334:◆EyREdFoqVQ 2021/01/26(火) 23:04:45.71 ID:Zv5Aj/0to
335: 2021/01/26(火) 23:05:50.16 ID:Zv5Aj/0to
* 夜 *
利根「……」
武蔵「利根、大丈夫か?」
利根「う、うむ……」チラッ
筑摩「どうしました? 利根姉さん」ニコッ
利根「い、いや、なんでもない」
武蔵「……」
利根「のう、武蔵よ……筑摩はいつ吾輩から視線を外しておるんじゃ?」
武蔵「……うむぅ……」タラリ
利根「こうも見つめ続けられると、そのうち吾輩の体に穴が開いてしまわないか心配になってくるぞ……」
長門「筑摩」
筑摩「はい?」
長門「……せめて話しかけられた時くらい、こちらを見ないか?」
筑摩「ええ、それはやぶさかではないのですが……」
筑摩「ついに出逢えた利根姉さんが愛おしすぎて、どうしても目を奪われてしまうんです」ポ
長門(これは聞く耳を持たないパターンか……)
筑摩「あ、武蔵さん、利根姉さんが見えないのでちょっと左に」
長門「筑摩……」ゲンナリ
336: 2021/01/26(火) 23:06:34.80 ID:Zv5Aj/0to
* 翌日の午後 執務室 *
提督「……」ゲンナリ
五月雨「提督、しっかりしてください!」
提督「いやもうやってられっかよ、もうマジで面倒くせー匙ぶん投げんぞくそがー」
五月雨「もう匙どころじゃなく投げ遣りじゃないですか!」
大淀「そんなにひどいんですか? 筑摩さん」
五月雨「は、はい、何かお願いしようとしても『忙しいから後でお願いします』って言われてもうそれっきりで」
五月雨「何が忙しいのかと思えば、利根さんをじーっと見てるんです」
提督「あいつ、昨晩も利根と一緒の部屋に寝るとか言って聞かなかったうえに、利根の布団に潜り込んできたらしいからな」
提督「利根が俺の部屋に飛び込んできて助けを求められたんで部屋を分けたら、今度は夜通し壁に耳を付けて利根が寝てるか聞き耳立ててたそうだ」
五月雨「……」
大淀「……誰から聞いたんですか」
提督「利根の装備妖精。あれじゃ利根も休んだうちにはいらないって嘆いてたぜ」
337: 2021/01/26(火) 23:07:34.87 ID:Zv5Aj/0to
扉< コンコン
黒潮「黒潮やー」
提督「おう、入れ」
黒潮「司令はーん、あれはあかんよー?」ガチャ
大淀「黒潮さん、今日は一日お休みのはずでは?」
黒潮「うん、だから筑摩はんたちが気になって見に行ったんやけど、あれはないわー」
黒潮「長門はんも言うてたけど、利根はんから絶対に20メートル以上距離取ろうとしてないんよ」
提督「一日経ってもそんな調子かよ……」
黒潮「なんか利根はんがトイレ行く時も、壁に耳付けて聞き耳立ててたって言うし?」
五月雨「」ドンビキ
大淀「」ドンビキ
提督「大淀はともかく、五月雨がこんな顔してるのは初めてだな」
五月雨「そ、そんなのんきなこと言ってる場合じゃないですよ!?」
提督「わかってるよ、んなことは……ん?」
ドドドドドド バンッ!
白露「提督、大変だよ!!」
提督「……今度はなんだよ」
白露「筑摩さんが利根さんを連れ去ったって!!」
提督「あぁ!? 武蔵と長門はどうした!?」ガタッ
白露「長門さんがトイレに入ってる間に、武蔵さんが抜かれちゃったんだって!」
338: 2021/01/26(火) 23:08:35.32 ID:Zv5Aj/0to
提督「っだああ、くそ! 武蔵に経験積ませるつもりが甘かったってか!?」
黒潮「ちゅうか、筑摩はん大和型を躱すとか何者なん……」タラリ
提督「大淀! 龍驤と雲龍に緊急連絡! 偵察機飛ばして筑摩を捜させろ!! 終わったら館内放送で全体連絡頼む!」
大淀「は、はいっ!」
提督「五月雨は五十鈴と一緒に筑摩を探せ! 五十鈴は由良と埠頭にいるはずだ!」
五月雨「わ、わかりました!!」
提督「白露! 武蔵たちが出し抜かれたのはどこのトイレだ! どっちに逃げた!」
白露「えっと、食堂の隣だよ! みんなの個室の方に逃げたって!」
提督「だとすると利根の部屋か!? 白露、利根の部屋はわかるな、急行しろ! 俺も行く!」
白露「了解! あたしに任せて!」ガシッ
提督「ん?」シラツユニツカマレ
白露「提督、しっかりつかまっててね!」ググッ
提督「お、おい、連れてけって意味じゃ」
白露「白露、出撃します!!」ダッ!
提督「ちょ待うおおおおおお!?」グイーー
ドドドドドド…
五月雨「だ、大丈夫なんでしょうか……」
黒潮「あかんやろあれは……」アオザメ
339: 2021/01/26(火) 23:09:19.89 ID:Zv5Aj/0to
* 利根の部屋の前 *
ドドドドドド…
白露「いっちばーーん!」キキーッ
提督「うおおおお!?」ガクーッ
白露「はー、はー……提督、着いたよ!」
提督「……じ、ジェットコースターかよ……乗ったことねえけど……」ゼーゼー
提督「け、けど、思ってたよりくっそ早く着いちまったぜ……」ヨロッ
提督「よし、入るぞ……」ドアノブテヲカケ
白露「うん!」
扉<バンッ!
提督「利根!!」
シーン…
提督「……」
白露「……誰もいないね?」
提督「ここじゃねえのか?」
340: 2021/01/26(火) 23:10:04.78 ID:Zv5Aj/0to
白露「提督、隣が筑摩さんの部屋だっけ?」ガチャ
白露「こっちにもいないね……気配なーし」
提督「……どういうこった」
ブルーン!
提督「!」
白露「あ、あれ見て、流星改! 多分龍驤さんのだよ!」
流星に乗った島妖精A「提督! あの二人は入渠ドックの方に向かったぞ!」
提督「ドックだと!?」
白露「なんでそっちに行っちゃったの!? 逆方向じゃない!?」
提督「筑摩は昨日来たばかりだ。道を間違えたってのも十分あり得る」
白露「そ、そっか……」
提督「それに筑摩は一緒に寝たがってたからな。ベッドがあるって意味ならそっちに行くのもわかるが……」
白露「でも、個室はないよね?」
提督「個室?」
白露「うん。二人きりになりたかったんじゃないの?」
提督「……なるほど、だとすると他人に邪魔されずに済む場所か」
白露「うーん……どこだろう?」
提督「個室……個室……そうか! あったぞ白露……!」
白露「え!?」
341: 2021/01/26(火) 23:10:50.33 ID:Zv5Aj/0to
* 個人用浴場の一室 *
扉<バタン! ガチャッ
利根「んー! んむー!? ぷはっ、ち、筑摩! おぬし……!」
筑摩「……んふふふふ。利根姉さん……」ニィッ
利根「……」ゾクッ
筑摩「昨日はどうして、一緒にお風呂に入ってくれなかったんですか?」
筑摩「せっかく利根姉さんの背中を流してあげようと思っていたのに……頑なに拒否するんですもの。がっかりしてしまいました」
利根「……ならん」
筑摩「どうしてです?」
利根(吾輩は筑摩の姉じゃ……だからこそ、この体の傷は、見せられたものではない)
利根(姉が、妹に情けない姿を見せるわけにはいかん……!)
利根「吾輩の裸は、誰にも見せられん。見せたくないんじゃ……!」
筑摩「妹だとしてもですか」
利根「ああ」
筑摩「……」
342: 2021/01/26(火) 23:11:34.97 ID:Zv5Aj/0to
利根「……」
筑摩「……」ハァ…
利根「……のう、ちく」
筑摩「姉さん」ガシッ
利根「ま……?」
筑摩「いけませんよ姉さん、姉妹の間で隠し事なんて」
利根「お、おい、ちく」
筑摩「私の利根姉さんは私に何でも打ち明けてくれるんです」
筑摩「私の利根姉さんは私を頼りにして甘えてくれるんです」
筑摩「私の利根姉さんは私にやさしく微笑んでくれるんです」
筑摩「私の利根姉さんは私のことを可愛がってくれるんです」
筑摩「私の利根姉さんは私をいつも気にかけてくれるんです」
筑摩「そうですよね、利根姉さん?」ニコッ
利根「……っ」ゾクッ
筑摩「そう、ですよね?」
利根「……」ジリッ
343: 2021/01/26(火) 23:12:19.96 ID:Zv5Aj/0to
筑摩「大好きな大好きな利根姉さん」
筑摩「いつも前向きで朗らかで」
筑摩「ちょっぴりせっかちで子供っぽくて」
筑摩「私とずっと一緒にいてくれる」
筑摩「利根姉さんは、そういう艦娘ですよね?」
利根「……ちく、ま……」
筑摩「ですよね、利根姉さん?」
利根「ち……」
筑摩「私の利根姉さんは、きっと『さすが筑摩じゃ、よくわかっておるな!』と、褒めてくれるんです」
筑摩「そうですよね?」ズイ
利根「……」ビクッ
利根(筑摩の目が……どこかで……)
ドクン
利根「……あ」
――利根
利根「……ア……!」ガクガク
利根(貴様は……M提督……!?)ヘナヘナ ペタン
344: 2021/01/26(火) 23:13:05.17 ID:Zv5Aj/0to
利根「……い、や……」ズザッ
筑摩「利根姉さん……!?」
利根「……く……るな……」ガタガタ
利根「……こ、な……いで……く、れぇ……!」ブルブルガタガタ
筑摩「え……!? ねえ、さん……!?」
――なんだ、つれないな。どうして逃げるんだ?
利根「っひ、ひぃいいいい!!」ズザザッ
――いいぞ、もっと怯えた顔を見せてくれ
利根「い……や……!」ボロボロボロ
利根「……もう……い……イ……」パクパク
利根(息が……声が、出ない……!)
利根「……ア……ガ……!」ピクピク
――どうしたんだ? 元気がないな
利根(来るな……来る、な……!!)
筑摩「姉さん、どうしたんですか!? 姉さん!?」ユサユサ
――利根は可愛いな、ふふふ……
利根(来ないでくれぇ……!!)
利根「……ッ…………ッ!」フルフル
筑摩「利根姉さんっ! しっかり……!」
利根「…………グ……ゲ……!」ガクンガクン
筑摩「なんで……どうして!? 姉さん! 姉さんっ!!」
扉<ガチャガチャッ
提督の声「くそ、鍵かかってやがる! おい筑摩開けろ! いるんだろ!!」ドンドン
筑摩「!」
345: 2021/01/26(火) 23:14:34.65 ID:Zv5Aj/0to
* 入渠ドック内 医務室 *
利根「」スー…
明石「利根さんには鎮静剤を打ちました。今は薬も効いて落ち着いたようです」
提督「そうか」
扉<コンコン
武蔵「提督……!」ガチャ
提督「!」
武蔵「提督、申し訳ない……! この武蔵、不覚を……」ドゲザ
提督「やめろ武蔵、土下座なんかしてんじゃねえぞ。ほれ、立て」グイ
武蔵「し、しかし、私のせいで利根が……」
提督「筑摩の利根に対する執念が強すぎたんだ。俺の筑摩に対する見込みが甘かったんだよ、お前のせいじゃねえ」
提督「それとも、お前の練度が高けりゃ確実に防げてたってか? そうやって自惚れてたらもっと結果は酷くなってただろうな」
武蔵「くっ……」
ゾロゾロ…
龍驤「……利根、少しは落ち着いたんかな?」
提督「ああ、なんとかな。急だったのにありがとな」
346: 2021/01/26(火) 23:15:19.87 ID:Zv5Aj/0to
雲龍「もっと早く捜せれば良かったんだけど……」
長門「提督、すまない……」
提督「しょうがねえよ、気にすんな。白露、筑摩はどうしてる」
白露「工廠へ連れてってからもずーっと動けないでいるよ。五十鈴さんが来てからも俯いたまんまだし……」
白露「ねえ、利根さんが前の鎮守府で殺されそうになったって本当なの?」
提督「まあな。ただ、寝てるとはいえ、利根の前で話すわけにもいかねえ。みんな工廠へ移動してくれ」
長門「……わかった」
ゾロゾロ…
提督「明石、利根を任せていいか?」
明石「はい、お任せくだ……」
利根「……かし……」ボソッ
明石「! 利根さん!?」
利根「……」ボソボソ…
明石「……提督。利根さんが提督と二人だけでお話ししたいそうです」
提督「俺とか? ……わかった」
347: 2021/01/26(火) 23:16:04.77 ID:Zv5Aj/0to
提督「明石、工廠にいる奴らに利根の鎮守府の事件のこと、軽く話せるか?」ヒソッ
明石「……わかりました。本営が出した資料で説明します」スクッ
提督「頼む」
スタスタ パタム
提督「……」
利根「」スー…
(利根のベッドのわきの椅子に提督が座る)
提督「……」
利根「」スー…
提督「……利根? 寝てんのか?」
利根「……すまぬが……眠ったままで失礼するぞ、准尉」
提督「あ、ああ、そりゃ構わねえが……?」
提督(利根が俺を呼ぶときは『提督』って呼んでたよな?)
利根「吾輩は……いや、違うな。吾輩『たち』は利根である」
提督「たち……?」
348: 2021/01/26(火) 23:16:50.42 ID:Zv5Aj/0to
利根「うむ。吾輩たちは利根ではあるが、貴様の知る利根ではない。吾輩たちは、M提督に殺された利根たちの魂だ」
提督「!!」
利根「吾輩たちはもとは5人であったが、今では自他の区別がつかん。もはや一人のようなものではあるが……吾輩たちと呼ぶ方がしっくりくる」
提督「雲龍が言ってた、利根に複数の霊が取り憑いているっていう話は、お前たちのことか……」
利根「ほう、吾輩たちの気配に感付いていたか。なれば今後は雲龍に助けを呼ぶべきか」
利根「過去にも何度か貴様に声を送ったが、まともに聞こえたのは一度か二度かであったからの」
提督「川内の様子がおかしいって警告してた時か?」
利根「いいや? さすがに覚えてはおらんか。朧が弱って取り憑かれたときに声をかけたのだが」
提督「あのとき、俺の部屋に出たやつか……!」
利根「……うむ、どうやらかろうじて声は届いておったようじゃの」
利根「神通に川内の異常を伝えたときは、こうやって眠っている利根の体を借りて神通に伝えたのだ」
利根「宿主であるこの利根から離れてしまうと、吾輩たちの力も弱まってしまうのでな。あの晩は運が良かった」
提督「……」アタマオサエ
利根「む、准尉よ、大丈夫か?」
提督「ちょっといろいろ頭が追い付かねえだけだ。まさか幽霊と話すことになるとは思いもしなかったぜ」
利根「なに、少し変わった妖精だと思えばよかろう。深く考えても埒は開かんぞ」
提督「……」
349: 2021/01/26(火) 23:17:34.90 ID:Zv5Aj/0to
利根「さて、准尉よ。話というのは他でもない筑摩のことだ」
利根「利根がこのような事態になったのは、今回の件に限っては残念ながら筑摩がきっかけである」
利根「筑摩の利根を見る目が、M准将の目と同じであった。それゆえに利根はあやつを思い出し、錯乱したのだ」
提督「……フラッシュバックってやつか? 不知火が言ってたな」
利根「かくいう吾輩たちもM准将には酷い目に遭わされたが、この利根程ではない」
利根「この利根は、理不尽な責め苦の末に一度感情を手放しておる。壊れたところに体を焼かれ、挙句その身を食われそうになったのだ」
提督「食……!? それで、あの火傷の痕かよ……!」
利根「そんな相手が、吾輩たちに大真面目に愛を囁いておったのだから、まともでおられぬのは当然よな……」
利根「そして筑摩も同様に不憫である。この利根に対する愛を注ごうにも、その相手が愛に怯えてしまうのではな」
利根「ゆえに准尉、貴様に頼みたい。この利根と、筑摩を、どうか助けてやってくれ」
提督「……」
利根「……」
提督「助けてやれ、ってか」
利根「ああ」
提督「……」
350: 2021/01/26(火) 23:18:20.16 ID:Zv5Aj/0to
利根「准尉……!」
提督「くあぁ、ああわかったよ面倒臭えな、くそっ。やるよ、やってやるよ、くっそ苦手分野な話だけどな……!」
利根「……!」
提督「で、一応訊くが、お前らはなにもしないんだな?」
利根「氏んでいる吾輩たちの存在は混乱の種にしかならんよ。特に筑摩には気付かれるわけには行かぬな」
利根「吾輩たちも直接筑摩を助けたい気持ちはあるが、氏者は生者の愛に応えてはならんのだ。生きている者を『こちら』に招いてしまう」
提督「幽霊がこの世に長いこと留まってると、人に害をなすとか雲龍が言ってたが……」
利根「おそらくは、氏者が生者を羨むがゆえ、であるな。生きている者に対する嫉妬によって恨みが増すのだろうよ」
利根「そこへいくと吾輩たちは逆じゃな。日々利根とともに艦娘としての役割を疑似体験させてもらっておる」
利根「5人分あった怨念が日々の生活体験によって満足しておるのでな、六割か七割くらいは成仏したようなものじゃ」
提督「残りの三割はなんだ? まだ恨みがあるのか?」
利根「未練……じゃな。こうやっておぬしたちと吾輩たちがコミュニケーションを取れないのは、それなりにストレスになっておる」
利根「M准将とは真っ当な話もできなかったのだ。貴様とこうして会話できること自体、望外の喜びでもある」
提督「……」
利根「まあ、それはさておいてだ……あの筑摩を普通に説得するのは難しそうじゃの」
351: 2021/01/26(火) 23:19:50.02 ID:Zv5Aj/0to
利根「吾輩たちの見立てでは、憧れが強すぎたが故に、筑摩は自分の中に理想の利根を作ってしまっておる。此度の暴走もおそらくそのためか」
利根「利根は利根で自らの弱みを筑摩に見せたり、心配させるのが恥ずかしいと思っておる。この体の傷も隠し通したいと思っているようじゃ」
提督「体の傷は筑摩だけに限ったわけじゃねえと思ってるがな。あれを他人に見せるのは相当に勇気がいるんじゃねえか?」
提督「利根もだいぶ落ち着いたと思うが、あの出来事を利根の口から誰かに話せちゃいないだろ」
利根「うむ……いずれにしても、説明や説得もなしに筑摩がこの利根へのスキンシップを止めるとは思えんな」
利根「同衾どころか風呂にも迫ってくる程だ、あの筑摩は少々クサレの気が見える。吾輩たちとしても心配である」
提督「腐れ……?」
利根「クレイジーサイコレOの略じゃぞ。男性の同性愛を好むことを『腐る』と言うこともあるようじゃが」
提督「……どっから仕入れてきてんだその知識」ヒキッ
利根「余所の艦娘が差し入れとして持ってきた、段ボール箱いっぱいの春画本からじゃな」
提督「卯月かよ……!」アタマカカエ
利根「貴様は好かぬかもしれんが、年頃の娘が集まれば姦しくもなる。見逃してやるが良い、貴様が同衾を許すのと同じ、いわばガス抜きじゃ」
提督「別に取り上げたりしねえよ……俺が巻き込まれなきゃあいいんだがな」
352: 2021/01/26(火) 23:24:47.40 ID:Zv5Aj/0to
利根「冗談はさておき、筑摩の利根に対する執着は相当なものだ。なんとかうまい落としどころを考えて欲しい」
提督「……落としどころねえ……」
利根「貴様は不器用ながらも人を案じてくれるし、それよりなにより運が良い……」
提督「運……?」
(利根の顔が提督の方を向き)
利根「でなくば吾輩たちと話すこともなかったであろうからな……!」
提督「……!」
(ゆっくりと開かれた利根の両目が青白い光を放っている)
利根「ふふふ……頼むぞ准尉。吾輩たちは草葉の陰から応援しておるぞ」
提督「……っ!」
利根「ではな……さらばだ、准尉……」
(目を開いたときと同じように、利根がゆっくりと目を閉じて、そのまま眠りにつく)
提督「……ったく。草葉の陰、か……幽霊が言うなよ、洒落が効きすぎだ」ハァ
利根「」スー…
提督「……良く寝てやがる。いっそ暁みたいに忘れられりゃ楽なんだろうけどな……体の傷もあることだし、そうはいかねえか」ハァ…
提督「とにかく、筑摩をなんとかしねえとな……」
356: 2021/02/06(土) 13:02:16.88 ID:DOuvdaS5o
* 工廠 *
鉄扉<ゴンゴン
提督「……話は終わったか?」ギィィ
明石「あ、提督!」
長門「まあ、あらかたの話は終わったぞ……」
提督「……? やけに空気が重てえな」キョロ
白露「ちょっと提督! 聞いてるだけで鳥肌立ってきたんだけど!」ブルブル
武蔵「ああ、まったくもって信じられん……!」ガタガタ
黒潮「ほんま、洒落ならんて。五月雨なんか気分悪くしてずっとこんなんや」アオザメ
五月雨「……」ウズクマリ
提督「黒潮たちも来てたのか……って、何したらこんなことになってんだ?」
明石「不知火ちゃんから預かってた資料が思いのほかグロくて……」
提督「おいおい、こりゃ見せちゃ駄目なやつだろ。なんでこんなガチな資料貰ってきてんだよ、不知火のやつは」
明石「ですよねえ……軽い気持ちで見たらいきなりこれだから、びっくりしましたよ」
提督「これじゃ別のトラウマ産み付けかねねえぞ。精々におわす程度の話で済ませたかったんだ」
357: 2021/02/06(土) 13:03:01.46 ID:DOuvdaS5o
龍驤「キミもしかして、こうなることを予想しとったんやな?」
提督「ああ、知って気分のいい話じゃねえからな、さらっと流したかったんだが」
龍驤「うん……ま、そうなんやろなあ」チラッ
雲龍「」カチーン
龍驤「雲龍なんか、あんまりな話やったから固まって動かなくなってしもたんよ。ほら、起きやー?」ホッペムニー
雲龍「……あ」ムニー
提督「お、帰って来た。雲龍、大丈夫か」
雲龍「ごめんなさい、頭が理解するのを拒否していたわ……何の話だったかしら」
提督「まあ、これもある意味正しい反応だよな……」チラッ
筑摩「……」ウナダレ
提督「筑摩は動けねえか。さて……長門、五月雨と白露は休ませて欲しいんだが、任せていいか?」
長門「あ、ああ」
五月雨「い、いえ、私は、だいじょう……うぶっ」ヨロッ
提督「そんな真っ青な顔して大丈夫なわけねえだろ。いいから休んどけ」
358: 2021/02/06(土) 13:03:46.89 ID:DOuvdaS5o
白露「あ、あたしは大丈夫だよ!?」
提督「かもしれねえが大事は取っとけ。さっきまで俺を背負って猛ダッシュしてたんだ、大人しくしてろっての」
白露「うー……」
提督「黒潮もありがとな、非番だってのに駆けずり回ってくれて」
黒潮「うちはええよ~」ヒラヒラ
提督「さてと……」
筑摩「……」
提督「おい、筑摩」
筑摩「」ビクッ
提督「とりあえず利根の事情は理解できたか?」
筑摩「ど……して……」
筑摩「私は……たた利根姉さんと一緒にいたかっただけなのに」
筑摩「どうして利根姉さんがあんな目に遭っていたんですか!」
筑摩「利根姉さんは、なにも悪いことをしてないじゃないですか!?」
筑摩「これじゃ……これじゃ利根姉さんが可哀想です……!」
提督「……可哀想、ねえ」
359: 2021/02/06(土) 13:04:46.82 ID:DOuvdaS5o
筑摩「提督!? なんでそんなあきれたような言い方をするんですか!?」
提督「利根が錯乱したのはお前のせいじゃねえのかよ」
筑摩「どうしてですか!? 私は何も知らなかったんですよ!?」
提督「知っていようがいまいが関係ねえよ。それを言ったらここにいる連中も知らなかったんだぜ?」
提督「だいたい夕べも、過度なスキンシップはやめろって利根から言われたよな? お前がそれを聞き入れてりゃあ良かったんだよ」
筑摩「そ、それは照れているだけだと……!」
提督「手前の都合のいいように解釈してんじゃねえよ。それが間違ってたから結果こうなったんじゃねえか」
提督「利根の錯乱を防ぐ術はあった。利根がお前を拒絶したのは、その予兆があったからだ」
提督「利根がああなったのは、お前がその警告を聞き入れず、お前が自分の欲を満たすことを優先した結果だろうが」
筑摩「……っ!」
提督「ただ、利根が何も悪いことをしていない、というのには同意する」
提督「こればっかりは、生まれてきた場所が悪かったとしか言い様がねえ」
筑摩「利根姉さんは、そんなこと、言わなかったのに……」
提督「言えるかよこんなこと。自分の口から話せるようになってたら、思い出してぶっ倒れたりしてねえよ」
筑摩「なんて……私は、なんてことを……!」ウナダレ
提督「……」
360: 2021/02/06(土) 13:05:31.80 ID:DOuvdaS5o
筑摩「……氏んでしまいたい……」ポツリ
提督「そうかよ、好きにしろ」
武蔵「!?」
提督「どこへでも行って野垂れ氏ね」
黒潮「!?」
龍驤「うおおおおい!?」
五十鈴「ちょっと!? 提督何を言ってるの!?」
提督「あぁ? 氏にたいなら氏ねって言ってるだけだぞ」
明石「また始まった……」アタマカカエ
武蔵「て、提督! 貴様、筑摩にフォローのひとつも入れてやれないのか!?」
提督「なんでだよ面倒臭え」
黒潮「」
五十鈴「」
雲龍「面倒……?」ドンビキ
龍驤「お、おお……アカン、もう本当にアカンわこの人……」クラクラ
武蔵「……い、い、言うに事欠いて面倒とは……っ!!」
明石「あー、武蔵さん、この程度でこの人に怒ってたら身が持ちませんよ」
武蔵「し、しかしだな……!」
361: 2021/02/06(土) 13:06:16.41 ID:DOuvdaS5o
明石「提督。ここに来る前に利根さんと話をしてきましたよね?」
明石「利根さんは筑摩さんについて、なんと言ってたんですか?」
提督「ああ? 利根たちからなら、筑摩を助けて欲しいと言われたさ。だが、筑摩がこんなこと言い出すようなら……」
筑摩「利根姉さんが言うなら生きます!!」シャキーン
提督「……」
明石「……」
筑摩「私は氏にません! 利根姉さんが悲しむようなことはしません!」
提督「……」
明石「……」
五十鈴「……なんか、ごめんなさい」
武蔵「ま、まあ、いきなり氏ぬとか言い出してびっくりしたが、良かったんじゃないか? なあ?」
提督「そいつはどうだろうな? 今んとこ、自分に都合のいい言葉しか拾ってねえぞ、筑摩の耳は」
明石「でも、提督は利根さんから助けて欲しいと言われたんでしょう?」
提督「……言葉ではそう言えても、実際はどうだかな」
武蔵「どういう意味だ?」
提督「見てりゃわかるさ。武蔵、悪いが明日以降も利根たちの様子を見ててくれ」
武蔵「あ、ああ……」
362: 2021/02/06(土) 13:07:01.48 ID:DOuvdaS5o
* 翌日の昼 執務室 *
提督「ま、当然だろーな」
武蔵「貴様はわかってて好きにさせたのか?」
提督「説明するよか早え。利根の精神状態が今どうなってるか、これ以上なくわかったろ」
武蔵「確かにそうだが……」チラッ
筑摩「……」ションボリ
提督「昨日あんだけ派手に利根を怯えさせたんだ、利根には避けられて当たり前だろ?」
提督「あいつのトラウマは俺たちが理解できるほど浅くねえぞ。昨日の今日で構ってもらえたら奇跡だと思ってるぜ俺は」
武蔵「……何かいい方法はないのか?」
提督「ないな。俺は、時間をかけて忘れさせてやるのが一番いい方法だと思ってる」
提督「利根に無理させてますますぶっ壊れたらどうするよ? 原因作ったのは筑摩なんだから、筑摩が退くのが筋だろ」
武蔵「む、むう……!」
提督「とりあえずもう昼だ。おとなしく食堂行って飯にしとけ」
筑摩「……利根姉さんが……」ボソッ
提督「!」
363: 2021/02/06(土) 13:07:46.87 ID:DOuvdaS5o
筑摩「……利根姉さんが、昼餉を取り終わってから……食堂に行きます……」
武蔵「筑摩……!」
提督「そうか。立ちっぱなしも疲れるだろ、ソファに座って待ってな」
筑摩「……はい……ありがとうございます……」ユラ…ストン
武蔵「おい! 筑摩がまるで幽霊みたいで見ていられないぞ……!」
提督「そうか? 利根のことを考えられるようになった分、昨日よりだいぶマシになったと思うがな」
武蔵「そ、そうかもしれないが……!」
提督「ところで利根はどうしてる」
武蔵「今は古鷹と朝雲と一緒に食堂に行っているはずだ。食べ終わったら気晴らしに散歩に連れて行くと古鷹が言っていた」
提督「……朝雲がいるんなら、心配しなくても良さそうだな」
武蔵「そこは古鷹じゃないのか?」
提督「古鷹もお節介焼きが過ぎるところがあって危なっかしいからな。おそらくこの島で一番常識人なのは、俺の感覚では朝雲だぞ」
武蔵「そうなのか!?」
提督「この島に着任した艦娘のほとんどが轟沈させられたり、前の鎮守府の事情で追い出されたり逃げざるを得なかったり……」
提督「ま、いろいろあるんだよ。朝雲はその中でも比較的、傷が浅いほうだと思ってる」
364: 2021/02/06(土) 13:08:31.53 ID:DOuvdaS5o
提督「明るいし気遣いができるし面倒見もいいし……如月みたいにべたべたくっついてきたり、朝潮みたいに俺を盲目的に全肯定しないのもいい」
提督「おかげでここじゃあ苦労人ポジションになっちまってるけどな」
電話<RRRR...
提督「うん? 内線か。執務室だ」ガチャ
通信『もしもし、大淀です。提督、そちらに筑摩さんと武蔵さんがいらっしゃいますね?』
提督「おう」
通信『そちらにこれから昼餉をお弁当にしてお持ち致します』
提督「なに?」
通信『朝雲さんから事情は聴きました。利根さんと筑摩さんが鉢合わせしないようにするのなら、この方法が無難だと思いますが』
提督「気が利きすぎだろ……ありがたいけどよ」
通信『お弁当は提督の分も含めて3人分でよろしいですね?』
提督「ああ、悪いが頼む」
通信『はい。お任せください』
チン
提督「というわけで、朝雲の提案で大淀が弁当を持ってきてくれるそうだ」
武蔵「……」
365: 2021/02/06(土) 13:09:17.16 ID:DOuvdaS5o
*
提督「……やっぱり、しばらくは筑摩が我慢するしかねえな」
武蔵「やはりそうなるか……応急処置にしても、なかなかいい方法がないものだな」
扉<コンコン
大淀「失礼します、お弁当お持ちしました」ガチャ
提督「おう、気を使ってもらって悪いな」
大淀「いえ」ニコ
提督「おい筑摩、お前も飯は食っとけよ。何かあったときに動けねえのは困る」
筑摩「……はい……」
武蔵「なんというか、痛々しくて見ていられないな……」
提督「なんならお前が利根の代わりになってみるか?」
武蔵「は……!?」
大淀「……似合いませんね……」ウーン
武蔵「何を想像してるんだ大淀!?」
筑摩「……」ジッ
武蔵「いや、そんなふうに見つめられても多分代わりは務まらんぞ!?」
シレイ! シレイー!
提督「!」
武蔵「この声は……!」
朝雲「司令っ! 大変よ大変!!」バンッ
提督「朝雲……!? なんだ、利根か!?」
筑摩「!」ガタッ
朝雲「利根さんじゃないわ、古鷹さんが……!」
提督「古鷹!? なんでそっちが大変なんだよ!?」ガタッ
371: 2021/03/13(土) 21:06:24.66 ID:Apnnl4pjo
* 北東の砂浜 *
朝雲「こっちです!」タタタッ
提督「まだ息があるんだな!?」タッタッタッ
朝雲「はい!」
武蔵「おい、良かったのか!? 筑摩まで連れてきて!」タタタタッ
筑摩「……」タタタタッ
提督「四の五の言わずに今は手伝え!」
武蔵「……勝手なことを……!」
朝雲「いた……! 古鷹さん!」
古鷹「しっかり! しっかりしてえええ!」ウワーン
利根「おお! 来たか、ていと……!」ビクッ
筑摩「……っ」
提督「おい古鷹!」
古鷹「! 提督……! 加古が……加古が大変なんです!!」グスグス
加古(大破)「……」グッタリ
372: 2021/03/13(土) 21:07:19.12 ID:Apnnl4pjo
提督「倒れていたのはこいつだけか?」
利根「い、いや……向こうにも、もう一人おる」
提督「武蔵、頼む。まずは入渠させるぞ、連れてくることができそうなら、そうしてくれ」
武蔵「む……わかった。利根、案内してくれ!」
利根「あ、ああ」
古鷹「加古、目を覚ましてええええ!」ウワーン
朝雲「古鷹さん落ち着いて!」
古鷹「で、でも!」
提督「古鷹、少し下がってろ。おい、加古っつったな?」
加古「……い」
提督「ん?」
加古「……ねむい……」ムニャァ
提督「……」
373: 2021/03/13(土) 21:08:03.74 ID:Apnnl4pjo
加古「……おねがい……おねがいだから……ねかせてぇ……」
提督「……」
古鷹「ちょっ、眠っちゃ駄目ぇぇぇ!!」ウワーン
提督「……」アタマオサエ
朝雲「し、司令、どうしよう……?」
提督「こいつが寝るっつってんだから寝かせてやるしかねえだろ。ここで寝かせるわけにはいかねえけどな」
武蔵「提督、連れてきたぞ」
(武蔵にお姫様抱っこで抱えられている鳥海)
提督「ん……衣装が摩耶と同じか?」
武蔵「おそらく彼女は高雄型重巡の鳥海だ。気を失っているだけのようだが、無理に起こす必要はないな?」
提督「ああ、起こさなくていい。そのまま運べそうなら、そのままドックまで運んでやってくれ」
武蔵「わかった。こちらは任せておけ」スッ
374: 2021/03/13(土) 21:08:49.20 ID:Apnnl4pjo
提督「それからこっちは……」
古鷹「加古ーー! しっかりしてぇぇぇ!!」ユサユサ
加古「うあぁあぁあ~!?」ユサユサ
提督「……」
朝雲「あ」
バッヂィィィン!
