325:◆EyREdFoqVQ 2017/04/02(日) 21:01:37.71 ID:2MGGBWBPo
326: 2017/04/02(日) 21:04:45.61 ID:2MGGBWBPo
吹雪「古鷹さんが書記艦補佐?」
朧「この鎮守府になじむ練習がしたいんだって。メインの書記艦の霞がいるから、あまり変なことはしないと思うけど」
吹雪「何でか知らないけど、心配だなあ……」
朧「吹雪もそう思うんだ……アタシもそう思う」
* 翌朝 提督の私室 *
提督「……ん」パチ
提督「何時だ……」
目覚まし時計「マルゴーフタゴー」
提督「……起きるか」
提督「……」キガエキガエ
提督「……?」
目覚まし時計「マルゴーサンサン」
提督「……5時半にしてた目覚まし時計のアラームの設定が変わってるだと?」
提督「俺、変えてねえよな……8時半とか遅すぎるだろ」セッテイシナオシ
327: 2017/04/02(日) 21:05:57.66 ID:2MGGBWBPo
* 廊下 *
廊下 < ピカァ…
提督「なんだこりゃ」
古鷹「あっ、提督! おはようございます! お早いんですね!」
提督「ああ……お前の仕業か、これ」
古鷹「はい! 張り切ってお掃除してみました!」
提督「どうやったらここまでできるんだよ」
古鷹「夜のうちに済ませておいたんです。それで、申し訳ないんですが……」
提督「? なんだ」
古鷹「実はワックスや雑巾が足りなくなってしまいまして。追加で購入したいんですがお願いできないでしょうか?」
提督「……考えとくが、別にそこまでしなくていいぞ?」
328: 2017/04/02(日) 21:06:54.31 ID:2MGGBWBPo
* 執務室 *
提督「……なんだ?」
古鷹「あっ、執務室もお掃除させていただきました!」
提督「……机の上にあった書類はどうした」
古鷹「それはこちらの棚に!」
提督「算盤はどこへやった」
古鷹「こっちの机の中に入ってます!」
提督「……」
提督「妖精、いるか?」
島妖精D「ふわぁい……」ムニャ
島妖精F「なーに……?」ムニャ
提督「……何があった」
島妖精A「いや、実はだな……」
329: 2017/04/02(日) 21:10:20.93 ID:2MGGBWBPo
* * *
提督「つまり、古鷹は前の鎮守府と同じ感覚で掃除と整理整頓をやってたと」
島妖精A「ああ。私たちが止めるのも聞かず、夜のうちに一人で大掃除を始めたようなものだ」
提督「俺が決めた場所に置いていたものを勝手に入れ替えたのも、その一環だと」
島妖精A「みたいだな」
古鷹「す、すみません! つい、L少佐の鎮守府と同じ感覚でお仕事をしてしまいまして」
霞「どこまで古鷹さんに任せてたのよあのクズは……」
提督「古鷹、やりすぎだ。俺の机は勝手に触るな。重要書類をどこかに持っていかれたらたまったもんじゃねえ」
古鷹「は、はい。一応、前の鎮守府では喜ばれてたんですが……」
提督「ここにゃここのルールがある。勝手に物の置き場所を変えるんじゃねえよ」
古鷹「す、すみません」
霞「……初回だけなら、あまりきつく言わないほうがいいんじゃないの?」
提督「なあ霞? お前、厨房の食器と調理器具の場所が全部違ってたらどうするよ?」
霞「なにそれ……そこまでやったの?」
提督「ついでに調味料もな。電が砂糖と塩を間違えそうになってたのを比叡がとめてたって暁から報告があったぞ」
提督「おかげで朝餉の準備も遅れるそうだ」
霞「……」
330: 2017/04/02(日) 21:11:27.35 ID:2MGGBWBPo
古鷹「それなんですが提督、比叡さんがお料理作ったら大変なことになりますよ!?」
提督「それもお前の勝手な思い込みだ。比叡が料理できないのは余所の話で、うちの比叡は別だ」
古鷹「そ、そうなんですか!?」
霞「……まるであのときの長門さんみたいになってるわね」
バタバタバタ
長門「提督、失礼する、長門と明石だ」トトトン
提督「噂をすれば、か。入れ」
長門「提督、保管しておいた布がなくなっているんだが、しらないか!?」ガチャ
提督「もしかして、掃除で全部使ったとかじゃないだろうな……」
明石「工廠の工具も! 置き場所がばらばらでどこに何があるかわからないんです!」
提督「……古鷹……」
古鷹「すみません! 本当にすみません!」ペコペコペコ
提督「……なあ、奴の鎮守府の連中はここまで古鷹に世話してもらわねえと何も出来なかったのか?」
霞「……目眩がしてくるわね」
331: 2017/04/02(日) 21:12:17.49 ID:2MGGBWBPo
* 食堂 *
ワイワイ ガヤガヤ
提督「とにかく、余計な真似はするな。何か手伝って欲しいときは呼ぶ」
古鷹「本当にすみません……」ションボリ
提督(いくら善意からお節介焼いてるとはいえ、ここまで常識外れだとはな……)
提督(最悪、一般常識から教育し直さなくちゃならないとかなったりしねえだろうな?)
霞「なに難しい顔してんのよ」
提督「わかってんだろ、察しろよ……ところで朝雲の具合はどうだ」
霞「もう八割方いいんじゃないかしら。大事を取ってまだ休養室にいるけど」
提督「じゃあ、普通の飯も食えそうだな? 後で持って行ってやるか」
古鷹「あ、私も行きます!」
提督「……ああ」
霞「……あんた、今の間は」
提督「わかってんだろ、察しろよ……」ハァ
霞(まあ、不安よね)ハァ
332: 2017/04/02(日) 21:13:49.64 ID:2MGGBWBPo
比叡「あっ、提督すみません、朝餉の準備、遅くなってしまいました!」
提督「いいよ、気にすんな。とりあえず元に戻ったのか?」ゴハンウケトリ
比叡「はい! 大丈夫です!」
古鷹「うう、すみません、ご迷惑おかけしました」ペコペコ
比叡「いえいえ、置き場所が変わってた以外は、厨房も綺麗になってましたし!」
比叡「次から改めて、お手伝いをお願いします!」
古鷹「あ、ありがとうございます!」パァ
提督「……こういうのを大人の対応っつうんだろうなあ」
霞「……なんで私に言うのよ」
提督「このくらい同意を求めてもいいだろ。とりあえず飯にすっか……」
霞「そうね……」
古鷹「提督、右隣の席に失礼しますね」
提督「ん? あ、ああ」
霞(……なんか、また嫌な予感が)
古鷹「♪」チャッ
提督「おい古鷹。それ、俺の箸……」
333: 2017/04/02(日) 21:15:14.04 ID:2MGGBWBPo
古鷹「提督、はい、あーん」ニコー
提督「!?」ピキッ
如月「!?」カシャーン(箸を落とした音)
神通「!?」バキィ(箸を圧し折った音)
敷波「んがぐっ!? げほ! げっほ!」ドンドンドン
吹雪「し、敷波ちゃん大丈夫!?」セナカサスリ
不知火「」ブボァ
初春「」ブボァ
暁「」ベチャア
由良「暁ちゃん!? ちょっと待って、今拭く物を持ってくるから……きゃあ!?」ガシャーン
朧「由良さん!?」
潮「」ポカーン
長門「」ポカーン
電「はわわわ!? し、司令官さん!? 古鷹さんと何があったのです!?」
334: 2017/04/02(日) 21:16:01.89 ID:2MGGBWBPo
明石「ごめんね大淀も朝潮ちゃんも朝から手伝ってもらって……って、なにがあったのこれ」
朝潮「どうして古鷹さんが司令官のご飯を持ってるんですか?」
大淀「あの、提督? 提督!?」ユサユサ
提督「」コウチョク
霞「この……しっかりしなさいよ! このクズ!!」ガスッ
提督「ぐお!? な、なにしやがる霞!」
霞「この程度でフリーズするとか、軟弱なのよ!」
提督「軟弱って言うのかよこれは! びっくりしすぎて固まるわこんなもん!」
古鷹「あの、提督? あーんしないんですか?」
提督「自分で食うから。箸をおいて、お前はお前で食べろ……」ハァァァ…
如月「そうよ! 司令官に『はい、あーん♪』ってしてあげるのは私の役目なんだから!」バーン!
提督「如月も落ち着けよ……」グッタリ
335: 2017/04/02(日) 21:16:46.93 ID:2MGGBWBPo
* 執務室 *
提督「……」カリカリカリ
霞「……」カリカリ
古鷹「……」ペラリペラリ
提督「……これで終わり、と。どうだ、霞」
霞「……ふん、いいんじゃない。無難だと思うわ」
古鷹「……へえ、すごいですね提督! 拝見させて戴きましたが、誤字もないし!」
提督「普通だろ?」
霞「普通よ?」
古鷹「いえ、とても素晴らしいと思います! 提督、よくできました」ナデナデ
提督「!?」
霞「!?」
古鷹「しかもこんなに早く仕事を終わらせられるなんて!」ダキツキナデナデ
提督「!?」シロメ
霞「!?」シロメ
336: 2017/04/02(日) 21:17:20.51 ID:2MGGBWBPo
古鷹「あっ、この資料、早速大淀さんに提出してきますね!」
古鷹「~♪」タタタッ
霞「……」
提督「……」
霞「……はっ!? ち、ちょっと! あんた鼻の下伸ばして……」
提督「……」アタマカカエ
霞「……ない、わね……どうしたのよ」
提督「……あ、あいつは、いったいなんなんだ?」
霞「……は?」
提督「だってわけわかんねえだろ! あれが褒められるようなことなのか!?」ツクエバーン!
霞「とりあえず落ち着きなさいよ……あんたがそこまで取り乱してるところ、初めて見るわ」
337: 2017/04/02(日) 21:18:12.59 ID:2MGGBWBPo
* トイレ(個室) *
提督「ったく、参ったぜ……」カチャカチャ
古鷹「提督! 紙はありますか!? ちゃんと拭けてますか!?」ウエカラヒョコッ
提督「入ってくんな!!」
* 風呂 *
古鷹「提督! お体洗って差し上げますね!」マッパ
提督「出てけ! あと前隠せ!!」
如月「そうよ! 私が洗ってあげるんだから!」バスタオルマキ
提督「如月もだ!!」
* 寝室 *
古鷹「提督、子守唄歌って差し上げますね!」ガシッ
提督「いやもういいから自分の布団で寝ろよ……」
古鷹「寝付くまでだっこしててあげますから!」ギュー
提督「頼むから一人で寝かせてくれ……」グッタリ
如月「古鷹さん、司令官から離れてー!!」グイグイ
338: 2017/04/02(日) 21:19:21.02 ID:2MGGBWBPo
* 翌朝の執務室 *
提督「眠ってえぞ、くそが……」ゲッソリ
霞「……ちょっと。大丈夫なの?」
提督「……いつもなら『体調管理も仕事のうち』とか言うくせに、どうした」
霞「さすがに昨日一日の様子を見てたら、そんなこと言えないわ。どう考えてもあの古鷹さんの過保護が過ぎてるんだもの」
霞「あんたが気を付けてどうこうできるとも、あんたに説教して事態が変わるとも思えないし?」
提督「言って聞かねえ奴ほど面倒くせえもんはねえな……」
扉 < コンコン
敷波「しれーかーん、なにかお薬いる? 頭痛薬とか胃薬とかさ」ガチャ
提督「……あー、大丈夫だ、寝りゃあ治る。心配させて悪いな」
敷波「まあ、霞が一緒なら体調でも仕事でも心配はいらないんだろうけどさぁ……」
提督「で、連れてきたのか?」
敷波「うん。入ってー」
朝雲「失礼します。やっぱり、古鷹さんがご迷惑かけてるのかしら……」
霞「朝雲! 体はもう大丈夫なの?」
朝雲「うん。それより、こんなに素直な霞、見たことないんだけど……なにかあったの?」
339: 2017/04/02(日) 21:23:20.07 ID:2MGGBWBPo
提督「? 余所の霞は素直じゃないのか?」
朝雲「私が知る限りは、どんくさい司令官のおしりを蹴飛ばしながら『クズ』って罵ってるイメージがあるわね」
提督「まあ、クズ呼ばわりはあったな。事実だから気にしてねえけど」
霞「こんな感じで自分で自分のことクズって呼んでんだもの、蛙の面に水じゃ言うだけ無駄よ」
霞「それに、司令官は仕事できないわけじゃないの。理由なく蹴飛ばしてたら私がクズになるじゃない」
提督「霞は秘書官やらせりゃ仕事も早え。助かってるから俺もやる気にはなる」
霞「私以外の時もやる気を出して欲しいんだけど?」ジロ
提督「お前が一番事務仕事早えから、捗ってるってだけだ。俺の仕事の速さは変えてねえ」
敷波(なにイチャついてんだか)ムスー
朝雲「ふぅん……少なくとも、俗にいうダメ提督ではなさそうね」
朝雲「そうなると、古鷹さんはこの鎮守府には馴染めなさそう……最悪、毒になるのかしら」
提督「毒?」
340: 2017/04/02(日) 21:23:48.06 ID:2MGGBWBPo
朝雲「ええ。呆れるくらい人に親切にするのがうちの古鷹さん。それで堕落したのがL少佐」
朝雲「L少佐がだらければだらけるほど、古鷹さんが世話を焼いて、何もしなくなる悪循環」
朝雲「一見、鎮守府がちゃんと機能しているように見えるから、猶更たちが悪いの」
提督「……冗談じゃねえぞ」ゾワ
霞「……これは、なんとかする必要がありそうね」
敷波「なんとかって、どうする気?」
提督「……俺の今の状況が苦痛だってことを理解してもらえればいいんだよな」
霞「それができれば苦労しないわね」
提督「いいや、わかってもらおうじゃねえか。……絶対、わからせてやる」ギリギリギリ
霞(なんて顔してんのよ……)
342: 2017/04/10(月) 19:06:54.31 ID:laONG6Slo
続きを投下します。
343: 2017/04/10(月) 19:07:47.99 ID:laONG6Slo
* 翌朝 *
古鷹「……ん、んんんっ……?」ジャラン
(ベッドの上で鎖で拘束されている古鷹)
古鷹「え? な、なに? いったいなにが……?」モゾモゾジャラジャラ
吹雪「おはようございます古鷹さん!」ドアガチャ
古鷹「吹雪さん!? こ、これは一体、なにがあったんですか!?」
吹雪「古鷹さん、今日からこの吹雪が、古鷹さんの身の回りのお世話をさせていただきます!」ビシッ
古鷹「え!?」
吹雪「これから古鷹さんの歯磨きと洗顔をさせていただきますね!」
古鷹「えええ!?」
吹雪「? どうかしましたか?」
古鷹「そ、そのくらいなら、私が自分でできますから、この鎖を解いてくれませんか?」
吹雪「それはできないです。司令官の指示ですから」
古鷹「て、提督の!?」
344: 2017/04/10(月) 19:08:32.66 ID:laONG6Slo
吹雪「これ以上、古鷹さんに苦労はかけさせられない。前の鎮守府で苦労した分を、ここで取り戻してもらおうという司令官の配慮です!」
古鷹「そ、そんな! 私はそれを苦労だなんて……」
吹雪「古鷹さん、無理しなくていいんですよ。さ、お湯が冷めちゃいますから、温かいタオルで顔を拭きましょう!」
古鷹「ふ、吹雪さ……わぷっ!?」
吹雪「終わったら歯磨きしますから、口をあけてくださいね~」
* *
古鷹(結局、ドライヤーまでかけてもらっちゃった……)
古鷹(うう、こんなことしてる場合じゃないのに……提督、ちゃんと朝餉を食べてるのかな……)
吹雪「古鷹さん! 朝餉をお持ちしました!」
古鷹「え!? も、もしかして」
吹雪「はい! 私がお手伝い致します! あーんしてください!」ニコッ
古鷹「」
* *
345: 2017/04/10(月) 19:12:01.77 ID:laONG6Slo
霞「……つまり、古鷹さんがああなったのは、演習相手の秘書艦からアドバイスを受けた結果、なのね」
朝雲「ええ。そこまでいくと過保護通り越して、介護って感じなんだけど」
朝雲「その秘書艦が言うには、殆ど付きっ切りでお世話してるみたいなの。昨日司令官にやったみたいにね」
提督「そこまでするのかよ……たまったもんじゃねえ」ウエッ
霞「私もにわかに信じられないんだけど。朝雲、その話は本当なの?」
朝雲「ええ、古鷹さんに直接聞いたし、間違いないわ」
提督「何やってんだよ、その演習先の司令官はよぉ……」
朝雲「私もそう思うけど、余所の鎮守府の事情に首を突っ込むわけにもいかないし……そもそも突っ込みたいと思わないし」
提督「確かにな。俺もそんな奴らだってわかってたら、関わり合いにすらなりたくねえや」
霞「……思ったんだけど、あんたもどっちかというと世話焼きタイプじゃないの?」
提督「あ?」
霞「なんだかんだ言って、私たちのこと気遣ってくれてるわよね。些細なことでも助けてと言われたら、ちゃんと助けてくれるし」
提督「一応この鎮守府任されてる立場だからな。それに共同生活してるんだから、ある程度は当然だろ」
346: 2017/04/10(月) 19:13:44.70 ID:laONG6Slo
霞「そう思うんなら何か頼まれるたびに『面倒くさい』って言うのやめなさいよ。あとくそくそ言うのも禁止!」
提督「あ? 嫌だよ面倒くせえなくそが」
霞「そういう風に言うんじゃないわよ! その口が悪いって言ってんの! 少しは直そうとしなさいよねこのクズ!!」
提督「マジ面倒くせえ。つうか俺クズだからクズらしくしてるわ」
霞「そうやって人をおちょくるのもいい加減にしなさいよ! あんたそういうところは子供っぽいんだから!」
朝雲(傍から見てるとイチャついてるようにしか見えないんだけどなー)
神通「本当、仲良しに見えますよね」
朝雲「!?」ギョッ
提督「神通、人の背後取って考えてること言うのやめてやれ。あと誰が仲良しだ、誰が」
神通「失礼しました。ところで、吹雪さんの件ですが……」
提督「今は古鷹の対応してるから悪いが、訓練の参加は見合わせだ。そのうち回り番にして、吹雪は復帰させる」
神通「……ですが、吹雪さんほど甲斐甲斐しいお世話ができる子もいないと思います」
霞「吹雪には、船の時の記憶もあるから猶更ね。一緒に出撃したことのある古鷹さんが相手だから張り切ってるとも言えるわよ?」
提督「なんだよ……因縁浅からぬ相手だってか。そりゃ面倒だな」
347: 2017/04/10(月) 19:14:53.76 ID:laONG6Slo
* 一方その頃 *
吹雪「古鷹さん! ご本をお持ちしました! 読み聞かせてあげますね!」
吹雪「古鷹さん! おトイレは大丈夫ですか! おまる持ってきました!」
吹雪「古鷹さん! お昼寝の時間です! 子守歌を歌いますね!」
吹雪「古鷹さん!」
吹雪「古鷹さん!」
吹雪「古鷹さん!!」
古鷹「」
348: 2017/04/10(月) 19:16:28.41 ID:laONG6Slo
* そして次の日の昼 *
提督「もう少し時間がかかりそうだと思ったんだけどなあ……」
朝雲「そうね……」
古鷹「ごめんなさい! 本当にごめんなさい!!」ナミダメ
提督「おい吹雪、お前古鷹に何しやがった」
吹雪「ええと、朝起きたら歯磨き洗顔ブラッシングして朝餉、そのあとストレッチと簡単な筋トレして砲撃訓練で古鷹さんは見学で……」
提督「その辺は神通の教育の賜物だなおい」
吹雪「で、昼餉を取ったらお昼寝の時間で子守歌歌って本を読み聞かせして夕餉を取ったらお風呂入ってお話ししてまた子守歌歌って就寝ですね!」
提督「……こいつもお世話大好き艦娘の予備軍じゃねえか?」タラリ
朝雲「否定できないわ」
吹雪「あ、勿論下のお世話も」
古鷹「やめてえええええ!!」ナミダジョバーー
提督「おいやめろ吹雪。朝雲も何をしてたか言ったのお前だろ、なんとかしろ」
朝雲「私じゃないわよ、おおもとの発案者はダメ提督製造機の駆逐艦よ」
提督「つうかここまで吹雪が暴走するとは思わなかったぞ、くそが」
349: 2017/04/10(月) 19:17:47.24 ID:laONG6Slo
吹雪「司令官! 明日も古鷹さんのお世話しますね!!」ランラン
古鷹「も、もう結構です! 私がやり過ぎてたこと、わかりました! 十分わかりましたから!!」
提督「おい吹雪」
吹雪「お世話続けていいですよね!!」
提督「……吹雪」
吹雪「いいですよね!!!」ギラギラッ
提督「……」ハァ
バッチィィィィンン!
朝雲「」
古鷹「」
霞「ちょっ、何の音よ!」ドタドタ
朧「なにかあったんですか!?」バタバタ
吹雪「」キュウ…
朧「吹雪が倒れてる!」
霞「あんた、吹雪になにしたのよ!」
朝雲「……でこぴん」
霞「は?」
朝雲「今、この人のでこぴんで、吹雪が吹っ飛んたの……」ガクブル
提督「手加減忘れてた」フン
朧「」
霞「」
356: 2017/04/15(土) 08:54:45.29 ID:lGzsQfkLo
* 休養室 *
吹雪「……」(←ベッドに寝かされている)
提督(吹雪の額のタオルを取り換えつつ)「吹雪が暴走した理由には心当たりがある」
古鷹「と、いいますと……」
提督「吹雪は捨て艦だ。轟沈してこの島の海岸に流れ着いた」
朝雲「轟沈経験艦、ですか」
提督「そういう奴ばっかなんだ、この島は」
提督「で、吹雪は前の鎮守府の司令官に、自分の成長を認めてもらいたくて頑張ってる」
提督「誰かに認められたい、求められたい、頼られたい。そういう欲求が吹雪を暴走させたんじゃねえのかね」
朝雲「……」
古鷹「……私も、そうだったんでしょうか」
提督「朝雲の話を聞く限りだが、お前は見返りを求めてねえ感じがするな」
提督「お前は単純に人がいいだけだ。自分が人の役に立てばいい。それで満足するタイプなんだろうな」
朝雲「……確かに、そんなきらいはありますね」
提督「ただ、それが本当にその人に求められているものかどうかを考えずに行動してる。その独り善がりの結果がこうなんだろ」
古鷹「本当にすみませんでした……」
357: 2017/04/15(土) 08:55:53.49 ID:lGzsQfkLo
提督「自分がされて嫌なことはすんな、って話だ。それさえわかりゃ、この件で俺から言うことは何もねえ」
提督「……あと、これはお節介で一応言っておくけどな。古鷹お前、もう少し自分が女だって自覚を持て」
古鷹「は、はい? それはどういう……」
提督「俺の背中流そうとしてたとき、裸だったろ……」アタマガリガリ
古鷹「?」クビカシゲ
提督「おい朝雲。古鷹って前からこうだったのか? どういう思考回路してんだこいつ」アタマカカエ
朝雲「こ、ここまで酷いとは思ってなかったわ」アタマカカエ
提督「まさか、前の鎮守府でもこんなんやってたわけじゃねえだろうな」
古鷹「いえ、それはL少佐に頑なに固辞されました。憲兵さんに見つかるとまずいから、って」
提督「あー、そーいやそーだったなー憲兵いねーんだもんなーここ(棒」
朝雲「ちょっ!? 憲兵不在って、それどういうこと!?」
提督「その説明は後でな。で、憲兵がいなかったら真っ裸でL少佐の背中流してたのか?」
古鷹「はい!」ニコー
358: 2017/04/15(土) 08:57:59.83 ID:lGzsQfkLo
提督「襲われたりとか、そういう想定はしてねえのかよ」
古鷹「大丈夫です、提督になる人に、そんな悪い人や自分の欲望に負ける人はいらっしゃいませんから!」
提督「おい朝雲。こいつは穢れを知らない天使か? それとも悟りを開いた坊主か? 善人過ぎるにもほどがあるだろ」ズツウ
朝雲「……私もここまで箱入りで従順な重巡だったなんて思いもしなかったわ」ズツウ
古鷹「重巡洋艦のいいところ、たくさん知ってもらえると嬉しいです!」
提督「うるせえよ!!」
吹雪「ぷ……くすくす……」
提督「! 目が覚めたのか? 吹雪」
吹雪「ふふっ……すみません、司令官」ムクッ
提督「悪かったな。お前の様子があんまりひどいもんで、手加減しなかった」
吹雪「いえ、私も調子に乗りすぎましたし……すみませんでした」
古鷹「ふ、吹雪……さん」タジッ
吹雪「あ、だ、大丈夫ですよ古鷹さん。必要以上にお世話されることの大変さを、古鷹さんに知ってもらいたくてやった演技ですから」
提督「終盤は演技じゃなくなりつつあったけどな」
359: 2017/04/15(土) 09:00:04.54 ID:lGzsQfkLo
吹雪「あはは……も、もう大丈夫です。目が覚めましたから」
古鷹「そ、そう、良かった……」ホッ
吹雪「でも、男性の前で裸になるのは本当に控えたほうがいいですよ? 夫婦とか、恋人同士の間柄ならわかりますけど」
古鷹「……」
朝雲「まあ、それが普通よね。男性はどうだかしらないけど」
提督「男だって着替えを見られるのは抵抗あるぞ。俺だって着替える時はドアを閉めるし、物陰に隠れる」
古鷹「……ふ……」
吹雪「?」
朝雲「古鷹さん?」
古鷹「……夫婦、ですか……!?////」カオマッカ
吹雪「……」
朝雲「……」
提督「……」
古鷹「……そっ、それか、こい、びと……!?////」ユゲボシューーー
提督「おい、こいつどんだけ煩悩と縁遠い生活してたんだ。純情とかウブとかいうレベルじゃねえぞ」グッタリ
朝雲「私だってこんなに極端な人だったなんて思いたくなかったわ」グッタリ
360: 2017/04/15(土) 09:01:58.71 ID:lGzsQfkLo
古鷹「あ、あの、提督さん!!」セイザ
提督「……あ?」
古鷹「ふ、ふ、不束者ですが! よ、よ、よろしくお願いしますっっ!!」ミツユビソロエテ
吹雪「」
朝雲「」
提督「……おい誰かなんとかしろよ面倒くせえったらねえぞくそがああああ!!!」ウガーー
吹雪「司令官!?」
朝雲「古鷹さん落ち着いて!? いろいろ手順を吹っ飛ばし過ぎよ!?」
古鷹「で、で、でも、もう提督に裸見せちゃったしーー!?」オロオロオロオロ
如月「司令官!? 私を差し置いて古鷹さんとなにがあったのーー!?」バーン!
潮「き、如月ちゃん、落ち着いてーー!?」オロオロオロオロ
朝潮「ふ、吹雪さん、この状況は一体……」
吹雪「あははは……説明するの、すっごい面倒くさい」ゲンナリ
朧(吹雪が司令官に似てきた!?)
