672:◆EyREdFoqVQ 2018/01/14(日) 19:29:50.04 ID:Q+XJGwKqo
提督「墓場島鎮守府?」【中編】の続きです。
673: 2018/01/14(日) 19:30:47.27 ID:Q+XJGwKqo
* 墓場島 丘の上 *
ビュウウウ…
N中佐「……ここに並んでいる艤装が、すべて轟沈した艦娘のものだというのか」
敷波「うん。あたしが流れ着いたころは、この3分の2くらいだったかな?」
N中佐「駆逐艦や軽巡が多いが……大口径主砲や飛行甲板まで見受けられるとは」
敷波「まあ、こればっかりはどうしようもないよね。そういう命令を下す司令官がいる以上はさ」
N中佐「……っ」
敷波「あれ? いつもなら丘にある花壇のところに神通さんがいるんだけど……」キョロキョロ
N中佐(神通……!?)ビクッ
敷波「あ、いたいた。神通さーん!」
神通「! 敷波さん。N中佐も……おはようございます」
N中佐「あ、ああ、おはよう」
敷波「神通さん、ビニールシートなんか持ってきて、どうしたの?」
神通「今日は風が強くなるらしいですから、花壇にシートを張っておこうと思ったんです。杭もいただいてきました」
674: 2018/01/14(日) 19:31:33.84 ID:Q+XJGwKqo
敷波「あたしも手伝う?」
神通「私だけで大丈夫ですよ。敷波さんは、N中佐を案内してあげてください」
敷波「はーい」
N中佐「……」
神通「N中佐?」
N中佐「!?」ビクッ
神通「? どうなさいました?」
N中佐「い、いや、なんでもない……」
神通「そうですか……? 私にどう話を切り出したらよいか、悩んでおいでのようでしたが」
N中佐「!?」ギクッ
神通「……やはりそうでしたか。大淀さんから何を聞いたのかは凡そ見当は付きますが、あまり緊張なさらないでください」ニコ
N中佐「」
敷波「……あー、神通さんごめんね。あたしたちそろそろ行くね」
神通「はい、気を付けて」
敷波「ほらー、行くよN中佐ー」グイ
N中佐「あ、ああ……」
神通「……」
675: 2018/01/14(日) 19:32:47.94 ID:Q+XJGwKqo
*
N中佐「……」ダラダラ
敷波「……ったくもう、何やってんのさ。みっともないよ」
N中佐「し、敷波、あの神通は……」
敷波「んー……『気が利きすぎる』って言えばいい? まあ、ここに来た理由はそれだけじゃないんだけどさ」
N中佐「な、何があったんだ……」
敷波「あたしは言わないよー。知りたいんなら神通さんに直接訊けば?」
N中佐「……お、お前はどうなんだ。なんでこの島に来た?」
敷波「あたし? あたしは……家出みたいな感じかな?」
敷波「前の司令官はさ、上に認めて欲しくて無理な進軍繰り返してて。大破進軍なんかもよくあったんだ」
敷波「それで大事な子も沈めて、見てらんなくて文句言ったら『じゃあ探してこい、見つかるまで戻ってくるな』って言われてさ」
N中佐「それでお前も轟沈したのか」
敷波「ううん、あたしは轟沈してないよ? でも、記録の上では轟沈扱いにされちゃってんの。結局ここのお世話になってるんだよね」
N中佐「なんだ、実際には轟沈していないのか……」
676: 2018/01/14(日) 19:34:46.40 ID:Q+XJGwKqo
敷波「でも記録上は沈んだことにされちゃってんだよ。あたしはまだ生きてるってのにさ……!」
N中佐「……」
敷波「ねえ、もしかしてだけどさ?」
N中佐「なんだ?」
敷波「N中佐は、あたしみたいに轟沈したことのない艦娘は、雑に扱ってもいい、って思ってない?」
N中佐「っ! そ、そんなことは……」
敷波「轟沈してなくても、みんな余所で酷い目に遭わされた艦娘ばっかりだからね?」
敷波「勿論、轟沈した艦娘だって酷い目に遭ってきたわけだけどさ。捨て艦だったり、無実なのに罪を着せられたり……!」
N中佐「……お、落ち着け。落ち着くんだ」
敷波「あたしは落ち着いてるよ。ちょっとむかむかしただけじゃない」
敷波「それよりほら、天気が悪いんだから、早く行かないと案内できないよ?」
N中佐「あ、ああ」
677: 2018/01/14(日) 19:35:36.44 ID:Q+XJGwKqo
* 墓場島 北東の砂浜 *
ザザーン
敷波「うわ、風が強くなってきた……N中佐、早めに行くよ!」
N中佐「砂浜か? 敷波、ここには何の用があるんだ?」
敷波「ここは、司令官がいつも見回りしてる場所だよ。あたしもここに流れ着いてきたんだ」
N中佐「なに?」
敷波「……あれ? 利根さん?」
利根「む? おお、敷波か! N中佐も一緒であったか」
N中佐「あ、ああ」
敷波「こんなところでなにをしてたの?」
利根「いやさ、砂浜を見回っていたら、また流れ着いた者たちがおってな」
敷波「あー……」
N中佐「流れ着いた……?」チラッ
敷波「あ、見ないほうが……」
N中佐「」ゲロロロロロ…
敷波「あーあ……」
利根「見慣れておらんのだろう。仕方あるまいよ」
678: 2018/01/14(日) 19:37:18.24 ID:Q+XJGwKqo
利根「ひとまずこの者たちを引き上げたいんじゃが、敷波も手伝ってくれぬか?」
敷波「うーん、可哀想だけど今日はやめたほうがいいんじゃない? 午後から時化が来るっていうし、穴掘りとか無理だと思うよ」
敷波「もし司令官だったら、波が来ないところまで引き上げて避難させるところまではやるかもしれないけど」
利根「うむ、このような姿で波や雨風にさらされるのはあまりに哀れ。せめて岩陰に連れて行ってやるべきだな」
N中佐「……げほ、げほ……うえっ」ヨロッ
N中佐「はぁ、はぁ……なんて場所だ。赤城が言っていたのは、こういうことだったのか……」
N中佐(そうすると、俺が沈めた艦娘も、あんなふうになってこの島に……あの丘の、艤装の中に……)
敷波「ねえ、大丈夫? 顔が青いよ?」
N中佐「だ、大丈夫……大丈夫だ」
敷波「本当?」
N中佐「ああ……」
敷波(この人、自分の鎮守府に帰ったほうがいいと思うんだけどなあ)
679: 2018/01/14(日) 19:37:57.01 ID:Q+XJGwKqo
利根「……うむ、この場はこれでご容赦願おう」ナムー
利根「N中佐よ、この場は敷波と一緒に引き上げたほうが良いぞ!」
敷波「そだね、顔色も悪いし、休んだほうがいいよ」
N中佐「あ、ああ、わかった。そうさせてもらう」
利根「ふむ……ときにN中佐よ。おぬしに一つ訊いておきたいことがある」
N中佐「な、なんだ」
利根「おぬしは『愛情』をなんと心得る?」
N中佐「愛情……だと?」
利根「うむ」
N中佐(い、いったいどういう意味だ……!?)
N中佐「……て、提督准尉は、なんと言っていた?」
利根「提督にも訊いたが、知らんと言われたのだ」
敷波「あー、言うだろうね、司令官なら」
N中佐「……」
N中佐(なんなんだ? 質問の意図がわからない……!)
N中佐(大淀の警告は、いったい何を意味しているんだ……なんて答えればいい!?)
680: 2018/01/14(日) 19:39:12.46 ID:Q+XJGwKqo
N中佐「……お、俺も、よく、わからない、な……」
利根「そうか、おぬしもわからんのか」
敷波「……ねえ、本当にわからないの?」
N中佐「あ、ああ」
敷波「じゃあ、なんでN中佐は海軍にいるのさ?」
N中佐「っ!」
敷波「なんで海軍で艦娘の指揮を執って、深海棲艦と戦ってるのさ!?」
N中佐「俺は……」
N中佐「俺には、守らなければならないものがある。だから……深海棲艦の跋扈を許すことはできない」
敷波「それは愛情じゃないんだ?」
N中佐「……っ」
利根「うーむ……やはりよくわからんな」
ビュオオオォォォ…
利根「むう、風が出てきたな……二人とも、早く引き上げるぞ!」
N中佐「わ、わかった」
敷波「……」
686: 2018/01/20(土) 20:19:05.35 ID:kROe9dGoo
* 一方のN提督鎮守府 *
卯月「疲れたぴょん……」グッタリ
弥生「……」ウトウト
望月「マジ疲れたし……! 寝るよー?」グテー
妙高「みなさんお疲れ様でした」
提督「よお、ご苦労さん」
卯月「!? だ、誰ぴょん!?」
望月「妙高さんが一緒ってことは……もしかして准尉?」
弥生「顔の包帯やマスクはどうしたの……?」
提督「治ったから取った」
望月「治った!?」
妙高「私もレントゲン写真を見せてもらいましたが、昨日の写真にはひびが映ってて、今朝の写真にはそれがないことを確認しました」
望月「マジか……」
卯月「准尉! 治ったんだったら今の今までどこでサボってたぴょん!?」
鳳翔「卯月さん、准尉はこの鎮守府の関係者ではないのですから、無理をお願いしてはいけませんよ」スッ
卯月「うー……」
687: 2018/01/20(土) 20:20:00.13 ID:kROe9dGoo
提督「よお、鳳翔。ご苦労さん、忙しくさせて悪かったな」
鳳翔「いいえ、これで良かったんです。准尉、ありがとうございます」フカブカ
鳳翔「ところで准尉? お顔のお怪我はもうよろしいんですか?」
提督「ああ。正直、なんでこうなったのか、よくわかんねえ」
妙高「お医者様も狐につままれたような顔をしてましたね」
鳳翔「いったい何が……」
< 提督ーーーー!!
望月「……んあ?」
卯月「誰ぴょん?」
提督「……この声、まさか」タラリ
妙高「?」
大和「提督ーーーーーーー!!!」ドドドドドド
提督「げぇっ! 大和!!」
大和「提督ーーーー! お会いしとうございましたーー!!!」ダキツキーーッ
提督「げぼあ!?」ドガシーーーッ
卯月弥生望月妙高鳳翔「「「!?」」」
688: 2018/01/20(土) 20:21:08.29 ID:kROe9dGoo
大和「提督、そのお顔、治ったんですね! 良かった……本当に良かった!」ホオズリホオズリ
提督「放せ! 何やってんだお前は! 抱き着くな! 胸を押し付けんな!」
大和「当ててるんですよ?」ポ
提督「当てんな! いいから早く放せっての!」
大和「そんな……嫌です! この大和、もう二度とあなたを離しません!」ギュウウ
提督「お前は人の話を……」ガシッ
卯月「あっ」
提督「聞けやくそがあああああ!!」アイアンクロー
大和「ひぎいいいいいいい!?」メキメキメキメキ
望月「うっわあ……」
卯月「准尉のアレ、超痛いぴょん……! 大和さん、早くごめんなさいするぴょん!」ガタガタ
弥生(完全にトラウマになってる……)
鳳翔「准尉、そのくらいにしてあげてください。力で抑えつけても、人はついてきてくれませんよ」
提督「ん? お、おう……」パッ
大和「ふぁっ!? い、いたたた……鳳翔さん、お気遣いありがとうございます」サスリサスリ
689: 2018/01/20(土) 20:22:39.08 ID:kROe9dGoo
鳳翔「お礼には及びませんよ。私からも大和さんに言いたいことがありますから」ニコ…
大和「は、はい……?」
鳳翔「まず、好いた殿方がいるとはいえ、鎮守府の廊下を走るなど言語道断です」
大和「は、はい! 申し訳ありません!」
鳳翔「それに提督准尉はれっきとした成年男性です。抱き着くだけにとどまらず頬擦りまでするなんて……」
鳳翔「あなたは准尉を猫か子供と勘違いなさっているのではないですか?」ジッ
大和「い、いえ! 決してそのようなことは!」
鳳翔「それに、当てているとはどういう意味です?」ギンッ
大和「ひぃっ!」
鳳翔「安直な誘惑などせず、礼節を知り、相手に対する敬意をもって接することこそが、尊いと思いませんか?」ゴゴゴゴ
大和「も、申し訳ありません! この大和、未熟な振る舞いが過ぎました!」ペコペコ
提督「おい妙高。鳳翔って何者なんだ?」ヒソヒソ
妙高「なんと言いますか、私たち艦娘の精神的なまとめ役というか、お母さん的な存在です」
妙高「艦だったときも、初期に建造された艦でありながら、終戦まで私たちの戦いを見守ったと聞いています」
提督「いまいちピンとこねえが……とにかく立場が上っぽいんだな?」
690: 2018/01/20(土) 20:23:38.41 ID:kROe9dGoo
大和「ううう、ごめんなさい、ごべんなざいぃ……」グスグス
鳳翔「そ、そこまで泣かなくても……ほら、小さな子も見てますから。次から改めましょう?」
大和「はいぃ……」グスングスン
望月「……なんていうか、鳳翔さんすげえ……」
卯月「それよりも、准尉の鎮守府に大和さんがいることのほうが驚きぴょん! いったいどうやったぴょん?」
弥生「N中佐……大和をすごく欲しがってた」
提督「そのせいで面倒くせえことに巻き込まれてんだよ、うちの鎮守府は……」
鳳翔「それは……」
不知火「司令」ヌッ
提督「うっお!? し、不知火か!? お前いつの間にいやがった!」
不知火「大和さんが提督にアイアンクローを貰ってたあたりからです」
提督「なんで黙って見てんだよ……」
不知火「申し訳ありません、声をかけるタイミングを考えていました」
提督「……なあ不知火、もしかして、お前らが本営からの客ってやつか?」
不知火「はい、大和さんと一緒に、本件の調査と現状の報告を中将から仰せつかってきました」
提督「そうか。で、そっちは誰だ」
大鳳「初めまして、提督准尉。私は少佐鎮守府所属、装甲空母、大鳳です」
提督「少佐鎮守府、だと?」ジロリ
不知火「詳細をご説明したいので、お時間よろしいでしょうか」
691: 2018/01/20(土) 20:25:17.61 ID:kROe9dGoo
* N中佐鎮守府 応接室 *
大淀(N中佐部下)「では、本日中に特警からの調査が入るということですね……?」
大鳳「はい。今回問題になったこのイヤホンですが、海軍の依頼を受けたある開発チームが作成したものです」
大鳳「開発当初は、艦娘の健康管理やスケジュール管理など、艦隊運営の補助ツールとして試験運用されていました」
大鳳「もともとは、指揮官の出張や傷病による長期不在に対応するために開発したと聞いています」
大鳳「それが、開発を進めていくうちに、艦娘の体調のコントロール、リミッターの強制解放……」
大鳳「果ては艦娘への洗脳プログラム……そういったものが開発され、艦娘の人格への侵害が見受けられるようになり……」
大鳳「少佐を含む海軍の有志数名が、このツールの運用を中止させるべく本営に働きかけたのが、数日前」
大鳳「そして、提督准尉からの報告もあり、海軍上層部はこのツールを現実的な脅威として認定、運用と開発の中止を決定しました」
妙高「そんなものがこの鎮守府で運用されていたなんて……」
大鳳「先程報告していただいた、この鎮守府で起こったことを鑑みれば、ツールの運用は危険であると判断して良いでしょう」
不知火「対処法としては、イヤホンを取り外すだけで済みますが、抵抗されて氏傷者が出るケースも発生しています」
不知火「取り扱いには細心の注意を払っていただくよう、お願い致します」
大淀「わかりました。すぐに対応します」
鳳翔「……N中佐はどうしてこんなものを……いえ、仕方ないのかもしれませんね」
提督「……」
692: 2018/01/20(土) 20:26:20.81 ID:kROe9dGoo
大鳳「また、以上の話をN中佐に連絡し、このツールをどこから入手したのか、いつ使い始めたのか、経緯を聞く必要があります」
大鳳「N中佐は現在、提督准尉の鎮守府におられるということですので、私と不知火さん、大和さんはこれからそちらへ向かいます」
大鳳「提督准尉にもご同行をお願いします。よろしいですね?」
提督「ああ」
大鳳「そしてN中佐には、このツールを利用したことによる、しかるべき処分を受けていただくことになります」
大淀「!」
妙高「そう、ですか……」
提督「で、俺たちはすぐ出立すんのか?」
大鳳「いえ、島の周辺海域の天候がよろしくないので、様子を見る必要がありそうです。準備だけは整えておいてください」
大鳳「それと、この鎮守府には、本日ヒトヨンマルマルから特警が医師団を連れて捜索に入ります」
妙高「医師団?」
大鳳「はい、イヤホンを着用した艦娘の体調を調査するためです」
大鳳「今日は調査対象者のなかから、本営での精密検査を受けていただく艦娘を数名選び出す予定です」
大淀「そうですか……わかりました」
693: 2018/01/20(土) 20:29:17.77 ID:kROe9dGoo
鳳翔「大淀さん、まずは艦隊のみなさんのイヤホンをすべて回収しましょう」
鳳翔「そのうえで別室へ待機していただいて、午後の調査がスムーズに行われるよう、みなさんにも協力を要請しましょう」
大淀「はい!」
提督「……」
大鳳「提督准尉? 先程から怖い顔をなさってますが、何か気に入らないことでも?」
提督「ああ、気に入らないことだらけだな」
提督「例えばツールの使い道、上の連中が一番恐れているのは洗脳プログラムだよな?」
提督「人間や海軍に対して攻撃を仕掛けるよう洗脳することも、そのツールなら可能なんだろ? 簡単にクーデター起こせそうだな」
大鳳「はい、少佐はいち早くそれに気付いています」
提督(……蛇の道は蛇ってか? この件はあいつが黒幕じゃあねえってことか)
提督「そんなことができるんなら、うちの艦娘に俺を裏切れって命令を出すこともできるよな?」
不知火「し、司令! いくらなんでも、N中佐がそこまでするとは……!」
鳳翔「准尉、そのお話……もしかして、先程の大和さんが関係していますか?」
不知火「あ……!」
提督「そうだな。俺には、大和が欲しいがためにツールの洗脳プログラムを使ったとしか思えねえ」
提督「じゃなきゃ、うちの鎮守府の指揮を執りたいなんて言うはずがねえよ。初雪の捜索をおざなりにしたのも、そういうことだろ」
鳳翔「……」
694: 2018/01/20(土) 20:30:16.85 ID:kROe9dGoo
大鳳「お話を聞く限り余罪があるのかもしれませんが、まずは提督准尉の鎮守府へ急ぎ、N中佐の身柄を確保するのが先決だと思います」
提督「ああ、急ぎたいな。どうせ今から島へ向かっても日が落ちちまうだろうが……」チッ
提督「それと、もう一つ。大鳳は少佐の指示でここへ来たのか?」
大鳳「はい。少佐は今回のツールの運用が危険であることを証明すべく、奔走しておりました」
大鳳「このツールの存在そのものを少佐は酷く憤慨していまして、早急に対応するよう、私も直々に命を受けています」
提督「憤慨!? あれがか?」
大鳳「あ、あの、提督准尉? その、露骨に嫌な顔をなさっているのは何故です?」
不知火「いえ、これは無理からぬことかと……」
提督「大鳳、お前もしかして、少佐鎮守府に来て日が浅いのか?」
大鳳「は、はい」
提督「そうか。それじゃお前に言っても仕方ねえな」
大鳳「わ、私、何か准尉の気に障るようなこと言いました?」アセアセ
不知火「いえ、大丈夫です。司令は誰に対してもこんな感じですから」
大鳳「……赤城さんから聞いていたイメージとだいぶ違います……」タラリ
不知火「司令は少佐が大嫌いなんです。気を悪くなさらないでください」ヒソヒソ
695: 2018/01/20(土) 20:30:52.98 ID:kROe9dGoo
提督「とにかくやることは決まったな? 俺たちは出立の準備をして、こっちの鎮守府は大淀や鳳翔に任せる、でいいんだな?」
大淀「提督准尉、お願いがあります。島へは鳳翔さんと妙高さんを連れて行っていただけないでしょうか」
鳳翔「大淀さん!?」
妙高「いいんですか!?」
大淀「准尉。このお二方は、N中佐が駆け出しのころ、この艦隊の主力として奮戦しておられました」
大淀「戦艦や正規空母の台頭で主力から離れていましたが、それでイヤホンを付けなかったのは不幸中の幸いだと思います」
大淀「今、N中佐を説得できるのはこのお二人しかおられません……!」
提督「……わかった。一緒に行くか」
鳳翔「はい。よろしくお願いします」
妙高「すぐに準備します!」スクッ
699: 2018/01/26(金) 22:06:25.17 ID:SkKZSeuWo
* 昼過ぎ 墓場島鎮守府 ロビー *
敷波「っていうことがあってさ」
霞「……ふーん」
敷波「司令官は、あたしたちがやりたいことをやらせたい、って考えじゃんか」
朝潮「はい。司令官は、私たちのことを第一に考えてくださっています!」
潮「任務も、やりたくないならやらなくていい、って言うくらいだし……」
朝雲「ちょっと甘すぎる気もするけどね」
敷波「司令官が、それを愛情だって言いたがらないのは、何となくわかるんだけど……」
霞(まあ、なんとなくわかるわね)ウンウン
潮(霞ちゃんが頷いてる……)
朝雲(頷き方がすごく力強いんだけど)
敷波「でもさ、N中佐の言う守りたいものに対する気持ちって、愛情とは別に何かあるのかな?」
潮「愛情じゃないけど、守りたいと思う気持ち……?」
霞「となると、哀れみとか、同情のたぐいかしら」
朝潮「どういう感情なんでしょう……よくわかりませんね」
敷波「あの人、何か隠してるのかな?」
700: 2018/01/26(金) 22:07:10.20 ID:SkKZSeuWo
* 墓場島鎮守府 工廠 *
初春「のう明石よ、初雪の処遇は今暫くこのままかえ?」
明石「うーん、そろそろなんとかしたいんだけど……」
初雪「私はこのままでもいい……会ってどうこうするの、もう面倒くさいし」ウツラウツラ
明石「駄目だよー、何事もちゃんとすっきりけじめつけないと」
初春「うむ。今のままではおぬしは幽霊船になってしまうぞ」
初雪「知ってる……成仏できない幽霊は、悪霊になるっていうアレ」
明石「どこで仕入れたんですか、その知識……」
初春「そこまで理解しておるなら、なおのことここで舟を漕いでいる場合でもなかろうに」
初雪「大丈夫……そのときは初春にお祓いしてもらう」
初春「? わらわにか?」
明石「ああ、その髪飾り!」
初春「この紙垂は、そういう使い道のものではない」デコツン
初雪「おっふ」
明石「冗談はさておき、N中佐とどんな話をするか、方針が決まらないとね」
明石「N中佐の鎮守府に戻るのか、ここに残るのか。初雪ちゃんとN中佐双方が納得する答えを出さないと……」
701: 2018/01/26(金) 22:09:28.23 ID:SkKZSeuWo
初春「ものぐさな初雪には、自給自足が常のこの鎮守府の暮らしは聊か厳しくはないか、ちと心配じゃ」
朧「だからって、アタシは戻った方がいいなんて思わないけど」スッ
明石「!」
朧「もともとあの人は初雪を探しに来たのに、あれから初雪を探すような素振りも言及する様子も見せてない」
朧「そんな相手のところに『戻ったほうがいい』って言える?」
初春「うむ、わらわもそこが気に掛かる。当の指揮官が初雪を気に留めておらんのではのう」
初雪「……私は、別にかまわないけど」
明石「うーん……それじゃ、提督のことはどう思います?」
初雪「……気持ちよかった」ポ
明石「えっ!? なんですかそれ、どういうことですかっ」ズイッ
初春(瞳が必要以上に輝いておるのう)タラリ
初雪「耳かきが気持ちよかった」
明石「なんだ、そういう意味ですか」チェッ
初春「なんだではないぞ。まったく……」
初雪「でも、准尉はちゃんと私の顔を見てくれたし。N中佐より、嫌いじゃない」
明石「……そういうことなら、話は早いんじゃない? ねえ?」
初春「うむ。尊重されるべきは初雪じゃからな」
朧「……」
702: 2018/01/26(金) 22:10:10.52 ID:SkKZSeuWo
* 夕方 執務室 *
N中佐「……」カタカタ
長門「失礼する……なんだ、休んでいなかったのか」
N中佐「いろいろと調べたいことがあってな」
長門「そのトランクの機械は通信機か」
N中佐「ああ。場所が場所だからな、衛星通信が可能な機械を持ち込んだんだ」
N中佐「電源だけはここから拝借しなきゃいけないが、その分はしっかり働かせてもらう」
N中佐「で、長門は何の用だ」
長門「休んだと聞いた貴様が寝室にいなかったのでな、様子を見に来た。何を調べている」
N中佐「この島の成り立ちについてだ。お前からも事前調査の不足を指摘されたからな」
N中佐「しかしいくら調べてみても、この島に鎮守府が建てられた経緯や、近海で起きた戦闘やらの情報がなさすぎる」
N中佐「本営のデータベースにアクセスしても、記録がほとんど残っていない……おかしいぞ、これは」
長門「……」
N中佐「長門は、この鎮守府の過去について何か知っていることは?」
長門「提督がこの鎮守府に着任した前後までなら聞きかじっているが、それ以前のこととなると私は知らないな」
N中佐「そうか……」
703: 2018/01/26(金) 22:11:33.48 ID:SkKZSeuWo
N中佐「ところで長門。お前も轟沈を経験したのか」
長門「いいや。私は逃げてきた」
N中佐「逃げた!?」
長門「ああ。私は、ある鎮守府から逃げてきた。ある艦娘とともにな」
N中佐「お前ともあろう者が、臆病風に吹かれたと言うのか!? なぜだ!」
長門「どうしようもない理由だ」
N中佐「理由にならんぞ! 敵前逃亡など!」
長門「敵から逃げた覚えはない」
N中佐「どういう意味だ」
長門「……いいだろう、覚悟を決めよう。耳を貸せ、絶対に他言するな。約束できるか」
N中佐「む……わかった。約束する」
長門「よし……すう、はあ……」
N中佐「深呼吸するほどのことなのか?」
長門「本来ならば誰にも話したくはないのだ……恥ずかしいからな」スッ
N中佐「恥ずかしい?」
704: 2018/01/26(金) 22:13:04.88 ID:SkKZSeuWo
長門「では、想像してみろ……貴様がもし艦娘だったら」ヒソッ
長門「自分の小水を直接飲ませろ、と言った男の下で働けるか?」
N中佐「!?!?!?」
長門「それが私たちがその鎮守府から逃げた理由だ。この話は、提督にしか話していない」
N中佐「……嘘だろう?」タラリ
長門「どうせ嘘をつくならもっとましな嘘をつく。なんでこんな恥ずかしい話を作って聞かせなければならないんだ」
N中佐「しかし、そんな変態行為に走る人間自体、例外もいいところじゃないか……」
長門「どうして貴様はそうやって否定から入る? 私は恥を承知で勇気を出してこの話をしたんだぞ、疑うのか!」
N中佐「し、信じられないものは信じられん!」
長門「だが事実だ! 貴様、私たちのことは最初から信じる気がないのか!」
N中佐「……そ、そんなことはない!」
長門「ならばなぜ、貴様と一緒に見回りに行った敷波の表情が晴れないんだ!?」
N中佐「それは話が別だ!」
705: 2018/01/26(金) 22:15:34.34 ID:SkKZSeuWo
長門「……昼間もそうだ。貴様は大淀に、艦娘を切り裂いて飾った狂人の話をしていたそうだな?」
長門「あれも例外中の例外的事例だとは思う。だが、貴様の不用意な発言で、彼女が傷付く前に言っておく!」
長門「この鎮守府の利根が、その被害者だ」
N中佐「馬鹿な……話が出来過ぎている!」
長門「貴様は今までこの鎮守府の何を見てきた? ここが、貴様の鎮守府とは全く違うことくらい、理解できているはずだ!」
長門「この島は、提督准尉が来るまで無人だったそうだ。その頃からすでに、砂浜には無数の艦娘の遺体が漂着していた」
長門「そんな状況では着任したい人間もいないだろう。私は、海軍の記録が残っていないのはそのせいだと考えている」
N中佐「……」
長門「この島に提督が来たことで、大破して漂着した艦娘の何人かが助かるようになり、鎮守府に着任したと考えれば……」
長門「この鎮守府の艦娘の多くが、何かしらつらい過去を持っていたとしても、なんら不思議ではない」
長門「それでも貴様は、我々の過去など信じる気はないのだろうがな……!」
N中佐「そ、そんなことは……」
長門「まあいい。それで、貴様はまだ調べ物を続けるのか?」
長門「そうでなければ早めに切り上げて部屋に戻るといい。時化の夜は発電機を動かさない方が良いからな」
扉<パタム
N中佐「……」
711: 2018/01/31(水) 11:05:32.13 ID:dGBNtLH6o
* 少し時を遡り、昼前 *
* N中佐鎮守府 応接室の外 *
卯月「みんなが出てきたぴょん!」
大和「提督! お話はどうなりましたか!?」
提督「とりあえずだが島に戻るぞ。お前も一緒だ、準備しろ」
大和「はいっ!」
卯月「准尉、島へ帰るぴょん?」
弥生「せっかく来たのに……残念」
望月「全然休めてないじゃん。もうちょっとゆっくりしていきゃいいのに」
提督「もともと顔の怪我が治るまでって予定だったからな。島の連中をほったらかしにするわけにもいかねえし」
提督「まあ、暇なら遊びに来い。うちの連中も喜ぶかもしれねえ」
少佐鎮守府の士官(以下「士官O」)「提督准尉。お久しぶりです」
提督「んん……!? あんた、如月の捜索の時に島に来てた、少佐の部下か!?」
士官O「はい。覚えていただいていたみたいで恐縮です」ニコ
提督「あのあと大丈夫だったのか?」
士官O「なんとか、ですね。私は准尉のようにうまく立ち回る自信がなくて、しばらく目立たないように隠れてました」ハハッ
712: 2018/01/31(水) 11:07:09.50 ID:dGBNtLH6o
提督「あんたがここに来たってことは、今回もあんたが船を用意したのか?」
士官O「はい。準備はできていますよ、あとは天候だけです」
提督「そうか……ところで、今回の件、どこまで知ってる?」ヒソッ
士官O「あまり大きな声では言えませんが……このツールの調査を担当したのは私です」ヒソッ
提督「なに?」
士官O「少し前、少佐宛に余所の鎮守府から、艦娘が指揮官以外の言うことを聞かなくなった、という話が来たんです」
士官O「当初は少佐の全く気が乗らなかったものですから、私に調査しろと丸投げしてきまして。その結果、今回のツールに行きつきました」
提督「あんたもそんなもの押し付けられて、災難だな……」
士官O「ええ、まあ。でもそのおかげで、来月の頭に別の鎮守府に異動して、少尉として艦隊の指揮を執ることが決まりましたので、善し悪しかと」
提督「!」
士官O「実は、少佐が鎮守府を離れている間、少佐の地位回復のためという建前で、混乱に陥った余所の鎮守府の対応をフォローをしていたんです」
士官O「それこそ少佐の名前を使って、欠員が出た鎮守府に補充するための人材を確保したり、問題があった鎮守府の解決に乗り出したり……」
士官O「M准将のところにいた同期の士官に、提督准尉のことを紹介したのも私です」
提督「はあ!? あんたがやったのか!?」
士官O「はい。まあ、少佐が不在なことをいいことに結構好き勝手しましたね。うちの鎮守府の利益にならないことばかり」
713: 2018/01/31(水) 11:08:58.30 ID:dGBNtLH6o
提督「……あんた、意外と図太いな」
士官O「あなたの影響ですよ」ニコ
士官O「そういうことばかり積み重ねていたら、個人的にそれなりの評価を戴きまして」
士官O「少佐には余計なことをするなと言われましたが、赤城さんから鎮守府の評価も上がっていると報告を戴き、見逃してもらえました」
士官O「今回のツールの調査を押し付けられたのも、そういう実績があっての話なんです」
提督「へえ……それにしてもだ、大鳳はあのツールに少佐が憤慨していたとか言ってたが、本当なのか?」
士官O「憤慨していたかどうかはちょっと。ですが、私が調査結果を報告したときには、予想外に食いついてきましたね」
提督「どういうことだ?」
士官O「私がツールの調査を終えて仕組みを報告したところ、少佐はすぐその危険性に目をつけ、私に再調査を求めました」
士官O「少佐はツールの欠陥を大袈裟に非難し、そのうえで我こそは海軍と艦娘を救った男だとアピールを図ったんです」
提督「……くそだな」
士官O「准尉も御存知だと思いますが、深海棲艦の兵器化の研究をしていたZ提督が逮捕された事件……」
士官O「研究が頓挫したことで、研究の協力者やスポンサーが離れ、代わりに鎮守府を監視する本営の人間が増えました」
士官O「更には、少佐鎮守府の職員十数名も資材の不正流出の件で捕まったこともあって、少佐は名誉挽回に躍起になっているんですよ」
