1: ◆jBL8Qe1.Ns 2015/06/20(土) 14:46:03.09 ID:8fC7srlL0
前スレ
【咲-Saki-】咲「お姉ちゃんまでプラマイゼロをやりだした」【前編】
【咲-Saki-】咲「お姉ちゃんまでプラマイゼロをやりだした」【後編】
【咲-Saki-】咲「お姉ちゃんまでプラマイゼロをやりだした」2【前編】
【咲-Saki-】咲「お姉ちゃんまでプラマイゼロをやりだした」2【後編】
皆様のおかげで3スレ目です。
今まで通り週一ぐらいのペースで更新していきます。
39: 2015/07/01(水) 16:01:23.29 ID:LjuHKh890
淡「……亦野せんぱーい」
誠子「」ゾクッ
淡「お疲れ様でした。手こずったみたいですね」
誠子「……大星か」
淡「でも、二位で繋いでくれましたし、後は安心してお任せください」
誠子「……油断するなよ」
淡「あはっ」ゴゴゴゴゴ
誠子「」ビクッ
淡「誰に言ってるんですか? たとえ油断しても私が負けるとかあり得ませんって」
誠子「……そうか、なら、任せたぞ」
淡「はい。では行ってきます」
誠子(……これは、何の心配もいらなそうだな)
40: 2015/07/01(水) 16:03:24.82 ID:LjuHKh890
穏乃「なんであそこまで行ってまた控室に戻るのさ?」
憧「覗き見されたと分かったら気分良くないでしょ。事実が変わらなくても、知ってるかどうかで気分は全然違うのよ」
穏乃「あ、そうか。泣いてたのとか知られたくないだろうし」
憧「そういうこと。じゃ、ハルエが戻ってきたら出陣よ」
バタン
灼「ただいま」
玄「お疲れ様、灼ちゃん」
宥「凄い試合だったよ……分かる人には分かるはず」
憧「あとはシズがなんとかするでしょ。和と打ちたいって言って麻雀部作った言い出しっぺなんだから」
灼「うん、任せた……大将」
穏乃「はい! 絶対勝ちます!!」
晴絵「大星淡の注意点は分かるな?」
穏乃「配牌が悪くなることと、ダブリーです!」
晴絵「石戸霞」
穏乃「基本的には守備が固いだけですけど、未知数の能力を使う可能性があります!」
晴絵「姉帯豊音」
穏乃「リーチに対してほぼ確実に追っかけ、更に一発でアタリ牌を掴ませます。その他の能力もありそうなので注意!」
晴絵「よし! 大丈夫だ! 行って来い!!」
穏乃「はいっ!!」
41: 2015/07/01(水) 16:04:09.36 ID:LjuHKh890
小蒔「では、最後の仕上げ、お願いしますね」
春「霞さんなら安心」ポリ
初美「まあ、私の次に強いですしー、私が打つのと同じぐらいには安心ですねー」
霞「あらあら? いつから私より強くなったのかしらこの子は?」ゴゴゴ
初美「いつからかは覚えてないですがー、多分、初めて麻雀を打った時からですかねー?」ゴゴゴ
小蒔「ふ、ふたりとも、喧嘩はだめです……」オロオロ
巴「姫様、いつものじゃれ合いですから大丈夫ですよ」
霞「初美がプラスで帰って来たんだし、私がマイナスってわけにはいかないわよね?」
初美「霞ちゃんがマイナスになる分まで私が稼いできたからマイナスでもいいんですよー?」
霞「あらあら? 生意気言うのはこの口かしら?」ニョーン
初美「ひゃひふふへふはー!ほーひょふはふはーひ!(なにするですかー!ぼーりょくはんたーい!)」
春「霞さん、準備はしておきます」
霞「……そうね、多分使うことになりそうだから、お願いね」
巴「はいっ!!」
42: 2015/07/01(水) 16:05:26.00 ID:LjuHKh890
誠子「戻りました」
憩「お疲れさん、よかったでー」
尭深「凄かったね、鷺森さん」
菫「よくやってくれた。私や渋谷ではあの場は凌げなかっただろう」
誠子「……そんなことは」
監督「あるわ。あの卓でプラスで終われるのは、うちではあなたと憩と淡だけよ。かなりの部分は相性によるものだけど、自信を持っていい」
誠子「……はいっ!」
憩「ところで、淡ちゃんどうやった?」
誠子「……途中ですれ違ったが、冷たい方が出てたな」
憩「やっぱりか。なんや出てく時に敬語使いよったからそんな気はしとったけど、アレはうちと本気で打つ時ぐらいしか出さんのになー」
尭深「神代さん、松実姉妹、薄墨さん、新子さん、鷺森さん……淡ちゃんと勝負になりそうな人がたくさんいたから当てられたのかもね」
菫「そして、次の大将戦は各校が先鋒に次ぐ、あるいはそれ以上のエース格を投入している区間だ。三人寄れば憩一人には匹敵する相手だろうな。アレが出るのも必然か」
憩「ま、それでも淡ちゃんがあっちなら安心ですわ。アレはうちと小蒔ちゃん以外にどうにか出来るとは思えませんし」
尭深「けど、私は普段の淡ちゃんの方が好きかな。ちょっとおバカだけど」
憩「うちはどっちも好きやで? あっちは麻雀強いしな」
誠子「麻雀の強弱で好き嫌いを決めるなよ……私も普段のあいつのほうが好きだな」
菫「私にとっては普段のあいつはただの問題児だ。とはいえあれも対人関係に問題がありそうだから、足して二で割ればちょうどいい」
監督「なんでああなったのかしら? 私が見つけた時はあんなのなかったと思うのだけど」
憩「監督にわからんのやったらお手上げですわ」
43: 2015/07/01(水) 16:05:54.43 ID:LjuHKh890
起家 豊音「よろしくねー」
南家 淡「よろしくお願いします」
西家 霞「ふふ、よろしく」
北家 穏乃「よろしくお願いしますっ!!」
44: 2015/07/01(水) 16:06:38.08 ID:LjuHKh890
東一局 ドラ:8m
穏乃「うわっ!?」
穏乃(聞いてた以上だ……本当に酷い、バラバラ……)
147s258m369p東南西白
豊音(ちょー酷いよー……ここまでとは聞いてないってばー)
258s369m147p東南北発 ツモ:6s
霞(これはダメね……ここまで酷いなんて)
369s147m258p東西北中
淡「……」
478s34579m4469p白
45: 2015/07/01(水) 16:07:46.80 ID:LjuHKh890
照「これは酷い」
久「ここまできれいにゴミ手で統一されるとはね。地区予選ではここまでじゃなかったと思うんだけど」
優希「やる気なくすじょ……」
和「偶然にしてはひどすぎます、照さんの反応からしてこれは当然……」
照「うん、こういう能力。147、258、369を各色で、あと4枚はバラバラの字牌。最低最悪のクズ手を毎回送り込まれる」
透華「まごうことなく最悪の能力ですわね」
照「ツモは普通に伸びるから頑張ってとしか」
久「地区大会じゃ、他家にも5向聴ぐらいの手は来てたわよ? これは七対子無しじゃ8向聴じゃない、酷すぎよ」
照「七対子なら6向聴だけど、毎回七対子ってわけにもいかない」
まこ「こんなんどうしろっていうんじゃ?」
照「何かの能力で無理やりまともな配牌をもぎ取るか、この後のツモで頑張る」
優希「出来るなら苦労しないじょ……」
46: 2015/07/01(水) 16:09:09.23 ID:LjuHKh890
咲「荒川さんならあの配牌でも大して苦労せずに和了れるんだろうけど……数牌なら何ツモっても大丈夫な形だし」
京太郎「あの手で苦労しないって、あの人本当にチートなのな」
衣「本人の手の進みは並程度なのだな。それが救いではあるが、あの配牌で『並』を相手にするのは骨が折れる」
智紀「あれの相手は衣に任せた」
一「同じく」
純「つーかあんなのどうしようもねえだろ。あれこそ最強の盾だ」
咲「それを貫ける荒川さんは最強の矛ですね」
星夏「えっと、宮永さん、あまり動揺してないみたいですけど、アレどうにか出来るんですか?」
咲「ん~……多分なんとかなると思います」
衣「衣はどうせ海底まで持たせるからむしろやりやすいが、咲はどうするのだ? 連続和了が売りの咲には厳しかろう?」
咲「そうだね、あそこまで配牌が悪いと連続和了は厳しいと思う」
京太郎「なんとかなるんじゃないのかよ?」
咲「多分なんとかなるはずなんだけど、やってみないと確実なことは言えないよ」
47: 2015/07/01(水) 16:10:04.60 ID:LjuHKh890
淡「ツモ」
789s345789m4467p ツモ:赤5p
淡「1300、2600」
穏乃(12巡目か。早いわけじゃないけど、こっちが遅すぎて勝負にならない。けどまだ序盤。一歩ずつ……)
豊音(リーチしないんだ? これは困ったなー)
霞(これじゃ勝負にならないわね。早速だけど行かせてもらおうかしら?)ゴッ
豊音(あ、石戸さんからなんかヤバげな気配……)ゾワッ
霞「……さて、次、行きましょうか?」
豊音(……本気モードかなー? これはボヤボヤしてられないよー)
豊音(じゃあ、こっちも行こうかなー?)ゴッ
穏乃(うわわっ!? あっちこっちから天江さんみたいな気配!?)
48: 2015/07/01(水) 16:10:44.07 ID:LjuHKh890
東二局
淡「へえ……憩さん以外は眼中になかったけど、少しはやるんですね」
霞(少しは……ですって? 強がり? それとも、本当に余裕なの?)
豊音(……こんな酷い能力相手には出来れば仏滅を使いたいところだけど、この点差じゃそれは自殺に近い。試せるだけ試すよー)
穏乃(高い……そして険しい……これは登るのに時間がかかりそう。けど……)
49: 2015/07/01(水) 16:11:34.15 ID:LjuHKh890
霞(さて、肝心の手牌は……大分マシになったわね。筒子と字牌の一色支配……私の降ろしたモノの方があの子の力より上みたいね)
1334567p東南西白白発
霞(おそらく、彼女の能力によって147筒と字牌四種が送りこまれた。けど、258と369は私が降ろしたモノによって拒絶されて通常のツモになったのね)
霞(通常のツモなら私に入るのは特定の色の数牌と字牌のみ……それでもバラバラの字牌四枚が送り込まれるから手は遅くなるわね、大した子だわ)
50: 2015/07/01(水) 16:12:16.39 ID:LjuHKh890
豊音(先勝……有効みたいだねー。多分2萬、9萬、北のいずれかが第一ツモのはずだよー)
234s134569m西西西北
豊音(……先勝はダブリー出来る手牌を引き込む力)
豊音(役なし愚形が玉に瑕だけど、ダブリーは誰にとっても脅威だよねー?)
豊音(この点差でこの相手、出し惜しみはなしでいくよー)
51: 2015/07/01(水) 16:12:56.45 ID:LjuHKh890
淡「……じゃあ、憩さんにも使ったことのない手を使わせてもらいます」ゴゴゴゴ
豊音(うっ!?)ビクッ
霞(なんで点棒を……まさか……!?)
淡「ダブリー」ゴッ
打:発
豊音(ええっ!? まさか、ダブリーとクズ手を送る力を同時に発動できるの!?)
霞(参ったわね……最強の盾と最強の矛、荒川憩だけじゃなくこの子も一人でその二つを持ってるっていうの? 白糸台っていうのは本当に……)
52: 2015/07/01(水) 16:14:11.29 ID:LjuHKh890
照「一度に色々ヤバいものが出てきてリアクションが追いつかない。とりあえず全部ヤバい」
久「一つずつ行きましょう。まず石戸さん」
照「今回は一色牌と字牌しか手牌に来なくなる能力だね。独占しない色の配牌が弾かれて、弾かれた分は彼女にとっての普通の配牌になったんじゃないかな?」
久「……酷い能力ね。ツモれる牌は16種。混一色確定、まともに打ったら勝てる気がしないわ」
照「多分、他にも何通りか能力があるね。そのなかでもアレは割と酷い方だと思うけど」
和「では、姉帯さんのアレは?」
照「ダブリー出来る手牌が来る能力じゃないかな? あれを使えば大星さんの能力を無効化出来るみたいだね」
久「ダブリー出来るってまた酷い能力……追っかけリーチだけじゃないのね」
照「多分、同時に二つ以上は使えないんじゃないかな? 使えるなら大星さんのダブリーを追っかけるはず」
久「……姉帯さん、西を切ってオリたわね」
照「多分、ダブリーするだけなんだろうね。その後は確率通りで、どこかでツモる保証すらないんだと思う。愚形で親のダブリーは相手に出来ない」
透華「で、大星淡のアレはなんなんですの? ダブリーをする能力ということでよろしいんですの?」
照「……多分それだけじゃない、アレは相当ヤバそう」
53: 2015/07/01(水) 16:14:53.36 ID:LjuHKh890
霞(地区予選でダブリーしていた一局があったわね……あの時は槓して槓裏が乗っていたけど)
113345678p東白白発 ツモ:発
打:東
霞(今の彼女は、配牌でほとんど全種……いえ、それぞれに違う数牌や字牌が送られるなら、全種の牌を配牌で相手に送り込むはず)
霞(だとすると、理論上は槓が出来ないはず、一体どうなるのかしら?)
54: 2015/07/01(水) 16:16:30.38 ID:LjuHKh890
憩「普段の淡ちゃんがダブリーを使うときは、槓して槓裏をモロ乗りさせる」
尭深「普段の絶対安全圏が不完全なのは、その槓のためだよね。あえて不完全にしてる」
誠子「完全な絶対安全圏を使う冷たい淡がダブリーするとどうなるかってのは私たちも知らない」
憩「なにせ、ダブリーしたことあらへんからな」
菫「というか、槓が出来ないからダブリーも出来ないものだと思っていた。しかし、現にダブリーをした。どういうことだ?」
憩「絶対安全圏を破ったからやと思います。破られたから、四枚送り込まれてない牌が生まれて槓が出来るようになったんやないかと」
誠子「今までは、アレが破られる状況がなかったからダブリーしなかっただけなのか?」
憩「破れるのは尭深ちゃんだけやけど、うちと本気で打つ時は尭深ちゃんを面子に入れんかったからな。オーラスの時の席順で勝敗ついたら嫌やったから」
監督「それより、ダブリーを使おうとした気配がなかったわね。おそらく、冷たい淡は絶対安全圏が破られたら……槓が出来るようになったら自動でダブリーが発動する」
誠子「……あいつ、まだ奥の手があったんだな。完全な絶対安全圏……最強の盾を持つ冷たい淡が最終兵器だと思ってたのに」
憩「……こっから先は、うちらも知らん淡ちゃんやな」
尭深「憩ちゃんと五分に打てる冷たい淡ちゃんが更に奥の手を出したんだから、まず負けはないよね?」
憩「多分な。ダブリーがいつもとおんなじやとしても、絶対安全圏の効果が強い分だけ普段より強い」
55: 2015/07/01(水) 16:18:04.69 ID:LjuHKh890
霞(……そういえば、他の人の配牌に筒子は行ったのかしら? 私が独占するから筒子は行かないはずなんだけど、三枚だけならあの子が送り込む方が優先されてもおかしくない)
霞(……色々と探りたいことが多いわね。さしあたって、この子のダブリーの詳細を知りたい)
霞(私に索子と萬子が送り込まれなかったから、槓をするのは不可能ではない。予選で見せたダブリーと同じことが起きるかどうか……)
淡「……槓」
暗槓:6666s
霞(くっ……やっぱり槓を……なら、この後は……)
豊音(押してればとっくに和了ってたよー! ミスったー!)
淡「ツモ」クルッ
13s23467899p 暗槓:6666s ツモ:2s
淡「槓裏表示牌は5索ですね。6000オール」
霞(強い……この子も、荒川憩と同様、ヒトならざる領域の住人)
豊音(槓裏モロ乗りとかちょーかっこいいけど、そんなこと言ってる場合じゃないよー)
56: 2015/07/01(水) 16:19:15.73 ID:LjuHKh890
胡桃「ダブリーした上に槓裏モロで跳満確定なの!? 先勝より酷くない!?」
トシ「不味いねえ……まさか先勝の上位互換と他の能力が同時に使えるとは。とんでもない子だよ」
塞「大安は守りを固める時に便利なドラを王牌に押し込める力だし、赤口は赤を独占する力だけど他の部分の配牌が悪いから多分ダメだし、仏滅は……この点差じゃねえ?」
トシ「あの配牌じゃそもそも鳴けないだろうから友引も使えない。先勝は、あっちのダブリーが跳満の和了りが約束されている上位互換だから勝ち目が薄い」
白望「となると、先負しかない」
胡桃「行けると思う?」
白望「ダメなら先勝で分の悪い勝負をし続けるか、仏滅を使うしかない」
トシ「行けるなら、先勝の上位互換として先負が使えるけど、こればかりはやってみないとねえ」
57: 2015/07/01(水) 16:20:47.75 ID:LjuHKh890
東二局一本場
淡「ダブリー」
霞(当然そう来るわよね……けど、裏ドラじゃなく槓裏を乗せるというなら、槓するまでは比較的安全ということ。ここは攻める)
穏乃(今ので白糸台がトップ……二位になった永水との差は変わらないけど、さっきまでの二位より遠くなった……けど、まだ私は動けない)
豊音「……試してみるもんだねー」
淡「……?」ピク
豊音「ダブリー、追っかけるよー!」
58: 2015/07/01(水) 16:22:32.11 ID:LjuHKh890
咲「ええっ!? そんなのありなの!?」
衣「先ほどのダブリーする能力でやけになって追いかけてる、というわけではないだろうな?」
智紀「それであの表情なら大した役者」
一「多分、先制リーチに一発で掴ませる例の力だろうね」
美穂子「……あんな非常識な能力に対抗できる力があるんですね」
咲「振ったね、ダブリー、一発。5500」
京太郎「ダブリーかけたらダブリーに一発で振り込むとか意味わかんねえ……下手すりゃ天和より珍しいんじゃねーか?」
咲「大星さんが自動的にダブリーをかける機械なら、ここから振り込み続けるだろうね」
衣「そんな愚図ではあるまい。相変わらずダブリーできる配牌だが、今回はかけないだろうな」
咲「で、大星さんがリーチしないと姉帯さんもおっかけられないから例のクズ手になるんだね」
衣「あやつにクズ手が来た時点で白糸台がリーチをしないのはほぼ確定だ」
咲「けど、大星さんがリーチをかけてこなくてクズ手になるぐらいなら、さっきのダブリーする能力で先手を取った方がいいよね?」
衣「そうすると当てが外れてダブリーされた場合に分が悪い」
咲「ダブリーしあうと分が悪い、追っかけリーチの方だとダブリーされなかった場合に場合にクズ手になる。読み合いだね」
智紀「追っかけリーチを出しておくのがリスクの少ない選択肢。この状況ではなにもしなければクズ手になるのだから、リスクは増えない」
衣「毎回それでは永水が漁夫の利を得そうだな。リスクが増えないと言っても、何もせずに和了れる状況ではない」
咲「白糸台はそれでも良さそうだけどね。永水に和了らせ続けて二位でもいい。そうすれば次は厄介な姉帯さんはいない」
一「宮守は大きく稼がなくちゃいけない、いつまでも安全策はとれないはず」
咲「我慢比べなら分が良いのは大星さんだね。最後までずっと我慢しててもいい」
京太郎「福路さん、あの、理解できます?」
美穂子「うーん……大星さんが途中で心変わりして三巡ぐらいでリーチしたらどうなるのかしら? 姉帯さんの手が入れ替わるのかしら?」
星夏「あ、やっぱりそこ気になりますよね?」
純「難しいことはどうでもいい。つまり、あいつらはお互いに牽制し合ってる状態なんだろ?」
一「純くんの単純さがたまにうらやましいよ。ざっくりいうならそういうことだね」
衣「なら、いずれ均衡は崩れる。あやつもいるしな」
『ツモ。面前ツモ、混一色、白、ドラ1で6000オール』
咲「永水が再逆転。上位二校がそれぞれ6000オールをツモってる」
衣「大将戦開始時と比べると下位にはかなり厳しくなったな」
59: 2015/07/01(水) 16:24:08.56 ID:LjuHKh890
和「穏乃……」
優希「だ、大丈夫だじょ、きっとなにか手はあるじぇ!」
照「咲か天江さんか荒川さんか神代さんを連れてこないと無理だと思うけど。あの三人の中だと妹尾さんでも辛そう」
久「配牌があの手で固定、一色独占、リーチ禁止の三重苦だものねえ……私もパスだわ」
まこ「配牌の時点でまともな人間にはどうしようもないわい」
照「あ、鶴田さんでもなんとかなるかも。白水さん次第で」
久「それも全国トップクラスの怪物なのよねえ……咲が他人を使ってようやくどうにかしたぐらいだし」
透華「大星淡に対抗出来る人間が卓上に二人居る時点で既におかしいのです、とんでもない卓ですわ」
久「全くだわ。私もあの配牌じゃお手上げよ、なんであんなのに対抗できる人間がゴロゴロ居るのかしら?」
優希「部長、気付くのが遅いじぇ。私たちはずっと前からおかしいと言い続けてるじぇ」
まこ「まったくじゃ」
60: 2015/07/01(水) 16:27:24.64 ID:LjuHKh890
靖子「とんでもない一年だな。咲とどっちが上か……」
健夜「石戸さんの絶一門に対応し始めたね。姉帯さんがダブリーを封じても、地力だけで石戸さんと戦えるレベルみたい」
貴子「姉帯だっていつまでもおとなしくダブリーを封じてるわけにはいきません。すぐにでも包囲は崩れるでしょうね」
健夜「姉帯さんは他にも切り札を持ってそうな感じだけど、相性が悪くて使えないのか、状況が悪くて使えないのか。いずれにしても使う気配がないね」
靖子「使えるならここで出し惜しみはしないでしょうね。あるいはもう諦めて個人戦に向けて温存しているのか?」
健夜「諦めたなら東二局のダブリーも見せないはずだよ。出し惜しみじゃなく、使っても効果が薄いから使わないだけだと思う」
貴子「……まだ切り札があるという姉帯も相当な化け物ですけど、それと全国区のエース格の石戸が共同戦線張っても押し込まれるわけですか」
健夜「一年生なのに面白い子だよね。それに、もう一人も」
靖子「もう一人の一年……阿知賀ですか?」
健夜「彼女は空を掴めるのかな? 山を登って雲の上には行けても、空はまだ遠いよ」
靖子「……人が住むのは陸地ですよ」
健夜「それもそうだね。けど……大星さんは言うなれば空そのものだから」
貴子(やべえ、ついていけねえ……何言ってんだこのひとら?)
恒子「すこやんが空がどうとか電波を発信し始めた……だれか助けて―!!」
健夜「ちょっ!? 119を押すのやめて!! 百歩譲って病気だとしても救急車呼ぶような病気じゃないでしょ!?」
61: 2015/07/01(水) 16:28:22.89 ID:LjuHKh890
南二局
淡(いくらなんでも、10万点以上の差でずっとカウンター狙いってことはないはず)
淡(前半最後の親も流れたし、そろそろ宮守は焦りが出る頃……一度仕掛けてみよう)
淡「ダブリー」
23456s444789m北西 ツモ:1s
打:西
霞(あらあら……)
穏乃(……)
豊音「ダブリー、追っかけるけどー」
打:3m
淡(……まだ動かないって、まさか心中する気? 私は二位だから一向にかまわないけど、そっちは困るはずじゃないの?)
打:中
豊音「ロン。6400」
11447799s2299m中 ロン:中
豊音(このままじゃダメなんだけど、正直、打つ手が思いつかないんだよねー)
豊音(地区予選ぐらいの配牌の悪さだったら先負に加えて友引も使って動きを制限しながら、たまに先勝も使ってどうにかなる予定だったんだけどー、今の状況は完全に計算外)
豊音(だから、この状況を逆手に取る。「いくらなんでももう動くはず」、そう思って動いてくれたところを地道に刺していく)
豊音(大星さんが最後まで動かなかったら負け確定だけど、一か八かの賭けに出ないと逆転なんか無理だし、とにかく熊倉先生に指示をもらうまで……前半いっぱいはこの方針でいくよー)
62: 2015/07/01(水) 16:29:04.57 ID:LjuHKh890
南三局
淡(……やりにくいな。絶対安全圏を破って来る人がいて、ダブリーを破って来る人が居て……オマケに絶一門。ちっともいつも通りに打てない)
淡(だけど、ただそれだけ。勝てないわけじゃない)
淡(ダブリーせずに未完成の塔子を落として手を組みなおせばいい。絶対安全圏も完全に無効化されたわけじゃないから、速度ではまだ有利)
淡(でも、さっきからそれ以外の違和感を感じる。おかしいことだらけで何がおかしいのかもわからなくなってるけど、確実に何かがおかしい)
淡「ツモ。500、1000」
234567p2345888m ツモ:2m
淡(……考えすぎかな? 河にも絶一門以外の異常はない……いや、それが異常過ぎて他の異常が見えないだけかもしれない)
淡(私の直感は、何かがおかしいと言っている。それを信じよう。警戒しなきゃ)
63: 2015/07/01(水) 16:29:36.72 ID:LjuHKh890
南四局
穏乃「ツモ、500オール」パタン
234678s35678m西西 ツモ:4m
淡「……あれ? あなたが和了ったの?」
霞(あの配牌から和了るのも、不可能ではない。私が独占するから一色は配牌から除かれてるみたいだし、ツモも圧縮されるからその分だけ和了りは近い。だけど、今更500オールじゃ焼け石に水よ)
豊音(……いや、大星さんの力もきっと無限じゃない。バテて来たのか、さっきから配牌が少しずつマシになってるよー、きっと高鴨さんもそのおかげで和了れたんだ。後半も回復しないようなら、友引も使って戦い方に幅が出せるかも)
64: 2015/07/01(水) 16:30:12.86 ID:LjuHKh890
南四局一本場
淡(……流石に宮守もそろそろ動くはず。前半の最後にもう一度行ってみよう)
淡(って、あれ? おかしいな……ダブリーできない?)
1357s234888p西南北 ツモ:6s
打:西
淡(……永水は相変わらず一色を支配してる。今回はおそらく萬子。なら、絶対安全圏は崩れてダブリーの条件は満たしてるはず)
淡(宮守は動いた形跡がない。この点差で動かないことも異常だけど、私の感じてる異常はそれじゃない)
淡(私のダブリーを止めるというのはそう簡単じゃない。何かが起きているのは間違いないのに、原因がわからない)
淡(いや、そうか、動かないことが異常って言うなら、一番おかしいのは阿知賀)
淡(あれだけ異常ぞろいの集団の大将が、ここまで何もしなかったのがおかしいんだ。多分、原因はそこで間違いない)
淡(私がここまで感じていた違和感の元凶。一体何をしてるのか興味はあるけど……現状すらわからずに挑むのは危険すぎる)
13567s234888p南北 ツモ:北
淡「リーチ」
打:南
豊音(一巡待っても無駄だよー。先行リーチを追っかけて一発で掴ませる、それが先負。まあ、ダブリーじゃない分だけ傷は軽いから、様子見なら一巡待つ方が良さそうだけどね)
123666s344559p西 ツモ:6p
豊音「おっかけるけどー」
打:西
淡(知ってるよ。満貫ぐらいまでは許容範囲……とにかく一旦この半荘を終わらせる。牌譜を見れば何が起きてるかは分かるはず)
打:9p
豊音「ロン、リーチ一発。2900」
123666s3445569p
穏乃(……振り込んだのに大星さんに動揺がない。もしかして、姉帯さんを利用して流された? こんな早い巡目じゃ私にはどうにもならない)
65: 2015/07/01(水) 16:31:35.81 ID:LjuHKh890
大将戦前半終了
白糸台 130900(+ 7200)
永水 152400(+12900)
阿知賀 76700(ー13700)
宮守 40000(ー 3800)
66: 2015/07/01(水) 16:33:16.23 ID:LjuHKh890
照「ぶっちぎりの異常は大星さんだとして、実はあの場で二番目におかしいのは高鴨さんなんじゃないかと思う」
久「段々配牌がマシになって行ってたわよね。最後あたりは5シャンテンだったわ」
和「穏乃は特におかしな闘牌をする子ではないはずです。何かの間違いでは?」
照「じゃあ、あれをどう説明するの?」
和「石戸さんが大星さんの敷いたルールを捻じ曲げています。穏乃だけでなく姉帯さんも配牌が改善していますし、影響が徐々に拡大した結果では?」
照「普通にあり得そうな仮説を示された……原村さん、恐ろしい子」
久「で、あの子はどんな力を持ってるの?」
照「あ、うん、彼女は、山の深いところ……特に王牌あたりを支配するのに長けてる」
67: 2015/07/01(水) 16:35:22.74 ID:LjuHKh890
衣「調子が出て来たようだな。あやつの難点はある程度の局数を経ないと支配が発動せず、一局ごとでも山の深いところまで進まないと力が発揮できないことだ」
咲「けど、深いところでは強力な支配を発揮する、か……」
智紀「山の浅い部分は誰でも立ち入れる。どんなに局数を経てもそこを支配するのは無理らしい」
一「彼女が卓上を支配するのは大体7巡目あたりから。それも最初は影響が弱くて、衣並みの支配になるのは大体12巡目以降。その後も海底に近づくほどに強力になる」
衣「半荘一回を経て山の深いところを押さえた影響が、配牌にも徐々に現れている。このまま順調に支配が進めば後半はシズノの独壇場になろう」
咲「山の深いところ……王牌あたりがテリトリーか。それは強力そうだね」
京太郎「ん? 王牌なんか弄っても意味ないだろ? なんでそれが強力なんだ?」
美穂子「ですね。ちょっとよくわかりません」
咲「……ねえ京ちゃん、なんで王牌は常に14枚残すか知ってる?」
京太郎「ん? いや、知らん。そういうルールだと思ってたから気にしたこともない」
智紀「一説によれば、神様の手牌だからということになっている」
咲「だから、槓して嶺上牌を取ると海底が一枚ズレる。そうしないと神様が少牌しちゃうから」
一「そう、麻雀は神様と人間四人の五者で打つゲーム。王牌はその神様の手牌……なら、王牌を支配するっていうのは――」
京太郎「まさか――神様を支配するってこと……なんですか?」ゴクリ
一「まあ、ボクは麻雀の神様なんてオカルトを信じてるわけじゃないけどね。王牌を支配するのが強力な能力だって説明するならそのあたりでしょう?」
咲「私も嶺上牌は神様の手牌だって教えられたからそう信じてるだけなんですけど、実際、王牌に絡む能力って強力なんですよね」
衣「神の手牌である王牌を支配する深山幽谷の化身……言うなれば、山の神そのものだな。あやつは一寸やっかいだぞ」
智紀「王牌に近いほど支配が強力になる。大星淡のダブリーは、おそらく山のかなり奥まで進まないと和了れない。局数を経て支配を発動した高鴨穏乃の格好の餌食」
咲「深いところを抑えるせいで、序盤にも多少の影響が出る。配牌をいじるのも上手く行かないようになってきた。点差は開いちゃったけど、衣ちゃん、どう思う?」
衣「こうなった以上、シズノを止めることは難しい。阿知賀が決まりだとして、永水と白糸台のどちらが決勝に行くかだな。アワイとやらも、流石にもう奥の手はあるまい」
93: 2015/07/08(水) 16:01:22.69 ID:pUBf3nqV0
白糸台 129300
永水 152400
阿知賀 76700
宮守 41600
とりあえず追っかけが満貫になった分の点数の修正。
94: 2015/07/08(水) 16:02:29.09 ID:pUBf3nqV0
淡「戻りました」
憩「お帰り、まだ奥の手あったんやな淡ちゃん」
淡「そう言ったはずです。憩さん対策の切り札があると」
誠子「マジだったのか……いつもの調子で適当言ってるだけだと思ってた」
淡「亦野先輩は私をなんだと思ってるんですか」
誠子「麻雀打ってないときはアホの子、打ってる時は頼りになるエース」
尭深「右に同じ」
淡「渋谷先輩まで……もういいです」
監督「さて、本題に入りましょう。どこが気になるの?」
淡「阿知賀」
菫「……だろうな」
誠子「リーチかけたのはわざとなんだろ?」
淡「当然。それで、何が起きていたんですか?」
憩「鋭意分析中で、詳細不明や。はっきり言えるのは後半に向かうにつれて調子を上げてくタイプってことだけやな」
尭深「今がピークなのか、それともこれから更に上のギアがあるのか……」
監督「更に上があると見た方が良いでしょうね」
誠子「自分の目でも確認したいだろ。ほれ、牌譜」
淡「ありがとうございます」
95: 2015/07/08(水) 16:03:25.91 ID:pUBf3nqV0
巴「じゃあ、払いますね」
霞「まだいいわ、次に強いモノを降ろせる保証もないし、このまま行く」
春「分かった」ポリ
巴「だ、ダメですよ!! そんなもの降ろしたままじゃ霞さんが……」
霞「準決勝を先に行う日程で良かったわ。一日休めるもの」
初美「一日休まなきゃいけないような無茶する馬鹿にはありがたいですねー」
霞「悪かったわね馬鹿で」
小蒔「け、けど、白糸台には首位を譲ってもいいわけですし、霞ちゃんなら普通に打っても二位には確実に……」
霞「そうとも言えないのよね。阿知賀の子、何かしてるでしょう?」
初美「配牌を良くしたりダブリーを止めたりですかー? あれは霞ちゃんが何かしてたんじゃー?」
霞「違うわ。そして、宮守の子は一度に複数の力を使えない、なら、あの子しかいないでしょう? 大星さんの力を根本から抑えるなんて私でも出来ないのに、それをやって見せた。危険だわ」
巴「け、けど、そんなに警戒しなくても……」
春「私も、阿知賀は危険だと思う」
初美「……はるる、巴、終わったらすぐに払えるように対局室の入り口で待機しとくですー。あんなヤバいものを長々と降ろしてたらどうなるか分かったもんじゃないですー」
春「了解」ポリ
巴「はっちゃんに言われるまでもないよ」
霞「……手間をかけるわね。ごめんなさい」
96: 2015/07/08(水) 16:04:22.35 ID:pUBf3nqV0
トシ「なんとかして二位の白糸台を引きずり降ろして、最後は仏滅でイチかバチかだね」
白望「……なんとかしての辺りを詳しく」
トシ「阿知賀の子が追い上げるはずだから、ここまでの通りにやってれば白糸台は焦ってリーチをかけてくるはずだよ」
塞「あ、なるほど、それを撃ち落せば……」
トシ「阿知賀にも好き放題させるわけにはいかないねえ。あの子には序盤で仕掛けるのが良さそうだから、白糸台への餌も兼ねて序盤に何度か先勝を使いな」
胡桃「追っかけが来ないこともあるって分かれば向こうもダブリーをかけやすくなるからね」
豊音「了解だよー」
塞「だけど、そんなことしてて局数は足りるんですか? 点差も点差だし……」
トシ「うちよりはマシといってもその辺は阿知賀も同じだし、お互いに二位を狙うためにサポートし合うしかないねえ」
豊音「鳴かせたり他への牽制をしたりして阿知賀の親番をサポート、阿知賀もうちの親番はサポートしてくれるんだねー」
トシ「そこでアテが外れたら、潔く諦めようかねえ。この老体にムチ打って、もっとあんたたちの特訓をしなきゃいけなかったってことさ」
97: 2015/07/08(水) 16:04:56.63 ID:pUBf3nqV0
起家 霞(……ちょっとしんどいわね。東二局で降ろして、休憩の間も降ろしたままだった。もうかなりの時間降ろしてるものね)
南家 豊音(第一印象が大事って本で読んだし、最初で戦法を変えたって印象づけに行くよー)
西家 淡(阿知賀女子、高鴨穏乃……他の二人の力量は見えたし、マークすべきはこいつ一人)
北家 穏乃(うん、大丈夫。このまま登りきる!!)