神通「本当、言い方がそっくりでしたね」
朧「!?」ギョッ
361: 2017/04/15(土) 09:03:38.48 ID:lGzsQfkLo
* 10日後 鎮守府埠頭 *
L少佐→L中尉「提督准尉! 本当に、本当に申し訳ありませんでした!!」ドゲザ
提督「……」
古鷹「L少佐!? その頭はどうしたんですか!?」
朝雲「綺麗さっぱり丸刈りにしちゃって……」
L中尉「ああ、古鷹! いまの僕は少佐ではなく中尉だよ。聞いての通り、降格処分を受けたんだ」
L中尉「君たちには本当に迷惑をかけた。本当にすまなかった!!」ドゲザ
提督「で、こっちの荷物はどうしたんだ」
L中尉「以前僕がこの鎮守府から借りた資材の返却分だよ。迷惑をかけた分、そのお礼の分も含めて返させてもらいたい」
提督「そりゃあありがたいが……処分受けたんだろ? あんたこれでやっていけるのか?」
L中尉「だからこそだ。これは僕の気持ち、そしてけじめだ。ぜひ受け取って欲しい」
朝雲「……変われば変わるもんなのね」
古鷹「素晴らしい心がけです! L少佐……いえ、L中尉! 古鷹は、これからの中尉のご活躍、期待しています!」
L中尉「あ、ありがとう古鷹……! これからは心を入れ替えて、頑張るよ!!」
362: 2017/04/15(土) 09:06:18.79 ID:lGzsQfkLo
??「L提督? 荷下ろしが終わりましたよ」
L中尉「ああ! おお、そうだ。紹介するよ、僕の新しい秘書艦だ。香取!」
香取「練習巡洋艦、香取です。どうぞお見知りおきを」
提督「どうも。提督准尉だ」
香取「……」ジッ
提督「……」
香取「……」
提督「……」
香取「……」ピク
提督「……」ピク
香取「……」
提督「……」
香取「……なるほど。あなたは大丈夫そうですね」ニコ
提督「そりゃどうも」
363: 2017/04/15(土) 09:07:49.39 ID:lGzsQfkLo
香取「さ、L提督、参りましょう? 准尉のご都合もありますし、そろそろ戻らないと」
L中尉「おお!? もうそんな時間か! 名残惜しいが仕方ない。では、これで失礼する!」ケイレイビシーッ
香取「では、皆様ごきげんよう」ニコッ
提督「はいよ」ケイレイ
古鷹「は、はいっ!」ケイレイ
朝雲「お、お疲れ様です!」ケイレイ
船 < ブオーン ザザァァァ
提督「……破れ鍋に綴蓋、ってとこかねえ」
朝雲「ところで司令官、さっき、香取さんと睨み合ってましたけど……何があったんですか?」
提督「あいつ、俺のことを値踏みしてやがった」
提督「あいつの視線、見てたか? 俺の頭からつま先まで一通り眺めて、鞭で引っ叩く素振りまで見せて俺を試してた」
古鷹「そんな……」
提督「まあ、L中尉の秘書艦だから俺は知ったこっちゃねえがな。お似合いなんじゃねえの?」
364: 2017/04/15(土) 09:08:48.84 ID:lGzsQfkLo
提督「で、どうする? お前ら、向こうに戻るか?」
古鷹「……いえ、私はここで頑張らせてもらいたいです」
古鷹「戻ったら戻ったで、また甘やかしてしまいそうなので」アハハ
朝雲「私もここに残るわ。古鷹さんがまたやりすぎないか心配だし」
提督「お前ら軽く言うけどな、ここの生活は大変だぞ。わかってるか?」
古鷹「はい、少しでも良いところになるように頑張りますから!」
朝雲「私も付き合ってあげる! だから覚えておいてよ!」
如月「ねえ、司令官? 少しだけ、あっちの鎮守府に帰ってもらった方が良かったのに、って思ってたでしょ?」
提督「ああ、否定しねえよ……面倒臭いのはお前だけで十分だ」
372: 2017/06/25(日) 23:36:11.83 ID:+mI2pzLpo
* 数年前 とある辺境の鎮守府 *
「吾輩が利根である! 吾輩が来たからには、もう索敵の心配はないぞ!」
「……」
「ぬ? ど、どうした?」
「あ、いや、なんでもない。重巡洋艦、利根だね。よろしく頼むよ」
「うむ!」
* *
「吾輩が第一艦隊の旗艦じゃと?」
「ああ。この艦隊の旗艦、そして俺の秘書艦を務めて欲しい」
「うむ……そうか。ならばこの利根! その名に恥じぬ働きを見せようではないか!」
373: 2017/06/25(日) 23:36:41.00 ID:+mI2pzLpo
* *
「提督よ、この艦隊も立派になったな!」
「ああ。それにしても、どうしてこう……運が悪いと言うか、何というか、なあ」
「う……む、確かに……どうすれば筑摩に出会えるんじゃろうなあ……」
「海域を回っても、建造を試みても、違う子ばっかり出てくるし」
「……ちくま……」ホロ
「……」ギュ
「な、なんじゃ!?」
「すまない、利根。俺の鎮守府に来たばかりに、寂しい思いをさせてしまって……」
「……ふふ、恥ずかしいところを見せてしまったな。大丈夫じゃ、吾輩には提督が居る」
「利根……」
「こんなことではいかんな。筑摩が来るまでに、もっと立派なお姉さんにならねば!」
「……そうだな。だが、たまには……いや、たまにじゃなくていいから、俺を頼ってくれていいんだぞ?」
「むう……提督にはずっと頼りっぱなしじゃからな。たまには頼れるお姉さんなところも見てもらいたいんじゃが?」
「はは、たまには甘えさせてもらうよ。だから一緒に頑張ろう」
「うむ!」
* * *
* *
*
374: 2017/06/25(日) 23:38:07.11 ID:+mI2pzLpo
* 現在 鎮守府埠頭 *
(士官が押す車椅子に乗せられて運ばれる利根)
利根「……」
士官「あなたが提督准尉ですね」
提督「……ええ」
士官「私はM提督鎮守府より参りました、彼女が利根です」
利根「……」
提督「伺っています。朝潮、部屋に案内しろ」
朝潮「はい、了解しました! どうぞ、こちらです!」ビシッ
士官「ありがとうございます……では」ペコリ
提督「……」
??「ひどい顔じゃと言いたそうじゃな」
提督「……まあ、な」
??「ああなってしまった原因は吾輩の司令官にあたるM准将……」
??「あやつのしたことを見抜けなかった吾輩にも……」
提督「よせ。俺があんたの懺悔を聞いてもどうにもならねえ」
??「……」
提督「で、あんたは何者だ?」
??「む、自己紹介がまだであったな。吾輩は……」
??→利根改二「吾輩は利根。航空巡洋艦、利根である」
375: 2017/06/25(日) 23:39:45.52 ID:+mI2pzLpo
提督「航空巡洋艦?」
利根改二「うむ。吾輩たち利根型重巡洋艦は、二次改装によって水上機を運用可能な航空巡洋艦になるのじゃ」
提督「ふぅん……しかし、何かの冗談かと思ったぜ。今しがた車椅子で運ばれた女がいきなり血色いい顔で現れたんだからな」
利根改二「血色が良い、か」
提督「……不服そうだな?」
利根改二「今の吾輩の健康が、他者の犠牲の上に成り立っていたことを知れば当然じゃ」
提督「? 生き物なんてみんなそんなもんだろ?」
利根改二「……広義で言えば、そうじゃな」
提督「……」
* 執務室 *
利根改二「まずはお礼を言わせてもらいたい。彼女をここに置いてくださること、深く深く感謝する」ペコリ
提督「今後どうなるかは保証しかねるがな。で、何があった」
利根改二「うむ……どう、説明すれば良いものか……誤解される言い方ではあるが、こう表現するべきじゃろうな」
利根改二「彼女は、吾輩の鎮守府の指揮官、M准将に……虐待、されておった」
376: 2017/06/25(日) 23:41:13.49 ID:+mI2pzLpo
提督「虐待ねえ」
利根改二「正味、虐待と言うべきか何と言うべきか……吾輩も正直、どう言えばいいかわからぬ」
提督「お前は虐待されてねえのか」
利根改二「うむ……むしろ逆じゃ。これを見よ」スッ
提督「指輪? 薬指っつうことは……お前、既婚者か?」
利根改二「これはケッコンカッコカリの指輪じゃ」
提督「かっこかり……なんだそりゃ」
利根改二「艦娘のリミッター解除装置とも言われておる。練度が最大に達した艦娘が、更に成長できるようにする指輪じゃ」
提督「……なんでそんな思わせ振りな名前がついてんだ。悪趣味だな」
利根改二「どうしてこんな名前がついたのかは、吾輩も与り知らぬがおおよその見当は付く」
利根改二「愛情が人を強くするという意味か、愛がない相手を強化して寝首をかかれないようにするためか……」
利根改二「そうでなくとも、男女が長く一緒にいれば、そういう意識もすることもある。事実、吾輩もそうであった」
提督「お前が指輪をしているってことは、お前はそのM准将に可愛がられてた、ってことか?」
利根改二「うむ。吾輩はM准将の秘書艦を長きに渡って務めておった……」
377: 2017/06/25(日) 23:42:26.79 ID:+mI2pzLpo
* 数か月前 M提督鎮守府 建造ドック *
利根「吾輩が利根である! 吾輩が来たからには、もう索敵の心配はないぞ!」
M准将「ありゃ」
利根「ぬ?」
利根改二「むう……」
利根「お、おお!? なんじゃ、既に吾輩がおるのか!?」
M准将「利根型は利根型なんだけど、久々に利根ちゃんが来たか……」
利根改二「おぬしの籤運も偏っておるな……」
利根「……もしや、吾輩は2人目なのか?」
M准将「うーん、利根なら10人目くらいじゃないかな?」
利根「なんと!?」
M准将「いや、嫌だってわけじゃないんだ。俺は利根のことは大好きだし」
利根改二「こ、これ、M提督よ!」カァ
M准将「なに照れてんだよ、今更じゃないか」
利根「いきなりのろけを見せられるとは……吾輩の席はすでに埋まっておるということじゃな」ハァ
M准将「いやいや、そういうのも可哀想だし、ちゃんとフォローするつもりだから」
利根「ふぉろー?」
利根「……まさか、めかけにでもするつもりか!?」
M准将「人聞きの悪いことを言わないでくれよ……なあ利根?」
利根改二「そこで吾輩に振るM提督も意地が悪いのう……」
378: 2017/06/25(日) 23:43:42.35 ID:+mI2pzLpo
* 現在 執務室 *
利根改二「吾輩の鎮守府は、ちと入り組んだ場所にある、古い城砦を改装して作られた鎮守府でな」
利根改二「ここ同様に戦線からやや離れていること、大きな湾に面していることもあって、演習場としてよく使われておる」
利根改二「M准将は以前から艦娘育成がうまいと評判で、鎮守府に着任して以降は、新米艦娘の基礎訓練を任されておった」
利根改二「ゆえに、吾輩の鎮守府で育った艦娘が、演習相手の鎮守府へスカウトされて異動することも珍しくない」
利根改二「逆に余所の鎮守府の艦娘が、1週間から1か月程度の期間で、吾輩の鎮守府に滞在して訓練することも多いんじゃ」
提督「訓練場みたいな鎮守府だな……変わってんな」
利根改二「うむ。それゆえ、主力部隊以外は、結構な頻度で余所の鎮守府に艦娘を送り出していたのが、吾輩の鎮守府なのじゃ」
利根改二「本当なら、彼女……あの利根も、ほかの艦娘と同じように、余所へ異動するはずだったんじゃが……」
381: 2017/07/09(日) 23:30:16.93 ID:sy4s6MbIo
* 過去 M提督鎮守府 *
M准将「そういうわけで、ここに着任する艦娘の多くは、簡単に訓練をしてから別の鎮守府に異動することになる」
利根「なるほど……それなら吾輩も腐らずにすむというわけか」
M准将「そういうことだ。深海棲艦の脅威はそこかしこにある、即戦力が欲しい鎮守府もまたあちこちにあるからね」
利根「吾輩はそちらへ行くことになるんじゃな」
M准将「ああ」コク
利根改二「提督よ、話の途中じゃが、そろそろ演習相手の来る時間じゃぞ」
M准将「ん、そうか? 悪いが利根、今回はお前に仕切ってもらっていいか」
利根改二「うむ、任せよ!」
M准将「こっちの利根は俺と一緒に来てくれ。異動手続きの準備がしたい」
利根「うむ。あいわかった」
M准将「……うーん、こう言ってはなんだが……やっぱり紛らわしいな」フフッ
利根「……確かにの」クスッ
利根改二「もはや、何度このやり取りをしたか覚えておらんぞ」クスッ
382: 2017/07/09(日) 23:32:55.67 ID:sy4s6MbIo
* 通路 *
利根「それにしても……なんともいえぬ趣がある鎮守府じゃな……」
M准将「ここはかつて城砦として運用されていたんだ。見てくれは石壁だが中身はハイテクだぞ。でなければ深海棲艦に対抗できないからな」
利根「ふむ……しかし、ハイテクとはまた古めかしい呼び方じゃな?」
M准将「おぬしに言われるとは心外じゃな? おぬしの口調も相当なものではないか」
利根「むっ! 吾輩の口調を真似するでないぞ!」
M准将「ははは、悪いね。何分、彼女とは長い付き合いでね、口調も伝染ってしまうもんなんだ」
利根「むう……」
M准将「だから気を悪くするな。俺は君も嫌いじゃないんだぞ? ははは」
利根「じょ、冗談も程々にせんか。おぬしには彼女がおろう、浮気なぞするもんではない」
M准将「もとは同一人物なのに、浮気になるのかな。まあ、なるんだろうけどね」ハハハ
M准将「……ああ、ごめん利根、ちょっと待ってくれ」
利根「む?」
M准将「そこの壁にくぼみがあるだろ? そこ、ちょっと見てくれるか?」
利根「? これか? ……なんなんじゃこれは?」
383: 2017/07/09(日) 23:34:36.93 ID:sy4s6MbIo
M准将「……」カチッ
(准将が近くの壁を軽く押すと、カモフラージュされた蓋が開いてスイッチが現れる)
M准将「……」ピッピッピッ
利根「……ここだけ石を削り取ったような穴というか……なんのために開けた穴なんじゃ?」
M准将「そこを少し押してみてくれ」
利根「?」グッ
壁 < ズッ
利根「!?」
壁 < グルンッ!
利根「おわあ!?」ガクッ
(壁全体が回転扉のように回転し、バランスを崩した利根を壁の内側の滑り台へ誘い込む)
利根「な、なん」
壁 < バタンッ
シーン
M准将「……」ニヤリ
384: 2017/07/09(日) 23:35:42.34 ID:sy4s6MbIo
* ??? *
シュオオオオオオオ…
(急角度の滑り台を落ちるように滑っていく利根)
利根「な、な、なんじゃあああ!?」
ボフッ
利根「うわっぷ……!?」
利根「な、なんじゃ、クッションか? くう、真っ暗で何も見えんぞ……」
シュウウウウウ
利根「こ、今度はなんじゃ! この匂い……くんくん……ガ、ガスか!?」
利根「う、い、いかん……ね、眠気が……」
利根「なんと、いう、こと……」ガクッ
* * *
* *
*
385: 2017/07/09(日) 23:37:19.41 ID:sy4s6MbIo
利根「……」
利根「……」
利根「……う……」
利根「……ぐ、ぐう……ま、まだ頭がくらくらするな……」
利根「……吾輩はどうなったんじゃ……?」
ジャラッ
利根「……鎖? なんじゃ、首と手足に鉄のわっかが……?」
壁 < ガゴンッ
利根「!?」
M准将「目が覚めたかな」コツコツ
利根「お、おぬしはM提督! これはいったいどういうことじゃ!」
M准将「……」
利根「吾輩を鎖で繋いでどうする気じゃと問うておる!」
M准将「……」
利根「この部屋はなんじゃ!? まるで……」
M准将「……」
386: 2017/07/09(日) 23:39:09.15 ID:sy4s6MbIo
利根「まるで……」
M准将「……」ニコ
利根「……」
M准将「……まるで?」ニコニコ
利根「……牢屋……では、ないか……」
M准将「ふふ……」ニヤリ
利根「……いや、それよりも……」
利根「あれは、なんじゃ……!?」プルプル
M准将「……」チラッ
利根「M提督よ……答えよ」
利根「あれはいったい、なんじゃ!?」
利根「あの……巨大な丸鋸や……ものものしい、装置……は……」プルプル
M准将「……」
M准将「……ふふ」
利根「!?」ビクッ
M准将「ふふふ……はははは」
利根「!?!?」
M准将「ああ、すまない。利根が考えた通りのものだよ。あれの使い道は、そういうことだ」
利根「……」ガタガタ
387: 2017/07/09(日) 23:40:28.42 ID:sy4s6MbIo
M准将「怖いのか?」
利根「……お、おぬしは……」ガタガタ
M准将「ふふ……ふふふ」
M准将「利根は、かわいいいなあ……はははは」
利根「!?」
利根(なぜじゃ……なぜこの男は……こんな状況で、こんな笑顔を見せているんじゃ……!?)ゾクッ
M准将「まあまあ、そこまで怯えなくても大丈夫だよ」
利根「……怯えるな、じゃと?」
M准将「うん」ニコニコ
利根「この状況で、おぬしを怪訝に思わないほうがどうかしておる……!」
M准将「まあ、そうだろうな。仕方ない」
利根「何故おぬしは、そんなふうに笑っていられるんじゃ!?」
M准将「……」ニコニコ
利根「い、いったい……いったいなんなのじゃ、おぬしは……!」
利根「先程からのおぬしの言動……理解できぬ」
M准将「……悪いけど、俺は君に理解を求めてはいないよ。どうせ誰にも理解してもらえない」
利根「!?」
M准将「だからこうして、誰にも内緒で君を閉じ込めた」
M准将「この地下室は特別に作ったものだ。かつて地下牢として使われていたものを改装してね」
M准将「ここへ閉じ込めるためのからくりを作るのが一番大変だった」
利根「……」
388: 2017/07/09(日) 23:42:32.45 ID:sy4s6MbIo
M准将「何を言っているかわからないだろうが、わからなくていい」
ピーピー
M准将「ん、悪いな、用ができた」
M准将「断っておくが、ここから逃げようとは思わないことだ。お前が一刻も長く生きていたいのなら、な」
利根「……っ!!」
M准将「じゃ、また後でな」
壁に擬装された扉< ゴゥンッ ガシャンッ
利根「……ど、どういうことじゃ……」
利根「いや、それどころではない。早く逃げねば……」ジャラッ
利根「こんな鎖、引き千切ってくれる! ふんっ!!」
利根「……っく! ふぬぅぅぅぅ!!」
利根「んっぎ……うおおおおお!!」
利根「……ぜぇ、ぜぇ……これは、無理じゃな……」
利根「ならば根っこを壊せば……」グイ
鎖 <バチッ
利根「ん?」
鎖 <バリバリバリバリ!
利根「あぎゃああああ!?」バリバリバリバリ
利根「……」シュウウウ…
* * *
389: 2017/07/09(日) 23:44:42.26 ID:sy4s6MbIo
M准将「鎖を引っ張りすぎると電流が流れる仕組みになっている。暴れんほうが身のためだぞ」
利根「……そういうことは、もっと早く言え」ギリッ
M准将「……んん、なかなか反抗的な目だな」ニヤリ
利根「……」
利根(わからん。この男の吾輩を見る目は、まるで吾輩が反抗するさまを楽しんでおるようだぞ?)
利根「お前の目的はなんじゃ」
M准将「……」
利根「お前の秘書艦は吾輩と同じ利根であろう。そのお前がなぜ吾輩にこんな仕打ちをする」
M准将「理由が知りたいのか」
利根「理由も知らずこんなところへ幽閉されるよりはましじゃ」
M准将「絶望するぞ。それでもいいんだな?」
利根「安い脅しを……! くどいぞ!」
M准将「……ふふっ」
利根「何が可笑しい!」
M准将「ああ、利根の激怒した顔はなかなか見られなかったからな。俺に憎悪をぶつけてくることもない……!」
利根「お前は何を言っておる……!?」
390: 2017/07/09(日) 23:46:34.18 ID:sy4s6MbIo
M准将「なんということはない。俺は、利根のいろんな顔を見たいだけだ」
利根「……」
利根「……」
利根「……は?」
M准将「今の秘書艦である利根に出会ったのは数年前。彼女との出会いは衝撃的だった」
M准将「一目で恋に落ちたよ。俺にとって、彼女のすべてが魅力的だった」
M准将「一緒にいて、励まし合った。泣き言をいって慰められたりもした。些細なことでケンカしたこともあった」
M准将「利根と仲良くなるにつれ、彼女とは笑顔で接する時間が増えた。それはいいことだ」
M准将「だが、俺は物足りなかった。怒ったときの顔や、嘆き悲しんだ時の顔……そんな顔を見ることがなくなってきた」
利根「……そ、そんなもの、少ないほうが良いに決まっておろう!」
M准将「俺は物足りなかった」ジロリ
利根「っ!」ゾクッ
M准将「……それをさておいても、2人目の利根が俺の前に現れた時は驚いた」
M准将「最愛の利根が隣にいる。そうではない、別の利根がまた別にいる」
M准将「……ふと思いついてしまったんだ。『別の利根』なら問題ないんじゃないか、って」
利根「……い、いかん。いかんぞ……」
M准将「わかっている。わかってはいる。だが、我慢できなくてね……」スクッ
391: 2017/07/09(日) 23:50:45.78 ID:sy4s6MbIo
M准将「お前がここで目を覚ました時、この装置のことを訊いてきたよな?」ニコ
利根「よせ。やめるんじゃ……」ガタガタ
M准将「この装置を使った結末が、このカーテンの向こう側にある。俺が『お前たち』をどうしたのか」グッ
利根「やめよ……やめてくれ!!」
M准将「見ろ」シャァァァッ
室内灯< パッ
利根「……ひ……!?」
(カーテンを開けると、ガラス張りになった奥の部屋の様子を室内灯が照らしている)
利根「……ひ……あ……!」ガタガタガタ
M准将「……ふふ」
利根「……っ!! ……っっ……!!!」ガクガク
M准将「ふふふ、はははは……!」
利根「なん……なんと、いうことを……!」
M准将「……いいぞ。いい顔だ……いい表情だ」
M准将「俺は、その恐怖におののいた利根の顔が見たかったんだ」
M准将「だが悲しいかな、俺は彼女たちに美しさを感じるが……怖いという感情は全く沸かない」
M准将「お前とは、抱く感情が違うんだ……残念ながらな」
392: 2017/07/09(日) 23:55:16.40 ID:sy4s6MbIo
利根「お、お前は……そ、そんなことのために『吾輩たち』を、こんな目に遭わせたというのか……!?」カチカチカチ
M准将「最初は、お前たちが怒ったり、泣いたりする顔が見たくて、痛めつけたり詰(なじ)ったりしていた」
M准将「人間というのは欲深いもので、それだけではだんだん飽きてくる」
M准将「そのうち、今度は中身はどうなっているか興味が湧いてきた。どうだ、利根? お前の体の仕組みを見た気分は」
M准将「人間の体だって、縦に割った姿はなかなか見ることができないんだぞ?」
利根「……」ガチガチガチ
M准将「こっちも見ろ。こうしてバラバラにしてみると、それぞれの部位の魅力がよくわかる」
利根「……わかる……ものか……わかるものかあああ!!」
M准将「……そうか。まあ、お前の感想はこの際関係ない」
M准将「ここに飾った利根たちは、特別な処置をして形が変わらないようにしている」
M准将「せっかくここに来てくれたんだ。俺が氏ぬまで、ずっと面倒を見てやらないとな」ニコッ
利根「……お……」
利根「お前、は……正気では、ない……!」
利根「……お前は、狂っておる……!! 狂っておるぞ……!!」
M准将「知っているとも」
利根「!?」
M准将「狂っていることくらいわかっている。そんなことは重々理解している」
393: 2017/07/09(日) 23:57:24.29 ID:sy4s6MbIo
利根「……ならば……」
M准将「やめろと言いたいんだろう? 無理な話だ」
利根「な……!」
M准将「俺は生きている利根も、こんな姿の利根も、全部好きなんだ」
M准将「あの利根が、海で見せている雄姿。攻撃を受けて傷ついた姿。そのすべてが愛おしい」
利根「……違う……それは違うぞ」フルフル
利根「お前のそれは……愛などではない……!」
M准将「そう思うよな。俺はそうじゃない。だから俺は最初からお前に理解を求めてはいない」
利根「……お前は……」
M准将「時間だ。そろそろ利根が戻ってくる」
M准将「次に会うときは、もっといろいろな表情を見せてくれ。楽しみにしているぞ」ニコ
壁に擬装された扉< バゥンッ
利根「……」
利根「……なんと、なんということじゃ……」ポロッ
利根「……ちくま……ちくまぁぁ……!!」ポロポロポロ
399: 2017/07/16(日) 16:34:02.11 ID:SQVW7duYo
* 数週間後 *
利根「……もう、耐えられぬ」
利根「来る日も来る日も、あの男の所業に怯えなければならぬ……」
利根「否……吾輩はここに閉じ込められて、何日経ったのかすらわからぬ……」
利根「……吾輩は……これからどうなるのじゃ……」
利根「……おぬしたちと一緒に、ここに飾られることになるのか……」
利根「……ははは……」
利根「そうじゃな……そうやも知れぬ。すべて諦めれば、これ以上涙することもない」
利根「しかし、いいのか……? せめて一矢報いねば、おぬしたちとて無念であろう?」
利根「……吾輩が傷付く方が堪えられぬ、とな。そのような姿になってまで、他人を思い遣るとは……」
利根「そうじゃったな。吾輩はおぬしたちじゃった」
利根「最早海に出ることも、ここから出ることも叶わぬ……」
利根「ならば何も、考える必要はない、か……そう、だな。うむ……」
利根「……」
利根「心残りは……筑摩に出会えんかったこと、じゃな……」
利根「おぬしたちもそうであろう……?」
利根「じゃが、それでいい……このような場所に筑摩を呼ぶことは許せぬ……」
利根「……」
利根「筑摩の名も、今が呼びおさめじゃな……筑摩……」
利根「……」
400: 2017/07/16(日) 16:35:00.25 ID:SQVW7duYo
* * *
M准将「利根? ご飯を食べていないのか?」
利根「……」
M准将「それじゃいかんぞ、ほら、食べなさい」
利根「……」
M准将「ほら、口を開けて。飲み込むんだ」グイ
利根「……」ダラー
M准将「……利根!」
利根「……」
M准将「仕方ないな」スマホトリダシ ピッピッ
利根「……」
鎖の電流<バリバリバリバリッ!
利根「……!」ガクガクッ
鎖の電流<フッ
利根「……」シュウウ…
M准将「……利根。……利根!」
M准将「もう壊れてしまったのか。もう少し大事にしたかったんだが……」
利根「……」
M准将「いや、反応がないわけではないからな。利根が意識している様子を見る手立てはあるはず……」
M准将「仕方ない。あれを準備するか」
401: 2017/07/16(日) 16:36:17.51 ID:SQVW7duYo
* 同時刻、鎮守府内の廊下 *
利根改二「今日の演習はえらく早く終わってしまったな。相手も潜水艦単艦でどうするつもりだったんじゃ?」
利根改二「せっかく早く終わったというのに、M提督はどこへ行ったのやら……偵察機を飛ばしても見つからぬというのは異常事態じゃぞ」
利根改二「はっ! もしや吾輩に黙って余所の女と逢引きなんぞ……」
利根改二「……」ポクポクポク チーン
利根改二「ありえんな!」ドヤッ
利根改二「……冗談はさておき、あの男は本当にどこへ行ったんじゃ。演習後じゃというのに歩き回ってへとへとだぞ」
利根改二「最近多いのう。席を外しておったかと思えば、いつの間にやら執務室に戻っておるし……」
利根改二「……ん?」
利根改二「なんじゃこの風は? どこから吹いておる?」
艦娘「利根さーん! 提督、見ませんでした?」
利根改二「! おお、おぬしか。いや、吾輩も探しておるんじゃが……」
艦娘「? どうかしたんですか?」
利根改二「うむ、どうもここの壁に隙間ができておるようでの。少し気になったのじゃ」ゴンゴン
艦娘「あれ……?」
利根改二「うむ……」ガンガン
艦娘「利根さん……!」
利根改二「こっちとそっちで音が違うのう。壁が別物なのか?」ゴンゴン
艦娘「多分ですけど、この壁の向こう側は空洞になってませんか?」
利根改二「否、ここはただの壁のはずじゃぞ。しかし確かにこの音は……」
艦娘「利根さん、音が違うのはここまでみたいです!」ゴンゴン
利根改二「この壁の向こうに何があるというんじゃ……?」
402: 2017/07/16(日) 16:37:14.05 ID:SQVW7duYo
* 地下室 *
(赤々と燃え盛る炉の中に単装砲の砲身が刺さっている)
M准将「……」グイッ
(厚手の皮手袋を付けたM准将が単装砲を炉から引き抜くと)
(真っ赤に熱せられた砲身の先端の周囲が陽炎のように揺らめいている)
M准将「……」
M准将「綺麗なままにしたかったから、こういうことはしたくなかったんだがな」クルッ
M准将「……利根」ニコ
利根「……!」ビクッ
M准将「これはさすがに無視できないよな?」
利根「……」
M准将「ふふ、震えているようだな。そんなに寒いのなら……ほら」
利根「……!」ズザッ
M准将「逃げなくてもいいだろう。君が連れないからこうなったんだ」ズイ
利根「……あ、ああ」ジリ
M准将「ああ、声が聞けた。いいな、その怯えて掠れた声」ニィ
(M准将が壁にあるレバーを引くと、利根を拘束する鎖が巻き取られる)
利根「!」グイッ
403: 2017/07/16(日) 16:37:55.35 ID:SQVW7duYo
M准将「ほら、逃げるんじゃない……こっちへおいで」
利根「……っ! っ!!」ブンブンッ
M准将「首を振っても何にもならないぞ? 往生際が悪い……ふふふ」
利根(……)
利根(もはや、何をしても無駄じゃ……吾輩が足掻けば足掻くほど、この男は悦ぶ……!)
利根(もう、嫌じゃ……やめてくれ……いっそ、一思いに……!)
ジュッ
利根「ぎっ……!!」
M准将「……そうだ。それでいい」
ジュゥウ…
利根「あ、っが……あああ!!」
M准将「いい調子だぞ……そらっ!」グリッ
ジュウウウウ!!
利根「ぎ……!!!」
利根「ぎゃああああああああああああああああああああ!!!!!」
利根「あ……が……」ガクン ブクブクブク…
M准将「……いい声だ……それに」
M准将「いいにおいだ。どうして今まで気付かなかったんだ……ふふふ」
404: 2017/07/16(日) 16:39:30.86 ID:SQVW7duYo
* 廊下 *
利根改二「ふぅむ……よくわからんな」ゴンゴンゴン
艦娘「この鎮守府の間取りはどうなってるんでしょう?」
利根改二「この城砦をM准将が見つけて海軍で買い取った時に手に入れているはずじゃが……」
艦娘「欠陥工事だったらまずいですね」
利根改二「うむ……!?」ピク
艦娘「? どうしました?」
利根改二「……壁の中から悲鳴が聞こえた」
艦娘「誰かいるんですか!?」
利根改二「わからぬ。じゃが、声はずっと下のほうから響いて聞こえてきたぞ」
艦娘「下!?」
利根改二「……この壁……なにかあるのか!」グッ
利根改二「むんっ……!」グググッ
艦娘「!!」
利根改二「……動いたぞ……やはりなにかある!」グググッ
艦娘「利根さん危ないです!」ガシ
利根改二「むう、壁の向こうは落とし穴か!?」
艦娘「この壁、回転扉みたいですね……」
利根改二「穴も深そうじゃの……たしか、倉庫に縄梯子があったはずじゃな」
艦娘「入るんですか!?」
利根改二「悲鳴が聞こえたからには、放っておくわけにもいかん。梯子と探照灯を準備せよ、急げ!」
405: 2017/07/16(日) 16:40:30.60 ID:SQVW7duYo
* 地下室 *
バケツ< バシャァ!
利根「……げほっ……えほ……」
M准将「起きたかな?」
利根「……」ビクッ
M准将「……さ、続きだ」ニタッ
利根「……も……」
利根「もう、嫌じゃ……!!」ポロッ
利根「吾輩は……もう……いい……!!」ポロポロポロ
利根「もう、殺せ! 頃すのじゃ!!」グワッ
利根「これ以上、甚振られるのは……もう……」
M准将「……わかった。そうしよう」
M准将「俺も、お前がどんな味がするのか、気になったんだ」
利根「」ビク
M准将「……お前の肉の焦げるにおいが、俺の理性を奪ったんだ」
M准将「心を失ったふりをし続けたお前が招いた結果だ」
M准将「心配しなくていい。綺麗に食べてやるからな……!」
利根「あ……」
利根「ああああ……!」
406: 2017/07/16(日) 16:41:29.29 ID:SQVW7duYo
利根「嫌じゃ……嫌じゃああ……来るな、来るなあああああ!!」
M准将「……」ズイ
ジュゥ…
利根「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
ドゴォォン!!
