345:◆EyREdFoqVQ 2018/12/28(金) 22:35:48.58 ID:4VeOdYd2o
前回:【艦これ】提督「墓場島鎮守府?」如月「その2よ!」【前編】
やっと書けた……続きです。
やっと書けた……続きです。
346: 2018/12/28(金) 22:36:30.70 ID:4VeOdYd2o
* 島の南東、丘の上 *
ザック ザック
山城「ふ、扶桑お姉様? お、おひとりで大丈夫なんですか!?」
扶桑「ええ、大丈夫よ」ザックザック
初雪「……すごい」アッケ
提督「さすが陸軍御用達のスコップだ、簡単に穴が掘れていくな」
初雪「……これ、戦艦のパワーだからこそだと思う」
吹雪「あれ? 初雪ちゃんどうしてここに?」
如月「初雪ちゃんが農具を管理してくれているから、スコップを持ってきてもらったの」
山城「……は? 農具を管理、って、どうしてこの子が?」
五月雨「初雪ちゃんが畑仕事をしてるんです、ここの鎮守府では」
山城「……嘘でしょう?」
吹雪「嘘じゃないですよ、ここの初雪ちゃんの引き籠り先はビニールハウスなんですから」
山城「あの初雪が畑仕事ですって……!? いったいどんな悪魔の契約を交わしたのよ」
初雪「契約? んっと……月に2回、提督に耳かきをしてもらう契約、なら」ポ
山城「み、耳かきぃ!? ちょっと待ちなさい、何の隠語よそれは!」カオマッカ
347: 2018/12/28(金) 22:37:27.39 ID:4VeOdYd2o
初雪「耳かきは耳かきだけど……いんご?」クビカシゲ
伊8「隠語の『隠』は隠す、ね。『語』は語学の語」チョイチョイ
伊8「山城さんは、何か違う意味を隠してるんじゃないか、って言ったんだと思う」
初雪「……意味、わかんない」ムー
山城「そ、そうなの?」
伊8「顔も赤くしてたし、多分、えOちぃことを考えてたんだと思」
山城「そそそそそんなことないわよ!!?」
初雪「……」ポ
如月(必氏過ぎて却って怪しく見えるわ)
伊8「もしかしたら隠語の『いん』は淫猥のいんかもしれ」
山城「いいいいいいい加減なこと言わないでっっ!!?」
初雪「……い、『いんわい』ってなに?」クビカシゲ
伊8「工口のこと」
初雪「……工口」ポ
山城「ちょっとおおおおお!?」
348: 2018/12/28(金) 22:38:28.87 ID:4VeOdYd2o
提督「おい、調子に乗るな、山城からかうのもそのくらいにしとけ。そういう席じゃねえだろ」
伊8「すみません」ペコリ
初雪「……はい」コク
提督「悪いな山城、無神経が過ぎた」
山城「……戦時中だもの。その辺の感覚が麻痺することくらいは大目に見るわよ」ハァ
山城「なんたって初雪が畑仕事するような島だもの、槍が降ったって驚かないわ……」ハァァ
提督「その割には随分と溜息が多いな」
山城「それは当然よ。なんで私が助かって、時雨が……」
提督「それこそ、ぐじぐじしたってしょうがねえよ。扶桑だってつらいはずだぜ、いろいろとな」
無心に穴を掘る扶桑「……」ザックザック
山城「……」
提督「扶桑、そろそろいいだろ。そのくらいで十分だ、外に出な」テヲノバシ
扶桑「! そうですか……わかりました」ヨイショ
山城「扶桑お姉様、大丈夫ですか?」ヒキアゲテツダイ
扶桑「ええ、大丈夫よ」ニコ
山城「扶桑お姉様……!」ウルッ
349: 2018/12/28(金) 22:39:30.14 ID:4VeOdYd2o
重機<ズゴゴゴゴ…
吹雪「扶桑さん山城さん、穴から離れてください! これから司令官が重機を使って、時雨さんの入った木箱を穴に入れますから!」
山城「!」
提督「……」ガチャガチャッ
重機<キュラキュラキュラ…
朝雲「オーライ、オーラーイ! ストップ!!」ハンドサイン
吹雪「そのままゆっくり降ろしてくださーい!」
重機<ズゴゴゴゴ…
山城「小型のパワーショベルの扱いも上手なのね……当然かしら、これだけ多くの艤装が並んでるのなら」
扶桑「そうね……これだけの艦娘が、ここに眠っているのよね……」
五月雨「……」
吹雪「司令官! オーケーです、ロープをショベルから外してください!」ハンドサイン
重機<キュラキュラキュラ…
吹雪「よし、これで大丈夫……ロープ回収しました!」
朝雲「さ、二人とも行きましょ! 土をかけてあげないと!」
扶桑「ええ、山城?」
山城「はいっ!」
350: 2018/12/28(金) 22:40:40.34 ID:4VeOdYd2o
ザッ ザッ
提督「いつもなら土をかぶせるところまでユンボでやってるんだがな」
由良「いいんじゃない、大事な仲間だったんだもの。自分たちの手で弔いたいのよ」
提督「……まあ、別にそれに文句があるわけじゃあねえさ」
如月「司令官には司令官なりの埋葬の手順があるものね。いつもと違うから、手をつくし足りないって、感じてるんでしょう?」
提督「まあ、な」
ザッ ザッ
朝雲「それじゃ、最後に艤装を上にのせて……」
山城「こう?」
吹雪「はい。少し周りに土を寄せて……これで大丈夫です」
不知火「こちらをどうぞ」
扶桑「お線香ね、ありがとう……これは?」
不知火「紙パックですが、お酒です。妖精さんにお祓いしてもらいました」
山城「お神酒ってわけね。このままおいておくといいの?」
不知火「はい。最後に回収して振る舞います」
351: 2018/12/28(金) 22:41:39.44 ID:4VeOdYd2o
五月雨「お経とか読まないんですか?」
不知火「残念ながらそういったことをできる人がいませんので」
吹雪「司令官も神様や仏様を信じてないので『俺がそういうことをするのはおかしい』と言ってました!」
如月(吹雪ちゃん、司令官の物まね上手ね……)
由良「でも、月に二回、妖精さんたちがお祓いをしてくれているから大丈夫よ」
提督「そういや、明日か明後日だったか」
初雪「そんなことしてたんだ……」
提督「お前が作った野菜とかもお供えしたりしてるんだがな」
初雪「知らなかった……」
吹雪「司令官、神仏は信じてないのに、沈んだ艦娘の供養はするんですね?」
提督「あー、まあな。幽霊の類は信じてるっつうか、この前見ちまったから信じざるを得ねえって感じか」
如月「え」
吹雪「は?」
初雪「なにそれ」
352: 2018/12/28(金) 22:42:42.27 ID:4VeOdYd2o
五月雨「ゆ、幽霊が出るんですか!?」
不知火「……それでいきなり祠を建てると言い出したんですか」
由良「提督さん……本当なの?」
提督「揃いも揃って変な顔すんな」
朝雲「無理もないわよ、司令ってば幽霊信じてなさそうだし、実際に信じてなかったでしょ?」
扶桑「たとえ信じていなくても、見えてしまうものはたくさんありますよ」
全員「「!」」
扶桑「信じているけど見えないものも、見えているのに信じてもらえないものも、世の中にはたくさんありますから」
提督「……そうだな」
全員「「……」」
提督「時雨のほうはもういいのか」
扶桑「ええ、略式の略式ですが、つつがなく」
提督「そうか。俺たちも手を合わせさせてもらうか」
神通「那珂!!」
提督「ん?」フリムキ
353: 2018/12/28(金) 22:43:46.95 ID:4VeOdYd2o
榛名「那珂ちゃん、どこへ行くんですか!?」
那珂「……」フラフラ
提督「なにやってんだ、あいつらは」
明石「あ、提督、こちらにいましたか」
提督「明石? どうした」
明石「いえ、さっき伝えそびれちゃったんですけど、目を覚ましてからの那珂さんの様子がおかしいんですよ」
明石「なんていうか、心ここに非ずって感じで、ふらふらっとドックを出てきちゃったんです」
明石「ああやって榛名さんや神通さんが呼び止めてもお構いなしで……それで追いかけたらこっちに来ちゃったんですが」
那珂「……」ヨタヨタ
山城「……あれは駄目だわ。目から光が失せてるもの」
那珂「……」
提督「やれやれ、いきなり暴れたりしないだろうな」
扶桑「それはないと思います。あの顔は……絶望しかしていない顔です」スッ
提督「扶桑?」
山城「扶桑お姉様!?」
スタスタ…
354: 2018/12/28(金) 22:44:46.48 ID:4VeOdYd2o
扶桑「那珂さん?」
那珂「……」
扶桑「あなたの望みは、なんだったの?」
那珂「……」
扶桑「私には、なんとなくだけど、わかるわ。あなたのその目……全ての望みを失って、どこへ行ったらいいかわからない……」
扶桑「希望も行き場も失った人の目……そんな、目をしているわ」
那珂「……」
神通「那珂……!」
那珂「那珂ちゃんは……ううん、私は……」
那珂「みんなの前で、歌いたかった。ステージに立ちたかった」
榛名「……」
那珂「でも、もう、それもできなくなっちゃった」
那珂「轟沈した、艦娘は……元の場所に、戻れないって……」
那珂「私は……もう、『那珂ちゃん』に、戻れないって……」
那珂「私って……なんなのかな……」
神通「那珂……」
355: 2018/12/28(金) 22:45:50.63 ID:4VeOdYd2o
山城「ちょっと、提督! あなた艦娘の責任者でしょ!? 那珂に何か言ってあげたらどうなの!?」
提督「ああ? 知らねえよ。そいつがどこへ行こうと、どこで沈もうと、俺の知ったこっちゃねえ」
山城「!?」
吹雪(また始まった……)
不知火(相変わらず言葉を選びませんね司令は……)
山城「ちょ、ちょっと!? 艦隊の司令官がそんな考えでやってていいの!? 部下の前よ!?」
提督「関係ねえよ。生きる意志のねえ奴を無理矢理生かしたって、どうせ行きつく先なんか決まってる」
提督「俺は扶桑にだって同じことを言ったし、ここにいる奴らにも言ってんだ。そいつだけ特別扱いして何になる」
山城「そんなのケースバイケースでしょ!?」
提督「違うね。ダブルスタンダードって言うんだよ、そういうのは」
山城「立ち上がるきっかけを作るくらいはできるでしょう!?」
提督「なんでそこまで世話焼いてやんなきゃなんねえんだよ、面倒臭え」
山城「めん……っ!?」
扶桑「……提督。あなたは、彼女を助ける気はないと?」
提督「そうだな。どっかで沈んでこの島に流れ着いたんなら、ここに埋葬するくらいの世話はしてやるさ」
扶桑「時雨のように、ですか」チラッ
356: 2018/12/28(金) 22:47:03.69 ID:4VeOdYd2o
提督「ああ。時雨は無念だっただろうが、これでも幸せなほうさ。ここに埋まってるやつらは、みんな無縁仏だ」
提督「お前らみたいに、縁者が埋葬に参加することも、そいつを看取ってやることも、今までなかったからな」
五月雨「……」
神通「……」
那珂「……誰か……氏んだの?」
提督「D提督鎮守府の時雨。扶桑と山城を追いかけてきて、轟沈して浜に流れ着いて、息を引き取った。今さっき埋葬を終えたばかりだ」
那珂「……」
提督「……」
那珂「そう、なんだ……」フラ…
榛名「那珂さん……?」
(時雨の艤装の前に立ち、艤装を見つめる那珂)
那珂「……」
明石「ど、どうしたんでしょう?」
提督「……好きにさせてやれ、思うところがあるんだろ」
357: 2018/12/28(金) 22:47:47.66 ID:4VeOdYd2o
山城「だ、大丈夫なのかしら……」ハラハラ
扶桑「……」
那珂「……スゥ……」
那珂「♪ La …」
全員「「!?」」ドヨッ…
那珂「♪ Ah Ah …」
伊8「……いきなり歌いだすとか、なにがあったの?」ヒソヒソ
吹雪「さ、さあ……な、何か思うところがあったのかもしれないですけど……」ヒソヒソ
如月「ここは静かに聴きましょ?」ヒソッ
吹雪「……」コクコク
伊8「……」コクリ
榛名(那珂さん……!)ウルッ
358: 2018/12/28(金) 22:48:39.14 ID:4VeOdYd2o
* 執務室 *
潮「え、遠征から帰還しました」
大淀「はい、お疲れ様でした」
朧「提督はまた砂浜ですか?」
♪~……♪~♪~……
暁「? ……ねえ、何か聞こえない?」
霞「……外からみたいね」
* 厨房 *
♪~♪~……♪~……
電「歌のように聞こえるのです」
比叡「……ほんとだ。誰かが歌ってる?」
朝潮「比叡さん、見に行ってみませんか? 朝潮、気になります!」
古鷹「行ってみましょう!」
359: 2018/12/28(金) 22:49:52.31 ID:4VeOdYd2o
* 沖合 *
♪~……♪~♪~……
利根「丘の上で誰かが歌っておるな?」
金剛「ここから聴いていても、excellent な歌声デスネ……」
大和「はい……でも、涙を誘われる、とても悲しげな声です……」ウルッ
敷波「ねえ、ちょっと丘に寄り道して行こうよ。ちゃんと聴きたいし」
初春「うむ。わらわも賛成じゃ」
長門「そうだな。演習結果の報告の前に、行ってみるか」
♪~……♪~♪~……
* 丘の上 *
那珂「♪ La Lah... !」
(歌い終えて大きく息をつく那珂)
シ…ン
那珂「……」
360: 2018/12/28(金) 22:50:47.97 ID:4VeOdYd2o
パチパチ…
那珂「!」
パチパチパチ…!
吹雪「那珂さん、すごかったです!」パチパチ
五月雨「私も感激しました!」
朝雲「アーとかラーだけなのに、すっごい綺麗だった!」
山城「すごすぎて涙が出てきたわ……」グスッ
扶桑「ええ、素敵だったわ」ウルッ
那珂「……」
如月「まさか司令官が涙するところを見られるなんて思わなかったわ」クスッ
提督「泣いてねえよ。むしろ泣いたのはお前らじゃねえか」プイ
明石「いや、でも本当すごかったですよ!」ウンウン
由良「うん、外なのにアカペラで、あれだけよく響く声、聞いたことないわ」
榛名「そんなの、当然です……! 榛名は知っています……那珂さんが、ずっと歌の練習をしてたこと……!」
那珂「…………」
榛名「やっと……やっと、みんなに聞いてもらえて……榛名は、感激しています……!」ブワッ
361: 2018/12/28(金) 22:51:47.09 ID:4VeOdYd2o
那珂「……そっか……これで、良かったんだ……」
神通「那珂、あなたはどうして、ここで歌ったの?」
那珂「……誰かに聞いてもらいたかったんだと思うの……」
那珂「私も、轟沈して……ステージに立つ夢は見られなくなっちゃった……」グスッ
那珂「ここには、私とおんなじ、沈んだ人たちがいて……私と同じ人たちがいて……」
那珂「悲しいだろうな、悔しいだろうなって思ってたら、なにか、してあげたくなっちゃって……」
那珂「そう思ったら、歌いたくなったの。私には、歌しかないから……私の歌を聞かせてあげたい……聞いてほしい、って……」ポロポロ…
神通「那珂……」
那珂「神通ちゃん。那珂ちゃんは、幸せでした。最後にこんなに拍手をもらって……もう、思い残すことはないよ」ニコ
神通「な……」
山城「馬鹿なこと言ってんじゃないわよ!!」ガッシ
那珂「!?」ビクッ
山城「何が『思い残すことはない』のよ!?」
山城「あなたがそうでも、こっちはあんな歌聞いて感動してるところに、これでお別れですはいさようならとか、冗談じゃないわ!」
那珂「え……でも……」
吹雪「っていうか、山城さん、あんな歌って……」
山城「いいから黙ってなさい」ギンッ
吹雪「ハイ」ビクッ
362: 2018/12/28(金) 22:52:48.35 ID:4VeOdYd2o
山城「こほん。あなたが氏ななきゃいけない理由って何よ?」
那珂「え……だって、私、もうアイドルになれないし……」
山城「そんなの誰が決めたのよ」
那珂「轟沈したら……轟沈したらもうチャンスはないって言われてたんだよ!?」
山城「だったらもう一回チャンスを作ればいいじゃない」
那珂「そんな簡単に……」
山城「提督准尉。この島には特例があるのよね?」
提督「お、おう」
山城「轟沈した艦娘でも、この鎮守府に着任すれば艦娘として活動できる、っていう特例。私にも、この子にも適用できるんでしょう?」
提督「おう、できるぞ。ただ……」
山城「ただ、なによ」
提督「那珂と榛名は所属不明だ。こいつらが所属していたっていう艦娘養成所ってのが、海軍の施設にはない」
山城「なんですって!?」
那珂「……」
榛名「どういうこと……!? それじゃ、私たちは……!?」
提督「ドロップ艦と言っても通用するかもな」
那珂「……!!」
363: 2018/12/28(金) 22:53:43.27 ID:4VeOdYd2o
山城「じゃあ、轟沈したことも隠せるってこと?」
提督「まあ、そうしようと思えば、できるだろうな」
神通「そ、それじゃ、那珂は問題なく戻ることができるんですか!?」
提督「ただなあ、その養成所ってのがどうもキナ臭くてな。榛名の話からも、怪しい匂いがぷんぷんしやがる」
提督「だからあまり外に出してやりたくないな。着任の時期も、実際の轟沈の時期と少しずらしたほうが良さそうだと思ってる」
提督「下手にこいつらが養成所と関わりがあることがばれると、面倒臭いことが起こりそうだからな……もちろん、杞憂ならなによりだが」
提督「あと、ほかにも心配なのは、那珂が工廠で見せたフラッシュバックみたいな症状だ」
提督「あれがなくなるまでは人前に出ないほうがいいんじゃねえか?」
那珂「……」
提督「それで、だ。一番肝心なことを聞くぞ」
提督「那珂。お前、生きていたいか、それとも氏にたいか、どっちだ」
那珂「……!」
山城「そんなの決まってるでしょう!?」
提督「お前には聞いちゃいねえよ。那珂、お前の口から答えろ」ズイ
那珂「……あ……」
神通「那珂……!」
榛名「那珂さん……!」
364: 2018/12/28(金) 22:54:36.71 ID:4VeOdYd2o
那珂「わたし、は……」
暁「あ、いたわ!」
那珂「!?」
提督「なんだ?」クルリ
タタタタッ
電「さっき歌っていたのは那珂さんだったのですか!?」
大淀「執務室にもあの声が届いていたので、急いできてみたんですが……」
古鷹「私たち、ここに来る前に歌が終わってしまったから、まともに聞けなかったんです!」
朧「もう一回、歌ってもらえませんか?」
那珂「え……!?」
長門「おお、提督たちもここにいたのか。コンサートはもう終わってしまったのか?」
大和「切ないながらも、とても綺麗な歌声でした」
金剛「Encore をお願いするネー!」
那珂「……」ポロッ
敷波「ちょっ、な、なんで泣いてんの!? 大丈夫!?」
365: 2018/12/28(金) 22:56:00.40 ID:4VeOdYd2o
榛名「那珂さんは嬉しいんですよ。人前で歌って感想を聞くのが初めてですから」ニコ
利根「なるほど、そうであったか。初舞台ではやむを得まいな」
山城「……どうするの? 歌うの?」
那珂「うん……私……ううん、那珂ちゃんは、アンコールに応えます!」ビシッ
那珂「准尉さん! ここで、レッスンを続けさせてくださいっ!!」
提督「……大淀がいるから丁度いいな。今の那珂の台詞、聞いたな?」
大淀「はい。那珂さんも着任ですね」
扶桑「……提督」
提督「ん?」
扶桑「扶桑型超弩級戦艦、姉の扶桑です。先の挨拶では、お見苦しいところをお見せしました……申し訳ありません」
扶桑「私も、改めまして、妹の山城ともども、よろしくお願いしたいと思います……!」ペコリ
山城「扶桑お姉様……!!」
扶桑「山城、ごめんなさい。私の勝手な思い込みで、あなたまで危険な目に遭わせて……」
扶桑「時雨は、私たちの無事を喜んでくれたわ」
扶桑「山城も、私を助けようとしてくれた……それだけじゃなく、那珂も助けようとした」
扶桑「勝手に世を儚んで、命を粗末にするのはあなたたちへの背信でしかない、って思ったわ……」
扶桑「私も生きてみようと思うの。あなたが、那珂を……彼女を一生懸命に励ましたように」
366: 2018/12/28(金) 22:56:48.85 ID:4VeOdYd2o
扶桑「あなたの姉として、恥じない生き方を、選んでみようと思うの」
山城「扶桑お姉様……っ!!」ヒシッ
扶桑「時雨は、許してくれるかしら……」
ポツ…
朝雲「!」
ザァァ…
不知火「雨……ですか!?」
如月「嘘っ、雲一つないのに!?」
サァ…ッ
暁「……すぐに止んじゃったわ」
古鷹「通り雨だったんでしょうか?」
山城「……時雨だわ。時雨が、扶桑お姉様を心配してくれているんですよ……」ウルッ
扶桑「そうね……優しい、雨だったものね」グスッ
提督「……」
扶桑「あの……提督?」
提督「ん」
扶桑「ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いいたします」
提督「おう。まあ、楽にしてくれ」
367: 2018/12/28(金) 22:57:37.26 ID:4VeOdYd2o
榛名「あ、提督! 榛名も! 改めて、よろしくお願いいたします!」
提督「ああ、わかったわかった」
金剛「Umm, どういうことかよくわかりまセンガ、とりあえず happy end デショウカ?」
神通「いえ、これからがスタートなんだと思いますよ?」ニコッ
霞「それで、那珂さんの次の公演はいつなの?」
那珂「公演……っ!」ジーン
那珂「あ、那珂ちゃんのことは、那珂さんじゃなくて那珂ちゃん、って呼んで欲しいなー!」
朧「那珂ちゃんさんですね!」
那珂「さんはつけなくていいよ!?」ガビーン
霞「さんは外しちゃ駄目でしょ?」
朧「朧も良くないと思います!」
那珂「真面目なの!?」ガーン
由良「ま、まあ、本人が言ってるんだから、いいんじゃない?」
潮「い、いいんですか?」
那珂「うん! 駆逐艦のみんなも、気兼ねなく那珂ちゃん、って呼んでね!」
368: 2018/12/28(金) 22:58:55.08 ID:4VeOdYd2o
朝潮「朝潮! 僭越ながら那珂ちゃんに質問があります」キョシュ
由良(言葉に違和感があり過ぎだわ……)
朝潮「先程那珂ちゃんが歌っていた歌は、なんという歌でしょうか!」
那珂「えっ? えーっと、実は……アドリブで歌ってたんだ~」
電「えええ!?」
那珂「思い付きっていうか、その時に思い描いたメロディを、そのままコーラスにしただけで……」
那珂(本当にその場のノリで、切なさを思いっきり歌っただけなんだよね……)
那珂(私のキャラクターと方向性が全然違うし……こんなこと、みんなには言えないよ~……)タラリ
古鷹「すごいです! シンガーソングライターみたいです!」
暁「恰好いいわ!」
那珂「で、でも、那珂ちゃんの本職はアイドルだから……」
長門「……ところで、アイドルというのはどういうものなんだ?」
大和「歌手とは違うのでしょうか」
比叡「別にアイドルじゃなくてもいいですよね?」
那珂「それは言っちゃダメェェェ!!」
369: 2018/12/28(金) 23:00:37.20 ID:4VeOdYd2o
不知火「……」
提督「……不知火? どうかしたか」
不知火「些細なことなのですが」
不知火「那珂さんが歌っていたとき、風が止まっていました」
提督「それは珍しいな」
不知火「それどころか波の音も止まっていました」
提督「……」
不知火「何者かが、那珂さんの歌を聞きたくて、舞台を整えたのではないか、と……」
不知火「司令の仰った、幽霊の仕業ではないか、と、ふと思っただけです」
提督「……かも、な」
374: 2018/12/30(日) 20:37:04.24 ID:FyyjOElCo
* 舞鶴 市街地某所 小さな居酒屋 *
トクトクトク…
J少将「H大将殿にお誘いいただけるとは恐縮至極です」
H大将「ああ、そんなに畏まらんでくれ。君とは一度こういう席で話をしてみたかったんだ」
H大将「遅くまで職務に励んでいるし、深海棲艦の邀撃にも積極的だというのに、艦娘とあまりコミュニケーションもとっていない」
H大将「人付き合いが苦手なだけなのか、それとも何か事情があるのか、ざっくばらんに話してみたくてな」チビッ
J少将「や、私にはそこまで深い事情は……」
H大将「ふむ。そうは言うが、深海棲艦の跋扈を忌々しく思っているところは、俺と同じじゃないのか?」
J少将「……」チビッ
H大将「やつらのせいで、俺たちは多くの船と仲間を失った。海軍を再編せねばならんほどに」
H大将「漁船や貨物船の安全も損なわれ、シーレーンをずたずたにされ、俺たちの生活も、戦力と誇りもずたずたにされた」
H大将「君もそれが心底気に入らないからこそ、今の君の戦果があると思っているんだが、どうだ」
J少将「……それは、仰る通りです」
J少将「海を守るために結成された我々が手も足も出ない……これを悔しいと言わずして何と言いましょうか」
J少将「しかも、深海棲艦に対抗できるのが、艦娘などという年端もいかぬ小娘の姿をしたものたちです」
375: 2018/12/30(日) 20:38:25.33 ID:FyyjOElCo
J少将「情けない。常日頃から心身ともに鍛えていた我々が、あのようなものたちに、自分の命運を委ねなければならない」
J少将「我々は、何のためにここにいるのか。艦娘に生かされている状態に、忸怩たる思いしかありません」
H大将「なるほど。君の思いは尤もなことだ」
J少将「H大将殿。あなたは、艦娘の運用について、何の抵抗も、歯痒さもないと仰いますか」
H大将「いいや、君と同じだ。女子供を矢面に立たせ、俺たちは陸の上でただ彼女たちの帰りを待つ……本来ならば逆だろうさ」
H大将「だが、深海棲艦に我々の攻撃も知識も通用しない以上、戦いは艦娘たちに頼らざるを得ないのが現実だ」
H大将「そして、俺たちが第一に考えなければならないのは海の平和だ。この順番だけは覆しようがない」
H大将「だとすれば、深海棲艦を駆逐し、無力化できる艦娘に頭を下げることこそが、俺の仕事になるのは当然の流れだと思っている」
H大将「いくら男としてのプライドがそれを邪魔しても、今はそれを曲げるしかない」
J少将「……あなたは、それでよろしいのですか」
H大将「ああ、相手が人間ではないからな。言葉は悪いが、亡霊の相手は亡霊にしてもらうしかない」
J少将「亡霊……と、仰いますか」
H大将「旧海軍の艦の名前を名乗っているうえに、その艦の記憶まで持ってきているとなれば、そう呼んでも間違ってはいないだろう」
376: 2018/12/30(日) 20:39:22.65 ID:FyyjOElCo
H大将「だが彼女たちは、人間を守ると言ってくれている。彼女たちは亡霊ではなく、英霊なのだ」
H大将「英霊と呼ぶには、少々……いや、えらく垢抜けてはいるがな」
J少将「……」
H大将「しかしだ。艦娘と深海棲艦の何が違うかと言えば、うまく答えることはできん」
H大将「今もって彼女たちと轡を並べることが本当に正しいことなのか、今もわからん」
H大将「俺たちは、都合よく現れた彼女たちに舌先三寸で言いくるめられて利用されているだけではないか……?」
H大将「そんな得体の知れない者たちに、この国の未来を託している現状は、非健康的というか、望ましい姿とは言えんな」
J少将「は。私もそう思います」
H大将「多くの疑念はある。だが、今は戦争中だ」
H大将「勝たねば人間の存続すら危ぶまれるのなら、手段を選んではおれんのも事実」
J少将「……」
H大将「自画自賛するつもりじゃないが、俺も艦娘の信頼を得て、西方海域の一部を奪還した」
H大将「今なお膠着状態ではあるが、その戦線を維持できているのも、前線に立つ艦娘とそれを指揮する司令官の努力によるものだ」
H大将「そればかりは、評価されて然るべきだと俺は思っている。いかに艦娘の正体がわからないとしてもな」
J少将「……この戦争が、艦娘と深海棲艦との自作自演である可能性があったとしても、ですか」
J少将「奴らのやっていることは、人の家の庭に入り込んで戦争ごっこを始めた傍迷惑な子供と同じです」
377: 2018/12/30(日) 20:40:43.80 ID:FyyjOElCo
H大将「そうだな……民間にしてみれば、戦っている相手が化け物だろうと人間だろうと関係はないし、戦争行為に変わりはない」
H大将「だからこそ、戦争を終わらせるためにも、俺は艦娘を頼るしかないと思っている。艦娘がその後どうするのかはわからんが」
H大将「どこへ行くのだろうな。この戦争が終わったら、彼女たちは……考えたことはあるかね?」チビッ
J少将「H大将殿。まさか、この期に及んで戦争が終わって欲しくないなどとお考えではないでしょうな」
H大将「それはない。不謹慎ながら、良い夢を見させてもらっている、とは思うがね」
J少将「……女性に囲まれた職場が、ですか?」
H大将「それはそれで否定はしないな。君は嫌か」
J少将「いえ……まあ、確かに賑やかというか姦しいというか……非日常的と言いますか」
H大将「苦手かね」
J少将「……否定は致しません」グイッ
J少将「男の見栄に理解を得られずケチをつけられるのは、少々こたえますな」
J少将「それどころか、色気づいて浮き足立つ若い連中に、何度頭が痛くなったことか……」
J少将「スイーツが何やらコスメが何やら……一昔前では考えられません」
H大将「確かにな」フフ
J少将「それから……敢えて言わせていただきますが、H大将殿が秘書艦にしている大井。聊か言葉がきつくありませんか」
H大将「いや、いいんだ。あれこそ俺にとっては良い夢だからな」
378: 2018/12/30(日) 20:41:36.91 ID:FyyjOElCo
J少将「? ……と、仰いますと……」
H大将「大井は、俺の氏んだ妻にそっくりなんだ」
J少将「こ、これは失礼を……!」カバッ
H大将「いや、いいんだ、気にするな。俺が勝手にそう思っているだけだ」
H大将「それに、大井は艦娘の大井であって妻じゃない、似ているだけの別人だ。一緒にするわけにはいかんよ」
H大将「だが、あのきつい言い方が懐かしくてな。ついつい傍に置きたいと思ってしまうんだ」
H大将「もし妻が生きていて、軍に配属されていたとしたら、あんな感じだったんだろうなと……思わずにおれん」グイ
J少将「……」
H大将「大井が俺の気持ちにどれほど気付いているかは知らんが、この話をあいつにする気はない」
H大将「もしこの戦争が終わって、大井が消えてしまうのなら、それこそ亡霊だ。入れ込むわけにはいかん」
H大将「そういう意味でも、戦いが長引くとつらい。俺があいつにのめりこまないうちに、カタをつけたい」
H大将「この戦争が終わった時に、良い夢を見せてもらったと……そう思って終わりたいと思っている」
J少将「……左様でしたか」
H大将「それから……J少将、お前の腹も少し見えてきた」
H大将「艦娘に良い思いはしていないにしても、お前自身は、お前の力で海を守りたいと強く望んでいる……」
J少将「……はっ」コクリ
379: 2018/12/30(日) 20:42:21.95 ID:FyyjOElCo
H大将「それがわかれば重畳。人間を守る気概があることを知って安心したよ。お前には俺の背中を任せても良さそうだ」
J少将「は……恐れ入ります」
H大将「まあ呑んでくれ、ここは俺が奢……」
PPPP... PPPP...
H大将「うん? 俺か? ……すまんな、少し外で電話してくる」ゴソゴソ
H大将「もしもし? ああ、俺だ……」ガララッ
J少将「……」
J少将「……」トクトクトク
J少将「……」チビッ
J少将「……」
パチンッ!
