317: 2022/02/18(金) 18:55:27.36 ID:X9tqqwHHO
さっき食べたので少し更新します。
前回:【ウマ娘】ウマ娘とトレーナーがラーメンを食べに行くだけ【前編】318: 2022/02/18(金) 19:09:48.92 ID:X9tqqwHHO
ウマ娘はアスリートである。
トレセン学園の正式名称がそれを物語る。「国立ウマ娘トレーニングセンター学園」。一応建前としては中高一貫の普通学校だが、実態は体育専門学校のそれに近い。
ここの主眼は、あくまでアスリートとしてのウマ娘の育成(トレーニング)。
無論、現役引退後のキャリア形成も睨んだ基礎教育も行われているが、「より速いウマ娘を育てること」が第一なのだ。
それ故、激しい競争に耐えきれず、退校を余儀なくされる生徒も多い。
入学も狭き門だが、卒業もまた困難だ。
無論、卒業できれば圧倒的な名誉と人気、そして何より莫大な金が手に入る。
ただ、そこに辿り着けるのはごく一握り。この上なく残酷な競争社会の縮図が、ここにはある。
だからこそ、ウマ娘は夢を諦めない。どんな怪我を負ったとしても、再起に僅かな望みを賭ける。自らの夢と、可能性を信じて。
その儚さと尊さこそ、我々トレーナーが惹かれるものの一つなのだ。
そして、目の前にいる彼女もその一人だ。
高等部3年、メジロアルダン。
硝子の脚を持ちながらも、優秀な同期に立ち向かわんとする、メジロ家の少女だ。
319: 2022/02/18(金) 19:37:11.03 ID:X9tqqwHHO
「怪我をしないようにするコツ、か」
授業の後、「相談があるのですが」と職員室を訪れた彼女は、伏し目がちに頷いた。
「はい。天王寺先生なら何か答えを知っているのでは、と」
「専属の橋本トレーナーではいけないのか?」
「……色々手を尽くしたのですけど、上手く行かなくて。トレーニング理論なら、天王寺先生に聞いた方がいい、と」
橋本トレーナーは真面目な青年だ。ただ、キャリアはまだ3年と浅い。彼なりにベストを尽くした結果、私を頼るようにということなのだろう。
私は腕を組んだ。
「君の脚は、確か先天的に……」
「ええ。骨密度が、通常より密でないとは聞いています。過剰な負荷には耐えられないと……
免疫力も劣っているとは知っています。ただ、学園生活はあと1年と少し。できるだけのことはしたいんです」
静かだが、強い想いを噛み締めるように、アルダンは言った。
私は少し目を閉じた。筋トレを徹底することで、骨を支える筋肉を作り、より故障しにくくする身体にすることはできなくはない。
ただ、私の手法は速筋を鍛えるものだ。スプリンターやマイラーを育成するにはいいが、アルダンのような王道路線のウマ娘を育てるには向いていない。
とすれば……免疫力、ひいては基礎体力の向上を優先すべきか。
ただでさえヒトより弱い免疫力の彼女たちである。今後、社会に出ることを考えると、そちらをこそ優先的に強化すべきかもしれない。
そのためには……
「ここにいたかね、アルダン君!」
ノックの音もなく、相談室のドアがバンと開けられた。
そこにいたのは、白衣に身を包んだウマ娘。「三大問題児」とはベクトルの異なる問題児、アグネスタキオンである。
320: 2022/02/18(金) 20:03:44.92 ID:X9tqqwHHO
「タキオンさんっ!?」
「骨密度の増強に必要な飲み薬が完成したのさ!これで君も私も……っと天王寺トレーナー君じゃないか」
私は溜め息をついた。
「……また未認可の薬を飲ませようとしたのか。ドーピング検査に引っ掛かったら破滅だぞ」
「いやいや、それは大丈夫。私のモルモット君が身を以て証明してくれたからね!」
萌え袖をヒラヒラさせ、得意気にタキオンが胸を張る。そういう問題じゃない。
「また滝川トレーナーが被害に遭ったのか……」
「被害とはなんだい、失礼な。研究成果の名誉ある第一号になったのだよ。多少身体が光っても……」
「その時点でアウトだ」
滝川トレーナーもよく彼女の人体実験に付き合っているものだ。ある意味、私以上に頑健ではなかろうか。
「なんだよ~つまらないな~。成果は確かなのに」
「脚を治したい気持ちは分かるが、せめて認可が降りるまで我慢しろ」
……そう。タキオンも脚は弱い。昨年に大怪我をし、今は復帰に向けて動いていると聞く。
同じ悩みを抱える者同士、気が合うのだろうか。確かにタキオンがたまに学年が上のアルダンと話している姿は見ていた。
「……でも、私には時間がないんです」
アルダンが、絞り出すように言う。私はハッとなった。
トレセン学園は、建前は中高一貫の普通学校だ。だが、6年で卒業できる生徒は、実はほぼいない。
毎年ある進級試験。それに合格しないと、卒業できない仕組みになっている。そして、不合格者は、1年に限って留年を許される。
アルダンは既に、進級試験を落ちていた。
厳密には、受けることすらできなかったのだ……脚の怪我で。
翌年までに、脚を完全に治さないと、彼女の未来は……ない。
321: 2022/02/18(金) 20:36:15.38 ID:X9tqqwHHO
部屋が重い空気に包まれた。タキオンは1年だから、まだ猶予はある。しかし、3年の彼女は……次に落ちたら退校処分だ。
「そうだな……」
助けになりたいのは山々だ。だが、即効性のある特効薬はない。私にできるのは、あくまで地道な基礎体力強化を勧めることしかない。
だが、それを告げたところで何の意味があるだろう?彼女をさらなる絶望に落とすだけではないか?
参った。……こういう時に、「あの人」なら何と言うだろう。
「そういえば天王寺トレーナー君。私の叔父が君に会いたがっていたよ」
唐突に、タキオンが口を開いた。
「君の叔父?こんな時に何の関連が」
「おおありだよ。今度、中国から凱旋帰国するそうだ。何か話が聞けるかもしれないねえ」
「……凱旋帰国?」
「そう。中国ウマ娘界でナンバーワントレーナーになったらしいんだよ。事業も成功したらしい」
「中国……ウマ娘では後進国と聞いていたが」
フフフ、とタキオンが笑う。
「年末の香港ヴァーズと香港マイルは、叔父さんが担当したウマ娘が勝ったんだよ。
というか天王寺トレーナー君、叔父さんを知らないのかい?」
胸騒ぎがする。私の知り合い?誰だそれは?
「ああ、こっちの方が有名かもしれないね。中国を代表する、日本人ラーメンプロデューサー」
……ゾクンッ
まさか。「あの人」なのか?
しかし、いつの間に中国に渡っていたとは……しかもトレーナーもやっている?頭が混乱する。
だが、私の頭に浮かぶ名前は……一つしかない。
「……芹沢達也」
324: 2022/02/19(土) 19:47:46.33 ID:JzQJV121O
ククッ、とタキオンが笑った。
「なんだ、やっぱり知り合いじゃないか。訳ありみたいだけど」
「……私の恩人だよ。トレーナーをやっているのも、半分は彼の影響だ」
「恩人、ね。あの偏屈な叔父さんが、皮肉交じりとはいえ人を褒めるなんて珍しいとは思ってたけど」
そう。芹沢達也は私の「師」だ。トレーナーとしても、そしてラーメンについても。
『俺は俺の道を行かせてもらう。また会うことがあるかもしれんな』
10年前、トレセン学園を去った彼の言葉が蘇る。
あの人は間違いなく有能なトレーナーだった。「あの事件」がなければ、今頃は日本を代表するトレーナーになっていたかもしれない。
ウマ娘界から追放され、行方知らずであるとは聞いていた。ラーメン職人としても一流だった彼のことだ、どこかでひっそりと店を出しているかと思ったが、その情報はなかった。
まさか、中国に渡っていたとは。それも、向こうでラーメンプロデューサーもやっていたとは。
二足のわらじを履き、両方で頂点へと駆け上がろうとしているのは……どういう意図なのか?
「芹沢さんが帰国するのは、いつだ」
「詳しくは聞いてないよ。何せ身内の私すら、久々に連絡をもらったくらいだし。多分、春には戻ってくるんじゃないか?」
「そうか……」
訊きたいことはたくさんある。何より、「あの事件」の真相。芹沢さんが、あんなことをしでかしたとは、今でも信じられない。
「まあ、私も会うのは楽しみだよ。脚の治療についても何か考えがあるらしいからね」
「そうなのか?」
呆れたようにタキオンが私を見る。
「知らないのかい?叔父さんの別名を」
「別名?」
「そうさ。『魔法使い』……どんな虚弱なウマ娘でも、たちどころに強靭な身体となり、レースを勝ちまくる。
この前負けたけど、ゴールデンシックスティー、だったかな?あの娘もそうやって強くなった」
ゾワッと、嫌な予感が広がった。……10年前と同じだ。
芹沢達也は、担当ウマ娘へのドーピング疑惑をかけられ……日本を追放されたのだった。
325: 2022/02/19(土) 20:11:50.15 ID:JzQJV121O
「その、タキオンさんの叔父様なら……私の脚も」
「断言はできないけど、治るかもしれないねえ。私もできれば自分で治したいけど」
アルダンの目に光が戻った。おそらく、アルダンは芹沢さんのことを知らない。
「タキオン。君は、10年前のことは」
彼女の目が鋭くなった。
「子供の頃のことだよ?真相なんて知ってるわけがないじゃないか。
でも、叔父さんは素晴らしい人だ。トレーナーとしても、人間としても……いや、面倒な人だけど。汚れたことをしているわけがない」
その通りだ。私もそう信じたい。だが、日本では彼は「黒」となっている。真実は藪の中だ。
「……そうだな」
ざわつく想いを押し頃し、私はそう呟いた。タキオンがやれやれと首を振る。
「叔父さんの話をしたから、お腹が空いたじゃないか。それもラーメンが食べたくなったよ。
モルモット君……はラーメンは作れないな。天王寺トレーナー君、君は作れるかな?」
「すぐに言われて作れるわけがないだろう」
「なんだよ~。私はラーメンが食べたいんだよ~」
タキオンが頬を膨らませる。橋本トレーナーの日々の苦労がよく分かった。
アルダンがおずおずと手を挙げる。
「あの、ラーメンって……最近、天王寺トレーナーはよく他のウマ娘さんを連れて行ってるって聞きました。マックイーンさんやパーマーさんも行ったって」
「あ、ああ」
「私たちも、ご一緒できませんか?無理に、とは言いませんが」
チートデイは近い。まあ、申し出を断る理由はないか。
それに、今度行くつもりの店は……ある意味アルダンに向いた店かもしれない。脚だけでなく、基礎体力に不安を抱える彼女には、エネルギー変換効率の高い食事が必要だからだ。
「明日ならいいだろう。タキオンもそれでいいな?」
「今日じゃないのかよ~。仕方ないな~」
頬を膨らませてタキオンが言う。店が狭いのが少し気になるが、まあ何とかなるか。
326: 2022/02/19(土) 20:12:16.64 ID:JzQJV121O
第7R 「破顔」
329: 2022/02/20(日) 14:58:30.24 ID:MNaDcSqVO
*
「油そば?」
ちゃっかり助手席に座ったカレンが訊く。
「そうだ。今日は油そばを食べに行く」
薄曇りの中を、アウディA4は西に走る。「むー」と不機嫌そうに後部座席のタキオンが唸った。
「油そばぁ!?油まみれの麺なんて健康に悪いじゃないか!何より、スープもないなんて味が薄っぺらいに決まってる」
「芹沢さんには、ろくにラーメンのことを教わってなかったらしいな」
「何を言うんだね!?私が間違っているとでも……」
「私の栄養学の授業そっちのけで内職ばかりしてるから、気付いてないらしいな。よく考えろ、ラーメンでもっとも多く含まれるのは何だ?」
「ハッ、そんなの決まっているだろう?馬鹿にしないでくれ、炭水化物に決まってるじゃあないか」
「そうだ。で、最もエネルギー変換効率の高い炭水化物の摂り方は?」
パン、とアルダンが手を叩く。
「確か、麺だけを食べること……ですよね?」
「その通り。ボクサーが減量明けに食べるもので、最も多いのはうどんだ。それも、余計な水分のない、ぶっかけうどんが望ましい。
弱った胃でも消化がしやすく、かつすぐにエネルギーに変換されるからだ。
ラーメンの麺はぶっかけうどんほど消化は良くない。それでも、カ口リーを抑えながら最大限の炭水化物を摂りたいなら、油そばは選択肢に入る。
大体2割、油そばはラーメンよりカ口リーが低いのだそうだ」
「フン」とタキオンが鼻を鳴らす。
「そ、そのぐらい知っていたよ。それに、油そばの味は単調じゃないのかい?」
「タレの使い方で千差万別だ。ダシがないから複雑な味わいにはなりにくいが、それでも美味い店は美味い」
「まあ美味しければ万事よし!です!」
バックミラーに妙に得意げなバクシンオーが見えた。まあ、御託はここまでにしておこう。
……芹沢さんに笑われるな。「お前は知識を食いに来ているのか」、と。
「油そば?」
ちゃっかり助手席に座ったカレンが訊く。
「そうだ。今日は油そばを食べに行く」
薄曇りの中を、アウディA4は西に走る。「むー」と不機嫌そうに後部座席のタキオンが唸った。
「油そばぁ!?油まみれの麺なんて健康に悪いじゃないか!何より、スープもないなんて味が薄っぺらいに決まってる」
「芹沢さんには、ろくにラーメンのことを教わってなかったらしいな」
「何を言うんだね!?私が間違っているとでも……」
「私の栄養学の授業そっちのけで内職ばかりしてるから、気付いてないらしいな。よく考えろ、ラーメンでもっとも多く含まれるのは何だ?」
「ハッ、そんなの決まっているだろう?馬鹿にしないでくれ、炭水化物に決まってるじゃあないか」
「そうだ。で、最もエネルギー変換効率の高い炭水化物の摂り方は?」
パン、とアルダンが手を叩く。
「確か、麺だけを食べること……ですよね?」
「その通り。ボクサーが減量明けに食べるもので、最も多いのはうどんだ。それも、余計な水分のない、ぶっかけうどんが望ましい。
弱った胃でも消化がしやすく、かつすぐにエネルギーに変換されるからだ。
ラーメンの麺はぶっかけうどんほど消化は良くない。それでも、カ口リーを抑えながら最大限の炭水化物を摂りたいなら、油そばは選択肢に入る。
大体2割、油そばはラーメンよりカ口リーが低いのだそうだ」
「フン」とタキオンが鼻を鳴らす。
「そ、そのぐらい知っていたよ。それに、油そばの味は単調じゃないのかい?」
「タレの使い方で千差万別だ。ダシがないから複雑な味わいにはなりにくいが、それでも美味い店は美味い」
「まあ美味しければ万事よし!です!」
バックミラーに妙に得意げなバクシンオーが見えた。まあ、御託はここまでにしておこう。
……芹沢さんに笑われるな。「お前は知識を食いに来ているのか」、と。
330: 2022/02/20(日) 15:11:50.25 ID:MNaDcSqVO
*
「さて、着いたぞ」
「駅前、ですね。……向こうに行列がありますけど、あそこですか?」
アルダンが長蛇の列を指差す。私は苦笑した。
「ああ、あれは違う店だ。『桜台二郎』…… 二郎系列では上位の店だが、今日の目的地はあそこじゃない」
※二郎の行列には……
01~70 誰もいない
71~95 ウマ娘がいる
96~99 二郎が閉店させられている
00 ん?あのハゲは
「さて、着いたぞ」
「駅前、ですね。……向こうに行列がありますけど、あそこですか?」
アルダンが長蛇の列を指差す。私は苦笑した。
「ああ、あれは違う店だ。『桜台二郎』…… 二郎系列では上位の店だが、今日の目的地はあそこじゃない」
※二郎の行列には……
01~70 誰もいない
71~95 ウマ娘がいる
96~99 二郎が閉店させられている
00 ん?あのハゲは
331: 2022/02/20(日) 15:46:29.88 ID:18lILhl+o
ヌッ
332: 2022/02/20(日) 15:58:17.14 ID:MNaDcSqVO
※並んでいるウマ娘がいる
安価下1~3で最もコンマが大きいものとします。
安価下1~3で最もコンマが大きいものとします。
334: 2022/02/20(日) 16:35:44.84 ID:JaG6RDGH0
メイショウドトウ
337: 2022/02/20(日) 17:28:03.52 ID:nu2KD84yO
その時だ。
「ややっ!?あそこにいるのは!?」
そう言うなり、バクシンオーは向こうの行列へと走っていった。……行列に、見た顔がいる。あれは……
「メイショウドトウさんではありませんか!こんにちは!」
「あわわっ!?ば、バクシンオーさんっ!?」
混乱した様子でメイショウドトウが言う。オグリならともかく、彼女が二郎に並ぶというのはかなり意外だ。
「あ、ドトウちゃんだ!どうしたの?こんな所で」
「あう……カレンちゃんまで……違うんです、これは間違えちゃったんですぅ……」
「間違えた?」
「行きたいお店があって、でも駅を間違えちゃって……でもお腹が空いたから何か食べようと思ってたら、いつの間にか行列に巻き込まれちゃって……」
「人の流れに押された、ということか」
目を潤ませながら、ドトウがウンウンと頷いた。
「そもそも、これ何のお店なんですか?ラーメン屋さんみたいだけど、殺伐としてますしぃ……」
「まあ二郎だからな。このまま食べるのか?」
01~20 せっかくだから、食べますぅ……
21~75 助けてくださいぃ……
76~00 お店を教えてくださいぃ……
338: 2022/02/20(日) 17:45:15.07 ID:znFuPqX00
あ
341: 2022/02/20(日) 19:18:30.83 ID:znS1evlKO
「せっかくだから、このまま食べますぅ……。並んだ時間がもったいないですしぃ……」
「まあ、そう言うなら仕方ないな。私たちは近くで食べているから、帰りは送っていこう」
「分かりましたぁ……」
しょんぼりと耳を垂れながらドトウが言った。大丈夫だろうか。
「トレーナーさんっ!二郎ってなんですか!?」
「二郎もラーメンの一種だが、色々特殊でな。ウマ娘にも量が多いから、ドトウが食べられるかどうか」
カレンが渋い顔をしている。
「カレンはあんま好きじゃない。カワイくないし、ウマスタ映えしないし。何よりニンニク臭くなるのがヤ」
「まあ、好き嫌いは分かれるな。ドトウは妙に頑固だから、あのまま食べることにしたんだろうが……」
「それよりお兄ちゃん、油そばのお店は?」
「それならすぐそこだ」
二郎ほどではないが、やはり長蛇の列が見えた。ここが目的地「破顔」だ。
「並んでますね……食券から先に買うのでしょうか」
「そうなってるな。店はかなり狭いから、注意してくれ」
引き戸を開けると、炭の匂いがした。私の体格だと、ギリギリ歩けるかどうかといったところか。
「『ラーメン』って軒先にあるのに、全部『汁なし』じゃないか。油そばとどう違うんだ?」
外からガラス越しにタキオンが訊く。
「基本は大して変わらない。油そばとは違ったタイプの『汁なし』を出す店もあるが、ここはほぼ油そばだな。タレがオイリーなら油そばと呼んで差し支えない。
一応醤油と塩と煮干しがあるが、私が決めていいか?」
「構わないよ」
私は塩の大盛りを5枚購入する。大盛りでも800円は、この物価高騰の折では割と安い。これも、スープに原価を必要としない油そばの強みだ。
342: 2022/02/20(日) 19:47:00.59 ID:znS1evlKO
*
待つこと20分。私たちが入ると、それだけでほぼカウンターが埋まった。
厨房からの香ばしい匂いが強まる。
「これは……炭火焼、ですか?」
「その通り。客に出す前に炙るんだ」
アルダンが興味津々といった様子で厨房を見る。メジロのお嬢様にとっては、ラーメン屋自体が新鮮なのかもしれない。
タキオンが、カウンターの上のポットを指差した。
「なんだいこれは」
「スープだ。麺をほぼ食い終えた頃に入れる。油そばで追い飯はよくあるが、スープ割りはまあまあ珍しいな」
そうしているうちに、私たちの丼が準備される。向こうから黒煙が上がると、肉の焦げた匂いが強まった。
「塩大盛りです」
麺には、たっぷりの魚粉とネギ。それに海苔と味玉、炭火焼のサイコロチャーシューが添えられている。
「よくかき混ぜ……「バックシーン!」」
また説明する前にバクシンオーが食べ始めていた。
「これはおいしいです!なんというか、力が湧く味です!!」
「……とにかく、ちゃんとかき混ぜて食べよう」
軽く上下に麺を混ぜ、一気に啜り込む。
その瞬間、口の中に魚粉とネギ、そして炭と唐辛子の香りが一気に拡がった。
パシーンッ!!!
ボタンが弾け飛ぶ。洗練という言葉からは程遠い。むしろ、ジャンクフードとすら思える暴力的な荒々しい味だ。
だが、それがいい。スープの雑味がないからこそ、こういう味の組み立てができるわけだ。
「むむっ!!?」
「これは……」
アルダンとタキオンも唸った。
「何というか……シンプルなようで、いくつもの香りがあるのですね……」
「なるほど、塩にした意味はこれだね?辛味が入ってるから、味がぼやけない」
「味覚は芹沢さん譲りか。何で料理がダメなんだ」
「だって料理なんて面倒じゃないか。モルモット君が作ってくれるし」
ウマスタ用の写真を撮り終わったカレンも「おいしー♪」と満足げだ。
「この炭火焼が美味しいね♪柔らかいし、味もしっかりしてる。さすがお兄ちゃん♪」
「味付け卵もおいしいです!さらにバクシンできますっ!」
バクシンオーの丼はもうほとんど空だ。相変わらず速い。
「麺が減ったらスープを少しずつ入れてくれ。また違った味になる」
私もスープ割りに動く。焦がしネギが浮いたスープは、ちょうど町中華のスープを思わせるような柔らかい味わいだ。
出汁の少なさを、香りと工夫で補う。こういう油そばもあっていい。
待つこと20分。私たちが入ると、それだけでほぼカウンターが埋まった。
厨房からの香ばしい匂いが強まる。
「これは……炭火焼、ですか?」
「その通り。客に出す前に炙るんだ」
アルダンが興味津々といった様子で厨房を見る。メジロのお嬢様にとっては、ラーメン屋自体が新鮮なのかもしれない。
タキオンが、カウンターの上のポットを指差した。
「なんだいこれは」
「スープだ。麺をほぼ食い終えた頃に入れる。油そばで追い飯はよくあるが、スープ割りはまあまあ珍しいな」
そうしているうちに、私たちの丼が準備される。向こうから黒煙が上がると、肉の焦げた匂いが強まった。
「塩大盛りです」
麺には、たっぷりの魚粉とネギ。それに海苔と味玉、炭火焼のサイコロチャーシューが添えられている。
「よくかき混ぜ……「バックシーン!」」
また説明する前にバクシンオーが食べ始めていた。
「これはおいしいです!なんというか、力が湧く味です!!」
「……とにかく、ちゃんとかき混ぜて食べよう」
軽く上下に麺を混ぜ、一気に啜り込む。
その瞬間、口の中に魚粉とネギ、そして炭と唐辛子の香りが一気に拡がった。
パシーンッ!!!
ボタンが弾け飛ぶ。洗練という言葉からは程遠い。むしろ、ジャンクフードとすら思える暴力的な荒々しい味だ。
だが、それがいい。スープの雑味がないからこそ、こういう味の組み立てができるわけだ。
「むむっ!!?」
「これは……」
アルダンとタキオンも唸った。
「何というか……シンプルなようで、いくつもの香りがあるのですね……」
「なるほど、塩にした意味はこれだね?辛味が入ってるから、味がぼやけない」
「味覚は芹沢さん譲りか。何で料理がダメなんだ」
「だって料理なんて面倒じゃないか。モルモット君が作ってくれるし」
ウマスタ用の写真を撮り終わったカレンも「おいしー♪」と満足げだ。
「この炭火焼が美味しいね♪柔らかいし、味もしっかりしてる。さすがお兄ちゃん♪」
「味付け卵もおいしいです!さらにバクシンできますっ!」
バクシンオーの丼はもうほとんど空だ。相変わらず速い。
「麺が減ったらスープを少しずつ入れてくれ。また違った味になる」
私もスープ割りに動く。焦がしネギが浮いたスープは、ちょうど町中華のスープを思わせるような柔らかい味わいだ。
出汁の少なさを、香りと工夫で補う。こういう油そばもあっていい。
343: 2022/02/20(日) 20:00:17.33 ID:znS1evlKO
*
「んー、食べた食べた。たまにはこういうのもいいものだねえ」
タキオンが伸びをする。アルダンはというと、私に深々とお辞儀をした。
「天王寺トレーナー、ごちそうさまでした。とても美味しかったです。それに、何か元気が湧いてきたような」
「そう言ってもらえたら何よりだ」
ふと、ドトウのことを思い出した。そういえば、桜台駅前で待ち合わせていたが……
01~50 もう無理ですぅ
51~80 とても美味しかったですぅ
81~99 美味しかったけど、やっぱり……
00 ん?あのハゲは
「んー、食べた食べた。たまにはこういうのもいいものだねえ」
タキオンが伸びをする。アルダンはというと、私に深々とお辞儀をした。
「天王寺トレーナー、ごちそうさまでした。とても美味しかったです。それに、何か元気が湧いてきたような」
「そう言ってもらえたら何よりだ」
ふと、ドトウのことを思い出した。そういえば、桜台駅前で待ち合わせていたが……
01~50 もう無理ですぅ
51~80 とても美味しかったですぅ
81~99 美味しかったけど、やっぱり……
00 ん?あのハゲは
344: 2022/02/20(日) 20:03:23.60 ID:0HPPe4FS0
ほい
346: 2022/02/20(日) 20:12:39.21 ID:znS1evlKO
そう思っていると、ポンポンとタヌキのようにお腹を膨らませたドトウが上機嫌な様子でやってきた。
「あ、ドトウちゃん!大丈夫だった?」
「とても美味しかったですぅ。きしめんみたいな麺にゴロゴロとしたお肉……ああいうラーメンもあるのですねぇ」
どうやらちゃんと食べきったらしい。やはり、ウマ娘の胃袋は常人とは異なるのだろうか。
「ま、まあ満足なら何よ……ちょっと待った、その腹で車に乗れるのか?」
「は、はうう……食べすぎてしまいましたぁ……」
まあ、ギリギリなんとか詰め込めば乗れるか。送ると言った手前、仕方あるまい。
結局帰りの車がニンニク臭くなり、カレンはその後数日口を聞いてくれなくなってしまった。
どうにも一番のドジは私であったらしい。
第7話 完
※テーマが二郎系か○○系の場合、ドトウが登場するようになりました
347: 2022/02/20(日) 20:14:09.86 ID:znS1evlKO
以上です。桜台二郎はかなり量があった記憶がありますが、今でもそうなのでしょうか。
とりあえず記憶準拠で書いています。
次回登場のウマ娘を決定します。
安価下1~5で、コンマが最も大きいものとします。
とりあえず記憶準拠で書いています。
次回登場のウマ娘を決定します。
安価下1~5で、コンマが最も大きいものとします。
354: 2022/02/20(日) 20:18:21.80 ID:znS1evlKO
アグネスデジタルとします。
続いてテーマを決めます。安価下1~5で最もコンマが大きいものとします。
続いてテーマを決めます。安価下1~5で最もコンマが大きいものとします。
360: 2022/02/20(日) 20:38:19.95 ID:znS1evlKO
煮干し系で決定しました。幾つか候補があるので悩ましいですね……
更新は来週末です。
更新は来週末です。
372: 2022/02/23(水) 21:23:35.10 ID:tRnoMhkXO
2月末のトレセン学園は、どこか緊張から解き放たれた空気で包まれる。
卒業・進級試験の結果が判明するだけではない。入試の結果発表が行われた直後だからだ。
学園の入試倍率は高い。今年は確か、20倍はあっただろうか。出るのも困難だが、入るのも難しい。宝塚音楽学校並みの超難関と言える。
無論最優先されるのは実技だ。学力試験もあるが、実技が抜きん出ていれば全く問題にはならない。
「バックシン、バックシン……」
向こうでダンベルを持ちながらスクワットを行っている彼女……サクラバクシンオーもそのタイプだ。
学力試験は確か最下位。だが、それを補って余りに余りあるスプリント力で、彼女はここに入学した。
以来、1400mまでのレースで彼女に勝った者はいない。カレンも半バ身まで詰め寄るのが精一杯だった。
「少しオーバーワーク気味だな。高松宮が近いから、気合が入っているのは分かるが」
「ハイッ!!もちろん今年も勝ってみせますとも!何より今年は、親戚が入学するのですから!学級委員長として、そしてお姉ちゃんとして手本を見せねば!!」
「親戚?」
確か、バクシンオーの本籍の名字と同じ合格者はいなかったはずだ。私は首を捻る。
バクシンオーがスクワットをやめ、タオルで汗を拭いた。
「ハイッ!キタサンブラックといいます!!」
「ああ、あの子か」
中距離から長距離にかけての試験で軒並みトップレベルの成績を叩き出した注目株だ。
父親は演歌の超大御所。話題性だけでなく、実力も兼ね備えているスター候補生といえる。
彼女に限らず、今年は話題になりそうな新入生が多い。
里見財閥の御令嬢、サトノダイヤモンド。その親戚で香港のジュニアレースで名を馳せたサトノクラウン。
そして、元メジャーリーガーの父を持つシュヴァルグラン……今年も、いや例年以上に期待できる学年になりそうだ。
「にしても、気が早くないか?……ああ、新入生オリエンテーションでの模擬レースに向けて、か」
「ハイッ!キタちゃんには、是非このチーム『ゼニス』に入ってもらいたいですからっ!」
「うちはマイルまで専用のチームなんだが……」
その時、ドタバタと誰かが駆けてくる音がした。
※コンマ下
01~80 アグネスデジタル
81~95 アグネスタキオン
96~00 たづなさん
374: 2022/02/23(水) 22:25:33.86 ID:tRnoMhkXO
バン、とドアが開かれた。アグネスタキオンだ。
「天王寺トレーナー君!大ニュースだ、来年度から叔父さんがトレセン学園に戻るらしい!!」
「……本当か!?」
タキオンにしては珍しく、緊張した様子で頷く。
「中国での実績が評価されて、特例で追放処分が解かれるそうだ。過去のウマ娘に対するドーピング疑惑も、解けたらしい」
筋肉を流れる血が加速し、身体が紅潮するのが分かった。思わず顔が綻ぶ。
「本当かっ!!」
「叔父さんから連絡があったから間違いないよ。……ただ、気になることを」
「気になること?」
コクン、とタキオンが頷く。
「『俺をハメた連中には、報いを受けさせないとな』、だそうだ」
タキオンの顔が強張っていた理由が分かった。芹沢さんは、善人ではない。目的のためには手段を選ばないこともある。
私は昔のドーピング疑惑の真相は知らない。そしてそれが急に解かれたのも、かなりキナ臭い。……胸騒ぎがする。
「……そうか」
「何か企んでいるかもしれない。もちろんトレーナーとしては一流だが……気を付けた方がいいかもね」
「了解した」
その時、また向こうからドタバタとやってくる小柄な人影が見えた。……あれは。
「タキオンさんタキオンさん聞きました!!?今年の新入生、超推せるのばっかなんですけど!?入学前から尊氏しそう……しゅきぃ……」
「デジタル君、そこで倒れそうにならないでくれたまえよ。入試結果発表後で、興奮するのは分かるが」
「今年の1年はどんなカップリングでしゅかねえ!?ウオダスを超える組み合せがあるかもしれないですねえ!?やっぱここはキタサト……っと、天王寺トレーナーじゃありませんか!こんにちは、今日はカレンちゃんは?」
「脚の定期検査だ。一応あんなことがあっただけに、念には念を入れてな」
アグネスデジタルが分かりやすく肩を落とした。
「そうですか……バクカレ、ありだと思うんですけどねえ……」
「バクカレとはなんですかっ!?」
バクシンオーがいつもの調子でやってきた。デジタルは「はわわっ」とタキオンの後ろに隠れる。
「そんな、現役最強スプリンターの御前で私などミジンコのようなもの……無礼な物言いをしてしゅみません、消えて詫びます……」
「どうして君はそう卑屈なんだか……君自身も優秀なオールラウンダーじゃないか」
ブンブンとデジタルが首を振る。
「私はそっと影から推しのあれやこれやを見るだけで十分なんですよお……ああ、後光で目が潰れてしまう……」
「何を言ってるのかよく分からないが。実際に話した方が、より距離が詰まるんじゃないか?
