1: 2012/04/09(月) 08:59:40.43 ID:3ebek6iDO


※原作設定を甚だしく崩しております

※カップリングは特にありません

※たまにグロいシーンがございます

※脳内変換、ご都合主義よろしくです
とある魔術の禁書目録III ぷにこれ!キーホルダー(スタンド付) 御坂妹

前スレ↓
【上条浜面】とある四人の暗部組織【一方垣根】【前編】
【上条浜面】とある四人の暗部組織【一方垣根】【後編】

17: 2012/04/22(日) 05:48:43.51 ID:6tgUj71DO









『オイオイ、どうしたよお兄ちゃん? そんなんじゃ妹の弔い合戦なんねーぞ』








……うるせェ。








『ハハハッ! 何だぁその様は!? さっきまでの勢いはどうした小僧ォ!』








……うるせェよ。








『まさか能力で俺を殺せると思ってるワケか? やだねぇ……だからテメェはいつまで経ってもクソガキなんだよ』









うるせェっつってンだ!!

18: 2012/04/22(日) 05:49:53.59 ID:6tgUj71DO







「一方通行……?」

19: 2012/04/22(日) 05:50:59.32 ID:6tgUj71DO



一方「!!」



まず視界に入ったのは、自宅の天井だった。
寒気と汗がヒドい。息切れもあったのか、荒かった。

また、だ。『あの日』の夢。

理由は判らないが、最近になって頻繁に見る。
こうも毎晩、精神的ダメージを負わされては正直辛い。
身が保たないだろう。その内、本気で倒れ兼ねない。



「大丈夫ですか? とミサカは心の底から一方通行を心配します」



優しい声と共に、そっと頬に温かい何かが添えられた。
見れば、00001号が正座した状態で手を伸ばしていた。
撫でるように添えた手は悪意の欠片も無く、まったくの好意のモノ。

一方通行は彼女すら届かないほどの小さな声で、ぼそりと呟く。



一方「オマエか……」

00001号「はい。ミサカです。とミサカは返答します」



どうやら聞こえたらしい。
至極健気な返事が返ってきた。

20: 2012/04/22(日) 05:51:46.35 ID:6tgUj71DO

彼は前髪を掻き上げながら、



一方「今、何時だ?」

00001号「……ミサカネットワークに接続した所、ちょうど昼過ぎみたいです。とミサカは答えます」

一方「もォそンな時間か……あン? オマエは何時から起きてたンだ?」

00001号「五時間前です。とミサカは即答します」

一方「……まさかとは思うがよ、ずっとそォしてたとは言わねェよな?」

00001号「そうですが、何か問題でも?」

一方「馬鹿野郎」

00001号「あうっ」



ピシッと小気味の良い音を鳴らし、デコピンを放つ。
00001号は衝撃と痛みに襲われ、思わず一方通行から手を離して額をさする。
恨めしそうな目で、彼を睨んだ。

21: 2012/04/22(日) 05:56:41.08 ID:6tgUj71DO



00001号「……痛いです。とミサカは涙目になりながらも必氏に睨みます」

一方「痛くしたンだから当然だ」



言葉と共に上体を起こす。
どうやら、いつの間にか毛布が掛けられていたらしい。
自分にはベクトル操作が働いているから、必要はないのに。

本当に律儀で物好きなヤツだと、心底思う。
こんな自分に悪意も無く話しかけ、ましてや居候として住み始めた。






『兄さん!』






……懐かしい。懐かしい感覚だ。
ずっと浸っていたい、まるでくすりのような陶酔に襲われる。
あの頃は毎日味わっていたはずの感覚。

22: 2012/04/22(日) 06:00:09.13 ID:6tgUj71DO

なのにどうして、『蟠り』が己の中で渦巻くのだろう?

本来なら泣いて喜ぶほど、取り戻したいモノなのに。
何故、自分はこの感覚に違和感を覚えてしまっているのか。
実の妹ではなく、この少女だからか?



一方(わっかンねェ……)



知識不足なのか、経験不足なのかさえ判らない。
まだまだ己は未熟だと、痛感する。
このような事柄も理解に至らなくて、何が学園都市の第一位か。





―――『復讐が終わったら、お前はどうなる?』





……いつしか、上条に問われた記憶がある。
何を言っていいか判らず、言葉を詰まらせたのも明確に覚えている。

あの時、自分は何て答えを返しただろうか?
問われた言葉だけが脳裏に焼き付いていた。





―――『復讐の先に何を求める? 復讐で染まったテメェは、未来に何を願う?』





居丈高に告げられた理由は確か、逃げ場を与えないためだったはず。
生半可な答えは要求されなかった。

23: 2012/04/22(日) 06:02:02.73 ID:6tgUj71DO

木原を頃して、何が残る?
殺された妹も頃した仇も居なくなって、残された自分はどうする?

自分すらの破滅を願うか?
新しく生きていく道を選ぶか?
……判らない。今の自分では答えに辿り着けない。



00001号「ミサカはただ、一方通行が気持ち良く寝ていたので起こさず見ていただけなのに。とミサカは寝顔が可愛かったので見続けていた、という本心を隠します」

一方「全然隠し切れてねェかンな?」



考える事すら億劫だ、という結論は甘えに過ぎない。
それは逃げる行為。現実から目を背けようとしているだけ。
しかも、あくまで憶測だが、それは木原の思惑通りになってしまうだろう。
一方通行は怨んでいる。憎んでいる。
だから何をどんな事をすれば一方通行が動くか、読んでいるに違いない。
曲がり形にも自分の脳を弄くった人間の中でも、トップクラスの位置に達する者だ。



―――一方通行は本能に従い、能力を出し惜しみせず全力で来るに決まってる。

―――能力を使えば必ず勝利する、という傲慢な思考に結論付けているはずだ。



……おそらく、木原はこう予測を立てているだろう。

24: 2012/04/22(日) 06:04:05.43 ID:6tgUj71DO
だからこそ今回の『絶対能力進化実験』も、その予測範囲内のモノ。
木原を頃す手段が増えるとすれば、一方通行は自ら進んで更なる力を手に入れようとする、と。



一方「……甘ェ。甘ェよなァ……」

00001号「この程度の痛みはチョコレートのように甘々だと、そう言いたいのですね? とミサカは歴然とついた戦力の差に絶望します」

一方「あながち間違っちゃァいねェが、そもそも戦力を語らせたら俺とオマエじゃ話になンねェよ」



論点がズレてるのはともかく、だ。
これだけは言っておこう。
単純な戦力や火力において一方通行に勝る相手は、学園都市にはまず居ない。もしくは知らない。
但し、相性や状況、戦い方次第では一方通行を追い詰める、または凌ぐ事は不可能ではない。


閑話休題。


とにもかくにも、木原や上層部の筋書き通りに事が運ぶのは癪だ。
ならば例え柄じゃないことでも、それがヤツらに対する反抗になると思えば、慣れないことだろうと幾分かは楽になる。

25: 2012/04/22(日) 06:05:46.57 ID:6tgUj71DO



一方「そォいえば、飯は?」

00001号「ほぅ、一方通行はミサカに料理をしろと言うのですね?」

一方「違ェよバカ。食ったか? って聞いてンだ」

00001号「冗談です。食事ならまだですよ。居候の身で家主より先に済まそうとは思いませんから。とミサカはあくまで寝顔の件は隠しきります」

一方「だから隠せてねェって。……あー、じゃァ飯食いに行くとすっかァ」



怠そうに立ち上がる。
彼はテーブルに置いてある財布を後ろポケットへ突っ込むと、冷蔵庫へ向かう。

……と、様子をおとなしく眺めていた00001号が、一方通行の発言に首をかしげた。

26: 2012/04/22(日) 06:11:54.35 ID:6tgUj71DO



00001号「家で料理はしないのですか? とミサカは素朴な疑問をぶつけてみます」

一方「オマエの目には、俺がンなことするよォな人間に見えンのか?」

00001号「いえまったく」

一方「だったら聞くンじゃねェよ!?」

00001号「ワザと決まってるじゃないですか。とミサカはしれっと言い放ちます」

一方「なに、一体何なンですかァ!? オマエは俺に何を求めてやがるンですかァァァ?」

00001号「特になにも。ミサカはあくまで居候ですので」

一方「オマエのその唐突に常識人ぶるのやめてくれませンかねェッ!? テンションの差に付いていけないンですけどォ!」

00001号「そこは『さすが第一位!』っていう所を見せてほしいです」

一方「俺にどンな幻想を抱いてンだっ! ……オッケェェェエエイ……オマエがその気なら、俺もそれなりの強行手段を取らせて―――」

00001号「うわ、コーヒーしか入ってない冷蔵庫なんて施設でも見たことありませんよ。とミサカは率直な感想を述べます」

一方「聞けよクソガキャアアアアアアッッ!!!!」

00001号「うるさいです。とミサカは耳を塞ぎながら冷たい視線を送ります」

一方「あーもォッ!! 判ってンだよ!! 判ってるンだよォォォッ!! 冗談ってェのは、はなから判ってンだよクソッタレがッ!!
   ンだよバカキネの所為か!? アイツの細菌が感染したンじゃねェだろォな!! クッソ!! アイツ今度会ったらとりあえず頃す! 有無言わさずブチ頃してやる!!」

27: 2012/04/22(日) 06:12:30.92 ID:6tgUj71DO





十数分後。

28: 2012/04/22(日) 06:14:02.95 ID:6tgUj71DO



一方「……」

00001号「昨日よりも少しだけ長かったですね。とミサカは自らの体内時計の測定結果を報告します」



勝手に計るな、などというツッコミすら今は面倒に感じる。
もはや、この娘の言動がボケだろうと故意的な冗談だろうと、どうだっていい。

何故、何故こんな調子が狂うのか。

自分が勝手に乱しているのか。
このガキに乱されているのか。
それすらも今は判らない。



00001号「さて、どうしますか?」

一方「あー……判った判った。晩飯は作ってやるから今はファミレスで我慢しろ」

00001号「よっし。とミサカはガッツポーズを取ります」

一方「ったく……ンなこと頼むのオマエだけだっての」



ぶつぶつと独り言をこぼしながら、改めて冷蔵庫からコーヒーを取り出す。
準備が整ったところで、ふと思う。

作るとは言ったものの、何を作ればいいんだ? と。

一応、料理道具は一式揃ってはいる。
他にもベッドやテーブル、ソファーやタンスなど、必要最低限の家具はこの部屋に元から付いていた。
しかし料理をする気は更々無かったので、一度も触れていない。

29: 2012/04/22(日) 06:15:42.62 ID:6tgUj71DO



一方(そもそもだ、アイツは何を期待してンだ?)



料理の「り」の字も知らないというのに、あの少女のご期待する物を作れるとは到底思えない。
まず、料理に対する知識が一つも無い時点でアウトな気がする。
そんな歩き方も知らない赤子のようなヤツが、少女が所望する料理の品なんて判るはずがないだろう。

演算を駆使し、理論上成功する物なら作れるかもしれないが。
だとしても完成するまでの過程が解せなければ始まらない。



一方(……適当に携帯で漁ってみっか)



面倒な事になったものだ。
いや、この少女を居候として引き受けてしまった時点で既に面倒ではあるのだが。
この家の主は間違いなく自分なのに……何故だろうか、主導権を握られて振り回されている気がして気がならない。



一方(……そォいえば)



―――いつ以来だろうか。

―――『光』の世界で、誰かのために何かをすることは。

51: 2012/05/06(日) 02:42:41.81 ID:He5nlgxDO



―――ファミレス。



00001号「やはりここはオーソドックスにパスタ系を選ぶべきなのか、それとも明らかに九割ほど爆弾で違いない新作の『苦瓜と蝸牛の地獄ザラニア』を選ぶべきなのか……むむむ」

一方「その探究精神はどっから湧いてくるンだか……」

00001号「しかしこの『ドリアンを盛りに盛ったパフェスペシャル』もなかなかだと……。とミサカは苦悩します」

一方(……なァーンか、ますます晩飯はなにを作ればいいのか判ンねェ)



定番な物を作ればいいのか、それとも少しは凝った物を作ればいいのか。
少女の言葉をヒントに判断しようかと考えていたが、無理な気がしてきた。
挙げ句の果てにデザートを頼もうとしているのだから、致し方無い。

52: 2012/05/06(日) 02:45:26.30 ID:He5nlgxDO



一方(大体、ドリアンってヤツ。パフェっつってるけど、盛り過ぎてもはやドリアンしか見えてねェじゃねェか)

00001号「……一方通行はどれがいいと思いますか?」

一方「好きにすりゃァいい」

00001号「参考意見までに」

一方「……食後ならまだしも、いきなりデザートは無いンじゃねェの?」

00001号「あ、言い忘れてましたがミサカは何分、生まれて間も無く、栄養は主に薬か点滴で取ってたので、『食べる』という行為がしてみたいだけですので。とミサカは懇切丁寧に説明します」

一方「どれでもいいンじゃねェか……!!」



ヒクヒクと片方の口角がつり上がる。
どの道を転がり込んでも、一方通行はこの少女に翻弄されたままなのだろう。
そんな気がしてならない。



00001号「すいませーん。たらこスパゲッティを一つ下さーい」

一方「……」

00001号「何ですか? その結局定番のヤツかよ、みたいな顔は」

一方「別に。オマエには俺の常識は通用しねェのな、と思ってよ」

00001号「ルールに縛られない女なんだぜ? とミサカは決めポーズを取ってみます」

一方「何言ってンだクソガキが」

00001号「あたっ」

53: 2012/05/06(日) 02:47:34.16 ID:He5nlgxDO



デコピン。
学習しない少女は防御の動作さえ見せなかった。
またしても綺麗に決まった一撃は、地味に痛い程度の威力があったらしく、額をさする羽目に。



00001号「……何やら、ミサカは年下扱いされてるような気がします」

一方「実際年下なんだから仕方ねェンじゃねェの?」

00001号「体はお姉様譲りで子供っぽいですが、中身は大人ですよ? とミサカは大人アピールをします」

一方「0歳児が何言ってンの?」

54: 2012/05/06(日) 02:48:25.29 ID:He5nlgxDO




―――――――――――――――




垣根「……」



少年、垣根帝督は現在、非常に困り果てている。
程度を表すとしたら、それはもう思わずリーダーに助けを求めるほどに。
いつも上条達を困らせる側に位置する彼が、逆に困っているというのも至極珍しい。

トラブルメーカーなんて汚名を授けられた彼をも脅かす存在。それは……、



インデックス「こんないたいけな女の子を放って置いて立ち去ろうなんて、可哀想だと思わないのかな!?」




―――意外にも、小柄な少女だったりする。

55: 2012/05/06(日) 02:50:01.37 ID:He5nlgxDO
白い修道服を身に纏う銀髪シスター。
縋るような形で垣根の右足に引っ付いて、まるで離れる素振りは無い。


そもそも何故この事態に陥ったかと言うと。


今日の晩行われる『謎の侵略者(インベーダー)からの施設防衛戦』。
その裏で決して見つからないよう動き回り、絶対能力進化実験の情報を入手すること。
万が一を考えて施設の内部構造や用意すべき道具など、公園でゆっくり考えるかー、とかなんとか思っていたら、





『あー! とうまを運んで来てくれた人の一人なんだよ!!』





……から始まり。

56: 2012/05/06(日) 02:52:45.47 ID:He5nlgxDO
明らかに見た事のある姿で服装。
今関わってしまったら確実にややこしくなるな、と脳裏によぎったので踵を返したら、





『ねえねえ! とうまやしあげと一緒にいた人ってことは、あなたもとうまの友達なんだよね!?』





引っ付かれる始末。

帰ろうにも右足を封じられ、動けない状態に陥っているため不可能。
仕方なく話を聞いてやれば腹が減ったときたもんだ。
知った事ではない、と本当は吐き捨てたい。



インデックス「お願いなんだよー、おなか減って力がでないんだよぉ……」

垣根(……でもなー)

57: 2012/05/06(日) 02:53:53.40 ID:He5nlgxDO



彼の中に残る僅かな良心が踏み止まらせている。
もし見捨てた事が上条の耳に入り、自分の評価が下がった上に制裁を食らう羽目になるのは御免被る。
流石にそれは避けたい。とてもではないが恐いのだ。



垣根(ただ……いや、でもなぁ……)



頭の中で色々と思考錯誤を繰り返していると、



インデックス「むむむ……しあげは奢ってくれたのに、この人は心が狭いかも……」

垣根「……なんだと?」






―――何やら、聞き捨てにならない言葉が聞こえた気がする

58: 2012/05/06(日) 02:57:55.62 ID:He5nlgxDO



垣根「浜面が何を奢ったって?」

インデックス「ごはんなんだよ? パフェも奢ってくれたもん!」

垣根「……」



浜面仕上という無能力者が、この娘にご飯を奢ってあげて?
垣根帝督という超能力者が、この娘にご飯を奢ってあげれない?



垣根「オーケー……いいぜ。この俺がテメェにご飯でもデザートでも、何でも奢ってやらあ!」






―――彼の中で、何かが切れた。






インデックス「ほんとっ!? 嘘ついちゃダメなんだよ!」

垣根「あぁ、男に二言はねぇ。ドンとこい」

インデックス「……あなたって実はいい人なのかも?」

垣根「あなたじゃねぇ。垣根帝督だ」

インデックス「ていとくだね! ていとく、早速行きたいかも!」

垣根「よっしゃ任せとけ!」



……彼は知らない。
この後、盛大に後悔する事を。

人は皆、事後に知って気付いたり後悔することが多い。……が。
彼の場合は事後じゃなく、事前に悟ることは出来たはずだ。

それも彼のプライド故か。
或いはただ馬鹿なだけか。


「だからオマエは二枚目じゃなく、三枚目なンだよ」


ドコかの白い人が、そう言ってたそうな。

59: 2012/05/06(日) 02:59:46.62 ID:He5nlgxDO




―――――――――――――――




00001号「ふぅ、食べました」

一方「満足か?」

00001号「はい、とても。とミサカは感想を述べます」

一方「そりゃァ良かったな」



たらこスパゲッティを一つ。
ジャンボデラックスパフェを一つ。
正直、一方通行が食べれる量ではない。
そんな細い体してるくせによく食べれるな、と密かに思う。
これが成長期なのだろうか?

……と。彼が肩肘をついて見ていると、



00001号「何をそんな熱心にミサカを凝視しているのですか? ミサカの体に興味があるのですか? とミサカはセクシーポーズを取ってみます」

一方「俺は未だにオマエのキャラが掴めねェンだけど」

00001号「冗談ですよ。とミサカはほくそ笑みます」



人差し指を唇に添える。
片目をつむって悪戯っぽさを表す。

……ほんの僅かだが、感情が出ている気がするのは単なる思い過ごしだろうか?

60: 2012/05/06(日) 03:05:02.91 ID:He5nlgxDO

この少女は色んな意味で判らない。
ただ、判らない事柄の中でも随一を誇るのは『感情』について。
感情プログラムはインストールされてないと聞いている。確かな情報だ。
しかし会話の中で時折、感情があるのではないか? と錯覚する時が多々ある。



一方「……」



もしも、今の少女の状態が所謂『奇跡』だとしたら。
ありふれた日常、人に触れ言葉を交わし、関わっていくなかで生まれた“モノ”だとしたら。

医学でも解明不可能な現象が起きる。
悪い事でも良い事でも。
自分はその中の貴重な一つを、こうして目の当たりにしているのかもしれない。



00001号「……悩んでいるのですか?」

一方「あァ、どォすればオマエは家主をいたわる事ができっかなァってよォ」

00001号「むむ、それは聞き捨てにならないです。こんなにもミサカは主をいたわり、そして尊敬していると言うのに。伝わってないのですか? とミサカは熱弁します」

一方「伝わってねェっつーか、ンなもン醸し出してた事に驚愕だわ。寧ろからかってる事しか伝わってないンですけどォ?」

00001号「失礼ですね。揶揄と言って下さい」

一方「言い方変えただけで意味は一緒じゃねェか!」

61: 2012/05/06(日) 03:06:28.13 ID:He5nlgxDO



結局、一方通行は少女のペースに踊らされている。
幾ら冷静で居ようと頑張っても、どうやら無意味のようだ。

この少女は囃し立て方というか煽り方というか、ドコかの誰かさんに似ている。
そう、背中に天使の翼みたいな物を生やして、とにかく身なりに似合わないメルヘン野郎に。




―――――――――――――――



垣根「へっっっくしょん! ……誰かが俺の噂をしてやがるな? モテる男は辛いぜ」

インデックス「この数十分で気付いたことなんだけど、ていとくってナルシストなの?」



―――――――――――――――




00001号「改めて、お聞きしたい事があるのですが。とミサカは畏まった態度で尋ねます」

一方「水を一気飲みしたヤツがなにフザケた事言ってンだ?」

62: 2012/05/06(日) 03:08:45.34 ID:He5nlgxDO



コップを掴んでる手とは逆の手で、口元から垂れた水を拭う。
ついでに氷を一個、口に含んでゴリゴリ噛み砕いている。

もちろん、畏まる態度は微塵も無い。

ここでようやく気付いた事。
目の前に堂々と座る少女の扱いについて。
もはや悟る方が早いのかもしれない。



00001号「先程も言ったように何か悩みがあるのかと思いまして」

一方「あァ? あー……言ってたな。それがどォかしたかよ? あったとしても別にオマエには関係の無い事だ」

00001号「いえいえ、居候として家主の悩み事ぐらいは聞ける気遣いは出来ないと。とミサカは出来る女をアピールします」

一方「……はァ、どォしてそォ思ったンだ?」



半分諦め、半分興味本位。
きっと少女にどんな皮肉な言葉で興味を失せさせようとしても、無意味なのだろう。
そして何故か、心のドコかで少女の出す返答に興味を持ってしまっていた。

ほんの僅かな好奇心。
自分が悩んでいると何で思ったのか、遊び心で聞いただけだ。
どうせ少女の事だから、直感! とか答え兼ねない。

63: 2012/05/06(日) 03:10:16.26 ID:He5nlgxDO






00001号「……魘されていましたから」







―――なのに。







00001号「あなたは時々、一人で考えふけますね? それも普段とは思えないような寂しそうな顔で」







―――このガキは、どォして……っ。

64: 2012/05/06(日) 03:12:06.67 ID:He5nlgxDO



一方「……なンでこォ、世の中って思い通りにいかねェンだろォな……」

00001号「誰かが言ってました。『己の人生が全て思い通りに運ぶと、人は大切な物を失う』と」

一方「……」

00001号「え、悩みってそれですか? とミサカは肩透しを食らった気分に陥ります」

一方「近くはねェが、遠くもねェな」

00001号「凄く曖昧な回答ですね」



呆れたのか、肩を竦ませて首を振る。
細めた目も完全に興醒めしたらしい。



一方(……いいンだこれで)



コーヒーを飲んで、表情を隠す。
少女には見抜かれているから、おそらくこの思考も容易く見透かされてしまう。
何故かは判らないけれど。

65: 2012/05/06(日) 03:14:37.95 ID:He5nlgxDO

自分は垣根や浜面のように顔に出るタイプではない。
内なる感情を露骨に出すほど素直なヤツでもない事を、よく判ってる。

そんな“俺”に看過せず声にして言ったのは、二人目だ。
垣根ですら感付いてはいるだろうが、あえて口にしないと言うのに。
お人好しの証拠。でも……、



一方(ずっと隠し通せるとは思えねェ。いつか、いつかは……)



少女には、“全部”を話しても大丈夫な気がする。
妹の事も。復讐に囚われてる感情も。上条との出会いも。

簡単に話せるような内容ではない。
家を出て行くほどの覚悟を持つ必要がある。軽蔑される事は目に見えてるんだ。
わざわざ家に居候させる理由も無い。出て行きたければ出て行けばイイ。
それが普通だから。反応としては正しいから。

だけど、タイミングは今じゃないのも確か。
こんな喧騒の場で、話すのは自分としても嫌だ。

機会を待て。
やがては訪れるその日を。


必ず、とは言い切れない。


もしかしたらそんな日は来ないかもしれない。
断言出来るほど自信があったら良かったけれど……お生憎様、あるならこんな苦労はしない。

だって、



一方「……下らねェよなァ」






―――この世界のクソッタレな神様は、とことん『一方通行』を嫌っているんだから。

66: 2012/05/06(日) 03:15:25.62 ID:He5nlgxDO




―――――――――――――――




その日の夜。
とあるビルの屋上。

強い風が吹き抜ける。
閑静とした闇の中。



美琴「……」



少女―――御坂美琴は居た。


時間帯は深夜。
ほとんどの人間が就寝する頃。
静まり返る街は、昼間とは打って変わって美しい景色を描いていた。



美琴「……っ」






―――この風景が、ドコまで闇で取り繕っているのか。

67: 2012/05/06(日) 03:16:11.24 ID:He5nlgxDO



美琴「後、二つ。それで終わるから……」



生気を失った瞳は、光を宿さない。
顔色は相当悪く、ギリギリで意識を保っているのだろう。

肩まである髪をゴムで纏め、帽子を深く被る。
段差に片足を掛け、靴紐を頑丈に結んだ。



美琴「……当麻」



ふと、この世で最も愛している人物の名を口にした。
どんな時も心の支えになっている大切な人。
彼が居なければ、今の自分は確実に居ない。

68: 2012/05/06(日) 03:18:34.98 ID:He5nlgxDO



美琴「……ッ」



本当は、頼りたい。
縋りついて赤子のように涙を流したい。
目が腫れるほど、声が嗄れるほど。

助けて、と電話で言ったら彼は駆け付けてくるだろうか?
泣いて叫べば、彼は慰めの言葉を掛けてくれるだろうか?

こんな、こんな身も心もズタズタにボロボロになった醜い“私”を、彼はまた手を差し伸べてくれるだろうか?
手を握って、優しく頭を撫でてくれるだろうか?

また、また―――



美琴「ダメ……ッ」



歯を強く食いしばり、目もギュッと固く閉じる。
思考を払拭するように首を大きく横に振った。

こんな弱音は許されない。
甘い言葉で壁が乗り越えられるなら、とうの昔に終わっている。
今回ばかりは彼を頼ってはいけないんだ。
そもそもの原因は自分が作り出しているんだから。



美琴「すぅ……はぁ……」



ゆっくり深呼吸。

69: 2012/05/06(日) 03:19:52.75 ID:He5nlgxDO









―――神経を研ぎ澄ませろ。





―――この時間だけでイイ。





―――心を鬼に、躊躇いを消せ。





―――但し決して人を殺めるな。





―――被害は、最小限に。





















美琴「―――行くわよ」

78: 2012/05/20(日) 02:57:24.41 ID:mI1riL/DO









―――××学区○○研究所。

79: 2012/05/20(日) 02:58:22.86 ID:mI1riL/DO



垣根帝督は研究所の近くにある、建物の屋上から様子を窺っていた。
とりあえず視覚から見て取れる事は、『謎の侵略者からの施設防衛戦』は既に始まっている。

『アイテム』の四人を乗せていたであろう黒いワゴン車が、研究施設とは少し離れた場所に停めてあった。
それによく見れば、白衣を着た人間達が、まちまちながらも裏口から出て行くのを確認。
上記の事柄を踏まえて、おそらく御坂美琴は施設へ侵入している。

しかし未だ目立った内部の抗争は行われていない様子。何故なら施設内から物音一つしない。
あの『アイテム』の戦闘が、こんな静かなモノであるはずがないに決まってる。
まだ接触はしてないのだろう。



垣根「クッソ……」



……が。今の彼はそんな考察すらどうでもいいほど、不機嫌であった。

80: 2012/05/20(日) 02:59:16.84 ID:mI1riL/DO
表情から誰でも判ってしまうぐらい。
施設を眺めながらも、眉間にシワを寄せたままで、ずっと別のことを考えている。

一体何故、彼は不機嫌なのか。
原因は難しく頭を使わずとも容易く答えに辿り着けるだろう。



垣根「全部持ってかれちまった……どうするよ今月? 保たねぇぞ……」



この言葉が全てを物語っていた。
彼の財布の中身は食い潰され、一瞬の内に極寒を迎えたようだ。



垣根「浜面のヤツ、大丈夫かよ。俺でこんだけ持ってかれたと考えると……餓氏してんじゃね?」



ちょっと本気で心配になる。
お金が無くて何も食べれず、既にくたばっちまってるんじゃないか? と。

81: 2012/05/20(日) 03:01:13.54 ID:mI1riL/DO

まだ自分は『LEVEL5』というハンデがある。
学園都市から支給される金額も桁違い。
だが、浜面仕上は『LEVEL0』だ。
0と5では話にならないほど、金額の差は甚だしい。



垣根「……帰ったら一緒に、被害者の会でも開いて慰め合うか」



何だか急に切なくなってきた。
被害に遭った者同士、傷の舐め合いをしよう。
彼は目をつむって天を仰ぎながら固く誓った。


―――と、その時。



垣根「……」



瞳の片方がゆっくりと開かれた。
施設を見据え、そのまま時が止まったかのように微動だにしない。

たっぷり時間を置き、垣根はようやく立ち上がる。



垣根「始まったか」



その表情は普段とは一変して、ある“特別”な仕事の時だけ見せる顔。
彼が珍しく仕事を真面目にこなすという証。
流石の垣根も『リーダーからの個人的な依頼』には相応の覚悟で来たらしい。
でも、きっとそれだけではないのだろう。
内容が内容だ。フザケてやるような依頼ではない。

82: 2012/05/20(日) 03:01:43.15 ID:mI1riL/DO








―――つまり、内部で御坂美琴と『アイテム』が接触したのだ。

83: 2012/05/20(日) 03:04:37.43 ID:mI1riL/DO



表面上は隠してあるものの、実際はLEVEL5同士の氏闘。
第三位は頃す気は無いだろうが、第四位は確実に頃す気だ。
生半可にやれば見つかってしまい、絶対に巻き込まれる。
何故なら『アイテム』には、確か『能力追跡』を持つ能力者が居たはず。
常に気を張ってなければならない。

もしも見つかってしまったとして、第三位は何となくなる。軽くあしらえば済むだろう。
だけど第四位は厄介で、あしらおうと思っても、「無理」と明言出来るほど。
短気な性格が災いして、自分が何を喋ろうともビームを撃ってくる。
厄介なこと極まり無い。



垣根「アイツだけはマジで面倒だからなー……」



難無く施設内へ侵入。
能力を使って空を飛んでワゴン車を見た際、幸いな事に誰も乗っていなかった。
四人一斉に畳み掛けているのか、一対一で挑んでいるのか。



垣根(……一人ずつだな。アイツは邪魔されるのを一番嫌いやがる。性に合わねぇことは大っ嫌いなヤツだからな)



という事は、早々に来て良かったかもしれない。
初めから第四位が交戦をするとは思えない。まずは他のメンバーが前衛に立つはず。



垣根(いや、もしくは他のヤツらが既にやられちまって、本命が出て来た可能性も否めねぇな。
   だったらタイミング良かったのかもな。身内(暗部)の野郎が多いと動き辛い動き辛い)



だとしたら、先程から響く爆音と地鳴りも納得がいく。
まだ第四位が出てないにしても、学園都市第三位が相手だ、どうせ長くは持たない。



垣根(さて、と。とりあえずコントロール室に行って、色々調べてくっかなー)

84: 2012/05/20(日) 03:27:42.43 ID:mI1riL/DO




―――――――――――――――




攻防戦が始まり、数十分。ワゴン車内にて。

ふぅ、と一息をつきながら座席に腰を下ろすのは、『アイテム』構成員の一人―――フレンダ=セイヴェルン。
つい先程、襲撃者の撃破に失敗。
寸前の所で麦野と滝壺と合流し、三人で追い詰めていたが、麦野が本気を出す理由で滝壺と共にワゴン車へ帰還。
その内、絹旗も合流とのこと。移送準備が整い次第、麦野に連絡。
その後の手順は麦野のテンションによって異なるので判らない。
自分の役目はもう終えたも当然なので、準備が完了するこの間、ヒマと言っても過言ではない。



「フレンダはあのまま残っても良かったんだよ?」



惜しむように言ったのは隣に座る少女―――滝壺理后。
上はTシャツ一枚に下はピンクのジャージ姿と、ラフな格好だった。

まるで今さっきマラソンをしてきました、と言わんばかりの汗と荒い息。
説明すると長くなるので掻い摘むと、彼女の能力はあの垣根が厄介と警戒する『能力追跡』。
しかし普段のままでは、ある信号をキャッチするだけ。
『体晶』を服用する事でその真価は発揮される。
けれどデメリットは大きく、体の拒否反応で『崩壊』し兼ねない状態に陥る。
そして今に至る訳だ。

85: 2012/05/20(日) 03:28:51.42 ID:mI1riL/DO



フレンダ「気にしない気にしない。結局、麦野が本気出す時は足を引っ張る事しか出来ないって訳よ」

滝壺「……そう、だね。麦野はテンションが上がっちゃうと、周りが見えなくなるから」



彼女は優しく苦笑いを浮かべた。
両足に視線を落とす瞳は、しょうがない姉を見るような、まるで家族を見守るような瞳を宿していた。
滝壺は『アイテム』の中で、もっとも麦野との交流が深い人物。
絹旗と同時期に正規の構成員として『アイテム』に加わった時には、既に麦野と滝壺は居たと聞く。
“どういう付き合い”ではなく、“今まで一緒に居た期間”という深さ。

これは誰にも埋められない。
『彼』でさえも。



フレンダ「ふーん……そんな事よりも! 大丈夫なの? 限界まで使ってるみたいだけど、結局、見てるこっちが心配な訳よ」



浜面仕上。滝壺理后と幼馴染み。

86: 2012/05/20(日) 03:30:38.74 ID:mI1riL/DO

あの話を聞いた時、素直に驚いた。
彼が捜し求める人物が誰なのか、いち早く気付いてしまったから。
まさか身内だとは誰が予想しよう。
こんなドラマみたいな展開、現実で起こるモノなのかと実感した。









そして―――伝えるべきかと迷った。









滝壺「……大丈夫。それに、私の居場所は“ここ”しかないから」

フレンダ「―――っ」



彼女は……覚えているのだろうか?
かつて、隣に居たはずの浜面仕上と言う男を覚えているのだろうか?