提督「けっ、あれの手柄じゃねえだろうによ」
714: 2018/01/31(水) 11:10:51.95 ID:dGBNtLH6o
士官O「それと、もしこのツールが海軍のスタンダードになれば、その開発者は本営に招かれ厚遇を受けられます」
士官O「調べていくうちに、かつての研究の協力者が今回のツール開発に携わったこともわかりまして」
提督「逆恨みも入ってるってか」
士官O「今となってはそれが最大の理由になってますね。自分を見限った研究者が成功するのを許せなかったんでしょう」
提督「やれやれ……くそな部分は全然変わってねえんだな」
士官O「今回の調査は赤城さんにもご協力戴いたんですが、その中で鎮守府の聞きたくもない裏事情も耳に入ってきまして」
士官O「少佐から距離を置きたいと思っていた矢先、少佐も私のことがお気に召さなかったようで……」
士官O「図らずも利害一致したものですから、私が栄転という形で鎮守府を出る運びになったんです」
提督「なるほど、ていのいい厄介払いか。だがまあそのほうが安心だな」
士官O「ええ。今後は私の先輩の同期にあたるW大尉のもとに身を寄せる気でいます」
士官O「ただ……あの鎮守府の艦娘たちのことだけが心残りですね」
士官O「それに、あなたを差し置いて私が少尉になると言うのも、申し訳がないと言いますか……」
提督「気にすんなよ。うちは海軍の戦力になってねえし、事情もわかってんだろ?」
715: 2018/01/31(水) 11:11:50.46 ID:dGBNtLH6o
士官O「ええ、不知火から、如月も元気だと聞いています。他にも助かっている艦娘がいるそうで……本当に良かった」ニコ
提督「そうだな。あの二人だけだったのが……」
提督「……」
提督「……ん?」
提督「……いや、まさか……」
士官O「提督准尉?」
提督「まずいこと思い出したぞ。完っ全に忘れてた……くっそ、俺の記憶違いだといいんだが」
士官O「なにか、あったんですか」
提督「悪い、すぐに船を出してくれ」
提督「うちの艦娘が、N中佐を頃しちまうかもしれねえ」
719: 2018/02/10(土) 12:07:46.30 ID:49K4gyuAo
* 夜 墓場島鎮守府 執務室 *
ザァァァ…
N中佐「……雨脚が強くなってきたか」
N中佐「……」カタカタ
N中佐「妙だな……俺の鎮守府の艦娘の情報が更新されてない」
N中佐「あいつら、ちゃんと演習なり遠征なりやっているのか?」カタカタ
N中佐「それとも、俺の鎮守府のツールまで壊れたのか?」
カッ
N中佐「! ……雷か……調べ物もこの辺にしたほうが良さそうだな」パタン
扉<コンコン
朧「朧です」
N中佐「ん……入れ」
朧「失礼します」チャッ
ゴロゴロゴロ…
720: 2018/02/10(土) 12:08:40.14 ID:49K4gyuAo
N中佐「雷が鳴っているからもう寝ろと言う話か? ちょうど仕事も止めたし、そういう話なら問題はない」
N中佐「しかし思うんだが、避雷に備えて自家発電機の稼働を控えようと言うのは、聊か的外れな対応じゃないか?」
朧「……」
N中佐「疑問を持たないか? それでこの鎮守府はよく攻め込まれないでいられるな、と」
N中佐「たとえ夜間でも警戒を怠るべきではないというのに、ろくに見回りもさせていないとは……」
朧「夜中に明かりをともせば的になるだけだ、というのが提督の見解です」
N中佐「そうは言っても無防備がすぎる」
朧「提督は夜間完全消灯します。島に着任してから3か月間そうやって過ごしてきましたが、実害はありませんでした」
N中佐「そうじゃない! 本営に連絡して、警戒態勢を整えさせるのが先だろう!」
N中佐「島にいられるのが提督准尉だけだとしても、この鎮守府を機能させたいのなら設備を拡充させるべきだ!」
朧「……」
N中佐「発想が無茶苦茶だ。提督准尉のやることなすこと、すべてが破天荒すぎる」
N中佐「そんな提督の下で働いていては、お前たちの命がいくつあっても足りないんじゃないのか?」
朧「……」ジロリ
N中佐「なんだ、その目は」
721: 2018/02/10(土) 12:09:32.55 ID:49K4gyuAo
朧「……N中佐は……」
N中佐「ん?」
朧「どうしてこの島の鎮守府で指揮を執ろうと思ったんですか?」
N中佐「ん……それは……」
朧「……」
N中佐「それは、お前たちの戦い方が未熟だと思ったからだ」
N中佐「この島の事情を知らなかったとはいえ、それを踏まえてもこの鎮守府の戦果はあまりに低すぎる」
N中佐「准尉には追々教育するとして、現場であるお前たちの意識を変えなければならないと思っている」
朧「……」
N中佐「我々は大本営の指示のもと、一致団結して深海棲艦に立ち向かわなければいかん。そのためには……」
朧「演習などによる練度の向上」
N中佐「!」
朧「遠征などによる備蓄の充実、建造や開発による戦力の増強、そして、周辺海域への定期的な出撃による深海勢力の駆逐」
N中佐「!!」
722: 2018/02/10(土) 12:10:40.05 ID:49K4gyuAo
朧「日頃はそれらの任務に従事し、大本営から一定期間ごとに告知される強大な深海勢力への一斉攻撃に備えるべし」
N中佐「……そうだ。その通りだ、素晴らしい!」
N中佐「この鎮守府には変わり者しかいないのかと諦めかけていたが、お前のような艦娘もいたんだな!」
N中佐「お前のような理解者がいるのなら心強い! ……そうか! こんな時間に来たのも、俺にそのことを伝えたかったからか!」
N中佐「そうとわかれば、朧には明日から秘書艦を頼みたい! 俺と一緒にこの腑抜けた鎮守府を立て直そう!」
朧「……」ツイッ スタスタ…
N中佐「お、おい、どこへ行く?」
キャビネット<ギィッ
朧「……」スッ
朧「N中佐。これを、見てください」サッ
N中佐「? 何のバインダーだ? これは」
朧「……」
N中佐「このリストは……」ペラッ
朧「……」
N中佐「これは……本営の管理するすべての鎮守府の轟沈艦の記録か……! この鎮守府がこんな資料を取り扱っているとは」ペラッ
朧「……」
723: 2018/02/10(土) 12:11:28.68 ID:49K4gyuAo
N中佐「朧……この、リストについているバツ印はどういう意味だ」
朧「……」
N中佐「ん……マル印がついているところもあるな。これは……」
朧「バツ印のついている艦娘は、この島に埋葬された艦娘です」
N中佐「……ということは、この島に流れ着いてきた艦娘か」
N中佐「これほど多くの艦娘が……で、マル印はなんだ?」
朧「……」
N中佐「マル印は少ないな……比叡……暁、初春……」ペラッ
N中佐「……」ペラッ
N中佐「……」ペラッ
朧「……」
N中佐「……朧。このマル印は……」
カッ
朧「……」
N中佐「……」
ゴロゴロゴロ…
724: 2018/02/10(土) 12:12:39.74 ID:49K4gyuAo
朧「……わかりませんか」
朧「それとも、わかっていて訊いているんですか」
N中佐「……」ペラ…
朧「……」
N中佐「……」
朧「わからないというのなら、最後のページを見てください」
朧「そのバインダーの、一番古いリストを見てください」
N中佐「……」ペラ…
朧「そこでマル印をつけられた艦娘の名前は、なんて書いてありますか」
N中佐「……」
朧「その艦娘の所属は、なんて書いてありますか」
N中佐「……!」
朧「声に出して、読んでください」
N中佐「……」
朧「……読んでください」
N中佐「……っ!!」ビクッ
725: 2018/02/10(土) 12:14:11.74 ID:49K4gyuAo
朧「……」
N中佐「……お、お前は、気付いていたのか」
朧「……」
N中佐「なぜ、言わなかった」
朧「……」
N中佐「なぜなんだ、おぼ……」
朧「……」ジャキッ
N中佐「ひっ!」ガタッ
朧「……」
扉<チャッ
初春「なんとまあ……滑稽じゃのう」スッ
N中佐「は、初春か! た、助けてく」
初春「その前に、おぬしは朧の問いに答えよ。そのリストでマル印をつけられた艦娘はどうなったのじゃ?」
N中佐「……! ま、まさかお前も……!」
初春「気付いたようじゃな? 申してみよ」
726: 2018/02/10(土) 12:15:01.50 ID:49K4gyuAo
N中佐「この島に漂着した轟沈艦……! その中で准尉の配下になった艦娘……それが、このマル印の艦娘か……!」
初春「うむ、ご名答。して、その中には朧の名前もあったじゃろう? 所属はなんと書いてあった?」
N中佐「……」
初春「答えよ!!」
N中佐「……N提督鎮守府……俺の、鎮守府だ……!」
朧「……」
初春「因果なものよの。江戸の敵を長崎で、とは、よく言ったものじゃ」
N中佐「……俺が、敵だと……敵なものか!」
初春「寝ぼけたことを抜かすでない。主砲を向けた相手が敵でなければなんと心得る」
初春「そもそも、朧がおぬしの鎮守府にいたことを言わなかったのも、おぬしが思い出す猶予を与えていたにすぎぬ」
初春「今し方の問答も、おぬしが朧のことをどう考えていたか、腹を探っておったのじゃ」
初春「戦争に勝つために犠牲になったことを『忘れられた』とあっては、朧も成仏できまいて。のう?」
朧「……」
N中佐「ま、待ってくれ! もう一度、チャンスをくれないか!!」
初春「チャンスとな?」
727: 2018/02/10(土) 12:16:21.76 ID:49K4gyuAo
N中佐「俺にはやらなければいけないことがある! 今こんなところで氏ぬわけにはいかないんだ!」
朧「……」
初春「チャンスなら、すでにくれておったわ」
N中佐「なに?」
初春「入ってくるが良い」
扉<チャッ
初雪「……」スッ
N中佐「……お前は……!」
初春「さて、少しは思い出したか?」
N中佐「……」
初春「おぬしは本来、何のためにこの島に来たのじゃ?」
初春「よもや、ほかの誰かにかまけて忘れてしまったわけではあるまいな?」
N中佐「……」
初雪「……」
朧「……」
731: 2018/02/13(火) 00:17:51.31 ID:JP32ZbyVo
初春「朧は期待しておったのじゃ。おぬしが、いつ初雪のことを聞いて来るかを」
初春「そして初雪に、どのような言葉で詫びを入れるのかを」
初春「しかし、この期に及んでだんまりを決め込むとはのう。期待外れも甚だしい」
N中佐「……そ、それは初春には関係のないことだ! 下がっていろ!」
初春「そうはいかぬ。わらわは結末を見届けたいのじゃ、朧と同じく捨て艦にされた艦娘としてな」
初春「それにな、キスカからの撤退戦で沈んだ駆逐艦朧の最期を看取ったのは、他でもないこの駆逐艦初春じゃ」
初春「その朧が、必氏の覚悟で仇を討つと言うのならば、わらわが朧に加勢せぬ理由はない……!」
N中佐「……く……!」
初雪「!」
N中佐「……くそ……くそお!」
N中佐「なんでだ! 俺は……俺は今まで必氏にやってきたのに! この仕打ちはなんだ!?」
N中佐「俺は! 深海勢力から海を取り戻すために戦ってきた! 戦果を挙げてきた!」
N中佐「お前らも海軍ならその役目を果たすのが本懐だろう!」
初春「そのためになら艦娘も使い捨てにすると?」
N中佐「そうせざるを得ない時もある! 事実、捨て艦戦法で勝利をあげられた戦いもあったんだ!」
初春「この期に及んで開き直るか。なにを都合の良いことを……!」
732: 2018/02/13(火) 00:18:40.00 ID:JP32ZbyVo
初雪「……そうしないと、耐えられないんだと思う」
朧「!」
初雪「N中佐……本当は、わかってる」
初雪「自分のやってることが、間違いだって。認めたくないから、私たちのことはなかったことにしようとしてる」
初春「間違いだらけじゃの……この男は!」
N中佐「なにを……間違いなものか!! 何が間違いなんだ! 俺の行動は、全ては海を守るための、国を守るための行為だ!!」
初春「守るため、じゃと?」
初雪「……」
朧「……」
N中佐「奴らに海を奪われればどうなるか、人間は嫌と言うほど思い知らされたはずだ! 悠長なことをしていられないはずだ!」
N中佐「だというのに、当の海軍は内々で足の引っ張り合い……陸の連中も同じだ! 同じ人間同士で蹴落とし合いも茶飯事だ!」
N中佐「今、俺たちに必要なのは圧倒的な力だ! 抵抗する全てを抑え込み、一丸となって敵を殲滅する力だ!!」
N中佐「そのために、たとえ後ろ指を指されても、今の戦況を切り開く方法を取る! そうしなければ、人間はこの戦争に勝てないんだ!」
N中佐「捨て艦戦法をとったのも、深海棲艦の勢力拡大をどうしても防ぎたかったからだ」
N中佐「今回の艦娘制御ツールを採用したのも、一日も早い深海棲艦の撃滅を進めるため……!」
N中佐「どんな手を使おうと、俺はあいつらを、深海の奴らを! この海から駆逐する! そう、誓ったんだ!」
733: 2018/02/13(火) 00:19:44.63 ID:JP32ZbyVo
初雪「……」
朧「……」
初春「おぬしは……そうまでして深海棲艦を討ちたいのか」
N中佐「俺の故郷は小さな漁村だ。俺の父も漁で生計を立てていた」
N中佐「父の跡を継いで漁師を目指していた俺に、両親は大学を出るよう進言してくれて、今、俺はその海を守る仕事に就くことができた」
N中佐「その漁村の住人は今、深海棲艦の脅威によって疎開を余儀なくされている」
N中佐「このまま深海棲艦を海から掃討することができなければ、父の仕事がなくなってしまう。俺の故郷が消えてしまう……!」
N中佐「そんなことは絶対にさせない!! 俺を育ててくれた両親のためにも……お世話になった故郷の人たちのためにも!」
N中佐「俺たちは海軍だ! 海の平和を取り戻すのが最優先事項だ!」
N中佐「お前たち艦娘も、もともとは軍艦だったんだろう! ならばこの国の、人間のために命をかけることも当たり前だろう!!」
N中佐「そうでないのなら! お前らはいったい何のためにいる!?」
扉<バンッ
全員「「!!」」
提督「ったく、うるせえな……廊下まで響く大声出しやがって、くそが」ビッショリ
朧「て、提督!?」
N中佐「提督だと!?」
734: 2018/02/13(火) 00:20:33.95 ID:JP32ZbyVo
提督「おうよ。雨ん中走ってきたもんで、ご覧の通り濡れ鼠だ」
初春「顔の傷はどうしたんじゃ!?」
提督「治った」
初春朧「「治った!?」」
提督「初雪もいるのか。丁度いい、お前にも話がある」
初雪「……!」
提督「が、先にカタをつけなきゃいけねえのは、N中佐。あんたのほうだ」
N中佐「俺だと!?」
提督「ああ」チラッ
タタタタッ
妙高「准尉!」
鳳翔「准尉、大丈夫ですか……っ!!」
N中佐「妙高……鳳翔……!」
妙高「初雪さん、無事だったんですね……!」
初雪「妙高、さん……!」ダキヨセラレ
妙高「良かった……」ギュッ
735: 2018/02/13(火) 00:21:42.88 ID:JP32ZbyVo
鳳翔「朧さんも、よく無事で……!」
朧「……来ないでください!」ウツムキ
鳳翔「!」
朧「アタシは、沈んだんです。もう、あなたのところへは……弓道場へは、行けないんです」
朧「あいつの、せいで……アタシは!」キッ
N中佐「!」ビクッ
提督「悪いな朧、ちょっとだけこいつを借りる。後で撃たせてやるから待ってろ」
朧「!」
N中佐「准尉!? 貴様、何を……」
トタトタトタッ
吹雪「司令官! 大鳳さん連れてきました!」
大鳳「提督准尉!」
提督「おう、ご苦労さん。悪かったな、急で」
吹雪「もう、びっくりしましたよ!? いきなり『誰かいるか!』って司令官の声が聞こえたんですから!」
電「本当なのです。びしょびしょの司令官さんが、傘と雨具を6人分、埠頭の船へ持って行けって……」
如月「いきなりだったから、私たちもちょっぴり濡れちゃったわ」
736: 2018/02/13(火) 00:22:46.19 ID:JP32ZbyVo
提督「そうか。じゃあシャワー浴びてこい」
由良「提督さんこそシャワーを浴びてきてください! 上着も脱がないと風邪をひきます!」タオルテワタシ
提督「大丈夫だよ。俺は馬鹿だから風邪なんかひかねえよ」タオルウケトリ
初雪「そういう問題じゃないと思う……」タラリ
吹雪「とりあえず、どういうことなのか教えていただきたいんですが……」
提督「朧はN中佐の元部下だ」
全員「!!」
N中佐「……」メソラシ
提督「で、この鳳翔は、着任したばかりの朧が弓道場に来た時に知り合って、それを機に弓を教えようとしてたそうだ」
鳳翔「……かつての駆逐艦の朧さんは、五航戦の護衛任務に着任していました」
鳳翔「私が弓を引く姿を熱心に見ていましたので、彼女たちのことをおぼろげながら思い出していたのではないか、と思ったんです」
提督「朧が捨て艦にされて轟沈したのは、それから間もなくだった」
朧「……」ウツムキ
提督「だから朧は、砂浜で倒れていたときに『まだ』って言っていたわけだ」
提督「まだ、弓を習い終えていない。鳳翔からの手ほどきを終えていない、と」
提督「そんな朧を犠牲にして勝利を得たN中佐が、今度は初雪を見捨てた。うちの大和に懸想して、な」
737: 2018/02/13(火) 00:24:06.23 ID:JP32ZbyVo
初雪「……」
提督「こんなイヤホンまで用意して……とんだくそ野郎だ」
N中佐「……っ!」
提督「でだ。あっちの鎮守府であんたの昔話を聞かせてもらった。どうしてこのツールを使うに至ったかの話もな」
提督「あとはあんたの口から直接訊くだけだ。本営で、この大鳳へ詳しく話をしてくれよ」
N中佐「本営で、だと? どういうことだ……!」
大鳳「本営は、このツールが危険であるという認識に達しました。運用は許可できません」
大鳳「このツールの仕組みについて、あなたがどのくらい把握しているか、お話を伺いたく……」
大鳳「本営まで出頭命令が出ております。N中佐、私とご同行願います」
N中佐「待て、その間の俺の鎮守府はどうなるんだ……」
大鳳「あなたの代わりの指揮官が配属されます。同時に、あなたからは鎮守府の指揮権が剥奪されます」
N中佐「……何かの間違いだろう!? 俺は、海の平和のために……国民のために必氏にやってきたんだぞ!?」
N中佐「提督准尉もわかるだろう! 大事な人を守りたいという気持ちが!」
提督「ふん、お前の大事な人なんか知ったことかよ」
N中佐「な!?」
738: 2018/02/13(火) 00:25:50.62 ID:JP32ZbyVo
提督「大事な人たちを守りたい? それを言うなら、俺にとって大事なのは、この鎮守府に流れ着いたこいつらだ。この鎮守府にいる艦娘たちだ!」
朧「……てい、とく……」
如月「司令官……!」
吹雪「司令官!!」
提督「大和だってなあ、この鎮守府で暮らしてる妖精たちが、この鎮守府のために建造した唯一の艦娘だ」
提督「大和が妖精たちのために戦う義理はあっても、あんたのために大和を送り出すなんて考えはどこから出てくるんだ!?」
提督「そんなに連れて行きたいんなら、俺を頃して連れて行けよ。捨て艦だってやったんだ、簡単だろ?」
ゾワッ
N中佐「!?」
鳳翔(足が、すくんで……!)
妙高(な、なんですか、この怖気は……!)
大鳳(なんて重苦しい……!)
朧「……提督」
提督「ん?」
朧「朧、提督のそういう冗談を言うところ、キライです」ジロリ
提督「……」
739: 2018/02/13(火) 00:26:27.04 ID:JP32ZbyVo
如月「そうね~。司令官のそういうところ、感心できないわぁ」ジロリ
吹雪「本当にそういうことになったら、どうするつもりなんですか」ジロリ
提督「……わかったわかった、お前ら本当に冗談が通じねえな」ハァ
フッ
妙高(重圧が解けた……!)フラッ
提督「ったくよお、ただの煽り文句をマジにとるなよ……面倒くせえ」アタマガリガリ
電「今の発言、神通さんが聞いたら絶対激怒したと思うのです」ボソ
神通「ええ。ですから今後は控えてくださいね」ニッコリ
電「!?」ギョッ
提督「……お前も来たのかよ」アタマカカエ
神通「はい、ただならぬ気配を感じたものですから。それで……」
提督「今回は神通の手を借りなくても平気だ。それに話もまだ終わってねえ」
神通「と、仰いますと」
提督「本営に大急ぎで確認したぜ。N中佐、あんた、初雪を轟沈扱いにしたんだってな?」
初雪「!!」
N中佐「……」
740: 2018/02/13(火) 00:27:38.71 ID:JP32ZbyVo
提督「随分と捜索の打ち切り判断が早くねえか? 多分、大和の入手に注力したかったんだろ?」
初春「ということは、初雪は……」
提督「初雪に話したかったのはこのことさ。書類の上であろうと轟沈扱いにされちまったら、うちで引き取るか解体かって話になる」
初雪「……そう……」ハァ
神通「敷波さんと同じケースですね」チラッ
N中佐「!」メソラシ
提督「でだ、初雪。お前、これからどうする?」
初雪「……准尉」クルリ
提督「ん?」
初雪「その……これから、よろしく、お願いします」ペコリ
提督「おう。明日の朝一で手続きしとく」
N中佐「……!」
提督「ふん、初雪にふられて一丁前にショック受けてやがる。コミュニケーションを全部イヤホンから済ませてたくせに」
N中佐「」グサッ
741: 2018/02/13(火) 00:29:16.16 ID:JP32ZbyVo
初春「顔を見合わせたのも片手で足りる程度と聞いておる。顔を見に来ない相手に気を使う必要などあるまいにのう?」
如月「待って、初雪ちゃんが司令官になびいたことがショックなの? もしかして、あれで可愛がってたつもりでいたのかしら」
由良「っていうか、そもそも初雪ちゃんはN中佐が自分から手放したわけでしょ? ショック受けること自体おかしくない?」
電「N中佐さんは司令官さんから大和さんを奪おうとしていたのです。因果応報なのですから、同情の余地はないのです」
N中佐「」グサグサグサグサッ
鳳翔(N中佐、滅多打ちにされてますね……)
妙高(身から出た錆とはいえ、ご愁傷様です)
吹雪「あ、あの、みなさんそのくらいにしておきませんか」
鳳翔(ああ、さすが吹雪さん、この場を丸く収めようと……)ホッ
吹雪「あの人を泣かすのは朧ちゃんの役目ですから、寸止めでお願いします」
妙高(ただの氏刑宣告だった!?)ガビーン
提督「ん、それもそうだな……朧。こいつを使え」ポイッ
朧「……これは」キャッチ
吹雪「輪ゴム、ですか?」
742: 2018/02/13(火) 00:29:58.82 ID:JP32ZbyVo
提督「ああ、ちょっと大きめのな。使い方は鳳翔に教えてもらったろ? そいつで撃て」ニヤリ
朧「……!」
如月「撃て、って……?」
朧「……」スッ
鳳翔「……!」
朧「……」グイッ ギリギリギリッ
電「輪ゴムでN中佐さんを狙ってるのです……」
由良「まるで弓をひくみたいに……!」
朧「……っ!」シュパッ
輪ゴム<ピュンッ
N中佐「いてっ!」ベチッ
朧「……」
鳳翔「……朧さん。覚えて、いたんですね」
朧「……」ポロポロ
鳳翔「私が教えた、弓の動作を……射法八節を、ちゃんと覚えていてくれたんですね」ダキヨセ
朧「う、うう……!」ポロポロポロ
鳳翔「……」ギュウ ナデナデ
743: 2018/02/13(火) 00:31:35.46 ID:JP32ZbyVo
提督「さてと、あとはN中佐を本営へ連れてっておしまいだな。うちの艦隊の指揮権、返してもらうぜ」
N中佐「……提督准尉」
提督「ん?」
N中佐「俺は……間違っていたのか?」
N中佐「強い艦隊を作って戦果を挙げれば、俺たちの正義が証明されると思っていたのに……」
提督「知るか。俺は、あんたが俺の部下に手を出そうとしたことにムカついてんだ」
提督「自分が間違ってねえ自信があるなら、本営の連中に訴えろよ。あんたの境遇や思想に共感した奴がいたら、協力してくれるかもな」
初春「それはどうかのう? ツールを使って艦娘の情を無視した輩が、大事なものを守りたいから手を貸せと情に訴えてきたのじゃぞ?」
初春「わらわはまったくもって気に入らぬ。斯様な御都合主義者の二枚舌に耳を貸したいとは思わんな」ジロリ
提督「俺だって気に入らねえよ。結局は俺と同じで自分の身内が一番大事だって考えてるくせに……」
提督「わざわざ『国民のため』なんて枕詞添えて、さも大層なことやってる風な偉ぶった言い方しやがって。むかつくぜ」
提督「そもそも手段を選ばない道を選んだ時点で、人から恨まれる覚悟をしてねえのがおかしいんだ」
提督「それで誰かに好かれると思ったか? 何考えてんのかわかんねえよ、くそが」
N中佐「……っ」
744: 2018/02/13(火) 00:32:38.56 ID:JP32ZbyVo
提督「でだ、妙高、大鳳、ちょっと聞け」
妙高「は、はい? なんでしょう」
提督「本営がツールの運用を禁止した理由は、少佐の言うように艦娘を使ってのクーデターを危惧してのことだと思う。だとすれば……」
提督「N中佐がこのツールを、深海棲艦の撃滅のための手段にしか使う意図がなかったことを訴えれば、多少は大目に見てもらえるはずだ」
妙高「え!?」
N中佐「!?」
大鳳「た、確かにそうかもしれませんが……」
提督「というか、そこに付け込むしかねえな。N中佐が海軍には絶対刃向わないことをアピールするくらいしか、罰を軽くする方法が思いつかねえ」
妙高「罪を軽く……しようというのですか!?」
提督「おうよ。とりあえずだ、このツールを使うにあたってどんな人間に関わったかを、N中佐には全部正直に喋らせろ」
提督「わからないならわからないと言えばいい。言いよどんだり押し黙ったりするほうが、よっぽど心証が悪くなる」
提督「どうせ本営もいろいろ調べてるはずだ、N中佐の言うことに齟齬がなけりゃそれでいい」
提督「N中佐がこの仕事を続けたいっつうんなら、本営に使いたい、価値があると思わせなきゃならねえ」
N中佐「……」
妙高「……価値、ですか」
提督「そうだ、価値だ。使えねえ奴が馘になるのはどこも同じだろ?」
745: 2018/02/13(火) 00:33:39.23 ID:JP32ZbyVo
初春「のう提督よ、おぬし先程から何を言っておる?」
初春「N中佐にはわらわたちも随分引っ掻き回された……その返しにしては、手ぬるいどころか塩を送っているようにしか見えんぞ?」
妙高「ええ……私もそう思います。提督准尉の先程の言動からは真逆のお話です、どうしてそのようなことを?」
提督「あ? 向こうの鎮守府にいた卯月に『鎮守府のみんなとN中佐を助けたい』って言われたんだ、だったら助言するしかねえだろ」
N中佐「……!」
提督「じゃなきゃ俺だって朧に撃てって言ってたぜ。まあ、後々面倒だからこっちのが良かったけどよ」
鳳翔「……面倒、ですか」タラリ
提督「だいたいなあ、ハナっから手前が何をしたいか、艦娘に腹ん中を正直にぶちまけてりゃ良かったんだよ」
提督「やる気ある奴はついて行こうと思うし、間違ってることをしようものなら止めてくれる奴だって現れるだろ」
N中佐「……」ウツムキ
提督「ま、世の中にゃ『罪を憎んで人を憎まず』なーんて都合の良い言葉もある」
提督「本営で説明するときに、大鳳あたりが横からそう言えば、ちったあ効果あるかもな?」
提督「あとは、このツールを開発した連中が、N中佐の境遇を知ってて利用しようとした、とか言う話があるなら擁護も楽なんだが……期待はできねえか」
大鳳「……何と言いますか……」
妙高「……よくそこまで思いつきますね……」
746: 2018/02/13(火) 00:35:09.48 ID:JP32ZbyVo
初春「提督がN中佐に指揮を任せようとしたのは何故じゃ?」
提督「ええっとなあ……残念ながら断る理由が思いつかなかった、ってのがひとつめ」
初春「ふむ……」
提督「N中佐の鎮守府に行って、いくつか弱みを掴んで強請ってやろうと思ったのがふたつめ」
妙高鳳翔「「はい!?」」シロメ
提督「N中佐が最初からツール頼みの無能なら、妖精に頼んでイヤホン壊してしまえば勝手に自滅すると思ったのがみっつめ」
N中佐「!?」シロメ
提督「自分のやり方が正しいと思い込んでるワンマン指揮官だ、せいぜい苦労しやがれって思ってたぜ。くっくっく」
全員「「……」」
吹雪「あの、司令官……もう少しオブラートに包んだ言い方をしたほうがいいと思います」
電「司令官さんは悪い意味で正直すぎるのです」ハァ
提督「まああとは、この島に流れ着いてくる艦娘たちがいる現実を見せつけたかった、ってところだな」
提督「馬鹿の一つ覚えみたいに戦果戦果うるさくてしょうがねえ。世の中には価値観が違う人間もいることを理解してもらわねーとな」
神通「海軍の中では、提督の思想こそ異端だと思いますけど……」
747: 2018/02/13(火) 00:36:17.60 ID:JP32ZbyVo
提督「ま、いいや。これ以上の問答は本営に任せるか。いい加減面倒くさくなったし」
初春「……そういうことにしておこうかの」
妙高「……何につけても『面倒くさい』がついて回るんですね」ハァ
吹雪「口癖みたいになっちゃってますから」タハハー
タタタタッ
大和「提督、すみません遅くなりました!」ビッショリ
不知火「……もうお話は終わったのでしょうか」ビッショリ
提督「なんだお前ら、合羽はどうした?」
士官O「着ていたんですが、ご覧の有様でして」ビッショリ
如月「! あなたは……!」
士官O「お久しぶりです。お元気そうでなにより」ニコ
提督「そんなに船の接岸に手間取ったのか?」
士官O「ええ、大雨のせいで視界が悪くて。誘導してもらったんですが、距離感をつかむのに苦労しました」
提督「なるほど、大和と不知火はそれを手伝っててずぶ濡れになったってわけか」
不知火「はい。今頃になって雨が収まりかけているのが癪ですが、仕方ありません」
748: 2018/02/13(火) 00:37:43.73 ID:JP32ZbyVo
提督「とりあえずお前らは風呂に行って体を温めてこい。如月、こっちの士官には俺の部屋のシャワーを使わせてやってくれ」
士官O「提督准尉のほうが先では?」
提督「こういうのは客が先だ。如月、頼むぜ」
如月「はい、了解しました。こちらへどうぞ」ニコッ
士官O「すみません、失礼します」
不知火「大和さん、私たちも行きましょう」
提督「あ……ちょっと待て。鳳翔、妙高、ついでに朧も、一緒に行ってさっぱりしてこい」
妙高「よ、よろしいんですか?」
提督「おう。大鳳はどうする」
大鳳「私は、N中佐を見張る必要がありますので、どうぞお構いなく」
提督「そうか。じゃあ後でな」
鳳翔「では提督准尉、お言葉に甘えます。妙高さん、朧さん、行きましょう」
妙高「はい」
朧「……」コク
749: 2018/02/13(火) 00:38:40.16 ID:JP32ZbyVo
提督「それじゃ、吹雪と神通は鳳翔たちが泊まる部屋の準備を頼む。由良と初春は士官たちに夜食の準備を」
提督「電はそれまでに大鳳に茶を出してやってくれ。俺は外に行って雨具を片付け……」
ガシッ
提督「ん?」
神通「外は危ないですから、外出しようとしないでください。私がやります」
由良「それと風邪をひく前に、早く上着を脱いでください。洗濯しますから」
提督「……お、おう……」
電「見張り番なら、交代でやったほうがいいのです」
初春「ふむ、まずは起きている手すきの者を呼び出そう。明日に差支えぬよう役割分担せねばな」
吹雪「ベッドメークは古鷹さんにも協力してもらいます! まだ起きてたはずですから!」
由良「提督さんは酒保へ行って、明石ちゃんから士官さんの替えの下着とタオルを貰ってきてください」
神通「如月さんに全部押し付けてはいけませんよ?」
提督「……」
鳳翔「頼もしい子たちですね」ニコ
提督「……まあ、な」
754: 2018/03/03(土) 17:58:01.54 ID:nFHaTbZTo
* その晩 0250 *
* 提督の寝室 *
提督「」スヤスヤ
――……と……
提督「」スヤスヤ
――て……と……
提督「……んん……?」
――てい……とく……!