カレンと君は、確かクラスメートだろう。友達になりたいなら、場をセッティングするが」
「ひゃあっ!!?」
私の言葉に、デジタルが飛び退いた。
「そ、そんな恐れ多い……!!」
「いい機会じゃないか、行きたまえよ。そうだ、チートデイが今週末だったね。この前は私とアルダンさんがご相伴に預かったが、今度は君がどうだい」
「ひゃっ!?わ、私がですか!?」
私は微笑みながら首を縦に振る。
「私は構わないよ。ラーメンを食べるつもりだが、何かリクエストはあるかな?」
デジタルが少し考える素振りをした。
「……煮干し。そう!!煮干しです!!アイドルユニット『UMA48』の『ソダにゃん』が、煮干しラーメンが大好物と聞きまして!私もどんなものか食べたいんです!!」
「煮干し、か」
375: 2022/02/23(水) 22:34:14.69 ID:tRnoMhkXO
煮干しラーメンといっても色々ある。元祖は津軽ラーメンとされているが、それも透明度の高い清湯系とたかはし中華そば店のような濃厚系に分かれる。
そこから派生したものや、たけちゃんにぼしらーめんのようなタイプ、そしてフレンチの技法を導入した最先端のものと多種多様だ。
何より、煮干しラーメンは割と好き嫌いが分かれる。煮干し特有の苦味やエグみ、そしてしょっぱさが出ることが多いからだ。
それを中和するために、大体は玉ねぎのみじん切りが具に入る。それでも、癖のある店は多い。
「……万人向けのがいいか?」
デジタルの答えは意外なものだった。
「いえっ!ザ・煮干しラーメンみたいなのはいいです!!『ソダにゃん』も『ニボニボしたのがたまらないよお』って言ってましたし!」
「……そうか」
そうなれば、煮干しの「極致」に連れて行くよりほかあるまい。
私はニヤッと笑った。
「了解だ。ならば日本で最も濃いラーメン屋に行くとしよう」
376: 2022/02/23(水) 22:34:57.94 ID:tRnoMhkXO
第8R 「中華ソバ 伊吹」
381: 2022/02/26(土) 19:39:13.61 ID:ZEh2cF8AO
*
「で、どこまで行くんですかー?」
興奮を隠しきれない様子でデジタルが言う。助手席のカレンは少し引き気味だ。
「デジタルちゃん、ちょっと落ち着いて」
「これがテンション上げずにいられますか!?
バクシンオーさんにカレンちゃん、スプリント界のツートップとご一緒できるだけでも尊氏できるのに、ひょっとしたら行く先に『ソダにゃん』がいたりするかも……はあ、ほんと無理……」
「いや、アイドルが一人でラーメン屋に並ばないと思うよ……ねえ、お兄ちゃん」
私は苦笑した。
「まあ、な。特に今日の目的地は、とても女性向けの店じゃないからな」
「そうなの?」
「まあ、行けば分かるが……辺鄙だし、雰囲気はまあまあ殺伐としている。しかも味は超ストロングスタイルだ。
女性が入りやすいラーメン屋はかなり増えてきたし、内装に凝る店も多いが、まあそういう流れには全く逆行する店だな」
「むう。カワイくないのはちょっとつまんないかも」
「その分味は間違いない。何せ普通の『特濃』を名乗る煮干しラーメンより、倍の量を使ってるからな」
後部座席のバクシンオーが「ハイッ!!」と手を挙げた。
「煮干しラーメンって何ですか!?」
「いやいやバクちゃん、それは煮干しを使ってるから煮干しラーメンって……」
「いや、重要な問いだぞ、カレン。そもそも、多くのラーメン店がスープに大なり小なり煮干しを使う。
そのスープの主成分が煮干しだから煮干しラーメンというわけだが、それも色々種類がある」
「そうなの?」
うんうんとデジタルが頷く。
「さすが天王寺トレーナーさん!『ソダにゃん』もそう言ってました」
「随分そのアイドルは詳しいんだな。しかしトレセン学園の生徒じゃないだろう」
「入学前って聞いてますよ。来年辺り入るとか入らないとか。ひょっとしたら海外に行くかもって聞いてますけど」
「私よりよく知ってるな……」
「そりゃあウマ娘ちゃんの情報なら、本格デビュー前から情報収集は怠りませんとも!」
デビュー前からアイドル活動、ということはジュニアアイドルか。芸能界にはどうにも疎くていけない。
※コンマ下85以上で……
「で、どこまで行くんですかー?」
興奮を隠しきれない様子でデジタルが言う。助手席のカレンは少し引き気味だ。
「デジタルちゃん、ちょっと落ち着いて」
「これがテンション上げずにいられますか!?
バクシンオーさんにカレンちゃん、スプリント界のツートップとご一緒できるだけでも尊氏できるのに、ひょっとしたら行く先に『ソダにゃん』がいたりするかも……はあ、ほんと無理……」
「いや、アイドルが一人でラーメン屋に並ばないと思うよ……ねえ、お兄ちゃん」
私は苦笑した。
「まあ、な。特に今日の目的地は、とても女性向けの店じゃないからな」
「そうなの?」
「まあ、行けば分かるが……辺鄙だし、雰囲気はまあまあ殺伐としている。しかも味は超ストロングスタイルだ。
女性が入りやすいラーメン屋はかなり増えてきたし、内装に凝る店も多いが、まあそういう流れには全く逆行する店だな」
「むう。カワイくないのはちょっとつまんないかも」
「その分味は間違いない。何せ普通の『特濃』を名乗る煮干しラーメンより、倍の量を使ってるからな」
後部座席のバクシンオーが「ハイッ!!」と手を挙げた。
「煮干しラーメンって何ですか!?」
「いやいやバクちゃん、それは煮干しを使ってるから煮干しラーメンって……」
「いや、重要な問いだぞ、カレン。そもそも、多くのラーメン店がスープに大なり小なり煮干しを使う。
そのスープの主成分が煮干しだから煮干しラーメンというわけだが、それも色々種類がある」
「そうなの?」
うんうんとデジタルが頷く。
「さすが天王寺トレーナーさん!『ソダにゃん』もそう言ってました」
「随分そのアイドルは詳しいんだな。しかしトレセン学園の生徒じゃないだろう」
「入学前って聞いてますよ。来年辺り入るとか入らないとか。ひょっとしたら海外に行くかもって聞いてますけど」
「私よりよく知ってるな……」
「そりゃあウマ娘ちゃんの情報なら、本格デビュー前から情報収集は怠りませんとも!」
デビュー前からアイドル活動、ということはジュニアアイドルか。芸能界にはどうにも疎くていけない。
※コンマ下85以上で……
382: 2022/02/26(土) 19:39:34.12 ID:HViMzAV9o
むん!
383: 2022/02/26(土) 20:00:27.32 ID:vvyyVwDcO
※特になし
「で、どういう種類があるの?煮干しラーメンって、もう一大ジャンルになってるけど」
カレンが訊いてきた。私はハンドルを板橋方面に切る。
「よく言われるのは青森ラーメン起源説だな。津軽海峡の漁師を相手にした食堂が、普段からたくさん取れる煮干しをスープに使ったのが始まりとされる。
透き通ったスープに濃くてしょっぱめの煮干しスープが定番だ。新宿の『凪』は、確かこの系統だな。
ただ、濃厚煮干しラーメンがここまでブレイクしたのは、別の理由があるんじゃないかと私は考えている」
「そうなの?」
「『伊藤』という店が濃厚煮干しに細くパツパツとした麺を合わせて流行したのが大きい。ここは元々秋田の角館にあるんだが、その店主の弟が東京でやってる。
煮干しの苦味やエグみも旨味として取り込んだスープが話題になってな。今は銀座や赤羽にも支店がある。このフォロワーが、煮干しラーメンを広めたってわけだ」
「じゃあ、今日はその『伊藤』に?」
「その近所だが違う。『伊藤』の方向性をさらに尖らせ、極めた店だ」
板橋本町インターが見えてきた。目的地まで、もうそう遠くもない。
※目的地には……
01~75 誰もいない
75~95 誰かいる(再判定)
96~00 あ!ソダにゃんだ!(再判定)
「で、どういう種類があるの?煮干しラーメンって、もう一大ジャンルになってるけど」
カレンが訊いてきた。私はハンドルを板橋方面に切る。
「よく言われるのは青森ラーメン起源説だな。津軽海峡の漁師を相手にした食堂が、普段からたくさん取れる煮干しをスープに使ったのが始まりとされる。
透き通ったスープに濃くてしょっぱめの煮干しスープが定番だ。新宿の『凪』は、確かこの系統だな。
ただ、濃厚煮干しラーメンがここまでブレイクしたのは、別の理由があるんじゃないかと私は考えている」
「そうなの?」
「『伊藤』という店が濃厚煮干しに細くパツパツとした麺を合わせて流行したのが大きい。ここは元々秋田の角館にあるんだが、その店主の弟が東京でやってる。
煮干しの苦味やエグみも旨味として取り込んだスープが話題になってな。今は銀座や赤羽にも支店がある。このフォロワーが、煮干しラーメンを広めたってわけだ」
「じゃあ、今日はその『伊藤』に?」
「その近所だが違う。『伊藤』の方向性をさらに尖らせ、極めた店だ」
板橋本町インターが見えてきた。目的地まで、もうそう遠くもない。
※目的地には……
01~75 誰もいない
75~95 誰かいる(再判定)
96~00 あ!ソダにゃんだ!(再判定)
384: 2022/02/26(土) 20:07:56.68 ID:O0r5MW53O
バクシン!
385: 2022/02/26(土) 20:16:32.63 ID:p9rWvgZuO
※通常進行
大きな公園近くの駐車場にアウディを停め、店に向かうと開店前というのに既に行列ができ始めていた。
「こんな所にラーメン屋があるんですねえ」
「『場所代をいかに抑えるかが美味いラーメンを作る秘訣だ』と、ある超有名店の店主が言ってたな。辺鄙な場所にある店は、大体美味い」
店の前には幾つも注意書きが書かれている。少し異様な雰囲気ではある。
「『本当に煮干しが好きな人向けの店です』……と。そんなに濃いの?」
「さっきも言ったが、『特濃』をうたう店の倍煮干しを使ってる。1杯辺り何グラムだと思う?」
カレンは少し考えて言う。
※何グラムでしょう?当たった場合、実食後に……
安価下のみ、制限時間10分です。
大きな公園近くの駐車場にアウディを停め、店に向かうと開店前というのに既に行列ができ始めていた。
「こんな所にラーメン屋があるんですねえ」
「『場所代をいかに抑えるかが美味いラーメンを作る秘訣だ』と、ある超有名店の店主が言ってたな。辺鄙な場所にある店は、大体美味い」
店の前には幾つも注意書きが書かれている。少し異様な雰囲気ではある。
「『本当に煮干しが好きな人向けの店です』……と。そんなに濃いの?」
「さっきも言ったが、『特濃』をうたう店の倍煮干しを使ってる。1杯辺り何グラムだと思う?」
カレンは少し考えて言う。
※何グラムでしょう?当たった場合、実食後に……
安価下のみ、制限時間10分です。
386: 2022/02/26(土) 20:24:07.00 ID:HViMzAV9o
100g
388: 2022/02/26(土) 20:50:11.81 ID:p9rWvgZuO
※不正解、今回の○○の登場はなし
「100グラム、かなあ」
「残念、不正解だ」
「えー、確か『凪』で50グラムでしょ?その倍だからそのぐらいって思ったのに」
「まあ『凪』も濃い方だがな。ただ、ここ『中華ソバ伊吹』は別格だ。
最近量を増やして160グラムにしたらしい。スープの半分が煮干し、と聞いたらいかに狂ってるか分かるだろう?」
「……160グラム??そんなに使ったら、味も何も……」
私はニイと笑う。
「それが違う。まず、煮干しは全国から厳選された各種煮干しをブレンドして使っている。
しかも仕入れによって配合も変えてるらしいな。今日は……九十九里の背黒と長崎のアゴ煮干し、それと背黒二種とあるな」
後ろからデジタルがスマホを覗き込んできた。
「ひょえー、その日の配合をウマッターにアップしてるんですねえ……淡麗と濃厚って?」
「淡麗は水から炊いたスープ、濃厚はそこに動物系スープを合わせたものだな。まあ、どちらも超が付くほど濃いぞ……っと、食券を買わないとな」
店員の呼び出しに応じて、店内に入る。店内には全国各地の煮干しが入った段ボールがそこかしこに積まれていた。
「にょわっ!!?この濃厚な匂いっ!!まさに煮干しっ!!」
「お客さん、お静かに」
目付きの鋭い、大柄な店主がバクシンオーを睨む。その威圧感に、バクシンオーは思わずたじろいだ。
「は、はいぃ……」
再び列に戻る。
「……なるほど、女の子向けの店じゃないね、お兄ちゃん」
「まあ殺伐としてるからな。ここに女の子一人で来るのは考えにくいな。
ただ、味は本当に全国のラーメンの中でも上位ベスト10には入る。そこは保証する」
「うう、『ソダにゃん』には会えそうもないですねぇ……」
デジタルが肩を落とした。店員がもう一度私たちを呼ぶ。順番であるらしい。
「100グラム、かなあ」
「残念、不正解だ」
「えー、確か『凪』で50グラムでしょ?その倍だからそのぐらいって思ったのに」
「まあ『凪』も濃い方だがな。ただ、ここ『中華ソバ伊吹』は別格だ。
最近量を増やして160グラムにしたらしい。スープの半分が煮干し、と聞いたらいかに狂ってるか分かるだろう?」
「……160グラム??そんなに使ったら、味も何も……」
私はニイと笑う。
「それが違う。まず、煮干しは全国から厳選された各種煮干しをブレンドして使っている。
しかも仕入れによって配合も変えてるらしいな。今日は……九十九里の背黒と長崎のアゴ煮干し、それと背黒二種とあるな」
後ろからデジタルがスマホを覗き込んできた。
「ひょえー、その日の配合をウマッターにアップしてるんですねえ……淡麗と濃厚って?」
「淡麗は水から炊いたスープ、濃厚はそこに動物系スープを合わせたものだな。まあ、どちらも超が付くほど濃いぞ……っと、食券を買わないとな」
店員の呼び出しに応じて、店内に入る。店内には全国各地の煮干しが入った段ボールがそこかしこに積まれていた。
「にょわっ!!?この濃厚な匂いっ!!まさに煮干しっ!!」
「お客さん、お静かに」
目付きの鋭い、大柄な店主がバクシンオーを睨む。その威圧感に、バクシンオーは思わずたじろいだ。
「は、はいぃ……」
再び列に戻る。
「……なるほど、女の子向けの店じゃないね、お兄ちゃん」
「まあ殺伐としてるからな。ここに女の子一人で来るのは考えにくいな。
ただ、味は本当に全国のラーメンの中でも上位ベスト10には入る。そこは保証する」
「うう、『ソダにゃん』には会えそうもないですねぇ……」
デジタルが肩を落とした。店員がもう一度私たちを呼ぶ。順番であるらしい。
389: 2022/02/26(土) 21:27:53.02 ID:p9rWvgZuO
濃厚と和え玉4枚を店員に渡す。いつもはハイテンションなバクシンオーだが、さっき注意されたからか珍しく大人しい。
「ウマスタにアップするのは?」
「着丼直後の撮影はいいそうだ」
「よかったー。にしても……すごいね」
カレンがちらりと隣の客の丼を見る。スープはどこまでも濃く、セメントのような粘度だ。
「食うとさらに驚くぞ。……と着丼だ」
丼の半分ぐらいが分厚いチャーシューで覆われている。そこに海苔と刻みタマネギ。煮干しのエグみを中和するのに、タマネギは欠かせない。
まずはレンゲでスープをすくう。ドロっとしていて、見るからに濃い。口に含むと……
パシーンッ!!
ワイシャツのボタンが弾け飛んだ。バクシンオーは「バック……」と叫びかけたが、自分で口を塞いでいる。
強烈、かつ鮮烈な煮干しの香りと旨味が口いっぱいに広がる。
しかし、一切の苦味やエグみはない。煮干し特有のしょっぱさは感じるが、それは煮干しの風味を損なわない、極めて微妙なバランスで留められている。
「「美味しい……!!」」
カレンとデジタルが同時に呟いた。この強烈な味は、理屈抜きで人にそう言わせるだけのものを持っている。
箸で麺をリフトアップする。細ストレート麺で、かなり硬めの茹で上がりだ。そこには特濃のスープが、ガッツリと絡んでいる。
啜ると、パキパキとした食感と共に煮干しがこれでもかと舌を刺激する。まるでスープを食べているかのようだ。
そのパワーに、箸が止まらなくなる。スープは飲んでもいないのにみるみる減り、あっという間に半分ほどになっていた。
ふと見ると、バクシンオーはほぼ食べ終えようとしている。……これは少しまずい。
「バクシンオー、スープがなくなる前に和え玉を」
「にょわっ!?でも、どう食べればいいのですか?」
「『高野』のように別に食べてもいいが、ここはつけ麺みたいに食べた方がいいな」
私もそろそろ頃合いだ。店員に和え玉を作ってもらうよう頼む。
390: 2022/02/26(土) 21:48:53.73 ID:p9rWvgZuO
「お待たせしました」
麺の上に何かの粉末がかけられたものが出された。鶏肉のそぼろのようなものか。
これをスープにつけて啜ると、動物系の旨味が足され、味にさらに深みが増した。
「バクシンバクシン……!!」
小声で言いながら、物凄い勢いでバクシンオーが和え玉を食べている。箸が進むのも無理はない。
これまで放置していたチャーシューも口にする。まるで二郎系のような、存在感十分の豚だ。
噛み切ると柔らかく、味もしっかり染みている。これもまた上質だ。
「ううっ……」
見るとデジタルが泣いている。
「デジタルちゃん、どうしたの?」
「『ソダにゃん』にもこの味を食べてほしかった……こんな美味しい煮干しラーメンを知らないなら、それは悲しすぎましゅ……」
「彼女が入学したら、先輩として連れて行ってやればいいじゃないか」
「……!!それもそうですね!!ああ、その時を考えたら……!!推しとラーメン、いい……」
店主が溜め息をついているのが見えた。これはそろそろ撤収時だな。
「申し訳ない、ご馳走様」
「天王寺さん」
去ろうとした私を、店主が呼び止めた。
「……何か?」
「芹沢サン、戻ってくるんだって?」
「……!!なぜそれを」
「業界じゃ有名な話さ。トレーナーのあなたなら、詳しい話を知ってるんじゃないかってね」
「うちに復帰すると聞いてますが」
「……そうか」
安堵とも落胆とも取れる溜め息を、彼はついた。そうか、ラーメン界に復帰するとなれば、それは激震に他ならない。
「らあめん清流房」。かつて日本の頂点に君臨したラーメン店。
彼の復帰は、その復活を意味するからだ。
391: 2022/02/26(土) 21:56:52.75 ID:p9rWvgZuO
*
「あー美味しかった!!雰囲気は殺伐としてましたが、本当に美味しかったですねえ!!」
「ハイッ!花マル、いえ花マル三重丸の美味しさだったでしょう!!」
「次来る時は声は抑えめにね……お兄ちゃん?」
はしゃぐ3人をよそに、私は物思いにふけっていた。
そうか、ラーメン界にも芹沢さんの復帰は伝わっていたのか。
彼は日本追放と共に、「らあめん清流房」も閉めた。
毒舌で知られる彼の店の閉店を一部の同業者は喜んだが、大半はそれを心より惜しんだ。私もその一人だ。
もし、彼が再び二足のわらじを履くなら、清流房も復活するかもしれない。
その時に、芹沢さんは何を作るのだろうか。
それは喜ばしい話のはずだ。しかし、妙に心がざわつく。
タキオンが言っていた「報い」とは、まさかラーメン界にも向けられているのではないか?
私は首を振る。考えすぎだ。
*
そのことが分かるまでに、そう時間はかからなかった。
第8話 完
「あー美味しかった!!雰囲気は殺伐としてましたが、本当に美味しかったですねえ!!」
「ハイッ!花マル、いえ花マル三重丸の美味しさだったでしょう!!」
「次来る時は声は抑えめにね……お兄ちゃん?」
はしゃぐ3人をよそに、私は物思いにふけっていた。
そうか、ラーメン界にも芹沢さんの復帰は伝わっていたのか。
彼は日本追放と共に、「らあめん清流房」も閉めた。
毒舌で知られる彼の店の閉店を一部の同業者は喜んだが、大半はそれを心より惜しんだ。私もその一人だ。
もし、彼が再び二足のわらじを履くなら、清流房も復活するかもしれない。
その時に、芹沢さんは何を作るのだろうか。
それは喜ばしい話のはずだ。しかし、妙に心がざわつく。
タキオンが言っていた「報い」とは、まさかラーメン界にも向けられているのではないか?
私は首を振る。考えすぎだ。
*
そのことが分かるまでに、そう時間はかからなかった。
第8話 完
392: 2022/02/26(土) 21:59:33.08 ID:p9rWvgZuO
今回はここまで。そろそろ芹沢サンも出したいところではあります。
次回登場のウマ娘を決めます。
安価下1~5で、コンマが最も大きいものとします。
次回登場のウマ娘を決めます。
安価下1~5で、コンマが最も大きいものとします。
398: 2022/02/26(土) 22:12:06.89 ID:p9rWvgZuO
キタサンブラックに決定します。
設定上バクシンオーをお姉ちゃん呼びしますがご承知下さい。
テーマを決めます。安価下1~5でコンマが最も大きいものとします。
設定上バクシンオーをお姉ちゃん呼びしますがご承知下さい。
テーマを決めます。安価下1~5でコンマが最も大きいものとします。
404: 2022/02/26(土) 22:24:14.49 ID:p9rWvgZuO
富山ブラックとします。ただ、東京にマトモな富山ブラックの店があるか次第ですね……
場合によってはずるい手段を使うかもしれません。富山ブラックでありながら富山ブラックでない、ある店を紹介する可能性があります。
場合によってはずるい手段を使うかもしれません。富山ブラックでありながら富山ブラックでない、ある店を紹介する可能性があります。
419: 2022/03/13(日) 15:02:51.99 ID:/UN7t0AIO
「バクシンバクシンバックシーン!!!」
怒涛の勢いでバクシンオーがゴール板を駆け抜ける。2着のヒシアケボノとは3バ身もの差がついていた。
おお~と、それを見ていた新入生から声が上がる。「ハッハッハ!!」とバクシンオーは胸を張ってそれに応えていた。
「バクちゃんすごいなあ。私も走りたかった~」
カレンが口を尖らせた。私は軽く彼女の頭を撫でる。
「模擬レースは高等部の担当だからな。バクシンオーと一度本気でやり合いたいか?」
「うん!でも、カレンは高松宮記念も出れないんでしょ」
「香港スプリントのダメージがまだ抜けきってないからな。スプリンターズまで待つしかない」
「むむー。京王杯まで我慢、か~」
トテトテと、誰かが近付く気配がした。黒い癖っ毛気味の小柄な少女だ。
「あ、あの……天王寺トレーナーさん、ですか?」
「ん、そうだが」
「はじめまして!あたし、キタサンブラックといいま「おお!キタちゃんじゃないですか!!」」
向こうから凄い勢いでバクシンオーがやってきた。キタサンブラックと名乗った少女の顔が明るくなる。
「あ、バクシンお姉ちゃん!!」
「おおっ!!あなたも私たちとバクシンするつもりなのですね!!いいでしょう、いいでしょうとも!!
短距離だろうが長距離だろうが、道はただ一つ!!ひたすらに鍛えてバクシンするのみですっ!!」
「あ、あのお……」
キタサンブラックはさすがに軽く引いている。私は咳払いをして割って入った。
「嬉しいのは分かるが、程々にな。ああ、キタサンブラックだったね。話は聞いている。私が彼女の担当トレーナー、天王寺だ」
「はい、よろしくお願いします!!お話はお姉ちゃんからかねがね聞いてます」
「話?」
「はいっ!とても優秀なトレーナーさんで、いつも美味しいラーメンを食べさせてくれるって」
※ゾロ目で……
420: 2022/03/13(日) 15:13:49.76 ID:znTVegcuo
こいぞろー
421: 2022/03/13(日) 15:36:02.17 ID:/UN7t0AIO
※特になし
「ははは……君にまでラーメンの話が行っていたか」
思わず頭を掻く。すっかり「ラーメンのトレーナー」になっている気がする。
「あ、もちろんそれだけじゃないですよ?トレーニングとか、すごくちゃんと鍛えられるんだって。
見た目はちょっと怖いけど、頼れる人だって聞いてます」
「むむむ」とカレンがキタサンを覗き込んできた。
「あの、この方は……」
すぐに表情をいつもの営業用スマイルに変えて、カレンが答える。
「カレンチャンです♪ヨロシクね♪」
「あ、この方がカレンチャンですね!いつもウマスタ見てます!!」
「見ててくれるの!?うれしいな~」
といいつつも、目はそう笑ってもいない。意外とブラコンの彼女は、基本私に近付く異性を警戒する。
バクシンオーはあの性格だから、恋愛関係にはならないだろうと彼女も安心しているが。母を早くに亡くしたせいか、独占欲は強めなのだ。
「……まあ、とにかく4月からよろしく頼む。うちのチームは短距離からマイルに特化しているから、君に合うかは怪しいが」
「そうなんですか?」
「私のトレーニングは速筋を中心に鍛えるものだ。何分、ボディービルダーとしての顔もあるものでね。
だから、長距離が得意な君に合うかは自信がない。それでも、というなら歓迎するが」
※キタサンの反応
01~40 そうなんですか……
41~70 でもお姉ちゃんと一緒がいいです!