古鷹「いったぁぁぁぁああい!?」ブットビ
朝雲(重巡でもぶっとぶんだ、あのでこぴん……)タラリ
提督「少し落ち着けこの馬鹿たれ! ったく……筑摩!」
筑摩「!」ビクッ
提督「加古を背負ってドックまで行けるか? 古鷹があれじゃ心配すぎる」
筑摩「……」チラッ
利根「!」ビクッ
筑摩「……」シュン
提督「筑摩、どうだ。頼めるか?」
筑摩「……わかりました……」コク
375: 2021/03/13(土) 21:09:34.44 ID:Apnnl4pjo
提督「よし。ほれ加古、眠れる場所に移動するぞ」
加古「むにゃあ……」ムクッ
朝雲「あ、筑摩さん手伝います!」
古鷹「いたた……提督、なにをするんですか!」プンプン
提督「そりゃこっちの台詞だ、眠てえっつってんだからドックで好きなだけ寝かせてやれってんだよ」
提督「わかったら筑摩と朝雲手伝え。とっとと加古を入渠させろ」
古鷹「は、はい!」タッ
提督「さてと……利根、あとは他に誰もいねえんだな?」
利根「……う、うむ……」
提督「……」
利根「……」
提督「……おい」ズイ
利根「な、なんじゃ?」
ガシッ
利根「な、なにをする提督!? 手を離さんか!」アタマツカマレ
376: 2021/03/13(土) 21:10:19.20 ID:Apnnl4pjo
提督「利根。お前は、俺が怖くないのか?」
利根「き、貴様は理由もなく他人を襲ったりせんだろう!」ジタバタ
提督「……」
利根「どうせこれも、筑摩のことを考えてのことじゃろう! 吾輩とてそこまで愚鈍ではないわ!」ンギギ…
提督「ふん……察しがいいのも困りもんだな」パッ
利根「や、やっと離したか、この馬鹿力め……ううむ、嫌な汗をかいたぞ」
提督「やっぱり怖かったんじゃねえのか」
利根「吾輩はまだ貴様の本気のアイアンクローをくらったことがないからな。未知の体験に少々緊張しただけである」
提督「それを怖いっつうんじゃねえのか。素直じゃねえな」
利根「貴様にだけは素直じゃないなどと言われたくないぞ! まったく……」
提督「ふん、元気そうだな。余計な心配だったか?」
利根「……そういうわけでもない。不本意極まりないが、筑摩の姿を見ると足がすくんでしまうのは認めざるを得ん」
利根「明石にも詫びを入れねばならん。せっかく作ってくれた個室の風呂も、怖くて入れなくなってしまったからな……」
提督「……」
利根「このままでは駄目なのは理解しておる。筑摩とも仲直りして、古鷹のように心配しあえる仲に戻らねばならん」
提督「……俺はドックに行くつもりだが、利根はどうする」
利根「うむ……吾輩も参ろうか。いつまでも目を背けてはおれん」
利根「いずれは筑摩と……この海を征きたいからな」
提督「……」
377: 2021/03/13(土) 21:11:04.02 ID:Apnnl4pjo
* 一方の入渠ドック *
古鷹「加古は大丈夫かなあ……」ウロウロ
朝雲「もう、大丈夫だって明石さんも言ってたでしょ? 古鷹さん心配しすぎ!」
筑摩「……」
朝雲「筑摩さんがいて本当に良かったわ……ありがとうございます!」
筑摩「……いいえ……できることを、したまでだから……」ニコ…
朝雲「あの、筑摩さん、大丈夫なんですか? すごく元気がないですけれど」
筑摩「……利根姉さんには、本当に申し訳ないことをしたから……」
筑摩(……)
提督「今の筑摩は利根に警戒されてる。弁明どころか声をかけられただけで利根は逃げてくだろう」
提督「だったら筑摩が利根に危害を与えることはないことを証明し続けるしかねえ。あえて利根に姿を見せてな」
提督「だから、利根がいても絶対に筑摩からは近づくな。利根の方から近づいてくるまで、絶対にコンタクトを取ろうとするな」
提督「挨拶せざるを得ない状況でも、会釈までで我慢しろ。それができなきゃ、あの利根とは二度と話ができねえと思え」
提督「自分に危害を加えてきた奴が、どうやったら許せるか考えてみろ。多分、ひたすら頭を下げるしかねえんじゃねえか?」
提督「そして絶対に害意がないことを態度で示して、それで許せるかもしれない、って心変わりを待つしかないと思うぜ」
筑摩(……)
378: 2021/03/13(土) 21:11:48.98 ID:Apnnl4pjo
朝雲「……利根さん、ここに来た頃は本当に元気なかったから……筑摩さんもそんな感じだと、心配です」
筑摩「……大丈夫。きっと……大丈夫になってみせるわ。姉さんも、そうだったんでしょう?」
朝雲「はい……!」
筑摩「そうね……利根姉さんを見習わないと」
古鷹「う~……」ウロウロソワソワ
朝雲「ああもう、古鷹さんは落ち着いてー!」
扉<チャッ
武蔵「古鷹はまだ落ち着かないのか? それで加古が元気になるわけではないぞ」ヌッ
朝雲「武蔵さん……!」
武蔵「気持ちもわかるが、今はゆっくり休ませてやれ。加古に無理をさせて怪我を悪化させるのは古鷹の望むところではないだろう?」
古鷹「は、はい……」シュン
提督「だがまあ、今回の古鷹の心配は仕方ないと言えば仕方がないな」スッ
利根「うむ……」
古鷹「提督……利根さんも!」
摩耶「よっ。あたしも来たぜ」
朝雲「摩耶さん!」
379: 2021/03/13(土) 21:12:34.80 ID:Apnnl4pjo
提督「摩耶にはあの艦娘が鳥海かどうかを確認してもらったんだ」
摩耶「まったく、びっくりしたぜ。明石からは鳥海も加古も助かるって言ってたから良かったけどさ」
武蔵「摩耶は落ち着ているな」
摩耶「そりゃあ、あたしが騒いだって鳥海が元気になるわけじゃねーからなあ。元気になってから、ゆっくり話を聞くさ」ニッ
古鷹「あ、あうう……す、すみません、私もそうします……」ショボン
摩耶「ああ、そうしたほうがいいぜ。でなきゃ、誰をぶちのめさなきゃいけねえか、聞き出せねーもんな!」バキバキ
朝雲「それはそうかもしれないけど!?」
利根「う、うむ……仇討ちが目的というのもな……」
提督「そうか? 俺はいいと思うが」
武蔵「ああ、同感だ」ウンウン
摩耶「だよな!」パァッ
朝雲「あーそうだったわ……武蔵さんも武闘派だし、司令もやり返さないと気が済まない人だったわ……」アタマカカエ
提督「そうじゃなくても無理もねえよ。加古と鳥海は轟沈してるらしいんだからな」
朝雲「え?」
筑摩「沈んだん……ですか!?」
380: 2021/03/13(土) 21:13:19.18 ID:Apnnl4pjo
提督「明石の見立てではな。二人に当時の状況を聞かないと確定はできねーが、全身ずぶ濡れだったことを考えると、沈んでた可能性も否定できねえ」
提督「特に加古は足元の艤装の損傷がひどい。航行不能な状態になっていたからこそ、古鷹も狼狽えてたんじゃねえのか?」
古鷹「はい……!」
提督「まあ、あとは重巡がふたりも轟沈してるっつうのが気に入らねえ。何したらそんな被害になるんだ?」
武蔵「うむ……余程の無理をしない限り、2隻沈むというのは考えられないな」
提督「なんにしてもだ、目が覚めたらあいつらに生きる意志があるかどうか確認しねえとな」
武蔵「なんだそれは? せっかく助かったのに氏にたいなんて言う艦娘がいるのか?」
提督「いたら困るから訊くんだよ。氏にたい奴を助けて後から文句言われたくねえ」
筑摩「……あの……」
提督「ん?」
筑摩「あくまで老婆心ですが……加古さんをこちらへ運ぶ際に、氏ぬほど寝たいと言っていましたので……誤解のないようにお願いします」
提督「なんだそりゃ? そんなに寝たかったのか、あいつ」
筑摩「いえ、その……もともとだと思います。前の鎮守府にいた加古さんも、暇さえあればお昼寝していましたから」
提督「……マジか」
古鷹「聞く限りはそうみたいなんです……」ハァ…
朝雲「L提督の鎮守府にいたときは加古さんいなかったから、写真でしか見たことなかったんだけどね」
381: 2021/03/13(土) 21:14:08.72 ID:Apnnl4pjo
筑摩「私が知る限りでは、任務中もあくびしながら航行していたのは珍しくありませんでした」
筑摩「そういう意味で不真面目に見られていましたが、戦闘では真面目でしたよ。効率よく確実に戦うことを信条にしてましたから」
提督「ふーん……」
摩耶「もしかして、寝る時間を増やしたくて真面目に戦ってたとかか?」
全員「「!?」」
朝雲「そういう考えもあり得るわね……」
古鷹「そ、そんなわけないですよね!? ね!?」オロオロ
筑摩「……」メソラシ
古鷹「筑摩さん何か言ってぇぇぇ!?」ガビーン
提督「昼寝のために全力を出すってか……いいなそれも」
武蔵「いいのか!?」
提督「悪くはねえだろ。自分が後で楽になるために、今を一生懸命になるのはいいことじゃねえか?」
武蔵「……いや、まあ、確かにそうだが」
382: 2021/03/13(土) 21:14:49.00 ID:Apnnl4pjo
提督「とりあえず寝るのが大好きだったんだな、お前がいた鎮守府の加古ってのは。じゃあ、鳥海はどんな奴だった?」
筑摩「そう、ですね……真面目を絵に書いたような艦娘でした」
筑摩「性格的には霧島さんに近い感じですが、普段は物静かで、こちらの摩耶さんとは対照的ですね」
提督「ふぅん……物静かで霧島に似てる、ねえ。言葉遣いはどうなんだ?」
筑摩「……丁寧で穏やか、大人しいといった印象です。荒っぽい感じはありません」
摩耶「あたしと違ってお淑やからしいからな、鳥海は!」フフン!
提督「……何でお前が威張ってんだ」
摩耶「ああ!? 自慢しちゃあいけねえのかよ、くそが!」
提督「お淑やかなのを自慢するんなら、そのお前の最後の一言はなんとかなんねえのかよ」
摩耶「んぐ……あ、揚げ足取りやがって。お前だって似たようなもんだろ!? ちょっとウザいぞ!」
提督「へーへー。まあいいや、ここへ流れてきた二人の性格がその通りかどうかも、まだわかんねえからな」
提督「早いとこ目を覚ましてもらって直接話を聞けりゃ、古鷹の心配も多少はなくなるだろ」
古鷹「は、はい、とにかく話ができるくらいに回復してくれれば、私も安心です」
383: 2021/03/13(土) 21:15:34.14 ID:Apnnl4pjo
提督「じゃ、この場は明石に任せて、二人の回復待ちだな。武蔵、筑摩、戻るぞ」スクッ
朝雲「武蔵さんたちも戻るの?」
提督「昼餉がまだだからな。これだけ働かせて飯抜きはねえだろ」
筑摩「あ……!」
武蔵「……そういえばそうだったな。言われてみると確かに腹が……」
摩耶「あたしも戻るか。鳥海が目を覚ましたら、あたしにも声をかけてくれよ?」
提督「おう」
スタスタスタ…
筑摩「……」スクッ
利根「……」ジリッ
筑摩「……」スタスタ…
提督(利根はまだ筑摩に怯えてやがんな。こりゃ時間がかかるか……仕方ねえ)
384: 2021/03/13(土) 21:16:19.21 ID:Apnnl4pjo
* 執務室 *
大淀「提督、お茶をどうぞ」コト
提督「ん……ありがとな」モギュモギュ
武蔵「それにしても、この短期間に4隻も艦娘が流れ着いてくるとは……」
提督「生きて4人は珍しいが、同時に何人も流れてくること自体はそんなに珍しくもねえ」
提督「新しい海域への攻撃が始まったとか、特別海域の攻撃命令が来たときとか、見たことない深海棲艦が現れたときとか……」
大淀「確かに、戦線に動きがあったときが多いですね」
提督「ま、そう考えると、場所や理由がバラバラでも、根っこを辿って行ったら原因は同じだった、ってのはあるかもしれねえな」
武蔵「ふむ……」ズズ…
提督「ただまあ、今回の筑摩たちの事情と、加古たちの状況は全然違うからな。別件と思っていいだろう」
提督「なあ大淀、不知火に頼んだ轟沈のリストはまだ来てないか?」
大淀「まだですね。おそらく明日以降になるのではないかと」
武蔵「轟沈艦のリスト? そんなもの何に使うんだ」
提督「公式に、筑摩たちが轟沈した扱いになってるかどうかを確認したい」
筑摩「!」
385: 2021/03/13(土) 21:17:04.08 ID:Apnnl4pjo
提督「本営も一応は、各鎮守府で邂逅した艦娘の情報を収集してる。例えば艦娘が不法に取引されないようにな……それも怪しいもんだが」
提督「連中の本音はどうあれ本営は、各鎮守府の建造でも解体でも記録を取って、艦娘の在籍状況を逐一管理してるんだ」
提督「うちに流れてきた艦娘が元の鎮守府に戻していいかどうかも、それを見りゃあ判断できる」
武蔵「それは貴様が言っていた、轟沈した艦娘は元の鎮守府に戻れないという制約からか?」
提督「だな。リストに載りゃあ氏んだも同然、戻ったところで解体だろう。それが嫌ならここに着任するか? って話になる」
提督「あとは身元確認の意味合いが強いな。その鎮守府の提督を要注意人物として把握しておきたい」
提督「そういや、筑摩は知ってたか? 昔、轟沈した艦娘が戻ってきて、ある日突然深海棲艦になって鎮守府が壊滅した話」
筑摩「……知ってはいますが、作り話だと思っていました……」
提督「知らないわけじゃない、か。ま、確かに、話が本当かどうかは確認してねえし、しようがねえな」
大淀「提督、この鎮守府はそれを確かめるために、轟沈した艦娘を運用する運びになったのではありませんでしたか?」
提督「それこそ建前ではな? そんなこと起こらねえと思ってるから油断しまくってるけどよ」
武蔵「では本音はなんだ」
提督「最初にこの島に轟沈してきた如月を、この鎮守府でそのまま運用するためだ。その後も轟沈艦が何人も流れ着いてきたし、結果的には正解だった」
提督「あとは、人間が俺たちに関わってこない環境を作りたかった。その条件は奇しくも中佐が御膳立てしてくれたわけだが」
筑摩「……どういうことですか?」
386: 2021/03/13(土) 21:17:49.23 ID:Apnnl4pjo
提督「中佐は俺が邪魔なんだよ。俺が妖精と話ができるってのが、中佐にとっては相当に都合が悪いらしい」
提督「それで中佐は、こんな人の寄り付かないこの島に俺を幽閉して、誰も立ち入らないように手厚く手厚く保護してくれてるわけだ」
提督「ついでに艦娘が轟沈すると深海棲艦になるって噂も、真偽はどうあれ人を遠ざけるのにちょうどいいから遠慮なく利用してる」
提督「この島で轟沈した艦娘に自由を与えて、俺がその責任を取ると言えば、連中もノーとは言わないだろうさ」
筑摩「准尉は、それでよろしいんですか……?」
提督「ん? よろしいんじゃねえの? 俺は何も困らないぞ?」
筑摩「ええ……?」
提督「俺はそもそも人間と関わり合いになりたくないし、何より人間の勝手で轟沈した艦娘をそのままにしておく方が余程気分が悪い」
提督「そういう意味では、俺と中佐の利害が一致してるっつうのが気に入らねえが、そこは呑み込むとして」
武蔵「むう……」
提督「俺は基本、艦娘の味方だ。あいつらを見捨てた人間と同じになりたくないだけの……手前がかわいい身勝手な人間だよ」ハァ…
大淀「……それでどうして提督が落ち込むんですか」
提督「結局は自分のためなんだよなあ。よくよく考えりゃ、俺がいい気持ちになりたくて誰かを利用してんだよ」
提督「俺が救われたくて、俺に似た境遇のあいつらを助けようとしてるだけじゃねえか……」
387: 2021/03/13(土) 21:18:33.91 ID:Apnnl4pjo
大淀「動機はどうあれ、ここへ来た艦娘が前の環境より良い境遇にあることは事実じゃないですか」
筑摩「そういう意味では、艦娘が自分の欲求を満たすため、未練を晴らすために提督を利用しているとも言えるのではありませんか?」
提督「それはいいんだよ。艦娘が俺を利用するのはいいんだ」
筑摩「失礼ですが、矛盾しています。それでは提督は、人間にも利用され、艦娘にも利用されることになるのではありませんか」
提督「……ああ、そういう意味か」ジロリ
筑摩「!」
提督「俺たちを利用した人間どもを、このままにしておくつもりはねえさ。いずれは、奴らも……!」ギリッ
筑摩「……!」ゾクッ
武蔵「提督……貴様!?」ガタッ
スパーン!
武蔵「」
筑摩「」
提督「……いてぇ……」
大淀「……」ゴゴゴゴ…
388: 2021/03/13(土) 21:19:18.99 ID:Apnnl4pjo
武蔵「お、おい、大淀。お前、提督の頭をバインダーで思いっきり……」
大淀「ええ、叩きましたよ」ニコッ
武蔵「」
大淀「提督? これまでに何度も申し上げておりますけれど」ズイ
大淀「そのような不謹慎な発言は、くれぐれも、控えてくださいね?」ニコァ
武蔵(大淀が怖い)シロメ
筑摩「あの……い、いろいろといいんですか?」
大淀「本営の肩を持つ気はありませんが、提督の物騒な発言によって余計な波風が立つのを見過ごすわけにはいきません」
提督「……ったく、しゃーねーな……」ハァ…
扉<コンコンコン
霧島「霧島です。よろしいでしょうか」
提督「ん、いいぞ」
霧島「失礼致します」チャッ
提督(……なんか、霧島も殺気立ってるか?)
霧島「……摩耶の姉妹艦が流れ着いてきたそうですね?」
提督「おう。なんで流れ着いてきたかはわからねえから、鳥海の回復を待って事情聴取するつもりだ」
389: 2021/03/13(土) 21:20:19.20 ID:Apnnl4pjo
霧島「……できれば、私も同席したいのですが」
提督「いいぞ。ただし、暴れるのは全部話を聞いてからだ」
霧島「!」
武蔵「……まあ、眉根にそんなしわを作っていては、提督にからかわれても仕方ないぞ」
霧島「顔に出ていましたか……失礼致しました」
提督「別にからかっちゃいねえよ、暴れたいんなら俺に断ってからにしろ。有耶無耶にしてやるからよ、俺ができる範囲で」
霧島「は、はあ……」
武蔵「提督、貴様が適当なことを言うから霧島がどう反応したらいいか困ってるぞ?」
提督「困るって言われてもな。俺の言葉は言葉の通りだぞ? うちの艦娘が間違ってないなら俺も暴れろって言うからな?」
武蔵「いかんだろうそれは……貴様は止める立場の方だぞ?」
提督「止めたくねえなあ……なんにしてもだ、まずは鳥海がちゃんと話を聞いてくれることが一番なんだが……」
武蔵「その辺は問題ないだろう。鳥海は真面目だと聞いたぞ?」
提督「そうか? 真面目な方が厄介な気がするぜ。真面目ちゃんは言い換えれば頑固で、融通が利かねえことが多いんだ」ハァ
提督「前の鎮守府の理不尽な命令を律儀に守り続けてたり、目的のために視野狭窄に陥ったり……言われたことを延々と気にしたり、なあ?」
霧島「!」ビクッ
390: 2021/03/13(土) 21:21:03.96 ID:Apnnl4pjo
提督「自分でも言ってることが極端だとは思うが、その極端な奴が流れ着いてくるのがこの島だからな……」
大淀「そうですね……でも、最初から最悪を想定して話を進めなくても良いのではないですか?」
提督「そうは言うが、その最悪を飛び越えてくるケースが何度もあったろ……」
扉<コンコン
伊8「提督、戻りました?」ガチャ
提督「おう」
伊8「海底に散らばってた、二人のものらしい艤装の破片、集めて明石さんに預けてきました」
提督「そうか、ご苦労さん……って、そういえばはっちゃんもそうだったっけな」
伊8「なにがです?」
提督「前の鎮守府で無理矢理東オリョール海を往復させられて轟沈したってのに、それでも前の鎮守府に戻るとか言ってたの」
武蔵「んなっ!?」
霧島「そ、そうなんですか?」
伊8「あー、そうでしたね。はっちゃんがおかしくなってたときの話です」
391: 2021/03/13(土) 21:21:49.03 ID:Apnnl4pjo
提督「真面目な奴ほど命令には逆らえなかったり……まあ、はっちゃんの場合は恐怖を植え付けられてたって感じだったが……」キョロキョロ
霧島「どうなさいました?」
提督「いや、メガネが多いな……と」
霧島「!」
大淀「!」
武蔵「!」
伊8「あー」
筑摩「そ、そうですね……」
提督「まあ、言わずもがな真面目なメンツが多いな……」
大淀「そ、それは、まあ、ふざけるわけにはいきませんので」
提督「……鳥海もこんな感じなのかねえ。一人くらいちゃらんぽらんなメガネがいてもいいだろうに……」
武蔵「さすがにおらんだろう、そんな奴は」
提督「……あ、いるわ。余所の鎮守府に」
伊8「え?」
提督「しかも俺に似てる」
霧島「ええええ……?」
392: 2021/03/13(土) 21:22:36.17 ID:Apnnl4pjo
* V提督鎮守府 *
望月「ぅえっきしょ」
弥生「なに? いまの無気力なくしゃみ」
卯月「望月、風邪ひきぴょん?」
望月「うんにゃ、鼻がムズった」ゴロン
卯月「だったら早くパジャマから着替えるぴょん。もう11時だっぴょん!」
望月「えー、めんどくせ~」ゴロゴロ
397: 2021/03/25(木) 20:23:00.79 ID:yO92N9VFo
* その日の夕方 入渠ドック前 *
提督「よう、二人とも目を覚ましたんだな?」
明石「はい! 怪我の方もばっちり治しました!」
明石「摩耶さんや古鷹さんも呼んでいるので、少しお待ちください!」
提督「この島のことについては何か話したか?」
明石「説明したのはこの島に流れ着いてきたときの状況だけですね」
提督「そうか。んじゃ、俺の方からここがどういう場所か、簡単に話しとく」
提督「摩耶たちが揃ったら、これからどうするのかの話を始めるぞ」
明石「了解です!」
* *
加古「轟沈した艦娘が流れ着く島ぁ?」
鳥海「私たちが轟沈したと仰るのですか……?」
提督「明石が言うには、艤装の被害を見るに航行可能な状態にはなかったと言われたが、お前ら自分が沈んだかどうかの自覚がないのか?」
鳥海「も、申し訳ありません、私は無我夢中で……」
加古「あたしは准尉の言う通り、沈んだと思ってるよ」
提督「覚えてるのか?」
398: 2021/03/25(木) 20:23:45.76 ID:yO92N9VFo
加古「この姿になって、初めて水の中から空を見た記憶があるんだけど……やっぱ、やだねえ。ははっ、思い出しただけで寒くなってきた」
提督「まあ、無理に思い出さなくていいぞ。で、鳥海は自分が轟沈していないと思ってるのか?」
鳥海「はい。私は、轟沈すると深海棲艦になるという噂を耳にしたことがあります」
鳥海「ですので、もし私が轟沈していたとしたら、艦娘としてこの場にはいないのではないかと思っています」
提督「俺はそっちの話の方が初耳だな。鳥海の話が本当なら、この島に漂着してきた艦娘の遺体が深海棲艦になってないと辻褄が合わねえ」
鳥海「! それは……」
加古「っていうかさあ、轟沈したかどうかの判断基準ってなに?」
提督「自力で水上に立てなくなった、あるいは浮き上がることができなくなったら、そうなんじゃねえか?」
提督「他人が判断する場合は、本営の判断でそういう扱いになる場合がある。あとは、その鎮守府の提督がその艦娘について虚偽の報告をした場合だな」
加古「ふーん……じゃあ、沈んでなくても沈んだことにできるんだ?」
提督「まあ、それもできるな」
加古「そっか……それなら……」
鳥海「それなら、沈んだかどうか誰も判断できない艦娘は、元の鎮守府に戻れる可能性もあるわけですね?」
加古「!」
提督「……多分、な」
399: 2021/03/25(木) 20:24:32.41 ID:yO92N9VFo
鳥海「良かった……! それなら、加古さん! 私たちは早く鎮守府に戻りましょう!」
加古「!」
提督「お前は元の鎮守府に戻るつもりでいるのか」
鳥海「はい、皆さんに迷惑をかけるわけにもいきませんし。早く鎮守府に戻って、みんなを安心させてあげないと!」
加古「……」
鳥海「加古さん?」
加古「あのさ……本当に戻るの?」
鳥海「え、ええ……そのつもり、ですけど」
加古「悪いんだけどさぁ、あたしパス。あの鎮守府には戻らないよ」
鳥海「な、なにを言ってるの!?」
加古「鳥海こそ本気で戻るって言ってんの? あたしゃ今のあの人にはついていきたいと思わないよ?」
加古「鳥海は義理を重んじてるんだろうけどさあ、無茶な注文言われて轟沈して、それで戻って義理を果たそうってお人好しが過ぎない?」
鳥海「でも、司令官さんは司令官さんなりに頑張って……」
加古「あれで頑張ってるって言うの? あたしが言うんだよ? 相当なもんじゃないのかねえ?」
400: 2021/03/25(木) 20:25:15.80 ID:yO92N9VFo
加古「あの一日提督の言うことに何も口を出さないくらいともなると重症だよ。お人好し通り越して他人任せになってんじゃないか」
鳥海「司令官さんには司令官さんのお考えがあります! それに、進軍の判断をしたのは私たちよ!?」
鳥海「加古さんだって、進むべきか退くべきかを訊かれたときに、進んでいいと言ったじゃない!」
加古「……」
提督「お前らの細けえ事情は知らねえが」
加古「!」
鳥海「!」
提督「加古が戻る意思を見せてない以上、今の状況なら戻るのは鳥海だけだな」
鳥海「そんな……!」
提督「鳥海は加古ともども元の鎮守府に戻る気でいた。加古、お前はどうだ? 鳥海は戻ったほうがいいと思うか?」
加古「……」
鳥海「……」
提督「……」
加古「……あたしは、引き留めないよ。けど、戻ったほうがいいなんて、あたしの口からは言いたくないねえ」
提督「……」
401: 2021/03/25(木) 20:26:01.17 ID:yO92N9VFo
明石「提督ー!」
提督「!」
明石「提督、摩耶さんと霧島さん、来ましたよ!」
霧島「失礼いたします」
摩耶「よっ、悪りーな、遅くなっちまって」
鳥海「摩耶!? ど、どうしてあなたがこんな鎮守府に!? あなたも轟沈したの!?」
摩耶「してねえって。人の心配する前に鳥海は自分の心配しろよなー?」
鳥海「そ、それはそうかもしれないけど……でも、摩耶は轟沈したわけじゃないのね。良かった……」
明石「提督、摩耶さんと霧島さん、来ましたよ!」
明石「代わりに朝雲ちゃんが来るらしいですよ? 古鷹さん、加古さんが心配すぎて落ち着いていられないから、落ち着かせてから来るって」
提督「……そうか」アタマオサエ
加古「なに? ここの古鷹ってばお節介焼きなの?」
提督「まあな……今はそうでもないと思うが」
加古「ふーん……?」
タタタタッ
朝雲「ごめんなさい、遅くなりました!」
402: 2021/03/25(木) 20:26:45.61 ID:yO92N9VFo
提督「古鷹はまだそわそわしてんのか?」
朝雲「あー……古鷹さんは、武蔵さんに無理矢理大人しくさせられた、っていうか……気絶させられたっていうか」トオイメ
加古「はあ!?」
提督「そうか。しょうがねえな」
朝雲「そういうわけだから、古鷹さんは武蔵さんと筑摩さんに任せてきちゃった」
加古「あー、ちょっと、余所様の艦隊に言うことじゃないかもなんだけど、大丈夫なの?」
提督「うちの連中もそこまで遠慮なしじゃねえから、大丈夫だろ。とりあえず朝雲も来たことだし、話を始めるぞ」
提督「まず、この二人にはこの島がどんなところか説明した」
提督「この島の砂浜に流れ着いたときには二人とも意識がなかったんだから、俺は二人とも轟沈したと考えるんだが、鳥海はその自覚がないらしい」
霧島「では、鳥海は轟沈したわけではないと?」
提督「主張はそういうことらしい。俺には自分の不始末を認めたくないだけに見えるがな」
鳥海「……」ムッ
提督「でだ、そもそもこんなことになった原因について、お前らに話してもらいたいんだが、できるか?」
加古「……」チラッ
鳥海「は、はい……わかりました」
403: 2021/03/25(木) 20:27:31.06 ID:yO92N9VFo
提督「それじゃ、自己紹介と所属か。どこから来たんだ?」
鳥海「では、改めて。私は重巡洋艦、鳥海です。そして、こちらが同じく重巡洋艦、加古」
加古「……」ペコリ
鳥海「私たちは呉にある遠大佐鎮守府に所属する艦娘です」
朝雲「遠大佐……?」
霧島「呉で大佐ということは、大きめの鎮守府のようですね」
加古「いんや、呉にある鎮守府のなかでは小さいほうだよ。言っちゃあれだけど、いくつかある港の隅っこに追いやられてるし」
摩耶「そうなのか?」
鳥海「え、ええ……末席から数えたほうが早いのは本当よ。大将や中将の鎮守府もあるし、そちらと比べたら鎮守府の規模は小さいわ」
霧島「なるほど。かつて海軍工廠があった港だけあって、海軍の中でも重鎮が集まるのは当然と……」
提督「で、実力はどうあれ、その呉に居を構える遠大佐が、なんでまた重巡二人を沈めるようなヘボい指揮を執ったんだ」
鳥海「そ、それは……」
加古「その時指揮を執ってたのは遠大佐じゃなくて、留提督だよ。一日提督のね」
霧島「いちにち……?」
加古「そ。なんかねえ、留って人が今売り出し中の大人気男性アイドルなんだって。あたしは聞いたことないんだけどさ?」
404: 2021/03/25(木) 20:28:17.03 ID:yO92N9VFo
加古「で、どっかのテレビが呉にある鎮守府を取材したいとか、一日提督をやらせて艦娘の指揮を執らせたいとか、そういう申し入れをしたんだって」
加古「それで引き受けたのが、うちの遠大佐なんだ」
明石「……一日提督、って、芸能人が一日警察署長とか、あの一日って意味ですか!?」
摩耶「それじゃ、何も知らねえド素人が、艦隊の指揮を執ってお前らを轟沈させたってのか!?」
霧島「……そんな馬鹿な」クラッ
鳥海「で、でも、進軍を決めたのは私たちで、別にその方のせいでは……!」
提督「加古。鳥海の話は本当か?」
加古「うん。無理を承知で進んだのはあたしたちの判断だよ。けど、最初から無理があったと言えば無理があったんだ」
加古「派手な砲撃戦が見たいっていうから戦艦や重巡をメインにしたのに、どうして潜水艦がいる海域を選んだんだ、とかさ」
霧島「潜水艦……もしかして、南方海域……?」
加古「そ。駆逐艦も一人連れてったんだけど、対潜装備も載せなかったもんだからひどい目に遭ってさぁ」
加古「あたし以上にうっかりが多すぎるんだよ、最近の遠大佐は……」ハァ
明石「ですが、どうしてそんな状況で進軍しようとしたんですか」
摩耶「そうだよ。引き返すことだってできたろ?」
鳥海「それは……」ウツムキ
加古「……」
405: 2021/03/25(木) 20:29:01.47 ID:yO92N9VFo
鳥海「私たちの、慢心だと……」
明石「……」
霧島「……」
提督「加古はどうなんだ」
加古「……それ、あたしはちょっと違うと思うなあ」
鳥海「え?」
加古「多分あのとき、あたしたちは期待されてたんだよ。大破した艦娘もいながら、この窮地を無事乗り越えて、帰ってくる……」
加古「そういうストーリーを、あたしたちは暗に求められちゃったんだよ。で、おそらく鳥海は、その期待に応えようとしたんじゃない?」
鳥海「……そうかもしれないわ。でも……」
加古「それになにより、深海棲艦の侵攻は止めなくちゃいけない……!」
鳥海「そう……だから、私たちは進むことを決意したんです」
提督「……」
明石「でも、それで沈んでしまったら元も子もないでしょう!? なんでそんな無茶を、美談みたいに話せるんですか!」
加古「そうだねえ……沈んだら終わりだよねえ。今思えば、ほんと、あたしも馬鹿なことしたもんだよ」
406: 2021/03/25(木) 20:29:45.98 ID:yO92N9VFo
提督「じゃあなにか? お前らはその一日限定の留提督とやらの綺麗事にまんまと乗せられたってことか?」
鳥海「っ!!」
摩耶「お、おい!」
霧島「司令、その言い方はさすがにどうかと……!」
加古「いや、その通りだよ」
全員「!」
加古「留提督は、そうやってあたしたちを鼓舞して、勝ってこいって無茶ぶりしたわけだもの」
加古「それであたしは、もう駄目だ、って思って、諦めたんだ」
明石「そ、それってどういう……」
加古「あたしはあのとき、最初から勝つつもりで進軍したわけじゃない。あたしは、最初から沈むつもりで先に進んだんだ」
鳥海「え!?」
摩耶「はぁ!?」
霧島「!?」
朝雲「……」
提督「どういう意味だそりゃ。そんなにその留提督が気に入らなかったのか?」
加古「いいや? どっちかっていうと遠大佐に愛想が尽きたっていうか、今回の件が決定打になったって感じかねー……」
407: 2021/03/25(木) 20:30:30.77 ID:yO92N9VFo
提督「ほう。決定打ってのはどんなどこだ?」
加古「昔みたいに捨て艦するならいざ知らず、今は大破したら引き返すってのが鉄則でね。遠大佐はそれを守る人だと、あたしは思ってたんだ」
加古「それが今回、留提督がいいところを見せたいがための進軍の指示を、止めようともしなかったんだ。それで幻滅したってのが一番だね」
加古「あとは、留提督の進軍を促す言い方が気に入らなかった」
加古「途中撤退は海軍として恥ずかしくないかとか、目的を果たせないのは格好がつかないとか、まー聞いてていやらしい台詞が聞こえてきたんだ」
加古「さもあたしたちが進みたくて進んだと言わせたくて、そういう言い方をしたんだろうね」フン
提督「そいつらが責任を負いたくないからか」
加古「わかんないけど、そんなとこだろうねえ。それであたしもちょっとむかっと来ちゃって」
加古「本当ならさ? そんなことを留提督が言おうものなら、遠大佐が諫めてくれてもいいじゃないか」
加古「でも、遠大佐は何も言わなかった」ウナダレ
加古「だからあたしは、いいよ、進もう、って言ったんだ」
鳥海「……!」
提督「諦めの意味での、もういいよ、か」
加古「うん……なんていうかさあ、なんて言ったらいいかわかんないけど、糸がぷっつり切れちゃったんだよね」
加古「ああ、もうどうでもいいやって。もう暴れるだけ暴れて、終わっちゃおうってねぇ……」
提督「……」
408: 2021/03/25(木) 20:31:16.13 ID:yO92N9VFo
加古「留提督への当てつけも少しはあったかな……」
加古「自分が指揮執ったときに艦娘沈めるのって、ああいう人たちにとってどのくらい痛手なのかもわかんないけど」
加古「でもさ、今思い起こしてみても、一番腹が立ったのはやっぱり遠大佐かなあ」
加古「ちょっと来ただけのやつに好きに言われて黙ってるって、あんたそこまで腑抜けたのかって」
鳥海「……」
加古「ま、あたしにゃいろいろ思うことあったんだけど、鳥海を巻き込む気はなかったんだ」
加古「落伍すんのはあたしだけで良かったんだよ。なんでぼろぼろの鳥海が、あたしをかばったりなんかしたのさ?」
鳥海「……昔を、思い出したの」
加古「昔……? ああ、艦だったころの……」
鳥海「二度も、私の目の前で沈むのを、見過ごせるわけないじゃない……」
加古「そっか……そだね。ごめん」
提督「……こいつらもあれか。艦だったころの因縁を覚えてるわけか」ヒソッ
明石「そういうことですね」ヒソッ
409: 2021/03/25(木) 20:32:00.77 ID:yO92N9VFo
提督「とりあえず、お前らんとこの遠大佐が何を考えてるのかって話になるんだが……」
加古「あーごめん、遠大佐についてはもう勘弁。あたしはもう関わりたくないっていうか、見せる顔がないっていうかさあ」
鳥海「加古さん!? それとこれとは話が別でしょう!? お別れするならするでご挨拶しないと!」
加古「えーー?」
摩耶「……鳥海ってこんなに面倒臭かったっけか?」
霧島「真面目な艦娘ね……」
朝雲「え、えーっと、話の途中でごめんなさい。ちょっといい?」
提督「? どうした?」
朝雲「鳥海さんと加古さんに聞きたいんだけど、遠大佐ってさ、もしかして……」
朝雲「秘書艦に、雷を連れてない?」
加古「!」
鳥海「そ、そうだけど……あなた、遠大佐を知ってるの?」
朝雲「あー、はい。まあ……そっか、そうなんだ……」
提督「朝雲?」
朝雲「あ、司令。もしかしたら気付いてるかもだけど……」
410: 2021/03/25(木) 20:32:46.75 ID:yO92N9VFo
朝雲「遠大佐の秘書艦の子、古鷹さんが超過保護になった原因かも……」
提督「」
明石「」
鳥海「!?」
加古「え、なにそれ」
朝雲「えーと、私、この鎮守府に来る前にL大尉……その時は少佐だったんだけど……」
* かくかくしかじか *
朝雲「……というわけで、古鷹さんも、過保護通り越して介護してるような感じだったのよね」
加古「うわあ……」ドンビキ
提督「俺の風呂やトイレまで世話しようとした時はどうしようかと思ったぜ」
鳥海「そんなことまで……」
朝雲「うちの古鷹さんが遠大佐の雷に触発されて、重度の世話焼き重巡になっちゃったんだけど、じゃあ当人はどうなのかな? って思って」
加古「雷がそこまでやってる可能性……ないとは言えないねえ」
朝雲「少なくとも、私たちが演習で出会ったころの遠大佐はまだまともだったと思いたいけど、あれから1年以上経ってるわけだし?」
明石「雷ちゃんにしても遠大佐にしても、いろいろこじらせて悪化してても不思議ではない、と」
霧島「悪化……」
411: 2021/03/25(木) 20:33:31.25 ID:yO92N9VFo
摩耶「なあ提督、あたしたちは全くの外野だけどさ、話だけ聞く限りだと、やっべえんじゃねえの? そいつ」
加古「いやー、あたしは身内だけど、ぶっちゃけやばいと思ってるよ。実際、今回出撃する前から常々、誰か早く何とかしてーって思ってたし」
提督「明石は俺と同じ顔してるからまあ察するとして」
明石「えー!?」
提督「異論はねえだろ。霧島は今の話、どう思う」
霧島「……い、いえ、私が人様の判断をしていいのかどうか悩みますが」
提督「言い淀んでるってことはろくな感想じゃねえってことだな」
霧島「!?」
提督「で、鳥海は」
鳥海「……」アタマカカエ
提督「もはやフォローの言葉もねえ、と」
鳥海「准尉さん!?」ガタッ
提督「この中で、おそらく一番遠大佐を信頼しているであろうお前が、そういう顔してる時点でもうダメだろ」
提督「思い当たる節があるから考え込んでたんだろ? お前が無意識に目を背けてたのか、意識して目を瞑っていたのかは知らねえが」
鳥海「あうぅ……」
412: 2021/03/25(木) 20:34:15.82 ID:yO92N9VFo
提督「もしかしたら、遠大佐がそういう状態だからこそ、戻って支えてやらないとって考えてたか?」
鳥海「そ、それは……」
提督「……」
鳥海「……そう、かも、しれません」
提督「そうか。そうしたいなら引き留めはしねえが……遠大佐にしても秘書艦にしても、更生させんのはくっそきっついだろうなあ」ウンザリ
朝雲「そうね……香取さんからも話を聞いたけど、すっごい大変だったみたいだし」ウンザリ
提督「まあいいや、どうせ遠大佐がどんな奴だろうと、俺には関係ねえしどうこうするつもりもねえ」
鳥海「じ、准尉さんっ!?」ガタガタッ
提督「そこ驚くところかよ? 俺がどうにかできると思ってんのか?」
明石「まあ、普通に考えたら何もできないですよね。秘書艦変えてくれ、って言って変えてもらえるかどうかはそこの提督次第ですし」
霧島「そもそも、お相手が大佐ですから司令の階級ではちょっと……進言したくてもできる立場にないと思いますが」
摩耶「おまけにうちの提督、態度も口も悪りーもんなー」
摩耶「お前の秘書艦なんとかしろとか、上から言われてもフツーにむかつかれるだろーに、こいつが言ったらどうなるかわかったもんじゃねーぞ?」
鳥海「ま、摩耶!? あなた、司令官さんに向かってなんてこと言うの!?」
提督「うん? 摩耶の言う通りだと思うが?」
鳥海「えええ……?」
413: 2021/03/25(木) 20:35:15.98 ID:yO92N9VFo
朝雲「ねえ司令、この二人はこれからどうするの?」
提督「とりあえず、本営からの情報が来るまではこの鎮守府で預からねえとな」
提督「リストに載っかってくりゃあ、ここで働くかどうかの二択だが、そうでなかったときは鳥海は戻ってもいいだろう」
提督「そのときに、加古も一緒に戻るかどうかは、加古の判断に任せるってだけの話だな」チラッ
加古「……」
提督「……?」
加古「……ぐぅ……」コクリコクリ
朝雲「寝てるーー!?」ガビーン
提督「」
霧島「」
摩耶「いや寝られんのかよ、この流れで!」
鳥海「寝ちゃうのよ、加古さんは……」ガックリ
明石「聞きしに勝るほどの図太さですねえ……」
414: 2021/03/25(木) 20:36:16.21 ID:yO92N9VFo
* 一方そのころ 本営 *
不知火「……」スタスタスタ
金剛?「……ヘイ、不知火」コソッ
不知火「? 金剛さん……?」
仁金剛「イエス、私は仁提督の秘書艦の金剛デス。あなた、墓場島の不知火デスヨネ?」
不知火「仁提督の……! よく、あの島の不知火だとお気づきになりましたね」
仁金剛「中将のオフィスから出てきたところを、こっそり追いかけてきマシタ」
不知火「そうでしたか、気付かずに申し訳ありません」
仁金剛「こちらこそ尾行みたいなコトをしてソーリーネ。部屋を出てすぐ声をかけるのも、ちょっと憚られるからネ……」
不知火「承知しております。不知火と親しくしてあらぬ噂を立てられるのは、金剛さんにしても仁提督にしても困るでしょうから」
仁金剛「……それはそうなんだケド、あの島を流刑地だとか、これから氏ぬ人間が行く島だとか……」
仁提督「関わったら自分の艦娘が轟沈したり、深海棲艦化するだとか……私が聞いた噂だけでもヒドイと思うヨ?」
不知火「立ってしまった噂を必氏に弁解しても面白がられるだけですから。それより、不知火に何か御用でしょうか」
仁金剛「イエス、私の仁提督から伝言デス。なんでも、墓場島のことを詳しく調べている人がいるらしいヨ?」ヒソヒソ
不知火「! ……どういうことですか」
415: 2021/03/25(木) 20:37:23.32 ID:yO92N9VFo
仁金剛「轟沈した艦娘を助ける方法を、熱心に聞いて回ってるみたいネ。それで墓場島の噂を聞きつけたみたいなんだケド」
仁金剛「妙に張り切ってて、あの勢いだと最悪、墓場島に乗り込んで行くかもしれないワ……!」
不知火「しかし、轟沈した艦娘を自分の鎮守府に連れ帰ることは……」
仁金剛「イエース、私もそれは知ってるし、わかってるつもりヨ? でも、あの人たちはそんなことはお構いなしみたいで……」
仁金剛「むしろ、悪評の多い墓場島から、轟沈した艦娘を助け出したら逆に評価されるんじゃないかー、とか?」
仁金剛「トンチンカンなコトを言ってたらしいカラ、墓場島の関係者に知らせないと、って、仁提督が言ってたんデス」
仁金剛「それで以前、中将と関係があると聞いて、丁度良く不知火の都合が聞けて、私に伝言を頼んだわけデース」
不知火「! それは……ありがとうございます」
仁金剛「あなたはこれから墓場島に戻るのでショウ? 提督准尉に、伝えてあげてくだサイ」ニコッ
不知火「はい……お心遣い、本当に痛み入ります」ペコリ
仁金剛「ユーアーウェルカム! ついでに料理上手な比叡と、妹思いの黒潮にも、よろしく伝えてネ!」
仁金剛「それでは私は仁提督のもとへ戻りマース! シーユー!」タタッ
不知火「……」ケイレイ
422: 2021/04/26(月) 00:58:30.88 ID:N8s463Dyo
* 数日後 墓場島鎮守府 執務室 *
提督「……つうことはなにか? 遠大佐がこの島に乗り込んで鳥海たちを連れて帰ろうとしてんのか」
不知火「はい。まだ可能性の段階ですが」
提督「やれやれ……どいつもこいつも勝手な真似しやがって」
電「雷ちゃんが一枚かんでると思うと申し訳ないのです……」(←今日の秘書艦)
提督「何度も言うが、お前が委縮する必要はねえぞ?」
電「……なのですか?」
不知火「はい、あなたに落ち度はありません」
電「……」ションボリ
提督「と言っても気に病むのがお前らなんだよなあ……いくら姉妹艦だっつっても、一度も話してなきゃ他人だろうがよ」
不知火「ところで」チラッ
武蔵「む、どうした」
筑摩「?」
不知火「いえ。筑摩さんが、伺っていたよりも顔色が良いといいますか」
423: 2021/04/26(月) 00:59:16.91 ID:N8s463Dyo
筑摩「一応、ね。浮かれてはいけないと思ってるんだけど……」
武蔵「利根と2秒ほど目を合わせても避けられなかったそうだ」
不知火「2秒、ですか……」
提督「あれで利根も努力というか、筑摩を怖いと思わないように必氏になってくれてるからな」
提督「筑摩も筑摩で利根との接触を避けるために執務室に引き籠ってるわけだが、居場所がわかってる分、利根も安心してるみたいだし」
提督「お互い我慢もこの調子で続けてもらって、そう遠くなく良い結果になってくれりゃあ御の字だ」
提督「武蔵には、出撃せずに筑摩に付き合ってもらうっていう、別の意味で我慢を強いてるところもあるがな」
武蔵「いいさ、出撃するにも資材を節約せざるを得ない現状だ。今は執務で鎮守府に貢献させてもらおう」
提督「畑仕事も頼りにされてるみたいだしな」
武蔵「ああ、いい汗をかかせてもらっている」フフッ
<シレーカーン!
