151: ◆GBvfU6Ehuw 2012/02/13(月) 20:31:50 ID:ioRRW55gO
紬「えいせいほうそう!」

テレビを見ていました。
時代遅れのアナログテレビ。
もう映るはずなんてなかったのに。

それは四人の軽音部の話でした。
あとはその周囲の人々が少々。
いつも楽しそうで。
ほら、あの子が笑った。
なぜだか流れたその映像にわたしは心を奪われました。
でも、そこにわたしはいません。
あたりまえだけどちょっと悲しいなあ、なんて思ったりしちゃって。

わたしは、そんな風にしていつも彼女を待っていました。
こんこんこぉぉん。
ノックが3回。
それが合図でした。
けいおん!Shuffle 3巻 (まんがタイムKRコミックス)
152: 2012/02/13(月) 20:36:09 ID:ioRRW55gO

わたしは高校生になったのと同時に独り暮しをはじめました。
独り暮しといったって実家のちょっと隣の家を借りて住む、という感じです
別にたいした理由はありませんでした。なんとなく。
まあ、そんなものです。なんだって。

はじめて彼女に会ったのは引っ越して間もなくです。
さあさあ何しようかなあなんて、不意に見つけたアナログテレビ。
あ、でも地デジに移行しちゃったから点かないのかあなんて考えてたとき、ノックの音がしました。
こん。こん。こぉぉん。

153: 2012/02/13(月) 20:37:40 ID:ioRRW55gO

「NHKの集金に来ましたー」

わたしは警戒しました。
独り暮らしする前にお母様からNHKと宗教の勧誘(NHKは宗教だという意見もありますけど)だけには絶対に出るなと言われていたからです。
でも、そこまで言われるNHKの集金人がどんな人なのか気になったわたしは魚眼レンズからドアの向こうを覗きました。
驚きました。
NHKの集金人はいかつい怖い人かうるさそうなおばさんではないかとわたしは考えていたからです。
レンズの向こうにいたのはまだ女子高生くらいの女の子でした。

154: 2012/02/13(月) 20:39:24 ID:ioRRW55gO

紬「あのう……こんにちは」

油断したわたしはドアを開けてしまいました。

「こんにちは」

紬「えーと、あの?」

「え、ああわたしはりつっていうんだ」

紬「え?ああ、そうじゃなくてうちにはテレビがなくて……」

アナログテレビはもうNHKを受信できないはずです。

りつ「テレビがどうしたの?」

紬「え?」

りつ「え?」

紬「いやあの……」

わたしは困ってしまいました。

りつ「ごめんっ。わたし変なこと言った?」

紬「い、いえっ」

りつ「あのさ、ちょっと聞いていい?」

紬「え、はい?」

りつ「NHKって何するの?」

155: 2012/02/13(月) 20:42:13 ID:ioRRW55gO
紬「あ、あのっ。とりあえず上がります?」

りっちゃんは悪い人ではなさそうでしたし、はじめての来客でもあったので、家に上げてしまいました。
りっちゃんには適当なソファーに座ってもらい、わたしは紅茶を作って出しました。
りつ「ありがと」

紬「いえ」

りつ「あのさ、怒らないでくれよ?わたしはNHKの人じゃないんだ」

紬「あ、なんとなくはそう思ってました」
りつ「そっかあ。だよなあ」

紬「あの、なぜそんなことを?」

りつ「いやあその、まあ、な」

わたしは深くは聞きませんでした。
なんていうか、聞かないほうがいいような気がしていたのです。
変なことだとは思います。
でも、りっちゃんはなんだか寂しそうだったから――。

156: 2012/02/13(月) 20:44:21 ID:ioRRW55gO

紬「あの、紅茶飲んでもいいんですよ?」

りつ「え、ああさっきいっぱい飲んじゃったからお腹たぷんたぷんなんだ。ごめん」

なんだか押し付けがましかったかなあと言った後でわたしは思いました。

その後30分くらい話を、例えばわたしの前方の家が飼っている犬の話だとか、クッキーのおいしい焼き方の話だとかをして、りっちゃんは帰ってきました。

りつ「また来てもいい?」

紬「はい、どうぞ」

そういえば紅茶は最後まで飲まないままでした。

157: 2012/02/13(月) 20:51:54 ID:ioRRW55gO
それからわたしとりっちゃんはたびたび会うようになりました。
りっちゃんがやってくる時間はいつもぐちゃぐちゃだったけど、わたしは学校以外は家にいて、たいていりっちゃんと会うことができました。
りっちゃんについては相変わらずわけがわかんなかったけど、もうすでに悪い人かもしれないって考えはぜんぜんなくなっていました。
それになぜだか懐かしい気がしました。
どこかで見たような、そんな。
どこだっけ?

