548: ◆jBL8Qe1.Ns 2015/05/11(月) 12:07:05.17 ID:UtIcIrRV0

【咲-Saki-】咲「お姉ちゃんまでプラマイゼロをやりだした」【前編】
【咲-Saki-】咲「お姉ちゃんまでプラマイゼロをやりだした」【後編】
【咲-Saki-】咲「お姉ちゃんまでプラマイゼロをやりだした」2【前編】


穏乃「帰ってきたーぁ」

憧「連泊してるとホームっぽい気分になるよね」

玄「だねー」

灼「……果たしてスイーツとか食べてて良かったのか、ぎもん……」

宥「えへへ、美味しかったよね」

憧「……和、元気そうだったね」

穏乃「うん! 絶対、決勝で和と打つんだ!」

憧「あんた大将でしょ……打てないって」

穏乃「ああっ!? そういえば、和って副将!? 灼さん、代わって!!」

灼「インハイはオーダー変更できな……てゆうか今更すぎ……」

玄「あははは……」
咲-Saki- 24巻 (デジタル版ヤングガンガンコミックス)
549: 2015/05/11(月) 12:07:54.97 ID:UtIcIrRV0

【晴絵・灼部屋】


灼「ただいま……」

晴絵「おー、おかえりー。どうだった?」

灼「手ごたえは、悪くない。あの二人相手でも勝負になってたと思……」

晴絵「そっか……若い奴らは成長が早いな。羨ましいよ」

灼「……明日、勝つから」

晴絵「私が超えられなかった壁、か。気負わなくていいぞ、お前たちはお前たちだから」

灼「……私が、超えたいだけ」

晴絵「……頼もしいな。私と違って、私の教え子は強い、か……」

灼「……はるちゃんは強いよ? 今でも私たちには勝ち越すし」

晴絵「ま、そう言ってもらえるのはありがたいけどな。麻雀の腕じゃないところが強いんだよ、お前たちは」

550: 2015/05/11(月) 12:09:33.22 ID:UtIcIrRV0

【宥・玄部屋】


玄「お姉ちゃん、寒くない?」

宥「だ、大丈夫だよ……玄ちゃんこそ、暑くない?」ブルブル

玄「震えながら言われても……やっぱりエアコン切ろうか?」

宥「でも、それじゃあ玄ちゃんが暑いんじゃ……」

玄「もう慣れたよ。一週間近く一緒の部屋だし」

宥「で、でも……明日は大事な準決勝だし、玄ちゃんはエースだからしっかり休まないと……」

玄「私が負けても、おねーちゃんが取り返してくれれば大丈夫なのです」

宥「……玄ちゃん……でも、やっぱり……」

コンコン

玄「あれ? 誰だろ? はーい!! どうぞー」


ガチャ


憧「……ほら、エアコンのリモコン持って話し込んでる」

穏乃「おお、凄い凄い、なんで分かるの憧?」

憧「そりゃ、この二人ならこうなるでしょ。むしろ初日に気付かなくてごめんね、毛布もらってきたよ宥姉」

穏乃「この時期は余ってるって言ってたので持てるだけ持って来ました!」

玄「え……も、毛布?」

宥「あったかそう……」

憧「玄ってば、自分がサービスする側だったら言われなくても持って来るくせに、客の立場だと融通きかないんだから。はいっ」バサッ

宥「ありがとー、憧ちゃん」

玄「えっと……?」

憧「シズと二人で持てるだけ持ってきたから、流石に足りるでしょ。二人ともちゃんと休んでね」

穏乃「私たちは試合まで時間あるけど、玄さんたちは先鋒と次鋒ですから!」

玄「ふ、二人とも……ありがとう」

551: 2015/05/11(月) 12:10:22.00 ID:UtIcIrRV0

【穏乃・憧部屋】


憧「……ねえ、シズ?」

穏乃「ん? どしたの?」

憧「……明日、勝てるかな?」

穏乃「絶対勝つ」

憧「ふふ、あんたのなんの根拠もない自信が、今はありがたいわ」

穏乃「今日、和と会って、一緒に遊んで、改めて思った」

憧「……何を?」

穏乃「私は、和と一緒に遊びたい。だから、絶対に決勝に行って、和と遊ぶんだ!!」

憧「はあ……そんな理由で全国大会に来てるの、多分あんただけだよ、シズ」

憧(そんなのが、今使える時間全部を麻雀につぎ込む理由になるのも、ね。純粋というか、単純というか……)

穏乃「でも、絶対勝ちたい」

憧「ま、やるだけやったしね。結局、天江さんにも妹尾さんにも、誰も一度も勝てないままだったけど、全員が勝負になる……半荘一回打ち切れるところまで来た」

穏乃「それだと荒川さんや神代さんには勝てないままだけど……個々の力じゃ勝てなくても、総合力で勝てば良い」

憧「あとは、ここまで積み上げたものをぶつけるだけ、だね」

穏乃「和は、絶対上がってくる。だから、うちらが勝てば……」

憧「そうだね、たどり着こう、うちらの代で」


――――県民未踏の、決勝戦へ


552: 2015/05/11(月) 12:11:26.32 ID:UtIcIrRV0

【翌日】


『さてさて、まーた解説しにくい連中が勝ちあがって来たもんだねえ』

『それでも、解説が仕事ですからね。サボらないでくださいよ?』

『しにくいだけで、出来ないとは言ってねーじゃん。ま、そこらへんは信用してほしいねえ』

『……こと麻雀に限っては、あなたに出来ないことがあるとは思ってません。もう一度言いますけど、サボらないでくださいね?』

『およ? ついにデレたかアナウンサー? これはちょっと張り切っちゃおうかね?』

『調子に乗らないでください。選手紹介行きますよ』

『つれないねえ……こっちは準備できてるよ』

553: 2015/05/11(月) 12:12:56.42 ID:UtIcIrRV0

『まずは今大会のダークホース! 阿知賀女子!』

『いやあ、二回戦はお見事だったね。シード校の永水女子を抑えてのまさかの一位通過。それも次鋒で兵庫代表の剱谷を飛ばすオマケつき』

『阿知賀女子は今大会が二度目の出場。初出場だった十年前と同様に、今回も準決勝まで駒を進めてきました。また、前回出場時のエース、赤土晴絵が監督を務めています』

『奈良県代表って決勝まで進んだ記録がないんだよねえ。県民の期待を背負っての準決勝、応援する方も力が入ってるよ。中継つながってる?』

『繋がってません。さて、彼女達はいずれも個人戦に出場せず、本選では先鋒次鋒の早い段階で試合を決めて手の内を見せずに勝ち進んでいます』

『いやあ、解説しにくいったらないね。けど、それが出来るだけの実力、それをやってまで温存する隠し玉があるってことだろ? 要注目だね』


やえ「……眠い」

紀子「何時まで千里山に指導してたの?」

やえ「ついさっきまでだ。次にお前から飛んでくる質問に先読みして答えるが、寝ていない。すまんが巽、濃いめのコーヒーをくれ」

由華「はい!」

日菜「随分熱心なんだね?」

やえ「……特に園城寺なんだが、一巡先を見てからのやり取りなんてものに慣れてるおかげで、色々と筋が良くてな。やる気もあるし、つい、な」

良子「ほどほどになー。お前の解説がないと私にはさっぱりわかんねえだろうからさ、この試合は」

やえ「三尋木プロの解説でも聞いてろ。お前のために解説するほど暇じゃない」

紀子「一応聞くけど、寝ないの?」

やえ「三日ぐらいの完徹は日常茶飯事でな。研究以外での徹夜は初めてだが、何をして徹夜したかで体調が変わるわけでもない」

紀子「で、さっきから書いてるそれは?」

やえ「園城寺の能力が私の打ち方に合わせて進化した場合に、どうなるかを予想している。プロでも私みたいなのはいないだろうし、予想しがいがある。ま、試合が始まるまでの暇つぶしだな」

紀子「……暇をつぶすぐらいなら寝ればいいのに」

やえ「そしたら、お前は私の身体を気遣って起こさないように細工するだろ? この試合、少なくとも先鋒だけは見ておきたい」

紀子「……先鋒戦が終わったら無理やりにでも寝てもらう」

やえ「言われんでも寝るさ。今夜もひよっこどもの世話を焼かないといけないしな。あいつらは先鋒と次鋒なので早めに切り上げるから、質を上げる」

554: 2015/05/11(月) 12:13:57.35 ID:UtIcIrRV0

『続きまして、岩手県代表 宮守女子。初出場ですが、準決勝まで駒を進めて来ました』

『熊倉監督が隠し玉があるって言ってたからねえ……個人的にはあの人が監督してるってだけで危険度MAXなんだよねい』

『二回戦では白糸台に圧倒されていましたが、この準決勝ではどうか? 隠し玉というのを出してくるのでしょうか?』

『二回戦では先鋒はまだまだ力を隠してる感じだったね、荒川さんも全力じゃなかったけど、面子も変わるからちょっと読めないねえ』

『次鋒の留学生、エイスリン=ウィッシュアートも高い和了率を誇ります、鹿倉選手、臼沢選手も守備が固く、穴がありません』

『なにより大将だよねえ。追っかけリーチして一発でロンが一回戦だけで三回、偶然とは思えない。この子が熊倉さんの隠し玉じゃないかと睨んでるよ』


久「照ー、起きなさい、試合始まるわよ?」

照「福路さん、そっちのプリンとって……むにゃむにゃ……」

久「」ブチッ


ゴンッ


照「……痛い、何が起きたの?」ズキズキ

久「おはよう。あなた今、寝ぼけて柱に頭ぶつけたのよ。大丈夫?」

照「……痛い」サスリサスリ


まこ(なんで切れたんじゃあいつは?)

咲(寝言で福路さんの名前呼んだからじゃないですか?)

まこ(タイミングからしてそうじゃが、なんでそれでキレたかじゃ)

咲(それは本人に聞いてもらわないと……)

優希(てゆうか、思いっきり殴っておいて平気な顔で嘘つけるのが凄いじょ)

和(布団の中に全身収まっているのにあの嘘を信じる照さんもどうかと思います……)

555: 2015/05/11(月) 12:16:13.90 ID:UtIcIrRV0

『麻雀王国九州の最後の生き残り、鹿児島県代表 第四シードの永水女子の登場です』

『いやー、九州って言うと向こう側がねえ。あの三校から一校しか準決に行けないとか世知辛いねえ』

『昨年度はインターハイ四位、春の大会では中堅までを石戸、薄墨、神代の三人のエースで埋める戦略でことごとく他校を飛ばしての大躍進』

『どうせ飛ばすならそのオーダーが一番強いね。ま、しかし、春は白糸台に稼ぎ負けたから夏はオーダーを変えたんだね』

『神代選手は地区大会で20万点を超える得点を記録しています、まさに全国でも屈指のトップエース。二回戦では松実選手の後塵を拝する結果になりましたが……』

『いやー、二回戦のあれは全力じゃないっしょ、知らんけど。あそこで全開だったら多分先鋒で終わって次鋒の打ち方が見れてない。本人の思惑は知らんけど、チームとしては目先のトップ通過より先の試合へ向けた情報戦を優先したんじゃないかと思うよ』


煌「いやはや、九州七県も生き残りは鹿児島永水のみですか」

仁美「ぐぬぬ……永水より先に消えたのだけは我慢ならん」

哩「負けたもんは仕方なかろ、切り替えんとな」

美子「哩は個人戦があっからそんなことが言えっと。私らは団体が終わったら終わりばい」

姫子「……すみません」シュン

煌「あなたと部長には個人戦で頑張っていただきたいですね」

哩「ほら美子、姫子が責任感じとーやろ」

美子「うー……姫子ば盾にするのはずるかよ」

556: 2015/05/11(月) 12:17:24.19 ID:UtIcIrRV0

『そして、この高校の登場です!! 西東京代表 白糸台高校――!! 下馬評どおり、二回戦を圧倒的な強さで勝ちあがって来ました――!!』

『昨年度優勝校、全国のオーダーを変えさせるほどの影響力を持つ、今年のインターハイの中心だねえ』

『五人全員が全国どこでも通用するエース級!! 中でも、個人戦王者の荒川憩と三年の弘世菫のコンビは脅威の一言に尽きます』

『いやあ、個人的には中堅の渋谷さんとか注目してるんだけどねえ。あの火力はあたし好みだよ』

『さて、このカード、特に荒川選手と神代選手、更に松実選手が戦う先鋒戦に最も注目が集まると思いますが、展開をどう読みますか?』

『さっぱりわかんねー。やってみなくちゃわかんねーっしょ、この子らは。いや、これ割とマジで』


透華「原村和、一緒に試合を観戦しませんこと?」

咲「あの……ごらんのとおり、私たちはテレビで観戦してるんですけど」

純「ここじゃ狭いしな。俺たちの部屋に来いよ、広いし、透華が色々持ち込んでるから快適だぜ?」

久「私と照はこっちで見てるわ。大きい画面って落ち着かないのよね」

照「……眠い」

透華「咲、あなたは来ますわよね?」

咲「……京ちゃんが一緒に来るなら」

京太郎「なんで俺?」

咲「帰り道が分からないし……」

京太郎「お前という奴は……仕方ねえな」

和「私は、こちらの方が落ち着きますね」

透華「ぬぐっ……で、では、私もこちらで観戦させていただきますわ! 純、咲達を案内なさい!!」

純「なにが『では』なんだ……まあいいけどよ」

まこ「騒がしいのが来たのお……」

優希「ぐー、ぐー……」スヤスヤ

557: 2015/05/11(月) 12:19:09.39 ID:UtIcIrRV0

恒子「うっは、針生さんクソ真面目」

健夜「あれが普通だからね!? こーこちゃんは見習った方がいいよ」

恒子「あー、うちも準決の実況解説したいー」

健夜「私は休める方がいいけど……」

恒子「アラフォーだからって精神まで老け込むのはどうかと思うよ?」

健夜「アラサーだよっ!!」

恒子「てゆうかさ、どうせ決勝の解説のために試合は見るし、私らだと素で実況解説と同じ会話するわけじゃん? なら仕事してお金もらえる方が良くない?」

健夜「……それ、普段の実況を素でやってるってことになるけど、いいの?」

恒子「え? うん」

健夜「そこは否定してよアナウンサー!? ちなみに私の解説はちゃんと仕事としてやってるからね!?」

558: 2015/05/11(月) 12:20:01.85 ID:UtIcIrRV0

玄「では……行ってまいります!!」

宥「玄ちゃんふぁいとー」

憧「玄、ガンバ」

玄「お任せあれ!!」

559: 2015/05/11(月) 12:21:07.56 ID:UtIcIrRV0

玄(……昨日、結局天江さんには一度も勝てなかった。妹尾さんにも……)

玄(なのに、今日の相手には、天江さんと同格と言われる人が二人いる)

玄(お任せあれ、なんて言っちゃったけど……正直、自信はない)


コツ……コツ……


玄(あ、誰か来る。ここを通るってことは先鋒戦の相手かな?)


小蒔「あ、松実さん、今日もよろしくお願いします」ペコリ


玄「は、はい……」

小蒔「先日の闘牌は、お見事でした。あなたのような相手と出会えたことを嬉しく思います」ニコッ

玄「い、いえ、それほどでも」

小蒔「ただ、今日は、あなたにとって辛い試合になるかもしれません。私自身にも制御が出来ない力なのでご容赦願います」

玄(これ、前回は手加減してましたって宣言ってことでいいのかな? 分かってはいたけど、改めて言われると気が滅入るなあ……)

小蒔「それに、今日は、前回の私など及びもつかない強者とまみえることになります」

玄「……荒川さん、ですね?(「前回の」ってことは、やっぱり手加減してたんだ……)」

小蒔「卓外では菩薩のような笑顔を振りまく彼女も、ひとたび卓につけば鬼神の類に化けます。くれぐれも油断なされぬよう」

玄「は、はい……(それをあなたが言っても自己紹介にしか聞こえないのです)」

小蒔「……」テクテク

玄「……」

玄(忠告が済んだらこれ以上話すことはない、か。そうだよね、これから四校のうち二校しか進めない決勝の椅子、たった二つの椅子を奪い合う関係だもんね)

560: 2015/05/11(月) 12:22:06.59 ID:UtIcIrRV0

憩「あ、小蒔ちゃん、今日も巫女服おしゃれやなー」

小蒔「憩さん……毎回それですけど、他に褒めるところはないんですか?」

憩「他は褒められ慣れとるやろ、顔はかわいいし、胸は大きいし、気品はあるし、麻雀強いし、そしたら誰も褒めなそうなとこ褒めたいやん?」

小蒔「胸と麻雀以外はあまり言われたことがないですが……あと、胸の話はやめて下さい」

憩「マジか、普通に顔褒めてええんか……うちとしたことが好感度上げ損ねたわ」


玄「……はい?」キョトン


憩「お、そっちは松実さんですね。二回戦見ましたよーぅ。うちは全力で行きますけど、お手柔らかにー」

玄「あ、ど、どうも……って、それハンデ戦じゃないですか!? お断りなのです!!」

憩「あはは、冗談やって。いやー、こんな楽しそうな面子で打てるの久々ですわ。うちとまともに打てる相手は大抵顔見知りやし」

小蒔「あの……顔見知りだとダメなんですか?」

憩「色々手の内読めるからワクワク感がないやん。小蒔ちゃんは毎回打ち方変わるから顔見知りでも全然オッケーやけど」

小蒔「ご機嫌取りをしても何も出ませんよ?」

憩「奥の手とか出してくれると嬉しいんやけど、それもダメ?」

小蒔「……それがお望みなら、期待に応えられるかもしれませんね」

561: 2015/05/11(月) 12:23:03.69 ID:UtIcIrRV0

?「なんか三人で盛り上がってる……ダルい」

憩「あ、小瀬川さん。今日は本気で打ってもらいますよーぅ?」

白望「だるいけど、手加減する余裕もないから本気は出す。勝てる気はあんまりしないけど」

小蒔「……憩さんが気にかけているということは、油断ならない方のようですね」ニコッ

玄(……な、なんだろう、思ってたのと違う……もっとライバル同士で重たい沈黙とか、その中で静かに散る火花とかがあるものだと……)

玄(てゆうか、さっき廊下で私にした忠告はなんなんですか神代さん? あなたが一番荒川さんのペースに飲まれてるじゃないですか!?)

憩「一昨日の様子からして小瀬川さんは開始ギリギリに来ると思ってましたけど、早いんですね?」

白望「たまには早く行けって塞が……ダルい」

憩「じゃ、ちゃちゃっと場決めしましょーぅ」

白望「早く来てダルいから時間までだらけたい……」

憩「そんなこと言わんで下さいよーぅ」

562: 2015/05/11(月) 12:30:19.48 ID:UtIcIrRV0

『えっと……随分和やかですね、対局室』

『んー? 対局前は基本あんなもんじゃね? 私とか瑞原さんとかもああいう感じだよ』

『インハイの準決勝でも、ですか?』

『もち。てゆうか、トッププロは誰とでも打ち解けるぐらい社交的な雰囲気か、じゃなければ人付き合いが下手の二択が基本だよ』

『えっと……何か理由が?』

『いや、分かるっしょ? 一回麻雀打ったら二度と口きいてもらえないからね。それをフォローするか、同類同士、麻雀だけで繋がった下手な付き合いするかしかないんだよ』

『そりゃ、大人になれば他の付き合いもあるし、ボッコボコにしても気にしない変なのにも出会えるけどね。麻雀特待で進学したら麻雀部が人間関係のメインだから、そうなるんだよ』

『……え?』

『普通はまともに打てる相手以外との人付き合いを諦める、そうじゃない奴は対局中の恐怖を補って余りあるぐらいに社交的、それがあたしらトッププロ』

『えっと……』

『あたしは一人だと寂しくて氏んじゃうからね、無理にでも社交的になるしかないのさ。手加減も覚えて、今じゃ指導対局もそつなくこなすよ』

『(こないだ指導対局って言って飛ばされたんですけど)最後に同意しかねる発言がありましたが……華やかなようで、トッププロの皆様も苦労されてるんですね』

『あははは、大沼さんとかまともに会話するのも大変だからねー、あたしらぐらいの代だと麻雀ブームでお仲間も多かったし、大した苦労はしてないよ。知らんけど』

563: 2015/05/11(月) 12:31:04.01 ID:UtIcIrRV0

起家 玄「よろしくお願いします」

南家 白望「よろしく」

西家 小蒔「……」スヤスヤ

北家 憩「……みなさん準備は出来とるみたいやな。始めましょか」

564: 2015/05/11(月) 12:31:40.06 ID:UtIcIrRV0

東一局 ドラ:中


玄(……天江さんもそうだけど、トップクラスの選手は一局目で様子見をすることが多い)

玄(ここは何としても様子見のここで倍満以上に仕上げて有利に運びたい……幸いなことに翻牌のドラ、和了るのに苦労はしないのです)

玄(……って、あれ?)


玄配牌

24赤59m3赤58s14赤5赤5p東 ツモ:北


玄「……え?」

565: 2015/05/11(月) 12:32:43.67 ID:UtIcIrRV0

やえ「……二回戦はやはり6番目、リスクを避けるかとも思ったが、予定通りの七番目か、結果から察するに、松実より上らしい」

良子「おい、今お前が言った言葉が一つも理解できねえぞ。どういうことだやえ?」

紀子「徹夜してる人間に無理をさせない。私と由華が答える」


由華「まず、六番目とか七番目というのは神代さんの能力ですよね。9通りの能力が決まったローテーションで出てくるというのが先輩の仮説です」

紀子「そして、七番目の能力は、赤ドラに作用しないことを除いて松実とほぼ同じ。独占ではなくドラの引き寄せらしいけど、効果が強力過ぎて起きる事象は独占と大差ない」

由華「同種の能力がぶつかり合って負けた場合、神代さんがなんの能力もない状態で打つことになりますから、リスクを避けるというのはそれですね」

紀子「ということ、理解した?」


良子「なんでお前らは神代の能力を知ってるんだ?」

日菜「良子ちゃんが寝てただけで、神代さんの能力については何度もミーティングで話した内容だよ」

567: 2015/05/11(月) 12:34:20.47 ID:UtIcIrRV0

衣「ほう……やるな、クロのドラを奪うとは。衣ですら後に槓ドラになる牌を奪うのがせいぜいだったというのに」

咲「えっと……松実さんの能力を詳しく知らないんだけど、そういうことでいいのかな?」

純「ああ、ドラの独占だ、後に槓ドラになる牌を含めてな」

京太郎「ちなみに、それ、俺たちに話していいんですか? コーチしたから知ってるのは良いとしても、対戦相手に話すのは不味いでしょう?」


智紀「ラーメン六杯と彼女達五人の能力の情報が昨日のコーチ料の対価。問題ない」


咲「足元見すぎじゃないですか!? ラーメン六杯って聞いたときは逆に安いと思いましたけど、それ込みだとまた話が違うよ!?」

純「そもそもこっちは麻雀好きが麻雀打つだけの完全ノーリスクだしな。衣は面白い相手が居るって聞いたらタダでも飛んで行っただろうし」

智紀「妹尾さんにも、特殊な打ち手との経験を積ませたがっていた。よく、この自分たちにメリットしかない交換で更にラーメン六杯を吹っかけたと思う」

純「交渉役は加治木さんだろ? やっぱあの人すげえわ。その場にいたわけじゃねえけど、自信満々に『もう一声ほしいな』とか言ってるのが目に浮かぶぜ」

咲「まあ、衣ちゃんと妹尾さんなら、次の相手を考えれば喉から手が出るほど欲しいコーチではあるけど……本当に随分と足元見たね」

京太郎「あの人相手に交渉事はしちゃいけないってのだけはわかった」

咲「部長は対等の条件を引き出したりしてるけどね」

純「あのひとはあのひとで交渉持ちかけちゃいけねえ相手だろ。今日の透華なんか明らかに有利な条件出してるのに一蹴されてたぞ」

智紀「ちなみに、何故、透華抜きであなた達だけがこっちに?」

咲「原村さんはお姉ちゃんにご執心、お姉ちゃんは部長に手綱握られてるから、透華さんのお目当てが原村さんなら勝ち目ないよね」

智紀「理解した、やる前から負けの見えた戦だったらしい」

568: 2015/05/11(月) 12:35:10.77 ID:UtIcIrRV0

ゆみ「くしゅんっ!」

モモ「風邪っすか?」

佳織「夏風邪を加治木先輩が引くとは思えないけど……」

睦月「うむ」

ゆみ「そんな迷信を信じるな。少し冷えすぎだな、設定温度を上げるか」

モモ「了解っす」

ゆみ「蒲原は流石に寝てるか。徹夜で課題を終わらせたらしいからな」

佳織「加治木先輩は寝ないんですか?」

ゆみ「『らしい』と言っただろう? 私は寝ていたよ、分からないところを聞きに来ることもなかった」

モモ「ちなみに、課題は終わってたんすか?」

ゆみ「正誤は見ていないが、それなりに考えて解いてある風の解答で指定された範囲まで終わっていたな」

佳織「ちゃんと勉強の成果も出てるんですね」

ゆみ「出てもらわないと困る、ようやく高校一年の内容に入ったところなんだからな。とはいえ、中学レベルから基礎を固めに固めたのが生きて来たな」

569: 2015/05/11(月) 12:36:07.70 ID:UtIcIrRV0

玄(おかしい……ドラの中が来ないのもそうだけど、河に見えてない牌がもうほとんどない)

玄(でも、河に見えてない牌で私が持ってる牌が一枚もない。なにこれ? どうなってるの?)

玄(こんなこと、今まで一度もなかった……私、どうすればいいの?)


小蒔「……槓」


槓:中中中中 槓ドラ:1s


玄「……え?」


小蒔「もう一つ、槓」


槓:1111s 槓ドラ:西


玄「うそ……それ、私の……」ゾワッ


小蒔「……ツモ。8000・16000」


23477s西西 暗槓:中中中中 1111s ツモ:西 ドラ:中 1s 西


白望「混一色ドラ11で役満……ついでに面前ツモ、嶺上開花、中、西、三暗刻。翻数数えるのダルい……」

憩「青天井ならこれ一発で終わりやなー」

玄(な、なにこれ……なにがどうなってるの!?)

571: 2015/05/11(月) 12:37:02.62 ID:UtIcIrRV0

霞「あらあら、取り乱しちゃって。いつも自分がやってることのはずなのに」クスクス

初美「いつも自分がやってることだからこそですよー」

春「経験者は語る」ポリポリ

巴「はっちゃんは北家の時に東をドラにされたんだっけ?」

初美「ドラ表示牌の北が見えた時は『真っ向勝負だー』ってやる気満々でしたけどー、東は一枚もツモれないままあっさり槓されましたー、人が神にかなうはずもないって思い知らされましたねー」

霞「完全に木偶にされた初美と違って、姫様の引き寄せは赤には及ばないから彼女は赤を引き寄せることが出来ている。だから打つ手はあるけど、ちゃんと対応できるかしら?」

初美「自分のよりどころを根っこからぶち抜かれた人間はそう簡単に立て直せませんよー」

巴「……新道寺の鶴田もそうだったね。まだ対抗できる手は残っていたのに、立て直せないほどの精神的なダメージを受けて何も出来ずに終わってしまった」

春「ドラ独占が赤の独占に変わるだけでも普段とかなり違う打ち方になる。精神的に立て直せても技術的に立て直せないはず」ポリ

霞「ふふふ……小蒔ちゃんは万が一ドラ支配で負けても二度寝で次の切り札があるけど、あの子にはない。分のいい賭けよね」

初美「そもそも、神様の力を使う姫様が、能力をぶつけ合って人間に負けるはずないですー。木偶になった阿知賀をおいしくいただいて、準決勝も楽々通過ですよー」

572: 2015/05/11(月) 12:37:39.18 ID:UtIcIrRV0

東二局 ドラ:4s


玄「……こんなこと、あるはずない」カタカタ


玄(いや、あるのかもしれない……私は、槓やドラの支配が得意じゃない天江さんにすら、ドラを奪われた)

玄(天江さんの本領は、ドラとか槓とかの局所的な戦いじゃなく、海底まで何もさせずに対戦相手三人を支配する、一局全体の支配)

玄(半荘全体なら相手の点数を0点ピッタリにするとかの離れ業もお手の物。三人全員が必氏に抵抗しても卓上全体を易々と支配してみせるのが天江さん)

玄(一局全体、試合全体、卓全体……そんな全体を支配するのが得意な天江さんが、戯れで局所的な勝負を仕掛けて私のドラを奪ってみたのがあの槓)

玄(あれ以降は、普通に……海底はそもそも普通じゃないけど、海底で和了ることを優先し始めて、槓されることはなかった。けど、やろうと思えばできたはず)

玄(そして、天江さんと同格と言われる神代さんが、私と同じ能力を使った……天江さんと同格の人のテリトリーで勝負すれば、今の私が勝てる道理はない)

玄(なら、これは勝負に負けた当然の結果なのです)


玄(私は、何度も負けて来た。天江さんに、妹尾さんに、小走さんに……負けるのは慣れっこ!!)

玄(そりゃ、一番大事にしてたドラまで奪われるのは、いくらなんでもショックだけど……)

玄(まだ、赤は来てくれてる!! 戦えないわけじゃない!!)

