1:◆EyREdFoqVQ 2016/10/12(水) 01:10:36.93 ID:v4ZRzAXTo

【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」【×影牢】

上記スレッドの番外編です。

・舞台になっている鎮守府、通称『墓場島鎮守府』の過去の話になります。
 提督の着任から、各艦娘がこの島へ着任するに至った経緯を書いていきます。

・艦娘の殆どが不幸な目に遭っておりますので、そういう話が嫌な方は閉じてください。

・影牢のキャラは出てきません。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1476202236

2: 2016/10/12(水) 01:13:17.71 ID:v4ZRzAXTo

艦娘以外の主要な登場人物

・提督
 階級は准尉。一般人には見ることも出来ない妖精と話が出来たせいで
 親からも変人扱いされ人間嫌いをこじらせる。

・小佐
 戦争は金儲けの道具と考え、中将の威光を傘に暗躍。後に大佐にまで昇進する。
 妖精と会話できる提督に危機感を覚え、離島の鎮守府に閉じ込めようとする。

・中将
 小佐の父親。有能だったらしいが息子が絡むと駄目になるらしい。
艦隊これくしょん -艦これ- おねがい!鎮守府目安箱1 (電撃コミックスNEXT)
3: 2016/10/12(水) 01:14:44.09 ID:v4ZRzAXTo
 * 太平洋上某所 離島の鎮守府 *

士官「本日より、ここがあなたの鎮守府になります」

提督「……」

士官「日本から離れたこの島で、一人で生活していただくのは大変心苦しいのですが……」

士官「これも国民のため、ひいては世界平和への貢献につながります」

提督「……ああ」

士官「この鎮守府の執務室に、少佐殿の鎮守府直通の無線機を設置しております」

士官「着任次第、連絡を入れていただくよう命令が来ておりますので、まずは少佐殿へご一報をお願いいたします」

提督「……」コク

士官「自分は別鎮守府への参集命令がありますので、荷卸しが終わり次第失礼いたします!」

士官「提督、ご武運を!」ビシッ

提督「ん……」ピッ


提督(妖精と意思疎通ができる能力を買われて、海軍入り)

提督(何の前歴もないのに、お人好しの中将に准尉の階級までもらって、息子の少佐を訪ねてみたら)

提督(これがどうしようもねえ小悪党……鎮守府の雰囲気は最悪だ、何をしないでも奴の悪行が耳に入ってくる)

提督(そのくせ、妖精から何を聞かれるかわからねえと、わざわざこんな離れ小島の鎮守府を任せて体よく幽閉とはな)

提督(まあ、ガキのころから妖精と話ができるせいで、俺をキチ扱いしやがる人間どもと縁が切れてせいせいするが……)

提督(あいつの手のひらの上にいるってのは、気に入らねえな)

4: 2016/10/12(水) 01:16:41.39 ID:v4ZRzAXTo
提督になついている妖精(以下妖精)「やれやれ、まいったね……」ヒョコ

妖精「まさか艦娘のひとりも寄越さないうちに着任しろだなんて」

提督「電気も通ってねえくらいの島なのに、なかなか立派な建物じゃねえか」

提督「自家発はちゃちいがな」バルルルン

妖精「見栄だけの張りぼて鎮守府って感じもするね」


提督「それにしても……この島、妖精の数が多すぎねえか」

妖精「そうだね……」

提督「しかも歓迎されてねえみたいだしな」

妖精「……」

提督「ったく……大丈夫か」

妖精「うん。でも、同じ妖精から白い目を向けられるのは、結構きついね」

提督「……」


 * 執務室 *

提督「なんだこりゃ」

(配線や工具が散らかったままの執務室)

提督「設備だけ取り付けてそのまま帰ったって感じだな」

妖精「工具も片付けていかないようじゃ、少佐の部下の仕事もたかが知れてるね」ムスッ

提督「言うねえ……ん、これか」

5: 2016/10/12(水) 01:18:00.92 ID:v4ZRzAXTo
(無線の設備につながれた旧式の通信機)

提督「へっ、えらく前時代的なブツを用意したもんだ」

妖精「……接続先を選ぶ装置がないね。すぐ通話できるってことかな」

提督「奴の鎮守府以外に連絡できないようにしてるんだろ。そういう狡い真似は得意そうだしな」キョロキョロ

妖精「どうしたの?」

提督「……スピーカーとつなぐケーブルを探してるんだが……こんだけ散らかってるなら余ったケーブルもあるだろ」

妖精「?」

 * * *

提督「さて、これで動くか」ガチャッ

 RRRR... RRRR...

スピーカー『提督か。遅かったな』

妖精「!?」

提督「……少佐か。この通信機はあんたのところに直通なんだな?」

少佐『鎮守府に着任し次第連絡をしろという命令だったが、何をしていた?』

妖精(スピーカーから二人の声が……!)

提督「発電機のトラブルだ。あんな貧弱なもん用意しやがって、予算ケチってんじゃねえよ」

少佐『口を慎め、提督准尉。今後定時連絡が10秒遅れれば、お前への配給は10日遅れると思え?』

提督「定時連絡?」

6: 2016/10/12(水) 01:19:10.17 ID:v4ZRzAXTo
少佐『本日マルキュウサンマルより貴様はその鎮守府の提督として着任とする』

少佐『軍備の拡充及び深海棲艦の撃滅を行い戦果を挙げ、明日以降毎日ヒトロクサンマルに専用回線にて我が鎮守府へ報告せよ』

少佐『以後、命令に背けば即銃殺刑に処す。以上だ』

提督「軍備の拡充というのは?」

少佐『そんなものは島の妖精に訊け』

少佐『お前は妖精と話せるんだろう? お前はそこの連中と一生おままごとをしていれば良いんだよ』

少佐『話は以上だ。明日から連絡は寄越さなくて良いぞ』ガチャン

提督「……けっ」

妖精「むーかーつーくーーー!!」プンスカ

妖精「なんだよあれ! 言ってることが無茶苦茶だよ!」

提督「あいつがここまでやるってことは、俺が妖精と話せるのが少佐には随分と都合の悪い話だってことなんだろ」

提督「ま、定時連絡はご命令通りやってやるさ。俺にとっても苦痛だが、あいつにとっても俺の存在がストレスそのものなんだろうからな」

妖精「でも、なんでこんな会話をスピーカーに流したの? 私に聞かせたかったから?」

提督「ああ……俺たちはここで暮らすことになる。こうやって事の顛末を聞かせたほうが俺が説明する手間も省ける」

提督「ほら、そうこう言ってるうちにお客さんだ」

???「客は……君たちだろう?」

妖精「!」

7: 2016/10/12(水) 01:20:31.96 ID:v4ZRzAXTo
島の妖精A(以下島妖精)「あんたとは……話は通じるんだな?」

提督「ああ。だが出ていけって話なら断る。船もねえしな」

島妖精B「……なら、力ずくで追い出すよ」

妖精「や、やめなよ!!」

提督「俺は構わねえよ。ただ、俺についてきた妖精には良くしてやってくれ、巻き込まれたようなもんだからな」

妖精「提督!?」

島妖精たち「……」

提督「さあて、俺はどうするかな……鎮守府ん中を見て回るか」

妖精「……一緒に行くよ」ピョコン

提督「そうかい」


島妖精たち「「…………」」

12: 2016/10/14(金) 00:48:07.16 ID:eognrxp9o
 * 工廠 *

提督「……酷え有様だな」

妖精「工廠の設備はほぼ全滅。入渠用のドック2基のうち1基が修理すれば動きそうなレベル、と」

提督「修理するにも機材やら資材やらが足りなくて修理不能、と。しばらくはこのまま放置だな」

妖精「え、このまま?」

提督「少佐に機材を催促したって寄越すとは思えねえ。それに、復旧させるにも使うにも島の妖精たちの協力も要るだろ」

提督「建造ドックは機材もボロボロで電気系統もいかれてる、自家発もあれじゃパワーが足りねえし使えるとは思えねえ」

妖精「燃料も資材も供給不十分、ドックも壊れた状態で戦果を挙げろ、かあ。どうかしてるよ」

提督「ま、そういう話を小姑みたいにねちねちと報告してやりゃあ、アレもちったあこたえるだろうさ。会話自体したくねえが」

妖精「なんだかなあ……」


 * 埠頭 *

提督「なんだこの積み荷は」

空っぽの木箱「」カラーン

提督「これが補給物資だと? 半分以上空箱じゃねえか」ガン

妖精「おそらくだけど、意図的に中身だけ減らしてるね。送付記録は満数で書いてある」ペラリ

提督「兵糧攻めとかやることがいちいち小っせえんだよ! ああ癪に障んなぁ……くそが」

提督「実数記録しとくぞ。てめえで弱み作ってんだから、いつかいびり倒してやる」

妖精(いつになるやら……)

13: 2016/10/14(金) 00:50:00.62 ID:eognrxp9o
 * 会議室 *

提督「ここが会議室か……」

妖精「すっごい埃まみれ」

提督「蜘蛛の巣もひでえな……」バッバッ

埃「」ブワアアアア

提督「げっほ! げほげほ!」

妖精「撤退! 戦術的撤退!!」

提督「くそ、他の部屋に行くぞ」ガチャ

妖精「……うわー」

提督「応接室も似たようなもんかよ。くそがっ!」

妖精「とりあえず窓を開けないと……固っ!?」ガチガチ

提督「錠が錆びついてんじゃねえか、安物ですませやがったな……ぶち割っちまおうか、この窓」

14: 2016/10/14(金) 00:51:12.45 ID:eognrxp9o
 * 食堂 *

提督「……無駄に広えな」

妖精「ここも埃っぽいけど、掃除すれば問題なさそうだね」

提督「碌に使ってねえ、ってことか」

妖精「そうだね……厨房も、コンロとか綺麗なままだよ」

提督「それでも一通り拭き掃除がいるな。埃かぶったまま火をつけるわけにはいかねえ」

提督「流しは……」

蛇口「」ヴジャー

提督「なんだこの水の色。錆びが酷えぞ……飲めるのか?」

妖精「しばらく出しっぱなしにしないと駄目だね……」


 * * *

提督「はぁぁ……」グッタリ

提督「なんで鎮守府の中を見て回るだけでこんなに体力使うんだよ……」

妖精「改めてみると結構広いんだね、鎮守府って」

提督「だがまあ、鎮守府の中はもういいや。次は外……だな」

提督「島の外周を回って広さを確認しねえと」

妖精「……!」ゾクッ

提督「……」

妖精「……ねえ」

提督「ああ、島の妖精たちの様子が変わったな。いったい外で何がでてくるやら」

15: 2016/10/14(金) 00:54:21.14 ID:eognrxp9o
 * 島の北東 砂浜の海岸 *

提督「……」

妖精「……ひどい」

(海岸に打ち上げられた無数の艦娘の残骸)

妖精「こんなに大勢の艦娘が……」グスッ

提督「……」スッ

島妖精A「触るな」

提督「……」

島妖精B「触るなって言ってるだろう? 彼女たちを静かに眠らせてやれって言ってるんだ」

島妖精C「お前みたいなやつが、触っていい相手じゃないんだ!」

提督「……」

提督「……なあ、訊くけどよ」

提督「こいつらは、何のために戦ってたんだ?」

島妖精A「海の平和のためだよ」

島妖精B「その子が好きだった司令官のためだった」

島妖精C「彼女は国の……民のために戦ったんだ」

提督「へーへー、そうですか。まあ模範的な解答なこって……」

島妖精たち「」イラッ

提督「そんじゃあ、もう一つ聞くか。艦娘ってのは……」

16: 2016/10/14(金) 00:56:40.72 ID:eognrxp9o
提督「土葬しても大丈夫か?」

島妖精たち「!?」

提督「お前らは、ここまで戦ったこいつらに何をしてやりたい? こいつらが元の形を失って、朽ちていくのを眺めていたいのか?」

提督「俺に触るなって言うのはわかるが、野晒しってのは可哀想だ。こいつらだってこんな姿いつまでも見られたくないだろ?」

提督「昔の軍艦なら雷撃処理とかで水葬ってのがいいんだろうが、この砂浜にはでかい鉄くずも打ち上げられてる」

提督「それだけこの辺りの潮の流れが速くて強いなら、また打ち上げられちまうだろ。で、油もなくて火葬も無理なら、土葬するのが一番だろ?」

島妖精A「……どうして、お前は艦娘にそこまでしようとする」

提督「……こいつらが人間のために戦ったから、だ」

提督「お前は海の平和のためとか言ってたが、その平和はあくまで人間の言う人間基準の平和だろう?」

提督「俺も人間だ、人間のために働いて氏んだこいつらを素通りできたら、こいつらに顔向けできねえな……って、思っただけだ」

提督「こいつなんか顔も腕もぼろぼろだ。せめて弔ってやりたい、と思うのは俺のエゴだが……お前らはどうなんだ?」グッ

島妖精たち「……」

提督「くっ……い、意外と重てえ……艤装も込みだからか……っ」

提督「おい、こいつら、この島のどこに埋めてやりゃあいい!?」

17: 2016/10/14(金) 00:58:12.09 ID:eognrxp9o
 * 島の中央よりやや南西、丘の上 *

妖精「少佐の送ってきた空の木箱を、こんなところで使うことになるなんてね」

提督「ちょっと窮屈だが、ただ埋めるよりいいだろ。俺たちじゃあ立派な棺桶は作れねえ」ゼェゼェ

提督「それに、動かせるユンボが残ってて助かった。穴掘りは結構な重労働だし、な」ハァハァ

島妖精B「まだ一人しか運べてないじゃないか」

島妖精C「サボってないで次に行こうよ!」

提督「お、お前ら、無茶言うな! こんな遠くの丘の上まで運ぶのクッソしんどいんだぞ!!」

 * 夕暮れ *

提督「くそ、運べたのは結局2人だけかよ……」グッタリ

提督「地味に定時連絡が面倒くせえしよ……」

提督「くっそ……腹へった」グウウ

提督「そうだ、俺の今日からの布団とか何も準備してねえ」ハッ

島妖精A「おい」

提督「……ん?」

島妖精A「ついてこい」

提督「あ、ああ」

18: 2016/10/14(金) 00:59:40.29 ID:eognrxp9o
 * * *

提督「ここは……」

島妖精A「食堂の厨房だ」

島妖精A「補給物資にはいってた食料は、厨房の隣の貯蔵室に移動しておいた」

島妖精A「保冷庫と電気式のコンロは一応使えるようにしてる」

提督「……!」

島妖精A「人間の食べ物の味覚はよく知らないから、あんたが適当に作ってくれ」

島妖精B「ほら、次はこっちだよ」

提督「お、おう」

 * * *

提督「鎮守府のそばに離れがあったのか」

島妖精B「前任者が寝泊まりに使っていたんだ」

島妖精B「簡単にだけど掃除はしたから、寝るだけなら十分なはずだよ」

島妖精B「発電機を使えば奥のシャワー室も使えるから」

提督「……悪いな、助かる」

島妖精A「あんたが働いた分の等価を用意しただけだ。勘違いするなよ」

提督「……ああ」

提督「当分はこんな調子で野良仕事だな……飯作ってくるか」

妖精「がんばれー」

23: 2016/10/15(土) 01:25:32.46 ID:BniakLfyo
 * 一週間後 *

提督「これで……最後の一人、か」ザッザッ

提督「墓標代わりの艤装を……これでいいな」

島妖精A「御神酒準備したぞ」

島妖精B「榊はこっちの木の枝でいい?」

島妖精C「さっき作った紙垂はどこー?」

提督「お前ら、結構信心深いんだな」フゥ

島妖精D「当然だよ、軍艦の中には神棚が作られているんだからね」

島妖精E「ほら提督、終わったんなら参列して」

提督「あ? ちょっと待て、俺一人で働いてたんだから少し休ませろ」

島妖精F「えー? 私たちだっていろいろ手伝ったよ!」

島妖精G「ユンボの使い方教えたじゃんか!」

島妖精H「艤装の外し方教えてやったのに」

提督「力仕事は全部俺じゃねえか!!」

提督「だいたい、神仏信じてねえ俺がこんなときばっかり手を合わせてもしょうがねえだろ」

妖精「でもさ、せめて敬礼くらいはしていこうよ」

島妖精B「あ、そうだね。頼むよ准尉」

島妖精A「将校の癖に、船に敬礼もできないのか?」

提督「……あーあー、わかったよ、ったく」

島妖精C「では、これより鎮魂祭を執り行います」

24: 2016/10/15(土) 01:28:19.24 ID:BniakLfyo
 * その後 *

島妖精A(以下妖精A)「私たちはもともと彼女たちの装備を管理していた装備妖精だ」

妖精B「艦娘とその装備が失われ、居場所がなくなってこの島に居着いたのが私たちだよ」

妖精C「装備があれば私らもそこに居着くんだけど、今は装備開発もできないし建造も無理」

妖精D「第一に材料が全然足りない! 鉄屑なら空き缶でもなんでも集めてこないと!」

妖精E「とりあえず、設備修理に必要な機材資材、全部不足してるから、鋼材を集めないとね」

妖精「……しばらくは砂浜のゴミ拾いかな?」

提督「だな。都合よく鉄屑含んだガラクタも流れ着いてくるし、定期的に回ったほうがよさそうだ」


 * 厨房 *

提督「……」シャッシャッシャッ トントントン

提督「……」ザクザクッ ジュワー チャカチャカチャカッ

妖精「相変わらず手際がいいよね」

提督「一人暮らしが長けりゃ誰だってそうなるだろ」

妖精A「……」ジー

妖精B「……」ジー

妖精C「……」ジー

妖精D「……」ジュルリ

提督「……お前ら少し離れてろ」

妖精E「あちっ!? 油が! 油がはねたーー!!」ゴロゴロゴロー

提督「だから言ったろうが……」ハァ

25: 2016/10/15(土) 01:30:00.08 ID:BniakLfyo
 * 倉庫 *

提督「なあ、誰か農業に心得のある奴はいねえか?」

妖精D「どうかしたの?」

提督「食料が心許ねえ。あの馬鹿、全部空箱寄越してくるときもあるから、心得のある奴に畑の作り方を習いたい」

妖精F「それならわたしが教えてあげるよ」

提督「本当か、助かる」

妖精F「だからわたしのご飯は少し多めにお願いね?」

提督「……節制したいんだがな」


 * 海岸 *

 ザァァァァ…

妖精「……あ」

提督「ん? ……あれは、艦娘か? 遠いな……良く気付いたな」

妖精「うん。わかるんだ、なんとなくだけど」

提督「……ああいう風に海の上を滑って行くのか、初めて見たぜ。あいつら、本当に船なんだな」

妖精「……」

提督「あいつらも、あんな風に海の上を走ってったんだろうな」

提督「わざわざ陸の上に連れてったけど、やっぱ余計なお世話だって思われてんのかね……」

妖精「そんなことはないよ、きっと」

提督「だといいがな」

26: 2016/10/15(土) 01:31:34.25 ID:BniakLfyo
 * そして三か月後 島の北東 砂浜の海岸 *

(ゴミや流木、鉄屑などが流れ着いている)

提督「先週も片付けたってのに、またいろいろ流れてきてやがんな……」

提督「……! また轟沈した艦娘が流れ着いてきたのか……」

艦娘「」

提督「外傷は……今までのやつに比べりゃそれほどでもねえか……?」スッ

提督「! ……まだ息がある……!?」

艦娘「……」

提督「さて……どうするか」

提督「……」

艦娘「……」

提督「……」

提督「連れて帰るしかねえよなあ。よっ……と」ダキカカエ

27: 2016/10/15(土) 01:33:24.12 ID:BniakLfyo
 * 鎮守府 工廠 *

提督「おいお前ら、とりあえずお土産だ」

妖精A「……おい、そいつは」

提督「まだ息がある。お前らなんとかできるか」

妖精B「なんとかって言われても……」

妖精C「入渠ドックは使える?」

妖精D「まだ駄目だよ! 応急処置で穴をふさいで、それで使えても10分ずつ小休止をしないと無理!」

提督「助けられないか」

妖精E「ま、まだそうと決まったわけじゃないけど」

艦娘「……う……」

妖精B「お、おい! 目を覚ましたぞ!? 話しかけてやれ!」

提督「俺がか?」

妖精C「提督以外に誰がいるのさ!」

提督「……」

艦娘「……」ボンヤリ

提督「おい」

艦娘「!」ビク

28: 2016/10/15(土) 01:34:10.96 ID:BniakLfyo
妖精D「おい、怯えてるぞ! もう少し優しく話しかけろよ!」

提督「うるせえな……」

艦娘「……」ビクビク

提督「……おいお前。生きたいか、それとも氏にたいか」

妖精たち「「はぁぁぁぁぁ!?」」

妖精E「提督! よりによってそういうこと聞く!?」

提督「こいつに生きる意志がなけりゃ無理に生かしててもしょうがねえだろ」

艦娘「……う……」シュン

妖精C「提督はでりかしーがないなあ、怯えてるじゃんか」

妖精B「大丈夫? きみ、立てる?」

提督「……簡易寝台を準備だな」

提督「妖精Fはこいつに食いもんを、妖精Bはシャワーを使えるように準備だ」

妖精F「そうだね、提督には任せてられないね!」プンスカ

妖精B「僕たちに任せて提督は休んだらいいよ! ずーっと!」プンスカ

29: 2016/10/15(土) 01:35:57.01 ID:BniakLfyo
妖精「彼女の身なり、ぼろぼろだったね。激戦地で轟沈したのかな」

提督「あれは戦ってできた傷じゃねえな。服はぼろぼろだったが、もともと汚れててぼろぼろだったのが更に、って感じだ」

提督「服の燃え具合と体の傷の位置があわねえし、治りかけの傷もあるが、ありゃあたぶん戦う以前からついてた傷だな」

提督「生き延びたのに全然嬉しそうじゃなかったのも気になるな」

妖精「……彼女、もしかして不当な扱いを受けてたとか?」

提督「かもな。……はー、面倒くせえな」

妖精たち「「「ひどい!!」」」

提督「なんだ聞いてたのかお前ら」

妖精E「聞いてたもなにも声が大きいよ! 彼女が聞いてたらどうすんのさ!」

提督「あ? 知らねえよ、あいつのこれからを考えるのはあいつ自身の役目だろ」

提督「最初に訊いたろ? 生きたいか氏にたいかって。あいつが何をしたいのか言えないなら、俺は何もしねえぞ」

妖精C「じゃあ提督は今何がしたいのさ」

提督「あー、当面は……少佐を殴る、最低でも10発以上」

妖精D「うわっ、子供!」

提督「うるせえ、俺はあいつのせいで氏んで人生リタイアなんてしたくねえんだよくそが!」

提督「なんで俺を虐げる奴より俺が先に氏ななきゃなんねえんだ! 最低でもあれのキ○タマ潰しとかねえと気がすまねえ!」

妖精C「さっきよりえげつないこと言ってるよ!?」

妖精A「……提督の意見は置いといても、この島で生きようって気がないなら、そのうちそうなる」

妖精「うん、当人が立ち直らないと駄目だね……」

32: 2016/10/16(日) 20:27:27.02 ID:BaxcG4xyo
 * * *

妖精C「彼女、どうだった?」

妖精F「補給用の燃料を出してあげて、普通のごはんも出したんだけど、どっちも少ししか手を付けなかったなあ」

妖精B「今シャワーに行ってるところだよ」

提督「……」ペラリ

妖精「提督は何してるの?」

提督「あいつの艦種を調べてる」

妖精A「あの子は駆逐艦だな。艤装が少し古いタイプ……おそらく睦月型の初期の艦だな」

妖精E「あんなぼさぼさ頭の睦月型っていたっけ?」

提督「睦月型、ね……」ペラリペラリ

提督「髪飾りを見る限りこのタイプか? 2番艦、如月」

妖精A「……みたいだね。艤装の特徴が合致してる」

妖精C「うそでしょ!? 如月って言ったら綺麗好きなはずだよ! あんな汚れた服着てるはずない!」

33: 2016/10/16(日) 20:32:36.89 ID:BaxcG4xyo
提督「……とりあえず仮説だが」

提督「あいつの体には叩いたりぶつけたりしたような痣や切り傷のほうが多い。もちろん砲撃で受けた火傷のあとも見られるが、そっちは軽微だ」

提督「ここへ流れ着くまでに体をあちこちぶつけたりもしたんだろうが、それよりも前からつけられた傷痕があるってとこだ」

提督「たぶん棒状の得物を使われてる。木刀とか竹刀とか鉄パイプとか、まあその辺だな」

妖精E「なんでそんなことがわかるの?」

提督「俺が昔喧嘩ばかりしてたからな、痣や傷の具合で、何でやられたか、古いか新しいかくらいはまあ見当がつく」

提督「とにかく、いじめか何か知らねえが、暴力を振るわれたって想像はできるんだが……」

提督「怪我を直す入渠ドックってのは、風呂みたいなもんなんだろ? 頭を洗っちゃ駄目とかあんのか? 髪の毛や衣服の汚れがひどすぎる」

妖精F「いいや、逆に入渠と一緒に身だしなみを整えてくる艦娘のほうが多いね」

提督「となると、入渠させてもらえない事情があるか、束縛されて自由がなかったってところか?」

提督「で、艦娘の管理や鎮守府の設備の利用権限を持ってるのは誰か? って考えりゃ、犯人はだいぶ絞られるな」

妖精A「その鎮守府の指揮権を持つ司令官やその上司ってとこか。あとは憲兵くらいだが、そういう越権行為を働く憲兵の話はそう聞かない」

提督「わざわざ余所の人間が余所の艦娘に手を出すとは思えんし、そうなら司令官が脅されてるか自分から手引きしてるか」

提督「服や髪が汚いのは、どこかに閉じ込められていたか、綺麗にする気力を失うほど圧力を受けたか」

提督「こうなると、工口いことしようとして抵抗したら暴力振るわれて、って線が強そうだな」

提督「じゃなきゃ、他の艦娘が提督を骨抜きにしてて言われるがまま、それでいじめられたとか、その手の話か?」イライラ

妖精D「うわあ……」

34: 2016/10/16(日) 20:37:41.98 ID:BaxcG4xyo
妖精C「ちょっと提督、普段からそういうこと考えてるの?」

提督「あ? 経験論に決まってんだろうが。見てきたからな。人間のそういう部分は、嫌と言うほどな……!」ギロッ

妖精D「怖っ!?」ビクッ

妖精C「……!」ビクッ

提督「……あー、悪い。今、俺、すげえツラしてたろ……悪かったよ」ハァ

妖精C「」ウルウル

妖精E「あ、泣ーかした」

提督「ああ、本当に悪かった……くっそ、ばつが悪いから勘弁してくれよ」オロオロ

妖精F「泣ーかした泣ーかした」

妖精B「提督のいじめっこー」

提督「茶化すなよ! こうなるから嫌なんだよこういうこと考えんのは! くそ!」

妖精A「……あんたはともかく、如月はどうする気だ」

提督「……助けて欲しいなら、助けてって言やあいいんだがな。あいつがどうしたいのかわからなきゃ、俺だって手の出しようがねえ」

提督「氏にたい奴は勝手に氏にゃあいいのさ。俺にそれを察する義理はねえ。そもそも助けを求められていないのに助けてやろうなんてのは傲慢だ」

提督「そうじゃないなら……生きたいって本人が望んでんのなら、そのための手伝いくらいはしてやるさ」

 ポタッ ポタッ

提督「?」

艦娘「……それなら、助けて、って言えば、助けてくれるの……?」ポタポタ

提督「!」

35: 2016/10/16(日) 20:38:50.64 ID:BaxcG4xyo
妖精C「き、如月!?」

妖精B「体も拭かずにタオル一枚でどうしたの!?」

艦娘→如月「……消えないの」パサッ

如月「これが……この汚れが、消えないの」

妖精A「……それは」

如月「どうしても……これが、消えない、の……うっ、うう……」ポロポロ

提督「おい、ドックに入りゃあ、あの傷は消えるのか?」

妖精A「……難しいだろうな、あの傷じゃあ時間が経ち過ぎている」

提督「……」ギリ

如月「もう、嫌なの……!」

如月「面白半分に、私の体を傷つけて……弄ばれるのはもう、嫌……!!」

提督「……お前はどうしたい」

如月「助けて欲しい……もう、これ以上あの人たちに傷付けられたくない……だからお願い、助けて……!」

提督「……お前、名前は?」タオルヒロイ

如月「私は……如月。睦月型駆逐艦2番艦、如月」

提督「……湯冷めするぞ。もう一度温まってこい」タオルパサッ

提督「よし……聞いたか? 如月を助けるぞ、お前ら力を貸せ」

妖精たち「「!」」コクッ

如月「……!」

36: 2016/10/16(日) 20:39:44.04 ID:BaxcG4xyo
 * 翌朝 執務室 *

FAX <ピピピピー ジジジジッ

提督「昨日は結局如月に事情を聴いて、風呂に入れて休ませただけで終わっちまったが……」

提督「ん? なんだこりゃ」

書面『○月×日、貴君の鎮守府近海にて轟沈した駆逐艦 如月の捜索作業を行うため、駆逐艦 不知火を送る。不知火の命令に従い、捜索に協力せよ。以上 少佐』

提督「中身もなんだこりゃ、だな。如月を返せってか?」

如月「……あの、提督……?」

提督「おう如月。早速だが悪い報せだ」ピラッ

如月「……っ!」

提督「連中、どうやってもお前を確保したいらしいな」

如月「い、いや……戻りたくない……!!」

島妖精F「提督、お客さんだよ! 1小隊が船に乗ってきた、艦娘もいる!」

提督「ちっ、思ったより手が早えな……如月は隠れてろ」

40: 2016/10/26(水) 00:30:55.97 ID:XnHAPfrlo
 * 鎮守府埠頭 *

提督「遠路はるばるご苦労さん、俺が提督だが」ピッ

不知火「駆逐艦、不知火です。今朝お送りしました文書には目を通されましたでしょうか」

提督「ん」ピラッ

不知火「早速ですが捜索の協力をお願いします」ビシッ

提督「あー……如月だっけか、沈んだの」

不知火「はい。この鎮守府に流れ着いていないか、確認せよとの少佐からの命令です」

提督「ふぅん……もしいなかったら?」

不知火「遺体でも良いから必ず探してこい、という命令を受けております」

提督「……そりゃあ骨が折れるな。あっちの連中は」チラ

不知火「この近海を調査するためのダイバーたちです」

提督「……」

不知火「……不知火に何か?」

提督「ちょっと話がしたいんだが、執務室まで来てもらえるか」

不知火「……承知しました」

41: 2016/10/26(水) 00:32:47.04 ID:XnHAPfrlo
 * 鎮守府 執務室 *

提督「お前、なにかやらかしたか?」

不知火「……いえ。不知火に何か落ち度でも?」

提督「お前の態度に鬼気迫るものを感じる。今回の任務がそんなに重要か、って訊いてる」

不知火「はい。ですが、これは不知火個人の問題ですので」

提督「なんで如月をそこまで必氏に探すのか、理由を聞いても?」

不知火「……その件については申し上げられません」

提督「だろうな……ああ、楽にしててくれ、今そいつに訊くから」ガチャ

不知火「そいつ……!?」

 RRRR... RRRR...