わたしは暇な時間に自分でお菓子を作ったりなんかして過ごしていました。
作ったお菓子をりっちゃんに食べてもらおうとしたこともありました。
でも、りっちゃんはいつもわたしの前では何も食べたり飲んだりしませんでした。

158: 2012/02/13(月) 20:56:00 ID:ioRRW55gO
そうやって三ヶ月ほどたったある日りっちゃんは言いました。

りつ「ムギは部活とか入んないの?」

紬「うん。実は入ろうとはしたんだけれど友達とかいなかったから、その、怖じ気づいちゃって」

りつ「そっか。何部?」

紬「軽音部よ」

りつ「へえーギターとかできるんだ?」

紬「ううん。実はテレビでやってたのに憧れたの」

りつ「なんかのバンドのライブ?」

紬「違うわ。不思議な話なんだけどつかないはずのアナログテレビにテレビに映ったお話なんだけど」

りつ「どんな?」

159: 2012/02/13(月) 20:58:04 ID:ioRRW55gO

わたしはその話をしました。
四人組の軽音部の話で、あんまり練習はしなくて、でも演奏するとすごくかっこよくて、わたしはその全部に憧れたんだと。
りっちゃんは寂しげな顔を見せました。

りつ「でも、やっぱ部活とか入ったほうがいいって」

紬「そうかしら」

りつ「だって、そのさ、話聞くとムギあんま家とか出ないんだろ。友達とか少ないみたいだし」

紬「それは……」

りつ「それに一番大事なこと言うけど……」

紬「なに?」

160: 2012/02/13(月) 21:02:52 ID:ioRRW55gO

りつ「やっぱやめた」

紬「ずるいわ」

りつ「だってムギ笑うもん」

紬「笑わないよ」

りつ「いやいやぜったい笑うー」

紬「笑わないっ」

りつ「笑うっ」

紬「笑わないっ」

りつ「笑わない」

紬「笑う……あっ」

りつ「な?」

紬「ずるいっ」

161: 2012/02/13(月) 21:05:17 ID:ioRRW55gO

りつ「よしっ、笑ったら?」

紬「ぶっていいわっ」

りつ「えー」

紬「ね?」

りつ「あのさ……わたし宇宙人なんだ」

紬「ぷっ……いたぁいっ」

りつ「ばか」

162: 2012/02/13(月) 21:06:34 ID:ioRRW55gO

りつ「でもマジなんだぜー。なんていうかさ宇宙人の幽霊って感じなんだ」

紬「ホントに?」

りつ「うん」

紬「ホントにホント?」

りつ「うん。わたしの星は衛星だったんだけどさ、いろいろあって壊れちゃったんだよね。こなごなに。それでわたしたちはみんなコールドスリープって言うの?半永久に眠ったまま宇宙をさまよってるんだ。今も」

紬「今も?じゃあ……」

りつ「わたしは夢を見てるんだ。あの機械の中で。最近それがわかってきたんだよ。わたしの夢はムギの現実なんだ。わかるか?」

紬「ううん。いきなりだからまだあんまり」

163: 2012/02/13(月) 21:08:08 ID:ioRRW55gO

りつ「だよなあ。ふつうわかんないよ。たださ、ムギがテレビで見た話ってのはわたしの記憶なんだ。そこはわたしもなんだかよくわかんないけど、そうなんだ。きっとこの場所に引き寄せられちゃうんだ。なんでか」