573: 2015/05/11(月) 12:38:41.51 ID:UtIcIrRV0

久「あれの直後でこの表情? ドラが奪われたぐらい大したことないってことかしら?」

和「……玄さんに限ってそれはあり得ません。リーチをかけてる時にドラをツモったら、山を崩すぐらいのことは平気でやりかねない人です」

久「……そう。ならきっと強いのね、彼女は」

照「神代さんがあまりに酷すぎて目が覚めた。びっくりした」

まこ「普通のドラは全部取られたが、赤は来るんじゃな?」

和「神代さんも、手作りに時間がかかりそうなので対処は出来そうですね」

まこ「しかし、松実の奴……切り札のドラ爆を逆に自分が喰らう立場っちゅうのは辛いの」

透華「とは言いますが、赤が集まるだけの能力の方が私は打ちやすいですわ」

まこ「照さんと咲の見立てだとドラを切るとドラが来なくなるらしいから、赤が必ず入るとなると染め手が出来ん、わしは遠慮したいのう」

透華「赤四枚で四翻……純チャンや面前混一色などの三翻を上回る火力が常に約束されているのですから、手役が限られるなど些細なことですわ」


優希「むにゃむにゃ……きょーたろー、あのタコスをとってきてほしいじょ……」スヤスヤ


久「心が折れてないのは結構。けど、あの子、ちゃんと対応できるかしら? 強力な能力には、それに合った打ち方が要求されるわよ?」

照「多分、基本の牌効率ぐらいは分かってると思うし、動揺してなければ普通に手作りする技術はあると思う」

和「赤は使いやすい牌です。基本が出来ているなら打ち方に苦労することはまずないでしょう」

574: 2015/05/11(月) 12:39:15.59 ID:UtIcIrRV0

憩「ツモ。リーチ一発ツモ、ドラ1。2000、4000」パタン


35s123789p88m北北北 ツモ:4s


玄「……え?」ゾワッ


小蒔「……」

白望「ツモばっか……ダル」

575: 2015/05/11(月) 12:40:11.38 ID:UtIcIrRV0

憧「ちょおーっと待てーい!!!」


穏乃「うわっ!? どしたの憧?」

灼「玄は諦めてない、荒川の能力も小走さんから聞いた通りだし、まだいける」

宥「う、うん……神代さんの能力でドラはとられちゃったけど、赤はあるし、むしろ普段より和了率は上げられるはずだよ」


憧「みんな、ホントに気付いてないの!? どう考えたって今のヤバいでしょ!?」

晴絵「……ここまでとはな。あれが常時発動するのか。流石インターハイチャンピオンというか、化け物というか……全然違うけど嫌なもん思い出した」


穏乃「赤土先生まで……どういうことですか?」

憧「わかんない? 玄のドラが奪われる以上のことが起きてるんだよ、今、目の前で!」

宥「ふえ? どういうこと……」

晴絵「神代の能力があっても、玄の力は消えてない。ただ、神代の力が強すぎて玄が独占出来てないだけだ。多分、5の数牌がドラなら赤も持って行かれるな」

灼「うん、それはわか……あ!?」

晴絵「つまり、あの場には、玄以上に強くドラを支配している化け物がいる」

宥「あっ……!? ……だとしたら、とんでもないことになってる?」

憧「そうだよ宥姉。本当にとんでもないのが居たもんだわ。あれが、全国一万人の頂点か……」


穏乃「だから、どういうことなんだよ憧、分かるように説明して!」

576: 2015/05/11(月) 12:40:52.21 ID:UtIcIrRV0

憧「シズ、神代さんがとんでもない化け物なのは分かる?」

穏乃「そりゃ、さっき玄さんに赤以外のドラが一枚も来なかった時に散々驚いたから分かってるよ」

憧「少なくとも、ドラに関しては玄が手も足も出ないぐらいの力を使う化け物が神代さんなわけ」

穏乃「だからそれは分かってるってば!」

憧「……じゃあさ、その神代さんからドラを奪って和了りに使った荒川さんのヤバさ、わかんない?」

穏乃「…………?」

憧「……シズ、大丈夫? 頭から煙出したりしないでよ? 荒川さんがドラで和了ったの、分かるよね?」

穏乃「…………」

憧「おーい、シズー?」

穏乃「……あ」

憧「……『あ』?」


穏乃「ああ―――――!!!? どうなってんの憧!? なんで神代さんからドラ奪ってるのあの人!?」


憧「遅っ!?」

577: 2015/05/11(月) 12:42:13.19 ID:UtIcIrRV0

照「なにあの卓? 化け物の見本市でも開いてるの? 松実さんだけでも十分すぎるぐらいおかしいのに」

久「あんたの発言が全て自分を棚上げしてるのは昨日の清水谷さんの件で証明されたから、何を言っても驚かないわよ?」

透華「松実玄のドラ独占を崩すのは、満月ではないとはいえ、夜の衣がひと苦労するとのこと。しかも、一部を崩すのが精いっぱいと聞きました」

まこ「……それをぶち抜いてドラを持って行っとる化けもんがおるのう。しかも二人」

照「同じ能力がぶつかり合ったら、大抵の場合、効果は半々になる。強さが同等なら松実さんに二枚、神代さんに二枚のドラが入るはず」

久「神代さんは全部持って行ってるけど?」

照「それは、松実さんとは比べ物にならないぐらい強い力でドラを引き寄せてるからだろうね」

まこ「おいおい……天江が苦労してちびっと崩すのがやっとの能力と比べて、比較にならんほど上ってか?」

久「……それは大した化け物ね、照を先鋒にして本当に良かったわ」

照「少しは私が負ける心配をしてほしいのだけど……」

久「で、荒川さんがドラをツモって和了ったわね。さっき言った神代さんの強力な力をあっさり打ち破って」

照「まさかの無視!? え? 本当にアレ見てもまだ私が勝てると思ってる!?」

和「当たり前でしょう。あなた自分が誰だと思ってるんですか?」

透華「となると、あの場では衣ですら手を出せないほどの強力な能力の応酬が繰り広げられているわけですね?」

照「その通り……って、龍門渕さんも、天江さんでもどうにもできないほどの事態を目の当たりにしてる割に反応が薄いね?」

透華「ドラを独占するだの、その独占を崩すだの、些事に過ぎませんもの。独占を崩せないとしても、衣があの場に居れば試合に負ける気はしません」

照「まあ、確かにそうなんだけど……もう少し驚いてほしい」

和「昨日の試合であれだけ狼少年みたいなことをしておいて何を今更」

まこ「結局、コンボも破ったし、最善の手順が見えてる相手も力技で潰しおったからのう」

照「それやったの咲だし……」

久「どうせあんたも出来るでしょ。さて、試合見るわよ」

照「なんだか扱いが酷い気がする……」


優希「じごーじとくだじょー……このいぬめー……」グーグー


照「片岡さんの寝言にまで酷い扱いを受けている……」

578: 2015/05/11(月) 12:43:47.74 ID:UtIcIrRV0

東四局 1本場 ドラ:8m


玄(あっという間に満貫、5200、親満の三連続和了……どうすればいいの、このひと? リーチしたら一発でツモるし、牌譜通りならズラしても和了るし……)

小蒔「……」

白望「……」

憩(さーて、小蒔ちゃんは射程圏。二位に五万差のいつものノルマ、小蒔ちゃん相手には厳しいと思っとったけど、いけるかもなー)

憩(一発は大きいけど、役満といえど所詮満貫四回分、リーチ一発ツモでほぼ毎回満貫を和了るうちからしたら、手数で十分追いつける範囲)

憩(今回は大物。しかも四巡で決まってまうでー。頑張ってな、みんなー)


憩手牌(配牌)

12s136p1379m東東北白発 

打:白

579: 2015/05/11(月) 12:44:35.10 ID:UtIcIrRV0

次巡

12s136p1379m東東北発 ツモ:3s

打:北

――

次巡

123s136p1379m東東発 ツモ:2p

打:発

――

次巡

123s1236p1379m東東 ツモ:2m

憩「リーチ」

打:6p


玄(早すぎる……こんなのどうしようもない)

白望(……ズラしても無駄、荒川さんのツモを飛ばし続けて他の誰かが和了るしか彼女の和了りを防ぐ方法がない。それはダルいどころじゃなくて無理)

580: 2015/05/11(月) 12:45:24.94 ID:UtIcIrRV0

咲「なんであんな酷い配牌に怯えなきゃいけないんだか……」

京太郎「実際酷い配牌だよな? さっきからツモが神がかってるけど」

衣「ふむ、奴とは一度手合せしたいな。楽しめそうだ」

智紀「……カンチャンとペンチャンを次巡で100%埋める。単純明快ゆえに、能力自体は数局の牌譜を見ただけで誰の目にも明らか」

純「制約らしきものは一切なし、副次的な能力もない。能力以外の部分の運は多分人並み程度だ」

咲「ただし、単純な能力だけど、100%っていうのがあまりに異常過ぎてどうしようもない」

智紀「そう。能力は分かる、けど、対策が何もない。ゆえに、彼女の能力は誰も議題に上げない」

咲「私やお姉ちゃんなら向こうが和了る前に和了れるけど……手が高くなったり向こうの配牌が良かったりするとすると怪しいね。火力だと負けそうだし」

智紀「ペンチャンやカンチャンが多い配牌だと手におえない、両面が多いと多少ましになる。ただし、それでも人並みに有効牌をツモるから厳しい」

581: 2015/05/11(月) 12:50:11.29 ID:UtIcIrRV0

やえ「3567や3334555なんかの35もカンチャンとして認識するからな、あいつは。対策は奴のツモを飛ばすことのみ」

日菜「孤立牌でもペンチャンかカンチャンになれば確実に面子が完成するから実質的には両面塔子みたいなもの、牌効率が異常に良いんだよね」

由華「あいつにかかると147s258p1359m東東北西みたいなクズ手が私の普通の手と等価値ぐらいですからね」

良子「ただの孤立牌が両面塔子と等価とかマジで卑怯だろ……」

やえ「まあ、確実に面子になるとはいえ、二枚のどちらかをツモってから面子になるまで二巡かかるから両面待ちと完全に等価とは言えないがな」

日菜「と言っても、どの数牌にもペンチャンかカンチャンになる組み合わせは二通りある。そうなると待ちは両面と同じ8枚だし、等価みたいなものだよ」

由華「しかも、両面塔子は二枚使いますから6組しか持てませんけど、数牌の孤立牌は最大9枚持てます。その分受け入れも広くなります」

良子「タチが悪いのは、能力がわかってても止められねえってことだな。調べれば調べるほど、対策が何もないってことだけが分かる」

紀子「そして、そういう対策のしようがない相手はやえの最も苦手とするところ」

やえ「ほっとくと高目を軽々ツモる愛宕や江口を更に手に負えなくした生き物だからな。ああいうのはあっち側同士で潰しあいをしてもらうしかない」

良子「去年、やえは荒川と辻垣内の卓に入ってたな。酷い目に遭ってたが」

やえ「タチの悪いことに、荒川は全て自力でツモるから私の介入を受け付けない。荒川と辻垣内以外和了れないような卓だから辻垣内のフォローに徹するわけだが……」

紀子「それでも荒川は止まらないと」

やえ「しかも、辻垣内の奴はサポートした恩を私の親番での倍満ツモとかいうこれ以上ない仇で返すし……おかげさまで東場でトビ終了だ、思い出したくもない」

紀子「ニライカナイ……」ボソ

やえ「思い出させるなと言ってるだろうが!! 脇二人が木偶でなければ……むしろあいつが居る時こそ荒川と当ればまだ勝ち目が……」


『リーチ一発ツモ、チャンタ、三色、ドラ1。8100オール』


やえ「しかし、この展開は不味いな……私に勝ったんだから松実には踏ん張ってもらいたいものだが」

582: 2015/05/11(月) 12:50:45.63 ID:UtIcIrRV0

『圧倒的―――!! これがミスインターハイ 荒川憩――!!』

『いやあ、二年後に手合せするのが今から楽しみだねぃ』

『彼女の闘牌の特徴は有名ですよね』

『ああ、ペンチャン、カンチャン、いわゆる悪形を埋める。いや、【治す】のかねー、あれは』

『治す……ですか?』

『そ。えりちゃん、囲碁か将棋は出来るかい?』

『囲碁ならそれなりに……』

『石の繋がりの中で弱いところをキズって言わない?』

『えっと……切れる部分などですか? キズというと、氏活問題などで「白の形にキズがある」とか、そういう言い方はよく目にしますけど』

『それを麻雀に持ち込んで、悪形とか弱い部分を傷(キズ)と認識する。なら、それを【治す】って認識も出来るんじゃないかね。知らんけど』

『荒川選手は、プライベートで病院のボランティアスタッフをしているそうです。それと何かしら関係が?』

『いや知らんし。ところで、囲碁打てるなら今度打とうよ。麻雀ほどは強くねーから安心だぜ?』

『あなたの強くないとか手加減するという言葉はあてにならないんですよね……コホン。放送中ですから、そのお話は後で伺います』

『囲碁はホントに強くないって、初段もないよ。ちなみに、あとって、五分後ぐらいでいい?』

『放送が終わってからに決まってるでしょう!! まったく、あなたという人は……』


605: 2015/05/18(月) 14:14:58.46 ID:DHIhakrE0


東四局 2本場 ドラ:3m


憩(さっきの倍満で逆転。さて、今回は……まあ、そうそうツキは続かんわな)


19s1488p2478m東北西西


憩(ま、小蒔ちゃんのドラ一枚喰いとれるだけでも大きいな。理屈はわからんけど、あれ、一回は槓せんとダメっぽいし、その槓もいつも最初に見えてるドラや)

憩(てことでこの局、配牌が悪いからうちの足は遅い、小蒔ちゃんもうちにドラ一枚喰われて遅くなるか、下手すると和了れんはず)

憩(と言っても、カンチャンペンチャンが出来たら確実に埋まるし、両面は普通に確率通りツモる。うちの速度は通常の倍以上)

憩(こんな配牌からでも、10巡あたりがデッドラインや。お二人さん、うちと小蒔ちゃんの足が止まるこの局で動かんと、なんも出来んまま氏ぬで?)

憩(点差も、こんな感じやしな)ポチッ


白糸台 141500
永水  115300
阿知賀  68600
宮守   74600


606: 2015/05/18(月) 14:16:54.58 ID:DHIhakrE0

咲「荒川さん、速度も異常だけど、カンチャンやペンチャン待ちなら完全役なしからでもリーチ一発ツモで最低4000にしてくるんだよね」

衣「あの場だからその程度だが、普通はドラや裏ドラもある。何せほぼ毎回リーチするのだ、裏ドラの期待値もかなりのものだろう」

智紀「役が一つでもつけばほぼ満貫。倍満の手作りをするぐらいなら次でもう一度満貫を和了ればいいというスタンスだけど、それでも平均打点は一万を超える」

純「流石はインターハイチャンピオン。7割を超える和了率だけ見ても十分化け物なのに打点も高いと……衣と同格とか言われるだけはある」

京太郎「和了率7割オーバーで平均打点一万って、流石におかしいでしょ!?」

咲「今更だよね。怪物ひしめくインターハイで個人戦優勝、団体でもエース区間で二位に対して半荘一回につき5万点差のノルマをこなし続けるインハイ史上最強クラスのモンスターだよ?」

衣「衣も去年は和了率7割で平均打点2万弱だぞ。相手に恵まれはしたが」

咲「あ、私も個人戦では和了率9割超えたよ。平均打点は一万行かなかったけど」


京太郎「もうやだこいつら……」


純「ばっかお前、俺たちがいるだろ?」

智紀「私たちはそんな頭のおかしい数字は出さない」


京太郎「い、井上さん……沢村さん……」ウルッ


智紀「私の和了率は三割を少し超える程度。並みの数字と言えなくもない」

純「俺もそんなもんだ。安心しろ」

京太郎「いや、十分高いような……」

純「まあ、一応全国ベスト8チームのメンバーだしな」

智紀「本当の平均と比較して高い数字になるのは仕方ない」

京太郎「こいつらを信じた俺が馬鹿だった……」

咲「むしろリアルな数字で現実的な差を感じるから、私みたいな現実感のない数字の方がマシな気がしない?」

京太郎「いやそれはない」

咲「うぐっ……」

607: 2015/05/18(月) 14:18:03.94 ID:DHIhakrE0

玄(荒川さんが三巡目でツモ切りした……多分、この局はそこまで早くないんだ)

玄(荒川さんの隙らしい隙と言えば、能力を除いた運の部分は普通の選手ってところ。普通の両面は普通の確率でしかツモれないし、出来たら確実に埋まるとはいえ、カンチャンやペンチャンにしてもそれを作るまでは確率通り)

玄(それから、ツモった方が高いから、リーチした場合でもアタリ牌を見逃すことがある)

玄(まあ、見逃す場合は一発でツモるからそれがどうしたって感じだけど。両面待ちではリーチをかけないのも隙と言えば隙かな、逆に厄介だけど)

玄(運は並程度……今回はきっと、配牌が悪くて手が遅いんだ)

玄(先手を取れば、荒川さんはカンチャンかペンチャンで聴牌してる時以外は通常のデジタルの判断でオリを選択することが多い)

玄(ここは、何としても先手を取らないといけないわけで)


玄手牌

34赤5s34赤5赤5p4赤5m北北北発 ツモ:2p


玄(では、行きましょう)

玄「リーチ!!」

打:発

608: 2015/05/18(月) 14:18:57.37 ID:DHIhakrE0

やえ「何をやってる松実!? 自分の力を相手にしているのを忘れたのか?」

紀子「……東一局から異常続きで動揺している。自分の手を仕上げただけでも上出来、周りを見渡す余裕が持てるとは思えない」

由華「けど、やっちゃいましたねこのリーチは」

良子「いや、3萬はドラだから仕方ないとして、6萬待ちリーチでもいいんじゃねえか? 3萬がドラな時点で三色は元々無理なんだし」

紀子「……良子があそこに居たらなすすべもなく飛んで終わることが判明した」

日菜「良子ちゃん、河に見えてない牌」

良子「あ、そうか……槓ドラか」

やえ「6萬は神代が3枚持っている。ほぼ間違いなく槓ドラだ。それは松実からは見えていないにしても、6萬が槓ドラである可能性を考えていない迂闊なリーチだな」

紀子「これで松実の手は氏んだ。ここで神代が和了ると辛い」

やえ「和了るとしたら、赤抜きで打った松実と同様に確実に役満だろうからな。ゲームオーバーだ」

良子「今の点差で神代に役満をツモられたら完全に荒川と神代の一騎打ちになるな。蚊帳の外で削られてそのまま終わりか、良くて次鋒が弘世に仕留められる展開がみえる」

やえ「それよりは荒川の親が続く方がマシだが、出来ればもう一人になんとかしてもらいたいな」

609: 2015/05/18(月) 14:19:42.49 ID:DHIhakrE0

白望「ちょいタンマ」

憩「どうぞー」


白望手牌

234678s24m23478p ツモ:8s


玄(小瀬川さんの小考……これが出たらほとんど確実に和了る上に、手が高くなる……だっけ? 和了れない場合は鳴かせたりして大物手を回避する)

玄(私のリーチの直後、嫌なタイミングだなあ……ちょっと状況を整理しよう)

玄(……荒川さんはさっきもツモ切り、まだ余裕はありそう)

玄(そういえば神代さんは……あっ!?)ゾワッ

玄(あ、あわわわわ……6萬が河に見えてない!? これ、もしかしてやっちゃった!?)

憩(松実さん、河見てめっちゃ動揺しとるなー、おそらく槓ドラ候補待ちのリーチ、小蒔ちゃんが全部持ってくからシャボと単騎はあり得ん。慌てようから察するに、完全に氏んどる3-6萬あたりやな?)


白望「……変だけど、これで」

打:2m

憩(小瀬川さん……この巡目にドラ周りが出てくるってことは、小蒔ちゃんとか松実さんの能力、宮守では完全に解析できてないんやろな)

憩(けど、分かってなくても迷った末に正解にたどり着く、ええな、めっちゃええよ小瀬川さん)

610: 2015/05/18(月) 14:20:48.57 ID:DHIhakrE0

白望「ツモ。リーチ・ツモ・タンヤオ・ピンフ・一盃口。2200、4200」パタン


23467788s44m234p ツモ:6s


玄「……」ホッ

憩(松実さん、うちの親が続くとか小蒔ちゃんが役満和了るのに比べたらだいぶましやけど……ほっとしとる場合と違いますよ?)


玄(……危なかった、動揺して河を見落としてたのです。一つのミスが命取り、ミスしなくても飛ばされかねない。ここはそういう卓)

玄(今の一局は小瀬川さんに助けられた。そんな幸運は続かない……しっかりしなきゃ)

玄(天江さんや妹尾さん相手に今みたいな打牌をしてたら南場まで行けない。事実、25000持ちならとっくに終わってる)

玄(昨日の特訓を無駄にしちゃダメ。ここから立て直さないと!)


憩(……って、言わんでも分かっとるみたいやな。さて、うちもノルマがあるから手加減はしませんよーぅ?)

611: 2015/05/18(月) 14:22:22.24 ID:DHIhakrE0

南一局 親:玄 ドラ:1p


玄(落ち着こう。小走さんに教えてもらった私の力、それをちゃんと思い出すんだ)

玄(……小走さんが言ってた私の能力の隠れたメリット、それは34種の牌の中にいくつかの地雷が仕込めること)

玄(絶対にツモれない牌、しかも、それが分かるのも巡目が遅くなってから)

玄(例えば、ドラと槓ドラが4索、8索、2萬、6筒、南なんて組み合わせだったとして……これが絶対にツモれないというのは他家にとって大きな負担になる)

玄(特に、三色を積極的に狙う上級者だと、高確率で三色に使う9種の中のどれかが地雷になってるから苦しめられる)

玄(自分はドラを集めて槓すればいい、他家は見えない地雷を探りながらの手作りを強いられる。小走さん曰く、私は能力をちゃんと使いこなせば速度でも有利)

玄(……敵に回すと本当に厄介だね。けど、私は小走さんに対策を仕込まれてる)

玄(相手がどういう手を打って来るか、それを知れば自分がどう打つべきかも見えてくる。対策を教えてもらったのはそんな理由だった。まさか対策をそのまま使う日が来るとはね)


玄「ツモ。面前ツモ・タンヤオ・ドラ4。6000オール」


234赤5赤5888p赤567s赤55m ツモ:5m


憩(ほうほう、赤は松実さんとこに行くんやな。小蒔ちゃんの手にはなかったし一枚も見えてないしで多分そうやとは思っとったけど、ようやく手を開けて確認させてくれたな)

白望(赤4……こっちはさっきからドラも赤も一枚も来ないのに……ダルい)

玄(1枚でも自分のところに来た牌はドラじゃない。順子での手作りよりは縦に伸ばして手作りする方が地雷を気にせずに済む。これが対策その一)

玄(親での跳満、まだまだマイナスだけど、すこしは形勢を立て直せたはず……ここから仕切り直し!)

612: 2015/05/18(月) 14:23:26.44 ID:DHIhakrE0

貴子「……なるほど、ドラと槓ドラが絶対にツモれないから、横に伸ばすと高確率で手が氏ぬわけか、今のはそれを念頭に置いた打ち方。自分の能力だけあってよくわかってるじゃねえか」

美穂子「自分の能力の対策も怠らない、ドラを集める能力以上に、その柔軟さと能力を奪われても折れないメンタルの強さが脅威かもしれませんね」

星夏「この人が来年も出てくるわけですか……神代さんと荒川さんもですけど」

純代「……」

一「まあ、松実さんの相手をするのは純くんの予定だけどね。文堂さんが心配する必要はないんじゃないかな?」

貴子「言ってろ、ほえ面かかせてやる」

一「あはは、ボクたちより清澄の対策をした方が良いんじゃないかな? 何なら手を組むのもありだね」

貴子「手を組んだとしても代表は一校だけだからどっかで出し抜く必要がある。そしたら最後に天江が出てくるお前らが有利じゃねえか、却下だ」

一「残念、バレたか」

美穂子「もう、国広さんはどこまで本気なんだか……」

ハギヨシ「一、客人に無礼はいけませんよ?」

貴子「構わない。あの化け物どもの対策で気が遠くなってたところだ。軽口を叩いてる間は気が紛れるから、むしろ助かる」

一「だから僕らが相手するから県外の相手の対策は要らないって。てゆうか、長野予選が抜けられる戦力があったら多分どうにかなるよ」

貴子「まだ言うかこいつは……しかしその通りだな。県予選を抜けるってことは宮永と天江をどうにか出来るってことだ」

一「まあ、うちは咲に衣をぶつけて真っ向勝負するだけなんだけどね。それに、見たところ荒川さんは運……つまり流れの影響を受けるらしい。なら、純くんがある程度はどうにかするでしょ」

貴子「鶴賀も妹尾が居るからな……そこまでのリードなんか消し飛ぶだろうから大将戦で三つ巴の中に無理やり割り込むしかないんだろうが、あいつら相手に池田に期待しすぎるのもなあ……」

美穂子「吉留さんが居たら、『華菜ちゃんなら大丈夫ですよ』と言いそうですね」

星夏「あー、言いそうですね……池田先輩たち、今どうしてるでしょう?」

613: 2015/05/18(月) 14:24:05.61 ID:DHIhakrE0

南一局一本場 ドラ:3p


憩「ツモ。1100・2100」パタン

24567m345s66789p ツモ:3m


玄(速い……)

白望(うーん……キツイなあ。ドラも来ないし、逆転手を作るのもしんどい)

614: 2015/05/18(月) 14:26:26.03 ID:DHIhakrE0

やえ「ふむ、断言はできないが、通常のドラに関しても松実の能力はまだ生きてるようだな」

紀子「……え?」

由華「あの、流石に意味が分かりません。ドラは一枚も松実さんの手に入ってないですよね?」

やえ「裏ドラだ。ここまでめくった裏ドラが、一枚も小瀬川に入っていない。おそらくだが、さっきの松実の8筒や5萬も裏ドラだったんじゃないか?」

紀子「……松実の能力は、ドラの【独占】。たとえ自分が使わなくても他家に入ることはない」

やえ「神代の場合、例えば四暗刻四槓子で二枚余ったドラは他家が使うことも出来るし、手牌に使わない裏ドラは普通に他家に乗る。これが【独占】と【引き寄せ】の違いだな」

やえ「ちなみに、ざっと見たところでは荒川の奴もペンチャンやカンチャンで引いた以外では裏ドラを手に入れていない」

日菜「表示牌が上手く被ってくれたとしても、地雷候補の表示牌は最低10枚、なにが起きても3種は地雷になるんだね」

由華「いえ、10枚開けて3種だとすると表示牌で一種枯れるから地雷は最低4種ですね。他にも、残り一枚しかない実質地雷みたいな牌が2種出来ます」

やえ「松実の場合、大抵は表と裏で表示牌が被るんだがな。神代が表ドラを引き寄せる影響でおかしなことになってるのかもしれない」

紀子「普通に打てば和了るまでに役満が確定するから実戦ではめったに裏までめくらないけど、実験ではほとんどの場合に真下ではないにしろ。表ドラと裏ドラが被っていた」

やえ「神代が引き寄せて5種がほぼ枯れる、松実の裏ドラが表とズレて更に何種かが絶対にツモれないとなると……嫌な卓だな。小瀬川に同情するよ」

紀子「字牌ならまだしも、数牌で6種7種とツモれなくなったら麻雀にならない」

由華「一色で367とか止められたらもう順子は作れませんからね。そしたらその色の数牌は字牌と同じになります」

良子「しかも、自分以外の奴らは平気でツモるから独占されてることにも気付けないのか。小瀬川にとっては本当に最悪だな」

615: 2015/05/18(月) 14:27:11.25 ID:DHIhakrE0

南二局


憩「ツモ。面前ツモ、タンヤオ、平和。700、1300」


234456m34s22567p ツモ:5s


玄(両面待ちではリーチしない、か。普通に考えたらおかしいんだけど、この場だとツモれない牌があるからそれもセオリー通り。と言っても、荒川さんは普段からこうだけど)

玄(カンチャンに変化してからリーチした方が確実に和了れるし、一発ツモがついて高くなるからね)

616: 2015/05/18(月) 14:28:06.04 ID:DHIhakrE0

霞「それにしても、あの子は本当にどうなってるのかしら?」

初美「あの子ってどれですかー? あの卓はおかしいのばっかりですよー」

巴「あれだけのことがあったのにもう立て直してる阿知賀、姫様達の中でまともに勝負が出来ている宮守」

春「なにより、姫様からドラを奪ってる荒川さん」ポリ

霞「荒川さんに決まってるでしょ。一体どうなってるのかしら?」

初美「あの化け物は今更ですよー。あれは人間じゃないですー、姫様の土俵に上がって普通に勝負できる奴が人間のわけねーですー」

巴「はっちゃん、自分が姫様に手も足も出なかったからってその言い方は……」

春「でも、あれは実際に異常そのもの」ポリ

霞「それに、巴も言ったけど、阿知賀が思ったより崩れてこないわね。どうしようかしら?」

巴「次鋒以降の選手は阿知賀も宮守も得体が知れませんからね。何か手は打った方が良いかもしれません」

617: 2015/05/18(月) 14:28:45.97 ID:DHIhakrE0

南三局 ドラ:2m


白望「ちょいタンマ」

玄(……うーん、うちが二位ならともかく、三位の状態で宮守があんまり沈むと後が辛い。喜ぶべきかな?)

白望「……決めた、変だけど、これで」

打:3m


玄(変と言いますが、この場だとセオリー自体が変だったりするわけで……)

618: 2015/05/18(月) 14:29:58.88 ID:DHIhakrE0

白望「ツモ」


11199m北北 ポン:白白白 東東東 ツモ:9m


白望「3000・6000」


玄(あれから4萬、6萬、8萬と落としてこの形……多分、ただの混一色から縦に伸ばす手に移行したんだ。それは多分正解だし、この場ではそれがセオリー)

玄(単騎やシャボ待ちなら、地雷だらけのこの場でもリーチがかけられる。小走さんの私への対策……つまりセオリー通りの打牌)

玄(多分、直感で打ってるんだよね。小走さんの対策通りの打ち方を。これはなかなかのなかなかなのです)


憩(さて、南四局、親番や。この親で稼がんとな)

619: 2015/05/18(月) 14:30:56.49 ID:DHIhakrE0

久「下が平たくなってきたおかげで白糸台が一校だけ浮いてるわね。やっぱり荒川憩は頭一つ抜けてるってことかしら?」

透華「阿知賀がふがいないですわね。衣と勝負になって来たというのは虚言でしたの?」

照「神代さんがあんなことになってたから仕方ない」

和「というか、神代さんが大人しいですね。いえ、ドラを独占している時点でおとなしくもなんともないのですが」

優希「状況がよくわからないじぇ……なんで龍門渕のお嬢様がここにいるんだじょ?」

透華「そのような些事にこだわっては大成しませんわよ?」

優希「そして、咲ちゃんと京太郎はどこ行ったんだじょ? おトイレか?」

まこ「成り行きで龍門渕の部屋で観戦することになったんじゃ。向こうには天江と沢村と井上がおるんじゃったか?」

透華「ええ、不自由はないはずですわ」

優希「二人で出かけただと!? な、何故あの二人を止めなかったんだじょ!?」

透華「止めるも何も、私は原村和と宮永咲を迎えに来たわけですし」

優希「迎えに来たならなんでまだここに居るんだじょ!?」

透華「うぐっ!? そ、それは……」チラッ

久「色々あるのよ。ねえ?」チラッ

透華「そ、そうです! 竹井さんの言うように、色々と事情があるのです!」

和「あの、何故ふたりしてこっちを見るんですか?」


照「……須賀君が居ないとお菓子をくれる人がいない。寂しい」

まこ「それは京太郎全く関係のおて、単にお菓子が欲しいだけじゃな。まったく……ほれ」

照「おお……天使が居る……」

まこ「一箱しか用意しとらんけえ、ゆっくり食べんさい」

照「おかわり」モグモグ

まこ「言ったそばから平らげたじゃと!?」

620: 2015/05/18(月) 14:31:37.63 ID:DHIhakrE0

南四局 


憩「リーチ」

玄(だから、早すぎますってば!)

白望(だる……今からじゃ止まらないだろうしなあ……)

小蒔「……」

憩「ツモ、4000オール」


13s123p123567m北北 ツモ:2s


玄(うう……)

憩「一本場入りますー」

621: 2015/05/18(月) 14:32:20.56 ID:DHIhakrE0

南四局 一本場 ドラ:北


憩(和了りやめがあればさっきので終わりにしとるんやけどなあ……五万差ついたし)


憩配牌

147m2s45678p東西西南南


憩(字牌のドラはペンチャンにもカンチャンにもならんから喰いとることも出来ん。先に和了ろうにも今回は手が遅い)

憩(ま、なるようにしかならんか。萬子はなにツモってもオッケーな好形、筒子も三面張、場風牌の対子まであって遅いってのも贅沢な話や)


打:2s


憩(さて、誰がどんな手を見せてくれる? このままうちの連荘で全員飛んで終わりってことはないやろ?)

622: 2015/05/18(月) 14:33:07.34 ID:DHIhakrE0

塞「100%の確率でリーチ一発ツモとか、あんなのどうしろってのよ!! インチキよインチキ!!」

豊音「荒川さんちょーすごいよー。サインほしいよー」

エイスリン「イチマンニンノ、チョウテン」

胡桃「てゆうか、シロってば話聞いてなかったでしょあれ」

トシ「永水の子の能力は9通りあるからダルいって言って聞かなかったけど、阿知賀の子のは説明したはずなんだけどねえ」

エイスリン「シロ、オキテルフリ、トクイ」

塞「つまり、寝てやがったわけね。後で折檻してやるわ」

胡桃「シロは対策知らなくても勝手に正解ルート通るから、そこまでしなくても……」

トシ「それにしたって対策出来てた方が良いんだけど、困ったもんだねえ……」

豊音「それより神代さんがちょー凄いことになってるよー」

塞「うげっ!?」

トシ「どうやら、前半はこれで決まりかねえ。後半もこの点差になるとちょっと苦しいねえ」

エイスリン「ワタシ、ガンバル!」

塞「まあ、手薄な次鋒にエースを持って来てるオーダーなわけだから、頑張ってもらわないと困るけど……」

623: 2015/05/18(月) 14:34:01.47 ID:DHIhakrE0

小蒔手牌

1115888m白白白 暗槓:北北北北 ツモ(嶺上牌):1m


小蒔「槓」

槓:1111m 槓ドラ:8m 嶺上牌:8m


憩(あっちゃー、こらダメやなー)


小蒔「槓」

槓:8888m 槓ドラ:白 嶺上牌:白


玄(寒気が止まらない……敵に回すと本当に嫌な相手だけど、私も赤なしだとこんな感じなのかな?)