71~90 もう行くところは決めているんです(再判定)
91~98 もう行くところは決めているんです
99、00 ???
「ははは……君にまでラーメンの話が行っていたか」
思わず頭を掻く。すっかり「ラーメンのトレーナー」になっている気がする。
「あ、もちろんそれだけじゃないですよ?トレーニングとか、すごくちゃんと鍛えられるんだって。
見た目はちょっと怖いけど、頼れる人だって聞いてます」
「むむむ」とカレンがキタサンを覗き込んできた。
「あの、この方は……」
すぐに表情をいつもの営業用スマイルに変えて、カレンが答える。
「カレンチャンです♪ヨロシクね♪」
「あ、この方がカレンチャンですね!いつもウマスタ見てます!!」
「見ててくれるの!?うれしいな~」
といいつつも、目はそう笑ってもいない。意外とブラコンの彼女は、基本私に近付く異性を警戒する。
バクシンオーはあの性格だから、恋愛関係にはならないだろうと彼女も安心しているが。母を早くに亡くしたせいか、独占欲は強めなのだ。
「……まあ、とにかく4月からよろしく頼む。うちのチームは短距離からマイルに特化しているから、君に合うかは怪しいが」
「そうなんですか?」
「私のトレーニングは速筋を中心に鍛えるものだ。何分、ボディービルダーとしての顔もあるものでね。
だから、長距離が得意な君に合うかは自信がない。それでも、というなら歓迎するが」
※キタサンの反応
01~40 そうなんですか……
41~70 でもお姉ちゃんと一緒がいいです!
71~90 もう行くところは決めているんです(再判定)
91~98 もう行くところは決めているんです
99、00 ???
422: 2022/03/13(日) 15:39:13.40 ID:ReZYTM+10
あ
423: 2022/03/13(日) 16:08:22.62 ID:/UN7t0AIO
キタサンブラックは肩を落とす。
「そうなんですか……」
「遅筋を鍛えるメニューを組んでやれなくはないが……申し訳ない。ステイヤー寄りなら、塩田……いや、三田村トレーナー辺りかな。よかったら紹介しよう」
塩田トレーナーの名前を出しかけてやめたのは、あのチームがあまりに個性派揃いだったからだ。
パーマーはともかく、ゴルシや海外留学中の「あの2人」は教育上あまりよろしくない。
「三田村トレーナーさんですね!分かりました!」
「キタちゃん、そろそろ行くよー」
栗色の髪の少女がキタサンブラックを呼んでいる。「ダイヤちゃんが呼んでるので、失礼しますね!」と彼女は去っていった。
「お兄ちゃん、よかったの?」
「適性が合ってないチームに入れさせるのも酷だろう。基本は個人の意志だ。お前こそ、随分と警戒してたが?」
「むう、まあそうだけどー」
「流石にそういう趣味は私にはないぞ」
「そういうのじゃなくて。お兄ちゃんが可愛がっていいのは、私だけだもん」
「私も結婚適齢期を過ぎかかってるのだがな……」
まあ、そもそもこの図体と風貌では、相手もいないか。苦笑しつつ、一度部屋に戻ることにした。
*
「キタちゃんの歓迎会をやりましょう!」
トレーニングが終わると、おもむろにバクシンオーが手を挙げてきた。
「歓迎会?」
「そうです!チームに入れずとも、トレセン学園でともに過ごす仲間!ならば学級委員長として、導いてあげるべきでしょう!」
「まあ、構わないが。今週末なら、いつも通りチートデイをやるから、その辺りだな。彼女の好物は聞いているか?」
「ハイッ!!『富山ブラック』というそうです!!」
「『富山ブラック』?」
レッグプレスを終えたカレンが、汗を拭きながら訊いてきた。
「富山のご当地ラーメンだ。醤油が利いていてしょっぱく、ご飯のおかずにもなるようなものだが……」
「何かあまり冴えない表情だね」
私は頷いた。
「はっきり言えば、東京、いや首都圏にマトモな富山ブラックの店は、ないのだ」
「そうなんですか……」
「遅筋を鍛えるメニューを組んでやれなくはないが……申し訳ない。ステイヤー寄りなら、塩田……いや、三田村トレーナー辺りかな。よかったら紹介しよう」
塩田トレーナーの名前を出しかけてやめたのは、あのチームがあまりに個性派揃いだったからだ。
パーマーはともかく、ゴルシや海外留学中の「あの2人」は教育上あまりよろしくない。
「三田村トレーナーさんですね!分かりました!」
「キタちゃん、そろそろ行くよー」
栗色の髪の少女がキタサンブラックを呼んでいる。「ダイヤちゃんが呼んでるので、失礼しますね!」と彼女は去っていった。
「お兄ちゃん、よかったの?」
「適性が合ってないチームに入れさせるのも酷だろう。基本は個人の意志だ。お前こそ、随分と警戒してたが?」
「むう、まあそうだけどー」
「流石にそういう趣味は私にはないぞ」
「そういうのじゃなくて。お兄ちゃんが可愛がっていいのは、私だけだもん」
「私も結婚適齢期を過ぎかかってるのだがな……」
まあ、そもそもこの図体と風貌では、相手もいないか。苦笑しつつ、一度部屋に戻ることにした。
*
「キタちゃんの歓迎会をやりましょう!」
トレーニングが終わると、おもむろにバクシンオーが手を挙げてきた。
「歓迎会?」
「そうです!チームに入れずとも、トレセン学園でともに過ごす仲間!ならば学級委員長として、導いてあげるべきでしょう!」
「まあ、構わないが。今週末なら、いつも通りチートデイをやるから、その辺りだな。彼女の好物は聞いているか?」
「ハイッ!!『富山ブラック』というそうです!!」
「『富山ブラック』?」
レッグプレスを終えたカレンが、汗を拭きながら訊いてきた。
「富山のご当地ラーメンだ。醤油が利いていてしょっぱく、ご飯のおかずにもなるようなものだが……」
「何かあまり冴えない表情だね」
私は頷いた。
「はっきり言えば、東京、いや首都圏にマトモな富山ブラックの店は、ないのだ」
424: 2022/03/13(日) 16:29:01.89 ID:/UN7t0AIO
「そうなの?」
「あるにはある。が、基本的にはチェーンだ。あと、富山ブラックは好き嫌いがかなりハッキリ分かれるからな……。本物の富山ブラックを食べたいなら、本場に行くしかない」
私は腕を組んだ。そう、それしか手がない。
ただ、できるだけウマ娘の望むもので、かつ良いものを食べさせたいというのが、私のチートデイの心情だ。
すっぱりと諦めて、別のジャンルにするか……
……そういえば。
私はスマホを手に取った。
「どうしたんですか、トレーナーさん!?」
「いや、ひょっとしてと思ってな……あ、やはりそうだ」
レギュラーメニューではない。富山ブラックとも違う。見た目が近い、全く別のラーメンかもしれない。
さらに言えば、これは恐らく、いや間違いなく女性向きの店ではない。キタサンブラックが引く可能性はそれなりにある。
だが、「首都圏で富山ブラックらしいものをを食べる」なら、ここしかない。
「……決めたぞ。キタサンブラックに連絡を入れてくれ」
425: 2022/03/13(日) 16:29:47.77 ID:/UN7t0AIO
第9R 「豚星。」
428: 2022/03/13(日) 22:54:08.01 ID:esHeLOBhO
後編に入る前に判定です。
※待ちあわせに来たのは……
01~25 キタサンブラックだけ
25~65 キタサンブラックともう一人(ウマ娘)
66~98 キタサンブラックともう一人(人間)
99、00 キタサンブラックと……
※待ちあわせに来たのは……
01~25 キタサンブラックだけ
25~65 キタサンブラックともう一人(ウマ娘)
66~98 キタサンブラックともう一人(人間)
99、00 キタサンブラックと……
429: 2022/03/13(日) 22:56:18.95 ID:kumqyHKDO
ん
436: 2022/03/20(日) 16:20:05.83 ID:LvGjNSGZO
*
「おはようございます!」
手をブンブンと振ってキタサンブラックがやってきた。その横にいる、眼鏡の女性は……
「おはようございます……天王寺トレーナー」
「三田村トレーナー?貴女もですか」
遠慮がちに彼女が頷く。三田村嬢も来るとは、やや予想外だ。
「キタサンブラックさんは、私のチームに入ることになりまして。それで朝練体験をしていたところ、天王寺トレーナーに朝ご飯をごちそうしてもらう約束だと……」
エヘン、とキタサンブラックが胸を張った。
「はいっ!『お助けキタちゃん』ですから!」
「お助け……?」
「あ!いや、その、何でもないです。あはは……」
三田村嬢の様子といい、何か変だ。まあ、彼女の同行を断る理由はどこにもないが。
「バックシーン!!皆さん、おはようございます!!」
「おはよー♪あ、三田村トレーナーさんもですか?」
遅れて朝練のクールダウンを終えたバクシンオーとカレンもやってきた。
「ああ、キタサンブラックが呼んだそうだ」
>>2人の反応
01~20 ヨ・ロ・シ・ク!お願いしますね……
21~70 何もなし
71~95 あー……なるほどお
96~99 そうでしたか!
00 ???
「おはようございます!」
手をブンブンと振ってキタサンブラックがやってきた。その横にいる、眼鏡の女性は……
「おはようございます……天王寺トレーナー」
「三田村トレーナー?貴女もですか」
遠慮がちに彼女が頷く。三田村嬢も来るとは、やや予想外だ。
「キタサンブラックさんは、私のチームに入ることになりまして。それで朝練体験をしていたところ、天王寺トレーナーに朝ご飯をごちそうしてもらう約束だと……」
エヘン、とキタサンブラックが胸を張った。
「はいっ!『お助けキタちゃん』ですから!」
「お助け……?」
「あ!いや、その、何でもないです。あはは……」
三田村嬢の様子といい、何か変だ。まあ、彼女の同行を断る理由はどこにもないが。
「バックシーン!!皆さん、おはようございます!!」
「おはよー♪あ、三田村トレーナーさんもですか?」
遅れて朝練のクールダウンを終えたバクシンオーとカレンもやってきた。
「ああ、キタサンブラックが呼んだそうだ」
>>2人の反応
01~20 ヨ・ロ・シ・ク!お願いしますね……
21~70 何もなし
71~95 あー……なるほどお
96~99 そうでしたか!
00 ???
437: 2022/03/20(日) 16:25:28.44 ID:JVVHeIHd0
あ
438: 2022/03/20(日) 16:50:34.07 ID:LvGjNSGZO
※何もなし
「そうなのですね!分かりました!」
「よろしくお願いしますね♪あ、ライス先輩は一緒じゃないんですか?」
「……誘ったのだけど、レース前だからって断られてしまって」
ははは、とどこかぎこちない笑みを三田村嬢が浮かべる。何か隠している気がするが、気にするほどでもないか。
「そうですか。というかお兄ちゃん、なんで朝からなの?」
「理由は簡単だ。朝限定メニューだからだよ」
「朝限定?こんな早くからラーメン屋って開いてるの?」
「『朝ラー』というのがあってな。コロナで営業時間短縮を迫られた苦肉の策ではあるが、そこそこやる店は多いぞ。
ただ、今日行く所は朝にしてはややヘビーだが」
「ヘビー?」
「まあ行けば分かる」
*
行きの道中は妙な空気だった。後部座席の3人が和気藹々と盛り上がっている一方、助手席に座った三田村嬢はずっと無口でいたからだ。
何か言いたそうにはしているのだが、会話のきっかけが掴めない感じだ。私も女性慣れしているわけではないので、どうにも居心地が良くない。
かといって三田村嬢が嫌いとかそういうわけでもない。彼女は優秀なトレーナーであり、良い同僚だ。親睦を深めることの意義は小さくはない。
さて、どうしたものか……
……「彼」について話してみるか。事件があったのは、彼女が入る前だ。
何か知っているとは思えないが、彼女に芹沢さんのことを話しておくのは、後々の彼女のためにもなるだろう。
「……4月から来る、新しいトレーナーのことはご存知ですか」
01~70 お話だけは
71~85 ……!
86~00 実は、もうお会いしてます
「そうなのですね!分かりました!」
「よろしくお願いしますね♪あ、ライス先輩は一緒じゃないんですか?」
「……誘ったのだけど、レース前だからって断られてしまって」
ははは、とどこかぎこちない笑みを三田村嬢が浮かべる。何か隠している気がするが、気にするほどでもないか。
「そうですか。というかお兄ちゃん、なんで朝からなの?」
「理由は簡単だ。朝限定メニューだからだよ」
「朝限定?こんな早くからラーメン屋って開いてるの?」
「『朝ラー』というのがあってな。コロナで営業時間短縮を迫られた苦肉の策ではあるが、そこそこやる店は多いぞ。
ただ、今日行く所は朝にしてはややヘビーだが」
「ヘビー?」
「まあ行けば分かる」
*
行きの道中は妙な空気だった。後部座席の3人が和気藹々と盛り上がっている一方、助手席に座った三田村嬢はずっと無口でいたからだ。
何か言いたそうにはしているのだが、会話のきっかけが掴めない感じだ。私も女性慣れしているわけではないので、どうにも居心地が良くない。
かといって三田村嬢が嫌いとかそういうわけでもない。彼女は優秀なトレーナーであり、良い同僚だ。親睦を深めることの意義は小さくはない。
さて、どうしたものか……
……「彼」について話してみるか。事件があったのは、彼女が入る前だ。
何か知っているとは思えないが、彼女に芹沢さんのことを話しておくのは、後々の彼女のためにもなるだろう。
「……4月から来る、新しいトレーナーのことはご存知ですか」
01~70 お話だけは
71~85 ……!
86~00 実は、もうお会いしてます
439: 2022/03/20(日) 16:59:54.35 ID:FGmekT0DO
ほい
440: 2022/03/20(日) 17:15:29.45 ID:LvGjNSGZO
「お話だけは。昔トレセン学園にいた方で、中国からこちらに戻られると。ご存知なのですか」
「ええ。私が新人の時にお世話になった……恩人の一人ですよ。ウマ娘との付き合い方、トレーニングのやり方は、彼から教わった」
「ラーメン……チートデイのやり方も、ですか」
私は頷いた。
「彼はラーメン屋店主としての顔も持っていましたからね。日本屈指の職人でもあった。
私の知識など、芹沢さんに比べたら赤子のようなものです」
「そこまでなんですか。でも、どうして一度辞めてしまったんですか」
「……ウマ娘に対するドーピング疑惑、と言われています。ただ、実際の所は分からない。
そしてなぜ今戻ってくるのかも。そこは、正直私も気になってます」
「……確かに。着任は、そろそろでしたね」
「もう日本に来ているかもしれませんね。会うのが愉しみでもあり……怖くもある」
そう。芹沢さんの心の内は読めない。タキオンにも詳しいことはまず話さないだろう。
プライドが高いあの人のことだ。本心は極力悟られないようにするはずだ。
車は首都高の汐入インターを降りた。ここから20分ほどで、目的地に着くことになる。
※店には……
01~70 誰もいない
71~98 誰かいる
99、00 !!?
441: 2022/03/20(日) 17:31:40.04 ID:a3jsqwPGo
ほい
444: 2022/03/20(日) 21:00:11.04 ID:Rzszyc7VO
*
「ここ……ですか?」
戸惑い気味にキタサンブラックが言う。それもそのはずだ。
「お兄ちゃん、ここって『二郎インスパイア』じゃない?」
訝しげにカレンが言う。店内はもう満席で、何人かの学生らしき客が山のように積まれた野菜を崩しながら麺を啜っている。三田村嬢も目が点だ。
「『じろうインスパイア』?」
「ラーメンの一ジャンル、ですよ。ラーメン二郎という系列のラーメンを真似た……というよりインスパイアした店のことです。
山盛りの野菜に大量の麺、そしてこってりとした豚骨スープにニンニク、そして豚の塊がデフォルトですね。
ただ、量の多さと殺伐とした雰囲気から女性向きじゃない。私が少し躊躇したのも、そこにあります」
「え……朝から、この量ですか……」
「量を半分に減らせば、普通の量にはなりますよ。あと、富山ブラックに近いものを食べさせるとなると、クオリティーの面からここしかなかった」
「……分かりました。ものは試しです、やってみます」
食券機で「ブラックデビル」を5枚購入する。
基本大食のウマ娘たちはともかく、三田村嬢には麺半分を勧めたのだが、なぜか「そのままでいいです」と譲らなかった。……まあ、残したら私を含めて誰かが食べればいいだろう。
「お兄ちゃん、そもそもこの『ブラックデビル』って何なの?」
「それを説明するには富山ブラックとは何か、を説明しないとな。
富山ブラックの特徴は、『濃度の高い醤油スープ』『ブラックペッパーによるインパクトのある味わい』そして『それらを支える鶏ガラスープ』にある。
スープは店によっては鰹節を入れることもあるらしいがな。元々は労働者のために、塩分補給を主としておかずになるラーメンを、ということで作られたらしい」
「へえ。でもここって二郎インスパイアだよね?」
「そう。だからスープの骨格が違う。こっちは豚骨だから、味が本家よりマイルドだ。
さらに、野菜から来る甘みと豚の脂味が加わるので、また少し違う味だな。ただ、富山ブラックに近いものというと、ここしかなかった」
キタサンブラックが申し訳無さそうにうつむく。
「ごめんなさい、無理を言っちゃって……」
「何、構わんよ。美味しいものを好きなだけ食べる、これがチートデイだ。気にすることはない」
そう言っていると、まとめて席が空いた。私たちの順番のようだ。
「ここ……ですか?」
戸惑い気味にキタサンブラックが言う。それもそのはずだ。
「お兄ちゃん、ここって『二郎インスパイア』じゃない?」
訝しげにカレンが言う。店内はもう満席で、何人かの学生らしき客が山のように積まれた野菜を崩しながら麺を啜っている。三田村嬢も目が点だ。
「『じろうインスパイア』?」
「ラーメンの一ジャンル、ですよ。ラーメン二郎という系列のラーメンを真似た……というよりインスパイアした店のことです。
山盛りの野菜に大量の麺、そしてこってりとした豚骨スープにニンニク、そして豚の塊がデフォルトですね。
ただ、量の多さと殺伐とした雰囲気から女性向きじゃない。私が少し躊躇したのも、そこにあります」
「え……朝から、この量ですか……」
「量を半分に減らせば、普通の量にはなりますよ。あと、富山ブラックに近いものを食べさせるとなると、クオリティーの面からここしかなかった」
「……分かりました。ものは試しです、やってみます」
食券機で「ブラックデビル」を5枚購入する。
基本大食のウマ娘たちはともかく、三田村嬢には麺半分を勧めたのだが、なぜか「そのままでいいです」と譲らなかった。……まあ、残したら私を含めて誰かが食べればいいだろう。
「お兄ちゃん、そもそもこの『ブラックデビル』って何なの?」
「それを説明するには富山ブラックとは何か、を説明しないとな。
富山ブラックの特徴は、『濃度の高い醤油スープ』『ブラックペッパーによるインパクトのある味わい』そして『それらを支える鶏ガラスープ』にある。
スープは店によっては鰹節を入れることもあるらしいがな。元々は労働者のために、塩分補給を主としておかずになるラーメンを、ということで作られたらしい」
「へえ。でもここって二郎インスパイアだよね?」
「そう。だからスープの骨格が違う。こっちは豚骨だから、味が本家よりマイルドだ。
さらに、野菜から来る甘みと豚の脂味が加わるので、また少し違う味だな。ただ、富山ブラックに近いものというと、ここしかなかった」
キタサンブラックが申し訳無さそうにうつむく。
「ごめんなさい、無理を言っちゃって……」
「何、構わんよ。美味しいものを好きなだけ食べる、これがチートデイだ。気にすることはない」
そう言っていると、まとめて席が空いた。私たちの順番のようだ。
445: 2022/03/20(日) 21:11:04.53 ID:Rzszyc7VO
しばらく待つと、「ニンニク入れますか?」と訊かれた。
「え、ニンニク?」
「ああ、三田村トレーナーとキタサンブラックは二郎系は初めてだったね。要はトッピングだ」
上にはトッピング一覧が貼られている。ラーメンとつけ麺、まぜそばと辛麺とでそれぞれトッピングが異なるのも、ここの特徴だ。
「二郎系では『呪文』のようにトッピングを注文することもあるが、基本気にしなくていい。私は、ヤサイニンニクでお願いしよう」
「うーん、カレンはデフォにしよっかな。あまり積むとウマスタ映えしないし」
「ハイッ!!私は全部で「彼女もデフォで」」
「何で止めるんですかトレーナーさん!!」
私は無言で向こうの太めの客を見るようバクシンオーに促した。視線の先には、別盛りの野菜だけが入った丼と、すり鉢状の巨大丼がある。
「あれを食べられるのは、トレセン学園でもオグリとスペくらいだぞ」
「にょわっ!!?わ、分かりました……」
「というわけで、あとのもデフォで頼む」
しばらくすると、店員が丼を運んできた。うず高く積まれた野菜の下に、どす黒いスープが見える。豚は恐らく底に沈んでいるのだろう。
「これが『ブラックデビル』だ」
446: 2022/03/20(日) 21:43:12.09 ID:Rzszyc7VO
「すごい量……というかこれって?」
カレンが細長く黒い物体を指差した。
「キクラゲだな。これもいいアクセントになる。じゃあ食おう「バックシーン!!!」」
すごい勢いでバクシンオーが食べ始めている。
「これはっ!しょっぱいですっ!!でもコクがあって……むぐっ、箸が、止まりません!!」
麺をリフトアップし、レンゲを使いながら野菜と位置を逆転させる。そして全体を混ぜた後、一気に太麺を啜り込んだ。
パシーンッッ!!!
ワイシャツのボタンが弾け飛んだ。……美味い。濃厚な二郎系ならではのスープに、醤油がしっかり絡んでいる。
普段のカネシ醤油とは違い、醤油そのものが強く主張する。そこにピリッとしたペッパーの刺激。
本家よりも、しょっぱさは感じない。いや、あるいはご飯の代わりを野菜がしているのか。野菜の甘さが、スープの強さを中和しているとでも言おうか。
「あっ!!……意外と、食べやすいです。それに、クドいかと思ったけど……飽きが来ないですね」
「はいっ!富山ブラックとは違うけど、これはこれで美味しいです!!でも、富山ブラックといえばご飯……」
「追い飯は頼めるぞ、無料で。……全部食べ切れるならだが」
「本当ですか!!じゃあ頼んじゃお♪」
キタサンブラックは上機嫌だ。しかし、このブラックデビルの問題は、ここからにある。
半分ほど食べたところで、やっと豚の頂上が顔を出した。そう、この豚は……
「ツァーッ!!?」
バクシンオーが奇声をあげた。箸には、巨大な豚のブロックがある。
「え……これって」
「『豚』ですよ。チャーシューに相当しますが、ここの豚はとにかくデカい。柔らかいし、脂多めなので実際食べる所は多くはないですが」
三田村嬢が顔を青くしている。一般女性客は普通の二郎系より多めの店だが、さすがにこれは刺激が強かっただろうか。
私も豚に取り掛かるとする。箸だけで千切れるほど、豚は柔らかく煮込まれている。噛むと脂がジュワッと広がった。このしょっぱいスープには、この脂がまたよく合う。
そしてクドくなった口内を、キクラゲで中和する。食感が違うのもいい箸休め。非常によく考えられた組み立てだ。
※三田村トレーナーは
01~60 残した
61~85 頑張って食べきった
86~99 ごちそうさまです!
00 ???
447: 2022/03/20(日) 21:49:03.41 ID:PZVCt/vY0
お
448: 2022/03/20(日) 22:03:48.48 ID:Rzszyc7VO
*
「ごめんなさい、やっぱり忠告に従うべきでした……」
店を出ると、三田村嬢が申し訳なさそうに頭を下げた。結局半分強を食べた所でギブアップし、その分は私が食べたのだった。
「いや、最初からはなかなか難しいですよ。にしても、なぜ普通盛りを」
「それは……せっかくだから、同じものを食べてみたかったんです。でも、ご迷惑をおかけすることに……」
「ハッハッハ、この程度なら問題ないですよ。食べた分はトレーニングで燃焼させればいいだけのこと。
むしろ筋肉が喜んでくれたので、これはこれで問題ありませんな」
「フフッ、やはり、天王寺トレーナーは優しいですね」
「……優しい?」
「ええ。いつも人のことを第一に考えてくれます。キタちゃんのリクエストにも、なんとか応じてくれようとしましたし」
「そうですよ!本当に美味しかったです!!今度、お父ちゃんにもお店を紹介してあげたいくらいです!!」
キタサンブラックがピョンと飛び跳ねた。
「そうか、気に入ってくれたならよかった。……さて、まだ昼前だがどうする?休日だし、どこかに寄ってもいいが」
※その時……
01~35 電話が鳴った
36~70 じゃあ、せっかくだし中華街へ!
71~90 えへへ、実は……
91~00 誰か登場
「ごめんなさい、やっぱり忠告に従うべきでした……」
店を出ると、三田村嬢が申し訳なさそうに頭を下げた。結局半分強を食べた所でギブアップし、その分は私が食べたのだった。
「いや、最初からはなかなか難しいですよ。にしても、なぜ普通盛りを」
「それは……せっかくだから、同じものを食べてみたかったんです。でも、ご迷惑をおかけすることに……」
「ハッハッハ、この程度なら問題ないですよ。食べた分はトレーニングで燃焼させればいいだけのこと。
むしろ筋肉が喜んでくれたので、これはこれで問題ありませんな」
「フフッ、やはり、天王寺トレーナーは優しいですね」
「……優しい?」
「ええ。いつも人のことを第一に考えてくれます。キタちゃんのリクエストにも、なんとか応じてくれようとしましたし」
「そうですよ!本当に美味しかったです!!今度、お父ちゃんにもお店を紹介してあげたいくらいです!!」
キタサンブラックがピョンと飛び跳ねた。
「そうか、気に入ってくれたならよかった。……さて、まだ昼前だがどうする?休日だし、どこかに寄ってもいいが」
※その時……
01~35 電話が鳴った
36~70 じゃあ、せっかくだし中華街へ!
71~90 えへへ、実は……
91~00 誰か登場
449: 2022/03/20(日) 22:04:23.06 ID:9s/1Jwt0O
そろそろ何か起きよう
450: 2022/03/20(日) 22:23:21.88 ID:Rzszyc7VO
その時、電話が鳴った。……知らない番号だ。
何か胸騒ぎがする。スマホの通話ボタンをタップした。
「もしもし、天王寺ですが」
『久し振りだな、天王寺』
少し高めの、男の声がした。この声には、聞き覚えがある。……まさか。しかしどうやって?
「……あなたは」
『オイオイ、忘れたのか?まあ10年以上も会ってないから仕方ないか。それとも、俺のような人間は取るに足らないか』
間違いない。この、皮肉めいた言い方。この男は。
「……芹沢さん、ですね」
『やはり覚えていたか。まあ、さっきのは冗談だ。トレセン学園に来たら、お前は外出中と聞いてな。それでトキノ……じゃなかった、駿川君に電話番号を聞いて、連絡を取ってみたというわけだ。今、どこだ』
「元住吉です。戻るまでは、1時間以上かかるかと」
『元住吉……ああ『豚星。』か。大方チートデイってとこだな』
行動パターンを当てられている。いや、むしろ驚くべきはその知識だ。何年も日本を離れていたのに、有名店の情報が頭に入っている。
「流石、ですね……どうして電話を」
01~50 お前に紹介したいウマ娘がいる
51~95 いや、声を聞きたかっただけだ
96~00 この後、飲みに行かないか
451: 2022/03/20(日) 22:25:31.56 ID:JVVHeIHd0
あ
452: 2022/03/20(日) 22:34:36.68 ID:Rzszyc7VO
『いや、声を聞きたかっただけだ。俺もこの後、用事があるんでね。
何より、デートを邪魔するほど無粋じゃない』
クックック、という笑いが聞こえてきた。
「用事?」
『そうだ。まあそれはいずれ分かる。まだ着任までは間がある。その時になったら、また会おう』
そう言うと、一方的に電話は切られた。
「誰、ですか?」
心配そうに三田村嬢が訊いてきた。
「芹沢さん、です。今トレセン学園に挨拶に来たと。用事はそれだけのようでしたが」
「本当に、それだけですか」
ただ事ならぬ気配を察したのだろう。私は彼女に微笑みかけた。
「ええ、大丈夫です。……とりあえず、場所を変えましょうか」
*
その後、私たちはひとしきり中華街とみなとみらいで遊んだ。だが、心はどうにも晴れなかった。
何故芹沢さんは、私に連絡をしてきた?そしてなぜ、休日のトレセン学園を訪れていた?
