1: ◆jBL8Qe1.Ns 2014/12/06(土) 19:34:36.52 ID:JcuoG++s0

照「ツモ。2300、4500」

咲「…」

宮永母「…これで、五連続プラマイゼロ…しかも、姉妹揃って…」

界「別にコンビ打ちってわけでもなさそうなのにな」

母「もう一度よ!もう一度…今度こそ…」

界「やめとけ、無駄だ」

母「無駄って何よ!こんな勝つ気のない麻雀を打たれておめおめと引き下がれって言うの!?」

界「ああ、そもそも、家族で賭け麻雀なんて間違ってたんだよ」

母「分かったようなことを言わないで!負けられない真剣勝負でこそ培われる力があるのよ!」

界「…そうかな?」

母「この子たちの才能を伸ばさないといけないのよ!」

咲「…私、もう打ちたくないよ」

照「私も、麻雀は、あまり好きじゃない」

界「悪いな、俺も、正直言うとあまり乗り気じゃない」

母「あ、あなた達…もういいわ!勝手にしなさい!」


咲-Saki- 24巻 (デジタル版ヤングガンガンコミックス)

2: 2014/12/06(土) 19:35:35.39 ID:JcuoG++s0

それから、私たちが家族で麻雀を打つことはなくなった。
でも、お母さんとお父さんの喧嘩は日に日に増えて行って、私が中学に上がる頃には、お母さんが家に帰ることはほとんどなくなった。

喧嘩の原因は、いつも麻雀の話だった。
私とお姉ちゃんには才能がある、伸ばさなきゃいけない、だからお金を賭けて麻雀を打とう。

お母さんはそればっかりだった。

麻雀自体が嫌いになったわけではなかったけど、麻雀を打つことは苦痛だった。
お母さんに押し切られて麻雀を打つことはあったけど、私とお姉ちゃんは常にプラマイゼロで終わらせた。

そして、麻雀を打つこともなくなり、お姉ちゃんは麻雀部のない清澄高校に進学した。

部員を集めてる変な人がいるらしいけど、断り続けたら諦めてくれたらしい。

二年後、お姉ちゃんの後を追って、私も清澄高校に進学した。

3: 2014/12/06(土) 19:36:16.38 ID:JcuoG++s0

清澄高校の敷地は広い。
少し裏手に回れば小川が流れるのどかな光景が広がっている。

川を超えてしばらく歩くと旧校舎があり、活動停止状態の部活動や同好会などの部室は旧校舎に割り当てられている。

私は、川のほとりで本を読むのが好きだ。

昼休みに私の姿が見えないときは、ここに来れば大体見つかる。


今日もいつも通りに、いつもの場所で本を読む。


咲「この本は今日が返却期限だから、早く読まないとね」


そう呟いて、本をカバンから取り出すと、視界に人影が映る。

何の気なしに人影に視線を移した私は、息をのんだ。


――そこには、モデルさんみたいな綺麗な少女がいた。


彼女は、私を気にかける様子もなく、旧校舎に向かって歩いて行った。

清澄高校では、女子は学年ごとに異なる色のスカーフを着けることになっている。
少女は、自分と同じ赤色のスカーフを巻いていた。


咲「あれで同じ一年生かあ…」


容姿にコンプレックスがあるわけではないが、同学年にあれだけの美少女が居ると流石に思うところがある。
宮永咲は、普通の女子高生なのだ。

4: 2014/12/06(土) 19:36:49.80 ID:JcuoG++s0

?「咲ー!」

咲「京ちゃん…」

京太郎「よっ、学食行こうぜ」


彼は須賀京太郎、クラスメートだ。
昼休みに自分がここに居ることを知っているのは、彼と姉である宮永照ぐらいのものである。

中学時代からの友人でもあり、それなりに親しくしているため、彼との関係をからかわれることも多い。


咲「これ、今日が返却日だから読まないと…」

京太郎「学食でも読めますよ?」


…このとおり、多少図々しいところがある。
とりあえず、不満を顔に出して抗議する。
京太郎なら、これだけで、強引に誘った場合に自分がどの程度の抵抗をするか分かる。

今回は、彼の言うとおり学食でも本は読めるため、抵抗の度合いは弱め。
納得できる理由を提示できるなら付き合ってもいいと言ったところである。


京太郎「日替わりのレディースランチがめちゃくちゃ美味そうでさ、どうしても食べたいんだよね」


手を合わせて私を拝むようなしぐさをしながら理由を告げてくる。


咲「そのためだけに食事に誘うって、どうなの?」


不満を顔に出しつつ、学食に向かうために本をしまう。
ま、仕方ないから付き合ってあげますか。


6: 2014/12/06(土) 19:37:20.33 ID:JcuoG++s0


咲「はい、レディースランチ」

京太郎と友人Aが待つテーブルへランチを運ぶ。
美味しそうではあるが、どうしても食べたいという品とは思えない。

ということは、自分と食事をするのが主な目的だったに違いない。

少しだけ顔をほころばせていると、友人Aから冷やかしの声がかかる。


A「咲ちゃんはいい嫁さんだなあ」


内心まんざらでもないが、とりあえず定番の反応を返す。


咲「中学で同じクラスなだけですから!嫁さん違います!」

京太郎「真っ向否定ですか…」


それを聞いた京太郎がわりとショックを受けてそうな顔をしているので満足である。
友人Aは「はいはい、ごちそうさま」とでも言いたげな顔で別の友人たちの輪に入って行った。

7: 2014/12/06(土) 19:38:03.60 ID:JcuoG++s0

食事は、いつもの場所に向かうついでにパン一つで済ませたので、私は読書に耽ることになる。

時折京太郎の様子を伺うが、目があったりはしない。
もしかしたら、こいつは本当にレディースランチが食べたかっただけなのかもしれない。

本から目を離して注意深く見てみると、何やら携帯をいじりながら食事をしているように見える。
お行儀が悪いので注意しよう。


咲「…メール?」

京太郎「いや、違う」


まあ、それが何であれ、お行儀が悪いことに変わりはないので注意はするのだが。
京太郎が画面を見せて来たので、一応見てみることにする。

…嫌なものが見えた。


咲「…麻雀?京ちゃん、麻雀するんだ?」


まあ、他人に自分の麻雀嫌いを押し付けるつもりもない。
ともすれば嫌悪がにじみ出るのを抑えて、冷静に尋ねる。
これは、お行儀が悪いのを注意するどころではなさそうだ、おそらく、軽いじゃれ合いでは済まず、本気の嫌悪をぶつけてしまう。

軽く話を合わせるだけにしよう。


京太郎「まだ役もろくに知らないけど、麻雀っておもれーのな」

咲「…私、麻雀キライ」


しまった、ついつい言ってしまった。
何でも始めたばかりのうちは楽しいものだから、否定することなんてないのに。


京太郎「えっ?咲、お前麻雀出来んの?」


…出来る。それも、それなりに腕に自信があるであろうお母さんが全力で挑んでも揺るがない程度には強い。
けど、それを伝えても、麻雀を教えてくれと言われるだけだろう。

幸い、打てること自体を疑われている様子なので、誤魔化すことにした。
ついでに弱いことをアピールしておく。


咲「出来るっちゃ出来るけど、キライ。いっつも家族麻雀でお年玉巻き上げられたん…」

京太郎「ほーぅ」


…いや、しまった。打てることを教えた時点で失敗だったか?
お姉ちゃんが言っていた、麻雀部員を集めてる人。
もし、二年経っても諦めてなかったら?


京太郎「咲は何やらせてもダメだからなあ…でも、居ないよりはマシか、うん」

咲「なに一人で完結してるの?気持ち悪いよ」


おそらく、自分の予想は当っている。
お姉ちゃんがしつこく勧誘された相手は、当時一年生。
まだ、三年生として健在だ。


京太郎「ランチのついでにもう一つ付き合ってよ。面子が足りないんだ、麻雀部」


はあ…お姉ちゃんが諦めてもらえるまで何か月くらいかかったっけ?

8: 2014/12/06(土) 19:38:51.73 ID:JcuoG++s0

京太郎「カモ連れて来たぞー!」

咲「!」

和「!」

咲「…さっきの…?」

和「先ほど、橋のところで本を読んでいた方ですね」

咲「見られてたんですか…」


…旧校舎に向かうぐらいだから変わり者かと思っていたけど、麻雀部とは思わなかった。


京太郎「和は去年の全国中学校大会(インターミドル)の優勝者なんだぜ」

咲「…それは凄いの?」


正直、目の前の少女から麻雀が強そうな気配は感じない。
多分、お母さんの方が強いぐらいじゃないかな?
その程度の強さで獲得できる肩書きなら、目の前の美少女ならば容姿の美しさを誇った方が良い気がする。


優希「凄いじょ!インターミドル優勝ってことは、最強の中学生だったわけで!」

咲「そ、そうなんだ…最強の中学生…」チラッ

和「お茶入れますね」


とてもそうは見えないけど…
家族以外と打ったことないから、もしかしたら強そうな気配がなくても強い人も居るのかもしれない。

9: 2014/12/06(土) 19:40:41.66 ID:JcuoG++s0

咲「」タン

優希「ロン!2000だじぇ!」

咲「はい」チャラ

京太郎「おいおい、その見え見えの筒子染めに振り込むかあ?」

咲「あはは…ごめんごめん」

和(…それほど素人には見えないのですが?)

―――

オーラス

和  33000
優希 32000 
咲  29000
京太郎 6000


咲手牌

234s23m234556p北北 ツモ:4m

打:5p

優希「じぇ」タン

打:7p

咲「…」

京太郎「テンパれ~、テンパれ~…ならず」タン

打:2s

和「」タン

打:南(ツモ切り)

咲「」タン

打:6p(ツモ切り)

優希「」タン

打:1s

京太郎「よーし張った!」タン

打:1p

咲「ごめん、それロン」

京太郎「なんですとぉ!?」

パタン

咲「ピンフのみ、1000点」

234s234m23456p北北 ロン:1p


京太郎「三色捨ててそれってどうなのよ!?」

和(…三色確定のシャボに取るかはさて置くとして、1筒でも和了るつもりならリーチをかけるべきですが…?素人なんですかね?)

和「おかげさまで、私がトップですね」



一戦目

和 33000(+23)
優希32000(+ 2)
咲 30000(± 0)
京  5000(-25)

10: 2014/12/06(土) 19:41:13.61 ID:JcuoG++s0

二戦目


和「…ツモ」

京太郎(和の勢いが止まらねえ…)

―――

和「ロン」

優希「じぇ!?」

―――

咲「あ、ツモです」

和「…」

―――

京太郎「今回も和の圧勝かー」

優希「ぎゃー」

和「ありがとうございます」

咲「…」


二戦目結果

和 +31
咲 ± 0
優希ー12
京 -19


11: 2014/12/06(土) 19:41:58.03 ID:JcuoG++s0

三戦目

京太郎「しかし、咲の麻雀はパッとしませんなー」

優希「点数計算はできるみたいだけどねい」

和(…いえ、得体のしれない違和感を感じます。70符の点数申告を迷いなく出来る人間が、このような打ち筋をするものでしょうか?)


ゴロゴロゴロ…ザー


京太郎「お、雷」

和「…夕立、来ましたね」


『うそっ!?傘持って来てないわ!』


咲「えっ!?誰?」

久「んー?」

和「学生議会長の竹井先輩です、麻雀部のキャプテンでもあります」

咲(三年生…ってことは、このひとか。これ終わったら抜けないと…)

久「あなたが今日のゲストね?」

咲「…どうも」

12: 2014/12/06(土) 19:42:56.52 ID:JcuoG++s0

久(綺麗な手張ってるじゃない…)


咲手牌

678m34678p22678s


久(2―5筒待ちのタンピン三色、リーチかけてもいい手だけど、親かリーチ者の捨て牌に2-5筒でもあるのかしら?)


久(和が断トツ…宮永咲…え?二連続プラマイゼロで、宮永?)


咲「ロン、1000点」


久(1000点!?どうやったらあの手が1000点になるのよ!?)


和了形

789m34678p22678s ロン:5p


久(…9萬をツモって6萬切り?なんでそんなわざわざ手を下げるような…いえ、もしこの子がそうなら、当たり前よね)

和(…その捨て牌…わざわざ手を下げたように見えますが…どういう手順だったら6萬が切れて9萬が残るのでしょうか?やはり、ただの素人?)

久「宮永さんのスコアは?」

優希「プラマイゼロっぽー」

久(三連続プラマイゼロ――――…その上、宮永でしょ?間違いないわね)


咲「あ、め、面子足りてるみたいなので帰りますね!」

京太郎「え?もう帰っちゃうの?」

咲「図書館に本返さなきゃ」

バタン

咲「…ふう、何とか逃げられた、かな?」

13: 2014/12/06(土) 19:43:26.96 ID:JcuoG++s0

優希「しかし、やっぱりのどちゃんは強いじぇ!」

京太郎「圧勝って感じだね」


久「圧勝?なに甘いこと言ってんのよ」ククッ


京太郎・優希「え?」

和「…なにか、あるんですか?」

久「スコア見て気付かない?」

和「……宮永さんの三連続プラマイゼロが、故意だとでも言うんですか?」

京太郎「んな馬鹿な、たまたまっしょ?」

優希「そうだじょ。麻雀は運の要素があるから、プロでもトップ率三割行けば強い方――ましてやプラマイゼロなんて勝つことより難しい。それを毎回なんて―――」

久「不可能ってかい?でも――――」


14: 2014/12/06(土) 19:43:57.58 ID:JcuoG++s0



――――圧倒的な力量差だったら?



15: 2014/12/06(土) 19:44:54.69 ID:JcuoG++s0

和「…根拠は、あるんですか?」

久「二年前なら、私も偶然を疑ったかもしれない、けどね、残念ながら前例があるのよ」

京太郎「前例、ですか?」

久「100連続プラマイゼロ―――プラマイゼロを崩せたら入部してもらう約束で、私を相手に100回連続でプラマイゼロをやり遂げた子が居たの」

和「まさか…そんなことあるわけ…」

久「最初は疑ったわ、けどね、『プラマイゼロ、狙ってるの?』って聞いたら、なんて答えたと思う?」

優希「なんて答えたんだじょ?」

久「『うん、私は麻雀が嫌いだから』だってさ。理由になってないっつーの」

京太郎「でも、YESとは言ってるんですね…そんな凄い人いたんだ…」

久「まだ居るわよ、私と同い年だもの」


和「名前は!?その方の、名前は!?」


久「照よ、『宮永』照。偶然にも、今日のゲストと同じ苗字ね」

和「~~っ!!」ダッ

優希「のどちゃん!?」

バタン

久「」クスクス

京太郎「なに笑ってんすか気持ち悪い」

優希「キサマ、会長になんてことを」

久「いや、あの子が―――あの子たちが入部してくれないかなーと思ってさ。全国狙えるかもよ?」

京太郎・優希「え?」

16: 2014/12/06(土) 19:45:23.73 ID:JcuoG++s0

雨の中を傘を差さずに走るなどというのは久しぶりですね。
しかも、傘を忘れた子供の頃ならまだしも、今日は傘を忘れたわけではありません。

…そういえば、穏乃は傘をほっぽり出して駆け出すことが多かった気がしますね。
あの子はいつもこんな衝動的に行動していたんでしょうか?
まあ、今の私に穏乃をたしなめる資格はありませんが。

見えました。
この時間にわざわざ雨の中を旧校舎から帰る物好きは基本的にいません。
違っていたらなかったことにして更に先に居るであろう宮永さんに追いつくまで走るのみです!


『宮永さんっ!!!!!』

17: 2014/12/06(土) 19:45:57.73 ID:JcuoG++s0

…雨に濡れても綺麗なんだなあ。

呼びとめられて振り返った先には、今日三度目の美少女の姿があった。
傘も差さずに追いかけて来るなんて、よほど重要な用事なのだろうか?


和「三連続プラマイゼロ、わざとですか?」


…偶然だと答えることも出来る。
先のことを考えれば、偶然ということにした方が良いだろう。

けど、この少女に対して嘘をつくことがためらわれた。

結果、私は小さな嘘をつくことにした。


咲「私が打つと、いつもあんな風になっちゃうんです」


偶然であるとも、狙っているともとれる言い方。

もっとも、牌譜を見れば狙っていることは一目瞭然なのだが。
この少女はそれなりに他家の手牌や切り順を見ているように思えた。
おそらく、手を崩したこと、差し込み、安手での和了り、大体分かっているだろう。


和「な、なんで、そんな打ち方…してるんですか?」


…なんでだろう、この子には嘘を言いたくない。
けど、本当のことを言うべきなんだろうか?


咲「…風邪、引きますよ」


迷った結果、質問に答えず、背を向けて歩きだすことにした。


和「もう一回…もう一局打ってくれませんか!?」


必氏で叫ぶ少女に対して、私は、振り返り、曖昧な笑顔を向ける。
そして、今度はちゃんとした答えを返すことにした。


咲「ごめんなさい、私は――麻雀、それほど好きじゃないんです」


この時私は、『麻雀は嫌い』だと、言うつもりだった。
なぜ、いつも言ってるとおり『嫌い』だと言えなかったのか、この時の私にはわからなかった。

29: 2014/12/09(火) 19:03:03.03 ID:LYBRLxah0

和「難しい…」カチッ

『終局です』

家に帰ってから、何度か、プラマイゼロを狙って打ってみた。
その結果が画面に表示されている。

結論から言うと、インターミドルチャンピオン原村和をもってしても、狙ってプラマイゼロにすることは極めて困難であると証明された。

もちろん、和の打ち方はトップを狙うことに特化した打ち方であり、プラマイゼロを狙うという特殊な打ち方には対応していない。
そのせいというのも多分にあるだろうが、そもそも、プラマイゼロに特化した打ち方というのは一体なんだろう?

和了りたい時に和了りたい点で和了ることが出来る、点を取りすぎた時には安手に対して一点で読んで差し込みが出来る。


――――馬鹿げている。


和了りたい時に狙った点で和了れるというなら、勝とうと思えばいつでも勝てるのではないか?

差し込みにしても、和ですら特殊な状況を除いては一点で読むことなどまず出来ない。
もちろんアタリ牌をいくつかの筋に絞り込み、和了される確率や点数などの期待値を考えて最善の打牌をすることは高い精度で出来る。
しかし、一点読みとなると話は全く違う。

この二つは、いずれも、およそ人外の業である。

しかし、自分は今日、それを目の当たりにしている。


和「毎回プラマイゼロなんて…人間に出来ることなの――――?」


30: 2014/12/09(火) 19:03:43.38 ID:LYBRLxah0

生徒「会長、おはようございます」

久「おー、おはよー」

まこ「相変わらず人気もんじゃのー」

久「お?まこー、おはー」

まこ「聞いたわー」

久「何がよ?」

まこ「毎回プラマイゼロにするやつがもう一人おるそうじゃね?」

久「ああ、それか」

まこ「和、もてあそばれたんか?」

久「あれはもてあそんでるって感じじゃないけどね。照の方もそうだけど」

まこ「しかし、あれは心にクルぞ」

久「まあねー、私も初めて見た時は心底驚いたわ」

まこ「で、どうする?」

久「照のことだって、諦めたつもりはないのよ?あんたはレギュラー落ちの心配をしなさい」

まこ「やる気満々じゃの。じゃ、ワシは期待して待っちょるけえ、頑張りんしゃい」

31: 2014/12/09(火) 19:04:26.75 ID:LYBRLxah0

【図書室】

清澄に入学して以来、私はよくここを利用する。
お姉ちゃんはあまり近づきたがらないけど、蔵書も豊富で、私の好きなジャンルがこれだけの数置いてあるのはここ以外だと隣町の県立図書館ぐらいだ。
お姉ちゃんはわざわざ隣町まで行ってるけど、清澄に通ってるんだからここを利用すればいいのに。


図書委員「貸出中ですね…シリーズ丸ごと借りられてます」

咲「え?」


…おかしい、昨日返した時は全巻あったはずだ。
帰り際に次巻以降があることを確認したから間違いない。
雨にぬれるとまずいから借りるのは翌日にしようと思って借りないで帰ったのが失敗だったか。

しかし、全巻?
貸出制限は三冊までのはずだ。
全巻まとめて借りられているなんてことがあり得るのだろうか?


?「何が貸し出し中だって?」


…ああ、そうか、お姉ちゃんがここの図書館を利用しないのはこういうことか…


咲「…会長」

久「どれ…この本ならうちの部室にあるわよ、ついでに同じ作者の別のシリーズも」

咲「…で、条件はなんですか?」

久「あら、話が分かるじゃない。照から何か聞いてるのかしら?」

咲「お姉ちゃんがここの図書館を使わない理由、今分かりましたよ」

久「まあまあ、良いじゃない。学生議会長権限で議会用資料として借りてるから返却期限もなしよ、ゆっくり読んでくれていいわ」

咲「…麻雀部室で、ですよね?」

久「もちろん。ついでに麻雀を打ってもらいたい。ダメかしら?」


…正直、気乗りはしない。
お姉ちゃんと同じでしつこい勧誘を受けるのは目に見えている。
ただ、先ほどの発言からして、この誘いに乗らなければ、しばらくの間、目当ての本は読めないだろう。

先ほど会長は返却期限がないと言った。
ということは、私が応じるまで、私がこれから新しく読み始めるものも含めて、私の目当ての本すべてを無期限で麻雀部に留置することが出来るということだ。
残念なことに、県立図書館にも今読もうとしている本はない。
強行手段を取られた場合、私にとっての不利益は非常に大きい。

麻雀は嫌いだけど、家族麻雀でなければ打つこと自体は苦痛じゃない。
それに…あの子にまた会えるかもしれない。

リスクとメリットを天秤にかけて、私は誘いに乗ることを選択した。


咲「入部はしません、麻雀を打つだけです。あと、今回だけにしてください。次やったら私もここを使わなくなるだけですからね」


お姉ちゃんがいくら勧めてもこの作品を読もうとしなかったのは、ここにしかないってわかってたからなんだろうなあ…

32: 2014/12/09(火) 19:05:07.77 ID:LYBRLxah0


ガチャ

久「待ち人きたるー」

和「え…」

咲「…ども」

久「須賀君、優希呼んできて」

京太郎「あ、はい」

まこ「お、その子が例のプラマイゼロ二号か?」

咲「二号って…」


『優希ー、面子揃ったぞー』

『あい、今行くじぇー』


33: 2014/12/09(火) 19:05:39.86 ID:LYBRLxah0

久「宮永さん、まこ、和、優希…この四人で二回戦。ただし、東風赤入りでね」

京太郎「会長は?」

久「今回はお手並み拝見。照並みの怪物か、姉の真似をしているだけのひよこなのか、見極めたいの」

咲(二回戦…東風なら一時間もあれば終わる。そしたら読書の時間)

和(今回は本気で行きます)

優希「咲ちゃんはまたプラマイゼロにするのかー?」

まこ(普通に考えれば毎回プラマイゼロなんて無理じゃ…たとえアレの真似をしてるだけのひよこでも、狙って出来るってだけで十分化け物。手加減はせんぞ)

34: 2014/12/09(火) 19:07:21.59 ID:LYBRLxah0

咲(東風赤入りか…)

優希「親リー行くじぇー!」ダン

咲(…え?)

まこ(こがあなん読めんわ、オリじゃ)タン

和(イヤな感じがしますね…)タン

咲「…」タン

優希「来たじぇ!リーチ一発ツモドラ3!裏2つ乗って親倍だじょ!」

13赤567m234赤5赤5p999s ツモ:2m 裏ドラ:5p

咲(…ツモのみが、リーチ一発赤3裏2で親倍か…)

和(まったく、東風だと元気になるんですから…)

まこ「おいおいおい…」


久「優希は東場では稼ぐけど、南場で失速するのよね」

優希「天才なんですけどねっ!集中力が持続しないのだ」

和「…飽きっぽいの間違いでは?」

優希「それだっ!」


咲(…マイナス8000。13000稼げばプラマイゼロか…)

久(焦った様子はない、か。初めて赤入りで挑んだ時の照もそうだったわね…この子にも期待していいのかしら?)

36: 2014/12/09(火) 19:08:04.05 ID:LYBRLxah0

咲「ツモ、300・500は400・600」

和(…1400、ラス親の宮永さんは削られずに親満でプラマイゼロ…何とかしてツモで削りたいところです)

まこ(…ゴミ手か…嫌なもんを思い出すのお)

優希「あたしの親がー…」

―――

咲「ツモ、500・1000」

和(…2000。これでプラマイゼロまでは9000~9900…オーラスを和了って決めるために条件を満たすのは9600のみですか)

まこ(…ますます嫌な感じじゃの…こりゃ)

優希「ふふふ…あたしのトップが盤石になってきたじぇ」

和(そう、トップを取るならこの手はもっと高めを狙うべきです。しかし、宮永さんはあくまでプラマイゼロしか狙いにない)

久(…これは、参ったわ。ほんとに照の妹なのね、この子)

―――

咲「ツモ、1000・2000」

和(…これで宮永さんの点数は24400。プラマイゼロのためには5200~6100の和了り。親でそれを満たすのは30符3翻あるいは60符2翻、でなければ110符1翻しかありません)

まこ(110符1翻なんてのは、実家が雀荘のわしですら人生で一度もお目にかかったことがないトップレアじゃ。考慮する必要はありゃあせん。それよりは連荘で二回に分けて稼ぐのを警戒する方が良いかの、あの人と同じならここで決めてくるはずじゃが)

久(…照の妹だからって照と同じとは限らないしね。まこが照と打ったことがあるのを知ってのブラフかもしれないし…)

―――


咲「槓」

槓:白白白白

まこ「は?」

咲「もいっこ、槓」

槓:9999p

打:赤5p

和(公九牌の暗槓が二つ…これで、30符3翻も60符2翻も不可能…まさか!?)ゾクッ

久(呆れるわね…下手すると照以上の化け物だわ)

37: 2014/12/09(火) 19:09:05.69 ID:LYBRLxah0

優希(…張ってしまったじぇ)


優希手牌

1234p234s2344m北北 ツモ:赤5m


優希「こんなもん1筒切りリーチしかないじょ!南無三!」ダンッ

打:1p


久(110符1翻は、ツモでは絶対に作れない。ゆえに、たとえ超人的な豪運をもってしても狙って作ることは不可能)

久(それを狙って作り、和了るとなると…他人の打牌すら支配する圧倒的な力が必要)

久(…運だけではたどり着けない領域。卓上のすべてを司る、神、あるいは悪魔――――)


咲「ロン…リー棒は要らないよ」

優希「ひうっ!?」


久(―――目の前に、それが居る。110符1翻を自らの意志で作り、自在に和了る、理外の存在が)


11456p東東 暗槓:白白白白 9999p ロン:1p


咲「白のみ、5300」


38: 2014/12/09(火) 19:10:06.69 ID:LYBRLxah0

和「こ、こんな…110符1翻なんて…狙って作れるはずが…」

まこ「…わしは実家が雀荘でな、子供の頃から、それこそ万じゃきかないぐらいの対局を見て来た。天和を和了ったお客さんも知っちょる」

優希「…」

まこ「しかし、110符1翻を和了った人間はおんしが初めてじゃ。しかも、狙ってやったっちゅうんじゃからタチが悪い」

咲「えっと…?」

まこ「完敗じゃ、二号なんて言って悪かったの。おんしはおんしですごい打ち手じゃ」

優希「すごいじぇ!ホントに狙って作ったのか咲ちゃん!?」

京太郎「お前にも取り柄があったんだな」

咲「…京ちゃん、私をなんだと思ってたの?」

39: 2014/12/09(火) 19:11:20.05 ID:LYBRLxah0

久「…ねえ、宮永さん。本を読むための条件、変えていいかしら?」

咲「…はい?」

久「麻雀を打つって条件だったけど、ちょっと変えてほしいの」

優希「じぇ?」

久「あなたが勝ったら、読ませてあげる」

咲「…ちょっとずるくないですか?」

久「勝てばいいだけでしょ?本、読みたくないの?」

咲「…勝てば、読ませていただけるんですね?」

久「ええ、約束するわ」

咲「…わかりました」


和「なっ!?」

優希「わかりましたって…」

まこ「うちらに確実に勝てるっちゅーんか!?」


咲「勝つって、トップってことですよね?…あ、でも…」

久「ん?」


咲「プラマイゼロじゃどうやってもトップにはならないですよ?」


和・優希・まこ「」ズルッ



久「あー、プラマイゼロにはする気なのね…じゃあ、自分は1000点、他のみんなは33000点持ってると思って打ってみて」

咲「…それをプラマイゼロにしたら勝ちということですね?分かりました」

和「…まさか、出来るとでも?東風ですよ?」

まこ「…さっきの『わかりました』よりこっちの『分かりました』の方が舐められた感じが強いのお…」

優希「確実に勝つなんてありえないじぇ!部長やのどちゃん相手だってたまには勝てるんだから!」

まこ(それよりありえんはずのプラマイゼロをする奴じゃがのう、流石に年下にそこまで舐められるわけにはいかんじゃろ!)

40: 2014/12/09(火) 19:12:21.33 ID:LYBRLxah0

二戦目

咲配牌

112233p79s6789m東東東

咲「ダブリー」タン

打:6m


優希「はい!?」


咲「…ダブリー一発ツモ、東、チャンタ、イーペーコー…4000・8000」

優希「そそそ、そーゆーのうちのお株なんですケド!?てゆうか親かぶり!?」

和「…」

まこ「…さっきの対局で、こいつは…いや、まさかな…そんなはずは…」

京太郎「どうしたんですか、染谷先輩?」

まこ「いや、多分思い過ごしじゃけえ、気にせんでええ」

京太郎「はあ…」

41: 2014/12/09(火) 19:13:07.61 ID:LYBRLxah0

東2局 

咲手牌

44赤5赤566p456s456m西 ツモ:4m

咲「ダブリー」

打:西


まこ「」ゾワッ

優希「二連続――――!?」

和「ダブリー!?」


咲「…ダブリー一発ツモ、タンヤオ三色ピンフイーペーコードラ2…6000、12000」


まこ「」ガタガタ

京太郎「染谷先輩?どうしたんですか?」

まこ「…まずい…役満が来る…」

京太郎「は?」

まこ「…照さんは、プラマイゼロに不要な和了はせんかったから、わしはあの人の満貫以上の和了を見たことがない…が、目の前に居る奴は違う…」

京太郎「いやいや、染谷先輩何言ってるんですか?」

まこ「…こいつは思った以上の化けもんじゃぞ、久」

久「今回は大丈夫だと思うわよ。照と同じで、あの子の狙いはあくまでプラマイゼロだもの」

42: 2014/12/09(火) 19:13:58.34 ID:LYBRLxah0

東三局 親:和

和(運…それは努力ではどうしようもない要素です。しかし…そんなものは長続きしない。所詮偶然です!)

和「この親で稼ぐ―――リーチ!」

咲「」タン

和「ロン!12000!」

咲「はい」

―――

東三局一本場 

和(…やけにあっさり和了れましたね…?いえ、それが普通なんですが、宮永さんが振り込むなど、点数調整のための差し込み以外では初めて―――はっ!?)

和(…まさか、今のも、差し込みだというのですか?)

咲「リーチ」タン

まこ(…怪しい捨て牌じゃの。とりあえずオリ…)タン

優希「それロンだじぇ!16300!」

まこ「そっちか!?」

咲(…これで、28000点。1600~2500点の和了りでプラマイゼロ…)

43: 2014/12/09(火) 19:14:38.56 ID:LYBRLxah0

咲「じゃあ、オーラスですね」

和「え?」

久「いやいや、まこのトビで終了よ?」

咲「へ?33000持ちだから、まだ700残ってますよね?」

まこ「なにを言うとるんじゃおんしは…25000持ちにきまっとるじゃろうが」

久「そう思って打てっていうだけで、実際は25000スタートよ?」

咲「えっ!?」


結果

咲  52000
和  27000
優希 28300
まこ -7300


44: 2014/12/09(火) 19:15:09.88 ID:LYBRLxah0

久「まあ、勝ちには違いないわね。約束よ、部室にある本は自由に読んでいいわ」

咲「え、いや、あの…」

久「ん?どうしたの?」

咲「えっと…その、不完全燃焼というか、その…もう一局…」

久「…まあ、そうよね。照と違って、あなたは麻雀を打つの自体は嫌そうじゃないものねえ?」

咲「うう…」

久「けど、残念ながら、ここは麻雀部員が麻雀を打つための場所なのよ。大会も近いし、あまりゲストと遊んでばかりというわけにもいかないわ」

咲「え、えっと…」

久「もちろん、入部すればいくらでも打っていいけど…あ、部員なら合鍵も渡すわ。ここの本もいつでも読めるわよ」

咲「…卑怯じゃないですか?」

久「そうそう、読んでいいとは言ったけど、流石に活動時間中だけよ。部員が居ない時間帯には、部外者はここに入れてあげられないわ」

咲「…それ、保険かけてましたよね?私が勝って読めることになってもなんだかんだ言って本を読ませないつもりでしたよね?」

久「照と違って一年生なのに変な知恵が回るのね…その通りよ!」

咲「二年前、お姉ちゃんが竹井先輩のやり口のあくどさを日々愚痴ってましたから」

久「てなわけで、入部してくれないかしら?」

咲「嫌です」

久「仮入部でいいから」

咲「お断りします。打てないなら本を読みたいので話しかけないでください。今日はまだ活動するんですよね?」

久「残念。ま、約束だから仕方ないわね。じゃ、こっちはこっちで麻雀しましょうか」

45: 2014/12/09(火) 19:15:52.80 ID:LYBRLxah0

優希「ローン!12000だじぇ!」

和「…はい」チャラッ

まこ「らしくないのお…そんな手で押したんか?」

久「どんな手よ…って、役なしの二向聴?須賀君でも降りるわよ?」

京太郎(…押しそうだけど黙ってよう)

和「…」チラッ

咲「…」黙々

和「…少し調子が悪いようです、すみません」

久「仕方ないわねえ…初日から使いたくはない手だけど…」チラッ

咲「…」パタン

久「あら?」

咲「いま、こっち見ましたよね?どうせ、何かしら理由をつけて打ってくれって言うんでしょう?」

久「その通りよ。照の時は苦労したけど、あなたは物分りが良くて助かるわ」

咲「お姉ちゃんほど麻雀が嫌いなわけじゃないですし。でも、一回だけですよ?」

久「オーケー。ちなみに、トップは狙うの?」

咲「…いつも通り打つだけです」

久「残念、勝つことの喜びは覚えてくれなかったか」

咲「あの不完全燃焼じゃ無理もないと思いませんか?」

久「三倍満とか和了るの気持ち良くなかった?」

咲「…まあ、それなりに」

久「トップ狙いで打ってみましょうよ、もう一回」

咲「さっきのがあるから、自分は1000点で他は33000っていうのはちょっと難しいですね。トビを考慮するとどうしても本来の点数が浮かぶので」

久「…そっか、じゃあ、また別の手を考えておくわ」

咲「そうしてください。今回はいつも通り打ちます」

和(…プラマイゼロ…崩して見せます)

46: 2014/12/09(火) 19:16:53.68 ID:LYBRLxah0

和(先ほどの一局は、私にとっても不本意な終わり方でした。今度こそ…)

咲「…ツモ。300、500」パタン

12357p234s56799m ツモ:6p


和(早い…)ギリッ

―――

優希「ポン」

打:9p

優希手牌

???? チー:456p ポン:南南南 西西西


咲「」タン

打:2p

優希「ロン、2000」


1388p チー:456p ポン:南南南 西西西 ロン:2p


和(…一点で読んでの差し込み…なぜ、その待ちが分かるのですか?捨て牌は先ほどの9筒まで萬子と索子のバラ打ちばかりで染め気配であることしかわからないはずなのに…)

―――

咲「ツモ。4000オール」

和「…」

―――

まこ「ロン、5500」

咲「はい」チャラッ

47: 2014/12/09(火) 19:18:06.32 ID:LYBRLxah0

東4局(オーラス)

優希 22500
和  20700
咲  30600
まこ 26200


咲「リーチ」

和(…これでプラマイゼロ…しかし、誰も和了らなかったり、ツモ和了ったりしたらどうするのでしょう?)


和手牌

222666888s赤5677m


和(タンヤオ三暗刻ドラ1…リーチ棒が出たから、ツモはもちろん、どこから和了ってもトップです。しかし、宮永さん以外から和了ると宮永さんがプラマイゼロ…)

優希「勝負!」タン

打:4m

和「あ…」

優希「ん?どうしたんだじぇ?」

和「…いえ…その…」


まこ「何もないならツモるぞ?」

咲「…」

和「…ロン、です。8000」パタン

咲「今の和了りで原村さんのトップですね」


優希 14500
和  29700
咲  29600
まこ 26200


優希「きっちりだじょ、流石のどちゃん!」


48: 2014/12/09(火) 19:18:42.44 ID:LYBRLxah0

和「…どこから、狙い通りですか?」


咲「え?」

和「どこから狙っていたんですか!?この結果を!!」バンッ!

久「和、落ち着きなさい。卓を叩かないの」

和「…」ダッ!

優希「のどちゃん!?」

49: 2014/12/09(火) 19:20:49.37 ID:LYBRLxah0

…どこから、か。

プラマイゼロについてなら最初からだし、この結果についてなら、私のプラマイゼロ以外は特に意図したものではない。
オーラスは全員満貫以上の手が入っていたはずで、私のリー棒が出れば誰がどこから出和了りしてもトップ。
トップが見える以上はみんな押す。
そしたら、振り込みあう。

そして、振り込んだ人がラスで、和了った人がトップ。
暫定一位だった私は二位に落ちてプラマイゼロ。
これは、想定してはいた。

百点差というのは偶然。原村さんが勝ったのも偶然。
けど、リー棒が出るか出ないかが勝負に影響するような僅差なら、百点差というのはそれなりに起きるんじゃないかな?