スピーカーから聞こえる少佐の声『……何の用だ提督准尉』

不知火「!?」

提督「……不知火、お前はちょっと黙ってな」シー

提督「さっき不知火が来たんだが」

少佐『今朝文書で送った通りだ。詳細はすべて不知火に訊け』

提督「如月とかいう艦娘は何かしたのか?」

少佐『いいから黙ってすべて不知火の言う通りにしろ、銃殺されたいのか』

提督「この島には艦娘の遺体がたくさん流れ着いている。艦の特徴は?」

少佐『同型艦があるならすべて回収しろ。貴様とこれ以上話すことはない』プツッ

提督「……相変わらずだな、くそ野郎が」ガチャン

42: 2016/10/26(水) 00:34:37.88 ID:XnHAPfrlo
不知火「」ボーゼン

提督「? なんだ」

不知火「その、大丈夫なんですか? その……少佐に対する、接し方というか……とても上官に対する態度とは思えないのですが」

提督「ああ、あれには恨みしかねえからな。あれもあれで俺のことは厄介者扱いだし、お互い様だ」

不知火「……あれ、ですか」


不知火「……ここまで険悪ですと、提督には、ご協力いただけないのでしょうか」

提督「……不知火。お前が受けた命令を復唱してくれ」

不知火「はっ。『轟沈したと思われるZ提督鎮守府所属の駆逐艦如月を捜索し、少佐鎮守府へ身柄または遺体を移送せよ』と」

提督「期限は」

不知火「3日間」

提督「もし捜索できなかった場合は」

不知火「……帰還命令が出ています」

提督「で、お前が処分されるのか」

不知火「……! い、いえ」

提督「さっきから、お前の単装砲の妖精が泣きそうなんだがな。おいお前、ちょっと話してみろ」

不知火の妖精「……え?」

妖精「この提督は、私たちと話せるから大丈夫だよ」ヒョコッ

不知火の妖精「あ、あの……!!」

不知火「お、お待ちください! し、不知火が説明いたします……!」

43: 2016/10/26(水) 00:36:28.04 ID:XnHAPfrlo
 * * *

提督「……なるほどね、お前は今回のこれが初任務か」

不知火「着任後1年以上海に出ることもなく、鎮守府にて雑務……いえ、下働きをしておりました」

提督「中将に会う機会は?」

不知火「不知火には皆無です。秘書艦の赤城さんであってもお会いすることは稀有です」

提督「中将は普段どこにいるんだ? 会う方法は?」

不知火「中将は、少佐の鎮守府の近くの本営宿舎にいらっしゃいます」

不知火「本営とは書類や機材などの運搬のため、日に2回ほど輸送便を出していますが、人の行き来はあまりありません」

不知火「また、中将は足を怪我してからは指揮を執ることはまれで、ずっとデスクワークだと聞いております」

提督「そういや杖をついてたな。中将が鎮守府に来る予定は?」

不知火「おそらく、滅多なことがない限りはその予定はないかと」

不知火「もともと少佐の鎮守府は中将が提督として着任していましたが、中将の昇格に伴い、指揮権を息子である少佐が譲り受けました」

不知火「それ以来、中将は少佐に鎮守府の運営を任せるべく、努めて鎮守府に姿を見せないようにしています」

不知火「それから3年経ちますが……鎮守府は望ましくない方向へ変わった、と、古参の艦娘たちは口々に申しております」

提督「世襲制はろくな結果にならねえな」ククッ

44: 2016/10/26(水) 00:38:43.32 ID:XnHAPfrlo
不知火「提督の二つ目の質問については、実のところ不知火も掌握しておりません」

不知火「とにかく回収が絶対。そして本件については外に情報を漏らすなと釘を刺されています」

不知火「如月の特徴として『体中に傷がある』と聞かされており、また、発見した如月は拘束し猿轡をして運べと言われています」

提督「つまり、余計なことを喋らせるな、ってこったな。なるほど、なるほどねえ……」ニヤリ

不知火「?」

提督「ほかの鎮守府にも捜索願を出しているのか?」

不知火「はい。ただ、捜索範囲は極めて広範囲であるため人手が足りず……」

不知火「少佐配下の鎮守府には私のような末端の艦娘が、余所の鎮守府には少佐直属の部下がそれぞれ出向いています」

提督「なるほど、つまり戦力が分散してるのか。ますます好都合だ」ニタァ

不知火(今の邪悪な顔は一体!?)ゾクッ

提督「……さてと、どうするかね……」

不知火「……提督、如月の捜索は」

提督「急かすなよ。まあ、とりあえず海岸でも見に行こうぜ」

45: 2016/10/26(水) 00:40:43.29 ID:XnHAPfrlo
 * 北東の海岸 *

提督「お疲れさんです、何か見つかりましたか」

ダイバー「いえ、潮の流れがいきなり急になったりして、捜索は難航しています」

ダイバー「おそらくこの島の北にある海底火山の影響ではないかと思うのですが……」

ダイバー「おかげで……探している以外の漂流物も多い。ここの海底、見てると泣きたくなりますよ」

提督「あなたがたもあと2日で探してこいと?」

ダイバー「ええ、まあ。無茶ですが、それができなきゃ……まあ、帰って来いと」チラッ

不知火「……」

提督「……苦労なさってますね」

ダイバー「まあ、いろいろひどい話ですよ。この任務が終わったら退職しようかと思ってるくらいですから」

ダイバー「その前に、せめてこの仕事くらいはちゃんと完遂しておきたいんですが、海はそうはさせてくれないですね……」

士官「おい、そのくらいにしとけ。すみません、うちの者が」

提督「……ま、何の話なんだか自分にはわかりませんが」

士官「すみません。ともかく、今日は波も高いので、捜索はそろそろ打ち切らざるを得ないでしょう」

提督「……」

 * * *

不知火「……」

提督「……どうした」

不知火「……不知火は、このまま海へ出ることもなく解体されるのでしょうか」

提督「……お前はどうしたい」

不知火「できることならば、海に出て戦果を挙げたいと思っていました」

不知火「艦娘として生を受けたのですから、生きて、戦って……生きていることを実感したいと」

不知火「……ですが、それは……如月を犠牲にしなければ得られないというのなら、出過ぎた願いなのかもしれません」

提督「……」

46: 2016/10/26(水) 00:42:33.17 ID:XnHAPfrlo
 * 鎮守府 執務室 *

妖精D「なんだかよくわからないけど、少佐も焦ってるみたいだね?」

妖精A「そのせいで時間がないな」

妖精B「士官やダイバーも発見できなかったら不知火が解体されること知ってたから、明日の日の出から捜索するって言うし」

妖精F「卑怯だよね、不知火を人質にされてる感じー」

妖精E「夕餉にお酒出したら、みんな一緒になって少佐のこと愚痴ってたもんね」

妖精C「如月もそうだけど、不知火も職員の人たちも気の毒だよね」

妖精「ねえ、どうするの?」

提督「……どうしようかね」

提督「如月を渡すわけにはいかねえ」

提督「かといって如月を隠し続ければ不知火が解体される」

提督「余所にも捜索で艦娘を送り出してるらしいし、奴のことだ、放っておきゃあ不知火以外にも飛び火しそうだな」

提督「中将を引っ張り出して解決させようにも、動かせねえ要素がありすぎる」

提督「そして時間もねえときた」

提督「……」

妖精「……」

提督「そうだな……お前、一仕事できるか?」

妖精「わたしが?」

提督「ああ。この島には少佐の息のかかった奴が来てないようだし、お前の手を借りれば何かできそうだ」

提督「不知火から聞いた少佐たちのスケジュールに間違いがなけりゃあ、な」

50: 2016/10/30(日) 20:02:07.27 ID:dTMDNdyqo
 * 翌朝 少佐の鎮守府、7時50分 *

少佐「如月が見つかった? 間違いないんだな!?」

通信『はっ! ただ今、如月を乗せ鎮守府へ向けて出港準備中、到着予定時刻はヒトマルサンマルになります』

少佐「よし。ご苦労」プツッ

少佐「……」ピッピッピッ

  RRRR... RRRR...

通信『こちらZ提督鎮守府』

少佐「少佐だ。Z提督に取り次いでくれ」

通信『少々お待ちを……』

通信『……』

通信『少佐! アレの件か!?』

少佐「ああ、見つかったと連絡が入った。ヒトマルサンマルにこちらに到着予定だ」

通信『そうかそうか……この件、余所に漏れてはないだろうな?』

少佐「できる限り、だがな」

通信『ああ、助かる。さすがは少佐、頼りになるな。俺はヒトマルフタマルにそちらへ行ける』

少佐「フ、困ったときはお互い様、というやつだ」

通信『そうだな……フフフ。では、失礼する。また後程』ピッ

少佐(……マルナナゴーマル……そろそろ来客があるが、到着まで2時間あるなら慌てる必要はないな)

赤城(少佐の秘書艦)「少佐、お客様がお見えです」

少佐「ああ、今行く。大事な客だ、誰も近づけるな、他の用事は待たせておけ」

51: 2016/10/30(日) 20:03:43.85 ID:dTMDNdyqo
 * 一方の太平洋上某所、同じく7時50分 *

士官「現在この船は太平洋上を航行中……目的地への到着予定時刻は『マルハチサンマル』」

ダイバー「……」

如月「……」

士官「……良かったのですか?」

提督「何がだよ」ニヤニヤ

士官「あなたがこの船に乗ったことです。私は危ないと思いますが」

提督「いいんだよ。如月を連れてこいって言ってきたのは少佐だ。不知火が連れてこいとは一言も言ってないし、俺に来るなとも言っていない」

士官「到着時刻も大幅にサバを読んでいます」

提督「兵は神速を貴ぶっていうじゃねえか。遅刻するよりは全然いい」

士官「不知火は」

提督「鎮守府を留守にするんだぜ? 不知火に1日くらい留守番をお願いしてもいいじゃねえか」

士官「如月に拘束具を」

提督「そんなもん港に着いた時でいいだろ?」

士官「……」フフッ

提督「……なんだよ、嬉しそうな顔しやがって」ニヤニヤ

士官「あなたも楽しそうですね」

提督「そうか? それよりもだ、予定通りに到着するんだろう?」

士官「ええ、間に合いますよ」

52: 2016/10/30(日) 20:05:25.39 ID:dTMDNdyqo
 * 執務室へ至る廊下、9時55分 *

少佐(マルキュウゴーゴー、ほぼ予定通り……)

少佐(これから如月の身柄を確保しZ提督へ引き渡す。事情を知る不知火やほかの鎮守府へ送った艦娘は解体処分)

少佐(最近反抗的だったダイバーどもは左遷だな。もっと時間がかかれば馘にするのも容易かったが……適当な不祥事をでっちあげるか)

少佐(……そうだな、不知火に同情的だったし、あれと一発ヤッたことにでもしてしまおう。世間的に殺せる)

少佐「赤城、いるか」ガチャッ

赤城「は、はい、少佐……」

少佐「何を慌てている」

提督「そりゃあ、俺がいるからだよ」

少佐「!!? き……貴様……なぜここにいる!」

提督「俺が如月を連れてきた」

少佐「不知火はどうした!!」

提督「俺の鎮守府の留守を頼んだ」

少佐「貴様! 不知火に任務を与えたのは俺だぞ! お前が不知火の行動をどうこうできる立場だと思うか!」エリクビガシッ

提督「不知火はお前の任務を全うしたじゃないか。命令は、如月の身柄をここへ移送しろ、だったな?」

少佐「屁理屈を!!」ギリギリギリッ

提督「だいたい俺がこっちに用があるから、代わりに不知火に留守を頼んだんだ。問題ない」

少佐「何が問題ない、だ!! 貴様が来るなんて聞いていないぞ!!」

提督「そうか」

少佐「澄ました面しやがって……!」

53: 2016/10/30(日) 20:08:30.97 ID:dTMDNdyqo
執務室の電話< RRRR... RRRR...

赤城「! は、はい、もしもし……」

赤城「ちゅ、中将閣下!?」

少佐「!?」

提督「……きたか」ニヤリ

赤城「少佐……!」

少佐「寄越せ……!」ジュワキウケトリ

少佐「……これはお父上、お元気そうで」

提督(ククッ、なんて猫なで声出しやがる……!)

少佐「て、提督、ですか? いえ、こちらには……」

提督「少佐殿!! 自分をお呼びでしょうか!!」

少佐「馬鹿野郎……! 声がでかい……っ!」ボソッ

通信『少佐、提督がいるようだね? 代わりたまえ』

少佐「……わ、わかり、ました……」

少佐「提督、出ろ。余計なことは一切言うな……!」ジュワキサシダシ

提督「……」ジュワキウケトリ

提督「もしもし、提督准尉であります。はい……いえ、中将殿のお心遣いに感謝しております」

少佐「……」イライラ

提督「はい……はい……」

少佐「……」イライライライラ

54: 2016/10/30(日) 20:10:13.83 ID:dTMDNdyqo
提督「わかりました……そのように致します……」ニコリ

少佐「奴め……何を笑っている……っ!」ギリギリッ

提督「復唱いたします」

提督「駆逐艦如月はZ提督鎮守府より異動、自分の鎮守府へ配属」

少佐「!?」

提督「駆逐艦不知火は少佐鎮守府より異動、中将麾下の艦娘とし、中将と自分の鎮守府との連絡員として月3回中将への連絡を行う任に就く」

少佐「!!??」

提督「承知いたしました。……はっ、失礼致します」

提督「……少佐、これを」ジュワキサシダシ

少佐「……」ボーゼン

提督「少佐?」

少佐「! ……っ!」ジュワキウバイカエシ

提督「……」ニヤァ

少佐「父上! いったいどういうことです!」

通信『聞いたぞ少佐……貴様、危険な橋を渡ろうとしているそうではないか』

少佐「な、なんのことです!」

通信『今回の捜索の件、貴様は如月が不当に暴力を振るわれていると予見したそうだな?』

少佐「!?」

通信『それを貴様は独断で解決しようと、提督に応援を送り証拠を確保し、海軍の恥部をもみ消そうとした』

少佐「そ、それは……」

55: 2016/10/30(日) 20:11:48.41 ID:dTMDNdyqo
通信『Z提督は貴様の良き友であったが、このような事態になり残念だよ。友人である以上、貴様が表沙汰にしたくなかった気持ちもわかる』

少佐「……い、いえ、それは」

通信『ひとまず如月の所属は提督へ異動させ、身柄は海軍と憲兵が預かることにした。本件については大将殿も賛成している』

少佐(大将だと……っ!? どこからそんなところに話が漏れたんだ!)

通信『それとだ、提督へ送る物資を横領されているという話もあったが、聞いているかね?』

少佐「は……?」

通信『Z提督は貴様の鎮守府によく出入りしていた。気心の知れた貴様の心の隙に付け込んでの容疑と見ておる』

通信『提督に未だ艦娘が配属されていないのもZ提督が一枚噛んでいるらしいじゃないか。彼にはこの件についても嫌疑がかかるだろう』

少佐「……そ、そのような、こと、に」

通信『この鎮守府の職員には、かつてZ提督のもとで働いていた者もいる。まずはそういった人間から疑われることになる……』

通信『友人がこんなことになり貴様もつらいだろうが、現実を受け止め、反省し、同じ過ちは二度と繰り返さぬよう努めていこうではないか』

少佐「……は」

通信『それと、この件については大将殿の手引きで、本日ヒトマルヒトゴーに憲兵隊が貴様の鎮守府へ向かう手筈になっている』

少佐「な……!?」

通信『うむ、もう間もなくだな。如月の身柄はひとまず彼らに受け渡し、貴様は提督准尉と共に事実確認に協力せよ』

通信『このような身内の不祥事で我ら海軍が揺らぐようでは、深海棲艦との戦いに勝つことはできん』

少佐「……は、は」

通信『後日辞令も出るが、今後の体制については提督に復唱させた通りだ。特に不知火には苦労させるが、くれぐれも大事にしてくれたまえ』

通信『儂からは以上だ。よろしく頼むぞ』

少佐「…………は……っ」プツッ

56: 2016/10/30(日) 20:13:53.50 ID:dTMDNdyqo
少佐「……」

少佐「……」プルプル

少佐「……提督、貴様……きさまああああああ!!!」ガシーーッ

提督「……」ツーン

少佐「貴様、貴様いったいなにをした! いったい、なにを……!!」

提督「なにを、とは……なにを?」フッ

少佐「ふざけるなああああ!!」グイイイイッ

提督「ふざけてなどいない。自分は如月を連れてきた……それがなにか?」

少佐「お前が何かを仕掛けたのだろう! お前が来て……中将に! 大将にぃぃ!」

提督「ここへ来て、ものの数分で何ができるんです? それに大将とは? 中将ならまだしも、大将とは面識すらありませんが?」

少佐「だ、だったらなぜお前がここにいる! お前が、お前が何かしたんだろう! あああ!?」

提督「ですから、『私』が、なにをしたのですか?」

少佐「だから、貴様が……貴様が!! ぐうううう!!」プルプルプル

提督「……少佐。憲兵が来るのでしょう?」

少佐「はぁ、はぁっ……それがどうした!!」

提督「私の服を掴んでしわだらけにするのは、いかがなものかと」

提督「如月の第一発見者は私です。憲兵にも説明を求められるでしょう。そのときに、余計なことを勘繰られたいのですか?」

少佐「!」ビクッ

提督「手を、放してください、しょ・お・さ・ど・の?」ニタリ

少佐「~~~!!!」ギリギリギリッ

57: 2016/10/30(日) 20:16:47.73 ID:dTMDNdyqo
 バッ

提督「如月の拘束は?」

少佐「……解け!」

提督「了解」ニヤリ

少佐「赤城!!」

赤城「はい」

少佐「憲兵が来る! Z提督の件は貴様が説明しろ! 俺は……」

赤城「……緊急の出張、ですね」

少佐「うまくやれ! いいな!!」

扉< バタンッ!!

赤城「……ふぅ」

提督「……やれやれ」クックックッ

赤城「提督准尉。あなたは予定より2時間も早く来て、いったい何をしたのです」ジト

提督「いいや……俺自身はなにも?」

赤城「あなたの目の奥はそう言っていませんね。何をしたのかは別にしても、どうせ少佐の悔しがる顔を見たくて煽ったのでしょう?」

赤城「少佐の機嫌が悪くなれば、この鎮守府の艦娘に被害が及びます。余計なことはしないで下さい」

提督「……それが、あなたの本心ですか」

赤城「ええ。迷惑です」

提督「ほーぉ……」

赤城「……なんですか」

58: 2016/10/30(日) 20:20:13.92 ID:dTMDNdyqo
提督「すっきりした顔してたくせに」

赤城「准尉っ!?」キッ

提督「冗談ですよ」シレッ

提督「ま、それはさておき、だ」キッ

提督「赤城殿。如月は、本日ヒトフタマルマルより我が鎮守府の所属、提督准尉配下となります」

提督「今後、艦娘の健康管理を行うに当たり、入渠ドックが使用できない現状は非常事態といえます」

提督「入渠ドックの修理と、発電機など運用可能な機材の調達を、少佐殿へお願いしたい」

赤城「承りました。不在の少佐に代わり手続きを行います」フゥ

提督「感謝いたします、赤城秘書艦殿」ビシッ

提督「……」フゥ

提督「それにしても……清濁併せ呑む、か。憎まれ役も大変だな」ポツリ

赤城「そういうセリフは私のいないところで言ってください。それと、こんなことで私を理解したつもりにならないように」ジロ

提督「これは失礼」

赤城「ですが、如月と不知火を救ってくれたのも紛れもない事実」

赤城「あなたにはお礼申し上げなければいけません。ご無礼をお許しください」ペコリ

提督「!」

赤城「どうしました」

提督「……やめてくれ赤城。俺は如月と不知火の望むようにしただけだ、特別なことはしていない」

赤城「いいえ? 私にできないことを為したあなたはもう特別なのです。少なくともあの二人にとってはそうなるでしょう」フフッ

59: 2016/10/30(日) 20:21:57.93 ID:dTMDNdyqo
赤城「ですから、今後はその部下のためにも、このような出過ぎた真似は控えてくださいね」

提督「部下、ね……やりづれえ。いまいち面倒くせえことになったな」ボソッ

赤城「おや、その面倒を買って出たのが他ならぬあなたではありませんか。責任を取ってあげなさい、男の子でしょう?」

提督「男の子? こんなでかいガキがいるかよ。言うことがおばあちゃんみたいだぞ」

赤城「あらあら、あなたこそうら若き乙女を捕まえておばあちゃん呼ばわりだなんて、提督は女心がわからない方ですね」プク

提督「待て、あんたは俺より……いや、いい。それよりも、今のあんたからそういうセリフが出てくるとは思わなかった。そういうキャラだったか?」

赤城「さて? そうだったかもしれませんね。昔のことです、おばあちゃんは覚えてなんかいませんよ」ツーン

提督「おいおい……まさか、この場であんたにからかわれるとは思わなかったな……」

赤城「ふふっ、先程のお返しです」

提督「……冗談もいいが、これからあんたは大仕事なんだろう?」

赤城「ええ。とっても嫌なお仕事です」

提督「……大丈夫なのか」

赤城「それが私の仕事ですから」ニコ…

赤城「提督准尉、改めて礼を言いますよ。誰かにからかわれたりしたのも、こんなふうに冗談を言えたのも久しぶりです」

赤城「では、お先に」

提督「……」

63: 2016/11/03(木) 18:53:16.00 ID:RMKmJbTpo
 * 2日後 少佐鎮守府 某所 *

ダイバー「世話になったな」

士官「いやいや、今までお疲れ様」

艦娘「いきなり退職されるなんて……これからどうなさるんですか?」

ダイバー「退職自体は考えてたよ、今後は普通に陸で就職活動さ。もう海はたくさんだ」

士官「まあ、あれを見てはね……」

艦娘「何かあったんですか?」

士官「この前、如月を捜索しに行ったときに、海の底にたくさんの艦娘の氏体があったんだって」

ダイバー「その島の提督は、島に流れ着いた彼女たちを全部埋葬しようと考えてるらしい」

艦娘「島がお墓だらけになっちゃいますね」

ダイバー「残念ながら、もうそうなってたよ。丘の上に墓標代わりの艤装がいっぱい並んでた」

士官「うん。艦娘の墓場の島だった……いい景色じゃなかったが、目をそらしてはいけない光景だった。胸が苦しくなったよ」

艦娘「……墓場の島、ですか……」


 * 同日 墓場島鎮守府 執務室 *

不知火「駆逐艦不知火、ただ今帰投しました」ビシッ

提督「ん、ご苦労さん。んで、あいつらはどうなった?」

不知火「はい、順を追ってご報告いたします」

64: 2016/11/03(木) 18:55:09.80 ID:RMKmJbTpo
不知火「Z提督は既にご存知のとおり、一昨日憲兵隊により身柄を拘束され、現在は本営で取り調べを受けています」

不知火「同じように、この鎮守府に物資を送っていた職員数名も身柄を確保」

不知火「職員らは少佐の指示と言っていますが、書類はすべて正規の数字であり、少佐本人もその事実を否定……」

不知火「提督准尉が着任当初から記録していた物資の差異についても事実確認され、これも証拠として認められました」

不知火「以上から、憲兵はZ提督独断の越権行為として調査を継続中です」

提督「ま、多分連中は結託してたんだろうな。身内で固めてたのも他言無用を貫くため、と」

不知火「その後の調査で、この鎮守府以外の少佐麾下鎮守府への物資からも、資材を横領していたことがわかりました」

不知火「横領された物資は、他の鎮守府への融通や、賄賂や裏金の元としてZ提督のところからロンダリングされていたようです」

提督「なぁるほど。期せずして奴らの財布にダメージを与えたわけか」クックッ

不知火「はい。それと……Z提督の鎮守府からは、深海棲艦の遺骸から作ったと思われる鞭や刃物が見つかりました」

提督「深海棲艦の遺骸だと!?」

不知火「私見ですが、Z提督は深海棲艦が艦娘にどうやってダメージを与えるかのメカニズムを分析していたのではないかと思われます」

提督「如月は、Z提督が開発した新しい武器の実験台にさせられていたと言っていたな」

提督「単なる変態趣味と思いきや、実用的で金になりそうな黒い話じゃねえか。連中がただの悪党じゃなかったとなると面倒だ」

不知火「憲兵はこれらを押収して本営へ回すとともに、更なる余罪がないかをZ提督鎮守府所属の艦娘から聴取することになりました」

提督「本営はその遺骸から作った武器をどうする気だ?」

不知火「……この研究がどのように転ぶかは不知火にも予測できかねます」

不知火「本営が興味を持ち、如月のように艦娘を実験台にして研究を進めようとする可能性も決してないとは言えません」

提督「俺にゃあそうなるとしか思えねえがな。くそが」

65: 2016/11/03(木) 18:59:13.23 ID:RMKmJbTpo
不知火「とにかく、以後、Z提督の鎮守府には別の提督が着任し、指揮を行うことになります」

不知火「少佐の鎮守府は、今後も引き続き少佐が指揮することになりますが、憲兵が一層厳しく目を光らせることになったようです」

不知火「仮にも評判の良かった中将の鎮守府でしたから、憲兵たちも『これ以上この鎮守府に悪事が舞い込まないように』と警戒しているようです」

不知火「鎮守府の評判は、海軍と憲兵にとってはおおむね好意的と捉えて良いと思いますが……少佐にはやりづらくなったことでしょう」

提督「よくそこまでフォローできたもんだ。赤城が全部うまく回したんだろうな」

不知火「あの方は、少佐が鎮守府を仕切るようになってから、一番長く秘書艦を務めています」

不知火「少佐が着任してからの歴代の秘書艦は皆、すぐに鎮守府を去っていきましたから……」

提督「赤城はあのパンドラの箱に残った最後の希望、ってとこかね」

不知火「しかし、赤城さん一人に負担をかけ過ぎだとは思います。同じ鎮守府の加賀さんがいつも気にかけておいででした」

不知火「先日、その加賀さんとお話しする機会を得たのですが、やはり赤城さんは他の艦娘に対して突き放すような言い方をしているそうで」

不知火「不知火には、憔悴した加賀さんにかける言葉が見つかりませんでした」

提督「いや、それでいい。そっとしといてやれ」


不知火「それと、本日ヒトサンサンマルより、少佐鎮守府から作業員が派遣され、入渠ドック及び建造ドックの修理が行われます」

不知火「発電機も新調、経費についてはすべて少佐鎮守府が負担します」

提督「へえ。手厚いこった」

不知火「中将より『准尉をこの鎮守府の提督に任命した少佐の責任である』とのことです」

提督「そういやそうだったな。んじゃあたりめーだ」

66: 2016/11/03(木) 19:02:20.13 ID:RMKmJbTpo
不知火「そして……その、不知火ですが」

提督「おう」ニヤニヤ

不知火「不知火は中将麾下の艦娘として、平常時は提督鎮守府に勤務、一か月のうち3回は中将の本営まで直参し報告を行う……」プルプル

不知火「月に9日間、この鎮守府を開けることになります……その間は本営にて、中将のもとで訓練を含む活動を行う……」ガクガク

不知火「よ、よいのでしょうか……中将麾下といいますと、聞くところによれば出世コースとか言われているんですが……」ビクビク

提督「ま、せいぜい頑張れや」ニヤニヤ

不知火「こほん。最後に如月ですが」

不知火「本日ヒトサンマルマル、本鎮守府へ移動。間もなく提督准尉麾下の艦娘として正式に配属されます」

不知火「……ようやく、この鎮守府が、活動できる基盤が出来上がりつつあります」

提督「そうか」

不知火「なんというか、感慨深いですね……真新しい鎮守府の始まりの瞬間を、見ることができるのは」

提督「……まあ、別に何もしねえがな。深海棲艦の撃滅とか面倒くせえし」

不知火「し、司令、そのような発言はできるだけ控えていただかないと……その、海軍提督という立場的にも非常に危険です」タラリ

提督「仕方ねえな。ま、適当にやるよ、適当に」

提督「まあ、しばらくは休んでたっていいだろ。妖精にも休みをあげないとな」

妖精「ほんと、大変だったんだからねー? たまたま大将に見つかったのは本当に運が良かったよー」

67: 2016/11/03(木) 19:04:29.89 ID:RMKmJbTpo
不知火(少佐の鎮守府と中将の本営を結ぶ輸送便の午前の発着がマルキュウマルマル)

不知火(それに間に合うように鎮守府へ到着後、提督の手紙を持った妖精を本営への輸送便に忍び込ませて中将のもとへ届ける)

不知火(できるだけ少佐が今の境遇に困窮していて、提督がそれを気遣う文面の手紙を中将へ読ませればあとは親心)

不知火(提督が、少佐を気遣っていることを内密にしてほしいと書けば、まさしくその通りに誰が手紙を送ったか秘匿してくれる)