それが分かるのは、しばらくしてのことだ。
第9話 完
453: 2022/03/20(日) 22:37:00.25 ID:Rzszyc7VO
今回はここまでです。
予告した通り、4月から更新頻度が落ちます。
リサーチもしにくくなりますが、その点ご容赦下さい。
(都内特定箇所周辺は行きやすくなりますが)
次回のウマ娘を決めます。安価下1~5でコンマが最も大きいものとします。
予告した通り、4月から更新頻度が落ちます。
リサーチもしにくくなりますが、その点ご容赦下さい。
(都内特定箇所周辺は行きやすくなりますが)
次回のウマ娘を決めます。安価下1~5でコンマが最も大きいものとします。
459: 2022/03/20(日) 23:17:14.48 ID:Rzszyc7VO
シリウスシンボリに決定します。
続いてテーマを決めます。安価下1~5で最もコンマが高いものです。
続いてテーマを決めます。安価下1~5で最もコンマが高いものです。
465: 2022/03/21(月) 00:13:28.10 ID:EMvYMYFvO
むぎとオリーブにします。
ここなら実食は楽ですね。
更新は多分来週です。
ここなら実食は楽ですね。
更新は多分来週です。
473: 2022/03/27(日) 17:26:05.48 ID:BoA16JXGO
「……ふう」
私はバッグを机に起き、軽く息をついた。名古屋から日帰りでの強行軍は、流石に少々疲れる。
既に辺りは宵闇に包まれていた。高松宮記念後のライブと簡単な祝勝会を終えたバクシンオーは既に寮に帰させている。
私も自宅に戻ればいいのだが、生憎学園でやることがあった。
10年前、芹沢達也に何があったか。
過去の資料を、できるだけ目立たずに調べるには、深夜も押し迫ったこの時間帯しかない。
当時、私も学園にはいた。ただ、当時の真相は、ほとんど分からずじまいだ。
学園上層部が揉み消したというのがもっぱらの噂だ。だが、その上層部も秋川理事長の着任と共に一掃された。
かつて、ウマ娘の親族には裏社会の人間もいた。一部では八百長じみたことも行われていたという。
それを浄化し、今のような形に変えたのは秋川理事長だ。ウマ娘としては大成しなかったが、政治力を活かし巧みに今のトレセン学園を作り上げた才媛と言える。
見た目こそ幼いが、実年齢は私より上と聞く。ああ見えて、なかなか肚の底が読めない人だ。
そんな彼女が今芹沢さんを迎え入れる意図はどこにあるのか。そもそも、なぜ芹沢さんはハメられたのか。
それが分からないことには、彼がこれから何をやろうとしているのかも把握できない。
理事長に直接聞こうとも思ったが、彼の話は理事長も駿川嬢も避けているような気がした。恐らく、今の手持ちの材料では答えてはくれまい。そんな予感がした。
「……にしても、難儀だな」
資料はやはり乏しかった。当時在籍していたはずの生徒の名簿は、所々歯抜けになっていた。恐らく、芹沢さんに関連するウマ娘なのだろう。
特に高等部のものが酷い。当時の彼は高等部担当だったから、それに由来するものとは思うが……
「助けてやろうか?」
ハッと部屋の入り口を見た。そこにいたのは……
「シリウスシンボリ!!?」
ニヒルな笑みとともに、彼女はそこにいた。
474: 2022/03/27(日) 17:48:08.78 ID:BoA16JXGO
「どうして君がここに??というか、この時間ウマ娘は学園には入れないはずだぞ。どうやって寮を抜け出した」
「私にとって寮を抜け出すのはさしたる問題じゃない。そしてここに入り込むのも」
「手段を聞いているんじゃない。理由を聞いている」
彼女に近付くと、おどけたように手を上げた。
「おっとっと。ウマ娘にも腕力で勝てる天王寺トレーナーに襲われたら、私も敵わないかもなあ。
深夜に校舎で二人きり、私が大声を出せばセキュリティが飛んでくる。さあどうする」
「私を脅すのか」
「冗談だよ。私がアンタのとこに来た理由はちゃんと話す。協力してくれさえすればだが」
「……協力?」
「知りたいんだろ?芹沢達也のことさ」
血の気が引くのが分かった。動きが固まった私を見て、シリウスシンボリがクックックと愉快そうに笑う。
「……どうしてそれを」
「ルナの弱みでも握れないかと色々探っててね。あいつ、春に卒業できるはずだったのに何故か居残りやがった。大学に籍を置きながら、だがな。
アイツが理に適わないことをするわけがない。で、ピンと来たのさ。『これはこの春から戻ってくる、芹沢達也とかいうトレーナーに関連することに違いない』ってね」
「まさか君も、芹沢さんのことを探っているのか」
「10年前の事件のことなら、正攻法で調べても無駄だぜ。昔のトレセン学園のスキャンダルに関わることだから、理事長が完全に資料を消してる。
あんたがそうやって調べ物をしても無意味ってことさ。裏には裏の調べ方がある。
東大卒のお坊ちゃんであるあんたにゃ、それは無理ってものさ」
シリウスシンボリは笑いながらポンポンと部屋の中にあるベンチプレスを叩いた。
「何故君が芹沢さんのことを探ろうとしている」
「ルナは基本的に事勿れ主義だ。だが私は知っての通りそういう窮屈なのは嫌でねぇ。自由な学園の実現のためには、芹沢って奴に協力を仰ぎたいってとこさ。
だが、えらく偏屈で癖のある奴でもあるらしい。だから、私としても、奴の情報は知りたい」
475: 2022/03/27(日) 18:14:41.64 ID:4iD45xq8O
シリウスシンボリは挑戦的な笑いを浮かべている。私は思わず眉をひそめた。
トレセン学園には「問題児」と呼ばれるウマ娘が何人かいる。その多くは「トラブルメーカー」という意味だ。
ゴールドシップはその代表と言える。海外留学中の「あの2人」も同じベクトルだ。
ただ、彼女らは学園の秩序に挑戦するようなスタンスではない。あくまで好き放題やった結果がトラブルになっているだけだ。
シリウスシンボリは違う。彼女は明らかに「異物」だ。
彼女の親族がどういうものかは詳しくは知らない。ただ、相当な富豪……それも裏に近い立場の富豪であるらしいとは聞いていた。
そして、彼女はシンボリルドルフと何度も衝突してきた。昔馴染みとのことだが、犬猿の仲であるのは周知の事実だ。
そんな彼女が何を考えているのか。恐らくろくなものではないだろう。
むしろこの素行でよく今まで退学処分になっていなかったものだ。
私は溜め息をついた。
「君一人でやればいいだろう」
「いや、芹沢達也の知人で、ある程度心を許す存在であるアンタがいた方がスムーズに話が進むってもんさ。だからここに来た」
私は「必要ない」と言い掛けて止まった。
……芹沢さんは復讐を考えている。それはどういうものだ?
そしてそれが、トレセン学園を揺るがすものだとしたら?シリウスシンボリは、それを止めるためにここに来たのではないか?
断るのは簡単だ。だが、恐らく協力なしで芹沢達也の過去と狙いを知ることは、不可能に思えた。
彼女としても、芹沢さんに近付くには、私の力が必要なのだ。
「……分かった」
シリウスシンボリの笑みが深くなった。
「いいねえ。アンタなら分かってくれると思ってた。とりあえず、情報屋に会いに行く。明日、銀座6丁目の『Seraphim』というバーだ」
「情報屋?」
「私の家はまあ丸めて言えば『セキュリティーサービス』だ。このトレセン学園にも、私の実家の力は及んでる」
「セキュリティーサービス」……なるほど、そういう家か。
幸い、明日はレース明けのバクシンオーはトレーニングを休む。カレンもまだ本格的なランニングの許可は下りてない。
「……了解だ」
「ついでと言っちゃなんだが、一杯馳走してくれ。今回の依頼料代わりだ」
シリウスシンボリが、ニヤリと口の端を上げた。
476: 2022/03/27(日) 18:15:09.92 ID:4iD45xq8O
第10R 「むぎとオリーブ」
481: 2022/04/03(日) 15:16:46.11 ID:zQMZB3APO
*
「よう」
指定時間に待ち合わせのGINZA SIXに着くと、ホットパンツに暗色系のジャケットを着たシリウスシンボリがいた。遠巻きに若い女性が彼女を見ている。
学園でもそうだが、彼女はやけに同性からモテる。彼女にそういう気があるのかは知らないが、その事実を上手く悪用……いや利用しているらしい噂は聞いていた。
「随分目立ってるな」
「あんたもな。その図体にピチピチの背広は、何とかならないか」
「生憎私に君のようなファッションセンスはなくてね」
「ハッ!違いないね。じゃあ、まず腹ごしらえと行こうか。この近くで軽く食う所はあるだろう?」
「まあ、な。何がご所望だ?」
「分かってて聞いてないか?もちろん、ラーメンだよ。芹沢達也同様、あんたもラーメンには詳しいと聞いててね。噂が本当か、まず確認したい」
私を試しているのか?何のために?
まあ、依頼料代わりに奢ることは何の問題もないが。
「……まあ、いいだろう。すぐ近くだ」
GINZA SIXを出てすぐ、目当ての店は見つかった。
「『むぎとオリーブ』……変わった店名だな」
「オリーブは使ってないが、独特の一杯を出す店だ」
店内にはジャズが流れている。清潔で洒落たカウンターには、女性客が目立っていた。
「看板メニューは『鶏・煮干・蛤のトリプルSOBA』か。ミシュランにも載ったみたいだな……権威とかは全く気に食わねえが」
「権威で選んだわけじゃない。銀座で選ぶなら、ここか『八五』だ。八五は恐ろしく並ぶから、こっちにしたまでだ」
「私も並ぶのは嫌でね。お気遣いどうも、だ。
しかしトリプルスープか。何でも混ぜればいいってものでもないだろうに」
「その通りだ。スープを混ぜるほど個性はぼやけ、ハッキリしない味のラーメンになる。
だから大体はダブルスープまでだ。クアドラプルスープの店もあることはあるし、そこもかなりハイレベルだが、職人が凄腕じゃないと話にならない」
席に着くと、貝系の香りがほんのり漂ってきた。そう、スープを足し合わせるには微妙なバランス感覚が要る。そして、軸となるスープも。
待つこと数分。丼と小皿がカウンターに置かれた。
「……何だこれは」
「見た目から珍しいだろう?これがここのラーメンだ」
丼には蛤が数個に春菊。そしてねじり蒲鉾に焼いた山芋が配されている。
支店も日本橋やさいたまにあるが、これほど個性的なビジュアルは、本店だけだ。
「よう」
指定時間に待ち合わせのGINZA SIXに着くと、ホットパンツに暗色系のジャケットを着たシリウスシンボリがいた。遠巻きに若い女性が彼女を見ている。
学園でもそうだが、彼女はやけに同性からモテる。彼女にそういう気があるのかは知らないが、その事実を上手く悪用……いや利用しているらしい噂は聞いていた。
「随分目立ってるな」
「あんたもな。その図体にピチピチの背広は、何とかならないか」
「生憎私に君のようなファッションセンスはなくてね」
「ハッ!違いないね。じゃあ、まず腹ごしらえと行こうか。この近くで軽く食う所はあるだろう?」
「まあ、な。何がご所望だ?」
「分かってて聞いてないか?もちろん、ラーメンだよ。芹沢達也同様、あんたもラーメンには詳しいと聞いててね。噂が本当か、まず確認したい」
私を試しているのか?何のために?
まあ、依頼料代わりに奢ることは何の問題もないが。
「……まあ、いいだろう。すぐ近くだ」
GINZA SIXを出てすぐ、目当ての店は見つかった。
「『むぎとオリーブ』……変わった店名だな」
「オリーブは使ってないが、独特の一杯を出す店だ」
店内にはジャズが流れている。清潔で洒落たカウンターには、女性客が目立っていた。
「看板メニューは『鶏・煮干・蛤のトリプルSOBA』か。ミシュランにも載ったみたいだな……権威とかは全く気に食わねえが」
「権威で選んだわけじゃない。銀座で選ぶなら、ここか『八五』だ。八五は恐ろしく並ぶから、こっちにしたまでだ」
「私も並ぶのは嫌でね。お気遣いどうも、だ。
しかしトリプルスープか。何でも混ぜればいいってものでもないだろうに」
「その通りだ。スープを混ぜるほど個性はぼやけ、ハッキリしない味のラーメンになる。
だから大体はダブルスープまでだ。クアドラプルスープの店もあることはあるし、そこもかなりハイレベルだが、職人が凄腕じゃないと話にならない」
席に着くと、貝系の香りがほんのり漂ってきた。そう、スープを足し合わせるには微妙なバランス感覚が要る。そして、軸となるスープも。
待つこと数分。丼と小皿がカウンターに置かれた。
「……何だこれは」
「見た目から珍しいだろう?これがここのラーメンだ」
丼には蛤が数個に春菊。そしてねじり蒲鉾に焼いた山芋が配されている。
支店も日本橋やさいたまにあるが、これほど個性的なビジュアルは、本店だけだ。
482: 2022/04/03(日) 16:08:25.74 ID:zQMZB3APO
「見た目を妙にすりゃいいってもんじゃねえだろ」
「だが、型に囚われない料理こそラーメンだ。無限の自由が許されているからこそ、私はこの料理が好きなのだよ」
シリウスシンボリは軽く目を見開き、ニヤリと笑った。
「……なるほど、そう来たか」
彼女が私を試しているのは何となく分かった。要は、信頼に足る人物かの最終チェックなのだ。
高級フレンチやイタリアンなど、彼女が恐らく最も嫌う類いのものだろう。
権威に寄りかからず、自由を誰よりも好む。そんな彼女の性格を鑑みれば、ここは最適のチョイスと言えた。
「とにかく食おう。麺が伸びる」
レンゲでスープをすくい、一口飲む。最初に感じたのは、蛤から来る貝の濃密な風味。それを煮干しの香りが追いかけ、鶏のコクが後に残る。
複雑だが、ボヤケてはいない。素晴らしいバランスだ。
そして麺を啜る。細麺ストレートで、パツパツとした噛みごたえ。スープとしっかり絡んでいる。
うむ、旨い。
パシーンッ!!
「うおっ!?ボタンが取れたぜ!?」
「気にするな、いつものことだ」
「いつもなのかよ……しかし、なかなか面白いな。幾つもの『香り』がここには封じ込められてる。いや、食感もか。
味の薄い山芋と蒲鉾が、いい箸休めになってやがる」
さすがに味には敏感であるらしい。私は小さく頷いた。
良いラーメンは、往々にして幾つもの要素が組み込まれているものだ。最初から最後まで同じ味で通すなら、余程の強い味が要る。
それを実現しているのは「伊吹」をはじめとした極一握りだ。ならば、複数の香りと味、そして食感を詰め込んだ方が近い。
とはいえ、それには高い技術が要る。この道もやはり険しいのだ。
低温調理の鶏チャーシューを口にする。これもしっかり味が乗っていて美味い。
そして蛤。やや小振りだが身がしっかりしていて、貝の風味をちゃんと味わえる。決して添え物ではなく、複数個乗っているのも良い。
気が付くと、一気呵成に丼は空になっていた。
485: 2022/04/04(月) 00:01:07.52 ID:cFAEt57wO
*
店の外に出ると、シリウスシンボリが私の背中を軽く叩いた。
「美味かったぜ、天王寺トレーナー。なるほど、舌は確かみたいだ」
「テストには合格したようだな」
「アンタの評判は聞いてるが、信頼に足るかどうかは目で見ないとな。これから話す内容は他言無用だぜ。その前に、場所を変えるか」
「むぎとオリーブ」近くの雑居ビルに、シリウスシンボリは入った。6階で降りると、分厚いオークの扉に「Seraphim」と刻まれているのが見えた。
「……オーセンティックバーか。未成年が入れる所じゃないが」
「酒は飲まねえよ。そもそも下戸でね。飲みたきゃどうぞご自由に」
バーに入ると、一枚板のカウンターの向こうで初老の紳士がグラスを磨いていた。
薄暗い明かりが重厚な空気をさらに際立たせている。
「お嬢様、お久し振りです」
「縦山、話は聞いているな」
「無論でございます。その前に、何か飲み物は。お嬢様は『いつもの』でよろしいでしょうか」
「ああ。トレーナーは」
「ギムレットを頼む」
マスターは無言で会釈すると、ギムレットの準備に入った。氷を削るシャクシャクとした音が響く。
「お嬢様、か。実家は『セキュリティーサービス』と言ってたが」
「ごく表向きの表現では、な。実際はシンボリ家の『影』だよ」
「影?」
シリウスシンボリが頷く。マスターがシェイカーを振り始めた。
「知っての通り、ルナ……シンボリルドルフはシンボリ家の次代頭首だ。そしてシンボリ家本家は、ウマ娘界では最大の家の一つ。
メジロ家は実業の世界で強いが、政界ではシンボリ家の方が強大だ。URAにも数多く人を送り込んでいる」
「そこまでは知っている。君の実家もそうなんじゃないか」
「うちは分家でね。一応親父もURAの幹部だが、その役割は普通とは違う。
URAのトップにいるシンボリ家に仇なす者を、陽に陰に葬る。まさに『裏稼業』ってわけだ」
自嘲気味にシリウスシンボリが嘲笑った。
私の目の前に、ギムレットのグラスが置かれる。
そして、マスターはオレンジ色の液体が入った瓶を取り出し、シリウスシンボリのグラスに注いだ。
「これは?」
「『野菜ジュース』、だよ」
どこか含みがある言い方だが、私はそれを追及しないことにした。
店の外に出ると、シリウスシンボリが私の背中を軽く叩いた。
「美味かったぜ、天王寺トレーナー。なるほど、舌は確かみたいだ」
「テストには合格したようだな」
「アンタの評判は聞いてるが、信頼に足るかどうかは目で見ないとな。これから話す内容は他言無用だぜ。その前に、場所を変えるか」
「むぎとオリーブ」近くの雑居ビルに、シリウスシンボリは入った。6階で降りると、分厚いオークの扉に「Seraphim」と刻まれているのが見えた。
「……オーセンティックバーか。未成年が入れる所じゃないが」
「酒は飲まねえよ。そもそも下戸でね。飲みたきゃどうぞご自由に」
バーに入ると、一枚板のカウンターの向こうで初老の紳士がグラスを磨いていた。
薄暗い明かりが重厚な空気をさらに際立たせている。
「お嬢様、お久し振りです」
「縦山、話は聞いているな」
「無論でございます。その前に、何か飲み物は。お嬢様は『いつもの』でよろしいでしょうか」
「ああ。トレーナーは」
「ギムレットを頼む」
マスターは無言で会釈すると、ギムレットの準備に入った。氷を削るシャクシャクとした音が響く。
「お嬢様、か。実家は『セキュリティーサービス』と言ってたが」
「ごく表向きの表現では、な。実際はシンボリ家の『影』だよ」
「影?」
シリウスシンボリが頷く。マスターがシェイカーを振り始めた。
「知っての通り、ルナ……シンボリルドルフはシンボリ家の次代頭首だ。そしてシンボリ家本家は、ウマ娘界では最大の家の一つ。
メジロ家は実業の世界で強いが、政界ではシンボリ家の方が強大だ。URAにも数多く人を送り込んでいる」
「そこまでは知っている。君の実家もそうなんじゃないか」
「うちは分家でね。一応親父もURAの幹部だが、その役割は普通とは違う。
URAのトップにいるシンボリ家に仇なす者を、陽に陰に葬る。まさに『裏稼業』ってわけだ」
自嘲気味にシリウスシンボリが嘲笑った。
私の目の前に、ギムレットのグラスが置かれる。
そして、マスターはオレンジ色の液体が入った瓶を取り出し、シリウスシンボリのグラスに注いだ。
「これは?」
「『野菜ジュース』、だよ」
どこか含みがある言い方だが、私はそれを追及しないことにした。
486: 2022/04/04(月) 00:24:01.43 ID:cFAEt57wO
「今回の件も、それと関係が?」
「まあ、な。実のところ、10年前までは一時的にシンボリ家がURAから遠ざけられててな。
一部のウマ娘の一家が、シンボリ家の支配に反発し、思うままにウマ娘界を牛耳ろうとした結果だ。トレセン学園の運営もその一派に乗っ取られていたらしい」
「……!?そんなことが」
「私もガキだったからな。親父に入学後に言われて知った話さ。……ルナがやけに秩序を重んじるようになったのも、そのためらしい。
それはさておき、だ。それに反旗を翻したのが、一トレーナーに過ぎなかった芹沢達也というわけだ」
私はギムレットのグラスから口を離した。そんな話は、聞いたことがない。
「芹沢さんは、何も」
「アンタには知られたくなかったんだろうな。だが、一人で戦うにはあまりに相手は狡猾で、強大に過ぎた。
で、結局ハメられたってわけだ。そうだな、縦山」
「左様にございます」
マスターはそっと書類を彼女に差し出した。
「これは?」
「当時のトレセン学園を支配していた連中の残党リストさ。今は理事長とシンボリ家の目が光ってるから大人しくしてるがな。
いつまた暴れ出すか分かったもんじゃない。実際、その動きはある」
「……!芹沢さんが戻ってきたのも、そのためか」
「半分当たりだ。芹沢達也の乱は上手く行かなかったが、奴が動いたことでシンボリ家は反転攻勢に出られた。まあ、言ってみれば『強請った』んだがな。
そして今また芹沢達也が戻ってきたってのは、連中に対する睨みを強めることになる……はずなんだが」
「……芹沢さんは、改めて自分をハメた奴を叩こうとしている。過去のスキャンダルも表に出して」
シリウスシンボリが真顔で頷いた。
「そういうことさ。それは逆に、連中に付け入る隙を与えかねない。
何せ現体制は、アレを隠したがってるからなあ。過去の八百長疑惑なんて表に出たら、首脳部総辞職待ったなしだ」
「それは君にとっても都合が悪い、そうだな」
「……ああ。ルナの今のやり方は、正直気に食わねえ。だが、私が自由にやれてるのは、癪だがルナのおかげでもある。
だからそれが崩されるのは勘弁してほしいわけさ」
>>80以上でイベント発生
487: 2022/04/04(月) 00:30:25.43 ID:tSLowhb90
あ
493: 2022/04/10(日) 15:29:43.11 ID:S6/NsC3ZO
シリウスシンボリは、オレンジ色の液体を一気に流し込んだ。
「私に何をしてもらいたいんだ」
「芹沢達也のコントロール、さ。彼がトレセン学園に戻ることは悪いことじゃあない。さっきも言ったが、反現体制の連中に対しての睨みにはなるからな。
ただ、暴走は勘弁ってことだ。何せ我の強い男らしいからな」
「……秋川理事長も、同じ考えか」
「……さあね」
シリウスシンボリは肩を竦める。……なるほど。
しかし、コントロールというが芹沢さんほど御しにくい人物はいない。
私が知る彼は、プライドが高く自分に指図されるのをこの上なく嫌う人だ。
あるいは、過去のスキャンダルを「なかったこと」にしようとしている秋川体制に対しても、牙を剥くかもしれない。
私はギムレットを飲み干した。これはまた、随分な厄介ごとにはなりそうだ。
*
そして、新学期が始まった。
第10話 完
494: 2022/04/10(日) 15:30:58.70 ID:S6/NsC3ZO
このまま第11話に進みます。
メインのウマ娘を1人決めます。安価下1~5より、コンマが最も大きいものです。
題材はストーリーを進めてから決めます。
メインのウマ娘を1人決めます。安価下1~5より、コンマが最も大きいものです。
題材はストーリーを進めてから決めます。
500: 2022/04/10(日) 16:14:17.98 ID:S6/NsC3ZO
サトノダイヤモンドとします。
少々お待ち下さい。
少々お待ち下さい。
501: 2022/04/10(日) 21:23:56.92 ID:XKG7bTshO
4月1日は毎年緊張する。新年度の始まりは、新たなウマ娘とトレーナーとの出会いの時でもあるからだ。
「静粛っ!!」
ホールに秋川理事長の声が響く。ざわついていた空気が、一気に引き締まった。
普通の中学校に先駆けて行われる入学式には、約30人のウマ娘が顔を揃えた。この中で最後まで残るのは、どれほどだろう。
できるだけ多くのウマ娘を、挫折させることなく残す。それが我々の使命だ。
その中には、キタサンブラックの姿も見える。入学式が終わった後に、彼女が私の所に挨拶に来るとバクシンオーは言っていた。
ふと、私の席の隣を見る。そこは空席になっていた。
芹沢達也は、まだ私の前に姿を現していない。
「どうしたんですか」
後ろから三田村嬢が小声で訊いた。
「いや……気にするほどのことじゃない」
落ち着きのなさを悟られたのだろうか。そう、今年の入学式の緊張感は、例年の比ではない。芹沢さんが着任の際に何を言うか、それが気掛かりで仕方なかったのだ。
視線を舞台の上に移す。秋川理事長がウマ娘としての心構えを小柄な身体を一杯に使って熱心に説いていた。
そのユーモラスな姿に、新入生から少し笑いも漏れる。張り詰めた空気が、やや和らいだその時だ。
「ではこれより、新任のトレーナーを紹介するっ!!」
秋川理事長が扇子を閉じ、舞台袖を指す。そして、10年前と同じスキンヘッドの芹沢さんが静かに壇上に現れた。
>>70以上で追加キャラ登場
502: 2022/04/10(日) 21:26:42.85 ID:DZLvdEUt0
ダイスロール
505: 2022/04/10(日) 21:56:37.49 ID:XKG7bTshO
芹沢さんの後ろから、小柄な褐色の肌をした少女がついてきた。……ウマ娘?
場内がざわついた。誰だ、あれは。
「静粛っ!!」
秋川理事長の声と共に、芹沢さんがマイクを持つ。
「新任の……芹沢達也です。君ら新入生を中心に受け持つことになった。よろしく頼む。
俺にはトレセン学園を、世界で最も優れたウマ娘養成学校とする義務がある。そのためには一切の妥協を許さないから、そのつもりでいてほしい」
一度緩んだ空気が一気に張り詰めた。芹沢さんが、傍らの少女に目をやる。
「初めから脅しをかけるつもりはない。だが、世界は広い。ウマ娘として頂点に立とうとするのは、生半可なことじゃない。
それを体現するのが彼女だ。ブリュスクマン、挨拶を」
「イエス、サー」
芹沢さんに代わってブリュスクマンと呼ばれた少女が壇上に立った。
「私が紹介に預かったブリュスクマンだ。海外に留学していたので、言葉が堅いのはすまない。
芹沢さんとは、遠征していた香港で出会ってからの付き合いだ。世界最強の名を確たるものにするためにここに来た。よろしく」
鋭い眼光は、彼女が只者ではないことを教えていた。秋川理事長は渋い顔をしている。
再び芹沢さんがマイクを取った。
「彼女が、恐らく現時点での世界最強だ。君たちは彼女を越えていかねばならん。……もちろん、越えさせるつもりもないがな」
ニヤリ、と芹沢さんが笑った。
「圧倒的強者の存在に絶望するか奮起するか、それがウマ娘の運命を左右する。ここに来たからには覚悟を決めろ。俺からは、それだけだ」
彼の視線が、私に向いた。……これは、どういう意味だ?
「……感じ悪い人ですね」
三田村嬢が呟いた。芹沢さんは前々からああいう物言いをする人だったが、なぜ最初からヘイトを集めるような真似をする?
壇上から降りた彼が、私の隣の空いた席に座った。
「久し振りだな、天王寺」
「……どういうつもりです」
「言った通りの意味だ。今は式の最中だ、積もる話は後で聞く」
506: 2022/04/10(日) 22:13:11.44 ID:XKG7bTshO
*
「バクちゃんいますか?」
重い空気の中終わった式の1時間後。一通り手続きを済ませたキタサンブラックが、トレーナー室にやってきた。その後ろには、栗色の長い髪の少女がいる。
「おおっ!!キタちゃんではないですか!!どうでしたか入学式はっ!!」
「あはは……何か、トレセン学園って怖いなってちょっと思っちゃいました。上手くやっていけるかなあ……」
「大丈夫ですっ!悩みがあったら夕日に向かって走れば大体の悩みは解決するのですっ!!