と、説明する前に原村さんは走り出してしまった。

私が追うべきなんだろうか?
私が行っても火に油ということがあり得るから、他に適任者が居ればそちらに任せるべきだと思う。
けど、誰一人として動きを見せない。


久「行ってきなさい。別に、本は逃げたりしないわよ」


他ならぬあなたが本を私の手の届かないところに遠ざけて、私をこの場所に引きずり込んだんじゃありませんでしたっけ?
しかし、今はそれを言っている場合ではない。

私は、原村和を追って走り出した。


50: 2014/12/09(火) 19:21:46.02 ID:LYBRLxah0

咲「原村さん!」

和「…」プイッ

こちらに一瞥をくれて、すぐにそっぽを向いてしまった。
が、私を見て逃げ出すというわけでもなさそうだ。
話ぐらいは出来る。

そう判断して、私は彼女が座るベンチに腰かけた。


咲「…話してなかったね、私が、プラマイゼロをする理由」


おそらく、確実に食いつくであろう話題を振る。


和「昨日尋ねた時ははぐらかされましたね…何が、あったのですか?」


ほら、食いついた。
これで、少なくともこの話が終わるまでは、彼女と会話ができる。

51: 2014/12/09(火) 19:22:48.09 ID:LYBRLxah0

咲「…私にも、普通にトップを目指していた時期はあったんだよ。思い出せないぐらい昔だけど」

和「ルールを覚えてすぐにプラマイゼロを目指すように仕向けたなら、あなたにルールを教えた人間を八つ裂きにします。これだけの才能を歪ませた責任は重いですよ」

咲「あはは、でね…私とお姉ちゃんには才能があるって言って、お母さんが賭け麻雀を始めたの」

和「…何故、賭け麻雀を?」

咲「真剣勝負で私たちの才能を伸ばすためだってさ。それだけなら良かったんだ、勝てばいいだけだから。傲慢に聞こえるかもしれないけど、私とお姉ちゃんなら、難しいことじゃなかった」

和「…」

咲「お母さん、麻雀のコーチでね。腕には自信があったの。だからかな、私たちに負けると機嫌が悪くなった」

和「…自分で賭け麻雀を提案しておきながら、身勝手すぎますね」

咲「でも、負けたらお小遣いを取られちゃうから、負けるわけにもいかない。それで、私はプラマイゼロを始めた」

和「…」

咲「まあ、プラマイゼロにしてもお母さんの機嫌は悪くなったんだけどね」

和「…でしょうね。腕に自信があって負けると機嫌が悪くなるというなら、プラマイゼロを狙って達成されて気分を害するのは当然です」

咲「…プラマイゼロはダメ、けど、勝ってもダメ、その頃になると、わざと負けても手を抜くなって言われて怒られた」

和「…」

咲「そのうち、私は、麻雀を打つこと自体を拒むようになった。けど、打たなければ打たないでお母さんの機嫌は悪くなる」

和「…打てばどういう結果でも機嫌が悪くなる、打たなくても機嫌が悪くなる…つまり、どうやってもダメというわけですか」

咲「…多分、勝つのが最善だったんだろうね。お母さんは、もとはと言えば、私たちの才能を伸ばしたかったんだから。けど、お姉ちゃんが小学生だった頃の話だから、それに気付くのは難しかったよ。お母さんが一番機嫌が悪くなるのは私たちが勝った時だったし」

和「…腕に覚えのある人間が小学生に完膚無きまでに負ければ、それも仕方ないでしょうね」

咲「いつからだったかな…お姉ちゃんまでプラマイゼロをするようになって、私たちは、拒絶の意志を込めて、二人でプラマイゼロを貫くようになった。それからは、麻雀は儀式みたいなものだったよ。お母さんが怒って席を立つまで、私とお姉ちゃんの二人がプラマイゼロになるようにし続けるだけのゲーム」

和「…」

52: 2014/12/09(火) 19:23:19.83 ID:LYBRLxah0

咲「…だから、私は、麻雀が……『あんまり好きじゃない』んだ」

和「…あ」

咲「今となっては、普通に麻雀を打ってた頃の打ち方を思い出せない。わたしにとっての麻雀は、プラマイゼロに調整してお母さんが席を立つのを待つだけの作業なんだ」

和「ごめんなさい…あなたの事情も知らずに…私は…」

咲「…でも、今日は、少しだけ楽しかった」

和「…え?」

咲「多分、あなたが相手だったからだと思う。家族で打つ、嫌な作業じゃなくて、麻雀っていうゲームを、楽しめた気がする」

和「…」

咲「…私はこの打ち方しか出来ないと思うけど、それでも良ければ、また、一緒に打ってほしいな」

和「…ええ、こちらからお願いしたいぐらいです。あなたのプラマイゼロを崩す、新しい目標が出来ました」

咲「ふふ、ありがとう」ニコッ

53: 2014/12/09(火) 19:23:47.57 ID:LYBRLxah0


和「戻りました」

咲「…日が暮れちゃいましたね」

久「おかえりー。あんたらが鞄置いたままだから帰るに帰れなくて困ってたのよー」

和「申し訳ありません」

咲「ごめんなさい」

久「じゃ、気を付けて帰りなさい」


54: 2014/12/09(火) 19:24:51.11 ID:LYBRLxah0

咲「…麻雀、か」

界「何してるんだ?お前が自分から卓に近寄るなんて珍しい」

咲「あ、お父さん」

界「…売っちまうか、それ。卓が無ければあいつも麻雀打とうなんて言い出さないだろう?」

咲「…どうせ手積みで打とうって言い出すよ」

界「ま、そういう奴ではあるが」

咲「私が麻雀を楽しめていた頃は、喧嘩なんてしなかったのにね」

界「…そうだな」

パサッ

【ウイークリー麻雀TODAY】

咲「…?」

界「57ページ」

咲「…」



―――――

【昨年度優勝校監督に聞く、今年の抱負】

『最高の戦力を揃えました。今年も優勝狙います』

昨年度の個人戦優勝者――――をはじめとして強力な戦力を揃えた昨年の団体戦王者、白糸台高校。
そのチームを率いるのは、かつて母校を優勝に導き、監督として舞い戻った名キャプテン宮永―――

―――――



咲「お母さん…」ギュッ

【物陰】?「…」


55: 2014/12/09(火) 19:25:44.07 ID:LYBRLxah0


【放課後】

?「失礼します」

ガチャ

久「あら?宮永さん?」

咲「…麻雀部(ここ)に入れて頂けませんか?」

まこ「おや?昨日は嫌がっちょったが…」

久「願ってもないことだけど…理由を聞いていいかしら?」

咲「…」

和「宮永さん…」

咲「…理由が無ければ、ダメでしょうか?」

久「もちろんオーケーよ?団体戦の人数すら足りないとこだったの、さっきも言ったけど願ってもない話。一応聞いてみたいってだけ」

咲「…どうせ勧誘が続くなら、入ってもいいかなって思いました。昨日は、久しぶりに麻雀を楽しめた気がしますし」

久「そう。あなたは照と違ってやりやすくて助かるわ」

咲「改めて、よろしくお願いします」ペコリ

まこ「よろしくな」

優希「これは全国が見えて来たんじゃないか?どうだ犬?」

京太郎「未だに咲がすげえってのが受け入れられないんだが…」


久(県予選まであと三週間か…さて、どう動くべきかしらね?)



77: 2014/12/12(金) 13:23:40.02 ID:KNopfkGq0
なんすかこの流れ…

一応自分の解釈を述べますが、キャラの強さを客観的に示す作中の言葉を拾っていくと本編の世代が異常に強いって結論になるんですよね。

二巻のどっかで一ちゃんが「のどっちなら変なプロより強い」と言ってるので、プロ級と同格か明らかにそれより上の化け物がゴロゴロしてる長野の異常っぷりは群を抜いてます。一回戦負けの今宮女子ですら田中さんが「役満ぶち当ててやんよ」の宣言通りに(=狙って)役満を作ってたりしますし。
部長が直前に「私より早く終わらせてきなさい」と言ってるのも田中さんの異能を見抜いて早上がりを指示していたとするなら田中さんも相当な化け物ということに…先鋒の門松さんも誰かから最速と呼ばれているようですから、今宮女子も魔物の集まりかもしれません。

また、昨年の個人戦で二年生にして15位になった寺崎さん(三年生が居なくなったことを考慮すれば本編の代では全国10指に入るはずの選手)が二回戦以降いいとこなしの玄ちゃんに軽くやられてるあたりからも、本編世代の異常さがうかがえます。

おそらく菫さんや渋谷さん、亦野さんでも寺崎さんとはいい勝負か普通に勝つかぐらいだと思うので、白糸台は昨年の出場者の水準なら全国上位20人クラスの選手を五人そろえていたのではないかと思われます。

あと、当SS内では白糸台は「インターハイ二連覇中で三連覇を狙う王者」ではなく「昨年度優勝校」ということになってます。
とりあえずそういうことでお願いします。

では投下します。

78: 2014/12/12(金) 13:24:59.22 ID:KNopfkGq0

照「咲、最近帰りが遅いみたいだけど、何してるの?」

咲「え、えっと…ちょっと穴場を見つけて、そこで本を読んでるの」

照「…そんなところあったの?今度教えてね」

咲「う、うん…」

79: 2014/12/12(金) 13:25:38.42 ID:KNopfkGq0

ーー

?「原村さん!」


通学中、声をかけられる。
聞き覚えのあるような気がするが、思い出せない。
とりあえず姿を確認しよう―――私は声のした方に顔を向けた。


西田「お久しぶり、『ウイークリー麻雀TODAY』の西田です」


なるほど、聞き覚えがあって、思い出せないわけだ。
雑誌の記者。
昨年、インターミドルで優勝するまでは縁のなかった存在で、取材を受けた時の記憶はかなり印象が強い。

しかし、その時に聞いていた声は覚えていても、その相手が誰か、となると緊張のせいか記憶が飛んでしまっている。


和「お久しぶりです」

西田「取材、いいかしら?」


登校時間には余裕がある。
学校に間に合う程度で切り上げて下さいと念を押したうえで引き受けた。


西田「昨年の原村さんの記事が好評でねー。何せ全中優勝者がこんな美少女なんだもの」

和「…そんなことは…」///

西田「いやいや、謙遜しなくていいのよー、ホントに可愛いから。で、二週間後に県予選だけど、個人戦で注目している選手はいる?」

和「っ!」


…いる。
間違いなく、自分より強いと思える選手が、同じ高校、同じ部に。
しかし、彼女は…おそらく、個人戦で勝ちあがる選手ではない。

対戦したすべてにの相手に圧倒的な実力差を刻み込みながら、しかし、表舞台には決して出てこない。
彼女は…宮永咲は、そういう選手だ。


和「…いませんね、強豪校とか選手とか詳しくないですし」

和「自分のスタイルを守っていれば…誰が相手かなんて関係ありません!」


とは言うものの、最近は彼女のプラマイゼロを崩すためにスタイルを離れた打牌を繰り返しているのだが。
長く話していると隠し事をしているのが態度に出てしまいそうで、強く言い切った勢いで背を向けて歩き出す。


和「…遅刻はしたくありませんので、失礼します」


80: 2014/12/12(金) 13:26:44.61 ID:KNopfkGq0

西田「今年の個人戦は荒れるかもしれないわね」


相棒である西田がそう呟く。
身内びいき抜きでも、西田は優秀な記者だ。
人脈づくりも上手いし、書く記事も読みやすい文体で、それでいて伝えたいことをしっかり伝える。

なにより、取材相手の真意を読み取ることに長けている。
僅かな表情の変化や言い回しから、言葉の裏にある本心を見抜く。

記者というのは、こいつにとって天職だろう。

その西田が、原村和の言葉から何かを読み取ったようだ。


西田「さっき、彼女は言いよどんだ。あの天才、原村和が意識する選手がいる」


確かに、言葉に詰まった感じではあったが…
いや、西田が言うのだ。おそらく、原村が意識する選手がいるのは間違いないだろう。


西田「…けど、自分より強いと認めつつも、大会では負けない確信があるのね。天江衣のように個人戦に出ない…あるいは、特殊な打ち手で、出ても成績が振るわないタイプなのかもしれない」

「特殊な打ち手?」

西田「たとえば、『和了しないけど絶対に点棒を減らさない』とかだったら?天才・原村和が万策尽くしても、原点から一歩も動かない相手…」

「…横浜あたりがのどから手が出るほど欲しがりそうだな。そんな奴が本当にいれば、三尋木咏の作るリードを守る、抑えの切り札になる」

西田「ま、それじゃ荒れないけどね。どんな打ち手かは会ってみてのお楽しみ。まあ、推測が当たっていたとしても追う価値はありそうね。原村和自身も価値が高いし」

「じゃ、今年は清澄に注目か?」

西田「龍門淵に注目しても当たり前すぎて売れなさそうだし、風越も目新しさがないしね。あと久保さん怖いし」

「決まりだな。写真は任せろ」

西田「オッケー、任せた」

81: 2014/12/12(金) 13:27:16.32 ID:KNopfkGq0

照「おはよう」

モブ「あ、宮永さん、おはようございます」

照「ふふ、いつも言ってるけど、なんで敬語なの?」

モブ「うーん…宮永さんと会長は、なんか敬語になっちゃうんだよねー」

照「私、そんなに怖い?」

モブ「ちちちが…怖いとかじゃなくて、大人びてるし、代表挨拶とかハキハキしゃべるし…」

照「ふふっ、なんで慌ててるの?やっぱり怖いんじゃない?」クスクス

モブ「違うよー!もう!宮永さんの意地悪!」プイッ

照「あはは、ごめんごめん」

モブB「宮永さーん、お客さんだよー!」

照「…お客さん?誰?」

モブB「それがなんと、会長!なんの用かな!?」

照「…竹井さんか、なら、用事は大体分かるよ。行って来るね」


モブ「会長と宮永さんって、どんな話するんだろうね?」

モブB「気になるよねー」

モブ「立ち聞きしちゃおっか?」

モブB「会長はともかく、宮永さんってそういうの嫌がるからやめとこ。私、嫌われたくないし」

モブ「そっか、うん、私もやめとく」

82: 2014/12/12(金) 13:29:12.70 ID:KNopfkGq0

人間、裏表というのはあるものだ。

私の場合、表だと思われているのは基本的に演技。
明るく頼りになるクラスのまとめ役、私がそういう人物であれば、人見知りしがちな妹でも周囲が勝手に気を使うので上手くやれるはず。

演技も板について来ればボロが出ないもので、今となっては誰も私の本性が天然で口下手な少女だとは疑わない。

本性を知っているのは、この高校だと二人だけ。

一人は最愛の妹。
家族として素の自分をさらけ出しているからこれは当然。

そしてもう一人は…今のところこの世で二番目に会いたくない人物。
そこまで悪い人間ではないので、これから先もっと嫌な人間に会えば順位は変わるだろうから、「今のところ」とつける。

というか、彼女が私に関わってくる際の唯一の用件さえなければ好ましい人物であるはずなのだが、いかんせんその用件が悪すぎる。


彼女が私に用があるということは―――そうか、今年もそんな時期か…

83: 2014/12/12(金) 13:30:34.92 ID:KNopfkGq0

照「入部はしない」

久「話も聞かずに開幕からバッサリ切ってくれるわね」

照「あなたが私に話しかける用件はそれしかないから、聞くまでもない」

久「いやいや、他の用件かもしれないじゃない。愛の告白とか」

照「…」ジト

久「はいはい、お察しの通り勧誘よ。悪かったわね」

照「…告白なら慣れてる、あなたへの返事も用意してるよ」

久「その他大勢と違う返事なら聞いてみたいけど、今年は一応人数が揃ったから恋愛に現を抜かしていられないのよね」

照「そう、それは良かった。頑張って」

久「いやいや、私としてはあなたに頑張ってもらいたいのだけど?」

照「…何を頑張らせるつもりなの?人数は足りてるんでしょ」

久「あなた以上の打ち手を私は知らないもの。最後のチャンスだから最高の戦力で臨みたいの」

照「…人数が足りてるなら、私が入ったら誰かがレギュラーから外れる」

久「そうね。それがどうかした?」

照「かわいそうだと思わない?」

久「あなたが入ってくれるなら些細なことよ。あなたが思っている以上に、私はあなたを買っているの」

照「見込み違いだと思うけど…最初に言った通り、入部はしない」

久「もう、つれないわね」

84: 2014/12/12(金) 13:31:40.52 ID:KNopfkGq0

モブ「あ、宮永さん、お帰りなさい!」

照「もしかして待ってたの?」

モブB「だって会長と宮永さんの会話とか気になるじゃないですかー」

照「大した話じゃないよ、竹井さんの、毎年お決まりのアレ」

モブ「ああ、麻雀部」

モブB「あれ?でも、今年は人数足りてるって聞きましたけど?」

照「そう言ってたんだけどね…入ったのが初心者なのかな?」

モブ「いえ、インターミドルチャンピオンと、その子の中学時代のチームメイトって聞いてますけど」

モブB「あと…あ、そうですよ!宮永さんの妹さんじゃないですか、最後の一人!」

照「…え?」

モブ「へ?知らないんですか?最近、妹さん旧校舎によく行ってて、麻雀部に勧誘されたって噂ですけど…」

照「…へえ…咲が?」ゴゴゴ

モブ・モブB「」ビクッ

照「教えてくれてありがとう。私、ちょっと用事が出来ちゃったから行くね」

85: 2014/12/12(金) 13:32:58.81 ID:KNopfkGq0

咲「…」パラ

旧校舎に向かう途中にある、見晴しの良い丘。
そこに立つ木の下が最近のお気に入りの場所だ。

上手く嘘をつくコツは、真実を混ぜること。
そうすることで、自分を騙して上手く嘘をつくことが出来る。
今朝、最近帰りが遅い理由をお姉ちゃんに尋ねられた時、穴場を見つけたと答えた。それがここ。

嘘をつくコツなんて習得したくなかったけど、身についてしまったものは仕方ない。

宮永照の妹というのは、入学した時点でかなり注目される。

特に上級生は姉と同等の人間であるのではないかという期待、あるいは姉に近づこうとする下心を持って私に接することになる。
期待されるだけなら期待外れというだけで済むが、下心を持つ人間は上手くあしらわなければならない。
私は、発言の裏を読む能力や、相手の意図を読んでいなすことを覚えざるを得なかった。
それが無ければ私だってちょっと鈍いぐらいの純情な少女だっただろうに。

男子はまだいい。
ほとんどの場合、姉に好かれようとする下心だから、私が姉へのパイプにならないと分かれば掌を返す。

問題は、同性。
姉に嫉妬して、妹である私を使って貶めようとする人間がたまにいる。
幸い、そういう意図を読み取る能力が磨かれてしまった私はそれらを回避することが出来た。

優秀な姉(だと思われている人間)の妹ゆえの面倒な人付き合い。
嘘をつく技術なんていうものを身に着けてしまったのはそれが最大の要因だろう。

人目のない穴場で読書をするのも、人付き合いを避けるためだ。
私に用があるなら、私が居場所にしている穴場を知っている人間を通さなければならない。
悪意ある人間が簡単に近づけないようにするため、そういう状況を作った。

京太郎には、その際の仲介人の役目を押し付ける形になっている。
彼は姉目当てで自分に近づいたわけではない数少ない人間で、それに加えて、穴場の秘密を守ってくれる。

「静かに本を読みたくて探した穴場だから、出来れば他の人に知られたくない」

そう言って教えた場所の秘密を守ってくれたのは、中学時代の友人では彼だけだった。


『おーい、咲ー』


噂をすれば…今私が使っている穴場を知っている唯一の人間が、私を呼びに来たようだ。

86: 2014/12/12(金) 13:33:45.40 ID:KNopfkGq0

京太郎「部活に入って一週間だけど、慣れたか?」

咲「うん、麻雀を打つのは楽しくなって来たよ。一応だけど、プラマイゼロ以外の打ち方も出来るようになったし」

京太郎「そっか、それは良かった」

咲「でも、やっぱり、自然に打つとプラマイゼロになっちゃうね…」

京太郎「そっか…まあ、団体戦ならプラマイゼロでも半荘一回で確実に5000点前後稼げるってことだから、それでも悪くないって部長は言ってたけど」

咲「部長も和ちゃんも居るし、私が無理に稼ぐ必要もない、か…それはそうかもしれないけど…」

京太郎「なんかあるのか?」

咲「…全国大会の優勝チームに勝つなら、私も稼がなきゃダメだよね?」

京太郎「おいおい、全国優勝する気か?そんなキャラだっけお前?」


?「そこの二人、止まれ」

87: 2014/12/12(金) 13:34:16.84 ID:KNopfkGq0

咲「え?」

京太郎「あ、お久しぶりです」


照「…」


咲「お姉ちゃん…なんでここに…?」

88: 2014/12/12(金) 13:35:22.32 ID:KNopfkGq0

【部室】


照「…」

和「…この方は?」

咲「私のお姉ちゃん」

優希「このひとも咲ちゃんみたいにプラマイゼロにしたりするのか?」

京太郎「部長と染谷先輩によるとそうらしいな」

照「…疑うなら実際にやってみせようか?」

和「ええ、見せて頂けますか?」

咲「…面子は?」

照「須賀君以外の四人で」

京太郎「俺を除外する理由は?」

照「…あんまり弱いとトバれるケアをしなきゃいけなくて面倒だから」

京太郎「…さいですか」ガクッ

89: 2014/12/12(金) 13:36:32.50 ID:KNopfkGq0

起家 優希
南家  照
西家  咲
北家  和


照「…」タン

和(プラマイゼロにする人が二人同時に卓につく…それがどういうことか分かりますか?)

和(一人だけがプラマイゼロにするだけなら、まだいいのです。もちろん難しいことですが、まだ理解できます)

和(しかし、二人プラマイゼロというのは、今度こそ本当に人間業ではありません)

和(だってそうでしょう?ツモ和了りでもう一人の点数も変わるのですから、オーラスでツモ和了りするとき、相手の点数も考慮しなければいけません、あるいは、相方がすでにプラマイゼロなら、状況によってはオーラスでロン和了りしか出来ないことになります)

和(そして、プラマイゼロならトップを取ることも出来ない)

和(プラマイゼロ、すなわち30000点付近の者が二人いるなら、残り二人で合わせて4万点前後しかないことになる)

和(その四万点の中で、片方に30000点を明らかに超えるトップを取らせつつ、一万点を切るはずのもう一人のトビにも注意を払う…卓上の四人全員の点数を調整しなければいけないのです)

和(そのうえ、これは赤入り東風戦…)


和「プラマイゼロ、出来るものならやってみなさい!リーチ!」タン


和手牌

2344赤56p6789s477m ツモ:3m

打:9s


優希(のどちゃんがリーチかけて来たけど…これはオリるわけにはいかないじょ…)


優希手牌

東東東南南南北北北白白中中 ツモ:5m

ツモ切り:5m


和「ロン、メンタンピン赤1に一発がつきます…裏は乗らず。8000」

優希「じぇええ!?いや、だけどこんなのオリれないじょ」パタン


和「こ、これっ!?」ゾワッ

和(…私に振り込ませるために、オリられない手を送り込んだ?)

和(馬鹿げています…積み込みでもあるまいし、そんなことできるはずが…)ビクッ


ゴオオオオオ


和「」チラッ

和(…何もない、それはそうでしょうが、今、後ろに何かあったような…?)

咲(…家族相手には今更使わないから、私もこれを見るのは久しぶりだな…照魔鏡、相手の打ち方を見抜く、お姉ちゃんの力…)

90: 2014/12/12(金) 13:38:13.62 ID:KNopfkGq0

照「ツモ、タンヤオドラ2、4000オール」パタン


55赤567p333678m3赤5s ツモ:4s


和(まだ4巡目ですよ?こんなの、止めようがありません…)

―――

照「」タン

打:6m

咲「ロン、面前混一色・白。8300」

1123478m北北北白白白

照「はい」

和(…これで、照さんは900~1800点でプラマイゼロ、宮永さんは…300~1200点でプラマイゼロですか)

和(二人とも一度ずつ和了らなければいけない状況、親の宮永さんはどうやっても1500以上の和了になるので、次は照さんを警戒すれば大丈夫でしょう)

―――

和「」タン

打:3m

咲「ロン、タンヤオのみ、1500」パタン

456s2344588m ポン:222s ロン:3m

和「…え?」

和(どういうことですか?これだと宮永さんは30800点…何時ぞやのようにリーチでもかけるつもりですか?いえ、それだと照さんが和了したら2000点以上になってしまいます)

91: 2014/12/12(金) 13:41:20.88 ID:KNopfkGq0

東3局一本場 ドラ:1m

和(考えてみれば簡単なことでした、まだ宮永さんの親は続いています。つまり、ここで優希か私に安手をツモらせる、あるいは照さんにそれなりに大きい手をツモらせる気なのでしょう?)

和(そうはさせません、この手を和了りきってみせます)


和手牌

2234赤5p234赤56s白白白


優希手牌

1112244455578m ツモ:1s

優希(…清一色三暗刻ドラ3…三倍満確定の大物手、リーチはかけてないけど、オリるわけにはいかないじょ)

打:1s


和「ロンです、白ドラドラ。5200は5500」

優希「うう…ボロボロだじぇ…」


和(…やけにあっさり和了れましたね?何でしょう、この違和感は…)



オーラス前点数状況

優希  6000
咲    30800
照    28700
和    34500


和(あ…そうか、トップ…私か優希にトップを取らせなければならないのでしたね)

和(…今の一局、私に優希から和了らせることこそが狙い…いえ、優希も勝負手だったようですから、どちらでも良かったのかもしれませんが、いずれにしても私たちの間で点棒のやり取りが起きるようにされていた…)

和(冷静に点数を見てみれば、照さんがツモってプラマイゼロになる点数なら咲さんもプラマイゼロで収まります。すべて、計算通りなのでしょう)

和(難しいから、出来ないというわけではない…一人プラマイゼロより遥かに困難な二人プラマイゼロ、この人たちはそれを平然とやってのけるのですね)

―――

照「ツモ、300・500」

和「…完敗です。二人プラマイゼロ…こんな神業を平然とやってのけるとは…」

照「…トップはあなた、負けてはいない」


最終結果        (オーラス変動分)

優希  5700(ー  300)
咲    30500(ー  300)
照    29800(+1100)
和    34000(ー  500)

92: 2014/12/12(金) 13:42:22.93 ID:KNopfkGq0

和「…この結果を狙って作ったと言われて勝ち誇れるほどマヌケじゃありません」

咲「…私たちの二人プラマイゼロは、いつものことだから」

和「え?」

咲「話さなかったっけ?私にとっての麻雀は『お母さんが怒って席を立つまで、【私とお姉ちゃんの二人がプラマイゼロになる】ようにし続けるだけのゲーム』だったって」

和「…あ、ああっ!?確かに!?」

優希「どうしたのどちゃん?咲ちゃんがプラマイゼロにして、そのおねーさんもプラマイゼロに出来るのはそんなにおかしなことじゃないじょ?」

和「…自分一人だけプラマイゼロにするのと、二人プラマイゼロは難易度が桁違いなんですよ」

優希「そうなのか?」

93: 2014/12/12(金) 13:42:54.43 ID:KNopfkGq0

バタン

久「おー、やってるー?…って」

まこ「照…さん?」

照「…待ち人きたる。ちょうどいい暇つぶしになった」

和「…部長…」

久「あら、随分落ち込んでるわね?照にボコボコにされたのかしら?照が本気出してくれたなら、和には悪いけど私は嬉しいわね」

照「…いつも通り打っただけ」

久「いつも通りって、プラマイゼロなんか咲で慣れてるでしょうに…って、咲?まさか、咲も入ったの!?」

咲「はい」

久「結果は!?」

咲「『いつも通り』です」

久「…冗談でしょ?人間にそんなことできるの?」

まこ「どういうことじゃ?」

久「分かんない?二人が同時にプラマイゼロにするのは、一人でやるのとわけが違うのよ。もちろん、一人でやるのも神業だけどね」

まこ「…あ、ああっ!?確かに!?おんしら、なんちゅうことを平然とやっとるんじゃ!?」

優希「そんなに凄いのか?」

久「…いいわ、一から説明してあげる。まず…」

94: 2014/12/12(金) 13:44:32.43 ID:KNopfkGq0

――――

優希「…言われてみれば、なかなかになかなかだじょ」

まこ「…照さんと咲、どっちもとんでもないと思ってはいたが…ここまでじゃとは思わんかったぞ」

和「…」

照「…話は終わった?」

久「ええ、あなたの凄さを伝えるのに成功したわ」

照「そう、で、今日ここにきた用件だけど…」


久「却下よ」


照「…まだ何も言ってない」

久「あなたが自分からここに来る用件なんか一つしか思いつかないわ。却下よ」

照「…もしかしたら入部しに来たのかもしれない」

久「さっき誘ったばっかりじゃない、あり得ないわね。もしそうならあなたの名前が書いてある入部届けは常に持ち歩いてるからいつでもオーケーよ?」

照「実物を確認しておきたいけど、そんなことをしている時間が勿体ないね。本題に移ろう」

久「だから却下よ、認めないわ」

95: 2014/12/12(金) 13:45:01.12 ID:KNopfkGq0


照「咲を退部させるのにあなたの許可はいらない」

咲「…え?」

照「咲が自分から動くのは珍しいから、姉としては応援してあげたいけど、麻雀だけはダメ」

咲「お、お姉ちゃん?」

照「咲…」


照「麻雀部―――やめてくれないかな?」


104: 2014/12/15(月) 17:48:42.38 ID:jZ+WaP5D0

久「だから却下だって言ってるでしょ。咲が抜けたら団体戦にも出られないし」

咲「…」

照「…じゃあ、私の入部と咲の退部を賭けて勝負しよう」

久「」ピク

まこ「いくら照さんでもなあ…うちは大会に出られるかどうかギリギリのとこじゃ、流石にリスクとリターンが釣り合わんけえ」

久「乗った」

まこ「おいっ!?」

久「…照にはそれだけの価値がある。私は、照が入ってくれれば、私以外の残り3人全員初心者でも全国に行けると本気で思ってるわよ」

照「…竹井さんは、相変わらず私を買いかぶりすぎ。けど、乗ってくれるのはありがたい」

久「で、条件は?どうなったら勝ちで、どうなったら負けなの?」

照「麻雀で勝負。私のプラマイゼロが崩されたら私の負け、でどうかな?」

久「それ以外のルールは?東風赤入りとかでもいいわけ?」

照「一局勝負とかだと流石に困るけど、それぐらいなら問題ない」

105: 2014/12/15(月) 17:49:55.97 ID:jZ+WaP5D0

久(…さて、氏ぬほど分の悪い勝負だけど…咲はどう思ってるのかしら?)

咲「…面子は?」

照「誰でもいい」

咲「なら、私は入るよ。自分のことだもん、いいよね?」

照「…咲は流石に…」

咲「いいよね?」

照「う、うん」

久(…とりあえず、手札にジョーカーが入った。勝負にはなるわね…あとは…)チラッ

まこ(無理無理、照さん相手にするならワシに期待されても困るけえ)ブンブン

久(まこはアウト…実際、変な打ち方するからまことは相性も悪いしね)

和(…宮永さんの退部を、私の関われないところで決めるなんて言いませんよね?)キッ

久(…最近の和は咲のプラマイゼロを崩すために色々試してるみたいだったわね、素も実力も申し分ない。ま、決まりね)

久「じゃあ、面子は私、照、咲、和で良いわね?」

照(…不味い、咲の気迫に流された…竹井さんと咲相手だと流石に分が悪いかもしれない…)

照「あ、あの、やっぱり咲はダメ―咲「じゃあ、始めようか?」」

照「…はい」

久(なるほど、分が悪いって自覚する程度には分が悪いのね。これはいいとこ引いたんじゃない?)

和(宮永さんは、部に残ることを望んでくれるはずです…宮永さんと同格の人外が相手であっても、宮永さんが味方ならきっと――)

106: 2014/12/15(月) 17:50:35.61 ID:jZ+WaP5D0

照(冷静になろう。分は悪いけど、まだ負けると決まったわけじゃない。咲の打ち方を一番良く知ってるのは私。つまり咲は何とかなる)

照(そっちのピンクは、さっき鏡で見た、あれぐらいなら何とかなる)

照(となると、問題は竹井さん。もともと手ごわい相手なうえに一年ぶりだし、鏡で見ておかないとまずい気がする)

照(鏡のために一局目を捨てるなら、出来ればラス親を引きたい)

照(この場決めが勝負!)


カラカラカラ…


咲「あ、お姉ちゃんが起家だね」


照「…はい」シュン

107: 2014/12/15(月) 17:52:28.40 ID:jZ+WaP5D0

照(…しかし、鏡は使わないと…ここは見の一手)



咲「ツモ」

19p19s199m東南西北白発 ツモ:中


咲「8000・16000」


照「…え?」

和(…これで、プラマイゼロのためには親番なしで21000点稼ぐ必要があります。私が考えていたプラマイゼロ対策の一つ、『一度の和了でプラマイゼロに出来る点数にさせない』あっさり実行されたのは悔しいですが、さすが宮永さんですね)

久(やりたくても出来ないプラマイゼロ対策よね。味方にするとホントに頼もしいわ)

咲(私の打ち方を一番理解してるのはお姉ちゃんだけど、お姉ちゃんの打ち方を一番理解してるのは私。お姉ちゃんは連続で和了る時に打点をあげないといけない。ここから三連続で和了するとして、21000前後を稼ぐ組み合わせはそう多くない…ついでに、この巡目で終わったら照魔鏡で三人を見るのも難しいんじゃないかな?)

照(…まだ慌てる時間じゃない、大丈夫、残り三局あるから5200、7700、8000で行ける)


ゴオオオオ(照魔鏡)


久「!?」ビクッ

照(咲は見なくても分かる、ピンクはさっき見た…だから、照魔鏡のターゲットはもともと竹井さん一人。竹井さんの今の打ち方も見えたし、まだいける!)

108: 2014/12/15(月) 17:53:35.93 ID:jZ+WaP5D0

東二局 ドラ:1m

和「リーチ」


和手牌

13m223344s23488p


照(…え?ちょっと待って…さっきはその手でリーチする子じゃなかったはず…4萬引きでのタンピン三色がつく2~4翻アップの手変わりの存在に加えて、1000点払って1000点の役あり愚形聴牌を2000点にするような打ち方をするはずが…)

和(プラマイゼロ対策その2…リー棒を出して予定を狂わせる。平然と110符1翻を和了って見せるような人相手に有効かは怪しいですが、されて嫌な打ち方だと宮永さん本人から言質も取っています)

照(えっと…こうなると、5200が6200になるから…7700の予定を6400に変えて…最後に8000で29600、オーケー、行ける)

照「ツモ、タンピンツモドラ1。1300・2600」パタン


234赤56m55678s345p ツモ:7m


久(…リーチで少し動揺したわね。あなたの動揺した顔は、麻雀では初めて見るわ)

109: 2014/12/15(月) 17:54:22.54 ID:jZ+WaP5D0

東3局 ドラ:1p


照(とりあえずチートイドラ1聴牌…あとはツモればいいだけ…)


照手牌

226677p赤5599s北北東


和「リーチ」

照(また!?千点の役あり聴牌を2000にするためにリー棒を出す子じゃないはずでしょ!なんなの!?)

照(…でも大丈夫、1000点なら最後の8000を7700にすればいいだけ、ここで和了っても問題ない)


照「ツモ、面前ツモ・チートイ・ドラ1。1600・3200」


咲(この一週間で、私相手にも何度か同じことしたよね、和ちゃん。私には打点の制約がないから私のプラマイゼロは崩れなかったけど…)

照(私は打点を下げられない…6400から7700の間の点数って何があったっけ?110符2翻の7100だけだよね?次もリー棒を出されると詰む。聴牌の前に和了らないと…)

110: 2014/12/15(月) 17:55:14.04 ID:jZ+WaP5D0

オーラス


照手牌

33345m56s444p 暗槓:8888p ツモ:6s


照(来た…タンヤオ三暗刻、3-6萬で和了れば60符3翻で出和了り7700の手。なんとか間に合ったみたい)

打:5s


咲「リー…」

照「…咲、それ、本当に張ってるの?」

咲「…バレた?」

照「流石にノーテンリーチでは崩されたと認めないよ?」

咲「…なら、ノーテンリーチじゃなければいいのかな?」

照「まあ、それなら一応」

咲「だってさ、言質は取ったよ和ちゃん」

照「…え?」

和「…では遠慮なく、リーチです」

打:2p


照(…あれ?詰んだ?)

