374: ◆6osdZ663So 2013/12/16(月) 20:45:17.47 ID:IjlhRw34o


モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」シリーズです


前回はコチラ



とある魔法使いのお話投下します

375: 2013/12/16(月) 20:45:46.89 ID:IjlhRw34o

さくら「『妖精の秘宝』ですかぁ?」

サクライP「ああ、そうだ。さくら君にはそれの調査を頼みたい」


これは、祟り場が終わり聖來がサクライPを追いかけ始める少し前の話である。


その日、魔法使いさくらは、

雇い主であるサクライPに呼び出され、新たな指令を出されていた。


さくら「それってどんな物なんですか、サクライさん?」

さくら「『秘宝』って言うだけあって凄そうな感じはしますけどぉ。」

サクライP「それが困った事に……よくわからなくてね。」

さくら「えっ?よくわからない?サクライさんにもですか?」

サクライP「ああ。現段階で財閥が『妖精の秘宝』について入手している情報は少ない」

サクライP「分かってる事と言えば、それはどんな形にも変化すること」

さくら「どんな形にでも、ですか?」

サクライP「それは時に『本』の形であり、『杖』の形であり、『生き物』の形であり、」

サクライP「どんな物にでも姿を変える、まさに魔法の様な存在だそうだ」

さくら「不思議ですねぇ?」

サクライP「不思議だろう?」

----------------------------------------



それは、なんでもないようなとある日のこと。
その日、とある遺跡から謎の石が発掘されました。
時を同じくしてはるか昔に封印された邪悪なる意思が解放されてしまいました。

~中略~

「アイドルマスターシンデレラガールズ」を元ネタにしたシェアワールドです。
・ざっくり言えば『超能力使えたり人間じゃなかったりしたら』の参加型スレ。




376: 2013/12/16(月) 20:46:33.00 ID:IjlhRw34o

サクライP「そして、それは『妖精界』の建国に使われた物であるらしい」

サクライP「さくら君は『妖精界』を知ってるかな?」

さくら「えっと、全然!知りませぇん!」 ニッパー!


サクライP「はっはっは」

さくら「えっへっへー♪」


サクライP「まあ、さくら君が知らなくても無理はない。魔界の悪魔達にも知る者は少ないのだから」

さくら「名前からすると妖精さんが住んでる世界ですかぁ?なんだかとっても素敵ですねぇ!」

サクライP「その通り、妖精族と呼ばれる存在が住まう世界だ。」

サクライP「とは言え実態は、さくら君が想像するそれほど素敵なものかはわからないけれどね」

さくら「そうなんですかぁ……?ちょっと残念かもしれません……」

サクライP「何しろ見たことがある者がいないからね」

さくら「はいっ!わたし、いつか見てみたいでぇす!」

サクライP「そうだね、いつか機会があれば財閥の者を集めて行ってみるとしよう」

さくら「えへっ、楽しみです!」

377: 2013/12/16(月) 20:47:23.84 ID:IjlhRw34o

サクライP「さて、伝承によれば、妖精界とはかつて魔界で起きた争いから逃れるために、」

サクライP「魔界を離れていった妖精達が作り上げ、今も住まう世界であるらしい」

サクライP「故に、彼らは魔界とはまた少し違う魔法や魔術、あるいは別の技術を使えるようだ」

さくら「ふむふむ、あっ!わかりましたよ!サクライさぁん!」

サクライP「ん?何がかな?」

さくら「『妖精の秘宝』はその妖精達が使ってるマジックアイテム!ですよねぇ!?」

サクライP「ふふっ、正解だよ。流石はさくらくんだ」

さくら「おっと、当てちゃいましたぁ?やったぁ!!」 ピョンピョン!