M准将「!?」
パラパラパラ…
利根改二「けほっ……なんじゃこの部屋は……」
M准将「利……根……?」
利根改二「……M准将!? おぬし、ここでいったい何をして……お……」
M准将「……」
利根改二「……る……」
M准将「……」ウツムキ
利根改二「……」パクパク
利根改二「……な……」
利根改二「……なんじゃ、ここは……」ワナワナ
407: 2017/07/16(日) 16:42:11.37 ID:SQVW7duYo
利根改二「これは……なんなのじゃ」
利根改二「……」
M准将「……」
利根改二「……おぬしは……」
利根改二「……おぬしは、誰なのじゃ?」
M准将「……!」
利根改二「答えよ! おぬしは誰じゃ!!」ジャキッ
M准将「……」
利根改二「答えろ!!」ワナワナワナ
M准将「……執務室で、全部話そう」スッ
利根改二「逃げるか! 待て!!」
利根「……あ……」ピクピク
利根改二「!! お、おぬしはまだ生きておるのか!? なんと酷い……」
利根改二「何故じゃ……何故吾輩と同じ艦娘に、こんなことを……!!」
利根改二「何故じゃあ……!!」
411: 2017/08/06(日) 17:58:04.96 ID:MzecjWzWo
* それからしばらくして 執務室前廊下 *
艦娘「利根さん、地下室にいた利根さんは修理ドックに入居させました」
利根改二「うむ。どんな様子であった?」
艦娘「ずっと気を失ったままです……」
利根改二「……そうか」
艦娘「あの、利根さん……あんな酷い火傷、准将がつけたなんて信じられません」グスッ
利根改二「……吾輩もだ。提督は、いつの間にか別人にすり替わっていたのかもしれん」
利根改二「おぬしはここに控えておれ。何かあれば即刻この場から逃げて皆に知らせよ」
艦娘「……はい!」
利根改二「さて……」
トントントン
M准将「入ってくれ」
利根改二「……」ギィ… バタム
艦娘「利根さん……」
412: 2017/08/06(日) 18:00:40.18 ID:MzecjWzWo
* 執務室 *
利根改二「……M提督よ」
M准将「来たか」ニコ
利根改二「今のおぬしはジキルか? それともハイドか?」
M准将「……なるほど、俺を多重人格と疑ってるわけか」
利根改二「……」
M准将「まずはこれを見てくれ。よっ……と」ガチャ
利根改二「本棚の裏に隠し階段じゃと……!」
M准将「さっきの地下室につながっている」
利根改二「……」
M准将「利根。お前は信じたくないだろうが、これから俺はお前に全部話そう」
* *
利根改二「全部おぬしがやったと認めるのか」
M准将「認める」
利根改二「……」
M准将「……」
利根改二「……吾輩はおぬしを信頼しておったのだぞ」
M准将「……」
413: 2017/08/06(日) 18:04:23.05 ID:MzecjWzWo
利根改二「何故、こんなことをした」
利根改二「何故……吾輩を裏切った!」
M准将「それは違う。俺はお前を裏切ったつもりはない」
利根改二「どの口が言うか!」
M准将「俺は『お前』を裏切ってはいない。俺は最初からこうだった」
利根改二「……」
M准将「俺は、徹頭徹尾、お前が好きだということは変わっていないし、お前を大事にしたいという気持ちは変わっていない」
利根改二「……」
M准将「俺にとってあの部屋は、ベッドの下に隠した工口本みたいなもんだ」
利根改二「なにを……詭弁じゃ、そんなものと同列に……!」
M准将「その本の中身が、他人が耐えられる内容かどうか。その程度の違いだよ」
M准将「俺は俺が狂っていることを理解している。だから、大がかりな仕掛けを作って、見つからないようにしていた」
M准将「俺はお前のすべてを知りたかった。お前を見たくてあの部屋を作った。お前の代わりだけを飾るようにした」
M准将「だからお前をあそこに飾るつもりはなかったし、この秘密はお前にだけは知られたくなかった」
M准将「知られればどうなるか理解っていた。絶対に許されるはずがないからな」ウツムキ
利根改二「……何故吾輩は、飾られなかったのじゃ」
M准将「お前は俺の最初の利根だからだ。一目惚れだったからな」
414: 2017/08/06(日) 18:06:30.14 ID:MzecjWzWo
M准将「それが、二人も三人も現れても見ろ。俺じゃなければ、ハーレムを作るやつだって出てくるはずだ」
利根改二「ならばもし、吾輩が二人目だったとしたら、吾輩もあの部屋に飾られていたのか」
M准将「三人目くらいまでは、余所の鎮守府に送っていたよ。それ以降だったら有り得たかもしれないな」
利根改二「ならば、もし……」
利根改二「もし、利根が吾輩以外にいなければ、吾輩を……切り刻んでいたと思うか?」
M准将「いや。それはしなかっただろう」
M准将「お前は俺が愛情を注ぐべき相手だ。歪んだ欲望をぶちまける相手じゃない」
M准将「お前の、代わりが存在した。それが、俺が一線を越えた理由……なんだろうな」
利根改二「……」
M准将「……利根。すまなかった」
M准将「お前を好いた男が、こんな男で……」
利根改二「……」
M准将「特警を呼んでくれ。始末をつけよう」
* * *
* *
*
415: 2017/08/06(日) 18:08:34.12 ID:MzecjWzWo
* 現在 墓場島鎮守府 執務室 *
提督「……」
利根改二「……その後M准将は、地下室の彼女たちを供養するために、特警同伴で溶鉱炉へ彼女たちを運び込んで……」
利根改二「一人投げ込んでは手を合わせるのを繰り返し……最後に自らも溶鉱炉へ飛び込んで命を絶った」
利根改二「今の俺は利根の前に存在して良い人間じゃない、と言い残してな」
提督「……」
利根改二「……それが、吾輩の鎮守府で起こったことの顛末じゃ」
提督「……いろいろ理解できねえよ。自分が頃した相手と心中したってことじゃねえか」
提督「もしかしてあれか? 好きな相手にちょっかい出すタイプの悪質なやつか?」
利根改二「かもしれぬな。吾輩は嫌がらせらしい嫌がらせは一度も受けておらんが……」
提督「とにかくだ。あの利根は、M准将から拷問じみた仕打ちを受けたのはわかった」
提督「お前はあいつにどうなって欲しいんだ」
利根改二「……できれば、立ち直ってもらいたい。でなくば、せめて穏やかな余生を過ごして欲しい」
提督「……」
利根改二「吾輩がやれと言うかもしれぬが、吾輩はあの利根に姿を見せないほうが良いと思っておる」
利根改二「同じ利根とはいえ、司令官の寵愛を一身に受けた身じゃ。彼女にとってはトラウマ以外の何物でもなかろう」
利根改二「吾輩には、彼女をどうこうする資格はない。吾輩がこれ以上彼女の未来に口をはさむこと自体許されまい」
提督「……かもな」
416: 2017/08/06(日) 18:10:28.75 ID:MzecjWzWo
利根改二「彼女の引き取り先を方々に求めたが、練度も上がっておらぬ彼女を引き取ってもらえる鎮守府はここしかなかった」
利根改二「重ね重ね、どうか彼女をよろしくお願いしたい」ペコリ
提督「……まあ、本人次第だがな」
提督「で、お前はどうすんだ」
利根改二「……まだ、決めておらぬ」
提督「そうか。ま、好きにしな。俺もお前の行先をどうこう言える身分じゃあねえ」
利根改二「……吾輩も、あの男と同じ所へ行くべきなのかのう」
提督「ちっ……だったら好きにしろよ。俺は氏にたい奴の面倒は見ねえぞ」ガタッ
利根改二「! どこへ行くんじゃ」
提督「向こうの利根の顔を見に行く」
トントントン
朝潮「失礼致します! 利根さんをお部屋に案内しました!」ガチャ
提督「おう、ご苦労さん。朝潮、客人の帰りの案内も頼むぜ」
朝潮「は、はい! 承知しまし……ええ!? どうして利根さんがここに!?」ギョッ
利根改二「……」
417: 2017/08/06(日) 18:11:41.88 ID:MzecjWzWo
* 利根の部屋 *
車椅子から立ち上がって窓の外を見ている利根「……」
コンコン
提督「入るぞ」ガチャ
朝潮「ま、まだ返事がありませんよ!?」
提督「んなもん待ってられっか。ん、立って歩けるのか?」
利根「……」
提督「まあいい。俺はこの鎮守府の提督准尉だ」
朝潮「駆逐艦、朝潮です!」ビシッ
利根「……」
朝潮(……なんといいますか……)
朝潮(ここまで生気のない瞳をした人は、見たことがありません……)ゾク
提督「重巡洋艦、利根だな?」
利根「……吾輩に何の用じゃ」ジッ
提督「本日付でお前はこの鎮守府の配属となった」
利根「……」
提督「今後はこの鎮守府のルールに従って生活してもらう。ま、基本、この鎮守府のほかの艦娘の迷惑にならなきゃ、何をしてもいい」
利根「……」
418: 2017/08/06(日) 18:13:01.79 ID:MzecjWzWo
朝潮「あ、あの、司令官……」
提督「ん?」
朝潮「利根さんは、ちゃんと聞いてくださってるんでしょうか……」
提督「多分な。聞いてねえならもう一回言って聞かせりゃあいい」
利根「……提督よ」
提督「ん? なんだ」
利根「あの利根は……あの秘書艦は、何故吾輩を避けておる」
利根「彼女は吾輩の命の恩人……なのに、何故じゃ?」
提督「……さあな。多分、お前に後ろめたいんだろ」
利根「後ろめたい……?」
提督「お前を酷い目に遭わせた男が好いた相手だ。お前とは話しづらいんだろうよ」
利根「……だが、奴は吾輩のことを好きだと言っておったぞ」
提督「……」
利根「あの利根は、違うのか……?」
提督「……俺に訊くなよ。人の好いた惚れたは俺の知ったこっちゃねえ」
利根「……そうか。おそらく、違うのだろうな」シュル
419: 2017/08/06(日) 18:15:07.20 ID:MzecjWzWo
利根「でなくば……」パサ
朝潮「と、利根さん!? どうして服を脱……!」
利根「このような傷を付けられたのも吾輩だけなのだろうな」クルッ
朝潮「……っっ!!!」
提督「……!」
朝潮「と、と……利根さん……っ!! そのお怪我は……火傷の傷痕は!」
利根「……あの男に付けられたのじゃ」
朝潮「そんな……そんなっ!!」ワナワナ
利根「……提督よ。なんじゃその顔は。まるで鬼神か夜叉のようだぞ?」
提督「ああ? そんなことができる屑が存在していたと思うと、さっきから怒りしか沸いてこねえんだよ、くそが!」
利根「吾輩を解体せんのか?」
提督「なんでそんなことをしなくちゃいけねえんだ」
利根「……好きにしろと言うのであろう。ならば、吾輩を解体すれば良い」
提督「それなら一つ言い忘れていた。俺は自殺の手伝いはしねえ。氏にたきゃ勝手にその辺で自沈しろ」
朝潮「し、司令官!?」
利根「……なんじゃ、吾輩もあの者たちと一緒に行けるかと思っておったのにな……」ウツムキ
朝潮「と、利根さんまで!?」
420: 2017/08/06(日) 18:16:33.75 ID:MzecjWzWo
提督「なら、これ以上話すことはねえな。あとは勝手にしろ」クルッ スタスタ
朝潮「司令官! 司令官っ!!」オロオロ
利根「……」
朝潮「あ、あの、利根さん! 朝潮は、自沈してはいけないと思います!」
利根「……何故じゃ?」
朝潮「う、うまく言えませんが、今まで不幸せだったとしたら、これから幸せになるかもしれません!」
利根「……」
朝潮「あの、朝潮も、轟沈してこの島に流れ着いてきました!」
朝潮「ここの司令官……提督准尉は、物言いこそ霞と同じくらいきついですが、思いやりのある方です!」
朝潮「少しの間でも良いので、どうか思い留まっていただけないでしょうか……!」
利根「……」
朝潮「お願い致します!」ペコッ
利根「……うむ……」
朝潮「ほ、本当ですか! ありがとうございます!」
朝潮「で、では朝潮は執務に戻ります! 失礼致します!」ビシッ
朝潮「司令官! お待たせ致しました! しれいかーん!」タタタタッ
利根「……そういう意味での返事ではないんだが」
利根「……」
421: 2017/08/06(日) 18:19:27.78 ID:MzecjWzWo
* 夜明け前 鎮守府埠頭 *
ザザーン
利根「……海、か……」フラフラ
(鎮守府埠頭を見渡せる高台で双眼鏡を構える提督と長門)
長門「大丈夫なのか。一人で海に出して」
提督「さあてな。鎮守府に向かって砲撃するような真似さえしなけりゃ、あとは野となれ山となれだ」
長門「貴様はどこまで人任せなんだ……」
提督「医者も言うだろ。本人が病気を治す気がないなら治るものも治らねえって」
長門「まったく、ああ言えばこう言う……」
提督「見ろ……利根が海に出るぞ」
長門「!」
利根「……」チャプ
利根「……」ザァァ…
利根「これが海か……」
422: 2017/08/06(日) 18:20:14.40 ID:MzecjWzWo
利根「波は穏やか、風もない」
利根「空には満月……か。これなら偵察機も飛ばせそうじゃな」
ガシャッ
ブィー…ン
利根「……」
利根「……」
利根「……」ポロポロッ
利根「吾輩は……」
利根「吾輩は幸せ者じゃの……」
利根「あやつらも、海に出たかっただろうに……」
利根「本当に、たまたまなのじゃな」
利根「たまたま、あの利根が選ばれて……たまたま、そのあとに吾輩たちが着任した」
利根「ははは……なんということじゃ」
利根「さっきまで、あれほど氏にたがっていたのに……」
利根「吾輩は、喜んでおる……海に出られることに、幸せを感じておる」
利根「吾輩は、やはり艦娘なのじゃな……」
423: 2017/08/06(日) 18:22:12.60 ID:MzecjWzWo
利根「ああ……吾輩は、どうしたらよいのじゃ……」
利根「……」
利根「……?」
提督「月夜とはいえ、夜中に艦載機飛ばしてんのか」
長門「おい、利根が何かを見つけたようだぞ」
提督「むこうは……砂浜か。俺たちも行ってみるか」
タタタッ
朝潮「司令官!」
提督「朝潮? どうしたこんな時間に」
朝潮「砂浜から深海棲艦の微弱な反応がありましたので、ご報告に参りました!」
長門「なに!?」
提督「ったく、次から次と……面倒なことになりそうだ」
424: 2017/08/06(日) 18:23:30.62 ID:MzecjWzWo
* 北東の砂浜 *
利根「……なんと……」
(砂浜に数人の艦娘の遺体が流れ着いている)
利根「……この島も地獄であったというのか……」
提督「よう。幻滅したか?」
利根「! 提督か」
提督「この島にはな、こうやって轟沈した艦娘がよく流れ着いてくるんだよ」
利根「……よくあることなのか?」
提督「まあ、少なくはねえな」
利根「……こやつも、その犠牲者なのだな?」
提督「ああ……ん? なんだこいつ? 見たことねえタイプだな?」
長門「! ば、馬鹿! 近づくな!!」グイッ
提督「うお!? な、何しやがる!」
朝潮「司令官、早く避難しましょう! 利根さんも!」
提督「あ? 何言ってんだお前ら……」
425: 2017/08/06(日) 18:23:58.15 ID:MzecjWzWo
長門「近づくなと言っているだろう! こいつは……」
??「……」
長門「こいつは深海棲艦!」
??「……!」パチリ
長門「戦艦ル級だ!!」
ル級「……」ムクリ
430: 2017/08/12(土) 13:59:17.04 ID:SOZYcXd+o
ル級「……」スクッ
長門「提督、朝潮と利根を連れて早く逃げろ! 重巡以上の艦娘を集めてくるんだ!」
朝潮「いけません! 朝潮、この場は長門さんに助太刀します! 利根さんは提督とともに避難を!」
ル級「……」ジッ
利根「……?」
ル級「……」ジッ
長門「む……!」
ル級「……」ジッ
朝潮「……!」
ル級「……」ジッ
提督「……なんだ? 俺たちの顔を見てやがんのか?」
ル級「……(無言で長門を指さし)」スッ
長門「!」
ル級「……(次に海を指さし)」スッ
朝潮「こ、これは……」
長門「私を御指名ということか……面白い」
431: 2017/08/12(土) 14:00:11.34 ID:SOZYcXd+o
ル級「……」クルッ
ザァァァ…
朝潮「……深海棲艦が、私たちに背を向けて海へ……!?」
長門「あのル級が何を企んでいるのかはわからんが……この長門との殴り合いを望むと言うのなら、受けて立とう!」ザァッ
朝潮「あ、長門さん!!」
提督「……とりあえず、俺たちはどうすりゃいいんだ?」
利根「……」
朝潮「え、ええと……」
* 沖合 *
ル級「……」ガシャン
長門「……」ガシャッ
朝潮「長門さんもル級も、艤装を展開して睨み合ったまま動きませんね……」
提督「マジで決闘かよ……おい、朝潮」
朝潮「はい!」
提督「あの2隻の間に一発撃って水柱たててやれ」
朝潮「は、はい!? わ、わかりました!」ジャキッ
432: 2017/08/12(土) 14:01:22.03 ID:SOZYcXd+o
ドーン
ヒューーー
ル級「……」
長門「……」
ボチャーン
ル級「!」キッ!
長門「!」クワッ!
ル級「……ッ!」ドガガガガン!
長門「てぇぇ!」ズドドドドン!
ドドドドーン!!
提督「……派手だな」
朝潮「な、なんで二人とも、原速のまま回避しないんですか!?」
提督「……まあ、見ていようぜ」
ル級(中破)「……ッ!」ガンガンガン!
長門(中破)「ハァァ!」ドンドンドン!
ドカーンボカーン
朝潮「……」アゼン
提督「なかなか壮絶だな」
433: 2017/08/12(土) 14:02:02.73 ID:SOZYcXd+o
利根「……」
提督「どうした利根。怖いのか」
利根「……否」
提督「なら、お前も戦いたいのか」
利根「……わからぬ」
シーン
朝潮「砲撃が……やみましたね……」
提督「……」
長門(中破)「……く……」ボロッ
ル級(大破)「……ハァ、ハァ……」ボロッ
提督「こりゃあ、長門の勝ちか?」
朝潮「……はい。おそらくは……」
ル級「……ハ、ハ……フフフ、フハハハハ」
長門「!?」
434: 2017/08/12(土) 14:03:10.43 ID:SOZYcXd+o
ル級「……ハハハハ、アハハハハハハ!!」
ル級「アッハハハハハ!!」ゲラゲラ
提督「おい朝潮、あの深海棲艦、何で笑ってやがるんだ?」
朝潮「わ、わかりません……!」
長門「……貴様……」
ル級「ハハハハ……ハハ……ッ、ア、アアア……」
ル級「アアア……ウァァ……グスッ、ウウウウ……!!」
長門「!?」
ル級「ウワァァアアアアン!!」ポロポロポロ
長門「……」アッケ
提督「おい朝潮……あの深海棲艦、泣き叫んでねえか?」
朝潮「そ、そうですね……」
提督「なんでだ?」
朝潮「わ、わかりません!」
利根「……なにがあったんじゃ」
ル級「ウワァァァン! グス、ビエエエエエエン!」ナミダジョバーーー
長門「お、おい、貴様!? なんだ! なにがあった!? そ、そんなに痛かったのか!?」オロオロ
提督「わけわかんねえ……朝潮、明石呼んでこい。あとバケツふたつな」
朝潮「は、はい! わかりま……ふたつですか!?」
提督「まあ、敵に塩を送るのも悪くねえだろ」
利根「……やはり吾輩は夢でも見ているのかのう……」
提督「現実逃避すんな」デコピン
利根「あだッ!?」ベシッ
提督「おし、夢じゃねえな。長門、そのル級連れて戻ってこい」
利根「……吾輩で夢かどうかを確かめた……じゃと!?」シロメ
439: 2017/08/16(水) 14:31:11.69 ID:jVtVC/TLo
* 利根が鎮守府にやってくる少し前 *
* 某鎮守府 *
「オリョクルはもういやでち!」
「とっとと行って来い」
「オリョクルはもういやでち!!」
「いいから行け」
「オリョクルはもういやでち!!!」
「出撃」ポチッ
「あああああああああああああああああああ!!」
* 本営 *
「ってことが今朝あってなあ」
「ああ、うちもだ。いい加減聞き飽きたな」
「あいつらは黙ってオリョール回してりゃあいいんだよ。疲れたとか言ってんじゃねえっつうの」
「! お、おい」
「あん?」
伊58(スカート・革靴装備)「……」ジロリ
伊19(制服・スカート・革靴装備)「……」ギロリ
440: 2017/08/16(水) 14:33:51.50 ID:jVtVC/TLo
「ちっ、どこの鎮守府の潜水艦だよ、紛らわしい恰好しやがって」
「見世物じゃねーぞ。散った散った!」シッシッ
W提督「僕の部下がどうかしましたか?」
「げっ! W提督!? い、いえ、なんでもありません!」
「おい、なんでこんなガキにぺこぺこしてんだよ」
「馬鹿! 大将の甥御さんだ!」
「はぁ!?」
「し、失礼いたしました! ほら、行くぞ!」
「……ちっ」
W提督「……やれやれ」ハァ
伊58「ゴーヤたちをこき使ってるから出撃できてるのに!」
伊19「まったく失礼しちゃうの!」
X提督「ほらほら、二人とも怒らないで。あんまり僕から離れちゃだめだよ?」
伊58&19「「はーい!」なの!」
伊58「でもでも提督? ああいう人たちが艦娘を無下に扱う典型的な例だと思わない?」
X提督「今日の議題の話かい?」
伊19「気に入った艦娘を頃して飾る……まるでセイキマツホラー! 蝋人形の館なのね! 怖いのね!!」
441: 2017/08/16(水) 14:34:59.43 ID:jVtVC/TLo
X提督「そうだね……悲しい事件だ。まあ、そんなことがあったからこそ、今日呼ばれて啓蒙活動するって話だからね」
W提督「……よう」
X提督「あ、W! 久しぶりだね」
W提督「ああ、飲み会やらなくなって以来だな。Xも元気そうでなによりだ」
球磨「W提督、こっちの子は誰だクマ?」
W提督「ん、俺の同期のW提督だ」
熊野「あら、随分可愛らしい方でいらっしゃいますわね?」
W提督「言ってやるな、こいつ自分の見た目を気にしてんだから。紹介する、俺の部下の軽巡球磨と航巡熊野だ」
球磨「よろしくだクマー」
熊野「ごきげんよう、熊野ですわ」
X提督「うん、よろしく。この二人は僕の部下、伊号潜水艦のゴーヤとイクだよ」
伊58「ゴーヤだよ!」
伊19「イクなのね!」
W提督「おう、よろしくな」
球磨「球磨の知ってる潜水艦と服が違うクマ。駆逐艦みたいな恰好してるクマ-?」
熊野「あの、失礼ですけれど、潜水艦のお二人はそんなお洋服持ってましたかしら?」
442: 2017/08/16(水) 14:36:06.99 ID:jVtVC/TLo
伊58「あ、この制服のこと? これは提督が準備してくれたの!」
W提督「仮にも本営の集会だからね。靴も履かず水着姿でついてきてもらうのはどうかと思って用意したんだ」
熊野「まあ! X提督は艦娘のことを良くお考えですわ!」
伊19「そうなのね。イクに服を着せるなんて、提督はとんだ変態さんなの」
球磨「いや、その理屈はおかしいクマ」
伊19「いやいや、こんなに表向き紳士な提督は、絶対裏ではとんでもない変態さんなのね……!」ハァハァ
球磨「こじらせすぎクマ! どうしてこんなになるまで放っておいたんだクマ!」
伊19「いひひひ、こんなに破廉恥な格好させられちゃったら、もう提督にはイクのセキニンとってもらうしかないのねぇぇ!」ムッハー
球磨「うるせぇ、爆雷ぶつけんぞクマァ!」
X提督「あはは、もうすっかり打ち解けてるね」
球磨「どうやったらそう見えるクマ!?」
W提督「まあ、そうなるな」
球磨「うちの提督もボケ役クマ!?」
熊野「まあ!? わたくしのどこがトボケてると仰るんですの!?」
球磨「今日のお前が言うな会場はここですかクマァ!!」
443: 2017/08/16(水) 14:37:11.94 ID:jVtVC/TLo
伊58「イクもあんまりふざけちゃ駄目よ。そもそも提督には剣崎の責任を取ってもらうのが先でち」
伊19「ごめんなのねー」テヘペロー
球磨「……意外なところから助け舟が出たクマ」
伊58「意外でちか!?」ガビーン
W提督「剣崎? ああ、祥鳳のことか。今日は留守番か?」
X提督「うん、今日一日は提督代理さ。Wのところもかい?」
W提督「ああ、伊勢に丸投げだ。まったく、古今東西の提督を集めて会議したところで、時間を浪費するだけだろうに」
X提督「仕方ないよ、テレビ会議だと不在の提督も多いし。たまにみんなの顔が見られると思えば、僕はそこまで悪いとは思わないけどね」
W提督「……遠地勤務のお前はそうかもしれないな」
伊58「提督! そろそろ会議が始まるよ!?」
伊19「荷物持ってあげるから手をつなぐのねー!」ガッシ
伊58「あっ、ずるい! ゴーヤとも手をつなぐでち!」ガッシ
W提督「球磨、熊野、俺たちも行くぞ」
熊野「ああ、お待ちになって! ちゃんとエスコートしてくださいませんこと!?」ギュッ
球磨「なんで腕に抱き着いてるクマ。しかも自分から腕をつかみに行って真っ赤になってるクマ」
W提督「……まあ、熊野は目を離すとすぐ迷子になるしな。仕方ない」
熊野「ひ、ひどいですわ!?」
444: 2017/08/16(水) 14:42:47.04 ID:jVtVC/TLo
*
女性提督「ちょっと、見てよあの男の子! すっごい可愛いんだけど!」
千歳「あの方は大将殿の甥っ子さんですね」
女性提督「なにそれ玉の輿!?」ジュルリ
足柄「ちょっと、もう結婚する気でいるの!? っていうか涎拭きなさいよ涎!」
女性提督「隣の男性も結構いい感じだし! 声かけておかないと!」ギラッ
足柄「やめといたほうがいいと思うわよ? あの子、潜水艦の子と手を恋人つなぎしてるし」
千歳「下手に絡んでは、向こうの艦娘に悪印象を与えかねませんよ?」
女性提督「なによぅ! こんなチャンス、滅多にないんだから! すいませ~~ん!!」ダッ
足柄「あっ」
千歳「ちょ」
ガオーーーー
キャーーー
クマァァァァ!!
足柄「あーあ……」
445: 2017/08/16(水) 14:43:19.48 ID:jVtVC/TLo
*
女性提督「ぐす、ぐすっ」
足柄「あんな絡み方したら逃げられるに決まってるわよ!」
千歳「にこやかに挨拶するだけで良かったんですよ」
足柄「だいたいがっつきすぎよ! 狼じゃないんだから!」
千歳「酔っ払いよりひどい絡み方してましたよ?」
女性提督「うるさい、うるさーーい!」ウワーン
女性提督「もう頭きた! 帰ったら大型建造しまくってやるんだからー!」
足柄&千歳((完全に八つ当たりだわ))ハァァ
* 一方その頃 東部オリョール海某所 *
「モウイヤダ!」
「モウ潜水艦ハイヤダ!」
「モウ潜水艦ノ的ニナルノハイヤダ!!」
「マタ、ル級ガ駄々ヲコネテルノカ」
「仕方ナイ。アノ、ル級ガ出撃スルト、相手ハ必ズ潜水艦ダケダカラナ」
「ツイテナイナ」
「付キ合ワサレル連中モ、ソウダナ」
「一緒ジャナクテ良カッタ……」
「モウイヤダァァァァ!!!」
「ア、オイ!? ドコヘ行ク!」
* * *
* *
*
446: 2017/08/16(水) 14:44:49.27 ID:jVtVC/TLo
* 現在 夜明け 北東の砂浜 *
ル級「私ハ、来ル日モ来ル日モ潜水艦カラ、チマチマト小サナダメージ受ケ続ケ……」
ル級「ソレガ耐エラレナクナッテ、オリョールカラ出テキタノヨ」メソメソ
長門「なんということだ……」ホロリ
ル級「私ハ、タダノ一度モ反撃スルコトモ、大破スルコトモ、ナカッタ」
ル級「ダカラ、コウヤッテ撃チアエタコトガ、トテモ嬉シカッタンダ……」サメザメ
朝潮「そうだったんですか……!」グスッ
明石「苦労なさったんですねえ……!」エグエグ
提督「お前ら泣きすぎだ」
利根「……そう言うな提督よ。吾輩にもル級の心境は少し理解できるぞ」
利根「吾輩も、ついぞさっき海に出て、わかったことがある。吾輩たちは軍艦なのだ。我らが積んだ艤装も砲もお飾りではない」
利根「海に出て、敵艦隊を見つけ、砲雷撃戦にて邀撃する……軍艦として生まれた我らにとっては、それこそが存在理由そのものなのじゃ」
利根「戦艦でありながら一発も砲を撃ったことがないとなれば、このル級の懊悩も推して知るべきというものだぞ」
ル級「フフ……シカモ、ソノ初戦ノ相手ガ、カノビッグセブン、戦艦長門ダッタトイウノナラ誇ラシクモナル……!」
長門「……ま、まあな」テレテレ
ル級「最後ノ最後ニ艦娘ニ出会イ、憧レノ砲撃戦ガデキタ……私ハ満足ダ」
447: 2017/08/16(水) 14:45:44.01 ID:jVtVC/TLo
提督「ん? ……なあ、もしかしてお前、艦娘を見たことないのか?」
ル級「ソウダ。私ハ潜水艦娘ノ船影シカ見タコトガナイ」
提督「船影かよ。んじゃ見てねえのと同義だな。お前、こいつら知ってるか?」
ル級「……オ前ハ駆逐艦ダナ?」
朝潮「はい! 朝潮型駆逐艦一番艦、朝潮です!」
ル級「オ前ハ……巡洋艦カ?」
利根「……吾輩は重巡、利根である」
ル級「オ前ハ?」
明石「工作艦、明石です!」
ル級「ソシテオ前ハ……人間カ」
提督「提督だ」
朝潮「提督准尉は、この島にある鎮守府の司令官であらせられます!」
ル級「ココガ、鎮守府……ソウカ。私ハ敵ノ本拠地ニ流サレテキタノカ」
ル級「私モ年貢ノ納メ時、カ……フフ……」
長門「ル級……貴様……」
ググゥ
ル級「……///」
全員「……」
提督「……朝飯、食いに行くか」
452: 2017/08/26(土) 20:38:35.20 ID:BpUYPZ8jo
* 食堂 *
朧「」ボーゼン
提督「へぇ、一応深海棲艦も飯は食ってんのか」モグモグ
ル級「タマニ魚ヲ捕マエテ食ベルクライハシテルケド、温カイゴハンハ食ベテナイワネ」パク
ル級「……ネエ長門、ソレナアニ?」モギュモギュ
長門「ん? 醤油のことか? これはこの野菜にかけるんだ。おひたしに味はついていないからな」
明石「かけすぎないように注意してくださいね」
ル級「……コノクライ?」チョロッ
長門「そうだな」
ル級「……」パク
ル級「! オイシイ!」パァァ
長門「そうか、それは良かった!」パァァ
明石「良かったですねえ!」パァァ
利根「……」
朝潮「利根さん、どうしました?」
453: 2017/08/26(土) 20:39:33.71 ID:BpUYPZ8jo
利根「……不思議なものじゃの。敵であるはずの存在と、こうも和気藹々としながら朝餉を取ることになるとは」
朝潮「そう、ですね。朝潮も、こんな日が来るとは思いもしませんでした!」
利根「これがこの島の日常なのじゃな……」
提督「馬ぁ鹿、日常であってたまるかよ。あそこの朧を見てみろ、目え見開いて固まってんじゃねえか」
朧「」コウチョク
利根「違うのか?」
提督「お前は来たばかりだから誤解してるだけだ」
ゾロゾロ
吹雪「おはようございまーす!」
敷波「ごっはんーごっはんー」
潮「あれ? 朧ちゃん固まってるけど何が……?」
電「なにかあったのです……?」
吹雪「なにって……?」
敷波「え……?」
ル級「ン?」モグモグ
吹雪敷波潮電「「「「はわわわわ!?」」」」ビックゥ!
