644: ◆6osdZ663So 2014/01/04(土) 13:38:05.97 ID:ysfTtVl3o


モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」シリーズです


前回はコチラ




改めて時系列的には文化祭2日目でございます

645: 2014/01/04(土) 13:39:31.61 ID:ysfTtVl3o


美穂「……」 ソワソワソワ

美穂「……大丈夫だよね?」


行列に並びながら、少女は不安そうに体を揺らしている。


美穂「……」 ソワソワ

美穂「本当に大丈夫かな?」


心配なのだ。この場所に居る居候の鬼の少女のことが、


美穂「肇ちゃん、お仕事失敗して落ち込んでたりとか……」

美穂「お客さんから心無いことを言われて泣いちゃったりとか……」

美穂「うぅ、心配だよ……」


いささか心配しすぎであるように見えるが。

 

----------------------------------------



それは、なんでもないようなとある日のこと。
その日、とある遺跡から謎の石が発掘されました。
時を同じくしてはるか昔に封印された邪悪なる意思が解放されてしまいました。

~中略~

「アイドルマスターシンデレラガールズ」を元ネタにしたシェアワールドです。
・ざっくり言えば『超能力使えたり人間じゃなかったりしたら』の参加型スレ。




646: 2014/01/04(土) 13:39:59.07 ID:ysfTtVl3o

美穂は昨日、肇と交わしたやりとりを思い出す。


――

文化祭1日目が終わり、自分達の催し物の片づけを終えると、

美穂は、同じく文化祭に来ている肇の事を待っていた。

帰る場所は一緒。せっかくだから一緒に帰ろうと約束していたのだ。


しばらく待っていると、仕事を終えた肇が待ち合わせ場所までやってくる。


美穂「お疲れ様。肇ちゃん、お仕事どうだった?」

肇「……行列が……行列が……」

美穂「は、肇ちゃん、大丈夫?」

空ろな目で呟く少女が心配で声を掛ける。

肇「だ、大丈夫ですにゃ、お嬢様」

肇「あ、じゃなくって大丈夫です美穂さん……本当に……」

美穂「……肇ちゃん」

とても大丈夫そうではなかった。


その後の道すがらも会話は少なく、

家に到着するやいなや、肇は倒れるように眠り込んでしまうのだった。

美穂「……」

肇が「お仕事が決まりました」と喜んで、美穂に報告したのがほんの数日前の事。

まだ慣れぬ仕事場は、どうやら凄まじく忙しかったらしく、鬼の少女は疲労困憊であったのだろう。

647: 2014/01/04(土) 13:40:43.84 ID:ysfTtVl3o

――


美穂「……」 ソワソワ

と、まあそのような経緯があったために、

美穂はクラスの催し物の方を友人達に任せて、

肇の様子を見に来たのだった。


「お帰りなさいませにゃ。お嬢様!」

美穂「ひゃ、ひゃい!」

ネコミミのメイドさんに声を掛けられる。

どうやら美穂の順番が回ってきたようだ。

「お席までご案内しますにゃ」

美穂「お、お願いします」


ネコミミメイドに案内されて、空いている席まで連れられていく美穂。


その途中で、


「おや?」

美穂「……あっ」


美穂は知り合いと出会うこととなる。

648: 2014/01/04(土) 13:41:18.23 ID:ysfTtVl3o


シロクマP「やあ、こんにちは。ひなたん星人ちゃん」


窓際のとある席。

座っていたのは一匹の熊。

スーツを着込む一匹の白熊であった。


美穂「シロクマさんっ!?」

美穂「ど、どうしてここに?」

シロクマP「んー、普通にお仕事だよ?」

シロクマP「同盟もこの文化祭には忙しなく動いてるからねえ、色々と」

美穂の疑問に、熊はサラリと答える。

美穂(忙しなく動いてる割には……)