サクライP「妖精達の扱うマジックアイテムにして、唯一無二の国宝」

サクライP「それが『妖精の秘宝』だ」

サクライP「建国以来、妖精達はそれを大事に守ってきた訳だが、」

サクライP「何があったのやら。ある日、忽然と人間界に紛れ込んできたようだ」

サクライP「それを捜し求めて、妖精族達も人間界に来訪し、動いているらしい」

さくら「大変そうですねぇ。」

サクライP「当人達にとってはまたとない大騒動だろうね」

サクライP「だが、せっかく人間界に迷い込んできてくれたんだ」

サクライP「僕たちも是非、手に入れたいと思わないかい?」

さくら「なるほどっ!そう言う事なら、この一流の大魔法使いさくらにどぉんっとお任せくださぁい!!」

さくら「必ず見つけてきますよぉ!」

サクライP「ああ。期待してるよ、さくら君」

さくら「えっへっへー!それじゃあ早速!行ってきまーす!」


こうして、一流の大魔法使い(?)さくらは『妖精の秘宝』の探索に出発したのだった。

378: 2013/12/16(月) 20:48:25.69 ID:IjlhRw34o

サクライP「……」

桃華「『妖精の秘宝』」

何時の間に現れたのか、サクライPの膝には金色の髪の少女が座っていた。


桃華「妖精界自体が存在するかどうかも疑わしいものでしたけれど」

桃華「ここ最近の情勢の動き、紗南ちゃまの集めてきた情報」

桃華「そして、魔界の争いの時代を実際に生きて見てきたフェイフェイちゃまの言葉で、」

桃華「確実に存在していて、どのような形であれどこの人間界に存在していることはわかりましたわ」

桃華「求める物が近くにあるなんて、まったく嬉しい限りですわね♪」

『強欲』の悪魔は静かに微笑む。

本日はどうやらご機嫌であるらしい。

379: 2013/12/16(月) 20:48:59.09 ID:IjlhRw34o

桃華「ですが、あの子に手に入れられますの?」

サクライP「おそらくは手に入れられはしないでしょう」

何しろ情報が少なすぎる。

姿かたちもわからない物をたった一人の少女が捜し求めるなど、到底不可能。

海底に落とした透明な宝石を手探りで探し当てるようなものだ。

サクライP「ですが、今できる事と言えば、このくらいのものです」

桃華「『妖精の秘宝』はこれからわたくし達が為す計画のために必要なもの」

桃華「『カースドウェポン』と並んで、いえ、それ以上にわたくしが欲しているものですわ」

サクライP「ええ、ですから何としても手に入れなければなりません」

サクライP「さくら君ならヒントくらいは間違いなく掴んでくるでしょう」

サクライP「彼女とて、伊達に『エージェント』として働いてはいませんからね」

桃華「随分と、高く評価されてますわね」

桃華「そう言えば、心なしか普段より優しく接していましたし」

桃華「Pちゃま、まさかあの子みたいな子がタイプではありませんわよね?」

ジトッとした目で睨みながら、桃華はサクライPに伺った。

サクライP「はははっ、まさかっ!私の全ては貴女様の物ですよ」

桃華「ふふっ、それがわかっていらしたら結構ですわ♪」

サクライP「まあ、実際のところ彼女は優秀です。」

サクライP「きっと貴女様も、満足の行く結果になるかと。」

桃華「Pちゃまがそこまで言うのなら、わたくしも期待して待つことにしましょう」

380: 2013/12/16(月) 20:51:25.66 ID:IjlhRw34o

――

場面は変わってとあるコンビニエンスストア。


加蓮「いらっしゃいませー」

さくら「えっと、何がいいかなぁ」

加蓮(大きな杖を持ってローブを着たリボンの女の子?)

さくら「うーん」

加蓮(魔法使いのコスプレ……かな?)