454: 2017/08/26(土) 20:41:07.07 ID:BpUYPZ8jo
電「て、て、敵戦艦なのです!?」ステーン
吹雪「し、ししし司令官離れてください危ないです!!」ガタガタガタ
潮「うーん……」フラッ
敷波「ちょっ、潮気絶してる!? しっかりしろってばー!」ユッサユッサ
提督「ほれ見ろ、普通こうなる」
利根「……むう」
提督「俺ですら、まさか深海の連中と飯を囲むなんて想像だにしてなかったしな」
ル級「私ダッテ朝ゴハンマデ御馳走シテモラエルナンテ、思ッテナカッタワ」
利根「提督よ、おぬしは本当に驚いておるのか? 厨房におった比叡はまったく驚いておらんかったではないか」
*
比叡「え? 深海棲艦? またご冗談を……ひえー、本物ですか!?」
比叡「それでどうして食堂に……一緒に食事を! そうでしたか!」
ル級「……イイノカ?」
比叡「ええ、どうぞどうぞ! お腹がすくのはみんな一緒なんですね!」ニコー
*
提督「あれの肝っ玉は特別製だ。比較対象にはならねえよ」
明石「ちなみに比叡さんの隣にいた暁ちゃんは絶句してました!」
455: 2017/08/26(土) 20:42:40.40 ID:BpUYPZ8jo
長門「しかし、現実にこうして交友できているからな。問題なのはこれからだぞ、提督」
提督「ん?」
長門「貴様は、これからル級をどうするつもりだ?」
提督「……どうする、ねえ」
長門「普通、人間なら捕虜として扱うことになるんだが……」
明石「この状況では、拿捕というか鹵獲というか、敵戦艦を捕まえたことになりますからねえ」
ル級「……ソウ、ダナ」
提督「俺は別に捕まえる気はねえよ。好きに出入りしな」
ル級「ハ!?」
提督「お前、これ以上俺たちとやり合う気はあるか? 艦娘と戦う気はあるか? ねえならまた遊びに来いって話だ」
ル級「……」ポカーン
長門「提督よ……普通、こんなことを深海棲艦に言う司令官はいないぞ?」
吹雪「そ、そそそそうですよ司令官!!」
敷波「それ本気で言ってる!?」
潮「お、お、落ち着いて! 落ち着いて深呼吸して!!」ヒッヒッフーーー
明石「潮ちゃんそれ違うよ」
提督「落ち着くのはお前らのほうだろ」
456: 2017/08/26(土) 20:43:36.71 ID:BpUYPZ8jo
電「さ、さすがにびっくりするのです……大丈夫ですか?」
ル級「……私ハ……」
提督「ま、決められないなら少し考えな。お前の都合もあんだろ?」
ル級「……」
朧「……はっ! い、今、敵戦艦がご飯食べてた気がするんだけど!」
電「朧ちゃん、ちゃんと現実に戻ってくるのです」
提督(思いの外、電が冷静なのは、沈んだ敵も救いたいって考えてたからかねえ)
* 少しだけ時をさかのぼり 某鎮守府 *
「潜水艦どもが全員へばったって? MVP取った奴は別だろう?」
伊8(オレンジ疲労)「……」
「なるほど、ハチだけ元気なのか。じゃあお前、単艦で行ってこい」
伊8「……!」
「補給はお前の分だけ出してやる。他の潜水艦連中に補給を受けさせたいなら、とっとと行け」
伊8「……はい」
457: 2017/08/26(土) 20:45:48.44 ID:BpUYPZ8jo
* そして一方のオリョール *
「ウハwwwル級イネェwww」
「マジデwwwリアルトンズラwww」
「リダ補充ヨロwww」
「軽巡POP」
「エwwwwww」
「誘ッタ」
「ウハwwwオkwww」
「マジデwwwwwwwwwwwwwwwww」
「オイスー^^」
「ポコタンktkrwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
「ル級ガ抜ケテ、アイツラノテンション、オカシクナッテル……」
「大丈夫ナノカ」タラリ
461: 2017/09/06(水) 01:01:16.87 ID:NmuZX/UBo
* 墓場島鎮守府 執務室 *
神通「そうですか。戦艦と交流を持てたということですね」
長門「そうだ。捕まえることもせず、ル級は海に帰って行ったが……いいのか?」
提督「いいんだよ。俺にはあいつを拘束する気はねえ」
長門「神通、貴様はどう思う?」
神通「私はル級さんとの交流に賛成です」ニコッ
長門「……!!」
提督「なんだその意外そーな顔は」
長門「す、すまん、そんなにあっさりと賛成すると思わなかったんだ」
提督「神通が以前所属してた鎮守府は、深海棲艦と友好を結ぼうとしていたからな」
長門「それでか。あんまり良い笑顔で言うから面食らってしまった」
神通「あの……そうは言いましたが、私も諸手を挙げて賛成というわけではありません」
神通「疑いたくはありませんが、彼女が私たちを騙している可能性もありますし、それに……」
長門「それに?」
提督「俺が狙われる、ってか?」
神通「……」
長門「狙われる? どういうことだ?」
462: 2017/09/06(水) 01:03:01.93 ID:NmuZX/UBo
提督「神通の元いた鎮守府の司令官……F提督は、深海棲艦と友好を結ぼうっていう連中で集まってた」
提督「それをうざったく思った別の海軍連中が、F提督たちを謀頃したんだよ。戦争が終わったら困るって理由でな」
長門「!」
提督「その犯人が、少佐じゃねえか、って言われてる」
長門「本当か!?」
提督「言われてる、っつうだけで証拠はねえ。だが、あいつならやりかねねえだろ」
神通「……私は、ル級さんとの交流は賛成です。ですが、それを表沙汰にすることには反対です」
提督「ま、そうならぁな。いいんじゃねえか、それで。上に報告すんのも面倒だし、馬鹿正直に報告しても厄介ごとは増えそうだ」
提督「ル級だって人間全部と仲良くしようって気はねえだろ。俺たちだけの関係ってことにしちまおうぜ」
長門「なるほど……乙女の秘密というやつだな」
神通「……」
提督「……」
長門「な、なんだお前たち、その顔は!?」
463: 2017/09/06(水) 01:04:10.06 ID:NmuZX/UBo
* 東部オリョール海 戦闘海域 *
爆雷<ヒュー…ボボーン
伊8(大破)「くぅ……!」
通信『その海域さえ抜けてしまえば、あとは潜水艦に攻撃できる奴はいない』
通信『そのまま進軍しろ』
伊8「……」
通信『そろそろ次の敵艦隊が見えてくるころだな。適当にやり過ごせ』
伊8「……」
コーン
伊8「……ソナー音……!?」
ヘ級「……」ニヤリ
伊8「て、敵艦隊に……軽巡洋艦発見……!!」
通信『ああ? その海域に軽巡がいるわけないだろう!』
伊8「で、でも……!!」
爆雷<ゴポポポ…
伊8「!!」
464: 2017/09/06(水) 01:05:45.78 ID:NmuZX/UBo
ボガボガボガーーン
伊8「あ……!!」ゴボッ
通信『なんだ今の爆発音は! ハチ! 応答しろ!』
伊8「……」ゴボゴボゴボ…
通信『応答しろ! おい! ふざけるな! 応答しろっ!!』
祥鳳「……今、先行していったのは潜水艦でしょうか?」
伊勢「みたいだね。単艦で大丈夫なのかな?」
伊19「潜水艦なら、この海域を抜ければ攻撃される心配はないのね!」
熊野「そうなんですの? でも……わたくしの瑞雲から想定外の連絡が来てましてよ?」
球磨「何かあったクマ?」
熊野「……あの船影……間違いありませんわ。あれは軽巡ヘ級ではありませんこと?」
伊58「ええええ!?」
祥鳳「!! 仕方ありません、軽巡洋艦を優先して攻撃します!」
465: 2017/09/06(水) 01:06:33.29 ID:NmuZX/UBo
* オリョール近海 *
ル級「……戻ルニシテモ、ドンナ顔ヲシテ戻レバイイノカシラ……ハァ」
ル級「……!」
ル級「……アレハ……」
海中に沈んでいく伊8「」ゴボゴボゴボッ
ル級「……」
ル級「……」
ル級「……」
ザプン
466: 2017/09/06(水) 01:08:44.87 ID:NmuZX/UBo
* 数日後 X提督鎮守府 *
X提督「報告は聞いたよ。オリョールに有り得ないはずの編成の艦隊がいたらしいね?」
通信(W提督)『ああ。伊勢も球磨も目視で確認してる。熊野が瑞雲で映像記録も残してる』
通信『本営に確認したら俺たち以外にもそういう連中と遭遇したって連絡があった。あいつら、気分転換でもしたのか?』
X提督「うちのイクとゴーヤも肝を冷やしたって言っていたよ。祥鳳も真っ先に狙って撃破したって言うし」
通信『……なら、そこで潜水艦娘の船影を確認したこともきいているな?』
通信『熊野が壊れた通信機を見つけてな。調べてみたら、ある鎮守府の潜水艦の持ち物だってことがわかった』
通信『単艦で大破させた艦娘を、進軍させたことは重大な軍規違反だ。二度と艦隊の指揮を執ることはできないだろう』
X提督「その潜水艦娘は……」
通信『残念だが、轟沈したらしい』
X提督「……まだ、艦娘をそんな風に扱うやつらがいるのか……」
通信『戦争だからな。犠牲が出るのは仕方ない』
通信『が、自分の部下を無駄氏にさせる無能にだけはなりたくないな』
X提督「……」
467: 2017/09/06(水) 01:10:28.98 ID:NmuZX/UBo
* ほぼ同時刻 墓場島 北東の砂浜 *
(伊8が波打ち際で気を失って横たわっている)
如月「この子は潜水艦ね。伊号潜水艦の8さんよ」
ル級「潜水艦!?」
電「わざわざオリョールから、伊8さんを引っ張ってきたのですか?」
ル級「一応、ネ。ココノ鎮守府ノ艦娘ダッタラ、ト思ッタンダケド……」
提督「そうだったか、気を遣わせて悪いな。うちに潜水艦娘はいねえんだ」
提督「つうか、俺も潜水艦娘を見るのは初めてなんだが……」チラ
ル級「?」
電「どうかしたのですか?」
提督「こいつが着てるの、小学校とかで着るような水着だよな……?」
如月「ええ、俗にいうスクール水着よ」
提督「……」
如月「どうしたの司令官?」
提督「えーとなあ……お前らがセーラー服着てるのって、もともとそれが水兵の制服だから、だよな?」
提督「そこまではいいんだが、その延長で潜水艦は学生用の水着がコスチュームってのはどうなんだ?」
如月「え、ええと……」
電「そう言われても……」
468: 2017/09/06(水) 01:13:02.60 ID:NmuZX/UBo
提督「ま、確かにお前らに言っても仕方ねえな。悪かった、聞かなかったことにしといてくれ」
ル級「トリアエズ、コノ艦娘ハ、アナタタチトハ無関係ッテコトネ?」
提督「ああ、そうだ」
ル級「ナラ、撃ッテモ構ワナイワネ?」ジャキ
如月「ええっ!?」
電「ま、待ってほしいのです!」
ル級「ナゼ待タナイトイケナイ?」
電「そ、それは……!」
提督「そりゃ寝覚めが悪いからだろ。仮にも自分と同じ艦娘が、お前に撃たれるのを見て平然としていられるほど、こいつらも図太くねえ」
電「し、司令官さんはどうなんです!?」
提督「さあて、俺は判断つかねえな。こいつが延々ル級を苦しめていたっていうのなら、ル級の気持ちが優先されてもいいんじゃねえの」
ル級「ソレナラ、遠慮ハイラナイワネ?」
提督「まあな。ただなあ……」
ル級「?」
提督「こいつ、やけに細くねえか? 目の下にくまもできてる。そんな奴がお前を何度も相手するのかね?」
如月「私も体の細さは気になってたわ。明らかにやつれてる感じだもの」
電「そもそも、オリョールで潜水艦が沈む話は聞いたことがないのです。こんなになること自体、ありえないのです!」
469: 2017/09/06(水) 01:13:37.48 ID:NmuZX/UBo
ル級「沈メテアゲレバ、イイノヨ。ソイツハ、生キルコトヲ苦シガッテルンダカラ」
如月「え……?」
提督「……その根拠は」
ル級「ワカルノヨ。ワタシタチニハ」
提督「へえ……こいつの口から訊いてみたいもんだな、その理由」
提督「ル級、しばらくこいつの身を預かる。また明日ここに来てくれるか」
ル級「……」
提督「心配すんな。逃がしたりしねえよ、約束する」
ル級「……ワカッタ。ダガ、約束ヲ違エルヨウナラ、ワカッテイルナ?」
提督「ああ、好きにしな」
如月「……」
電「如月ちゃん、どうしたのです?」
如月「私、そういえば司令官と約束したことなかったわ……羨ましい」ハイライトオフ
電「!?」ゾクッ
ル級(ナ、ナンダコノ悪寒ハ!?)ゾクゾクゾクッ
473: 2017/10/16(月) 20:38:57.23 ID:nQjDGpr8o
* 2日後 墓場島鎮守府 入渠ドック *
明石「簡単に言うと、過労ですね」
提督「……艦娘ってのは、そこまで働かせなきゃなんねえもんなのか?」
明石「残念ながら、潜水艦娘の扱いとしてはさほど珍しくないほうですよ。消費資材が少なく、入渠時間も短いからこその運用方法です」
明石「それに、東部オリョール海は資源の宝庫です。資源調達作業ですから、数をこなしてなんぼなんです」
提督「バケツリレーみたいだな」
明石「そんな感じですね。そしてその備蓄は、本営からある一定期間ごとに発令される大規模作戦のために行われることがほとんどです」
明石「そのために、普段から少しでも多くの資源を確保し、大規模作戦の成功のために各鎮守府が躍起になるんですよ」
提督「それを、日頃の深海勢力の討伐もやりながら、か」チラッ
ル級「……」
眠り続ける伊8「」
提督「話は分かった。が、こいつが2日も目を覚まさないのは普通じゃないよな?」
明石「まあ……普通じゃありませんね。体は治りましたけど、それで目を覚ます気配がありませんから、余程のことがあったんだと思います」
474: 2017/10/16(月) 20:39:57.68 ID:nQjDGpr8o
提督「……おい、ル級」
ル級「ナニ?」
提督「こいつは生きるのが苦しいとか言ってたな?」
ル級「エエ、ソウヨ。今モ目ヲ覚マシタクナイミタイ」
提督「明石、こいつの体のほうはもう大丈夫なんだな?」
明石「は、はい、衰弱はしていますが、治療及び損傷の修理は終わってます」
提督「そうか。じゃあ明石、こいつ借りてくぞ」ヒョイ
明石「え!? ど、どこに連れていくんですか!?」
提督「砂浜だ。行くぞル級、ついてこい」
明石「提督!? 待ってください!!」
ル級「?」
475: 2017/10/16(月) 20:40:39.26 ID:nQjDGpr8o
* 北東の砂浜 *
提督「この辺でいいか」
明石「いったい何をしようと言うんですか! 提督!!」
ル級「人ガ集マッテキタワネ」
ゾロゾロ
古鷹「ほ、本当に敵戦艦と一緒にいるんですね……」
朝雲「明石さん、騒いでるけどなにかあったの?」
由良「あの子、もしかして深海棲艦が連れてきたっていう潜水艦の子?」
利根「……そのようじゃの」
提督「さて、伊8っつったな」
伊8「……」
提督「おい、起きろ」
伊8「……」
提督「起きろよ」ペチペチ
明石「て、提督! 傷病人ですよ!?」
476: 2017/10/16(月) 20:41:36.87 ID:nQjDGpr8o
提督「いくらなんでも、ここまで起きねえのはおかしいだろ。ほれ、起きろ!」
伊8「……」ユサユサ
提督「……」
伊8「……」
提督「とっとと起きろやおるああああ!」アイアンクロー
伊8「っぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」メギメギメギメギ
明石「提督なにやってんですかああ!?」ガビーン
古鷹「提督やめてあげてー!?」ガビーン
由良「酷い起こし方しないで!」ガビーン
朝雲「……あれがこの鎮守府の普通じゃないからね?」
利根「う、うむ……」
ル級(本当カシラ……)
477: 2017/10/16(月) 20:42:56.28 ID:nQjDGpr8o
伊8「う、ううう、ここは……」
提督「××国××島鎮守府。墓場島鎮守府、と言ったほうが通じるらしいがな」
伊8「……××国……そんなところまで、流されてきたの……?」ボンヤリ
提督「で、随分寝起きが悪かったようだが、お前はこれからどうするんだ」
伊8「……はっちゃん、怪我してたのに……手当、してくれたの?」
明石「はい! ひどい怪我でしたよ?」
伊8「そう……ありがとう。でも、すぐに行かないと……」
提督「どこへ行く」
伊8「オリョールへ……資材を、集めに……」
提督「……お前、本気で言ってるか?」
伊8「……?」フリムキ
提督「お前、本当に元の鎮守府に戻りたいのか?」
伊8「……」
提督「お前の意思で、鎮守府に戻ると、言うんだな?」
伊8「……」コクン
提督「だったらどうして、お前はそんなに怯えてやがる」
伊8「え……?」
提督「気付いてないのか? 足が震えてるぞ」
伊8「……!」カタカタ
478: 2017/10/16(月) 20:44:01.31 ID:nQjDGpr8o
提督「どうしてそこまで戻りたがる? そんなにお前の司令官が恋しいのか?」
伊8「……や、やめて……!」ビクビクッ
提督「お前を2日も眠り続けるほどこき使う、お前の司令官はそんなに立派なのか」
伊8「やめて……はっちゃんの提督を、悪く言わないで……!」
提督「……」
伊8「怒られる、から、やめてぇ……」カタカタカタ
提督「……!」
伊8「2日も、休んで……連絡もしないで……」プルプルプル
伊8「……あ、つ、通信機も……ない……ない!」ゴソゴソ
伊8「う、ううう……たくさん、怒られる……!!」ガタガタガタ
伊8「はやく……はやく、もどらないと……ちんじゅふに、もどらないと……っ!!」フラフラ
古鷹「……っ」
朝雲「ね、ねえ、ちょっと、異常じゃない……!?」
明石「行かせちゃ駄目です! 提督、彼女を止めてください!」
提督「……」
伊8「もどらないと……おこられる……!!」
479: 2017/10/16(月) 20:45:44.98 ID:nQjDGpr8o
提督「……安心しろ。戻る必要はねえ」ガシッ
伊8「!?」エリクビツカマレ
提督「お前は一度、沈んだんだよ。オリョールでな」
伊8「!? うそ……うそっ!」
提督「轟沈したお前の体の傷は、そこにいる明石が直したんだ」
伊8「はなして……はなしてえ……はっちゃんは、ちんじゅふに、もどるの……!!」バタバタ
提督「……」ハァ
グイッ
伊8「きゃっ!?」ドテッ
提督「おい、ル級」
ル級「ナァニ?」
提督「こいつ撃っていいぞ。好きにしろ」
伊8「!?」
ル級「!」
明石「な、何を言ってるんですか!? 提督!!」
提督「人の話を聞かねえ氏にたがりに、手を貸す気はねえ」
提督「こいつは一度沈んでる。戻ったところで解体が関の山だ」
提督「氏んだも同然の潜水艦なら、潜水艦に恨みを持ってるル級に撃たせてやったほうがいいじゃねえか」
480: 2017/10/16(月) 20:47:09.57 ID:nQjDGpr8o
明石「な……正気ですか!!」
古鷹「」
朝雲(古鷹さんが言葉を失ってる……)
由良「せっかく助かったのに、どうしてそんなことを!」
提督「助かるかもしれない道を自分で潰してるんだぞ。なんで手を差し出す必要がある」
伊8「え? え……!?」
明石「だからと言って、曲がりなりにも一鎮守府を預かる司令官が、そんな判断をしますか!?」
提督「俺は自分の意思があるやつを優先する」
ル級「……」
朝雲「ね、ねえ、利根さん!? 利根さんからも何か言ってよ!」
利根「……」
ル級「……提督」
明石「!」ハッ
ル級「本当ニ、イイノネ?」スッ
提督「ああ」
明石「提督!!」
朝雲「駄目よ!!」
由良「やめてえええ!」
481: 2017/10/16(月) 20:48:28.79 ID:nQjDGpr8o
ル級「サヨナラ」ジャキッ
伊8「……ひ……!?」
ドドドドドォン
伊8「あ……!」
ドガドガドガドガァァァン
明石「!! てい……とく……っ!!」ギリッ
古鷹「」
朝雲「ほ、本当に撃たせるなんて……!!」
由良「そんな……」ヘタッ
利根「……」
ル級「……フゥ」
提督「……」
明石「提督!! あなたって人は……!!」
利根「待て」グッ
明石「何をするんですか!!」
利根「提督に食って掛かるより、伊8のもとへ行くべきじゃぞ。まだ間に合うやもしれん」
明石「……っ!」ダッ
482: 2017/10/16(月) 20:50:29.32 ID:nQjDGpr8o
由良「と、利根さんは、提督に何も感じないんですか!!」
利根「あの伊8は、元いた鎮守府に戻って、またオリョールを巡るだけの存在に戻ろうとしておる。それは伊8にとっての幸せであろうか」
利根「提督のやり方が良いとは思わぬが、伊8のこれからを考えれば、強引ではあるがこの手段もありかもしれぬと吾輩は思ったのじゃ」
朝雲「い、いや、普通ないでしょ!?」
利根「ならば聞くが、普通とはどういったものを言うのだ?」
朝雲「え? え、ええっと……」
利根「吾輩は、前の鎮守府で『もう頃して欲しい』とまで思ったことがある。それこそおぬしの言う『普通』とはかけ離れておろうが……」
利根「ならば、伊8を取り巻く環境が普通であったかどうか? 何を以てそれを確信できようか……!」
由良「利根さん……」
利根「あの伊8は、今の自分が正しいのかを考える力すら奪われている……吾輩にはそんな風にも見える」
利根「生きていれば、幸せを感じる可能性はある。その通りじゃ……吾輩は、今まさにそれを実感している」
利根「ゆえに、吾輩たちがしなければならないのは、伊8の間違った自己犠牲の精神を正してやることではないのかな?」
朝雲「……」
明石「伊8さん! しっかりしてください……あれ?」
伊8「げほ、げほっ、砂が口に……」
利根「む?」
483: 2017/10/16(月) 20:52:18.91 ID:nQjDGpr8o
朝雲「ど、どうしたの?」
明石「い、いえ、その、全然命中してないといいますか……」
由良「ど、どういうこと?」
利根「ル級、おぬし……」
ル級「借リハ返シタワヨ」ウインクー
明石「!!」
提督「なんだと? ……お前はそれでいいのか?」
ル級「ダッテ私、戦艦ダモノ。潜水艦ヘノ攻撃ハデキナイワ」
提督「本当かよ」
明石「……提督」スッ
提督「ん?」
バヂン!
提督「!」ヨロッ
明石「ル級さんですらこうなのに……少しは、人の痛みを思い知ってください!」
由良「良い音」ジトメ
朝雲「そりゃ、ビンタされても仕方ないわよ」ハァ
古鷹「……はっ!? って、提督!? は、鼻血が出てます!!」
提督「つ……気にすんな。歯は折れてねえから安心しろ」ポタポタ
古鷹「顔の左半分が真っ青ですよ!?」
484: 2017/10/16(月) 20:54:22.74 ID:nQjDGpr8o
ザッザッ
不知火「司令、こちらにいらっしゃいま……どうしたんですかそのお顔は」ヒキッ
提督「いいから気にすんな」
不知火「そうは仰いますが……砲撃音も聞こえました。いったい何があったん……」ピタ
不知火「……」パチクリ
ル級「?」クビカシゲ
不知火「……」メヲコスリコスリ
不知火「……」
不知火「……司令? 視界に深海棲艦の存在を確認できますが?」クビカシゲ
提督「その話はあとだ。それより、先月の轟沈艦リスト、もらってきてるな?」
不知火「……はい。それとその件で個別にご報告があります」
提督「なんだ?」
不知火「先日、東オリョール海域の敵艦隊の編成に変化がありました」
不知火「平時は編成に戦艦ル級がいる艦隊が、先日に限り軽巡ヘ級へと変わっていたそうです」
明石「!」
485: 2017/10/16(月) 20:55:10.25 ID:nQjDGpr8o
由良「ねえ、それってまさか」チラッ
ル級「……私?」
不知火「……」
提督「不知火、続きを頼む」
不知火「は、はい。その結果、大破した状態で進軍を指示された、某鎮守府の潜水艦娘、伊8が轟沈」
不知火「その艦隊を指揮していた鎮守府の司令官は解任となりました」
朝雲「それ、もしかしなくても、だよね」チラッ
古鷹「そういうことでしたか……」
伊8「?」キョトン
提督「やれやれ……」
不知火「あの、凡その見当は付きますが、不知火にもご説明いただけないでしょうか……」
486: 2017/10/16(月) 20:57:19.78 ID:nQjDGpr8o
* 医務室 *
明石「伊8さん、落ち着きました?」
伊8「……はい」
古鷹「提督も動かないでくださいね」クスリヌリヌリ
提督「ん」
利根「薬を塗って終わりですむのか、その怪我は」
古鷹「なにもしないよりは良いと思います!」
由良「まあ、専門医もいないし……やむを得ないわよね。ね?」
朝雲「半分は提督の自業自得なところもあるしね」
不知火「それで、申し上げにくいのですが……伊8さんが沈んだ遠因に、ル級さんの出撃ボイコットがあったということですね?」
明石「間違いないでしょうね。ル級さんがこっちに滞在していた時期にも合致するし」
由良「ル級さんが抜けた代わりに軽巡が入ったから、潜水艦が無傷で突破できる海域じゃなくなった……ってことね」
朝雲「結果的に、意図せずして意趣返しに成功しちゃった感じ?」
ル級「ナンカ、釈然トシナイワ……」ムスー
利根「ふむ……それもあるが、伊8に大破進軍を命じた司令官も問題じゃろう。そもそも伊8の轟沈はそれで免れたはずじゃ」
古鷹「ですが、その人は解任されましたし、同じような目に遭う艦娘はいなくなりますよね!」ガーゼペタペタ
提督「そうなるといいがな」
487: 2017/10/16(月) 20:58:00.65 ID:nQjDGpr8o
古鷹「あっ、提督動かないでください!」ホータイマキマキ
提督「ん……」
不知火「とりあえず、伊8さんの司令官の解任は決定事項です。新しい司令官が着任予定になっています」
不知火「ただ、その方が前任者同様に潜水艦娘をオリョールへ繰り出すかどうかはわかりません」
古鷹「そうですか……そうでないことを祈るばかりですね」ホータイマキマキ
不知火「あとは、伊8さんの処遇についてですが」
伊8「!」
朝雲「ねえ不知火、さっきの資料見せてもらってもいい?」
不知火「ええ、どうぞ」スッ
朝雲「……由良さんと明石さんは一度轟沈してるんでしたっけ?」
由良「うん」
朝雲「それで鎮守府に引き続き着任できているのは、この島の鎮守府の特例、と」
古鷹「提督はすごい権限をお持ちなんですね!」ホータイマキマキ
提督「ん」
朝雲「じゃあ、もう伊8さんの取るべき針路はもう決まってるじゃない」
由良「そうね、結局そこに行きつくわよね」
488: 2017/10/16(月) 20:59:03.77 ID:nQjDGpr8o
明石「そういうわけで、伊8さん」
伊8「……」ビク
明石「あなたの鎮守府にいた司令官は馘になりました。彼はもう二度と艦隊の指揮を執ることはありません」
伊8「……! ほん、とう……?」
明石「はい! あなたの鎮守府の潜水艦娘の処遇も変わると思います! 多分!」
伊8「……そう……そう、なんだ……!」
伊8「もう、あのひとに、怯えなくて……いいんだ……!」ポロポロポロ
明石「ただ、あなたは轟沈したことになりました。元の鎮守府には戻れません」
伊8「! じゃ、じゃあ、はっちゃんは……」
由良「大丈夫、この鎮守府には轟沈した艦娘が着任できる特例があるから!」
明石「そういうわけですから提督!」クルッ
提督「……」ホータイグルグルマキー
伊8由良明石「「「!?」」」
明石「……なにやってんですか提督」
由良「……ミイラ男ごっこ?」
利根「さっきから眺めておったが、古鷹が包帯を巻きすぎただけじゃぞ」
提督「ん」
489: 2017/10/16(月) 20:59:53.21 ID:nQjDGpr8o
明石「と、とりあえず、伊8さんの着任は認めてくださいますよね?」
提督「ん……」
由良「あの、ん、じゃわからないんですけど」
提督「んぐぐ」ミブリテブリー
朝雲「……もしかして」ガシッ
朝雲「古鷹さん! こんなに包帯巻いたら提督の顎が動かないでしょ!?」
古鷹「え? 苦しくない程度に固定したんだけど……」
朝雲「固定してどうするの!? これじゃご飯も食べられないじゃない!」ホータイホドキホドキ
古鷹「……はっ!? そういえば!!」
明石「古鷹さんってこんなに抜けてましたっけ?」
由良「ときどきだけど、とぼけてはいるわよね、ね」
利根「朝雲は苦労性なんじゃな……」
伊8「……」
ル級「……」
不知火「……あなたは、これからどうするおつもりですか」
ル級「……サテ、ネ」
不知火「……」
495: 2017/10/25(水) 21:41:39.98 ID:hV3dmL76o
* 夜 提督の私室 *
如月「はい、これで大丈夫ですよ」
提督「悪いな。自分の顔の包帯がこんなに巻きづらいとは思わなかった」
如月「うふふ、悪いだなんて……司令官のお世話でしたら、この如月、いつなんどきでも喜んで承ります」
如月「せっかくですからこのまま朝まで……うふふふふー」ニジリヨリ
提督「お前な……」ハァ
扉<コンコン
利根「利根である。提督よ、夜分にすまないが、いいだろうか」
如月「……いいところだったのに」プクー
提督「いいところじゃねえよ……入っていいぞ」
利根「うむ、失礼する……む? 取り込み中であったか?」
提督「包帯を巻きなおしてもらったとこだ。どうかしたのか」
利根「うむ。ひとつ、確かめておきたいことがあっての……」
如月(利根さん、提督の前まで近づいて行って、何をする気かしら)
利根「……」
提督「?」
496: 2017/10/25(水) 21:44:37.92 ID:hV3dmL76o
利根「せいっ!」ミギストレート
提督「危ねっ!?」バッ
如月「!?」
利根「む……何故避ける?」クビカシゲ
提督「避けるわ馬鹿たれ! なんでお前に殴られなきゃなんねえんだ!」
如月「と、利根さん!? どうして司令官に殴り掛かるの!?」
利根「……おぬしは、明石にビンタされたときには笑っておったではないか」
如月「」シロメ
提督「よく見てやがったな……それはそういう意味じゃねえよ。あん時は殴られても仕方ねえな、って自嘲してただけだ」
利根「そうなのか?」
提督「俺は殴られて喜ぶ趣味はねえぞ。如月もショック受けてんじゃねえか、ほれ戻ってこい」デコツン
如月「はっ!? し、司令官!? 司令官がドMなんて嘘ですよね!?」
提督「知るか、興味ねえから安心しろ」ハァ
利根「……そうであったか。すまないことをした」ペコリ
如月「もう、利根さんったら駄目ですよ? 司令官が大怪我しても、治療できる人がいないんですから」
利根「うむ……重ね重ね申し訳ない」
497: 2017/10/25(水) 21:45:47.63 ID:hV3dmL76o
提督「それよりもだ、なんで俺を殴ろうとした?」
利根「……吾輩は、愛情というものがなんなのか、わからんのじゃ」
如月「??」
利根「前にいた鎮守府のM准将は、吾輩が好きだと言っておった。その反面、吾輩を痛めつけることを喜びとしておった」
利根「吾輩にはどうしても理解できなかった。気に入った相手に苦痛を与える理由も、意味も……」
利根「昼間、おぬしは明石に叩かれて笑っておった。叩いて喜ぶ相手なら、叩く側の気持ちもわかるのだろうか、と……」
提督「……叩く側の気持ちを確かめたかった、ってか」
利根「うむ。しかし、吾輩が提督を殴っていたとしたら、吾輩は途方もない後悔に苛まされておったであろうな」
如月「ね、ねえ司令官? 私たち、まだ利根さんのことはあまり詳しく聞いてないんだけど……」
利根「……話していなかったのか?」
提督「ああ、朝潮にも箝口令を敷いてる。お前がここに馴染む気があるかどうかわからなかったからな」
提督「だがまあ、ありもしねえ噂が立つよりかは、事情を話したほうが良さそうだな」
* *
提督「つうわけで、利根がここに来た理由は以上だ」
利根「……」ウツムキ
如月「……なんてひどい……」グスッ
498: 2017/10/25(水) 21:48:03.69 ID:hV3dmL76o
提督「事情が事情だからな。俺は正直、利根の過去についてはまだ伏せておきたいと思ってる」
提督「見た感じ、利根もここへ来たときよりはましな顔を見せるようになった。少しは立ち直ったと俺は勝手に思ってるんだが、どうだ?」
利根「……そう、じゃな。地下牢にいたころとは雲泥の差だ」
提督「だが、その頃の話を明け透けに話せるほど、利根の気持ちの整理もできちゃあいないと俺は踏んでる」
利根「うむ……」
提督「この鎮守府の連中は、ほぼ全員腹に一物抱えた奴ばかりだ。不可侵条約的な意味で、暗黙の了解を敷いてるところもあるんだが……」
提督「利根の体の傷だけは隠しようがねえ。利根自身が、その傷を見られても大丈夫なのかどうか……」
提督「そして、その傷を見た連中が変な噂を立てたりしないか。そのふたつが心配で、まだ誰にも話をしてねえんだ」
如月「……確かに、事情を知らなければ勘繰ってしまうかもしれないわね」
提督「出撃すれば絶対に中破しないなんてのも無理だろ。入渠ドックならまだしも、風呂は共同で仕切りもないし」
提督「俺の部屋のシャワーを使わせるような特別扱いをすれば違う意味で怪しいとも思うよな?」
如月「それはそうね」
提督「利根自身が、自分のトラウマに向き合う覚悟もしてないうちに俺が背中を押すわけにはいかねえからな。慎重にもなるさ」
利根「……何故じゃ」
提督「ん?」
499: 2017/10/25(水) 21:48:58.44 ID:hV3dmL76o
利根「何故、提督は吾輩にそこまでする?」
提督「……まあ、一応はこの鎮守府の責任者だからな。俺もお前らも、楽に過ごせる環境を作りたいだけさ」
利根「……おぬしは、やさしいんじゃな」
提督「さあて、そりゃどうだかね」プイ
如月「素直じゃないんだから」
提督「俺が伊8にやった仕打ちを考えても、そんなこと言えんのか?」
如月「その伊8さんにも、助けてって言われたら助けてあげるんでしょ?」
提督「……そりゃあな」アタマガリガリ
如月「ほんと、素直じゃないんだから。ふふふっ」
利根「……如月は、提督を信頼しておるんじゃな」
如月「ええ、提督の秘書艦ですもの♪」
利根「……おぬしになら、聞いても良いかもしれん」
如月「?」
利根「おぬしの考える、愛情とは、どういうものなのじゃ?」
如月「! そ、そうね……」カァァ
利根「? 恥ずかしくなるようなものなのか?」
提督「俺はよく知らん」
500: 2017/10/25(水) 21:50:09.68 ID:hV3dmL76o
如月「恥ずかしいっていうか、どきどきはするわね……なんていうか、その人のことを考えると、嬉しくなる、っていうか……」モジモジ
利根「ほう……」
如月「あとは、その人のために何かしてあげたいって思ったり、もっと私を見てもらいたい、って思うようになるわね」キャー
利根「ふぅむ……」
提督「……その話は別に俺の部屋でやらなくてもいいんじゃねえのか」
如月「もう、司令官はここまで言わせておいて白を切るの?」ズイッ
利根「む?」
如月「司令官は、自分のことを過小評価しすぎてるんです」トン
提督「お、おい?」オシタオサレ
如月「そのお顔。本当なら司令官も明石さんもお説教したいところなんですよ? 良い機会ですから言わせていただきますけど」ノシカカリ
如月「司令官? 自分が正しいと思ったことを貫こうとして、危ないとわかりきってる橋を渡るのはやめていただけません?」オオイカブサリ
如月「この際ですから、私が司令官をどのくらい慕っているか、わかってもらわないといけませんね……!」カオチカヅケ
利根「……な、なんじゃ!? 如月、おぬし何をする気じゃ!」ドキドキ
如月「何って……ふふふふっ」
提督「おいきさら……」
如月「司令官は、少し静かにしててくださいね……!」ガシッ
提督「!」
501: 2017/10/25(水) 21:51:55.36 ID:hV3dmL76o
利根「き、如月! おぬし、まさか……いかんぞ! そんな破廉恥な行為は!!」ドキドキ
如月「止めないで利根さん……私、もう限界なの……!」
利根「そ、そんな大胆な!! ほ、本気で、せ、せ、せっ……」
利根「せっぷんする気か!?」カオマッカ
明石「何言ってるんですか!! もっと先まで行くでしょ!?」ガチャバーーーン!
如月「え」
利根「む?」
提督「おい」
明石「あ」
「……」
如月「明石さん……?」ゴゴゴゴゴゴ
明石「ひぃっ!!」
502: 2017/10/25(水) 21:53:30.28 ID:hV3dmL76o
* *
明石「すみませんでした」ドゲザ
如月「もう……せっかく司令官と二人きりになってたのに。どうしてこう邪魔ばかりはいるのかしら」
提督「そう腐るな。明石も俺に用件があったんだろ」
明石「え、ええ。その、手をあげた件の謝罪に……」
提督「そいつは俺が悪いんだから気にすんな。お前を責める気はねえよ」
明石「ですが……」
提督「あの状況を見ててお前を責めた奴がいたか? いなかったんだからお前は悪かねえって話だ」
提督「くそ痛えが、首も歯も折れない程度には手加減してくれただろ。だからもう気にすんな」
明石「は、はあ……」
提督「それより明石、お前いつから立ち聞きしてた?」
明石「え、ええ、それは……利根さんがここへ来たときの話のときから……」
提督「なら話は早え。利根の体の怪我、治す方法を考えてくれねえか」
利根「!」
503: 2017/10/25(水) 21:54:18.98 ID:hV3dmL76o
提督「勿論、完全に消すのは難しいだろうが、少しでも目立たなくしてやれば、必要以上につつかれることもないだろう」
明石「わかりました。そういうことでしたらこの明石にお任せください!」
利根「……!」
提督「利根、お前はどうする。俺はお前がやりたいことを口に出さない限り、手は貸さねえぞ」
利根「……吾輩は……まだどうしたらよいかわからぬ。じゃが、もっといろいろなことを知りたい、と思った」
利根「海のことや、この鎮守府のこと、皆のこと……」
利根「……ゆえに、もう少し、生きてみようと思う。おぬしに撃たれたくはないからの」ニコ
提督「言ってくれるな……だがまあ、よく言った」クックッ
提督「じゃ、今日のところはこれで解散だな。俺も寝るから部屋に戻りな」
如月「そう? それじゃ私もここで」
提督「戻れ、っつったろ」ジトメ
如月「……っもう、知らないんだから!」プクー
利根「ではの、提督」
明石「おやすみなさい、提督」
提督「ああ」
504: 2017/10/25(水) 21:55:22.83 ID:hV3dmL76o
扉<パタム
如月「もうっ、司令官は鈍感なんだからっ」プンプン
明石「……」
利根「……明石? どうかしたのか?」
明石「あ、いえ、なんでもないですよ」
明石「……」
明石(手加減、したつもりなかったんだけどなあ……)
505: 2017/10/25(水) 21:57:39.79 ID:hV3dmL76o
* 一方その頃 建造ドック *
建造妖精たち「……こんな夜中にわたしたちに仕事を頼みに来たのかい?」
島に住んでいる妖精A(以下島妖精)「ああ……資材は確保できてる。こいつを見てくれ」
島妖精B「開発資材、100!」
島妖精C「燃料4000!」
島妖精D「弾薬6000!」
島妖精E「鋼材6000!」
島妖精F「ボーキサイト2000!」
建造妖精「すごく……大きいです」ゴクリ
島妖精A「? 多いんじゃないのか」
妖精たち(ネタが通じてない!?)ガーン
島妖精G「こほん。これは、これまでわたしたちがコツコツ集めてきたへそくり資材!」
島妖精B「提督が来てくれたおかげで、大型建造に十分な量まで集められたよ!」
島妖精D「あの人が来てどうなるかと思ってたけど……」
島妖精C「やっぱり話が通じるって重要だねぇ」
506: 2017/10/25(水) 21:58:40.39 ID:hV3dmL76o
建造妖精「あんな性格でもか?」
島妖精B「……まあ、あの性格はもう少しどうにかならないかって思うけど」
島妖精G「それは……うん。まあ、そうね……」
島妖精F「それにしても、わたしたちも変わったねえ」
島妖精C「もともとは、わたしたち全員が島から出るために新造しようとしてたんだよね」
島妖精B「それが、今は……提督を助けたいなんて思うようになるなんて」
島妖精D「提督も早くみんなに対して素直になっちゃえばいいのに」
島妖精A「……簡単じゃないんだろうな。わたしたちがそうだったように」
島妖精F「これから建造される子が、少しでも提督を楽にしてあげられるといいね」
島妖精G「うん……!」
島妖精A「……よし、やるか」
島妖精全員「やろう!」
島妖精B「資材、セット完了! ヨシ!」ユビサシ
島妖精D「数量 ヨシ!」ユビサシ
島妖精A「建造ボタン動作! ヨシ!」ユビサシ
建造妖精「……こっちも準備完了だ。いつでも行ける!」
島妖精全員「……」コク
507: 2017/10/25(水) 22:00:24.03 ID:hV3dmL76o
島妖精全員「建造……開始!」ポチーーーーーッ!!