J少将「む……!?」フリムキ
隼鷹(私服)「あんた、何考えてんのさ!」
飛鷹(私服)「ちょっと、隼鷹! いきなりひっぱたくとか、何を考えてるの!」
隼鷹「いいから飛鷹は黙ってて。R提督、いくらなんでも、あんまりだと思わないのかい!」
R提督(私服)「……」ヒリヒリ
380: 2018/12/30(日) 20:43:18.00 ID:FyyjOElCo
隼鷹「あたしはいいさ、もともと酒好きだし、ここで言われても構わないよ。あたしはそういう女だからね!」
隼鷹「でもねえ! 飛鷹はそうじゃないんだよ! こんなところで、あたしと一緒くたにしていい女じゃない!」
飛鷹「隼鷹! やめてったら!」
隼鷹「わかってんの!? R提督! カッコカリとはいえ、こういう話ってのは一大事なんだよ!」
R提督「……すまない」
J少将「何を騒いでいるのかね」スッ
飛鷹「す、すみません、すぐ静かにしますから……!」
J少将「……R提督、と言っていたかな。私はJ少将だ」
隼鷹「げ……っ!」
R提督「! こ、これは大変失礼いたしました!」バッ
J少将「ん……軽空母、隼鷹だな。貴様、艦娘でありながら、酒の席とはいえ自身の司令官に手をあげるというのはどういうことかね」
隼鷹「う……」
J少将「R提督。我々が守るべき国民もいるような席上で痴話喧嘩など、見苦しいぞ。恥を知りたまえ」
R提督「も、申し訳ありません!」
381: 2018/12/30(日) 20:44:01.67 ID:FyyjOElCo
隼鷹「い、いや、J少将、ここはあたしが悪いんですよ。こういうお店に行ってみたいってR提督に……」
J少将「ふう……どうやら教育が行き渡っておらんようだな」
R提督「申し訳ありません!!」
飛鷹「と、とにかくお店を出ましょ!? J少将、申し訳ございませんでした」ペコリ
J少将「……」クルリ
飛鷹「ほら、R提督も、早く!」
R提督「……二人とも、ごめん」
隼鷹「……ま、まあ……出ようよ、な?」
ガラララッ
H大将「うん? 今出て行った3人組……女のほう、なんかどっかで見たような……」
J少将「気のせいでしょう」
H大将「そうか?」
J少将「……」
382: 2018/12/30(日) 20:44:44.18 ID:FyyjOElCo
* ???? *
白衣の男「……ええ、残念ながら、反応は確認できませんでした。轟沈後も1時間計測しましたが、変化なしです」
白衣の男「はい、計測器は轟沈後1時間で自動的に壊れる仕組みでして。はい、仕様です」
白衣の男「出撃させる前にも、同型艦を見せしめに頃して見せたんですが……はい」
白衣の男「ご期待に添えず申し訳ありません……いえ、本当に申し訳なく思っていますよ。我々としても残念な結果で……はい」
白衣の男「しかし……本当にどちらが早いでしょうかね。深海棲艦の鹵獲と、艦娘から深海棲艦を作るのと」
白衣の男「諦めるなど滅相もない。あれらは我々の貴重な研究材料です」
白衣の男「頭の先からつま先まで、髪の毛一本無駄にする気はありません。はい……はい……承知しております」
白衣の男「鹵獲する際のリスクを考えれば、深海化させることができたときのメリットは計り知れません……ええ」
白衣の男「はい、我々としては、いただけるならミンチでも構いませんよ。やつら、倒すと文字通り水の泡になりますからね」
白衣の男「かけらが残るだけでもありがたいというもの……はい」
白衣の男「はい。では、2日後に……はい、お待ちしております。失礼いたします」
ピッ
白衣の男「……ふう」
スーツの男「いつも悪いな」
383: 2018/12/30(日) 20:45:35.86 ID:FyyjOElCo
白衣の男「いいさ、あの人はなんだかんだで気難しいからな。機嫌を損ねて研究が続けられなくなるのは俺も困る」
白衣の男「とはいえ、あそこまでやったなら、少しは深海化の兆候が現れてもいいと思うんだが……」
スーツの男「艦娘に絶望を与えてやれば深海化すると言われてはいるものの、そういった事実を直に確認したわけでもない」
スーツの男「奴らもなまじ思考が人間らしいから、どうショックを与えればいいか、個体差も考慮しないと駄目なんだが……」
白衣の男「艦娘は戦争中の船の記憶を引き継いでるやつもいる。少々残酷なシーンを見せた程度じゃ動じないだろう?」
スーツの男「一部のクライアントの意向だよ。若い娘の無残な姿に興奮するのか、なにかと理由をつけて派手な処刑を見たがるんだ」
白衣の男「やれやれ、平和だな。この前の、艦娘切り裂き事件の犯人のほうが余程可愛げがある」
スーツの男「ああ……あれか。重巡の艦娘をバラして飾ってたやつ」
白衣の男「そいつの精神構造には興味がわいたな。お前はどう思う」
スーツの男「好きな画家のいろんな作品を集めておきたいコレクター、ってところじゃねえか?」
白衣の男「なるほど。ともあれ、わざわざ防腐処理をして綺麗に飾っておいたというあたり、まともじゃない奴だってことは確かだ」
スーツの男「俺たちが言えたセリフか?」ククッ
白衣の男「それもそうだ」フフッ
ゴポッ
白衣の男「ああ……そうだ、さっきの電話だが、軽巡ヘ級を鹵獲できたそうだ」
スーツの男「なに!?」ガタッ
384: 2018/12/30(日) 20:46:35.43 ID:FyyjOElCo
白衣の男「現地で冷凍処置済み、あさってここに届くらしい」
スーツの男「そうかそうか! そりゃあ楽しみだ!」
ゴポゴポッ
スーツの男「お? なんだ? お仲間の到着を待ちわびてるのか?」
白衣の男「あまり刺激するな、データが取れなくなる。お前、暴れたら抑えられるのか?」
スーツの男「首だけだぞ?」
白衣の男「噛みつかれても知らんぞ」
スーツの男「大丈夫だ、お前も負けじと噛みついてきてるじゃないか」
白衣の男「……」
スーツの男「冗談だよ、そんな顔するなって」
白衣の男「そいつにはもう少し役に立ってもらわなきゃ困る。少しは丁重に扱え」
スーツの男「わかってる、わかってるって。で、できそうなのか? 例の話」
白衣の男「J准将がいい話を持ってきてくれた。昔、深海棲艦の艤装の武器化を考えてて捕まったやつがいたよな?」
白衣の男「そいつの仲間の中佐とか言うやつが、その時の成功例と失敗例のデータを隠し持っていたらしい」
スーツの男「残ってたのか!? 全部特警に消されたと思ってたのに!」
385: 2018/12/30(日) 20:47:44.19 ID:FyyjOElCo
白衣の男「ああ。それもあさって一緒に届く予定だ」
スーツの男「おいおい、そっちのほうが重要じゃないか! やったな!」
白衣の男「どれだけ信用できるデータかわからないからな。まあ、検証してうまくいけば儲けものだ」
白衣の男「お前のほうこそうまくやれよ。ヘ級を捕まえるのにだいぶ骨を折ったらしい、深海化の話も釘を刺されたぞ」
スーツの男「ああ、それなんだが、ここまでのデータで、艦娘を深海化させるのには深海棲艦からの干渉が必要だと見込んでるんだよ」
スーツの男「できればそのヘ級、俺にも使わせてもらえると嬉しいんだが?」
白衣の男「……そういうことなら、仕方ないな。所長にも掛け合ってみるか」ギシッ
スーツの男「助かる!」ガタッ
白衣の男「善は急げだ。所長に新しい設備の話もしなきゃな」ピピッ
スーツの男「ああ!」スタスタスタ
扉<ガチャッ ガシャン
(部屋を出ていく男たち)
(重い鉄製の扉が閉まって、部屋の明かりが落ちる)
コポッ…
(発光するモニターと計器類、そして、部屋の中央に置かれた、青い液体に満たされたカプセル)
(無数のコードを突き刺された、首だけの姿の重巡リ級の薄く開かれた目が、青く淡い光を放っている……)
393: 2019/01/03(木) 18:07:06.23 ID:NqQruqkKo
* 舞鶴 J少将の部屋 *
ガチャ
J少将「……戻ってきていたか」
K中佐「はっ。本日の任務、完了しました」
J少将「ん、良くやった。先方は良い反応だったか?」
K中佐「はい」コクリ
J少将「そうか。ならば良い」
K中佐「……少将閣下、意見具申、お許しを」
J少将「なんだ?」
K中佐「あの男は……中佐は信用できるのでしょうか」
K中佐「彼奴は保身のために仲間を売り渡した男です。そんな男と……」
J少将「フ、心配するな。そも、奴をお前と同等に扱う気はない」
K中佐「……」
J少将「中将の息子とはいえ、所詮は血の繋がりも、誇りも品位もないどこぞの馬の骨だ」
J少将「馬車馬のように働かせ、馬脚を現す前に使い捨ててしまえばよい」
K中佐「は……」コクリ
394: 2019/01/03(木) 18:08:02.02 ID:NqQruqkKo
J少将「調子には乗せておけ。奴の情報の見返りの餌くらいはわけてやると良い」
K中佐「承知しました」
J少将「ん……それから、R提督というやつの処分が必要だ。酒の席で艦娘に平手打ちをくらっていた」
J少将「そのような情けない男など、我らの同胞には要らん。適当な場所に捨て置くよう、調べて手配しろ」
K中佐「はっ、承知いたしました。失礼します」
扉<チャッ パタン
J少将「……」
カーテン<シャッ
ドアの鍵<カチャン
部屋の照明<プチッ
J少将「……」ギシッ
(カーテンを閉じて部屋の照明を落とし、真っ暗な部屋で椅子に座って目を閉じるJ少将)
J少将(……私は、海を守るためにこの仕事を選んだ)
J少将(私はこの仕事に文字通り命を懸けて、様々な犠牲を払い、決断し、この地位にまで上り詰めた)
395: 2019/01/03(木) 18:09:42.07 ID:NqQruqkKo
J少将(それを……我々の培った技術や戦術を深海棲艦にぶち壊しにされ……)
J少将(我々の職場や規律を艦娘に乗っ取られ……未曽有の危機に若い部下たちは鼻の下を伸ばして迎合する始末)
J少将(何より、妖精などという不確かな存在が見えると言うだけで、何の経験もない民間人を鎮守府の責任者に据えるなど前代未聞……!)
J少将(ふざけるな……! これまでの、私の努力はなんだったのだ……!!)ギリッ
J少将(上層部も上層部だ……! 得体の知れない存在たちにへらへらと媚び諂い、戦争の主導権を握らせる……)
J少将(終いには、単なる艦娘のリミッター解除を、ケッコンカッコカリなどという浮かれた儀式に倣って、身も心も明け渡す……)
J少将(これでは残るのは艦娘に飼い慣らされた腑抜けばかりだ……まったくもって腹立たしい……!)ミシッ
J少将「……」
J少将(だが、今少しの辛抱だ)
J少将(艦娘がいなくても、戦争を終わらせることができれば良いのだ)
J少将(深海棲艦の装甲を武器に加工する……)
J少将(何をどうやったのか知らんが、鹵獲した深海棲艦を武器にする技術を、中佐とやらが作ったと聞く)
J少将(それが事実ならば、深海棲艦を効率よく駆逐するための、最上の手段として利用できる……!)
J少将(更に別の話を聞いていけば、艦娘と深海棲艦はもとは同じだと言う……)
J少将(同じ時期に出現し、お互いを攻撃し始めたのだからな。この戦争は艦娘と深海棲艦の自作自演だとしか思えん)
J少将(いずれにしても、もとが同じ存在なのなら、艦娘を素材に武器を作ってしまえば、両方とも駆逐できる……)
J少将(我々の戦場を、仕事場を取り戻せる!)
396: 2019/01/03(木) 18:10:44.99 ID:NqQruqkKo
J少将(勿論、艦娘のまま、やつらを武器にしたのでは反発も買うだろう)
J少将(艦娘をどうにかして深海棲艦にすることができれば、その心配もない。それどころか、艦娘運用の危険性も周知させられるというもの)
J少将(そのためにも、あの研究所には成果を出して貰わねばならん……)
J少将(そのためにも……)ギリッ
J少将(この顔は、何が何でも隠しておかねばなるまい)スッ
J少将「……ふう……」
部屋の照明<カチッ パッ
ドアの鍵<カチャン
カーテン<シャッ
J少将「……本営に戻るか」スクッ
397: 2019/01/03(木) 18:11:35.94 ID:NqQruqkKo
* 一方その頃、屋外 *
コツコツコツ…
K中佐「……」
K中佐「……!」クルリ
K中佐「……?」
コツコツコツ…
ガチャ バタン
ブロロロロ…
青葉「……」コソッ
* * *
* *
*
398: 2019/01/03(木) 18:13:45.87 ID:NqQruqkKo
* それからしばらくして *
* 墓場島鎮守府 執務室 *
榛名「♪~」ニコニコ
提督「……」シンブンナガメ
榛名「♪♪~」ニコニコ
提督「……榛名」
榛名「はいっ!」ニッコニコー
提督「近い。ちょっと離れろ」
榛名「そうでしょうか? 触ってはいないのですが」チョコン
提督「……もう少し離れろ」
榛名「ちょっと離れろと言うことでしたので、一寸、つまり3センチ弱離れてみたのですが、不足でしたでしょうか」クビカシゲ
提督「せめて1メートルは距離とれよ……ほぼ密着状態じゃねえか」ハァ
提督「俺がソファで新聞読んでんのに、その隣に座って肩くっつけて新聞じゃなくて俺を見てる秘書艦ってなんなんだよ」
榛名「榛名は少しでも提督のお傍にいたいと思いまして!」
提督「なんでだよ……」
榛名「榛名は嬉しいんです。榛名の知っている男性は、みんな私たちを『もの』としか見てくれませんでした」
榛名「でも、提督の目は違います。ちゃんと、私たちとお話ししてくれる、安心できる瞳です!」
提督「……どうだか」
399: 2019/01/03(木) 18:14:38.15 ID:NqQruqkKo
榛名「ふふふっ、そんな風に冗談を言っていただけるのも、榛名は嬉しいんですよ?」
提督「冗談言ったつもりはねえんだがな……それにしたって、随分な場所にいたんだな」
榛名「はい。今思えば、自由や、希望のない場所だったと思います」
榛名「薄暗い独房のような部屋で、誰とも触れ合えず……たまに外に出られたと思えば、四六時中監視されて……」
榛名「それが普通だと思っていました。実際には、全然違っていたんですね」
提督「……」
榛名「那珂さ……那珂ちゃんは、隣の部屋だったんです」
榛名「そこから漏れ聞こえてくる歌声が、とても元気で、綺麗で……もっとたくさんの人が聞ければいいのに、と思っていました……」ウツムキ
榛名「あのとき集められたメンバーは、その独房から選ばれた人たちでした」
榛名「集められて任務を任され、出発する直前に……」
提督「那珂の同型が殺されるところを見せられたのか」
榛名「はい……そうして、榛名と那珂ちゃんは、運よくこの島にまで流れ着きました」
榛名「でも、それ以外の……随伴していたみんなは、もうどこに行ったのか……」
提督「……」
榛名「今、榛名は幸せです。ですが、こんなに幸せで良いのでしょうか」
400: 2019/01/03(木) 18:15:39.54 ID:NqQruqkKo
榛名「本来なら、あの時一緒に出撃したみんなも、一緒に幸せになれたのではなかったのでしょうか」
榛名「私は……私だけが、幸せになって良いのでしょうか」
提督「……そんなもん、考えたって意味ねえよ」
榛名「!」
提督「誰だって自分の命が惜しいだろ。自分だけで手一杯の奴が誰かを助けようとしたって、まともな結果になりゃしねえよ」
提督「それとも、お前がもっと強かったらこんなことにはならなかった、ってか? それこそ思い上がんなって話だ」
榛名「……」
提督「ま、沈んだ連中にしてみりゃあ、なんでお前らばかり、って嫉妬されるかもしれねえな」
提督「それが嫌なら……そうだな、毎日あの丘で手を合わせるとかしてりゃ、許してもらえるかも……な」
榛名「提督……!」ウルッ
扉<コンコン
金剛「金剛デース!」
榛名「!」
提督「おう。入れ」
401: 2019/01/03(木) 18:17:40.08 ID:NqQruqkKo
扉<チャッ
金剛「Good morning ! Oh, 今日の秘書艦は榛名でしタカ……ン? 目元が赤いデスネ?」
榛名「は、榛名は大丈夫です!」アセアセ
金剛「つらい記憶でも思いだしまシタカ? 素直に私に言うといいデス、くれぐれも無理はイケマセンヨー?」ニコッ
榛名「は、はいっ!」
金剛「ところでテートク、何か御用デスカ?」
提督「……お前に、悪い報せだ」シンブンサシダシ
金剛「!」ガサッ
提督「ここの、お悔み欄に載っているQ中将。お前がいた鎮守府の司令官で間違いないな?」
榛名「え……!?」
金剛「……」ペラッ
金剛「……その通りデス」コクッ
金剛「そうデスカ……亡くなられたのデスネ」
提督「ああ。それから、これを見ろ」スッ
金剛「! これは……!!」
提督「Q中将の奥さんからの手紙だ」
金剛「!!」シャッ ガサッ ペラッ
提督「……」
402: 2019/01/03(木) 18:20:34.55 ID:NqQruqkKo
金剛「……」ペラッ
金剛「……良かった……奥様は、Q中将と仲直りできたそうデス……!」ウルッ
提督「……」
金剛「Q中将は強情な方でシタ……頑なに見栄を張っていマシタガ、奥様の愛が、やっと通じたんデスネ……!」
金剛「Letter には、Q中将と最後の時間を過ごすことができたと……書いてありマス」グスン
金剛「喪主も、つとめられると……本当に、良かったデス……!」
提督「……しかし、そうなると鎮守府はどうなるんだ」
金剛「Ah, それでしたら、既にQ中将の代理の司令官を立てていたそうデスから、その方が正式に着任することになると思いマス」
提督「なるほど。じゃあ、心配はしなくていいな?」
金剛「いいと思いマス」ニコッ
提督「そうか」
金剛「……テートク。私も、奥様にお返事を出したいと思いマス」
提督「そうか、いいんじゃねえか。明石のところで便箋も何種類か扱ってるはずだ、いいのを探してこい」
金剛「そうさせていただきマース! 善は急げ、デスネー!」ダッ!
扉<チャッ パタン
榛名「……」
403: 2019/01/03(木) 18:22:52.94 ID:NqQruqkKo
提督「……急いでても扉の締め方は優雅なんだな」フフッ
榛名「金剛お姉様は……」
提督「前の鎮守府の司令官……Q中将が倒れた時に、奥さんを呼んだのがQ中将は気に入らなかったらしい」
提督「それでこの島に追い出されてきたんだ。理不尽だと思わねえか?」
榛名「……」
提督「それでも金剛は、Q中将夫婦のことを心配してたわけだ。ったく、どんだけお人好しなんだかな」
榛名「……いえ、それでこそ金剛お姉様です。榛名は自分のことしか考えられず、未熟でした……」
提督「そうか? お前も仲間のことを案じてたじゃねえか。そこまで気に病むな」
提督「だが、この鎮守府には、大事な相手を失った奴が金剛以外にも数人いる。あんまり刺激しないように頼むぜ」
榛名「そうなんですか……! わかりました、自重致します」ペコリ
提督「ああ」シンブンペラリ
新聞『勤務地移動:R提督(舞鶴→ショートランド泊地)』
提督「……」
新聞『退役:S提督(呉)』
提督「……こいつ……!」
榛名「?」
スクッ
キャビネット<ガシャ
提督「……」ペラッペラッ
ファイル『 ○ S提督鎮守府 吹雪 ○月×日 』
提督「……」
榛名「提督? どうかなさったんですか?」
提督「……いや、なんでもねえ」パタン
榛名「……?」
413: 2019/03/03(日) 18:42:34.44 ID:E2VKzWIyo
* 太平洋上 某所 *
(輸送船の甲板上で、N提督が佇んでいる)
妙高「N大尉」
N大尉(中佐から降格)「……」
妙高「……N提督。中にお入りにならないのですか?」
N大尉「ん、ああ……そうだな、今の俺は大尉だった。すまん、妙高」
妙高「お寒くありませんか?」
N大尉「寒いには寒いが、もう少し、この景色を眺めていたいんだ。見ろ、大湊がもう見えなくなった」
妙高「……」
N大尉「俺は、何を見ていたんだろうな」
N大尉「お前たちのことをろくに見ていなかったのに、こんな大きな海を見張っていた気になっていたと思うと、情けなくて仕方ない」
妙高「……」
N大尉「あいつらには、詫びを入れることすら許されなかった。一目会って、頭を下げたかった」
N大尉「いや、そもそも許してもらおうと思うほうが間違っているか。俺の顔も見たくないだろうしな」
妙高「……」ハァ
414: 2019/03/03(日) 18:43:35.56 ID:E2VKzWIyo
N大尉「妙高。お前も俺みたいな男についてくる必要はなかっ」
ゴンッ
N大尉「あだっ!?」
妙高「N大尉。私、言いましたよね? 今後そういう後ろ向きなことを言ったらげんこつですよ、って」
N大尉「本気だったのか……」ジンジン
妙高「良い大人なんですから、何度も言わせないようにお願いしますね」
N大尉「わかった。気を付ける」
妙高「はい」コクリ
N大尉「ただな、妙高……俺の処遇は本当にこれだけで良かったんだろうか?」
妙高「言った傍から、まだ仰いますか」
N大尉「腑に落ちないんだよ。これから向かう単冠湾は、大湊の目と鼻の先だ」
N大尉「俺に対する罰も、艦娘の指揮権の剥奪と二階級の降格だけ」
妙高「十分ではありませんか」
N大尉「……十分だと思うか?」
妙高「N大尉は変なところが厳しいんですね」ハァ
N大尉「俺はな、この処罰の軽さは、中佐が一枚噛んでるんじゃないかと疑っているんだよ」
415: 2019/03/03(日) 18:44:35.26 ID:E2VKzWIyo
妙高「中佐……中将のご子息の、ですか」
N大尉「大鳳はあいつの部下だ。親のコネを使って、俺を管理しやすいところへ連れて行く魂胆じゃないかと思ってるんだ」
N大尉「あの中佐なら、艦娘管理ツールのことを狙ってくるに違いない」
妙高「……それで、刑を軽くして、こちらに貸しを作ったと?」
N大尉「ああ。そのうちあいつから何らかの接触があって、俺を陥れようとしてるんじゃないかと思ってる」
妙高「それは考え過ぎではないでしょうか。そもそも中佐は、墓場島で大怪我を負い入院してると聞いてますし」
N大尉「は? ……なにかあったのか、あの島で」
妙高「はい。中佐が大和さんに振られたついでに酷い目に遭ったそうです、盛大に」
N大尉「やっぱりあいつも大和を狙ってたのか……だが、それで怪我したとなると、大和や提督准尉にお咎めが行ったんじゃないのか?」
妙高「そういうお話は聞いていませんね」
N大尉「……どういうことだ? その話の出所は?」
妙高「中佐の元部下です」
N大尉「もと?」
妙高「はい。中佐が墓場島から大和さんを連れ出すときに、一緒に連れて行った部下たちだと聞いています」
妙高「なんでも、大和さんを墓場島から連れ出せなかった責任を押し付けられて、中佐の鎮守府から追い出されたそうですよ」
N大尉「……」
416: 2019/03/03(日) 18:45:44.17 ID:E2VKzWIyo
妙高「彼らが言うには、中佐は最初から大和さんに拒絶されていて、誰が説得しても連れ帰るのは無理だった、言うことらしく……」
妙高「逃げ帰る理由になった中佐の大怪我も、もとは中佐が大和さんの逆鱗に触れたからだ、と、言って回っているそうです」
妙高「追い出された腹いせに言いふらしているらしいですから、どのくらい誇張されているかはわかりませんが」
N大尉「……なんともはや、だな」
妙高「N大尉も、一歩間違えばそんな目に遭っていたかもしれませんね」ジトメ
N大尉「……耳が痛いな」メソラシ
妙高「それからもうひとつ、妙な噂がありまして」
N大尉「なんだ?」
妙高「あの島は『わけあり』なんだそうです」
N大尉「わけあり、か……その話も今更だな」
妙高「あの島の記録は海軍にもほとんど残っていません。なのに、かなり古くから鎮守府が置いてあったようなんです」
妙高「本当は流刑地だっただの、あの島で数千人が餓氏しただの、こちらもどこまで本当なのかわからないような噂があります」
N大尉「まあ確かになあ……ただ、仮にそうだとしても、提督准尉は順応していて、最低限とはいえ戦果も挙げているんだ」
N大尉「それに加えて、轟沈経験艦も引き連れているのに大きな事故も起きてない」
妙高「はい……」
417: 2019/03/03(日) 18:46:54.64 ID:E2VKzWIyo
N大尉「とはいえ、俺も金縛りなんて生まれて初めてかかった。お前と鳳翔も幽霊を見たんだったよな?」
N大尉「俺たちが体験したことは事実だが、今の噂も含めて、誰かに話したところでまともに取り合ってもらえるとは思えないな……」
妙高「……このお話はそのくらいにして、そろそろ船内に入りましょう。どうせ船内にいたがらないのも、周囲の目が気になるからなんでしょう?」
N大尉「……お前にはすべてお見通しか」
妙高「ええ。ですから、諦めて暖を取ってください。お茶もお入れしますよ」ニコ
N大尉「……ああ、わかった。甘えさせてもらうよ」
妙高「ところで、これから向かう単冠湾の以中佐がどんな方か、N大尉は御存知ですか?」
N大尉「以中佐は、単冠湾の中でも指折りの戦果を挙げていると聞いている。だが、どんな人物かは詳しく聞けなかった」
N大尉「だが、その鎮守府の艦娘はみな意気軒昂で士気が高く、出撃となればこぞって先陣に立つ勇猛果敢な猛者ばかりだと聞いている」
妙高「ここまで聞くと、相当な人格者のように思われますね」
N大尉「ただ……見た目が世紀末的な人だ、とだけ聞いた」
妙高「世紀末? ……蝋人形の館……」ボソ
N大尉「? 何か言ったか?」
妙高「いえ」ニコニコー
N大尉「? ……とにかく、しばらくは以中佐の補佐官として職務に励めというお達しだ。あの中佐とは仲が良くないことを祈るばかりだ」ハァ
* * *
* *
*
418: 2019/03/03(日) 18:47:55.52 ID:E2VKzWIyo
* それから数日後 *
* 墓場島鎮守府 執務室 *
提督「どーすっかねえ……」ハァ
コンコン
大淀「失礼します」チャッ
朧「失礼します。あれ? 提督、おひとりですか?」
提督「んー」
朧「……また考え事してるみたいですけど、どうかしたんですか」
提督「まあ、な……」ジーッ
提督「朧なら聞いても良さそうだ。ちょっと聞いてくれ」
朧「なんでしょう?」
提督「吹雪が前にいた鎮守府の、司令官が退官したそうだ」
朧「!」
大淀「!」
419: 2019/03/03(日) 18:48:51.51 ID:E2VKzWIyo
提督「吹雪にこのことを伝えるべきか否か。どう思う」
朧「……難しい、ですね」
提督「ま、即答はできねえよなあ」
大淀「吹雪さんは前の鎮守府に戻りたがっていたんですよね?」
朧「はい。前の司令官に元気な自分の姿を見せたいって言ってたんです」
提督「成長した姿を見せる相手がいなくなったんじゃあな……」
大淀「ゴール地点を失ったってことですか」
提督「……この話は保留だな。吹雪の保護者だったS提督がなんで海軍を辞めたのか、理由がわからねえと吹雪への説明もできやしねえ」
朧「朧もそう思います。吹雪を犠牲にしてまで勝ちたかったはずの人が、簡単に海軍をやめるなんて……!」
提督「朧だって憤慨するのに、吹雪がこの話を聞いたらどうなるか……ったく、面倒臭え事態を作ってくれたもんだ」ハァ
提督「とりあえず、朧も大淀も、この話は余所に漏らすなよ。いいな?」
朧「はいっ」
大淀「承知しました」
提督「で、朧はどうかしたのか」
朧「ハチさんから、提督の人間ドックの日程はどうなったか聞いてきて、と頼まれたんです」
420: 2019/03/03(日) 18:49:47.93 ID:E2VKzWIyo
提督「……まだ返事は来てねえよな?」
大淀「はい。ですが、本営では医療船を各泊地へ数隻ずつ配備することがほぼ決定していまして」
大淀「泊地へ医療船を送るついでにこの島に立ち寄ってくれる、ということらしいです」
提督「……マジか」
朧「提督、そんなにお医者さんが嫌なんですか」
提督「嫌に決まってんだろ」
朧「……妖精さんの話を信じてもらえなかったからですか?」
提督「……」
大淀「もしかして、図星ですか」
提督「そんなとこだよ。あいつら、俺を気狂いか可哀想なものを見る目で見やがって……人間の医者なんてろくなもんじゃねえよ、くそが」
大淀「朧さん、よくわかりましたね……」ヒソヒソ
朧「提督のあの性格は、周りにちゃんと話をしてくれる人がいなかったからだと思うんです。多分」ヒソヒソ
大淀「提督、今回来るお医者様は妖精さんの存在を理解してくださってますから、そこまで心配なさらなくても大丈夫ですよ」
提督「だといいけどなあ」ムスッ
大淀「明石みたいに面倒見の良いお医者さんもいるはずですから」
提督「……まあ、明石はな。明石は悪くねえ」
朧(大淀さんもだいぶ提督の操り方がわかってきたみたい)
421: 2019/03/03(日) 18:50:41.61 ID:E2VKzWIyo
大淀「提督のお体に異常がないかどうかを調べるだけです。どうかご自愛ください」
提督「……わかったよ」アタマガリガリ
提督「それで、大淀のほうはどうした。その封書は」
大淀「はい、それが……」
コンコン
榛名「提督! お客様です!」ガチャ
提督「ああ?」
妙高「失礼致します。お久しぶりです、提督准尉」スッ
提督「……お前、妙高か? N中佐んとこの」
妙高「はい! ……って、その様子だと、何も聞いてらっしゃらないのですか? 事前にご連絡していた筈なのですが……」
大淀「それなんですが……つい先程その書類が届いたんですよ」スチャ
妙高「……」
提督「……」
朧「なにやってんでしょうね、本営は……」
榛名「???」クビカシゲ
426: 2019/03/05(火) 23:32:10.51 ID:3ZSsUeMvo
* 応接室へ向かう廊下 *
提督「うちに艦娘を引き取れってか」
妙高「申し訳ありません。ただ、事情が事情でして……この鎮守府でないと引き取ってもらえないだろうと、N大尉が」
提督「ふーん、N中佐は大尉に降格したのか。裁判は終わったのか?」
妙高「はい。条件付きで降格と配置換えという寛大な処分を受けまして……」
提督「条件?」
妙高「はい。ある鎮守府への潜入捜査です」
提督「……つまり、そこの鎮守府の問題児を引き取れと?」
妙高「問題児と呼ぶには語弊がありますが」
コンコン
(応接室前に到着し、ドアをノックする妙高)
妙高「提督准尉が入ります」
カチャ
妙高「提督、お入りください」
提督「おう」スッ
427: 2019/03/05(火) 23:33:00.42 ID:3ZSsUeMvo
立ち上がってむくれている龍驤「……」
立ち上がって俯いている陸奥「……」
提督「……引き取れってのは、この二人か?」
妙高「はい」
提督「ふーん……じゃあ、とりあえず聞いとくか」
提督「お前ら、生きたいか氏にたいか、どっちだ」
妙高&龍驤「「はああ!?」」
陸奥「!?」アゼン
妙高「いきなり何を言うんですか!?」
龍驤「妙高! こいつアホなんか!?」
提督「何言ってやがる、こっちは大真面目だ」
提督「もう氏んでもいい、みたいに考えてる奴を面倒見たくないっつってんだよ。面倒臭えからな」
妙高「提督准尉!?」
龍驤「……しょっぱなから何言っとんのや、こいつ」ドンビキ
陸奥「……」ナミダメ
提督「そういう場所なんだよ、ここは。まあいいや、とりあえず突っ立ってねえで座れ」
428: 2019/03/05(火) 23:33:51.04 ID:3ZSsUeMvo
提督「俺は提督准尉、この鎮守府の責任者だ。お前らは?」
龍驤「……うちは軽空母の龍驤や。こっちは戦艦の陸奥」
陸奥「……」ペコリ
提督「空母? 空母ってお前、航空母艦なのか」
龍驤「なんや、うちが空母やったらなんか文句あるんか!」
提督「いや、空母って言ったら……」
龍驤「胸か! 胸がないちゅうんか! 悪かったなあこんな体で!」グワッ
提督「あぁ? 何言ってんだお前」
妙高「り、龍驤さん落ち着いて! 提督准尉はそういう方ではありませんとさっきも……!」
龍驤「だったらなんやっちゅうねん!」
提督「胸なんか知らねえよ。お前、飛び道具はどうした」
龍驤「……なんのことや?」
提督「空母だったら飛び道具持ってんじゃねえのか? 例えば赤城とか、鳳翔とか……あと大鳳もだったよな?」
妙高「は、はい、そうですけど」
429: 2019/03/05(火) 23:34:50.90 ID:3ZSsUeMvo
提督「赤城や鳳翔は弓を持ってたし、大鳳のはクロスボウか? 矢なり弾なり飛ばすための道具持ってたろ」
提督「お前はそういうもん持ってこなかったのか、って聞いてんだ」
龍驤「……」
提督「俺、なにか変なこと言ったか?」
妙高「いえ、でも勘違いも無理もないことでして……」
龍驤「……あー、ごめんな。うちの早とちりやった」ジャラ
提督「ん? なんだその手錠は」
龍驤「これ? ていうか、うちらがここに連れてこられた理由、あんた知らんの?」
提督「資料が来るのが遅くてな。妙高が来るのと同じくらいに届いたくらいだ」
龍驤「んなアホな……どこまで連絡不行き届きなん」
提督「まあいいや、とにかく話を聞く。資料に嘘が書いてあるようならすぐ言えよ」
* *
提督「鎮守府をまるっと燃やしたって?」ペラリ
龍驤「うん。全部、跡形もなく燃やして、瓦礫の山にしたったん」
提督「それで手錠か。お前にはそこまでする理由があったわけだな?」
龍驤「うん。いろいろ許せんかったんよ。以中佐は、本当に人でなしやった」
430: 2019/03/05(火) 23:35:44.09 ID:3ZSsUeMvo
提督「以中佐ね……」ペラリ
妙高「あ、それです。その写真が以中佐です」
提督「……なんだこのデブ。CGじゃねえよな?」
妙高「実在の人物です。身長が2メートル20あります」
提督「はぁ!? マジかよ……腹回りも同じくらいあるんじゃねえの」
妙高「N大尉は『ハート様みたいだ』と言ってましたが……何の事だかわかりますか?」
提督「はーと? 悪い、ちょっと意味わかんねえ」クビカシゲ
妙高「そうですか……あとでN大尉に教えて貰います」
提督「で、こいつがやらかしたことってなんだ?」
妙高「平たく言えば、鎮守府の私物化でしょうか。私設警察団を作って、艦娘を……自分のものにしようとしたんです」
提督「自分のものに……?」ペラリ
提督「……」
提督「おい、なんだこれ。妙高、書き間違いじゃねーのか」
提督「朝飯に肉が1キロとか、なんの冗談だ?」
妙高「冗談ではありません。以中佐は、その食事量を艦娘に強要させていたんです」
431: 2019/03/05(火) 23:37:01.93 ID:3ZSsUeMvo
提督「馬鹿じゃねーのか? 昼も夜も食わせすぎだ、これじゃ艦娘もまともに動けねえだろうが」
妙高「はい。ですが、食べなければ罰せられる規則になっていました」
提督「なんでそんなことさせんだよ……」
妙高「以中佐は、自分と同じことを艦娘にさせようとしていたんだと思います」
提督「だからって食事もか。デブの基準で食事量考えんじゃねーよ……なんでこんなやつが海軍にいやがんだ」ハァ
妙高「実は、以中佐もちょっと特殊な経歴を持っていまして、もともとは格闘家だったそうなんです」
提督「格闘家?」
妙高「はい。それも、生身の人間でありながら、深海棲艦を撃退したという」
提督「はぁ!?」
