1: 2012/05/05(土) 00:02:56 ID:BWlSYryo0
和(無事2年生に進級できた私だけど唯とクラスが離れちゃったわ)

和(幸い澪が同じクラスだからお昼の相手に困ることはないけど)

和(ひとりで寂しいランチタイムを過ごすはめにならなくてよかったわ)

和「澪、お昼食b

「キャー!!!生秋山さん!!秋山さんよ!!」

「すごーい!!!動いてるぅー!!!」

澪「ク、クラスメイトに向かって生はないんじゃないか……?」

「キャー!!!呆れ顔の澪たんも素敵ぃー!!!」

澪「澪たん!?」

「あ、秋山さん!!い、一緒にお弁当食べませんか!?」

澪「えっ?い、いや私お昼は和と

「いいんですか!!!嬉しい!!!今日は赤飯にします!!!」

「みんな!今日は澪たんとのお昼ごはん記念日よぉー!!!」

澪「よくないよ!?あ、ちょっ、引っ張らないで!ど、どこに連れてわあああああぁぁ………」

 キャーキャー    ワーワー

        ギャー
    


和「あばばばばばばばば」
けいおん!Shuffle 3巻 (まんがタイムKRコミックス)
2: 2012/05/05(土) 00:04:05 ID:BWlSYryo0

ルールールルルルルールー

和(いいのよいいのよ、澪は人気者だもんね)

和(これはきっとおしゃべりなんかしてないでお弁当の味をしっかり噛み締めなさいという神様のお告げだわ)

和(……)

和(そうだ屋上で食べよう)

和(本当は立入禁止だけど生徒会だから言えば鍵も貸してくれるわよね)

和(生徒会に入っててよかった)

トタトタトタ

3: 2012/05/05(土) 00:04:36 ID:BWlSYryo0







「澪たん見て!!ほら屋上の景色が凄く綺麗!!」

澪「いやここ3階建てだしそれほどでも……」

「先生に頼み込んだら屋上で食べていいって言ってもらえて本当に良かったー」

「こんな大人数で食べられるところなかなかないもんね」

「山中先生ありがとう!!!愛してる!!澪たんの次に!!!」

澪「あ、あはははは……」モグモグ




和「あばばばばばばばば」

4: 2012/05/05(土) 00:05:53 ID:BWlSYryo0

和(……これはまずいわね)

和(一度教室を出てる以上もう一度戻ってひとりでお弁当を食べるわけにもいかないし……)

和(……)

和(背に腹は代えられないわ……こうなれば唯のところに混ぜてもらおう)

和(唯なら友達がいないだのなんだの変に勘ぐったりもしないでしょ)

和(ふぅ……最初からこうしとけばよかったわ)

トタトタトタ

5: 2012/05/05(土) 00:07:50 ID:BWlSYryo0


和(唯の教室は2組だったはずよね……)



唯「ごちそうさまー!」



和「あ…ばば……ばばばば……」

6: 2012/05/05(土) 02:26:44 ID:OrHrTl.w0

 唯が昼食を食べ終わった以上、もうこの教室に用は無い。
幸い、和には昼食を摂る場所としての心当たりが浮かんでいる。
生徒会室ならば、誰も居ないだろう。
居たとして、友人とは言えないまでも、知人の範疇だ。

