923: ◆6osdZ663So 2014/01/30(木) 09:41:56.54 ID:yC0MHpVFo
924: 2014/01/30(木) 09:42:51.68 ID:yC0MHpVFo
前回までのあらすじ
肇「お待たせしました、ご主人様。こちらがオムライスです」
シロクマP「それじゃあ、ケチャップで『氷菓子』って書いてもらっていい?」
肇「……えっ、オムライスなのにですか?」
【モバマス】美穂とシロクマP
925: 2014/01/30(木) 09:43:24.70 ID:yC0MHpVFo
美穂「……」
「それでー、次どこ行く――」
「RISAのライブまでまだ時間あるよね――」
「うまいって噂のソーセージ屋台って何処だ――」
「昨日言ってたアイスクリームのお店なんだけど――」
「すみませーん、落し物ってどこに届ければ――」
美穂「……♪」
本日は学園祭2日目。場所は京華学園・教習棟前。
「もー、この学園広すぎでしょ――」
「この本掘り出し物だよー。古本屋さんで見つけちゃって――」
「なんかこの学園でカースが現れたそうじゃん、ヤバくない?――」
「ヒーロー達も来てるんだし大丈夫だろぉ――」
「アンティークショップってあるみたいだけど何を売ってるのかな――」
美穂「ふん……ふふん♪」
----------------------------------------
それは、なんでもないようなとある日のこと。
それは、なんでもないようなとある日のこと。
その日、とある遺跡から謎の石が発掘されました。
時を同じくしてはるか昔に封印された邪悪なる意思が解放されてしまいました。
~中略~
「アイドルマスターシンデレラガールズ」を元ネタにしたシェアワールドです。
・ざっくり言えば『超能力使えたり人間じゃなかったりしたら』の参加型スレ。
行き交う人々の中、鼻歌なんて歌っちゃいながら私は待ちます。
926: 2014/01/30(木) 09:44:04.44 ID:yC0MHpVFo
「ねえ、さっき喫茶店でクマ見かけたんだけど――」
「俺は口リコンっぽいハゲ見かけた――」
「私は口リコンっぽい高校生みかけたよ――」
「ちくわ道明寺」
「マジかよ、日本終わったな――」
「誰だ今の」
美穂「……ふふんふーん♪」
タッタッタ
肇「お待たせしました、美穂さん!」
美穂「あっ、ううん。早かったね」
肇「ええ、思っていたよりもお店が落ち着いてきたので」
肇「みくさん達のご好意で、少しだけ早く休憩を取らせてもらう事ができましたから」
美穂「そうだったんだ。えへへ、それじゃあ行こっか、肇ちゃん!」
肇「はいっ!学園のお祭り、さっそく一緒に回りみましょう!」
と言う訳で、本日、わたくし小日向美穂は、
肇ちゃんの休憩時間の間と言う短い時間ではありますが、
2人で一緒に学園祭を楽しみたいと思います!
927: 2014/01/30(木) 09:44:52.91 ID:yC0MHpVFo
美穂「肇ちゃん、今日はお仕事大丈夫だった?」
肇「ええ、昨日よりもずっとうまくやりきる事ができたと思います」
美穂「ふふっ、そっかうまく出来てるんだ」
昨日の様子から、お仕事今日も大変なのかな?と思ったのですが、
どうやら心配はなかったみたいです。
嬉しそうに報告してくれる肇ちゃんの言葉に、
私もついつい自分の事みたいに嬉しくなってしまいます。
肇「ふふっ、なにしろ今日は”鬼心伝心”を使いましたので」
美穂「……えっ」
『鬼心伝心』。肇ちゃんの使う妖術、鬼のおまじないの一つ。
たしかその効果は……
肇「みくさんの心、技、体の動きを読み取って、私の動きに反映させました」
肇「あの場では、みくさんがもっともプロフェッショナルなメイドさんですから」
肇「ふふっ、みくさんが日本一のネコミミメイドなら、私も日本一のネコミミメイドと言う事ですにゃ」
美穂(……結構ずるい事してた)