小蒔「槓」

槓:白白白白 槓ドラ:5m 嶺上牌:5m


白望(四暗刻四槓子確定。単騎だから全部が危険牌。もう現物以外切れない……まあ、切る必要なさそうだけど)


小蒔「ツモ」


5m 暗槓:北北北北 1111m 8888m 白白白白 嶺上牌:5m ドラ:北 1m 8m 白 5m


小蒔「8100、16100」

624: 2015/05/18(月) 14:34:37.64 ID:DHIhakrE0

『神代選手の二度目の役満――――!!』

『流石のあたしもアレには降参だね。四暗刻だから関係ないけど、数えたら何翻あるか分かったもんじゃない。数えでダブル行けるっしょ多分』

『とはいえ、インターハイのルールにダブル以上の役満はありませんので、通常の役満として扱われます』

『役満二回も衝撃だけどさ、半荘一回で役満二回和了られても、それを凌いでトップ取ってる子が居るんだよねえ』

『インターハイの頂点 荒川憩、その王座は二度の役満にも揺るがず!! しかし、これは―――』

625: 2015/05/18(月) 14:35:17.31 ID:DHIhakrE0

菫「……なるほど、神代小蒔か。大したものだ」

淡「むー……ケイのライバルは私なのに―」

尭深「淡ちゃんの発言は置いといて、手を抜いたりはしてないよね?」

誠子「むしろどうやって手を抜くんだよ、あいつの力で手抜きも何もないだろ」

菫「二位との差が3600……あいつ自身が課したものだから別に達成できなくても何があるわけでもないが」

淡「初めてノルマを阻止するのはわたしの予定だったのに……」

誠子「いや、おまえは同じ学校だろ」

尭深「校内戦で別チームになる気なら、私たちは憩ちゃんにつくからね?」

淡「なっ!? た、タカミの裏切り者ー!」

菫「その場合、最初に虎姫に弓を引いてるのはお前だろうが。さて、どうしたものか……」

626: 2015/05/18(月) 14:37:17.40 ID:DHIhakrE0

やえ「これは松実の手柄だな。本来なら神代の七番目の能力で荒川がここまで競られることはない」

紀子「どういうこと?」

やえ「ペンチャンカンチャンになれば絶対にツモる荒川だが、それを作るまでは並の打ち手だ。そこで松実が枷になる」

紀子「なるほど、そういう……」

日菜「ごめん、私まだわかってない」

やえ「そうだな、分かりやすい例を出そう。ある色の牌が367と絶対にツモれないとする。ペンチャンとカンチャンは何通り作れる?」

由華「12、24、89の三通りです」

やえ「速いな、そして正解。ペンチャンやカンチャンを作る段階で制約がかかっているわけだな」

良子「おお、確かに」

日菜「普通なら12、13、24、35、46、57、68、79、89の九通りあるのに、さっきの例だとそれが三通りしかなくなるんだね」

やえ「神代だけ、あるいは松実だけを相手にするならツモれないのは34種のうちの5種。字牌にも散るから荒川なら大した制約にはならない」

紀子「しかし、二人同時に相手をして、表と裏がズレるというイレギュラーが起こると無視できない」

由華「神代さんのせいで最低五種、松実さんのせいで更に何種かの【絶対にツモれない牌】があって、しかもドラ表示牌で隣の数字が薄くなる」

良子「一色で三種四種と枯れたりツモりにくくなるのが珍しくないわけだな。小瀬川にとっても最悪だが、それは荒川にも無視できない負担になっていたと」

日菜「能力以外の運は並、普通の打ち手が苦しむ状況では荒川さんも同じように苦しむことになるんだね」

紀子「苦しくなってもアレの速度は通常の倍以上、おそらく三倍前後。打点も然り。普通なら多少の不利はものともせずに圧勝する」

由華「けど、相手が神代だった。流石にハンデ付きで勝てるほど楽な相手じゃないと、そういうわけですね」

やえ「本来、荒川の手はあんなに遅くない。十三不塔の配牌からでもあっさり和了るような生き物だ。9種9牌でも流すより続行して面子手を和了る方が期待値が高い」

やえ「まあ、当人は今の段階では『今回は運が悪い』ぐらいにしか思ってないだろうが、その運の悪さには理由があるわけだな」

紀子「やえの不運と違って、荒川の不運には理由がある」

やえ「ぐっ……ま、まあ、そういうことだ」

627: 2015/05/18(月) 14:37:49.26 ID:DHIhakrE0

先鋒戦前半終了


白糸台 131200
永水  127600
阿知賀  65500
宮守   75700

628: 2015/05/18(月) 14:38:37.50 ID:DHIhakrE0

和「玄さん……」

久「シードの二校が競り合いながら下二校に大差をつけているけど、まだ前半が終わっただけ」

透華「厳しいですわね。単純にこの点差が倍になるとしたら、その時点でほとんど勝負が決まってしまいますわ」

照「あの二人の相手するのやだから阿知賀と宮守には是非頑張ってほしい。最低でも永水だけはどうにかしてもらいたい」

まこ「白糸台は抜けて来るとして、もう一校……照さんが嫌と言い出すほどの相手か、これは決まりかのう?」

和「そんな……何とかならないんですか照さん!?」

照「……なぜ今のセリフで原村さんのその反応になるのか理解に苦しむ」

久「阿知賀と宮守はとにかく先鋒を凌がないとね。荒川憩と神代小蒔相手に勝つのは流石に無理でしょうし」

透華「あの二人相手に真っ向勝負を挑むなら照さんか咲か衣をぶつけないと話になりませんわね」

照「あの二人に潰しあいをさせようにも、二人とも基本的にツモ和了りするから辛い。私パスで」

久「残念ながら、うちの先鋒はあなたなのよねえ」

照「阿知賀と宮守頑張って、超頑張って」

629: 2015/05/18(月) 14:39:37.19 ID:DHIhakrE0

優希「ところで、次鋒以降は勝てるのかじょ?」

久「阿知賀は何とかなるんじゃないかしら? 全員が衣相手に半荘一回打ち切れたって言ってたし」

透華「宮守も、次鋒がエースのような節がありますわね。大将も衣が気にかけていましたから期待できるのではないかしら?」

照「おお、希望が持てる情報」

まこ「永水の薄墨と石戸も春大会の大暴れの立役者じゃが?」

和「というか、白糸台は荒川さんがどうしても目立ちますけど、五人全員がエース格という評判です」

久「あら、前途多難ね。先鋒を乗り切ってもチーム虎姫は五人全員が虎、永水も切り札を残している、か」

透華「その前に、まず先鋒を乗り切りませんと。先の障害のことは目の前の障害を乗り越えてからですわ」

654: 2015/05/26(火) 18:54:28.24 ID:+anrAEfj0

監督「多分、ペンチャンカンチャンを『作る』段階で邪魔されて手が遅くなってるわね。後半は気を付けて」

憩「あ~……なるほど、松実さんと小蒔ちゃんの合わせ技で効果二倍ってことか。やけに手が遅いと思っとったんですわ。道理で」

淡「えっと……ごめん、タカミ、解説して?」

尭深「ごめん、わたしも分かってない」

誠子「弘世先輩、分かります?」

菫「神代と松実は裏も含めてドラをすべて持って行くからな。憩がペンチャンやカンチャンを作るのに必要な数牌を奴らが押さえてしまうということじゃないか?」

尭深「ああ、なるほど。45みたいに連続した牌を抑えられたらカンチャンがそもそも作れないわけですね。道理で憩ちゃんの手が進まないわけです」

監督「神代が八番目を持って来る可能性もある、気を付けて」

憩「了解です、ほな、後半はきっちり勝って来ますんで」

655: 2015/05/26(火) 18:55:07.82 ID:+anrAEfj0

玄「うう……ごめんなさい……」

晴絵「いや、あれだけのことがあったのに良く持ちこたえたよ。流石、阿知賀のエースだ」

憧「てゆうか相手が悪すぎだって。良くやってる方でしょ」

宥「だ、大丈夫だよ玄ちゃん、私がなんとかするから……」ブルブル

灼「うちの次鋒は宥さんだし、宮守も次鋒が強いから、後半を凌ぎさえすれば次鋒で立て直せるとおも……」

晴絵「動揺してのミスはあったが、ここまではいい感じだ。この調子で行ってくれ」

玄「は、はい!!」

656: 2015/05/26(火) 18:55:53.55 ID:+anrAEfj0

白望「ダルい……」

塞「ダルい、じゃないわよ!? また監督の話聞いてなかったでしょ!?」

白望「荒川さんは聞いても無駄だし、神代さんはどれが出て来るかわからないし」

塞「阿知賀の松実! あいつが居る卓ではドラは絶対ツモれないって言ったでしょ!!」

白望「あ」

豊音「シロ、普通にドラカンチャン待ちの三色を狙ってたよー」

胡桃「まあまあ、それを修正すればもっといい勝負出来るってことだから」

トシ「そういうことだね。分かったかい、シロ?」

白望「変な打ち方するのダルい……とりあえず分かった」

657: 2015/05/26(火) 18:56:55.48 ID:+anrAEfj0

小蒔「……あれ?」

霞「どうしたの?」

小蒔「何があったんですか? 憩さんが、七番目の神様相手にここまで競られるはずが……」

初美「私をボッコボコにした七番目の神様を持ってして姫様のこの発言、改めて荒川憩が人間じゃないと思い知らされますねー」

春「見てた限りでは、特に変わったことはなかった。というか、変わったことしかなかったから何かあったとしてもどれが原因か分からない」ポリ

巴「思ったよりも阿知賀と宮守が善戦していました。そのせいで荒川さんが予定ほど稼げなかったのでは?」

小蒔「むー……憩さんがその程度で止まるとは思えないのですが」

初美「姫様のアレへの入れ込みも困ったもんですよー。ぶっちゃけ七番目に対抗できる時点でまともな人間じゃねーですー」

春「それに対抗できる人間二人と七番目を降ろした姫様本人の三人がかりでどうにもならない生き物を人間とは認めたくない」ポリポリ

巴「そういうことです。そして、それは逆に言えば、あの二人は荒川憩を止められるほどの相手ということ」

霞「荒川さんを止めようとしてるうちはいいけど、こっちに牙を向けるようなら厄介よ。油断しないでね」

658: 2015/05/26(火) 18:57:34.73 ID:+anrAEfj0

『後半戦のポイントなど、何かありますか?』

『とりあえず点差だね。先鋒戦で終わりってわけじゃないんだから、負けてる方は次鋒以降で逆転しなきゃいけないわけだし、勝ってる方は盤石なリードを作りたい』

『そのラインはどれぐらいでしょうか?』

『そりゃ後のメンバー次第だよ。次鋒以降に荒川さんみたいな子が居るなら10万差でも余裕で許容範囲だし、先鋒がエースなら3万差でもキツイ』

『次鋒以降のメンバーからある程度推測できませんか?』

『いやー、あの子らどいつもこいつも飛ばして終わらせてるから全力で打った場合の実力が未知数なんだよね。まあ、とりあえず上二校と下二校の差が10万開いたらアウトってことで』

『10万点という数字の根拠は?』

『常識。いや、だってあの子らホントにわかんねーし。常識的に考えてアウトなラインでとりあえず見とけばいいんじゃないかねえ、知らんけど』

『まあ、そうなりますか。他に見どころはありますか?』

『そうだねえ、四人全員が満貫跳満ぐらいは当たり前の高火力型だから、派手に試合が動くと思うよ』

659: 2015/05/26(火) 18:58:46.46 ID:+anrAEfj0

怜「アカン、めっちゃ眠い……」

セーラ「無理せんと寝たらええやん」

怜「いや、当たるかもしれん相手は直接見ておきたい。先鋒戦終わったら寝る」

竜華「怜、無理したらアカンよ?」

怜「無理せんと話にならんやろ。私が荒川に勝ってるとこなんか一個もないんやから」

浩子「まあ、リーチ一発ツモが標準装備ですからね、あれは」

怜「しかも、私と違ってズレてもお構いなしやからな」

浩子「リーチ一発ツモで火力は同等、園城寺先輩と比べて和了率が倍以上ですから、純粋に上位互換ですね」

怜「あ、けど、今の高校生で唯一、私だけはあの一発ツモを止められるかもしれんって小走さんが言うとったで」

浩子「へ? ああ、そうか、なるほど。いくらあれがインチキでも確定した牌の並びを変えられるはずないしな」

怜「とはいえ、私の未来視はあくまで『私が見る』だけやから、実際の牌の並びを観測したわけやない。せやからダメかもしれんとも言ってた」

浩子「まあ、荒川はアレに関してはホンマに人外ですからね。極端な話、五枚目をツモったとしても荒川なら納得します」

660: 2015/05/26(火) 18:59:32.26 ID:+anrAEfj0

起家 憩「ん? 起きてもうたんか小蒔ちゃん?」

北家 小蒔「あ、はい。おはようございます」

憩「対策して来たのに無駄になってもうたなー。まあ、それでもまだ松実さんがおるから多少は影響が残るやろうけど」

小蒔「あ、やはりなにかあったんですね? 憩さんがそんな簡単に止まるはずがありません」

憩「止めた本人に言われてもなあ……」

西家 玄「お待たせしました」

憩「まだ来とらんお人がおるから大丈夫やでー」

玄「えっと……? あ、小瀬川さんがまだですか」

小蒔「道に迷ったのでしょうか?」

憩「いやいやそんな、うちの監督じゃあるまいし。迷うのは打牌だけやろ」


南家 白望「ドラ無し麻雀とかダルい……対策覚えて来た」


憩「ん? あれ? 宮守でもそのへん分析出来とるんですか?」

白望「……うちの監督、誰だと思う?」

憩「ああ、言われてみれば。じゃあ前半のアレは? 普通にドラ待って手作りしてたように見えましたけど?」

白望「……忘れてた」

憩「あははっ、忘れてたて、やっぱ小瀬川さんおもろいなー」

661: 2015/05/26(火) 19:00:32.11 ID:+anrAEfj0

東一局


憩「ロン、2900」

34567s345m22345p ロン:2s


小蒔「あうっ」

玄(リャンカンチャンが必ず三面張になるのも荒川さんの強み。そして、普通なら即リーの三面張でもダマなのが荒川さん)

白望(早いなあ……前半より早くない? たまたまかな?)

玄(リーチするのは一発でツモれるときだけ。あらゆる状況を突破する最強の矛を持っているからこそ、放銃率ほぼゼロの鉄壁の守備と最強クラスの攻撃が両立する)

玄(そして、しれっと私の槓ドラ候補の四萬を持って行ってる……神代さんの力が無くなってドラが来るようにはなったけど、荒川さんはやっぱり規格外)

憩(さっきのままなら、滅多にやらん縦に伸ばす手ってのをやるいい機会やと思ったんやけど、松実さん一人なら横に伸ばしてもあっさり突破出来てまうなー)

憩(そして、起きとる小蒔ちゃんは並の打ち手に過ぎん)

憩(ちょっと残念やけど、ここはインハイの準決勝。楽しむことよりきっちり勝つことが優先やな)

662: 2015/05/26(火) 19:01:18.92 ID:+anrAEfj0

東一局一本場  ドラ:北


玄(五巡目……槓ドラ候補もある程度絞れてきた。赤を使った面子も両面待ちで悪くない形)


赤56m赤5赤567p北北北西西発発 ツモ:中 


玄(槓ドラ候補は切ってもリスクがない。いや、無いわけじゃないけど、赤を使い切らなきゃいけない私は槓ドラを全て集めるわけにもいかない。槓ドラ候補はいずれ切る)

打:中


憩「リーチ」

打:東


玄(って、もうリーチ? 早すぎる……これが平常運転とか、反則だよお)

663: 2015/05/26(火) 19:02:19.37 ID:+anrAEfj0

やえ「あれは本来こういう生き物だ。前半は松実と神代のおかげで足止めが出来ていたが、その枷が緩まった。依然として松実が居るから有効ではあるはずだがな」

由華「本当にタチ悪いですよね、ようやく形になって来たあたりで容赦なく次巡で終了のお知らせしてくるんですから」

紀子「伊達に高校生一万人の頂点なんて呼ばれてるわけではない。その一万人にはやえと私も含まれている」

由華「むー……その一万人に含まれるのは拒否します。同い年に負けるのは先輩に負けるのとわけが違います」

やえ「大きく出たな。まあ、来年のエースが勝つ気でいるのはいいことだ」

日菜「だね。頑張れ由華」

良子「勝ち目は薄そうだけどな」

紀子「良子、やる気になってるところに水を差さない」

664: 2015/05/26(火) 19:03:19.36 ID:+anrAEfj0

憩「ツモ。リーチ一発ツモ、一盃口。裏は一枚か、4100オールやな」


123678s2234477m  ツモ:3m 裏ドラ:7s


小蒔(やはり強いですね。普通に打って勝てる相手ではない、分かってはいましたが……)

玄(裏ドラもツモるんだ……まあ、それはそうか)

白望(アレもカンチャン扱いか、どうしようもないなあ……)

665: 2015/05/26(火) 19:04:09.33 ID:+anrAEfj0

東一局二本場 ドラ:5p


小蒔(二度寝と言っても、そうそう都合よく眠れるわけではないですし、とにかく今出来ることを……)

玄(うーん、参った。打つ手がない。荒川さんの配牌が悪かったりして偶然止まることを祈るしか……)

白望(そんなド真ん中をドラにされたら筒子は使いにくいなあ……)

憩(親で稼がんと五万差とか無理やし、遠慮なく行きますよーぅ?)


玄手牌

3赤5m4赤5赤55p139s発発中中


玄(さて、この手……どういう方針で進めよう? 発と中は槓ドラ候補だけど、この状況だと……)


憩「」タン

打:中

玄(うっ……これは……)

666: 2015/05/26(火) 19:04:48.05 ID:+anrAEfj0

ゆみ「いくら松実でも鳴くべきだな。相手が悪い」

モモ「ドラを全て抱えてドラ18で和了るなら、ドラじゃないことが確定した中二枚を切って行けばドラを見極めるための巡目を稼げるっすけどね」

佳織「荒川さん相手にそんなの無謀です……前半の神代さんは異常でした」

ゆみ「松実の場合、赤がある分だけ神代より手が窮屈だ。神代のようにひたすらドラを集めて槓するというわけにはいかない」

睦月「うむ」

ゆみ「ここはドラ6を生かして中を鳴いて進めるべきだろうな。荒川の速度を考えれば、全力の速攻を仕掛けても間に合うかどうかだ」

モモ「ドラ18が理想だからドラポン以外は鳴かない、そして自分がドラを独占するからドラポンなんかあり得ない、だから鳴きはNGと言ってたっすけどね」

ゆみ「それが通じる相手じゃない。中ドラ6の12600で満足……いや、それすら和了れるかどうか怪しい」

667: 2015/05/26(火) 19:05:39.29 ID:+anrAEfj0

久「鳴く一手でしょ」

照「相手が荒川さんとか咲とか竹井さんあたりじゃなければ、松実さんはスルー推奨。ここでは相手が悪いから鳴くほうがいい」

まこ「こがあなんわかりゃせんわ。見たことない顔しちょるけえ」

和「鳴いて9索切りが自然ですね」

透華「ドラ6で打点は十分ですし、面前にこだわる理由はありません。翻牌ですし、当然鳴きますわ」

優希「チャンピオンを警戒して安牌に持っとくのはダメか?」

久「あの手でそれは一巡目から卑屈過ぎだし、あの子はカンチャンやペンチャンなら必ず一発でツモるのよ? ツモに対して安牌とか意味ないわね」

まこ「リーチせん時は安いことが多いしのう」

透華「しかも、リーチしたなら見逃すことが多い。荒川憩を警戒するなら防御は不要、全力で前傾、和了られる前に和了るのみですわ」

668: 2015/05/26(火) 19:06:27.09 ID:+anrAEfj0

玄「ポン!!」

ポン:中中中 打:9s

憩(ほえ? ドラ独占するから鳴かんもんやと思ってたけど、そうでもないんやな)

669: 2015/05/26(火) 19:07:09.01 ID:+anrAEfj0

衣「ふむ、ドラを生かした高火力の速攻か。大局を見据えれば己の能力を生かすことよりも勝利が優先、些事に拘泥せず機に応じた適切な打牌であろう」

京太郎「前半戦での自分の能力対策とかもそうですけど、本当に引き出し多いですよね、松実さん」

咲「能力に沿って打つ機械だとしても十分強いぐらいの強力な能力を持ってるのに、それにこだわらない。手ごわいなあ……」

純「俺と打った時はそうでもなかったぜ? ドラ集めて窮屈な手作りするいいカモだったんだが、化けたもんだ」

智紀「無名校ゆえの経験不足は伸びしろの多さでもある。とはいえ、あの時は彼女がここまでやるようになるとは思わなかった」

咲「……うちは伸びしろとかあんまりないですけどね」

京太郎「お前らにこれ以上伸びられたら俺の居場所がなくなるだろうが」

咲「京ちゃんの居場所って、麻雀の実力差とか気にしたら最初からないんじゃないかな?」

京太郎「なにも言い返せねえ……泣いていいか?」

咲「……麻雀が弱くても京ちゃんには居場所があるってことなんだけど」ボソッ

京太郎「ん? すまん、聞こえなかった」

咲「京ちゃんが居ないと雑用が私に回って来るから、京ちゃんは居てくれなきゃ困るってことだよ!!」プイッ

京太郎「前言撤回、殴っていいか?」

咲「暴力はんたーい」

京太郎「お前の振るった言葉の暴力への反撃だ!!」

衣「なあ、夫婦漫才は余所でやってほしいのだが」

咲「嫁さん違います!!」

智紀「などと供述しており」

純「余罪があるとみて引き続き……」

京太郎「からかわないでくださいって。本当にそんなんじゃないですから」

670: 2015/05/26(火) 19:08:09.00 ID:+anrAEfj0

玄「ロン、中ドラ7。16600」


34赤5m赤5赤55p3赤5s発発 ポン:中中中 ドラ:5p ロン:4s


小蒔「あうっ!?」

憩(ま、ノルマは二位に5万差。親は流れたけど、小蒔ちゃんへの直撃は歓迎や)

671: 2015/05/26(火) 19:09:08.79 ID:+anrAEfj0

健夜「やっぱり固いね、荒川さんは。私から見た限りでは攻撃より守備の方が得意な印象かな」

恒子「えー? リーチ一発とかバシバシ決めるし、攻撃型なイメージだけど?」

健夜「ところが、今大会では放銃がまだないんだよ。鉄壁と言っていいぐらいの守備と、最強クラスの得点力を併せ持ってる」

恒子「……あー、20年前に解説がそんなセリフ言ってたなあ。あれと同類かあ……」

健夜「10年前だよっ!!」

恒子「すこやんのこととは言ってないしー?」

健夜「うっ、確かに……いや、二十年前ってあなた幼児でしょ!? 二歳!? 三歳!? 解説のセリフとか覚えてないでしょ!?」

恒子「ん~? 10年前のすこやんが優勝した時に中二だったから、四歳?」

健夜「ギリギリ覚えててもおかしくない年齢っ!?」

恒子「ま、攻防ともに大会最強のモンスターとかすこやんと荒川さんぐらいだからすこやんのことなんだけど」

健夜「他にも居たよ? 私たちが引退した後は春まで理沙ちゃん一強だったし、その後に出て来た咏ちゃんも火力でねじ伏せてるように見えて実は固い、三年の時は攻防ともにトップだったんじゃないかな?」

恒子「見事にトッププロの名前が並びますなあ」

健夜「ま、まあ、インハイの時点で世代最強クラスなんだから、そのままプロ入りしてプロの世界で揉まれたらそうなるよ」

恒子「さあ、果たしてそんな守備も固い怪物を引きずりおろせるのか――!? それともこのまま白糸台が独走態勢を築くのか――!?」

健夜「唐突な実況っ!? え、それホントに素だったの!?」

672: 2015/05/26(火) 19:09:48.50 ID:+anrAEfj0

貴子「まあ、引きずりおろせるはずもなく東四局、神代の親番まで荒川が和了り続けてるわけだが」

美穂子「そして、ここも荒川さんが和了りそうですね」

星夏「神代さんが大人しいですね。さっきと違ってドラも松実さんに入ってますし」

貴子「あれの能力は少なくとも9通り確認されてるが、今はどれも使ってないみたいだな」

一「考えられる理由はいくつかあるね。一番有力なのが能力の発動が任意でないこと。あるいは、何らかの規則性があって決勝のために温存している」

貴子「もしくは、一番厄介な白糸台をここで蹴落とす狙い。次鋒以降でなんとか削って白糸台を三位に叩き落とせればってことで下を引き上げてるってのもあり得なくはねえな」

美穂子「それにしては東一局で荒川さんに振り込んでいます。国広さんの推測が有力でしょうか?」

貴子「ま、言ってみただけだ。私の推測も国広と同じ、有力なのは能力が任意に発動出来ない可能性だな」

673: 2015/05/26(火) 19:10:32.55 ID:+anrAEfj0

小蒔(松実さん、七番目の神様と同様にドラを引き寄せるのに加えて、赤ドラも引き寄せる体質……)

小蒔(初美ちゃんがいつも言っているように、七番目の神様でも十分すぎるほどに強力。敵に回すと良くわかります)

小蒔(まず、数牌は全てツモれない可能性を疑わなければならない。普通なら一番ツモりやすい「一枚も見えていない牌=四枚残っているはずの牌」がツモれるとは限らない)

小蒔(一枚見えて少し薄くなったところでようやく安心できる。普通に麻雀を打っていればあり得ない価値観を強いられる)

小蒔(打ちにくいことこの上ない。人によっては、彼女が卓に居るだけで何も出来なくなるでしょう)

小蒔(そんな松実さん……七番目の神様を相手に、憩さんは圧倒している)

小蒔(……神の力を使わずに彼女と渡り合おうなどというのは、無謀なのでしょうね)

小蒔(けど、私は……)


23444m666s西西白白中 ツモ:白


小蒔「リーチ」

打:中

674: 2015/05/26(火) 19:11:01.72 ID:+anrAEfj0

『ここで神代選手がリーチをかけました! 1-4萬と西の変則三面張、このリーチはチャンピオンに届くのかー!?』

『残念だけど、届かないね。1萬は阿知賀が3枚持ってるし、4萬は自分で3枚使ってる。西は……』

『チャンピオンが雀頭に使ってますね。残り2枚の1-4萬をツモるしかないとなると、厳しいですか?』

『いや、0枚だよ。荒川さんがさっき3ー5萬のカンチャンを作ったからここでツモる、てゆうか今ツモった』

『残り1枚の1萬は?』

『それは内緒。ただ、今の神代さんがツモるのは不可能だろうね。出てくる可能性もない』

675: 2015/05/26(火) 19:11:38.86 ID:+anrAEfj0

小蒔「……」タン

打:3s


憩「ロン。1000点」

345m45s234789p西西 ロン:3s


小蒔「……はい」

676: 2015/05/26(火) 19:12:09.01 ID:+anrAEfj0

霞「なかなか寝ないわね。あの面子ならそろそろだと思ったのだけど」

初美「リードは十分ありますし、決勝に向けて二度寝を温存してくれても構いませんよー」

巴「二回戦も東二局では寝てましたし、今回なんか最初から寝てましたからね」

春「強い相手ほど眠りに落ちやすい。あの相手ならとっくに寝ていてもおかしくない」ポリ

霞「まあ、今回は私たちで何とかしましょう。ここは二位通過でも構わないわ」

初美「姫様が荒川と五分に戦える八番目以上を降ろす決勝が本当の勝負ですよー」

巴「白糸台対策のオーダーですが、他の二校に対しても上手くハマってるように思います。今のリードを保ってくれれば大丈夫かと」

春「阿知賀の中堅以降は未知数。楽観は出来ない」ポリ

初美「はるるは心配性ですねー、荒川みたいな化け物じゃなければ私が何とかしてしまいますよー」

677: 2015/05/26(火) 19:13:10.62 ID:+anrAEfj0

南一局 ドラ:4p


憩(さて、後半ではノルマを達成したわけやけど……前半でダメやったから、ダメ押し行きますよーぅ?)

憩(なんて、自分では基本的に制御できんだけやけどな。守りに入るにしても、サクッと和了ってもうた方が失点減らせるし)

玄(……神代さんが落ちて来たから、荒川さんを止める必要はあまりない。むしろ、直撃で削ってもらう方が早いかもしれない)

白望(勝ち目がないまま二位狙いで決勝に行ってもなあ……何かしら抵抗できる手段を見つけないと決勝でも同じ結果になる。ダルイけど、試せるものは試しておきたい)


白望手牌

12356s237p136m西北 ツモ:2m

打:西


白望(この手ぐらいは和了りたいなあ……)

678: 2015/05/26(火) 19:13:58.65 ID:+anrAEfj0

四巡後


白望「ん?」


123567s237p1236m ツモ:7p


白望「ちょいタンマ」

憩「どうぞ―」

679: 2015/05/26(火) 19:15:04.91 ID:+anrAEfj0

塞「そこで止まるの? 高目とかなさそうだけど……」

胡桃「ここまで来たら三色ピンフで最終形だよね? ドラも事実上ないわけだし」

トシ「でも、あの子の手が止まったからねえ。何かあるんだよ」

塞「でも、その何かがさっぱり見えないんですけど?」

エイスリン「シロ、2筒キッタ!!」

塞「ちょっ!? なにやってんのシロ!」

680: 2015/05/26(火) 19:16:14.02 ID:+anrAEfj0

玄「……」


11144p444赤56s4赤58m ツモ:4p


玄(うーん、4索が槓出来ないからリーチは出来ない。赤5筒も来そうだし……けど、とりあえず8萬を外して聴牌には取るかな?)

玄「」タン

打:8m


白望「ロン。1000点」

123567s77p12367m ロン:8m


憩(その手で23筒切ってダマですか……確かに4筒はドラやから待ちは狭いけど、和了ったら三色確定や言うて三色狙いません?)