ところで、その子は誰ですか??私と一緒にバクシンするなら大歓迎ですっ!!」
「ああ、この子は……」
ペコリ、と栗色の髪の少女が頭を下げた。
「サトノダイヤモンドといいます。キタちゃんとは、昔からのお友達なんです」
彼女が私を見た。
「天王寺トレーナー、ですよね?少し、お話が」
「……私に、か?」
「はい。シリウスシンボリさんと私の父から、お話を聞きまして」
「……シリウスシンボリから?」
コクリ、とサトノダイヤモンドが頷いた。
「ここではなんですから、場所を変えて話しませんか。芹沢トレーナーについて、です」
「新入生の君が、何故それを」
体温が急に下がった気がした。彼女の目は、真っ直ぐにこちらを見つめている。
「それも含めて、です」
「……分かった。会議室を取ろう」
「助かります」
※会議室には……
01~30 サトノダイヤモンドだけ
31~90 サトノダイヤモンドとシンボリルドルフ
91~00 楽しそうじゃないか天王寺
「バクちゃんいますか?」
重い空気の中終わった式の1時間後。一通り手続きを済ませたキタサンブラックが、トレーナー室にやってきた。その後ろには、栗色の長い髪の少女がいる。
「おおっ!!キタちゃんではないですか!!どうでしたか入学式はっ!!」
「あはは……何か、トレセン学園って怖いなってちょっと思っちゃいました。上手くやっていけるかなあ……」
「大丈夫ですっ!悩みがあったら夕日に向かって走れば大体の悩みは解決するのですっ!!
ところで、その子は誰ですか??私と一緒にバクシンするなら大歓迎ですっ!!」
「ああ、この子は……」
ペコリ、と栗色の髪の少女が頭を下げた。
「サトノダイヤモンドといいます。キタちゃんとは、昔からのお友達なんです」
彼女が私を見た。
「天王寺トレーナー、ですよね?少し、お話が」
「……私に、か?」
「はい。シリウスシンボリさんと私の父から、お話を聞きまして」
「……シリウスシンボリから?」
コクリ、とサトノダイヤモンドが頷いた。
「ここではなんですから、場所を変えて話しませんか。芹沢トレーナーについて、です」
「新入生の君が、何故それを」
体温が急に下がった気がした。彼女の目は、真っ直ぐにこちらを見つめている。
「それも含めて、です」
「……分かった。会議室を取ろう」
「助かります」
※会議室には……
01~30 サトノダイヤモンドだけ
31~90 サトノダイヤモンドとシンボリルドルフ
91~00 楽しそうじゃないか天王寺
507: 2022/04/10(日) 22:13:38.38 ID:deO+k9nK0
あ
515: 2022/04/16(土) 16:59:07.84 ID:2e26EyNmO
*
「お待ちしておりました」
「……君か」
サトノダイヤモンドと共に会議室に入ると、シンボリルドルフが軽く一礼した。
「芹沢トレーナーのこととは聞いている。やはり君も噛んでいたか」
「ええ。どうぞ」
シンボリルドルフと向かい合って座る。いつもの温和な表情は、そこにはない。
「あの人がここに来た経緯は、シリウスシンボリから聞いている。私に彼のコントロールを頼みたいとも言ってきたが」
「ええ。彼の目的は10年前の復讐にあるのは、こちらも把握しています。無論、秋川理事長も。
それでも彼を呼び寄せたのは、反主流派への威嚇が一つ。それと……このトレセン学園の競争力強化に繋がると踏んだからです。そして、それを芹沢トレーナーも認識している」
「??どういうことだ」
サトノダイヤモンドが私を見た。
「私がこの件についてシンボリルドルフ会長やシリウスシンボリさんと協力しているのには、2つ理由があります。
まず、里見家……私の実家にとって、反主流派は商売敵のようなものであること。
そしてもう一つは、芹沢トレーナーが連れてきたブリュスクマンというウマ娘について、情報を持っているからです」
「……話が見えないな。そもそも、あのウマ娘は何者なんだ。香港にいたとは言ってたが」
「クラちゃん……私の親戚で、やはり香港に留学していた新入生がいます。彼女が一度も勝てなかったのがブリュスクマンさんです。
その後イギリスでもジュニアレースのタイトルを総ナメにしたと聞いてます。芹沢トレーナーの言う通り、世界最強のウマ娘の一人でしょうね」
シンボリルドルフが頷く。
「そう、芹沢トレーナーは私達に条件を突き付けてきたのです。『半年以内にブリュスクマンに勝てなければ、10年前の真相を全てばらまく』と。
要は、私達を、トレセン学園を試しているのです。『この10年間、進歩がないなら潰れてしまった方がマシだ』と」
私は腕を組んだ。なるほど、実力主義の芹沢さんらしいといえばらしい。
「コントロールを頼みたい、というのは芹沢さんの暴走を抑えるというだけでなく、『芹沢さんに勝てるウマ娘を育てろ』ということでもあるわけか」
「シリウスはブリュスクマンのことまで知らなかったとは思いますが。まあ、そういうことです」
「しかし、私の専門は短距離とマイルだ。速筋線維を鍛えるならいいが、ブリュスクマンの得意距離は」
サトノダイヤモンドが目を閉じる。
「中距離、ですね。長距離も走れるとは聞いてますが、強いのは2000~2400」
「……なるほど。それでも私に頼むのは、私が芹沢さんのことをある程度知っている人間だからか」
「そういうことです」
「だが、ブリュスクマンを誰が倒す?新入生から候補を探すことにはなりそうだが」
・3の倍数「それには及びません」
・3の倍数以外「新入生でなくてもいいですが……」
・9の倍数かゾロ目「そう言うだろうと思いまして……」
「お待ちしておりました」
「……君か」
サトノダイヤモンドと共に会議室に入ると、シンボリルドルフが軽く一礼した。
「芹沢トレーナーのこととは聞いている。やはり君も噛んでいたか」
「ええ。どうぞ」
シンボリルドルフと向かい合って座る。いつもの温和な表情は、そこにはない。
「あの人がここに来た経緯は、シリウスシンボリから聞いている。私に彼のコントロールを頼みたいとも言ってきたが」
「ええ。彼の目的は10年前の復讐にあるのは、こちらも把握しています。無論、秋川理事長も。
それでも彼を呼び寄せたのは、反主流派への威嚇が一つ。それと……このトレセン学園の競争力強化に繋がると踏んだからです。そして、それを芹沢トレーナーも認識している」
「??どういうことだ」
サトノダイヤモンドが私を見た。
「私がこの件についてシンボリルドルフ会長やシリウスシンボリさんと協力しているのには、2つ理由があります。
まず、里見家……私の実家にとって、反主流派は商売敵のようなものであること。
そしてもう一つは、芹沢トレーナーが連れてきたブリュスクマンというウマ娘について、情報を持っているからです」
「……話が見えないな。そもそも、あのウマ娘は何者なんだ。香港にいたとは言ってたが」
「クラちゃん……私の親戚で、やはり香港に留学していた新入生がいます。彼女が一度も勝てなかったのがブリュスクマンさんです。
その後イギリスでもジュニアレースのタイトルを総ナメにしたと聞いてます。芹沢トレーナーの言う通り、世界最強のウマ娘の一人でしょうね」
シンボリルドルフが頷く。
「そう、芹沢トレーナーは私達に条件を突き付けてきたのです。『半年以内にブリュスクマンに勝てなければ、10年前の真相を全てばらまく』と。
要は、私達を、トレセン学園を試しているのです。『この10年間、進歩がないなら潰れてしまった方がマシだ』と」
私は腕を組んだ。なるほど、実力主義の芹沢さんらしいといえばらしい。
「コントロールを頼みたい、というのは芹沢さんの暴走を抑えるというだけでなく、『芹沢さんに勝てるウマ娘を育てろ』ということでもあるわけか」
「シリウスはブリュスクマンのことまで知らなかったとは思いますが。まあ、そういうことです」
「しかし、私の専門は短距離とマイルだ。速筋線維を鍛えるならいいが、ブリュスクマンの得意距離は」
サトノダイヤモンドが目を閉じる。
「中距離、ですね。長距離も走れるとは聞いてますが、強いのは2000~2400」
「……なるほど。それでも私に頼むのは、私が芹沢さんのことをある程度知っている人間だからか」
「そういうことです」
「だが、ブリュスクマンを誰が倒す?新入生から候補を探すことにはなりそうだが」
・3の倍数「それには及びません」
・3の倍数以外「新入生でなくてもいいですが……」
・9の倍数かゾロ目「そう言うだろうと思いまして……」
516: 2022/04/16(土) 16:59:41.80 ID:fbQtH9F30
ほ
517: 2022/04/16(土) 17:17:46.52 ID:2e26EyNmO
「新入生でなくても構いませんが、中等部までの誰かを条件には挙げてました。私でもいいのですが、あいにくチームシリウスに入るのが決まってまして……」
「今の時期で野良でやってる生徒は厳しいだろうな……」
私は天井を仰いだ。これはいよいよ難題だ。誰かと協力して育成に当たるか、自分で発掘するか……どちらにせよ簡単ではない。
「ブリュスクマンについて、他に情報は?」
「副会長のエアグルーヴがある程度は。彼女の母親が幼少期のブリュスクマンの面倒を見ていたとは聞いてます」
「ダイナカールさんか」
偉大なるウマ娘にしてトレーナー。そのダイナカールが基礎を固め、芹沢さんがそれを完成させたのがブリュスクマンか。どう考えても弱いはずはない。
「エアグルーヴ君はどこに」
「桜花賞の応援で阪神に。連絡取りますか?」
「……いや、戻ってきてから話そう」
さて、どうしたものか。芹沢さんはこうと決めたことは曲げない。ブリュスクマンに勝てるウマ娘をどう見つけ、育て上げるか……
※会議室を出た後……
01~30 誰とも会わない
31~70 誰かと会う(除く芹沢)
71~95 誰かと会う(???)
96~00 ここにいたか
518: 2022/04/16(土) 17:18:49.97 ID:mLeMQh1DO
えんや
519: 2022/04/16(土) 17:39:10.74 ID:2e26EyNmO
*
「ここにいたか」
サトノダイヤモンドと会議室を出た、その時だ。まるで待ち構えていたかのように、そのスキンヘッドの眼鏡の男がいた。
「……芹沢さん!?」
「大方シンボリルドルフから俺についてのブリーフィングを受けてたってとこだな。生徒会長室かここかと思ってたが」
「何もかもお見通し、ってわけですか」
「一応言うが、俺に他意はない。実力のない連中がのさばるのはゴメンというだけだ。今も昔も。
10年前も実力がない奴がでかい顔をしようとしていたから動いただけだ。ハメられたのは俺の未熟さからだが」
芹沢さんの目がサトノダイヤモンドに向いた。彼女はビクッと震え、私の後ろに隠れる。
「サトノダイヤモンドか。話は聞いてる。里見家御令嬢にして、新入生屈指の実力らしいな。……なぜシリウスに入った」
「……あなたには関係がないことです」
「確かに沖野は優秀だ。が、俺に勝つには足りない」
フッ、と見下したような笑みが浮かび、すぐ消えた。
「私なら、とでも言いたげですね」
「事故がなければカレンチャンは香港スプリントを圧勝していたはずだ。うちのゴールデンシックスティーともいい勝負ができただろう。
お前はまだ俺には及ばないが、近付いてはきている」
「買い被りすぎですよ」
「まあいずれは分かる。せっかくだから、これから飯を食いに行くか?俺の奢りだ」
「……ラーメン、ですか」
ニヤリと芹沢さんが笑った。
「話が早いな」
「ここにいたか」
サトノダイヤモンドと会議室を出た、その時だ。まるで待ち構えていたかのように、そのスキンヘッドの眼鏡の男がいた。
「……芹沢さん!?」
「大方シンボリルドルフから俺についてのブリーフィングを受けてたってとこだな。生徒会長室かここかと思ってたが」
「何もかもお見通し、ってわけですか」
「一応言うが、俺に他意はない。実力のない連中がのさばるのはゴメンというだけだ。今も昔も。
10年前も実力がない奴がでかい顔をしようとしていたから動いただけだ。ハメられたのは俺の未熟さからだが」
芹沢さんの目がサトノダイヤモンドに向いた。彼女はビクッと震え、私の後ろに隠れる。
「サトノダイヤモンドか。話は聞いてる。里見家御令嬢にして、新入生屈指の実力らしいな。……なぜシリウスに入った」
「……あなたには関係がないことです」
「確かに沖野は優秀だ。が、俺に勝つには足りない」
フッ、と見下したような笑みが浮かび、すぐ消えた。
「私なら、とでも言いたげですね」
「事故がなければカレンチャンは香港スプリントを圧勝していたはずだ。うちのゴールデンシックスティーともいい勝負ができただろう。
お前はまだ俺には及ばないが、近付いてはきている」
「買い被りすぎですよ」
「まあいずれは分かる。せっかくだから、これから飯を食いに行くか?俺の奢りだ」
「……ラーメン、ですか」
ニヤリと芹沢さんが笑った。
「話が早いな」
520: 2022/04/16(土) 17:40:45.99 ID:2e26EyNmO
※芹沢が連れて行くラーメンのジャンルか店を決定します。
安価下1~5、コンマが最も大きいものとします。
店の指定の場合、実食していない場合は断ることがありますがご了承ください。
安価下1~5、コンマが最も大きいものとします。
店の指定の場合、実食していない場合は断ることがありますがご了承ください。
522: 2022/04/16(土) 18:09:07.85 ID:pbK1NigcO
えんやカレー要素のあるラーメン
529: 2022/04/16(土) 18:52:25.51 ID:qD0HS0+AO
>>522で決定します。
有力候補がありますが、さて果たして行けるかどうか……
いかにもラーメンハゲが推しそうな店です。
有力候補がありますが、さて果たして行けるかどうか……
いかにもラーメンハゲが推しそうな店です。
535: 2022/04/17(日) 18:03:55.33 ID:GkaU9sIrO
第11R「インディアン」
536: 2022/04/17(日) 18:09:28.83 ID:GkaU9sIrO
*
「私たちだけでいいんですか」
駐車場に向けて歩く芹沢さんに言う。彼は不思議そうにこちらを振り返った。
「あ?担当のウマ娘も連れて行きたいのか?」
「いや、ブリュスクマン……あの娘に声はかけなくても」
「ああ、あいつはあまりラーメンが好きじゃなくてな。食事は徹底して管理しないと気が済まんらしい。
チートデイにしても、バランスをやけに重視したがる。困ったもんだ」
芹沢さんは肩をすくめた。
>>70以上で誰かと遭遇
「私たちだけでいいんですか」
駐車場に向けて歩く芹沢さんに言う。彼は不思議そうにこちらを振り返った。
「あ?担当のウマ娘も連れて行きたいのか?」
「いや、ブリュスクマン……あの娘に声はかけなくても」
「ああ、あいつはあまりラーメンが好きじゃなくてな。食事は徹底して管理しないと気が済まんらしい。
チートデイにしても、バランスをやけに重視したがる。困ったもんだ」
芹沢さんは肩をすくめた。
>>70以上で誰かと遭遇
537: 2022/04/17(日) 18:16:03.52 ID:6sGVCI0Ro
誰か
538: 2022/04/17(日) 18:35:44.31 ID:GkaU9sIrO
※特になし
「で、どこに?」
「お前、カレーは好きか」
「あ、まあ人並みには。カレーラーメン、ですか」
はあ、と芹沢さんはわざとらしい溜め息をついた。
「相変わらず考えが堅いな。そもそも俺がカレーラーメン屋に連れて行くと思ったか?」
「……まあ、確かに」
カレーラーメンを出す店は、最近それなりには増えてきた。「豚星。」のように本格的なエスニックと二郎系を融合させた斬新な一杯を出す店もある。
ただ、カレーラーメンには大きな弱点がある。それは……
「天王寺トレーナー、どういうことなんですか?」
「カレーにラーメンを合わせる必然性……ですね?」
芹沢さんが頷いた。
「そう。麺を中華麺にする意味がない。うどんは分かる。より厚みがあり、小麦の味も強く出るからな。
だから、巣鴨の『古奈屋』のようなベクトルでの進化があり得た。だが、ラーメンでやると『1+1=2』にしかならない。それ以上にできる店は、極々限られてる」
「二郎系と絡める店は出てきましたよ」
「だが、少ない。相当な技量が要るからな。
そもそも俺が連れて行くのはカレーラーメンの店じゃない。『カレーとラーメン』の店だ。『インディアン』は知ってるか?」
私は首を振った。芹沢さんが「使えない」と言わんばかりにまた溜め息をつく。
「ラーメンばかり詳しくなって視野が狭まってるな、お前。俺はガッカリだ」
「……」
別にラーメンばかり食べているわけではない、と反論しようとしてやめた。視野が狭いという言葉に、いささか思い当たるフシがあったからだ。
芹沢さんが嘲り笑うようにして続ける。
「そもそも『旨いもの』じゃなきゃ意味がないと思い込んでないか?違う、違うね。
行く前に言っておく。これから行く店は『マズい店』だ。ラーメンもカレーも、正直旨くない。だが、食う価値が大いにある」
「どういう……?」
「食えば分かる。そして、お前に何が欠けてるかも分かるはずだ」
「で、どこに?」
「お前、カレーは好きか」
「あ、まあ人並みには。カレーラーメン、ですか」
はあ、と芹沢さんはわざとらしい溜め息をついた。
「相変わらず考えが堅いな。そもそも俺がカレーラーメン屋に連れて行くと思ったか?」
「……まあ、確かに」
カレーラーメンを出す店は、最近それなりには増えてきた。「豚星。」のように本格的なエスニックと二郎系を融合させた斬新な一杯を出す店もある。
ただ、カレーラーメンには大きな弱点がある。それは……
「天王寺トレーナー、どういうことなんですか?」
「カレーにラーメンを合わせる必然性……ですね?」
芹沢さんが頷いた。
「そう。麺を中華麺にする意味がない。うどんは分かる。より厚みがあり、小麦の味も強く出るからな。
だから、巣鴨の『古奈屋』のようなベクトルでの進化があり得た。だが、ラーメンでやると『1+1=2』にしかならない。それ以上にできる店は、極々限られてる」
「二郎系と絡める店は出てきましたよ」
「だが、少ない。相当な技量が要るからな。
そもそも俺が連れて行くのはカレーラーメンの店じゃない。『カレーとラーメン』の店だ。『インディアン』は知ってるか?」
私は首を振った。芹沢さんが「使えない」と言わんばかりにまた溜め息をつく。
「ラーメンばかり詳しくなって視野が狭まってるな、お前。俺はガッカリだ」
「……」
別にラーメンばかり食べているわけではない、と反論しようとしてやめた。視野が狭いという言葉に、いささか思い当たるフシがあったからだ。
芹沢さんが嘲り笑うようにして続ける。
「そもそも『旨いもの』じゃなきゃ意味がないと思い込んでないか?違う、違うね。
行く前に言っておく。これから行く店は『マズい店』だ。ラーメンもカレーも、正直旨くない。だが、食う価値が大いにある」
「どういう……?」
「食えば分かる。そして、お前に何が欠けてるかも分かるはずだ」
541: 2022/04/17(日) 20:36:53.03 ID:OOeTViQHO
*
芹沢さんのヤリスクロスは首都高に入った。どうにも空気が重い。それを察したか、サトノダイヤモンドが切り出した。
「芹沢トレーナーって、香港にいたんですよね。クラちゃん……サトノクラウンとも面識が?」
「ああ。里見家の分家の娘か。あれはなかなかだったな。ブリュスクマンがいなければ、香港でも名を馳せてただろう」
「ブリュスクマンさんって、どんな人なんですか」
芹沢さんが少し顔をしかめた。
「それを聞いてどうする」
「これからトレセン学園で過ごす仲間ですから。少しでも知りたいなと」
「ハハハハハ!!!面白いな、『仲間』と来たか!里見家の御令嬢、随分能天気だな。札束で殴るのを好むあの親父にしては平和主義な娘だ。
それとも何か、情報を聞き出すことで弱点でも探ろうと?そんなに俺は甘くない」
「……そういうわけでは」
「冗談だ。まあ堅物だよ。勝利こそ至高というのは俺の教えでもあるが、あの女の影響が大きいようだな」
「ダイナカールさん、ですか」
ニヤリ、と芹沢さんが笑う。
「本格デビュー前の、小学校低学年専門に指導している理由は俺にも分からんがね。
俺はまだ会ったことがないが、あいつの娘もあんなキャラクターなんだろ。どこか飄々としていて、掴み所がない奴だ」
エアグルーヴの性格とは随分離れているようだが、それは言わないことにしておいた。
*
車は蓮沼駅前のパーキングに停められた。すぐに何人かの列が店の前にできているのが見えた。
「『武田流古式カレーライス 支那そば』……武田流とは」
「ここの創業者の名字だよ。資生堂パーラーの出身だったらしいが、故人でもう今はいない。何せ創業70年近いからな」
70年……一線級のラーメン店としては最古の部類に入る。なぜ知らなかった?
「セットメニューは食べ方があるんですね。『最初に支那そばを出して、頃合いを見てカレーをお出しします』……同時に出るわけじゃないんですね」
「そこが肝だ」
支那そばとカレーのセットを注文する。客はほぼ全員がこれか、半カレーのセットを頼んでいるようだった。
芹沢さんのヤリスクロスは首都高に入った。どうにも空気が重い。それを察したか、サトノダイヤモンドが切り出した。
「芹沢トレーナーって、香港にいたんですよね。クラちゃん……サトノクラウンとも面識が?」
「ああ。里見家の分家の娘か。あれはなかなかだったな。ブリュスクマンがいなければ、香港でも名を馳せてただろう」
「ブリュスクマンさんって、どんな人なんですか」
芹沢さんが少し顔をしかめた。
「それを聞いてどうする」
「これからトレセン学園で過ごす仲間ですから。少しでも知りたいなと」
「ハハハハハ!!!面白いな、『仲間』と来たか!里見家の御令嬢、随分能天気だな。札束で殴るのを好むあの親父にしては平和主義な娘だ。
それとも何か、情報を聞き出すことで弱点でも探ろうと?そんなに俺は甘くない」
「……そういうわけでは」
「冗談だ。まあ堅物だよ。勝利こそ至高というのは俺の教えでもあるが、あの女の影響が大きいようだな」
「ダイナカールさん、ですか」
ニヤリ、と芹沢さんが笑う。
「本格デビュー前の、小学校低学年専門に指導している理由は俺にも分からんがね。
俺はまだ会ったことがないが、あいつの娘もあんなキャラクターなんだろ。どこか飄々としていて、掴み所がない奴だ」
エアグルーヴの性格とは随分離れているようだが、それは言わないことにしておいた。
*
車は蓮沼駅前のパーキングに停められた。すぐに何人かの列が店の前にできているのが見えた。
「『武田流古式カレーライス 支那そば』……武田流とは」
「ここの創業者の名字だよ。資生堂パーラーの出身だったらしいが、故人でもう今はいない。何せ創業70年近いからな」
70年……一線級のラーメン店としては最古の部類に入る。なぜ知らなかった?
「セットメニューは食べ方があるんですね。『最初に支那そばを出して、頃合いを見てカレーをお出しします』……同時に出るわけじゃないんですね」
「そこが肝だ」
支那そばとカレーのセットを注文する。客はほぼ全員がこれか、半カレーのセットを頼んでいるようだった。
542: 2022/04/17(日) 20:55:41.74 ID:OOeTViQHO
しばらくすると、透明に近いスープのラーメンの丼が、私たちの前に置かれた。見た目はクラシカルな塩ラーメンだ。
具もほうれん草にバラ肉のチャーシュー、ネギにメンマ、ゆで卵と珍しいものはない。
サトノダイヤモンドも少し拍子抜けしたようだった。
「……塩、ですか」
「まあ食え、俺たちは情報を食いに来たわけじゃない」
芹沢さんに促され、レンゲでスープを口にする。
塩ベースで鰹節の旨味がじんわりと口内に広がった。焦がしネギの風味がアクセントにもなっている。なるほど、丁寧な味だ。
だが、これは……
「味、薄いですね」
サトノダイヤモンドが呟いた。そう、薄い。淡いと言ってもいい。
芹沢さんの「清流房」の「淡口らあめん」も、旨味が玄妙で食べ手の舌を問うような繊細な味だった。
だが、これは……それにしても薄い。麺と食べれば味の骨格は少しはっきりするが、物足りなさは否めない。
「……店内で批判はご法度だぞ」
「すみません!つい……」
私とサトノダイヤモンドのやり取りを見た芹沢さんがニタリと口の端を上げた。
「いや、その反応は正しい。まさか天王寺、お前は味がしっかりしているとか言わないよな?」
「……!!いや、その……」
「まあいい。で、カレーが来たぞ」
皿に盛られたカレールーは、かなり黒っぽい。本格的な欧風カレーのようだが……
スプーンで一匙食べる。……今度は濃い。というより少し苦い。
スパイスや果物の複雑な味わいはある。だが、それを苦味が覆い隠してしまっていて、どこかぼんやりとしている。
まずくはないし、手間のかかったものだというのは分かる。だが、メニューにある「このカレーより美味しいカレーがあったら教えて下さい」という店主の自負は、明らかに言い過ぎだ。
芹沢さんはというと、ニヤニヤしながらこちらを見ている。これを食べさせることの意図は、どこかにあるはずだ。
そう思い、スプーンを箸に持ち替えて、ラーメンの麺を啜る。
……
…………
パシーンッッッ!!!
543: 2022/04/17(日) 21:09:01.67 ID:OOeTViQHO
「うおっっ!!?」
「えっ!!?」
これは……何だ!?まるで、全く違うラーメンではないかっ!!
口の中の苦味が、淡いラーメンのスープで洗い流され、複雑なスパイスと野菜、果物の旨味が顔を出す。
それだけではない。スープの魚介系の旨味がそれを補強し、数段グレードアップした味へと変化している……!?
芹沢さんは麺を啜りながら、なおもニヤニヤ笑っている。
「どうだ?『不味いラーメンとカレー』の味は」
私はもう一度カレーを口にする。確かに苦く、癖がある。
しかしその後にラーメンを食べることで、その真価は発揮される。そういう設計のセットなのだ。
ラーメンの薄い味に舌を慣らさせておいて、その後で苦いカレー。そしてもう一度ラーメンに戻ることで、「1+1」は5にも10にもなる。
カレーラーメンの多くが実現し得ないシナジーが、ここでは実現していると言えた。
……シナジー……そういうことか!!
芹沢さんに視線を戻す。皮肉めいた笑みが、普通の微笑みに変わった。
「気付いたな」
私は頷く。芹沢さんは立ち上がった。
「俺が塩を送るのはここまでだ。あとは自力で俺の域まで上がってこい、天王寺。
車はお前がトレセン学園まで運転して帰れ。俺には寄る所がある」
「え」
「じゃあ、また学園で、だ」
544: 2022/04/17(日) 21:29:28.35 ID:OOeTViQHO
*
「さっきの芹沢トレーナーの台詞、どういうことだったんでしょうか」
助手席のサトノダイヤモンドが呟く。
「思い込みに囚われるなということ、そして勝ちパターンは一つじゃないってことだな」
「……というと?」
「マズいと思っているものでも、組み合わせ次第で一線級の味になる。正面突破だけが、勝ち筋じゃないってわけだ」
「でも、それをどうやって」
私は彼女の顔を見た。確か、彼女はステイヤー寄りと聞いている。キタサンブラックもそうだ。
どちらも、マイルや短距離中心の私の育成方針とは噛み合わない。
……だが、協力すれば?彼女たちに恐らくは足りない、勝負所でのスパート力を身に着けさせることはできるのでは?
その逆もしかりだ。バクシンオーやカレンに持久力を付けさせる可能性を、私は排除していなかったか。
そうなると、手としては……
>>90以上で次回登場キャラが1人固定
「さっきの芹沢トレーナーの台詞、どういうことだったんでしょうか」
助手席のサトノダイヤモンドが呟く。
「思い込みに囚われるなということ、そして勝ちパターンは一つじゃないってことだな」
「……というと?」
「マズいと思っているものでも、組み合わせ次第で一線級の味になる。正面突破だけが、勝ち筋じゃないってわけだ」
「でも、それをどうやって」
私は彼女の顔を見た。確か、彼女はステイヤー寄りと聞いている。キタサンブラックもそうだ。
どちらも、マイルや短距離中心の私の育成方針とは噛み合わない。
……だが、協力すれば?彼女たちに恐らくは足りない、勝負所でのスパート力を身に着けさせることはできるのでは?