98: 2015/07/08(水) 16:05:28.86 ID:pUBf3nqV0
東一局
豊音(さ、いくよー)
豊音「ダブリー!」
345789s34678p西白 ツモ:5p
打:白
淡「なら、こっちもダブリー」
1113368p234568s ツモ:1s
打:8s
豊音(一瞬の思慮もなんの動揺もなく普通に追っかけられたー!? そりゃ、私が先にリーチしたらそっちも遠慮なくリーチ出来るのはその通りだけどさー!)
99: 2015/07/08(水) 16:07:02.49 ID:pUBf3nqV0
淡「槓」
1113368p234567s ツモ:1p
暗槓:1111p 槓ドラ:東
豊音(うー……リー棒一本損したよー。大星さんが和了った後で手牌見せればいいだけだったよー。大星さんならそれだけでも最初から張ってたのは分かるだろうし)
淡(これで、何もなければ私が次にツモ和了るはず)
次巡
淡(……あっさり止めてくれるね。これは予想以上かな)
淡「……」タン
打:東
穏乃「……」
淡「……なにしてるの? 早くツモったら?」
穏乃「いえ、ツモりません」
淡「……へえ?」
穏乃「ロン。東、白、ドラ3、赤3で16000です」
1234赤56s赤5赤5p東東白白白 ロン:東
淡「……やるね」
豊音(ちょっ……いきなり差を詰め過ぎだよー!? うちが追いつける程度のペースで詰めてくれないと困るよー)
霞(予想以上ね。私の勘は正しかったということかしら?)
100: 2015/07/08(水) 16:08:29.06 ID:pUBf3nqV0
衣「決まったな」
咲「……まだ逆転したわけじゃないよ。この局は、リー棒を入れて35000点分の差を詰めただけ」
衣「この一局でそれだけの力の差が示された。あと7局もあれば、シズノならたやすく逆転してみせるだろう。負けられぬ戦に臨み意気軒昂、今のあやつの力は衣と比べても遜色がないほどだ」
咲「だといいんだけど。私も、嶺上開花を狙わなければ、大星さんより穏乃ちゃんの方がやりやすいし」
衣「……咲、何が言いたいのだ?」
咲「それだけの力の差を見て、焦りが全くないんだよね、大星さん」
智紀「それは私も気になる。倍満直撃で涼しい顔をしてるのはおかしい」
衣「弱みを見せればそれを突かれる、そうさせまいと虚勢を張っているだけだろう。いくらなんでもこれ以上の奥の手があるはずがない」
咲「王牌の一つである槓裏がなければノミ手、そもそも槓するために山の深いところまで進まなきゃならないのが大星さんのダブリー、相性は絶望的に悪い」
一「それでも、動揺を見せない。ってことは、あるのかな、奥の手が?」
衣「一まで……そんなものあるはずがないと言っているだろう」
美穂子「だとすれば、一体何があるというんですか?」
咲「それは、見てみないと分かりません。けど、大星さんの様子からして、ダブリーや配牌操作以上の切り札なのは間違いないと思います」
衣「衣の話を聞けー!!」プンスカ
101: 2015/07/08(水) 16:09:16.01 ID:pUBf3nqV0
東二局
霞「……あら?」
1134赤556668m東西北
霞(何が起きているのかしら? さっきの直撃がそんなに痛手だった?)
霞(147も、258も、369の筋も揃ってないし、字牌も三枚しかない。大星さんの力が相当弱ってる? いえ……これはもしかしたら……)
豊音(これ、もしかして……大星さんの力が無効化されたのかな? 高鴨さんちょーすごいよー! って、感心してる場合じゃないよー!?)
2368s1156799p北白 ツモ:発
102: 2015/07/08(水) 16:10:37.10 ID:pUBf3nqV0
小蒔「配牌が……」
初美「霞ちゃんのせいで分かりにくいですがー、これは多分普通の配牌ですよー、配牌が普通になった分だけ今度はツモが悪くなるとかないですよねー?」
小蒔「なさそうですね。ツモも順調そのものです……来ました!」
『ツモ、混一色ドラ3、3000、6000』
小蒔「これなら、霞ちゃんの独壇場ですよ! 一色で手を進めてる霞ちゃんが普通に打って負けるはずがありません!」
初美「……だといいんですがー、私は嫌な予感がしますよー」
小蒔「……言わないでください。本当は私だってわかってます、そんな甘い相手じゃありません」
初美「それこそ言わないでほしかったですよー!? 姫様に肯定されたらどうしようもないですー!! 巴ー!! 巴はどこですかー!!? 出番ですよー、楽観的な意見を述べるです―!!」
小蒔「初美ちゃんの指示で、対局室の前に待機してますが……」
初美「それは知ってますよ――!! ああもう、姫様と二人きりだと会話のテンポがおかしいですー!!」
103: 2015/07/08(水) 16:11:39.40 ID:pUBf3nqV0
東三局
霞(今の跳満で、阿知賀に対しても白糸台に対しても差を広げた、残り6局、セーフティリードだと思いたいのだけど……この気配、まだ何かあるというの?)
穏乃(これは……まさか、そんなこと……)
豊音(大星さん、第一打で悩んでる? ダブリーをかけるかどうかかな? だと嬉しいんだけどなー)
淡「……」
104: 2015/07/08(水) 16:14:01.39 ID:pUBf3nqV0
一「うわ……冗談でしょ?」
純「二度目だと大して新鮮味がねえな」
京太郎「一試合で何回役満出す気だよってツッコミですらおかしいのに、役満の二文字をもっとおかしい二文字に変えなきゃいけないとは……」
『天和、16000オール』
咲「……」
衣「……」
星夏「こ、こんなの反則ですよ……どうしろって言うんですか?」
衣「……反則ではない。ルール上認められた役だ」
咲「……」
智紀「とはいえ、理論上、天和は止められない。やられた方にしてみれば認めがたい暴挙」
咲「……」
京太郎「洒落になんねえな。けど、これまでのパターンだと、前の局で配牌が普通だったのはこれのための条件ですか?」
衣「おそらくは、そうだ。であれば、二連続天和というのはないはず。奴の上家に座っていれば天和の前に大連荘で稼ぐことも出来るやもしれん」
美穂子「前の局で配牌操作をやめて条件を満たしていればいいというなら、連荘を止めるための地和というのもありえます。けど、それは鳴けば止められます」
京太郎「待って福路さん、その発言おかしい」
衣「ただ、連荘で稼げるというのは奴の上家に座っていればの話だ。席順が違えばそれは通じない」
智紀「チャンスになる天和の前の局に子で役満をツモっても出入りで40000、天和では64000。直撃は流石に望めないし24000は確実に差が詰まる」
純「地和なら止められるとか、配牌操作がなければ役満ツモれる、みたいなのを前提にするのもどうかと思うんだが」
衣「それぐらいのことが出来る相手でなければ、おそらく天和を使うことはないだろう。でなければこんな非常識な力はあり得ない、あれはそういうモノだと思う」
105: 2015/07/08(水) 16:15:18.26 ID:pUBf3nqV0
『おいおい……マジかよ……』
『あ、あの……三尋木プロ……先ほどの天和は……?』
『配牌は地からの実りじゃなく天から与えられるもんだってことか? てことは使えるのは親の時だけ?』
『み、三尋木プロ……?』
(普通に考えたら、配牌が大地の始まりで嶺上牌がその大地の行きつく先、頂上だ。けど、配牌になる牌は嶺上牌の先にあるという見方もできる。山の頂の更に上。そこにあるのは空だ、空には山の主の支配も及ばない……だとすると、あれはあの局の配牌じゃなくて、前の局の嶺上牌の続きってことかい? だとすると、前の局で配牌操作が止まるのも……いや、そう考えると、あれは下手すりゃ……けど、こういう弱点もあるかもしれないってか?)ブツブツ
『三尋木プロ、解説をお願いします! 今の天和は一体なんですか!? 三尋木プロ!!』グイッ
『ひゃうっ!? あ、ご、ごめんね。いやー、天和とかマジっすかー、ぱねー、マジぱねー』
『……ようやく正気に戻りましたか。 それで、これは一体なんですか?』
『……ノーコメント。この試合二度目の天和が出た、あたしが言えるのはそれだけだね』
『そ、それって……? つまり、そういうことですか!?』
『だからノーコメント。こんなのが居てもなお、優勝するのがどこになるかわかんないってのが一番驚くべき事実なのかもねぃ』
106: 2015/07/08(水) 16:17:08.95 ID:pUBf3nqV0
健夜「……」ウズ
靖子「小鍛治さん、若い芽を摘まないでくださいよ?」
健夜「摘めないと思うよ。負けないとは思うけど、芽を摘むって言えるほど圧勝できるとは思えない。だから打ってみたいんだし」
貴子「マジですか……高1にして小鍛治さんクラスってか、頭痛くなってきた」
靖子「現役の指導者は頭が痛いだろうな。荒川と大星……先鋒次鋒で並べられたら詰みだな」
健夜「大丈夫だと思うよ。普通に打ったら配牌が酷いことになるだけだと思う。下手に対抗出来ちゃうとこうなるんだね」
恒子「空がどうこう言ってたの、これ?」
健夜「うん。多分、一回の親番で連発は出来ないけど、このままなら次の親番も天和が来るね」
靖子「親番の度に天和ですか?」
健夜「ううん。条件はあるよ」
貴子「条件? 天和の前に配牌操作が止まる以外に、ですか?」
健夜「……うん、私の推測が正しければね。彼女はあと二年はインハイに出るだろうから、久保さんにこれ以上教えるのは無理だけど」
貴子「あ、そ、そうですよね。言えませんよね、失礼しました……」ズーン
靖子「小鍛治さんクラスの選手が高校生の試合に出てたら、対策なんかしても無意味だと思うんですがね。それでもダメですか?」
健夜「え、えっと……ほ、ほら、言わないってことは、私は久保さんの教え子なら彼女に対抗できるかもしれないって思ってるってことだから!」
靖子(目が泳いでますよ小鍛治さん……それ、今思いついたでしょ?)
貴子「……ありがとうございます。気休めだと分かっても、小鍛冶プロにそう言ってもらえると楽になります」
恒子「そんな気遣いができるならとっくに結婚してるはずだから、これは気休めとかじゃないと思うね!」
健夜「私どういう扱いなの!? 出会いがないだけだから!! 家でゴロゴロしてるせいで出会いがないだけだから!! 実はモテるから!」
恒子「……」ジト
健夜「……ごめんなさい、謝るから、そんな目で見ないで」
恒子「見栄も時には大事だけどさ、限度ってあるよね?」
健夜「限度低くないかな? 私、前人未到の九冠達成者だし、もう少し見栄はっても許されないかな?」
恒子「言っていいことと悪いことってあるよね? 優しい嘘も時には必要だけど、誰かを傷つける嘘はダメだよ?」
健夜「誰かを傷つけるような嘘じゃなかったよね!? その分類だと言っていい方に入る嘘だったよね!?」
恒子「うるさーい! さっきから麻雀の話ばっかで蚊帳の外に放り出された私はご機嫌斜めだー!!」
健夜「理不尽すぎる八つ当たりだった!?」
107: 2015/07/08(水) 16:19:35.95 ID:pUBf3nqV0
穏乃「嘘……そんな……天和なんて……」
淡「……」
霞(心が折れかけてるわね。無理もないわ、私だって、今はリードがあるから平静を保てているけど、もし同じ立場なら……)
豊音(……ダメだ、こんな人相手に能力勝負したら、どうやっても勝てない。絶望的だけど……0%よりは一億分の一でも可能性がある方がマシだよね?)
淡(……?)ピク
霞(あ、あら? 降ろしたモノが……勝手に?)シュウウン
穏乃(あ、あれ……おかしいな、山が見えない……まさか、今の天和で山の支配まで消されちゃった!?)
豊音(全ての能力を打ち消す力、仏滅。ここからは、能力一切なしの、ただの麻雀だよー!!)
108: 2015/07/08(水) 16:20:10.47 ID:pUBf3nqV0
トシ「仕方ないねえ。残り五局かそこらで10万点差をなんの能力もなしでひっくり返すなんてのは無謀だけど、それでもこうするしかない」
塞「……なんなのよ、あの一年? 豊音が手も足も出ないって、ありえないでしょーが」
トシ「五分の状況からなら、勝負になったと思うよ。それなら、どうにもならないとしても最初から仏滅を使えばいいしね」
エイスリン「ヤッパリ、ワタシガ……」
白望「エイスリン、ストップ。一番失点したのは私。そういうこと言うと私のせいになるからやめて」
胡桃「そうそう、全部シロが悪い」
白望「え? エイスリンに泣かれるのはダルいけど、だからって私に全部押し付けるの? それはそれでダルい……」
トシ「あんたら何言ってるんだい? まだ終わったわけじゃないんだよ。能力もなんもなしの勝負、親番で役満をたった二回ツモれば逆転さ、信じて見守ろうじゃないか」
塞「監督……」
109: 2015/07/08(水) 16:21:00.17 ID:pUBf3nqV0
豊音(あはははは、普段は力を使って打ってるから、この手で何すればいいのかわかんないよー)
1457s45p2348m西北白
霞(……大星さんの力も、私の力も、多分高鴨さんの力も消えてるわね。能力なしで普通に打ったら永水女子で一番強いのは私。この状況は望むところだけど……)
穏乃(……諦めるな。まだ逆転の可能性はある! 山が見えないからなんだ!? 能力なしの普通の麻雀、そんなの、小学生の頃からずっと打って来たじゃないか!! 諦める理由になんて全然ならない!!)
淡(永水の一色支配も、阿知賀のおかしな力も消えた……多分、全ての能力を無効化する力だね。私にとってはこれが一番厄介)
110: 2015/07/08(水) 16:21:38.29 ID:pUBf3nqV0
豊音(麻雀ってこんなに難しかったかなー? どう打てばいいのか全然わかんないよー)
豊音(仏滅は本当に滅多に使わないからねー。他に五つも能力があれば、大抵の状況ではそのどれかを使うほうが有効だし)
豊音(仏滅を使うのは本当にどうしようもない相手だけ。そんなの今まで居なかったからねー)
豊音(あはは、後で、サインもらわないと……このひとちょーすごい人だよー)ポロ
豊音(あ、あれー? なんでかなー? 涙が……試合中なのに……)ポロポロ
豊音(……ごめんね、ごめんねみんな……)
111: 2015/07/08(水) 16:22:52.30 ID:pUBf3nqV0
南4局
ー18巡目ー
穏乃(ここでツモれないと……お願い!!)
12345s34赤5p23478m ツモ:北
穏乃「あ……ああ……そんな……」
打:北
霞(この子は、最後の最後まで諦めるような子じゃない。それがこの表情ということは……そう、終わったのね。それなら多分何を切っても同じだけど……一応こっちにしましょう)タン
打:北
淡「……テンパイ」パタン
霞「ノーテン」パタン
豊音「……テンパイ、です」パタン
穏乃「……」
霞「高鴨さん?」
穏乃「……ノーテン、です」パタン
112: 2015/07/08(水) 16:23:51.19 ID:pUBf3nqV0
『決着――!! 最後は高鴨選手の執念実らず、流局での幕切れとなりました』
『終わってみればシード二校が合わせて30万点を超える点棒をかき集めての圧勝だね』
『圧倒的な力を見せる王者白糸台高校、その白糸台から一時は首位を奪い僅差で試合を終えた永水女子、二日後に行われる決勝でも熱戦が期待されます』
『初出場の宮守女子と阿知賀も、結果は大差になったけど試合の各所でいい仕事してたね。選手の並びが違ったら勝機もあったんじゃないかな?』
『えっと、例えばどのような?』
『白糸台と永水の並びが同じだとして、この相手なら高鴨さんは先鋒の方が良さそうだし、それで先鋒の結果が変わって、更に臼沢さんが中堅なら相当展開が違ったと思うよ。まあ、その並びで準決勝まで来れたかどうかも考えなきゃいけないわけだけど』
『逆に、白糸台や永水にとっては良い組み合わせだったと?』
『そうだね。色々あったけど、勝った二校にとっては悪くない当たりだったんじゃね? 知らんけど』
113: 2015/07/08(水) 16:24:18.23 ID:pUBf3nqV0
大将戦終了
白糸台 159900(+30600)
永水 144600(ー 7800)
阿知賀 80300(+ 3600)
宮守 15200(ー26400)
114: 2015/07/08(水) 16:24:51.05 ID:pUBf3nqV0
照「……ん?」
久「どうしたの?」
照「ねえ、もしかして決勝に進んだのって、白糸台と永水?」
まこ「どっからどう見てもそうじゃろ」
和「何を今更?」
照「……私は、アレの相手するのは嫌だと言ったはず」
優希「はいはい、どうせいつもみたいに大げさに騒いでるだけだじょ」
和「全くです。文句言ってる暇があったら対策でも立ててください」
透華「対策と言っても、どうせ、力ずくで押しつぶすとかそういうのですわ」
照「なぜ、ここまで私の扱いが悪くなったのか……?」
和「主に昨日の二回戦のおおげさな解説のせいです、よって、自業自得です」
久「……」
まこ「ほれ、お菓子あげるから黙りんさい」ヒョイ
照「もぐもぐ……本当にアレは厳しいのに……もぐもぐ……」
115: 2015/07/08(水) 16:25:24.35 ID:pUBf3nqV0
咲「……」
京太郎「おい、咲、お前本当に大丈夫か? さっきから黙ったまんまで顔色も悪いし……」
咲「……」
衣「重症だな、あれを見た後では無理もないが」
純「おいおい、明日には臨海や千里山相手に準決勝だってのに大丈夫かよ?」
智紀「大丈夫ではなさそう」
衣「どうにかならないか智紀? 衣ではこういう時に力になれん」
智紀「手はある、ただ、人道的な問題が……」
一「人道って、ともきーってば何する気なのさ?」
智紀「ちょっと作戦タイム。はじめ」クイクイ
一「やれやれ、何を企んでるやら……ちょっと席を外すね」
116: 2015/07/08(水) 16:26:42.46 ID:pUBf3nqV0
小蒔「あ、あの、霞ちゃん! 疲れてませんか? 憑かれてませんか!? 随分長い間降ろしてましたから……」
霞「……それが、驚いたことに、何の影響も残ってないみたいなの」
春「宮守の大将は非常識、私たちが払ってもこうはいかない。待機してたけど無駄足だった」ポリ
巴「うう……霞さんが元気なのはいいんですけど、力になれなくて複雑です」
初美「疲れ切って動けない霞ちゃんをいじり倒す予定が狂いましたよー。宮守も余計なことしてくれたもんですー」
霞「……初美は今夜の夕食抜きね」
初美「ガーン!? 私、今回はまだ何もしてませんよー!?」
小蒔「でも、どうしましょう……あの力、私が神様を降ろす以外で対処できるとは思えません」
霞「なら、私には対処できるわよね?」
春「……霞さんは姫様に一番血が近い。ゆえに、姫様が降ろす神を代わりに宿すことが出来る」
巴「その中でも、まれに九面の神々を押しのけて出てくる恐ろしいモノ、それを宿し手馴けるのが石戸の役目……ですけど」
小蒔「ダメです! 今回降ろしたモノでも勝てない相手に対抗するとなるとアレしか……そもそも、アレを都合よく降ろせるかどうかも分かりませんし」
霞「首尾よく降ろせても、今の私じゃ危険すぎるわよね。おばあ様でも手を焼くぐらいだもの」
小蒔「そうです! だから絶対ダメです!!」
初美「とはいえ、天和を和了る化け物相手ですしー、そうなると霞ちゃんに回さず終わらせるしかないですかねー?」
小蒔「そ、そうです! 大将までに飛ばして終わらせればいいんです!! 霞ちゃんにそんな無茶なんて、絶対させませんから!!」
霞「あらあら、それじゃあ、お言葉に甘えて楽をさせてもらおうかしら?」
小蒔「はいっ! だから、無理しちゃだめですからね!!」
霞「ふふふ、私に回さず終わらされたら無理のしようがないわ。 だから安心して、ね?」
春「……次のお祓いは大変そう」ポリ
巴「……」
117: 2015/07/08(水) 16:27:26.84 ID:pUBf3nqV0
憩「お帰り淡ちゃん。今からエースの座をかけて打たん?」
淡「打つー!! 今日こそケイに勝ってエースになるよー!!」
憩「……は?」
淡「ん? どしたの?」
憩「淡ちゃん、冷たい方は? さっきまで打ってたのは?」
淡「ん? さっきはなんか急に頭がぼーっとして、気付いたら大将戦おわってたんだよねー! まあ、私ってば天才だから意識がなくても勝っちゃうんだけど!!」
憩「そっか、悪いけど、今の話、なかったことにしてな」
淡「うん! って、なにその変わり身!? せっかくやる気になってるのに酷くない!?」
憩「こっちのセリフや!! せっかくやる気になっとったのに勝手に引っ込みおって!!」
誠子「憩、落ち着け」
菫「……監督、どう見ます?」
監督「これは思わぬ拾い物ね。正面からぶつければ咲にも勝てるはず……淡がここまでの力を持っていたなんて」
尭深「淡ちゃんが安心となると……問題は私のところですよね?」
菫「先鋒は憩なら大丈夫、次鋒で当る可能性がある中で一番危険なのは臨海女子のハオだが、これは私がなんとか出来るはずだ」
監督「副将はやはり臨海のメガン=ダヴァンが一番の難敵。原村和も居るけど、どちらも亦野が勝負に徹すれば抑えられるはず」
尭深「けど、薄墨初美と竹井久、それに、臨海女子の風神……これに対抗するには、私では……」
監督「といっても、化け物同士で潰しあいをしてくれるでしょうし、守備を固めるのに徹してオーラス勝負、役満でなくても構わないから和了って点数を補充、上手く行けばプラスで抜けられるはずよ」
菫「この相手になるなら中堅が渋谷というのは最高のオーダーかもしれない。自信をもってくれ」
尭深「……はい」
118: 2015/07/08(水) 16:28:19.66 ID:pUBf3nqV0
智紀「須賀君、ちょっと」
京太郎「はい?」
一「ちょっとこっちに来てくれるかな? 聞かれると作戦が無駄になるから」
京太郎「あ、はい……」
智紀「はじめと相談した結果、人道上の問題には目をつぶることにした。作戦を決行する」
京太郎「あの、話が見えないんですが?」
智紀「作戦内容は――――」
京太郎「ちょっ!? いくらなんでもそれは――モゴッ!?」
一「はいはい、聞かれたら意味がないって言ったの聞こえてなかったのかなー?」ガシッ
京太郎「モゴモゴ!! モゴー!!」
智紀「あなたは命令に忠実な兵士、あなたは命令に忠実な兵士、あなたは……」グルグル
京太郎「モゴモゴ……モゴ……」
一「なんで五円玉振って囁きかけるとかいうお約束みたいな催眠が効くの? いや、効いた方が楽だけどさ」
智紀「五円玉はフェイク、実はハギヨシ流催眠術を使っている」
一「マジで!?」
智紀「……冗談かもしれない」
一「ハギヨシ流ってつけるだけでなんでも出来そうな気がするよ……」
智紀「では、須賀君、ゴ―」
京太郎「……サクセンヲ、ジッコウシマス」
119: 2015/07/08(水) 16:29:14.44 ID:pUBf3nqV0
トシ「エイスリンも弘世に封じ込まれたし、仕方ないとはいえ塞も勝った二校を利する動きを強いられたし、先鋒もあの二人が暴れすぎたしねえ……なかなか鋭いじゃないか、あのちびっこも成長したもんだ」
塞「……終わっちゃったか。もう少し続くと思ってたんだけどな」
白望「まだ個人戦がある。ダルい……」
塞「私と胡桃はこれで終わりなんだけど?」
胡桃「そこ、私に勝ったくせに文句言わない!」
白望「ダルい……」
エイスリン「……」
胡桃「エイちゃん? まだ泣いてる? シロ殴る?」
白望「なんで私を殴ったら泣き止むみたいな話になってるの?」
塞「基本的にシロのせいだからね。先鋒でズタボロにされ過ぎなの」
白望「塞が打ったら前半の東一局で意識飛んでると思うんだけど……」
塞「実際打ったのはシロだから言いたい放題言えるわね」
白望「……ダルい」
エイスリン「……」
胡桃「エイちゃん、本当に大丈夫? どしたの?」
エイスリン「」カキカキ
塞「木の枝から輪っかが下がってる絵? なにこれ?」
エイスリン「トヨネ、オソイ……シンパイ」
白望「……サインもらいに行ってるだけだと思うけど」
エイスリン「……タシカニ」
120: 2015/07/08(水) 16:29:46.62 ID:pUBf3nqV0
京太郎「咲……」
咲「……」
これで何度目だろう、この幼馴染が今の私を心配して声をかけてくれるのは。
さっきの天和を見て私がだまりこんでから、少なくとも10回は声をかけてくれたと思う。
この優しさ、人の良さが彼の一番の魅力。顔とか運動神経が悪かったとしても、私は彼を好きになっていたと確信している。
けど、今の私には彼の声に応える余裕がなかった。天和を和了る能力、それをどうやって破るかということに思考力のほとんどをつぎ込んでいるからだ。
答えは全く見つからない。手がかりすら思いつかない。
賽を振ってから和了るまでにそれを止めるための介入の余地がないのだから、止める手段などそもそもないのかもしれない。
京太郎「なあ、咲……」
咲「んっ……」
彼は私の反応がないので強硬手段に出たらしい。
肩を掴まれた。
デリカシーのない彼のことだから、このまま肩をゆするなりして無理やり私の意識をそちらに向かせる気なのだろう。
それはそれで構わない、答えの出ない問いをいつまでも続けていても仕方ないので、いいきっかけだと思う。
ただ、それで一時的に反応を得ても、私はすぐに同じことを考えて思考の迷路に入り、再び沈黙して彼を心配させてしまうだろう。
そう思うとなんだか申し訳なかった。
咲(って、あれ? なにもしてこないなあ……どうしたんだろ?)
違和感を感じて、意識を彼に向ける。
それとほぼ同時に、彼の右手が私の肩を離れて顎に伸びて来た。
顎を持ち上げられて、私の顔は上を向く。ちょうど、彼の顔と正対するぐらいの向きだ。
京太郎「なあ、咲……いいよな?」
言いながら、彼、須賀京太郎の顔が近づいてくる。
いいよな、と言われても、何の事だかさっぱりわからない。
咲(この状況から考えて……え? ええっ!? ま、まさかそういうことなの!?)
