人の外殻の前にはもはや無駄として、
バージルは幻影剣を使わなくなったも、
戦闘能力は低下どころか格段に跳ね上がっていた。


青黒い稲妻混じりの次元斬が空間を断絶し、界に『穴』を開けていく。
文字通りの『穴』だ。

頑丈な魔界ゆえにすぐに自然とふさがりはするも、ただの一太刀で、
それも『一撃もの』ではなく連斬りで放たれる程度のもので、
大きく虚無を覗かせるほどの破壊力なのだ。


ダンテにとっては、もう魔具で受けられる太刀筋ではなかった。
それどころか、真魔人化したダンテそのものに魔具達が適応できなくなりつつあった。

バージルの刃と激突する以前に、ただ振るうだけでひび割れていくのだ。

そのために、魔具を使い潰す速度が爆発的に加速していく。
使い手と半同化する性質のギルガメスはこのような点に関しては耐性があるが、
それでもやはり目に見えて刻まれていく消耗。

この使い手の力から免れていたのは、
彼の『主剣』たるリベリオンの他には四肢の拳銃のみだ。

バージルの幻影剣と同じように、ダンテも魔弾の使用を控えていたからである。

52: 2012/05/22(火) 01:06:55.04 ID:0Xg6eH5Ho

だが。

これほどの戦いであっても、
ダンテにとってはまだ足りなかった。

ダンテ『―――』

もっと、もっと戦いを加速させなければ。

現状で流れが滞ってしまっている以上、
『スパーダ対魔帝』の構図を演じるだけでは不十分なのは明らか。


その『前例』を超える、未知なる領域の戦いにしなければ―――


―――そうして彼はさらなる闇へ踏み込んでいく。


今度こそは、バージルですらもついて来れない領域。
英雄であり救世主である以上、絶対に踏み込んではいけない次元。

なにせここから先は―――自我を保つことすら危うい世界。

もう何かを『守る』ことに使える水準ではない。


ゆえにダンテ自身がこれまで己の安全、
そして何よりも人間界の安全のために、決してこの『最深部』には直接触れなかった。

父から受け継いだ災いの基にして力の根源、『破壊』の『コア』には。

ダンテはそれを完全に解き放ち、
『片割れ』から『完全体』へと昇華させ、そのまま内包するつもりだった。


かつてスパーダですらも震撼し、自らと魔剣とに分離させた『破壊』を『まるごと全て』、だ。

53: 2012/05/22(火) 01:08:20.17 ID:0Xg6eH5Ho



解き放たれた『破壊』が、彼の内側を塗り潰していく。


次々と手にしていく魔具、
これまでは閻魔刀に対する盾として使い潰していたそれらを、
『本物の怪物』へと変容していくダンテは―――


ダンテ『―――More!! I need more power!!』


―――今度は『喰らい』始めた。

役に立たぬのなら、『糧』にするのみ、と。

魔具を手にとっては、握りつぶして光の中に取り込んでいく。
マグマのごとき輝きに飲まれていく様は、
まさに溶鉱炉の中に放り込まれていくかの如く。


ダンテ『―――Look at me!! Vregil!!』


魔具の力を次々と自身の中に注ぎ込みながらダンテは笑った。
重くエコーがかかり、共鳴だけで煉獄が引き裂かれんばかりの声で。


これがスパーダの、いいや、スパーダすらも恐れた―――『破壊』の行き着く様であると。

54: 2012/05/22(火) 01:09:35.17 ID:0Xg6eH5Ho

もう止まらない、後戻りはできない。
瞬く間に増大していく力が更なる力を求めて蠢き、
何もかもを破壊し殺戮しては、次なる破壊への糧とする。

敗者や支配化のものを喰らってその力を糧にするのは、
魔界ではごく当たり前のことだ。
むしろ大悪魔のほとんどが、そのようにして頂点にのし上がってきたのである。

しかし当たり前の現象とはいえ、
ダンテのそれはもはやスケールが桁違いだった。


彼は『全て』を瞬く間に食い尽くした。

ゲリュオンからイフリートまでの、馳せ参じた全ての使い魔と友を。
そしてナイトメアβやアルテミスのような呼応してくれた魔導兵器も、

パンドラといった規格外の存在まで。

もちろんエボニー&アイボリー、トリッシュから預かったルーチェ&オンブラも、
ギルガメスごと飲み込んでしまい。



挙句には―――リベリオンすらも。



ダンテ『HaHa―――!!』


ひときわ響く笑い声をあげ、これみよがしに両手でリベリオンをかかげて。


兄の眼前で、弟は自らの胸を刺し貫いた。

55: 2012/05/22(火) 01:10:39.39 ID:0Xg6eH5Ho


そのようにしてついに、ダンテという唯一無比の『怪物』が完成する。


激しい力の奔流の中、最後の変化を遂げる姿。

スパーダ一族の特徴的な湾曲した角の他に、もう一対。
今度は額から―――天頂に伸びる長い角。


そして取り込んだリベリオン、身を貫いたその切っ先が変形して―――『尾』となる。


背骨のように歪で刺々しく、
先端から蠢く溶光を散らす尾だ。

悪魔として、破壊者として、かつてのスパーダを『完全』に超えた瞬間だった。
ダンテという存在が、史上最悪の『災厄』として確定した瞬間だった。

ゆえにこの戦いも『スパーダ対魔帝』という枠を更に飛び越えて、
まったく新しい意味を宿すこととなる。


ここまで達して、ダンテはようやく満足した。
これならば、もはや流れも停滞し続けることはできないはずだと―――

56: 2012/05/22(火) 01:11:48.21 ID:0Xg6eH5Ho

ここまで変化したとはいえ、
究極の一の刃を有すバージルには百の刃で挑む、
というダンテの基本的な戦術は変わっていはいなかった。

変わったのは、それら百の刃はいまや馳せ参じた盟友ではなく、
ダンテから直接生み出されるということだ。


身の『中』にあらゆる魔具と使い魔、魔道兵器の特性と力を溜め込んで、
ダンテはバージルに再び挑んでいく。

右手に出現するは、蠢く溶光で形成された剣。
その刃は炎や疾風、雷などをも同時に宿す『百』の力の結集体。


一振りすれば、爆発的な雷撃がカーテンとなり、
界を切りさく次元斬すらをも押し留め。

また一振りすれば、赤黒い業火の斬撃が、
風の刃たる『かまいたち』を引き連れて空間を破断していく。


そして閻魔刀と直接激突しても、
もちろん時の腕輪の効力は逃れられぬも―――多種多様な力が何層にも重なっているため、
刃を数合重ねただけでは芯はびくともしない。

57: 2012/05/22(火) 01:13:11.78 ID:0Xg6eH5Ho

それにこれはもともと実体なき魔剣。
身から溢れ出る無限の力を形にしただけであるため、
代わりの品はいくらでも作れるのだ。

ただし、至近距離にて超高速で斬り合い、
閻魔刀と何十も衝突を重ねるとさすがに刃は破壊されていく。

それを認識すると、ダンテは飛び退きながら剣をバージルへと放り投げ、
―――ルシフェルから奪った力で『起爆』。

次いでまた右手に力を集束させては刃を形成しつつ、
左手を爆炎切り裂きいてきた『蒼き真魔人』へと向け。

その肘から先をパンドラから奪った力で、
大砲へと変形させ―――大木のごとき光線を放つ。


ダンテ『―――HaHa!! Sweeeeet!!』