妙高「陸に上がった駆逐艦を、体当たりで気絶させたそうで……それでそこの住人が助けられたという証言もあったそうです」
妙高「海軍は彼に感謝状を送り、『提督』として働けないかスカウトしたらしいんです」
妙高「彼のような格闘家なら、艦娘にも近接戦闘の心得などを伝授できるんじゃないかという思惑もあったみたいで……」
妙高「彼自身も艦娘に格闘技を教えられるのならと、同じ量の食事を用意しようと考えたんでしょうか」
提督「本当に手当たり次第だな、海軍の連中は……ちったあ考えろよ」
妙高「いえ、最初のうちは戦果もあげていたんです。しかし、以中佐の交友関係や人柄の評判は決して良いものではなく……」
妙高「評価が上がると海軍の特別警察隊を本営に帰し、親しかった犯罪者まがいの人間を集めて私設警察隊を作ったのを皮切りに」
妙高「徐々に艦娘を縛る規則を作り上げ、鎮守府を支配していった、というのが顛末です」
432: 2019/03/05(火) 23:37:51.02 ID:3ZSsUeMvo
提督「何やってたんだよ本営の連中は……」
龍驤「その辺は仕方ないと思うで。曲がりなりにも、単冠湾にある鎮守府の中じゃあ、一番戦果をあげとったしなあ」
提督「!」
龍驤「残念なことにあいつは口も上手いんよ」
龍驤「特警には、単冠湾も離島やから地元民じゃなきゃ家族と離れて暮らすのはつらいやろ、って、殊勝なこと言って帰らせたんや」
龍驤「それから、私設警察のメンバーに服役中の犯罪者を入れて、以中佐が更生させるっちゅうプランも挙げとった」
龍驤「一石三鳥か四鳥くらいの大風呂敷を広げて、本営をうまいこと丸め込んだんちゃうかな」
妙高「以中佐が普通に強いというのも一因ですね。私設警察に登用した人材の殆どが軽犯罪者で、以中佐に勝てそうな人がいませんでしたし」
龍驤「経費を節約してその分食事に回す言うてたから。じゃなきゃあ、あんな大量の食糧、供給してもらえるわけがないんよ」
提督「……こすいな」
龍驤「それから、たくさん食わせる狙いはほかのところにもあるで」
提督「? そりゃどういう意味だ」
龍驤「あいつはな、艦娘を太らせたかったんよ」
提督「あぁ?」
龍驤「肉をつけさせて、胸の大っきい娘を侍らせたかったんよ。それで、目ぇ付けられたんが、陸奥や」
陸奥「……」ウツムキ
433: 2019/03/05(火) 23:38:52.04 ID:3ZSsUeMvo
龍驤「陸奥ももともとはこんな内向的な性格やないねん。どっちか言うたら、よってくる男を軽くいなすお姉ちゃんな感じやったんよ」
龍驤「けど、あいつは力尽くで、嫌がる陸奥を無理矢理、遠慮なーくべたべた触りよってな……」
龍驤「その触り方というか纏わりつき方というか、とにかくキモい以外の感想が出てこんかったわ」
提督「それでトラウマになったってか」
陸奥「……」コク
龍驤「ま、そんなとこやな。以中佐が格闘技やっとった言うのも本当みたいで、反抗した艦娘が返り討ちにあったことも何回かあるんや」
龍驤「遣り込められて、見せしめにセクハラまでされて……うちらがだんだんと以中佐に刃向わなくなったのも、その辺が理由やね」
提督「腕も立つのか。そりゃ面倒臭えな」
龍驤「それから、食事の話で言うなら間宮もひどい目に遭っとんねん。毎日、あの量の料理を準備させられてみ?」
提督「まさかあれを一人で作らされたのか……!?」
妙高「そうです。提督准尉、この写真を見てください。以中佐鎮守府の間宮さんです」スッ
提督「……これが間宮だと? 痩せすぎだろ!?」ゾッ
妙高「彼女は今、私がいた鎮守府でリハビリに入ったそうです。治療はなかなか進んでいませんが……」
提督「最悪だな……それで龍驤は鎮守府に火をつけたってか」
龍驤「まあ、そうやけど……本音は、もっと違うとこや」
434: 2019/03/05(火) 23:39:45.89 ID:3ZSsUeMvo
龍驤「さっき、以中佐が陸奥を狙ったって言うたな? ほんじゃあ逆に、以中佐はうちのことをどう思ってたと思う?」
提督「どう? ……見た目のことを言って悪いが、子供っぽいって言われそうだな」
龍驤「せやね。うちは見ての通り、ちんちくりんのお子様体型や」
龍驤「それを以中佐は……あいつは、うちのことを『まな板』やら『洗濯板』やら言うとったんや」
龍驤「『軽空母』なら言われたことはある! せやけどうちは、あいつにただの一遍も『龍驤』って呼ばれたことがないんや!」
提督「……」
龍驤「そう呼ぶのがあいつだけならええねん。あいつはそれを、ほかの艦娘に強要しとったんよ」
龍驤「それを嫌がると、お仕置き部屋に連れてかれて、以中佐と私設警察とかいうチンピラどもに、酷いことされるんよ……」
龍驤「そんなん繰り返されたら、みんなおかしくなるやんな? うちと距離おくのも、しゃあない……しゃあないねん」
龍讓「そんで、あの日……うちは我慢できひんかった。なんの魅力もないって言われてたようなもんや。だから、全部燃やしたんよ……」
龍讓「毎日毎日、顔を見るたびにねちねちぶちぶち嫌み言われて……何もかも嫌になっとったなあ」
龍讓「まあ、毎日触られてた陸奥に比べれば……」
陸奥「そんなことないわ……龍讓、あなたは他の艦娘たちを庇っていたんでしょ……!?」
龍讓「……」
提督「妙高。その辺はどうなんだ?」
妙高「は、はい、それは事実です。龍讓さんは、他の艦娘が以中佐に迂闊に近寄らないように、鎮守府の中を見回っていたのは本当です」
435: 2019/03/05(火) 23:40:45.70 ID:3ZSsUeMvo
提督「そうか。で、そのくそったれの以中佐はちゃんとぶっ頃してきたのか?」
龍驤「ちょっ、そんなことできるわけないやんか!」ギョッ
提督「なんだ、殺ってこなかったのか」
龍驤「いや、確かに殺ってやりたいのはやまやまやけど! あかんて!」
陸奥「……」ポカーン
提督「おい妙高、お前らが潜入捜査に行ったって言ってたけど、N大尉は何してたんだ?」
提督「折角なんだから、こいつらに代わって以中佐の息の根止めてやりゃあ良かったじゃねえか」
龍驤「言うことがいちいち物騒やなキミィ!!」
妙高「提督准尉はこういう方なんです」アハハ…
龍驤「いや、苦笑いで誤魔化したらあかんやろ……」
妙高「それで、N大尉ですが、実は以中佐の鎮守府滞在3日目で音を上げまして……」
提督「短けえな! それで捜査になったのかよ!」
妙高「残念ながら十分でしたよ。陸奥さんへの過剰なセクハラや龍驤さんへの執拗な罵倒、食糧の浪費に間宮さんへの過剰労働……」
妙高「そして、私設警察の横暴と、それによる艦娘への……とにかく、不愉快な3日間でした」
妙高「その生活を長きにわたって強いられていた龍驤さんたちの心情は、筆舌に尽くすことができないものだと思います」
436: 2019/03/05(火) 23:41:46.85 ID:3ZSsUeMvo
龍驤「まあ、そのうちらの扱いに異を唱えてくれたんがN大尉やったんや」
龍驤「恰好良かったで。大見得切って啖呵切って、うちらをかばってくれて」
龍驤「その直後に以中佐に体当たり貰って伸されてたんは、まあ、しゃあないわな」
龍驤「でも、それがきっかけでうちは腹を決めたんや。うちらの味方になってくれる海軍の人間がおるんなら、うちらは間違ってない」
龍驤「間違ってるのは、以中佐や、て」
提督「……で、それからどうなったんだ?」
妙高「龍驤さんが艦載機を放って、執務室内を爆撃しました。それを機に、ほかの艦娘が次々と加勢して、瞬く間に本館が炎上……」
妙高「私は負傷したN大尉を背負って建物を脱出したので、それ以後は館内の避難誘導を行っていました」
妙高「所属の艦娘は全員保護。私設警察は一部を捕縛しましたが、取り逃した者たちは散り散りになって海へ逃亡しました」
龍驤「海へ逃げた連中は助からんやろうね。なんでかんで深海棲艦が多数潜んでる海域やし、今頃はあいつらの餌になっとんちゃうか」
提督「以中佐はどうしたんだ」
龍驤「うちらが逃げる直前に陸奥に抱き着いて助けを請うてたけど、陸奥がびっくりして第三砲塔が過熱してなあ」
龍驤「艤装が炸裂して、以中佐は火だるまになって吹き飛んで、そのまま海へどぼーん、や! ざまあないで、まったく!」クックック
陸奥「……」ムスッ
437: 2019/03/05(火) 23:43:46.81 ID:3ZSsUeMvo
龍驤「陸奥は笑いごとやなかったけど、うちらは見ててすっきりしたわ」
龍驤「でもまあ、以中佐のとどめは刺されへんかったし、あいつどさくさに紛れて逃げよったから、その辺は悔いが残るけど……」
龍驤「とにかく、うちがこの騒動を引き起こした。そう本営に伝えて、解体処分してちゃんちゃんにしてもらうつもりやったんよ」
妙高「ですが、龍驤さんは今回の事件の被害者のひとりですし、彼女の反抗がなければ他の艦娘の未来もありませんでした」
妙高「龍驤さんの助命の嘆願が集まったこと、N大尉が以中佐鎮守府の実態を証言したことで、龍驤さんは異動ということになったんです」
龍驤「限りなく追放に近い形やと思うけどな?」
妙高「それから陸奥さんは、以中佐に直接危害を加えたということで、龍讓さんと同じ扱いという形になってしまいましたが……」
龍驤「ま、余所の鎮守府に行っても働けないんちゃうかな。陸奥のトラウマも相当なもんやで」
陸奥「……」ウツムキ
龍驤「んで、うちらはこれから、どんな罰を受けることになるん?」
コンコン
提督「ん?」
朧「朧です。お飲み物をお持ちしました」
提督「ああ、入ってくれ」
朧「失礼します」チャッ
438: 2019/03/05(火) 23:44:40.65 ID:3ZSsUeMvo
妙高「朧さん! お久しぶりです」ニコッ
朧「お久しぶりです!」ニコッ
提督「妙高、二人の手錠を外してやってくれ、手錠したまま飲み物ってわけにはいかねえだろ」
妙高「! 承知しました、そのように致しましょう」スクッ
龍驤「はぁ!? ええんか!?」
陸奥「!?」
提督「別にいいだろ。何か不服か?」
龍驤「いや、普通こんなあっさり手錠外すとか……なあ?」カチャカチャ
陸奥「……」コク
提督「いいっつってんだろが、しつけえな。俺はお前らのやったことが悪いなんて思っちゃいねえよ」
陸奥「……!」
龍驤「……ほんまかいな」アッケ
妙高「提督准尉は無罪を主張するということですね?」ニコ
提督「以中佐は張っ倒されて当然だろ。ざまあねえやってのが俺の感想だ。悪いか?」
龍驤「いやいや全然! 悪いどころか、そこまで言ってもらえてすっごい嬉しいよ? なあ?」
陸奥「ええ」コク
439: 2019/03/05(火) 23:45:35.41 ID:3ZSsUeMvo
妙高「提督准尉、手錠を外し終わりました」チャラッ
提督「ん。まあ、飲み物でも飲んで一息入れてくれ。とりあえずここがどんなところか、説明するからよ」
朧「話が終わったら呼んでください。片付けますから」
提督「朧も気が利くな、わざわざ悪いな」
朧「いえ、古鷹さんに言われて持って来ただけですから……」ニコ
妙高「朧さん、元気そうでなによりです。鳳翔さんも気にかけておられましたよ」
朧「本当ですか!? ありがとうございます!」
龍驤「なんや、随分仲がええなあ。もしかして、妙高と古い知り合いなん?」
朧「え? ええ、まあ」
龍驤「なら、N大尉のことも知っとるんか?」
朧「……」
妙高「……」
龍驤「な、なんや、二人してビミョーそうな顔して……」
提督「そういや妙高、N大尉はどうしてる」
妙高「は、はい、今は入院しています。最低1か月は安静にしておくべきだと……」
440: 2019/03/05(火) 23:46:30.64 ID:3ZSsUeMvo
朧「……あの人が、何かしたんですか」
提督「早い話が、迫害されてたこの二人を助けようとして大怪我したんだと」
朧「……そうですか」
龍驤「いや、そうですか~って、ちょっと冷たいんちゃう!? N大尉は体を張ってうちらを助けようとしてくれたんよ!?」
朧「……そんなの、今更ですよ」クルッ
朧「失礼します」
パタン
龍驤「な、なんやあれ……今更て、なんかあったんか」
提督「まあな。朧の話は後だ、お前らこそN大尉のことをどう思ってんだ?」
龍驤「え? ええっとなあ……最初は、以中佐がスケジュール管理が得意な人材を取った、とかいう触れこみでな?」
龍驤「うちらはてっきり、時間の鬼みたいなやつが来るんかーって、絶望しとったんよ」
龍驤「でも、来てみたらまあなんというか、えらい神妙にした感じの普通の男の人やったから、拍子抜けやったっけな」
提督「……それから?」
龍驤「で、鎮守府を案内したら、うちらのやることにやたらと驚くし、以中佐のやることに眉をひそめてたし」
龍驤「もしかして、以中佐の息がかかっとらん、完全に外部の人か、と思って声をかけたのが2日目の夜やな」
龍驤「そんで、N大尉にうちらがもう限界や! 助けて、なんとかしてー! って直談判して、3日目の昼にN大尉が以中佐へ具申したんや」
441: 2019/03/05(火) 23:47:27.35 ID:3ZSsUeMvo
龍驤「最初は静かな話し合いやったんやけど、話していくうち以中佐の語気もだんだん荒ぶってきてなあ」
龍驤「それでも一歩も退かずに以中佐に物申してくれたんや。最初は頼りない印象やったけど、あれで見直したんよ!」
提督「今の話、本当か?」
妙高「はい。まさかその返事を暴力で返されるとは思ってもいませんでしたが」
龍驤「で、あいつはN大尉だけじゃなく妙高も始末しようとしたん。それでもう、うちもやる気になって、腹を括ったわけよ」
妙高「その龍驤さんの発艦に呼応して、空母の皆さんが爆撃支援を始めて、結果的に艦娘全体の反乱になったわけです」
龍驤「みんな不満がたまってたからねえ。私設警察の連中以外は、みんな協力して避難してくれたから、人的被害は少なかったんや」
妙高「龍驤さんと陸奥さんだけは、少しやけどをしてしまいましたけどね」
陸奥「……私はいいわ。慣れてるから……でも、龍驤は……」
龍驤「うちもええんや。誰かがやらんと、みんな壊れたん。たまたまうちが引き金引いただけや」
提督「よく本営の連中に信じてもらえたな、今の話」
妙高「以中佐の鎮守府の様子は、私がすべて小型カメラで映像に残しましたから」
提督「そうか、潜入捜査だったな」
妙高「はい」
442: 2019/03/05(火) 23:48:20.53 ID:3ZSsUeMvo
陸奥「……ねえ、潜入捜査ってどういうこと……? どうしてN大尉が私たちの鎮守府に来たの……?」
妙高「海軍本営は、以中佐鎮守府の成績が異様に良いことを気にしていました」
妙高「本営からの人材なしに、ここまで戦果を挙げられる理由は何か? と……」
提督「妬み嫉み成分が多そうだな?」
妙高「……丁度そのときに、N大尉は身柄を勾留されていたんです。ある事件の容疑者として」
龍驤「容疑者て、なにをやったん……?」
妙高「……それは……」
提督「艦娘管理ツールっつうか、洗脳装置みたいなもんだな。それをN大尉が使ってた」
龍驤「洗脳装置ぃ!?」
陸奥「嘘でしょ……!?」
提督「嘘じゃねえよ。現にこの鎮守府に、そのツールが原因の過労で漂着した艦娘がいる」
龍驤「なんでN大尉がそんなもんを……」
提督「深海棲艦を効率的に邀撃するためだ。やつらのせいで故郷の漁村が過疎で廃村寸前なんだとよ。だから形振り構わずツールに手を出した」
提督「事情はどうあれ、本営はそのツールの使用を禁じた。N大尉は、それで身柄を本営に移されたんだ」
443: 2019/03/05(火) 23:49:22.26 ID:3ZSsUeMvo
妙高「その後、本営では不正行為を行ったN大尉の処分をどうするかと言う話になりました」
妙高「そんな折に、以中佐鎮守府から人員補充の依頼が来たんです。それも、N大尉を名指しで」
提督「そんなことできんのかよ」
妙高「これはよくあるお話ですよ。降格した『提督』の能力を求めて、あちこちからスカウトされるんです」
妙高「話が前後しますが、その艦娘管理ツールを使って一番戦果を挙げていたのは実はN大尉なんです」
妙高「あのツールは、使用者がきちんとスケジューリングしないと、使ってもあまり効果が得られません」
妙高「もともと綿密なスケジュールを作って執務をこなしていたN大尉だからこそ、ツールを使った戦果が顕著だったとも言えます」
提督「……以中佐は、N大尉の能力を見抜いてたってことか?」
妙高「見抜いたかはわかりませんが、以中佐が艦娘のスケジュール管理を行おうとしていたのは事実です」
妙高「以中佐の鎮守府には、私設警察という犯罪者の更生が建前の組織もありますし……」
妙高「N大尉をそこに編入させて、スケジュール管理を担当させるつもりだったのではないかと」
提督「……もっとストレートに、以中佐の狙いがツールそのものだとしても、おかしくはねえな」
提督「ツールを使って洗脳しちまえば、龍驤でも陸奥でもおとなしく言うことを聞くようになる」
提督「たとえ直接手に入れられなくても、実物を知ってるN大尉から、どこから手に入れたか情報を得られれば無駄じゃあない」
提督「本営相手にN大尉は捕まったんだ。以中佐はN大尉を『同族』と見たのかもな?」
妙高「かもしれません」ウツムキ
444: 2019/03/05(火) 23:50:36.08 ID:3ZSsUeMvo
龍驤「ちゅうことは、朧はそのツールの被害者なんか?」
提督「いいや、その件の被害者はまた別だ。朧はN大尉に捨て艦にされたんだ」
龍驤「はあ!?」
陸奥「沈んだの……!?」
妙高「……」ウツムキ
提督「ああ、N大尉がツールを使うよりずっと前にな。理由は同じだ」
提督「朧がいい顔しなかったのはそういうことさ。言ってたろ? 今更だって」
陸奥「……」
龍驤「……なら、あんたは」
提督「ん?」
龍驤「あんたはどうなんや。あんたは何をしてここに来たんや」
提督「俺か? 上司に嫌われたんだよ。妖精と話ができると都合が悪いらしい」
龍驤「そんだけなん……!?」
提督「別にいいさ、人間なんか俺含めてどいつもこいつも碌なもんじゃねえし、俺も人間の役に立とうなんて気はねえ」
提督「うちの連中には好きなことをさせてやれるなら、それでいい」
445: 2019/03/05(火) 23:52:28.07 ID:3ZSsUeMvo
龍驤「……さよか。誰が善人で誰が悪人かなんて、案外わからんもんやな」
提督「N大尉は悪人じゃあねえが、方法を間違って咎められた人間だ」
提督「以中佐みたいに私利私欲にまみれた根っからの悪党じゃねえよ。なあ、妙高?」
妙高「……はい」コクッ
提督「で、そういう愚直なやつほど、他人に利用されやすいもんさ」
提督「あのツールを使うことになったのも、誰かに便利だから試してみろとか唆されたからじゃねえのかね。何のリスクも説明されずに」
提督「ま、N大尉のやったことを好意的に捉えれば、の話だがな」
龍驤「……」
提督「ところで……陸奥。お前、そんなに俺が怖いのか?」
陸奥「!」ビクッ
龍驤「当たり前やんか。向こうでどんな目に遭わされたか……」
提督「その話はいいや、どうせ俺が聞いてもしょうがねえ」
龍驤「おい!?」
提督「そうだろうが。俺がその辺の話を聞いて、薄っぺらい同情の台詞吐いたら何もかも解決するわけじゃあねえだろ」
龍驤「言い方っちゅうもんがあるやろが! 言い方っちゅうもんが!!」
陸奥「……」ビクビク
妙高「……」ハァ
449: 2019/03/09(土) 11:04:06.13 ID:7M0DvzEGo
* 非常口→中庭 *
龍驤「轟沈した艦娘が集まる島、ねえ」
提督「6割……いや、7割がそんなところか。あとは余所から逃げてきたやつや、追い出されたやつばかりだ」
提督「知らないか? 轟沈した艦娘をそのままにしてると深海棲艦になるから危険だって話」
龍驤「うちらは知らんかったわ……そんで憲兵も特警もおらんのかいな」
提督「ああ。人間も男も俺しかいねえ。俺さえ陸奥に関わらなきゃ、陸奥のリハビリにはちょうどいいんじゃねーの?」
陸奥「そ、そうね……」キョロキョロ
妙高「大丈夫ですよ陸奥さん、本当にこの島には提督准尉以外の人間がいませんから」
陸奥「わ、わかってるけど……」
提督「こりゃトラウマも相当なもんだな」
龍驤「まあねぇ……で、ほんまにここに長門がおるんか?」
提督「ああ、最近は戦艦ばっかり増えててな。長門はその中でも一番最初に来た戦艦だ」
龍驤「普通逆やろ……!?」
提督「本当だって。戦艦で言うと、長門が来て、次が比叡で……次が大和か」
龍驤「嘘や!!」
提督「だからうちは普通じゃねえんだよ……」
龍驤「せやかて信じられへんしなあ……大和、うちにもおらんかったし」
450: 2019/03/09(土) 11:05:01.49 ID:7M0DvzEGo
妙高「ところで提督准尉、どうしてこんなところを通って行くんですか?」
提督「こっちに厨房の勝手口がある。今日は長門が飯を作ってるからな」
龍驤「は? なんで長門が!?」
妙高「間宮さんもいないんです、この鎮守府は」
提督「厨房もこの鎮守府の艦娘で回り番だ」
龍驤「……」
提督「ここだ。長門、ちょっといいか」ゴンゴン
提督「……」
扉<ガチャ
長門(エプロン着用)「なんだ、まだ仕込みの最中……ん?」
提督「よう。ちょっと付き合ってくれるか」
長門「陸奥……!」
陸奥「長門……っ!」ウルッ
陸奥「長門おっ!!」ダキツキ
長門「うお!? む、陸奥! どうしたんだ!? 提督、これはいったい……!」
提督「まあ、察してくれ。陸奥も龍驤も、さっき余所の鎮守府から来たばかりでな」
長門「……!」
451: 2019/03/09(土) 11:06:24.47 ID:7M0DvzEGo
* 中庭(厨房裏) *
長門「そうか、あのN中佐が……」
妙高「結果的にですが、このお二人が以中佐鎮守府焼失の罪をかぶる形で、ここへ異動することになったんです」
長門「大変だったんだな。だが安心すると良い、この鎮守府ならセクハラなんて絶対起き得ないからな」ニッ
龍驤「そこまで言えるんか……」
長門「ああ、この提督が筋金入りのカタブツだからな。誰がベッドに潜り込んでも絶対に手を出さないほどだ」
龍驤「ただのヘタレやん!」
提督「……」
龍驤「それともアレか、ホ〇なんか!」
提督「……」
龍驤「……ツッコミはどないしたん。反論しいや」
提督「いちいち反応すんの面倒臭え」
龍驤「コミュ障かい!」
妙高「いえ、本当に面倒臭いんです、提督准尉は……」
龍驤「どんだけ人間関係捨ててんねん……」
452: 2019/03/09(土) 11:07:18.11 ID:7M0DvzEGo
長門「いや、提督は口こそアレだが面倒見はいいと思うぞ? 冗談や軽口には滅多に乗ってくれないだけだ」
龍驤「マジか……」
長門「そもそも彼がいなければ、この鎮守府も鎮守府として存在していなかっただろう」
龍驤「なんやそれ……」
提督「まあ、それはそれとしてだ。長門は陸奥に抱き着かれっぱなしで大丈夫なのか?」
陸奥「……」ギュゥ
長門「この陸奥がここまでとなると、ちょっと厳しいな。しばらくは私の部屋で休ませてやったほうが良さそうだ」
提督「出撃はどうする、控えたほうが良さそうか」
長門「そうだな……だが、ここ最近で戦艦も増えた。戦力としてはそこまで悲観することはないだろう?」
提督「人数はな。練度で言うならお前が抜ける穴はでかいぞ?」
長門「ならば、龍驤に代わりをお願いしたいがどうだろうか」
龍驤「うちが?」
長門「この鎮守府初の航空母艦だ。空母が入った編成は、この鎮守府では初めてだろう?」
提督「そういう話なら頼みたいところだが、今、陸奥をフォローできるのは長門と龍驤だけだからな」
453: 2019/03/09(土) 11:07:58.50 ID:7M0DvzEGo
提督「できればもう一人くらいサポートできる奴がいてほしいところだが……」
<ナガトサーーン!
長門「潮!」
長門から離れる陸奥「!」ビクッ
タッタッタッ
潮(エプロン装備)「あ、あの、今日の分、下拵えまで終わりましたから、もう、厨房は大丈夫、です……!」
長門「終わったのか? 全部任せてしまってすまないな」
潮「ふ、古鷹さんにも、手伝ってもらいましたから……!」
龍驤「……」ジトォ
潮「……ひっ!?」ビクゥ
提督「おい、何してんだ龍驤」
龍驤「ん……!? あ、ごめん……今、うち変な顔しとったん?」
潮「あ、あの、提督さん……!?」プルプル
提督「……どいつもこいつも、いろいろ抱え過ぎだ」ハァ
長門「貴様が言うか」
妙高「……」
454: 2019/03/09(土) 11:09:31.91 ID:7M0DvzEGo
* 執務室 *
提督「どうすっかな……」
大淀「今度はなんですか?」
提督「陸奥もそうだが、龍驤もそれなりに傷がでけえな」
大淀「と仰いますと?」
提督「龍驤に胸の話は禁句だってところだよ。妙高もさっき見てたろ?」
妙高「はい」
提督「さっき陸奥を長門に会わせたときに、厨房で仕込みを手伝ってた潮が走って来たんだが、龍驤がすげえ目をして潮を睨んでたんだよ」
提督「多分だが、背が高くなくて胸がある艦娘を龍驤の傍に置いとくと、あいつも気に病みそうだ」
大淀「……離してあげたほうが良いと?」
提督「ああ。ただ、陸奥は俺が関わりに行かなきゃいいだけだが、龍驤の場合はそうもいかねえ」
提督「こんな時に限って、駆逐艦の半数が長期遠征ときたもんだ。確か、小柄なやつが選ばれてなかったか?」
大淀「はい、ええと……朝潮さん、霞さん、朝雲さん、暁さん、電さん、五月雨さんですね」
提督「タイミングが良くねえんだよな。周りがでかい奴ばかりじゃ、龍驤も気が休まる場所がなくねえか?」
大淀「そうは仰いますが、そこまで神経質にならなくても……」
455: 2019/03/09(土) 11:10:51.37 ID:7M0DvzEGo
提督「ちょっと神経質くらいのほうがいいぜ? 俺、正直に言うと大和が苦手なんだよ」
妙高「それは……どうしてですか?」
提督「俺よりでけえ、っつうのがな……劣等感を煽られるっつうか、コンプレックスを刺激されるというか」
提督「本人に悪気はなくても、当人は勝手に気にしちまうもんなんだ。多分、龍驤もそうだ」
提督「俺が空母かって訊き返したときも過剰反応してたし、他人より小さい分だけ余計に気になっちまうんじゃないか?」
提督「ガタイのいい長門なら諦めもつくだろうが、潮みたいな例外を見るとやっぱり、なあ?」
大淀「……あるかもしれませんね」
提督「俺は男だから、女の龍讓の気持ちはそこまでわからないが、むしろあいつの方が過敏になってるよな」
提督「そういう意味じゃあ、はっちゃんあたりも会わせたらまずいよなあ……」
ドタドタドタ
提督「……おい、もしかしてもうそうなったか?」アタマカカエ
大淀「そんなまさか……」
妙高「そうですよ、いくらなんでも、こんなに早く……」
456: 2019/03/09(土) 11:12:08.01 ID:7M0DvzEGo
ガチャバーン!
伊8「たいへん! 大変です!!」
提督「……どうしたよ」ハァ
伊8「龍驤さんが、初雪ちゃんと揉み合って、それから、すごい顔して出て行っちゃったんです!」
提督「そうかよ……どうしてこうなるかねえ……」ガックリ
大淀「……」
妙高「……」
提督「大淀。旗艦敷波、以下神通、那珂、利根で第3艦隊編成、電探と偵察機積んで龍驤の捜索に当たってくれ」
大淀「は、はい!」
提督「俺は初雪のところに行ってくる。はっちゃん案内しろ」
伊8「こっちです!」タッ
大淀「……あ、もしもし明石? 今そちらに利根さんはいますか?」
妙高「この鎮守府も大変なんですね……」
457: 2019/03/09(土) 11:13:12.15 ID:7M0DvzEGo
* ビニールハウス *
畑の真ん中で蹲っている初雪「……うう」
伊8「こっちです!」ザッ
提督「初雪!」ザッ
初雪「!」ビクッ
提督「初雪、大丈夫か!?」
初雪「来ないで……っ!!」
提督「!? 来るな……って、あの白い帯はなんだ? 包帯か? 怪我してたのか?」
伊8「さらしです。あれで胸を隠してたみたいなんです」
初雪「来ないで……見ない、で……!!」グスッ
提督「……わかった。だが、見るなってのはなんでだ?」
初雪「……」
提督「……」
初雪「だって……私、普通じゃ、ないし」
初雪「私は、普通で、いい……こんな、の、別に、欲しかったわけじゃないし」
初雪「胸が、大きいからって、みんなと違う目で、見られるの、嫌、だったし」グスッ
初雪「目立ちたくないのに、隠したら、隠したで……いろいろ、言われるし……!」ポロポロ
初雪「ひそひそ、言われるのは、いや……!!」
提督「……」
458: 2019/03/09(土) 11:14:04.66 ID:7M0DvzEGo
* 寮 廊下 *
提督の上着を羽織った初雪「……」
提督「……」キョロキョロ
伊8「……」サッサッ(←『来てもOK』のハンドサイン)
提督「……」タタタッ
初雪「……」コソコソッ
伊8「……あのときと逆ですね」
提督「そういやそうだな」
初雪「……誰も、いない?」
提督「ああ、いまのうちだ」タッ
ガチャ パタン
伊8「ふう」
提督「遠征や演習で出払ってるやつが多くて助かったな」
初雪「……あ、あの……あ、りがと……ございます」ポ
提督「おう」ゴソゴソ
459: 2019/03/09(土) 11:14:54.32 ID:7M0DvzEGo
伊8「提督、なにしてるんですか」
提督「ドアに明石の隠しマイク仕込まれてないか確認してる」
初雪「!?」
伊8「さすがにそれはないと思います……」
提督「ま、仕込む理由がないから大丈夫だと思うが一応な」
初雪「……」
提督「とりあえず、初雪が胸をさらしで隠してたのは、変な目で見られたくなかったって認識でいいんだな?」
初雪「……はい」コク
伊8「別に隠さなくてもいいと思うんだけど」
提督「本人が言いたくないって言ってんだから、そうしようぜ。目立ちたくない、放っておいて欲しい、って気持ちは俺も少しわかる」
提督「だから俺はこのことは他言しねえ。はっちゃんも内緒にできるか?」
伊8「ん……わかりました。誰にも言いません」
初雪「……!」
提督「よし、残る問題は龍驤だな。わざわざさらしを巻いて胸を隠してた初雪にまで突っかかるあたり、重症だ」
伊8「龍驤さん、あのまま沖に出て行っちゃったんです。とにかく連れ戻さないとどうにもできません」
460: 2019/03/09(土) 11:16:10.30 ID:7M0DvzEGo
提督「ったく、どうしたもんかね……あ」
伊8「どうしました?」
提督「お前、さっき龍驤と初雪が揉めてた、って報告してたよな? 理由を聞かれたらやばくねえか?」
初雪「……!!」サーッ
伊8「うーん……それなら、はっちゃんが突き飛ばされたことにしましょう?」
提督「なに?」
伊8「というか、はっちゃんも龍驤さんに突き飛ばされたんです。揉み合いを止めようとしたせいで」
伊8「なので、はっちゃんが龍驤さんに突き飛ばされたところを、初雪ちゃんが注意したら揉み合いになった、ってことにすればいいと思います」
提督「……悪くねえな。初雪もそれでいいか?」
初雪「は、はい」
提督「ところで野暮なことを聞くが、N中佐も初雪の胸のことは見抜いてたのか?」
初雪「それは、わかんない、です……噂されるのが嫌で、ずっと部屋に引き籠ってたから、呼び出されたと思うんだけど……多分」
提督「そうか……そうだな。むしろ知ってたらさらしを解くように命令してたかもしれねえな、あのイヤホンで」
初雪「え……それって」
提督「あいつ、胸のでかい艦娘が好みらしい」
初雪「」
461: 2019/03/09(土) 11:17:06.13 ID:7M0DvzEGo
提督「今なら、その胸とさらしのおかげでお前がここに漂着した、って推測できるな」
伊8「どうしてですか?」
提督「胸を隠すように巻いてたら、その分圧迫されて苦しいだろ。他の艦娘より疲れるのが早いはずだ」
初雪「……」
提督「偶然が重なったとはいえ、お前が倒れてここに来たのも、ちゃんと理由があったってことだな」
提督「畑仕事も重労働だ、頑張ってくれるのはありがたいが、ちゃんと休んでおけよ?」
初雪「……はい……」コク
提督「で、はっちゃんは怪我とかしてないのか?」
伊8「ああそうだ。はっちゃん、突き飛ばされたときに尻餅ついちゃったんですけど」フリムキ
伊8「おしりに痣ができていないか、見てください」ミズギグイッ
初雪「!?!?」カオマッカ
提督「……いや、特に青くも赤くもなってねえな」
伊8「んん、そうですか。Danke」ゴソゴソ
提督「触って痛みがあるなら、すぐ工廠へ行けよ?」
伊8「はい、わかりました」
462: 2019/03/09(土) 11:17:59.47 ID:7M0DvzEGo
提督「じゃあ、俺は執務室へ戻る。初雪、上着返してもらっていいか」
初雪「! ……!」コクコク
提督「よし、じゃあ、落ち着いたら適当に持ち場に戻ってくれ」ガチャ
パタン
伊8「……」
初雪「……ね、ねえ」カオマッカ
伊8「はい?」
初雪「し、司令官に、おしり、見せてたけど……大胆すぎる、と、思う……」
伊8「提督は、性行為にトラウマがあるみたいなの。無意識に考えないようにしてるっていうか、遮断してるっていうか」
伊8「多分、おっOい見せても、絶対手を出してくれないよ? だから、提督にはばれても変なことにはならないから、きっと大丈夫」
初雪「……そ、そうなの?」
伊8「うん。裸で迫っても、提督の魚雷は全然反応してくれなかったし」
初雪「ぎょ……!?」ボフッ
伊8「あ、今の話は内緒ね?」
初雪「……」コクコク
伊8「あと……この島に流れてくる艦娘の遺体をたくさん見てることも、影響してるかもしれない」
初雪「……!」
伊8「提督が、ちょっとでも間違ってはっちゃんに手を出してくれれば、その拍子でトラウマも直せると思ったのに」
初雪「……わ、私の部屋で、そういうことしないで……」ミミマデマッカ
伊8「オウ……ごめんなさい」
463: 2019/03/09(土) 11:18:50.18 ID:7M0DvzEGo
* 一方その頃 太平洋上 某所 *
龍驤「……」
龍驤「……」
龍驤「……あかん」
龍驤「ここ……どこ?」ゴーーーン
龍驤「うそやん……うち、自分で自分の居場所見失うくらいまで思い詰めとったんか」
龍驤「ああもう、なにやっとんねん! 早く戻らんと……」
ズズズ…
龍驤「……な、なんか、聞こえたかな」
ズゴゴゴゴ゙…
龍驤「……え、えらい近くで、い、嫌な気配がするなあ……?」
「アラァ、嫌ダナンテ……」
龍驤「……」フリムキ
戦艦棲姫「ゴ挨拶ネェ……!!」
龍驤「ーーーーー!!」パクパク
464: 2019/03/09(土) 11:19:48.08 ID:7M0DvzEGo
戦艦棲姫「コンナトコロニ、独リデ来ルナンテ……道ニ迷ッタノカシラ?」
龍驤「せ、戦艦棲姫……な、なんでこんなところに……!」
戦艦棲姫「ナンデ? ウフフ、ヤッテ来タノハ貴女デショウ? 折角ダカラ、ユックリ寛イデイクトイイワァ……!」ニィッ
龍驤「は、ははは……で、できれば遠慮させてもらおかな……!」ジリッ
戦艦棲姫「遠慮ナンカシナイデ……ココデ、海ノ底ニ……」ガシャン ガシャン
龍驤「……っ!」クルッ ザァッ!