111: 2014/12/15(月) 17:56:24.56 ID:jZ+WaP5D0

照(…悔しい。てゆうか、最初の一局を捨てないといけない状況で東風戦はずるい)

照(どうせプラマイゼロにならないなら、せめて…)

ツモ:3m

照「槓」


槓ドラ2:8p 嶺上ツモ:4p

45m66s444p 暗槓:8888p 3333m 


和「かっ、槓ドラが…!?」

照「もう一個、槓」


槓ドラ3:8p 嶺上ツモ:北

45m66s 暗槓:4444p 8888p 3333m 

打:北


和「二連続、槓?しかも、また槓ドラが…」ベタオリ

咲「槓するのはともかく、槓ドラモロとか卑怯だよね…」オリ

久「槓の時点でおかしいわよ、咲を基準にしないで」オリ


照「ツモ…面前ツモ・タンヤオ・三暗刻・三槓子・ドラ8。8000、16000」

45m66s 暗槓:4444p 8888p 3333m ツモ:6m


和「や、役満…?そんな…」

112: 2014/12/15(月) 17:56:58.45 ID:jZ+WaP5D0

照「まくりトップ。私の勝ち」

久「勝手に条件変えるんじゃないわよ、約束通り入部してもらうわ」

照「わ、私の勝ち…」

久「往生際が悪いわよ、照」

照「か、勝ったもん!」

咲「これからよろしくね、お姉ちゃん!」

照「負けてない!負けてないから!だってトップだもん!」

まこ「照さん…こんなキャラじゃったか?」

久「さて、これから忙しくなるわよ?レギュラー決めから始めないとね」


113: 2014/12/15(月) 17:57:56.47 ID:jZ+WaP5D0

和「…すみません、気分が優れないので今日はこれで失礼します」

優希「…のどちゃん?」

バタン

久「…鞄ぐらい持っていきなさいよ。気持ちは分かるけどね」

照「…ここに鞄を忘れると大変」

久「そうね。多分まだ近くに居るから届けてくれるかしら?」

照「なんで私が?」

久「届けてくれたら今日のところは入部を待ってあげるわ」

照「行ってきます」


バタン


咲「…相変わらず騙されやすいなあ…」

久「ねえ?」

まこ「今のあれじゃろ、『今日は待つ』ってだけで明日入部届け書かせるんじゃろ?」

久「当然」

京太郎「それは分かりますけど、なんで照さんを行かせたんですか?」

久「そりゃ…初対面で二人プラマイゼロに続けてあんなことされたらトラウマになるでしょ。せめて言いたいこと言った方が良いわ」

まこ「必氏にプラマイゼロを崩したら、次の巡目には数え役満じゃからの。常識を疑うわ」

咲「…すみません、うちの姉、負けず嫌いで」

久「知ってるわよ。ほんとは麻雀好きだってこともね」

優希「そうなのか?」

久「じゃなきゃ100回も勝負しないでしょ。言ったわよね?100連続プラマイゼロをやられたって」

京太郎「…確かに」

久「今日、私たちが来る前に打ってたのだって、照から言いだしたんじゃない?」

咲「ええ、意地っ張りなので自分から打とうとは言いませんけど、挑発はしてましたね」

久「さて、私はあの二人の様子を見てくるから、あなた達四人で打っててもらえるかしら」

京太郎「了解っす」

114: 2014/12/15(月) 18:00:18.30 ID:jZ+WaP5D0

…必氏に打ったつもりだった。

確かに、プラマイゼロは崩せた。
リーチした時の彼女の表情をから察するに、それは本当に崩すことが出来たのだろう。

けれど、その後―――プラマイゼロを崩された後、あの人は平然と役満を和了ってみせた。

それに、打っている時は自分の力でプラマイゼロを崩した気になっていたが、いま振り返ってみれば、あの人を追い込んだのは最初の宮永さんの役満だ。
あれで、一度の和了りでプラマイゼロに出来ない上にそれなりに大きな手を作らないといけない状況になったから、リーチ棒を出すことでプラマイゼロを崩せたのだ。


あの人達は―――私とは別の次元に居る。
その証拠が、東風戦で二回の役満という異常に如実に示されている。

ついさっきまで、プラマイゼロを崩すことで、宮永さんに手が届くと思っていた。

しかし、それはとんだ思い違いだった。

かたや、勝つことより難しいプラマイゼロを、あの手この手で必氏に崩しているだけ。しかも、それすら満足に出来ていない。
かたや、その気になればいつでも役満を自在に和了ることが出来る打ち手。

いつだったか、自分のトップを目指すことに特化した打ち方に対して、プラマイゼロに特化した打ち方とは何かと考えたことがある。
その時の結論は、『和了りたい時に和了りたい点数で和了でき、相手の手の点数と待ちを完全に一点で読んで差し込みが出来る』というものだった。
つまり、卓上のすべてを意のままに操るほどの実力、それがプラマイゼロを目指す打ち方だと結論付けた。

あの時馬鹿げていると切り捨てたそれは、おそらく正しい推測だったのだ。
分かっていたはずだ、狙ってプラマイゼロにすることは、勝つことよりずっと難しいと。

一度、麻雀ソフトの隠し機能を使って卓上の牌をすべて開けた状態で自分以外の三人をCPUに打たせてプラマイゼロを狙ったことがある。
打ちなれたCPU、どの手でどの牌を切るかも、どんな状況で鳴くかもすべて分かる相手…それを相手にすべての牌を開示して打った。
結果、私は卓上のすべての牌があらかじめ分かっていても狙ってプラマイゼロにすることなど出来なかった。

それを毎回狙って実現する人。
しかも、二人プラマイゼロという離れ業を日常的に行う人達…
自分が立っている場所が、どれほどあの人たちと離れているか思い知らされた。

部長だって今日の勝負を受ける時に言っていたじゃないか。
宮永照が居れば、自分以外の残り三人が全員初心者でも全国に行ける、と。

それは本心であり、事実なのだ。

インターミドル優勝、前年度の最強の中学生…そんなもの、あの人たちにとっては点棒を持ったカカシのようなものだろう。


積み上げてきた実績、努力、自信…それらが崩れていく。

あふれ出る涙を止めるだけの気力は、和には残っていなかった。

115: 2014/12/15(月) 18:00:48.61 ID:jZ+WaP5D0

照「…どうしよう、声をかけにくい」

久「何やってんのあんた?」

照「あ、竹井さん、ちょうどいいところに…実は…」

久「…ふむふむ、なるほど…和が泣いてて声がかけられないと。様子見に来て正解だったわね」

照「具合が悪くて泣いてる泣き方ではない、それぐらいは分かる」

久「出来れば泣いてる理由まで分かって欲しいのだけど…あんたに負けたのが悔しくて泣いてるのよ?」

照「…負けたのは私の方。プラマイゼロを崩されて、麻雀部に入部までさせられることになって、泣きたいのはこっち」

久「それを言ってあげなさい。あんたが腹いせに和了った役満が、あの子には『お前にはいつでも勝てるけどプラマイゼロで遊んでやってるんだ』って言ってるみたいに見えたのよ」

照「…そんなつもりはない、あれは純粋な八つ当たり」

久「それ、あの子に言わないでね。八つ当たりで役満和了れるって普通におかしいから」

照「…うん」

久「ま、あんたの強さに惚れこんで二年も追っかけてる私とかなら、『やっぱり照は凄いな』で終わるけど」

照「…」

久「とりあえず、いつもの猫かぶりモードで行きなさい、あれならあんたボロ出さないから」

照「う、うん…」

116: 2014/12/15(月) 18:01:24.77 ID:jZ+WaP5D0

照「原村さん、隣、いいかな?」

和「…グスッ、照…さん?」

照「…プラマイゼロを崩されたのは、あなたが初めてだよ」

和「…でも、勝とうと思えばいつでも勝てるんでしょう?プラマイゼロは勝つことより難しいんですから」

照「それはそうかもしれない、けど、私のプラマイゼロは、竹井さんが百回挑んでも崩せなかったものだよ。あなたはそれを崩した」

和「…それは、誇るようなものなのでしょうか?」

照「どうだろうね?それに満足できないなら、もっと強くなって今度は順位で勝てば良いんじゃないかな」

和「…簡単に言ってくれますね」

照「簡単だよ。原村さんなら出来る」

和「とてもそうは思えませんが?」

照「咲から、プラマイゼロを始めたあたりの話は聞いてるのかな?そんな話をしてたよね?」

和「…誤魔化さないでください」

照「私の母親は麻雀のコーチでね、客観的にみて相当上手い部類なんだ。今は昨年度インターハイ優勝の白糸台高校の監督をやってる」

和「…白糸台…」

照「その母さんが、100回どころか1000回挑んでも、私と咲のプラマイゼロは崩せない。何度でも言うけど、あなたはそれを崩した」

和「…」

照「あなたは強いよ。地力も高いし、プラマイゼロを崩すなんていうどうやればいいのかわからないような目的に対応して適切な打ち方もできる」

和「…それでも、今の私ではあなたには勝てません」

照「…」ナデナデ

和「なっ!?何をするんですか!子ども扱いしないでください!」カアア

照「私に負けて、悔しい?」

和「当たり前です!」

照「なら、原村さんはもっと強くなれるよ」

和「…」

照「今勝てないなら、強くなって挑めばいい」

和「そうさせて頂きます」

照「…頑張って、あと、これ」

和「…わたしの鞄?」

照「忘れ物、確かに渡したよ」

117: 2014/12/15(月) 18:01:56.67 ID:jZ+WaP5D0

久「上手くやったわね」

照「…あれで良かったかな?」

久「十分でしょ。じゃ、戻りましょうか」

照「うん…いや、ちょっと待った」

久「なに?」

照「なんで私が普通に麻雀部室に戻るみたいな流れになってるの?」

久「ちっ…昔はこれで部室まで来てたのに」

照「まったく、油断も隙もない…」

118: 2014/12/15(月) 18:02:40.04 ID:jZ+WaP5D0

【宮永家 麻雀部屋】


照「…麻雀、か」

界「照、どうした?」

照「お父さん…」

界「いつもと雰囲気が違うな。麻雀を打つ気になったのか?」

照「…麻雀はキライ」

界「そっか。咲が少しやる気になってるみたいだから久しぶりに三麻でも打とうかと思ったんだがな」

照「三麻…か。最後に私がプラマイゼロ以外で終わったのは三麻だったね」

界「俺の記憶にある範囲ではそうだな」

照「…お父さん」

界「なんだ?」

照「…夏は、咲と一緒に少し長い旅行に行くかもしれない」

界「…迷子にならないようにな」

照「うん」

140: 2014/12/22(月) 15:37:22.65 ID:MNqMbTrZ0


『原村さんはもっと強くなれるよ』

『今勝てないなら、強くなって挑めばいい』


随分無責任に言ってくれるものだと思う。
どう考えたって、勝てるはずなんかない。
実力差は、これ以上ないほど思い知った。


和「…なんで、あの人は気安く人の頭を撫でるんですか…」


しかし、本来ならその実力差を思い知って絶望にくれるはずの夜、原村和の心は弾んでいた。
照に撫でられた髪をいじりながら、照の手の感触を思い出す。

顔が熱くなる。

違う、これは、そう、きっと期待に違いない。

原村和は、検事の母と弁護士の父の間に生まれた。
両親は、和にも同様に法曹の道を歩んでほしいと願っており、和が麻雀に没頭することを快く思っていない。
そして、両親からは、この夏に実績を残せなければ麻雀をやめて都内の進学校に転校するように求められている。

麻雀部が活動休止状態の清澄高校に進学したのも、風越や龍門淵には行かせないという両親の方針によるところが大きい。
全国大会の常連である風越や昨年度全国ベスト8の龍門淵の環境では、和なら十分な実績を作ってしまうかもしれないという危惧を抱いたのだ。

それで仕方なく入った清澄高校に竹井久や染谷まこと言った高レベルの打ち手が居たのは奇跡のようなものだった。
更に、中学時代からの仲間である優希がついてきてくれた。

かなりの高レベルの卓で練習をすることが出来て、個人戦への備えは十分に出来る。
また、あと一人のメンバー次第では個人だけでなく団体でも実績を残せる目が出て来た。
来年以降も麻雀を続けることが出来るという期待は、自分の中でかなり大きなものになっていた。

そこへ来て、宮永姉妹である。

インターミドルチャンピオンである和を歯牙にもかけない圧倒的な力。
彼女たちがいれば、きっと、全国に行ける。両親が納得するような実績も作れる。

自分は、そういう期待を、宮永照に抱いているに違いないのだ。
絶望しか残らないような圧倒的敗北も、そのまま味方としての心強さになる。
だから、完膚無きまでに敗北して希望を奪われた夜でも、心躍る感情が湧きあがってくるのだ。

141: 2014/12/22(月) 15:38:00.78 ID:MNqMbTrZ0

夜更かしをしても、朝は変わらずやってくる。
昨日は宮永照の顔が浮かんでは消え、そのたびに目が冴えて眠れなかった。

恵「和、昨日は随分と夜更かしをしていたみたいじゃないか」

父は、私がこれだけ眠たげにしていれば、その様子に気付かない人ではない。
私の寝不足は一目で看破された。

恵「分かっているとは思うが、遊びはほどほどにしておきなさい」

遊び、というのは麻雀のことだ。
昨日、私が夜更かしをした原因がなんであれ、麻雀をやめるように促している。

和「はい、お父さん。行ってまいります」

繋がっているようで繋がっていない会話。
父の言葉に形だけの返事を返して、そのまま家を出る。

そもそも、『ほどほど』というのはどれぐらいだろうか?
インターハイに出て、自分を無理やり引退させようとしたら両親が世間から批判される程度の実績を残すぐらいまでは、『ほどほど』に含まれるだろうか?

…含まれることにしておこう。
そういうわけで、私は今日も変わらず麻雀に打ちこむことにする。

142: 2014/12/22(月) 15:38:44.43 ID:MNqMbTrZ0

『原村さんは、もっと強くなれるよ』

…昨日のやり取りが、先ほどから繰り返し頭に浮かぶ。
そもそも、これのせいで眠れなかったのだ。
一晩続いたものが、朝が来たら止むという保証は全くなく、事実、夜が明けても繰り返されていた。


照「あら、原村さん?」

咲「…お姉ちゃん、相変わらず他人に会った時の切り替え早いね」

和「」ビクッ


今まさに頭に思い浮かべていた人、その本人から現実で声をかけられる。
動揺して妙なことをしでかしはしないだろうか?


照「いつも、この道を通るの?今まで会わなかったのが不思議ね」

咲「私も登校中には会わなかったね。いつもと家を出た時間が違うとか?」

和「え、ええ、今日は少し寝坊してしまって」

照「そうなの?私と同じだね」ニコッ

咲「…寝坊はしてないでしょ、朝ご飯を失敗したから遅くなっただけで」


どうやら、宮永さんが料理を失敗するかなにかしたようです。
照さんも大変ですね。


和「お二人は、いつも一緒に登校されるのですか?」

咲「いつもはお姉ちゃんは先に行くんだよ。今日は流石に片づけを手伝ってもらった」

照「咲、そんなことは言わなくていいの」


宮永さんはそれなりに大きな失敗をしでかしたらしい。
照さんはその後始末を手伝わされて遅くなったようだ。


咲「…外面が良いって得だよね。和ちゃん、絶対誤解してるよ」

照「…?」

和「まあまあ、失敗は誰にでもありますから…」

咲「一応言っておくけど、やらかしたのはお姉ちゃんだからね?」

和「照さんは普段どれぐらいの時間に家を出られるのですか?」

照「普段は今日より30分ぐらい早いかな、原村さんは?」

和「いつもは今日より15分ほど早いですね」

照「じゃあ、普通に登校してたらまず会わないんだ。今日ここで会えたのって凄い偶然なんだね」ニコッ

和「え、ええ…」

咲「…スルーされた。多分私が失敗したと思われたままだよねこれ?」


宮永さんが何か言っているが、眠いせいであまり頭に入って来ない。
余談だが、翌日から私の登校時間が15分ほど早まった。

143: 2014/12/22(月) 15:39:15.75 ID:MNqMbTrZ0

【放課後】

久「照ー、約束通り今日こそ入部してもらうわよー!」

モブ「あ、会長」

モブB「宮永さんならHRが終わってすぐどこかに行きましたよ?」

久「…あら?逃げるにしてもそこまで露骨な逃げ方する子じゃないと思ったんだけど?」

まこ「おらんもんは仕方ないじゃろ、探すか?」

久「ま、あの子なら目撃情報はすぐ集まるでしょ。私が探すからあなたは部室に行ってていいわよ。ついでに、これ部室のPCに入れといて」

まこ「了解じゃ」

144: 2014/12/22(月) 15:39:58.23 ID:MNqMbTrZ0

和「…普段は私が一番乗りなのですが」

咲「朝の時点で私から合鍵借りて行ってたから」

照「…前から、このシリーズは読みたいと思っていた。どうせ入部させられるなら思う存分読ませてもらう」パラッ

咲「お姉ちゃん、素が出てるよ?」

照「はっ!?」

和(読書してる姿も様になりますね…)ポー

咲「…まあいっか、私も続き読もうかな。6巻ある?」

照「はい」

咲「ありがと」

和「すみません、少し仮眠をとりますね。面子が集まったら起こしてください」

145: 2014/12/22(月) 15:40:28.88 ID:MNqMbTrZ0

【旧校舎入口】


久「…目撃情報を辿ったらここに行きついたのよねえ?自分から来てくれたってわけ?」

優希「おや、部長、どうしたんだじぇ?」

京太郎「今日は遅れるかもしれないって言ってませんでした?」

久「照の説得に時間がかかるかもしれないと思ってたんだけど、杞憂だったみたいでね」

146: 2014/12/22(月) 15:41:04.16 ID:MNqMbTrZ0

バタン

久「揃ってるー?」

まこ「おお、久。食堂にタコスを買いに行った奴以外は一応そろっとるぞー」

照「…」パラッ

咲「あ、部長、お疲れ様です」

和「」スヤスヤ

久「ホントに居るのね。二年間この景色を待ち望んだ身としてはちょっと感慨深いものがあるわ」

照「…約束は約束だから」

久「優希と須賀君も下で会ったわ。タコス食べたらすぐ来るだろうから、そしたら大会に向けてルールその他の説明をするわね」

147: 2014/12/22(月) 15:41:54.74 ID:MNqMbTrZ0

久「チームで10万点持ち、メンバーは五人、半荘一回で交代で、交代しても点数は持越し。赤入り、順位点は無し、今年は随分と単純で運要素が強いルールね」

照「…一戦ごとの着順でポイントをつけるんじゃなくて純粋な点数持越しか、そうなると、エースは先鋒に置くのが基本かな?」

咲「点差がつくと、高目を狙わないといけなかったりして自由に打てなくなりますからね。先鋒で大きく削られると辛くなりますから、先鋒にエースは基本でしょうね」

久「そうね、照は先鋒に置くのが既定路線ね」

照「…私はエースを先鋒に置くと言ったはずだけど?」

久「あなた以上の打ち手を私は知らないと、通算で百回は言ったはずだけど?」

咲「エースが誰かは置いておいて、オーダーの前に、一つ決めなきゃいけないことがありませんか?」

まこ「…そうじゃの」

優希「うう…京太郎はともかく、咲ちゃんとおねーさんは人外、のどちゃんには勝てない、部長も無理…出来れば考えたくないじぇ…」

まこ「わしと優希、どっちかがレギュラー落ちじゃな」

和「…そうなんですか?」

久「照と咲に関しては誰からも異論は出ないでしょ?和はインターミドルチャンピオン、レギュラーから外したらマスコミに何を書かれるかわかったもんじゃないわ」

優希「だじぇ」

久「というわけで、私とまこと優希で二つの椅子の取り合いになるわね」

まこ「あんたを降ろしてわしが出るっちゅうわけにもいかんじゃろ。そうなったらわしが身を引くからあんたも確定じゃ」

久「…まこ」

まこ「あんたがおらんかったら集まらんかったメンバーじゃ、あんただけは出ないといかん」

久「…じゃあ、お言葉に甘えるわね」

148: 2014/12/22(月) 15:42:55.53 ID:MNqMbTrZ0

まこ「さて、というわけで…こいつで勝負じゃ!」


『二人麻雀「17歩」ルールブック』


久「そんなもんでレギュラー決められたら困るわよ!」スパーン

まこ「あいたっ!?」

優希「ちょっとやってみたいじぇ…」

久「やりたきゃ待ち時間にでもやってなさい、ちゃんと四人麻雀で決めるわよ」

まこ「ちっ…咲に通しを教えたのが無駄になったか」

優希「さ、咲ちゃん、裏切ったのか!?」

咲「教わってませんからね!?」

久「咲と照が入ったらある意味別のゲームになるから、面子は私と和ね。半荘五回打って平均順位が高かった方、同率の場合は素点が上だった方。オーケー?」

優希「了解だじぇ!」

まこ「…」

久「咲と照は、悪いけど今日は卓が埋まっちゃうから、まこん家の雀荘で打っててもらえるかしら?須賀君は案内ついでにそっちの見学してて。女同士の醜い争いを男の子に見せたくないしね」

京太郎「何言ってんですか。まあ、部長命令には従いますけど」

149: 2014/12/22(月) 15:43:46.62 ID:MNqMbTrZ0

まこ(半荘五回の平均順位、一見、公平な基準のように見えるの?)

和(実に公平な基準ですね。半荘一回の結果では実力は量れませんので、五回。本当はもっと多い方が良いですが、期間も短いですしこれが限界でしょう)

まこ(しかし、わしと優希の勝負ということを考慮すると話は違ってくる)

まこ(優希は東風に強い。正確には、東場の実力が本来の力で、南場が弱い)

まこ(優希が南場に弱い理由は、集中力が続かんのが原因じゃ。まあ、南風戦とかやっても東風戦より弱いらしいけえ、東場に強いオカルトかもしれんが)

まこ(半荘一回でも後半で集中力が切れる…それが半荘五回打てば、最初はともかく後半はどうなるじゃろうな?)

150: 2014/12/22(月) 15:44:25.72 ID:MNqMbTrZ0

まこ(それだけじゃない、平均順位を基準にしたのもポイントじゃ)

和(平均順位、麻雀の強さを語るのに最も適した指標です。部長は本当に公平な基準を設けましたね)

まこ(優希は勝つ時は東場で稼いだリードで逃げ切る。そうなると、南場をしっかりとオリ気味に打つだけで素点は大きくなりやすい。まあ、今の優希にはそれすら出来んかもしれんが、一戦目で大トップを取る可能性は十分にあるし、実際に8万近い大トップじゃった)

まこ(わしは手が来ないときは凌ぐしかないからの。東場で手が入る優希相手に素点で競うと、かなり運任せになる)

まこ(じゃが、勝負の基準が着順なら…仮に優希が一戦目や二戦目で大トップを取ってもただの一位。そして、集中力が切れた時…三戦目以降にこの面子に囲まれれば、優希は間違いなくラスを引くはずじゃ)

まこ(…久や和相手でも、わしは大崩れはせん。手が入ればトップも狙える。着順勝負で半荘五回を続けてやれば、よほどのバカヅキが優希に持続して来ない限り、勝負は見えとるんじゃ)

まこ(そもそも、インハイではレギュラー五人が打ったそれぞれの『着順』じゃのうて『持ち越した最終的な点数』で勝敗を決める。なら、本当は平均素点で決めるべきじゃ。和も優希も気付いちょらんが、部長はかなりわしに有利な条件を設定しちょる)

まこ(…すまんな優希、わしは、分かってて指摘せん卑怯もんじゃ)

優希(うーん…タコスぢからが切れてきたじぇ…)


久「ロン、7700」

優希「ううっ…」

まこ(二戦目でもう崩れ始めたか…悪いな優希。半荘二回で崩れる奴はいずれにしてもインハイには連れて行かれん)

151: 2014/12/22(月) 15:45:20.55 ID:MNqMbTrZ0

結果

優希 一 三 四 四 四 平均 3.2位

まこ 三 二 二 三 三 平均 2.6位


久「…素点は見なくていいわね」

まこ「…平均2.5位に届かんでレギュラーっちゅうのも変な感じじゃな」

久「仕方ないでしょ。私と和が入ってるのよ?」

まこ「カッコいいこと言って譲ったが、あんたがレギュラー争いに入ってても結果は変わらんかったの」

和「…優希…」

優希「…ごめんな、のどちゃん。一緒にインハイに行けなくなったじぇ」

和「…優希」

久「和、ちょっと買い物頼んでいいかしら?まだ開いてるはずだから、学食までタコスを買いに行ってほしいの。閉まってたら戻ってきていいから」

和「それは…あ、いえ、分かりました」

まこ「…わしも行こう。定時制の連中に絡まれたらいかんからの」

タッタッタ バタン

久「…良く打ったわね、最後までどっちに転ぶかわからない、いい闘牌だったわよ」ナデナデ

優希「ヒック…う、うわああああん!」

152: 2014/12/22(月) 15:46:10.75 ID:MNqMbTrZ0

まこ「…そういえば、あっちはどうなったかの?」

和「あっち?」

まこ「わしん家で打っとる連中じゃ」

和「…別に、あの二人なら難なくプラマイゼロを続けているんじゃないですか?」

まこ「それだと心強いが、困る」

和「…?」

まこ「少なくとも、ワシらに切れる最強の札を切ったわけじゃからな。せめてプラマイゼロぐらいは崩してくれないと困るんじゃ」

和「…おっしゃる意味が分かりませんが?」

まこ「あいつら二人に本気で勝ちを目指す打ち方を覚えてほしくてな…プロを呼んでぶつけてみたんじゃ」

和「…プロ、ですか?」

まこ「ああ、それも並のプロじゃありゃあせん、チームの中核になる中堅以上のプロじゃ。オールスターにも出ちょる」

和「…それは、気になりますね」

まこ「ああ、そろそろ結果が分かる頃じゃろ」

153: 2014/12/22(月) 15:49:31.95 ID:MNqMbTrZ0

【雀荘 roof―top】


京太郎「…三人が三人とも意味わかんねえ打牌してる…」


南4局 

照 23200
咲 37400
靖 33400
客  6000


靖子(さっきの妹のリーチにノーテンリーチの追っかけでリー棒を差し込んだ結果、妹は37400…姉は23200…6400では妹が削りきれずにプラスになり、7700では姉がプラスになる。条件を満たすのは、110符2翻の7100のみ)

靖子(…オーラスでのまくりを得意としている私がオーラスで自分が和了れない事を前提にしているのがそもそも問題だが、いくら化け物でも110符を簡単に作れるものか?)

照「…槓」

靖子「って、槓だと!?まさか…」

照「もう一個、槓」

咲「…」タン

打:6p

照「ロン、三暗刻、7100」

7899p999s 暗槓:1111m 西西西西 ロン:6p


靖子(…これは、参ったな。手がつけられんぞ、この化け物ども…おそらく片方だけならプラマイゼロを崩すぐらいは出来るだろうが、二人セットになると、難易度が上がるはずなのに二人がかりの強力な支配を展開して確実にプラマイゼロにしてくる。こうなったら…)

靖子「…あんたら、組んでないか?コンビ打ちとか勘弁してほしいね」


照「…はい?」ビクッ

咲「…一人ずつ打ちたいならそう言えばいいと思いますよ?別に断ったりしませんから」

靖子「心でも読めるのかお前は?」

咲「…私たちを知ってるみたいですし、母か、でなければ部長の差し金でしょう?場所的に後者ですかね?」

靖子「見た目によらず鋭いんだな」

照(…咲がこういう雰囲気のときは難しい話をしてる、とりあえず理解してるふりを装って黙ってよう)

咲「部長にしても母にしても、こと麻雀に限っては私たちのためになることでしょうから、言うとおりにします」

靖子(…これで何も出来なかったらプロの沽券に関わるな…しかし、久の頼みだ、やるしかない)

靖子「後者だよ、とりあえず妹の方から打ってもらおうか」

咲「分かりました。お姉ちゃん、私が終わるまで他の卓で打ってて」

照「わかった、頑張ってね、咲」

154: 2014/12/22(月) 15:51:16.17 ID:MNqMbTrZ0

南4局

咲 22400
客 12900
京 13200
靖 51500


靖子(…トップ、圧倒的トップでラス親だ…しかし、これはマズいな)

咲「…」

靖子(宮永妹は満貫でプラマイゼロ達成、それを止めなきゃならんのだが…あいにく、私は『まくりの女王』…地力は高いにしろ、勝ってる状況からだとオーラスでも特殊な力は持ってないんだな、これが)

靖子(だからってあっさりプラマイゼロを達成されちゃ困るわけで、ここはトップと100点差のつもりでまくる打ち方をしてみようか)

咲(…気配が変わった?おかしいな、私の見た限りでは負けてる状況から逆転する時に特殊な力を発揮するはずで、この状況ならただの上手い人になるはずだったんだけど)

155: 2014/12/22(月) 15:52:14.45 ID:MNqMbTrZ0

咲(…張った。タンヤオ三暗刻ドラ1、ツモっても出和了りでも文句なく満貫)


咲手牌

222888s24赤566p44m ツモ:4m

打:2p


靖子(…一手遅れ…張ったはいいが、これはおそらく先にツモられる。さて、どうする?)


靖子手牌

123567m2346p西西西 ツモ:5p


靖子(とりあえずプラマイゼロぐらいは崩さないとプロ失格だろうな。となると、こうか)

靖子「リーチ」

打:西


靖子(待ちの広い三面張でツモを期待しつつ、リー棒を出してプラマイゼロを阻止。この感じだと向こうは次でツモるはずだが、和了りを見送れば勝負は分からんぞ?)


咲(…リー棒が出ちゃったか…で、ツモったけど、どうしよう?)


222888s4赤566p444m ツモ:6p


156: 2014/12/22(月) 15:53:34.14 ID:MNqMbTrZ0

咲(別に、私は今プラマイゼロを本気で狙ってるわけじゃないから、これをツモって+1の浮き二着で終わってもいいんだけど…少し考えよう)

咲(私の今の点数は22400。リー棒が出たから、プラマイゼロにするためには6200~7100点、条件を満たすのは6400と7100だけだね)

咲(で、ここからプラマイゼロを目指すならツモ切りで公九牌を待って、そこで6筒切りで単騎待ちに変える)


想定図

222888s4赤566p444m ツモ:北 


咲(たとえば北をツモるとして、ここで6筒を切れば、タンヤオが消えて三暗刻ドラ1、出和了りなら50符3翻で6400。カツ丼さんが和了らなければ、、京ちゃん辺りが掴んでリーチへの安牌として出すはず)

咲(けど、残念ながら相手が悪い。多分、私が公九牌をツモるのは数巡後…ほぼ確実にカツ丼さんに先にツモられる。よって却下)

咲(あとは、もう一つの選択肢…どうせプラマイゼロを崩されるなら…)


打:赤5p


靖子(ちっ、隣だよ…って、そもそも振るような奴ではない、か。とりあえずツモったのは安牌っと)

打:西


京太郎「リーチかかってるからなあ…」タン

打:南


咲「ツモ」

靖子(うっ!?)ゾクッ

咲「今日はこれ、和了ってもいいんだよね?」パタン


222888s4666p444m ツモ:4p


咲「四暗刻単騎、雀荘ルールだとダブル役満ありだから、16000・32000」

靖子(…おいおい、プラマイゼロを崩したと思ったらダブル役満か…最後っ屁ってのはもうちょいささやかな抵抗にしてもらえないか?)


157: 2014/12/22(月) 15:55:37.43 ID:MNqMbTrZ0

咲「…」ブルブル

京太郎「…どうした?」

咲「…いや、ちゃんと勝ったのって凄く久しぶりだから…役満も勝つために和了ったのは初めてだし」

京太郎「あんだけ非常識なことポンポンやってるくせに?」

咲「前に勝ったのはプラマイゼロ狙いだったし、昨日は役満和了ったけど結局負けたし」

京太郎「改めて考えると東1で役満だしてるのに東風で負けたっておかしいよな?」

咲「普通じゃないかな?役満ぐらいその気になればいつでも出せるし」

京太郎「…マジなのか冗談なのか分かんねえ」

咲「冗談に決まってるでしょ」

京太郎「お前は出来そうだから反応に困る」

咲「ふっふっふ、京ちゃんも私の凄さを認めたみたいだね」

京太郎「黙れへっぽこ、お前が凄いのは麻雀だけだ」

咲「うぐっ…酷いよ京ちゃん…」


靖子(…おーおー、無邪気にじゃれ合ってくれてまあ…こっちはプロの面子丸潰れだってのに)


最終結果

咲    87400
客   - 3100
京太郎 -18800 
靖子   34500


158: 2014/12/22(月) 15:56:06.16 ID:MNqMbTrZ0

靖子(まあ、一応プラマイゼロを崩して、勝つことの喜びを教えたってことで、久の注文はクリアかな?)

靖子(となると、次は…)


照「…終わった?」

京太郎「ダブル役満の親かぶり喰らいましたよ」

照「そう」

咲「…手ごわいよ。私のプラマイゼロをまともに打って崩したのはこの人が初めてじゃないかな?」

照「…私は麻雀の勝ち負けに興味ないから」

咲「…まだそういうこと言うんだ、意地っ張り」

靖子(姉の方か…こっちの方がヤバそうなんだが、妹ですら今のアレだからな…どうにかなればいいんだが)

159: 2014/12/22(月) 15:56:45.33 ID:MNqMbTrZ0

―――

照「ツモ、1000、2000」

靖子(…オーラスですら何も出来ないか。すまん、久、こいつは無理だ)

咲「さすがだね、お姉ちゃん」

照「…私はお姉ちゃんだから、咲の仇はとる」

咲「ありがとう」

京太郎「事情を知らない人間が見ると咲の仇ってなんだよってなりますけどね。さっきは普通にトップだったし」

靖子「参った、これでも一応プロなんだがな…」

咲「プロですか…道理で…」

靖子「いやいや、崩したと思ったら次の瞬間にダブル役満で軽くトップまくった奴に言われても慰めにならん」

咲「ごめんなさい…」

靖子「謝られても困る、しかし、とんでもない奴らだな。これなら、龍門淵とも『いい勝負』になるんじゃないか?」

咲「…え?」

靖子「これだけの才能を持った人間が衣以外に居るとは思わなかったよ」

咲「ちょっと待って下さい、『いい勝負』?」

靖子「ああ、お前たちと久が居れば、ぼろ負けってことはないだろう」

京太郎「龍門淵ってのはそんなにヤバいんですか?」

靖子「…去年、一年生だけのチームが、全国ベスト8まで上り詰めた。しかも、ベスト8はエースが出る前に他校が飛ばされて終わった結果であって、飛び終了ナシのルールなら、優勝もあり得た」

咲「『去年の時点で一年生だけ』、当然、当時のメンバーは全員健在で、昨年より経験を積んで強くなっているということですね?」

靖子「そう、そして、その龍門淵のエースである天江衣…あれは、私以外のプロや腕自慢の一般選手も参加したプロアマ戦で、高校生ながらに優勝していった化け物だ」

京太郎「プロより強い、高校生…」

靖子「…長居したな、私はそろそろ帰るよ。お疲れさん」

160: 2014/12/22(月) 15:57:29.69 ID:MNqMbTrZ0


咲「というわけで、トップ取るのって楽しいですね」

まこ「狙って和了れそうな奴が言うと寒気がするの」

和「いや、『狙えそう』ではなく狙えるでしょう。宮永さんですよ?」

まこ「やめろ、洒落にならん」

照「本気で狙えば三回に一回は行けると思う」

まこ「聞きとうない!聞きとうないぞ!」

照「冗談、流石に狙って役満を和了るのはある程度条件が整ってないと無理」

まこ「あーあー!聞こえん聞こえん!」

京太郎「で、こっちの話はこんな感じですけど、そっちは?」

和「…部長が優希を慰めてくれています」

照「ということは、染谷さんがレギュラー?」

まこ「…一応、な」

咲「…優希ちゃん…あ、いや、おめでとうございます、染谷先輩」

まこ「ありがとさん。じゃが、そんな見え透いた世辞はいらんから、素直に優希の心配しちゃれ」

咲「ごめんなさい…」シュン

照「…で、終わってからどれぐらい経ってるの?」

まこ「30分ってとこじゃな。照さんたちが帰って来るほんの少し前に終わったとこじゃったけえ」

和「話し込んでしまいましたね。優希も落ち着いたでしょうし、戻りますか」

161: 2014/12/22(月) 15:58:08.36 ID:MNqMbTrZ0

久「そう、あの子も崩された途端に役満をね…道が用意されてるってことは、多分、麻雀の神様が『普通に打て』ってあの子たちに言ってるんじゃない?」

久「ええ、大丈夫よ、照は私が何とかするわ。ありがとう、靖子」

ピッ

優希「…誰からだじぇ?」

久「…宮永姉妹を鍛えてもらうようにお願いしたプロよ。返り討ちに遭ったって」

優希「そっか、プロを返り討ちとかとんでもない人達だじょ」

久「来年には、あなたはそれと肩を並べて戦うのよ。今年の私の姿をしっかりみときなさい」

優希「うん、目に焼き付けるじぇ!」


コンコン


久「ノックするなんて珍しいわね。どうぞ―!」


ガチャ

和「戻りました。残念ながら食堂は閉まっていました」

まこ「すまんの」

咲「ただいまー」

照「…ただいま」

京太郎「お姫様たちのエスコート、完遂しました」


久「お帰り、そしてご苦労様。じゃあ、今日は解散しましょうか」

162: 2014/12/22(月) 15:59:41.70 ID:MNqMbTrZ0

―――

藤田靖子、佐久フェレッターズ所属

個人としてもタイトル戦の準決勝に数回進出するなど、同世代では、圧倒的トップを走る三尋木咏に次ぐ実力者で若手の有望株。
オーラスでのまくりを得意としており、直撃で逆転出来るような状況ではほぼ確実にトップをまくる。

実業団で活躍してからのプロ入りだが、一年目でオールスターに出場。
以降毎年オールスター戦に出場しており、並みのプロとは一線を画する実力者とされる。

プロ麻雀せんべいのカードに書かれた称号は―――

―――

和「染谷先輩が今日呼んだと言っていた藤田靖子…データを見る限り、間違いなくプロの中でも上位の打ち手、それすら寄せ付けないほどの強さ――ですか。あの人の居る場所は、遠いですね…」


それでも、その高みを目指して、自分は進む。
他ならぬあの人が、自分はもっと強くなれると言ってくれたのだから。

東京の進学校に転校せず、長野に残って麻雀を続けるための条件は、全国大会優勝。

奈良で出来た友達、長野で出来た友達…
自分にとって友と呼べる人間は、麻雀を通じて繋がった人々である。

だから、麻雀を続けたい。

この長野に残って、あの人とともに歩むためにも―――


和「―――優勝、してみせようじゃないですか!!」ゴッ


163: 2014/12/22(月) 16:03:28.76 ID:MNqMbTrZ0

【翌日 麻雀部室にて】

久「というわけで、合宿をしましょう」

まこ「どういうわけじゃ…まあ、親睦を深める意味でも何かしらイベントがあった方がいいタイミングじゃが」

照「…一日中麻雀漬けなんて吐き気がする。私はパス」

久「ちなみに、清澄高校の合宿所にはサウナ付きの露天風呂があるんだけど…」

照「行く」

咲「…露天風呂にあっさりつられるのはどうかと思うけど、まあ、来てくれるならいっか」

和「受験生用の資料ではかなり良さそうな施設でしたね」

優希「そうなのか?」

和「…優希は食堂のメニューにタコスがあるという理由だけで進学先を決めたんでしたっけ?」

優希「おう!」

咲「私は近所だからって言うのとお姉ちゃんがいるからって理由で決めたから、施設とかには目を通さなかったな。部活も入る気なかったし」

まこ「おんしらはホントに…」

京太郎「…俺は行っても大丈夫でしょうか?」

咲「まあ、京ちゃんなら間違いは起きないと思うけど…」

久「須賀君は家が近いから夜は帰ってもらえるかしら?」

京太郎「ですよねー…」

久「というのは冗談で、一応部屋は取ってあるわよ。ただ、洗濯とかが、ね」

京太郎「マジっすか!?大丈夫です、洗濯ぐらい何とかします!」

まこ「一応言っとくが、風呂を覗くなよ?」

京太郎「だだだ、大丈夫です!」

久「じゃあ、明後日からね。8日しかないから合宿でみっちり鍛えるわよ」

和「はいっ!」

164: 2014/12/22(月) 16:04:02.70 ID:MNqMbTrZ0

久「さて、明日から合宿だけど、各自の問題点を確認しておくわ」

照「…私の『連続和了中は打点を下げられない』のは改善できないからね?」

久「あんたに関しては何の心配もしてないわよ。何度でも言うけど、あなたは私が知る限り最強の雀士だもの」

照「…何度でも言うけど、見込み違いだから」

咲「このやり取り、これから何回やるんですか?」

久「照が本気出すまで続くんじゃないかしら?」

照「竹井さんが諦めるまでは続くと思う」

咲「さいですか」

165: 2014/12/22(月) 16:04:36.83 ID:MNqMbTrZ0

久「で、問題点だけど、まず和」

和「はい」

久「あなたはネット麻雀に比べて現実の麻雀ではミスが多いわ。プラマイゼロを崩すための手は除外するにしても、ネットではほぼ0のミスが、現実に牌を持つと散見されるようになる」

和「…それは…」

久「多分だけど、ネット麻雀と違う部分で思考が鈍っているのよね。たとえば、牌をツモって切る動作。ネット麻雀ではワンで一秒以内に済むものにも、現実で麻雀を打つとそれなりに大きな動作が必要になる」

和「…」

久「それらに影響されず、ネット上と同様に打てるようになれば、ネット麻雀同様ミスがほぼ0の打牌が出来ると思うわ」

和「具体的に何をすれば?」

久「と同じぐらいの感覚で無意識に打牌が出来るようになるまでツモ切り動作を繰り返す…ぐらいかしらね」

和「…わざわざ合宿でそんなことを?」

久「あなたは、ネットで最強と言われる『のどっち』なのだから、少なくとも高校生レベルでは地力を上げる練習は必要ないわね。如何に地力を引き出すかが課題よ」

和「分かりました」

166: 2014/12/22(月) 16:05:10.81 ID:MNqMbTrZ0

久「次に、咲」

咲「はい」

久「あなたは気を抜くとプラマイゼロになるみたいだから、プラスにする打ち方を体に染み込ませてもらうわ。とにかく卓についてトップを意識して打つこと」

咲「はい」

久「で、まこ…あんたは次鋒でエントリーされてる相手の牌譜を片っ端から読んで行って」

まこ「打たんでええんか?」

久「あ…そうか、まこを入れないと咲と照と私と優希で固定されちゃうか。じゃあ、抜け番のときにってことで」

まこ「了解じゃ」

京太郎「あの…一応俺が…いや、なんでもないです」

167: 2014/12/22(月) 16:05:39.77 ID:MNqMbTrZ0

久「最後に優希」

優希「へ?」

久「あなたは南場に集中力が途切れる傾向にある。それを持続できるようにしてもいいんだけど…どうせなら東場で大差をつけて逃げ切る打ち方を身につけましょうか」

優希「でも…あたしはレギュラーじゃ…」

久「んなこと関係ないわよ。これは麻雀部の合宿に参加するにあたってのあなたの課題」

優希「…」

久「それに、来年はレギュラーになるんだから、レギュラーじゃないからなんて言ってサボらせたりしないわよ」

優希「…うん!了解だじょ!」

久「というわけで、各自、自分の課題を意識して合宿に臨んでちょうだい!」

「「「「はいっ!」」」」


京太郎(…俺の課題は言ってくれないんだな…)

咲(京ちゃんは、現状だと課題しかないから)

京太郎(ひでえ…)