紬「そっかあ、りっちゃんの記憶なんだ」

りっちゃんは泣いているように見えました。
きっと強く思い出しちゃったんでしょう。
昔の記憶を。
わたしが話しちゃったせいで。

ごめんなさいは言えませんでした。
言ったってどうしようもなかったし、それを言うことでりっちゃんはまたさっきの話を思い出せなきゃだからです。

164: 2012/02/13(月) 21:10:17 ID:ioRRW55gO

紬「また来ていいのよ。わたしはかまわないから」

りつ「でも」

紬「それにうちにはテレビがあるし」

りつ「でもNHK受信してないだろー」

紬「でも、りっちゃんの記憶は受信してるわっ。だから取りにきてね」

りつ「わかったよ」

ほんとはもうテレビを点けても砂嵐しか映らなかったけど、
あの映像はわたしの中に決定的に残っていて、
忘れることはできないって思ってたからいいのです。

りつ「あ、そうそう。だからケーキは食べられなかったんだよ。
夢から覚めちゃうからさ」

そう言うとりっちゃんはケーキを口にしました。
そして、消えてしまいました。

165: 2012/02/13(月) 21:12:10 ID:ioRRW55gO

りっちゃんの強い勧めもあり、わたしは部活に入ることにしました。
軽音部です。
音楽室のドアを開けると三人の女の子が椅子に座っていました。

紬「あの、ここ軽音部ですか?」

唯「そうだよっ」

紬「わたし、琴吹紬っていうんですけど軽音部に入部したくて……」

律「マジで?」

紬「はい」

律「やったあっ!まさかだよまさか。なあ
澪「うん。ホントに?合唱部と間違ったりしてない?」

紬「あ、はいっ」

唯「よかったー」

みんな喜んでいてなんだか恥ずかしい。

166: 2012/02/13(月) 21:14:53 ID:ioRRW55gO

紬「あ!」

わたしは気づいてしまいました。
軽音部の人たちはわたしが見たテレビの中にいた人たちとひどく似ていたのです。

それはきっと、わたしが願ってしまったからなのでしょう。
あの映像のようにと。
わたしたちは自分の見たいようにしか世界を見れないんです。
たぶん。

167: 2012/02/13(月) 21:17:17 ID:ioRRW55gO

澪「どうかした?」

紬「いえ……」

でも、まさかそういうわけにはいきません。

紬「でも廃部だって噂を聞いたから……」
唯「幽霊だよっ」

紬「幽霊?」

唯「和ちゃんがね、名前だけ部活に入っててくれたんだよー」

律「まあでも、これでちゃんとそろったしな」

唯「ほらほら座って座って」

紬「うん」

168: 2012/02/13(月) 21:18:36 ID:ioRRW55gO

律「ムギはなんか楽器できる?」

紬「キーボードなら少しはできると思います」

律「おおっ何もできない唯とは大違いだ」

唯「そうだよっ。ブランクのことなんて気にしなくてもいいよっ。わたしなんてまだギターも買ってないからっ」

律「自慢することじゃないからっ」

澪「まあもっといえばわたしなんて何年も律と一緒にいるけど友情を感じたことないから、大丈夫。親しくなるのに期間は関係ないよ」

律「これはひどい」

唯「澪ちゃんさいてー」

澪「じょーくだよじょーく。感じたことあるよ……ちょっとは」

律唯「みおしゃん」

澪「うるさい」

唯律「いたあっ」

紬「ふふっ、なんだか楽しそうですね」

律「いやけっこう痛いんだこれが」

169: 2012/02/13(月) 21:19:25 ID:ioRRW55gO

澪「よしさっそく」

唯「ちょっと待って、ムギちゃんはしっかりとふわふわどっちが好き?」

紬「え?しっかりかしら」

律「よし、れんしゅうする……」

唯「ぉー」

紬「あ、やっぱりふわふわで」

律「よっしゃ、アイス食べにいくぞーっ」
唯「おーっ!」

紬「おーっ!」

澪「おいおいムギがいるんだし……ってアレ?」

170: 2012/02/13(月) 21:22:55 ID:ioRRW55gO

そんな風にしてわたしは軽音部に入りました。
もちろん、わたしが思ってたの、というのはテレビで見たのという意味ですが、
とはまったく違う毎日でした。
でも、わたしはいつの間にかみんなと一緒になって楽しんでいました。
あるときからティータイムがはじまり、
わたしは、たまに自分の作ったお菓子を持っていったりもしました。
恥ずかしかったのでいつものように貰い物だと言いましたけれど。