戦艦棲姫「沈ンデ、逝キナサァイ……!!」ガシャン!
ドガガガァン!
龍驤「ひいいいいい!!」ザザザァッ!
龍驤「あかん! めっちゃあかん! こんなとこ、うち一人でなんとかなるわけないやん!!」
龍驤「まともな艦載機も積んでないのに、戦闘なんかできるわけないて!」
ドガガガァン!
龍驤「ひいいいい! またきたあああ!」
バシャバシャー
龍驤「危な! めっちゃあっぶなあ!! ちょっちかすったでええ!!」
龍驤「けど……もうちょいや、もうちょい距離が開けば……!」チラッ
龍驤「……うん、このくらいの間合いなら……よっし、逃げるで!!」ザァァァッ
465: 2019/03/09(土) 11:20:41.18 ID:7M0DvzEGo
*
龍驤「……ひぃ、へぇ、はぁ、ふぅ……」ゼーゼー
龍驤「こ、ここまでくれば大丈夫やろ……」
ゴン
龍驤「おわっ!?」バシャーン
龍驤「な、なんや!? なんに蹴躓いたんや! 流木かなんかか!?」
骸骨?「」プカ
龍驤「ひわぁぁぁあああ!?」ビクウウウウ!
龍驤「ほっ、ほ、ほ、骨やあああ!?」
骸骨?「……」
龍驤「え、なに!? なんなん!? い、生きとるんか、この骨!?」
骸骨?「……す……」
龍驤「うん……?」
骸骨?「た……す……」
骸骨?「……け……て」
466: 2019/03/09(土) 11:23:20.55 ID:7M0DvzEGo
龍驤「も、もしかして、生きてるん?」
骸骨?「生き……て……る……」
龍驤「もう、骨と皮みたいなもんやないか……ずっと海を漂っておったんか!?」
骸骨?「……そ、う……」
龍驤(こんな餓氏寸前の子、初めてや。向こうの鎮守府じゃあ、食べたくなくても食べさせられたくらいなのに)
龍驤(やっぱり、どこかで世の中は繋がっとるんや。向こうの歪みが、こっちにしわ寄せてきとるんや……!)
龍驤「こんなん可哀想すぎるやんか……しっかりしいや!」
骸骨?「……」
龍驤「あ、あかん! 寝たらあかんて! うちが鎮守府まで連れて行くから、しっかりしい!」ヨイショ
龍驤「って、軽! 予想はしとったけど、軽すぎや!」
龍驤「うん、これならそんなにスピード落とさへんでも行けるわ! ええか、飛ばすでぇ!!」ザァァァッ!
骸骨?「……」
龍讓(この子は、氏なせちゃあかん……絶対に、うちが助けるんや……!!)
471: 2019/03/17(日) 18:07:30.18 ID:R/s+Uw8ko
* 墓場島鎮守府 執務室 *
龍驤「迷惑かけて、ほんまに、すいませんでした」ドゲザ
提督「……いいけどよ、別に。被害もねえわけだし」
敷波「司令官、本当に大丈夫なの? 戦艦棲姫と出会って逃げてきたとかさあ、あたしたちにとっちゃ未知の相手だよ?」
提督「見つかったとはいえ、一発も当てずに逃げてきただけだから、向こうも躍起になってこっちを探すようなことはないだろ」
敷波「だといいけど……」
神通「追いかけてくる可能性は極めて低いと思います」
敷波「そうなの?」
神通「戦艦棲姫のような大物は、本営が発表する大規模作戦時に姿を現します」
神通「逆に言えば、特定の時期、特定の海域にのみ出現しますから、余程のことがない限りその海域から出てくることはありません」
敷波「そっか、良かったぁ……」
提督「龍驤は、たまたまその特別な時期の海域に迷い込んで、戦艦なんとかと鉢合わせた、ってことか」
敷波「ついてなかったんだねー……」
472: 2019/03/17(日) 18:08:18.07 ID:R/s+Uw8ko
神通「私は運が良かったと思いますよ。あの戦艦棲姫から逃げおおせたんですから」
那珂「提督さーーん!」キラキラキラ クルクルクル スターーン!
提督「報告にエフェクトとターンとポージングは要らん」
那珂「そんなぁ!? 最重要項目ですよ!?」
神通「なにがあったんですか?」
那珂「龍驤ちゃんが連れてきた艦娘、誰だかわかったの! 空母の雲龍さんだよ!」
提督「雲龍?」
那珂「うん! ただ、修復剤の効きが悪いみたいで、まだ目を覚まさないの!」
提督「まあ、あの姿じゃ無理もねえな。龍驤、いつまでも土下座してねえで、雲龍の様子でも見に行ってこい」
龍驤「え、ええのん?」
提督「雲龍を助けてきたのはお前だ。お前が看に行かないで誰が行くってんだ」
473: 2019/03/17(日) 18:09:19.78 ID:R/s+Uw8ko
* 工廠 入渠ドックの外 *
明石「龍驤さんとの遭遇がもう少し遅かったら、手遅れでしたね」
提督「なんでこんなことになったんだ?」
明石「雲龍さんなどの一部の艦娘は、特定海域でしか邂逅できないんです」
提督「特定海域? 神通が言ってた特別な海域のことか」
明石「はい。深海棲艦の群れが大きくなると、鬼級や姫級と呼ばれる強力な深海棲艦が発生しやすくなります」
明石「鬼級や姫級は世界にとって大きな脅威となりますので、本営はこれを掃討するために大規模作戦の開始を発令するわけです」
明石「しかし同時に、そういう大物のいる海域は、特別な艦娘が生まれやすい環境でもあるんです」
提督「雲龍はそういう特別な条件下の海域でしか出てこない艦娘だということか」
明石「はい。深海棲艦の存在によって海域の『なにか』が変わって、その海でのみ特殊な艦娘が生まれるというのが、私が信じてる説です」
明石「今回は、その深海棲艦の群れがたまたま近くの海域を移動中で……」
明石「たまたまそこに迷い込んだ龍驤さんが、その中にいた雲龍さんをたまたま発見し、救助できたんだと思います」
明石「前回の大規模作戦が半月ほど前ですから、おそらくその時期に発生した群れの生き残りなんでしょう」
提督「雲龍もそのくらいに生まれたってことか」
明石「だと思います。で、その作戦時に誰にも見つけてもらえなかったと」
提督「そうなったら、そのまま氏ぬのか?」
明石「そうなるでしょうね」
提督「……理不尽なもんだ」
明石「そこは割り切るしかありませんよ。戦争ですもの」
474: 2019/03/17(日) 18:10:15.62 ID:R/s+Uw8ko
* ドック内 *
(風呂のような水槽に痩せこけた骸骨?→雲龍が浮かんでいる)
龍驤「まだまだ骨みたいやなあ……」
利根「うむ。明石が言うには、もうしばらくは修復剤に浸しておかねばならんそうだ」
雲龍「……」
利根「もう少ししたら修復剤に栄養剤やら肌の保湿剤やらを混ぜてゆっくり体に浸透させて、それから食事の練習じゃな」
利根「衣服も準備してやらねばならん。痩せ細ったせいで、元の衣装ではサイズが合わなくて着られなくなっておる」
利根「とにかく何も食べずにおったから、普通の水すら飲むのに難儀するであろうよ」
利根「まずは重湯から作るべきじゃが、暁が遠征で不在じゃからなあ……比叡に頼むか習うかせねばな」
龍驤「ひ、比叡!? じょ、冗談やないで! 毒を作れっちゅうんか!?」ガクゼン
利根「……その反応も毎度恒例じゃなぁ」ハァ
475: 2019/03/17(日) 18:11:10.30 ID:R/s+Uw8ko
* それから3日後 執務室 *
潮「おはようございます……!」
陸奥「おはようございます……」
提督「よう。陸奥、あんまり顔色良くないみたいだが、大丈夫か?」
陸奥「は、はい、なんとか……」
提督「そうか、無理すんなよ」
大淀「今日は昨日お知らせしたとおり、潮さんと陸奥さんが秘書艦です」
大淀「長門さんからは、潮さんのおかげで陸奥さんも鎮守府に馴染めできていると聞いています」
大淀「今日はその区切りといいますか、仕上げの段階、と言う感じですね」
提督「思ったより早かったな?」
大淀「やっぱり、鎮守府内に男性がいないのが大きかったと思います」
提督「そうか。とりあえず俺はいつも通りでいいんだろ?」
大淀「はい。提督と一緒にいられるかどうかが一番重要ですから」
潮「あの、私と同じように、陸奥さんに接してもらえれば、大丈夫だと思います……!」
476: 2019/03/17(日) 18:11:57.25 ID:R/s+Uw8ko
提督「そういうもんか? まあいいや、試すだけ試してみるか。陸奥、無理があるようならすぐに言えよ?」
陸奥「は、はい……!」
提督「それから、今朝は工廠へ行って雲龍の様子を見て回ってきた」
提督「起き上れるくらいには回復したが、まだ食い物が受け付けられないらしい」
大淀「お腹が弱っているということでしょうか」
提督「多分な。無理に食わせても戻しちまうから栄養が取れなくて、立って歩くのもつらそうだった」
提督「龍驤も付きっきりで看病してるが、さすがに疲れてきてるみたいだな」
大淀「そうですか……」
提督「ただ、俺たちが気をもんでも何にもならねえ。明石もいるし、俺たちは俺たちの仕事をする」
大淀「はい」
陸奥「……」
潮「あの、陸奥さん、なにかあったら、すぐ教えてくださいね」
陸奥「……ありがとう」
477: 2019/03/17(日) 18:12:51.69 ID:R/s+Uw8ko
* 昼 *
提督「潮ー」
潮「は、はい!」ガタッ
提督「今月の申請書はこれで全部だ。確認頼む」
潮「わかりました……!」
提督「人数が増えたもんで食費が馬鹿になんねえな。もう少し自給自足できりゃあいいんだが……」
提督「畑は初雪が見てくれてるけど、もう少し拡張しないと自給が追いつかねえ」
潮「……でも、初雪ちゃん一人で見るのは大変だと思います」
提督「そうだよなあ……もう一人くらい専任がいてもいいよな」ウーン
陸奥「……」
潮「……陸奥さん?」
陸奥「! な、なに?」
潮「なんだかぼーっとしてましたけど、大丈夫ですか?」
陸奥「う、ううん、なんでもないわ。大丈夫」
潮「……やっぱり、顔色が悪い気がしますけど」
陸奥「大丈夫よ……!」
478: 2019/03/17(日) 18:14:11.07 ID:R/s+Uw8ko
潮「やっぱり、提督さんがいると落ち着かないんですか?」
陸奥「そんなことはないわ……あの鎮守府に比べたら天国と地獄みたいだもの」
潮「そ、そんなにひどかったんですか」
陸奥「ええ、いつ迫られるか、気が気じゃなかったから……」
陸奥「でも、准尉はなにかするときに必ず声をかけてくれるし……今ここで過ごすこと自体は、全然苦痛じゃないから」
潮「陸奥さん……」
コンコン
大淀「大淀です。失礼します」チャッ
大淀「提督、そろそろ昼餉に致しましょう。比叡さんからお弁当をいただいてきました」
提督「弁当?」
大淀「はい、今日は屋外で作業している方が多いので、お弁当を作ってみたそうです」
大淀「ポットにお茶も入っています、今ご用意しますね」
提督「弁当か……比叡の飯は向こうでも大好評だったんだよな」
潮「む、向こうって……朧ちゃんや初雪ちゃんがいた鎮守府ですか?」
提督「ああ。からあげとか一口ハンバーグとかあったんだけど、あっちの卯月と望月がすっげー勢いで全部食いやがってな」
479: 2019/03/17(日) 18:15:18.44 ID:R/s+Uw8ko
提督「そのあと、こっちに来た鳳翔が比叡に作り方を教えてもらってたから、今頃向こうでも流行ってるんじゃねーかな」
潮「おいしいですからね……!」ニコニコ
大淀「提督、どうぞ。こっちが潮ちゃんと陸奥さんのぶんです」コトッ
提督「おう、ありがとな」
潮「ありがとうございます……!」
陸奥「……」
提督「……相変わらず手が込んでるな。今日は由良と如月が手伝ってたんだっけか」カパ
大淀「はい。如月さんからは味わって食べてくださいと言伝を預かってますよ」
提督「そうか」
潮「そ、それじゃ、いただきます! ……もぐ、もぐ……んん……っ」ニコー
提督「相変わらず幸せそうに食べるな……」
大淀「ですね」ニコニコ
陸奥「……」
提督「……陸奥? どうした」
陸奥「……」
潮「陸奥さん……?」
陸奥「……ぅ、ぐ……!」グラッ
ドタッ
提督「陸奥!」ガタッ
潮「む、陸奥さん……陸奥さんっ!?」
提督「おい! しっかりしろ! 陸奥! おい!!」ユサユサ
陸奥「ぅ……」
提督「……大淀! 明石に連絡だ!」
大淀「は、はいっ!!」
480: 2019/03/17(日) 18:15:55.67 ID:R/s+Uw8ko
* 工廠 入渠ドック *
提督「龍驤も倒れただと!?」
明石「はい、真っ青な顔をして倒れてしまって……!」
提督「飯は食ったのか?」
明石「食べたんですけれど……」
提督「けれど?」
明石「尋常じゃなく早食いだったんですよ。余程お腹が減っていたのか、雲龍さんのために用意した重湯まで食べたいと言い出して……」
提督「……」
明石「陸奥さんは食べる前に倒れたんですよね?」
提督「そうだ。腹を抱えていたから胃痛の類だと思うが……明石はなんともないのか?」
明石「は、はい。同じお弁当を食べたんですけど、私はなんともないですよ」
提督「じゃあ、弁当が原因じゃねえんだな……」
明石「そ、そうですね……!」
提督「……もしかして、どっちも摂食障害ってやつか?」
明石「え?」
481: 2019/03/17(日) 18:19:12.30 ID:R/s+Uw8ko
提督「俺も急に食生活が変わった時に経験したんだが……仮説として聞いてくれ」
提督「龍驤と陸奥は、前の鎮守府で大食いを強要されていた」
提督「無理矢理胃袋をでかくさせられて、ある日いきなり普通の量の飯を出されたら、それは足りなく感じるよな?」
明石「え、ええ……」
提督「龍驤の場合は空腹で倒れたんだろう。食べ過ぎても、必要な栄養分だけ吸収するように体が順応したとしたら……」
提督「食べる量が減れば、その分吸収できる栄養も減って、栄養失調になる。それで倒れた、って考えられる」
明石「……!」
提督「陸奥は背負ってドックへ連れてくるときに、頻りに気持ち悪いと訴えていたし、酸っぱい匂い……多分胃液だな、それが出過ぎてる」
提督「大量の飯を食べるのに慣れたせいで胃酸過多になって、胃を壊したように思えるな」
明石「よ、よくそこまでわかりますね!」
提督「適当だけどな。どっちにしても、俺はいきなり食事量が変わったせいで起きたことだって推測してる」
482: 2019/03/17(日) 18:20:02.33 ID:R/s+Uw8ko
提督「そういう観点で、なにか治療法はねえのか」
明石「そんなこと言われても、私はどちらかと言えば外科医みたいなものですし……!」
提督「これは内科医の仕事か……」
明石「い、いったいどうしたら……」
提督「……」
明石「……」
提督「そうだ……おい明石。バケツは今どのくらいある」
明石「へっ?」
提督「あれの中身を……修復剤をあいつらに食わせたら、体の内側を直せないか?」
明石「え、ええええ!? あ、あれ、食べられるんですか!?」
提督「N大尉の鎮守府の厨房にあのバケツが置いてあったのを見たんだ。鳳翔に聞いたら、料理に混ぜてくれってリクエストが来るらしい」
提督「どういう理屈か知らねえが、修復剤は怪我とかを直すんだろう? 胃袋に直接流し込んでやれば、効果あるんじゃねえか!?」
明石「……私はやったことありません。でも、試してみる価値はあると思います!」
明石「その話が本当だとしたら、大発見ですよ!!」グワッ
提督「お、おう……」
483: 2019/03/17(日) 18:20:52.39 ID:R/s+Uw8ko
* ドック内 病室 *
潮「陸奥さん、しっかりしてください!」
長門「龍驤も倒れただと!?」ダダッ
大淀「な、長門さん落ち着いて!」
長門「し、しかし……!」
利根「気持ちはわかるが静かにするんじゃ」
ガチャバーン!
明石「みなさん! 治療のご協力をお願いします!」
大淀「明石!?」
潮「な、なんですかその脚立!?」
提督「おい明石、このバケツはどこに置くんだ!」ガシャガシャ
長門「提督も来たのか!?」
明石「とりあえずここにお願いします! 陸奥さんから治療を始めましょう!」ガシャッ
潮「え? ど、どういうことですか!?」
484: 2019/03/17(日) 18:21:37.60 ID:R/s+Uw8ko
明石「話はあとです! 提督、陸奥さんの上体を起こして、顔は上に向けてください!」
提督「こ、こうか!?」グッ
陸奥「……う、うう……」ムクッ
明石「はい! そのまま、口を開けさせてください!」
提督「わかった」グイ
ガポッ
陸奥「……もが?」
潮「な、なんですか、あれ。漏斗?」
大淀「ろうと、というより、じょうごですかね……サイズ的に」
明石「よし、それじゃ行きますよ!」キャタツノウエデバケツカマエ
提督「え」
陸奥「!?」ギョッ
潮「!?」
大淀「!?」
利根「!?」
485: 2019/03/17(日) 18:22:36.20 ID:R/s+Uw8ko
長門「明石!?」
明石「修復剤、投入!!」バケツザバーー
陸奥「もぼがばごぼっ!?」ゴボボボー
潮「む、陸奥さあああああん!?」
大淀「な、なにをしてるんですかああああ!?」
明石「修復剤を胃袋に直接流し込んでいるんです!」ドヤッ!
長門「そんな無茶苦茶な流し込み方があるかああああああ!!」
陸奥「……も……! ごぼ……っ! お……!」ジタバタ
提督「おい明石、大丈夫なのかこれ!?」
明石「提督は動かないで! もう少しです! もう少しで終わりますから!」
陸奥「……っ……っ!」プルプル
潮「あわわわ……!」
利根「……」アングリ
提督(……俺、余計なこと言わなきゃ良かったか?)タラリ
486: 2019/03/17(日) 18:23:33.34 ID:R/s+Uw8ko
明石「よし! これでオーケーです!」バケツカラッ
陸奥「」チーン
長門「何がオーケーなものかあああああ!!」
潮「む、陸奥さん? 陸奥さぁぁん!」オロオロ
明石「今回陸奥さんが倒れた原因は消化器系の問題と思われます! だとしたら修復剤を直接お腹に入れるのが一番効果的です!」
大淀「だとしても、やり方に問題があるとしか言えませんよ!?」
明石「次は龍驤さんですね!」
大淀「話聞けよ!」ゴォッ
潮(提督さんそっくり!?)ビクッ
提督(誰だ今の!?)ビクッ
龍驤「う、うう……なんや、騒がしいなあ……」
陸奥「」シロメ
龍驤「」
明石「提督、さっきと同じように龍驤さんを抑えててください! 早く!!」ギラッ
提督「あ、ああ」ガシ
利根(あの提督が気圧されておる……)タラリ
487: 2019/03/17(日) 18:25:26.07 ID:R/s+Uw8ko
龍驤「ちょっ、な、なにするん!?」
明石「大丈夫、龍驤さんのお腹の治療です! 治療ですよ!」ギラギラッ
龍驤「あ、明石! その血走った眼はなんやねん!?」
明石「いいから口を開けてください!」ガポッ
龍驤「がぼっ!?」
明石「はい、上を向いてぇ! 投入うう!!」バケツザバー
龍驤「ごぼがばぼべーーーー!?」ゴボボボー
潮「」シロメ
大淀「」シロメ
利根「なんなんじゃこの地獄絵図は……」
提督「これで治らなかったらどうする気だ……」タラリ
長門「陸奥! しっかりしろ、陸奥ーーーー!!」
493: 2019/03/23(土) 14:08:05.09 ID:Qs9vb849o
* 工廠 *
明石「あいたたた……どうして長門さんからげんこつをもらわなきゃいけないんですか」タンコブ
提督「お前ノリノリだったじゃねえか、目が怖かったぞ。つーか、お前のせいで俺までげんこつ食らったんだからな?」タンコブ
明石「発案者は提督じゃないですかー」
提督「そうだけど、あんな治療法あるかよ。もうちっとスマートにできなかったのか?」
明石「カテーテルでもあればできたでしょうけど、そう都合よく持っていませんでしたし!」
明石「とにかく、小一時間もすれば胃腸に浸透して効果も出てくるでしょうから、お茶の時間にでも見に行きますよ」
提督「……うまくいくといいがな」
明石「そうですね。雲龍さんにも少量ですが似たように処方しましたし、これでうまくいかなかった人はまた別の方法を試してみましょう」
494: 2019/03/23(土) 14:08:59.79 ID:Qs9vb849o
提督「……無理はさせんなよ?」
明石「ええ」ニマー
提督「なんつうか不安になる笑顔だな……まあいい、俺は執務室に戻る。陸奥を連れてきて昼餉を食べ損ねたからな」
明石「はい、こちらはお任せください! それにしても、修復剤を料理にですか……どんな味がするんでしょうね」
提督「修復剤自体は無味無臭だったな。水あめみたいな感じだった」
明石「……え」
提督「? どうかしたか」
明石「い、いえいえ!」ブンブン
提督「? ……とりあえず俺は執務室に戻るぞ」
明石「はい!」
パタン
明石「……提督が、修復剤を食べたってこと……!? そ、それこそ大丈夫なの……!?」
495: 2019/03/23(土) 14:09:59.66 ID:Qs9vb849o
* その日の1530 食堂 *
龍驤「……うまいなあ、このパンケーキ」モギュモギュ
陸奥「本当……」モグモグ
龍驤「比叡が作るっちゅうから、どうなるんかめっちゃ不安やったけど……」モギュモギュ
陸奥「見ただけでお腹が鳴ったものね……」モグモグ
龍驤「それに、好きな分だけ食べられるて、ええな……」ポロ
陸奥「そうね……幸せだわ」ウルッ
龍驤「食事までトラウマになったら、うちらどうしたらいいかわからんし」ポロポロ
陸奥「もう……泣きながら食べたらしょっぱくなるわよ」グスッ
龍驤「陸奥やってそうやんか」グシグシ
提督「……よう」
陸奥「!」ビクッ
龍驤「な、なんや!?」ビクッ
496: 2019/03/23(土) 14:10:58.21 ID:Qs9vb849o
提督「あー……その、昼間は悪かったな。修復剤の件、明石に持ちかけたのは俺だが、考えてた以上に荒っぽいっつうか……」
龍驤「そーやなあ! 無理矢理やったなあ!」
提督「……」
龍驤「な、なんや、文句あるんかい」
提督「いや。すまなかった」ペコリ
龍驤「……!」
陸奥「……!」
龍驤「い、いや、いつまでも怒っとるわけやない。やり方は考えて欲しいんや! な!?」オタオタ
陸奥「そ、そうね……」オロオロ
龍驤「結果オーライやったけど、同じことを起こしたらあかんねん! な?」
提督「そうだな。次がないのが何よりだが、もしあったらもっといい方法を考えなきゃな……明石にも相談する」
龍驤「……ところで、雲龍には修復剤を少ししか飲ませんかったって聞いたけど、なんでや?」
提督「龍驤たちは食べさせられすぎて胃拡張気味だったと思うが、雲龍は逆に飲まず食わずだからな。胃縮小を心配したんだ」
龍驤「うちらにがぶ飲みさせたんは、大食いしてたからなんか……」
提督「つっても、あそこまでやる気はなかったがな……」
497: 2019/03/23(土) 14:11:59.14 ID:Qs9vb849o
陸奥「雲龍には、普通の食事は駄目なの……?」
提督「しばらくは重湯やおかゆで食べ物に慣れてからだな。余所じゃ修復剤を混ぜて食べさせてる例もある」
提督「お前たちがこんなに早く回復したんだから、雲龍もすぐにここに来られるようになるんじゃないか?」
龍驤「……だとええなあ」
提督「しばらくは様子見だ。お前たち自身も、落ち着く時間が必要だろ」
龍驤「そうやね……」
提督「それでだ。今なら、氏にたいとは言わないよな?」
陸奥「……!」
龍驤「……まあ、せやね。やっとまともな生活できそうやし、考えたほうがええかなあ」
陸奥「そうね……」
山城「有耶無耶に、そうね、じゃなくて、はっきり言っておいたほうがいいわよ」ズイ
龍驤「!?」
提督「山城……!」
山城「私よりも薄幸そうなオーラを放ってる一団だもの、この辺で決意表明でもしておいて、腹を括ったほうがいいんじゃない?」
提督「まあ確かにな。そうすりゃ出撃とかも任せるつもりだ」
陸奥「……出撃……」
498: 2019/03/23(土) 14:13:02.68 ID:Qs9vb849o
提督「どうする?」
龍驤「……そうやなあ。うちは、ここで人生始め直しても、ええかもしれんなあ。陸奥はどうするん?」
陸奥「そうね……出撃、させてもらおうかしら」
陸奥「いろいろ、たまってたのかもしれないわ。外で思いっきり、鬱憤を晴らすのもいいかも、ね……!」
提督「……陸奥もやっと笑ったか。これなら一安心だ」
陸奥「!」
山城「なにそれ。ナンパでもしてるつもり?」
提督「してねえよ。やけに突っかかってくるな、お前」
山城「あなたの態度に納得いかないだけよ。私や扶桑お姉様には踏ん反り返って上から目線だったくせに」
提督「ああ? 踏ん反り返った記憶はねえぞ」
山城「は? だったらどうしてこの二人には、私たちのときよりペコペコ頭を下げてるのよ! 弱みでも握られたの!?」
提督「いや……明石が二人にやらかしたことを聞いたら納得すると思うが」
山城「はぁ? いったい何をしたのよ……」
499: 2019/03/23(土) 14:14:03.19 ID:Qs9vb849o
龍驤「うちらの口にじょうご突っ込んで、高速修復剤を流し込んだんや。ダバーって」
提督「それもバケツ一杯分な」
山城「……はあああ?」ドンビキ
提督「な? そういう顔になるだろ?」
山城「鬼畜」ジリッ
提督「それは明石に言えよ、俺は修復剤を食わせたらどうだって言っただけだぞ」
山城「部下に責任転嫁するの? 鎮守府を預かる提督のくせに、逃げるなんて最悪ね」
提督「そうじゃねえよ。お前も口が減らねえな、明石といい勝負だ」
山城「あなただってそうでしょ、ああ言えばこう言うし……!」
提督「……負けん気が強すぎるぞ、お前」
山城「まだ言うの!?」
龍驤「仲ええなぁ」ニヤァ
陸奥「そうね」フフッ
山城「ちょっと!? そ、そういうのとは違いますから! そもそも着任して日も浅いし!」
500: 2019/03/23(土) 14:15:03.05 ID:Qs9vb849o
扶桑「そうかしら? 山城、そう言う割に提督ととっても仲が良く見えるわよ? ふふふっ」ニコニコ
山城「」シロメ
山城「」シロメ
山城「」ヒザカラクズレオチ
山城「不幸だわ……」ガクーッ
提督「なにやってんだよこいつは……」
龍驤「一人上手やなー」ケラケラ
扶桑「ところで……二人はもう体調はよろしいんですか?」
龍驤「!」
提督「扶桑……お前、いつから異常に気付いてた?」
扶桑「何度か食事で近くに座っただけですが、その時に。龍驤さんは食べるスピードが異常に速かったですし……」
扶桑「陸奥は食べるのを怖がっていたように見えましたので。潜水艦の子から病気に関する本をお借りして、調べていました」
扶桑「過食症ですとか、拒食症ですとか……当てはまりそうな症状にあたりを付けてから、ご報告するつもりでいましたが」チラッ
扶桑「必要、なかったみたいですね」ニコ
提督「いや、そういうことなら早めに教えて欲しかったぜ。結局二人とも倒れたわけだしな」
501: 2019/03/23(土) 14:15:58.07 ID:Qs9vb849o
提督「実際今はどうなんだ? 食べてて違和感ないか?」
龍驤「嘘みたいに調子ええよ。前は食べても味もせんかったし、こう……食べ物がちゃんと喉を通ってお腹に収まる感触がなかったしなあ」
陸奥「私もよ。何か口にすると胃液の味がして気持ち悪かったんだけど、今は全然そんなことないわ」
提督「……もしかして修復剤、効果あったのか?」
陸奥「認めたくないけど……」メソラシ
龍驤「あれはあれで別のトラウマになるで……」トオイメ
提督「もうあんな使い方はしねえよ、コップで飲むようにするか医療用の細い管でも取り寄せるかするさ」
提督「とりあえず、正式な着任の手続きは大淀が受け付けてる。そろそろこっちに来るだろうから、各々適当に申請してくれ」クルッ
扶桑「提督、どちらへ?」
提督「執務室。まだやることがあるんでな」
スタスタ…
扶桑「……」
龍驤「なあ扶桑? あんた、うちらのことよう見てたなあ」
扶桑「ええ、なんでも、ちゃんと見て、向き合うことにしているの。今までは、この世の全てから、目を逸らしていたから……」
502: 2019/03/23(土) 14:16:56.75 ID:Qs9vb849o
龍驤「あんたも、なにかあったんやな?」
扶桑「……ええ、いろいろと」フフッ
扶桑「山城? そろそろ立ち直って? 一緒におやつにしましょう?」
山城「……はっ!? ふ、扶桑お姉様!? 私はいったいなにを!?」
扶桑「そこまでショックを受けてたなんて……さすがに少し心配よ?」
龍驤「……」
陸奥「嬉しそうね、扶桑……ずっとにこにこしてて」
龍驤「そうやなあ……なあ、陸奥、どうなん? あの提督、信用できそうか?」
陸奥「……まだ、乱暴は受けてないから……何とも言えないけど」
陸奥「でも、あんなふうに、男の人に頭を下げられたのは初めてだわ」
龍驤「そういえばそうやなあ……」
503: 2019/03/23(土) 14:18:06.30 ID:Qs9vb849o
* 一方その頃 *
* 海軍本営近くの病院 *
(ギプスで全身を固められたN大尉がベッドに寝かされている)
N大尉「……艦娘が羨ましいな。俺にも高速修復剤が使えたら良かったのに」
妙高「安静にしててくださいね。焦ってもいいことはありませんから」
N大尉「わかってるよ。とにかく、以中佐の艦娘の体調不良はなんとかなりそうなんだな?」
妙高「はい。高速修復剤を体内に取り込むことで、お食事の異常を直せることが実証できました」
N大尉「もと部下たちがごはんに高速修復剤を混ぜてたのも、あながち無意味じゃなかったんだな」
妙高「入渠時間が惜しい子たちから、良く依頼されていたと鳳翔さんが仰っていました」
妙高「それから、N大尉の立てる計画はいつもカツカツでしたので、ストレスを感じていた子が結構いたみたいですよ」チラリ
N大尉「ぐ……」
妙高「確かに『時は金なり』と申しますが、無駄がないというのは余裕がないとも言い換えられます」
妙高「その時その時の最大効率を出したいのはわかりますが、適度に息抜きも必要でしょう」
504: 2019/03/23(土) 14:18:57.86 ID:Qs9vb849o
妙高「せめて食事くらいは、ゆっくりとれる時間を持ったほうが良いと思いますよ」
N大尉「……ああ」ムスッ
妙高「N大尉?」
N大尉「許してくれ。この年にもなると、自分の続けてきたことに合わない説教をされると、こういう顔になるんだ」
N大尉「妙高の言うことは理解できる。ただ、長年自分が信じていたものを否定されるのはきつい」
妙高「ええ、そんなことだろうと思っていました」
N大尉「……」
妙高「新しいもの好きの割に、そういうところは頑固ですよね」
N大尉「妙高……少し性格がきつくなったんじゃないか」
妙高「長いこと構ってもらえていませんでしたので」ニコリ
N大尉「んぐ……」
妙高「仕方ありませんよね、提督准尉のような世捨て人ならまだしも、世の中の男性は胸の大きい女性に目が行くのは当然なんでしょうね」
N大尉「みょ、妙高! 俺は別にそんなつもりは……!」
妙高「でしたら、私より愛宕を重用するようになったのはどうしてなんでしょうね」ジトッ
N大尉「」
505: 2019/03/23(土) 14:19:57.56 ID:Qs9vb849o
妙高「駆逐艦の子たちも、あからさまにぱんぱかぱーんな趣味が出ているようですし?」
N大尉「い、いや、それはその……」