168: 2014/12/22(月) 16:06:36.26 ID:MNqMbTrZ0

明日から、合宿。
正直、合宿どころか、大会への出場すら怪しかった。
それが、大会へ向けて…全国へ行くために合宿をしようとしている。


まこ「よかったのう、有望な一年が入ってくれて」


二年生の時に入って、部員もいない麻雀部に残ってくれた唯一の部員、染谷まこ。
この一年、苦楽を共にしてきた盟友だ。


久「この辺で麻雀する子はみんな風越か龍門淵に行くからね。今年も一年には期待してなかったんだけど…四人も入ってくれた。しかも、一人は照の妹よ」

まこ「…ベスト8ぐらいは行けるとええの」

久「何言ってるのよ?照と私とまこだけでも全国には行く予定だったのよ?」

まこ「…しっとるわ。ベスト8ってのは全国の話じゃ」

久「だから、それに対して何言ってるのって言ってんのよ」

まこ「…ちゅうと、あれか?」

久「さっき言った三人に加えて咲と和まで居るのよ?優勝以外はあり得ないわ。それとも、あなたは優希を蹴落としておいて自分はベスト8で満足する気なの?」

まこ「…それはあんたが仕組んだんじゃろ、ワシのせいにされても困る」

久「何のことかわからないわね。私は公平な基準を設けただけ、勝ったのはあなたの実力。で、どうなの?」

まこ「しゃあないの、付き合っちゃるか。あんたの夢に」

久「ずっと夢を見ていたの。照が入ってくれれば…って、この二年間、ずっとね」

まこ「今度は、夢を、現実にせんとな」

久「ええ、夢を見るだけでも満足しそうだったけど…叶えたいわね、全国優勝の、夢を」

169: 2014/12/22(月) 16:07:20.94 ID:MNqMbTrZ0

【合宿中】


和「」ヒュン、パシッ

和「」ヒュン、パシッ

和「」ヒュン、パシッ


咲「…」

照「何見てるの?」

咲「…いや、綺麗だなって」

照「そうだね、動作に無駄がない。見とれるのも分かる」


久「そこ二人、サボらない!」

照「…と、言われても…」

咲「…ねえ?」

まこ「照さんが入ると別のゲームになるからの」

優希「咲ちゃんも大概だじょ。東場なのに焼き鳥にされるし…」

久「あれだけ集中してる和を入れるわけにもいかないし、どっちか入りなさい」

咲「だってさお姉ちゃん」

照「私は麻雀キライだから」

京太郎「あのー、俺は…?」

優希「犬が毎回トブから部長があの二人を呼んでるんだじぇ?」

京太郎「だよなー…とほほ」

170: 2014/12/22(月) 16:07:57.03 ID:MNqMbTrZ0

照「…」パラ

久「にしても、あんたホントに本読んでばっかりね」

照「好きだから」

久「ま、それは知ってるけど」

照「…私も、打った方が良いかな?」

久「そうね、打つだけじゃなく、プラマイゼロをやめて私たちをボッコボコにしてくれていいのよ?」

照「…何度も言うけど、私はそこまで強くないよ」

久「私はあんたのプラマイゼロ以外の打ち方を見たことないからね。どこまでも期待させてもらうわよ」

照「私はプラマイゼロ以外の打ち方が出来ないから、それは期待外れだよ」

久「さあ、それはどうかな?あなた、本当にプラマイゼロ以外の打ち方出来ないの?」

照「…少なくとも、それ以外の打ち方は忘れた。小三の頃からこの打ち方だから」

久「そう。残念ね」

照「…だから、私に期待するのはやめて、片岡さんを…」

久「それはないわね。あなたのプラマイゼロはプロでも上位の靖子が崩せなかったのよ。全国のエース級が暴れる先鋒で、確実に5000前後稼いで帰って来るのは十分すぎるほどのメリット。たとえあなたがプラマイゼロに徹するとしても、あなたが先鋒なのは確定よ」

照「そう、残念」

久「これも何度も言ってるけど、私はあなたが思っている以上にあなたを買ってるの。私があなたを手放すなんてことは期待しないでほしいわ」

照「…今いる部員全員と引き換えでも?」

久「迷わずあなたを選ぶわ。分かってるでしょ?あなたが手に入る可能性が1%でもあるなら私はあなたを選ぶし、実際に咲を退部させに来た時は、強力な戦力を擁して確実に大会に出られる状況よりも、あなたが手に入る僅かな可能性を選んだわ。あの時の私に、迷いがあったかしら?」

照「…ホントに、買いかぶりすぎだよ」

久「さて、そろそろ寝ましょうか、明日も早いからね」

照「…うん」

171: 2014/12/22(月) 16:08:32.72 ID:MNqMbTrZ0

和「…本当に、これで強くなれているのでしょうか?」

咲「どうだろうね。実際に打ってみる?」

優希「パワーアップしたのどちゃんがついにその牙をむくのか?」

まこ「そうじゃの、見た限り、ほとんど無意識にツモ切りできるようになっちょるけえ、そろそろ打ってみてもええじゃろ」

和「では…」

まこ「ネット麻雀最強の天使が、いよいよ現実世界にお目見え、かのう」

172: 2014/12/22(月) 16:09:09.95 ID:MNqMbTrZ0

照「…いいお湯だった」

咲「そうだね。いいとこだね、ここ」

照「…明日で終わりか」

咲「県予選を抜けたら、全国大会の前にもう一度合宿があるみたいだよ」

照「…そう」

咲「私は、また来たいな、ここに」

照「なら、私は咲のために打つことにする」

咲「でも、プラマイゼロなんでしょ?」

照「それしか出来ないからね」

咲「プラマイゼロを始めたのは私の方が先のはずなんだけど?私の真似で始めたのに、私より強く染みついてるなんてことがあるのかな?」

照「…私がプラマイゼロしかしないとしても、少なくとも、県予選は大丈夫でしょ」

咲「カツ丼さんが言ってたよね?龍門淵は全国優勝の可能性もあった強豪だって」

照「…なら、プラマイゼロにしながら龍門淵を削ることにするよ」

咲「…頑固者」

テクテク…

和「咲さんに照さん?お二人も散歩ですか?」

咲「あ、原村さん」

照「ここはいいところだから、また来ようねってお話をしていたの」

和「…それは、つまり」

照「県予選を勝ち抜いて、またここに来よう」ニコッ

咲「…どの口でそのセリフを言うのかなあ…まあいいけど」

和「はいっ!」

173: 2014/12/22(月) 16:09:36.50 ID:MNqMbTrZ0

合宿から5日――

楽しいことも辛いこともあったけど、私たちはこの日を迎えた。


【全国高等学校麻雀選手権大会長野県予選会場】


会場の前。
私たちは竹井さんの声に耳を傾けている。


久「…やるだけのことはやった、私は、あなた達となら全国優勝できると本気で思っている」


それは本当にそうだろう。
インターミドルチャンピオンと、それに勝ち越す竹井さん、五分に渡り合う染谷さん、東風なら勝ち越す片岡さんに、その全員相手に合宿以来平均着順1位台前半をキープしている咲。

つまり、中学王者と互角以上の打ち手が五人。
私が居なくても、十分優勝できるだけの人材がそろっている。
そして、竹井さんは私を、それらすべてと引き換えにしてもお釣りが来るほどの雀士だと思っている。
だとしたら、竹井さんにとっては優勝以外ありえないぐらいの圧倒的な戦力が揃っていることになるだろう。


久「後は勝つだけよ、さあ、行こうか!」


「「「「「はいっ!!」」」」」


『五人』の声が揃う。
竹井さん以外にこの場に居るのは六人だから、一人、揃ってない人が居る。

声を揃えなかった一人は、みんなが歩き出してもまだ会場を見上げるだけで、歩き出す様子はない。


久「照、まだ寝ぼけてるの?行くわよ」

照「…ねえ、本当に、私でいいの?」

久「…一年の頃から何度も言ってるわよね?私はあなた以上の雀士を知らないって」

照「こっちも何度も言ってるよ、買いかぶりすぎだって」

久「私は自分の目を信じるわ、だから、私の目の正しさを証明するためにも、あなたに来てもらわないと困るの」

照「…うん」


今、最後の一人も、会場へ向けて歩き始めた。


夏が、始まる――――


185: 2014/12/25(木) 15:53:44.85 ID:4eN+i7wB0


京太郎「うーわー…人多いなー」

この会場には、長野県の団体戦出場校58校の関係者と報道陣が集まっている。
選手だけでも240人、そして、応援に来た部員やその家族。
おそらく、総数は2000人をゆうに超えるだろう。


まこ「年々増えるの。実家が雀荘な身としては麻雀人口が増えるのは嬉しい限りじゃ」


会場まで足を運ぶ人間がこれだけ居るということは、潜在的な麻雀人口はもっと多いということになる。

実際、染谷先輩の雀荘に行ったときはいろんな年代の人が楽しそうに打っていた。
もはや麻雀は賭博ではなく、将棋や囲碁などの昔から親しまれてきた知的遊戯と同等以上の地位を確立している。


優希「ん~?…照さんと部長が居ないじょー」

和「え……」

まこ「照さんと久じゃろ?うちの学校で一番しっかりしとる二人じゃけえ、ほっといても大丈夫じゃろ。どうせ敵情視察とか言ってふらついとるだけじゃ」


お姉ちゃん、やっぱりそのイメージづくりやめた方がいいよ。
迷子なのに探してもらえなくなるから。

まあ、今回は部長が一緒だから大丈夫だろうけど。

186: 2014/12/25(木) 15:54:36.07 ID:4eN+i7wB0

咲「とりあえず、どこか集合場所を決めましょう。探すにしてもその後の方が色々と都合がいいですし」

まこ「そうじゃの…」


ワアアアアア!!!


まこ「お?」


『風越女子だ!』『キャプテンの福路美穂子よ!』
『レギュラー四人にくっついてるあの細長いのは…まさか!?』
『文堂星夏!名門風越で一年生にしてレギュラーを勝ち取った新星か!?』
『部員80人を擁する強豪!昨年の県二位!やはり風格があるな』
『6年連続優勝を絶やした汚名を今年は返上できるのか?』


京太郎「説明臭い台詞がそこかしこから聞こえてきて助かりますね」

まこ「そうじゃな、人ごみの中に説明したがりが居るみたいじゃ」

187: 2014/12/25(木) 15:55:15.19 ID:4eN+i7wB0

ザワ…ザワ…


美穂子「あら」

咲「…ん?」


『龍門淵が来たぞー!!』『前年度県予選優勝校――!!』
『井上純!沢村智紀!国広一!龍門淵透華!昨年の四天王は今年も健在だ――!』
『昨年度全国ベスト8のフルメンバーがそのまま残っているわけだな』
『そのままじゃない、一年分の経験を積んでいるんだ』
『今年は全国的にも優勝候補の一角、県内は言わずもがなだな』


咲「…あれが龍門淵高校?」

和「どうかしましたか?」

咲「…ううん、カツ丼さんも人をおどかすのが好きだなと思っただけ」

優希「カツ丼よりタコスだじぇ!」

188: 2014/12/25(木) 15:56:03.46 ID:4eN+i7wB0

西田「…さて、取材対象はよりどりみどりだけど…」

?「天江が居ないな」

西田「え…藤田プロ!?」

靖子「こんにちは、久しぶりだな、西田さん」

西田「今日はなんでこちらに?」

靖子「解説プロとして呼ばれてる」


解説プロということは、参加校の資料は目を通しているはずだ。
プロの目で見た注目校を聞き出すのに一番都合のいい相手ということになる。

とりあえず、コメントを引き出しに行く。
藤田プロは意外と説明好きだから、説明したくなるような聞き方をするのが良い。

189: 2014/12/25(木) 15:57:10.22 ID:4eN+i7wB0

西田「団体戦は龍門淵か風越で決まりでしょうね」

靖子「どうかな、今年は予想もしないダークホースが出てくるかもしれない。それに、決勝以外はたったの半荘五回だ、実力差が結果に出ないこともある」

西田「プロとして見どころはどこでしょう?」

靖子「とりあえず、資料から見える範囲では龍門淵高校の天江衣」


ダークホースの存在を匂わせる発言に、『資料から見える範囲では』の条件付き発言。
この二つから推測できるのは、資料に見えていない大穴に心当たりがあるということだろうか?
オールスター出場者の藤田靖子の目から見て、昨年度MVPの天江衣以上に注目すべき、資料からうかがえない無名の選手がいる?


西田「天江衣ですか…牌譜を見ると運がいいだけの素人に見えますが?」

靖子「牌譜だけならな。しかし、映像つきで見たりその場で打ったりすると印象が変わる。見る者によっては牌譜からでも異常を感じ取るだろう」

西田「牌に愛された子―――ですか?」

靖子「奇跡のような闘牌を確信をもって行う理外の打ち手…今はそんな名で呼ぶのか」

西田「藤田さんの代では三尋木咏、少し上に行くと瑞原はやりと小鍛治健夜…下の代を見れば戒能良子などが居ますね」

靖子「数年に一度、出て来るんだ。明らかに常識を逸脱した化け物がな」

靖子「昨年の神代小蒔、天江衣、荒川憩…この三人はその部類だな」

西田「数年に一度の、三尋木咏に匹敵する怪物ですか…では、長野は龍門淵で決まりですか?」

靖子「数年に一度…だと思ってたんだがな。今年は去年以上に豊作かもしれない。そう―――」


―――今年も、『牌に愛された子』が、出てくるかもしれない。


西田「」ゾクッ


靖子「ま、出てきてほしくはないけどね。咏みたいなやつがゴロゴロ出て来たらこっちは商売あがったりだ」

西田「は、はは…」

190: 2014/12/25(木) 15:57:44.70 ID:4eN+i7wB0

この言い方、おそらく、確信があるのだ。

藤田靖子が、三尋木咏と同格に見るほどの化け物が、存在する。

それも、資料からうかがうことが出来ない、無名の打ち手。

存在するとしたら、やはり、そこが一番有力だろう。


清澄高校、私の取材対象は、決まった。


西田「原村和、発見!!」

靖子「」ビクッ

西田「失礼します!最優先取材対象なので!!」

靖子「…ああ、お仕事ご苦労さん」


藤田靖子はただの麻雀打ちではない。
後進の育成に力を入れており、麻雀界きっての情報通の側面も併せ持っている。

ただ情報を集めるだけでは情報通にはならない。
鋭く相手の表情を読み取り、言葉の裏の真実を見抜く、そうやって、正しく質の高い情報を集めるのが情報通だ。

その藤田靖子が、隠す気もない私の気配を見落とすはずがない。
おそらく、話の途中で私の眼の色が変わったのは気付いているだろう。
また、今の話を聞いて本気で私が原村和を最優先取材対象だと考えるとは思わないだろう。

藤田と自分の関係は良好、ならば、私の行動に何か一言、取材対象は的外れなのか、それとも正しいのか、ヒントをくれるはずだ。


靖子「灯台もと暗し、気を付けるんだな」


やっぱり、そうか!
清澄高校、ここに、藤田靖子が、原村和が、強く意識する怪物が居る―――!!


西田「清澄高校のメンバー、全員写真に撮っておきなさい!全員よ!いいわね!」

「おうっ!了解だ!!」

191: 2014/12/25(木) 15:58:47.41 ID:4eN+i7wB0

西田「あなたが入ったことで、清澄高校も有力候補の一角に挙げられているけど、実際のところどうかしら?」

和「目指すのは、全国優勝です!」

西田「全国では五人全員が強いチームが出てきます、圧倒的な強さの人間が一人いても全国優勝は難しいというのが大方の見方ですが、清澄は違うと?」

和「ええ」

西田「こちら、先ほど提出された清澄高校のオーダーです…原村さんは副将になっていますね。副将にエースを起用したオーダーは珍しいですが、これにはどういった意図が?」

和「…認めるのは悔しいですが、私は、清澄高校のエースではありませんから。…清澄高校のオーダーは、セオリー通りのオーダーです」

西田「」ゾクッ

和「虚言でも妄言でもなく、清澄高校は全国優勝を狙える戦力を揃えました、結果はその目でお確かめ下さい」

192: 2014/12/25(木) 15:59:46.88 ID:4eN+i7wB0

久「オーダー出したし、控室に行きましょうか。まこが席取ってるらしいわ」

照「…ねえ、本当に…」

久「出しちゃった後で言っても仕方ないでしょ、頑張ってね、清澄のエースさん」

照「…強引なんだから」


純「衣、遅せえなあ…」

透華「また目覚ましが壊れたりしてるんじゃありませんの?」

純「俺、昨日あいつん家行って目覚まし五つセットしたぞ」

一「うわあ…」

智紀「衣の場合、数ではなく衣に壊されない質の方が重よ…」ゾクッ

「「「「」」」」ゾゾゾ


照「ん?」

久「こら、あんたすぐ迷子になるんだから急に立ち止まらないでよ。見失ったらどうするの?」

照「ごめん」

久「仕方ないわね、手を繋ぎましょう」

照「こ、子供じゃないんだから」

久「迷子癖を治してから言ってね」ギュ

照「…恥ずかしい」


智紀「…清澄高校の制服…ブルーのスカーフは三年生」ボソッ

純「は?三年?」

一「清澄って…原村和は一年でしょ?じゃあ、アレは何?」

透華「…さっぱりですわ」

193: 2014/12/25(木) 16:01:13.29 ID:4eN+i7wB0

まこ「おーい、こっちじゃこっち!」ブンブン

久「あ、いたいた、オーダー出して来たわよ」

まこ「そんなこったろうと思ったわ。で、オーダーはどうなっった?」

和「私は先ほど西田さんに見せて頂きました」

照「…私が先鋒、咲が大将」

久「まこは次鋒、私が中堅、和は副将ね。こんなもんでしょ?」

まこ「こんなもんってのは、セオリー通りってことかの?」

咲「セオリーだと強い順に…先鋒、大将…次は中堅ですかね?」

久「一番大事な先鋒と、試合を決める重要なポジションである大将、エースは通常、このどちらかに据えるわ」

和「試合の折り返しである中堅には三番手を据えるのが一般的ですね。強い順に並べても弱い順に並べてもセオリー通りでも三番手が来ます」

久「安定して、順番じゃない意味での『中堅』が来る。試合の折り返しでもあり、ここでの勝利は先鋒以上に試合の勝利に近づきやすいということで、大阪の名門姫松はここにエースを据える伝統があるわ」

まこ「まあ、特殊なケースじゃな。どんなオーダーでも中堅はまず三番手じゃ」

咲「で、次鋒と副将だと…エースである先鋒の後な上に中堅以降でのフォローも利く次鋒の方が重要度が低いかな?」

久「ま、そうね。先鋒次鋒で勝負を決めるようなオーダーもあるけど、この大会なら五番手は次鋒がセオリーね」

照「つまり、強い順に先鋒、大将、中堅、副将、次鋒が標準オーダー」

194: 2014/12/25(木) 16:03:00.48 ID:4eN+i7wB0

久「それがセオリーとして、レギュラー個々の特性に応じて工夫するものなんでしょうけど、この戦力で小細工は要らない。セオリー通りの順番で並べたわ」

咲「まあ、はっきり分かる程度の実力差が五人それぞれの間にある場合の話ですけどね」

和「実力差が小さければ、どの順番で出してもあまり変わりませんからね」

久「ま、この五人の場合はあるんだけどね、実力差。上二人と下三人の間に」

まこ「そうじゃの。結局プラマイゼロすらほとんど破れんしな」

優希「五番手で染谷先輩ってのは普通に考えておかしいじょ…しかも四番手にインターミドルチャンピオンののどちゃんって…」

咲「うちは京ちゃん以外に穴がないからね」

京太郎「そもそも俺は女子の大会に出れねえから穴じゃねえっての」

優希「…それは反論になってるのか?」

京太郎「うっ…」

久「さあ、全国制覇へ向けて最初の試合よ、気合入れて行きましょう!」

「「「「おうっ!」」」」

「…うん」

204: 2014/12/27(土) 19:02:25.36 ID:WlgiPKg00
>>185は240人のほうが間違いで、正しくは290人です。
ご指摘ありがとうございます。

205: 2014/12/27(土) 19:08:08.00 ID:WlgiPKg00


久「対局室には対局する四人だけが入り、携帯などの持ち込みは不可、電波も届かない」

まこ「複数のカメラが設置されて録画もされとる、卓は勿論自動卓。蛇でもなければサマは不可能じゃ」

久「蛇って何よ…で、カメラの映像をこの観戦室のモニターで見る。設備は変わるけど、全国でも基本的に同じよ」

照「ふむふむ…」


久「で、組み合わせだけど、今回の参加校は58校。昨年の実績から龍門淵と風越がシードになって単純な表になるわね」

まこ「半端な数じゃとややこしい表になるがの」

和「64校でのトーナメントのうち、一回戦二つ分がシード枠になって、残り14試合を56校で争う…確かに分かりやすい表になりましたね」

久「四校のうちトップの一校だけが抜ける、それを三回よ。今日の午前と午後、そして明日の決勝戦、それですべてが決まるわ」

照「ん?うーん…」

咲「とにかくトップになればいいんだよお姉ちゃん」

照「ふむふむ…」

まこ「58校でも、激戦区の大阪に比べりゃ三分の一もないがのう」

久「じゃあ、そろそろ始まるから対局室に行きましょうか」

照「うん」

和「頑張って下さい!」

久「とりあえず、最初に当たる三校の中で強いのは今宮女子ね」

照「分かった」

206: 2014/12/27(土) 19:09:39.78 ID:WlgiPKg00

照「よろしくお願いします」ニコッ

葉子(うわっ、めっちゃ美人…でも、手加減はしないかんねー)


席について対局を待つ。
場決めの結果、私が起家になった。
欲を言えばラス親が一番楽なんだけど、まあ、この面子なら変わらないか。


係員「それでは、対局を始めて下さい」


スイッチを押して、サイコロを回す。
とりあえず東一局は鏡を使うので捨てる。
今宮女子が強いということは、今宮女子を削れという指示だ。
プラマイゼロの範囲で、今宮女子をラスに落とす。私にとっては難しくない作業。


葉子(最速と呼ばれた私のスピードに、ついてこれるかしら…!?)


この人は牌効率重視。とにかく最速の和了りを目指すタイプ。


由理「」タン

和子「」タン


この人達は、レベルの低いデジタル。
押し引きも優柔不断で、場の捨て牌も把握し切れてない。

…鏡で見なくても大体全部わかっちゃったし、鏡を使う必要もないかな。

207: 2014/12/27(土) 19:10:23.89 ID:WlgiPKg00

照「」タン

打:白

由理「ポン!」

葉子(げっ!?なに翻牌鳴かしてくれてんの!?)

照「槓」

槓ドラ:白

葉子「うえっ!?」

葉子(こんなのベタオリっきゃねー…清澄の、素人すぎでしょ…)

由理「ツモ。2000・4000」

234s678p4556m ポン:白白白 ツモ:5m


照「はい」チャラ

葉子(親かぶりしてやんの。自業自得ってね)

208: 2014/12/27(土) 19:11:06.96 ID:WlgiPKg00

―――

照「ツモ、300・500」

葉子(あたしより早い…?いやいや、たまたまついてただけっしょ?)

―――

照「ツモ。500・1000」

葉子(ちょっ…まだ三巡目…!?)

―――

照「ロン、3900」

葉子「はあああっ!?一巡目!?」

照「」ビクッ

葉子(人和がなくて助かった…って、なんなのこいつ!?最速と呼ばれた私が全くついていけないなんて…)

209: 2014/12/27(土) 19:12:06.04 ID:WlgiPKg00

―――

和子「あ、ポンです」


ポン:6p


照「…槓」

葉子(待って、この展開、見覚えが…まさか…)


槓ドラ:6p


葉子(ま、まさか、まさかだけど、狙ってやってんの!?自分の親かぶりを!?)

照「」タン


打:3m


和子「それもポンです」

照「…槓」


槓ドラ2:3m 打:2筒


葉子「う…そ…」

和子「それもポン」

照「…槓」


槓ドラ3:6p 


葉子(タンヤオのみだとしてもドラ9…倍満確定。対対までついたら…ベタオリっきゃねー)


和子「あ、ツモです。タンヤオ・対対・ドラ10…8000、16000!」


22赤55s ポン:333m 222p 666p ツモ:2s ドラ: 北 6p 3m 6p


照「はい」チャラ

葉子(役満の親かぶりで涼しい顔してやがる…こいつ、マジでなんなんだよ…!?)

210: 2014/12/27(土) 19:14:37.54 ID:WlgiPKg00

久「やりすぎでしょ…トラウマになるわよ門松さん」

まこ「おんしの指示じゃろ?」

久「ここまで本気で削るとは思わなかったわよ。ご丁寧に一番弱い東福寺に役満プレゼントしてるし」

咲「でも、門松さんがトラウマになるのはここからですよ」

和「え?」

咲「ここまでお姉ちゃんはマイナス13000、プラマイゼロにするために三連続直撃で18000点を回収するでしょうから」

京太郎「なんで直撃って分かるんだ?」

咲「…お姉ちゃんの私以外からの直撃って、珍しいんだよ。点数に制限がない状況で巡目が早ければ、見逃してツモる。東場で、しかも一巡目で直撃したってことは確実に狙ってる」

和「狙っているというのがイコールこれから三連続で直撃するという結論になりますか?」

咲「お姉ちゃんだよ?」

和「…それで納得できる自分が怖いです」

久(…)

咲「お姉ちゃんはこれから、三連続で今宮女子を直撃します」

和「…悪夢ですね」

優希「のどちゃん…のどちゃんだけはそんなオカルトありえませんって言ってくれると信じてたのに…」

和「咲さんが予言して、実行者が照さんですよ?実現するに決まってます」

久「本当にご愁傷様としか言いようがないわね…」

211: 2014/12/27(土) 19:15:33.73 ID:WlgiPKg00

先鋒戦終了

清澄   105300
今宮女子  66800
千曲東   98700
東福寺  129200

212: 2014/12/27(土) 19:19:36.36 ID:WlgiPKg00

照「ありがとうございました」ペコッ

葉子「」ガタガタ

和子「ありがとうございましたっ!」パアアッ

由理「ありがとうございました」


和子(やった、役満和了っちゃったよ!もしかしたら今宮女子に勝てるかも!)

由理(役満が出た割に被害は少ない。これが今宮女子なら無理だけど、東福寺ならまだ追える。大将までくらいついて行けば、うちには棟居もいる)

葉子(化けもんだ…あいつ、本物の化けもんだよ…なんであたしが切る牌が分かるんだよ…)

213: 2014/12/27(土) 19:20:19.65 ID:WlgiPKg00

久「…プラマイ…ゼロ?」

和「それは今更驚きませんが…本当に馬鹿げてますね…三連続、親番を流すための南一局の役満サポートを除けば東四局から四連続で狙った相手から直撃とは…」

咲「門松さん大丈夫かな?」

まこ「ダメじゃろ、他の二人と違って打ってる途中で狙われてることに気づいてしもうちょる、あんなんトラウマになるわ」

京太郎「俺、いつも似たようなことされてますけど?」

優希「鋼のメンタルだじぇ」

久「じゃあ、まこ、分かってると思うけど」

まこ「わしは狙い撃ちとかできんけえ、トップ取ればええじゃろ?」

久「ええ、任せたわ」

214: 2014/12/27(土) 19:20:45.60 ID:WlgiPKg00

次鋒戦終了

清澄   128300(+23000)
今宮女子  61800(― 5000)
千曲東   90700(― 8000)
東福寺  119200(―10000)

215: 2014/12/27(土) 19:22:47.11 ID:WlgiPKg00

久「じゃあ、行って来るわね」

和「ご武運を」

まこ「これが終わったら和の高校デビュー戦じゃの」

久「別にどこか飛ばして来てもいいんだけど、慣らしは必要だからね。二人に獲物を残しておくわ」

優希「一番少ない今宮女子でも6万点以上残ってるじぇ?流石に飛ばすのは無理だじょ」

照「…」

和「とにかく、頑張ってください」

久「ええ、ちゃんと見てなさい、あなたの先輩の雄姿をね」

優希「ガッテンだじぇ!」

216: 2014/12/27(土) 19:23:16.12 ID:WlgiPKg00

中堅戦終了

清澄   159400(+31100)
今宮女子  52900(― 8900)
千曲東   81500(― 9200)
東福寺  106200(―13000)

217: 2014/12/27(土) 19:25:28.85 ID:WlgiPKg00

久「ただいま」

まこ「…親連荘二回を含めて10局で8回も和了りおったか」

久「親では和了るつもりなかったのよ?不正とか疑われても嫌だからツモったら和了ったけど」

照「…お疲れ様」

咲「流石ですね」

和「その気になれば飛ばせたというのもあながち、ホラでもなさそうです」

優希「さっすが部長だじぇ!」

久「じゃあ、次はあなたね、和」

和「はい」

久「インターミドルチャンプの力、見せつけて来なさい」

218: 2014/12/27(土) 19:26:10.46 ID:WlgiPKg00

透華(ふふふ…インターミドルチャンプがどれほどの物か、見せて頂きますわよ、原村和)


久「…出たわね、例のクセ」

まこ「一打目に数秒考えるっちゅうやつか?」

久「ええ、二打目以降は何を引いても考えないくせに、一打目だけはどんなに迷いようのない手牌でも考える」

照「二打目以降のあれは、考えてないわけじゃない」

優希「ほえ?」

咲「一打目は、34種の牌全てに対して、最終形までの期待値を計算しなければいけない、だから、少し時間がかかる」

照「対して、二打目以降ではすでに算出された結果を河に出た牌を見て微修正するだけ、その所要時間は一打目の数十分の1」

咲「河を見ての修正は、牌をツモって見るまでの間に終わっている。だから、ツモった牌を見た瞬間には切る牌は決まっている」

久「結果、ノータイムで切る牌を選択することになる、か。まあ、知ってたけど、さっきのは言葉のあやってやつね」

透華(…それは…「のどっち」の特徴そのもの。そして、あの打牌…期待値で計算した場合にノーミスになる完全なデジタル…)


219: 2014/12/27(土) 19:27:46.80 ID:WlgiPKg00

久「ネット麻雀界最強の天使『のどっち』が、現実世界に降臨したわ」

咲「ついでに、ノーミスのデジタルだけじゃないですよね、明らかに運がいい」

照「34種の牌のうち7種が有効牌だったとして、鳴きを考慮しなければ、手が進むまでに平均して5巡ほどかかる」

京太郎「そう聞くと、鳴きが強力なのが分かりますね。7種も有効牌があっても5巡かかるんだから、一巡で確実に進むのは凄いメリットです」

咲「その分だけ制約もあるし、鳴いた場合のデメリットも多いけど、やっぱり鳴きは強力だよ…話が逸れたね」

まこ「…ネット麻雀の『のどっち』はともかく、現実の和は期待値より明らかに少ないツモ数で手が進むのう。一回二回じゃなく、統計的に見ても明らかに少ない。しかも、高目に寄って行く。赤ナシでも毎度毎度12000とか8000とかを和了ってくれよる」

照「私がリー棒出させないようにしてるのに普通に聴牌してリーチかけるだけでも十分おかしい」

咲「普通はその発言の方がおかしいんだよ、お姉ちゃん」

優希「のどちゃんは勝つ確率が高い打ち方をしているから勝つだけって言ってるけど、のどちゃんも普通に確率の常識を逸脱した怪物だじぇ…」

久「東場の優希だって十分おかしいわよ。それすら寄せ付けないのだから、和の強運は言わずもがな」

咲「精度の高いデジタルに運が味方する、それが、インターミドルチャンピオン原村和…」

久「中学時代のミスのあるデジタルでも全国優勝を成し遂げる強運が、今は、プロ以上と言われる最強のデジタル雀士に味方する」

照「その結果が――――」


『ツモ、4000オール』


透華(南3局、プラス4万の大トップでなおも親番で連荘――――原村和、いえ、『のどっち』!相手にとって不足なしですわ!!!)

220: 2014/12/27(土) 19:28:54.64 ID:WlgiPKg00

舞(…そんな簡単に終わらせてたまるかよ…あたしにとって最後のインターハイ…)


田中舞手牌

345m5578p白白中中中発 ツモ:発

打:7p

和「」ヒュン

打:白

舞「ポン」

打:8p

和「」ヒュン

打:5p

舞(それだが…小三元白中の8000を和了っても仕方ない。清澄は20万に迫る大トップ、うちは4万を割りそうな最下位…8000の直撃を10回やってようやく逆転だ、それはまず無理)

舞(けど、この手なら、見えるだろ?もう一つの和了牌、発で和了ればさ――――)


舞「ツモ」パタン

345m55p中中中発発 ポン:白白白 ツモ:発

舞「大三元、8100、16100。さあ、あたしの親でオーラスだ」


舞(―――逆転への、希望ってやつが)

221: 2014/12/27(土) 19:29:31.98 ID:WlgiPKg00

―――

和「ツモ、1000、2000。終了ですね」



副将戦終了

清澄   188700(+29300)
今宮女子  73300(+20400)
千曲東   64100(―17400)
東福寺   73900(―32300)


―――

透華(10万点以上の差をつけて、下三校が横並び…決まりましたわね)

透華(原村和は「のどっち」でした。それがわかれば十分…あの先鋒は純に任せましてよ)

222: 2014/12/27(土) 19:30:47.21 ID:WlgiPKg00

一「…透華、どこ行ったんだろうね?」

純「あいつに関しては、国広君に分かんなきゃ俺には分かんねえな」

一「いや、多分原村和の試合を見に行ったんだけどね」

純「分かってんなら聞くなよ」

一「…どう思う?」

純「原村和がのどっちかもしれないってやつか?正直、牌譜見る限りじゃ似ても似つかねえと思うんだがな」

一「基本がデジタルだから、牌譜は似てるはずでしょ」

智紀「…のどっちの特徴は、ミスのないデジタル。ミスをした時点で別物」

純「そういうこった」

一「それ以外にもあるよ。初手での小考と、以降のノータイム。時間さえかければボク達にも可能なただのノーミスデジタルとの差はそこにある」

智紀「…一は、原村和がのどっちだと思っている?」

一「さあ?ただ、透華が言ってるんだから、ボクは頭から疑ったりはしないよ」

純「つっても、のどっちねえ…あれ、運営が用意したプログラムじゃねえの?」

一「もしのどっちが実在するなら、変なプロよりよっぽど強いよ」

純「…たとえそうでも、うちら五人に負けはない」

智紀「…さっきすれ違った、清澄の三年」

純「…勘違いだろ、衣みたいなやつが県内に二人も居てたまるか」

一「そう思うかい?じゃあ、原村和が副将で出ている理由は?」

智紀「…エースは先鋒、もしくは大将に据えるもの。セオリー通りなら、強い順に先鋒、大将、中堅、副将、次鋒の並びになる」

純「…無名校が、インターミドルチャンピオンを四番手として使ってるってのか?それこそまさかだろ?」

一「あの二人とすれ違った時のボクの直感を信じれば、原村和が三番手以下なのは間違いないと思うけどね」

純「おいおい、清澄ってのはなんなんだよ…去年まで出場すらしてなかった無名校だろ?衣並みの化け物とインターミドルチャンプ以上の打ち手が二年間も隠れてたってのか?」

智紀「…そうなる、現段階では、それを否定する根拠は清澄は無名校という事実しかない」

純「やれやれ…まさか俺たちが県予選で頭を悩ませることになるとはなあ…」

223: 2014/12/27(土) 19:31:41.84 ID:WlgiPKg00

透華「みなさん!一大事!いちだいじですわー!」

一「…透華?」

純「お前、どこ行ってたんだよ?」

透華「そんなことはどうでもよろしくってよ!それより一大事ですわ!」

一「…どうしたの?」

透華「原村和はのどっちでしたわ!中学時代とはまるで別人!あれは99%のどっちの打ち方でしたわ!」

一「間違いないの?」

透華「デジタルがノーミスであることは私が確認したのですから間違いありません、そして、その他の特徴も一致しました。これでは…」

純「?」

透華「これでは―――私が圧勝できませんわ!!!」

純「…大した自信だこと」

一「ねえ、透華…それ以外は?」

透華「…摩訶不思議な闘牌をする先鋒、安定感のある次鋒、和了率80%の中堅、そして、のどっち…手ごわいですわよ」

一「あー…やっぱり?」

224: 2014/12/27(土) 19:32:29.77 ID:WlgiPKg00

ザワザワ…


参加者A「おい!アレ見たか!?」

B「アレ?」

A「清澄高校だよ!!!」

B「原村和だろ?さっき見たよ、役満の親かぶり喰らってたな」


透華(原村!私より目立つとは生意気な!!)キー


A「ちげーよ、原村の次に出て来た五人目―――」

C「大将?」

A「そいつがめちゃくちゃヤベーんだよ!!ずっと和了りっぱなしで一人で10万点以上稼いでやがる!このままじゃ東福寺がトビで終わるぞ!」


225: 2014/12/27(土) 19:33:10.07 ID:WlgiPKg00

純「おい…マジか?」

一「あの手を引かれてた方の三年生かな?」

智紀「…大会HPでは、清澄高校の大将は一年生で登録されている」

透華「私も確認しましたが…私たちとすれ違った二人は、先鋒と中堅でしたわ」

純「嘘だろ?あれ以外に、半荘一回で10万点稼ぐ奴がいるってのか?」

一「…やれやれ、まだ県予選なのに、大変なことになってきたなあ」

智紀「言う割に、焦りが見られない」

一「…それはみんなもそうじゃない?」

透華「それは当然ですわ!なんといっても私たちの大将は…」

純「『あの』衣だからな」

226: 2014/12/27(土) 19:34:04.04 ID:WlgiPKg00

ダダダッ バンッ


西田「すみません!週刊麻雀TODAYですが、取材をさせて頂いてよろしいでしょうか!?」

和「…西田さん」

久「あらあら、お目当ては和かしら?お昼ご飯の後にしてほしいのだけど…」

まこ「ないない、こがあ慌てて来るんじゃから、お目当ては別じゃろ」

咲「ですね」

久「え?」

西田「竹井さん!あなたほどの人がなんで三年生になるまで大会に出なかったんですか!?」

久「え?私?」

照「頑張って」

西田「そちらにおわすは先鋒の宮永さん!?あなたにも聞きたいことが―――」

照「へ?」


咲「…じゃあ、行きましょうか」

京太郎「いいのかあれ?」

和「食事ぐらいとらせてくれるでしょう、西田さんは常識のある方です」

まこ「んじゃ、行くか」

優希「じぇ」


ガシッ

咲「え?」クルッ


西田「食事代は出させて頂きますので、大将の宮永さんにも伺いたいことが…」ギュッ

咲「…えっと…その…」チラッ

照「咲、私たちは一心同体、咲だけ仲間外れになんてさせない…」ガシッ

久「旅は道連れってね」ガシッ

咲「」

久「てゆうか、一回戦で一番暴れてたのはあなたでしょ。なんで逃げられると思ったの?」


227: 2014/12/27(土) 19:34:37.33 ID:WlgiPKg00

まこ「じゃ、また後でな」

和「取材、頑張って下さいね」

優希「頑張れ咲ちゃん」

咲「うう…みんなが冷たいよぉ…」

京太郎「すまん、その二人を敵に回す勇気は俺にはない。許せ」

咲「京ちゃんまで!?」

西田「じゃあ行きましょうか、お昼はおごるから、ね」

照「とりあえず、パフェを三つお願いします」

久「それは三人分なの?一人で食べる気なの?」

咲「京ちゃんの裏切り者おおおおおお―――!!!」ズルズル

照「何を言ってるの竹井さん、三人で三つなんだから三人分に決まってるでしょう?」

久「私も咲も甘いものはそこまで好きではないのだけど?」

照「あら、そうだったかしら?」

久「まあ、あんたが猫かぶってるなら取材は安心だけど、食べ過ぎないでね?」


うーらーぎーりーもーの――――!!!


京太郎「いや、他に三人も見捨てた奴が居るのになんで俺だけ裏切り者呼ばわりされなきゃならんのだ」

237: 2015/01/04(日) 17:46:35.40 ID:2JI3dbE50

西田「では、あの槓は意図してやったと?」

照「はい、他人から見れば愚策に見えるでしょうが、強敵である今宮女子を削るために、私にはこの打ち方しかできませんでした」スマイル

西田(冗談でしょ…あの試合で和了ったのは、宮永照が子で6回、親番の二回はいずれも槓でドラを乗せてから他家にツモで和了らせた…それが意図したものだとすれば、全ての和了はこの子の手によるものということになる。あの【最速】門松葉子が、何も出来ずに掌の上で踊らされたっていうの!?)

久「照はこちらの切り札ですので、なるべくオフレコでお願いしますね」

西田「はい…というか、書いても信じてもらえないでしょうから安心していいですよ。私はともかく、現段階の実績ではありのままを書いてもデスクが通しません」

西田「で、妹さんですけど…」

咲「うっ…」ビクッ

西田「あの点数が上昇していく連続和了は、偶然ではないですよね?」

咲「…私が一番強いと思っている打ち方です。家庭の事情で、私が自然に打つとプラマイゼロになってしまうので、他人の打ち方を真似させて頂いています」

西田(自然に打つとプラマイゼロになる家庭の事情ってなによ!?)