そしてそれすらをも斬り弾いた兄へと、また刃を叩き込んでいく。
この純粋な『破壊』衝動に身を任せ、歓喜の声を挙げながら。


何もかもを超えた二つの刃の激突。
二人の戦いを受け入れて無傷でいられる戦場はもうどこにもなかった。


ベヨネッタの世界の目を要とした結界がなければ、
あの神儀の間にいる者達も影響を免れなかったであろう。

ここ煉獄ですらも、崩壊の兆候が見え始めていたのだ。

58: 2012/05/22(火) 01:15:38.34 ID:0Xg6eH5Ho

魔界の構造をも破壊するほどの力が用いられた戦いは、
前回の『創世』から数えてもこれまで『二例』しかなかった。

一つ目はジュベレウスと三神の戦い、
二つ目は、魔界の力場がクイーンシバとして放たれたベヨネッタとジュベレウスの戦い。

そこに今、三つ目としてこのバージルとダンテの戦いが加わる。

それも単純に規模だけではなく、
創世主の敗北と氏滅という前二回の持つ『意味』にも肩を並べてだ。


ダンテ『―――Yeah-HA!!』

戦いが長引けば煉獄どころではない、
二人の放つ力はいずれは魔界すらをも破壊してしまうだろう。

それだけにとどまらず、余波が他全ての世界をも飲み込んでいく。

魔界を砕くほどの力なのだ、これほどの災厄の前には、
他のいかなる世界であろうとも塵に等しい。

そして訪れるのは、真の『終焉』である。
執筆者がいないために、新たな現実が紡がれることも二度とない。


創世主の因子の一つ、『破壊』の暴走が最終的にもたらす完全なる『無』である。


だがそんな最悪の未来、いや、未来の完全消滅を招きよせるのと同時に、
全く新しき未来への道も生じるのだ。

これはエンジンなき『翼』を、長い坂へと押し落とすようなもの。
そのまま滑り落ち続ければ壁に激突し木っ端微塵、
しかし加速すれば―――飛び立つことも可能となるのだ。

59: 2012/05/22(火) 01:16:56.70 ID:0Xg6eH5Ho

ダンテはその『翼』を坂に押し落とし、
滞っていた『流れ』に波を起こしていく―――


ダンテ『Ho-Huh!!』

これほどにまで激突を重ねていると、
やはりどれだけ刃を換えようとも、時の腕輪の作用を完全に排することはできなかった。

力の停滞だけではない、効力が魂にも浸透し始め、
時間感覚の遅延が起こり始めてきているのだ。

ゲリュオンから奪った力で自らにブーストをかけるも、
それでも誤魔化し切れなくなっていく。

今のところは形勢が明らかになるほどではないものの、
ダンテは徐々に反応が遅れ、無用に力と手数を消費してしまいつつあり。


ダンテ『―――』

ついに一刀、受けてしまう局面にまで達した。

バージルへと振るった刃が完璧に受け流されてしまい。
擦れ合い、入れ違いに滑りあげられてきた閻魔刀が―――ダンテの右脇へと叩き込まれたのである。

『幸い』、その一撃は致命傷にはならなかった。
ダンテの魂へは届かなかったのだ。

しかし無傷でもなかった。

              ドレッドノート
閻魔刀は、真魔人の『 装 甲 』すらをも一刀で斬り砕いていたのである。

60: 2012/05/22(火) 01:18:49.10 ID:0Xg6eH5Ho

外殻を固めている力は何層にもなってはいるも、
それでも真魔人の振るう閻魔刀の直撃には耐え切れない。

また時の腕輪の作用により、修復も不可能。

そして同じく蓄積されてきた作用による時間感覚の遅れで、
剣技で対抗するのも徐々に厳しくなっていく。

だが浮き彫りになっていくのは不利な点だけでもない。


ダンテ『―――Yeahhhh!!』


お返しとばかりに叩き込む渾身の突き。
その一撃はこれまでどおり、素早くかざされた閻魔刀で防がれてはしまったも、
バージルを実に100m近くも後方へと押し弾いた。

これまで膂力は兄が勝っていたところを、
今は弟が遥かに凌駕しているのだ。
それだけじゃない、完全解放した破壊により、
ダンテはあらゆる出力面でバージルを圧倒しているのである。


ゆえに、ダンテが劣勢であるという形容は適してはいない。

むしろこう言うべきだろう。


史上最悪最強の『怪物』を相手に、バージルが技で立ち向かっている、と。

61: 2012/05/22(火) 01:21:08.04 ID:0Xg6eH5Ho

その『困難』に立ち向かう英雄へと、
『困難』そのものであるダンテは襲い掛かっていく。


魔剣を次々と放っては新しく作り出し、
漲る力に任せてハンマーのように打ちつけ、鋭い尾で掃い切る。

あまりのパワーにバージルですら姿勢を崩しはじめても、
一切手加減しないまま。
そうした中でもバージルも怯まずに、
目にも留まらぬ剣捌きでダンテの外殻を削り飛ばしていく―――


この壮絶なる戦いの中、ダンテにはたった一つ確信できた好ましい点があった。

長引くことによって訪れる無の『終焉』や、
それ以前のベヨネッタによる保持の時間切れも、確実に回避可能になってきたということだ。


なぜなら互いに―――もう限界に達しつつあったのだから。


ただし『限界』というのも、二人が体力的にもたないのではなく、
『状況』がもう二人の『結末』を先延ばしにできないということだ。

何もかもを超えた力が拮抗状態を生み出していはいたも、
ついにそれすらをも―――強烈な『殺意』は超えたのである。

62: 2012/05/22(火) 01:24:30.11 ID:0Xg6eH5Ho

双方の壮絶な猛攻により、
双方に『隙』が生じ、
双方がそれを見逃さなかった。

戦いの結末はもうすぐそこにあった。
決着が目前に迫っていた。


その『終わり』へと二人は飛び込んでいく。

シナリオを書き上げて、
順番待ちしている執筆者へとすぐに届けるべく。

そしてこの轟く刃の音で、
流れへと響く魂の叫びで、


今だに目を覚ましていない執筆者をも叩き起こすべく。


互いに弾きあげた刃、そこから返される次なる一手がついに幕を引く。


『―――Dante!!!!』



『―――Virgil!!!!』


前へと同時に踏み込む二人。
咆哮が交差した直後、刃も交差しては『すれ違い』、
そのまま突き進んでいき。







そして戦いは終る。


―――

63: 2012/05/22(火) 01:26:21.37 ID:0Xg6eH5Ho
―――


最期の刃の音は、この停滞しかけていた流れに波紋を起こし。


魂の最期の声は、確実に次なる執筆者にも届き。


ダンテが最期に灯した火が、ついにある男の魂を炙り照らし、
奥底に潜んでいた存在を明るみへと引き出していく。


アレイスター『―――…………』

響く熱き鼓動とともに、彼は気付いた。

上条当麻の危機に、絶望と悲しみに瀕する御坂の姿、
それらを目にしては魂を揺さぶる、この不可解な衝動の正体に。



『例え氏んでいようが、意志を与えれば、または影響を受ければ、
 ただの残骸の力であろうがある程度の意志を宿せるのだよ』

少し前に竜王が口にした言葉、これは正しかった。
否定の余地がなかった。
なぜなら、こうしてアレイスター自身が心潰えて空虚となろうとも、
この肉体から発せられるAIMには―――しっかりと『心』が宿っていたのだから。