心臓が跳ねる。
「それ」を意識した瞬間に顔が熱を帯びて、体全体が火照ったような感覚に襲われる。
おそらく、鏡を見れば耳まで真っ赤になった自分の姿が見られるだろう。
何がどうなっているのかわからないが、今目の前で起きていることを自然に解釈すれば、彼がしようとしているのは「それ」しか思いつかない。
121: 2015/07/08(水) 16:30:37.12 ID:pUBf3nqV0
美穂子「す、須賀君、宮永さん、こんなところで……」
次の瞬間、耳に入って来たのは福路さんのそんな呟きだった。
今自分の居る場所を思い起こして、一瞬で血の気が引く。
右に視線をやれば、目を見開きながら口をパクパクさせてる衣ちゃん。
左に視線をやれば、両手で顔を覆いながら指の隙間からガッツリ見ている福路さん。
正面には、明らかに正気でない目をした幼馴染の姿が、それぞれ目に入る。
最後の映像が網膜に映ったと同時に、私の身体が、普段決して見せない性能を発揮して攻撃態勢に移る。
咲「てえええい!!」
京太郎「ごふっ!?」
鳩尾にひじ打ち。
状況を認識してから打撃が到達するまで、体感では0.1秒を切っていた。
まあ、私の運動神経だとそんな速度で行動するのは無理なんだろうけど、それぐらい私の行動は早かった。
咲「なにやってるの!? 乙女の唇を意識もないまま奪おうとか言語道断だよ! キスっていうのは、晴れた夜、星の見えるレストランか高台の公園か穏やかな海辺で、星を見ながら、愛の囁きを添えて、二人っきりでするものだよ!?」
京太郎「うう……お、俺は何を……?」
122: 2015/07/08(水) 16:31:23.89 ID:pUBf3nqV0
智紀「作戦は失敗。繰り返す、作戦は失敗」
一「作戦関係者は直ちに撤退せよ、繰り返す、作戦関係者は直ちに撤退せよ」
咲「沢村さん、国広さん、わかってますよね?」ゴゴゴゴゴ
智紀「分かっている、今は迅速に撤退作業を開始すべき時」
一「対象の戦力は想定以上に高い、さっきの動きは文学少女のものではなかったよ、ともきー」
智紀「大丈夫、対象は道に迷いやすい。少し距離を稼げば逃げ切るのは容易」
咲「」ゴゴゴゴゴ
一「で、なんでボク達はまだ部屋の中にいるのかなともきー? 早く扉を開けようよ」
智紀「そうしたいのはやまやまなのだけど……こんなことが、現実に起こるというの?」ガチャガチャ
一「……え?」
咲「偶然、かけた覚えのない鍵がかかって、偶然、それが外れなくなるなんて、私ってすごい幸運ですよね?」ゴゴゴゴゴ
一「ちょ、ちょっと、冗談やめてよともきー……嘘でしょ?」
智紀「敵の戦力を見誤った。我々は、作戦終了ではなく、作戦開始と同時に逃走すべきだった……」
一「そ、そんな……うわああああああ!?」
123: 2015/07/08(水) 16:31:59.28 ID:pUBf3nqV0
【一時間後】
一「と言っても、捕まったところでこうなるだけなんだけどね。マージャンッテタノシイナア」
咲「うー! もうちょっと悔しそうにしてくださいよ!!」
智紀「アリが象に負けて悔しがるのは、よほど傲慢な精神を持っていないと無理」
京太郎「一回も和了れねえ……」ズーン
一「てゆうか、咲ちゃんしか和了ってないからね? ボクたちも一回も和了れてないからね?」
咲「京ちゃんだけダメージ受けてるし!! こんなはずじゃなかったのにー!!」
智紀(とはいえ、本気で打って手も足も出ないというのは流石にこたえる)
一(だよね……いくらなんでもこれはへこむなあ……)
星夏「……国広さんや沢村さんが手も足も出ないなんて……」
美穂子「半荘三回打って無駄ヅモが一回もない……どうなってるの、彼女は……」
124: 2015/07/08(水) 16:32:41.57 ID:pUBf3nqV0
咲「槓! カン! かん! ツモ! 清一色対対嶺上開花三槓子三暗刻ドラ1! 16200オールです!!」
一「うげ、加槓からの三連槓でラストに赤5筒ツモるんだ……えげつないね」
智紀「満貫、倍満、役満。東一局で三人同時に飛ばした……私たち相手にここまでやるとは、頼もしい限り」
咲「少しはダメージ受けてくださいよ、もおおおお――!!」
京太郎「俺はガリガリMP削られてるぞー……もう戦闘不能だ……」
咲「京ちゃんにダメージ与えても意味ないの!! うわーん!!」
衣「仕置きをしている側が泣くというのも変な話だな」
智紀「……ちなみに、ここまでほぼ作戦通り」
一「ま、元気になったみたいでなにより」
咲「はっ!? 完全に掌の上だった!?」グスン
智紀「……鍵が閉まったのは計算外だったけど、結果は想定の範囲内」
京太郎「……あの、俺が受けた精神と肉体のダメージは?」
一「……尊い犠牲だね、敬意を払うよ。 ちなみに、最初に懸念した人道上の問題の大部分はそれ」
京太郎「俺の犠牲は織り込み済みかよちくしょおおおおお!!」
咲「うわああああああああああん!! 悔しいよぉおおお!!」
157: 2015/07/15(水) 16:53:31.65 ID:+ww+SOjA0
ちょっと急な用事が入ったので、更新は深夜になりそうです。もしかしたら明日の早朝ぐらいになるかもしれません。
昼に投下しとけばよかったんですが、すみません。
昼に投下しとけばよかったんですが、すみません。
158: 2015/07/15(水) 23:46:05.85 ID:+ww+SOjA0
やえ「おはよう」
紀子「おはよう。はい、牌譜」
やえ「……何も言わないということは、予想通りの結果になったか。とはいえ、私自身も個人戦に向けて姉帯や大星の実力を知っておく必要はあるから目を通すが」
周りを見渡してもこいつしかいないようだ。
大方、私を起こさないように人払いでもしたのだろう。
たかだか一日徹夜した程度で過保護とは思うが、その過保護に助けられたこともある。
やえ「……酷い配牌だな、これが奥の手か? 常に七対子で最速というわけにもいかないし、事実上、10巡程度は安全が確保されている」
紀子「この配牌なら鳴きを警戒する必要もほとんどない。おそらく大抵の相手は一方的に蹂躙できる」
やえ「こいつは、私にとっては荒川よりタチが悪いな。そして、この面子がこれを見て危機感を抱かずに様子見を続けるということもないだろう、動ける奴は次の局から動く」
紀子「この時点で他の対局者が動くのは穏乃にとっては好都合、手の内が見えてしまえば目測が狂うこともない」
やえ「そして次の局は……なるほど、石戸が動いたか。だが、これは……」
紀子「ダブリー可能な配牌が二人、目を疑う光景」
やえ「……まさか、リーチに対して追っかけリーチをする例の力か? いや、だとするとオリたことが説明できない、これは別の能力だな」
紀子「おそらくそう。根拠はすぐわかる」
やえ「槓裏を乗せて跳満。これは以前見せたダブリーと同じか? だとすると、配牌操作を破らないと発動しないことになるな」
紀子「……そうしないと槓材になる牌がない」
やえ「で、東三局。姉帯は大星のダブリーに対しても追っかけて一発で掴ませることが出来るのか。これが、先ほどの配牌は別の能力だとする根拠だな?」
紀子「そう。これが出来るならオリる理由がない」
やえ「リーチに対して追っかけて一発で掴ませる能力と、ダブリーする能力か。おそらく、まだ何かあるな」
紀子「もう一つは最後にお披露目」
やえ「……最後に? 使えば逆転の目があるほどに差が詰まるのか?」
紀子「……ノーコメント」
やえ「ここからはダブリーを封じられた大星と、リーチがかからないと大星の能力をモロに喰らう姉帯が足を引っ張り合う展開になるはずだ、それとも、大星が一位通過にこだわって墓穴を掘るか?」
紀子「大星は、ここで相手の能力を見切ってダブリーをかけないぐらいの洞察力と判断力がある」
やえ「……だな。さて、そうだとするならどうなって差が詰まる?」
紀子「牌譜を読み進めれば分かる」
159: 2015/07/15(水) 23:47:32.51 ID:+ww+SOjA0
やえ「絶一門に対応すれば石戸とも渡り合える、か。配牌操作のアドバンテージはあるが、元々の地力も相当なものだ」
紀子「配牌操作を破られなければ、相手の配牌を悪くした後は普通に打つことになる。なら、地力が高くて当然」
やえ「ただ、石戸の絶一門のせいで分かりにくいが……」
紀子「配牌で送り込まれるはずの牌が石戸の支配に引っかかって通常のツモになる、それが有効牌かどうかでシャンテン数にバラツキが出る」
やえ「石戸は6牌、他の二人は3牌だな。その分だけツモれない色の牌を切って他の牌をツモったのと同じになる。そのバラツキが局を進めるほど良い方に安定している」
紀子「ということは……」
やえ「高鴨の支配がはじまったということだ。前半でこれなら、後半には卓全体が奴のものになるだろう」
紀子「つまり、やえの読み通りの展開」
やえ「大星のダブリーはツモるのが遅い、それでは高鴨の餌食になる。石戸も、序盤でツモれなければ高鴨には対抗できない。姉帯がダブリーするのがあの卓で唯一の高鴨に届きうる攻撃手段だが、点差が点差だ」
紀子「ここから穏乃が逆転するのはほぼ既定事項。前半の南三局でもう反撃の火ぶたが切られる」
やえ「……前半のラストは異常を感じて流したか、大星はかなり頭の切れる打ち手だな。しかし、休憩の間に対策を立てても手遅れだ」
紀子「前半のラストでは高鴨が和了れるほどに支配が進んでいた。後半が始まれば、じきに槓裏や槓した後のツモも高鴨の支配下になる」
やえ「そうなれば、羽をもがれた鳥だな。ここで消えるには惜しいチームだが、相手が悪い」
160: 2015/07/15(水) 23:48:34.34 ID:+ww+SOjA0
やえ「さて、姉帯は後半に入って切り替えたか? 待ちの一手では届かんから当然だな」
紀子「けど、それでは大星がフリーになる」
やえ「姉帯のダブリーは愚形で安手。前半の東二局もそうだったな、そういう制約だろう」
紀子「これでは、穏乃は止められない」
やえ「まあ、この局では高鴨の狙いは大星だが、次以降もダブリーをするなら姉帯も餌食だろうな」
紀子「そして、倍満直撃。ここまでは完全にやえの予測通り、阿知賀が白糸台をまくって奈良県代表としては初の決勝に行く、というストーリーどおりに進んでいる」
やえ「その通りなんだが……まて、なんだこれは?」
紀子「なにかおかしいことでも?」
やえ「配牌がおかしい、いや、おかしくなくなった……わけでもないな、石戸のせいで相変わらずおかしいんだが……」
紀子「大星による配牌操作が止まったこと?」
やえ「そうだ。だが、それはおかしい。倍満直撃程度で戦意を喪失するようなタマか? いや、戦意を喪失したとして、大星は自分の意志で能力を解除できるのか?」
紀子「……ダブリーをかける気がなくてもダブリーの配牌が来ていた。自動で発動するものと推測される」
やえ「なら、これは何が起きているんだ?」
紀子「……次の一局を見れば分かる」
161: 2015/07/15(水) 23:51:40.42 ID:+ww+SOjA0
やえ「あ……」
紀子「……あ?」
やえ「アホかああああああああああああああああ!!!!!!!? 紀子、なんでここまで『コレ』のことを黙っていた!?」
紀子「理由は単純明快。その驚いた顔が見たかった」ニコッ
やえ「殴るぞ貴様!? 起こさないように気遣ってくれたものだと思っていたら、人払いはそれを漏らさせないのが目的か!? 滅多に見せない笑顔まで見せやがって!!」
紀子「私は今、とても満たされている……」ゾクゾク
やえ「もういい!! くそっ、どうしろっていうんだこんな化け物!?」
紀子「天和はどうしようもない。諦めるのが無難」
やえ「そうでもない、対策はある」
紀子「……は?」
やえ「……ん?」
紀子「……ごめん、理解できなかった。もう一度言って?」
やえ「そうでもない、対策はある」
紀子「ごめん、私、やえを見くびってた。対策がない天和に対して慌てふためくやえが見れると思ってた……まさか二秒で対策を思いつくとは」
やえ「しかし、こいつはどうしたものか……まず、第一にして、私にとっての唯一の対策は『大星の能力を破らないこと』になる」
紀子「……どういうこと?」
やえ「考えをまとめながら話すから、メモを取ってくれると助かる」
紀子「大丈夫、天和を見たやえの反応を保存するためにカメラを回している。音声もバッチリ」
やえ「そうか、じゃあ話すぞ」
162: 2015/07/15(水) 23:52:35.38 ID:+ww+SOjA0
やえ「まず、大星の能力は、自動で発動すると推測される。この推測の根拠は面倒だから省略するが、ほぼ間違いない」
紀子「ふむふむ」
やえ「おそらく、任意に発動することは出来ない。配牌操作を破られたらダブリー、ダブリーを破られたら天和が発動するはずだ」
紀子「ということは、第一の対策というのは……」
やえ「配牌操作、あるいはその後に出てくるダブリーを無効化せずに対局を進めるということになるな」
紀子「なるほど、たしかにそれはやえに出来る唯一の対策。対策と呼べるのか疑問だけど」
やえ「これで大星を倒せるのは……まず思いつくのは荒川だな。あいつなら配牌操作を喰らっても普通に立て直してリーチ一発ツモを量産出来る。打点は文句なし、おそらく配牌操作を喰らった上で、普通に打つ大星相手に速度で互角以上に渡り合えるはずだ」
紀子「結果として、天和を出させず対局を制することが出来る」
やえ「だが、残念ながら石戸が今回と同じことをするとこれは不可能になる。どうせ宮永も出て来てなにかやらかすだろう、あれは卓上の歯向かうもの全てをへし折りに行っている節がある」
紀子「決勝の面子では、『能力を破らない』という天和対策は無理?」
やえ「そうなる。そこで、次の対策だ」
紀子「第一と言った時点で三つ以上あるのは予想していたけど、次があるとは……」
163: 2015/07/15(水) 23:53:32.26 ID:+ww+SOjA0
やえ「次の対策だが、個人戦では使えない。状況を作るのがそもそも無理だし、それが出来るなら既に試合が終わっているはずだからな」
紀子「……なるほど、察した。なかなか酷い対策」
やえ「天和そのものへの対策なんだから酷い内容になるのは当たり前だろうが」
紀子「それにしてもこれは……一言で言うと、『天和を和了ったら負ける状況に追い込む』ということで合ってる?」
やえ「まあ、そうだな。 具体的には、64100点以上のリードを作り、なおかつ対局者の一人が持ち点16000を切っていることが必要だ」
紀子「和了ったら負ける、ゆえに和了れない」
やえ「これの問題は、そこにこぎつけるまでに圧倒的な実力差が必要ということだな。大星淡が白糸台に所属していることを考えれば、可能性があるのは清澄ぐらいか」
紀子「つまり、実用性はない?」
やえ「一応使える可能性もなくはないが、まあそうだな。というわけで第三の対策だ」
164: 2015/07/15(水) 23:55:38.25 ID:+ww+SOjA0
やえ「大星と渡り合えるレベルの化け物ならこれを一番に考えるんだろうが……今回は私が使える可能性の高い順に並べているから三番目だな」
紀子「ということは、能力が前提の対策?」
やえ「そうだな。それも、かなり強い能力で他者にも効果が及ぶものでないといけない」
紀子「……」
やえ「一番手っ取り早いのは配牌を操作する能力、それをぶつけて奴の天和を他の配牌にしてしまう」
紀子「例えば?」
やえ「まず思いつくのは大星本人の配牌操作だな。6シャンテン確定のゴミ手を送り込む能力、これなら対抗できるだろう」
紀子「他には?」
やえ「高鴨は配牌にも干渉しうるが、実際に支配しているのは王牌だからダメだな、実際やられている。哩姫は自分の配牌への干渉が主だが、『絶対に和了る』力だから、大星の天和も防げるかもしれん」
紀子「穏乃でもダメで、哩姫でも出来るかもしれないという程度……」
やえ「直前の一局で配牌操作をやめるだけで使えるお手軽チートだ、他人の配牌に干渉出来るたぐいの能力をぶつければ案外脆いかもしれんが……」
紀子「しかし、その能力はかなり希少?」
やえ「というか、私の観測範囲だと、他人の配牌に干渉するのが主目的の能力は大星しか確認できてない。通常の場合、他人の手牌への干渉はあくまで目的のための手段でしかない」
紀子「……大星の天和を止める力を持つのは、大星だけ?」
やえ「……宮守の臼沢ならあるいは、といったところだな」
紀子「……」
やえ「……」
165: 2015/07/15(水) 23:56:59.71 ID:+ww+SOjA0
やえ「で、試合の続きだが……なるほど、姉帯の三つ目の能力はこれか。すべての能力の無効化といったところか?」
紀子「何一つまともな対策を示せなかった名ばかりの王者、話を逸らさないで」
やえ「やかましい!! そもそも普通の連中はあんなもん対策する必要はないんだ! ダブリーどころか配牌操作がそもそも破れないんだから!!」
紀子「話を天和対策に戻すけど、姉帯なら天和を防げる。とりあえず大星の親番だけこれを使えばいい」
やえ「そうしなかったのは、天和以上のものが出てくることを考えて警戒したからだろうな」
紀子「天和以上のものとか、麻雀にあるの?」
やえ「思いつく限りではない。が、あのレベルの奴らにとっての危険度というのは常識では測れん。それ以前の局で対策可能な天和よりも絶対に防げない1000点のほうが危険なのかもしれない」
166: 2015/07/15(水) 23:57:47.34 ID:+ww+SOjA0
やえ「……ところで、他の三人はどこに行った? 私の反応も見れたわけだし、いい加減に出てきてもいい頃だろう?」
紀子「それは、一足先に大阪の宿舎に」
やえ「大阪の連中との待ち合わせにはいくらなんでも時間がありすぎるし、私抜きで行っても意味がない。嘘だな」
紀子「少しは信じてくれてもいいのに」
やえ「……まさか、あいつらのところに行ったわけじゃないだろうな?」
紀子「ぎくっ」
やえ「……おいおい、除け者は酷いな。私だってあいつらには思うところがあるんだぞ? で、会場か? ホテルか?」
紀子「……ホテル。一週間も滞在してたら家みたいなもので、東京では一番落ち着くって」
やえ「そうか。では、私たちも奈良県代表の健闘を称えに行くとしよう」
167: 2015/07/15(水) 23:58:17.72 ID:+ww+SOjA0
【ホテルにて】
由華「あ、せんぱーい!! こっちですこっちです! 助けてくださーい!」
やえ「……助けが必要な状況が想像できんのだが」
紀子「上田がなにかやらかしたに違いない。そのまま見捨てれば解決」
良子「おい、泣くぞ? てゆうか目の前に居るのに見えてない扱いはやめてくれ」
日菜「……入れば分かるよ。ちょっと予想外の光景が広がってた」
168: 2015/07/16(木) 00:00:25.53 ID:I3Lvi6iq0
ガチャ
やえ「ベスト8おめでとう、奈良県代表の名に恥じない内容だった……って、なんだこれは? 誰かの通夜か? 身内に不幸があったのか?」
穏乃「……やえさん……ごめんなさい」
玄「小走さん……せっかく色々協力していただいたのに、ごめんなさい」
灼「……」
宥「……私が頑張ってれば……」
晴絵「10年前のトラウマが……」
憧「誰かどうにかしてよこれ……」
やえ「なるほど……ベスト8でここまで沈んでいる連中は初めて見たな。確かに予想外の光景だよ」
晴絵「ふふふ……10年前はもっと沈んでたぞ。主に私が」
紀子「この老害から悪いところだけ学んだらしい」
晴絵「老害!? え? 私まだ20代だよ!?」
やえ「しかし、揃いも揃って酷い面だな。この世の終わりみたいな顔をしてる」
宥「私が稼げなかったから……みんなの夏が……」
やえ「区間トップが何を言ってるんだ、寒がりのくせに熱気で頭をやられたのか?」
紀子「やえ、多分、こいつは周りを気遣って冷房をかけてるのが原因」
由華「あ、道理で快適だと……阿知賀と一緒だと蒸し暑いイメージがあったのにおかしいとは思ってたんですよ」
やえ「……何故か都合よくそこにある毛布の山に埋めろ」
由華「了解です!」
紀子「……手伝う」
宥「ふえっ!? ちょ、ちょっと待って、言われたからって本気でやるの!?」
良子「待って、巻き込まれてる! あたしも巻き込まれてるぞ!?」
日菜「え? やえは埋める対象は指示してないよ?」
良子「指示してなきゃあたしが含まれるっていう風潮良くない! 晩成にはびこる悪しき風潮良くない!!」
やえ「上田は浅いとこに埋めてやってくれ、汗だくで出て来たらウザイ」
良子「温情措置の理由が酷すぎる!」
169: 2015/07/16(木) 00:03:15.76 ID:I3Lvi6iq0
やえ「姉の方はこれでよし。で、鷺森……は戦犯だから後回しにして」
灼「ちょっ!? なっとくいかな……」
晴絵「そうだぞ! 灼が戦犯ってどういうことだ!!」
やえ「黙れアホ師弟!! 後回しにしてやると言ってるんだからおとなしくしてろ!! 氏にたがりか? マゾか!?」
憧「あー……氏にたがりは合ってるかもね。ほら、ハルエってば諦めて後ろに託せばいいのに『エースの私が勝たなきゃ』とか言って泥沼に沈んで行った過去があるから」
晴絵「グサッ」
やえ「マークが外れるまで大人しくしとけばいいのに暴れ続けた馬鹿の師匠だけはあるな」
灼「グサッ」
紀子「日本史上最強とさえ言われる格上のエース相手に無理して振り込み続けた師匠と、三対一の状況で力任せに暴れて沈んだ弟子、戦犯の系譜」
晴絵「グサグサッ」
憧「残りライフはもうゼロっぽいけど、どんどん蹴っちゃってー。氏体蹴りのお時間だよー」
やえ「どうせアレだろ、インターバルでも「この体たらくじゃみんなに会わす顔がない」とか言って控室に戻らない系の戦犯だろ? アドバイス聞かないで傷を広げる系戦犯だろ?」
晴絵「ごふっ……それやめて、望にもそれで本気で殴られたからマジでやめて」
憧「戻って来たらアドバイスしよーって言って待ってるのにさ、暗い顔して座ったまま、休憩終わるまで動かないの。それをモニターで見てるの、あたしら」
灼「」ピクピク
晴絵「あの、憧さま……さっきから辛辣すぎませんか? いえ、その、私どもの不徳は重々承知しておりますが……」
憧「さっきお姉ちゃんが『灼ちゃん見てたら嫌なもん思い出したから、晴絵シメといて』ってメールしてきたんだよねー」
晴絵「望いいいいい!? まだ根に持ってたの!? 思いっきりぶん殴って『あー、すっきりしたわー』って言ってたじゃん!?」
憧「その話は聞いてるけど、それ、立ち直って麻雀教室始める頃の話でしょ? インハイから三年経ってるその時点でもグーで全力なんだから、推して知るべし」
晴絵「おおうっ……言われてみれば根の深い恨みを感じる……」
由華「鷺森さん、天江さん相手にまともに打てる人があの面子を相手に打つなら、トップは義務ですよね? 何で打つ前より差が開いてるんですか?」
灼「」ブクブク
宥「もうやめたげてよぉ……オーバーキルしすぎて精神攻撃なのに物理ダメージ入ってるよぉ……」ニュッ
やえ「毛布の山から顔だけ出すな。なんか怖い」
紀子「次鋒は元気になったらしい、一安心」
宥「えへへ……毛布あったかーい」
170: 2015/07/16(木) 00:03:53.03 ID:I3Lvi6iq0
やえ「そういえば、新子はこの中では元気そうだな」
憧「実力の倍は働いたからねー。締めもアレだったし、そりゃ完全燃焼よ。悔いなし、未練なし」
やえ「全員こうならねぎらう方もありがたいんだがな。ちなみに、アレは能力なのか? 能力だとして、松実と何かあったのか?」
憧「あー……実は自分でもわかってないんだよね。やえにはどう見えた?」
やえ「違和感があるが、データ上は能力だと断定していいだけの結果が出ている」
由華「違和感、ですか?」
やえ「原因はわからないから違和感としか言えない。だからこそ、牌譜を見れば明らかな、わざわざ聞くまでもないことを本人に尋ねている」
憧「……ちなみに、能力とかじゃないとしたら、アレはなに?」
やえ「別に、能力なしでも、非情に低い確率で起こり得ることだからな。今後起きないなら偶然ってことで片付けるさ」
憧「偶然、かあ……」
やえ「……ま、それじゃあんまりにも味気ない。あの試合、あの卓で起きたなら、たとえ偶然でも意味はあるだろう」
憧「……」
やえ「ついでに、意味のある偶然ってのは、また別の呼び方があるな。誰でも知ってる陳腐な言葉だが」
憧「え? なんかあるの?」
やえ「意味のある偶然はな、『運命』って呼ぶんだよ」
憧「……そっか、運命か」
やえ「私の予想を覆すような偶然には、それぐらいの言葉をくれてやってもいいだろう。お前の役満は予想してなかった、見事だったよ」
171: 2015/07/16(木) 00:04:34.94 ID:I3Lvi6iq0
憧「ふふ、運命、かあ……」
やえ「さて、来年の不安要素が一つ消えてバカヅキ女のご機嫌も取れたところで、愛弟子に喝を入れるか」
憧「バカヅキって……まあ、確かにそうなんだけど」
玄「」ドヨーン
やえ「対局中の方がまだマシな面をしていたな。おい、起きろ」
玄「起きてますのだ……」
やえ「語尾が……重症だな。別にお前のせいで負けたわけでもあるまいに」
玄「そうは言っても一番失点したのは私で……」
やえ「新子が一通りの気休めは言った後だろうから言っても無駄か……なら、こうするか」スッ
玄「ふえっ!?」ドキッ
やえ「頑張ったな、玄」ギュッ
玄「あ、あわわわわわわ……」プシュー
紀子「こいつは、分かってやってるのか天然なのか……」
日菜「後輩はこうすると喜ぶっていう経験則だねあれは」
由華「むー……羨ましい」
やえ「……なんか、反応が予想と違うんだが。大丈夫かこれ?」
玄「あう……あう……はわわわ……」プシュー
紀子「……問題ない。次に行こう」
やえ「と言ってもなあ……」
由華「いいからさっさと穏乃を立ち直らせてください、松実さんはほっとけば治るんで」グイグイ
やえ「分かった分かった、分かったから押すな」
172: 2015/07/16(木) 00:05:12.17 ID:I3Lvi6iq0
やえ「……で、こいつはどうしたものか」
穏乃「……」
憧「流石のシズも、今回は平然とはしてられないか……」
穏乃「……」
宥「もともと、穏乃ちゃんが和ちゃんと打ちたいって言って全国に行こうってことになったんだよね」
穏乃「……」
やえ「その言いだしっぺの自分が力及ばずこの結果、か。落ち込むのも分からんでもないが……なにか変だな?」
穏乃「……」
晴絵「なんだかんだで責任感も強いし、なによりあの天和を直に喰らったんだ。下手すりゃ私みたいに牌に触れなくなっててもおかしくない……」
穏乃「……」グー
やえ「……ん?」
穏乃「…………い」
憧「シズ? なんか言った?」
穏乃「ラーメン食べたい!!!!」グウウウー
やえ「……おい、どういうことだ?」
憧「……ごめん、忘れてたけど、こういう奴なの」
紀子「心配するだけ無駄だった……」
173: 2015/07/16(木) 00:06:39.07 ID:I3Lvi6iq0
やえ「全員の処置は済んだな? では改めて……ベスト8おめでとう、そしてお疲れ様。同じ奈良県の麻雀部として、阿知賀女子の活躍を嬉しく思う」
憧「ありがとー」
紀子「あなた達の目標が優勝だということを考えたら不本意な結果かもしれないけど、これは立派な成績」
宥「うん、そうだよね……私たち、ベスト8まで残ったんだよね」
やえ「そうだ、あまり落ち込んでくれるな。ベスト8で落ち込まれたら私たちの立場がない」
灼「」
良子「なあ、鷺森が言葉のナイフに刺されて致命傷負ったままなんだが……」
紀子「誰が出てきていいって言ったの?」
良子「……毛布の山に戻ります」グスン
日菜「それにしても、この部屋に入った時はビックリしたよ、お通夜みたいになってたから」
憧「いやー、手は尽くしたんだけどね、みんなが来てくれて助かったわ」
由華「お役に立ててなによりです」
174: 2015/07/16(木) 00:07:29.48 ID:I3Lvi6iq0
やえ「……おっと、もうこんな時間か」
紀子「お祝いの言葉をかけるだけの予定だったから時間が押してる」
憧「ん? 何か予定あるの?」
やえ「ああ、個人戦に向けた仕込みがあってな。すまないが、これで失礼するよ」
宥「忙しそうなのに来てくれてありがとー」
やえ「疲れているところに押しかけて悪かった、また今度改めて祝う機会を設けさせてくれ。では、また」
日菜「良子ちゃん、行くよー?」
良子「あったけえなあ……毛布、あったけえなあ……」
宥「えへへ……あったかいよね」ヌクヌク
紀子「……上田の扱いを、少し見直したほうが良いかもしれない」
由華「……ですね」
175: 2015/07/16(木) 00:09:07.30 ID:I3Lvi6iq0
【姫松宿舎】
浩子「お待ちしてました。姫松の連中は中で待ってます」
やえ「で、千里山は総出でお出迎えか……聞くまでもないだろうが、試合は見たか?」
竜華「バッチリ見たでー……なんやアレ?」
セーラ「フナQが絶句しとったでー」
浩子「当たり前です。次鋒と副将はまだしも、先鋒、中堅、大将は頭おかしい連中しかおらんやないですか!!」
やえ「同感だ、あれの相手をしなければならんというのは気が滅入るな」
怜「私はどうすればええと思います? というか、荒川と神代って人間が打ってどうにかなるもんですか?」
やえ「あの化け物どもはとりあえず捨て置け。まずは明日の準決勝だ」
怜「はあ……」
やえ「チーム全体での戦略は愛宕監督が立てているだろうから私は口出ししない。対局者三人の分析と対策だけお前に伝える」
怜「……それを使って、どう立ち回るかですね?」
やえ「そういうことだな。園城寺に関しては昨日の時点で上々の仕上がりだった、多分、うまくやれるだろう」
浩子「……うちらは、一巡先が見えるっちゅうのにこだわって、本来の持ち味を頃してしまうような打ち方を強いてたんですね」
やえ「中学時代から江口や清水谷が近くに居たのが悪い方に作用したな。園城寺は元々こっちよりの選手だったらしい」
怜「小走やえの後継者と呼んでください」ドヤ
セーラ「俺たちの怜が、小走の色に染められてもうた……」
竜華「そ、そんな……怜……」
怜「うち、竜華より小走さんの方が相性ええんよ。ごめんな竜華」
竜華「い、いやや!! うちを捨てんといて!」
やえ「……話を進めていいか?」
セーラ「あ、はい」
176: 2015/07/16(木) 00:12:29.29 ID:I3Lvi6iq0
やえ「園城寺に関しては方針も決まったし嬉しい誤算で成果も上々、あとは間に合うかどうかだな」
浩子「……うちらとしては団体戦の期間中に、小走さんは個人戦までに、ですね?」
やえ「荒川を止めてくれる駒は多い方がいい。他にも伏兵は用意しているがな」
セーラ「全国回って有望な選手を育てとるって聞いたで? わざわざ敵を鍛えるとか、物好きやなお前も」
紀子「やえは本気で優勝を狙っている、そのために必要な仕込み」
竜華「まあ、その一環として怜を鍛えてくれるんやから、うちらとしてはありがたいけどな」
浩子「……藤原さん、百鬼さん、霜崎さん、対木、他にも個人戦オンリーの強豪は大体小走さんの息がかかってますよね?」
やえ「なんのことやら? 私だけが対策を知っている強豪を個人戦に多数紛れ込ませることで優位に立とうなんて、これっぽっちも考えてないぞ?」
怜「これっぽっちとか言いながら両腕を広げられても……そんなことしとったんですか?」
紀子「どこから見つけてくるのか、妙な能力を持った打ち手を発掘しては能力を引き出す打ち方を授ける日々……対木に関しては大会参加の手続きまで徹底サポート」
セーラ「お前は天狗かなんかか? 仙人の類か?」
やえ「こっちだって必氏なんだよ! お前らみたいなのを相手に凡人が優勝しようってんだからそれぐらいさせろ!」
由華「強豪への対策をするだけでなく、自分だけが対策出来ている強豪を全国の舞台に送り込んで他の強豪を削らせる、優位を築くための戦略的行動です」
浩子「だから、個人戦の代表であり、荒川に対抗できるレベルに大化けする可能性のある園城寺先輩を鍛えてくれるんですよね?」
やえ「そういうことだ、だから、代表になってないそっちの一年の方は気が乗らんのだが……」
泉「うう……」
日菜「とか言いながら面倒みるあたり、お人よしだよね?」
良子「松庵女子なんか、多治比だけのつもりで行って結局全員の面倒を見てたからな。おかげさまで西東京二位だ」
由華「阿知賀なんか誰一人として個人戦に出てないのにノコノコ出て行きましたからね。個人戦無関係ですからね」
やえ「阿知賀は良いだろ別に! 私たちを倒した奈良の代表に全国で恥を晒されたら困るだろ!」
紀子「『弟子が団体戦の一回戦で消えたら私の恥だ』と言って多治比以外の松庵メンバーの面倒を見ておきながら、自分が一回戦で消えている」
やえ「それは言うな。大会で多治比と顔を合わせるのが憂鬱に思える程度には気にしてる」
紀子「これだけ周到に準備をしているのに、去年はくじ一枚ですべてが水の泡に……」
やえ「それは本当にやめろおおおおおおお!!!!」
177: 2015/07/16(木) 00:13:16.71 ID:I3Lvi6iq0
【清澄宿舎】
照「……竹井さん、二人きりで話がしたい」
久「え? ちょ、ちょっと待って、このタイミングで? それって氏亡フラグじゃ……」
和「 !? ど、どういうことですか部長!?」
久「私だってわからないわよ! なんでこのタイミングなの!?」
照「何を言ってるか分からないけど、真面目な話だから」
久「……ま、そうよね。こっちも冗談よ。 まこ、少し外に出て来るから、あとよろしくね」
和「本当に真面目なお話なんですよね?」ジト
まこ「疑っても仕方ないじゃろ、ほれ、行ってきんさい」
優希「お土産にタコスを買ってきてほしいじぇ!」
久「そんな遠くまで行かないわよ……じゃあ、ちょっと行って来るわね」
178: 2015/07/16(木) 00:14:41.75 ID:I3Lvi6iq0
【宿舎近くの公園】
照「短刀直入に聞くけど、竹井さん、私が神代さんに勝てると本気で思ってる?」
久「ええ、あなたが全力を出せば、確実に勝てると思ってるわよ」
照「……夢乃さんから、私の能力は聞いてるよね?」
久「……聞いたわ、枝葉じゃなく、核心のほうをね」
照「知らないなら買いかぶってるだけだと思えたけど、竹井さんは知ってもなお私を過信する……何故?」
久「知ったからこそ、あなたが私の知る限り最強の雀士だと確信を深めたわ」
照「……本当に、話にならないね。竹井さんの言ってることは理解できない」
久「あなた、一度自分を照魔鏡で見た方がいいわよ? 自分自身のことについて分かってなさすぎるもの」
照「……竹井さんの評価では、私が全力を出せば神代さんに勝てるって?」
久「全力を出したなら、負ける要素がないわね」
照「……わかった」
久「ようやく分かってくれたのね?」
照「違う、竹井さんが勘違いしてるのがわかった」
久「……頑固ね、あなたも」
照「あなたには言われたくない……これは、見せるしかない」
久「……見せるって、何を?」
照「私の全力。それを見れば、誤解も解けるはず」
久「え?」
照「明日の試合、私一人で終わらせる。竹井さんは、明日、私を会場に連れて行ってくれるだけでいい」
193: 2015/07/22(水) 07:10:22.00 ID:lRVPi7IB0
『さて、昨日の準決勝第一試合は大きな盛り上がりを見せましたね』
『役満連発!!』プンスコ
『本日これから始まる第二試合も同様の盛り上がりを期待したいところです。注目すべき点などありますか?』
『ぜんぶ』
『そういう綺麗事は要らないんで、ポイントをお願いします』
『……シード!』プンスコ
『ここまでの試合では様子見にも思える試合運びで勝ちあがってきた第二シードの臨海女子、ここでどう出るかが注目されます』
『伏兵!!』プンスコ
『第三シードの新道寺、それに比肩する強豪である南大阪代表の姫松、北大阪代表の千里山を圧倒的大差で下した初出場の伏兵、清澄高校』
『足元注意!!』プンスコ
『油断をすれば第二シードの臨海女子ですら足元をすくわれかねないほどの実力を秘めています。この二校が試合の鍵を握るわけですね?』
『みんな頑張る!!』プンスコ
『はい、各校ともに力を出し切ってほしいですね。では、選手紹介です!』
194: 2015/07/22(水) 07:11:11.18 ID:lRVPi7IB0
『まず姿をみせたのはこの人、北大阪代表の名門 千里山女子のシンデレラガール、園城寺怜!』
『春から!!』プンスコ
『昨年の春の大会からエースを務める園城寺選手ですが、チャンピオンを彷彿とさせる早い聴牌と高確率のリーチ一発ツモが特徴です。二回戦は不調でしたが、立て直せたでしょうか?』
『名門!』
『名門千里山高校、選手のケアもおそらく万全との野依プロの予想です。期待できるでしょう!』
咲「楽しみだなあ……久しぶりにお姉ちゃんが本気で打つ姿を見れるよ」
和「ご機嫌ですね、咲さん」
咲「だって、お姉ちゃん、プラマイゼロ始めてから一度も本気出してないんだもん。本当は私なんかよりずっと強いのに」
京太郎「昨日のあれより強いとか、もう俺のスカウターじゃ測れないんだが……」
まこ「ご機嫌ナナメの咲に『麻雀の楽しさを教えられた』んじゃったか?」
咲「楽しかったね、京ちゃん」
京太郎「そりゃ咲は楽しいだろうさ……無駄ヅモなしで全局和了ってんだから」
咲「えへへ」
京太郎「褒めてねえからな?」
195: 2015/07/22(水) 07:12:04.58 ID:lRVPi7IB0
『続いて、こちらも初出場になります有珠山高校。先鋒は二年生の本内成香選手です』
『珍しいオーダー!!』プンスコ
『そうですね。どうやら大将の獅子原選手がエースのようで、先鋒にエースを置いていないオーダーは今大会では非常に珍しいです』
『危ない!!』プンスコ
『はい、全国で本気で優勝を狙うチーム、すなわち優勝を狙えるレベルのチームは軒並みエースを先鋒にオーダーしています、それだけに……』
『当たりがキツい!!』プンスコ
『……ことになります。事実、全国ではここまで全ての試合で中堅まで苦しい展開を強いられています』
『副将と大将!!』
『はい、新道寺のような、後半で巻き返すオーダーですね。それだけ信頼できる選手が後に控えている、それは中堅までが点差を気にせず打てるということになります』
『よくあるオーダー!!』プンスコ
『昨年までは、エース級が二人いるチームなら、二人の配置は先鋒大将か副将大将が主流でした。それを先鋒大将の一択に変えてしまった白糸台の影響力はすさまじいですね』
雅枝「珍しいのかよくあるのかはっきりせえや!!」
浩子「ちゅうか、どっちが解説かわからんなこれ」
セーラ「エースが二人なら先鋒大将か副将大将が主流なんか? うちはエース三人おるけど、その場合はどうなん?」
浩子「トリプルエースは先鋒中堅大将が定石。うちもその例に漏れず、です。春の永水はやらかしてくれましたけど」
竜華「けど、白糸台のせいで今の定石は違う、これは定石外しやな。けど、あいつら大会慣れしとる様子もないし、案外なんも考えずにくじかなんかで決めたんちゃうか?」
浩子「あり得ますね。たまたま才能が集まっただけのなんも知らん新生チームにはありがち……それがここまで来るんは異常ですけど」
雅枝「戦力的には清澄や臨海ほどの脅威やあらへんけど、また妙なチームが勝ちあがって来たもんやな」
セーラ「今年はホンマにおかしな大会やな」
浩子「うちと姫松が揃ってシードじゃないって時点でおかしいんやから、いまさら何があっても……とは思ってましたけど、おかしなことしか起こりませんね今年は」
196: 2015/07/22(水) 07:12:42.99 ID:lRVPi7IB0
『二位!!』プンスコ
『はい、インターハイ第二シードの臨海女子、その先鋒は昨年度個人二位、頂に最も近い挑戦者、辻垣内智葉選手です』
『今回は全力!!』プンスコ
『清澄高校、千里山女子を相手に迎え、おそらく手加減なしで来るだろうとの予想です。昨年度の二位から更に成長したその力が、ついにその全容をみせるのでしょうか?』
アレクサンドラ「先鋒、ね。エースとは言ってくれないか」
明華「二回戦では、小鍛治プロはエースと言ってくれていましたが……」
ネリー「サトハは強いのに……」
ダヴァン「世界ランカーの明華が居るから、周りからは明華がエースに見られるのは仕方ないと本人は言ってマシタガ……くやしいデス」
ハオ「サトハが本気で打てば、評価も改まるでしょう」
アレクサンドラ「……だといいんだけど、いくらサトハでもあれはちょっと厳しいかな。トップは取れると思うけど」
ネリー「大丈夫だよー、確かにすごいけど、結局プラマイゼロにするだけでしょ?」
アレクサンドラ「……とは限らない。このルールの準決勝なら」
明華「……?」
197: 2015/07/22(水) 07:14:09.40 ID:lRVPi7IB0
『……あ』
『野依プロ? どうしました?』
『……ダメ』
『ダメ? 何がですか?』
『本気……終わる』
『え? あ、あの、打ち合わせにそんなのないですよ!? 何言ってるんですか野依プロ?』
『清澄……』
爽「ん? そっか、アレって事前に打ち合わせてたのか。出た単語に合わせて事前に決めていた解説を読み上げてたんだな?」
由暉子「そうみたいですね。二人は一言で繋がるぐらい深い絆があるものと思ってましたが」
爽「試合中は流石にアドリブ多めだろ、多分」
誓子「うっそ……」
揺杏「はい、打ち合わせしてましたー。夕食ゲットー」
爽「おい揺杏、賭けるなら私も入れろよ」
揺杏「そしたら取り分が減るだけなもんで」
誓子「あれ全部打ち合わせ済みって、どれだけ綿密に打ち合わせしてるのあの二人……」
爽「お前らの賭けはどうでもいいんだが、その綿密な打ち合わせからも漏れる異常事態……こりゃマズイかな?」
揺杏「いやー、流石に10万点あれば大丈夫っしょ?」
由暉子「10万点持ちを飛ばす……相手次第では出来そうな人が目の前に居るだけになんとも言えません」
爽「ちなみに、私の直感だとアウト。アレはヤバい」
揺杏「げっろ……」
誓子「な、なるか……大丈夫だよね?
198: 2015/07/22(水) 07:15:01.06 ID:lRVPi7IB0
久「……ここね。あとは任せたわよ」
照「……」
久「なんか言ってよ」
照「……決勝の相手だけど」
久「え?」
照「私が打ちやすい人を連れてくから」
久「え、ええ。良いわよ、あなたの好きなようにして」
照「じゃあ、行って来る」
バタン
久「打ちやすい相手を決勝に連れて行く、か……言われた方はたまったもんじゃないわね」
久「三年間努力して来て、決勝に行けるかどうかは照の気分次第」
久「……けど、あの子にはそれだけの力がある。それは私もそう思う」
久「先鋒で試合を終わらせて、なおかつ、連れて行く相手も選べる。インターハイの準決勝でも、ね」
久「けど、自分にそれが出来ると分かってるのに、私の評価は勘違いだって言い切るわけでしょ? 何を見せる気なの?」
久「……考えても仕方ないわね、見せてもらいましょう。 言っとくけど、大抵のことじゃ私の評価は揺らがないわよ?」
199: 2015/07/22(水) 07:15:48.43 ID:lRVPi7IB0
咲「お帰りなさい! お姉ちゃんってばやる気満々でしたね!」
久「そうね、決勝の相手は照が打ちやすい相手を連れてくって言ってたわよ」
咲「お姉ちゃんなら余裕ですね。楽しみだなあ……」
久「ええ、楽しみね」
和「その割に、部長は浮かない顔をしてますね?」
久「……応援団のみんなになんて言おうかなって思ってね」
まこ「確かに、先鋒で終わらせたら長野で応援してくれちょる連中に申し訳ないの……今日もあつまっとるんじゃろ?」
京太郎「あ、はい。今日も体育館で応援してくれてるそうで、100席用意したのが満席だって話です」
咲「あちゃ……でも、お姉ちゃんが本気出すなら先鋒で終わってもみんな大満足だと思うよ!」
優希「ぐぬぬ……私の雄姿を見せられないのが残念だじょ……」
まこ「優希は大将まで回っても出番ないじゃろ」
200: 2015/07/22(水) 07:16:35.40 ID:lRVPi7IB0
起家 怜「よろしくお願いします(起家……宮永が様子見するここで稼ぎたい。上手く行けばそのまますんなりトップになれる)」
南家 智葉「よろしくお願いします(相手が誰だろうと関係ない、私は自分の麻雀を打つだけだ)」
西家 成香「よ、よろしくお願いします……(全員なんかこわいです)」
北家 照「よろしくお願いします」
201: 2015/07/22(水) 07:17:54.96 ID:lRVPi7IB0
東一局
6巡目
怜(宮永さんも辻垣内さんも、東一局は大抵様子見するはず……有珠山は怖くない。てなわけで、ここは行かせてもらうで)
怜「リーチ!」
2234567m4赤56s567p ツモ:北
打:北
智葉(ツモ切りリーチ……さて、本物かどうか、直に見せてもらおう)
打:発
成香(な、鳴けません……このままじゃ……)
打:1p
照「……」
打:発
怜(誰も動かず……ひとまず和了れたな)
怜「ツモ」
怜(手牌を倒してから、裏を確認。うわ……三枚乗ってるやん!? でも、動揺を見せずに、ここまで見えてましたよって顔で点数申告)
怜「リーチ・一発・ツモ・タンヤオ・平和・ドラ4。8000オール」
2234567m4赤56s567p ツモ:2m 裏ドラ:2m
怜(能力を解明されたくなかったら、予想外のことでも狙い通りですよって顔してハッタリかますのが基本やって小走さんが言っとったで)
智葉(……裏まで見えてるのか? この短期間に進化しているということになる、下手をすれば試合中にも……これは厄介だな)
成香(い、いきなり8000オールですか!? これが名門千里山のエース……こわ……ひっ!?)