681: 2015/05/26(火) 19:16:55.99 ID:+anrAEfj0

『連荘ならず! 荒川選手が親で連荘出来ないのはいつ以来かー!?』

『いやいや、大したもんだよ。あの手順はなかなか踏めないね。あたしでもよっぽどのことがなければ7筒ツモった時に6萬切ってリーチだよ』

『はい、というか、それ以外ないところです。三色にとっても和了れたかもしれませんし……とはいえ、荒川選手の親を止める価値は高いですよね?』

『もち。普通なら積み棒を3本は積まれてマイナス15000程度は覚悟するとこだよ。マイナス1000で済んだ阿知賀も助かったって言っていい』

『これで、後半戦も残り三局凌げばよいことになりました』


『いや、それはどうかねえ?』


『はい?』

『どんな状況だって親が和了り続ける危険は常にあるんだぜ?』

『しかし、一番危険な荒川選手の親は流れましたよ?』

『あの卓で一番危ないのは、本当にあの子なのかい?』

『それはまあ、チャンピオンですし……一体何が言いたいんですか?』

『……ヤバいののお目覚めだよ。いや、眠ったのかね? よくわかんねー』

682: 2015/05/26(火) 19:17:50.52 ID:+anrAEfj0

照「げっ」


久「女の子が上げていい声じゃないわね、どうしたの?」

照「さっきのアレより上があるんだ……阿知賀か宮守、本当に頑張って。私、アレの相手するの本当に嫌」

まこ「……照さんにここまで言わせるとは、決まりかのう?」

和「そんな……なんとかならないんですか照さん!?」

照「その流れはさっきやったからもういい」

透華「ちなみに、アレは今回なにをやらかしますの?」

照「……まだわからないけど、見た感じ、相当ヤバい」

久「さっきのひたすらドラをツモって槓するのも大概だったけど……」

和「なにをされても、ドラを延々とツモり続けて役満確定の和了りをされるよりはマシに思えます」

照「まあ、見てれば分かる」

683: 2015/05/26(火) 19:18:26.52 ID:+anrAEfj0

霞「あら……来たわね」

巴「霞さん、大丈夫ですか?」

霞「ふふ、大丈夫よ。もう離れた場所に居る神様に当てられてしまうほど未熟ではないもの」

初美「二度寝ですよー、こうなったらあとは安心して見てられますねー」

春「親も残ってる。とはいえ荒川が居る」ポリ

霞「あまり稼げないということはあり得るけど、ここから削られるということはないでしょう。一安心ね」

684: 2015/05/26(火) 19:19:18.49 ID:+anrAEfj0

南二局 ドラ:9s


憩(……小瀬川さん、やってくれましたね。親で稼げんかったところでこいつはちょっと不味いですよーぅ?)

小蒔「」ゴゴゴゴゴゴ

玄(……ダメだ、これ、ヤバい。荒川さんに差し込んででも何とか……って、荒川さんって鳴きもほとんどしないんだっけ!? どうするのこれ!?)

白望(だるっ……)


小蒔配牌

119s99m東東東南北北西西


小蒔「」ゴゴゴゴゴゴ


685: 2015/05/26(火) 19:21:52.78 ID:+anrAEfj0

照「お分かり頂けるだろうか?おそらく、公九牌しかツモらない……いや、それよりタチが悪そう」

久「……公九牌の13種からランダム、ではないわね」

優希「公九牌が対象だって言うなら、あの偏りは異常だじぇ」

まこ「三元牌が一個もないのう」

和「で、どうなってるんですかアレは?」

照「もう少し見ないとわからないけど、多分、なにか規則性があって7~9種ぐらいに絞り込んでるんじゃないかと思う」

透華「おそらく、数牌は完全ランダム、字牌は風牌か三元牌のいずれか、合計8種からツモる能力ですわね。過去にそのような牌譜がありましたわ」

照「つまり、どう転んでも四暗刻に加えて大小いずれかの四喜和または大三元がついて……これは酷い」

久「8種32枚からランダムにツモるなら、四暗刻だけに絞れば終局までに確実に和了るわね」

まこ「……わしにはどうしようもないの、照さん、任せた」

照「いや、あんなの任されても困るんだけど」

久「(無視)あら? でも、松実さんがドラの9索を三枚持ってるわよ? さっきよりも独占に関しては力が弱いってこと?」

照「(久に関してはもう諦めた)そうだね。そして、それは状況を悪化させてるね」

透華「8種のうち、ドラが既に枯れています。残りの7種からツモって手牌に少ない牌を捨てる、それで四暗刻を作るのは何巡かかるかしら?」

照「普通に打てば途中で確実に和了るから余りは他家の手にも入る。ただ、それは彼女のツモを圧縮するだけになりかねない」

久「他家の手に入って山が圧縮されるというか、和了りが確定してるから余りをくれるって感じかしら?」

686: 2015/05/26(火) 19:22:36.33 ID:+anrAEfj0

憩(まあ、小蒔ちゃんが端っこと字牌を持って行ってくれるからその分圧縮されて他家の手も進みやすいんやけど、速度で勝負出来ても火力が違いすぎてなあ……)


玄(私が勝つっていうのはまず無理、なら、せめて最悪を回避したい……じゃあ、この状況で一番不味いのは何か?)

玄(荒川憩が独走すること? いや、違う。決勝ならそれが最大の問題だけど、ここは準決勝)

玄(自分が和了れないこと? それも違う。まだ先鋒、後に控えてる仲間がどうにでもしてくれる)

玄(この状況で最大の問題は―――)

687: 2015/05/26(火) 19:25:50.59 ID:+anrAEfj0

咲「神代さんが高い手を和了ること、だね」

智紀「その通り。準決勝なら、白糸台は独走させてもいい。しかし、二位まで遠く離れていくとなると話が違う」

衣「左様。咲と照に幾度となく煮え湯を飲まされて、衣も少しは駆け引きというものが理解出来た。この状況、クロたちにとって非常に不味い」

京太郎「荒川さんの守備は鉄壁、荒川さんが沈んでくることはまずない……でしたっけ?」

純「なら、神代が和了るのはツモか、阿知賀や宮守からのロン和了りだな」

咲「後者はゲームオーバー。直撃を受けた方を次鋒以降で上位二校が徹底的に狙えばいい」

智紀「前者でも、永水の背中は遠く離れていく。一回でも相当辛いし、二回和了られたらゲームオーバーと考えていい」

京太郎「先鋒でゲームオーバーとか、10万点持ちの団体戦とは思えないっすね」

咲「各区間が着順でポイントを獲得するっていうルールならそんなことは起こりえないんだけどね」

智紀「このインハイは、それとは違って点数持越しの10万点持ち。場合によっては一人の力で勝負が決まるルールを採用している」

衣「まるで、一人の力で勝負を決められるものを選び出しているかのようだな」

純「マジでそうなのかもな。俺が居たドイツでは、団体戦って言ったら25000持ちの半荘を各区間で打って、着順によるポイントを競うもんだったぜ」

688: 2015/05/26(火) 19:26:20.98 ID:+anrAEfj0

小蒔「ツモ、四暗刻。8000、16000」パタ


11s999m東東東北北北西西 ツモ:西


玄「あ……」ブルッ

白望「くっ……」

憩(……五万差とか、もう無理やなー。むしろ、勝てるかどうかすら怪しい)


玄「……」

689: 2015/05/26(火) 19:27:14.42 ID:+anrAEfj0

『す、四暗刻――!!!! この先鋒戦で、またまた役満が飛び出しました――!!!』

『えっぐいねえ……相手からしたらたまったもんじゃない』

『永水女子が再びトップの白糸台を射程に捉えました――!!!』

『というか、デッドラインが見えて来たねえ。二位と三位に七万近い差が出来た。10万差ってのも確実な指標じゃないから、下手すりゃもう土俵を割ってるかもしれない』

『この準決勝から決勝に進めるのは二校だけ! 二位の永水女子、三位から一度は見えたその背中が、再び遠ざかる――!!!』

690: 2015/05/26(火) 19:28:11.91 ID:+anrAEfj0

由華「……ここまで、ですかね」

良子「まあ、ベスト8でも県民最高記録と並んでるんだ。俺たちの代わりに代表になった分の義務は十分果たしたさ」

日菜「……荒川でも止められないなら、打つ手はないよね。もう一度和了れば10万差がついて事実上の決着」

紀子「……いや、そうでもない」

やえ「そうだ、手はまだある。ただ……それはあまりにも……そもそも気付けるかどうか……」

紀子「気付いてはいると思う。あの表情は、怯えや諦めではなく、迷い」

やえ「……松実が親か。第一打で迷っている。それはつまり、気付いているということか」

由華「えっと、どういうことですか?」

やえ「荒川には、今、制約がかかっている。全開の荒川なら、アレを止められる見込みは大きい」

日菜「制約って……あ、そうか! けど、それって……」

由華「松実さんには……それは……」

やえ「……そもそも私たちの声が届くわけじゃないが、これは私たちが口を出すことではない。あいつが決めることだ」

やえ「あいつ自身の想いと、仲間の想い。それを天秤にかけて、どちらが重いか、あいつが判断するんだ」

691: 2015/05/26(火) 19:28:55.68 ID:+anrAEfj0

玄(知ってはいたんだ。私の力は、荒川さんと相性が良いって)

玄(勝てないのは、私の力が通じないんじゃなくて、荒川さんはそれでも歯が立たないほど強いだけだって)

玄(分かってるんだ、私の力が、未だに荒川さんを縛ってるって)

玄(だから、その枷を解き放てば、きっと荒川さんが神代さんを止めてくれる)

玄(それでここを乗り切れば、きっとお姉ちゃんたちが何とかしてくれる)

玄(けど、荒川さんを縛る枷を解き放つということは、つまり――)

玄(――私が、ドラを、切るってことだよね)

692: 2015/05/26(火) 19:29:30.32 ID:+anrAEfj0

憧「え? ちょっと、何やってんの玄? それ――」

穏乃「く、玄さん!? あ、もしかして表示牌を見まちがえてるんじゃ!?」

宥「それはないよ。他の誰がどんなミスをしたとしても、玄ちゃんがドラを間違える事だけは絶対にない」

憧「いや、だって、現に――」

宥「それは、ミスじゃない。私たちを信じて、繋いでくれようとしてるんだよ。ドラまで切って賭けに出て、繋ごうとしてる」

灼「ゆ、宥さ……?」

宥「だから、私は頑張らないと」

晴絵「……そうだな。玄は、お前たちを信じて、ドラを手放そうとしてる。宥だけじゃなく、お前たち全員を信じて、だ」

憧「賭け……って、そういうことか。 いや、ちょっと重すぎるってそのバトン」

693: 2015/05/26(火) 19:30:21.85 ID:+anrAEfj0

咲「……この人が、一番強いかもしれないね」

衣「そうだな。次にまみえるときは、衣も気が抜けん」

京太郎「おい、松実さんがドラを切るとどうなるんだ?」

智紀「聞いた情報では、ドラが一切来なくなる。裏も表も、槓ドラは未検証だと言っていた」

純「おいおい、それ最悪じゃねえか。槓ドラはわかんねえとしても、裏ドラなんていう見なきゃわかんねー牌が絶対ツモれないって、ハンデありすぎだろ」

咲「普段と違って他の人の捨て牌を見てもわからないしね。自分の手に来ないから裏ドラだなんて決めつけたら次の巡目にあっさり入ったりするし」

衣「もはや、あの卓でクロが勝つ見込みはないだろうな」

京太郎「って、それダメじゃないですか!?」

咲「ううん。それでいいんだよ。自分が勝つことより、チームが勝てる可能性に賭けた」

京太郎「ごめん、全く理解できてないからもう少し前の段階から説明してくれ」

咲「もう、しょうがないなあ……」

694: 2015/05/26(火) 19:30:55.33 ID:+anrAEfj0

憩「ツモ、2000、4000」


24赤567s34赤5678p白白 ツモ:3s


玄(さっきの手と捨て牌を見る限りでは神代さんは中張牌をツモらないみたいだし、私も赤をツモれない。赤四枚は荒川さんと小瀬川さんに均等に行く計算)

憩(第一打にドラ切ったのは、うちに小蒔ちゃん止めさせるためやろな。なら、その期待、全力で応えましょ)

白望(……ごめん、全く意味が分かってない。第一打にドラ切って動きなし……阿知賀は何がしたいんだろ? 考えるのダルいし、悪いことじゃなさそうだから、後で監督に聞けばいっか)

695: 2015/05/26(火) 19:31:40.27 ID:+anrAEfj0

霞「あらあら……? どうなってるのかしら?」

巴「阿知賀がドラを切ってから、他家にドラが入り出した……」

春「それは多分、能力の反動。ドラを集める代わりにドラを切れない、切るとこうなる。十分あり得る話」ポリ

初美「それより、荒川が勢いづいたように見えるですよー? どうなってるですかあの化け物ー?」

霞「まあ、どう転んでもうちの優位が揺らぐことはないでしょうけど……後で話を聞いてみたいわね。何を思ってドラを切ったのか……」

696: 2015/05/26(火) 19:32:27.90 ID:+anrAEfj0

憩「ツモ! 3000、6000!」

123456s赤5赤5p33455m ツモ:4m ドラ:1m


玄(痛いなあ……けど、神代さんとの差は3000縮んだ。 二位狙いならこれは歓迎)

白望(トップは高みの見物が出来るだけのリードを確保、かあ……まあ、手の内を探りながら二位を狙うしかないかな。あとはみんなに任せた)

玄(神代さんの気配が変わった時にすぐ決断してれば、二位の背中はもっと近かったのかな? って、それは今更か……)

697: 2015/05/26(火) 19:33:10.68 ID:+anrAEfj0


先鋒戦前半終了


白糸台 172300(+41100)
永水  123000(ー 4600)
阿知賀  57100(ー 8400)
宮守   47600(ー28100)


698: 2015/05/26(火) 19:34:18.79 ID:+anrAEfj0

『ほうほう、厳しいけど、二位まで10万差とはいかなかったか。踏みとどまったとみるべきかね、知らんけど』

『しかし、一、二位ともに盤石と言えるリードを築きました。特に一位の白糸台は、三位に対して10万を超えるリードです』

『白糸台は最低でも二位通過に関してはもう盤石、阿知賀と宮守はとにかく永水を狙っていくことになるだろうね。次鋒の段階で山越しとかまでするかは微妙だけど』

『次鋒戦をどう見ますか?』

『ん~? 阿知賀も宮守もここは明らかに永水に地力で勝ってる区間だから差を詰めたいところだね。ただ、二校で潰しあいをするのは避けたい』

『難しいですね……稼ぎたいのに相手にも譲らないといけないとは』

『あとは、弘世さんがどう動くかだね。彼女に狙われた獲物は巣穴に閉じこもるしかなくなるだろうから』


728: 2015/06/02(火) 12:53:39.04 ID:gWl+mCsF0

玄「……おねーちゃん」

宥「ありがとう、玄ちゃん」

玄「……ごめんなさい、私がもっと早く荒川さんに任せてれば、永水はもっと近かったかもしれないのに」

宥「十分近いよ。たった7万点の差、私一人でだって詰めてみせる。だから、泣かないで」

玄「う、うう……」グス

宥「大丈夫だよ、おねーちゃんが取り返してきてあげるからね」ギュッ

729: 2015/06/02(火) 12:54:31.58 ID:gWl+mCsF0

小蒔「……戻りました」

霞「お疲れ様。どうして浮かない顔をしているのかしら?」

小蒔「いえ、個人的なことです。気にしないでください」

初美「それだと、姫様の個人的なことは私たちに関係ないみたいですよー?」

巴「そうですよ! 私たちに話せないほどのことですか?」

春「……まあ、大体分かるけど」ポリ

霞「あら? 教えてもらえるかしら?」

春「これに関しては姫様の意志を尊重する」ポリ

小蒔「本当になんでもないんです、永水女子も、神代の姫としての私も関係ない、ただの私自身のこと」

霞「……私は、ただの神代小蒔の友人でもあるつもりなのだけど」

初美「ですよー」

巴「あ、すみません、私は時間なので行きますね。もちろん、私も姫様本人の友達のつもりですよ!」

バタン

霞「で、話してはくれないのかしら?」

小蒔「うう……ごめんなさい、これは流石に話しにくいです」

730: 2015/06/02(火) 12:55:18.00 ID:gWl+mCsF0

憩「てなわけで、前半も後半もダメでした。エース失格です」

菫「アホか。あんな化け物相手にトップで帰って来た奴がエースでなかったらなんだと言うんだ?」

尭深「てゆうか、二位に五万差がエースの仕事とか、憩ちゃんが勝手に言ってるだけだよね?」

誠子「少なくとも、私が入るまではなかった伝統だな」

淡「ふふふ、ついにケイも私にエースを譲る気になったみたいだね!」

憩「淡ちゃんだけ空気読めとらんな。本気で言っとるわけないやろ。うち以外の誰が小蒔ちゃん止めるんや?」

菫「さっきは小瀬川に親を流されたのが痛かったな。ま、この結果なら十分すぎるぐらいだ。後は任せろ」

尭深「ですね、私たち五人が普通に打てば結果は勝手について来ます」

誠子「淡も言動はともかく麻雀は本物だしな」

淡「えっへん!」

監督「そうね、少なくとも、この準決勝には不安要素はないわ。まさかあなた達が三位に10万点差を逆転されるなんてことはないでしょう」

菫「さて、時間だ。行って来る」

731: 2015/06/02(火) 12:56:18.57 ID:gWl+mCsF0

白望「ダルかった……」

胡桃「あー……お疲れ様、シロ」

塞「荒川の親を流したのはファインプレーよね、お疲れ様」

トシ「じゃあ、頼んだよエイスリン」

エイスリン「」カキカキ

豊音「えっと…黒塗りの誰だかわからない人と、シロと、荒川さんと……このツノ生えた人は?」

胡桃「清澄の先鋒かな? 麻雀打ってるところだよね?」

シロ「『決勝に行こう』、だって」

トシ「頼もしいねえ」

エイスリン「イッテクル!」

塞「頑張れー!」

732: 2015/06/02(火) 12:56:51.12 ID:gWl+mCsF0

やえ「さて、寝るか」

紀子「おやすみ」

良子「え、マジで寝るのか? 解説は?」

やえ「三尋木プロが一般人向けにやってくれるさ。お休み」

由華「先輩、ごゆっくりお休みください」

日菜「おやすみー」

733: 2015/06/02(火) 12:57:22.25 ID:gWl+mCsF0

怜「はあ……マジであんなん相手にするんか……生きるんて辛いなあ」

セーラ「若くして真理に到達したな」

泉「なんですかそれ?」

雅枝「園城寺はもう休んどけ。今夜も特訓や、無理すると明日に響く」

怜「……」スウスウ

竜華「……言われるまでもないって感じやな。相変わらず寝つきがええわ」

浩子「もともと体も弱いんです、しっかり休んでもらいましょ」

734: 2015/06/02(火) 12:58:35.19 ID:gWl+mCsF0

咲「で、宥さんはどんな能力なの?」

京太郎「宥さんを下の名前で呼んでるので思い出したけど、お前、昨日玄さんと名前で呼び合うって話してただろ?」

咲「対局中の玄さんってなんか雰囲気違うからつい……直接会ったら名前で呼ぶよ、直接会ったら」

智紀「質問に答えるけど、配牌はランダムでツモでは必ず赤い牌をツモる、というのが現在の松実宥の能力のはず」

京太郎「『はず』ってなんですか?」

衣「昨日、最後に打った時はそうだったということだ。あやつの能力は不安定でな。萬子に偏ったり筒子に偏ったり索子中心だったり赤ドラメインだったりする」

純「確実なのは、赤い牌を多めにツモる能力ってことだな。その中でいろんなスタイルになる」

咲「お姉ちゃんが嫌がりそうだね。照魔鏡はその時点の相手を見るから、対局中に変化とか成長とかされると困るはず」

衣「衣相手に半荘打ち切った時は、先ほどのクロに近い能力だったな」

咲「さっきの玄さん……前半の赤ドラ独占かな? 配牌で常に四枚入ってたよね」

智紀「本人の体調や精神状態で、赤い牌を引き寄せる力が増減する。弱い時は少し偏る程度だけど、好調時は妹の方から赤ドラを奪うぐらいのことをやってのけるそうな」

735: 2015/06/02(火) 12:59:03.35 ID:gWl+mCsF0

起家 宥「よろしくお願いします」

南家 菫「よろしくお願いします」

西家 巴「よろしくお願いします」

北家 エイスリン「ヨロシク!」

736: 2015/06/02(火) 12:59:47.78 ID:gWl+mCsF0

絹恵「お姉ちゃんたち、起きて来んなあ……」

由子「なのよー」

漫「昨日、二人でどっか出かけたみたいやしな……」

絹恵「インハイで敗退した直後……末原先輩がおって間違いも起こさんと思うけど、まさか飲酒とか……」

由子「代行も起きてこないのよー。万が一があるのよー」

漫「真瀬先輩、なんか聞いてませんか?」

由子「それが何にも聞いてないのよー、まさか恭子と洋榎にハブられるとは思わなかったのよー。ショックよー」


恭子「すまんな、色々と急な話ばっかで余裕がなかったんや。漫ちゃんと絹ちゃんだけにするわけにもいかんしな」


絹恵「あ、末原先輩。おはようございます」

恭子「おはよう、試合はどんなかん……なんやこの点差、また暴れたんかあの化け物ども? 松実でもダメやったか」

由子「善戦してた方よー? 荒川は言わずもがな、神代も大暴れで、飛ばずに半荘二回耐えたのは大健闘よー」

恭子「そっか……後で牌譜見んとな、普段の研究の大事さを昨日思い知ったわ」

漫「昨日はどこ行ってたんですか?」

恭子「……地獄の釜の底を見物にな。いつか私もあそこに行きたいもんや」

由子「なんか恭子が物騒な話を始めたのよー。本当に何があったのー?」

737: 2015/06/02(火) 13:00:28.94 ID:gWl+mCsF0

恭子「で、次鋒の前半が始まったとこか。この局の結果だけは私でも読めるで」

絹恵「どうなるんです?」

恭子「宮守が和了る。多分満貫程度の手やろな、これはほぼ確定や」

漫「根拠は?」

恭子「他が三人全員様子見するからな、そしたらあいつは和了るやろ」

由子「他が様子見だとしても、普通は自分に手が入らなくて流局ってこともあるのよー」

恭子「エイスリン=ウィッシュアートに限っては、それは絶対にあらへん」

絹恵「ああ、そういえばそんなん言うてましたね。あいつの居る卓で流局は絶対に起こらんとかなんとか」

恭子「他が誰も和了らんかったらあいつが絶対に和了る。止めるにはあいつより先に和了るしかない」

絹恵「てことは、リーチにベタオリしたら確実にツモられるってことですか」

由子「流局が絶対にないとなると、オリるという決断がしにくいのよー」

恭子「もちろん、直撃喰らうよりはツモられた方がマシなんやけどな。しかし、誰かが行かんとあいつは永遠に和了り続ける。ベタオリはしにくいな」

漫「ベタオリ禁止とか、キツいですわ……」

恭子「普段からベタオリ出来とらんやろ。毎度のように聴牌気配読み損ねよってからに」

漫「うっ……」

恭子「まあしかし、あの卓にはおかしなのが二人おるからどうにでもなるやろな」

738: 2015/06/02(火) 13:01:09.21 ID:gWl+mCsF0

エイスリン「ツモ! ニセン、ヨンセン!!」


567m23567s赤567p北北 ツモ:1s 


菫(三色確定の両面リーチ、北家だから平和はつかないが、良い手だ。お手本のような手で、普通に打って普通に和了る……狙いやすい獲物だな。自分に手が入ればどうにでもなる)

宥(……弘世さんに動揺はない。想定内っていうことかな?)

巴(なるほど、これはなかなか……ただ、誰かが行かなきゃいけないとしても、私は攻めない。他の二人がどうにでもするだろうから)

菫(問題は阿知賀だな、親番なのに動きを見せなかった。それは、様子見のために親番を一回捨てるだけの余裕があるということだ、この点差でな)

739: 2015/06/02(火) 13:02:26.94 ID:gWl+mCsF0

照「松実さんは、龍門渕さんが言ってた天江さん相手にいい勝負した能力ではなさそう」

久「宮守が赤ドラを持ってたしね」

透華「そもそも、昨日の最後の段階では自分のツモで赤い牌を確実にツモる能力だったと言いましたわよ?」

まこ「さっきのがおかしすぎて麻痺しとるが、それも大分おかしいのう」

照「赤い牌は20種。34種の牌のうち、14種の受け入れを考慮しなくてもいい。かなり有利」

優希「でも、国士とかが作れないじょ?」

照「国士の可能性は元々そんなに高くないからそのデメリットは小さい、そうなると明らかにデメリットを上回るメリットがある。中以外の字牌を引かないだけでも相当有利」

久「牌の種類が少ないから七対子なんかの対子手も作りやすいわ」

和「照さんも今回は過大評価せずに妥当な評価をしますね。さっきは大げさに騒ぎ立ててましたが」

照「私はいつでも正当な評価をしている、さっきの卓の人はみんなおかしい」

久「ま、単純計算で無駄ヅモが三分の一は無くなるんだから強いは強いんだけど。さっきと比べると物足りないわよねえ」

照「そこから更に踏み込んで萬子か中が確実にツモれるなんてチートを使われたらたまらない。このぐらいが麻雀の限界……いや、この次鋒戦も十分おかしい」

透華「ですわね。さっきの卓を基準にしないでくださいまし。四人全員に対等なチャンスがある、流局もあれば振り込みもあるのが麻雀ですわ」

和「神代さんも、妙な能力を使わなくても相当な打ち手でしたね。あの卓では通用しないようでしたが」

優希「振り込みマシーンみたいになってたけど、あれは強かったのか?」

照「あのままでも、個人戦に出られるぐらいの実力はあると思う。さっきの卓は本当におかしい」


『ツモ。イチサンニンロク』


透華「で、今回もおかしなのが居ますわね」

照「チャンスは四人に平等じゃない。明らかに彼女がより多くのチャンスを握ってるし、なにより流局がない。染谷さんでもいれば話は別だけど」

まこ「わしが居るとどうなるんじゃ?」

照「多分、彼女の目論見が全て崩れる……というか、染谷さんが崩す」

まこ「それはまた随分と買いかぶられたもんじゃな」

740: 2015/06/02(火) 13:03:11.96 ID:gWl+mCsF0

東三局 ドラ:9m


宥(……さて、そろそろ私も動かないとね)

菫(いつまでも様子見をしてもいられん、射抜ける奴を射抜いておくか)

巴(私の親番で暴れるのはやめてほしい、ロン和了り中心の弘世に頑張ってほしいんだけど……)

エイスリン(~~♪)

宥(ご機嫌だけど、こういうことをしたらどうなるのかな? 調子が狂ったりしない?)


宥手牌

234赤55s13赤5p48m中中中 ツモ:1m

打:赤5s


菫「(赤……鳴いておくか)チー」

チー:4赤56s

打:西


エイスリン「!!?」

741: 2015/06/02(火) 13:04:29.59 ID:gWl+mCsF0

咲「まあ、そうなるよね」

京太郎「全否定したいレベルでおかしい一打を見た。なにしてんだ宥さんは?」

衣「打っているのがユウだとしても多少おかしな打牌だな。高目を狙いにいったか?」

京太郎「多少じゃないでしょ!? あの手から赤切って狙う高目ってなんですか?」

咲「もちろん、萬子の混一色だよ。筒子かもしれないけど」

京太郎「よりにもよって赤5筒まで切って、萬子と字牌合わせて6枚からの混一色かよ!? 赤二枚切って三翻役狙ってどうする!?」

衣「ユウが萬子に染めたのならおそらく一通がつくから、5翻だ」

京太郎「しらんがな!?」

咲「宥さんと同じ能力を持っててこの相手と打つなら、私やお姉ちゃんも一回は同じように打つと思う。お姉ちゃんなら東二局で動くかな?」

衣「まだ序盤、自分の調子の確認と、あの異人への牽制も兼ねているのだろうな。変化球ではあるが、ユウにとっては常識の範囲内だ」

智紀「確かに萬子が一番種類は多いとはいえ、枚数を見ればまだしも索子の混一色の方が近いのだけど……松実宥なら仕方ない」

純「衣が海底持って来るためにわけわかんねえ鳴きするようなもんだろ、そりゃ仕方ねえ」

京太郎「ダメだ、こいつら全員手遅れだった」

742: 2015/06/02(火) 13:05:02.07 ID:gWl+mCsF0

トシ「はあ……こうならないように、デジタル主体の面子が多い次鋒にエイスリンを持ってきたんだけどねえ」

塞「白糸台みたいな特殊な事情がなければ次鋒は五番手、どんな名門でも五番手まで能力者を揃えるのは困難、ですよね?」

トシ「まったく、やってくれるよ、晴絵のやつ。あの子には監督じゃなく選手としての能力に目をかけてたんだけど、私の目も節穴だったかねえ……」

胡桃「えっと、もしかして結構マズイ?」

トシ「あそこまでおかしな打牌を繰り返されるとマズイね。といっても、あの卓には弘世も居るからあんまり無茶は出来ないはずだけど」

白望「ダルい……寝ていい?」

豊音「ちゃんとエイスリンさんの応援しようよー」

塞「誰のせいでエイスリンが頑張らなきゃいけなくなったと思ってんのよ、ちゃんと見なさい」

白望「その件については全面的に荒川さんと神代さんと松実さんが悪いんじゃない?」

トシ「自分で言うのは感心しないけど、それは間違いないねえ。あんたはよくやったさ」

743: 2015/06/02(火) 13:05:54.42 ID:gWl+mCsF0

浩子「真似出来んから手本にはならんけど、引き出しが多いっちゅうのはああいうことや」

泉「いや、ただの暴牌ですよねあれ!?」

竜華「泉、声デカい。怜が起きてまうやろ」

泉「あ、すんません……」

浩子「アレにとっては暴牌ではないな。ちょっとした変化球、ストライクゾーンにちゃんと入る見込みがある範囲や」

泉「顔面狙いが外角低めに落ちるような曲がり方せんと入らんと思いますけど……」

浩子「そんだけの曲り幅のある能力や。だから、手本にはならんけど、参考にはなる。能力次第じゃあんな打ち方もあるんや」

泉「マジですか……それを考慮して対策してって考えるとキツイですね」

浩子「キツイで? 先輩らにはわけわからん連中の打ち方見て『なんか分かるか?』とか無茶ぶりされるしな」

セーラ「それは分からんって言えばええだけやろ。答えるからアテにされるんやで?」

泉「それを普通にやってのけてた船久保先輩の凄さが分かって来ました……」

浩子「ま、上には上がおるけどな。とにかく、よく見とくことや。松実宥、あれは相当打てる。能力以外の部分でな」


『ロン、5200』

『アウッ!?』


浩子「とはいえ、流石に6枚から染め手は遠すぎたみたいやな。一向聴までは行ってたけど、弘世に先を越された」

744: 2015/06/02(火) 13:06:32.53 ID:gWl+mCsF0

東四局


宥(流石にさっきのは無茶しすぎたか……ここは全国大会の準決勝、あんなのが通る相手じゃないよね)

菫(さっきはウィッシュアートが明らかに動揺していた。おそらく松実が第一打の赤5索でなにかを仕掛けたんだろうな)

巴(弘世が下二校を狙ってくれるなら、私は守備に徹すればいい。とはいえ、油断は出来ない)

菫(しかし、【視えん】な、松実宥。 仕方ない、普通に狙うとするか)

745: 2015/06/02(火) 13:07:09.34 ID:gWl+mCsF0

憩「菫さんは菫さんで監督のお気に入りやからなー。楽はさせへんよー」

尭深「弘世先輩、私たちにもどうやって狙ってるのかとか教えてくれないんですよね」

憩「ま、将来プロになったら敵同士やからな。うちはどうせバレるから話すけど」

監督「そうね、今は仲間とはいえ、ほぼ確実にプロになって将来の敵になる相手。特に憩にだけは絶対に話さないでしょうね」

憩「それだけ力を認められてるってことやな」

誠子「ああ、なるほど……そんな先のことまで考えてるのか。部内の対抗戦ぐらいしか考えてなかったよ」

淡「わ、私だって先のこと考えて能力は秘密なんだよ!!」

憩「いや、全部しゃべっとるやん。初対面の頃からなんかお披露目するたびに余すところなく説明してたやん」

淡「ま、まだ隠された能力があるから! ケイ対策の切り札があるんだから!!」

憩「あったら絶対使っとるやろ。ところで、監督は菫さんの能力知らんのですか?」

監督「知らないはずがないわ。教えないけど」

淡「えー? 監督だけ知ってるとかずるい―!」

746: 2015/06/02(火) 13:07:39.22 ID:gWl+mCsF0

宥(……もう無くなったと思ったけど、まだあるんだ、例のクセ)

菫「……」グッ

宥(ターゲットは……)

菫「」

宥(――私、か)

747: 2015/06/02(火) 13:08:53.44 ID:gWl+mCsF0

晴絵「へえ、最近の試合ではほとんど出なかったんだがな、あのクセ。教えておいて正解か」

憧「へ? 弘世さん、今なんかした?」

穏乃「言われてみれば、腕が少し後ろに動いてから視線を宥さんに向けたような……」

晴絵「……説明せずに言い当てたのはお前が初めてだよ。どんな目してるんだ?」

灼「教えてもらった時は言われても全然わからなかった……むしろ気付いたはるちゃんがすご……」

憧「そして、なんで灼は知ってんの!?」

灼「部長だから」ドヤ

玄「私はお姉ちゃんから聞いたよ。けど、言われても注意して見ないと分からないね。今動いたのも気付かなかった」

晴絵「さて、狩宿は守勢に徹しているし、ウィッシュアートは動揺が収まってない。この局は宥と弘世の一騎打ちかな?」

748: 2015/06/02(火) 13:10:19.47 ID:gWl+mCsF0

菫「」ギリリ…

223344p3456s東東東


宥(和了りへの道を素直に進むと射抜かれる……だから)

4赤556688m赤566677s ツモ:5s

打:5m


菫(躱された!?)