それもアレイスター自身のもの『だけ』ではない。


この肉体と能力の『元の主』までがいた。
風斬氷華のように意志を宿すAIMとなり、この胸の奥底に。

64: 2012/05/22(火) 01:27:31.00 ID:0Xg6eH5Ho

能力に、AIMに、生前の彼女の心が宿っていてもおかしくは無い。
いや、AIMを辿って深き真理まで到達したのだ。
刻まれていて当然だ。


アレイスター『―――君が……』


魂を失おうとも、『彼女』はここにいた。
この『目』の主は、氏した後もこの『目』から世界を見続けてきたのだ。
ずっと一緒にいたのだ。

それなのに気づけなかった。
こんなに傍にいてくれたのに。

しかも見守っていてくれただけではない、
『あるもの』まで守り続けていてくれたのだ。


アレイスター『………………』


彼女を失う前、この肉体を受け継ぐ前、
『エドワード・アレグザンダー・クロウリー』として生きていた時代の純粋な心を。

65: 2012/05/22(火) 01:29:51.58 ID:0Xg6eH5Ho

お前の真の望みは復讐である、そう言ったのはアリウスだ。
それもまた正しい。

60年前、敗北して妻を失った瞬間から、
戦う理由の根底が入れ替わってしまっていたのだ。

かつて抱いていた理想に気高き意志ではない、
復讐へのどす黒い執念が第二のプランへと彼を突き動かしていったのだ。
しかも人間性を放棄したとして、それを自覚することもなく。

そのためこのプランの結果は決まっていたも同然。

事実上、学園都市を生み出すことになる第二のプランを始動させた瞬間から、
ミカエルの戦いを、彼の理想を引き継ぐ資格を―――喪失してしまっていたのである。


アレイスター『…………』


しかしその喪失したはずのものが、ここに遺されていた。
丁寧に彼女の能力の奥底に包まれていたのだ。

かつて純粋に理想に燃えていた時の―――彼女と歩んでいたころの、
熱き青年時代の魂。

                           セレマイト
エドワード・アレグザンダー・クロウリーの『真の意志』がここに。

66: 2012/05/22(火) 01:31:11.07 ID:0Xg6eH5Ho

赤き魔剣士が遺した最期の種火が、彼に道を照らし示す。
だがここから先、その道を歩むのは当人の意志と力でなければならない。

『アレイスター=クロウリー』は今一度、この取り戻した『真の意志』を胸に問い直す。


なぜ、ミカエルの理想に惹かれ、
なぜ、それを引き継ぎ果そうと決意したのか。


なぜ若き青年は戦う決意をしたのだ。


『エドワード・アレグザンダー・クロウリー』は答える。


それは過去の影に延々と翻弄される人間界を解き放つためだ。
人間達の未来を、闇から遠ざけるためだ。

そう―――


御坂『当麻ぁっ―――!』


このように人々に膝をつかせ、
絶望の底にて魂を嘆かせる―――非業の連鎖を断ち切ることだ。




その頬を伝うような――――――涙を止めることだ。

67: 2012/05/22(火) 01:33:07.80 ID:0Xg6eH5Ho

アレイスター『―――…………』


原点回帰し、自らの真の意志を取り戻した『エドワード・アレグザンダー・クロウリー』。

事実上60年間停止し続けていた彼の時間が、
こうしてついに再び刻まれはじめる。


真の意味で、ミカエルの理想を引き継ぎなおしたのだ。


筋書きから彼を脱線させたきっかけは、確かにダンテに救われた瞬間である。
しかしこの歩みは、紛れもなくこの男だけの意志によるもの。

筋書きに使い捨てられ処分されるはずの『駒』、
その宿命を拒絶したのは彼自身に他ならない。


アレイスターは歩み始めた。
御坂美琴を横目に、妻のしなやかな足で歩を進め、
そして行き着いたのは白銀の魔獣、ベオウルフの顔前。



ベオウルフ『……我に何を捧げ、何を望むか。愚かな人間よ』


厳かなる巨獣の言霊に、
彼はその大きな顔を見上げながら、こう答えた。



アレイスター「―――『彼』が欲すところを捧げ、『彼』が欲すところを望む」



―――

68: 2012/05/22(火) 01:34:12.09 ID:0Xg6eH5Ho
―――


腹を射抜かれ、
石畳の上を跳ね転がっていく上条当麻の体。

もはや刃は通じはせず、この場における存在価値を喪失した彼には、
竜王の言葉通りそのまま氏を迎えるしかなかっただろう。

愛する者と共に無念と絶望の中でだ。


彼の力が至らなかったせいではない。
彼の勢いが速すぎただけなのだ。

周りが遅れてしまっていたために彼の行動は空回りしてしまい、
氏の罠へと飛び込んでしまったのである。


そうしてこのまま、
上条当麻の意識は静かに暗き底へと沈んでいき、
魂の灯火が燃え尽きるところだったが。


上条『―――ッぐ…………!』


―――突如、悪魔の父から流れ込んできた熱き濁流が、静かな入眠を遮った。

そして瞬く間に全身へと火が回っていき。

もう指先を動かす力すらなかったはずなのに、
その魂の炎に操られるかのように―――上条は手をつき、起き上がった。

69: 2012/05/22(火) 01:35:20.40 ID:0Xg6eH5Ho

己の体ではない、別の何者かに『乗っ取られた』かのごとき感覚だった。


だが上条は抗いはせず、
むしろ歓迎した。


彼にとっては救いに等しかったからだ。
この熱き魂の正体はわかっていた。
思念も流れ込んできているためにわざわざ思考を巡らせる必要もない。


同時に上条は理解する。


己の選択が反映されなかった『直接的』な原因こそ、これなのだと。

この『戦い』は、『己だけのもの』ではなかったのだと。
この『選択』も、『己だけのもの』ではなかったのだと。


そしてついに今、その足りなかった『役者』と『パーツ』が揃ったのだと。



『選択』を完了させる上でも、そして―――――――――聖剣の効果を完遂させる上でも。

70: 2012/05/22(火) 01:36:02.93 ID:0Xg6eH5Ho

右手で魔帝の矢を砕いては、
近くに落ちていた銃をふたたび手にして、上条は呟いた。


上条『……良いぜ――――――』

血まみれになり、
氏の淵にありながらも不敵にきらりと笑みを浮べて。

そして無様に身を軋ませ、
這いずるようにしてなんとか身を起こしながら。



上条『―――このふざけた「現実」をぶち壊してやろうぜ。アレイスター』



立ち上がり、血飛沫と共に声を張り上げた。



上条『インデックス!!―――ネロッ!!』





上条『――――――もう一度だ!!』

71: 2012/05/22(火) 01:38:10.37 ID:0Xg6eH5Ho

立ち上がり、右手の銃先から再び聖剣を伸ばしての言霊。
その意図は誰にとっても明らかだった。

ネロ「―――!」

竜王『―――』

もう一度、ネロの援護のもとで聖剣を竜王に突き立てる気だと。

隠匿する気が欠片もない言霊は、即座にネロの理解を得るも、
同じくして竜王の知るところともなってしまう。


いくら己を倒しきるほどの効果がないとはいえ、
創造に大きな障害をもたらす点は変わらないため、
竜王が刃をみすみす受けるわけもない。

抵抗は必至、
それどころか更なる殺意と暴力に見舞われることになってしまう。


竜王『はッ!!道理すらも理解できぬ哀れな盲者が!!』


すかさず翼を広げては、
怒りと嘲りを露に矢の弾幕を放つ竜王―――それらはまたもやネロによって妨害、
今度は翼ごと斬り落とされて、一本の矢をも上条へと向かわせずに済ませたが。