ガシャン
島妖精E「……始まった……!」
島妖精F「頼むよ……!」
建造妖精たち「「建造はまかせろーー!!」」バリバリー
島妖精たち「「(余計なフラグ立てるの)やめて!」」
島妖精A「?」クビカシゲ
妖精たち((やっぱり一人だけネタがわかってない……!))
ゴウン…ゴウン…
[7:59:16]
ゴウン…ゴウン…
513: 2017/11/07(火) 22:35:03.06 ID:W+zyJmJCo
* 翌日 朝 廊下 *
明石「提督、おはようございます!」
提督「おう、おはようさん」
明石「あの、お怪我の具合は大丈夫ですか? だいぶ色が……痛そうなんですが」
提督「大丈夫だが……包帯、巻き直さなきゃ駄目かもな。飯食ってからでいいか」
明石「では後程お手伝いします!」
提督「頼む」
明石「はい! あ、それと報告したいことがありまして。今、建造ドックで艦娘の建造が行われているんです」
提督「なに?」
明石「あと10分程度で建造できるようなんですが……提督、建造なんてしました?」
提督「いいや? そもそも建造ドックなんて入った記憶すら……いや、ドックの修理が終わったときだけだな。それっきりだ」
明石「ですよね? 提督は、建造なんかしないってはっきり仰ってましたもんね……だとしたらいったい誰が」
提督「建造には資材が必要なんだろ? 資材は減ってるのか?」
明石「いえ、帳簿の数量とは合致してます」
提督「? じゃあ、誰かが外から資材を持ち込んだのか」
明石「それが、よりにもよって大型建造なんです。ほいほい持ち歩けるような量の資材ではないんですよ」
514: 2017/11/07(火) 22:36:31.67 ID:W+zyJmJCo
提督「大型? っつっても俺はその辺いまいちわかんねえんだが……じゃああとは、この島の妖精がやったとしか思えねえな」
明石「妖精さんが!?」
提督「砂浜にしょっちゅうガラクタが流れてくるだろ? あれの鉄くずを集めて妖精に渡して、資材の足しにしてんだからな」
明石「そうだったんですか!?」
提督「ほかにも轟沈した艦娘の壊れた艤装や、残ってた燃料とかの処分も妖精に任せてたし……」
提督「仮にあいつらが建造しようとしたとしても、なにかしら意図があってのことだろ。俺からとやかく言うつもりはねえさ」
明石「いいんですか……」
提督「俺より長く島に住んでるからし、俺がこの稼業できてんのも、あいつらのおかげだ。そのくらいのことにケチはつけねえよ」
明石「そうですか……わかりました」
提督「ところで、伊8はどうした」
明石「入渠ドックで念のための精密検査中です」
提督「そうか。とりあえず、艦娘として復帰するかどうか、あいつの口から直接聞いてなかったし、今はリハビリ中って扱いにしたいんだが」
明石「え、ええ……着任させないんですか?」
提督「戦線復帰の前にやってもらいたいことがあってな」
明石「と言いますと?」
515: 2017/11/07(火) 22:37:28.84 ID:W+zyJmJCo
提督「この島の海岸をぐるっと見てもらいたい。正直、この島の周囲のどこが危険でどこが安全か把握できてねえ。それを調べて欲しい」
提督「艦娘が流れ着いてくる海流がどこから来るか、残存する艦娘の遺体がほかにないかってのも、わかると助かる」
提督「あとはこの海域でとれる海産物。資材も大事だが、食の充実も士気向上に……まあ、単にうまい飯を食いたいだけだが」
明石「それはもちろんです!」
提督「着任の申請は準備しておく。出していいかどうかの判断は、明石の了解を得た上で出したい。いいよな?」
明石「了解しました!」
提督「よし。じゃあ、あとは利根だが……」
明石「昨晩の様子を見る限り、それほど心配はないように思えますね」
提督「そうか? じゃあ、朝飯の前に建造ドックに行くか」
516: 2017/11/07(火) 22:38:05.43 ID:W+zyJmJCo
* 建造ドック *
ゴシュウウウ…
島妖精たち「おお……!」
ガシャッ
島妖精D「この子は……!」
島妖精B「信じられない……!!」
建造妖精「フ……いい仕事をしたな」ドヤァ
島妖精A「ああ。素晴らしい……」
??「……ここは……」ムクッ
島妖精F「目覚めたよ!」
島妖精E「きみ! 自分の名前はわかる!?」ワクワク
??「私……私の名前は……」スクッ
大和「私は大和。戦艦、大和です!」
島妖精F「立った……!」
島妖精C「立った立った! 大和が立ったー!!」キャッホーイ
島妖精G「クララかよ!」ビシーッ
517: 2017/11/07(火) 22:39:00.97 ID:W+zyJmJCo
島妖精A「大和がたった?」
島妖精E「氏にたい船はどこかしら~?」
島妖精G「それは龍田だよ!」ビシーッ
島妖精A「???」
建造妖精「なあ、Aちゃんてボケ頃し?」
島妖精B「まじめちゃんだからね」
島妖精G「さあさあそんなことより祝杯だよ!」ワンカップダキカカエ
島妖精D「やったあああ! お酒だああああ!」ヒャッハーーー!
島妖精B「鏡割り! 鏡割り!」ワクワク
島妖精F「木槌配るよ!」セッセセッセ
建造妖精たち「わたしたちもいいのか!?」
島妖精C「もちろん! 木槌行き渡ったー!?」
島妖精E「こほん、では皆様ご発声を! 大和の建造を祝して!」
「「ぃよーーぉっ!」」
ワンカップの蓋< ペキョン
島妖精D「ひゃっはあああ酒だああああ!」ヒシャクブンブン
島妖精F「落ち着けってのー!!」
518: 2017/11/07(火) 22:40:18.44 ID:W+zyJmJCo
ワーワーキャーキャー
大和「……あ、あの」
島妖精A「ん?」
大和「ここはどこなんでしょう。日本ではない気がしますが……」
島妖精A「ああ、ここは××国××島にある孤島の鎮守府だ」
大和「……××国……××島ですか!? そ、そんな遠くの地で、私はお役にたてるのでしょうか……」
大和「そ、それで。この鎮守府の責任者は……」
島妖精A「提督准尉だ」
大和「」
島妖精A「……大和?」
大和「……さ、佐官どころか尉官……見習いとも、少尉候補生ともいえる人のもとに、私が……!?」プルプルプル
島妖精A「お、おい、大丈夫か!?」
大和「……ふ」
島妖精A「ふ?」
大和「不幸だわ……」バターン
島妖精C「山城だこれー!?」ガビーン
ナンダナンダ!?
ヤマトニナニガアッター!?
519: 2017/11/07(火) 22:41:16.38 ID:W+zyJmJCo
* *
島妖精G「あー、それは……うん。まあ、そうね……」
島妖精F「確かにショックは受けるよね。なんたってあの大和だもん」
島妖精B「こんな無人島に配属されたら、普通はそういう反応するよねー」
大和「……その……提督准尉は、どのような方なのでしょうか……」
島妖精A「そうだな……ええっと」
島妖精B「口が悪くてー」
島妖精C「目つきが悪くてー」
島妖精E「愛想も悪くてー」
島妖精F「運も悪いよねー」
島妖精G「四翻で満貫だね」
建造妖精「あと直属の上司にも恵まれてない」
島妖精B「あ、それは二翻役」
島妖精B「三翻役でもよくね?」
島妖精G「わーい跳満だあ」
島妖精C「 御 無 礼 」ドヤァァァ
大和「」シロメ
520: 2017/11/07(火) 22:42:45.82 ID:W+zyJmJCo
島妖精F「また気絶した!?」
島妖精C「トビで終了ですね」ドヤァァァ
島妖精D「言ってる場合かっ!」ポコーン
島妖精A「大和!? おい! しっかりしろぉぉぉ!!」ペチペチ
大和「……はい、大和は大丈夫です……」ドロリ
島妖精E(これアカンやつや……)タラリ
島妖精F(目から生気が失われてるんですけど……)タラリ
島妖精A「……とにかく、ここに建造されてきたことを今更悔やんでも仕方がない」
島妖精A「大和ほどの艦娘なら、余所の鎮守府からお呼びがかかることも十分ある。だからそれまでの間だけでも……」
大和「……はい、大和は大丈夫です……」ユラリ
島妖精B(これ絶対だめなやつだってばさ……)タラリ
島妖精D「まあね、落胆するのは仕方ない……でも、わたし的には納得できないよ」ヒック
大和「?」
島妖精D「大和が日本海軍の最終兵器だったってことはわかってる。名前からして期待されて建造された艦だってこともさ」トクトクトク
島妖精D「辺境の島で生まれたことを悔やむのも准尉のところに配属されたことを悔やむのもわかるよ……だからってねえ!」グビッ
島妖精D「わたしらだって、なんの希望も持たずに建造ボタン押したつもりはないんだよ!」コップタァン!
島妖精D「たたき上げでもなんでもいい! ここの提督を上に押し上げてやろうって気は起きないのかい!?」
大和「……」
521: 2017/11/07(火) 22:43:26.28 ID:W+zyJmJCo
島妖精A「……まあ、どうするかは、とりあえず提督に会ってからでもいいんじゃないか」
島妖精G「そういえば、提督の写真、誰か持ってきてなかったっけ?」
建造妖精「なんでそんなもの持ってきたんだ?」
島妖精F「ほら、提督は今、顔を怪我してるじゃない。いきなりそっちの顔で現れたらびっくりすると思って」
建造妖精「ああ……そりゃ確かになあ」
島妖精A「大和、こっち見ろ。こっちの机。提督准尉の写真があるから、とりあえず顔を覚えてくれ」
大和「……」ウツロ
大和「……」
大和「……この方が……」
大和「……提督……准尉……」
ガション
島妖精E「ん?」
島妖精D「何の音だ?」
ガション
島妖精F「み、見て、あれ!」
522: 2017/11/07(火) 22:44:29.97 ID:W+zyJmJCo
大和「……」ゴゴゴゴゴゴゴゴ
島妖精B「や、大和が……!」
ガショガショガッション
島妖精G「なんで大和の主砲が最大仰角になってるの!?」
島妖精A「お、おい、大和……?」
大和「……とくは」
島妖精A「?」
大和「提督はいつこちらにおいでになるんですか!?」キラキラキラキラキラキラッ
妖精たち「「「!?」」」
建造妖精「す、少し前に明石が来て、提督に話をしに行くって言ってたけど……」
大和「そうですか! はっ! 髪の毛とか乱れてないかしら……鏡! 鏡は!」キョロキョロ
島妖精D「ね、ねえ……どゆこと?」
島妖精A「……写真をしばらく凝視してたと思ったら、目が輝き始めて……」
島妖精F「つまり、好みのタイプだったってこと……?」
島妖精G「まじっすか……」
島妖精D(蓼食う虫も好き好きってやつかねえ)グビッ
523: 2017/11/07(火) 22:46:13.48 ID:W+zyJmJCo
大和「はっ、これも邪魔だわ!」
ゴソゴソ
ポイッポイッ
ガランガラン
島妖精B「……ねえ、今投げ捨てたのって」
島妖精E「徹甲弾の被帽装甲だよね。胸当ての」
島妖精C「まじで何やってんの!?」
大和「だって抱きついたときに痛かったら迷惑です!」
島妖精F「もう抱きつく気満々なんだ……」
扉< ガチャ
明石「失礼しまーす。建造はもう終わったのかな……って、えええええ?」
妖精たち「「あ」」
大和「……」スッ
明石「ほ、本当ですか……!? まさかこの鎮守府に……!!」
大和「戦艦大和。推して参ります!」ビシッ
島妖精E(うわあ、格好良い……)
島妖精G(さっきまで意気消沈してたのに……)
524: 2017/11/07(火) 22:47:15.98 ID:W+zyJmJCo
明石「て、提督! 大変です! 大和です、大和ですよ!! 早く!」ピョンピョン
大和「ああ、ていと……」
提督「大和?」(←包帯ぐるぐる巻き)
大和「」
提督「こいつが大和か……」
大和「……イ」
提督「い?」
大和「イヤアアアアアアアアアアアア!!」ビリビリビリ
妖精たち「」キーン
明石「」キーン
提督「」キーン
大和「い、いったいどうなさったんですか、その顔のお怪我は!!」ズイッ
提督「……大したことじゃねえから、少し落ち着け」
大和「は、はい! ですが、あまりに痛々しいので心配になってしまいます……」
大和(ああ、声も素敵……)トロン
提督(こいつ、俺より背丈あんのか……180cmはあるよな)←177cm
525: 2017/11/07(火) 22:48:10.48 ID:W+zyJmJCo
建造妖精「そういえば、その顔の怪我、明石がやったんだって?」
ゾワッ
大和「……明石さん? それは本当ですか?」ハイライトオフ
明石「ヒィッ!?」ビクーッ
大和「明石さん、どうして逃げるんです? 提督の後ろに隠れてないで、こちらへどうぞ?」ヌラリ
明石「」ガタガタガタガタ
妖精たち(うわあ……)
建造妖精(ごめん明石……)
提督「そんな顔して主砲向けて何する気だ。明石撃つ気なら容赦しねえぞ」
大和「し、しかし」
提督「この怪我に関して、明石に一切の責任はねえ。これは俺の過失だ、文句あんのか」
大和「!! い、いえ、そういうことでしたら……出過ぎたことをしました、申し訳ありません」ペコリ
明石「て、提督、すみません……」カタカタ
提督「明石は謝るなっつってんだろ。俺は最初から不問にするって言ってただろうが」
大和「あの、明石さん、怖がらせてしまってすみませんでした」フカブカ
526: 2017/11/07(火) 22:49:28.51 ID:W+zyJmJCo
明石「い、いえ、気にしないでください!」
大和「本当にすみません……」シュン
明石「……大和さん、提督のことを気に入ってるんですね」
大和「え、はい、気に入ってると言うか……」モジモジ
提督「?」
島妖精B(提督もここまでどんくさいと罪だね……)
島妖精F(意図的に他人の好意は遮断してるきらいもあるけどね)
明石「……あ、そうだ。提督、その怪我の包帯の巻き直し、大和さんに代わってもらってもいいですか?」
大和「ええ!? よ、よろしいんですか!?」パァァ
明石「は、はい! いいですよね、提督?」
提督「……まあ、いいけどよ」
大和「こ、光栄です! 全力でお手当させていただきます!」
提督「いや、ゆるくていいぞ?」
明石「とりあえず、朝ごはんを食べに行きましょう! ね?」
大和「はいっ!」
527: 2017/11/07(火) 22:49:58.62 ID:W+zyJmJCo
提督「……」
提督「なあ妖精?」
妖精「なあに?」ヒョコッ
提督「こいつ本当に大和か?」
妖精「うん。正真正銘、本物だよ」
提督「マジか」
妖精「ただ……」
大和「~♪」ニコニコキラキラ
妖精「建造直後からこんなに好意的な艦娘って普通はいないはずなんだけど」
提督「……どうしてこうなった?」
532: 2017/11/10(金) 22:45:30.47 ID:pKC4drZ6o
* 食堂 *
長門「そうか。利根もついに戦う決心がついたか」
利根「うむ。そういうわけだから、これからよろしく頼むぞ」
長門「ああ、だがまだ無理はするなよ?」
利根「承知しておる。それよりもあの男のほうが余程危なっかしいとは思うが、どうなのだ?」
朝雲「そうね。みんなも見たでしょ、あの提督の顔」
霞「まったく、なにやってんのよあのクズは……」
由良「その提督さん、今朝はどうしたの?」
潮「明石さんが用があるって言ってましたけど……」
吹雪「司令官と一緒に建造ドックへ寄ってから来るそうですよ!」
神通「建造ドックへ? ……提督は過去に建造はしないと仰っていたはずでは?」
敷波「なにがあったんだろーね?」
初春「む、提督が来たようじゃ……ぞ……!?」
朝潮「初春さんどうしまし……えええ!?」
(提督の腕にしがみついて食堂に現れる大和)
全員「「「……」」」
全員「「「えええええ~~~!?」」」ドヨッ
533: 2017/11/10(金) 22:47:13.61 ID:pKC4drZ6o
明石「思った通りの反応ですね……」
明石の肩に乗った島妖精A「まあ、あの大和だからな……」
提督「……大和、そろそろ腕を離せ。自己紹介しろよ」
大和「はいっ! 私は大和型戦艦一番艦、大和! 推して参ります!!」
全員「「「」」」アングリ
提督「……まあ、そうなるよな」クビコキコキ
大和「さあ提督! 朝餉にしましょう!」ダキツキッ
提督「げふあ!? い、いい加減離れろ!」
全員「「「……」」」アゼン
比叡「……ほんとにほんとの大和さんなんですね……あ、これ大和さんの分の朝餉です」
大和「ありがとうございます!」
提督「悪いな比叡。いきなりの増員だが、飯の量は足りるか?」
比叡「はい、今日は提督がおかゆだけで良いと聞きましたから、その分を回してますので大丈夫です!」
534: 2017/11/10(金) 22:47:52.99 ID:pKC4drZ6o
暁「それよりも、暁は司令官のお顔の怪我のほうが心配よ?」
提督「まあ、こればっかりは医者もいねえし、おとなしくしてるしかねえな」
暁「誰かに頼んでお医者様を呼んだりできないのかしら」ハイオカユ
提督「こんな島に来てくれる医者が、そういるもんかね。それなら俺が行ったほうが早そうだが」オカユウケトリ
暁「だ、大丈夫よ! 一日二日くらいなら、ちゃあんとお留守番できるんだから! まかせてよね!」
明石「頼もしいですねえ! ね、提督!」
提督「……そうだな」ニッ
大和「提督、早く治すためにも、しっかりご飯を食べないといけませんね! さ、早くこちらの席に!」
提督「わかったからせかすなよ……」チャクセキ
提督(ん? なんか嫌な予感がするぞ?)
大和「♪」チャッ
提督「おい大和。それは俺のスプーン……」
535: 2017/11/10(金) 22:48:41.93 ID:pKC4drZ6o
大和「ふー、ふー……提督、はい、あーん」ニコー
提督(またかよ)
如月「!?」カシャーン(箸を落とした音)
神通「!?」バキィ(箸を圧し折った音)
敷波「んがぐっ!? げほ! げっほ!」ドンドンドン
吹雪「し、敷波ちゃん大丈夫!?」セナカサスリ
不知火「」ブボァ
初春「」ブボァ
利根「」ベチャア
由良「利根さん!? 拭く物拭く物……きゃあ!?」ガシャーン
朧「由良さん!?」
朝潮「……」ポカーン
潮「長門さん、私、この光景に見覚えがあるんですが……」
長門「偶然だな潮、私もだ……なあ、古鷹?」
古鷹「ふえっ!? わ、忘れてください!」カオマッカ
霞「……そんなこともあったわねそういえば」ズツウ
朝雲「……簡単に想像できるけど、古鷹さんなにしてたんですか」ズツウ
536: 2017/11/10(金) 22:49:32.90 ID:pKC4drZ6o
電「司令官さん……今度は大和さんと何があったのです?」ジトメ
提督「俺は何もしてねえし、むしろ俺が訊きてえよ。様子見に行っただけで、こんなにひっついてくるとか訳がわからねえ」
大淀「大和さん、提督とはなにかあったんですか?」
大和「……運命を、感じたんです」
大淀「……は?」
大和「提督のお写真を拝見したとき、大和の体が熱くなったのを覚えています」
大和「この方をお守りしなければいけない、この方とともに暁の水平線に勝利を刻まなければならないと……」
大和「そんな、使命感にも似た、高揚感を抱いたんです」ポ
提督「……なんで俺なんだよ……」アタマガリガリ
大淀「……初対面、ですよね?」
提督「ああ」
明石「あ、大淀、迂闊なことは言わないほうがいいよ。私、さっき主砲向けられちゃったから」ヒソヒソ
大淀「本当ですか」ヒソヒソ
島妖精A(明石の頭上から)「……もしかしたら、だが」ヒョコ
島妖精A「わたしたちのせいかもしれない……」
明石大淀「「え?」」
537: 2017/11/10(金) 22:50:41.92 ID:pKC4drZ6o
* *
明石「つまり、妖精さんが建造ボタンを押して建造したから、妖精さんたちの意思が多めに混ざったんじゃないか、と」
島妖精A「そうだ。今思えば、結果的にとはいえ提督の役に立ちたくてボタンを押したわけだからな」
島妖精A「それに集めた資材も、もとは提督が拾ってきた鉄くずや壊れた艤装、埋葬した艦娘に残ってた燃料……」
島妖精A「役に立つことができなくなった資材をわたしたちが製錬して建造したから、素材が必要以上に恩を感じてる気もするんだ」
大淀「そういった思いをリサイクルしたら、それが艦娘にも反映されるなんて……聞いたことありません」
島妖精A「……それプラス、埋葬された艦娘の思いが、さらに上乗せされたとしたら?」
明石「……」
大淀「……」
島妖精A「可能性の話でしかないけどな」チラッ
大和「……」モグモグ
提督「おし、ごちそーさん。おーい、朝雲! ちょっと時間あるか?」
朝雲「はーい? どうしたの司令官」
提督「飯が終わったら大和に包帯を巻きなおしてもらうんだが、不安でしょうがねえ」
朝雲「!」
提督「察したな? ちょっと付き合え」
538: 2017/11/10(金) 22:52:41.38 ID:pKC4drZ6o
朝雲「あー……わかったわよ。別にいいけど、霞じゃだめなの?」
提督「大和がやたら俺を気に入っててな、さっき明石に主砲向けたんだよ」ヒソ
朝雲「うわあ……それじゃ霞も危ないってこと? もー、どうしてこう面倒な人ばかり増えるわけ?」
提督「理解が早いと助かる」
朝雲「……それはいいんだけど、その大和さんはなんであんなしかめっ面でご飯食べてんの?」
提督「それはわかんねえな」
大和「……ごちそうさまでした。提督、こちらの朝餉はどなたがお作りになられたんでしょうか」
提督「? 今朝は比叡と暁だったぞ」
大和「そうですか……」スクッ スタスタスタ
長門「お、おい提督、大和は厨房に行って何をする気だ!?」
提督「……」
潮「長門さん、提督のこの顔は……」
長門「ああ……どう見ても『面倒臭えな』って考えてる顔だな……」
539: 2017/11/10(金) 22:53:25.85 ID:pKC4drZ6o
* 厨房 *
比叡「さ、遅くなりましたけど、私たちも朝餉にしましょう!」
暁「はーい、いただきまーす!」テアワセー
厨房の扉<コンコン
大和「失礼します!」チャッ
暁「大和さん!?」
比叡「どうかしたんですか?」
大和「……今朝の朝餉、お二方が作られたと聞きました……!」キリッ
長門「お、おい大和、何をする気だ! 早まるんじゃない!」
潮「な、長門さんも大和さんも落ち着いてください!」
バッ
大和「比叡さん! 暁さん!」セイザ
比叡「ひえっ!?」
暁「あ、暁さん!?」
長門「!?」
潮「!?」
540: 2017/11/10(金) 22:54:20.45 ID:pKC4drZ6o
大和「この私にお料理を!」ミツユビソロエテ
大和「教えていただきたく存じます!」オジギ
比叡&暁「「!?」」
長門「あ、あの大和が……!?」
潮「正座して……お願いを!?」
「……」
比叡&暁「「ぴ」」
潮「ぴ?」
比叡&暁「「ピエェェェェェエエエエエ!?」」
長門「なんだその悲鳴は……いや気持ちはわかるが」
提督「……なーにやってんだ……」ハァ
朝雲「なんていうか、すごいもの見ちゃったわ……」アゼン
545: 2017/11/12(日) 20:07:34.48 ID:hG7T4T1qo
* 執務室 *
如月「……それで、大和さんは比叡さんにお料理を教わることになったんですね」
提督「ああ。だが、今日は比叡の出撃もあるしな。とりあえず大和には島を見回りしろって言って追い出したばっかだ」
如月「それにしても、まさか大和さんが着任するなんて、思いもしなかったわ」
提督「まったくだ……」ハァ
如月「司令官には良いことじゃないんですか? 人気の艦娘にあんなに慕われて、包帯も綺麗に巻きなおしてもらっちゃって」ツーン
提督「この鎮守府にゃあ過ぎたる艦だよ。聞けば消費資材が多すぎて、ほいほい出撃できる艦娘じゃねえし」
提督「それに……でかい声じゃ言えないが、女とはいえ俺よりでかい奴に追っかけられるのが、あんなにビビるもんだとは思わなかった」
提督「敵ならぶちのめして終わりだが……敵意がない分どうするか躊躇っちまうな。逃げるのが遅れる」ハァ
如月「……ってことは、まだ私のほうが有利なのかしら」ボソッ
提督「ん? なんだって?」
如月「なんでもありませんよ?」ニコッ
提督「……そうか?」
不知火「失礼いたします。如月、そろそろ出撃準備をお願いします」
如月「え、もうなの? わかったわ、それじゃ司令官、行ってきます♪」
提督「おう、気を付けてな」
不知火「」ケイレイ
タッタッタッ…
提督「……さて、大和が戻ってこないうちに、見回りに行ってくるかね」
不知火「はい、ご一緒致します」
546: 2017/11/12(日) 20:08:37.46 ID:hG7T4T1qo
* 一方その頃 島の南東部 丘の上 *
神通「……」
神通「!」
大和「あら? おはようございます!」
神通「おはようございます」ペコリ
大和「神通さんはこちらで何をなさってたんですか?」
神通「……今日は、出撃の予定がないので……海を、眺めていました」
大和「海を、ですか……」
神通「……はい」
ザザーン
大和(……確かに眺めはいいけど、この無数に並んだ艤装は何なんでしょう……)
大和(見ていて落ち着かないというか心がざわめくというか……それなのに、どこか懐かしいような……)
神通「あの……大和さんは、どうしてこちらに?」
大和「え? は、はい! 提督から島を見て回ってこいと言われまして!」
神通「そうでしたか……」
大和「あの、提督准尉は、どんな方なんですか? 妖精さんたちは酷い言いようだったんですが……」
神通「……と、仰いますと」
547: 2017/11/12(日) 20:10:04.57 ID:hG7T4T1qo
大和「いえ、練度の高いあなたなら、提督のこともよく知っているのではないかと思いまして」
神通「……そういうことでしたら、私もよくわかっていませんよ。それほど長い付き合いというわけでもありませんし」
大和「そ、そうなんですか?」
神通「私は余所から異動してきましたから。彼をよく知っていそうなのは、不知火さんと如月さん……でしょうか」
神通「不知火さんは、今日は提督と一緒の予定です。埠頭で艦隊を見送ってから見回りに行くはずですので、合流してはいかがでしょう」
大和「本当ですか!? ありがとうございます! それではすぐに提督のもとへ向かいます!」
神通「……」
神通「……大和さんは」
大和「はい?」
神通「提督のことが……本当にお好きなんですね」ニコ
大和「……は、はい!」カァ
神通「すみません、引き留めてしまって」
大和「い、いえ! それで行って参ります!」
神通「はい」
タタタタッ
神通「……」
(海に視線を戻した後、沈痛な面持ちで目を伏せ俯く神通)
神通「……F提督……」
548: 2017/11/12(日) 20:11:46.80 ID:hG7T4T1qo
* 島の東側 鎮守府埠頭付近 *
不知火「ときに司令」
提督「なんだ」
不知火「司令は何故、如月たちの好意を受けようとしないのですか」
提督「……受けた後の責任が取れねえからな。こんな島でこうやって毎日ダラダラ過ごせてるのが奇跡みたいなもんだしよ」
不知火「では、司令の立場が変われば、やぶさかではないと」
提督「そんなことありゃしねえよ。それに……」
不知火「それに?」
提督「そもそも俺は誰かとくっつくつもりはねえ。気を持たせてもそいつを不幸にするだけだ、だから最初から切り捨てるようにしてる」
提督「神通んとこのF提督みたいに、俺もいつ消されるかわからねえ身だ。そういう意味でも、関わりは希薄にしたいんだが」
不知火「……」
提督「……なんだ、不服か」
不知火「いえ、司令には司令のお考えがあってのことだと。答えづらい質問に答えてくださり、ありがとうございます」
提督「いいさ。お前なら、茶化さなそうだしな。誰かにべらべら言いふらすこともねえだろうし……」
不知火「……」
提督「俺も、愚痴る相手が欲しい時もある」
不知火「……承ります」
ドドドドドドド…
大和「提督ーー!!」
提督「……やれやれ、休憩時間は終わりだな。とっとと砂浜に行くか」
不知火「……」コク
549: 2017/11/12(日) 20:12:51.25 ID:hG7T4T1qo
* 北東の砂浜 *
大和「わぁ……綺麗な砂浜ですね!」
提督「……まあ、一応な」
不知火「毎日司令が綺麗にしていますから」
大和「そうだったんですか!」
提督「今日は綺麗なほうだよな」
不知火「ええ……」
大和「? なにかあったんです……」
艦娘の腕らしきもの「」ゴロン
大和「」
不知火「司令」
提督「……ああ、今日はいい日かと思ったのにな。残念だ」
大和「……提督。これは……この子は」
不知火「この浜には、大破もしくは轟沈した艦娘が良く流れ着いてくるんです」
不知火「ほとんどの艦娘はこのような姿で……」
大和「……」
550: 2017/11/12(日) 20:14:46.07 ID:hG7T4T1qo
不知火「この鎮守府で建造された艦娘は大和さんだけです。この島の艦娘は、みんな余所の鎮守府から移ってきました」
不知火「そしてその半分以上は、轟沈してそのままこの島に流れてきた、轟沈経験艦です」
大和「……それでは、あの丘に埋められた艤装は」
提督「見てきたなら話は早いな。あれは、助からなかった奴らの墓標だ」
大和「……そう、だったんですか」
提督「流れ着いた時点でこうだからな。生きてりゃ奇跡、遺言が聞ければ上等だ」
不知火「体も必ず見つかるとは限りません。艤装、装備品、身体的特徴と、各鎮守府の艦娘の轟沈リストを見比べて、誰なのかを判別しています」
提督「先月のはこの前不知火がもらってきたばかりだ、この腕も誰だったかは調べられるだろ」
大和「……」
提督「つうわけでだ。華々しい戦果を挙げることを期待されてるお前には、相応しくない職場だってことは理解できたと思うんだが?」
大和「いえ。戦争には必ず犠牲がつきものです。それが味方であれ敵であれ……目を背けることはできません」
大和「この島で建造されたからには、この島で指揮を執るあなたの右腕になれるように邁進するのが、ここで建造された大和の務めです」
不知火「大和さん……」
提督「……」
大和「とにかく、この子は……この腕はどうするべきでしょうか」
提督「流されない所に置いて一日様子を見る。この腕の持ち主が明日流れ着いてくる可能性もあるし、浜の別のところにいるかもしれないし、な」
不知火「リストとの照合のため、写真だけ撮っておきましょう」テアワセ
551: 2017/11/12(日) 20:16:16.68 ID:hG7T4T1qo
大和「……綺麗な砂浜なのに……悲しい、場所なのですね」
不知火「提督がこの鎮守府においでになるまでは、目も当てられなかったと聞きます」
提督「まあな……ん?」
不知火「あれは……!」
大和「誰か倒れてます!!」タッ
??「……」
提督「こいつ……吹雪に似てんな」
大和「仰る通り、この子は吹雪型の駆逐艦娘ですね」
??「……」
提督「おい」
??「……ぐー……すー……」
大和「!?」
不知火「!?」
提督「……寝てるだけか?」
不知火「よく見れば、殆ど怪我をしていませんね……」
提督「……おい、お前。起きろ」
??「……ん……むにゃ」
提督「お前は何者だ。なんでここに流れてきた。なんで寝てる」
??「……んうう……? ちょっと、待って……ふああ」ムク
不知火「完全に寝ぼけてますね……」
552: 2017/11/12(日) 20:17:39.78 ID:hG7T4T1qo
大和「一度にたくさんの質問をしても答えられないのでしょうし……とりあえず、あなた、お名前は?」
??→初雪「……んと……初雪、です……」
提督「……」
初雪「ところで……ここ……どこ……?」キョロ
提督「××国の××島鎮守府だ。墓場島鎮守府とも呼ばれてる」
大和「そんな異名があるんですか!?」
不知火「はい、不本意ながら」
初雪「……はかば、じま?」クビカシゲ
提督「おまえがなんでここに来たのか、覚えてないのか?」
初雪「ここに来たのは……えと、よく、わかんない……です」カクン…カクン…
初雪「それより、寝かせて……おふとん、欲しい……ぐう……」
初雪「……すぴー……」パタッ
提督「……」
大和「……提督?」
不知火「ほぼ無傷で、寝不足で流れ着いてきた艦娘は初めてですよ」
提督「……」
大和「提督? どうなさったんです?」
提督「……いや、こいつをどうしようかって思ってたんだが……この場合、布団だよな。用意するのは」
不知火「……そうですね」
提督「ここまで悲壮感も緊張感もねえ図太い奴は初めてだ……」