照「……」ゴゴゴゴゴ
成香(い、今の何ですか!? 誰がやったんですか!? 怖いです……)
怜「……っと、宮永さんにはこれがあったな」
照(……ハッタリ、か。けど、こんなしたたかな人だったっけ?)
智葉(……今のは、なんだ? 園城寺の発言から察するに、宮永の仕業なのか?)
202: 2015/07/22(水) 07:18:52.44 ID:lRVPi7IB0
東一局 一本場
智葉(最後のアレが宮永の仕業で、園城寺も地区大会や二回戦より強くなっている……あまり様子見している余裕はないな)
怜(……宮永さんだけじゃなく、この人もセーラ達より格上やったっけ? 大抵の相手は小細工なしで行けるけど、この人には真正面から行ったら分が悪いやろな)
怜(と言っても使える駒は私自身と……あんまりサポートしたくない相手やな。けど仕方ないか。どうせこいつらがトップや、削らなアカンのは臨海、背に腹は代えられん)
怜(8000オールぐらいくれてやるって感じの余裕が怖いけど、私と勝負になるレベルじゃ、二人で組んでも宮永さんの相手は無理。上手く協力して清澄をここで仕留めようなんて考えは甘いやろな)
203: 2015/07/22(水) 07:19:26.18 ID:lRVPi7IB0
照(……地力はこの三人では一番上。自分の打ち方を貫くのは扱いやすいと言えば扱いやすいけど、あの二人を相手に自分勝手な動きをされると邪魔なだけ)
照(なにも出来ないのは論外だね。あの二人相手じゃ庇いきれない)
照(園城寺さんは理想的だけど、二回戦からここまでのたった二日で打ち方が変わっていて、イレギュラーになり得る)
照(……イレギュラーはむしろ望むところか。決まり)
204: 2015/07/22(水) 07:20:14.48 ID:lRVPi7IB0
智葉(リーチして出るような奴は本内だけか……とはいえ、こいつらがダマなら出すかと言われると……どうせツモるしかないなら――)
智葉「リーチ」
123456788m西西北北 ツモ:9m
打:8m
照「ポン」
ポン:888m 打:9m
怜(おいおい……なんであの萬子染めから8萬が出てきた直後に9萬が切れんねん? ありがたいんやけど……恐ろしいな、どこまで見えとるんやこの人)
9m2233446789s西西 ツモ:赤5s
怜(さて、この先の一巡、どうなる?)
****
怜「……」
打:9m
智葉「くっ……」
打:白
照「槓」
槓:白白白白 槓ドラ:9m
照「もいっこ、槓」
槓:中中中中 槓ドラ:西
打:東
怜「ツモ」
223344赤56789s西西 ツモ:1s
怜「面前ツモ・混一色・平和・一気通貫・ドラ3。8100オール」
****
怜「……は?」
怜(ツモれるのが分かったのはええけど……私がツモる前に槓してドラを増やす? どういうことや?)
照「……」
怜(これ、そういうことでええんか? なら、リーチしても同じことしてくれるか?)
怜(……わからんもんは確かめに行けってな。点数調整が狙いなのか、それとも……)
205: 2015/07/22(水) 07:21:07.66 ID:lRVPi7IB0
『リーチ』
爽「誰かを使ってリーチを止めるぐらいなら、自分でツモってリー棒いただき。エースってのはそうでないと」
揺杏「げっろ、親倍じゃ稼ぎ足りねーって? 名門ってのは欲張りだな」
誓子「な、なるか……」
『槓』
由暉子「……はい?」
爽「って、そういうことする? こりゃマジでヤバいかな」
『もいっこ、槓』
誓子「ちょ、ちょっと……それ、千里山にも臨海にもドラ増やして……」
揺杏「おいおい、爽、どうにかしろよ」
爽「無理。せめて指示が出せないと」
由暉子「な、なら前半が終わった休憩の時に……」
『もう一個、槓』
206: 2015/07/22(水) 07:21:54.94 ID:lRVPi7IB0
照「もう一個、槓」
暗槓:55赤5赤5p 槓ドラ:5p
怜(……は? なんやそれ? さっきはそんなんしいひんかったやろあんた!?)
照「……」タン
打:東
怜(リーチをかけなきゃしなかったはずの三回目の槓で、槓ドラモロ乗り……けど、ツモは変わっとらん。見えた通りならここで私がツモるはず)
223344赤56789s西西 ツモ:1s
怜「ツモ」
怜(……流石に、見えた牌が変わるなんてことはないか。だとすると、あの槓は……そういうことやろな。三枚目の槓裏表示牌は……1索か)クルン
ドラ:1m 9m 西 5p
裏ドラ:7p 4m 中 2s
怜「リーチ・ツモ・混一色・平和・一気通貫・ドラ5。16100オール」
怜(リーチしたなら裏が私に乗る。そのための槓……私がリーチせんかったら槓しても意味がないから、リーチせん未来ではあの槓はなかった)
怜(つまり、私を押し上げる気っちゅうことやろ? その意図は……?)チラッ
照「……」
怜(何考えてるかわからん……自分で考えるしかないか)
207: 2015/07/22(水) 07:22:45.99 ID:lRVPi7IB0
京太郎「相変わらず無茶苦茶しますね……」
和「一局目は照魔鏡のために捨てているので、実質これが一局目。初っ端から役満とは……」
優希「連続和了は打点を上げなきゃいけないから自分が和了ると役満で打ち切りになるけど、他家にだったら何度でも和了らせられるじぇ」
まこ「本気出すにしても限度があるじゃろ……リーチした時点ではあの河は辻垣内が一発で上がる顔じゃったのに、無茶苦茶じゃ」
久「……」
咲「……え?」
優希「そして、決勝に連れてく相手は千里山ってことだな! 他の二校をギリギリまで削って千里山29万、うちが11万みたいな点数にする気に違いないじぇ!」
咲「あ、そうか、千里山を勝たせるために……けど、もう親倍をツモってるのに……」
京太郎「自分で20万稼ぐのもおかしいけど、他人に20万稼がせるってどういうことだよ……」
まこ「部長とか咲でも、他人を勝たせるなんてのはそうそう出来んからの。照さんがどれだけ化け物か良くわかるわい」
和「まったくもって非常識です。信じられません」
208: 2015/07/22(水) 07:24:09.00 ID:lRVPi7IB0
東一局 四本場
怜「……」ポチ
臨海 42400
清澄 43400
有珠山 43400
千里山 270800
怜「ツモ」
999s234m4567899p ツモ:9p
ドラ: 9p 北 中
裏ドラ: 9s 9s 9s
怜「リーチ・ツモ・ドラ12。16400オール」
智葉「くそっ……こんなことが……」
成香「こ、これが、千里山の……こわいです」
照「……ごめんね」
怜「……ええよ、弱いのが悪いんやから」
照「……」
成香「た、確かに私は園城寺さんと比べたら弱いですけど……そんな言い方……それに、全国二位の辻垣内さんにそれを言ったら、全国の皆さんが……」
智葉「……違うぞ本内。それは違う」
怜「……辻垣内さん」
智葉「園城寺と私の間に大差はない。むしろ、私の方が強い」
怜「……そらそうや、こないだまで三軍だった奴がこんな短期間で全国二位に勝てたら苦労せんわ」
成香「……え? で、でも……?」
怜「……弱いのは、私や」
智葉「……」
怜「こんなん気に食わんのに、止めたいのに……抗うことが出来ん。その上、これで決勝に行けるならそれでええって、誘惑にも負けた」
智葉「お前は悪くない。むしろ、この状況ならそれが正しい。それで負けが決まる私が止めるべきであって、それで勝てるお前が止める道理はない」
怜「……堪忍な、辻垣内さん」
智葉「……まだ終わったわけじゃない。むしろ、横並びのこの状況は宮永を蹴落とす最大のチャンスだ。全国二位は飾りじゃない」
照「……」
209: 2015/07/22(水) 07:24:52.50 ID:lRVPi7IB0
まこ「ちょうどプラマイゼロになるあたりでどこかが飛ぶ点数じゃのう」
優希「全国の準決勝でここまで一方的な展開に出来るって異常だじょ……」
和「全ては照さんの掌の上……あの場には昨年の個人戦で全国二位の辻垣内智葉がいるというのに……」
京太郎「全国二位ですら、照さん相手じゃ何もできないのか……そりゃ、部長や咲が強い強いって褒めちぎるわけだ」
咲「……違う」
久「そうよ。あの子があの程度のはずないでしょう」
まこ「……は?」
和「あ、あの程度って……あれ以上のなにがあるって言うんですか!? ここまで、様子見の一局を除いて全て役満なんですよ!?」
優希「そうだじょ!! いくらなんでも贔屓が過ぎるじぇ!!」
京太郎「……けど、咲の様子からして、冗談言ってるわけじゃなさそうだぜ?」
まこ「そうは言ってもな……おい久、なにが不満なんじゃ?」
久「あの卓のトップは誰よ? 照が本気で打ってるなら、照以外がトップになれるはずないでしょ」
咲「あれじゃいつもとおんなじだよ……あんなの、お姉ちゃんの全力のはずがない……」
『ツモ、1000・1500』
210: 2015/07/22(水) 07:28:13.45 ID:lRVPi7IB0
東二局
怜(親は安く流れた……まあ、この点数状況なら役満の親かぶりでも何の問題もあらへんけど)
智葉(聴牌気配? 馬鹿な、早すぎる……そして、園城寺と私はともかく、本内が止められるとは思えん。これは不味いぞ……)
照「ロン、2600」
成香「はうっ!? は、はい……」
成香(こわすぎます……さっきのお話からして、臨海の怖い人や千里山の怖い人より、このひとの方がずっと……)
211: 2015/07/22(水) 07:28:50.50 ID:lRVPi7IB0
まこ「……照さんには、あれより上があるとでも?」
久「……いえ、全力っていうのは本当でしょうね。もしあの子が嘘をついてたら私にはわかる」
咲「絶対にあり得ません!! お姉ちゃんの本気っていうのはあんなのじゃ……プラマイゼロなんかじゃない!!」
和「さ、咲さん、落ち着いて下さい!」
咲「落ち着いてられるわけないでしょ!!!!!」
優希「ひっ!?」ビクッ
京太郎「それでも落ち着け。悪いけど、俺らにはなんでお前が取り乱してるのかすらわかんねえ」
咲「……」
212: 2015/07/22(水) 07:30:28.22 ID:lRVPi7IB0
東三局
照「槓」
暗槓:白白白白
打:5s
怜(……60符と1翻は確定。一見高そうやけど、小走さん情報ではこの人は打点上昇の制約がある。だからおそらくまだ安い。無駄かもしれんけど、足掻けるだけ足掻く)
打:7s
智葉(……槓の直後だが、7索が通った。奴は自分で1索を切っている、4索は筋……ここは勝負すべきだ。私はこの打ち方で全国二位まで上り詰めた、ここは戦う)
233345677m4s発発発 ツモ:7m
打:4s
智葉「リーチ」
照「……それ、槓」
智葉「なっ!? 大明槓!?」
照「ツモ」
2346799p 暗槓:白白白白 明槓:4444s ツモ:8p
照「嶺上開花・白。大明槓の責任払い、70符2翻の直撃は4500。あと、リーチは成立してるからリー棒ももらう」
智葉「……まさか、狙ったのか? リー棒と、直撃を?」
照「……」
213: 2015/07/22(水) 07:31:48.36 ID:lRVPi7IB0
和「……リー棒が出ても苦にしない、いえ、これはむしろ……」
久「ここから親番。満貫、跳満、三倍満で、リー棒が入ってピッタリ105500になって終わるわね。狙い通りってところかしら?」
咲「……」
久「咲、落ち着いた?」
咲「はい……でも……」
久「認めましょう。これが現実なの。あの子は……」
咲「やめてください! 聞きたくないです!!」
久「今の照は、『プラマイゼロに出来る』だけじゃない……その代償として、『プラマイゼロにしか出来ない』のよ」
咲「聞きたくない!! 聞きたくないよそんなの!!」
京太郎「おい、咲、落ち着け!! なんでそんなに嫌がるんだよ!?」
咲「そんなのっ!!! だって……それは……」
214: 2015/07/22(水) 07:38:29.06 ID:lRVPi7IB0
東四局
智葉(大明槓の責任払い……どこからでも和了って来る、一見安牌のように思えても信用できない)
怜(この状況はまずすぎる。竜華すら蹴散らした妹と同等の連続和了……それでピッタリプラマイゼロにしながら……)
照「ツモ。4000オール」ギュルギュル
345s34赤5p2345678m ツモ:2m
怜「三巡で満貫……」
智葉「この化け物が……荒川が可愛く見えてくるな」
成香「うう……点棒がもう全然ないです……」
215: 2015/07/22(水) 07:39:04.23 ID:lRVPi7IB0
京太郎「で、どうしたっていうんだよ? 話してくれ」
咲「……私、お姉ちゃんは、本気で麻雀が嫌いになっちゃったんだと思ってたんだ。ずっと……」
久「……」
京太郎「それ、今の話と関係あるのか?」
久「あるはずよ。続けて、咲」
216: 2015/07/22(水) 07:40:06.71 ID:lRVPi7IB0
東四局 一本場
怜(おそらく聴牌してるはずやけど、せめて、せめて一矢報いたい……通ってくれ!)
打:1m
智葉「……」
打:8m
成香「こ、この巡目で聴牌とかないですよね……?」
打:4m
照「ツモ。6100オール」ギュルンギュルン
2223456777m発発発 ツモ:赤5m
智葉(園城寺は見逃された……? くそっ、どこまで舐めた真似をする気だ!)
怜(……ここからプラマイゼロにするには次で三倍満、ツモか私以外に直撃が条件や。せやから、私は全力で前に出る)
成香「このままじゃ……私のせいで試合が終わっちゃいます……なんとか、なんとかしないと……」
217: 2015/07/22(水) 07:48:39.86 ID:lRVPi7IB0
咲「私は、お姉ちゃんは麻雀が嫌いになったと思ってた。けど、最近のお姉ちゃんは、誘わなきゃ打たないけど誘って断ることはなかった」
久「そうね。むしろ、打ってる時は誘えってオーラを出しながらこっち見てたもの。麻雀嫌いとかどの口がって感じよね」
咲「だから、お姉ちゃん、また麻雀を好きになってくれたんだと思ってたんです。でも、意地っ張りだから……」
和「……以前は、咲さんの入部を取り消させようとするほどの麻雀嫌いでしたからね」
咲「違うの……お姉ちゃん、麻雀を嫌いになんてなったことなかったんだよ……そうじゃないと説明できない……」
久「……順を追って話ましょう。照が麻雀を好きになってくれたと思って、その先は?」
咲「プラマイゼロは、拒絶のためにやってることのはずなんです。だったら、麻雀をまた好きになったのにプラマイゼロを続けるの、おかしいですよね?」
京太郎「……確かに。拒絶する気がないなら、普通に打ってもいいわけだよな」
まこ「たしかにのう……わしらは初めて会った時からあれじゃから違和感がないが、咲にとってはそうじゃないわけか」
和「しかし、照さんのあの性格ですから、それは別に不思議なことではないような……」
咲「うん。私も、お姉ちゃん意地っ張りだから素直になれないだけだって、不器用でいまさら引っ込みつかないから続けてるだけだって、そう思ってた……でも……」
優希「本気で打つって宣言した今回も、プラマイゼロにしようとしてるじょ……」
咲「本気で打つって宣言したんだから、プラマイゼロをやめるチャンスなんだから、プラマイゼロにするはずがない……なのに、それなのに……」
久「本気で打つと宣言しても、プラマイゼロをやめない。その理由は……一つよね?」
まこ「照さんのプラマイゼロは、狙ってやっとるもんじゃなく、どうやってもなってしまうものっちゅうことなんか?」
京太郎「……けど、なんでそれを隠してたんですか? それが分かってれば、咲や部長の過大評価もすぐ止んだでしょ?」
咲「私のためだよ。私には、お姉ちゃんはプラマイゼロ以外の結果にすることも出来ると思わせなきゃいけなかった」
218: 2015/07/22(水) 08:01:26.18 ID:lRVPi7IB0
東四局 二本場
怜(私だけは、たとえアタリ牌を切っても直撃されん。自分が和了れなくても、せめて盾になって辻垣内さんや本内さんの切りたい牌を通すんや!)
智葉(ありがたい……しかし、この巡目で危険牌かどうかを考慮しなければいけないという時点で……)
成香(ま、まずいです……この人を止めないと、チカちゃん達に回せないまま試合が終わっちゃいます)
照「槓」
暗槓:発発発発
怜「あ……」
智葉「くっ……」
照「ツモ」
123456789s北 暗槓:発発発発 ツモ:北
ドラ:4m 発
照「面前ツモ・混一色・嶺上開花・発・一気通貫・ドラ4。12200オール」
智葉「……くそっ!!」
成香「あ、あわわ……点棒が、もう1100点しか……」
怜「……終わりやな。お疲れ様でした」
成香「え?」
智葉「……トビだ。私のな」
219: 2015/07/22(水) 08:02:38.55 ID:lRVPi7IB0
京太郎「咲に気付かせないため? なんでだ?」
久「……それは、言わせないであげて」
和「部長、分かるんですか?」
咲「……私がそれに気付いたら、私は自分を責めるから」
久「言わなくていいわ」
咲「いえ、言います……お姉ちゃんがプラマイゼロを始めたのは、私が始めたからなの……だから、私があんな打ち方しなければ、お姉ちゃんは普通に打てたはず」
京太郎「……それって」
咲「お姉ちゃんがプラマイゼロしか出来なくなったのは、私のせい」
久「咲、あなたのせいじゃない。それに、あなたが傷つくことを照は望んでないわ。だから、今まで隠してたんだから」
咲「分かってます。けど……やっぱり、私がプラマイゼロなんかしなければ、お姉ちゃんは、普通に打って、勝ててるはずで……」
和「プラマイゼロが自分の意志でなく呪いのようなものであることを咲さんに悟らせないように、麻雀が嫌いなフリをしていたということですか?」
京太郎「麻雀が嫌いだから本当は打ちたくない、仕方なく打ってるだけだからプラマイゼロにしてるんだって、咲に思わせておくためか……」
咲「……本当は麻雀が好きだから、しつこく誘ってくれる部長はありがたかったはずです。私には『しつこく付きまとわれてる』って説明できるから。それも、探しても滅多にいない、お姉ちゃんとまともに勝負できる人」
久「でしょうね。本当に麻雀が嫌いだったら100回も付き合ってくれるわけないもの」
まこ「おんし、わかっとったんか?」
久「私、本気で嫌がってる人間を100回も誘うほど自分勝手じゃないわよ? 照も咲も『本当は打ちたいんです』ってオーラ全開だったわ」
咲「麻雀を打っても必ずプラマイゼロになるのは、麻雀が嫌いだから拒絶してるだけって、そう言ってたけど、それは私に気付かせないためでしかなくて……本当は、お姉ちゃんはずっと麻雀が大好きで……」
220: 2015/07/22(水) 08:03:08.17 ID:lRVPi7IB0
『と、とんでもないことになりました』
『東風!!』プンスコ
『まさか、こんなことが起こり得るのでしょうか!? 先鋒戦前半、東場の終了を待たずして、準決勝第二試合が決着してしまいました!!』
『ルール変更!!』プンスコ
『そうですね……このような事態が起きるなら、やはり、各半荘25000点持ちでのポイント制を採用した方が……とはいえ、今からそれは出来ません』
『放送事故……』ジワ
『……流石にここから予定の時間まで解説と実況だけでどうにかするとか絶対ないから大丈夫です』
『本当?』グスッ
『局の方で代わりの番組を用意するまでは頑張ってくださいね?』
『が、頑張る!』プンスコ
221: 2015/07/22(水) 08:03:55.55 ID:lRVPi7IB0
咏「いやー、よりによってノヨリさんと村吉さんのコンビの時にこれやらかしてくれたかー」
えり「なんなんですかこれ……おかしいでしょう」
咏「今更だねぃ。昨日何を見たのか思い出してごらんって」
えり「確かにおかしいことだらけでしたが、昨日は大将戦まで勝負が続いたじゃないですか!?」
咏「あの四校だからかろうじてバランスが取れて試合が続いたんだよ。均衡が取れなきゃ一瞬で終わる」
えり「そんなこと言われても……」
咏「言っただろ? 松実さんも個人戦の二桁順位じゃ相手にならないほどの化け物、全国トップクラスの選手だって。それでもあの相手じゃ10万差がつくんだよ」
えり「し、しかし、それはチャンピオンと神代さんだからであって……」
咏「おいおい、その目は節穴かいアナウンサー? よく見ろって、あれはそれと同レベルの化け物。下手するともっと上」
えり「……結果を見れば同意せざるを得ませんが、しかし……」
咏「しかし、先鋒前半で終わったかー。大将まで見るつもりだったから、ほとんど丸一日予定が空いちゃったねー」
えり「……そうですね。予定が空いたなら、オフの日にいつまでもお邪魔するのも悪いですし、私はこのあたりで……」スクッ
咏「うん、じゃあ私は一人でゆっくりとオフを満喫……って、アホか――!!」ゲシッ
えり「うわわっ!?」ドテン
咏「私はこれから二人でどこ行こうかって話をしてんの! なに帰ろうとしてくれてんのさ!?」プンプン
えり「それは失礼しました。けど、転ばせなくてもいいじゃないですか」ジト
咏「う……それはその……ごめん」
222: 2015/07/22(水) 08:04:36.37 ID:lRVPi7IB0
久「咲、私ね、合宿の時マホちゃんに聞いたの。あの子の能力」
咲「……プラマイゼロ、ですよね? 点数調整じゃない方の」
久「そこまで分かってたのね」
咲「……お姉ちゃんのこと、一番知ってるのは私ですから」
まこ「どういうことじゃ? ついて行けんぞ?」
久「マホちゃんが照魔鏡をコピーしたところまでは、あなた達も居たわよね? 今から話すのは、あの後のことよ」
248: 2015/07/29(水) 12:59:00.95 ID:wKu4pP350
~~回想~~
マホ「これは……マホ、驚きです!」
久「ちょーっと待った!! ストップストップ!!」ガバッ
マホ「むぐぐっ!? プハッ、なにするんですか!? 苦しいです!!」
久「照と咲の能力を大公開されたらたまらないわよ! 特に咲はまだ一年生なんだから、来年も再来年もあるのよ!?」
まこ「照さんの照魔鏡でうちだけが相手の能力を知ってるのはええんかのう?」
靖子「どうかとは思うが……部内の研究で他校の選手の能力を知るのと部外者が大公開するのは流石に話が別だからな」
優希「部長、マホは忘れっぽいからあんまり激しくすると今見たものを忘れるじぇ」
和「……マホ、今見たもの覚えてますか? 忘れてもいいんですよ?」
マホ「優希先輩も和先輩もマホをなんだと思ってるんですかー!? ちゃんと覚えてますー!!」
久「……ちっ、忘れてればいいものを」
照「……別に、咲はバラされても困ることなんか何もないと思うけど」
咲「お姉ちゃん、それは酷くない?」
照「なにか困ることでもあるの?」
咲「たしかに何も無いけど……」
久「とにかく、その話はここで話されちゃ困るわ! ついてきて!!」
マホ「ちょっ!? まだ対局中ですー!!」
久「この子借りるわよー!」
咲「あ、はい」
照「……いいのかな?」
衣「衣はお預けを喰らうのが嫌いなんだが……」
久「ごめんねー!」
249: 2015/07/29(水) 13:00:26.04 ID:wKu4pP350
【別室】
久「で、照の能力の何が驚きなの?」
マホ「へ? 照さんですか? まあ、確かにすごいと言えばすごいですけど……マホが驚いたのは咲先輩の方ですよ?」
久「え?」
マホ「咲先輩、オカルトっぽい能力を何も使ってないんですよ!! それであの強さとか憧れちゃいます!!」
久「……は?」
マホ「連続和了も、プラマイゼロも、嶺上開花も、全部実力なんですよ! 能力じゃなくて!! これはマホも驚きです!!」
久「……実力ってなんだったかしら? もはや哲学だわ……」
マホ「部長さんがそれを言うんですか? じゃあ、部長さんのあの異常な和了率はなんですか?」
久「……基本は正確な読み、そこから山に残ってる牌を推測して和了率重視で最大の牌効率で打ちつつ、大事なところは勘頼みね」
マホ「どこまで実力ですか?」
久「……全部実力と言えなくもないわね。結果がついてくるだけの運も含めて、これだけ安定してれば、もはや実力と言えるわ。私自身、ある程度は確信を持ってるし」
マホ「ですよね! 咲先輩のもそういうことです!!」
久「……私が相手のアタリ牌を察知するのと同じような感覚で嶺上牌を把握して、豪運で槓材を集めて、ただ和了るのと同じような感覚で打点を上げながら連続和了して、何事もなくプラマイゼロにしてみせる……まあ、照の妹だし、出来てもいいわね」
マホ「ですです! 咲先輩すごいです!!」
久「正確な読み、理外の豪運、異常なほどのオカルトへの対処の早さ……運もあれだけ安定していれば実力と言えるし、なるほど……実力か」
マホ「……それにしても、照さんですか? マホ的には微妙なんですが」
久「そういうセリフはあの子のプラマイゼロを破ってから言いなさいよ」
マホ「むー、そりゃ、あれは多分破れませんけど……けど、能力はどう考えても微妙ですよ」
久「……てゆうか、微妙? 照魔鏡とか、連続和了とか、プラマイゼロとか、どれも酷いチートだと思うんだけど」
マホ「えー? だって、メリットとデメリットが釣り合うようにすれば色んな能力が使える力って、結局メリットなくないですか? マホ的には微妙ですー」
久「……は?」
250: 2015/07/29(水) 13:01:12.89 ID:wKu4pP350
~~回想終了~~
久「最初に聞いたときの感想は『何言ってるのこの子?』よ。咲の方も驚きだったけど、照の方は理解に苦しんだわ」
まこ「……待て、いろいろおかしいじゃろ?」
久「まあ、私も聞いたときはおかしいと思ったからその辺はちゃんと答えるわよ。何から説明してほしい?」
優希「まず、咲ちゃんのあれやこれが実力……読みとか純粋な運だったとして、マホはなんでそれをコピーできたんだじぇ?」
久「え? そっち? ……ごめん、それはわかんないわ。咲、お願い」
咲「……あの子、妹尾さんの豪運をコピーしてたよね? それ以上の説明が要るかな?」
和「……今更ながら、マホも大概ですね」
咲「こういう風に打ちたいって思ったらそういう結果が起こせるって感じだね。同じ結果を引き起こしてはいるけど、マホちゃんのは過程が別物」
久「コピーは、それを作るまでの過程はコピーしないってことね」
京太郎「高遠原中学は一体どうなってるんだ……」
251: 2015/07/29(水) 13:03:09.52 ID:wKu4pP350
まこ「じゃあ次じゃ、照さんの能力、おかしいじゃろ?」
咲「何かおかしいところありました?」
京太郎「いやいや、明らかにメリットとデメリットが釣り合ってないだろうが!?」
咲「そうかな?」
和「一局捨てるだけで相手の能力を全て見抜く照魔鏡、打点の制約はあるものの和了りを望む限り役満までほぼ絶対の和了が確定している連続和了、明らかにメリットの方が……」
久「はい、ここで問題。あの子が相手の能力を見抜くのに一局捨てる必要、あるのかしら?」
まこ「……は?」
咲「私やお姉ちゃんが相手の能力を見抜くために一局捨てる必要、あると思いますか?」
京太郎「……言われてみれば、ないな?」
優希「いっつもその局のうちに能力を大公開してるじぇ」
和「咲さんは実際にその局のうちに対応して和了ったりしますからね」
咲「より深く正確に見抜くメリット、その代償が一局。お姉ちゃんの素の実力を考慮すれば、釣り合ってる」
優希「じゃあ、連続和了は……?」
咲「下手すればデメリットの方が大きいんじゃないかな? 素の実力だけでも部長より強い……さっきは園城寺さんに連続で役満を和了らせてたけど、お姉ちゃんがその気になればそれを自分に使って役満和了り放題なんだよ?」
久「あの子なら、役満和了ったらそこで連荘が止まるっていうデメリットの方が大きいわね。逆にデメリットが大きすぎて釣り合ってないんじゃない?」
和「そんな馬鹿な話が……ありますね。照さんですし」
京太郎「あっさり非常識派に寝返った!?」
まこ「落ち着け京太郎、和は元々あっち側じゃけえ、当てにしちょらん」
咲「一人コンボとかも、お姉ちゃんなら行けると思うんだ。お姉ちゃんの和了率を考慮したら、和了れなかった場合に対応する局も和了れないデメリットで十分釣り合う」
和「……和了れないとしても親番の5本場とかなので、事実上デメリット皆無ですね」
京太郎「……けど、それは無理って言ってなかったか?」
咲「多分、打点が上がりすぎてプラマイゼロが出来なくなるのと、連続和了との兼ね合いだね。その制約が外れればお姉ちゃんなら出来ると思うよ」
優希「ま、待つんだじょ!! 一番大事なものが説明されてないじぇ!」
久「そうね。私も、今の今まで納得できてなかった。けど、釣り合ってるわね。いえ、デメリットが大きすぎて釣り合ってないぐらいよ」
252: 2015/07/29(水) 13:03:55.97 ID:wKu4pP350
咲「プラマイゼロ、ですね?」
和「プラマイゼロを狙う限り卓上のすべての牌を思うままに操作するような非常識な力に釣り合うデメリット、ちょっと考えつきませんが……」
咲「十分すぎるデメリットがあるよ。部長も言ったけど、これもデメリットの方が大きいんじゃないかな?」
和「何を言ってるんですか? 誰が打ってもプラマイゼロに……それこそ、咲さんと部長と天江さんが卓を囲んでもプラマイゼロになるんですよ?」
咲「……京ちゃん三人に囲まれてもプラマイゼロにしかならないけどね」
優希「……あ、もしかして、そういうことか?」
京太郎「その例に使われるのはいささか不満だが、そういうことか」
久「あの子が本気で打ったなら、最初の親番でトビ終了にならないとおかしいぐらいの実力差がある相手でもプラマイゼロにしかならない。大きなトップが欲しい局面でもプラマイゼロにしか出来ない」
和「それは……」
咲「メリットとデメリットをプラマイゼロにすればどんな能力でも使える力。その究極」
久「あまりにも本来の能力との相性が良すぎたのね。だからオフに出来ない」
咲「……はい。気付くべきでした。連続和了ですらオフに出来ないのに、それより相性がいいプラマイゼロがオフに出来ない可能性に」
久「メリットは、プラマイゼロに出来ること。デメリットは、プラマイゼロにしかならないこと。メリットとデメリットがともにプラマイゼロを強いてくる」
咲「だから、誰にも破れない。お母さんが本気を出しても、プロを連れてきても……どうやっても破れなかった、破れないはずだった」
久「事実、私が破ろうとして100回挑んでも破れなかった。私と咲が知る限り、たった一度を除いて誰にも破られてないわけね」
咲「そのたった一度が、目の前で起きましたけどね」チラッ
京太郎「それって……?」チラッ
和「……え?」キョトン
253: 2015/07/29(水) 13:04:21.40 ID:wKu4pP350
咲「油断はあったと思う。私がどれだけ本気かも量り損ねてたと思う。その結果がマイナス16000スタート、プラマイゼロのために21000点を稼がなきゃならない状況」
久「自惚れかもしれないけど、あの子の注意は私に向いていたはずで、和はノーマークに近かったと思うわ」
咲「けど、それでも、絶対に出来ないはずだったことをやって見せた。冗談だって言ってたけど、デジタルの神様がついてるっていうのもお姉ちゃんは本気でそう思ってるんじゃないかな?」
和「え、えっと……? も、もしかして私、とんでもないことをしてたんですか?」
咲「荒川さんがカンチャンをツモれない方がまだあり得ると思うよ」
久「100万点持ちを半荘一回で飛ばす方が簡単よね」
254: 2015/07/29(水) 13:05:07.35 ID:wKu4pP350
ガチャ
照「……ただいま」
久「えっ、照!? どうして……」
まこ「だ、誰も迎えにいっちょらんのに、なんで……」
照「……それ、堂々と言うことじゃないよね? 迎えに来てないって、大分酷いこと言ってるよね?」
和「し、しかし、照さんが自力で控室に戻ってくるなどありえません……一体何が……」
照「ちょっと本気を出せば楽勝。分かれ道が200回しかないんだから、200回正しい選択肢を選べばいいだけ」
久「覚えてる限りだと、対局室までの道で一本道じゃない場所は10箇所前後だったと思うのだけど、なんで200回も分岐があるのかしら?」
照「……散歩がしたい気分だった。迷ったわけではない」
咲(やっぱり迷ったんだね)
京太郎(迷ったけど豪運でむりやり修正して戻って来たのか)
和(出鱈目に道を選んで目的地にたどり着く確率がどれだけ低いと思ってるんですか、非常識な……)
255: 2015/07/29(水) 13:05:49.86 ID:wKu4pP350
照「で、竹井さん」
久「なにかしら?」
照「見てたと思うけど、これが私の全力……咲には隠しておきたかったけど」
咲「……神代さんや荒川さん相手に打ったら、どうせバレるってことかな?」
照(……あれ? 咲のリアクションが予想と違う……もしかして、私、思ったより咲から慕われてない?)ガーン
照「」ドヨーン
久「咲、試合中みたいなリアクションしてあげて。あなたの反応が薄くて落ち込んでるわこの子」
咲「嫌です。恥ずかしいです」
照(あ、そうか、咲なら試合中に気付くよね。竹井さんが慰めてくれた後なのか)ホッ
久「……ただバラしただけじゃないでしょ? 今それを私たちに教えたことには意味がある」
照「……うん、その通り。これは私にはどうにもできない、だから、あなたに頼りたい」
咲「どういうこと? 私じゃなくて部長なの? 私じゃダメなの?」
照「……実力的には、メンバーから咲が外れることはないと思う。けど、人選は竹井さんに任せる」
久「……そういうことか。ちなみに、私の中のあなたの評価は変わってないわよ」
照「正直、あれぐらいであなたが私の評価を変えるとは思ってない」
久「思わせぶりなこと言っといてこの子は……それはいいんだけど、本当に私でいいの? 100回やってダメだった奴に任せようって、正気?」
照「……あなたなら出来るって、信じてる」
久「……」
照「じゃあ、準備が出来たら呼んで」
バタン
256: 2015/07/29(水) 13:07:04.46 ID:wKu4pP350
和「どういうことですか? 話について行けませんでした、説明を求めます」
咲「……部長に何かさせたい、私がメンバーから外れることはないっていうなら、やらせたいことっていうのは麻雀ですよね?」
まこ「しかし、麻雀で何をさせる気なんじゃ?」
久「やらせたいことは分かるでしょ? お姫様にかけられた呪いを解くのよ」
京太郎「プラマイゼロの呪い、ですね?」
咲「……それだと、私が呪いをかけた魔女になるんですけど」
久「文句言わないの。あんたにも責任とってもらうわよ」
咲「言われなくてもやります。それで、何をすればいいんですか?」
久「何をするか、ね。簡単よ。あの子のプラマイゼロを破る、それだけ」
優希「なるほど、プラマイゼロを破れば呪いが……って、確かのどちゃんがもう破ってるはずだじょ?」
和「そ、そうですよ! あの時は役満をツモってトップを取っていたじゃないですか!?」
久「……そう。それが、プラマイゼロを破ればプラマイゼロの呪いが解けると考えた根拠」
久「あの時は、ただ和了ってプラマイゼロの呪縛を解くだけじゃつまらないから、久しぶりに思いっきりトップを取ろうって感じだったんじゃないかしら?」
咲「……そうか、大星さんの天和みたいに『破られたら必殺技で返す』みたいな感じだと思ってたけど……プラマイゼロが呪いだっていうならそういうことになるよね」
久「……あなたが靖子にやったのは、狙ってやったのよね?」
咲「えっと……ごめんなさい」
久「話を戻すけど、あの時、プラマイゼロを破って呪縛が一時的に解けた。役満はそれで思いっきり力を振るった結果ね」
咲「……あれがなければ、個人戦の辺りで気づけたと思うんですけどね。あそこまでプラマイゼロに固執するって、不自然すぎますから」
久「そうね。私も騙されてたわ。あの子の本気は、あの時の最後の一巡、あれが自在に出来るのだと思ってた。いえ、本当の本気はアレなのよね」
257: 2015/07/29(水) 13:07:43.95 ID:wKu4pP350
和「で、でも、プラマイゼロを破ってもダメなんじゃないですか!? 現に照さんは今もプラマイゼロにしか出来ないんですよね!?」
久「……照が言ってたこと、覚えてる?」
京太郎「なんか言ってましたっけ?」
久「『リー棒は小細工』『真正面から破るというのは、最後に和了ってプラマイゼロを崩すということ』」
和「……まさか、あれは負け惜しみではなく、呪縛を解くためにそれを実行してほしいというメッセージだったと?」
久「ほんっと、めんどくさいアピールの仕方するわよね」
咲「つまり、これからやるのは……」
久「小細工で破っても、一日程度しか効果が持たない。なら、真正面からぶち破って、呪いを完全に解く!」
まこ「……10万点持ちのインハイの準決勝を、東風で終わらす化け物相手に、か?」
京太郎「となると、面子が重要ですね。俺なんかが入るわきゃないとして、咲と部長と、あと一人」
和「そうですね、悔しいですが、私では……」
258: 2015/07/29(水) 13:08:29.18 ID:wKu4pP350
バーン!