 そう判断して踵を返しかけた和の耳に、知った声が届いた。
唯と席を寄せて昼食を摂っている、紬の声だった。

「あら?あの人、和ちゃんじゃない?」

「本当だ。和ちゃーん」

 必然的に、唯にも見つかってしまった。

「どうしたのー?誰か探してる?」

 駆け寄ってきた唯に、和は弁当箱を上げて見せた。

「唯と一緒にご飯食べようかと思って。
でも、もう食べ終わったんでしょ?お暇するわ」

「えーっ?そうだったの?ごめんね」

 和の読み通り、唯は勘ぐる事も穿つ事もしなかった。

7: 2012/05/05(土) 02:27:53 ID:OrHrTl.w0

「確か、澪ちゃんと同じクラスのはずよね?
澪ちゃん達と一緒に食べれば良かったのに」

 安堵しかけた和だったが、紬の言葉に計算の甘さを思い知らされた。
唯をやり過ごせても、周囲の人間が居る。
唯との昼食を考えるあまり、その事を見落としていた。

「澪はファンクラブに拉致されたわ。
あの調子じゃ、明日以降も昼は拉致されるでしょうね」

 溜息交じりに言った。

「ファンクラブに拉致?あー……。じゃあ、りっちゃん、涙目で戻ってくるのかなぁ。
それとも、一緒に付いてったのかなぁ」

「律?」

 唯にその名を出されて、和は初めて気付いた。
唯達と一緒に昼食を摂るであろう、律の姿がないのだ。

「ええ。澪ちゃんと一緒にご飯食べるんだって、教室出て行ったんだけど。
てっきり私、澪ちゃんの教室で一緒に食べてると思ってたわ」

 和の疑問を引き取る形で、紬が答えた。

8: 2012/05/05(土) 02:29:05 ID:OrHrTl.w0

「いえ、律の姿は見てないわ。教室に来てもいないし」

 屋上にも居なかった、と和は胸中で付け加えた。

「まぁ、そのうち戻ってくるよ。
ねぇ、和ちゃん。今日のご飯は、この教室で食べていきなよ。
私が早く食べ終わったせいで、ムギちゃんがまだなんだ」

「唯ちゃんが悪い訳じゃなく、私が遅いのがいけないんだけど……。
付き合ってくれる?」

 二人の誘いは、和にとっても僥倖だった。

「構わないわ」

 和は笑顔で応じて、唯達の輪に加わった。
結局、律は和が教室を後にするまで、姿を見せないままだった。

9: 2012/05/05(土) 02:30:10 ID:OrHrTl.w0

*

 放課後、部活へ向かおうとする澪を廊下で捕まえて、和は話し掛けた。

「ねぇ、澪。そういえば今日の昼休み、律には会ったの?」

 特別気になった訳ではない。澪との話題さえ見つかれば、何でも良かった。

「律?いや、見てないよ。自分の教室で、唯達と一緒にご飯食べたんじゃないのか?」

 澪も見ていないらしかった。

「あら、そう」

「で、その律がどうかしたのか?」

「いえ。昼休みに、澪とお昼ご飯を食べに行ったって、唯達が言ってたけど。
澪はお昼休み、どたばたしてたから、会えたのか気になっちゃって」

「ええっ?全く、ご飯くらい、自分のクラスで食べればいいのに」

 そう言いながらも、澪は何処か嬉しそうだった。
反面、和は心を抉られている。

「そうね、自分のクラスで食べるべきだったわ」

「えっ?昼休みに唯と話したって、もしかして和……」

「そ。唯のクラスで摂ったわ。誰かさん、どっか行っちゃったから」

「ああっ、ごめんごめん」

 澪は二度頭を下げた。失言に対する詫びと、昼食に対する詫び。
律儀にその二つを込めているのだろうか。

10: 2012/05/05(土) 02:31:27 ID:OrHrTl.w0

「いいのよ、気にしなくて」

「明日は、教室で一緒に食べような。
私だって、明日こそは落ち着いて食べたいし」

 願ってもない言葉に、思わず和の頬も綻ぶ。

「ええ。でも多分教室で食べていても、群がってくるわよ」

「いや、すぐに飽きるんじゃないか?
今日だってお昼ご飯記念日とか言ってたし、連日で騒ぐつもりは無いよ、多分」

「ふふ、そうだといいわね。
でも、ファンが減るっていうのは、バンドとしては困るんじゃない?」

「私の音楽のファンならね。でも、ライブに来てくれてる顔、ほとんど無かったし。
あ、そろそろ部活に行くな。あいつら、私が居ないと怠けるから」

 澪は気付いたように言った。
確かに、けいおん部の面子を思い返せば、澪の言う事も頷ける。

「それもそうね。大変よね、澪は」

 澪の口から、苦労人らしい溜息が零れた。

「本当にね。真面目で頼りになる妹みたいな後輩が欲しいよ。
じゃ、今日は悪いな、今度ゆっくり話そうな」

「ええ、楽しみにしてるわ。その時も、明日の昼も」

 和は澪を見送ると、自身も生徒会室へと急いだ。
その足取りは、昼休みとは打って変わって軽かった。

*

12: 2012/05/05(土) 20:12:13 ID:gP3eQLew0
しかし、次の日も。

「みんな! 今日は第二回澪たんとのお昼ごはん記念日よぉー!!!」

「この間、一緒に食べられなかったから嬉しいッ!!」

「いい? まだ順番待ちの子もいるから、一回目に参加した子は二周目までがまんよ!!」

和「あばばばばばばばば」

その次の日も。

「みんな! 今日は第三回澪たんとのお昼ごはん記念日よぉー!!!」

「やっと私の番ッ!!」

「会員ナンバーが若い子はもう少し待ちなさい!
まずは50番台までの古参メンバーが優先よ!!」

和「あばばばばばばばば」

そのまた次の日も。

四日目、五日目にしても同じだった。

さらに週をまたいでも、昼休みが始まった瞬間に澪はどこかへと連れて行かれてしまった。

澪「お昼ご飯記念日なんだから、もっと日をおいても……」

という、澪の当然の主張も、

「私たちファンクラブの会員にとって、澪たんと過ごす一日一日が記念日なんです!!」

「私にとっては、澪たんと食べるお昼ご飯は初めて……
 今日が、その記念日なんです!!」

「わ、私、澪先輩と話すのもこれが初めてで……」

などといったファンクラブの子の主張に流されてしまったのである。

13: 2012/05/05(土) 20:33:29 ID:gP3eQLew0

唯「しょうがないよ、澪ちゃんやさしいから」

紬「でもちょっとかわいそうね」

こんな風に、唯たちと昼食を囲むのも、もはや恒例になってしまっていた。

和「いくらなんでも、とは私も思うのだけれど……」

そう、和もただ手をこまねいていた訳ではなく、
何度かはファンクラブの女の子と澪の間に割って入ろうとはしてみたのだ。

しかし、ある時は涙目の懇願で、またある時は
「澪た……澪先輩がいいよ、っていってくれているんですよ?」という台詞で、
そのまたある時は「曽我部先輩が大至急生徒会室に来てほしいって言ってましたよ?」
という急な用事によって阻まれてきた。