ですが、相手の技量をそっくりそのまま自分の技術として扱えてしまう”鬼心伝心”は、
戦ったりするよりも、こう言う場面でこそ活躍するべきなのかもしれません。
928: 2014/01/30(木) 09:45:48.71 ID:yC0MHpVFo
美穂「でも、そっかぁ……もうお仕事慣れちゃったんだね。まだ日が浅いのに肇ちゃん凄いな」
肇「可愛らしい格好をするのはまだ少し恥ずかしいですけれどね……」
肇「ですが……その……それも憧れていたので、悪い気はしないですね」
美穂「憧れてた?」
肇「はい、ヒーローとして活躍する時の美穂さんのように」
肇「華やかでとても可愛らしい格好で舞台に立つような事もしてみたい、なんて思ったりもしていましたよ」
美穂「あ、あぅ……も、もう!肇ちゃん!」
肇「ふふっ」
ほんの少しからかうように笑う肇ちゃん。
肇ちゃんの話だったはずが、いつの間にかこっちが恥ずかしがる事になっちゃってました。
だけど……私に憧れていてくれたと言う言葉。
それは、ヒーロー”ひなたん星人”にとって一番のファンであると言う事で、
それはそれは嬉しい気持ちにもなってしまいます。
美穂「えへへっ」
929: 2014/01/30(木) 09:46:30.33 ID:yC0MHpVFo
美穂「でも、それならシロクマさんのお誘い受けちゃっても良かったかもね」
肇「……私がアイドルに……ふふっ、想像してみれば楽しそうです。確かにそれも良かったかもしれませんね」
アイドルヒーロー同盟に所属するプロデューサー、シロクマPさんのお誘い。
お誘いと言うのはアイドルヒーローのスカウトなのですが、
シロクマさんは私だけではなくって、肇ちゃんの事にも興味があったみたいでした。
私もシロクマさんの気持ちがよく分かります。
身内贔屓を差し引いたとしても、肇ちゃんこんなに可愛いのだし意外と強いし……。
うぅ……アイドルヒーローを目指している事を公言しているからには私も負けてはいられないのですが……。
肇「ですが」
美穂「?」
肇「今は使命が。私にはやるべき事がありますから」
美穂「使命……残りの刀の所有者探しだよね?」
肇ちゃんには使命があります。
肇ちゃんのお爺さん、藤原一心さんから託された刀『鬼神の七振り』の所有者探し。
930: 2014/01/30(木) 09:47:19.48 ID:yC0MHpVFo
肇「もちろん。それもです」
肇「それとお爺ちゃんに託されているのは、もう一つ」
肇「刀の材料探しもですね」
美穂「『原罪』のカースの核だったよね?」
『原罪』のカースの核。肇ちゃんのお爺さんの最高傑作となる刀の材料だそうです。
私には、『原罪』どころかカースの事もよく分かっていないのですが……。
美穂「……」
アホ毛「♪」
私の頭上では何かが蠢いています。
ヒヨちゃんの仕業です。
ヒヨちゃんは、私が腰に携えている刀の中の人格と言うか……もう1人の私と言うか……。
そう言えば、私は……ヒヨちゃんの事もよく分かってないのかなあ……。
ちなみにヒヨちゃんは、時々こうして私の髪の毛を操作して今の気持ちを伝えてきているみたいです。
私には見えない位置なので、彼女の動きは感覚的に理解するしかないのですが。
931: 2014/01/30(木) 09:48:04.29 ID:yC0MHpVFo
肇「『原罪』については今のところ……少しの手がかりも無いですね」
美穂「そうだよね、私も色んなカースと戦ってきたけど……虹色の核なんて見た事無いから」
美穂「うーん……私よりずっとずっとヒーローとして活躍してるセイラさんもやっぱり知らないみたいだったし」
肇「……」
肇ちゃんは困っている顔をしています。
手がかりが無い以上、まったく先の見えない道を正しいかどうかもわからずに歩むもので、その不安は私にもわかりました。
美穂「シロクマさんを通して、同盟の人たちにも『原罪』を探してもらえるように頼んでみてもよかったかな」