魔法使いの少女はコンビニに入ると、

傍にあったカゴを手に取って、すぐに飲料コーナーに向かうのだった。

さくら「やっぱり牛乳だよねぇ」

見つけた2リットルパックの牛乳をとにかくカゴに入れる。

さくら「このくらいあればいいかなぁ?」

さくら「う、うぅ、重い……」

さくら「あ、あとペットボトルのジュースも何か……あわわ、おっと」

大きな杖に、大量の牛乳も持ってるためバランスを崩して何度もこけそうになっていた。

加蓮(見てて危なっかしい、大丈夫かな?)

381: 2013/12/16(月) 20:51:54.02 ID:IjlhRw34o


さくら「すみません、これくださぁい!」

加蓮「はい」

加蓮「○○円です」

さくら「えっと」

加蓮(!! お財布分厚い!?)

財閥で働いているさくらは、身の丈に合わない結構なお金を所持していたりする。

さくら「これでお願いします」

加蓮「は、はい、××円のお返しです。あ、ありがとうございましたー!」

さくら「うぅ、やっぱり重いぃ」


加蓮「……身長を気にしてるお金持ちの子なのかな?」

382: 2013/12/16(月) 20:52:21.95 ID:IjlhRw34o

――

ごくごくっ


さくら「ぷはー!」

さくら「一仕事終えた後はやっぱりこれだよねぇっ!」

空になったピーチジュースのペットボトルを片手に一言。

さくら「……今考えたら、強化の魔法とか使っておけば良かったかも。」

そこまで考えは回らず、馬鹿正直に……もとい素直にコンビニから近くの公園まで、

一生懸命これらの荷物を運んできてしまった。

さくら「まあいっか♪切り替えて行こう!」

細かい事は気にしない方針で。

そうして公園の適当な一角で、作業を始める。

383: 2013/12/16(月) 20:53:05.83 ID:IjlhRw34o

……


さくら「ここをこうしてぇ、ここはこう。」

お気に入りのピンクのチョークを使って地面に落書き。

ではなく、どうやら魔法陣を書いているらしい。

特殊な図形だとか、ミミズの様な文字を一生懸命書き足していく。

さくら「よぉしっ!完成!」

出来上がったのは直径に1m程の中サイズの魔法陣

さくら「エッヘン♪」

書き上げた魔法陣の出来に、ご満悦のようで。

さくら「……」

さくら「間違ってないよね?」

とは言え、自信はあまり無いらしくニ度三度と魔法陣に書き込まれた式を確認する。

384: 2013/12/16(月) 20:53:31.54 ID:IjlhRw34o

さくら「よぉし!ちょーばっちり!」

書き込まれた式に間違いはないはず。

絶対、おそらく、たぶん、まあ大丈夫でしょう。きっと何とかなるってば。たぶん。

さくら「と、言う訳で、さっそく詠唱開始!」

大きな杖を両手で支え、垂直に魔法陣の中心に突き立てようとして、


さくら「って、あぁっ待って!ま、まだダメっ!」

発動直前ギリギリで、忘れていた事に気づく。


さくら「牛乳置いてなかった!」

すぐ足元のビニール袋から牛乳パックを一本ずつ取り出し、上の口を開封。

等間隔に魔法陣の円周上に並べていく。


全部で12本、

時計の数字を並べるように全ての牛乳パックを設置した。

さくら「これでよしっ!」

385: 2013/12/16(月) 20:54:19.04 ID:IjlhRw34o

さくら「すぅー、はぁー。」

再び、魔法陣の中心に立って、一度だけ、深呼吸。

そして桜の杖を構えて、魔力を集中させる。


そして少女は言の葉をつむぐ。

さくら『意識の泉に吐き捨てられし、言葉たち。』

さくら『無意識の海に沈み飲まれし、言葉たち。』

さくら『いま、再び私の前に沸きあがれっ!』

