33: ◆tujQOJCAXk 2012/03/17(土) 21:59:47 ID:lrYeDKJg0


タイトル:唯「ひみつ」

       憂梓+α

34: 2012/03/17(土) 22:01:04 ID:lrYeDKJg0
  春の午後、まどろみの中に聞こえてきたのは、
  いつもよりちょっとだけ低いあずにゃんの声でした。


梓「食べてすぐ寝ちゃうとか、ほんと子供みたい」

憂「今日は暖かいし、おなかいっぱいで眠くなったんだね」

梓「……その発言、もうお母さんだよ憂」

憂「えー、そうかなあ?」

梓「少なくとも、大学生になるお姉ちゃんに言うことじゃないと思う」

憂「でもお姉ちゃんの寝顔、可愛いよね」

もう、とあずにゃんが溜息を吐いて、憂がくすくすと笑うのが聞こえます。
私は目を閉じたまま、実は起きていることを二人に悟られないように
できるだけゆっくりと深呼吸しました。
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35: 2012/03/17(土) 22:02:04 ID:lrYeDKJg0
梓「ご飯、ありがとね。凄く美味しかった」

憂「梓ちゃんも、片付け手伝ってくれてありがと」

梓「ん。クッキーも美味しかったよ」

憂「あれはお姉ちゃんからだから、お姉ちゃんに言ってあげて?」

梓「でも、作ったのは半分以上憂でしょ?」

憂「あ、でも、いちごジャムのクッキーにしようって言ったのはお姉ちゃんだから」

梓「……ねえ、それってフォロー?」

憂「……の、つもり」

ふふ、と二人が揃って笑います。

受験まっただ中のバレンタインデー、あずにゃんに貰ったチョコケーキ。
そのお返しにといちごジャムのクッキーを焼いて、
折角なのでお昼ご飯も一緒に食べようってことになって、
今日はあずにゃんを我が家に招待したのでした。