とても暇そうに見える。

649: 2014/01/04(土) 13:41:46.09 ID:ysfTtVl3o

シロクマP「あ、みくちゃん」

シロクマP「この子、わたしと合席でいいから」

みく「えっ……うーん、そうしてもらえるならみくは助かるけれど」

みくと呼ばれたネコミミのメイドが答える。

何せ、現在エトランゼ店内はほぼ満席なので、

少しでも席を詰めて座ってもらえるなら、ありがたい話である。

美穂「は、はい。私も大丈夫です」

みく「……それなら、こちらのお席にどうぞにゃ♪」

ネコミミのメイドは、美穂が座りやすいようにシロクマPの向かいの椅子を引いた。

軽く頭を下げながら、いそいそと美穂は席に座る。

650: 2014/01/04(土) 13:42:20.70 ID:ysfTtVl3o

みく「ご注文が決まったら呼んでほしいのにゃ、お嬢様♪」

美穂「わ、わかりました」

美穂の案内を終えると、

みくは忙しそうに次のご主人様とお嬢様のところに向かうのだった。


シロクマP「なんでも頼んじゃってね」

シロクマP「わたしが出すから」

美穂「そ、そんな悪いです!」

シロクマP「あはは、気にしなくていいよ。どうせ経費で落すし」

美穂「えっ、いいんですか?それ?」

シロクマP「これもお仕事だからね」

何故か、キリッとした顔で白熊は答える。

「お仕事」が随分と軽く便利なワードのように聞こえた。

しかしまあそれならば、と美穂は適当な食事を注文するのだった。

651: 2014/01/04(土) 13:42:47.59 ID:ysfTtVl3o


美穂「……あの、『はじめまして』になるんですよね?」

とりあえず、真っ先に疑問に思っていた事を美穂は尋ねた。

シロクマP「うん、そうだね」

シロクマP「わたしはひなたん星人ちゃん……っと、美穂ちゃんって呼んだほうがいいかな」

シロクマP「美穂ちゃんとは初対面だよ」

美穂「……」

美穂の友人の持つ能力を巡り、奔走したあの事件。

シロクマPにも美穂は助けてもらったのだが、当人はあの事件の事を覚えていないらしい。

シロクマP「とは言っても、亜里沙先生から何があったかはだいたい聞いてわかってるからさ」

シロクマP「気にせずに話してもらって構わないよ」

美穂「でしたら……あ、あのっ!ありがとうございましたっ!」

美穂「シロクマさんが亜里沙先生を呼んでくれていなかったら私……」

シロクマP「あはは、いいよいいよ」

シロクマP「それだって言ってみればお仕事の一環だったしね」

美穂「シロクマさん…」

652: 2014/01/04(土) 13:43:31.98 ID:ysfTtVl3o

シロクマP(まあ……そもそもあの事件を引き起こしたのは、亜里沙先生なんだから本人の差し金なんだろうけど)

シロクマP(その”わたし”が亜里沙先生を助っ人に呼んだのも、大方ウサギの知らせがあっての事なんだろうなぁ)

などと、しみじみ白熊は亜里沙から聞いていた話を思い返すのだった。


美穂「……亜里沙先生は今日はご一緒じゃないんですね?」

シロクマP「まあね、いつも一緒に行動してるってわけじゃないからさ」

シロクマP「わたしにはわたしの仕事が、先生には先生の仕事があるしね」

美穂「先生のお仕事ですか?」

確か、亜里沙先生は『ヒーロー応援委員』と名乗っていたはずだ。

シロクマP「うん、今もどこかのヒーロー達の為に動いてるみたいだよ」

シロクマP「ただ、あの人もなんだか自由にやってるみたいでさ」

シロクマP「同盟の上の言う事も聞く気があるんだか、ないんだか」

本日、この場には居ない亜里沙先生の噂話を少々。

シロクマP「って、ちょっと愚痴っぽくなっちゃったね。ごめんね?」

美穂「い、いえ!お気になさらず!」

653: 2014/01/04(土) 13:44:28.12 ID:ysfTtVl3o


その後も、世間話が続く。

同盟の活動の話だとか、世間で起きている事件の話だとか、

テレビでもよく流れる話を聞きながら、美穂は相槌を打つ。


シロクマP「この学園祭にもカースが現われたりしてるみたいでさ」

シロクマP「呼べるヒーロー達は呼んでいて……」

美穂「なるほど、だからシロクマさんもここに……」


学園祭の話に、お仕事の話。

広い学園での出来事であるため、美穂はカース騒ぎの事を詳しくは知らなかったが、

どうやらヒーロー達が動いてくれているらしく、あまり心配の必要はないらしい。

だが、もし襲われたときには、自衛もしなければならないだろう。


美穂(クラスのみんなや肇ちゃんを守るためにも……私も頑張らなきゃ)

シロクマP「あ、ところでさ」

そんな枕詞を置いて、話は変わる。

シロクマP「美穂ちゃんは、どうしてアイドルヒーローを目指してるのかな?」

美穂「それですか?えっとですね……」

美穂「テレビで見る菜々ちゃんやセイラさんに憧れてて……」

美穂(……はっ!)