透華「宮永照!! あなたという人は、どれだけ目立てば気が済みますの!?」ガー
衣「あんなものを見せられては大人しくしているなど無理だな、気が高ぶって仕方ない。責任を取って相手をしてもらうぞ、嫌とは言わせん」ゴゴゴゴゴ
咲「え? えっと……?」
純「ノックぐらいしろよ……わりいな、邪魔するぜ」
優希「ノッポ……てことは龍門渕と、鶴賀も居るじょ?」
一「それにしても、先鋒で終わらせるなんて竹井さんってば随分楽するじゃない? おかげで丸一日予定が空いちゃったよ」
智紀「酷い指示もあったもの。竹井さん、どういうつもり?」
久「え、えっと……ちょっと待ってね、頭が切り替わってないの」
ゆみ「臨海は危険だし、有珠山は手の内が読めない上に中堅までの力不足でトビの危険もある。決勝の相手としては千里山が理想的、そういうことだろう」
睦月「うむ」
智美「ワハハ、そのつもりなら臨海が暴れられないように先鋒のてるりんで決めるのが一番リスクが少ないからなー」
星夏「しかし、まさかあんなことが出来るなんて……全国二位の辻垣内智葉が相手だったんですよ?」
純代「……」
佳織「す、すごかったです……」
モモ「……あれ? 風越の部長さんはどこっすか? さっきまで居たっすよね?」
ゆみ「この人数で固まって行動するわけがないからな、確実に発生するであろう『部屋でゴロゴロして過ごす組』のための買い出しだ」
259: 2015/07/29(水) 13:08:57.80 ID:wKu4pP350
【インハイ会場の売店】
照「……かっこよく出て来たのはいいけど、道に迷った」
照「……そもそも、準備が出来たら呼んでとか言ってしまったせいで、今回は目的地自体が存在しない。迷うのも必然」
照「……竹井さん、準備が出来たら迎えに来てくれるかなあ?」
?「あら? み、宮永さん?」
照「む、この声は……福路さん?」クルッ
美穂子「ど、どうしたんですかこんなところで?」
照「……この後の用事まで、時間を潰してる。福路さんは?」
美穂子「わ、私は買い出しで……って、用事ですか? インハイの試合当日に?」
照「うん」
美穂子(そのために先鋒戦で試合を? いえ、時間を潰しているということは、先鋒戦が終わるぐらいの時間に予定を組んでいたのかしら?)
照(って、まずい……助けを求めないといけないのに、口が勝手に強がりを……)
美穂子「な、なら、インハイ当日に入れるぐらいの大事な用事の前にお邪魔するのも申し訳ないですし、私はこれで……」
260: 2015/07/29(水) 13:09:24.94 ID:wKu4pP350
照「ま、待って!!」ガシッ
美穂子「え? み、宮永さん?」ビクッ
照「た、助けて……」ウルッ
美穂子(助ける……? まさか、宮永さんは脅されてる? 今日の試合も、そのせいで……? いえ、もしかして、いつもプラマイゼロにしているのも……)
照「私、このままじゃ竹井さんに……(呼ばれても会いに行けない)」ウルウル
美穂子「……(久? 久が宮永さんの弱みを握っているの? なら、今日の試合も、長野の決勝も?)」
照「お願い、助けて……」グスン
美穂子(……となると、全ては久が……そんなはずは……けど、宮永さんが嘘をついている様子もないし……)
美穂子(久、一体何を考えているの? あなたの目的は何? 二年間も大会から遠ざかり、今年になって急に現れたのと関係があるの?)
美穂子(私に近づいたのも、何か目的があってのことなんですか? 四校合同合宿も?)
美穂子(そういえば、藤田プロはあの若さで麻雀協会の理事でもある……久は藤田プロと親しげにしていた。何か、大きな意思が動いている?)
美穂子(あれだけの面子が清澄に集まったのも異常と言えば異常……特に、原村さんの進学先はご両親の意向が働いた結果だったと聞く)
美穂子(原村さんのご両親は法曹、その実家も権力に近い、かなりの家柄だったはず……間違いない、何か大きな力が働いている)
美穂子(久、あなたたちの目的は、一万人の高校生が頂を目指すインターハイすら踏み台にするの? さっきの準決勝のように……)
美穂子(許せない……何が目的かは知らないけど、私たちの、華菜や文堂さんたちの想いを踏みにじるなんて)ゴゴゴ
照「(へ、返事がない……? 私、嫌われてる?)あ、あの、福路さん……?」
美穂子「宮永さん、私は、あなたに味方します」ニコッ
照「あ、ありがとう!(なんか様子が変だけど……まあいっか!)」
美穂子(久、あなたの思い通りにはさせません……私は、私たちはあなたの駒じゃない!!)
照(これで竹井さんのところに行ける。助かった)ホッ
261: 2015/07/29(水) 13:10:11.47 ID:wKu4pP350
久「……照は美穂子が保護したみたい。なんかすごく棘のある口調だったのが気になるけど」
ゆみ「美穂子が久に対して棘のある口調? おいおい、冗談だろう?」
久「私、悪意には敏感なの」
星夏「と言われても、キャプテンが他人に厳しく当たるなんて見たことないですよ? 何かの間違いでは?」
久「だといいんだけどねえ……まあ、照が見つからなくて打つことすら出来ないっていう最悪の展開は避けたわけだし、多少の問題は後回しにしましょう」
まこ「それは多少なんかのう……あの人が他人に辛く当たるってのは相当だと思うんじゃが」
衣「しかし、事情も分からんのでは手の打ちようもない、話題を変えよう……確認するが、今日の試合でやったことは、ヒサの指示ではないのだな?」
久「ええ、照の判断でやったことよ。 『本気で打つ、私一人で終わらせる』と事前に連絡は受けていたけど」
透華「プラマイゼロの呪縛……自分がそれに囚われていると伝えるためですか」
純「で、それを受けて呪縛を破る面子を選んでるところに俺らが来たと?」
智紀「……私たちというより、衣と佳織。なんというご都合主義」
京太郎「と言っても、都内に宿を取ってるわけだから呼ぶのは簡単ですけどね。予定もないはずですし」
智美「まあ、清澄の試合を観戦するために来てるんだから、早く終わったら予定は空くに決まってるなー」ワハハ
ゆみ「だが、話を聞く限り、大抵の人間では戦力にならないだろう」
モモ「照さんのプラマイゼロを破るなんて無理難題のプロジェクトチームには、うちからはかおりん先輩しか出せないっすね」
佳織「わ、私ですか!? わたしなんてそんな……」
咲「……協力してくれるかな?」
衣「衣は構わんぞ。なにせ、奴と打つためにここに来ているのだ。願ったり叶ったりといったところだな」
優希「順当に実力順に並べるなら、咲ちゃん、ちびっこ、部長の三人だじぇ!」
智紀「……しかし、その三人で何度か卓を囲んで破れていないのも事実」
和「それは対策が不十分だったからです、三人でしっかり対策をして臨めば結果は変わってくるはず」
一「そうかもしれないね。で、誰を選ぶの?」
久「そうね……実は、最初から決めてるのよ。照のプラマイゼロに挑む三人、自由に選べるなら他には考えられないわ」
308: 2015/08/04(火) 19:48:25.18 ID:+fZEme6u0
【準決勝第二試合終了直後 晩成宿舎】
やえ「……どうやら、気付かない間に眠ってしまっているようだな。いくらなんでも夢に違いない」
紀子「現実逃避するやえ。今、私は完全に満たされている」
やえ「ああ、紀子か。すまんが、私は現実世界に戻るよ。夢の中まで付き合ってくれてありがとう」
由華「先輩、残念ですが現実です。受け入れてください」
やえ「……なんでこんな化け物が三年になるまで無名のまま潜伏してるんだよ!! 竹井といいこいつといい妹といい、完全に計算外だふざけるな!!!」
紀子「動揺して取り乱すやえ……私は、この瞬間のために今まで生きて来たのかもしれない」ゾクゾク
由華「うう……丸瀬先輩の愛が歪みすぎてる……」
日菜「犯罪だけはやめてね紀子ちゃん。やえ、これどうにかなる?」
やえ「……どうにもならん、こいつの気分次第だな」
由華「天和でも一瞬で対策を考えた先輩がさじを投げた!?」
やえ「なんでお前がそれを知ってる?」
由華「ビデオ見ました」
紀子「b」グッ
やえ「こいつら……」
309: 2015/08/04(火) 19:50:53.52 ID:+fZEme6u0
やえ「さて、さじを投げはしたが、決勝ではこれは出来んだろうし見た目ほど万能でもない。私が余計なことをしていなければ辻垣内が選ばれていたかもしれないな」
紀子「どういうこと?」
やえ「決勝では出来ないというのは異論はないな? 二位抜けが出来る準決勝と一位を狙わないといけない決勝では話が違う」
紀子「それは分かる、見た目ほど万能ではないというのは?」
やえ「……例えばだが、紀子と巽と素人の卓で素人を勝たせるのは、いくらこいつでも楽じゃないはずだ。少なくとも、今回みたいに東風一回で終わりなんてのは無理だろう」
良子「そう考える根拠は? 辻垣内が何も出来ないってなると誰が打っても同じになりそうなんだけど」
やえ「園城寺を勝たせるために鳴きを入れているし、辻垣内だってリーチをかけるぐらいは出来ている。操作して意のままに操っているように見えるが、操作しなければいけないというのは、卓上のすべてが意のままということではない証拠だ」
日菜「なるほど確かに……でも、鳴いたりして操作すれば園城寺さんを辻垣内さんに勝たせたり出来るんでしょ?」
やえ「その通りだが、全てが意のままなら園城寺を勝たせることを決めた時点で辻垣内が何も出来なくなるはずだ。しかし、そうはならなかった、奴が園城寺を勝たせるためには、鳴きを入れ、ツモをズラす必要があったんだ」
紀子「といっても、園城寺が辻垣内に勝てるとなると、かなりの差があっても無駄ということに……」
やえ「そうでもない。あの二人の間に、それほど大きな差はない。仮にも清水谷や江口と並んで北大阪の代表になった奴が更に力をつけているんだ、今の園城寺はニワカでは相手にもならん」
由華「サポートも露骨でしたよね。園城寺さんの手の内の危険牌を通しながら一発消してズラして……あの一手だけでも相当酷いもんです」
日菜「あれを毎回やられたら、私たちレベルでも普通の人に勝てるかどうか怪しいよね」
やえ「その一手から、恐ろしく正確な読みだけでなく、山にある牌を把握する、あるいは勝負の流れのようなものを感じ取る力もあることがわかるな」
紀子「おそらく、山が見えてるほう。あそこまで的確だとそう考えるべき」
やえ「そうか……厄介だな。だが、奴が化け物だ化け物だと言っていても始まらん。奴の能力を分析するとしよう」
310: 2015/08/04(火) 19:58:00.50 ID:+fZEme6u0
やえ「まず、園城寺に聞いたところ、奴は一局目の様子見の後で発動する『相手の手の内を見通す力』があるのではないかということだった」
紀子「それは園城寺の『全てを見られたような気がした』という感想しか根拠がない。断定すべきでない」
やえ「……そうだな。まあ、いずれにしろ、対局者にはっきり分かる異常が、東一局の様子見の後に訪れるというのは確実だ」
日菜「けど、詳細は不明。とりあえず、それがあるってことと、様子見と関係がありそうってことでいいかな?」
やえ「それでいい。次に、他に目を奪われて気付きにくいが、あいつ自身も妹と同じように連続和了と連続和了中の打点上昇の傾向がある」
由華「……あれだけ大暴れしながらそんなことやってるんですね」
やえ「それから、プラマイゼロと、異常な槓の成功率。ドラや裏ドラも把握しているらしい。これを、自分と他家の点数調整に使ってくる」
良子「槓の符とドラでいくらでも点数が調節できるのか……」
やえ「で、後は異常に鋭い読みと、山が見えてるんじゃないかってほどの勘の良さ……守備も完璧だな。調べた限りでは、放銃はあるが、全て狙っている節がある」
紀子「点数調整のための振り込み、つまり、相手のアタリ牌と打点が分かっていることになる」
やえ「複数の能力を使うというのはあまり例がないので、実は根を同じくした一つの能力なのではないかと考えていたんだが、そうでもないらしい」
由華「これが全部一つの能力ってどういうことですか……いくらなんでも無理がありますよ」
やえ「かなり滅茶苦茶ではあるものの一応説明できる仮説はあったんだが、大星や姉帯の例を見て複数の能力が発現することもあると前提を変えたよ」
紀子「それが自然。しかし、それでも複数の能力を使いこなす驚異の選手であることに変わりはない」
日菜「……ごめん、これ、本当に人間に対しての分析なの? 最強のプログラムとかじゃなくて?」
やえ「神代や荒川との違いは、打ち方自体には槓を多用することを除いて特徴はないということだな。打点や最終結果といった『結果』の部分に特徴がある」
紀子「むしろ、対戦相手やその時の手牌の状況などを見て、これ以上ないぐらい柔軟な打ち回しを見せる。対策は困難」
やえ「ああ、こいつ相手に打ち勝つのは非常に困難だ。だが、対策はある」
良子「え? 対策あんのかよ!?」
311: 2015/08/04(火) 19:59:27.08 ID:+fZEme6u0
由華「流石先輩! で、どうするんですか!?」
やえ「ただ、対策の毛色が変わってくる。普通なら『字牌を切るな』とか『鳴きを見送れ』とか『8巡目以降は聴牌に警戒』とかなんだが……」
紀子「こいつの場合はそれは無理。強いて言えば槓に警戒だけど、これも槓材が特定の牌に偏ってるわけではない」
やえ「こいつへの対策は、『結果』を意識することになる」
由華「結果、ですか?」
やえ「その時点で宮永がどういう手恰好だろうと関係ない。プラマイゼロという結果になることを前提に、自分がトップにしてもらえる展開を考える」
良子「してもらうって、もう勝つ気ねえなそれ」
やえ「あんなもん、人間じゃなくて卓上の神みたいなもんだ。戦う相手はアレじゃなく、他の二人。神を味方につけて他の二人に勝つ方法を考えるのが手っ取り早い」
紀子「さわらぬ神に祟りなし。相手にしないのが吉……ということ?」
やえ「ああ。で、具体的な対策だが、基本的には奴が様子見に回る東一局で先制。その後はリーチをかけずに打ちまわして持ち点が四万点程度になるのを目指す」
良子「リーチしないのはなんでだ?」
やえ「こいつ相手にリーチをすると、こいつが引きずり下ろしたいと思っている対象になっていた場合にほぼ確実に落とされる。リーチをせずに全力で警戒して立ち回っていれば、あるいは引きずり落とすのを諦めてくれるかもしれん」
由華「リーチしたら即氏ですか……酷い話ですね」
紀子「切る牌が選べないなら逃げようがない。誰かに追っかけさせて、槓して大量のドラを乗せてリーチドラ12なんてことになる可能性が高い」
やえ「園城寺は、こいつが押し上げたいと思ったから生かされたに過ぎない。普通ならリーチは厳禁、例外は荒川ぐらいだろう」
日菜「そうだね、荒川さんなら、次のツモさえ回ってくれば確実にツモれるもんね。それもおかしいんだけど」
やえ「あと、こいつはプラマイゼロにするわけだから上限がプラス5500点になる。なら、他家を使って自分を削らせなければ満貫を和了ることもままならんわけだ」
由華「あ、確かに」
やえ「昨日の副将戦のように、三人が意識して安手での差し込みを繰り返せば宮永を封じられる可能性がある」
紀子「ただし、安手でもリーチした瞬間に槓ドラと裏ドラで一気に点数が跳ね上がる」
やえ「それも含めてのリーチ禁止だな。ノミ手であってもリーチしたら何点にされるか分かったもんじゃない」
312: 2015/08/04(火) 20:00:24.95 ID:+fZEme6u0
由華「しかし、なんでここまでのことが出来るのにプラマイゼロにこだわるんですかね? 普通に勝つ方が楽でしょうに」
紀子「連続和了と打点上昇も、プラマイゼロ狙いではハンデにしかならない」
やえ「……さあな。正直、このタイミングでこれだけ大暴れする理由もわからん。もしかしたら、呪いみたいなものなのかもな」
由華「呪い、ですか?」
やえ「こいつは、プラマイゼロを狙っているんじゃなく、プラマイゼロにしか出来ない……というのはどうだ?」
紀子「……流石にありえない。プラマイゼロにしたくないなら、振り込み続けるか和了り続ければいいだけ」
やえ「分からんぞ? プラマイゼロを拒むと頭のツノが絞まるとか、そういうペナルティがあるかもしれん」
由華「いやいや、真面目に考えてくださいよ」
やえ「こんな馬鹿げた力を馬鹿げた目的に使ってる奴のことなんか真面目に考えてられるか。それっぽい理由が欲しいなら、親の仇がプラマイゼロ使いで、自分が使うことで噂を聞きつけた相手がやって来るのを待ってるってことでもいいぞ?」
紀子「一子相伝のプラマイゼロ流麻雀の後継者で、自分が継がないと妹が継ぐことになるからやめられないというのはどう?」
やえ「いいな、それで行こう。妹思いの姉の泣かせるエピソードの出来上がりだ」
良子「お前ら……まあいいや、プラマイゼロにしてる理由がなんであれ、あいつがプラマイゼロにしてくるのは変わらないってことだな?」
やえ「その通り……ただ、こいつがプラマイゼロの制約を外して思う存分力を振るったら……」
紀子「振るったら?」
やえ「……いや、なんでもない。この馬鹿げた力の代償がプラマイゼロなんだろうから、仮定自体が無意味だ」
313: 2015/08/04(火) 20:03:34.49 ID:+fZEme6u0
【同時刻 阿知賀宿舎】
憧「うっわ……さすが長野の裏番長。あの長野の上位陣がみんなで口を揃えて最強だって言い切るだけはあるってか」
灼「10万点を東場で削りきるとかとんでもな……」
晴絵「インタビューで和が言ってた通りだね。清澄はセオリー通りのオーダーだって」
玄「強い順に先鋒、大将、中堅、副将、次鋒……つまり、清澄で一番強いのは照さんってことだよね。これを見たら納得せざるを得ないのです」
宥「だけど……なんだか辛そう。あったかくないよ……」
憧「この人がいる限り、先鋒は誰を出しても同じ。最悪のエース頃しって話だったけど……」
玄「それどころじゃない……むしろ、エース頃しで済んで良かったぐらいだよ。プラマイゼロがなかったら、ここまで照さん以外が打つ機会すらなかったかもしれない」
穏乃「確かにすごいけど、こんなの……認めたくない。全国二位になるぐらい頑張っても結果がこれじゃ、あんまりだよ……」
晴絵「……本人も、望んでないんじゃないかな? 望んで打ってる奴はあんな辛そうな顔をしない」
穏乃「……望んでないなら、なんであんなことを?」
憧「竹井さんの指示ってわけでもなさそうだよね?」
宥「照ちゃんも竹井さんも、もっとあったかい人だったよ……命令されたってこんなことしないと思う」
灼「一回一緒に食事しただけではわからない。実はああいうことをする人だったのかもしれな……」
穏乃「和の仲間に限ってそんなことは……」
憧「……てゆうかさ、シズ?」
穏乃「なに、憧?」
憧「直接確かめれば良くない? あたしらも観戦の予定が無くなって暇だし、向こうだって流石に今日この後に予定は入れてないでしょ」
穏乃「へ?」
玄「あ、確かに。成り行きとはいえ同じ釜で焼いたタルトを食べた仲、連絡先も交換済みなのです」
宥「玄ちゃんは福路さんと和ちゃんと沢村さんの三人としか交換してなかったけどね」
憧「向こうから来るまでこっちもいかないとか言ったけど、もう会っちゃったわけだし」
穏乃「あ、言われてみれば……」
灼「でも、いきなり押しかけるのは……向こうは明日決勝だし……」
憧「アポは今からとればいいし、あたしらだって準決勝の前日の夜に引っ張り出されたわけだからおあいこ。問題なし!」
晴絵「決まりかな? じゃあ、車出すよ。みんな準備しなー」
314: 2015/08/04(火) 20:13:46.92 ID:+fZEme6u0
【白糸台高校】
憩「監督、あれ……なんなんですか?」
監督「……憩、来てたの?」
憩「ミーティングの準備を監督だけに任せたら作りかけの資料だけ残して監督がおらんっちゅうのがいつものパターンですから」
監督「むー……一回だけちゃんと出来てたじゃない」
憩「その一回を除いて全滅やん。で、アレについて話してくれませんか? 資料作ろうにも、増えたデータなんかあらへんし、暇ですよね?」
監督「……そうね。あなたと淡には、いずれ話すつもりだったし」
憩「確認しますけど、アレ、監督の娘さんですよね?」
監督「……隠してたつもりだったけど、あなたにはバレちゃうか」
憩(いえ、うちだけやなくて、二軍にまで知れ渡ってます)
監督「そうよ。私が人生をかけて育てると決めた才能の塊。今はその片鱗しか見せていないけれど」
憩「片鱗ですか? アレが?」
監督「ええ、あの子は呪縛に囚われている。元を正せば私のせいなんだけどね」
憩「呪縛……プラマイゼロ、ですか? あれだけのことが出来て二位に甘んじる理由なんかないですし、あれは狙っとるんやなくて、そういう風になってしまう?」
監督「そう。あの子は、どんな相手に対してもプラマイゼロに出来る代わりに、プラマイゼロにしか出来ないという呪縛を背負ってしまった」
憩「……」
監督「……私があなたを育てたのは、あの子の呪縛を解くため。それが出来そうな人材を、この白糸台を拠点に全国駆けずり回って見つけたのが、あなたよ」
憩「このポンコツは……うちにだけはそれ言うたらあかんやろ。こっちはあんたに憧れてわざわざ大阪から来とるんやで? 娘のための駒やったって言うてもうたらダメやん」
監督「むっ……ポンコツじゃないもん!!」
憩「それ、ポンコツ以外は絶対言わんセリフですよ?」
監督「ぐぬぬっ」
315: 2015/08/04(火) 20:16:37.70 ID:+fZEme6u0
憩「で、原因は監督って言いましたけど、何やらかしたんですか?」
監督「……あの子達の才能は、私の目を眩ませるには十分すぎた。今思えば、酷い教育をしたと思うわ」
憩「教育……?」
監督「まだ小学生だった照と咲に、お小遣いを賭けさせた上で、本気で打ってお小遣いを巻き上げたわ」
憩「うわ……」
監督「ただ楽しむだけじゃない、本気の麻雀を打って欲しかったの。後で巻き上げた分のお小遣いを補てんしたりしたら真剣にならないから、常に全力で打ったし、巻き上げたお小遣いは返さなかった」
憩「かつて白糸台の黄金時代を築いて三年目には団体で優勝まで成し遂げた絶対的エースが小学生相手に全力で打つとか、ドン引きですわ」
監督「けど、賭け麻雀を始めてすぐに、私はあの子達に負けたわ。流石に荒れてしまってね」
憩「……は? いやいや、あり得んでしょ? 監督が小学生に負ける? 指導対局でもうち相手に普通に勝つお人が?」
監督「流石に、才能に感動するよりも嫉妬や情けなさの方が強くなってしまったわ。あの頃の私はそれを制御できなかった」
憩「……」
監督「そうやって私が荒れてると、負けたらお小遣いを取られる、勝ったら私の機嫌が悪くなるという状況になる。そしたら、咲がプラマイゼロにし始めたのよ」
憩「うげ……監督に勝つだけでも信じられんのに、プラマイゼロて……」
監督「最初は、狙いに気付かず、勝てて喜んでいたわ。『私もまだまだ行けるじゃない!』ってね。最初に叱っていればすぐやめたんでしょうけど……ああ、本当に馬鹿だわ私」
憩「で、そのうち、妹に続いて姉までプラマイゼロにし始めたと?」
監督「……実力でプラマイゼロにしていた咲と違って、照は能力でプラマイゼロにしてしまった。その瞬間から、あの子は呪縛に囚われた」
憩「けったいな能力ですね……で、それを解こうとしてるっちゅうわけですか? 小学生の頃から高校三年になるまで?」
監督「全国を探し回ったわ。あの子の呪縛を解ける人間を探して、連れて行っては返り討ちに遭って……それでも挑み続けた」
監督「返り討ちにされるたびに、自分を責めたわ。自分の娘を呪縛から救ってあげられない自分と、そうさせてしまった自分を」
監督「知り合いのプロじゃ、歯が立たなかった。私自身がそこらのプロより遥かに強いんだもの、その私が歯が立たないあの子達が相手じゃ、そうなるのも当然よね」
憩「プロすら歯牙にもかけない化け物……トッププロでないと相手にもならないわけですね?」
監督「けど、流石にトッププロの知り合いは居なくてね。なんとか伝手を辿ってコンタクトを取ったけど、お願いしてもあっさり断られた」
監督「プラマイゼロにする方が難しいんだもの、プラマイゼロを破ってほしいなんて、しかも私から言われたら、『自分でやれよ』って返されるのがオチだったわね」
憩「うちでもそう思いますよ。監督相手にプラマイゼロとか、狙って出来るはずあらへんって」
監督「並の相手ならもちろんそうよ。だけど、あの子達相手じゃ……界さんとの子供なのが良くなかったわ、麻雀に関してはとんでもない子が生まれるに決まってるもの」
憩「ん? 界さんって旦那さんですか? 何者です?」
316: 2015/08/04(火) 20:18:16.48 ID:+fZEme6u0
監督「最初に知り合ったのは、ネト麻だったわね。高校二年生の時に、地力の底上げのために始めて、私はどんどんレーティングを上げていったの」
憩「……ん? ネト麻で、『カイ』?」
監督「ランキングが上位100位ぐらいになった時かしら。桁が一つ違うレーティングの人と当ってね。ぼろ負けして、悔しくてチャットでやり取りしたのよ」
憩「100位から見て桁違いのレーティング? ちょっとちょっと……」
監督「『あんた何者よ!? 私は白糸台の宮永よ!』って送ったら、反応があってね。それからちょくちょく挑んでは負けて、仲良くなって、会って一目ぼれして……後で調べたら、チャットを返すのも私以外にはなかったらしいわね。これ、向こうも私のことを会う前から気にしてたってことよね? 私ってば当時から雑誌とかに載りまくってたし、自分で言うのもアレだけど可愛かったし」
憩「待った待った、界さんって、まさか、『kai』ですか!? ネト麻の伝説の!?」
監督「ええ、それよ。それが私の夫」フフン
憩「有名な漫画の最強の主人公から名前を取って運営が用意した不敗のプログラムやってのが定説ですけど?」
監督「残念ながら中の人が実在するわ。私の夫だけど」ドヤ
憩「」
317: 2015/08/04(火) 20:19:24.51 ID:+fZEme6u0
監督「あの人も照達の味方だったのよねえ。オカルト否定派だから、照が呪縛に囚われてるって言っても聞く耳持たなくて……」
憩「いやいや、毎回プラマイゼロなんやからおかしいって思うでしょ!?」
監督「それは、あの子たちが本気で嫌がってるんだって信じてたわね。『プラマイゼロなんか狙えば簡単に出来る』って」
憩「出来るかボケ――!!!」
監督「それがね、『出来るに決まってるだろ』って言って、ネト麻で10連続プラマイゼロを目の前でやって見せてくれたのよね」
憩「なっ!?」
監督「『俺の首を取りに来る連中は全員本気で打ってるし、全員が相当の実力者だ。けど、俺はプラマイゼロに出来る』ってね、かっこよかったわ」ポッ
憩「なんで、そんな人がプロになってないんですか?」
監督「『リアルで打つと牌が見えないから苦手だ』って言ってたわね。多分、私たちがネト麻で打つみたいな感覚になるんじゃないかしら? 家族麻雀以外じゃネト麻しか打たないわよ、あの人」
憩「……アカン、無茶苦茶やこの家族」
318: 2015/08/04(火) 20:21:37.12 ID:+fZEme6u0
監督「てことで界さんまで敵に回したわけだけど、それでもあれだけの才能を埋もれさせるわけにいかないじゃない? だから私は家族から孤立しても頑張ってたのよ! そしてあなたを見つけたの!」
憩「はあ……娘さんを救いたいのは分かりましたけど……そう言えば、先に始めたはずの妹さんの方は、もうプラマイゼロをしてる様子ないですよね?」
監督「賭け麻雀が嫌いなだけで、麻雀自体は嫌いじゃないはずだし、あの子は界さんと同じで実力でプラマイゼロにしてただけだしね」
憩「なら、味方にすれば大分楽になるんやないですか? 姉の方の事情を教えたら説得できませんか? 知ってて協力せんってことはないんと違います?」
監督「……あっ!?」
憩「……どんだけポンコツなんやこの人」
監督「ま、まあ、あなたでダメだったら試させてもらうわ……本命はあなたが照に勝つことよ」
憩「……ちなみに、うちならプラマイゼロを破れるっていうのは、確かなんですか?」
監督「あの子のプラマイゼロは、プラマイゼロにしかならないというデメリットと、自在に槓が出来ることで符や翻数を自在に調節し、プラマイゼロを容易に達成できるというメリットで成り立っているわ」
憩「……ん?」
監督「あの子のプラマイゼロの能力の本質は、槓による符とドラの調整なの。あなたなら、その大元である槓を防げる」
憩「……なんか色々説明を飛ばされた気がしますけど、つまり、うちなら槓を防げて、プラマイゼロを止める目があるってことですね?」
監督「そうよ。松実玄のドラも奪ってみせたしね。おそらく、照の槓材だって条件を満たせば奪えるはずよ」
監督「といっても、正直、今の時点では分の悪い賭け。あの子が本気なら、あなたに条件を満たさせないというのは難しくない。それでも、可能性があるのはあなただけなの」
319: 2015/08/04(火) 20:23:06.07 ID:+fZEme6u0
憩「ちょっと質問ええですか?」
監督「なにかしら?」
憩「あの人、点数調整のために他人に役満和了らせたり、ずっと和了り続けたりしてますよね? あれは能力と違うんですか?」
監督「その辺は実力ね。他人の手にドラを乗せるのはプラマイゼロの主要素である槓によるものだけど、和了らせることや和了ることは実力よ」
憩「実力っておかしくないですか?」
監督「おかしいわよ? そのおかしい力を持ってる子だからこそ、私が固執するの」
憩「……てことは、うちの能力はプラマイゼロの天敵やけど、素の実力的に足元にも及ばん……ってことですか? 能力なしの読みとかの技術や研究だけでも全国上位やって自負しとるんですけど」
監督「残念ながら、あなたが能力なしでも稀有な打ち手であることも含めて完全にあなたの言う通りよ。だから、あなたを鍛える。あなたを鍛えて照と戦えるレベルに引き上げれば、あの子を呪縛から救える」
憩「……うわ、ショックや。能力さえあればうちじゃなくても良かったってことですか? 鍛えてどうにかするって?」
監督「この能力の持ち主があなたで良かったとは思ってる……たとえ能力が無くても白糸台には呼んだと思うし、この件については相談してたと思うわ」
憩「……もう一個質問していいですか?」
監督「ええ、私に答えられることなら」
320: 2015/08/04(火) 20:25:23.70 ID:+fZEme6u0
憩「宮永照本人は、プラマイゼロを望んでるんやないですか? プラマイゼロなんか、本人が拒否すればいくらでも防げますやん?」
監督「……そうね、そう思うのが自然よね。でも、実は一度だけあの子が和了りを拒否してひたすら削られ続けたことがあるの」
憩「……あれ? プラマイゼロにするには5000点稼がなあかんのやから、本人が絶対に点数を稼がんつもりやったらプラマイゼロは破れますよね?」
監督「……そうはいかないのよ。本人の意思に反して点数を与える方法、あるでしょ?」
憩「……ノーテン罰符ですら本人がノーテン申告したらもらわずに済むわけやし、ちょっと思いつきませんね」
監督「……罰符よ、チョンボの」
憩「……は?」
監督「チョンボの罰符で、無理やりあの子に点数が入るようになってるのよ」
憩「いやいや、あり得んでしょ。罰符を払うチョンボって、素人でも滅多にやらんミスですやん」
監督「それを、私や界さんみたいなトップクラスの打ち手がやるのよ。意識にモヤがかかったみたいになってね、気付いたらチョンボしてるの。界さんは『やっぱりネト麻じゃないと調子が狂うな』なんて言ってたけど、いくらなんでもそんなミスするわけないわ」
憩「……マジですか?」
監督「だから言ってるでしょ。呪いなのよ。あの子自身にもどうすることも出来ないの」
憩「いやいや、チョンボを誘発させてまでプラマイゼロにするっちゅうなら、もう破りようないですって!」
監督「そうね、チョンボなんかさせたらもう麻雀にならない。けど、あの子は麻雀が好きだから、打つ以上はちゃんと打ちたい」
憩「……」
監督「だから、あの子自身は呪縛から逃れたがってるのに、プラマイゼロを目指して全力で打つのよ。皮肉よね」
憩「自分の意志でプラマイゼロを破ろうとするとおかしなことになる。誰かが実力で破ったらんといかんわけですか……難儀やなあ」
監督「……質問はもういいかしら?」
憩「……とりあえず、今のところはこんなもんです。またなんかあったら聞くかもしれませんけど」
監督「じゃあ、明日の話をさせてもらうわね」
321: 2015/08/04(火) 20:31:41.63 ID:+fZEme6u0
監督「決勝戦は理想的な組み合わせになったわ。これであの子を救えなければ、あなたを鍛え上げるまではあの子を救うのを諦めるしかない。咲を説得出来ればまた別だけど」
憩「ヤバそうな呪いの対策は小蒔ちゃんが神様を降ろせば多分行ける、園城寺さんもサポート向きの能力やし、うちら三人との三対一ならあるいは、ですか?」
監督「しかも、直前にこれだけのことをしてくれた。共闘は容易なんじゃないかしら?」
憩「ですね、いくら小蒔ちゃんたちが打倒白糸台を目標にしとってもこれは警戒せざるを得んはずです」
監督「私の本当の願いは、連覇よりもあの子の呪縛を解くことにある。それさえ満たされるなら、清澄を勝たせても、永水を勝たせても、千里山を勝たせてもいい。けど……一つ問題があるのよね」
憩「ありますね。てゆうか、今、監督とは思えん台詞が聞こえてきましたね」
監督「……私の願いがどうあれ、実際に打つあなた達の想いは、それとは無関係なのよね」
憩「問題っちゅうのは、うちがどうするかですよね? あの人にプラマイゼロをさせておいて、うちらの連覇に有利な展開を目指すっちゅうのが普通ですから」
監督「……」
憩「てゆうか、監督失格ですよね。チームが負けてもええから娘の才能を引き出したいとか。千里山の愛宕監督の爪の垢でも煎じて飲ませたいわ」
監督「だって……」
憩「そんなに都合よく動くわけないでしょ。うちはチームの勝利を目指します。そうせんと、淡ちゃん、菫さん、尭深ちゃんに誠子ちゃんまで裏切ることになるんやから」
監督「そう、よね……」シュン
憩「でも、枷が外れたその化けもんと打ってみたい気はしますね。全力の淡ちゃんより面白そうや」
監督「え?」
憩「ま、卓についたときのうちの気分次第ですね。 知ってます? うち、意外と気分屋なんですよーぅ?」
355: 2015/08/12(水) 20:00:22.96 ID:r82yVIXu0
照「……先に来て待つって、負けフラグっぽくないかな?」
憧「巌流島?」
照「……新子さんって、見た目に反して物知りだよね。これ、2分ぐらい引っ張れるつもりだったんだけど」
玄「即答だったのです」
灼「……なんで照さんと私たちだけでくつろいで……ほかのみんなは?」
宥「清澄のみんなは誰も電話に出なかったんだよね?」
憧「そだね。照さんも出なかったし」
照「……私は試合だから電源切ってた」
晴絵「なあ、誰も電話に出ないから宿舎に直接行ってみようって、今更だけどおかしいよな?」
穏乃「え? 普通じゃないですか?」
憧「龍門渕と鶴賀も誰も出ないし、こりゃなんかやってるんじゃないかって思って、会場か宿舎に直接行こうってことになったのよね」
照「実際、みんな取り込み中なんだけどね」
憧「で、明日決勝なんだから遠出するような無茶はしないだろうし、鶴賀と龍門渕も一緒の大人数で固まって行動するわけないってことで、宿舎で待ってれば待機組が誰か来るんじゃないかってね」
玄「ということで宿舎のほうに向かってみたら、途中で照さんと福路さんがいたわけです」
356: 2015/08/12(水) 20:01:12.35 ID:r82yVIXu0
憧「で、取り込み中ってどういうこと?」
照「まあ、色々あって……話すと長いんだけど、聞く?」
憧「うちらとしては、なんで今日の試合であんなことしたのかってのが気になってここに来てるんだけど、関係ある感じ?」
照「うん、関係あるというか、まさにそれそのもの」
玄「……えっと、聞かせてもらっていいんでしょうか?」
照「まあ、竹井さんが来るまで時間もありそうだし、私の麻雀の弱点の話も含まれてるけど、この後すぐに解決するはずだから聞いてもらって構わない」
灼「弱点……そんなのあるようにはみえな……」
照「……ううん、あるよ。とても大きな弱点が、一つ」
美穂子「……そこから先は、私が話します。自分で話すのも辛いでしょうし」
照(ん? 福路さん、いつ聞いたんだろう? 竹井さんに先に帰ってるって連絡した時はそんなに長話はしなかったし……)
穏乃「お願いします!」
宥「それで、なんで照ちゃんはあんなことを?」
晴絵「まあ、臨海や有珠山を決勝に残すと大星の天和を誘発しかねなくて危険だからじゃないかって仮説は立てたが、それにしてもやり方が露骨すぎる」
照(あ、確かに、大星さんのアレのこと考えてなかったけど、それを考えても千里山の方が良さそう)
憧「まあ、確かに照さんで終わらせるのが一番リスクは少ないんだけど、竹井さんってああいうのあんまりやりたがらなそうなイメージだからしっくりこなくてね。悪役は自分が引き受けそうだし」
照(……お腹すいた。たしか昨日買ったお菓子が残ってたはず。説明は福路さんに任せて、私は英気を養おう)
美穂子「いいえ、全て久の指示です。とはいえ、久も誰かの指示に従っているだけなのかもしれませんが」
灼「……福路さん? なんかこわ……」
美穂子「そもそも、清澄高校にこれだけのメンバーが揃ったこと、皆さんは疑問に思いませんか? 誰かの意思が働いたと考えたことはないですか?」
憧「……なんか急に雲行きが怪しくなってきたわね? メンバー集めから仕組まれてたって、随分スケールの大きい話になりそうじゃない?」
美穂子「宮永さんたちは、脅されているんです。照さんや咲ちゃんの、他人の心を折りに行くような麻雀は、強いられたもの」
357: 2015/08/12(水) 20:02:05.59 ID:r82yVIXu0
照(お菓子お菓子……あった、これでわが軍はあと10分は戦える)
玄「お、脅されてるって、誰に……?」
美穂子「おそらく、藤田プロや、その背後に居る彼女の支援者」
灼「……そう言えば、藤田プロは麻雀協会の重鎮とつながっていて、後進の育成のために動き回っているって聞いたことが……」
憧「……」
穏乃「そ、そんな……じゃあ、和は……?」
美穂子「……お母様の勤務先が長野なのは、偶然だったんでしょうか? 中学までは麻雀を許していたのに、進学先を選ぶときには麻雀部が強い高校を避けさせたのは、何故でしょうか?」
玄「ま、まさか……全て仕組まれていたことなの?」
美穂子「麻雀部が弱い、あるいは存在しない高校で、清澄より偏差値が高い高校は県内にいくつかあります。勉強に集中させたいというなら、清澄に進学するのはおかしいと思いませんか?」
宥「た、確かに言われてみれば……」
憧「……」
美穂子「清澄への進学を認めることを疑問に思わせないため、あれだけの力を持つ久と照さんを擁しながら清澄は大会に出ずに無名校であり続けた。その甲斐あって、原村さんは何の疑問も抱かずにその力を振るっています」
穏乃「和は、騙されてるってことですか……?」
美穂子「照さんと咲ちゃん、久、そして、インターミドルチャンピオンである原村さんが一つのチームに集まった。染谷さんは少し力が劣るけど……彼女は実家が雀荘で、麻雀協会との接点がある。藤田プロは元々の常連らしいですから、彼女は他の四人より黒幕に近い位置に居るのでしょう」
玄「染谷さんは、四人の監視役……?」
宥「その四人を集めて、インターハイに出ることで何をしようとしてるんですか?」
美穂子「……協会の意に沿わない勢力の心を折ることが、当面の目的だと思います。ここまでの試合では、鶴田さん、辻垣内さん、愛宕さん……」
美穂子(加えるなら、長野予選で戦った田中さんや門松さんも県内では名の知れた強豪。そして……あれ以来宮永さんに怯えるようになった私も、心を折られた一人)
灼「二回戦でコンボを破ったのはそのため……確かに言われてみればあの時の妹さんは不自然すぎ……」
穏乃「そんな……和はそんなことに協力させられてるの!? 助けなきゃ!!」
美穂子「……そうです、そして、照さんと咲ちゃんも……助けなければいけません」
照「(もぐもぐ)もぐもぐ」
晴絵「思考と言動が完全に一致している……完全に心を無にしてお菓子と向き合っているんだ……こいつ、ただものじゃない」
358: 2015/08/12(水) 20:03:06.12 ID:r82yVIXu0
コンコン
照「……」ピタ
晴絵(馬鹿な、無心にお菓子をむさぼっていた宮永照が、手を止めた!? それほど大事な相手だというのか? お菓子よりも?)