宥(回り道をして、目的地も変えてみる。私なら赤い牌である5索や7索、8萬あたりはツモれる、タンピンの高目二盃口から、三暗刻への変化でどうかな?)


菫(偶然か否か――試させてもらう)


223344p3456s東東東 ツモ:6m

打:6s


宥(狙いを変えた――それなら、私も)


4赤56688m赤5566677s ツモ:8m

打:6s

749: 2015/06/02(火) 13:11:41.39 ID:gWl+mCsF0

菫(……また躱されたな。深追いは危険、ここでの安全策は東だが、どうしたものかな?)


223344p345s6m東東東 ツモ:7m


菫(リードは十分にある。ここは松実の手を見ておきたいな)

打:7m


宥「ロン、タンヤオイーペーコ―ドラドラ。8000」


4赤566888m赤556677s ロン:7m


菫(3-6-7萬の三面張。無理して単騎で狙っている私と比べて随分といい形だな。放っておいてもツモっただろうか)

菫(そしてあの手、まっすぐ行けば二盃口。リーチかツモで倍満まで見える手だったはずだ、躱されたのが偶然のはずはない。何らかの原因があるだろうな)

菫(狙いが読まれたか、あるいは危険を察知する能力でも持っているのか? なんにせよ視えない相手を無理に狙う必要もない。宮守を狙うとするか)

750: 2015/06/02(火) 13:12:28.03 ID:gWl+mCsF0

憩「へえ……面白い人がおったもんやな。さっき打った松実さんのお姉さんでしたっけ?」

監督「ええ、そのはずよ」

憩「菫さんとの読み合い、楽しそうやな~。うちはカンチャンが出来た時点でチェックメイトやからああはならん」

誠子「ゴリ押ししてるように見えて、憩って読み合いでも弘世先輩に勝てるんだよな」

尭深「じゃなきゃ放銃率ゼロとか無理だから。弘世先輩だってミスすれば今みたいに振り込むわけだし」

憩「今のは、読めててあえて答え合わせしたっぽいけどな」

尭深「え? なんでそんなことを……」

憩「自分が間違っていないことと、本当に警戒に値する相手かどうかの確認。これには8000払う価値がある」

監督「変化が豊富で直撃が取れない相手に対して、自分の読みが鈍っているのかと疑いながら半荘打つぐらいなら8000払って確かめてしまった方がいい」

憩「特に、菫さんは読みで勝負する選手やからな。自分の読みへの疑いは打牌すべてを鈍らせて8000どころじゃない損を招きかねん」

751: 2015/06/02(火) 13:13:17.08 ID:gWl+mCsF0

菫(また、松実も狩宿も視えない。こいつらはまだ一度も視えていないな、他と何が違うのだろうか?)

菫(視えない理由も分からなければ、視えるものに関しても【それがいつか余剰牌として切られる】ことしかわかっていない。私は自分の力について無知だ)

菫(いっそのこと、憩たちに話してしまって分析を頼めば、分かるのかもしれない)

菫(だが、先のことを考えればそれはあまりに危険だ。プロに進んだ時、私にとっての最大の障害は他ならぬ荒川憩なのだから)

菫(【最大の敵は味方の中にいる】……校内でチーム戦を行って代表を決める白糸台ではよく言われる言葉だ)

菫(そして、皮肉なことに、味方のはずの人間が最大の敵という状況がうちは本当に多いように思う。意識してしまってそう感じるだけかもしれんがな)

菫(例えば、優勝への最大の障害は監督の身内、個人戦に目を向ければ全国でも最大の敵は憩だ、そして、将来のプロ生活を考えてもな)

菫(自分自身の能力、それを研究する機会はいくらでもある。焦って将来の最大の敵に手の内を明かしたくはない)

菫(いつか切られる牌が分かる。いまの私が戦うのは高校生の大会、それだけで十分過ぎるほどのアドバンテージだ)

菫(さて、【視えた】ぞ、エイスリン=ウィッシュアート。その4萬、私が撃たせてもらう)

752: 2015/06/02(火) 13:13:47.07 ID:gWl+mCsF0

南一局 ドラ:4s

エイスリン手牌


33467m3467s2278p ツモ:6p


エイスリン「……」


【33678m34567s678p ツモ:8s】


エイスリン(ウン! コレデハネマン! コンドハ、キットアガレル!)

打:2p

753: 2015/06/02(火) 13:14:49.21 ID:gWl+mCsF0

『いやあ、綺麗な夢見てるねえ。萬子か索子で三面張の好形聴牌に持って行って、高目の678の三色をツモって跳満ってとこかな?』

『彼女の手は綺麗に伸びる印象ですね。もちろん、上級者の麻雀は大抵がそう見えるものですが』

『いや、彼女の場合はガチだね。受け入れを広く持ってるからいい方向にハマりやすいとかじゃなく、本当に綺麗に手が伸びる』

『えっと、荒川選手の悪形を治すのと同じような、能力的なものだということでしょうか?』

『ま、本人は普通に打ってるだけだし、起きてる現象も少し運が良いだけで普通のことなんだけどね。積み重なれば無視できない異常だよ』

『たしかに、「そういうこともある」という程度の幸運も、毎局続くとなると異常ですね』

『荒川さんも一応それなんだけどね。あそこまで行かないと普通は認識できないかな』

『そうですね。一局だけなら荒川選手の牌譜ですら普通に流してしまうでしょう。まして、ウィッシュアート選手は好形を普通より少し順調にツモるだけですから、言われなければ気付きませんね』

『しかし、綺麗過ぎるのが玉に瑕だね』

『綺麗過ぎる、ですか?』

『そ、綺麗過ぎて読まれやすい。まるで絵に書いたような理想の手牌、牌譜。彼女はそれを卓上に描き出すって感じかな、知らんけど』

754: 2015/06/02(火) 13:15:39.28 ID:gWl+mCsF0

照「そう、一局だけなら国士に暗槓で差し込むことも普通にある。なのに何故スルーされないのか」

久「あるわけないでしょ。漫画以外で国士の暗槓和了りなんかお目にかかる機会ないわよ?」

和「振り込むならまだしも差し込むってなんですか、差し込むって」

優希「照さんのは一局どころか一打でおかしいって分かるじょ」

透華「それどころか、廊下ですれ違っただけで分かりますわ」

照「……この扱いである」

和「自業自得です……しかし、玄さんのお姉さんも相当ですね」

久「そうね。弘世菫から逆に直撃を取るなんて大したものだわ」

照「松実さんは打ち方が柔軟で聴牌気配を読んで切る牌を変えるから、なかなか直撃出来ない。だから弘世さんにも視えてない」

久「ん?」

照「永水は守りに徹してるから、聴牌気配を感じたら勝負をしない。そうなると、宮守だけが余剰牌が視えて狙われる」

和「えっと、弘世菫は余剰牌が視えるということですか?」

照「うん。彼女には【リーチ宣言時に切る余剰牌を視る】能力がある。相手がリーチしなかったり、リーチまでに聴牌できなくて直撃出来ない場合は視えないみたい」

透華「初耳ですわ。確かにもともと狙い撃ちを売りにした選手ですからそれぐらいあっても良さそうですが」

照「うーん、能力があって狙い撃ちをしてるというよりは、もともとの打ち方を補助する能力、かな? ただの勘だけど」

755: 2015/06/02(火) 13:17:15.39 ID:gWl+mCsF0

咲「今の宥さんは、赤い牌の中からツモる牌をある程度自由に選べるみたいだよ」

京太郎「酷いチートだな。赤い牌を確実にツモるだけでも大概なのに、更にその中から選べるのか」

咲「確実にではないよ、成功率は5択の場合で6割ぐらいで、失敗すると普通に34種からツモる。選べる範囲は限界まで絞っても三種類ぐらいまでしか絞れなくて、その中からはランダムだと思う。
  広くすれば成功しやすいし、二種とか一種に絞ろうとすると成功率が激減するはずだよ。多分だけど、赤い牌全体ならほぼ確実にツモるかな?」

智紀「6割の確率で任意の五種まで引く牌を絞って、失敗しても普通のツモが来るだけ……ノーリスクハイリターン。また、赤い牌を確実にツモる能力としても使える」

純「そう聞くと、やっぱり酷いチートだな」

衣「任意の牌をツモるぐらいは造作もないこと、よしんば五種が一種でもさして問題ではあるまい」

京太郎「大問題だよ!! あんたを基準にすんな!!」

咲「全くだよ。有効牌どれかっていうならともかく、任意の牌を自在にツモるとか簡単にされたら困るよ」

京太郎「有効牌どれかなら自在にツモれるみたいなこと言われましてもねえ!?」

咲「あはは、冗談冗談、流石にそれは無理だって」

衣「ふむ、こやつの反応はなかなか面白いな。咲が気に入っているのもわかるぞ」

京太郎「どこまで冗談かわかんねえなもう」

智紀「冗談というのが冗談かもしれない。衣なら任意の牌を自在にツモれてもおかしくない」

京太郎「やめて、シャレになってないからやめて」

純「え? てゆうか、ツモれねえの? 自分と相手のツモ全部操ってると思ってたんだが?」

衣「衣をなんだと思ってるのだ。少なくとも照や咲相手には無理だ」

智紀「純相手にできないとは言っていないことに注意が必要」

京太郎「あの、冗談なんですよね!? どこからどこまでか知りませんけど、どこか一部は本当に冗談なんですよね!?」

衣「ふむ、本当に面白いなこやつは」

756: 2015/06/02(火) 13:19:44.65 ID:gWl+mCsF0

菫(……)タン

打:3m


巴(……弘世が聴牌したかな? 警戒っと)タン

打:西


エイスリン(キタ!)


33467m34567s678p ツモ:8m


エイスリン「リーチ!」

打:4m


菫「出たか。ロン、8000」


4567m34赤5666s赤567p ロン:4m ドラ:4s


宥(……一巡前に3萬を切ってその手? さっきの混一色狙いをやった私が言うのもどうかと思うけど、あり得ないよね?)

巴(3萬の代わりに6索を切って 34567m34赤566s赤567p の形ならピンフも付くし、待ちも倍近く多い)

宥(常識的には6索切りでリーチ。跳満確定の三面張で、裏ドラ次第で倍満まである。けど、そうしなかった)

宥(……ということは、狙ったっていうことだよね? 例のクセは出なかったと思うんだけど)


エイスリン(ナ、ナンデ……? サンメンチャン二デキタノニ、ヤスクシテ、ノベタン?)


宥(三年生になってからの試合では例のクセがほとんどなかった、今もそう。さっきのは運が良かったのかな?)

宥(もしくは、ウィッシュアートさんが普通で、私はクセを出すぐらい集中しないと狙えない、とか? 自惚れかな?)

757: 2015/06/02(火) 13:20:25.77 ID:gWl+mCsF0

南2局


菫(親番だが、誰も視えんな。ここは自力で打つしかないか。ならば……)グッ

宥(また例のクセ……狙いは)

菫「」

宥(ウィッシュアートさん? あれ? さっきはクセが出なかったと思ったけど、見落としただけだったのかな? 良くわからないなあ……)

宥(けど、このまま宮守が狙われるのは不味い。いまの永水との点差で最下位が離され過ぎると自由に打てなくなっちゃう……いや、そう考える時点で既に自由に打ててないのかも)

758: 2015/06/02(火) 13:20:57.62 ID:gWl+mCsF0

宥(弘世さんは宮守を狙ってる……意識がそっちに行っていて、私への警戒は薄い)

宥(弘世さんが待ちを寄せていくタイミングで、私が弘世さんを撃つ。それ以外に宮守を守る方法はない)

宥(役なしにならないように中を暗刻に。あとは弘世さんの動きを見て決める)

宥(難しいけど、やらないと……)

759: 2015/06/02(火) 13:22:35.84 ID:gWl+mCsF0

浩子「泉、今、松実さんが何しとるか分かるか?」

泉「えっと……この状況やと高目を作りに行くはずやと思ってたんですけど、ちょっと分かりません」

浩子「高目を作っても、役満直撃でもせん限り永水は遠い。試合展開を考えると、それより先にやらないかんことがある」

泉「やらないかんこと、ですか?」

浩子「弘世への牽制や。どうやら、ウィッシュアートは弘世と相性が悪いらしい。このまま宮守が狙い続けられて沈められたら不味いやろ?」

泉「まあ、四位を飛ばされたら負けですからね。でも牽制言うてもどうやって……?」

浩子「狙いは単純。ウィッシュアートを狙って警戒がおろそかになっとる弘世を後ろからズドンや。それで、弘世は迂闊に狙いを絞れんようになる」

雅枝「となると、あいつは弘世の真似事まで出来るっちゅうことか?」

浩子「上手い下手はともかく、選択肢にはそれがあるでしょうね」

泉「……でも、狙い撃ちなんてそうそう出来るもんじゃ……」

浩子「これは技術の問題や。 相手の手恰好を読み、そこから余剰牌を推測して、そこで和了れるように待つ」

泉「そこで待つって、そうそう都合よく……待てるのが弘世菫やけど、松実宥までそんな……」

浩子「弘世はそうやな。そして、最悪単騎で待つとして、松実は20種の単騎待ちが作れる。くっつけての両面待ちなんかも考慮すれば字牌以外のほぼすべての範囲をカバーできる」

竜華「なるほど、弘世はまあ置いとくとして、松実さんも狙い撃ちに向いた能力なんやな?」

泉「字牌が中以外引けんから向いとるとは思えませんけど、応用すれば狙い撃ちも出来るって感じですかね?」

浩子「そんな感じやな。ほれ、索子の6、明らかに要らん孤立牌なのに残しとるやろ?」

泉「ホンマですね。狙い撃ちかあ……」

浩子「一局ごとの結果だけやない、半荘全体、試合全体、そういうのを見た打ち回し。そのためのオプションとして狙い撃ちがある。どこで覚えて来たんやろな、あの姉妹は」

760: 2015/06/02(火) 13:23:28.00 ID:gWl+mCsF0

宥(そろそろ、狙いを絞るはず……この手ならある程度対応できる。筒子は単騎で6種カバーできるから大丈夫だよね?)


111234赤567m6s中中中


菫(ウィッシュアートから8索がこぼれそうだな。そちらに寄せよう)


34567m77s222345p ツモ:7m

打:6m


宥(ウィッシュアートさんの手からこぼれそうなのは、索子。だから、弘世さんは索子に狙いを定めたはず)

宥(おそらく、今のは萬子の形を固定したんだ……多分、索子はまだ形が出来てない)

宥(なら、弘世さんからこぼれるのも索子……私が次にツモるのは5、7索と……あとは萬子の形を固定できる1247萬あたりでいいかな?)

宥(あったかい牌、来て……)

761: 2015/06/02(火) 13:24:09.33 ID:gWl+mCsF0


菫(よし、良いツモだ。あとは奴から8索がこぼれるのを待つだけ……)

34577m77s222345p ツモ:6s

打:7s


『ロン』


菫「なにっ!?」

宥「……5200」パタン


11234赤567m赤56s中中中 ロン:7s


菫(……ウィッシュアートに気を取られたか。阿知賀のこいつには先ほどの撃ち合いの件もある、迂闊に動くと痛い目に遭いそうだな)

菫(視えたときは寄せるべき牌が分かるから周りを見る余裕があるが、普通に狙うと読みに集中して警戒がおろそかになりがちだ)

菫(その隙を狙いに来るとなると、攻めるのは視えた時だけにしておくべきか?)

762: 2015/06/02(火) 13:24:39.12 ID:gWl+mCsF0

南3局


宥「ツモ。3000、6000」パタン


123456789m赤5赤5p中中 ツモ:中


菫(阿知賀の松実宥……これはかなり手強いな。現状では阿知賀にはあまり目がないが、もし阿知賀が準決に上がって来るなら手こずりそうだ)

巴(親番で大きいの和了られると困るなあ……後半は少し攻めないとダメかも)

763: 2015/06/02(火) 13:25:11.03 ID:gWl+mCsF0

『阿知賀は跳満ツモで一気に浮上しましたね』

『そうだねー、これで一応、最下位が沈んでも役満ツモなら飛ばしながらまくりってことが出来るようになった』

『とはいえ、役満は現実的ではありませんよね?』

『そりゃそうだ。けど、更に差が詰まればその役満が3倍満、倍満、跳満と現実的になっていく。永水の安全が脅かされ始めたわけだ』

『そして、3位から2位の背中が見えてくると、別の方向でも駆け引きの前提が変わります』

『そう。3位の阿知賀は4位の宮守を沈めることを許容できるようになる。流石にまだすぐには飛ばないしね』

『宮守女子はこの親番で盛り返したいところです!』

764: 2015/06/02(火) 13:25:49.36 ID:gWl+mCsF0

豊音「エイスリンさん頑張れー!」

トシ「阿知賀の子もここしばらくはそこまでおかしなことはしてない、弘世さんも、さっきの阿知賀からの直撃で警戒してるみたいだね」

塞「ということは……」

トシ「この一局はエイスリンが自由に動けるはずだよ。こういう状態がちょこちょこ訪れてくれれば予定通りぐらいには巻き返せるかねえ」

胡桃「おっ、来た来た。行け―!」


『ツモ、ロクセンオール!』


白望「一本場か……エイスリンは普通なら3本くらい積むのが当たり前なんだけど」

塞「ガンガン行っちゃえー! ここで2位まくってもいいわよー!」

765: 2015/06/02(火) 13:26:27.57 ID:gWl+mCsF0

南4局1本場 ドラ:2p


菫(調子に乗るな……貴様は他の二人と違って視えてるんだからな)

エイスリン「リーチ!」

打:西


菫「ロン。西ドラドラ。5500」

123789s22456p西西


エイスリン「ソンナ……ナンデ!?」

宥(あの手、西でしか和了れない……途中で3筒や7筒なんかも切ってるから、西を切ってピンフに向かったり三面張でリーチするのも有力だったはずだけど、西で和了れる形にこだわったように見える)

宥(……もしかして、ウィッシュアートさんが西を切るのが分かってたっていうことかな?)

766: 2015/06/02(火) 13:27:10.81 ID:gWl+mCsF0

次鋒戦前半終了


白糸台 164200(ー 8100)
永水  107700(ー15300)
阿知賀  71000(+13900)
宮守   57100(+ 9500)




久「先鋒が終わった時よりはマシになったかしら?」

照「そうだね。と言っても、永水も切り札を残してるっていうのが本当なら見たままの数字よりは遠いと思うけど」

和「それでも希望は見えて来た、というか、現実的に逆転があり得る点差まで詰めましたね……あれ、染谷先輩、どちらへ?」

まこ「休憩じゃからな。今のうちにお手洗いを済ませとこうかと思っての」

767: 2015/06/02(火) 13:27:41.84 ID:gWl+mCsF0

次鋒戦終了


白糸台 169600(+ 5400)
永水  101500(ー 6200)
阿知賀  73500(+ 2500)
宮守   55400(ー 1700)



照「お手洗いに行くと言ってお菓子買ってきてくれる染谷さんマジ天使」モグモグ

まこ「ついでじゃついで。昨日のスイーツも結局そこのお嬢さまが払ってくれたから部費も余っとるしのう」

801: 2015/06/10(水) 14:41:50.87 ID:CMb2fxcp0

霞「ちょっと差が詰まったわね」

巴「面目ない……」

小蒔「しかし、宮守の中堅と副将は一回戦ではあまり大きく得点した印象はありません」

春「地区大会でもそう。安定しているけど、稼ぐタイプではない」ポリ

初美「それよりも阿知賀ですよー」

霞「未知数の阿知賀よりも、はっきり危険と分かっている白糸台のほうを警戒したいわね」

初美「そうですかー? どれぐらい危険か分かってる危険なものよりも、良くわからないものの方が怖いですよー?」

春「一理ある、それは宮守にも言える」ポリ

巴「なんにせよ、渋谷の役満に対抗できるのははっちゃんだけだから、よろしくね」

初美「お任せあれですよー」

802: 2015/06/10(水) 14:42:45.77 ID:CMb2fxcp0

晴絵「憧、わかってると思うけど……」

憧「言われなくても分かってる……んだけど、席順次第じゃどうしようもないんだよねえ」

灼「薄墨の下家だけは引かないように」

憧「むしろそこはやりやすいわよ。確かに親被りのリスクはあるけど、他家に和了ってもらえば渋谷尭深の対策にもなる」

玄「でも、この状況だと親で連荘を捨てるわけにもいかない。役満覚悟でそれより稼ぐ方がいいかも」

穏乃「よくわかんないけど、憧は勝ってくれるって信じてる!」

憧「へいへい、あんたホントに根拠なしでモノ言うわねー。じゃ、行って来る」

晴絵「席順には気をつけろよー」

憧「分かってるってば」

803: 2015/06/10(水) 14:43:25.44 ID:CMb2fxcp0

憧「お疲れ、宥姉」

宥「憧ちゃん……ごめんね、あんまり稼げなかった」シュン

憧「えいっ」ギュッ

宥「ふ、ふえっ!? どうしたのっ!?」

憧「ん~? 頑張った宥姉を暖めてる?」

宥「そ、それは嬉しいけど……暑くない?」

憧「……震えてるよりマシだよ」

宥「……憧ちゃん?」

憧「えっとね、ほら、私、これが全国で初試合だからさ……」

宥「……震えてるね。緊張してるの?」

憧「うん。薄墨の下家引いたらどうしようとか、親でいい手入ったらどうしようとか、そんなことばっかり考えてる」

宥「……そっか。北家で役満を和了る薄墨さんと、オーラスでそこまでの第一打を回収して役満を和了る渋谷さんだもんね」

憧「……うん、でも、もう大丈夫。震え止まったから」

宥「憧ちゃん」

憧「ん? なにゆうね……ふきゅっ!?」

宥「私、あんまり稼げなかったから、まだ打ち足りないんだ」ギュッ

憧「そ、それとこれと何の関係が!?」ジタバタ

宥「……憧ちゃんにあったかい牌がたくさん来ますようにっていう、おまじない」

憧「……」

宥「頑張ってね、憧ちゃん」

804: 2015/06/10(水) 14:44:20.60 ID:CMb2fxcp0

菫「戻った。思ったより粘られたな」

尭深「お疲れ様です」

憩「ま、このリードならトントンで終わっても十分。残り局数が減って有利になるだけや」

誠子「だな。無風で凌げばそれだけ逆転の可能性が減る、逃げきり狙いなら稼ぐ必要はない」

監督「ただ、阿知賀はここから完全に未知数、もう少し削っておきたかったわね」

菫「すみません、そのつもりだったのですが……」

監督「いえ、責めてるわけじゃないのよ。彼女は手ごわかった、無理に狙えばこちらがやられていてもおかしくなかったわ」

尭深「中堅以降は未知数……今回は、無理せずオーラス勝負で行きます」

監督「……薄墨が開始時に西家の時だけは気を付けてね。オーラスで薄墨が北家になると目論見が崩れかねないわ」

憩「数牌の多面張を作って確実に逃げる手と、一か八かの勝負手がある。もしそうなったらここで勝負手の方を試しておくのもアリやな」

尭深「うん、そのつもりだよ。じゃあ、行ってきます」

805: 2015/06/10(水) 14:44:57.46 ID:CMb2fxcp0

エイスリン「ゴメンナサイデシタ……ッ」

トシ「思ったより苦しい展開になったねえ。エイスリンのスピードなら弘世さんが狙いを定める前に和了れると踏んでたんだけど……」

胡桃「私とトヨネがなんとかするから、エイちゃん大丈夫!」

塞「ちょっ、私は!?」

豊音「ここまでエイスリンさんには大分助けられてるんだから気にしなくていいよー」

白望「てゆうかプラスだし。勝ったんだから泣かないで。泣かれるとダルい……」

エイスリン「……」グスン

806: 2015/06/10(水) 14:45:37.34 ID:CMb2fxcp0

初美(お面装着)「……」

憧(にしても、薄墨さんはなんでこんな被り物してんのかしら?)


バタン


尭深「あ、来ましたね」

胡桃「じゃ、場決めし……って、なにあれ!?」


憧「よろしくお願いしまーす」

初美(お面装着)「ですよー」


胡桃「ですよーじゃない! なにそれ!? なんで対局室にそんなもん持ち込んでるの!?」

尭深「電子機器の類は仕込んでないらしいので持ち物検査は通ります、いつも対局室まではあれを被って来ているそうですよ」

胡桃「毎回って……頭痛くなってきた……」

初美「なかなか詳しいですねー、その通りですよー」スポッ

憧「じゃ、場決めしよっか」

807: 2015/06/10(水) 14:46:54.61 ID:CMb2fxcp0

久「渋谷さんが起家、そこから薄墨さん、新子さん、鹿倉さんの順ね」

照「無難な席順だね」

まこ「薄墨が北家の時の親は新子、あいつなら上手く立ち回るじゃろ」

和「北家で東と北を鳴いた場合に四喜和で和了ることが多い……でしたっけ?」

透華「その通りですわ。理屈は分かりませんけど」

優希「てことは、あいつが北家の時は東と北を切らなければいいのか?」

久「といっても、切らないわけにもいかないけどね。抱えたままじゃ手が氏ぬもの。ある程度手が形になってるなら切って自分が和了る方がいい」

和「彼女が北家の時の親は、その局で和了っても次の局で役満を和了られる可能性が高い、和了るにしても5800程度は欲しいところですね」

照「5800なんだ? 親かぶりの16000じゃなくて?」

和「役満を確実に和了るわけではないですから。流局や自分を含めた他家が和了る可能性を考えれば5000程度で十分連荘のリスクに見合うかと」

久「それでも5800ぐらいはないと期待値がマイナスなのね?」

和「連荘が期待値マイナスなどという状況を想定したくないですが、役満を和了る確率が高いということですので、残念ながら三人が役満に警戒するとしても期待値はマイナス4~5000程度でしょう」

まこ「警戒するっちゅうても、勝負手なら行くじゃろうからな。役満を封殺ってわけにはいかんか」

和「とはいえ、並の打ち手の話です。うちと当たるとして、部長の和了率なら1500点を和了って連荘しても何の問題もないでしょう」

808: 2015/06/10(水) 14:47:36.57 ID:CMb2fxcp0

憧(っちゃー、マジで下家引くとはね……どうしよっかなー)

憧(うちらの今の標的は永水女子、ここに役満を和了られたら致命的。だから流すしかないんだけど……)

憧(あたしの得意分野は速攻。対して、この面子はそれほど和了率が高いメンバーじゃない)

憧(鹿倉さんが平均的だけど、他の二人は火力に偏ったタイプで、この中でなら私は高い和了率が期待できる)

憧(悩ましいなあ……まあ、当初の方針通り流すか。迷いが一番よくないからね)

810: 2015/06/10(水) 14:48:29.35 ID:CMb2fxcp0

憧「ツモ、500、1000」


13789p55678m チー:4赤56p ツモ:2p 


尭深(早い……)

初美(ふむふむ、予選でもこういう鳴きを使った早和了りがあったはずですよー、予選からそれほど大きな変化はないと思っていいですかねー?)

胡桃(……潰さないと、阿知賀と永水を)

811: 2015/06/10(水) 14:49:10.42 ID:CMb2fxcp0

東二局


初美(さーて、私を北家だけの女だと思ってもらっちゃ困りますよー)

初美(いえ、まあ、ぶっちゃけ昔は北家だけの女でしたがー、姫様が起きてる時にも頑張ってるのを見て触発されてですねー)

初美(というか、七番目の神様にぶっ潰されて以来、万が一を考えて北家以外の時にも稼ぐようにしたわけでー)

初美(今の私は鬼門に頼るだけの打ち手ではないわけですー)


3456m34s56p東東北西白 ツモ:5s


初美(さあ、親でもきっちり稼ぎますよー)

812: 2015/06/10(水) 14:50:33.99 ID:CMb2fxcp0

初美「ツモですよー」パタン


34567m345s5赤5p ポン:東東東 ツモ:8m


初美「ダブ東ドラ1で2000オールですー」

憧(比較的小さい和了りだけど、こういうのが地味に効いて来たりするのよね……つか、なに連荘してくれてんのよ!? 渋谷尭深がいるってわかってないの!?)

尭深(仕込みが最小の7牌の場合と8牌では、和了率に大きな差が出る。32000点の和了率が10%違うとするなら、2000程度の出費は歓迎かな)

胡桃(永水に和了られた……まずいかな?)

813: 2015/06/10(水) 14:51:53.22 ID:CMb2fxcp0

小蒔「初美ちゃんは安心して見ていられますね」

霞「北家なしの三麻でも私と五分に打てるぐらいまで腕を上げたしね」

春「それは初耳……」

巴「わたしも初耳です」

霞「去年の個人戦の後かしら? 小蒔ちゃんがもっと強くなりたいって言いだしたじゃない?」

巴「え、ええ……」

霞「で、その後の練習の中で七番目の神様を降ろして初美をボッコボコにしたわけだけど」

春「それ以降は練習の頻度が下がったはず。練習しても神様を降ろしてしまって姫様の地力が上がらないから」ポリ

巴「次の一手とか牌譜の検討とかのために打つ時間を減らしたんですよね? まさか、空いた時間の分だけ私たちに内緒で……?」

霞「そのあと、私たち二人だけで小蒔ちゃんに付き合ってたんだけどね。どうやら三麻だと神様を降ろせないみたいなのよ」

巴「へ?」

小蒔「四人打ちでしか成立しない打ち方をなされる神様も多いですからね。そのあたりが関連しているのだと思います」

春「姫様が眠らずに麻雀の地力を上げるには、三麻しかなかった?」

霞「で、三麻には北家がないじゃない? 小蒔ちゃんだけじゃなく初美の地力上げにもいいかなってことで、ずっと打ってたのよね」

春「……そのわりには三麻特有の変なクセがついてないように見える」

霞「元々四人打ちのための練習だから、最近じゃ準備が面倒なのもあって普通に積んだ山を一つ除外するだけにして打ってるわ」

小蒔「練習に付き合って頂いて、二人には本当に感謝しています」

巴「……ところで、なんで私たちは除け者にされたんですか?」

霞「今言った理由で初美と小蒔ちゃんは固定、練習なら、もう一人は強い方が良いでしょう?」

春「確かに」ポリ

巴「私たちの中で普通に打って一番強いのは霞さんですからね、けど、呼んでほしかったです」

霞「ごめんなさい……あなた達が居ると、甘えて降ろしてしまいそうだったから……」

春「霞さん自身の特訓でもあった?」

霞「そうよ。私も強くなったつもり」

巴「はあ……道理で最近はっちゃんにも霞さんにも起きてる姫様にも勝てないわけだ。酷いですよぉ……」

春「巴さん、私にも勝ってない」

巴「春、追い打ちやめて……」

814: 2015/06/10(水) 14:52:59.66 ID:CMb2fxcp0

東二局一本場 ドラ:東


初美(大物ですよー)


12245689m15s2p東東 ツモ:北


初美(東が暗刻になればダブ東ドラ3、そして混一色、うまいこと一通でもつけば倍満、更に面前でツモれば三倍満ですよー)

胡桃(つぶす)

尭深(安手なら連荘はしてくれて構わないけど、良い手入りましたって顔だね。私はどうするのがいいかな? 永水に和了らせるのも悪くないんだけど……)

憧(調子に乗せてらんないでしょ。こっちはただでさえ親で連荘出来ないハンデ背負ってるんだから、速攻で流す!)