久「これもオフレコですね。この子もこっちのジョーカーなので、今の時点ではあまり情報を出したくないです」

西田「分かりました。一回戦の成績からして、こちらは何を書いてもデスクを通りそうですけど、私のところで止めておきます」

久「他に何かありますか?」

西田「竹井さんも、先ほどの一回戦では和了率80%という成績を残していますけど…」

久「飛ばさなかったのは和と咲に大会の空気に慣れてもらうためです。80%を100%にも出来ましたよ」ニコッ

西田「」ゾクッ

西田「…最後に、今大会の目標を伺ってもいいですか?」

久「…全国優勝」

西田「…原村さんの言っていたこと、事実だったんですね」

久「和は何と?」

西田「自分はエースではない、清澄高校は、全国優勝を狙える戦力を揃えた、と」

久「口の軽い子ね。それとも、手の内を教えても大丈夫だと思う程度には私たちを信頼しているということかしら?」

西田「上手く聞き出すのが記者の腕ってやつですよ」

久「ま、西田さんに免じてそういうことにしておきましょうか」

西田「本日は、取材にご協力いただきありがとうございました」

238: 2015/01/04(日) 17:47:01.97 ID:2JI3dbE50

照「…竹井さんが強いのは知ってるけど、100%は無理でしょ?」

久「どうかしら?まあ、あんたらばっかり注目されても問題だし、ちょっとハッタリかましておかないとね」

咲「あうう…緊張しました…」

久「お疲れ様、まだ何か食べる?」

咲「えっと、私はいいです」

照「私はパフェ一つ追加」

久「…ランチも頼まずにパフェばっかり食べてこの子は…6つ目よ?」

照「昼食の代わり」

咲「もう、西田さんが居なくなった途端にいつも通りなんだから…」

239: 2015/01/04(日) 17:47:33.55 ID:2JI3dbE50

靖子「やあ、二回戦進出おめでとう」

咲「あ、カツ丼さん…」

久「…上手く特徴を捉えた、いいネーミングね」

照(…誰だっけ?)

靖子「はあ…そんな呼び方で定着されたら困るよ…自分で言うのもアレだが藤田プロと呼んでくれ」

咲「はい、藤田プロですね、覚えました」

照(プロ…うーん…あ、そうだ、雀荘で打った人だ)ピコーン

久「名前、覚えてなかったのね?」

咲「…名乗られませんでしたから」

靖子「そうだったか?」

咲「そうですよ」

靖子「それはすまなかったな」

240: 2015/01/04(日) 17:48:02.71 ID:2JI3dbE50

咲「それより、藤田プロも人が悪いですね。あんな脅しをかけて…」

靖子「ん?何のことだ?」

咲「龍門淵ですよ。あの人達、聞かせて頂いたお話ほど強いとは思えませんよ?」

靖子「会ったのか?」

咲「入口のあたりで四人で目立ってるのを見ただけですけど、分かります」

靖子「そうか、四人か…なら、期待していいぞ、大将…五人目は本物だ」

久「天江衣…牌譜を見る限り、照並みの人外よね」

咲「…今度は嘘じゃないですよね?」

靖子「最初から嘘をついたつもりはない。あれは本物だ、気をつけろ」

咲「…私とお姉ちゃんが居て、それでも勝てないかもしれない人が、居るんですね?」

靖子「…ああ」

咲「…」ギュ

照「…咲?」

久「そろそろ二回戦が始まるわ、まこたちはもう行ってるはずだから、私たちも行きましょう」

照「う、うん」

241: 2015/01/04(日) 17:48:37.82 ID:2JI3dbE50

京太郎「うわ…ガラガラ…」

久「午後はうちの試合なんて誰も見に来ないわよ」

照「…なんで?自分で言うのも何だけど、結構活躍したから注目されてもいいと思うんだけど」

まこ「まあ、実際、お目が高い方々は観戦にきちょるがの。それでも、無名校より見ておきたいところがあるんじゃろ」

京太郎「あ、そうか、午後からは…」

咲「風越女子と、龍門淵高校…?」

久「そう。ほとんどの人は、二回戦からのシード校であるあの二校の試合を見に行っているの」

242: 2015/01/04(日) 17:50:54.49 ID:2JI3dbE50

【四時間後】


モブA「も、もう麻雀やめる――――!!!」ダダッ


…軟弱ですわね。
と言っても、この結果では仕方ありませんか。



龍門淵   273800
南向     62400
篠ノ井西 -  6400
西原山林   71200


副将戦東3局2本場、大将に託すことすら出来ずにトビ終了。
負けたぐらいで麻雀をやめるような軟弱者を庇い立てする気はありませんが、気持ちは理解できますわ。

…何故ならば、私も、同じ目に遭いましたから。
自分が飛んだか他校が飛んだかは大した違いではありません。
自らの力が及ばず、大将に繋げなかったことは変わらないのですから。

もっとも、私はそれで麻雀をやめるなどとは思いもしませんでしたが。
有象無象と私の違いはそこにあります。

私は――私たちは昨年とは違います。
今年こそ、全国の頂に上りつめてみせますわ!

243: 2015/01/04(日) 17:51:24.61 ID:2JI3dbE50

透華「戻りましたわ」

純「おー、お疲れ」

透華「衣はまだ来ませんの?」

一「萩原さん曰く、会場の近くには居るって」

智紀「透華が飛ばしてくれたから今日のところは問題ない」

透華「それで、他の卓の勝者はまだ決まっていませんの?」

智紀「…D卓は中堅で終わった。清澄高校。H卓は風越が10万点近く離して、少し前に大将戦に突入、ほぼ決まり」

一「…やっぱり出て来たね」

透華「…清澄高校、目立つために私より早く終わらせましたの!?」

純「いや、そりゃねえだろ、お前じゃあるまいし」

透華「しかし、残念でしたわね!この二回戦、観客数では我々龍門淵がトップですわ――!!!」

一「」クスッ

透華「何がおかしいんですの!?」

一「あはは、やっぱり、透華は透華だなって」

智紀「…清澄が出て来たという話をしているのに目立つことしか考えていない。頼もしいと言えなくもない」

244: 2015/01/04(日) 17:51:55.66 ID:2JI3dbE50

【風越控室】

貴子「帰ったらきっちりミーティングだからな!!」

バンッ!!


未春「キャプテン!」タタッ


美穂子「…他の三校は………」

未春「え?」

美穂子「他の三校はもう決まった?」

未春「あ…はい。龍門淵は副将戦で篠ノ井西を飛ばして勝ってます。あと決勝に上がって来たのは鶴賀学園と…清澄高校というところです…」

美穂子「龍門淵は勝ったのね。良かった」

星夏「…」

未春「…良かった…?」

美穂子「ええ、良かったわ、だって―――」



――龍門淵が勝ちあがって来てくれないと、直接リベンジ出来ないでしょう?



未春「」ゾクッ

美穂子「コーチにも龍門淵にも、見せてあげましょう。私たちが―――最強だということを」

245: 2015/01/04(日) 17:52:51.93 ID:2JI3dbE50

星夏(キャプテンはああいったけど…私は龍門淵より清澄が怖い)ペラッ

星夏(龍門淵は何度も牌譜を見たが、基本的にレベルの高いデジタルで、天江と井上以外はおかしい打牌はない。しかし、この清澄…明らかにおかしい…)ペラッ

星夏(先鋒…一回戦では今宮女子を3連続直撃…それにもまして異常なのが、自分が親番の時の相手に有利にしか働かない槓。結果として、東福寺が役満を和了っている)

星夏(…他の6局は効率の良い打ち方をしているのに、親番では全く和了る気がないように見える)

星夏(意図は分からないが、もし全てを狙ってやっているとしたら、こいつも天江衣のような…)ゾクッ

星夏(それに、この中堅…一回戦では80%、二回戦では91%の和了率を叩き出してる…それに、二回戦の最後の和了り…まるで次にツモる牌が分かっているかのような、多面張を捨てての地獄単騎一発ツモ…)

星夏(そして、何より、一回戦で今宮女子を飛ばしたこの大将…)ペラッ

星夏(キャプテン…敵は、龍門淵だけじゃないかもしれません―――)

246: 2015/01/04(日) 17:53:23.60 ID:2JI3dbE50

久「私のおごりよ、決勝に備えてしっかり食べてね」

咲「いただきまーす」

照「…ところで、これは…?」

優希「ラーメンだじぇ!」

和「…らあめん?」

優希「のどちゃんはラーメン初めてかー?」

和「ら、らあめんぐらい知ってます!!」


絶対嘘だ。
まずラーメンの発音が怪しい。
そして、優希ちゃんが食べるのを横目でチラチラ見ている。

合宿でもマナーの良さそうな食べ方してたし、結構お嬢様育ちなんだよね、原村さん。


照「原村さん、食べ方が分かるなら教えてほしい」

和「えっ!?」


ラーメンを知らない人がもう一人、しかも身内に居た…
このままほっといて原村さんが慌てるのを見てるのも良いけど、助け船を出そうかな。


咲「原村さんに迷惑かけないで、私が教えるから」

和「」ホッ

照「…おかしい、咲は私と一緒に育ったはずなのに私が知らない料理を知っているはずが…」

咲「ラーメンは麺類だよ、おそばとかうどんみたいに箸で麺を掴んで食べてね。蓮華でスープを味わうのも忘れずに」

和「ふむふむ」チュルッ

和(美味しい…)

照「美味しい…これがラーメン…」

咲「てゆうか、お姉ちゃん、カップ麺とか食べてたでしょ?なんでラーメンを知らないの?」

照「…これは見た目からして何か違う。別の料理」

店主「分かってるねえ、お嬢ちゃん。うちのラーメンをそこらのカップ麺と一緒にされちゃ困るってもんだ、ガハハ」

優希「おやじ、おかわり!!」

咲「早っ!?優希ちゃんもう食べたの!?」

247: 2015/01/04(日) 17:54:18.17 ID:2JI3dbE50

まこ「みんな、思うたより緊張しとらんのお…」

久「今はね、私は今夜あたり、緊張と興奮で寝られないかもしれないわ」

まこ「おいおい、柄にもない…」

久「…二年間待って、ようやく掴んだ一枚限りのチケットだもの、照までいるし、興奮は言わずもがな。緊張は…勝てるという確信があっても、怖いものは怖いの」

まこ「…わしじゃ力になれんかもしれんが、照さんも咲もおるけえ、あんたはどっしり構えててほしいの」

久「あんたもしっかりあてにさせてもらうわよ。四人で勝てるほどインハイは甘くないの」

まこ「照さんと二人だけでも全国には行くんじゃろ?」

久「それはそれ、今は私以外に六人居るんだから、全員あてにさせてもらうわ」

まこ「人使いが荒いのお…ま、期待されるのは嫌な気はせんが」


優希「おやじ!タコスラーメンを作れ!!」

店主「タコはねえなぁ」

248: 2015/01/04(日) 17:55:31.68 ID:2JI3dbE50

和「ただいま、今日は無事に決勝に駒を進めることが出来ました」

家に帰っても、両親に大会の結果を報告することはない。
報告したところで、嫌な顔をされるだけでねぎらいの言葉など期待できない。
私に麻雀をやめてほしいと思っている両親にとっても、成果を褒めてほしい自分にとっても不愉快な結果にしかならない。

と言っても、誰かに語りたい。
宮永照の強さを、染谷まこの強さを、竹井久の強さを、宮永咲の強さを、そして、自分自身の頑張りを。

少し思案して、いつもの相手に聞いてもらうことにする。

エトペン…小学生の頃から私と寝食を共にする相棒であり、親友。

他人にとってはただのぬいぐるみですが、私にとってはとても大切な友人。


和「…明日は決勝です。私は自分のベストを尽くすだけですが…」


自分はともかく、あの人たちが負ける姿は、ちょっと想像できない。
たとえば、三尋木咏をはじめとした日本代表チーム相手でも、あの人達なら涼しい顔をしながらトップで私に繋いでくれそうだと本気で思ってしまう。

そもそも、チームで四番手の自分が、ネット上では最強と言われる雀士なのだ。
並のプロには負けないと目されていて、雑誌が勝手につけただけではあるが【天才】などという呼び名もついている。
その自分を歯牙にもかけない圧倒的な強さを持つ人間が五人のうち二人もいるのだ、高校生レベルで負ける方がおかしい。

それでも、緊張はする。
勝てば全国、あの人たちと肩を並べて、更に先のステージへと進むことが出来る。


―――だけど、もし、負ければ―――


和「」ブンブン


嫌な想像を頭から追い出すように首を振る。

勝てば良い。
勝つしかない。
きっと勝てる。

勝って、全国へ―――

249: 2015/01/04(日) 17:56:07.77 ID:2JI3dbE50


咲「お休み、おとーさん」

照「おやすみ」

界「おーぅ」


お父さんに声をかけて、姉妹揃って寝室へ向かう。
明日も同じ時間に家を出るわけだから、寝る時間も一緒。


咲「…で、お姉ちゃん、本気で打つ気はないの?」

照「…本気と言われても、一回戦のあれが本気だよ」

咲「むー…ちょっと信じられない。あの面子でお姉ちゃんが本気なら三校トバして終われると思うんだけど」

照「咲まで竹井さんみたいなことを…」

咲「まあ、あれが全力だって言い張るならそれでもいいけど、目いっぱい削ってよね。藤田プロの話だと、龍門淵の大将は本当に強いみたいだから」

照「善処する」

咲「じゃあ、お休み、お姉ちゃん」

照「うん、お休み…」



照「…本気、か…」

250: 2015/01/04(日) 17:56:34.53 ID:2JI3dbE50

全国高等学校麻雀選手権大会、長野県予選一日目、小望月の浮かぶ夜は更けてゆく

この夜が明ければ、決勝の幕が開く

県内58校から激戦を制して勝ち上がった4校、それぞれのメンバーは、不安と期待を胸に、夜明けを待つ

明日、日が沈み、満月が空に昇り始める頃に、全国への切符を手にする五人が決まる

勝利の女神は、果たして誰に微笑むのか


僅かに満ちぬ月は、高き山のそびえる長野の大地を照らす―――


262: 2015/01/06(火) 10:42:21.99 ID:mtk6Pr4n0

久「決勝は一人半荘二回ずつで、トータル半荘10回。点数は持越しで、やはり順位点はなし」

照「削る相手は?」

久「龍門淵、一応風越も警戒はしておいて」

照「もう一校は?」

久「…ノーマークで良いと思うわ。うちが11万点なら、龍門淵7万・風越9万・鶴賀13万ぐらいが理想かしら」

照「…分かった」

久「40万点とって全部飛ばしてくれるとなお良いのだけど」

照「何度も言ってるけど、買いかぶりだから」

久「でも、今言った通りの点数には出来るんでしょう?」

照「善処する」

咲「風越11万で龍門淵5万でもいいよ」

照「…咲はビビりすぎ」

久「あんまり削りすぎるとうちがトップじゃない時点でトブ可能性があるから、さっき言った通りで良いわ。頼んだわよ」

照「うん、じゃあ、行ってきます」

久「一人で行かせるわけないでしょ。私も対局室までついてくわ」

照「…ありがとう」

バタン

263: 2015/01/06(火) 10:43:27.80 ID:mtk6Pr4n0

まこ「『打ち方』じゃのうて『結果』を指示するとか、冷静に考えたらおかしいんじゃがな」

和「…照さんの時だけ、相手の対策とか全くなしですからね」

咲「まあ、牌譜見て対策を立てるよりお姉ちゃんが鏡で見るほうが正確だし、それは仕方ないよね」

京太郎「半荘二回もあると、プラマイゼロ二回でもトップに立ったり出来るんですよね」

優希「そうなのか?」

咲「このルールだと順位点がないからね。一回目と二回目で違う人にトップ取らせればトータルトップは可能だよ」

優希「うむむ?」

咲「たとえばこんな感じだね」

―――――

一戦目

久 19600
和 36000
照 30400
京 14000

二戦目

久 34300
和 19000
照 29700
京 17000

トータル

久 53900
和 55000
照 60100
京 31000

―――――

264: 2015/01/06(火) 10:44:15.52 ID:mtk6Pr4n0

咲「これでお姉ちゃんがプラマイゼロ二回でトップ」 

まこ「たとえじゃなくて、おんしらは本当にこれをやりよるからのう」

咲「面子次第ですけど。たとえば、部長と素人二人とかだと部長以外をトップにするのは難しいですね。一半荘だけで6万点を超えるトップを取られる可能性もありますし」

優希「難しいとは言っても出来ないとは言ってくれないんだじぇ…」

和「まあ、実際にお二人のプラマイゼロは何度も目の当たりにしてますし」

優希「でも、トップを取れるのに今回は鶴賀にトップを取らせるのか?」

まこ「まあ、鶴賀とは次鋒以降で差がつくじゃろうからな、目先のトップより龍門淵と風越の二強との点差じゃ」

265: 2015/01/06(火) 10:44:42.13 ID:mtk6Pr4n0

起家 照「よろしくお願いします」ニコッ

南家 純「…よろしく」

西家 美穂子「よろしくお願いします」

北家 睦月「うむ」

266: 2015/01/06(火) 10:45:15.20 ID:mtk6Pr4n0

純(…気のせい、だったのか?あの時感じた化け物みたいなプレッシャーが全くねえ…)ジー

照「」タン

美穂子(去年の私たちはこの子たちに惨敗…私も副将の龍門淵さんを抑えるので精いっぱいだった)

純(こいつが大したことないってんなら、敵は風越の片目瞑りか…)

美穂子(でも、今年は違うってことを見せてあげないとね…)

267: 2015/01/06(火) 10:45:58.67 ID:mtk6Pr4n0

東一局 11巡目


美穂子(順調に手が進んでくれたわ…ミスが無くても手が入らないことがあるのが麻雀、運が味方した時は和了りきりたいわね)


美穂子手牌

12389s45688m236p ツモ:7s


美穂子(けど、確か、この子は妙な鳴きをするのよね…役ありで1000点の手、リーチはかけずにダマで行きましょう)タン

打:6p


純(風越の…聴牌か?安手のはずだが、出だしで調子づかせたくない…)


純手牌

445566s55赤5p23m南南


照「」タン

打:6s


純「ポン」

打:2m

268: 2015/01/06(火) 10:46:26.93 ID:mtk6Pr4n0

咲「…ふーん、結構やるね、このひと。ほっといたら一発ツモだったと思うよ…ほら、鶴賀の人がアタリ牌掴んだ」

久「流れとかを感じてるのかしら?」

まこ「…わしにはド素人に見えたんじゃが…」

和「流れとか、非科学的です…」

優希「あのタイミングで鳴かれると絶対調子狂うじぇ…」

久「来年、先鋒であの子と当るのは優希よ。その時には、私も照もいない。しっかり見ておいてね」

優希「おうっ!」

269: 2015/01/06(火) 10:47:29.96 ID:mtk6Pr4n0

美穂子(…ほら、鳴かれた。でも、これは想定内…そして、これはコーチに怒られそうだけど…)


美穂子手牌

123789s45688m23p ツモ:2p


美穂子「リーチ」

打:3p


純「なっ!?」

美穂子(ふふ、そちらにとっては想定外だったようね)

純(くそ、さっきのでリーチかけてたならこれで和了れない流れにハマるはずだったのに…しくった、ますます流れに乗せちまった!)

照「」タン

打:南


純(…生牌の南、鳴けば聴牌、オリるならリーチに対して安牌二枚が出来たことになる…どうする?)

純(どうせ一発でツモる流れだ、引いたら余計にケチがつく。どうせなら足掻いてやろうじゃねえか!)

純「ポン!」

打:3m


純(一発消しと、期待薄だが流れが変わってくれることを祈って鳴く!)


美穂子「ツモ。リーチツモ…裏が一枚乗って、1000・2000」パタン

純(鳴いてもダメだったか…だが、今の流れならどうせ一発ツモだ。一発消しただけでも鳴いて正解ってな)


ゴオオオオオ


純「うえっ!」ゾクッ

美穂子「くっ!?」ビクッ

睦月「…?」


照「…」ゴゴゴ


純(ヤバ…一局目は様子見か!?今の、こいつが何かしたに違いない、手の内を見せたのは失敗だったか!?)

美穂子(…今のは…井上さんが何かしたのかしら?なにか、深いところを見られたような…)

睦月「…??」

270: 2015/01/06(火) 10:49:02.98 ID:mtk6Pr4n0

東二局 ドラ:2p

照「…槓」

美穂子(槓!?そういえば、このひとは、一回戦で、槓を多用して―――)


照手牌

34赤5p345s345m北 暗槓:2222p 嶺上牌:赤5m




照「…」タン

打:北 槓ドラ:2p


純(ヤバい…ヤバいが、どうしようもねえ…せめて鳴ければ…)タン

打:北

睦月(ドラの暗槓に…槓ドラがモロ乗り!?)

美穂子(これは不味い…井上さん、鳴いて!お願い!)タン

打:8p

純「(そいつだ!)ポン!!」

美穂子(鳴いた…ということは、押してくれるのね。私の手はまだ二向聴、押すわけにはいかない)

睦月(…五萬…本来の彼女のツモ…しかし、聴牌だ、倍満確定の手が相手だが、こちらも最低満貫、流すためにもここは押そう)


睦月手牌

11666789s東東東南南 ツモ:5m


睦月「リーチ」

打:5m


271: 2015/01/06(火) 10:49:41.86 ID:mtk6Pr4n0

純(馬鹿か!?ツモ切りだと!?)

美穂子(信じられないことをするわね…けど、アタリじゃないのかしら?)


照「ツモ」


照手牌

34赤5p345s345赤5m 暗槓:2222p ツモ:2m ドラ:2p 槓ドラ:2p


照「面前ツモ・タンヤオ・ドラ10。6000・12000」


純「おいっ!?それっ…」

睦月「み、見逃し…なんで?」

美穂子(私たちを、削るため?確かに、無名校からの出和了りよりは私たちを削る方が良いでしょうけど…)

純(俺たちを削るのが目的だとしても、役満を見逃して三倍満かよ!?次にツモれる保証もねえんだぞ!?)


照「…」ゴゴゴ


純(いや…こいつが衣並みの化け物なら…まさか、次にツモる確信があったってのか!?)

272: 2015/01/06(火) 10:50:09.76 ID:mtk6Pr4n0

久「初っ端から飛ばしてるわねー。これ、この後どうすんの?」

咲「鶴賀に差し込むんじゃないですかね。槓ドラ乗せて」

まこ「これが出来るなら普通に勝ちゃあええのに…」

優希「全くだじぇ」

和「あの人、実は本当に役満を自在に和了れるんじゃないですか?」

咲「流石に自在にってことはないと思うよ。私は無理だし」

和「照さんが退部を迫った時、咲さんは三巡で国士無双を和了っていましたが?」

咲「あれは…まあ、うん」

京太郎「答えになってねーぞ」

咲「まあまあ、それより、お姉ちゃんの応援をしようよ」

273: 2015/01/06(火) 10:50:57.90 ID:mtk6Pr4n0

照「」タン


234567s44m北北 暗槓:1111p  ツモ:南

打:7s


睦月「ろ、ロン!タンヤオドラ6!12000!」


睦月手牌

23456s444p88m ポン:777m ドラ:7m 7m

照「はい」チャラ

睦月(よし、トップを直撃。龍門淵の井上と風越の福路相手に戦えているぞ)

照「…」

睦月(清澄の先鋒、不用意な槓が目立つ。さっきの三倍満も、たまたまついていただけだろう。さっきのはドラ槓子だからまあいいとして、やたらと槓をするなんて素人もいいところだ。今みたいに、こいつの槓を上手く利用できれば…)

美穂子(実際、一回戦では槓で痛い目に遭ってるのよね、この子。役満と満貫の親かぶり…それでも槓をやめないのは、ああいう大きな和了りの経験があるからかしら?)

照「…」

純(跳満直撃で涼しい顔してやがる…こいつ、ヤバイぞ…)

274: 2015/01/06(火) 10:52:10.65 ID:mtk6Pr4n0

東4局

睦月(親番だ…大事にしたい)

純(どうにかしねえと…流れが完全に握られてる。しかも、意図がわからねえせいで崩し方が分からねえ…場が完全にこいつに支配されちまってる)

美穂子(…手が進まない。それ自体は珍しいことではないし、井上さんが何かした気配もない。ただの偶然かしら?それとも、まさか、清澄の仕業――?)

照「槓」

暗槓:1111p

美穂子(また――――!?)

純(槓子が出来る確率だけでももう明らかに異常だ!どうなってやがる!?)

睦月(し、しかし、それは――――)


照「…」シーン


純「おい…なんで嶺上牌を取らねえんだ?」

照「…搶槓」

美穂子「え?」

照「鶴賀の人が、和了れるはずです」

純「おい…何言ってんだ?暗槓を搶槓出来る役は、一つしかねえぞ?」

照「…一つ、ありますよね?」ニコッ

美穂子「…何を、何を言っているの?もしそうだとして、分かっていて意図的に振り込んだとでも言うの?」

照「…和了らないなら、嶺上牌を取ります」スッ

睦月「あ…その…ロン、です」パタン


99p19s19m東南西北白発中 ロン:1p


睦月「国士無双、48000…」


純「」ゾワッ

美穂子「なっ…えっ…どういうこと…?」フルフル

照「はい」チャラ

純(な、なに考えてやがるんだ!?本気でわけがわからねえ!役満を見逃して、その後で親の役満にわざと振り込んで、こいつは一体何がしたいんだよ!?)ジロッ

照「(…なんか見られてる?とりあえず笑顔で悪意がないアピールしておけば大体大丈夫なはず)」ニコッ

純「ひっ!?」ゾワッ

美穂子(この子…あの笑顔の裏に、どんな魔物を飼っているというの…?)ゾクッ

275: 2015/01/06(火) 10:53:04.55 ID:mtk6Pr4n0

咲「振り込むだけなら搶槓じゃなくて普通に切れば良いのに…」

久「なんか、理由として思い当たることはある?」

咲「…ちょっと私にも分かりません。一応、嶺上牌は和了り牌だったと思います」

久「見逃してたら嶺上開花で和了ってたってこと?」

咲「多分。どっちにしろツモる前に役満の直撃を食らうわけですから、だからどうしたって話ですけど」


和「二人とも、見てない牌が分かることを前提にしないでください、非常識な…」

京太郎「和に言われるまで嶺上牌が分かることを普通に受け入れてた俺が居る…」

優希「安心しろ犬、お前は一人じゃない」

まこ「もう麻雀に関する限り、こいつらに何が出来ても驚かんわい」

276: 2015/01/06(火) 10:53:39.85 ID:mtk6Pr4n0

『ロン、タンヤオドラドラ、3900』


久「風越に振り込んだわね。さっきの一本場を300・500の一本付けで流したから、今のところマイナス39500…どうやってひっくり返すのかしら?」

咲「…誰かリーチするのかなあ?随分危ない橋に見えるけど…」

まこ「リーチ?」

咲「あと三局で親番もないので、多分8000、12000、24000でトータルでプラス4500にするんだと思いますけど、それだと100点足りないんですよ」

和「他に目ぼしい組み合わせもないですね…あとは本場を足すぐらいですが…」

久「井上さんが削る対象だし、和了らせるとは考えにくいわね。何考えてるのかしら?」


『リーチ』


優希「言ってるそばから鶴賀がリーチしたじぇ」

咲「じゃあ、決まったかな?この面子にはわざわざプラマイゼロを崩す人も居ないし」

久「と言っても、ここから和了るのは満貫・跳満・三倍満…普通ならこの後もハラハラドキドキだけどね」

和「そこは照さんですから」

まこ「じゃのう。あの人のプラマイゼロは意識して崩そうとしても崩せんのじゃから、周りがトップ目指して普通に打ったらプラマイゼロになるに決まっちょる」

久「てゆうか、これ…照ったら加減を知らないのかしら?」

ーー

前半戦終了

清澄  105500
龍門淵  72600
風越   83500
鶴賀  138400

277: 2015/01/06(火) 10:54:24.91 ID:mtk6Pr4n0

久「誰が半荘一回でオーダー通りの点差にしろって言ったのよ?」

照「最初に均した方が調整しやすい、これで大体予定通りの点差になる」

久「本当にとんでもないわねあんた…風越が予定よりへこんでるのは、次にトップ取らせるため?」

照「うん」

久「でも、随分危なっかしいプラマイゼロじゃない?リー棒出なかったらどうする気だったの?」

照「…リーチ棒が出るように頑張る」

久「ま、結果オーライね。気を抜かずにきっちり締めてよ、エースの宮永さん」

照「善処する」


『先鋒後半戦を開始します、選手の方は対局室に…』


久「じゃ、頑張って。期待してるから」

照「…今回のところは期待に添えられると思う」

278: 2015/01/06(火) 10:54:59.92 ID:mtk6Pr4n0

照「ツモ。500、1000」

純(でかい手ばっかの前半戦とはうってかわって、地味で小さい和了りを連発…早すぎて止められねえ…ちょくちょく風越が間に入って来るが…)

美穂子(大きな動きがないままオーラス…宮永さんや津山さんから何度か直撃を取って、後半戦に限れば今のところ私がトップだけど…この違和感はなに?)

睦月(安い手で場を回してくれるのは正直ありがたい。この面子では、局数を重ねれば地力の差が出るだろう。浮いているうちに終わるのがベターだ)

279: 2015/01/06(火) 10:56:00.13 ID:mtk6Pr4n0

【風越控室】


貴子「おいっ!!昨日、清澄の二回戦を偵察したのは誰だ!?」

部員A「わ、私たちです…」ビクッ

貴子「何見てやがった!?なんだこの『ただの素人』ってのは!?書いたのはどいつだアアアア!?」

部員B「ひっ!?わ、私です!」ビクッ

貴子「天江と同等以上の化けもんじゃねえか!マジで何見てやがったんだてめえらアアアアア!!」

華菜「こ、コーチ!落ち着くし!あんなのたまたまだしっ!たまたまツイてるだけだし!現にさっきは役満に振り込んだりしてたし!」

貴子「てめえも節穴か池田アアアア!?どう見たって全部計算してやってんだろうが!てめえ、これ見てもまだ気付かねえのか!?」バサッ

華菜「わぷっ!?な、なんだしこれ?」

貴子「さっきの半荘を含めた宮永照のここまで3戦の獲得点数だよ!これ見て気付かねえって言ったら試合前だろうとぶん殴るぞ!」

華菜「…何だ、これ…全部、5000~5500に収まってる?」

貴子「多分、4600までは含まれるんだろうが、データが3回分だからな。原点からの増加が4600~5500、これが通常の25000点持ちなら?」

星夏「プラマイ…ゼロ?」

純代「…プラマイゼロを…狙ってる?そんな馬鹿な…」

貴子「それ以外に、龍門淵の井上を半荘二回の間焼き鳥に出来るほどの奴が役満に振り込む理由があるなら言ってみろ!どうなんだ深堀!?」

純代「しかし、狙って出来ることとは思えません…」

貴子「プラマイゼロなんかよりもっとありえねえことが目の前で立て続けに起こってんだろがああああ!!!!役満を見逃して三倍満をツモった挙句、暗槓した後に嶺上牌をツモらずに国士無双の搶槓宣言を待ってやがったんだぞあいつは!」

未春「まさか…でも、そんなこと狙って出来るはずが…」

貴子「現にやってる奴が居るんだよ!出来るはずないとか出来るとは思えないとか、馬鹿かてめえらはああああ!!!」ガンッ

華菜「ひうっ!?」

貴子(…痛え…ここの椅子って結構重いのな…)


280: 2015/01/06(火) 10:57:07.57 ID:mtk6Pr4n0

貴子「…ちっ、この分じゃ、他も数字通りの化けもんだろ…和了率90%と平均獲得点数20万点だったか?」

華菜「あ…はい、だし。でも、平均って言っても大将は一回戦しか出てないし」

貴子「…万が一にも負けはないと思った福路ですらあのザマだ、お前ら、腑抜けた打牌したら連続優勝が途切れるどころじゃない汚名を被ることになるぞ」

純代「それは…」


『ツモ。400、700』


貴子「…今回はプラス5500…きっちりきっかり、龍門淵の井上を焼き鳥にしてのプラマイゼロだ」

華菜「そんな…キャプテン…」

貴子「まあ、福路なら、プラマイゼロが目的だってわかってりゃリーチ棒出すなりなんなりして目論見を崩すことぐらいは出来ただろ。けど、そんなことしても仕方ねえ。あたしらの目的はなんだ?」

未春「…県大会、優勝です」

貴子「そうだ、たとえあの化け物が毎回プラマイゼロにしても、そんなのなんの役にも立たねえ。取らなきゃいけねえのはトップだ」

星夏「けど、圧倒的な力の差を見せつけられましたよ?」

貴子「そうだな、あれは下手すりゃ、この先鋒で30万点稼いで試合を終わらせかねないぐらいの化けもんだ。けど、試合はまだ終わってない。点差は何点だ池田アアアア!?」

華菜「に、21300点です!トップの鶴賀とは40400!」

貴子「逆転は可能か池田アアアア!?」

華菜「可能ですっ!」

貴子「よし、わかってんならいい!あの化けもんの出番は終わりだ!あれがどんだけ化けもんでも、もう出てこねえ!龍門淵はうち以上に沈んだ!こっから巻き返すぞ!」


「「「「はいっ!!!」」」」

281: 2015/01/06(火) 10:57:52.50 ID:mtk6Pr4n0

先鋒戦終了

清澄  111000(+5500)
龍門淵  69200(-3400)
風越   89700(+6200)
鶴賀  130100(-8300)

282: 2015/01/06(火) 10:58:18.79 ID:mtk6Pr4n0

ゆみ「良くやった津山、これ以上ない出来だ」

睦月「は、はいっ!」

智美「ワハハ、次は我らが秘密兵器の出番だなー」

ゆみ「ああ、出し惜しみする必要はないからな。清澄は我々を楽な相手と見たのだろうが、見込み違いだと教えてやろう」

智美「鶴賀のエースのお出ましだー、目ん玉かっぽじってよーくみとけー」ワハハ

?「…」

283: 2015/01/06(火) 10:58:51.24 ID:mtk6Pr4n0

まこ「ほんじゃ、行って来るかの」

久「ええ、頑張ってね」

照「私は最善を尽くした、あとはみんなに任せる」

咲「お疲れ様、お姉ちゃん」

和「お疲れ様でした」

照「ありがとう」

京太郎「でも、鶴賀ってほとんど情報がないですよね。トップにさせて良かったんですか?」

久「だいじょうぶでしょ。無名校に照みたいなのが居る、なんてことが他に起きるとは思えないわ」

284: 2015/01/06(火) 11:12:12.97 ID:mtk6Pr4n0
>>270

津山さんがリーチをかける直前に

睦月(これを切ったら押していること…つまり聴牌は丸わかりだろう。なら、ダマの意味はない。どうせ押すなら…)

が入ります。すみません。

305: 2015/01/09(金) 14:29:33.33 ID:OWzXByYG0

私が麻雀を始めたのは、10か月前。
たまたま見ていたインターハイで、私と同い年の人が、個人戦で優勝したのを見たのがきっかけだった。

当時は麻雀のことが良くわからなかったけど、解説によると、試合中に苦しい状況が何度もあったらしい。
けど、どんなに苦しいと言われていた状態でも、あの人は笑顔のままだった。
誰もが憧れるような素敵な笑顔を浮かべたまま、あの人は打ち続けた。


―――あの人みたいになりたい


そう思って、牌を手に取った。
もちろん、要領の悪い私は、あの人みたいに打つことなんてできなくて。

けど、あの人に憧れた私は、下手でも、不器用でも、あの人を目指して進み続けた。
ルールも覚えたし、役も覚えたし、今では牌効率のいい打ち方だってちゃんと分かるようになった。

そして、今年のインターハイに出て、あの人に会おうと思って、麻雀部の扉をノックした。


どうやら、私は運が良かったらしい。
その日が個人戦の受付締切で、ギリギリで登録することが出来た。

また、麻雀部は部員が四人しか居なくて大会に出られるかどうかの瀬戸際だったらしく、私は団体戦のメンバーとしても快く受け入れてもらえた。

あの人が居る高校は、きっと団体戦でもインターハイに出てくる。
これから出る個人戦で代表になれるとは限らないから、出来れば団体戦でも代表になりたい。
どんくさい私を受け入れてくれた麻雀部のみんなへの恩返しにもなるし、この試合は―――全力で勝ちに行く。

306: 2015/01/09(金) 14:30:13.59 ID:OWzXByYG0

ゆみ「何せ入部したのが三日前だからな。妹尾がどれほど打てるか、昨日のエントリーの時点では分からなかった」

智美「打って見極めてる時間すらなかったから、何切る問題とかでテストしたんだったなー」

ゆみ「その結果だけを見れば津山より少し下手なぐらいだったから次鋒にオーダーした」

睦月「私はエース区間を何とか凌いで、基本的に五番手が出てくる次鋒もとにかく凌いで、中堅以降で挽回する方針でしたよね」

智美「私が出来るだけ自由に打って取り返して、エースのモモが全力でどうにかして、ゆみちんがきっちりまくるオーダーだな」

ゆみ「しかし、嬉しい誤算があった。基本的に五番手が出てくる次鋒という区間で、モモ以上の力を持つエースをぶつけられるという誤算がな」

モモ「エースから降ろされて悲しいっすよ」

睦月「あの人、強運が人並み外れてますもんね…」

智美「ああ、自分でもどんくさいって自覚するぐらいのんびり屋だけど、あいつは運だけはめちゃくちゃいいからなー」

ゆみ「人外の強運を、基本を押さえた打ち手が使いこなす…するとどうなるか?」

モモ「去年のインターミドルチャンプは、最強クラスのデジタルが強運を従えるって感じだったっす」

睦月「麻雀は、腕が三分に運七分…」

ゆみ「三割の部分を極めて七割がそれなりの打ち手がインターミドルチャンプなら…七割の部分を極めて三割がそれなりの打ち手はどうなるか?」

智美「結果はその目でご覧あれってなー」ワハハ

307: 2015/01/09(金) 14:30:40.87 ID:OWzXByYG0

起家 佳織「よろしくおねがいしますっ!」

南家 まこ「よろしく」

西家 智紀「…よろしくお願いします」

北家 未春「よろしくお願いします」

308: 2015/01/09(金) 14:31:16.85 ID:OWzXByYG0

まこ(沢村と吉留はデジタル派、鶴賀はデータがないから良くわからんが、打ちやすそうな面子じゃ)

智紀(…データ不足。とりあえず完全デジタル。少し時間を使えば私にだってノーミスのデジタルは出来る)

未春(…龍門淵は勿論警戒しなければいけない、清澄も、異常な中堅と大将、更に副将の原村の存在を考えればここで削らないと話にならない。私が頑張らないと…)


―――

佳織「ツモです!」パタン


まこ「…は?」

智紀「…早い」


佳織手牌

123456789m45赤56p ツモ:赤5p


佳織「ツモ・一気通貫・ドラドラ。4000オールです!」


智紀(仮テンだけどツモったなら和了る、か?)