ガチャ
久「待たせたわね」
照「……早かったね。もういいの? 天江さんに対策を仕込むのに時間がかかると思ってたけど」
久「……仕込む必要なんかないわよ。むしろ、私が対策を教えてもらう側かもね」
照「……そっか。なるほど、それは予想してなかった。けど、確かにその方が良いかもしれない、実績もあるし」
美穂子「久……」
久「ありがとね、美穂子。照を探すのに半日かかるかなーとか思ってのよ。あなたが保護してくれて助かったわ」ニコッ
美穂子「くっ……まだ、私を惑わせるつもりですか……今更、笑顔を見せられたぐらいで騙されるとでも……」カアア
憧(……ん~、みんなは信じちゃってるけど、照さんの様子と竹井さんの様子、私が知ってる二人の人柄を考えると、福路さんの話の方が胡散臭いんだよね)
憧(一つ一つを見ると、そういうこともあるかなって思えなくもないけど、繋げると一貫性が全くない。出来の悪い陰謀論って感じかな)
憧(例えば、対立する勢力の心を折るのが目的なら照さんと竹井さんだけでも十分なんだから和を引き込む必要はない。てゆうか、和一人じゃ、あの二人を二年間遊ばせるデメリットに全然釣り合わない)
憧(二年間遊ばせるデメリットに釣り合わせるためには、和が一人であの二人の二年分以上の働きをしなくちゃいけない。そりゃ無理でしょ)
憧(脅されてるって話にも根拠がないし、どの話を見ても動機があいまいになってる。福路さんってば誰かに変なこと吹き込まれたんじゃないかな?)
憧(といっても、あの様子じゃ本気で信じてるっぽいし、矛盾を指摘しても揉め事になりそう。阿知賀のみんなの誤解は後で福路さんがいないところで解くとして、福路さん本人は放っておくしかないかな)
穏乃「の、和……」
和「……来てたんですか、みなさん。すみませんが少々取り込み中なので、しばらくお構いできません」ゴゴゴ
咲「ごめんね、これ、本当に大事な用件だから。せっかく来てくれたのに申し訳ないけど、終わるまで待っててください」ゴゴゴゴゴ
玄(す、すごいプレッシャー……インハイの会場で初めて会った時以上……)
359: 2015/08/12(水) 20:03:52.68 ID:r82yVIXu0
久「さ、始めましょう」
照「……ずっと、待ってた」
久「……待たせたわね。これがお望みだったんでしょう?」
照「うん、咲の入部を賭けた時、あなた達にプラマイゼロを破られてから、ずっとこうなるのを待ってた」
久「分かりにくいのよあなたのアピールは。ついさっきまで気付かなかったわよ?」
照「む……私は簡潔に要点だけ伝えたはず。何故気付いてくれないの?」
咲「気付くわけないでしょ! てゆうか隠してたじゃん、思いっきり隠してたじゃん!」
照「個人戦とかでさりげなくアピールしてたはず」
和「確かにプラマイゼロしかしてないのに上位に食い込むのは不自然でしたけど……」
照「私は強くないと常日頃から言ってたし。確実に伝わるように、かつ、咲にバレないようにギリギリのラインで、出来る限り分かりやすくアピールしてたし」
久「そのアピールを私にしてたってのがねえ……私なら出来るって、本気で思ってるの? 100回失敗したのよ、私」
照「……あなたなら出来ると思ってるのも事実だけど、破られるなら竹井さんがいいっていう願望も含まれてる」
久「……嬉しくもあり、悲しくもあるわね、その発言。あなたに断言してもらえれば自分を信じられるんだけど、願望が入ってるってか」
照「……そろそろ始めようか。お客さんも待たせてるし」
咲「……そうだね、始めようか」
和「……そのふざけたオカルト、私が止めてみせます」
久「ルールはインハイルールじゃなくてまこのところの標準ルールね。私とあなたが一番多く打ったルールよ」
照「……わかった。西入なし、ダブル役満あり、トビ賞あり……ついでにローカル役満もいくつか採用されてたよね?」
久「ま、この勝負で役満なんか出さないでしょうから、そうなるとインハイルールとあんまり変わらないんだけどね。こういうのって気分が大事だから」
照「……うん。分かる」
360: 2015/08/12(水) 20:04:21.66 ID:r82yVIXu0
起家 和
南家 久
西家 咲
北家 照
久「……さて、あまり歓迎出来ない席順になったわね」
咲「ラス親がお姉ちゃんですか。厳しいですね」
照「……真正面から破るには最適でもある。オーラスの私の連荘を止めればいい」
和(……上家で咲さんが絞って照さんを自由に打たせない、地力で劣る私は鳴いて照さんのツモを飛ばしつつ二人のサポートが出来ます。照さんがラス親であることを除けば理想的な席順)
咲(だから、原村さんは私に期待しすぎだから。私がお姉ちゃん相手に互角に打てると思ってない? 思ってるでしょ? 思ってる顔だよ)
久(……さて、前回は咲の退部を賭けてたから咲と和が主役だったけど、今回は私が主役よね? あなたもそれを望んでるんでしょう?)
361: 2015/08/12(水) 20:05:21.31 ID:r82yVIXu0
東一局
咲(お姉ちゃんは照魔鏡を発動させるために当然様子見をしてくる……けど、いくらお姉ちゃんでも、一局で私や部長相手に「すべて」を見切るのは無理。それじゃ、メリットとデメリットが釣り合わない)
久(ということらしいんだけど、普段から打ってるせいで手の内は知られてる。慣れない打ち方が通用する相手でもないから、いつも通り打つしかない)
和(しかし、全てを見切ることが出来ないなら作戦を隠すことぐらいは出来るはずです……私だと見切られかねないから作戦自体は教えて頂けませんでしたが……それにしても、部長は何故私を選んだんでしょうか?)
咲「」タン
打:3s
久「それ、ポン」
打:2s
照「……」
咲「……」タン
打:赤5m
久「ロン、タンヤオドラ1。2000」
3466m456s678p ポン:333s ロン:赤5m
照「……」
ゴオオオオオ
咲「……」
久「……」
和「……」
照(……流石に咲や竹井さんが本気で隠すつもりのことを一局で見切るのは無理か。プラマイゼロ対策っていうのは特殊で読みにくいし)
照(でも、私がラス親なんだから大抵のことはどうにかなる。それでも有効な対策となると限られてくる)
照(……さて、何を仕掛けてくるのかな?)
362: 2015/08/12(水) 20:06:02.22 ID:r82yVIXu0
東二局
咲(……作戦は至って簡単。このメンバーなら、いくらお姉ちゃんでも直撃はほとんど望めない)
久(直撃が出来ないなら、ツモるしかない。なら、ツモを封じてしまえばいい)
照(……やっぱり、何か作戦があるみたい。しかも、原村さんには伝えてないみたいだね。伝えてあれば時間をかければ原村さんの打ち方から気付けるはずなんだけど)
咲(とはいえ、あまり早く気付かれると阻止される。局数を進めるのも兼ねて、少しフェイクを混ぜる)
咲「ツモ。1000、2000」
123m12389s789p西西 ツモ:7s
和(……小場で回すつもりなんですか? それにしては少し大きいような気がしますし、そもそもプラマイゼロを阻止するために小場で回す意味がありません。それは先ほどの準決勝のような条件での、先鋒での飛び終了を避けるための対策です)
照(うーん、何を狙ってるのか分からない。分からないと阻止のしようがないんだけど。まさか、咲と竹井さんが無策ってことはないよね?)
363: 2015/08/12(水) 20:07:01.97 ID:r82yVIXu0
東三局 ドラ:1m
久(……咲が味方っていうのは心強いわね。この手、読めてるわよね?)
2234p568s東東東発発発 ツモ:4s
打:8s
咲(……部長の手が進んだ。行けるかな?)
234赤5678m東南西西北北 ツモ:西
打:東
久(……は? なにそれ? 咲がやるなら意味はあるんでしょうけど……鳴けってことかしら?)
久「槓」
槓:東東東東 嶺上牌:5m 槓ドラ:6s
久(萬子染めみたいだから、咲の手牌にあるのはおそらく萬子。なら、あなたの狙いはこれかしら?)
打:2p
咲(ツモ切りでも大丈夫でしたけどね。これでツモがズレて、次の私のツモは赤5筒なので)
234赤5678m南西西西北北 ツモ:赤5p
打:赤5m
久「ロン。8000」
5m234p456s発発発 明槓:東東東東 ロン:赤5m ドラ:1m 6s
和(……さっぱり分かりませんね。咲さんが和了るのか部長が和了るのかすらはっきりしません)
照(プラマイゼロ対策となると、それが簡単に出来ない点数にするのが普通。けど、私がラス親だからそれは難しい。あと考えられる対策は……)
364: 2015/08/12(水) 20:09:58.53 ID:r82yVIXu0
東四局
照(親番だけど……どうしようかな? 今の点数だと2000オールでプラマイゼロになるから動かない方が楽ではあるけど)
照(何を企んでるにしても、そう簡単に私のプラマイゼロは崩れない……変なのが発動する可能性もあるしね。原村さんはそれの対策になるから多少は安心できるけど、それでも私がわざとプラマイゼロを崩したり手を抜いたりしたら万が一ってことはある。竹井さんを信じて、私はプラマイゼロを目指す)
和(……照さんの親番、可能なら流すのが吉ですね。手も悪くないですし、少し攻めてみましょう)
223368s17p南南西中中 ツモ:9p
打:1p
久(……まあ、保険はかけておきたいわよね? ここは私の出番じゃない)
打:北
咲(……お姉ちゃんにはまだバレてないみたい。なら、多分この親では動いてこないはず……行けるよね)
打:南
和「ポン」
和(照さんのツモを飛ばして悪いことはないはずです、自風牌でもありますし、ここは鳴きましょう)
ポン:南南南 打:西
久(……ん~、とりあえず合わせときましょう。咲の邪魔しちゃ悪いしね)
打:西
咲「……」
打:2s
和「(照さんの手番は飛ばす、飛ばして悪いことはないはずです)ポン」
ポン:222s 打:9p
365: 2015/08/12(水) 20:11:49.15 ID:r82yVIXu0
咲「……」
打:3s
和手牌
3368s7p中中 ポン:南南南 222s
和(先ほどの2索に続いての3索。いずれも手出し。手出しで両面落としということは、私に鳴かせようとしている?)
和「ポン」
ポン:333s 打:7p
久(……なんでこの巡目で手が正確に読めるのよ。今更だけど、咲ってば本当に手牌見えてんじゃないの?)
打:発
咲「……」
打:7s
和(……あれ? どういうことでしょうか?)
和(咲さんが私の聴牌を見落としたというのは考えにくい、照さんと並んで非常識の代表のような人ですからね。となれば、和了らせるつもりのはずです)
和(では、ここで私に5200を和了らせる意味は? 咲さん自身も和了る、私や部長へのサポートもする、しかし、照さんはプラマイゼロが容易な点数のまま)
和(小場で回すにしては点数が大きい、そもそもそれ自体に意味がない。一体何を狙っているのでしょう?)
和(さっぱり分かりませんが、とにかく和了っておきましょう。局数を進める事にもなりますし、何より咲さんが三度鳴かせた後に切ったのですから、和了らせるつもりに決まってます)
和「ロン、混一色・南。5200」
68s中中 ポン:南南南 222s 333s ロン:7s
照「……なるほど、ツモを封じたいんだね」
咲「あ、もうバレた。流石お姉ちゃん」
和「え?」
照「咲がトビ寸前になることで、私のツモを封じるつもりだね。咲達はもちろんのこと、本気で警戒すれば原村さんも振り込むことはないと」
咲「お姉ちゃんは現状で最低でも5600点稼がなきゃプラマイゼロに出来ない。直撃が出来ないなら、私が1800点以下になれば詰みだよ。ここから連続和了するなら、私がラス前の親だから親かぶりは一番大きくなるからね」
照「……で、今の咲の点数は13800。子の跳満か親の満貫に振り込めば条件達成……それだけじゃないね。トップが近すぎるから、竹井さんがもう少し削られると私は29600点でもトップになってしまう。咲が竹井さんを直撃しても、竹井さんが咲を直撃しても私はツモ和了りを続けてプラマイゼロにすることが出来なくなる」
和(……なるほど、咲さんが東二局で和了ったのは、狙いを読ませないためのフェイク。トビ賞ありというのも、飛ばしながらのプラマイゼロを防ぐため)
照「西入なしとトビ賞あり、気分なんかじゃないわけだね。それも私のプラマイゼロを崩すための戦略の一部」
久「ご明察。というか、最初からただの気分でルールを変えたなんて思ってないでしょ? なにか狙いがあると思ってるからこの時点で狙いに気付けた。違う?」
照「あなたがすることに無駄があるなんて思ってないからね。もちろん何かあると思ってた」
和(……作戦がバレたとはいえ、状況はかなり有利ですね。咲さんが私か部長の跳満に振り込めば、後は直撃さえ避ければ勝ち。それが出来なくてもプラマイゼロにするとトップになってしまうという保険があるので、部長が差し込むか咲さんか私が満貫でもツモればそちらでも勝利です)
366: 2015/08/12(水) 20:12:40.20 ID:r82yVIXu0
南一局
点数状況
和 29200
久 33000
咲 13800
照 24000
咲(……バレた以上、お姉ちゃんは本気で止めに来る。ここから全てツモなら1100(300・500)、1500(400・700)、1600(400・800)、2100(700オール)でプラマイゼロ達成。それ以外の和了りが許されない厳しい条件だけど、一応それも警戒しなきゃいけない)
咲(部長が33000点。今からお姉ちゃんが連続和了を達成すると部長は30900点になって、お姉ちゃんが30300点だから微差でトップを守ってしまう)
咲(連続和了を止めるのは難しい。できることなら、部長を削るか私が跳満に差し込むかで決着をつけたい)
咲(……で、そんな時にこの聴牌なんだけど……)
12345678s南南南北西 ツモ:9s
咲(……お姉ちゃんは一巡前に西を切ってる。北単騎に取って振り込むことはない)
咲「……」
打:西
照「ポン」
ポン:西西西 打:北
咲「!!?」
367: 2015/08/12(水) 20:13:12.61 ID:r82yVIXu0
咲(え? ちょっと待って、どういうこと!?)
咲(一巡前に自分で切った西を鳴いた? 刻子から切ったの? 何のために?)
咲(あ、そうか、30符1翻以外アウトだから、明刻にして符を下げたい形なんだ? それで30符1翻ってことは、カンチャンかペンチャン待ちのチャンタのみ?)
咲(つまり、残った手牌は13m123789s99みたいな形だね? ここで西が暗刻だと、ツモると40符になっちゃう。あと、面前のままだと2翻になっちゃう)
咲(だから、西を切って鳴いて取り戻すことで符と翻数を下げた。なるほど、さすがお姉ちゃん……)
368: 2015/08/12(水) 20:13:52.19 ID:r82yVIXu0
咲(って、そんなことどうでもいいよ!! お姉ちゃん何切ってるの!? それ、私のアタリ牌だよ!? 満貫だよ!?)
咲(それを私が和了ったらお姉ちゃんは16000点、13600点をツモだけで稼ぐと部長が4000点近く削られて29000点台前半になる。そしたらトップになっちゃってプラマイゼロにならないよ!?)
咲(で、でも、何を考えてるのかわからないけど、これで私たちの勝ち! あとは振り込まないように警戒すればいいだけ!)
咲「ろ、ロン!! 8000!」
照「はい」
咲(落ち着いてる……? これはお姉ちゃんの狙い通りなの? 詰んでるようにしか見えないけど、一体何を狙ってるの?)
369: 2015/08/12(水) 20:15:18.84 ID:r82yVIXu0
南二局
照「……」
咲(お姉ちゃんに動きはない……そりゃそうだよね、ここから和了り続けてもプラマイゼロにする手段はないんだもん。私はお姉ちゃんの安牌を抱えていればそれでいい)
照「……」
咲(……このまま場を進めれば……あれ、場を進める? 場ってどうやって進むんだっけ?)
照「……」
咲(流局するか、誰かが和了るかする必要がある? あれ? 私、お姉ちゃんの安牌抱えるために手を崩してるから和了れないよ?)
咲(包囲が崩れるから部長が和了っちゃダメだよね? 原村さんならいいけど、それもあんまり高いとやっぱりお姉ちゃんがトップにならなくなっちゃう)
咲(なら、流局させればいいのかな? 部長と原村さんがノーテン罰符で平等に削られるなら状況は変わらない)
咲(そのままお姉ちゃんの親まで流れれば……あれ? お姉ちゃんの親?)
咲(普通なら、私が原村さんの手にある牌の中でお姉ちゃんに通る牌を切ればいい。それで原村さんは安全)
咲(けど、お姉ちゃんが親の時、下家の原村さんは最初の一巡はノーヒントで打たなきゃいけない。その時、原村さんは本当にお姉ちゃんの直撃を躱せるの?)
咲(染谷先輩の雀荘のルール、ローカル役満はいくつかあったけど、人和はない。 なら、点数は調節出来ちゃう。点数が調節できるなら、お姉ちゃんならプラマイゼロは簡単)
咲「あれ? もしかして、このままじゃまずい?」
照「……やってみないとわからないけど、私は諦めてないよ」
久「だから、あれはあくまで保険だって言ったでしょ。なんで満貫和了ってるのよ咲? おかげで予定が狂ったわ」
咲「部長まで!? い、いや、でも、それだったら私のトビで縛っても同じじゃ!?」
久「あら? 私、そのままあなたを飛ばして終わらせる気だったけど? それでも真正面から破ったことにはなるわよね?」
照「……なるほど、八百長で飛ばすのはいかがなものかと思うけど、咲がわざと振り込むわけじゃないただの不意打ちなら多分有効」
久「そもそも、真正面からぶち破るって言ってるでしょうが。つまり、私が和了ってプラマイゼロを破るのよ、小細工で勝ってどうすんの?」
咲「あうあう……」
和「……あの、お話の途中で申し訳ありませんが、早く切ってください」
久「分かってるわよ。はい」
打:4s
和「……それ、ロンです。タンヤオピンフドラ1、3900」
23456s345m67888p ロン:4s ドラ:3s
久「あちゃ、振り込んじゃったか」
和「どうせ全部読めてたくせに白々しいことを言わないでください」
咲(……大丈夫、状況は変わってない。お姉ちゃんはここからプラマイゼロにするなら最少でも29700、その場合、今トップの原村さんは29100点になる。それに、これでプラマイゼロの最低ラインの29600を超えてるのは原村さんだけになった。 原村さんを直撃してもお姉ちゃんはトップになってしまってプラマイゼロに出来ない。部長が振り込むことはないはずだから、むしろ状況は良くなったよ)
370: 2015/08/12(水) 20:17:21.93 ID:r82yVIXu0
南三局
久「ロン、8000」
1p222345678s発発発 ロン:1p ドラ:発
照「……ん」
咲「って、何やってくれてるんですか部長!!!?」
和「そうです! その手で1筒を残して9索切りなんて言語道断です!」
咲「それはどうでもいいよ!! 割と本気でどうでもいいよ!!」
久「……ん? だって、この状況で照に本気で狙われて、私が振り込まない保証なんかないでしょ?」
照「……というか、咲はまだ小細工で勝とうとしてる」
咲「なんのための作戦なんですか!? もうこれお姉ちゃん完全フリーじゃないですか!? 二、三回ツモってなんの障害もなくプラマイゼロじゃないですか!?」
久「二、三回ツモってプラマイゼロ。つまり、最低でも二回はチャンスがあるのよね。そのどっちかで私が和了ればいいんでしょ?」
咲「ここまでの7局は何だったんですかあああああああ!?」
照・久「……前座?」
和「咲さん、言っても無駄です。うすうすそうではないかと思っていましたが、この人達、二人だけで決着をつける気でいます。部長に至っては咲さんまで騙していたみたいですし」
咲「……うう……私の苦労が水の泡だよ……」
371: 2015/08/12(水) 20:17:49.50 ID:r82yVIXu0
南四局
咲(……こうなった以上は、小細工なしでとにかく和了るしかない。別に、止めるのは部長じゃなくてもいいんだから)
咲(そもそも、お姉ちゃんがプラマイゼロを始めたのは私のせいなんだから、私には止める責任がある)
咲(いくらお姉ちゃん相手でも、三回チャンスがあるなら一回ぐらい私が和了ることが出来てもいい。ううん、和了らなきゃいけない)
照(……咲が自分の和了りを目指すなら、むしろやりやすい。咲には他の二人のサポートに徹された方が困る)
照(とはいえ、いくら咲でも、この状況で冷静ではいられないか。竹井さんと原村さんはサポートなしだと私に追いつくのは無理な手だし、この局はもらった)
372: 2015/08/12(水) 20:18:19.00 ID:r82yVIXu0
咲(張った……次でツモれるはずだけど……)
123567s36p北北西西西 ツモ:4p
打:6p
照「ツモ。面前ツモ・ドラ1、1000オール」
123789s34p789m中中 ツモ:2p ドラ:8s
咲「……」
照「……私が親だから、一巡早い」
咲(和了る点数が限定されててもこれだもんなあ……やっぱりお姉ちゃんはすごい。けど、感心してる場合じゃない)
373: 2015/08/12(水) 20:18:50.62 ID:r82yVIXu0
南四局 一本場
和(……まあ、こういうこともありますか)
和配牌
1112345678999p
照(私、今回はまだ何も悪いことしてないと思うんだけど……プラマイゼロをオカルトと認識して、それを達成しそうだからかな? 本当に原村さんはタチが悪い)
照配牌
1112345678999s ツモ:1p
照(普通なら迷わず不要な1筒を切って直撃で終了なんだろうけど、私はプラマイゼロを狙ってるから、この手は最初から崩すものと決まってる)
打:1s
和(さて、役満でダブリーをかける意味もないでしょう。当然ダマです。この状況では役満よりも待ちの広さがありがたいですね、この手ならいずれツモるなり誰かが振り込むなりが期待できます)
ツモ:北 打:北
久(……ん~、和が嫌な感じなのよね。私の手も異常にいいし、例のデジタルの神様かしら?)