宇宙人のりっちゃんもあれから来なくなるなんてことはことはなくて、
わたしが忙しくなったのもあり頻度は減りましたが、
それでもわたしの家に来てくれました。

171: 2012/02/13(月) 21:24:56 ID:ioRRW55gO

りつ「あーなんか今日はたいくつー。たいくつたいくつっ。」

紬「そうかしら?わたしは楽しいけど」

りつ「ムギはいつも楽しそうだよなあ。部活に入ってからは特に。やっぱわたしの言うことはいつも正しい」

紬「りっちゃんはいつも一言余計ね」

りつ「なあにー。ムギめー」

紬「きゃあー」

172: 2012/02/13(月) 21:25:58 ID:ioRRW55gO

紬「いいこと教えてあげる」

りつ「なーに」

紬「そういうときはね誰かといるって思うと楽しくなるのよ」

りつ「誰かといる?」

紬「そう。
今、わたしはりっちゃんといるんだ。
今、わたしはりっちゃんといるんだって
強く意識すると楽しくなるの」

りつ「うーむ。わたしはムギといるわたしはムギといる……
ホントだこれは楽しいなあ
うぇっへっへ……ってなわけあるかー」

紬「きゃあー」

わたしたちは笑い声を上げました。
ほらっ、ね。

173: 2012/02/13(月) 21:35:12 ID:ioRRW55gO

わたしは二年生になって
梓ちゃんが新しく部員に入って
何度かステージも経験しました。
日頃から練習を怠ってるわたしたちはそんなに演奏もうまいわけではありませんでした。
きっとテレビに出たら恥かくんだろうなあ。
ってりっちゃんに言ったら、まず出られないってバカにされました。
でも、なんだかんだでわたしたちはへらへらと笑って日々を歩いていきました。