提督「なん、だ……?」ムクッ
提督「……」キョロキョロ
提督「誰もいねえ……なんだったんだ?」
ユラッ
提督「!」
ぼんやりした人影『……てい……とく……!』
提督「な……!?」
ぼんやりした人影『……いそ……いで……!』
スゥッ…
提督「消えた……!?」
提督「……急げっつったって、どこへ急げばいいんだよ……」
755: 2018/03/03(土) 17:59:52.10 ID:nFHaTbZTo
* 同時刻、客室 *
(別々のベッドで眠っている鳳翔と妙高)
鳳翔「……」
妙高「……」
鳳翔「……妙高さん? まだ起きてらっしゃいますか?」
妙高「……はい」
鳳翔「今回の件……やはり私がN中佐を止めていれば良かったんでしょうか」
妙高「いえ、それを仰るなら私も同じです。あの時は誰もN中佐を説得できなかった……みんな、それを悔やんでいるはずです」
妙高「鳳翔さんがひとり責任を感じることはありません」
鳳翔「……それでもやはり、責任を感じてしまいますね……」
妙高「鳳翔さん……」
鳳翔「……」
妙高「……」
鳳翔「……? 何か聞こえませんか?」
妙高「え……いえ、何も」
756: 2018/03/03(土) 18:00:39.59 ID:nFHaTbZTo
……♪ ……♪
妙高「!」ガバッ
鳳翔「聞こえますよね?」ムクッ
妙高「はい、なにか……歌のような……」
鳳翔「……!」ビクッ
火の玉?<ユラッ
鳳翔「み、妙高さん、あ、あれを」
火の玉?<フッ
妙高「え?」
鳳翔「……」
妙高「? なにかあったんですか?」
鳳翔「……」ガタガタガタ
妙高「……鳳翔さん?」
757: 2018/03/03(土) 18:01:05.95 ID:nFHaTbZTo
……♪ ……♪
妙高「!」ガバッ
鳳翔「聞こえますよね?」ムクッ
妙高「はい、なにか……歌のような……」
鳳翔「……!」ビクッ
火の玉?<ユラッ
鳳翔「み、妙高さん、あ、あれを」
火の玉?<フッ
妙高「え?」
鳳翔「……」
妙高「? なにかあったんですか?」
鳳翔「……」ガタガタガタ
妙高「……鳳翔さん?」
758: 2018/03/03(土) 18:01:59.95 ID:nFHaTbZTo
鳳翔「い、いま、窓の外に、ひ、人魂のようなものが」
妙高「人魂ですか……?」
鳳翔「……」フトンクルマリ ビクビク
妙高「ほ、鳳翔さん……?」
鳳翔「ご、ごめんなさい……わ、私、おばけとか、苦手なんです」ナミダメ
妙高「そうだったんですか……」
鳳翔「は、はい、ですから、その……」モジ…
妙高「?」
鳳翔「す、すみません! 一緒のお布団に入れてください!」ダッ
妙高「は、はい!? 鳳翔さん!?」ズボッ
鳳翔「だ……駄目でしょうか」プルプルガタガタ
妙高「いえ、私は構いませんが……というか、もう返事をする前に入ってきてますよね?」
鳳翔「す、すみません……」シュン…
妙高「ええと、先程も申し上げましたが、私は構いませんから。大丈夫です」
鳳翔「あ、ありがとうございます……!」パァァ
759: 2018/03/03(土) 18:03:21.59 ID:nFHaTbZTo
鳳翔「こ、こうやって誰かにくっついていれば、いくらか怖さが紛れますので……!」ギュウ
妙高「そ、そうですか……私で良ければ、いくらでもご一緒しますよ」
鳳翔「ありがとうございます……ああ、妙高型の一番のお姉さんだけあって、安心できます」スリスリ
妙高(可愛い……)
……♪ ……♪
妙高「!!」
鳳翔「ひ……!」ビクッ
妙高「この歌は、いったいどこから……」キョロ
人影?<ユラッ
妙高「え!?」ビクッ
鳳翔「ひぃい!?」ビックゥ
人影?<スゥゥ…
鳳翔「す、す、透け、透けて……」ガタガタガタ
妙高「ほ、鳳翔さん落ち着いてください!」プルプル
760: 2018/03/03(土) 18:05:13.40 ID:nFHaTbZTo
* 廊下 *
コツコツ
提督「ったく、意味深なこと言うだけ言って消えるなよな……面倒くせえ」
タタタタッ
提督「ん?」
潮「は、はひ……ひいいっ!?」ビクッ
提督「なんだ!? 潮……なにやってんだ、こんな時間に」
潮「て、て、提督ですか!? た、大変なんです! 朧ちゃんが!」ヒシッ
* 廊下 客室前 *
提督「朧が眠ったままこっちに歩いてきたって?」
潮「は、はい。いくら呼びかけても反応しなくて……!」
提督「こういうのなんて言うんだっけか。夢遊病ってやつか……ん?」
(客室のそばの廊下で倒れている朧)
提督「朧!」タッ
潮「朧ちゃん!」タッ
761: 2018/03/03(土) 18:06:35.96 ID:nFHaTbZTo
朧「……」
提督「……氏んではいねえな。眠ってるだけか」
潮「朧ちゃん……いったいなにが……」ウルッ
提督「さっき潮が走ってたのは、朧を助けて欲しかったからか?」
潮「い、いえ、実は……その……わ、笑わないでくださいね?」
提督「? ああ」
潮「実は……ゆ、幽霊を見たんです……!」
提督「なんだ、そんなことか」
潮「そんなこと、って……!」
提督「だって俺も見たからなあ。笑ったりしねえよ」
潮「見た……ん、ですか!?」アオザメ
提督「お前も幽霊を見て、様子のおかしい朧が倒れてたとなりゃあ、怪しいのはまさにこの辺り……ん?」
潮「ど、どうしたんですか!?」ヒシッ
762: 2018/03/03(土) 18:08:31.98 ID:nFHaTbZTo
提督「ちょっと静かにしろ……なんか聞こえねえか?」
潮「なにか……っ!?」ビクッ
提督「……これ、歌か?」
潮「た、たぶん……!」ゾワワッ
提督「あの部屋から聞こえるな。N中佐と大鳳がいる部屋か」
提督「潮、ちょっとここで待ってろ。様子を見てくる」
潮「い、行くんですか!?」ガタガタガタ
提督「ああ。悪いが、手を放してくれるか」
潮「ひ、一人にしないでください!」ヒシッ
提督「……わかったよ。後ろに隠れてろ」
提督「さてと……」
< ♪ ~♪ ~♪
提督(確かに、妙に寒気っつうか悪寒がするな……)ゾク
763: 2018/03/03(土) 18:09:59.16 ID:nFHaTbZTo
提督「仕方ねえ……突入するか」
扉<チャッ
提督「!! なんだこりゃ……」
潮「……ど、どうしたんですか……ひっ!?」ビクーッ
(部屋の中にぼんやりと浮かび上がる、無数の幽霊と人魂)
提督「異常な寒気の正体はこれかよ……!」
潮「ーーーーーーっ!?」ヘタッ
提督「なんでこの部屋がこんなことになってやがるんだ……!?」
♪ねえ~んね~ん、ころ~り~よ~……♪ ォォォ
提督「あれは……!」
大鳳「♪おこぉろ~り~よ~……♪」ォォォ
幽霊たち『』ウットリ
764: 2018/03/03(土) 18:11:06.72 ID:nFHaTbZTo
提督「……なんだこりゃ」
潮「……」
N中佐「」ガクガク
提督「……おい、大鳳」
大鳳「♪ぼ~うや……? は、はい、どうかなさいましたか」
提督「お前、何してた?」
大鳳「え? 何と申しましても……子守唄を歌っていたんですが」
提督「歌ってただけか?」
大鳳「はい。お聞かせしましょうか?」
提督「……お前、もしかして、歌うの好きか」
大鳳「はい!」ニコー
N中佐「」ピクピク
提督「……」
765: 2018/03/03(土) 18:13:31.48 ID:nFHaTbZTo
大鳳「あの、提督准尉?」
提督「あー、ちょっと歌うのやめてくれ。N中佐は寝てるみたいだし……」
幽霊たち『』ジーッ
提督「……どうせ歌うんなら、外で歌ったほうがいい。うん、そうしてくれ」
大鳳「あの、N中佐は寝てらっしゃるんですか? どこからかアンコールって声が聞こえるんですが……」
提督「……」チラッ
幽霊たち『』コクコク
提督「……」
大鳳「あの……」
提督「いいから外に行ったほうがいい。そこの通用口から南に少し歩くと、海が見える場所に出る」
提督「雨も上がったし月も出てる。寝てる相手より、月を相手に歌うほうがムードもあるだろ」
大鳳「……そう、ですか」
提督「ここは俺が見てるよ。よかったら外で気分転換してきな」
大鳳「……はい! お言葉に甘えさせていただきます!」パァッ
提督「おう……」
766: 2018/03/03(土) 18:14:38.29 ID:nFHaTbZTo
大鳳「失礼します! ~♪」スキップスキップ
ヒュオオォォォォ…
提督「……」
潮「……」プルプル
提督「今の冷気、幽霊たちも移動したってことだよな」
潮「……た、たぶん」コクコク
提督「あいつらも娯楽に飢えてるってことなのかねえ……潮、大丈夫か?」
潮「……」クビヲプルプル
提督「……だよなあ、俺ですら鳥肌立ったし」ナデ
潮「!」ギュウウウ
提督「あの様子だと、大鳳には幽霊が見えてねえ、ってことなのか? 見える基準がわかんねえや……」
提督「あ、そうだ。おい、N中佐。生きてるか?」
N中佐「……か……」プルプル
提督「か?」
767: 2018/03/03(土) 18:16:08.15 ID:nFHaTbZTo
N中佐「金縛り、に……遭った……!」ゼェゼェ
提督「……」
N中佐「上に……何人も、乗っかられてた、気がする……息が、できなかった……!」
N中佐「提督が、来てくれて……助かっ、た……よ……」ガクッ
潮「ひっ!?」
提督「おい!? ……眠っただけか。びっくりさせやがる」フー…
提督「外で倒れてる朧は……多分、誘われたんだろうな。あいつらに」
潮「誘われ……!」ガタガタ
提督「俺の部屋にも幽霊が出たんだが、多分そいつは、そういう仲間の暴走を止めたくて出てきたんじゃねえかな?」
提督「あいつらが朧を誘いたい気持ちもわかるが、あんまりそっちに近づきすぎるのも考え物だ」
提督「目立ちすぎると手を打たざるを得なくなる。はしゃぐのは、できれば今夜限りにして欲しいもんだ」
潮「……」
提督「と、まあ、氏んだ連中にこんな都合のいいこと言って、どのくらい譲歩してもらえるかわかんねえけどな」
768: 2018/03/03(土) 18:18:51.24 ID:nFHaTbZTo
提督「ただ、まあ……こんな形であいつらと意思疎通できるなんて、思いもしなかったぜ」
潮「……みんな、さみしかったんでしょうか……」
提督「……さみしい、か。そう言われればそうかもな」
提督「俺も日に一回見回りする程度だしなぁ……なんかあいつらの気晴らしになるようなもの、考えなきゃな」
提督「さぁて。潮、部屋まで送るぞ。朧も布団で寝かせてやらねえとな」オボロセオイ
潮「は、はい……!」
< ♪トーォリャンセ トーリャンセ…♪
提督「……」
潮「……」
提督「しかし……あいつの歌声、行ったら戻ってこられなくなりそうな歌声だな……」
潮「……はい……」ゾワゾワッ
* 一方その頃、隣の客室 *
鳳翔「」チーン
妙高「鳳翔さん……真っ先に気絶して回避するなんてずるいです……!」プルプル
773: 2018/03/10(土) 13:41:25.65 ID:hT4xhMr/o
* 翌朝 執務室 *
提督「ふあ……」
由良「提督さん、寝不足ですか?」
提督「だな。結局大鳳も歌い疲れて4時前に寝たし。その時間にはN中佐も寝てたから、見張りも必要なかったかもな」
提督「それと、朝餉が済んだら、ちょっと日曜大工してくる」
由良「何か作るんですか?」
提督「墓が並んでる丘の上に、祠でも立ててやろうかと思ってな」
提督「そもそも、お供え物が野晒しってのもアレだ。眠ってる奴らが退屈しないようなものを入れてやりたい」
由良「ふぅん……いいんじゃない?」ニコ
扉<コンコン
士官O「おはようございます」
由良「あ、士官さんですね。どうぞ」
士官O「失礼いたします」チャッ
提督「あんたも礼儀正しいよなあ……昨夜はまともに眠れたか?」
士官O「ええ。このごろは船の中で寝ておりますので、久々に揺れない寝床を堪能しました」
774: 2018/03/10(土) 13:44:06.36 ID:hT4xhMr/o
提督「そうか、ならいいんだ。大鳳やN中佐のところでちょっとした騒ぎがあったもんでな」
提督「二人の体調を考慮して、こちらの出発は遅れると本営に伝えた。1100をめどに準備してほしい」
提督「それまで食堂でしばらく暇をつぶしててくれ。そろそろ朝餉の準備もできてるはずだ」
士官O「了解いたしました」
提督「そういや、鳳翔が手伝いに行ってるんだっけか?」
由良「はい、比叡さんがどんな風に料理しているか、見に行きたいと言っていました。きょう一日、厨房でお勉強だそうです」
提督(……鳳翔は、幽霊は平気なのか?)
由良「ただ、妙高さんの顔色が悪くて……あまり眠れなかったって言ってましたよ」
提督「そうか……あとで声をかけとくか。朧の様子はわかるか?」
由良「うーん、変な夢を見た、って言ってたかな……顔色は悪くなかったと思います」
提督「夢、ね……わかった。よし、俺たちも食堂に行くか」
鳳翔「昨晩ですか? 普通に眠ってましたよ?」ハイライトオフ
提督「……」
鳳翔「眠ッテマシタヨ……?」ガクガク
提督(これ以上訊くのはやめたほうが良さそうだ)タラリ
775: 2018/03/10(土) 13:44:52.80 ID:hT4xhMr/o
* 1100 墓場島鎮守府 埠頭 *
士官O「ではN中佐。参りましょう」
N中佐「ああ。提督准尉、すまなかった。鳳翔、妙高、ここでお別れだ」
提督「……」
妙高「N中佐……」
N中佐「私の鎮守府のみんなに伝えてくれ。今までありがとう、利用するようなことをしてすまなかった、と」
鳳翔「N中佐……どうか、お体にお気をつけて……!」グス
N中佐「……ありがとう」
大鳳「では、行きましょうか。提督准尉、お世話になりました。ご武運を!」
提督「おう」
由良「お気をつけて」
ザァァァァ…
由良「行っちゃいましたね……」
提督「そういや不知火、お前たちは行かなくて良かったのか?」
不知火「はい。今回の一連の報告は大鳳さんが行うことになっておりました」
776: 2018/03/10(土) 13:45:58.92 ID:hT4xhMr/o
不知火「不知火が不用意にでしゃばって少佐の機嫌を損ねるのも得策ではないと思います」
提督「そういやそうだった、大鳳もあれの部下だったんだっけ。赤城みたいな毒気がねえから、すっかり忘れてた」
不知火「あとは、大和さんがこれ以上司令と離れていると何をするかわかりませんので……」トオイメ
提督「……なにがあったんだよ」ハァ
妙高「ところで、私たちはどうなるんでしょう?」
提督「それなら向こうの大淀から連絡があってな。N中佐の鎮守府から迎えが来るそうだ」
提督「ついでにちょっとしたお土産も持ってくるらしい」ノビーッ
不知火「……だいぶお疲れのようですが」
提督「昨夜まともに寝てねえからな……祠の図面も描けてねえし」
不知火「図面? ……もしや、今朝描いていたロケットの落書きがそうなんですか?」
由良「……ぷーっ!」クチオサエ
提督「……くっそ! どうせ俺に絵心なんてもんはねえよ!」ナミダメ
不知火「それを絵心と言うのは違うと思います……」
島妖精「そういうことこそ私たちに任せればいいのに」
島妖精「ねー」
777: 2018/03/10(土) 13:47:05.20 ID:hT4xhMr/o
* 執務室へ戻って *
提督「ル級が来てる?」
由良「ええ。せっかくだし、お昼を一緒にと思ってるんですけど」
明石「提督ー! お弁当、作ってもらいました!」
提督「弁当? ……って、お前も行くのか?」
明石「はい! ちょっと案内したいところがありまして!」
提督「?」
* 島の北部 岩礁地帯 *
提督「この辺、岩だらけなんだよな。歩きづらいったらねえ……つうか、なんでこんなとこ通るんだ?」
伊8「提督。こっち」
提督「おう……なんだこりゃ? 良く見つけたな、こんな洞穴」
明石「そりゃそうですよ、この壁の穴、最初は開いてませんでしたから」
提督「は?」
明石「私が撃って開けたんです」
提督「……崩れてきたりしねえだろうな?」
明石「大丈夫ですよ、岩盤が薄いのここだけですし」
778: 2018/03/10(土) 13:48:04.41 ID:hT4xhMr/o
由良「意外と中は広いのね……」
明石「向こうへ行くと、海に出られますよ」
提督「外から見るとただのでかい岩場だったんだが、こうやって潜んでいられるとなると、何かに使えそうだな」
明石「ここ全部、伊8さんが見つけたんですよ!」
提督「なるほど。こんな場所まで調べてくれて、ありがとな」
伊8「……」コク
由良「使う、ってどうする気なの?」
提督「まあ、緊急の避難場所ってとこか? 隠れるにはもってこいの場所だしな」
提督「あとはここにル級が潜んでいることもできるだろうし」
明石「そう思いますよね!!」
提督「……お、おう」
明石「そう思って呼んできてるんです! ル級さーん!」
ル級「……」スッ
提督「よう、久しぶりだな」
ル級「……」
由良「な、なんだか雰囲気が重たくない?」
779: 2018/03/10(土) 13:48:55.72 ID:hT4xhMr/o
明石「……あの、なにかありました?」
伊8「?」クビカシゲ
提督「なにかあったのか?」
ル級「……提督」
ル級「……悪イケド、私ハコノ鎮守府ニ居続ケル気ニハ、ナレナイワ」
明石「え!?」
ル級「シバラク、アナタタチヲ見テキタケレド、他ノ人間ガ多ク出入リシテイル」
ル級「私ガ居座ッテハ、アナタタチニモ、ワタシニモ、火ノ粉ガ降リカカルノハ目ニ見エテイル」
由良「そんな!」
ル級「ダカラ、オ別レダ」
提督「ん、そうか」
明石由良「「ちょっ!?」」
提督「な、なんだ? なんで驚いてんだ?」
明石「そりゃ驚きますよ! そんなにあっさり、そうか、なんて言われたら!」
由良「そうです! 引き留めるとかしないんですか!?」
780: 2018/03/10(土) 13:50:07.20 ID:hT4xhMr/o
提督「いや、いたくなきゃいなくていいだろ!? それこそ気が向いた時に来ればいいだけだろが!」
明石「!」
由良「!」
ル級「……!」
提督「なんだ? 俺、なんか変なこと言ってるか?」
提督「俺はル級に遊びに来いとは言ったが、ここで暮らせなんて一言も言ってねえぞ」
提督「そもそもル級と俺たちじゃ価値観も生活観も違うだろうし、一緒に暮らして海軍に目をつけられたら庇いきれるかわかんねえぞ」
提督「んな面倒事押し付けたくもねえし、俺としちゃあ、来るときに連絡をもらえればそれでいい、って考えてたんだが……」
明石「……」
由良「……」
伊8「……」
提督「お前らそこでどうして揃いも揃って変な顔してんだよ……」
明石「提督のせいでしょー!?」グワッ
由良「最初から誤解を生まないように言ってください!」グワッ
提督「ああ!? 勘違いしたのはお前らじゃねーのかよ!?」
伊8「……」ポカーン
781: 2018/03/10(土) 13:51:17.46 ID:hT4xhMr/o
ル級「……フフ、フフフ。アハハハハ!」
全員「「!」」
ル級「提督ノ言ウ通リダ。別ニ、今生ノ別レニシナクテモ良カッタ」
提督「そういうこった。楽に構えてくれよ、俺も気を張ってるの好きじゃねえし」
ル級「ヤレヤレ、変ナ人間ダ」クスクス
明石「全面的に同意します」ハァ
提督「とりあえずだ、どうしても気に入らないことがあるなら言ってくれ、できる範囲で対応しとく」
提督「ただ、今言ったみたいに、他の海軍の連中を押さえつけられるようなことはできねえから、島に近づくときも警戒はしておいてくれ」
提督「俺の権限もそこまで強くない。無理なことも多いから、そこは目を瞑って欲しい」
由良「そうね。今回みたいなことは二度と起こって欲しくありませんけど」
提督「それなら大丈夫だろ。幽霊騒ぎもあったし、それを上に報告すりゃあ、まともな奴はますます島に近寄ってこないはずだ」
由良「……本当、どうしてこんなことが次々起こるのかしら……」アタマカカエ
ル級「本当ニ退屈シナイワネ、コノ島ハ」クスクス
提督「ところで、ル級はこれからどうするんだ?」
ル級「ココカラ北ヘ進ムト海底火山ガアッテ、ソバニ小サナ無人島ガアル。私ハ、ソノ周辺ニ落チ着コウト思ウ」
ル級「私ニ用ガアルナラ、ソノ無人島ヲ訪ネテ欲シイ」
提督「わかった。なにかあったら連絡する。由良、あとで場所を確認しといてくれ、くれぐれも本営の連中に感づかれないよう、内密にな?」
由良「はい、わかりました」
明石「さ、お昼にしましょう! 待ちに待ったお弁当タイムです!」
782: 2018/03/10(土) 13:52:17.68 ID:hT4xhMr/o
* *
提督「明石てめえ! そのメンチ俺のだぞ!!」
明石「そんなの関係ないですよ! つばが飛ぶから怒鳴らないでください!」ヒョイ
由良「あ、それ、由良が狙ってたからあげ……!」
提督「……明石、お前最近食いすぎじゃねえか?」
明石「なっ! そんなことないですー! ちょっとおいしくて箸が進んでるだけですー!」
提督「いやいや、いくら比叡と鳳翔の合作だからって、なあ?」
由良「ええ……」
明石「そういう提督こそ遠慮してくださいよ! この前、比叡さんと如月ちゃんにお弁当作ってもらったんでしょう!?」
提督「生憎と食ったのは黒豆だけだ。卯月と望月にすっげー勢いで食われたからな」
提督「そうでなくても、医者に食うなと止められたし……」
明石「それはご愁傷様です」ヒョイ
由良「あ、また由良が狙ってたタコさんウインナー……!」
提督「やっぱ食いすぎだろ。太るぞ」ハァ
明石「なっ! そんなことありませんー!!」
ル級「コラ。オ行儀悪イワヨ」ビシッ
明石由良「「ご、ごめんなさい」」
提督「……わりぃ」
伊8(いちばんまともなのがル級さんってのはどうなんだろう)ポテトモグモグ
787: 2018/03/11(日) 21:21:59.71 ID:dseBA9IAo
* その日の午後 埠頭 *
卯月「やったあぁ、来たっぴょぉおおん!」
L大尉「久しぶりだね、墓場島の諸君!」
妙高「卯月さん!?」
提督「……」ウヘァ
霞「……ちょっと、このしまりのない組み合わせはいったいなんなのよ」
朝雲「L中尉!? ど、どうしてあなたがここに!?」
L大尉「おお、朝雲じゃないか! 聞いてくれ、昨日付で僕は大尉になったんだ!」
朝雲「……香取さんに迷惑かけてないでしょうね?」ジトメ
L大尉「せっかくの再会なのに一言目から厳しすぎないか!? 僕だって日々成長しているんだぞ! なあ香取!」
香取「ええ、L大尉はとても教え甲斐のある生徒さんですよ、ふふふ」
朝雲「……ほんっと、手がかかる人でごめんなさい」
L大尉「待ってくれ本当にどういう意味だ朝雲ぉ!?」
霞「わかってないの!?」
提督「霞、自覚のない奴には何を言っても無駄だぞ……」
788: 2018/03/11(日) 21:22:54.72 ID:dseBA9IAo
古鷹「あっ! L中尉じゃありませんか! お久しぶりです!」
L大尉「お、おお、古鷹! 聞いてくれ、昨日付で僕は大尉になったんだ!」
古鷹「本当ですか! おめでとうございます!」
L大尉「うん、ありがとう! そうだよ、こういう言葉を聞きたかったんだ!」
古鷹「L大尉も成長なさったんですね……!」
L大尉「ああ! 自転車も乗れるようになったんだ!」
古鷹「本当ですか!」
提督「!?」
霞「!?」
古鷹「じゃあ、ウォシュレットも一人で使えるようになりました!?」
L大尉「もちろん大丈夫だ!」
提督「」
霞「」
古鷹「それじゃ、お風呂に水鉄砲を持っていくのも……」