不知火(それにしても……妖精さんが海軍大将に見つかって、その結果ここまでことが迅速に動くとは、提督はつくづく運の良い方です)

不知火(中将は、海軍参謀としては有能でしたが……息子には兎角甘い。提督はそれを利用し、少佐を被害者に仕立ててZ提督のみを処断させた)

不知火(少佐にはできるだけ無傷で逃げられる道を作り、傍目には少佐がZ提督を切ったかのように誘導する)

不知火(そうすれば、少佐を頼って甘い汁を吸っていた者たちに不信感を抱かせ、少佐の影響力を削ぐことができる、と踏んでの判断……)


不知火「その……司令。質問よろしいでしょうか」

提督「おう」

不知火「司令は、なぜ私たちにここまでしてくださったのですか? 結果的にうまくいきましたが、あなたの身に及ぶリスクを考えれば躊躇するはずです」

不知火「もし中将に手紙を渡せなかったら? 少佐の予定が変わっていたら? 少佐の手の者が邪魔をしてきたら? 中将が動かなかったら?」

不知火「下手すれば司令ご自身の命にかかわるようなことです。不安要素がたくさんあったにも関わらず、行動に移してくださったのは、なぜでしょうか」

提督「単純だよ。頭に来たんだ、お前らを無碍に扱うあいつらに」

不知火「……そ、それだけ、ですか」

提督「失敗したらお前らの明日もねえのに、見頃しにして俺だけ生きるのも胸糞悪いからな。最悪、刺し違えるつもりだったさ」

不知火「しかしそれではご家族が……!」

提督「へ、俺みたいなのが氏んだって悲しむ奴なんざいねえよ。家族なんてお互い顔も見たくねえしな」

68: 2016/11/03(木) 19:05:55.56 ID:RMKmJbTpo
不知火「……不知火は悲しみます。妖精たちもそうでしょう。そうならなくて本当に良かったと思います」

提督「できれば少佐も営倉へ送って屈辱を味わわせたかったんだけどな。その手も思いつかなかったし、なにより赤っ恥をかかせたくてああなった」

不知火「いえ、不知火には十分な結末です。少佐の嫌がらせはこれからも続くかもしれませんが、少しずつ戦果を挙げて本営に見直しを……」

提督「それなんだがな。お前はこんな仕打ちを受けて、まだ海の平和のために戦いたいのか? 人間なんて俺も含めて碌なもんじゃねえぞ?」

扉< コンコン

不知火「!」

如月「そうかしら? 少なくとも、私は目の前にいる人のために戦いたいとは思うわ?」

提督「ん……如月か? 随分と顔色が良くなったな」

如月「ええ、せっかくここに着任できるんですもの、恥ずかしくない恰好で来ないと司令官の威厳に関わります」ニコニコ

如月「髪の毛だって気合い入れてお手入れしなおしたんですよ? ほら、もうさらっさらなんだから」シャラン

不知火「……見違えるようになりましたね」

如月「そうよ? それもこれも、司令官? あなたのためなんだからね?」

如月「戦果を挙げて、少しでもこの鎮守府の暮らしが良くなるように上に評価してもらわないと、ね」

不知火「ええ、その通りです。この不肖不知火も、尽力致します」

如月「そういうわけだから、司令官? 如月を、末永~く、お傍に置いてくださいね?」

69: 2016/11/03(木) 19:07:27.79 ID:RMKmJbTpo
提督「ん……ああ」アタマガリガリ

如月「……あら?」

不知火「……もしかして、照れているのですか司令?」

提督「うるせえ」

妖精B「照れてるね」

妖精C「うん、照れてる」

妖精A「照れてるな」

妖精「わかりやすいね」

提督「うるせえ!」ガリガリガリガリ

妖精D「提督! また艦娘が砂浜に流れてきてるよ! 息がある!」

提督「……ったく、またかよ面倒くせえな……どれ、行くか」




73: 2016/11/06(日) 22:54:17.36 ID:cSUFd8TBo
 * 数日後、執務室 *

通信『うむ。初めてのケースだが、希望通り君に任せることとなった。本当に良いのかね?』

提督「今更ですよ中将殿。この拠点の重要性、人の行き来のないこの立地。モデルケースにするのに丁度良いでしょう」

通信『……わかった。だが、君のような人材が、その島で燻っているのは実に惜しい』

提督「かといって他に適任もいないでしょう。そう思えば、この島に私が送られたのも必然だったのかもしれません」

通信『……? どういうことだね。少佐は、君のたっての希望でその島へ着任させた、と言っていたが……』

提督(あの野郎、やっぱり中将に嘘ついてやがったか……)

提督「そんな記憶はありませんが。ま、今更言っても配置換えは無理なのでしょう? それよりも、少佐はまだ所在がつかめないのですか?」

通信『困ったことにな……ちょくちょく連絡は寄越してくるから、仕事をしていないわけではないんだろうが……』

提督「とにかく、この島には如月と同じ境遇の艦娘がこれからも漂着してくると思われます。都度対応が必要になるでしょう」

通信『う、うむ……こうなった以上は、儂も不知火を通してバックアップしよう。何かあればまた連絡をするといい』

提督「は。ありがとうございます」

通信『ではな。よろしく頼むぞ、提督准尉』プツッ

提督「……」チン

提督「ふん。中将ものんきなもんだ」ノビーッ

74: 2016/11/06(日) 22:58:21.03 ID:cSUFd8TBo
 * 鎮守府内 ロビー *

朧「来ませんよ」

吹雪「いいえ、来てくれます」

朧「来ませんよ!」

吹雪「来てくれます!」

朧「来ません!」

吹雪「来ます!」

提督「……まだやってんのか」

吹雪「来ますよ! 准尉もそう思ってますよね!」

朧「吹雪、公平性を欠くから准尉さんに聞くのはよくないって言ってましたよね?」

吹雪「やっぱり聞いてみないとわからないじゃないですか! 准尉も来ると思いますよね!」

提督「……知らねえよ」

吹雪「准尉も! 来ると思いますよね!」

提督「だといいな」ハァ

吹雪「適当に言わないでください! 本音は!?」

提督「あ? 来るわけねえだろが」

吹雪「准尉!?」

75: 2016/11/06(日) 23:00:01.55 ID:cSUFd8TBo
提督「馬鹿か手前。お前のご機嫌なんざ知らねえよ、手前に都合いいこと抜かすな」

吹雪「……っ!」

朧「……」

吹雪「朧ちゃん、こんなこと言われて悔しくないの!?」

朧「否定、しませんよ。できないです」

吹雪「否定しようよ! じゃなきゃ……」

朧「……」

吹雪「じゃなきゃあ……!」グスッ

朧「泣くくらいなら、最初から期待しなきゃいいじゃないですか」グスッ

提督「……」

如月「司令官? 不知火が帰ってきたわ……あら、またやってたの?」

提督「ん」

如月「いいわね、元の鎮守府から戻ってこいって連絡がくるかどうか、言い争えるなんて」ポツリ

吹雪「思い出があるんです。希望を、捨てたくないんです。必要だって言われたいじゃないですか!」

如月「……でも、戻ってそれからどうするの?」

吹雪「そ、それは……また、艦隊の役に……!」

提督「立てると思ってんのか。一度沈んだ奴が」

吹雪「そんなの、わかりませんよ! 私は……また出撃できます!」

提督「そうかよ……くそが」チッ

76: 2016/11/06(日) 23:02:17.25 ID:cSUFd8TBo
不知火「司令、こちらにおられましたか」

提督「ん、ああ。不知火か」

不知火「頼まれていたものです。どうぞ」ピラッ

提督「ん……どれ。ああ、やっぱりな、これですっきりするだろ」

提督「おい、朧、吹雪」

朧「は、はい!」

吹雪「なんでしょうか!」ビシッ

提督「ほれ、今月轟沈した艦娘の報告書」ピラッ

提督「不知火が中将の部下に頼んで写しをもらってきたんだが……朧の鎮守府がこっちで、吹雪はここだな?」

提督「こいつに載っかってきたってことは、お前らもう氏人扱いだ。迎えは来ねえ」

朧「」

吹雪「」

提督「もうこれでお前らも無駄な喧嘩しなくてすむだろ。不知火、ご苦労さん」

如月「司令官……」

朧「う、う、ぐす、うぇぇぇえええ……」

吹雪「うああああああんん!」

不知火「……あなたという人は」

提督「……ふん」

77: 2016/11/06(日) 23:03:53.24 ID:cSUFd8TBo
 * 執務室 *

如月「司令官、もう少しあの二人の気持ちも考えてあげたほうがいいわ?」

不知火「不知火も同感です。あのように大上段からバッサリでは、あまりに容赦ないかと……」

提督「いいんだよ。いい加減うるさかったしな」

妖精「……昔の自分を思い出してたくせに」ヒョコッ

提督「うるせえ」ジロ

如月「昔?」

妖精「提督が海軍になったのは士官からのスカウトと、中将の説得があったからだよ」

妖精「それまでは、わたしたち妖精が見えることでずっと変人扱いされてたから、相当荒れてたんだ」

妖精「それが、やっと誰かに必要とされたって喜んだ矢先に、少佐がこの島へ幽閉してくれたからね」

不知火「……なるほど、役に立とうとしても立てない場所に連れてこられたと」

如月「吹雪ちゃんの心境もわかるわけね……でも司令官? それならなおさらあの言い方はないんじゃない?」

提督「だからこそだ。下手な希望持ってたって、ろくな事にはならねえよ。俺が身を以て知ってんだからな」

不知火「……不知火が中将に便宜を図らいます」

提督「やめときな。馬鹿息子絡みならともかく、准尉の俺やいち艦娘でしかない不知火が何か囁いても、海軍の中将が動いてくれるわけねえだろが」

提督「それに俺はお前らにも言ったよな。本人から何をしたいのか聞かない限りは俺は動かねえ、って。気のすむまでしばらく泣かせとけ」

78: 2016/11/06(日) 23:05:02.70 ID:cSUFd8TBo
提督「それよりも、だ。不知火」

不知火「はい」

提督「多すぎねえか、今月の轟沈艦」パサ

不知火「はい……不知火も、そう思います」

提督「軒並み駆逐艦で、しかも低練度だ。どいつもこいつも何してやがる」ガン

不知火「それなんですが、おそらくは『捨て艦』かと思われます」

提督「捨て艦?」

不知火「今、ある海域にきわめて強力な深海棲艦が現れ、それを打破するための方法が海軍全体で試行錯誤している状態でして」

不知火「その中で生まれた戦い方のひとつが、沈んでも良い艦娘を随伴させ、それを囮にして進軍する『捨て艦』と呼ばれる方法です」

提督「沈んでも良い……ねえ。あいつらもそういう扱いを受けたってか」

不知火「おそらく」

提督「チッ……如月。あの二人を呼んでこい、そろそろ泣き止んだろ」

如月「ええ、わかったわ」

79: 2016/11/06(日) 23:05:28.55 ID:cSUFd8TBo
今回はここまで。

82: 2016/11/14(月) 00:01:15.91 ID:8eLed/I+o
朧「朧、入ります」チャッ

吹雪「吹雪、入ります!」

提督「ん。とりあえずお前ら、今の境遇は理解してるか?」

朧「……はい」

吹雪「……」ウツムキ

提督「吹雪は認めたくねえようだが、まあいい。これからお前らはどうしたいか、希望を聞く」

吹雪「そ、それなら」

提督「元の鎮守府に帰りたい、ってのは無理だからな」

吹雪「……っ!」

朧「准尉、質問です。戻るのが無理だと仰るのはなぜですか?」

提督「中将に確認した。一度沈んだ艦娘が再登用されないのはなぜか。答えは簡単、怖いからだ」

朧「……え……?」

提督「科学的根拠はねえ。だが、轟沈した艦娘は深海棲艦になる、というのが海軍の通説だ」

提督「一度沈んだ艦娘を引き取ったら実は深海棲艦でしたー、なんて話になったら嫌だ、っていうのが海軍の中じゃ当たり前なんだとよ」

提督「ドロップ艦と呼ばれる海上で発見される艦娘は、艦として沈む記憶を持っていても、艦娘として沈む時の記憶を持っていないから安全らしい」

吹雪「そ、そんな……!」

提督「実際に昔あったんだと。一度沈んで戻ってきた艦娘が、ある日突然深海棲艦になったって話が。勿論その鎮守府は大騒ぎ、半壊したってな」

83: 2016/11/14(月) 00:04:24.98 ID:8eLed/I+o
朧「その話を知っていて、どうして如月さんはこの鎮守府に残っているんですか?」

提督「そりゃ俺がそうするって決めたからだ」

朧「は!?」

吹雪「ええ!?」

提督「如月がここで働きたいっつうんだから、それをかなえてやりたいと思って行動しただけだ。今朝、中将と話を付けた」

朧「許されるんですか? そんなことが」

提督「おう、許してもらったぜ。これで如月もお前らも大手を振ってこの島に居座れる」

提督「あとな、元の鎮守府に戻る方法もないことはないが、お前らの記憶とか大本営で全部『初期化』する必要があるらしい。だよな妖精?」

妖精A「実際に見たわけじゃない。が、一度沈んだ艦娘をそのまま運用するのは危険だって言われてるが故の措置らしい」

吹雪「ど、どうして記憶を消す必要が……!」

提督「轟沈の記憶こそが、深海棲艦になる要因のひとつと言われているからだとよ。まあはっきりわかっちゃいねえらしいが?」

提督「仮に初期化を受けて、戻った鎮守府が元の鎮守府と違ってても、なーんにも覚えてねえから『戻った』とは言わねえよな?」

妖精A「悪い意味で『戻った』とは言えそうだがな」

提督「つうか妖精よぉ、お前らとしてもどうなんだ? この話」

妖精B「初期化の話? わたしたちは知らないよー」

妖精C「うちら装備妖精だもん。結局は噂だし、考えたくはないね」

妖精D「心情的な話をすればやりたくないけど、自分の艦娘が深海化する方が嫌かなー」

84: 2016/11/14(月) 00:06:45.89 ID:8eLed/I+o
如月「私は忘れる方が嫌よ? 初期化でいくら体の傷も消えるって言ったって、司令官のことを忘れるくらいなら氏んだ方がましだもの」

如月「それに、助けてくれた司令官のためにも、私は絶対に深海棲艦になんかならないし、なったら不知火ちゃんに沈めてもらうわ」ニコー

不知火「さりげなく重いお願いですね」ハァ

提督「これで海軍としての不始末がありゃあ、俺が人身御供になるだけじゃねえだろうしな」

如月「そのときは私も道連れにしてね?」

提督「そいつは遠慮しとく」

如月「もう……照れなくてもいいのに」

吹雪「……」

朧「……」

提督「でだ。改めて聞くぞ、これからお前らはどうしたい?」

吹雪「……」

朧「……」

吹雪「……私は、元いた鎮守府に帰りたいと思っています。でも、記憶を失ってまで帰りたいわけじゃないです」

吹雪「記憶を持ったまま、深海棲艦にならない方法を見つけて、それから帰りたいです……!」

吹雪「それでも帰れないなら、見てもらいたい……! 前の司令官に、吹雪は、こんなに強くなったって!」

朧「朧は……まだ、どうしたいのかわかりません」

朧「……だから、答えを見つけるまで、ここで……この鎮守府のために働きたいと思います」

朧「一度沈んだ朧が、生き残った理由を、知りたいんです……そんな理由でも、いいんでしょうか」

85: 2016/11/14(月) 00:09:32.90 ID:8eLed/I+o
提督「いいんじゃねえの? 困ったらまたその都度考えればいい」

提督「つうわけで、如月! 吹雪と朧の登録手続き、任せたぜ」

如月「うふふ、了解よ、司令官」

提督「しかし、不思議なもんだ。どうして吹雪はそんなに元の鎮守府に帰りたがってんだか」

如月「きっと、忘れたくない思い出があるのかもしれないわ。生まれた場所だったとしたら、なおさらじゃないかしら?」

提督「そんなもんかね……如月もそうなのか?」

如月「ううん、私は司令官と一緒よ? でも、結果的に私はあなたの傍がいいって選ぶことができたんだもの。幸せだわ」

提督「……」ナデ

如月「きゃ!? ……うふふふ」ニコー

提督(俺もやきがまわったな……)


・艦隊に、朧と吹雪が加わりました。


朧「なんだか、うまく乗せられた気がするけど……」

吹雪「ふふっ、いいじゃないですか! 目標もできたことだし!」ノビーッ

吹雪「よーっし、これから頑張るぞーーっ!」

朧「……まあ、いいか。ふふふ」

不知火「お喜びのところ恐れ入ります、早速お手伝いをお願いしたいのですが」

86: 2016/11/14(月) 00:12:54.20 ID:8eLed/I+o
 * 北東の砂浜 *

不知火「……」ナムー

吹雪「……」

朧「……」

提督「……ったく、くそが」

妖精A「半年前よりはましだが……一日でこんなになるかよ」

如月「いくらなんでも酷いわね……」

(打ち上げられた大勢の艦娘の残骸)

提督「やれやれ……」

妖精B「もう見たくなかったけどね、こんな光景」

吹雪「なんか、早くもくじけそう……」グスッ

朧「うん……」グスッ


如月「! 司令官、ほら、あそこ! あのうずくまってる人!」

提督「ん、どうした如月」

由良(大破)「……いな、づま……ちゃん……」

朧「! まだ生きてる人が!」

吹雪「し、司令官!」

87: 2016/11/14(月) 00:15:35.87 ID:8eLed/I+o
提督「なんだ、俺が行くのか? しょうがねえな」

吹雪「し、しょうがねえ!?」ガーン

不知火「いつものことです、お気になさらず」

朧「いつものことって……」ヒキッ

提督「……」ザッザッザッ

由良「ねえ……いなづまちゃん、どこ……!?」キョロ キョロ

提督「……おい」

由良「! お願い、一緒に、探して……あの子、由良と、一緒に大破して……」

吹雪「て、手伝いましょう、司令官!?」

提督「そうだな、手伝うか」

朧「……やけにあっさりというか、すんなりお願いが通りましたね」

提督「ん? こいつがちゃんと『お願い』してるからな」ユラユビサシ

吹雪「そういう基準なんですか……」

提督「ただ、俺はいなづま? ってやつの特徴がわからねえ」

不知火「でしたら司令、浅瀬の艦娘を手当たり次第引き揚げていただけますか」

提督「……こうか」グイッ ザボァ

吹雪「ひぃぃい!?」ビクーッ

朧「く、首がない……!?」ビクーッ

提督「……こいつも埋葬してやらなきゃな」

88: 2016/11/14(月) 00:17:22.20 ID:8eLed/I+o
如月「と、とりあえず特III型じゃないみたいね……司令官、ローマ数字の3のバッジがついた子を探してくれる?」

提督「ローマ数字……」キョロキョロ

 ポコ ポコポコッ

提督「泡? もしや……こいつか」グイッ ザバーッ

電(大破、失神)「……」

全員「「「その子です!!」」」

提督「よし、こいつだな」イナヅマヒックリカエシ

吹雪「?」

提督「ふんっ!」ストマッククロー

電「げぼがばべ!?」カイスイゲボー

全員(((うわああ……)))

電「お、おげっ、っ、げほ、げほっ! ……ぅ、ぅぇ……?」

由良「いなづまちゃん……!」

電「……ゆ、ら、さん?」

由良「!! よ、かっ……」バタッ

朧「由良さん!?」

提督「ドックに入渠させるぞ。駆け足!」

93: 2016/11/19(土) 20:45:16.41 ID:ta4HFEfco
 * 修理ドック *

不知火「轟沈艦のリストを見ると、この二人は、この鎮守府の出身と思われます」

提督「B提督の鎮守府か。こいつらも捨て艦か?」

不知火「軽巡の捨て艦は珍しいですね。おそらく無理を押しての大破進軍かと」

提督「とにかく、こいつらも轟沈リストに載ってるんなら、どうしたいか聞かにゃあな」

不知火「ところで司令。先程FAXでこのようなものが」ピラッ

文書『明朝0900、提督准尉鎮守府に2隻の軽巡洋艦が着任予定。準備されたし 中将』

提督「なんだこりゃ。この鎮守府に艦娘が送られてくるってえのか……?」

不知火「……そのようですね」

提督「……なーあ不知火? この鎮守府にわざわざ送られてくる艦娘ってのは、どんな奴だと思う?」

不知火「……いやらしい言い回しですね」

提督「くくっ、眉間にしわ寄ってんぞ」

不知火「……っ」

提督「ま、『そういう連中』なんだろうな。俺もお前と同じ感想だよ、そう腐んな」

94: 2016/11/19(土) 20:46:58.88 ID:ta4HFEfco
 * その日の夕方、執務室 *

 トントン

由良「失礼します」チャ

電「失礼します、なのです」

提督「よう、目を覚ましたか」

由良「はい、助かりました。ありがとうございます」

電「あなたがこの鎮守府の司令官さんですか?」

提督「一応な。提督准尉だ」

由良「私は長良型軽巡4番艦、由良」

電「特3型駆逐艦、電なのです」

提督「B提督鎮守府の所属だな?」

電「電の司令官さんをご存知なのですか……?」

提督「いいや。昨日、うちの不知火が本営で今月の轟沈艦リストを貰ってきた。その中にお前らの名前があったんでな」

電「……ということは」

提督「B提督の鎮守府からは除籍扱い、つうことになるな」

電「……」

由良「電ちゃん……」

95: 2016/11/19(土) 20:49:10.17 ID:ta4HFEfco
電「電の力不足だったのです」ションボリ

由良「そ、そんなことないわ! そもそもあんな艦娘の運用方法自体、無理があったのよ!」

電「でも……」

提督「反省会は後でやってもらえるか? 俺は、今後お前らがどうしたいかを知りたい」

由良「今後?」

提督「このリストに載ったからには元の鎮守府に戻れねえ。これからどうすんだ、って話だよ」

電「ええと……この島には、電たちのように流れてくる艦娘が多いのですか?」

提督「多いぞ。お前らみたいに生きて流れ着く奴は稀だがな」

電「……」ゾッ

由良「も、もしかしてこの鎮守府の艦娘って、みんなそうなの?」

提督「みんなもなにも4人しかいねえが……不知火以外はそうだな」

由良「……」カオヲ

電「……」ミアワセ

提督「で、どうすんだ? まあ、時間はあるから今すぐ決めろとは言わねえが」

由良「でも、選択肢なんてないも同然でしょ? 少なくとも、由良はもうあの鎮守府に戻る気はないわ」フゥ

電「……電も、そうなるのです」シュン

96: 2016/11/19(土) 20:51:02.40 ID:ta4HFEfco
由良「かといって当てがあるわけでもないし……良かったら、この鎮守府に置かせてもらえないかな」

提督「好きにしな。仲違いさえしなきゃ、俺は構わねえ」

電「……あの、電も、よろしいのですか?」

提督「おう。その代わり、ここはここでいろいろ不便だから覚悟しとけよ。まあ、明日の朝にでも登録手続きはしておく」



電「由良さん……良かったのでしょうか?」

由良「良かったって……?」

電「電は、初期艦として、あの司令官さんと一緒に頑張ろうって思っていたのです」

電「でも、あの人は戦果にしか興味を持たないで、第一艦隊の人たちだけを優遇し続けてきたのです」

電「ほかのみんなを蔑ろにして、誰が沈んでもお構いなし……」

電「電が、もっと厳しく言っていれば……」

由良「それはきっと無理よ。あれがあの人の本性だったか、そういう風に変わってしまったか、よ」

由良「電ちゃんが頑張っていたのはみんな理解してる。でも、もう済んでしまったこと……もう、由良たちには何もできないわ」

由良「そういう意味では、由良も悔しいんだけど……ね」

電「由良さん……」グスン


・艦隊に、由良と電が加わりました。

97: 2016/11/19(土) 20:53:50.39 ID:ta4HFEfco
 * 翌朝 食堂 *

由良「まさか間宮さんもいないなんて……」

電「朝ごはんを自分で作って自分で片付けるなんて久しぶりだったのです」

吹雪「司令官、お料理の手際良かったなあ……」

朧「そうだ、今度教えてもらえませんか?」

提督「あぁ? 面倒くせえ」

全員「「「「酷い!」」」のです!」

提督「そんなことより如月」

如月「はーい?」

提督「今日は今日で軽巡が2人来るって予定だったが、動きは?」

如月「もう船が沖に見えてるわ、ほら(双眼鏡差し出し)」

提督「……あれか」

如月「昨日、中将に連絡を取ったんでしょう?」

提督「一人は中将の部下が相談にきて、うちに移籍させられないかと申し出てきたらしい。非戦闘要員らしいが」

如月「……となると、明石さんか大淀さんかしら」

提督「もう一人は少佐の部下が申し出てきたんだと」

如月「少佐の!?」

提督「嫌な予感しかしねえんだよな……ったく」

98: 2016/11/19(土) 20:55:07.61 ID:ta4HFEfco
今回はここまで。

100: 2016/11/26(土) 21:27:10.78 ID:8NlNemUpo
 * 鎮守府 埠頭 *

船員「急げ!」

 ドタバタドタバタ

船員「おい! 鎮守府の司令官はどいつだ!」

提督「……俺だが」

船員「積み荷の明細だ!」ポイッ

提督「……」ペシッ ポトッ

船員「ったく、遅えんだよ。邪魔だ、どけ!」

提督「……」ムカ

朧「なにあれ。書類を投げつけてくるなんて、何様のつもり?」

提督「さすがは少佐の子飼いの部下だ、よく躾けられてやがるぜ」

不知火「(書類を拾い上げながら)ええ、本当に」

吹雪「み、見てください、あれ!」

 ガタッ キィィィ…

(頭も含む全身を拘束衣に包まれて車いすに載せられたまま、船員たちに運ばれる艦娘)

提督「おいおい……なんの真似だよ。ここまでするか?」

不知火(さすがの司令も露骨に嫌悪してますね。無理もありませんが)

如月「本当、酷い扱いね……」

101: 2016/11/26(土) 21:29:27.29 ID:8NlNemUpo
船員「お前もだ! 早く降りろ!」グイッ

大淀「きゃっ!」ヨロッ

電「お、大淀さん!?」

吹雪「ちょっと、何するんですか!? 大淀さん、大丈夫ですか!」ガシッ

船員「よし、早く船を出せ! こいつは後で使えよ!」ポーイ

不知火「? また何か投げて寄越しましたね」パシッ

 鍵の束 <ジャランッ

如月「? なあに、それ?」

不知火「これは何の……」

提督「寄越せ不知火」グッ

拘束された艦娘「……」

提督「たぶん、こいつのだ」

 カチャ カチャ カチャ カキンッ

提督「けっ、余程こいつに近づきたくないらしいな、連中は」

電「拘束具の鍵……ですか?」

 カチャカチャカチャ カキンッ カチャカチャ カチン

 カチャカチャ チャキン カチャ カキンッ

102: 2016/11/26(土) 21:30:23.65 ID:8NlNemUpo
拘束された艦娘「……」ギシッ

提督「待て。もう少しだ」

 カチャ シュルシュル カチャカチャ

 カチャ シュルシュルシュルッ

提督「よし。もういいぞ」

拘束された艦娘「……」スクッ

 バッ バサバサバサッ

拘束された艦娘→神通「……」バサッ

如月「じ、神通さん……!?」

吹雪「ど、どうして神通さんがあんな風に拘束されてたんですか!?」

神通「……」キョロ

神通「……」ジャキッ

由良「さっきの船の方に主砲を……まさか!?」

電「待っ……!」

 ドンドンドンドンッ

電「……って、くれなかったのです……」タラリ

103: 2016/11/26(土) 21:31:32.81 ID:8NlNemUpo
神通「……」シュウウ…

提督「で? 当たったのか?」

不知火「は、はい。命中してます……いまのところ航行には問題ないようですが」

提督「そうかい、そいつは残念だ。沈んじまえば良かったのに」

朧「そんなのんきなことを言ってる場合じゃないと思うんだけど……!」

神通「……」

電「はわわわ……い、いったい神通さんに何があったのです?」

神通「……」ジッ

提督「……ん?」

神通「……」コツ コツ コツ

神通「あなたが、この鎮守府の提督……准尉ですね」

提督「おう、そうだが?」

神通「……氏んでください」ジャキ

如月「!? し、司令官危ない!」バッ

不知火「司令、お下がりください!」バッ

104: 2016/11/26(土) 21:33:24.17 ID:8NlNemUpo
吹雪「し、司令官!? いったい何をしたんですか!」

提督「知らねえよ、初対面だぞ」

朧「……絶対どこかで恨みを買ってそうなんだけど」ボソ

提督「ああ、そりゃわかんねえな。で……いきなり氏ねときたか。神通っつったな、これがお前の望みか」

不知火「神通さん。司令を撃つ理由はなんですか」

神通「……」ギラッ

不知火「……!」ゾクッ

不知火(い、いけません……この人は、強さの、格が違いすぎます……!)マッサオ

提督「別に撃ちたいんなら撃っていいぞ、撃つ理由があるんならな」

神通「……!?」

如月「司令官!? 何を言ってるの!?」

提督「そん代わりふたつほど頼まれろ」

提督「ひとつはこの鎮守府の艦娘。こいつらの面倒を頼む」

不知火「し、司令!? 本気ですか!」

提督「ふたつめは、俺が憎んでる少佐を確実に地獄に落とせ」

神通「!」

提督「できるか? できるんなら撃て、できねえなら余所に行きな、手配はしてやる」シッシッ

如月「司令官!? そこでどうして煽るの!?」

105: 2016/11/26(土) 21:35:41.64 ID:8NlNemUpo
不知火「や、やむをえません、ここは私が守ります! 如月は司令を連れて退避を!」ガタガタ