123456777m北北西西 ツモ:東
打:東
咲(……私と部長の手には筒子がない。悪いけど、自力でツモってもらわないと……)
123456789m3577s ツモ:6s
打:3s
照(さて、聴牌。点数も許容範囲)
ツモ:2p 打:1s
374: 2015/08/12(水) 20:19:30.97 ID:r82yVIXu0
照「ツモ。2100オール」
12p12345678999s ツモ:3p
久「げっ!? あんたそれ配牌で九連だったの!?」
照「とても迷惑だった。手を下げないといけないし」
久「純正九連を崩すとか勿体ないわね……」
照「九連を蹴って他の色の単騎待ちにしそうな人に言われても困る」
久「……まあ、やったことはあるけど。流石に純正九連は素直にそのまま聴牌取るわよ、多分」
和(……常識的には第一打で私に振り込むところですが、照さんですからね。プラマイゼロ狙いならむしろ振り込むはずがない形です)
咲(……けど、この点数状況、意外と悪くない)
和 30000
久 34000
咲 18700
照 17300
咲(今、2100オール、つまり6300点を和了った。お姉ちゃんはプラマイゼロまでは12300~13200点。これを二回に分けて和了ることはもう出来ない。そのうえ西入なしの南四局、つまり、次が最後の一局)
咲(積み棒の600点を引くと、お姉ちゃんが和了れるのは11700~12600点。11600もダメで、和了れるのは3900オールか満貫だけ。かなりやりにくいはずだよ)
375: 2015/08/12(水) 20:20:11.32 ID:r82yVIXu0
南四局 二本場
和(プラマイゼロを狙うなら、照さんはここで決着をつけなければいけません。30符4翻あるいは60符3翻。これだけ条件が限定されれば手は読みやすいはずです)
久(一応、跳満を和了ったり二回に分けて和了ってからその次の局で振り込むって選択肢もあるけどね。こっちが和了らなきゃいいだけなんだから、流石にそんなのは考慮しないわよ)
3457p345m5678s発発発 ツモ:6s
打:8s
久「……張ったけど、あんまりいい待ちじゃないわねえ」
照「悪い待ちなの? それは怖い」
久「逆よ逆、私にとっていい待ちじゃないの」
照「……紛らわしい言い方はやめてほしい」
久「けど、この状況、あんまり捨てたもんでもないのよね。あなたが和了れる点数が限定されてるもの」
照「……けど、道はある。道があるなら、私は辿り着いてみせる」
久「迷子センターの常連がよく言うわ」
照「迷子センターの世話になったことはない」
久「……迷子センターまで行けないものね。私も、あなたを探すなら「そこから動かないでください」って放送をかけるわ」
照「酷い……」
34赤567p34赤5888m68s ツモ:8s
打:6s
久「……そっちも張ったのね。このめくりあいは自信ないわ」
376: 2015/08/12(水) 20:20:57.95 ID:r82yVIXu0
咲(……お姉ちゃんは和了れる点数に制限がある。だから、これは有効なはず)
咲「槓」
暗槓:8888p 槓ドラ:3m
照「……え?」
咲「……これで、少しぐらいは予定が狂うんじゃないかな? 出来れば、元々の元凶として責任とって私が和了って決めたいんだけど」
照「……咲のせいじゃない。私が勝手にやっただけ」
咲「私に今まで黙ってたってことは、私のせいだって言ってるようなものなんだけどなあ」
照「……うっ」
咲「……ごめんね、お姉ちゃん」
照「そこの部長さんが何とかしてくれるはずだから気にしなくていい。今までも、別に困るようなことはなかった」
咲「……嘘が下手なんだから。けど、これで私の手はバラバラだから、後は部長に任せるしかないね」
打:9p
照(さて、赤5筒とかツモると6翻になっちゃうわけだけど、2筒は全部あそこにあるしなあ……)
34赤567p34赤5888m88s ツモ:6m
照(新ドラの3萬を外して聴牌維持、かな。満貫も基本的にダメなわけだし)
和「……これも小細工なのかもしれませんが……槓!」
暗槓:2222p 槓ドラ:4m
打:1p
照「……え? そっちも?」
和「ドラが一枚でも乗れば、やりにくくなるでしょう?」
照(普通に乗ってるんだよね。5筒は赤が一枚と普通のが一枚しか残ってないし、とても困る)
377: 2015/08/12(水) 20:22:16.97 ID:r82yVIXu0
久「さっきからどんどん待ちが薄くなってるのよねえ……あんたら槓するぐらいなら差し込みなさいよ」
照「そうするとダブロンになるから仕方ない」
和「え?」
久「槓された2ー8筒のどっちでもダブロンってことは、待ちの部分は完全に同形かしら? てことは、待ちは残り二枚ってことね。こんだけ待ちが薄けりゃツモれるでしょ」
照「日本語をしゃべってほしい。待ちが薄ければツモれるとか言ってることおかしい」
咲「それ、今更だよね」
和「ええ、今更ですね」
照「そこ、うるさい」
久「って、ツモれないか」
ツモ切り:白
咲「……」タン
打:7p
照「……」
34赤567p4赤56888m88s ツモ:7m
打:4m
和「あっ……」
3p223344s北北北西東 ツモ:5p
和(……おそらく照さんは30符4翻の手を作っているはず。部長と照さんは同じ2―5―8筒待ち……しかし、30符4翻の手を作っているなら差し込めば11600の二本場で12200、照さんは17300点なのでギリギリでー1に……なりませんね、面前なので40符になります)
和(これを切ればダブロン。照さんだけがロン宣言をしても部長とのダブロンでも、照さんはプラマイゼロになります)
和(……部長に差し込める牌は5筒のみ、しかし、差し込めばダブロンで照さんがプラマイゼロになってしまう)
和「……」
打:東
378: 2015/08/12(水) 20:22:47.84 ID:r82yVIXu0
久(和の様子からして、5筒をツモったわね。てことは、残り一枚……私にとっては最高の待ちになった)
照「……震えてる?」
久「……そりゃね。これでダメなら私には打つ手がないわけだし、自信があっても怖いものは怖いわよ」
照「……別に、このツモで決まるってわけじゃないから」
久「これはただの勘なんだけど、このツモか次のあんたのツモで決まるわ。私がツモれなきゃ、あなたがツモって終わり」
照「……竹井さんが言うなら、そうなのかもね」
久「……さ、覚悟決めてツモるわよ」
照「……大丈夫、あなた達の勝ちだから」
久「そう言ってもらえると気が楽になるわね……じゃ、これで決めるわよ!」
379: 2015/08/12(水) 20:23:32.15 ID:r82yVIXu0
『ツモ』
380: 2015/08/12(水) 20:24:09.73 ID:r82yVIXu0
照「4200オール」
34赤567p赤567888m88s ツモ:赤5p
照「……」
久「……ねえ、照? あなたがさっき言ったセリフ、覚えてる?」
照「……『ツモ、4200オール』?」
久「その前よ、その前!」
照「『竹井さんが言うなら、そうなんだろうね』?」
久「その後でなんか言ったわよねえ!?」
照「『あなた達の勝ちだから』ってやつ?」
久「どういうことよこれ!? おかしいでしょ! 言ってることと違うでしょ!!」プンスカ
照「あの時点で詰んでた、嘘は言ってない」
咲「まあ、嘘は言ってないんだけど……あのセリフの後だと、部長がツモって綺麗に終わる流れじゃないかな?」
照「牌が見えてるわけでもないのにそんな都合よく先のことが分かるはずがない」
久「……てゆうか、勝ちか負けかで言うと負けじゃないのこれ?」
照「そんなことはない。プラマイゼロは破れた」
久「そりゃそうだけど……」
381: 2015/08/12(水) 20:24:46.03 ID:r82yVIXu0
和 25800
久 29800
咲 14500
照 29900
久「で、久しぶりにトップを取った気分はどうかしら?」
照「三万点超えてないのにトップと言われても……」
咲「トップはトップだよ」
照「原村さんが赤じゃない方をツモった時点で詰んでたんだよね」
咲「赤5萬切って次巡で5萬をツモればいいんじゃないかな?」
照「それ、原村さんが竹井さんに差し込むでしょ。どうせ詰んでるから別にそっちでも良かったけど」
咲「」ピュー
照「誤魔化せてないからね? まったくもう……それにしても、原村さんは非常識だよね。あそこは赤の方ツモるとこでしょ?」
和「あなたから非常識とだけは言われたくありません。そして、そんなこと言われても知りません。私にどうしろって言うんですか!?」
久「で、プラマイゼロの呪いの方はどうなったの?」
照「今回も小細工っぽいからね……とりあえず今の時点では解けてるはずだけど、明日以降も解けてるかと言われるとわからない」
和「あれだけ人に苦労をかけさせておいて……」
咲「まあまあ……とりあえず打ってみようよ。トップ取り続けてれば消えるかもしれないし。前回はあの後打たなかったでしょ?」
照「それは名案」
382: 2015/08/12(水) 20:25:23.96 ID:r82yVIXu0
バンッ
衣「話は全て聞かせてもらった!!」
純「いや、なんも聞いてねえだろ」
智紀「衣は耳が良いから」
一「ともきー、衣のカチューシャを見ながら『耳が良い』とか言うのはやめようよ」
衣「終わったなら衣と打て!! そもそも、今日はテルと打つために来たんだぞ!」
照「やれやれ……まあ、全力で打つのに並の相手じゃ困るし、ちょうどいいかもしれない」
久「……照と咲はいいとして、あと一人は誰が入るのよ?」
咲「え? 他に誰かいますか?」
久「全力で暴れるあんたらの相手は流石に荷が重いんだけど」
照「大丈夫大丈夫、行ける行ける」
久「あんたが本気で打つのが一番の懸念材料なんだけど……」
咲「まあまあ、とりあえず半荘一回だけ」
久「一回じゃすまないのが目に見えてるんだけど……明日は決勝だからほどほどにしましょうね?」
照「それは約束しかねる」
383: 2015/08/12(水) 20:25:59.74 ID:r82yVIXu0
純「おーい、あの部屋に電子機器置いてる奴は今のうちに回収しろー」
智紀「私はPCを守るために風越のホテルに移動する。同じ建物では安全とは言えない」
一「流石に最上階のボク達の部屋は安全だと思うけど……」
ゆみ「分からんぞ。あいつらなら電波が入らないように処理された対局室の中から建物全体を停電にするぐらいのことはやりかねない」
智美「いやいや、麻雀打つだけでそんなこと起きないだろー」ワハハ
415: 2015/08/26(水) 18:30:11.81 ID:K2H2anh+0
お待たせしました、投下始めます。
416: 2015/08/26(水) 18:32:21.46 ID:K2H2anh+0
【千里山宿舎】
怜「……研究すればするほど『どうしようもない』ってことが分かるなあ……こいつらの相手せなアカンのか。しんどいなあ」
竜華「うちも、天和だけはどうしようもあらへんしなあ……」
怜「泉も小走さんの次鋒対策にぶーたれとったし、不安やなあ」
?「はやや~? 明日の試合に不安を抱えてるなら、練習あるのみだよっ☆」
?「……今更だが、練習試合禁止の趣旨を考えたら、個人戦の選手同士が指導し合うのは問題だと思うんだがな。あと、プロが拉致同然に高校生を連れまわすのも」
?「ノープロブレム。協会も将来を見据えて、インターハイよりその後の選手としての成長を重んじる方向に規約を改正してますから」
?「聞こえなかったか? 拉致同然に高校生を連れまわすのも問題だと言ってるんだが」
?「そのうち、インハイ期間中の練習試合禁止も全面解除される見通しだよ☆ 代表になったら強い相手と打てないなんてナンセンスだよねっ☆」
?「おい、話を聞け」
怜「小走さんに、瑞原プロと戒能プロ? 呼んでませんけど……」
はやり「呼ばれてなくても世話を焼きに来たの☆ どうせ準決勝が予定より早く終わって暇でしょ☆」
やえ「……と言いながら拉致同然に連行されたよ。いきなりですまんな」
良子「今のあなた達にとっては願ってもない話のはず、もちろん、無理にとは言いませんがね」
417: 2015/08/26(水) 18:32:49.81 ID:K2H2anh+0
【永水宿舎】
霞「……あらあら、困ったわね」
巴「こんなことが出来るなんて……何故二回戦ではやらなかったんでしょうか?」
春「……哩姫がいたから、かもしれない。実力を見せつけるため」
初美「で、ここに来てのこれは、全国二位の辻垣内智葉を飛ばして終わらせるのが一番実力をアピールできるってことですかー?」
霞「でしょうね。大会を通しての印象だけど、清澄は力を示すためだけに打っているように見えるわ」
小蒔「……力を示すためだけに打つ。なにか事情があるのかもしれませんが、そのために他人を踏み台にするような打ち方……認めたくありません」
初美「当然ですよー! 決勝でケッチョンケチョンにしてやるですー!」
霞「けど、実力は確かよ。先鋒には全国二位が手も足も出ず、大将は哩姫を完全に打ち破り、中堅は一回戦をトビで終わらせた上に二回戦では全国区のエース二人を手玉に取った。たった一人で試合を終わらせるだけの力を持った人間を三人揃え、繋ぎもインターミドルチャンピオンと、二回戦の相手の名門三校のレギュラーを相手に軽々とトップを取って見せる実力者」
初美「うぐっ……で、でもでも! いくら力があってもあんなやり方許せませんよー!」
春「けど、あのチーム……特に先鋒は異常。姫様でもどうなるか……」
巴「……でも、やるしかない」
霞「初美、中堅は気を付けてね。準決勝の阿知賀と宮守の二人を合わせたような生き物よ」
初美「私のことより自分の心配をするですー。化け物二人に、千里山の清水谷も二回戦で何かおかしなことをやってましたよー」
霞「全く心配ないわ、秘策があります」
小蒔「ええっ!? すごいです霞ちゃん!」
春「……」
初美「……はあ、これだからこのおっOいお化けは」
巴「……霞さん」
霞「大丈夫よ、無理はしないから。ね?」
初美「……宮守のデカいのでも呼んでおきましょうかねー。来てくれるかわかりませんけどー」
小蒔「???」
418: 2015/08/26(水) 18:33:24.21 ID:K2H2anh+0
【白糸台寮 淡の部屋】
淡「えー? 練習なしー?」
部屋でゴロゴロしていたところで携帯に届いた一通のメール。
文面は「新たに得られたデータがないのでミーティング中止、練習もなしや。ゆっくり休んでなー」となっていて、差出人は憩。
淡「……ん? なんかおかしくない?」
このメールから強い違和感を感じる。
文面は……おかしくはない。憩が私に宛てたメールならこのぐらいの砕けた文体になりがち。
内容も、おかしいことは特にない。なにしろ、今日の準決勝で次鋒以降は出番すらなかったので新しいデータがあるはずもない。
けど、なにか引っかかる。何かがおかしい。自分の直感に従って、違和感の正体を探す。
淡「普通、こういう連絡ってスミレがするんじゃないの?」
見つけた、これだ。
こういった部活に関する連絡はスミレから来るのが常で、憩が連絡を寄こすということは滅多にない。
では、何故そうなったのか? そうなるためにはどんな条件が必要か?
この連絡をするにあたって、スミレより憩の方が適任だったということになる。
中止の決定をするのは監督だから、監督が連絡するのに憩の方が適任だったということになる。
条件が同じなら連絡は部長のスミレに行く、ということは条件が違うはず。
憩が監督にとって連絡しやすい位置に居る……つまり、憩は監督のところに居て、スミレはそこに居ないということだ。
淡「……むむ? これってつまり……」
先鋒である憩だけは、新たに取得したデータがある。
つまり、憩だけは対戦相手の分析と対策が出来る。
他の人間はミーティング中止ということで排除して、監督と憩が二人っきり……憩は監督と妙に仲がいいし……
淡「そ、そんなの邪魔してやるんだからー!!!」
ガバッと音を立てて起き上がり、お財布と携帯だけ持って慌てて飛び出す。
「どうせケイと監督だけでミヤナガテルの研究してたんでしょー? 面白そうだから私もやるー!!」
部室に飛び込んで最初に言うセリフを考えながら走り出す。
が、少し進んだところで全力でUターン。
淡「パジャマのままだったよ……ゴロゴロしてたから寝癖もついてそうだし……」
この格好で憩に会うのは無理だと判断して、戻ることにする。
部室に着くのは少し遅くなりそうだ。
419: 2015/08/26(水) 18:34:13.22 ID:K2H2anh+0
【部室】
淡「とーちゃーく!!」
バンッ
誠子「あ、大星も来たのか」
尭深「中止の連絡したのに、これじゃ意味ないね」
憩「みんなして人のいうこと聞かんのやから困ったもんやな」
淡「……へ? タカミーと、セイコ? なんで?」
憩「メール見てな、どうせうちが監督と二人で明日の対策しとるやろって言って押しかけて来てん」
誠子「そりゃそうだ。部活関係のメールが弘世先輩じゃなく憩から来たって時点で、憩が監督と二人でなんかしてるのは確実だったし」
尭深「……私たちじゃ役には立たないかもしれないけど、お茶の用意ぐらいは出来るから」
憩「帰ろうとしたら二人で来るもんやから、帰れんようになってもうたわ。ちなみに、監督はもう帰ったで」
淡「……」ポカーン
憩「ま、せっかく四人揃ったんやから麻雀でも打つか。どうせ暇やろ?」
誠子「そうだな」
尭深「【休み=3人で麻雀して遊ぶ】って図式、いい加減どうにかならないかな?」
憩「うちら三人でそれは無理な相談やな。尭深ちゃんは釣り出来んし、誠子ちゃんは植物の扱いダメダメやし」
誠子「本当に今更過ぎるな。今日は三麻じゃないだけマシだろ」
尭深「理論上は三麻の方が憩ちゃんが弱くなるんだけどね」
淡「……えっと、いつも休みは三人で打ってるってこと?」
憩「休みっちゅうか、うちの予定が空いた時やな。一年の頃はボランティアとかも結構頻繁にやっとったし」
誠子「『今ちょっと暇やから誰か麻雀打たんー?』ってお誘いに、毎回律儀に来たのが私たちだけでな」
尭深「最初の頃はチーム編成で憩ちゃんを狙ってる先輩とか同級生が来てたんだけど、チームが決まってからはあんまり集まらなかったんだよね」
誠子「勝ち目がないから、よっぽどの物好き以外は好き好んで打ちには来ないからな。弘世先輩はいろいろ忙しそうだから呼べないし」
尭深「よく心折れずに毎回来たよね、誠子ちゃん」
誠子「こっちのセリフだっての」
尭深「私はいつも二位だったし」
誠子「それもこっちのセリフだっての」
淡「……ねえ、ケイ?」
憩「ん? どしたん?」
淡「私、それ、呼ばれてないんだけど?」ゴゴゴ
憩「……あっ!?」
誠子「ああ、そうか、大星を呼べば良かったのか。暇そうだしな」
尭深「秋ぐらいから三人で打つのが当たり前になってたから、淡ちゃんが入ったころにはもう『誰かを呼ぶ』っていう発想が全くなかったよね」
420: 2015/08/26(水) 18:34:55.19 ID:K2H2anh+0
ガチャ
菫「すまん、大星は捕まらなかった……って、なんだ、先に来ていたのか」
憩「あ、お疲れ様ですー。先に始めてますよーぅ」タン
淡「へ? スミレ? なんで?」タン
菫「予定が空いたなら渋谷と亦野は憩のところに集まるだろう? 明日は決勝だし、顔合わせぐらいはしたほうがいいだろうと思ってな」
誠子「読まれてましたか」
尭深「やっぱり部長なんですよね、弘世先輩」
菫「まあな。流石に部員全員とはいかないが、虎姫のメンバーの行動ぐらいは把握出来るように努力している」
憩「淡ちゃんの行動は読めないみたいですけどね」
菫「どうせ部屋でグータラしてると思ったが、今日は嬉しい誤算だな」
淡「と、トーゼンだよっ!! 私はエースだからね!!」アセッ
菫「……ふむ、これはアレだな。憩と打ちたかっただけだな。メールを見て憩と監督だけしかいないと見て、真剣勝負が出来ると踏んだか」
淡(うっ、結構近い……)
憩「じゃ、これ終わったら二着抜けで菫さん入れよか」
菫「おい、何回打つ気だ? 私は長居する気はないぞ」
憩「そんなこと言わんと打ちましょうよーぅ」
菫「はあ……ところで、宮永照の対策はどうなってるんだ?」
憩「長くなりそうやし、打ちながら話しません?」
菫「どれだけ麻雀が打ちたいんだお前は。この面子とはいつも打ってるだろうに」
憩「うちの50%は麻雀で出来てますんで」
誠子「どこのバ○ァリンだよ」
憩「残り半分は優しさやで?」
尭深「完全に○ファリン……じゃないね、もっと禍々しい何かだね」
憩「尭深ちゃん、半分は優しさやって言うとるんに禍々しいって酷ない?」
菫「お前の優しさは獅子が我が子を谷底に突き落す系の優しさだろうが」
憩「菫さんまで……酷いわー」
421: 2015/08/26(水) 18:35:56.05 ID:K2H2anh+0
監督「……迷った」
憩「お帰りなさい」
菫「珍しいな、監督が自力で帰って来るなんて」
誠子「あ、いえ、これは自宅に帰ろうとしたんだと思います」
尭深「それでここにたどり着くのも、それはそれで凄いんだけどね」
菫「……というか、一人で帰らせたのか?」
憩「自宅やったら大丈夫やと思ったんですけど……監督を舐めてましたね」
淡「……結局全員集合してるし」
菫「というか、集まるのが普通なんだ。データが増えてなくても話すことはあるだろうに」
監督「あら? あなた達なんでここに?」
憩「暇やから麻雀打とうってことになりまして」
監督「……それじゃ休養の意味がないわ」
菫「では、監督も止めてください、放っておいたらこいつら夜中まで打ちますよ」
監督「仕方ないわね……ゆっくり休ませるために、二度と牌が持てないようにしてあげるわ」ゴゴゴ
淡「え? 監督が本気出す感じ? やったー!!」
憩「上等……怪物相手の慣らしには怪物相手が一番ってな!」
誠子「おい、どっちから行く?」
菫「『どっちから行く?』じゃない、あの馬鹿どもを止めろ。事態が悪化してるじゃないか」
尭深「多分、止めても無駄かと……」
菫「はあ……どうしてこうなるんだこいつらは……」
422: 2015/08/26(水) 18:36:38.12 ID:K2H2anh+0
美穂子「……申し訳ありませんでした」
ゆみ「ぷくくくくくくっ! く、苦しいっ!! 笑い氏ぬっ!!」バンバン
久「……ゆみ、笑いすぎ」
照「宥、おかわり」
宥「照ちゃん食べるの早いねー」
照「それが自慢」
久「アホなこと自慢しないで。それにしても、美穂子ってば……」
美穂子「うう……ごめんなさい……」
ゆみ「ぷくくくくくっ!!」
久「ゆみ……どんだけツボってるのよ……」
ゆみ「あははははは、ひーっ、ひーっ、ぷくくくくく!!!」
美穂子「そ、そこまで笑わなくても……」
久「いや、まあ、ゆみからしたらツッコミどころが大渋滞を起こしてるだろうから気持ちはわかるけど……」
照「やはりカ○ルはチーズ味が至高」シャクシャク
久「照、今ちょっと取り込み中だからツッコミどころを無造作に放り込んでくるのやめてもらえないかしら?」
照「お構いなく」シャクシャク
久「構うっての……ツッコミ役を増やしてもらえないかしら? この状況、ツッコミ一人じゃキツいわ」
423: 2015/08/26(水) 18:37:36.48 ID:K2H2anh+0
衣「わーい、また勝ったぞー! これで4勝2敗だ!」
咲「むー……なんであんな見え見えの北待ちに振り込むかな?」
和「あんなものを見え見えと言い張る咲さんがおかしいだけです。二巡目の字牌単騎待ちなんて誰が読めるんですか?」
咲「私が見えるんだから、お姉ちゃんなら見切れるよ」
和「すみません、人間を基準にしてください」
咲「千里山の園城寺さんなら振り込む未来を視て回避できるよ」
和「人間を基準にしろと言ってるでしょうが!!」バンッ
優希「……あんなの止めらんないじょ」ズーン
咲「……むー、もう一回! もう一回打つよ!!」
衣「望むところだ!!」
和「まだ打つんですか……」
優希「勘弁してくれだじょ……」
424: 2015/08/26(水) 18:38:47.03 ID:K2H2anh+0
純「あいつら元気だなあ……まだ打ってやがる」
一「咲ちゃんと衣はさっきのアレの後なのにね」
玄「ロビーで終わるのを待ってたらいきなり停電して、何事かと思いましたよ……」
智美「まさか本当に停電を起こすとはなー」ワハハ
佳織「笑い事じゃないよ智美ちゃん。竹井さんがお菓子で釣って卓から引き離したからいいものの……」
憧「ペースメーカー入れてる人とか居ないでしょうね? 氏ぬよマジで」
穏乃「うー……混ざりたかったなあ」
透華「アレを見てそう言えるというのは大物ですわ。それにしても非常識な麻雀を打ちますわね、あの二人は」
一「あのレベルの人間だけで卓を囲めばまともな勝負になるんだろうけどね。運の差って相対的なものだから」
灼「まともな人間があそこに紛れ込んだら一巡目で九連のダブロンとかあり得ると思……」
佳織「天江さんは九連があんまり好きじゃないからそれはないと思います」
桃子「私なら消えて難を逃れられるっすよ」
憧「そういう問題じゃないっての。てゆうかモモ、いつから居たの?」
桃子「最初から居たっすよ!!」ムキー
晴絵「ところで、蒲原さんは三年組に混ざらないのか?」
智美「ん~? なんか真面目な話っぽい雰囲気だったし、パスだなー」ワハハ
晴絵「部長としてそれはどうなんだ……?」
智美「そういうのはゆみちんにお任せだぞー。私は報告だけ聞いて『それは大変だなー』って笑うのが仕事だからなー」
晴絵「さいですか……」
425: 2015/08/26(水) 18:39:22.37 ID:K2H2anh+0
【夕刻 関東某所】
咏「うひょー! 絶景絶景、見てみてえりちゃん!」ピョンピョン
えり「観覧車で跳ねないでください。咏さんは軽いからいいですけど」
咏「ちっこいって言うなー!」
えり「言ってません!」
咏「ふむ、今日一日で大分ノリが良くなったねぃ。しらんけど」
えり「丸一日ネタ振りされて、反応できなかった拗ねるというのを繰り返されれば、流石に……」
咏「個人戦の実況もこの調子で頼むよー」
えり「仕事とプライベートは別ですから。いつもどおりにやらせていただきます」
咏「ぶーぶー!」
えり「ごねてもダメです」
咏「まあ、お堅いえりちゃんが真面目に仕事してる中でポロッと見せる親しさっていうのも需要はありそうだねい……しらんけど」
426: 2015/08/26(水) 18:40:06.01 ID:K2H2anh+0
えり「……」
咏「ん? どしたの?」
えり「明日の決勝、大丈夫なんでしょうか……?」
咏「……少なくとも、今日と同じことは起きないはずだよ。決勝じゃやった瞬間に負けだからね」
えり「……では、今日以上に選手の心を折るようなことが起きないと言えますか?」
咏「起きない、とは言えないね。何が起きるかなんてわかんないし」
えり「……咏さんに『起きない』と言ってもらえれば安心できるんですけどね」
咏「それは、あたしが嘘を言わないからこその信頼だろ。気休めのために嘘を言ったら次からその信頼が無くなるからね」
えり「……咏さんは、何が起きると思いますか?」
咏「さあねー。案外なんにも起きないで、普通にいい試合して終わりかもよ?」
えり「……本気で言ってます?」
咏「わりとマジ。ま、実際どうなるかはわかんないけどね」
えり「そうですか……」
咏「あともう一個、こっちは断言できるんだけど……仮に何か起きても、大事にはならないと思うよ」
えり「……え?」
咏「だって、あの大会を勝ち抜いて決勝まで来た連中だぜ? ちょっとやそっとじゃ折れやしないって」
えり「……」
咏「あの子たちを信じて見守ろうよ。 どうせ、それしか出来ないわけだしね」
えり「……そうですね、きっと、大丈夫ですよね」
427: 2015/08/26(水) 18:40:59.07 ID:K2H2anh+0
【清澄高校】
マホ「照さんの必殺技が発動、相手は氏ぬ! です!」
ムロ「氏んではいないけど、これは酷いな……」
学食のおばちゃん「応援に来てる方のことも考えてほしいもんだね。先鋒の前半で終わらせるなんてさ」
ラーメン屋のおやじ「がっはっは、いいじゃねえか。飛ばして終わらせるなんて、俺は気に入ったがね」
おばちゃん「絶対にプラマイゼロになるって知ってなきゃヒヤヒヤもんだよ。しかし、こんなやり方があったんだねえ」
モブ「おーう、試合どうなってんだー!? そろそろ染谷さんとこのお嬢ちゃんの出番かー?」
ムロ「ああ、遅れて来る人もいるんだよな、当たり前だけど」
マホ「もう試合は終わりましたー!! 決勝進出ですよー!!!! また明日来てくださいー!!」
モブ「ああ!? もう終わっただあ!? ジョーダン言っちゃいけねえぜお嬢ちゃん!!」
モブ2「照ちゃんの試合まだやってるかー!?」
マホ「とっくに終わりましたよー!!」
一太「会長、もうちょっとこっちに気を使って下さいよ。どうするんですかこの状況……収拾つきませんって」
ムロ「あはは……頑張ってください」
マホ「愚痴ってないで、『祝・決勝進出』とかどっかに張り出して下さいです! 一々説明するの大変なんですよ!?」
428: 2015/08/26(水) 18:42:05.43 ID:K2H2anh+0
【阿知賀宿舎 穏乃・憧の部屋】
憧「……明日、打ちたかったね」
穏乃「うん……」
生返事ってことは、なんか考え事してるのかな。
話しかけないでおいてあげますか。
とはいえ、暇だから話しかけたわけだし、話さないってことになると私が暇なんだよね。
なんか暇を潰せるようなものあったかなー?
勝ち進んでる間は、時間があるなら麻雀の勉強しようってことになっていくら時間があっても足りない感じだったけど、負けちゃうとね。
どうせならさっさと家に帰っちゃえば何でもあるわけだけど、どうやら個人戦の終わりまで滞在するみたいだし、なんか時間を潰すものを用意しないとね。
滞在費に関しては、準決勝まで進んだことでまた寄付が集まったらしくて個人戦まで観戦しても大丈夫って言ってた。
やっぱりインターハイの注目度っていうのは凄くて、学校のホームページのアクセスが増えてるとも。
……そうだ、個人戦が終わるまで滞在するなら、一日二日ぐらい遊びに費やしたっていい。
せっかく東京に来てるんだから、奈良にはないものを堪能してもいいじゃない。
となれば、予定を立てないとね。
さーて、とりあえず行きたい場所の候補を出して、そこを回るのに必要な時間を見積もって……
穏乃「ねえ、憧?」
……っと、中断かな。まあ、別に急ぎの用件じゃないし。
429: 2015/08/26(水) 18:43:14.64 ID:K2H2anh+0
憧「ん? なに、シズ?」
ささっと思考を切り替えてシズと向き合う。
さて、どんな考え事してたのかな、こいつは?
穏乃「和を陰謀から救うためには、どうすればいいのかな?」
予想の斜め上の言葉が飛んできた。それは流石に全く予想してない。
私が矛盾を指摘しながら誤解をきっちり解いたはずなのに、まだ信じてたとは。
てゆうか、それを吹き込んだ福路さん本人ですら撤回して反省してたじゃん!?
憧「シズ、あんたが悩んでる間に私たちが助けたんだけど、気付いてなかった?」
もう誤解を解くのは不可能だと悟ったので『既に解決した』と刷り込むことにする。
ああもう、誰よ、この鳥のヒナみたいなやつに変なこと吹き込んだ奴は!?
穏乃「えっ!? も、もう大丈夫なの?」
憧「いや、あんた、咲や和があたしら待たせて何してたと思ってるの?」
穏乃「あ、と、取り込み中って、そのことだったのか……じゃあ、もう和は……」
憧「晴れて自由の身、陰謀なんてなかったみたいに元気に振る舞ってるわよ」
穏乃「良かったあ……」
まあ、勘違いだったわけだし、シズがトンチンカンなこと言ったらそのたびにフォローすれば大丈夫でしょ、多分。
マジもんのトラブルだったらちゃんと解決しないと後で地雷踏んだりするけどね。
穏乃「安心したらお腹空いて来た……」
憧「……あたしもう寝るわ、なんか一気に疲れが押し寄せて来た」ゲンナリ
穏乃「ラーメン食べたい! ラーメン!」
憧「一人で行ってk……って、そりゃ駄目か。我慢する気はない?」
穏乃「ない!!」キッパリ
憧「だよねえ。はあ……仕方ないなあ。太るからこの時間に食べたくないんだけど……」
430: 2015/08/26(水) 18:43:55.86 ID:K2H2anh+0
【宥・玄部屋】
宥「照ちゃん凄かったねー」
玄「照さんと咲ちゃんと天江さん……あの卓には入りたくないなあ……」
宥「玄ちゃんなら大丈夫だよ」
玄「無理。というか、お姉ちゃん。いつの間に照さんと下の名前で呼び合う仲に?」
宥「だって、『松実さん』だとどっちのことか分からないから……」
玄「ああ……咲ちゃんと私もそんな会話をしたような……」
宥「えへへ、真似しちゃった」
玄「真似されました」
431: 2015/08/26(水) 18:44:43.77 ID:K2H2anh+0
宥「……打ちたかったね、照ちゃん達と」
玄「私は打たなくて済んでほっとしてるけど……」
宥「玄ちゃん……?」
玄「正直、一日経っても、荒川さんと神代さん相手に何が出来るか考えつかないんだ。その上、照さんまで相手にするとなると……」
宥「……私たちが清澄と戦うなら、荒川さんと神代さんのどっちかは居なくなるよ」
玄「そうだけど……じゃあ何が出来るかって言うと……」
宥「何もしなくていいんじゃないかな?」
玄「……え?」
宥「もちろん、玄ちゃんはエースだから格下の相手には勝たなきゃダメだし、寺崎さんみたいな個人で全国上位の相手にも勝てちゃうからそういう発想はしにくいだろうけど……勝てない相手には勝たなくていいんだよ」
玄「勝たなくていい……? で、でも、それじゃ……」
宥「玄ちゃんは、負ける場合でも失点をすごく少なく出来るよね。ドラが、玄ちゃんの手牌以外には一枚も存在しないんだから」
玄「……荒川さんと神代さんはその限りではないけど」
宥「まあ、神代さんは反則だけど……荒川さんだってドラ暗刻が作れるわけじゃないし、照ちゃんも、玄ちゃん相手にドラを手に入れるのは無理だって言ってたよ」
玄「……」
宥「玄ちゃんが持ちこたえてくれれば、あとは私たちがどうにかする。そうすれば、戦えるんじゃないかな?」
玄「……」
宥「赤土先生の時もね、私は無理に勝とうとしなくても良かったと思うんだ。昨日の試合の灼ちゃんもそう」
玄「……」
宥「そう思うのは、昨日の試合の玄ちゃんを見たからなんだけどね」
玄「私……?」
宥「あれ? 分かっててやったんじゃないのかな? 勝てないなら、せめて失点を抑えようって思ってドラを切ったんだと思ってたんだけど……」
玄「あ、あれはそれ以外に手がないから仕方なく……」
宥「だから、勝てない相手には勝たないで最善を尽くせばいいんじゃないかと思うんだけど……『それ以外に手がないから』ね」
玄「……うう、反論出来ないけど、なんか納得いかない……」
432: 2015/08/26(水) 18:45:15.11 ID:K2H2anh+0
宥「てことは、玄ちゃんは勝ちたいんだね。あの三人に」
玄「……え?」
宥「だって、私、間違ったこと言ってないよね? 玄ちゃんも反論出来ないって認めてるし。 それでも納得いかないのは、勝ちたいからじゃないかな? 勝たなくていいっていうのを受け入れられないんだよね?」
玄「……勝ちたい?」
宥「……違うかな?」
玄「けど、あの三人相手に勝ち目なんか……」
宥「……玄ちゃんは、『勝てない』のは分かってるけど、それでも『勝ちたい』んじゃないかな?」
玄「……」
宥「……」
玄「……そうかもしれない。 私は、荒川さんや神代さんに、勝ちたい」
宥「いつか、リベンジしなきゃだね」
玄「明日というわけにはいかないのが残念なのです」
宥「負けちゃったしね」
玄「なのです」
433: 2015/08/26(水) 18:45:54.11 ID:K2H2anh+0
玄「それにしても、おねーちゃん、よくわかったね?」
宥「ふふ、だって私、おねーちゃんだから」
玄「……ずるいなあ、私はそこまでおねーちゃんのこと分からないのに」
宥「っていうのは半分嘘で、気付けたのは照ちゃんが言ってたからなんだよね」
玄「……?」
宥「『勝てない』って理解するのと『勝ちたい』って思って勝負するのは別だって」
玄「……一体なんの話でそんなセリフが出て来るのか気になりますが」
宥「物分りが良すぎるのも考えものっていう話、かな。玄ちゃんは物分りが悪くてお姉ちゃんは安心したけど」
玄「……やっぱり良くわからないけど」
宥「ところで、明日はどこを応援しようかな?」
玄「直接打った白糸台と永水、和ちゃんが居る上にここ数日やたらと縁がある清澄、大会前にSAで縁があって同じ関西勢の千里山……悩ましいのです」
434: 2015/08/26(水) 18:46:22.40 ID:K2H2anh+0
【晴絵・灼部屋】
晴絵「特に私を貶める必要のない場面でdisられたような気がする」
灼「ハルちゃんも? 実は私もそんな気が……」
晴絵「宥め……いかにも人畜無害ですって顔をしてなんて酷いことを……」
灼「なんで宥さん……? 関係ないと思……」
晴絵「……お前も、そのうちなんとなく発言者がわかるようになるさ」
灼「ただの被害妄想じゃ……」
晴絵「くそおおおおおお!!! 宥うううううう!!!」
435: 2015/08/26(水) 18:46:53.29 ID:K2H2anh+0
ガチャ
宥「よ、呼びましたか……?」ブルブル
玄「隣まで聞こえる大声だったのです」
灼「な、なんでもな……ハルちゃんちょっと具合が悪いみたいで……」アセアセ
ガチャ
憧「ハルエー、シズがラーメン食べたいってうるさいからちょっと近場の店行って来るねー」
穏乃「えー? みんな居るんだし一緒に食べよう!」
玄「この時間の間食、しかもラーメンとなると流石に……乙女として厳しいものが……」
宥「私はいいよー、ラーメンってあったかいよね」
灼「私も別にかまわな……」
玄(「胸だけに脂肪がつく人間」と「いくら食べても太らない人間」の二大乙女の敵が目の前に!? い、いや、前者は私にとっては保護すべき対象ですが、しかし……)
晴絵(宥は体温が高いからエネルギーの消費が激しいだけ、穏乃は走り回って消費してるだけだ。敵は憧と灼、やれるな玄?)
玄(やりませんからね!?)