L大尉「ああ、アヒルちゃんと一緒に卒業したとも!!」
789: 2018/03/11(日) 21:24:06.69 ID:dseBA9IAo
古鷹「さすがです!!」
提督「」シロメ
霞「」シロメ
朝雲「提督と霞が氏んでる!?」
卯月「しっかりするぴょん!?」
香取(お気持ちはよくわかります)シロメ
提督「……おい香取。なんでこいつ海軍にスカウトされたんだ」
香取「え、ええ、なんでも妖精さんがしっかり見えるというのと、何に対しても物怖じしない度胸と強引さを買われたらしく……」
提督「見えるのか。だからってそこまで人材不足なのかよ、海軍は……」
香取「残念ながら、艦娘を率いる指揮官の3割は、何かしらの問題を起こして処分を受けたり解雇されたりしているくらいですから」
提督「こういう問題のある奴を指揮官に当てたら、元の木阿弥どころか悪化するだろうがよ……」
香取「ま、まあ、L大尉の場合は余計なことをしたがる悪癖さえなければ、本営にとって使いづらいわけではありませんので……」
提督「あー、そういうことか。なまじっか中身がいい奴スカウトしたら、出世されて自分の地位が危うくなるもんな」
790: 2018/03/11(日) 21:27:09.80 ID:dseBA9IAo
提督「こういう手合いには、古鷹みたいな苦労を苦労と思わないお人好しか……」
提督「あんたみたいなしっかりした教育者に押しつけるのが妥当だしなあ。とんだ貧乏籤ひかされたもんだ、察するぜ」
香取「い、いえ、そのようなことはありませんよ?」
提督「それを否定するあんたもまじめだなあ……」
卯月「そういえば、提督准尉はどんな理由でこの島に着任したぴょん?」
提督「俺か? 妖精と話ができると困るやつがいるから、と言えばだいたいわかるだろ」
香取「……そういうことですか」
卯月「? どういうことだっぴょん?」
香取「今の海軍が深海棲艦と戦争するには、艦娘と妖精さんの力が不可欠である、ということは知っていますね?」
香取「ところが、その妖精さんを見ることのできる人間が、開戦当時の海軍にはごく僅かしかいませんでした」
香取「そこで海軍が、妖精さんの存在を確認できる人材を募ったのが、今の海軍で艦娘を率いている方々と言われています」
香取「ただ、それでやりづらくなったのは古参の海軍将校。先程も准尉が仰ったように……」
香取「艦娘とのつながりを深く持てない彼らは、新参者の指揮官たちに地位をとって代わられることを恐れたんです」
提督「ようは俺たちの存在が邪魔なんだ。艦娘の力を借りずに深海勢力を打ち倒せる方法を必氏に考えてた奴らもいたしな」
791: 2018/03/11(日) 21:31:26.74 ID:dseBA9IAo
提督「艦娘に権力を与えてないのもそれが理由だろうな。艦娘はまだ海軍の備品扱いだろう? 都合が悪けりゃ簡単に始末できる」
提督「これが俺たちみたいに艦隊を任された『人間』で、しかも民間人出身者が多いとなると、そうそう安易に消すわけにはいかねえ」
卯月「消すぴょん!?」
香取「一部の海軍将校のなかには、忌むべき邪道な方法で戦おうとする方々もいますし……」
香取「妖精さんに対してすら、知られてはいけない秘密を持った方もいるかもしれません」
提督「生かさず殺さず、封頃するのが目的なら、こういう辺鄙な島に追いやってしまえば安泰……ってなるよな?」
卯月「……准尉の長い話はいつも重たいぴょん」ムー
望月「ったくもー、なんだって准尉は、そーゆー話を毎回他人事みたいにしれっと喋れるのさー?」
弥生「……こんにちは」
提督「おう、お前らも来てたのか、お疲れさん。それよりお前ら、どうしてL大尉の船に乗せられてきたんだ?」
弥生「L大尉が、提督准尉の顔が見たい、って……」
提督「はぁ……?」
香取「お恥ずかしながら、L大尉と本営から戻るときに大和さんがいるという話を聞いて、一目見に行こうと……」
香取「その大和さんが提督准尉の部下だと知って、それならなおのこと准尉にご挨拶に、と言う話になったんです」
792: 2018/03/11(日) 21:33:39.83 ID:dseBA9IAo
望月「早い話が、野次馬?」
香取「……そういうことになってしまいますね」
卯月「でも、うーちゃんたちの鎮守府に来てくれたおかげで、思ってたよりこの島に早く着いたから結果オーライっぴょん!」
香取「そう言っていただけると救われます」
弥生「准尉、これ、お土産……」ダンボールサシダシ
提督「! これは……俺が言ってた雑誌か?」
弥生「私たちが読まなくなった、古い本、だけど……良かったら、暇つぶしになるかと思って」
朝雲「へー、ファッション誌とかもあるんだ」
妙高「それは私が買っていた雑誌ですね。昨シーズンの本ですから、捨ててしまうつもりでした」
提督「小説もあんのか。レイモンド・チャンドラーとかエラリー・クイーンとか、なかなか渋い趣味してんな」
望月「あー、あとこれも差し入れ。オセロとか将棋とか黒ひげとか、リサイクルショップで物色してきた」
提督「わざわざ買ってきたのか?」
望月「うん、まー、安かったし。離島なんだし、電源不要のおもちゃじゃないと遊べないじゃん?」
793: 2018/03/11(日) 21:34:27.35 ID:dseBA9IAo
卯月「弥生も、気分転換にお買いものに行きたいって言ってたぴょん!」
弥生「う、卯月……それは内緒にして、って……!」オロオロ
卯月「望月も実は、どうせ行っても遊ぶものないしー、とか言って全然乗り気じゃなかったぴょん」
望月「……いや、だって、あたしがここに来て何ができんのさ……」ポリポリ
望月「っていうか、どうせ遊びに行くなら遊び道具があったほうがいいぴょーん、とか言ってたの卯月じゃん」
卯月「その通りぴょん! うーちゃんはこの島のみんなと遊ぶために来たぴょん!」
妙高「卯月さん!?」
提督「いや、いい。卯月の好きにさせてやってくれ」
妙高「い、いいのですか?」
提督「そういうのが、この鎮守府に欠けていたんだ。残念だが、俺には駆逐艦の目線で何が楽しいのかがわかってない」
提督「俺が何気なく愚痴をこぼしただけなのに、ここまで気遣ってくれたんだ。礼を言わせてもらいたい」
794: 2018/03/11(日) 21:36:35.14 ID:dseBA9IAo
弥生「!」
望月「お……!」
卯月「准尉、そういう笑い方もできるぴょん!?」
提督「? なんだ?」
望月「准尉ってば、今まで悪人みたいな笑顔しか見せてこなかったからねえ」
弥生「優しい、顔してた」
提督「? そうなのか?」
霞「まあ、滅多に見せない顔してたわね」
L大尉「古鷹、提督は普段から笑っていないのか?」
古鷹「最近はそうでもないですけど……少ないですね」
朝雲「私も初めて見たかも」
提督「……なんか、すげー恥ずかしいぞ」
妙高「照れている准尉も新鮮ですね」クスクス
香取「ええ」クスクス
795: 2018/03/11(日) 21:37:12.46 ID:dseBA9IAo
* 使われていない会議室 *
提督「よし、荷物は全部ここにおいてくれ」ドサ
霞「わかったわ」ドサ
妙高「おもちゃも全部ここでいいんですか?」
提督「ああ。食堂に近いから飲み物も持ってきやすいし、艦娘たちの私室にも近いから、ここを休憩室にしてしまおうと思ってな」
提督「棚も多いから雑誌の収納にも困らねえ。騒がしくなりそうなのは……黒ひげくらいか?」
妙高「トランプもエキサイトするかもしれませんね」
望月「あー、そういえばここに来るまでの間、船の中でババ抜きしてたんだけど……L大尉、めっちゃ弱かったねえ」
霞「確かに弱そうね……」
提督「ところで卯月はどこに行ったんだ?」
提督「古鷹と朝雲は、L大尉や香取と一緒に資材の荷下ろし中だけど、そっちには行ってねえだろ?」
弥生「……そういえば」
妙高「さっきまでいたと思うんですが……」
800: 2018/03/17(土) 12:57:26.48 ID:jp61xs/4o
* 執務室 *
卯月「卯月でぇーーっす! うーちゃん、って呼ばれてむぁ~す!」クルリーン
如月「私と同じ睦月型の、四番艦よ。執務室に用があるっていうから、案内したの」
卯月「お姉ちゃんに案内してもらえるなんて、卯月感激っぴょん!」
大淀「あなたもイヤホンを付けさせられていたんですか?」
卯月「うーちゃんは残念ながらN中佐に声をかけられなかったぴょん……全然出番がなかったぴょん」
卯月「でも、そのおかげでこの通り元気だし、倒れるまで働かされるよりマシかもしれないと思うと、ちょーっと複雑ぴょん?」
神通「極端な勤務体系だったんですね」
大淀「それで、卯月さんは執務室にどんな御用ですか?」
卯月「提督准尉に個別にお土産を持ってきたぴょん!」
神通「お土産?」
卯月「鎮守府のみんなに頼んで、不要になった雑誌を持ってきたぴょん。こっちは提督准尉向けっぴょん!」ダンボールドサリ
如月「司令官向け?」
卯月「おっと、荷物はまーだまだあるぴょん! うーちゃんはみんなを手伝ってくるっぴょーん!! ぷっぷくぷぅー!」ピャッ
神通「……なにを企んでいるんでしょう、あの子」
大淀「企む?」
801: 2018/03/17(土) 12:59:41.53 ID:jp61xs/4o
如月「確かに卯月ちゃんはいたずらっ子だから、なにか仕掛けててもおかしくはないけど……」チラッ
大淀「……ちょっと箱の中身を改めさせてもらいましょうか。びっくり箱だったりするかもしれません」
神通「そうですね……」パカッ
如月「……雑誌系ばっかりね?」
大淀「とくに何か仕掛けられているわけでもないみたいですね……」ペラリ
雑誌『王道ラブコメ路線のマンガでーす』
大淀「……普通のマンガっぽいですけど」ペラリ
雑誌『次のページから性的描写三昧だけどな!』
大淀「!?」カオマッカ
如月「ど、どうしたの大淀さん!?」
神通「この雑誌がなにか……?」ベツノザッシヲペラリ
雑誌『すまない、ここは触手でヌチョヌチョなページなんだ!』
神通「!?!?」カオマッカ
如月「ふ、ふたりともどうしたんですか!?」
大淀「……///」
神通「……///」
802: 2018/03/17(土) 13:00:47.09 ID:jp61xs/4o
如月「なにがあったのかしら……」ベツノザッシヲペラリ
雑誌『大丈夫? 大人への階段駆け上がっちゃうページだよ?』
如月「!?!?!?」カオマッカ
大淀「……」ゴクリ
神通「……」ミミマデマッカ
如月「……」ユゲボシュー
島妖精(なにこの異様な空間)タラリ
島妖精(顔を真っ赤にしてるのに、じっくり熟読してるっぽい……)タラリ
島妖精(みんなむっつりなんだね……)タラリ
提督「なにやってんだ、お前ら」
大淀神通如月「「「きゃああああああ!?」」」ガタガタガタッ
提督「……ど、どうした!?」パチクリ
神通「な、なんでもありません!」ドキドキ
大淀「いきなり声をかけないでください!」ドキドキ
如月「し、しれーかんのエOチ!」ドキドキ
803: 2018/03/17(土) 13:02:05.60 ID:jp61xs/4o
提督「なんでそうなるんだよ……ん? なんだこの雑誌」
大淀神通如月「「あっ」」
提督「……」ペラリ
雑誌『よう坊主、若奥様があれこれされるマンガは好きか!?』
提督「……」ビクッ
提督「……ん、む……」アオザメ
如月「し、し、司令官どうしたの!?」
神通「大丈夫ですか!?」
提督「……だめだ、気分わりぃ……それ、処分しといてくれ」ヨロッ
大淀「提督!? ……いったいどうしたんでしょう」
如月「部屋の外に歩いていっちゃったわ……」
妖精「うーん、あれはトラウマを思い出したのかも」ヒョコ
如月「トラウマ?」
妖精「うん、提督が学生時代にアルバイトで倉庫整理をしてた時なんだけど、そこの店長の奥さんと従業員の一人が不倫してたんだよね」
大淀「唐突すぎる昼ドラの世界ですね……」
妖精「それで、その二人が倉庫の奥で……その、下半身裸になってたところを提督が見ちゃってね」
神通「ええ……」ヒキッ
804: 2018/03/17(土) 13:03:26.46 ID:jp61xs/4o
妖精「提督はそれ見てげーげー吐いちゃって。騒ぎに駆けつけた店長はその二人と喧嘩を始めちゃって」
妖精「わたしもあの時は、あー、こういうのを修羅場っていうんだ、ってしみじみ思っちゃった」トオイメ
如月「司令官、そんなことに巻き込まれるなんて可哀想……」
妖精「しばらくしたらその店はなくなっちゃったし。その頃から提督も余計すれちゃった気がするなあ」
大淀「提督も壮絶な経験をしていますね……」
神通「なんだか、提督が私たちに対して壁を作っている理由がわかった気がします」
妖精「提督も根っこのところは純粋なんだよねー。だからこそ、目の前で見た不貞行為には露骨に嫌な顔をするようになったから」
如月「私が司令官に付きまとうのも、嫌がられてるのかしら……」ウルッ
妖精「それは嫌なんじゃなくて、困ってるだけみたいだよ。結婚願望がないから、下手に希望を持たせたくないって愚痴ってたもん」
如月「ほんと!? 嫌われてはいないのね!?」パァァ
妖精「う、うん。ただ、今は大和もいるから余計に意固地になってるだろうし……」
大淀「複数人の女性と同時につきあったり、だからと言って片方を贔屓にしたり、というのは提督にとってもタブーでしょうね」
妖精「うん。今は誰ともつきあう気はないみたい」
如月「……」ションボリ
805: 2018/03/17(土) 13:04:22.14 ID:jp61xs/4o
妖精「まあ、それはそれでしょうがないんだけど……それよりどうするの? その本」
大淀「……そ、そうですね、どうしましょうこの本」ポ
如月「ど、どうするって……」ポ
神通「……し、処分、するんですよね」カァァ
大淀神通如月「「「……」」」
朝潮「失礼します! 旗艦朝潮、ただいま遠征より帰還致しました!」
大淀神通如月「「「きゃああああああ!?」」」ガタガタガタッ
敷波「ちょっ、なにその反応!? なに驚いてんの!?」
不知火「どうかなさいましたか」
初春「その慌てよう、ただ事ではないな?」
敷波「あっ、なにそれ、マンガ!?」ヒョイ
大淀「あっ」
朝潮「朝潮、初めて見ました! 拝見させていただきます!」ヒョイ
神通「あっ」
不知火「……」ヒョイ ペラリ
如月「ちょっ」
806: 2018/03/17(土) 13:05:52.02 ID:jp61xs/4o
初春「まあ、なんじゃ。おぬしたちの反応を見るに、どんな代物かなんとなく理解できたわ」
神通「わかっているなら止めてください!」カオマッカ
朝潮「……こ、これは……!!」カァァ
敷波「うわあ……」カァァ
不知火「……」ハナヂブバッ
如月「不知火ちゃん!?」
初春「うむ、やはりのう……各人予想通りの反応じゃな」
朝潮「……お、大淀さん! これはいったいどうなさったんですか!」
大淀「え、ええと……N提督鎮守府の卯月さんが、持ってきたんです」
朝潮「そ、そうでしたか……」ゴクリ
如月(朝潮ちゃん、本をずっと凝視してる……)タラリ
敷波「……こ、これ、どうしたの?」カオマッカ
神通「そ、それは、その……提督は処分しろと仰ってました……」カオマッカ
敷波「……じゃ、じゃあ、この本、あたしが処分するから!」
神通「えっ」
807: 2018/03/17(土) 13:07:23.55 ID:jp61xs/4o
敷波「あたしが捨てておくから!」ダッ
神通「あっ」
大淀「……」
初春「上着の中に隠して持っていくあたり、敷波らしいのう」
如月(初春ちゃんは冷静すぎるわ……)
朝潮「そ、それでは、朝潮はこの本を処分させていただきます!」ダッ
神通「ちょ」
大淀「……」アタマカカエ
島妖精(みんないろいろたまってるんだなあ……)
不知火「……」ハナヂポタポタ
妖精(不知火もさっきからずーっとガン見してるし……)
如月「……私も一冊処分しようかしら///」コソッ
神通「!?」
如月「し、失礼しますね!」ダッ
大淀「き、如月さん!? 待って!? う、う、裏切り者ーー!!」
初春「どの辺が裏切り者なのじゃ……大淀も持ち帰れば良かろうが」ハァ
808: 2018/03/17(土) 13:08:29.61 ID:jp61xs/4o
明石「なんか騒々しいけど、どうしたの?」ヒョコ
神通「あ、明石さん……」
明石「なにその段ボール箱……うわあ、どうしたのこの本!」
初春「明石は驚かんのじゃな」
明石「まあ、酒保を預かる身としては、そんなに珍しいものでもないしね。どうしたの、これ?」
大淀「実は……」
* かくかくしかじか *
明石「ふーん。じゃあ、私が処分しときますか」
神通「えっ!?」
明石「駆逐艦の子たちの目に触れる場所に置いておくわけにはいかないし、提督もこの手の本は苦手なんでしょ?」
明石「可燃ごみなら工廠の裏に焼却炉もあるし、ついでに処分しておくけど?」
神通「……お、おまかせします」
大淀「……い、いいんじゃないでしょうか」
809: 2018/03/17(土) 13:09:23.80 ID:jp61xs/4o
明石「そう? じゃあ、持ってくわね」グッ
神通「……」
大淀「……」
明石「あ、そうだ。二人とも、欲しい時は取りに来てね! 内緒にするから!」ニコー
大淀神通「「明石!?」さん!?」カオマッカ
初春「して、不知火はいつまで読んでおるんじゃ」
不知火「さすがに気分が高揚します」ハナヂポタポタ
初春「いいからおぬしは鼻血を拭かぬか」
* 少佐鎮守府 *
加賀「へくちょ」
瑞鶴「なにそのくしゃみ」
加賀「なんでもないわ」ズズ
瑞鶴「そういえば、墓場島に行った不知火、元気だったって大鳳から連絡があったわよ」
瑞鶴「加賀さん、仕事がなくて無気力だった不知火にいろいろ押し付けてたじゃない。気にかけてたんでしょ?」
加賀「なんのことかしら」ズルー
瑞鶴「ニヤニヤしてないで鼻水拭きなさいよ!」
810: 2018/03/17(土) 13:10:52.48 ID:jp61xs/4o
* 墓場島鎮守府 廊下 *
由良「提督さん? 顔色、悪くありません?」
朧「すんすん、なんか酸っぱいにおいが……」
提督「……ちょっと気分悪くてな。戻してきた」ゲフ
由良「もしかして風邪が悪化したんじゃ……」
提督「いや、そうじゃねえから」
朧「そういうことでしたら休んでてください。鳳翔さんにおかゆ作ってもらってきますから」
提督「待て待て、普通に飯食わせてくれ……」
由良「駄目です! 今日はカレーなんですから、刺激物はよくありません!」
提督「いや、カレーだったらなおのことカレー食わせてくれよ、御馳走じゃねえか」
由良「無理は禁物です!」
朧「提督はもう少し自分をいたわってください!!」
提督「話を聞いてくれよ……いや待て、話していいのかこれ……あれ、俺、墓穴掘ってるか?」
由良朧「「……」」ジーッ
提督(……あ、こりゃ話さねえと追求する気の目だ)
811: 2018/03/17(土) 13:12:23.50 ID:jp61xs/4o
* そして工廠 *
利根「おお、これが愛か……」ドキドキ
明石「欲望も多分に混ざってはいますけどね。王道ラブコメはいいですよね~」ペラリ
利根「うむ、吾輩もこういう胸に来る関係に憧れるな!」
明石「あー、利根さんは余計にそう思いますよね!」
利根「うむ! こう、もどかしさやいじらしさを交えながらも、優しく包まれたくもあり、激しく燃えたくもあり……」ペラリ
伊8「……ムードって大事」
利根「うむうむ! しかし、男というものは女を無理矢理、という話が好みかと思っておったが、その限りではないのだな?」
明石「その辺は作者さんによりけりですかね。みんな願望とか性癖とかバラバラですから、その辺はお好みで、というやつです」ペラリ
利根「性癖か……うむ……」
伊8「……提督はどうなの?」
明石「うちの提督、好意を向けると逃げちゃいますからね。そのくせ私たちの言うことはききたがるし、ほーんと面倒くさい人ですよー」
伊8「……んー」
明石「あ、そうそう。この本、提督には秘密ですからね。暁ちゃんや電ちゃんあたりにも内緒ですから」
利根「あの辺りはそうじゃな。長門あたりもうるさそうだから他言はせぬよ」
伊8「……」コク
816: 2018/03/23(金) 23:02:53.81 ID:8taHttbco
* 執務室 *
L大尉「……というわけで、明日の朝11時にここを出立する予定だ」
L大尉「そのときまでに、妙高たちもここを出る準備を整えて欲しい」
卯月「えー? もう帰るぴょん!? もう少し遊びたかったぴょん」
妙高「卯月さん、あまりわがままを言って困らせてはいけませんよ」
L大尉「その通りだ。君たちの鎮守府の主力部隊は、しばらく鎮守府を離れざるを得ないんだから」
L大尉「君たちにもしっかり働いてもらわないといけないんだよ」
望月「へ? どゆこと?」
L大尉「提督准尉、これを」スッ
提督「この書類は?」
L大尉「N中佐の部下の中で、検査が必要と思われる艦娘のリストだ。主力部隊は例外なく全員が検査対象になっている」
香取「つまり、明日以降はあなたたちが主力部隊として動かなければならない、ということですよ」ニコ
望月「うええええ!? マジでぇぇ!?」
卯月「やったぴょん! 出番っぴょーん!」
弥生「卯月……静かにして」
817: 2018/03/23(金) 23:04:15.58 ID:8taHttbco
提督「……なぜこれを俺に?」ペラッ
L大尉「中将殿から預かってきたんだ。おそらく今後、この顔ぶれの誰かがまたこの島に流れ着かないかを危惧してのことだろうね」
提督「ふーん……なんというか、奴の趣味が丸出しだな」
妙高「どういうことです?」
提督「ほれ、見てみろこの写真。駆逐艦のリストが一番わかりやすい」
っ『村雨』『潮』『長波』『浦風』『浜風』ピラピラッ
卯月「わかりやすすぎるぴょん!?」ガビーン
弥生「N中佐、意外と煩悩まみれだった」ガックリ
望月「あたしらが選ばれなかったのは当然の流れだったんだねえ……」トオイメ
妙高「……」ズツウ
提督「うちの潮に興味を示さなかったのは、同じ潮がいたからだろうなあ」
卯月「なんとなくだけど、写真の潮のほうがおっOいがでかい気がするぴょん」
L大尉「へ? あ、ああ! そういう意味か! なるほど!」
香取「今、気付いたんですか!?」
818: 2018/03/23(金) 23:05:24.91 ID:8taHttbco
望月「ちょっと待って。あ、あのさ、このメンバーのなかに初雪が混ざってたってことは……」
弥生「あ……!?」
卯月「准尉、真相はどうなんだっぴょん!?」ガタッ
提督「知らねえよそんなこと。ただまあ明石が、初雪が風呂に入りたがらないとは言ってたな」
提督「誰もいない時間帯を狙ってこっそり入ってるらしいから、なにかしら秘密は持っていそうだが、俺は追及する気はねえぞ」
望月「うあああ、マジか……マジかあああ」アタマカカエ
L大尉「なあ香取? なんで彼女はこんなに深刻そうに頭を抱えてるんだ?」
香取「その、女性にとってはデリケートな問題ですから……」
卯月「ちなみにL大尉はどういう子が好きぴょん?」
L大尉「私は優しい子が大好きだぞ!」
卯月「そういう意味じゃないぴょん! おっOい大きい子が好きかどうか聞いてるぴょん!」
L大尉「それは難しい質問だな。古鷹のように細い女性も良いが、香取のような肉付きの良い女性も良い! どっちも大好きだ!」サムズアップ
香取「何を馬鹿正直に答えているんですか!!///」バチーン!