如月「何言ってるの不知火、あなたも膝が笑ってるじゃない! 司令官、早く逃げて!?」ユサユサ

神通「……准尉」

不知火「……?」

神通「……あなたは、少佐の部下ではないのですか?」

提督「部下。部下ねえ……ああ、そうだ。くそむかつくし認めたくもねえが、それは事実だ」

神通「……あなたは、少佐が嫌いなのですか?」

提督「ああ嫌いだね。キ○タマぶっ潰してやりたいくらい大っ嫌いだ」

神通「……!!」カァァ ジャキッ

不知火「司令! それはセクハラですよ!?」

吹雪「っていうかこんな状況で言うセリフじゃないですよぉぉ!?」ワタワタ

提督「あー? この程度でか? 面倒くせえ世の中だな」ハァ

電「司令官さん、こんなときに冗談がきついのです!」カァァ

提督「冗談? いうかよ、俺は本気だ。俺の人生の目標のひとつだぞ」

由良「本気だからって女性の前で言う言葉じゃないわよね、ね?」カァァ

朧「この人には言うだけ無駄かもしれませんよ」ハァ

如月(朧ちゃんも言うわね……)

吹雪(すれちゃってるなあ……気持ちはわかるけど)

106: 2016/11/26(土) 21:37:14.42 ID:8NlNemUpo
提督「で、撃たねえのか、神通?」

不知火「ですから! 煽らないでください司令!!」

神通「……」

大淀「あの……神通さん、やめておきましょう? この人がどういう人なのか、もう少しお話を聞いてからでも遅くないと思います」

神通「……」

大淀「それに、仮にも駆逐艦二人に庇われてますから、そこまで悪い人とは思えません」

提督「おやおや……そいつはどうかね」アタマガリガリ

神通「……」スッ

不知火「い、命拾いしました……大淀さんありがとうございます」

大淀「ふふっ、どういたしまして」


112: 2016/11/27(日) 23:38:23.66 ID:ORuuyoXHo
 * 執務室 *

提督「任務が遂行できなくなった?」

大淀「はい……私は、大本営の指針に疑問を持ってしまったんです」

如月「ど、どういうこと?」

大淀「私は大本営が設定した日々の任務の管理を担っているのは、みなさんご存知ですよね」

提督「らしいな。俺はよく知らねえが」

不知火「どんな鎮守府にも、任務遂行を担当する大淀さん、酒保を受け持つ明石さん、食堂を切り盛りする間宮さんと伊良湖さんが、配属されますが……」

朧「憲兵さんすらいませんからね、ここ」

吹雪「疑問を持った……って、何をしたんですか」

大淀「日々の任務の正当性と言いますか、正しいのかどうかがわからなくて、耐えられなくなってしまったんです」

不知火「日々の……と言いますと、敵艦隊の邀撃とかですか」

吹雪「あとは演習の勝利、装備の開発に、艦娘の建造と解体、あと……」

提督「待て。今、解体っつったか」

吹雪「え? はい、解体です。この前に艦娘を3隻建造する任務があって、作りすぎた艦娘を解体する任務があるんです」

提督「なんでわざわざ建造した艦娘を解体する必要があるんだ?」

吹雪「そ、それは……」

大淀「提督。そこです」

提督「あ?」

113: 2016/11/27(日) 23:40:19.64 ID:ORuuyoXHo
大淀「建造を繰り返し行うのは理解できます。建造技術の習熟度と練度の向上、及び、鎮守府の戦力の増強。重要ですよね」

大淀「では、解体は? 解体技術を高めるため? それはいつ役に立つんでしょう? 戦時中である今、その技術は必要でしょうか?」

大淀「任務の名目上は軍縮条約、としていますが、それが毎日発生します。それがわかっていながら、毎日建造を行う理由は?」

大淀「何のために艦娘を建造するのか? 条約があるのなら最初から建造しなくて良いのでは? そういった疑問が頭から離れなくなりまして……」

提督「それでお前は『不良品』と診断された、ってか」ペラリ

大淀「逐一不安そうな顔をしていては業務に支障をきたすから、解体も建造もできないところで働けと」

大淀「ここの鎮守府ならドックが半壊してるはずだし丁度良い、と、もといた鎮守府の責任者から推薦されたんです」

大淀「ですが、ドックは壊れてないみたいですね?」

不知火「先日修理……というより、新調したばかりですから」

如月「全然使ってないから新品でしょ?」

大淀「使って、ない……?」

提督「わざわざ艦娘作って戦わせたくねえからな。だから建造しねえ」

大淀「え!?」

提督「もっとはっきり言やあ、俺は人間のために戦うつもりもねえ」

吹雪「な、なんなんですかそれ!?」

電「司令官さん!? どういうことなのです!?」

114: 2016/11/27(日) 23:41:32.68 ID:ORuuyoXHo
提督「ただの逆恨みだよ。俺は人間が嫌いだ、だから人間の平和なんかどうでもいい」

大淀「で、ではなぜあなたは海軍に……」

提督「妖精と話ができるからだ。それで海軍で働いて欲しいと言われて素直に入ったら、あの糞少佐に勝手に敵視されて島流し食らってこのざまだ」

由良「じ、じゃあ、提督さんは着任してから海軍でなにもしてないの?」

提督「ああ、なーにもしてねえよ。妖精と話せるってだけで入れっつったり出てけっつったり……思い出したらむかついてきたぞ、くそっ」

提督「あと、お前ら助けたのもなりゆきだ。人間に使い捨てにされたのを見過ごせなかった……まあ、これも俺の自己満足さ」

朧「だったら……だったら、どうして司令官は朧を助けたんですか」

提督「あ? んなもんお前が一番わかってんじゃねえのか?」

提督「お前を助けたのは、うなされてた時に『まだ……朧は、まだ……』って呟いてたからだ」

提督「投げたり諦めたりしたやつは『まだ』なんて言わねえ。何かしら未練があるんだろ、だから助けた」

朧「……っ」

提督「それにしても吹雪。お前、任務のことに詳しいな」

吹雪「は、はい! 一応、一通りの教育を受けてきましたから!」

由良「吹雪ちゃんや電ちゃんは、初期艦としての訓練も受けてるの。どんな任務があるか、ある程度教えられているのよね、ね」

吹雪「そういえば司令官、この鎮守府の初期艦はどうしたんですか?」

提督「初期……? それなら、如月だが?」

吹雪電大淀由良「「「「えええええ!?」」」」

115: 2016/11/27(日) 23:43:35.12 ID:ORuuyoXHo
朧「そ、そんなこと、あるわけないですよ! 本当ならこの二人や、漣とかから選ぶはずじゃ!?」

提督「そんなルール知らねえよ。この島に飛ばされてから三か月、俺はここで妖精たちと轟沈した艦娘を埋葬しながら無人島生活してただけだぞ」

提督「本営も中将も俺のことは少佐に丸投げだ。その少佐のせいで生きてる艦娘は一人も送られてこねえ」

不知火「補足しますと、通信機器も不正に制御されていたため、少佐の鎮守府としか連絡が取れない状態でした」

提督「それで人間のために働け? 寝言言ってんのか! くそが!」

吹雪電大淀由良朧「」アゼン

提督「……とにかくだ。一番最初に鎮守府に来た艦娘を初期艦って呼ぶなら、そりゃあ如月だよなあ?」

如月「そうね。私が初めてよ? うふふ」

不知火(嬉しそうですね如月)クス

提督「ああ、ついでに言うと憲兵も来ねえぞ」

大淀「な、なぜです!?」

提督「ここにいる不知火以外の5人が轟沈経験あるからな。さすがの憲兵どももこの島で暮らすのは勘弁してほしいそうだ」

由良「も、もう由良たちは深海棲艦扱いなの!? あんまりだわ……!」

提督「轟沈した艦娘を鎮守府でそのまま保護しておくこと自体が異例中の異例とか言ってやがったし」

提督「ま、気にすんな。この鎮守府は轟沈した艦娘が滞在しても俺の責任にしときゃ問題ねえって話でケリを付けたんだからな」

不知火「司令。それはそれで責任重大なんですが、理解してらっしゃるんでしょうか……」

116: 2016/11/27(日) 23:46:00.09 ID:ORuuyoXHo
提督「話はそれたが、大淀、お前が疑問持ってるような任務は放っとけ。その辺の判断はお前らに任せる。つうか、お前の好きにしろ」

大淀「は、はぁ……」

提督「でだ、神通」

神通「……」

提督「お前、ずっとだんまりだが、お前はどうするよ?」

神通「……あなたが何を考えているのかが、わかりません。あなたは、この鎮守府をどうしたいんですか」

提督「そうだな……とりあえず、ここの艦娘がちゃんと生活できる環境を整えてやんねえとな」

如月「そのためには、出撃して、敵艦を邀撃して、戦果を報告しないとだめよ?」

提督「あまり気が進まねえが……人数も増えたしなあ。そうするしかねえか」

大淀「あの……それでしたら、任務を実行していただければ、本営から報酬が出ますよ」

提督「なに?」

大淀「吹雪さんからもありましたが、私が管理している任務には、敵艦隊の邀撃や、遠征任務の実施なども含まれます」

大淀「それらの任務達成による報酬で得られる高速修復材などは、艦隊のためにも確保したほうが良いかと思います」

提督「……高速? 有用なのか?」

如月「そうね、大破して入渠することになっても、すぐ直してもらえる特効薬みたいなものかしら」

提督「あるに越したことはねえってか……受け取る以上はある程度戦果を挙げとく必要もあるんなら、しゃあねえな。大淀」

大淀「はい」

提督「まるで物に釣られるみたいで意地汚く見えるが、お前にその辺の協力を仰ぎたい。頼めるか」

117: 2016/11/27(日) 23:47:06.48 ID:ORuuyoXHo
大淀「はい、もとよりこの鎮守府のために働くつもりです。これからよろしくお願いいたします」ペコリ

提督「ああ、こちらこそだ」

不知火「……」

提督「なんだ不知火、その目は」

如月「うふふ、素直な司令官を見てびっくりしたのよね?」

提督「俺はいつでも正直に生きてるつもりだがな」

不知火「……せめてTPOを弁えて、正直さを出していただきたいのですが」

提督「そんなもの俺の勝手だろ。それに勘違いすんなよ、俺たちが戦うのは人間のためじゃねえ。俺たち自身のためだからな」

如月「ええ、理解しているわ司令官」

電「如月ちゃんは司令官さんに優しいのです。なにかあったのですか?」

如月「それはもう、いろいろあったのよ?」ニコー

由良「ね、ね、なにがあったの? 教えてほしいな」

如月「ふふふ、ひ、み、つ、です」ニコニコー

吹雪「えっ、何ですかその意味深な発言! どういうことですか司令官!」ドキドキワクワク

提督「知るか」ギロリ

吹雪「しれいかぁぁぁん!?」ガビーン

朧「……本当によくわからない人」

神通「……」

118: 2016/11/27(日) 23:48:46.02 ID:ORuuyoXHo
今回はここまで。

121: 2016/12/03(土) 22:32:12.35 ID:Z76eCzKEo
 * 夜 執務室 *

提督「……」

扉 <コンコン

提督「おう」

神通「失礼します」

提督「……話があるって?」

神通「はい。昼間は失礼致しました……少佐のことでお話ししておきたいことがあります」

提督「ん、とりあえず座れよ」

神通「あの……お願いです。私に、少佐を討たせてください」

提督「……ああ、それは構わねえ」

神通「では……!」

提督「俺とお前だけなら、頑張ればやれるかも、とは思うがな。やろうと思ったらあいつらを道連れにしなきゃいけねえ」

提督「あいつらも人間のせいで酷い目にあってる。もう少し長生きさせてやりたい」

神通「……」

提督「だから今は、もう少し待ってろ、と言いたいとこだな……」

神通「……そう、ですか」シュン

122: 2016/12/03(土) 22:33:21.31 ID:Z76eCzKEo
提督「それに、夕方の定時連絡、聞いたろ?」

神通「はい、聞かせていただきました。最近少佐は鎮守府を留守にしていると」

提督「ああ、だから攻めようがねえ。おかげで今は赤城が全部泥をかぶってる」

神通「いつまで、もつんでしょうか」

提督「赤城がか?」

神通「はい……そして、あなたもです」

提督「……」

神通「あなたはあなたで、やる気をなくしている、という雰囲気と、爆発したくてしょうがない、という雰囲気が混ざっているように見えます」

提督「……」

神通「……」

提督「確かに、な」

提督「やっとこの前、少佐の鎮守府まで行くことができた。そのときにやれてりゃあ良かったんだがな……あいつらのその後を優先しちまった」

神通「……あの、あなたをかばったふたりですか」

提督「ん。察しがいいな、その通りだ」

提督「まあ、ぶっちゃければ、そればかりじゃねえんだ。今の、他人……つうか、人間がいない生活が快適だっつうのもある」

提督「周囲の目を気にしてイライラしてたガキの頃とは全然違って、予想外に楽なんだよ。不満は物資が少ないことくらいだ」

提督「俺としちゃあこのままおっ氏んでも良かったが、それで少佐が喜ぶんなら話は別だ。奴への嫌がらせのために俺は生きてる」

神通「……」

123: 2016/12/03(土) 22:35:40.91 ID:Z76eCzKEo
提督「勿論ストレスはたまるさ。ただ、最近この島に漂着してくる艦娘の境遇の方が俺なんかよりも悲惨でな」

提督「俺と同じ、人間に嫌な思いをさせられた奴らだ。無碍にできなくてこうなった」

提督「お前もそういうクチだろ?」

神通「……」

提督「奴がお前をこの島に送り付けたのは、奴の部下である俺を始末させるためか?」

神通「……それは、わかりません」

提督「少佐の部下である俺を派手に殺せば、あれもお前を処分する理由ができる。そういう思惑がありそうな気がしたんだがな」

提督「逆にお前がこの島に馴染むようなら、俺と一緒に幽閉し、あわよくば全員体よくくたばれ、ってとこだろう」

神通「……」

提督「……」

神通「……」

提督「……で、神通も喋りに来たんじゃねえのか?」

神通「……聞いて、くださいますか」

提督「ああ。だから座りな」

 * * *

124: 2016/12/03(土) 22:38:04.03 ID:Z76eCzKEo
神通「私は、3年前にF提督鎮守府へ配属されました」

神通「小さな鎮守府でしたが練度の高い艦娘が多く、またその艦隊の司令官であるF提督もとても良い方でした」

提督「F提督……」

神通「ご存知なのですか?」

提督「いいや、顔も知らねえ……が、事故氏に見せて暗殺されたらしいって噂だけは知ってる。3か月前か?」

神通「はい……」

提督「深海棲艦と和平を結ぶ方法を模索して東奔西走していたところの船舶事故、ってのが本営からの発表だった」

提督「和平に反対してる奴らの仕業、って考えてんのか?」

神通「はい。そしてその事故は……F提督の鎮守府から、私を引き抜こうとした結果引き起こされた事故だと、私は考えています……!」グッ

提督「お前を……?」

神通「事故の知らせの直後、私は本営からの連絡を受け、輸送船へと案内されました。事故現場へ連れて行かれると思っていました」

神通「しかし、行き先はF提督のもとではなく、別の鎮守府……G提督の鎮守府でした」

提督「……」

神通「あの男は最低でした。暴力とモラルハラスメントで艦娘を支配しようとする気質の男でしたから」

神通「秘書艦を命ぜられた私は、暴力を振るわれたり不愉快な言葉を口に出されたりする前に、あの男の一挙一動を観察して対策しました」

神通「触られる前に席を立ち、卑猥な言葉を言われる前に違う話題を振り、秘書艦の立場を利用して業務を押し付けて椅子に縛り付け、遣り込めたんです」

125: 2016/12/03(土) 22:41:51.45 ID:Z76eCzKEo
神通「一番効果的だったのは、G提督の考えを言い当てることでした」

神通「あの男は、私が後ろを向けば私に触ろう、抱き着こうとしていました。それを逆手にとって、後ろを向いたままそれを指摘したんです」

神通「……それからは簡単でしたよ。あの男が考えているであろうことをそのまま口にするだけで、あの男は勝手に怯えて逃げ出して……」クスッ

神通「いつの間にか、私は他人の心を読むことができる、なんて言われるようになって……」ウツムキ

提督「今朝移送されてきたときのあの厳重な拘束具も、船員の態度も、すべてはお前を恐れて……か」

神通「F鎮守府に着任するより以前も、他の鎮守府で働いていたのですが、秘書艦になると決まって数週間後に転属を言い渡されていました」

神通「秘書艦になったときは、艦隊の業務を滞りなく進めるために、いろいろなことに気を配っていたんです」

神通「整理している書類の順番は決まっていますから、進捗度合によって適切な資料を提供したり」

神通「お茶を淹れるタイミングを計ったり、色目を使われそうになったら先手を打って牽制したり……」

神通「でも、しばらくするとみんなこう言うんです。『お前が怖い。考えていることをすべて見透かされているようだ』と……」

提督「……どいつもこいつも」チッ

提督「で、お前はそのG鎮守府からも追い出されたってわけか。せっかくお前が欲しかったってのに……むかつくぜ」

神通「そのG提督は今、病院にいます。私が、狂わせたんです」

神通「でも、後悔はしていません。G提督が少佐に電話をかけていたところを見つけたときから、私は復讐を決めていましたから」

提督「!」

126: 2016/12/03(土) 22:44:43.44 ID:Z76eCzKEo
神通「その時の電話で、F提督が亡くなったのち、G鎮守府への異動を手配したのが少佐だったことがわかったんです」

神通「G提督は、少し前にF提督鎮守府で私を見かけたらしく、そこで私に興味を持ち……私を手下に置きたいと少佐に持ちかけていました」

神通「戦争から利益を得ている少佐は、深海棲艦との和解を望むF提督たちを目障りに思っていたと聞いています」

神通「G提督は、少佐にF提督を頃してほしいとは頼んでいないと言っていましたが、定かではありません」

神通「ですが、利害の一致した少佐はこれを好機と見て、F提督と、彼に同調する関係者を消そうとしたんでしょう……!」フルフル

神通「私が、F提督と一緒にいたせいで……あの人が……F提督が狙われて……う、ううう……っ!!」ポロッ

神通「あの方は……この私を、好きだと……仰ってくださったんです……! 指輪まで、用意してくれて……なのに、なのに……っ!!」ポロポロ

神通「私は、F提督の、葬儀にすら……出ることも、かなわなかった……う、うう……あぁぁぁぁ……!!」

提督「……」ギリッ


 * * *


提督「……」

神通「あなたは……冷静、なんですね……」グスッ

提督「冷静、ね……神通。俺が今、何を考えてるかわかるか?」

神通「? ……いえ……」

127: 2016/12/03(土) 22:45:37.99 ID:Z76eCzKEo
提督「俺は今、どうしたらいいかわからなくて悩んでる」

提督「俺は誰かをそこまで好きになったことがねえ。だから俺はお前にどんな言葉をかけるべきかもわからない」

提督「それに、少佐を討ちたいって気持ちだけはわかったが、その希望を今すぐ叶えてやることもできねえ」

提督「だからどうしようもねえな、って思ってたんだ。だから、お前が言うほど冷静なんかじゃねえよ……力になれなくて悪いな」

神通「……いえ、聞いていただき、少し、落ち着きました。ありがとうございました」

提督「とりあえず、だ。ないとは思うが、この鎮守府で艦娘同士で争う以外は何をしててもいいからよ。しばらくは適当にやってくれ」

神通「……わかりました。失礼いたします」ペコリ

 パタン

提督「……」

提督「……妖精」

妖精「なにかな」ヒョコッ

提督「今回は……俺にできることはねえな」

妖精「……そうだね」

提督「……少しは、誰かの役に立てていた、って、気になって、まあまあ満たされた気になってたんだがな」

提督「久々だな。こうやって、歯痒い思いをすんのは」

妖精「……」

提督「……くそが」


・艦隊に、大淀と神通が加わりました

130: 2016/12/11(日) 18:25:54.85 ID:WNZ/8RZUo
今のところ、本編とこちらのスレ両方に出てきているのは以下の方々。

提督:准尉。本編ではスレ中盤に少尉に昇進。
中将:そのまま。
少佐:本編では大佐に昇進済み。
B提督:本編では部下B。

そのうち本編の中佐(X中佐)も出てくる予定。

今回は、部下AことA提督の鎮守府が舞台です。

131: 2016/12/11(日) 18:28:21.16 ID:WNZ/8RZUo
 * 1か月後 A提督鎮守府 *

霰「霰です」

満潮「満潮よ!」

A提督「来たか。おい、北上!」

北上「んあ?」

A提督「こいつらはお前に任せる」

北上「えぇ~? ……まあ、いいけどさ~」

A提督「よし、下がっていいぞ」



満潮「なにあれ、まともな挨拶もなし? 呆れた……私、なんでこんなところに配属されたのかしら」

霰「……」

北上「まー、あれだねー。あの人、結構忙しいからねー」

満潮「忙しいって言葉で片付けられる態度じゃないでしょ!? 何様のつもりよ!」

北上「司令官様のつもりなんだろーねー。ま、自由時間が増えると思えば、悪くないっしょー」

満潮「それでよく艦隊運営できるわね。感心するわ!」

132: 2016/12/11(日) 18:29:18.40 ID:WNZ/8RZUo
霰「……」

北上「あー」

満潮「なによ!」

北上「……うざい」

満潮「はぁ!?」

北上「うざい。駆逐艦うざーい」

満潮「は、はああ!? なによ! あ、あんた何様のつもり!?」

北上「あたし? あたしは軽巡、北上様だよー」

満潮「うっざい!」ピキ

北上「はぁ?」ピキ

霰「……喧嘩……よくない」

満潮「なによ!」

北上「なんだよー?」

霰「……霰も、怒る……よ?」ギンッ

満潮「わ、わかったわよ……!」タジッ

北上「……ま、まあ、あたしも大人げなかったかなー」ポリポリ

霰「……ん……それより、任務」

満潮「そ、そうね……とりあえず、私たちは何をすればいいの?」

北上「んー、そだねー……」

133: 2016/12/11(日) 18:32:17.37 ID:WNZ/8RZUo
 * * *

明石「へー、初出撃で無傷ですか!」

北上「そだよー。結構見所あるみたい」

明石「二人とも良かったですね!」

霰「……嬉しいかも」ペコリ

満潮「ま、まあ、このくらい当然よ」プイ

北上「んー、ただねー、満潮は動きすぎ。攪乱のつもりだろーけど、自分からあたしの雷撃に当たりに行きそうな勢いだったしー」

北上「霰は逆に動かなすぎ。当たらないってわかるといきなり原速に戻すから、単縦陣だと衝突するかもねー」

北上「二人とも、連携と相手の動きを見るってところは問題ないけど、味方の動きが見えてないとこが問題かな」

霰「……!」

満潮「……」

北上「んー? なにさー、ハトが豆鉄砲食らったような顔してさー」プー

明石「北上さんは結構周囲を見てるんですよ? 魚雷の射線に味方が割り込まないように注意してるんですから」

満潮「……そ、それであの命中率なの?」

霰「すごい、当ててた」

134: 2016/12/11(日) 18:34:20.87 ID:WNZ/8RZUo
北上「んー、まあ、近々重雷装巡洋艦に改装される話があってねー。北上様は名実ともに雷撃のスペシャリストになるんだよぉ」ニヘラ

北上「だから魚雷の扱いには詳しくならないと、だし。今じゃ明石とも協力して、一緒に新型魚雷の開発をしてるんだよねえ」

満潮「ふぅん……!」

北上「でもなかなかうまくいかなくてねー」

明石「酸素魚雷の開発も難しくて、もっと簡単な作りで威力のある魚雷を開発できないか、北上さんと共同開発中なんです」

北上「見た感じ、二人とも興味ありって顔だねー」

霰「うん……砲戦より、水雷戦ですよ……?」

北上「おー、いいねえ、しびれるねえ」ニヒヒ

満潮「……まあ、いいんだけど。だからって全員が全員魚雷だけ積むわけにもいかないんでしょ」

満潮「機動力を生かすなり夾叉で牽制するなり、とにかく当てないと、威力があっても意味ないじゃない」

北上「……へー」

満潮「……なによ」

北上「ちゃんと考えてくれてんじゃーん。えらいぞー」グリグリ

満潮「頭ぐりぐりすんのやめなさいよ! うざいわね!」

明石「……」

霰「……明石さん、元気ない?」

135: 2016/12/11(日) 18:38:46.50 ID:WNZ/8RZUo
明石「え? い、いえ、そんなことありませんよ!」

霰「……」クビカシゲ

北上「んー、やっぱり元気なさそうに見える? 明石ってば、最近冴えがないよねー」

満潮「ちょっと北上さん!? まさか明石さんに無理させてないでしょうね!?」

明石「あはは、大丈夫ですよ! むしろ北上さんと開発してるときは、楽しくて疲れが吹っ飛んじゃいますから!」

北上「少し前も、装備がいきなり暴発したとか嫌な騒ぎがあって、そのときも明石は大忙しだったよねえ」

満潮「なによそれ! 物騒過ぎるわ!」

明石「まあ、原因も突き止めましたし、再発防止のために手は尽くしましたから……」

満潮「とにかく! 明石さんはしっかり休んでおきなさいよね! 私たちが出撃中に倒れたりしたら許さないんだから!」

北上「それ、駆逐艦が言う台詞じゃないよねー……」

明石「あはは……でも、ありがとうございます」







霞「私たちの姉妹艦よ? 挨拶もなくて、本当にいいの?」

朝潮「……はい。今の私たちには、証拠をつかむことが最優先事項です」

136: 2016/12/11(日) 18:41:00.15 ID:WNZ/8RZUo
 * 朝潮の回想 *

明石「裏帳簿……!?」

A提督「そうだ。これから金が必要になる。お前にその手伝いを頼みたい」

明石「そんなこと、できるわけないじゃないですか!?」

A提督「うむ。だろうな。ああ、別に構わない。協力を得られないなら、これから出撃する艦隊の装備に少々の手違いがあっても仕方ないな?」

明石「!?」

A提督「役立たずどもは解体する。修理よりもその方が得だ。そう思わないか?」

明石「……!」

A提督「艦娘というものは氏にたがりが多いと聞くしな。戦場で散るなら本望だろう」

A提督「少しばかりその手伝いをしてやるというのも、おつなものかもしれんな?」

A提督「まあ、海に沈めるか溶鉱炉に落とすか、そんなことは微々たる違いだとは思うが……くくく」

明石「あな、た、は……っ!」ギリッ

A提督「ではな、明石。話は終わりだ」クルリ

明石「ま……待って!」

A提督「……」コツ コツ

明石「待ってください!」

A提督「んん? 何のようだ? 話は終わったぞ?」ニヤリ

137: 2016/12/11(日) 18:45:56.61 ID:WNZ/8RZUo
 * 朝潮の回想終わり *

朝潮「それまでは、他の誰にも接触しないほうが良いと思います」

霞「……わかったわ。下手に手伝うなんて言われても困るし、その方がいいわね」

霞「あの救いようのないクズは、私たちがなんとかしないと……!」

朝潮「はい。明石さんのためにも」



 * 数日後 *

北上「じゃじゃーん、重雷装巡洋艦、スーパー北上様だよー」

霰「……おお」パチパチ

満潮「魚雷の発射管がいっぱい……重そうね」

北上「うん、重いよー。持ってみる? ちょー重いよー? 暴発するかもねー」ニシシ

満潮「え、遠慮するわよ!」

北上「そーぉ? いいけどさ~……明石もありがとね」

明石「いえいえ、ご協力できてなによりです。間に合って良かった」

北上「間に合って?」

明石「あ、資材が間に合って良かったなって意味です! あははは」

霰「?」

138: 2016/12/11(日) 18:47:25.16 ID:WNZ/8RZUo
満潮「そ、それより、そっちの魚雷も気になるんだけど」

北上「あー、もしかしてそれ、この前作った新型の魚雷?」

明石「はい、それがですねえ……」

北上「あ、もしかして」

 バンッ

憲兵「工作艦明石!」

明石「!」

満潮「な、なに!? なんで憲兵がここに!?」

憲兵「立て! 貴様にはこの鎮守府の金を横領した容疑がかけられている」

霰「え……?」

北上「ちょっと、明石!?」

明石「……大丈夫ですよ、北上さん。私は、大丈夫です」スクッ

憲兵「では、同行願おうか」

明石「はい」スッ

北上「明石!!」

明石「北上さん、少しだけ待っててください」

憲兵「! これはA提督殿」

明石「……え?」

139: 2016/12/11(日) 18:48:26.08 ID:WNZ/8RZUo
A提督「明石、貴様ともあろう者が、失望したぞ……?」ニヤリ

明石「なぜ、あなたが、ここに」

A提督「……連れて行け」

憲兵「は。来い!」

A提督「……駆逐艦たちを使って鎮守府の金を横領した罪、どうやって贖ってもらおうか……くくく」

明石「!? まさか……」クラッ

憲兵「早く来い!」

北上「……」アゼン

霰「……」ボーゼン

満潮「……な、なんなのよ。何があったのよ!」

A提督「今言った通りだ。明石が駆逐艦2名と結託して、裏帳簿を作って金を横領していた。それだけだ」

A提督「残念だよ……こんなことになろうとは」

A提督「……うむ、北上。貴様は改装を終えたのか。丁度いい、今度貴様の力を見せてもらおうじゃないか」

A提督「ここにある魚雷、積めるだけ積んでこい。初仕事を与えてやろう」クルリ

 コツ コツ コツ…

満潮「どういう、ことなのよ」

霰「……北上さん」

北上「……わかんない。わかんないよ」

144: 2016/12/12(月) 22:16:57.19 ID:Z+baB/zFo
 * その日の夜 明石の工廠 *

北上「…………」

北上「なんでこうなるかなあ……」

北上「明石が……裏帳簿、なんて……」

北上「嘘だよね……嘘だよねえ……」

北上「はぁ……あたしの荷物、持ってかなきゃ」

北上「? なにこの手紙……明石の!?」

 ガサッ ペラリ

手紙『北上さんへ』

北上「うわ、雑な字……急いで書いたの、かな」

 『私が捕まったときのためにこの手紙を残しておきます。』

 『私は、A提督から鎮守府のお金を盗むよう、指示されていました。』

 『A提督は、艦隊のみんなに不良品の装備を持たせ、危険な状態で戦闘をさせています。』

 『そして、その装備のせいで戦果を上げられなかった艦娘を、私に解体するよう命じています。』

 『まともな装備を持たせたければ、艦娘を解体させたくなければ、私にA提督の悪事を手伝え、と……。』

 『幸いにも、朝潮ちゃんと霞ちゃんが、A提督の悪事の証拠を掴んでくれました。』

 『その証拠があれば、すぐにとは言えませんが、私も自由になれるはずです。』

 『少しだけ、待っていてください。』

145: 2016/12/12(月) 22:18:41.17 ID:Z+baB/zFo

北上「…………」

『追伸』

『今回開発した丁型魚雷、爆風だけはすごいんですけど、』

『威力がてんでからっきしでした。次こそ、いいもの作りましょうね!』

  『明石』

北上「…………」

北上「…………」クシャ

北上「…………」

146: 2016/12/12(月) 22:21:58.15 ID:Z+baB/zFo
 * 二日後 太平洋洋上某所 *

 * A提督所有 巡視船甲板上 *

特警1「A提督。なぜこのような場所へ?」

A提督「余所の艦が来ないような場所の方が良いと思ってね。雷撃処分とはいえ、流れ弾が他の艦隊に影響してはまずいだろう?」

特警2「然様でしたか……」

特警3「連れてきました」

(猿轡+両手両脚を縛られ引きずられてくる明石)

明石「……」ジロッ

A提督「うむ。では、これより3隻の雷撃処分を行う」

明石「!」

特警4「抵抗するな!」

朝潮「んーーー!」

霞「んぐうう!」

明石(朝潮ちゃん!? 霞ちゃんも!?)