お昼ご飯を用意したのは憂だし、
クッキーも、半分……と、もうちょこーっと、憂に手伝って貰ったこと、
あずにゃんにはバレバレだったみたいだけど。

36: 2012/03/17(土) 22:03:17 ID:lrYeDKJg0
梓「まあ……唯先輩がお返ししてくれたのは嬉しかったかな」

憂「バレンタインの時、梓ちゃん一生懸命だったもんね」

梓「……あ」

憂「うん?」

梓「そういえば、私も憂に手伝って貰ったんだった」

憂「そうだね」

梓「あぁ……。唯先輩のこと言えないじゃん……」

憂「ふふ」

梓「もう、憂、笑わないでよ」

憂「あはっ、ごめんね」

梓「もうっ」

憂と話している時のあずにゃんはいつもよりちょっと肩の力が抜けた様子で、
あずにゃんにとって私たちはやっぱり先輩なんだなあ、なんて実感します。

それと、あずにゃんが憂の名前を呼ぶときの声。

あずにゃんが、うい、と発音するたび、
どうしてだか、食べたばかりのいちごジャムクッキーの甘さが口の中で蘇ります。

37: 2012/03/17(土) 22:04:31 ID:lrYeDKJg0
梓「……あれ? 唯先輩、起きてる?」

憂「え?」

しまった。
うっかり頬が緩んでいることに気付きませんでした。

梓「……」

憂「……」

唯「……」

目をつぶっていても、なんとなーく二人の視線を感じます。
このままでは、起きていることがばれてしまいそうです。

唯「う、うぅーん……、うぃ、おかわりぃ……」

できるだけ不自然にならないようにごろりと寝返りを打って、
ふたりに背中を向けました。

梓「……」

憂「……」

唯「ぐー……」

梓「……寝てる、のかな?」

憂「……みたいだね」

梓「あれだけ食べて、夢の中でもまだ食べてるんだ、唯先輩」

憂「ふふっ。お姉ちゃん可愛い」

梓「……。憂の可愛いの基準が未だによく分からないよ……」

憂「えー? そうかなあ」

ほっ、よかった。ばれなかったみたい。
私の演技力もなかなかのものです。

38: 2012/03/17(土) 22:06:05 ID:lrYeDKJg0
梓「……ねえ、憂」

憂「うん? なに?」

梓「私たちのこと、さ。唯先輩に話す決心ついたんだよね?」

憂「……」

梓「だから今日、私を招待してくれたんだよね?」

憂「……うん」

私たちのこと? あずにゃんと、憂のこと?
なんだろう。新しい軽音部のこととかかな。

梓「どうする? 起こす?」

憂「うーん……。お姉ちゃんが起きるまで待とっか」

梓「うん、そうだね」

……え、えーっと。
これは、起きたほうがいいんでしょうか。
でも、今起きるとタイミングが良過ぎて怪しまれてしまいそうです。

二人が私に話したいことって、なんだろう。すごく気になる。でも。

39: 2012/03/17(土) 22:07:37 ID:lrYeDKJg0
憂「あっ、でも」

梓「うん?」

憂「今日、和ちゃんも来るんだった」

梓「和先輩も?」

憂「うん。毎年バレンタインデーとホワイトデーは和ちゃんにもあげてるの」

梓「そうなんだ」

憂「和ちゃんがいたら、梓ちゃん話しづらい?」

梓「……。和先輩は、そういうの、理解ありそうな人?」

憂「どうかなあ……。わからないけど、そうじゃなくてもあからさまに嫌な顔はしないと思うよ」

梓「そっか……」

そういうのって、どういうの? 和ちゃんには話しづらいこと??

二人が何の話をしているのかさっぱりわかりません。
わかることと言えば、思いのほか深刻な話っぽいということくらいです。

40: 2012/03/17(土) 22:08:59 ID:lrYeDKJg0
憂「それにね」

梓「ん?」

憂「いつかは、純ちゃんにもちゃんと話そうって思ってるよね? 私たちのこと」

梓「……うん、純にはちゃんと話しておきたい」

憂「私ね、純ちゃんに話そうと思うのと同じくらい、和ちゃんにも話しておきたいんだ」

梓「……」

憂「大好きな人には、大切な人のこと、ちゃんと言いたいもん」

梓「……」

憂「駄目、かな?」

梓「……駄目じゃないよ、駄目なんかじゃない。そうだよね、私もちゃんと言いたい、憂のこと」

憂「梓ちゃん……」

梓「和先輩なら大丈夫だよね。憂が大好きな人だもん。うん、きっと大丈夫」

憂「うん……。ありがと、梓ちゃん」

41: 2012/03/17(土) 22:10:17 ID:lrYeDKJg0


  うい、と呼ぶ、あずにゃんの甘い声。

  二人のこと。

  大切な人のこと。


どうしよう、二人が何を話そうとしているのかわかってしまいました。
恐らく、間違いないでしょう。

和ちゃんが来る時間まで、あとどのくらいでしょうか。
背中を向けていても、目を開けたら起きているのがばれてしまいそうで身動きが取れません。

二人が声をひそめて言葉を交わし、くすくすと小さな笑い声が背中越しに聞こえます。

憂があずにゃんの名前を呼ぶたびに、あずにゃんが、うい、と発音するたびに、
口の中いっぱいにいちごジャムクッキーの味が広がります。

42: 2012/03/17(土) 22:12:05 ID:lrYeDKJg0
和ちゃんお願い、早く来て。
私ひとりじゃ太刀打ちできないよ。


二人が私たちに打ち明けるよりも先に、私たち二人のこと、憂とあずにゃんに話さなきゃ。

だって私、私たち、お姉ちゃんで、先輩なんだからっ!





おしまい

43: 2012/03/17(土) 22:12:50 ID:lrYeDKJg0
終わりました
次の方どうぞー

引用: 唯「バレンタインのお返しだよ!」