553: 2017/11/12(日) 20:18:19.85 ID:hG7T4T1qo
* おまけ 大和、初めての夜 *
大和「提督の寝室から追い出されました……」グスングスン
電「そういうときは妖精さんに資材を渡して鍵を開けてもらうのです」
吹雪「司令官は眠りが深いから、就寝の一時間後くらいが狙い目ですよ!」
如月「ちょっと、教えてるの!?」
朝潮「同衾までは了承するのがお約束ですよ!」
如月「わ、わかってるけど……」
利根「なるほど……それはよいことを聞いたぞ」
如月「もう……司令官には秘密ですからね?」
長門「……いつの間にそんな約束ができてたんだ」
初春「毎晩駆逐艦と代わる代わる同衾しておるおぬしがいうのも今更と思うがのう」
長門「そ、それはお前たちの希望じゃないか! 私に原因があるように言うな!」
初春「そういうことじゃから、提督のことにも口出しは無用じゃ。おぬしと同じで、あやつもどうあっても我らに手を出さんからの」
長門「それはまあそうだろうが……信頼の形として、それは良いんだろうか」ウーム
初春(こういうところがマジメなのも提督に似ておるのう)
557: 2017/11/19(日) 14:05:59.56 ID:tJBPngAeo
* 翌日 執務室 *
提督「だからお前の所属はどこだった、って聞いてるんだが」
初雪「……それは、言いたくない、です」
提督「言わねーと俺たちが困るんだよ。誘拐犯扱いされたらたまったもんじゃねえ」
初雪「でも、戻りたくないし」
提督「だったらなおのこと、元の鎮守府に三行半叩きつけてやらねーと駄目なんじゃねえのか」
初雪「もう関わりたくない……ぶっちゃけると引きこもりたい」
提督「それはいいにしても、お前がいた鎮守府の名前や特徴がわからねーと、こっちも対策の取りようがねえだろが、ったくよ……」
初雪(いいんだ……)
提督「じゃあ、質問を変えるか。お前、なんで砂浜に流れ着いてた?」
初雪「……正直、あまり覚えてない……です。多分だけど、遠征の途中だった気がする……」
提督「遠征?」
初雪「とにかく、休みたくて休みたくて、ひたすら眠りたかった気がする」
提督「……ってことは、過労か?」
初雪「……かも」
提督「交戦した記憶は?」
初雪「それは、ないです」
558: 2017/11/19(日) 14:07:07.95 ID:tJBPngAeo
提督「ほかに変わったことは?」
初雪「むー……あ、そういえば」
提督「なんだ」
初雪「声が聞こえなくなった」
提督「声?」
初雪「そう。なんか……いろいろ思い出してきた」
提督「断片でいいから、片っ端から話してみな。整理しようぜ」
* *
大淀「失礼します」ガチャ
提督「お、いいとこに来たな。初雪の話がだいたい整理できた。お前もちょっと聞いてくれ」
大淀「はい、わかりました」
提督「さて初雪。お前のいた鎮守府には一軍から三軍があって、一軍がメインで動くメンバー、二軍は一軍が動けなくなった時の控え」
提督「一軍と二軍の艦娘にはイヤホンマイクの装備が義務付けられていて、そのイヤホンに指揮官からの指示が飛んでくる」
提督「そして、三軍は入りたての出撃や遠征に行く枠のない、控えの控え」
初雪「……」コク
提督「で、遠征部隊の一軍だったお前は、寝る間もなく遠征に行かされて、疲れがたまって道中でぶっ倒れた」
提督「そのときにイヤホンマイクを紛失したもんで、これまで寝てなかった分の眠気にも襲われた、って感じでいいんだな?」
初雪「……そんな気がする」コクコク
559: 2017/11/19(日) 14:08:07.42 ID:tJBPngAeo
提督「気がする、って、お前そこまで自信がねえのかよ」
大淀「覚えてないんですか?」
初雪「うん……あのイヤホンを付けたあたりからの記憶が曖昧だし」
初雪「体も、発泡スチロールみたいにふわふわしてた……ような」
提督「完全にそのイヤホンが元凶じゃねえか。大淀、心当たりは」
大淀「ありませんね。本営に情報を求めます」
提督「どうも話を聞く限り、催眠術まがいのこともしてそうだな。もし初雪のイヤホンを見つけても、身に着けないように通達してくれ」
大淀「承知しました」
初雪「……んうう」ミミグリグリ
提督「どうした」
初雪「思い出そうとしてたら、耳の中がかゆくなってきた……」
提督「まだ耳の中に何か残ってんじゃねえだろうな?」
初雪「……あ、そうだ。准尉さん、お願い」キョシュ
提督「ん?」
初雪「耳かき、してほしい……です」
提督「……」
初雪「お願い、します」ペコリ
提督「……しょーがねーな……」
大淀(ちゃんとお願いされると、お願い聞いてくれるんですね……)
560: 2017/11/19(日) 14:09:58.89 ID:tJBPngAeo
* *
(ソファで提督が初雪に膝枕中)
提督「……」グリ
初雪「……んふ」ゾク
提督「……」ゾリ
初雪「……ひんっ」ビク
提督「変な声出すな」
初雪「ごめんなさい」
初雪「でも、准尉さん、上手だから……声が出るのは仕方ない」
提督「そんなもんかね」コリ
初雪「うん……すごく、気持ちいい……ふぁんっ」
提督「我慢しろ」チョリチョリ
初雪「こ、これでもかなり我慢してるし」ウットリ
提督「つうか、溜め込みすぎだろ。なんだこの量」モフモフ
提督「よし、こっちは終わりと。ほれ、反対側」
初雪「はい」ムク タタタッ ストン
大淀(初雪さんが素早い……)
561: 2017/11/19(日) 14:11:03.34 ID:tJBPngAeo
提督「……こっちはこっちで固まってんな。イヤホンつけっぱなしだったからか?」カリ
初雪「んあっ」ゾクゾク
提督「……マジで耳垢がリング状に固まってるぞ……ちょっと力入れるから、痛かったら言えよ」カリカリカリ
初雪「だ、だいじょう……んひっ」ゾクゾクゾク
提督「おぉ……でけえのがごっそり取れてきた」ゾリゾリゾリ
初雪「~~~っ!」ビクビクビクッ
提督「やべ、半分に割れた……が、一応半分はとれたな。つってもでけえぞこれ」
初雪「……は……ふう」ビクン
提督「よし、残り半分、カタマリ取るから動くなよ」ズリズリズリ
初雪「んくぅ……!!」プルプルプル
提督「こっちはカタマリになってたおかげで一網打尽にできたな。残りかす取るから待ってろ」コリコリコリ
初雪「おふぅ……」トローン
大淀(初雪さんの顔が、乙女がしちゃいけない顔になってる……)
提督「……おし、終わったぞ」
初雪「……」ムフー
提督「……おい? いつまで膝枕してりゃいいんだ」ツン
初雪「……ちょっとだけ、名残惜しかった……」ムク
562: 2017/11/19(日) 14:13:30.08 ID:tJBPngAeo
初雪「あの、ありがとう、ございました」ペコリ
提督「おう。これでお前の所属も話してくれりゃ万々歳なんだがな」
初雪「それは嫌」
提督「……ったく」
初雪「でも」ジッ
提督「?」
初雪「こうやって、直接顔を合わせて、あの人と話したこと……一、二回くらいしかないし」
初雪「耳かきだって、やってもらえると思ってなかったし」
初雪「この鎮守府が、どのくらい忙しいのかわからないけど……ここのほうがいい」ポ
初雪「顔も覚えてない人のところに、戻りたくない……ここに、いたい、です」テレッ
提督「そうか……なら、なんとかしねえとな」
大淀(こういうセリフが来ると、提督も真面目モードになるんですよね。だいぶわかってきました)
初雪「……」カオマッカ
提督「……」
563: 2017/11/19(日) 14:14:12.57 ID:tJBPngAeo
初雪「……あの。少し、散歩してきます」タッ
扉<ガチャ パタム
提督「ん? ああ……って早えな」
大淀(初雪さんは恥ずかしさで逃げていきましたか)
提督「……さて、どうしたもんかね」ミミカキクリクリ
大淀「! ……あ、あの、提督?」
提督「ん?」
大淀「その……よろしければ、私が、耳かき、しましょうか」
提督「あー、気にすんな、自分でできる」
大淀「そ、そうですか」シュン
提督「……そうだな、大淀はいいのか? ついでだし、良かったらやるぞ?」
大淀「わ、私ですか!?」
提督「ああ」
大淀「……」
提督「……」
大淀「……お、お願いします……!」ゴクリ
564: 2017/11/19(日) 14:15:16.79 ID:tJBPngAeo
* 提督の耳かきには勝てなかったよ *
大淀「」クテェ…
提督「大淀。おい、しっかりしろ。大淀」ユサユサ
大淀「……はうっ」
提督「大丈夫か? もう耳かきは終わったぞ」
大淀「そ、そう、ですか……あ、ありがとうございました……」フラフラ
提督「本当に大丈夫か? 膝が笑ってんぞ……どうしてそうなった」
大淀「お、お前のせいだろが、くそが……」ボソ
提督「?」
大淀「い、いえ、なんでも、ありまひぇん……!」
提督「……こりゃだめだな」グイ
大淀「!?」オヒメサマダッコ
提督「とりあえず部屋まで運ぶから。お前、今日はもう休んどけ」
大淀「て、提督この格好はああああ」カオマッカ
提督「落としたりしねえよ、比叡もこうやって運んだし」
565: 2017/11/19(日) 14:15:53.08 ID:tJBPngAeo
大淀「」プシュウウウウウ
提督「大淀?」
大淀「」カクン
提督「……疲れがたまってたのか?」
妖精「どこまでわかっててやってんのかな、提督は」
島妖精F「それよりほかの子が耳かきをねだってくる可能性、すごく高くない?」
島妖精C「1時間以内にボーキ100」
島妖精D「3時間以内に修復材1個」
島妖精G「きょう一日は来ないに鋼材300」
島妖精B「大穴狙い!?」
妖精「みんなはどこから湧いて出てきたのさ」
566: 2017/11/19(日) 14:16:38.11 ID:tJBPngAeo
* 2日後 墓場島近海 巡視船甲板上 *
N中佐「初雪とはぐれたのはこの近辺か?」
磯波「はい」
N中佐「ただの遠征で艦娘が行方不明になるなんて、とんだポンコツツールだな」
N中佐「メーカーは滅多にない現象とか言いやがったが、こっちは実害が出てるんだ、とっとと対応しろってんだよ」
N中佐「これが通常海域で邂逅できない艦だったら目も当てられねえぞ、ちくしょうめ」
磯波「……」
N中佐「おい磯波、この辺に鎮守府はあんのか」
磯波「このあたりだとトラック泊地が一番近いです」
磯波「それと、近くの無人島……××国の××島にも鎮守府があります」
N中佐「××島に? 聞いたことないな。立ち寄ってみるか?」
磯波「では、針路を××島にとります」
ザザザァァァ…
567: 2017/11/19(日) 14:17:37.95 ID:tJBPngAeo
* 墓場島鎮守府 埠頭 *
N中佐「驚いた。本当に鎮守府があるとはな」ザッ
N中佐「誰か住んでいるような雰囲気ではあるが、人影がないな……ん? あれは……おぉい!」
由良「? あなたは?」
N中佐「艦娘の由良か。俺は大湊のN中佐だ、理由あってこの海域の調査をしている。急で申し訳ないが、ここの責任者と面会を希望したい」
由良「……わかりました、少々お待ちください」
N中佐「ああ、頼む」
* 執務室 *
提督「N中佐?」
由良「ええ。海域を調査してるんですって」
大淀「提督……」
提督「……ま、おそらく初雪だろうなあ。大淀、初雪は匿っておけ」
大淀「はい、わかりました。明石のところへ連れて行きます」
568: 2017/11/19(日) 14:18:56.02 ID:tJBPngAeo
* 埠頭 *
提督「お待たせしました、こんな顔で失礼します」
N中佐「うお!? き、急な話で申し訳ない。私はN中佐だ、あなたがこの鎮守府の責任者ですか」
提督「はい。提督准尉です」
N中佐「准尉? なんだ、准尉か」
提督「……」
N中佐「提督君、この辺で初雪を見なかったか。特型駆逐艦、吹雪型の初雪だ」
提督「……初雪、ですか。轟沈艦ならしょっちゅう流れてきていますが、探しましょうか」
N中佐「轟沈艦? いや、沈んだのなら別に……」
ザザァァ
吹雪「司令官! ただいま演習から戻りました!」
利根「やはり大和はすごいな。相手も大和の砲撃に右往左往しておったぞ!」
大和「いえ、まだまだです」テレテレ
N中佐「……!」
提督「どうしました」
N中佐「提督君、あの大和はどうした」
提督「どうしたも何も……うちの大和がなにか?」
569: 2017/11/19(日) 14:19:59.38 ID:tJBPngAeo
N中佐「……」
提督「?」
N中佐「……検査だよ、提督君」
提督「検査?」
N中佐「ああ。この鎮守府の戦績を見せてもらいたい」
提督「どういうことです」
N中佐「これは命令だ。君たちの戦績を見せてもらう」スッ
提督「……」
N中佐(イヤホンの回収のために初雪を探しに来てみれば、思わぬお宝に巡り合えた)
N中佐(准尉などという下っ端に大和を従わせておくなど、なんともったいない。俺の部下にしてやった方が確実に戦果は挙がる)
N中佐(階級をちらつかせて奪っても本営が黙っていないしな。戦績なりなんなり穴を見つけて、適当な理由を見つけねば)
N中佐(それか、大和本人に異動したいと言わせるか……!)
N中佐「失礼するぞ!」ズカズカ
吹雪「し、司令官!? 今の方は……!?」
提督「……面倒臭えのがやって来やがったぞ、くそが」
570: 2017/11/19(日) 14:20:47.11 ID:tJBPngAeo
今回はここまで。
573: 2017/11/25(土) 10:12:20.80 ID:2q9Ypdeno
* 執務室 *
大淀「て、提督! このN中佐という人が戦績表を見せろと仰ってきているのですが……」
提督「いい。見せてやれ」
大淀「! は、はい……」
N中佐「……なんだこのやる気の見えない成果は」
N中佐「大和やら長門やら、大戦力を率いておいてこの体たらく……情けない!」
N中佐「俺の鎮守府は大和や長門なしでも、ここ半年で多大な戦果を挙げている。大佐への昇格も間近だ」
N中佐「提督准尉。お前にはこの艦隊は荷が重すぎるようだな?」
提督「……」
N中佐「こんな鎮守府に戦艦など不要だろう。この戦績書は預かる、この鎮守府の過剰戦力は必要なところに移動すべきだ」
提督「……というと?」
N中佐「この戦績書を見て、本営はどう思うかな? この戦果しか出せない鎮守府で、戦艦を遊ばせるなど無駄でしかない」
提督「それはあなたが決めることじゃないと思いますが」
N中佐「お前が決める話でもない!」
提督「では決めてもらいましょうか。本営の中将に」
N中佐「!?」
574: 2017/11/25(土) 10:13:21.87 ID:2q9Ypdeno
提督「この鎮守府の運営については、中将に定期的に報告を入れています。中将があなたの判断を良しとするなら、従いましょう?」
N中佐「ちゅ、中将だと!? なぜ貴様にそんな権限がある!」
提督「事情がありますので」
N中佐「……」
提督「……」
N中佐「……私なら、君より良い戦果を期待できる」
提督「は?」
N中佐「10日だ。10日もあれば、君の戦績など余裕で越えて見せられるというのだよ」
N中佐「ふむ……その君の顔の怪我、私の鎮守府で軍医に見てもらえ。10日間、休養を与えよう」
N中佐「その間、この鎮守府の指揮を私が執る。君の戦術がいかに薄っぺらいか、この鎮守府の艦娘に教えてやろうじゃないか」
提督「……」
大淀「提督……」
提督「……承知しました、そういうことであれば、中将にも報告を入れましょう」
N中佐「ああ、賢明な判断だ」ニヤリ
提督「大淀、全員を会議室に集めろ」
大淀「ほ、本気ですか提督!!」
提督「ああ。N中佐、あなたも会議室へどうぞ。私は中将へ報告を行ってから参りましょう」
575: 2017/11/25(土) 10:14:04.01 ID:2q9Ypdeno
提督「大淀、N中佐を会議室へ通せ」
大淀「……わ、わかりました……こちらです」
N中佐「うむ」
扉<バタン
提督「……さあて、妖精。またお前さんの力を借りたいが、頼まれてくれるか?」
妖精「また? しょうがないなあ」ヒョコ
島妖精たち「今回はどうしようっていうのさ」ズラッ
提督「奴の態度を見たか? 初雪の話のときはさして乗り気でもなかったくせに、大和を見てから目の色変えやがった」
島妖精B「へーえ、大和に目を付けたのか」
島妖精C「いい根性してるねえ」
提督「お前たちに、大和を指揮するのにふさわしい奴かどうか、見てもらいたくてなぁ」
島妖精F「そっかぁ、それならしょうがないね」
島妖精G「しっかり見極めてあげないといけないね」
島妖精E「不合格なら埋めちゃおうか」
提督「いいのか? 俺ならやるが」
島妖精A「さすがにそれはやめておけ」タラリ
島妖精D「なんにしても、人の物を奪おうとする輩にはそれ相応の見返りをしてあげないとねえ」
提督「あの野郎は、ここがどんな場所かよくわかってねえみたいだし……ちゃあんと教えてやろうじゃねえか」ニタリ
576: 2017/11/25(土) 10:15:41.18 ID:2q9Ypdeno
* 会議室 *
バタバタバタ
明石「遅くなりましたあぁ!」バーン
N中佐「大淀、明石で最後か」
大淀「……はい……」
シーン
明石「あれ? なんなのこの雰囲気」キョロキョロ
N中佐「准尉が遅いせいで、ここの艦娘たちが不機嫌になっているだけだ」
大淀(そんなわけないでしょーが)イラッ
神通(まったくです)ウンウン
古鷹(神通さんはなんで頷いてるんでしょう……)
明石「……えっと、大淀? こちらの方は?」
提督「よお、待たせて悪いな」チャッ
大淀「提督!」
長門「提督! これはいったいどういうことだ!」ガタッ
朝潮「提督が解任されるとは本当ですか!!」ガタッ
提督「どこからそんな話になった。いいから座れ。ったく……」
577: 2017/11/25(土) 10:16:29.37 ID:2q9Ypdeno
提督「勘違いもあるようだから簡単に言う。俺の顔の怪我の治療のため、10日ほど島を離れる」
提督「その際、こちらのN中佐に臨時の指揮官として、艦隊の指揮を代わってもらうことになった」
N中佐「うむ、私がN中佐だ。よろしく頼む」ニコー
如月「! か、解任じゃないのね!?」
吹雪「良かったぁ……」ホッ
朧「……」
古鷹「優しそうな方ですね!」
朝雲「そうだといいわね」
朝雲(絶対そんなことなさそうだけど)
霞(ないわね)
長門(ないな)
比叡(提督より優しくなさそうだなー)ムー
暁(なんでかしら、あんまり嬉しくないわ)クビカシゲ
潮(セクハラされないといいなあ……)
敷波(この人も裏がありそうだなー)
神通(古鷹さん以外はみなさん賢明ですね)ウンウン
古鷹(また神通さんが頷いてる……)クビカシゲ
578: 2017/11/25(土) 10:17:54.73 ID:2q9Ypdeno
由良「提督さん。質問、いいでしょうか?」
提督「なんだ?」
由良「N中佐さんがこちらの指揮を執ることが正式に決まったのは、いつでしょうか」
提督「ついさっきだな」
由良「……いいんですか?」
提督「いくつか条件というか取り決めもあるが、それを踏まえて中将に了解を得た」
ザワ…
由良「そう、ですか。わかりました」
N中佐「なんだ、その条件とかいうのは?」
提督「事情により、この鎮守府では艦娘の建造と解体ができません。建造、解体に関係する任務とその報酬もないことになっています」
N中佐「なに? 戦力は増やせないのか!?」
提督「ドロップ艦と呼ばれる外洋で発見された艦娘を保護するのはありですが、それ以外はできません。なあ、大淀?」チラッ
大淀「はい!」
提督「そして、この鎮守府にいる艦娘は、ここにいる全員です」
提督「駆逐艦は、如月、朧、吹雪、電、敷波、朝潮、霞、暁、初春、潮、朝雲、不知火の12名」
提督「巡洋艦は由良、神通、古鷹、利根の4名。戦艦は長門、比叡、大和の3名」
提督「そして、任務管理担当の大淀、工廠を管理する明石。以上になります」
579: 2017/11/25(土) 10:19:34.42 ID:2q9Ypdeno
N中佐「建造できないと言う制限はどこから来ているんだ? ドックはあるんだろう?」
提督「妖精です。この島の妖精が建造をしたがりません。N中佐は説得できますか?」
N中佐「いや……ならば仕方ない、か」
提督「この鎮守府は、この戦力でやりくりをしております。了解していただけますか」
N中佐「……いや。私ならもっと良い戦果を残せる。君が未熟なだけだ、言い訳とは見苦しいぞ? 提督准尉」フッ
ザワッ
N中佐「!?」ゾクッ
提督「……お前ら、座ってろ」
N中佐(……なんだ、今の殺気は)ダラダラ
提督「まあ、経緯はさておいても、中将も俺の怪我を心配してくれている」
提督「10日という限られた期間ではあるが、鎮守府を留守にする間、N中佐とこの鎮守府を守って欲しい」
提督「くれぐれも無理はしないようにな。俺からは以上だ」
長門「提督、N中佐が指揮を執るのはいつからになる?」
N中佐「準備が必要だ。今夜荷物を取りに行き、明日の朝0800にこの鎮守府埠頭に到着、0900から執務開始の予定だ」
長門「その時間ならば、N中佐の朝餉の準備も必要だな?」
提督「そうだな……」
N中佐「ああ、気を遣わなくていい。サンドイッチでも持参するさ」
長門「そうですか。承知しました」
N中佐(あの長門が飯の心配をするか。鎮守府のレベルが知れるな)
580: 2017/11/25(土) 10:20:24.87 ID:2q9Ypdeno
* 鎮守府埠頭 *
N中佐「時は金なり、だ。0830まで滞りなく全員を集めておくように」
提督「承知しました」
N中佐「磯波、この鎮守府の座標の登録は終わったな?」
磯波「はい」
N中佐「よし、では明日朝8時に到着するよう、スケジューラーとナビゲーターをセットしろ」
磯波「……はい、完了しました」
提督「便利な代物ですね」
N中佐「君も私くらい偉くなれば、この程度のものは支給される。もう少し積極的に戦果を挙げる気になればすぐだ」
提督(別にいらねえけどな)
N中佐「世の中は時代とともに進化を遂げている。こんな島にいるからと新しいものに触れないでいては、あらゆる世界から取り残されるぞ?」
提督「……」
N中佐「では、明日からよろしく頼む。行くぞ!」
小型高速巡視船<ザザァァァァ…
提督「……」
初春「ふむ。行きは良い良い帰りは恐い、と」
581: 2017/11/25(土) 10:21:15.17 ID:2q9Ypdeno
初春「随分ハイカラなカラクリを使いこなしておるのう。じゃが……明朝、無事にここへ着くことができようかの」
提督「伊8にも調べてもらったが、この辺の潮流は迷路みたいになってるんだったな?」
初春「うむ。ある程度決まった位置から進入せんと、潮の流れで砂浜のほうへ押し流されるでのう」
提督「定期便もたまに砂浜に流されてるときがあるしな。明日朝にちゃんと埠頭に辿り着けるか、見ものだぜ」
初春「その言いぐさの割には、なんじゃ? 苦虫を噛み潰したような顔をしおって」
提督「最後の最後にまともなこと言ってくれやがったからな。癪だが正論だ」
提督「たまには外に行って、新しいものを取り入れる必要もあるのかね……あいつの鎮守府で、何が流行ってるかヒアリングでもしてみるか?」
初春「あまり俗な流行物ばかりでも困るがのう」
提督「その辺は艦娘の好みもある。こればっかりは男の俺には判断できねえから、手当たり次第になっちまうな……」
大和「提督!」
提督「ん? どうした大和」
大和「どうしたもこうしたもありません! 提督のもとに着任して、ほんの数日で別の人のもとで働くことになるなんて!」
提督「不満だってか? わがまま言うなよ……対案はあるからそれで我慢しろ」
大和「対案?」
提督「奴の狙いはお前だ。少なくとも、お前を奴の好きにはさせねえよ」
大和「提督……」
587: 2017/12/03(日) 20:02:47.53 ID:d+2wryUoo
* 翌朝 鎮守府埠頭 *
(鎮守府埠頭の沖合で右往左往するN中佐の船を眺める提督たち)
提督「案の定だな」ニヤニヤ
長門「提督の意地の悪さも相変わらずだな」ハァ
不知火「大和さんが見たら幻滅するでしょうね」
長門「いや、わからんぞ。あの大和なら提督が何をしようと全力で肯定しそうな気がする」
提督「マジかよ最低だな」
長門「貴様が言うな!!」
不知火「それより、N中佐の船はこのまま放置でよろしいんですか」
提督「暁と電を迎えに行かせるって言ったのに断ったあいつが悪い」
不知火「……そろそろ本営へ向かう準備がしたいのですが」
提督「なに? もうそんな時間か。仕方ねえな……暁と電、呼んできてくれ」
電「あんまり遅いから見に来たのです」
暁「司令官、あんまり意地悪しちゃだめなんだからね?」
長門「まったく、駆逐艦の二人のほうが余程大人じゃないか」
提督「そこは三人だろ? 不知火も入れてやれよ」
長門「だから貴様が言うな!!」
不知火「長門さん、まともに取り合わないほうがよろしいかと」
588: 2017/12/03(日) 20:03:28.61 ID:d+2wryUoo
* 鎮守府 会議室 *
N中佐「あんなに接岸に苦労するなんて聞いてないぞ……」
提督「だから誘導すると言ったではありませんか」
N中佐「くそっ、予定がずれた! せっかく組んだスケジュールを全部見直さねばならん!」
提督(おいおい、どんだけ余裕のないスケジュール組んでんだ?)
N中佐「とにかく全員いるな!? 妙高、あの箱を持ってこい!」
妙高「はい」ドサ
N中佐「全員、これを身につけろ!」
長門「……これは……!」
N中佐「イヤホンマイクだ。俺からはこれを通して全員に指示を出す」
N中佐「貼ってある付箋に名前が書いてあるから、それぞれ自分の名前が書いてあるイヤホンを身に着けるんだ!」
敷波「ふーん……」
利根「なるほどのう……」
朧「……」
明石「私と大淀の分がありませんね?」
N中佐「おまえたちは戦闘要員じゃないだろう。お前たちはお前たちの仕事をすればいい」
N中佐「行き渡ったか? では、全員身に着けて待機するように。指示は追って出すことにする。では、解散!」
ゾロゾロ ザワザワ
589: 2017/12/03(日) 20:06:23.42 ID:d+2wryUoo
N中佐「さて、ここから先は俺が全部取り仕切る。准尉、俺の鎮守府へ行く準備は済ませているな?」
提督「それはいいんですが、あなたの鎮守府とこの鎮守府は勝手がだいぶ違う。引継ぎの資料を用意したので……」
N中佐「やることなど変わりないだろう。そんなお膳立てなどしなくてもいい、君は治療に専念しろ」
提督「……左様ですか。ですが念のため、大淀から説明を聞いておいてください」
N中佐「くどいな君も。まあいい、早くその大淀と、神通を呼べ。川内や妙高たちを待たせているんだ、急がせろ」
提督「神通を?」
N中佐「第三艦隊を開放しようというんだ。知り合いの鎮守府に頼んで、川内と那珂、那智、足柄、羽黒をレンタルで連れてきた」
N中佐「第四艦隊を開放するための金剛型までは準備できなかったが、まずは第三艦隊まで開放できれば良かろう」
提督「……」
N中佐「なんだその顔は。お前にとっても悪い話じゃないだろうが」
N中佐「いいか、俺がここから去ってお前が復帰した後も、お前には変わらず戦果を上げてもらわねばならん」
N中佐「少しでも環境は良い方がいい。だから俺は知り合いに頭を下げてあいつらを連れて来たんだ」
N中佐「深海勢力を海から駆逐し、安全な海を取り戻すことが俺たちの使命だ。それを忘れてもらっては困る」
提督「……は。ありがとうございます」
提督「……なんだよ。作りたくもねえ借りができちまったな……面白くねえ」
提督「ま、そいつとこいつは話は別だがな……」
590: 2017/12/03(日) 20:07:40.81 ID:d+2wryUoo
* 鎮守府埠頭 *
比叡「司令ー!」
如月「司令官!」
提督「ん、見送りか。悪いが留守は頼んだぞ」
如月「ええ、まかせて! それよりも」
比叡「こちらをどうぞ!」ズイッ
提督「! これは……」
比叡「お弁当です! 気合、入れて! 作りました!!」フンス
如月「私も手伝ったのよ♪」
提督「そうか。ありがとうな……って、これ、やけにでかくねえか?」
比叡「ちょっと気合を入れすぎまして」テヘペロ
如月「良かったら、みんなにお裾分けしてあげて」
提督「いいのか?」
591: 2017/12/03(日) 20:10:07.00 ID:d+2wryUoo
如月「これで司令官の評価が上がるなら、願ってもないことだわ」
比叡「そうですよ! というより、司令の階級は不当に低いと思うんです!」
比叡「大和さんも来たことですし、どーんと階級が上がってもおかしくないんです!」
提督「はは、そりゃ過大評価しすぎだ。そろそろ行ってくる。じゃ、頼んだぜ」
比叡「行ってらっしゃいませ!」
如月「気を付けて!」
小型高速巡視船<ザザァァァァ…
如月「行っちゃったわね……司令官」ションボリ
比叡「さ、工廠に急ぎましょう! 妖精さんが待ってます!」
如月「そうね。こんなものをつけさせられてどうなるか、理解ったものじゃないわ……!」
592: 2017/12/03(日) 20:15:49.59 ID:d+2wryUoo
* 執務室 *
N中佐「駆逐を遠征に……重巡は……」ブツブツ カタカタ
扉<コンコン
不知火「N中佐、失礼いたします」
N中佐「……不知火か。何の用だ、忙しいから手短に話せ」
不知火「これより不知火は、大和さん随伴で6日間、本営へ行って参ります」
N中佐「!? な、なんだそれは! 勝手な真似をするな!」
不知火「いえ、勝手ではなく、不知火は本営中将の配下の艦娘です。この鎮守府所属の艦娘ではありません」
N中佐「はああ!? どういうことだ大淀!? 不知火の話は本当か!?」
大淀「本当ですよ。不知火さんは中将配下の艦娘です。月に9日間は本営へ、それ以外の時はこの鎮守府に滞在しています」
大淀「言ってしまえば、本営からのお目付役も兼ねているという感じでしょうか」
N中佐「……准尉はそんなこと言ってなかったはずだぞ!?」
大淀「確かに、申し上げておりませんでしたね。ですが准尉は不知火を部下だとは言っていませんよ?」
N中佐「いや、昨日、この鎮守府の艦娘と言っていなかったか!?」
大淀「先日、提督は『この鎮守府にいる艦娘』とは言いましたが、『この鎮守府に所属する艦娘』とは一言も言ってません」
N中佐「……」
不知火「……あの、続きをよろしいでしょうか」
大淀「はい、どうぞ」
N中佐「……」
593: 2017/12/03(日) 20:18:07.87 ID:d+2wryUoo
不知火「中将より、先日建造された大和に研修を受けさせたいとの指示がありました。これよりただちに大和さんを本営へ……」
N中佐「ま、待て! 待てっ!! 6日間だと!? いつそんな話があった!」
不知火「昨日の夕方です。司令から本営に連絡ののち、不知火宛てに連絡がありました」
大淀「不知火さん、本来ならば3日間の予定なのでは?」
不知火「はい、3日間が3回なのですが、今月はうち2回を6日間1回に変更することになりました」
N中佐「なんだそれは……不知火の練度が半端に高いのはそのせいか!」
N中佐「待てよ!? 欠員が2名出ると言うことは……せっかく解放した第3艦隊に欠員がでるじゃないか!」
N中佐「ちくしょう、予定を全部組み直しだ! 妙高たちを帰らせなけりゃ良かった!」
大淀「あの、N中佐……先に直近のスケジュールを連絡しておいたほうが」
N中佐「ちょっと待て! もう少し後にしてくれ! ええと……」ブツブツ
大淀(この人、想定外の事態には弱いタイプですね。これじゃこの先、苦労しそう……)
不知火「大淀さん。やはりこの手の連絡不行き届きはまずかったのでは」ヒソッ
大淀「ええ、本当はよくありません。ですが、この人は初雪さんのことをすっかり忘れてます」ヒソヒソ
大淀「このくらいの意地悪はしても罰は当たらないと思いますよ?」
不知火「そう思いたいですね」
大淀「いざとなったら提督のせいにしましょう」
不知火「賛成です」
594: 2017/12/03(日) 20:18:46.15 ID:d+2wryUoo
* その頃の巡視船内 *
提督「……くちゅん!」
全員「「!!」」
提督「なんだ? 誰か噂でもしてんのか」ズ
妙高(くしゃみがかわいい……)
那智(かわいいくしゃみだな……)
足柄(かわいい……)
羽黒(かわいい……!)