特警1「艤装は外さないのですか?」

A提督「せめてもの情けだ。艦のまま沈めてやろうじゃないか」

A提督(艤装の中に証拠が残っていたらまずい。一緒に沈めてやらねばな)

A提督(わざわざこいつらが主犯として動いたように工作したんだ、念入りにしなければ)

147: 2016/12/12(月) 22:24:17.74 ID:Z+baB/zFo
A提督「では、始めよう。こいつらを海へ放り込め!」

特警2「はっ!」

明石「んんっ!」ガシッ

朝潮「んーーっ!(明石さん!)」

霞「んむうう!(離しなさいよ!)」

A提督「抵抗するな!」グイッ

 ドボーン

A提督「次!」

朝潮「んー! んーーー!(明石さん! 明石さん!)」グイッ

 ドボーン

霞「んぐ、ぐむーー!(朝潮っ!)」グイッ

 ドボーン

霞(縛られてちゃ、まともに浮けないじゃない……!)

朝潮(明石さんは……!)

明石(……私だけならまだしも、この二人にまで罪をかぶせるなんて……!)

A提督「北上。やれ」

明石(!?)

148: 2016/12/12(月) 22:26:39.80 ID:Z+baB/zFo
(海上に立つ北上と、後ろに控える霰、満潮)

北上「……」

北上「……やるしか、ないのかねえ……」

霰「……」

満潮「……」

北上「……」

霰(あのお手紙の通りなら、A提督が明石さんに罪をなすりつけたことになる)

満潮(でも……A提督が怪しいのはわかっていても、証拠が何もないんじゃ、どうしようもない……)

北上「やっぱり、あたしがやるしか、ないんだろうねえ……」ジャキ

A提督「北上、重雷装巡洋艦の力、見せてもらおうじゃないか……中途半端な仕事を見せるようなら、わかっているな?」ニヤリ

北上「……」

霞(北上さんに撃たせるの!?)

朝潮(なんてことをさせるんですか……!)

明石(……北上さん……!)

北上「……片舷20門、全40門。うち四半分の10門を開放」

A提督「よし。さあ……撃て!」

北上「っ……あんたが……言うんじゃないよ」ギリッ

149: 2016/12/12(月) 22:30:40.88 ID:Z+baB/zFo
 バシュバシュバシュッ

 シュパーーーッ

明石(……せめて、彼女たちに当たらないように……!)グイッ

朝潮(明石さん!?)

霞(私たちをかばって!?)

 ドォオーーーン

明石(ぐっ……!? 思ったより、ダメージが少ない?)

明石(もしかして!?)

北上「……更に10門を開放。発射……!」バシュバシュバシュッ

 シュパーーーッ

明石(ああ、あの魚雷は……!)

北上「……あたしに、やれっていうのなら……やってやろうじゃないの……!」

北上(失敗作の魚雷で撃って、沈めたように見せかける……)

北上(致命傷にならないように、魚雷が明石たちの前で接触、炸裂するように角度を調整して……)

北上(うまくいくかはわからない。でも、こうやって、3人が生き残るのを祈るしかないよね……!)

 ドーーンドーーン

 ドーーンドーーンドーーン

150: 2016/12/12(月) 22:31:44.06 ID:Z+baB/zFo
特警1「おお……」

特警2「凄まじい威力……!」

A提督「これが、重雷装巡洋艦か……!」

北上「……霰、満潮。魚雷、補充して」

霰「……」コクン

満潮「ええ……」ガシャッ

北上(こっちだって証拠は残さない。丁型魚雷はここで全部処分して……)

北上(明石たちが生き残っているなんて、絶対に思わせない!)

霰「……北上さん」

満潮「いい、わよ……!」

北上「……」ジャキ

A提督「な、なんだ? まだ撃つのか!?」

 バシュバシュバシューッ

 ドーーン

 ドーーンドーーン

 ドーーンドーーンドーーン

151: 2016/12/12(月) 22:34:05.06 ID:Z+baB/zFo
特警3「魚雷だというのに、とんでもない、爆音ですな……」

特警4「なんと、容赦ない……」

A提督「……き、北上! もういい! もう、十分だ!」

北上「あ?」ハイライトオフ

A提督「……お、終わりだ! もういいぞ北上!!」

北上「あー、そう。終わりでいいんだね?」ニコ

A提督「あ、ああ。よくやった。よく処断してくれた。あそこまで容赦ないとは思わなかったが……」

北上「そーぉー? ……この北上様は、誰にだって容赦しないよ」


北上「もちろん、てぇとくー? あんたに対しても、ねぇ?」ニヤァ


A提督「……っ!」ゾッ

A提督「はは、じょ、冗談がきついな。ご苦労だった、ゆっくりと休め」

士官「……A提督、近くに他の鎮守府の艦娘の反応が」ヒソッ

A提督「……わかった、引き上げるぞ」

A提督「よし、では速やかに帰投せよ! 急げ!」

152: 2016/12/12(月) 22:38:26.95 ID:Z+baB/zFo
 * A提督鎮守府 トイレ *

北上「はぁぁ……」

北上「……うぶっ……うえ、げぇぇぇ……」

北上「おぐぅえぇぇ……げほっ、げほ……」

 ジャーッ

北上「……あ゛ー、気分わる……はぁ……」

北上「!」

霰「北上さん……」

満潮「……ねぇ……大丈夫なの?」

北上「んん? あー……どっか行きなよ。駆逐艦なんかに心配されるよーな、北上様じゃないよ」シッシッ

霰「……」

満潮「……」

北上「ほらー、うざいからさっさと……」

霰「嫌」

北上「……」

満潮「残念だけどね、私たちは北上さんを手伝ったのよ……他人とは言わせないわ」

霰「だから、一緒にいる……一緒にいたい」

153: 2016/12/12(月) 22:40:15.26 ID:Z+baB/zFo
北上「……」

霰「……北上さん」

北上「……駄目だから。どっか行きなよ」

満潮「なんでよ!」

北上「だって……」



北上「今、ゲロ臭いし」

霰「」

満潮「」

北上「……ぷ。なにさ、その顔」

満潮「ちょ……心配したのよ!?」

霰「……」ムス

北上「ひひっ……あー、はいはい。ついてきたいんなら、まー……適当に、ついてきなよ」

満潮「適当にって……ああもう、わかってるわよ! ついて行くわ!」

霰「……」コクン



北上「……ありがとね。あんたたち」ヒソッ

157: 2016/12/21(水) 00:06:34.99 ID:nYXOpF3No
 * 少し時間をさかのぼって 墓場島付近の外洋 *

 ザザーン

敷波(小破)「……あー、いい天気」

敷波「こういう穏やかな海は久しぶりかなー」

敷波「……」

敷波「はぁ……」

 * 回想 B提督鎮守府 *

敷波「だから言ったじゃんかさー、電だって心配してたでしょ?」

B提督「うるさい! 電がいなくても作戦は遂行できる!」

敷波「目先の戦果に釣られて電を失ってから、ずーっと海域突破できてないじゃん。ショックなんでしょ?」

B提督「……そんなことはない!」

敷波「そう言ってもさ、今回の作戦が成功したら中将の配下に入れるチャンスだっていうのに、被害しか増えてないよ?」

敷波「評価が下がるのは仕方ないにしてもさ、焦らないでいったん引いたほうがいいと思うんだけどなー。士気にも関わるよ?」

B提督「だ、黙れ敷波! いくら付き合いが長いとはいえ俺は上官だぞ! 言って良いことと悪いことがある!」

敷波「えー、なにそれ! 今の話のどこが悪いって言うのよー! 初期艦だった電まで犠牲にした司令官は悪くないっていうの!?」

B提督「……うるせえ! ああ、そうかよ! 電がいなきゃ駄目だって言ってんだなお前は!」

B提督「だったらお前が電を探して連れてこい! 探し当ててくるまで戻ってくるな!!」

 * 回想終わり *

158: 2016/12/21(水) 00:07:33.89 ID:nYXOpF3No
敷波「……はぁ」

敷波「馬鹿だよねー、あたしも。頭に来てたのは本当だから、しょうがないけどさー」

敷波「燃料も弾薬もほぼ空っぽ、そして艦影もなし、孤立無援っと」

敷波「あーやだやだ、3日も独りきりだと独り言が多くなっちゃってさー」

敷波「……」

敷波「どっか停泊できる島とかあればいいんだけど……んー?」

 ドーン

敷波「? なに? 今の爆発音」

 ドーンドーンドーン

敷波「……な、なんかたくさん聞こえるんだけど」

 ドーンドーンドーンドーンドーン

敷波「やっばいじゃん……すごい激しい戦闘してる? 大艦隊が来てるのかな」

敷波「……」

敷波「……で、でも、あたしが行ったって、役に立てないだろうし……」

敷波「……」

敷波「気になる……ち、ちょっとだけ、見に行こうかな……」

159: 2016/12/21(水) 00:08:43.14 ID:nYXOpF3No
 * * *

敷波「確か、もう少し行ったあたり、かな……!?」

魚雷 <シャァァァァ

敷波「うえっ!? もしかして流れ弾!? やっば、回避できな……!」

 ドォォォォンン!

敷波「くうっ!? う、げほげほっ! す、すごい煙! ……って、あれ?」

敷波「直撃したのに殆ど被害なし? ……ど、どういうこと?」

魚雷 <シャァァァァ

敷波「うわ、また来た! 回避回避っ! っていうか多すぎだよ!」ザザッ

敷波「……向こうの音がやんだ……終わったのかな?」

 ザァァッ

 * * *

160: 2016/12/21(水) 00:10:23.60 ID:nYXOpF3No
敷波「確か、この辺だよね……」キョロキョロ

 ザバッ ガシッ!

敷波「うわあ!? だ、誰!? 潜水艦!?」ビクーッ!

敷波「ち、違うや、艦娘の手だ!」ガシッ

敷波「ああもう、今引き上げるから……って、重っ!?」グイーッ

敷波「!? やばっ、なんか流されてる! 早く引き揚げないと!」

敷波「こ、このぉ……っ!!」

 ザバーッ

霞(大破)「……!」ゼェッゼェッ

敷波「や、やっと、引き揚げられた……!」

霞「ま、だ……よ……! もう、二人いるわ……!」ゲホッ

敷波「……ええ?」

霞「このロープを引っ張って……手伝って!」

敷波「……ああもう、なんなんだよお!」グイーッ

 * * *

161: 2016/12/21(水) 00:14:39.87 ID:nYXOpF3No
 * * *

朝潮(大破)「ありがとう、ござい、ます……明石さん、しっかり……!」ボロッ

明石(大破)「は、はい……」ボロッ

敷波「ちょっとー、3人がかりであたしに寄りかからないでよ! 重いってば! あたし駆逐艦なんだから!」ヨロヨロ

霞「し、仕方ない、でしょ……あんたしか、まともに航行できないんだから……」

敷波「うーん、それなんだけどね。あたし、もう燃料ないんだー」

霞明石朝潮「「「え」」」

敷波「だからもう、潮の流れに任せて漂うしかないんだよね」

霞明石朝潮「」

敷波「絶句されても困るんだよね。あたしももう3日間ずっと補給なしだし」

敷波「それにあたし、家出したようなもんだから戻る鎮守府もないしさー」

敷波「そういうわけなんだけど、あたし一人で寂しかったからさ、気長におしゃべりしよーよ! ね?」

霞「」シロメ

明石「」キゼツ

朝潮「」シッシン

敷波「ちょっとおー!? 一人くらい目を覚ましてよーー!!」

敷波「もー……どんどん流されてるし……ん? あれ、島かな? 良かったあ、これで休める……」

162: 2016/12/21(水) 00:18:15.73 ID:nYXOpF3No
 * その日の夕方、墓場島北西の砂浜 *

敷波「」スヤァ…

霞「」Zzz...

朝潮「」ムニャムニャ…

明石「……う、うう、ん……ここは……?」

提督「おい、風邪ひくぞ」

明石「うひゃああ!?」ガバーッ

提督「随分とぐっすり寝てやがるな。何しに来た」

明石「えっ、何をしに、って、その……」

提督「……」

明石「……えーと、ここ、どこでしょう? 私たち、流れ着いたんだと思うんですが……」

提督「なんだそりゃ……とりあえず、自殺志願者じゃあねえんだな?」

明石「は、はい! 氏ぬ気はないです! ……で、ここ、どこなんでしょう?」

提督「どっかの誰かが『墓場島鎮守府』とか呼んでる場所だ」

明石「墓場!?」

 * * *

 * *

 *

163: 2016/12/21(水) 00:20:16.15 ID:nYXOpF3No
・艦隊に、敷波、明石、朝潮、霞が加わりました。


 * 数か月後、入渠ドック内 *

明石「なんてことがありましたねえ。よくもまあ、無事にこの島に流れ着いたなあって思いますよ」

長門(中破)「……もしかして、そんな艦娘ばかりなのか?」

明石「ええ。この前も、初春ちゃんと暁ちゃんが漂着してきまして……」

長門「そして、今回は私と潮が流れ着いた、と」

明石「長門さんと潮ちゃんはレアケースですね。轟沈しないでこの島に辿り着いたのは、今までだと敷波ちゃんしかいませんでしたから」

長門「……酷い話だ。提督もよくこんな島で提督を続けていられるな」

明石「海軍将校のくせに人間嫌いだって話ですから。こんな島だからこそ働けているのかもしれませんよ」クス

長門「信用できるんだろうな、その男は?」

長門「人間が嫌いなら、同じように個性を持つ艦娘にも良い感情は抱いていないだろう」

明石「ところがそうでもないんですよねえ……」

明石「多分ですけどね」ヒソッ

明石「提督も、人間にはいい思いをしてないみたいなんです。だから、私たちみたいに人間にひどい目にあわされた艦娘には、同情的らしいです」

長門「……屈折しているな」ヒソッ

明石「かもしれませんね」


・艦隊に、暁、初春、長門、潮が加わりました。

167: 2016/12/25(日) 14:41:58.92 ID:f37r/y/Ro
 * 本営そばの居酒屋 *

Y「うちの鎮守府についに金剛が来たぜ!」

V提督「マジか、やったな!」

U「お、ついに俺たち同期の中で初の高速戦艦か!」

Y「苦労したぜえ~! これで深海との戦いが楽になったってもんよ!」

W「戦艦はいいぞ! うちの伊勢も大活躍だぜ!」

X「みんないいなあ、うちは重巡すら来てないよ」

U「Xはのんびり屋だからな、まあ焦ることはねえよ」

W「よぉし、俺たちの戦力強化を祈念して、乾杯だー!」

「「おおー!」」

 * * *

 * *

 *

168: 2016/12/25(日) 14:44:45.81 ID:f37r/y/Ro
*それから1か月後*

U「どうよ、お前さんとこの戦艦、うまくやれてるか?」

Y「金剛型が揃ったのはいいんだがよ……比叡には困ったもんだ」

U「ああ、比叡か……やっぱり飯つくりたがるのか?」

Y「そうなんだよ! この前食堂が立ち入り禁止になって、何かと思ったら比叡カレーの異臭騒ぎでよ!」

U「うちもだよ! うちにあった食材全部使ってだめにしやがったんだ! 厳重注意したけど、まいったぜあれは……」

V提督「そ、そんなにひどいのか?」

Y「お前んとこは榛名だけだったか? 比叡が来たら気をつけろよー」

U「そうそう、飯のありがたみがすげーわかるぜ」

X「そんなにひどいの?」

W「個体差があるみたいだぞ。俺の先輩のとこにはカレーだけが致命的にまずい比叡もいるみたいだし」

X「ふーん」

W「で、お前んとこはまだ戦艦こねえの? うちには日向と扶桑が来たけど」

X「来ないなあ。この前大型建造やったらしおいちゃんだったし……」

U「」

Y「」

V提督「」

W「」

X「えっ、なにその顔、みんなどうしたの」

169: 2016/12/25(日) 14:46:04.72 ID:f37r/y/Ro
 * 数日後、V提督鎮守府 *

V提督(そしてついに……うちの鎮守府にも、比叡が来た)

比叡「比叡です! よろしくお願いします!」

V提督「ああ、よろしく頼む。金剛型はお前のほかには榛名がいる、仲良くやってくれ」

比叡「はいっ! ありがとうございます! 不在の金剛お姉様の分まで頑張りますね!!」グッ

V提督(……なんだ、いい奴じゃないか)

V提督(だが、料理の腕前は殺人級……絶対に厨房には立たせないようにしないとな)


 * 数日後、厨房 *

比叡「ふんふんふ~ん♪」グツグツグツ

榛名「比叡お姉様!? いったい何を!?」

比叡「あ、榛名! 司令に召し上がっていただくお料理を開発してたの! ちょっと見てくれる?」


異臭を放つ鍋「」ムラサキイロー


榛名「……」ムラサキイロー

170: 2016/12/25(日) 14:46:49.35 ID:f37r/y/Ro
比叡「どうしたの?」

榛名「いえ、これは一体?」

比叡「紫色のジャガイモを使ったカレーなんだけど……」

榛名「ジャガイモ、とけてどこにも見当たらないんですが……」

比叡「とけたほうがおいしいって言うし、どうかな?」

榛名「あの、比叡お姉様? 味見はしました?」

比叡「してない」

榛名「それではだめです!」クワッ

比叡「ヒエッ!?」

榛名「作ったお料理の味は自分の舌で確かめないといけません!」

比叡「そ、そう? おいしいと思うんだけど……」

比叡「」パクッ

比叡「……」

榛名「……」

比叡「……」ムラサキイロー

榛名「!?」

比叡「」バターン

榛名「比叡お姉様ーー!?」


171: 2016/12/25(日) 14:50:11.13 ID:f37r/y/Ro
 * 比叡と榛名の部屋 *

比叡「ひえええ!?」ガバッ

榛名「きゃあ!? ひ、比叡お姉様! 大丈夫ですか?」

比叡「こ、ここは?」

榛名「私たちの部屋です。比叡お姉様は、自分の作ったカレーを食べて気を失ったんですよ」

比叡「……ヒエー」

榛名「比叡お姉様があの料理に使った調味料を見ましたが、めちゃくちゃです。あんな組み合わせでは味覚がおかしくなってしまいます」

比叡「おいしいと思ったものをいろいろ入れてみたんだけど……」

榛名「あれでは駆逐艦に41センチ連装砲を持たせるようなものですよ。バランスが悪すぎて転覆してしまいます」

比叡「バランス……」

榛名「はい。潜水艦には対潜装備、空の相手には対空砲……戦う相手によっても装備を変えますよね」

榛名「お料理も似てると思うんです。からいものでも甘いものでも、余計なものをいれないで、狙いを定めて作るものだと」

比叡「……」

榛名「そして、榛名は、味見が一番大事だと思います。食べてくれる人がおいしいって言ってくれるかどうかは、そこで決まると思うんです」

榛名「斜角や射撃制度を調整するための、演習や試射。料理で言うなら、味の微調整をするためにするのが、味見」

榛名「どちらも同じくらい大事だと、榛名はそう思います」

比叡「榛名……!」

172: 2016/12/25(日) 14:51:25.59 ID:f37r/y/Ro
 * その後の厨房 *

比叡「んむむむむ……榛名、これ、どう思う?」

榛名「甘さがありませんね……」

比叡「でも、ここにお砂糖入れると、変に甘くなっちゃって。どうしたらいいと思う?」

榛名「……では、みりんを加えてみてはどうでしょうか?」

比叡「みりん……って、何?」

榛名「Oh...」

 * *

榛名「どうしたんですか、その手!」

比叡「大根のかつらむきがうまくいかなくて……」

榛名「……この包丁、刃が波打ってます。どうしてこんな包丁を使ってたんですか」

比叡「でもほら、弘法は筆を選ばずって」

榛名「比叡お姉様はまだ弘法大師様ではありません」

比叡「はい……」

 * *

比叡「どうやったらカレーがもっとおいしくなるかなあ……」

榛名「比叡お姉様、どうして焼肉のたれを見ながらカレーの話題になるんですか」

比叡「焼肉のたれを隠し味にカレーに入れるって聞いたから、どうなのかなーって。しょっぱくならない?」

榛名「そうですね……成分表を見てみるといいと思います」

比叡「……果物も入ってるんだ。りんごとか試してみようかな?」

173: 2016/12/25(日) 14:52:30.93 ID:f37r/y/Ro
 * そして *

榛名「比叡お姉様……」

比叡「……」ドキドキ

榛名「美味しいと思います。このカレーでしたら、どこへ出しても恥ずかしくありません」ニコ

比叡「ほ、本当!?」

比叡「良かった、本当に良かったぁ……!」

 * *

V提督(……ついに、比叡の作ったカレーが、ここにきた)

榛名「提督、どうぞお召し上がりください。榛名は整備がありますから、30分後にまた来ますね」

V提督「あ、ああ……」

V提督(いい匂いがする……しかし作ったのはあの比叡)

V提督(同期の連中が言うには、胃薬じゃなく病院を用意しておけとまで言われたあの比叡カレー)

V提督(しかし……)

カレー「」ホカホカー

V提督(うまそうなんだよな……ええい、一口。まずは一口だ!)パクッ

V提督「……」モグモグ

V提督「……」モグモグ

V提督「……」ゴクン

V提督「……うめえ」キラキラキラッ

V提督「どういうことだ!? あいつら、嘘言いやがったのか!?」ガツガツ

V提督「……スプーンが止まらねえ」ガツガツ

174: 2016/12/25(日) 14:54:05.75 ID:f37r/y/Ro
カレー皿「」カラッ

V提督「……うまかった……」クチモトフキフキ

V提督「ほ、本当に比叡が作ったのか……?」

榛名「失礼します。……あ、提督! いかがでしたか? 比叡お姉様のカレー!」

V提督「あ、ああ……うん。ま、まあまあ、だな」

榛名「え……ま、まあまあ、ですか……?」

V提督「……ああ……さ、下がっていいぞ」

榛名「は、はい。お下げします……」


 * 数日後 本営そばの居酒屋 *

U「ああ!? 比叡の作ったカレーを食ったぁ!?」ヒック

Y「あれをか!? 全部食ったのか!?」ヒック

V提督「……そんなに引くことか?」

U「お前ん家、そんなに貧乏だったっけか?」

Y「だよなあ。天地がひっくり返っても比叡のカレーをうまいだなんて言う奴はいないと思ってんだけど……」

U「お前、相当な味覚音痴だったんだな……」

Y「あれ食えるとか人間じゃねえぞ? 一度病院行ってみてもらったほうがいいんじゃねえの?」

V提督「……」

X「……そこまで言う?」

W「とはいえ、俺のところにはまだ金剛型が来てないからな。無責任なことは言えん……お前のところもまだか?」

X「……うん。いまだに戦艦が来ないんだよねー。Wのところには山城が来たんでしょ?」

W「ああ。……お前んとこの主力は?」

X「まだ軽空母の祥鳳さんと……まだまだ軽巡が主力だね。あとは潜水艦かなあ……あ、最近ドイツから駆逐艦が来たんだ」

W「は?」

179: 2017/01/02(月) 11:37:40.44 ID:esEfrkd4o

 * それからまた数日後、V提督鎮守府 *

比叡「……どうしたらいいんだろう」ブツブツ

榛名「……」

榛名(いまだに提督から「おいしい」の一言をいただけてません……)

榛名(ほかの艦娘たちも口を揃えて「おいしい」と言ってくれるのに……)

榛名(提督だけは、いまだに言いよどんで……)

比叡「もっと薄味か好みなのかな? ……あんまり濃すぎるのも……」ブツブツ

榛名(比叡お姉様はこんなに苦しんでいるのに……提督は、いったい何を躊躇してらっしゃるんでしょうか)

180: 2017/01/02(月) 11:39:03.73 ID:esEfrkd4o

 * 更に数日後、本営そばの居酒屋 *

U「絶対おかしいだろ! 比叡の飯がうまいとかよぉ!」ヒック

Y「お前と一緒に酒を飲むのもこれっきりかなあ!」ヒック

V提督「……うるっせえな」ヒック

U「いやいや、V提督の鎮守府の連中全員味覚がおかしいんだろ」

Y「そーだよなー、比叡が飯作ってるってことは、他の艦娘も比叡の飯食ってるってことだもんなー」

U「勘弁して欲しいぜー!」

Y「ぎゃはははは!」

V提督「……だったら、お前ら俺の鎮守府に来てみろよ」

V提督「食ってから文句を言えよ!」ダンッ

Y「あー、中毒性あるんだろ? 行きたくねえなあ!」

U「まったくだ! うちの厨房だけでお腹いっぱい吐き気いっぱいだよなぁ!」

W「ったく、毎度毎度……付き合わされるのが馬鹿馬鹿しくなってきたな」

X「僕もこの飲み会に来るのやめようかな。やっと戦艦が来てくれたし、彼女に馴染んでもらわないといけないから……」

W「もしや、ビスマルクか」

X「うん。よくわかったね」

W「ここ最近の話を聞けばな。さて、俺も今後はお暇させてもらうか。帰って鈴谷と新しい瑞雲を開発しないと」

X「……」

181: 2017/01/02(月) 11:40:33.09 ID:esEfrkd4o
 * 更に数日後、V提督鎮守府 *

V提督「そういうわけで、客人を4人招くことになった。比叡に料理の準備をさせてくれ」

榛名「わかりました」



比叡「お客様ですか?」

榛名「はい、提督のご友人だそうです」

比叡「……なるほど、これは御召艦として気合いを入れて腕を振るわないといけないですね!」

榛名(……これも、比叡お姉様の晴れの舞台……なのに)

榛名(この胸騒ぎは一体……!)

 * *

榛名「提督、ご友人の皆様がお見えになりました!」

W「失礼する。お招きいただき感謝する」

U「むしろ感謝して欲しいけどな?」

Y「よお、V提督、来てやったぜ!」

X「お邪魔します」

Y「で、わざわざ俺たちを招待してまで、お前の艦娘の手料理食わせたいってか」

U「勘弁して欲しいぜ……」ゲンナリ

W「……」

X「……はぁ」

182: 2017/01/02(月) 11:41:45.67 ID:esEfrkd4o

V提督「お前ら、比叡の作った飯がまずいって言ってたよな。まあ、いいから食ってみろよ」ニコー

榛名「お待たせいたしました」ガチャ

U「!?」

Y「!?」

W「!」

X「!」

V提督「……」ニヤニヤ

Y(なんだ、この食欲をそそるいい匂いは……!)

U(ウソだろ……これが比叡の料理だって?)

W(参ったな。匂いだけでよだれが出てきたぞ)

X(いい匂い……なんていうか、品のいい匂い!)

V提督「俺の鎮守府の比叡が作ったカレーだ。なあ、比叡?」

比叡「はいっ!」ムネハリー

榛名(比叡お姉様、報われて良かった……)ニコ

V提督「……食べないのか?」

Y「い、いや、そんなことは……」

U「……と、とりあえず、食べるか?」

W「ああ……いただきます」パク

X「いただきます!」パク

183: 2017/01/02(月) 11:43:11.34 ID:esEfrkd4o

U「……WとXが食った……」

Y「……お、おい、どうなんだ?」

W「これは……!」キラキラキラッ

X「んんん!!」ペカーッ

W「こんなに美味しいカレーは初めてだ……!」モグモグ

X「うん! うんっ!!」パクパク

比叡「やりました!」フンス

榛名「良かった……!」

U「……まじかよ」

Y「……お、俺たちも……」オソルオソル

V提督「ん? 俺の味覚がおかしいとか、そういう話じゃなかったのか?」

U「い、いや……」

Y「……そうじゃなくてだな、俺たちも実情を知らなかったし、なあ」

V提督「食べるのか」ニヤリ

U「あ、ああ……」

Y「……そ、そう、だが……」

V提督「これをか?」

V提督「お前らが言う『こんなもの』を、か?」グッ

184: 2017/01/02(月) 11:44:46.31 ID:esEfrkd4o

 ポイ

 ガチャン

X「!?」ビクッ

U(自分のカレーを……)

Y(皿ごと投げ捨てた!?)