そんな様子を見かねて、何気ない提案。
しかし、これは失言で。
肇「い、いえ!それは!」
美穂「肇ちゃん?」
肇「……あまり……たくさんの人を巻き込んでしまいたくはなくて……」
美穂「あ……ご、ごめんね」
肇「……」
美穂「……」
はい……私が考え足らずでした。
「巻き込みたくはない。」
肇ちゃんがそう思うのも当然の事で、
それは、きっと例の”刀を狙う悪い人たち”のせいなのだと思います。
932: 2014/01/30(木) 09:48:51.46 ID:yC0MHpVFo
――
――
ここで回想。
時間は、夏休み。
私たちの住む町に妖怪さん達が跋扈した『祟り場』と呼ばれる事件が収束した頃に戻ります。
肇父「父の刀を狙う者達は、昔はそれなりにいてな」
肇父「なにしろ我が父は界隈では、『鬼匠』と名が通っているほどだ」
肇父「天下一を目指す剣士、より強い力を求める妖達、あるいは国の支配を企む妖術師の一派」
肇父「譲り受けに来ようと熱心に父の元を通う者達も多く居たが……」
肇父「中には、力ずくでも、どんな手を使ってでも刀を自分の物としようとする悪しき輩も同じくらい居たものだ」
美穂「……」
肇ちゃんのお父さんのお話を聞いて、思わずごくりと息を飲んでしまいました。
私の頭の中では、聞く限りに恐ろしい人たちがずらりと並び立ちます。
肇父「まあ、そのような者達の大方は、以前に私がフルボッコにした故に」
肇父「未だに父の刀を狙っている悪しき輩はもはやほとんど居ないのだが……」
美穂(フルボッコって……)
933: 2014/01/30(木) 09:50:04.08 ID:yC0MHpVFo
肇「でも、今回の『祟り場』でお父さんは襲われたんだよね」
肇父「うむ、間違いなく私を狙って……いや、私の持っていた『鬼神の七振り』を狙っていたのであろうな」
肇ちゃんが言ったとおり、
こんな物騒なお話をしているのも、肇ちゃんのお父さんが今回の『祟り場』で何者かに襲われたからなのです。
それも……おそらくは『鬼神の七振り』を狙う人たちに。
肇父「心を読めなかったが故に、襲撃者の正体は私にも掴めなかった」
その人達について分かるのは心が読めない相手であったと言う事くらいです。
例えばロボットの兵隊さんだとしたら、心が無いので心を読む能力は通じないのでしょう。
肇父「とは言え、予想はついているのだ」
肇父「おそらく、此度の襲撃者はあやつらの差し金なのであろう」
美穂「あやつら?」
肇父「……我が父に、『鬼神の七振り』の製作を依頼した依頼主」
美穂「!?」
肇「!」
依頼主、と肇ちゃんのお父さんは言いました。
『鬼神の七振り』の製作は、誰かが肇ちゃんのお爺さんに頼んで作ってもらった刀なのだそうです。
私はその時にその話をはじめて聞いたのですが、
隣で聞いている肇ちゃんも、驚き方からして初耳だったのだと思います。
肇父「そやつらの名は……」
934: 2014/01/30(木) 09:51:17.79 ID:yC0MHpVFo
――
――
美穂(櫻井財閥……)
櫻井財閥。
それが、あの時教えてもらった『鬼神の七振り』を狙う心当たりのある組織の名前です。
『櫻井財閥』の名前は、もちろん私も聞いた事があります。
間違いなくあの、世界的にも有名な大財閥のことですよね……。
道行く人に声を掛けて、「櫻井財閥って知ってますか?」と聞いたら、
8割の人が、「知ってるよ」と答えると思います。
そのくらい有名です。
残り2割の人は、「櫻井!?知るかっ!!」と何かに怒ったように答えると思います。
そのくらい有名です。
935: 2014/01/30(木) 09:51:47.24 ID:yC0MHpVFo
ただ、有名は有名ですけれど、
みんな……多くの人は名前を知っていると言うだけで、
その実体……全体像となると、知ってる人はどのくらい居るのでしょうか?