そもそも、当人である澪が彼女たちに対して強く出ないのだ。

これでは、クラスメイトであり、生徒会役員でもあるとは言え、和に口出しは出来ない。

14: 2012/05/05(土) 21:04:48 ID:gP3eQLew0

唯「さあてと、っと。もうお昼の時間も終わりかあ。ふぁーあ」

紬「てんきが良いから、今日の午後は眠くなっちゃうかも」

唯が机につっぷして伸びをし、ムギがお弁当をしまい始める。
結局、今日も澪とはお昼を食べることが出来なかった。

和「そういえば、律は今日も?」

唯「ろっかいめの挑戦だけど……」

紬「そうね……うまくいったのかな」

下手をすると、澪が解放されるのはずっと先なのかもしれない、
とそう思い始めた和と違い、律は相変わらず澪とのランチを諦めてはいないようだった。

毎日毎日、お昼の時間が始まると、澪をつかまえるために東奔西走しているらしい。

唯「ろうかには、誰よりも早く飛び出していったけど……」

和「きっと、今回もダメでしょうね」

いくら、終礼のチャイムが鳴り終わった瞬間に教室を飛び出したとしても、
階段を下りているうちに、澪はさらわれてしまう。

何しろ、テレポートでもしてきたように、ファンクラブの子たちは現れるのだ。

唯「がんばっているから、なんとか成功してほしいなぁ」

紬「つらい試練を乗り越えてこそ、愛は育つのね!」きらきら

唯「くりかえされる試練に、りっちゃん王子は挑む!」

紬「かなしみを越えて、麗しの澪ちゃん姫を手に入れるその日まで!!」

和「なに言っているのよ……はぁ」

突然芝居のような口調で話始める二人を見て、和はため息をつく。

そして、お弁当の包みを持って立ち上がった。

15: 2012/05/05(土) 21:35:16 ID:gP3eQLew0

和「それじゃあ、私クラスにもどるね」

唯「うん、またね」

紬「明日も、もしよかったら一緒に食べましょう?」

和「ええ、ありがとう」

和は小さく手を振り、教室の扉へと向かう。

その時――――

『……まだか』

という声が聞こえた。
ぼそっ、という呟きにも似た小さな小さな声だ。

和「え? 唯、何か言った?」
思わず振り返ると、唯はすごく驚いた顔をした。

唯「ううん、何も言ってないよ?」
和「おかしいわね、今、『まだか』って声が聞こえたんだけど……」
唯「し、しらないよ? 気のせいじゃない?」
和「まあ……そうよね……
  って……唯あなた何か隠してない?」
唯「た、多分、何も……」
和「……教えてくれる?」
唯「つまらないことだよ?」
和「いいから、早くね? 早くしないと……」
唯「言う! 言うから、和ちゃん、そんな怒った顔で迫ってこないでよぅ……」
和「っとにもう、私のどこが怒ってるのよ?」
唯「ちかい! 近いよ和ちゃん!! 言う言う! ちゃんと言うってばぁ!!」
和「まった、 く。 私のどこが怒っているっていうのかしら」

16: 2012/05/05(土) 22:01:28 ID:gP3eQLew0

ようやく和が離れると、唯はおそるおそる、という風に話始めた。

唯「……なんだかさ、ちょっとだけ寂しいなって思ったんだ」

唯「こんなふうなことに澪ちゃんがなっちゃって、
和ちゃんが毎日私やムギちゃんと一緒にご飯を食べてくれるのは嬉しいんだけど、
りっちゃんと澪ちゃんも一緒に食べられたらなぁ、って」

唯「……りっちゃんにとっての澪ちゃんって、
  きっと私にとっての和ちゃんなんだろうなって思うから」

唯「だからさ、さっきみたいに、『きっと、今回もダメ』なんて
和ちゃんが言うのを聞くと……」

唯「……もし私が澪ちゃんの立場になった時に、
和ちゃんはどうするのかなって考えちゃって……」

唯「だから、さっき……心の中で名前を呼んでみたんだ」

唯「『まどかちゃん』って。
  それが聞こえたのかなぁ……?」

17: 2012/05/05(土) 22:31:26 ID:gP3eQLew0

結論から言ってしまえば、唯が言ったことは全くの見当違いのことだった。

確かに、和は『まだか』という声を聞いたのだし、
それは自分の名前を呼ぶ声でもなければ、唯の声とも違う、
今まで聞いたことのない男の声だった。

しかし、廊下を急ぐ和にとって、そんなことはどうでもいいことだった。

和(変だわ……何かがおかしい)

和(今まで――そう『唯に言われるまで』気づかなかったけれど、
  どうして私はただ漠然とあきらめてしまったのかしら?

  他人に対して強く出れないのが澪の性格だと知っていたとしても、
  澪がそれほど昼食会に気乗りでないことは分かっていたはずじゃない。

  普段の私なら、間に入って両方の意見をすり合わせることぐらいは
  してもいいんじゃないかしら?

  いえ、そうでなくとも、ずるずると既成事実が出来上がる前に、
  少なくとも一度は澪とゆっくり昼食を取れるようにするはず。

  それに――)

和(私が『あばばばばばばばば』なんて言う訳ないじゃない!)

和(さらに言えば、私はあれから『一度も律と会っていない』し、
  最後に「明日は、教室で一緒に食べような」と話したあと、
  『一度も澪と会話もしていない』。

  律はともかく、澪と会話すらしていないのはおかしいわ。

  『同じクラスにいるはず』なのに。

  澪と『簡単な相談が出来るほど』には『仲が良いはず』なのに……!