L大尉「へぶァ!?」
卯月「計画通り……ぴょん」ニヤリ
弥生「卯月……」アタマカカエ
819: 2018/03/23(金) 23:06:53.61 ID:8taHttbco
卯月「んっふふー、提督准尉は大きいほうが好きぴょーん?」ニヤニヤ
提督「ああ? 別にどっちでもいいな」
望月「へー。んじゃ、准尉も節操なしってこと?」ニヤリ
提督「いーや、興味ねえし、ぶっちゃけどうでもいい。そんなのいちいち気ぃ遣ってられっか、くっそ面倒くせえ」ケッ
卯月「それはそれでひどいぴょん!?」
望月「……うん、そりゃ言っちゃ駄目だわ」
妙高「准尉は本当にぶれませんね……」ハァ
提督「つうか、五体満足ならそれでいいじゃねえか。お前ら、この島に流れて来る連中見ても同じこと言えんのかっつーの」
提督「少なくとも、見苦しくない体型を維持できてると本人が思ってるんなら、それでいいだろ」
卯月「意外にも模範的な回答が返ってきたぴょん……」
提督「そもそも胸の大小なんて、自分でほいほいコントロールできる代物じゃねえだろが」
提督「俺も正直、もう少し背丈が欲しかったが、今更どうしようもねえしな。ないものねだりしても仕方ねえ」
妙高「ああ……そうですね、男性にはそういう悩みもありますね」
望月「へえ~、准尉にもそういう願望あったんだ」
820: 2018/03/23(金) 23:07:33.90 ID:8taHttbco
弥生「背丈……牛乳を飲むとか」
提督「牛乳ねえ。今から飲んで背が伸びんのか……?」
提督(そーいや、電は毎日飲んでるんだよな。おっきくなりたいから、っつってたけど……)
提督「効果あんのかねえ……」ウーン
望月(めっちゃ怪訝そうな顔してる……)
* その頃の食堂 *
電「んく、んく……」クピクピクピ
電「!!」ムズッ
電「ぶぺくちょ!!」ギュウニュウブバー
敷波「ちょっ、牛乳飲みながらくしゃみしたの!?」
由良「ぞ、雑巾持ってこないと!」
821: 2018/03/23(金) 23:08:23.17 ID:8taHttbco
* 執務室 *
L大尉「まあ、とにかくだ。この島にN中佐の部下がこれ以上流れてこないことを期待するとして……」ヒリヒリ
妙高(ほっぺたに真っ赤な手のひらマークが……)
L大尉「もうひとつ報告したいのが、大和のことだ」
提督「まーた大和かよ……」
L大尉「いや、これはまじめな話だぞ。この資料を見てくれ、大和の能力を数値化した資料なんだが……」
L大尉「君の大和の装甲が、ほかの鎮守府にいる大和の平均値より少し低いみたいなんだ。心当たりはないか?」
提督「は? 装甲が?」
島妖精「あー」
島妖精「あれかー」
島妖精「あれね」
提督「なんだ? お前ら知ってんのか?」
L大尉「妖精たちがすごく納得したような顔をしてるんだけど……ちょっと聞いてもらっていいかな?」
提督「あ、あぁ……」
822: 2018/03/23(金) 23:09:13.88 ID:8taHttbco
島妖精「あれはねえ……」
島妖精「かくかくじかじかというわけで……」
提督「ふんふん……つまり、ブラジャーしてない分だけ装甲が薄いってか」
L大尉「ぶらっ!?」ハナヂブバッ
弥生「!?」ビクッ
香取「た、大尉!?」
望月「中学生かよ」
L大尉「す、すまない、ちょっと取り乱した」フキフキ
香取(せっかく制服にカレーがつかなかったのを喜んでいたのに、まさか鼻血まみれになるなんて……)ハァ
望月「つか、なんで自分で装甲薄くしちゃってんのさ。弱体化したらまずいんじゃないの?」
卯月「……あ、うーちゃんわかっちゃったぴょーん」
弥生「卯月?」
卯月「大和さん、准尉におっOいを押し付けたかったからぴょん!!」
L大尉「おぱっ!?」ハナヂブババーッ
香取「きゃあああっ!?」
823: 2018/03/23(金) 23:10:02.27 ID:8taHttbco
妙高「そ、そ、そんなわけないでしょう!?」
島妖精「いや、残念ながらその通りなんだ」
望月「マジか……」
提督「何考えてんだ大和のやつはよ……」
卯月(テキトー言ってたら当たってたぴょん)タラリ
L大尉「ふう……ここで聞いても、大和は提督准尉が大好きで、しかも若干暴走気味だと言う感じだね」ティッシュツメツメ
香取「そ、そのようですね……」
提督「ここで、ってことは、余所でもそんな感じだったのか」
香取「え、ええ。同行していたはずの不知火さんから報告はありませんでしたか?」
提督「いや、聞いてないが」
L大尉「本営にいる僕の知り合いが言うには、不知火が本営に大和を帯同していったとき、相当注目を浴びたそうだ」
L大尉「大和の出現に興奮した野次馬が数人、大和に触れようとも抱き着こうともしたらしい」
提督&望月「「子供かよ」」
弥生(ハモった……)
824: 2018/03/23(金) 23:11:44.12 ID:8taHttbco
L大尉「それを大和は、その無礼者を自分の艤装にひっかけて、合気道のように体のいなしだけでぽいぽい投げ捨てたんだそうだ」
香取「なんでも、私に触れていいのは提督准尉だけです、とか言いながら立ち回ってたそうです」
提督「どいつもこいつも、なにやってんだよ……」
L大尉「この件に関しては手を出すほうが悪いと思うが、なんせその相手の一人が少将クラスだったもんで、少々場が騒然としたらしい」
妙高「それ、少々で済むんですか……」
卯月「少将だけにぴょん?」
弥生「……ぷ」プルプル
香取(笑いのツボが浅いんでしょうか)
提督「少将がそんなんで大丈夫なのかよ本営は……くっそ頭痛え」
L大尉「まあ、それだけ大和が希少な存在だってことなんだ。僕だって一目見たいと思うくらいなんだから」
L大尉「ともかく、その時は中将の部下である不知火が執り成したのと、大和が提督准尉の部下だって主張したことで、その場は静まったらしい」
妙高「? その言い方ですと、大和さんが提督准尉の部下であると静まる理由があるんですか?」
L大尉「いやあ……提督に無礼を承知で言うが、本営ではこの島の話題は歓迎されていないんだ」
L大尉「君たちも知っての通り、この島は轟沈経験艦が住まう島。提督准尉にも根も葉もない噂を立てられてしまっている」
825: 2018/03/23(金) 23:14:04.73 ID:8taHttbco
L大尉「おかげで、本営で僕が提督准尉に会いに行きたいと言ったとき、本営の将校には眉を顰められてしまってね」
L大尉「悪いことは言わないから、出世したければあの島には近寄るな、とまで言われてきた」
L大尉「隔離された艦娘が暮らすこの島の出身というだけで、お上にとっては致命的なマイナス要素らしい」
提督「はっ、いいじゃねえか。N中佐みたいに出歯亀を働こうとするやつが減ってくれりゃあ、こっちはその分だけ楽できる」
L大尉「何を言う、僕は提督准尉が馬鹿にされているみたいで面白くないぞ。彼らこそ何も知らないだろうに!」プンスカ
L大尉「確かに、僕はかつて少佐だった。この島に立ち寄った直後に中尉に降格したが、それは僕自身に問題があったからだ」
L大尉「人間万事塞翁が馬。この島に来たからこそ、僕は僕自身の勘違いに気づき、出世より大事なことを理解できたと思っている」
L大尉「それを、この島で何も経験していない彼らがあることないことを吹聴して、それがさも事実のように流布されるのは不愉快極まる!」
弥生「おお……」
卯月「さっきまで鼻血噴いてた人のセリフとは思えないぴょん」
香取「たまにこうして恰好いいことを言うので、つい見直して希望を持ってしまうんですよね……」
提督「納得だ」
L大尉「ははは、そんなに褒めないでくれ、照れるじゃないか」
望月「褒められてないって」
826: 2018/03/23(金) 23:15:36.51 ID:8taHttbco
L大尉「……ところで提督准尉。ひとつ聞きたいんだが」
提督「?」
L大尉「君は中将と既知のようだが、その中将の息子さん、少佐を知っているか?」
提督「……ああ。一応、俺はあれの部下だ」
L大尉「部下!? 彼が君の上官になるのか!?」
提督「そうだ。不知火は中将のお目付け役だが、あいつも少佐のもと部下だ」
L大尉「そうなのか!? 何があったんだ……あ、その話はあとでいいや」
L大尉「その少佐の話なんだが、僕が昇進したのと同じタイミングで、彼もまた中佐に昇進したんだ」
L大尉「それ自体は彼の部下の働きによるものだと言われている。その少佐……いや、中佐が、君の大和に目を付けたようなんだよ」
提督「……なに?」ピクッ
L大尉「本営からの帰り際、中将に挨拶に伺おうと中将の執務室にお邪魔したとき、中佐が興奮しながら大和のことを話していてね」
L大尉「僕が入れ替わりで部屋に入ったときには、話の途中だったのか、中佐にすごい目で睨まれた」
香取「睨まれたんですか?」
L大尉「ああ、殺意のこもったような嫌な目だった。あの中将の血縁とは思えないほどだ」
香取「L大尉、あのときあなたはそんな素振りは……」
L大尉「さすがに中将の前だよ、慎むさ」ニコ
827: 2018/03/23(金) 23:16:35.70 ID:8taHttbco
L大尉「そのあと僕は何事もなかったように中将と雑談して、その書類と大和の資料を賜った」
L大尉「中将は、本当は中佐にこの書類の内容について話がしたかったらしいが、中佐は大和に夢中で聞く耳持たず……」
L大尉「これでは話にならないと、中将はたまたま顔を見せた僕に白羽の矢を立てられたんだ」
L大尉「僕が墓場島鎮守府の縁者であることを中将は覚えててくれたようだし、ね」
提督「……」
L大尉「そのあと僕は、君が出発してしまったことを知らずにN中佐の鎮守府へ行き、彼女たちに出会って荷物を積み込んで……」
L大尉「ついでだからと横須賀で定期便に載せる補給物資も積んで、この鎮守府に来たというわけだ」
提督「……」
香取「……L大尉」
L大尉「どうやら、この話は提督准尉にしておいて正解だったようだね?」
提督「……ああ、助かる。奴が大和を狙ってるだと? 冗談じゃねえ」ミシッ
全員「「……」」ゾクッ
L大尉「提督准尉。その感情はみんながこの部屋を出るまで仕舞っておいてくれ。彼女たちは君のそんな顔は望んでいないよ」
提督「……そうだな。わかった」フー
828: 2018/03/23(金) 23:17:41.47 ID:8taHttbco
L大尉「よし! 僕からの報告は以上だ! 香取!」スクッ
香取「は、はい!」
L大尉「とりあえず洗濯機を使わせてもらおう。とれるかな、この鼻血」
香取「……て、手洗いでなんとかしましょう」
L大尉「そうか、仕方ないな。では提督准尉、僕らはこれで失礼するよ」
L大尉「さ、みんなも話はおしまいだ。新設された休憩室で、昼間のババ抜きのリベンジをさせてもらおうじゃないか!」
卯月「わ、わかったぴょん!!」
香取「着替えて洗濯するのが先です!」
L大尉「お、おお、そうだね、急ぐか!」
ゾロゾロ
扉<パタン
提督「……」
提督「あの野郎……どうしてやろうか」ギリッ
829: 2018/03/23(金) 23:18:39.92 ID:8taHttbco
* 執務室の外 *
L大尉「いやー、参ったね。せっかく盛り上がっていたのに、思わぬ地雷を踏んじゃったなあ。あ、鼻血止まったかな」
弥生「……」
卯月「……」
望月「……あー、ま、まあ、しょうがなくね?」
妙高「そ、そうですね……」
L大尉「うーん……みんな、すまないね。やっぱり中佐のことはあの場で言うことじゃなかったよ。僕の失言だった」ペコリ
妙高「い、いえ、そのようなことは……!」
L大尉「せめて君たちを部屋に戻してから伝えるべきだった。君たちを怖がらせるつもりはなかったんだ」
望月「あー、あのさ、しょうがないって。どーせあたしたち、興味本位で聞いてたかもしれないしさ?」
弥生「……仕方、ないです」
卯月「……ぴょん」コク
香取「L大尉。提督准尉は、ご自身を中佐の部下だと仰っていましたね」
L大尉「うん。ということは、准尉をこの島に縛り付けたのも、おそらくは中佐ということになるね」
L大尉「さて、香取。中佐に関してだが、これから注意深く動向を探るべきか、それとも離れるべきか。どう思う?」
香取「……私は、薄情だと思われそうですが、中佐には近づかないほうが良いと思います」
830: 2018/03/23(金) 23:19:10.26 ID:8taHttbco
L大尉「それは、僕が余計なことをしかねないからかな?」
香取「はい。中将閣下のご子息でもありますし、なにより得体の知れない相手ですので……」
L大尉「君子危うきに近寄らず、か。仕方ない、そうしよう。君たちも中佐には気をつけるんだ、できるだけ接触を避けたほうがいい」
望月「ちょっ、どゆこと?」
L大尉「簡潔に言うとだ。准尉は妖精と話ができる。中佐は妖精を介して話を聞かれるとまずいことをしている」
L大尉「だから中佐は准尉をこの島に閉じ込めた。となると、中佐が人には言えないことをやっている可能性が高い」
卯月「悪いことしてるなら、とっちめればいいぴょん!」
L大尉「悪いことをしているとわかっているならね。そもそも中佐が何をしているのか、僕たちは全然知らない」
L大尉「下手に探りを入れて、提督准尉や彼の部下……最悪、僕の部下や君たちにも、どんな迷惑をかけるかもわからない」
L大尉「香取が言いたいのはそういうことだろう?」
香取「はい」
弥生「……助けられない、の?」
L大尉「現時点では何もできないね。それにあの准尉の怒りようだ、彼にも事情なり思うところなりあるんだろう」
L大尉「彼と仲良くすることは、僕としても望ましいことだ。だけど……」
香取「深入りは避けるべきでしょうね」
L大尉「うん。それ以外で、今の僕たちにできることを考えるべきだろうね」
834: 2018/04/14(土) 09:26:24.86 ID:rAQT6vz4o
* 休憩室 *
大淀「……ぐぬぬ」
L大尉「……」
大淀「……っ」パチッ
L大尉「王手」パチリ
大淀「ううっ……!」
望月「……強っえー」
卯月「ババ抜きはめちゃくちゃ弱かったのに、意外ぴょん!」
L大尉「御父上は棋譜を集めるのが大好きでね。面白い棋譜を見つけるたびに、僕が無理矢理相手をさせられてて困ってたんだ」
L大尉「僕がその棋譜に倣って打つと、名人と打ってるみたいですごく楽しいと子供みたいに笑うんだよ。なんだかんだでそれが嬉しくて」
香取「それでこんなに強いんですか」
L大尉「僕が海軍に来てからは相手がいないと言って淋しがってたなあ。ネット将棋もいいけど、やっぱり駒に触りたい、って」
吹雪「大淀さんもすごく強かったんですけど……」
L大尉「うん、かなり手強いね。この盤面にするのは苦労したよ」
霞「ここまで押し込めるなんて……私たちじゃ逆立ちしても勝てないわね」
朝雲「L大尉は強いわよー。昔、大将相手にも圧勝しちゃって以来、避けられてるくらいだから」
大淀「……むうう」
835: 2018/04/14(土) 09:27:32.45 ID:rAQT6vz4o
朝雲「ねえねえ香取さん、L大尉の言動がだいぶまともになっててびっくりしてるんだけど……いったい何をしたの?」
香取「L大尉は目立ちたがりで出しゃばりですが、根は素直な人です。極端に言えば言えば子供っぽい人と言いますか」
香取「古鷹さんが過剰にお世話好きだったこともあって、自分を王様だと勘違いしていたんでしょうね」
L大尉「ああ、香取。それもあるけど、僕に一番欠けていたのは、他人の気持ちを思い遣る点だ」
L大尉「お膳立ては全部艦娘がやってくれると思い上がっていたからねえ」
香取「……ですから、その勘違いを正すところから理解していただいて……」
香取「そこからはまあまあ順調でしたね。まだ常識の足りないところはありますが」
朝雲「ふぅん……」チラッ
香取「それをさておいても、将棋が強いというのは初めて知りました。軍師としての資質もあるかもしれません」
L大尉「でも、戦争と将棋は全然違うからね。必ず相手を沈められるわけでもなし、倒した相手を味方にできるわけでもなし……」
L大尉「相手の玉将を取れば終わりでもないし、部下の艦娘を失いたくないから、敵を討つための手段も選びたい……王手」ペシッ
大淀「あっ!!」ナミダメ
836: 2018/04/14(土) 09:28:22.37 ID:rAQT6vz4o
朝雲「……随分お人好しになっちゃったわね」
香取「ええ。いくら『君子は豹変す』という言葉もありますけれど……反動でしょうか?」
L大尉「お、大袈裟だなあ、そんなに変わった覚えはないよ」
霞「大袈裟でもなんでもなく変わりすぎよ。あんた、前来てた時はもっと上から目線だったじゃない」
大淀「うう……ま、参りました」ペコリ
L大尉「あ、はい、お相手ありがとうございました」ペコリ
朝雲「ほーんと……昔は『どうだ見たかい古鷹ー!』って、はしゃいでたのに」
吹雪「どんだけ古鷹さんにべったりだったんですか」
卯月「よくわかんないけど、ババ抜きやってるときとは別人ぴょん」
朝雲「うちの提督もそうだけど、あれじゃ出世できないわよ?」クスッ
香取「それは困りますね。少し、軍人らしい図太さも身に着けていただかないとだめでしょうか」クスッ
837: 2018/04/14(土) 09:29:11.14 ID:rAQT6vz4o
* 鎮守府埠頭 *
提督「……」
提督「……いや、だめか」
提督「……」
提督「くっそ……」アタマガリガリ
如月「……」コソッ
神通「……」コソッ
大和「……」コソッ
如月「司令官、ずーっと悩んでるわね……」
大和「あの、提督は何に苛立っているんでしょう」
神通「大和さん。あなたは、提督の直属の上官にあたる中佐を御存知ですか?」
大和「簡単にですが、お話は伺っています」
如月「中将にはお会いしたんですよね?」
大和「はい、不知火さんと一緒に。その中佐との御目文字は叶いませんでしたが」
如月「……」
神通「……」
838: 2018/04/14(土) 09:30:05.28 ID:rAQT6vz4o
大和「あの……」
ガサッ
神通「!」バッ
不知火「……すみません、驚かせるつもりはありませんでした」
如月「不知火ちゃん……」
不知火「その中佐について、不知火が説明します。お二人では、話しづらいこともありますから」
大和「どういうことですか……?」
* かくかくしかじか *
不知火「……そういうわけで、如月にも、神通さんにも、そして司令にとっても、因縁の相手なんです」
大和「そうだったんですか……」
不知火「L大尉から、中佐が大和さんを奪おうとしていることを司令にお話ししたと言うことですので、おそらくそれの対策を練っているのでは」
提督「ま、そういうこった」ヌッ
全員「「!?」」ギョッ
提督「不知火、説明ご苦労さん。俺の手間が省けた」
不知火「ご自身で説明されたほうが良いと思うのですが……」ハァ
神通「提督、いつからお気付きになっていたんですか」
提督「ん、少し前だな。妖精たちが騒がしいから気が付いた」
839: 2018/04/14(土) 09:32:37.51 ID:rAQT6vz4o
提督「まあ、さっき不知火が言った通りだ。中佐が大和に目を付けたと聞いて、どうやって追い払うか考えてた」
提督「できればぶっ潰してこの場でゲームオーバーにやりてえが、ちいとばかし間が良くねえな」
大和「間、ですか?」
提督「ああ。ここへ来て間もない初雪や伊8を、すぐに俺の共犯にしちまうのは忍びねえ」
提督「せっかく交流の機会を得たル級や、鳳翔と再会できたばかりの朧にとってもどうかと思うし……」
提督「俺の代わりなら長門や初春あたりが頼りになりそうなんだが、艦娘には鎮守府の指揮権を恒久的に任せられる決まりがねえ」
提督「俺たち以外にこの鎮守府をやりくりして行ける奴となると……L大尉じゃ頼りなさすぎるし、O少尉でも無理だな。荷が重い」
不知火「そもそも、この島で無事に生活できるかどうかも怪しいですが」
提督「まあな。だからこそこの鎮守府の艦娘だけで、奴を相手取らないといけないわけだが……」
提督「こっちはできる限り無傷で、かつ、奴に痛い目見せて追い帰す方法が思い付かねえ」
如月「……」
提督「更に、できればの話だが、グーでも魚雷でもいいから、神通には奴に一撃を入れさせてやりたい」
神通「提督……!」
提督「来いと言われても無視することはできる。逆に、奴が大和を攫いに来るとなるとな。最悪、今すぐ来る可能性もある」
提督「だから、いつ来てもいいように、何かいい方法がないか海を見ながら考えてたんだ」
提督「妖精たちもあの野郎には頭にきてるらしいからな。ただで済ませるつもりはこれっぽっちもねえ」
840: 2018/04/14(土) 09:34:21.34 ID:rAQT6vz4o
提督「まずは俺たちがこの島に住む大義名分は作れたからいい。今度は、あいつがこの島に来ない理由を作りたい」
提督「例えばだが、強烈なトラウマを植え付けてやれば、俺たちに必要以上に干渉しなくなるはずだ」
大和「でしたら……この大和が、中佐を追い払います」
提督「追い払う? お前が?」
大和「はい! 大和になにかしらの不安材料があって、一緒にいると危険であると認識させられれば!」
如月「不安材料……?」
不知火「……陸奥さんの第三砲塔のようなものでしょうか」
提督「なんだそりゃ?」
不知火「かつて戦艦陸奥は、第三砲塔が謎の爆発を起こし、それが元で沈みました。ですが、爆発の原因は今もわかっていません」
提督「いつ爆発するかわからない、というデメリットを売り込む……ってか」
如月「そういうことなら、大和さんを手に入れようなんて気にならないかも……」
神通「ですが、それだけでは弱いと思います」
如月「……それなら、料理が下手だとか、家事が苦手とか、致命的なくらいにドジだとか、日常的な欠点を盛り込むとか?」
提督「んー……不自然じゃねえならそれでもいいかもな」
不知火「司令以外に従うつもりはないことを、あらかじめ中将に……」
提督「待て待て、すぐ中将に頼んな。っつうか、正直頼りになんのかわかんねえよ」
841: 2018/04/14(土) 09:35:31.58 ID:rAQT6vz4o
提督「それだったら、ここにいる轟沈経験のある艦娘が深海化したときの抑止力として大和をこの島に置きたい、って頼んだほうが自然だろ」
不知火「いえ、それでは如月たちが悪役になるのでは……」
如月「……それが一番いいかもしれないわ。一番説得力がありそうだし」
如月「一緒に司令官の身の安全もお願いしましょ? 司令官の身になにかあったら、私……なにをするかわかんないから。ふふふっ」ハイライトオフ
提督「……あー、わかったわかった」
大和「提督、私もその気持ちは同じです。私も、提督のお傍から離れたくありません!」
提督「……そうか」ハァ
神通「面倒くさいと言うのも面倒くさい、といった感じですか」
提督「……」
不知火「もはや喋るのも面倒と……」
提督「いやもう俺のセリフ、全部神通にアテレコしてもらってもいいんじゃねえかな?」
不知火「さすがにそれはどうかと」
提督「ところで神通、お前はどう思う?」
神通「……何がでしょう」
提督「仮に俺があいつを始末できたとして、その後この鎮守府をどうするかだよ」
大和「な……!」
842: 2018/04/14(土) 09:36:26.57 ID:rAQT6vz4o
提督「ある意味では絶好のチャンスなんだ。あいつを討つには、大和に浮かれてやってくるであろう、このタイミングしかねえ」
提督「お前が仇を取る、最初で最後のチャンスになるかもしれねえんだ。お前の考えを聞いておきたい」
如月「……」
不知火「……」
神通「……そうですね。のこのことやってきたところを、どんな手段でも使っていいのなら……大和さんを餌にして、あの男を……」
提督「……」
神通「でも、やめておきます。これは、私の個人的な復讐です」
神通「それに……そんなことをして、みなさんを巻き込んでしまったら……F提督にどんな顔をされるか、わかりませんから」
提督「……」
ゴンッ
不知火「!?」
大和「提督!? どうして壁に頭突きなんかするんですか!?」
神通「それは多分……」
如月「神通さんが自重してくれたことが嬉しかったのよ。その照れ隠しだと思うわ。それプラス……」
神通「それを喜んでしまった自分に自己嫌悪なさってるんだと思います」
如月「神通さんもそう思います?」ニコー
神通「ええ」クス
843: 2018/04/14(土) 09:37:09.49 ID:rAQT6vz4o
大和「……私も、まだまだ修行が足りないみたいです……!」
不知火「何の修行ですか……」
提督「……神通、悪いな」
神通「大丈夫ですよ、提督。私もこの島に来て、少しですけれど変わったんです」
神通「提督が、この島の鎮守府を大事になさっていること。私も共感できていますから……悪いだなんて言わないでください」ニコ
提督「……ああ」
如月「とりあえず、方針は決まりね。大和さんには中佐をさりげなく拒絶してもらって……」
神通「二度と近づけないような理由も作らないといけませんね」ニヤ
如月「うふふ、どんな目に遭わせてあげようかしら」ニヤ
不知火「……なんだか司令が複数人いる気がします」
提督「どういう意味だそりゃ」
大和(私にも、あの笑い方ができるかしら……)ニヤ
不知火「増えた!?」ビクッ
提督「おいやめろ」
844: 2018/04/14(土) 09:38:08.33 ID:rAQT6vz4o
* 少佐改め中佐鎮守府 *
少佐→中佐「大鳳、ご苦労だった。お前の働きに、お父上をはじめ皆が感嘆していたぞ」
大鳳「はい! お褒めに与かり光栄に存じます!」
中佐「しかし、違反者に情けをかけるとは。そんな甘い考えでは、戦争に勝てないぞ?」
大鳳「は……それは」
赤城「……N中佐も海軍の一員です。恩を売れば懐柔もしやすくなります」
中佐「それもそうか。ならば赤城、いつでも手懐けておけるよう、準備しておけよ?」
赤城「……承知しました」
中佐「では大鳳、改めてご苦労だった。お前はこれから我らが第一艦隊、空母機動部隊に入り、練度の向上に従事せよ!」
大鳳「はいっ!」ビシッ
中佐「赤城、俺は墓場島に視察に行く。お前は大鳳たちと演習に向かえ」
赤城「……承知しました。大鳳さん、参りましょう」
大鳳「はいっ! 失礼いたします!」
扉<ギィ バタム
中佐「……」
中佐「……く、くくくく。大和。大和か……!」
中佐「ああ、楽しみだ。俺のもとに、誰しもが羨むあの戦艦が来るわけか……これで俺の艦隊にも箔がつく!」
中佐「提督准尉もたまには役に立つな! くくく……待っていろ大和! ははは、はははははは!!」
848: 2018/05/10(木) 21:00:17.22 ID:xI9nxjwRo
* 翌朝 執務室 *
大淀「提督! このような電文が!」ピラッ
提督「……さっそく来やがったか」
コンコン
香取「失礼いたします」
L大尉「ふああ……准尉は朝が早いな。失礼するよ」
提督「よう、早速だがあんたの忠告通りになったぜ」ピラッ
L大尉「……なるほど。これは気に入らないな」
FAX『大和を貰う。準備をしておけ 中佐』
香取「……横柄が過ぎますね」
L大尉「怪人二十面相だって、もう少し洒落た予告状を寄越すものだがね」
大淀「そして、そのFAXの数分後に届いたのがこちらです」
FAX『中佐が、大和さんを自分の鎮守府へ異動させるために島に向かいました。到着予定時刻は1400、気を付けてください 赤城』
L大尉「こっちはこっちで気を付けて、か……ここの赤城は苦労してそうだなあ」
提督「ああ、苦労してんぜ。あれの秘書艦、赤城以前はころころ変わってたらしいしな」
849: 2018/05/10(木) 21:01:33.48 ID:xI9nxjwRo
L大尉「彼の到着はヒトヨンマルマルか。僕たちとは入れ違いになりそうだね」
提督「そのほうがいい、あれに関わったっていいことなんざありはしねえ」
提督「特に卯月なんか何するかわからねえ。とっとと連れて帰ってくれ」
卯月「話は聞かせてもらったぴょん!」バーン!
提督「帰れ」
卯月「容赦ないっぴょん!?」ガビーン
弥生「帰ります……!」エリクビガシッ ズルズルズル
卯月「弥生まで容赦ないっぴょん!? 離すぴょーん!」ジタバタ
提督「いいからお前はお前の鎮守府の心配をしてろ」
香取「そうですよ卯月さん。あまり提督准尉を困らせてはいけません」
卯月「うー……」
提督「いいか、下手をうてば、お前だけじゃなく俺やこっちのL大尉にまで飛び火する」
850: 2018/05/10(木) 21:02:46.74 ID:xI9nxjwRo
提督「もし俺の邪魔をしようってんなら、多少の義理があるお前であっても容赦しねえぞ……!」ワキワキ
卯月「ひっ!」サッ
L大尉「卯月、これ以上は首を突っ込むべきじゃない。提督准尉がここまでの態度を取るとなると、中佐は本気で危ない相手だ」
香取「ところで提督准尉? その怪しい手つきはなんですか?」
弥生「あの……准尉の握力、すごいみたいなんです」
香取「え?」
卯月「准尉のアイアンクローはとんでもなく痛いっぴょん……!」ガタガタ
香取「あ、ああ、そういうことですか……」ポ
弥生「?」
L大尉「?」
卯月(もしかしてセクハラするような手つきに見えたぴょん?)
大淀(香取さんもお仲間(むっつり)ですか)メガネキラッ
851: 2018/05/10(木) 21:03:48.19 ID:xI9nxjwRo
* 幕間 *
L大尉「あ、そうだ。帰る前に古鷹に会っていくよ」
提督「まだ何か用があんのか」
L大尉「ああ、耳かきをしてもらいたくてね!」
香取「!?」
提督「どうせなら教えてもらえよ。俺はやり方を教えてもらったぞ」
大淀「!?」
香取「……」
大淀「香取さん、せっかくですから、あなたが古鷹さんから耳かきのやり方を教えてもらったほうが良いのでは?」
香取「え、ええ、そのほうが良さそうですね」
大淀「もし、そうするのなら……覚悟してくださいね」
香取「!?」
提督「おい大淀、帰り際の香取のやつ、足下が覚束なかったが、なんかあったのか?」
大淀「いえ、なにも?」ニコー
提督「?」
852: 2018/05/10(木) 21:05:12.05 ID:xI9nxjwRo
* 昼過ぎ 墓場島埠頭 *
部下1「中佐、到着しました! どうぞこちらへ!」
中佐「ふん、ここが××島か。景色だけは悪くない」ザッ
部下2「中佐殿がこのような島を管理なさっておられるとは、存じませんでした」
部下3「辺鄙な場所でなければ、リゾート地に使えそうですな!」
中佐「そうでもないぞ。この島はいわくつきだ」
部下1「なんですって!?」
中佐「世界には、不思議と深海棲艦が近寄らない海域がある。この海域もそのひとつだ」
中佐「昔のお偉方は、この島に鎮守府を建てて、泊地としてここを足掛かりに深海棲艦と事を構えるつもりだったが……」
中佐「島の北の海底火山のせいで海流が強く、多くの船が行き来するには不便極まりなかったのだ」
中佐「船舶事故も増えて物資補給が滞り、ここに着任した奴らが焦れて本営に見捨てられたなどと言い出した」
中佐「その話に尾鰭背鰭がついて、いつの間にやらこの島は流刑地扱いされるようになっていたのだよ」
853: 2018/05/10(木) 21:05:42.24 ID:xI9nxjwRo
部下2「そ、そのような島を、中佐殿はわざわざ自分のものになさったのですか……!」
中佐「ああ。それでここに准尉を住まわせたおかげで、大和が手に入るんだぞ?」
部下3「ははっ! さすが中佐殿、先見の明ということですね!」
中佐「お前たちは運がいい。建造されて間もないこの俺の大和を見ることができるのだからな!」
部下たち「ははっ!!」
中佐「……それにしてもだ」
中佐「あの役立たずめ、上官が顔を見せたと言うのに出迎えもないとは、どういうつもりだ!」
部下1「まったくだ……中佐、私めが大和を連れてきます!」
中佐「待て。呼ぶなら提督を呼べ。奴に大和を連れてこさせろ!」
部下1「はっ!!」ダッ
854: 2018/05/10(木) 21:06:49.07 ID:xI9nxjwRo
* 倉庫 *
提督「……」カリカリ
長門「提督、この荷物は?」
提督「ん、こりゃ明石の荷物だな。あとで持っていくから、シャッターの隣に取り置きしておいてくれ」
古鷹「提督、こちらの箱の数量確認終わりました!」
提督「おう。やっぱり数が足りねえな、あとで中将に報告しとくか」
部下1「……ここか!?」
提督「? 誰だあんた」
部下1「貴様が提督准尉か!?」
提督「それより誰だって聞いてるんだが」
部下1「海軍中佐がお見えだ! 早く出てこい!」
提督「今、手が離せないんだよ。せっつくくらいなら手伝え」
部下1「なに!?」
長門「ではこれを運んでもらおうか」ヒョイ
部下1「ぬおおお!?」ズシーッ
提督「よし、とっとと運ぶか。もたもたすんな、置いていくぞ」ヒョイ スタスタスタ
部下1「ま、ま、待てええええ!」
855: 2018/05/10(木) 21:08:17.24 ID:xI9nxjwRo
* 1時間後 埠頭 *
部下1「」ゼーゼー
提督「なんだ、来てたのか。何時に来るかくらいちゃんと連絡しろ」
中佐「ふざけるな! いったいどのくらい待たせたと思っている!」
提督「こんな島に来るくらいだ、暇なんだろう?」
中佐「いい加減にしろよ、提督准尉! 射殺されたいか!」
提督「……」
中佐「准尉、命令だ。大和を連れてこい」
提督「無理だ」
中佐「命令だと言ったはずだ!」
提督「……だったらついてこい。来ないなら勝手にしろ」クルリ スタスタ
中佐「……」ギリッ
部下2「なんなんだあいつは……!」
部下3「中佐に対し無礼にもほどがある!」
部下2「中佐殿のお手を煩わせるほどでもありません、自分が大和を連れてまいります!」
中佐「……いや、いい。案内させてやれ。大和を迎え終えたら、どうとでもできる」ギリッ
部下2「は、はっ!」ゾクッ
部下3「お、おい、行くぞ、大丈夫か」
部下1「ああ……ひ、酷い目にあった」
856: 2018/05/10(木) 21:10:02.90 ID:xI9nxjwRo
* 島の南東 海岸部 *
朝潮「はっ! 司令官、お疲れ様です!」ビシッ
提督「よ。朝潮、大和たちはまだ戻ってきてないか」
朝潮「はい! 予定ではあと10分程度で戻ってきます!」
提督「……」チラッ
部下2「……おい、大和はどこへやった!」
ドーン
部下2「!」
提督「海を見ろ。見ての通り海上演習中だ、10分程度だから、戻ってくるまで待ってろ」
部下3「貴様、人をさんざ待たせておいて、まだ待てだと!?」
中佐「……部下3、貴様に望遠鏡を預けていたな」
部下3「はっ! どうぞ!」サッ
857: 2018/05/10(木) 21:11:35.09 ID:xI9nxjwRo
中佐「……」スチャ
中佐「……おお」
中佐「おおお!」
部下1「中佐!」
部下2「中佐殿!」
中佐「あれが……あれが大和か……!」
部下1「ご確認できましたか!」
中佐「ああ、間違いない。大和だ! 戦艦大和だ!」
部下たち「「おめでとうございます!」」
提督(中佐のための艦娘じゃねえよ……なにがおめでたいんだか)イラッ
中佐「……」
部下2「中佐殿? いかがされました」
中佐「……美しい」
部下1「は?」
中佐「あの優美なる姿! 写真で見たよりも、はるかにいい女だ!」
858: 2018/05/10(木) 21:12:49.92 ID:xI9nxjwRo
中佐「あれが……俺のものになるのだな……! ふふ、ぐふふふ……!」ヌタァ
提督「……キモッ」ヒキッ
部下3「じ、准尉! 口を慎め!」
提督「悪いことは言わないから、あの顔やめさめてから大和に会わせろよ」
提督「あれじゃ第一印象最悪じゃねーか、女に会わせる顔じゃねえ」
部下3「そ、それもそうだな」ハッ
提督(思わず本音を言っちまったが……肯定すんのかよ)
部下3「ち、中佐殿、嬉しいのはわかりますが、お顔を緩ませたままでは舐められてしまいます……!」
部下2「そ、そうです! 最初が肝心です! 威厳ある態度で臨まねば、誰が大和の司令官か示しがつきません!」
中佐「ふははは、ああ、わかっている。わかっているとも。しかしだな、見れば見るほど大和はいい女だ……」
中佐「まさかこの齢にもなって、一人の女に心を奪われるとは思ってもみなかった……!」
部下1「もしや……一目惚れ、ですか」
中佐「そうかもしれんなあ……ふふふ、ぐふふふふ……!」デレッ
部下たち((笑顔が(気持ち悪っ!)))
提督(マジかよ……大和の奴、本当に大丈夫か?)