あの日から、あの男はアナタを捜し続けていて、今もなお追っている。と伝えるべきなのだろうか?

覚えているならば、滝壺は必ず会う方を選択するだろう。
無事に感動の再会を果たしてくれれば、自分も申し分ない。
彼女の居場所が“ここ”以外に作れると言うのなら、それは喜ばしい事だ。



でも……きっと麦野は許さない。

87: 2012/05/20(日) 03:31:59.77 ID:mI1riL/DO



フレンダ「そっか……。滝壺にもいつか、ココ以外に居場所が作れるとイイね」



それに気になるのは、『上条当麻』。
浜面仕上を変えた人物だが、その名前はドコかで聞き覚えがあった。
誰かに聞いた訳ではなく、自然と耳に入ってきたような風のモノ。
尤も暗部である自分に入ってくる情報など、ろくなものではないだろうが……。



フレンダ(……結局、色々調べてみないと判らない訳よ。あーあ、こういうのは柄じゃないのに)




―――――――――――――――




垣根「ここか……?」



薄暗く辺りがよく見えないが、極太の配線コードが大量に繋がれている。
おそらく、施設中に電力を送り込む為であろう。
という事は、場所自体は間違っていない。

88: 2012/05/20(日) 03:32:39.11 ID:mI1riL/DO



垣根「んじゃ、第三位が来る前にさっさと済ませちまうか」



取り出したのは上条に支給されたUSBメモリ。
コレを使って、施設にある『絶対能力進化実験』の情報を全て引き出してコピーしてこいとの事。
実験に関わっている施設が残り二基になった今、何かしらアクションは必ずあるはず。
言わば情報を盗む好機らしい。



垣根「……あん? 音が止んだ……?」



USBメモリを差し込み、スイッチを入れた所で気が付いた。
さっきまで響いていた爆発音が鳴り止んだのだ。
ココに来るまでに密かに覗き見したところ、丁度LEVEL5同士の戦闘の真っ最中だった。

その音が鳴り止むという事は、決着がついたのだろうか?



垣根「オイオイ、切羽詰まってんな。ヘタすりゃ間に合わねぇぞ」



どちらが勝利を収めたかによって、問題は異なる。
第四位が勝てば、そのままワゴン車に乗って帰還するだろう。
しかし、逆の第三位が勝てば施設内の電力を破壊するためにココへやって来るので、接触する可能性が非常に高い。
対処は出来ると言ったものの、やはりなるべく接触は避けたいのが本音。
一方通行ではないが、面倒事は被りたく無いのだ。

89: 2012/05/20(日) 03:33:44.95 ID:mI1riL/DO



垣根「出来るだけ早くこっからおさらばして―――ん?」



再びUSBメモリに視線を戻すと、近くにあるモニター画面がいつの間にやら電源がONになっていた。
しかも運が良いのか悪いのか、はたまた神の悪戯か、画面は『絶対能力進化実験』の事だ。

垣根は無造作に画面にタッチし、スクロールさせる。
ズラリと並ぶ文字を目だけで追い、第二位の頭脳をフルに使って読んでいく。
流石と言うべきか、読むスピードが尋常ではなかった。



垣根(『絶対能力進化実験』追記……?)



今まで超絶速度で読破しようとしていたが、この一行で目が止まる。
いつの追記なのか、月日は書き記されていない。
眉間を顰める。何やら、臭う。



垣根「七月中旬、『絶対能力進化実験』は第一位“一方通行”によって強制的に中止……」



言回しはもっと堅っ苦しい文面だが、そこは垣根式変換されている。

90: 2012/05/20(日) 03:34:52.92 ID:mI1riL/DO
実験が中止。むしろ歓喜すべきなんだろうと思う。
リーダーにとっても。第三位にとっても。

だとしたら、何故第三位が未だに施設を破壊し回っているのかが判らない。
この追記が書き記されたのが、第三位が実験を知った後なのか。
まあ、それしか考えられないんだけども……。



垣根「……ま、良かったじゃねぇか。いつ気付くかは知らんが、とりあえずリーダーに連絡して」



もはや用事が済んだと思って適当にスクロールしていくと、ある文面にまたしても目が止まった。










『20001体の妹達の処理について』










垣根「……っ」



じとり、とコメカミから汗が垂れる。
僅かに唾を飲み込んで、スクロールを続ける。

91: 2012/05/20(日) 03:36:32.72 ID:mI1riL/DO









―――実験が中止になった今、二万を越えるクローンの必要性は皆無。









―――外の世界に放り出す訳にもいかない。住民が混乱を起こし兼ねないからだ。









―――上層部にこの件を持ち掛け、処理の方法を求めた。









―――よって、遅くても一週間以内に妹達は処分を命ずる。









―――七月××日。

92: 2012/05/20(日) 03:38:00.19 ID:mI1riL/DO



垣根「これって、今日書かれたことじゃねぇか……!!」



この先は何も書かれていない。
追記は終わったのだろう。
とにもかくにも、まず上条当麻に伝えた方が賢明だ。
返ってくる言葉は既に八割ほど判っているが、一応連絡して事態の急変を教えるべき。

上条当麻がこの始末の付け方に納得いくはずが無い。
今度こそ激怒し兼ねない。そうなってくると、もう誰にも止められやしないに決まってる。
第一位と浜面の三人がかりで頑張って、精々動きを止めれる程度。

動きは止めれるが、勢いは止めれない。
それじゃあ意味が無いのだ。動きだけでなく、冷静になってもらわなければ。



垣根「とにかくリーダーに―――」



しかし、彼は忘れていた。

93: 2012/05/20(日) 03:38:32.69 ID:mI1riL/DO













「誰?」

94: 2012/05/20(日) 03:39:59.59 ID:mI1riL/DO



この施設に彼女が居たのを。




そして今知った情報を彼女まで知れば、必ず上層部に喧嘩を売ってしまう事も。



タイムリミットが迫る中で、垣根帝督は一つの壁にぶつかる。














美琴「アンタは確か……当麻の……?」



学園都市第三位、『超電磁砲』―――御坂美琴。

104: 2012/06/01(金) 01:34:56.15 ID:kGWHTXeDO



マズい、と思った時には既に体が動いていた。
彼の咄嗟の判断か、もしくは無意識かもしれない。
少なくとも垣根帝督は御坂美琴と遭遇したケースの対処よりも、最優先すべき行動をする。

画面をタッチしていた片方の手には力を蓄え。
もう片方の手でUSBメモリを抜いた。
結果―――画面が炸裂した。



垣根「っ!」



それだけで止まらない。
続いて部屋の奥へ振り返ると同時に腕を払う。
小さな球体が一際大きな機械に飛来。
球体が触れた途端、起こる事象は爆発だった。

瞬間、今まで稼働していた機械の電源が全て落ちた。



美琴「ちょっと……? 何したのよ!」

垣根「テメェが今さっきまでやろうとしてた事を、俺がやったまでだ。優しいだろ?」

105: 2012/06/01(金) 01:36:38.81 ID:kGWHTXeDO



調子の良い言葉を放ち、不敵な笑みを浮かべる。
しかし、瞳から感じられるモノは圧倒的な威圧感だ。
街を歩く一般人や堕落したスキルアウト共が、軽く退けられる代物。
そのオーラとも言える“居るだけで圧迫される存在”に、美琴は一向に警戒心を崩そうとはしない。

彼女の一歩も引かない姿勢を見て、「やっぱり一筋縄じゃいかなさそうだな……」と垣根は思案する。
仮にも第三位を冠する人物。伊達ではないらしい。

一方の美琴。
彼女の視線の着眼点は、垣根帝督という人物の能力考察や余裕ある振る舞いではなく、ある一点に注がれていた。



美琴「……それで、何してたの?」



指し示した所は彼に片手にあるUSBメモリ。
深刻そうに敵意を剥き出しながら問う美琴に対して、垣根は淡泊にサラリと答える。

106: 2012/06/01(金) 01:40:58.79 ID:kGWHTXeDO



垣根「これか? ちょっくら人に頼まれてよ、ある情報を全部コピーさせてもらってた。文句あっか?」



満足か? と言う聞き方ではない。
この問い質し方は、言いたい事が有る無し関係無く、自分の都合の良いように持って行こうとする問いだ。
文句なんてあるはずが無い。そういう事を聞きたい訳じゃないのだから。

美琴は拳を更に強く握り締める。
さっき自分に向かってビームをブッ放して来たあの女は、問答無用で能力戦だった。
しかしこの男はまた別の部類。今の考察では頭脳派か。
少なくとも、ただならぬ気配や雰囲気を放っているのは間違いない。



美琴「アンタもあいつらの―――」

垣根「それはねぇよ。俺はこの事に関しちゃ完全に部外者だ。俺に限らず、さっきテメェを狙ってた女も同じさ」

美琴「……っ」



この事、“実験”だろうか?

107: 2012/06/01(金) 01:42:44.06 ID:kGWHTXeDO
もしそうだとして、実験に関わっていないと明言したが、本当か否かは判らない。
だけど、この男が嘘を吐く理由が無いのも確か。あっても第三位である自分との戦闘を避けるためか。
その方が好都合ではある。これ以上無駄な体力は削りたくはない。
避けれるなら避けたいし、それにこんな所で時間を食ってる余裕すら、今の自分には無いだろう。
実験に携わっていないのなら、この男に必要以上に関わる理由も無くなるので万々歳だ。



垣根「……何もねぇなら行っていいか? 何時までもガキの相手をしてられる程、俺だってヒマじゃ無いんだ」



普段なら『ガキ』と言われた時点でブチ切れているのだが、そんな気さえ起こらないのは疲れている所為か。
もはや怒る気力さえ湧かなかった。



美琴「……一つだけ、聞かせて」

垣根「あぁ?」



でも、たった一つだけ聞きたいことが彼女にはあった。
この男は上条当麻を慕う人物の一人であるはず。
隣に居た姿を一度見て、親しげ話し掛けていたのを覚えている。

だからこそ……今から聞く、質問はハズレて欲しいと願う。

108: 2012/06/01(金) 01:44:52.30 ID:kGWHTXeDO



美琴「アンタ、頼まれたと言ったわよね? それは誰? もしかして……当麻?」

垣根「……」



垣根は眉一つ変えない。
むしろ体なんて微動だにしなかった。
驚いたようにキョトンとした表情も、疑惑を持つように眉をひそめた訳でも無い。
目を細める事も。ピクッと反応する事も。

読む事が出来ない。
聡明な人ならば、必ず素直に答えてはくれないだろうとは思っていた。
逆に嘘を言って自分を惑わす策を講じるのではないかと、そんな所まで考えていた。


けど、違う。


この男はただひたすらに口を閉ざしているんじゃない。
“私”を……試そうとしている。見定めようとしているのだ。
心の内まで覗き込んで、見透かすつもりなのだ。



垣根「……はぁ、そんな構えなくたっていいっつーの。言っただろ? テメェと戯れてる時間なんざ無いの。オーケー?」

109: 2012/06/01(金) 01:48:06.56 ID:kGWHTXeDO



無言の緊張に飽きたのか、痺れを切らした垣根が億劫そうに答えた。
ガシガシと髪を掻き、ポケットに手を突っ込む。



垣根「言う必要が無ければ、答えてやる義理も無い。詮索は止めとくんだな、俺がテメェ相手に口を割るこたぁねぇからよ」



美琴と擦れ違う際に言い切る。
僅かな余韻を残させるために、殺気を体全体に染み込むように送った。
これで普通ならば足が竦み、地面に膝が付くだろう。
膝が折れなくとも全身が硬直して、その場に立ち竦むのどちらかだ。



垣根(餞別として送ってやったつもりだったが……余計なお世話だった―――)

美琴「待ちなさいよッ!!!!」



曲がり角の直前、だいぶ歩いてようやく引き止める声がした。
彼の不敵な笑みが深くなる。そして改めて思い直す。


やっぱりコイツは上条当麻の事になると面白い反応と度胸を見せる、と。


垣根帝督はドコかで、楽しんでいる自分が居るのかもしれない、と自覚する。
反面、リーダーの意志には背いているので心は辛い。



垣根(……俺は、試してぇのかな。本当にコイツはリーダーの隣に並べる資格があるのか)



ガキかよ、と自嘲。
思い詰めること大好き人間、第一位じゃあるまいし、悩むぐらいなら行動を起こす方が自分らしい。
性に合わないし、何より柄じゃない。第一位みたいに根暗野郎には成り下がりたくないのだ。

と、言うことで、



垣根「悪ぃリーダー。ちっとばかし寄り道する」



一つ断言するならば、結局幾ら真面目にやろうとも垣根帝督だと言う事。

今宵も夜は長くなる。

110: 2012/06/01(金) 01:49:31.28 ID:kGWHTXeDO




―――――――――――――――




浜面「なぁ、上条」

上条「んあー? 何でございませうか?」

浜面「今日の昼に垣根と会ったんだってな? アイツから色々聞いたよ」

インデックス「その前になんでしあげが、さも当然のようにとうまの家にいるのか教えてほしいかも……」

上条「何だ、もう情報が回ってるのかよ。……じゃあ、わざわざファミレスでコソコソ話した意味が無いと上条さんは思う訳ですが……」

浜面「まあ、垣根だしさ? しょうがねえって」

インデックス「無視っ!? それはあんまりじゃないかな!!」

上条「はぁ……で? それがどうかしたか?」

浜面「何で垣根なんだ? あ、いや、別に不満って訳じゃないんだけどさ……いつもならこういう仕事は俺に回してくんのに何でかなー、って思ってよ」

上条「あいつから聞いたなら判るだろ? 接触した時の事を考えてだ」

浜面「“接触した場合”の話だろ? 正直、接触したら一番危ないのは垣根なんじゃねえの?」

上条「…………」

浜面「…………」

111: 2012/06/01(金) 01:51:28.97 ID:kGWHTXeDO

インデックス「とうま!? とぉぉぉまぁぁぁぁっ!! もうお外はまっくらなんだよーっ!! 寝る時間なんだよ!? 寝かせてほしいんだよぉぉぉぉ!!」

上条「残念! それは想定済みなんですよ、っと」

浜面「ホントかっ!? 嘘じゃなかったら今の間は何なんだよ!? 明らか今気付きましたパターンじゃねえのォ!!!?」

上条「違う違う。ちゃんと想定済みだって。大体、誰が行っても接触するんですよコレが」

浜面「は? 何で?」

上条「美琴の能力の応用さ。レーダーで人の位置を感知できるんだと。だから幾らお前でも無理。上条さんもビックリですよー」

浜面「……いや、でもだぜ? 垣根って絶対けしかけるぞ? あの子を怒らせるようなこと」

上条「だからいいんじゃねーか」

浜面「……俺は上条の考えてることが全く読めねえんだけど」

上条「だってさ?」

浜面「ん?」

112: 2012/06/01(金) 01:52:20.21 ID:kGWHTXeDO
















上条「そういう面じゃ、きっとアイツら相性良いぞ?」

113: 2012/06/01(金) 01:53:03.81 ID:kGWHTXeDO




―――――――――――――――




美琴「……っ」



美琴は数十メートル先にいる、男を見据える。
場所は廊下で、一本しか無い道。
逃げれる場所なんて無いに等しい。

ギリ……ッ、と強く握りしめて拳を作る。
正直な所、まだ男の能力は計り知れない。
一瞬だけ目視したが、意味が判らなかった。



美琴(腕を振って破壊させたから、風力使いの線が今のところ濃い―――)

垣根「因みに」



廊下だからだろうか、呟く程度で言ったはずなのに響いて聞こえた。



垣根「今テメェがどんな能力を使おうが、俺に届く事はねぇよ。絶対にだ」



余裕のある笑みで、宣言した。
両手はポケットに突っ込んでいて、ガラ空きだと言うのに……。

114: 2012/06/01(金) 01:54:01.86 ID:kGWHTXeDO

美琴は思考を重ねる。この口振りは自分が第三位だと知ってのことか?
バレてるとすれば、それなりの対処策は施してあるのだろう。



美琴(……ポケットの中にスキルアウトが使ってた『妙な音』が仕込まれてたら面倒だし、でも倒さないと当麻の事が聞き出せない。―――なら!)



正直、頭脳戦は得意ではない。
実践を繰り返し、成長を遂げていくタイプだと踏んでいる。
だったら自分がやるべき事は一つしか残って無いだろう。



美琴「ふ―――!」



攻める、この一言。

115: 2012/06/01(金) 01:54:51.60 ID:kGWHTXeDO

とは言っても体力は多く無い。
残してあるのは逃走用だけ、とキッパリ明言しても過言ではないし。
それでも美琴は力を振り絞る。
これ以上は無理だと悲鳴を上げる体に鞭を打つ。

当麻の情報を引き出すため。
自分の事を一切、喋らない彼を知るため。
友人をだしに使うのは気が引けるが、この機会を逃せば次は無いかもしれないのだ。



垣根「そうでなくっちゃな……けど」



放たれた電撃の槍は、人間が目視出来ない速度で垣根に牙を剥く。
しかし彼は動かない。避ける素振りさえ見せなかった。

電撃の槍は確実に獲物を定め、



垣根「甘ぇよ」



―――霧散して消えた。

116: 2012/06/01(金) 01:56:13.60 ID:kGWHTXeDO



美琴「え……?」



機械で電撃を消すなら、電力を上げて破壊すれば良いと思ってた。
能力で電撃を消すなら、電撃以外を使って攻撃を仕掛けて、追い詰めれば良いと思ってた。
精神の干渉で能力を使えなくなるなら、能力の応用で脳にフィルターをかければ良いと思ってた。

だけど、機械を使った様子も、能力を振るった様子も、脳に干渉された様子も無い。
もはや既に精神の干渉で、幻覚でも視せられているのではないか、と錯覚する程だった。



垣根「だーから言っただろぉ? テメェの能力は俺に届かねぇって」



ケラケラ笑いながら、肩を竦ませる。
片手をポケットから出すと、パチンと指を鳴らした。

―――瞬間、美琴の視界に映る彼の姿が、“揺れる”。

まるで夏や春の季節に起きる、光の屈折で揺れ動いて見える現象の『陽炎』のように。
彼女の警戒が一層強まるのと同時に、能力が効かなかった焦りと、どうすれば勝機を導けるかの思考が頭の中で駆け巡っていく。

……が。目の前の男は、そんな猶予を与えてはくれない。

117: 2012/06/01(金) 01:57:45.93 ID:kGWHTXeDO



垣根「ほれ、俺の能力についてのヒントだ。言っとくが精神関連じゃねぇからヨロシク!」

美琴「ッ!!」



垣根が霧のように消える。
危機を察知し、すかさずレーダーで探ろうとするが……反応が無かった。
そんな馬鹿な……!? と彼女が驚愕を露わにする。しかしその一瞬の狼狽こそ、美琴にとって油断となった。



「―――どこ見てんだ?」



息が耳にかかるほど、至近距離で“ヤツ”の声がした。



美琴「が……ッ!?」



ようやくレーダーが反応する頃には、頭を掴まれ、壁へ打ち付けられていた。
体力が限界まで達している今の状態でこの衝撃は、気を失い兼ねない。
だけどココで耐えるのが御坂美琴。第三位の称号に恥じないタフさを兼ね備えている。

彼はまだ意識を保っている美琴を見て、感心と共に鼻で笑う。



垣根「ハッ! 流石は第三位ってトコか。その丈夫さだけは褒めてやる」

美琴「ぅ、ぐ……!!」



バチッ! と美琴は手に力を蓄えた。
すると途端にドコから飛んできたのか、一回り大きい機材が垣根に向かって飛来する。
直撃すれば暫くの間はダメージの余り、身動きが取れなくなるだろう。

彼はすぐに原因を突き止めた。
こんな『念道力』まがいな事をする人物は、ただ一人しか居ない。
御坂美琴の能力の応用、“電力”ではなく“磁力”だ。

118: 2012/06/01(金) 02:00:40.36 ID:kGWHTXeDO



垣根「だがな、所詮は三番だ。俺に届く事はありえねぇよ」



しかし彼は臆さない。
弾丸のように飛んで来る機材も、一瞥するだけで意に介さなかった。
防御の動作も、避ける姿勢も皆無。

代わりに、



美琴「―――ッ!!!?」




―――背中から生えた白い翼で、機材を弾いた。




身を守るように突如出現した白い輝きを放つ翼は、まるで天使を彷彿させる。
バサッと羽ばたかせ、柔らかい羽根が空中を泳ぐ。

美琴は少しの時間、目が点となって翼を見つめていた。
今まで数々の能力者と対立し、様々な能力を目にしてきた。
でも、今回ばかりは違う。違いすぎる。



美琴(他と比べて段違いの突出した能力……まさか)

垣根「気付いたか?」



彼は笑みを濃くする。

突き付けるように。
絶望へ落とすように。
現実を示すように。


明言する。






垣根「俺はLEVEL5、学園都市第二位、『未元物質(ダークマター)』―――垣根帝督だ」

119: 2012/06/01(金) 02:03:20.32 ID:kGWHTXeDO



この世に存在しない物質を生み出す事が出来る能力。
第三位である自分よりも、序列が一つ上の存在。

たった一つだ。同じLEVEL5だ。
なのに、こんな差が開くモノなのか?



垣根「な? 届かねぇだろ? テメェは俺の足下にすら及ばねぇんだよ」



三位と二位の間にある絶壁と言える、乗り越えられない壁を感じる。
何が『超電磁砲』だ。何が第三位だ。
そんなモノ……この男にしたら児戯に過ぎない。



垣根(……やっぱ、こんなもんか。しょうもねぇ)



下らない、と心で一笑。
彼は興醒めた瞳で美琴を見る。

判っていたはずだ。
三位が二位に勝てるはずがないと。
ずっと前から、『素養格付』を知った時から、アレイスターにプランがある事を感付いた時から、何もかも。








―――でも、微かな希望にかけたいと思うのは贅沢か?





―――コイツなら、リーダーを助けれると思うのは愚かか?








垣根「……無理か。リーダーの隣には」



その吐息にも考えられる呟きは、心の声から漏れたものだった。
誰にも聞こえるはずが無く、気にも止めない、意味を成さない言葉だった。





……彼女以外は。

120: 2012/06/01(金) 02:06:08.13 ID:kGWHTXeDO



美琴(私じゃ……私じゃ)




―――駄目だと言うの?




今のままでは上条当麻の隣に並べないのか。
力不足なのか。足手まといなのか。




―――バチッ!




離れて行ってしまうのだろうか。
せっかく掴んだ手を放してしまうのか。
また背中を追いかけなければならないのだろうか。




―――バリッ!!




垣根「ぁん……?」



僅かではあるが、掴んでいる美琴から電撃が起きていた。
未元物質で電気を分解しているので、自分に被る事は無いが……。



垣根(いや、それ以前に、このガキは既に能力を使う体力なんか残って―――っつ!?)



掴んでる手に電流が迸った。
思わず条件反射で手を放してしまう。

121: 2012/06/01(金) 02:07:01.21 ID:kGWHTXeDO

いや待て。そんな事は問題じゃない。
もはやどうでもいいんだ。
着眼点は電流が流れたことについて。
自らの能力で電気を分解、“流れないよう”にしてある。
間違いない。絶対だ。通ることは決してありえない。

なのに、



美琴「―――」



ゆらりと立ち上がる。
彼女は言葉を発しない。
体中から流れ出る電撃は、ますます激しさを増していく。
とても本人の意思で流しているとは思えなかった。

垣根は瞬時に危険を感知し、バックステップで第三位から十メートル以上の距離を空ける。
万が一に備えて、翼は出したままだ。



美琴(―――私だって)



確かに、自分は決して強くはない。
上条当麻の隣には不釣り合いかもしれない。
自ら撒いた種の後始末も出来ないような、弱くて脆い人間だ。

それでも、



美琴(―――私だって!)

122: 2012/06/01(金) 02:07:34.10 ID:kGWHTXeDO












―――当麻と一緒に戦えるッ!!

123: 2012/06/01(金) 02:09:01.77 ID:kGWHTXeDO




一つの電撃の槍が、垣根に向かって放たれた。
いや、正確には御坂美琴から放電していた一つの電撃が、勝手に射出した。

彼は当然、翼で身を守るように防ぐ。
わざわざ電気を分解し、拡散させる必要も無い。
また原因不明で通ってしまうかもしれないし、弾いた方が手っ取り早かったから。




―――が。




垣根「ッッ!!!!??」




―――電撃の槍は、翼を貫いた。




彼はとっさに身をかわして、肩を掠る程度で済ませた。
一歩後ずさり、信じられない物を見るような目で美琴を見据える。
ヒリヒリと肩が焼ける感覚に襲われるも、垣根は冷静に分析を開始。



垣根(どういう事だ……っ、俺の未元物質が破られただと? そんな馬鹿げた話しがあるか、たかが電気の素粒子がこうも容易く……!!)