さくら『言葉の探知魔法!』

さくら『スプリングワード!』


魔力を込めて、桜の杖を魔法陣に突き立てる。


その衝撃を鍵に、足元に描かれた陣に向かって杖に込められた魔力が一気に広がり、光を放つ。

同時に12の方角から、一斉に白の塔が吹き上がった。

386: 2013/12/16(月) 20:54:51.29 ID:IjlhRw34o

設置されていた12の筒から全ての白が、空中に浮かび上がると、

白の塔は砕けて分散し、ビー玉の様に小さな幾つもの丸い粒となる。

そして、粒はふにふにと形を変えながら、

術者の回りをゆっくりと、地面に水平に回り始め、

それぞれが、別の、意味を持つ形へと変わっていく。



 《が》     《で》     《し》

   《ら》   《ず》  《ー》 

 《ん》   《れ》  《る》



粒が変形して出来上がったそれらは、中空に浮かぶ白い”文字”であった。

それらは次第に幾つかのグループを作って、綺麗に横に整列しはじめた。

387: 2013/12/16(月) 20:55:40.79 ID:IjlhRw34o

《フハハ!我が世界征服計画の第一歩になれたのだ!光栄に思うがいい!フハハハハハ!》

《大丈夫だ、まーくん。このシビルマスクがついてるから!》

《きゃはっ☆》

《あ、おかえりなさい、都さん、翠さん。ゴローちゃん、飼い主さんが引き取りに来られましたよ》

《覚悟完了、カミカゼ参上!》

《知らない! かおるは、おねえちゃんがなに言ってるのか全然わかんないよっ!》

《巴が最近、つめたいんじゃぁぁぁぁぁぁぁぉぁ!!!!!》

《お、おおお…これなら歩く自然災害という風評被害が無くなる…。》

《せめてあと100円あれば……唐揚げ串が買えるのににゃあ……ぐぬぬ》

《わかるわ》

《いやぁ、それにつけてもボクはカワイイですよねぇ……》

《なに、全部一人で抱えちゃう気? 相棒だと思ってたのあたしだけ? ちょっとくらい頼ってよ》
    

さくらの周囲を、幾つもの白い”文字”が、

いや、『言葉』が浮遊し漂っている。

それは、過去に誰かが強い意思をもって世界に放った『言葉』。

それは、過去に誰かが何か思った訳でもなくただ世界に零した『言葉』。

それは、誰の言葉で誰に向けて言われたのか、わからないけれど、確かに世界に存在した『言葉』。

388: 2013/12/16(月) 20:56:12.99 ID:IjlhRw34o

《お帰りなさい、由愛様。ふふっ、心配いりませんよ。少し、お腹が減っただけですから》

《風香さん!風香さん!見てください!人がいっぱいです!》

《えー親戚じゃないよー?あずきは涼さんの所有物だよー。》

《それは私の勝手だから、かってー事は言わないで》

《仕方ないわ。私という存在のレベルが大きすぎるのよ》

《私ね、世界中の人がみんな眼鏡をかければ、世界は平和になると思うんだ》

《愛と正義のはにかみ侵略者!ひなたん星人に敵うものはいないナリ!》

《…沙織、これは他人に迷惑を掛けるロボットを捕まえるボランティアだよ》

《あーば、くぞー!》

《はーんてーん♪》

《こずえはー……こずえだよー?こずえはねー……おにんぎょうさんなのー……》

《ごきげんよう、嫉妬の呪い様》

《君は……"月宮博士"という人を……知ってはいないかい?》

《みんなすごく頑張ったから、ご褒美にコハルがぺろぺろしてあげます~》

《そらちん完全復活!!》

《……私は食べていないわ。食べたのはアーニャよ》



さくらが生まれた村松の家は、探知魔法を得意とする一族であり、

この魔法もまた、彼らの生み出した探知魔法の一つ。

過去に、周辺地域で発された『言葉』の痕跡を無作為に集め、

宙に浮かぶ文字へと変換し、術者の回りを巡らせ閲覧できる形にする魔法。