859: 2018/05/10(木) 21:14:32.76 ID:xI9nxjwRo
朝潮「あ、あの、司令官? あの方はいったい……」
提督「ああ、お前は初見か。俺の直属の上官の中佐だ」
朝潮「あ、あの方がですか……」ブルッ
提督「顔色が悪いな。気持ち悪いか」ヒソヒソ
朝潮「し、正直に言えば……」ヒソッ コクリ
中佐「おお、演習を終えたようだな。ふふふ、こちらへ来るか! くくく……いいぞ、そのまま俺の胸に飛び込んでこい!」
提督「言うことがいちいち気持ち悪い」ボソッ
部下3「て、提督准尉!? 貴様、何を言う!?」
提督「ん? 何か?」
部下3「……な、なにも言ってないのか?」
提督「なにも言ってないぞ?」
部下3「……」
提督(危ねえ、声に出てたか)
朝潮(司令官も朝潮と同じ感想を抱いてましたか……安心です)ホッ
860: 2018/05/10(木) 21:16:13.82 ID:xI9nxjwRo
中佐「よおし、さっそく連れて帰るぞ!」
提督「中佐、現時点でそれは無理だ」
中佐「貴様ごときに俺へ意見する権限があると思うか!」ギロリ
提督「中将からの指摘だが?」
中佐「……チッ、なんだ。手短に話せ」
提督「この鎮守府には轟沈を経験した艦娘が多数在籍している」
提督「仮に、その艦娘たちが万が一にでも深海棲艦になった場合、それを鎮圧する者が必要だ」
提督「そうなれば、この鎮守府で建造された大和こそが、その役目に相応しいと中将も判断している。おいそれと連れて行くわけには……」
中佐「ふん、それなら赤城と加賀をここに置けばいい! 後で連れてくる!」
提督「……」ハァ
中佐「あの大和が、こんな鎮守府に好きこのんで留まるわけがないだろう! どけ!」ダンッ
提督「つ……!」ヨロッ
大和「!」
朝潮「司令官!? 大丈夫ですか!?」
中佐「……ふ、ふふふ」スタスタスタ
861: 2018/05/10(木) 21:17:09.32 ID:xI9nxjwRo
* 沖合 *
ザァァァ…
大和(……人に嫌われる、というのは少々抵抗はありますが、これも提督と一緒に過ごすため……!)
大和(如月さんや神通さんと一緒にリハーサルもしてきました! 何とかして帰っていただかないと……)
大和(……)
大和(あれが、中佐……?)
ドクン
大和(……)
大和(……え……?)
大和(あの人は……)
ゾワッ
大和(あの男は……!!)
862: 2018/05/10(木) 21:19:24.88 ID:xI9nxjwRo
* 一方の海岸部 *
中佐「ついに、ついに大和が……俺の元に!」ズカズカズカ
中佐「はは、ははははは!! さあ、早く向かってこい! 俺の前に跪け!」
ゴゴゴゴゴゴ
大和「…………」
ガシャン
部下1「?」
提督「……?」
部下2「お、おい。いま、大和の主砲が……」
ジャコン
提督「大和……?」
中佐「待ちわびた! 待ちわびたぞ、やま
ド ガ ァ ァ ァ ァ ァ ン !!
提督&朝潮「「!?」」
部下たち「「「!?」」」
863: 2018/05/10(木) 21:22:06.76 ID:xI9nxjwRo
今回はここまで。
867: 2018/05/20(日) 21:40:13.34 ID:kwIRGGHbo
モクモクモク…
朝潮「……」アングリ
部下1「ち、中佐!?」
部下2「ど、どういうことだ提督准尉!? 貴様、騙し討ちしたのか!!」
提督「……なにやってんだ、あいつは」
部下3「き、貴様の指示だろう!? なんてことをさせる!!」
提督「指示してねえよ! 嫌なら嫌と言えくらいは言うが、普通いくらなんでも主砲ぶっ放せとか言わねえだろが!」
部下3「お、おお!? す、すまん」
部下2「じゃ、じゃあ、大和の独断……!?」
部下1「煙が晴れてきたぞ……中佐!」
中佐「……」ボーゼン
部下2「中佐殿! ご無事でしたか!」ダッ
提督「チッ……なんだ、意外としぶてえな」ダッ
部下3「中佐の足元にでかい砲撃の跡が……!」
部下1「あれが大和の主砲の威力か……!」ゾクッ
868: 2018/05/20(日) 21:41:33.08 ID:kwIRGGHbo
中佐「……な、なんだ!? いったいどうしたんだ!? 暴発か!?」ガタガタ
大和「……」ゴゴゴゴゴゴ
中佐「お、おい、やま」
大和「近寄らないでください」ジャコン
中佐「!?」
大和「次は直撃させます」ギロリ
中佐「」
部下1「中佐! ご無事ですか!」
提督「おい待てお前! 近づくな!」ガシッ
部下1「なにをする!」
提督「異常事態だ。あんなに殺気立った大和を俺は見たことがねえ」
提督「嫌がるくらいならわかるが、出会い頭に主砲を撃つなんて想定外もいいとこだっつったろ」
部下1「じゃあどうしろと……」
提督「俺が行く。あんたたちじゃあ大和は止められねえだろ」スッ
部下2「……わかった、なんとかしてみせろ」
提督「ああ」
869: 2018/05/20(日) 21:42:29.77 ID:kwIRGGHbo
朝潮「司令官……!」
提督「大丈夫だ、下がってな」
提督(……とは言ったものの)チラッ
大和「……」ゴゴゴゴゴゴ(←全砲門を中佐へ向けて仁王立ち)
中佐「……」(←腰が抜けてて動けない)
提督(ちょっとこのまま中佐の無様な姿を眺めていたい気にもなるな)
中佐「く、くくく……面白い冗談だ」ヨロヨロ
提督「おい大和、少し落ち着け」
大和「提督。こちらの、面白くない顔の御仁は何奴ですか」
中佐「」
提督「俺の直属の上司にあたる、本営の中佐だ。この前まで少佐だったんだが、昇格した」
大和「この人が……この人がですか」ムスッ
敷波(うわあ、大和さんあからさまに嫌そうな顔してる……)
不知火(汚物でも見るような眼差しですね)
870: 2018/05/20(日) 21:43:45.63 ID:kwIRGGHbo
部下1「な、なんだその顔は!」
部下2「大和だからって調子に乗るな!」
提督(なんだそりゃ)
中佐「ふ、ふふふ、まあいい。喜べ、大和。貴様はたった今から俺の部下だ」
大和「嫌です」
中佐「」
大和「聞こえませんでしたか?」
大和「絶対に嫌です。あなたの部下なんて氏んでもお断りいたします」
中佐「」
大和「そういうわけですから、尻尾を巻いてお引き取りください」
中佐「」
部下たち「「「」」」
提督(容赦ねえ)
871: 2018/05/20(日) 21:45:36.05 ID:kwIRGGHbo
大和「なんですかその間抜け面は。あなたは、この大和を自分の部下にできると思っていたのですか?」
中佐「な、なぜだ! なぜ」
大和「近寄るなと言いましたよ」ギロリ
中佐「ひっ」タジッ
提督(あ、こりゃ任せてていいわ)
大和「なぜ? なぜあなたの部下になるのが嫌か、ですって?」
大和「それは、あなたの存在そのものが嫌だからです」
中佐「」
朝潮(……そこまで言ってしまうんですか)タラリ
中佐「こ……こ、この俺の何が嫌だと言うんだ!」
大和「顔です」
中佐「」
中佐「 」
朝潮(うわぁ……)
提督(マジ容赦ねえ)
872: 2018/05/20(日) 21:46:38.21 ID:kwIRGGHbo
大和「顔の造形のすべてが不快です。虫唾が走ります」
中佐「き、き、きさ」
大和「声も嫌です。油虫が汚泥を這いずるような耳障りな声、聴くに堪えません」
中佐「……っ!!」
大和「それから、ここからでもわかるこの下品なにおい。趣味の悪い香水がお好きなんですね。嗜んでおられるたばこも安物のようで」
大和「そこにあなたの体臭も混ざって、形容しがたい悪臭を放っていること、自覚してないのですか?」
中佐「~~~~っ!!!」
大和「ああ、ご自身の鼻が麻痺していらっしゃるんですね。でしたらお医者様に診ていただいたほうが良いでしょう」
大和「すぐにお帰りになって、そのまま入院していただけると、なお嬉しいのですけれど」
中佐「ふ、ふざっ、ふ」
大和「私は大まじめです」ギンッ
中佐「んぎぎぎ……」
提督「おい大和、その辺にしておけ。事実であってもわざわざ憚られるようなことは言わなくていい」
部下3(……さりげなく中佐がディスられてないか?)
大和「も、申し訳ありません……ですが、私としても嫌なものは嫌です!」
873: 2018/05/20(日) 21:48:23.39 ID:kwIRGGHbo
大和「この中佐のそばにいることが苦痛です。喜べだなんて、冗談でも笑えません!」
大和「この人の部下になるくらいならこの場で解体されたほうがましです。提督、解体届はありますでしょうか」ズイッ
提督「……ん……」タジッ
中佐「提督准尉! 貴様は新造艦娘にどんな教育をしている! 馘にするぞ!」
大和「あぁ?」ギロリ
中佐「」
朧「今の、提督そっくりだ……」ボソッ
如月不知火電敷波神通「……」コクコク
大和「ああ、そうですか。自分の思い通りにならなければ、すぐに弱い立場の者をなじって八つ当たり」
大和「それが中佐になった者のやり方ですか。まるで子供ですね、なんて情けない」フッ
中佐「うぎぎぎぎ……!!」プルプルプル
大和「この大和の目から見て、褒められるべきところがここまでに一つも見受けられない人間が、中佐?」
大和「軍隊の上層部が時折迷走してしまうのは、やむを得ない事情があることもありますが……」
大和「こんな愚物に民の血税を注ぎ込んでいるだなんて、国民が不幸だとしか言いようがありませんね」フゥ
中佐「おごあああああ!」ブチブチブチーッ
874: 2018/05/20(日) 21:49:59.78 ID:kwIRGGHbo
部下3「中佐殿!?」
部下1「お気を確かに!」
部下2「提督准尉! いい加減にしろ!」
提督「俺に言っても仕方ないだろ。おい大和、少し落ち着け」
大和「す、すみません提督……! 落ち着くためにも、もう下がってよろしいでしょうか!?」
提督「潮か」
大和「私としても不本意なのですが、ここまで嫌悪感を催す御仁だったとは思いもよらず……」
大和「ああ、今日はこの大和の厄日です。天中殺でしょうか……」
提督「そーだなあ……とりあえず、もうこれ以上喋らねえほうがいいんじゃねえか?」
中佐「そ、そうだ! もう諦めて上官の命令に従え!」
大和「それとこれとは話が別です」ギロリ
大和「たとえ提督の仰ることであっても、たとえ世界中から嫌な女と罵られようとも、この人だけは断固受け入れられません!」ギンッ
中佐「……」
提督「だ、そうですよ。もう諦めたほうが良いのでは?」
中佐「あ、諦めが早すぎるぞ!」
875: 2018/05/20(日) 21:51:28.24 ID:kwIRGGHbo
提督「こういうのは諦めが肝心だと思うが……」
大和「そうです、むしろこの場で人生を諦めてください」ガシャン
中佐「ふざけるな! 黙って聞いていれば調子に乗りやがってええええ!!」
大和「調子に乗っているのはほかならぬあなたでしょう」
大和「海軍の要職であった『提督』が爆発的に増加した今のご時世、その中で将官にまで上り詰めたのならいざ知らず……」
大和「たかだか中佐になった程度でこの大和を従えられると考えるほうが、余程見通しが甘いのでは?」
中佐「んぐ……っ!」
大和「それにそもそも、私はこの島の妖精たちによって、この島のために建造された艦娘です」
大和「この島に駐留する覚悟さえもない、あなたの下で戦う気など毛頭ありません」
中佐「そんなものは詭弁だ! お前たちは我が国のために戦うために建造された艦娘だ!」
中佐「その使命を捨て、こんな島で油を売ることがお前の果たすべき役割ではない!」
大和「でしたら、提督がこの島で果たすべき役割とはなんです? あなたが提督准尉をこの島の鎮守府に着任させた理由は!?」
中佐「う……ぬっ」
大和「さぞ大層な理由がおありなのでしょう? それがないというのなら、あなたに将来的な展望も見えていないということでは?」
大和「そんな使えない人材に、この大和が身を寄せる理由がどこにあると? どこに資格があると仰いますか」
876: 2018/05/20(日) 21:52:13.83 ID:kwIRGGHbo
中佐「っ……何が資格だ! 提督准尉は俺の部下だ! 部下は上官の言うことを聞け! それが正しい組織というものだ!」
大和「噴飯! 自分の行いが正しいと胸を張って証明できない人間が、正しい組織を語ろうと言うのですか!」
提督「あー、大和。とりあえず落ち着け。中佐も一旦矛を収めてくれ」
大和「……!」
中佐「む……!」
提督「いったん二人とも離れてくれ。ここは中佐の部下たちにも話を聞きたい」テマネキ
部下2「お、俺たちにか」
提督「ああ。中立的な立場で訊きたい。正直に答えてくれ」
部下1「……」ゴクリ
提督「これ、もう無理だろ」
部下1「……」
部下2「……」
部下3「……」
提督「いや、黙られても困る。傍から見てても絶望的な状況じゃねえの? 朝潮もそう思うだろ?」
朝潮「はいっ! 穏やかな話し合いとは程遠いと思います!」
877: 2018/05/20(日) 21:52:57.93 ID:kwIRGGHbo
提督「ここまで見てても全然歩み寄る気配がねえ。和気藹々どころか、一触即発ムードじゃねえか」
部下1「い、いや……」
部下2「しかし……」
部下3「なあ……」
提督「このままじゃあ、連れて行く途中であんたたちの乗船沈められてもおかしくねえぞ?」
提督「自分の身に何かあってからじゃ遅いんだ。違うか?」
部下1「……」
部下2「……」
部下3「……」
提督「だからなんでだんまりなんだよ……」アタマカカエ
中佐「もういいだろう提督准尉。説得はもういい、四の五の言わずに大和を渡せばいいんだ」
提督「……今のままじゃあ、中佐が氏んでも俺たちは責任取れないぞ?」
中佐「いいからお前はもう口出しするな!」
提督「本当にいいんだな? 言ったな?」
878: 2018/05/20(日) 21:54:38.39 ID:kwIRGGHbo
中佐「くどい!!」
大和「だったら今すぐ氏ねやくそがああ!」ガシャン
提督&中佐「「!?」」
ドガァァァァン
中佐「ぎゃあああ!!」フットバサレ
朝潮「大和さん!?」
提督「……」アッケ
電「……司令官さんがもう一人いるのです」
朧「もうむちゃくちゃだよ……」アタマカカエ
部下1「中佐!?」
部下3「……な、なあ、ここはもう諦めたほうが……」
部下2「だ、だが、手ぶらで帰るわけにはいかないだろう!?」
提督「おい大和?」
大和「は、はい、なんでしょうか?」
提督「今のはさすがに俺も引く」
大和「ええ!? そ、そんなぁ!!」
879: 2018/05/20(日) 21:55:23.64 ID:kwIRGGHbo
中佐「っ提ぇぇえ督ぅぅうう!! こいつを何とかしろおおおお!!」グオオオ!
大和「あぁ!?」ギロリ
中佐「ひっ」
朝潮(機嫌が悪い時の司令官そっくりです……!)
提督「だから落ち着け大和。冷静になれ、深呼吸しろ」
大和「ですが!」
提督「いいから頭を冷やせ。それじゃ的に弾が当たらねえだろ」
大和「そ、そうですね! 落ち着きます!」スーハー
中佐「おい!? 誰が的だ!!」
提督「的は的だ、ものの喩えだ。誰も中佐が的だとは言っていない」シレッ
大和「的になりたいんですか? 喜んで的にしますよ?」ガシャン
中佐「ひいいっ!?」
提督「……中佐。もういい加減、諦めたらどうなんだ」ハァ
提督「俺の地位とか立場とか関係なく、初対面であそこまで嫌悪されてたら、中佐の命令に従うどころか命の危険まであり得る」
中佐「ば、馬鹿を言え! ここまで来て諦められるか!!」
880: 2018/05/20(日) 21:56:00.13 ID:kwIRGGHbo
提督「退くも兵法のうち、ここは……」
中佐「き……貴様ごときが兵法を語るなああ!」バシッ
提督「っ!」ドタッ
朝潮「し、司令官!!」
中佐「さっきから生意気なんだお前は! お前は、俺の部下だ! 下僕だ! 俺と同じ目線で喋るなあああ!」ガッ! ゲシッ!
提督「……っ!」
中佐「お前はとっとと大和を受け渡せ! それで全部済むんだ!」バキッ!
提督「ぐ……っ」ドサッ
朝潮「大丈夫ですか、司令官!」
中佐「はー、はー……」
電「司令官さんになんてことを……!」
如月「司令官!」ダッ
神通「待ってください!」ガシッ
ザワッ
中佐「!」ゾクッ
881: 2018/05/20(日) 21:56:39.50 ID:kwIRGGHbo
大和「……」ゴゴゴゴゴゴ
部下3「や、大和の髪の毛が……」
部下2「逆立ってる……!!」
大和「……」ギロリ
中佐「ひっ!?」
部下1「……ち、中佐、ここはもう、引き上げたほうが……」
大和「その必要はありません」
部下1「え!?」
大和「この場で全員、消し炭にして差し上げます」ガジャン
部下たち「「「う、うわああああ!?」」」ダッ
朝潮「や、大和さん……!」オロオロ
中佐「はははは、そんな脅しに、乗るわけがないだろう! 提督、立て!」グイッ
提督「!」ウデヲツカマレ
中佐「行け! 大和をおとなしくさせろ!」
提督「なんで俺が……」
882: 2018/05/20(日) 21:58:18.35 ID:kwIRGGHbo
大和「……提督を、人質に取ろうとするなんて、言語道断! それでも軍人ですか!」ジャキン
中佐「くっ、早く行け! この場を収めなられければ、解体だ! この鎮守府の艦娘を全員解体するぞ!」
朝潮「!?」
提督「……は?」
中佐「は、じゃない! とっとと行け! なんとしても大和をおとなしくさせろ!」
提督「……断る」
中佐「は?」
提督「艦娘を解体だ? そうかそうか、俺の部下を全員解体するってか。じゃあ俺が生きてても仕方ない」ガシッ
提督「そういう話なら、俺は大和の好きにさせるぜ。おい大和、俺は構わねえからやっちまえ」
中佐「ななななにを言ってるんだお前はああああ!?」
提督「さっきは口を出すなと言い、おまけに殴られ損だ。だったらこうなることくらい、想定しろっつうんだよ」
大和「……」ゴゴゴゴゴゴ
提督「いいぞ、中佐を撃て。俺もろともでいいからよ」ガシッ
中佐「おおおおおい!? やめろ! やめてくれ!! 提督、離せ!!」
提督「……解体するんだろう? だったら離せねえな」ミシッ
中佐「し、しない! 取り消す!」
883: 2018/05/20(日) 21:59:05.13 ID:kwIRGGHbo
提督「絶対に、だな?」
中佐「絶対にしない!!」
提督「……よーし、言質は取った。約束だ、朝潮も聞いたよな?」
朝潮「は、はいっ!」
中佐「っ!」
提督「もし約束を反故にしたら……そうだな、中将に油の闇取引のことでも伝えるか。いいな?」ヒソッ
中佐「な……!?」
提督「……」スタスタ
大和「……提督」
提督「つうわけでだ、一応落ち着いてくれるか?」
大和「ああ、よくぞご無事で……! ご安心ください、この大和が……」
ジャキン
大和「目の前の敵すべてを殲滅致します」ギロリ
提督「おい!?」
884: 2018/05/20(日) 22:00:37.95 ID:kwIRGGHbo
大和「さあ、提督は後ろへ。この大和の背へ……!」ハイライトオフ
中佐「て、提督、何をしている! 貴様、約束と言った手前だぞおお!」
提督(別に破ってもいいんだが……大和の手を汚させるわけにもいかねえな。どうしたもんか……)
提督「……」
提督「……大和。ちょっとこっち向け」
大和「はい?」
提督「……」スッ
朝潮「司令官が大和さんの顎に手を添えて、何を……!?」
グイ
大和「!!!」
中佐「な……っ!?」
部下たち「「!?」」
朝潮「こ、これは……!」
敷波「し、司令官が……」
朧「大和さんに……」
電「キスしちゃったのです!!?」キャーー
如月「」マッシロ
神通「き、如月さん!? しっかりして!?」
893: 2018/05/24(木) 00:17:59.58 ID:CmDu42iuo
敷波「ほ、本当にキスしちゃったの!?」
朧「お、朧は、提督はそういうことする人じゃないと思ってたんだけど……」
電「電、見ちゃいました! なのです!!」キャーー
敷波(うわー、青葉さんそっくり……)
不知火「! 待ってください。司令は大和さんにキスをしてないようですよ」
敷波「えっ? どういうこと?」
不知火「司令の右手をよく見てください。大和さんの唇に、人差し指を当てています」
敷波「……ほんとだ!」
電「キスする振りをしてただけなのですか!」
不知火「ええ。顔をぎりぎりまで近づけてはいますが、触れてはいませんね」
如月「ほんと!?」シャキーン
朧(瞬時に戻った……)
894: 2018/05/24(木) 00:18:38.36 ID:CmDu42iuo
不知火「はい。我々は横から見ているからわかりましたが、中佐の立ち位置からは見えてないようですね」チラッ
中佐「」マッシロ
敷波「うわあ……」
電「この一瞬で一気に老けて見えるのです……」
朧「効果はばつぐんだね……」
神通「いい気味です」ニヤリ
如月「いい気味だわ」ニヤリ
朧(如月にも効果はばつぐんだったのに……)
不知火(この二人も本格的に司令に感化されてきましたね……)
895: 2018/05/24(木) 00:19:19.16 ID:CmDu42iuo
大和「……」ポワーーン
提督「どうだ大和。少しは落ち着いたか」(←顔を近づけたまま)
大和「!」
提督「我慢できたらあとでご褒美やるから、おとなしくしてろよ」
大和「!!」コクコク
提督「よし……」スッ
大和(ああ、提督のお顔がこんなに近くに……幸せ……♪)ウットリ
提督「さて、中佐」クルリ
中佐「」マッシロ
提督(効果ありすぎたか……?)
部下2「ちゅ、中佐殿!! しっかりしてください!」
部下3「提督! お前、中佐の大和になにをする!!」
提督「あ? 何を言ってんだ? 俺の大和だぞ?」
大和「俺の……!」ポ
中佐「」ピク
896: 2018/05/24(木) 00:20:33.25 ID:CmDu42iuo
中佐「き……きッ……!」プルプルプル
中佐「きっさまあああああああああああああああああ!!」
部下1「うわああ!?」
朝潮「きゃあ!?」(←ダッシュで提督の後ろへ)
部下2「ちゅ、中佐殿!?」
中佐「その大和は俺の大和だぞおおおおお! それを貴様は、貴様わああああ!!」
提督「おとなしくさせろと命じたから、口を塞いでその通りにしたまでだが?」
中佐「うぎいいいいいいいいいいいい!!!」
提督(このまま血管ブチ切れて、おっ氏んでくれねーかなー)
不知火(司令が心なしか笑っているように見えます)
神通「ええ、楽しんでいるように見えますね」
電「はうっ!?」ビクッ
朧「や、やっぱりそう思いますか」ビクッ
敷波「だ、だよね」ビクッ
如月「司令官、悪乗りしてるわよね……」コクコク
不知火(みなさん同じことを考えてましたか)
897: 2018/05/24(木) 00:21:21.71 ID:CmDu42iuo
部下1「提督、貴様、中佐の大和に手を出したのか!?」
提督「だから、いつ大和が中佐のものになったんだよ。大和の管理者は昔も今も俺だ」
提督「大和はこの鎮守府で建造されたんだぞ? この鎮守府の全権を俺に任せたのもほかならぬ中佐だ」
部下2「中佐への報告が先だろう!」
提督「報告したくても、その中佐はしょっちゅう鎮守府を留守にしてんじゃねえか」
提督「話ができねえから中将にも話を通して、お目通しまで済ませたんだぜ。それのどこに問題があるよ」
部下3「中佐の確認を待つべきだろうが!」
提督「重要な連絡が伝播せず途中で止まってるほうが組織にとっては有害じゃねーか。何考えてんだ?」
提督「そもそも、大和が最初から中佐の部下になる前提で建造されたのなら、最初から中佐の鎮守府に出向かせてる」
部下1「ぐ……」
提督「つうか、この鎮守府の艦娘がどういう経緯で着任しているか、お前ら知らないわけじゃねえよな?」
提督「どんなかたちであれ、この鎮守府に着任した艦娘が余所に異動すること自体、問題視されかねねえぞ」
中佐「それと大和は関係ないだろう! これは命令だ! とっとと大和を引き渡せ!」
898: 2018/05/24(木) 00:22:36.77 ID:CmDu42iuo
提督(まーだ懲りねえのか。もう少しダメージを与えられそうな言葉は……)
提督「んー……命令。命令ねえ……なあ、中佐? 命じていると言うことは、今の大和が俺の管理下にあることを認めているってことだよな?」
中佐「いいから早くしろおおおお!!」
提督「ったく、ヒステリーかよ。どうしてそこまでして俺のお古を欲しがるんだか……」
大和「!!」
中佐「……お、ふ……!!!」
提督(お、刺さったか?)
朝潮「し、司令官! そ、そのような言葉はあまり望ましくありませんので、控えるべきかと……!」
提督「気に障ったか。悪いな」
大和「いえ、そうです! その通りです! 大和はもう提督のものです!!」ダキツキッ
提督「うお!?」
大和「ふふふ……この大和! すでに身も心も提督のものです……中佐のものではありません!!」スリスリ
中佐「き、さ……まぁ……!!!」ギリギリギリギリッ
899: 2018/05/24(木) 00:23:16.41 ID:CmDu42iuo
朧「うわあ……すごい顔」
敷波「嫉妬に狂った人の顔って怖いね……」
如月「私もあんな顔してるのかしら……」シュン
電「如月ちゃんはあんな変な顔してないのです! 大丈夫なのです!」
如月「へっ!? あ、ありがと……」ポ
中佐「許せん! 貴様、俺の大和を傷物にしやがったのか!!」
大和「ですから、あなたのものじゃないと、さっきから何度も……」
中佐「口答えするな!!」チャッ
部下たち「「中佐!?」」
朧「こんなことで銃を抜くの!?」
神通「提督!」
如月「司令官、逃げて!」
900: 2018/05/24(木) 00:24:27.81 ID:CmDu42iuo
朝潮「司令官はお下がりください!」
大和「早く私の後ろに!!」
提督「だ、大丈夫なのか!?」
大和「はい! おまかせくださ……」
中佐「いちゃいちゃしてんじゃねえぞおらああああ!!」ドドドドドド
大和&提督&朝潮「「!?」」
中佐「もう形振り構っていられるか! 大和は俺のものにする!」
中佐「手始めに……ちゅーだあああ!」タコチュー
朝潮「はう!?」ギョッ
提督「おい大和!? 逃げろ!!」
大和(ひいい!? な、なんて気持ち悪い!!!)マッサオ
大和「う、うぶっ」ゴポッ
中佐「!?」
大和「ヴォエエエエ /
中佐「ぎゃあ /
プツン
901: 2018/05/24(木) 00:25:06.66 ID:CmDu42iuo
ピーーーーー[しばらくこのままでお待ちください]ーーーーッ!
(○) ~φ
ヽ|〃
ヽ( ゚∀。)ノ チョウチョダー
三 ノ ノ
三丿 >
.
902: 2018/05/24(木) 00:26:21.06 ID:CmDu42iuo
パッ
大和「……ゲポッ」
中佐「……」ビチャァ…
神通「……これは」アオザメ
電「酷いものを見てしまったのです」
不知火「中佐の顔面に直撃してましたね」ウプッ
朧「大和さん可哀想……」
敷波「……何も見てなかったことにしよっか」
如月「そのほうがいいわね……」
朝潮「し、司令官……」オロオロ
提督「あー……朝潮、ちょっとあっち向いてろ」
朝潮「は、はいっ!」クルッ
提督「……大和」
大和「」ビクッ
903: 2018/05/24(木) 00:27:33.74 ID:CmDu42iuo
提督「俺の声は聞こえてるか? 聞こえてたらそのまま後ろに5歩下がれ」
大和「……」ヨロヨロ
提督「よし。回れ右」
大和「……」クルリ
提督「その場にしゃがんで顔を下に向けて」
大和「……」シャガミ
提督「戻すときは全部戻せよ。そのほうがすっきりする」セナカサスリ
大和「ウエ……ゲホ、ゲホッ……」
提督「朝潮、近くの倉庫から担架の代わりになりそうなものを探してこい」
朝潮「は、はいっ!」ダッ
提督「大和、大丈夫か? 楽になったらドックに行って顔を洗ってくるんだ」
大和「ゲホッ……ぐすっ、も、申し訳ありません、提督……」グスッ
提督「いい、気にするな。今日はもう休んでろ、これで顔隠してけ」ハンカチサシダシ
提督「中佐、あんたも今日は諦めてシャワーを……」クルリ
中佐「……」ベチャー…
提督「……」
904: 2018/05/24(木) 00:28:27.97 ID:CmDu42iuo
中佐「……」
提督「先に埠頭へ戻って水で流したほうがいいな」
中佐「ふっ……ざけるなあああ!」
大和「それは私のセリフです!!」ギロリ
中佐「っ!?」ビクッ
大和「あんな醜い顔を近づけて! 思い通りにならないからと、嫌がらせするにもほどがあります!」
中佐「嫌がらせ!?」ガーン
大和「よりにもよって大好きな人の目の前で、嘔吐させられる辱めまで受けさせられて!」
大和「最早一秒たりともあなたの存在を許すわけにはいきません!」ガシャン!