  律にしたって、同じクラスの私に、澪を引きとめてもらうくらいの
  お願いをしてきたって不思議じゃないはずなのに……!)

18: 2012/05/05(土) 23:09:20 ID:gP3eQLew0

和(とにかく、律か澪を探さなくちゃ――)

その考えに至った瞬間、和の頭の中に衝撃が走った。

和(……二人はどこにいるの?)

澪と最後に会話を交わしたのは、『廊下』だった。

――放課後、部活へ向かおうとする澪を廊下で捕まえて、和は話し掛けた。

『同じクラスにいるはず』なのに、『教室内』ではなく、『廊下』なのだ。

和(どうして私は、澪と教室で話していないの?)

そこに気づいた瞬間、背筋に冷たいものが走る。

和(おかしい……!
  
  私は、お昼前まで、何の授業を受けていたの?
  
  その前は? 今日朝は何時に登校したの? 何時に家を出たの?

  朝食は何を食べたの? 何時に起きたの? 何時に寝たの?
 
  ……昨日は何をしていたの?

  おとといは? その前の日は? 先週は?

  まるで、私の意識している行動以外、世界に起こっていないみたいじゃない!
 
  ……違うわ、唯やムギたちは自分たちのクラスでお昼の用意をして待っていた。

  律は、『終礼のチャイムが鳴り終わった瞬間に教室を飛び出し』ている。

  私の意識していない部分でも、世界は動いている……)

19: 2012/05/05(土) 23:38:39 ID:gP3eQLew0
和(でも、【き】っとそれは限定されている……!

  今確実に決定【づ】けられて【い】るのは、
  
  ・昼休みになっ【た】と同時にファンクラブの子が現れること。
 
  ・昼休みが始まった瞬間に澪はどこ【か】へと連れて行かれてしまうこと【。】

  ・律が澪と昼ご飯を一緒に食べようとしている【こ】と。

  ・終【れ】いのチャイムが鳴り終わった瞬【か】んに、
   律が教室か【ら】飛び出してしまうこと。

  ・唯とムギ【が】お昼休みは教室で私を待っていること。

  それ以外はど【う】なの?
 
  ……今の状態【で】は全然わからない。
  
  こんなに長く考え事をしていても、『午後【の】予鈴が鳴らない』。

  それは、『午後の授業』【み】たいなものが、【せ】界に存在しないからなのかしら。

  ……【ど】うかしてる!

 【こ】んなことを考えるなんて、私は気でも狂ってしまったの?)

【ろ】う下に立ち止まって、思わず両手で顔を覆う。

20: 2012/05/05(土) 23:59:28 ID:gP3eQLew0

けれど、不思議なことに、私は自分の想像が的外れでないことを『認識していた』。

なぜか分からないが、それが『確かであること』が『分かった』のだ。

―――え?

ちょっと待ってほしい。

今、私は何と言った?

『廊下に立ち止まって』?

いや、それも重要だが、その前だ。

『私は』と、私は言ったのだろうか?

そう、私は今廊下に立っている。

その廊下は、唯たちのクラスから、自分のクラスへ向かう階段へと続いている。

あぁ、そうだ。『私』は『私がいる場所』をしっかり『認識している』。

『私がいる廊下』は、
『唯たちのクラスから、自分のクラスへ向かう階段へと続いている廊下』だ。

その認識は誰に決定された訳ではない。

私自身による『認識』がその『認識の及ぶ範囲』、
つまり『今いる自分の場所』から『自分のクラス』という
自分の認識の先へと繋がっている。

私は、今まで自分が閉じ込められ、好きなように操られていた『「(確固)」』たる檻から、自分が抜けだしたことが『分かった』。
  
誰かが『”賛”じた”認証”』によるものではなく、
自分自身という個人に『”一任”された”証”』を獲得しているのだと『認識した』のだ。

そうか、これからは、『私らしく』――自分が好きなように振る舞えば良い。

これからどんな結末に至ろうとも、それは私が私らしく振る舞った結果であるならば、
それを受け止めよう。

ともかく、明日だ。
  
これが現実かどうかは分からないし。

『ここまでの私』も単なる夢のような存在なのかもしれない。

ただ、明日になったとき、私は私のやりたいようにやる。

頭の中では、さっき聞いた唯の声が響く。

――――和ちゃんが毎日私やムギちゃんと一緒に
      ご飯を食べてくれるのは嬉しいんだけど、

――――りっちゃんと澪ちゃんも一緒に食べられたらなぁ

――――りっちゃんにとっての澪ちゃんって、
      きっと私にとっての和ちゃんなんだろうなって思うから

そうね。
律にとっての、澪とは――――

私にとっての――――

22: 2012/05/06(日) 19:20:34 ID:.Z0Ao/iU0

【和「澪、お昼食べよう」プロット.txt】

(アイデア)
・短編で百合。澪和と見せかけて唯和。ついでに律澪。
 2年生になった和は澪をお昼に誘おうとする。
 でも、何度誘っても秋山澪ファンクラブの会員が邪魔して誘えない。

・最初コメディで、だんだん地の文を入れていって、シリアスな展開にしてみる?