その逆もしかりだ。バクシンオーやカレンに持久力を付けさせる可能性を、私は排除していなかったか。
そうなると、手としては……
>>90以上で次回登場キャラが1人固定
545: 2022/04/17(日) 21:34:26.50 ID:ZHcqOQgNo
あ
546: 2022/04/17(日) 21:43:37.15 ID:OOeTViQHO
※通常ルート
今後の展開を以下のうちから決めます。
1 三田村トレーナーと協力してキタサンブラックを育てる
2 沖野トレーナーと協力してサトノダイヤモンドを育てる
3 誰かと協力してカレンチャンを育てる
4 その他
3票先取多数決です。
今後の展開を以下のうちから決めます。
1 三田村トレーナーと協力してキタサンブラックを育てる
2 沖野トレーナーと協力してサトノダイヤモンドを育てる
3 誰かと協力してカレンチャンを育てる
4 その他
3票先取多数決です。
552: 2022/04/17(日) 23:13:26.78 ID:OOeTViQHO
では3で決定します。
次回更新は週末予定です。
次回更新は週末予定です。
554: 2022/04/23(土) 19:52:22.10 ID:E72VjbcHO
第12R
555: 2022/04/23(土) 20:16:50.21 ID:E72VjbcHO
*
「えっ?カレンが中距離を?冗談でしょ、お兄ちゃん」
翌日、カレンにブリュスクマンの話をすると引きつった顔で返された。
「冗談じゃない。私も考えに考えた結果だ」
「でも、カレンは1400までしか走れないよ?マイルだとすぐバテちゃうし。
そもそも、キタちゃんとかじゃダメなの?同じ中等部1年だし」
「ブリュスクマンという子は、相当な猛者らしい。今年のダービーはもう決まりだと言われてる。何なら凱旋門賞も。
だから、一芸に秀でたタイプのウマ娘が、奇襲をかけて勝つしかない。瞬間の加速力ならお前は誰にも負けない。
中等部1年の時、去年卒業したあの『史上最強スプリンター』にも勝ってみせたじゃないか」
「あれはたまたまだし……それに、2400を走るなんて絶対に無理だよ」
カレンは困惑を隠せない様子だ。それはとてもよく分かる。だが、これが最適解である予感はあった。
私の速筋中心の瞬発力トレーニングに、誰かの持久力トレーニングを組み合わせれば……スプリンターも2000程度なら走れる可能性がある。
前例はある。かつて、私は一人のウマ娘を育て上げたことがある。私がトレーナーになりたての頃に担当した娘だ。
今は主婦となって一般人として生きていると聞くが、その栄光はいまだ色褪せない。
史上唯一、天皇賞春とスプリンターズステークスの両方を制したウマ娘。その名は……
01~85 何もなし
86~95 あっ、知ってます!
96~00 電話がかかってくる(オリキャラ登場注意)
「えっ?カレンが中距離を?冗談でしょ、お兄ちゃん」
翌日、カレンにブリュスクマンの話をすると引きつった顔で返された。
「冗談じゃない。私も考えに考えた結果だ」
「でも、カレンは1400までしか走れないよ?マイルだとすぐバテちゃうし。
そもそも、キタちゃんとかじゃダメなの?同じ中等部1年だし」
「ブリュスクマンという子は、相当な猛者らしい。今年のダービーはもう決まりだと言われてる。何なら凱旋門賞も。
だから、一芸に秀でたタイプのウマ娘が、奇襲をかけて勝つしかない。瞬間の加速力ならお前は誰にも負けない。
中等部1年の時、去年卒業したあの『史上最強スプリンター』にも勝ってみせたじゃないか」
「あれはたまたまだし……それに、2400を走るなんて絶対に無理だよ」
カレンは困惑を隠せない様子だ。それはとてもよく分かる。だが、これが最適解である予感はあった。
私の速筋中心の瞬発力トレーニングに、誰かの持久力トレーニングを組み合わせれば……スプリンターも2000程度なら走れる可能性がある。
前例はある。かつて、私は一人のウマ娘を育て上げたことがある。私がトレーナーになりたての頃に担当した娘だ。
今は主婦となって一般人として生きていると聞くが、その栄光はいまだ色褪せない。
史上唯一、天皇賞春とスプリンターズステークスの両方を制したウマ娘。その名は……
01~85 何もなし
86~95 あっ、知ってます!
96~00 電話がかかってくる(オリキャラ登場注意)
557: 2022/04/23(土) 20:36:05.14 ID:E72VjbcHO
※特になし
「そもそもどうやって2400を走らせるの?そんな無茶なこと言ってると、お兄ちゃんのことキライになっちゃうよ?」
私は腕を組んだ。かつて担当していた「彼女」は天才だった。そして、元がステイヤー寄りだったから速筋トレーニングが機能した。
カレンは違う。瞬発力は身内ながら目を見張るものがある。だが、「彼女」ほどの天賦の才はない。どちらかといえば、努力型なのだ。
だから、誰かに力を借りる必要がある。心当たりはもちろんあるが、さて……
1 三田村トレーナーを呼ぶ
2 塩田トレーナーを呼ぶ
3 アリームトレーナーを呼ぶ
4 その他(自由に書いてください)
>>3票先取
※なお「彼女」の連絡先は知らないものとします
「そもそもどうやって2400を走らせるの?そんな無茶なこと言ってると、お兄ちゃんのことキライになっちゃうよ?」
私は腕を組んだ。かつて担当していた「彼女」は天才だった。そして、元がステイヤー寄りだったから速筋トレーニングが機能した。
カレンは違う。瞬発力は身内ながら目を見張るものがある。だが、「彼女」ほどの天賦の才はない。どちらかといえば、努力型なのだ。
だから、誰かに力を借りる必要がある。心当たりはもちろんあるが、さて……
1 三田村トレーナーを呼ぶ
2 塩田トレーナーを呼ぶ
3 アリームトレーナーを呼ぶ
4 その他(自由に書いてください)
>>3票先取
※なお「彼女」の連絡先は知らないものとします
558: 2022/04/23(土) 20:38:28.53 ID:bkYi74Xyo
上から
ライス
パーマー
マックイーン
の友情トレ相手選択か……
3で
ライス
パーマー
マックイーン
の友情トレ相手選択か……
3で
559: 2022/04/23(土) 20:47:46.05 ID:XxHr+Rm1o
1
567: 2022/05/01(日) 21:56:18.67 ID:n1nbGtiAO
*
「えっ?私にカレンチャンのトレーニングを?」
三田村嬢は目を丸くした。後ろでストレッチをしていたライスシャワーやキタサンブラックも、驚きを隠せない様子だ。
「はい。無茶な話とは思ってます。ですが、あなたしか私には思いつかなかった」
私は芹沢さんとの約束と、ビュルスクマンに勝つためにカレンを鍛え直す話をした。
半年という短い期間で1から正攻法でやっても勝てる望みは薄いこと、
そのためには瞬発力という一芸で既に彼女を明らかに上回っているカレンを中距離仕様にすることが必要なことも話した。
一通り説明が終わると、「うーん……」と三田村嬢が唸った。
「……事情は分かりました。でも、何故私に?塩田さんの方が経験はあるでしょう」
「ライスを育て上げた実績を買いました。あなたのトレーナー歴で長距離G1を複数勝つのは並大抵じゃない。
無論、ライスにそれだけの才能があったのは知ってます。ただ、決してトッププロスペクトじゃなかった彼女の才能を開花させたのは、間違いなくあなたの手腕だ」
「……カレンチャンは何と?」
「正直、渋ってます。気持ちは分かるし、私の中にも迷いはある。……行けそうですか?」
※三田村トレーナーの反応
01~40 考えさせて下さい
41~80 手はあります
81~95 ライス、いい考えがあるよ
96~00 ……実は
「えっ?私にカレンチャンのトレーニングを?」
三田村嬢は目を丸くした。後ろでストレッチをしていたライスシャワーやキタサンブラックも、驚きを隠せない様子だ。
「はい。無茶な話とは思ってます。ですが、あなたしか私には思いつかなかった」
私は芹沢さんとの約束と、ビュルスクマンに勝つためにカレンを鍛え直す話をした。
半年という短い期間で1から正攻法でやっても勝てる望みは薄いこと、
そのためには瞬発力という一芸で既に彼女を明らかに上回っているカレンを中距離仕様にすることが必要なことも話した。
一通り説明が終わると、「うーん……」と三田村嬢が唸った。
「……事情は分かりました。でも、何故私に?塩田さんの方が経験はあるでしょう」
「ライスを育て上げた実績を買いました。あなたのトレーナー歴で長距離G1を複数勝つのは並大抵じゃない。
無論、ライスにそれだけの才能があったのは知ってます。ただ、決してトッププロスペクトじゃなかった彼女の才能を開花させたのは、間違いなくあなたの手腕だ」
「……カレンチャンは何と?」
「正直、渋ってます。気持ちは分かるし、私の中にも迷いはある。……行けそうですか?」
※三田村トレーナーの反応
01~40 考えさせて下さい
41~80 手はあります
81~95 ライス、いい考えがあるよ
96~00 ……実は
569: 2022/05/01(日) 21:56:46.57 ID:78PruUIj0
ほ
570: 2022/05/01(日) 22:11:39.33 ID:n1nbGtiAO
「……手はあります。ただ、自信があるわけじゃないですが」
「手、ですか」
「ええ。持久系のトレーニングは、天王寺トレーナーの速筋中心のトレーニングとは違います。重要なのは、リカバリーなんです。
地道な走り込みに酸素カプセルによる休養を組み合わせ、超回復を促す。野球選手がよく使っている手法を、私も採用してます」
後ろのライスシャワーが頷いた。
「うん、ライス、三田村さんのおかげで強くなったよ。息切れもしなくなったし」
「なるほど。ただ、自信がないとは」
「スプリンターの娘に同じ手法が通用するか分からないというのが一つです。私にとっても、初めての取り組みですから……。
もう一つは、ブリュスクマンという子が突き抜けた化け物かもしれないということ。それでもやるなら、是非とも協力させて下さい」
眼鏡の奥から、強い意志が見えた。私も首を縦に振る。
「ありがとうございます。後はカレンの意思ですね」
※カレンチャンの反応
01~35 ……三田村さん、かあ……別の人いないの?
36~70 うーん、やってみるかなあ
71~90 うん、分かった。いいよ
91~00 ふふふ~ん♪
571: 2022/05/01(日) 22:16:30.20 ID:8Htbn4vPo
あ
573: 2022/05/01(日) 22:30:03.48 ID:n1nbGtiAO
*
三田村嬢と部屋に入ると、カレンの表情が曇った。
「何お兄ちゃん?三田村さんと一緒に」
「いや、例の中距離を走るって話だが……」
「だからカレンには無理!というかなんで三田村さんなの?別の人はいないの?」
私は三田村嬢と顔を見合わせた。こんな刺々しい対応をされるとは、予想外だ。
「……私なりに考えた結果なんだが」
「嫌なものは嫌なの!この話はおしまいっ!」
カレンはプイと立ち去ろうとする。……これは参った。
そこに、甲高い声が響いた。
「待つのです!」
「……バクちゃん?」
「学級委員長として、ちゃんと話は最後まで聞くべきだと思います!トレーナーさんにも考えがあるはずです!」
珍しく厳しい表情で言うバクシンオーの気迫に圧されたのか、カレンが席に戻った。
「……分かった。で、どういうことなの」
私は三田村嬢との共同トレーニングを説明し始めた。カレンは一応聞いているが、不満そうな気配は消えていない。
「……というわけだが」
「話は分かったよ、お兄ちゃん。でも、嫌なものは嫌。せめて、三田村さん以外に……」
>>3人の反応
01~30 特になし
31~75 三田村トレーナー、何かに気付く
76~95 天王寺も何かに気付く
96~00 ややっ、そういうことでしたか!
三田村嬢と部屋に入ると、カレンの表情が曇った。
「何お兄ちゃん?三田村さんと一緒に」
「いや、例の中距離を走るって話だが……」
「だからカレンには無理!というかなんで三田村さんなの?別の人はいないの?」
私は三田村嬢と顔を見合わせた。こんな刺々しい対応をされるとは、予想外だ。
「……私なりに考えた結果なんだが」
「嫌なものは嫌なの!この話はおしまいっ!」
カレンはプイと立ち去ろうとする。……これは参った。
そこに、甲高い声が響いた。
「待つのです!」
「……バクちゃん?」
「学級委員長として、ちゃんと話は最後まで聞くべきだと思います!トレーナーさんにも考えがあるはずです!」
珍しく厳しい表情で言うバクシンオーの気迫に圧されたのか、カレンが席に戻った。
「……分かった。で、どういうことなの」
私は三田村嬢との共同トレーニングを説明し始めた。カレンは一応聞いているが、不満そうな気配は消えていない。
「……というわけだが」
「話は分かったよ、お兄ちゃん。でも、嫌なものは嫌。せめて、三田村さん以外に……」
>>3人の反応
01~30 特になし
31~75 三田村トレーナー、何かに気付く
76~95 天王寺も何かに気付く
96~00 ややっ、そういうことでしたか!
574: 2022/05/01(日) 22:35:06.93 ID:78PruUIj0
えい
576: 2022/05/01(日) 22:51:18.96 ID:n1nbGtiAO
「あっ」
三田村嬢が声を上げた。一瞬ちらりと私を見る。それでようやく私も理解した。
……なるほど、そういうことか。
「少し、席を外していいか?三田村トレーナーと相談したい」
「……!?いいけど」
トレーナー室を出て、空いていた実習室に入った。ここなら、誰にも聞かれない。
「カレンの件ですが」
「ええ。嫉妬、ですよね。彼女、天王寺トレーナーを『お兄ちゃん』と呼ぶほど慕ってますし……」
「いや、実は……実妹なんです。母を早いうちに亡くして、私が育てたという事情が」
「……!!そういうことでしたか、なおさら納得が行きました。……なるほど」
基本人には猫を被るカレンが、いきなり敵意剥き出しにするというのはとても珍しい。その時点で、私も気付くべきだった。
つまり、私を取られると思っているのだ。それは考えすぎなのだが。
「ええ。だからちゃんと説明すれば……」
三田村嬢は難しい顔をしている。何を考えているのだろう。
※天王寺と三田村トレーナーの反応
01~75 何も起きない
76~95 ……あ
96~00 天王寺トレーナー、大事なお話が
577: 2022/05/01(日) 22:53:22.85 ID:0Ii85YRsO
や
579: 2022/05/01(日) 23:24:39.33 ID:n1nbGtiAO
一瞬、またちらりと三田村嬢が私を見た。眼鏡の奥に見えるその瞳が、わずかに熱を帯びているように見える。
……あ。
いや、そんなはずはない。この34年、女性とはほぼ無縁で生きてきたからだ。
だが、この向けられている感情は……覚えがないわけじゃない。
これは、恋愛感情だ。
大学時代に、一度だけだが交際経験はある。一応それなりのこともしたが、「堅物で面白くない」と半年で別れた。
だから、私に恋愛は向いていないと思っていたし、実際それっきりだった。そして、そういうものだろうとも思っていた。
ウマ娘のトレーナーになってからもそうだ。担当のウマ娘とは、常に一線を引くよう心掛けてきた。
トレーナーと結ばれるウマ娘は決して少なくはないが、私にはそういうのは合わない。あくまで一指導者として在るべきだと思うようにしていたし、それは正しかった。
公平に、そして的確に。それが今の私の地位を作り上げたのは、疑いない。
だから、きっとこのまま独りで生きていくのだろうと思っていた。それが嫌だというわけじゃないし、寂しいわけでもない。
だが、人に異性として好意を向けられることはあるとは……正直、想定の外にあった。
そして、三田村嬢の感情を理解した瞬間、カレンの心情も推察できた。
……カレンは、三田村嬢の私への感情を理解しているのではないか?
思えば、そういうフシはあった。豚星。に行った時も、牽制するようなことを確か言っていた気がする。
「……三田村トレーナー」
「えっ!?はいっ、な、何でしょう?」
自分の彼女に対する感情は、決して悪いものではない。ただ、恋愛感情かと言えばまだそうでもない。
そうである以上は、ここでカレンの感情を伝えることは、あまり望ましくないように思えた。
とすると……
「……一度、三田村トレーナーからカレンをご飯に誘ってみてくれませんか?」
「え?」
「私は抜きです。こういうのは、女性同士の方が上手くいく。あと、もちろんお礼もします」
「でも、どこに連れていけばいいか……」
私はニコリと笑った。
「もちろん、心当たりはあります」
595: 2022/05/07(土) 18:13:32.74 ID:DL8oELkfO
第12R 「神田とりそば なな蓮」
596: 2022/05/07(土) 18:30:27.28 ID:DL8oELkfO
*
「天王寺トレーナー、遅くなるって」
そう告げると、カレンチャンの表情が明らかに不機嫌そうになった。
「……どのくらいですか?」
「分からないわ、急用が入ったって」
「……そうですか」
分かりやすく塩対応だ。そもそもここに来るまでも、彼女は終始無言でスマホを弄るだけだった。
それはそうだろう。彼女にとって私は天王寺トレーナーを奪う「敵」なのだ。
3人で食事という体で(もちろん天王寺トレーナーの協力も得て)彼女を誘ったのだけど、「どうしてもというなら」と反応は極めて芳しくないものだった。
……本当に上手く行くのかしら……
もちろん、天王寺トレーナーに急用が入ったというのは嘘だ。あくまで私たち2人で話し合うのが狙いだ。
確かに、腹を割って話した方が上手くいくかもしれない。だけど、失敗したら……
私は一度胸に手を当て、大きく深呼吸した。
なぜ天王寺トレーナーが、こんな提案をしたのか。それは私を信頼してくれているからに他ならない。
……でも、何を言えばいいんだろう。「お兄さんのために協力して」?それとも、芹沢トレーナーのことを、洗いざらい話す?
どちらも、多分上手くはいかない。カレンチャンは頭がいいだけじゃなく、我も強い子だ。あまりそうは見せないだけで。
取り繕った言葉はすぐに見透かされる。綺麗事を言っても、きっと「カレンには関係ない」と一蹴されるだろう。
……とすると。
「三田村さん?」
カレンチャンが訝しげに訊いてきた。そう、これしかない。
「いえ、何でも。予約していたお店に、先に行きましょうか」
「天王寺トレーナー、遅くなるって」
そう告げると、カレンチャンの表情が明らかに不機嫌そうになった。
「……どのくらいですか?」
「分からないわ、急用が入ったって」
「……そうですか」
分かりやすく塩対応だ。そもそもここに来るまでも、彼女は終始無言でスマホを弄るだけだった。
それはそうだろう。彼女にとって私は天王寺トレーナーを奪う「敵」なのだ。
3人で食事という体で(もちろん天王寺トレーナーの協力も得て)彼女を誘ったのだけど、「どうしてもというなら」と反応は極めて芳しくないものだった。
……本当に上手く行くのかしら……
もちろん、天王寺トレーナーに急用が入ったというのは嘘だ。あくまで私たち2人で話し合うのが狙いだ。
確かに、腹を割って話した方が上手くいくかもしれない。だけど、失敗したら……
私は一度胸に手を当て、大きく深呼吸した。
なぜ天王寺トレーナーが、こんな提案をしたのか。それは私を信頼してくれているからに他ならない。
……でも、何を言えばいいんだろう。「お兄さんのために協力して」?それとも、芹沢トレーナーのことを、洗いざらい話す?
どちらも、多分上手くはいかない。カレンチャンは頭がいいだけじゃなく、我も強い子だ。あまりそうは見せないだけで。
取り繕った言葉はすぐに見透かされる。綺麗事を言っても、きっと「カレンには関係ない」と一蹴されるだろう。
……とすると。
「三田村さん?」
カレンチャンが訝しげに訊いてきた。そう、これしかない。
「いえ、何でも。予約していたお店に、先に行きましょうか」
597: 2022/05/07(土) 19:32:18.81 ID:DL8oELkfO
*
「……まさか、居酒屋ですか?」
「ラーメン屋って聞いてたけど……」
店構えは少し渋めの居酒屋バーに近い感じだ。店選びは天王寺トレーナーがしてくれたわけだけど……大丈夫かしら。
店内に入ると、炭火焼鳥の香ばしい香りが広がっていた。ジャズが流れていて、小洒落た雰囲気ではある。
「予約していた天王寺ですが……」
「お待ちしておりました、どうぞこちらへ」
小上がりに通され、カレンチャンと向かい合う。彼女はいよいよ機嫌が悪い。
「本当にお兄ちゃん来るんですよね?来ないなら帰りますよ」
「ちょっと待って。……とりあえず、軽く注文だけしましょうか」
なるほど、ちゃんとラーメンもある。しかも、麺は国産ブランド粉と本格的だ。
ただ、いきなりラーメンというのも変だろう。ここはちゃんと頼んでおこう。
「ご注文は?」
「えっと……皮にねぎま、それにトマトを。あと……この『ちゃざく』というのもお願いします。飲み物は……ウーロン茶をふた……」
……ノンアルで、素面のままでやれるのだろうかと、ふと思った。未成年者の前でお酒は教育者としてマズい。
でも、本音をぶちまけるには、これだ。
「ウーロン茶と、『黒龍』をお願いします」
「かしこまりました」
店員が厨房に入っていくなり、カレンチャンが私を睨んだ。
「今頼んだの、まさかお酒ですか?」
「ええ。お兄さんが来る前で悪いけど」
「……信じられない。そんな常識のない人だとは思いませんでした」
「そうね、でも常識を超えないと、仕方のないこともあるわ」
やがて、お通しとウーロン茶、そして日本酒の入ったグラスと枡がテーブルに運ばれてきた。
私はそれを、一気に飲み干す。
「えっ??」
喉を熱い液体が流れていく。芳醇な香りと甘みが口の中に広がり、体温が一気に上がっていった。
「……ぷは」
「ちょっと……」
「ごめんなさい~、今のと同じの、もう一つで」
カレンチャンが、唖然とした様子で私を見ている。そんな彼女に、私は微笑んだ。
「ふふ。ちょっとテンション、上がっちゃった。ごめんなさいね、お酒の力を借りたかったの」
「……は?」
「知ってるの。あなたと天王寺トレーナーが、実の兄妹ということ。知ったのは、ここ最近だけど」
「まさか、お兄ちゃんが?」
「ええ。それで色々納得が行ったの。なんで私のことを、あなたが拒否したのか。
私はあなたにとって『泥棒猫』。そうじゃない?」
「……まさか、居酒屋ですか?」
「ラーメン屋って聞いてたけど……」
店構えは少し渋めの居酒屋バーに近い感じだ。店選びは天王寺トレーナーがしてくれたわけだけど……大丈夫かしら。
店内に入ると、炭火焼鳥の香ばしい香りが広がっていた。ジャズが流れていて、小洒落た雰囲気ではある。
「予約していた天王寺ですが……」
「お待ちしておりました、どうぞこちらへ」
小上がりに通され、カレンチャンと向かい合う。彼女はいよいよ機嫌が悪い。
「本当にお兄ちゃん来るんですよね?来ないなら帰りますよ」
「ちょっと待って。……とりあえず、軽く注文だけしましょうか」
なるほど、ちゃんとラーメンもある。しかも、麺は国産ブランド粉と本格的だ。
ただ、いきなりラーメンというのも変だろう。ここはちゃんと頼んでおこう。
「ご注文は?」
「えっと……皮にねぎま、それにトマトを。あと……この『ちゃざく』というのもお願いします。飲み物は……ウーロン茶をふた……」
……ノンアルで、素面のままでやれるのだろうかと、ふと思った。未成年者の前でお酒は教育者としてマズい。
でも、本音をぶちまけるには、これだ。
「ウーロン茶と、『黒龍』をお願いします」
「かしこまりました」
店員が厨房に入っていくなり、カレンチャンが私を睨んだ。
「今頼んだの、まさかお酒ですか?」
「ええ。お兄さんが来る前で悪いけど」
「……信じられない。そんな常識のない人だとは思いませんでした」
「そうね、でも常識を超えないと、仕方のないこともあるわ」
やがて、お通しとウーロン茶、そして日本酒の入ったグラスと枡がテーブルに運ばれてきた。
私はそれを、一気に飲み干す。
「えっ??」
喉を熱い液体が流れていく。芳醇な香りと甘みが口の中に広がり、体温が一気に上がっていった。
「……ぷは」
「ちょっと……」
「ごめんなさい~、今のと同じの、もう一つで」
カレンチャンが、唖然とした様子で私を見ている。そんな彼女に、私は微笑んだ。
「ふふ。ちょっとテンション、上がっちゃった。ごめんなさいね、お酒の力を借りたかったの」
「……は?」
「知ってるの。あなたと天王寺トレーナーが、実の兄妹ということ。知ったのは、ここ最近だけど」
「まさか、お兄ちゃんが?」
「ええ。それで色々納得が行ったの。なんで私のことを、あなたが拒否したのか。
私はあなたにとって『泥棒猫』。そうじゃない?」
598: 2022/05/07(土) 19:33:09.45 ID:DL8oELkfO
「……呆れた。そんなの、意識しすぎ……」
「でもないわ。確かに、私は天王寺さんが好き。だから、あなたが私を敵視するのも正しい」
カレンチャンは黙って私を見ていた。そして、絞り出すように呟く。
「……まさか、もうお兄ちゃんと」
「いいえ。今は完全な片想い。あなたが心配することは、何にもないわ」
運ばれてきたお酒を、一口口にする。
「でも、片想いのままいるつもりもない。だからこれは、一種の『宣戦布告』ってわけ」
彼女が歪んだ笑みを浮かべた。
「思ったより全然いい性格してますね。優等生キャラだと思ってました」
「あなたもね。『カワイイカレンチャン』は、あくまで余所行きの演技。そっちの辛辣な方が素でしょ?」
「お兄ちゃんから聞いたんですか」
「いいえ、単なる推察」
焼き鳥を口にすると、炭火の香りとともに豊かな肉汁が溢れた。ラーメン屋のレベルじゃない、本格的な地鶏の焼き鳥だ。
「……猫を被るのが上手いあなたには、こうやって本音で話した方がいいと思ったの。そうじゃないと、きっと信用してもらえない」
「本音を言ったところで、信用するとでも思いました?」
「いえ、思わないわ。でも、私にはこれしか思い付かなかった」
600: 2022/05/07(土) 20:00:36.81 ID:DL8oELkfO
「なら話はこれでおしまい、ですね」
「そうね。でも、お兄さんはどうするの?」
「勝手に2人で仲良くやってて」
カレンチャンが立ち上がった。
……ダメだったか。賭けは失敗、か……
その刹那、彼女の顔が青くなった。
「……ってまさか、お兄ちゃんはあなたの気持ちを?」
「……分からない。嫌われてはないと思うけど、ただの同僚にしか思われてないかも」
カレンチャンは立ち上がったまま、身動き一つしない。どういうことだろう?
10秒ぐらいして大きな溜め息をつくと、彼女は再び座った。
「……参ったなあ。お兄ちゃんに一本取られちゃった」
「え?」
「とぼけないで。お兄ちゃん、来ないんでしょ?初めからお兄ちゃんの掌の上だった、そういうこと」
「……どういうこと?」
「お兄ちゃんの性格、知ってるでしょ?真面目な堅物で、ボディービルとトレーナー業、それとラーメンをはじめとしたグルメ以外に興味なし。
自分のプライベートのことなんて、絶対に話さない。もちろん、カレンが本当の妹なんて、多分同僚の誰も知らない」
彼女は串焼きのトマトを口にする。
「そんなお兄ちゃんが、カレンのことを話したということは……少なくとも、お兄ちゃんはあなたにはそれだけ心を許してる。恋愛的な好きかどうかは分からないけど。
多分、三田村さんがお兄ちゃんを好きだというのも、察してると思う」
顔が一気に熱くなった。これは多分、酔いのせいじゃない。
「えっ?ちょっと……」
「わっかりやすいなあ。カレンぐらいの年齢でもそんなウブな反応しないよ?