妙高「この件ばかりは、以中佐のことを言える立場にないと思いますが、いかがでしょうか」
N大尉「……か、返す言葉もなく……!」
妙高「はぁ……こういう感情を、やれやれと言うのでしょうね」
N大尉「だ、だが、この場合、俺の趣味というか、好みはあまり関係ないと……」
妙高「ええ。あなたがこれまで私たちに対して、節度を持って接しておられたことは間違いありません」
妙高「ですがそれ以上に、あなたは、あまりに事を性急に進めようとしていました。ご自身の余裕を削ってまで」
N大尉「……仕方ないだろう。俺は、ただただ、父さんや母さんの生き甲斐が消えていくのを防ぎたくて……」
妙高「だからこそでしょうね。今思えば、あなたとこんな風に雑談すること自体、なかったような気がします」
N大尉「俺が戦えれば一番良かったんだ。多少無理をしても、戦果を挙げれば誰にも文句を言われない」
N大尉「だが、お前たちしか戦えないのなら、俺はそのバックアップを完璧にやらなきゃいけない」
N大尉「ゆとりなんか持ってる場合じゃないと思っていたんだ。いつの間にか、お前たちにもそれを押し付けていたわけだがな……」
506: 2019/03/23(土) 14:20:58.85 ID:Qs9vb849o
妙高「それでツールに手を出したんでしたね。時間設定で艦娘に指示ができるからと」
N大尉「あ、ああ……それから、胸が大きい艦娘ばかり選んでたのは本当に無意識だった」
妙高「どうだか? 胸の小さな子たちを軽視していたのでは?」ツーン
N大尉「そ、それはない! 誓って本当だ! その……母さんがそうなんだ。だから軽んじたりはしていない!」
妙高「それでも胸の大きい女性が好きなんですか」
N大尉「……その、隣の家に住んでた姉さんがな、あー……憧れてたというか……な?」
妙高「そうですか……」ハァ
N大尉「……そ、それに……少し、お前に似ていて……」ポ
妙高「!?」
N大尉「お前にあのイヤホンを渡すのをためらったのも、その、深い理由はないんだが……」
N大尉「付けさせたら、どこかへ消え去ってしまいそうで……その、あのときは、なんとなく……そう思ったんだ」メソラシ
妙高「……」
N大尉「……」
妙高「そんな嘘で誤魔化せるとお思いですか」ジトッ
N大尉「嘘じゃないよ!」ガーン
507: 2019/03/23(土) 14:22:12.47 ID:Qs9vb849o
妙高「本当ですか? 話が出来過ぎですよ」
N大尉「本当だよ! ……滅茶苦茶恥ずかしかったのに、こんなことまで茶化されるのか……ぐううう」
妙高「今までやってきたことのツケが回ってきたと思ってください」
N大尉「ぐぬ……今の俺は何を言っても三枚目ってことか」ガックリ
妙高「序二段あたりではないでしょうか」
N大尉「辛辣だな!! しかも意味が微妙に違わないか!? うまいこと言ったと思ってるだろう!?」
妙高「いいえ?」シレッ
N大尉「笑顔が白々しいぞ! ったく……お前に、そんな冗談を言われるとは思わなかった」
妙高「真面目一辺倒では疲れますから。N提督も、執務から離れて一休みしても良いでしょう?」ニコ
N大尉「……厳しいんだか、優しいんだかわからないな」ハァ
妙高「ところで……あの駆逐艦隊に初雪さんを加入させたのはどうしてです?」
N大尉「……勘でしかないんだが、あの初雪、絶対何かを隠してると思ってな……!」
N大尉「育てたらいい線行くんじゃないかと思ってたんだ」
妙高「それでは、島に行ったときに連れていた磯波さんは」
N大尉「彼女も期待ができると思う」
妙高「それは胸部装甲的な意味でですか?」
N大尉「そちらは更に期待できる」キラッ
妙高「……げんこつ一回分、ツケておきますね」ピキッ
N大尉「!?」
512: 2019/03/31(日) 14:41:53.17 ID:KnApYcbEo
* それからさらに3日後の朝 *
* 墓場島鎮守府 食堂 *
提督「雲龍の回復もあっという間だったな」ウドンズルズル
明石「はい、予想以上でした」ソバズルズル
提督「やっぱり、高速修復剤入りの食事が効いたのか?」
明石「だと思います。あとは、食べて寝てを短いサイクルで繰り返したので、回復を促すことができたのが大きいかと」
提督「食っちゃ寝してたってことか」チラッ
明石「身も蓋もない言い方をすると、そうですね」チラッ
雲龍「……」モグモグ
明石「おかげで食べるのがすっかり楽しみになっちゃったみたいで、今朝も早く食堂に行きたいって言ってましたよ」
提督「仕込みの最中からここに来てたらしいな?」
明石「どんなふうに作ってるのかを見たいし、時間をかけてゆっくり食べたい、とも言ってましたからね」
提督「そうか……それにしても、やっぱ目立つな。あの胸は」
明石「ああ、そーですねー……提督でも目が行きますか」
提督「今まで見たことねえサイズだからな。神通やはっちゃんが口開けて驚いてるとこも初めて見たぞ」
513: 2019/03/31(日) 14:42:47.09 ID:KnApYcbEo
明石「那珂ちゃんも笑顔のまま目を見開いて固まってましたからねー」
提督「神通もそうだが、那珂のトレーニング風景見たことあるか?」
提督「あいつら、アスリートでも目指してるのかって感じにハードでストイックだからな」
提督「胸ってのは脂肪の塊らしいから、那珂にせよ神通にせよ、今のトレーニング続けてたら絶対大きくならねえぞ」
明石「……すいませんねえ、脂肪の塊で」
提督「当て付けのつもりはねえぞ。っつうか、相手によっちゃあその一言も嫌味に聞こえたりするんだろ? 本っ当、面倒臭えな」
明石「まあ、そうですねー……気にするなって言われても、どうしても気になることですよ」
提督「難しいもんだな……」
金剛「Good morning, テートクゥ!!」
比叡「司令、おはようございます!」
榛名「おはようございます!」
提督「おう」ズゾゾ
514: 2019/03/31(日) 14:43:48.80 ID:KnApYcbEo
榛名「お、お二人とも、朝から麺類ですか!?」
明石「……驚かれるようなことですかね?」モギュモギュ
提督「別に珍しくねえだろ?」クビカシゲ
榛名「そ、そうなんですか?」
比叡「うん、司令はたまに厨房借りて作ってたりするよ?」
金剛「ンー、 balance の良い食事を心掛けないとよくありまセン……ヨ……」
提督「?」
榛名「どうかなさいましたか、金剛お姉さ……」
比叡「何を見てるん……」
明石「あ」
比叡「ひええええ! おっOいでっか!!」
提督(声がでけえし感想がどストレートすぎる)
金剛「……テートク……あの White haird big breast はいったい誰デース……」ハイライトオフ
提督「雲龍だ。少し前に戦艦棲姫のいる海域で見つけた、飢え氏に寸前の艦娘がいたろ?」
515: 2019/03/31(日) 14:44:53.40 ID:KnApYcbEo
比叡「えええ!? あの骨みたいな人が、あんなにおっOいおっきくなったんですか!?」
金剛「比叡……おっOい連呼するのははしたないデース……」
比叡「でも良かったですね、元気になって!」
提督「ああ、まあな……って、榛名?」
榛名「……」ボーゼン
明石「榛名さん、大丈夫ですか?」
榛名「……」
榛名「榛名は……」
榛名「榛名はだいじょばないです……」ヒザカラクズレオチ
比叡「は、榛名ーー!?」
金剛「榛名!? 榛名、しっかりするデース! 傷は浅いデスヨ!?」ダキカカエ
提督「落ち込むのはあとにして、とりあえず飯にしてこい」
金剛「Yes...行きマスヨ、榛名ー」ズリズリ
榛名「ハイ……ハルナハダイジョウブデス……」ズルズル
比叡「金剛お姉様も元気を出してください!」
516: 2019/03/31(日) 14:45:49.38 ID:KnApYcbEo
提督「……比叡は大丈夫そうだな」
明石「他人に悪意を向けたり、嫉妬したりするタイプじゃないですからねー」
明石「それをさておいても、比叡さんもそれなりにあるほうですから。そこまで羨ましいと思ってないんでしょう」
提督「まあ、とにかく……しばらくすりゃあ見慣れると思うんだが、それは楽観視しすぎか?」
明石「大半の人はそれで大丈夫だと思いますが……この件で致命的にショックを受けてる人がいますからね」
提督「……それ、もしかして龍驤か?」
如月「ええ、そうみたいよ?」スッ
提督「如月……?」
如月「お隣失礼しますね、司令官」ニコ
陸奥「……おはようございます」
提督「陸奥も一緒か。顔色も悪くなさそうだな」
陸奥「え、ええ……おかげさまで、ね」
提督「飯もまともに食えてるようなら、あとは鎮守府の雰囲気に慣れてもらうだけだな」
陸奥「……」コク
517: 2019/03/31(日) 14:47:09.21 ID:KnApYcbEo
如月「……陸奥さん、大丈夫?」
提督「緊張してんだよ。陸奥と龍驤も前の鎮守府でひどい目に遭わされたからな」
如月「そういうことなら大丈夫ですよ? 司令官は、私たちに意味もなく手をあげたりしないもの」ニコ
提督「そこは理屈じゃねえよ。刷り込みみたいなもんだから、ゆっくり時間をかけて馴染んでもらうしかねえさ、マイペースにな」
明石「ひどい目に遭わされた、という点では私たちも同じですから。力になれることがあれば相談に乗りますよ」
陸奥「そ、そうなの?」
提督「まあな。ところで陸奥、今日は龍驤と一緒じゃないのか」
如月「それなんだけど、龍驤さんが部屋から出ようとしなくって……陸奥さんにどうしたらいいかって声をかけられたの」
提督「もしかして、それが雲龍絡みか?」
陸奥「……」コクン
如月「陸奥さんは潮ちゃんにお願いするつもりだったんだけど、今朝は大和さんと厨房に入る予定だったし……」
如月「ショックを受けてる理由が雲龍さんのそれだとしたら、潮ちゃんも……ね?」
518: 2019/03/31(日) 14:47:49.65 ID:KnApYcbEo
提督「なるほど……思ったより深刻だな。とりあえず朝餉済ませて龍驤を訪ねてみるか」ズズッ
如月「私たちも一緒にいいかしら?」
提督「……そうだな、頼む」
如月「ええ」ニコー
提督「それで、龍驤は部屋にいるのか?」
陸奥「え、ええ、そうよ」
ズイッ
雲龍「少し、いいかしら」ヌッ
提督「うお……!? ど、どうした」
雲龍「龍驤が、部屋から出てこないって聞いてるんだけど」
提督「……ああ、そうだが」
雲龍「私も、話がしたいの。できれば、工廠で」
提督「……工廠?」
519: 2019/03/31(日) 14:48:47.19 ID:KnApYcbEo
雲龍「そう。もし、話ができるなら、工廠で待ち合わせをお願いしたいのだけれど」
提督「……明石。場所、借りられるか?」
明石「うーん……わかりました。そういうお話なら、片付けてきますので少々お時間ください」
雲龍「ええ。よろしくお願いね」スッ
スタスタスタ…
提督「……雲龍は何考えてんのか、いまいち掴めねえな」
明石「……」
如月「……」
提督「どうした?」
明石「い、いや、まあ……間近で見ると迫力ありますね」
提督「あー……そうだな、いきなり視界にでん、と入ってくるからな。正直、俺もびびった」
如月「……」ムニムニ
提督「……」
如月「気にしてないつもりだったけど、やっぱりちょっとショックね……」ガックリ
提督「どうやって龍驤を立ち直らせるかねえ……骨が折れるぞ、これ」ハァァ
陸奥「……」
520: 2019/03/31(日) 14:49:38.12 ID:KnApYcbEo
* 工廠 *
龍驤「うちを呼び出すとか……なんなん」
提督「四の五の言わずに付き合え。雲龍がお前と話をしたいんだとよ」
龍驤「用があるんはあんたやないんか」
提督「なくはねえ。が、俺は後でいい」
龍驤「さよか」
如月「……明石さんと雲龍さんはどこへ行ったのかしら?」
明石「何をしてるんですか!!」
(のこぎりや電動の丸鋸を抱えて奥の部屋から出てくる明石)
如月「明石さん!?」
提督「そんなもの抱えて走ると危ねえぞ」
明石「それどころじゃありませんよ! 雲龍さんが自分を切ろうとしてるんですから!」
提督「なに?」
雲龍「明石。それを貸して」ヌッ
明石「嫌です! 貸せません!」
521: 2019/03/31(日) 14:50:30.37 ID:KnApYcbEo
雲龍「……そう。なら、厨房で包丁を借りるわ」
提督「おい待て雲龍。お前、自殺でもする気か」
雲龍「自殺? 違うわ。私は、この胸を切り落としたいだけよ」
提督「なに?」
陸奥「胸を……って、のこぎりで!?」
雲龍「別に道具はなんでもいいわ」
雲龍「私は胸を切り落とせるなら、それでいいの」
龍驤「!?」
如月「何を考えてるんですか! そんなことしたら、大怪我どころの話じゃすみませんよ!?」
提督「雲龍、どうしてそんなことをする」
雲龍「龍驤が悲しんでるから」
龍驤「……!!」
522: 2019/03/31(日) 14:51:24.34 ID:KnApYcbEo
雲龍「私を助けてくれた龍驤が、私を見て俯くの」
雲龍「だから、私は彼女が気にしているところを、なくしたいだけ」
雲龍「それの何が悪いの?」
如月「……そ、それは……!」
明石「別にそう思うのは構いませんけど、そういうことになら私の道具は貸せませんし、協力もできません!」
雲龍「それはどうして?」
明石「成功するビジョンが見えないからですよ。治療ならまだしも、体形をいじる手術なんて私の専門外です」
提督「厨房の包丁も無理だな。比叡や暁なら、包丁は料理を作るものであって、人を怪我させるものじゃない、って言い張るだろうさ」
雲龍「……そう。なら、それ以外の刃物がどこかにないか……」
龍驤「……けんな……!」
如月「!」
龍驤「ふざっけんなやああ!!」
雲龍「!?」ビクッ
523: 2019/03/31(日) 14:52:34.58 ID:KnApYcbEo
龍驤「馬鹿にしとるんか!? それとも、うちを憐れんでるつもりなんか!! 舐めんのも大概にしいや!!」ブワッ
龍驤「そんなもんぶった切ったところで、うちが喜ぶ思たんか!! うちが満足する思たんか!!」ボロボロボロ
龍驤「思い上がんなや! このドアホ!!」ダッ
雲龍「え!? え……!?」オロオロ
如月「龍驤さん……!」
提督「やめとけ。下手に刺激しないほうがいい」
如月「……」ウツムキ
雲龍「なんで……!? ……どう、して……!?」オロオロ
提督「どうして? 胸を切ったところで満足するのはお前だけじゃねえか」
提督「龍驤は自分の体にコンプレックスを持ってるんだ。お前のやることは、それの解決に繋がらねえ」
提督「下手すりゃ、お前以外の胸がある奴が、お前と同じように切らないといけないのか、と悩むようになったり……」
提督「最悪、龍驤は雲龍の胸を切除するように迫ったひどい奴、なんて噂が立つかもしれねえな」
雲龍「そ、そんなこと……!!」
提督「他人がどう見るかはお前がコントロールできる話じゃねえよ」
524: 2019/03/31(日) 14:53:43.10 ID:KnApYcbEo
提督「龍驤はお前を助けたくて、うちの連中と揉めて喧嘩別れしたのを土下座して謝ってきた」
提督「そこまでしてお前を助けたいと思ってた奴が、お前が傷付くのを容認できると思うか?」
雲龍「……」
雲龍「だったら」
雲龍「だったら、私はどうすればいいの……」ヘタッ
雲龍「私は……」ウツムキ
雲龍「助けてもらったお礼をしたかっただけなのに」
明石「……」カオヲ
陸奥「……」ミアワセ
提督「礼をしたいなら最低でも自傷行為はやめとけ。胸を切ったお前を見るたび、龍驤が罪悪感に苛むかもしれねえからな」クルッ
明石「提督!? どこに行くんですか!」
提督「この話、今の俺じゃ、これ以上首を突っ込んでも役に立てねえよ」スタスタ
如月「司令官……」
525: 2019/03/31(日) 14:54:43.57 ID:KnApYcbEo
陸奥「……仕方、ないのかしら」
明石「まあ……デリケートな問題ですからね」
雲龍「……」ウナダレ
陸奥「……雲龍、気を落とさないで」
雲龍「……」
陸奥「あなたは龍驤にお礼を言いたかったんでしょう?」
雲龍「……」コクン
陸奥「とにかくまずは謝ってきましょ? それから、あなたの思いを、真剣に伝えればいいわ」
雲龍「でも……」
陸奥「許してもらえるかどうかわからないけど……それでも、あなたは龍驤を傷付けるつもりなんかなかったんでしょ?」
陸奥「それだけは伝えないと。大丈夫よ、龍驤は面倒見がいいの。きっとあなたを見捨てたりしないわ」ニコ
雲龍「……」
532: 2019/04/21(日) 17:37:55.37 ID:03VeN8f5o
* 龍驤の私室 *
(龍驤が自分のベッドの上で、うつぶせになって枕に顔をうずめている)
コンコン
龍驤「……」
チャッ
雲龍「……龍驤」ソロッ
龍驤「……」
雲龍「……」
(龍驤のベッドのそばの床に正座する雲龍)
雲龍「……ごめんなさい」ペコリ
龍驤「……」
雲龍「……」
533: 2019/04/21(日) 17:38:53.32 ID:03VeN8f5o
龍驤「……なにしとん」モゾ
雲龍「……」
龍驤「土下座なんかされたって、なんにもならんで」
雲龍「……」
龍驤「別に雲龍が悪いわけやないんやし」
雲龍「え……!?」ミアゲ
龍驤「うちが勝手に嫉妬して、醜態さらしとるだけやろ」
龍驤「……まあ、雲龍がアホなこと言い出したのも気に入らんのは確かやけどな」
龍驤「うちに同情してあんなこと言うたんやろうけど、うちにとっては屈辱や」
雲龍「……本当に、ごめんなさい」ションボリ
534: 2019/04/21(日) 17:39:53.76 ID:03VeN8f5o
龍驤「もうええねん……うちがうじうじしとったのが悪いんや」
雲龍「でも……」
龍驤「少し前に扶桑が言うとったんやけどな。扶桑は、うちが羨ましいんやて」ムクッ
雲龍「……?」
龍驤「うちが雲龍を助けたこと、立派やと。もっと胸を張るべきや、って言うんよ」
雲龍「……」
龍驤「扶桑は、前の鎮守府で冷遇されてて、自暴自棄になっててな。そのあと、そこの司令官に嵌められて轟沈させられたんや」
龍驤「扶桑はそれを受け入れたらしい。夢も希望もありゃしない、やから、それに乗じて沈んでしまおうとしたんや」
龍驤「だけど扶桑は、この島に流れ着いて助かった。逆に扶桑を心配した友達が、扶桑を探して追いかけたせいで轟沈したんやって……」
雲龍「……!」
龍驤「扶桑は、自分がつらい現実から目を背けて逃げたせいで、大事な友達が沈んだのを、めっちゃ後悔してる」
龍驤「だから扶桑は、もうどんなことからも逃げたくない、目を逸らさんで、何にでも向き合う……そう、決めたんやて」
雲龍「……」
龍驤「さっきまで腐ってたんやけど、扶桑が言ってたこと思い出してな」
龍驤「なんや、うちも逃げてるだけやなあって……」
535: 2019/04/21(日) 17:41:10.35 ID:03VeN8f5o
龍驤「変わりたくても変われなかったんが現実で。雲龍に当たり散らしたってしゃあない。なんの解決にもなってへん」
龍驤「それどころか、うちの心配してくれる雲龍にこんなことさせて……我ながら情けなくて涙出てくるわ」
雲龍「情けなくなんかないわ」
龍驤「そんなことないねんて」
雲龍「いいえ、あなたがあなたを蔑むのはおかしいと思うもの。きっと、おかしくなっていたのよ」スクッ
龍驤「……さよか」
雲龍「……」
龍驤「……」
雲龍「ねえ、龍驤」
龍驤「うん?」
雲龍「私はあなたに助けてもらった。私は、あなたの力になりたいの」
雲龍「さすがに体を取り換えることはできないけれど……そうね」
雲龍「龍驤。私の体、好きにしていいわ」ニコ
龍驤「……うん??」
龍驤「それどころか、うちの心配してくれる雲龍にこんなことさせて……我ながら情けなくて涙出てくるわ」
雲龍「情けなくなんかないわ」
龍驤「そんなことないねんて」
雲龍「いいえ、あなたがあなたを蔑むのはおかしいと思うもの。きっと、おかしくなっていたのよ」スクッ
龍驤「……さよか」
雲龍「……」
龍驤「……」
雲龍「ねえ、龍驤」
龍驤「うん?」
雲龍「私はあなたに助けてもらった。私は、あなたの力になりたいの」
雲龍「さすがに体を取り換えることはできないけれど……そうね」
雲龍「龍驤。私の体、好きにしていいわ」ニコ
龍驤「……うん??」
536: 2019/04/21(日) 17:42:21.84 ID:03VeN8f5o
雲龍「私は、あなたのものになる。だから、何をしてもいいの」
龍驤「……雲龍、何を言うてるん???」
雲龍「うん。それがいいわね」ズイ
雲龍「龍驤。私のことは、煮るなり焼くなり好きにして」
龍驤「だからさっきから何言うとんねん!!?」
雲龍「私は本気よ?」ズズイ
龍驤「お、おう……って、そうじゃなくて!」
雲龍「!」
龍驤「……ど、どしたん?」
雲龍「声が出てる。元気になったみたいで良かった」ニコ
龍驤「な、なんか調子が狂うなあ……そんなにうちのことが気になるん?」
雲龍「ええ」
龍驤「なんでそんなにうちのことばかり気にするんよ? もう少し、自分のこと心配したほうがええんちゃうか」
雲龍「私はいいわ。あなたのことが大事。それだけよ」
537: 2019/04/21(日) 17:43:01.05 ID:03VeN8f5o
龍驤「うちに酷いこと言われてもか?」
雲龍「私があなたに嫌われるのは、それなりに原因もあるし、受け入れるわ。でも、だからと言って私はあなたを嫌いになりたくないの」
龍驤「……はぁ、かなわんな。どうやったら嫌いになれるねん、こんなお人好し」
雲龍「……」
龍驤「な、なんや、急に黙りこくって」
雲龍「良かった」ポロ
雲龍「本当は嫌われたくなかったから」ダキツキ
龍驤「わぷ!?」モニュ
雲龍「本当に良かった……」ニコ
龍驤(あー……あかんわ。こんな泣きながら子供みたいな笑顔向けてくる相手、憎むようになったら終わりや)
雲龍「……♪」スリスリ
龍驤(それにしても……)
龍驤「……ほんまに、でかいなこれ……」モミ
雲龍「触ってみる?」
龍驤「……ええんか?」
雲龍「ええ」
538: 2019/04/21(日) 17:43:31.06 ID:03VeN8f5o
龍驤「うちに酷いこと言われてもか?」
雲龍「私があなたに嫌われるのは、それなりに原因もあるし、受け入れるわ。でも、だからと言って私はあなたを嫌いになりたくないの」
龍驤「……はぁ、かなわんな。どうやったら嫌いになれるねん、こんなお人好し」
雲龍「……」
龍驤「な、なんや、急に黙りこくって」
雲龍「良かった」ポロ
雲龍「本当は嫌われたくなかったから」ダキツキ
龍驤「わぷ!?」モニュ
雲龍「本当に良かった……」ニコ
龍驤(あー……あかんわ。こんな泣きながら子供みたいな笑顔向けてくる相手、憎むようになったら終わりや)
雲龍「……♪」スリスリ
龍驤(それにしても……)
龍驤「……ほんまに、でかいなこれ……」モミ
雲龍「触ってみる?」
龍驤「……ええんか?」
雲龍「ええ」
540: 2019/04/21(日) 17:46:19.62 ID:03VeN8f5o
龍驤「なら、遠慮なく……」
フニッ
龍驤「……」
モニュ
龍驤「……」
モニュモニュモニュ
龍驤「……」
龍驤「なんやこれ……」
龍驤「なんやこれえええええ!!」
龍驤「めっちゃやわっこい! なんやのこれ!!」ワシッ
龍驤「うわ、ぽよんぽよん跳ねるくせにめっちゃ重た!」
龍驤「発見や……こんなもん胸にぶら下げてたら洒落にならんわ」タラリ
龍驤「な、なあ雲龍、その……もう少し触っててもええか?」ドキドキ
雲龍「ええ」コク
* * *
* *
*
541: 2019/04/21(日) 17:47:53.94 ID:03VeN8f5o
* 執務室 *
提督「……」ウーム
大淀(提督、また考え事をしてるみたいですね)
提督「なあ大淀、ちょっと聞いていいか」
大淀「はい。なんでしょうか」
提督「もし、嫌いな相手とどうしても話をしなきゃならないとき、お前ならどうする?」
大淀「嫌いな相手……ですか?」
提督「ああ」
大淀「そうですね……できるだけ余計なことを言わないで、用件だけを事務的に接すると思います」
提督「そうか……大人の対応だな」
大淀「私は、人の好き嫌いを言えるような立場ではありませんから」
提督「そういう話かよ。いくら役割とはいえ、健全じゃねえな」
大淀「そうでもありませんよ。ここに来てからは、それなりに言いたいことを言わせていただいてます」
提督「そうか? まあ、ストレスになってなきゃいいんだが……」
542: 2019/04/21(日) 17:49:46.74 ID:03VeN8f5o
提督「こう言っちまうとなんだが、うちの艦娘はほぼ全員まともな配属のされ方してねえからな」
提督「難しい境遇の艦娘同士、衝突もあって当然だと思ってたから、ここまで内部分裂起こしてねえのが奇跡だと思ってる」
大淀「お互いの立場を慮れる人たちばかりですから」
大淀(ここを追い出されたら行く当てがないと言うのもあるかもしれませんが)
大淀「それに案外、居心地がいいと思ってる人も少なくないと思いますよ」
大淀(提督のそばにいたいって人、それこそたくさんいますからね……)
提督「なんか一言二言言いよどんでる気がするが……」
大淀「気のせいです」ニコー
提督「……本当かよ」
大淀「それより、どうしてそんな質問を? 嫌いな相手と話さなければならなくなったんですか?」
提督「俺じゃねえよ。龍驤と雲龍だ」
大淀「ああ……」
提督「龍驤が雲龍を身体的特徴で敵視しちまうのはどうしようもねえと思う。少なくとも俺が口を挟んでどうこうできると思うか?」
大淀「デリケートな問題ですし、下手に口を出すべきではないかもしれませんね」
提督「そうなるよなあ……」
543: 2019/04/21(日) 17:50:48.62 ID:03VeN8f5o
大淀「提督こそことあるごとに人間を嫌ってますが、これまではいったいどうなさってたんですか?」
提督「開き直って無視してただけだ。まあ、妖精がいたから孤独じゃあなかったし、一人のほうが楽だったしな」
提督「嫌われる側はそれでいいんだが、龍驤に好意を抱いてる雲龍にそれをさせるのは酷だ」
提督「嫌う側の龍驤だって、これから毎日雲龍と顔を突き合わせることになりゃあ、否応なしにストレスたまっちまう」
大淀「ですが、あの二人を引き離しても大丈夫でしょうか……」
大淀「餓氏寸前の雲龍さんを、絶対助けると息巻いていたのは、ほかでもない龍驤さんですよ?」
提督「そうかもしんねえけど今回のケースはなあ……助けた相手が親の仇、みたいなもんだろ?」
提督「だとしたら、血を見る前に隔離したほうがいいと思わねえか?」
大淀「雲龍さんを余所の鎮守府に異動させるということですか」
提督「そうするしかないんじゃねえかな……」
提督「龍驤がこの島に送られてきた罪状を考えると、龍驤がこの島を出たとしても受け入れてくれる鎮守府はないだろ」
大淀「雲龍さんも邂逅した状況が複雑ですよ?」
提督「そりゃあな……」
コンコン
龍驤「ちょっとええか?」ガチャ
提督「……龍驤!?」
544: 2019/04/21(日) 17:51:35.22 ID:03VeN8f5o
龍驤「あー、なんかうちらのことで揉めとるん?」
雲龍「失礼するわ」
大淀「雲龍さんも……!」
提督「もしかして聞いてたのか、今の俺たちの話」
龍驤「うーん、まあ……聞こえてきてもーたなあ」ポリポリ
雲龍「私を余所の鎮守府に、ってあたりからね」
龍驤「でも、あれや、大丈夫や。もう心配あらへんよ」
提督「なに?」
龍驤「うちと雲龍は和解できたから。気を遣わんてくれて大丈夫や」ニコ
大淀「え?」
雲龍「一応聞くのだけれど、私と龍驤が仲良くなれば、どちらかがこの島を離れる必要もなくなるのよね?」
提督「あ、ああ……そうだな」
雲龍「いらない心配をさせてしまって、ごめんなさい」ペコリ
大淀「い、いえ、そういうことでしたら何よりです……ね、提督?」
提督「そう……だな」
545: 2019/04/21(日) 17:52:45.47 ID:03VeN8f5o
龍驤「ほな、工廠に行ってくるわ。明石たちにも謝らなきゃなあ」
雲龍「ええ」コク
提督「……」
大淀「……」
パタン
提督「……」
大淀「……」
提督「なにがあったんだ?」
大淀「……さあ……」
提督「……」
大淀「……」
提督「わけわかんねえ。なんでこんなにうまく回ってんだこの鎮守府!?」
大淀「て、提督……?」
提督「おかしいだろ!? あんなに取り乱してたやつが、簡単に心変わりするもんか!?」
大淀「提督、落ち着いてください!」
546: 2019/04/21(日) 17:53:41.93 ID:03VeN8f5o
提督「俺が見てきたやつらに、あんな風に理解のある連中なんか……!!」
提督「……人間じゃあ、ないからか?」
提督「艦娘だから……だからここまで、諍いがすんなりおさまるのか?」
大淀「提督……?」
提督「……」
大淀「……」
提督「やっぱ人間は一度滅んだほうがいいな」ハイライトオフ
大淀「て、提督!? 何を言い出すんですか!?」
提督「あぁ? だってそうだろうが。あんな下らねえ連中がのさばっていい理由がどこにある」
大淀「いけません! そのような発言は控えてください!」
提督「なぜだ? お前だって人間から拒絶されたクチじゃねえか、なんであいつらを庇う」
大淀「そうじゃありません! どこで誰が聞いているかわからないんですから、口を慎んでください!」
提督「……」
大淀「それに提督、その思想は危険です」
提督「俺の偽らざる本音だぞ」
大淀「そうであっても! そう言うのをやめてほしいと私は言っているんです!」
547: 2019/04/21(日) 17:54:39.07 ID:03VeN8f5o
大淀「いつその不用意な発言が誰かの耳に入って、あなたの身を脅かすようになったらどうするおつもりですか!」
提督「そうなったらそうなった、だ」
大淀「先日! 吹雪さんが何と訴えていたか、もうお忘れですか!」ツクエバシッ
大淀「自殺をほのめかすようなことを言うなって泣かれたこと、もうお忘れになったんですか!」
提督「……忘れちゃいねえよ」プイ
大淀「吹雪ちゃんだけじゃありませんよ……! 私だって同じ思いです」
大淀「任務管理役として役立たずになった私を……私の我儘を受け入れて、私に役割を与えてくださったのは、提督です」
大淀「提督の……あなたの代わりはどこにもいません。あなたがいなければ、私の居場所もきっとどこにもありません」
提督「……」
大淀「提督。どうか、ご自愛ください」
大淀「私には、あなたが必要なんです」
提督「……」
大淀「……」
提督「……お前もそこまで言うのかよ」アタマガリガリ
提督「わかったよ、自重する。だから、そんな泣きそうな顔すんのはやめてくれ」
大淀「そ、そんな顔してません!」カオマッカ
548: 2019/04/21(日) 17:55:34.65 ID:03VeN8f5o
提督「え……お前自覚ないのかよ。滅茶苦茶落ち込んで泣きそうだっ」
大淀「そんなことありませんっ!!」ツーン!
提督「いや、おま」
大淀「だいたい! 提督はご自身を軽んじすぎておられます!」クワッ!