私が櫻井財閥について知っていることと言えば……
例えば、この学園から少し離れた位置にある病院。櫻井財閥が運営しているそうです。
例えば、私がよく卯月ちゃん達と買い物に行くデパート。経営者は櫻井財閥の関係者だそうです。
例えば、クラスで流行っているマスコットキャラクターのグッズ。製作には櫻井財閥に連なるグループの企業が関わっているそうです。
本当にどこでも名前を聞けちゃいますね。
だから……ますます、どんな組織なのかわからなくなった気がします。
名前と、その事業。なんとなく、そして少しだけは知ってはいました。
けれどなんとなくでしか知りません。少しだけしか知りません。
全体の内のほんの一部。私が知っているのはそのくらいです。
世界に名だたる『櫻井財閥』。その実体は、私たち一般人からすればとにかく巨大です。
たとえ身近にある一部からその存在を知っていても、その全体像は大きすぎて見えていないんです。
広い海岸。砂浜で向こうからやってくる波に触れる事はできても、地平線の向こう側は見えない。
怪獣映画に出てくるような怪獣の傍に居て、その足元はよく見えていても、頭は雲の上にあって見えない。
丁度、そんな感覚であると言いますか。
936: 2014/01/30(木) 09:53:04.97 ID:yC0MHpVFo
気になったので、インターネットでも調べてみました。
後でわかりましたけれど、その時使ったパソコンの生産事業にも、
櫻井財閥が大きく関わっているらしくって、なんだかここまで来ると怖いですね。
それはさておいて、
「櫻井財閥(仮)」で検索、検索ぅ。
出てくるのは良いお話と、まことしやかに囁かれる悪い噂です。
まずは良いお話から、
カースの大量発生によって、私達を恐怖のどん底に陥れたあの『憤怒の街』と呼ばれた災害。
その解決の為に、『櫻井財閥』はヒーロー達と共に初期から動いてくれていたのだそうです。
『憤怒の街』には、『櫻井財閥』に所属する能力者さん達が派遣されていたようです。
彼らは果敢に攻略の足掛りとなる地図を作成し、その後も街の中心地付近で救護活動を行い、
怪我した人たちを財閥の運営する病院に運び込んで、たくさんの人たちを救ったそうです。
驚きなのが、『憤怒の街』での活動に力を入れるように強く進言したのは、
まだ12才のご令嬢であったらしく、その事で彼女をはじめ櫻井財閥に多数の感謝の言葉が寄せられていました。
このお話には、私は素直に感激しちゃいました。
『憤怒の街』での救助活動は、私にはできなかった事なので。
見知らぬ誰かのために、尽くして戦う。まるでヒーローみたいですよね。
937: 2014/01/30(木) 09:54:12.79 ID:yC0MHpVFo
一方で悪い噂。
検索した限りではこちらの方が多種多様、
都市伝説めいた嘘みたいなお話から、散々な罵詈雑言までエトセトラ。
と言うか悪口満載です。まるで低評価が並ぶカスタマーレビューでした。
その中の幾つかをご紹介。
「櫻井財閥の当主は悪魔と契約している」
「櫻井財閥に関わったジャーナリストが氏体で発見される事件が多すぎる」
「氏神事件の黒幕は櫻井。魔法使いの活躍に何か不都合があるに違いない」
「『憤怒の街』での救助活動も形だけのパフォーマンス。救助した身寄りの無い人間は人体実験に使っているらしい」
「櫻井財閥に仕事貰いに行った研究員が帰ってこない件について」
……黒いです。すごくブラックです。
ここでは紹介しませんでしたが、もっと危ないお話もあったりして……。
これ全部、本当のお話なんでしょうか……。ネットで真実は語れないと言いますが……。
うーん、嘘みたいだけど、真実味のあるお話もあって怖いなあ。
938: 2014/01/30(木) 09:55:26.03 ID:yC0MHpVFo
良いお話と悪い噂。
ここまで評価が真っ二つに分かれるのは、
櫻井財閥と言う組織が、本当に2つの顔を持っているからでは無いでしょうか。
ちょうど私と、”ひなたん星人”みたいにです。
それは表と裏の関係。
コインのようにひっくり返る真逆の顔を兼ね備えているのだと思います。
2つの顔と言えば、『綺麗な花には棘がある』って言いますよね。
美しく見える物ほど、その裏には人を傷つけちゃう棘があるのだって。
綺麗な美談で、美しく飾られる『櫻井財閥』にも、
その陰には、たくさんの人を傷つけてしまう棘があるのかもしれません。
善と悪。正しいと間違い。本当と嘘。それらが複雑に絡み合う……
巨大な茨の庭園。
『櫻井財閥』について調べて、私が抱いたのはそんな印象でした。
939: 2014/01/30(木) 09:56:11.44 ID:yC0MHpVFo
……と、閑話休題です。
とにかく、櫻井財閥が肇ちゃんのお爺さんに『鬼神の七振り』の製作を依頼したのは間違いないようです。
そして刀の完成を目前にして、櫻井財閥はその研究から手を引いた。
いえ、肇ちゃんのお父さんによると、とある事件の影響によって手を引かざるを得なかったそうです。
行き場を失い、お爺さんの手元に残った刀は、孫の肇ちゃんに託されて、人の世に。
と、言うのがこれまでの『鬼神の七振り』に纏わるお話の流れだったみたいですね。
もし櫻井財閥が、『鬼神の七振り』を半ば諦めるように研究を放棄したのだとしたら……。
そしてもし櫻井財閥が、噂どおりのブラックで危ない組織なのだとしたら……。
なるほど確かに、『鬼神の七振り』を狙って肇ちゃんのお父さんを襲った理由になるのかもしれません。
うーん、それでも幾つかの疑問は残っちゃうんですけどね。
「どうして奪おうとしたのか」とか……。
あ、もちろん、「刀が欲しいから」って理由なのはわかります!