話しかけて美穂は気づく。

美穂(こ、これっても、もももしかして)
 

654: 2014/01/04(土) 13:45:05.17 ID:ysfTtVl3o

世間話から、話の内容は美穂自身のことに変わっていた。

それも、アイドルヒーローを目指す理由について。

アイドルヒーロー同盟のプロデューサーが、そんな事を聞くとすれば、

目的は一つだろう。


シロクマP「憧れて、かぁ……なるほどねぇ」

美穂「あ、あのっ!ししシロクマさんっ、ここれって!」

シロクマP「はい、お水」

美穂「あ、すすみません、おっ、落ち着きます…!」

少し興奮しかけたところに、目の前に置かれていたコップを手渡される。

それを受け取りごくごくと飲んで、気持ちを落ち着かせようとする。

美穂「ふ、ふぅ……あ、あのすみません」

シロクマP「いやいや、突然こんな話を振っちゃったからかな。ははは」

これは失敬した、と言った感じにシロクマPは笑う。

655: 2014/01/04(土) 13:45:47.16 ID:ysfTtVl3o

美穂「えと、シロクマさん。それでこのお話ってやっぱり…」

水を飲んで少し落ち着けたつもりだが、やはり気持ちははやる。

少女の夢が叶う糸口か、すぐ目の前にあるのだから。

シロクマP「うん、まあ美穂ちゃんの想像通り」

シロクマP「”スカウト”みたいなものだと思ってもらってもいいのかな」

美穂「……!」

思わず息を呑む。

心臓がばくばくと動き始めたのが自分でもわかった。

シロクマP「地域を守る為に精力的に活動している、ひなたん星人ちゃん」

シロクマP「アイドルヒーローとしては是非に欲しい人材だね」

美穂「え、えええと!そそそのっ!」

興奮で顔も熱くなってきた、言葉もしっかりと紡げそうにはない。

シロクマP「ただね」

シロクマP「わたしは、美穂ちゃんの事はよく考えたいんだ」

美穂「えっ?」

よく考えたい?

それは、どう言うことだろう?

656: 2014/01/04(土) 13:46:25.18 ID:ysfTtVl3o

シロクマP「わたしは”ひなたん星人”ちゃんの事はそれなりに知っているんだけど」

シロクマP「”美穂ちゃん”の事はほとんど知らないよね?」

美穂「……」

少しだけ頭が冷えてきた。その言葉の意味をしっかりと考える。

世間には、カースを狩るヒーロー”ひなたん星人”の事はそこそこに知られている。

だがきっと、”ひなたん星人”を演じる”小日向美穂”のその素顔を知る人間は少ないだろう。

彼女がヒーローであるときと、そうでないとき。その人格はガラリと変わってしまうためだ。

シロクマP「だからさぁ、せっかくこうやって会えたし」

シロクマP「わたしは”美穂ちゃん”自身の事を色々と聞きたいなって」

美穂「……」

少女は判断する。

なるほど、これはたぶん、俗に言うところの

美穂(め、面接…なのかな)