じとり、とコメカミ辺りに嫌な汗が滴る。

124: 2012/06/01(金) 02:13:55.97 ID:kGWHTXeDO

二位と三位の間には、『絶対に乗り越える事の出来ない壁』が存在するはず。
極端に強さだけで言い表すなら、三位以降なんて団子状態だ。
特別に戦力が飛躍しているのは二位である自分と、一位である一方通行だけ。七位は論外。



垣根(だからこのガキの能力が、仮に暴走を起こしたとしても、そんな常識は通用しねぇ。
   俺を越えようもんなら、無理矢理俺以上のレベルまで上げるしか―――)



そこで彼の思考は停止する。
頭のドコかで引っ掛かったのだ。
“レベル”というキーワードに思い当たる節がある。



垣根(……確か、七月の初めに浜面から聞いたぞ。クソッタレ共が第三位の頭を弄くって、リーダーがブチ切れしたって……)








―――『強制段階上昇実験』。

125: 2012/06/01(金) 02:14:59.25 ID:kGWHTXeDO




垣根「……オイオイ、その実験がコイツに何らかの影響を与えてるってかぁ?」



不適な笑みを浮かべるが、焦りを隠せない様子。
どうやら、手を抜いて相手してるヒマは無いようだ。
穴が空いた翼は未元物質で修復。
更に、垣根の背中から翼がもう二枚増える。合計四枚。


対する御坂美琴。
全身から放電される電撃は、ますます増していき、さながら衣のように纏っていると錯覚する程。
余りの電気の量に、彼女の髪がユラユラと揺らいでいた。





氏闘は続く。

139: 2012/06/25(月) 01:49:39.88 ID:+jrYNisDO



まるでビルに大型トラックが突っ込んだような、誰もが耳を塞ぎたくなる爆音が炸裂する。
煌めく雷光と、舞い散る羽根が何度も衝突し、相殺。

壁に穴を空け、出た場所は随分と広い空間だった。
暗闇で底が見えないが、推定すればかなり深いだろう。逆を言えば見上げると天井も見えない。
ココは、単純に端と端を繋ぐ通路のための空間。
構図を例えるなら、学校の校舎と旧校舎を繋ぐ渡り廊下みたいなもの。



垣根(邪魔だな。移動の弊害になり兼ねない)



ズバァッ!! と四枚ある翼で通路を一刀両断ならず、四刀両断。
舞うようにくるりと捻りを加え、第三位を見据える。

彼は、眉を顰めた。



垣根「オイオイ、マジかよ」



苦笑には程遠い底意地の悪い笑みを浮かべる。
言葉とは裏腹に、垣根帝督はドコか楽しんでいる自分が居る事に自覚。

140: 2012/06/25(月) 01:52:48.19 ID:+jrYNisDO

目の前に広がる光景は、宙に浮かぶ第三位こと御坂美琴。おそらく磁場と磁力の応用だろう。
しかしその程度なら想定範囲内。
彼にとって予想外だったのは、四枚の翼で落としたはずの通路が美琴の手によって、浮かんでいたからだ。
上記同様に磁場と磁力の応用で操っているに違いない。



美琴「う…………らぁッ!!」



四枚の翼によって破壊され、バラバラになった幾つもの「鉄」は、見事な軌道を描いて垣根に襲いかかる。
だが、甘い。どんなに大小を兼ねていようと、どんなに数が多かろうと。

彼は片っ端から徹底的に「鉄」を撃ち落としていく。

時には翼で。
時には手の平から現出した未元物質で。
その様は手際が良すぎる余り、見る者からすればもはや作業に近い。



垣根「ほらどうした第三位ッ! こんなモンじゃ―――」



言葉は最後まで続かない。
ゾクッと、背中にドライアイスをブチ込まれたような感覚に襲われた。

141: 2012/06/25(月) 01:56:53.95 ID:+jrYNisDO

御坂美琴が殺気を放って戦慄した訳じゃない。
彼女が操っていた「鉄」の残りだろうが、明らかに一回りも二回りも巨大な「鉄」が電撃を帯びている。
そして何故か、第三位は拳を作っていた。

あの構えは間違いない。
今まさに実行に移さんとする事が、容易に辿り着けた。
それは彼女の代名詞であり、数多くある技の中でも随一を誇る―――『超電磁砲』。



垣根(マ、ズ……ッ!?)



彼は先程の電撃の槍を反芻する。
どうしてかは判らないが、翼を貫いてきた。
まだ原因も分析中で演算もままならないのに、あんな物を食らえば一溜まりもない。



美琴「―――ッ!!」



彼女は歯を食いしばると、バチバチと電流が走る拳で「鉄」を殴りつけた。
その構えと放った腕の筋は、型もあったもんじゃない。本場の人からすれば素人丸出しの拳。
身体の軸も、締める脇も、踏み込む踵も、言ってしまえば甘いの一言。
美琴が編み出した自己流に過ぎない。鉄を貫くことが出来なければコンクリートすら砕けないだろう。


だけど『超電磁砲』となれば、彼女の拳でも、未元物質をも貫ける威力を誇ってくれるのだ。

142: 2012/06/25(月) 01:57:31.41 ID:+jrYNisDO







―――一瞬の閃光が、垣根の一枚の翼を焼く。

143: 2012/06/25(月) 01:59:05.74 ID:+jrYNisDO



垣根(……っ)



間一髪。一枚の翼が消し飛ぶ程度で済ませた。
余りのエネルギー量に耐えきれず軌道が逸れたのか。
それとも彼が寸前の所でかわしたのか。

どちらかは定かでは無い。
彼はただ、目を細めるだけ。



垣根(なるほどな……)



消し飛んだ翼を修復。瞬く間に元の輝きを放つ翼へ。



垣根「演算―――終了だ」

144: 2012/06/25(月) 02:01:22.14 ID:+jrYNisDO




―――――――――――――――




00001号「……」



場面は変わり一方通行の部屋。
この部屋の主は既にソファへ横になって、眠りに就いている。
消灯なので、辺りはベランダに繋がる窓ガラスから差し込む月の明りだけ。

少女は窓際に正座で座り、ボーっと月を眺めていた。しかし月は見ていない。
ただ、瞳に月を映しているだけに過ぎない。少女が視てる先は……。



00001号「…………そう、ですか」



ポツリと呟いた。
誰かに言った訳ではなく、自問自答するかのように。
無機質な声は“彼”にも届かない。

少女はまぶたを閉じ、ゆっくりと顔を地面に落とす。
己を納得させるように何度も「うん、うん」と頷く動作をする。

145: 2012/06/25(月) 02:05:56.61 ID:+jrYNisDO



00001号「決まってしまった事なら……仕方ありません。とミサカは残念な気持ちを隠せません」



立ち上がり、踵を返す。
虚ろな瞳の先に映すのは……この部屋の主である一方通行。
豪快にソファーへ寝転がる彼の下まで近寄る。

膝を下ろして、手を伸ばした。
髪を梳くように撫でる。
地毛と主張するサラサラの白い髪、きめ細かい柔肌。



00001号「何もしていないのにこの女子力……もはや女の子と言っても過言ではない。とミサカは明言します」



犯罪者顔負けの恐ろしい顔とは一変して、とても穏やかな表情で眠っていた。
「いつもこの顔だったら良いのに」という言葉が脳裏に過ぎるが、心に閉まっておこう。

それにしても、触れているのにも拘わらず、起きる様子は一向に無い。
能力のデフォルトである『反射』が発動される事も無かった。



一方『こンな悪人面してっからよ、そンな気もねェのにエスカレーター式で俺を敵視するヤツが増えちまうのさ。
   歩いてただけで喧嘩ふっかけて来たヤツも居れば、不意を突こォと背後を狙うよォな姑息なヤツも居た。
   だからアイツらにとっちゃァ、俺がノンビリぐーすか寝てる時なンざ、絶好のチャンスなンだろォな』



彼が睡眠中でも能力を解除しないのは、確かこの理由だったはず。
故に今も能力は発動のまま。……なのに、



00001号「触れられるという事は、ミサカは信用されている証拠でしょうか?」

146: 2012/06/25(月) 02:07:54.12 ID:+jrYNisDO



判らない。今の状態では、まだ見分けはつかない。
彼の態度や言動を注視しなければ、きっと判別はつかないだろう。
どうせ口にして聞いた所で、この人は誤魔化すから。
今まで隠してきた心を誰にも気付かれず、生きてきた人だから。




―――でも、それは叶わぬ夢。




00001号「……こうして、あなたの寝顔を見るのも、最後になるのですね。とミサカは惜しみます」



命令は絶対だ。背く事は許されない。
彼が寝ている内に早く……。



00001号「―――ミサカは、ミサカはあなたのことが」



続きは紡がれなかった。
彼女が自ら、唇を噛み締めるように口を閉ざしたからだ。

顔を下へ落としたまま、スッと立ち上がる。
そのまま身を翻し、玄関の方へ向かって行った。

147: 2012/06/25(月) 02:09:48.62 ID:+jrYNisDO




―――――――――――――――




垣根「……」



空に浮かぶ彼は見下ろしていた。
彼の衣服には焼き焦げた痕が幾つもあった。

埃でも落とすように肩を払う。



垣根(予想外に喰らっちまったな……)



一息ついて呼吸を整える。
体力はまだ十分に保存してある。
確かに第三位の攻撃は予定より受けてしまったが、息切れには至らない。
意識を持って行かれるような大きなダメージを被らなかったのが、せめての幸いだろう。



垣根(……だが)



彼は第三位を見据える。



垣根(もう終いだな)

148: 2012/06/25(月) 02:11:46.97 ID:+jrYNisDO

美琴「はっ……はっ……」



激しい息切れ。身体から溢れ出ている凄い汗。
床に膝を付く姿は、さっきまでの勢いとは一変し、完全に疲労した有様に陥っていた。
体から流れる電流も、瞳に宿る生気も。

とても戦闘が行えそうな、能力を使える状態では無い。
今にも意識を失い、倒れ兼ねなかった。



垣根(当然の結果だな。俺の未元物質さえ貫く事が出来る、何らかの『新しい力』を手に入れたのはいいが、余りの膨大な力に第三位が制御し切れてねぇ)



能力を使うには、それに伴う演算能力と体力が必要不可欠。
しかし今の彼女は「何となく能力を使っている」という状況だ。
勿論、電撃に加わった『新しい力』の演算は曖昧に過ぎない。
更に彼女は第四位との攻防戦によって、体力は限界に近かったはず。



垣根(万全な状態でなかったのが幸運かもな。操り切れていたら、追い詰められてたかもしれねぇ)



今ここで敗れても、きっと上条当麻と会う頃には、完璧に御し切れているだろう。
元々努力家であるし、それに天才肌でもあるから。

もっと言うならば―――上条当麻と云えば『不幸』の代名詞だから。

149: 2012/06/25(月) 02:14:05.77 ID:+jrYNisDO



垣根「もう止めとけ。流石の俺もボロボロの女を苛めるほど、Sじゃねぇんだ」

美琴「……ッ」



ギリッと歯を強く食いしばり、朦朧とした瞳で垣根を睨む。
『まだやれる』……そんな執念の思いが伝わってきた。

どうしたものか、と彼は嘆息を漏らす。
この程度の予想はついていた。ようやく掴んだ上条の手掛りを、そうも安々と諦めるはずが無いだろう。
叩き潰す事はたやすい。未だ全力は出していないし、彼女の執念に応じて、立ち上がれなくなるぐらい打ちのめすのは造作も無い。

故に彼が取る行動は、



垣根「リーダ……いや、上条は」

美琴「!!」



虚ろだった彼女の目が見開かれる。
頭の整理が追い付かなく、戸惑いを隠せない。
垣根が口にした言葉の意味を理解するのに、僅かな時間を用いてしまった。

150: 2012/06/25(月) 02:16:42.14 ID:+jrYNisDO

当然だ。誰しもそうなる。
先刻まで一歩間違えれば氏に至る戦いを繰り広げていたのにも拘らず、突然話し始めたのだから。
どういう心境の変化か。何を以て……。



垣根「警戒すんじゃねぇよ。人がせっかく話してやろうと思ってるのに、それが年上の話を聞く態度か? あぁ?」

美琴「……何のつもり? 急に口を割るなんて」

垣根「どうもこうもねぇよ。このまま続けても、テメェが劣勢だってのは明白だ」

美琴「っ、そんなこと!」

垣根「強がるなよ格下? 自分自身が一番気付いてるはずだ。既に動ける体でもねぇし、能力も儘ならねぇってな」

美琴「……何の事だかさっぱりね。大体アンタ、知った風な口利くけど、私の何を知ってるのよ? それに私はまだ本気じゃ―――」

151: 2012/06/25(月) 02:17:24.26 ID:+jrYNisDO







垣根「嘘吐けぇッ!!!!」

152: 2012/06/25(月) 02:20:08.40 ID:+jrYNisDO



ビクッと美琴が肩を揺らすほど、彼は突如として大声で怒鳴り散らした。
一言だ。たった一言に過ぎない。
それでも彼の怒号は御坂美琴という幼い少女を黙らせた。

辺りに響き渡った声は、山のように何度も木霊して、僅かな余韻を残す。
反響が消えても垣根は言葉を紡がず、ただ彼女を一点に睨むだけ。

静まり返った空間をたっぷり浸ると、次第に彼は痺れを切らした。



垣根「思い上がって見栄張ってんじゃねぇぞクソガキ。テメェ如き、俺の足元にも及ばねぇんだよ」



トッ、と軽快に床へ降り立つ。
距離は詰めない。それはまるで、二人の間に決して埋まらない深い溝を象徴するように。

翼は収めると、垣根は言葉を続ける。



垣根「テメェがその力を使いこなして、ようやく足を掴んだ程度だ。対等じゃねぇよ。
   俺が何のためにわざわざ“加減して戦ってる”と思ってんだ?」

美琴「……!」



彼女は瞳に、絶望を宿す。
「あれで、加減をしてる……?」と。
足元に及ばない等と吐き棄てたセリフは、所詮口だけだと思っていた。

153: 2012/06/25(月) 02:21:55.96 ID:+jrYNisDO

数十分対話して、すぐ判った。
この男は頭の回転が迅速且つ、口が達者で挑発が専売特許な賢い人間。
その上、洞察力が優れているという何もかもを奪っていったようなヤツ。

だからこのセリフも、自分を惑わし、暗に諦めさすために出たモノだと。



垣根「判ってんだろ。これ以上続ければどうなる事かぐらい、自分が一番よく理解してんだろ」

美琴「……」



言い返せたら、まだ良かった。
でも……自分の体は正直で。
判ってる。とうに限界を越えてる事など判っている。
能力を使えるような体ではない。


何故なら―――既に右腕の感覚が無いのだから。

154: 2012/06/25(月) 02:23:53.94 ID:+jrYNisDO



垣根「……プライドは今は捨てておけ。身を案じろ。こんな所で倒れたら、病院送りは免れねぇぞ」



これ以上彼女から抵抗が見られないのを感じてか、口調が穏やかになる。



垣根「流石にそうなるとテメェ自身も都合悪いだろ? だから今は温和しく、ココから逃走できる体力を作っとけ」

美琴「……判ったわよ」

垣根「よし。さてまぁ、何を話せばいいんだかなー」



ひとまず状況のほとぼりが冷めた。
これで話も上手く運ぶようになるし、何より面倒が少ない。

きっと彼女から得られる情報は断言してもいいゼロだ。むしろ自分の方が情報は多い。
何故なら彼女は、『実験を止める』事しか見えていないから。
云わば盲目。実験が開始されてから起きた事柄なぞ、耳に入らないし視界にすら映さないだろう。
証拠として、実験が中止になった事を彼女は知らない。
知らないが故にこうして今も、施設を破壊し続けている。



垣根(……滑稽だろうな。上層部の連中からしたら)



この現状を椅子に座りながら嘲笑っているのだろうか?
必氏になって、氏に物狂いでようやく掴んだ希望の手段を『ヤツら』は、いとも簡単に崩そうとする。

その苦しみ、悩み、慟哭するザマを見て……嗤っているに違いない。

155: 2012/06/25(月) 02:25:45.72 ID:+jrYNisDO



垣根(実験が中止になった事実は伝えない方が良さそうだ。
   どうせ俺の言葉が真実かどうかを確かめるために、携帯か何かでハッキングをして調べるに決まってる)



そして『妹達破棄』の事実を知り、余りの絶望に膝が折れるだろう。
時間を置くヒマはしない。すぐさま立ち上がって、阻止するために走り出す。



垣根(流石にそれはかったるい。阻止は俺らでどうにかするから邪魔にしかならねぇし……)



上条の事だ。必ず助けると言い出す。



垣根(……だとすると、俺がやるべき事は……)






第三位が『妹達破棄』の情報を知る時間を―――出来る限り遅らせること。






垣根「……上条の事で、何か知りたいことはあるか?」



……と、その間に裏ポケットに忍ばせておいた携帯をこっそり取り出した。
見付からないようメールを打つ、宛先は上条、第一位、浜面だ。

普通ならバレるが、バレないのがプロの業である。

156: 2012/06/25(月) 02:27:38.60 ID:+jrYNisDO



美琴「何でも?」

垣根「俺が知る範囲内な」

美琴「……じゃあ」



最初から決めていたのか、迷いも悩みも見せず、身を乗り出して問う。



美琴「当麻が……中学校を入学してからの、一ヶ月間を知りたい!」

垣根「リーダーが、中学の時……?」



眉を顰め、目を細める。
彼女が身を乗り出して懇願するほどだ。よっぽどの事があるのだろう。



垣根(その一ヶ月に確か……俺がリーダーと出会ったっけ……)



右手で殴られ、“正気”にさせられた日でもある。
おそらく自分に限らず、一方通行や浜面も然り。

現在のメンバーが全員揃って、初めて届いた依頼内容を確認するために、ファミレスへ寄ろうした時だ。
彼女こと御坂美琴に出くわした覚えがある。
上条は彼女を邪険に扱い、追い払っていたが……。



垣根(……そうか)



落とした視線を再び美琴に戻す。



垣根(やっぱ、“まだ言えてねぇ”のか……リーダー)



クスッと薄く一笑。
肩を竦ませて、首を振った。
まるで、やれやれと言わんばかりに。

157: 2012/06/25(月) 02:33:03.79 ID:+jrYNisDO



垣根「そうだな……俺も詳しくは知らねぇよ。大まかに理解してるだけだ。
   何よりも、上条は自分の過去を語った事は一度も無いんだ。少なからず俺の前では、な」

美琴「っ、大まかでも何でもいいの! 知ってる事なら何でもっ」

垣根「無理だ。俺の口からは言えねぇ」



上条が言わないとなると、尚更。
この件に関しては流石に口出しは無用。
自分ではなく、上条の口からじゃないと意味が無いからだ。

それに、蚊帳の外であるはずの自分から彼女に伝えるのも変な話だ。



美琴「―――なんでよ……っ」

垣根「んだよ、上条のこと信じてやれねぇのか?」

美琴「そういう訳じゃ……無いけど」

垣根「だったら待ってやれ。自ずと話し出すのをさ?
   ……更に言うとだがよ、俺はテメェが知る上条を知らねぇし、テメェは気付いてるかどうかは知らねぇが」

美琴「……?」








垣根「多分―――上条は今も昔も、変わってないぞ?」

158: 2012/06/25(月) 02:35:43.89 ID:+jrYNisDO



いつもの不敵な笑みを浮かべながら、彼は告げた。

たいした説明も無しに述べた言葉は、当然ストレートに受け取った彼女に誤解を招く。
「え……」と、全く理解が追い付きませんと言った面持で、美琴は呆然とする。



垣根「判んねぇか。やれやれ、リーダーと言い第三位と言い……課題が多いヤツらだぜ」

美琴「ちょ、と……どういう―――」

垣根「ま! 俺も人のこと言えないけどなーっ!!」



HAHAHAHAHAHAHAHA!! と高笑いと共に背中の翼で飛翔して行く垣根帝督。
彼女が手を伸ばした時にはもう既に遅し、手の届かない遥か上へ浮かんでいた。



垣根「いつか俺の言葉が判る時が来る。そして上条もいずれ、テメェに事情を語ってくれる」

美琴「そんな根も葉もない事……!!」

垣根「信じないならそれでいいぜ? 何せ、信憑性なんて欠片もねぇからな」



上昇するに連れて、次第に闇へ消えていく。
美琴は追い掛けようにも、もはや更に酷使する力すら残っていない。
だいぶ呼吸は整ったが、体に力が入らないのだ。
後もう少し休めないと動けないだろう。

垣根は見据えると、再び口を開ける。

159: 2012/06/25(月) 02:36:28.09 ID:+jrYNisDO






















垣根「悪ぃな。タイムリミットなんだ。また何処かで会おうぜ、第三位」





















そうして彼は、闇に包まれ消えた。

179: 2012/07/12(木) 10:11:12.90 ID:dGqp+oKDO



垣根帝督の一日の始まりはパターンが決まっている。
窓から差し込む朝日の光で気持ち良く起床し、冷蔵庫から冷やしておいた紅茶を取り出す。
椅子に座って足を組み、ゆったりとした姿勢で朝の紅茶を楽しむこと。

まるで、ドコぞの紳士が優雅に午後のひとときを過ごそうとしている雰囲気である。

実はと言うと、あながち間違っていなかったりする。
何故なら、彼自身が求める朝の理想がソレだから。
理由? 勿論「カッコよさそうだから」の一言に尽きる。
浜面曰く、垣根がやると無駄に様になってる所がムカつくらしい。



垣根「……zzzz」



しかし、残念ながら今日は違っていた。
御坂美琴との戦闘もあって疲れているのか、とっくに予定時間を過ぎたが起きる様子は無い。
でも、これはしょうがない事。自宅に着いた頃には、既に辺りは明るく明け方を迎えていたのだから。

現在の時刻は八時十三分。

180: 2012/07/12(木) 10:12:58.51 ID:dGqp+oKDO



「垣根ぇぇぇえええッ!! 起きろおおおお!!!!」

181: 2012/07/12(木) 10:14:27.20 ID:dGqp+oKDO




―――そんな睡眠を貪る彼の名を呼ぶ声が、玄関から響き渡った。




ドンドンドンドンッ!! と玄関の扉を乱暴に叩く音が連続する。
もはや扉がヘコんでも不思議ではない程の音が響き渡るが、扉は傷一つも無い。
流石は第二位が住む学生寮、無駄に高級である。

しばらく続くが、彼が起きる様子は一向に皆無。
様子を悟ったかどうかは判らないけれど、鳴り響いていた音が唐突に止んだ。
諦めたのかと思われた―――その時、ドバキャッ!! と。



上条「……」



玄関に立つのは、明らかに怒りの色の眼を宿した上条当麻。
伸びた足を見るに、どうやら我慢の限界を越えてしまったため、蹴り破ったらしい。

182: 2012/07/12(木) 10:16:54.52 ID:dGqp+oKDO

バックには呆れる様子の浜面と、眠たくて仕方がない様子の一方通行。
これから起こりうる事は安易に予測は出来る。故に……密かに浜面が心の中で十字架を掲げた。

律儀に靴を脱ぎつつも、根底の憤怒だけは露わなので、その動作すらも怒っていると感じる。
未だベッドで寝こける垣根を見下ろし、



上条「起きろ垣根ぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!」



叫び、振り下ろす右手。



垣根「げふっ……! な、なんだ強盗か能力者か!? って、リーダー? 俺の家で一体なに……おおぉぉぉぉ!!!?」



すぐさま垣根の襟首を掴み、ベランダを開け放ち、彼の体半分を外へ。
もちろん“まだ”慈悲のある上条は掴んでいる襟首を放しはしない。



垣根「ちょ、ま、どういう状況?!」

上条「見ての通りだ。集合時間になっても来ないお前を起こしに来てやった訳だ。起きろ」

垣根「もう起きてまーすッ! おめめパッチリだぜコンチクショー! だから手を離して、いや離さないで落ちる!」

上条「どっちなんだよ。っていうか起きたんなら早く動け」

垣根「バカ言っちゃいけねぇぜ上条。ここで動いたら俺まっさかさまじゃん? 氏ぬじゃん?!」

上条「御託は聞きたくありませんのことよ? とにかく起きろ。良いな。判ったな?」

垣根「OKボス!」

上条「よし」

垣根「あ、こら! 手を離すなって言ったの……にぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ……!!」

183: 2012/07/12(木) 10:18:41.44 ID:dGqp+oKDO



フェードアウトしていく垣根の声。
そして少し間を置いた後、上条は溜息を吐きながら腕を組み、



上条「……ったく。おーい、垣根さーん? 三十秒以内に帰ってこないと今月の給料大幅にカットですよー?」



玄関で佇んで有様を伺っていた二人が、一言。



浜面「お、鬼だ……」

一方「自業自得だから別にいいンじゃねェの?」




―――――――――――――――




垣根「あ゛ー……一時はどうなるかと思ったぜ。流石の俺様も氏を覚悟したぞリーダー?」

上条「因果応報って知ってるか?」

垣根「メモリーには記憶されてねぇな」

上条「そもそも、能力で空を飛べる事を考慮しての懲らしめだったんだが?」

垣根「冗談はよしてくれよリーダー。起きたら超絶叫系命綱無しのバンジージャンプだぜ? 演算より驚く方が勝るって」



現在の時刻は八時十五分。
彼らが話している内容の通り、垣根は無事生還を果し、こうしていつも通りの朝を迎えていた。

184: 2012/07/12(木) 10:20:53.81 ID:dGqp+oKDO

テーブルを囲うように四人は椅子に座っている。
垣根はあくまでも突き通そうとカップを片手に。
上条は呆れてるのか両手を頭の後ろに。
一方通行はテーブルを肩肘をついて手を頬に添えて。
浜面はどうしたら判らずコメカミを掻く。



上条「ん」



手の平を垣根の前へに差し出す。
ノンビリ紅茶を口に含んでいた垣根は逸早く意図を読んだのか、カップをテーブルに置いて立ち上がった。
ハンガーに掛けてあったジャケットのポケットへ手を突っ込む。



垣根「確か、ここに……あった。ほら」



USBメモリを手に取ると、上条に向けて下から投げる。
弧を描き、難なく上条の手に着地し収まった。

上条は懐から電極端子を取り出すと一端をUSBメモリに、もう一端を自分の携帯へと接続。
これはどうしてもかさばってしまうパソコンを持ち運ばなくても大丈夫なよう、そしてパソコン以外でも手軽に出来るようにと作られた機器だ。



上条「結果報告はこれで確認するけど、とりあえず上条さんだけじゃなく浜面と一方通行も呼んだ理由を今の内に説明してくれるとありがたいですよ、っと」

一方「同感だ」

浜面「右に同じく」



三人がそれぞれ口々に好き放題言うなか、垣根は人差し指と親指を顎に添え、考える素振りを見せる。
答えは上条に渡したUSBメモリに載ってあるから自ずと気付くとして、まずは理由を述べていこう。
でなければ対応が遅れそうだ。

185: 2012/07/12(木) 10:22:54.66 ID:dGqp+oKDO








―――説明後。

186: 2012/07/12(木) 10:24:02.31 ID:dGqp+oKDO




ここで垣根帝督にとって誤算が生じていた。
結果的に見れば、四人全員を集合させたのは良かったのかもしれない。

誤算一。彼が予想した、最も怒りを露わにするであろう上条当麻が冷静であった事。
怒っていない訳ではない。内心、今までの和気藹々とした会話がブッ飛ばされるほど、湧き上がる感情を抑え込み、冷静に処理をしようとする表れだ。

誤算二。垣根の一番の誤算、それは元々誰の手によって『絶対能力進化実験』は止められたかである。
止めた張本人が、『妹達破棄』なんて事実を知れば、必ず上条よりも怒りを露わにするはずだと。

故に、



一方「……」



彼は話を全て聞いた途端、即座に椅子から立ち上がった。



上条「待て待て」



去ろうとする一方通行の肩を掴む。



一方「放してくれ」



それ以上の言葉は告げない。
たった一言。一言に過ぎなかった。

だが、僅か六文字に彼の心境が凝縮されていると感じたのは、気のせいだろうか?