憧手牌

12367m23s136788p


初美(混一色一直線ですよー)

打:2p


憧「チー」

打:6m

815: 2015/06/10(水) 14:54:33.63 ID:CMb2fxcp0

憩「まあ、うちらとしては薄墨さんにあの手を下二校のどっちかから和了ってもらうのが手堅いやろな」

菫「そうだな。もう中堅戦、ここで下を引き離せば、あとは二校で協力して流してしまえば良い」

淡「ふむふむ」

誠子「私と滝見も、流すという目的なら強力なコンビになります。淡と石戸さんなら大将で逆転もないでしょう」

憩「とはいえ、阿知賀と宮守もそうなったらマズイってのは承知やろ。なりふり構わず止めに来るはず」

菫「そうだな。特に阿知賀の新子、あれはなかなか手が早い」

憩「地区大会の牌譜だと鳴きが上手い印象ですね。役なしにならんように上手く加速してくる」

監督「タンヤオも混一色も遠くて役牌もない時に、三色や一通を早和了りの手段に使えているわね」

憩「松実姉妹と違って能力ってわけじゃなさそうやな。純粋な技術って感じや」

淡「アレは三色狙いかな?」

憩「薄墨さんから1索も出そうやし、三色にはなるやろな」

816: 2015/06/10(水) 14:55:30.26 ID:CMb2fxcp0

憧「ツモ。三色ドラ1、600・1100」


123m6788p チー:123p 123s ツモ:赤5p


初美(ちょっ、まだ四巡ですよー?)

尭深(早い……けど、安い)

817: 2015/06/10(水) 14:56:08.67 ID:CMb2fxcp0

東三局 ドラ:1s


憧(さーて、来ちゃったか、親番。しかも、この手……)


憧手牌

1113467s27m中中白白 ツモ:4p


憧(ドラ3と役牌対子が二つで和了れば確実に親満……役牌混一色ドラ3をツモっての親倍なんかも目につく)

憧(なーんで流そうと決めてるときにこんな手来るかなあ? こんなの行くしかないでしょ)


打:2m

818: 2015/06/10(水) 14:56:57.37 ID:CMb2fxcp0

晴絵「薄墨と渋谷の両方の役満があるから連荘を避けたいとはいえ、これは行くしかないな」

玄「他家の手も間に合いそうにないですね。東と北が切れないから止まってます」

宥「憧ちゃんがんばれー」ブルブル

819: 2015/06/10(水) 14:57:35.72 ID:CMb2fxcp0

憧「ツモ。白・中・ドラ6。8000オール」


11167s赤5赤5p ポン:中中中 白白白 ツモ:赤5s


初美(よりによって赤をツモるですかー!?)

胡桃(……阿知賀はドラ爆する伝統でもあるの?)

尭深(うーん……オーラスの仕込みが増えるのは嬉しいけど、これは流石に大きいかなあ?)

820: 2015/06/10(水) 14:58:25.79 ID:CMb2fxcp0

和「憧……」プルプル

久「おや、旧友の見事な和了りに感動してる?」

照「分からなくもない」

透華「かつての友と敵になるかもしれないと思いつつも、友の活躍を願う複雑な心境……ですか」

優希「のどちゃん……」


和「……途中の3索切りはあり得ません!! 和了れたから良かったものの、何をやってるんですか!!」


久「ありゃりゃ」

照「1113467s4p白白 で白を鳴いたところだね。確かに4筒を切るのが自然」

まこ「その後で赤5筒を二枚重ねて正当化しおったが、おかしな打ち方じゃったの」

821: 2015/06/10(水) 14:59:25.52 ID:CMb2fxcp0

憧(……いやー、なんでかなー? なんか、あの時赤5筒が絶対来る気がしたんだよね。二枚来たのは予想外だったけど)

憧(赤が来るにしても混一色の2翻と赤の1翻で赤を選んだのも変なんだけどさ、なんであんな打ち方したんだろうね本当に?)

憧(普通に打ってたら和了れてなかったっていうのは結果論。普段ならあたしだってあんなの見たら説教する)

憧(けど、どういうわけか、今回もそんな打ち方しちゃってるんだよね。どうしちゃったんだろあたし?)

憧(で、今回も来ちゃうんだよね、やっぱり)


憧「ツモ。面前ツモ・三色・ドラ3。6100オール」


1234赤5699m4赤56s46p ツモ:赤5p


初美(ちょっと調子に乗りすぎですよー?)

尭深(これでオーラスの仕込みは10牌確定。ほぼ確実に役満を和了れる。そろそろ流すのに集中しよう)

胡桃(……うーん……不味いなあ)

822: 2015/06/10(水) 15:00:20.29 ID:CMb2fxcp0

『新子選手が大物手を二連続でものにしましたー!! これで阿知賀が二位に浮上――!!』

『いやあ、ついてるねえ。ドラにも恵まれてる』

『ところで、先ほどからまるで赤をツモる確信があるような打ち方ですが、これはそういうことでしょうか?』

『いや、多分偶然だね。「そういうこともある」で流していいと思うよ』

『根拠は?』

『あたしの直感。実際どうかは知らん』

『先ほどのウィッシュアート選手よりは分かりやすく変な打ち方でしたけど、偶然ですか?』

『偶然だね。変な打ち方がたまたま上手くハマっただけだよ。知らんけど』

823: 2015/06/10(水) 15:00:54.17 ID:CMb2fxcp0

東三局二本場


憧(……さっきのおまじないのおかげなのかな? 宥姉に守られてる感じがする、ありがと、宥姉)


憧手牌

12333578m57s中中東 ツモ:9m


憧(ツモったのはあったかい牌か。よし、行ける!)

打:東

初美「ポン」

憧「あっ!?」

824: 2015/06/10(水) 15:01:51.47 ID:CMb2fxcp0

咲「そりゃ、あんな和了りを二度も続けたら気が緩みもするよね」

京太郎「宥さんとみまごうばかりの和了りだったからな」

衣「情けない、あの程度で浮かれるとは……衣と打った時は常に注意深く他家の気配を伺っていたというのに」

一「いや、浮かれるでしょ。あんなの親で立て続けに和了ったら」

星夏「ええ、天江さんには日常茶飯事でしょうけど、私なんかにとってはまれにみる幸運ですから」

美穂子「そうね。しかも、新子さんはこれが全国での初舞台、経験の少ない一年生には刺激が強いわね。私でも同じ状況では冷静でいられるかどうか……」

純「国広くんたち、来てたのか?」

智紀「少し前にハギヨシさんから風越の面々がこちらに来ると連絡があった。それがさっき着いた」

純「そういうのはちゃんと言えよ」

智紀「連絡が来てすぐ、具体的に言うと次鋒戦の後半が始まったあたりで、ちゃんと話したはず」

純「あれ? そうだったか? わりい、よく聞いてなかったみたいだ」

825: 2015/06/10(水) 15:03:03.44 ID:CMb2fxcp0

憧(だ、大丈夫……まだ東を鳴かれただけ……北まで晒さなければ西と南は入らないはず)

憧(誰かが北を切ったとしても、北を晒してから最短でも5巡の猶予がある。大丈夫、この手なら行ける……)


初美「槓」

暗槓:北北北北


憧「なっ!?」

尭深(暗槓……確かに、晒すことが重要だというならこれでも行ける)

憧(そんなのアリ!? これじゃ東や北は一枚も迂闊に切れないじゃない!! いや、下手すりゃ一度も鳴かなくても……あ、その時は私の手にないからいいのか)

826: 2015/06/10(水) 15:04:03.66 ID:CMb2fxcp0

初美「ツモですよー!」

234p西西西南 ポン:東東東 暗槓:北北北北 ツモ:南


憧(逆転された……あの東切りが迂闊だった)

尭深(東三局だけでマイナス22300……流石に不味いかな? けど、うちよりも……)チラッ


胡桃(ヤバイヤバイヤバイ……なんとかしないと)


初美「第一打の東は無謀でしたねー、一年生?」

憧「ぐっ……」

胡桃「そういうのいいから点数申告! まだ言ってないでしょ!」

初美「あ、8200、16200です」

胡桃「あと、服をちゃんと着る!!」

初美「は、はいですよー!?」


胡桃(……あ、なんかちょっと落ち着いてきた。いけるかも)

827: 2015/06/10(水) 15:05:07.23 ID:CMb2fxcp0

東四局


憧「チー」

チー:234s


初美(うっとおしい鳴きですよー。こいつが234で鳴いたってことはおそらく三色、その辺の数牌は切りにくくなりましたー)

憧(と、思うじゃん? 実際そういう風に打ってきたしね。けど、今回はただの後付けなんだよね。 毎度同じ手ばっかりなわけじゃないっての)

567p6789m東東白白 チー:234s

打:6m


胡桃「ロン」パタ

憧「へ?」

胡桃「タンヤオピンフ。2900」

45678m23445688s ロン:6m


憧(聴牌に気付かなかった上に高目切っちゃったか……って、この点差でその三面張をダマ!? 何考えてんのこの人!?)

憧(そりゃ、確かにリーチしてたら私はオリて振り込まなかっただろうけど……その三面張ならリーチするでしょ?)

憧(渋谷尭深と薄墨初美だけじゃない、この人も十分おかしい……)

憧(あーもう、三人全員ヤバいってどんな卓よ!? いや、慣れてるけどさ。それでもキツイもんはキツイのよ)

828: 2015/06/10(水) 15:06:00.37 ID:CMb2fxcp0

トシ「ようやくエンジンがかかって来たねえ」

白望「胡桃はちっこいくせに小回り利かないから……」

塞「豊音は大きいけど色々使い分けて小回り利くよね」

豊音「えへへー。それほどでもー」

エイスリン「……」ジワッ

トシ「あんたの責任なんかこれっぽっちもないよ。いい加減になくのはおやめ」

エイスリン「!!」

トシ「調子の悪い時や相性の悪い相手にあたることはあるさ。それをフォローし合うのがチームだよ」

エイスリン「♪」パアア

塞「監督はどうやってあれで会話を成立させてるのかしら? いまだに謎だわ」

トシ「手牌を読む要領だね。この子くらい表情豊かな相手なら造作もないことだよ」

豊音「いやいや、それちょーすごいよー!?」

829: 2015/06/10(水) 15:06:37.11 ID:CMb2fxcp0

東四局1本場

憧(聴牌気配が読めないっていうなら聴牌する前に速攻で……)


胡桃「ツモ。1400オール」

34赤5p11134m678s東東 ツモ:5m 


憧(嘘っ!? 早い……)

830: 2015/06/10(水) 15:07:32.67 ID:CMb2fxcp0

東四局四本場


憧(調子づいてるわね……まあ、最下位の親がツモるのはまだいいわ。二位との差は広がらないしね)

憧(で、もうここまで来たら連荘もどうでもいいわ。オーラスまでにどうやっても14局、つまり、役満……下手すりゃ地和が確定だもん)

憧(じゃあ何が問題かって、そしたら私だけが親番が不利になるってことよ)

憧(だってそうでしょ。渋谷尭深を警戒して連荘を控える必要がもう全くないんだから、薄墨初美の四喜和だけが警戒の対象)

憧(それで親かぶりするのは私なんだから、やってらんないっての)

憧(そう言えば、ここまでの渋谷尭深の第一打は何だっけ?)

憧(白発白中中発白中発4s……ここで5索。大三元確定で、残りの面子を作りに来てるって感じか)


尭深「ツモ。700、900」

444678p45566m33s ツモ:7m


憧(連荘終了。11局打ってようやく南入か、長い半荘ね)

831: 2015/06/10(水) 15:08:20.04 ID:CMb2fxcp0

南一局


尭深(既にオーラスまでに14局以上あることが確定している……隠しておいてもいいけど、点差が少し心もとなくなって来てもいる)

尭深(この親番で使っちゃおうか? 憩ちゃん以外を相手に使うことが出来るとは思ってなかったけど)

832: 2015/06/10(水) 15:09:26.20 ID:CMb2fxcp0

憩「おや? 尭深ちゃん、アレ使う気なんかな?」

誠子「ああ、アレか。確かに使えるな。起家で使えるとは思わなかったけど」

淡「あ、アレね! もちろん知ってるよ!」アセアセ

監督「決勝の相手を考えると、使って牽制した方がいいのか、それとも使わずに隠すほうが良いのか、微妙なところね」

憩「この試合を勝ちぬくことも少しは考えた方がええような気がします。思ったより大きな手が多い、このままやと危ない気がしますね」

菫「10牌以上を仕込んだ場合にしか出来ないんだったか?」

憩「正確には、オーラスを迎えた時にそれまでに仕込んだ配牌が余る場合、ですね。親以外で使うメリットないですけど、一応、子でも使えるみたいです」

誠子「自分の親が流れた後で条件を満たして、オーラスより削りたい相手の親番で和了りたい場合とかなら子で発動する意味もあるんじゃないか?」

淡「親で連荘しながら条件満たせばいいんだよ! これで最強!」

憩「出来たら苦労せんわ。誠子ちゃんのはその通りやな」

菫(やはり、憩に依頼して能力を分析するのは抗いがたい魅力だ。ほぼ完璧に自分の能力を把握できるのは大きい)

憩「尭深ちゃんのコレには苦労しましたねー。そもそも条件満たすのが大変な上に、最初は14局目の時点で自動発動しかなかったんが任意に発動できるようになったりしたんで」

菫(が、高い分析力は、それゆえに危険だ。その後で能力が変化するなどしても、元の能力を手掛かりに簡単に見破られかねない)

833: 2015/06/10(水) 15:10:08.83 ID:CMb2fxcp0

尭深配牌

45s66p白白白発発発中中中 ツモ:6s


尭深(うわっ!? これは予想外だよ……)

尭深「ツモ」

初美・憧・胡桃「は?」


尭深「天和・大三元。16000オールです」

834: 2015/06/10(水) 15:10:55.73 ID:CMb2fxcp0

憩「……そういえば、地和とか天和を出した半荘のオーラスがどうなるか検証したことありませんでしたね。切った牌がないからなにが起きるかわからん」

誠子「これを見て最初に言うセリフがそれか!?」

憩「いや、だってアレ使ったんやから、残り三牌が和了れる組み合わせになっただけ。大して驚くこともないやろ」

菫「まあ、その研究熱心さに助けられてもいる。そして、これは憩の言うとおり起きてもおかしくないことだ」

監督「それにしてもラッキーね。天和なんていう目立つものがついてくれたおかげで、他校の研究を妨害できるわ。流石に決勝までに研究が間に合うということはないでしょう」

835: 2015/06/10(水) 15:12:02.20 ID:CMb2fxcp0

『て、天和です!!! 天和が飛び出しましたー!!』

『おおうっ……これは流石に驚いたねえ。ちなみに、記録上、インターハイで天和が出た対局はない。インハイ史上初の天和だね』

『こ、これはどういうことでしょう三尋木プロ!?』

『いやあ……仕組みはわかんねーけど、多分、ある程度は必然なんじゃないかね? 本人あんまり驚いてねーし』

『で、でも、天和ですよ!?』

『落ち着けアナウンサー。天和っていってもただの役満だぜ? そんなもん先鋒でポンポン出てただろ』

『し、しかし……』

『あと、本人あんまり驚いてねーけど、全く驚いてないわけじゃない。本人にとっても予想外ではあったはずだねい。天和を和了る能力なんていうインチキではないわけだ』

『そ、そうなんですか?』

『例えば……そうだね、配牌で3面子を確実に確保する能力だとして、残り5牌が1面子1雀頭になってれば天和になるわけだろ? あり得ると思わない?』

『な、なるほど……三面子というと、例えば、あの大三元の部分ですね?』

『そそ。てなわけで、天和については偶然なんじゃないかと思うよ。 どこまでが必然かは知らんけどねい』

836: 2015/06/10(水) 15:14:18.42 ID:CMb2fxcp0

久「照、アレどうなってるの?」

照「なんでも私に聞けば分かると思ったら大間違い、私にもわからないことはある」

和「そういうのいいから早く教えてください」

透華「原村和の言うとおりですわ」

まこ「まあまあ、マジでわからんっちゅうこともあるかもしれんじゃろ」


照「多分だけど、そこまでに捨てた第一打が配牌になって戻ってくる能力だと思う」


まこ「って、わかるんかい!!?」

優希「まこ先輩、照さんをなんだと思ってたんだじょ?」

まこ「少しでも情けをかけたわしが馬鹿じゃった」

久「第一打……そういえば、三元牌ばかり切ってたわね」

照「オタ風より三元牌優先だったから気になってた。さっきの二本場では配牌で対子であった形から発切ってたし。そして、直前の二局の第一打」

和「4索と5索ですね」

照「それがそっくりそのまま配牌になってた。三尋木プロの解説に沿うなら、そこまでが必然。天和になったのは偶然」

久「つまり、天和は偶然だけど、その11牌については必然なのね? 3ー6索のいずれかと適当な対子……まあ、あり得ない確率ではないか」

照「あと……いや、なんでもない。本人が意識してないみたいだからこれも偶然かもしれないし」

久「まだなんかあるの?」

照「その局の最後に切った牌が次の局の最初のツモに、最後の一つ前に切った牌が次の局の二番目のツモになる……と思うんだけど、本人がそれを意識してる様子がない」

久「この前の局の最後の捨て牌は6索のツモ切り……他の局はどうなってるかしら? 私の記憶だと確かにその通りなんだけど」

透華「覚えている限りでは私もその通りのように思いますが……」パチン

?「中堅戦のここまでの牌譜でございます」スッ

透華「ご苦労」

まこ「……い、今のは?」

透華「……確認しましたわ。確かに、照さんのおっしゃるとおりになっていますわね」

照「それを前提にすると、さっきの天和は二牌が対子で来ればいいという条件だったことになる。天和でなくとも、どうせ大三元で役満。いずれにしても役満を和了る手だった」

837: 2015/06/10(水) 15:15:35.12 ID:CMb2fxcp0

咲「天和は偶然だと思いたいな。解説でも言ってるけど、大三元までが必然で、天和は偶然」

京太郎「大三元が必然っていう時点でアウトなんだが」

咲「それにしても、もったいないなあ渋谷さん。あれ、色々応用できそうなのに」

衣「む? なんの話だ?」

咲「最後とその前に切った牌が、次の局の最初と二番目のツモになってるんだよ」

衣「……ふむ、言われてみれば確かに。ならば、少なくとも最初の一打は先を見越した打牌ができるな。前の局の状況次第では赤ドラなどを確実に入手することもできよう」

京太郎「……え? 言われて一瞬で納得するってことは、もしかして覚えてるんですか!? ここまでの牌譜を、全部!?」

智紀「……それは普通では?」キョトン

星夏(えっ!?)

純「普通じゃねえよ。自分が打った手ならともかく、観戦して四人分覚えてるのは流石におかしい」

星夏「で、ですよね!?」

美穂子「……え? 文堂さん?」

星夏「え? キャプテン?」

美穂子「ダメよ、二年後にキャプテンになるつもりならそれぐらい出来ないと。78位だった頃の文堂さんの牌譜、私、全部覚えてたでしょう?」ニコッ

星夏「」

京太郎「え? マジで? それが普通なの? 俺、自分の手も完全には思い出せないんだけど」

一「須賀君、落ち着いて。このメンバーは基本的におかしいから(ボクも覚えてるけど)」

京太郎「国広さん、なんか小声で言いませんでした?」

一「ん? 気のせいじゃないかな?」ニコッ

咲「なんだろう、多分、繋がってるんだよね。前の代の種を回収して新しい芽が育つみたいな感じで、前の局と次の局が繋がってる」

838: 2015/06/10(水) 15:16:40.85 ID:CMb2fxcp0

貴子「長野だけでほとんど埋まってもおかしくないと思ってましたけど、今年は本当に豊作ですね」

靖子「そうだな……ところで、おまえ、教え子はいいのか?」

貴子「龍門渕と清澄が一緒ですし、福路が居れば変なことにはならんでしょう」

靖子「まあ、本当の子供と違って高校生だしな。一通りの分別はつくか」

?「ん? あれ、藤田プロ?」

?「へ? おおー、お久しぶりですー!」

貴子「小鍛治プロ……と」

靖子「福与アナか。久しぶりだな」

健夜「二人はどうしてここに?」

靖子「インハイの観戦ですよ。そちらは?」

恒子「同じく観戦。ただし、打ち合わせを兼ねて」

健夜「打ち合わせ要素皆無だったよね!?」

靖子「……苦労されてますね、小鍛冶さん」

健夜「……分かる?」

靖子「以前、それと一緒に仕事したことがあるので」

健夜「や、やっと理解者が……」

839: 2015/06/10(水) 15:17:22.86 ID:CMb2fxcp0

南一局一本場


憧(て、天和とか……冗談でしょ? そんなのどうしろって言うのよ……)

初美(天和を和了る神様とか姫様の降ろす神様にもいないですー。そんな能力あるはずないから多分偶然ですねー)

胡桃(せっかく少し浮上したのにまた三万まで減った……天和とかふざけてる)

尭深(動揺してるのは新子さんだけか……天和なんだからもう少し、せめて私と同じぐらいには驚いてほしいんだけど)

840: 2015/06/10(水) 15:18:07.28 ID:CMb2fxcp0

穏乃「先生、あの天和どうなってるんですか!?」

晴絵「わからん」キッパリ

玄「断言!?」

晴絵「ここまでの第一打がそっくり手牌にあったから、オーラスの役満に関連した能力だな。それ以上は不明。多少のアタリはついてるけど、オーラスを見てからだな」


宥「って、あ、憧ちゃん、それは!?」


『ロンですよー。4200ですー』


晴絵「うーん、振り込みは仕方ないとはいえ、憧なら読めたはず。少し動揺してるな。とりあえず南場を凌いで戻ってきてくれれば落ち着かせられるんだが」

841: 2015/06/10(水) 15:18:46.26 ID:CMb2fxcp0

南二局


胡桃「ロン。タンヤオピンフ三色ドラドラ。12000」


34赤555m34赤5s34567p ロン:8p


尭深「はい……」

初美(こいつは本当に聴牌気配がないですねー。てゆうか、この点差でもダマを貫きますかー?)


842: 2015/06/10(水) 15:19:34.38 ID:CMb2fxcp0

南三局


憧(あ、親じゃん……てことは薄墨初美に警戒しないと)

初美(前半で暗槓を見せたから、他家が東も北も一枚も切らないだろうことは想像に難くないですー)

初美(ですがー、東と北が対子以上で揃うだけでもそれなりのアドバンテージなんですよー? 最悪でもオリに使えますしー)

初美(一枚も切れない東と北。五巡以内に和了れる確信がない限り、私の役満を警戒して手を引っ込めることになるですよー)

初美(一方、私は別に役満で和了る必要は全くなくて自由に打てるわけですー)

初美(そしてー、字牌が手に入るアドバンテージを生かす手役といえば混一色ですよー)

843: 2015/06/10(水) 15:20:46.56 ID:CMb2fxcp0

初美「ツモ、2000、4000」


1237899s東東東北北北 ツモ:6s


初美(ちょっともったいないですけどー、聴牌気配が読めない奴がいるから和了れるときに和了っとくですー)

憧(役満親かぶりよりはマシ、かな? さて――)

尭深(……南場は連荘がなかったから、残念だけどこのオーラスには大したものは仕込めてない。プラスで終われれば十分、かな)

憧(――冷静に考えてみればさ、さっきの天和、第一打の牌を全部使い切ってたじゃない? つまり、オーラスに仕込んだ役満があそこで出ただけの可能性が高い)

胡桃(オーラス……とりあえず渋谷尭深の役満に警戒)

初美(さっきのがあるからもう弾切れだと思いますがー、万が一があるから警戒ですよー)

憧(あの時点でオーラスに仕込む第一打が14牌確定……配牌の数を超えてた。そのあたりが発動キーかな?)

憧(なら、ここは渋谷尭深はほぼ無警戒でいいはず。他の二校は渋谷尭深の役満の秘密が分かってなければ警戒して手が縮むはずだから……ここはチャンスね)

844: 2015/06/10(水) 15:21:32.98 ID:CMb2fxcp0

南四局


憧(って、つくづく宥姉に助けられてるなあ、今回。ここまで赤い牌しかツモってないよ)


憧手牌

112233m赤5赤5p11578s ツモ:赤5s


憧(宥姉なら赤い牌が来るよね。なら、ここで切るのは当然……)

打:8s

845: 2015/06/10(水) 15:22:27.10 ID:CMb2fxcp0

宥「憧ちゃん……」

晴絵「まるで宥みたいだな。ここで迷わず7索待ちか。字牌をツモっても中以外なら待ちを変える気はなさそうだな」

玄「ここまでの打ち方が憧ちゃんの打ち方って言われるとちょっと違和感があるね。お姉ちゃん、憧ちゃんとなにかあった?」

宥「え、えっと……ないしょ」///

玄「なっ!? お、お姉ちゃんが、私に隠し事を……?」


『ロン、チートイドラ3。8000』


晴絵「直撃したのが永水なら最高だったんだがな。しかし、これでこの半荘をプラスで凌いだことになる」

灼「役満の親被りと親役満のツモを喰らってプラスなら上出来だとおも……てゆうか収入だけ見ると5万点を超えてる。普通にすご……」

846: 2015/06/10(水) 15:23:14.35 ID:CMb2fxcp0

久「ねえ、照?」

照「なに?」

久「新子さんのアレ、本当に能力じゃないの?」

照「断言するけど、違う。ただの偶然」

久「赤い牌は34種中20種。確かにツモる確率は高いけれど、それが十回、二十回と続いたら十分異常よ? 偶然とは思えないわ」

照「と言っても、偶然なものは偶然としか言えない」

久「いくらあなたの言葉でもねえ……」

照「私の言葉を疑うのは良い兆候と見るべきか……」

和「しかし、アレを見て偶然で済ませるのはいくらなんでも……阿知賀にはそれに近い能力の宥さんも居ますし、何かあるのでは?」

照「……もし、松実さんと新子さんになにかあって、それであの偶然が起きているとするなら」

久「するなら?」

照「……素敵な偶然だと思わない?」

和「……もういいです。確かに確率的にはないことではありません。あれは偶然、それでいいんですね?」

照「原村さんは物分りが良くて助かる」

久「そんなこと言い出したら麻雀では全てが偶然あり得ることになるのよ? 私は納得しないわ」

和「照さんや咲さんと会っていなければ、全て偶然なのは当たり前だと反論していたところですね」

847: 2015/06/10(水) 15:23:50.73 ID:CMb2fxcp0


中堅戦前半終了


白糸台 158200(ー 6000)
永水  120600(+12900)
阿知賀  77000(+ 6000)
宮守   44200(ー12900)


848: 2015/06/10(水) 15:24:27.75 ID:CMb2fxcp0


恭子「こいつら、役満がポンポン出る荒れ場でようやるわ。宮守のとこに座ってるのが私やったら飛んでるかもしれんな」

由子「鹿倉はそんなに得点力がないはずだったのよー」

絹恵「リーチかけないから安手が多かったし、勝ってるから連荘伸ばす必要もない場合が多くて連荘もろくにせんかったからそう見えただけかもしれませんね」

漫「言われてみれば、和了率は高いんですよね。やろうと思えばこれまでの試合でも清澄の竹井みたいな真似が出来たかもしれんってことですか?」

恭子「流石にアレと比べたらアカンやろ。洋榎があそこに座ってればトップか、悪くても二位は取るはず。この状況で出し惜しみはせんはずやし、トップ取れんかった以上は洋榎より下と見ていい」

由子「けど、洋榎あたりに勝てるほどじゃないにしても鋭い爪を隠してたってことなのねー?」

恭子「せやろな。薄墨初美は、まぐれで勝負になる相手やない。ちゅうことは、この卓で打った四人は結果に相応しい実力を持っとるはずや」

904: 2015/06/17(水) 18:17:08.02 ID:7f61t1XF0

『全10半荘のうち5半荘を終え、中堅戦のみならず試合全体としても折り返しを迎えました』

『ん? 半荘五回あったっけ? 四回しか記憶にないんだけど?』

『何言ってるんですか。中堅戦の前半が終わったんですから……あれ?』

『……記録はあるね。記憶はないけど』

『……』

『……』

『コホン。折り返しにあたって、ここまでの試合を振り返ってみましょう。三尋木プロからみて、ここまでの展開はいかがですか?』

『そうだね、点数を見れば誰でも言えることだと思うけど、白糸台と永水が優勢で阿知賀と宮守、特に宮守が苦しい』

『その優勢と劣勢の流れを作った分かれ目はどこでしょうか?』

『もちろん先鋒戦だね。荒川憩と神代小蒔、それに松実玄という高校麻雀界全体でもトップクラスの三人の争いで大荒れの場になった』

『荒川選手と神代選手に異論はないと思いますが、松実選手もトップクラスですか?』

『文句なしだね。分かりやすいとこで示すと、一回戦では去年の個人14位の寺崎さんがいる卓で脇を飛ばしての圧勝。半荘二回で15万稼いでる』

『それが昨年の個人14位の寺崎選手の猛攻をしのぎながらの数字だと考えると、もはや異常ですね。そう考えると高校トップクラスという評価も納得です』

『あの卓だと個人戦の県代表でもほぼ確実に10万削られて飛ぶんじゃないかね。飛ばなかった小瀬川さんも相当だよ。知らんけど』

905: 2015/06/17(水) 18:18:10.53 ID:7f61t1XF0

『その先鋒戦ですが、大荒れの場と言うだけあって最初から波乱の幕開けでしたね』

『初っ端で役満ぶちかますとか、マジおっかねー。初球で満塁ホームラン打つみたいなもんだよ』

『初球でどうやって満塁にするんですかというのはさておき、言いたいことは分かります』

『でも、ミスインターハイは役満程度では動じない』

『そこから、満貫二回と親倍を含む怒涛の四連続和了。役満のビハインドをものともせずに一気にトップに躍り出ます』

『「役満? たかが満貫四回分だろ?」とでも言わんばかりに軽くひっくり返してみせたね。ここでもう大抵の選手は絶望するんじゃないかな?』

『初手役満、返す手で役満を上回る収支の怒涛の連続和了、そのすべてがツモでした。他家からしてみれば役満二回を和了られたに等しいですね』

『しかし、小瀬川さんが満貫で連続和了を止めて、松実さんが親ッパネで応戦。いや、見事だね』

『圧倒的な和了速度を誇る荒川選手がいる卓では、和了ること自体が困難ですよね』

『それを満貫跳満あたりの打点の高い手で和了ってみせた。これは評価されるべきだね。知らんけど』

906: 2015/06/17(水) 18:19:36.93 ID:7f61t1XF0

『その後も、小瀬川選手の跳満を除いて、全て荒川選手の和了で場が進みます』

『しかし、半荘の終わりでまたまたやってくれたわけだね』

『はい、再びの役満。四度の槓で手牌すべてをドラに変えての四暗刻四槓子、ルール次第では全員トビで終了してもおかしくない超大物手でした』

『役満で始まって役満で終わる、とんでもない大荒れ場だったね』

『その半荘を制したのは、やはりこの人でした。ミスインターハイ、荒川憩!』

『二回も役満和了って半荘でトップ取れないとかマジっすかー、ぱねー、マジぱねー』

『二度の役満にも揺らがぬ王座。一万人の頂点、その頂の遠さを全国に知らしめる結果でした』

『で、脇の二校はというと、二度の役満とそれ以上に稼いだのをモロに喰らったことになるんだよねえ』

『苦しい展開も、言われてみれば当然。最初の半荘で役満四回分以上のダメージを取り返さなくてはならない展開にされていたんですね』

『そう聞くと絶望感が半端ないね。しかも、同じ面子でもう一半荘打たなきゃいけない。ここまでの展開の中だとここが一番絶望的な局面だったんじゃないかな? しらんけど』

907: 2015/06/17(水) 18:21:53.47 ID:7f61t1XF0

『そして始まる後半戦。荒川選手が開始早々に親で連荘します』

『あんたどんだけ稼ぐのさって感じだね。先鋒で10万削られて終わるとかマジであり得る流れだったよ』

『しかし、この試合で初めてのロン和了りがここで出ます』

『ここまで全部ツモとかマジっすかー。やってる競技違くね?』

『私もそう思いたいですが、残念ながら間違いなく麻雀です。神代選手も決して守りが薄いわけではないんですが、初めての放銃は神代選手になりました』

『三位の阿知賀はこれがあったから戦えてるね。この一発で二位の永水とは33200点も差が詰まった。これは中堅戦まで生きてるよ』

『その後、荒川選手が再び連続和了を伸ばします。東四局では神代選手のリーチを1000点で蹴りました』

『その直後に小瀬川さんに1000点で親流されたけどね』

『二連続で1000点という最小点数での進行。これは嵐の前の静けさでしたね』

『1000点でリーチを蹴られたところが変わり目、そして、凪の一局をはさんで怪物が目覚めた』

『オーラスまで終始手牌が公九牌のみでした。和了れば最低でも混老頭対対で満貫』

『いやいや、あの状態のあの子は鳴かない。公九牌のみで順子はつくれないから、七対子以外で和了れば四暗刻が確定だよ。しかも七対子は眼中になさそうだしね』

『ということは和了れば役満、圧倒的な火力を武器に勝負を決めにかかりますが、ここでも彼女がそれを阻止します』

『流石の荒川憩。まあ、神代さんも一回は役満和了ったんだけどね。しかし、南三局、南四局ときっちり止めてみせた。ただ、神代さんがもう一回和了っていてもおかしくなかったね』