そう思うと、緊張してきたが、

美穂「は、はいっ!ななんでも聞いてくださいっ!」

少女は力強く答えた。

657: 2014/01/04(土) 13:47:06.59 ID:ysfTtVl3o

シロクマP「あはは、いいね。頼もしい返事」

シロクマP「だけどそんなに構えなくてもいいよ、面接ってわけじゃないんだし自然体でさ」

美穂「えっ、は、はいっ!」

美穂の考えはあっさりと否定されたが、やはり緊張はとれそうにはなかった。

シロクマP「……そだね、菜々ちゃんやセイラちゃんに憧れてって言ってたね」

シロクマP「菜々ちゃんは……一応は同世代だからかな?」

美穂「……えっ?一応は?」

シロクマP「あ…あはは、気にしない気にしない!」

何故か慌てるシロクマP。何か失言だったのだろうか。

しかし、うろたえる姿はどこか可愛くほんの少し美穂の緊張がやわらぐ。

美穂「そうですね……確かに私と同じ17歳だからと言うのもありますね」

シロクマP「う、うん。そ、そっか」

美穂「……」

改めて、ラビッツムーンこと安部菜々に憧れる理由を少しだけ考えて、

少女は語り始めた。

美穂「菜々ちゃんっていつも明るいですよね」

658: 2014/01/04(土) 13:48:01.54 ID:ysfTtVl3o

美穂「テレビで見る菜々ちゃんはどんな時でも明るく元気に振舞ってて」

美穂「その様子が、本当に心の底からアイドルをやる事もヒーローである事も楽しんでるみたいでした」

テレビの中の憧れのヒーローの姿は可愛くて、強くて、

そして何よりも、楽しそうだった。

シロクマP「……そうかい、楽しそうだから憧れた?」

美穂「はい…でも」

美穂「絶対に楽しい事ばかりなんて事はないはずですよね」

シロクマP「うん、そうだね」

美穂「テレビで見てるだけだと……すぐにはわからなかった事なんですけれど」

美穂「アイドルヒーローについてちょっと考えれば、誰でも気づけると思うんです」

美穂「その明るさの影には、色んな悲しみや痛みを背負ってることに……」

シロクマP「だね。アイドルヒーローだって、心があって感情がある人間だもの」

シロクマP「わたしや美穂ちゃんと同じでさ、彼女達にも彼女達の苦悩があるよ」


ヒーローは、どんな苦難を前にしても民衆に笑顔を見せる。

まるで「こんな事は何でもないことだから、安心して欲しい」と言うかのように。

人々はその顔に安心する。ヒーローの勇姿に「ああ、きっと大丈夫」だと、希望を受け取る。

けれど、きっとみんなわかっている。何でもないことな訳がないはずだと。

本当は、ヒーローたちだって苦しい時は苦しいはずなのだ。

659: 2014/01/04(土) 13:48:38.65 ID:ysfTtVl3o

美穂「だからカッコイイんですよね」

美穂「その心の強さが、カッコよくてアイドルヒーローに憧れちゃいました」

美穂「中でも菜々ちゃんは、特に可愛くてかっこよくて」

美穂「誰よりも明るいから、素敵だなって」

彼女の明るさは、その裏の苦悩など微塵も感じさせはしない。

そして、その明るさが人々に希望を振りまく。

美穂「風邪をひいちゃって心細い時でも」

美穂「友達と喧嘩しちゃって寂しい時でも」

美穂「テレビに映る菜々ちゃんの明るさを見てると」

美穂「勇気がもらえるみたいで…私もまた明日から頑張れるかなって思うんです」

美穂「私もそんな風に強くなって、誰かに希望を届けることが出来るなら」

美穂「どれだけ素敵な事かなって、本当に本当に今でもそう思います」

シロクマP「……そっか」

少女の熱い思いを聞いて、シロクマPは微笑む。

シロクマP「美穂ちゃんみたいに思ってくれるファンが居てくれて、」

シロクマP「菜々ちゃんはきっと嬉しいんじゃないかな」

美穂「そうだとしたら私も嬉しいです」

少女も同じ様に微笑んだ。

660: 2014/01/04(土) 13:49:19.23 ID:ysfTtVl3o


シロクマP「それじゃあセイラちゃんについても、似たようなところかな?」

美穂「そうですね…セイラさんも明るいですけど、どこかクールですよね」

美穂「どんなお仕事でもサラッとこなしちゃいそうで」

美穂「失敗する姿なんか想像できなくて、そこがカッコいいなって」

シロクマP「……」

美穂「?」

ほんの少しだけシロクマPの顔が険しくなっているような気がした。

シロクマP「……ん?……あ、ごめんね」

顔を覗かれていることに気づき、シロクマPは慌てて顔つきを元に戻す。

美穂「い、いえ…あの?もしかして私変な事言っちゃいました…?」

心配で尋ねてみる。

シロクマP「ははは。いや、そうじゃないんだよ」

シロクマP「ただね……うん、ただ…」

シロクマP「……わたしはさ、セイラちゃんのプロデューサーだったって聞いてるかな?」

美穂「はい、えっと……シロクマさん自身から」

シロクマPは覚えていないが、美穂はその事を彼自身から一度聞いている。

シロクマP「恥ずかしい話、彼女がやめちゃったからさ」

シロクマP「わたしの評価結構…いやかなり下がったんだよね」

美穂「……あっ」

アイドルヒーロー同盟は、予算の決定の為に定期的にプロダクションの評価を行っている。

所属するヒーローが活躍すればするほど、予算は鰻登り。プロダクションもヒーロー活動に力を入れると言う訳だ。

しかし、逆に人気アイドルヒーローが突然やめてしまうなんて事があればどうなるか。

シロクマP「ふふっ、恨んでるとかはもちろん無いけれど」

シロクマP「ちょっと複雑な気分だったから、それが顔に出ちゃったのかな?」

美穂(あ…あわわわ…)

とんでもない地雷を踏んでしまったのかもしれないと、少女は慌てるのだった。

661: 2014/01/04(土) 13:50:14.55 ID:ysfTtVl3o

美穂「あ、あああの!すすすすみませんっ?!」

あたふたしながらも、美穂は頭を下げる。

シロクマP「ん?美穂ちゃんが謝ることじゃないよ?セイラちゃんの話を振ったのはわたしだし」

シロクマP「彼女がアイドルヒーローをやめた事だってわたしの…プロデューサーの責任なんだから」

美穂「うっ…そ、その…すみません…」

シロクマP「……」

俯きながら、視線だけあげて美穂はシロクマPの顔を伺う。

美穂(怒っては…いないのかな?)