上条も、垣根も、浜面も。
冷静に吐き棄てた言葉とは裏腹に、一方通行はとても口では表しきれない焦燥感に駆られていると悟る。



一方「……頼む」



そして尚―――背中から後悔で溢れているのが見て取れた。

187: 2012/07/12(木) 10:26:51.59 ID:dGqp+oKDO



上条「……はぁ、判った判った。判りましたよ。流石の上条さんもそこまで鬼じゃありませんのことよ?」



続いて上条も立ち上がる。
こんな後ろ姿で頼まれたら、辟易する他無いだろう。



上条「浜面、今すぐ車出せるか?」

浜面「お? あ、あぁ。別に問題ねえよ」

上条「垣根も起きたばっかで怠いだろうけど、動けるな?」

垣根「当然だろ? 俺様を嘗めちゃいけねぇぜ」

上条「よっし、じゃあ行きますかねー」



一方通行の隣に歩み寄り、ポンと肩に手を乗せた。



上条「気持ちは判るが、落ち着け。闇雲に捜し回ったって手間がかかる」

一方「……じゃあ、どォしろってンだ」

上条「そんな顔すんなって。心配御無用! 俺に考えがある」

188: 2012/07/12(木) 10:28:01.40 ID:dGqp+oKDO




―――――――――――――――




車のエンジン音が轟く。
スモークガラスを張ったワゴン車の運転席には、浜面が出発の準備に取りかかっていた。

外には上条、一方通行、垣根。
準備が整うまで、大まかな作戦を練っているようだ。
リーダーを務める携帯をカチカチ操作しながら、



上条「浜面には運転を任せるとして、肝心の『妹達破棄』の件は俺と一方通行で阻止を試みる」

一方「場所の特定はどォする気だ?」

上条「人気が少ない工場、もしくは『絶対能力進化実験』に関わっていた施設だ。二万人の人間を処分なんだ、場所は限られてくる」

垣根「……俺は?」

上条「垣根は『妹達破棄』を中止するように交渉を頼む」

垣根「えーっ、誰にさ?」

上条「文句言うな。闇に携わった事のある人間が一発で従う発言力を持ってるヤツ、って言えば一人しか居ないでしょー?」



ジト目で垣根を睨む。
読み終えたのか、軽快な音を鳴らして携帯を閉じる。

189: 2012/07/12(木) 10:30:20.89 ID:dGqp+oKDO

睨まれた彼は僅かに思考を巡らすが、すぐに得心したと頷いて、



垣根「……あぁ、なるほど。しっかし、二人だけで暴れるなんてズルいなぁ?」

上条「何を言ってんだか。十分暴れてきてるだろ?」

垣根「は? どういう―――」



垣根が最後まで疑問をぶつける前に、右手を伸ばした。
頬に触れた途端、キュインと。
『幻想頃し』が発動した独特の音が響く。

すると、その頬に真新しい火傷の痕が現れた。



上条「―――“ソレ”、美琴と戦った時に受けた傷だろ?」

垣根「……っ」

上条「隠そうったって無駄だぜ、俺が気付いてないとでも思ってたのか?」

垣根「いつ、から?」

上条「最初からだ」



そこに浜面の声が呼びかかる。



浜面「おーい! もうオッケーだぞー!」

上条「うっし、行くかあ! さっき言った作戦通りに行動に移せよ」

浜面「は? すまん、俺まったく聞いてなかったんだけど」

上条「ここからスピード勝負だ。破棄命令が下ったのが昨晩なら、おそらく決行は今夜。……それまでに片を付ける」

浜面「オイオイオイッ!? 無視すんじゃねーよ!!」

一方「うるせェな。運転中に説明してやっから喚くンじゃねェっつの」

190: 2012/07/12(木) 10:31:58.35 ID:dGqp+oKDO



二人はそれぞれ車に乗り込む。
上条は助手席へ、一方通行は後部座席。

蚊帳の外になった垣根は、諦めたように肩を竦ませた。



垣根「どうやって交渉するんだ? 容易に話が進むとは思えねぇぞ?」

上条「上条さんの名前を出して構いませんのことよ。後は垣根の口車でどうにか出来ねーか?」

垣根「結構難題だぜ」

上条「……ダメか?」

垣根「ふっ、お安いご用さ」



合図無しで車が発進する。
あくまで話が終わったのを確認してから。

第二位の少年は不敵な笑みを浮かべて、背中に翼を生やして飛び立つ。

191: 2012/07/12(木) 10:33:35.55 ID:dGqp+oKDO



浜面「で? ドコに向かえばいいんだ?」



別学区へ移動した所で問う。
バックミラー越しに一方通行を見て促した。
視線を感じた彼は辟易した訳ではないが、上条に答えを示唆。



一方「上条、施設は兎も角として、人気の無い工場なンざ幾らでもある。どォやって捜す?」

上条「とりあえずハッキングを仕掛ける。垣根がコピーしてきたデータに載って無いって事は、多少なりにセキュリティーを施してあるんだろ。場所ぐらい記述されててもオカシくはありませんからねー」

一方「なるほどなァ。どれくらいかかりそォだ?」

上条「フフン、上条さんの手に掛かれば五分も要りませんのことよ!」



……と、二人の会話を黙って聞いていた浜面が、口を開ける。
何やら言いにくそうに口籠り、



浜面「……上条、ってさあ?」

上条「ん?」

浜面「何でも知ってるよな。ピッキングやハッキング、武術に戦い方。……どこで習ってんだ?」

上条「あー……」



困ったように頬を指で掻く。
苦笑を浮かべて悩む素振りを見せ始めた。

192: 2012/07/12(木) 10:36:17.95 ID:dGqp+oKDO

透かさず反応を示したのは浜面。
上条を言い淀ませ、困惑させるほど無理に聞く必要は無い。



浜面「こ、答えづらいなら別に構わねえぞ!? そもそも単なる興味本位だしさ?」

上条「いや、どう言おうか迷っただけで答えづらくは無いから安心しろって。まあ何て言うか、見様見真似だ」

浜面「見様見真似……? 誰の?」

一方「大方、ハッキングは第三位じゃねェの? ピッキングなンざ調べりゃ幾らでも出てくるしよォ」

上条「ビンゴ! ま、所詮上条さんはそんなレベルですよ」



大体本当で大体嘘である。
忘れることなかれ、上条当麻は記憶喪失だ。
ある一端を破壊し、二度と記憶は戻らない。

どうやら浜面の質問の答えも、その破壊された記憶の一端にあるらしい。
だから武術も戦い方も知識として頭の中に残っているが、キッカケとか誰に教わった等、全く残っていない。
しかし、『ハッキング』だけは違った。一端のもっと前、小学生時代に御坂美琴が自慢げに見せて来たのを覚えている。
そして何より、一方通行のフォローが入った御陰で他の事柄も同じような手段だと思い込んだらしく、追究は無かった。

ホッと胸を撫で下ろす―――が、



上条「……?」



たまたま視界に映った景色に、彼はとてつもない違和感を感じた。

193: 2012/07/12(木) 10:37:31.04 ID:dGqp+oKDO



浜面「どうした?」

上条「……一方通行、今何時だ?」

一方「あン? 八時……三十分だ」

上条「……」

一方「なンだってンだ?」

上条「いや、あまりにも人が少ねえなーって……」



彼の言葉を皮切りに、二人は一斉に外を見る。
右側を見渡して、今度は左側を見渡す。
……誰一人、人影が無かった。



浜面「お、おいおい! 何が起こってんだ!?」

一方「コンビニなンか店員ですら居やしねェぞ」

上条「これは……ん?」



前方には交差点の大通り。
三つの分かれ道の一つ、真っ直ぐの道を立ち塞がるように黒いワゴン車が一台。

それも……自分達と同様のスモークガラスを張ってあった。

194: 2012/07/12(木) 10:39:09.12 ID:dGqp+oKDO



一方「……上条」

上条「あぁ。浜面、右に曲げってくれ」

浜面「お、おう……っ」



浜面の息を飲む音が聞こえる。
彼だけじゃない、二人も感じていた。
この妙な緊迫感。緊張感が己の中で生まれていることに。

怪しい。一言に尽きる。

そして車が右に曲がって、擦れ違う瞬間―――あちら側の車の後部スライドドアが開かれた。



上条・一方・浜面「!!??」



それぞれが驚愕を示す。
程度は大。これ以上に無いほど驚きを露わにしていた。
言葉を詰まる者も居れば、背中から嫌な汗が吹き出す者も。

車から出て来た人物と実際に会ったことは無くとも、名前と顔ぐらい知っていた。
むしろ知ってて当然。何故なら―――



一方「……」



ゴシャッ!! と。

195: 2012/07/12(木) 10:40:32.04 ID:dGqp+oKDO
突如、一方通行の放った拳がスライドドアを突く。
ベクトル操作の効果でスクラップ状態になった原型を留めていないドアは、地面を転がっていった。

彼は口元を吊り上げるように……歪める。



一方「ク、ハ……」



誰もが畏怖する、狂笑を浮かべた一方通行は外へ飛び出した。



一方「ギャハハハ!! ひっさしぶりじゃねェかよォ! 相変わらずフザケた面してやがンなァ―――木原ァ!!!!」



白衣を羽織った長身の男。
研究者のくせに刺青が彫ってあり、その両手には細いフォルムの機械製グローブがはめられていた。

男の名は木原数多。
かつて、学園都市最強の超能力者の能力開発を行っていた人物。
そして―――一方通行の仇である。



木原「……ハッ」

196: 2012/07/12(木) 10:42:40.30 ID:dGqp+oKDO



上条「一方通行ァッ!!!!」



戻って車内。
助手席に居た上条は手を伸ばした所で届くはずもなく、身を乗り出して叫ぶだけ。
だが既に耳に入って無いのか、止まるどころか反応すら示さない。

無理もない事は判ってる。
一方通行の良き理解者であり、唯一心から接して自らも心を開き返した、たった一人の妹を頃した仇なのだから。
ずっとこの数年間、復讐を糧に生きてきたと言っても過言ではない。
彼自身が語っていた。「もしも木原を見つけた時は自分を失う可能性すら否めない」と。



上条「だからってこんな時にあの馬鹿……浜面ッ!」

浜面「判ってる!!」



歩道橋を越えた辺りで、浜面が思いっきりハンドルを切る。
Uターンではなく、急激に滑らすように百八十度曲がったので、タイヤが擦れる音が響いた。

198: 2012/07/12(木) 10:44:40.46 ID:dGqp+oKDO

上条は急ブレーキ用の取っ手に掴まりながら、



上条「俺は何とか手を伸ばしてアイツを捕まえるから、浜面は出来るだけ合わせて―――」



彼の言葉は最後まで続かない。
視線の先にあるのは歩道橋。
ちょうど中央―――そこに“彼女”は立っていた。

黒髪のお団子頭を左右に揃えた、中学生ぐらいの小柄の少女。
ロケットランチャーを肩に担いで何度も頷く。



「うん、うん。分かっているよ、数多おじちゃん。本当に辛いけど、『木原数多』ならこうするんだよね」



標準を上条達が乗るワゴン車へと合わせる。



「甘々だぜェ、幻想頃し!」



気付けばとっさに浜面の襟首を掴んでいた。
無意識に助手席のドアを蹴破っていた。

この身に起こり得る危険を、『本能』は決して許してくれなかった。





そして―――引金は容易く引かれた。

199: 2012/07/12(木) 10:47:21.60 ID:dGqp+oKDO



刹那。爆音が轟く。
ビリビリと空気が振動する。
爆風が引き起こされ、街路樹が次々と薙ぎ倒されていく。
ビルの窓ガラスが一斉にけたたましく割られていった。
生身の人間が受けようものなら塵となり果ててしまうほど。



上条「ぐ……!!」

浜面「ぉごっ!?」



奇跡的にも彼らは生きていた。
ワゴン車から脱出し、間一髪直撃を免れたらしい。
だが、爆風で加速が付いてしまい、受け身の体勢も儘ならない状態。

結果……二人はビルの壁に激突。

上条は背中から。
浜面は不幸にも顔面から。



上条「テメェは……」



歩道橋に立つ少女を見据える。
出会った記憶は無いが、不思議とその顔と名前に覚えがあった。

つまり、記憶破壊の一端に知り合った人間の一人。



円周「久しぶりだね! 当麻お兄ちゃんっ」

上条「木原、円周……」

216: 2012/07/27(金) 07:14:35.45 ID:uef3EJwDO







インデックス「……?」

217: 2012/07/27(金) 07:17:02.57 ID:uef3EJwDO



第七学区、上条当麻が住む寮。
少女は彼の部屋でスフィンクスと戯れていた。
朝から出掛けて行ったこの部屋の主は、何やら付いて行っては駄目な雰囲気を醸し出していたのを察し、少女は仕方なく留守番の形に。
昨晩は散々睡眠を妨害したくせに、一番起きるのが早いなんて世の中は間違ってる。
心の底から思うのであった。



インデックス「雨のにおいがするんだよ……」



雲行きが怪しい。
満天の空は雨雲に覆い尽くされ、辺りを薄暗くさせていた。

少女はベランダの窓を開け、身を乗り出して空を覗き込む。
くん、と仄かに湿っぽい雨独特の匂い。
降ってはいないが、その予兆である事は間違いなかった。
もしかしたら場所によっては既に降っている可能性も否めない。



インデックス「とうまが言ってたことは本当だったんだね」



自分と同じように空を眺めて、唐突に干してあった洗濯物を取り込んだ。
聞いてみれば、「雲の流れが早いから雨が降るかもしれない」と答えていた。

218: 2012/07/27(金) 07:18:22.43 ID:uef3EJwDO

思えば彼から色々教わった気がする。
雨の匂いというのも、彼から教わった事の一つ。



インデックス「……あ、二人とも傘を持って行ってないかも」



うなー、と。
足元にスフィンクスがすり寄って来た。
「なぁ主人よ、ご飯はまだかいな?」とその顔は語っていた。

少女は頷いて、













インデックス「うん。ちょっと……心配かも。とうまは私に内緒で無茶をするからね」



猫の主張はまったく伝わっていなかった。

219: 2012/07/27(金) 07:20:50.71 ID:uef3EJwDO




―――――――――――――――




皮膚に触れる水の感触。無かったはずの雨雲が、空を覆っていた。
ポツポツ、ポツポツ。と小さな粒だった雨はやがて豪雨へと。

まるで歓喜するかのように。
あまりの喜びに狂い叫ぶように。
一方通行の心を現しているように。

“あの日”から、彼の心に陽が射したことは一度たりとも無い。
いつも空には雲が遮っていた。
晴れる日が無ければ、風が吹くことすら無い。
時間が止まったみたいに厚い雨雲は、ただただその場で漂うだけ。

虚しくて、悲しくて、寂しい雨がずっと降り続けていた。
その雨は涙。雨音はドコか、泣き声にも聞こえた。
どうして泣いてるんだ、と問うた時もあったが、返ってくる答えは常に同じ。

だけど―――今日は違う。
喜んでいる。悦んでいる。

今ほど体の奥底から滾る感覚が生じたことはない。



一方「高みの見物と洒落込む気じゃねェよなァ―――木原?」

220: 2012/07/27(金) 07:22:37.70 ID:uef3EJwDO



天から地まで響き渡るような怨嗟の声。
理性を取り戻した悪魔の声。

澄み切った穢れ。
絶望を知るからこその傷。

悲しみを繰り返し、曲がったまま超越した者ならこんな声を出すのか?
或いは彼のように、愛しき者を殺されたならこうなるのか?

囁くようでありながら、確固たる音として響いた一方通行の声。
木原数多という名が“そこ”にある。十分だ。それ以上に理由は要らない。
他の事情なんて……どうでもいい。



木原「……」

一方「オイオイ? どォしたよ? なに黙ってやがるンですかァ、らしくねェ。こっちはよォ、テンションがマックスまで跳ね上がっちまってンだ。いつまでもシケた面ァ―――」

木原「なんだぁ?」



軽い調子で捲し立てていた彼が遮られる。
窺うように口を閉ざす木原だったが、静かに呟いた。

221: 2012/07/27(金) 07:25:24.98 ID:uef3EJwDO
普通の殺気とは異なる、異常なほど狂いきった別格の殺気。
一方通行が悪魔と称するならば、木原数多は氏神。
鎌を喉に添え、耳元で氏の吐息を囁く。

僅かに言葉を発するだけで人間の生気を吸い取ってしまうくらい、木原は狂っていた。
あえて低く、唸りを上げるように。だけどドコか愉快そうに。



木原「随分と今日はお喋りじゃねーかお兄ちゃんよお? 頃したくてしょうがねぇ俺に会えて、興奮してんのか?」



ケラケラと、嘲り、嗤う。



一方「当然だろォが。オマエに遭いたくて遭いたくて何回夢に出て来たと思ってやがンだ?
   後、その顔とその声で“お兄ちゃん”なンてほざくな。思わず手が伸びて頃してしまいたくなる」



ともすれば、こちらは冷笑。

お互いに売り言葉で罵り、相手の出方を待っているのは間違いない。
一方通行は木原数多を、木原数多は一方通行を。あくまで不本意だが、知り尽くしたからこそ。
でも逆に言うと売り言葉を買って、更に売り言葉を相手に掛てることもしかり。

222: 2012/07/27(金) 07:30:08.53 ID:uef3EJwDO



木原「ハッ、相変わらずクソ生意気なクソガキだこと。俺としちゃあテメェなんざ眼中にねーし、顔も見たくも無かったんだけどな? 『上』がピーピー喧しいんだ。
   だからな? ここで素直に伸されてくんね? いや割とマジで。テメェ相手だと加減出来そうに無いから面倒なんだよ」

一方「ギャハ!! イイじゃねェかァ、手加減なンて要らねェよ。それに言わせてもらうけど、俺こそオマエに遭いたくて遭いたいンじゃねェンだよ」



彼は一息吐き、



一方「ホントは“アイツ”の為にも墓参りの一つぐらいしてやりてェンだ。……でもよォ、それじゃ駄目なンだ。『木原数多』っつー名がココに“在る”じゃねェか。
   そォ、オマエが! 他の誰でもないオマエが! この世に生きて! この地に立って! 空気中の酸素を吸って! その口で声を発して! 筋肉と関節を動かして尚且つ! 心臓が鼓動を打ってる事実があるだろォがッ!!!!」



怒りと云う名の慟哭が、やがて唸るように霞んで……彼は涙を流さず泣いて。



木原「大変だねぇ、お兄ちゃんとして妹の弔いだけは果たすってか。ご苦労なこった……で? お涙頂戴の物語を聞かされて俺はどう反応すればいいんだ?
   “パチパチパチー感動の物語をありがとうございましたー”―――って、ありきたりな称賛でも送ってやろうか?」



侮蔑する微笑が、そこにあって。



一方「くく、あっはははは……。ヒャハははハはぎゃはあはは! ギャァハハハハハァハハハハッ!! 
   そォだよなァ!? クソッタレのクソ野郎は何を言っても無駄だよなァ!!!! 人の妹すらモルモットにしちまうよォなクソ野郎に、そンな野郎ォにィ!!」



涙を流さず笑う一方通行の姿は滑稽で、哀しい。
哀しみは一種の美となり、彼を覆う。

223: 2012/07/27(金) 07:32:38.88 ID:uef3EJwDO

どれだけ崩れても、どれだけ苦しんでも……耐えてみせる。
もう、あの過去が叶わないと判っているから。
だからこそ、もう一つの望みだけは、果たさなければならない。



一方「ははは。……あァ、心配すンな。オマエは特別に痛みも与えないまま一撃でブチ頃してやるからよォ……」




―――そう悲愴な顔すんなよ。実験で氏んだ人数はコイツだけじゃねぇ、被験者の半分以上は逝っちまった。……まぁ? 言うなれば“運が悪かった”ってこったな。




あの言葉を忘れないから、彼は宣言する。



一方「何の躊躇いも無く、何の慈悲も無く」




―――にぃ、さ……ん……。


―――百合、子? ……百合子ォォォォォォッ!!!!




鼓膜に響いてくるあの叫び声。
彼の目はただ復讐に染まっていた。

もう、何も見えていない。
もう、後のことなんて知らない。

224: 2012/07/27(金) 07:33:16.24 ID:uef3EJwDO









一方「『木原数多』を―――ブチ頃してやるさ」

225: 2012/07/27(金) 07:35:33.12 ID:uef3EJwDO



その望みだけで生きてきた。
その目的だけでココまで来た。

傷ついて。ボロボロになって。
自分を失って。狂った中に、今を得た。
ずっと、ずっと夢を見てきた。

己の停まった時間を動かそうなんて大それたことは思わない。
停まろうが、動こうが、関係ないのだ。

停めた『アイツ』が憎らしくて。
居なくなった『アイツ』が愛おしくて。
一人遺った『俺』が……悔しいだけ。





木原「―――イイ目つきだ」





一方通行の言葉すら耳に傾けないのは、取り合わない証拠。
眉をピクリとも微動だにせず、獣のように犬歯を剥き出して笑うだけ。
歓喜に満ち溢れる彼の視線にあるのは一方通行の瞳。

226: 2012/07/27(金) 07:38:02.26 ID:uef3EJwDO



木原「ただ喚き散らかして、妹の仇を討とうしたあの頃とは違う。復讐の念に囚われ頃したいと願うばかり得てしまったイカレた目ぇしてやがんなーテメェ?」



くっくっ、と嫌味たらしく歪に微笑む。
その瞳が、"楽しくて仕方ない"と語っていた。



木原「何があったかは知んねーが、クズはクズなりにこの数年間を無駄にはしなかったワケか……。あーあー、やっぱあん時に潰しておくべきだったんだよなぁ」



でも、と続ける。



木原「だからこそ、こっちも“それなりの手”を用意したんだ。テメェの成長率が予測を遥かに上回ったら、分析に時間がかかって手間を取っちまう」

一方「……あァン? どォいう意味だ?」

木原「要領が悪い野郎だ。掻い摘んで言えば、今回俺はあくまで付き添いっつーことなんだよ」



彼がそう呟いた直後、ワゴン車のスライドドアが開かれた。
それだけなら一方通行も視線が移り、狼狽することも無かったであろう。


ワゴン車から降りて来たのは、一人の少女だった。

227: 2012/07/27(金) 07:42:02.35 ID:uef3EJwDO


真っ白な色、肩までに切り揃えられたキメ細やかな髪の毛。
パッチリと大きく開かれた赤い瞳は、彼女の元気さを覗かせるように。
しなやかに伸びた腕も脚も“彼”の記憶とは違って成長していたけれど。
彼女の――――髪に留めている花形のヘアピンは、自宅に仕舞ってあるの物と、何も変わらなくて。

見間違う訳がなかった。例え記憶のソレと同一ではなかったとしても。
そんなことは些細なことだった。
夢の中で、きっとこうなっているだろうと描いてきた姿だったから。
泣いていた、笑っていた、怒っていた、微笑んでいた、少女だった。


理解出来ないはずが無かった。
あの姿は、紛れもなく――――。


















一方「―――百合……子?」


















あの時より“成長している”という一点を除き、“彼女”と瓜二つ。

隣に並ぶ木原が何か呟いたような気がした。
笑いか、それとも嘲りか。
どちらにしても、酷く耳障りだった。



「…………………………」



目の前に存在する“少女”は、無言のままに―――そこに在る。

237: 2012/08/06(月) 08:14:27.78 ID:koj+KpaDO



雨が肌を叩く。前髪の毛先からポタポタと雫が滴る。
急に空は雲に覆われ、学園都市に大粒の雨を降らしていた。
敢えて傘はささない。邪魔にしかならないからだ。これから向かえる戦闘への。

上条は額から伝う水を拭わないでいる。きっとそんなヒマは無いと思うから。
対峙する少女は生易しい存在ではないと、『経験』ではなく『情報』として頭が理解しているのだ。



円周「……っと」



少女は軽快に歩道橋から飛び降りると、パシャッとアスファルトに溜まった水を弾きながら着地。
爪先から降り、膝、股関節、腰と順に曲げて最後に踵を着くことによって、着地の衝撃をすべて吸収させていた。

238: 2012/08/06(月) 08:18:47.62 ID:koj+KpaDO

その着地法に上条は眉を顰める。
コレは彼が戦闘を行う際にする術とまったく一緒。驚かないはずがない。
しかしそんな疑問は即座に解消された。
疑問を生み出した原因である少女が目を輝かせて、こう言ったのだ。



円周「どう当麻お兄ちゃん、上達してるよね? すごく頑張ったんだよ!」



虚を衝かれつつも、少女の言動から合致。
どうやら自らこの少女に教えたらしい。
これで何故、同じ着地法を扱えてるのか納得出来た。

後は、



上条(この子をどう対処するかだが……)



ミサイルを躊躇いもせず放った様子だと、戦う気は有り余っているようだ。
何とか戦闘を避け、一方通行を強制連行を願いたいのだが……容易にはいかない。
少女は未だ目を輝かせ、可愛らしい笑顔を浮かべる。まるで兄に褒め言葉を求める妹みたいだ。
……若干、あるはずがない犬の尻尾がパタパタと振ってるように上条の目が見えたしまったのは、気のせいだと思いたい。

239: 2012/08/06(月) 08:23:06.22 ID:koj+KpaDO

とにかく、何やらこの少女は自分に悪意は持っていないようだ(理由は判らない)。
だったらもしかすると、交渉次第では上手く事が運ぶかもしれない。

ならば、と上条は右手で拳を作る。
すぐに広げて、再度拳を作った。



浜面「……!」



―――と、そこで浜面が動いた。

上条と少女には背を向けて、路地裏に駆け込んで行く。
一目散に走る彼に、上条は振り向きもしなければ反応すら示さない。
むしろ目を向けたのは少女の方だった。



円周「いいの? あの人どこかへ逃げちゃったよ?」

上条「……構わねーさ。どっちかっつーと一人の方が動きやすいしな」



それより、と彼は続ける。

240: 2012/08/06(月) 08:28:46.94 ID:koj+KpaDO



上条「一旦さ、退いてくれね? 今度いくらでも相手してやるからさ」



その言葉を告げた途端、少女の目がうるうるし、



円周「当麻お兄ちゃん……せっかく会えたのに、相手してくれないの……?」



本来ならばピリピリとした緊迫感ある空気が流れるはずである。
だが残念な事に、嘘泣きならまだしも本気で泣き出しそうになる女の子を放っておくほど、上条当麻は薄情者ではなかった。
例えそれが今この場では敵だとしても。



上条「い、いやっ!? その……だな。円周? 上条さんは今とても切羽詰まってる訳でして、出来ることならば今度また会いに来て欲しいなー、って思ったり……」



断言せず、語尾を濁す辺りはやはり上条当麻と言ったところ。
甲斐性無しの性分が垣間見える。

対する少女は上条の言葉を聞くなり、パァッと涙目から打って変わって笑顔を浮かべ、



円周「今『円周』って呼んだ? 呼んだよね!? へへへっ、いつもは『ガキ』だったけど、初めて当麻お兄ちゃんに名前で呼ばれちゃった♪」

241: 2012/08/06(月) 08:30:00.97 ID:koj+KpaDO



若干、頬を染めてイヤンイヤンとくねくねする円周を見て、次は上条が反応をする番だった。
「え、そうなの?」……と心の中で全力で呟いた。思わず口には出さなかったのを褒めてやりたい。

確かにインデックスとの初対面では「ガキ」と呼んでいたが……。



上条(……“今”と“昔”の人格は確固としてある。あるんですけども! 上条さんはそんなにヤサグレてましたっけ?)

円周「んー、困ったねー」



彼が絶賛葛藤の中、円周は一人ごちる。



円周「今は当麻お兄ちゃんと喋ってるから、『木原』じゃなく『木原円周』個人として居るけど……」



少女は悩むように首を傾げ―――頷く。

242: 2012/08/06(月) 08:31:27.02 ID:koj+KpaDO





















円周「うん、うん。仕方ないよね。今回はそういう任務で赴いている訳だし」

243: 2012/08/06(月) 08:40:47.77 ID:koj+KpaDO



腰を低くして、グッと踵に力を込めると―――水しぶきを巻き上げ、爆発的な加速力で上条との距離を詰め出した。



円周「分かっているよ、当麻お兄ちゃん。こういう時は吟味せずに即決即座に動くべきなんだよ、ねっ!!!!」



瞬時に上条の下まで移動。
すかさず左足を大きく踏み込んで掌を腹部に打つ……はずだった。



上条「よっと」

円周「わ……!?」



直前、構えられた掌は上条の左手によって掴まれていた。
更に流れるように上条の足は、踏み込んだ円周の足を膝の間接から払う。
上条に掴まれながらも重力に従った円周の身体はクルリと回転。
そしてすぐさまパッと掴んでいた手を放した。

結果、少女は背中から地面に落ちる事となる。

244: 2012/08/06(月) 08:45:41.75 ID:koj+KpaDO



上条「シッ!」



だが、彼の攻撃は手を休めなかった。
間髪容れず少女の顔面に向けて拳を落とす。
拳は速度が上昇につれて強度を増し、やがて鈍器と名を変えて牙を剥く。
精鋭された拳は岩をも砕く破壊力を誇ってしまうのだ。






円周「―――分かっているよ、当麻お兄ちゃん」






少女の瞳が、ギラギラと光った。


首を傾けて顔を僅かに逸らすことにより、追討ちを免れる。
止まれない上条の拳は、円周には当たらずアスファルトへと突き刺さった。
仕返しとばかりに、今度は逆に円周が上条の手を掴む。



円周「敵が防御からの攻撃に移る時、それも反撃だったらの場合が一番チャンスなんだよね!!」

上条「ちょ、おま……ッ!?」

245: 2012/08/06(月) 08:50:12.80 ID:koj+KpaDO



瞬間、上条の想定範囲外のありえない動きを少女はしだした。
円周の両足がまるでカポエラさながらに、遠心力を加えながら上条の顔面目掛けて繰り出して来たのだ。
……ミニスカートであることも気にせず。

チラチラと何やら白い生地が見えるのは目の錯覚だと信じたい。
という訳で戸惑いまくる上条はひとまず体勢を立て直そうと即座に行動へと移る。
掴まれていた手首をうねるように捻って束縛から解き―――もう片方の手で、無防備な状態の少女の腹部へと掌を打つ。



円周「バッ―――!!!?」



まともに一撃を喰らったので、数メートル以上の距離をいとも簡単に吹き飛ばされる円周。
彼もバックステップで距離を取りつつ、少女を見据えた。



上条(こいつ……)



今までの一連の動作を反芻する。
決断からの初動、加速力、構え、気の込め方、打ち方。……どれもが上条自身、実戦で使っている戦法だ。
とても真似事じゃ済まされない。それこそ本当に自分がこの少女に一から教えたみたいに。


心の底から思う―――本当に、厄介なことをしてくれたものだ―――と。

246: 2012/08/06(月) 09:01:36.63 ID:koj+KpaDO



円周「げほっげほっ……さ、さすがだね当麻お兄ちゃん。同じ技でも予備動作が全然見えない。しかも踏み込み無しでこの威力……まだまだ追い付けそうにないよ」

上条「……教え子にやられる程、上条さんの腕は鈍っちゃいませんよ?」

円周「うん、うん。さすがだね当麻お兄ちゃん」

上条「それよりも一つ聞きたいことがあるんだが、いいか?」

円周「なあに?」

上条「それ」



ピッと指を差す。
ソコには首から紐で引っかけている三つの機械。携帯電話、小型ワンセグテレビ、携帯端末。
一応防水加工されているのか、耐水性カバーも装着せずに首からぶら下がっている。



上条「その携帯機器はお前が足りない『木原』を補う為の物だ。あらゆる木原一族の思考パターンで戦闘方法を変えていたはず」

円周「うん。それがどうかしたの?」

上条「何で使わない?」

247: 2012/08/06(月) 09:06:25.76 ID:koj+KpaDO



非常に解せない。
さっきから様子を見ていれば、おそらく自分から伝授してもらった戦法ばかり。
“任務”という言葉を発していたのを推測すると、きっと自分や一方通行を抑えるのが役目。
だからこそ木原数多をわざわざ赴かせ、一方通行との鉢合せを仕掛けたのだろうし。
上条当麻の所にはこうして木原円周が立ちはだかっている。彼から直々に戦い方を習った少女を。

適任と言えば適任。相手の思惑通りに物語は進んでいるだろう。
一方通行はもはや木原数多にしか眼中が無い。
当然、それを強制連行させようとする上条当麻を円周で阻止。
……甚だしいほどに気にくわないが。



上条「使った方が間違いなく勝率は上がる。確かに今は雨が降ってるのもあると思うが……」

円周「うん、うん。さすがだね当麻お兄ちゃん。冷静な分析でよく見てるし、よく聞いてる。
   当麻お兄ちゃんの言う通り、私は『木原』として及第点にも満たしていないから、みんなほど『木原』らしくない」



自らを語る幼き少女は過去を振り返っているように、懐かしそうに微笑む。
雨に濡れて佇むこの娘は何故か『強く』見えた。

248: 2012/08/06(月) 09:07:26.09 ID:koj+KpaDO



円周「だからコレを使って『木原』を補ってた……普段の思考はもちろん、戦っている時でも」

上条「じゃあ尚更、なんで―――」

円周「変えてくれたのは、当麻お兄ちゃんだよ?」



あまりの予想外の答えに、言葉が詰まるのを覚える。
何しろその頃の思い出という名の記憶が、一切失われているのだから。
故に“荒れていた”と語る一方通行、垣根、浜面の状態を知らない。
自分がその三人を見て、どう思い、どんな言葉を掛けたのか。
二度と思い出すことは不可能だ。

正直に言えば心苦しい。
大切な友人である三人の記憶だ。
他にも消えてはならない思い出が、数え切れないほどあるに決まってる。
目の前にいる木原円周がその例。
この少女の口振りはまるで“上条当麻が導いてくれた”とでも言うように。



その記憶はもう―――。

249: 2012/08/06(月) 09:16:20.16 ID:koj+KpaDO



円周「『木原』のみんなが力を合わせれば、当麻お兄ちゃんに勝てなくても追い詰めることは不可能じゃない。でも……それだと意味がないの」



少女は再び腰を据えて構え直す。
グッと指先に力を込め、拳を堅く作った。



円周「みんなで協力するのは構わないけど、そこには必ず『木原円周』が居ることを忘れては駄目。
   せめて当麻お兄ちゃんの前だけでも『木原円周』個人として向かいたい。……ひたすら『木原』を追い続けてた私に、一から十まで全部教えてくれた大切な人だから」



頬を赤く染め、満面の笑みを浮かべた。
その言葉と瞳には、恩師とも言える上条に対して「感謝」の気持ちだけでなく、別の「想い」も含まれていることを上条は気付かない。
中学生の幼き少女に初めて宿った感情。無垢でひたむきな心は残念なことに彼には届かなかった。

理由? 考えなくとも容易に辿り着くだろう。



上条「―――了解」



腰を据え、片足を一歩退いた。
指先の一本一本に神経を研ぎ澄ませる。


―――そう。二人の構えは同一。


師である上条と、教え子である円周。
二人の構えが同じであれば、顔つきや眼光の雰囲気もしかり。
更に、






上条「―――ッ!!」

円周「―――っ!!」






駆け出す一歩もタイミングも、また同じであった。

257: 2012/08/19(日) 01:48:33.34 ID:dfELEQtDO




―――その姿に、戸惑わない訳が無い。




一方「ゆ……り……こ……?」



再び、紡ぐ。

彼の口から零れた名前は、何年も前に氏に別れた……愛しき妹の名前。
無言で佇むその少女は、一方通行を見つめながら、見つめてはおらず。

だが、そうだとしても。
そうだと解っていても。

目の前の少女は、『百合子』であることは間違いが無いと確信して。
例え偽者であっても。あれは『百合子』だ。
自分だけはそれを間違えない。同時に今、間違えていることを後悔しない。

258: 2012/08/19(日) 01:51:21.60 ID:dfELEQtDO



木原「要領は『妹達』と同じだ。DNAを利用したクローン技術で造られた人形さ。“紛い物”に変わりはねえな」



“人形”を創り出した元凶が、愉快そうに声を生む。
それが、嘲う声に聞こえて仕方なかった。



木原「まぁちょこーっと成長促進剤をイジってっから、テメェの中で“もしも”の世界が叶ってるのかもなぁ?」



その声が、氏者を愚弄しているように聞こえて仕方なかった。



一方「知った風な口、利いてンじゃねェよ……!」



抉る感触が残酷で。
目の前に居る“彼女”が不幸で。



一方「アイツが、百合子が! 何で俺みてェなクソ兄貴に、最期まで笑顔を向けたのかも知らねェ癖にほざくンじゃねェよ!!」

259: 2012/08/19(日) 01:53:32.33 ID:dfELEQtDO



そう、最期の瞬間を忘れない。
氏ぬ間際に浮かべてくれた彼女の微笑を忘れない。

涙に濡れた己の頬の感触を……忘れない。
幼かった自分を、忘れない。
失われた妹の存在を……忘れない。



一方「本来なら俺を怨ンだってオカシくはなかったッ!! もっと生き長らえて、俺の下から離れて幸せの生活を送れるはずだったんだぞ? けど! アイツは俺との道を選ンでくれたンだ!!
   危険を冒してでも俺の事を一人の人間として、『兄』として見てくれたアイツの気持ちが……オマエには解ンねェのかッ!!!?」

木原「ぎゃあぎゃあと癇癪を起こすなよ。耳にくんだろうが。こちとらクソガキの心境の弁舌なんざ興味ねーんだわ?」



つー訳で!! と声を張り上げる。
まったく取り合わない木原は、隣に並ぶ少女の肩にポンと片手を置いた。






木原「殺れ」






―――氏神の言霊が、明確な合図だった。

260: 2012/08/19(日) 01:57:06.17 ID:dfELEQtDO



木原数多の合図で“糸の無い人形”だった『百合子』は、焦点の定まらない瞳を一方通行に向ける。

彼とて、理解している。
“彼女”は“敵”だ。

敵と解っていても。
そう本能で解っていても。
理性が解っていても。
本能と理性が敵だと叫んでいても……どうして攻撃が出来る?