まこ(いやな感じじゃな…この顔…バカヅキしてるお客さんが居る卓の顔じゃ…)

未春(清澄と龍門淵も気をつけなきゃだけど、現状のトップは鶴賀…どうしろって言うの?助けて華菜ちゃん…)

309: 2015/01/09(金) 14:32:19.79 ID:OWzXByYG0

照「…他の無名校に私みたいなのが居るはずがない、だっけ?」

久「…」ダラダラ

咲「あれは不味いですね。下手するとここで終わりますよ。次鋒にあんなの持って来るなんて非常識な…」

和「えっと…ただ運が良かっただけで、それほど上手い打ち手には見えませんでしたけど」

咲「そうだね、『ただ運がいいだけ』で、『それほど上手くない』。その通りだと思うよ」

照「そう、それがあの人のすべてと思って差し支えない。そして、それが限りなく厄介」

優希「どういうことだじぇ?」

咲「そうだね。たとえば、この手、どう思う?」


123567m455s東北南西


優希「良い手だじぇ。二面子が確定してて良型の面子候補があるし、風牌切ってけば整理し終わる頃にはもう一つぐらい面子候補が出来るはずだじぇ」

咲「そうだね、この手で4索から切るようじゃなければ並以上の配牌だよね。この手が普通に配牌で来るのは運が良いと言えるはず」

照「更に、4萬、8萬、9萬の順でムダヅモなしでツモるなら?」

優希「ツモるってわかってるなら染めるかもだけど、普通に打ってツモったなら、字牌整理して索子周りで聴牌を目指すじぇ」

咲「そして、6索をツモって聴牌。3索なら迷わずリーチだけど、四巡目だし、6索ならリーチせず手変わりを待つのも悪くない。次巡、仮テンの和了り牌の赤5索をツモ」

310: 2015/01/09(金) 14:32:51.61 ID:OWzXByYG0

優希「これがどうかしたのか咲ちゃん?」

照「これが、さっきの妹尾さんの手とほぼ同じ手」

咲「普通の打ち手なら間違いようのないツモで、ほっとくと5巡程度で順調に和了る。普通に打ったら止められないよね?」

優希「ムダヅモなしとかされたら次の局に行くしかないじぇ」

咲「けど、次でも同じようなことが起きるとしたら?」

優希「そ、その次に…」

照「当然、その次も同じ、どこまで行っても相手の幸運は続く」

優希「…諦めるじょ、い、いや、東場ならもしかしたらなんとかなるかも…」

和「…まさか」

咲「そのまさか。それほどうまくないけど、基本ぐらいは押さえてる。そして、異常に運がいい。それがあの人」

照「照魔鏡で見たわけじゃないから完全には言いきれないけど、私の見立ても咲と同じ。あれは手ごわい」

久「」ダラダラ

311: 2015/01/09(金) 14:33:21.99 ID:OWzXByYG0

咲「腕はそれなりだから、私とお姉ちゃんなら真っ向勝負で行ける。和ちゃんも、分が悪いけど勝負にはなると思う」

照「竹井さんも必ずトップで帰って来てくれると思う。片岡さんは…東場は何とかなるかもしれないけど南場の親連荘で飛ぶ」

京太郎「染谷先輩は…?」

照「残念ながら…」

咲「限りなく分の悪い運任せ」

京太郎「分が悪いってどれぐらいだよ?」

咲「京ちゃんが私に勝つ確率ぐらい」

優希「それはゼロと同じじゃないのか?」

久「」ダラダラ

312: 2015/01/09(金) 14:33:57.00 ID:OWzXByYG0

和「打つ手はないんですか?」

咲「うーん…普通の打ち手だと何やっても通じなそうなレベルで異常だよね、あの人」

照「私たちが協力して外からあの卓を支配すればあるいは…」

咲「対局室の前まで行けば何とかなるかな?」

京太郎「それ、他もやり出したら収集つかなくなるだろ?」

照「た、多分私たち二人に勝てる人は居ないからそれでも大丈夫…」

咲「でも、何かしらのペナルティを喰らいそうだよね…最悪、失格もあり得る。うーん…どうしよう…」

313: 2015/01/09(金) 14:34:27.40 ID:OWzXByYG0

久「」スクッ

咲「部長?どうしたんですか、突然立ち上がって?」

久「あんたたち、まこが何もせずに負けるとでも思ってるの?」

優希「さっきまで脂汗かいて固まってた人にだけは言われたくないじぇ」

和「全くです。で、打つ手はあるのですか?」

久「あるもなにも、すでに実行してるじゃない。おしゃべりしてないで、モニターを見てまこの応援をしなさい」

咲「あれ…東、三局?」

照「鶴賀の親が終わってる。いつの間に…?」


『ロン!白のみ、1300!』


久「流石まこ、初心者とか打ち方自体が異常な打ち手が相手じゃなければなんとかしてくれると信じてたわよ!」

和「和了ったのは風越のようですが?」

久「化け物を止めるのに手段は選んでられないでしょ。とにかく鶴賀を抑えるのに必氏なのよ」

照「…なるほど。そうか、腕自体は並程度…それなら、染谷さんだからこそ止められるということもあるか…」

和「…どういうことですか?」

久「次の一局を見ながら説明してあげるわ」

314: 2015/01/09(金) 14:35:23.26 ID:OWzXByYG0

まこ(…いやいや、しんどいわい…普通のバカヅキじゃったらそろそろ流れが切れてくれるんじゃがな…)

智紀(この卓、流れを掴んだ時の純が居る卓に近い。ただし、偏りの強さはおそらく流れを掴んだ状態の純以上…データを集める余裕はない。見切り発車だけど、状況に対応した打ち方に切り替える)

未春(えっと…さっきから沢村さんと染谷さんが助けてくれてるように感じるんだけど…どういうこと?)


まこ(この顔、バカヅキしてる人が居る卓にそっくりじゃ。それも、東風で誰かを飛ばしてのトップを取るぐらいのバカヅキ)

智紀(流れを掴んだ純に対抗するには、衣でもない限りは卓上の三人…最低でも二人は協力しないと無理。それ以上の状態だから、三人で協力する必要がある)

まこ(必要なのは三対一…沢村の奴はわかっとるようじゃからの。分かっちょらん奴を二人でサポートするしかなかろ。うちは後ろに頼りになるのが居るから、少々の損は必要経費と割り切っちゃるわい)

智紀(幸い、清澄は理解しているらしい。なら、止められる。あとのことは、一と透華…そして、衣に任せる。わたしの役目は繋ぐこと)


佳織(うう…ツモは好調だと思うんですが…私、何かミスしてしまっているんでしょうか?)

1237789s99p1178m ツモ:9m

佳織「リーチです!」

打:7s


未春「ロンです!1000点」パタン

34568s22p チー:456p 234m ロン:7s


まこ(人外じみた豪運、じゃが、扱う人間は並程度の腕前…しかも、どうやら負けを知らんらしい。オリることも回ることもせずにまっすぐ和了りを目指すだけじゃ)

智紀(好配牌と迷うことのないツモを生かす程度の腕はある、しかし異常な進行に対応する柔軟さはない)

まこ(付け入る隙はそこにある。沢村と二人ならなんとかなりそうじゃ)

智紀(清澄の…染谷さん。敵としてはきっと手ごわいけど、共闘するなら心強い)

まこ(今だけは頼りにさせてもらうぞ)

智紀(今だけは、あなたを信頼させてもらう)


315: 2015/01/09(金) 14:36:07.69 ID:OWzXByYG0

久「まこは、その記憶した膨大な局面から記憶を引き出して対応する。異常とは言っても、打ち方自体が常識的なら対応できる」

咲「龍門淵の沢村さんは、デジタルを基本としつつ、データに基づいて柔軟に対応する打ち手でしたっけ?」

照「引き出しの中身と開け方は違うけど、出てくる対応は同じ…『バカヅキした中級者を上級者三人で抑え込む』打ち方」

咲「もちろん、あの人のバカヅキは運じゃなくて実力の一部だから、普通なら流れを切れてるようなところでもまだバカヅキが続くけど…」

久「妹尾さんの能力は『必ず和了る』とかじゃないからね。『運が良い』だけだもの、腕が中級レベルなら、上級者が囲めば手の打ちようはある。むしろ、中級レベルだからこそ、まこが止められる」

優希「けど、さっきからちょこちょこデカいの和了られてるじぇ?」

和「『運が良い』というなら、どうやっても止められないこともありますよ」

咲「でも、二回に一回でも、三回に一回でも、とにかく止められるなら、親番で永遠に和了り続けられることはない」

照「親番四回を凌いでくれれば、竹井さんたちがどうにかする」

京太郎「つまり…?」

久「本気で打ってる照並みの化け物相手に、まこが生きて帰ってくれる見込みが高いってことよ」

咲「沢村さんが同卓していたのが救いでしたね。一人だったら流石に半荘二回は凌げなくてどこかが飛んでいたと思います」

久「それは龍門淵も同じでしょ。あー、心臓に悪いわ…」

316: 2015/01/09(金) 14:36:27.74 ID:OWzXByYG0

次鋒戦終了 


清澄   83700(-27300)
龍門淵  48200(-21000)
風越   75400(-14300)
鶴賀  192700(+62600)

317: 2015/01/09(金) 14:37:37.99 ID:OWzXByYG0

【龍門淵控室】


透華「と―――も―――き―――!!」クワッ


透華「なんって使えない子なのかしら!!まったくもう!!!」


理不尽だなあ…
対局中には

『鶴賀の次鋒…衣に近い打ち手かもしれません、智紀、どうか無事に帰ってきてくださいまし…』

なんて言ってたくせに…
まあ、マイナスで帰ってきて素直に褒めることも出来ないんだろうけど。

とりあえず助け船を出そうかな。


一「まあまあ、落ち着いてよ透華」

透華「これが落ち着いていられますか!!我々龍門淵がトップに10万点以上の差をつけられて最下位など、あってはならないことですわ――!!」

一「そうは言っても、ともきーとは相性が悪い相手だったし…」


相性とかそういう問題じゃない気がするけどね。
あれと相性が良さそうなのは…純くんなら流れを食いとったり出来るのかな?
真っ向勝負だと衣ぐらいしかぶつける駒がない気がする。
清澄の次鋒が居てくれることが前提だけど、むしろともきーで良かったぐらいだ。


透華「相性とかっ!!相手が誰であれ、勝つのが龍門淵の使命ですわっ!!」

一「はいはい」


この場を治めるには、やるしかないかな?
正直、和了率9割とかいう数字を出されると自信はないんだけど。


一「ま、ボクが何とかするから安心してよ」

透華「――――!!」


透華の表情が和らぐのが分かる。
けど、元々ともきーを本気で怒っていたわけでもないだろうし、これは言わなくてもよかったかもしれない。
正直、その期待が痛い。

応えてみせるつもりではあるけど、自信はない。
だって、和了率9割って、数字だけ見たら衣クラスだよ?


透華「大した自信のようですけど、ここから私たち二人だけで10万点以上離れた一位をまくって、その上でどこかを飛ばすというのは流石に不可能に近い」


その通り。
ということは、今日こそは『彼女』に来てもらわなければならない。
そして、どう考えても絶望的なこの状況でも、彼女が居れば大丈夫だと、ここに居る全員が思っている。


透華「今日ばかりは、五人目に来てもらわないと困りますわ!!」


龍門淵高校の絶対的エースにして大将、天江衣―――

全く、こんな時にどこをふらついているのやら。

340: 2015/01/12(月) 18:00:53.86 ID:4Uw5F9dm0

佳織「うう…ごめんなさい…あんまり勝てませんでした…」

ゆみ「いや、十分すぎる収支だ。これに文句をつけるようではどうしようもない。良くやってくれた」

佳織「で、でも、エースは半荘一回で5万点差をつけるのが仕事だって…」

智美「どこの化けもんだ、そんなこと言った奴はー」ワハハ

睦月「チャンピオンが、こないだの雑誌のインタビューで似たようなこと言ってましたね」

モモ「そんな人外の言うことを真に受けちゃダメっすよ」

佳織「うう…半荘一回当たり3万点しか勝てませんでした…まだまだあの人には遠く及びません…」

ゆみ「まあ、安心してくれ、ここからの三人は、10万点差をひっくり返されるような面子ではない」

智美「一番弱いのが私だからなー、佳織は私が信用できないかー?」

佳織「ううん、智美ちゃんは頼りになるよっ!」

ゆみ「二位に10万点以上の大差をつけて受けたバトンだ、蒲原…」

智美「ワハハ、飛ばすつもりで打って来るさー」

睦月「本当なら、ここで負けてる状態でバトンを受け取ってひっくり返すオーダーですからね。お任せしました」

ゆみ「ああ、任された」


341: 2015/01/12(月) 18:01:35.88 ID:4Uw5F9dm0

久「じゃあ、行って来るわね」

照「竹井さんには不安はない、頑張って」

咲「中堅の相手、牌譜を見た限りではみんな普通の打ち手だね」

まこ「ま、こいつならさっきのが相手でもどうにかするじゃろ」

和「出来ればトップでバトンを頂きたいですね」

久「あんた無茶言うわねー、3万差ぐらいに詰めるからトップは自分で取りなさいよ」

優希「それ、10万詰めるって言ってるようなもんだじぇ」

久「どっかのチャンピオンによると、半荘一回で5万差をつけるのがエースの仕事らしいからね。照と咲が居なけりゃ私がエースなんだから、やってやろうじゃないの」

和「どこのバカですか、そんな妄言を吐いたのは…」

342: 2015/01/12(月) 18:02:21.83 ID:4Uw5F9dm0

貴子「よくやった方だ、お疲れさん」

華菜「コーチが優しいし…逆に怖いし…」

貴子「あんな化けもん見たら怒る気も失せるっつうの。なんなんだ今日は…化け物の展示会でも開いてるのか?」

未春「でも…清澄の中堅以降はデータからして明らかに異常な打ち手二人と原村です…ここで削れないと勝ち目は…」

華菜「大丈夫だしみはるん!あたしがひっくり返してやるし!」

未春「華菜ちゃん…」ウルウル


貴子「池田達はほっといて、文堂!」

星夏「は、はいっ!!」

貴子「この記事を見ろ」バサッ

星夏「えっと…【今年も優勝目指します】…?」

貴子「個人戦の現チャンピオン様によると、半荘一回で5万点勝つのがエースの役目だそうだ。お前は自称次期エースだよなあ、文堂?」

星夏「…つまり、ひっくり返して来いと?」

貴子「出来ねえなら別に良いぜ?だが、次期エースとして、来年も出てくるはずの現チャンピオン様と全国でやりあう予定の奴が、こいつが出来ることを出来ないってのはどうなのかって話になるなあ?」

星夏「…運が絡むゲームですから約束はできませんが、ご期待に添えてみたいと思います」


コンコン

美穂子「お昼ご飯の買い出し、行ってきました」

華菜「キャプテン!?いないと思ったら、まさか一人で?」

貴子「じゃあ昼休憩だ。あたしは外で食ってくるからゆっくり休め」

バタン

華菜「…あんなのコーチじゃないし」

未春「でも、私は優しい方がいいよ」

美穂子「吉留さん、お疲れ様でした。鶴賀が暴れたみたいだけど、よく凌いでくれましたね」

未春「あ、ありがとうございます!」

343: 2015/01/12(月) 18:03:15.49 ID:4Uw5F9dm0

透華「…むう、落ち着いて食事も出来ませんわ」

?「何故だ?別に衆人環視にさらされているわけでもなかろう」

透華「この状況で、肝心の大将が一向に姿を見せないからに決まっているでしょう!!!」

?「そうか、それはすまなかった。その大将はここに居るから、ゆるりと昼餉に興じてくれ」

一「どこ行ってたのさ、衣?」

衣「退屈だったので外で季節の風を楽しんでいたよ。衣は、この季節が好きだ」

透華「って、衣!?いつの間に入って来ましたの!?」

純「ついさっきだな。気付かなかったのはお前だけだぞ透華」

智紀「…もしかしたら、季節の風より楽しいものが転がっていたかもしれない」

衣「…そのようだな。会場の外に居ても分かるほどの『モノ』が居るらしい。だから、時間には早いがこちらに来た」

ハギヨシ「お待たせしました、こちら、エビフライでございます」

衣「わーい!」


一「これで、不安は消えたかな?」

透華「…そうですわね、来ると分かっていても、その場に居ると居ないでは違うものです」

純「とりあえず飯にしようぜ、特に国広君はこの後すぐに試合なんだからな」

344: 2015/01/12(月) 18:03:36.71 ID:4Uw5F9dm0

起家 久「よろしくお願いします」

南家 星夏「よろしくお願いします」

西家 智美「ワハハ、よろしく」

北家 一「よろしくお願いします」

345: 2015/01/12(月) 18:04:26.38 ID:4Uw5F9dm0

優希「で、この試合、どうなると思う?」

咲「…下手すると、ここで終わるかもね」

まこ「は?」

照「そうだね、手加減する理由もない。何も変わったことがなければ大暴れすると思う」

京太郎「えっと、部長が、ですか?」

照「うん」

まこ「いやいや、あいつが強いんはようしっちょるが、そこまでじゃなかろ?」

咲「普段は手加減してますからね、部長。お姉ちゃんが入ると本気出しますけど、お姉ちゃんしか眼中にないから他の人には分からないかも…」


照「…竹井さんは、私のプラマイゼロに真正面から挑み続けて、私を苦しめた人だよ?強いに決まってる」


和「咲さんのプラマイゼロになら、私も挑みましたが…」

照「リー棒は小細工。真正面からというのは、最後に自分で和了ってプラマイゼロを阻止するということ」

優希「いや、無理だじぇそんなの。和了らなきゃプラマイゼロにならない局で照さん以外が和了ったことなんか一度もないじぇ」

咲「まあ、出来たらプラマイゼロが崩されるから、誰も和了れてないのは当たり前だね」

照「竹井さんは、それに挑み続けた…というか、今でも挑み続けてる。オーラスでの私とのスピード勝負に」

まこ「そういえばそうじゃの。久はリー棒出したりせんかったから、和がリー棒出してるのを見て、こがあやり方があったのかと感心したもんじゃ」

照「入部を賭けた時も、正直、竹井さんが一番厄介だった。あの人を抑えるのに力を裂いてなければ、リー棒が出る前に決められた自信がある」

咲「…あの時、和ちゃんがリーチした三局全部で聴牌してたよね、部長」

照「リー棒は出さなかったけどね。あの人にとってプラマイゼロを崩すっていうのは、私との真っ向勝負だから。咲の退部がかかった状況ですらそれが変わってなかったから、東一局が終わった時点では行けると思った」

和「あのとき、そんなことになってたんですか…」

346: 2015/01/12(月) 18:05:11.96 ID:4Uw5F9dm0

京太郎「そうなると、照さんと部長の勝負って、実質的にオーラス一回のスピード勝負だったんですか?」

照「その前の局で和了らないとどうやってもプラマイゼロにならない局とかもあったけど、基本的にそうだね。そして、そう考えると私は百局全てを打点の制限つきで和了り続けたことになる」

咲「100連続和了…北家から始めても97連荘、最低点は…」

和「1000点が三回と1500点からの300ずつ増える97連荘…1500から始まる公差300の97項の等差数列の和に3000を加えて154万5300点が最低点ですね」

まこ「それを…いや、100連続で終わったのはそこでやめただけじゃから、久の奴を相手にそれ以上を確実に稼ぐ打ち手か…そりゃ、あれだけ入れ込むわけじゃ」

優希「実際には90符の5200とか100符の6400とかの変な和了りばっかに違いないじょ…」

照「多分だけど、それが竹井さんが私を買いかぶる理由。竹井久が速度に特化して全力で阻止しようとしても、ハンデ付きで100連続和了を成し遂げる打ち手。そんなの居るはずないのに」

347: 2015/01/12(月) 18:05:58.21 ID:4Uw5F9dm0

咲「話が逸れたね。で、この試合の見通しだけど…」


『ツモ。タンヤオのみ、600・800』


優希「…おかしな点数申告が聞こえてきたじぇ」

咲「300・500が600・800か…3本場、部長が4連続和了してたんだね」

照「崩せなかったとはいえ、私のプラマイゼロに正面から挑み続けて、私を苦しめ続けた人。これぐらいは出来て当然」

京太郎「これ、まさかこのまま二回戦みたいに…?」

照「竹井さんは和了率100%ではないから、このレベルの面子で他家に十分な点数があれば終わりはしないと思う。実際、今も連荘は止まったし」

まこ「しかし、まだ東二局か」

照「竹井さんの親が流れたから、南一局まではすぐ進むはず」

348: 2015/01/12(月) 18:06:48.70 ID:4Uw5F9dm0

南一局 四本場


一(不味いな…和了率90%…分かってはいたけど異常過ぎる…)タン

星夏(…むしろ、なんで東場の親を止められたんだ?)

智美(ご丁寧にどんな手でもツモるまで徹底してダマで私を狙い撃ちしてくれてるし、あったまくるなー…)

一(東一局、ボクは清澄の連荘を止めた…あの時、何が起きていたんだ?何故止まった?)

星夏(それがわかれば、あるいはこの親も…)


久「ツモ、2000オールは2400オール」


一(…からくりは、控室で見ている衣あたりが見抜いてくれるはず。今は、とにかくここを切り抜けないと…)

349: 2015/01/12(月) 18:07:40.09 ID:4Uw5F9dm0

南1局 5本場


一(この手は和了りたい…けど…)

23344s345p2345m北 ツモ:2p

星夏(流さなきゃ、この親を…)

智美(ここで飛んで終わったりしたら佳織に顔向けが出来ないぞー)

一(この手は本当に和了れるのかな?まっすぐ和了りを目指して、それで勝てるのかな?)


久「~♪」


一(この人が衣並みの化け物だと仮定して、ボクは、どうすればいい?)

……

…………

………………

350: 2015/01/12(月) 18:08:38.72 ID:4Uw5F9dm0

『それは衣の莫逆の友となるか、贄か供御となるか――――』


あの夜、ボクは、衣に手も足も出ずに点棒を吐きだし続けた…
鳴こうが面前だろうが、それこそ他家と手を組もうが衣の前には無力だった…

本当に何も出来ないなら、要らないはず。
要らないと判断されていれば、ボクは今ここにはいない。
だから、ボクには、衣が目に止めた何かがあるんだ。

あの夜、せめて一矢を報いるためにボクがやったことは、なんだった?
届かないなりに衣に噛みこうとした、ボクの牙は、なんだった?

それは…

351: 2015/01/12(月) 18:09:31.27 ID:4Uw5F9dm0

一(そうだ…あの夜、衣がボクを認めた一局…ボクは無謀にも小細工抜きの真っ向勝負を挑んだ)

一(力の差は歴然、けど、小細工が通じる相手じゃない。なら、運に任せてまっすぐ行ってみよう。それなら、運次第でどうにかなるかもしれない、そう思って)

一(ま、どうにもならなかったけどね。でも、今ボクの前に居るこの人は、衣じゃない。分は悪いかもしれないけど、ボクの正攻法が通じる…そう、一局だけとはいえ、現に通じた相手)

一(…その連荘、ここで止めてみせる)キッ

打:北


久(…あら、残念。こっちをまっすぐ見つめて来たってことは、勝負しに来たのよね?小細工でどうにかしようとスタイルを曲げた打ち方をしていれば泥沼にはまってくれたかもしれないのに)


久手牌

135m789s4445678p ツモ:9s

打:1m


久(腹くくって真っ向勝負、一番嫌なのはそれよね)

久(龍門淵のレギュラー…有象無象じゃないでしょう。運も実力もある打ち手のはず、正攻法で来られたら完全に止めるのは困難)

久(風越の一年生レギュラーっていうのもそうよね、なにか人と違うもの…才能とか幸運とかいったものに恵まれた人間)

久(この面子なら、一つミスったら連荘は止まるでしょうね。私はミスなく打ち切れるのかしら?)

352: 2015/01/12(月) 18:10:17.48 ID:4Uw5F9dm0

照「…止まるね、連荘」

和「9索を引いて1萬切りから…1萬1萬赤5萬5萬…なんですかこのツモ…」

咲「ここまでのツモだと、5面張の筒子に手をかけてないと和了れないね」

照「上手く打ってればここで満貫をツモってる。一牌ごとの意味を考える竹井さんなら、さっき9索を引いて1萬を切った時、筒子に手をかけていればツモれてたはず」

咲「これを『上手く打てる』人は、相当の下手くそか本物の化け物のどっちかだと思うよ。あそこで筒子を切るのはちょっと…」

照「…確かにこれをミスなく打てって言うのは無理。これがあるから竹井さんの和了率は100%にならない」

和「そもそも、この場合の正しい打ち方とやらがデジタル的にはミスそのものなのですが…」


『ツモ。リーチ・ツモ・タンヤオ・三色・平和・一盃口…3500・6500!』


まこ「まあ十分じゃろ。親かぶりは痛いが、鶴賀の背中も見えてきて、ツモで削られて2万を切りそうだった龍門淵のトビも遠くなった」

優希「ここからよっぽどのことがない限り、部長が宣言通りの大トップだじぇ!」

353: 2015/01/12(月) 18:10:44.82 ID:4Uw5F9dm0

中堅戦前半終了


清澄  137300(+53600)
龍門淵  43600(- 4600)
風越   59000(-16400)
鶴賀  160100(-32600)

354: 2015/01/12(月) 18:11:14.39 ID:4Uw5F9dm0

智美「ワハハ…ごめんなー」

ゆみ「…仕方あるまい、あれは少々常軌を逸している。この半荘も親番を流された局以外全て和了って17局中15局…和了率88%だ」

佳織「難しそうな手でも、魔法を使ったみたいにすらすらと和了りに向かってました。本当に凄いです」

智美「ワハハ…佳織なら勝てるか?」

佳織「うーん…うーん…」

智美「佳織が悩む時点で私には無理だなー。どうすればいい、ゆみちん?」

ゆみ「…他の二校と共闘するより他にないだろう。清澄はこの後の二人もインターミドルチャンプと20万点を稼ぐ怪物が出てくる、清澄を叩くための共闘は乗ってくれる見込みが大きい」

智美「具体的には?」

ゆみ「晒されている牌から安手にしかならないと分かる手で差し込みを強要する、翻牌を鳴かせる、席順にもよるが、下家なら無理鳴きしてでもツモを飛ばす、などだな。お互いの意志が確認できたら出来ることも増えるだろう」

智美「なるほどー」

睦月「麻雀は四人で打つもの、三人で協力すればどんな相手でも…」

ゆみ「そうだな、やり取りの手段に制約はあるが、三人で協力する場合は協力する三人で卓上の牌の四分の三を手に入れているんだ、残り四分の一の牌で打っている者に負ける道理はない」

モモ「かおりん先輩を止める時に清澄と龍門淵もやってたっす、私たちがやっちゃいけないなんて言わせないっすよ」

ゆみ「…後は、風越と龍門淵が乗ってくれるかだな。これは向こう次第だ。乗ってくれなければ前半同様に自力で止めるしかない、その場合は、私からは頑張ってくれとしか言えない」

智美「無責任だなー…ま、なんとかなるかー」

355: 2015/01/12(月) 18:12:40.50 ID:4Uw5F9dm0

美穂子「…自分が負けたことで余裕を失って気付くのが遅れたけど、あれは間違いなく上埜さんだわ…」

華菜「ウエノ…?」

星夏「誰ですか、それ?」

美穂子「…三年前のインターミドルで、私を苦しめた人。三回戦から会場に来なくなって、高校でも名前を聞かなかったのだけど…」

未春「苦しめたって、キャプテンと互角ってことですか!?」

美穂子「三年前は…そうね、互角だったと思うわ」

華菜「…今は?」

美穂子「それは、打って来た文堂さんが知っているでしょう」

星夏「…」

美穂子「そうね、言いにくいわよね…今のあの人は、明らかに私より上よ」

華菜「そんな…」

356: 2015/01/12(月) 18:13:17.77 ID:4Uw5F9dm0

美穂子「私でも、今のあの人は止められない。一人で正面から行ってはダメ」

星夏「…どういうことですか?」

美穂子「…おそらく、天江さんが後に控えている龍門淵は、繋ぎさえすれば何とかなると思っているはずだから、乗ってくるわ。トップの鶴賀も拒みはしないでしょう」

未春「まさか…他校と協力しろと?」

美穂子「それ以外ないわ…ここで飛んで終わるよりはマシでしょう?」

華菜「…」

純代「…」

貴子「ま、仕方ねえな。深堀と池田に任せて、ここは凌ぐか」

未春「コーチ!?」

貴子「それとも、福路以上の相手をお前がどうにかするか、文堂?」

星夏「…それは…」

貴子「全国区のエースには、たまにああいう化けもんが居る。それに勝てるならいいが、勝てないならせめて負けを抑えるべきだ。違うか?」

星夏「その通りです…」

貴子「来年、全国区のエースを抑えるのはお前なんだろ、文堂?なら、勝て、それが出来ないなら抑え方を勉強して来い!」

星夏「…はいっ!!」

華菜「…でも…」

貴子「シケた面すんな池田アアア!!お前が最後でひっくり返しゃあいいんだよっ!違うか!?」

華菜「は、はいっ!?」

美穂子「ごめんなさい…私が勝っていれば、あなた達に苦労をかけずに済んだのだけど…」

貴子「全くだ、全国ではちゃんと稼いで帰って来いよ」

美穂子「…はいっ!」

357: 2015/01/12(月) 18:13:48.54 ID:4Uw5F9dm0

中堅戦後半


起家 久(…みんな嫌な感じね、明らかに私を警戒してる。前半で暴れすぎたかしら?)

南家 智美(下家に座ったかー…じゃあ、ポン材集めて鳴きまくるかー)

西家 星夏(対面…比較的自由に打てるけど、それは、基本的に私がこのひとを抑えるということ…協力する姿勢を見せる打ち方もやりにくい…鶴賀と龍門淵は共闘に乗ってくれるのか?)

北家 一(…まあ、仕方ないよね。ボクが何とかするとか言っておいてカッコ悪いけど、一局二局ならともかく、半荘一回通して正面からこのひとに当たるのは分が悪すぎる)

358: 2015/01/12(月) 18:14:26.30 ID:4Uw5F9dm0

星夏「」タン

打:9s

智美「ワハハ、ポンだ」タン

星夏(…9索を一鳴き?もちろんチャンタや対対、混一色ということもあるけど…これは、そういうことだろうか?)タン

一(鶴賀はトップで逃げたいだろうからね。無理鳴きだとすれば手はバラバラだろうし、鶴賀のサポートよりは清澄に対して絞る方が良いかな)

久(あー…そういうことするわけね。まあ、私も照とかが相手でどうしても勝たなきゃいけないならやるかもしれないけど…)

星夏(…多分だけど、鶴賀との共闘は出来ている。龍門淵も牌を絞ってるような気がするから、こちらも期待できるかもしれない。ただ、実力差を考えればこれでやっと五分だろう)

一(そろそろ、この辺鳴けないかな?)タン

星夏「ぽ、ポン!」

一(翻牌を鳴いた。あとは和了りまで全力で走ってね。この局のボクの仕事はここまでだよ)

359: 2015/01/12(月) 18:15:55.37 ID:4Uw5F9dm0

衣「む…一め、真っ向勝負で打ち貫けと言ったのに、怖気づいたか?」

透華「…」

純「仕方ねえだろ、ありゃ化けもんだ」

智紀「他家と組んでようやく五分、個人戦ならそれでも正面から行くだろうけど、これは団体戦。衣や透華に確実に繋ぐ方が勝率が高い」

衣「無難ではあるが、そのような一は好かんな。衣は小細工をせずに実直に自らを高める一を好ましいと思う」

智紀「それは同意する。一自身もそう思っているはず。しかし、一は衣に確実に繋ぐことを選んだ」

純「信頼されてるぞ、大将」

衣「まったく、仕方ない妹たちだ。おねーさんである衣が貴様らの不始末をぬぐってやろう」

『ロン!2000!』

純「鶴賀が差し込んだか、清澄の親が連荘なしで流れたのは大きいな」

360: 2015/01/12(月) 18:16:44.80 ID:4Uw5F9dm0

久(まったく、舐められたもんね…そりゃ、徹底した三対一の中で8割和了れって言われたら無理だけど…)

24567p44477m678s ツモ:3p


久「ツモ!面前ツモ・タンヤオ。500、1000」

一(くっ…早い…)

星夏(やはり、格が違うのか…)

智美(安いのが救いだなー…うちがトップのまま場が進んでくれればありがたいけど…)


久(こっちはあんたら三人を足して10掛けたぐらいの怪物相手に100回以上修羅場くぐってんのよ。と言っても負けっぱなしだけど…とにかく、手を組んだからって簡単に抑えられると思ってもらっちゃ困るわ)

361: 2015/01/12(月) 18:17:12.67 ID:4Uw5F9dm0

中堅戦終了


清澄  145900(+8600)
龍門淵  44400(+ 800)
風越   54600(-4400)
鶴賀  155100(-5000)

362: 2015/01/12(月) 18:17:43.53 ID:4Uw5F9dm0

アナウンサー「清澄は中堅で一気にトップとの差を詰めましたね」

靖子「出番あったんだな、お前」

アナウンサー「はい?」

靖子「気にするな。そうだな…まあ、ここまでそれぞれの区間で圧倒的な強さの一人が暴れているな」

アナウンサー「先鋒はそうでもなかったと思いますけど…役満和了こそありましたが、津山は比較的おとなしい打ち筋で暴れるといった感じでは…」

靖子「…あれは打ってる人間以外には分からないか。風越は先鋒にエースを起用したのが仇になった。他の区間なら実力通りの結果を出したはずだが、非常に惜しいな」

アナウンサー「…良くわかりませんが、現状とここからの展開をどう読まれますか?」

靖子「普通に考えたら、点数だけ見れば清澄と鶴賀の一騎打ち、風越と龍門淵は終わったと判断する」

アナウンサー「終わったって…試合中にそんなことを言わないでください」

靖子「だが、実際には違う。龍門淵には絶対的なエースが居て、繋ぎさえすれば40万点差だろうと逆転出来ると、当人たちは思っているだろう」

アナウンサー「昨年度全国MVPの天江選手ですね」

靖子「それを考えれば、清澄と鶴賀のリードも危うい。点差と後に控える選手のポテンシャルを合わせて考えると、トップの鶴賀は点数ほど有利ではない」

アナウンサー「点差と後に控える選手のポテンシャルを総合的に見て、現在有利なのはどこでしょう?」

靖子「…たとえ現時点で最下位だろうと龍門淵、と言いたいが、この点差なら現状では清澄だろう。あの大将は普通じゃない。点差があれば十分天江から逃げ切れる力がある」

アナウンサー「確か、一回戦では20万点を稼いでいますよね?現在のところ本大会の最多獲得点数です」

靖子「それを考慮して、他校がどう立ち回るかだな」

アナウンサー「ちなみに、副将戦だけだとどこが有利ですか?」

靖子「牌譜を見る限り高レベルのデジタル四人だからなあ…原村か龍門淵が上手なんだろうが、何が起きるかはわからない。が、大きな波乱はないと思う」

363: 2015/01/12(月) 18:18:14.73 ID:4Uw5F9dm0

【中堅戦終了前 清澄高校控室】


照「…多分竹井さんがこの手を和了って終局する。対局室に、竹井さんを迎えに行こう」

咲「…なんで私に言うの?私がついて行っても無駄だよ」

照「…確かに」

京太郎「偉そうに言うな。迷子」

咲「…一人で行動しなければ大丈夫だし」

京太郎「お供を毎回やらされる身にもなれ」

和「あの二人は放っておいて…副将戦に行くついでです、私が行きましょう」

照「ありがとう」

和「い、いえ…別に、大したことでは…」

364: 2015/01/12(月) 18:18:44.11 ID:4Uw5F9dm0
佳織「智美ちゃん…」

ゆみ「行ってやれ、幼馴染の妹尾が行くのが一番だろう。あれで責任感の強い奴だから、フォローを頼む」

佳織「はいっ!」

モモ「私は後からこっそり行くっす。最初から認識されてない方が消えやすいっすからね」

365: 2015/01/12(月) 18:19:10.61 ID:4Uw5F9dm0

美穂子「…迎えに行って来るわね」

未春「はい…」

華菜「あの化け物相手に文堂は良くやったし、帰ってきたら褒めてやるし!」

366: 2015/01/12(月) 18:19:42.68 ID:4Uw5F9dm0

衣「して、透華」

透華「なんですの?」

衣「衣に回せば勝てると言っても、一の仇ぐらいは取りたくないか?」

透華「…」

純「おい、透華…?」

透華「…行ってまいりますわ」

バタン

智紀「…透華は、敵が強ければ強いほど燃える」

純「…そうだな。けど、それが一定以上に燃えると…」

衣「透華の中に居る獣が目を覚ます…といっても、そこまでの相手には滅多に出会えるものではないがな」

純「獣って言うには静かすぎねえか、アレは」

智紀「…」

衣「さて、楽しみだな。普段の透華も好きだが、衣はあの透華の方が自分に近い感じがして好きだ」

367: 2015/01/12(月) 18:20:13.94 ID:4Uw5F9dm0

一「帰りにくいなあ…いいとこなしだよ。他はみんな迎えが来てるけど、ボクは透華に怒られる前に逃げたいね」


コツ、コツ…


美穂子「あなたはよくやったわ。あの上埜さんを抑えて深堀さんに繋いでくれたもの…」ギュッ

星夏「キャプテン…」グスッ


コツ、コツ…


照「三対一ぐらいで情けない、部長失格」

久「和がまくる分を残しておくって言っちゃったからね、逆転しようと思えばできたわよ?」

和「どう見ても全力だったでしょうに、まだ大口を叩きますかこの人は…」


コツ、コツ…


智美「おお、わざわざ来てくれたのか。ごめんな佳織、お前たちが作ってくれたリード、吐きだしてしまったぞー」

佳織「ううん!智美ちゃんだからトップを守れたんだよ!まだトップだから大丈夫!」


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ 


照「…っ!?」ビクッ

久「…聞いてないわよ、こんなの」ゾクッ

和「?」

美穂子「」ゾクッ

佳織「ふえっ!?」ビクッ

純代「?」

一「…とう…か?」ブルッ


透華「皆さま、ごきげんよう」ヒョオオ


389: 2015/01/14(水) 19:54:38.62 ID:AucZgKl60

咲「…」ピク

まこ「咲、どうかしたか?」

咲「これは…ちょっと大変かな…?」

京太郎「分かるように言え」

咲「…鶴賀じゃなければいいけど」

優希「咲ちゃん、犬も言ってるけど、分かるように…」

咲「風越だと楽になるかなあ…」

京太郎「おーい、咲ー?」

咲「一番可能性が高いのは龍門淵か…嫌だなあ…大将も強いらしいし」

優希「完全に一人の世界に入ってるじぇ」

まこ「呟きが漏れてるのが救いじゃな。多分、なんか化け物がおるんじゃろ」

優希「照さんに咲ちゃんに鶴賀の次鋒に部長に…まだなんか居るのか…この大会はどうなってるんだじょ…」

390: 2015/01/14(水) 19:55:09.52 ID:AucZgKl60

照「ただいま」

久「いや~…半荘一回で五万のノルマは流石にキツイわねー。後半はボロボロだったわ」

まこ「トップ取っておいてボロボロとかよく言うわい、お疲れさん」

優希「二半荘連続トップ、さっすが部長だじぇ!」

咲「で、さっきのアレ、どこですか?」

久「見てれば分かるわよ」

照「あれはびっくりした。原村さんにはちょっときついかも」

久「照がそう言うなら、多分差は詰まるわね。頑張って、大将」

咲「…善処します」

391: 2015/01/14(水) 19:55:40.04 ID:AucZgKl60

起家 純代「よろしくお願いします」

南家 透華「よろしくお願いします」

西家 和「よろしくお願いします」

北家 モモ「よろしくお願いします」

392: 2015/01/14(水) 19:56:09.82 ID:AucZgKl60

アナウンサー「さて、現在二位の清澄高校、副将はエースの原村和、昨年度のインターミドルチャンピオンです」

靖子「…エースか?」

アナウンサー「エースでしょう?インターミドルチャンピオンですよ?」

靖子「まあ、普通に考えたらそうか」

アナウンサー「さあ、注目の原村和は5巡目で絶好の一向聴!どうですか藤田プロ?」

靖子「まず和了れないな。聴牌すら出来そうにない」

アナウンサー「へ?」

靖子「他家の手牌と河を見ろ。龍門淵以外、互いに順子の待ち牌が、河に切られるか他家に抱えられていて、有効牌が山に2~3枚しか残ってない。まだ5巡目だというのにな。それに、その数枚が自分のツモるところに居るかどうか…王牌にまとめてごっそり、なんてこともありうる」