水木聖來がアイドルヒーローをやめてしまった理由を美穂は知らないが。

だが、やめてしまったのならシロクマPとの間には、何か悶着があったはずだろう。

憧れのセイラさんの話をする前に、その事をちゃんと考えておけば…と反省する。

シロクマPは窓の外を眺めながら、遠くを見つめているようだ。

昔の事を思い返すように。


シロクマP「ねえ、美穂ちゃん」

美穂「ひゃ、ひゃいっ!?」

なおも窓も外の方を向きながら、不意にシロクマPは美穂に呼びかけた。

慌てて顔を上げて返事を返す。

シロクマP「美穂ちゃんには大切な物ってどれだけあるかな?」

美穂「…大切な…物ですか?」

シロクマP「うん、なんでもいいよ?」

662: 2014/01/04(土) 13:50:47.74 ID:ysfTtVl3o

シロクマP「家族に、友達に、恋人に、夢に、目標」

シロクマP「大切にしたいもの、譲れない思い」

シロクマP「どんなものでもね」

美穂「私の大切なもの……」

少女は思い浮かべる。

これまでに出会った人たちの事。その人たちとの思い出。そして自分の夢。

大切なものは数え切れないほどあった。

シロクマP「その中でさ、もし1つしか選べないとしたら」

シロクマP「美穂ちゃんならどれを選ぶ?」

美穂「えっ?」

白熊は、真面目な目を向けて、そんな質問を少女に投げかける。

シロクマP「あっ、あまり深刻に考えなくてもいいよ。心理テストみたいなものだし」

美穂「う、うーん……」

そうは言うが、質問の内容が内容だけに少し真剣に考えてしまう。

美穂「……どうしても1つだけなんですか?」

シロクマP「ふふっ、どうしてもって言うなら2つ選んでもいいよ?」

シロクマP「でも全部は選べない。何かは切り捨てなくちゃいけないとしたら?」

美穂「うっ、うーん……?」

選んでいいものが2つに増えたが、ますます難しくなった気がする。

663: 2014/01/04(土) 13:51:23.95 ID:ysfTtVl3o

美穂「……」

悩みに悩んだが、

美穂「……すみません……選べないです」

出した答えは選択しないこと。

美穂「どれも私にとってはかけがえのないもので……」

美穂「家族も友達も夢も大切にしたいです……」

シロクマP「なるほど、欲張りさんだね」

美穂「す、すみません。で、でも欲張りたいです!」

謝りつつもそこは強く言い切った。だって少女には、切り捨てていいものなんて本当に1つもなかったのだから。

美穂「シロクマさん、この質問にはどんな意味が…?」

不思議な心理テストの意図を少女は尋ねる。

この心理テストを通してこの人が伝えたい事が必ずある、と美穂は考えた。

シロクマP「わたしが言いたかったのはね、人生は選択の連続だってことかな」

美穂「選択の連続?」

シロクマP「そっ」

シロクマP「どんな時でも、君の人生の前には選択肢が山ほどある」

シロクマP「そしてどんな時でも選べる道は1つだけって事だよ」

664: 2014/01/04(土) 13:52:03.76 ID:ysfTtVl3o

シロクマP「……」

シロクマP「まあ、単刀直入に言っちゃえば」

シロクマP「アイドル」

シロクマP「ヒーロー」

シロクマP「学業」

シロクマP「美穂ちゃん、これ全部できる?」

美穂「えっ……あっ」

尋ねられてから気づく。”選択”の意味を。

それは、今まさに美穂がしなければいけない人生の選択の話。

シロクマP「アイドルヒーローってさ、折れる骨が何本あっても足りないくらい大変で、とにかく忙しくってね」

シロクマP「アイドルとヒーローの両立ってだけでも忙しいのに、学校に通って勉強もする気ならなおさらだよ?」

シロクマP「もちろん友達と過ごす暇なんてほとんどないね」

美穂「そ、そのぉ……」

現在、美穂は学校に通いながら、ヒーロー”ひなたん星人”として活動している。

なので、一応は『学業』と『ヒーロー』の両立はできているのだが。

それだって自分の好きなように活動できる『フリーのヒーロー』だから続けられている事であり、

『アイドルヒーロー』ともなれば、その忙しさは『フリーのヒーロー』とは桁違いであろう。

665: 2014/01/04(土) 13:52:43.86 ID:ysfTtVl3o

美穂「う、うぅ……」

色々と、アイドルヒーロー活動に夢を思い描いていたが。