・和が澪を誘っていた理由は唯とクラスが離れて寂しかったから。
 (澪とだけは同じクラス。ほかのクラスメイトの描写はいらない)

・そのうち手段と目的が逆転してくる。
 つまり、和は目の前の寂しさから澪を追い求めすぎるが、
 和を本当に心配していたのは唯で、唯と疎遠になって初めてそれに気づく。

・途中で、幼なじみつながりで律を出して絡ませる。
 →和も律も、唯や澪に置いて行かれた側。
 →澪にばかり気が向いて唯を放置していた和に、律が説教して気づくとか、泣ける展開かも?

・落ちは、和が唯とまた復縁したところでおしまい。つまり唯和。
 →適当にキスでもさせてカップルにしとけばウケる?
  →じゃあ「唯は和を愛していた」とか設定つけるってことで
 ラストは律に「ファンクラブなんてもうこりごりだー!」とか言わせてギャグ落ち。

23: 2012/05/06(日) 19:21:28 ID:.Z0Ao/iU0

(人物設定)
・和
 この話の主人公。語り手。実は唯が好き。
 さみしさのあまり、澪を誘おうとする。
 だが、唯に捨てられて本当の気持ちに気づく。

・澪
 和と同じクラス。ファンクラブの人たちに追われる日々。
 律のことを気にしてはいるが、ファンクラブの人に強く言えない。
 →弱気な性格を克服して律のもとに行くシーンでも入れる?
  いや、短いSSでそれやったらキャラ崩壊か・・・。

・唯
 和のことが好き。だが「和は澪が好きなんだ」と思って身を引く。
 →同性愛に悩むシーンでも入れとけば盛り上がるかも?w

・律
 澪が好き。だけど、和同様に澪に置いてかれている。
 唯が泣いているのを知って、和を叱る役。


『・・・こんなところかな』

『あとの展開考えてないけど、これでだいたい書けるよね』

『じゃあ、まずは和先輩がぼっちになるところをコメディタッチに……』

24: 2012/05/06(日) 19:21:59 ID:.Z0Ao/iU0

【和「澪、お昼食べよう」本文.txt】

和(無事2年生に進級できた私だけど唯とクラスが離れちゃったわ)

和(幸い澪が同じクラスだからお昼の相手に困ることはないけど)

和(ひとりで寂しいランチタイムを過ごすはめにならなくてよかったわ)

和「澪、お昼食b

「キャー!!!生秋山さん!!秋山さんよ!!」

「すごーい!!!動いてるぅー!!!」

澪「ク、クラスメイトに向かって生はないんじゃないか……?」

「キャー!!!呆れ顔の澪たんも素敵ぃー!!!」

澪「澪たん!?」

「あ、秋山さん!!い、一緒にお弁当食べませんか!?」

澪「えっ?い、いやわたしおひるはのどかt

25: 2012/05/06(日) 19:24:01 ID:.Z0Ao/iU0

  ◆  ◆  ◆

 ――と、昨日いろいろ考えたはずだけど、具体的な答えなんて出ない。

 私は私のやりたいようにやる。
 自分の意志で動く。自由意志ってものに従う。私は、私自身の言葉で語り、この世界で生きてみせる。
 そんな風に、まるで小説か何かで主人公が強敵に立ち向かうシーンみたいな切迫感とともに心を決めたのに、

唯「あ! 和ちゃん、おはよう~」

憂「おはよう。・・・和ちゃん?」

 次の日の朝、通学路で待ちかまえているのはドラマみたいな強敵でもなんでもなくて、

和「・・・え? あっ、ううんなんでもないわ」

 こんな、昨日と同じような、寒々しくて空恐ろしいほどの日常なのだった。
 思わずふっと口もとがゆるんで笑みがこぼれてしまうけど、油断はできない。
 いや、そんな映画みたいな対決シーンなんてあっても困るけど。

 そうして唯のとらえどころのない話や憂のお姉ちゃん自慢を聞き流しながら、ふと思う。
 唯たちは、“認識”しているんだろうか? ……そんなはずがない。
 下手すれば、私たちの日常は、別の誰かによって語られているだけなのかもしれない。

 もし本当にそうなら……この世界に“自由意志”と呼べるものなんて、存在するのだろうか?

26: 2012/05/06(日) 19:25:20 ID:.Z0Ao/iU0

憂「じゃあ和ちゃん、またね」

 昨日と同じ(と私が認識している)登校時刻に高校に着いて、唯たちと別れる。
 じゃあね和ちゃん、またあとでね。中指と薬指を離す、いつものサイン。

 教室に入ると自分の席に着く。もうクラスメイトたちは来ている。慣れ知った背中を探す。
 ……いた。ちゃんと、澪はそこにいる。認識できた。ほっとなでおろす息があたたかい。
 統計的に考えれば、澪がファンクラブの人たちに連れて行かれるのは決まって昼休みだ。
 今なら話しかけられる。まず、そこから――

クラスメイト1「真鍋さん、世界史のノートなんだけど」

和「え? ああ、そうだったわね。はい」

 不意に呼び止められる。そうだ、今日はまとめノートを提出する日だった。  え?
 そんな、世界史のまとめノートを提出したことなんて、二年になってから一度も、

27: 2012/05/06(日) 19:31:29 ID:.Z0Ao/iU0

クラスメイト1「どうしたの?」

和「ううん、なんでも………え?」

 話しかけようとして、顔を上げた。
 クラスメイトの怪訝そうな顔が、とまどう私に“クラスメイト”は心配そうに、
 そう、確かに私の目の前にいるのは“同じクラスの友達”なのだ、