それ以上は、竜王を押し込めることはできなかった。
今やネロの猛撃をもってさえも、
再び上条が聖剣を刺せるほどにまで押し切ることができなかったのである。

竜王の力はそれほどまでに肥大していた。

72: 2012/05/22(火) 01:39:15.91 ID:0Xg6eH5Ho

絶えず振るわれてくる魔剣スパーダの連撃の中で、
ネロは判断の岐路に立たされていた。

ネロ「―――チッ!!」

先のような意識の隙間を付く手が通用するとは思えない。
それ以前に、上条には余分に聖剣を放つ余裕は明らかにない。

では力ずくで押し留めるしかないも、
両手に加え周囲を浮遊する十本の魔剣スパーダがそれを困難にしている―――

そこまで瞬時に巡ったネロの思考は、とある結論に至った。

複雑な策を考える必要も、そもそもそんな猶予もなかった。
極限の状況における常道、最終手段の一つをとるしかない、と。


―――肉を斬らせて骨を断つのだ。


そこからのネロの動きは、これまで以上に淀みなきものだった。

身を駒のようにして捻っては、立て続けに魔剣スパーダを振るう竜王。
その二つの刃を撃ち流したあとに更に続く、
瞬時に再生した翼の薙ぎ振るい。

そしてそれらが過ぎ去ったあとには竜王の背がこちらに向くも、
通常ならばここに攻撃を叩き込む隙はなかった。

立て続けに今度は、周囲の魔剣スパーダが飛来してくるからだ。


この状況でネロにある選択肢は、
脇へと飛び退くか、それともデビルブリンガーとレッドクイーンで防ぐか―――


だがこの時―――彼はそのどちらもしなかった。


周囲の魔剣には目もくれずに―――竜王の背へと突貫したのである。


そして突き出されたレッドクイーンの刃が、竜王を背から刺し貫いたの同時に。
ネロの背を魔剣スパーダが貫いた。

73: 2012/05/22(火) 01:41:03.78 ID:0Xg6eH5Ho

そうして拘束は成し遂げられた。


しばらくすれば抜け出されてしまうだろうが、
圧倒的なレッドクイーンの刃は、一時的ながらも竜王を制することに成功したのだ。

竜王『―――馬鹿な真似を!!見損なったぞスパーダの孫よ!!』

代償にネロも致命傷を受けてしまったが。
しかし彼は特に苦痛の色を浮べることもなく、
けたたましく響く耳障りな声に、まあ見てろ、と背後から軽く口笛を届けた。

竜王『お前の目は節穴か!!ネロ!!何を見ていた?!俺様にミカエルの刃はもう―――』

対し、一層嘲りの色を強めていく竜王の言霊。
だがそうした自信も、次の瞬間には―――その声のつまりと共に霧散した。

こちらに向かってくる上条当麻を見たからだ。

厳密には彼の―――


竜王『――――――その―――目は―――』


―――瞳を。


上条『ああそうさ――――――』


『ホルスの目』、『アレイスター=クロウリーの目』を。




上条『――――――てめえが「視える」ぜ!!』




次の瞬間、動くことが出来ぬ竜王の胸に沈む金色の聖剣。
そこから発揮された作用は、今度こそ完璧なものだった。

そう、最初から『最期』まで全てが。

74: 2012/05/22(火) 01:42:40.67 ID:0Xg6eH5Ho

認識は完璧だった。
一切の非の打ち所がなかった。

竜王の姿はぶれることはなく、『フィアンマ』のもののまま。
この目に見える通り、聖剣が『現在の竜王』に完全に適合している証だ。

そしてこの一刀が有するもう一つの側面、
筋書きに抗う『選択』も、今度こそは完全に果されつつあった。

これまでの停滞がうその様に、
流れはまた大きく動きだす―――


竜王『―――そんなはずが―――こんな―――!!』


上条『―――どうしたフィアンマ!!今まで通り笑えよ―――!』


向かい合う二人の表情は両極端だった。

片や望まぬ終幕を前に、敗北感と悔しさと絶望に包まれた顔。
片や全てを成し遂げた、勝利に浸る男の安寧の顔。



上条『それとも――――――不幸だと言いたい気分か?!』




竜王『―――この―――!!!!』



その後に続いたのは、筆舌に尽くし難い罵詈雑言の嵐。
だが上条にとってはもう、心地の良い勝利の歌にしか聞えなかった。

75: 2012/05/22(火) 01:45:24.05 ID:0Xg6eH5Ho

そうした『歌』の中、
絡み合い、溶け合っていく黄昏色と金色の光の奔流。

上条は意識とあらゆる知覚が鈍っていくのを覚えた。

せっかく再び光を目にする事ができたのにすぐまた消え去る、
その点は実に惜しいも、
それでも最期の最期に五体満足に戻れるとは、嬉しいことには変わりない。



それどころか、とあるもう一つの贈り物にはアレイスターに頭を下げたい気分ですらあった。


彼はインデックスにも―――ベオウルフとの契約を介して、『右手』を捧げたていたのだ。


傷が飾りにもなる男とは違い、インデックスはれっきとした女性だ。
彼女がどう思おうが、上条にだって『人並み』に、
恋人にはせめて傷なき美しい体のままで欲しい、という思いはあるものだ

そうしたことからも、この彼の気配りは非常に嬉しかった。
あのアレイスターのすることとはとても思えない、いいや―――


―――もともと本来の彼、60年前までは、きっとこのように人を思う優しき男であったに違いない。


むしろ『優しすぎる』ほどだったはずだ。
そうでもなければ、このミカエルの『青臭い理想』に釣られはしなかっただろうから。

76: 2012/05/22(火) 01:46:45.99 ID:0Xg6eH5Ho



竜王『―――上条当麻ァァァァァァァァァァァァ―――!!!!』


最期に外界から聞えてきた音は、
憎しみに満ち溢れた咆哮だった。

間違いなく断末魔、
最期の言葉にこちらの名が選ばれるとは、勝者としては誉れ以外の何ものでもない。


その痛快な叫びを耳にし、
上条は今度こそ、己に訪れる永久の眠りを受け入れた。
インデックスの存在を掴んだまま、彼女の『右手』を握り締めたまま。

例え肉体は遠くとも、この繋がりから覚える温もりをしっかりと抱きとめたまま。

彼女の弱まる鼓動を聞きながら、
彼女の小さくなる吐息を感じながら。


彼はとうとう沈んでいった。


視界が再び暗転し、意識が断絶する寸前にたった数語だけ、
内から『あの男』の声を耳にして。




「―――これは、私の戦いだ」



―――

77: 2012/05/22(火) 01:49:09.82 ID:0Xg6eH5Ho
―――




上条当麻の体が力なく崩れ落ちた。
糸が切れた操り人形のごとく、冷たく無機質な動きで。

ネロ「―――」

そしてその一拍後にはもう、竜王も『壊れていた』。

スパーダに貫かれながらも身に鞭打ち、
すばやくレッドクイーンを引き抜くネロ。

解放されたにもかからわらず、
『竜王だったもの』はぼうっとその場に立ち、亡霊のようにおぼろげに蠢き続けていた。


ネロ「…………」

一目瞭然だった。
『これ』の精神は完全に『融解』、
創造、具現、破壊、それらもあとかたもなく崩壊。

『これ』は今や『ただの力の塊』だった。

このまま放っておくと、じきに暴走した力の塊の『爆弾』に変ずるだろう。
前回は、それで人界神域を貪りつくしたらしいが、
三神の力を宿す今回はそれどころではないはずだ。