174: 2012/02/13(月) 21:35:49 ID:ioRRW55gO

唯「わたしねー小さい頃は物語を書く人になろうと思ってたんだよー」

律「もしかしてだけどそれって作家のことか?」

唯「うん。さっかー」

梓「ぷっ」

唯「どうかしたの?」

梓「いや、作家って頭とかいいんですよ。あ、どうぞ続けてください」

唯「あずにゃんめー」

梓「ひゃいいたい。ほっぺたひねらないでくらはい」

175: 2012/02/13(月) 21:37:36 ID:ioRRW55gO

紬「今は違うの?」

唯「うん。小学2年生のとき和ちゃんに書いたお話を見せたらね、幼稚園の頃の作文?って言われちゃったんだ。それで諦めたよ。世の中は才能だね」

律「なーにが世の中は才能だよ」

澪「でも気持ちはわかるよ唯」

唯「さっすが澪ちゃん!」

澪「わたしは中1のときだったなあ。小説を書いて律に見せたらさ、思いっきし笑われたんだ。それでやっぱり世の中は才能だなって。な、律?」

律「うん。わたしのおかげで澪もりっぱな軽音部員に」

澪「いやみだよっ」

律「いたいっ」

176: 2012/02/13(月) 21:38:06 ID:ioRRW55gO

梓「なんだか二人は才能以前の問題の気もしますが」

唯澪「むっ」

梓「い、いい意味ですよもちろん」

唯「澪ちゃんは左だ」

澪「うん」

梓「ひたあいいたいですすいません」

唯「わたしたちの夢はあずにゃんになんか負けないんだー」

澪「だー」

律「だからそういう問題じゃないだろっ」

177: 2012/02/13(月) 21:39:56 ID:ioRRW55gO

澪「ムギは小さい頃の夢とかあった?」

紬「わたしは、今もだけど宇宙関連の仕事をしたいとはちょっと思うかしら」

律「あ、それって宇宙飛行士とか?」

紬「うん。でもなんでもいいのよ。宇宙ぽいっ仕事なら」

梓「なんかすごいですね。唯先輩とは大違いですよ」

唯「なんか今日はあずにゃんがかわいくてしょうがないよー」

梓「えへへ。右手はひっこめてくださいね」

紬「ふふっ」

178: 2012/02/13(月) 21:40:53 ID:ioRRW55gO

律「でもなんで宇宙ぽいっ仕事なんだ?」

紬「笑わないでほしいんだけどわたし、その、宇宙人はいるって思ってるタイプなの」

澪「はい、ダウト」

律「どうかした?」

澪「幽霊と宇宙人なんていないからな。これは絶対的真理だからな。異論は認めないぞ」

律「気にしないでやってくれ」

唯「でもすごいよー」

紬「そうかな」

唯「うん。なんていうか夢があるよっ」

律「ばかっ。夢があるから夢なんだろ」

唯「そうなの?」

律「なあ、梓?」

梓「さあ」

179: 2012/02/13(月) 21:42:29 ID:ioRRW55gO

澪「ちょっと待ってよ。唯は宇宙人とかいないと思うよな?」

唯「えーいるよっ。火星人はクラゲなんだよー。
コンニチハミオチャンナカヨクシヨウネ」

澪「うわっ。やめろやめろ」

唯「ミオチャンガボクヲイジメルヨ。
アズニャンタスケテ」

梓「えーいやです」

唯「ア、コンナジカンダ。
ムギチャンイツカマタウチュウデアイマショウ」

紬「えへへ。うん」

180: 2012/02/13(月) 21:43:24 ID:ioRRW55gO

唯「澪ちゃん。クラゲ型火星人は帰っていったよ」

澪「ばかっ。こんな部やめてやるー」

紬「澪ちゃんダメよ。
軽音部をやめると妖怪ぶかつやめちゃだめが現れるわ」

律「そうだぞーみお。ぶ
かつやめちゃだめは夜お前のベッドの下で……」

澪「ひっ。じょうだん。じょうだんだってっ」

律「いぇい」紬「いぇい」

澪「もうやだ」

唯「ねえ、あずにゃん妖怪ぶかつやめちゃだめはベッドの下でどうするの?」

梓「さあ。自慰行為にでもふけるんじゃないですか」

唯「えOちだ」

181: 2012/02/13(月) 21:44:48 ID:ioRRW55gO

唯「あ、そだ。今日アイス食べいこうよ」

紬「わたしはごめんなさい。今日は大切なお客さんが来るの」

唯「えーだれだれ」

紬「ひみつよ」

律「あやしいぞー」

紬「ふふっ。そういうんじゃないわ」

唯「えー、そういうのって何かなあムギちゃん?」

律「ふふふっ墓穴を掘ったなあ」

紬「あ。でもでもほんとにそういうのじゃないから」

律「だからそーいうのって何だよー」

唯「ムギちゃん顔赤いー」

紬「もうっ」

唯「いぇい」律「いぇい」

澪「気持ちはわかるけど同情はしないからなー」

182: 2012/02/13(月) 21:45:22 ID:ioRRW55gO

唯「で、あとのみんなは?」

律「わたしは聡とデートだわ」

澪「今日は和に勉強教えてもらうからな。また今度で」

唯「あずにゃんは?」

梓「わ、わたしは宗教上の理由で夜6時以降は唯先輩と外を出歩かないようにしてます」

唯「そっか」

梓「あ、うそです。うそです、てばっ」

183: 2012/02/13(月) 21:46:59 ID:ioRRW55gO

律「あ、そうだムギ貸す予定だったビデオ。はい」

紬「ありがとっ」

唯「何ー」

律「感動ノンフィクションだぜ」

澪「あ、わたしそういうの好きだよ。
動物の話とか泣けるよな」

律「そうそう」

梓「それで何借りたんですか?」

紬「宇宙戦争」

澪「それはフィクションだっ」

律「いたいっ」

184: 2012/02/13(月) 21:49:59 ID:ioRRW55gO

家に帰ったあとアナログテレビで借りたビデオを見ました。
律っちゃんから借りたのは三本で、
宇宙戦争とザ・フーのライブ映像、
あと学園祭のDVDを特別にビデオに移したものでした。

最初に宇宙戦争を見ました。
見てる間、唯ちゃんのクラゲ宇宙人と怖がる澪ちゃんのことを思い出しちゃって
映画に集中できませんでした。
二本目を見終えたところでノックの音がしました。

こん。こん。こぉぉん。

わたしはあらかじめ作っておいたケーキを準備してから、
玄関のドアを開きました。

185: 2012/02/13(月) 21:52:04 ID:ioRRW55gO

二人で学園祭の演奏を見ました。
やっぱりそれはあの頃テレビで見ていたあの映像よりは
ずっとへたくそでかっこわるかった。

でも、わたしは好きです。
誰か別の記憶じゃなくて、
わたしがちゃんといるこの場所が。
テレビの向こうにいたあの人たちじゃなくて、
自分が立ってる横で笑ってるみんなが。