とにかく、お兄ちゃんがお膳立てをしたというのは、こうなることも予想済みってこと。
どうなるか分からないけど、三田村さんとはそれなりに長い付き合いになるかもだし。
嫌でも付き合わないといけないなら、ここでゴネててもしょうがないでしょ」
天王寺トレーナーが私を?いや、まだそういう関係になるとは分からない。
でも、そこまで好意がバレバレだったなんて……どういう顔で会えばいいんだろう。
ヤレヤレと彼女が苦笑した。
「言っとくけどお兄ちゃんはカレンのだからね?そこだけは譲らないから、覚えておいて。
というか、結構ウマスタ映えするお店だなあ。どんどん頼んじゃお♪三田村さんのおごりでしょ?」
601: 2022/05/07(土) 20:12:38.74 ID:DL8oELkfO
*
それからカレンチャンとは色々なことを話した。ウマスタ映えする写真のコツや、題材の選び方。どこがいいお店なのかを見分けるポイントも教えてもらった。
ライスたちがよくカフェに行っているのも思い出した。あまり休日を一緒に過ごすことはないのだけど、一度誘ってみるのもいいかもしれない。
そうしているうちに結構な時間になった。ウマ娘としては少食と聞いていたけど、それでもカレンチャンの前には焼鳥の皿がうず高く積まれていた。……お金、大丈夫かな。
「じゃあ、そろそろ締めにしよ♪やっぱりラーメンだよねえ」
「え、まだ入るんだ……」
「ラーメンは別腹♪ってね。三田村さんもお酒強いね」
「ははは……そうかしら」
メニューには塩そばと醤油そば、それに新潟風煮干しそばもあるらしい。つけ麺まで含めると結構種類があるけど……
※コンマ下
6の倍数 塩そば
6の倍数+1 醤油そば
6の倍数+2 塩つけそば
6の倍数+3 醤油つけそば
6の倍数+4 鴨そば
6の倍数+5 新潟風煮干しそば
それからカレンチャンとは色々なことを話した。ウマスタ映えする写真のコツや、題材の選び方。どこがいいお店なのかを見分けるポイントも教えてもらった。
ライスたちがよくカフェに行っているのも思い出した。あまり休日を一緒に過ごすことはないのだけど、一度誘ってみるのもいいかもしれない。
そうしているうちに結構な時間になった。ウマ娘としては少食と聞いていたけど、それでもカレンチャンの前には焼鳥の皿がうず高く積まれていた。……お金、大丈夫かな。
「じゃあ、そろそろ締めにしよ♪やっぱりラーメンだよねえ」
「え、まだ入るんだ……」
「ラーメンは別腹♪ってね。三田村さんもお酒強いね」
「ははは……そうかしら」
メニューには塩そばと醤油そば、それに新潟風煮干しそばもあるらしい。つけ麺まで含めると結構種類があるけど……
※コンマ下
6の倍数 塩そば
6の倍数+1 醤油そば
6の倍数+2 塩つけそば
6の倍数+3 醤油つけそば
6の倍数+4 鴨そば
6の倍数+5 新潟風煮干しそば
602: 2022/05/07(土) 20:14:09.59 ID:KSUDeVO2o
お
606: 2022/05/08(日) 20:19:49.81 ID:SAgt1fn3O
「じゃあこの『新潟風煮干しそば』にしようかな。新潟風ってよく分からないけど」
天王寺トレーナーなら知ってるのだろうか。そもそも新潟ってそんなにラーメンがあるところだっけ。
「あ、じゃあカレンもそれで。東京で新潟ラーメンって、そこそこ珍しいよね♪どれかなー」
「新潟ラーメンっていうのがあるんだ」
フフン、と得意そうにカレンチャンが鼻を鳴らした。
「新潟って御当地ラーメンがいくつもあるんですよ~。まず、新潟市中心のあっさり煮干しラーメン。青森のとは違って昔ながらの中華そばみたいな感じです。
新潟市には味噌ラーメンもあって、割りスープがついてくるのが特徴ですね。
で、長岡市のが生姜醤油ラーメン。これは秋葉原の『青島食堂』が代表格で、かなり濃い醤油味。
そして、多分一番メジャーなのが、燕市や三条市の『燕三条ラーメン』ですかね」
「さすが天王寺トレーナーの妹さんだけあって、詳しいのね……」
「全部お兄ちゃんからの受け売りですけど。実際に食べたのは、青島食堂と燕三条ラーメンの『潤』ぐらいですね。
ここのはどれなんだろ、煮干しってあるから燕三条かな?」
「どういうのなの、それ」
「見てのお楽しみ♪ウマスタ映えするかなー」
どういうラーメンなんだろう。ウマスタに載せるとなると、インパクトがあるんだろうか。
しばらくすると、店員が丼を持ってきた。……これって。
「スープの上に大量の脂??」
「あ、やっぱり燕三条系だ」
そう言うなり、カレンチャンは器用にラーメンと自分とが両方入るポジションを確保し、パシャリと自撮り写真を撮った。
「ん~、ちゃんとカワイク撮れてるね♪後でアップしよ」
「え、これって脂っこくはないの?」
「食べてみれば分かりますよー。というか、本家に比べるとビジュアルは大分上品かも。とにかく、いただきまーす」
疑心暗鬼で麺を箸で持ち上げる。少し太目で楕円っぽい変わった麺だけど……
……ズズッ
……!!
「美味しいっ……!!思ってたよりずっと上品で、煮干しの味もしっかり出てる……!」
「ですね♪本家燕三条のをもっと洗練させて、キレを良くした感じ。
荒々しさを抑えてる分より煮干しが強調されてて、これはこれでアリですね♪」
タマネギや三つ葉の味がアクセントになっていて、しつこさはまるで感じない。むしろマイルドで、飲みやすくすらある。
2種類のチャーシューも、柔らかくて美味しい。特に炭火で焼いた方のは、相当ハイレベルなのが私でも分かった。
「それにこの麺……とてもスープと絡む。スープも煮干しだけじゃないのかしら」
「多分。鶏のスープが混じってるのかな?だから濃厚だけど飲みやすいですね」
アルコールを入れた胃には、とても優しい味だ。カレンチャンにつられてそこそこ焼鳥も食べたけど、すんなり完食できてしまった。
607: 2022/05/08(日) 20:34:53.96 ID:SAgt1fn3O
*
「ふー、お腹いっぱい♪ごちそうさまでしたー」
「はは……こちらこそ」
出費はまあまあな値段になった。食べている最中に天王寺トレーナーから連絡が入り、「今日のは私が後で建て替えます」とあったけど、それはそれで申し訳なく思った。
あるいはそれも織り込んでて、カレンチャンはあれだけ食べたのかもしれない。
「……で、トレーニングの件。受けてくれるかしら?」
店を出て切り出すと、カレンチャンはうーんと唸った。
「……正直、自信はないです。1400までしか持たないのは、自覚してますし。
三田村さんのことがなくても、多分悩んでたと思います。……策、本当にあるんですよね?」
「一応。基礎的なスタミナを付けさせるために、うちでは酸素カプセルを使った超回復法を導入してるの。それである程度は距離がもつようになると思う。
問題は、それだけじゃ多分足りないということ。距離をもたせるためには、あなた一人じゃ足りない」
「それってどういう」
「『ラビット』を使ったペース破壊。それで2400mを1800に『短縮』するの」
「ふー、お腹いっぱい♪ごちそうさまでしたー」
「はは……こちらこそ」
出費はまあまあな値段になった。食べている最中に天王寺トレーナーから連絡が入り、「今日のは私が後で建て替えます」とあったけど、それはそれで申し訳なく思った。
あるいはそれも織り込んでて、カレンチャンはあれだけ食べたのかもしれない。
「……で、トレーニングの件。受けてくれるかしら?」
店を出て切り出すと、カレンチャンはうーんと唸った。
「……正直、自信はないです。1400までしか持たないのは、自覚してますし。
三田村さんのことがなくても、多分悩んでたと思います。……策、本当にあるんですよね?」
「一応。基礎的なスタミナを付けさせるために、うちでは酸素カプセルを使った超回復法を導入してるの。それである程度は距離がもつようになると思う。
問題は、それだけじゃ多分足りないということ。距離をもたせるためには、あなた一人じゃ足りない」
「それってどういう」
「『ラビット』を使ったペース破壊。それで2400mを1800に『短縮』するの」
608: 2022/05/08(日) 20:41:40.07 ID:SAgt1fn3O
そう、逃げウマ娘を使ってペースをかき乱してもらう。超スローで走るなら、カレンチャンが使う本気の脚は短くて済むからだ。
だけど、問題は2つある。まず、ラビットが最初からスローで逃げても、それはたちまちブリュスクマンをはじめとした他のウマ娘に看破される。あっさり抜かれ、普通のペースにされるのがオチだ。
余程絶妙なペースで逃げないと、本質的にスローだと分かっているカレンチャンは、脚を温存できない。
そしてもう一つ。誰にラビット役を任せるか、だ。恐らく、ラビット役がブリュスクマンに勝ち切ることはない。負けるために走るのを、誰が快く受け入れてくれるのだろうか。
……その時、あるウマ娘の顔が浮かんだ。それは……
第12話 完
609: 2022/05/08(日) 20:42:48.46 ID:SAgt1fn3O
次回登場ウマ娘を決めます。3票先取です。
1 キタサンブラック
2 セイウンスカイ
3 ツインターボ
4 マヤノトップガン
1 キタサンブラック
2 セイウンスカイ
3 ツインターボ
4 マヤノトップガン
616: 2022/05/08(日) 20:54:55.39 ID:SAgt1fn3O
セイウンスカイで決定します。続いてジャンルを決めます。
安価下1~5で、コンマが最も大きいものとします。
安価下1~5で、コンマが最も大きいものとします。
622: 2022/05/08(日) 21:56:32.15 ID:SAgt1fn3O
豚骨ラーメンで決定します。少しリサーチに時間がかかるかもしれません。
626: 2022/05/21(土) 16:54:46.22 ID:G6JDJff3O
第13R
627: 2022/05/21(土) 17:14:05.15 ID:G6JDJff3O
「天王寺トレーナー、お話が」
授業終わりの私を、三田村嬢が呼び止めた。確か、この前のカレンとの話し合いは上手く行ったとは聞いていたが……
「カレンの件ですね」
彼女は少し辺りを気にすると、小声で告げた。
「天王寺トレーナーのトレーナー室で。カレンチャンも交えて話した方が良さそうです」
すぐに部屋に戻り、カレンに声をかける。話の内容を知っているからなのか、「ああ、あの件」と言ってきた。
「あの件?」
「うん、すぐに分かるよ。でも、カレンも詳しくは知らないの」
ノックの音がして、三田村嬢を招き入れる。コーヒーメーカーのスイッチを入れ、休憩用のソファーに座らせた。
「で、何かお考えが」
「はい。『ラビット』を使うことにします」
「ラビット?」
三田村嬢が頷いた。
「はい。カレンチャンの脚を2400まで保たせるには、スローペースが不可欠です。それも、超スロー。
そして、それを作り出し、かつブリュスクマンに気付かれないようにさせるには、ペースを作る『ラビット』が必要なんです」
なるほど、一理はある。しかし、そこには重大な問題がある。
「マラソンで使われる手法ですね。だが、それは自分が負けることを前提に動かないといけない。何より、そういう絶妙なペースの逃げを打てるウマ娘なんてそうそう……」
「一人、心当たりがいます。これから彼女に交渉に行こうかと」
「誰ですか」
「……セイウンスカイです」
※コンマ下
5の倍数 三田村トレーナーが担当
それ以外 男性トレーナーが担当
ゾロ目 ???
55 ??????
628: 2022/05/21(土) 17:16:39.91 ID:DbrdvmkP0
あ
629: 2022/05/21(土) 17:49:00.34 ID:G6JDJff3O
*
「え、私に用ですか?しかも天王寺さんと三田村さんの二人で」
風祭トレーナーの部屋を訪れると、セイウンスカイはじゃがりこを食べながらダラダラしているところだった。
「ああ。風祭君は?」
「あー……フラワーの練習を見に行ってます。用があるのはトレーナーさんじゃなくて、私になんですよね。これからお昼寝タイムだったんですけど」
「すまん。風祭君にも話を通した方がいい話だから、出直した方がよさそうだな」
「んー、困っちゃいましたねえ。セイちゃんモテモテ!なーんちゃって。
とりあえず、そうしてもらえます?私はのんびり寝たい……」
その時、不意にドアが開いた。小柄な少女の隣に、少し不機嫌そうな顔の体格のいい青年がいる。
「またサボりか」
「ゲゲッ、聞かれちゃってました?」
「あとで校庭3周だな。……と、天王寺さんと三田村さんじゃないですか。どうしたんです急に」
「ええ、折り入って話が。セイウンスカイにあるお願いをしようかと」
「お願い、ですか」
風祭トレーナーが怪訝そうな顔になる。彼は有能で熱心な男だが、やや融通の効かない所がある。
セイウンスカイにラビットをやってもらうことを、すんなり受けてもらえるとは考えにくい。もちろん、彼女の説得も重要になるが。
「ええ。本当に心苦しいお願いですが」
私はブリュスクマンと、対ブリュスクマンに向けた作戦を話し始めた。一通り説明し終わると、苦々しげな表情で風祭トレーナーが首を振る。
「論外です。そもそもそれは一種の八百長行為だ。お二人ともに優秀なトレーナーだと思っていただけに心底残念ですよ、お引き取りを」
まあ、そう来るだろうと思っていた。この件、何のメリットも彼らにはない。
無論、それに対する反駁の準備はしている。
「お待ち下さい。これはあなた、そしてセイウンスカイが勝つ有力な手段でもある。
レースは大体半年後、東京2400にて行われると聞いてます。『スペシャルチャンピオンズミーティング』として、ダービー以上の規模で行われるものです。
無論、あなたとセイウンスカイは出るつもりのはずだ。そして昨年の菊花賞の再現を狙っている、そうでしょう?」
「……それが何か?」
「セイウンスカイの逃げは警戒されている。だから、単騎逃げは期待できない。ただ、そこにもう一人の逃げがいたら?
そして、その存在がペースの把握を困難にさせるのなら、どうなると思いますか」
「話が見えないんですが」
私は身を乗り出した。
「フェイク『馬鹿逃げコンビ』を作るんですよ。セイウンスカイと、私のカレンチャンの2人で」
「え、私に用ですか?しかも天王寺さんと三田村さんの二人で」
風祭トレーナーの部屋を訪れると、セイウンスカイはじゃがりこを食べながらダラダラしているところだった。
「ああ。風祭君は?」
「あー……フラワーの練習を見に行ってます。用があるのはトレーナーさんじゃなくて、私になんですよね。これからお昼寝タイムだったんですけど」
「すまん。風祭君にも話を通した方がいい話だから、出直した方がよさそうだな」
「んー、困っちゃいましたねえ。セイちゃんモテモテ!なーんちゃって。
とりあえず、そうしてもらえます?私はのんびり寝たい……」
その時、不意にドアが開いた。小柄な少女の隣に、少し不機嫌そうな顔の体格のいい青年がいる。
「またサボりか」
「ゲゲッ、聞かれちゃってました?」
「あとで校庭3周だな。……と、天王寺さんと三田村さんじゃないですか。どうしたんです急に」
「ええ、折り入って話が。セイウンスカイにあるお願いをしようかと」
「お願い、ですか」
風祭トレーナーが怪訝そうな顔になる。彼は有能で熱心な男だが、やや融通の効かない所がある。
セイウンスカイにラビットをやってもらうことを、すんなり受けてもらえるとは考えにくい。もちろん、彼女の説得も重要になるが。
「ええ。本当に心苦しいお願いですが」
私はブリュスクマンと、対ブリュスクマンに向けた作戦を話し始めた。一通り説明し終わると、苦々しげな表情で風祭トレーナーが首を振る。
「論外です。そもそもそれは一種の八百長行為だ。お二人ともに優秀なトレーナーだと思っていただけに心底残念ですよ、お引き取りを」
まあ、そう来るだろうと思っていた。この件、何のメリットも彼らにはない。
無論、それに対する反駁の準備はしている。
「お待ち下さい。これはあなた、そしてセイウンスカイが勝つ有力な手段でもある。
レースは大体半年後、東京2400にて行われると聞いてます。『スペシャルチャンピオンズミーティング』として、ダービー以上の規模で行われるものです。
無論、あなたとセイウンスカイは出るつもりのはずだ。そして昨年の菊花賞の再現を狙っている、そうでしょう?」
「……それが何か?」
「セイウンスカイの逃げは警戒されている。だから、単騎逃げは期待できない。ただ、そこにもう一人の逃げがいたら?
そして、その存在がペースの把握を困難にさせるのなら、どうなると思いますか」
「話が見えないんですが」
私は身を乗り出した。
「フェイク『馬鹿逃げコンビ』を作るんですよ。セイウンスカイと、私のカレンチャンの2人で」
630: 2022/05/21(土) 18:28:00.14 ID:ePWkp5uMO
「フェイク『馬鹿逃げコンビ』?」
「ええ。2年前にパーマーがダイタクヘリオスと宝塚・有馬とグランプリ連覇した時の手法です。
ハイペースのように見せかけて2人で大逃げ、しかしその実は息を入れてドスロー。
直線に入った時には脚がたっぷりと残っている。そういう理屈です。
2人で馬鹿みたいに逃げるから、捕まえたくても警戒からそう前には行けない。それを再現させます。セイウンスカイとカレンチャンの2人で。
多分どちらかは潰れるでしょう。しかし、スタミナのあるセイウンスカイは生き残る可能性が高い。そのまま粘り込めるとしたら……」
風祭トレーナーがふうと溜め息をついた。
「なるほど。それでわざわざカレンチャンの作戦を教えにきたと?」
「ええ。悪い話じゃない。あなたとセイウンスカイに片八百をやってもらうわけでもない。普段通りやって、こちらがそれをアシストする。それだけのことです」
「……スカイ、どう思う?」
※コンマ下
01~30 気が進みませんね
31~90 ちょっとトレーナーさん、席外してもらえます?
91~99 いいですよー
00 ?????
631: 2022/05/21(土) 18:30:08.48 ID:ZbEBl1/S0
せいや
634: 2022/05/21(土) 21:24:50.14 ID:inDY2dvrO
セイウンスカイは少し下を向いて考える素振りをした後、「トレーナーさん、ちょっと席を外してもらえます?」と切り出した。
「え」
「いや、ちょいとお二人に相談事があって。トレーナーさんのことは信頼してますけど、女の子同士でないと言えない話もあるんですよー」
「……そうか。三田村さん、いいですか?」
「あっ、はい」
どうにも男性陣はお邪魔のようだと思い席を立ちかけると、「天王寺トレーナーも残って下さい」と言われた。どういうことだろう。
風祭トレーナーが部屋を出るのを確認すると、セイウンスカイが「はあぁ」と溜め息をついた。
「何か風祭君とあったのか?」
「いえ、何も。……何もないから困ってるんですよこっちは」
私は三田村嬢と顔を見合わせた。
「どういう意味?」
「まあその説明は後で。お二人の意見、よく分かりました。私もブリュスクマンっていう新入生の話は聞いてます。
『史上最強、世界最強の新入生』で、トレーナーが胡散臭いハゲメガネ。実力は間違いないってのも知ってます。
で、お二人の作戦も理解しました。でもそれ、多分私に負けろっていうことですよね?」
「……そうとは言ってないが」
「にゃはは、このセイちゃんにはお見通しですよ?私が逃げ粘るような展開になるなら、スピードで勝るカレンチャンが多分差せるって。
確かに私の勝ち筋はそれしかないし、私が勝つならその作戦しかない。でも、多分カレンチャンに負ける。スタミナが保つなら」
さすが、中等部でもトップレベルの頭脳があるとされる彼女だ。学力テストの結果はグラスワンダーほどではないが、それでも科目によっては学年1位になることも少なくない。
「こちらの狙いはお見通しだったというわけか……。すまないが、そういうことだ。
だが、今のところこれが打倒ブリュスクマンには一番近い。受けてはくれないか」
「このままだと私に得は何一つないですよね?だから、取り引きといきませんか?」
「取り引き?」
セイウンスカイが頷く。心なしか、顔が赤くなっているように思えた。
「あのー……ですね。私、トレーナーさんのことが好きなんです。ウマ娘としてじゃなく、女の子として。
でも、距離を詰めようと思ってもどうしたらいいか分からなくて。いつもついついごまかしちゃって。
そうしてる間にフラワーとどんどん仲良くなっちゃって。いや、そういうことにならないとは思ってますよ?
フラワーはまだ12だし。それに、私の幼馴染ですっごくいい子だから彼女を取られるのもやだし。
あーもうとにかく!お二人にはトレーナーさんと私をくっつけるお手伝いを……してもらえないかなぁって」
私は細い目を見開いた。……そう来るとは思わなかった。
三田村嬢も驚いた様子だったが、すぐに微笑んで話しかける。
「まずはお食事とか誘えばいいんじゃないかな?練習終わりとかなら、ある程度聞いてもらえるかも」
「……それができたら苦労しないですよ。理屈がないと……」
理屈、か。
……これだ。
「『チートデイ』を口実にするのはどうだ」
635: 2022/05/21(土) 21:35:51.70 ID:inDY2dvrO
「『チートデイ』?」
私は定期的にバクシンオーやカレンチャンをチートデイに誘っていることを明かした。
筋力の効率良い増強に繋がる方法であることを説明すれば、風祭トレーナーも納得はするだろう。
説明が一通り終わると、「うーん……」とセイウンスカイが唸った。
「まだ質問が?」
「いや、どこに連れていけば喜ぶんだろうなって。というか、フラワーを仲間外れにするのもどうかと思っちゃって……」
「ニシノフラワーのことなら、歳の近いカレンチャンが何とかするだろう。路線が同じこともあって、仲も確か良かったはずだ」
「あとは風祭君の好みよね。いきなり高級店は無理があるし……」
「……あ」
パン、とセイウンスカイが手を叩いた。
「確か、トレーナーさんは福岡出身だって言ってました。で、こっちにはちゃんとした豚骨ラーメンがないってぼやいてたような」
「豚骨、か」
「心当たりあるんですか?」
「……まあなくはない。ただ、ちょっと女性にはキツい店だが、それでもいいか?」
「はい!それで距離が詰められるなら!」
そういうことなら店は決まりだ。あとは、我々も同行するかだが……
1 同行する(その後のデート?は結果のみ)
2 2人だけにさせる(セイウンスカイ1人称)
>>3票先取です
636: 2022/05/21(土) 21:37:03.42 ID:yC9Mm88k0
2
639: 2022/05/21(土) 21:39:58.71 ID:inDY2dvrO
第13R 高円寺「健太」
641: 2022/05/22(日) 23:58:30.15 ID:BWh7lUcpO
*
「……遅いなあ」
私は腕時計を見た。時刻は9時45分。まだ待ち合わせには15分も時間がある。
でも、私は30分前に来てしまった。まさに入れ込みだ。自分が悲しくなる。
コーディネートはバッチリだ。普段のオーバーオールじゃなく、キングに頼んで女の子っぽいワンピースを見立ててもらった。ズボンじゃないから下がすーすーして落ち着かない。
これはデートじゃない。あくまで「チートデイ」というトレーニングの一環。それは分かってる。
でも、やっと来たこの千載一遇の機会、モノにしないわけにはいかない。そう、いかないのだ。
天王寺トレーナーは「案内ぐらいはしておこうか?」と申し出てくれたけど、丁重に断った。他の子たちもいる中で、私たちだけ離脱というのは流石に難度が高過ぎる。
皆一緒にご飯というのも悪くはない。そもそも、そんな機会すら作れていなかったのだから。
だけど、多分この機会を逃したら、私は一生風祭さんとの距離を詰められないままだ。私はそう直感していた。
「……早いな」
驚いたような声が不意に聞こえた。思わず顔が綻びそうになるのを強引に抑える。
「ト、トレーナーさんこそ、遅かったじゃないですか」
「むう、大分前に着いたつもりだったんだがな。まあいいか」
渋い表情で風祭さんが言う。ダメだダメだ、何で素直になれないかなあ……
「そ、そんなことより、チートデイですねえ。セイちゃん、初めてなんですよー」
「む、そうだな。フラワーも一緒のほうがよかったんだが、天王寺トレーナー及びカレンチャンとの合同トレーニングじゃ仕方ない」
「やり方はバッチシ天王寺トレーナーから聞きましたよー。好きなものをお腹いっぱい食べる!それだけでトレーニング効率が上がるなんて、素敵ですねえ」
「俺も半信半疑だが、天王寺さんの実績は凄いからな。何より、ボディービルダーとしても著名だ。うちでも試してみる価値はある。
にしても、なぜ俺より先にスカイに説明したんだろうな?」
ギクッと一瞬なった。そこを突っ込まれると具合が悪い。
「さ、さぁ??と、とにかく行きましょうよー。場所は高円寺!……高円寺?」
「いや、スカイが店を選んだんじゃないのか?」
「あ、はは……そうでしたね」
自慢じゃないけど、私は地理に疎い。高円寺なんて、今まで行ったこともない。大丈夫かなあ……
「そもそも何を食べるつもりなんだ」
「あ、えっと、豚骨ラーメンにしようかなと。トレーナーさん、福岡の出身でしたよね?だからせっかくなんで、トレーナーさんにも楽しんでもらえないかなーって」
※風祭の反応
01~30 東京で豚骨?
31~70 ほう、それは楽しみだな
71~95 君もラーメンが好きなのか
95~00 ほう……
「……遅いなあ」
私は腕時計を見た。時刻は9時45分。まだ待ち合わせには15分も時間がある。
でも、私は30分前に来てしまった。まさに入れ込みだ。自分が悲しくなる。
コーディネートはバッチリだ。普段のオーバーオールじゃなく、キングに頼んで女の子っぽいワンピースを見立ててもらった。ズボンじゃないから下がすーすーして落ち着かない。
これはデートじゃない。あくまで「チートデイ」というトレーニングの一環。それは分かってる。
でも、やっと来たこの千載一遇の機会、モノにしないわけにはいかない。そう、いかないのだ。
天王寺トレーナーは「案内ぐらいはしておこうか?」と申し出てくれたけど、丁重に断った。他の子たちもいる中で、私たちだけ離脱というのは流石に難度が高過ぎる。
皆一緒にご飯というのも悪くはない。そもそも、そんな機会すら作れていなかったのだから。
だけど、多分この機会を逃したら、私は一生風祭さんとの距離を詰められないままだ。私はそう直感していた。
「……早いな」
驚いたような声が不意に聞こえた。思わず顔が綻びそうになるのを強引に抑える。
「ト、トレーナーさんこそ、遅かったじゃないですか」
「むう、大分前に着いたつもりだったんだがな。まあいいか」
渋い表情で風祭さんが言う。ダメだダメだ、何で素直になれないかなあ……
「そ、そんなことより、チートデイですねえ。セイちゃん、初めてなんですよー」
「む、そうだな。フラワーも一緒のほうがよかったんだが、天王寺トレーナー及びカレンチャンとの合同トレーニングじゃ仕方ない」
「やり方はバッチシ天王寺トレーナーから聞きましたよー。好きなものをお腹いっぱい食べる!それだけでトレーニング効率が上がるなんて、素敵ですねえ」
「俺も半信半疑だが、天王寺さんの実績は凄いからな。何より、ボディービルダーとしても著名だ。うちでも試してみる価値はある。
にしても、なぜ俺より先にスカイに説明したんだろうな?」
ギクッと一瞬なった。そこを突っ込まれると具合が悪い。
「さ、さぁ??と、とにかく行きましょうよー。場所は高円寺!……高円寺?」
「いや、スカイが店を選んだんじゃないのか?」
「あ、はは……そうでしたね」
自慢じゃないけど、私は地理に疎い。高円寺なんて、今まで行ったこともない。大丈夫かなあ……
「そもそも何を食べるつもりなんだ」
「あ、えっと、豚骨ラーメンにしようかなと。トレーナーさん、福岡の出身でしたよね?だからせっかくなんで、トレーナーさんにも楽しんでもらえないかなーって」
※風祭の反応
01~30 東京で豚骨?