大淀「少しはご自身の立場というものをご理解ください! いいですね!?」ズイッ
提督「……わかった。わかったよ」ハァ
大淀「また同じようなことがあったらお説教ですからね! まったくもうっ!」プンスカ
提督「散々だな今日は……まあ、大淀の言うことも尤もだ」
提督「妖精たちもその辺で聞き耳立ててるし、迂闊なこと言って心配させねえほうがいいか」
大淀「……!?」
島の妖精たち「」コソコソッ
大淀「」
提督「まあ、自嘲はできるだけ言わないようにするが……人間への文句は言いたくなる時があるから、そっちは勘弁してくれ」
大淀「……」カオマッカ
提督「どうした?」
大淀「なんでもありませんっ!!」プイッ
提督「……なんなんだ、いったい」
554: 2019/05/19(日) 22:40:09.93 ID:tgIYhLP7o
* 工廠 *
古鷹「そうですか、二人とも仲良くなれたんですね!」
雲龍「ええ」ニコニコ
龍驤「まあ……うちが大人になれへんかっただけや。いらん気ぃ遣わせてごめんなあ」ペコリ
明石「いえいえ、身体的なコンプレックスはなかなか根深いですから、仕方がないですよ」
古鷹「本当に良かったです!」ニコニコー
長門「……」
如月「……」
陸奥「それにしても……」
龍驤「うん?」
雲龍「なぁに?」
陸奥「ちょっとくっつきすぎじゃない?」
(雲龍の膝の上にちょこんと座る龍驤)
龍驤「そう?」クビカシゲ
雲龍「私は構わないわ」
555: 2019/05/19(日) 22:41:08.02 ID:tgIYhLP7o
如月(雲龍さんの胸が枕みたいになってるわ)
長門(潮にもしてあげたら喜ぶだろうか)ウーム
陸奥「……まあ、二人がいいならいいんだけど」
古鷹「良いことばかりだと思います!」パァッ
古鷹「陸奥さんも仰ってましたよね、龍驤さんは前の鎮守府でも練度の高い航空母艦として、みんなから信頼されていたって!」
古鷹「そんな良い先生がすぐそばにいれば、雲龍さんもすぐに強くなれそうですね!」ニコニコー
雲龍「そうなりたいわ」ニコ
龍驤「先生なんて、そんなたいしたことあらへんて」テレテレ
長門「いや、たいしたことはあるぞ。何といっても、この鎮守府の航空戦力はお前たちだけだ」
明石「この鎮守府、空母が長らく不在だったせいで、艦載機の妖精さんたちは暇を持て余してましたからねえ」
島妖精A(流星改)「まったくだ」ウンウン
島妖精C(彗星)「やっと私たちが腕を振るえる日がきたねえ」ウンウン
556: 2019/05/19(日) 22:42:35.18 ID:tgIYhLP7o
長門「これから頼りにさせてもらうぞ?」
如月「私たちも頑張って護衛するわね」
龍驤「おおきにな、うちも頑張るわ」ホロリ
雲龍「私も頑張るわ」
龍驤「ところで……」チラリ
妖精「……」ションボリ
龍驤「なんでキミはそんな風にしょげてるん?」
妖精「提督がね……」ハァ
明石「まーたなにか碌でもないこと言い出したんですか」
島妖精A「人間は一度滅ぶべきだ、と言っていた」
古鷹「!?」ギョッ
557: 2019/05/19(日) 22:43:42.92 ID:tgIYhLP7o
* 執務室 *
朧「大淀さんが珍しく怒ってると思ったら」
由良「そんな滅多なこと、口にするべきじゃないわ」
大淀「ですよね!」
提督「わけわかんねえ。どうしてお前らが人間を擁護するんだよ」
朧「気に入らないことは確かですけど、それをアタシたちが口にしたらダメだと思います」
由良「そうよ。仮にも私たちは国民を守るため、国を守るために働いた軍艦の生まれ変わりよ?」
由良「かつて私たちに乗っていた人たちだって、親しい人たちと一緒に生きたくて、生きて帰りたくて戦ったのよ」
朧「戦争に負けたらどうなるかわからない。みんな必氏だったんです」
提督「それで氏んだ先人たちの無念を知る艦娘を、生き残った人間どもはどんな風に扱ってるんだ?」
提督「お前らこそ悔しくねえのかよ、俺は呆れてるくらいだ。そうでなくても、俺はあいつらを信用できねえ」
由良「良い人だっているじゃない。どうしてそこまで人間を敵視するの?」
558: 2019/05/19(日) 22:44:23.06 ID:tgIYhLP7o
* 工廠 *
妖精「わたしのせいで提督は、提督の両親と険悪になっちゃったんだ」
陸奥「どういうこと?」
妖精「提督は、小さいころからわたしの姿が見えてたんだ。それを両親に話したらとんでもないことになっちゃって……」
龍驤「そんな長い付き合いなんか。キミたちもそうなん?」
島妖精A「残念だが、わたしたちは提督の幼少のころの話は知らないぞ」
島妖精C「こっちの子は提督が島に来る前から一緒だったけど、わたしたちは提督とはこの島で初めて出会ったからね」
妖精「わたしが提督と出会ったとき、提督は4つか5つだったと思う。素直でいい子だったんだ」
明石「素直……」
長門「いい子……?」
龍驤「いやいや、さすがにそんな歳から歪んどったら可哀想やろ」ビシッ
559: 2019/05/19(日) 22:45:09.00 ID:tgIYhLP7o
古鷹「でも、そこまで話を遡るってことは、そのころから問題があったんですね?」
妖精「うん。提督の両親……っていうか、お父さんはオカルトが大嫌いでね」
妖精「提督がわたしを見つけて、その話を提督のお父さんに話したの。そうしたら、すごい剣幕で提督を詰りだして……」
妖精「話を合わせるわけでもなく、優しく諭すわけでもなく、いきなり怒鳴り始めたんだ」
長門「子供相手にか……!?」
妖精「うん、まるで関係なかったみたい。そこまで毛嫌いするのかって、わたしもびっくりしたよ」
妖精「提督も見えたことは事実だから、嘘じゃないって主張するんだけど、そうすると火に油を注いでるような感じで」
妖精「わたしの存在を否定するだけじゃなく、提督のことまで非難し始めて……そのうち暴力も振るわれて」
如月「……!」
妖精「それからかな。提督の言うことを、周囲の人に信じてもらえなくなったのは……」
妖精「提督の前に姿を見せた、わたしが悪かったの……」ションボリ
島妖精たち「……」
艦娘たち「……」
560: 2019/05/19(日) 22:46:08.09 ID:tgIYhLP7o
* 執務室 *
提督「悪いのは聞く耳も持たずに俺の話を全否定した父親だ。妖精に罪はねえよ」
朧「お母さんとか、信じてくれる人がいなかったんですか」
提督「いなかった。なまじ父親が社会的に権力を持ってたせいでな」
提督「外面も良かったし、そんな父親だから母親も妄信してた」
由良「……信じられない。幼稚園児くらいだったんでしょ?」
提督「俺だって信じられなかったさ。確かに今思えば我ながらメルヒェンな寝言をほざいてたとは思うが……」
大淀「ですが子供の言うことですよ? せめて、見間違えじゃないか、くらいの言葉をかけられても良いはずです」
提督「……お前らは優しいな」
提督「そういう言葉をかけてくれるやつが一人でもいたんなら、妖精にもつらい思いをさせずに済んだはずなんだがな」
朧「提督と一緒にこの島に来たっていう、あの妖精さんですか」
提督「ああ。俺に見つかりさえしなきゃ、こんな島に来ることはなかったのによ。あいつには迷惑かけっぱなしだ」
561: 2019/05/19(日) 22:47:16.89 ID:tgIYhLP7o
* 工廠 *
妖精「提督はわたしに迷惑をかけたって言うけれど、わたしは迷惑だなんて思ってないよ」
龍驤「キミもえらいお人好しやなあ。この島に来る前に、提督と別れることだってできたやんか」
妖精「さっきも言ったけど、見られないと思って姿を見せちゃったわたしが悪いんだ」
妖精「単純に心配だ、ってところも多いけどね。提督は人付き合いっていうか、他人が苦手だし」
長門「まあ……そうだな」
妖精「提督と小さいころから過ごしてきて、土壇場でわたしは行かない、なんて言ったら不義理じゃないか」
妖精「提督はわたしを信頼してくれてるし。離れ離れになったら、提督が心配でわたしが大丈夫じゃないよ」
陸奥「それで一緒にここに来たのね」
妖精「本当はすごく優しい人なんだ。以前はわたしたち妖精にもにこにこ笑ってくれてたんだよ」
妖精「でも、何もないところを向いて微笑んでいるところを、何も知らない人たちが見たらどう思うか、わかるよね」
妖精「提督が小さい頃……学生になってからもかな。それで提督はずっと後ろ指を指されていたんだ」
如月「司令官……」
妖精「提督が普段殆ど笑わないのも、そのせいなんだと思う」
562: 2019/05/19(日) 22:48:12.71 ID:tgIYhLP7o
* 執務室 *
提督「妖精に向かって何を喋っても、馬鹿にしてくるクソどもがいねえってのは本当に快適だぜ」
提督「海軍の内部ですら、ひそひそしてくる奴がいたからな」
大淀「……提督。妖精さんが見えると言う話、警察やお医者さんには話さなかったんですか?」
提督「うん? そう言やあ、話した記憶はねえな。つっても、村中で噂になってたから、知らない奴はいなかった気がするが」
朧「村……ですか?」
提督「おう。俺の生まれは山奥のど田舎だ。海とは無縁の農村だよ」
大淀「私が知る限り、警察やお医者様には、妖精さんが見える人がいたら海軍へ連絡するように連絡が行っているはずなんです」
提督「そうなのか?」
由良「……ねえ、大淀。もしかしてその話って、提督が小さいころは広まってなかったんじゃない?」
大淀「提督の話を聞くと、そうかもしれませんね……」
大淀「それと、妖精さんの目撃情報が海沿いに集中していましたから、内陸部にはその連絡が広まっていなかったのかも」ウーン
提督「かもな。実際、山奥の妖精は珍しいぞ」
朧「そうなんですか?」
提督「小学校のときは田舎の分校だったが、中学からは学校も町中になって、それ相応に妖精も増えてたな」
提督「そもそもあの妖精も、気まぐれで俺の村に来たとか言ってたし」
由良「それなら、提督さん以外にも妖精さんが見える人がいてもおかしくないわよね。ね?」
提督「いや、生憎と俺以外で妖精が見える奴には、お目にかかれなかったな」
563: 2019/05/19(日) 22:49:11.46 ID:tgIYhLP7o
* 工廠 *
妖精「ほかの子たちにも聞くと、提督以外にもわたしたちの姿が見えていそうな人はいたみたいなんだ」
妖精「でも、提督が妖精と話ができる、という話が『良くない噂』として知れ渡っていたせいで……」
妖精「見えることを秘密にしちゃう人ばかりだったんだよね」
長門「なるほど、もし誰かが妖精さんを視認できていたとしても、とても言い出せない環境だったわけか」
如月「ちょっと待って、それじゃ司令官は、その学校にいる間ずっと『良くない噂』で何かされてたってことなの!?」
妖精「うん……たとえば、からかわれたり、無視されたり……いじめに近いと言えばそうだったね」
龍驤「今のいじめって陰湿なのが多いからなあ……」
陸奥「でも、提督が子供のころだと、そこまで陰湿ないじめってなかったんじゃ……?」
妖精「最初はからかわれるほうが多かったよ。でも、それを提督が無視して、無視し返されて……」
妖精「そのうち喧嘩になったんだけど、提督が全部返り討ちにしてね。それからは腫物扱いされてたよ」
雲龍「提督って強いの?」
明石「間違いなく強いはずですよ。計ったことはありませんが、握力がとんでもないですから」
如月「アイアンクローもすごいけど、でこぴんもすっごく痛いの」
古鷹「そういえば、吹雪さんをでこぴん一発で気絶させたこともありましたね……」
妖精「あったね、そんなこと……」ハァ
564: 2019/05/19(日) 22:50:17.01 ID:tgIYhLP7o
* 執務室 *
提督「最初は腕力を鍛えてたさ。けど、あの父親のげんこつはそれじゃ止められなかった」
朧「それで握力を鍛えてたんですか」
提督「とにかく向こうの攻撃を防ぎたかったからな。殴れないように腕を抑えればいい、って考えたのがきっかけだった」
由良「それにしたって、小学生相手に暴力をふるう父親ってどうなの!?」プンスカ
提督「俺が折れないせいで頭に来たんだろ。俺も俺で妖精が見えることを嘘だと言いたくなかったからな」
朧「でもそれで提督は怪我してるわけですよね。周りの大人が提督を庇ったりしなかったんですか」
提督「あー……あいつ、一応は県議だったからな。村の連中にしてみれば超エリート、村の英雄みたいなもんだ」
大淀「権力でもみ消したんですか?」
由良「スキャンダルになるんじゃないの!?」
提督「国会議員になる話もあったからな。議員と話をする機会もあって、お巡りも町医者も委縮してやがった」ケッ
提督「誰に言っても無駄だとわかってからは、誰に頼らずにも済む方法を模索し始めたのは確かだ」
提督「出来のいい弟のおかげで、俺のことはなかったことにしようとしてたくらいだからな」
由良「提督さん、弟がいたんですか」
提督「あいつらの英才教育のおかげで、そりゃあお利口さんに育ったぜ」
朧「絶対に皮肉ですよね、それ」
提督「おうよ」
565: 2019/05/19(日) 22:51:08.05 ID:tgIYhLP7o
* 工廠 *
妖精「最初は提督も弟さんのことは可愛がってたよ。それこそ小っちゃいころの話だけど」
妖精「でも、提督がわたしたちの姿を見えると言った途端、提督に近づけちゃいけない、って完全に隔離されちゃってね」
長門「理解のない親だったとは言え、そこまでするのか……!」
妖精「あのお父さん、潔癖なくらいわたしたちの存在を否定してたからね」
妖精「その甲斐もあって、弟さんはお父さんと同じエリートコースに乗ってるみたい」
妖精「兄である提督に対する態度は、お父さんよりひどいものがあるけど」
明石「なにそれむかつく! 当然、因果応報があったんですよね!?」
妖精「むしろ逆かなあ……」
陸奥「逆?」
妖精「提督が海軍に入って提督業に就いたことが、提督の家族にとってはプラスに働いたみたい。エリート家族の箔がついたって」
明石「うわ、そうくるの!?」
古鷹「で、でも、そうなったら、お父さんたちも提督に感謝して……」
妖精「あの人たちは、提督に対して感謝はしないと思うなあ」
古鷹「ど、どうしてですか!?」
566: 2019/05/19(日) 22:52:12.93 ID:tgIYhLP7o
* 執務室 *
提督「俺がこの島に来る前に、中佐が父親たちに金を渡したって言ってきたんだ」
由良「ど、どうして!?」
提督「俺の身に何があっても口出しするな、ってことだろうさ」
朧「……!」
提督「随分と神妙に受け取ったらしいが、あいつらのことだ。体よくごみを処分できたと喜んでるだろうよ」
由良「そ、そこまで言い切るの!?」
提督「妖精が見えるなんて血迷ったことを言う問題児。表に出れば問題行動を起こして迷惑をかける大馬鹿者」
提督「一族の面汚し、ってのが俺の評価だろうな。それを破格の値段で売っ払ったんだぜ? 笑ってないわけがねえ」
朧「笑えませんよ……!」
提督「そういうわけなんで、俺は奴らを家族だなんて思っちゃいねえ」
提督「その俺を見捨てないで、根気よく相手してくれたのは妖精だけなんだ」
提督「人間からは……誰からも救いの手を差し伸べられなかった。いくら妖精がいると訴えても、信じてもらえなかったんだからな」
提督「だから俺も人間は信じてねえし、信じられねえ」
567: 2019/05/19(日) 22:53:07.71 ID:tgIYhLP7o
* 工廠 *
妖精「……でもね。あの時は嬉しかったかなあ」
明石「あの時?」
妖精「N中佐に啖呵を切ったときのあの言葉だよ」
妖精「俺にとって大事なのは、この鎮守府にいる艦娘たちだ、って」
明石長門「「!」」
如月「そうね……すごく嬉しかったわ、あの時は」ニコ
妖精「あ、そうか、如月はあの時あの場所にいて、一緒に聞いてたんだよね」
如月「だからこそ、その後、自分の命を粗末にするようなことを言うのが許せなかったけど」ザワッ
明石長門((怖っ!?))ビクッ
龍驤「お、落ち着きや! なあ!?」
如月「あ、ごめんなさい。うふふっ」ニコ
陸奥「……信頼されてるのね、ここの提督は」
龍驤「陸奥?」
568: 2019/05/19(日) 22:54:19.81 ID:tgIYhLP7o
陸奥「あの鎮守府にいたときは、以中佐に怒りを覚えることはあっても、以中佐のために怒るようなこと、絶対になかったもの」
長門「陸奥……」
陸奥「私、少しだけ頑張っちゃおうかしら」
龍驤「まあ、無理せんでええよ。徐々に慣らしてき」
明石「それにしても……提督の昔話は、聞けば聞くほどひどくなってません?」
如月「まだ話してない過去もありそうね……」
妖精「そうだね……いじめの話もいろいろあって。だいたいはわたしたちが提督に告げ口するから、すぐ解決するんだけど」
龍驤「例えばどんなん?」
妖精「嫌がらせで物を隠されても、妖精ネットワークですぐに犯人も探し物も見つかるし……」
妖精「大勢での待ち伏せやだまし討ちなんかも、わたしたちが見つけて事前に対策できちゃうんだよね」
龍驤「あー……偵察機飛ばすのに似てるなあ」
如月「妖精さんたちとは、いい関係が築けてたのね」
妖精「提督が、危険を知らせてくれたお礼に、って、お菓子やアイスをわたしたちに買ってくれたのも大きかったかなー」
妖精「スーパーに並んでるお菓子を勝手にとっていくのは、さすがにわたしたち的にもアウトだからね」
龍驤「お金はどうしてたん?」
妖精「結構落ちてるよ? 自販機の裏とかに」
龍驤「そういうことかいな!」
569: 2019/05/19(日) 22:55:13.62 ID:tgIYhLP7o
* 執務室 *
提督「妖精に助けてもらってばかりいたが、図書館以外でゆっくりできた場所がなかった気がするな」
提督「親は親で、育児放棄を疑われたくないから飯だけは出してくれたが、会話なんてなかったぜ」
朧「それで提督は、家族なんかいない、と仰るわけですか」
提督「ああ。あいつらは中佐に俺を金で売ったんだ。そうでなくても、俺は中学で父親に勘当されてる」
朧「勘当したくせにお金は受け取るんですか」ムスッ
提督「不服そうだな?」ニヤリ
朧「当然ですよ。そんなの家族なんて呼べません」
提督「ああ、俺もそう思う。けどな、忌々しいことに俺はそいつらの血を引いちまってるんだよな」
朧「!」ハッ
提督「そんなばつの悪そうな顔すんな。むしろ俺と同じ不満を口にしてくれたんだから、これでも嬉しいんだぜ?」
朧「提督……」
大淀「大和さんたちからの求愛を拒んだのも、そういうことですか」
提督「こういう血筋だからな。とっとと途絶えちまえ、って思ってる。結婚なんてもってのほかだ」
由良「それに加えて提督さん……その、えOちなのも、嫌いなんでしょ?」ポ
提督「確かにそれもあるな」アタマガリガリ
朧「あー……吐いてましたね、そういえば」
570: 2019/05/19(日) 22:56:56.48 ID:tgIYhLP7o
* 工廠 *
如月「司令官は、このまま独身を貫くつもりなのかしら……」
龍驤「……もしかして、ここの提督って童Oなん?」
妖精「うん、そういうことになるね」
龍驤「そういうのって、タガが外れた時の反動とか怖ないんかな?」
明石「そういうお話はよくありますけど、あの提督の性欲のなさは本当に異常ですよ」
明石「大和さんが隣で寝てようが、恥ずかしがるだけで絶対に手を出してこないそうですから」
長門「提督のほうが抱き枕にされてるくらいだと聞いてるな」
雲龍「その調子だと、生涯不犯でいる気なのかしら」
古鷹「ふぼん、ってなんですか?」
雲龍「僧侶の戒律ね。異性との交わりを断って禁欲することよ」
古鷹「そこまでするなんて……」
如月「有り得るわ……それに、男性向けの大人の雑誌を見て、拒否反応を起こして気分を悪くしたくらいだもの」
如月「もしかしたら司令官、そういうこと自体受け付けないっていうか、できないんじゃないかしら……」
長門「明石。確か、近々提督に健康診断を受けさせる話があったな?」
明石「はい、大淀から本営に申請したって聞きましたよ」
長門「提督には、一度カウンセリングにかかってもらったほうが良いと思うんだが、どうだろうか」
明石「うーん、今からじゃ、ちょーっと遅いと思いますよ」
571: 2019/05/19(日) 22:57:54.58 ID:tgIYhLP7o
* 執務室 *
扉<コンコン
不知火「失礼します」チャッ
提督「不知火か」
不知火「ご報告いたします。司令の健康診断の日程が決まりました。詳細はこちらの書類に」スッ
不知火「この島へ向かっている医療船もすでに出港しております。診察前日の夜から飲食は控えるようにとのことでした」
提督「そうかい。はー……面倒臭えなあ」
不知火「面倒がらずに準備をお願いいたします。何もなければ面倒もなくすぐに済む話ですから」
提督「ああ、わかったわかった」
朧「不知火も結構世話焼きだね」
不知火「司令はご自身のことに頓着しませんから」
提督「……世間じゃあ、こういうのと母親みたいだって言うんだろうな」
大淀「提督……」
提督「気にすんな、ちょっと思うところがあっただけだ。ガキのころなら嫉妬してたがな」
572: 2019/05/19(日) 22:58:45.92 ID:tgIYhLP7o
提督「それに、お前たちこそ『親』とかいねえじゃねえか。今の発言、無神経なのは俺のほうだろ」
由良「言われてみれば不思議よね。提督さんが言うまで、親がいないことを何とも思わなかったわ」
朧「……アタシも、鳳翔さんがいたから……」
提督「……いろいろ、おかしいよな」
不知火「……司令」スッ
提督「ん?」
不知火「不知火は、司令とは家族のようなものだと考えております」
提督「……」
不知火「司令はこれまで、不知火や如月、そしてこの鎮守府に流れ着いた艦娘たちを、救ってくださいました」
不知火「血縁でもないのに、体を張って、私たちを守ってくださいました」
不知火「それはさながら、親や兄弟のためであるかのように」
提督「……」
573: 2019/05/19(日) 22:59:33.71 ID:tgIYhLP7o
不知火「いえ、今のお話を伺うに、親や兄弟以上の……」
提督「そのくらいにしとけ」スクッ
不知火「!」
提督「……冗談じゃねえ」スタスタスタ
扉<パタン
朧「行っちゃった……」
由良「提督さんったら、何を考えているの!?」
大淀「……し、不知火さん」ハラハラ
不知火「……」
* 埠頭 *
提督「……」
提督「不知火に本音を言うのは間違いだったかな」
提督「……」ハァ
提督「ったく、やめてくれよ。俺に優しくしないでくれ」
提督「……離れられなくなるじゃねえか」ウツムキ
580: 2019/05/26(日) 23:36:08.41 ID:WB2fCxgbo
* 太平洋上某所 航行中の護衛船の一室 *
女性提督(以下「波大尉」)「……」ムスッ
士官1「大尉、機嫌を直してくださいよ」
士官2「そうですよ。大尉にもいい人が見つかりますよ」
波大尉「そーゆー台詞を聞き続けて何年経ってると思ってんのよ!!」ウガーッ
波大尉「だいたい! どうしてこのタイミングで私がブルネイまで出張しなきゃいけないの!? いつかは行きたいって言ったけど!」
士官1「そ、そう言われましても」
波大尉「ほかに行ける人いっぱいいるでしょ!? おかげでまた出会いの機会を逃がしちゃうし!!」
士官2(また隠れて合コン行くつもりだったんだ)
士官1「いいじゃないですか、波大尉もこの仕事を頑張っておられるんですから、そのご褒美のバカンスだと思えば」
波大尉「バカンスに独りで行ったってしょうがないでしょーーー!!」
士官1「……す、すみません」
波大尉「っていうかさぁ、そう思うんなら、あんた、あたしに付き合いなさいよ」
士官1「え? そりゃ駄目ですよ。俺、妻がいますんで、未婚の女性とそういう行動をとるのは既婚者としてどうかと」
581: 2019/05/26(日) 23:37:22.07 ID:WB2fCxgbo
波大尉「はあ!? じゃああんたは!」
士官2「結婚はまだですけど、そういう約束なら……」テレテレ
波大尉「」
士官1「え、マジ? お前、あの子とそこまで行ったのか!?」
士官2「いやー、ちょっと顔見せ程度だったんだけど、彼女の両親に会わせてもらって……」テレテレ
士官2「ほんっと緊張したぜー、強面の親父さんだったしなあ。でも、俺の職業聞いたら歓迎されちゃってな!」テレテレ
士官1「えっ、普通逆じゃね? 俺、めっちゃ反対されたぜ」
士官2「親父さん、警察官なんだよ。それで同情されたっていうか」
士官1「あー、なるほどなー、あっちも命懸けの仕事だもんな。苦労がわかるってかー」
士官2「だもんだから、娘をさびしくさせるなよ、ってしみじみ言われちゃって……あれはちょっとホ口リときたぜ」
士官1「でも、理解ありそうで良かったじゃねーか」ハハハ
士官2「そーだな! なんだかんだで一大イベントもいい感じで行けたし、俺もそろそろ……なあ!」ハハハ
士官1「そろそろかもなあ!」ハハハ
波大尉「それはそれは……良かったわねえ」ズゴゴゴゴゴ
士官1「」
士官2「」
582: 2019/05/26(日) 23:38:16.56 ID:WB2fCxgbo
波大尉「なぁに? 目の前に独り身の女性がいるってのに、のろけ話!?」
士官2「そ、そんなつもりは」
波大尉「あーーはいはい御馳走様!! お腹いっぱいで吐きそうだわ!」
士官2「も、申し訳ありません!」バッ
千歳「ちょっと、申し訳なくなんかないでしょ」スッ
士官1「千歳……さん」
千歳「こればっかりはおめでたい話なんだから。ほら、士官2君も顔をあげて。頭を下げるのは向こうのお父さんに、でしょ」
士官2「は、はい!」
千歳「提督、八つ当たりはよくありませんよ、一歩間違えばパワハラです。愚痴でしたら私がお付き合いしますから」
波大尉「……」ムスーッ
千歳「二人とも、この場は私に任せて。持ち場へ戻って頂戴」ニコッ
士官1「はっ!」ビシッ
士官2「了解いたしました! 失礼いたします!」ビシッ
ガチャ パタン
士官1「千歳さんが来てくれて助かった……」
士官2「大尉の前では迂闊なことが言えないな……」
スタスタ…
583: 2019/05/26(日) 23:39:08.28 ID:WB2fCxgbo
* 一方の室内 *
波大尉「……」ムッスーッ
千歳「ほら、提督、いつまでもむくれてないで。お仕事中なんですから」
波大尉「……敵影は」
千歳「今のところありません。先行している護衛艦隊からも、私たちが飛ばしている艦載機からも、今のところは異常ありません」
波大尉「……艦隊の疲労度は? 休憩はちゃんとしてる?」
千歳「現時点で体調不良や疲労を訴えている艦娘もいませんし、欠員も出ていません」
波大尉「××島の駆逐艦隊の様子はどう? コミュニケーションはちゃんと取れてる?」
千歳「こちらも問題ありません。深海棲艦の艦隊の迎撃をお願いしていますが、今のところ出番なしです」
千歳「連絡もこまめに来ていますし、雑談もできるくらいには馴染んでいますね」
波大尉「……とにかく、順調なのね?」
千歳「はい。順調です」
波大尉「……」
千歳「……」
波大尉「だったらあたしがいなくたって良かったじゃない……」ゲンナリ
千歳「提督!?」
584: 2019/05/26(日) 23:40:08.31 ID:WB2fCxgbo
波大尉「こんなのただの遠征任務じゃない! 別にあたしがいなくたって回る任務なんじゃないの!?」
千歳「今回の任務は医療船の引き渡しです。提督が代表として引き渡しを行わないといけないんですから、駄目ですよ」
波大尉「そんなの誰かやってよぉ、なんであたしなのよぉぉ……」
千歳「提督が物資の管理を担当しているからじゃないですか、これはれっきとした提督のお仕事ですよ」
千歳「それに、一人に全部任せたら大変だからって、幌筵やショートランドには他の提督が向かうことになったじゃありませんか」
波大尉「ううう……せめて、1日くらいずらせなかったの……!?」
千歳「戦時中ですよ。戦況は毎日変化するんですから、1日順延して明日になったら襲撃されて時すでに、なんてことがあってはいけません」
波大尉「そうですよねー……国民の命ですもんねー……」イジイジ
波大尉「それに比べたら、あたし一人の幸せなんかちっぽけなもんですよねー……」
千歳「……もしかして、また合コンに行こうとしていたんですか?」
波大尉「……」プイ
千歳「提督。こっち見てください……提督?」
波大尉「なによう。あたしだって好きで不貞腐れてるわけじゃないわよ」グス
波大尉「やっと都合つけたのに。やぁぁっと、私の旦那様が見つかるかと思ったのにぃ……!」グズグズ
千歳「提督……!」
585: 2019/05/26(日) 23:41:08.50 ID:WB2fCxgbo
波大尉「わかってるわよ……今のお仕事は立派なお仕事で、誰に対しても誇れる仕事だって」
波大尉「でも実際にはあたしはデスクワークしてるだけで、立派なのは現場で戦ってるちーちゃんたちじゃない」
波大尉「あたし、はんこ捺すだけだもん……みんなを励まして見送るだけだもん」
千歳「提督、そんなことありませんよ」
波大尉「作戦立てるのも、あいつらに攻撃するのも、みーんな艦娘がやってくれるし、普通にみんなのほうが優秀だもん」
波大尉「どこにでもいるよーな元OLが、いきなり海軍に誘われて入ったって、やることなーんにもないんだもん……」イジイジ
千歳「提督……」
波大尉「そんで気が付いたらあたしもいい齢で、そろそろ結婚しなきゃーってときに、気付いたらあたしだけ独り身で……」
波大尉「年賀状にドレス姿とか赤ちゃんの写真とか、地味にくるのよねー……話題にもついていけなくなっちゃってさあ」ハイライトオフ
波大尉「いいとこ勤めてるんでしょー? いい男ばっかりでしょー? って言われるけど」
波大尉「そんな男が売れ残ってるわけねーじゃん!!」クワッ!
波大尉「しかも今の海軍、艦娘がいっぱいいて、その部下の艦娘といい雰囲気になってる人ばっかりなのよね!!」
波大尉「見た目も能力も並以下のあたしが、美女美少女揃いの艦娘と比較されて勝てるわけねーじゃんよー……」ブツブツ
千歳「提督……そんなこと考えてらしたんですか」
586: 2019/05/26(日) 23:42:11.04 ID:WB2fCxgbo
波大尉「そーよー? 今更言いたくないけどさー……ちーちゃんっていい奥さんになれそうだよねえ」ジトォ
千歳「……っ」タジッ
波大尉「聞き上手だし、あたしのこと立ててくれるし、弱音吐いたら慰めてくれるし、お肌ぴちぴちだし、おっOい大きいし」
千歳「ちょっ」
波大尉「あたしが男だったら絶対飛びついてる。お嫁さんがあーちゃんかちーちゃんなら、絶対幸せになれるって確信してる」
波大尉「だからこそ……今のあたしが、みじめすぎて……うああああ……」
千歳「て、提督! しっかりしてください!」
波大尉「もうしっかりなんかしたくないよう……ちーちゃん養ってぇ」
千歳「もう、提督ったら、いくらなんでも崩れすぎですよ!」
波大尉「ふぇぇ……」
コンコン
足柄「提督ー、入るわよー」
波大尉「!」
足柄「お邪魔するわね。霞ちゃん、入って」
霞「……失礼するわ」スッ
587: 2019/05/26(日) 23:43:08.17 ID:WB2fCxgbo
波大尉「あら、いらっしゃい。なにかあった?」シャキッ
千歳「……」
霞「いいえ、何かあったわけではないんだけど、お礼を言いそびれてたから」
波大尉「お礼?」
霞「ええ。ここへ来た時に緊張でがっちがちに凝り固まってた朝潮姉さんに、冗談で緊張を解いてくれたことと……」
霞「すっ転んだ五月雨に絆創膏貼ってくれたこと。ちゃんとお礼を言いたくて」
波大尉「いいのよそんなこと! あたしがやりたくてやったんだから」
波大尉「あたしはあなたたちと違って戦えない。あなたたちが全力でお仕事してるんだもの、あたしだって全力で持て成してあげないと、ね」
霞「……いい司令官ね」
足柄「うふふ、ありがと」ニコ
霞「うちのクズも、もう少し愛想良ければいいんだけど」フゥ
霞「それじゃ、休憩に入らせてもらうわね。ありがと、大尉さん」
波大尉「ええ、どういたしまして。ゆっくり休んでね」
パタン
588: 2019/05/26(日) 23:44:15.84 ID:WB2fCxgbo
波大尉「……いい子だったわねえ……」
千歳「……ほんと、借りてきた猫みたいでしたね」
足柄「今まで出会ってきた霞ちゃんの中でも、トップクラスに素直な霞ちゃんだわ」ウンウン
波大尉「そうね……誰彼かまわずクズ連呼する、ギザギザハートな子もいたから。あれはショックだったわ」
足柄「ギザギザ……?」
波大尉「え!? 知らないの!? すっごいショックなんだけど!」
千歳「私は提督の変わり身のほうがショックでしたけれど」
波大尉「いくらあたしでも駆逐艦娘みたいな小さい子にみっともない姿は見せられないわよ……ましてや手伝ってもらってる立場なのに」
足柄「なぁに? また腐ってたの?」
波大尉「そうよ……ああ、思い出したら嫌になってきちゃった」ズーン
足柄「ほら、しっかりしてよ。提督でしょ?」
波大尉「……あーちゃんもちーちゃんも立派すぎだよ……もうしっかりしたくなーい」グテー
足柄「これはいつになく重症ねえ……」
千歳「ちょっと、甘やかしすぎたかしら……」
589: 2019/05/26(日) 23:45:08.39 ID:WB2fCxgbo
足柄「提督、とりあえず××島にはそろそろ到着しますから。身なりは整えておいてくださいね」
波大尉「……うあーーい……」ダレー
千歳「駄目みたいねえ……」
足柄「ほら、××島で霞ちゃんたちとはお別れなんだから。びしっとする!」
波大尉「そんなこと言ってもさあ……」
千歳「そんなもこんなもありませんよ」
波大尉「そうじゃなくて。××島って、ほぼ無人島みたいなとこでしょ?」
波大尉「それに、その島の責任者、っていうか、司令官の階級が准尉でしょ? 士官に毛の生えた下っ端じゃない……」
波大尉「その辺でスカウトされて提督になったあたしより階級が下って、普通いないわよね? 何か問題ある人なんじゃないの?」
足柄「そうかしら。あの霞ちゃんがあんなに素直なんだもの、いい提督さんだと思うわよ?」
波大尉「そうかなあ……その鎮守府、憲兵とかがいないって話でしょ? ドの付く外道だったりしないわよね?」
千歳「そんなことはないと思いますけど……」ペラリ
波大尉「? ちーちゃん、何を見てんの?」
千歳「提督准尉の履歴書です。家族構成とかも書いてありますが、特に問題がありそうな感じではありませんよ」テワタシ
波大尉「ふーん……」ウケトリ
590: 2019/05/26(日) 23:46:21.60 ID:WB2fCxgbo
足柄「問題があるんだったら、私たちがとっちめてあげないとねえ」
千歳「ちょっと、あまり問題起こしちゃ駄目よ。××島の後にパラオ泊地とブルネイ泊地へ医療船を届けなきゃいけないんだから」
足柄「ところで、どうして××島に寄り道することになったの?」
千歳「聞いてないの? ××島の提督准尉の健康診断のためよ? 離島勤務だからって、体調管理を疎かにさせられてたみたいで……」
千歳「それで今回医療船を輸送するついでに、提督准尉の健康診断をしましょうって話になってたの」
足柄「ごめん、初耳なんだけど……」
千歳「……そうね、あなた護衛の話しか聞いてなかったものね……」ハァ
波大尉「……この人……!」
千歳「提督? どうかしました?」
波大尉「なんか……提督准尉のお父さんの名前、聞いたことあるかも」
足柄「……誰?」
波大尉「スマホで検索かけて……あった。ほら、野党シンミン党の若手のホープだって」
足柄「地方遊説で大人気……予算委で歯切れの悪い与党幹部を圧倒……」
千歳「与党議員の醜聞に鋭く切り込み……政権交代のキーマン……」
波大尉「へー、期待されてるんだ……准尉、弟さんもいるんだね。何やってんのかな……検索検索っと」
591: 2019/05/26(日) 23:47:43.53 ID:WB2fCxgbo
足柄「なにこれ? ブログ?」
波大尉「フェー○ブックだねー。自分がどんな活動をしてるか、名刺代わりになるページって言えばいいかな」
千歳「○○省勤務ですって。官僚じゃないですか」
足柄「すごいわね、エリート一家じゃない」
波大尉「……あれ?」
足柄「提督?」
波大尉「もしかして、これってものすごいチャンス……?」
千歳「提督?」
波大尉「官僚とか、議員二世とか、有名人候補じゃない! もしかしてお金持ちの家系!?」
足柄&千歳「!?」
波大尉「っていうか、提督准尉の顔写真、そんなに悪くないじゃない! 年齢も……うん、いける!」
足柄&千歳「」
波大尉「狙ってみる価値はありそうね……! よおし、待ってなさい!」ジュルリ
波大尉「あ、ちょっとお化粧直してくるから。二人は引き続き任務をお願いね」ニコッ
波大尉「よーし、ちょっと気合い入れますかあ!」ギラリンッ!