でも……「欲しい」だけなら……真っ先に「奪う」って方法を選んだのはちょっと変かなって。
他にもたくさんやり方はあると思うんです。
例えば、肇ちゃんのお爺ちゃんにもう一度頼むとか……。
既に断られちゃったのかもしれませんけどね。
……考えてもよくわかりませんね。襲撃者の正体が本当に彼らとも限りませんし。
とりあえず今の私には、警戒を怠らないようにすることしかできないでしょう。
940: 2014/01/30(木) 09:57:25.49 ID:yC0MHpVFo
さて、長々と思考しちゃいましたが。
美穂「……」
肇「……」
沈黙が続いちゃってます。ちょっと気まずいです。
そう、私が8レスにも渡って回想を交えつつ現状を省みることができたのは、
この沈黙の長さのせいだったりします。
はい、気まずいです。
美穂「……」
肇「……」
刀を狙う襲撃者の存在。肇ちゃんにもきっと思うところがあるのでしょう。
肇ちゃんは優しいから、
『鬼神の七振り』を託した私たちの事を心配してくれているのかもしれません。
941: 2014/01/30(木) 09:58:15.89 ID:yC0MHpVFo
でも、日本一、欲張りな刀こと『月灯』を託したセイラさんは元アイドルヒーロー。
そして日本一、大喰らいな刀こと『餓王丸』を託した珠美さんと言う人は、妖怪退治屋さんだそうです。
セイラさんは言うまでも無く、珠美さんも肇ちゃんから聞く限りは、かなりの実力者です。
きっと2人とも私なんかが及ばないくらい強い人達で、だから簡単には負けたりなんかしないはずです。
もう1つ。肇ちゃんの手元を離れた刀。
日本一、自堕落な刀こと『眠り草』。それは危機回避能力に秀でた刀だと聞いています。
だとしたら、まだ出会ったことの無い所有者の人をちゃんと守ってくれているはずです。
美穂「だからね、きっと大丈夫だよ肇ちゃん」
肇「……そうですね。美穂さん、ありがとうございます」
美穂「ううん。それにね」
美穂「私も負けたり……負けないつもりで頑張るから、安心してほしいかな」
ここで負けたりなんてしないと言い切れたらカッコよかったと思うのですが、
自分自身の強さにそこまでの自信は持てないのが私でした。すみません…。
肇「ふふっ、美穂さんは良いアイドルヒーローに絶対なれると私は思いますよ」
どこか自信のない私の言葉に、
肇ちゃんは力強く笑顔で答えてくれるのでした。
942: 2014/01/30(木) 10:00:01.94 ID:yC0MHpVFo
――
美穂「さてと、それじゃあ何処から見回ろっか?」
難しいお話はここまで。
悩む時間も大切だってシロクマさんは言ってたと思うけれど、
今は時間がありません。
なにしろ京華学園は、私達の学校なんかとは比べ物にならないほどに広大な学園で、
肇ちゃんの休憩時間だけではとても回りきれませんから!
少し落ち込んじゃった気持ちを晴らすためにも、
今は、すぐにでも学園祭を楽しむために行動することが大事なはずです!