みすみすそのような事態を招く必要もない。

ネロは躊躇うことなく動いた。



レッドクイーンを振り上げ、重々しくも的確に一刀。



亡霊を斬り倒し、ケリをつけた。

78: 2012/05/22(火) 01:50:44.46 ID:0Xg6eH5Ho

創造なき今は修復されるわけもない。
具現なき今は、他者の記憶をもとに復活することもない。

縦一閃にかっ捌かれた亡霊は、両断片とも倒れては砕けて霧散。
すぐに跡形もなく消滅した。


ネロ「…………」

全能の座を欲し、至上最悪の災厄となろうとしていた男にしては、
随分と寂しく、あっさりとした終り方だろう。

もっとも、戦いの終わりとは基本的にそういうものである。
あのアリウスですら、最後はたった一発の銃弾で散ったものだ。


そして苦い一味が残るのも常。

ネロは静かに―――動かなくなった少年の傍へ歩み、
剣をそばに突き立てては屈んだ。

そして無様に転がっていた体を動かし、ある程度の姿勢に直しては、
黒き拳銃を彼の胸に乗せ、両手をその上に組ませて。


ネロ「―――」

何か弔いの言葉を口にしようと、すうっと一呼吸したところで―――厳かな空気が一変した。


ネロ「はっ―――ははっ―――」


この時起こったある現象に、
ネロは思わず間の抜けた笑い声を漏らしてしまった。


『氏体』が―――



上条「―――ッ……う…………」



―――もぞりと動いたからだ。

79: 2012/05/22(火) 01:52:29.44 ID:0Xg6eH5Ho

ネロ『―――はっははは!!上条!!てめえこの野郎!!』


自らの傷どころか上条の傷すらも気に留めず、
彼の胸を強く叩いては笑い散らすネロ。


その騒がしい衝撃に、
おぼろげだった上条当麻の意識も覚醒せざるをえなかった。


上条「―――……お、俺は…………?」


ネロ『ははッ!!どうなってんだ!てっきりクタばったと思ったぜこのクソガキ!!』


上条「…………」

上条自身、どうして己が生きているのかわからない。
ただし徐々に思考が落ち着いてくるや、
その理由はするすると明るみの下に出でてきた。



『―――これは、私の戦いだ』



最後に聞いたあの男、このアレイスターの言葉が、実に明確に示していた。

文字通り、この戦いの『席』を彼は『奪い返した』のである。
端的に言ってしまえば、上条当麻は彼の『代役』になってしまったということだ。

80: 2012/05/22(火) 01:54:12.19 ID:0Xg6eH5Ho

アレイスターの意志が流れてきた瞬間、
実は『乗っ取られたよう』、ではなく本当に乗っ取られていたのだ。

全ての主導権を、ベオウルフが一時的にアレイスターに与えており、
彼は『飲み込まれる直前』に、こちらを一時的に仮氏状態、
別の言い方をすれば、
悪魔が重度の傷を癒す際のような『冬眠』状態にしてしまったのである。


当然、こちらの魂の活動が凍結すれば、
インデックスとの接続も一時的に凍結される。



そして残ったアレイスター=クロウリーが―――竜王とともに消え去った。



妻の最後の欠片と共に。



最後の最後に――――――最大の勝利を独り占めにする形で。

81: 2012/05/22(火) 01:55:32.48 ID:0Xg6eH5Ho

上条「……」

だが手柄を取られたとはいえ、不思議と悔しい気はしなかった。
むしろ上条は、彼へと一定の敬愛の念を抱かずにはいられなかった。

彼は決して許してはならない大罪人、
断罪されてしかるべき男であることは、未来永劫変わらない。

アレイスター=クロウリー、その名は永久に呪われ続けるべきだ。



だがその一方で。
今後生きていく上で、上条当麻は彼の意志を密かに称え続け。
インデックスは彼とその妻の安寧を願い、祈りを捧げ続けることを誓った。



なにせ、『視覚』と『右腕』どころではなく―――――――――二人に『生きる未来』をも与えてくれたのだから。



上条「…………………………………………」



人間は何十億もいるのだ、その中には『二人』くらい、
あの男のために涙を流す者がいたって良いだろう。



―――

97: 2012/05/25(金) 00:52:25.17 ID:Y90sQ/dfo

―――


結果は素晴らしいものだった。
堂々の勝利だ。

選択は全て成し遂げられ、あらゆる展開が筋書きを裏切り、
この世は全く新しい未来へと一歩を刻んだのである。

人間界を飲み込むはずであった大戦も防がれ、竜王も滅亡、



そして史上最悪の『怪物』も――――――バージルの刃によって倒されたのである。



だがそれだけの勝利を手にしながら。
足元に横たわる兄弟、その身を見下ろしている『彼』の表情は優れなかった。

たった一つだけ、ある点だけが望みどおりにはならなかったからだ。

それも力至らずに失敗したのではない、
自らの手でぶち壊してしまったために。

破壊と殺戮衝動に身を投じ、おぞましい恍惚を覚えながら。
しかし選択を果す以上、絶対にそうしなければならなかった。

だからこそ自らの行いに憤るともできなければ、
悔恨を抱くことも許されない。
兄弟へ弔いを捧げる資格すらも、彼は己には認められず。


ただ呆然と眺めていることしか出来なかった。


『怪物』が倒され、破壊の暴走から『解放』されて――-


ダンテ「……」


―――人の姿に戻った――――――ダンテは。

98: 2012/05/25(金) 00:54:27.06 ID:Y90sQ/dfo

バージルは間違いなく勝ったのである。

弟の胸に残る傷跡は、兄が与えたものだ。
この一刀にて兄は、
世のすべてをも破壊し尽くしつくであろう『怪物』をついに倒した。


そして『弟』を闇から救ったのだ。
『弟』をふたたび理性ある人の姿へと連れ戻したのだ。


ダンテ「…………」


『怪物』の刃に貫かれるのと引き換えに。


ダンテ「お前ってやつは…………大馬鹿野郎だな」


それは兄への精一杯の称賛だった。


戦いがはじまった時点で、片方が氏ぬのは確定、
結局は両者とも消え去る結果は免れなくなっていた。
ここで残った方が、人間界の力場の再起動に命を注がねばならないからだ。

だが加速する戦いの中で、それ以上の結末を迎えかねないことを兄は悟ったのだ。


このままでは両者とも氏ぬ、と。

99: 2012/05/25(金) 01:03:03.92 ID:Y90sQ/dfo

最低氏ぬというのが一人だけであって、二人氏ぬ結末も大いにありうること。
それどころか、戦いが達したのは一人も生きては返さぬとばかりの破滅的な領域。

二人とも氏していたら、スパーダの一族は三人とも氏ぬことが確定する。
ネロがたった一人で、人間界の力場の再点火を行わなければならないからだ。

ダンテ「……」

今一度、ダンテは認識する。


バージルにとっては、何よりもまずは息子を守るための戦いであったのだと。


だからこそ彼の真魔人の姿は『父親』だったのだ。


怪物に勝つだけではなく、
ネロへと飛び火することも避けなければならなかったバージルは、
選択の障害にもならず、かつ最低限の氏のみで終らせるという難題を、
絶妙な立ち回りで成し遂げたのである。

『選択』を的確に分析して、彼は穴をついたのだ。

ダンテの至上目的が『バージルの殺害』という具体的なものであったのに対し、
己の至上目的は『脅威の排除』であるという、僅かに残されていた解釈の余地を。

そして不必要な部分をとにかく削り落とし、
ピンポイントで『脅威の排除』だけを成し遂げて。


『ただのダンテ』という、脅威性が微塵もない存在を残した。

100: 2012/05/25(金) 01:05:25.13 ID:Y90sQ/dfo

ダンテ「………………」


もちろん、『怪物』もろともダンテを葬り、自らが生きて勝者となる道もあっただろうが。
バージルがそうしなかった理由もまた、
ネロを生かそうとした衝動と同じものだ。

斬り殺される苦痛を、ダンテに与えたくはなかったのだ。


『父親』であるのと同様に、このバージルという男は―――『兄』だったから。


ダンテ「……」

足元に横たわるバージルは、
眠っているとするよりも瞑想しているような顔だった。
今にも素早く起きざまに斬りつけてきそうな、
そんな冷厳ながらも確かな熱を帯びている姿。