どれだけ心を鋼鉄にしても、想いが燻ったわけじゃない。
今の自分の原点がソコにあるから。



一方「やめろ、百合子! やめてくれ……!!」



その声が届く訳が無いのに。

彼は、“少女”に対する戦意を失っていた。
それは誰が見ても判るほどに。

262: 2012/08/19(日) 02:02:49.78 ID:dfELEQtDO



百合子「………………」



『百合子』は無言で一歩、一方通行へ近付く。
言葉も感情も想いも、何も無い。
コツ、コツ、と響く足音はまるで氏を知らせる鐘。
彼は応じて退く事もしなければ、動く事すら無かった。

……いや、もしかしたら動けないだけかもしれない。
今、目の前の現実を受け入れられないだけかもしれない。
“一方通行”へ牙を剥こうとする“百合子”に。



―――彼の足下でアスファルトから水を弾く音が鳴る。



百合子が十メートル以上ある距離を凄まじい速度で急接近し、踏み込んだ足によるモノだった。
その動きに驚きは少ない。
何故なら一方通行は、妹の能力を知っていたから。

簡単に言えば『加速』。
LEVEL2程度で、及ぶ範囲は人体までだったはず。
能力自体は単純なので、兄である一方通行が避けられない訳が無い。
彼からすれば目で追えてしまうほど、些細な速度。

しかし、そんな些細な能力でも少女が生きていた頃、かすかに開花させた才能。
更に言うならば……一度も振るわれることなかった才能。

263: 2012/08/19(日) 02:08:33.10 ID:dfELEQtDO


見ていたくなかった。
見たくなかった。


『少女』が自分に対して“能力”を振るう姿を認識したくなかった。
例えそれが人間の手によって生まれた妹のクローンであっても。
その感情は、己の独善。傲慢な願い。

光景を見ていた木原は口角を吊り上げ、






木原「―――百合子、殺れ」






あまりにも人間とは思わえない声色。
だが、“少女”を生み出した人間の言葉。

故に“人形”は盲目的に従い、一方通行へ攻撃を仕掛ける。
本来ならば一方通行が見切れぬ訳が無かった。
鈍重なるただの人形如きに敗北する訳がなかった。

けれど、その姿が“百合子”であるから。



百合子「………………」



抵抗という言葉が、浮かぶことすらなく。

264: 2012/08/19(日) 02:15:41.28 ID:dfELEQtDO



一方「……く、は……っ!?」



無言で貫かれた手刀。鮮鋭された手刀は、一方通行の腹部を貫く。
白く整った顔に血飛沫が浴びなかったから、まだ救われた。その顔が真っ赤に染まるのだけは見たくなかったから。
が、どちらにせよその一撃は見るも無惨な貫手。


ぞぶり、と一方通行の腹を抉り、貫通する。


“言葉そのものを忘れていた”から何の抵抗も出来なかった。
“抵抗という言葉を思い出す”ことすら脳裏に浮かばなかった。

そもそもだ。どんな攻撃だろうと“反射”する己の能力は何故発動しなかったのか。
『核を撃たれようと無傷』というキャッチコピーが自分にはあったはず。
でも、それが何だ? 核どころか、柔で華奢な少女の攻撃すら反応を示さない。

……という事は、もしかしたら自分は無意識の内に『反射を解いていた』んじゃないのか?

一方通行は、腹を抉るその腕に涙を流し。
腹に伝わるその温かみに笑みを零し。









一方「―――け……ね……だろ?」

265: 2012/08/19(日) 02:21:41.74 ID:dfELEQtDO






何かを呟く。

涙を浮かべて。

笑みを浮かべて。

悲しみを湛えて。

嬉しさを明かして。






一方「出来るわけ……ねェ、だろ? 俺が? 百合子を?」






それが、人形であったとしても。
それが、本物ではなかったとしても。

ただ、嬉しかったのだ。
また、逢えたことに。

腹を抉られながらも、彼は腕を伸ばす。離さないから、と抱き締める。

それが、戦いの場であったとしても。
それが、似遣わないことだとしても。

ただ、泣きたくなったのだ。
また、逢えたことに。

二つの感情を抱えた学園都市の第一位は本物と酷似した【人形】である“彼女”に『彼女』との思い出を投影させ、泣き。

266: 2012/08/19(日) 02:24:34.44 ID:dfELEQtDO

その華奢な体を包み込んで、微笑んだ。



一方「そっか……こンな美人になンだな、オマエ。流石、俺の妹、だよな。はは、は……」



こふ、と軽い音を漏らして血を吐く。
その血は地面を穢した。



一方「すま、ねェな? ……せっかく、“また”逢えたのに。みっともねェ姿……でよ。百合子の前では、頼りに、なる……兄で居た、かったンだがな」

百合子「………………」



一方通行の言葉が届く訳もなく。届いて欲しいと誰かが願ったとしても。
何の意味もなく、意味を持つことなぞ出来る筈もなく。



















―――DAN!

267: 2012/08/19(日) 02:27:28.62 ID:dfELEQtDO

……崩れ去るように、銃弾が穿った。
貫く先は“少女”の体。抱き締めていた一方通行の肉体をも貫通する。



一方「ぐ、が……ァ!!!?」

木原「あーあー、まったく見せてくれちゃってぇ。ホント吐き棄てたくなるほど愉快だわ。ハイハイ愉しかった愉しかった。もう堪んねぇくらい腹一杯だっつーの」



侮蔑する微笑が、ソコに在って。



木原「だからよ? さっさとくたばれよ? いい加減シケたモンに付き合うのも怠ぃんだっての」



膝が折れ、地面に崩れ落ちた一方通行を見下す。
それでも“人形”を庇うように抱き締める彼に、木原は片手で顔を覆った。



木原「判った! わぁったわぁったよ。そんな頑なになるんなら仕方ねえ―――兄妹仲良く頃してやんよ」



再び銃口が、二人に向けられる。

失いそうになる意識を保ちながら、一方通行は奥歯を強く噛んだ。
今、『反射』は使えない。撃たれた百合子の傷に演算を駆使してるため。
いや、それよりも、そんな己を分析するかのように見守る木原数多が赦せなかった。
赦せなくても、心が折れてしまっていた。

生暖かい腕の中の人形が、その重みが、己の身体を震わせて。

叫べない自分が、悔しかった。
ひれ伏した自分が、苦しかった。
例え誰にも嫌悪されたとしても、「頃してやる」と言いたかった。

268: 2012/08/19(日) 02:28:26.28 ID:dfELEQtDO


























「やらせてたまるるかよォォォォォォォォおおおおおおおおおおおッッ!!!!!!」





















―――その、直後の事。

269: 2012/08/19(日) 02:30:18.64 ID:dfELEQtDO



木原「……あ?」



学園都市でも深い『闇』に属する男が首を傾げた。
その言葉が眼前に居る一方通行から紡いだものではなかったから、首が傾いだ。




―――な、ン……?




遠退く意識のさなか、一方通行までもがそう思った。
僅かでも木原の気を逸らし、俺達の命を助けてくれたのは誰か、と。


地面を激しく擦る音が響いたと思えば、突如として木原と一方通行の間に黒いワゴン車が滑らせてきた。
律儀にスモークガラスを張ってあってある。

間髪容れずスライドドアが開くが、中には誰も居ない。
おそらく運転席に居る人間がリモコンで操作したのだろう。
更に立て続けで助手席のガラスがガーッと開いた。






浜面「乗れッ! 早く!!」






―――は……ま、づら?





そこで彼の意識は途絶えた。

270: 2012/08/19(日) 02:33:36.07 ID:dfELEQtDO
浜面は見極めた後、大きく悪態をつく。
時間が無いのに! とでも言いたげにシートベルトを解き、焦るように助手席に移るとドアを開け放つ。

……そんな様子を、木原は見逃す訳が無い。



木原「……オーイオイ、何勝手に余計な事してくれちゃってんのかなー。せっかくクライマックスだってのによ」



言葉こそ至極残念そうな念がこもってもオカシくはなかったのに、その実、無表情で声を発していた。
まるで言葉と感情が追い付いていない。天秤で不釣り合いな状態のまま突き付けた感じだ。
そして情報を整理するかのように再び片手で顔を覆って、頭を何度も振る。



木原「―――うっし。『消す』か」



依然と無表情のまま、そう呟いた。

銃口を黒いワゴン車のタイヤへ。
パンクさせるつもりなのだ。



木原「“この”現場を見たからにゃあ、対価として消えてもらう覚悟ぐらいあんだ―――」

「させねーよ」



BANG! と。

271: 2012/08/19(日) 02:39:20.88 ID:dfELEQtDO
何処からともなく響いた銃声は、木原数多が手に持っていた銃を穿つ。

木原数多は破壊された銃をアスファルトへ叩き付けるように投げ棄てると、身を翻した。



木原「チッ、次から次へとわんさか出て来やがって。もう少しばかり人員を出させるべきだったかねぇ、効率が悪いのなんの」



地面に溜まった水たまりを弾きながら近付いて来る人物を見やる。
手には拳銃。それ以外に特筆する特徴も無い、ただの学生服を身にまとう少年だ。
いつものツンツンヘアーも、雨に濡れてしなっていた。

―――そう、先程まで木原円周と戦っていた上条当麻である。



木原「大層なこった。この実験にテメェの『チーム』が動いてるたぁよ。流石はアレイスターから直々に命令を受けている数少ない一人ってかあ? そこんとこどうよ、小僧」

上条「アンタと下らない世間話を交わす気は無い」

木原「そりゃあそうだわな」



とても『会話』に聞こえなかった。

272: 2012/08/19(日) 02:42:31.92 ID:dfELEQtDO

誰にこのやりとりを見せて聞かせても、同じ回答が返ってくるだろう。
真っ向から毒を吐き続ける一方通行とは違って、上条はまた別のタイプ。
それこそ何の変哲も無い言葉をズラリと並べてあるだけで、実際はお互い罵倒の繰り返しかもしれない。



上条「……悪いけど、ココは退散させてもらう」

木原「出来るとでも?」

上条「残されたカードが数枚しか無いことを気付くべきだと上条さんは助言しますよ」

木原「……」

上条「俺に赴いた時間稼ぎの円周は対処済み。一方通行を攪乱させる為の『アレ』も同じ。それで尚、俺達を頃す事にご執着して追いかけるか?
   こっちは一方通行も負傷しちまってるし、垣根も居ない……確かに狙うなら今が絶好のチャンスだ。けど、残り少ない手段の中で、アンタが俺達を潰す勝算は限りなく低いぜ?」



木原数多は臆するどころか、口角を吊り上げて嗤う。



木原「言うねえ小僧。ガキぃ如きが交渉しよーってか? 嘗められたもんだねぇ。並べた口車だけで引き下がると思ってんじゃねえぞクソガキ」

上条「だろうと思いましたよコンチクショー……どうしても無理でございませうか?」



返答は無い。代わりに懐から新たな銃。
破壊した銃より些かゴツい感じだ。
最も違う点は、尾の部分に空き缶一個分のガラス製で出来た「箱」があること。
「箱」は“光”を集める為にある。要は充電装置。
そう、この銃から発射されるのは弾丸ではなく、“光”。

―――つまり、レーザーガン。

そして銃の側面には、アルファベットの文字列が刻まれていた。


Made_in_KIHARA.


取り合わないのは目に見えた。
木原印が彫ってある武器となると、厄介の度合いが格段に跳ね上がる。
これ以上の面倒事は極力避けたいのが本音。

273: 2012/08/19(日) 02:47:41.13 ID:dfELEQtDO



上条「交渉決裂、か……しょうがないっ」



困った様子でありながら、ドコか楽しげに笑みを浮かべるのは、負ける気がない威勢の表れ。
そう、素直に殺される気は更々無いのだ。

上条は木原が取り出した銃の装填完了する前に、“二発目”を撃つ。

―――途端に木原数多の視界を覆ったのは、とてつもない目映い光だった。



木原「ッ!? クソッ、閃光弾か!!」



とっさに目を庇うが既に遅い。
光にやられた目は、一時的な盲目状態に。
だが、木原の行動は早かった。
視界を奪われたのならば、耳で感じろ。
神経を研ぎ澄ませて僅かな音でも拾い上げてみせろ。


……微かに雨に紛れて、車のエンジン音が聞こえた。


目を閉じながら口角を吊り上げる。
その音が聞こえた事実を看過しない。
どうやら透きを突いて逃走を図るつもりだろうが、



木原(甘々だぜぇ、小僧! ド派手に逃走幕を始めちまったら、居所を晒してるようなもんじゃねえかッ!!)



自然と笑みが増すなか、即座に音がした方向へ銃口を向ける。
バシャッと水を巻き上げると、何の躊躇いも見せずに……引き金を引いた。

274: 2012/08/19(日) 02:49:06.23 ID:dfELEQtDO




―――――――――――――――




円周「るーんるんるんるーん」



少女の鼻歌が響く。
雨も止み、雲の隙間から日が差し始めた。
濡れた髪を揺らしながら、少女はスキップで歩みを進める。

ドコか楽し気で、嬉しそうに微笑んでいる理由はもちろん上条当麻。
両手には彼のYシャツが大事そうに握られていた。
何故かと言うと、つい先程まで上条によって手足を縛られていたのだ。Yシャツで。
他人からすれば縛られて放置なんて、気を悪くする人も居るだろうが、少女の場合だと異なる。

円周の視点からすれば、一瞬も気を緩めたはずが無いのに手足を縛られ、いつの間にか敗北を喫していた。
そんな動き、今まで見せた事も無ければ教えてもらってすら無い。
彼は自分よりも遥か高い位置に居る。まだまだ、追い付くには程遠いだろう。
これ以上に喜ばしい事はない。憧れであり、好きでもあるから。



円周「るんるー……あ! 数多おじさんっ」

275: 2012/08/19(日) 02:52:40.75 ID:dfELEQtDO



ワゴン車にもたれかかりながら、頭をがりがり掻く木原数多を発見。
スキップを止めて小走りで駆け寄っていく。

呼ばれて初めて気付いたのか、木原数多は眼球だけを動かし円周を一瞥。



木原「円周か……つか、まだ居たのかよ」



どうでも良さそうに吐き捨てた。
しかし円周は意に介さず、笑顔で木原の下に近付く。



円周「数多おじさんこそどうしたの? もう帰ってると思ってたんだけど」

木原「……ちと対策を練ってたんだ。一方通行のな」

円周「出発する前は大丈夫って言ってなかった?」

木原「ああ。どうにでもなると思ってたんだが、予定が変わった」

円周「どういう事なの?」



すこぶるつまんなそうに木原は、



木原「どうやら一方通行は、お前が熱を上げてる小僧の影響で変化し続けてる」

円周「当麻お兄ちゃん?」

木原「厄介な事にな。ったく曲者過ぎるぜあの小僧。今までの一方通行だとちょっとの挑発だけで簡単に乗って来やがったが、次からはそうはいかねぇな。
   アイツ自身、冷静に物事を対処するようになってきてんだ。一体何を小僧から学んできたかは知らねーが、随分とやりにくくなったモンだ」

円周「でも、今日は挑発に乗ってくれてたよ?」

276: 2012/08/19(日) 02:55:39.08 ID:dfELEQtDO

木原「今回のは挑発じゃなくてキッカケだ。“アレ”以来、顔を合わせてなかったから、その反動に過ぎねーな。
   第一、“そういう風に”仕向けたんだから反動が無くちゃ困る。まぁそれだけに、後々と七面倒事が起こる前に手っ取り早く今日中にもケリを付けたかったんだが……」

円周「困ったねえ」

木原「なぁに、心配する必要はねぇよ。どれだけ成長を遂げたとしても『難』が生じる事は、まず無い。
   予定が変わったって言ったが、言っちまえば“その程度”な訳だ。逸れたモンは修正してしまえばどうとでもなる」

円周「うん、うん。そのための“対策”なんだね」

木原(……『難』もあるっちゃあるがな)



視線を移して地面に転がるサウンドレコーダーへ。
再生スイッチがオンになっていて、絶え間なく“車のエンジン音”が流れ続けていた。
どうやら『一曲リピート』の設定にしてあるらしい。
止まらなければ、別の曲に変わる様子が微塵も無かった。

―――そう、おおかた上条当麻が逃走の際に放ったのだ。

確かに一時的ではあったが、視界を奪われ、位置把握の手段は聴覚しか残されていなかった。
けれども、だからといって『機械が録音した音』と『実際の音』を聞き違えるだろうか?



木原(……野郎、要するに視覚の奪取は『建前』か。本命はパニックへの誘導だろうな)

277: 2012/08/19(日) 03:01:25.14 ID:dfELEQtDO



勿論あの時、焦っていたのは間違いない。
だけど誤った判断は冒して無いはず。


つまり誤魔化す為に用意された要素は、まだあるという事。


しかもその見当は付いている。
先程まで降っていた『雨』だ。
激しく地面を叩くほどの豪雨である。ちょっとやそっとの音は掻き消されるだろう。

単純に二つの音を聞き分けるだけなら、自分に限らず他の誰でも出来る。
しかし、そこに『曖昧にさせてしまう音』が混じった場合、



木原(―――不可能じゃねえ)



とすると、自然と浮かび上がる推測があった。

予備のワゴン車。
拳銃。
二発目の閃光弾。
サウンドレコーダー。
エンジン音の録音。
豪雨という不安定な天候。






木原「……あの小僧にとって、一体どこまでが“予想範囲内”だったんだろうな」

円周「数多おじさん?」



返答は無い。
スライドドアを開けて車に乗り込もうとする所だった。



木原「置いてくぞ」

円周「ま、待って」

315: 2012/09/12(水) 01:27:20.05 ID:5yxHINYDO








あれから数週間経った日の事。

317: 2012/09/12(水) 01:29:03.80 ID:5yxHINYDO


―――とある病院。


診察室に三人の人間が椅子に座って、向かい合っていた。
一人はこの病院の医師を務めるカエル顔の医者、冥土帰し。
一人はシャツの上から学ランを着る学生、上条当麻。
一人はダボダボとした服装の元スキルアウト、浜面仕上。



冥土帰し「うん、だいぶ傷も回復したね。これなら無事退院できそうだよ」

浜面「……はーっ、一事はどうなるかと思ったぜ」

上条「腹に穴空いて、更に銃弾の一発。能力の応用で出血ぐらい止められたはずなのに、『あの子』に使っちまったからなー。ホント、殊勝なことですよ」



心の底から安堵の息を漏らす浜面に対し、若干顔色に呆れが混じる上条。

ふむ、と得心した冥土帰しは二人を交互に見つめ直し、



冥土帰し「最初は『いつもの人』と聞いたから、てっきりまた君が怪我をしたと思っていたんだけどね?」

上条「……いや、まあ……ははは、返す言葉がございませんのことよ……」

318: 2012/09/12(水) 01:31:54.17 ID:5yxHINYDO

冥土帰し「しかし、代わりに厄介事をたくさん押し付けてきたもんだ。驚いたよ、『クローン体をココに置いててほしい。それも20000以上』って言ってきたんだからね」

上条「そういえばまだ返事が無かったけど、どうなんですか?」

冥土帰し「置いてやりたいのはやまやまだが、彼女らには“調整”が必要だ」

浜面「調、整……?」

冥土帰し「元々クローン体だからね、人間と違って長くは生きられないのさ。それも薬品の投与で無理矢理成長を促進させたそうじゃないか? このままじゃあ余り保たないよ」

浜面「そ、そんな! せっかく、助ける事が出来たのに!」



思わず立ち上がり、感情に任せて声を荒げる。
考え無しに言った訳ではない。
妹達もそうだが一方通行の気持ちを汲んでの事。
一歩間違えればトラウマになり兼ねないほど、体を張ったにも拘わらず報われない。
そんな残酷な結末が、あって堪るか!



上条「“このまま”、っていう事は勿論?」



黙っていた上条が不適な笑みを浮かべながら、そう言った。






冥土帰し「―――僕を誰だと思っているんだい?」






質問の返事は、最高の形で返ってきた。

319: 2012/09/12(水) 01:34:45.84 ID:5yxHINYDO



冥土帰し「確かに20000以上の調整を僕の所では抱えきれないだろうね。持って十人程度が限界だ」

浜面「じゃ、じゃあどうするんだ?」

冥土帰し「単純な話さ。一人で抱え込まなければいい事だね?」

浜面「それって……」

上条「各施設に分担させる、って訳か」

冥土帰し「既にその件は統括理事会へ申請中だ。だから心配する必要は無いよ。学園都市も、“あくまで中止となった実験”を野放しにするはずが無いだろうからね?」



安心させるように浜面へ向けて温かい笑みを送る。
嘘ではないと悟った。目前の医者がとても嘘を吐いているとは思えなかったのだ。
力が抜けたように彼の腰は椅子に逆戻り。



浜面「最初からそう言ってくれよ。ビックリしたじゃねえか……」



悪態を吐くものの、顔は綻んでいた。

320: 2012/09/12(水) 01:42:42.61 ID:5yxHINYDO
そんな彼の様子に上条も呆れるように笑みを浮かべる……と、冥土帰しが今度は上条に向けて口を開く。



冥土帰し「……君に相談があるんだけど、いいかな?」

上条「はい? なんでございませうか?」

冥土帰し「『あの子』の件についてなんだけどね」



わざわざ『あの子』なんて、抽象的な言い方をするのは相応の理由があった。
そして上条は、冥土帰しが誰を指して、これから何を続けるかも予想がついた。



冥土帰し「君なら僕が何を言いたいのか、おおかた察しが付いているだろう? ……『あの子』も同様に調整が必要だね。
     でもどうやら幸運な事に、他の子達とは違う薬剤を投与されているようでね? これといって人体に悪影響を及ぼさない物ばかりだ」

上条「つまり?」

冥土帰し「君の言う、御坂妹さんだったかな? 彼女らより早くに調整は終わるだろうね」

浜面「……なぁ、大将」

上条「んあ?」

浜面「さっきから言ってる『あの子』って、一方通行が……」



躊躇っているのか、噤んでしまう。
続きを言わなくても、彼が何を紡ぐつもりなのか手に取るように判った。

321: 2012/09/12(水) 01:44:59.77 ID:5yxHINYDO

上条は何とか遠回しな言い方を探そうとする浜面に片手で制する。
もう何も言うな、と。これ以上先の事を言わなくても判ってるから。



冥土帰し「……続けていいかい?」



頃合を見計らって、優しく入った。



冥土帰し「僕の相談って言うのは、調整が終わった後の事なんだけどね?」

浜面「後……?」

冥土帰し「引き受け先さ」




―――何故か、その言葉がズッシリと心に重くのしかかってきた。




理由は定かではない。
現実問題として受け取ったからか。
それとも……一瞬でも上条と浜面の脳裏に、白い少年が映ったからか。



冥土帰し「出来るなら置いてあげたいんだけどね? でも、完治した子をずっと預かるのも限界があるんだ」

上条「……」

浜面「……」

冥土帰し「……まあ、この件に関しては君に委ねるよ」

上条「へ? 俺?」

冥土帰し「元々君が連れて来た患者だからね? 引き受け先探しは任せるよ。当てがあるならの話だけどね」



一瞬だけ悩む動作を見せる上条だったが、すぐに微笑みに変わる。



上条「その相談だったら―――」

322: 2012/09/12(水) 01:46:44.19 ID:5yxHINYDO




―――――――――――――――




一方「……」



上体を起こして窓から見える空を眺めるのは、学園都市第一位の一方通行。
窓は開いているので、透き間から入る風がカーテンを靡き、彼の髪をそよぐ。
物憂いの雰囲気を醸し出す一方通行は、ピクリとも微動だにしない。

ただただ……果てしなく広がる空を見つめるだけ。



「へいへーい! やっと見舞いに来れるぐらい仕事の始末を終えた俺が、どっかの第一位様の様子を見に来てやったぜーっ!!」



しかし、そんな時間は唐突に終わりを告げた。

彼は心の底から嘆息を漏らす。
顔を見ずとも誰かなんて想像がついた。
喧しいヤツが来たと思いつつ、扉へ顔を向ける。



垣根「なんだなんだ? いつも以上に辛気臭い面して。せっかくアレイスターの野郎と交渉しに行った俺に対して、感謝の言葉の一つや二つ述べたらどうなんだ?」



壁にもたれかかって、不敵な笑みを浮かべる垣根帝督がそこに居た。

323: 2012/09/12(水) 01:48:58.22 ID:5yxHINYDO

一方通行は露骨に眉間をしかめる。
前者の内容はどうであれ、確かに垣根のおかげで『妹達』が助かったのも事実。
更にその分の仕事量と、後始末の件の手伝いをさせられたのも垣根ただ一人。
ようやく色々と片をつけて顔を出したという話。影の立役者でもあるから、お礼の一言程度なら言ってやってもいい。

しかし、



一方「言い方が腹立つ」

垣根「そういうと思って、端から期待してねぇよ」



ケラケラと垣根は笑う。
一方通行の機嫌が一層悪くさせる事を。



垣根「野望を果す絶好のチャンスだと思ったら、“あっち”の連中の澱み具合が自分の予想を遥かに上回って気が滅入ってる、ってな感じか?」

一方「追加で自己反省も含めとけ」



彼は再び空へ視線を戻す。
倣って垣根も同様に窓から見える空を眺める。

しばし、二人の間で沈黙が訪れた。
やがて一方通行から口を開ける。



一方「……どこまで聞いてンだ?」

垣根「まぁそれなりに。もちろん情報提供者は不幸株式会社のリーダーから」

一方「今回の事に関して、どォせ上条は俺に何も言って来ねェ。手段が解らないなりにも自分で模索しろと言うまでだ」

垣根「手厳しいねぇ。右も左も解らない赤子の俺達に『模索』か。『道』すら未だ曖昧で盲目だってのに」

一方「『道』ぐれェ俺やオマエにもあンだろ?」



一方通行は木原数多を頃すという道を。
垣根帝督は上条当麻の下で生きる道を。

垣根は笑みを濃くすると、






垣根「それ、『道』じゃねぇだろ? 目標だろ?」






―――一瞬の間でも、息を詰まらせてしまった自分が居た。

324: 2012/09/12(水) 01:50:50.23 ID:5yxHINYDO



垣根「目標は着いちまったら先が途絶えてる。同じだろ? 木原を頃した先には何が続いてんだ?」

一方「……」

垣根「到達した時、何を感じ取るかは千差万別だが、唯一言えるのは先が無い事。
   別に、より凶悪な強さを求める為にとりあえず一から潰していこう! っていう経験値でレベルアップするRPGゲーム的発想の持ち主なら話は違うけどな?
   『道』っつーのはずっと続いてる。目標のようにゴールはねぇが、逆に考えれば終わりが無い事になる。だからこそ俺らにとって『道』を歩く『手段』を探すのは難しい。模索なんて尚更、な」



彼が言う『道』と『目標』。
二つの違いは先が有るか無いか。

『目標』がある分、歩くのはとても容易い。
しかし、『道』の場合は漠然と敷かれた筋のみだ。
自分が歩くべき『道』を見出す事が出来たならば、次には歩く為の『手段』を探さなければならない。