W「な!?」アゼン

 シーン

U「……」

Y「……」

X「……」

W「……」

V提督「お前らが散々まずいと言ってきたんだぞ? それを捨てて見せただけだ。なんでそんなに驚いてる?」

V提督「お前らは自分の鎮守府で、同じことをしてきたんだろ!? 同じことをしてやったんだ!」

V提督「これがお前らが貶めてきた『こんなもの』だ! お前らはこんなもの食えないんだろう!? どうなんだ!?」

V提督「食えよ。食って見せろよ! おまえらにとってはこんなもんなんだろう!? ああ!?」

U「……い、いや、それは……」

Y「……それとこれとは、話が……」

185: 2017/01/02(月) 11:45:55.51 ID:esEfrkd4o

W「V提督……お前、何をしてるんだ!!」ガタッ

V提督「あ?」ジロリ

W「あ? じゃない。お前は……どうかしている」

V提督「……」チッ

W「……会食の空気ではないな。悪いが帰らせてもらう」

榛名「は、はい……」ボウゼン

比叡「」コウチョク

W「……大変、申し訳ない。私はこれで失礼する……!」ペコリ

U「お、おい! W!! 待てよ!」ガタガタッ

Y「……邪魔して、悪かった」ガタッ

X「ご、ごちそう、さまでした……!」ペコリッ

V提督「……」

V提督「……」

V提督「……ちっくしょうが!!」ガンッ


186: 2017/01/02(月) 11:52:05.60 ID:esEfrkd4o

 * 一週間後 V提督鎮守府 *

V提督「なんだこの飯は!」ガシャアン

「うう、ここ最近V提督が荒れてて怖いよ……」

「比叡さんも全然厨房に立たなくなっちゃったし……」

「比叡さん、このところ食事も食べてすらいないでしょ? 今回の作戦、不安だよ」

榛名(大破)「……」ユラッ

「は、榛名さん!? いつ戻ってきたんですか!?」

「どうしたんですかその怪我っ!!」

「早く入渠ドックに……!」

榛名「……その前に、提督にご報告しないと」ニコ

 スタスタスタ…

「……榛名さん、すっごく怖かった……」

「ね、ねえ、比叡さんは?」

「そういえば……」

187: 2017/01/02(月) 11:53:21.42 ID:esEfrkd4o

 * 執務室 *

榛名「ただいま、戻りました」

V提督「榛名か。その顔……作戦は失敗か」

榛名「はい」

榛名「旗艦、戦艦榛名が大破。随伴艦の重巡2隻と軽巡2隻は全員中破……」

榛名「そして、戦艦比叡が、轟沈しました」

V提督「……なに?」

榛名「復唱いたします」

榛名「旗艦榛名、大破。重巡2隻、軽巡2隻は全員中破。戦艦比叡、轟沈」

V提督「……なぜだ」

榛名「……」

V提督「答えろ榛名!! なぜだと訊いている!」

榛名「比叡お姉様は大破した後、艦隊を離脱するように戦闘海域へ進路を取り……そのまま交戦に入りました」

V提督「……!」

榛名「帰還しようとした私たちの制止も聞かず……ふらふらと海へ……」

188: 2017/01/02(月) 11:54:46.02 ID:esEfrkd4o

V提督「……」

榛名「提督。重巡と軽巡の4名をドックに入渠させてください。榛名には必要ありません」

榛名「榛名は……もう大丈夫ではありません」ツー

榛名「これを、受理していただくようお願いいたします」スッ

 『解体願』

榛名「……お世話になりました。失礼いたします」フカブカ

扉 <パタン

V提督「……」

V提督「……は」

V提督「は、ははは……!」

V提督「……」

 ガンッ ズダンッ ガァンッ





 ドンッ

193: 2017/01/04(水) 14:55:49.35 ID:RSY6NODpo

 * 二日後 墓場島鎮守府、入渠ドック内 医務室 *

(包帯をぐるぐる巻きにされた比叡がベッドの上で目を覚ます)

比叡「……」

比叡「……?」キョロ

暁「!」

暁「し、司令官!! しれーかーーん!!」

暁「比叡さん、目を覚ましたわ!! しれーーーかーーーーん!!」

 タタタタッ

比叡「……」

比叡「……」キョロ

 タタタタッ

暁「ほら! ちゃんと起きてるわ!」

提督「ん、ああ、目ぇ覚ましたのか。骨ガラになってたから、もう目を覚まさないと思ったんだが」

暁「司令官!? ひどいこと言わないでよ!」

194: 2017/01/04(水) 14:57:44.61 ID:RSY6NODpo

比叡「……?」ムク

比叡「!」ズキッ

提督「ああ、無理すんな。それよりお前、頭は大丈夫か?」

暁「司令官!? そんなでりかしーの無い言い方しちゃだめよ!」

提督「……」

比叡「……」ボンヤリ

暁「……ちょ、ちょっと司令官! 無視しないでよ!」

提督「落ち着け暁。比叡……だったか、まだ受け答えできねえか」

暁「きっとお腹がすいてるのよ! ほほもこけてて、腕だってこんなに細いし!」

提督「そうか。んじゃあ飯は比叡は暁に任せる。頼んだぜ」

暁「え!? わ、わかったわ! 暁に任せなさい!」

 * *

暁「とは言ったものの、お料理は自信ないわ……」

電「料理の上手な人にお願いして作ってもらうと良いのです」

暁「だ、だめよ! 暁が任されたんだから、暁が頑張らなきゃ!」

電「それなら、上手な人に先生になってもらうのです」

暁「……そ、そうね! 先生になってくれる人……っていうと……」

195: 2017/01/04(水) 14:59:40.34 ID:RSY6NODpo

 *

長門「それで、私に教えを乞いたいと」

電「はいなのです。長門さんならお願いできると思って……」

暁「お願いします!」ペコリ

長門「……比叡の容体を明石にも診てもらったが、芳しくない。私も彼女の顔を見てきたが、彼女は生きる希望を失っている。あのまま沈めてやっても……」

暁「だ、駄目よ! 本人はまだそんなこと言ってないもの!」

長門「……暁。厳しいことを言うが、お前はあの比叡を背負って生きていけるか?」

暁「え?」

長門「私が知る比叡は、明るく、力強い、ちょっとやそっとじゃへこたれない、活力の溢れる艦娘だ」

長門「その比叡があのように自失茫然として無反応になったのだ。彼女が何を経験してきたのか、もはや想像できるレベルではないと考えている」

電「そんな……」

暁「……」

長門「彼女を救おうとしても、どうなるかわからんぞ? 下手をすれば暴れだすかもしれん。それでも助けようと言うのか?」

暁「……助けるわ。暁はレディーだもの。後悔したくないし、全力を尽くすわ!」

長門「そうか。フフ、レディーか……悪くない」

長門「暁。比叡はここ数日何も食べていない。凝った料理は作らず、おかゆを作ってやるべきだろう」

暁「そ、それでいいの!?」

長門「ああ。何も食べていないところに濃い味のものを食べるとお腹がびっくりするからな。水分も多めにした方がいい、さ、手伝おう」

暁「あ、ありがとう長門さん!!」

196: 2017/01/04(水) 15:01:09.43 ID:RSY6NODpo

 * 厨房 *

暁「長門さん、このくらいでどうかしら」

長門「……ああ、いいと思うぞ。汁気も柔らかさも、塩加減もちょうどいい」

暁「ありがとう! 比叡さんのところに持っていくわね!」

長門(暁、大変なのはこれからだぞ……!)

 *

比叡「……」ボンヤリ

暁「比叡さん! おかゆ作ってきたわ! さあ、食べて!」カチャン

比叡「……」

暁「ど、どうしたの? ほら、スプーンを持って!」

比叡「……」

暁「……そ、そう! 食べさせてほしいのね!? ちょ、ちょっとベッドの隣に……んしょ、んしょ」

比叡「……」

暁「ふー、ふー……あ、熱くないかしら……ふー、ふー」

比叡「……」

暁「ん……はい! 大丈夫だと思うわ! 比叡さん、あーんして!」

比叡「……」

197: 2017/01/04(水) 15:02:06.67 ID:RSY6NODpo

暁「比叡さん? あーんして! あーん、って!」

比叡「……」

暁「比叡さん……?」

比叡「……」

暁「ど、どうしたの? おかゆが、おいしくなさそうなの?」

比叡「……」

暁「だ、駄目よ! 濃い味付けにしたらお腹がびっくりしちゃうんだから! ほら、あーんして! あーん!!」

比叡「……」

暁「……比叡さん、食べないと駄目だってば……! 氏んじゃうよ……?」

比叡「……」

暁「比叡さん……!」ユサユサ

比叡「……」

 *

暁「……」モグモグ

長門「電、暁はどうだった」

電「駄目だったのです……おかゆが冷たくなるまで声をかけてたんですけど、比叡さんは全然反応してくれなくて……」

電「暁ちゃんが食べてるのは、その冷たくなったおかゆなのです……」

長門「おそらく、比叡はずっとあのままだ。暁には、私から諦めるように言うよ」

電「長門さん……」

198: 2017/01/04(水) 15:06:12.65 ID:RSY6NODpo

 * 翌朝 *

暁「比叡さん! 新しいおかゆを持ってきたわ! ほら! おいしいわよ!」パク モグモグ

暁「だから、はい! あーんして! 口をあけて!」


長門「電、すまない。暁は躍起になっているようだ……」

電「暁ちゃん……」


 * その翌日 *

暁「比叡さん! 今度は少し塩味にしてみたの! はい、あーん! 比叡さん!」

長門「……」

電「……」

朝潮「まだ続いてましたか」

霞「遠征にもいかないで、いいご身分ね」

朧「そういう言い方、ないと思います」

霞「なによ」ムス

朧「なんですか」ムス

霞「……別に、そういう気で言ったつもりはないわ」

朝潮「大丈夫です。わかってます」

199: 2017/01/04(水) 15:07:06.26 ID:RSY6NODpo

 * そのまた翌日 *

暁「比叡さん! 今度のはおいしくできたわ! 比叡さん! 口をあけて!」

長門「……」

電「……」

神通「……」

潮「じ、神通さん、遠征、行きましょう?」

敷波「うう、見てるこっちがつらいよ……」


 * 更にその翌日 *

暁「比叡さん。これ以上食べないと体が駄目になっちゃうわ。ほら、口をあけて」

長門「……ああもう見ておれん! こうなれば無理やりにでも比叡に……!」

電「長門さん落ち着くのです!」ガシ

吹雪「ここまで来ると、暁ちゃんに頑張って欲しいけど……」

由良「難しそうね……」

如月「どうやったら比叡さん食べてくれるのかしら……」

 * 一方の執務室 *

不知火「不知火、初春、ただいま帰投しました」

提督「おう、首尾は」

初春「これが報告書じゃ。まあ、酷な話じゃぞ」

提督「……」ペラリ

202: 2017/01/07(土) 19:51:00.05 ID:BAUgHsnso

 * その日の夕方、厨房 *

長門「暁、もう比叡は……」

暁「……」

電「暁ちゃん……」

暁「ごめんなさい、長門さん、電」

暁「もう少しだけ、頑張らせて」ニコ

長門「暁……!」

提督「よう、邪魔すんぞ」

電「司令官さん……えええ!? ど、どうしたのです!?」

比叡「……」カカエラレ

長門「提督!? 比叡をなぜここに連れてきた!?」

提督「暁がおかゆ作ってるとこを見せたくてな。暁、そういうわけだ、気合い入れて作れよ」

暁「……わ、わかったわ!!」

提督「ほれ比叡、座ってろ」

比叡「……」ストン

203: 2017/01/07(土) 19:52:02.38 ID:BAUgHsnso

長門「提督! どうしてこんな状態の比叡を厨房なんかに連れてくるんだ……!」ヒソヒソ

提督「いいから比叡に暁の姿を見せてやれ」

長門「は……?」

提督「見せてやれっつったんだ。じゃ、あとは任せる」

長門「お、おい!? どこへ行く提督!? な、何を考えているんだあの男は!!」

暁「……」ジャーッ

比叡「……」

電「比叡さん……暁ちゃんをじっと見てるのです」

長門「なに!?」

暁「……」コトコトコト

比叡「……」

長門「比叡が、暁の所作を目で追っている……?」

暁「……」パッパッ

比叡「……」


比叡(……つくってる)

比叡(……あのときの、わたしも……)

204: 2017/01/07(土) 19:53:19.85 ID:BAUgHsnso

暁「塩加減は……」ペロ

比叡「……」


比叡(……あのひとは、おいしいといってくれなかった)

比叡(……なんでだろう)


比叡「……」ツゥー…

電「! 比叡さんが……!」

長門「涙を……!?」

暁「……よし、っと。比叡さん、できたわ! え? な、なに!? どこか痛むの!?」


比叡(……このこは、わたしが、ごはんをたべないことをしんぱいしてくれてる)

比叡(……わたしが、たべないと、わたしとおなじで、きっとかなしむ)

比叡(……それは……きっと、よくない)


比叡「……」フルフル

暁「そ、そう? 痛かったら我慢しちゃだめなんだからね!?」

長門「比叡が……反応を返した……!」

205: 2017/01/07(土) 19:54:28.54 ID:BAUgHsnso

暁「ふー、ふー……比叡さん、はい、あーんして……」

比叡「……」


比叡(……わかる)

比叡(……この子は、ずっとわたしに、ごはんをつくってた)

比叡(……あの悲しみを……この子にも味わわせるのは……ぜったいに、よくない……!)


比叡「あ……」

比叡「……」パク

暁「!」

電「や……」

長門「やった……!」

比叡「……」モグ モグ コクン

暁「……だ、大丈夫!? 熱くなかった!?」


比叡(……ああ)


206: 2017/01/07(土) 19:55:54.39 ID:BAUgHsnso

比叡「……い」

暁「え?」

比叡「……おい、し……い……」ポロポロポロ

暁「……そ、そう! 良かったわ! た、たくさんあるんだから、ちゃんと食べてね!」ウルッ

比叡「……!」コクコク

電「やったのです……暁ちゃん、やってやったのです!!」ダキツキッ

長門「ああ……暁、よくやったぞ……!」グスッ


 * 一週間後 *

長門「た、大変だ!!」ドタドタドタ

提督「なんだ、うるせえな」

長門「ひ、ひ、比叡が料理を作ると言い出したんだ!!」

提督「それが大変なのか?」

長門「大変だとも! 私が前の鎮守府にいた時の比叡の料理は、まるで化学兵器だったんだぞ!?」

提督「ふーん」

長門「ふーん、って、おい!? この鎮守府の氏活問題だぞ!? 提督!!」

提督「ん、昼だな。飯だ飯、食堂に行くぞ」

長門「提督!?」

207: 2017/01/07(土) 19:57:33.74 ID:BAUgHsnso

 * 食堂 *

朧「で、呼ばれてきたんだけど……」

吹雪「とってもいい匂いがします!」

明石「長門さんは防毒マスクが欲しいって言ってきてたけど……」

由良「全然そんな感じの空気じゃないわね、ね」

大淀「むしろ、なんだかわくわくしますね」

初春「提督は長門に教えてなかったのかのう?」

不知火「どうやらそのようですね」

如月「なあに? 何の話?」

神通「また提督の意地悪でもあったんですか?」

不知火「ええ、実は……」


電「お料理ができたのです!」

暁「みんなに配るわよ!」

霞「えっ、ちょっと……すごいんじゃない!?」

朝潮「おいしそうです!」

潮「こ、これを、あの比叡さんが……!?」

208: 2017/01/07(土) 20:00:26.95 ID:BAUgHsnso

長門「……提督、これは一体……」

提督「あの比叡はな、料理が上手なんだ。で、ああなってた原因が『提督に自分の料理をおいしいと言ってもらえなかったから』らしい」

長門「……」

提督「で、暁が作ってるところを見せれば、少し刺激になるんじゃねえか、ってな。ぶっちゃけ博奕だったが、ここまで回復できたみたいでなによりだ」

長門「……提督は本当に人が悪い……」ガックリ

提督「ククク、今頃気付くなよ。ほれ、もたもたしてると食いっぱぐれるぞ」

 *

比叡「……あ、あの、いかがでしょうか、お味の方は」

提督「おう、うまかったぞ。毎日頼みたいくらいだ」ニヤ

比叡「ほ、本当ですか!?」パァァ

提督「とはいえ、残念だが厨房も回り番だ。お前だけに任せるわけにはいかねえ。だから……」

提督「暁! お前、比叡に料理を教えてもらえ」

暁「! ま、まかせなさい! レディーなんだもの、頑張るわ!」フンス

電「あ、暁ちゃんばっかりずるいのです!」

朝潮「司令官! 僭越ながら朝潮もご教授賜りたいと思います!」ビシッ

提督「というわけでな、比叡。今後、厨房はお前に任せる。時間があれば他の連中に料理を教えてやってくれ。頼むぞ?」

比叡「は、はいっ!!」ビシッ

209: 2017/01/07(土) 20:02:58.43 ID:BAUgHsnso

 *

長門「今回は、暁が頑張ってくれたおかげだ。暁のおかげで比叡も幸せそうだし、私たちもおいしいご飯が食べられる……幸せなことだ」

提督「ん」

長門「なあ、提督? 暁はなぜこの鎮守府に来たんだ?」

提督「……」

長門「この鎮守府では建造したことがなく、私たちのように流れ着いたり、大淀のように左遷されたりした艦娘しかいないんだろう?」

長門「教えてくれ。あの暁は、いったい何をしたんだ? 何をされたんだ?」

提督「……」

長門「……」

提督「お前らと同じで、どっかの鎮守府から逃げてきた、って聞いてる。本人はそのことを覚えちゃあいないから、真相はわからんがな」

長門「……!」

提督「初春に聞いてこい。たまたまだが、あいつも暁に助けられた口だ」


210: 2017/01/07(土) 20:04:53.85 ID:BAUgHsnso

 * 一方 *

W(以下W提督)「ったく、あいつめ……自分で手前の腹を撃つとか、何を考えてんだ」

 トントン

扶桑「提督、榛名さんが見えました」

W提督「ん。入れ」

榛名「失礼します……」チャッ

W提督「ああ、楽にしてくれ。金剛型の3番艦、榛名、だな。先日は大変失礼した」

榛名「いえ……」

伊勢「提督、彼女がV提督鎮守府の?」

W提督「ああ。奴からある程度の経緯は聞いてるし、こういうものを預かってきた。これは君のだろう」 っ「解体願」

榛名「それは……」

W提督「我が艦隊にはまだ高速戦艦がいない。君が良ければ、しばらくうちで働いてほしいんだが、頼めないかと思ってね」

W提督「それが嫌なら、君の希望通りにしよう。どうだろうか」

211: 2017/01/07(土) 20:07:29.64 ID:BAUgHsnso

榛名「……少し、お時間をいただけますか」

W提督「わかった。君の答えが出るまで、待つとしよう。それまでの間、形式上はうちに転籍した扱いにさせてもらう」

榛名「はい……失礼します」ペコリ

W提督「扶桑、榛名を部屋に案内してやってくれ」

扶桑「畏まりました」

伊勢「……いいの? 提督ってば航空戦艦好きを公言してたじゃない」

W提督「身も蓋もないが、だからこそ俺は高速戦艦の実力を知らん。彼女がどんな戦い方をするのか見たいというのは個人的な希望だ」

W提督「それに……あそこまで不幸な身の上だ。俺があの時声を荒げたのもあるし、無碍に扱うことはできなくてな……」

伊勢「やれやれ、甘いね提督ったら」

W提督「ともかく、お前が来てから航空火力艦に頼りっきりだったからな。高速戦艦の運用も考えないと……」

W提督「伊勢、榛名に随伴させる重巡と軽巡のリストを作ってくれ。彼女を旗艦とした艦隊の演習メニューも検討しよう」

伊勢「了解です!」


217: 2017/01/18(水) 01:03:12.06 ID:QaDK512Yo

 * 鎮守府 長門の私室 *

長門「初春よ、まずは礼を言う。比叡が流れ着いてきた理由を調べてくれたそうだな」

初春「うむ、あやつに頼まれての。少々時間がかかったが、無事解決できたようでなによりじゃ」

長門「ああ……比叡も酷い目に遭ったものだ。その比叡を看病した暁が何故この島へ来たのか、それを知りたくてな」

初春「なるほどのう。あの男はわらわに丸投げと来たか……」

長門「暁は記憶を失っていると聞いた。一体なにがあったんだ?」

初春「うむ。おそらくは暁がおった鎮守府に原因があると踏んで、不知火と共に話を聞きに行ったんじゃが……そこは既に廃墟になっておった」

長門「廃墟!?」

218: 2017/01/18(水) 01:04:15.80 ID:QaDK512Yo

 * 一年前 I提督鎮守府 建造ドック *

暁「暁よ! あなたが提督ね! 一人前のレディーとして扱ってよね!」ビシッ

暁(決まったわ!)フフン

女性提督(以下I提督)「あら、素敵なレディーね? 私はこの鎮守府の司令官、I提督よ。よろしくね」

暁(!!)

I提督「? あら、どうしたの?」

暁(こ、この人が私の司令官!? 足の運び方といい、指先の仕草といい、とっても優雅で素敵!)

暁(この人……レディーだわ! それも一人前どころじゃない、模範的なレディー!)ピキーン!

暁「……う、ううん、なんでもないわ!」

I提督「それじゃ翔鶴、響を呼んでもらえる? 彼女に部屋に案内してあげて」

翔鶴「承知いたしました」ペコリ

暁(あの翔鶴さんが秘書艦かあ……品の良い振る舞い、司令官にはお似合いの秘書艦だわ……!)

暁(暁も、あんなふうになれたら……)

響「暁」

暁「きゃっ!? ひ、響!?」

響「響だよ。不氏鳥の通り名もある響だよ」

暁「し、知ってるわよ! 私の妹だもの! それより良かった、この鎮守府に響がいて!」

響「そうだね。第六駆逐隊はまだ私しかいないからね。私も暁に会えて嬉しいよ」ニコ

暁「もう、他人行儀ね! 暁はお姉さんなんだから、なんでもまかせておいて!」

219: 2017/01/18(水) 01:07:29.83 ID:QaDK512Yo

 * * *

暁「ひ、へぇ、もう、らめぇ……」ゼェゼェ

響「任せてと言ったのは暁じゃないか」

暁「い、いきなりこんなハードな訓練が待ってるなんて聞いてないわ!」プンスカ

響「そのくらい声を出せるならまだ大丈夫だね。さ、続きだよ」ニコ

暁「ま、待ってぇぇぇ!?」

 * 1週間後 *

暁「」ボロッ

I提督「あら、暁。満身創痍ね?」

暁「ま、まだまだ、暁はやれるんだから……!」

I提督「ねえ翔鶴、暁の練習相手って……」

翔鶴「響ちゃんですね。おそらく妹だからいいところを見せたいんじゃないでしょうか」

I提督「うーん……あの子、二次改装待ちなのよね。練度も相当上だし、暁が相手をするのは大変じゃない?」

翔鶴「はい、だと思います」

I提督「……そうね。それじゃ、執務室にいらっしゃい。休憩しなさいな」

暁「えっ!? ……その、訓練は」

I提督「命令よ。響にも連絡するわ。それならいいでしょう?」

暁「は、はいっ!」

220: 2017/01/18(水) 01:09:16.96 ID:QaDK512Yo

 * I提督鎮守府 執務室 *

I提督「紅茶でいいかしら?」

暁「は、はい!」オロオロ

I提督「どう? ここには慣れた?」

暁「え、えっと……響にも、みんなにもよくしてもらってるわ! け、けど……」

I提督「けど?」

暁「……」

I提督「いいのよ暁。そうやって溜め込んでも良いことはないわ。つらいときはつらいと言いなさい」

暁「……!」

 * *

I提督「そう。やっぱり今の訓練は今の暁には過酷すぎるかしら」

暁「で、でも、暁は響のお姉さんなのよ! 妹に弱いところは見せられないわ」

暁「なにより響が頑張ってるんだもの、暁も一緒に頑張ってみせたいし……」

I提督「レディーとしての自覚もあるし?」

暁「そ、そう! でも……最近、ちょっと自信もなくなっちゃってきたけど……」ションボリ

I提督「そう……それじゃ、レディーの練習もしてみましょうか?」

暁「え?」

221: 2017/01/18(水) 01:11:33.75 ID:QaDK512Yo

 * *

I提督「胸を張って、顎を引いて」

暁「こ、こう?」

I提督「そう。それで肩の力を抜いて。それでいいわ。そうやって、まっすぐ前を見て」

暁「……これじゃ、司令官のお顔が良く見えないわ」

I提督「たとえその体が小さくても、素敵なレディーなら、殿方の方から跪いて顔を覗き込まれるものよ?」

暁「そ、そういうものなの?」

I提督「そうよ、だから堂々としてなさい? ほら、上を向いたら頭の上に積んだ本が落ちちゃうわ」

暁「!」ビシッ

I提督「ふふ、いい子ね、上出来よ」

 * * *

 * *

 *

222: 2017/01/18(水) 01:13:27.67 ID:QaDK512Yo

 * 現在  墓場島鎮守府 長門の部屋 *

初春「まあ、暁が着任した当初は良い鎮守府じゃったと聞いておる。本営を聞いて回った時の評価はおおむね好評じゃった」

長門「……」

初春「それがあるとき、I提督の鎮守府は深海棲艦の猛攻撃を受け、壊滅寸前に追い込まれた。事の不幸は、その鎮守府の立地じゃな」

初春「三方を海に囲まれた岬の鎮守府。いかに航空戦力に優れていても、東西から分かれて本拠地を叩かれてはひとたまりもない」

初春「そして北の陸路の補給線も深海の艦載機によって分断されたとあっては、ジリ貧じゃな」

長門「……応援は」

初春「なかった」

長門「何故だ」

初春「僻みじゃ。なまじ可憐な女性提督、戦果も人気も周囲の鎮守府より上で、しかもたたき上げとなれば、妬み嫉みの格好の的じゃろうて」

初春「友人もおったはずじゃが、そこにも妨害があったというしの……世渡りが下手じゃったのは否めぬな」

長門「……それが、それが軍人のやることか」

初春「聞き間違いなら相済まぬが……お主もそういう軍人から逃げてきたのではないのかのう?」

長門「……っ」

初春「出る杭は打たれる、憎まれっ子世にはばかる。よくもまあこんな言葉が世にあるものじゃ……」

227: 2017/01/22(日) 22:35:19.80 ID:nV8HfL4Io

 * 2週間前 I提督鎮守府 連絡通路 *

暁「川内さん! 夜戦禁止令ってどういうこと!?」

川内「資源がないの。弾薬も燃料も底をつきそうだってのに、補給線が切られちゃっててどうしようもないんだって」

響「それで資源の消費を抑えるための、苦渋の決断ってことらしいよ」

川内「補給線を復旧させようにも、あっちは陸路だから私たちじゃ足手まといだしね……」

響「遠征部隊も狙い撃ちされてる。バケツはあるけど、資材がないと修理できない……」

暁「……司令官は?」

川内「……」

響「……」

暁「ど、どうしたの?」


 * I提督鎮守府 執務室 *

I提督「……翔鶴、私はどうしたら……」ゲソッ

翔鶴(中破)「提督、どうかお気を確かに持って」

I提督「……翔鶴……ごめんね」ギュ

228: 2017/01/22(日) 22:36:14.33 ID:nV8HfL4Io

暁「司令官、あんなにやつれて……」

川内「対空は翔鶴さんの艦載機が最大戦力だったんだけど、それ以外に対空装備が整った娘がいなかったのが痛恨でね」

響「翔鶴さんが艦載機を飛ばせないとなると、万事休す……そういうわけにはいきたくないんだけど」

 ドォン

暁「きゃっ!?」

川内「このままじゃ、ここに攻め入られるのも時間の問題だね……なんとかしなきゃ」

暁(だけど……どうしたらいいの?)


 * 戦況は、膠着状態のまま *

「他の鎮守府からの応援は1週間後だって!?」

「遅すぎる! そこじゃない鎮守府への連絡は取れないの!? 本営は!?」

「物資がつきそうです! あと3回も出撃できるかわかりません!」


229: 2017/01/22(日) 22:37:02.51 ID:nV8HfL4Io

 * 数日後、朝 *

暁「し、司令官……?」

I提督「……」ギョロリ

暁「あ、あの、翔鶴さん、い、いったい何が……」

I提督「……」ギュウ

翔鶴「つっ……て、提督、大丈夫です。私はどこにも行きませんから」

暁「……」

翔鶴「暁ちゃんごめんなさい、提督は私に頼りっきりになってしまったみたいで……」

提督「だれ……? ……翔鶴を……とらないで」ジロッ

暁「……!」ビクッ

翔鶴「だ、大丈夫です提督、暁ちゃんはそんなことしませんよ? ね?」

I提督「……あかつき……」

暁「……!」コクコク

I提督「……うふ、ふふふ」ニタァ

暁「!」ゾワァッ

232: 2017/01/22(日) 22:39:48.69 ID:nV8HfL4Io

 * その日の深夜 I鎮守府内廊下 *

暁(こんな時間に目がさめちゃった……)

暁(司令官、大丈夫なのかしら……)

 ……

暁(? 何の音?)

 チャプ

暁(ドックに誰かいるの?)

「…………」

「…………」

暁(この声、司令官?)

暁(翔鶴さんも一緒にいるみたい……?)チラッ

「翔鶴……」

「て、提督……」

暁(……!?)