肇「そうですね、まずは……」
ぐぅー
肇「……」
美穂「……ふふっ」
美穂「まずはご飯だね?」
肇「す、すみません。妖術の使いすぎで……」
肇ちゃんは妖術を使うと、何故かいつもお腹が減るようです。
今日は朝から『鬼心伝心』を使っていたようなので、今はお腹ぺこぺこな事でしょう。
美穂「うん。食べ物系の出し物は多いから、せっかくだし色んなところ回ろう!」
肇「……はいっ!お供させていただきます」
そうと決まれば、飲食系屋台が多い地上通路。まずはそこから攻めて行きましょう。
943: 2014/01/30(木) 10:00:54.10 ID:yC0MHpVFo
――
肇「出し物と言えば……」
美穂「?」
ベンチに座り、屋台で買ったクレープを頬張りながら肇ちゃんの言葉に耳を傾けます。
肇「美穂さんは、この学園祭での出し物は何を?」
美穂「あ、そう言えば話してなかったね」
肇「今日は私に付き合ってもらっていますが……美穂さんはお仕事大丈夫でしょうか?」
美穂「うん、持ち回り当番制だから大丈夫」
まあ、何と言うかですね。高校生はみんな遊びたいんです。
何かを提供するのも楽しいのですが、せっかく大きなお祭りなのですから色んな所を見て回りたい。
なので、みんなにできるかぎり自由な時間ができるように、持ち回り制に。
そして、出し物のために役割を果たしているときでも、この学園を見て回れるように……
美穂「私たちはね、これをやってるの」
ポケットから1枚のカードを取り出します。
肇「?」
肇「網目のマスに1から9の番号が…?美穂さん、これは?」
美穂「それはね、スタンプカードだよ」
と言う訳で、私達の出し物はスタンプラリーです。
944: 2014/01/30(木) 10:01:34.86 ID:yC0MHpVFo
肇「……なるほど、スタンプを持っている人を探してこのカードに判を押してもらうと」
美穂「うん、9点分のスタンプを集めれば豪華景品?と交換してもらえるみたい」
私達のことながら、なかなかに遊ぶことしか考えていない出し物だと思います。
何しろスタンプを持っている人は、そうと分かる格好で学園内を好きに歩き回ると言うルールですから。
もちろんある程度は自由に活動していてもいいのですが……本来の役割をサボっている人が居ないとは限りません。
そこはみんなのやる気と情熱を信じるしかないですね。
……まあ、私も今現在サボってるに近い状態ではあるので、あまり人の事を強くは言えないのですが……。
肇「9つのスタンプを集めるのは、とても大変そうですね」
美穂「そうでもないよ、9点分だから2点や3点のスタンプを集めればすぐに埋まるから」
肇「なるほど、得点の高いスタンプがあるんですね」
肇「それなら今からでも……」
美穂「えっ?」
どうやら肇ちゃんはスタンプを集める気のようです。でもとてもじゃないけど休憩時間中には……。
先ほどは簡単そうに「すぐに埋まる」と私も言いましたが、それは時間を使って広い学園を回ることができればの話であって。
肇「えっと……ダメでしょうか?」
美穂「……」
そんな顔でお願いされて断れるでしょうか、いやできまい(反語)
美穂「頑張ってみよっか」
肇「はいっ!」
美穂「……ふふっ」
945: 2014/01/30(木) 10:02:35.03 ID:yC0MHpVFo
美穂「それなら、まずはこの区画に居る番人を探してみよう」
肇「?……番人と言う呼び方は……何かを守っているみたいですね?」
肇「もしかして?」
美穂「肇ちゃん鋭いね!うんっ、スタンプのために勝負を仕掛けてくることがあるみたい」
もちろん勝負とは言っても、物騒な事は全然なくって
じゃんけんとか駆けっことかボードゲームとか簡単で誰でもできるものです。
勝負が絡むスタンプは、総じて高得点なので短時間クリアを目指すなら是非とも狙っていきたいところです。
肇「では、少し覚悟を決めて挑まなければいけませんね」
美穂「ふふっ、そうだね」
肇ちゃんの心は静かにですが燃えているようです。良い傾向です。
946: 2014/01/30(木) 10:03:14.32 ID:yC0MHpVFo
美穂「それじゃあ、このクレープを食べ終わったら早速……あれっ?」
肇「美穂さん?」