足柄「……」カオヲ
千歳「……」ミアワセ
足柄&千歳「はぁ……」アタマカカエ
600: 2019/06/01(土) 21:21:23.84 ID:7gLvN1Axo
* 一方その頃 墓場島 執務室 *
提督「っくしゅん! くちゅん!」
吹雪「! 司令官、大丈夫ですか?」
提督「……なんかしらんがゾワッときた。風邪じゃねえと思うんだけどな」
伊8「熱はないですか?」
提督「大丈夫だって、そこまで大袈裟じゃねえ」
大淀「折角ですから健康診断で一緒に診ていただきましょう」
提督「しかし、波大尉だっけか? そこの鎮守府にうちの遠征部隊が突撃かまして大丈夫だったのかよ」
大淀「殴り込みみたいな言い方しないでください。ちゃんと事前に連絡してから向かわせました」
朧「……」ジー
大淀「? 朧さん? どうかしました?」
朧「あの、提督。どうして提督は、そんな風に小さくくしゃみするんですか?」
大淀「そういえばそうですね……?」
提督「……これもきっかけは父親のせいだな。くしゃみがうるせえって八つ当たりされたせいだ」チッ
601: 2019/06/01(土) 21:22:19.33 ID:7gLvN1Axo
吹雪「ええ!? なんですかそれ! そんなことでも暴力振るわれてたんですか!?」
提督「……なんで吹雪が父親の暴力のこと知ってんだ」
吹雪「みんな知ってますよ? 明石さんと由良さんから聞きました!」
提督「……」アタマカカエ
朧「朧は、潮と長門さんにしか話してないですよ」
提督「十分だよ」ハァ
伊8(大淀さんも結構いろんな人に話してた気がするけど)チラッ
大淀(秘密ですよ?)シー
吹雪「あ、それから大淀さんに聞いたんですけれど」
大淀「」ガクッ
伊8「」ズルッ
朧「?」
吹雪「提督のお父さん、国会議員になってるみたいですよ」
提督「なに? どういうことだ」
602: 2019/06/01(土) 21:23:10.32 ID:7gLvN1Axo
大淀「こほん。それに関しては気になる記事がありまして」
提督「記事?」
大淀「国会の予算委員会で、防衛費……その中でも、主に艦娘に関する予算ですね、それを見直せと言う声が野党から上がったんです」
大淀「私たちが言うのも本末転倒ではありますが、艦娘が何者なのか、深海棲艦同様まだまだわからない部分が多く……」
大淀「そのため国民には説明できないので、私たちの存在に関して公表できないというのが与党の現状です」
提督「……まあ、確かになあ。二の句に困るなら下手に喋らねえほうがマシか」
大淀「そのため野党からは、深海棲艦とは何者なのか、目的は何かを調べろ。そして戦争回避のための努力をしろ、という無茶振りと……」
大淀「国を守るためという名目で、得体の知れないものに金を突っ込むな、という、ある意味真っ当な意見で責められています」
大淀「それを切り出したのが……」」
提督「俺の父親だ、ってことか?」ジロッ
大淀「はい……!」コクッ
提督「……あの野郎。縁を切ったっつうのに、まだ俺の邪魔をしやがんのか……!」ギリギリッ
吹雪「司令官……」
603: 2019/06/01(土) 21:24:22.87 ID:7gLvN1Axo
朧「……んー?」クビカシゲ
伊8「どうしたの?」
朧「ええっと……提督が海軍に入った時、中佐が提督のお父さんにお金を渡したんでしたよね?」
朧「提督のことに口を出させないために……」
提督「ん? ああ、そうだが」
朧「中佐も艦娘を部下に持つ『提督』なのに、どうして艦娘運用の予算を削ろうとする人にお金を渡すのかな、って」
提督「……そういやそうだな……?」
全員「……」
吹雪「これって、賄賂……ですよね?」
朧「……どう、なのかな。なんて言うんだろう、こういうお金」
伊8「でも、そのお金って政治には関係なくて、単に提督をどうするってお金でしょ?」
朧「頭に来るけど、そういうことだよね」
吹雪「政治的には敵対するけど、提督に対しては利害が一致してる感じ?」
提督「……」イライライラ
伊8(提督の顔が般若みたいに……)タラリ
604: 2019/06/01(土) 21:25:32.30 ID:7gLvN1Axo
大淀「……もしかしたら、ですが……」
提督「なんだ?」
大淀「中佐は、艦娘の存在を公表したがっているのかもしれません」
朧「どういう意味ですか?」
大淀「国会での野党は、艦娘と深海棲艦について説明ができない与党を攻めて、政権の奪取を狙っています」
大淀「ですが今、艦娘を海から撤退させようものなら、深海棲艦による被害が拡大し、それこそ国家転覆に繋がります」
大淀「与党としては艦娘についての情報を公表するしかないのですが、そうなると……」
提督「今度は艦娘の人権がどうの、って話になんのか?」
大淀「それもありますが、なにはともあれ単純に、海軍そのものに注目が集まります。おそらくそこが問題なんです」
大淀「海軍本営では、艦娘の情報公開について賛成派と反対派が綺麗に分かれていまして」
大淀「賛成派は、艦娘の活躍をもっと前面に出して、海軍の活動の支持者を増やしたい意図があります」
大淀「一方の反対派は、提督が懸念した人権問題や、女性差別などの問題に発展するのを恐れている人たちと……」
大淀「艦娘という得体の知れない存在に、日本の未来を託しているという不安極まりない現状への批判を恐れる人たち……」
大淀「女性を前面に出して媚を売るのが好かない! という、昔ながらのお堅い人たちですね、そういう人たちが難色を示しています」
605: 2019/06/01(土) 21:26:39.99 ID:7gLvN1Axo
大淀「おそらく中佐は賛成派でしょう。国会で野党が情報開示を求めるのは好都合……」
提督「そうか……野党の連中をけしかけて、藪をつついて蛇を出させるわけか」
吹雪「??」
大淀「深海棲艦に対する抑止力は、艦娘しかいません。それが公にも認められれば、海軍が今いかに重要な組織かを宣伝できます」
提督「そうなりゃあ、国家予算を海軍につぎ込むことが悪いと言えなくなる」
朧「そっか……予算を削るつもりが、逆に出さなきゃ、って雰囲気に持っていかされるんだ……」
大淀「違法ですが、資産家が個人的に出資する可能性もありますね」
提督「中佐にしてみりゃあ、それこそが一番の狙いなんだろう。個人的なコネやパトロンを増やすためのいい宣伝だ」
大淀「与党議員が艦娘について公表しない一因には、海軍が力をつけすぎるのを恐れているところもありますね」
大淀「海軍の反対派にも、軍事政権が誕生してしまいかねない状況になっていることを危惧している方もいらっしゃいます」
吹雪「真面目に考えてる人もいるんですね……」
朧「いなかったら困るよ……」
606: 2019/06/01(土) 21:27:38.07 ID:7gLvN1Axo
提督「ったく、狸爺どもの化かし合いだな、巻き込まれるほうはいい迷惑だ。考えてたら胃がむかむかしてきたぜ」
不知火「司令。健康診断では胃カメラを撮る予定ですので、できるだけ平常心でお願いします」ヌイッ
提督「うお!?」ビクッ
吹雪「いつからいたの!?」ドキドキ
不知火「海軍の国家予算がどうのこうのという辺りからです」
朧「全然気付けなかった……」
不知火「本営にいると、耳を澄ませば良くない話があちこちから聞こえてきますので、そのための護身術です」
伊8「どんな環境なの……」
提督「そういうのは護身術って言わねえだろ……」
大淀「永田町には鵺が住む、と言いますが、本営もそんな感じなのでしょうか……」
607: 2019/06/01(土) 21:28:52.20 ID:7gLvN1Axo
* 後日 太平洋上 護衛船内 *
士官1「えー……提督准尉と会うんですか?」
士官2「悪いことは言いませんから、やめておいたほうがいいですよ……」
波大尉「え、なにその反応」
士官2「あ、でも、会うだけならまあ……」
士官1「そうだな……あの島に近づかないなら、いいか?」
波大尉「?? あの島に行くのがそんなに駄目なの?」
士官1「大尉は御存知ないんですか。あの島、墓場島って呼ばれてるんですよ」
波大尉「なにそのいかにも何かありそーな名前」
士官2「いやまあ、そのまんまなんですけどね。この辺の海域、潮の流れがちょっと変わってまして」
士官2「このあたりで艦娘が轟沈すると、あの島の海岸に打ち上げられるくらい潮が強いんですよ」
士官2「で、あの島に住んでる准尉が、その砂浜に流れ着いた艦娘を、みんな埋葬してるそうなんです」
波大尉「えっ、准尉ってばいい人じゃない」
608: 2019/06/01(土) 21:30:06.00 ID:7gLvN1Axo
士官2「それだけならいいんですが、提督准尉は島に生きて流れ着いた艦娘を、そのまま運用してまして……」
波大尉「え……!?」
士官2「それがどれだけやばいことか、大尉も知ってますよね?」
波大尉「うん……轟沈した子は、そのうち深海棲艦になる、って話だったよね? もしかして霞ちゃんたちもそうなの!?」
士官2「いや、それはわかりませんけど……俺だってあの子たちが深海棲艦になるとか、思いたくないですよ」
士官1「でも、ああいう性格になったのが轟沈を経験したからだとしたら、そういう可能性が高いのは否定できないですよね」
波大尉「そんなあ……」
士官1「まあまあ、まだそうと決まったわけじゃ。轟沈した艦娘が流れてくるところを見てるからああなったって可能性もあります」
士官2「とにかく、島への上陸はやめたほうがいいですよ。実際、立ち寄った提督はみんな災難に遭ってるらしいですから」
波大尉「災難って、例えば?」
士官2「降格させられたり、僻地に左遷させられたり……あの島のもと管理者だった中佐ですら大怪我してたりしてますね」
波大尉「中佐、ってあの中佐? あの気持ち悪い奴」ヒソッ
士官1「ええ、そうです。大尉が嫌いなそいつです」ヒソッ
609: 2019/06/01(土) 21:31:14.52 ID:7gLvN1Axo
波大尉「元の持ち主なのに大怪我したって、どういうことなのよ……」
士官1「わかりません。大和が関わってるって言いますけど、あんな島に大和がいるなんて思えませんし……」
波大尉「大和!? 大和ってあの戦艦大和!?」
士官2「そうです。その大和です。信じられないですよね」
波大尉「うん、横須賀でもまだ2、3人くらいしかいないのに、さすがにちょっとねえ……」
士官2「それから他にも、あの島じゃ幽霊騒ぎも起きてるらしいですよ」
波大尉「幽霊!?」
士官2「だって轟沈した艦娘が流れ着いてる島ですよ、その手の話の一つや二つ、あってもおかしくありません」
士官2「……もしかして、中佐が大怪我したのって大和の幽霊の仕業だったりして」ウラメシヤー
波大尉「ちょっとやめてよ!!」バシッ
士官2「いてっ! じょ、冗談ですよ!」
波大尉「なんでそんな問題ありありの不吉な島に私が行くことになったのよぉ……知ってたら断ってたのにぃ」
士官1「しょうがないですよ。我々だって、××島って聞いてすぐあの墓場島だって思い至らなかったんですから」
士官2「その××島からの依頼の話も、今回の遠方の鎮守府への医療船配備の予定がたまたま重なったから行くことになったわけですし」
士官2「こればっかりは間が悪かったとしか言いようがないですよ」
610: 2019/06/01(土) 21:32:25.53 ID:7gLvN1Axo
士官1「そういうわけですから、今回の提督准尉の健康診断も、××島には寄港せず、出向いてもらって洋上で診察することにしています」
波大尉「あ、そうなんだ……じゃあ、大丈夫なのかな」
士官1「……大尉?」
波大尉「提督准尉とさ、いい人ならちょっと会ってみようかなーって思ってたんだけど」
士官1「いえ、提督准尉と面会はしませんよ。波大尉が准尉とお会いする機会は用意していません」
波大尉「ええええ!?」
士官1「いやいやいやいや、当然じゃないですか。今までの話、聞いてたんですか!?」
波大尉「聞いてたけどさ、島に立ち寄るのは駄目なんでしょ? こっちに出向いてこっちの船に乗るわけよね?」
波大尉「あの駆逐艦娘たちがこぞって評価してるような人だもん。准尉が不幸をばらまいてるとは思えないんだけど」
士官1「うーん……」
士官2「正直に言うと、俺はお近づきになりたくないですけどね。不気味じゃないですか」
士官2「ただでさえ人が寄り付かないような島で、平然と生活してるんですよ。提督准尉って何者なんだ、って考えません?」
波大尉「でも、経歴見ると提督准尉って国会議員の息子よ?」
士官1「そうかもしれませんが、そうだとしてもなんであの島に、って話ですよ」
611: 2019/06/01(土) 21:34:16.77 ID:7gLvN1Axo
士官1「もし提督准尉が有能なら、もっと別の鎮守府で戦果を挙げてると思いませんか?」
波大尉「……」
士官2「提督准尉は海軍に籍を置いてからずっとあの島で働いてて、怪我の治療で2~3日しか帰国したことがないって話です」
士官2「もしかしたら、ご両親とも何かあって、日本から離れているのでは?」
士官1「もしくは、日本に居づらい理由があるとか。問題を起こしているとしか思えませんよ」
波大尉「……」
士官1「とにかく、大尉は提督准尉のお相手はしなくて大丈夫です」
士官2「大尉のお仕事の範囲外なんですから、医療班に丸投げしましょうよ」
波大尉「……うん」
波大尉「提督准尉、お父さんたちと離れ離れで、寂しくないのかな……」
波大尉「霞ちゃんたちもあんなに素直でいい子なんだもの、悪い人じゃないと思うんだけど」
波大尉「第一、問題を起こしてたら、いくら離島でも憲兵不在の鎮守府を任されるとは思えないし」
波大尉「うーん……」
波大尉「うん、やっぱり会ってみよう。ちゃんと顔を見て話をしないと、善いも悪いもわかんないわ」
614: 2019/06/16(日) 16:57:28.90 ID:KEmq5Np6o
* 翌朝 鎮守府埠頭 *
(外海に見える三隻分の船影)
那珂「提督! あれ! 船が見えるよ!」
提督「……あれが医療船か?」
大淀「はい、後ろ二隻がそうです。一番前の小さい船は護衛艦ですね」
提督「随分小せえな。あんな小さくて護衛できんのかよ」
大淀「今の護衛艦には、最低限の装備しか積んでいませんから」
提督「あ? なんだそりゃ」
大淀「そもそも、現代兵器による攻撃が深海棲艦には効果的じゃないんです。深海棲艦程ではありませんが、艦娘もそうなんですが、」
提督「……全然効かない、ってわけじゃないんだな?」
大淀「はい、ですが、深海棲艦にはせいぜい足止め程度にしかなりません。大がかりな主砲を積んでも当てるのが難しいですし」
大淀「なので、最近の護衛艦は小型の砲や機銃を積む位にとどめて、あとは速度重視ですね。艦娘の応急ドックを積んでいる艦も開発されています」
提督「逃げるのを優先してるわけか」
如月「でも、医療船が二隻で来たのはどうしてなの?」
大淀「あれはそれぞれ、パラオとブルネイに配備予定の船なんです」
615: 2019/06/16(日) 16:58:11.37 ID:KEmq5Np6o
大淀「あの護衛艦も、艦娘用のドックと新型レーダーを備えた最新型で、女性提督である波大尉が、泊地への配備任務を任されています」
大淀「そこに提督の健康診断を本営に依頼したところ、この二隻の輸送の途中で寄り道してもらうことになりました」
那珂「ね、ねえ……それ、結構どころじゃなく、重要任務だよね……?」
大淀「はい。ですがこの機を逃すと次がいつになるかわかりませんし……」
大淀「この周辺海域で深海勢力と遭遇することが少なくなったのも、依頼が通った一因だと思います」
如月「一応、鎮守府として面目を保ててるってことかしら」
提督「それにしても……」チラッ
如月「?」
那珂「?」
大和「?」
伊8「?」
龍驤「どうかしたん?」
提督「人数多いな。お前らもついてくるのか?」
龍驤「うちはお空の監視役や」
那珂「那珂ちゃんも今回は提督の護衛役だよー!」
616: 2019/06/16(日) 16:59:30.89 ID:KEmq5Np6o
大淀「伊8さんは島の医療班代表です」
提督「明石じゃねえのか?」
伊8「はっちゃん、今回やってくるお医者さんに、聞きたいことがあるの」
提督「ふぅん……で、大和と如月は?」
如月「司令官に何かあったら心配だもの」
大和「大和も御一緒させていただきます!」
提督「野次馬かよ」
大淀「これでも金剛さんと榛名さんを説得するのに頑張ったんですよ」ハァ
那珂「あっ、提督! 駆逐艦のみんなが戻ってきたよ!」
ザザァ…
朝潮「司令官! 艦隊、遠征より只今帰還致しました!」ビシッ
提督「おう、ご苦労さん。今回は荷物多くて大変だったろ」
霞「そうでもなかったわ。荷物自体は波大尉の船で運んでもらったし、私たちはその護衛をするだけだったんだから、どうってことないわよ」
暁「そのお礼に、私たちが運んだ資材の一部を波大尉に渡したんだけど、良かったわよね?」
提督「ああ。波大尉には俺からも礼を言っておく」
朝雲「それで、司令の健康診断の話なんだけど……」
617: 2019/06/16(日) 17:00:16.13 ID:KEmq5Np6o
* 洋上 *
ザザァ…
大和の背中に乗せられた提督「……」
大和「提督、乗り心地はいかがですか?」ニコニコ
提督「……神輿に乗せられてるみたいで恥ずかしいな」
如月「お姫様抱っこされるよりはいいんでしょう?」
提督「そりゃあそうだけどよ……」
如月「せっかく如月が司令官を連れてってあげるって言ったのに」プー
提督「勘弁してくれ。俺だって恥じらいくらいある」ハァ
龍驤「ちゅうか、せめてお迎えくらいあってもええやん。それを『医療船まで来い』とか、上から目線もええとこやわ」
朝雲「鎮守府埠頭の潮の流れが不安定だから島に近づけないってのも、一応納得できる理由ではあるけどね」
那珂「そういえば、提督さんって泳げないんだっけ?」
提督「おう。さすがに水は掴めねえからなあ……」
龍驤(脳筋や……)
朝雲(司令って、こういうところは意外と力押しなのね……)
618: 2019/06/16(日) 17:01:24.15 ID:KEmq5Np6o
霞「言われる今の今まで何とも思ってなかったけど、救命用のゴムボートすらなかったのよね、あの鎮守府」
龍驤「島で万が一のことがあったらどないすんねんな」
如月「それもこれも全部中佐が悪いのよ、司令官が島を出る手段を全部処分しちゃったんだから……!」ギリッ
大和「中佐……!」グラッ
提督「うお!? おい大和、大丈夫か?」
大和「も、申し訳ありません! ちょっと気分を悪くしただけです、今は大丈夫ですから!」
提督「無理すんなよ!?」
那珂「如月ちゃんも大丈夫? すっごい顔してたけど」
如月「……ごめんなさい、私ももう大丈夫」
那珂「……あんまり大丈夫じゃない顔してるよ? 本当に大丈夫?」
提督「まあ、いろいろ因縁の相手なんだ。龍驤にとっての以中佐と同じようなもんで、俺もあれにゃあ不快な思いしかねえからな……」
龍驤「じゅーぶんおおごとやんか。そんなんが提督の直の上官って、やっていけてるん?」
提督「直接かかわってこねえから、今のところはな。連絡するにしても、秘書艦の赤城が応対してくれてる」
提督「それに、困ったことがありゃあ不知火を通して中将に連絡できる。そこまで不自由はしてねえさ」
619: 2019/06/16(日) 17:02:12.39 ID:KEmq5Np6o
龍驤「ちょい待ち、なんで不知火にそんな権限あんねん」
那珂「不知火ちゃん、提督さんの部下じゃなくて中将の部下なんだってー」
龍驤「は?」
那珂「不知火ちゃんってもともと中佐の部下だったんだけど、提督さんのおかげで中将の部下になったんだって聞いたよ?」
那珂「それで、如月ちゃんもこの鎮守府に配属になったんだよね?」
如月「そう……そうなの。この人に……司令官に出会ってから、私は、やっと『如月』になれたの……!」
龍驤「なんか、みんないろいろあったんやなあ」
霞「みんなそれぞれに事情があるから、余所から来たばかりの人には説明が大変なのよ。どこまで話をしていいかで悩むのよね」
提督「言ってて思い出したが、那珂。神通も中佐には嫌な思いさせられてるから、それなりに気を付けとけよ」
那珂「じ、神通ちゃんもなの……!?」
龍驤「うちを受け入れてくれるっちゅうのも、それなりに理由があってのことなんやな……」
620: 2019/06/16(日) 17:03:11.54 ID:KEmq5Np6o
* 医療船 甲板上 *
提督「乗船させてもらったはいいが、どこへ行きゃあいいんだ?」
朝雲「確か、案内がいるって言ってたわよね」
霞「明石さんが来るって聞いてるわ」
大和「明石さんが?」
扉<ガチャッ
明石(スーツ+白衣)「ああ、来た来た。ようこそ! あなたが提督准尉ですね」
提督「明石?」
明石「はい、工作艦明石です。私が准尉の診察を担当しますので、よろしくお願いしますね」
提督「明石がか? 人間も治療できるのか」
足柄「こっちの明石は人間の医学にも精通してるの。あなたのところの明石はどうだかわかんないけどね」スッ
提督「!」
足柄「初めまして、提督准尉。私は波大尉の秘書艦、重巡洋艦の足柄よ。よろしくね」
提督「波大尉の……うちの駆逐艦たちを送ってくれたと聞いている。礼を言わせてくれ」ペコリ
足柄「私たちこそ、この島までの道中の護衛を手伝ってもらったからお互い様よ。協力に感謝するわ」ニコ
621: 2019/06/16(日) 17:03:53.01 ID:KEmq5Np6o
足柄「それにしても……」ジロジロ
提督「?」
足柄「うーん、見た感じ普通よね。霞ちゃんたちもあなたのことを悪く言ってなかったし、なんであんな島に一人で住まわされてるのかしら」
霞「ちょっ、足柄さん!?」カオマッカ
足柄「ああ、ごめんね霞ちゃん。でも、別に隠す必要ないでしょ?」
霞「~~~っ!!」
提督「何の話だ?」
霞「なんでもないったら!! 早くとっとと診察されてきなさいよ! このクズ!!」
提督「……わけがわかんねえ。まあいいや、さっさと終わらせてくるか」
伊8「あ、ちょっと待ってください」
明石「? どうしました?」
伊8「提督の検査で、追加で調べて欲しいことがあるんです。そのための資料を持ってきました」
那珂「! もしかして、出発する時に那珂ちゃんに渡したこれ?」フウトウトリダシ
伊8「そう」コクリ
622: 2019/06/16(日) 17:05:04.00 ID:KEmq5Np6o
明石「調べて欲しいこと、ですか……わかりました。書類、お預かりしますね」
明石「それじゃ提督准尉、行きましょうか」
提督「ああ」
スタスタ…
足柄「うーん、准尉ってあんまり愛想のいい人じゃないのね。緊張してるのかしら」
霞「ちょっと、足柄さん!? さっきの話はいったいなんなの!?」
足柄「そんなに怒らないの。あなたが彼を悪く言ってなかった、って言っただけで、深い意味はどこにもないんだから」
霞「~~~っ!」プイッ
大和「それにしても驚きました。明石さんは人間を診察することもできるんですね」
足柄「それはちょっと違うわ。彼女は人間に助けてもらったことがあるの」
足柄「ただ、それが原因でその人が怪我をしちゃって。それで彼女が人間のための医学を学ぼう、ってことになったのよ」
龍驤「ふーん……人間にもええやつがおるんやなあ」
足柄「そんなに珍しくもないでしょ?」
大和「……私も、提督のために勉強してみようかしら」
伊8「……」ムー
623: 2019/06/16(日) 17:06:05.74 ID:KEmq5Np6o
朝雲「うーん、大和さんはそれよりも、練度を上げることに集中したほうがいいと思うけど」
大和「そ、そうでしょうか」
朝雲「長門さんも言ってたけど、大和さんの主砲の威力はすごいわけだし。一緒に出撃できれば、私たちとしても心強いわ」
朝雲「それに大和さん、厨房のお仕事もしてるでしょ? もしそこから勉強もするとなると、ちょっと時間が足りなくない?」
大和「た、確かに、厨房にも立っていると、少し時間が足りませんね……」
朝雲「逆にハチさんは練度こそ高いけど、着任当初からあまり出撃したくない感じだったし、食糧調達も島の周辺ですぐ戻れるし」
朝雲「何事も、無理に手を広げてもあんまりいいことないと思うし。ね?」
大和「一理ありますね……」ウーン
那珂「ふえぇ……朝雲ちゃん、よく見てるんだね~! えらいえらい!」ナデギュー
朝雲「あ、ありがと……っていうか、那珂さんに褒められるとちょっと照れるわ」
足柄「しっかりした子ねえ……」
龍驤「ほんまや。朝雲、ほんまに駆逐艦かいな」
霞「まあ、あの古鷹さんとずっと一緒だったから……」トオイメ
如月「そうね、気配りの人だものね……」トオイメ
足柄「あー、古鷹と一緒にいたなら、あの気遣いも納得ね」ウンウン
伊8(絶対、意味を取り違えてると思う……)
624: 2019/06/16(日) 17:06:46.38 ID:KEmq5Np6o
* 診察室 *
明石「それじゃ、最初は身長体重から測りましょう。准尉、こちらに着替えてから、お部屋にお入りください」
*
明石「レントゲン撮りますねー。はい、息を吸ってー、はい、息を止めてそのまま!」
*
明石「視力聴力は問題なし……血液検査も問題なし……ふむふむ」カリカリ
*
明石「准尉、こちらへどうぞ。こちらでまた診察をさせていただきます」
提督「診察? さっきやったんじゃねえのか?」
明石「はい、それとは別の診察です。触診しますので、上着を脱いでください」
提督「……」ヌギ
明石「背中から触りますよー」スッ
提督「……」
625: 2019/06/16(日) 17:07:48.10 ID:KEmq5Np6o
明石「……」サワサワ
明石「……」スリスリ
提督「……」
明石「……」サワサワ
提督「……おい、明石?」
明石「あ、動かないでくださいね。うーん……」
提督「……おい」
明石「ちょっとばんざいしてください。はい、そのまま……」サワサワ
提督「……」
提督(どこ触ってんだこいつ……)
明石「はい、手をおろしてください。楽にしてていいですよー」
明石「それじゃあ、ちょっとこっちを見ててくださいね」シュル
提督「おい……?」
626: 2019/06/16(日) 17:08:42.94 ID:KEmq5Np6o
明石「……」スルスル ヌギヌギ
提督「明石!? 何をしてんだ!?」
明石(下着姿)「何って……」パサッ
提督「……いいから服を着ろ。何考えてんだ」セキメン
明石「ちゃんとこっちを見てください。聴診器当てますから」
提督「……っ」
明石「はい、そのまま息を吸ってー」
提督(なんなんだいったい……)
* *
明石「はい、お疲れ様でした!」
提督「……」ハァ
明石「さすがに男性の前で下着姿になるのは恥ずかしかったですねえ……」
提督「俺だって恥ずかしいぞ……なんのための診察なんだ」
明石「それはこれからご説明します。いくらか質問もさせていただきますね」
提督「……まだ続くのかよ」ハァァ
* *
*
627: 2019/06/16(日) 17:10:07.84 ID:KEmq5Np6o
* 医療船内 休憩室 *
龍驤「はー……立派な設備やなあ。船の中やってこと、忘れてしまいそうになるわ」キョロキョロ
如月「技術の進歩って、すごいわね」
霞「クーラーも完備で自販機もおいてあるなんて、陸の上にある普通の鎮守府と変わらないわね」
大和「これを世界各地の泊地に配備すると思うと、安心できますね」
伊8「これ、ほかのみんなも連れてきて、見せてあげれば良かったかも」
朝雲「明石さんあたりは目を輝かせそうね」
那珂「でも、医療船だからねー。大勢で押しかけて騒がしくするのは良くないよ?」
龍驤「せやなあ、その辺はしゃあないか。それにしても……提督、ちょっと遅ない?」
如月「ちょっと時間がかかってるわね……大丈夫かしら」
大和「念入りに調べてもらっているのかもしれません。ハチさんも気になるところがあって、あの封筒を渡したんですよね?」
伊8「そう」コク
朝雲「いったい何を調べて欲しかったの?」
伊8「それは秘密。不安を煽りたくないし、思い過ごしならいいなと思って」
628: 2019/06/16(日) 17:10:56.64 ID:KEmq5Np6o
那珂「何か深刻な病気なの?」
伊8「命にかかわるような病気じゃないと思う」
如月「……司令官、大丈夫かしら」
扉<チャッ
明石「お待たせしました!」
提督「よう」ヌッ
如月「司令官!」
大和「提督!」
如月「大丈夫でした? 痛いところとかあります?」
大和「大変だったでしょう!? さ、こちらへどうぞ!」
提督「……検査から戻ってきただけだぞ」
霞「二人とも心配しすぎよ」ハァ
龍驤「えらい時間かかったなあ? 何しとったん?」
提督「まあ、いろいろだよ、いろいろ。心電図とか採血とか、胃カメラも飲まされた。全部初体験だ」
629: 2019/06/16(日) 17:11:28.64 ID:KEmq5Np6o
朝雲「明石さん、診断結果はどうだったんですか?」
明石「おおむね良好。普通の生活を送るにあたっての問題はないわ」
明石「ただ、伊8さんからもらった封書の内容については、残念ながら……危惧している通りね」
伊8「……そうですか」
如月「え!?」
大和「な、なにがあったんですか!?」
明石「それはこちらの診断書に。提督准尉の名誉にもかかわるお話ですので……うん?」
龍驤「? なんやこの音?」
那珂「なんだか、騒々しくない?」
「ちょっとだけ! ちょっと会うだけだから!」
「待ちなさいってば!」
扉<ガチャバーン!
波大尉「提督准尉、いる!?」
全員「!?」
630: 2019/06/16(日) 17:12:38.70 ID:KEmq5Np6o
千歳「提督、控えてください!!」ダッ
足柄「恥ずかしいからやめなさいよ!」ダッ
全員「……」ポカーン
明石「あの、波大尉? どうかなさったんですか?」
波大尉「何って、提督准尉を見に来たんじゃない! 診察終わったんでしょ!?」
龍驤「見に来た……て」
提督「俺は見世物か」
波大尉「あー!! あなたね!!」シュバッ!
提督「!?」タジロギ
波大尉「初めまして、私は波大尉! あなたが提督准尉ね!?」
提督「あ、ああ……」
足柄「ご、ごめんなさいね! この子、提督准尉に会いたいって言ってきかなくて……!」ガシッ
千歳「早く戻りますよ!?」ガシッ
波大尉「診察も終わったみたいだしぃ、いろいろお話を聞かせてもらおうと思って~」ニジニジニジ
千歳「ちょっ、なにこの馬鹿力!?」ズルズルズル
631: 2019/06/16(日) 17:13:20.01 ID:KEmq5Np6o
波大尉「休憩も兼ねて、ちょっと二人でお茶でも飲みながら、お話しさせてもらいたいんだけど~!」ウデツカミ
提督「……」ウデヲツカマレ
千歳「そうやっていきなり迫って嫌われるのがいつものパターンでしょう!?」
朝雲「あー……あの顔は『面倒臭い』って思ってる顔だわ」アタマオサエ
霞「……波大尉ってあんなに落ち着きのない人だったかしら」アタマオサエ
足柄「みっともないところ見せちゃってごめんね霞ちゃん。うちの提督、結婚に焦ってるもんだから……」
ゴォッ
龍驤「!?」ゾクッ
千歳「!?」ビクッ
如月「……結婚……?」ゴゴゴゴゴゴ
足柄「えっ、なにこの迫力!?」
大和「もしや、提督と、ですか……?」ゴゴゴゴゴゴ
那珂「ちょっ、如月ちゃん!? 大和ちゃん!? ここ、医療船だからね? 病院と同じだからね!?」アセアセ
伊8「……一発までなら誤射ですよ?」ボソ
那珂「誤射しちゃ駄目ぇぇぇぇぇ!!」ヒィィ!