暁(し、司令官と翔鶴さんが、入渠用のプールの中で裸で抱き合ってる!?)カァァ

暁(ま、待って、何かの間違いじゃ……)チラッ

233: 2017/01/22(日) 22:40:37.84 ID:nV8HfL4Io

「翔鶴……どうして、出撃したの……?」

「そ、それは……」

「こんなに傷だらけになって……」

暁(そ、そっか、翔鶴さん、無理を押して出撃してたのよね……)

「提督……やめて、ください……!」

「それでも、こんなに綺麗だなんて、ずるいわ」

暁(あ、あれ、修理よね? 修理……に、見えない……ど、どうしよう……どうしよう!)オロオロドキドキ

「提督、どうか……おやめください……本当に」

「駄目よ、もっと見せて……!」

「え……提督、その工具は」

「翔鶴……あなたの、すみずみまで……!」

「提督、なにを……っ!」

「あなたは、誰にも渡さない……!!」

 ドシュッ

「てい、と……く……!?」

「……ふ、ふふ」

234: 2017/01/22(日) 22:41:20.53 ID:nV8HfL4Io

暁「え……!?」ビクッ

 ガタン

I提督「……だあれ?」ギョロリ

暁「ひっ!?」

翔鶴「あ、暁、ちゃん……!?」

I提督「あかつき……あかつき……!」ニタァ

I提督「ふふふ……みて、あかつきぃ」

 ズグッ グジュジュジュッ

翔鶴「あ、がああああっ!?」

暁「翔鶴さんっ!!」

 ズリュッ

I提督「ほら、みて……しょうかくの、『なかみ』」

I提督「とっても、きれい……!」スリスリ

暁「っ!!!」ゾッ

翔鶴「てい、とく……たすけ……」

I提督「うふ、うふふふ……しょう、かく……しょうかくぅ……!」

 ズグッ

翔鶴「ーーーーーっ……!!」

235: 2017/01/22(日) 22:42:17.85 ID:nV8HfL4Io

暁「……っ! ……っ!!」

翔鶴「あ、かつ、き……逃げ……」

暁「っ、……っ!!!」

暁(声が、出ない……いや、いやあ……こんなの、嫌ぁ!)

 ダッ

I提督「あか、つき、ちゃあん……どこへ、いくのぉ……? ねぇ……!」

I提督「……」

I提督「どう、したの、かしら……ね? しょう、かく……うふ、うふふふ……」

翔鶴「……」

I提督「しょうかく? いっしょに、いく、のよ……ねえ、しょおかくぅ……?」

 ズジュッ



 ズシャッ ブチ



 ブチブチブチッ



236: 2017/01/22(日) 22:43:56.31 ID:nV8HfL4Io

 * 廊下 *

暁(なんで……なんで、司令官が翔鶴さんを……!)グスッ

 ドォォン

暁「きゃあっ!?」

深海棲艦「……」

暁「こ、こんなところにまで深海棲艦が……!?」

深海棲艦「……」ニタァ ジャキ

暁(砲撃!?)バッ

 ズドォン

暁「っ!」ゴロゴロッ

深海棲艦「……」

暁「……」ジャキ

深海棲艦「……」ケタケタ

暁「なんで……なんで、こんなことをして、笑っていられるのよ……」

深海棲艦「……」

暁「……暁は、怒ってるんだから」グスッ

深海棲艦「……」ケタケタ

237: 2017/01/22(日) 22:45:20.60 ID:nV8HfL4Io

暁「笑わないで! 暁は、怒ってるんだからあぁぁあ!!」

 ドォン

暁「返してよ! 司令官を返してよ!」

 ドォォン

暁「あなたたちが来てから、司令官は……司令官はぁぁ!!」

 ズドォォン

深海棲艦「」プスプス…

暁「……はーっ、はーっ」

暁「ううっ……えぐっ、ぐすっ」ペタン

暁「う、うあああぁぁぁん」ポロポロポロ



 ピチョン


暁「!」ビクッ

 ペタッ ペタッ

暁「……」フリムキ

全裸でずぶ濡れのI提督「……見つ、け、たぁ」

暁「!!!」ゾワッ

238: 2017/01/22(日) 22:46:26.62 ID:nV8HfL4Io

I提督「どう、したの……? あな、たが、にげる、だ、なんてぇ……?」

暁「あっ、あああ……」ガタガタガタ

暁「し、しっ、しれ、かんっ……! そ、そ、『それ』っ、『それ』は……ぁ……っ」プルプル

I提督「うふ、うふふふ……ほらぁ、あか、つき、ちゃんも、おい、でぇ……」ズイ

暁「……」

暁「……う……ひぁ」フルフル

暁「あああああああああああああああ!!!!」ダッ

I提督「……」

I提督「わたしぃ……きら、われ、ちゃった……ね? 『しょうかく』ぅ」

I提督「……ふ、ふふふふふふ」ケタケタ




244: 2017/01/30(月) 23:05:34.55 ID:xG7i58Luo

 * * *

川内「鎮守府の真正面まで迫って来てるって!?」タタタッ

響「うん、迎撃か鎮守府の放棄か、決めないといけないよ」タタタッ

川内「提督は?」

響「それが、連絡が取れないんだ」

川内「どうして……って、なにこれ! 廊下が濡れてる!」

響「人の……裸足の足跡が残ってる。まさか、深海棲艦!?」

川内「この先は執務室……提督が危ない!?」


 * 執務室 *

川内「提督!」ガチャバーン!

川内たちに背を向けて窓の外を見る裸のI提督「……」

響「司令か……司令官!? 服はどうしたの!?」

I提督「……」

川内「提督! 深海棲艦が迫って来ています! 迎撃か、鎮守府の放棄か……」

 ズドォォン

響「! 鎮守府がまた攻撃を受けてる……!」

245: 2017/01/30(月) 23:06:44.95 ID:xG7i58Luo

川内「提督! ご決断を!」

I提督「……だいじょうぶ」

川内「!?」

I提督「だいじょうぶ……しょうかくと、いっしょですもの……ふふ、うふふふ」クルリ

響「……し、司令官?」

川内「そ、その腕に抱えているのは……」

 「司令官! 司令官大変です!」

川内「!」

艦娘「せ、川内さん!? 大変なんです! ドックに、翔鶴さんの、首のない氏体……が……!」

川内「……」

響「司令官……それは、まさか」ヨロッ

I提督「ね、しょうかく……わたしたち、ずっと、いっしょよ……うふふふ」

 チュ

艦娘「……っ! ……っっ!」ヘタッ

響「……なんて、こと」クラッ

246: 2017/01/30(月) 23:08:01.51 ID:xG7i58Luo

川内「……伝令! 現時刻を持って本鎮守府を放棄し撤退する! 総員、退避して!」

響「! 川内さん、それじゃ司令官は……!」

川内「私たちが呼びかけて素直に来てくれると思う!?」

響「……っ」

川内「夜間なら艦載機も飛ばせない! 陸路を使って逃げるよ!」

川内「あなたも急いで連絡! 腰抜かしてる場合じゃないわ!」

艦娘「はっ、はいぃ!」ダダッ

 ドカァン

川内「敵陣での爆発!? 誰!? 深海棲艦へ攻撃を仕掛けてるのは!」

I提督「……ああ、あかつきちゃん……あかつきちゃんだぁ……うふ、うふふふ」

川内「ええ!? な、なにやってんの、あの子は!」

響「っ!」ダッ

川内「響っ! 待って!」

I提督「……みて、しょうかくぅ……ひかりが、とっても、きれい……うふ、うふふふ……」

I提督「……うふふふふふ……!」

 * * *

 * *

 *

247: 2017/01/30(月) 23:09:19.99 ID:xG7i58Luo

 * ??? *

暁(中破)「……!」

暁「……ここは……どこ?」

??「……暁……」

暁「? 誰?」

I提督「暁」

暁「司令官!! 無事だったの!?」

I提督「暁!」ニコッ

暁「良かった……! しれーかーーん!」ダッ

I提督「うふふ……」

I提督「あかつきちゃぁん……!」ギョロリ

暁「!!!」


 * とある洋上 *

暁「!」ビクッ

 ザザーン

暁「……夢……?」プカプカ

248: 2017/01/30(月) 23:10:59.38 ID:xG7i58Luo

暁「……」

暁「……ここ、どこかしら」ムク

暁「痛っ……!」

暁「……」

暁「暁は、どうして怪我をしてるの……?」

暁「……」キョロキョロ

暁「それに、さっきの夢、なんだったのかしら……」

 ザザーン

暁「……」

暁「どうしよう……ここ、どこだかわからないわ」

暁「……!」

暁「あれは……砲撃音?」

 * *

249: 2017/01/30(月) 23:11:53.39 ID:xG7i58Luo

暁「……たしかこっちね。誰かいるのかしら……」

暁「……」

 (海面下に沈んでいく艦娘の姿)

暁「!」

 (ゆらゆらと揺れる淡い色の長い髪の毛)

暁(……しょうかく、さん……?)

 ズキッ

暁「!? く……な、なに?」

 (ゆっくりと海底に沈んでいく艦娘の姿)

暁「! ……だ、だめ……」

暁「だめ……! 沈んじゃ、だめよ……っ!!」

暁「ど、どうしたら……どうしたら!」

暁「あ……!」

 * *

250: 2017/01/30(月) 23:13:08.32 ID:xG7i58Luo

 ギリギリギリ… ザバーッ

 (暁の背中の艤装に連結した錨にひっかけられて引き上げられる初春)

暁「良かった、なんとかなったわ……大丈夫?」

初春「う、うう……ここは……」

暁「ここ? ごめんなさい、暁も迷子なの。電探があればいいんだけど……」

初春「……おぬしが、わらわを、助けてくれたのじゃな……」

暁「ええ、そうよ。砲撃の音がしたから来てみたら、あなたが沈んでくところが見えて……」

初春「そう、じゃったのか……すまぬ、礼を言う」

暁「いいのよ、暁は暁にできることをしただけよ」ニコ

初春「……!」

暁「それより、どこか休める場所を探さないと……」

初春「のう、暁よ。何故、おぬしのような者が、こんなところで一人でいるのじゃ?」

暁「え? それは……」

 ズキッ

暁「……どうして、暁が、ここに……?」

初春「なに?」

251: 2017/01/30(月) 23:13:46.40 ID:xG7i58Luo

暁「暁は……暁の、司令官、は……」

 ズキズキズキッ

暁「く、くぅぅ!! 頭が……!」

初春「あ、暁!? どうしたんじゃ!」

暁「……Iてい、と……く……」フラッ

 バシャアン

初春「暁! 暁っ! しっかりするんじゃ!!」

初春「くっ、暁……おぬしを沈ませはせぬぞ!」ガシッ

初春「なんとしても、陸に……!!」

 * * *

 * *

 *

254: 2017/02/07(火) 22:16:57.67 ID:2y0WuTg1o

 * それからしばらくして、本営の待合場 *

川内(……結局、私は暁も、提督も助けられなかった)

川内(大好きな夜なのに、少しも私の思い通りにできなかった)

川内(私は、まだまだ未熟だ……!)

若葉「……」ジーッ

川内「……ん? きみ、私に何か用?」

若葉「駆逐艦、若葉だ。I提督鎮守府の川内さん、だな?」

川内「ああ、きみが新しい鎮守府の! 川内よ、よろしくね」

若葉「よろしくお願いする」コク

川内「うん、それじゃ行こっか」

若葉「……」ジッ

川内「? どうしたの?」

若葉「川内さんと言えば夜戦に強いと聞いている」

川内「ん、ああ……まあ、そうだね。」

若葉「? 歯切れが悪いな……とにかく、その強さについてご教授願いたい」

川内「……強くなりたいんだ?」

若葉「無論だ」コク

川内「……丁度良かった。私も、このままじゃだめだと思っててさ……!」ゴゴゴゴ

若葉「!」ゾクッ

川内「特訓したいんだ。鎮守府に着いたら、付き合ってくれる……?」ニッ

若葉「……是非」ニヤ

255: 2017/02/07(火) 22:17:48.60 ID:2y0WuTg1o

 * 同じく本営の一室 *

X提督「君が響だね。君を引き取ることになった、X提督だ。よろしく」ニコ

響「……」

X提督「……」

祥鳳「……」

X提督「……ねえ、祥鳳さん。僕、なんだか警戒されてるようなんだけど」

祥鳳「……あの、響さん?」

響「……司令官は」

X提督「ん?」

響「……司令官は、女性なのかい?」ジリッ

X提督「」

祥鳳「ぷっ……ち、違いますよ? れっきとした男性です」

X提督「」ズーン

響「す、すまない司令官。前の鎮守府のことを思い出してしまって」

X提督「い、いや、いいよ。大丈夫」ナミダメ

256: 2017/02/07(火) 22:19:01.53 ID:2y0WuTg1o

祥鳳(そういえば、響さんの前の鎮守府は、女性提督と空母の秘書艦でしたね……)

祥鳳(私たちの組み合わせと似てると言えば似ていますから、やはりショックだったんですね)

響「……その、司令官。お願いがあるんだ」

X提督「な、なにかな」

響「私は、強くなりたい。私は、前の鎮守府を守れなかった……だから、力が欲しい」

X提督「……君は、二次改装を控えていたそうだね」

響「……」コク

X提督「……行方知れずになった姉妹艦と、一緒に改装を受ける予定だった……」

X提督「彼女を、探すつもりかい?」

響「それは……わからない」

X提督「それじゃあ、もう少し生きててみようか」

響「……」

X提督「生きていれば、手掛かりくらいは、どこかで手に入るんじゃないかな」

響「……」

X提督「改装の準備もしよう。僕の出来る範囲でだけど、手伝うよ。君の、やりたいことを」

響「……」コク

257: 2017/02/07(火) 22:22:02.69 ID:2y0WuTg1o

 * 現在 長門の部屋 *

長門「そうして、この島に流れ着いたというのか……」

初春「今思えば、わらわもまっこと運が良かったのう……二人揃って無事に流れ着くなど、相当なことじゃ」

長門「暁は、I提督鎮守府の一員だったのか?」

初春「うむ。かつてI提督鎮守府におった者に話を聞けば、鎮守府は壊滅。I提督は氏亡、秘書艦の翔鶴は轟沈したそうな」

初春「鎮守府の艦娘と職員の退避のため囮として出撃した川内、響が大破。こちらはのちに戻ってきて、救助されたそうじゃ」

初春「そして、単身突撃した暁が行方不明……というのが、その鎮守府の最後の記録じゃ」

初春「何故に暁が単騎で出たのかはわからぬ。おそらくは報告以上の惨事がその鎮守府では起こっておったんじゃろう」

初春「暁がI提督の名を口にして気を失い、次に目が覚めた時には何もかも覚えておらぬのも、その影響であろうな」

初春「ゆえに、I提督鎮守府におった者たちには、暁が生きていることも伝えてはおらん」

初春「そなたも暁に昔のことを訊くのは控えた方が良いぞ。提督も判断を同じくしておるでの」

長門「……わかった。ところで、初春もなぜそんな目にあっていたんだ」

初春「わらわかえ? 捨て艦じゃ」

長門「……」

初春「ふふ、かような顔をするでない。捨てる神あれば拾う神あり、縁は異なもの味なもの、と言うではないか」

長門「そうか……すまない、つらい話をさせた。ありがとう」

258: 2017/02/07(火) 22:24:03.91 ID:2y0WuTg1o

 * 執務室 *

初春「提督よ。件の話、長門に伝えておいたぞ?」

提督「おう、ありがとよ」

初春「しかし……本当に良いのかの? 暁に、当時のことを教えなくても」

提督「お前から報告聞いたとき、俺も軽くひいたからな。記憶まっさらの赤ん坊に劇薬飲ませるような真似はちょっとなぁ……」

提督「ま、ただでさえ年中艦娘の遺体が流れ着いてくる島だ。首のねえやつだって別段珍しくもねえし、ショックであっさり思い出すかもしれねえ」

提督「それ以外にもきっかけなんてそこらじゅうに転がってるかもな。ただ、俺たちが暁にそれを話すには早えって思ってるだけだ」

初春「うむ、あいわかった。それと……一昨日までの報告でも、I提督の亡骸は未だ見つかっておらぬそうじゃ。翔鶴の首も……」

初春「それゆえ、あの海域で亡霊が出るという噂が出ておる。生首を抱えた濡れ女が、水面の上から近隣の鎮守府を見ているという……な」

提督「けっ、寝ぼけたこと言いやがって……!」ギリッ

提督「だったらお祓いでもなんでもいいから弔ってやれよっつーんだよ、くそが」

提督「だいたいそういうこと言い出してんのは、I提督の鎮守府見捨てて後ろめたさ感じてる奴らだろ?」

提督「それを野次馬が面白がって尾びれ背びれつけて囃し立てやがって……!」

提督「必要以上にゲンを担ぐほど信心深いくせに、面白くもねえ噂話が大好きな俗物連中こそ全員祟られちまえってんだよ、くそがっ!」

初春「貴様が言うと妙な説得力があるのう……」

提督「そもそも話盛ってんじゃねえのか? 女の腕力で艦娘の首をどうにかできるわけねえだろ」

初春「む、むう」

提督「いや、あり得なくはねえのか……暁が記憶を失ってるってのが事実なら。初春の聞いた話が本当なら、あり得るのか……」

259: 2017/02/07(火) 22:27:23.42 ID:2y0WuTg1o

初春「……」

提督「……」

初春「……」

提督「……はぁ」

初春「なんじゃ、今の溜息は」

提督「別に深い意味はねえよ。なんでこう面倒くせえ話ばかりこっちに転がってくるんだ? ってな」

初春「……それは貴様が望んでここにおるからじゃろうて」

提督「だからって、こんなにたくさん背負いこむつもりはなかったぞ」

初春「ならばもう救おうとしなければ良かろう? 不幸な艦娘を全員背負いこむこともあるまいよ」

提督「……そうだな、諦めるか」

初春「それが良い、貴様にできることは限られておる。無理はせんほうが……」

提督「あ? 無理しなきゃ無理だろ?」

初春「? 貴様は何を言っておるんじゃ」

提督「だから、見捨てて楽しようってのを諦めるんじゃねーか。俺はそういう人間と一緒にされる方が嫌だね」

提督「とりあえず今まで通り、助かりたいなら手は尽くしてやるさ。そのあとは保証できねえが……」

提督「ったく、我ながら面倒臭え偽善者してやがる、くそが」アタマガリガリ

初春「……」アキレ

260: 2017/02/07(火) 22:29:01.42 ID:2y0WuTg1o

提督「なんだよ」

初春「……まっこと、馬鹿じゃのう、貴様は」ハァ

提督「あ?」

初春「……まあ、嫌いではないぞ。貴様のような馬鹿は」

提督「へいへい」

初春「……ときに提督よ」

提督「ん」

初春「あの長門はやけにわらわを警戒しておるようじゃが?」

提督「警戒……ねえ」

初春「わらわが話を始めるときも、えらく気を張っておったようじゃしの」

提督「……聞くか?」スクッ

 カチッカチッ

館内放送『あーあー、戦艦長門。執務室まで来られたし』

初春「……」

提督「デリケートな話題なんでな」カチカチ ←館内放送OFF

初春「よもやお主の口からそんな言葉を聞くとはのう……」

266: 2017/02/25(土) 12:17:09.48 ID:Xm2ZB9Kzo

 * * *

長門「なるほど。次は私の番か」

初春「一応、如月経由で潮からの話は聞いたがの。おぬしの余所余所しい態度は、それでは説明がつかんのでな」

長門「……なかなか鋭いな。あまり、駆逐艦の耳には入れたくないのだが……」

提督「やめとくか? 断ってもいいぞ」

長門「……いや、話そう。ただ、できれば、潮には黙っていてほしい」

初春「……」

提督「俺はわかった。初春は」

初春「正味なんともいえぬが……委細承知した」コク

長門「ありがとう……」

初春「潮からの話では、深刻なストーカー被害を受けたという話じゃったな。それを長門に相談し、長門が潮を逃がしたと」

初春「具体的にどんな被害を受けたかはよく聞いておらぬが……提督は聞いたのかの?」

提督「俺だけ詳細を長門同伴で、一応な。ま、聞かねえほうがいいぜ、胸糞悪い餓鬼の話だ」

初春「……」

長門「これからの話は提督にも話していない、私自身の話だ。ざっくりと話させてもらう」

267: 2017/02/25(土) 12:18:34.36 ID:Xm2ZB9Kzo

提督「お前にも思うところがあったのか?」

長門「ああ。私の場合は、かつての鎮守府の提督……E提督が、あまりに怖くて、気持ち悪くて逃げてきたんだ」

初春「む? 被害を受けたのは潮だけではなかったと?」

長門「いや、その認識で間違っていない。正確には、鎮守府の殆どの駆逐艦たちが被害を受け、一番の犠牲になっていたのが潮だ」

初春「……なぬ? 殆どの駆逐艦!? 潮だけではないと?」

提督「聞いてないのか? そいつ、口リコンで変態なんだとよ」

初春「……」ヒキッ

提督「で、長門もそうなんだと」

初春「……は?」ヒキキッ

長門「まあ、平たく言えばな」

初春「み、身も蓋もないのう……ちいとは否定せんのか」

長門「否定も何も、事実だからな。私も小さい子は好きなんだ。駆逐艦とのふれあいは私にとって癒しだ」

長門「たくさんの駆逐艦と一緒に遊びたい。抱きかかえて散歩したい。一緒にお昼寝してその寝顔を眺めていたい」

長門「私は、駆逐艦の無邪気な笑顔をずっと眺めていたいんだ……!」

長門「この図体でこんなことをのたまう私の言動が気持ち悪くて痛々しいことは、重々自覚している……」ズーン

初春「う、うむぅ……その程度ならばと変態とも口リコンとも呼ばんのではないのかのぉ……」

提督「過度に自制心が働いてるだけに思える。自虐も入ってるな、こりゃ」

初春「……むう」

268: 2017/02/25(土) 12:19:59.44 ID:Xm2ZB9Kzo

長門「ともあれだ。結果的に、私がE提督に何かをされていたということはない」

長門「しかし、E提督の潮を見る目は、あまりに気持ち悪くて嫌な気分になるんだ……」アオザメ

提督「……なるほどな。近親憎悪か同族嫌悪の類か」

長門「程度は違えど、私も駆逐艦が好きだ」

長門「もし、私があの男と同じ目で駆逐艦を見て、同じ顔で駆逐艦と接しているのでは、と思うと、耐えられなくなるんだ」

初春(長門の言う『程度』には、水たまりとチャレンジャー海溝くらいの差があるように思えるのじゃが……)

長門「負い目を感じるから、奴と同じ場所にいたくなかった……これが理由の一つだ」

長門「そしてもう一つ。私は、潮をスケープゴートにしていたんだ」

提督「!」

初春「待て、そやつは口リコンではなかったのか?」

長門「……確かに、最初は私にそういう素振りはなかった」

長門「私も、潮が奴の毒牙にかかるのを見ていられなくて、潮を時々用もないのに呼び出したりしていたんだ」

長門「それからしばらくして……時折、な。あいつが潮を見るような目で、私を見ているときがあるんだ」

長門「……私は、それだけで耐えられなかった」ブルッ

長門「それと同時に、潮が、あの目にずっと見つめられていたと思うと……罪悪感と無力さに押し潰されそうだった」

269: 2017/02/25(土) 12:21:20.52 ID:Xm2ZB9Kzo

長門「彼女はずっと奴のセクハラと戦ってきた……私はそれを、外から眺めていただけに過ぎない」

長門「私は、潮を逃がすことを口実に、逃げたのだ。潮以外の、駆逐艦たちを見捨てて」

提督「……」

初春「……」

長門「……こんな私に、駆逐艦を可愛がる資格はない……!」グスッ

初春「……」

提督「それで、初春と話をするときも必要以上に気を張っていた、ってか」

初春「これは重症じゃの……」

提督「……」

初春「のう、提督よ? この長門は信頼できると思うのじゃが」

提督「その言い方だと、信頼できねえ奴もいるのか?」

初春「うむ、わらわがいた鎮守府の長門は駆逐艦たちにしょっちゅう手を出しては折檻を食らっておった」

提督「なんだそりゃ……」ヒキッ

初春「……ま、まあ、たまにはおるのじゃ。変わった艦娘も」

提督「一気に不安になったな……で、この長門がまともかどうか、どうやって証明するんだよ」

270: 2017/02/25(土) 12:22:42.70 ID:Xm2ZB9Kzo

初春「そうじゃのう……では長門よ、ちぃとここに座ってくれぬか」ソファポンポン

長門「あ、ああ……」ストン

初春「うむ。では失礼して……」チョコン

長門「!?」

長門(は、初春が私の膝の上に!?)

初春「遠征帰りで疲れておっての。しばしわらわの昼寝に付き合うてくれるか」ポスン

長門「あ、ああ……」ドキドキ

初春「そのように硬くならんでも良い。楽にしてもらわんと、わらわも落ち着かぬ」メヲトジ

長門「わ、わかった……」

提督「……んじゃ、俺は執務に戻る。長門は初春と一緒に、そのまま適当にくつろいでな」

長門「い、いいのか?」

提督「おう」

長門「……」

提督「……」カリカリカリ

長門「……」

271: 2017/02/25(土) 12:23:35.70 ID:Xm2ZB9Kzo

長門(初春型、か。E提督の鎮守府では見かけなかったな)

長門(あの男は異様なまでに艦娘を選り好みする男だった。なにを基準にしているのか、聊か把握できなかったが……)

長門(気に入れば執拗に追いかけ回し、気に入らなければ即解体。あの男の私情がすべての、いびつな鎮守府だった)

初春「……」スヤ…

長門(……それに引き替え、ここはどうだ)

長門(在籍する艦娘全員が皆理由ありで、悲嘆にくれたことのある者たちばかり)

長門(そして、まるでやる気を感じられないこの男。編成も指揮も艦娘任せ、艦隊運営に差支えなければ、なんでも許す放任主義者)

長門(深海勢力を歯牙にもかけず、責任感もまったく見当たらない。形だけの、外界から切り離された孤島の鎮守府)

長門「……」ナデ

長門(……だが、不本意にもそんな場所に救われている自分がいる)

長門(潮も少しずつ笑うようになった)

長門(心残りはあれど、しがらみのないこの場所は、自分をゆっくり考え直すには丁度良い……)

初春「ん……」ゴロ

長門(比叡も、暁も……初春も、きっとそうなのだろうな)ナデ

長門(穏やかな顔をして寝ている。安心しているんだろうか)フフッ

長門(……)

長門(……今くらいは、このささやかな幸せを、噛みしめても……)

272: 2017/02/25(土) 12:24:40.13 ID:Xm2ZB9Kzo

初春「なんじゃ、難しい顔をしておるのう」パチ

長門「!?」

初春「のう、提督よ? 貴様はどう思う?」

提督「まあいいんじゃねえか、少し遠慮しすぎてるきらいもあるが」

長門「お、おい、まさか私を謀って狸寝入りしていたのか!?」

初春「休みたかったのは事実じゃぞ。確かに、おぬしがわらわに何をするのか興味もあったのじゃが」

提督「あ? むしろ最初からそのつもりじゃなかったのか? 話の流れを考えりゃそう思わねえほうがおかしいだろ」

長門「」シロメ

初春(気付いておらなんだか……思いのほかどんくさいのう)

初春「まあ、それはともかくじゃ。わらわはもう少しこのままでいても良いかの?」

長門「んな!? も、もう終わりではないのか!?」

初春「わらわは初春型の長姉で、口調も気質も駆逐艦らしくなかろう? 誰ぞに甘えると言う発想も今まではなくてのう」

初春「ゆえに、誰かに寄り添ってもらったのは初めてじゃ。それがこれほど心地よいとは思わなんだ……」スリ

初春「もう少し、独り占めしたいんじゃが……どうかの?」ウワメヅカイ

長門「」キュン

提督(なんだこの茶番)

278: 2017/03/05(日) 23:17:56.92 ID:GsHEpKDVo

初春「というわけで提督よ。もうしばらく長門と一緒にいたいんじゃが、良いかの?」

提督「いいけどしばらくだぞ。俺は仕事に戻る」

初春「うむ、では許可も得られたことじゃし、もうしばらく休ませてもらおうかのう」スリスリ

長門「い、いや待て初春、こ、こういうのはもう少しお互いを知りあってからだな……」タジッ

提督(乙女か)カリカリ

初春「何を言うておる。添い寝くらい別に構わんじゃろうて……ほいっと」トンッ

長門「おわっ!? な、何をする!」オシタオサレ

初春「ふむ、一緒に眠ろうと思っただけじゃが……なんぞ気になることでも?」ニヤリ

長門「私の上に跨って何をするつもりだ!?」ワタワタ

初春「何を……って、何をするつもりだと思うておる?」

長門「何って……なんだ、その……」ポ

提督(乙女か)カリカリ

279: 2017/03/05(日) 23:18:38.54 ID:GsHEpKDVo

初春「……ほう。何というとナニか。ナニされたいと申すか」ニヤァ

長門「ひっ!?」ビクッ

初春「ではお望み通り……」スッ

長門「!」ビクッ

初春「……」

長門「……」プルプル

初春「……」

長門「……?」チラッ

初春「……」クワッ!

長門「……」ビクビクビクッ!