那珂(那珂ちゃんよりかわいい!?)ガーン
提督「……? な、なんだ? どうかしたか?」
川内「ううん、早く夜戦がしたいなーって」
妙高型&那珂「「!?」」
595: 2017/12/03(日) 20:22:40.10 ID:d+2wryUoo
* その後……10時30分 執務室 *
N中佐「……大淀」カリカリ
大淀「はい、なんでしょう?」カリカリ
N中佐「なんというか、静かすぎないか? この鎮守府は」
大淀「全員出払ってますからね。N中佐が全員出撃するよう指示なさったではありませんか」
N中佐「そうじゃない。なんというか、人の気配がまったくないというか……そうだ、たとえば警備員はどうした。憲兵は?」
大淀「いませんよ。警備も憲兵も特警も。今この島にいるのは、N中佐と私と明石、それと妖精さんたちだけです」
N中佐「……は?」
大淀「わかりやすく言いますと、この島で暮らしている人間は提督准尉おひとりです」
N中佐「はあぁ!? なんだそれは!?」
大淀「なんだそれはと言われましても……この島の鎮守府の体制はそうなんです。警備に関しては妖精さんにお願いしているような感じですし」
大淀「憲兵や特警が必要になるような事件も……ありませんし」
N中佐「なんだ今の間は」
大淀「いえ、ときどき事件は起きていますけれど、私たちで解決できている、と思いまして」
N中佐「……」
大淀「そういうわけですので、13時の定期便の荷物の搬入ですとか、16時半の定時連絡なども提督のお仕事になります」
596: 2017/12/03(日) 20:23:32.25 ID:d+2wryUoo
N中佐「定時連絡……というのはなんだ?」
大淀「私が先程お渡しした日程表にも記載していますが、日次業務として少佐鎮守府への定時連絡が必要です」
N中佐「その少佐というのは誰なんだ」
大淀「本営の中将のご子息です」
N中佐「……あいつか!? あのバカ息子! 准尉は奴の部下なのか!?」
大淀「少佐を御存知なのですか?」
N中佐「ああ、知ってはいる……だが、どうにもいけ好かん。奴はあの深海勢力の跋扈をなんとも思ってもいない……!」
N中佐「それどころか、今日の逼迫した戦況をへらへらしながら眺めている! まるで戦争を楽しむかのようにな!」
N中佐「准尉があいつの部下だと言うのなら、なおのこと早く大和をうちに引き抜かなければ……」ブツブツ
大淀「N中佐?」
N中佐「む!? あ、いや、なんでもない! 執務に集中してくれ」
大淀「それなんですが……」スクッ
N中佐「ん? どこへ行く大淀」
大淀「こちらの書類が終わりましたので、私は畑に行ってきます」
N中佐「はたけ!?」
大淀「はい。こちらも本来は艦娘の回り番なのですが、全員出払ってますので」
N中佐「そ、そうなのか……離島ならではだな」
597: 2017/12/03(日) 20:25:17.20 ID:d+2wryUoo
N中佐「それと、もう一つ聞きたい。のどが渇いたんだが、ここにポットはないのか」
大淀「お水は食堂へ行かないとありませんね。お茶の道具も食堂にしかありませんし、紅茶やコーヒーも常備しておりません」
大淀「提督はそこにある水筒に氷水を入れて執務してましたので、私たちもそれに倣っていました」
N中佐「……食堂へ行って飲むしかないわけだな。そしてお前は畑仕事か」
大淀「はい。この鎮守府の裏手にビニールハウスがありますので、そちらへ行って参ります」
N中佐「本格的だな……わかった。俺は食堂へ行ってくる。カップは適当に使っていいのか?」
大淀「はい、お昼も適当に済ませていただけると助かります。私の畑仕事もお昼まで終わるかわかりませんので」
N中佐「わかった。ついでに聞くが……酒保でたばこは売ってるか?」
大淀「いいえ、置いていなかったと記憶しています」
N中佐「そうか……たばこもないのか」ガックリ
* 食堂 *
ガラーン
N中佐「本当に誰もいないんだな……」
N中佐「……」
N中佐「もしかして間宮と伊良湖もいないのか!? おーい! 間宮!! 伊良湖!!」
シーン
N中佐「……」
N中佐「なんなんだここは……異質だ、異質すぎる」
N中佐「……カップラーメンとか置いてないだろうか……」ウロウロ
598: 2017/12/03(日) 20:27:34.09 ID:d+2wryUoo
* 昼過ぎ 鎮守府の裏手 *
大淀(Tシャツ+ジーンズ+麦わら帽子+長靴)「ふぅ……」
明石「おーよどーー」
伊8「」フリフリ
初雪「」フリフリ
大淀「あら、明石。伊8さんと初雪さんも一緒ですか」
明石「うん、一緒にお昼食べないかって。おにぎり作ってきたよ!」
伊8「はっちゃんも手伝ったよ」
初雪「私も少し……!」
大淀「ありがとうございます。もうそんな時間でしたか」
明石「初雪ちゃんも外に出るって言ってたのは、正直意外だったねぇ」
初雪「たまには……それに、ピクニックみたいだし」
大淀「ああ、確かにそんな感じもしますね。ところでN中佐はどうしました?」
明石「食堂におにぎり作っておいてきたけど、気付いてるかなあ?」
大淀「それなら、私のほうで後程確認しますよ。置きっぱなしなら持っていきますから」
明石「それにしても、提督は大丈夫なのかなぁ」
大淀「……確かに、ちょっと心配ですね。でも、昔に比べたら大分丸くなったと聞いてますし」
大淀「おそらく、必要以上には他の人間と触れあおうとはしないでしょうね」
明石「だといいけど……」
603: 2017/12/09(土) 13:28:02.98 ID:ND/lmMdGo
この鎮守府の比叡は肝っ玉母ちゃん枠かと。
続きです。
続きです。
604: 2017/12/09(土) 13:28:46.20 ID:ND/lmMdGo
* 一方、N中佐鎮守府 駆逐艦寮ロビー *
卯月「ううーー……」
弥生「……」
卯月「退屈だっぴょーーん!」
弥生「……おとなしくして」
卯月「そうは言うけど、この鎮守府に配属されてからずーーっとお留守番ぴょん!」
卯月「一度も出撃してないし、暇で暇で仕方がないっぴょん!!」
弥生「……静かにして」
卯月「どうやったらうーちゃんも出撃できるぴょん!? 遠征にすら駆り出されないぴょん!」
卯月「というか出撃チームはいつお休みしてるぴょん! ご飯食べてるとき以外出突っ張りぴょん!?」
卯月「遠征チームも遠征チームで全然お休みもないし、勤務体系が極端すぎるっぴょん!!」
弥生「……文句言わないで」
卯月「弥生はどうしてそこまで我慢できるぴょん。もしや、司令官に弱みでも握られてるぴょん!?」
弥生「卯月が騒ぐから、煙たがられて私たちにお呼びがかからないんだと思う」
卯月「辛辣ぴょん!?」
望月「つーか卯月マジうるさいんだけどー。黙っててくんない?」ヒョコッ
卯月「こっちも辛辣ぴょん!?」
605: 2017/12/09(土) 13:30:39.46 ID:ND/lmMdGo
望月「そんなに出撃したいんなら遠征部隊に志願してもいいんじゃないの~? 今なら行けるかもよ?」
弥生「もっち……なにかあった?」
望月「あー、や、悪いニュースなんだけどねぇ……遠征部隊の初雪が、行方不明になったってさ」
弥生「行方不明……」
卯月「ぴょん!?」
望月「この前から司令官が出てったのはそういうことらしいよ~?」
望月「その司令官がいないから言うけど、遠征中の艦娘が行方不明になるなんて、普通の鎮守府じゃあ起こりえないし」
望月「ここ一月前から、みんな酷使されてたじゃん? あたしのよく知ってる初雪なら、遠征中に逃げたって可能性もあるかなあ……」
望月「余所の鎮守府に逃げられたとしたら、この鎮守府に本営の査察が入ってもおかしくないよねえ?」
弥生「査察……」
望月「司令官はそれを防ぐために、初雪がいなくなった海域を回ってるんだって話だよ」
卯月「……事件の臭いがする話になってきたぴょん」
望月「ま、そうでなくても、主力艦隊の艦娘のみんなの様子がおかしいのは、前々から噂になってんじゃんか」
弥生「うん……鳳翔さんも、赤城さんたちの様子がおかしいって言ってた」
卯月「異常なほど少食になった、って話ぴょん? それ、赤城さんだけじゃなくて、戦艦の人たちもそうみたいぴょん」
卯月「話しかけても上の空。殲滅できても大破しても、ぜーんぜん感情の起伏なしらしいっぴょん」
606: 2017/12/09(土) 13:31:24.23 ID:ND/lmMdGo
望月「しかも、主力のひとたちがあんだけ休みなしに働いて、でもご飯はあたしたちと変わらない。どう考えてもおかしいよねえ」
望月「こんな状態で査察が入ったら、どうなんのさ? って話だよ。絶対怪しまれて、何かされるよねえ」
卯月「……」
弥生「卯月?」
卯月「冗談じゃないっぴょん……司令官に一度もいたずらしないまま、鎮守府が解体されるようになったら卯月の名折れっぴょん!!」
望月「いやそれおかしくね?」
卯月「冗談じゃないっぴょん! いたずらしないうーちゃんはうーちゃんじゃないっぴょん!!」
弥生「それ、二回言うの?」
卯月「何度でも言ってやるぴょん! 冗談じゃないっぴょーーーん!!」
卯月「決めたぴょん! 次に司令官に出会ったら問答無用でいたずらしてやるぴょん!!」
望月「ええー……」
弥生「……」
望月「弥生さあ、怒ってもいいんだよ?」
弥生「怒ってなんかないですよ……」ハァァ
望月(これは呆れてるっぽいねえ……)
607: 2017/12/09(土) 13:32:31.46 ID:ND/lmMdGo
* N提督鎮守府 ロビー *
卯月「むむっ!? あそこに見えるのは司令官っぴょん!?」
妙高「検査の結果まで時間がありますので、なにかお飲物でも……」
提督「いや、気を使わないでいい」
望月「……確かに制服着てるけど、なんか違くね?」
卯月「妙高さんと話してて隙だらけっぴょん! チャンスは今! 卯月、行っきむぁああす!」ダッ
弥生「あっ」
卯月(くらえ、うーちゃん奥義! スライディーング、ひざかっくんぴょーーん!!)カクーン!
提督「うおっ」グラッ
卯月「ぷっぷくぷぅ~!! いたずら大・成・功・だっぴょーん!」キャッキャッ
妙高「卯月さん!? 何をしているんです!」
弥生「う、卯月……」オロオロ
卯月「成功したなら脱兎のごとく逃げるぴょー……」アタマガシッ
提督「……おい」
卯月「ん……!?」グリッ
608: 2017/12/09(土) 13:33:51.41 ID:ND/lmMdGo
提督「……」(←注:包帯ぐるぐる巻き)
卯月「ぴょおおおおおおん!?」ビクーッ
卯月「あ、あんた誰っぴょん!? N中佐じゃないぴょん!? ミイラ男だっぴょん!!」ガクガクブルブル
提督「いたずらしたのはお前か」グッ
卯月「い……いぎゃあああああ!?」メキメキメキメキ
弥生「え……」
卯月「痛い痛い痛い痛い痛い!! 痛いぴょん!! 超痛いっぴょおおおおおおん!!!」ジタバタ
望月「うっわあ」
卯月「頭が取れるぴょん! 割れちゃうぴょん! 離して! お願いだから離してっぴょおおん!!」ギリギリギリ
提督「お前、人に謝るときはそうじゃねえだろ?」
卯月「ご、ごめんなさいぴょん!! 許して欲しいっぴょぉおおおおんん!!」ナミダボロボロ
提督「……ったく、まあ良しとするか」パッ
卯月「ううう、なんて馬鹿力だっぴょん……頭が握りつぶされるかと思ったぴょん」サスリサスリ
提督「いきなり背後から不意打ちしかけるお前のせいだろうが」
弥生「卯月が悪いんだから、気にしないで……」
609: 2017/12/09(土) 13:35:27.30 ID:ND/lmMdGo
望月「っていうか妙高さん、司令官はどうしたの? この人は?」
妙高「N中佐はしばらく出張です。こちらの方は……」
提督「俺は提督准尉、××島鎮守府の指揮官だ。お前らはここの鎮守府の艦娘か」
望月「あーい、望月でーす」
弥生「弥生、です。そして、こっちが……」
卯月「卯月でぇーーっす! うーちゃん、って呼ばれてむぁ~す!」クルリーン
提督「……うぜえ」ギロリ
卯月「!?」
* 休憩室 *
望月「へー、精密検査ねえ」
妙高「そのために鎮守府を離れる提督准尉の代わりに、N中佐が指揮するんだそうです」
望月「ふーん」チラッ
卯月「検査が終わったんだから、待ち時間あるぴょん? うーちゃんとお話するっぴょん!」
弥生「……卯月、少し静かにして」
卯月「余所の鎮守府のお話なんてそうそう聞けることないっぴょん! うーちゃん、外のお話を聞いてみたいぴょん!」
610: 2017/12/09(土) 13:37:15.47 ID:ND/lmMdGo
卯月「離島の鎮守府がどんなところか、弥生だって聞いてみたいと思うぴょーん?」
弥生「え……それは、そう、だけど」
卯月「さあさあ准尉さん、観念して洗いざらいうーちゃんに話すぴょん!」
提督「面倒臭え」
卯月「その反応はあんまりぴょん!!」ガビーン
妙高「あの島といえば、准尉? 島の丘に無数の艤装やら単装砲やらが並んでいましたが、あれは一体何でしょう?」
提督「……面白い話じゃあないぞ。それでもいいなら話すが」
妙高「?」
卯月「おお、話す気になったぴょん!? 聞かせて欲しいぴょん!!」ワクワク
望月(なんだか嫌な予感がするんだけどねえ……)
提督「……あれはな……」
* *
望月(うん、やっぱり聞かなきゃ良かった系の話だった)
弥生「……」ズーン
卯月「ひどい話だぴょん……」ズーン
妙高「あれが全部……お墓だったんですか」
611: 2017/12/09(土) 13:38:50.98 ID:ND/lmMdGo
提督「うちの島の潮の流れが特殊なせいでな。艦娘の残骸やらなにやらが、海岸によく打ち上げられるんだ」
望月「残骸って……」
提督「ソフトな言い方したって事実は変わらねえよ。まあ、艦娘は水葬が一般的らしいが……」
提督「潮流が強い島の近辺じゃあ水葬は無理だから、土葬してる。野晒しは可哀想だしな」
弥生「……」
卯月「……」
望月(さすがの卯月もおとなしくなってるなあ)
提督「で、運よく生き残って、氏にたくないって自分の意思で言えた奴は、うちの鎮守府に着任させてる」
提督「自分の敵を取るために出撃するもよし、今後の生活のために遠征するもよし。そいつらの好きにさせてる」
妙高「提督が指揮をなさっているわけではないんですか?」
提督「俺は書類のハンコを押す係。島に住んでいる艦娘の生活のサポート役でいいのさ。階級も気にしてねえし、俺はなにもしねえ」
提督「……と、思ってだらだらしてたんだが」ハァ
妙高「?」
提督「正直、今の環境でいいのかと思い悩んでもいる」
妙高「と、仰いますと?」
提督「お前らの司令官に『世の中は常々進歩している、こんな島で引き籠ってたら取り残される』なんて言われてな」
妙高「N中佐、新しいもの好きなところがありますから」
612: 2017/12/09(土) 13:40:33.99 ID:ND/lmMdGo
提督「そう考えると、俺は奴らに古臭い生活を強いているんじゃねえか、って気がしてきてなあ」
提督「そういうわけなんで、適当に流行物の雑誌類を貰ってこうかって考えてたんだが、誰に相談しようか悩んでたところだ」
提督「俗っぽいのは好きじゃねえんだが、娯楽の殆どは俗っぽいからな……俺の意思をはさまないようにしたい」
卯月「雑誌って言っても、いろいろあるぴょん? どんなのがいいぴょん?」
妙高「そうですね……たとえば准尉のご趣味はなんだったんですか?」
提督「俺の趣味か? ストレッチと……読書くらいか。あと人間観察」
望月「読書ぉ!?」
卯月「意外にインドアな趣味ぴょん……」
提督「口喧嘩で負けたくなかったってのが一番だな。文字が読めないと馬鹿にされるのも嫌だった」
提督「自分は頭がいいと思ってる奴らは、俺を馬鹿だと思って見下してきてる。で、俺の知らないだろう言葉を使ってなじってくるわけだ」
卯月「性格悪いっぴょん……」
提督「中学生の喧嘩ならそんなもんだろうよ。それより上でも同じような醜態をさらす奴はいるけどな」
提督「俺がそういう経験をしていて、自分の部下の艦娘に同じ轍を踏ませないような教育をしていないとなれば、俺は馬鹿かという話になる」
提督「俺自身はともかく、あいつらには黒いもん抱えさせたまま生活させたくねえし……そうだな。教養と娯楽は必要だ」
弥生「……」
提督「なんだよ。何か不服か」
弥生「別に、怒ってなんかないです。感心してただけで……すいません、表情かたくて」
提督「ん、ああ、そういうことか。こっちこそ悪かった、人の気持ちを察するのは苦手でな」
613: 2017/12/09(土) 13:41:13.92 ID:ND/lmMdGo
軍医「提督准尉、検査結果が出ましたので、こちらへどうぞー」
提督「……やっとお呼びがかかったか。ちょっと行ってくる」
妙高「はい。いってらっしゃいませ」
望月「……はーぁ、予想以上に重い話だったねえ……」
卯月「これは由々しき事態っぴょん。向こうの鎮守府には笑顔の元が足りてないっぴょん!」
弥生「……それは、そうかも」
卯月「妙高さん! 准尉の鎮守府に協力してあげるぴょん!」
妙高「そうですね……協力しましょう」
望月「あー、でもいたずらはやめたほうがいいよねえ。また頭を掴まれるかもよー?」
卯月「う゛……だ、大丈夫ぴょん! ばれないようにやるぴょん!」
望月「その前提が駄目なんだって……」
妙高「ところで、みなさんお昼ご飯はどうしました?」
卯月「!? も、もうそんな時間ぴょん!?」
望月「あー、いいっていいって。どーせ普通に行っても、混んでて食べた気しないし」
弥生「今くらいの時間のほうが、ゆっくり食べられる……」
卯月「鳳翔さんの賄い料理を食べられるときもあるぴょん!」
妙高「では、准尉が戻ってきたら一緒に食べに行きましょう」
望月「あーい」
弥生「わかりました……」
卯月「了解っぴょん!!」
618: 2017/12/10(日) 22:58:34.36 ID:D4IZxq0io
* 食堂 *
卯月「というわけでぇ、准尉を連れてきたっぴょん!」
提督「……」(←樹脂製のゴーグル型フェースガード着用)
卯月「ミイラ提督改め、鉄仮面提督だっぴょーん!」
提督「鉄じゃねえよ」
間宮「……サッカー選手にああいうマスク着けてた人がいませんでしたか?」
望月「あ、いたかも。確かその人、鼻の骨を折ってたんじゃない?」
妙高「頬の怪我が完治するまでは、こちらのマスクを着用してくださいとのことです」
提督「ったく、冗談じゃねえな、くそが」
鳳翔「准尉さん、お食事の時間にその言葉遣いはいけませんよ」
提督「ん……ああ、そうだな。これは失礼」
卯月「やーい、怒られたぴょん!」
提督「あ? また掴まれてえか」ワキワキ
卯月「そんな脅しに屈するうーちゃんじゃないっぴょん!?」ササッ
望月(速攻で鳳翔さんの後ろに隠れてるし……)
提督「ったく、愚痴りたくもなるぜ。あの医者の野郎、固いものは食べるな、柔らかくて流し込めるものを食えって言ってきやがったんだぞ」
提督「それでうちの連中が作ってくれた弁当もダメだって言われたんだからな」ゴトン
619: 2017/12/10(日) 22:59:44.09 ID:D4IZxq0io
妙高「無理もありません。頬の骨にひびが見つかったんですから」
間宮「それにしても、大きなお弁当箱ですね」
提督「如月が『良かったらお裾分けしろ』って言ってきたくらいだ。最初から俺一人で食わせる前提じゃねえな、こりゃ」
提督「そういうわけなんで、良かったらつまんでくれ。それと……鳳翔だったか? おじや作るから、厨房と小さな鍋を借りたいんだが」
鳳翔「それでしたら私が承りますが」
提督「いいや、この程度のことは俺でもできるんで、手を煩わせるつもりはないと思ったんだが。やっぱり余所者を厨房には入れたくないか?」
鳳翔「いえ、無理にとは申しません。老婆心ながら申し上げただけです」
提督「そうか。んじゃあ、とりあえず塩とか醤油がどこにあるか教えてくれると助かる」
提督「ごはんはこっちの弁当のを使わせてもらうから……」ベントウガパッ
ごはんの上の海苔文字「キサラギヨリ アイヲコメテ」+文字を囲む大きなハートマーク
提督「……」
妙高「あらあら、これは……」
弥生「……」ポ
鳳翔「まぁ……」ニコ
間宮「可愛らしいですね」ニコニコ
620: 2017/12/10(日) 23:00:24.99 ID:D4IZxq0io
望月「こりゃ提督准尉も隅に置けないねえ」ニヤニヤ
卯月「こんなところで見せつけてくれるぴょーん!」プククー
提督「帰ったら如月は尻たたきだな」ピキピキッ
全員「「!?」」
提督「とりあえずおじやでも作るか」ガッガッ
卯月「ハートマークの真ん中から容赦なくしゃもじで割り開いてるぴょん!?」
鳳翔「准尉、落ち着いてください!」
* 一方の遠征中の如月 *
如月「はくちゅん! はっ! 今、司令官が私のこと噂してる!?」
如月「もう、司令官ったらそんなに喜んでくれるなんて!」モジモジ
如月「帰ってきたらたくさん愛してくれるのかしら! や~ん!」
朝雲「ちょ、止めないの……?」
暁「? いつも通りよ?」
霞「平常運転よね」
朝潮「問題ありません!」
電「なのです!」
朝雲「えええ……」
621: 2017/12/10(日) 23:01:52.27 ID:D4IZxq0io
* N提督鎮守府 食堂 *
提督「つうか、3段重ねのお重とか、何考えて作ったんだよ……どう見ても一人前じゃねえぞ」ガパッガパッ
望月「おぉ、いいねえ。定番のから揚げに卵焼き……黒豆も入ってんじゃん」
妙高「ミニハンバーグに煮物まで入ってるなんて、豪華ですね……!」
鳳翔「見た目も素晴らしい……かなりの腕前とお見受けいたします」
卯月「おいしそーなから揚げいただくぴょーーん!!」バッ
弥生「卯月、お行儀悪い……!」
卯月「いっただっきまーす! ぱくっ」
間宮「これも如月ちゃんが作ったんですか?」
提督「いや、これ作ったの比叡だな」
鳳翔間宮妙高「「「比叡さん!?」」」
卯月「もぐもぐ……うっ!」
弥生「卯月……!」
望月「しっかりしろって!」
卯月「う……うううっ!」プルプル
パァァ…
提督「? なんだこの光」
622: 2017/12/10(日) 23:02:57.27 ID:D4IZxq0io
卯月(全裸)「うまいぴょぉぉん……!!」ウットリ
全員「「!?」」
弥生「卯月が裸になって浮いてる……!?」
望月「なんで、から揚げ食っただけでこんなことになってんだよぉ!」
卯月(全裸)「お弁当なのに、こんなにおいしいから揚げは初めてぴょん……!」
卯月(全裸)「口の中で食んでいると、おいしいのがじゅわじゅわ溢れてきて、ずーっと口の中に含んでいたいぴょん……!!」ウットリ
望月「……マジか。あたしも食いてぇ」ジュルリ
妙高「望月さん!?」
望月「……」ヒョイパク
ペカー
望月(全裸)「マジうめぇ」フワァ
全員「「!?」」
望月(全裸)「やべぇコレめっちゃうますぎ。全部にレモンかけて独り占めしてぇ」モッキュモッキュ
弥生「それはダメ……かけるなら小分けにしてから自分のお皿にだけかけて」
間宮「弥生ちゃん冷静ッ!?」
623: 2017/12/10(日) 23:03:59.63 ID:D4IZxq0io
提督「……なあ、俺の目はおかしくなったのか? こいつら、なんで脱いでんだ?」
妙高「い、いえ、それはなぜかは……」
卯月「もぐもぐ」
望月「もぐもぐ」
全員「「!?」」
提督「服、着てるな……」パチクリ
妙高「ええ……」メヲコスリコスリ
間宮「それにしてもこのお弁当……」マジマジ
鳳翔「ええ、私たち以上かもしれません」マジマジ
妙高「お二人がそこまで仰るなんて、そんなにすごいんですか……」
提督「まあ、うちの比叡は余所とは違うからな……」
鳳翔「……こちらの卵焼き、いただきますね」パク
間宮「私も失礼いたします……」パク
フワァァ…
鳳翔(全裸)「……これは……!」
間宮(全裸)「……こんなことが……!」
提督妙高弥生「「!?」」
624: 2017/12/10(日) 23:05:02.47 ID:D4IZxq0io
鳳翔「このおだし。市販品ながら白だしにお醤油を絶妙な割合で合わせてますね……」
間宮「卵の焼き具合も程よく……このやわらかさ、お弁当に入れる前提で考えて焼いてあります」
鳳翔「ええ、それだけではなく……」
間宮「はい、しかも……」
提督「おい妙高。ここの鎮守府の連中は瞬時に脱いだり着たりする特技でもあんのか」セキメン
妙高「そ、そんなことありません!」
弥生「……でも、本当においしそう」オソルオソル
妙高「弥生さん!?」
弥生「黒豆、いただきます」モグ…
妙高「じ、准尉は見てはいけません!」メカクシ
提督「うおっ」
弥生「……!」
弥生「おいしい……!」ホワァァァ
妙高「……あら?」
提督「あぁ、もしかして黒豆は如月が作ったのか」ヒョイパク
提督「……うん、うめえな。これ、砂糖の加減が難しいんだよなぁ……ちょうどいい塩梅じゃねえか」モグモグ
625: 2017/12/10(日) 23:05:52.98 ID:D4IZxq0io
間宮「弥生ちゃんの目尻があんなに下がったところ、初めて見ましたね」
提督「まあ、つまみ食いはこの辺にして、そろそろ厨房を貸してもらっていいか」
鳳翔「そうですね、私たちもご飯にしましょう。準備しますから待っててくださいね」
提督「妙高は一口食べなくてもいいのか?」
妙高「え……私ですか」
鳳翔「はい。準備しますので、ちょっとお待ちいただくことになります」
妙高「……そ、それでは、こちらのミニハンバーグを……」ソッ
鳳翔「では、准尉はこちらへどうぞ」
提督「はいよ」
間宮「私もご一緒します」パタパタ
妙高「提督は行きましたね……」
妙高「……」ゴクリ
妙高「ん……」パク
妙高「ん……!」モグモグ
妙高「んんんんん……!」ビクッ
626: 2017/12/10(日) 23:07:22.38 ID:D4IZxq0io
妙高(こ、これは……冷えて固形化した油が、口の中で簡単に溶けていく……)モグモグ
妙高(噛むとハンバーグの中に入っていた薄味のソースが肉の油とブレンドして……)
妙高(口中いっぱいに、ぶわっと旨みが広がっていくのが、とても刺激的……なんて美味しい……!)ゴクン
妙高(全裸)「んんーーー……っ!」ビクビクッ
卯月「!?」
望月「!?」
妙高「……ふぅ」
弥生「おいしかったですか……?」
妙高「ええ、とても」ニコッ
望月(おとなだった)カァ
卯月(おとなだったぴょん)カァ
* どこかの戦闘海域 *
比叡「ひとくちハンバーグは! 一番気合入れて作りました!」ドカーン
古鷹「誰に向けて言ってるんですかその掛け声!?」
627: 2017/12/10(日) 23:08:33.07 ID:D4IZxq0io
* N提督鎮守府 厨房 *
鳳翔「おかゆじゃなくて、おじやにするんですか?」
提督「おかゆにするために米を洗ったら、海苔がはがれちまうのが勿体ないからな。そのまま煮てしまおうと思ったんだ」
間宮「でしたら、厨房に残ってるごはんでも作れますよ」
提督「いや、あの弁当は俺が受け取ったんだから、俺が少しでも食わなきゃ失礼だろ」
提督「ま、おじやに作り変える時点で失礼なんだけどなあ……」
鳳翔「……海苔をそのままにすると言うなら、お茶漬けにするという手もありますね」
提督「!」
鳳翔「お椀を準備しましょうか。わさびもお使いになりますか?」
提督「あ、ああ。助かる」
間宮「そういうことでしたら、お茶の道具を用意しますね」
提督「……」
鳳翔「どうなさいました?」
提督「いや、二人とも手際が良いなと思って、感心していた。俺もそれなりに自炊はしていたんだが、思わず見入ってしまってただけだ」
鳳翔「ふふふ、ほめすぎですよ」
提督「……鳳翔も、本当は全部の鎮守府に一人ずついるはずなのか?」
鳳翔「え? いえ、そうとは限りませんが……間宮さんならそうですけれど」
628: 2017/12/10(日) 23:09:38.08 ID:D4IZxq0io
提督「そうか……うちにはその間宮はいないんだよ」
鳳翔「え!? じゃ、じゃあ、伊良湖さんは!?」
提督「イラコ?」
間宮「し、知らないんですか……」
提督「ああ。比叡が来るまでは各自自炊してたし、来てからは来てからで艦娘と回り番で飯を作ってたりしてたんだ」
間宮「そんなお話、初めて聞きます」
鳳翔「いくら離島の鎮守府とはいえ、異常事態だと思いますよ」
提督「そうか。まあ、そうなんだろうなあ……ん?」
間宮「?」
提督「なあ……あのバケツ、なんでテーブルの上に置いてあるんだ? 普通床に置くもんだろう?」
鳳翔「これですか? これは高速修復材です」
提督「修復……? ありゃあ入渠ドックで使うもんだよな?」
鳳翔「たまに食べ物に混ぜて欲しいという話もあるんですよ……」
提督「……は? マジか? 食べられるのか、これ」
鳳翔「ええ。患部に塗ったり、口から摂取したり、頭からかぶったりと方法は様々ですが……」
鳳翔「その中身の液体が艦娘の体に触れるなり取り込まれるなりすると、効果を発揮するみたいなんです」
提督「みたい、ねえ……」スンスン
629: 2017/12/10(日) 23:11:19.04 ID:D4IZxq0io
間宮「私たちも、その中身の液体がどういうものなのか、正直なところよくわかっていないんです」
提督「ふーん……少し見せてもらうか。ちょっとこの小皿とスプーン、借りるぞ」
鳳翔「えっ」
提督「……水飴みたいだな」トローリ
間宮「あ、あの、准尉!?」
提督「……ふむ、無味無臭……」パク
鳳翔「じゅ、准尉!? 何をしているんですか!?」
提督「うお、びっくりした。どうかしたのか?」
鳳翔「い、いえ、まさか修復材を小皿に移して食べてしまうとは思いもよらず……というか、大丈夫なんですか!?」
提督「ああ……水飴みたいな触感なのに、口に入れてると綿飴みたいにすっと溶けて消えるのは面白いが……」
提督「全然味気ねえんだな。黒糖でも混ぜないと食べづらそうだ」
間宮「あの、そういう意味じゃなくて、体調とか、本当に大丈夫なんですか?」
提督「ああ……別に何もおかしくないが……?」
鳳翔「……」
間宮「……」
卯月「鳳翔さーーん! はやくご飯にするぴょーん!」
望月「はらへったー……はやくぅぅぅ……」
鳳翔「! は、はーい!」
間宮「さ、行きましょう准尉さん!」
提督「お、おう」
636: 2018/01/04(木) 18:41:31.52 ID:rW2Sb/7eo
* 夕方 墓場島鎮守府 執務室 *
大淀「N中佐、搬入作業お疲れ様でした」
N中佐「ぜぇ、ぜぇ……」
大淀「お水をお持ちしました。大丈夫ですか?」コト
N中佐「……ん……ごく、ごく、ごく……」
大淀(返事をする余裕もないみたいですね)
N中佐「ぷは……っ! はー、はー……」
N中佐「お、大淀。提督准尉は、いつもこんなことしてるのか……」
大淀「運搬は分担していますが、いつも立ち会ってますよ。少佐を信用していないので、数量チェックも欠かさずやってます」
大淀「普段から書類は少ないのですが、力仕事は多いですね。提督も朝のうちに書類仕事はすべて片付けて、日中の大半は外にいますし」
N中佐「……」ゼーゼー
扉<コンコン
長門「長門だ。海域から帰投した」
大淀「どうぞ」
長門「ああ、失礼する。報告書を持参した、確認を頼む」チャッ
637: 2018/01/04(木) 18:42:44.19 ID:rW2Sb/7eo
N中佐「……」グッタリ
大淀「報告書、いただきますね」
長門「あ、ああ。なあ、N中佐は大丈夫なのか」
大淀「まあ、ご覧のとおりですね。午後の搬入作業、N中佐にほぼ一人していただきましたから」
長門「一人でだと?」
大淀「正確には明石と私も少し手伝いましたが、私たちの仕事もありましたので、お手伝いできたのは途中までですね」
長門「そうか。それは大変だったな」
N中佐「おい……長門。お前は、こうなることは予見できていたのか……?」
長門「ある程度はな。この鎮守府の艦娘が全員全力で出撃すれば、こういう事態になることは予想できていた」
N中佐「……なぜ何も言わなかった」
長門「提督から『初日はN中佐の指示に全面的に従え、彼の意に背く反論や余計な進言は控えろ』と指示を受けている」
長門「この島の特殊な事情も把握せず、大湊と同じ感覚で指揮しようとした貴様への、提督からのささやかな嫌がらせ、と言ったところか」
N中佐「……っ!」
長門「正直に言えば私も貴様は気に入らん。ろくに我々と話もせずいきなり従えと言われれば、不興を買うのも至極当然の成り行きだろう」
長門「貴様には貴様の正義があるのだろうし、考え方やセオリーもあるのだろうが、現状の把握もせず、提督からの引継ぎもせず」
長門「貴様の考えが通用する土台を作ることを怠って、一足飛びに戦果をあげようなど、見方によっては傲慢と言わざるを得ないやり方だ」
N中佐「……チッ」
638: 2018/01/04(木) 18:45:13.86 ID:rW2Sb/7eo
長門「それから、貴様が配ったこのイヤホンマイクについてだが」
N中佐「……なんだ」
長門「まったく音が聞こえない。壊れているのか?」コンコン
N中佐「なんだと!?」ガタッ
扉<コンコン
霞「霞よ、遠征から戻ってきたわ、入っていいかしら」
大淀「どうぞ。お疲れ様でした」
霞「失礼するわ。あら、長門さんもいたのね」チャッ
霞「はい、これ報告書……って、汗くさいわね!? N中佐はなにをしてたのよ」
長門「一人で搬入作業をやっていたそうだ」
霞「……ふーん。その程度でだらしないわね」
霞「で? 次は何をするの? 指示を出してもらわないと私たちも動けないんだけど。あのクズより戦果をあげるんでしょ?」
N中佐「!? 霞のイヤホンにも指示が飛んでいないのか……!?」
霞「何も来てないわよ? それより、その言い方だとイヤホンで全部指揮しようとしてたわけ?」
霞「部下の顔色も見ないでどこ行けなにやれ、命令しようとしてたってこと? あんた、あたしたちのこと舐めてんの!?」
N中佐「……」
639: 2018/01/04(木) 18:46:27.05 ID:rW2Sb/7eo
霞「まあいいわ……で、どうすんのよ。こんなもの、何も聞こえないんじゃ耳栓と同じよ」イヤホンハズシ
N中佐「……いい。今日はもういい、休め」
霞「そ。じゃ、艤装の整備でもしてくるわ」クルッ
大淀「N中佐。そろそろ定時連絡の時間です」
N中佐「……わかった」
長門「では、私もこれで失礼する」スッ
扉<パタン
N中佐「……はぁぁぁぁ……」ガックリ
* 廊下 *
霞「……ちょっと言い過ぎたかしら」
長門「そんなことはない。私の方こそ、少しやりすぎたかもしれないな」
霞「長門さんは何もしてないでしょ」
長門「何もしていないからこそだ。事前にこの鎮守府のことを話しておけば……」
霞「そんなことしなくていいのよ。N中佐、この鎮守府に何の興味も示してなかったじゃない。ほんとに大和さんしか眼中になかったし」
霞「あいつにとっては、私たちにこんなものを渡すくらいには、私たちのことなんてどうでも良かったのよ」
長門「なら、霞がさっき自嘲していたのは何故だ?」
霞「そ、それは、まあ……こっちでイヤホン壊したのに、壊れてるって嘘ついたことに後ろめたさを感じただけ!」
640: 2018/01/04(木) 18:48:00.24 ID:rW2Sb/7eo
霞「それもこれも全部あのクズが仕組んだことなんだから、あいつが悪いのよ!」
長門「そうだな。提督ならその悪者役も望んで引き受けてくれるだろうな」フフッ
明石「あ、長門さんも戻ってきましたか! おかえりなさい!」
長門「ああ、明石か。ただいま」
明石「長門さんも、イヤホンの音は何も聞こえませんでしたか?」
長門「ああ。おかげさまで、耳が痒いだけで済んだ」イヤホンハズシ
明石「霞ちゃんたちも影響がなかったみたいなので、うまくいったみたいですね!」
霞「やっぱり、あのイヤホンの音ってまずかったの?」
明石「ええ、工廠の妖精さんたちと一緒にあの音の波長を確認したんですが、どうも妖精さんの声の波長と同じようなんです」
明石「それを絶え間なく聞かせることによって、艦娘を半洗脳状態に陥れるという代物ですから、聞き続けていたらどうなってたかわかりません」
明石「特に大和さんのイヤホンからは、N中佐の配下になるよう促すような音声も入ってましたから、危なかったですね」
霞「……思ってた以上にクズね。後ろめたさなんか感じる必要なかったわ」
島妖精G「提督が最初から怪しんでいたからねー」ヒョコッ
島妖精D「今みんながつけてるのも、音が出ないように壊したり、解析のために中身を抜いてガワだけにしたりしてるから、無害なはずだよ」
長門「初雪がつけていたイヤホンもそうだったんだな?」
明石「はい、初雪さんから話を聞いて、その日のうちに砂浜を散策してイヤホンを発見しています」
明石「それの音声データを解析した結果も本営にも送りましたし、これをどうするか、もうすぐ本営の回答も得られるはずです」
641: 2018/01/04(木) 18:50:03.85 ID:rW2Sb/7eo
長門「なんだかんだで提督の思惑が当たっていたというわけか。恐ろしい話だ」
島妖精A「あとな、今回のイヤホンからは食欲が減衰するような効果のある音も混ざってた」
長門「どんな音だ?」
明石「食事が不快になる音らしいです」
島妖精G「そうだねえ……たとえば、クチャラーって知ってる?」
霞「……最悪じゃない……」
島妖精G「まあ、あれじゃないけど、そういう感じの音らしいよ」
島妖精F「それと、長門のイヤホンからは戦意高揚の効果のある音もあったみたい」
長門「本当か……」
明石「おそらくですが、艦娘を戦闘用、遠征用に最適化しようとしていたんでしょうね」
明石「暗示をかけて疲労や食欲までコントロールしようとしてた可能性もあります」
長門「……私たちを、完全に兵器にしようと言うわけだな」
明石「こうなると提督とは真逆の対応ですからね。みんな気に入らないのは同じだと思いますよ」
霞「ったく、あいつ、早く帰ってきてくれないかしら」
明石「そうですね……すみません、私のせいで」シュン
霞「あっ、べ、別に明石さんが悪いって言ってるわけじゃないから! 勘違いしないで!」オロオロ
長門「……」ナデナデ
霞「って、長門さんなんで私の頭なでるの!?」カァァ
長門「す、すまん! つい!」
霞「つい!?」
642: 2018/01/04(木) 18:51:00.74 ID:rW2Sb/7eo
* 一方その頃 執務室 *
N中佐「……で、定時連絡というやつはいったいなにを連絡するんだ」
大淀「実際には、今日何があった、と言う程度の日々の連絡になります。雑談するだけですよ」
大淀「昔は少佐が出る時もありましたが、今は秘書艦の赤城さんに専属で応対していただいてますね」
N中佐「そうか……気楽に構えてていいんだな?」
大淀「はい。受話器をどうぞ、今お繋ぎしますね」ピッピッ
N中佐「う、うむ」
通信『RRRR...RRRR...ガチャッ』
N中佐「……」
通信『はい、少佐鎮守府です』
N中佐「!」
N中佐(なんだ、この冷えた声は……)ゾク
通信『もしもし?』
N中佐「……こちら、××国××島鎮守府、臨時司令官のN中佐だ」
通信『N中佐……提督准尉よりお話は聞いております。墓場島の指揮を一時的に引き受けたそうですね』
N中佐「は、墓場島!?」
643: 2018/01/04(木) 18:52:13.54 ID:rW2Sb/7eo
通信『……なるほど、その様子では何も聞いていない。准尉が意図的に話さなかったのか、それともあなたが聞く耳を持たなかったのか』
通信『その島がどういう場所なのか、あなたは御存知ない。そういうことですね』
N中佐「ど、どういう意味だ。貴様は何者だ、何を知っている!」
通信『……申し遅れました。私は少佐鎮守府、少佐の秘書艦、赤城です。短い間ですが、よろしくお願い致します』
N中佐(俺の鎮守府にも赤城はいるが、あいつからこんな薄ら寒い……背筋の寒くなるような冷めた声は、聴いたことないぞ……!)