提督「!」
扉の外の声「司令官、ごめんなさい! 両手がふさがってるから、扉を開けて欲しいの!」
電「この声は暁ちゃんなのです!」スクッ
424: 2021/04/26(月) 01:00:00.88 ID:N8s463Dyo
不知火「不知火が開けます」ガチャ
暁「ありがとう司令か……じゃなくて、不知火? 戻ってきてたの?」カチャカチャ
武蔵「おや、お茶の時間か?」
暁「ええ、今日は電が秘書艦だから、なにか差し入れようと思って、作ってきたの!」
暁「こっちのラスクは金剛さん、ミルクティーは比叡さんに教えてもらったのよ!」エッヘン!
筑摩「あら、美味しそう。こんなに器用な暁ちゃんは初めてだわ。電ちゃんのお姉さんはすごいわね」ニコッ
電「!」
暁「そ、そんなに褒められると、ちょっと照れちゃうわ。えへへ……ありがとう筑摩さん」
武蔵「せっかく持ってきてくれたんだ、取り分けるくらいは手伝おうじゃないか」
電「い、電も手伝うのです!」
武蔵「……なあ筑摩。姉のことで電が落ち込んでいるのに気づいてたな? 貴様もなかなか妹思いじゃないか」ヒソヒソ
筑摩「ふふ……なんのことでしょう? 私は末っ子ですよ?」ヒソヒソ
不知火「……」チラッ
提督「……」
不知火(司令が心なしか笑っているようにも見えますが……言わないほうがいいでしょうね)
425: 2021/04/26(月) 01:01:31.32 ID:N8s463Dyo
* *
武蔵「それにしてもだ」フゥ…
武蔵「こんな島だからいろいろと不自由ばかりだと思っていたが、これほど自由というか、良い意味で緊張感がないとは思わなかったな」
筑摩「そうですね……」
提督「? どういう意味だ」
武蔵「轟沈した艦娘をそのまま運用すると、やがて深海棲艦になる……という話があったな?」
提督「おう」
武蔵「その割には鎮守府内に制約らしい制約がないなと、筑摩と話をしていたんだ」
筑摩「流れ着いた轟沈艦を運用し、深海棲艦になるかを調べるという建前があるのでしたら……」
筑摩「例えば監視カメラですとか位置情報システムですとか」
提督「ああ、そういう意味か……」
筑摩「立地はともかく、設備や機能が圧倒的に足りなさすぎではないかと。この体制で本営は納得しているのでしょうか?」
提督「本営の連中がとやかく言ってこないのは、自分の発言がきっかけで余計なことに巻き込まれたくないってのあるんじゃねえかな?」
426: 2021/04/26(月) 01:02:15.82 ID:N8s463Dyo
提督「ただでさえ、俺が外と連絡とること自体を、中佐が良く思ってねえ」
提督「おそらくこの島に人を近づけさせないために、中佐が一枚も二枚も噛んでるんだろうな」
提督「俺もいたずらに中佐を刺激する動きを取って、こっちの身動きを制限するような真似はしたくねえ。準備ができるまでは大人しくしてるさ」
武蔵「なんだその準備というのは。物騒なことを考えていないだろうな!?」
提督「物騒じゃねえよ。いずれはこの島をどうにかして、艦娘たちだけの島にしたいと思ってるだけだ」
武蔵「!」
提督「治外法権と言えばいいか、領土と言えばいいか……不可侵領域みたいなものを、作ってやりたいと思ってる」
筑摩「……まるで国家ですね」
提督「!」
暁「……司令官?」
提督「そうだな……その形が、今のところは理想だな」
武蔵「おい、本気か!?」
提督「ああ、悪くねえな。悪くねえ……!」ニヤァァ
電「司令官さんの笑顔が相変わらず悪人みたいなのです……」タラリ
427: 2021/04/26(月) 01:03:00.47 ID:N8s463Dyo
暁「暁たちのためなのはわかるけど、司令官はもっと普通に笑ったりできないの?」タラリ
提督「うん? 俺みたいなのがお前らみたいににこにこしてたら気持ち悪くねえか?」
暁「そんなことないわ、大人だって笑ってた方がいいわよ。金剛さんや比叡さんだって、にこにこしてるでしょ?」
提督「まあそうだけどよ、俺にはあいつらほど可愛げはねえぞ? それに、不知火だって滅多に笑わねえよな?」
電「そういえばそうなのです」
不知火「いえ、不知火は笑いたいときには笑いますので、どうぞお気遣いなく」
暁「……そういえば……」
提督「どうした?」
暁「扶桑さんって、ここへ来たばかりのときは全然笑わなかったんだけど、今はずっと笑顔よね? 笑ってないときがないくらい……」
提督「あー……あいつは前の鎮守府の扱いが非道かったからな。その反動じゃねえかな?」
暁「司令官は理由を知ってるの?」
提督「ああ。知りたいんなら扶桑を呼ぶぞ?」
暁「そ、そこまでしなくていいわ!?」
428: 2021/04/26(月) 01:03:46.10 ID:N8s463Dyo
武蔵「提督よ、ここでお前が話せばそれまでじゃないか?」
提督「この手の話は本人不在のところで話したくねえんだよ。当人のあずかり知らねえところで、俺がべらべら喋ってたら気分悪いだろ」
武蔵「しかし、利根のときは」
提督「利根は話が別だ! 思い出させたらぶっ倒れるような話、本人にさせられるかよ!?」
武蔵「ぐ……」
提督「正直、利根の過去はできれば誰にも知られずに、触れられなければいいと思ってたんだ」
提督「だが、事情を知らないがために利根があんな目に遭うなら、知ってる奴が……っつうか、この場合俺だよな。俺がどうにかするしかねえ」
提督「利根自身の名誉もある。ことがことだけに、あんまりおおごとにしたくなかったんだがな」
筑摩「……」ウツムキ
電「司令官さん以外には、このことを知ってる人は誰だったのですか?」
提督「来た当初からその辺の事情を知ってたのは、確か朝潮だけだったはずだ。その後、長門にも軽く話して……」
提督「明石と如月にも話したんだが、それはそれからもう少したってから……利根がだいぶ良くなってからだな」
429: 2021/04/26(月) 01:04:30.98 ID:N8s463Dyo
暁「……ねえ、司令官? もしかしてその話、利根さんが入渠しないのと関係ある?」
提督「……」
暁「……ふーん、そう。そういうことなの」ウナヅキ
電「あ、暁ちゃん? どうかしたのですか?」
武蔵「おい、どういう意味だ」
暁「司令官がそういう顔をして押し黙ったってことは、当たってるけど答えたくない、ってことでしょ?」
提督「そういうこった。ったく、お前らほんとに察しが良くて助かるぜ」ハァ…
武蔵「おい、まさか……」
提督「言うなよ武蔵。利根がああなったのは、『ああなりそうになった』ってことだぞ?」
武蔵「で、では、利根は……!!」ワナワナ
提督「それ以上話したいんなら明石んところに行け。どんな顔されるかは知らねえがな」
武蔵「……!!」
筑摩「なんて……なんてこと……!!」ボロボロボロボロ
電「筑摩さん……!」
430: 2021/04/26(月) 01:05:15.71 ID:N8s463Dyo
提督「……」
暁「……食器、下げるわね」
不知火「手伝います」
カチャカチャ…
提督「……暁は、筑摩に声をかけないのか?」
暁「それはもう電がしているもの。駆逐艦に寄ってたかって励まされても、ちょっとね……?」
提督「なるほど。お前も声をかけるタイプだと思ってたが、それもそうか」
暁「司令官は声をかけないタイプよね?」
提督「ああ。俺が言っても逆効果だからな」
不知火「……当事者にしかわからない感情に口を出したくない、でしたか」
暁「ああ、そういうこと。司令官らしいわね」
提督「……」
431: 2021/04/26(月) 01:06:00.72 ID:N8s463Dyo
今回はここまで。
だいたい投下できないときは、話の結末に悩んでいるか、
書いて読み直して気に入らなくて書き直しているか、どちらかです。
ご容赦願いたく。
だいたい投下できないときは、話の結末に悩んでいるか、
書いて読み直して気に入らなくて書き直しているか、どちらかです。
ご容赦願いたく。
435: 2021/05/09(日) 10:21:47.41 ID:QzRUn/eeo
* 鎮守府内 会議室 *
(会議室内に、提督、不知火、朧、若葉、朝潮、吹雪、電、神通、那珂が集まっている)
提督「時間だが……古鷹がいねえな?」
那珂「朝雲ちゃんに呼ばれてるから、少し遅れてくるって言ってましたー!」
提督「そうか……まあ古鷹は接触させる気ねえから、後でもいいか」
朧「? 何の話ですか?」
提督「不知火からの情報だ。この島の鎮守府に、テレビの撮影班が入るかもしれねえ、って情報があってな」
吹雪「テレビですか!?」
提督「はしゃいでんじゃねえよ。俺はこの島のことをテレビに映す気はねえぞ」
吹雪「え?」
提督「お前たちに集まってもらったのは、この島の映像や音声が外に出るのを阻止してもらうためだ」
朝潮「阻止、ですか?」
若葉「……那珂さんにそれをさせるのか」チラッ
那珂「!」
提督「ああ、だから最初に那珂には謝らないといけねえ」
436: 2021/05/09(日) 10:22:47.01 ID:QzRUn/eeo
提督「テレビのことを知ってそうだからこそ協力を仰ぎたいわけだが、この話は那珂の望みとは真逆のはずだからな」
若葉「提督が、テレビに映ることを拒否する理由はなんだ?」
提督「とにかく目立ちたくねえってだけだ。俺はこの島の存在自体を世間から隠し通したい」
提督「ま、俺の考え関係なく、ただでさえ余所から蛇蝎のごとく嫌われてる鎮守府がテレビに出てちやほやされたら、面白くねえと思う連中が大多数のはずだ」
提督「万が一があったら、くっそつまんねえ理由で因縁つけられて陰湿な嫌がらせを受けるのは目に見えてる」
神通「でしたら、そのテレビ局が入ってこないようにするのが一番なんでしょうが……」
提督「それが難しい。この前、島に流れ着いてきた加古と鳥海。あいつらの轟沈の原因になった無理な指示を飛ばしたのが、芸能人だって話でな」
提督「その汚名を返上したいんだか何だかで、調べてるうちにこの島のことを嗅ぎつけたらしい。だよな不知火?」
不知火「はい。仁提督の秘書艦の金剛さんから、そのように伺っています」
提督「仁提督がそうだったように、そこがどういう場所か知らない奴は、こっちの都合なんか知ったこっちゃねえし、何をしてくるかもわからねえ」
神通「留提督……でしたか。彼が、自分が正しいと思っているのなら、私たちが受け入れられない要求をしてくる可能性もあるわけですね?」
提督「ああ。だからこうやって、心構えだけでもしておきたくて、集まってもらったわけだ」
電「その人は、轟沈した艦娘がここ以外では運用できないことを知らないのですか……?」
提督「知ってるはずっつうか、調べてりゃ嫌でも知ると思うが……」
437: 2021/05/09(日) 10:23:32.52 ID:QzRUn/eeo
不知火「むしろ、轟沈した艦娘をこの島から助け出すことが良いことであると思い込んでいる可能性があります」
不知火「金剛さんも、あのままでは島に乗り込みかねないと仰っていました」
電「……それってもしかして、司令官さんが悪者みたいな扱いになってませんか?」
朧「あー、ありそう……」
提督「そういうのは慣れてるから気にすんな」
吹雪「慣れちゃだめですよ!?」
提督「仮に俺が正しかろうと、奴らがこの島に来る時は、鳥海や加古を連れ戻しに来る時だ」
提督「否応なしにやりあう羽目になるんだろうな……面倒臭え」ハァ
提督「それでだ、少し脱線したが、那珂にはそういう意味で我慢を強いることになる……すまない」ペコリ
那珂「……!」
提督「俺は、この島にやってくるテレビ局の連中を、どんな手を使ってでも追い返すつもりでいる」
提督「その時にお前がいて、追い出すのに加担したように見られたんじゃ、お前が将来テレビに出て有名になろうって時にマイナスになるだろう」
提督「だから、この島に那珂がいること自体、悟られたくない。この島では隠れていて欲しいんだ」
電「司令官さん……」
438: 2021/05/09(日) 10:24:17.50 ID:QzRUn/eeo
提督「もっと言えば、那珂がこの島にいること自体、那珂にとってはマイナスだと思ってる」
那珂「え……? ど、どういう意味……!?」
提督「だってなあ、この島に関わっただけで本営にいい顔をされてねえんだぞ?」
提督「それだけじゃねえ。那珂は、この島の鎮守府に在籍してただけじゃなく、轟沈してこの島に流れ着いてる」
提督「メディアに出たいって望みがあるなら、このふたつは絶対に秘密にして隠し通すべきだと、俺は思ってるんだ」
提督「できることなら余所の鎮守府に移籍して、そこの鎮守府出身ってことで出自を偽るのも必要悪じゃねえかと思ってる」
全員「「……!」」
神通「この鎮守府とはかかわりがないように見せたい、と……?」
提督「そういうことだ。俺は俺が日陰者であることを望んでいるが、お前たちはその限りじゃないだろう」
提督「朧や吹雪みたいに轟沈したことがわかってるとさすがに厳しいが、那珂は所属すらわかってねえし、誤魔化そうと思えば……」
那珂「でも……でも、それじゃ!」
提督「!」
那珂「この鎮守府でお世話になったみんなを……応援してくれたみんなを、見捨てるようなこと、できないよ……!!」
提督「……」
439: 2021/05/09(日) 10:25:02.30 ID:QzRUn/eeo
那珂「ファンやスタッフを大事にするのが、那珂ちゃんが目指すアイドルだもん……!」
那珂「ステージも作ってもらって、そのステージに立つ前から、拍手も、応援や励ましもたくさんもらって……!」
那珂「こんなにお世話になったのに、この島の思い出を捨てちゃうようなことしたら、自分が許せないよ……!」
提督「そうか。そりゃあ……困ったな」
神通(困ってるようには見えませんね……)
不知火(微妙に嬉しそうですね……)
提督「俺はテレビ局の連中を陥れようとしてる。奴等が来た時に那珂がいるとは思われないようにしねえとな」
朝潮「ということは、那珂さんの存在を知られないようにすることも任務の一つですね!」
提督「ああ、そうだ」
吹雪「それじゃ、あとはどうやって追い返すか、ですね……」
神通「提督、今回の任務はどこまでを想定していますか?」
提督「俺はもう上陸されること前提で考えてた。この手の連中はこっちの静止なんざお構いなしだろうしな」
電「そういえば、仁提督のときも勝手に上陸されてたのです」
朝潮「霞からはむこうの長門さんに追いかけられたと聞いてますが……それも連絡なしだったと?」
朧「うん。事前連絡なしで来たらしいよ?」
朝潮「えぇ……」
440: 2021/05/09(日) 10:25:47.58 ID:QzRUn/eeo
提督「ともかく、あいつらが勝手に鎮守府内を歩き回る事態は避けたい。まずは戦艦を並べて上陸を拒否するつもりだ」
提督「で、万が一島に入られた場合なんだが、若葉、朝潮、朧には、奴らが変な動きをしないか取り囲んで見張ってて欲しい」
朝潮「!」
若葉「変な動き?」
提督「ああ。一番はなにより盗撮されたくねえ」
提督「最近の撮影機器は小さいからな、手元でなにかを動かしたり、もぞもぞしてるようなことがあれば、すぐに俺に教えてくれ」
提督「肩から下げたカバンの向きをわざとらしく動かしたり、ずっと腰に手を当ててたりするやつも要注意だ。カメラを仕込んでる可能性がある」
神通「提督、彼女たちが選ばれた理由を伺っても?」
提督「完全に俺の独断と偏見だが、テレビカメラを向けられても愛想を振りまかないことができるか、だな」
提督「潮みたいに恥ずかしがったり、暁みたいに愛想がよくても付け込まれるからな。無視と無関心があいつらの一番困る反応だ」
朧「笑わないようにしないといけないんですね?」
提督「どんなふうに映されるかわかんねえからな。ちょっと笑っただけで気があるみたいな壮絶勘違い編集されても困る」
提督「戦艦に頼もうかとも思ったが、霧島はここへきて日が浅いし遠慮がち、長門以外はちょっと愛想が良すぎる」
吹雪「山城さんもですか?」
提督「あいつが一番愛想いいだろ。自分からネタ振っていじられに来てんだぞ、あいつ」
朧「多分、そんな意図ないと思いますけど……」
441: 2021/05/09(日) 10:26:32.22 ID:QzRUn/eeo
提督「ともかく。若葉、朝潮、朧はその撮影グループを取り囲んで監視。で、その後ろをさらに神通が隠れて見張るのがいいだろうな」
提督「俺からの指示がない限りは、そのグループから何を訊かれても無視。任務に集中してくれ」
若葉「ふむ……わかった、任せてくれ」
提督「それから電と吹雪、あとで古鷹にも頼むが、お前たちは、あいつらの行動した場所に変なものが残ってないかを調べて欲しい」
電「へんなもの……ですか?」
提督「中佐のいる鎮守府にもマスコミが入ったんだが、ご丁寧に盗聴器を仕掛けていきやがったそうだ」
吹雪「盗聴器!?」
提督「普段から掃除してる古鷹なら、見たことのない置物が増えたり、コンセントに知らない機械が刺さってたりすれば気付くだろ?」
提督「電と吹雪も、この島の艦娘の中では古参の方だ。壁に変な穴が開いてないかとか、少しでも違和感があったらすぐ教えてくれ」
電「か、考え過ぎではないですか……?」
提督「んなもん石橋叩き割るくらいでいいんだよ」
吹雪「割ったら駄目じゃないですか!?」ガーン
提督「ぶっちゃけ奴らの渡る橋は、連中もろとももれなく叩き落としておきたいくらいだ」
吹雪「しれーかーん!?」ガビーン
442: 2021/05/09(日) 10:27:34.94 ID:QzRUn/eeo
提督「で、那珂にも協力を仰ぎたいんだが……」
那珂「は、はいっ!」
提督「那珂は俺たちを含めて、俯瞰できる場所から奴らを監視してくれ」
提督「もしかしたら、あいつらが勝手に他の場所に行って、そこから撮影を始めるかもしれねえ」
若葉「別動隊が出ると?」
提督「ああ、だかそれは俺が認めねえ。歩くときは一か所に固まって、神通たちの目が届く範囲にいてもらう」
那珂「うーん、それ、できるかなあ……?」
提督「? やっぱり問題あるのか?」
那珂「野外ロケするときって、ロケしている場所がどんなところかを見せる必要があるんです。周囲の景色が見えるとよくわかるでしょ?」
那珂「まとまって撮影しているグループから離れて、引いた風景を撮影する班も、いるはずなんですよー」
若葉「なるほど……」
那珂「そういうわけだし、見張るんなら見張りグループを複数作らないといけなくないかなー?」
提督「ちっ、くっそ面倒臭えな。撮影できる連中が複数いることを想定しなきゃなんねえのかよ……」
吹雪「それがだめなら、強制的に行動を制限するしかないですよね」
朧「でも提督は、向こうがアタシたちの指示に従わないことを危惧してるわけでしょ?」
朝潮「私たちが見張るとしても、相手が大人数では難しいかと……」
443: 2021/05/09(日) 10:28:32.37 ID:QzRUn/eeo
提督「そうだな……やっぱ戦艦たちも呼ぶか? それか、指示した場所からはみ出そうようなら、戦艦に強制的に海に投げ落としてもらうか」
若葉「!?」ギョッ
朝潮「!?」ギョッ
那珂「!?」ギョッ
朧「提督……本気ですか?」
提督「おうよ。むしろそっちのほうがいいかもしれねえな、撮影機器もついでにおじゃんにできるかもしれねえ」ニィ
那珂「提督さんってば、テレビを目の敵にしすぎだと思うんだけど……」オロオロ
提督「俺は単純に、この島のことを放っておいて欲しいだけだよ。テレビに映るなんてもってのほかだ」
提督「ん、そうだ、今からでも遅くねえ。中佐にも介入してもらって、奴らの妨害を依頼するか」ニタァ
若葉「」
朝潮「」
提督「俺がテレビで余計なことを言えば、一番困るのは中佐だ。奴ならことを大きくできそうだしなあ……!」ケッケッケッ
電「司令官さんがいつになく悪い顔をしているのです……」タラリ
若葉「だ、大丈夫なのかこの男は……?」
吹雪「もともとちょっと悪人っぽい顔してるけど、ここまで悪い顔は初めて見るかなあ……」
神通「中佐に迷惑をかけることができるからですね……気持ちはわかりますけど」
不知火「ああ、なるほど……納得です」
444: 2021/05/09(日) 10:29:17.26 ID:QzRUn/eeo
朝潮「」カチーン
朧「って、朝潮が固まったまま動かないんだけど……」
神通「あの、提督? あまり悪い顔をしますと、朝潮さんが認識を拒絶してフリーズしてしまいますので……」
提督「あぁ? こいつまだ俺を善人だと思ってんのか? おい朝潮しっかりしろ! 現実見ろ!」
朝潮「」チキチキチキ チーン
朝潮「はっ!? し、失礼しました司令官!」
朝潮「この朝潮! 司令官のためにならどんな悪事にも手を染める覚悟です!」ビシッ!
提督「だーからそうじゃねえって言ってんだろどうしてそう極端なんだおめーはよおおお!」アタマガシッ
朝潮「し、しれいいい痛い痛い痛いいぎゃあああああ!!?」メキメキメキメキ
吹雪「朝潮ちゃんから、今まで聞いたことないような悲鳴が!?」
那珂「提督さん手加減してあげてー!?」
提督「してるわ手加減くらい! 加減が出来てねえのは朝潮のほうだろどう見ても!」
朝潮「ひいい……この世のものとは思えないくらい痛いです司令官……!」ナミダメ
提督「お前がいろいろ取っ違えてるから、こうなるんじゃねえか。俺は朝潮に悪い事をしろなんて言ってねえぞ」
朝潮「で、ですが、司令官はいつも私たちのために、矢面に立って身を粉にしてくださっています!」
朝潮「その司令官のお役に立てることはこの朝潮にとって喜びです! ですから……」
提督「ったく、お前も面倒臭え奴だな」アタマガリガリ
445: 2021/05/09(日) 10:30:18.22 ID:QzRUn/eeo
提督「俺はお前らに気分が悪くなるようなことをさせたかねえんだよ。そういうのは全部俺に押し付けとけ」
朝潮「……」シュン…
吹雪「ほんっと、司令官は突き放すふりをして過保護なんだから!」
朧「清濁併せ呑む、って言葉がありますけど、濁ってる方は提督が率先して呑み尽くしに行ってますよね」
提督「ふん……」
朝潮「……司令官。朝潮は、司令官のお力になることを許していただけないのでしょうか……」ポロポロ…
提督「……」ピク
若葉「提督。いいのか、このまま泣かせてて」
提督「……」ムッ…
朝潮「あ、朝潮は、司令官に助けていただいた御恩があります。だからこそ、司令官の苦境ならば、私も……ぐすっ、ぐすっ」
吹雪「泣ーかした、泣ーかした」ボソッ
朧「かーすみーに言ってやろ」ボソッ
提督「ぅっだああああ! 茶化してんじゃねえよ! くそ! ああくそ!」ウガー!
提督「おい朝潮っ!」
朝潮「は、はい!」ビクッ
提督「いいか!? まず、信頼してなきゃここには呼んでねえ!」
朝潮「!!」
446: 2021/05/09(日) 10:31:02.86 ID:QzRUn/eeo
提督「真面目といえば真っ先にお前が来るくらいにはお前のことを評価してるし」
提督「これからやってもらう任務も人間のためじゃなく、この島のための任務だ。ぶっちゃけ人と関わりたくない俺の我儘だ」
朝潮「……!」
提督「俺一人じゃあ手に負えない。だからお前にも力になってもらおうって話だ。嫌か?」
朝潮「い、いえ! そんなことはありません!!」
提督「協力してくれるなら、頼みたい。大丈夫か?」
朝潮「お任せください! 朝潮は、これからも司令官に尽くす所存です!」ビシッ!