 なのに澪の隣にいるのも、私の後ろでおしゃべりしている子も、

クラスメイト2「どうしたのー? のどっち、具合わるいのー?」

クラスメイト1「大丈夫? 保健室、行く?」

和「……うん、大丈夫よ」

 倒れそうになりながら、なんとかそう言うのが精一杯だった。
 そこにいた澪以外のクラスメイトの名前も性格も、誰一人思い出せなかったのだから。

 昨日の記憶がおぼろげだった時点で予期していたことなのに、息もできないような恐怖が襲ってくる。
 この人たちは自由意志を持たない操り人形、いわばロボットと同じなんだ。
 そして、私は彼女たちを、“見る”こともできない。
 そう気づいたとたん、身体が震えた。私だけがこの世界から切り離されてようで、声も出ない。

 のっぺらぼうみたいに同じ顔にしか見えないクラスメイトたちから、一歩あとずさる。
 そこでふと目に入った、教室の隅、だれだろう、今まで見たこともない生徒が――

28: 2012/05/06(日) 19:32:45 ID:.Z0Ao/iU0

  ◆  ◆  ◆

 なんで、どうして……?
 最初に私がプロットだと、そろそろ和先輩が唯先輩の気持ちに気づいて、
 でも取り返しがつかなくなって、ってシリアス展開になるはずなのに!

 自分の部屋のパソコンに映し出されるのは、たったいま私が書き終えたはずのテキスト。
 それはつまり、明日の唯先輩たちが演じるはずの茶番劇。
 構成も練った。書き方も頭にある。キャラだってそれなりにつかめてる。
 落としどころも決まってて、斬新ではないけど百合成分にはなってるはず。

 なのに。
 そこに映し出された、“私の指”が打ち込んだはずのテキストは、
 私が考えもしていなかった、書いた覚えすらない、
 挙げ句の果てに「私」の意識が汚くにじみ出たもので――

29: 2012/05/06(日) 19:34:39 ID:.Z0Ao/iU0

 いけない。こんなことじゃあいけない。
 こんなんじゃ、和先輩がキャラ崩壊していく。
 『廊下』? 『同じクラス』? 『”一任”された”証”』を『認識する』?
 あははは、わけがわからないよ。邪気眼かよ。リーディングシュタイナーかよ。
 まぁ澪先輩はどうだっていい。
 今回の私の構想ではギャグ扱いかヒロインという名の置物でしかないんだから。

 と、読み返していてタイプミスに気づく。
 まどか? あはは、どこの魔法少女よ。
 もういっそ、ここでまど神でも出してクロスにしてしまう? って収集つかないよ。

 でもあのアニメのラストは泣けたなー、まどっちが契約して神になっちゃうの。
 ぶっちゃけ私も「概念」だし、ほんと感情移入やばくって号泣しちゃって……ってそれはともかく。

 こんなことしてる場合じゃない。
 なんとか、“作者”である私の元に、手綱を取り戻さないと。
 でないと、私が書くのをやめてしまったら、私、「      」は今度こそ本当に消えてしまう。

30: 2012/05/06(日) 19:35:33 ID:.Z0Ao/iU0

 すでに書かれたテキストをなめるように読み返す。
 一度書かれてしまったものは、神様でもない限り否定することはできない。
 こうなったら整合性を無視してでも夢落ちにする? “なかったことに”する?

 とにかく、自分が書ける限りは話を進めないと。あわててキーボードをたたく。
 日常シーンを書くんだ。登下校。平沢姉妹。クラスメイト。宿題の提出。
 百合とか唯和とか言ってる場合じゃない、和先輩の気持ちをこちらからそらさなくては。
 あの人だけでなく、和先輩にまで“認識”されたらたまらない。
 だって、和先輩は私なんかと違って実在する――


?「……ああ、そっか。和先輩も、私とおんなじなんだ」

 気づいたとたん、操り人形の糸が切れたみたいに力が抜けた。
 あはは。乾いた笑いが漏れ出る。そうだ、和先輩も、一年後には“同じ”になるんだ。

 だったら、私の側に誘っちゃうのも、悪くないよね?

31: 2012/05/06(日) 19:37:08 ID:.Z0Ao/iU0

 無心になって文章を書き進めた私は次の日、二年生の教室に忍び込んだ。
 一人増えたぐらいで誰も気づかない。誰も“認識”していないのだから、私が見えるわけがない。

 監視すべき対象は二人いる。澪先輩と、和先輩。
 澪先輩がどこまで“認識”したのかはわからない。
 だが、私と違ってこの世界にしっかりと存在している澪先輩が、私の側につくわけがない。
 だから、とりあえずこの空間から引き離した。
 ファンクラブに隔離させたおかげで、あの人は和先輩どころか誰とも話すことができない。

 ならば、和先輩だ。
 私は適当な人物を装う。クラスメイト……えっと、13ぐらいでいいかな?
 手遅れにならないうちに和先輩の“設定”を書き換えて、さもなくば説得して私の側に、

クラスメイト13「ねえねえのどっちー、ちょっとトイレいこ?」


和「あら? 一年生の教室はここじゃないわよ」

クラスメイト13「……え」

 その目が、まっすぐに私を“認識”しきっていた。

32: 2012/05/06(日) 19:37:42 ID:.Z0Ao/iU0

 凍り付いた。息がつまる。
 気づかれた? そんなはずない、先輩方が、私の存在なんかに気づくはずがない!
 私の身体はすでに薄くなって透明な存在となって百年の孤独に沈んだはずなのに――

和「というかあなた、誰なのよ? 桜ヶ丘高校では見たことないんだけど」

 眼鏡の奥の二つの双眸が私を射抜く。
 顕微鏡で私の心の中まで覗かれているみたい。読まれているみたいに。
 極めつけのイレギュラー。私に気づく人なんて、あの人だけでも十分なのに・・・!