そこで、私はようやく気づきました。
美穂「私のクレープがない?」
手元にしっかり持っていたはずのクレープがありません。
おかしいです。全部は食べていなかったはずなのですが……
もぐもぐ。むしゃむしゃ。
美穂「?」
ふと、ベンチの後ろから何かを食んでるような音が聞こえます。
振り向けば、背後には……
美穂「誰もいない?」
肇「いえ、何かの気配は確かにあります」
どうやら気のせいではなく、肇ちゃんにも何かが居ることがわかったようです。
947: 2014/01/30(木) 10:03:52.26 ID:yC0MHpVFo
美穂「もしかして下かな?」
私はベンチの背もたれを乗り越えるようにして下を覗き込みました。
するとそこには、
「もぐもぐ」
美穂「あっ」
居ました。
こぐま「……もぐもぐ」
そこに居たのはこぐまさんです。
2.5頭身程度の、まるでぬいぐるみのような、
白くて可愛いこぐまさんが、クレープを食べていました。
こぐま「マ?」
あ、向こうもこちらに気づいたようですよ。
948: 2014/01/30(木) 10:04:22.61 ID:yC0MHpVFo
こぐま「……!!」
こぐま「マっ!!マっ?!」
覗かれていることに気づいて驚いたのか、こぐまさんは慌てて逃げ出します。
2つの小さな足でトテトテと、お世辞にも速い速度ではなく。どこか覚束ない足取りです。
こぐま「マっ!?」
あ。
こてん、と転げちゃいました。
美穂「……かわいい」
肇「……?この子は何でしょう?」
美穂「こぐまさん」
肇「い、いえ、それは見れば分かるんですけれどね」
ついボケちゃいましたが、肇ちゃんの言いたい事は分かります。
二足歩行で歩いて、間接部にはどこか光沢のある金属のような部分が見えるくまのぬいぐるみ。
機械?……あ、でもクレープ食べてたし……。
……不思議です。不思議な生き物です。
こぐま「マぁ……」
こぐまさんはふるふると震えながら、すぐそこの木の陰の後ろでこちらの様子を伺っています。
たぶん、隠れてるつもりなんだろうなぁ……。可愛いです。
正面から改めて見てみると、どこかシロクマPさんに似ているかも。
949: 2014/01/30(木) 10:05:17.69 ID:yC0MHpVFo
美穂「怯えちゃってるのかな?」
肇「人が怖いのかもしれませんね」
美穂「うーん……何か誤解を解くいい手はないかな……」
言いながら、私はごそごそとポケットを探ります。
美穂「あ、これなら」
肇「それは?」
美穂「お菓子。私に『番人』の役割が回ってきたときはこれを配ろうかなって思ってたんだ」
スタンプを配る役は、そうとわかる格好で歩き回らないといけません。
私は魔法使いのコスプレで頑張るつもりでした。
もう過ぎちゃったけど、ハロウィンも近いのでお菓子も一緒に配れば喜んでもらえるかなって。
ちなみに文化祭の季節は秋です。誰がなんと言おうと今は秋です。
私はクッキーを袋から取り出すと半分に砕いて左の手のひらの上に乗せます。
そしてベンチの横にしゃがみ込み、
美穂「おいでー」
こぐまさんに喋りかけます。
クレープを美味しそうに食べていたので、たぶんクッキーも好きだと思います。
こぐま「マ?」
私の予想通り、こぐまさんはこちらに興味を示してくれたみたいです。
950: 2014/01/30(木) 10:06:23.99 ID:yC0MHpVFo
こぐまさんはトテトテと、おそるおそるこちらに近づいてきます。
こぐま「……マ?」
そして私の前に立つと、小首を傾げました。
……可愛すぎませんか、この子。
美穂「はいっ、あげます!」
こぐま「マっ!」
私が許可を出すと、両手を伸ばしてクッキーを受け取ってくれました。
こぐま「もぐもぐ…」
早速口入れています、既に無警戒です。
信用してくれているのは嬉しいのですが、
こんなに簡単に人の事を信用してしまっていいのでしょうか……?この子が少し心配です。
こぐま「……」
こぐま「マぁあ♪」
美穂「ふふっ」
頬に両手を当てて、感激しているようでした。
喜んでもらえたようでよかったです。
951: 2014/01/30(木) 10:07:05.33 ID:yC0MHpVFo
こぐま「マっ!」
美穂「あっ」
ぴったりと、こぐまさんは私の足元にくっついています。