31~70 ほう、それは楽しみだな
71~95 君もラーメンが好きなのか
95~00 ほう……
642: 2022/05/23(月) 00:00:07.01 ID:6vCv4Bq6o
それ
643: 2022/05/23(月) 00:11:18.14 ID:Mbucx0MWO
「東京で豚骨?」
トレーナーさんが怪訝そうになった。というより、嫌そうな表情だ。
「え?」
「いや、俺に気を遣ってくれたのは分かるが、東京でマトモな豚骨ラーメンはまず食べられないぞ。というより、俺は知らない。
だからこっちに来てからラーメンは食べないようにしてるぐらいだ。悪いが、別の店にしないか」
「……そうなんですか」
「本場の豚骨は大体が臭い。だから異臭騒ぎが起きかねない東京じゃ、ちゃんとした豚骨ラーメンは出せないと聞いたことがある。
だから、連れて行ってもらって不機嫌になるなら、行かない方がいいってことだ。すまないが」
……こんな展開は想定外だ。顔面が蒼白になるのが自分でも分かる。
ただ、天王寺トレーナーはラーメンにおいては絶対の知識がある人であるらしい。風の噂でそう聞いていた。
だから、多分このお店は大丈夫のはずだ。……うん、きっとそうだ。
※コンマ下
01~70 通常進行
71~80 ????登場
81~00 ??登場
644: 2022/05/23(月) 00:13:19.68 ID:q1F6RthQ0
お
648: 2022/05/28(土) 21:26:36.33 ID:u/Usl88AO
私は勇気を振り絞って何とか声を出した。
「あっ、でもでも、ほんっとうにセイちゃんお墨付きのとこなんですよー?だからねっ、行きましょうよ」
「……まあ、スカイがそこまで言うのなら」
風祭さんは微笑んだ。だけど、ほんのわずかに溜め息をついたのを聞き逃す私じゃない。
この人は嘘がつけない、不器用な性格だ。だから、たまに他のトレーナーと衝突することもある。
そういう曲げない生き方を好きになったのだけど、こういう時ぐらいは見せないでほしかったな。
でも、美味しいと分かればきっと機嫌も直してくれるはずだ。そして、そうなれば……うん、きっと上手く行く。……多分。
*
総武線から中央線に乗り継ぎ、私たちは高円寺に着いた。
電車の中では、どうにもギクシャクした感じになってしまった。またいつものように天気の話だけで終わっては話にならない。ムードをなんとか変えなきゃ。
場所は天王寺トレーナーから聞いている。この商店街を突っ切って行くんだっけ。
※道中で……
01~50 誰かに会う
51~70 誰とも会わない
71~95 行列に誰か並んでいる
96~00 ……あれは?
649: 2022/05/28(土) 21:27:40.35 ID:xuTTR5Hz0
あ
651: 2022/05/28(土) 21:30:55.93 ID:u/Usl88AO
※出会ったのは……
01~35 ネイチャ(風祭トレーナーが担当)
36~70 ネイチャ(別のトレーナーが担当)
71~85 ネイチャ(三田村トレーナーが担当)
86~00 再判定
01~35 ネイチャ(風祭トレーナーが担当)
36~70 ネイチャ(別のトレーナーが担当)
71~85 ネイチャ(三田村トレーナーが担当)
86~00 再判定
652: 2022/05/28(土) 21:32:32.74 ID:K3Ip5naeo
うい
653: 2022/05/28(土) 21:54:51.13 ID:u/Usl88AO
商店街に入った時、どこかで見たツインテールの少女が八百屋のおばちゃんと歓談していた。
……ゲゲッ、マズい!
「トレーナーさん、この道はやめときましょうよ」
「え、何でだ?」
「何でもかんでもですよ!ほらっ、行きまし」
「あれ?そこにいるのはひょっとして!?」
あー、もう……気付かれた。何で私っていつもこうなんだろう……思わず天を仰ぐ。
「ん、ナイスネイチャか?」
「あー、やっぱり。セイちゃんおいっすー。風祭トレーナーもご一緒で、どうしたんですか」
「ああ。ちょっと所用でね。君こそ奇遇だな」
「あー、ここアタシの地元なんですよー。おばちゃん、この人がトレセン学園のトレーナーさん。アタシの担当じゃないけど」
八百屋のおばちゃんと風祭さんが話し始めた。ネイチャは落胆している私に気付いたのか、申し訳無さそうに耳打ちする。
(ごめん、邪魔するつもりはなかったんだけどさ)
(あー……いいよ。何かこんなことになる気はしてた)
(デートでしょ?三田村さんから話は聞いてる)
私は目を丸くした。そうか、彼女は三田村トレーナーの担当なのだった。ここに私たちが来る可能性も聞いていたんだろう。
「そうなの?」
「しっ、声が大きい。どこのお店に行くかも大体聞いてる。あそこでしょ?」
彼女の視線の少し先には、数名の行列ができていた。どうやらあそこが目的地らしい。
「あー、うん。でもあんまり空気がよくなくてさ。ちょっと自信ないんだ……」
「まあそこはこのネイチャさんに任せなさい!ご飯食べた後にもう一度ここに来てもらえば、ばっちしデートルートを紹介してあげる」
「本当に!?」
「どうかしたのか、スカイ」
風祭さんが振り向いた。私は慌てて「な、何でもないです」と返す。
「じゃ、そういうことで。あそこマジで美味しいから、きっと気に入ると思うよー」
「ん?ナイスネイチャは誘わなくていいのか?」
「あー、アタシはもうご飯食べちゃったんで。また後でー」
そう言うと何事もなかったかのように、ネイチャはおばちゃんとの会話に戻っていった。
デートコース……最初は新宿でお買い物とか考えてたけど、高円寺で何かあるのかな。
※行列には……
01~85 誰もいない
86~95 誰かいる(再判定)
96~00 ん?あんたは……
656: 2022/05/28(土) 22:15:44.39 ID:vd9bX2uxo
ん
657: 2022/05/28(土) 22:41:51.34 ID:u/Usl88AO
*
行列に近付くと、何か異臭がし始めた。……何だろう、これ。獣の臭いというか、なんというか……
しかし、いい匂いとは到底呼べない。……これは大変な選択ミスをしちゃったのかも……
「トレーナーさ……」
「……この臭いは」
風祭さんが驚いたように鼻をうごめかした。
「え?」
「いや、間違いない。これが本物の豚骨の臭いだ。しかし、よく都内で……」
「これが豚骨ラーメンの臭いなんですか?」
「ああ。しっかりと骨から煮出しているとこういう臭いになる。ただ、下処理を中途半端にやった豚骨でスープを取った場合でも似た臭いになることはある。
本当にしっかりした豚骨ラーメンの店は、実は本場でもそう多くはないんだよ」
「そうなんですか」
「ああ。だから最近は福岡でもマトモな豚骨ラーメンを出す店は限られてる。東京で出会えるとは思ってなかったが……」
店には外との敷居がなく、まるで半分屋台みたいな感じだ。「中洲長浜屋台ラーメン初代 健太」とある。
店の中には「極悪スメルを味わってください」とある。なるほど、確かに強烈な臭いかも。
少し並んで食券機でラーメンを2枚買う。メニューは基本「豚骨ラーメン」だけ。ご主人一人で切り盛りしているらしい。
「福岡といえば、屋台ですよね」
「屋台のラーメンは大体観光客用の出来合いのスープを使ってるから、こんな臭いはさせてないんだ。
あと、スープを継ぎ足す『呼び戻し』は屋台でやるには難しいとも聞いてる。スープを使い切る『切り取り』が殆どだが、それでも長時間煮込まないから意外と味は薄い」
「そんなもんなんですかね」
「イメージと現実は、悲しいかな大分違うんだよ。……ここのが本物ならいいが」
風祭さんが少し寂しそうに言った。ひょっとしたら、向こうでも豚骨ラーメンは絶滅危惧種になりつつあるんだろうか。
そうしていると、「お待ち」との声と共に丼が2つ、私たちの前に置かれた。
スープの表面には油の膜が張っていて、スープは思っていたほどクリーミーな感じじゃない。むしろサラッとした感じだ。
>>80以上で?
行列に近付くと、何か異臭がし始めた。……何だろう、これ。獣の臭いというか、なんというか……
しかし、いい匂いとは到底呼べない。……これは大変な選択ミスをしちゃったのかも……
「トレーナーさ……」
「……この臭いは」
風祭さんが驚いたように鼻をうごめかした。
「え?」
「いや、間違いない。これが本物の豚骨の臭いだ。しかし、よく都内で……」
「これが豚骨ラーメンの臭いなんですか?」
「ああ。しっかりと骨から煮出しているとこういう臭いになる。ただ、下処理を中途半端にやった豚骨でスープを取った場合でも似た臭いになることはある。
本当にしっかりした豚骨ラーメンの店は、実は本場でもそう多くはないんだよ」
「そうなんですか」
「ああ。だから最近は福岡でもマトモな豚骨ラーメンを出す店は限られてる。東京で出会えるとは思ってなかったが……」
店には外との敷居がなく、まるで半分屋台みたいな感じだ。「中洲長浜屋台ラーメン初代 健太」とある。
店の中には「極悪スメルを味わってください」とある。なるほど、確かに強烈な臭いかも。
少し並んで食券機でラーメンを2枚買う。メニューは基本「豚骨ラーメン」だけ。ご主人一人で切り盛りしているらしい。
「福岡といえば、屋台ですよね」
「屋台のラーメンは大体観光客用の出来合いのスープを使ってるから、こんな臭いはさせてないんだ。
あと、スープを継ぎ足す『呼び戻し』は屋台でやるには難しいとも聞いてる。スープを使い切る『切り取り』が殆どだが、それでも長時間煮込まないから意外と味は薄い」
「そんなもんなんですかね」
「イメージと現実は、悲しいかな大分違うんだよ。……ここのが本物ならいいが」
風祭さんが少し寂しそうに言った。ひょっとしたら、向こうでも豚骨ラーメンは絶滅危惧種になりつつあるんだろうか。
そうしていると、「お待ち」との声と共に丼が2つ、私たちの前に置かれた。
スープの表面には油の膜が張っていて、スープは思っていたほどクリーミーな感じじゃない。むしろサラッとした感じだ。
>>80以上で?
658: 2022/05/28(土) 22:42:09.19 ID:Cnf9ZMgf0
よ
662: 2022/05/29(日) 18:48:36.46 ID:Ei6SN/jaO
「スープの匂いは……普通ですね」
麺を持ち上げると、極細麺にスープの脂が絡んでいた。思い切って啜ると……
「んっ!!?」
濃厚な豚骨の旨味がダイレクトに舌を刺激した。そして、何より……熱いっ!
「……違う」
レンゲでスープを味わいながら、風祭さんが呟く。しかし、表情には驚きはあっても、落胆はない。
「えっ、それってどういう……」
「俺の知っている長浜ラーメンとは違う。だが、紛れもなくこれは豚骨だ。
濃厚な久留米でも、ライトな長浜でもない。こんな豚骨ラーメンがあったなんて……」
そう言いながら、風祭さんは麺を啜った。そして小さく頷く。
「東京風にアレンジしたわけでもない。……何だろう、これは……」
よく分からないけど、美味しいのは確かだ。もう一度私は麺を味わった。パツパツとした歯応えが、サラッとしたスープにとても合っている。
スープは脂っこいかと思いきや、意外と後味はサッパリしている。濃厚だけどクドくない、それでいて薄くもなく濃厚。
矛盾したものが両立している、そんな不思議なスープだ。そしてスープをよく見ると、何か細かい粉みたいなものが沈んでいる。……骨の粉末?っぽい。
ゴマと辛子高菜、そして紅生姜はカウンターから入れ放題らしい。辛子高菜を一欠片入れると、味が一気に引き締まった。
何より、このスープを覆う油膜だ。スープが冷めにくいから、味がしっかりしたままでボヤけない。これが本場の豚骨ラーメンなんだろうか。
ふと横を見ると、風祭さんが「替え玉頼めますか」と訊いていた。あ、そういえばそんなのもあるんだっけ。
「トレーナーさん、どうです?」
「旨い。ただ、このスープの正体は何だ……?」
ご主人が替え玉を持ってきたタイミングで、風祭さんが切り出した。
「すみません、こちらどこで修行を?」
「あー、うちは『博多シャバ系』の『駒や』なんです。割と新しい系列なんで、知らない福岡の人も多いかもですね」
「『博多シャバ系』」
「ええ。スープの取り方も普通のお店と大分違うんです。というか、大昔のやり方に近いのかな。
だから、『古いけど新しい』豚骨ラーメンなんです」
豚骨ラーメンにも派閥みたいなのがあるんだ。全然知らなかった。
ご主人が厨房へと去ると、風祭さんはぼーっとしていた。
「古くて新しい、か……固定観念に囚われていたのかな」
そう言うと、替え玉の麺を啜り、また「……うん、旨い」と彼は呟いたのだった。
663: 2022/05/29(日) 18:53:23.57 ID:Ei6SN/jaO
*
「いやー、美味しかったですねえ。……満足、していただけました?」
風祭さんはボーッとした様子だったが、しばらくしてビクッと反応した。
「あっ、ああ。旨かった。間違いなく旨かった。だが、何だろうなあのラーメン……俺の知る豚骨ラーメンじゃないのに、何か懐かしかった。あれは一体……」
視線の向こうにネイチャがいた。まだ八百屋のおばちゃんと話していたらしい。
「おいっすー。どう、美味しかった?」
「美味しかったよー。でもトレーナーさんが何か悩んでいるみたいで」
「へ?」
風祭さんが一歩前に出た。
「ネイチャ、『博多シャバ系』って何か知ってるか?」
>>75以上で知っている
>>0で??
「いやー、美味しかったですねえ。……満足、していただけました?」
風祭さんはボーッとした様子だったが、しばらくしてビクッと反応した。
「あっ、ああ。旨かった。間違いなく旨かった。だが、何だろうなあのラーメン……俺の知る豚骨ラーメンじゃないのに、何か懐かしかった。あれは一体……」
視線の向こうにネイチャがいた。まだ八百屋のおばちゃんと話していたらしい。
「おいっすー。どう、美味しかった?」
「美味しかったよー。でもトレーナーさんが何か悩んでいるみたいで」
「へ?」
風祭さんが一歩前に出た。
「ネイチャ、『博多シャバ系』って何か知ってるか?」
>>75以上で知っている
>>0で??
664: 2022/05/29(日) 18:55:54.12 ID:QSNqEgMr0
あ
666: 2022/05/29(日) 19:16:42.79 ID:Ei6SN/jaO
「ほえ?いやー、ネイチャさんにはラーメンのことはさっぱり。うちのトレーナーさんが最近一生懸命勉強してるみたいだけど」
「三田村トレーナーが?まあ、天王寺トレーナーなら知ってるだろうが……」
「まあ、美味しければなんだっていいじゃないですか。で、セイちゃんちょっとちょっと」
ネイチャが私を呼んで耳打ちした。
(2つ候補があるんだけど)
(へ?どういうこと?)
(いやさ、高円寺って結構カフェあるのよ。で、メルヘンな方とシックな方とどっちがいい?)
何かいきなり二択を迫られた。うーん、ここは……
1 メルヘンな方
2 シックな方
>>3票先取
669: 2022/05/29(日) 19:23:24.19 ID:AfpmbJjrO
1
メルヒェン
メルヒェン
672: 2022/05/29(日) 20:55:32.96 ID:Ei6SN/jaO
(じゃ、じゃあシックな方で)
(了解っと。線路を挟んで向こう側の商店街にあるとこだよ。場所は後でLINEしとくね。あと、そこ2階は私語禁止エリアだから)
(え、ええーっ!?)
なんかとんでもない選択をしてしまったようだ。いや、落ち着いたとこの方がいいかなって思ってたけど……
「ん、どうした?」
「あっ、いやっ、その……まだ帰るには早いから、お茶でもどうかなって……」
「喫茶店か。俺は構わないが」
チラッとネイチャを見ると、サムズアップしながらウインクされた。いやいや、ただでさえ会話が続かないのに私語禁止カフェって……
でも、このまま何もなしってのは困る。もうこうなったら行くしかない。
「じゃ、じゃあ本屋に寄ってから行きますかー……ハハハ……」
「本屋?何か買いたい本でもあるのか」
※安価下自由安価
(余程変なものでなければ採用します)
673: 2022/05/29(日) 20:58:37.02 ID:h01gk7Cso
博多の旅行ガイドブック
674: 2022/05/29(日) 21:24:02.46 ID:Ei6SN/jaO
「あ、旅行のガイドブックでも買おっかなって……」
「旅行か。遠征ついでにというのも悪くないな。考えておくよ」
「やった!」と声に出かかって、それを必氏に押し留めた。フラワーとかチームメイトも一緒に決まってるじゃないか、私……
そもそもどこのガイドブックにしよう。……そう言えば、今まで一回も博多に行ったことがないんだよね。
小倉遠征ついでに風祭さんのご実家へ……って何考えてるんだ私は。思いっきりかかってるじゃん。
「……何顔を赤くしてるんだ」
「い、いえっ?な、なんでもないですよぉ?」
思い切り声が裏返っている。どうしてこう素直になれないんだかなあ……
一度恋愛強者の誰かに相談した方がいいかもしれない。誰かはさっぱり思い付かないけど。
*
「ここ、かあ……」
ビルの2階に登る階段の前に、「アール座読書館」という看板があった。読書用のカフェ、ってことなんだろうか。
よく考えれば、普通のカフェに行っても会話が続かないことは簡単に想像できた。ネイチャなりに考えてここを紹介してくれたのかもしれない。
「そうみたいだな」
「トレーナーさんは本屋で何を買ったんです?」
「ああ。博多ラーメンの最新ガイドブック、それと栄養学の本だな」
「栄養学、ですか」
「ああ。恥ずかしながら、チートデイのことも知らなかったからな。天王寺トレーナーはこの道のプロだが、少し俺も学んだほうがいいと思ってね」
真面目だなあ。こういう所は本当に尊敬できる。これでもう少し女心を察してくれればいいんだけど。
階段を上がり、扉を開けると……
……
…………
静かだ。あまりに静か過ぎる。なるほど、会話なんてできる感じじゃない。
「お客様、2名様ですか」
小声で女性の店員が言った。
「ええ」
「会話されたいなら、3階もありますが」
風祭さんがチラッと私を見た。
>>6の倍数で3階に
>>66か00でイベント
675: 2022/05/29(日) 21:24:23.92 ID:y8qoDJquo
ヌッ
676: 2022/05/29(日) 21:47:43.00 ID:Ei6SN/jaO
お喋りもしたいけど、正直に言って自信がない。私は「ここでいいです」と頷いた。
「じゃあここで」
「承りました。どうぞこちらへ」
コポコポと水槽のポンプの音だけが響いている。店内にはそこそこ人がいるけど、皆読書をしていた。やっぱりそういうお店らしい。
メニューはコーヒーが中心で、かなりこだわっているらしかった。ただこの手のお店には珍しく、ケーキ類はやたらと安い。
(コーヒーは飲めたよな)
(はい、お任せします)
小声で風祭さんがブラジルとブラウニーを2人分注文した。しばらくすると、ポットごと店員さんがコーヒーを運んでくる。なるほど、長時間粘れるように最初からしてるわけか。
コーヒーをカップに注ぐと、風祭さんは無言でラーメンの本を読み始めた。余程「シャバ系」が気になったらしい。
私もガイドブックを開く。博多のだと知られないよう、一応カバーは付けておいた。
博多というと、今は再開発の真っ盛りらしい。特に天神は色々変わりつつあるらしい。
ガイドブック曰く、このエリアは博多ではなく「福岡」であるそうだ。なんか違いがサッパリ分からないけど、福岡の人にとっては全然違うらしい。
ラーメン店の紹介も書いてあった。あのミシュランにも博多ラーメンは紹介されているらしい。
「元気一杯」は何かで見たことがある。「来来」……透明な豚骨ラーメンもあるんだ。知らなかった。
ただ、ここを読んでも「シャバ系」の説明は書いていない。まあ、そうだよね。
福岡は釣りも盛んらしい。そう言えば、野球選手の……誰だっけ、ジョージなんとかという人が釣り人になったって話も書いてあったけど。
じいちゃんを連れてきたら喜ぶだろうなあ。そういうチャンスが来るのかは、さっぱり分からないけど。
どれぐらい時間が経ったのか。本から目を離し、コーヒーを口にする。少し冷めちゃってたけど、しっかりとした豆を使っていると、私にもすぐ分かった。
ふと風祭さんを見ると、栄養学の本を真剣に読んでいた。私のことはちっとも目に入ってないみたいだ。
でも、その真剣な表情がとても愛おしく思えて。途中から私の目は本ではなく、本を読む彼の姿に向いていたのだった。
*
「……そろそろ引き上げるか」
「ひゃいっ!?」
声が裏返ってしまった。静かな店内では目立つと、慌てて口を抑える。
そのまま逃げるように、私は店を出た。というか、ずっと見てたの気付かれてないよね……
>>90以上で気付かれてる
677: 2022/05/29(日) 21:49:43.00 ID:9HmrcTJE0
け
678: 2022/05/29(日) 21:52:17.06 ID:Ei6SN/jaO
※特殊イベント発生
せっかくなので、もう一度判定します。
奇数→90以上イベント消化後○○登場
偶数→???
せっかくなので、もう一度判定します。
奇数→90以上イベント消化後○○登場
偶数→???
679: 2022/05/29(日) 21:52:49.15 ID:/XsgisAhO
ここまで00は全部奇数だがさて
687: 2022/06/11(土) 17:56:31.28 ID:gSjxs612O
*
「なかなか良い雰囲気の店だったな。落ち着いて過ごせた」
「で、ですねえ……」
風祭さんは外に出ると軽く伸びをした。涼しいそよ風が彼の髪を揺らす。
「じゃ、じゃあ、トレセン学園に戻りますか」
「ん?何か言いたいことがあるんじゃないのか」
「うぇっ!!?」
急に話を振られて腰が抜けそうになった。
「ど、どうしてそんな!?」
「いや、途中から俺の方をじっと見てただろう。決して不快じゃなかったが、話でもしたいのかと思ってた。
あそこだと会話できる空気じゃなかったしな。場所を変えて、話せる場所に移動しようかと、な」
顔が真っ赤になって茹で上がりそうになる。……見つめてたの、気付かれてたんだ。
「い、いやっ、本当に、何もないんですヨ?……本当に……」
このまま消えてしまいたくなる。あー、本当に私ってダメだ……。なんでここで誤魔化そうとしちゃうんだろう。
ふと、風祭さんとの距離が近くなったのに気付いた。頭をわしゃわしゃとやられている。
「……何もないわけがないだろう。鈍感な俺でも、さすがに気付く」
「……え?」
少しだけ、彼が息をついた。
「まず、最初に言っておく。俺とスカイとは大分歳が離れている。ちょうど一回りぐらいか。
だから、すぐにそういう関係にはなれない。そもそも、色恋よりもまずレースだ。俺にはお前を日本一のウマ娘にする責務がある」
「……はい」
分かっていた。風祭さんの性格上、私の気持ちが知られたらそういうことを言うであろうことは。
私はまだ中等部だ。大人の彼とは、大分年齢も違う。私のこの感情だって、ただの憧れに過ぎない。そんなのも分かってる。
でも、こうやって面と向かって言われると……さすがに凹むなあ……
目から熱いものが込み上げてきた。……だから知られたくなかったんだ、この気持ちは。
「なかなか良い雰囲気の店だったな。落ち着いて過ごせた」
「で、ですねえ……」
風祭さんは外に出ると軽く伸びをした。涼しいそよ風が彼の髪を揺らす。
「じゃ、じゃあ、トレセン学園に戻りますか」
「ん?何か言いたいことがあるんじゃないのか」
「うぇっ!!?」
急に話を振られて腰が抜けそうになった。
「ど、どうしてそんな!?」
「いや、途中から俺の方をじっと見てただろう。決して不快じゃなかったが、話でもしたいのかと思ってた。
あそこだと会話できる空気じゃなかったしな。場所を変えて、話せる場所に移動しようかと、な」
顔が真っ赤になって茹で上がりそうになる。……見つめてたの、気付かれてたんだ。
「い、いやっ、本当に、何もないんですヨ?……本当に……」
このまま消えてしまいたくなる。あー、本当に私ってダメだ……。なんでここで誤魔化そうとしちゃうんだろう。
ふと、風祭さんとの距離が近くなったのに気付いた。頭をわしゃわしゃとやられている。
「……何もないわけがないだろう。鈍感な俺でも、さすがに気付く」
「……え?」
少しだけ、彼が息をついた。
「まず、最初に言っておく。俺とスカイとは大分歳が離れている。ちょうど一回りぐらいか。
だから、すぐにそういう関係にはなれない。そもそも、色恋よりもまずレースだ。俺にはお前を日本一のウマ娘にする責務がある」
「……はい」
分かっていた。風祭さんの性格上、私の気持ちが知られたらそういうことを言うであろうことは。
私はまだ中等部だ。大人の彼とは、大分年齢も違う。私のこの感情だって、ただの憧れに過ぎない。そんなのも分かってる。
でも、こうやって面と向かって言われると……さすがに凹むなあ……
目から熱いものが込み上げてきた。……だから知られたくなかったんだ、この気持ちは。
688: 2022/06/11(土) 18:00:36.53 ID:gSjxs612O
「泣くな。俺の話はまだ終わってない」
「……え」
また、頭をわしゃわしゃとされた。顔を上げると、彼は微笑んでる。
「だが……お前が日本一のウマ娘になったら。そしてもう少し大人になって、その気持ちが変わっていなかったら……もう一度、ここに来よう。
トレーナーとウマ娘ではなく、男と女として」
「……それって!?」
頬に、軽く柔らかい感触がした。風祭さんの顔も、少し赤くなっている。
「……ここから先は、数年待ってくれ」
「……!!?」
……え?ちょっと待って、今私何されたの?というか、待つって何を??
混乱で頭がくらくらする。えっと、これって、つまり……
「ト、トレーナーさんっ!!」
私は彼の胸に飛び込んだ。
……いや、飛び込もうとした。
その時、風祭さんの顔色がサッと変わったのに気付いた。
689: 2022/06/11(土) 18:03:57.62 ID:gSjxs612O
「な……何であなたがここに」
視線は私を見ていない。その先の誰かを見ている。
思わず振り返ると、そこには……
「トレーナーとウマ娘の交際は、学園規則で禁じられているはずですがなあ」
眼鏡の禿頭が、ニヤニヤと笑いながら10mほど先にいた。
>>75以上で一人ではない
690: 2022/06/11(土) 18:04:49.84 ID:msBXTUF7o
このハゲー!
692: 2022/06/11(土) 18:39:22.18 ID:6vdyD1i9O
「芹沢トレーナーっ……!?」
彼の後ろには、少し日に焼けた肌の、ゆるいTシャツ姿の少女がいた。……ウマ娘?
「いやいや、無粋だったな。俺も連れがいる」
彼女は私をじっと見ている。噂には聞いたことがある。褐色の肌にツリ目気味の目。短めの黒髪。全ての特徴が噂通りだ。
多分彼女が、ブリュスクマンだ。
「……どうしてここに」
「いや、ゆっくり読書でもしようかとな。実は家がこの近所でね。そうしたら、お熱いシーンを見てしまったというわけだ。
まあ、俺も客観的には未成年者を連れ歩く怪しげな中年だからな。脅せる立場にはない」
「彼女がブリュスクマン、か」
「……Sir, can I speak to them?」
「いや、いい。お前は日本語まだ慣れてないだろ」
「……Yes, sir」
風祭さんは芹沢トレーナーをじっと見ている。芹沢トレーナーは余裕の笑みだ。
「彼女は寮に入ってるはずでは」
「いや、特例で俺が面倒を見ている。まあ見ての通り、会話もまだ不自由だからな。
もちろん、お前らのようないかがわしい関係じゃないから安心しろ」
「……俺たちもまだそういう関係では」
クククッと芹沢トレーナーが嗤う。
「あー、みなまで言うなよ。甘酸っぱすぎて胸焼けしそうになったからな。
まあ、俺とコイツが一緒に住んでいるのは秋川の若作りババアとURAの最上級幹部しか知らない。お互いに秘密を抱えた、というわけだ」
「……互いに黙っていろ、というわけか」
「その通り。まあ、俺の方は探られて困ることは何一つないがな。面倒は嫌なんでね」
彼らがこちらに近付いてくる。妙な緊張感で、私はその場から動けなくなった。
その緊張感の源は……ブリュスクマン。とてつもない圧迫感と威圧感。
こんなウマ娘なんて……初めて見た。
すれ違うその時、芹沢トレーナーが真顔で告げた。
「……『健太』に行ったな?」
「……!!?何でそれを」
「時間は経ってもあそこの臭いは強烈だからな、服にその残滓が僅かに残ってる。
女連れで豚骨、それも『シャバ系』に行くのはまず考えにくい。……天王寺が『チートデイ』の先として紹介したか」
「……そこまで分かるのか」
「あいつの手口は分かりやすいんだよ。そして、天王寺と組んだということは、お前らの手口も見えた。『逃げる』つもりだな?
だが、コイツに小手先の細工は通用しない。ま、精々頑張ることだな」
ポン、と芹沢トレーナーが風祭さんの肩を叩いた。
そしてブリュスクマンは……
「I`ll divestate you」
それだけ言って、カフェへと消えていったのだった。
第13話 完
708: 2022/06/11(土) 21:35:59.83 ID:mUw6qnSpo
おつおつー
同棲ハゲ……!
同棲ハゲ……!
709: 2022/06/11(土) 23:28:16.31 ID:PMP2bX410
おつ
コメントは節度を持った内容でお願いします、 荒らし行為や過度な暴言、NG避けを行った場合はBAN 悪質な場合はIPホストの開示、さらにプロバイダに通報する事もあります