若葉「……なんだか愛の告白みたいな所信表明だな?」
朝潮「!?」カオマッカ
提督「若葉。お前も変なこと言うな」セキメン
若葉「フッ……これは失礼した」
電「痴話げんかはそのくらいにして、とっとと話を進めるのです」チッ
朝潮「!?」ビクッ
那珂「!?」ビクッ
若葉(なんだこのプレッシャーは!?)ビクッ
吹雪(電ちゃんが舌打ち!?)ギョッ
朧(電も感化されてるっていうか、すれてきてるのかなあ)
447: 2021/05/09(日) 10:31:47.20 ID:QzRUn/eeo
提督「だから茶化すなっつってんだろが……つうか、任務自体はさっき説明したのがすべてなんだがな」
那珂「この島の情報を持ち帰らせるな、ってことですね?」
提督「ああ。俺は、この島の存在は極力世間に公表したくない。海軍にとっても扱いに困るだろうからな」
若葉「海軍もなのか?」
提督「俺の個人的な事情だけでなく、本営も少なからずこの島には関わりたくないみたいなんだ」
若葉「それはやはり、轟沈した艦娘が生活しているからか?」
提督「一番はそこだと思うが……本営でこの島の話題を出すと嫌な顔をされるらしいぞ? L大尉がそう言っていたんだ」
不知火「それに関してですが……」スッ
電「不知火ちゃん?」
不知火「……あまり望ましくない言い方ですが、この島自体が、その……縁起が悪い、と言われているようなのです」
不知火「聞くところによれば、流刑地呼ばわりもあるらしく……島と関係すること自体、忌避されているとも言えましょう」
提督「流刑地ね。へっ、いいじゃねえか、そういう噂があるんなら、ますます人も寄ってこねえ。いい気分はしねえけどな」
若葉「なるほど。それなら確かに、若葉もそうだ」
若葉「止提督は特に世間体を気にしていたから、命令違反した若葉たちを解体以外の方法で抹消したかったと考えれば、合点がいく」
448: 2021/05/09(日) 10:32:32.07 ID:QzRUn/eeo
朧「それって、朧たちもそういう扱いなのかな……」ムスッ
提督「お前たちは事情が違うだろ……っつうか、悪いのは前の鎮守府の提督じゃねえか」
提督「けど、まあ、そうだな。そういうの関係なく、一緒くたにされてる感じはするな」チッ
提督「気分は悪いが、それで今まで奴らからの干渉がないことを良しとしてきたのも、まあ、俺だからな……」
吹雪「で、でも、そうしないと私たちだって、処分されてたかもしれないんですから!」
朝潮「そうです! 司令官の判断あればこそ、私たちが活動できているんです!」
提督「……」
不知火「司令。僭越ながら、今はこれからやってくるであろう敵に備えるのが最優先ではないでしょうか」
提督「……ああ。それもそうだな。そっちを悩むのは後にするか……」フー
提督「とりあえず今日のところは解散だ。電と吹雪はあとでまた来てくれ、古鷹と調整して話させてもらうからよ」
吹雪「はいっ!」
電「了解なのです」
ゾロゾロ…
提督「ああ、そうだ、電」
電「はい?」クルリ
449: 2021/05/09(日) 10:33:17.68 ID:QzRUn/eeo
提督「ちょっといいか?」テマネキ
電「な、なんでしょう?」
提督「……全員行ったな。いや、お前が舌打ちなんて珍しすぎてな」
電「!」
提督「何かあったのか?」ジッ
電「な、なんでもないのです!」ダッ
提督「……そういう奴ほど、なにか抱えてんだよな。やれやれ……」
電「……」
電(電は、司令官さんのお役に立ててるのでしょうか)
電(司令官さんは、信頼してなきゃここに呼んでないと言いましたけど……)
電(電も、朝潮ちゃんのように、ちゃんと気持ちを伝えられれば……)
電「……」
電(B提督鎮守府で、電を初期艦に選んで貰ったとき、一番お役に立てるように、誓ったのに……)
電(……それすら、叶わず……)
電「……」
454: 2021/06/06(日) 21:57:49.97 ID:Fa4j/EEho
* 北東の砂浜 *
霞「なによ、また一人でぐじぐじ悩み事?」
提督「まあな」
霞「まあな、って……あんたねえ」ハァ
霞「……朧と吹雪から聞いたわよ。朝潮姉のことと、那珂さんのこと」
提督「そうか。朝潮はまあともかく……那珂のことは、どうにもうまくいかなくてな」
提督「あちらを立てればこちらが立たねえ。まったく、世の中はうまくできてやがんな、ってなぁ」
霞「当たり前じゃない、あんたは欲張り過ぎなのよ。あれもやってこれもやって、それをあんた一人で考えて」
霞「三人寄れば文殊の知恵、って、朧も言ってたわよ。もう少し誰かを頼ったらどうなのよ!」
提督「俺は楽をしたいだけのに、お前らに頼るのはどうなんだ?」
提督「今回の話だって俺の我儘だからな。これでも目いっぱい頼りにしてるつもりだぜ」
霞「……ふーん、私は頼りにならないってわけ?」
提督「頼れるか、って意味では頼りになる方だと思ってるさ」
提督「ただ、今回の相手は無視しなきゃいけねえんだよ。一言物申さずにはいられないお前にゃ向かねえなって判断しただけだ」
455: 2021/06/06(日) 21:58:35.42 ID:Fa4j/EEho
霞「はぁ……わかったわよ。あんたがそこまで言うなら、従うわ」
提督「そうしてもらえると助かる。ついでに、今回手伝いを頼んだ連中には徹底して無視しろって伝えてるんだが、お前もできるか?」
霞「いいわよ。どうせ言っても聞く耳持たない相手なら、最初から相手にしないほうがいいわね」
霞「でも、手助けがいるんなら、黙ってないで私たちに言いなさい。いいわね?」
提督「ああ。また蹴落とされたくねえしな」
霞「っ! か、カナヅチ相手に、そんなことするわけないでしょ!? バッカじゃないの!?」
提督「……悪かったよ、そんなに怒んな」
霞「だいたい! 泳げない自覚があるんなら、海辺にぼーっと突っ立ってんじゃないわよ! 波に掻っ攫われたいの!?」
提督「……波に、か……」
霞「? ちょっと!?」
提督「……ん、ああ、悪い。ぼーっとしてた」
霞「な……何やってんのよもう! 大丈夫なの!?」
提督「ああ……海に落ちたときのことを思い出してな」
456: 2021/06/06(日) 21:59:20.86 ID:Fa4j/EEho
提督「なぜかと言われたら説明できねえが、海そのものは嫌いじゃなかったんだ。不思議と、落ち着くっつうか……」
提督「海の中に、沈んでいく時も……そう……」
提督「……」
霞「ちょっ……しっかりしなさいよこのクズ!!」ハライゴシ
提督「うお!?」グイッ
ドシャッ
霞「……ったく! 頭使いすぎて、自分が疲れてんのに気付いてないんじゃないの!?」
霞「私たちに無理するなって言ってるんだから、艦隊の指揮を執ってるあんたこそ実践して見せなさいよね!」
提督「……わかったよ。確かに呆けてる場合じゃねえしな」ムクッ
霞「ったく、もう……話を変えるけど。あんた、好きな食べ物ってある?」
提督「あん?」
霞「疲れてるみたいだから気を使ってあげてるのよ。少しは察しなさいよね、バカ」
提督「……」
霞「で? 何が好きなのよ」
提督「……悪いが、ぱっと思い付かねえな。これと言って、好きなもの……」
457: 2021/06/06(日) 22:00:05.02 ID:Fa4j/EEho
霞「そう。なら質問を変えるわ、食べたいものってある?」
提督「……んー、そうだな」
霞「……」
提督「豚レバーの竜田揚げ」
霞「レバー?」
提督「最近食ってねえな、と思ってな。久々にそういうのも食いてえな、と思っただけだ」
霞「ふぅん……苦手な人も多いって聞くけど、あんたは違うのね」
提督「好き嫌いは別にして、スーパーでバイトしてた時に売れ残ってたのを安く買ってたんだ。まあまあうまかった記憶があるがなあ?」
提督「そういやモロヘイヤとかも一時期流行ったんだが、あれも調理方法がわからなくて売れ残って買わされたりしたな」
霞「ああ、あれね……どうやって食べてたの?」
提督「ネギと紫蘇と茹でたモロヘイヤ千切りにしてめんつゆに入れて、そうめん食ってた」
霞「よく考えるわね、そんなの」
提督「なんかの雑誌で見たんだ。大体の料理の知識は本からだな」
458: 2021/06/06(日) 22:00:50.22 ID:Fa4j/EEho
霞「ふーん……じゃ、じゃあ、逆に苦手なものってなによ?」
提督「あー、馬鹿みたいに唐辛子入れたカレーとか、胡椒の味しかしねえラーメンとか、下が見えないくらいマヨネーズかけたどんぶり飯とか……」
提督「一つの器に、どばーっとひとつの調味料だけを入れたよーなのは理解できねえ。薄味のが好みだし、激辛とか激甘とかは食う気しねえな」
霞(……つくづくここに流れ着いた比叡さんがあの比叡さんで良かったわ)
提督「あとはナントカの踊り食いとか、芋虫を食えとか、そういうゲテモノもパスだな。せめて食える見た目にはしてほしいぜ」
霞「なるほどね……よくわかったわ」
提督「それはそれとして、肉だって貴重なのに、レバーなんて保存のきかねえもん、わざわざこんな離島に送ってくれるかね」
霞「そんなの、聞いてみなきゃわからないでしょ! 聞く前から諦めるなんて、情けないと思わないの!?」
提督「贅沢が絡む話だからな。俺も向こうには頼りたくないし、期待はしないほうが気楽だぜ」
提督「それがなくても、釣り人は増えたし、伊8が海底の海産物とってきてくれるようになったから、献立もだんだん豪華になってるじゃねえか」
提督「お前たちの料理の腕も上がってるし、これ以上の贅沢を言っちゃあ罰が当たるだろ」
霞「……ふ、ふん! あんたはもう少し欲を出したらいいのよ! ったくもう!」プイッ
提督「欲張りだの欲を出せだの、さっきと言ってることがあべこべだな」ボソッ
霞「何か言った!?」ギロリ
提督「何も?」
459: 2021/06/06(日) 22:01:50.74 ID:Fa4j/EEho
* それから数日後 執務室 *
鳥海「准尉さん、申請用の書類の確認、終わりました」
提督「ご苦労さん、っと……悪いな、手伝ってもらって」
鳥海「いえ、お世話になっていますので」ニコ
潮「わぁ……字が綺麗……!」
提督「これで摩耶と同じ高雄型だからなあ……口の悪いあいつとは大違いだ」チラッ
加古「ふわ~ぁ……」ゴロゴロ
提督「で、ずっとソファでごろごろしてるあいつが古鷹と同型っつうのも、なんつうか、なあ……」
潮「古鷹さん、いつもお掃除してる印象ありますから、対照的ですよね……」
提督「働く奴とだらける奴、元気な奴とお淑やかな奴ってことで、世の中どっかでバランス取れてんのかねえ……」
扉<コンコンコン
武蔵「戻ったぞ」チャッ
筑摩「提督、こちらは明石さんから今月の収支報告です」
提督「おう、ご苦労さん。潮、数字チェック手伝ってくれ」
潮「は、はい!」
460: 2021/06/06(日) 22:02:35.12 ID:Fa4j/EEho
武蔵「……おい、加古」
加古「ふぁい……?」ムニャ
武蔵「貴様、本当に古鷹の妹か?」
加古「うん、そーだよー? 古鷹型の2番艦、加古ってんだー」ムニャー
武蔵「先日の砲撃演習では高得点を叩きだしたと聞いているが……これでまともに戦えているのか?」
鳥海「驚かれるのも無理はないと思いますが、これでも加古さんは遠大佐の鎮守府では五指に入る実力者ですよ?」
筑摩「そ、そうなんですか?」
鳥海「はい、海の上ではギアが入るといいますか、潜水艦相手でさえなければ、だいたい任せられます」
鳥海「その分……陸の上では、こうなんです」
武蔵「なるほど。それでは、加古を誘ってまた演習しに行くか?」
加古「うん、また明日ねえ~」ゴロゴロ
武蔵「……」
鳥海「その、腰が重いのもたまにキズでして……」
461: 2021/06/06(日) 22:03:34.96 ID:Fa4j/EEho
扉<コンコン
摩耶「よっ! 邪魔するぜ!」ガチャー
鳥海「ま、摩耶!? 准尉さんにそんな挨拶、失礼じゃないの!?」
摩耶「あん? いつもこんな感じだぞ? ノックだってしたし、あいつもこれでいいって言ってるし」
鳥海「……」アタマカカエ
摩耶「そんなことより、加古借りてっていいか?」
加古「んあ~?」ムクッ
摩耶「いやあ、この前一緒に出撃した時、お前すごかったよなあ! また一緒に出よーぜー!」
加古「んー、そのうちねえ~」
摩耶「そのうちぃ? 今見せてくれよ、今ー!」ペシペシ
摩耶「おーい、提督からも言ってやってくれよー、加古に出撃してくれってさぁ」
鳥海「摩耶っっ!?」
武蔵「提督なら書類の数字を確認中だ。少し待ってやれ」
摩耶「そっか、んじゃ仕方ねえな」
462: 2021/06/06(日) 22:04:34.99 ID:Fa4j/EEho
鳥海「武蔵さんも摩耶の態度は諫めないんですか」タラリ
武蔵「提督が良いと言っている以上、私が余計な気を回す必要もあるまいよ」
鳥海「……摩耶、あなた、よくこれまで解体されないで来たわね……」
摩耶「まー、あたしもここへ来て日が浅いんだけどな。前の鎮守府だと、いっつも霧島さんに助けられてたっけなあ」
鳥海「え」ヒキッ
摩耶「しょーがねーだろー!? C提督は、霧島さんの手柄をことごとく否定するんだぜ!?」
摩耶「てめーの気に入った艦娘ばっかり贔屓してデレデレしやがって! あんなくそ野郎に頭下げてられっかよ、くそが!」
鳥海「摩耶ああああ!?」プルプル
筑摩「あの……摩耶さんは、どうしてこの鎮守府に来たんですか?」
摩耶「あれ、話してなかったっけか。あたしは命令違反扱いでここに送られたんだよ」
武蔵「それは私も初耳だぞ……?」
鳥海「なんでも、姫級の深海棲艦と交戦中、攻撃するなって指示に背いたからだ、って、摩耶に聞きましたけど……」
筑摩「それは、作戦とかそういう意図ではなく……?」
摩耶「それを作戦って言うなら、手柄を他の艦隊に取ってもらうための作戦だろーな」
摩耶「今思えばあの指示って、あたしや霧島さんをわざと沈めるつもりだったんじゃねーかなー」
463: 2021/06/06(日) 22:05:21.86 ID:Fa4j/EEho
鳥海「私には、摩耶のその態度に問題があるとしか思えないんだけど……」
摩耶「だーかーらー、そいつは元の鎮守府にいるC提督が悪いんだよ。霧島さんのこと、ろくに見ないで文句ばかり言いやがって、くそが!」
鳥海「摩耶……せめてその言葉遣いくらいは、なんとかならないの?」ガックリ
摩耶「それは提督にも言ってやれよ。なんであたしにばっかり言うんだよ、不公平だろー?」
鳥海「……」アタマカカエ
武蔵「なあ提督? 貴様はその言葉遣いを直す気はないのか?」
提督「この齢で今更この性格を矯正すんのは無理だろ……っと、これでよし。潮、大淀の承認貰う準備をしといてくれ」
潮「は、はいっ!」
提督「で、何の話だっけか?」
摩耶「ん? ああ、加古を貸してくれって話だけど」
鳥海「それより前に、准尉さんへの言葉遣いの話でしょ……」
提督「言葉遣い? そんなの別に構やしねえよ」
摩耶「……」カチン
潮「て、提督! 言い方……!!」ハラハラ
464: 2021/06/06(日) 22:06:04.94 ID:Fa4j/EEho
摩耶「おい提督、お前、あたしのことどうでもいいと思ってんのか?」
提督「んん? なんだそりゃ?」
潮「あわわ……!」
筑摩「あの……提督は、艦娘にはできる限り好きにさせているわけですよね? 摩耶さんの言動にも言及はしないということですか?」
提督「ああ。誰かが被害を被ってるわけじゃなきゃあ、摩耶がどう振る舞おうと俺は構わねえよ」
摩耶「な、なんだよ、そういうことかよ……」
提督「まあ、それを鳥海が不快に思うんなら、他にもそう思う奴を集めて、当事者間で話し合ってくれってだけだ」
武蔵「ふむ……」
提督「鳥海みたいに礼儀正しくしろって言い分もわからなくもねえが、摩耶が無理だっつうんなら無理強いはしねえさ」
提督「俺も礼儀正しくしろって言われたら、面倒臭えから嫌だって言うだろうしなあ」
摩耶「めんどくせーのかよ!?」
提督「面倒臭えだろ。一応、中将とかと話すときとかなら、敬語使うくらいの最低限の礼儀はわきまえてるつもりだけどな」
筑摩「一応ですか……」
提督「そうでないなら、いくら取り繕ってもどうせそのうち襤褸が出るんだ。だったら最初から曝け出してた方が楽だろ?」
465: 2021/06/06(日) 22:06:50.92 ID:Fa4j/EEho
提督「それに、ぶっちゃけここが自分の家みてえなもんだしな。いい子ちゃんのふりして生活なんてやってらんねえ」
提督「とはいえ、いくら自宅と同じでも、だらしない恰好でうろつかないとか、そういう程度の気遣いはしてるつもりだがな?」
鳥海「家、ですか……? もしかして、准尉さんはずっとこちらに住んでおられるんですか? 日本へ帰ったりは……」
提督「帰る?」
潮「!!」ビクッ
提督「帰るもなにも、日本に俺の居場所なんかねえよ。ここが俺の終の棲家だ」
鳥海「え……?」
潮「ちょ、鳥海さん、それ以上は訊かないほうが……」
鳥海「居場所がない、って……ご家族はいらっしゃらないんですか? 心配されるのではないかと……」
潮「ちょ……!!」ビクビク
摩耶「やめとけ鳥海。それ以上訊くな」スッ
鳥海「え?」
摩耶「わけありなんだよ。こいつは、妖精と話ができるのを馬鹿にされて、家族にも避けられてたらしいからな」
鳥海「……!」
筑摩「……」
466: 2021/06/06(日) 22:07:49.69 ID:Fa4j/EEho
武蔵「……なるほど。貴様の性格は、そういう環境によって作られたということか」
提督「そういうこった。思い出しても不愉快なだけなんでな、生きてはいるだろうが、俺の家族はいないと思ってくれ」
鳥海「それは……大変失礼致しました」ペコリ
妖精「提督? 家族はいないわけじゃないでしょ?」ヒョコッ
提督「……」
妖精「こらー! 無視しないのー!」
武蔵「妖精よ、家族がいないわけではない、というのはどういうことだ?」
妖精「うん、前に医療船が来て、その船に乗ってた女性提督に、家族と不仲は良くないって説教されてね」
提督「おい、妖精!」
妖精「そこで、今の自分の家族は、この鎮守府に一緒にいる艦娘たちだ、って言ったんだよ」
提督「……っ」セキメン
武蔵「ほう……この男にしては、なかなか熱い台詞じゃあないか」ニヤリ
提督「にやにやしてんじゃねえぞ、くそが……」
武蔵「いやいや、私は感心しているんだぞ? ふふ、そうか、家族か……」チラッ
潮「!」
467: 2021/06/06(日) 22:08:35.27 ID:Fa4j/EEho
武蔵「なあ提督。例えばだが、お前にとって潮は、家族だとしてどんな間柄になるんだ?」
提督「あぁ? 潮か?」チラッ
潮「……!」
提督「うーん……年の離れた妹ってところか? 娘と呼ぶにはでかすぎるし……どっちにしろ庇護対象って感じだな」
武蔵「ほほう。それはどういうところからだ?」
提督「遠慮がちで臆病、心配性で人に気を使いすぎてるきらいがある。昔はずっと不安そうな顔してたしな」
提督「最近は眉を顰めることもなくなったし、俺を叱るくらいには馴染めたから、いい傾向だと思うぜ?」
提督「とはいえビビリなのは変わってねえからな。昔のトラウマもあることだし、俺も極力、潮には触らないようにしてる」
潮「……!」ハッ
武蔵「触らないようにしている? なんだそれは」
提督「潮は前の鎮守府でひどいセクハラを受けたんだよ。だよな、潮?」
潮「……」コク
提督「だからそれを思い出させないように、男の俺は潮に触らないようにしてるってことさ」
潮「……」シュン
468: 2021/06/06(日) 22:09:50.08 ID:Fa4j/EEho
提督「ま、この鎮守府には、思い出したくない過去を持つ奴がたくさんいるんだ。俺も含めて、な」
提督「だからちょっとだけ気を遣ってもらえると、助かる」
筑摩「……」ウツムキ
鳥海「そういうことですか……」
武蔵「なるほどな。貴様が家族と呼ぶ理由、確かに合点がいくものだ」
提督「所詮は古傷の舐め合いだけどな」
提督「ここに来る奴はひどい目に遭わされてきた奴ばかりだし、少しでも良くしてやりたいと思って艦隊の指揮を執ってるだけさ」
妖精「提督が素直じゃないせいで、誤解されまくりだけどね?」
提督「今日はなにかと一言多いなお前……」
摩耶「ふーん、潮が妹か……」
提督「まあ、家族の枠に当てはめての話だからそう言ったが、真面目に妹扱いする気はねえからな?」
提督「そもそも、潮には姉妹艦の朧や、前の鎮守府からの付き合いの長門がいるし……」
提督「最近じゃあ陸奥とも仲良くなったみたいだしな。俺が出る幕でもねえだろ」フフッ
武蔵「!」
摩耶「!」
鳥海「!」
潮「!」
469: 2021/06/06(日) 22:10:36.66 ID:Fa4j/EEho
提督「この調子で、穏やかに過ごせる奴が増えりゃ安泰……って、なんだお前らその顔は」
武蔵「い、いや……」
摩耶(不意にいい笑顔見せやがって……)
潮(あんな風に笑ってるところ、初めて見ちゃった……)
鳥海「とてもいい笑顔でしたよ? 娘を思うお父さんみたいな……」
提督「お父さんだぁ?」ジロリ
鳥海「」
潮(もう戻っちゃった……)タラリ
妖精「提督、提督。睨んじゃ駄目だよ?」
提督「ああ、悪い。どうも父親ってものにいいイメージがなくてな……」
鳥海「ほ、本当にご家族……というか、ご両親が嫌いなんですね」
提督「俺の血縁に、ご丁寧に『ご』なんか付けなくていいぞ? 『ゴミ』ならつけてもいいが」
摩耶「おい、鳥海に汚ねえ言葉喋らせんじゃねーぞ、くそが!」
提督「……悪かったよ」フン
摩耶「あん? やけに素直だな……」
470: 2021/06/06(日) 22:11:20.10 ID:Fa4j/EEho
提督「別に素直ってんじゃねえよ。普通なら、そうやってお互いを思い遣るのが兄弟……っつうか、お前らは姉妹か。姉妹の理想のあり方だろ?」
摩耶「あ、ああ、そりゃー当然だと思ってるけど……」
提督「だったらそれでいいだろうが……ったく」
妖精「……もしかしたら、提督は嫉妬してるのかもね」
鳥海「嫉妬?」
妖精「提督にも弟さんがいたんだけど、提督の両親……特に父親に、提督の言うことは信じるな、耳を貸すな、って言われ続けてたから」
妖精「結局、弟さんも同じように提督を蔑むようになっちゃってね。お互いを助け合うなんてことがなかったから……」
妖精「憧れていたからこその、さっきの笑顔だったんじゃないかなあ」
全員「「……」」
提督「……ふん」
扉<コンコンコン
大淀「失礼致します」チャッ
大淀「提督、くだんの艦隊がこの島に来る予定日がわかりました」
提督「……!」
479: 2021/06/27(日) 23:26:46.74 ID:6yCIFqn8o
* 墓場島鎮守府 埠頭 *
(提督が双眼鏡を構えている)
提督「……おいおい、マジで来やがったぞ。どの面下げてこの島に乗り込もうってんだ、あの連中」
大淀「提督、早く準備を。あのサイズの巡視船なら、15分ほどで到着します」
提督「チッ、つくづく面倒臭えな」
大淀「私だって相手にしたくありません。できることなら今すぐ帰ってほしいと思ってますよ」
大淀「ですが、誰かが動かなければ追い返すこともできません。提督、お願いします」
提督「……何か言われたのか?」
大淀「いいえ? 自分たちで沈めておいて『助けてあげる』とでも言うような相手の態度が気に入らないだけです」
提督「……十分じゃねえか。さぁて、とっとと準備するか」
* * *
* *
*
480: 2021/06/27(日) 23:27:32.24 ID:6yCIFqn8o
* 墓場島鎮守府 埠頭 *
(接岸した海軍の巡視船から降り立つ数名の男女)
遠大佐「よいしょ……っと。雷、大丈夫?」
雷「ええ、大丈夫よ! ありがとう司令官!」ニコッ
雷「留提督も大丈夫?」クルッ
留提督「とうっ!」ピョンッ スタッ
留提督「墓場島上陸!」ビシッ
雷「きゃー、格好いい!」パチパチ
留提督「ふふっ、ありがとう! ……ふーん、ここが墓場島かあ。当然だけど、鎮守府の建物もちっちゃいな」キョロキョロ
留提督「もしあの二人が轟沈していたら、この島に流れ着いている可能性が高いんだね?」
雷「そうみたい。私たちが本営で聞いてきたから間違いないわ!」
留提督「で、もしかしたら、あの二人が助かってるかもしれなくて、ここで働いてるかもしれない、と……」
雷「でも、本当に轟沈していたら、連れて帰ることはできないわ。聞いたでしょう? 轟沈した艦娘は……」
留提督「うん、それはわかってるよ」ウンウン
481: 2021/06/27(日) 23:28:16.91 ID:6yCIFqn8o
留提督「でも、この鎮守府はそれを承知で受け入れていて、その轟沈艦が原因の問題もこれまで起きていない」
雷「そ、そうね……」
留提督「でも、それよりも! この島に住んでいる艦娘たちのことを第一に考えれば!」
留提督「ただでさえ戦闘で傷付いて氏の淵を彷徨い、せっかく生き延びたっていうのに……」
留提督「こんな小さい島に隔離されっぱなしで戻ってくることができない……それはあんまりじゃないか!?」
留提督「早く元の鎮守府に戻してあげるか、それに近い環境に戻してあげないと可哀想だよね!」
雷「え、ええ、それはその通りだわ……!」
留提督「だよね? だから、僕たちでこの仕事ができないか、相談してみようと思うんだ」
雷「ええええ!?」
遠大佐「……」
留提督「遠大佐にはこの話は既にしているんだ。ここの提督准尉にこの話をして、この鎮守府の艦娘を何人か引き取って……」
留提督「呉の鎮守府でリハビリをしてもらおう、という話に決まったんだ!」
雷「だ、大丈夫なの司令官!?」
遠大佐「……」ニコニコ
482: 2021/06/27(日) 23:29:01.79 ID:6yCIFqn8o
船内から聞こえる声1「そ、そんな話聞いてないですよ!?」
声2「お、おちついて……!」
声3「そ、そもそも、返して貰うこと自体、無理ですってば……!」
留提督「あの声は……」クルッ
声2→山風「司令官が、知らないはず、ない……!」
声3→ガンビアベイ「無理です! 無理無理……!」
声1→鹿島「遠提督さんに確認してください! 轟沈した艦娘の扱いについて、御存知のはずです!」
留提督「ああ! 鹿島じゃないか!!」パァッ
鹿島「ひっ」ビクッ
留提督「そんなに僕が心配なのかい? 大丈夫だよ、何も怖がらなくていいんだよ」カケツケダキヨセ
鹿島「ひぃっ?」ダキヨセラレ
留提督「それとも、僕に会いたくてじっとしていられなかったのかなあ?」カオヲチカヅケ
鹿島「ひいいいっ!?」オシリサワラレ ゾワゾワッ
山風&ベイ(うわああ……)ドンビキ
鹿島「し、知りませんっ!!」バッ タタタッ…
留提督「……行っちゃった。つれないなあ」
483: 2021/06/27(日) 23:29:47.21 ID:6yCIFqn8o
テレビクルー1「留さーん、俺たちも上陸していいんですかー?」
クルー2「カメラ準備できてますよー!」
留提督「あーそうだね、みんな入って!」
ゾロゾロ
クルー3「ここが墓場島かあ」
クルー4「本当に何もねえな~」
留提督「ほら、千歳も足柄も! この島の准尉と知り合いなんでしょ? 早く来なよ!」
千歳「……」
足柄「……」
千歳「まさか、私たちがこの島に足を踏み入れるなんてね……」
足柄「ねえ、留提督が鳥海と加古を連れ戻すって話、聞いてる?」
千歳「初耳よ……流れ着いてきたか確認するだけ、一言お詫びの言葉を、って、それこそ何度も確認したじゃない」
足柄「そうよね? 私が聞き逃したのかと思ったわ……」
千歳「……はぁ」
484: 2021/06/27(日) 23:30:31.60 ID:6yCIFqn8o
足柄「千歳、大丈夫?」
千歳「大丈夫じゃないわよ……留提督は本職でもなんでもないのにルール無視しようとするし、遠大佐も全然頼れなさそうだし」
千歳「ただでさえ、ここに立ち入った提督たちが不幸な目に遭ってるって聞いてるのに、それを話してもまるで緊張感がまるでないし」
足柄「そ、そうね……この島に入ってもいない波大尉も、まさかあんな風になっちゃうとは思いもしなかったわ」
千歳「准尉と相容れないところに触れてしまったのがまずかったんだけど、なんだかそれを思い出すのよね」
千歳「留提督の楽観的な言動といい、行き当たりばったりな行動といい、ここまでやってしまえばこっちのもの的な発想といい……」
足柄「ああ……」
千歳「気が重いわ……」ズーン
足柄「……あの人たちが准尉に接触する前に、准尉に事情を説明しないと駄目そうね」
千歳「それはそうだろうけど……今から行くの?」
足柄「ええ、行ってくるわ。何もしないよりはマシよ!」ダッ
留提督「あ、おーい! 足柄、どこへ行くんだ!?」
千歳「提督准尉に事前に話をしに行ったのよ。みんなここで待ってて!」
クルー1「追いかけましょう!」
クルー2「カメラ回せ! 早く!」
千歳「ちょ、ちょっと待って!? まだ撮影許可取ってないでしょ!?」
485: 2021/06/27(日) 23:31:18.08 ID:6yCIFqn8o
* 鎮守府内 玄関ロビー *
提督「ったく、どいつもこいつも、何の連絡もなしに勝手に上陸しやがって……」
若葉「なめられているんだろうな。提督、これを機に少しは地位向上を考えてもいいだろう?」
提督「んな面倒臭えことしてられるかよ。人間の役になんか立ちたくねえっつうの」
若葉「嫌だ嫌だで世の中渡っていけるほど世間は甘く……ん?」
タッタッタッ…
足柄「玄関はこっちかしら……あっ」
提督「!」
若葉「あなたは……足柄さんか」
足柄「良かった、丁度ここにいたのね。提督准尉、お久し振りです」ペコリ
提督「……久しぶり? ……もしかしてお前、医療船にいたあの女提督の……」
足柄「はい、もと波大尉鎮守府所属の、足柄です。数日前から遠大佐鎮守府に身を置かせていただいています」
提督「もと? 数日前から……?」
若葉「知り合いなのか?」
提督「一度会ったことがある、って程度だが」
486: 2021/06/27(日) 23:32:01.31 ID:6yCIFqn8o
足柄「私のことは後にしていただいて。突然で申し訳ありませんが……」
提督「鳥海と加古か?」
足柄「え!? は、はい、遠大佐鎮守府所属の鳥海と加古がこの島に流れ着いていないかと……」
提督「来てるぞ」
足柄「来てるの!?」
提督「ああ。だが確認してどうする気だ?」
足柄「……実は、ある有名人……留って言う人なんですけど、その人が先日、一日提督として遠大佐の鎮守府で指揮を執っていまして」
足柄「そのときに、無理を押して進軍させたために、鳥海と加古が行方不明になってしまったんです」
足柄「それで、もし二人が見つかったら、私たちの鎮守府に戻ってもらうことができないか、ご相談をと……」
提督「ふーん……別にいいぞ」
足柄「いいの!?」
提督「加古と鳥海の二人が納得してそう望むんだったら、な。それから、俺は責任取らねえぞ」
足柄「……」アッケ
提督「なんだその顔は」
487: 2021/06/27(日) 23:32:47.33 ID:6yCIFqn8o
足柄「だ、だって、准尉は御存知でしょう? 轟沈した艦娘は深海棲艦になるかもしれないって話!」
提督「ああ。だから、遠大佐だったか? そいつがその責任を取るんだろ? 鳥海や加古もそれでいいっつうんなら俺は口出しはしねえよ」
提督「捜索に来た以上はそれなりに反省してるのかもしれねえが……だったら最初から無理させんな、とも言いたいがな」
提督「それで、ちゃんと上には断ったんだろうな? 俺とかじゃなく、本営の将官クラスの連中に、轟沈経験のある艦娘を運用したいって話をよ」
足柄「い、いえ……」
提督「うちが轟沈した艦娘をそのまま運用するのに、いろいろな条件を提示して中将に申請して、特例中の特例で許可が出たんだ」
提督「同じことを遠提督はやったのか? やらないと、連れて帰った後、練度も記憶も全部まっさらにさせられるはずだぞ?」
若葉「!?」
足柄「え、えええ……本当ですか、それ!?」
提督「まっさらにさせられるって話は眉唾だがな。ただ、轟沈した艦娘をそのまま運用するのは、この鎮守府以外に許されてないはずだ」
提督「それがなぜかは、お前ら把握してるか?」
足柄「……いいえ、少なくとも私は初耳です」
提督「その様子だと、遠提督はなぁんも考えずにここへ来たみたいだな?」
足柄「かもしれませんね……」ハァ…
488: 2021/06/27(日) 23:33:31.49 ID:6yCIFqn8o
提督「海軍の人間ならそのくらい知ってて、ちゃんとわかってここに来ると思ってたが……」
足柄「千歳の言う通り、嫌な予感がするわね……」アタマオサエ
足柄「ごめんなさい提督准尉、この話、一度持ち帰らせていただきます。今の話が本当なら、二人を迎え入れるための準備が不足してるわ……!」
提督「ああ、ちょっと待て、連中は埠頭にいるんだろ。出向いてやるから一緒に来い」
足柄「え?」
提督「俺が直接行ったほうが話は早えだろ」
若葉「確かにその方が話は早いだろうが……」
足柄「……」
若葉「足柄さん?」
足柄「……あ、ううん、なんでもないわ」
若葉「若葉もここへきてまだ日が浅いが、なんとなく言いたいことはわかる」
若葉「提督は、言葉に遠慮のない人だ。仮にも大佐にどんな言葉を浴びせるか、不安で仕方ない……」
足柄「……」
若葉「若葉たちは余計なことを言わないよう指示されている。なるようにしかならない、諦めてくれ」
足柄「そう……そうよね。無理言ってんのは留提督だものね」ガックリ
提督「ああ、そうだ足柄、あいつらカメラ持ってきてるだろ。最初に撮影やめさせるように言ってきてくれねえか?」
提督「俺はテレビに映る気はこれっぽっちもねえ。カメラを構えてる間はお前らの上陸は許可しない、迷惑だってことを最初に伝えてくれ」
足柄「え、ええ、わかりました」
489: 2021/06/27(日) 23:34:46.77 ID:6yCIFqn8o
* 埠頭 *
足柄「……ということなんです」
留提督「えっ、それじゃ、せっかく来たのになにもしないで帰ることになるの?」
足柄「えっ」
クルー1「せっかくだから取材に行くのはいけないんですか?」
クルー2「この島の提督になんとか許可を貰って撮影させてもらいましょうよ」
留提督「せっかく撮影期間を延長してテレビのクルーも乗って来たのに、撮れ高なしはまずいよね」
足柄「で、でも、撮影は駄目だって言ってるのよ!? このままじゃあなたたちは提督と話ができないわよ!」
クルー2「仕方ない……このカメラ、ケースにしまってきてくれ」
クルー3「は、はい!」
留提督「これでいいんでしょ? 提督准尉さん、呼んできてよ」
足柄「え、ええ……」クルッ タタッ
クルー1「……よし、行ったな? 持ってきたか?」
クルー4「はい、小型カメラ持ってきました!」ヒソヒソ
クルー1「お前のウエストポーチに仕込んで撮影できるな?」ヒソヒソ
クルー4「はい、いけます!」
490: 2021/06/27(日) 23:35:32.35 ID:6yCIFqn8o
(足柄が提督と若葉、朝潮を連れて埠頭に戻ってくる)
足柄「呼んできたわ。こちらが提督准尉よ」
提督「……」
足柄「こちらは遠大佐とその秘書艦の雷ちゃん、そして留提督よ」
遠大佐「……」ニコニコ
雷「雷よ! かみなりじゃないわ、そこんとこもよろしく頼むわね!」
留提督「准尉さん! 今日はお忙しいなかありがとうございます! よろしくお願いします!」テヲサシダシ
提督「……」
足柄「……准尉?」
提督「俺からの要件はふたつだ」
提督「ひとつ、この島に関する記録は全部消せ」
留提督「!?」
提督「ふたつ、とっとと帰れ」
雷「!?」
491: 2021/06/27(日) 23:36:17.58 ID:6yCIFqn8o
提督「以上だ」
留提督「」
雷「」
クルーたち「「」」
遠大佐「……」
足柄「あの……准尉?」ヒキッ
提督「俺の用は済んだぞ」フンッ
雷「と、取り付く島もないわね……」ヒキッ
若葉(まあ、そうなるだろうな)
朝潮(司令官、殺気立っておられますね……)
クルー1「あ、あの、准尉さん? 我々はこの島で撮影がしたいん」
提督「この島に関する撮影、録音などのすべての記録行為は禁止する」ジロリ
クルー1「ちょ」
提督「もし今どこかでカメラを回してるんならすぐ止めろ。止めねえんなら実力行使する」
クルー2「お、横暴だ! どんな権限があって禁止するんだ!」
提督「お前らこそどんな権限持ってきたんだ? 日本語通じるから日本の常識がまかり通るなんて思ってんじゃねえぞ」
492: 2021/06/27(日) 23:37:02.17 ID:6yCIFqn8o
留提督「で、ですから、こうやって海軍の皆さんに協力していただいて……」
提督「そうかよ。うちは協力しないから、もう帰れよ」
留提督「……っ」
クルー1「し、しかし、我々は遠大佐に協力していただくという話を……」
提督「だからそんな話はうちにはきてねえよ」
クルー1「ちょっ!?」
雷「し、司令官?」
遠大佐「……准尉。そこをどうにかできないか」
提督「できない」
遠大佐「……」ムッ
留提督「これは……准尉による上官に対する反抗、ということになるのかな……?」チラッ
雷「えっ? えーっと……」
提督「そうしたいんなら好きにしろ。その前に、本営から許可貰って取材に来たのか? だったらこっちに連絡が来るはずだ」
提督「それがねえんだから、お前らをこの島に通す義理も道理もねえ」
493: 2021/06/27(日) 23:38:16.52 ID:6yCIFqn8o
クルー1「いやいやいや! 私たちはこの鎮守府で艦娘が救われていることを世界に知らせたくて……」
提督「必要ない」
クルー1「なっ!? 必要なくはないでしょう!?」
クルー1「あなただって世界のために戦っているのに、その活動が誰にも知られないなんてあんまりじゃないですか!」
クルー1「こちらの留さんは今ドラマなどで売り出し中のアイドルなんです! 海軍の活動のイメージアップに……」
提督「要らねえっつってんだよ、わかんねえのか、くそが!」
クルー1「っ!!」
提督「お前らがどこの誰かなんて、俺たちにも、深海の連中にも関係ねえんだよ」
提督「テレビの人間なら手を振って貰えると思ってんのか? 海軍に無償で助けて貰えると思ってんのか!?」
提督「はっきり言う。お前らは邪魔だ、とっとと出て行けよ」
クルー1(ちっ、手強いな……!)イラッ
留提督「ここまで話が通じないなんて……! ねえ、遠大佐、雷ちゃん、なんとかできないかな?」
雷「う、うーん……」
遠大佐「雷、私からも頼む。何かいい方法はないか?」
雷「司令官……わ、わかったわ。それなら、せめて……!」
494: 2021/06/27(日) 23:39:16.86 ID:6yCIFqn8o
雷「准尉! 何の連絡もなしにここへ押しかけたことは、謝るわ……ごめんなさい!」ペコッ
雷「でも、ひとつだけ……ひとつだけ、お願いがあるの!」
提督「……」ピク…
雷「鳥海さんと加古さんに会わせて欲しいの……ここに流れ着いて来たんでしょう?」
提督「……会ってどうする」
雷「せめて、話をさせてもらいたいの。ここに流れ着くまで……そして、流れ着いてから、何があったのか」
雷「いま、ふたりがどんな気持ちなのか。お願い……話を、させてください」ペコリ
提督「……」
遠大佐「雷……」
遠大佐「准尉。私からもお願いする」ペコリ
提督「……!」
留提督「お、おい、みんなも! お願いします!」ペコッ
クルーたち「「お、お願いします!」」
提督「……」
495: 2021/06/27(日) 23:40:16.64 ID:6yCIFqn8o
足柄「……」
提督「……」チラッ
足柄(准尉は何を見て……あれは……)チラッ
朧「提督!」
(提督たちに背後から駆け寄ってくる朧)
提督「ん? どうした、なにかあったのか?」
朧「耳を貸して下さい。あの人の……カメラが……ごにょごにょ……」
提督「……ふぅん、なるほどな」
留提督「……?」
提督「おいお前……雷、だったな?」
雷「!」
提督「お前に免じて、話はしてやるよ。ただし……条件がある」
雷「条件?」
提督「ひとつは、今そっちの船に乗せている艦娘も全員連れてこい」ユビサシ
足柄(千歳たちも……?)