彼らにとって、本来あるべきの『道』を失ってから無我夢中に今を生きてきたのである。
それから新しく『道』を探せというのは至難の業。

325: 2012/09/12(水) 01:52:49.41 ID:5yxHINYDO



一方「……けっ、どっかの誰かさンと同じよォな事を言いやがって」

垣根「テメェは判ってないんじゃねぇからな。認めたくないだけ」

一方「へーへー。そォいうオマエはどォなンですかァ?」

垣根「状況は異なるが、俺はテメェと違って自覚はあるからな。……だけど、言ったろ? 俺らは右も左も解らない赤子だって。結局は変わらねぇのさ。俺もテメェも」

一方「ふゥン……オマエ個人としてはどォ思う。今回の俺をどォ見る」

垣根「それは一方通行自身として? 第一位として?」

一方「どっちでも」

垣根「第一位としてだったらクソなんじゃね? 専売特許の『反射』もあったってのにボロボロだしよ」

一方「…………」

垣根「個人としてだったら……及第点だと思うぜ?」



思わず目を見開く。
垣根からそんな言葉が聞けるとは到底思えなかったからだ。

一方通行の表情が窺えない垣根は、軽い調子でまくし立てる。

326: 2012/09/12(水) 01:54:01.73 ID:5yxHINYDO



垣根「百点満点とはいかねぇがな? 狂う程に復讐に染まった自分を抑え込んでも、あくまで理性的に守りたいもんを守ったんだから、テメェにしちゃ上出来なんじゃね?」

一方「ただの自己防衛かもしンねェぞ?」

垣根「だとしても事実は変わらないさ。何年も溜めてきた感情を暴走させずに抑える事が出来たのは、良くやったと思うけどな」

一方「……そンなもンかねェ」

垣根「考え過ぎなんだよ。大体―――ぶぉっ!?」



今まで軽い調子でありながら、明確に心理を追究していた垣根は突如として、素っ頓狂な声を上げた。
しかも何故か豪快に床にダイビング。彼なりにも体勢を立て直そうと努力したのか、何度か躓いての結果。

一方通行が訳も判らず床に伏せた垣根を眺めていると、









「あなたぁぁぁぁッ!! 今絶賛一方通行に会いたい人ランキング一位を獲得したミサカが見舞いに来ましたよッ! とミサカは破天荒キャラを演じてみます」









彼は悟る。また厄介なのが来た、と。

327: 2012/09/12(水) 01:56:49.48 ID:5yxHINYDO
そして嘆息を吐いた。
何故だろう、このやりとりに既視感を覚える。しかもついさっき。

部屋に入ってきた人物は、目の前で倒れている垣根を無視して一方通行の下まで駆け寄ってきた。
ボフッと両手でベッドを叩くと、



00001号「へーい! さっき、今日の分の調整が終わったから行ってきていい、ってカエル顔の先生から許可もらったから来ましたよ! とミサカは暗に計画性はあるんだぜ? と伝えます」

一方「判ったからよォ、とりあえずキャラを戻せ。オマエ、語尾だけいつも通りだから温度差激しくて気持ち悪ィンだって」

00001号「あらら、そんな傷付くような事を言っていいんですか? ミサカのハートはガラス製ですよ?」

一方「ハイハイそォでございますねェ」

00001号「ふふっ、冗談ですよ。とミサカはほくそ笑みます」



普段と変わらない、無表情なりにも頑張った笑み。
非常に乏しい感情ではあるが、彼女自身が僅かながらに生み出した奇跡。

何の変哲も無い会話。いつも通りの日常。
00001号にとって、それは掛け替えのないモノ。
本来ならば失われていたはずだからこそ、何よりも尊く感じるのは不思議ではない。

もう一度、一方通行と過ごせる日々が帰ってくるだけで、彼女にとっては副産物で生まれた感情より遥かに『奇跡』と言ってもいいのだ。

328: 2012/09/12(水) 01:57:52.59 ID:5yxHINYDO















垣根「待ちやがれこのやろぉぉぉぉ……!!」














そんな幸せの時間を割く者が、ここに一人。

329: 2012/09/12(水) 02:01:14.39 ID:5yxHINYDO



垣根「テメェこのガキャァ、人を突き飛ばしておいて謝罪の一言も無いとはイイ度胸してんじゃねぇか……?」



ゆらりと立ち上がるのは、ドス黒いオーラを漂わせる垣根帝督。
見て判るほどに彼は怒りに震えていた。

00001号は初めて気付きましたと言わんばかりに垣根を目にし、まばたき一つ。



00001号「寒いのですか? ですが時期的にありえませんね。そうですね……風邪? とミサカは白々しく発します」

一方「オマエの語尾ってこォいう時は不便なのな」

00001号「いえ、ワザとです。とミサカはしれっと言い放ちます」

垣根「オイコラーッ! 人を無視して話を進めてんじゃねぇよ!」

00001号「ふぅ、うるさい人ですね。ココは病院ですよ? 他の人に迷惑がかかると考えませんか?」

垣根「テメェだけには言われたくねぇからな!? それにまず謝れって言ってんだろ!」

330: 2012/09/12(水) 02:01:53.27 ID:5yxHINYDO

00001号「ほぉ? こんないたいけな女の子に土下座をしろと? あなたはそう言い張るのですね?」

垣根「いや、別に土下座までしろとは……」

00001号「病を患っている女の子に対して、謝れなど、土下座など、挙句の果てに服を脱げなどと!」

垣根「は? ちょ、いや……はあ? 待て待て、何勝手に被害妄想スパイラル発動させてんだよっ!?」

00001号「およよよよ。ミサカの貞操はこんな男に失われてしまうのですね。とミサカは両手で顔を覆います」

垣根「ねーよッ! 何でテメェに欲情しなきゃいけねぇんだよ!? 冗談も大概にしとけよクソガキ!」

00001号「何をそんなムキになっているのですか、嘘に決まってるでしょう?」

垣根「オーケーッ!! ムカついた。こんな気分は久しぶりだぜコノ野郎!!!!」



結局のところ垣根も一方通行と同じく、彼女の手の平の上で踊らされているのだ。
そして彼女の裏をかくには、悟るのが手っ取り早い事を垣根は未だ気付いていない。

完全な蚊帳の外である一方通行はと言うと、



一方「あーもォ、うるせェなァこいつら……」

331: 2012/09/12(水) 02:04:11.89 ID:5yxHINYDO



「病院では極力静かにしてもらえると、嬉しいんだけどね?」



その一言が皮切りに、二人の動きがピタリと止まる。
一方通行は落ち着いた様子で扉の方へ視線を向けた。



一方「悪い。うちの連中が騒いじまって」

垣根「ちょ、ちょっと待てよ第一位! けしかけたのはコイツだぜ!?」

一方「うっせェよ馬鹿! 乗ったオマエにも責任はあンだろォが。つまり同罪」

00001号「おぅ、まさに正論。返す言葉が見つからないとはこの事ですね。とミサカは得心します」

一方「オマエはとりあえず黙れ」



まるで二人の面倒を見る親御さんさながら。
一連のやり取りを見ていた扉に立つ人物―――冥土帰しは一度頷く。



冥土帰し「まあ、元気なのは良い事だね? その分なら運動も可能のようだ」

一方「……? つか、なンか用があって来たンじゃねェのか?」

冥土帰し「そうそう。君に相談があってね? 君が助けた『あの子』について」

一方「……」



一方通行の目つきが険しくなる。
状況を察してか、垣根や00001号も口を閉ざして黙ったままだ。

332: 2012/09/12(水) 02:07:42.85 ID:5yxHINYDO



冥土帰し「『あの子』はそこにいる彼女達と違って、思いの外早くに調整が終えそうでね?」

00001号「……? 何か問題でもあるのですか? とミサカは質問をします」

冥土帰し「問題はその後だよ。あの子の引き受け先に困っててね」

一方「……」

冥土帰し「君に委ねるよ。当てがあるならね?」



一方通行は僅かに目を細める。
視線を落とし、膝に置いた自らの手を見つめた。

守るように庇ったあの時、触れた感覚を忘れない。
伝わる温度、肌から感じる手触り。
どれもこれも変わらない。“本物”と同じ感覚だった。



一方「……当てはねェな。だからアイツがドコで生きていよォと、平和に暮らしてくれれば俺は満足さ」




―――だからこそ、




一方「一つ。希望を言っていいンだったら……出来る限りで構わねェから、学園都市の『外』で引き受け先を探して欲しいンだ」




―――“彼女”は、自分と共には過ごしてはダメだ。




一方「学園都市とは無縁な日々をアイツには過ごしてもらいてェンだ」




―――見た目こそ“彼女”であるが、中身は全くの別人なのだから。




一方「俺が言うのは御門違いっつーのは判ってる。……それでも、アイツが生まれたのは俺の責任もあっからな」




―――“彼女”には別の人生を歩んでもらいたい。

333: 2012/09/12(水) 02:10:23.27 ID:5yxHINYDO



一方「……言いたい事はこれだけだ。後は好きにしてくれ」



自分の中では終わったのか、答えは聞かずに目を閉じた。
本当はそうして欲しいのにぶっきらぼうな言い方で終わらせてしまうのは、彼が不器用であるからだろう。
垣根は困ったように苦笑を浮かべる。不器用なのを知ってるからこそのだ。
……もちろん、それは自分も該当してこそだが。



冥土帰し「ふむ、そうかい。なら僕は全力を尽くすまでだね」



冥土帰しは上条当麻との会話を反芻する。



上条『その相談だったら……一方通行にしてやって下さい。これは俺自身が勝手に決めるべきでは無いし、そもそも一方通行にこそ決定権はあるはずですから』

冥土帰し『ふむ、では一つの意見としてもらえるかい?』

上条『……必ず却下という方向で行くのであれば、上条さんも言わない事ないですよ?』

冥土帰し『引き受けよう』

上条『学園都市外の所がいい。平凡であれば尚良し』

冥土帰し『理由は聞いてもいいかい?』

上条『一方通行がまず良しとしないんではないでせうか? 学園都市内に住む事を。あいつはまだ“目的”を果たしていない。おそらく何もかもが解決するまでは、って感じだと上条さんは思いますよー』

冥土帰し『……そうか』

上条『あ、俺がこう言ってた事も一方通行には内緒の方向でお願いしますのことよ。あいつならきっと、俺の言った意見に従っちまうと思うし』

334: 2012/09/12(水) 02:16:57.86 ID:5yxHINYDO



彼が何故、わざわざ一方通行に答えを促したかようやく解った気がする。
この件は一方通行が自ら判断を下す事で意味があるに違いない。
自身の中で噛み締めさせ、一方通行の成長に繋げる事が出来る。

そして一方通行はあくまでも“ぶっきらぼう”だ。

上条当麻の意見を優先させる節があり、尚且つ一方通行が信頼をおける人物であろうの一人。
そんな彼が自分の口から物を言うより、上条から貰った意見に同意する可能性の方が断然と高い。

「上条がそォ言ったンならそれでいい」と率直に答えるだろう。
それでは意味が無いのにもかかわらず。






「あ、あの……」






この部屋に新しい声。
冥土帰しの後ろから聞こえた。
何故か控え目で怖々とした感じだ。

335: 2012/09/12(水) 02:18:22.09 ID:5yxHINYDO

全員が冥土帰しへと向く。
一点に視線が集まった彼も僅かに横に体をズラしながら、振り返った。



一方「……!」



そこに居た人物に、一方通行は思わず目を見開いた。
側にいる00001号と瓜二つの姿。

一見すれば見分けは付かない。
が、00001号はゴーグルを頭に掛けていて、彼女はゴーグルを掛けていない。
彼女はDNAを提供し、『妹達』を生み出した張本人。


御坂美琴。





『………………』





この場の全員が沈黙に包まれる。
冥土帰しは見守る方に徹底するつもりなのか、口を挟む様子は無い。
垣根と00001号は戸惑ってるのかは判らないがお互いに目配せするばかり。

336: 2012/09/12(水) 02:19:53.89 ID:5yxHINYDO

当事者である二人は無言を突き通したまま。
一方通行の場合は、元から皮切りの手段を封じられている。
話の進行を催促させる事は可能だが、彼女の方から尋ねて来た時点で一方通行から喋りだすのは難しい。

いつかは対面するとは思っていた。
しかし、結局その先は何も判らずじまい。
謝ればいいのか、澄ませばいいのか。



美琴「……あなたが、一方通行よね?」



……と、予想外な事に案外あっさりと沈黙は破られた。
最悪の事態を想定して、一方通行は自分からこの空気を断ち切るつもりの覚悟は持っていたのだ。
だが、そんな心配は要らないと主張するように、御坂美琴は早くも断ち切る。
未だ迷いの瞳を垣間見せるが、根幹は決意を秘めた光を宿している。



美琴「合ってる……のよね?」

一方「あ、あァ。そォだが?」

美琴「……私が誰だか判らない訳じゃないわよね?」

一方「……勿論だ」



緊迫した空気が漂う。
一方通行ですら、息を飲んだ。

337: 2012/09/12(水) 02:23:11.06 ID:5yxHINYDO



美琴「ご……ごめんなさい……」




―――だからこそ、彼女の行動には虚を突かれた気分になった。




一方「っ……何で、謝ってンだ?」

美琴「あたし、勘違いしてた」



頭を下げた状態で、言葉を紡ぐ。



美琴「言い訳にしかならないけど、最初『その事』を知った時、訳判んなくって……正直理性失ってた」



ポツポツと。

自分の過去の過ちを親に話すように。



美琴「きちんと冷静に調べもしないで、困惑したまま勝手にあなたを悪者に仕立て上げてた」



何故だろう。

彼女のこの姿に見覚えがあった。



美琴「……全部聞いたわ。あなたの事」



思い出せない。

けど、ドコか懐かしかった。



美琴「実験の時も適当にあしらって止めてくれてたり、この実験を中止に追い込んだのもあなたがやった、って……」

一方「……聞いたンだったら何でわざわざ謝りに来た。黙ってても良かったはずだ。俺も咎めねェ。なのに―――」

美琴「たとえそうだとしても、私は逃げたくない。謝らなかったら後悔する事は判ってるから。……ごめんなさい」



芯の通った強い瞳で、自分を見る。

上条と同質の、そして『光』を道行く者の瞳。

338: 2012/09/12(水) 02:25:08.84 ID:5yxHINYDO



一方「あの、よ……謝らないでくれ。俺は別にオマエにそォして欲しい訳じゃねェンだ。ただ、勝手な理由で殺されるコイツらを守りたかっただけなンだ」



言って、00001号の頭に片手を乗せる。



一方「だから……ンな泣きそォな面すンなって。俺達はコイツらも含め、『笑顔』が見たくて戦ったンだからよ」



そう、こんな下らない上層部の企て如きで、『笑顔』を失って欲しくなかった。

『闇』に足を踏み入れて欲しくなかった。

確かにこの世界はフザケていて、人の心を簡単に踏みにじる最悪の世の中だけど。

それだけじゃない事も確かだ。

自分を引き止めてくれた“アイツ”が居るように、嫌な物ばかりではなく温かい存在が居るように。



美琴「あり、がと……っ」



耐え切れなかったか、大粒の涙が流れる。
何度も何度も、頬を伝う涙は床に落ちていく。
止まらない。止めれない。

339: 2012/09/12(水) 02:28:54.24 ID:5yxHINYDO

当然だった。むしろ今まで良く頑張った方だった。
『実験』を知った日から感情を押し頃して彼女。
ただ、妹達を救うために必氏で施設を潰してきたのだ。
一体幾度、涙を堪えただろう? 縋り付きたいと思っただろう?
判らない。端から数える気は無かった。
目の前の事だけで精一杯だったから。


そして、“全部”が杞憂に終わり。
まずは戸惑い。困惑。狼狽。驚愕。
整理が付かない頭で次に出たのが吟味。

詳細を理解する頃には、安心と後悔で埋め尽くされていた。
自分が行ってきた事は意味が無かったと悟るが、構わない。
水の泡だろうと無駄だろうと、知った事か。大事なのは全員助かっている事実。
それだけで……十分。

しかし緊張は解けない。
無事の代わりにやるべき事が一つ。
一瞬でも悪者にしてしまった一方通行への謝罪。
自己満足。その一言で切り捨てられるであろう。
でも、だからといって頭の中で自己完結させてしまうほど、都合良くも無かった。


怖かったはずだ。
許してくれなかったらどうしよう、と。
脅えたはずだ。
怒ったらどうしよう、と。


それ故に、嬉しかった。
ひだまりのようにとても温かった。
一方通行の言葉の一つ一つが。



緊張という名の糸が、優しくほぐれていったのだ。

340: 2012/09/12(水) 02:30:00.64 ID:5yxHINYDO



00001号「…………」



すると、00001号が美琴の隣へ移動した。
まるで今にも崩れ落ちそうな美琴を支えて、ゆっくりと背中を撫でる。



00001号「頭は撫でません。抱擁もしません」



美琴は訝しむ。
どういう意味? と。



00001号「何故ならば、それはミサカの役割では無いからです。とミサカは明言します」



ぎこちないが、00001号は自然と笑みを浮かべた。



00001号「ミサカの頭を撫でるのが一方通行であるように、お姉様にもそういう人が居るはずです」

美琴「……っ、そ、そんなの居るわけ」

00001号「では、撫でてほしいという願望の意中の人、でよろしいですか? とミサカはほくそ笑みます」

341: 2012/09/12(水) 02:31:22.32 ID:5yxHINYDO



会話が広げられるなか、どうしてか名前が挙がった一方通行はというと、



一方「……チッ、勝手な事言いやがって」

垣根「よく言うぜ。口を挟んだりしないくせに」

一方「違いますゥ。バカキネくンと違って空気が読めるンですゥ。一緒にしないで下さァい」

垣根「ハッハッ、上等だぜこのモヤシ野郎」

冥土帰し「こらこら、院内だって事、忘れてないかい?」



わざわざ部屋の入り口で二人を宥めるのも如何なものか、とでも考えたのか。
冥土帰しはいつの間にか歩み寄っていた。



冥土帰し「……とりあえず、大方片付けて落ち着いたようだね」

一方「そォだな。で? ンな歯切れの悪い言い方しやがるっつー事はまだ何かあるンだろ?」

冥土帰し「話が早くて助かるよ。いやなに、伝言みたいなものだから警戒しなくても大丈夫さ」

一方「さっさと言え」

冥土帰し「その前に確認を。一方通行、もうほぼ万全な状態と言っても過言ではないのかな?」

一方「……まァ、おォ。誰が襲って来ても八つ裂きに出来る自信ぐれェならあるぞ」

冥土帰し「十分過ぎるほどだ。安心したよ。実は―――」

342: 2012/09/12(水) 02:33:05.63 ID:5yxHINYDO




―――――――――――――――




病院、玄関前。
交通機関や車椅子の方などの配慮を考えて、玄関前はロータリーのように広めに作られている。

その中央。上条当麻は悠然と立っていた。

数メートル離れた場所で観戦する浜面仕上と御坂妹(10032号)は、適当な事をぼやく。



御坂妹「遅いですね。とミサカは待ちくたびれます」

浜面「まあまあ。気長に待とうぜ」



近くのコンビニでも走って何か買ってこようかなー、とか考えていた―――その時。



上条「浜面ァ!」

浜面「うぇあははいぃっ!?」



意識が完全に蚊帳の外だった為、マトモな言語を話せていない。
上条を見ようとした瞬間、視界が突然ブラックアウト。
頭から何かが覆い被さったのだ。



上条「持っとけ!」



取って見れば、それは学ランだった。
再び彼に視線を戻すと、丁度奥の病院玄関から一方通行が出て来た所である。

343: 2012/09/12(水) 02:34:47.59 ID:5yxHINYDO



浜面「ようやく、か」

御坂妹「感覚共有、映像保存と共に準備はOKです。とミサカは観戦します」



二人の間合は約五メートル。
無言のまま、上条と一方通行は立ち尽くす。

離れた場所で様子を見守る人達に、緊張感が生まれる。



一方「……ったく、念のため『学園都市第一位は無能力者に負けた』という事実を作っておいた方が良いなンて、面倒くせェ」

上条「上条さんは用心深いんですよ」



これから戦闘を行うというのに、両者は不敵な笑みを互いに送る。
喜んでいるのだ。また、こうして拳を交じり合える事に。



一方「言っとくが、負けるつもりは更々ねェからな?」

上条「マジですかー、万が一にでも上条が負けてしまったら元も子もないと思うのですが……」

一方「寝言にしては目が開き過ぎてンぞ。リベンジ戦だリベンジ線」

344: 2012/09/12(水) 02:37:26.16 ID:5yxHINYDO



一方通行は想起する。

彼と初めて会った日の事を。

あの時もこうして相対していた。

今となっては懐かしい。

あれから既に三年。

長かったようで短い、掛け替えの日々。






一方(―――なァ、覚えてるか?)






初めて俺達が出会った日の事を。

意味は違えど、今と同じように相対した事を。






『復讐だろうが仇だろうが、勝手にすりゃあいい。だけど! テメェの妹の“想い”を忘れんなよ! 最期の時、何の為に微笑みを向けてくれたと思ってんだッ!!』






上条、知ってるか?






『実際に見た訳じゃ無いから偉そうな口は言えねえ。でも、聞いた俺ですら理解できた妹の気持ちを、兄であるお前が理解してやれなくてどうすんだよッ!!!!』






その日から俺は、






『その程度の気持ちも汲めないヤツが、立派に妹の名を口にして嘆き散らかすな!!』






オマエの背中を追い続けているンだぜ?

360: 2012/09/28(金) 01:34:54.28 ID:D3sLWovDO








九月十九日。大覇星祭の開催日。

361: 2012/09/28(金) 01:37:53.06 ID:D3sLWovDO

七日間に渡って学園都市で催される行事で、簡単に言えば大規模な運動会。
その内容は、『街に存在する全ての学校が合同で体育祭を行う』というもの。
だが、何しろココは東京西部を占める超能力開発機関で、総人口二百万人越えする。
その内の八割が学生だというのだから、行事のスケールは半端ない。

……と言っても、あくまで大覇星祭の参加者は学生が主要な訳で。
年齢的には参加者のはずだが、学生の身分をとうに捨てた彼はというと、



浜面「毎年思うけど、この行事は凄ぇよなー……」



いつものファミレス。見飽きた光景だが、明らかに普段と異なるのは店内の客が学生だけでは無い事。
体操服を着た学生と共に、父兄だと思われる大人で溢れかえっていた。
もちろん店内に限った事では無い。むしろ外の方が人でごった返し状態。
一般車の通行を禁止した御陰で、ひとたびはぐれてしまったら迷子確定だ。

362: 2012/09/28(金) 01:40:39.30 ID:D3sLWovDO



浜面「ま、大覇星祭となれば車なんて無意味に等しいし。歩いた方が早いんだけど……この一週間の間、車が使えないのは痛いよなー」



実際に今日は歩いてファミレスに訪れている。
浜面仕上はドリンクバーから頂戴してきたドリンクを口に含みつつ、窓ガラスを覗き込んだ。
空に浮かぶ飛行船。大画面には『まもなく大覇星祭が開催されます』と表示中だった。
店内だからだとは思うが、おそらく外ではアナウンスが流れてるだろう。
尤も、場所移動と会話に夢中である全員の耳に届いてるかは些か不明だが。



浜面「今日から一週間は上条も忙しくなる訳だから、当然仕事は無し。正直言って……やる事もねえからヒマだ」



だからこうして、空いた時間を持て余す結果に至るのだが。



浜面「それにしても、垣根のヤツ遅すぎだろ……。人込みもあるだろうけど、集合時間とっくに過ぎてんじゃん」



携帯で時間を確認。ついでに言えば「遅れる」なんて連絡は無い。
そもそも元から期待などしてなかったのだが、それでもボヤキは止まらなかった。

363: 2012/09/28(金) 01:44:52.74 ID:D3sLWovDO

因みに一方通行は来ない。正確に言うと来られない。
彼は三週間近く前、天井亜雄から『打ち止め(ラストオーダー)』を救う為、体を張ったばかりである。
今は病院で療養中。何やらもうすぐ退院だとか。






「わりぃ……遅れた」






背後から至極げんなりした声が届く。
ほんの僅か戸惑ったが、一瞬で遅刻者の垣根だと判断が付いた。
浜面は怒りを含ませながら、



浜面「なあ垣根、最近遅刻の頻度増えて……」



しかし、最後まで紡がれない。
続きを言おうとした口のまま、彼は全身が硬直化。
そして何故、垣根がげんなり声になってるのかも、おのずと理解した。

当り前だが垣根は居た。今も向いの席に座っている。
これは問題無い。だけど、



インデックス「しあげ! 久しぶりなんだよ!」



―――隣にさも当然の如く暴食シスターが居るのはどうしてだ?

364: 2012/09/28(金) 01:46:32.85 ID:D3sLWovDO



ここはドコだ? そう、ファミレス。
何をする場所だ? 基本的に飲食店には違いない。

つまり? この小娘がする事は?



浜面「……」



以前、フレンダを加えた三人でココへ来た時を思い出した浜面仕上は、硬直化から解ける。

瞬時に顔を歪めた。



インデックス「露骨っ! 露骨すぎて逆に清々しいかも! 出会い頭そうそうに失礼なんだよ!!」



浜面は歪んだ顔を止めない。



インデックス「むぅ! そこまで嫌な顔しなくたっていいんじゃないかな!?」



浜面は歪んだ顔を止めない。



インデックス「……なんか、この感覚懐かしいんだよ。嬉しくないけどね。初めてとうまと会った日のことを思い出すかも」



頬を膨らませて拗ねる彼女は、ブツブツと一人愚痴る。
少しやり過ぎたか、と反省する浜面に垣根が身を乗り出し耳打ちしてきた。

365: 2012/09/28(金) 01:48:34.70 ID:D3sLWovDO



垣根「いや……本当にすまん。俺もまさか行く途中にリーダーと出くわして、コイツのお守を任されるとは思わなかった」

浜面「マジかよ……」

垣根「でも、一つ目の競技が終わるまでらしいからよ。まだ被害は少なく抑えれね?」

浜面「一つ目の競技……? 大将んトコの種目なんだっけなー……」

インデックス「棒倒しだよ」



まる聞こえだったのか、予想外にも彼女が答えた。
テーブルに顎を乗せて体を丸めた状態で、力無く言う。



インデックス「場所はこれに印つけてあるんだけど、道がわかんないんだよ……」



そうして懐から取り出したのは、会場案内や各場所で行われる競技種目が記された大覇星祭のパンフレット。
男二人はパンフレットを覗き込む。
確かにペンで丸を付けられている箇所が幾つかあった。

366: 2012/09/28(金) 01:50:26.87 ID:D3sLWovDO
目を凝らしていると、浜面が「ん?」と首を捻った。



浜面「第一種目の競技場さ、大将んトコの校庭じゃね?」

インデックス「……え?」



何気なく放った言葉を皮切りに、インデックスの声に再び覇気が宿り始める。
だけど聞いちゃいない二人は、パンフレットを眺めながら勝手に話を進行させていく。



垣根「お、ホントだ」

浜面「第七学区みたいだから、今から行けばまだ間に合うんじゃねえか?」

垣根「そうだな……どうせココに居ても俺らの財布が食い潰されるだけだし……」

浜面「この距離だとバス使わなくても、そんなかからねえだろ?」



状況を察したのか、インデックスがようやく復活して反論を示す。
確かに上条当麻の競技場へ行きたいのは本心だ。認めよう。嘘はつかない。
けれど、せっかくファミレスへ赴いたと言うのに何も食べないまま出て行くのは、余りにも酷ではなかろうか?

367: 2012/09/28(金) 01:52:48.35 ID:D3sLWovDO



インデックス「ちょ、ちょっと待ってほしいかも! 私を差し置いて勝手に進めるなんてヒドいんじゃないかな!?」



こんなに周りから誘惑する匂いが漂っているのに。
自分は指をくわえながら、ジッと見てる事しか出来ないのか。
せめて一品だけでも! と願いを言う寸前で、



垣根「何だ、行きたくねぇのか?」



彼女の決意は呆気なく音を立てて崩れていった。



インデックス「そういうわけじゃ、ないけど……」

浜面「じゃあ決まり。会計済ませて、さっさと行くかー」

インデックス「んにょぉわーっ!? ぜ、絶対言いくるめられてる気がするんだよー!」

垣根「気のせいだっつの」



浜面は会計へ。垣根はインデックスの襟首を掴んで外へ。

無理矢理まとめた感が否めない結論にインデックスは不満で一杯である。
お腹が空いてお腹が空いて、餓氏してしまうそうなのに。
怒って噛み付こうにも力が湧いてこない。

368: 2012/09/28(金) 01:56:24.35 ID:D3sLWovDO



インデックス「て、ていとく……」

垣根「あ?」

インデックス「だめ……?」



弱々しくプルプル震える手で指差す方向には、露店があった。
焼きそば、たこ焼き、リンゴ飴、空揚げ……等々。
夏祭りの定番、しかも濃い匂いがする物ばかり。

露店と彼女を往復して見ると、溜息を吐いて肩を竦ませる垣根。



垣根「判った判った、買ってやるから情けねぇ面すんな」

インデックス「ほんと!? やったーっ!」



さっきまで力尽きる寸前みたいに弱っていた状態が、まるで嘘のように打って変わってピョンピョンと元気良く飛び跳ねるインデックス。
行き交う人々に温かい目で見られてるが、お構い無し。いや、どちらかというと気付いていない。

現金なヤツめ……、と垣根は苦笑を浮かべる。
純粋無垢でひたむきな彼女に口元が自然と綻んだのだ。

369: 2012/09/28(金) 01:57:57.03 ID:D3sLWovDO



垣根「言っとくけど一品までだからな?」

インデックス「えぇーっ!? そんなんじゃ満足できないんだよぉぉぉぉぉ!!」

垣根「うっせ。あんまり食わすとリーダーに怒られんだよ。お前だって怒られたくねぇだろ?」

インデックス「うっ……た、確かにとうまが怒ると怖いからイヤかも……」

垣根「だろー? 拳骨喰らいたくなかったら我慢しとけ」

インデックス「ううぅぅぅぅ……わかったかも」



一度味わった事があるのか、彼女は涙目になりながら頭をさすった。
どうやら上条式教育はキチンと行き届いているようである。



浜面「お待たせ。早速行くとするかー」

インデックス「しあげ! その前にあそこのお店で買い食いなんだよ!」

浜面「は? 何の話?」

垣根「立ち止まってだべるなっつの。歩け歩けぇ」



各々が上条の高校へと歩き出した―――その時、









垣根「ッ!!!!」

370: 2012/09/28(金) 02:00:34.50 ID:D3sLWovDO



突如、血相を変えた垣根が立ち止まったかと思えば、踵を返し身を翻した。
彼のコメカミには汗が一滴。
とても運動後や気温の高さで流れる類では無い。
どちらかと言えば、イヤな感じがした時に流れる気持ちの悪い寒気に近い。

当然の事だが、気付いた浜面やインデックスも同じく立ち止まる。
インデックスは首を傾げ、



インデックス「どうしたの?」

垣根「……いや、何でもねぇ……」



言葉を濁し、再び歩き出す。
取り残された二人は一度顔を見合わせて肩を竦める。
お互いに思う所は色々あるが、考えても無駄だと感じたのだろう。垣根の後を追うように歩いていく。



垣根(……今、俺の脳に『何か』得体の知れねぇもんが干渉してきやがった)



顔色は全く優れない。
彼にしては珍しく余裕が見えなかった。
ジワリと滲むイヤな汗も、駆り立てられる動揺も。

有体に言えば、らしくないのだ。

371: 2012/09/28(金) 02:02:10.74 ID:D3sLWovDO



垣根(この感覚、忘れもしねぇ。昔、まだ心理定規と連んでた頃に興味本位でやってもらった能力と同類だ……!)