その名を『広域型回覧式口跡探知魔法』と言う。

そんな花も飾りも無ければ、身も蓋も無い名前を嫌ったさくらは勝手に別の名前を付けているが。

389: 2013/12/16(月) 20:56:48.46 ID:IjlhRw34o

さくら「えっへっへー♪」

魔法がキチンと発動していることを確認できたためか、

術者であるさくらは、得意満面の笑みを見せている。

ところでこの魔法、実は詠唱とかいらないのだ。

式の書き込まれた魔法陣と、触媒となる液体、後は発動するための魔力さえあれば、魔法として完成する。

つまるところ、先ほどの詠唱もまたさくらが勝手に足したもので、魔法自体には何の影響も無かったりする。


さくら「さて、目的の『言葉』を探さないと、だよねぇ!」

周囲を巡る『言葉』達の中から、

ただひたすらに手がかりとなる『言葉』を探るさくら。

そして、


さくら「!!」

さくら「はぁい、見つけましたよぉ!『妖精の秘宝』の手がかり!」

指令を受けてから半日も経たない、わずかな時間で

彼女はその尻尾を掴んだのだった。

390: 2013/12/16(月) 20:57:20.73 ID:IjlhRw34o

さくら「よぉし……」

右手には、先ほど飲みきったピーチジュースのペットボトル。

見つけた手がかりとなる『言葉』から目を離さないようにして、それを構える。

さくら「えいっ!!」

『言葉』の移動する方向と、向かい合うようにペットボトルを振る。

そして虫取り網に虫を捕まえるように、うまくペットボトルの中に目的の『言葉』を捕らえた。

ペットボトルの中に捕まった言葉は、容器の底にぶつかって、形を失い元の液状に戻る。

さくら「あわわっ、蓋っ!蓋閉めないとっ!」

慌ててペットボトルの蓋を閉めるさくら。

同時に魔法を維持する集中力が途切れ、

さくら「あっ」

さくらの周囲を漂っていた白い文字が一斉に砕け散る。

さくら「つめたいっ!」

頭から白い液体を被ってしまうのだった。

さくら「うぅ……びしょびしょになっちゃったよぉ……しゅん……」

391: 2013/12/16(月) 20:57:51.70 ID:IjlhRw34o

早苗「ちょっと君大丈夫?って言うか何?この惨状?」

さくら「あっ……」

早苗「……」

さくら「え、えと……その……」

早苗「……」

さくら「てへっ♪」


手がかりとなる『言葉』を見つける目的は達成したけれど、

公園の地面に落書きしたり、牛乳撒き散らしたせいで

たまたま通りがかった婦警さんにすっごく怒られました。

392: 2013/12/16(月) 20:58:17.27 ID:IjlhRw34o

――


さくら「はぁ、災難だったなぁ……」

片手に大きな杖、もう片方の手にペットボトルを持ってさくらは目的の場所へと向かう。

ペットボトルに入っている白い液体は、ゆらゆらと波打って、うっすらと輝いている。

さくら「だけど、『妖精の秘宝』の手がかりになる『言葉』はこの中にしっかり捕まえたから、」

さくら「探知魔法を使えば、この『言葉』の持ち主、つまり手がかりを知る人にたどりつけるよぉ!」

さくら「『妖精の秘宝』もたいしたことないですねぇ!」

ペットボトルの中には先ほど集めた『言葉』の中にあった、

『妖精の秘宝』に関する、『言葉』を捕まえて、牛乳に溶かしてある。

これに魔力を通して、軽く揺らせば。

牛乳の表面に現れる波紋と、その輝きを見ながら、

ダウジングの要領で、その『言葉』を発した人物を探せると言う訳だ。

さくら「うんっ♪やっぱり魔法使いに出来ない事はない!エッヘン♪」

さくら「……」


さくら「どうしてこんなに凄いのに隠さないといけないのかなぁ。」

 