『時間』と言うあまりに現実的な問題が圧し掛かる。

シロクマP「わたしはね、君が”友達との日常”を取り戻すために戦ったのを知ってるよ」

シロクマP「だから、美穂ちゃんはきっと”今の日常”も捨てたくないんじゃないかな。とも思ってる」

美穂「……」

今の日常。何気なく友達と話したり遊びに行ったりする日々。

果たしてアイドルヒーローとして活動をはじめたら、これまでと同じ様に友人達との日常を過ごせるだろうか。

いや、きっとできない。できたとしても、それは相当な無茶なのだろう。

今ならば美穂にも、シロクマPが「よく考えたい」と言った理由が分かる。

シロクマP「だから選択なんだ」

シロクマP「これからアイドルヒーローとして活動するか、しないのか」

そう言って、シロクマP二本の指を器用に立てたVサインを美穂に見せた。

それが現すのはどちらかしか選べない2つの道。

666: 2014/01/04(土) 13:53:30.64 ID:ysfTtVl3o

美穂「…………」

少女は悩む。

目の前に指し示されたアイドルヒーローの道。夢が叶うチャンス。

美穂「………………」

悩む。悩む。

でもきっとアイドルヒーローをはじめたら、とても忙しくなる。

これまで同様に気軽に友人とは遊べないだろう。

美穂「…………………………」

悩んで悩んで。

美穂「あ、あのっ」

シロクマP「答えを聞く前に幾つか言わせてもらっていい?」

美穂「…は、はいっ」

美穂が答えを出そうとしたタイミングを狙い済ましたかのように、

シロクマPは言葉を遮ったのだった。


シロクマP「『選択する』って言うのはね。何かを選び取った結果、何かを犠牲にするってことでさ」

シロクマP「それは美穂ちゃんがさっき語ってくれた理想のヒーロー像にも当てはまる話でもあるんだ」

美穂「私の理想のヒーロー像…」

シロクマP「そう、”どんなに苦しくても我慢して笑顔でみんなに希望を届けられる”」

シロクマP「そんな素敵だけど、とても過酷なヒーロー像のこと」

美穂「……」

素敵だけど過酷。少女の可憐な夢には、シビアな痛みが伴う。

667: 2014/01/04(土) 13:54:03.46 ID:ysfTtVl3o

シロクマP「わたしは誰かの為に生きられる事って尊い事だと思うよ」

シロクマP「だけどその為に自分が苦しい時に我慢する必要なんて無いとも思う」

シロクマP「生きていれば色んな局面で選択を強いられると思うけど」

シロクマP「もし選択肢に『自分』があった時は、真っ先に『自分』を大切にしてあげなさいね?」

美穂「……はい」

美穂「だけど、もし私が苦しいことから逃げたら…私の周りの大切な誰かがその苦しさを代わりに受け止めるのだとしたら」

美穂「私はきっと過酷な道を選んじゃうんだと思います」

シロクマP「ふふっ、君は優しい子だね」

シロクマP「だけど、覚えておくといい。君自身も誰かの大切なんだからね?」

美穂「……覚えておきます」

自分を大切にしろ。自分を捨てるような選択はするな。

もし、美穂が「アイドルヒーロー」になると言う道を選ぶとして、

それは誰かのための選択ではなく、自分のための選択であるべきなのだと。

きっと、そう言う事を伝えたかったのだろう。

668: 2014/01/04(土) 13:54:43.79 ID:ysfTtVl3o

シロクマP「それと、決断するのはさ。別に今じゃなくてもいいんだよ?」

美穂「えっ?」

シロクマP「人生思い立ったらすぐ実行。なんて言うけれどさ」

シロクマP「わたしとしては悩めるうちは、たくさん悩んでおいたほうがいいと思う」

シロクマP「君はまだ若いんだからさ、悩める時間は充分にあるよ」

シロクマP「だったら焦っちゃう事はない」

美穂「……大切な事だから時間をかけて…よく考えてから答えをだすべき。って事ですか?」

シロクマP「そ。せっかく選べる選択肢があるなら、選択の幅を今すぐに狭めちゃうことはないしさ」

シロクマP「他にもやりたい事やっておきたい事もたくさんあるんじゃない?そうだね…恋とかにも興味が沸いちゃう年頃でしょ?」

美穂「恋……えっ、こ、恋なんて」

まったく興味が無いと言えば嘘になるだろう。年頃の少女なのだから、ロマンスに憧れる事だってある。

美穂「う、うぅ…」