留提督「……鹿島もか……!」
496: 2021/06/27(日) 23:41:01.47 ID:6yCIFqn8o
雷「え、ええ、わかったわ。もうひとつは?」
提督「もうひとつは……」スタスタスタ
クルー4「え」
提督「……記録はするな、と言ったよなあ?」グイッ
クルー4「あっ!」ポーチウバワレ
提督「このバッグの中にカメラ仕込んでやがったか。溶鉱炉に捨てとくぞ」
クルー1「ちょっと、待ってください! それを壊されたら困ります!」ダッ
提督「勝手に困れよ。俺はさっき忠告したぞ」
小型カメラ<ミシッ
提督「こんなもの……!」
小型カメラ<ミシミシミシ…!
クルー1「やめ……!」
小型カメラ<グシャッ!!
提督「……」パラパラ…
クルー4「に、握り潰した……!?」
留提督「う、嘘だろ……!」
497: 2021/06/27(日) 23:41:46.82 ID:6yCIFqn8o
朝潮「し、司令官!? 手は大丈夫ですか!? 破片でお怪我をしては……!」
提督「ん? ああ、大丈夫だ」
若葉「ふむ……提督、詰めが甘いぞ」スッ
提督「ん?」
若葉「今のカメラは記憶媒体も小型化している」ハヘンヒロイアゲ
クルー2「あっ」
若葉「このカードを処分しないと、データが読み取れてしまうぞ」メモリカードテワタシ
提督「こんな小指の爪みたいなもんでか? ……やれやれ、こりゃあ厄介だ」パキッ
クルー1「ああ……!!」
クルー2「なんてことを!」
提督「なにが『なんてことを』だ。実力行使する、って俺は言ったぞ?」
提督「他にもカメラやら何やら持ってるなら、全部船に置いてこい。さもなきゃ、次はてめえらの頭をこうしてやるぜ……!」
クルーたち「「……」」ゾゾッ
遠大佐「……ここは准尉に従おう。鳥海や加古と話す機会を逃してはならない……そうだろう? 留君」
留提督「え、ええ、そうですね……」
雷「司令官、私、みんなを呼んでくるわね!」
遠大佐「ああ、頼んだよ」
雷「ええ、任せて!」
留提督「……」
512: 2021/07/24(土) 21:41:52.68 ID:5Fsdg4Xoo
* 数時間前、執務室 *
加古「……会いたくないなあ」グデー
鳥海「せっかく会いに来たのに追い返すわけにはいかないわ。戻りたくない理由を伝えて、途中退席するのはどう?」
武蔵「ああ、どうせ最後なんだ、顔を見せるだけでいいんじゃないか?」
長門「……私は、無理に会わなくても良いと思っているが」
武蔵「長門!?」
長門「会って話をすることが苦痛だというのなら、それを伝えて帰ってもらうのも、相手に対する答えにはなろう」
扶桑「それで相手が素直に帰ってくれれば良いのだけれど……」
鳥海「はい、だからこそ加古さん本人が面と向かって説明しないと駄目だと思っているんですが」
陸奥「本当に会わせていいのかしら。留提督が無理矢理連れ帰る可能性もあるわよ?」
鳥海「いくらなんでもそこまで強引なことは……」
摩耶「そうは言っても、留提督にしてみりゃ鳥海たちの轟沈は不始末だからなあ。ちからずくでってこともありえねえか?」
山城「それ、やったとしても本当に呉のお偉いさんが帰港を許すのかしら。呉の中でも下の方なんでしょ? 遠大佐って」
霧島「むしろ許可も取らずにこの島へ向かうこと自体、考えにくいのですが……」
513: 2021/07/24(土) 21:42:37.75 ID:5Fsdg4Xoo
山城「あら、上に報告しなくたって、この島に来ることはできるわよ。ふらっとやってきて駆逐艦たちを連れ去ろうとした輩もいたくらいだし」
筑摩「そ、そんなことがあったんですか!?」
山城「ましてや私たち艦娘が世界に現れて、海軍なんてものに縁のなかった民間人まで提督になってるご時世だもの」
山城「遠大佐も留提督も、海軍にとっての『普通』をどこまで理解してるかわかったもんじゃないわ」
鳥海「そ、そこまで悲観しなくても……それに遠大佐は民間出身ではありませんし」
長門「そうなのか!?」
武蔵「ならばなおのこと、上への報告は怠るはずがないな……」
扶桑「ですが、それはそれで、鳥海たちの進軍に苦言を呈さなければいけない立場でありながら、見過ごしたことは看過できないのでは」
筑摩「そうですよね。一言言えば轟沈を防げたはずなのに、どうにも解せないと言いますか……」
山城「直接的ではないにせよ、戻ってくるなとほのめかされたんでしょ? 悪いのはそいつらじゃない……頭に来るわ」
鳥海「あ、あの……皆さんは、轟沈を経験されたのですか?」
長門「……この場には、そうではない者の方が多いな」
鳥海「そうですか……これまで、この島に流れ着いた誰かが深海棲艦になったことはないんですか?」
長門「いや、それはないな」
514: 2021/07/24(土) 21:43:22.46 ID:5Fsdg4Xoo
鳥海「だとしたら、轟沈した艦娘が深海棲艦化すること自体、作り話という可能性も……」
山城「……まあ、なくはないわね」
筑摩「本営が何らかの理由で嘘をついていると……?」
霧島「確かに、何がきっかけで艦娘が深海棲艦になるのか、誰も証明できていないわね……」
陸奥「鎮守府が壊滅した記録が残っているんでしょう? 証言できる生存者がいれば、そこらへんもはっきりできると思うけど」
扶桑「生存者、いるのかしら……」
全員「「……」」
鳥海「准尉さんは、このことをどうお考えなんでしょう……」
長門「おそらく……あの男にとっては、その話が事実かどうかはさほど重要ではないはずだ」
鳥海「は……?」
武蔵「なんだと!?」
山城「どういう意味よそれ……?」
長門「あの男は、この島から人間を遠ざけるためにこの話を利用している、と私は推測している」
鳥海「!」
515: 2021/07/24(土) 21:46:07.53 ID:5Fsdg4Xoo
山城「私たちに対する同情のつもりかしら」
長門「そこは同情というより、提督自身が人間を毛嫌いしているからだろう」
長門「この島に来る艦娘の大半は、人間に嫌な思いをさせられているが、提督もそれは同じでな」
摩耶「あー……鳥海もこの前聞いた、あの話っすか? 両親にも嫌われてたって話」
陸奥「自分を迫害していた人たちと同じになりたくない、ってことなんでしょうね」
長門「人間を毛嫌いしているからこそ、提督は私たちの味方になってくれていて……」
長門「だからこそ、この島に流れ着いた轟沈艦娘が深海化しない、とも考えられないか?」
全員「「!!」」
筑摩「長門さんは、艦娘が深海化する原因がストレスだと考えているんですか?」
長門「確信はしていないが、かもしれない、とは思っているな」
長門(……ただ、この鎮守府に遊びに来ているル級が、ストレスを感じているとは思えないし)
長門(仮にストレスを感じていないとしたら、もしかしたらル級が艦娘になったりするのか……?)
長門「なんにせよ、この話は分からない部分が多すぎる。安易にこうだと決めつけるのは、良くないな」
霧島「ええ、推測だけでは机上の空論になりかねません」
武蔵「ところで……さっきから長門がよく質問に答えてるが、長門はこの鎮守府は長いのか?」
長門「ああ、私がこの島に最初に来た戦艦だからな。私が来るまでは駆逐艦と軽巡洋艦だけだったぞ」
摩耶「えええ!?」
516: 2021/07/24(土) 21:47:07.36 ID:5Fsdg4Xoo
筑摩「長門さんが最初なんですか!?」
山城「重巡もいなかったの!?」
武蔵「……珍しいのか?」
霧島「え、ええ、普通なら私たち金剛型や扶桑型、伊勢型が最初にくることが多いのですが……」
扶桑「……」
筑摩「そうでなくても、重巡より戦艦が先に着任すること自体、普通ないですよね」
扉<コンコンコン
黒潮「司令はーん……って、なんやこれ!?」
武蔵「おお、遠征帰りか。提督は外周り中だ、書類なら私が預かろう」
黒潮「お、おおきに……っていうか、なんで執務室に戦艦や重巡が勢揃いしてんの……?」
長門「雑談しているうちに、加古や鳥海のいた鎮守府の遠大佐がどんな人物かの話になったんだ」
摩耶「加古がそいつに会いたがらねーんだけど……」
黒潮「はぁ……ええけど、加古はん寝とるよ?」ユビサシ
加古「すぴー……」
全員「「」」
517: 2021/07/24(土) 21:47:52.57 ID:5Fsdg4Xoo
* 現在 *
* 墓場島鎮守府会議室 *
留提督「本当に申し訳ない!」ドゲザッ
鳥海「留提督!?」
加古「……」
留提督「僕のせいで君たちをこんな目に遭わせてしまったこと……本当にすまなかった!」
雷「留提督……!」
鹿島(この人が、土下座するなんて……!?)
留提督「君たちが助かったこと……提督准尉のもとで治療してもらえたこと、本当に、本当に運が良かった……!」
加古「……」
留提督「君たちの帰りを待っている艦娘がいるんだ! 頼む、戻ってきてくれ!」
鳥海「留提督……」
加古「……あのさ。今回の話、何が問題だったか、わか」
留提督「それは全部、僕のせいだ! 君たちを止められなかった、僕の判断が悪かったんだ……!」
加古「そうじゃなくてさ……」
518: 2021/07/24(土) 21:48:38.55 ID:5Fsdg4Xoo
留提督「そうじゃなくないよ、君が悪いんじゃない! 僕の……僕の判断ミスなんだ!」
加古「だからさあ」
留提督「本当にすまなかった!」ガバッ
加古「ちょっとぉ……」
留提督「許してくれ!!」
加古「……」
提督「おい。お前、加古の話を」
留提督「准尉、今、僕は加古と話をしているんだ。茶々を入れないでくれないか」
提督「そうじゃねえよ。加古はそういうことを言」
留提督「部外者が口を挟まないでくれないか!」
提督「ああ?」
加古「ちょっと留提督?」
留提督「ああ、すまない加古! さあ、一緒に帰ろう、積もる話は呉の鎮守府に戻ってからゆっくり話そう!」
加古「……」
519: 2021/07/24(土) 21:49:22.92 ID:5Fsdg4Xoo
提督「……こりゃ駄目だな」
クルー1「ちょっと准尉さん、せっかく話がまとまりかけてるってときに、横から口を出さないでくださいよ」
提督「お前らには、まとまったように見えたのか? 今の話」
加古「……こりゃー駄目だねー。話をするだけ無駄だわー」ハァ
留提督「ど、どうしてだ!? まだ何か心配事でもあるのかい!?」
加古「どうせ聞く耳持たないっしょ?」
留提督「そんなことはない!! 体に不安があるのなら呉に戻ってからいくらでも検査する!」
留提督「なんにしても、こんな離島で、何も悪くないのに隔離された生活をしていたらおかしくなるぞ!」
留提督「僕は君たちが心配なんだ!!」
加古「……」チラッ
鳥海(……加古さんが見てるのは……遠大佐?)
遠大佐「……」
鳥海(遠大佐、ずっと俯いてるけど……)
鳥海「あの、遠大佐?」
遠大佐「うん……なんだ」
520: 2021/07/24(土) 21:50:07.23 ID:5Fsdg4Xoo
鳥海「遠大佐は、今回の進軍を諫めなかったこと……どのようにお考えですか」
遠大佐「……私の、判断ミスだと思っている」
雷「司令官……!」
加古「……」
鳥海「遠大佐……」
留提督「そんなことはありません! 僕のせいです!」
加古「……」
提督「おい、そこの秘書艦はどう思う」
雷「わ、私!? え、ええと……」
遠大佐「雷に聞くまでもない……そう、だな。私のせいだ」
雷「司令官……そ、そんなことないわ!? 元気を出して!」
加古「……」
鹿島「……」
提督「……」
521: 2021/07/24(土) 21:50:54.14 ID:5Fsdg4Xoo
山風「……」ソワソワ
ガンビアベイ「……」ソワソワ
山風「……私たち、なんで呼ばれたのかな」ヒソヒソ
ガンビアベイ「わ、わからないです……ヒッ」ビクッ
提督「……」ギロッ
山風「どうかした……ヒッ」ビクッ
ガンビアベイ「な、なんであの人、私たちを睨んでるんでしょう……!」ビクビク
山風「早く帰りたい……」グスグス
提督「……」
提督「なあ、妖精?」ヒソッ
妖精「なにかな?」ヒョコッ
提督「あいつの連れてる艦娘、艤装を外してるのか?」
妖精「そうみたいだね。さっき見たときはちゃんとつけてたみたいだけど……わざわざ外してきたのかな?」
提督「なにか裏がありそうだな。ちょっと探りを入れてもらっていいか?」
妖精「うん、いいけど……あんまり睨みつけちゃ駄目だよ。二人とも怯えてるみたいだし」
提督「なに? 俺にか……?」
522: 2021/07/24(土) 21:51:37.30 ID:5Fsdg4Xoo
妖精「うん。それに……」ユビサシ
提督「……」チラッ
クルー1「!」メソラシ
妖精「提督も見張られてるみたいだね」
提督「……何でこっちを見てるんだ、あいつは」
留提督「とにかく、二人とも無事で何よりだ! さあ、二人とも支度をして、呉へ帰ろう!」
鳥海「は、はぁ……」チラッ
加古「……あたしは行かないよ。一人で帰って」ガタッ
留提督「なっ!? 強がりはよせ! 君はそれでいいと思ってるのか!?」
留提督「君を慕っていた呉の鎮守府の仲間が、君の帰還を待っているんだぞ!?」
留提督「それだけじゃない、あの戦いで沈んだという汚名を雪ぎたいと思わないのか!?」
加古「……」
留提督「君は、もっともっと活躍できるはずなんだ!」
留提督「こんな島で……船の墓場みたいな場所で、終わるような艦娘じゃない! そうだろう!?」
加古「……はぁ」
523: 2021/07/24(土) 21:52:23.90 ID:5Fsdg4Xoo
留提督「加古……! 頼む!!」
加古「帰ってよ。あたしはそっちには行かない」
留提督「頼む!! お願いだ!!」
鳥海「……」オロオロ
提督「……わかんねえな。なんであいつはそこまで加古に執着するんだ?」
クルー2「ちょっと准尉さん、少しは私たちに協力してくださいよ」
提督「あぁ? なんでだよ」
クルー2「ちょっ……」
提督「お前らこそ身の程を知れよ、どの面下げてあいつらの前に現れたんだ」
クルー3「この島は轟沈した艦娘を保護しているんでしょう? 元いた鎮守府の司令官が来たら、その人に引き渡すべきです」
提督「艦娘の当人が拒否してるんだから、その理屈は成り立たねえな」
クルー4「鳥海も加古もああやって普通にしているのに、こっちに引き渡せないとか、おかしいんですよ」
クルー4「艦娘が沈んだら深海棲艦になるんでしょう? なってないんだから、元いた鎮守府に戻すのが筋でしょう」
提督「何が筋だよ、何を根拠に言ってやがる。覆水盆に返らず、って言葉を知らねえのか」
524: 2021/07/24(土) 21:53:07.56 ID:5Fsdg4Xoo
クルー3「だいたい、沈んだ艦娘が深海棲艦になったのは本当なんですか!? エビデンスとかないんですか!」
提督「ねえよ、んなもん」
クルー3「な……!」
提督「それ以前に、お前エビデンスとか言ってるけど、意味分かって言ってるか?」
クルー3「そ、それは……!」
クルー1「……根拠とか、裏付け、証拠……という意味ですよね」
提督「なんだ、知ってる奴いたのかよ……まあ、そうだな」チラッ
クルー3「……」ムッ
提督「沈んだ艦娘が深海棲艦になる……過去にあったらしいが、そいつはあくまで『らしい』の話だ」
クルー3「だったらあの艦娘たちを戻してもいいんじゃないんですか!」
提督「ある鎮守府では、轟沈した艦娘を受け入れたことがある」
提督「受け入れてしばらくして、深海棲艦による攻撃で鎮守府が壊滅した。どんな理由が考えられる? お前、答えてみろよ」ユビサシ
クルー4「……」
525: 2021/07/24(土) 21:54:14.39 ID:5Fsdg4Xoo
提督「……海軍の調査では、轟沈した艦娘が深海棲艦になった説、轟沈した艦娘が深海棲艦を呼び寄せた説のふたつが有力視された」
提督「轟沈した艦娘が深海棲艦になるかどうか、真相ははわからないが、壊滅した理由のひとつとして考えられる以上……」
提督「安易に轟沈した艦娘を受け入れて同じことになるのは避けたい、というのが海軍全体の意識だ」
提督「不確定要素がある以上、危機管理として間違ったことはしていない。違うか?」
クルーたち「「……」」
提督「で、お前らこそ、安全だと言える『根拠』はどこから拾ってきたんだよ」
提督「こちとら命を張ってんだ。ちょっとでも危ねえと思ったらすぐ退くのが正解なんだよ」
提督「それを無理して突き進んで、お前らのお仲間が海の藻屑に消えた事件もあったよなぁ?」
提督「手前に都合が悪い話は、覚えていられねえってか?」
提督「それとも、そいつは奴らだけの問題であって、俺たちには関係ねえ、ってか?」
提督「今ならカメラも回ってねえぞ。ほれ、何か答えてみやがれ、くそどもが」
クルーたち「「……」」
526: 2021/07/24(土) 21:54:57.99 ID:5Fsdg4Xoo
留提督「加古! 僕がこれほど君の帰還を望んでいるというのに、なぜだ!? なんで拒否するんだ!?」
加古「そもそもの原因追及を拒否してんのはあんたじゃん……」
留提督「もしや、この島に、なにか秘密があるとでも言うのか……? 遠大佐!」
遠大佐「なんだね?」
留提督「この島を調査しましょう! 加古が戻ろうとしない理由がそこにあるかもしれません!」
提督&加古「「は?」」
雷「そうね……こんなに一生懸命な留提督の説得が通じないとしたら、もっと別なところに原因があるのかも!」
提督&加古「「ねえよ……」」
鳥海(なんで台詞が両方から聞こえるの……)
雷「鳥海さん! この島のこと、教えて貰っていい!?」
鳥海「えっ? い、いえ、おそらくそういうことでは……」
留提督「遠大佐! この場はお任せいたします! 僕たちはこの島の調査に入ります!」
クルーたち「「!」」ガタッ!
527: 2021/07/24(土) 21:56:07.36 ID:5Fsdg4Xoo
提督「な……おい!? 勝手な真似を」
留提督「みんな行くぞ! 日没までに鎮守府を調査するんだ!」
クルーたち「「わかりました!」」
提督「待て! 勝手に」
留提督「行くぞーー!!」ダダダダ…
提督「おいこら! 待ちやがれ!!」
提督「……」
提督「……最悪だ」アタマカカエ
朧「て、提督! 何があったんですか!? 今、みんなばらばらに……!」
提督「あいつら、勝手にこの鎮守府の探索をおっぱじめやがった」
朧「えええ!?」
提督「朝潮たちはどうした?」
朧「ほかのみんなは、それぞれ誰かを追いかけて行きました! 朧は、神通さんから提督に指示を仰げと……」
提督「そうか……よし、こうなりゃ誰でもいい、侵入者全員とっ捕まえてここに集めてくれ」
528: 2021/07/24(土) 21:57:07.80 ID:5Fsdg4Xoo
提督「ひとまず最初に那珂、次に大淀へ知らせろ。俺は俺で執務室に行って、全館放送で連絡する」
朧「わ、わかりました!」ダッ
提督「くそ……妖精たちの手も借りねえと。あいつら、もしかして最初からこれを狙ってやがったのか!?」
黒潮「なあなあ、司令はん、ちょっとええかな」
提督「! どうした?」
黒潮「いや……ちょっとこの部屋入るとこ見てたんやけど、あっちの鎮守府から来てた鹿島さんとか、艤装外しとったやん?」
提督「……ああ……」
黒潮「なんか、気分悪ろうてなあ」
提督「……」シカメッツラ
黒潮「司令はん?」
提督「……なあ黒潮? 鹿島たちが『そう』なる可能性、あると思うか?」
黒潮「……」シカメッツラ
提督「あり得るんだな?」
黒潮「ないとは言えへんね……」
529: 2021/07/24(土) 21:57:53.24 ID:5Fsdg4Xoo
ドドドド…
島風「提督ーー! って、うわぁ」
提督「なんだそのうわぁは」
島風「提督と黒潮ちゃんが同じ顔してるんだもん……またなにかあったの?」
黒潮「まだ起きてへんよ」
島風「まだ、って……」
提督「それより島風はどうしたんだ」
島風「そうそう、聞いてくださいよー! さっき、外から来た男の人たちに潮ちゃんが話しかけられてて!」
島風「なんか嫌がってたみたいだから、私が声をかけたんだけど、そしたら私も腕を掴まれたんです!」
黒潮「は?」
島風「なんかいきなりこっちの鎮守府に来いとか言われて、意味わかんなくって!」
島風「白露も一緒なのかって聞いたら、白露なんかどうでもいいとか言うし! 頭にきて断ったんですけどしつこくって!!」プンスカ
提督「……」
島風「話が通じないから、潮ちゃんと一緒に走って逃げてきたんです!」
黒潮「……」
530: 2021/07/24(土) 22:00:37.50 ID:5Fsdg4Xoo
島風「提督! あの人たちいったいなんなんですか!?」
提督「……ただの部外者……いや、侵入者だよ」
提督「ったく、あいつらいくらなんでも好き勝手しすぎだろ、顔に何枚バルジ貼り付けてやがんだよ、くそが!」
提督「島風、今の話は他に誰に話した?」
島風「まだ誰にも話してないよ?」
提督「潮はどうした」
島風「食堂にいた長門さんに預けてきました!」
提督「んじゃあ、そっちに行って詳しく聞くか……島風、俺は執務室に寄ってから食堂に行く。白露もそこへ呼んできてくれるか?」
島風「はいっ!」ダッシュ!
提督「黒潮も食堂へ行って、長門に事情を話しててくれ。思ってたより上の対策立てなきゃ駄目だなこりゃあ……」
黒潮「不知火から話を聞いてたけど、また厄介な……」
提督「まったくだ……あの戦艦バカより数百倍もたちが悪りぃぞ、くそが」
531: 2021/07/24(土) 22:01:22.38 ID:5Fsdg4Xoo
* 一方その頃 *
* 仁提督の鎮守府 *
仁提督「ぶぅえっくしょい!!」
雪風「! しれぇ! お風邪ですか!?」
仁提督「ずずっ……そうじゃない、ただのくしゃみだ」
雪風「心配です! お熱測って差し上げます!」ヨジノボリ
嵐「ちょっ!?」ギョッ
仁提督「おい!? 登ってくるな!」
文月「あ~、雪風ちゃんいいなあ~」
皐月「よーし、僕も登るね!」ヨジヨジ
嵐「登るのかよ!? 止めろよ!」
文月「文月も登るぅ~」ヨジヨジ
時津風「おもしろそう! 時津風も混ぜてー!」ヨジヨジ
長月「登るなって言ってるだろう!?」ガビーン
仁提督「お、お前たちいい加減にしろおお! 金剛! 長門を呼べ!!」
皐月「えっ!?」
532: 2021/07/24(土) 22:02:07.24 ID:5Fsdg4Xoo
嵐「お、おい、みんな降りろ! 長門さんが来たら大変だ!」
時津風「みんな逃げるよ!」ピョン スタッ
文月「ああ~、待ってぇ~」
雪風「しれぇ! お熱はありませんでした!」
長月「雪風、急げ!」
雪風「はいっ! 失礼します、しれぇ!」
キャーキャー バタバタバタ…
仁提督「……やれやれ」
金剛「テートク、お疲れ様デース。おはな、出てマスヨー」ティッシュサシダシ
仁提督「おう……お前ものんきに見てないで助けてくれ」ズビー
金剛「オウ、ソーリー。微笑ましかったので、ついつい眺めたくなってしまいマシタ。最近入った時津風も、馴染んでいるようで何よりデス」
仁提督「俺は舐められてるようにしか思えないんだがな。雪風の心のケアを心掛けてたら、他の駆逐艦連中まで寄ってきてこの様だ」
金剛「でも、おかげで雪風もよく笑うようになりマシタ。テートクのしたことは間違ってまセンヨー」
仁提督「そうだといいがな……」
533: 2021/07/24(土) 22:02:52.30 ID:5Fsdg4Xoo
金剛「大丈夫デース! 胸を張ってくだサーイ!」
仁提督「……」
金剛「……テートク?」
仁提督「あいつは、雪風みたいなやつを、何人も相手にしてきたんだろうな」
金剛「オウ、あの島の准尉のことデスネ?」
仁提督「ああ、あいつのことは気に入らんが、それでもやってることは評価せねばならん。雪風を相手にして、その苦労が良くわかった」
仁提督「雪風たちがあれだけ元気になったのも、あいつが黒潮を保護していたところが大きいしな……」
金剛「だからテートクはあの鎮守府に助け舟を出したわけデスネ?」
仁提督「俺は黒潮の件の借りを返しただけだ」フンッ
仁提督「そうでなくても、准尉以上に留提督という男が別ベクトルでいけ好かん」
仁提督「へらへらしていて落ち着きがない上に、人の話を聞かないと来た。なんだか昔の俺を見てるみたいでイライラさせられる」
金剛(今も話を聞かずに突っ走るときが結構ありますケドネ?)
仁提督「のこのこついてきた遠大佐も何を考えているのやら。あの小さい駆逐艦娘を随分信頼しているようだが、大丈夫なんだろうな?」
金剛「こちらでおいでになったときも、一言も喋りませんでしたからネー……」
534: 2021/07/24(土) 22:03:37.44 ID:5Fsdg4Xoo
* 回想 *
仁提督「墓場島!? あの島に行くって言うのか!? やめておけ! 行ったところで得られるものは何もない!」
仁提督「確かに轟沈した艦娘が流れ着く島だ。艦娘を水葬できなくて埋葬しているから、そういう名前がついたと聞いている」
仁提督「連れて帰る!? 馬鹿を言うな! 一度轟沈した艦娘を連れて帰ったらどうなるか、話を聞いてないのか!」
仁提督「命が惜しく……いや、それよりも近隣の鎮守府が許可したのか!? 地域住民には説明したのか!」
仁提督「悪いことは言わんぞ、貴様らが轟沈させた艦娘は諦めろ! 何が起こっても責任はとらんからな!!」
仁提督「俺たちが守るべきものはなにか! 理解してから行動しろ!!」
* * *
仁提督「まったく……轟沈したと知っていながら連れ戻そうなどと、これだから素人考えは……」
金剛「ブッチャケ、あのときはテートクも他人のことを言えた立場ではありませんでしたケドネー」ボソ
仁提督「聞こえてるぞ金剛……まあいい、俺もあの時は墓場島の艦娘を使い捨てにするつもりだったのは認める」
仁提督「そういう打算的な考えがあったのは間違いない。さすがに轟沈経験艦だとは思いもしなかったが……」
金剛「……」
仁提督「……なんだ?」
535: 2021/07/24(土) 22:04:37.85 ID:5Fsdg4Xoo
金剛「テートク、素直になった気がしマス。以前はこんなふうに、自分の失敗を素直に認められる人じゃなかったデス」
仁提督「そ、そうか……!? まあ、あの提督准尉のせいだろうな……」
仁提督「お前の相手に潜水艦を連れてきた件といい、島風と白露をあいつが引き取ってた件といい、黒潮が実は生きていた件といい……」プルプル
仁提督「ああああ、思い出すだけで赤っ恥だ! ……とにかく! あの島の出来事に比べれば、もうこれ以上恥をかいたりはせんだろうよ」ハァ
金剛(……わざわざ言って、フラグを立たせてるような気がしマス)タラリ
金剛「そういえば、テートクは白露と島風を連れ帰ろうとしませんでしたネ? 轟沈したわけでもないのに……」
仁提督「馬鹿を言うな、あいつらに限っては、俺が切ったんだぞ? 俺が関係を破綻させたんだ」
仁提督「無理矢理引っ張ってきたところでどうせ持て余すに決まっているし、恨まれることはあっても信頼されることはなかろう」
金剛「そうデスカ……?」
仁提督「お前は俺の変化をすぐそばで見てるかもしれんが、そうでない相手にはいきなり態度が変わったようにしか見えんだろうさ」
仁提督「白露と島風は、准尉に任せる。俺の手からはもう離れたんだ、これ以上手を出すのは下世話というか、無恥もいいとこだ」
金剛「それでは、白露と島風にはこれ以上干渉しないと?」
仁提督「ああ、ついでに准尉にも干渉しないようになると最高だがな。黒潮と雪風がいる以上はそうはいかんだろうが……」
仁提督「それから、俺が留提督の相手をすることももうないだろう。言いたいことは言った。あとは准尉にがっつりへこまされればいい」フン
金剛「オゥ……痛い目見ろと仰いマスカ」
仁提督「いや、そう思うだろう? 留提督の様子じゃあ、轟沈経験艦を連れ帰ってきたらどうなるか、全然わかっとらんようだった」
仁提督「遠大佐も遠大佐で、一言くらい助言があっても良かろうものを……よくわからんな」
543: 2021/08/15(日) 23:45:31.08 ID:h6xmbjMBo
* 鎮守府内 執務室へ向かう廊下 *
足柄「あのう、提督准尉?」
提督「ん? おお、いたのか」
足柄「ちょっ、いたわよ!? 単に話すことなくて大人しくしてただけじゃない! それよりも!」
千歳「准尉、私たちになにか協力できることはありませんか?」
提督「協力?」
千歳「ええ。申し遅れました、私、軽空母の千歳です。足柄と一緒に、波大尉のもとで働いておりました」
千歳「今は、遠大佐と留提督からこの島の案内役を依頼されまして、遠大佐のところで一時的に働いているんです」
提督「一時的? レンタルみたいなもんか?」
千歳「いえ、ちょっといろいろありまして……わたしたち、今は無所属の状態なんです。新しい所属先を探してる途中でして……」
提督「で、『一時的』にあいつらの部下になったってことか?」
千歳「はい。すっごく後悔してますけど」ハァ
提督「引き受けなきゃ良かったじゃねえか」
千歳「いえ、折角来たのに断ってしまうと、この後に仕事の話が来るかどうかわかりませんので」
足柄「だいたい、最初は『この島に加古と鳥海が来ていないか確認するだけ』って聞いてたのよ?」
544: 2021/08/15(日) 23:46:15.90 ID:h6xmbjMBo
千歳「それがこの島に上陸した時に、いきなり『轟沈した艦娘も何人か引き取って、呉の鎮守府でリハビリさせる』って言い出すんですもの」
提督「……」
千歳「挙句の果てには、勝手に鎮守府の中を家探しし始めるし……まるで騙し討ちに加担させられたみたいで、私たちも立つ瀬がなくて」
足柄「波大尉だったら、逐一私たちに報告確認しながら進めてるはずよね。勝手が違いすぎるっていうか、あの人、勝手が過ぎるわ!」
千歳「波大尉はもともと会社員だったからじゃない? 海軍のいろはがわからないからって、いつも私たちに相談してくれてたし」
足柄「そう! それが留提督にはないのよね……その場で思い付いたことを衝動的にやってるみたいで、動きが読めないわ」
提督「……やれやれ」
千歳「とにかく、留提督がやっていることは准尉にとっても迷惑にしかならないと思うんです」
千歳「留提督に雇われてこの島に案内した以上は、少しでもその尻拭いをしてお詫びしないと……」
足柄「そうね……留提督がどうなろうと自業自得でしかないと思うけど、准尉にこれ以上迷惑かけるわけにはいかないしね」
提督「まあ、いいけどよ。あまりお前らに頼むようなことはねえぞ?」
千歳「それでもかまいません。今後、私たちは准尉の指示に従います」
足柄「でも、どうして留提督は、轟沈した艦娘を引き取るなんて言い出したのかしら……」
千歳「多分だけれど……テレビ用の話題を作って、人気を集めたいから、じゃない?」
千歳「加古や鳥海を連れ帰って凱旋すれば、轟沈した艦娘を救った提督として、特別視されるんじゃないか、とか……」
545: 2021/08/15(日) 23:47:03.76 ID:h6xmbjMBo
千歳「仮に、他の艦娘も一緒にリハビリさせて、戦線に復帰させられるようになったら、艦娘の運用に改革が起こるわ」
足柄「……それって准尉の功績を横取りしようとしてるってこと!?」
千歳「准尉が協力的なら、准尉の協力を得て艦娘の帰還が実現した、とか、いくらでも都合よく言い換えられるんじゃない?」
千歳「今回は准尉が最初からこうだったから、方針を変えたとか……」
提督「ふぅん……思惑としちゃあ、いい線行ってんじゃねえかな。テレビ局引き連れてんだ、留提督が珍しいことをやれば視聴率も稼げるだろ」
足柄「やればいいってものじゃないわよ……その後のフォローとか、どうするつもりなのかしら」
提督「連れ帰るのがゴールなんだろ。とにかく連れ帰ってしまえば、あとは海軍が総力を挙げて尻拭いせざるを得ねえ」
提督「革命がしたいだけのテ口リスト……かつ、自惚れの激しいナルシスト、ってとこか? 面倒臭え人種だな」
千歳「……」
提督「気になる話は他にもあるが、まずはあいつらをとっ捕まえるのが先だ。これ以上、うちの艦娘に嫌な思いはさせられねえからな」
足柄「私たちは何をしたらいいの? なんでも手伝うわよ?」
提督「なら、ちょっと話を聞かせてもらうか。その前に執務室だ」
546: 2021/08/15(日) 23:47:45.84 ID:h6xmbjMBo
* 鎮守府内 提督の私室 *
如月「司令官のお部屋で待機、っていうのも悪くないわね」
大和「提督、大丈夫でしょうか……」
金剛「心配ネー……」
榛名「榛名は、ずっとここで待機していても大丈夫です!」ベッドニゴロゴロ
金剛「榛名……服がしわだらけになりますヨー……」
榛名「提督はいつもこちらでお休みになっているのですね……ああ、提督に包まれている感じがします!」
金剛(ここで寝てるのはテートクだけではありませんけどネ……)ハイライトオフ
如月「司令官のことは心配だけど、私たちが騒いだらかえって司令官が心配しちゃうわ。果報は寝て待て、って言うじゃない」
金剛「Oh... 駆逐艦が一番大人びてマス……」
大和「でも、その通りですね……提督には迷惑をかけられません」
ドタドタドタ…
如月「足音……誰かしら?」
榛名「提督ではありませんね?」
547: 2021/08/15(日) 23:48:31.64 ID:h6xmbjMBo
大和「ですね……」
金剛(みんな当然のように足音でテートクかわかるんデスネ……)タラリ
扉<バンッ!