紬「どうかしら?」

りつ「だっせえよ」

紬「そうかなあ」

りつ「でも、私が先にこれを見てたらさきっと憧れてたよ。
あ、ムギが笑った」

りっちゃんは画面を指差しました。
たしかにわたしは笑っていて
それを見るのはなんだか恥ずかしい。

186: 2012/02/13(月) 21:53:29 ID:ioRRW55gO

りつ「なんかさ私もう来ないほうがいい気がする」

紬「なんで?」

りつ「だってなあ。
ムギはあのときみたいにひとりぼっちってわけじゃないし。
だからあれだよ、わたしはさ、
もうムギに必要ないんじゃないの」

紬「違う。それは違うよ。
わたしね、はじめあのテレビで見たあの景色に憧れてたの。
ああいう風になりたいなあって。
だから軽音部に入ったときもみんながまるで
あのテレビの登場人物みたいに見えた。
でもそうじゃない。
みんなぜんぜん違ってた。
実はね最初はテレビのほうがよかったって思ってたわ。」

そう。
みんなには悪いけどわたしはそう思っていたのです。

187: 2012/02/13(月) 21:55:11 ID:ioRRW55gO

紬「でも、ほら、笑っちゃうの。
何をしたって、
誰かが何かしてそしたら
わたしは笑っちゃうもの。
テレビにはつまんないときなんてちょっともないんだけど
わたしたちはすごくつまんないこともあるわ。
でもつまんないのに笑っちゃう。
変でしょ?」

じぃじじじぃぃ。
ってビデオを流し終わったテレビが音をたてました。

紬「ねえ、つまんないのに笑うって何でかわかる?」

りつ「いやわかんない」

紬「わたしも。でも、たぶんだからわたしはみんなといるのが好きなの」

りつ「そっかあ」

188: 2012/02/13(月) 21:57:15 ID:ioRRW55gO

紬「それでね。
これが言いたかったんだけど
前にやったじゃない。
つまんないときに、
誰かといると思うと楽しいってやつ」

りつ「うん」

紬「あれは前にやっぱりつまんないときに律っちゃんが考えたんだけど」

りつ「律っちゃんっていうのはさっきのドラムだよな?」

紬「そう。
それで前つまんないときりっちゃん」

わたしは目の前のりっちゃんを指差しました。

紬「とやったじゃないさっきのを。
で、笑えたからりっちゃんはここにいてもいいのよ」

りつ「なんだよソレっ。おかしーし」

紬「ふふっ」

りつ「笑わないからな」

紬「むー」

りつ「そっか。
じゃあまた夢見ていいんだ」

紬「待ってるわ」

189: 2012/02/13(月) 21:59:08 ID:ioRRW55gO

りっちゃんは目の前のケーキを食べようとして、
ふと動きをとめた。

りつ「そうだ。いつもケーキおいしいって言えないからさ。
先に言っておくよ。
いつもすっごくおいしいっ」

紬「わたし、実はケーキ作るのすっごいへたくそなのー」

りつ「え、マジで?」

紬「じょうだんでしたー」

りつ「なんだよっ」

わたしたちは笑いました。
りっちゃんはケーキを食べようとして、
そして消えてしまう。

190: 2012/02/13(月) 22:01:19 ID:ioRRW55gO

わたしはその間、宇宙を寝ながら漂っているりっちゃんたちのことを想像していました。
それを宇宙船に乗ったわたしたちが見つけて、
彼女たちを起こして、大騒ぎして。
そんな幼稚な妄想。
わたしは笑いました。

結局りっちゃんが食べることのできなかったケーキをわたしは食べました。
甘くておいしい。

もしかしたらわたしも夢を見てるのかもなんて。
じょーだん。じょーだん。

191: 2012/02/13(月) 22:08:52 ID:ioRRW55gO
終わり。
なんだか長くなってしまいすいません。
あと、設定を故意に変更してしまったので不快に思った人がいたらそれもすいませんでした。

192: 2012/02/13(月) 22:15:11 ID:HUG9GbgY0
投下お疲れ様でした!

引用: 紬「みんなの夢が知りたいな」