想像するとなんだか恥ずかしくなってきた。

シロクマP「はっはっは」

669: 2014/01/04(土) 13:55:25.48 ID:ysfTtVl3o

シロクマP「まあ、とにかく今はあえて答えは聞かないよ」

美穂「結論は……保留ですか?」

シロクマP「だね。その方が美穂ちゃんにはいいんじゃないかなってわたしは思ってた」

美穂「シロクマさんはいいんでしょうか?」

美穂「その…シロクマさんにとっては、あまり特にはならない事じゃないかなって思うんですけれど……」

シロクマP「そうだねえ、本当ならイイ感じに言いくるめちゃって」

シロクマP「すぐにでもアイドルヒーローをやってもらうのがわたしにとってはベストな選択なのかもしれないけれど……」

シロクマP「……ま、いいんじゃない?1人くらい適当に仕事してるプロデューサーが居たってさ」

シロクマP「今更評価が下がるって訳でもないし、今ある仕事だけでも結構食べていけるしね」

シロクマP「だから私の事は気にしなくてもいいよ」

フリフリと手を振るジェスチャー。やはりその仕種は何処か可愛い。

シロクマP「とにかくしばらくの間はさ、自分の道の事をよく考えてみてよ」

美穂「……はいっ」

美穂「……自分の道をよく考えて……う、うーん……」

美穂「なんだか難しいですね」

進むべき道、将来の事。

自分自身の事だけれど、考えれば考えるほどに色んな事を迷ってしまう。

670: 2014/01/04(土) 13:56:10.99 ID:ysfTtVl3o

シロクマP「色んな人たちに話を聞いてみるといいんじゃないかな」

シロクマP「ご両親とか、お友達とか」

シロクマP「うん。特にご両親にはね。ほら、ヒーローって危険な職業だからさ」

美穂「……そうですよね。たくさん相談してみます、色んな人たちに」

シロクマP「とは言え、美穂ちゃんの人生は美穂ちゃんのもの」

シロクマP「アイドルヒーローになりたくて、居ても立っても居られなくなったなら」

シロクマP「わたしはいつでも歓迎しちゃうよ」

美穂「?」

そう言いながらスッと何かが手渡された。

それは熊の顔の形に切り取られたカードの様な紙切れ。

そこにはシロクマPの名前と、諸々の連絡先が書かれている。

美穂「名刺……ふふっ、かわいい形ですね」

シロクマP「キャラクターを売りにできるのがわたしの強みだからね」

得意げに白熊は言う。周りの目を引いてしまう見た目も白熊Pにとっては1つの武器なのだろう。

シロクマP「美穂ちゃんが、アイドルヒーローとして活動するしないに関わらず」

シロクマP「困った事があればさ、いつでも気軽に連絡してくれればいいから」

美穂「シロクマさん……ありがとうございます!」

深々とお辞儀して、お礼を言った。

671: 2014/01/04(土) 13:56:56.88 ID:ysfTtVl3o

シロクマP「あっ、そうだ」

思い出したようにポケットから、またも紙切れを1枚取り出す。

シロクマP「説教じみたお話をしちゃったけど、最後まで聞いてくれたお礼にこれも渡しておこうかな」

美穂「い、いえ!私も色んなこと考えなきゃって思えたのでっ!そのっ、本当にありがとうございますっ!」

美穂「これは……チケットですか?」

シロクマP「うん、それがあればこの学園祭でのステージで行われるイベントは全部いい場所で見れちゃうよ」

美穂「えっ?」

シロクマP「関係者特権みたいなものかな、たしかRISAのステージもあったはず…」

美穂「り、RISAのステージも!?」

美穂「えっ、ええぇっ?!い、いいんですかっ!こ、こんなの貰っちゃってもっ?!!」

シロクマP「構わないよー。美穂ちゃんなら有効活用してくれそうだし。まあ、できるだけ他の人には内緒にしててね」

美穂「わぁあ!シロクマさん!本当に本当にっ!ありがとうございますっ!」

シロクマP「それだけ喜んでもらえるなら何よりかな」

嬉しくて目を輝かせる少女の様子を、白熊は穏やかな目で見つめるのだった。

672: 2014/01/04(土) 13:57:39.71 ID:ysfTtVl3o

――


シロクマP「……そう言えば頼んだ料理はまだ来ないのかな?」

美穂「あっ、そうですね。そろそろ席についてから時間も経ちましたし…」

美穂「お店混んじゃってますから、遅くなちゃってるのかも」