クルー1「……!!」
如月「だ、誰!?」
クルー1「こ、ここはなんだ……!?」
金剛「あなた、提督のお部屋に何の用デス!」
クルー1「提督の部屋!? ……金剛に、如月に……大和!? そうか……やっぱりそうだったか!!」
大和「?」
クルー1「よっしゃスクープだぁぁぁ!!」ダッ
如月「ど、どういうこと……?」
クルー1(どこの提督も似たようなもんだ! 案の定、贔屓の艦娘を部屋に連れ込んでハーレム作ってやがった!)
クルー1(ご丁寧にでかいベッドまで用意して、2~3人連れ込んでヤリまくってたわけか……いいネタ掴んだぞ!)
朧「ていっ!!」ガッ!
クルー1「うわあっ!?」グリンッ ズデーン!
如月「朧ちゃん!?」
548: 2021/08/15(日) 23:49:15.94 ID:h6xmbjMBo
朧「よりによって、提督のお部屋に来るなんて……何を考えてるの!?」
クルー1「ちくしょう、准尉の手先め……!」
朧「手先?」ムッ
クルー1「ここの提督は、お気に入りの艦娘を集めて好き放題してるんだろう!?」
朧「……なにそれ?」
クルー1「とぼけやがって……」ヨジッ
サワッ
朧「っきゃあ!?」ビクッ
クルー1「おっ、手が緩んだ、今の隙に!」スルッ ダッ
如月「朧ちゃんどうしたの!?」
朧「お、お尻触られた……!」アオザメ
大和「なんですって?」
朧「て、提督にも触られたことないのに……!」ジワッ
如月「ちょっとあなた、待ちなさい?」ギロッ
クルー1「!?」ビクッ
549: 2021/08/15(日) 23:50:00.62 ID:h6xmbjMBo
金剛「朧に謝りなサイ!」
クルー1「はあ?」
大和「狼藉を働いておいて、何の謝罪もせず逃げおおせる気ですか!」
クルー1「お、お前らが最初に俺に暴力をふるったんだろうが!」
如月「暴力だとか言う前に、あなた、誰?」
如月「この鎮守府に、誰に断って入ってきたの? それも、司令官のプライベートな場所に……!」ジロリ
クルー1「……!」ジリッ
榛名「金剛お姉様? この人は誰でしょう? 侵入者ですか?」ヒョコッ
金剛「そうみたいデス、とりあえず捕まえ……」
榛名「敵なら、撃ちましょうか?」ガシャンッ
クルー1「ひ、ひいい!?」ダッ
大和「逃がさないわ!」ダッ
金剛「榛名は少し落ち着くデース!」ダッ
館内放送『ジジー……カシャッ』
如月「……あら?」
550: 2021/08/15(日) 23:50:48.13 ID:h6xmbjMBo
* 同時刻 *
* 鎮守府内 別の廊下 *
クルー2「はぁ、はぁ、なんだあの足の速いっていうか、不気味な艦娘は……」
タタタタッ ヒュッ
クルー2「うわあ!?」
神通「どこへ行くおつもりですか?」
クルー2「ひいい!」クルッ ダッ
神通「……」
シュバッ
神通「どこへ行くおつもりですか、と、訊いているのですが」
クルー2「ひぃえぁ!?」
神通「……」
クルー2「あ、あの、と、と、トイレに……」
神通「そうでしたか……でしたら、こちらに」クルッ
551: 2021/08/15(日) 23:51:31.06 ID:h6xmbjMBo
クルー2(今のうちに!)ダッ
神通「……」
シュバッ
神通「トイレはそちらではありませんよ?」
クルー2「ひゃひぃいい!?」
神通「ご案内いたします」ニコ
クルー2(だ、駄目だ……逃げられる気がしない)
クルー2(神通と言えば、おどおどしてて臆病な艦娘のはずだが……)
神通「提督からは、皆さんが勝手な行動をとられないように仰せつかっております」
神通「事を荒立てて難癖をつけ、あわよくばこの島の鎮守府の弱みを掴もうとお考えでしょうが……やめておいた方が身のためかと」
クルー2「!?」
神通「御用が済みましたら、速やかにお帰りください」ニコ
クルー2「……は、はひ……」
552: 2021/08/15(日) 23:52:16.61 ID:h6xmbjMBo
* 同時刻 *
* 鎮守府内 工廠 *
利根「うむ、これで少しは使いやすくなるのではないかな」
由良「わぁ……利根さん、ありがとうございます」
明石「利根さんもカタパルトの整備が板についてきましたねえ」
利根「それは先生の教え方が良いからであろう」
明石「もー、先生って何言ってるんですかあー!」テレテレ
利根「先生は先生である。仮にも専門家の手ほどきを受けておるのだ、吾輩もこのくらいはできねばな」
明石「なんだかこそばゆいですねえ」ニマニマ
由良「でも、本当に助かります。この島に流れ着いてきたときは妖精さんしかいなかったし」
明石「あー、あの時はびっくりしたなあ……間宮さんもいないもんね、ここ」
五月雨「みなさーん、麦茶持ってきましたー」カチャカチャ
由良「五月雨ちゃん!? 無理しなくていいから!?」ガシッ
五月雨「あ、ありがとうございます! ちゃんと落とさずに持ってきましたよ!」
利根「た、確かにそのようだが……五月雨が何か運んでいると、どうにも危なっかしくてひやひやするな」
由良「麦茶のボトルもガラス容器じゃなくて、プラスチック容器とかを買ったほうがいいんじゃない?」
553: 2021/08/15(日) 23:53:01.08 ID:h6xmbjMBo
龍驤「ついでにうちらの式神用の和紙も、追加注文してもらってええかな?」ヒョコッ
雲龍「お邪魔するわね」
明石「お二人もカタパルトの整備ですか?」
龍驤「うんや、うちらはお散歩中や」
雲龍「今日は出撃もないし、出歩かないよう言われてるから、暇なの」
利根「ああ、あの例の……ん?」
クルー3「……ここまでくれば……うん? ここは……」
五月雨「あれ、もしかして……どうしたんですか?」
クルー3「うわっ!? ……か、艦娘か……物々しいけど、ここはいったい?」
明石「工廠ですよ。関係者以外立ち入り禁止ですけど、何の用ですか?」
クルー3「え、ああ、用っていうか……取材をさせてくれないか。ここの提督のことについてなんだが」
利根「提督の?」
クルー3「そう。人となりというか、どんな人物なのか」
由良「……」
雲龍「……」
554: 2021/08/15(日) 23:53:46.01 ID:h6xmbjMBo
クルー3「な、なんでだんまりなんだ?」
龍驤「なんでって、あんたに喋ってええかどうか、わからんしなあ?」
クルー3「いやいやそう言わずに。自分たちの提督がテレビに出て有名になったら嬉しいだろう?」
雲龍「それはないわね」
龍驤「うん。ないない」
クルー3「えぇ!?」
由良「提督さん、有名になりたいなんて、これっぽっちも考えてないわよね」
明石「絶対、面倒臭いって言いそう」
クルー3「なにを言っているんだ、有名になれば支援が増えて仕事もやりやすくなるだろう?」
明石「そのためにあなたがたを接待しろと? お断りですよ、そんなの」フンッ
クルー3「え!?」
五月雨「!?」ギョッ
利根(明石……!?)
明石「悪いことは言いませんから、早くこの島から出て行って、この島のことを全部忘れてしまった方がいいですよ」
クルー3「な、なんでだ!?」
555: 2021/08/15(日) 23:54:30.86 ID:h6xmbjMBo
明石「この島のことを記録したっていいことなんかありませんもの。むしろあなた方の安全すら脅かすかもしれません」
明石「だってここは、轟沈した艦娘が棲んでる島ですよ? 人間が立ち入っていいかどうかすら疑わしい場所ですよ?」
明石「なんで、この島に提督以外の人間がいないのか、少し考えたほうがいいのでは?」
クルー3「……き、脅迫するつもりか」
明石「脅迫でもなんでもありませんよ、警告というか、むしろただのお節介です」
明石「考えたことありますか? 艦娘が轟沈する理由」
クルー3「理由? ……その提督の判断ミスとか、敵が強かったとか……」
明石「本当にそれだけでしょうかね?」ニィ
利根「お、おい、明石?」
明石「わざと沈められた艦娘も、いるかもしれませんよ? どんな理由かはご想像にお任せしますが……」
雲龍「わざと?」
明石「ええ。例えば、その鎮守府の知ってはいけない秘密を知ってしまって始末されかけた、とか」
明石「もし、その艦娘に接触したことを知られたら黙っていられない人がいるかもしれませんよねえ?」
明石「そうしたら、次に狙われるのは誰になります……?」
クルー3「……」
556: 2021/08/15(日) 23:55:30.87 ID:h6xmbjMBo
明石「あるいは、新しい艦娘に懸想して、古い子が必要なくなったから、わざと……とか?」
明石「こんなに尽くしたのに! こんなに、好きだったのに! どうしてあの人は、私を捨てたの!?」
明石「そうして、愛を失い、理性を失い、狂ってしまった艦娘が、深海棲艦に……!」
クルー3「……」ゴクリ
明石「なってしまっても、おかしくないと思うんですよねぇ」
龍驤「明石……一応聞くけど、作り話なん?」
明石「はい!」
龍驤「ぞっとせえへんな……」
利根(後者の話はこの前読んだマンガの展開に似ておるな……寝取られものだったか?)
明石「途中まで信じそうになるくらいには、程よくリアルだったでしょう?」
雲龍「……」
明石「この鎮守府にいる艦娘だって、どんな思いを奥底に秘めているか、誰にもわからないんです」
明石「この島に流れ着いた理由が、それぞれにあるんですから。どこで地雷を踏むか、わかったもんじゃないんです」
クルー3「!」
557: 2021/08/15(日) 23:56:16.11 ID:h6xmbjMBo
明石「なにか起こる前に帰ったほうがいい、と言ったのはそういうことです。私は忠告しましたからね?」
五月雨「明石さん……」
利根「……」
由良「……」
龍驤「……せやなあ。うちも昔のこと思い出したら、また鎮守府火の海にしても、おかしくないもんなあ」
クルー3「!?」
龍驤「そしたら今度こそ、居場所なくなってまうで……」ウーン
雲龍「大丈夫。大丈夫よ」
龍驤「……雲龍……」
館内放送『ジジー……カシャッ』
明石「!」
558: 2021/08/15(日) 23:57:30.55 ID:h6xmbjMBo
* 更に同時刻 *
* 鎮守府内 食堂 *
クルー4「こ、ここはどこだ……!?」タタッ
潮「ひっ!!」
長門「……こんなところまで追いかけてきたか」
陸奥「潮ちゃん、下がってて」
潮「は、はいっ!」
クルー4「せ、戦艦長門……!!」
長門「貴様は留提督の連れてきた人間だな? 潮をどうするつもりだ」
クルー4「……そ、それは、留提督の艦娘として、戦力にならないかスカウトしていたんだ」
陸奥「そうなの?」
潮「……っ!」フルフル
長門「怯えているようだが?」
クルー4「た、確かに、声をかけたスタッフは少々強引だったが……こんな辺鄙な島にいるよりは、ちゃんとした鎮守府で働けた方がいいはずだろ!?」
陸奥「ちゃんとした鎮守府、ね……」イラッ
クルー4「……? 待て、なんでそんな不満そうなんだ? こんな何もない島がそんなにいいのか?」
559: 2021/08/15(日) 23:58:15.87 ID:h6xmbjMBo
クルー4「資材だって食糧だって満足に受けられない辺境の島に監禁され続けているのに……この島の提督に洗脳されてるのか?」
潮「は……!?」
陸奥「洗脳……?」
長門「……なんだそれは」
クルー4「なんだ、って言われても……この島で、これまで深海棲艦になった艦娘はいないんだろう?」
長門「……確かに、この島にはいないな」
クルー4「この島の提督は、轟沈した艦娘が深海棲艦になるというデマを利用して、自分の気に入った艦娘を囲っているんじゃないのか」
潮「それ、デマ……なんですか?」
陸奥「さあ……? 囲ってるって話のほうはデマに違いないけど」
クルー4「はぁ!? 囲ってるって話がデマなら、提督は頑なにこの島の取材を拒否するのはなんでだ!?」
クルー4「なにも後ろめたいことがないなら、取材拒否するのはおかしいだろ!」
長門「やれやれ。根本的に間違っているな……」
潮「そ、それって、提督が取材を拒否したら、悪い人と認定する、ってことですよね……?」
陸奥「なにそれ。あなたたち、提督を糾弾するつもりでこの島に来たってこと?」
クルー4「後ろめたいことがあるんだろう? だったら糾弾されて当然じゃないのか」
560: 2021/08/15(日) 23:59:00.76 ID:h6xmbjMBo
クルー4「いくら轟沈したところを保護したとはいえ、元の鎮守府に帰さないで私物化するなんて、まるで火事場泥棒だ」
クルー4「怪我が治ったら元の鎮守府に戻してやるのが、その艦娘のためじゃないのか?」
陸奥「あら、その認識自体がもう間違ってるわ。加古だって戻りたくないって言ってるじゃないの、留提督の指揮が原因で」
クルー4「いや……でも、軍艦というか、軍人なんだろう? そんなふうに反抗していいのか?」
長門「いくら軍人でも、ストレスがたまれば体も壊すし、心も離れていくものだ。理不尽な命令を受ければ反発もする」
クルー4「え!? そ、そうなのか……!?」
長門「それに、私たち3人は轟沈したわけでもないしな。お前のその話は私たちには当てはまらないぞ」
クルー4「じゃ、じゃあなんでこの島に!?」
長門「……前の鎮守府にいた人間の振る舞いに失望し、いろいろあってこの鎮守府に辿り着いた」
長門「理由は詳しく言いたくない。だが、私たちがここにいる理由の一つに、人間に対する不信感があることは間違いない」
クルー4「人間に不信感!? じ、自分たちの意思で、この島に、いるっていうのか」
長門「その通りだ」
クルー4「そんな、話が違うぞ……艦娘が、人間に歯向うなんて……!」ヨロ…
561: 2021/08/15(日) 23:59:45.96 ID:h6xmbjMBo
陸奥「ちょっと、何をぶつぶつ言ってるの? 私たちのことは放っておいて。早く帰って欲しいんだけど」
クルー4「……っ!」ダッ
長門「なんだ今の男は……」
潮「最後、なんだか顔色が悪くありませんでしたか……?」
長門「ああ……」
陸奥「……う……」
グラッ
長門「陸奥!?」ガシッ
陸奥「はー、はー……」ガタガタ
潮「む、陸奥さん大丈夫ですか!?」
陸奥「だ、大丈夫……ちょっとだけ、緊張しちゃった……」
潮(陸奥さんのトラウマ、私よりひどそう……!)
長門「……まったく、あいつらは何をしに来たんだ……!?」
館内放送『ジジー……カシャッ』
562: 2021/08/16(月) 00:00:31.10 ID:ONe+sA41o
長門「うん? なんだ?」
館内放送『あー、あー。提督だ。鎮守府所属の艦娘全員に緊急連絡』
館内放送『この鎮守府に、外部から遠大佐及び留提督とそのお仲間が来ていることは承知していると思うが』
館内放送『このうち留提督とその一味、男5人が、鎮守府内を勝手に探索と称して家探しを開始した』
館内放送『全艦娘はこの侵入者5名を直ちに捕縛、拘束し、会議室へ連行せよ。なお、生氏は問わない』
館内放送『繰り返す。生氏は問わない』
館内放送『首だけでも構わねえ、5人全員とっ捕まえて、会議室に持ってこい』
館内放送『手間ァかけさせて悪いが、よろしく頼む。以上だ』
長門「……」
潮「さ、さっきの人を捕まえないと、いけないんじゃ……!?」
長門「いや、やめておこう。陸奥の状態が酷いからな」
ドドドドドド…
長門「あれは……」
島風「長門さーーーん!」
563: 2021/08/16(月) 00:01:15.83 ID:ONe+sA41o
* 一方そのころ *
* 鎮守府内 提督の私室へ続く廊下 *
大和「生氏は問わない、ですか」
金剛「テートクは、相当に Angry デスネー……」
榛名「首だけでもいいんですよね!?」
クルー1「じょ、冗談じゃねえええ!」ダッ
大和「!」
クルー1「さっきの部屋に戻りゃあいいんだ! 遠大佐になんとかしてもらうしかねえ!!」
金剛「なんて逃げ足の速さデス!?」
大和「火事場の馬鹿力、ですか……!」
クルー1「うおおおおお!!」ダダダダ…
金剛「Shit ! 逃げられてしまいマシタ!」
大和「……」
如月「朧ちゃん!? しっかりして!」
朧「……」ズーン
榛名「金剛お姉様……この子は、提督に見ていただいたほうが良いのではないでしょうか?」
金剛「Nmm... 今のテートクにその時間があれば良いのデスガ」
大和「……許せない」ギリッ
564: 2021/08/16(月) 00:02:01.61 ID:ONe+sA41o
* もう一方では *
* 鎮守府内 工廠前 *
利根「……生氏は問わない、か」
クルー3「……」ブルッ
由良「どうなっててもいいから、連れてこいってことなんでしょうね」
明石「五月雨ちゃん、悪いんだけど、この人を会議室まで案内してあげて」
五月雨「は、はい!」
明石「あなたも無駄に氏にたくないでしょ?」
クルー3「……」コク
スタスタ…
明石「ふぅ……あの人は大人しくしててくれそうかな」
龍驤「明石、出まかせとはいえ良くあそこまですらすら言えたなあ?」
明石「出まかせってわけでもありませんよ。私がそうですから」
龍驤「は?」
565: 2021/08/16(月) 00:02:46.34 ID:ONe+sA41o
明石「あ、言ってませんでしたっけ? 裏帳簿作らされて、その罪を私に押し付けられて雷撃されたって話」
龍驤「はああ!? 聞いてへんで、そんなの!」
利根「それはあれか、北上に失敗作の魚雷で雷撃されたおかげで生き延びたという、あの話か」
明石「はい、それですね」
龍驤「はぁ……提督も大概やけど、キミも他人のこと言えた立場やないな」
雲龍「……明石も、提督に恩があるのね」
明石「まあ、そうですけど……私は別に提督が特段好きってわけじゃないですよ? あの人、自暴自棄だし、朴念仁だし、ニブチンだし」
龍驤「容赦ないなぁ……」
明石「でも、あの人の行動は全て、艦娘を守るための行動ですから」
明石「人間に失望してああなった人ですから。せめて私たちが味方してあげないと、かわいそうでしょ?」
576: 2021/09/05(日) 12:57:03.15 ID:WAM6fwFIo
* 少し時間をさかのぼり *
* 島の南東 丘の上 *
留提督「まさか外に出たとは誰も思ってないだろうなあ……」
留提督「それにしても、なんだ? ここ」
(丘の斜面に立ち並ぶ墓標代わりの艦娘の艤装群)
留提督「艦娘の背負ってる、船の装飾? なんでこんなもの置いてんだろ。まあいいや、電話しよっと」
* 一方 墓場島鎮守府 埠頭に停泊している遠大佐の巡視船内 *
島妖精「……きみたちも詳しく聞いてないのか」
鹿島の装備妖精「はい。いきなり連れてこられて、私たちも戸惑ってるんです」
山風の装備妖精「この島に来るなんて聞いてないし、艤装を外して連れていくなんて……」
ガンビアベイの装備妖精「Muri...」
妖精「なんで装備を外すことになったんだろう……」
鹿島妖精「艦娘が非武装なら、敵意がないことをわかってくれるはず、って、土下座して頼まれたんです」
山風妖精「危ないって言ったのに……」
ベイ妖精「Murii...」
577: 2021/09/05(日) 12:57:47.38 ID:WAM6fwFIo
島妖精「どうする、一旦提督に報告するか?」
妖精「そうだね……」
♪ジャーンジャジャンジャーン
妖精「?」
クルー5「はい、もしもし?」
妖精「……電話の音かぁ」
島妖精「今の電話は音楽が鳴るんだな」
鹿島妖精「電話っていうか、今のスマホはなんでもできますよ?」
島妖精「すまほ?」
山風妖精「うん、スマートホン。電話だけじゃなくて、写真や動画も撮れるし……」
島妖精「写真!? おい、まずいぞ……」
妖精「しっ……!」
クルー5「あー、駄目でしたかー。じゃあ、准尉を追い込む作戦で行くんですね」
島妖精「んなっ!?」
578: 2021/09/05(日) 12:58:32.08 ID:WAM6fwFIo
クルー5「わかりました、じゃあ俺たちも島に乗り込んでネタ探してきます!」
クルー5「見た感じ、こっちは誰もいませんね。はい、見つからないように行きますんで! 衛星写真の地図もありますし大丈夫っすよ!」
クルー5「連絡とれるの俺だけですけど……衛星電話なんて料金高くて普通使えませんし、普段から海外への渡航経験あるのも俺だけですから」
クルー5「はい、任しといてください! 留さんも気を付けて!」
妖精「……!」
島妖精「地図だと……?」
クルー5「おい、俺たちも出るぞ!」
クルー6「え、マジで行くんすか?」
クルー7「行くに決まってんだろ? じゃなきゃこの企画、落ちるぞ?」
クルー6「や、ガチのマジで大丈夫なんですか? いくら下っ端でも海軍のいち司令官っすよ?」
クルー5「大丈夫だって、准尉なんて大佐から見たらずっと下なんだから、遠大佐がなんとかしてくれるって!」
クルー6「だといいんすけどねえ……大丈夫なんすかね、あの准尉って人」
クルー7「ぐずってないで行くぞ、いまフリーの俺たちが撮れ高あるネタ探さねえと放送できねーぞ」
クルー6「しゃーねーっすね、行きますかあ」
クルー5「みんなカメラは持ったな!? 行くぞォ!」
クルー6「うーっす」
クルー7「へーい」
クルー5「もうちょっと気合入れろよ!」
ゾロゾロ…
579: 2021/09/05(日) 12:59:17.84 ID:WAM6fwFIo
島妖精「やっぱり2グループ目がいたか……」
妖精「ねえ、テレビ局の関係者は何人来たの?」
鹿島妖精「今の人たちで全員です」
妖精「ということは、全部で8人だね……」
島妖精「わたしたちはあの3人を追いかける。お前は提督に報告を頼む」
妖精「うん……!」
タッ
妖精「……」
山風妖精「みんな、大丈夫なのかな……」
ベイ妖精「Mow, Muriie...」
妖精「……ねえ、この船の乗組員さんは?」
鹿島妖精「いますけど……」
妖精「誰か私たちの姿が見える人、いないかな?」
山風妖精「見える人はいないみたいです」
妖精「そっか……とりあえず、提督に相談かな」
ベイ妖精「Baaaay... Come baaaack... Come Back hurry...」プルプル
妖精「それより大丈夫かなこの子」
鹿島妖精「ま、まあ、この子はわたしたちが見ますから……」
580: 2021/09/05(日) 13:00:02.42 ID:WAM6fwFIo
* 島の南東 丘の上 *
留提督「ふう……これで良し、っと」
敷波「……ちょっと。なにしてんの? 提督の服を着てるっぽいけど、誰?」
留提督「うお!? な、なんだ、おいもちゃんかあ」
敷波「はぁ?」カチン
留提督「ちょっと休ませてよ。今朝からいろいろあって疲れてるんだ」
敷波「ちょっと!? 艤装に座んないでよ!!」
留提督「ギソウ?」
敷波「そこに座るなって言ってんの!!」
留提督「えー? じゃあどれだと座っていいの?」
敷波「いいから立ち上がって!」
山城「……だわ」
敷波「……あ」クルリ
山城「ああ、不幸だわ……何あの軽そうな男。なんで時雨の艤装に汚い尻を乗せてるの?」ゴゴゴゴ
敷波「あーあ……」
581: 2021/09/05(日) 13:00:48.72 ID:WAM6fwFIo
留提督「ん? あれ、誰だっけ……ああ、あれか! 不幸姉妹!」
山城「はぁ?」ピキッ
留提督「髪が短いのはどっちだっけ……妹の方かな? 確かに不幸そうな顔してるなあ」
山城「……敷波。なに、あいつ」
敷波「知らないよー。あたしだっていきなり芋呼ばわりされるし。めちゃくちゃムカついてるんだけど」
山城「そう……お掃除始めたいけど、いいわよね?」
敷波「ここでやらないならいいんじゃない? あたし、布巾持ってくる」
山城「ええ、お願い。それじゃあ、まずはネズミを捕まえるところから……」ヌラリ
留提督「はっ!」バッ
山城「って、逃げてんじゃないわよ!!」
留提督「やばいやばい! 何に怒ってんのかわかんないけど、あの不幸姉妹は使えなさそうだなあ……!」
山城「なにあいつ、逃げ足速すぎよ……!」
582: 2021/09/05(日) 13:01:32.02 ID:WAM6fwFIo
* 鎮守府そばのビニールハウス *
初雪「……水やり終わり」
初雪「……休憩しよ」
(ビニールハウスの片隅にビーチチェアとパラソルのセットが置いてある)
初雪「よいしょ……」ゴロン
初雪「……」
初雪「……」ウトウト
留提督「うおおお、なんだこれ!?」
初雪「!?」ビクッ
留提督「すげー、畑あんじゃん! ダッ○ュ村みたい! 何作ってんの!?」
初雪「!? !?」オロオロ
留提督「あー、なんだピーマンか、ハズレだなー。こっちはなんだろ……うわ、泥だらけだ! きったねー!」ガサガサ
初雪(いきなり入ってきて……なに? この人……)アゼン
留提督「あれ? 君も艦娘? ここでサボってんの?」
初雪「……は?」
583: 2021/09/05(日) 13:02:17.72 ID:WAM6fwFIo
留提督「あ、君、ゲームとかいっぱい持ってる子だよね! 匿うついでにちょっと部屋に連れてってよ!」ズイッ
初雪「!?」
留提督「なんか知らないけど、みんな怒ってんだよね。せっかく俺たちがみんなを助けようって言うのにさあ!」
初雪「!?!?」パニック
留提督「ここの提督に監禁されてるんでしょ? 証拠掴んで公表して、自由にしてあげるからさ!」
留提督「こんな島から脱出すれば、ゲームだっていろいろ買い放題だよ! 早く行こうよ!」ウデツカミ
初雪「ひっ!?」ビクッ
留提督「大丈夫! 僕は君の味方だから!」グイグイ
初雪「い、いや……はなし、て……!」
扶桑「……あら? はつゆ……」
留提督「うわ、やばっ!! 不幸が追いかけてきた!」
ダダッ
扶桑「きゃ!? ……今の、誰かしら。初雪さん、今走っていったのは……」
初雪「……」ガタガタ
扶桑「初雪さん……?」
584: 2021/09/05(日) 13:03:16.93 ID:WAM6fwFIo
初雪「……ふそう、さん……! こ、こわか、った……!」ウルウル
扶桑「え? ……大丈夫よ、心配いらないわ。さっきの人は、走ってどこかに行ってしまったから」ダキヨセ
初雪「ほんと……?」ヒシッ
扶桑「ええ。それにしても、あの人はここでいったい何をしようとしてたのかしら……」
初雪「……ゆうかい、されそうに、なった……!」ガタガタ
扶桑「え……!?」
武蔵「おい、何があった!?」
山雲「畑が荒らされて……こっちに足跡があるわ~」
武蔵「提督のような服装だったが……もしや留提督か、遠大佐がここにきたのか!?」
若葉「すまない、こっちに留提督が来なかったか!?」
山城「扶桑お姉様は無事なの!?」
山雲「ねえねえ、いったい、なにがあったの~?」
若葉「実は……」
館内放送『ジジー……カシャッ』
扶桑「あら……?」
585: 2021/09/05(日) 13:04:02.55 ID:WAM6fwFIo
* 鎮守府の西側の林 *
留提督「おっかしいな、なんであんなに反抗的なんだ? 艦娘ってのは、提督に対して従順じゃなかったのか?」
留提督「やっぱり他の鎮守府だからかなあ……となると、やっぱりこの鎮守府を制圧しないと駄目か」
留提督「スタッフのみんなが鎮守府の弱みを見つけてくれると話が早いんだけど……」キョロキョロ
スマホ<♪ッチャッチャッチャーンピロピロピローン
留提督「おっと! もしもし?」
スマホ『もしもし、留さん無事ですか!?』
留提督「うん、だいじょぶだいじょぶ! 生きてるよー!」
スマホ『いや、笑ってる場合じゃないっすよ! 聞きましたか今の放送!』
留提督「放送? なにかあったの?」
スマホ『留さんたちを捕まえろって、准尉から艦娘に指示が出たんです!』
スマホ『それも、生氏は問わないって物騒な文言つけて!』
留提督「うわ~……それじゃあ、この島にやばいものがあるって決定ってことじゃん! なにか見つけた?」
スマホ『まだですけど、留さんは狙われてるんですから、マジで気を付けてくださいよ!?』
スマホ『俺たちはマークされてないから自由に動けますんで、もう少し探してみますけど!』
586: 2021/09/05(日) 13:04:47.18 ID:WAM6fwFIo
留提督「おっけー、それじゃあ引き続き……なんだこれ」
スマホ『どうかしたんすか?』
留提督「いや、これ……骨だ」
スマホ『ほ、ほね?』
留提督「やっべえ、人骨だ! これ多分、人の骨だよ!」
スマホ『えええ!? ほ、本当すか!?』
留提督「マジだよこれ! すっげえ、やっぱやばいんだよこの島!」
スマホ『重要な証拠じゃないっすか! ちゃんとカメラで撮ってくださいよ!』
留提督「わかってるって! うおお、やっべーー!」ゴソゴソ
スマホ『動画で撮影するときは声を入れないでください!』
留提督「わかってるって言ってんじゃん! おお~……マジやべえ~……!」パシャパシャッ
スマホ『とにかく、そういうのがあるってわかった以上は、こっちにも何かあるはずです!』
スマホ『俺たちも探しますんで、留さんは無理しないで安全確保でお願いしますよ!』
留提督「おっけーおっけー! そっちも気を付けてね!」
ピッ
留提督「ビデオモードでも撮影……っと……」ジー
留提督「早く持ち帰って編集してもらわないと……!」
留提督「やっべえ、俺、悪い提督から艦娘を助け出すヒーローになるんじゃね?」ワクワク
594: 2021/09/14(火) 22:33:03.44 ID:nFn2ij2jo
* 鎮守府内 食堂 *
足柄「生氏は問わない、って、過激すぎるわよ!?」
提督「別にいいだろ。そもそもこの島の半分は未開拓なんだ、俺だってこの島にどんな毒を持ってる生き物がいるか把握してねえんだぞ」
提督「そうでなくても転んで氏ぬことだってあり得る。そういう意味でも回収を最優先しろって話じゃねえか」
提督「それにああ言えば、この島が危険だって認識もするだろ。それがわかんねーなら野垂れ氏ねと言ってやりたいがな?」
千歳「一番危険なのはその過激すぎる准尉の思想だと思いますけど……」
島風「あー、提督!! おっそーい!!」
提督「おう、悪いな。で、潮は大丈夫か?」
潮「は、はい!」
黒潮「潮はええけど、なんか陸奥はんが具合悪そうなんよ……」
陸奥「大丈夫、ちょっと気分を悪くしただけよ」
白露「私たちが明石さんところに連れてってあげたほういいかな?」
提督「お前らじゃなくて、頃合い見て長門と一緒に行ってくれ」
島風「えっ!? 私たちじゃないの!?」
提督「お前らは黒潮に何やったのか覚えてねえのか」ジトッ
黒潮「……」ジトッ
白露「……あ、あははは~」
595: 2021/09/14(火) 22:33:48.50 ID:nFn2ij2jo
提督「まあいい。で、潮を囲んだ連中がどこに行ったかなんだが……」
潮「そ、それが……」
* *
長門「……というわけで、どうやらここに来たテレビ局の一人は、艦娘が提督には絶対に逆らわないと信じて来たみたいなんだ」
提督「なんだそりゃ?」
島風「よくわかんないですねー?」
黒潮「随分都合のいい設定やなあ……」
長門「私たちが轟沈せずに余所の鎮守府から離反して来たと言ったら、かなりショックを受けていたようでな」
提督「そういう理屈か……あんまり言いたかねえが、艦娘は未だ海軍の備品扱いだ」
提督「人間に対して逆らうことはない、って認識があって、それを見た連中がそれを普通と認識すりゃあ、そうもなるかもな」
潮「で、でも、どうしてそれがそんなにショックなんでしょう……」
提督「人間が手も足も出ねえ深海棲艦を倒せる艦娘が人間に襲い掛かったら、絶対かないっこねえよな?」
提督「人間を攻撃しないはずの猛獣が、実は歯向かう危険があるとしたら、恐ろしさから殺せと言ってくる奴がいてもおかしくねえ」
潮「そんな……」
提督「逃げた奴がそういう胸糞悪い考えでいたとしたら、陸奥が気分悪くするのも無理はねえんじゃねえか?」
黒潮「あー、そういう……」
596: 2021/09/14(火) 22:34:33.54 ID:nFn2ij2jo
千歳「あの、准尉? この島には、轟沈した艦娘が流れ着いてくるんではなかったの?」
提督「いいや? その認識で合ってるが、そうでないやつもいる、って話だ。ここにいる艦娘は、全員轟沈しちゃいねえよ」
提督「事情はそれぞれだが……前の鎮守府の司令官がとった行動のせいでこの島に来ることになった、いわば避難してきた艦娘だ」
足柄「霞ちゃんもそうなの!?」
提督「んー……そっちはあとで当人から聞いてくれ。つうか、今日は厨房にいるよな? 騒ぎの時に出てこなかったのか」
長門「貴様が言っただろう、関係ない艦娘は極力この件に顔を出すなと。霞はそれを守っているだけだ」
提督「あー、そういやそうだった……」
<シレイカーン!