これまでの彼と変わりない。
だがそれも、もう不変のものではなくなる。

動かぬ主の横で、ぼろぼろと砕けていく閻魔刀。
そして少しの差をおいて仄かに光に包まれては、


粒子となって消えていく主の体―――

101: 2012/05/25(金) 01:11:13.90 ID:Y90sQ/dfo

ダンテ「……」

涙は流れなかった、流せなかった。

ただのダンテに戻れても、
人の心はそうすぐに取り戻せるものではない。

だがその点を気にする必要はなかった。
彼のために流される涙はしっかりとある。

少なくともこうしている今も、
心をそっくり渡したトリッシュが泣いてくれている。
彼女が弔ってくれている。

母と瓜二つの姿で、本物の人の涙で。




ダンテ「『また』な、バージル」

消え去っていく兄へとそっけなく呟いて。
ダンテは踵を返し、神儀の間へと歩を向けた。


最期の仕事を終らせるために。

102: 2012/05/25(金) 01:17:46.71 ID:Y90sQ/dfo

神儀の間までは、
通常のペースで歩むにはそれなりの距離があった。

もちろんベヨネッタの保持時間があるためにのんびりとはいかないも、
その時間が許す限り、ダンテは一歩ずつ、
しっかり影の水面を踏みしめて進んでいった。

響いていくる様々な『声』を耳にしながら。



これは本来、創世主の座にいる者に聞える声なのだろう。

長らくその座に居座っていた筋書きが消え去ったために、
今はもっともその座に近いダンテに向いてきていたのだ。

完全なる『破壊』を一時的ながらも身にしたために、
魂も少なからず創世主としての形に矯正されでもしたのだろう。


ダンテ「……」


これまで筋書きを構築してきていたあらゆる思念や声が、
方々から聞えてきていた。

魔界や天界はもちろん、今回の戦いには関与しなかった他の数多の世界から、
そして中心の戦場となった―――人間界の声までも。

103: 2012/05/25(金) 01:21:11.42 ID:Y90sQ/dfo

これまでダンテは、人間界以外にはあまり興味はなかった。

基本的に狩の対象は、人間界にやってきて悪事をはたらく悪魔だけ、
魔界に乗り込むまではしないというスタンスではある。

ただ確かに一定の理解はしているも、特に彼らの生活を重んじているわけでもない。

人間界から目を背けさせるために、
魔界を内戦状態にしてしまうことなどに抵抗はないため、
正確には外界には無関心と形容するべきであろう。

はっきり言ってしまえば、
他の世界がどうなろうと知ったことではないということだ。


だがこの声達を聞いていると、少し見方が変わってしまいそうだった。


創世主たるジュベレウスが構築した世界群はきわめて広大だ。

創世主の力の本質と同じく、
これらの全容を把握していたのはジュベレウスだけであろう。

魔界、天界、人間界といった時間軸を共有している近隣の世界から、
全く異なっている軸を有している世界まで、まさに無数の領域が広がっている。

ダンテ「……」

そうして聞えてくる多種多様な声だ。

こちらの心が空っぽという点も影響しているのだろう。
白いキャンバスが染まりやすいように、声達がよく浸み渡り、より鮮やかに見えてくる情景―――


―――純粋に興味がそそられるものがあった。

104: 2012/05/25(金) 01:26:02.77 ID:Y90sQ/dfo

ダンテ「―――面白そうだ。そう思わないか? トリッシュ」


神儀の間へと近づきつつ、繋がりの先へと呟きかけるダンテ。
ルーチェ&オンブラも取り込んでしまっていたため、
トリッシュとは魂そのものが接続されてしまっているも同然だった。

トリッシュ『……そうね……』

ダンテ「どうした、お前らしくもないな」

トリッシュ『……「誰かさん」の代わりで、私いまとっても忙しいのよ』

そんな彼女からの返答。
ずずっと鼻をすする音までもが、この念話に混ざりこんできていた。
随分と人間臭くなったものか。

トリッシュ『本当に面倒ね。人間の心って』

ダンテ「だろ。化粧がいらない身で良かったな」

トリッシュ『ええ。地味に目と鼻が痛くてうんざりしちゃう』

とは言いながらも、
露っぽくも仄かに笑いを含み。


トリッシュ『ああ、「それ」については、私も面白そうだと思うわ。できればもっと詳しく調べたいくらいに』


さらりと言葉を紡いだ。
暗にこの先、それら未知の世界を調べることは不可能、
つまりはこの接続がもうすぐ『途切れる』ということを含ませて。

105: 2012/05/25(金) 01:29:41.19 ID:Y90sQ/dfo

好奇心の塊、知識欲の虜たるトリッシュ。
これほどの新領域が提示されながら手が届かないとは、
拷問に等しいだろう。

ダンテ「悪いな。どこまでも行って見せてやるっつったのに」

トリッシュ『ええほんと。これからってところで。この役立たず』

ダンテ「ハッハ、これが生頃しってやつだ」

トリッシュ『全くね……』

ただこうして交わされた軽口も、どことなく空虚で上の空。

傍からならばあたかも本題を避けている、
何かから気を逸らそうとしているようにも聞えたかもしれない。

とはいえ実際は、
わざわざ本題に向かう必要もなかったのである。

ここまで密接に思念が繋がってしまっている以上、
改めて交わす言葉はない。

大事なこと、伝えなければならないことは全て共有済みだからだ。
互いにもう秘密はなかった。

これまでの仕事に関しての失敗といった平凡な隠し事から、
個人的に胸の奥底に秘めてきた感情や想いまでも、その『全て』を。


ダンテ「……」

トリッシュ『……』

106: 2012/05/25(金) 01:31:00.35 ID:Y90sQ/dfo

そうしているうちに、ダンテは神儀の間へと辿りついた。

影の水面から、白亜の外縁の段を踏みしめ、
列柱を抜けて広間へ。

神儀の間は、先とはまた違う緊張の色を見せていた。
噴火寸前の熱を帯びたものではなく、冷たく寂しげな空気だ。


とある像の台座の下に立っている赤いボディスーツの魔女。
その後ろに座り込んでいるのは、
『両手』のあるインデックスと良く似た顔の金髪の魔女。

二人は身を寄せ合うようにしてじっとこちらを見つめていた。
いかにもこの空気を体現している瞳で。


彼女達のまなざしに、
ダンテはついつい乾いた笑みを浮べてしまった。

どいつもこいつも葬式のような顔をしやがって、と。

確かに最高のハッピーエンドとはいえないも、
それでも全体としては予想よりもずっと良い結果じゃないか。
インデックスと上条も五体満足で生きているし、諸手を叩いて騒ぎ散らしても良いくらいだ。