提督(小動物か)カリカリ

280: 2017/03/05(日) 23:20:27.74 ID:GsHEpKDVo

初春「これ」デコピン

長門「はうっ」ベシッ

初春「貴様それでも長門か。ビッグセブンではないのか」

長門「そ、そうは言ってもだな! いきなり跨がられて驚かない奴なんかいないだろう!?」

初春「提督もしょっちゅう如月やら電やら抱き着かれて寝ておる。気にすることはない」

長門「それは気にしなきゃ駄目じゃないのか!?」ガバッ

初春「そうかのう?」

長門「……提督。今の話はどういうことだ」ジロリ

提督「あー、朝、目が覚めたら隣に誰かしらが寝てることは結構あるな」ソロバンパチパチ

提督「どうも寝苦しいと思ったら如月が上に乗っかってたり、電が脚にしがみついたりしてんだよ」

提督「だもんで夜、寝る前に俺の部屋に鍵をかけてるんだが、ただの一度も役に立った試しがねえ。どう思う」カリカリカリ

長門「!?」

島の妖精たち(実は、わたしたちが資材やらなにやら引き換えに鍵を外してるんだけど)

島の妖精たち(ばれてないみたいだねえ)

281: 2017/03/05(日) 23:22:23.15 ID:GsHEpKDVo

長門「け、憲兵はどうした」

提督「いねえよ」

長門「それでいいのか!?」

提督「陸軍の連中ですら、この島に滞留したくねえっつうんだからしょうがねえだろ。俺だけだぞ? この島に滞留してる人間は」

初春「あー、長門よ? そんなことより早く添い寝させてもらえんかのう?」

長門「」

初春「んふふふ、良いではないか良いではないか」オシタオシ

長門「あ、あわわわ、私は……」ドキドキ

提督「おし、終わりだ。悪いな初春、休憩は終わりだ」バサットントン

初春「なんじゃと?」

長門「!」

提督「でだ、ちょっと電を呼びに行ってくれ」

初春「ぐぬぬ……提督はいけずじゃのう……承知した、暫し待っておれ」ガチャ

 トテトテトテ…

長門「……」ホッ

282: 2017/03/05(日) 23:23:46.71 ID:GsHEpKDVo

提督「なあ長門。さっき、俺も初春に言われたんだがな」

長門「な、なんだ!?」

提督「お前、いろいろ背負いこみすぎだ。無理すんな」

長門「……な、なにを言う」

提督「どうせ前の鎮守府に残した連中のことを心配してたんだろ」

長門「……」

提督「全部なんとかしようと思うなら、自分がどうなってもいい、って思わねえと難しいもんだ」

提督「だが、それがお前にはできなかった。なぜなら、お前も被害者だからだ」

提督「助けに行きたい。だが、今行ってどうなるか。行ったあとにどうなるか? だいたい予想はつくよな?」

長門「……」ギリッ

提督「難しい顔すんなって。だから俺は最初から諦めろって言ってんだよ。じゃなきゃ、もちっと頭を使え。使えるものは上司でもだ」

長門「ならば貴様は……」

提督「俺は俺の出来る範囲でお前らの希望に応えてるだけだよ。無理なもんは無理で諦めてる」

長門「……」

283: 2017/03/05(日) 23:25:17.17 ID:GsHEpKDVo

提督「それ以上のことをしなくちゃ行けないときは、俺が命を捨てるときだ。だが、もうそれも安易に出来なくなった」

提督「長門。お前、この鎮守府を運営していく力はあるか? あるんなら、俺が代わりに命を捨てようじゃねえか」

長門「……い、いや、それは……」

提督「躊躇するだろ? だったらやめとけ」

提督「いい手がありゃあそれに乗るが、決定的に好転するなにかがねえとな……」

 コンコン

電「電なのです」

提督「ん、入れ」

初春「提督よ、呼んできたぞ?」ガチャ

電「失礼します……はわわ!? な、長門さん!?」

長門「!」

提督「とりあえずなあ、お前は余所を心配するより、この鎮守府の駆逐艦の悩みを解決してやったらどうだ?」

長門「……む……!」

初春「? どういうことじゃ?」

提督「長門は遠慮しすぎなんだよ。この前から電に素っ気ない態度取ってるのも、ふれあいが度が過ぎないようにって考えてるんだろ」

初春「この前とな?」

284: 2017/03/05(日) 23:26:48.60 ID:GsHEpKDVo

電「暁ちゃんが比叡さんにおかゆを食べてもらったときのことなのです」

電「嬉しくて長門さんに抱きついたんですが、それ以来どうも避けられてる気がして……司令官さんに相談してたのです」

提督「ただの照れ隠しだとよ。安心しろ電」

電「そ、そうなのですか長門さん!?」

長門(て、提督!?)チラッ

提督「……」ニタァァァ

長門「」

初春(おぉ……下っ衆い笑顔じゃの……)ヒキッ

長門「……こほん……ま、まあ、その、なんだ。別に電が嫌いというわけではない」

電「!」パァ

長門「少々、気恥ずかしかっただけだ。悪く思わないでくれ」

電「ほ、本当なのですか?」

285: 2017/03/05(日) 23:27:42.42 ID:GsHEpKDVo

提督「口だけじゃ証明できねえだろ。態度で示せ、態度で。ほれ、抱きかかえてやれよ」

長門「!? わ、わかった……い、いいのか電?」

電「はいなのです!!」ニコー

長門「では……」ヒョイ

電「わっ!? 高いのです!」キャッキャ

初春「……」ジー

長門「……わかった、初春もだな」ヒョイ

初春「お!?」

電「片腕で抱き上げたのです! 力持ちなのです!」

長門「ま、まあな。戦艦だからこのくらい当然だ」マッカ

初春「ふむ……この眺めも悪くないのう」スリスリ

電「長門さんに嫌われてなくてよかったのです……」スリスリ

長門「あ、ああ……」テレテレ

提督「……」ニヤニヤ

286: 2017/03/05(日) 23:28:37.55 ID:GsHEpKDVo

長門「! て、提督! 私は……」

提督「ま、話はこんなもんだな。長門、時間を取らせてすまなかった。戻っていいぞ」

長門「へ?」

提督「俺は執務があるから。大丈夫だ、二人抱えててもこのドアは通れる」ガチャー

長門「……」

提督「早く行け」ニヤァァァ

長門「くっ……覚えておけよ」スタスタスタ

 パタム

< アー、ナガトサンニダッコサレテルー

< ワタシモオネガイシマス!

< ワラワハマダオリトウナイノジャー!

< ナガトサンワタシモ…!

< ウシオォ!?

提督「……くっくっくっくっ」

提督「はー、笑った笑った……さて、仕事すっか」

293: 2017/03/12(日) 23:16:12.00 ID:TTCwSWFAo

ちょっとだけ個人的まとめ

如月:新兵器の実験台にされていたところを脱走し大破、島に漂着
不知火:如月捜索に駆り出される
朧、吹雪:捨て艦で轟沈後、島に流れ着く(二人とも別の鎮守府出身)
由良、電:大破進軍で轟沈し、島に流れ着く
神通:当時の司令官を謀殺されて復讐を試みるが危険視される
大淀:日々の解体任務に疑問を覚えて仕事が手につかなくなる
敷波:由良と電の捜索を命じられそのままMIA
明石:提督に帳簿の不正を強いられてそのまま首犯扱いで雷撃処分
朝潮、霞:提督の不正の内部告発を計画するも逆に犯人扱いされ雷撃処分
暁:信頼していた提督の変貌に恐怖して奔走、記憶を失う
初春:捨て艦で轟沈後、暁に拾われる
潮、長門:ストーカー上司に耐え切れなくなり家出、長門はその護衛
比叡:料理上手なのに飯を「まずい」と言われ続けてノイローゼに
 以下これから
古鷹:
??:
利根:
??:
伊8:

というわけで古鷹さんから参ります。

294: 2017/03/12(日) 23:17:26.22 ID:TTCwSWFAo

 * 埠頭 *

古鷹「古鷹と言います。重巡洋艦のいいところ、たくさん知ってもらえると嬉しいです!」

提督「……重巡洋艦?」

吹雪「はい。よく重巡と略されて呼ばれてます」

提督「神通とか由良とかとは別なのか」

朧「別ですね。この鎮守府にいる人たちだと、そのお二方も大淀さんも軽巡洋艦に分類されます」

提督「どう違うんだ?」

吹雪「対潜攻撃ができない代わりに、装甲と火力が高いというのが主な特徴です!」

提督「……重巡洋艦、うちにはいねえよな?」

朧「いませんね」

L少佐「だのになんで、あんたんところに長門がいるんだよぉぉ!!」

古鷹「L少佐、落ち着いてください!」

吹雪「司令官、こちらの方は?」

提督「知らん」

L少佐「おいぃ!? 准尉、さっき連絡しただろう!」

提督「初対面という意味で知らないっつったんだが」

295: 2017/03/12(日) 23:22:05.73 ID:TTCwSWFAo

L少佐「……ったく、まあいい。僕はL少佐、ついさっき敵艦隊を追い払ってきたところさ」フッ

L少佐「まあ僕たちにかかれば敵艦隊の邀撃なんて赤子の手をひねるより他愛ないことなんだが……」

L少佐「窮鼠猫を噛むと言ったところかな? 運悪く想定以上の敵艦隊と会敵してしまってね」

L少佐「その分資材を余計に消費してしまったんで、この鎮守府の資材の融通を指示したんだよ」

吹雪「指示?」

L少佐「当然だろう? 彼は准尉で、僕は少佐だ。僕はこれから本営へ帰還して観艦式に参加するんだよ」フッ

L少佐「敵艦隊の殲滅を手土産に、僕たちがそのまま観艦式の主役として颯爽と凱旋する……美しいだろう?」

L少佐「そのために、減ってしまった資材を補充しなければならないんだ。上司に仕えるのは部下の喜び。わかるね?」

吹雪「いつ上司になったんですかね」ボソ

提督「それと、ハナから他人に物を頼む態度じゃねえんだよなあ……気に入らねえ」ボソ

朧「諺多用するくせに、実るほど首を垂れる稲穂かな、って言葉を知らない人ですね」ボソ

古鷹「すみません、甚だご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」ペコペコ

L少佐「そうだとも。頭を下げろというのなら、いくらでもこの古鷹が頭を下げようじゃないか」

吹雪「……」ピキッ

提督「おい、吹雪の顔が面白いことになってんぞ」

朧「そりゃ他人にぺこぺこさせて自分は踏ん反り返ってたら吹雪だって気に入りませんよ」

296: 2017/03/12(日) 23:25:53.24 ID:TTCwSWFAo

L少佐「資材がないなら良い考えがある。長門が居るから資材が足りなくなるんだろう?」

提督「は?」

L少佐「おたくの長門はうちがもらってやろうじゃないか。君は資材の消費を抑えることが出来て万々歳だろう!」

提督「朧、塩持ってこい、塩」

朧「すぐ準備します」

吹雪「塩なんて上等なものじゃなくて、海水でいいんじゃないですか」

提督「……! おい、吹雪が成長したぞ。朧、赤飯の準備しろ」

朧「すぐ準備します」

吹雪「二人とも私をなんだと思ってるんですか!!」

L少佐「やれやれ、洒落が通じない連中だな」フゥ

古鷹「すみませんすみません、L少佐は悪気はないんです」ペコペコペコ

提督「悪気がねえ方が最悪だよ。吹雪、海水じゃなくて氷水の方がいいんじゃねえか」ボソ

吹雪「古鷹さんが代わりにかぶるって言い出しそうですけどね」

提督「じゃあ塩はやめて砂糖にしとくか。こいつが乗ってきた船の燃料タンクに角砂糖五、六個ぶち込んでやれ」

朧「司令官、それはさすがに止めておきましょう」

297: 2017/03/12(日) 23:27:16.79 ID:TTCwSWFAo

 * *

提督「とにかくな、あんたがなんて言おうと、無い袖は振れねえってんだよ」

L少佐「いやいや、それなら装備なり艦娘なりを解体すれば良いじゃないか」

提督「は?」

L少佐「それにだ、この島の南側を見たが、たくさんの単装砲が丘の上に並んでいたね」

L少佐「あれを溶かせば資材なんてすぐ取り戻せるだろう?」ニコー

提督「……」

吹雪「」ドンビキ

朧「」ドンビキ

古鷹「ど、どうしたんですか二人とも!?」

吹雪「いえ、その……L少佐さん、怖いもの知らずというか、地雷原突っ走ってるっていうか」

朧「さっきから司令官の逆鱗をべたべた触りまくってますよ……」

古鷹「えええ!? ど、どうお詫びすれば……」オロオロ

吹雪「この場合、古鷹さんが頭を下げても逆効果だと思います」

朧「司令官、キレたりしないでしょうね……相手は一応少佐なんだから、我慢しないと……」

吹雪「我慢とか無理でしょ……」

朧「うん、アタシもそう思う……」

298: 2017/03/12(日) 23:28:27.49 ID:TTCwSWFAo

L少佐「そういうわけだし、どうだろう? 僕の役に立つのは君にとっても良いことだと思うよ?」

提督「……」

朧(司令官、平然としてる……)

吹雪(真顔なのが逆に怖い……)

提督「……そこまで仰るなら、その資材とやらに案内しましょうか」

L少佐「おお、そうかい! さすが、物分かりがいいね!」

吹雪「ど、どうする気なんだろう……」

朧「ついていこう」

古鷹「私も行きます!」

303: 2017/03/14(火) 22:22:00.75 ID:15EnMR2Vo

 * 北東の砂浜 *

吹雪「……」(提督の着替え籠持参)

朧「……」(手押しの一輪車持参)

古鷹「ふ、二人ともどうしてそんな暗い表情してるんですか!?」

吹雪「……だって……」

朧「……司令官が何をしようとしているかを考えると……」

吹雪「こういうの、なんて言うんだっけ? 人を呪わば穴二つ?」

朧「この場合は、毒を以て毒を制す、かなあ」

古鷹「い、いったい何を言ってるんですか!?」

吹雪「……まあ、普段のお仕事といいますか……」

朧「司令官の日課の一つというか……」

古鷹「?」

L少佐「ふむ、なかなか綺麗なプライベートビーチじゃないか。君にはもったいないね」

L少佐「しかし准尉、今僕が欲しいのは資材であって癒しじゃないんだよ」

提督「吹雪、服を頼む」

吹雪「はいっ」

304: 2017/03/14(火) 22:24:40.70 ID:15EnMR2Vo

古鷹「あの、提督准尉はどちらへ?」

朧「着替えてるんですよ」

L少佐「? 自分で資材調達するつもりかい?」

朧「……あなたにとっては、それに近いものです」ムスッ

古鷹「?」

L少佐「?」

提督(Tシャツ+長めのサーフパンツ+作業靴)「さて、やるか」

L少佐「なんだなんだその恰好は?」

提督「まあ、見ていてください」

 チャプチャプ

L少佐「彼は何をするつもりなのかな?」

朧「とりあえず、司令官の言う通り見ててください」

吹雪「そうすれば、この島がどんな場所か理解できると思いますから」

古鷹「?」

305: 2017/03/14(火) 22:26:29.63 ID:15EnMR2Vo

吹雪「とか言ってるうちに見つけたみたいですね」ハァ

朧「……見つからなければいいのに」ハァ

L少佐「何を言っているんだ君たちは?」

提督「よっ、と」

 ザバーッ

轟沈した艦娘「」

古鷹「!?」ギョッ

L少佐「な、なんだそれは!?」ビクーッ

提督「……『それ』なんて轟沈した艦娘に酷えことを言うなよ。吹雪、こいつの顔を隠してやってくれ」

吹雪「はいっ」ファサ

提督「五体繋がってるだけ、ましな方だな。艤装を外すぞ、朧、一輪車」ガシャガシャッ

朧「はい」ガラガラッ

古鷹「……あの、こういうこと、多いんですか?」

提督「多いな。半年前なら砂浜を埋め尽くさんばかりだった」

吹雪「それを司令官が一人一人埋葬しているんです」

古鷹「ま、埋葬?」

306: 2017/03/14(火) 22:27:38.23 ID:15EnMR2Vo

提督「この辺の浅瀬に埋もれてても、そのうち潮の流れで浜に打ち上げられるからな」

提督「水葬ができねえんで、妖精たちとも話をして丘の上に埋めることに決めた」

L少佐「丘の上……って」

提督「さっきあんたが話していたたくさんの単装砲。それはこいつらの墓標代わりだ」

提督「でだ。さっきの話に戻るが……こいつを解体して、あんたの資材にするってことでいいのか?」ギロリ

L少佐「い、い、いや、まあ、あー、や、やめ、やめておくよ!! は、はははは!」

提督「……じゃあ、資材はうちで出せる最低限。それでいいんだな?」

L少佐「あ、ああ! 十分だとも! そ、それじゃあ、よろしく頼むよ!」ダッ

古鷹「L少佐!? どこへ行くんですか!?」ダッ

朧「逃げた」ジト

吹雪「最悪」ジト

提督「ま、そうなるんじゃねえかと思ってたけどよ」ハァ

轟沈した艦娘「」

提督「悪ぃな、お前をだしに使っちまって……」ナデ

吹雪「……」

提督「……吹雪、どうかしたか?」

吹雪「いえ! なんでもないです!」

提督「?」

吹雪(……この島に来てくれたのが司令官で、本当に良かった……!)

307: 2017/03/14(火) 22:29:08.25 ID:15EnMR2Vo

 * * *

L少佐「やれやれ……とんでもないものを見せられたな」

朝雲「司令官! ここの提督さんとは話がついたの?」

L少佐「ああ、僕らの要求より少ないけどね」

朝雲「それはそうでしょ! いきなり他所様の鎮守府に乗り込んで資材寄越せだなんて、一歩間違えば海賊行為よ?」

L少佐「厳しいなあ朝雲は」

朝雲「司令官が古鷹さんに甘え過ぎなの!」

L少佐「でも、その古鷹を率いている僕の艦隊の主力部隊は高い練度を誇っているわけだよ?」

朝雲「古鷹さん、司令官の身の回りのことばかり気にして、自分の練度がおろそかになってるじゃない!」

L少佐「まあ、彼女は裏方だからね」

朝雲「まったくもう、ああ言えばこう言うし。古鷹さんがいなかったら、この艦隊はどうなってるのよ、もう」

L少佐「おやおや、君は僕の手腕を評価してくれないのかい?」

朝雲「ぶっちゃけ司令官は何もしてないでしょ?」ツーン

L少佐「……朝雲。それは聞き捨てならないぞ? 僕がいなかったらこの艦隊は結成すらできなかった」

L少佐「僕と言う司令官がいるからこそ、この艦隊は成り立っているんだ」

308: 2017/03/14(火) 22:30:41.86 ID:15EnMR2Vo

朝雲「そこまで言うなら、古鷹さんにおんぶにだっこの現状をなんとかしなさいよね!」

朝雲「ほんと、こういうときに叱ってくれるのは妹の霞の役目なんだけど……早くうちに来てくれないかなぁ」


 * 一方 遠征中の朝潮と霞 *

霞「へっくち!」

朝潮「霞!? 風邪ですか!? 熱はありますか!? 鼻紙は持っていますか!?」

霞「騒ぎ過ぎよ! そんなんじゃないわ。ただのくしゃみよ」

朝潮「では鼻の中に異物が入ったんですね! 朝潮が見てあげます!」

霞「やめなさいよ!」


 * 鎮守府 *

古鷹「L少佐! 資材の積み込み完了しました!」

L少佐「ご苦労、古鷹。いつも全部やってもらって悪いね」

 『ぶっちゃけ司令官は何もしてないでしょ?』

 『そこまで言うなら、古鷹さんにおんぶにだっこの現状をなんとかしなさいよね!』

L少佐「……」

L少佐「古鷹。ちょっとここで待っててくれるかな」

古鷹「は、はい?」

311: 2017/03/26(日) 10:59:04.66 ID:v17glkb0o

 * 執務室 *

提督「古鷹を置いていく?」

L少佐「ああ。後日改めてお礼がしたい」

L少佐「もし僕たちに万一のことがあって、それが果たされない時の保険だよ。彼女を担保として欲しいんだ」

提督「……」

L少佐「彼女は働き者だ。お願いすれば何でも言うことを聞いてくれる。この鎮守府にとってもマイナスにはならないはずだよ」

提督「どういう風の吹き回しなんだかな」

L少佐「受けてくれないか?」

提督「……レンタル、ということでなら、だな」

L少佐「良かった! よろしく頼むよ、准尉!」

L少佐「それで……頼まれついでで悪いけど、古鷹を風呂に入れてやってくれないか?」

L少佐「うちの古鷹はワーカホリックでね。束の間の休日ということで、今日くらいはゆっくり骨休めさせてやりたいんだ」

提督「……仕方ねえな」

提督(なにを企んでやがる……?)

312: 2017/03/26(日) 10:59:56.33 ID:v17glkb0o

 * 入渠ドックそばの大浴場 *

古鷹「お風呂を貸していただけるんですか!?」

L少佐「ああ。汗をかいただろうし、服も汚れただろう。しばらくゆっくりしてリフレッシュさせてもらうといい」

L少佐「響と大淀? だったっけ、二人ともよろしく頼むよ」

吹雪「吹雪です。『ひ』じゃなくて『ふ』です」

朧「アタシに至っては艦種も違うし」

L少佐「まあまあ、細かいことは気にしない気にしない」ニコニコー

吹雪(よくこれで提督業できるなあ)

朧(すごく不安なんだけど)

313: 2017/03/26(日) 11:00:50.08 ID:v17glkb0o

 * 埠頭 *

L少佐「准尉、見送りご苦労。君の働きのおかげで観艦式の成功が盤石となったよ」

提督「……(ほんとかよ)」コク

L少佐「観艦式の成功の暁には、僕の勲章を見せてあげようじゃないか」

提督「……(もう来んな)」

L少佐「まあ、楽しみにしていたまえ。では、出航!」

提督「……(おう、とっとと出てけ)」ケイレイ

 船 < ブォーン ザァァァァ…

提督「……」

提督「……ったく、やっと行きやがったか。うぜえったらねえな、くそが」

妖精「古鷹さんを置いていくとか、何を考えているんだろうね?」ヒョコッ

提督「さあな。奴の考えてることはさっぱりだ」

提督「あいつ、考えがあると思わせぶりにしておいて、何も考えてねえって感じなんだよな。無能な政治家と同じにおいがするぜ」

妖精「……本当に、置いていって大丈夫だったんだろうね?」

提督「……言うなよ。俺まで不安になってきた」

314: 2017/03/26(日) 11:02:35.45 ID:v17glkb0o

 * *

L少佐「まったく、みな古鷹古鷹と……この僕の手腕を評価しないなんて、みんな目玉が節穴だ」

L少佐「古鷹がいなくとも、この僕が観艦式を立派に取り仕切って見せようじゃないか!」

L少佐「ふふふ、はっはっはっは……!!」


 * 日没 執務室 *

吹雪「司令官! 古鷹さんを連れてきました!」

古鷹「こんなにゆっくりさせて戴いてありがとうございます! あの、こんなにして戴いて、良かったんでしょうか」

提督「気にすんな。まあ、今のところ何もすることはねえし、しばらく適当に歓談してな」

古鷹「いえ、そうも言っていられません、そろそろL少佐の船に戻ってお仕事を……」

提督「……あ?」

古鷹「はい?」

提督「……ちょっと待て。お前、あいつにここに残るように指示されてねえのか?」

古鷹「ええええ!? そ、そんな話聞いていませんよ!?」

提督「……おい、どういうことだよ。っつうか、とんでもねえミスだぞこりゃあ」

提督「大淀いるか!!」

古鷹「……」ボーゼン

吹雪「あ、あの、古鷹さん!? 古鷹さん!?」

315: 2017/03/26(日) 11:03:19.59 ID:v17glkb0o

 * 一方 L少佐の船 *

L少佐「うんうん、順調順調。この調子なら明日朝の観艦式には間に合いそうだな」

朝雲「ねえ、司令官。古鷹さんの姿が見えないんだけど、どこに行ったの?」

L少佐「古鷹なら、さっき立ち寄った鎮守府に置いてきたよ」

朝雲「……は?」

L少佐「なあに、心配ないよ。何も問題なくことが進んでるじゃないか」

朝雲「……何を言ってるのよ。観艦式に古鷹さんがいないってどういうことなの!?」

L少佐「何を言っているんだ。もともと古鷹は観艦式には出ない予定だったろう」

朝雲「そういう意味じゃないわ! この艦隊が……司令官が今までやってこれたのは古鷹さんがいたからこそでしょ!?」

朝雲「その功労者をほったらかしにして何が観艦式なの!? 冗談じゃないわ!」ダッ

L少佐「朝雲!? どこへ行くんだ!」

朝雲「決まってるわ! 古鷹さんを迎えに行くの!!」ザシャァァァァ

L少佐「だ、駄目だ! 戻ってこい!! 朝雲ーーーー!!」


316: 2017/03/26(日) 11:04:35.86 ID:v17glkb0o

 * 墓場島鎮守府 *

古鷹「すぐにL少佐の船に戻らないと!」

提督「そこまで急ぐ理由はなんだ?」

古鷹「今L少佐が乗っている船は、資材を運ぶ輸送船も兼ねています。その輸送物資の金庫の鍵を私が持ってるんです!」

提督「……つまり、お前がいないと補給物資が使えない」

古鷹「観艦式のときに使う燃料なども、絶対に不足します!!」

提督「……バカジャネーノ、アイツ」

古鷹「……すみません!! 私、これからL少佐の船を追いかけます!」ダッ

吹雪「えええ!? ふ、古鷹さん!? ど、どうしましょう? 確かにL少佐の自業自得ではあるんですが……」

提督「うちが手助けしてやる義理はねえんだがな」

吹雪「かといって見捨てたりしたら……えっと、あの、き、きっとこの鎮守府に文句を言う人がいますよ!?」

提督「……面倒くせえな」ハァァ

吹雪「司令官!!」

提督「……吹雪。神通と由良、比叡を呼んでこい」

吹雪「!」

提督「旗艦はお前だ。古鷹を連れて奴の船に送り返せ」

吹雪「はいっ! 了解しました、行ってきます!」ビシッ ダダッ

提督「……ったく、どこまで甘えんだ俺は」

317: 2017/03/26(日) 11:06:08.88 ID:v17glkb0o

 * それからしばらくして *

提督「奴の船から返事は」

大淀「いえ、まだ来ません。電文を六回ほど打っていますが、未だ返信がありません」

提督「……なにやってんだあの野郎は」

大淀「提督、中将へ連絡してみてはどうしましょう」

提督「……それしかなさそうだな。L少佐の不始末だ、そう伝えろ」

大淀「はいっ!」

吹雪「司令官! 出撃準備できました!」

提督「揃ったか? よし、とっとと行ってこい」

吹雪「了解です!!」ビシッ


 * * *

提督「……」

大淀「……」ソワソワ

朧「……」イライラ

大淀「……」ソワソワ

朧「……」イライラ

提督「……はぁ。だっる」

318: 2017/03/26(日) 11:08:14.77 ID:v17glkb0o

朧「……司令官」

提督「ん? なんだ」

朧「どうして吹雪を行かせたんですか」

提督「どうしてもなにも、どう見ても行きたがってたろあいつ」

朧「朧は納得いきません。置いて行かれた古鷹さんも古鷹さんです。どうして身勝手なあの人を助けようとするんですか」

提督「そんなん知らねえよ」

朧「司令官は、それで納得できるんですか」

提督「納得するもしないもねえな。そいつがやりたいことをやらせてるだけだ、勝手にやれってこった」

提督「それとも、行くなと言えばいいのか? 邪魔すりゃあ良かったのか?」

朧「……あの人は、ちょっとくらい、痛い目を見ればいいんです」

提督「……まあ、俺もそういう気持ちはある」

提督「が、助けたいって思ってる奴がいる以上は、そっちを優先するかな。別段、氏ねと言うほど憎い相手でもねえし」

朧「……」

提督「お前は、気に入らないんだろうけどな」

319: 2017/03/26(日) 11:09:10.49 ID:v17glkb0o

 通信機 < RRRR...

大淀「!」ガチャッ

朧「!」

大淀「もしもし!!」

提督「来たか」

大淀「……」

提督「悪い方に転んでるみてえだな」

朧「それはそれで腹が立ちますね」

提督「手を尽くそうとしたからには、良い結果が出て欲しい、ってか」

朧「他人の不幸を笑いの種に出来るほど腐ってもいませんから」


 * 鎮守府 埠頭 *

吹雪「すみません、司令官……」

提督「いい。話は聞いた、急いでそいつをドックに連れて行け」

吹雪「はい! 急ぎましょう古鷹さん!」

朝雲を背負った古鷹「しっかりして、朝雲さん!」

朝雲(大破)「……」

提督「で、奴の船には追いつけず、か」

神通「はい。途中、戦闘していた彼女が大破したのを見て、そこからL少佐の船を追いかけるのは危険でしたから」

比叡「彼女を助けるには、引き返すしかありませんでした」

提督「ったく……あの野郎どこまで馬鹿なんだ、くそが」

320: 2017/03/26(日) 11:11:21.11 ID:v17glkb0o

 * 翌朝 *

大淀「提督。中将からの電文が届きました」スッ

提督「ん」ガサガサ ペラリ

大淀「……」

提督「……奴の観艦式は、なんとかなったみたいだな」

大淀「!」

提督「中将が資材を肩代わりしたらしい。その代わり、L少佐は降格処分だと。ほれ」スッ

大淀「……そうですか……」ペラッ

提督「まあ、当然だな。中将の手を煩わせて赤っ恥もかいたし、この程度で済んで良かったじゃねえか」

大淀「ご不満のようですね」

提督「まーな。もっと大っぴらに失敗して後ろ指でも指されてりゃいいんだよ、ああいうのは」

大淀「……! 提督?」

提督「? なんだ」

大淀「こちらの一文……」

提督「なに? ……『重巡洋艦古鷹、及び、駆逐艦朝雲は異動、提督准尉配下の艦娘とする』……だと?」

吹雪「本当ですか司令官!!」ガチャバーン!

朝潮「新しい朝潮型の着任と聞いてご挨拶に参りました!」バーン!

霞「ちょっと朝潮! 少し落ち着きなさいよ!!」

吹雪「古鷹さーん! この鎮守府へ異動だそうですよー!」

古鷹「えっ!? そ、それじゃあ、この方が私の新しい提督なんですか!?」

朧「……」

提督「……なんだろうな? この形容しがたい漠然とした不安感は」

321: 2017/03/26(日) 11:14:19.99 ID:v17glkb0o
今回はここまで。
というわけで古鷹と朝雲が着任です。

古鷹:お人よし過ぎて自分の練度が上がらない上、観艦式において行かれた ←New!
朝雲:観艦式に向かう途中で艦隊を離脱して古鷹を追いかけ大破する ←New!


本当の騒動はここから。

322: 2017/03/27(月) 00:15:42.09 ID:ssQnwxmb0

何企んでるかと思ったらただのおバカさんだったか…

323: 2017/03/27(月) 01:26:48.21 ID:kgjVuJu80
アクティブな無能ほど害になるもんは居ねえからな
この程度で済んで良かったんじゃねえかな?
こんなの子飼いにしようとする奴ももれなく無能だろうし

324: 2017/03/27(月) 12:32:44.57 ID:TrWmtapKO
ここの提督有能だからお仕事なくて存在意義について悩みそうだな


続き:提督「墓場島鎮守府?」【中編】


引用: 提督「墓場島鎮守府?」