アナウンサー「あ、ああ!?確かに!これはどうしたことでしょう!?」

靖子「気味の悪い場だな。配牌の時点では向聴数も良く好形で早い手に見えて、実質氏んでいる」

アナウンサー「おっと、原村、ここで実質二枚しかない有効牌の一枚を引き寄せた―!!!」

靖子「…聴牌したのはなかなかだが、待ちは山に一枚しかないぞ。というか、ここで聴牌に取ると…」

393: 2015/01/14(水) 19:56:41.11 ID:AucZgKl60

咲「うわ、あれツモるんだ…原村さんも大概だよね」

照「彼女はうちで二番目にオカルトじみてる」モグモグ

まこ「一番のオカルトが照さんだとして、咲が抜けちょるぞ?」

優希「照さん、食べながら喋るのはお行儀が悪いじぇ」

咲「ごめんね、躾のなってない姉で」

照「…麻雀は頭脳ゲーム、糖分が必要」

久「あんたの出番は終わったでしょうが」

咲「解説役としての出番は残ってるけどね。なんだかんだでお姉ちゃんが照魔鏡で見るのが一番確実だし」

照「そう、咲の言うとおり。つまり、私には糖分が必要」モグモグ

咲「卓につかないと照魔鏡使えないから、モニター通して見る分には私でもほとんど変わらないけどね」ボソッ

照「?」モグモグ

京太郎「で、この際、行儀が悪いのは置いておくとして、これどうなってるんですか?」

照「私のプラマイゼロみたいなもの。あの人が自然に打つと、鳴きが発生しない場になるんじゃないかな」モグ

久「鳴けないだけならいいけど、どうせほっとくとアレが和了るとかのおまけつきでしょ…ちなみにリーチは出来るの?」

照「原村さんなら頑張れば出来るんじゃないかな?これも私のプラマイゼロを崩すみたいなものだからおすすめしないけど」

咲「で、一人だけ自由に打ててるあの人が仕掛け人だよね…龍門淵が浮いてくるのかあ…」

照「ご明察。大将戦頑張ってね、咲」

394: 2015/01/14(水) 19:57:51.30 ID:AucZgKl60

『リーチ』


『リーチ棒はいりませんわ。ロン、1300』


咲「普通に打ってリーチかけたら宣言牌で捕まるんだね…」

照「ダマならあるいはって感じだけど、デジタルは先制リーチ出来る局面は基本的にリーチかけるからね」

京太郎「デジタルが先制リーチしない状況って、どんなのですか?」

照「仕掛けが入ってる状況は『先制』から除外するとして…手変わりが豊富な悪形聴牌とか、跳満以上の高い手とか、ダマなら出るけどリーチすると出なくなる待ち…具体的には公九牌のドラ単騎とか」

久「聴牌してれば、フリテンじゃない限り他家の捨て牌も自分のツモと変わらないからね。役ありで聴牌したらツモが四倍に増えるようなもの」

咲「特に役なしで出和了りが利かない手牌ならリーチのメリットは大きいよ。ツモが四倍に増える理論で行くと期待値は四倍だから二翻相当…リーチ自体が一翻だから三翻相当だよね」

まこ「デメリットはあるが、1000点払って期待値が8倍になるメリットと比較したら無視できる程度じゃろ」

優希「となると、役なし聴牌なら、手変わりの可能性よりリーチの方が優先なのか?」

照「うん。手変わりがいつ来るか、そもそも来るかどうかすらわからないし、先制出来るなら役なし良形は基本的に即リー。特に役有りでドラを持ってるようなケースは大抵即リーだね」

京太郎「で、役ありだともともと出和了りが利く分だけリーチの価値が落ちるんですね?」

咲「でも、役なしで1300点のために1000点払うのに比べて、メリットが格段に大きくなる。和了れば得点が倍になるし、他家をオリさせて失点のリスクを減らす、一発や裏ドラ…1000点供託やベタオリが出来ない程度のリスクならリーチかけた方が期待値は高いよ。むしろ、役なしより役有りの場合の方がリーチ推奨かな」

照「捨て牌とかで相手の手が読めない人…オリる時に現物切ってベタオリしか出来ないレベルなら、どこかで安牌が切れることを考えればリーチして相手をオリさせた方がマシなことも多々あるから、リーチが防御にもなる」

久「照とか咲みたいに一点で読み切るようだと話が変わるわね。捨て牌を選べる限り、手牌全部がアタリ牌でもない限りは絶対振り込みそうもないもの。半荘100回以上打ってるけど、照は私相手には一回もリーチしたことないはずよ」

優希「んーと…照さんとか咲ちゃん以外はとりあえずリーチかけとけばいいんだな?」

咲「先制ならね。細かい状況判断は自分の中で基準を設けてね。リーチを多用しないダマ寄りの打ち方も立派な戦法だよ」

395: 2015/01/14(水) 19:59:11.89 ID:AucZgKl60

京太郎「ちなみに、デジタルってリーチに対して基本的にベタオリしますよね?」

まこ「デジタルであるほど先制リーチの強さが良くわかっとるからの」

咲「他家が振り込む分には自分はノーダメージだしね。順位無視で自分の点数の期待値だけ見たら、先制リーチに対して、大抵はベタオリが一番期待値が高い。自分も聴牌してるなら五分だけど、既に聴牌してる相手に対して一向聴以下から押すのは…やめておいた方がいいかな」


優希「質問だじぇ!リーチかけたら全員ベタオリするような固い面子だとリーチかけないでダマの方が良いのか?」


久「いえ、だからこそ先制リーチをかけるべきよ。全員ベタオリするのだから、自分だけが和了チャンスを持ってる状態になるもの」

まこ「リャンメン待ちをツモる確率は一巡あたり約6%じゃ。ベタオリの他家がツモってしまって和了牌を抱えたら確率は下がるが、それでも巡目の早いリーチなら流局までに30%程度はツモれる」

咲「全員ベタオリするならツモれる確率=和了れる確率になるね。実際には安牌だけ切って聴牌されるケースもあるけど」

照「流局したとしても、全員ベタオリなら四人聴牌ということは考えにくいので、ノーテン罰符で収支がプラスになる見込みも大きい」

咲「というわけで、固い面子だろうと関係なく先制リーチ出来るなら即リー」


優希「つまり、面前で先制聴牌したら常にリーチしろってことだな咲ちゃん!」


咲「言いすぎだけど、だいたいそれで合ってる。手牌次第では面子関係なくリーチしない場合もあるし、巡目とか点数状況でも話は変わるけどね」

396: 2015/01/14(水) 19:59:42.89 ID:AucZgKl60

京太郎「デジタルって、色々常識が吹っ飛びますね。ダマにして討ち取る方がいいと思ってましたよ」

久「それも正しい考え方よ?デジタルは期待値が一番高い打ち方でしかない。こういう大会みたいな場で、その一局をどうしても勝ちたいなら少しでも確率の高い方を選ぶのも正解…というか、麻雀に間違いなんてないのよね」

咲「チャンスが一回しかない時に、10%の確率の10万円と90%の確率の1万円、どっちを選ぶかと言われたら、期待値は低いってわかってても後者を選ぶ人は多いよね」

照「勝てば、どれだけ理論的におかしい打牌でもその対局に限れば全てが正解になる。デジタルもオカルトも、牌効率や捨て牌読みも、勝つための理論の一つでしかない」

まこ「素人がセオリー無視で刻子だけ集めて、リーチに対しても全ツッパで四暗刻を直撃…なんてこともあり得る。それで和了った場合は、その局に限れば、上級者が従うセオリーよりも素人の打牌が正解になるわけじゃな」

咲「状況によっては、アタリ牌を切るのが唯一の勝ち筋だったりするからね」

久「半荘単位で見ればね。一局単位ならアタリ牌を分かってて切るとかあり得な…ん?」

照「…咲」

咲「…ごめん」


優希「難しい話は良く分かんないじぇ…」

咲「どんな打牌してもとにかく勝てばいいって話だよ」

優希「なるほど…」

京太郎「…ここまで語ったのは何だったんだ?」

咲「勝つための理論の一つ…って、お姉ちゃんが言ってた」

397: 2015/01/14(水) 20:01:04.53 ID:AucZgKl60

東二局 一本場


和(さて、これで3連続でリーチ宣言牌でのロン…偶然と捉えることも出来ますが、照さんも注意しろと言っていましたし、彼女が何かしているのは間違いないでしょう)

透華「…」

純代(…場が異常に重い…龍門淵以外の全員がツモ切りを繰り返している。これは、何…?)

和(そしてこの手…役なしの両面…普通なら当然リーチですが…)


和手牌

112356m34赤556p南南 ツモ:7p

和(ダマだと聴牌出来るのでしょうか?試してみますか)

打:1m


透華「…」

398: 2015/01/14(水) 20:03:41.07 ID:AucZgKl60

一「…聴牌した?何が起きてるのさ。いや、あれで原村和が聴牌したら直撃できないな、とは思ってたけど」

純「おいおい…まさか…」

智紀「リーチをかける意思がない場合は、他家が聴牌しても直撃出来ない?」

衣「然り。あの『河の主』は、水面に波紋が立つことを一切許さん、が、それ以外は許される。リーチ宣言をしないなら聴牌も許されるだろう。むしろ、リーチ宣言やポンチーをしないなら出和了りは避ける傾向にある。自分の和了よりも河を平穏に保つことを優先しているようにすら思えるな」

一「いやいや、もし原村さんが心変わりしてリーチかけたらどうするのさ?」

衣「その時はリーチ宣言牌で討ち取る」

純「いや、おかしいだろ」


衣「?」キョトン


智紀「衣や透華に常識を説いても無駄」

純「…そうだったな」

衣「ハラムラノドカだったか、初めて透華にまみえてリーチを捨てるこの対応、普通に出来ることではない。妖異幻怪の気形と打ちなれていると見える」

一「間違いないだろうね。まず、清澄にはあの先鋒と中堅が居るし」

純「大将も相当おかしいだろ」

衣「清澄の大将…楽しみだ…今宵の獲物は暴虎か轟竜か…」ゴゴゴ

純「こんなウサギみたいな見た目の奴が虎やら龍やらを狩るつもりかよ…」グイッ

衣「わーん!?カチューシャを引っ張るなー!!純のバカー!!」ウエーン

399: 2015/01/14(水) 20:04:13.97 ID:AucZgKl60

靖子「…そもそも、聴牌出来るだけで大したもんなんだがな。今回も山に残り一枚しかない有効牌を引いて来た」

アナウンサー「さあ、ついに聴牌!!ここでインターミドルチャンプの実力を見せるのか、原村和ー!?」

靖子「解説ぐらい聞け。山に一枚しか残ってない有効牌を引いて聴牌したんだ。少なくともツモ和了りの可能性はない。普通なら何故リーチをかけないのか問い詰める手だ」

アナウンサー「え?」

靖子「この四局続けて、龍門淵以外の三人は異常に配牌が良い。そのせいで、有効牌の種類自体が少なく、形も良くて変化もする必要がない手だから捨て牌にも選択の余地がない。ツモった不要牌が早々と捨てられるが、捨てられていない有効牌が他家の手牌という見えない場所に暗刻で抱えられていたりするから、多少待ち牌が捨てられても面子を見切ることも出来ない」

アナウンサー「えっと、それは、どういうことでしょう?」

靖子「…あれも、『牌に愛された子』かもな。とりあえず、原村は現状では和了り目がない。良くて聴牌流局だな」

―――

和・透華「聴牌」

モモ・純代「ノーテン」

400: 2015/01/14(水) 20:04:40.82 ID:AucZgKl60

久「咲に挑み続けたのが生きてるわね。『のどっち』だったら泥沼にはまってたかもしれないわ」

咲「あの豪運も大概だから、デジタルでもなんとかしそうな気がしますけどね」

照「大抵のものは何とかしそうだけど、あれは流石に無理だと思う」

優希「でも、このまま流局を繰り返しても親の龍門淵が聴牌し続ける限り終わらないじぇ?」

咲「終わるよ、ノーテン罰符で。そしたら、多分うちが優勝」

京太郎「いつまで続ける気だよ…風越がトブとしても、ノーテン罰符だけでトブまで打ってたら日が暮れるぞ」

久「その辺は規定がないのよねえ…連荘が一定以上続いたら試合の進行のために次の局に進むとかないかしら?」

まこ「あるわけないじゃろ、そんなん想定しとらんわ」

咲「今回は実質カラテンでしたけど、有効牌が残ってれば原村さんはツモりますから、同じことしてればそのうち和了るんじゃないですか?」

照「それだけで終わると思う?」

咲「絶対に終わらない。原村さんはなにかしでかすよ」

401: 2015/01/14(水) 20:05:21.70 ID:AucZgKl60

優希「…言ってるそばからのどちゃんが配牌で来たリャンメン塔子を切り始めたじぇ…」

咲「なるほど、悪くなさそうだね…」

照「強制的にリャンシャンテン以上にして有効牌を狭めることで成立する河の支配、抜け出すには有効な手段かな。デジタル的にはあり得ないけど」

久「ここまで見てる限りだと、最初にある両面は大体氏に面子だもの、孤立牌と同じとみなして捨ててるわけね」

咲「自分の両面が氏に面子ってことを前提とすると、他家の手牌もある程度透けますよね」

優希「でも、のどちゃんは私たちと違って他家の手牌も氏んでることとか、今までののどちゃんの手が氏んでたこととかをしらないはずだじぇ」

照「原村さんは天才の部類に入る打ち手。異常が起きてることを前提に捨て牌を見ていれば、これだけの局数をこなせばどんな状況になっているか把握できるはず」

京太郎「そういえば、風越はここまで四局で一枚も手牌に入れてませんね」

久「多分、連続ツモ切りの大会記録ね。けど、別にデジタル的に間違った打牌はしてない、間違ってるのはあの卓の方よ」

照「さっきも言ったけど、正しい打牌というのは勝つ打牌のこと。勝ててないのだから、間違ってるのは打牌」

まこ「あんたに言われたら何も言い返せんの…」

402: 2015/01/14(水) 20:05:52.86 ID:AucZgKl60

和(さて、両面塔子を落としたらすんなり…とは言いませんが、なんとか手が進みました。おそらく、今私が居る位置は彼女の想定した範囲の外側…ならば、試してみましょう)

和「リーチ」

透華「…!?」


純代(清澄は普通にリーチをかけた…捨て牌もそれほどおかしな部分はない。なら、これは運が悪いだけなのか?)

和(…すんなり通ってしまいました。照さんはプラマイゼロを崩した時に本気で牙をむいてきましたが、大丈夫でしょうか?)タラリ

透華「」ゴゴゴゴ

和(…あ…通ったどころか和了ってしまいました)

和「…リーチ一発ツモ。1300・2600」

222456s3357p999m ツモ:6p


透華「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

和「…」タラリ

403: 2015/01/14(水) 20:07:45.87 ID:AucZgKl60

優希「やったじぇ!さっすがのどちゃん!」

咲「流石だね…ただ、和了りが勝つことにつながるとは限らない」

照「これは、河の主様の逆鱗に触れたかな?」

久「いやいや、河は乱してないからセーフでしょ」

咲「リーチしましたよ?」

久「あ…」

咲「とはいえ、どこかで和了らないと永遠に親が続きそうではあったけど。リーチせずにツモのみが原村さんにとっての最善だったかな」

まこ「和にとってのってのはどういうことじゃ?」

咲「アレは私でも無理そうですけど、お姉ちゃんなら真正面から潰せるでしょうから、お姉ちゃんの場合はあれでいいです」

照「咲まで私を買いかぶる…咲に無理なら私にも無理だって」

久「いやいや、あんたが真正面からぶち破れない相手なんてこの世どころか過去にも未来にも居ないから。咲を含めてね」

照「竹井さんはどうせそう言うからどうでもいいけど、咲まで言い出したのは由々しき事態」


『ツモ…発・面前混一色・一盃口・ドラドラ。4000・8000』


咲「うわ…これ…」

照「頭になってるドラの5索が6索と換わったら緑一色だね。見た感じでは緑一色は狙ってなかったと思うけど、怖いね」

まこ「良い手じゃのう」

咲「これで治まったかな?」

照「多分。リーチしただけだからこんなもんじゃないかな。親かぶりは痛いけど」

404: 2015/01/14(水) 20:09:00.82 ID:AucZgKl60

和(寿命が縮む思いでした。リーチされて激昂するぐらいならリーチ出来ないようにちゃんと封じてください。私だって和了るつもりでかけたリーチではなかったのですから)

和(…っと、相手をあてにしてはいけませんね。咲さんや部長と協力したとはいえ、照さんでも私にプラマイゼロを崩されることがあるのですから、それ以外の方に完璧を求めるのは酷というもの)

和(大体わかりました。この方は河に異変が起きないように支配しているのですね。だから、鳴きは発生しない、普通に打ったらリーチも出来ない。先ほどのように、予測の外側に出ればリーチは可能ですが、得策ではない。リーチを使えるのは後半戦のオーラス限定ですね)

和(どのようにそれを行っているかは重要ではありません、これは照さんが入った卓で照さんがプラマイゼロになるのと同様に、そういうルールだと割り切って打つゲーム)

和(配牌が良いのが救いですね。リャンメンを崩してシャンテン数を戻しても、まだ通常より良い配牌になっています。照さんと違ってオーラス付近で和了り自体が封じられることもありません)

和(出和了りは出来ない、リーチもかけられない、ポンチーカンはもってのほか、それが出来ないようなツモと捨て牌になる…と。万一鳴くことが出来ても鳴かないつもりで打っていれば、それなりの手が来る可能性もあります。適宜修正していくとして、それらのルールを前提に最善の手順を考えればいい…暫定的なルールの修正は終わりました。ここからは、全力でお相手します)

405: 2015/01/14(水) 20:09:32.51 ID:AucZgKl60

久「おっ、来た来た」

咲「第一打で小考…のどっちモードですね」

照「…合宿以来、プラマイゼロを崩しに来なくなって寂しい」

久「崩されたいの?なら、私がいくらでも相手するわよ。崩せるかは知らないけど」

照「そういうわけではない。前回の反省を踏まえてリーチ棒対策をしたから試したいだけ」

久「しかし、簡単にはいかないみたいね。あちらも初手で両面塔子を落とすことまで計算に入れ始めたかしら?」

咲「リーチをかけられた以上、その程度の修正はするでしょうけど…そもそも、あの人の支配下だと基本的に配牌が一向聴、悪くても二向聴で、複数の完成面子が最初からあるから何切っても立て直しが容易なんですよね。原村さんの場合、有効牌が存在すればツモリますから」

照「それに、あんまり制限をきつくすると、他家だけじゃなく自分の手も使って原村さんを縛らないといけなくなる」

咲「それよりは、原村さんには勝手にやらせて自分が和了っちゃう方が楽だよね」


京太郎「自分で和了るのって楽か?」

優希「楽なんだろ、化け物どもの間では」

まこ「おい、ワシもそっちに入れてくれ、こいつらの会話聞いとったら頭がおかしくなりそうじゃ」

優希「オカルトを語り始めた途端に人外しか理解できない会話になったじょ」

406: 2015/01/14(水) 20:10:02.71 ID:AucZgKl60

副将戦終了


清澄  161500(+15600)
龍門淵  94200(+49800)
風越   22700(-31900)
鶴賀  121600(-33500)

407: 2015/01/14(水) 20:10:48.26 ID:AucZgKl60

久「のどっちモード以降は互角だったけど、最初に直撃を連続で食らったのと、のどっちモードに入る直前の倍満が効いたわね」

咲「アレと互角とか、原村さんも明らかにおかしいですよね…後半は半荘でトップ取りましたし」

照「支配が強力で影響範囲も広い分だけ応用も利かないから、正しい対応をすれば勝負になる。でも、正しい対応を初見で出来るのは原村さんぐらいだと思う」

久「プラマイゼロ崩しなんてのを研究した和ならではの対応力よね。オカルト研究家に向いてるんじゃない?」

優希「本人は嫌がりそうだじぇ」

咲「…で、67300差か…流石に大丈夫だと思うけど」

まこ「龍門淵以外もちゃんと警戒せえよ?特に鶴賀はデータもないけえの」

咲「はい、大丈夫です。麻雀は四人で打つものだって、次鋒戦と中堅戦で再確認しましたから」

バタン

和「戻りました」

照「お疲れ様」

和「すみません、手こずりました」

久「いやいや、十分過ぎる戦果よ。マイナスでも悪くないと思えるぐらいの相手だもの。トップも取って来てくれたし、言うことなしね」

照「じゃあ、咲」

咲「うん、行ってきます…京ちゃん、お願い」

京太郎「対局場への道ぐらいいい加減覚えろっての」

408: 2015/01/14(水) 20:11:17.31 ID:AucZgKl60

モモ「…やっちまったっす…先輩に会わせる顔がないっすよ…」

ゆみ「おい!モモ!どこだ!?」

モモ「やばっ!?見つかるっす」スウッ

ゆみ「…そこか!?」

モモ「ひうっ!?な、なんでわかったっすか!?」ビクッ

ゆみ「お、そこに居たか」

モモ「…もしかして、見つかってないのにカマかけたっすか?」

ゆみ「悪いな、今の私にはそうでもしないとお前を見つけられない」

モモ「先輩の意地悪…そんなに戦犯を吊し上げたいっすか?」

ゆみ「休憩中に戻ってこなかったことについてなら後で説教はしたいが、アレを相手にこの結果なら上出来だ」

モモ「へ?」



ゆみ「モニターで見ていたから分かることだが、モモの手は全て有効牌が山に一枚か、良くても二枚しかない状態だった。おそらく龍門淵の仕業だ」

モモ「やけに配牌が良いとは思ってたんすよ…そんなことになってたっすか」

ゆみ「それに対していくつか策を練って授けようと思っていたんだが、対局室から出てこなかったからな」

モモ「二位に落ちたのが申し訳なくて顔出せなかったっすよ。焼き鳥でトップ陥落とか、エースが聞いて呆れるっす」

ゆみ「デジタル的に間違った打牌は一打もなかった。お前にミスはなかったよ、モモ」

モモ「そうは言っても、前半の東場から消えてたのに何の意味もなかったっすからね。敵さんはツモ和了りばっかな上に自分が聴牌すら出来なきゃ、ステルスもなんの役にも立たないっす」

ゆみ「そうだな、お前とは相性が悪い相手でもあった。だから、自分を責めるな。この決勝に来れたのはモモのおかげなんだ、モモを責める者などいない」

モモ「そりゃ、皆さん優しいっすからね…」

409: 2015/01/14(水) 20:11:44.98 ID:AucZgKl60

ゆみ「…お前がそれ以上自分を責めるなら、私はモモが作った以上のマイナスを作って控室に戻る。それで私が戦犯だ、モモに責任はなくなる」

モモ「…ずるいっすよ、それ」

ゆみ「…私はずるい人間だ、知らなかったか?」

モモ「…知ってるっす…そんな先輩が大好きっす」

ゆみ「じゃあ、行って来る。なに、もともと私がまくって勝つオーダーだ。ようやく本来の役割が回って来ただけ、大船に乗ったつもりでいてくれ」

モモ「先輩…」

ゆみ「なんだ、モモ?」

モモ「私を連れて行って下さい、全国へ」

ゆみ「ああ、任せろ!」

410: 2015/01/14(水) 20:12:16.38 ID:AucZgKl60

パタン

一「お帰り、透華」

透華「…はっ!?夢!?眠ってしまっていたとは不覚ですわ!!時間はまだ大丈夫ですの!?」

純「現実だ。おまえ、あの状態の時は意識ないのか?」

透華「…現実、ですか…意識は、ぼんやりとはありましたわ」

衣「…そうか。奇幻な手合いが増えて嬉しく思っていたが、まだ力を従えるには至らんようだな」

智紀「…衣」

衣「さて、出るか。たかが7万程度の差、衣にとっては無に等しい。安心して見ているが良い」

一「10万差をひっくり返してもらう予定だったんだ、心配は一切してないよ」

純「そうだな、任せたぞ」

透華「今宵は満月…衣が負けるとは思えません。後は任せましたわ」


432: 2015/01/17(土) 17:36:57.37 ID:jwNeJzko0

アナウンサー「さあ、長野県大会もいよいよ大詰め。大将戦です!」

靖子「私はこの時点で風越の健闘を称えたいな。あれだけ怪物級の打ち手が暴れ回った後でまだ点棒を残していられるのは風越だからだろう。普通ならとっくに…下手すれば次鋒あたりで飛んでいる」

アナウンサー「副将戦前半は龍門淵透華が昨年度ベスト8の貫録を見せつけての大トップ! しかし、原村も後半で叩き合いを制してトップを分け合う形になりました!!」

靖子「後半は全てがツモ和了りだったな。叩き合いのあおりで風越は大きく削られ、鶴賀もトップから引きずりおろされた」

アナウンサー「トップを逆転した和了りは原村和の手によるものでした! そして、原村からトップでバトンを受け取るのは同じく一年生! 宮永咲!」

靖子「こいつには期待していい。天江衣と五分の闘牌を見せてくれるだろう」


アナウンサー「先鋒からトップを守り続けた鶴賀は副将戦でトップから陥落! 苦しい状況ながらチームの柱に全てを託します! 鶴賀学園、大将は三年生の加治木ゆみ!」

靖子「一、二回戦の牌譜を見る限りでは非情にレベルの高い打ち手だと思う。まだ底は見せていないが、この相手だとどうだろうな…」


アナウンサー「名門風越女子の大将を二年連続で務めるのはこの人! 池田華菜!!」

靖子「名門だろうと無名校だろうと、大将というポジションの責任は重い。それを名門風越で一年生から任される打ち手、相当の実力者だ。ただ、点差が重いな。相手も相手だし、本来の実力を発揮できるかどうか…」


アナウンサー「そして、その池田選手の因縁の相手が今年も龍門淵の大将を務めます!」

靖子「…」

アナウンサー「昨年度全国大会MVP、長野どころか全国でも最強のプレイヤーです! プロアマ交流戦でも優勝するなど、実績は枚挙に暇がありません!!!」

靖子「なあ、プロアマ戦の話はやめてもらえないか? 天江なら他にいくらでも実績あるだろ、なんでそれを選んだ?」

アナウンサー「全国大会最多獲得点数記録保持者! 歴史上最強の高校生が、今年初めて公式戦の舞台に現れます! 龍門淵高校、天江衣おおおおおお―――!!!!」

靖子「歴史上最強の高校生…数字の上では高校時代の三尋木咏や小鍛治健夜をも上回る、正真正銘の『牌に愛された子』だ。大将戦はこいつを中心に動くだろう。どんな状況でもこいつから目を離せないな(可愛いなあ、衣かわいい)」


アナウンサー「大将戦の幕が今、開こうとしています!!!」

433: 2015/01/17(土) 17:37:39.68 ID:jwNeJzko0

北家 華菜「よろしくー」

南家 咲「よ、よろしくお願いします…」

ガチャ

西家 ゆみ「…あと一人か、よろしくな」

咲(…風越の人は普通…鶴賀の人は、ちょっと厄介かな。そして――)


【壁】耳 ピョコ


咲(…絶好調、って感じか…)ゾクッ

トコトコ

チョコン

衣「…よろしくな」

咲「私だけを見て言わないでほしいな……他に二人いるんだけど?」

衣「悪いが、眼中にない」

ゆみ(…眼中にない、か。それが隙になることもある。好きにすればいい)

華菜(こいつ…去年戦ったあたしすら眼中にないって言うのかよー!!)ニャー

咲「…そう、後悔しないようにね。よろしく」

衣「…?」


起家 衣「…まあいい、始めるぞ、衣が親だな」

434: 2015/01/17(土) 17:38:07.38 ID:jwNeJzko0

美穂子「…異常な和了率と、和了るたびに点数が上昇する不思議な闘牌、だったかしら?」

未春「はい……あれが偶然じゃないなら……あの子は…」

星夏「一回戦でこいつに飛ばされた今宮女子……練習試合でうちといい勝負してたとこですよね」

美穂子「…天江さんだけじゃない。あるいはそれ以上かもしれない魔物が、あの卓に居る」

美穂子(華菜―――気を付けて―――)

435: 2015/01/17(土) 17:39:21.77 ID:jwNeJzko0

東一局


咲「…槓」

暗槓:中中中中

ゆみ(公九牌を暗槓!? こいつは安手から始まる連続和了が売りではないのか? まさか、一回戦と打ち方が違う?)

華菜(トップが自ら槓ドラ増やしてくれたし! ラッキーだし!)

衣「…ほう」

ゆみ(いや、槓を多用する打ち手には覚えがある。同じ苗字の、清澄の先鋒…あれがこいつの姉なら、妹のこいつに同じことが出来てもおかしくはない)

咲「ツモ、嶺上開花・面前ツモ・中。2000・4000」


24555s789p南南 暗槓:中中中中 ツモ:3s


ゆみ(嶺上開花……か)

436: 2015/01/17(土) 17:40:11.54 ID:jwNeJzko0

久「…あら? 普通に打ってるように見えるけど」

まこ「嶺上開花が普通のわけあるか」

照「そうだね……一応安全策ではあるかな」

久「どういうこと?」

まこ「無視か!?」


京太郎「先輩、こっちで凡人達の集いしましょうよ…」

優希「だじぇ」

まこ「そうさせてもらうわい」


和「咲さんなら……普通に打つとプラマイゼロになりますよね?」

照「そう、そして、咲の収支がプラマイゼロになってないときに他家が飛ぶことはない。大抵の場合最終局で調節するから、他家は飛ばないと言い切ってもいい」

久「…なるほど」

和「たしかに、それなら、67300の差があれば、かなり安全ですね。絶対ではありませんが」

照「いや、異常が発生しない限り、絶対だよ」

久「…あ、なるほど」

和「…これは…なるほど」


まこ「おい、京太郎、わかるか?」

京太郎「この三人だと染谷先輩に分からなきゃ誰も分かりませんって」

優希「だじぇ」

437: 2015/01/17(土) 17:41:09.46 ID:jwNeJzko0

照「そっちの三人に理解してもらうために、現在の四校の点数状況を示す」


清澄  161500
龍門淵  94200
風越   22700
鶴賀  121600


久「うちと龍門淵の差は67300ね」

照「で、咲はプラマイゼロを目指す打ち方をしている。ここまでオーケー?」

京太郎「はい、そこまでは分かります」

照「そして、他家は飛ばない。つまり、25000持ちと仮定すれば、鶴賀からは半荘二回で5万点しか奪えない」

優希「でも、風越から27000取ったら追いつかれるじょ?」


照「どうやって?」


優希「じょ?」

久「風越には、27000の点棒はないわよ。大将戦が始まった時点で22700。それ以上奪ったら風越が飛ぶ」

照「鶴賀から25000、風越から22700、合計47700点。これが、咲が支配するあの卓で、半荘一回に鶴賀と風越から奪える点棒の全て」

和「更に、咲さんが最低でも4600稼ぐから龍門淵から見て獲得可能な点棒は43100しかない…点差だと38500しか詰まらないことになりますね」

照「『誰も飛ばない』という条件で誰かがプラマイゼロをやると、トップは最大で45400点しか点棒を増やせない。風越がトビそうだからそれが更に狭まる」

久「理論値で前半が38500、後半が15800、咲がプラマイゼロをする以上、この状況ではどうやっても54300点しか差を詰められないのよ」

438: 2015/01/17(土) 17:41:37.31 ID:jwNeJzko0

まこ「理論上67300の差が詰まることはない、か。なるほどのう…咲のプラマイゼロなら安心じゃの」

京太郎「咲は確実に勝つためにプラマイゼロに切り替えたんですね」

照「いや、試合前から大分緊張してたし、余裕がなくて素の打ち方が出てるだけだと思う。天江さんは楽に勝てる相手じゃない」

久「…え?」

和「照さん、本気で言ってますか?」

照「じゃなければ、風越を飛ばせばいいだけ。むしろ、点差がある今はその方が安全」

優希「ってことは…?」

照「天江さんがプラマイゼロの縛りを打ち破って鶴賀から半荘で25000以上取ったりすると怪しい」

久「マジで?」

照「うん」

439: 2015/01/17(土) 17:42:10.09 ID:jwNeJzko0

東2局


咲「…ポン」

ポン:222s

ゆみ(…姉は槓以外での副露は滅多にしなかったはずだ……加槓をすると決めつけて搶槓を狙ってみるか? …確証を得ている猶予はない。一か八か、やってみるとしよう)

ゆみ(もし、こいつが真に怪物なら……搶槓という恐怖を与えておくのは有効だ)

3456s345p567m南南南 ツモ:1s

打:南


衣「…ふむ」


咲「…槓」

ゆみ「ロン、搶槓のみ。1300点」

咲「…はい」

ゆみ(動揺はない……予測の範疇か? この程度の支出で親を流して場を進めるのは、トップの清澄からすれば歓迎ということなのか?)

440: 2015/01/17(土) 17:47:09.22 ID:jwNeJzko0

アナウンサー「嶺上開花の次は搶槓だ――!!」

靖子「搶槓は狙ってさせたようにも思えるな。鶴賀がポンに対応することまで見切ったか?」

アナウンサー「いやいや、流石に偶然でしょう?」

靖子「少なくとも、鶴賀が搶槓を狙ったのは偶然ではないな。役を捨てて、ノベタン待ちを待ち牌が既に三枚見えてるカンチャン待ちにする道理はそれしかない」

アナウンサー「しかし、搶槓が発生したのは…」

靖子「偶然、だと思うようでは、よほどの強運の持ち主でなければ、あの場に居たら飛ばされるだけだな。しかし、鶴賀の部長は思い切りがいい。ひらめきに身を任せる大胆さと、正しい直感。予想以上の打ち手だ」

アナウンサー「鶴賀の部長は中堅の蒲原です」

靖子「え、マジで!?」

441: 2015/01/17(土) 17:48:09.42 ID:jwNeJzko0

東3局


西西西西444赤56p2346s ツモ:6s

咲(…張った。そして、嶺上牌は4筒、7筒の順に並んでる。あとは…)チラッ

咲(国士狙いだろうけど…張ってないね)


咲「槓」


衣(!?)

華菜「にゃっ!?」

ゆみ(…国士狙いを隠す気もない捨て牌だが、この捨て牌を一瞥して西を槓……搶槓は完全にテリトリーの内側か……当てが外れたな。そして、この手は氏んだ)


咲「もう一個、槓」


衣「くくく…」ゾクゾク

咲「面前ツモ、嶺上開花、赤1。80符3翻は2000・4000」

442: 2015/01/17(土) 17:48:51.91 ID:jwNeJzko0

衣「あははははははははは!!!」

華菜「ひっ」ビクッ

咲「…」

衣「いいぞ!貴様は最高の獲物だ!!!」

ゆみ(天江衣…ここまでは様子見、ということか?)

衣「今の手、衣の感覚では安手、しかもまだ聴牌したばかりだった」

咲「…それが分かるだけでもおかしいんだけどね、普通は」

衣「それを、貴様は聴牌したその瞬間に満貫を和了って見せたのだ! こんな相手はかつて居なかった! 楽しいぞ…もっと衣を楽しませてみせろ!!!」

咲「…善処するよ」

衣「善処する、か…では、宴を始めよう」ゴゴゴゴ

咲「…」

ゆみ「くっ!?」ゾクッ


華菜「ごちゃごちゃ言ってないで早く点棒払え! 次はあたしの親だし!」


衣「…無粋な輩が紛れ込んでいるな。せっかくの宴で興が削げる。黙れ」

華菜「うっさい! 黙らせたかったらとっとと点棒払って進めろし!」

衣「…ふん」チャラ

咲「…」

443: 2015/01/17(土) 17:49:49.72 ID:jwNeJzko0

東四局


華菜(まだ負けたわけじゃない! 点数状況次第だけど、10万点より100点でも多ければ優勝の可能性はあるんだし!
   だから、まずは10万点を目指す! 今の点数状況なら、清澄以外に対しては押しても大丈夫なはず!)