丁度その時、2人の座る机に向かってメイドが料理を運んでくる。

シロクマP「っと、噂をしていたら来たみたいだね」

美穂「本当ですか?あっ!」


肇「え、えっと……お、おお待たせいたしました。お、お嬢様」

美穂の目を向けた先には、

和風のメイド服に身を包んだ鬼の少女が顔を赤くして、立っていた。


肇「うぅ…美穂さん、見に来られるなら来ると事前に言ってくれていれば……」

どうやら、美穂にその姿を見られるのが恥ずかしいようで、

もじもじとしながら、小さな声で不服を申し立てるのだった。

673: 2014/01/04(土) 13:58:17.20 ID:ysfTtVl3o

美穂「……かわいい」

肇「へ?」

美穂「かわいいよ、肇ちゃん!すっごく!」

肇「あ、あの美穂さんっ!?」

同居人のその愛らしい姿に思わず、その手を取ってしまう美穂。

肇「え、えっと……」

その行為に鬼の少女はますます顔を赤くする。


シロクマP「……お熱いね?」

美穂「えっ?……はっ!こ、これは違います!」

肇「い、いえ!そ、そう言う関係ではなくってですね!」

慌てて手を放し、左右に手を振る2人。

ほとんど同時に同じ仕種をする。

シロクマP「あはは、仲が良いのはよく分かったよ」

美穂「うぅ……」

からかう様なシロクマPの言葉に、美穂もまた顔を赤くするのだった。

674: 2014/01/04(土) 13:59:11.44 ID:ysfTtVl3o

シロクマP「肇ちゃんだっけ?」

肇「は、はい?」

突然、シロクマPが肇に話を振る。

シロクマP「アイドルとかやってみる気ない?」

肇「えっ?」

美穂「えっ?!」

美穂「は、肇ちゃんもスカウトするんですか!?」

シロクマP「ははっ、だってこんなに可愛いしさ?」

美穂「それはその……た、確かにすっごく可愛いですけれど」

とは言え、私は保留だったのに?と言う気持ちもちょっぴりある。

肇「えっ、えっと、そ、その…こ、困ります」

シロクマP「そう?残念」

美穂「……ほっ」

なので、肇の答えにほんの少し安心してしまうのだった。


美穂(あ、でも……肇ちゃんとコンビでヒーローって言うのもいいのかも)

コンビやユニットを組んでいるアイドルヒーローは珍しくはない。

憧れのラビッツムーンだって、ナチュラル・ラヴァースと言う相方的存在が居るのだし…。

美穂「うん、それもアリなのかな」

肇「あの…美穂さん、よく分からないですけど考え直してください」

675: 2014/01/04(土) 13:59:59.87 ID:ysfTtVl3o

――



美穂(アイドルヒーロー……かぁ)


本日の出会いを受けて、

少女は再び、頭の中でその存在について考える。


アイドルヒーロー。

歌って踊って戦える女の子の憧れ。

蝶のように可憐に舞い、重機関砲のように豪快に敵を討つ。

その愛らしい勇姿に、誰もが好感を抱き、勇気を貰う。

この時代における人々の希望の象徴。


そんな希望の象徴と並び立つのが少女の夢。

シビアで過酷な痛みを伴う、とても素敵な夢。


美穂(私にとって何が一番大切で、何を選びとりたいのか)

美穂(ちゃんとよく考えなきゃ)


少女の夢は今にも届きそうだったけれど、

その答えは一時保留。

彼女が決断するのは、まだまだ先のお話。




おしまい

676: 2014/01/04(土) 14:01:57.17 ID:ysfTtVl3o

『特別チケット』
ステージイベント関係者に配られるチケット。
持ってるだけで学園祭でのステージを全て特等席で見られるとか言う垂涎の一品。
そのためオークションに出品されてることもままあるとか。


と言う訳で
美穂ちゃん、アイドルヒーローに…ならないお話。

これからはわからないけれど
しばらくはアイドルヒーローオタクのフリーのヒーローのままかなって思います
みくちゃん菜々さんお借りしましたー

割り込み本当申し訳なかったです

677: 2014/01/04(土) 15:09:04.65 ID:8v/8FIvio
乙です。
和風メイド肇かわいい(小並感)

美穂の決断はまだ先か……

割り込みの事は気にしないでください。




【次回に続く・・・】


引用: モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part8