461: 2015/09/02(水) 16:14:10.27 ID:bnokB1V/0
九連のダブロンはないですね。九連と国士あたり……だと妹尾さんのセリフがおかしくなるんでその辺見なかったことにしてください。
462: 2015/09/02(水) 16:15:52.80 ID:bnokB1V/0
【控室】
まこ「到着、じゃな」
京太郎「相変わらず広い部屋ですね」
優希「これだけ広ければタコスの屋台を呼べるじぇ!!」
京太郎「屋内に屋台を呼んでどうする?」
優希「無論、食う!!」ドーン
咲「や、屋台を食べるの……?」
照「片岡さん、なかなかワイルド……」
和「優希、変なものを食べるとお腹を壊しますよ?」
優希「食べるのはタコスに決まってるじょ!? ポンコツ二人はともかくのどちゃんまで!?」
京太郎「順調に毒されてきてるな」
久「あんたらこんな日でもマイペースねえ。インハイの決勝なのよ? 少しは緊張とかしないわけ? 私は照を全面的に信頼してるから大丈夫だけど」
咲「どうせお姉ちゃんが一人で終わらせますし」
照「どうせ咲と竹井さんがどうにかするし」
まこ「おんしらが勝手にどうにかするじゃろ、わしはいつも通り打つだけじゃ」
和「私がやることはいつもと同じですから」
優希「皆なら大丈夫だじぇ!!」
京太郎「他人任せじゃないのが和しかいねえ……優希はまあいいとして、大丈夫なのかこいつら……」
久「じゃあ、行きましょうか。照、準備はいい?」
照「……着いたばかりなんだけど。流石にまだ早くない?」
久「少しぐらい、寄り道しましょうよ」
照「……ま、少しぐらいならいいか」
463: 2015/09/02(水) 16:17:32.47 ID:bnokB1V/0
【千里山】
セーラ「大会前に、誰が決勝のこの組み合わせを予想できたやろな?」
怜「白糸台は鉄板やろ。永水も、うちらや姫松が来なければ順当。基本はシード四校。そこからうちらや姫松をどこに入れるかって形なら三校は予想できたやろな」
雅枝「大会の組み合わせが決まった時点でも、ほとんどの関係者が白糸台、永水、臨海の三校に、二回戦で当たったうちら三校のどこが食い込むかって予想やったな」
泉「……実際には、こっち側のブロックは全部あいつらに喰われましたけどね」
浩子「あっち側でもどうだったか。白糸台なんかは昨日も一軍が遅くまで集まってたそうや。相当警戒しとるんやろ」
雅枝「遅くまで集まってたってことは、対策が出来とらんってことや。あいつらが向こう側におったら、白糸台すら喰われてたかもしれん」
怜「ま、でも、うちらも負けに来たわけやない。あいつらと二回も手合せしとるんや、一番戦いやすいのはうちらやで」
セーラ「二回打ったんは怜だけやけどな」
怜「二回目は圧勝したったわ」
竜華「マジもんの圧勝やったからなあ……数字の上でも牌譜見ても。他人から見る限りでは、な」
怜「……ま、心配しなさんな。こちとらあいつらが小三の頃から北大阪代表やっとる名門や。ニワカは相手にならんよ」
セーラ「今年の春からレギュラー入りしたニワカエースが何か言っとるな?」
竜華「う、うちも小三の頃から怜に膝枕しとるんやで!! ニワカは相手にならんわ!!」
怜「いや、はじめて会ったの中学やろ」
竜華「じゃ、じゃあ中三の頃から膝枕しとるんや!! ニワカは相手にならんわ!!」
怜「それはそれで中学入ってから二年間なにしとったんや!? なんで三にこだわんねん!?」
セーラ「おれは高三の頃から怜のライバルやっててん。ニワカは引っ込んどれや」
怜「それごっつ最近やんな? まあ、私がセーラのライバルになれたんが最近ってだけやからセーラはニワカとちゃうけど」
泉「う、うちも高三の頃から園城寺先輩の後輩やってますんで!!」
怜「ついに未来まで来たか、感慨深いな。 そして今のお前はなんや? 後輩と違うんか?」
浩子「では、おばちゃん、締めてください」
雅枝「うちは四十三の頃から千里山の監督をしてる。 せやからお前らのことはみんな知っとる。 お前らなら勝てる。 自信を持って行って来い!!」
怜「洒落かどうか分かりにくいライン攻めんなや! っていうか40代でその顔も大概反則やんな!? どんだけ若作りやねん!?」
464: 2015/09/02(水) 16:18:03.39 ID:bnokB1V/0
『今夜もお送りしております、ふくよかじゃない福与恒子と!!』
『すこやかじゃない……ちょっと待ってこーこちゃん!! これ、その番組じゃないよ!?』
『おっといけね、他局だった?』
『他局の番組ではないけど……』
『まあ、何はともあれ始まりました! 今日はインハイの会場からお伝えするぜー!!』
『今日は、じゃなくてインハイ特番だから!! これっきりだから!!』
『え? 個人戦もあるでしょ?』
『分かってて言ってるのって、すごく悪質じゃないかな!? てゆうかそれはそれで「今日は」っていうのおかしくない!?』
『さすがアラフォー、ツッコミが細かい!!』
『アラサーだよっ!!!! ってなに言わせるの!!?』
『っしゃあ!! すこやんの失言もバッチリ引き出したところで選手紹介だあああ!!!』
『毎回失言してるみたいな扱いやめてよ!! っていうか、失言引き出してテンションあげないで!!!』
465: 2015/09/02(水) 16:18:39.84 ID:bnokB1V/0
『まずはこのひと、千里山女子の大エース、園城寺怜!! 準決勝ではまさかまさかの30万点近い点棒をかき集めました!!』
『圧倒的な展開でしたね。もっとも、園城寺選手の力だったのかどうかは疑問が残りますが』
『準決勝では隠されたその実力がついにベールを脱いだああああ!! 決勝ではチャンピオンをも蹂躙するのか!?』
『あの、こーこちゃん、話を聞いてね?』
『彼女の真の実力を目の当たりにして辛くも生き残った清澄高校宮永照選手、一夜でその対策を練ることを強いられたチャンピオンと神代選手!!』
『あ、あのね、こーこちゃん、準決勝では宮永さんがサポートをしていた節があってね……』
『突如現れた、東風で20万点を獲得する怪物!! 彼女に対して、他校は一体どう立ち向かうのか――――!!?』
『話を聞けええええええ!!!!!』
466: 2015/09/02(水) 16:19:40.10 ID:bnokB1V/0
やえ「ま、数字だけ見たらそういう評価も出るだろうな」
紀子「それにしてもこの二人、急激に漫才コンビ化が進んでいる」
由華「丸瀬先輩がそれを言いますか……」
やえ「おい、巽。それは紀子と誰かしらが漫才コンビ化しているという意味だと思うが、相方は誰だと言うんだ?」
良子「そりゃ、他に居ないだろ?」
やえ「上田はその目障りな髪を切ってから発言しろ」
紀子「レアとミディアムとウェルダン、どれがいい?」
良子「ちょっ、それは酷くないかやえ!? そして何の話だ紀子!?」
紀子「……火葬場での焼き加減」
良子「髪切れって発言からなにもかも飛び越えて唐突に焼かれるの!? てゆうかそれでレアってダメだろ!? むしろミディアムもヤバいだろ!!」
紀子「骨を無事に残すか、骨も焦がすか、骨すら残さず焼き尽くすかだから大丈夫」
良子「氏体がなければ完全犯罪も夢じゃないっ!! どこの火葬場でウェルダンのサービスやってるんですかねえええええ!!!?」
日菜「……この組み合わせは元々漫才コンビだけど」
由華「先輩とも漫才が増えてますからね」
やえ「心外だ、ツッコミとツッコミでは漫才は成立しないだろう」
良子「ノープロブレム、小走さんはボケもこなせます」
はやり「おはやや~☆」
やえ「戒能プロ、お願いですから帰ってください。瑞原プロはまだしも」
良子「ホワイっ!? 何ゆえはやりさんはオーケーで私はアウトなんですか!?」
日菜「良子ちゃんと区別がつかないので……」
良子「ノー!! 口調も見た目も全然似てないでしょう!?」
由華「メタ的な事情がありまして……」
はやり「てゆうか、来てることには突っ込まないんだ☆」
やえ「あんたら帰ってないだろうが。昨日はここに宿を取っただろう? 荷物を取りに行ってないということは、その前から居るな?」
はやり「あちゃ、バレたか☆」
467: 2015/09/02(水) 16:20:30.31 ID:bnokB1V/0
『いつも二人で会場に向かう三年生の仲良し二人組!! 清澄高校の先鋒は宮永照うううう!!!』
『宮永選手への指示は試合を左右しますからね。宮永選手の調子や狙いの確認など、ギリギリまで話し合っているのではないでしょうか?』
『今日は最強の敵と再び相見える宮永選手!! 準決勝での経験を生かして、チャンピオンや神代選手を加えた面子でどのような戦略を持って挑むのか!?』
『いや、だからそれは……もういいや。非常に高い実力を持つ選手です、どんな相手でも一定以上の成果を残せるでしょう』
『すこやん相手でも?』
『……やってみないと分からない程度には、彼女は強いと思います』
『うおおおおお!! 小鍛冶プロから自分と同格との評価が出ました! これは期待できるぞ―――!!』
『同格とは言ってないよ!! 一定の成果を残すだけだから私は流石に勝つよ!!』
『あの小鍛治プロが若い選手に対してライバル心むき出し!! 何故、それほどの逸材がこの大会まで埋もれていたのか――!?』
468: 2015/09/02(水) 16:21:14.47 ID:bnokB1V/0
久「で、どうなの、調子は?」
照「……まあ、悪くはないかな。調子自体はむしろいい方だと思う」
久「プラマイゼロのほうは?」
照「……多分だけど、制限つきでトップは取れると思う」
久「完全に解けたわけじゃないのね……で、制限って?」
照「プラマイゼロの時と同じ。自分の点数は29600~30500にしか出来ない。ただし、トップは取れる」
久「……改善はしてるってことか。しかし、また不便な話ねえ」
照「改善してて制約が残ってるってことは、完全に制約を除く時のハードルが上がったっていうことだね。今回使った手は使えないし」
久「次は飛ばして終わらせるわよ。首でも洗って待ってなさい」
照「……うん、待ってる」
久「嬉しそうに言っちゃってまあ……私にあんたを倒せってのは荷が重いんだけど」
照「でも、挑んでくれるでしょ?」
久「……下準備はさせてもらうけどね」
照「長い下準備だったよね。半年以上音沙汰なしだったし」
久「あれは挑む口実が無くなっただけよ。図書室も使わなくなるし、挑んでほしいならもう少し隙を見せてほしかったわね。変なとこだけしっかりして……」
照「毎回本を貸し切るのは大変だと思って気を利かせたのに……」
久「余計な気を回さなくていいの。こっちが勝手にやってるんだから」
469: 2015/09/02(水) 16:21:51.28 ID:bnokB1V/0
『そして、挑戦者たちを一足先に対局室で待ち受けるのは、昨年度のインターハイチャンピオン!! 荒川憩!!』
『今日は随分と早いですね。比較的早めに対局室に来る選手ではありますが』
『何か理由が?』
『特になにかあるというわけではないと思います。性格的なものでしょう』
『ちなみに小鍛治プロはどうですか?』
『わ、私はギリギリに入るかな……』
『なるほど、真打は後から登場すると?』
『というわけでもなく、開始までの待ち時間が苦手で……』
『なるほど、人見知りのせいで婚期だけじゃなく対局室に入るのも遅いわけですね?』
『婚期の話はなんの関係もないでしょ!!! そろそろ怒るよ!?』
『お母様にも、たまには男を連れて来いって釘を刺されて……』
『プライベートの話をするなあああああああ!!!!』
470: 2015/09/02(水) 16:22:40.72 ID:bnokB1V/0
憩「園城寺はん、お久です~」
怜「荒川さん、相変わらずけったいな麻雀打っとるらしいな~」
憩「そっちも相変わらず妙な手順連発しとるやないですか」
怜「うち、病弱やから……」
憩「園城寺さん……って、関係ないやろ!!」
怜「ナイスツッコミや」
憩「病弱ネタ卑怯ですわー」
怜「看護のアルバイトしとるんやったっけ?」
憩「最近は出来とらん上にボランティアですけどね。病弱設定と白衣の天使設定って相性完璧やん?」
怜「設定やなくて割とマジで体は弱いんやけどな。しょっちゅう検査入院しとったし」
憩「いやいや、それ引っ張らんでええんで」
怜「いや、これマジや」
憩「……失礼しました。そんな風には見えんかったんで」
怜「それは嬉しいな。みんなに色々してもらったから、病弱そうって言われるより、そうは見えんって言われる方が嬉しいわ」
憩「……そんなもんですかね?」
471: 2015/09/02(水) 16:23:26.27 ID:bnokB1V/0
バタン
照「……結構早いつもりだったんだけど、もう二人も来てる」
怜「……どうも」
照「……昨日は、ごめんなさい」
怜「昨日も言ったけど、私が弱いのが悪いんやから仕方ない」
照「……今日は、あんなことにはならないと思うから」
憩「同じことやったら負けですからね、流石にやらんと信じてますよ」
照「……」
憩「ん? うちの顔になんかついてます?」
照「……荒川さんは、私のこと、何か聞いてる?」
憩「……それ、対局前に聞かれるとは思いませんでしたわ。うちの答え次第では変に動揺してしまうんやないですか?」
照「……てことは、何か聞いてるんだ?」
怜「ん? あ、そう言えば白糸台の監督って苗字が……」
憩「娘さんやってのは聞いてますよ。それ以上は終わってからってことでどうですかね?」
照「つまり、それ以上を聞いてるってことだよね……うん、それでいい」
怜「なーんか複雑な事情がありそうやなあ……ま、私は麻雀打つだけやけど」
472: 2015/09/02(水) 16:24:07.98 ID:bnokB1V/0
『そして、最後に悠然と対局室に向かうのは永水女子のエース、神代小蒔選手です!』
『彼女はスイッチが入った時の神がかった闘牌が印象的ですね、かなりの特訓をしたのか、地力も春の大会の時よりかなり上げているようです』
『準決勝ではチャンピオン相手に一歩も引かない見事な闘牌を見せました!! 今回はどうか――!?』
『間違いなく、準決勝以上の闘牌を見せてくれるでしょう。期待していいと思います』
『最強のエース園城寺怜を筆頭に、その園城寺怜相手に準決勝をプラスの成績で戦い抜いた宮永照、インターハイチャンピオン荒川憩、そしてチャンピオンと互角の実力を持つ神代小蒔の三人が挑みます!! この決勝、エースの集う先鋒戦は非常にレベルの高い卓になりました!!』
『あのね、こーこちゃん、CM入ったらちょっとお話ししよう? これ結構重大なことだから』
『すこやん……私、アラフォー狙いの知り合いは居ないから、紹介はしてあげられないんだ』
『何の話だと思ってるの!?』
473: 2015/09/02(水) 16:24:40.46 ID:bnokB1V/0
起家 小蒔「……」
南家 怜「よろしゅう」
西家 照「よろしくお願いします」
北家 憩「ほな、はじめましょ」
474: 2015/09/02(水) 16:25:20.96 ID:bnokB1V/0
東一局
怜(この局、宮永さんも荒川も様子見や……しかし、様子見とかそんなの関係ないのが紛れとるな?)
怜手牌
134588m2467p北白中
小蒔「……」ゴゴゴゴ
怜(最初から全開は想定の範囲内として、なにをやって来るかやけど……小走さんの仮説が正しければ、アレが来るんやろな)
小蒔「……」タン
打:2s
怜(索子が出たか……それっぽいな。分かっててもどうしようもないっちゅうのは堪えるわ)
ツモ:2m 打:北
475: 2015/09/02(水) 16:25:49.30 ID:bnokB1V/0
小蒔「ツモ。6000オール」
1223345678889s ツモ:9s
照「……」
ゴオオオオオ
憩(……宮永さんか。監督に聞いてはおったけど、実際にやられてみると気分のええもんやないな、これ)
怜(……さて、隠しとってもバレてしまうんやろか?)
小蒔「……」
照(……マジで? 神代さん、それは反則じゃない?)
476: 2015/09/02(水) 16:26:56.79 ID:bnokB1V/0
久「今回の神代さんは、準決勝より大人しいのね?」
まこ「そうじゃの、もちろん非常識には変わりないが、準決勝のアレやコレよりはマシじゃ」
優希「流石にもうあれ以上はないみたいだじぇ」
京太郎「一安心、なのか?」
和「毎回役満確定、それもドラ20だったり、大三元か大四喜、最低でも四暗刻がつくなんてイカサマより上があってたまりますか」
咲「……残念ながら、あるみたいだよ?」
久「……どういうことかしら?」
咲「見れば分かると思いますけど、あれは多分、一種類の数牌を独占する能力です。つまり、準決勝のアレやコレより強い」
京太郎「『つまり』がその前と繋がってないんだが……」
咲「準決勝の能力、前半はドラ独占、後半は8種類の公九牌しか引かない能力だったよね?」
京太郎「ああ、どっちも事実上役満確定の酷い能力だったと記憶してる」
咲「少なくとも、守備面ではこっちの方が明らかに強いのは分かる?」
久「守備……ドラ独占は、相手の打点こそ下がるものの、守備は不自由よね」
まこ「後半の能力は守備もほぼ鉄壁じゃが、不要な端牌を切って直撃を喰らう恐れは一応あるのう」
咲「その点、これは完全に一色を独占してしまうので、直撃は絶対にありません。1と9を独占するので国士もないです」
京太郎「なるほど、絶対に破れない完全な防御ってわけか」
477: 2015/09/02(水) 16:28:36.82 ID:bnokB1V/0
優希「けど、他の能力でも振り込みはほとんどなかったじぇ? もともと鉄壁なのを強化してもそんなに強くはならないじょ」
和「そうですね。もともと鉄壁なら期待値の上昇は微々たるもの、そこで攻撃力を見るとやはり……あれ?」
まこ「それに、一色を独占したら他家も染め手が作りやすい。下手すると周りの打点が上がる分だけ守備も弱くならんかの?」
咲「いえ、ある理由により、打点が上がっても他家の攻撃力は下がります。そして、同じ理由で攻撃力もこっちの方が高いんだよね。相手次第ではあるけど」
まこ「いやいや、意味が分からんぞ? 打点が上がって攻撃力が下がり、打点が下がって攻撃力が上がる? 哲学か?」
久「……まこ、攻撃力って何かしら? 平均打点=攻撃力なのかしら?」
まこ「そ、そりゃあ……お前さんを見れば和了率も重要なのは分かるが……」
咲「だから、『相手次第』。ドラ独占なんかは和了るのに10巡以上かかったりするけど、それでも和了れない相手なら、攻撃力はドラ独占の方が高い」
久「けど、照や荒川憩を相手にするなら、10巡もかかっていてはほとんど和了は望めない。この面子なら、この能力の方が攻撃力は高いわね」
京太郎「さらっと言ってますけど、10巡前後で絶対和了れるなら、大抵の局は和了れるはずですよね?」
和「(無視)……9種類の数牌をランダムに引いていく……これ、速度が恐ろしいことになりますね」
咲「四暗刻を目指すにしても、後半の能力と一種しか変わらないから役満は依然として作りやすい。そして、刻子以外使えなかったのが、順子も使えるようになる」
京太郎「(無視されても泣かない)当然、和了りは早くなるってか」
咲「しかも、常に清一色がついてくる。打点が下がったって言っても最低点が12000。ツモ以外の役が一つでもつけば倍満。ぶっちゃけるとリーチをかけた時点で倍満確定」
まこ「……独占しちょるけえ、鳴くこともない。そしたら鳴きで清一色が5翻になることもないんじゃな? なるほど、こりゃ大したもんじゃ」
咲「赤も使えますし、萬子がドラになればドラも使えます。さっき言った通り四暗刻もありますし、平均打点は相当高いはずです」
久「放銃率は0。和了率が高いからツモの失点もほぼゼロ。一局当たりの収支の期待値は20000点を少し超えるぐらいかしら?」
優希「……一局あたりっておかしくないか?」
咲「北家の薄墨さん相手に連荘するとその局の期待値がマイナスとかいう話もあったからね。一局あたりの期待値を考えるのはおかしくないよ」
京太郎「一局当たりの期待値そのものじゃなくて、それが20000を超えてるのがおかしいってことだと思うんだが……」
咲「アレを相手に周りが普通に打ったらそれぐらいになるよ。ただ、こっちも普通じゃないからそうはならないけど」
まこ「そうじゃのう。なにせ、あの卓には……」
『ツモ、400・600』
478: 2015/09/02(水) 16:30:09.11 ID:bnokB1V/0
『宮永選手が神代選手の親倍を蹴り飛ばした――!! 伊達に修羅場はくぐってないぞ――!!』
『流石ですね、全体の状況をよく見ています。手を下げていますが、ミスではないでしょう』
『え? 打点下げてた?』
『ツモのみの和了りでしたが、5677の4ー7索待ちから7を引いて6切りでピンフを崩しています。ツモ切りなら次順で荒川さんから4索を直撃出来ていました。このような手牌で役なし聴牌に取るのは通常ありえない打ち方です』
『てことは?』
『おそらく、手を下げたのは他家への被害を最小限に留めるため。直撃を避けたのは、荒川さんからマークされるのを避けたのだと思います』
『その心は?』
『神代選手に対しての共闘を呼びかけているのだと思います。荒川選手も園城寺選手も高レベルな選手ですから、河を見ればそれに気付くでしょう』
479: 2015/09/02(水) 16:30:56.67 ID:bnokB1V/0
雅枝「と、解説は言っとるが、園城寺は大丈夫か?」
浩子「気付きますね。一週間も前やったら怪しいもんですけど、今の園城寺先輩なら確実に気付きます」
セーラ「で、気付いたとして、怜はどう出るんや?」
浩子「『サポートするっちゅうならされてやる、サポートしろって言うならもうちょい様子見させてもらうで』ぐらいとちゃいますかね?」
泉「めっちゃわがままですやん」
浩子「勝負事は自分に有利に進めるもんやろ。自分にメリットのない取引には乗らん」
竜華「で、荒川は?」
浩子「無視でしょうね。宮永照が最優先のはずや」
『ツモ、500・1000』
セーラ「早っ!?」
浩子「今の神代小蒔より早く和了るってだけでも十分すぎるほど人外です。トビ終了アリでまともに打ったら半荘何回か打って誰かが一回和了れればいい方。それをあっさりやってのける」
雅枝「まさに規格外の化け物やな。最優先で警戒するのも当然か」
浩子「宮永が共闘のために動けば動くほど、ヤバいのは神代よりも宮永やっちゅうのが見えてしまう。ただ、ある条件を考慮に入れると、その化け物と共闘する選択肢が有力になるわけやけど」
480: 2015/09/02(水) 16:32:08.23 ID:bnokB1V/0
東三局
怜(……まあ、結論から言うと、私は宮永さんと共闘するべきって話になるわな)
怜(今『視え』てしもたもんがあまりにもショックすぎて激萎えやけど、それはそれとして今やるべきことや)
照「……」
打:東
怜「ポン」
134466s228m西西 ポン:東東東
打:8m
照「……」
打:2m
怜「ポン」
ポン:222m 打:1s
照「……」
打:6s
怜「ポン」
ポン:666s 打:3s
照「……」
打:西
怜「ロン。5200」
44s西西 ポン:東東東 222m 666s ロン:西
481: 2015/09/02(水) 16:33:25.50 ID:bnokB1V/0
久「ん~、まあ、仕方ないのかしら?」
咲「……あの、これ、プラマイゼロでも狙ってるんですか? まさか、プラマイゼロの制約が残って……でも、これは?」
久「鋭いわね。実は、何か中途半端に制限が緩和されててね、トップは取れるけど25000持ちの半荘で見た場合に30600以上は取れないって」
咲「……それ、トップを取ろうとしたら自分以外誰も三万を超えないロースコアゲームにするしかないですよね? そうか、それで……」
久「最低でも跳満を和了る上に超高速で仕上げてくる化け物と最低5200で超高速で仕上げてくる化け物が同卓してるから、ちょっと厳しいのよね」
優希「……厳しいっていうか、絶望しかないじょ」
京太郎「てことは、照さんは全体の点数を平たくしようとしてるのか?」
咲「そう。そして京ちゃん、この状況から神代さんを三万未満まで引きずり下ろすってことがどういうことか分かる?」
京太郎「……なんかあるか? 神代さんは最初に親で跳満を和了って43000、そのあと少し削られて、今は41900だな。照さんなら親満直撃で簡単に……」
和「ダウト。咲さんの見立てでは神代さんは一色を独占するのらしいので、直撃は【不可能】です」
京太郎「……てことは?」
咲「ツモって削り落とすしかない。ただ、自分だけがツモって神代さんを削りきると今度は自分が30600を超えちゃう」
まこ「要するに、いつもやっちょる点数調整のための差し込みか」
咲「いえ、いつもならする必要のない差し込みです。これは、トップを取るための差し込み」
久「様子見のための一局で6000オールを和了られたのは痛かったわね。【直撃困難】なら無理やりにでも直撃するでしょうけど、【直撃不可能】だからね」
咲「別にトップにこだわらなければ神代さんにトップ取らせて終わってもいいんですけど……」
久「それはないわね、だってあの子……おっと」
『ロン、3900』
482: 2015/09/02(水) 16:34:59.11 ID:bnokB1V/0
京太郎「二連続で園城寺さんに差し込み……」
咲「サポートする際の席順の都合もあるけど……荒川さんの親番、流しちゃうんだ?」
優希「インターハイチャンピオンだから流石に親番は危険ってことじゃないか?」
咲「今は大きくへこんでるんだから、親の荒川さんに和了ってもらう方がいいはずだよ。点数調整に使える局数は多いほうがいいし、なるべく全体を平らにしたいからへこんでる人に和了ってもらいたい。むしろ、お姉ちゃんがトップを取るためには、一度は満貫以上の手を和了ってもらわないと困る」
和「……あの、変なことを聞きますが……照さん、トップを取れるようになったせいで逆に制約が増えてませんか?」
咲「なかなか鋭いね和ちゃん。もちろん、トップを取ることにこだわらなければ制約は減りこそすれ決して増えてはいないんだけど……」
まこ「じゃが、トップを取ることにこだわっとるように見えるな」
京太郎「……なんでですかね?」
咲「理由なんか要るかな? 麻雀を打って、トップを取ることが出来て、それならトップを取りたいって思うのは、理由が必要なことかな?」
久「トップを諦めるのに理由は必要だけど、トップを狙うのに理由は要らないわよね。まあ、理由らしきものもなくはないけど」
京太郎「……その、理由らしきものっていうのは?」
久「あの子、ポンコツとかプラマイゼロとか変なとこばっか目立って気付かれにくいみたいだけど、これに関しては咲よりタチが悪いのよね」
咲「私がタチが悪いみたいな言い方はやめて下さい。で、なんだっていうんですか?」
久「簡単よ、あの子、氏ぬほど負けず嫌いなの」
483: 2015/09/02(水) 16:35:45.66 ID:bnokB1V/0
『ツモ、3000・6000』
まこ「跳満か、普通に考えたら大きな手なんじゃが……照さんじゃと物足りん感じがするの」
咲「……神代さんの親番で全力で削りに行ったはずですから、なるべく高い手を狙うのは当然です。でも、これが限界だったと考えると……」
京太郎「永水女子のエースは伊達じゃないってことか」
咲「……ううん、今回は神代さんじゃない。荒川さんが次で安手をツモるからここで和了るしかなかったんだと思う」
久「たしかに、ペンチャン待ちで役なし聴牌してるわね。珍しくリーチしなかったみたいだけど」
優希「なんでリーチしなかったんだじょ?」
和「……照さんの聴牌気配を感じて、リー棒が無駄になると思ったのでしょうか?」
優希「ああ、なるほどだじぇ!」
京太郎「聴牌気配を感じるとか、何気なく言ってるけどそれ十分オカルトだからな?」
まこ「ん? それは分かるじゃろ? 河がほっといたら和了る顔するけえ」
京太郎「清澄の唯一の良心が、今、氏んだ」
優希「ま、まだ私が居るじぇ……」
京太郎「お前、さっき『なるほど』とか言って納得してたじゃねーか!!!」
優希「うぐっ!?」
484: 2015/09/02(水) 16:37:59.35 ID:bnokB1V/0
やえ「……荒川がリーチをしなかった、か。さて、どんな狙いがあるやら」
はやり「リー棒が勿体ないってだけじゃないかな☆」
やえ「いや、どうだろうな? 宮永照は共闘を呼び掛けているんだ、リーチをかけたなら和了らせてもらえていたかもしれんぞ?」
由華「ですよね。ということは、あいつは共闘しようと差しのべられた手を払いのけているわけで……」
日菜「そうする理由は、何かあるかな?」
やえ「私が持ち合わせている情報に照らし合わせる限りでは、何もない」キッパリ
由華「断言ですか……」
やえ「宮永照は自身でトップを取ることが出来ない。そして、神代小蒔のトップを拒絶して園城寺と荒川のどちらかをトップにしようとしている。ここまでは荒川も分かっているはずだ」
良子「それは小走さんぐらいしか知り得ないインフォメーションでは? 白糸台は彼女の能力を分析出来ていない可能性もあります」
やえ「それもない。その程度の奴なら、いくらインチキくさい能力を使うとはいえあれだけ勝ち続けることは出来ん。奴は能力の研究と対策も一流だ、宮永の能力については私と同等程度の考察は出来ているはず」
由華「宮永さんを敵に回せば、神代と、宮永さんのサポートを受けた園城寺さんを敵に回すことになります。トップどころか二位や三位も厳しいですよ」
やえ「その通りだ。利用できるものは利用する程度にはしたたかな奴だったはずだが、何を考えている?」
はやり「てことは、監督さんが何か吹き込んだのかな☆ 小走さんも知らない何かを、荒川さんは知ってる☆」
やえ「だろうな、でなければ説明できん。 そうだとするなら、あれを正当化する何かがあることを前提にそれを推測することが出来る」
由華「ちなみに、何があり得そうですか?」
やえ「どうだろうな……園城寺が言っていた『相手の打ち方を見抜く能力』があると仮定して、それを外すために『普段なら絶対にやらない打ち方』をしている、ぐらいか?」
良子「中学時代は可愛げがあったのになあ……いつから紀子はこんな風になってしまったのか……」
紀子「……そういえば、まだ火加減を聞いてなかった。レアとミディアムとウェルダン、どれがいい?」
良子「まだ引っ張るのかそれ!? てゆうか、今はお前の中学時代の話で……」
紀子「それ以上口を開くとウェルダンに自動的に決定する」
良子「横暴だ――!!」
やえ「……それにしても、あいつらまだ漫才やってるのか。仲の良いことだが、気が散るから余所でやってはくれないものか」
485: 2015/09/02(水) 16:38:53.89 ID:bnokB1V/0
南2局
照(……うーん、やりにくい。荒川さんは何がしたいんだろう?)
照(私の助力を拒否してメリットがあるとは思えないんだけど、なにか狙いがあるのかな?)
照(そして、園城寺さん。なにかやった?)
照(ツモが偏るとかそういう力じゃない。けど、途中から打ち方が明らかに変わった)
照(怖いなあ……成長速度が異常過ぎる。下手すると、この半荘の内にもう一度照魔鏡を使わないといけない)
照(荒川さんと園城寺さんで神代さんを抑えられるならそれもアリなんだけど……もう一度跳満でも和了られたらほとんど詰みだし、その余裕はないかな)
照(……今回は照魔鏡なしで打った方が良かったかなあ。神代さんが予想以上に酷かった、荒川さんまで様子見に回る東一局でフリーにしたのは大失敗)
照(それはそれとして、荒川さんにはそろそろ和了ってもらわないと……私が30500で神代さんと園城寺さんを揃って30400にするとしても、荒川さんには8700は持っててもらわないといけない。流石にそこまで調節するのは無理だから、現実的には10000点ぐらいは持っててほしいんだけど、荒川さんの点数は今の時点で15100……ツモでしか神代さんを削れない上に神代さんの親番はもうないから、ほとんど余裕はない)
照(……少し厳しいかな? せめて何を考えてるのか分かれば手が打てるかもしれないけど……)
486: 2015/09/02(水) 16:39:43.15 ID:bnokB1V/0
雅枝「どう読む、浩子?」
浩子「さて? 今となってはうちより園城寺先輩の判断の方が信頼できますからね」
セーラ「それはないやろ。フナQはまだまだ健在や」
浩子「うちが健在なのはそうやと思いますけど、園城寺先輩がアレを使えるようになったってことは、園城寺先輩は素の実力でもうちと同格以上の分析と対策のエキスパートになったってことですからね」
竜華「……力の大元の怜が進化したなら、うちの能力も進化したりせんかな?」
浩子「そのチートにこれ以上何を求める気ですか、ええ加減にせえやホンマに」
泉「船久保先輩、台詞の後半で本音が漏れてます」
浩子「おっと」
雅枝「荒川は何のつもりなんや? 宮永はあっさり神代を抑えてるように見えるが、実際楽に抑えられてるのか? 分かるか?」
浩子「園城寺先輩には力関係まで分かってると思いますけど、うちには荒川の思惑ぐらいしか分かりませんね」
セーラ「あ、そこは分かるんや?」
浩子「……ちょっと飛躍した推理ですけどね。そこまでする動機が最大の謎です」
雅枝「事実妙なことをしとるんや、動機はさておき、何をしようとしてるのかは把握したほうがええ。話してくれ」
487: 2015/09/02(水) 16:45:00.23 ID:bnokB1V/0
浩子「おそらくやけど……荒川の目的は、宮永照のプラマイゼロを破ることやと思われます」
雅枝「……は?」
浩子「少なくとも、この半荘での勝利を目指してはいません。 であれば、考えられる目的は神代小蒔の能力を打ち破ることか宮永照の能力を打ち破ること。打ち方からも人間関係からも、後者が有力と考えられます」
雅枝「……根拠を提示してもらおか」
浩子「勝利を目指していないというのは、さっきリーチをかけなかったことから明らかです。宮永が神代を削って他をトップにしようとしてるのは明らかなので、リーチをかけていれば和了らせてもらえた可能性が高い」
セーラ「ん? ちょっと良くわからんな? なんでリーチすると和了らせてもらえて、リーチせんとダメなんや?」
浩子「神代へのダメージです。自分で和了れば神代を6000削れる、荒川に和了らせれば場を平たくしながら親かぶりさせられますけど、リーチせんなら打点が期待出来ん。出来る事なら荒川に和了らせた方が良いとは言っても、500・1000とかで和了りを譲るぐらいなら自分で3000・6000を和了る方がええわけです。荒川はそれぐらいのことが分からん奴やない、分かっていてあえてそれをしなかったということになります」
雅枝「勝利を目指していないなら他に目的がある。しかし、それにしたって因縁のある神代小蒔との一騎打ちと考えるのが自然やけど……」
浩子「神代との一騎打ちにしては、おとなしすぎます。脇の二人を蚊帳の外に追いやって二人だけで勝負するみたいなんを目指すはずですけど、ここまで一切動きがありません。動きらしい動きがさっきの一局の『動かなかった』しかあらへん以上、それが目的とはちょっと考えにくい」
セーラ「……で、消去法で宮永照のプラマイゼロ破りが目的やって?」
浩子「実際、打ち方だけ見てもプラマイゼロ破りに思えます。ここまでの結果から察するに、今回宮永が望んどるのは、神代以外の誰かをトップにしての比較的僅差のプラマイゼロでしょうから、場を偏らせるために自分が沈むのはプラマイゼロ破りとしては悪くないでしょうね」
雅枝「……自分を犠牲にしてでも、プラマイゼロを破ることを優先しとるっちゅうわけか?」
浩子「まともな相手なら、思惑通りだろうとなんだろうと、自分を和了らせてくれるっちゅうなら和了ります。宮永照は今までそれを利用してプラマイゼロに向けた点数調整をしてきた。餌で釣って三人の対局者の誰かを動かし、餌を与える相手を変えたり、時には自ら和了ることでバランスを取っていたわけです」
竜華「けど、荒川はその餌を拒否したっちゅうことか……そうするとどうなるんや?」
浩子「これ、点棒を見れば宮永にダメージはないんですけど、プラマイゼロってことなら思惑が狂ってかなりのダメージになるんやないかと思います。荒川がリーチ一発ツモドラ1で2000・4000を和了れば宮永は2000点の点棒を失いますけど、プラマイゼロに向けた調整は予定通り進む。それを拒否して宮永に3000・6000を和了らせれば、点棒の収支は荒川が和了るより14000ほど宮永に有利ですけど、プラマイゼロを狙うに当たっては予定が狂って苦しくなっている」
雅枝「……なるほど。対策としては良く出来とるわけか……そんなら、仕込んだのはあいつやな」
セーラ「あいつ?」
雅枝「……娘相手に勝負捨ててまでこんなえげつない真似、ようするわ」
竜華「……監督、白糸台の監督と知り合いやったっけ?」
雅枝「小学生の頃から数えて、大会で何回当ったか覚えとらんぐらいには顔見知りや」
浩子「ちなみに対戦成績は……?」
雅枝「うっさい、聞くな!!! 洋榎と江口ぐらいや!!」
セーラ「それやったら怒らんでも……」
泉(調べたら8勝31敗とか出ました)
竜華(絶対口に出すんやないで。多分それ監督の最大の地雷や。打倒白糸台が目標やのに、一回も馴染みのはずの向こうの監督の話したことないんや、相当やで)
泉(中学二年あたりから大幅に負け越し始めて、高校時代は一回しか勝ってないです)
竜華(もうええ、黙れ泉! 監督に聞かれたら……)
雅枝「二条、麻雀の楽しさを忘れとらんか? 思い出せたろか?」ゴゴゴゴゴ
泉「ひっ!?」ビクッ
竜華「か、監督、泉はこれから次鋒戦が……」
雅枝「今見たものを忘れるか、記憶を全て失うぐらいのショックを受けるか、好きな方を選びや」
泉「わ、忘れます忘れます!! 忘れますんで勘弁してください!!」
488: 2015/09/02(水) 16:50:35.13 ID:bnokB1V/0
中途半端なところですが、今回は以上です。
次回は一週間後の予定です。
能力が全部公開されてる状態で山場とかどんでん返しを作るのって思った以上に難しいですね。
次回は一週間後の予定です。
能力が全部公開されてる状態で山場とかどんでん返しを作るのって思った以上に難しいですね。
489: 2015/09/02(水) 17:06:46.47 ID:5qs+zFGLo
乙です
490: 2015/09/02(水) 17:57:49.24 ID:NNCD9hmS0
コメントは節度を持った内容でお願いします、 荒らし行為や過度な暴言、NG避けを行った場合はBAN 悪質な場合はIPホストの開示、さらにプロバイダに通報する事もあります