中佐「ひっ!?」
大和「第一、第二主砲……斉射、」
提督「おい!?」
神通「!」ダダダッ
905: 2018/05/24(木) 00:29:10.07 ID:CmDu42iuo
大和「はじ」
神通「いけませええええん!!」ドロップキック
中佐「ほぎゃあああ!?」ドバキャーーッ ゴロゴロゴロズデーーーン
提督「あ」
大和「めええええええ!」
ドガァァァン
部下2「うわあああ!?」マキゾエフットビ
部下1「中佐!?」
神通「……はぁ、はぁ……」
中佐「」ピクピクピク
部下3「中佐!? 大丈夫ですか!」
提督「おい神通、大丈夫か!?」
神通「はい……大丈夫です!」ニコヤカァァ
提督「お前のそんないい笑顔、今まで見たことねえぞ……」ヒソッ
906: 2018/05/24(木) 00:30:15.65 ID:CmDu42iuo
朝潮「神通さん! えんがちょです!」サッ
神通「はっ!」サッ
朝潮「きりました!」スパッ
神通「朝潮さんありがとうございます!」
提督「なんだその儀式」
朝潮「それと司令官、短い梯子をお持ちしました!」
提督「お、おう。おい、部下のお前ら手伝え!!」
部下3「そ、そんな棒切れで大和の砲撃を防ごうってのか!?」
提督「逃げるに決まってんだろ! これを担架代わりにして中佐を埠頭まで運ぶんだよ!」
部下2「!」
提督「もたもたすんな、撃たれてえのか!? とっとと手伝えくそが!!」
部下1「わ、わかった!」
中佐(吐瀉物まみれで気絶中)「」プスプスプス…
部下1「うっ……」
部下2「これはひどい……」
907: 2018/05/24(木) 00:31:08.56 ID:CmDu42iuo
提督「ごちゃごちゃ言ってねえでとっとと運べ! そっち持て!!」グイッ
部下3「わ、わかった……ううっ、胃酸臭い……」
提督「朝潮と神通は大和を頼む!」
朝潮&神通「わかりました!」
大和「ふたりともどいて! そいつ殺せない!」ガシャッ
朝潮&神通「!?」
ドガァァァン
部下たち「「ひいいいい!!」」
提督「急ぐぞおらあああ!!」
電「司令官さん、行っちゃったのです」
如月「大丈夫なのかしら……」
電「如月さんは司令官さんを追いかけないのですか?」
不知火「追いかけないほうがいいでしょう。如月を中佐に会わせるのは酷ではないかと」
如月「……」ウツムキ
朧「……なにかあった、ってこと?」」
不知火「はい。ですので、ここは不知火が行きます。みなさんは大和さんのサポートを」
如月「……わかったわ。司令官をお願いね」
不知火「はい」コク タタッ
敷波「と、とにかくさ。一応、形としては追い帰しは成功したのかな」
朧「……たぶん」
915: 2018/05/27(日) 17:45:49.73 ID:k78zpKgxo
えんがちょは私も千と千尋で知った口です。
では続きです。
では続きです。
916: 2018/05/27(日) 17:46:56.61 ID:k78zpKgxo
* 鎮守府 埠頭 *
部下3「ひ、酷い目にあった……!」ゼーゼー
部下2「准尉、貴様どういうつもりだ!」ハーハー
提督「どうもこうもねえよ。ここまで大和の反応が酷いとか想像だにしてなかったぞ……」フゥ
部下1「そ、それより、准尉の体力は、なんなんだ……」グッタリ
提督「お前らこそこの距離走ってばてるなんて大丈夫か? とりあえずどいてろ、中佐洗うから」ジャグチヒネリ
ホース<ジョボボボボ…
中佐「」バシャバシャ…
提督「ホースの水ぶっかけられても目を覚まさねえとか、重傷だな」
不知火「司令、中佐は」タタタッ
提督「おう、ご覧の通りだ」
不知火「……これはこれは。ご愁傷様です」ギンッ
部下1(なんだこいつの眼光は……)
部下2(戦艦みたいな目つきしやがって……)
部下3(お前みたいな駆逐艦がいるか……!)
917: 2018/05/27(日) 17:48:29.77 ID:k78zpKgxo
部下1「て、提督准尉! 貴様はこの始末をどうつけるつもりだ!」
提督「始末も何も、ありのままを中将に伝えるさ」
提督「大和が中佐の部下になることを拒否して、それに激昂した中佐が嫌がる大和を無理矢理連れ去ろうとしたら砲撃された、ってな」
部下2「本気か……!?」
提督「砲撃を避けるために突き飛ばしたもんで、中佐が怪我をした。で、あんたらと一緒に急ぎ引き上げた。それで説明としては十分だろ」
不知火「不知火も状況は見ておりましたので、同様に説明可能です」
提督「うちの艦娘が中佐を蹴飛ばさなきゃあ、今頃骨も残ってねえだろうからなあ。中将に何を言われるやら……ま、仕方ねえな」
部下3「……」
提督「一応、大和に吐かれたのは伏せておく。中佐の名誉にかかわるからな」
提督「それともなんだ。お前らまだ大和を諦めてないってか? 俺はそれより、早く中佐を医者に診せるべきだと思うがな」
部下1「……」
提督「もう一回、忠告しとく。無理矢理連れて行って、その道中で沈められても、俺は責任を取れないぞ?」
提督「そもそも中将も、無理に引き抜きを成立させなくていいっつってたぞ。本人の希望が一番だ、ってな」
部下たち「「……」」
提督「どーすんだ?」
部下3「……引き上げる、か」
部下1「そのほうが良さそうだな……」
918: 2018/05/27(日) 17:49:46.91 ID:k78zpKgxo
部下2「そうだな。まずは中佐を病院に連れて行こう」
部下3「俺たちが無理矢理大和の手を引いても中佐がお怒りになるだろうし! な!?」
部下1「それもそうだ。我々が中佐の許可なく大和に触れては、中佐に対して失礼にあたる!」
部下2「よし、大和は諦めて急ぎ鎮守府へ戻るぞ!」
部下3「准尉! 中将にはそのように、くれぐれもよろしく伝えておいてくれ!」ビシッ
提督「承知した」ケイレイ
部下1「そうと決まれば、中佐を連れて撤収するぞ!」バッ
部下2「出港の準備を急がせよう!」ダッ
部下3「俺は船から担架を持ってくる!」ダッ
提督「……」
不知火「司令、あとはみなさんに任せましょう」
提督「そうだな」
不知火「ところで……中佐の名誉と仰いましたが、本心ですか?」ヒソッ
提督「なわけねーだろ。いびりのネタにする」ククッ
不知火「でしょうね……」ハァ…
中佐「」(←引き続き気絶中)
* * *
* *
*
919: 2018/05/27(日) 17:51:14.59 ID:k78zpKgxo
* それからしばらくして 鎮守府 埠頭 *
中佐の船<ザザァァァ…
提督「やっと行ったか」
不知火「行きましたね」
提督「……」
不知火「……」
提督「もういいよな?」
不知火「いいと思います」
提督「……ふぅ……」
不知火(ざまあみろとか言いそうですね)
提督「ざまあ! くっっそざまあ!!」ウラァ!
不知火(ニアピンでした)
提督「ふー……まあまあすっきりしたぜ」
不知火「あれでまあまあですか」
提督「俺が直接殴ったわけじゃねえからな。キ○タマ潰し損ねたのも残念だったが……」
提督「だがまあ、いくらか気は晴れたさ」
920: 2018/05/27(日) 17:52:06.27 ID:k78zpKgxo
不知火「……司令。良かったのですか、中佐を始末しなかったこと」
提督「そいつは仕方ねえよ。氏亡事故なんて起こしたら、この島の鎮守府そのものの存続がやばいからな」
不知火「ということは、これからも中佐から連絡が……」
提督「いや、手はある。今日の定期便の荷物の中に、この前来てたO少尉から、奴の不正行為の証拠の資料が送られてきた」
不知火「は……!?」
提督「それをネタにゆすってやりゃあ、あれもそうそう手出ししてこねえさ」
提督「あの時も中佐にそれをちらつかせてやったら、思いのほか動揺してたしな。見せるだけの切り札としてなら使えるぜ」
提督「まあ、もちっと早く届いていりゃあ、そもそも今日みたいな騒ぎ自体防げたかもしれなかったんだろうけどなあ」
不知火「そ、そのようなものでしたら、むしろすぐ公表して、中佐を排除すべきでは……!?」
提督「早まんな。それをやっちまうと赤城も巻き添えにしちまうんだよ」
不知火「……!」
提督「今、奴の鎮守府をぎりぎりのところでシロく見せてるのは赤城の手腕だ」
提督「そこでもし不正を暴いたら、その不正の大部分を手助けをしていた赤城だってただじゃあ済まねえだろう」
提督「だからあの資料は、あくまで脅しの道具だ」
不知火「そ、そういうことでしたか……! でしたら、不知火は司令の意見に異議ありません」
921: 2018/05/27(日) 17:53:14.14 ID:k78zpKgxo
不知火「それにしても、何故O少尉は司令にそんな資料を送ってきたのでしょうか」
提督「あいつ真面目だからなあ……あいつなりにこっちに手を差し伸べたつもりなんじゃねえか?」
不知火「確かに。それも考えられます」
提督「ま、とにかくこれでしばらくは安泰かね……ったく、よくもまあ次から次と面倒ばかり起こるもんだ、くそが」
不知火「……」
提督「お前が神妙な顔すんな。悪いのは尽く人間どもじゃねーか」
提督「いや……むしろ俺がお前ら巻き込んでんのか?」
不知火「いえ、そうは思いません。放っておいても艦娘が漂着する島です」
不知火「この場に誰がいたとしても、同じように巻き込まれるのはやむを得ないかと」
不知火「それに、わたしや如月のときも、比叡さんや初雪のときも、司令でなければ解決には至らなかったと思いますし」
不知火「司令の機転がなければ、轟沈した艦娘がこの島で生活できなかったのですから。司令が気に病まれるようなことはないと思います」
提督「そうか……助かる」
不知火「いえ。それと、申し訳ないのですが……」
提督「ん?」
922: 2018/05/27(日) 17:54:10.28 ID:k78zpKgxo
不知火「野暮を承知で伺いたいのですが、どうして大和さんにキスする真似を?」
提督「……あー」
不知火「……」
提督「思い付かなかったんだよ、いい方法が」アタマガリガリ
提督「なんだったかな、喚く女の口をキスで塞いで、みたいな下りを、なんかの小説か何かで見たんだよ」セキメン
不知火「!」
提督「中佐もいたし、それを見せりゃあ奴もショックを受けるだろうって打算もあった。まあ、下衆な方法だったよな……」
提督「つうか、一番まずいのは、大和が俺を気に入ってることを知ってて、それを利用したことだよなあ」
提督「最低じゃねーか、俺……」ズーン
不知火「し、しかし! 司令は、その……あくまでフリをしたわけですから」
提督「フリでもなんでも人の心を弄ぶような真似してんだから、最低なのは変わんねーだろ」
不知火「……そこまで自責の念に苛まられるのでしたら、もう覚悟を決めて大和さんとゴケッコンなさったほうが良いのでは?」
提督「それこそ無理だ。俺は誰とも結婚する気はねえ」
不知火「司令……あなたは以前もそう仰いましたが、それを頑なに守り続ける理由はいったいなんなんです」
提督「俺の理想は、この島の艦娘と妖精が、人間や外敵に脅かされることなく暮らせる世界だ」
提督「俺自身も例外じゃない。それが叶ったら、俺はどこかへ消えるつもりでいる」
不知火「本気ですか……!?」
923: 2018/05/27(日) 17:56:34.99 ID:k78zpKgxo
提督「俺はガキの頃から妖精と話ができていたんだが、周りの人間は誰ひとりそれを信じようとしなかった。実の親でさえもな」
提督「俺の話に聞く耳も持たず『嘘をつくな出鱈目を言うな』とただただ俺を殴って矯正しようとした男と」
提督「俺を気味悪がって目も合わさず口も利かず、遠くから観察していただけの女が親だなんて、いくら事実でも認めたくねえし」
提督「そんな奴らの血を引いた俺の遺伝子なんか、絶対に残すわけにはいかねえよ。俺の理想には、俺も邪魔なんだ」
不知火「……」
提督「……それなのに、俺は大和に……何やってんだよ俺は……」ハァァ
提督「まあ、いいか……嫌われるきっかけになりゃあ、それはそれで無為ってわけじゃねえしな……」
提督「そう考えるとな? 不知火、俺も含めて人間がろくでもねえもんだってわかったろ?」
不知火「……司令」
提督「……ん?」
不知火「司令のお考え、理解はしました。司令がいなくても、私たちが平和に暮らせる世界を望んでいると」
提督「……ん」
不知火「ただ、賛同はできかねます」
提督「……」
不知火「……」
提督「……そうか」
924: 2018/05/27(日) 17:57:43.48 ID:k78zpKgxo
不知火「……」
提督「……」
ザザーン…
不知火「……司令。そろそろ戻りましょう」
提督「あー、そーだな。大和のケアもしてやらにゃあな」
不知火(……司令が顔を赤くするところも、あんな風にひどく落ち込むところも、初めて見ました)
不知火(今言った言葉も、変わってくれると良いのですが……)
スタスタスタ…
ザザァ…
(海面から除く潜望鏡と集音管)
チャプ…
(埠頭の海面から伊8が顔を出す)
伊8「……」
925: 2018/05/27(日) 17:58:27.52 ID:k78zpKgxo
* 夕方 執務室 *
通信『……』
提督「お前のところの部下たちにも聞いたと思うが、以上が島で起こった出来事だ」
通信『……』
提督「ひとまず中将にも簡単に事情は報告した。後日、不知火が本営に出向くときにも、大和を随伴させて同じ説明をさせる」
通信『……』
提督「あー、それとだ、N中佐の部下たちなら午前中にL大尉が連れて帰った。多分そっちは問題ねえ」
通信『……』
提督「俺からの連絡はこんなもんか」フゥ
通信『……』
提督「……赤城、聞いてるか?」
通信『……はぁぁぁぁぁ……』ボワァァァァ
提督「マイクに溜息吐くなよ。ノイズすげえぞ」
通信『誰のせいで』ボソボソッ
提督「ん?」
通信『誰(ダンッゴトゴトガコンッ)と思ってるんですか!!』
提督「……とりあえず落ち着け。声でけえ」キーン
926: 2018/05/27(日) 17:59:22.53 ID:k78zpKgxo
提督「つうか机叩くなよ。マイクが音拾ってて何言ってるかさっぱりわかんねえし」
通信『本当にもう……中佐は入院します。全治三か月とのことです』
通信『首を動かせないと言うことで最低でも三週間は絶対安静。しばらくは出歩かないようにと言われています』
提督「ほーお、つかの間の平和ってやつだな、いいことじゃねーか」
通信『他人事だと思って気休めを言わないでください!』プンスカ
通信『中佐も艦隊を指揮する司令官です。まったく仕事をしていないわけではありません』
通信『艦隊の運用や資源調達は人並みにこなしていますし、私利私欲に走りさえしなければ、と思うくらいには能力はあります』
提督「まあ、仮にもあの中将の息子だしな。そのくらいはできて当然か」
通信『おかげで私の仕事がまた増えます。恨み言を三つ四つ聞かされても仕方ないと思ってください』
提督「そりゃご愁傷様で」
通信『……』
提督「赤城?」
通信『さて、建前はこの辺にしましょうか』
提督「……」
通信『私は本っ当についていませんね。どうして私はその場に居合わせていなかったのでしょう』
通信『さぞかし痛快だったでしょうに……!!』
927: 2018/05/27(日) 18:00:33.88 ID:k78zpKgxo
提督「……ビデオでも回しときゃあ良かったか」
通信『居合わせなければ意味がないのです。もしそんなことが目の前で起こったのなら、私がとどめを刺していたのに。勿体ない』
提督「……」
通信『そうですね……良い機会です。提督准尉、これから話すことはくれぐれも内密にお願いしますよ?』
提督「なんだ」
通信『中将と中佐に血のつながりはありません』
提督「……なに?」
通信『中将は二度ご結婚なさっておられます。先の奥様は若くして病に倒れ亡くなられました』
通信『その後まもなく、後妻として結婚した女性の連れた赤ん坊が、中佐です』
提督「はぁ……道理で似てねえはずだ」
通信『中将の奥様を知る方からは、妻を亡くして気落ちしていたところを付け込まれたのだろう、と仰っておられました』
通信『後妻となった女性を一度だけ拝見しましたが、ブランド品に身を包んだ鵺、とでも申しましょうか? 若しくは狐狸妖怪の類かと』
提督「化け物だってか?」
通信『ええ。およそ中将には釣り合いませんね、卑屈そうに頭を垂れながら周囲を値踏みするような目をしていました。気に入りません』
928: 2018/05/27(日) 18:01:34.49 ID:k78zpKgxo
通信『その息子が彼です。中将の息子となった中佐は、それはもう必氏に勉強したそうで。結果、海軍にも無事入りましたが……』
通信『それも結局は、金や権力と言った己の欲望を満たすための努力……というより、執念でしかなかったようですね』
提督「……」
通信『残念ながら今のところ、彼を問答無用で追い出せるほど大きな不祥事や醜聞は掴めていません』
通信『それどころか、海軍の暗部に確固たる地位を作りかねない勢いです。中佐の入院先も、その息がかかった贔屓の病院と思われます』
通信『だからこそ……提督准尉。今日、あなたのもとにO少尉の名前で送った資料は、有効活用してください』
提督「!」
通信『中佐があなたの鎮守府に向かったおかげで、N中佐の件の報告書として、荷物に紛れ込ませることができました』
通信『それをちらつかせれば、墓場島に関わろうとする気もそらせるでしょう』
提督「赤城、お前……」
通信『私の勝手な見解ですが、提督准尉には期待しているんですよ?』
通信『私に何かあったとき、あとを任せられるのは提督准尉になりそうですから』
提督「……ふざけた真似しやがって。俺にお前の首を切らせる気か? 面倒事を押し付けんじゃねえよ」
通信『命を粗末にするな、という、私への激励と受け取らせていただきますよ』
提督「……食えねえ奴だな、あんたは」
通信『ええ、賞味期限が切れているのかもしれませんね。無駄に長生きしていますから……ふふふ』
933: 2018/06/02(土) 13:13:12.54 ID:3frgpjYwo
* 夜 提督の私室 *
提督「……」
コンコン
提督「誰だ」
大和「大和です……お話を、よろしいでしょうか」
提督「……入れ。どうかしたのか」
大和「……」ギィ パタン
提督「……」
大和「提督。お願いです、助けてください」
提督「……助ける?」
大和「……あの男の顔を見たときから、どこからか声が聞こえるんです。嫌い、嫌い、憎い、憎いと」
提督「……声?」
大和「はい。自分でもわからないくらい、あの男の顔に嫌悪感を覚えました。初めて見る顔だったというのに……」
大和「逆に、提督のお顔を写真で初めて拝見したときには、この人はきっと私を大事にしてくれると、なぜか、そう思ったんです」
大和「そして、事実そうでした。提督は、私だけでなく、この島に流れてきた艦娘を、大事にしてくださいました」
提督「……」
934: 2018/06/02(土) 13:14:00.99 ID:3frgpjYwo
大和「中佐のお話、皆さんから聞きました。私のことを執拗に聞いていたと。私に一目惚れしたらしいと」
大和「私は嫌です。私には恐怖でしかありません。きっと中佐は、私のことを諦めてはいないでしょう」
大和「私は不安なんです……! 助けて欲しいんです……!」
提督「ああ、それはやぶさかじゃねえが……」
大和「そのために、お願いがあるんです……」ズイッ
提督「?」
大和「中佐が、私を諦めてしまうよう仕向けたいんです」
大和「私は、提督のもとを離れたくありません。ずっと、お傍にいたいと……そう、思っています」
提督「……」
大和「提督……大和と、契りを結びましょう?」
大和「私が提督のものだという、証を立てれば……!!」
提督「……」
大和「あの時、仰っていたではありませんか。大和を……提督の、お古にしていただければ……!」
提督「……」
大和「提督……?」
935: 2018/06/02(土) 13:14:56.49 ID:3frgpjYwo
提督「……やっぱり駄目だな」ハァ…
大和「え……!?」
提督「悪い。俺は、お前の思いには応えられない」
大和「な……何故ですか……!?」
提督「……俺は、誰とも一緒になる気はない。一生涯、そうするって決めてる」
大和「提督!? それでは私は……大和は、どうすればいいんですか!?」
大和「私は、どこへ行けばいいんですか!!」
大和「提督!!」
提督「……夜風にあたってくる。一人にさせてくれ」スッ
大和「……!」
大和「……どうして」
大和「どうしてなんですか……!」
大和「どう、して……」ポロポロポロ
936: 2018/06/02(土) 13:15:48.05 ID:3frgpjYwo
* 翌日 工廠 *
明石「……」
利根「……」
工廠の隅で体育座りしている大和「……」ドヨーン
利根「の、のう明石よ。大和はいったいどうしたんじゃ」
明石「あー、それがですねえ……ちょっとこっちの部屋で」チョイチョイ
利根「うむ……?」
明石「ええっとですねえ、なんでも提督に夜這いをかけたらしいんです」
利根「夜這い!?」
明石「しーっ! 声が大きいですよ!」
利根「す、すまん! ……いや、なるほど。ということは、あの様子から見るに、失敗してこっぴどく叱られたとかか?」
明石「いえ、謝られながら断られたそうです」
利根「なんと……ふられたと言うのか!」
明石「おかげで今朝からあそこでずーっと落ち込んでいるんです。本っ当、提督は女心というものを理解してなくて!」プンスカ
937: 2018/06/02(土) 13:17:12.88 ID:3frgpjYwo
明石「私、ちょっと提督に文句言ってきます!」
利根「まあ待て明石よ。おぬしは言っておったではないか、提督はこちらが好意を寄せれば逃げていくような男じゃと」
利根「おぬしが提督を説教したとして、そのスタンスは変わるのか?」
明石「……」
利根「即座に言い返せないところを見ると、おそらくその望みは薄いか」
明石「……でしょうね」ムスッ
利根「ならばわざわざ出向くまでもなかろう。もしかしたら、提督にも大和の思いに応えられない理由があるのかもしれん」
明石「やけに提督の肩を持ちますね」
利根「ふむ……明石は随分と提督にキツくあたるな。さては伊8の件、また怒りが収まらんか?」
明石「……まあ、そうですけどね」
利根「吾輩はあの時の提督の立ち回りには納得しておる。いっそ介錯してやるのも、また情けであろう?」
明石「そうかもしれませんが、私は気に入りませんよ……昔、似たようなことがありましたから」
利根「明石が撃たれたのか?」
明石「私は仕方ないんです。以前所属していた艦隊の司令官だったA提督に脅されて、悪事に加担したんですから」
明石「でも、その悪事を調べていた朝潮ちゃんと霞ちゃんが、A提督に濡れ衣を着せられて、私と一緒に雷撃処分を受けたのが許せなくて……!」
利根「……なるほど。伊8にその姿を重ねてしまったか」
明石「はい」
938: 2018/06/02(土) 13:18:19.27 ID:3frgpjYwo
利根「であれば、なおのこと提督へ物申すのはやめておいたほうが良かろう」
利根「あの男にも慈悲がないわけではない。しかし、あそこまで提督に入れ込んでいる大和の求愛を断るとなれば、それなりの理由があって然るべき」
利根「そうでなくても、あの男は無粋な物言いが過ぎるところがある。また感情的になって手を出して、大和に睨まれたくはあるまい?」
明石「……はい」
利根「まあ、一日二日で治って戻ってこられる程度の怪我で済ますなら、お灸をすえる意味で構わないのかもしれんがな!」カッカッカッ
明石「……それなんですけれど」
利根「ん?」
明石「私、あの時は本気で頭に来ちゃってて、提督を思いっきり引っ叩いたんです。氏んでも構わない、ってくらいの力で」
利根「……」
明石「N中佐の鎮守府の軍医さんからは、頬の骨にひびが入っていたと連絡を受けました。レントゲン写真もいただいてます」
明石「でも、次の日にはそれが綺麗さっぱり消えていたんです」
明石「ダメージの度合いにしても、回復力にしても、よく考えたら……いや、良く考えなくてもおかしいと思いますよね?」
利根「……」
明石「提督が海軍に入ったのは、妖精さんと話ができるから、と聞いてます。そのくらいの能力なら、ほかの鎮守府にも持ってる人がいます」
明石「でも、頑丈だったり怪我がすぐ治ったり、大和さんに最初から好かれたりするなんて、聞いたことないんですよ」
利根「……」
明石「提督って、何者なんでしょう。本当に人間なんでしょうか……!?」
利根「……」
939: 2018/06/02(土) 13:20:12.82 ID:3frgpjYwo
* 一方その頃 執務室 *
提督「……」カリカリ
潮「……」カリカリ
提督「……」カリ…
潮「……!」チラッ
提督「……」カリカリ…
潮「……」
提督「……」カリ…
潮「……」ジー
提督「……」
潮「……あの……」
提督「ん、なんだ?」
潮「だ、大丈夫、なんですか? 顔色が、すぐれないようなんですが……」
提督「……まあ、あんまりよろしくねえな」
潮「お、お休みになられたほうがいいと思います……時々、手も止まってますし……!」
提督「……」ボケー
潮「あの……て、提督?」
940: 2018/06/02(土) 13:20:55.31 ID:3frgpjYwo
提督「いや、大丈夫だ。この方が気がまぎれる……」カリカリ
潮「!?」ガタッ
提督「? どした?」
潮「て、提督、今、なんて……」
提督「?」
潮「今、気がまぎれる、って言いましたよ!?」
提督「……あー、そうだな」
潮「うそ……うそです……! 私の知ってる、提督は、そんなこと言いません……!」フルフル
潮「提督がそんなこと言うなんて、ぜ、絶対おかしいです!」
提督「……」
潮「……」プルプル
提督「潮」
潮「は、はいっ!」
提督「俺が……おかしい、だと?」ガタッ
潮「ひっ!」ビクッ
提督「……やっぱり、お前もそう思うか……」ハァァ…
潮「? ??」ビクビク
941: 2018/06/02(土) 13:28:26.61 ID:3frgpjYwo
* それからしばらく後 執務室 *
吹雪「……そんなに様子がおかしかったの?」
潮「うん。あの後、提督は頭を抱えたまま執務室から出ていっちゃって……」
電「それから非番だった電たちを呼びだしたのですね」
吹雪「びっくりしたよねえ! 『潮からドクターストップが出た』なんて言っちゃってたんだから!」
潮(吹雪ちゃんも、提督の真似が上手だよね……)
吹雪「電ちゃん、中佐が来た時の一部始終を見てたんだよね?」
電「はいっ! 見ちゃいました、なのです!」
吹雪(わああ、敷波ちゃんの言う通り青葉さんそっくりだあ……)
電「でも、あのやり取りの中で、司令官さんがへこむような場面はなかったはずなのです」ウーン
吹雪「だとしたら、そのあとかあ。夕食のときも、それほど落ち込んだ様子はなかったし」
電「どちらかというとイライラしてた気がするのです」
潮「そういえば、横からちらっと聞こえてきたんだけど、不知火ちゃんに中佐の鎮守府にいる赤城さんのこと訊いてたかも」
吹雪「赤城さん?」
潮「うん。でも、そのときは電ちゃんの言う通り、イライラした口調だったって覚えてるから」
吹雪「だとすると、昨夜寝るときか、今朝起きたとき、ってことになるのかな?」
942: 2018/06/02(土) 13:29:56.32 ID:3frgpjYwo
コンコン
吹雪「はーい!?」
初雪「……!」チャッ
潮「初雪ちゃん……?」
初雪「……」キョロキョロ
電「司令官さんなら外出中なのです」
潮「なにかあったんですか?」
初雪「……畑の、じょうろが壊れちゃって」
吹雪「あー、とうとう壊れちゃったかー」
潮(初雪ちゃん、畑仕事が気に入っちゃったのね……)
電(意外なのです……)
吹雪「酒保には行ってきた? 明石さんも替えのじょうろを揃えてるはずだけど」
初雪「……」ポ
吹雪「どうしたの?」
初雪「……司令官、夜這いかけられたとかって、聞いちゃって」
吹雪電潮「「「!?」」」
943: 2018/06/02(土) 13:30:48.21 ID:3frgpjYwo
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
初雪「!?」ゾクッ
電「はわわわ……!」
吹雪「き……」
如月「……その話、詳しく聞かせてくれる?」ニコァァァ
吹雪「如月ちゃん……」
潮「……」ガタガタガタ
初雪「……」ビクビクビク
* かくかくしかじか *
如月「そういうこと……司令官を問い詰める必要があるわね」
如月「ちょっと行ってくるわね……!」ニコァァァ
ダッ!
全員「「……」」
吹雪「はー、焦ったあ……」グッタリ
初雪「……っていうか、怖かった」ナミダメ
944: 2018/06/02(土) 13:31:32.35 ID:3frgpjYwo
電「タイミングが悪すぎたのです……」
潮「……でも、今の話が本当だとすると、提督は、大和さんとのお付き合いをお断りしたから落ち込んでるってこと?」
初雪「……だと思う」
吹雪「まさかぁ! なんでも『面倒臭え』で済ましちゃうような人だよ!? 気に病むなんて今までなかったよ!」
電「なのです。電たちが思い悩んでいても、容赦しないで一刀両断してしまうような人なのです!」
潮「た、確かにそうかもしれないけど……うん、そういうことばかり言う人、ですけど」
初雪(潮ですら否定しないんだ……)タラリ
潮「でも、私たちが困っていたら、ちゃんと考えてくれたじゃないですか……!」
電「……そう、ですね。やり方に問題があるときもありますけれど……」
吹雪「自分のやったことに対して堂々としてるから、なんとなく正しいことをしてる気にもなるんだよね……」
潮「そもそも、今回みたいに、問題から目をそらそうとしてるところなんか、初めてだから……」
電「思ったより、事態は深刻……なのですか?」
吹雪「初雪ちゃん、さっきの話、もう少し詳しく聞かせて!」
初雪「う、うん……」
945: 2018/06/02(土) 13:32:30.52 ID:3frgpjYwo
* それからしばらくして 工廠 *
工廠の隅で体育座りしている大和「……」ドヨーン
大和の隣で体育座りしている如月「……」ドヨーン
利根「おい、増えたぞ……」
明石「……」アタマカカエ
初雪「……なにが、あったの?」
明石「如月ちゃんが大和さんの件で提督に問い詰めに行ったんですって」
明石「で、如月ちゃんがいろいろ聞いても生返事を返すから、痺れを切らして『ずっと一緒にいたい』とか言っちゃったんですって」
明石「……そしたら帰ってきた返事が『無理だ』って」
利根「……」
明石「無理ってなんなんですかねえ!! もーちょっと言い方ってものがあるでしょうが!!」クワッ
明石「私、やっぱり提督を一発殴ってきます」ガタッ
利根「落ち着け! 落ち着くんじゃ!!」ガシッ
朝潮「た、大変です!」ダッ
利根「今度はなんじゃ!?」
朝雲「霞が如月とのやり取りの一部始終見てて、激怒しちゃってるのよ!」
朝潮「誰か止めるのを手伝ってください!」
明石「まったくもおおおおお!!」ウガーー!
利根「ええい、本当に面倒くさい奴ばっかりじゃのう!!」クワッ
初雪「……」タラリ
950: 2018/06/09(土) 13:11:01.28 ID:HwAhWaLXo
* 鎮守府 埠頭 *
埠頭から海を見つめる提督「……」
<ハナシナサイッタラ!
<カスミコソオチツキナサイヨ!
霞「ちょっと! 見てたわよ、このクズ!」
暁「ちょ……!?」
提督「……」
霞「あんたねえ、如月になんて言ったかちゃんと理解できてんの!?」
提督「……」
霞「聞いてるの!? 少しは反応しなさいよ!」
暁「も、もうやめなさいよ! 言い過ぎよ!?」
霞「なによ、こんな人の気持ちも分かんないようなクズをかばうとか、どうかしてるわよ!」
提督「……」クルリ
霞&暁「!?」ビクッ
暁(し、司令官の目が氏んでる!?)
霞「な、なによその目は! 落ち込んでるふりでもしてるわけ!?」
951: 2018/06/09(土) 13:12:09.88 ID:HwAhWaLXo
霞「落ち込んでいるのは如月だって同じなのよ! 如月に何か言ったらどうなのよ!」
提督「……」ジッ
霞「な、なによ」
提督「俺に慰めるなんて無理だ。無責任な嘘はつきたかねえ」クルッ
霞「……っ!!」
暁「司令官……!?」
霞「甘ったれてんじゃないわよ!!」ドガッ!