632: 2019/06/16(日) 17:14:58.69 ID:KEmq5Np6o
千歳「ほら、波提督! 早く准尉から離れてください!」グイー
波大尉「こんな程度のプレッシャーで離れてたら合コンで勝ち残れないわよ!」
足柄「ここは合コンの会場じゃないわよ!」グイー
提督「……? 『ごうこん』てなんだ? 金剛の親戚か?」クビカシゲ
波大尉「えっ」
龍驤「金剛とは関係ないんちゃう? うちもよくわからへんけど」
朝雲「勝ち残るとか言ってたから、スポーツかなにかかしら?」
千歳「えっ」
提督「ゴーゴンだったらわかるんだがなあ……」
如月「メデューサのことね?」
霞「私もよく知らないわ。ねえ足柄さん、ゴーコンってどういう意味なの?」
足柄「……ねえ波大尉、私、この子たちの純真さに涙が出そうになってるんだけど。説明していいの?」
伊8「今調べたけど、合コンって、恋人探しパーティみたいなものみたい」ペラリペラリ
足柄「あ」
633: 2019/06/16(日) 17:15:49.71 ID:KEmq5Np6o
伊8「複数人の男女が参加して、お相手を探してあわよくば、ってことみたいだけど?」
龍驤「……あー……」アキレ
霞「そういうことなの……」ジトォ…
足柄(霞ちゃんからの視線が痛すぎるわ……)
朝雲「ま、まあ、そういうのもあるわよね! うん!」アセアセ
明石「フォローしたほうが痛々しいからやめてあげて!」
大和「ということは、波大尉は提督とお付き合いしようとしているわけですか」ギンッ
如月「司令官をどこに連れて行く気?」ギンッ
波大尉「ひっ! な、なによ! すごまれたって退くわけにはいかないんだから!」
提督「退くも進むもねえよ。そういう話なら俺は結婚不適合者だから諦めろ」
如月「そんなことありません!」
大和「勝手に決めつけないでください!」
波大尉「そうよ! それはこっちが決めることよ!!」
伊8「なんで敵同士で意見が合致してるんでしょうねえ……」ボソ
634: 2019/06/16(日) 17:16:51.81 ID:KEmq5Np6o
提督「そもそも俺は誰かと結婚なんてする気はこれっぽっちもねえぞ」
波大尉「どうしてよ!? それであなたは幸せなの!?」
提督「ああ。むしろ、うちの艦娘たちが今の生活に満足してくれてりゃそれでいいと思ってるが」
如月「も、もう……そんなことなら、如月はずーっと提督のお傍においてもらえるだけで幸せよ……?」モジモジ
大和「大和も、提督の隣にいられるのなら、これ以上の幸せはありません……!」モジモジ
波大尉「フン……そんなの嘘よ!!」ズビシッ
如月「そんなことはないわ!」
大和「何を根拠にそんなことを言うのですか!」
波大尉「あなたたち……家庭が欲しくないの!?」クワッ
如月「!?」
波大尉「愛する人との子供が欲しくないの!?」ビシィッ
大和「!?」
波大尉「あなた~、おかえりなさい! お仕事お疲れ様でした!」
波大尉「ご飯にする? お風呂にする? それとも……わ・た・し? とか、やってみたいと思わないの!?」
如月「そ、そんなの……やってみたいに決まってるじゃない!!」
大和「如月さんっ!?」
635: 2019/06/16(日) 17:18:27.32 ID:KEmq5Np6o
波大尉「大好きな人のために、お料理作って! 綺麗なベッドを準備して! 仕事から疲れて帰ってきた旦那様を迎えて!」
波大尉「一緒にお風呂に入って! 一緒のベッドでイチャイチャしながら眠る生活に、憧れたりしないって言うの!?」
大和「う、ぐううううう!!」
伊8「ダメージ受けてる……」
龍驤「なんちゅうか、結構古風やなあ……」
明石「あ、やっぱりそう思います? 良くも悪くもちょっと昭和的なんですよね、波提督の感性って」
霞「ええ、古風ね……わかるけど」ボソ
千歳「無理もないのよ。波大尉のご両親も、妹さんのご夫婦も、絵にかいたようなおしどり夫婦だから」ハァ
千歳「どっちの夫婦も仲が良くて、いつもにこにこしてて、旦那様を立てて、奥さんも可愛がられて、っていう……」
千歳「なんていうか見てるだけでお腹いっぱいなご家庭なのよ」
霞「それじゃ無理もないわ……」タラリ
千歳「ご両親や妹さんたちからは別にせっつかれてるわけじゃないんだけど、波大尉はそれが逆に煽られてるように感じてるの」
那珂「成功者が近くにいると焦るよねー……」
波大尉「妹のところの双子も、小学校に入ったわ。可愛かった……甥ちゃんも姪ちゃんも、すっごい可愛かった!!」
波大尉「あたしだって……あたしだって、同じように子育てして、ママって呼ばれたいのよおおおお!!」
提督「……」
朝雲(うわー、司令ったら完全に興味なさそうな顔してる……)
636: 2019/06/16(日) 17:19:21.52 ID:KEmq5Np6o
波大尉「提督准尉! あなただって、そういう温かい家庭に憧れるでしょう!?」
提督「うんや、別に。どうでもいいな」
波大尉「!?」
大和「!?」
如月「正直、そう言うんじゃないかと思ったけど……」ハァ
波大尉「提督准尉! 真面目に答えて!」
提督「あぁ? 真面目にどうでもいいっつってんだよ、いちいち面倒臭えな」
波大尉「」
大和「」
龍驤「」
那珂「」
足柄「」
千歳「」
伊8「うん。だいたいみんなそういう反応になるよね」
霞「あ、足柄さん!? しっかりして!」
637: 2019/06/16(日) 17:21:00.54 ID:KEmq5Np6o
千歳「じ、准尉、あなたは本当にそれでいいんですか」
提督「うるせえな、俺は結婚する気はねえってさっきから言ってんだろが。まともな親を知らねえ俺が、まともな親になんかなれるかよ」
千歳「……! 准尉、それはどういう……」
波大尉「何を言ってるの!? 仮にもご両親は健在なんでしょう!?」
千歳「波提督!? 待ってください、提督准尉は……!」
波大尉「これまで育ててもらったご両親に対して、家族としてそんなことを言っちゃ駄目よ! わかるでしょう!?」
提督「あぁ……?」ピキ
波大尉「!」
提督「何が駄目だって?」ギロリ
如月「し、司令官……!」
龍驤「こらあかん……あかんこと言うたで、波大尉……!」
大和「て、提督……!?」ビクッ
足柄「ちょっ、ど、どうして准尉がここまで怒ってるのよ!?」
638: 2019/06/16(日) 17:21:57.82 ID:KEmq5Np6o
霞「ちょっと!? いったいなにがあったのよ!?」
如月「司令官は、両親と縁を切ってるの……」
朝雲「えぇ……!?」
霞「縁を切るって、いったい何やってんのよ、あんた……!」
提督「何って、当然の流れだよ。あいつらと俺は、家族なんかじゃねえ……家族なんかやってられっかよ、くそが!」
霞「……!」ゾク
那珂「提督さん……!」
龍驤「霞や朝雲はともかく、なんで大和たちまで驚いてんねん。提督の昔話、誰かから聞いたんやろ」
伊8「き、聞いてたけど、提督の怒り方が、今まで見たことなかったくらいだから……」
大和「これほどだったなんて……提督、なんておいたわしい……!」ウルッ
如月「司令官、落ち着いて! もう帰りましょ!? 用は済んだんだもの!!」
提督「……ああ」
波大尉「ちょっと待ちなさい!」
千歳「波提督!?」
639: 2019/06/16(日) 17:22:48.93 ID:KEmq5Np6o
波大尉「さっきから何を言ってるの!? 家族じゃないとか、やってられないとか!」
波大尉「そんな悲しいこと言わないで。そんなんじゃ、誰も幸せになれないわ……!」
千歳「波提督! 何を言ってるんですか!」
波大尉「だって! 両親と不仲だなんて、可哀想じゃない!」
足柄「ちょっ……それは家庭の事情が」
波大尉「事情があるなら、話し合って仲直りすればいいでしょ!?」
提督「……仲直り、だと……?」
如月「落ち着いて! 司令官!! 相手にしないで!!」ガシッ
波大尉「如月ちゃん、私は彼のためを思って言ってるのよ!? 肉親と憎み合うなんて、馬鹿なことをしてると思わないの!?」
提督「……」ギリ
如月「駄目よ!! 司令官、抑えて!!」
波大尉「如月ちゃんだってわかるでしょ!? そんなに彼を慕ってるなら、家族がどれくらい大事かって!」
波大尉「喧嘩したら仲直りしなきゃ……人は一人で生きていけないのよ!?」
如月「……いい加減にして!!」キッ
波大尉「っ!」
640: 2019/06/16(日) 17:23:41.41 ID:KEmq5Np6o
如月「あなたの家族観は、司令官を傷付けるだけだわ! これ以上喋らないで!!」
大和「如月さん……!?」
波大尉「はぁ……私、何か間違ったことを言ってる? 幸せっていうのは……」
如月「っ……これを、見なさいよ!!」バサッ
那珂「如月ちゃん!? なんで上着を脱……っ!」
龍驤「……なんや、あの体」
明石「体中、傷だらけじゃないですか……!」
波大尉「きさ……如月、ちゃん……どうしたの、その傷は!!」
提督「おい如月、やめろ。すぐに服を」
如月「いいの。司令官、これだけは言わせて」フルフル
提督「……」
如月「この、私の体の傷は、私が生まれた鎮守府でつけられたものよ」
波大尉「え……」
641: 2019/06/16(日) 17:25:08.20 ID:KEmq5Np6o
足柄「虐待されてたってこと……!?」
如月「ううん、兵器の実験台にされてたの」
波大尉「……っ!!」
如月「命からがら逃げてきて、あの島に流れ着いて……私は、提督に助けてもらったの」
如月「司令官は、私を助けるために、命懸けになってくれたわ。今、私がここにいるのは、司令官のおかげ……!」
如月「あなたは、親を大事にしろと言うけれど、私にも同じことを言えるの?」
如月「私の親にあたる人……私の体をこんな風にした人と、私は仲直りしないといけないの?」
波大尉「そ……それは」
如月「司令官のお父さんは、肉親なのに司令官を一方的に苦しめてきた人なのよ? 私と同じことが言えるの?」
波大尉「で、でも、准尉のお父さんは政治家で……」
提督「職業なんか関係ねえよ。俺が海軍に入った時、中佐があいつらに金を渡して、あいつらは金を受け取った」
霞「はぁ!?」
提督「これがどういう意味かわかるよな?」
波大尉「……」
提督「あいつらは、俺の身柄を海軍に売ったんだ。俺がどうなっても構わない、ってな」
朝雲「……司令」
642: 2019/06/16(日) 17:27:31.77 ID:KEmq5Np6o
スッ パサッ
如月「司令官……」ウワギカケラレ
提督「如月、悪かったな」
波大尉「……」
提督「それからな。俺はEDってやつらしい」
大和「イー、ディー……?」
伊8「……やっぱり」ハァ
千歳「もしかして、それ……」
明石「男性器の勃起障害です。提督准尉は、過去のトラウマのせいで、性的興奮に強い抵抗と拒絶反応を返しています」
明石「彼が女性と性交渉を行うことは、現状のままでは不可能だと思われます」
明石「ですから、彼と結婚したとしても、子供はおろか、レスになる確率が高いでしょうね」
大和「そんな……!」ガーン
波大尉「なに、それ……!」
提督「だから言ったんだ。俺は結婚不適合者だ、ってな」
如月「司令官……!」
提督「そんな悲しそうな顔すんな。俺はもとより、子孫なんか残したくなかったんだからな」
643: 2019/06/16(日) 17:28:50.40 ID:KEmq5Np6o
波大尉「……そんなの……うそよ。現実から目を逸らしてるだけよ! 病院へ行って治療すれば……!」
提督「いい加減にしろ」
波大尉「!」ビク
提督「あんたの幸せの定義はわかった。俺はそれに賛同する気は微塵もねえし、それを押し売りすんじゃねえ」
提督「ついでに、俺を可哀想だなんて思うのも大間違いだ。俺は、こいつらと……今の『家族』と一緒にいられれば、それでいいんだ」
如月「司令官……っ!!」ブワッ
波大尉「……」
提督「帰るぞ」
龍驤「お、おぉ……」
大和「如月さん、服を……!」
明石「提督准尉、診断書をお持ちください」スッ
提督「ああ。那珂、お前が鎮守府に持って行ってくれ」
那珂「は、はいっ!」ウケトリ
644: 2019/06/16(日) 17:29:47.89 ID:KEmq5Np6o
霞「司令官。島に帰ったら、さっきの話がどういうことか、話してもらうわよ」
提督「そいつは適当に誰かに聞け。もうほとんどの奴が知ってるみたいだからな」ハァ
提督「ついでに診断書の中身の話も適当にして欲しいもんだが……」
伊8「それは、はっちゃんがみんなに報告します」
提督「頼む」
大和「さ、島に帰りましょう……!」
ゾロゾロ…
波大尉「……」
千歳「波提督! 何を考えてるんですか!」
千歳「准尉がいくら不遜な態度とはいえ、いくらなんでもあの説教はないわ!」
足柄「やめなさいよ、准尉にあんな事情があったなんて、波提督に想像できないわよ」
千歳「でも、話の途中でいくらでも気付くことはできたでしょう!?」
波大尉「……そう、ね」フラ
千歳「……」
扉<ガチャ パタン
足柄「……波提督」
千歳「まったくもう……あの子、世間知らずなのよ。自分の理想が正しいって、信じて疑わないんだから」
明石「ですが、その曲がらない信念があったからこそ、ここまで頑張ってらしたんですよ」
千歳「そうね。でも、今回ばかりはね……」
足柄「理想を面と向かって拒む人と出会ったことがなかったから……波提督、立ち直れるかしら」
653: 2019/07/03(水) 00:44:17.48 ID:LGVzzbMWo
* 食堂 *
(不知火以外の全員が集まって、明石と由良から提督の話を聞いている……)
明石「……というわけで、提督は家族だった人たちと縁を切ったわけです」
霞「……あんまりだわ」
朝潮「司令官……今のお話、本当ですか!」ワナワナ
提督「まあ、概ねその通りだな」
五月雨「提督……」ウルッ
暁「司令官! 司令官には暁たちがついてるからね!」ヒシッ
電「電も一緒なのです!」ガシッ
提督「あー、よしよし、泣くな泣くな」ナデナデ
金剛「私もついてマース!」ガッシ
榛名「榛名も大丈夫です!」ガッシ
提督「ぐぇっ!」
654: 2019/07/03(水) 00:45:03.11 ID:LGVzzbMWo
金剛「提督が愛を知らないと仰るのは、良い家族や友人を得られなかったからなんデスネー……!」スリスリ
榛名「榛名なら、いくら甘えても甘えられてもなでなでして差し上げてもなでなでしてくださっても大丈夫です……!」ウットリ
提督「いいから離れろ」アタマツカンデヒキハガシ
比叡「金剛お姉様も榛名も何をしてるんですか……」アタマカカエ
敷波「まあとにかくさ、司令官があたしたちに優しいのも、なーんか納得だよね」
朧「うん。でも、もうちょっと言い方が優しかったら、初対面で誤解されることも減るのにね」
潮「ほ、本当です……! 本当はすごく、私たちに気を遣ってくれてるから……!」
初雪「……言動だけ勿体ない」
吹雪「司令官、改善するなら今のうちですよ!」
提督「けっ、この齢で今更この性格を矯正できっかよ」ベー
五月雨「提督は、小さいころに頼れる人がいなかったんですね……」
提督「可哀想だなんて思ってくれなくていいぞ。今となっちゃあ、俺は連中と縁を切りたくて仕方なかったくらいだ」
提督「むしろ、最初からなにもない俺に比べれば、頼る相手を失った五月雨のほうが、よっぽどつらいんじゃねえか」
五月雨「それは……」ウツムキ
655: 2019/07/03(水) 00:45:46.46 ID:LGVzzbMWo
提督「ま、お互い様かねえ。どっちがつらいかなんて量れるもんでもねえし、俺も慰めなんか言えねえし」
明石「だからって、その代わりに『生きたいか氏にたいか』なんて言葉かける人がいますかねえ?」
提督「面倒臭いのは嫌いなんだよ。自分の行き先くらい、ちゃっちゃっと決めてくれ」
明石「そういうところを改めてください、って話ですよ……ここまで言われて恥ずかしくないんですか」
提督「全員いる前で俺の昔話を語られることのほうが、よっぽど恥ずかしいぞ俺は」
明石「それも誤解を生まないように、全員を集めてるわけじゃないですか」
由良「提督さんも以前言ってたでしょ。伝言ゲームになって嘘が混ざったら困る、って」
提督「……よく覚えてやがんな」フー
山城「それで、帰ってきたときに不機嫌だったのは、その親との仲直りをしろと言われたからなのね?」
提督「そういうこった。古鷹、お前はどう思う」
古鷹「う、うーん、難しいですね……本音を言えば、お父様と喧嘩なんかしない方がいいんですが……」
古鷹「信じられるものが根本的に違うわけですから、関わり合いにならないようにした方がいいと思います」
提督「意外だな? 博愛主義なお前のことだから、仲良くしろと説教してくるかと思ったんだが」
古鷹「残念ですが、艦娘そのものを忌み嫌う方々もいらっしゃいますし……」シュン
656: 2019/07/03(水) 00:46:31.38 ID:LGVzzbMWo
朝雲「あー……あったわね、ヘンテコな人権団体が鎮守府前でデモ行進してたこと」
利根「なんと。そのようなことがあったのか」
大淀「日本国内の鎮守府に限れば、デモ自体はそれなりに行われているそうですよ」
大淀「国としては正式発表していませんし、一応は国家機密なので、基本的に艦娘は民間人との接触を断つように指示されていますが……」
大淀「鎮守府近辺の地域に限定されるとはいえ、艦娘の存在自体は民間でもそれなりに知られています」
長門「深海棲艦が存在する以上、隠しきれるわけではないからな」
大淀「はい。そもそも、深海棲艦が各国の船舶を襲撃するようになったのがこの戦争の始まりです」
大淀「軍隊のみならず民間にも被害が出ていますから、情報公開を求められるのは当然でして」
提督「そういやあの時は、ゴジラが出たとか宇宙人の侵略だとか、いろいろ変な噂がたったっけな……」
大淀「その後、深海棲艦に対抗できる艦娘が現れ、海軍が再編され、各地に鎮守府が設置され、現在に至るわけですが」
大淀「私たちの存在自体を否定する人たちが未だに多いのは、私たち自身が艦娘の出自を明らかにできないことが最たるところかと……」
提督「それ以上に政府も信用されてねえんだよ、テレビのせいでな」
提督「テレビが報道の自由だ、情報開示しろとか言って、視聴率欲しさに国家機密まで晒せなんて無茶振りすんのが悪いんだ」
提督「それを拒否されたら、隠蔽体質だのなんだのとレッテル貼りして逆切れだ。メディアは調子に乗り過ぎなんだよ、くそが」
657: 2019/07/03(水) 00:47:16.53 ID:LGVzzbMWo
大淀「それもありますが、艦娘の指揮を執る人材が不足していることもあって、民間の協力者を秘密裏に募ったことも不評の一因かと」
提督「秘密裏に、ねえ」
朧「提督はどうだったんですか?」
提督「俺の場合は海軍の人間にスカウトされたんだが……そういえば、俺がバイトを辞めるって伝える前にバイト先に連絡が行ってたな」
提督「多分、俺のことを調べて裏で手回ししたんだろうな。今思えば、やけに手際が良かった気がすんぜ」ハァ
大淀「そういったこともあって、海軍は民間人に何をしているんだ、という不満も持つようになりまして……」
大淀「今の野党も、そういう団体の後押しを受けて国会で艦娘について言及を続けています」
提督「つうことはあれか。父親みたいなアンチオカルト思想の連中が、国会でギャーギャー言ってるわけか」
暁「そういう人たちに、私たちの戦いを直接見てもらったら納得してもらえないの?」
提督「どうせ見せたって納得なんかしねえよ。あいつらのやってることは宗教と同じだ」
提督「自分の信じてること、自分に都合のいいこと以外は事実であっても否定するからな」
暁「そ、そうなの……?」
五月雨「私、実際にそういう人たちと話をする機会があって、話をしたこともあります。でも、話が通じないんです」
五月雨「深海棲艦が何なのか説明しろ、から始まって、私のこと……艦娘のことは最後まで信じてもらえなくって」
五月雨「私が何を言っても、女の子が戦うなとか、洗脳されてるとか、遊びじゃないんだとか……正直、くじけちゃいそうになりました」
暁「五月雨……」
658: 2019/07/03(水) 00:48:01.32 ID:LGVzzbMWo
提督「どうせそのうち手のひらを返すさ。人間なんか信用できたもんじゃねえ」
提督「俺も同じだ、使えるもんは使う。この鎮守府も、寄越してくる資材や食料も、あいつらが決めたルールを利用してるに過ぎねえ」
長門「使うのはあくまでも自分たちのために、か?」
提督「そういうこった。戦ってるのは艦娘たちだ、艦娘を優先して何が悪いって話だよ」
朝潮「朝潮は、司令官が間違っているとは思いません!!」キョシュ!
提督「……朝潮はあぶねーな。狂信者かお前は」ハァ
明石「極端なんですよねえ……どうにも」
如月「でも司令官? 私たちはあなたを信じてるのよ? ちゃんと自覚してる?」
提督「俺についてきてくれている以上、お前らに悪いようにはさせねえさ。こんな不自由な生活も強いてるわけだしな」
提督「もっとも、俺がいなくても生活できる環境になってくれりゃあ、一番いいんだが」
吹雪「まだそんなこと言うんですか!」キッ
如月「ねえ司令官?」ニコー
朧「提督もこりませんね」ジトッ
提督「そういう意味じゃねえよ。くっそ面倒臭え問題が残ってんじゃねーか、食料とか、中佐とか!」
全員「「!」」
659: 2019/07/03(水) 00:48:46.53 ID:LGVzzbMWo
提督「俺だって楽になりてえんだよ。そういう面倒臭えのが残ってるから、そうもいかねえってだけだ」
由良「もう……そういう話なら、みんな手伝うにきまってるじゃない」
神通「提督は、私たちをトラブルから遠ざけようとしているのですか……?」
提督「当然だろ、人間の不始末だ。人間の俺が、カタを付けられるように道を作るのが筋ってもんだろうが」
初春「もう少し手段を選んでも良かろうに、のう?」
提督「いいんだよ、俺は善人じゃねえし。なあ?」
全員「「……」」
提督「なんだその反応」
長門「いや……なあ、って、誰に対して同意を求めてるんだ」
提督「だって俺、善人か? エゴの塊だろ? 人の弱みに付け込むクズだろ?」
扶桑「提督は、ご自身を悪者に仕立て上げるのがお好きなようですね」ハァ
伊8「うん。提督は、その自分を必要以上に卑下する悪癖を最初に何とかしないと駄目なんじゃないかな」
全員「「……」」コクリ
提督「……わけわかんねえ。俺をおだてたって何も出ねえぞ」アタマガリガリ
敷波「そーゆーとこ、あたしそっくりなのがなんかむかつく」ボソ
660: 2019/07/03(水) 00:49:31.45 ID:LGVzzbMWo
伊8「まあ、提督の病気というか、悪いところはそれだけじゃないんだけど」チラッ
那珂「……あ、もしかして、これ?」ショルイサシダシ
伊8「そうそう。Danke」ゴソゴソ ペラリ
提督「……ああ、それの話か」
長門「何の話だ?」
明石「もしかして、提督の病気ってやつですか」
伊8「うん」
金剛「病気!?」ズガーン
榛名「そんなの大丈夫じゃないです!?」ズガーン
提督「そこまで深刻じゃねえから安心しろ」
那珂「でも、めっちゃダメージ受けてるよ、大和さん」ユビサシ
大和「……」ズーン
如月「私もわかるわ……」ションボリ
雲龍「それで病気っていうのは、何?」
伊8「人によっては朗報になるのかな」
陸奥「?」
661: 2019/07/03(水) 00:50:16.96 ID:LGVzzbMWo
伊8「端的に言うと、提督は女性に興奮しません」
全員「「「!?」」」
神通「そ、それは一体……どういうことですか」
明石「もしかして、提督はホ〇だってこと!?」
全員「「「!?」」」ドヨヨッ!
金剛「...Oh, Jesus」クラッ
榛名「……榛名は、提督が同性愛者でも、だい、だい……」グラグラグラ
比叡「ふ、二人ともしっかりしてーー!?」
明石「うわー、そっか……そういう方向だったのね……」
吹雪「」コウチョク
潮「ふ、吹雪ちゃん……吹雪ちゃん!?」ユサユサ
敷波「お、驚きすぎて固まっちゃってるよ……」
朧「朧も、ちょっと頭が痛いかな……」
長門「」コウチョク
初春「長門も立ったまま失神しておるぞ!?」
陸奥「お姉さんもちょっと引くんだけど……」トリハダ
山城「私も遠慮させてもらうわ。気持ち悪い……」トリハダ
662: 2019/07/03(水) 00:51:01.80 ID:LGVzzbMWo
暁「……ホ〇って何かしら?」クビカシゲ
電「よ、よくわからないのです」オロオロ
古鷹「わ、わからなくてもいいと思いますよ!?」
雲龍「……うーん」
龍驤「雲龍? どないしたん」
雲龍「私と龍驤もそう思われたりするのかしら。もしそうだとしたら困るわ」
龍驤「その辺は大丈夫なんちゃうかな」
扶桑「そうすると、私と山城もそう思われているのかしら……」
山城「姉妹はくっついてても当然ですよ扶桑お姉様!?」アセアセ
由良「ちょっと……結構ショック大きいんだけど」アタマカカエ
朝潮「……ど、どうして、男性が男性を好きになるんでしょう……」オメメグルグル
五月雨「わ、わかりません! どういう理屈なんでしょう……!?」クラクラ
利根「いや待て、提督が衆道に走るとはとても思えんのだが……」
神通「……ですよね?」
朝雲「し、司令! どういうことか説明してもらえない!?」
如月「もう……放っておいていいの?」
提督「まあ、どうでもいいんじゃねえか。俺は困らねえ」
霞「あんた、なんでそこまで自分を捨てられるのよ……」ヒキッ
663: 2019/07/03(水) 00:51:46.68 ID:LGVzzbMWo
那珂「伊8ちゃん、わざと誤解を生むような言い方したでしょ……」
伊8「うん」テヘペロ
龍驤「やっぱりかー……ろくでもあらへんやっちゃな」ガックリ
龍驤「はいはい、みんな注目や! ちゃんと言い直すで!」パンパン
不知火「なんですかこの騒動は」スッ
提督「ん? 不知火か、丁度良く戻ってきたな。まあ話を聞いてくれ」
不知火「はい」
*
伊8「まず、ちゃんと言い直すけど、提督は男性が好きなわけじゃないよ?」
金剛「Yeaaaaaaaaaaaaaaaaaaarr !!」ガッツポーズ
不知火「金剛さん、ステイ」ギンッ
金剛「」スッ
榛名(!?)
伊8「さっき明石さんたちが話した通り、提督は人間嫌いで、誰かを好きになったこと自体ありません」
伊8「だから、提督は普段から愛情がそういうものかわからない、と言っています」
利根「うむ……」
664: 2019/07/03(水) 00:52:31.67 ID:LGVzzbMWo
伊8「もうひとつ、決定的なことがあって……提督は、学生のころに他人がしてるところを見ちゃったんです」
ドヨッ
吹雪「せ……!?」カオマッカ
電「はわわ……!」カオマッカ
五月雨「えええ……」カオマッカ
暁(え? セ……なに? みんなどうして顔を赤くしてるの!?)オロオロ
長門「お、おい! 駆逐艦たちもいるのにその単語はまずいだろう!!」カオマッカ
伊8「じゃあ、なんて言えばいいんですか」プクー
初春「……であれば、交尾かのう?」
長門「は、初春っ!!」アセアセ
潮「……」カオマッカ
敷波「……」カオマッカ
暁「……?」クビカシゲ
朧(暁はわからないんだ……)タラリ
不知火「……」ユゲボシュー
明石「不知火ちゃんが熱暴走してる……」
665: 2019/07/03(水) 00:53:46.40 ID:LGVzzbMWo
初雪「ね、ねえ……朝潮はどうして平然としていられるの」
朝潮「生物学的にはごく自然な生殖行為だと思うのですが?」
霞「ま、まあ、そうね……」
朝雲「で、でも、交尾って、もう少し言い方が……」
提督「いや、交尾って言い方のほうが相応しいかもなー。ぶっちゃけ、人間じゃなくて獣見てる気分じゃなかったしよぉ……」アオザメ
山城「でも、年頃の男だったら、その手のことに興味を持つものじゃないの? そこまで嫌な思いするもの?」
由良「この前、提督さんが思い出して気持ち悪くなって吐いてたんです」
朧「してたのが、おじいちゃんとおばあちゃんだったそうですからね」
山城「……」
伊8「ともかく、それを見た提督は、気持ち悪くてトラウマになっちゃった」
伊8「なので、提督は女性に限らずそういう行為に興奮することができなくて、えOちなこともしたいと思わない人になったんです」
扶桑「それって、性欲すら湧かない、ってこと……?」
陸奥「それで手を出そうとしないのね……」
伊8「それで、気になって調べてもらったんですが、診察の結果は予想通り、EDでした。ちOちんが勃たないっていう症状です」
全員「「!?」」
金剛「」マッシロ
榛名「」マッシロ
比叡「ひえええ! 金剛お姉様と榛名が灰みたいに真っ白に!?」
666: 2019/07/03(水) 00:54:31.40 ID:LGVzzbMWo
潮「あ、あの、それ、大丈夫なんですか? て、提督の普段の生活にも、影響が出るとか……!?」
伊8「あ、それは大丈夫。これまでの提督の生活からしても、影響はほぼないに等しいんじゃないかな」
吹雪「じゃ、じゃあ、長期の入院とか、そういうこともないんですね!?」
伊8「提督は治す気ないでしょ?」
提督「生活に困るこたねーし、何より医者は嫌いだ」
古鷹「提督……本当にそれでよろしいんですか?」
提督「いいんだよこのままで。下手に治して、反動でお前たちに襲いかかっても嫌だろ」
吹雪「それはないと思います」
朧「ないよね」
電「ありえないのです」
敷波「うん。ないない」
大淀(提督、そういうところはヘタレですから……)
神通「私も同意見ですが、大淀さんがそれを言うのはどうかと……」ボソ
大淀「!?」ギョッ
667: 2019/07/03(水) 00:55:16.01 ID:LGVzzbMWo
暁「司令官が私たちを襲うとか、ありえないわ。みんな何を言ってるの?」
初春「……うむ、そうじゃな。そうに違いない……のう」
暁「なんか引っかかるわね……?」クビカシゲ
由良「とにかく、提督さんは現状維持ってわけね?」
提督「だな。別に気にするほどでもない病気……いや、病気でもねえな」
龍驤「いやいやあかんて。ちゃんと自分の身体の異常は、異常として認識しとき」
提督「そうか? まあとにかくだ、俺が子供を残せないことはこれで確実だってわけだな」
伊8「人工授精ならできるけど?」
提督「そういうことをしないと無理なんだろ? そこまでしたくねえよ、面倒臭え」
提督「こんなことならちょん切ってもらっても良かったかも知れねえな」
如月「司令官!?」
伊8「それはやめといたほうがいいと思う。ホルモンバランスが崩れて、女の人みたくなっちゃう可能性もあるから」
提督「マジか?」
伊8「男性ホルモンが作られなくなって、髭が生えてこなくなったりとか、胸が出てきたりする例があるみたい」
提督「髭はいいけど、胸は勘弁だな……」
如月「……」ホッ
668: 2019/07/03(水) 00:55:53.29 ID:LGVzzbMWo
伊8「そういうわけだから、提督に迫るのはいいけど、その見返りが返ってくるとは思わないほうがいいよ、って言いたかったんだけど」
金剛「」
榛名「」
伊8「一番聞かせたい人たちが真っ白になってて、聞いてるのかわかんないから、あんまり意味ありませんね」
比叡「金剛お姉様も榛名もしっかりしてください!」ユサユサ
不知火「如月は大丈夫ですか」
如月「え? ええ……事情だけなら船の上で聞いたから」
利根「その二人も心配と言えば心配だが……」チラッ
扶桑「そうね……」チラッ
大和「……」
山城「目を閉じてずっと俯いてますものね……何も言わないのがかえって不気味っていうか」
長門「大和、大丈夫なのか」
大和「……」スクッ クルッ
大和「しばらく、一人にさせてください……」
スタスタ…
長門「……」
669: 2019/07/03(水) 00:56:31.52 ID:LGVzzbMWo
陸奥「ねえ、長門。本当に大丈夫なの?」
長門「た、確かに心配だが、私たちが口出ししていいものなのか?」
陸奥「だからって放っておくわけにもいかないでしょう? ヤケを起こされたら止められないわ」
長門「……そういうことか。そういうことなら行くしかないな」スクッ
如月「あの……私も行っていいかしら」
陸奥「え?」
如月「話を聞くだけなら、私も力になれると思うから……」
神通「一緒に行かせてあげてください。思うところがあるみたいですから」
長門「……わかった」
陸奥「長門!?」
長門「何かあればすぐに止める。それでいいか?」
如月「ええ」コク
陸奥「……いいわ、とりあえず急ぎましょ?」
タタタッ…
扶桑「とりあえず、お知らせは以上かしら?」
伊8「はい。ご清聴ありがとうございました」ペコリ
670: 2019/07/03(水) 00:57:16.53 ID:LGVzzbMWo
ザワザワ…
不知火「司令、一つご報告が……」ヒソッ
提督「? なんだ?」
不知火「実は……」ヒソヒソ
提督「……なんだそりゃ」
那珂「提督! 那珂ちゃんからもちょっといいかな?」
提督「?? お前からもか?」
神通「はい。不知火さんもよろしいでしょうか」
不知火「? はい」
那珂「実はねえ……食堂の外に誰かいるみたい」ヒソッ
提督「!」
那珂「さっきから窓のほうから視線を感じてたんだよね。不知火ちゃん、何か気付いたこととかなーい?」
不知火「実はここに戻って来るまでの間、何者かに後を尾行された気配を感じました」
神通「そういうことでしたか……」
671: 2019/07/03(水) 00:58:01.15 ID:LGVzzbMWo
提督「不知火を追ってきたと言うことは、相手は艦娘か?」
不知火「おそらく」
提督「……」
神通「捕まえますか?」
提督「そうだな、できればなんでこんなところに来たのか、話を聞いてみたいところだな」
那珂「那珂ちゃんも手伝いまーす!」
神通「那珂は厨房の裏口から。私は休憩室の窓から行きます。それから……」
神通「聞き耳を立てている初春さん?」クルリッ
初春「」ギクッ
神通「私たちが捕まえましたら、輪形陣でお出迎え、お願いできますか?」
初春「心臓に悪いのう……あいわかった、わらわの姉妹艦の得意技じゃな」
神通「お願いしますね。那珂、行きましょう?」
那珂「那珂ちゃん、いつでもスタンバイ完了でーっす!」ビシッ
ビュンッ
672: 2019/07/03(水) 00:58:46.27 ID:LGVzzbMWo
初春「……」
提督「……はえーな」
不知火「敵に回したくない人が二人に増えましたね」
初春「あの二水戦と四水戦の旗艦じゃからの……」
窓<コンコンコン
那珂「捕まえたよーー!」
初春「……」
提督「……はえーな」
不知火「心底、敵に回したくありませんね」
*
提督「で、お前らは何者だ」
白露「私は白露型駆逐艦の一番艦、白露です!」
島風「駆逐艦、島風です! こっちにいるのは連装砲ちゃんです!」
提督「この島には何しに来た」
白露「私はこの島がいったいどこなのかが知りたいんだけど……」
提督「なんだそりゃ」
673: 2019/07/03(水) 00:59:31.21 ID:LGVzzbMWo
島風「白露と一緒に海を走ってたら、持ってた羅針盤がおかしくなっちゃって」
白露「これが壊れると、元の鎮守府に戻りたくても戻れなくなっちゃうの」
島風「羅針盤が壊れるなんて、今までなかったのに……」
白露「お願い! これ、修理できないかな?」
提督「明石、そういう話ってあるのか?」
明石「いやー、滅多なことでは壊れませんよ羅針盤は。なんたって妖精さんの謎のテクノロジー使ってますから」
白露「えええ!? じゃあ、なんでこんなにぐるぐる針が回ってるの!?」
敷波「……あー、それ、もしかして」
島風「なに? 直す方法知ってるの!?」
敷波「そうじゃなくってさ、逆」
白露「逆?」
敷波「その羅針盤がそっぽ向いたってことは……」
674: 2019/07/03(水) 01:00:16.65 ID:LGVzzbMWo
敷波「二人とも、その鎮守府から除名されちゃったんだよ」
白露「!?」
島風「!?」
神通「ああ……なるほど」
古鷹「敷波さん、それってどういう意味ですか?」
敷波「意味も何もあたしが体験済みだもん」
敷波「あたしが電たちを探すためにB提督の鎮守府を出て、数日したら持ってた羅針盤がぐるぐる回り出して使えなくなっちゃったの」
那珂「ええええ!? 本人の同意もなしに契約を切られちゃったの!?」
敷波「手っ取り早く行方不明扱いにしたかったんでしょ。どうせあたしも邪魔者扱いだったしさ! ふん!」
白露「」コウチョク
島風「」コウチョク
提督「なにやらかしたんだ、こいつらは……」
675: 2019/07/03(水) 01:01:55.88 ID:LGVzzbMWo
というわけで、今回はここまで。
波大尉たちの出番はしばらくお休み。
白露&島風登場、さらにもう2隻出す予定です。
波大尉たちの出番はしばらくお休み。
白露&島風登場、さらにもう2隻出す予定です。
677: 2019/07/03(水) 19:02:33.15 ID:/X4eeocr0
そろそろ本編のメンツが揃いつつあるのかな?
678: 2019/07/04(木) 09:14:33.62 ID:SwhuN5zy0
久しぶりに読んでたんだけど……こっちしか読んでないけどほとんどみんな氏んじゃうの!?
679: 2019/07/04(木) 14:36:55.65 ID:BAA370ozO
>>678
ネタバレになるけど氏んじゃうどころか異世界まで絡んでくるもう艦娘が出てくる別物語になるよww
吹雪が鞭振り回して女王様になったり…
ネタバレになるけど氏んじゃうどころか異世界まで絡んでくるもう艦娘が出てくる別物語になるよww
吹雪が鞭振り回して女王様になったり…
681: 2019/07/07(日) 17:22:46.33 ID:KyRJ6wZ/o
コメントは節度を持った内容でお願いします、 荒らし行為や過度な暴言、NG避けを行った場合はBAN 悪質な場合はIPホストの開示、さらにプロバイダに通報する事もあります