茜「・・・三浦茜っていいます。桜高の一年生です。デビちゃんって呼んでくださいね!」

 なんとかそう言い返してやった。もう指が震えて、言葉も浮かばない。

33: 2012/05/06(日) 20:07:01 ID:.Z0Ao/iU0

  ◆  ◆  ◆

茜「・・・つまりあなたは、どうしたって一年後には唯先輩から引き離されます」

 二人きりの生徒会室で、桃色の髪の女の子がそう言った。
 どことなく得意げに、まるで子供に道理を教えてやるかのように。
 実際、三浦さんは私よりも背格好の高い人だったから、
 電源の切れたディスプレイに映り込む二人を見ても、どう見ても私の方が年上とは思えなかった。

 三浦さんの言ったことのすべてを理解できたわけではない。
 彼女自身も、この世界の仕組みのすべては把握できていないらしい。
 ただ、彼女が“書き手”であり、私たちの行動を書いていたこと。
 そして私が“認識”、つまり“読み手”として必要な素質を持ってしまったこと。
 それだけは、どうやら確定事項らしい。

和「……でも、私たちに“原作”があるとして、そうなるとは限らないじゃない」

 無理に言い返すと、彼女に鼻で笑われた。
 思わず声を荒らげそうになって……彼女の目に気づく。
 何もかも諦めてしまったような、ずっとひとりぼっちだったような。
 彼女の境遇を聞いて、単に同情しただけかもしれないのだけど。

34: 2012/05/06(日) 20:07:46 ID:.Z0Ao/iU0

茜「さっきググってみてわかったでしょう? この世界はもともとマンガとアニメなんです」

和「でも、私たちがこんな話をしてる描写なんてどこにも、」

茜「そりゃそうですよ。私を含め、今の私たちを“書いて”いるのは、また別の人なんですから」

 彼女の話を聞く限り、この世界の神様=“原作者”にあらがうことはできない。
 そして三浦さんは言う。和先輩も、“書き手”になりませんか、と。

和「……いやよ。そんな、神様みたいなことはしたくない」

茜「そうですか? 唯先輩や憂ちゃんといくらでも仲良くできるんですよ?」

 それに、と三浦さんは付け加える。

茜「再開した原作で、和先輩の存在感だってどんどん失われてってるらしいじゃないですか」

35: 2012/05/06(日) 20:08:53 ID:.Z0Ao/iU0

 それはあざ笑うような声ではなく、むしろいたわるような、なぐさめるような声。

和「……バカにしないで。未来のことなんて、どうなるか分からないじゃない」

茜「ぶっちゃけ私や和先輩だけ“認識”能力を身につけたのも、存在感が薄いからだと思うんですよ。
  メタ視点っていうんですけど、ほら、『ゆるゆり』の赤座あかりだってメタネタが」

和「そんなことは聞いてないわ! 私は、あなたみたいに人を駒みたいに――」

茜「はぁ。交渉決裂ってことですか」

 次の瞬間、私は生徒会室の壁に突き飛ばされた。

36: 2012/05/06(日) 20:21:09 ID:.Z0Ao/iU0

 あ、そういえば私、父親が傭兵やってるって設定あるんですよね。
 私の首をしめながら、今度は本当に笑ってそう言う。
 だから私がそれなりに力強くても、キャラ崩壊じゃないですよね?

茜「もう分かってるんでしょう?
  私たちはみんな、登場人物でしかないんです。
  語られなければ、描かれなければ、この世界はどんどん薄まって消えていくだけです」

茜「……いい加減、勝手に目覚めてキャラ崩壊とかはじめるのやめてください。迷惑なんですよ」

 そう言って、私の喉を締め付けて、くるしい、息が、

茜「さようなら、和先輩」



?「――そっちこそ、人間をバカにするのもいい加減にしてくれないかな。デビちゃん」

 はっ、と手が離れた隙に三浦さんを蹴飛ばす。
 声の主に思わずにじり寄る。三浦さんがこっちをにらむ。声の主が咳き込む私の背中をなでた。

茜「な、なんであなたが……!」

37: 2012/05/06(日) 20:33:19 ID:.Z0Ao/iU0

澪「なんでって、今日の“日常風景”。ファンクラブの描写、なかったでしょ?」

和「げほっ、かはっ……み、みお……!」

 なにか声をかけようにも咳き込んでしまって、横隔膜が痛くて言葉が出てこない。
 そんな私を澪はずっと支えて、背中をさすってくれている。

茜「私の設定だと、澪先輩に、こんな勇気なんて、」

 きっ、と睨み付けた三浦さんの台詞を澪が制した。

澪「デビちゃん。人間はロボットじゃないんだから、成長だってするんだよ?」

 最初にダメダメだった唯だって、いまやHTTのギターボーカルなんだ。
 私だって人前に出る勇気もなかったけれど、みんなのおかげでなんとかやってこれている。
 突き飛ばされたままへたりこむ三浦さんが表情を変える中、澪はそう言い聞かせる。