393: 2013/12/16(月) 20:58:57.89 ID:IjlhRw34o

――

――


少女の家は、古くから続く魔法使いの家だった。


そんな彼女の家に、ある日、白い髪の少女が尋ねてきた。

一度は外の世界からの来客を拒む彼らではあったが、

当主が彼女の才能を見抜き、


「彼女は私達の仲間だから」


と言うと、彼らは暖かく迎え入れた。



村松さくらにとっては、その人が、

《はじめて見るお家の外の人間》 であった。
 

394: 2013/12/16(月) 20:59:27.66 ID:IjlhRw34o

少女の周りの大人たちは言っていた。

外の世界には怖い人間がたくさんいるのだと。


《わたし達が一歩でも外に出てしまえば、》

《外の人間達は私達の身体を裂いて、頭蓋を砕いて、私達から何もかもを奪うのだ》


そんな風に、少女は外の事を教えられていた。

だから少女にはなかなか外出の機会はなかったし、

普段遊ぶことができるのも、大人達の目の届く村松の敷地の中だけ。


彼らが子供をその様に教育するのは無理もない事情があるのだが……


ともあれ、そんな訳で

村松さくらが、村松家を来訪した白い髪の少女に抱いていた最初の感情は、

興味と恐怖が交じり合った、少々複雑な感情であった。

 

395: 2013/12/16(月) 21:00:12.18 ID:IjlhRw34o

「えっと~、ご当主さん……この部屋、私たち以外に誰か居ませんか?」

白い髪の少女は老人に尋ねた。

眉を八の字にして、困ったような表情を見せている。

もっとも彼女は普段からどこか困ってるような表情なので、本当に困っているのかはわからないが。

「こら、さくら」

「そんな物陰から隠れて見おって、客人が困っておるであろう」

「あれっ、バレてる!?な、なんで~」

老人の叱責の言葉に、さくらが物置の影から姿を現した。

「当たり前だ。ワシを誰だと思っておる。」

たとえ、どれほど優秀な魔法使いであっても

探知魔法を得意とする村松の当主の目から隠れ続けることなど、到底不可能であろう。
 

396: 2013/12/16(月) 21:00:41.06 ID:IjlhRw34o

「ほれ、お前もお客人に挨拶しなさい」

「……さ、さくらです」

「ワシの後ろからじゃなくて、ちゃんと前に出て挨拶せんかっ!!」

「あの~、ご当主さん。私は気にしてませんので~。あまり怒らないであげてくださいね」


当人は、

本当にまったくこれっぽちも気にしていなかったのだろうが、

さくらにとっては、この言葉が切欠であった。


(あ、この人は私を怒らないんだ)

さくらが調子に乗った瞬間である。


瞬く間に、さくらは白い髪のお姉さんに懐いたのだった。

 