精神系能力という物に興味があった。
己の能力は云わば、素粒子は素粒子でも“この世に存在しない素粒子”。
そして主に攻撃を特化している部類。
防御が薄い訳じゃないが、攻撃より遥かに劣る。

一方通行のように両方を兼ね備えてる野郎は問題外。
……こういう考えが、第一位に対するコンプレックスへと繋がるのかもしれない。

ともかく、物理的な攻撃は大体防いできた。
ならば防御の仕方が不明瞭な『精神系』はどうだろう?

結果的に言えば防ぐ事は可能だった。



垣根(心理定規の場合、感触としては俺の脳への“干渉”みたいなもんだ。
   フィルターをイメージしながら未元物質を直接俺の脳へ干渉させたら、違和感は消えた。多分、完全に“干渉”を防いだんだろ)



普通に考えればありえない。
しかし常識が通用しない、と豪語する垣根だからこそ。
もはや何でもありなのは否めない。

372: 2012/09/28(金) 02:04:41.94 ID:D3sLWovDO

だけどそこは、やはりLevel5の第二位。
他の能力者とは埋まる事の無い大きな溝、物理にしろ精神にしろ、適わないのだ。
彼と対等以上にやり合えるのは一方通行だけなのだろう。



垣根(……けど、さっきの感覚は心理定規と似てはいるが違う。もっと別次元クラスの異質)



無意識にフィルターを掛けていたが為に起きた幸い。
何せ、心理定規とは比にならない『脳を鷲掴みされる』感覚。






垣根(―――大覇星祭、か)






嫌な予感がする。
日本で最も盛んな運動会。
外部からの入場を許すため、何がを起きても不思議ではない。

……そう。暗部の連中が活動を示していてもオカシくはないのだ。







こうして大覇星祭、初日の幕が開ける。

373: 2012/09/28(金) 02:08:10.12 ID:D3sLWovDO
投下しゅーりょー

384: 2012/10/15(月) 01:59:06.51 ID:SWaLedcDO



色々あって、ようやく垣根一行は上条が通う高校の校庭へ到着。
無名の高校なので椅子があれば充分と踏んだが、どうやらその考えは愚かだという事を知る。
地面に青いシートが敷いてあるだけで、椅子すら見当たらない。
他の観客達に視線を移しても、全員同じ様子。しかし気にする人は一人として居なかった。



垣根「平凡ってのは聞いてたけどさ……ココまでくると応援席じゃなくね? 小学校の運動会かっつーの」

浜面「運動会ならまだ可愛いイメージがあるけど、俺の感覚的に花見の宴会な感じがするぞ?」



どっちもどっちもだな……、と垣根は溜息を吐く。
比べても差異は無い。その程度のレベルにしかならないのだ。
学校が違うだけでこうも差が出るかと思念する。
応じて直接的に関係してくるのが、大覇星祭に於いての有利と不利。
平凡と耳にする上条の高校は、ドコまで対戦校とやり合えるのか。



垣根(そもそもリーダーは勝つ気があるのか……?)



それを言ってしまえばお終いである。

385: 2012/10/15(月) 02:00:34.13 ID:SWaLedcDO



浜面「あ?」



印が付けられた指定席へ着いた途端、先頭を歩いていた浜面が立ち止まって疑問を発した。
眉間にシワを寄せ、表情を歪める。
まるで会いたくない知り合いに偶然会いました、と言わんばかりに。
様子に怪訝する垣根とインデックスは、自然と彼の視線を辿る。


……何やら指定席には先客が一人、ちょこんと既に座っていた。


黒髪のお団子頭を左右に揃えた、中学生くらいの少女。
服装にまとまりが無く、店員に勧められた物を断り切れずに買ってしまった感が否めない。



「……?」



視線に気付いたのか、少女―――木原円周はこちらへと振り返った。
たこ焼きを摘んでいたようで、パックと爪楊枝を両手に。

386: 2012/10/15(月) 02:02:40.82 ID:SWaLedcDO



円周「あ」



そして浜面を認識。
期間にしてまだ一月も経ってない二人。
とても知らない振りをするには無理がある。

全く以て面識の無い二人は黙り込むしかない。
けれど空気を読んだ方が良いと悟った垣根は、まっさきに食ってかかろうとしたインデックスを抑止。
詳しく記すなら、羽交い締めを決めた上に口を塞いでいる。



浜面「なんで、ココにいるんだ……?」



あくまで冷静に対処しようと心掛けている彼の姿が窺えたが、焦りは隠し切れなかったのだろう。
思わず口ごもってしまっていた。

かつては敵。上条を足止め役として抜擢された少女。
今回はどんな目的で現れたのか……。

387: 2012/10/15(月) 02:04:44.29 ID:SWaLedcDO












円周「当麻お兄ちゃんの応援だよ?」










―――答えは案外、あっさりしたものだった。

388: 2012/10/15(月) 02:06:59.48 ID:SWaLedcDO



浜面「へ……?」



彼からも素っ頓狂な声が漏れる。
偵察だとか、弱点を探し出すとか、もっと緊迫した空気が張り詰めると思っていたのだが。

円周はどこまでも純粋な瞳を浜面へ向けて、



円周「私、当麻お兄ちゃんが大好きなんだよねー。だから応援に来てるの。……なにか変かな?」



あまりにも純粋過ぎて浜面が戸惑い始めた。
何だか小動物に対して、勝手に警戒心を抱いている気分に陥る。
……余談だが、円周が「大好き」と言った瞬間からインデックスの抵抗が数倍に跳ね上がったのは言うまでもない。



浜面「い、いや! 変じゃねえぞ!? ただ、今すぐに警戒は解けないっつーか……」

円周「うん、うん。分かっているよ。でも大丈夫。今回は数多おじさんからなにも受けてないから」

垣根「とにかくだ」

389: 2012/10/15(月) 02:08:52.93 ID:SWaLedcDO



インデックスを抑え込んでいた垣根が声を上げる。
このままでは埒が明かないと見切りをつけたか、又はこれ以上“野獣”の制御は難と判断したのだろう。
有無を言わせない勢いで第二位は畳み掛けた。



垣根「このガキがどんなヤツかは知らねぇが、今この場でドンパチやろうなんざぁ頂けねぇ。
   無関係の『一般市民』だって居るんだからよ、余り騒ぎを起こしたくもないんだ」



垣根は『一般市民』と言ったが、彼にとってソレが何処までの範囲、そしてどんな意味を指すのか。
有体に言えば、『一般市民』は自分達の周りに居る観客程度の範囲ではなく、この校庭に居る観客全員かもしれない。
更に『一般市民』の意味を追究すると、垣根は自分達を“光”と“闇”に区別するために、わざわざそんな言い回しをしたのかもしれない。

どちらにしても、それなりに深い“闇”へと浸っている身で、騒ぎを起こすと言うのは宜しくない。
それが上条を率いる暗部メンバーと感付かれれば、周りを巻き込む事態を招く可能性だってある。



垣根「だから今はご気楽観戦タイムと行こうぜ? 浜面も安心しろって。そのガキが少しでも妙な行動を取ったら容赦しねぇからさ」

円周「私はただ、本当に当麻お兄ちゃんを応援しに来ただけなんだけどなあ」

垣根「行いの問題だな。信用をまるごと失わせるような事をやらかしたんだろ? 自業自得だっつーの」

円周「困ったねー。『木原』として動いただけなのに」

390: 2012/10/15(月) 02:12:35.47 ID:SWaLedcDO



やっと解放したインデックスと共に、円周の隣に腰を下ろす。
頬を膨らませて「怒ってるんだよ?」アピールを垣根に向けるが、こっちを見ようともしない。

標的を変えて円周へ。ジト目でひたすら凝視。
熱い視線に円周も首を傾げるばかり。



インデックス「……ねえ」

円周「なあに?」

インデックス「とうまのこと、好きなんだね?」

円周「うん。あなたも?」

インデックス「わ、わた……っ!? べべべ別に、とうまなんか……っ」

円周「嫌いなの?」

インデックス「ち、違うもん! とにかくっ!!」



ズビシッ! と指差す。






インデックス「負けないんだからね!」






そう告げて、自分と円周の間に垣根を挟むようにのそのそ移動する。
場所に落ち着くと、先程垣根から渡されたペットボトルの水を一気に飲み干した。
……因みに今空けたばかりの物である。

391: 2012/10/15(月) 02:15:24.20 ID:SWaLedcDO

円周は人差し指と親指を顎に添え、うーんと唸り―――一言。



円周「不器用で恋する女って面倒だねー」

浜面「お前も一応、カテゴリーは“恋する女”なんじゃねえの?」



反対側からレジャーシート独特の音。
どうやら浜面が座ったようだ。

彼は何やら気まずそうにコメカミを掻き、



浜面「……すまん。疑っちまって」

円周「うん、うん。分かっているよ。でも仕方ないから、これだけは分かってほしい」

浜面「何だ?」

円周「私は本当に当麻お兄ちゃんが好きなだけ。それが伝わってたら満足」



へへへ♪ と満面の笑みを浮かべる。
微かに頬を染める彼女は、まさしく恋する乙女の顔。

浜面は思う。



浜面(畜生……っ! 何で大将ばっかり、いや流石は大将と言うべきなのか? だとしても羨ましいぞォォォォッ!!)



密かに強く握り締めて、拳がプルプル震えていた。
円周には氏角の範囲なので見えない。

やはり浜面は浜面だった。

392: 2012/10/15(月) 02:16:45.35 ID:SWaLedcDO



垣根「おーおー、本格的なチームと当たっちまったなぁ」



葛藤に苛む中、まったく蚊帳の外である垣根の声を聞いて、浜面の思考が現実へ引き戻される。
本来、自分は何の為にここへやってきたかを思い出した彼。



浜面「ど、どうしたんだ?」

垣根「何一言で詰まってんだよ」



彼なりに気まずくなって、何とか取り繕うと垣根の言葉に便乗するが失敗の模様。
しかし指摘はそこだけで、明確には感付かれてはいないから及第点。

これといって特に訝る事のない垣根は、挙動不審な浜面を無視の方向で話を進める。



垣根「いやなに、敵のチームを見てみな」



競技種目は「棒倒し」。
校庭では既に双方の棒が用意され、グラウンドの整備も行き届いている。
選手である学生達も始まりの合図が鳴るまで待機中。
各々ストレッチをしたり能力の調整を行ったりと、準備運動を欠かさない。
その中でも上条と対戦相手のチーム、名の聞かない所だが、どうやらスポーツに特化した学校であるらしく、入念にストレッチが行われていた。

393: 2012/10/15(月) 02:19:26.82 ID:SWaLedcDO



垣根「こりゃますます勝敗の確率が偏ってくるぜ? リーダーがドコまで本気なのかは知らねぇけどよ」



状況は明らか不利なはずなのに不敵な笑みを崩さない垣根。
おそらく勝敗どうこうより、純粋にこの競技を楽しむようだ。



浜面(えぇー……大将の事だから怪我の面は大丈夫だとは思うけど、万が一ってあるよな……?)



逆に心配がるのは彼。
大覇星祭は秋の運動会という建前の能力バトル。
いくら上条の右手に『幻想頃し』があるからと言って、十を越える人間から放たれる能力を全部防げるかと聞かれれば、そうではない。
能力だって千差万別。相手がどういう能力で、レベルさえも判らないのだ。



インデックス「ね、ねえ! あれって、とうまのチームだよね?」



それぞれが別々の思いに浸ってるさなか、銀髪シスターが戸惑いの声を上げた。
彼女が指差す方向は上条のチーム。
何を当然な事を、と垣根は呆れ顔を浮かべる。

394: 2012/10/15(月) 02:21:11.28 ID:SWaLedcDO



垣根「むしろリーダーの所じゃなかったら、俺達は何しにココへ来てんだよ」

浜面「その通りなんだけど、垣根が珍しく正当な意見を言ったことに対して腑に落ちないのは俺だけか……?」

垣根「オイコラ浜面くぅん? それは一体どういう事なのか説明しやがれ」



迷惑な事に円周を挟んでコントを始める二人。
結局、騒ぎを起こすなと言われても拳骨で強制粛正する上条が居ない限り、無理な話なのだ。
何故なら垣根と浜面は、四人で構成される暗部メンバーの一員であるから。



インデックス「それもそうかも。……でも、とうまはなんであんなに怒ってるのかな?」



はあ? と二人は素っ頓狂な声を出しながら首を振って、上条のチームに目を向ける。
それは円周も同様。“あの”上条当麻が呆れるならともかく、怒りを表すなど到底思えない。
彼が怒るのは、よっぽどの事が起きた時だけだ。
それこそ御坂美琴を引っ張り出すしか方法は無いくらい。
かくして、インデックスの言葉に蟠りを感じた三人は首を揃えて上条のチームへ。








―――そこに、本物の猛者が居た。

395: 2012/10/15(月) 02:23:25.76 ID:SWaLedcDO



『は……?』



一同、鳩が豆鉄砲を食らったように驚愕を露わにする。
我が目を疑って、開いた口が塞がらない。

上条を筆頭にその一団はおぞましい威圧感を放ってる割に、野次や騒ぎの一つも起こさない。
むしろ無言のまま、上条を中心に腕を組んだ状態で横一列に並ぶ。
棒倒しというか、今から戦争でも起こすのではないかと、不安さえよぎる。
所々に立てた棒が戦国時代の軍旗や、武器の槍に見えてしまうのは何故だろう?
彼らは対戦校のチームにしか眼中に無いらしく、全国中継のテレビカメラだろうが観客席に居る親だろうが、関係がないようだ。



浜面「……垣根」

垣根「……なんだよ?」

浜面「上条と一緒に居るヤツらが俺らと同業者(暗部)の可能性は?」

垣根「これっぽっちもねぇよ。……けど、そう感じざるを得ないオーラは放ちまくってるがな」

396: 2012/10/15(月) 02:24:34.31 ID:SWaLedcDO



ひたすら伝わって来るのは、相手を押し潰そうとするプレッシャー。
こんな代物を単なる一般人が出せるとは思えない。
それこそ全員が只者ではなく暗部の連中だ、と言ってくれた方がまだ信憑性はある。



浜面「それによ」

垣根「今度はなんだ?」

浜面「大将さ……本気だよな?」



お互いの瞳に映る上条が普段と違うのは一目瞭然。
だけど“仕事”の時とも異なる。

身体中から溢れ出す闘気といい、そう、彼の目はやる気に満ちていた。
―――いや、殺る気に満ちていた。



垣根「……そう、なんじゃね?」

浜面「……流れ弾、こっちに来ねえよな?」

垣根「……」

浜面「……」

垣根「一応、未元物質張っとくか。気休めにしかならねぇと思うけど」

浜面「おう。頼む」



被害がこっちに来た場合の非常用に過ぎないが。
何しろ防げるかどうかも不明である。

397: 2012/10/15(月) 02:26:07.44 ID:SWaLedcDO

二人の間に挟まれた円周が、目を輝かせながらポツリと呟く。



円周「……かっこいい」

浜面「うっそぉ!?」

垣根「言うな。恋は盲目って言うだろ?」

インデックス「とうまーっ! 頑張れなんだよーっ!」





そんなこんなで、『棒倒し』の始まりだ。

412: 2012/11/16(金) 03:06:12.91 ID:IhK5QT8DO



始まりの合図を告げるアナウンスが入った。
その瞬間、上条の隣の女学生が一歩前に出る。



「特攻部隊、出撃ーッ!!」



校庭中に響き渡る叫び声。雄叫びに近い音は、味方にも当然届いた。
彼女の指揮を聞いて真っ先に敵陣目がけて走っていく影が三つ。
黒い髪、金髪、青い髪、それぞれ髪の色が違う者達。



円周「あ、当麻お兄ちゃん」



観客席に居た少女が三人の内の一人の名を当てる。
浜面や垣根も判っていたが、あえてもう何も言わない。
彼らは対戦相手の無事と、自分達に被害が被らないことを祈るばかり。

413: 2012/11/16(金) 03:07:13.18 ID:IhK5QT8DO

すると、あの女学生が更に指示を飛ばす。



「前衛はアイツらに続きなさい! さっき言った通り三班に分かれて行動するのよっ!! 残りの皆は私と一緒に後衛に!」



言葉を皮切りに、雄叫びながら一斉に襲いかかっていく。
どうやら三人を敵陣に投入したのは、相手の錯乱が狙いのようだ。
見る限り、ずば抜けて運動神経と体力馬鹿なのは三人。
その証拠として彼らは一撃も敵陣からの攻撃を受けていない。
三人とも華麗に遠距離攻撃をかわし、見事敵陣の下まで辿り着き、作戦通りに引っ掻き回す。

……果たして、これが証拠になるのかどうかはいささか不明だが。
しかし端から見れば、そう考えざるを得ないのである。



浜面(どう見ても戦争映画にしか見えないぞ……)



もはや体操服が鎧に見える錯覚を起こすほど。
自分達は何時、スクリーンの世界へ飛び込んだのだろうか?

414: 2012/11/16(金) 03:09:54.45 ID:IhK5QT8DO



インデックス「おぉおぉっ!! まるで本当に映画の撮影に来てるみたいなんだよ!」

円周「当麻お兄ちゃん、かっこいい……」



のんきに楽しく観戦タイムなのは二人だけ。
現実に受け取ってしまう自分はロマンや夢に欠けているのか?

浜面は救いを求めるように垣根へ、



浜面「なあ垣根さんよー、この後どうす―――」



最後まで言葉が紡がれなかったのは、誰かに遮られた訳では無い。
自ら止まったのだ。同じ反応を取っているであろう垣根が、至って真剣な顔で、





垣根「……ほーぅ。あの女、なかなかの指揮力、統率力を携えてやがる。ってことはこの考えられた動き事態、計画した可能性を秘めてんな?」





何やら不敵な笑みを浮かべながら、素敵な推察を始めていた。



浜面(な、な、何なんだよォォォォォォォッ!!!! 俺が変なのか!? 俺がオカシいのかあああ!!!? クッソ! マトモに現実として捉えてるのは誰もいやしねえのかよっ!)



ある意味、垣根は現実として捉えているのだが。
パニックに陥った彼には、そんな簡単な答えでさえ辿り着けない。

頭を両手で掻きむしり、今にも己の髪の毛を引きちぎろうとする浜面。
彼もまた、変な所で真面目な人間であるため損な役回りや、苦労人なのである。

415: 2012/11/16(金) 03:10:28.92 ID:IhK5QT8DO















そんなこんなで、第一種目『棒倒し』は終わりを迎えた。

416: 2012/11/16(金) 03:15:03.55 ID:IhK5QT8DO



結果を言うと、浜面や垣根の予想通り上条のチームが勝利を収めた。

真っ向勝負で適うはずが訳が無い。対戦校はスポーツに特化した所。
それでは負けるのが当然。ならば、真っ向から立ち向かわなければいい話。
端からそんなつもりが無かった上条は、吹寄制理が発案する電撃戦に乗った。
元々暗部の仕事面に於いて電撃戦が得意分野だった上条は彼女の作戦に手を加え、更なる強化へ。
珍しく本気で取り組んだ彼に吹寄は感心し、素直に提案を受け入れた。

途中、ヒートアップし過ぎた青髪ピアスが調子に乗って敵チームの女学生に手を出しかけたが、いち早く気付いた上条と土御門が鉄拳制裁。
一応お互いに本気で殴ったが、「お笑い専門のわたくしめ云々」と言いながら復活した時は、流石に驚いた。



上条「……で、インデックスが待ってるだろうから応援席に来てみた訳ですが……」



インデックスの奥に並ぶ垣根、円周、浜面へと視線を移す。



垣根「よっ、リーダー」

円周「当麻お兄ちゃん!」

浜面「お、おいっす、大将……」

417: 2012/11/16(金) 03:17:12.75 ID:IhK5QT8DO



色々と言いたい事はあるが、ここはグッと堪えて全て飲み込む。
確かに自分はボケとツッコミだと、後者の立ち位置に属する側の人間だろう。
しかし、一々片っ端から構ってやるというのも煩わしい。

申し訳なさそうに苦笑いをする浜面はまだ良い。
名を呼びながら腕に抱き付いてくる円周も別にどうって事はない。
だけど……、



上条「…………」

垣根「ハッハッハ、どうしたリーダー、言いたい事が手に取るように解っちまうぞー」



口元がへの字に歪む上条を見て、大層満足げに何度も頷く垣根。
まるでその反応を待ってましたと言わんばかりに。
そんな彼に上条は大きく溜息を一つ。



上条「……まあ、お守を頼んだのは俺だしさ。来るなとは言ってないから構わないんだけどれも」

浜面「ダメ……だったか?」

上条「浜面はいいんだ。ただそこの馬鹿がウザいだけ」

垣根「ヒドい!」

上条「それにこの子がどうしても来たいって言ってましてねー」



目の前で喚く馬鹿を華麗に無視し、未だ腕にしがみつく円周へ顔を向ける。
普段見せる事のない口元が綻びた笑顔は、とても幸せそうだ。

418: 2012/11/16(金) 03:19:09.48 ID:IhK5QT8DO



浜面「なんか問題でも?」

上条「お前の目にはドス黒いオーラを放つシスターが見えねーのか?」

インデックス「ガルルルルルルル……」



腕に抱き付いている円周をひたすら睨んで唸る、銀髪シスターことインデックス。
何かキッカケを与えてやれば、飛びかかって上条の頭蓋を噛み砕くのは目に見えていた。
当たらぬ蜂には刺されぬ、と言うようにスルーを続けてきたが、どうやら限界が来たらしい。



上条「こうなる事が安易に予測出来たから、上条さん的には接触を避けたかったのでございますよ……」

インデックス「つまり、とうまはそのふしだらな女と二人っきりでいたいと、言いたいんだね?」

上条「いや、あのですねインデックスさん? 誰もそんな無謀こと一言も仰ってないでせう? 不幸体質の上条さんが出来ると思いで? 目の前に地雷が仕掛けてあると判っていながらソコを通るような自殺行為なんだぞ?」

円周「ねーえ、二人っきりで居たいってホント?」

上条「オーイッ! お前はお前で人の話を聞いてなかったのか!?」

インデックス「じゃあとうまは私を放っておいても仕方ないって片づけるのに、この女と会うのは優先させるってどういうことなのかな!!!?」

上条「今の状況みたいな面倒くせぇ状態に陥りたく無いからに決まってますぅ!! けど、こうして鉢合わせしたからもう遅いですけどねえ!!」

419: 2012/11/16(金) 03:20:15.82 ID:IhK5QT8DO



その時、女子二人組が同じタイミングで全く違う言葉を発した。
上条にとって、もはや最悪の事態に陥っているので半ば自棄である。
そして上条の予測通り、現状は絶賛下降中。

結果、彼は掻きむしるように頭を抱えた。



上条「だあああッ!!!! 一気に喋るんじゃねーよ! 上条さんは聖徳太子じゃありませんのことよッ!?」



これを端から見れば、二人から思いを寄せられている羨ましい立場なのだろう。
しかし当事者である上条は至って好ましくない。
まず彼自身、思いを寄せられている事実に気付いてないため、どう転がろうが無関係だから。

見事に収拾つかなくなった現況を上条は嘆くばかり。
仲間である男二人は一切関わる気が無いのか、干渉する気配が微塵も感じ取れない。
どうもしばらくは、少女達のヒートアップが続きそうだった。

420: 2012/11/16(金) 03:21:21.39 ID:IhK5QT8DO

























「上条当麻! 貴様、応援席で何を騒いでいるの!」



















……と、上条の背後から怒号が聞こえるまでは。

421: 2012/11/16(金) 03:23:47.53 ID:IhK5QT8DO

振り返ればソコに少女が居た。
上条と同じく半袖短パンの格好に、更にその上に薄手のパーカーを羽織っている。
パーカーの腕の所には『大覇星祭運営委員・高等部』と書かれていた。
黒い髪は耳に引っかけるように分けられていて、おでこが大きく見える髪型。

彼女は吹寄制理。



吹寄「貴様、次の『大玉転がし』まで余裕があるからといって、こんな所でノンキにしてていいの? もっと時間を有効に使いなさい! 有効に!」



腕を組んでズンズンと勇ましく上条の下まで歩み進み、一言一言強調するように声を荒げる。



吹寄「……まったく。少しは見直したかと思えば、すぐいつも通りに戻っちゃうんだから。貴様には水分やミネラルだけでなく、カルシウムも必要なようね?」



ギ口リと睨む。
上条を相手に堂々とした態度で、引き下がる事も無く捲し立てていた。
詰め寄られる彼も思わず苦笑いを浮かべながら、一歩たじろいでしまうほど。

422: 2012/11/16(金) 03:25:16.36 ID:IhK5QT8DO

その有様に垣根と浜面は驚く。
今まで数々の人間を見てきたが、暗部の中でも有名なくらい恐れられている上条を相手に、臆する事無く迫る人間を見るのは初めてだからだ。
例えどんな手段を講じても、『上条当麻が指一本動かしさえすれば、すかさず警戒態勢に入らなければならない』という思考が当然。
ところが彼女はどうだ? 純粋に言葉で押しているではないか。

自分達でさえ敵対しようとは思わないのに、この女学生は恐れをなさない。



垣根(……『もう一つの顔』を知らねぇからこそ、なーんて考えだしたら遂に俺も末期だぜ)



自嘲気味に笑みを浮かべてしまうのは、『光』の世界に佇んでる己が、『闇』の世界に浸っている事実を再確認をするから。
どんなに今が穏やかで、平和ボケと言われるほど『光』の道を辿っていても、脇には必ず『闇』が存在する。
いつ、どんな時でも、引きずり落とされても変ではない。生かされているだけの現実。

423: 2012/11/16(金) 03:27:43.08 ID:IhK5QT8DO



垣根(まあだからといって、俺達の絆に支障は出ないけどな。少なくとも俺や第一位を回収しに来ない限り)



学園都市がツートップを誇る二人に、なぜ平穏な暮らしが出来るほど野放しにさせているのか。
答えは至って容易い。純粋に『今は必要無い』からである。
上層部が本気で一方通行や垣根を必要とする時、必ず反吐が出るぐらいの汚い手を使ってまで拘束にかかるはずだ。
それが無いという事は、まだ大丈夫。

彼が更に思考に耽ろうとしたその刹那、







―――喧騒に包まれていたこの場所が、一瞬で音一つも漏らさない静寂へと変わった。







垣根「……ッ!!」

上条「……ッ!!」



まっさきに周囲の空気の異質さに感付いたのが、この二人であった。

424: 2012/11/16(金) 03:30:23.58 ID:IhK5QT8DO
しかし吹寄、円周、インデックス、浜面すらも、何故か“奇妙なくらい”動かない。
彼らだけじゃない。次の種目場所へ移動しようとしていた父兄の方々までもが、同様に身動きせず固まっている。



上条「……」



違和感が始まってから数秒も経たず、上条が垣根へ目配せしてサインを送った。
実はこの時、確かに二人だけ空気の違和感を感じ取る事が出来たが、上条は垣根が無事であることを知らない。
なのにアイコンタクトを送った理由。―――それは確固たる自信。

冷静判断と状況分析がズバ抜けて高い上条にかかれば、この現象は如何なる能力か大凡の見当は既に付いている。
強化系なのか、現象系なのか、精神系なのか、特殊系なのか、それが科学によるものか魔術によるものかさえも。
周囲から己の現状、あらゆる情報を分析した上で、皆の様子が不自然な中、垣根帝督だけは無事であると思い定めたのだ。



垣根「……」



上条ほどではないにしろ、浜面や一方通行よりも凌駕する分析力を誇る垣根は、即座に我がチームのリーダーは安全と決断。
そして同じく、上条へアイコンタクト。二人のサインは互いに通じたらしく、意思疎通を開始。

425: 2012/11/16(金) 03:31:52.17 ID:IhK5QT8DO



上条「……」



指示役を務める彼の口が微かに動く。
微々たる一瞬の呼吸さえ、『仕事モード』ならサインに繋がる。
当然、垣根はそれを見逃さなかった。

二人の間で緊張が生まれる。
だけど彼らから焦りの色が出る様子は無い。
決して焦らず、急がず、慌てず、動揺や狼狽する前に冷静であれ。
驚くのも、動揺を表すのも、何もかも終わってから。



上条『……一』



唇を動かしただけ。声は発さない。



垣根『……二の』



追随して、彼も声には出さず唇だけで相槌を打つ。

―――そう、これは合図だ。






上条・垣根「三ッ!」






ミッション、スタート。

445: 2012/12/07(金) 02:01:11.00 ID:7MdmugiDO



リーダーである上条が「誰よりも先に注意を心掛けといた方が得策」と考えたのが、吹寄やインデックスでもない―――腕に抱き付いている円周だ。

単に一番近くに居るから、という理由で危険視してるのではない。
それなら、まだ力押し確定の浜面や一方通行、頭を使う垣根の方がマシなくらい。
円周ほど敵に回して厄介と思う奇才な人間は、そうは居ない。