通信『さて、N中佐。どういう意味か、という問いでしたね?』
N中佐「う、うむ……」
通信『提督准尉の報告によれば、その島には轟沈した艦娘がたびたび漂着するそうです』
N中佐「そ、そういうことか。由来だけ聞けば、そう呼ばれるのも仕方ないな」
通信『……その流れ着いた艦娘たちを、提督准尉が埋葬し、墓を作りました』
N中佐「!?」
通信『その墓が並んでいるから、墓場島、と呼ばれるようになったと聞いています』
N中佐「は、墓場……!? お、俺はそんなもの、見ていないぞ」
通信『私も島には行ったことがありませんので、具体的にどんなものかは把握していませんが、そこはそう呼ばれるような場所なのです』
通信『では、その島の鎮守府に所属している艦娘たちの半数以上が、轟沈した艦娘であることも御存知ないのですね?』
N中佐「な!?」
644: 2018/01/04(木) 18:53:31.18 ID:rW2Sb/7eo
通信『かつて、轟沈した艦娘を招き入れ、その艦娘が深海棲艦化したために鎮守府が壊滅した話……』
通信『あなたも艦娘を率いる立場になったとき、訓話として聞いたことでしょう』
通信『提督准尉は、その訓話に反し……いえ、知ったうえで轟沈した艦娘を保護し、部下として育てているのです』
通信『拠点としての重要性が低く、航路としてもあまり価値のない、離島の鎮守府だからこそ……』
通信『有体に言ってしまえば、提督はその島を、隔離施設として運用しています』
N中佐「ば、馬鹿な! あの話が本当なら、そんなことを海軍上層部が許すのか!? むしろ何故そんなことをしようとする!?」
通信『本営の中将の提案によって特例を得ました。准尉以外の人間が滞在しないことについても、准尉は了承しています』
通信『さて……N中佐? その墓場島鎮守府を守るその役目、果たしてあなたに勤まりますか? 大和さんがお目当てのあなたに……!』
N中佐「っ!」
通信『おそらくは准尉も勘付いていることでしょう。あなたに指揮を任せた意図については、私も理解できかねますが』
通信『ともかく、10日間と仰いましたね。准尉のように覚悟のないあなたがその島で何日もつのか。何日連絡を取り合えるか……』
通信『忠告はさせていただきました。今後、その島であなたがどのような活動を行うかは、あなたの判断に委ねます』
N中佐「……」
通信『今日は初日ですから、この辺に致しましょうか。では、ごきげんよう』
チン
N中佐「……」
645: 2018/01/04(木) 18:54:42.40 ID:rW2Sb/7eo
大淀「N中佐、どうしました? 顔色がよろしくないのですが」
N中佐「……大淀。お前も、轟沈艦か」
大淀「いいえ、違います」
N中佐「そうか……赤城に聞いた。この島では轟沈した艦娘を鎮守府においていると。何故この事実を黙っていた!」
大淀「知らないままのほうが指揮しやすいかと思いましたが」
N中佐「ぐ……」
大淀「そうでなければ、大変失礼いたしました」
N中佐「……この島の、墓場というのは、どこにある……」
大淀「島の南東の丘の上です。もうすぐ日が落ちますので、足を運ぶのは明日以降になさったほうがよろしいかと」
N中佐「……わかった」
大淀「それから、敷波さんたち第三艦隊の遠征がもうすぐ終わります。本来の予定ですと、すぐ次の遠征に向かわせる予定でしたが……」
N中佐「中止だ。帰還したなら待機させろ。それから……俺が来る前の日程表があれば、それを見せてくれ」
N中佐「明日は、そのもともとのスケジュールで鎮守府を回す。そのうえで鎮守府を見回りたい」
大淀「! 了解致しました」
N中佐「……はぁ……最初からこうしていれば良かったのか……」
大淀「N中佐?」
N中佐「……なんだ」
大淀「シャワーを浴びてきてはいかがでしょうか? お部屋までご案内しますよ」
N中佐「……ああ。頼む。一度すっきりしたほうが良さそうだ……」
649: 2018/01/06(土) 15:33:48.79 ID:g1ZzHrFHo
* N鎮守府 工廠 *
卯月「こっちが工廠ぴょん!」
提督「……さすがにでっけえな」
卯月「でも、明石さんは酒保にいるから留守ぴょん? わかっててこっちに来るなんて、無駄足ぴょーん?」
提督「無駄足じゃねえさ。こっちの明石にも、あとで話を聞きに行くつもりだ」
弥生「あとで……?」
望月「ほかに誰か話ができる人、いたっけ?」
提督「ああ、いっぱいいるじゃねえか。騒々しいくらいだ」キョロキョロ
弥生「?」
望月「……まさか」
提督「そうだな……おい、お前。ちょっと聞いていいか?」
工廠妖精1「え!? わ、わたし!?」オロオロ
提督「ああ、お前だお前。間違ってねえから安心しろ」
ドヨッ
提督「おぉ……妖精の視線が集まったな。そんなに珍しいのか?」
工廠妖精2「珍しいっていうか初めてだよ!」
工廠妖精3「本当に私たちの声が聞こえるの!?」
650: 2018/01/06(土) 15:34:47.73 ID:g1ZzHrFHo
提督「ああ、聞こえてる。聞こえてるから一人ずつしゃべっ」
工廠妖精4「えー、すっげえ! マジで!?」
工廠妖精1「わ、わたしが話しかけられたんだから、わたしがお話するのー!」
キャーノキャーノ ヤイノヤイノ
提督「……」ピキッ
卯月「あっ」
望月「あっ」
弥生「あっ」
提督「 う る せ え 」ゴゴゴゴゴゴ
妖精たち「「ヒィッ!?」」ビクッ
望月「……うん、まー、そーなるよね」
弥生「卯月……どうして私の後ろに隠れるの」
卯月「はっ!? べ、別に隠れてなんかないぴょん!?」
望月(トラウマになってる……)
提督「興味があるのはいいが、楽しい話題じゃあねえぞ?」
651: 2018/01/06(土) 15:35:49.02 ID:g1ZzHrFHo
提督「先日、うちの鎮守府がある島の砂浜に、この鎮守府の駆逐艦、初雪が漂着した」
ザワッ
提督「それでその時、初雪がつけていたと思われるのが、このイヤホンなんだが……」スッ
提督「妖精のなかで、これの詳細を知ってる奴はいるか?」
ザワザワ…
提督「ちなみに持ってきたこのイヤホンは外側だけで、中身の機械はうちの工廠にある」
提督「ある程度はうちの明石に調べてもらってて、これがどういう物かはそれなりにわかってるつもりだ」
卯月「ちょっと待つぴょん……! 准尉がそれを持ってきたってことは、初雪はどうなったぴょん!?」
弥生「……! まさか……」
望月「沈んだとか言うんじゃないだろうね……?」
提督「……」
卯月「准尉!! 答えるぴょん!!」
提督「……どうなったかなんて、言えるわけねえだろうが」
提督(まだ調査中なんだからな。でもまあ、こんな風に思わせ振りなことを言えば……)
弥生「そんな……」
望月「なんていうか……」
卯月「ひどいぴょん……」
提督(……効果ありすぎたか? まあいいや)
652: 2018/01/06(土) 15:37:43.37 ID:g1ZzHrFHo
提督「とにかくだ。これがどういうものなのか、説明できる奴はいないのか?」
妖精たち「……」
工廠妖精5「あのぉ……わたし、知ってます」
工廠妖精6「お、おい」
工廠妖精5「ただ……お願いですから、N中佐を責めないでもらえますか?」
提督「? ……話次第だな」
* *
工廠妖精5「と、いうわけでして……」
提督「……事情は分かった。が、N中佐の身の上関係なしに、あまり良い状況じゃねえぞ?」
工廠妖精5「と、仰いますと?」
提督「まず、初雪は無事だ」
ドヨッ!?
卯月「ちょっ……さっき助からなかったみたいな空気させてなかったぴょん!?」
提督「俺は守秘義務があると思って言わなかっただけだぞ?」ンベー
卯月「うーちゃんを騙すなんて味な真似をしてくれるぴょん!!」プンスカ
弥生「……怒りますよ」
提督「俺よりN中佐に怒って欲しいもんだがな。まあ話は最後まで聞け」
653: 2018/01/06(土) 15:39:32.74 ID:g1ZzHrFHo
提督「初雪は無事だったが、島に流れ着いてからしばらくの間は眠りっぱなしだった」
提督「休みなく遠征に駆り出され、たまっていた疲労がピークに達したんだろうな。奴は浜でも平気で寝てたぞ」
提督「さらに、イヤホンを付けてた頃の記憶が曖昧ときてる。N中佐の顔すら未だによく思い出せないでいるほどだ」
提督「もし、このままずっとイヤホンを付けたまま活動していたら、初雪はどうなっていたか、想像してみな」
全員「「……」」
提督「そもそも、初雪が沈まなかったのは運が良かっただけだ。遠征とはいえ危険な海でいきなり意識失ったら普通沈むぞ?」
提督「でだ。この鎮守府の初雪が付けてたんだから、ほかにもイヤホン付けた奴はたくさんいるんだよな?」
提督「そいつら、大丈夫なんだろうな? 急にぶっ倒れたりしないだろうな? 取り返しのつかないことになってたりしないだろうな!?」
全員「「……」」
提督「使うのはN中佐の勝手だ。それで艦娘が轟沈すんのも奴が撒いた種だ。俺に止める権限なんてねえ」
提督「だがな、こんな物を俺の部下に使おうとすんなら話は別だ。うちの奴らに何かあったらどうしてくれるつもりだ!? くそが!」
全員「「……」」タラリ
提督「まあ、そういうわけなんでな。俺の鎮守府の艦娘には既に対策を取らせてもらってる」
卯月「ちょっと待つぴょん。准尉はこの鎮守府のみんなには何もしないつもりぴょん?」
提督「何もしねえよ。つうか、危機感持ったんなら、あとはお前らでなんとかしろよ」
提督「そもそもN中佐が指揮権を手放してるわけでもねえし、余所者の俺が勝手なことするわけにもいかねえだろ」
654: 2018/01/06(土) 15:40:24.57 ID:g1ZzHrFHo
弥生「本音は?」
提督「面倒臭え」
卯月「とんでもない本音が出たぴょん!?」
望月「弥生もなんでそんなこと訊くのさ……」
弥生「言うんじゃないかと思って。准尉の物言い、なんとなく、もっちに似てるし」
望月「いやあ、あたしもそう思ったけどさあ……認めたくねー……」ウヘェ
卯月「……准尉」
提督「なんだ」
卯月「うーちゃんは司令官のやり方、ちょっと間違ってると思うぴょん」
卯月「司令官の思いだって、今さっき妖精さんから聞くまで知らなかったぴょん」
卯月「みんなと、司令官を助ける方法……なにかないぴょん?」
提督「……まあ、なくはねえと思うが、N中佐まで助けるとなると面倒臭えな」
提督「とりあえずだ、艦娘を助けたいんなら、イヤホンの危険性を証明すりゃあいい」
提督「艦隊の主力を数人とっ捕まえて、検査を受けさせろ。体調の異常や判断力の低下、なんでもいいから粗を探せ」
提督「このイヤホンの音が、どのくらい艦娘に有害かを上に訴えろ。艦娘はそれでなんとかなるだろ」
鳳翔「そういうことでしたら……」スッ
提督「!」
655: 2018/01/06(土) 15:42:04.30 ID:g1ZzHrFHo
鳳翔「今、そのイヤホンをつけている艦娘の精密検査をしていただくよう、私から進言致しましょう」
卯月「鳳翔さん!?」
鳳翔「すみません、気になってお話を聞かせていただきました」
提督「まあ、別にかまわねえけどよ。今の話、あんたに任せていいのか?」
鳳翔「大丈夫ですよ。私もそれなりにこの鎮守府では長いほうですから」ニコ
提督「……そうか。じゃあ頼まれてくれ」
鳳翔「それで……初雪さんは、本当に無事なんですね?」
提督「おう。頭はともかく、体はぴんぴんしてんぞ」
鳳翔「そうですか。良かった……」ウルッ
鳳翔「本当に、良かった……! これ以上、犠牲は出してはいけないと……ううっ」グスッ
弥生「鳳翔さん……!」
提督「……」
工廠妖精5「あ、あの、准尉さん……」
提督「ん? なんだ?」
工廠妖精5「できれば、初雪があなたの島に流れ着いた時の状況を、詳しく教えて欲しいです……」
工廠妖精5「初雪がどんな様子だったか、漂着した原因はなにか……」
656: 2018/01/06(土) 15:42:53.96 ID:g1ZzHrFHo
工廠妖精5「対症療法になりますが、あなたに初雪の様子を教えてもらって、どんな治療方法を施すべきか考えたいです……」
提督「……わかった。そういう話なら協力する」
工廠妖精5「もちろん、それとは別に、今いる艦娘たちの検査も並行して進めるべきだと思います……」
工廠妖精5「鳳翔さんが後押ししてくださるなら、多分、N中佐も、説得に応じてくれるかも……!」
卯月「鳳翔さん鳳翔さん! うーちゃんには何ができるぴょん?」
鳳翔「卯月さんはまだ何もしなくても良いと思います。ただ、准尉の仰るような症状がみなさんに出た場合……」
鳳翔「そのときに、卯月さんたちの手をお借りできれば、嬉しいですね」
卯月「まっかせるぴょん!」ムネポーン
弥生「私も手伝います……!」
工廠妖精7「……わたしも協力するよ。みんなはどうする?」
ヤルヨー
テツダウー
鳳翔「……ありがとう……!」ホロリ
提督「……」
望月「んん? おーい、じゅーんいー? なぁんで不満そうな顔をしてるんだよー」
提督「義を見てせざるは勇無きなり、ってとこか? いいよなあ、綺麗事が通用する世界は」
望月「もしかして拗ねてんの? 鳳翔さんにいいとこ取られたからって」
657: 2018/01/06(土) 15:46:17.93 ID:g1ZzHrFHo
提督「いいとこなんて俺はいらねえよ。面倒が増えるだけだしな」
提督「それ以上に、協力的なやつが多いと世の中救われるねぇ、って思っただけだ」
望月「言うことがいちいち卑屈っぽくない?」
提督「世の中、理不尽なことのほうが多いだろ。全部丸く収まってたら俺みたいな人間は生まれねーよ」
望月「あーはいはい。准尉も面倒臭い人だねえ」
提督「まあな。あとは、俺より面倒臭いあの野郎をどうしてやろうか、って話だ」
望月「うえぇ……N中佐にも喧嘩売んの?」
提督「俺の身内に手を出したんだ、しっかりけじめつけるためにも、痛い目見てもらわねえとなぁ?」ピキピキ
望月(うっわ、完全に悪役の顔だよ……)
提督「そういうわけだから、お前らは鳳翔のサポートしといてくれ」
望月「はぁ……はいはいっと。あーもーマジ面倒くせー、なんでこんなことになってんだよー、もー」
提督「望月……ずっと気になってたんだがお前、俺の真似すんじゃねえよ。趣味わりぃぞ」
弥生「もっちは普段からそんな感じ……真似じゃないです」
提督「……マジで?」
卯月「マジだぴょん」
提督「……」
望月「うわ、なんでこの世の終わりみたいな顔すんだよぉ。感じわりー」
提督「いや、世も末だろ俺と似た艦娘って……」
658: 2018/01/06(土) 15:46:49.89 ID:g1ZzHrFHo
提督「あー、それと……鳳翔?」
鳳翔「はい?」
提督「あんたさっき、これ以上、犠牲を出したくないっつったな?」
提督「『これ以上』ってのは、どういう意味だ?」
鳳翔「……」
662: 2018/01/13(土) 15:45:15.60 ID:HbYUVG0Ro
* 翌朝 墓場島鎮守府 執務室 *
N中佐「……ごちそうさま」
大淀(お茶くみ中)「はい、お粗末さまでした」コポポポ…
N中佐「……」
大淀「今朝も執務室に朝餉を運ばせていただきましたが、明日からはどうなさいますか?」
N中佐「……」
大淀「どうなさいました?」
N中佐「……い、いや、お前たちはいつもこの朝餉を食べているのか? 昨晩の夕餉も、とてもおいしかった……」
N中佐「厨房には間宮も伊良湖もいないのに、誰が作っているんだ?」
大淀「メインは比叡さんと長門さんが交代で作っていますね。そこに駆逐艦の子たちがお手伝いに入ってます」
N中佐「ひえい……だと?」
大淀「みなさんよく勘違いなさっていますが、仮にも御召艦と言われた艦ですよ?」
大淀「方々の鎮守府の比叡さんはお料理の腕が残念だと言われていますが、ここの比叡さんは違います」
大淀「だいたいはダイナミックすぎるアレンジが悲劇を巻き起こしている原因と聞いていますけど」
N中佐「そうだな……個体差は、確かにあるな。昨日の赤城の声は、別人かと思えるほどだった」
大淀(赤城さん、提督と話しているときは、もう少し口調が柔らかいはずなんですけどね)
663: 2018/01/13(土) 15:46:11.11 ID:HbYUVG0Ro
N中佐「そういえば、この鎮守府の半数が轟沈艦と言っていたが、残り半分はなんだ? ここで建造された艦娘か?」
大淀「この島のドックで建造された艦娘は大和さんだけですよ」
N中佐「は……?」
大淀「あとは余所の鎮守府から追い出されたり逃げてきたり、押し付けられたりした人たちばかりです」
N中佐「……」
扉<コンコン
敷波「失礼しまーす」ガチャ
敷波「大淀さん、今日の秘書艦、あたしって本当?」
大淀「ええ、急にお願いしてしまってすみません。N中佐に島を案内して欲しいと思いまして」
敷波「ふーん。まあ、いいけど……ところで、どうしてN中佐は頭を抱えてるの?」
大淀「……さあ?」
敷波「それよりさ、朝餉を食べ終わったんなら、早くお膳を返してこないと!」
敷波「お椀が渇くと糊になって取れにくくなるんだから! ほら、お膳持ってくよー!」
N中佐「あ、ああ、すまない。誰が作ったのかはわからないが、おいしかったと伝えてくれ」
敷波「……そういうのはさ、じかに伝えたほうがいいよ?」ニッ
敷波「じゃ、食堂に置いてくるね!」パタパタパタ
664: 2018/01/13(土) 15:46:52.60 ID:HbYUVG0Ro
N中佐「いい子だな。彼女はどっちなんだ」
大淀「彼女からなら、直接聞いてみてもいいと思いますよ」
N中佐「……そうか。じゃあ逆に、絶対に聞いてはいけない相手は誰だ」
大淀「そうですね……個人的な観点で言えば、神通さんと利根さんでしょうか。轟沈こそしていませんが、お二人ともつらい過去をお持ちですので」
大淀「それと、暁さんもですね。前にいた鎮守府の記憶を失っています。彼女に昔のことを聞くと、正直どうなるかわかりません」
N中佐「よくもこれだけ問題のある艦娘ばかりを、提督はまとめているものだ……」
大淀「……N中佐。その言い方は誤解を招きますよ」
N中佐「何故だ?」
大淀「その言い方ですと、艦娘側に落ち度があったように聞こえます」
N中佐「違うのか?」
大淀「……っ」
665: 2018/01/13(土) 15:48:21.96 ID:HbYUVG0Ro
N中佐「追い出されたり押し付けられたりしたというのなら、その艦娘に問題があったんだろう? 逃げ出すにしても敵前逃亡は感心できない」
N中佐「我々海軍は、平和な海を取り戻すために命を懸けているんだ。その足を引っ張るのであっては、左遷もやむなしじゃないのか?」
N中佐「先日も本営で、気に入った艦娘を切り裂いて飾っていた狂人がいたとかいう話もあったんだが……」
N中佐「もし指揮官に問題があれば、その都度こうして憲兵なり特警なりが動いている。そうでなければ艦娘に問題があると見るべきだろう?」
大淀「……」
N中佐「そもそも提督准尉の行為自体が問題だ。どうして轟沈した艦娘をわざわざ運用しようとするんだ? 自殺でもしたいのか?」
扉<コンコン
敷波「ただいまー」ガチャ
N中佐「ああ、戻ったか。よし、世間話はこのくらいにして執務を始めるとするか。敷波、よろしく頼むぞ」
敷波「それはいいんだけど……今度はどうして大淀さんが頭を抱えてるの?」
N中佐「……さあ?」
大淀「……」
666: 2018/01/13(土) 15:49:13.50 ID:HbYUVG0Ro
* 一方のN提督鎮守府 *
ワーワー ドタバタ
望月「あーもー、マジ面倒臭えええ!!」
弥生「もっち、いいから手伝って」
卯月「鳳翔さんのところに空になったおひつ持ってくぴょん!」
望月「これおひつじゃなくて、たらいじゃね!?」
提督「いきなり騒がしくなったな」
妙高「准尉の昨日のお話が原因ですよ?」
提督「そうなのか?」
妙高「鳳翔さんの提案で、主力の空母たちの検査をしてみたら、軒並み栄養失調気味と診断されまして」
妙高「それでも少量のごはんしか食べようとしないから、無理矢理イヤホンを外してみたら、ドック途中の通路で倒れたんです」
提督「俺も今朝ドックの近くを通ったが、ガンガンゴンゴンってすげえ音が聞こえたな。救急車を通すための改装工事でもしてたのか?」
妙高「あれは赤城さんと加賀さんのお腹の虫の音だそうです」
提督「冗談だろ……!?」
妙高「いえ、本当です」
提督「……」
667: 2018/01/13(土) 15:49:55.37 ID:HbYUVG0Ro
妙高「今、主力艦隊の人たちにも検査を受けてもらっていますが、みなさん空腹だと言うことで、急遽配給が行われてまして」
提督「配給ってなあ……妙高は手伝わなくていいのか?」
妙高「私は提督准尉の補佐を任されたといいますか……」
提督「ああ、おれのせいか。部外者ほったらかすわけにもいかねえもんな」
妙高「いえ、むしろ准尉がいらっしゃらなければ、この鎮守府の主力は全員倒れていたと思われます」
妙高「警鐘を鳴らしていただいた提督准尉には、感謝こそすれ、蔑ろにしては礼を失してしまいます」
提督「……そうかい」アタマガリガリ
妙高「准尉、そのように頭を乱暴にかいては、お顔の傷に響くのでは?」
提督「それなんだがなあ、今朝朝一番に医者に診てもらったんだよ」パチンパチン
提督「マスクを脱いで包帯を取ると……ここだここ。左の頬を見てくれ」シュルシュルッ
妙高「……見た目、なんともありませんね……?」
668: 2018/01/13(土) 15:51:10.66 ID:HbYUVG0Ro
提督「この前までこの辺が真っ青だったんだ。全然痛くねえし、もう一回CT取ってもらって、今は結果待ちの状態なんだ」
妙高「そうでしたか……」ジッ
提督「……どうかしたか?」
妙高「す、すみません、准尉の素顔を見るのは初めてだったものですから。失礼しました」ペコリ
提督「確かにミイラ男だったもんな。素顔もそんなに珍しい顔でもねえだろ」
PPPP... PPPP...
提督「おい、何か鳴ってんぞ」
妙高「私のですね……もしもし? 妙高です」ピッ
妙高「……本営からですか? 准尉にもお客様? はい、はい……ええ、今はロビーに……」
妙高「……わかりました。提督准尉にも同行していただきます。はい、よろしくお願い致します」ピッ
提督「俺に関係あるのか?」
妙高「はい。本日ヒトマルサンマル、本営からの査察が入ると連絡がありました」
妙高「その前段として、お客様がお見えです。提督准尉にもご同席願いたいということです」
提督「面倒臭えなぁ……できれば早く俺の鎮守府に戻りたいんだが」ハァ
669: 2018/01/13(土) 15:51:36.30 ID:HbYUVG0Ro
短いですが、今回はここまで。
670: 2018/01/13(土) 17:57:54.68 ID:g/LffYBA0
乙です
海軍入る前はこういう時冤罪を被るのが常だったと思われるが…はてさて、どうなる!次号!
海軍入る前はこういう時冤罪を被るのが常だったと思われるが…はてさて、どうなる!次号!
671: 2018/01/13(土) 23:00:20.32 ID:N0v5FjJv0
更新お疲れ様です
妙高さん、落ちたな
提督は罪作りだなー(棒)
妙高さん、落ちたな
提督は罪作りだなー(棒)
続き:提督「墓場島鎮守府?」【後編】
引用: 提督「墓場島鎮守府?」
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