暁「霞っ!?」
提督「!!」グラッ
ドボーン
暁「司令官っ!」
タタタタッ
利根「お、おぬしたち、なにをしておる!」
明石「今、提督がいなかった!?」
暁「し、司令官が! 霞にお尻を蹴られて海に落とされたの!」
利根「なんじゃと!?」
明石「霞ちゃん!?」
952: 2018/06/09(土) 13:13:16.11 ID:HwAhWaLXo
朝潮「霞、あなたはなにをしてるんですか!?」
霞「わ、悪かったわよ……!」
明石「ううん、グッジョブ!」サムズアップ!
霞「!?」
暁「えええ!?」
朝潮「明石さんっ!?」
明石「だって提督はあまりに乙女心を理解してくれてないじゃない!?」
朝雲「そ、それはそうかもだけど……」
霞「そ、そうよ! じゃなかったら、あんな風に如月の気持ちを無下にできるわけないわ!」
暁「で、でも!!」
暁「あの時の司令官、すごくつらそうな顔をしてたわ。如月ちゃんのお願いを、断る前も、断った後も」
暁「たぶん、なんだけど……司令官は、誰かを贔屓したくなかったんじゃないかしら」
明石「贔屓?」
暁「暁は、背も低いし、みんなに比べたら子供だって思うときがたくさんあるわ」
暁「でも司令官は、比叡さんや長門さんと話すときと同じように、暁とお話してくれるもの……」
霞「……それ、人によって態度を変えるのが面倒なだけなんじゃないの?」
暁「!?」ガーン
953: 2018/06/09(土) 13:15:36.02 ID:HwAhWaLXo
明石「……まあ、ある意味、贔屓していない、って話にはなるわね。ったくもう、本当に強情なんだから……!」
朝潮「強情とは、どういう意味ですか?」
明石「如月ちゃんにしても、大和さんにしても、あんなに好意を寄せてるのに、一向にその気持ちを受け取ろうとしないのよ」
明石「そのくせ私たちのお願いとかは、文句を言いながらも聞いてくれるし、心配もしてくれるし……全っ然、素直じゃないじゃない?」
暁「それって、どういうこと?」
朝雲「なんていうか、私たちと接するときに、どこまで踏み込むかってラインを引いてるように思えるわ……」
利根「……」ガシャッ
朝潮「? 利根さん」
零式水上偵察機<ブルーン!
明石「ど、どうしたんですか!? 敵襲!?」
利根「……提督が、海中から浮かんでこぬ」
暁「え」
利根「目視で見つからんから、水上機を飛ばしたのじゃ」
朝潮「ええ!?」
利根「もしやあの男、泳げないのではあるまいな?」タラリ
朝雲「ちょっと……」
利根「最悪、沖に流されたりでもしたら……」
霞「……!!」クラッ
明石「霞ちゃん!?」ガシッ
954: 2018/06/09(土) 13:16:06.22 ID:HwAhWaLXo
朝雲「明石さんソナーない!?」
暁「暁がわかるわ! 持ってくる!!」ダッ
朝潮「すぐ捜索しましょう!」
スーッ
利根「!」
ザバーッ!
伊8「ふう」
利根「い、伊8か!? 丁度良い、提督を見なかったか!?」
伊8「えーと……さっき流されてたんだけど」グイッ
気を失った提督「」ザバァ
暁&朝潮「司令官!!」
利根「でかしたぞ!!」
明石「よ、良かったあぁ……!」ヘナヘナ ペタン
伊8「な、何があったの?」
朝雲「後で話すから、早く司令官を引き上げましょ!」
利根「うむ! 蘇生措置を急ぐぞ!」
955: 2018/06/09(土) 13:18:33.44 ID:HwAhWaLXo
* 工廠 *
工廠の隅で体育座りしている大和「……」ドヨーン
大和の隣で体育座りしている如月「……」ドヨーン
如月の隣で体育座りしている霞「……」ズーン
初雪「また増えてる……」
明石「霞ちゃんが気に病むことはないって言ったんだけど……」
利根「まさか提督がカナヅチじゃったとはのう……」
初雪「え。泳げないの……?」
朝雲「だとしても仕方ないと思うわ。だって提督、民間からのスカウトでしょ?」
朝雲「私が前に所属してた鎮守府のL大尉も、民間からの引き抜きだもん。それまでは海に何らゆかりもなかったって言ってたし」
朝雲「L大尉も泳ぐのが苦手で、沈まないようにするのが精一杯だったわ。提督もそうなのかも」
利根「うむ……そういえば、提督がなぜ海軍に入ってここに着任したのか、吾輩は知らなんだ」
利根「誰ぞ、そのあたりの事情を知っておる者はおらんか?」
朝潮「そういえば、私たちは司令官の昔のことをしりませんでしたね……」
明石「私たちより前にこの鎮守府に着任した子なら知ってそうだけど……」
956: 2018/06/09(土) 13:19:25.89 ID:HwAhWaLXo
島妖精A「……その辺の理由なら、わたしたちでも説明できるが?」ヒョコ
朝潮「ぜ、是非教えていただけませんか!」
島妖精A「ああ、わかる範囲でだが」
島妖精B「ちょっとAちゃん!?」ヒョコッ
島妖精C「そんな勝手なことしていいの!?」ヒョコッ
島妖精A「いいんじゃないか? 別に」シレッ
島妖精たち「……」
* *
島妖精A「まず、提督が海軍にスカウトされたのは、わたしたち妖精と話ができるからだ。これは知っている人が多いと思う」
島妖精A「その後、中将から准尉の階級を与えられ、中佐を補佐せよと命を受けたんだが……」
島妖精A「中佐の悪だくみを知っている妖精との接触を恐れた中佐が、提督をこの島に隔離したんだ」
初雪「なにそれ……」
朝潮「先日来ていたあの中佐が、そもそもの元凶だったんですか……!!」ギリッ
島妖精A「ああ。それからこれは提督にも話していないんだが、中佐がこの島に誰かを捨てて行ったのは、提督が初めてじゃない」
朝雲「え?」
957: 2018/06/09(土) 13:21:22.77 ID:HwAhWaLXo
島妖精A「中佐は、この鎮守府の修繕という名目で、何度かこの島を訪れているが、そのたびに数人置き去りにしている」
島妖精A「おそらく、中佐は自分にとっての邪魔者を封じ込める場所として、この島を使っていたんだろう」
島妖精A「実際、提督が来る前にこの島に置いて行かれた人間たちは、仲間割れやらなにやら起こして、みんな氏んだからな」
明石「通信機はなかったんですか!?」
島妖精A「この島の設備は、提督准尉が着任するまで放置されていたんだ。その当時は食料も通信機も、発電機すらもない状態だった」
島妖精A「提督准尉の着任時だけは、奴の部下が最低限の設備を修理していった。提督が中将に目をかけてもらったからだろうな」
朝潮「それで、妖精さんと話ができる司令官が、協力して鎮守府を立て直したんですね!」
島妖精A「いいや。わたしたちは、その時は全然協力する気はなかった」
朝潮「はい?」
島妖精B「だってねえ……あのころは酷かったんだよ?」
島妖精C「そうそう。その前まで来てた人間たちの仲違いが、ほんっとに見てられなくてねえ……」
島妖精B「いくらわたしたちの姿が見えないからって、あそこまで遠慮なく仲間割れしてるとこを見せられるとねえ?」
島妖精C「わたしたちのほうが人間に絶望しちゃってたもんね」
島妖精A「だからわたしたちも、提督が島に来たときは、早く出て行けと思っていたし、実際にそう提督にも告げた」
利根「それがどうして協力的になったんじゃ」
島妖精A「提督が、砂浜に打ち上げられていた艦娘を弔いたいと言い出したからだ」
艦娘たち「!」
958: 2018/06/09(土) 13:22:34.14 ID:HwAhWaLXo
島妖精B「人間が求める海の平和のために沈んだんなら、同じ人間の提督が弔わなきゃいけない……ってさ」
島妖精C「わたしたち、もともとはその轟沈したみんなに乗ってた装備妖精なんだけど」
島妖精C「そんな風に言ってくれた人は提督が初めてだったからね。一週間かけてみんなを埋葬してくれたんだよ」
島妖精A「それから3か月後くらいだったか? 如月が流れ着いてきたのは」
朝雲「3か月……って、それまで何をしてたの? 艦娘はいなかったの!?」
島妖精A「ああ、いなかった」
島妖精B「提督は無人の鎮守府で、畑を作ったり、漂着した艦娘を埋葬したりの生活をしてたんだよね」
島妖精C「それから修理ドックや建造ドックも壊れたままだったから、その修理のために鉄くずも集めてもらってたんだ」
明石「鉄くず……!」
島妖精A「結局、修理する分の鉄が集まるより前にドックを修理できたから、建造用の鋼材になったんだが」
島妖精A「それに加えて、轟沈した艦娘の残った燃料や弾薬をこつこつとかき集めて、わたしたちが大型建造を実行したんだ」
利根「それで建造されたのが大和というわけか……」
朝雲「なんで大和さんが司令官を好きなのか、わかる気がするわ」
明石「むしろそれが原因でしょうね……ここまで聞いて、やっと腑に落ちましたよ」
島妖精A「ああ。だが、提督が大和の求愛を断る理由はいまいち見当がつかないな」
959: 2018/06/09(土) 13:23:21.95 ID:HwAhWaLXo
朝潮「……それよりも、司令官がそんな壮絶な過去をお持ちだとは知りませんでした」
初雪「うん……正直、重すぎ」
島妖精C「如月が流れ着いてきた時も、いろんな意味で酷かったよ」
島妖精C「なんたって、如月にもいきなり『生きたいか、氏にたいか』なんて聞くくらいだもん」
明石「無神経なところも昔からですか!」
利根「本人に生きる意志があるかどうかを尊重するところも変わっておらんのじゃな」
朝雲「その質問から、どうやって如月が司令官にぞっこんになったのか、すごい気になるんだけど」タラリ
不知火「それは、司令が刺し違える覚悟で中佐相手に立ち回って、如月を助けたからです」ヌイッ
朝潮「ひゃっ!? し、不知火さんっ!?」ビクッ
利根「お、驚かせるでない!」ドキドキ
不知火「それは失礼いたしました」
明石「そ、その話って本当なの!?」
不知火「はい。不知火もそのおかげで中将の配下になれましたので」
朝雲「世の中どう転ぶかわかんないわね……」
不知火「ところで、お話し中申し訳ないのですが、どなたか司令がどちらにおられるか御存知ありませんか」
明石「提督なら医務室でお休み中だけど」
不知火「医務室……ですか?」
960: 2018/06/09(土) 13:24:06.38 ID:HwAhWaLXo
大淀「なにかあったんですか?」ヒョコ
明石「あれ、大淀も来てたの?」
大淀「ええ、新しく配属される方が見えたので、提督にご挨拶をと……」
??「Hey, 大淀! テートクは具合が悪いんデスカー?」
明石「……」
朝潮「……この独特のイントネーションは、もしや」
??「良い機会デース、先にここにいるみなさんにご挨拶しまショウ!」
大淀「そう……ですね。それじゃ、ご紹介しますね」
??→金剛「英国で生まれた、帰国子女の金剛デース! ヨッロシクお願いシッマーーース!」
利根「ほう、戦艦の金剛か! うむ、よろしく頼むぞ!」
朝雲「ねえ、これってタイミング的に最悪じゃないの?」ヒソッ
利根「? 何故じゃ?」
朝雲「だって、金剛さんって言ったら、どこの鎮守府でも司令官に猛アタックしてるって噂の艦娘よ?」
金剛「イエース! テートクのハートを掴むのは私デース!」Thumbs up !
利根「」
朝雲「そうなるわよね……」アタマカカエ
961: 2018/06/09(土) 13:25:11.52 ID:HwAhWaLXo
金剛「大淀、さっそく医務室に行きまショーウ! 私がテートクを元気付けてあげマース!」
大淀「それじゃ、私たちは医務室へ行ってきますね。行きましょう不知火さん」
不知火「はい」
スタスタスタ…
利根「今回ばかりは聊か間が悪いと言わざるを得んのう……」タラリ
朝潮「……あの、こういうのを修羅場の予感、と言うんでしょうか」オロオロ
明石「その提督にノックアウト済みが二人ほどいますからね……」チラッ
初雪「……!」ゾクッ
大和「……提督のはーとを……?」ユラッ
如月「……掴むのは私……?」ユラッ
島妖精たち「「あ」」
大和「そんなこと……」ムクリ
如月「させるものですか……!」ムクリ
大和&如月「「ふふ、ふふふふふ……!」」ギラリ
朝雲「逃げて! 金剛さん逃げてえええ!!」ヒィィィ!
962: 2018/06/09(土) 13:25:48.69 ID:HwAhWaLXo
* 一方その頃 医務室 *
ベッドに横たわっている提督「……ん……!」
暁「! 司令官!」
吹雪「司令官! 目を覚ましましたか!?」
提督「……ん。ああ……」
潮「良かった……!」
暁「司令官、ごめんなさい……」
提督「? ……なんで、お前が謝るんだ」ムクッ
暁「だって、あの時司令官を助けてあげられなかったし、霞も止められなかったし……」
提督「……それはお前のせいじゃねえよ」
暁「あ、それと、司令官は伊8さんが助けてくれたの」
提督「……そうか。あとで礼を言っておく」
吹雪「……」
暁「……」
潮「……あの、なにか、あったんですか?」
提督「……まあ、な」ゴロン
963: 2018/06/09(土) 13:26:26.88 ID:HwAhWaLXo
吹雪「いったい、なにがあったんですか?」
暁「私たちで良ければ、力になるわ!」
提督「……そうだな」
提督「もし、俺が明日この島を出て行く、っつったら、お前らどうする」
潮「ええ!?」
吹雪「!?」
暁「そんな……っ!」
提督「……そういう顔すんな。まだ出て行く気はねえよ」
吹雪「まだってどういう意味ですか!」
暁「司令官!?」
潮「……」
提督「そういう顔すんなっつったろ……お前らもそうなのかよ」ハァ
吹雪「も?」
提督「……ああ」
潮「もしかして、大和さんや如月ちゃんがショックを受けてたのは……」
暁「二人にも、そういうことを言ったの!?」
提督「そうじゃねえよ。俺を含めて人間なんて、ろくなもんじゃあねえ。だから、俺なんかと一緒になるとか言うな、って言ったんだ」
964: 2018/06/09(土) 13:27:16.28 ID:HwAhWaLXo
吹雪「ちょっ、司令官、なんてことを! あの二人の気持ちを知ってて言ったんですか!?」
潮「あ、あんまりです……!!」
暁「それはさすがに言い過ぎよ……!」
提督「……じゃあ、なんて言えばいいんだよ。その場しのぎの嘘なんかついてもしょうがねえじゃねえか」
吹雪「それ、どういう意味ですか」
提督「俺は誰とも結婚する気はねえって意味だ」
吹雪「そっちじゃありませんよ! 島を出て行くつもりかどうかを聞いてるんです!」
提督「……そうだな。人間どもがこの島に手を出さなくなったら、俺は消える。俺も含めて人間は島にいないほうがいい」
吹雪「はあ!? 勝手に結論作って話を進めないでもらえませんか!? 司令官は私たちにとって大事な人なんですよ!?」
提督「そんなもん今だけだ。この島の生活を脅かす、くそどもを追っ払うことがなくなれば……」
吹雪「それだけじゃあ、島を出て行くなんて絶対無理ですね! 仮にそういうことがなくなっても、司令官は私たちに必要な人ですから!」
提督「……何を根拠に。だいたいお前、元いた鎮守府の司令官を見返すんだろう?」
提督「話が通って、そっちに戻ることになったらその話は当てはまらなくなるだろうが」
吹雪「それこそいつになるかわかんないじゃないですか! そんなに私を島から追い出したいんですか!?」
提督「そいつは俺が決めることじゃねえだろ。お前の好きにすりゃあいい」
吹雪「そーゆーことを言ってるんじゃないんです!! そもそも今はそんな話をしてません!!」
提督「そういう話だろ。俺は好きにする、お前も好きにする。それでいい」ネガエリ
965: 2018/06/09(土) 13:28:13.91 ID:HwAhWaLXo
吹雪「こっち向いてください! 司令官!!」
提督「……」
吹雪「司令官!!!」
提督「……うるせえ」
吹雪「っ!!」ブワッ
暁「司令官!?」
潮「……っ!」
吹雪「なっ……何がうるさいんですか! そんな苦しそうな顔して! そんな、助けて欲しそうな顔をしてるくせに!」ポロポロ
吹雪「私たちを見捨てられないような優しい人のくせに、どうして今更そんなことを言うんですか!!」
吹雪「そんなに私たちに嫌われたいんなら、最初から私たちのことなんか放っておいたら良かったじゃないですか!!」
提督「……」
吹雪「司令官、昔言いましたよね! 私たちが戦うのは他人のためじゃなく、自分たちのためだって!」
吹雪「私たちに夢を見させておいて、なんであなただけ勝手にいなくなろうとするんですか! 自分たちのためじゃなかったんですか!?」
吹雪「司令官がいなくなるのが筋書き通りだって言うんなら、私はそんな未来なんかいらない! 来なくていい!!」
提督「……」
吹雪「はーっ、はーっ……ぐすっ」
吹雪「……なんとか言ったらどうなんですか。少しは反論してくださいよ。どうしてだんまりなんですか……!」ボロボロボロ
提督「……」
966: 2018/06/09(土) 13:32:04.51 ID:HwAhWaLXo
吹雪「司令官……!!」ググッ
吹雪「もう……もういいです! もう!! バカ! 司令官のバカっ! 司令官なんか、大っ嫌い!!」
ダッ
潮「ふ、吹雪ちゃん!?」タッ
暁「……」
提督「……」
暁「……ねえ。司令官、追わなくていいの?」
提督「……ああ」
暁「そう……」
提督「……」
暁「今日の司令官はどうかしてるわ。最低よ」
タッ
提督「……」
提督「……どうしろってんだよ」
提督「……しょうがねえだろ、くそ……っ」
「ふーん。しょうがないんだ」
提督「!」ガバッ
伊8「はっちゃん、聞いちゃった。うふふふ」
提督「……」
伊8「ねえ、提督。少し、お話したいなあ。いいでしょ……?」
970: 2018/06/17(日) 00:26:34.31 ID:suol4a/3o
* 北の岩場 *
提督「……」テクテク
伊8「……」テクテク
提督「どこに連れて行く気だ」
伊8「……」
提督「……」
伊8「ねえ、提督? できれば、はっちゃん、って呼んで欲しいなあ」
提督「……はっちゃん、ねえ」
伊8「うん」
提督「……」テクテク
伊8「……」テクテク
提督「……おい、はっ」
伊8「もうすぐ、着きますよ」
提督「!」
伊8「ほら……あれ」
971: 2018/06/17(日) 00:28:37.51 ID:suol4a/3o
提督「……煙?」
伊8「ううん、湯気」
提督「まさか……温泉か?」
(石を組んで作られた露天風呂)
伊8「うん」
提督「この島にこんな場所が……もしかしてお前が作ったのか?」
伊8「そう。この岩場の北側に海底火山があって、その湧水が見つかったから。それを利用して、石も組んで……」
提督「重労働だったろ。誰か手を貸してもらったりしなかったのか」
伊8「ううん? はっちゃん、一人で作っちゃった」
提督「マジか……」
伊8「ちょっとずつ作ったから、そんなに疲れなかったし。もともと、ある程度は自然にできてたから」
提督「……俺をこんなところに呼び出して、どうするんだ?」
伊8「提督。このお風呂に、入って欲しいな」
提督「……は?」
伊8「だめ?」
提督「……さすがに気分じゃねえよ」
伊8「だめ。入って」
提督「……」
伊8「入らないと、怒っちゃうんだから」
提督「……なんだんだよ、いったい」ハァ
972: 2018/06/17(日) 00:31:01.91 ID:suol4a/3o
* *
提督(タオル一枚)「俺だけ入るのか?」
伊8(岩陰で待機中)「ええ、どうぞ」
提督「……」
チャプ…
伊8「御湯加減はどうですか?」
提督「……ああ、丁度いい」
伊8「そうなの? 少しぬるめにしたんだけど……」
提督「熱い風呂は嫌いなんだ。俺はぬるいほうがいい」
伊8「ふぅん……」
提督「……風呂なんて久し振りだ。ずっとシャワーで済ませてきたからな」
伊8「そう。じゃあ、ゆっくり温まってくといいよ?」
提督「……」チャプン
提督「……」ボー
提督(……どうしてこうなったんだ? なんで俺は風呂に入ってる)
提督(いや、それよりもだ。昨夜の大和も、さっきの如月も、あそこまで泣かすつもりはなかったのに)
提督(霞も、吹雪も、すげえ剣幕だったよな……)
973: 2018/06/17(日) 00:32:45.21 ID:suol4a/3o
提督(……)
提督「駄目だな。どうしたらいいかわかんねえ」
提督(あの時素直に溺れてりゃあ、楽だったかもなあ……)ブクブク
伊8「どうしたの?」ヌッ
提督「うお!? な、なんでも……って、お前っ!?」
伊8(タオル一枚)「? はっちゃんがどうかした?」
提督「どうか、って、お前服はどうした!!」ウシロムキ
伊8「お風呂に入るのに、どうして服を着てなきゃいけないの?」
提督「そ……そりゃあ、そうだが」
伊8「お隣、失礼しますね?」チャプン
提督「……俺は先に上がるぞ」グッ
伊8「はっちゃん、提督の服、隠しちゃった」
提督「……」
伊8「提督とは、ゆ~っくり、お話したいなあ……ふふふっ」
提督(嵌められた……)
伊8「そんなに怖い顔しないで。提督、はっちゃんに何をしたか覚えてるでしょ?」
提督「……」
伊8「ほら、こっち向いてください……?」
提督(そういう意味か……観念するしかねえな)チャプ
974: 2018/06/17(日) 00:34:10.79 ID:suol4a/3o
伊8「……提督、元気ないのね?」
提督「お前もさっき見てたろ。吹雪泣かせて、元気出せってほうが無理がある」
伊8「ふうん」ズイッ
(提督の正面に迫った伊8が、提督の首に両手を伸ばして)
伊8「今はそういうの、忘れてくれる?」ギュ…
提督「!!」
伊8「うふふふ……」
伊8「提督、言ってましたよね。この島が平和になったら、姿を消すつもりだって」
提督「お前……」
伊8「言ったでしょ? はっちゃん、聞いちゃったって。不知火との会話も、ぜぇんぶ、聞いちゃったの」
伊8「そんなことはさせません。勝手にどっか行くなんて、そんなこと、許してあげません……!」ギュウッ
提督「ぐ……!」
伊8「抵抗しちゃダメ。提督は、はっちゃんの言うこときくの……!」
提督「……わかったよ。好きにしろ」メヲトジ
伊8「うふふふ……動かないでね」
975: 2018/06/17(日) 00:35:26.03 ID:suol4a/3o
提督「……」
提督「……」
提督「……」
提督(……なんだ? どうして伊8は何もしてこない?)
提督(嬲るつもりか? 頃すんなら一思いにやって欲しいもんだがな)
フニ
提督(……?)チラッ
提督に抱き着いてる伊8「……」
提督「!?!?」
提督(なんだ!? なんで俺は伊8に抱き着かれてるんだ!?)
提督「お、おい」
伊8「……」ギュウ
提督(しがみついてきた……もう何が起こってるのか訳が分かんねえ)ドキドキ
伊8「……」
提督「……」ドキドキ
伊8「……」
提督「……」
伊8「……」
976: 2018/06/17(日) 00:36:50.90 ID:suol4a/3o
* そのまま8分経過 *
提督(やべえ……そろそろ頭かぼーっとしてきた)
提督(……い、いつまでこうしてりゃいいんだ……?)
提督「お、おい……」
伊8「……の」
提督「……の?」
伊8「のぼせちゃったかも……」カオマッカ
提督「おいぃ!?」ザバァ
* 湯船から出ました *
提督「湯冷めすんぞ。ほれ、バスタオル巻いとけ」パサ
伊8「ダ、ダンケシェーン」マキマキ
提督「……で、お前は何がしたかったんだよ」アグラスワリ
伊8「……」チラッ
提督「……?」
伊8「あの、はっちゃん、オリョールにはもう行きたくなくて。自由に、なりたかったの」ストン
提督(……なんでこいつ俺の膝の上に座ってんだ?)
977: 2018/06/17(日) 00:38:00.60 ID:suol4a/3o
伊8「だから、提督がはっちゃんの言うことをきくようにしてしまえば、って思って」ペター
提督(なんでこいつくっついてきてんだ……)
伊8「それで、提督の弱点を探してて……」
提督「……弱点、ねえ」
伊8「提督は、後腐れなく島を出て行きたいから、誰とも深く関わろうとしてないってわかったから」
伊8「提督と、特別な関係になっちゃえば、言うこときいてくれると思って……」ポ
提督「……」
伊8「……」
提督「別にそんなことしなくても、普通に話せばよかったじゃねえか」
伊8「……そ、そうかもだけど、心配だったんです!」ワタワタ
提督「俺はてっきり、ル級にお前を撃たせた仕返しに、この場で始末してくれんのかと期待してたんだがな」
伊8「そ、そんなことしません!」
提督「しないのか?」
伊8「だ、だって、明石からビンタされてた時なんか……すっごい痛そうだったし」
提督「あー……まあ、な」
978: 2018/06/17(日) 00:39:03.94 ID:suol4a/3o
伊8「それに、痛いのより、気持ちいいことのほうが……言うこと聞いてもらえそうだし」カァァ
提督「だから俺にくっついて、色仕掛けで落とそうと?」
伊8「どっちかっていうと、既成事実を作っちゃおうって……」
提督「余計駄目じゃねえか!」
伊8「で、でも、嫌よ嫌よも好きのうち、って言わない?」
提督「……言わねえよ。それにそれ、男が女に言うセリフじゃなかったか?」
伊8「そうなの!?」
提督「いや、俺もわかんねえけどよ……そもそもそれって押し付けじゃねえか。嫌だから嫌だって言うんだろ普通は」
伊8「あうう……て、提督は、はっちゃんは嫌?」
提督「そういう嫌な言い方すんな……そもそもこんなくっついた状態で、嫌だっつっても説得力ねえだろ」
伊8「そう……良かった」ホッ
提督「けどなあ、首を絞めたのはなんでだ?」
伊8「んと……ヤンデレっぽいかと思って」
提督「なんだそのヤンデレって」
伊8「知らないの!?」
提督「知らねえよ……つか、どこから持ってきたんだよそんな単語」
伊8「え、えっと……この前、明石が持ってきた、アレなマンガに載ってた」
提督「……」アタマカカエ
979: 2018/06/17(日) 00:42:49.04 ID:suol4a/3o
伊8「だ、大丈夫……? おっOい揉む?」
提督「大丈夫じゃねえよ! それはお前の頭が大丈夫じゃねえ!! なんで揉ますんだ!?」カァァ
伊8「や、やっぱり嫌なの……?」ウルッ
提督「軽くトラウマになってるだけだ。一歩間違えたら、湯船にゲロ吐いてたかもしれねえんだからな……」
伊8「え」
提督「昔、見ちまったんだよ。バイト先の倉庫ん中でジジババが下半身マッパでヤってたとこ」
伊8「うわぁ……」
提督「しかも店長の嫁さんと店員だったからな……色キチの考えてることなんか理解したくねえ」
提督「この前見ちまったマンガが似たような状況だったもんで、思い出して胃のもの戻したばかりだ」
伊8「提督、そういうの駄目なの?」
提督「よろしくはねえな。だから、お前らに対してもそういうことはしたくねえ」
伊8「ふぅん……だから、提督の魚雷は、元気なかったんだ」
提督「あ?」
伊8「うん。じゃあ、提督? はっちゃん、責任取ってあげる」
提督「は?」
伊8「提督が、ちゃんと女の子と向き合えるように、はっちゃんが、いろいろ教えてあげます!」
提督「お前は何を言ってるんだ」
伊8「はっちゃんは大まじめです!」フンス!
980: 2018/06/17(日) 00:44:13.10 ID:suol4a/3o
提督「別にそこまでしなくてもいい……」
伊8「そ、そんなこと言うと、みんなに、私たちが抱き合ってたこと、ばらしちゃいますよ!?」
提督「……ここへ来て俺を強請ろうってか」
伊8「だ、だって、いなくなったら困ります……また、同じことになったら、嫌だから……」ウツムキ
提督「……」
伊8「……だめ?」
提督「はぁ……わかったよ、しゃあねえな」
伊8「!」パァァ
提督「こうなったら、この島が俺の手を離れても、なんら問題ないようにするしかねえんだな?」
伊8「それは……戦争を終わらせるのと同じか、それよりも難しいと思うけど?」
提督「それはそうと、お前いつまでくっついてんだ」
伊8「ぬるま湯もいいけど、人肌もあったかいなあと思って」ポ
伊8「ほら、はっちゃんずっと海の中にいるから、あたたかいところは好きなんです」
伊8「たまにこうやって、膝の上に乗せてもらえると嬉しいかもしれません」
提督「……ほどほどにな」
981: 2018/06/17(日) 00:45:23.05 ID:suol4a/3o
* 夕暮れ時 北の岩場から鎮守府への帰路 *
提督「……なあ。お前、なんで温泉なんか作ったんだ?」
伊8「単純にはっちゃんが入りたかっただけ。冷たい海の底を航行するから、体が冷えちゃうの」
提督「大変だったろ?」
伊8「うん。手ごろな石を並べて、廃材のパイプとか持ってきて、隙間を砂やモルタルで塞いで……」
伊8「でも、ああいうのを作ること自体初めてだから、結構楽しめました」ニコー
提督「共同の風呂は嫌だったのか?」
伊8「ちょっとお湯が熱かったし、人の出入りもあるから、ゆっくり入っていられなくて」
伊8「お風呂も大きすぎて、落ち着かなかったの」
提督「なるほど。3人も入れそうなスペースがありゃ、一人で入るぶんには十分だもんな」
伊8「提督が良かったら、あのお風呂使ってもいいよ?」
伊8「はっちゃん、背中流してあげる」
提督「……まあ、そのうちな」
伊8「? まだ何か考えてるの?」
提督「ああ。吹雪に謝らなきゃならねえ。酷いこと言っちまったからな」
982: 2018/06/17(日) 00:47:31.13 ID:suol4a/3o
というわけで今回はここまで。
次の投下時に次スレをたてようと思います。
次の投下時に次スレをたてようと思います。
983: 2018/06/17(日) 11:00:47.30 ID:4NeWD3Ii0
更新乙でございます
次レスも待ってる!提督はそういえば性的不能な設定だったのな……
色々人生損してる気がするぞなもし…
次レスも待ってる!提督はそういえば性的不能な設定だったのな……
色々人生損してる気がするぞなもし…
続き:【艦これ】提督「墓場島鎮守府?」如月「その2よ!」
引用: 提督「墓場島鎮守府?」
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