397: 2013/12/16(月) 21:01:31.27 ID:IjlhRw34o

――

――


さくら「……」

”妖精界の秘宝”の手がかりを知る者の追跡をしながら、

さくらは昔の事を思い返す。


さくら「そう言えば、いぶさんも白い髪の魔法使いでしたよねぇ…?」

ふと、さくらの記憶に埋れた何かが繋がりそうになったが。

さくら「……」

さくら「あはは」

さくら「いやいやまさかですよねぇ」

さくら「だってお姉さんは、ちょー優しい人だったもん」


『憤怒の街』で出会った魔法使いイヴの事を思い返す。

あんな風に、冷徹な表情で全てを凍てつかせる恐怖の女帝(さくらヴィジョン)が、

まさか、あの時に村松を訪ねた優しい白のお姉さんなわけがないだろう。

と、さくらは結論付けるのだった。

398: 2013/12/16(月) 21:02:30.73 ID:IjlhRw34o

――

――


「ねぇ、お姉さぁん」

「◆■ですっ」

こつん、とさくらの額を白いお姉さんがつつく。

「だって、発音が難しいですよぉ…」

「……初めて言われましたねぇ、そんなこと」

「今はお姉さんでいいですけど、ちゃんと名前覚えてくださいね?」

「はぁい」

優しいお姉さんの言葉に、適当な返事を返すさくら。


「それで、どうしましたぁ?さくらちゃん?」

「お姉さんは、お外から来たそうですけど……」

「魔法使いなのに……お外が怖くないんですかぁ?」


少女の家族は、魔法使いは隠遁するべきだと口を揃えていった。

それは”恐怖”ゆえであった。

399: 2013/12/16(月) 21:03:16.27 ID:IjlhRw34o
 

魔法使いは今でこそ、世界に歓迎されている。


しかしそれは”あの日”を迎えてからの話である。


この頃はまだ、


彼らは、”特別”を操る絶対の『強者』でありながら、


同時に、”少数”と言う『弱者』あった。
 

400: 2013/12/16(月) 21:03:44.62 ID:IjlhRw34o


後に村松さくらは、外の世界に憧れて、

家族の言葉を省みず、家を飛び出す事となる。


少女は知らないからだ。


魔法使いは、その万能の力を恐れられ、

人々に排斥された時代があった事を。


『魔女狩り』などと呼ばれる悪習が、

ほんの少し前まで廃れていなかった事を。


少女はちっとも知らなかったからだ。
 

401: 2013/12/16(月) 21:04:12.05 ID:IjlhRw34o


錬金術と呼ばれる学問を修める名家の者。

300年以上の年月の果て、魔道を極めた男。


そのような真に『特別』なる者達は、表から裏から世界を牛耳ることができたが、


しかし村松家は、彼らとは違う。

探知魔法の使い手。所詮はその程度。

彼らよりも『特別』の強度の低い村松家は、ただ隠れ潜むことしかできなかった。


さくらの家族を含む多くの魔法使い達は表舞台に立とうとしなかったのではなく、

表舞台に立つことを許されていなかった。

特別な事が珍しい事ではなくなる”あの日”までは、隠遁の道を選ぶしかなかった。


魔法の力を隠すのは、力を独占したいからではなく怖いからだった。

人々に恐れられて、弾かれて、許されないのが怖いからだった。

 