それなのにこれでは辛気臭すぎる、と。

107: 2012/05/25(金) 01:34:55.43 ID:Y90sQ/dfo

歩を進める先。
広間の中央には、閻魔刀を床につき立てているベヨネッタに、
鳥の頭蓋を模した面を被っている魔女だ。

この『カラスの魔女』がさしずめ喪主だろう。


ダンテが向かうと、
彼女もまた豊かな羽飾りを揺らしながら歩み寄ってきて。


アイゼン『我が名はアイゼン』

改めての、かしこまった調子の名乗り。
面の眼孔の中からきらりと瞳を煌かせて。

この輝きにダンテは見覚えがあったも、
どこかで会ったかなんて聞くことはなかった。
わざわざ聞く必要がないほどに良く覚えていたからだ。


このトリッシュ――――――――――――母たるエヴァと瓜二つの瞳は。


ダンテ「ダンテだ」


アイゼン『うん、そなたのことは知っておる。父のことも……何よりも母についてもな』


そして襟飾りの隙間から覗くこぼれた金髪に、軽く微笑む口元。

どれも懐かしくもあり、見慣れた光景。
これだけでダンテにとっての身分証明は充分だった。
彼は特にそれ以上、彼女については問おうともせず。

肩をすくめて言った。


                         グランマ
ダンテ「それでどうしたらいい?―――バアさん」

108: 2012/05/25(金) 01:39:38.30 ID:Y90sQ/dfo

アイゼン『一つ……残念なことがある……そなたも考えてはいるだろう?』

アイゼンはまず、と一言添えてから、
搾り出すようにして言葉を紡ぎ始めた。


アイゼン『ネロと共同で作業して、そなたも生き永らえるというのを』


ダンテ「……」

実は、それについては考えてはいなかった。

アイゼン『実を言うと、それは今となっては出来ぬ。バージルと完全に互換するのは、 
      双子であるそなただけ、今のネロは変容しすぎて互換しない』

そう、不可能だというのが直感的にわかっていたからだ。

アイゼン『そこでネロの魂も使うとなると、準備段階から適合作業をやり直さねばならないのだが、時間がない』

ダンテ「……」

なんともこみいった技術的問題があるのだろう、
状況はこちらが把握している以上に困窮していたようだ。
これではネロへの飛び火を防ぐ以前の問題だ。

ただ純粋に『守る』、それだけで精一杯だったのだ。

救世主たるバージルの肩には、文字通り全てが圧し掛かっていたのである。
全く大した兄、突き抜けた馬鹿者である。
一体どこまで背負い込めば気が済むのか。

無論、ダンテも人のことを言えた口ではなかったが。



アイゼン『諸々の作業には30分ほどかかるからな』

時の腕輪もなく、ベヨネッタの保持時間も最大5分。
作業をやり直す時間などもとから存在しない。
二人とも氏んでいたら、時間切れとともに人間界は消えてなくなっていたということである。

109: 2012/05/25(金) 01:41:34.35 ID:Y90sQ/dfo

改めて己の結末を受け入れて。
ダンテは肩を竦めて了解の意を示すと、
アイゼンは道を空けては手で進むように指し示した。


そしてその先に待つはベヨネッタと、
バージルが遺した最後の仕事である。


ベヨネッタ『剣をブッさして、魂を注ぐ。それだけ』

中々に時間切れ寸前、疲労の色が見えているも、
口調は以前会ったときとおなじく飄々、特に大事でもないと言わんばかりのもの。

表面的であれ、彼女だけは特に辛気臭くなかった。


鼻を鳴らしては返事として、作業をはじめるために右手を脇に伸ばすダンテ、
だがそこでふと彼は手を止めて。

ダンテ「今の俺でいけるか?」

再点火には力と共に強烈な人間性が必要、
ロダンからそう聞いていたのを思い出したのだ。

世界の目を持つ魔女は、一秒ほどじっと見つめてきたのちこう告げた。


ベヨネッタ『大丈夫。そこらへんは全部バージルがやっちゃってくれてるから』


ダンテ「そうか。じゃあ問題ねえな―――」


ダンテは止めていた手を再び伸ばした。
すると手先から、光の奔流を伴って出現する――――――リベリオン。


そこから先も躊躇いはなかった。
特に仰々しくすることもなかった。
挙動の一切に何かしらの思いを含ませることもなく。


そして改めて、トリッシュへ言葉を残す事もなく。



今や血肉であるその刃を、ダンテは平然と突き立てた。

110: 2012/05/25(金) 01:42:44.42 ID:Y90sQ/dfo

次の瞬間、意識が急速に展開していくのを覚えた。

この手、柄、刃の先へと吸い込まれるような感覚。
事実そのような現象が起きていた。


あらゆる次元を超えて向かう先は、
生と氏が分けられている世界の『外』。

虚無と現実のちょうど狭間とも呼べる、
生と氏、有と無の境界を存在させ維持する領域の一つ、
再稼動を待つ人間界の力場である。


ダンテ「……」

魔界や人間界の規定の時間軸から外れてしまったために、
トリッシュの存在は認識できるも思念の疎通は不可。

恐らくベヨネッタからだけは見えているのだろうが、
こちらからは何も返せないために実質干渉外。


ダンテは今、この領域に一人きりだった。


だが他者の存在の跡が無いわけではない。
『前任者』の遺したものがたくさんあった、

そこにはベヨネッタの言ったとおり、バージルによる下準備が整っていたのである。
冷え固まってしまった溶鉱炉を再び鼓動させるべく、
熱い人間性たる火種がいくつも植えつけられていたのだ。

力場へと燃料たる魂を注いでいく中で、ダンテはこの火種へと向き合うこととなり。
兄が刻み込んだ思念を体感していくこととなった。

111: 2012/05/25(金) 01:45:35.90 ID:Y90sQ/dfo

それは記憶であり、感情であり、思念の塊。

ダンテがトリッシュにまるごとコピーしたように、
バージルが己の全ての人間的要素を叩き込んだのだ。


弟は夢にも思っていなかった。
消え去る際に、まさか己のものではなく兄の走馬灯を見るハメになってしまうとは。


走馬灯は過去へと遡っていく形で流れていった。

途中、足りない部分を補う神裂火織のものが混じる此度の戦いから、
魔女との『共謀』期間、学園都市の戦い。

ネロの認識に、復活。

間が空いて、ぼんやりとして自我の無いネロアンジェロとしての魔帝従属期間。
さらに遡りテメンニグルの塔、ギルバと名乗っての暗躍、
父の軌跡と力を求める闘争の旅を辿り。


もっと昔―――母の氏、父の失踪。


そしてそれ以前の―――平穏な日々へと達し、走馬灯は終点へと辿りついた。


最後の情景、つまりバージルがここに一番最初に刻んだ心の風景は、
いつかの誕生日の時のものだった。



透き通る声で歌い、祝い、チョコを手渡してくれた母。
それに飛びつき押し合う、二人の幼い兄弟。
そんな息子達を眺めて、いつもは厳しいくもこの日ばかりは微笑んでいる父。



どこにでもありそうな、慎ましくも幸せな家族の一幕。



――――――――――――――


      創世と終焉編 


   第三章 『家族と伝説』

                  終幕

――――――――――――――




その安らぎの中で、ダンテの意識は閉じた。




112: 2012/05/25(金) 01:46:03.21 ID:Y90sQ/dfo







しかし彼の場合。

閉じた先に待ち受けていたのは、氏者に訪れる永久の安寧ではなかった。


内なる領域でダンテは『再び』、つい先ほどまで見ていた『その姿』を目にした。


だが全く同じでもない。
少なくとも一瞬前までとは違い、『彼』は『微笑んで』はおらず。


単に記憶が見せる幻想でもなかった。








113: 2012/05/25(金) 01:47:18.10 ID:Y90sQ/dfo

筋書きとは操舵主であり、流れの管理人でもあった。
それを失えば当然流れは加速と暴走の一途を辿り、
加えて無理に塞き止められてしまったら、当然決壊する。

そして溢れ出た濁流には一律した流れなど存在せず、
いいや、むしろたった一つの法則に従って動いていく。

ただ低き方へ、低き方へ、とだ。

行く先にあるものを徹底的になぎ倒しては勢いに吸収し、
もっとも低き場所にある存在へと集束していき、
最終的に押し潰そうとするのだ。


そうした現象が、ダンテが最後の作業を成し遂げた瞬間に起こった。


現実が『決壊』したのである。


その崩壊は、流れにとってもっとも巨大な『ストレスの塊』――――――




絶対的な伝説を覆した張本人―――――――――ネロから始まった。





114: 2012/05/25(金) 01:50:32.21 ID:Y90sQ/dfo

その現象が発現した瞬間、
現実を維持させていた理は機能を止めてしまったも同然。

空間も時間も、力も魂も全ての法則が無視されて濁流に飲み込まれていくのだ。


いくら全てを超越したネロであっても、
『現実の中』にいたためにどうすることも出来なかった。

ネロを礎として決壊した濁流は、次いで第二のイレギュラー、
舞台装置ですらなかったのに、
ネロと並ぶ役どころにまで上り詰めてしまった――――――上条当麻をも飲み込み、更に加速していく。