『もし、もう一度神代選手が和了っていれば後半戦は神代選手に軍配が上がっていました』

『いや、そしたら試合の結果が決まってたんじゃないかな? 役満一回はデカいぜ、和了るのが永水なのもね』

『点数が減ることももちろんですが、何より二位との差が10万点を超えて開くのが大きいですね』

『トビそうなもう一校を気遣いながら10万差をまくるってのはキツい。次鋒は弘世さんも出て来るし』

『三度の役満が飛び出し、試合が大きく動いた先鋒戦でした。続いて次鋒戦ですが……』

『あ、もう一言。こうしてまとめると和了りっぱなしの荒川さんと、和了ると役満の神代さんが大暴れしてただけのように聞こえるっしょ?』

『けど、実際には松実さんと小瀬川さんが要所で二人を牽制しながら均衡を保ってたんだよ。二人の今後に影響するからこれだけははっきり言っとく、彼女たちは強い』

『特に松実さんだね、詳しくは話せないけど、色々あって本当に苦しい中で上手く立ち回ってたと思うよ』

908: 2015/06/17(水) 18:22:35.98 ID:7f61t1XF0

『で、次鋒戦ですが……』

『まず、熊倉さんがどこからあの留学生を拾って来たのか気になるね。あの人、海外までネットワークあるの?』

『私に聞かれても知りませんよ』

『そこをなんとか!』

『いや、しらんもんはしらんし……この返しでいいですかね?』

『えりちゃんもちょっとはノリが良くなったね。オッケーオッケー、じゃ、進めようか』

909: 2015/06/17(水) 18:26:13.72 ID:7f61t1XF0

『まず、ウィッシュアート選手が好調な出だしを見せます』

『そこそこの火力で二連続和了。先鋒の負けを一気に取り返しそうな雰囲気だったね』

『しかし、東三局で雲行きが怪しくなります。白糸台の弘世選手からの直撃を受けました、この後もウィッシュアート選手は弘世選手に苦しめられることになります』

『どっちかって言うと不調は松実さん……先鋒と紛らわしいから宥ちゃんと呼ぼう、宥ちゃんのせいだと思うけどね』

『どういうことでしょう?』

『まあ、分かりやすく言うと、あの6枚から混一色に行った打ち方が計算外だった。彼女の常識にない打ち方だから読みが狂ったんだね』

『読みが狂う……なるほど』

『実際には読みが狂うってのもちょっと違うんだけど、理解されないと思うからそういうことにしといて』

『そして、東四局。松実宥選手と弘世選手の高度な読み合い……ですよね?』

『読み合いだね。あの二人、どこまで読めてたんだろうね? 牌がいくつか見えてなきゃわかんないようなとこまで読んでたように思うけど』

『えっと……牌が分からないと読めない読みですか? それは実際に出来るものなのでしょうか?』

『透視能力で牌が視えれば……ってのは冗談として、捨て牌だけだと手出し考慮してもあの読みは無理だね、しらんけど』

『だけでは、ということは、それ以外の情報があると?』

『ま、卓上のアナログの情報を全部拾って全力で読んで、そこまでやって出来るか出来ないかだね。あたし、そっちは専門外だからわかんねー』

『読みが専門外ですか……? しかし、三尋木プロは何が切られるか分かっているとしか思えない待ちに取ったりします』

『それは勘。あたしの場合、捨て牌とかの情報なしでもなんとなく相手の手牌こうなってるんじゃねーかなーみたいな勘が働くんだよ。多分ね』

『……何か隠してますね?』

『おっと、なかなか鋭いね。けど、こっから先は企業秘密だぜアナウンサー? 知りたきゃプライベートでな』

『プライベートなら話していただけるということでしょうか?』

『さあどうだろ? わっかんねーなー』

910: 2015/06/17(水) 18:26:57.47 ID:7f61t1XF0

『振り返ると、留学生が試合の中心を制圧してはいるんだけど、宥ちゃんと菫ちゃんが容赦なく攻め落としてる感じだね』

『なにもなければウィッシュアート選手が和了る、しかし、松実宥選手と弘世選手がそれを許さないという展開でした』

『後半は巴ちゃんも攻めに転じたりしてたんだね。三年生四人の意地のぶつかり合い』

『終わってみれば阿知賀と宮守が息を吹き返し、白糸台はほぼ現状維持、永水がリードを多少手放したといったところですね』

『三位の阿知賀と四位の宮守にはありがたい展開だね。特に二位が近くなったのは希望が持てる』

911: 2015/06/17(水) 18:29:06.48 ID:7f61t1XF0

『そして、先ほどの中堅戦前半です』

『二位の永水と三位の阿知賀の小競り合いからスタートだね』

『比較的早い流れで試合が進みます。新子選手の速攻に対応して薄墨選手も速度重視で打ちまわしていた印象ですね』

『北家での役満が目立つけど、あの子も地力が高くて引き出しが多い、小細工じゃ崩せないだけの地力がある、押しも押されぬ強豪のひとりだよ』

『事実、新子選手に競り勝って連荘をしていますね』

『しかし、それを一本場で止めて親を引いてくる。ここからの新子さんは凄かったね。豪運って感じだった』

『赤5索をツモって白中ドラ6の8000オール、やはり赤をツモって三色ドラ3の6100オール 一時的に二位を奪還します』

『が、しかし、次の一局、早々に東を切ったのが迂闊だったね。役満をツモられて再逆転される』

『更に、その後の鹿倉選手の大連荘ですね。これは予想されていましたか?』

『四本場まで積むとはね。和了率の高い子だとは思ってたけど、ここまで出来るとは思わなかったよ』

『この親番で宮守は2万点を超える点棒を獲得、沈んだ分を一気に取り返します』

『しかし、現実は非情だね』

『現実と呼ぶにはあまりに非現実的な手でしたが』

『天和・大三元。 雀荘なら真っ先にサマを疑う』

『天和だけでも疑うところに役満が複合したら、自然な反応ですよね』

『ところがどっこい、サマじゃないんだなこれが。一切の不正はない正真正銘の天和だよ』

『ダブルはないので親の役満、16000オールでした。この準決勝で5つめの役満になります』

『半荘五回で5つの役満ってのも酷い話だね。これも大会新記録じゃないの?』

『スタッフが確認していますが、おそらくそうではないかと思います』

『でも、せっかくの役満で得たリードだけど、ここから削られるんだよね。渋谷さんは少し防御が薄い印象。もちろん、他と比べての話で、十分固いんだけど』

『全体を見返していかがでしょう?』

『四校共に良く打ててると思うよ。特に、差がついたとはいえ、先鋒はそれぞれが力を出し切ったと思う』

『ここからの展開について何かあればお願いします』

『やっぱり、阿知賀が一瞬とはいえ二位を奪還したのが大きいね。射程圏内ってことだから、永水はもう油断できない』

『宮守は苦しいけど、中堅まで来たらもうトビ終了を狙われることはないんじゃないかな? 二位を目指してなんとか争いに加わって行きたいね』

『あと、白糸台は大崩れしない限り大丈夫だろうね。必然的に二位争いが焦点になるけど、どうなるかは読めない』

『なんだかんだで戦力的には白糸台が頭一つ抜けてるから、彼女らが静観を決め込むか試合を決めようとして動くかも重要じゃないかな? まだまだ波乱がありそうだよ』

923: 2015/06/20(土) 14:51:10.19 ID:8fC7srlL0

起家 憧「よろしくー(よかった、今回は一番楽な席だ)」

南家 尭深「よろしくお願いします(薄墨さんがオーラスで北家、かあ……)」

西家 初美「よろしくですよー」

北家 胡桃「よろしくお願いします(ラス親……渋谷尭深に警戒……だけじゃなく親番で薄墨にも警戒しないと。って、最悪の席じゃん!?)」

924: 2015/06/20(土) 14:52:58.72 ID:8fC7srlL0


菫「と、解説は言っているが、どうする?」

誠子「私は静観……うちと永水がリードして副将に回るようなら滝見と協力して流します」

監督「臼沢に警戒は必要だけど、滝見も居るから二人とも止まるということはないでしょうね」

憩「あの人もやらしい麻雀打ちますからね。薄墨さんが稼いだ後で副将大将と何もさせずに終わるってのが今の永水の勝ちパターンです」

淡「あれ? 大将のあの人もエース級なんじゃなかったっけ? あたし、気をつけろって言われたよ?」

菫「地区大会ではスタイルが違っていたな。守備重視でシャットアウトするタイプになっていた」

監督「攻撃重視の虎姫に合わせて身につけたスタイルかしらね。永水は完全にうちをターゲットにした布陣になっているわ」

憩「うちに切り札の小蒔ちゃんをぶつけて、菫さんは狩宿さんで凌ぐ、尭深ちゃんは薄墨さんで稼ぎ勝って……誠子ちゃんと淡ちゃんの対策が逆な気もするけど……」

誠子「私を石戸で叩き潰して、淡を滝見で抑え込むのが妥当に思えるな。悔しいけど」

菫「最後の抑えを任せるには滝見では不安だったのだろうな。淡を抑え切れる確証もない」

憩「薄墨さんの作るリードを生かして、誠子ちゃんに多少稼がせても淡ちゃんと石戸さんのとこは真っ向勝負になるって感じの目論見やろな」

淡「けど、大将に互角で回ってきたらうちの勝ちなんだけどね!」

憩「そうなると信じとるんやけどな……なんや最近の言動見てると不安になるな」

誠子「麻雀打たないとただのアホの子だからな。早く麻雀打たせないと……」

淡「えっへん」

菫「褒めてないぞ」

925: 2015/06/20(土) 14:58:44.49 ID:8fC7srlL0

東一局 


尭深手牌

34568m234s23477p ツモ:2m


尭深(……ただ守るだけじゃこの相手には勝てない。和了っておきたい)

尭深(1-4-7萬待ち、安目の1萬を引いた時は痛いけど、4-7萬ならダマで7700、巡目も早いし、これなら……)

打:8m


胡桃「ロン、5200」


234赤5678m34赤5s中中中


尭深(捕まってる……か。私も弱いわけじゃないはずなんだけど、この相手だと役満で稼ぐ分がなかったらボロボロだなあ)

憧(まあ、上を落としてくれるだけならいいんだけど、あたしのことも容赦なく狙って来るんだよね)

胡桃(うん、好調好調。トヨネだけに負担かけらんないからね)

初美(リーチしないのは別にいいんですがー、それだけじゃなく聴牌気配が全く読めないですー)

胡桃(聴牌気配が読めない上に聴牌速度が早いとなると、迂闊に動けないでしょ? そうやって手を引っ込めてくれればこっちのものなんだけど……)

初美(このがきんちょ……私は高三ですよー? 小細工で私の手を縛ろうとか、年上に対して生意気ですー!)

胡桃(なんか失礼なこと考えてる気がするけど、私も高三だから!!)

初美(年上の強さを見せてやるですよー!!)

胡桃(どうでもいいけど服をちゃんと着ろ!!!)ゴッ

初美(うっ!? 威圧感を感じるですー……)ビクッ

926: 2015/06/20(土) 15:00:02.07 ID:8fC7srlL0

晴絵「宮守の中堅は憧と相性が悪いな。憧の持ち味のスピードで勝負してくるからたとえ競り勝ったとしても憧は相対的に不利になる」

穏乃「薄墨さんと渋谷さんも火力が持ち味で被ってますよ?」

宥「火力は二人とも和了ればそれぞれ持ち味が生かせるけど、スピードはそうはいかないからね」

玄「火力控えめの和了率重視だとより多く和了って連荘で稼ぐ、速さで競い合う相手が居るとそれが出来ないからね」

穏乃「なるほど……」

晴絵「憧が連荘したら鹿倉が潰す、鹿倉が連荘したら憧が止める。本当なら協力して永水を追いたいのにな」

宥「鹿倉さんは聴牌気配だけじゃなくてどこで鳴きたいかとかも読めないって言ってたから、協力はしにくそうですね」

玄「憧ちゃんは東横さんと打った経験があるから対応は出来てるけど、対応するのと協力するのはまた違うからね」

晴絵「東横と違って発動までのタイムラグがない、そのかわり、本気で警戒していれば振り込みは避けられるし、直撃や鹿倉の捨て牌を鳴くこともできる、か。しかし厄介だな」

927: 2015/06/20(土) 15:00:50.33 ID:8fC7srlL0

東四局


尭深(薄墨さんが北家。役満があるから考えなしに押すわけにはいかない。けど、自分の手に東や北がなければ自由に打てる……)

憧(配牌に足かせはなし。ツモるってこともあるかもだけど、とりあえず普通に手を進めて行こう)

胡桃(よし、東も北もなし! 親番だし稼がせてもらうよ)


初美(……自分の手に東も北もないってことがどういうことかわからないおバカさん達に、ちょっと地獄見せてあげますよー)ゴゴゴゴ


初美「槓ですよー」

暗槓:東東東東 槓ドラ:2s


憧(は? 槓って、北が鳴けてない今の時点で東を晒したら誰も北を切らなくなるんじゃ……)


初美「で……」ゴゴゴゴゴ


憧(……いや、違うか。こんな派手な動きをしたら誰も北を切らなくなる、それが分からないはずはない……なら、それでも大丈夫ってこと。つまり……)


初美「もう一個、槓ですよー」

暗槓:北北北北 槓ドラ:2s


憧(うっげ、槓ドラ被ってるし……二回も槓したらこっちに一枚ぐらい乗ってくれていいでしょうよ)


928: 2015/06/20(土) 15:02:25.81 ID:8fC7srlL0

照「これはまた随分と……」

久「無茶するわねえ」

まこ「しっかし、なあ?」

和「照さん、これは偶然だと思いますか?」

照「多分偶然だけど……いやはや、酷い卓もあったもの」

優希「こんなん反則だじょ……」


初美手牌

1222239s 暗槓:東東東東 北北北北 嶺上牌:8p


照「槓子に槓ドラが二回モロ乗り。敵にやられるとここまで嫌なものなんだね」

まこ「そう思うなら少しは控えてくれると助かるんじゃが」

照「しょっちゅうやってるみたいな言い方はやめてほしい。あんまりやってないはず」

和「東・北・混一色・ドラ8。小四喜にするまでもなく役満ですね。この巡目では待ちも読めませんし」

照「これ、多分、待ちが読めないとか関係なく二~三巡後に和了るんだよね。北家だから連荘は出来ないのが救いかな」

優希「じょ?」

久「西か南ね。 122223s西 みたいな形になるでしょ。東と北を晒した薄墨初美には南と西が集まる」

透華「今回は二巡で和了るから止めようがありませんが……これが毎回出来るなら、北家の薄墨はほぼ毎回五巡で役満を和了れるということになりますわね」

和「配牌で一面子ぐらいはあるものですし、開幕で東と北を晒してしまって西と南を順調にツモればそうなりますね」

929: 2015/06/20(土) 15:05:24.20 ID:8fC7srlL0

貴子「この面子だと、やっぱり薄墨ですか?」

健夜「そうだね。これが出来るなら頭一つ抜けてるかな」

靖子「薄墨は能力をよく使いこなしてるし、地力も高い」

健夜「半荘で二回チャンスがあるけど東や北を止めることで他家に対策されるのがネック……だと思ってたけど、これが出来るなら話は違うね」

靖子「半荘で一度、オーラスしかチャンスがなさそうな渋谷よりは薄墨の方が現時点では上だな。地力の差もありそうだ」

貴子「地力だと鹿倉、新子も相当高い。ただ、渋谷はやはり役満が強烈で、総合だとこの二人より上な印象です」

靖子「それで合ってるだろうな。小鍛治プロの印象は?」

健夜「私は、新子さんたちの方が総合でも渋谷さんより上に感じるけど……鹿倉さんと新子さんは持ち味のスピードを潰しあう関係だからここでは厳しいけど」

靖子「ああ、そうか、お互い早さを持ち味にして潰しあいをしている不利を考慮すれば……」

貴子「流石、視点が鋭いですね」

健夜「ふ、普通だよ……純粋に実力を測った結果だから」

恒子「やっべ、ついて行けない……藤田さんと久保さん相手だと茶化しにくいし」

靖子「お前に喋らせるとグダグダになるから黙ってろ。で、将来性まで視野に入れるとどうですか?」

健夜「うーん、渋谷さんはまだまだ伸びる余地がありそう。今も新しい能力を身に着けたみたいだし」

貴子「最後の二牌と最初の二牌、ですね? 後半からは意識しているようです」

靖子「本人に自覚なく能力が目覚めている。それにすぐ気付けるような指導者をつければどんどん化けるかもしれませんね」

930: 2015/06/20(土) 15:06:42.35 ID:8fC7srlL0

健夜「この東四局も山場だけど、この半荘の最大の山場はオーラスだよね」

貴子「ええ、特に渋谷の捨て牌……東を三枚、北を二枚、さっきは手になくてやむなく6索でしたが、明らかに被せに行ってますよね?」

靖子「こういうのは、よほどの格上や格下相手でない限りはぶつけてみるまで分からんからな。決勝を見据えた手だろう」

健夜「これで対抗できるようなら、薄墨さんが場決めでラス北家を引いたら同じようにする。無理なら決勝では安全策を取る」

貴子「一か八かのぶっつけ本番は避けたいってことでしょうね、試す余裕があると踏んでいる」

健夜「四校とも決勝に進んでもおかしく……ううん、今年以外なら決勝に行けないはずがないぐらいのチームだよ。このうち二校がベスト8止まりなんてね」

靖子「四校とも、シード常連の千里山、新道寺、姫松の三校の例年の水準を大きく上回ってますね。今現在四位の宮守でも、例年の水準ならその三校相手にトップで抜けるでしょう」

健夜「今年は本当にレベルが高い、白糸台高校ですら油断を許されないほどに」

靖子「団体の舞台に上がれなかった連中でもとんでもないのがゴロゴロしてます。去年の大豊作ですら、今年の前兆に過ぎなかったってことですかね」

931: 2015/06/20(土) 15:08:00.60 ID:8fC7srlL0

『再び役満―――!!! 永水女子 薄墨初美選手が数え役満を和了りました――!!』

『いやあ、盤石だと思ったんだけど、こう役満がポンポン出ると流石にそうもいかないか。ここの順位が入れ替わるとはね』

『この役満で永水女子がトップを奪還! 白糸台がここまで守り続けてきたトップの座を明け渡しました!!』

『そこで逆転があるとは思わなかったね、どうなってんのかさっぱりわかんねー』

『ここから試合はどう動くのか!?』

『最大の山はオーラスだけど、そこまでに何とかしようと阿知賀と宮守が動くだろうね。薄墨さんも北家じゃない時に普通に打っても十分強いから黙ってはいない』

『となると、三つ巴ですか?』

『渋谷さんが普通に打って弱いわけじゃないんだけど、あの三人は異常だからね。無理すると大けがするよ、守りを固めてオーラス勝負が無難かな』

『無難な判断を、渋谷選手は実戦で的確に下せますか?』

『多分出来るね、あの子は引く判断が的確。それが前に出る時には足かせになってる気もするけどねぃ』

932: 2015/06/20(土) 15:09:23.15 ID:8fC7srlL0

【蒲原祖母邸】


智美「……多分、今頃はみんな準決勝で盛り上がってるんだろうなー」カリカリ

智美「そんななか、私は大量の宿題を押し付けられてるわけだー」カリカリ

智美「サボりたいぞー、サボりたいんだけどなー」カリカリ

智美「サボると後で更に倍になるんだぞー」カリカリ

智美「増えたらそれもサボってしまえばいいんだけどなー」カリカリ

智美「あんまりサボると先生に呆れられそうだからなー」カリカリ

智美「わははー」ピタッ

智美「さて、宿題が終わったぞー、下に降りてゆみちんたちと一緒に観戦するかー」ワハハ

933: 2015/06/20(土) 15:10:36.79 ID:8fC7srlL0

ゆみ「ん?」

桃子「どうしたっすか?」

ゆみ「いや、早いなと思ってな」

桃子「確かに、さっきから新子さんも鹿倉さんもやたら手が早いっすよね……」

睦月「うむ」

ゆみ「あ、いや、そうではなく……」


ガチャ バタン


佳織「あ、智美ちゃん!」

智美「宿題が終わったぞー」

ゆみ「答えを丸写ししてないだろうな?」

智美「先生が答えを置いていくようなヘマをすると思うか?」

ゆみ「いや、沢村ならそんなヘマはしない。しかし、随分早いな?」

智美「漫画読んだり部屋の掃除始めたりしないで真面目にやってたならむしろ遅いぐらいだろー?」ワハハ

ゆみ「お前が真面目にやってたいたというのが疑わしいと言ってるんだ」

智美「先生のお仕置きは怖いんだぞー」

ゆみ「それぐらいでお前が真面目に……まあ、言い争っても仕方ないし今は信用するか。お疲れさま」

智美「で、試合はどんな感じなんだー?」

ゆみ「大荒れだよ。どいつもこいつも羨ましいぐらいの強運だ。勝てる気がしないな」

智美「ワハハ、これは決勝で勝てなくて良かったのかもしれないなゆみちん」

ゆみ「もし代表になっていたら何か手を打ったさ。引退が決まってからは引継ぎに重点を置いていたから今すぐ相手をするのは無理だがな」

睦月「もうすぐオーラスです。永水が連荘してますけど、多分阿知賀が宮守に振り込んで止まるかと」

智美「おっ、この時間にオーラスってことは中堅かー、勝ってれば私と当るかもしれなかった相手だなー」

934: 2015/06/20(土) 15:11:12.17 ID:8fC7srlL0

久「渋谷さんが和了れてない一方で、新子さんと薄墨さんが着実に和了を重ねてる、しかも役満まで出れば逆転はするでしょうけど……」

照「永水は先鋒前半の東四局で荒川さんに逆転されて以来のトップ。試合が大きく動いたね」

久「渋谷さんはオーラスでの一発がある。ここまでで、オーラスの仕込みは12牌以上になることが確定。普通に考えたら確実に和了れるから再逆転するはずだけど……」

まこ「そうとも言い切れん要素があるのう」

久「東と北を仕込みに使ったのよね。狙いは四暗刻みたいだけど、東と北はちゃんと来るのかしら?」

照「それはやってみないと分からないし、分からないからぶつけてるんだと思う」

透華「それにしても、新子さんも薄墨さんもやたらと好調ですわね」

まこ「そうじゃのう。今は南場で薄墨の二本場じゃが、新子も南場では二本場までいった。前半でも親で一回ずつ和了ったしのう」

優希「その親番を止めてるのは宮守のちっこい人だじぇ!」

和「完全に三つ巴といった様相ですね」

久「三つ巴の争いになって、直撃が増えて来たわね」

照「ツモでしか決まらないぐらい守りの固い面子だったけど、鹿倉さん『に』振り込むならともかく鹿倉さん『が』振り込むとは……」

久「むしろ、この点差をまくらなきゃいけないのに今まで振り込まなかったのが異常なのよ。役満の親かぶりで流石に焦りが見えて来たんじゃない?」

935: 2015/06/20(土) 15:12:34.47 ID:8fC7srlL0

『さあ、この試合で六つ目の役満が飛び出しましたこの中堅戦、盤石と思われた白糸台の首位も陥落、試合は大荒れの様相です』

『渋谷さんは守りに徹してるね。首位から陥落したのがむしろいい方に作用してる。首位を守ろうとして攻めっ気出すより失点を抑えられてるんじゃないかな。知らんけど』

『後半になってからは直撃も増え始めました。点数の移動はあるものの、トータルでは阿知賀と宮守の点数は中堅戦開始時と大きな変化はありません』

『まあ、変化なしってことは役満のツモを食らった分を取り返したってことなんだけどね。その分は渋谷さんがツモで削られてることになる』

『そして、注目のオーラス。渋谷選手はオーラスで役満を和了ることが多いと言われています、とすれば、ここで七つ目の役満が飛び出すのか――!?』

『いやいや、薄墨さんだって北家で役満和了るんだぜ?』

『となると、役満手のぶつかり合いになるわけですか?』

『……えりちゃん、矛盾って知ってるかい?』

『知ってますよ。最強の槍と最強の盾の話ですよね?』

『そ、あの話は全てを防ぐ盾と全てを貫く矛だからおかしなことになる』

『えっと……?』

『全てを打ち砕く最強の矛と、全てを打ち砕く最強の矛だったら、変な話にはならないのさ』

『ま、まあ……? 砕かれる盾は普通の盾ですからね?』

『そうだね、矛が二本なら普通はそう。で、どっちが早く目標を砕くかって話になるよね』

『そうなるのが自然ですね』

『でも、盾と矛の話で矛盾を指摘した人は聞くだろうね』

『なにをですか?』

『その矛同士がぶつかったらどちらが砕けるのか、ってさ。知らんけど』

『……あれ? それだとおかしなことになるじゃないですか?』

『なんねーよ? 矛盾しない結末があるじゃん』

『えっと、でも、盾だけじゃなく矛でも砕くんですよね? どっちの矛も。 それはやっぱりおかしいですよ』

『……まだまだだね、アナウンサー』

『はっきりおっしゃってください、じゃあどうなると言うんですか?』

936: 2015/06/20(土) 15:13:47.86 ID:8fC7srlL0

南四局


初美(……まあ、基本は配牌で東と北の対子が入るんですがー、私はここでも槓子を引き込んだつもりだったんですよー? どうなってるですかー?)


初美手牌

24789m1589p東東北北


尭深(私は東と北を三枚ずつ仕込んだはず……なのにこれは……)


尭深手牌

555666s139m東東北北


初美(せめて北が鳴ければって感じですがー)

初美(なにも妙な力を使わずにこうなるってことはあり得ないのでー、確実に『なにか』をされたはずですよー)

初美(どうやら、なにか私の北家と張り合えるような力を持ってるらしいですー。今回の結果はこいつの役満の秘密のヒントにもなりそうですよー)

初美(私の北家と張り合えるってことは、『特定の牌を引き寄せる力』でその特定の牌に東と北を設定したということ。この半荘にこいつが打った東と北に絡む手を総ざらいですよー)

初美(オーラスで役満を和了ることが多い、その秘密、分かってしまうかもしれませんよー)


尭深(おそらく、能力のぶつかり合いが五分だった……ということは、この東や北を切ったら鳴かれる……これが切れない上に持ち持ちということは、四暗刻を狙う限りこの手は氏んでる……)

尭深(ここから東や北を切って薄墨さんに息を吹き返されても嫌だし……そうしたとしても本来の目的の四暗刻には遠い)

尭深(字牌を処理して手を進めるとしても、流石に字牌二種ともは切れないから頭が東か北で固定、役は混一色か対対あたりかなあ……)

尭深(あるいは、暗刻を一枚ずつ切ってしまって七対子? うーん、最後まで東と北を切らずに進められるから一番ましかなあ?)

937: 2015/06/20(土) 15:15:40.41 ID:8fC7srlL0

久「全てを砕く最強の矛をぶつけあったら、互いに砕けるってことね」

照「詭弁にもほどがある。矛盾の話を持って来るなら両立する内容にしちゃダメ」

和「『どんな盾も貫き通す矛』と『どんな矛も通さない盾』ならば矛盾しますが、これが『砕く』や『防ぐ』だったら矛盾はしないということですね」

久「砕かれても相手を使用不可の状態にすれば防ぐことは出来るからね。同時に起こりえることは矛盾にならない」

優希「難しい話はわからないじぇ……」

透華「矛盾のたとえに矛と盾を持って来るとややこしいですわね」

まこ「そうじゃのう……とはいえ、それが一番わかりやすいしのう」

照「『全てを貫く矛』と『最強の盾』、あるいはその逆の『最強の矛』と『全てを防ぐ盾』なら両立する」

久「そうね。そして、最強の矛と最強の盾を一人で持つことも出来る。というか、実際に持ってる人間が居る」


照「だから荒川憩は強いんだね、鉄壁の守備と絶対に一発でツモる高速高打点の攻撃」
久「だから照は最強なのよね、最強の盾と最強の矛を同時に使いこなす」


照「……」

久「……」


照「まったく、買いかぶりもここまで来ると嫌味だね」
久「やれやれ、謙遜もここまで来ると嫌味よね」


照「……」

久「……」


照「……私、盾とか矛っぽい能力使わないし……」
久「絶対にマイナスにならない最強の盾と絶対に5000点稼ぐ最強の矛を持ってるくせに何言ってんのかしらこの子は?」


久「読み通りね」ニヤリ

照「台詞を先読みしないで! 被せないで!」プンプン


まこ「なにをやっとるんじゃおんしら」

和「はあ……まったく緊張感のない。確かに他人の試合ですが、うち二校は決勝に行けば必ず当たる相手ですよ? 遊んでないで真面目に観戦してください」

透華「まったく、仲がよろしいことで」

938: 2015/06/20(土) 15:16:50.76 ID:8fC7srlL0

胡桃(二人が牽制し合ってるっぽいね。この隙に連荘……すると不味いかな? 役満の親かぶりを考慮するなら16000、跳満以上じゃないと割に合わない?)

胡桃(二位の白糸台との点差で考えるなら満貫でもオーケーなのかな? あー、よくわかんない!)

胡桃(とにかく高ければいいんでしょ!! ならこれで!!)

胡桃「ツモ! 6000オール!」パタン


34赤5s34赤5m1134赤5p発発 ツモ:発


初美(今回はこれで勘弁してやるですよー! 親が和了ったからわたしの北家は続いてますしー!)