打:南

衣「ロン、16000」パタン


222赤5赤55p11s白白白南南 ロン:南


華菜「にゃっ!?」

ゆみ「お、おい、天江…?」

衣「衣は清澄との宴に興じる。貴様らはそこで縮こまっていろ」

咲「…」

444: 2015/01/17(土) 17:50:16.54 ID:jwNeJzko0

アナウンサー「倍・満・直・撃―!!!!! 風越女子池田選手、昨年の悪夢が再びよみがえる―――!!!!」

靖子「天江はなにを考えているんだろうな? 見逃す一手だろうに」

アナウンサー「はい?」

靖子「まあ、このまま終わるなんてことはないだろう。騒がずに成り行きを見守るか」

445: 2015/01/17(土) 17:50:46.75 ID:jwNeJzko0

南一局


咲「ロン、ダブ南のみ、2600」


123567p456s99m南南 ロン:南


華菜「うぎゃっ!?」

ゆみ(清澄は分かる…むしろ清澄は風越を狙うのが正しい。しかし、さっきの天江の倍満は…)

衣「…安手で衣の親を流したか、猪口才な…」

咲「あなたの親を流すのは目的じゃないよ」

衣「では、自らの親を引き寄せることか?」

咲「それも違う」

衣「…まさか、そ奴をトビ寸前にして衣の手を縛ったつもりではあるまいな?」

咲「…出来れば飛ばしたかったけどね。辛いんじゃないかな?」

衣「…その程度で衣を縛ったと思うということは、その程度で手を縛られたと感じる輩ということか……少々期待外れだよ」

446: 2015/01/17(土) 17:51:27.78 ID:jwNeJzko0

透華「衣は何をしてくれてますのー!!!?」

一「いやいやいや……流石に不味いでしょ。衣が点棒状況を見てないなんてことはないと思うけど」

純「背水の陣にもほどがあるだろ……てゆうか、これじゃツモれねえじゃねえか」

智紀「となると、海底も使えない」

純「どうすんだこれ?」

一「どうするもこうするも…」


『ロンだし! 24000!』


智紀「…こうするしかない」

透華「点差がますます開いたではありませんか!!! 衣は何を考えていますの!!?」

純「まあ、衣がなんにもせずに終わるってこともねえだろ。俺らは信じて待つだけだ」

一「まあ、それはそうだけどさ…」

447: 2015/01/17(土) 17:52:03.63 ID:jwNeJzko0

アナウンサー「三倍満直撃―――!!! 風越女子、池田選手! 悪夢の倍満に対して利子をつけて返した――!!!」

靖子「いや、差し込みだな。風越が飛び寸前ではツモ和了りが出来ない。天江はそれを回避したに過ぎない。ころたんかわええ」

アナウンサー「最後に心の声がもれてますよ」

靖子「おっと…まあ、三倍満ぐらいいつでも取り返せると思っているんだろうさ、だから易々と差し込みが出来る」

アナウンサー「しかし、ここまでの天江選手の収支はマイナス、悪手と思われる倍満ぐらいしか見せ場がないまま来ていますが…」

靖子「…その気になれば、親番一回で10万稼ぐ奴だ。最多獲得点数記録は飾りじゃない」

448: 2015/01/17(土) 17:52:32.17 ID:jwNeJzko0

南三局


衣「ロン、12000」

ゆみ「くっ……地獄単騎だと…?」

衣「…地獄単騎かどうかは重要ではない。貴様が捨てるか捨てないかだ。衣は貴様が捨てる牌で待った」

ゆみ「…大した化け物だな」

衣「貴様も、衣を化け物と呼ぶか……まあ、仕方ないだろうな。衣と麻雀を打ったものは、皆そう感じるようだ」

ゆみ「…」

449: 2015/01/17(土) 17:53:20.74 ID:jwNeJzko0

南4局


咲「」タン

打:1p

衣「なっ!?」

咲「どうしたの?」

衣「何を考えている、清澄? 貴様ほどの打ち手だ、分からなかったなどとは言わせんぞ?」

咲「…何を考えていると思う?」

衣「…っ、ロンだ。貴様の思惑がなんであれ、貴様から点棒を取って悪いことは一つもない」パタン


1p111789s999m南南南


衣「ダブ南・全帯公・三暗刻。12000」

咲「…前半戦終了だね。ありがとうございました」

華菜「…」

ゆみ「……ありがとうございました」パタン


ゆみ手牌

13赤5p345s3457888m


ゆみ(一筒か……手が進めば、私が振り込んでいたのだろうな……4筒をツモったら1筒を止める自信はない。
   たとえ止めても、あの手なら単騎の待ち替えをするだろう。後半は奴の直撃を掻い潜りながら6万以上の差を詰めなければならないのか)

450: 2015/01/17(土) 17:54:36.94 ID:jwNeJzko0

大将戦前半終了

清澄  166800(+ 5300)
龍門淵 104200(+10000)
風越   24100(+ 1400)
鶴賀  104900(-16700)


――――

アナウンサー「天江選手、三倍満の振り込みを直後にきっちり取り返し、しかもオーラスでは清澄に跳満を直撃させて、半荘では貫録のトップです!!!」

靖子「しかし、トップの清澄の背中は依然として遠い。普通ならこの時点で勝負が決まったと判断するほどにな。さて、どうなる?」

アナウンサー「泣いても笑っても次が最後の半荘、激しい争いを繰り広げた長野県58校の頂点が決まろうとしています!!」

461: 2015/01/18(日) 13:51:45.41 ID:l1EzRS8s0

ゆみ「…まるで手牌が見えているかのような精度の天江の直撃を掻い潜りながら、6万差を逆転する……なかなかの無理難題だな」

智美「おーい、ゆみちん!」ワハハ

佳織「加治木先輩!」

睦月「うむ!」

モモ「遅いっすよみなさん」ギュッ

ゆみ「お前たち!? こらモモ! いきなり現れて抱きつくな!」

モモ「嫌っすー! 心ゆくまで先輩を堪能するっす!」

智美「対局室を出る時浮かない顔をしていたからなー。どうせ戻って来ないだろうと思ってこっちから来たわけだ」

睦月「うむ」

ゆみ「…何か、打つ手が見つかったのか?」

智美「んなもん、あるわけないだろー。ゆみちんが見つけられないものは私たちが全員で考えても無理だー」ワハハ

ゆみ「威張って言うことではないな。まあ、お前らしいか…」

智美「三日前まで全国なんて行けるとは夢にも思ってなかったんだ、負けてもともと、最後の試合にそんな顔で行かせるわけにはいかないってなー」

佳織「私は全国に行きたいですけど、加治木先輩が申し込みを頑張ってくれたおかげで、全国には個人でも行けますから!」

モモ「かおりん先輩は普通に行けそうっすよね」

ゆみ「…いいのか?それで」

睦月「うむ」

智美「無理して変な打牌して後悔するよりよっぽどいいだろー。お祭りは楽しんだもん勝ちだ」

佳織「です!」

モモ「っす!」


ゆみ「ふっ…」

智美「それそれ、ゆみちんはそうやってホントは熱いくせにニヒルを気取ってるのが一番似合う」

ゆみ「お前たちが許してくれるなら、思うとおりに打たせてもらうさ。怪物たちの宴、一足遅れたが私も混ざるとしよう」

462: 2015/01/18(日) 13:52:18.35 ID:l1EzRS8s0

衣「むう……清澄め、あの最後の振り込みは一体…」

靖子「よう、前半は随分大人しかったじゃないか」

衣「…フジタ? 何故貴様がここに?」

靖子「解説プロだ。しかし、お前が半荘で一万しか稼がないなんてのは記憶にも記録にもないな」

衣「あんな獲物は初めてだからな、遊びが過ぎた」

靖子「そうか? ならいいが、前半は清澄の掌の上で踊らされていたようにしか見えなかったな」

衣「…なんだと?」


靖子「プラマイゼロ、って言って分かるか?」


衣「…5300……そうか、最後の振り込みは、それが狙いか…」

靖子「お前ごときと普通に勝負してもつまらない、だから遊んだ……そうは考えられないか?」

衣「…」

靖子「ちなみに、私は破ったぞ、あいつのプラマイゼロ」

衣「…は」

靖子「どうだ、少しは真剣にやる気に…」


衣「…ははははははは!!!! あーっはっはっはっは!!!!!」


靖子「」ビクッ

衣「衣を玩具扱いか……どこまでも不遜! 奴こそ!!! 衣が永らく待ち望んだ金剛不壊なる贄だ!!!」

靖子(清澄が勝ちそうだったから、油断してるところを倒しても経験不足で全国で苦労すると思って煽ったんだが、発破かけすぎたか? すまんな久)

衣「くくく……楽しめそうだ……ふあっ!?」ビクッ

靖子「ころたんかわええ」ナデナデ

衣「なでるなー!!!!!! このゴミプロセクハラポンコツ雀士―――!!!!」

463: 2015/01/18(日) 13:52:46.18 ID:l1EzRS8s0

美穂子「華菜…」

華菜「キャプテン……ごめんなさい、あたし…」

美穂子「…差し込みだとしても、あの三倍満を作ったのは紛れもなく華菜よ、そんな顔しないで」

華菜「キャプテン……キャプテン…」グスッ

美穂子「華菜…」ギュッ

464: 2015/01/18(日) 13:53:15.72 ID:l1EzRS8s0

咲「…」

久「お帰りー」

照「お疲れ様。悪くない結果だね」

まこ「依然として6万差じゃのう」

和「…咲さん?」

京太郎「さっきから喋んないんですよ。これは、多分アレだな…」

優希「じょ?」


咲「ふ…ふええええええ!!どうしよう!あの人すごく強いよ!風越をトビ寸前にしてもケロッとしてるし!なんかまだ本気じゃないっぽいし!!!」ウルウル

465: 2015/01/18(日) 13:53:44.56 ID:l1EzRS8s0

照「ああ、これか…」

京太郎「普段クールぶってるけど、テンパるとこうなるんだよな」

優希「マジか……咲ちゃんのイメージが…」

和「…猫を被ってましたか」


咲「どうしようお姉ちゃん!?勝てないよぉ…」グスン

照「大丈夫大丈夫、行ける行ける」ポンポン

咲「無理だよ、あの人怖いよぉ…」グスグス

照「いざとなったらお姉ちゃんが何とかするから」ナデナデ

咲「ふええええん…」


和「さて、どうしましょう?後半戦が始まるまで20分しかありませんが…」

照「多分、少ししたら収まるから大丈夫」

京太郎「俺、道に迷う以外の理由でコレ見るの初めてですよ」

466: 2015/01/18(日) 13:54:11.77 ID:l1EzRS8s0

咲「…さて、現状を再確認しようか」

京太郎「何事もなかったかのように話を進め始めたぞ」

咲「…何事もなかったでしょ?」

優希「咲ちゃん、それは少し苦しいじょ」

咲「次打つ時、優希ちゃんを100連続で狙うよ?」

優希「私は何も見てないじぇ! 咲ちゃん、今帰って来たみたいだけど、どこに行ってたんだじぇ!?」

咲「ちょっとお花を摘みにね」

久「私と照にはその脅しは効かないわけだけど…」

咲「」ゴゴゴ

久「…だから、脅しは効かないわよ」ゴゴゴ

照「アホなことやってないで話を進めよう」

咲「あ、うん」

467: 2015/01/18(日) 13:54:56.71 ID:l1EzRS8s0

咲「で、打ってみた感じだけど、多分あの人にはプラマイゼロを破られるね」

照「6万差あるけど、それでもダメ?」

咲「風越と鶴賀からある程度回収して、最後に風越を飛ばしながらのツモで余裕の射程圏内だからね。危ないかな…」

久「天江衣相手だから多少のリスクは仕方ないけど、安全策のプラマイゼロでリスクを負うぐらいなら連続和了で風越を飛ばしてほしいわね」

和「と言っても、風越も通常の原点と大差ない24100点を持っていますが…」

咲「役満一発で飛ぶでしょ?」

まこ「おんしが言うと洒落に聞こえんの…」

咲「今回は本気で狙いますよ。それが一番安全ですし」

久「安全を求めると手が縮むわ。天江衣相手にノーリスクなんて出来るのは照だけ。私が言ったのは、リスク覚悟で行くなら風越を飛ばす方を選びたいってだけよ」

咲「…でも、勝たないと…」

照「てゆうか、私でもノーリスクで勝つのは無理だから」

468: 2015/01/18(日) 13:55:37.16 ID:l1EzRS8s0

久「点差なんて気にしちゃダメよ。そうね、こう考えましょう」

和「…あの、この時点で変な情報を吹き込むのは…」

久「半荘ごとの順位点のみでポイントをつけて行って、最終的にポイントが同点の場合のみそこまでの点差を考慮して勝敗を決める。
  着順や30000点を超えているかどうかが重要な基準になる、着順勝負のルールね」

照「団体戦って感じのルールだね。チーム全体がトビ終了することもないし」

久「ここまでの経過は忘れてもらって、現在、1ポイント差で有利。けど、1ポイント差だからトップを取られたら確実に逆転負け。事実上半荘一回勝負、あなたがトップを取ればうちの勝ち」

咲「…半荘一回の着順勝負、トップを取った方が勝ち…」

久「トップを取って来なさい。そしたら誰も文句を言えない、うちの優勝よ!」

咲「でも、あの子が相手じゃ…」

久「出来るわ、あなたは宮永咲。宮永照の妹なのだから」

咲「……はいっ!」

469: 2015/01/18(日) 13:56:02.42 ID:l1EzRS8s0

照「…咲まで私を過大評価してるようにしか思えないのだけど…」

和「私には過大評価とは思えないのですが」

照「原村さんまで……敵がどんどん増えていく…」


京太郎「あ、俺は麻雀に関する限り、照さんに何が出来ても驚かないんで」

まこ「同じく」

優希「同上だじぇ」


照「馬鹿な、味方がいない……だと?」

久「私はどんな時でもあなたの味方よ?」

照「この件に関する限り、最大の敵は竹井さん」

470: 2015/01/18(日) 13:56:30.71 ID:l1EzRS8s0

起家 咲「よろしくお願いします」ゴゴゴ

北家 衣「ほう、今回は本気か?先ほどは舐めた真似をしてくれたな」

咲「様子見とかいう舐めた真似したのはそっちでしょ?」

衣「それもそうか……だが、少々おイタが過ぎたぞ、清澄の」

咲「…」

南家 華菜「…おい、あたしを無視すんな。たったの14万差で勝ったと思うなよ」

西家 ゆみ「そう、うちもたった6万の差で追いかけていることを忘れないでほしいな」

咲「…」

衣「ふん、有象無象に用はない」


咲「じゃあ、サイコロ回しますね」


カラカラカラ…

471: 2015/01/18(日) 13:56:57.18 ID:l1EzRS8s0

衣「さて、貴様の本気がどれほどの物か…確かめさせてもらう」


ゴオッ!!!


咲「…」


咲手牌

4赤57s3344p234m南北東 ツモ:9m

打:3p

472: 2015/01/18(日) 13:57:29.62 ID:l1EzRS8s0

久「…へ? 第一打から何やってんのあの子?」

照「咲がやるんだから、多分、ああしないと和了れないんだよ」

和「どう考えてもツモ切りかオタ風の南か北を切る手ですが……咲さんがやるなら正しいのでしょう」

照「咲の照魔鏡もどきは、私と違って深いところまでは見えないかわりにすぐ見えるからね。一局の中での対応だと咲の方が信頼できる」

久「照魔鏡もどきって……あんたら、連続和了といいプラマイゼロといい、お互いが出来ること全部出来るってわけ?」

照「それぐらいじゃないと二人プラマイゼロを続けるなんて不可能だよ。二人プラマイゼロに要求される精度だと、相方の打ち方もほぼ完全にコピーできるレベルで分からないといけない」

和「現に二人プラマイゼロをやっているということは、互いの打ち方をコピーできると?」

照「打ち方を理解するのはともかくコピーするとなると難しいけど、麻雀を覚えた頃から一緒に打ってる上に血のつながった相手だから」

久「で、お互いがお互いのコピーではあるけど、地力の差の分だけあなたの方が強いと」

照「また買いかぶる……咲に出来なければ私にも無理だから」

久「なら、照に出来なければ咲にも無理?」

照「うん」

和「その発言に矛盾する事実が複数ありますが……今はそれどころではありませんね」


照「……咲が聴牌したね」

まこ「鶴賀と風越が10巡以上一向聴で止まっとるのう……咲もあの筒子を抱えた形のままじゃったらハマっとる」

京太郎「あいつ、これを読んで筒子切ったんですかね?」

優希「他に理由がないじぇ」

まこ「何巡先まで見通してたら第一打であれが切れるんじゃ……」

照「あれは、山とかを見たんじゃなくてそういう能力だと察して対応したんだと思う。槓材以外はそんなに先まで見えないはず」

473: 2015/01/18(日) 13:58:09.60 ID:l1EzRS8s0

咲手牌

34赤577s234789m北東 ツモ:7s

咲「リーチ」

打:北


衣(リーチだと!? 聴牌したというのか? 予想以上に楽しめそうだ、手加減は無用か)

ゆみ(依然としてイーシャンテン……三十四種の牌がある中、待ち牌が四種で10巡程度手が進まないのは普通のことと言える。
   しかし、宮永のリーチに対する天江の反応を見るに、おそらく偶然ではないのだろうな。
   直撃を避けつつ、手が進まなくなる何らかの干渉を潜り抜けて、6万差を逆転する……更にハードルが上がったか)

華菜(手が進まないし……配牌でドラ3二向聴の手が3巡目からずっと動かないまま、とうとう先制リーチかけられたし…)

咲「…槓」

暗槓:7777s

咲「ツモ」パタン


34赤5s234789m東 暗槓:7777s 嶺上牌:東 


咲「リーチ・面前ツモ・嶺上開花・ドラ1…4000オール」


衣「どこまでも楽しませてくれる、衣は嬉しいぞ、清澄」

咲「…まだ、楽しむ余裕があるんだね」

衣「当然だ。たかが7万程度の差、無に等しい。とはいえ、残りの局数で相手が貴様となると、そろそろ遊んでばかりではいられないか」ゴゴゴゴゴ

咲「」ゾクッ

衣「貴様の一本場だな、賽を振るが良い」

474: 2015/01/18(日) 13:58:51.84 ID:l1EzRS8s0

東一局 一本場


咲(聴牌…高目で三色。次にツモる6萬で槓出来る。タンヤオ嶺上開花ツモに三色がついて…嶺上牌は赤5索だから跳満)


咲手牌
1345p34s3334566m ツモ:6m


咲(さっきのプレッシャーがこけおどしじゃないなら素直に和了らせてくれるとは思えないけど……どうなるかな?)

打:1p


衣「槓」

咲「えっ!?」

衣「…ツモ」パタン


2345s赤567p789m 明槓:1111p 嶺上牌:赤5s


衣「嶺上開花ドラドラ。5200の一本場は5500」


咲「…オイタが過ぎるとか、どの口が言ったのかな?」ゴゴゴ

衣「随分余裕があるように見えたのでな。自らの領分を冒されれば本気になるかと思って、嶺上牌を使わせてもらった」

咲「…」

衣「続けるぞ」

475: 2015/01/18(日) 13:59:55.34 ID:l1EzRS8s0

久「なにあの子?嶺上牌が見えるわけ?」

照「それはないだろうね。咲の嶺上開花とか連槓での和了りで驚いてたから」

和「では、あの和了りは偶然ですか?嶺上開花に失敗すれば役なしになる愚策を、一か八かで?」

まこ「それよりは天江が化け物って方がまだ納得できるのう」

照「あの和了り自体は狙っていたと思う。けど、天江さんが嶺上開花を狙って出来る条件はかなり限られる。だから、偶然と言ってもいい」

京太郎「えっと…限られるって、具体的な条件は?」


照「咲と同卓していて、咲の手が最終形になった時に捨て牌で槓できること、咲の和了牌が自分の和了牌に全て含まれていること」


久「咲と同卓、これは当然満たしているわね。この条件が意味するのは……咲の手から、咲が認識している嶺上牌を推測しているということかしら?」

照「咲の和了り牌が嶺上牌というのはかなり高い確率だからね。もちろん、連槓前提で二枚目が和了牌というケースもあるけど、
  捨て牌を見る限り順子手っぽいから、今回はそれはないと読んだんじゃないかな」

和「最終形になった時の捨て牌で槓出来る、これは偶然と言っていい程度に低い確率ですね」

照「そう、だから偶然と言ってもいい。そして、咲の和了牌全てが自分の和了牌に含まれていることが必要」

久「そりゃそうよね。咲が2-5索待ちだとして、自分が5-8索待ちだとしたら、嶺上牌が2索だったら空振りだもの」

和「天江さんに咲さんの和了牌が分かるのが大前提なのが癪ですが、嶺上牌が分からなくてもあの和了りは可能なのですね」

久「なにより大事なのは、和了った後で狙い通りって顔をすることよね。ハッタリの基本だわ」

照「多分、今言った程度のことは咲には分かってるから無駄だけどね」

久「他二人には牽制になるでしょ。四人で打つゲームで二人に効果があるならやるべきよ」


まこ「天江が化け物ってことでいいかのう?」

京太郎「いいと思いますよ」

優希「他家の和了り牌が分かるって、手牌覗いてるのと変わんないじぇ…」

476: 2015/01/18(日) 14:01:40.18 ID:l1EzRS8s0

貴子「大明槓直後の嶺上開花による責任払いやら、搶槓やら、一生お目にかかれない奴もいるようなレア物がポンポン出るな」

美穂子「異常過ぎます…華菜は、対子場の偏りや色の偏りぐらいなら、いわゆる『流れに乗る』ような打ち方が出来る打ち手ですが…」

星夏「先鋒もそうでしたけど、槓子がこんなに気軽にポンポン出来るだけでもおかしいですよ…」

未春「どうなってるんですか、これ…悪い夢でも見ているみたいです」

美穂子「…けど、現実よ。そして、今日暴れた7人の魔物のうち、5人は来年も出てくる。引退するのは清澄の先鋒と中堅の二人だけ」

貴子「来年に向けてよーく見とけ。次は化け物だから仕方ねえなんて言って甘くしたりしねえ、こいつらをどうにかできるように鍛えてやる」

星夏「…」

貴子「返事は!?」

「「「は、はいっ!!」」」


『ロン、16000』


美穂子「ああっ!?華菜…」

未春「親番が…よりにもよって直撃で流れた…華菜ちゃん…」

貴子「しかもまた倍満か…池田に恨みでもあるのかこいつは?」

純代「…残り、4100点」

貴子「この面子だ、飛んだら飛んだで仕方ねえ。が、鶴賀も龍門淵も今うちを飛ばしたら負けが決まる。清澄は狙ってくるかもしれねえが、龍門淵の化け物が勝手に抑えてくれるだろ」

477: 2015/01/18(日) 14:02:07.26 ID:l1EzRS8s0

智美「いやいや、これは相当ヤバいんじゃないかー?」

睦月「化け物二人が好き勝手やってますからね。いくら加治木先輩でも対応するのには限度があります」

モモ「いやいや、非常識っすねえ…私は消えると言っても打ち方自体は完全にデジタルなんであの場じゃ何も出来ないっす」

佳織「みんな上手そうだから、真正面から行ってもさっきの沢村さんたちみたいにいなされちゃいそうだなあ…」


『ツモ、2000・4000』


智美「また天江……直撃喰らった風越よりはましだが、親かぶりかー」

睦月「厳しいですね……手も足もでない…」


モモ「…そうっすかね?」


智美「モモ、どういうことだー?」

モモ「…本当に手も足も出ないなら、直撃を喰らってるはずなんすよ。前半のラスト2局、覚えてるっすか?」

佳織「跳満の直撃と……清澄が切らなかったら手が進んだ時に出してた可能性が高い1筒…」

智美「風越から取ると手が縛られる、清澄からは取れない……だからうちを直撃する、か…」

モモ「けど、そうなってない。さっきの直撃は風越だし、今のはツモっす」

睦月「うむ……ということは…」

モモ「…先輩は、奴の目論見を外してるっす。風越に直撃するぐらいだから、天江さんも意外と苦しいんじゃないっすかね?」

智美「さっすがゆみちん、化け物どもの宴に馴染んでるってことか」

モモ「異常な偏りの場で、手牌を覗いても難しいような精度で狙い撃ち…そんな中でも、毎回高い手を作ってるっす。苦しいって言っても、勝負の形にはなってるっすよ」

478: 2015/01/18(日) 14:03:46.50 ID:l1EzRS8s0

東4局 親:衣


ゆみ手牌

1133667788m西北中 ツモ:西

ゆみ(…さて、躱してばかりでは勝ち目はない。天江は前の二局で私を直撃できなかった、迷彩が功を奏しているのだと思いたい)

ゆみ(ここが勝負どころ…)

ゆみ「リーチ」

打:北


――リーチ棒は要らないよ。


ゆみ「」ゾクッ


衣「ロン、対対三暗刻。12000。ようやく網にかかったか」パタン


111444s666p北北中中


衣「一本場」

ゆみ(どちらを切っても掴まっている、か……今回は掌の上だったということだな。
   だが、ツモればその場で逆転優勝の手を潰したとも言える。
   ようやく網にかかったということは、先ほどまでは私を捕えられなかったということ、まだ戦える)

479: 2015/01/18(日) 14:04:16.35 ID:l1EzRS8s0


一「清澄が二枚抱えていてあれを見逃すと純カラだったから、さっき四暗刻を狙わなかったのはいいとして…」

純「…衣のやつ、今度はわざと手を安くしたぞ?」

透華「今度の手は鶴賀を直撃できなそうですから、ツモる気なのでしょう。満貫をツモればそこで敗退、手を下げるのは必然ですわ」

一「てゆうか、これ…」

智紀「故意か、偶然か…」


『ツモ。2000オールの一本場は2100オール』


透華「これはこれは……前半で100点残した清澄との格の違いを見せるかのようですわね」


東4局一本場終了

清澄  169200(+ 2400)
龍門淵 148000(+43800)
風越       0(-24100)
鶴賀   82800(-22100)


480: 2015/01/18(日) 14:04:54.50 ID:l1EzRS8s0

アナウンサー「風越女子が再び瀕氏になった―――!!!」

靖子「しかし、前半のトビ寸前とは状況が違う」

アナウンサー「といいますと?」

靖子「龍門淵と清澄の点差が21200まで詰まった。親の天江は跳満以上ならツモ和了りが出来る」

アナウンサー「前半の状況だと役満をツモっても逆転できませんから完全にツモを封じられていました。
       しかし、今度は親である上に点差が縮んだので、一定の条件、具体的には跳満以上であればツモ和了りが出来ると。なるほど」

靖子「ついでに言うと、常識的には跳満は勝負手だが、天江なら跳満は安手の部類だ。天江にとっての跳満ツモは比較的緩い条件と言える」

481: 2015/01/18(日) 14:05:37.03 ID:l1EzRS8s0

東4局 二本場


咲(跳満ツモなら、そこで逆転終了。風越のトビで今度はこっちが苦しむ番)

華菜(けど、跳満以下ならあたしからの出和了りは出来ない。勝つためには押していくしかない!)

ゆみ(蚊帳の外だな……しかし、ここで天江がうち狙いからツモ狙いに切り替えたはず。これで潮目が変わってくれるといいんだが……)

衣(手こずらせてくれたな、清澄。しかし、それもここまでだ!)


衣手牌

11p12s7888999m白白 ツモ:3s 


衣「リーチ」

打:7m


482: 2015/01/18(日) 14:07:13.06 ID:l1EzRS8s0

アナウンサー「おおっと、天江選手がツモり三暗刻を聴牌! ドラ二枚使いでリーチをかけて、ツモれば跳満確定だー」

靖子「白とドラの1筒、どちらで和了っても1翻つく。ツモればダマでも跳満確定だが…」

アナウンサー「だが…なんですか?」

靖子「リーチをかければ出和了りで三暗刻が消えても親満確定。親満直撃なら清澄を逆転できるし、鶴賀から和了らない理由もない。
   風越から1筒や白がこぼれない限り、リーチは正解だろう。風越から出ない限り、な……」

アナウンサー「えっと…?」

靖子「見てれば分かる。今から起きることを、相手の手牌も覗かずに平然とやってのけるのが、『牌に愛された子』って連中だ」

483: 2015/01/18(日) 14:07:48.04 ID:l1EzRS8s0

衣「さあ、どうする清澄?もはや風越は衣を縛る枷ではない。トビ終了で貴様にトドメを刺す刃へと姿を変えた。
  貴様の手はまだ張ってすらいないはずだ、更に、差し込みで凌ごうにも他家は聴牌していない」


咲手牌

456p568s111m西西西 ツモ:8p


咲「…私一人の打牌で切り抜けるのは不可能な状況。あなたにとっては、この状況は詰みなんだろうね……けど」

打:6p

衣(…聴牌から遠ざかったように感じる……面子を崩したか? 何のために?)


華菜「ち、チーだし!!」

チー:4赤5(6)p


華菜手牌

122233366p西西 チー:4赤5(6)p

打:1p


衣「ぐぬっ!?」

衣(…してやられた……一発も消えている。裏ドラは、ツモる予定の白。裏ドラが白では跳満止まり……ここでこやつを飛ばしても清澄に届かん)

ゆみ「ドラが通るのか、ありがたいな」

打:1p

衣(フリテンで鶴賀からも和了れん。しかも、衣の和了り牌が清澄に……リーチをかけているせいで山越しも出来ない)タン


咲「…何が、枷にならないって言ったっけ?」タン

打:白


衣「清澄、貴様……猪口才な真似を…」

咲「この卓に居るのは、私だけじゃない。最初に言ったはずだよ」


華菜「ツモだし!混一色・西・三暗刻・ドラ1!3200・6200!!」

484: 2015/01/18(日) 14:08:16.63 ID:l1EzRS8s0

【風越控室】


貴子「よくやったぞ池田アアアアアアアア!!!!!!」

美穂子「華菜…」

貴子「見ろ、あの天江の悔しそうな面!お前らの大将がやったんだぞ!」

未春「華菜ちゃん…やった…!」


星夏「でも、流石に、あと南場だけしか残ってない状況では…」

美穂子「…言ってはダメよ、文堂さん。いつも厳しいコーチが、あんなに無理して私たちを励ましてくれてるのだから」

純代「」コクン


貴子「来年に向けて、せめて一発食らわせておいてやらねえとな。これなら次打つ時は勝負になるだろ! なあ吉留?」

未春「はいっ! 華菜ちゃんなら、きっと…」


星夏「…分かってたんですかね、優しくし始めたあたりから」

美穂子「…コーチはプロも数多く輩出した風越のOG会が認めるぐらいの優れた指導者よ。多分、私が負けた時点で、この結果は分かっていたと思うわ」

星夏「…ごめんなさい、キャプテン……私たちがふがいないせいで…」グスッ

美穂子「いいのよ、私自身も歯が立たなかったのだもの。諦めがつくというものだわ」

星夏「キャプテン…キャプテン…」グスッ


貴子「おらっ、何泣いてんだ文堂! まだ終わってねえぞ、一矢報いたぐらいで感動してんじゃねえ!!! その細い目ぇ開いて最後までしっかり見とけ!!!」

485: 2015/01/18(日) 14:08:52.90 ID:l1EzRS8s0

純「おい、やべえぞ…」

一「どうしたのさ、純くん?」

純「今ので、流れが清澄に行った。衣は和了れた手を逃して流れを失った上に、清澄は衣をきっちり嵌めて親を迎えたんだ、当然っちゃ当然だな」

智紀「…衣相手に流れは関係ない。どれだけ流れを引き寄せても、衣の桁外れの力にあっさり押しつぶされる――と、私は純から聞いた」

純「そりゃ俺たちレベルの話だ。同格の相手が打つなら、流れは勝負の行方に大きく影響する」

透華「…清澄の大将は、衣と同格だと?」

純「そりゃそうだろ。見てみろ、衣のあの顔……あんな悔しそうにしてるの初めて見たぜ」

一「ちょっ!? 待って、衣……それは……」


『それ、槓――ツモ。嶺上開花・ドラ3。12000』


透華「衣が……振り込んだ?」

智紀「大明槓の責任払いを振り込みと呼ぶかはともかく、和了れる手で跳満の親かぶりを喰らった直後に親満の直撃……たしかに、悪い流れのように思える」

純「衣は流れなんて関係なく勝って来たから、流れの扱い方を知らねえ……本格的に不味いぞ」

一「普通の人は流れを扱えるかのような誤解を招きかねない言い方はやめてね。そんなの分かるの純くんだけだから」

486: 2015/01/18(日) 14:09:44.94 ID:l1EzRS8s0

まこ「大明槓の責任払いが二度目か……なんなんじゃこの場は」

久「親満直撃、点差は再び安全圏の49200」

照「そして、ここで、忘れちゃいけない人が来る」

和「…咲さんはオリましたね」


『さて、お前たちだけに好き勝手にやらせるほど私は大人ではない。ツモだ。清一色ツモドラ1。4100、8100』


久「引退がかかった夏、あの卓に居る唯一の三年……後半開始からずっと勝負手を作り続けていた勝負師の、執念の和了りね」

照「いくら引退がかかっても、普通の三年はあの卓では何も出来ないと思う。解説の人も言ってるけど、あの人はかなり上手い」

久「解説の人って……多分これからも何度か会うから名前覚えてあげなさい。藤田よ、藤田靖子」

487: 2015/01/18(日) 14:10:15.09 ID:l1EzRS8s0

南二局


衣(風越は清澄の助けで和了れただけなのに勢いづいている。鶴賀は、清澄に気を取られた隙をついて倍満を和了ってみせた)

衣(こやつら、点差と清澄に助けられて少しばかり生きながらえた程度で調子に乗って! 生猪口才!!!)

衣(これを和了ればまた風越が危うくなるが、飛ばす時に勝っていればいいだけのこと! 
  奴は今、9500の点棒を持っている。風越が親とはいえ、倍満ツモの8000までは削って良いのだ!!!)


234赤5678999p白白発 ツモ:白

衣「リーチだ!!!」ダンッ

打:発

衣(面前混一色・白・ドラ1で5翻。リーチ一発ツモに一気通貫がついても倍満。見えている限り、この手に裏は乗らない)

衣(次のツモは5筒だ。この手をツモれば清澄との差は25200、次の局は風越に差し込むなり鶴賀から取るなりして、最後の親があれば容易くまくれる)

488: 2015/01/18(日) 14:11:34.11 ID:l1EzRS8s0

咲「…槓」


111p35789s西西西東東 ツモ:1p

暗槓:1111p 槓ドラ:白


衣「…清澄! また貴様か! 今度は何が狙いだ!?」ギリッ

咲「私一人じゃないよ、さっきも言ったと思うけど、他に二人いる」

衣「何を言うか! 全て貴様の仕業だろうが!!!」

咲「…もう一個、槓」


35789s西西西東東 暗槓:1111p 嶺上牌:西

暗槓:西西西西 槓ドラ2:白 


衣「貴様……!!!」

咲「あなた達にとってはお姉ちゃんがやってるイメージが強いだろうけど―――これ、もともと私の打ち方なんだ」タン

ツモ切り:3m


華菜「二人でなんかやってるとこ悪いけど……槓裏が増えたなら行ってみようか! リーチ!」


222s23337p66677m ツモ:6p

打:2p


衣「ぐぬっ!?」

489: 2015/01/18(日) 14:12:29.11 ID:l1EzRS8s0

照「…決まったね」

久「あなたがそう言うなら決まったんでしょうけど、この局に限った話なのか試合の話なのか、どっち?」

照「試合の方。この局は言うまでもなく完全に詰み」

和「風越を見逃したことで天江さんはフリテン……ツモ和了り以外は封じられました」

照「いや、ツモ和了りもできない」

久「ツモったら確定13翻だもの、風越が飛ぶ。そして、45200点差は子の役満ツモではまくれない。
  この局に関しては、天江さんの和了る道はもうない。聴牌流局を祈るしか、彼女に出来ることはないわ」

まこ「じゃが、ここは凌いでも、まだ天江の親番がある。試合が決まったっちゅうのは気が早いじゃろ?」

久「私もそう思うけど……照が言うんだから決まったんでしょ」


『和了ってるのに……くそおおおおお!!!!』


照「天江さんが自分の和了り牌の5筒をツモ切りした。そして、これが…」


『ロンだし!! リーチ一発タンヤオ三暗刻……裏9! 48000!!!』


照「親の池田さんのリーチに刺さる」

和「…これで点差は9万を超えました。しかし、それでもまだ終わったわけではありません。決まったとはどのような根拠があって…」

照「正直、数え役満は予想外だった。決まったというのは点差の問題じゃない、見てれば分かる」

490: 2015/01/18(日) 14:12:55.81 ID:l1EzRS8s0

純「完全にしてやられたな……頭に血が上ってリーチかけたのが敗着だ。オリるなり回るなり出来れば、衣ならまだわからなかったが……この流れは流石に…」

透華「まだ……まだ終わってはいません!! 最後まで衣を信じて応援を…」


『ツモ、2100、4100』


一「…清澄が満貫ツモ。あと二局で、10万点差…」

智紀「…衣なら、親番一回あれば10万点稼ぐことは可能」

純「万全で、相手が流れを完全につかんだ化け物じゃなければ、衣は逆転すると思うぜ」

透華「なら、最後まで応援しなさい!!!」

純「流れが完全に清澄に向いた状態で、冷静さも失って、相手が自分と同等の化け物だ。流石に衣でも…」

透華「お黙りなさい!!!! 衣は、衣は負けませんわ……絶対に、負けない…」

491: 2015/01/18(日) 14:13:23.96 ID:l1EzRS8s0

『ツモ。4000、8000』


貴子「おー、これが噂の連続和了か……無駄ヅモなしかよ…」

美穂子「…終わりましたかね?」

貴子「そうだな、見極めは大事だ。『この状況なら何とかなる』ってのを見誤って踏みとどまるべき線を超えると、そこで勝負が終わる。無理な状況になる前に手を打て」

美穂子「どこで手を打てば良かったのでしょうか?」

貴子「今年に関して言えば、大会が始まった時点では手遅れだったな。あのレベルの伏兵が二校も出て来たらお手上げだ。
   龍門淵を躱しながら雑魚を仕留めればなんとかなるつもりだったが、完全に当てが外れた」

美穂子「…お役に立てず、申し訳ありません」

貴子「気にすんな、戦力を読み違えたのはコーチであるあたしの責任だ。駒は駒らしく、なんも考えずに目の前の卓での勝利だけ目指してろ」

星夏「ぐすっ…うあ…うああああ…」

貴子「……もう泣いていいぞ。良く頑張ったな、お前ら」

492: 2015/01/18(日) 14:13:49.72 ID:l1EzRS8s0

智美「あー……最後は完全に持っていかれたなー」

モモ「ここまで大差で勝ってもらえれば諦めがつくっすよ。私たちの代表には景気よく勝ってもらって全国で頑張ってもらうっす」

佳織「凄いなあ……まるで、牌があの子を和了らせるために集まってるみたい」

睦月「うむ、我々や風越、龍門淵を倒して全国に行くに相応しい打ち手だ」

智美「ワハハ……で、最後の決め手はこれか」

モモ「こんだけ暴れたんすから、最後は役満以外じゃカッコつかないっすよ」


『ツモ。国士無双。8000、16000』

493: 2015/01/18(日) 14:14:15.48 ID:l1EzRS8s0

アナウンサー「決着―――――!!!!!最後の決め手は国士無双!その役の名の通り、最強の高校が、今、決まりました―――!!」

靖子「…三校とも、最後の瞬間まであきらめずに打っていたがな。
   流れ、というものが存在するなら、あの南二局の二度の槓で宮永がそのすべてを持って行ったのだろう」

アナウンサー「南二局が、勝負の分かれ目ですか?」

靖子「そうだ。互角の力を持った二人の勝負が最後の一局までもつれるなんてことは、実際にはほとんどない。
   東4局二本場、あるいは南二局……いずれかを天江が制していたなら、勝敗は逆になっていただろう」

アナウンサー「互角だったら最後までもつれるのでは?」

靖子「高いレベルだからこそ、僅かなミスで大きな差がつく。互角だからこそ、形勢にはっきり差がついたら覆せない」

アナウンサー「そういうものですか…」

靖子「敗着は、リーチをかけたことだろうな。東4局二本場と、南2局。いずれも自らのリーチが天江を敗北の道に縛りつけた」

アナウンサー「リーチは麻雀において非情に重要かつ強力な役ですが、それが敗着になると?」

靖子「そういうこともある。あとは……風越がトビに近かったことが勝負を分ける最後の局面まで龍門淵の枷になったな。
   この大会のルールでは、トビ終了はそこで試合を終わらせる、リードしている側の最強の盾にして剣だ。
   逆転した瞬間に飛ばせば追う側の武器にもなるが、それは諸刃の剣。その扱いにおいて清澄が一枚上手だった」


大将戦後半終了

清澄  226200(+59400)
龍門淵  53600(-50600)
風越   42400(+18300)
鶴賀   77800(-27100)

494: 2015/01/18(日) 14:14:45.65 ID:l1EzRS8s0

全国高等学校麻雀選手権大会団体戦 長野県予選


【優勝】 

清澄高校

【準優勝】

鶴賀学園


【各区間最多獲得点数(大会通算)】 


【先鋒】

福路美穂子(風越女子)

総獲得点数 52300

【次鋒】

妹尾佳織(鶴賀学園)

総獲得点数 163400

【中堅】

竹井久(清澄高校)

総獲得点数 206900

【副将】

龍門淵透華(龍門淵高校)

総獲得点数 104000

【大将】

宮永咲(清澄高校)

総獲得点数 266300


【MVP】

宮永咲(清澄高校)


【役満和了者】

宮永咲(清澄高校)  決勝戦 国士無双 一回戦 数え役満(リーチ一発清一色三暗刻ドラ3)

津山睦月(鶴賀学園) 決勝戦 国士無双

池田華菜(風越女子) 決勝戦 数え役満(リーチ一発タンヤオ三暗刻ドラ9)

妹尾佳織(鶴賀学園) 二回戦 四暗刻

田中舞(今宮女子)  一回戦 大三元 

永森和子(東福寺)  一回戦 数え役満(タンヤオ対対ドラ10)

495: 2015/01/18(日) 14:26:31.33 ID:l1EzRS8s0
パッと見圧勝に見える点差にしないと全国編で闘牌書くときに詰むので大差になりました。
一回戦あたりまで書き溜めてますが、詰んで大幅削除の展開が見えるのでしばらく更新頻度が落ちます。
次回は一週間後の予定です。

496: 2015/01/18(日) 14:29:01.48 ID:Ppiz0+FGO
乙 凄く面白い

497: 2015/01/18(日) 14:35:27.28 ID:3Xv3ZNkV0


498: 2015/01/18(日) 14:37:31.78 ID:s7qSLa1X0
こう見ると咲さん頭おかしいなwwwwww

506: 2015/01/18(日) 17:23:33.78 ID:l1EzRS8s0
>>505
おっしゃる通り渕ですね。多分今まで書いたの全作間違ってます、これは恥ずかしい。

【咲-Saki-】咲「お姉ちゃんまでプラマイゼロをやりだした」【後編】

引用: 【咲-Saki-】咲「お姉ちゃんまでプラマイゼロをやりだした」