提督「ん?」
朝潮「はぁ、はぁ……こちらにいらっしゃいましたか!」
提督「なんだそんなに慌てて」
朝潮「よ、妖精さんからご報告がございます!!」ビシッ
妖精「朝潮ちゃんに運んでもらったから早く来れたよ」ヒョコッ
提督「報告……って、何かあったんだな?」
* *
597: 2021/09/14(火) 22:35:18.21 ID:nFn2ij2jo
提督「……やっぱり別動隊がいやがんのか」
妖精「とりあえず島のみんなに協力してもらってるけど、手分けして島の中を撮影しようとしてるみたいだよ」
提督「奴らが乗って来た船の中に、居残りしてる奴はいるか?」
妖精「いないね。テレビのクルーは留提督含めて全部で8人だって」
提督「ほーう……そんじゃあ、またお上に告げ口作戦で行くか。手紙書くから船にまでもってってくれるか?」
妖精「うん、まかせて」
長門「なんだその告げ口作戦というのは」
提督「詳しくは後でな。ちょっと急ぎてえし」
足柄「……准尉、あなた、妖精さんと話ができるの!?」
提督「ん? なんだ、知らなかったのか……つうことは、留提督や遠大佐もこのことは知らねえんだな?」
千歳「え、ええ、多分、そういうことになるのかしら。そもそも妖精さんの話題すら上がらなかったし……」
提督「そういうことなら、足柄と千歳は俺が妖精と話せるってこと、あいつらには内緒にしておいてくれ」
千歳「承知しました」
朝潮「そ、それから、司令官……大変申し訳ありません!!」バッ
提督「ん? どうした?」
朝潮「留提督を、見失いました……!」
提督「見失った?」
598: 2021/09/14(火) 22:36:22.09 ID:nFn2ij2jo
朝潮「留提督が窓から外へ逃げたところまで、若葉さんと把握しておりましたが……」
朝潮「手分けして捜索に向かったものの、朝潮はその後の足取りを掴むことができず……!」
朝潮「何の手掛かりもないままに、妖精さんを連れて戻ってきてしまいました……!」ウルウル
提督「そうか。別にいいぞ?」
朝潮「大変申し訳ありま……えっ」
提督「そんな深刻になるな。見失ったもんはしょうがねえ」
朝潮「で、ですが」
提督「若葉がまだ戻ってこねえってことは、向こうで何かを掴んでる可能性もある」
提督「最終的にあいつがこの鎮守府のことを放送しなけりゃいいだけの話だ」
朝潮「え、あの……私の処分は」
提督「ねえよ。確かに任務に失敗したかもしれねえが、まだ俺たちの負けが決まったわけじゃねえ」
朝潮「司令官……!」
提督「まだまだ打つ手は残ってるさ。とりあえず朝潮と白露、島風は一緒に来い」
島風「おうっ!?」ビクッ
提督「何びっくりしてんだよ」
白露「だって提督、私たちを頼る気配、全然なかったじゃないですか!」
提督「事態が変わったからな。とりあえずついてこい」
足柄「私はここに残っててもいい? 霞ちゃんと少し話したいんだけど。あ、勿論、邪魔はしないわよ!?」
提督「ん? ああ……長門、一応付き合ってやってくれ」
長門「承知した」
599: 2021/09/14(火) 22:37:04.15 ID:nFn2ij2jo
* それからしばらくして *
* 夕方 鎮守府内会議室 *
留提督「いやあ、まいったまいった」ドロダラケ
クルー1「どうしたんですかその恰好!」
留提督「いやー、調子に乗って林の中をうろうろしてたらこんなふうになっちゃってね~」
提督「毒蛇がいるかもしれねえってのに、のんきなもんだぜ」
クルー2「いるんですか!? 毒蛇が!」
提督「調べてねえから知らねえよ」
クルー4「調べてないんですか!」
提督「だから何があるかわからないから立ち入るな、ってなるんだろうが」
クルー1「なんて無責任な……」
提督「勝手に島にやってきて勝手に手付かずの林に立ち入って勝手に怪我したら俺の責任かよ? ふざけんな」
提督「そもそも俺はお前らに帰れと言ったぞ。俺の言うことを聞かない連中が俺に責任を押し付けんじゃねえよ、くそが」
クルー3「……それはそうと准尉さん、売店とかに留さんの着替えは売ってないんですか?」
提督「いらねえとよ。明石に酒保開けてもらって、そこで売ってる服で我慢しろっつったんだがな」
600: 2021/09/14(火) 22:37:48.44 ID:nFn2ij2jo
留提督「趣味じゃないんだよね、安物な上に普通より高いし。他にないの?」
提督「他なんかねえよ、この島の在庫はあの酒保の分だけだ。その酒保を開いただけでもありがたいと思えってんだよ、贅沢ばっか言いやがって」
留提督「だとしてももうっちょっと趣味のいい服、用意しててほしいんだけど。ああ、あとシャワー貸してくれない?」
提督「もう帰れよ……なんで風呂まで恵んでやんなきゃなんねえんだ、この馬鹿野郎が」ゲンナリ
留提督「……」
クルー2「ちょっ……いくらなんでも言い過ぎじゃないですか!?」
提督「馬鹿は馬鹿だろうが。てめえらのやってることは、勝手に他人ん家に入って冷蔵庫開けて文句言うガキより躾がなってねえって言ってんだよ」
提督「着替えたい服がないならそのままにしてるか洗濯しろ。たらいと洗濯板なら貸してやる」
提督「艦娘が帰ってきたときに艤装の海水を流す水場があるから、日が落ちる前にそこで全部洗ってこい」
クルー3「そこまで目の敵にしなくても……」
提督「ああ? さっきから俺は何度も、お前らを歓迎してねえ、っつってんだろが」
提督「轟沈した艦娘の扱いはさっき説明したよなあ? 鳥海や加古を助けるっつう名目自体、上が通すとは思えねえんだよ」
提督「この島に来る前に、ちゃんと上に報告して了解貰って来たのか? それを証明するものを、お前らは何かしら俺に示したか?」
提督「その撮影許可証だって、呉の鎮守府で撮影するときのやつじゃねえのか? 俺には何の連絡も来てねえんだぞ?」
提督「ほんの少し前まで、艦娘の存在は海軍の機密情報扱いだった。艦娘の詳細を知りたいのはなにもテレビ局だけじゃねえ」
提督「お前らが、テレビ局を装ったスパイだって思われても仕方ねえんだよ」
601: 2021/09/14(火) 22:38:36.30 ID:nFn2ij2jo
クルー4「で、でも、この人のお父様は有名な」
提督「だから知らねえって言ってんだろ、んなことは!」
提督「いくらテレビの世界で有名だろうが、そんなもん、俺たちにも深海の連中にも知ったこっちゃねえっつったろ!」
提督「そのくだらねえ印籠を振りかざして海軍の船に乗って! 海軍巻き添えにして海底に沈みやがったのがお前らの仲間じゃねえのかよ!」
全員「「……」」
提督「はー……ったく、なんでこんな連中に一日潰されなきゃなんねえんだ。マジ面倒臭えぞ、くそが」
ブォォォーーーーン!
提督「……!」
クルー1「な、なんだ、今の音!」
雷「私たちの船の音じゃない!?」
クルー3「ちょっと!? あの船、動いてないですか!?」
留提督「遠大佐!? なんで勝手に船が出航したんですか!?」
遠大佐「わ、私は何も聞いてないぞ!?」
提督「……なんだそりゃ。つまり、お前ら置いて日本に戻ったってことか?」
留提督「そんな話、聞いてないんだけど!?」
提督「あぁ? 俺に言うなよ、お前らの船だろ?」
602: 2021/09/14(火) 22:39:33.11 ID:nFn2ij2jo
クルー3「どういうことですか!?」
クルー4「撮影機材は船に積みっぱなし?」
クルー1「バッテリーもか!?」
クルー2「船に残ってるスタッフはどうしたんだ!?」
クルー4「冗談じゃないぞ……これからどうするんだ!? 日本に連絡しないと!」
留提督「准尉! この島に船はないの!? 追いかけてよ!」
提督「ねえよ、んなもん」
留提督「は!?」
提督「この島には、船やボートの類は一切ねえっつってんだよ」
クルー4「そんな馬鹿な!?」
クルー2「どうやって日本に帰るんですか!?」
提督「そんなの知るかよ……」
クルー3「准尉さんだって日本に帰るときどうしたんですか!?」
提督「あぁ!? 俺は日本になんか行かねえよ」
クルー3「そういう意味じゃなくてですね! 里帰りとかどうするんですか!」
提督「……駄目だこいつら」ハァ
鳥海「……」
603: 2021/09/14(火) 22:40:18.45 ID:nFn2ij2jo
クルー4「それより日本に連絡!」
留提督「遠大佐は!?」
雷「今、遠大佐の鎮守府に電話中よ!」
* *
遠大佐「そうか。わかった、急いでくれ
ピッ
雷「司令官、鎮守府のみんなはなんて言ってたの?」
遠大佐「……船が引き返したという連絡自体、私の電話で初めて聞いたそうだ」
雷「えええ!?」
遠大佐「今、どういうことか調べてもらっている。1時間以内にもう一度連絡を貰うことにした」
クルー1「とにかく、連絡はついたんですね」
クルー2「良かったあ……」
留提督「安心したらお腹がすいちゃったなあ。船が戻ってくるまで時間があるんでしょ? 時間も時間だし、ごはん食べようよ」
提督「ああ? 飯だ?」
雷「テレビのスタッフさんがお弁当用意してきたの! 千歳さんが持ってるはずよ!」
提督「……千歳が? そういう話ならちょっと待ってろ、千歳呼んでくる」
604: 2021/09/14(火) 22:41:03.56 ID:nFn2ij2jo
* 執務室 *
千歳「ええ、持ってきてますよ……」ガックリ
提督「なんだ、いきなりテンション下がったな」
千歳「だって……」トボトボ
千歳の持ってきた大きな木箱<ガシャッ
提督「でけえ荷物だと思ったが、こいつはなんだ?」
千歳「私の飛行甲板です」
提督「これがか。確かに滑走路は書いてあるが……」
千歳「本当はね、この中に私の艦載機が載せてあるの……」
千歳の飛行甲板箱<ガパッ
千歳「でも、今回は私の艦載機は載せてなくって……今は冷蔵庫の代わりにされてるんです」
提督「は?」
千歳「ほら、これ、保冷剤。中に断熱シートも敷いてて。これがお弁当でしょ? こっちが缶ビールで……」ハイライトオフ
提督「……お前の艦載機は」
千歳「……」ズーン
提督「持ってこられなかったと……」
千歳「せっかく航空母艦になったのに、私は何を運んでるのかしら……」ドヨーン
* 工廠 *
雲龍「雲龍型輸送艦ですって?」キュピーン
龍驤「いきなりどしたん?」
605: 2021/09/14(火) 22:41:48.09 ID:nFn2ij2jo
* 会議室 *
クルー3「人骨!?」
留提督「うん。この島やばいよ? あいつが何を企んでるか、わかったもんじゃない」
鹿島「……」
山風「じんこつ……!?」ガタガタ
ガンビアベイ「Oh my god ...」ガタガタ
留提督「あいつが俺たちに冷たい態度を取り続けてるのは、そういう後ろめたい部分があるからだと思うんだ」
加古「……」
鳥海「そんな……」オロオロ
雷「大丈夫よ! なにかあっても、私がみんなを守るわ!」
遠大佐「ああ、頼りにしているよ、雷」
雷「ええ、任せて!」ニコニコ
クルー1「ただ……留さん、俺たち帰りの船がないんですよ?」
留提督「大丈夫だよ、僕のお父さんに連絡を入れておいたし!」
クルー1「そ、そうですか……! それなら安心ですね!」
606: 2021/09/14(火) 22:42:34.11 ID:nFn2ij2jo
鳥海「お父様……? 留提督のお父様は、海軍の関係者なんですか?」
クルー2「いや、超有名な俳優さんだよ。海軍にご友人がたくさんいらっしゃるんだ」
留提督「呉の大将さんとも知り合いなんだ!」ムフー
鳥海「そんなつながりがあったんですね」
留提督「そういうことさ! いざとなったら、お父さんが何とかしてくれるよ!」
加古「……」
扉<ゴン
提督「おい、弁当持ってきたぞ」ガチャ
鳥海「えっ、いまのノックだったんですか!?」
千歳「失礼しますね」ガラガラー
提督「ったく、艦載機の格納庫を冷蔵庫代わりにするとか、何考えてやがんだ」ガシポイガシポイ
(提督が格納庫の中の弁当箱を無造作に掴んで机に投げるように置く)
提督「酒まで持ってきやがって。どこで晩酌する気だったんだ? くそが」ガシャンガシャンガシャン
クルー1「ちょっ! 缶ビールもっと大事に扱ってくださいよ! 缶がへこむし! 開けたときに炭酸であふれるでしょ!」
提督「今すぐ飲むわけじゃねえだろ、気にすんなそんなもん」
607: 2021/09/14(火) 22:43:18.23 ID:nFn2ij2jo
提督「これで全部か? 保冷材とか余計なもんも全部出しちまえ、どうせもう使わねえだろ」ポイポイポイ
千歳「じ、准尉! あとは私がやりますから!」アセアセ
提督「ん? ああ、悪いな、お節介だったか」
扉<コンコンコン
霧島「失礼致します」チャッ
クルー7「い、いててて! ら、乱暴にすんなよ!」
クルー1「!?」
霧島「司令、島内で工作活動を行っていた不審者、3名を捕縛しました」
クルー7「こ、工作活動って……俺たちは怪しいもんじゃないです!」
霧島「説得力がありませんね。見知らぬ人間がうちの島でこそこそしていたら、怪しいという感想以外出てきません」
摩耶「ったくよー、撃たれなかっただけ運が良かったと思えよな!」グイッ
クルー5「だから痛いっての! 引っ張るなよ!」
最上「抵抗するから僕たちだって力づくになるんじゃないか」
三隈「こちらの方みたいに無抵抗なら、乱暴にはいたしませんわ」
クルー6「……」ホールドアップ
608: 2021/09/14(火) 22:44:06.47 ID:nFn2ij2jo
クルー5「お前、なんで言われるがままなんだよ!」
クルー6「俺、氏にたくねーっすから」
留提督「みんな!?」
クルー5「留さん!? 良かった、無事だったんですね!」
クルー1「おいおい、全員船を降りてたのか!?」
クルー7「は、はい、降りてしばらくしてたら、いきなり船が出航してまして……」
提督「つまり、お前らも勝手に島の中を歩き回ってやがった、と」
全員「「……」」
千歳「……あら?」
提督「どうした」
千歳「これだと、お弁当の数が足りなくないですか? 可愛い柄のランチボックスがひとつと、紙箱入りの豪華なお弁当が9つ……」
提督「あん? なんだ、人間の分しか用意してねえんじゃねえのか」
千歳「そうだとしても、このランチボックスを入れると、全部で十個ですよ?」
雷「そのお弁当は私と司令官のよ!」キョシュ!
609: 2021/09/14(火) 22:44:48.54 ID:nFn2ij2jo
提督「それでもふたつ……いや、よっつ足りねえな。遠大佐と秘書艦除けば、人間8人と艦娘5人だろ?」
クルー4「そ、それは……」
クルー6「あー、すんません。艦娘の分は弁当準備できてないっす」
千歳「えっ、じゃあ一個多いのは」
クルー6「留さんの分っす。そういう指示だったんで」
提督「……」
クルー2「留さんが急にこの艦娘たちも連れて行こうって言うから……!」ゴニョゴニョ
提督「千歳と足柄の分も用意してねえとこ見ると、最初から艦娘の飯を準備すること自体、頭になかったみたいだな?」ジロリ
クルー6「重油でいいって聞いたっすから」シレッ
千歳「……」
雷「ご、ごめんなさい! 私たちが準備できなくて……!」
遠大佐「この3人を連れて行くことになったのは急に決まったことなんだ」
遠大佐「千歳と足柄の両名についても、合流したのは今朝出立前だ。我々の準備不足だ、すまない」ペコリ
提督「……仕方ねえな。この3人と千歳たちの分はこっちで準備する。大したものは用意できねえが、我慢してくれ」ハァ…
610: 2021/09/14(火) 22:45:34.03 ID:nFn2ij2jo
留提督「良かったあ、鹿島ちゃん一緒にご飯食べようね!」
鹿島「……」ゾワッ
提督「は? お前らはお前らでここで食えよ。こいつらは食堂に連れて行く」
留提督「はあ!?」ガタッ
提督「はあ!? じゃねえよ、こっちにわざわざ飯を持って来させようってか!? そこまで御膳立てしてられっか!」
提督「この部屋の机だって座れて10人程度だってのに、どうやったら全員で飯が食えると思ってんだよ!」
留提督「だったら僕たちも食堂に」
提督「さっきまで勝手に出歩いてた奴がふざけたこと言ってんじゃねえ! 便所以外でてめーらをこの部屋から出す気はねえぞ!」
留提督「なんでだよ!」
提督「なんで……って、お前は人の話聞いてねえのかよ」ゲンナリ
最上「すごいねー、こういうのを厚顔無恥って言うんだっけ?」
霧島「……」ヒキッ
三隈「最上さん!?」ヒィィィ!?
摩耶「いや、思ってても口に出すなよ……あたしもそう思うけど」ボソッ
留提督「横暴だろ! こっちの遠大佐はお前の上官だぞ!」
提督「それがどうした、こっちはこの鎮守府の責任者だ。郷に入らば郷に従えよ。客なら客らしくその家長に従いな」
611: 2021/09/14(火) 22:46:22.57 ID:nFn2ij2jo
提督「こちとらあくまで『厚意』で『部外者』を鎮守府においてやってんだ。俺のやることが不満なら、早く島から出ていけってんだよ」
留提督「船もないのに! 泳いでいけって言うのか!」
提督「船がなくなったのはお前らの都合だろ。不満なら出ていけ。出ていきたくないなら俺の言うことに従えって言ってんだ。至極単純だろうが」
留提督「遠大佐! いいんですか、こんな下っ端にここまで言われて!」
遠大佐「……あまり言いたくはないが、君のこの島での権限を剥奪してもいいんだぞ」
摩耶「ああ!?」ギロリ
霧島「司令? このような行為こそ横暴と言うべきでは?」
提督「落ち着け。まあ、権限くらいやってもいいぞ。その時はこの島の艦娘全員集めて通達する。その代わり……」
遠大佐「その代わり……?」
提督「うちの艦娘が、お前らの決定にどんな反応を示したとしても、俺は責任取らないからな?」
遠大佐「どういう意味だ?」
提督「事情は様々だが、轟沈させられた過去を持つ艦娘の面倒を、お前がちゃあんとみていられるか、って話だよ」
提督「何度も言ってるが、轟沈した艦娘は深海棲艦になるってのが通説だ。本営だって根拠なく言ってるわけじゃねえ」
提督「この島に人間は俺一人。憲兵にも特警にも常駐を拒否されたくらいだ。俺が危惧してること、理解できるよなあ?」
遠大佐「……っ」
雷「……そ、そのときは私が司令官たちを守るわ!」
提督「ああ、そうかい。ま、やれるもんならやってみな」フン
612: 2021/09/14(火) 22:47:03.74 ID:nFn2ij2jo
提督「それからもうひとつ、この島には、轟沈して流れ着いた艦娘だけじゃなく、余所の鎮守府から異動させられてきた艦娘もいる」
クルー3「!」ビクッ
留提督「はあ!? 今更都合のいい嘘をつくな!」
クルー4「い、いえ、それは本当なんです! 俺が会った戦艦長門がそう言ってました!」
留提督「え!? ながもんいるのここ!?」
提督「で、そのなかには、その時の提督に歯向かって提督に危害を加えた艦娘や、鎮守府そのものを焼失させた艦娘もいる」
遠大佐「……!」
摩耶(あたしのことだろうなあ……)ウーン
三隈(三隈のことですよね……)
提督「俺がいなくてもそいつらを抑え込める自信があるなら、俺を解任してみればいいさ。俺は止める気ねえからな?」
留提督「あんた……俺たちを脅すつもりか!」
提督「俺は事実を述べてるだけだ。つうか、この島に来るんだったら、ここがどんな場所か、もうちょいしっかり調べておけよ」
提督「とにかく、お前らはもうこの部屋から出るな。これ以上、この島の艦娘たちの居場所を引っ掻き回すんじゃねえ」
613: 2021/09/14(火) 22:48:10.64 ID:nFn2ij2jo
留提督「だからって鹿島たちだけを連れて行くのはないだろう!? どうなんですか遠大佐!!」
遠大佐「ふむ……千歳と足柄はともかく、鹿島と山風、ガンビアベイは私の部下だ。それを君が勝手に連れ回すのはどうかと思うが?」
提督「ん……確かに。それはそうだな」
留提督「おおっ!」
提督「そういう話なら、遠大佐とその秘書艦が食堂に同行するのは認める。が、留提督とその一味の退室は不可だ」
留提督「あああああもおおおおおお! なんでそうなるんだよおおおお!」バンッ!
提督「そうなるだろうが。自分がやったことを省みろよ、もう説明すんの面倒臭すぎんぞ……」ハァ
提督「ともあれ、加古と鳥海も一日座りっぱなしで疲れたろ。食堂へ向かうぞ」
鳥海「は、はい!」スクッ
加古「……」ガタッ
提督「遠大佐たちも準備しな。お前たちもだ」
鹿島「は、はい……! みなさん、行きましょう」スクッ
ガンビアベイ「Y, Yes...」ビクビク
山風「うう……」ビクビク
留提督「……くそぉ……!!」ギリギリッ
622: 2021/10/05(火) 23:06:46.63 ID:pZt3Y4vNo
* 食堂 *
ガヤガヤ…
陸奥「へーぇ、潮ちゃんが代筆したの?」
潮「は、はい! あの船の乗組員さんに渡すお手紙だそうです……!」
長門「潮がいきなり呼び出されたから、何があったかと思ったんだが……」
潮「私の字の方がしっかりしてるから、と……」
陸奥「それで実際に効果があったのよね。すごいじゃない」
潮「あ、ありがとうございます……!」
長門「……それにしても、遠大佐は事の重大性を理解しているのか?」
陸奥「できてないんじゃないかしら。仁提督のときは、彼自身がこの島のことを理解してなくて、話し合いで済んだからそれまでだったけど」
陸奥「今、来てる人たちは最初から轟沈経験艦を引き取る目的で来てるわけでしょ?」
陸奥「本営の意図を無視してタブー視されていることをやろうとしてるからこそ、上に報告せずにここへ来たんじゃないの?」
初春「そうであろうなあ」ズイッ
陸奥「!」
不知火「失礼します」
623: 2021/10/05(火) 23:07:33.96 ID:pZt3Y4vNo
長門「おお、初春と不知火か。お前たちも夕餉か」
不知火「はい。遠大佐の顔も見ておけと司令からの指示がありまして」
初春「近くに座らせてもらって、様子を探ろうと思っての。少し遅めに参じたわけじゃ」
陸奥「ふぅん。どんな人なのかしら」
初春「秘書艦が雷と聞いておるが、どのような人物かは掴めておらんでの」
不知火「まだ遠大佐はこちらに来ていませんね」
長門「ああ……おや? あれは……」
潮「もしかして……あの人たち、ですか?」
霧島「こちらが食堂です」
雷「ありがとう霧島さん!」
遠大佐「なかなか賑やかだな。一度轟沈した艦娘が多いとは思えないほどだ」
敷波「!」
朝雲「!」
敷波「……」ヒソヒソ…
朝雲「……」コクコク
敷波「……」タタタッ
朝雲「……」タタタッ
624: 2021/10/05(火) 23:08:16.39 ID:pZt3Y4vNo
遠大佐「……歓迎はされていないようだが、当然か。仕方ない」
雷「司令官、大丈夫よ。私がいるじゃない!」ニコッ
遠大佐「ああ、ありがとう」
不知火「目標確認。近くに行きましょう」
初春「うむ、それでは参ろうかの」
陸奥「気を付けてね」ヒラヒラ
加古「はぁ……やっと外に出られた。留提督ってば話を聞かないくせに、しつっこいんだよぉ」
雷「加古さん、そんなに戻りたくないの……?」
加古「だって、戻ったらこれから先、ずーっとあいつがついて回るんでしょ? 悪いけど、あたしはこっちの鎮守府のほうがいいよ」
雷「……」
加古「ていうかさ、留提督がいないから訊きたいんだけど、遠大佐もなんであんな奴の言うことに何も口出ししないのさ」
鳥海「それは私も同感です。留提督の説得は説得と呼べるものではなく、ただのご自身の希望の押し付けでしかありません」
鳥海「あらかじめ着地地点が決まっていて、是も非もなく強引にそこへ持ち込もうとしている……そんな印象を受けました」
遠大佐「……」
625: 2021/10/05(火) 23:09:01.14 ID:pZt3Y4vNo
鹿島「あの……私たちは、何のためにこの島に連れてこられたのでしょうか?」
鹿島「言われるがままにこの島に来て、言われるがままに艤装を外し……今の私たちはなんの戦力にもなりません」
鹿島「遠大佐、あなたは……あなたたちはいったい、何をしようとしているのですか……!?」
山風「……」
ガンビアベイ「……」
雷「司令官……!」
遠大佐「……すまない。今はまだ、話すことはできない」
雷「……」
ガンビアベイ「E, Excuse me, わ、私たちが、この島の鎮守府に入ったのは、ここの提督准尉? の、お考え、ですよね?」
遠大佐「……ああ、それはそうだ」
ガンビアベイ「それは、どうしてなんでしょうか……? 私、疑問です」
山風「う、うん、それは、不思議……あの人、ずっと、私たちを、睨みつけてた……」
鹿島「どういうことなんでしょう……」
雷「うーん……」
626: 2021/10/05(火) 23:10:01.14 ID:pZt3Y4vNo
霞(エプロン着用)「随分辛気臭い顔してるわね」
ガンビアベイ「!?」ビクッ
山風「!?」ビクッ(←鹿島の陰に隠れる)
千歳「あら、霞ちゃん! 久し振りね!」
霞「お久し振りです、千歳さん。摩耶さんから聞いたけど、夕餉を準備してなかったんですって?」
千歳「そうなの。私と足柄、それからこちらの3人……」
鹿島「練習巡洋艦、鹿島です。こちらは駆逐艦山風と、航空母艦ガンビアベイです」
霞「ふぅん……」
山風「……」オドオド
ガンビアベイ「H... Hello...」ビクビク
霞「そんなに怯えなくていいわよ。もうすぐご飯ができるから、もう少し待ってなさい」クルリ スタスタ…
雷「あ、ありがとう……!」
摩耶「お、みんな来たんだな。とりあえず適当な場所に座ってくれよ」
雷「ええ、それじゃあ、お言葉に甘えましょ! 司令官! みんなも座って!」イスヒキ
遠大佐「ああ、ありがとう」ニコ
627: 2021/10/05(火) 23:10:46.91 ID:pZt3Y4vNo
霧島「あなたたちも、気分はすぐれないかもしれないけれど、良かったら食べていって」ニコニコ
鹿島「あ、ありがとうございます……」
山風「……」ジー
ガンビアベイ「……? 山風、どうしたの?」
山風「う、ううん、なんでもない……」
雷「私たちのお弁当はあるけど、みんなのご飯が来てから頂きましょ! みんなで食べたほうがおいしいもの!」
遠大佐「そうだな、雷」ニコニコ
三隈「私たちも一緒にいただくんですの?」
最上「特に何も言われてないから、自由でいいんじゃない?」
不知火「失礼します、こちらにご一緒よろしいでしょうか」
最上「うん、いいよ!」
三隈「提督の代わりに遠大佐の見張り……ですか?」ヒソヒソ
初春「うむ、まあそんなところじゃ」ヒソヒソ
加古「あたしもこっちに座っていい?」
最上「うん!」
628: 2021/10/05(火) 23:11:31.54 ID:pZt3Y4vNo
鳥海「私もこちらに失礼しますね……」
三隈「あら、鳥海さんもですか?」
鳥海「ちょっと離れて冷静になろうかと思いまして……」
足柄(エプロン着用)「待たせたわね! 今日の夕餉を持って来たわ!」バーン!
霞「ちょっ、足柄さん!? わざわざ配りに行かなくても、取りに来させればいいじゃない!」
足柄「あ、そっか、ごめんね?」テヘペロー
千歳「足柄、あなた厨房のお手伝いしてたの?」
足柄「話の流れでね。私たちの夕餉が用意されてなかったのはこっちの不手際だし、ただで御馳走になろうだなんて不作法だと思わない?」
千歳「そうだったの……ごめんね霞ちゃん、いきなり押しかけて、迷惑だったでしょう?」
霞「大丈夫、全然迷惑じゃなかったわ。むしろ足柄さんの手際が良いからすごく助かっちゃって」
千歳「だったら良かったけど……そういえば、足柄は波大尉のところでも厨房でいろいろ作ってたものね」
足柄「以前はゲン担ぎと私の好みでトンカツばかり揚げてたけどね~」
千歳「全然野菜が出ないから、波大尉から『艦娘と一緒にするな』って、叱られちゃったのよね」
霞「え……」
629: 2021/10/05(火) 23:12:31.62 ID:pZt3Y4vNo
千歳「ほら、足柄って一点豪華主義的なところがあるじゃない? 火力第一みたいなところとか」
霞「あー……そんなところまで『飢えた狼』してなくてもいいのに」
足柄「そ、そんな呆れたような顔しないでよ!?」
霞「足柄さんらしいと言えばらしいのよね、そういうとこ」
霞「でも、この島じゃあ肉も卵も貴重品だから、トンカツはあまり作る機会ないのよね……」
千歳「それで今日のメニューが魚の竜田揚げなのね」
最上「それと高菜のチャーハンと中華スープかー! おいしそうだね!」
三隈「ここが離島であることを忘れてしまいますわね……」
雷「みんなのご飯もきたみたいだし、私たちも食べましょ、司令官!」ベントウヒラキ
弁当『いかにもな愛妻弁当です!』
千歳(……ご飯にピンクのハートマークが……)
足柄(あれ、キャロットグラッセかしら……ハート型になってる……)
霞(手が込んでるわね……卵焼きにハムとチーズが巻かれてるし、ちゃんと彩りも考えられてるわ)
雷「ちょっ、どうしたの!? みんなこっち見て固まってる!?」
千歳「あ、ああ、すごいわね、って……」
比叡「あれ? みんなどうしたの?」
霞「べ、別に何でもないわ、大丈夫よ」
630: 2021/10/05(火) 23:13:17.20 ID:pZt3Y4vNo
千歳「ちょっと、なんで比叡さんが厨房から出てきたの」ヒソヒソ
足柄「これ作ったの比叡さんよ?」ヒソヒソ
千歳「ちょっ……!?」
足柄「そんな顔しないの! 私も驚いたけど、絶対おいしいから大丈夫よ!」
千歳「そ、そう? 足柄がそう言うなら、信じるけど……」
加古「いやもうあたし、お腹すいたし眠いし、早く食べて寝たいんだけど……」
摩耶「まあ、そうだな、食べるかあ」テアワセ
不知火「ええ、いただきます」テアワセ
雷「それじゃ、私たちもいただきます!」チャッ
遠大佐「ああ、いただきます」
霞「……ちょっと待って、なんで遠大佐がお箸を持ってないの……」ハッ
雷「司令官、はい、あーん!」ニコー
遠大佐「あーん」
霞「!?」ピキッ
千歳「!?」カシャーン(箸を落とした音)
足柄「!?」バキィ(箸を圧し折った音)
631: 2021/10/05(火) 23:14:01.63 ID:pZt3Y4vNo
雷「おいしい?」ニコー
遠大佐「うん、おいちー」ニヘラー
霞「」シロメ
千歳「」シロメ
足柄「」シロメ
霧島「んがぐっ!? げほ! げっほ!」ドンドンドン
摩耶「き、霧島さん大丈夫っすか!?」セナカサスリ
不知火「」ブボァ
初春「」ブボァ
三隈「」ベチャア
最上「三隈!? ちょっと待って、ふきんを持ってくぅわああ!?」ガシャーン
鳥海「最上さん!?」
比叡「」アッケ
鹿島「チャーハンおいしいですね!」タニンノフリ
ガンビアベイ「お魚もおいしいです!」タニンノフリ
山風「もぐもぐ……」カンゼンムシ
加古「……うん、やっぱここのご飯おいしいわ……」モキュモキュ
陸奥「なにあの地獄絵図……」
潮「長門さん、なんだか見覚えのある光景が……」
長門「えらく久々な気がするな……3度目か?」
陸奥「そうなの!?」
632: 2021/10/05(火) 23:14:46.44 ID:pZt3Y4vNo
* 一方 会議室 *
留提督「まったく! ふざけやがって、あのバカ准尉!」モッチャモッチャ
クルー1「ほんっとに失礼な奴ですよね!」
留提督「お父さんへも電話したし、明日の朝には准尉もこの鎮守府から追放だ!」
留提督「僕が大佐になったら呉で過労氏するまでこき使ってやる!」
クルー1「そうしてください。こんな態度の悪い提督、初めてです!」
クルー4「そうなったら、この島に代わりの人を立ててもらわないといけないですけど……いくら海軍でもこんな島に来る人いますかね?」
留提督「うーん、どうだろ?」
クルー6「……というか、この島、本当に大丈夫なんですかね」
留提督「ん? どういう意味?」
クルー6「准尉がさっき言ってましたけど、この島の艦娘が提督に歯向かった、って話ですよ」
留提督「どうせ嘘でしょ。准尉の言うことは聞いてたじゃんか」
クルー4「でも、さっきも言いましたが俺も長門からはそう聞きましたよ? 我々が声をかけてた島風とか潮って艦娘もそうだって言ってました」
留提督「えー、ほんと?」
クルー3「私もさっき、工廠にいた艦娘から話を聞いてきたんですが……」
クルー3「そいつが言うには、艦娘が鎮守府を火の海にしたことがあるみたいな口振りでして……」
クルー3「さっき准尉も同じこと言ってましたから、嘘じゃないのか、って……」
クルー全員「「……」」
633: 2021/10/05(火) 23:15:31.40 ID:pZt3Y4vNo
留提督「それこそ嘘なんじゃないの? なんでそんな危ないやつが、この鎮守府であの生意気な提督におとなしく従ってるのさ?」
留提督「第一、少佐でも大尉でもなく、准尉だよ准尉! 下っ端だよ! 裏で話を合わせてるんじゃないの?」
クルー6「だとしたら、あの人、本当に准尉なんですかね?」
留提督「……どういう意味?」
クルー6「裏で話を合わせられるくらいなら、本当はもっと偉いか……権限っていうか、権力があってもいいじゃないですか」
クルー6「准尉のくせに遠大佐にも噛み付いてたの、気になりません? 実は身分を隠してるとか……」
クルー4「なんのために……?」
クルー2「あの見た目で実は将官だなんてことはなさそうですが……齢いくつなんでしょうね、あの人」
クルー1「20近いガキに見えるけどなあ……威厳とか全然なさそうだろ」
留提督「憲兵や特警がいないから調子に乗ってんじゃないの? 人間が一人もいないとしたら、威張り放題じゃん」
クルー6「……そうだとしたら、この鎮守府で一番偉いのに、なんで階級が准尉なんすかね?」
クルー全員「「……」」
クルー2「それは……」
クルー1「……お前、どう思う?」
クルー7「い、いや、なんでですかね……」
クルー5「単純に左遷されたとかじゃないのか?」
634: 2021/10/05(火) 23:16:16.55 ID:pZt3Y4vNo
クルー6「だとするとまずいっすね」
クルー5「なんでだよ」
クルー6「左遷させられるような人材が一人で管理させられてるわけっすよね? マジでヤバイんじゃないすか、この島」
クルー全員「「……」」
クルー6「人骨転がってたのもそういう理由じゃ……」
クルー2「縁起でもないこと言うな!!」
クルー1「空気読めねえ奴だな!」
クルー6「あー……すんません。もう黙ってます」
クルー6(……でもヤバイことは確実だよな……)ウーン
クルー4「いや、でも、あり得るか……?」
クルー1「なんだよさっきから!」
クルー4「いや……ふと思ったんだけど、もしかして、准尉が本営に敵対してて謀反を企てているとか、だったら……」
クルー全員「「!?」」
クルー4「おかしいと思ったんですよ。艦娘が提督に逆らうなんて話、これまで聞いたことなかったし!」
クルー2「轟沈したり、反逆したことのある艦娘を集めてるとなると……うわっ、洒落にならないぞ!?」
635: 2021/10/05(火) 23:17:01.88 ID:pZt3Y4vNo
留提督「うーん、そこまでヤバイかなあ?」
留提督「本当に危険だったら、お人好しの鳥海から、ここの准尉は危ないよ、って話が聞けてたと思うんだけど?」
クルー7「……弱みを握られてるとか?」
留提督「そうかなあ? あいつ、他人庇って轟沈するくらいだよ? 嘘なんかつけなさそうだし、じゃなきゃ挙動不審になってると思うんだ」
留提督「それにこの島、骨を見つけた以外は本当に何もなかったんだよね。みんな、外で他に何か見つけたりした?」
クルー7「すみません、俺は見つけられませんでした」
クルー5「俺は見つけましたよ! 北の岩山に洞穴があったんです!」
クルー1「お!」
クルー5「丁度人が入れそうなくらいの穴が開いてて、奥の方が広々としてて!」
クルー5「隠れ家に使えそうな、いい感じに不気味な穴でしたよ!」
クルー4「へーえ……」
留提督「人が入った形跡とかは?」
クルー5「そこまでの道に踏み固めた跡があったんで、そこは間違いないです!」
留提督「それは怪しいなあ……!」
クルー5「明日はそこを探索してみますか!」
留提督「そうだね! 明日の朝にもこの島を提督准尉から取り上げて、改めてカメラを回して探索開始だ!」
636: 2021/10/05(火) 23:17:45.95 ID:pZt3Y4vNo
クルー2「面白いネタが撮れるかもしれませんね!」
クルー1「それじゃあさっそく、下見に行ってきます!」スクッ
ガチャ!