尭深(十分な収穫があった。東か北のどちらかだけを仕込めば、それを対子にして四喜和を防ぎながら役満を狙うことも出来る)

尭深(三枚仕込んで二枚だから、もしかしたら四枚仕込めば三枚になったかもしれないし、仕込みが二枚だけだと手元に一枚しか来ないかもしれない)

尭深(失敗したなあ……片方だけを四枚仕込めば良かった。確認だけならそれで十分だし、その方が良かった)

939: 2015/06/20(土) 15:18:04.65 ID:8fC7srlL0

南四局一本場


憧(渋谷尭深の役満は不発。表情からして、『南四局であれば仕込んだ牌が何度でも来る』ってわけじゃないみたい)

憧(オーラスで渋谷尭深が親だったことと渋谷尭深が居る卓のオーラスで親が和了ったことが一度もなくて不確定だったんだけど……)

憧(まあ、そりゃそうだよね。じゃなきゃ親とのダブロンで進めれば二回同じ手を作って役満を和了るとか出来ちゃうし……)

憧(さっきの6000オールで、私の中堅での収支はマイナス)

憧(このままじゃ終われないよね。私だって、決勝に行って和たちと戦いたいんだからさ)

憧(だから、もう一回だけ……力を貸して、宥姉)

940: 2015/06/20(土) 15:18:57.67 ID:8fC7srlL0

宥(憧ちゃん……)


玄「配牌で赤3、勝負手なのです!」


宥(私には、ほかの人があったかい牌を引けるようにする力なんてないんだよ?)


穏乃「頑張れー、憧ー!!」

灼「いや、頑張ってもツモは変わらな…………」


宥(おまじないは、あくまでおまじない。ただの気休め)


晴絵「赤5索を切った、混一色に向かう気か? いや、混一色なら筒子の赤二枚も切らなきゃいけない。赤三枚切って混一色にする意味はない……まさか!?」


宥(じゃあ、今起きてるあれはなんだろう? 偶然、なのかな?)


玄「お姉ちゃんもちゃんと応援して! ほら!」

宥「あ、あこちゃんふぁいとー!!!」

941: 2015/06/20(土) 15:19:58.46 ID:8fC7srlL0

久「で、あれでも偶然だって言うの?」

照「私の中では『偶然』に入る」

和「照さんの中ではって……そういえばこの人は国士に暗槓で差し込むのを偶然と言い張る人でした。私としたことがなんと愚かな……」

まこ「やっぱり、なんかあるんか?」

照「なにもない。強いて言えば、彼女にとっての『運がいい』とはああいうこと」

和「憧にとって、とは?」

照「例えば……原村さんにとって運がいいって何?」

和「好配牌が来て、多面待ちが出来て、順調に埋まって、ツモが高目に寄って……オリる場面では安牌をツモったりですかね」

照「じゃあ、松実玄さんにとっては?」

和「……槓ドラなどの潜在的なドラが分かりやすい手になることですね。多面待ちになることなどはむしろ不運、私とはかなり違いますね」

照「荒川さんにとっては?」

久「カンチャンペンチャンばっかりの酷い配牌が来ることね。それが彼女にとっては幸運になる」

照「私にとっては?」


和「プラマイゼロにしやすい点数、26000~28000程度でオーラスを迎えること、ですか?」
久「なにやっても勝つから運とか関係ないでしょ、あなたは」


照「……どっちも不正解。正解は、道が分からない時に勘で選んだ道が正しい道であること」

和「だとしたら幸運だったことなんて一度もないじゃないですか!?」

照「原村さん酷い……交差点を15回ぐらい正しい方に進むとか結構あるのに……」

まこ「道が分岐する度に判定するんかい……そりゃ照さんの豪運でも駄目なわけじゃ」

942: 2015/06/20(土) 15:20:43.40 ID:8fC7srlL0

咲「今の新子さんはツイてる。そして、新子さんにとって運が良いっていうのはあれなんだよ」

京太郎「それって能力とは違うのか?」

咲「私の中では、今の新子さんぐらいだと偶然にカウントするかな。宥さんみたいに不調でも赤い牌を引くようだと能力だけど」

衣「そうだな、例えば、京太郎が満月の夜の衣と同じ配牌と同じツモを与えられたとしても幸運とは言わんだろう?」

純「打ち方間違えて和了れないってオチがみえるな」

智紀「海底でしか和了れない配牌とツモ、常識的には不運と言える」

咲「けど、衣ちゃんにとってはそれが幸運。衣ちゃんが好調な時に起きるのは衣ちゃんにとっての幸運」

京太郎「で、新子さんが好調な時に起きるのは、赤い牌をツモる現象だってのか? それ、やっぱり能力なんじゃ? 天江さんと似たようなもんって言われるとますます能力くさい」

一「ボクが好調な時はツモが三色とか一通とか混一色なんかの役に向かって真っすぐ伸びるけど、これは能力かな?」

星夏「それは……運が良いだけかと」

美穂子「そうね、それは運が良いだけという認識でいいと思うわ。そして、宮永さんにとっては新子さんのあのツモも『運が良いだけ』に分類されるのね?」

咲「はい。特にルールもなく、手が伸びるだけですから。『好調時に有効牌を引く』っていうのは能力かと言われると……」

智紀「ただ好調なだけだと?」

咲「ですね。それに『引く有効牌が赤い牌になっている』というのがついてますからグレーゾーンですけど、私はただの好調に分類します」

京太郎「なら、突然好調になった理由は?」

咲「気合を入れなおしたとかじゃないかな? 内面の変化の理由までは私にはわからないよ。 自分の意志で切り替えられるなら能力かもね」

943: 2015/06/20(土) 15:21:22.41 ID:8fC7srlL0

憧(やっぱり宥姉は頼りになるなあ。いや、玄とかハルエとかが頼りないってわけじゃないんだけどさ)

憧(あたし、役満和了るの何年ぶりかな? 小学生の頃以来かも)

憧「ツモ」


1112225m5赤5赤5p中中中 ツモ:赤5m


憧「四暗刻。8000、16000」

胡桃(うそっ!? そっち!? 赤切ってなんかしてるとは思ったけど……)

初美(ヤバげな捨て牌を見て様子見しましたがー、振り込んでたら大惨事でしたよー)

尭深(あ……これは流石にまずいかもしれない。こうなるぐらいならさっきの局で薄墨さんに役満を和了ってもらうほうがマシだった……)

944: 2015/06/20(土) 15:22:10.11 ID:8fC7srlL0

『役満が出るのは予想してたけど、あんたが和了んのかい!? これはホントに知らんし、マジで』

『この試合七つ目の役満が飛び出しました――!! 荒れ場も荒れ場、半荘6回で7つの役満が飛び出す大荒れの準決勝――!!』

『いやいや、これは衝撃だね。ここまでは神代さんと渋谷さんと薄墨さんっていう、役満和了るのが当たり前な面子だったからまだいいけど……』

『オーラス、そして薄墨選手が北家、渋谷選手か薄墨選手が役満を和了ると思われた中で阿知賀女子 新子選手が役満を和了!! 二位の白糸台を一気に射程に捉えます』

『いやー、そりゃ役満が偶然出ることもあるわけだけど、ここでそれ引いてこれちゃうかー。前半でもそうだったけど相当な強運だね』

『そして、この役満で試合の展開も大きく変わって来ました』

『おお、そういえば。まさかが見えて来たね。残りの半荘は四回、これは現実的な数字かもしれないね、知らんけど』

945: 2015/06/20(土) 15:22:42.48 ID:8fC7srlL0

中堅戦終了


白糸台  119500(ー38700)
永水   135500(+14900)
阿知賀   96700(+19700)
宮守    48300(+ 4100)

946: 2015/06/20(土) 15:23:18.40 ID:8fC7srlL0

トシ「二位まで7万差。ようやく背中が見えて来たねえ」

塞「と言っても、ここからじゃ豊音頼りになりますけどね」

白望「阿知賀が良くわからないのが痛いなあ……」

豊音「大丈夫だよー、私ちょー頑張るよー」

エイスリン「トヨネ、オネガイ!!」

塞「え? いや、豊音頼りって言ったのは私だけど、ちょっとは私にも期待してくれていいんじゃ……」

白望「この点差のまま豊音に繋いで、期待してるから」

塞「え? 期待されてそれなの!?」ガーン

豊音「8万点差までならちょー頑張ればなんとかなるかもしれないよー」

塞「なんで離されること前提にしてんの!?」

トシ「ぶっちゃけると稼ぐのに向いてないしねえ……守りの切り札ではあるんだけど」

塞「いやいや、向いてますって。相手の和了りを止めて自分だけ手が進むとかもう必勝!」

白望「けど、副将は早和了りするのが二人いるしなあ……塞は1人しか塞げないし」

塞「ぐっ……確かにそれは辛いんだけどさ」

947: 2015/06/20(土) 15:24:00.66 ID:8fC7srlL0

監督「22800差……あまり余裕はないわね」

誠子「どうしましょう? 攻めますか?」

監督「いいえ、流しましょう。滝見は間違いなく流しにくるはずだから、逆らうぐらいなら乗ってしまった方がいい。大将は淡、二万は十分なリードだわ」

憩「同感や、リードなんか二万もあれば十分、変に安全を求めると逆に酷い目に遭うっちゅうのが経験則やな」

菫「それに、亦野は攻めるよりも守り気味の安い早和了りの方が向いているしな。案外、攻めに出るより良い結果になるかもしれない」

誠子「それはそうなんですけど……」

淡「セーコはケイみたいに稼ぎたいんだよねー!」

憩「およ? そうなん? 自分で言うのもなんやけど、流石にうちと同じぐらい稼ぐってのは無茶やで?」

誠子「いや、そこまでは望んでない。速度は十分あるから、何とか打点を乗せて大きく稼ぎたいというか……」

菫「その考えは隙になるぞ。普段の相手ならそれで押し切れるだろうが、今回はそれが通じる相手ではなさそうだ」

監督「そうね。今は勝負に徹してちょうだい。あなたのスタイルについては大会が終わってから検討するわ」

誠子「……はい」


バタン


尭深「戻りました……ごめんなさい」

監督「いえ、指示に従った結果の失点は仕方ない。それは指示を出した私のミス。あれがなければオーラスはあなたが役満を和了っていたはずよ」

菫「その通りだ、気に病むな渋谷。ここは二位通過でも構わないと、そう考えての指示だ」

憩「二位になっても構わん、そこまでは織り込み済みや。計算外は役満を和了ったのが阿知賀だったことやな」

淡「私がいるから大丈夫だよー」

尭深「うん、ありがとう淡ちゃん」ナデナデ

誠子「じゃあ、行って来るよ」

尭深「あんまりリードを残せなくてごめんね誠子ちゃん」

誠子「いや、仕方ないさ。それに、憩がさっき言ってたけど、下手に余裕があるより追い詰められてた方がいいのかもしれない」

尭深「……頑張ってね」

誠子「ああ、もしなにかあったらその時は頼むぞ、淡」

淡「はーい! お任せあれ!!」

976: 2015/06/24(水) 18:51:29.87 ID:yH12t8XB0

副将戦後半 南四局


塞(……)

打:4s

誠子「ロン、1000点」

4567s チー:123s ポン:777m 白白白


塞「ようやく……終わった……」ゼエゼエ

春「……お疲れ様」スッ

塞「黒糖……? ありがたいけど、今食べたら吐くわ……」

春「残念」ポリ

977: 2015/06/24(水) 18:52:17.62 ID:yH12t8XB0

『最後まで持ったね、大したもんだよ』

『1000点での決着、全体を通しても異常なほど安手ばかりの進行になりましたね』

『そりゃ、意図してそうしてるんだからそうなるさ。最高点が2600だっけ?』

『はい。役満の嵐が吹き荒れた中堅とはうってかわって穏やかな展開でした』

『穏やか、ねえ? 個人的には副将の方がよっぽど剣呑だったと思うけど』

『とは言っても……』

『とりあえず、軽く流れをを振り返っておこうか』

『あ、はい……早い進行でしたから、時間も空いてしまってますしね』

978: 2015/06/24(水) 18:52:59.63 ID:yH12t8XB0

やえ「おはよう」

良子「起きたか、おはよう」

紀子「まだ試合は終わってない。もう少し寝ていてもいい」

やえ「そうは言ってもな。目が覚めてしまったものは仕方ないだろう」

由華「牌譜いります?」

やえ「もらおう」

980: 2015/06/24(水) 18:54:13.78 ID:yH12t8XB0

洋榎「ふああああ。おーう、絹、元気かー?」

絹恵「お姉ちゃん、副将戦終わるまで寝とるってどういうことやねん? 末原先輩は次鋒戦で起きたで?」

恭子「洋榎は夜更かししたことないおこちゃまやからしゃあない」

洋榎「誰がおこちゃまやねん!! 夜の9時過ぎても起きとる連中がおかしいんや!」

絹恵「……お姉ちゃん、いつも言っとるけど、その年で9時に寝るのは流石に……」

漫「そういえば、確かにこっち来てから毎日9時には寝入ってたような……」

由子「一年の合宿の頃からそうなのよー」

?「ふああ~、お姉ちゃん、うるさいで~。起きてもうたわ~」

恭子「……もう一人のねぼすけも起きたみたいやな。こっちは起きとっても寝言ばっか言う人やけど」

郁乃「末原ちゃん酷い~」

恭子「しかし、なんで寝てたんや? てゆうか教え子ほっぽって監督が寝とるってどういうことや?」

郁乃「結構前に起きたんやけど~、末原ちゃん起きてるからええかな~って思って、昨日の記録とかをまとめてから二度寝してたんよ~」

恭子「そうですか、お疲れ様です」

郁乃「末原ちゃん冷たい~」クスン

981: 2015/06/24(水) 18:55:13.14 ID:yH12t8XB0

やえ「……副将戦はそれほど荒れた展開にはならなかったのか」

紀子「荒れる要素が徹底的にそぎ落とされていた。いや、ある意味荒れていた」

由華「亦野が全力で早上がりに徹して、滝見もそれに追随してました。点数だけ見ると穏やかですね」

やえ「協力して速攻で流す、リードしている側の特権だな。それで、鷺森は……焼き鳥だと? 地力的にはあいつが圧倒する場だろう?」

日菜「原因は臼沢さん。で、分かるよね?」

やえ「……ちょっと待て、寝起きで頭が回っていない。あいつが鷺森を止める理由はなんだ? この点差なら鷺森に暴れさせて上を引きずりおろす方が良さそうだが」

紀子「それは……」
やえ「ああ、そうか。逆転は姉帯に任せて危険な鷺森を止めに行ったのか」

紀子「そう、理由としては……」
やえ「それでも鷺森を暴れさせた方が得な気もするが……鷺森には二位になった時点で宮守を飛ばして終わらせるという選択肢もあるから上を削れるメリットを放棄してでもリスクを避けたんだな」

紀子「そこから窺えるのは、宮守の……」
やえ「一か八かの賭けに出るぐらいならリスクを避けて大将に任せる、か。姉帯は随分と信頼されているらしい」

紀子「……説明しようとしたこと全部言われた」ショボーン

由華「あはは、ドンマイです」

982: 2015/06/24(水) 18:56:18.25 ID:yH12t8XB0

郁乃「早和了り二人が臼沢さんの妨害もなく速攻で流し続ける。そしたら小場になるんやな~」

恭子「鷺森だけが高打点で速度もあるけど、それは臼沢に止められとる状態ですからね、臼沢は最初から鷺森に怯えとる様子でした」

洋榎「亦野や滝見はお互いに安手で和了ることで協力体制を取ってるわけやから、終盤までは裏切らんやろな」

漫「えっと、なんか末原先輩も副将戦の最中にそんなこと言っとったな……」

絹恵「高い手で和了ると思われたら、差し込みも期待できんし、サポートもしたくないやろ? せやから意図して安手を作って相手の警戒を解くんや」

恭子「そう思わせておいて高い手に差し込ませて出し抜く……とかをやるにしても終盤や。後半の南場ぐらいまではドラも自分から手放して安手をアピールして協力体制を取る」

洋榎「にしても阿知賀の、めっちゃ気合入っとるな~。録画からでも伝わってくるわ」

由子「阿知賀は前回出場した時も準決勝で敗退、部長さんは並々ならぬ思いを抱いてるのかもしれないのよー」

恭子「といっても、臼沢にマークされたらしまいや。まともな打ち手は絶対に和了れん。神代とか荒川あたりなら分からんけどな」

983: 2015/06/24(水) 18:57:10.38 ID:yH12t8XB0

やえ「……鷺森の立場なら臼沢のマークが外れるまでやり過ごすのが賢明だな。点差があるまま局数が進むのは辛いが、それは臼沢も同じこと」

紀子「むしろ、二位が遠い宮守の方が辛いはず。分の良い我慢比べ」

やえ「が、鷺森は我慢できなかった。臼沢の能力を破ろうともがき、臼沢は更に警戒して鷺森を押さえつける。いたずらに局数だけが過ぎていく」

由華「そして、そのままの状況が続いて気付けばゴールです。滝見はそもそも高い手が作れない能力なのかもしれません。亦野は安手に徹しているようでした」

やえ「欲を出さずに、しっかりオリつつ早和了りに徹したならば奴は相当強い。三位転落が現実味を帯びた点差で回って来て、奴も一つ階段を上ったか」

紀子「筋に頼って中途半端なオリ方をしたり、高目を目指して鳴きを見送るとか、色々と隙が多い選手だったのが見違えるよう」

日菜「彼女も経験の浅い新レギュラー、麻雀の粗さはすなわち伸びしろ。弱点の分だけ成長の余地があったわけだね」

やえ「勝負に徹することが出来たのは、鷺森という脅威があったのも大きいだろうな」

良子「安全は毒、セーフティーリードが常にあったことが亦野の成長を遠ざけてたってか」

やえ「安全は毒、か。上田にしては気が利いたことを……鷺森は手を緩めてその毒を飲ませるべきだったな」

紀子「三尋木プロの解説のセリフだから気が利いているのは当然」

良子「おいこら、バラすの早いって」

984: 2015/06/24(水) 18:58:35.84 ID:yH12t8XB0

やえ「で、結果を見ると……亦野と滝見の互いへの差し込みや安手のツモだけで場が進んで、点数は副将戦開始時と大差ないまま大将に回ったか」

紀子「苦しいのは宮守。阿知賀は元々逆転圏内だったからまだ戦える」

やえ「……なるほど、二位の白糸台と三万ほどの差で高鴨か」

良子「この展開をどう見る?」

やえ「……寝る」

良子「は?」

紀子「……見るまでもないと?」

やえ「三万差で、残り半荘二回あるんだろう? そりゃ高鴨なら決まりさ。白糸台が準決で落ちるとは思わなかったがな」

由華「でも、大星淡も他家の配牌に干渉したり、あと、ダブリーかけたりしますよ?」

やえ「その辺の能力はむしろ高鴨の餌食だ。それ以上の奥の手がなければ負ける要素はない。おそらくダブリーが奥の手のはずだから大丈夫だろう」

紀子「奈良県初の決勝進出は決まったようなもの?」

やえ「だと判断する。未知数の姉帯が序盤から高鴨を狙った場合は危ういが、おそらく高鴨が逆転するのは終盤。そこまでは姉帯も現時点の二位……すなわち大星を狙うだろう。そして、終盤の高鴨に隙はない」

由華「でもでも、何か起きるかも……」

やえ「その何かが起きたならその後で確認するさ、観戦者に過ぎない私が起きて見ていたところで結果が変わるわけじゃない」

985: 2015/06/24(水) 18:59:09.18 ID:yH12t8XB0

恭子「代行が起きたなら、私は少し寝させてもらうわ」

洋榎「は? うちが起きたばっかやっちゅうのに寝るんか?」

恭子「おんなじ時間に寝たのに、私は次鋒戦から起きてて、洋榎はさっきまで寝とったよな?」

由子「なのよー」

恭子「せやから私は眠いんや。誰が何と言おうと寝る」

郁乃「あ~、ならうちも一緒に~」

恭子「」ビシッ

郁乃「いたた~、無言で突っ込むなんて末原ちゃんのいけず~」

986: 2015/06/24(水) 18:59:41.95 ID:yH12t8XB0


副将戦終了


白糸台  123700(+4200)
永水   138500(+3000)
阿知賀   94000(ー2700)
宮守    43800(ー4500)

987: 2015/06/24(水) 19:00:22.13 ID:yH12t8XB0

穏乃「灼さん……」

晴絵「結果だけ見れば悪い成績じゃないが……辛そうだな」

宥「……」

玄「……」

憧「で、なにしてんのハルエ?」

晴絵「え? いや、玄のドラ復活の相手をしようかと……」

憧「殴るよ?」

晴絵「おいおい!? 望じゃあるまいし、その理不尽なキレ方はやめてくれ!」

玄「赤土先生、私からも一発お見舞いしますよ?」

晴絵「玄まで!? どうしたんだお前たち!?」

宥「早く行かないと、私も怒りますよ?」

晴絵「現代の若者に広がる理不尽な怒り!? 宥が怒るとかあり得るのか!?」

憧「いいからさっさと灼を迎えに行けって言ってんの!! マジで殴るよ!? 5、6発!」

晴絵「殴る回数多いな!? 分かった分かった、行くから落ち着け! 振りかぶるな!」


ドタドタ……バタン!


憧「ったく、アレはマジで天然なのかねー?」

玄「かける言葉が思いつかなくて行くに行けないだけ……と信じたい」

宥「灼ちゃん、大丈夫かな?」

穏乃「憧ー、私が迎えに行ったらダメだったの?」

憧「こいつは天然だよね、はあ……」

988: 2015/06/24(水) 19:01:00.32 ID:yH12t8XB0

灼「うっく……私、絶対勝つなんて言っておいて……何も……ううっ!!」グスッ


晴絵「……まだ対局室の中だったらどうしようかと思ったよ。選手しか入れないからな」


灼「は、はるちゃ……!?」ゴシゴシ

晴絵「お疲れ様、二位と三万差、逆転圏内で繋いでくれた。お手柄だぞ灼」

灼「……」

晴絵「どうした? よく打ってたじゃないか。少なくとも打牌にミスは一つもなかった」

灼「そんなはずな……ミスがないなら半荘二回の間焼き鳥なんてありえな……」

晴絵「臼沢の能力については教えたな? 仕方ないんだよ」

灼「でも……あそこに座ってたのがはるちゃんならきっと……」

晴絵「まあ、アレ相手でも跳満ぶちあてるぐらいはできたから、私なら何か出来たかもな。だからどうした?」

灼「だからどうしたって……なのに私は何も……」

晴絵「思い上がるなよ、灼。私に出来ることならお前にも出来るとでも思ったのか?」

灼「それは……」グスッ


晴絵「って、こんなことを言いたいわけじゃないんだ! 灼は本当によくやってたんだってば!」アセアセ


灼「さっきのセリフの後だと取り繕ってるようにしか聞こえな……」

晴絵「おおうっ……私はそんなつもりじゃ……」

989: 2015/06/24(水) 19:01:39.15 ID:yH12t8XB0

灼「で、私はどういうところが良く打ててたの?」

晴絵「まず、結果を冷静に見てくれ。全国の準決勝で半荘二回打って失点が5000を切ってる。一回も和了らずにだ。放銃ゼロは立派なことだ」

灼「けど、一回も和了れてな……」

晴絵「それも裏を返せば凄いことだな。前半の東一局から臼沢のマークは灼だけに集中していた。それだけの脅威だったんだ」

晴絵「臼沢にとって、灼は白糸台の副将や永水の一年レギュラーなんか眼中に入らないぐらいの大物だったってことだ。これは凄いことだぞ」

灼「でも、臼沢の能力を破っていれば和了れたはず……」

晴絵「実は、臼沢はオーラスの時点でもう限界だった。だから、最後はお前を止めるのを諦めて亦野に差し込んだ」

灼「……」

晴絵「地区大会ではマークした相手を全て封頃し、自らはツモ以外では失点しなかった、まさに鉄壁と言える守備を誇る臼沢塞が、振り込んで失点したんだ」

灼「もう少し頑張れば、和了れた?」

晴絵「そうだな。しかし、あの状況じゃ和了れないのが普通だ。もう少しで和了れるところまで行ったのがそもそも凄い」

灼「……」

晴絵「亦野も滝見も、お前を警戒するからこそ、臼沢がお前のマークを外さないようにしていた。臼沢の負担にならないように互いへの差し込み中心で流し続けた」

晴絵「あの卓の三人は、全員がお前に怯えて逃げていたんだ。灼があの卓の中心だったんだよ。これは解説の三尋木プロも、逃げたとは言わないけど似たようなことを言っていた」

灼「……」ポロポロ

晴絵「なっ!? ま、まだ足りないか!? なら、実際に打った手だけど、東一局の三巡目――」

灼「もういい……」グスッ

晴絵「いいや、聞け! あの段階で灼は違和感を感じて臼沢にマークされていることに気付いた。たった三巡で臼沢に揺さぶりをかけ始めたんだ! この判断があったからこそ……」

灼「もういいってば!! 自信、持てた……ありがと……」ポロポロ

晴絵「し、しかし、お前、泣いて……」アセアセ

灼「嬉し泣き……ちゃんと見ててくれたのが、嬉しいだけだから……」ギュッ

晴絵「そ、そうか? まあ、見るのが仕事だからな。監督だし。あはははは」

990: 2015/06/24(水) 19:02:21.82 ID:yH12t8XB0

【曲がり角】


憧「そこでキョドるな! せっかく上手くフォロー出来てたのに、全くハルエったら!」

宥「し、仕方ないよ、赤土先生だし……そこまでは……」

玄「しっかり決めないと灼ちゃんがかわいそうなのです」

穏乃「あこ~? まだ会場行っちゃだめ?」

憧「ダメ」

穏乃「ちぇー」

憧「まあ、ハルエにしては合格点か。お姉ちゃんから聞いたドン引きエピソードに比べれば」

宥「あ、それ聞きたい」

玄「先生は今まで何をやらかして来たの……?」

憧「本人の名誉のため黙秘」

宥「あ、名誉が傷つくレベルなんだ……」

憧「今のを見て灼に同情してる玄なら、全部聞いたら義憤に駆られてハルエを殴りに行くと思う」

玄「そこまで!?」

991: 2015/06/24(水) 19:03:21.08 ID:yH12t8XB0

『いやあ、てなわけで、ギリギリもギリギリって感じだね。あとちょっと何かが違えば鷺森さんの大爆発が見れたかもしれないよ。知らんけど』

『亦野選手も滝見選手も三校での協力体制を取るため……臼沢選手に負担をかけないように安手を作り、可能な限り互いへの差し込みで場を進めていたんでしたっけ?』

『高度な読みが必要で、臼沢さんなんか目に見えて消耗してたからね、三人とも限界だった。いやあ、よく半荘二回抑えたよ。見た目地味だけど、めちゃくちゃ熱い攻防だったね』

『怪物が解き放たれたら終わり、三人で協力して怪物を時間いっぱいまで抑え込む。余裕はほとんどない……最悪なことに鷺森選手がラス親と』

『手を取り合えば化け物相手でも戦える、なにせ、持ってる牌の数は変わらないわけだからね。三対一で勝てるのがまずおかしいんだよ』

『三校で協力する場合、どこかで出し抜くものだと思いますが……最後の最後まで、出し抜く人間が現れませんでしたね』

『そんな余裕ないっしょ。灼ちゃんサイドから見るなら、暴れ続けたことがミスかな? 氏んだふりして油断させて連携に綻びを入れれば勝てたんじゃないかねえ。知らんけど』

『安全は毒、でしたっけ?』

『そそ。ギリギリの勝負で安全に勝とうとすると逆に勝ち目を逃すことになるからね。優勢を意識するってのは危険なんだよ』

『運も絡むようなゲームでは完全に安全ということはありませんからね。よほどの幸運に恵まれない限りはどこかで勝負に出る必要があります』

『運の要素がない将棋なんかでもそうなんだけどね。一手違いの局面で、優勢だから安全にとか思ったらそこで簡単に逆転する。ギリギリを読み切って踏み込まないとね』

『劣勢だと思っているからこそ思い切った手で逆転を掴めるなんて話もありますからね。逆に優勢を意識してしまうと手が縮む』

『そゆこと。灼ちゃんは相手を追い込み続けたけど、余裕という毒を飲ませれば仲間割れを誘えたんだよ。三対一は三の側に常に連携の隙がある』

『圧倒的な力があればねじ伏せることも出来たでしょうけど、拮抗していましたから、そういう駆け引きが重要だったんですね』

『本来敵同士の連中が手を組むんだから、共通の敵が弱れば連携は切れる。まあ、その判断をして実行するのは並大抵のことじゃないけど』

『水面下で激しいせめぎ合いがあった副将戦でした。一歩間違えれば試合の展開は大きく違っていたのかもしれません』

『実際はなにも起きずに静かなまま終わったんだけどね』

992: 2015/06/24(水) 19:03:57.52 ID:yH12t8XB0

『それで、大将戦ですが……』

『永水と白糸台の格付けにも興味があるけど、宮守がこの点差でも最後まで包囲網に加わり続けたのが怖いねえ。上を削るためにどこかで鷺森さんを暴れさせると思ったよ』

『大将戦にこの点差を維持して臨むよりは、一か八か鷺森さんに暴れさせた方がいいというお話でしたよね?』

『そうしないってことは、そのリスクを冒すより副将戦をこのまま流した方がいいと判断したってことだ。休憩をはさんだ後でもね』

『休憩をはさんでも、ということは、監督からもゴーサインが出たということですよね』

『つまり、熊倉さんは姉帯さんならこの点差をまくれるって判断したんだよ。まさかボケたわけじゃないだろうから、それだけの選手ってことだねぃ』

『白糸台と永水はともにエース格の大星選手と石戸選手ですからリードを持った上の大将での勝負は望むところ、宮守も姉帯さんなら行けると』

『さあ、どっちの判断が間違ってるのかね? 点差を考えたらいくらなんでも無茶な気がするけど、宮守の監督は熊倉さんだ』

『もう一校、好位置から追いかける三位の阿知賀女子はどうでしょう?』

『あの子もあの子で、あの集団の大将だからね。セオリー通りのオーダーなら玄ちゃんに次ぐ二番手なわけだけど……』

『ここまで、阿知賀女子は四人全員が非常に高レベルの選手でしたね。期待できますか?』

『期待はいくらでもするけど、どうだろうね? 地区予選の記録を見る限りじゃほかの四人に比べて平凡な選手に見えるよ。ただ、同じ一年の新子さんも化けてるから、地区予選のデータでは判断出来ない』

『それでは、四人の力と点差を踏まえて、この大将戦をどう見ますか?』

『エース格の二人が大きなリードを持って迎え撃つのを突破できるかどうかだね。並の選手じゃ絶対に超えられない壁が立ちはだかってる』

『荒川選手の後継者とも言われる大星選手、春の大会でほとんどの試合をトビ終了で終わらせた永水のトリプルエースの一人、石戸選手……』

『その二人が強いのは言うまでもない。さあ、熊倉さんの隠し玉と、ここまで散々驚かせてくれた阿知賀の大将は、いったい何を見せてくれるんだろうね?』

993: 2015/06/24(水) 19:12:39.24 ID:yH12t8XB0
再掲 次スレhttp://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1434779153/

今回はここまでです。次回は来週の水曜を予定してます。

亦野さんと滝見さんのキャッチボールが延々と続くのと、そこに起伏をつけようとすると鷺森さんが暴れて臼沢さんが苦しむという展開が、やはり延々と続くことになるのでこういう形になりました。

994: 2015/06/24(水) 19:13:02.01 ID:uq4nygvhO

995: 2015/06/24(水) 19:16:37.69 ID:BV7TBn/uo

引用: 【咲-Saki-】咲「お姉ちゃんまでプラマイゼロをやりだした」 2