美穂「……懐かれちゃった?」
肇「ふふっ、みたいですね」
こぐま「マぁ!」
美穂「えへへ」
甘えん坊のクマさんですね、悪い気はしません。
私はこぐまさんを両手で抱え上げます。
あ、意外と軽いですね。
こぐま「マ♪」
抵抗されることは無く、すっぽりと私の両腕の間に収まるのでした。
952: 2014/01/30(木) 10:07:35.10 ID:yC0MHpVFo
美穂「さて、この子はどうしようか?」
肇「どうするとは?」
美穂「うーん、親とか居ないのかなぁ。もしかしたら誰かのペットなのかも?」
こぐま「マっ」
こぐまさんは首を振ります。どうやら違うみたいです。
野生の生き物?いえ、触り心地は意外にもふかふかですけど機械みたいな部分も見えてますし……
不思議です。不思議な子です。
こぐま「マっ♪マっ♪」
肇「……とにかく美穂さんに懐いてるみたいなので、一緒に連れて行きませんか?」
美穂「そうだね、この子の事を知ってる人に会えるかもしれないし」
少なくともこんな所に1人(?)にしているよりは、たぶん良いと思います。
953: 2014/01/30(木) 10:08:08.03 ID:yC0MHpVFo
美穂「シロクマさんに聞けばわからないかなぁ?」
アイドルヒーロー同盟ならこの子のような生き物についても知っていそうです。
こぐま「マぁ?」
それにしても……そっくりだなぁ。白い小熊さんだし。
美穂「ふふっ、とりあえずキミの事はプロデューサーくんと呼ぼうかな♪」
こぐま「マっ!」
プロデューサーをやってるシロクマさんにそっくりなので、『プロデューサーくん』。
我ながら安易な名付けですけれど気に入ってくれたようで何よりです。
美穂「それじゃあ、行こっか」
美穂「肇ちゃん、プロデューサーくん」
肇「はいっ」
Pくん「マっ」
さて、運命的な出会いを果たしたところで文化祭はまだまだこれから。
たくさん楽しんで大切な思い出を増やしたいと思います。
おしまい
954: 2014/01/30(木) 10:08:59.40 ID:yC0MHpVFo
『プロデューサーくん(マキナ・ウィッチキス)』
小さな白いクマのぬいぐるみの姿をしたエクス・マキナ。
無邪気で人懐っこく、悪戯と甘いお菓子が好き。
ガイスト形態はウィッチハット。一定の条件を満たすと装備者の魔力を増幅させる力を持つ。
『スタンプラリー』
『秋炎絢爛祭』における高校生組の出し物。
『京華学院』の様々な場所に居る高校生達からスタンプを貰って、豪華景品を手に入れよう。
スタンプをくれる『番人』たちは勝負を吹っかけてくることがあるかも?勝てば高得点のチャンス!
スタンプカードと景品の交換は教習棟で受け付けています。
※教育現場では今回の文化祭について、指導の一環としての外部生徒との交流が軸と考えられており、
高校生組の出し物は一部、他校生と協力して行われているものもあります。
そのため『スタンプラリー』に置いても美穂の学校以外の生徒が『番人』を勤めている事があるかもしれません。
955: 2014/01/30(木) 10:10:17.86 ID:yC0MHpVFo
◆方針
美穂……櫻井財閥を警戒中。文化祭を楽しむ。
肇 ……少しの間お仕事休憩中。文化祭を楽しむ。
と言う訳で、みほたんうぃっちフラグを立てるお話。
櫻井財閥に対する美穂の認識はこんな感じ。
肇ちゃんに休憩を取らせて貰ったり、高校生組の出し物を決めてしまったり。
色々と動かさせていただきました。失礼ー。
956: 2014/01/30(木) 11:39:25.08 ID:ll5EtNql0
おっつおっつばっちし☆
髪下ろしたなつきちの色気はやべえの
しかしAMCえげつねえ……
リスクのでかい大技ってロマンよね、わかるわ
電気の人ェ……とうとう残っていた魂までもが……
髪下ろしたなつきちの色気はやべえの
しかしAMCえげつねえ……
リスクのでかい大技ってロマンよね、わかるわ
電気の人ェ……とうとう残っていた魂までもが……
【次回に続く・・・】
コメントは節度を持った内容でお願いします、 荒らし行為や過度な暴言、NG避けを行った場合はBAN 悪質な場合はIPホストの開示、さらにプロバイダに通報する事もあります