それは『破壊』ではない。
破壊とは、存在していたものが消え去ることを指し、あくまでの時間軸上の状態変化である。

だがこの濁流は、時間軸をも無視するために、
『存在』そのものを『なかった事』にしてしまうのだ。


そのようにして現実を舐め尽した濁流が向かう次なるものは、
残る最も低い場所、


ネロや上条と同じ最大の『ストレスの塊』―――ダンテである。


ただしネロのようにすぐに一体化することはなかった。
虚無と現実の狭間、『現実の外』にあったために、濁流の外に立つことができたからである。

115: 2012/05/25(金) 01:52:09.38 ID:Y90sQ/dfo

型に光が当たれば、型に合わせた影が浮かぶ。
鋳型に流れ込めば、鋳型に合わせた形となる。

この時ダンテの前に現れた存在も、
そういったごく単純な原理によるものだ。


ダンテという障害物があったから『コレ』が現れた、
ダンテという障害物を潰すにもっとも『適してる形』で。


ダンテ「…………ハッ」

その『姿』を目にしてしまうと様々な思いが巡るも、
因果を無視した産物である以上、『コレ』が本物か否か、という疑問は抱くだけ無駄だ。

ダンテは右手にあるリベリオンを肩に載せ、普段と変わらぬ薄ら笑いを浮べた。

少しぎこちない、冷厳な印象が滲んでしまうのは、
きっと空っぽの身でバージルの走馬灯に叩き込まれてしまったせいだ。
多少、兄の人格が染み付いてしまったのだろう。

そして呆れるくらいに、頑固で不器用な熱き衝動も。


その滾りにダンテは身を震わせた。
再び心を宿し、再点火された魂が叫ぶのだ。


この濁流を先に行かせてはならない。
世界を、現実を渡してはならない。


未来を―――子供達を取り戻さなければならない。


上条を、そして―――ネロを、と。


116: 2012/05/25(金) 01:53:51.03 ID:Y90sQ/dfo

柄を握る指先からは血が滲み、
胸の傷もまだまだ塞がる気配はない。

体は普段よりもずっと重く感じ、
慣れたリベリオンさえも、
持つ手がまるで鎖で繋がれているような感覚。

頭もぼんやりとして、
少し気を抜くと焦点がズレてぼやけてしまうくらいに視界も危うい。


それでもダンテは力強く。
勝気と自信に満ちた佇まいで向き直り。


ダンテ「さあて。終らせようじゃねえか」


声を放ち、宣戦布告した。



正面の男、己が『宿命』の原点たる―――



――――――――――――――――――――



  MISSION FINAL  『Legend Must Die』



――――――――――――――――――――





ダンテ「――――――――――――なあ、親父」





――――――――――――スパーダへ。




―――

117: 2012/05/25(金) 01:54:23.30 ID:Y90sQ/dfo
今日はここまでです。
次は日曜に。

119: 2012/05/25(金) 01:56:33.70 ID:SvgtqjwDO
うわあああなんかもう言葉にならない
おつ!

120: 2012/05/25(金) 01:57:57.02 ID:VIathNJY0
乙です まさかのLMD

なんかもう言葉が見つからんよ・・・

125: 2012/05/25(金) 08:49:24.14 ID:O68JiFi2o
終わりは終わりの始まりだったか・・・乙です。
でもちょっと現状説明が欲しい気も・・・もうぼくらのあたまはげんかいです。

134: 2012/05/27(日) 07:05:27.57 ID:J4+yzIyg0
>>125
前スレ>>913>>915から、
筋書きを変えるには規格外の力でねじ曲げるか、
イレギュラーの存在により誰も想像できない方向に持っていくかしかなかった。

もともとの筋書きのうえではスパーダ一族がラスボスを倒す予定だった。
(竜王も、「一応最初は乗っかってやるが、最後でラスボスがヒーローを倒し、筋書きをぶち壊す」ことを楽しみにしていた節がある)
しかし、最も英雄に近かったはずのダンテが悪魔となり、悪魔の最たる者だったはずのバージルが英雄となることで、
筋書きさんの設定崩壊。

そして、ミカ上さんと彼の影響を受けたアレイスターという、ある意味「最大級のイレギュラー」により
竜王を撃破することができたため、筋書きを書きかえることに成功した。
(戦いにはスパーダの一族であるネロも参加はしたが、
彼の存在も規格外かつイレギュラーであり、筋書きに沿うようなことはなかった)

だが、悪魔ダンテVS英雄バージルが激化するにつれて
筋書きをぶち壊すために戦っているのに
このまま続けたら共倒れor戦いの余波で被害甚大そして新たに書き直された筋書きをもぶち壊してしまうかもしれないと、
バージルは気づいた(ダンテは悪魔化していたため気づいていない)。

そこでバージルは、
「兄を[ピーーー]」という明確な目標があるダンテに対し、
自分の「世界を救う」という漠然とした目標を、
「悪魔に堕ちたかつての英雄(ダンテ)を救うことが、世界を救うことだ」と再解釈し、実行する。
そしてダンテを人間に戻したバージルは役目を終え、
ダンテも改めて英雄としての任(もともとはバージルがするつもりだった)を全うする。
(これもベヨ姐の力が無ければ成しえなかったことから、彼女もまた規格外かつイレギュラーな存在だった)



でもしかし。だがしかしだ。
このような展開になった理由はなぜだ?
この流れを作ったきっかけはなんだ?
ダンテたちが英雄となる因縁を一番初めに作ったのは誰だ?
そして>>112へ至る…




>>1さんこれであってるかい違ってたらごめんなさい

135: 2012/05/27(日) 10:59:46.86 ID:GjanQ3tPo
>>134
説明ありがとう。だがその辺は俺も理解できたんだ。
ただわからないのが現実が決壊してから、ネロと上条さんに何が起きたのか。>>113からの流れがね。
それは火曜の夜に期待しようか・・・

136: 2012/05/27(日) 20:51:50.14 ID:cMb8pw6B0
つーか俺は
なんで筋書きブレイクしなきゃならんのかが
いまだによくわからん

そもそも筋書きって誰が作った(?)の?

なんでそすぶしなきゃなんねーの?

137: 2012/05/27(日) 21:49:00.98 ID:Myfnpst6o
>>136
誰が筋書きを作ったのかは、

 創世主ジュベレウスが負けて世界群の流れ(宿命とも)を統べる存在がいなくなる
 ↓
 操舵主を失った世界群の流れは、
 それぞれ内包する生者たちの無意識(集合的無意識に似たもの)に影響されはじめる
 ↓
 その無意識が蓄積される中で筋書きが徐々に形成されていく
 (水溶液の中で結晶が生じるように)

となりますので、筋書きの生みの親は全生命と言えます。


筋書きブレイクしなければならないとダンテ達が判断した理由は、

 魔界からは究極の宿敵、他の世界からは英雄として称えられる意識の集中で、
 スパーダ(とその一族)が筋書きの主役に持ち上げられてしまう
 ↓
 それによってスパーダ(とその一族)のワッショイが加速、もっとキャラ(英雄性)を濃くしようとする
 ↓
 そのために世界の流れは戦争へと誘導されて、しかも回をこなすごとにより大規模になっていく
 (今回の戦いは実質、スパーダ一族が勝っても負けても人間界がほぼ更地化する予定だった)

ということで、放っておくと未来は無いに等しいのでぶっ潰すことにしたわけです。


 次回へ続く:【禁書×DMC】ダンテ「学園都市か」【完結】


引用: ダンテ「学園都市か」【MISSION 11】