およそ二ヶ月前に木原数多が『上条対策』として、わざわざ円周を送り込む希少な存在。
何よりケースバイケースで彼女のスタイルは応変していくが、フリースタイル時は上条と同じ戦法事態が煩わしいのだ。
無能力者にもかかわらず、未熟にしろ相当な技術を持って上条に立ち向かう姿は見上げもの。
だからこそ、なるべく一番最初に済ませておきたいところ。



円周「……」



―――が、現実はそう甘くない。

446: 2012/12/07(金) 02:03:12.34 ID:7MdmugiDO

バッと絡めた腕を放したと思えば、止まること無くバックステップで距離を取った。
うつむき加減で見据える瞳には光を宿していない。
理性を失った少女は無機質なまま戦闘態勢の構えに入る。



上条「一筋縄ではいかない、か……」



苦笑いを浮かべながら目前に居る吹寄の頭へ右手を置く。
すると、途端に幻想頃し特有の『能力を消す音』が響いた。
上条が心に確信を持つのも束の間、吹寄がプツンと意識が途切れるように失われる。
唯一幸いだったのが、青いシートの方へ膝から折れて倒れた事だろうか。

とりあえず一人完了。
幻想頃しが発動したという事は、おそらく敵の能力は推測通りのはず。

447: 2012/12/07(金) 02:06:24.04 ID:7MdmugiDO



垣根「リーダー」



背後から戦友の声。
上条は振り返らずに未だ微動だにしない円周から目を離さないまま、



上条「どうしたー。まっさかやられた、なんて言いませんよね?」

垣根「その逆だったり。こっちはもう終わっちまったぜ?」

上条「嘘っ!?」



思わず過敏に反応して見返る。
普段は全力でスルーする垣根の余計な言動だが、どうも割とマジメな一言の時はツッコミを入れてしまう。
それもこれも日常から染み付いてしまったツッコミ体質が災いしているに違いない。

しかしどうやら残念な事に本当のようで、インデックスは吹寄と同じく青いシートにうつぶせに。
浜面に至っては何故か両手両足を『何らかの物質』によって縛られていた。


……あまり深く追究しないでおこう。


何しろ浜面だ。多少手荒い処置だとしても氏にはしない。

448: 2012/12/07(金) 02:07:42.79 ID:7MdmugiDO



上条「うっわ、本当。垣根のくせして」

垣根「さっきから俺の扱いヒドくね? それよりリーダー」



くいっと顎を使って背後を指し示す。
対する上条は軽く溜息吐き、無造作に前腕を顔の横に持っていく。
無造作とは言え、さながら身を守る形程度に構えた。






上条「―――判ってるさ」






瞬間、幼い手とは裏腹に鈍器と化した裏拳が、完全に上条の頬を捉えていた。
しかし、残念ながら既に前腕を防御として固めた上条の一手先。

449: 2012/12/07(金) 02:13:11.92 ID:7MdmugiDO



上条(音も気配も出さずに近くまで入り込んできたか、しかも蹴りを放たず、敢えて拳を使った判断良し)



操られているにしろ、少女の実力をここまで発揮させるとは大したものだ。
以前と行った手合わせの時より、爆発力、加速力、一撃の重さは確実に一段階前進している。

しかも相手が上条だと見越してだろう。
蹴りではなく、拳を放ってきた。
一発で意識を刈り取るほどの決定打なら前者だ。
けれど対峙するのは上条当麻、いとも容易く捌かれるに決まっている。
だとすると蹴りを放てば必ず不利な状況に陥ってしまう。
とても上条に片足を掴まれた状態で、体勢を立て直すというのは酷な話。

故に無能力の彼女の場合、拳を使う判断は最良と言える。
……尤もこれが上条当麻の思考パターンならば、更に上回る戦術を編み出しただろうが。



上条(僅か二ヶ月でこの成長。いやー、我が愛弟子ながら立派過ぎて上条さんも鼻が高いですよー)

450: 2012/12/07(金) 02:16:06.47 ID:7MdmugiDO



戦いのさなか、こんな悠長に実感していられるのは、きっと垣根と上条ぐらい。
それに円周が繰り出すのは上条直伝の戦術。自分が教え込ませた戦い方であるならば、



上条(―――けど)



パシッと。乾いた音が響いた。

円周は更に裏拳の勢いを止めず、もう片方の拳を今度は真正面から突いたのだ。
上条に向けて裏拳を放って、まだ一秒も満たない。
おそらく一撃目はフェイント。本命は遠心力を加えた二撃目だろう。

だが虚しくも、上条の右手によって防がれてしまった。



上条「甘いな。甘々過ぎて困るってものだ」



右手の力を強める。
逃がさないと念を込めるように。
どんな対抗手段を取られまいが大丈夫なように。



上条「今のお前じゃ、先の行動が透けて見えるぜ?」






つまり、右手で掴まれた時点で勝敗は付いているのだ。






上条「今度勝負する時は、操られてるお前より、本物の木原円周で頼むぜっ!」

451: 2012/12/07(金) 02:18:39.41 ID:7MdmugiDO




―――――――――――――――




青いシートの上で安らかに眠っている四人。
浜面、インデックス、吹寄、円周と横一列に。
一名だけ未だに両手両足を拘束されたままだが、そこはご愛嬌。

どうやらこの四人が落ちた事で、周りに居た父兄の方達は理性を取り戻した様子。
元から狙いは身内の連中だったのか。少ない情報の中、そう結論付けるしかなかった。



垣根「……リーダー、実は話しておきたい事が―――」



言い終える前に上条が片手を前に突き出して制する。
黙ったのを見計らい、今度は指で自らの耳をトントンと指し示した。

盗聴器を警戒しろ、と示唆しているのだ。
意図を悟った垣根は不敵な笑みを浮かべ、

452: 2012/12/07(金) 02:23:51.22 ID:7MdmugiDO



垣根「ノープロブレム。そこんトコにもちゃんと手は打ってある。抜かりはねぇよ」

上条「よし、だったら大丈夫だな。それで話ってのは?」

垣根「一から十を言うのは面倒くせぇし、掻い摘むとさっき同じような事が起きかけた」



上条は僅かに眉を顰めた。



上条「……起きかけた?」

垣根「やられたのはコイツらじゃねぇよ。小癪な事に俺へ向けてきやがった」

上条「はー、なるほど。つまり敵は元々垣根狙いだったけど、失敗に終わった訳か」

垣根「ハッハッハ! 当ったり前だろ? この俺に常識範囲内を持ってくるヤツが悪い」



否定はしない。
仮にも学園都市第二位の肩書を背負う男。
捻りも無しに立ち向かえば返り討ちに遭うだけだ。



上条「……垣根に効かないと判って標的を変えた、か」

垣根「ムカつくな、人のツレに手ぇ出すその根性に腹が立つ」

上条「まあまあ。とりあえず敵の狙いが誰かなのかは特定してるし、動きやすいっちゃあ動きやすいから上条さん的には問題無いと思いますよ?」

453: 2012/12/07(金) 02:26:58.76 ID:7MdmugiDO



その言葉に垣根はハッとする。



垣根「ついに俺のモテ期到来か……!! ったく、俺のファンは熱狂的だな」

上条「はいはいそうでございますね」

垣根「チッ、今日もリーダーのツッコミは薄いったらありゃしない」

上条「一々構ってらんないのっ! これでも上条さんは忙しいんですのことよ!」



嘆きのような声を上げるが、垣根には響いていない。
人の苦労も知らない彼は依然とケラケラと笑うだけ。



上条「はぁ……、悪いけど今回ばっかりは手伝えそうにない。もし行き詰まったら、俺や一方通行でもいいから、電話で相談よろしく」

垣根「じゃあ早速質問。この件の主犯は見当ついてるか? どうも該当するようなヤツが居なくてよ」



結論は既に出ていたらしく、上条は答えようとするが、一瞬躊躇いを見せる。
頭を傾げて、相当迷ってるのか「うーん」と悩み始めた。

454: 2012/12/07(金) 02:29:08.82 ID:7MdmugiDO

その様子に垣根が思わず戸惑いながら、



垣根「そ、そんなに言いにくい敵なのか?」

上条「いや、別にそんな事はないのですよ? ただ百%確実って訳じゃないからさ」

垣根「ふぅーん……現段階の確率は?」

上条「九割」

垣根「ほぼ確実じゃん! 言えよもう! 無駄に心配しちまったじゃねぇか!!」



押された形だが、ようやく決心が付いたらしい。



上条「おそらく―――」




―――――――――――――――




インデックス「うみゅ……?」



まだ半覚醒状態だが、少女は眠りから朦朧ながらも起き上がる。
視界が霞んで見えないのだろう。目を擦って眠たそうに声を発した。

455: 2012/12/07(金) 02:30:33.84 ID:7MdmugiDO

自分はどうしていたのか? 思いだそうとするけど、途中までしか覚えていない。
まるで無理矢理記憶を途切れさせたような感覚だ。
『完全記憶能力』が備わっているにも拘わらず、“記憶が無い”というのは余程の事が無い限り難しい話ではあるが……。



垣根「起きたか?」

インデックス「……あ、ていとく」



声がした方へ振り返れば、そこに缶ジュースを片手に垣根帝督が居た。
隣に並ぶのは浜面。頭をブツケたのか、痛そうに後頭部をさすっている。



インデックス「私……寝ちゃってたんだ」

垣根「おうよ。疲れてたんじゃね? 急に寝始めたからビックリしたぜ」

インデックス「んー……? それで、しあげはどうしたの?」

浜面「……何でもねえよ」



とか言いつつも、ブツブツ一人ごちる。

456: 2012/12/07(金) 02:33:40.32 ID:7MdmugiDO

よく判らないけども、何かがあった事は間違いないらしい。
正直言って浜面は別にどうでもいいのだが……少女は辺りを見回す。



インデックス「とうまは?」

垣根「あぁ、上条ならあっちに―――」



指で示し、顔を向けたその瞬間。
さっきまで別の青いシートで休憩を取っていた上条だが、突然の疾風と共に『消えた』。









「おっしゃーっ!! ようやく見つけたわよ私の勝利条件!! ワッハッハッハッハッハッハーッ!!!!」









高々と響いた声のする方を見れば、常盤台中学の体操服を着た茶髪少女が、上条の襟首を掴んで走り去っている。
あまりに急な出来事で、上条自身も戸惑うばかり。それでも首が締まらないように襟を掴む辺り、本能は働いてるようだ。

……その姿は紛うことない学園都市第三位、御坂美琴であった。

457: 2012/12/07(金) 02:38:53.63 ID:7MdmugiDO



垣根「―――と思ったら、今まさにワガママお嬢様に連れ去られちまったよ。悪ぃな」

インデックス「むぅぅぅうううう! 短髪ーっ! もはや誘拐なんだよぉぉぉぉぉぉ!!!!」



どうやら眠気は一気に払拭されたみたいだ。
全力疾走で二人を追い掛けるほどに回復したらしい。



浜面「あぁ! お、おい!? 勝手にうろちょろすんなって!」

垣根「仕上ちゃん任せた!」

浜面「気色悪っ!? つか、任せたってなんだよ! 任せたって!」

垣根「うっせ。俺は仕事の依頼が来てて行けねぇから、テメェに頼んでんだよ」



厄介事を自分だけに押し付けるなと嘆く浜面も、『仕事』聞いた途端に目の色を変えた。
それを察した垣根は少し声のトーンを落として続ける。



垣根「……リーダー直々だ。俺が解決しろってよ」

浜面「一人でか?」

垣根「ああ。敵の正体は大凡見当付いてるけど、一筋縄じゃいかねぇなこりゃ」

浜面「しょうがねえな、判ったよ。……一応、誰なのか聞いていいか?」

垣根「……」



まぶたを閉じる。
先程、上条との会話を反芻。

458: 2012/12/07(金) 02:43:07.37 ID:7MdmugiDO







―――おそらく、







垣根「俺も情報でしか知らねぇから、実際に見たことは無い」






―――こんな芸当が出来る人間は俺が知る中でただ一人、







垣根「物理的戦闘力が無いのに、それでも圧倒的実力を持つ level5」







―――学園都市第五位、『心理掌握』っていう能力者。名前は、

459: 2012/12/07(金) 02:44:39.55 ID:7MdmugiDO







垣根「食蜂操祈。精神系最強の能力を持つ、常盤台中学の女さ」

460: 2012/12/07(金) 02:45:14.35 ID:7MdmugiDO
投下しゅーりょーです

461: 2012/12/07(金) 03:11:26.35 ID:fm0Mblnjo
乙!

480: 2012/12/31(月) 23:42:52.10 ID:8idxc3KDO



垣根「……とは言ったものの、動きようがねぇな」



人波を外れて公園へ。騒然とした状態から、些か静かな場所に。
今までの経緯を考えて、二回とも人込みの中で行われている。
一回目は目的の人物であろう自分へ。二回目は身内の人間に対象を向けた。
未だ諦めていないのならば、次も必ず仕掛けて来るはず。

それを逆手に取り、一回目や二回目の時の条件が無い場合は如何なる手段を講じるか?

わざわざ自分を不利な状況に持って行く彼の行動理念。
これは作戦を練り立てた訳でも、効率を計算した訳でもない。


ただ単に“遊び心”。

481: 2012/12/31(月) 23:45:05.45 ID:8idxc3KDO
好奇心に駆られた、怖いもの知らずの典型。
結局、彼にとっては一時の戯れでしかないのだ。
「一筋縄じゃいかない」と垣根は言った。
嘘ではない。この発言に関して嘘偽り無き事実。
しかし、“その程度”でしかない。

常盤台だろうが。
精神系最強だろうが。
学園都市第五位だろうが。

垣根帝督を前にして、どれもこれもが児戯に等しい。



垣根(あっちの狙いが俺なら、ターゲットが一人になった時、何かしらのアクションが起こってもオカシくはねぇんだが……)



広場に出た所で、辺りに注意を払う。
特に違和感は感じられず、至って普通だ。
それは、今まで散々学園都市の裏側の道を辿り、感性も体も完全に染み付いた『プロ』の目から見ても。



垣根「まさかとは思うが、『素人』相手って訳じゃねぇだろうな?」



薄く笑う。冗談であるから口にする。
思ってもいない事を言ってしまうのが人間という生物。
発する事で気を紛らわせたり、何からの反応を待ってたりするものだ。
彼の場合だと、後者なのは明らかだ。

482: 2012/12/31(月) 23:47:05.39 ID:8idxc3KDO



垣根「反応は無し、か……。オイオイ、こりゃ案外と期待はずれも免れない気がするぞ」

「何がですか?」

垣根「俺が全力を出す間もなく、つまんねぇ結果に終わりそうだっつってんだよ」

「なるほど。流石、三枚目エセホストは伊達じゃないんですね」

垣根「誰がエセホストじゃコラ……って」



あまりにもナチュラルに会話に参加していたので、気が付くのに時間が掛かってしまった。

自分は誰と喋ってるんだ? と。

垣根もつい普段のノリでツッコミを入れながら振り返り、初めて認識する。






00001号「どうも、お久しぶりですね。とミサカはほくそ笑みます」






第三位の軍事クローン体、『妹達』の一人がそこに居た。

483: 2012/12/31(月) 23:48:26.18 ID:8idxc3KDO



垣根「テメェ……第一位んとこのガキか」



彼は嫌そうに眉を顰める。

決して友好的では無い態度に彼女は不満を露わに。



00001号「あらあら。出会い頭早々、ぞんざいな扱いですね。と肩を竦めます」



でも、彼女の悪戯を覚えたような笑みは今も健在らしい。
一方通行と共に過ごす事で引き出された個性は、現在進行形で伸び続けているようだ。

……一方通行や垣根帝督にとったら、自分へ被害がこうむるから迷惑極まりない話だが。
だからといって、『妹達』の成長は喜ばしい事なので嬉しくないはずが無いだろう。

素直に喜べないところがネック。



00001号「それにしても、『ガキ』と呼ばれるのは些か抵抗がありますね」

垣根「……ほぅ? じゃあずっとガキと呼んでや―――」

00001号「と言われるのは目に見えてたので、端から期待していないのでご安心を」

垣根「……そうかよ」



磨きがかかっている気がするのは思い過ごしだろうか?

484: 2012/12/31(月) 23:49:08.71 ID:8idxc3KDO



00001号「ただまぁ、上位個体と被っているので面倒くさくはあります」

垣根「へーへー、判ったから用があんなら済ませてくれ。無いならとっとと失せろ。
   大体、何でテメェがこんな所を彷徨いてんだよ。入院中じゃなかったのか?」

00001号「いえ、他意はありません。運動を兼ねての散歩と言った感じです。とミサカは素直に目的を吐露します」

垣根「第一位は付いて来させなかったのかよ? 周りを見る限りいねぇようだが」

00001号「もちろん誘いましたよ? 優しいミサカは上位個体も誘ってやりました。ですがあの人は、面倒だの怠いだのと駄々をこねましてね」



やれやれ、と溜息を吐いた。
色々とツッコミ所が満載だが、まるで子を持つ母親のような発言である。

しかし、その有様は誰から見ても拗ねていた。



00001号「するとどうでしょう? 挙げ句の果てに上位個体すら行かないと。結局、一人で散歩な訳ですよ。とミサカは呆れます」

垣根「だったら中止にすれば良い話じゃん。わざわざ無理してまで来る必要あんのかよ?」

00001号「……外出許可が今日しか下りなかったんです。それくらい察して下さい」



もう完全にいじけていた。

485: 2012/12/31(月) 23:51:57.14 ID:8idxc3KDO



00001号「まぁ、今となっては別にいいんですけどね。オモチャも手に入れましたし」

垣根「……オイ?」

00001号「今更だと思いますが、立ち話もなんですし、あちらのベンチでのんびりとどうですか?」



返事も聞かず、彼女はスタスタとベンチに歩いていく。
垣根は小さく溜息を吐き、肩を落とす。



垣根「忙しいっていうのに、俺の話をまったく聞いてねぇなアイツ……」



だから苦手なんだ、と言わんばかりに愚痴をこぼす垣根。
でも、何だかんだで話に付き合ってあげるのだから、言動が不一致している。

優しさ。彼が覚えた情の一つ。
以前ならば優しさや甘さなど撥ね除け、鼻で笑う側の人間だった。
執念だけで自分は動かされていたはず。



垣根(のんびり、ね……。昔の俺からすれば一蹴されちまう言葉かもな)

486: 2012/12/31(月) 23:53:50.19 ID:8idxc3KDO



足を運ばせながら、彼は思いふける。
今でも時々、振り返ってしまう自分が居る。

あの頃の“俺”と、現在の“俺”。

後悔をするつもりは無い。
今の自分になれた事を。
上条当麻という人間に出会った事を。

そして何より―――執念だけは決して消えない。



垣根(……はっ、人のこと言えねぇな。アイツと劣らず勝らず、といった所かよ)



一人で勝手に思いふける癖。
どこかの誰かさんと同類である。

腑に落ちない。
けど、判っていた事実。

『アイツ』と自分自身は常に背中を合わせている。
二人の隙間に間隔も、鏡すら要らない。

だからこそ自分には誰にも譲れないプライドがある。
『アイツ』に対してだけの劣等感がある。



00001号「何やら険しい顔をしていますね。イケメンが台無しですよ。まあ、爽やかでも胡散臭いだけですが」



ベンチに座るやいなや、見透かしたような事を言ってきた。
後半の発言に関しては無視。乗ったら踊らされるのが目に見えてるからだ。

487: 2012/12/31(月) 23:55:22.23 ID:8idxc3KDO

上条によく「お前は顔に出る」と言われたが、こんな少女に悟られるほどなのだろうか?
何事も楽しむことから入るようになってから、顔に出やすくなったのかもしれない。



垣根「別に何でもねーよ。テメェには関係のない事だ」

00001号「……ふふっ。あの人と同じことを言うのですね」



ぎこちない笑顔を向けた。
対照的に垣根帝督は驚愕を露わにする。
反面、驚愕の中で妙に納得もする。

彼女が言う「あの人」なんて、一人しか居ない。
先ほどまで思考で浮かべていた人物。
そいつと同じ? フザケるな。反吐が出る。

けど、実際アイツは俺と同じ事を言って、きっと俺と同じ事を思っているに違いない。

488: 2012/12/31(月) 23:57:47.79 ID:8idxc3KDO



00001号「言い回しこそ違うものの、あの人と同じ顔すらしていますよ?」



クスクス、と彼女は笑う。
垣根は何か言おうにも言葉が見つからず、黙ったまま目を逸らすだけ。

意に介していないのか、00001号はポツリと話し出す。



00001号「隠し事や悩み事、というのは話しにくいものです。今まで表側で過ごしていたのに、自分の裏側を人に晒すことと同義なのですから」



虚ろな瞳が、優しく見えて。
話す一言一言が、穏やかに包まれて。



00001号「積み重なった様々な感情が胸の奥底に隠されていて、意志に反するソレは日を増す度に膨らんでいくんです」



思わず……動けなくて。



00001号「ソレを話すのは、やはり些か憚ってしまうほど“大きな物”なんだとミサカは思います。
    ……ミサカも、前までそうでしたから。とミサカはあの時を振り返ります」



……目を離せなくて。



00001号「……元々『感情』のプログラムをインストールされてないミサカがこんなことを説くのも、変な話ですけどね」



自嘲気味に笑い、肩を竦ませた。

489: 2013/01/01(火) 00:01:58.17 ID:ZEVOJtvDO
けれど、全てを包み込むような優しさは消えない。……が、



00001号「どうですか? ミサカの印象変わりました? とミサカはニヤニヤしながら問い掛けます」

垣根「ああ。それさえなけりゃな」



彼は小さく溜息を吐き、再び肩を落とす。
やっぱりこの小娘は扱いづらい。
短時間でこんだけ疲れるのに、アイツはよくずっと居られると思う。そこだけは心底尊敬してやる。



垣根「……一つ、聞いてもいいか?」



視線は下を向いたまま、躊躇いながらも問う。

目を合わせてはくれないが、彼女は垣根の瞳を見つめる。
すぐに優しい笑みを浮かべて、



00001号「ミサカが答えれる範囲でしたら」



沈黙が訪れる。
彼の決心がつく、ほんの僅かな時間。

たった数秒間だけの静かな時間は、何時間も囚われた感覚に襲われる。

490: 2013/01/01(火) 00:05:41.22 ID:ZEVOJtvDO










垣根「―――この街は、好きか?」










虚を衝かれたように驚くが、それも一瞬。









00001号「はい。好きですよ」









迷いも見せず、彼女は答える。

491: 2013/01/01(火) 00:09:42.33 ID:ZEVOJtvDO



00001号「この街には、色々経験を得ることが出来ました。初めての体験を沢山してきました。
    実験当初、窓も無い施設内生活だったミサカにとって、『外の世界』は声にならなかったのを今でも鮮明に覚えています」



周りが鉄の壁で覆われた世界しか、「妹達」は見た事が無い。
どんなモノか知識はあるが、実際に見て、地肌で感じた事が無い。

だからこそ、初めて外へ連れてってもらった時は衝撃を受けた。



00001号「街の香りが鼻を刺激して胸を満たし、一様でない風が髪をなぶって身体を吹き抜けていって、日差しが肌に降り注ぎ……頬が熱を持つのが感じられました」



風にも音があり、水にも肌触りがある。
しかもそれらは場所によって、微かに違ってくるのだ。

普段、当たり前に感じてるが故に気付けない。






00001号「世界とは……こんなにも眩しいものだと、実感したのを覚えています」

492: 2013/01/01(火) 00:12:49.48 ID:ZEVOJtvDO



如何に自分が醜くて、歪な存在かをチェックされているみたいだ。
穢れ、澱み、濁りきったか。もはや元に戻る事も不可能な色に染まってしまった自分。

例え学園都市が産み出した造り物だとしても、目の前の彼女がどれだけ人間らしいか。
そして学園都市の闇に浸って戻れなくなった、こんな自分がどんなに……っ。



00001号「それにこの街には、あの人が居ます。ミサカの為に行動を起こし、身を挺して護ってくれた人達が居ます。
    確かに学園都市にも汚い面もあります。ですが、ミサカにとって大切な人達が居る街を嫌いになれるはずがありません。とミサカは断言します」



確固たる信用。
垣根も居ない訳では無い。

なのに何故、彼女はとてもまばゆい存在に見える?
疑う事を知らないから、そう目が錯覚をしてるだけなのか。
それとも……ただ自分が愚かなだけなのか。



00001号「ふふっ。どうやらあなたはあの人とは違ったタイプの人のようですが、本質的に似ているのですね。とミサカは確信めいたことを明言します」

垣根「……チッ、やっぱテメェはイラつくガキだぜ。何もかも見透かしたような物言いをしやがる。
   ああそうさ。歩む道は異なっちゃいるが、俺と“第一位”は同じだ。忌々しい事にな」



心の底から思う。
よりにもよって第一位か、と。

493: 2013/01/01(火) 00:14:15.23 ID:ZEVOJtvDO

しかしドコか否定できない部分があった。
運命と言えば簡単に済む。
……蟠りが残るのは気のせいではない。

結局、一方通行も垣根帝督も変わらないのだ。
それは双方ともども感付いている。
過去の出来事を後悔する事も、忘れたりする事も絶対に無い。
復讐に囚われる第一位と、執念に囚われる第二位。




―――どんな理由や言葉を並べても、自分を守りたいだけのクソッタレだ。




垣根「語るつもりはねぇぞ?」

00001号「えぇ。構いません。聞くつもりも無いので。そもそもミサカはあの人で手一杯ですから」



00001号は言う。垣根の癇に障る事を。

494: 2013/01/01(火) 00:17:20.56 ID:ZEVOJtvDO



垣根「……」



彼はスッと立ち上がり、歩き出す。



00001号「行くのですか? とミサカは尋ねます」



背を向ける垣根に。
今度は引き止めない。

座ったまま、試すように聞くだけ。



垣根「あぁ。俺は俺なりに考えて行動をする。目的を果たす為なら俺の固執すら棄ててやる」



それは、彼自身のプライドの犠牲を躊躇わない宣言。
決して譲りはしなかった垣根の誇り。






垣根「―――だからテメェなんざに棄てる物は、これっぽっちねぇんだよ」






今、ここで犠牲にするつもりはないと。
タイミングは弁えているから、口を出すなと。

495: 2013/01/01(火) 00:19:10.00 ID:ZEVOJtvDO



00001号「……本当に、不器用ですね。あなたも」



乱暴な言葉で伝えてきた彼に対し、思わずクスッと一笑。
とことんそっくりなのだ。考えも言動も。


違うのは能力、容姿、それと“割り切れるか”。


頭の回転が随分と早いため、より迅速な適宜の方法を見出す事が可能。
手段の一つとして、「身を削ってでも手に入れたい物は必ず掴んでみせる」という精神力を持ち合わせている。
要するに一方通行が心のドコかで割り切れない窮地に陥っても、垣根帝督は割り切って勝利を掴む。

背中合わせ。お互いが同じ方向を向く事は無い。
昔も今も。変わらない。これからも。

496: 2013/01/01(火) 00:20:58.44 ID:ZEVOJtvDO



垣根「……ん、電話か」



着信メロディで判別はついた。
そもそもメールだとサイレントモードにしてあるので、鳴るはず無い。
液晶画面を見た途端、垣根は眉間にシワを寄せた。



―――着信、一方通行。



偶然にしても悪戯の度合いが過ぎる。
まさか意中の相手から電話が掛かってくるなんて、誰が予想したか。

ピッと通話ボタンを押すと、



垣根「ただいま学園都市第二位垣根帝督はご都合により電話を出る事が出来ません。さっさと通話を切りやがれクソモヤシ」

一方『どォせやるンなら最後まで頑張れよ。途中から絶対面倒くさくなっただろ?』

垣根「電話の相手がテメェだと考えたら腹が立ってきてよ、勘弁勘弁」

一方『……そっちによォ』



どうやら強行突破に入るようだ。
呆れている様子が目に見えた。

497: 2013/01/01(火) 00:22:49.57 ID:ZEVOJtvDO



一方『ガキがお世話になってンだろ?』

垣根「あぁ、過保護でご苦労様って言えばいいのか?」

一方『ブチ頃すぞバカキネ』



その時、電話越しに幼い少女の甲高い声が響く。
悩まなくても容易に誰か判る。一緒に居た打ち止めだろう。

しばらくドタバタした後、



『はーいっ! お電話代わりましたーっ! ってミサカはミサカは元気にご挨拶!』

垣根「よぉ、打ち止め。久しぶりじゃねぇか」



八月三一日。
あの事件以来、会っていない。
何しろ第一位が入院中で付きっきりだから会いようもないのだが。



垣根「第一位も言ってたけど、何かあったのかよ?」

打ち止め『うーん、ちょっとね。そっちに00001号居たでしょ? ってミサカはミサカは再確認してみたり』

垣根「ミサカネットークっつったっけ? それで把握済みなんだろ? だったら俺に聞かなくても……」



足を止めて、ベンチへ振り返ろうと踵を返す。
……が、言葉が続かなくなった。

目前の現実を突き付けられた衝撃に、彼の思考は止まった。
だが虚しくも、電話の声は続く。

498: 2013/01/01(火) 00:23:30.97 ID:ZEVOJtvDO


























打ち止め『今さっき、00001号からミサカネットークの遮断を感じたんだけど知らない? ってミサカはミサカは聞いてみたり』

499: 2013/01/01(火) 00:25:38.81 ID:ZEVOJtvDO



ベンチに彼女は……居なかった。
あったのは転がったゴーグルだけ。






―――そう、『妹達』が常に頭に掛けていた物。






打ち止め『あれ? どうしたの? ってミサカは―――』



ブツッと通話を切ると、駆け寄ってゴーグルを拾う。

垣根は不敵な笑みを浮かべるが、ゴーグルを持つ手は震えていた。



垣根「……チッ、そういやぁそうだったなクソッタレ」



瞳に宿るのは確かな怒り。



垣根「テメェらはそういう手口を軽々しく使うんだよな……!!」



彼女のぎごちない微笑みを反芻する。









垣根「食蜂操祈……ムカついたぜこの野郎」

500: 2013/01/01(火) 00:26:32.72 ID:ZEVOJtvDO


投下しゅーりょーです

501: 2013/01/01(火) 00:35:33.23 ID:E1LcRXTa0
乙です。
そして、明けましておめでとうございます。

続きが気になるううぅぅっ!!

502: 2013/01/01(火) 00:46:00.73 ID:zdkES4c00
乙ですん

続き:【上条浜面】とある四人の暗部組織【一方垣根】2【後編】

引用: 【上条浜面】とある四人の暗部組織【一方垣根】2