大和「……」ニコニコ
武蔵「どこへ出かけるつもりだ?」ニヤニヤ
クルー1「」
武蔵「なんだその顔は。貴様らの監視のためにわざわざこの大和型が出向いてやったのだ、不服か?」
大和「提督から、もしあなた方がこの部屋から出ようものなら、即座に砲撃して良いと仰せつかっています」
武蔵「私も、好きに叩きのめせと提督にお墨付きをいただいた」
全員「「……」」
大和「そういえば、あなたでしたね? 朧さんに粗相した人間は」ギロリ
クルー1「ひっ」
武蔵「畑を荒らした上に仲間に狼藉を働いたとあっては、捨て置けというほうが無理というもの」ギロリ
武蔵「これ以上この鎮守府で好き勝手させるわけにはいかん」
武蔵「一歩でもこの部屋から外に出てみろ。その時は……ふんっ!!」ブンッ!
(武蔵が右ストレートを放ち、クルー1の顔の前で寸止めすると、その衝撃で、ぶわっ、と風が舞う)
クルー1「ひえ……!」ヘナヘナ
637: 2021/10/05(火) 23:18:31.41 ID:pZt3Y4vNo
武蔵「次は止めんぞ。この部屋諸共、貴様の首から上が吹き飛ぶと思え」
武蔵「さあ、ドアを閉めてやろう。挟まれて脚が体とおさらばしないように気を付けろ?」ニィッ
クルー1「ひ、ひいいい!!」ズザザザッ
扉<パタム
留提督「……」
クルー3「留さん本当に大丈夫なんですか!?」
クルー7「大和と武蔵ですよ!?」
クルー2「なんでこの鎮守府に大和型が揃ってるんだ!?」
クルー4「すげー……初めて見た」
クルー6「どっちもでかかったっすね……」
クルー5「けど、これじゃ下見は無理ですね……」
留提督「いいよいいよ、今は大人しくしておこう。そっか、大和と武蔵もいるんだ~。うちの艦隊、豪華になるね!」
クルー1「え? ええ、まあ……そういう話でしたね」
留提督「この島の指揮権、どうせ准尉から取り上げるんだ。あの二人も呉に連れて帰って、みんなをびっくりさせようよ」ニヤニヤ
638: 2021/10/05(火) 23:19:46.46 ID:pZt3Y4vNo
* 一方 部屋から少し離れて *
武蔵「これで良かったのか?」
大和「ええ、良かったと思うわ。もし私がやっていたら、寸止めせずに平手打ちしてたかもしれないし……」
武蔵「だとしたら間違いなく奴の頭がすっ飛んでいただろうな……」
大和「感情が抑えきれなかったのよね……提督のお部屋に無断で入った時点で、到底許してはおけない存在と認識してたから」ドロリ
武蔵「ま、まあ、そう、か」ヒヤアセ
大和「あ、でも武蔵は別よ? この島の艦娘だし、この島の規律のことを思ってやったわけだし」ニコニコ
武蔵「目の濁りというか……その笑顔が怖いんだが」ヒキッ
大和「そ、そう? 私も未熟ね……」ウーン
提督「よう。悪いな、門番みたいな真似させて」
大和「提督……!」
武蔵「気にするな。私も初雪を拐かそうとした奴らの顔を見ておきたかったところだ」
武蔵「しかし、いろいろと良かったのか? あいつらはこの鎮守府から艦娘の引き抜きを狙っているんだろう?」
提督「そうらしいな。ま、俺としては連中の本性を早めに見ておきたくてなあ」
武蔵「本性?」
639: 2021/10/05(火) 23:20:46.28 ID:pZt3Y4vNo
提督「昔、N中佐がここに来て大和を見たとき、元の目的忘れて大和に懸想したんだよ」
提督「同じように連中がお前たちを見てどんな反応を示すのか、早く知っておきたくてなあ。大した反応を見せないならそれでいいし」
提督「調子に乗るようなら更に煽って持ち上げて、一番高いところから一気にぶち落とす」ニヤァ
武蔵「……なあ、この男は大丈夫なのか?」
大和「え、ええ、大丈夫よ?」
提督「連中に冷静な判断をさせないためとはいえ、二人を餌にしてるみたいでお前たちも気分が悪いと思うが、そこはまあ、勘弁してくれ」
武蔵「まあ、そういう策だというのなら従うが……今の口振りからすると、私たちが配属されている鎮守府は珍しいのか?」
提督「大和も武蔵も珍しいらしいぞ。箔がつくって意味でも、大和型の着任を望んでる鎮守府は多いって聞いてる」
大和「私が本営に行ったときも、私の周りに人だかりができていましたからね……」
提督「とりあえず中の様子は妖精たちに探らせてるんだが……さらっと聞いた感じだと、留提督の父親が呉の鎮守府の大将と知り合いらしいな」
武蔵「そういうコネがあるのか。大丈夫なのか?」
提督「こっちが優位なのは変わらねえよ。まず、轟沈した艦娘を連れ帰るってのがどれほどおおごとかを奴らは理解してねえし」
提督「仮にあいつの父親が呉のトップと懇ろだとしても、周囲からは猛反発を食らうことは間違いない」
提督「無理を通したリターンに比べてリスクが高すぎるし、そんなことすりゃ本営にも、最悪憲兵たちにも目を付けられるだろう」
提督「そもそも憲兵すらこの島に駐在するのを拒否されたほどだ。目を付けられるどころの話じゃねえだろうなあ」
提督「呉のトップがそこまで突っ走る無能なら、本営からもでかい釘がぶっ刺さるだろうさ。留提督の思い通りに動くなんて有り得ねえ」
武蔵「ふむ……だといいのだが」
640: 2021/10/05(火) 23:21:31.57 ID:pZt3Y4vNo
提督「それにこっちには『あれ』がいるからな。どんな手を使ってでも、この島から連中を追い出してくれるさ」ニヤリ
大和「あれ……とは?」
提督「『あれ』は『あれ』だ。定時連絡で赤城に確認したが、あんな目に遭っても『あれ』は未だに大和にご執心だと」チッ
大和「まさか……」ゾワワッ
提督「その大和を新参の留提督が横から掠め取ろうとしてたとあっちゃあ、『あれ』も面白くもねえだろう」
提督「いい気味だぜ、頃したいほど憎い俺たちを守るために『あれ』が必氏になるんだからなあ……!」
大和「」アオザメ
提督「腐ってても『あれ』が今の俺の直属の上司なんだ、せいぜいこの島を荒らされないよう、奔走して貰おうじゃねえか。ククク……!」ニヤァァ
武蔵(……この男、本当に大丈夫なんだろうな?)タラリ
大和「て、提督……」ガタガタ
提督「……あー、嫌なもん思い出させちまったか、大丈夫だ、心配すんな」
大和「提督……!」ヒシッ
提督「お前を中佐なんかにゃあ渡さねえよ。勿論、留提督にもな」ナデナデ
大和「うう……」グスン
武蔵「……」
武蔵(まあ、大和がこれほど信頼しているのなら、信じてもいいのかもしれんな)フフッ…
641: 2021/10/05(火) 23:24:16.44 ID:pZt3Y4vNo
* それからしばらくのち 執務室 *
提督「こちら××島鎮」
通信『どういうことだ准尉。なぜ部外者の侵入を許した!』
提督「守府……なんだ中佐か。これまでの状況は赤城に伝えたとおりだぞ」
提督「何の連絡もなしに呉の遠大佐と留提督が乗り込んできて、自分のところで沈めた艦娘2隻と話がしたいって言うんだ」
提督「大佐が相手じゃ、話を聞かないわけにもいかねえだろ」
通信『留とか言う奴は何者だ』
提督「芸能人らしい。スタッフと一緒にテレビカメラ数台引き連れてきやがった」
通信『っ! 何も撮影させてないだろうな……!!』
提督「撮影許可は出してねえよ、カメラもデジカメだが一台見せしめに潰してやった。それでも隠し撮りしてる可能性は否めねえな」
通信『なぜすぐ報告しなかった!』
提督「こっちで準備した会議室から奴等が脱走して家探しを始めたんだよ! 捕まえんのに苦労したぜ……ったく」
通信『ちぃ……! どいつもこいつも勝手な真似しやがって……!』
提督「今は全員とっ捕まえて会議室に閉じ込めて、艦娘に見張らせてる。あいつらが乗ってきた船も一旦呉に戻ったはずだ」
642: 2021/10/05(火) 23:25:02.08 ID:pZt3Y4vNo
通信『待て、なんで船が呉に戻ったんだ。寝泊りさせる気か!』
提督「まあ、そうなっちまうが、それにはいくつか理由がある」
提督「留提督は、轟沈した艦娘をそのまま連れ帰って運用するつもりでいる。遠大佐はその危険性を見過ごそうとしている」
提督「だが、俺は、轟沈した艦娘をここ以外で運用する話は聞いてない」
通信『……』
提督「だから俺は、その船の乗組員に、遠大佐が本当に呉の上官に許可を得てこの島に来たのか、確認するよう手紙を送って依頼した」
提督「それでもし、呉の上官がそのことを把握してなかったら、遠大佐たちの独断だろうから一度日本に引き返すよう提案した」
提督「あいつらが轟沈したことのある艦娘を引き連れて呉へ戻るのを防ぐためにな」
提督「それから、この島で撮影したであろう写真や動画を持ち出すのを防ぐ目的もある。これは俺たちの都合の話だ」
提督「結果的に船がこの島から出港したってことは、上には連絡がいってない、って話で確定なんだろう」
通信『ふん、そういうことか……なら、まだ手は打てるな。貴様にしては上出来だ』
通信『それで、奴等の目的はなんだ?』
提督「まずはテレビに映すためのネタが欲しいんだろう。留提督が轟沈した艦娘を初めて助け出したって話題になれば、評価されると思ってるらしい」
提督「そしてそれを土産に、留提督が呉で何らかの地位を得られるような働きかけをしているようだ。大佐になる、とかほざいてたぜ」
通信『馬鹿な……!? どこでそんな話になっている!?』
提督「それはわからねえよ。もうひとつわからねえのが、遠大佐の目的だ。なんでそこまでして留提督を支援してるのか、まったく見当が付かねえ」
643: 2021/10/05(火) 23:26:01.43 ID:pZt3Y4vNo
提督「轟沈した艦娘が深海化する話も、留提督の一味は信じちゃいないようだったが……」
提督「呉に轟沈艦を連れ帰ればどうなるか、少なくとも遠大佐は理解してないとは思えねえ。あいつは俺みたいに民間の出じゃねえらしいからな」
通信『……』
提督「それからもうひとつ。留提督は俺を島から追い出して、呉で働かすつもりらしい」
通信『はぁ!? どういうことだ!』
提督「自分が歓迎されなかった逆恨みだろ。そのついでに大和やら長門やら引き抜くつもりみたいだしな」
通信『んな……なんだとおおお!?』キーン
提督「く……マイクに向かって叫ぶんじゃねえよ、くそが……!」
通信『大和を引き抜くだと!? ふざけるな! 赤城! すぐに呉鎮守府に連絡を取れ!』
通信『准尉! 貴様はそいつらを見張っていろ! 歯向かうようなら牢屋にでもぶち込んでおけ! いいな!』
通信『ブチッ』
提督「……思ってた以上に効果覿面だな。あの様子じゃあ、まだ大和を諦めてねえってか……やれやれ、面倒臭え」
不知火「司令、これで良かったんですか?」
提督「ん? ああ、とりあえずはな。呉のお偉いさんの相手をする分には、あいつの方が多少手馴れてるだろう」
644: 2021/10/05(火) 23:27:01.47 ID:pZt3Y4vNo
提督「それから、大和の話でぶっ飛んじまったが、あいつにとってもこの島を家探しされるのは不愉快みたいだ、ってのがわかったし……」
提督「少しは真面目にあいつらを島から追い出すために奔走するはずだ」
不知火「そうでしょうか……」
提督「そのはずさ。拠点としての価値に乏しいこんな島を、中佐が後生大事に確保しとくのには、なにか理由があるはずだ」
提督「ともあれ、あいつの弱みは、いくらでも握っとくに越したこたあねえからなぁ」ケッケッケッ
不知火「司令……顔が悪党になってますよ」ヒキッ
提督「おう……そんなに悪かったか」
不知火「はい。それから、人骨を見つけたと言っていますが……」
提督「それは別に驚かねえな。ここも戦場になってるんなら、ひとりやふたり人間が氏んでてもおかしくねえだろ」
提督「だいたい、俺がここに来るより前の犠牲者だ。この話を追及されるべきは当時の管理者である中佐であって、俺は丸投げするしかねえ」ニヤニヤ
提督「精々、俺たちのために駆けずり回って苦労するがいいさ……!」
妖精「……顔が完全に悪役だ」
不知火「……悪役ですね」
645: 2021/10/05(火) 23:28:57.92 ID:pZt3Y4vNo
提督「さてと、いい気分に浸るのは後にして……不知火、氷とクーラーボックスは千歳に渡したか?」
不知火「は、はい。釣りに使っているので、若干魚臭いですが……それと、酒保で売られているお酒も少々足しておきました」
提督「そうか」ニヤッ
扉<コンコンコン
千歳「千歳です」
提督「おう、入ってくれ」
千歳「失礼します。准尉、クーラーボックスとお酒を届けて参りました。ついでに私が持ってきた缶ビールも一緒に冷やしておきましたけど……」
提督「そこまでやってくれりゃあ、向こうも気分いいだろ。お疲れさん」
提督「魚臭えのもビニール袋で包んどきゃいくらかましだろ。日本人は酒が冷えてねえとうるせえからな」
不知火「どういうことですか……?」
提督「敵に塩ならぬ、酒を送ってやっただけだ。まあ、それ自体が罠なんだが」
千歳「え?」
提督「酒に酔わせて寝たところを退治したのが八岐大蛇……丁度あいつらも8人だったよなあ」ニヤリ
千歳「あ、あの……というか、たったあれだけのお酒で酔っ払って寝るとは思えないんだけど……」
提督「気分が良くなって気が大きくなってくれりゃいいのさ。酔っ払いってのは後先考えねえからなあ」ニヤニヤ
千歳「悪い顔してるわね……」タラリ
不知火「ええ……いつものことです」ハァ
提督「日没と一緒にランプと酒のつまみと綺麗なお布団まで用意してやりゃあ、さぞかし羽目を外してくれるだろうぜぇ……!」クックックッ…
656: 2021/10/31(日) 17:56:15.97 ID:txAHe89eo
* 夕食後 会議室 *
留提督「8時消灯!? いくらなんでも早すぎだよ!」
提督「阿呆か。この鎮守府で夜中に騒ぐ必要がどこにある」
遠大佐「鎮守府そのものの防衛は大丈夫なのか……!?」
提督「うちの場合はこれまでこうやってやり過ごしてきたからな。そもそもこの辺の不安定な潮の流れのせいで寄ってこないってのも一因だ」
提督「それに、発電機の燃料代が馬鹿にならねえ。だから基本的に夜間は通信機と保冷庫を動かす電力だけ確保して節約運転してんだよ」
提督「ま、今夜はお前らがいるから、大和たちを夜間哨戒させてしのぐつもりだ」
留提督「え、大和を外に出すの?」
提督「万一に備えてうちの艦娘に見張らせんだ。やらなくていいってか?」
留提督「あ、いや……うん、しょうがないか……」
提督「寝室も一応用意した。寝るだけの部屋なんで、晩酌はここで済ませてからそっちに移動してくれ」
提督「部屋割りは遠大佐と秘書艦の雷で一部屋、留提督とテレビスタッフ7人は4人ずつで二部屋。誰がどっちで寝るかは適当に決めてくれ」
提督「あとは遠大佐の艦娘3人で一部屋、足柄と千歳が2人で一部屋。寝室の場所も広さもばらばらだが、まあ我慢しろ」
留提督「我慢しろ、ってその言い方……」イラッ
657: 2021/10/31(日) 17:57:01.18 ID:txAHe89eo
提督「それから、艦娘たちはすぐに寝るそうだ」
留提督「えええ!? 一緒に呑まないの!?」
提督「艤装もねえし、役には立てないから、大人しくしてるとよ。だから酒の席も遠慮するって話だ。だよな、遠大佐?」
遠大佐「ああ。我々も今日は早めに就寝する」ウナヅキ
留提督「なんでそこで付き合いで一緒に呑めとか言わないんだ……!」ブツブツ
提督「そういうわけなんで、今さっき鹿島たちを風呂へ案内した」
留提督「えええええ!?」ガタッ
提督「何をそんなに驚いてんだよ」
留提督「……いや、なんでもない」ストン
提督「? よくわかんねえな……」
提督「とにかく、夜間哨戒のためにうちの艦娘は大半が海に出る予定だ」
提督「その分、鎮守府の中で何かあっても対応できねえから、くれぐれも、大人しくしてろよ?」ギロリ
全員「「……」」
提督「風呂については、大浴場の隣に個室の風呂が3つ併設してある」
提督「今は鹿島たち3人が入ってるから、出たら次に足柄と千歳を呼ぶ。あんたたちはその後でいいな?」
658: 2021/10/31(日) 17:57:46.36 ID:txAHe89eo
遠大佐「私と雷は一緒で構わないぞ」
提督「……は?」
雷「どうかしたの? 准尉さん?」
提督「一緒に入るのか? 風呂に……」
雷「ええ! いつも私が司令官の背中を流してあげてるのよ!」
提督「」
クルー2(准尉が固まった……)
留提督(さすがに口リは範囲外……なのか?)
クルー1(如月は口リじゃないのか……?)
提督「……お前らも風呂に入りたいなら20時までに申請しろ。人数が多いから時間は守れよ、これ以上の特別扱いはしねえ」
クルー5(考えるのを拒否して話題を変えたな……)
留提督「個室にお風呂はついてないの?」
提督「ねえよ、そんなもの! ぶっちゃけ真水も蝋燭も貴重品なこの島で、そんな要求通ると思ってんじゃねえ」イライラ
留提督「……」
提督「ここで飲み食いするときも、電池式のランプは貸してやる。満月だから月明かりでも十分だと思うがな」
659: 2021/10/31(日) 17:59:00.77 ID:txAHe89eo
提督「それから風呂の希望者はいねえのか? いなけりゃ風呂場が開くのは明日の朝だぞ」
クルー1「入らせてもらいましょうよ、汗もかいたし……」
クルー6「留さんの服も洗っとかないとまずいっすよ?」
クルー7「寝るときはパンツ一枚でもいいと思いますけど……」
クルー5「余所の番組でも野宿するようなロケあるじゃないですか。風呂に入れるならありがたいもんですよ」
クルー1「下着も使い捨てで買っておきましょうよ。経費はうちで出しますから」
留提督「……しょうがないなあ」ムスッ
クルー5「そんならついでに俺たちの下着も買いましょうよ。贅沢言ってられないんですから」
クルー2「お前、経費って聞いたからそれ言い出しただろ」
クルー1「自腹切れ、自腹」
クルー5「ひっでぇ!?」
ハハハハ…
提督「……風呂の解放は19時15分から19時45分までだ。酒保はその前後15分開けておく」
提督「19時から20時までは案内役に武蔵を付けさせる。昼間みたいに逃げ出そうものなら、覚悟しておけよ……?」
660: 2021/10/31(日) 17:59:46.09 ID:txAHe89eo
遠大佐「それは私から言って聞かせておくよ。これ以上君に手間はかけさせない」
提督「……? だといいがな。んじゃ、俺は執務に戻るぞ」
扉<ガチャッ
伊8「あ、出て来た」
榛名「提督!」パァッ
提督「なんだお前たち、わざわざ部屋の外で待ってたのか?」
伊8「はい」コク
榛名「提督、今夜、榛名はお部屋にお邪魔いたしますね!」
全員「「!?」」ギョッ
提督「なんだそりゃ? 別にいいけどよ」
全員「「!?!?」」
榛名「本当ですか!? 榛名、感激です!!」ウデニダキツキー
全員「「」」
661: 2021/10/31(日) 18:00:31.08 ID:txAHe89eo
提督「そんな話、別に今じゃなくてもいいだろ。で、はっちゃんは何の用だ」
伊8「はっちゃんは榛名さんの付き添いです。報告は報告でありますけど、それは執務室に戻りながら話します」
提督「ん、そうか……」
扉<バタン
クルー4「……行ったか……」
クルー5「なんだったんだ、今の……」
クルー7「部屋に行くとか言ってたよな……」
クルー1「やっぱりそういうことなのか……?」
留提督「イチャイチャしやがって……本っ当にむかつくやつだな、あの准尉ってのは」イライラ
雷「もう、留提督! もともと私たちを追い出すつもりだったのに、お夜食まで出すって言ってくれたんだから、ひどいこと言っちゃだめよ?」
留提督「う……」
遠大佐「まあまあ、雷も落ち着いて」
雷「でも司令官? 私、いろいろと気になるわ! 加古さんたちを連れ戻すなんて話、もともとなかったじゃない!」
雷「いろんな鎮守府に聞いて回ったでしょ? 轟沈した艦娘は呼び戻しちゃ駄目だって!」
遠大佐「雷……」
雷「司令官、私は心配なの……司令官は、なにか無茶なことをしようとしてない……?」
遠大佐「大丈夫だよ雷。不安にさせてしまったのなら謝る。だが、心配はいらないよ」ニコ
雷「司令官……!」
662: 2021/10/31(日) 18:01:15.95 ID:txAHe89eo
遠大佐「……ああ、そうだ、ところで雷。私たちがどの部屋に泊まるか聞いてなかったな。准尉に部屋がどこか聞いてきてもらえないか?」
雷「! そういえばそうね! 私が聞いてくるわね! 准尉さーん!」
扉<ガチャバターン
遠大佐「……留君」テマネキ
留提督「は、はい」チカヨリ
グイ
留提督「!」
遠大佐「君の思い通りにならずに苛立っているようだが……」ヒソヒソ
遠大佐「君に望みがあるように、私にも私の望みがあるからこそ、君に全面的に協力しているんだぞ?」
遠大佐「ここで君が軽率な行動をとろうものなら、君にも私にも未来はない」
留提督「……そ、そうかもしれないけど」
遠大佐「我々の……君たちの目的は、轟沈した艦娘を救い出し、英雄として君を海軍に大々的に迎え入れることだ。違うのかね」
遠大佐「いくら君のお父様が海軍に顔が利いたとしても、私の地位を君に譲るつもりだったとしても……」
遠大佐「今、ここにいる君は、私の客将だ。弁えたまえ……!」
留提督「……っ!」
扉<コココンッ
雷「司令官! お風呂の後に教えてもらうことになったわ! お風呂へ行くときに私たちの荷物も持っていきましょ!」ガチャー
遠大佐「おお、そうか! それじゃ、準備しようか!」ニコニコ
留提督「……」
663: 2021/10/31(日) 18:02:00.87 ID:txAHe89eo
* 執務室へ向かう廊下 *
提督「やっぱり、あいつは鹿島を狙ってるってか」
伊8「鹿島さんたちからこれまでの反応を聞く限り、鹿島さんに好意っていうか下心を持ってる、って感じですかね」
提督「下心ねえ……」
伊8「榛名さんをあの場でけしかけたのも、ああいうシーンを見せておけば動揺するかと思いまして」
提督「お前の仕業かよ。で、どうだったんだ?」
伊8「すっごい反応してましたよ。表情が氏んでるのに目が殺気立ってたっていうか、これ以上なく嫉妬してたっていうか」
提督「……」
伊8「あ、それと、はっちゃん見てる人も結構いましたよ。胸部とか臀部とか脚部とか。ちちしりふとももってやつですね」
提督「その表現……」アタマオサエ
伊8「黒潮ちゃんの危惧してた感じになりそうですか?」
提督「まー、そうなりそうだな……そうなって欲しくねえけどよ」
伊8「……最初から本性が見たくて煽ってたのに、今更になって怖じ気づいてるんですか」
提督「風呂に案内した時の鹿島の落ち込み様が半端なかったからな。萎縮しまくってて消え入りそうって言えばいいのか」
提督「艤装がなくて戦力にならねえ上に、この鎮守府に迷惑かけるって立場なもんだから、目に涙いっぱい溜めててよ」
664: 2021/10/31(日) 18:02:46.66 ID:txAHe89eo
提督「罪悪感が少々キツいが、あいつらを暴走させるための餌だからな。悪いが人身御供になってもらうさ」
伊8「奇稲田比売ですね」
榛名「くしなだひめ……?」
提督「八岐大蛇の生贄に差し出された娘だよ。須佐之男が助けて嫁にしたっていう」
榛名「よめですか!?」
提督「どこに反応してんだよ」
伊8「提督は鹿島さんのことはお嫁さんにしないと思うけど」
榛名「そ、そうですよね!」
提督「つうか俺は結婚しねえから嫁も何もねえよ、って何度も言ってんだろ」
榛名「そ、そうですよね……」シュン
提督「お前はさっきから極端だな。ほれ、少し元気だせ」アタマナデナデ
榛名「はいっ! 榛名は大丈夫です!!」シャキーン キラキラキラッ
提督「だから極端に元気になりすぎだろ……少しでいいんだぞ」
伊8(ちょっとうらやましい)ムー
665: 2021/10/31(日) 18:03:31.14 ID:txAHe89eo
提督「ま、ともかくだ、何事もなきゃあそれでいい。明日の朝になりゃあ中佐の息のかかった連中が、遠大佐たちを連れ戻しに来るからな」
伊8「だったら、何もしなくてもいいんじゃないですか?」
提督「俺があいつらにお灸を据えたいだけだ。勝手が過ぎるし、牢屋にぶち込んで一晩見張っておかねえと、何しでかすかわかんねえ」
提督「つうか、今一番の気になるところは遠大佐の企みだ。できればそっちを汲み取りたいんだが……あの秘書艦も、どこまで知ってんのかね」
伊8「なんとなくですけど、あまりよくわかってなさそうですね?」
提督「んー……やっぱそういう感じか。あの駆逐艦にとってろくでもねえ話じゃなけりゃいいんだが」
伊8(他人の秘書艦なのに、心配し過ぎだと思うんだけど)
榛名「提督は、人には厳しいですけれど、艦娘には本当にお優しいですよね」
提督「!」
伊8「!」
榛名「榛名、少し焼きもちを妬いてしまいます」シュン
提督「……」
伊8「……」
提督「俺、そんなに甘いか?」
伊8「少しは自覚したほうがいいと思いますよ?」ジト
666: 2021/10/31(日) 18:04:16.04 ID:txAHe89eo
* 21:00 会議室 *
朝雲「お刺身お持ちしましたー!」
電「空いたお皿はお下げするのです」カチャカチャ
吹雪「焼酎と氷とお水、ここに置いていきますね! 失礼しました!」ペコリ
扉<ガチャ パタン
クルー7「ぐへへ……駆逐艦は可愛いなあ」ヒック
クルー4「お前なあ……」
クルー7「なーにカマトトぶってんですかセンパーイ。知ってますよ、4さん、俺と同じ趣味の先輩でしょー?」
クルー4「ぐ……っ」
クルー7「あー、つくづくここに雷ちゃんがいないのが寂しいぜ。あの子にお酌して欲しかったなあ」
クルー1「遠大佐がそれを許してくれるかねえ? それより、4ちゃん酒が足りねーな。昼間の話、まだ気にしてんのかよ」
クルー4「え、ま、まあ……」
留提督「昼間の話ってぇ、提督に歯向かう艦娘がいるって話?」
クルー4「そ、そうです」
留提督「そりゃあれだよ、外れ引いたんだよ、外れ。遠大佐のとこの艦娘も、ここの艦娘もみんな従順じゃん」
クルー5「あの横暴な提督准尉の言うことを、ここの艦娘は全員大人しくきいてんだぜ? 何かあったに違いないよなあ」
クルー1「ああ。ありゃー間違いなく、ヤることヤってるよな」
クルー7「うわー、マジすか!?」
667: 2021/10/31(日) 18:05:01.22 ID:txAHe89eo
クルー1「俺がたまたま准尉の部屋に入ったとき、大和とか金剛とかいたからなあ」
クルー7「駆逐艦は!?」
クルー1「そういやいたよ、一人いた!」
クルー7「うっわああああ! マジすかあああ!!」
クルー5「真っ黒確定っすね!」
留提督「ってことは大和は中古かあ。もらっちゃおうと思ったけど、どうしようかなあ」
クルー2「もらうだけはもらっちゃいましょうよ。なんでも資材を大量消費するから、使いづらいらしいですよ?」
留提督「そうなんだ?」
クルー2「練度上げるだけなら、鹿島と一緒に演習だけに出すといいとか聞きました!」
留提督「ふーん……」
クルー5「いやー、それにしても鹿島って子、めっちゃ工口いっすよね!」
クルー7「ほんとほんと、目の保養目の保養」
クルー2「お前口リコンじゃなかったのかよ」
クルー7「見るだけならなんでもいいぜー? 手は出さねえからいいだろー?」
ギャハハハハ…
クルー6「……」
668: 2021/10/31(日) 18:05:46.14 ID:txAHe89eo
クルー6(話のノリについていけねー……)
クルー6(俺も3さんみたいに外に行きゃー良かったかな)グビッ
留提督「……」ポケー
クルー1「? どうしました?」ヒソヒソ
留提督「んー? ああ……鹿島ってマジでイイ体してんだよなあ。顔も小悪魔チックでよー……どう見ても男誘ってるとしか思えねー」
留提督「思い出したらもうムラムラしてきててさ。さっき便所に行ったとき、見張りらしい見張りがいなかったから……」
留提督「やるなら今がチャンスなんだよ。今頃ベッドでおやすみなんだろ? ……なあ?」
クルー1「お……ということは」
留提督「……やるか?」
クルー1「やりますか!」
留提督「ああ……ただ、ノリの悪い陰キャにチクられても面白くないし、なあ」チラッ
クルー5「6のやつですね……それだったら俺にいい考えがありますよ」コソッ
クルー5「千歳と足柄の部屋に連れてってサシで飲ませてやるんです」
クルー1「え?」
留提督「あいつそういう趣味なの?」
クルー5「あの二人と挨拶した時、顔赤らめてましたからね、あいつ」
クルー1「よく見てんなあ」ククッ
留提督「怖え~」ヒヒッ
669: 2021/10/31(日) 18:06:30.87 ID:txAHe89eo
クルー5「共犯者は多い方がいいっすからね。俺がここから連れ出して部屋に押し込めますんで、その隙に行っててください!」
クルー1「いいのか?」
クルー5「適度に出来上がったあたりで俺も後から合流しますんで、先に楽しんでていいですよ!」
クルー7「?」
クルー4「何の話だ?」
クルー6「?」
クルー5「よお、6! お前、ちょっと付き合え!」ガシッ
クルー6「えっ!? な、なんすかいったい!」
クルー5「お前が一人で寂しそーに飲んでるから、いいトコロに連れてってやろうって話じゃねーか!」グイッ
クルー6「は、はあ!?」
クルー5「ほら、ビールとつまみ持てよ!」オシツケ
670: 2021/10/31(日) 18:07:26.32 ID:txAHe89eo
* 鎮守府内 廊下 *
クルー5「さっきの駆逐艦、あの二人が9時まで厨房手伝うって言ってたよな? だとしたらそろそろ部屋に戻ってくると思ったんだが……」キョロキョロ
クルー6「ちょっと、勝手にうろうろしていいんすか……!?」
足柄「あら? あなたたち、どうしたの?」
千歳「飲み会はもうおしまい?」
クルー6「あ……!」
クルー5「いえいえ、待ってたんですよ、お二人を!」
足柄「待ってた? 私たちを?」
クルー5「そうそう。こいつ、俺たちと飲んでても全然楽しそうじゃないんで! だったら仕事してきた二人を労ってこいよと!」
クルー6「え? ええ、えええ!?」オロオロ
足柄「ふーん……まあ、やぶさかではないけど?」
千歳「……そうね。缶ビール1本くらいなら、付き合ってあげてもいいかしら」
クルー5「よぉし! それじゃあ、こいつのことはお願いします!」バシッ
クルー6「痛ってえ!? ちょっ、お、俺一人すか!? どこ行くんです!」
クルー5「野暮用! あと小便だ!」
クルー6「……」
千歳「なんだか大変ねえ」
足柄「それじゃ、軽くいただきましょうか」
千歳「ほら、君も早く部屋に入って」
クルー6「……は、はい」セキメン
671: 2021/10/31(日) 18:08:20.80 ID:txAHe89eo
というところで今回はここまで。
672: 2021/11/01(月) 06:45:44.02 ID:hU3aM3xE0
投稿お疲れ様です!毎回楽しみです。あいつら(クルー6以外)に何かバチが当たれと思います。
673: 2021/11/01(月) 18:08:19.46 ID:HM+/2D7H0
6が不憫だなぁww
この調子で行ったら明日朝にとんでもないことになる予感...
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674: 2021/11/01(月) 23:11:49.56 ID:E47MV3sY0
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