402: 2013/12/16(月) 21:05:01.51 ID:IjlhRw34o


「確かに……外の世界には怖い人たちもたくさん居ますねぇ」

「だけど、それはみんなが知らないからだと思います」

さくらの質問に、白い髪のお姉さんは答える。

「知らないから?」

「はい、外の世界の皆さんは魔法には素敵な事ができるって知らないから」

「そして、魔法使いの皆さんは外には素敵な物がたくさんあるって知らないから」

「お互いがお互いに知らないから怖いものだと決めつけちゃってるんですねぇ……」

「???」

「さくらちゃんには難しかったですかぁ?」

「う、うぅん、ちょっとだけ難しかったです……ちょっとだけですよ?」

「そうですかぁ、少しはわかってもらえたみたいでよかったです~♪」

さくらの返事をすると、白い髪のお姉さんは困った顔で笑いながらさくらの頭を撫でるのだった。

「えっへっへー♪」


「いつかは皆さんに、魔法を認めてもらえるといいですねぇ」

「ですねぇっ!」

403: 2013/12/16(月) 21:05:37.24 ID:IjlhRw34o

――


それから、”あの日”を迎えて世界は変わったが、

それでも『村松』は、未だに外の世界を恐れている。


”あの日”以降の世界しか知らない、さくらを除いては。


さくら「……魔法はこんなに凄い力なんだから!」

さくら「サクライさんも、芽衣子さんも、セイラさんも」

さくら「みんな、私の事をすごいって言ってくれるし」

さくら「……いつかは、ヒーローみたいに」

さくら「みんなから認められるような、そんな魔法使いになれたらいいなぁ♪」


『探知』を得意とする『村松家』は、

家を飛び出して行ったさくらの事などは、とっくに見つけ出している。

それでも連れ戻すことをしないのは、

彼女の夢が、『村松家』その物の夢だからだろう。


外の世界は怖い。だが、決して憧れなかった訳ではない。

いつかは大手を振って、堂々と、

魔法使いと呼ばれる弱者が外の世界を歩ける日が来る事を願っていたのだから。
 

404: 2013/12/16(月) 21:06:18.30 ID:IjlhRw34o


さくら「……それはそうと」

さくら「うーん、なかなか捕まりませんねぇ」


ペットボトルの中に捕まえた『言葉』を眺めながら、さくらは呟く。



 《アタシは亜子!侵略者から地上の平和を守る為に来た異世界人!》

 《侵略者から平和を守る為に!そう!平和を守る為に!『妖精の秘宝』を探してるねん!》

 《頼む!世界の為に!アタシを手伝ってくれへんか、茜!》



さくら「この言葉、明らかに『妖精の秘宝』の関係者ですよねっ!」

さくら「ふふふーん♪アコちゃんって子は何処に居るのかなぁ♪」


自称・一流の魔法使いこと、村松さくらは気づかない。


追うべき人間を致命的に間違えてしまってることに。



おしまい

405: 2013/12/16(月) 21:06:47.15 ID:IjlhRw34o

『広域型回覧式口跡探知魔法』

さくらの習得している魔法。村松の家が編み出した探知魔法の一種。
村松が独自に開発した魔法だが、単純な基本魔法の重ねあわせであり、
魔力とやり方さえ分かれば誰でも似たようなことはできるらしい。
過去に世界(周辺地域)に発された言葉を収集し、液体を媒介に視認出来る文字へと変換して、
魔法陣の円周上に浮かび上げ、漂わせる事で一つの情報スクロールとする魔法。
発動には、魔法陣と、中空に文字を描くための触媒となる液体が必要とする。小規模な儀式魔法に分類される。
魔法陣には言葉を集めるための魔法式、集めた言葉を液体に混ぜて繋ぎ留める魔法式、液体を中空に浮かべるための魔法式、etc...が描かれている。
触媒となる液体は色の付いた液体なら何でも良い、が用意出来るなら『魔法使いか魔族の血を混ぜた黒インク』がベスト。
ただそれらは適量集めるのも、後片付けも大変なので、さくらは牛乳を使った。
村松の探知魔法は地味なものが多いが、この魔法はその中でも派手な部類なのでさくらは気に入ってる。
詠唱と魔法の名前は、さくらが勝手につけ足した物で特に意味は無い。

406: 2013/12/16(月) 21:08:10.40 ID:IjlhRw34o
◆方針

櫻井財閥 → 『妖精の秘宝』(こずえちゃん)が欲しい
村松さくら → 『妖精の秘宝』探索中。亜子を追っている。

と言う訳でさくらが妖精の秘宝を探していたというお話
さくらはそれなりにすごい子なんです、基本的に大雑把で何かと間違っちゃってるだけで

魔法使い関連のお話は一昔前は魔女狩りがあったって話から広げたのですが
割と自由にやってる魔法使い関係者も多そうなので、あくまで村松家の事情って感じですね

周辺から言葉を拾ってくる魔法は、
流石に憤怒の街や祟り場や宇宙や地底や海底やネオトーキョーとか遠くの言葉は拾ってきません。
メタ的な事言えば悪役が隠れた所で繰り広げた超重要そうな会話は拾えないから安心ってことだよ!

407: 2013/12/16(月) 21:44:05.67 ID:IjlhRw34o
宣言し忘れ、
加蓮、早苗さん、イヴ、亜子ちゃん、その他諸々台詞お借りしましたー

学園祭前時系列だからたぶん加蓮がコンビニのシフト入ってた時期もあるよね?たぶん




【次回に続く・・・】


引用: モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part8