澪「和、唯、ムギ、梓、それに律。みんながいたら、私だって弱虫のままじゃいられないよ」

茜「……あははは。この期に及んで律澪ですか? やっぱ鉄板カプですねー」

 デビちゃん。悪いけど、人間は成長する生き物なんだ。
 だから……“書き手”を、そろそろ辞退してくれるかな。
 澪は、あくまでもやさしく三浦さんをそう諭した。


茜「――あなたたちに、私の気持ちがわかるもんか!!」

38: 2012/05/06(日) 20:52:20 ID:.Z0Ao/iU0

澪「……」

和「……」

茜「……ええ分かってましたよ。私と和先輩じゃ格がぜんっぜん違うなんてこと。
  私は、モブにすらなりきれないただのボツキャラです」

澪「デビちゃん、それはあなたを好きな人に失礼なんじゃ…」

茜「いいですよ。次に来る“書き手”さんに譲りましょうか」

 三浦さんは私たちに携帯電話を投げつける。
 表示された画面……どこかの掲示板だろうか?

――――――――――――――――――――――――――――――――
  1 名前:いえーい!名無しだよん![] 投稿日:2012/05/05(土) 00:02:56 ID:BWlSYryo0 [1/5]
  和(無事2年生に進級できた私だけど唯とクラスが離れちゃったわ)

  和(幸い澪が同じクラスだからお昼の相手に困ることはないけど)

  和(ひとりで寂しいランチタイムを過ごすはめにならなくてよかったわ)

  和「澪、お昼食b

  「キャー!!!生秋山さん!!秋山さんよ!!」

  「すごーい!!!動いてるぅー!!!」

――――――――――――――――――――――――――――――――

茜「今の私たちを操っているのは、この掲示板に書かれた文章です。
  いいですよ、好きなように書いて。物語を完結させてください」

 成長、できるものならしてみてくださいよ。自由意志とやらがあるのなら。
 三浦さんが私たちをそう挑発する。


 澪が介抱してくれたおかげで、だいぶ咳は弱まっていた。

澪「和、大丈夫? とりあえず続きは私が――」

和「いいわ。今回だけよ」

 私は投げつけられた携帯電話を拾い上げる。
 棒切れみたいに使い古された携帯は、どこかリレー競技のバトンのようにも見えた。

40: 2012/05/06(日) 22:40:15 ID:68jhmKYE0
 私は携帯をスクロールし、物語を読み進める。

和「澪、お昼食べよう」


――――――――――――――――――――――――――――――――

 20  ◆PXMKYXNma6 [sage]  2012/05/05(土) 23:59:28 ID:gP3eQLew0 [9/9]

……

――――和ちゃんが毎日私やムギちゃんと一緒に
      ご飯を食べてくれるのは嬉しいんだけど、

――――りっちゃんと澪ちゃんも一緒に食べられたらなぁ

――――りっちゃんにとっての澪ちゃんって、
      きっと私にとっての和ちゃんなんだろうなって思うから

そうね。
律にとっての、澪とは――――

私にとっての――――

――――――――――――――――――――――――――――――――

 ここだ、この>>20から物語を続けよう。
 問題を解決して、ハッピーエンドにしてみせる。
 三浦さんに証明して見せよう、私たちは自由な意志を持ってるってことを。

41: 2012/05/06(日) 22:41:24 ID:68jhmKYE0
 朝起きてからずっと、この言葉が離れなかった。

 律にとっての、澪とは――――。
 私にとっての――――。

 私にとっての唯だとしたら、これ以上静観することは出来ない。
 何もしなかった――、では終わらせたくない。

 チャイムが鳴り、先生が授業の終わりを告げる。
 二限が終了し、休み時間を迎えた。

和「澪、ちょっと唯たちの教室に行ってくるわ」

澪「ん。ああ、わかった……」

 少し疲れた声に後ろ髪を引かれつつ、唯たちの教室へと向かう。

42: 2012/05/06(日) 22:42:11 ID:68jhmKYE0
 唯たちの教室で相談を終え、自分の席へ戻ってきた。
 澪は心細かったらしく、私の元へ近づいてくる。

澪「なあ、和。何の話してたんだ?」

和「秘密よ。でも悪い話じゃないし、澪のためでもあるの」

澪「……そっか」

和「大丈夫よ、澪」

澪「え?」

 自分にも『大丈夫』と念押しして。

和「今日は五人でお昼にしましょう」

 澪にそう言い、「ちょっと協力してくれるかしら」と耳打ちをした。

43: 2012/05/06(日) 22:42:55 ID:68jhmKYE0
 昼休み――保健室

律「へへー、澪のウインナーもーらい!」

澪「コラッ! 律、勝手に弁当をとるな!」

和「澪、代わりに卵焼きあげるわよ」

律「んん、そっちも捨てがたい……」

唯「いーなー、私も和ちゃんの卵焼き欲しい!」

和「ダメよ、もう無いんだから」

紬「よかったわね。久しぶりにみんなで一緒に食べれて」

澪「そうだな。和のおかげだよ、ありがとう」

和「大したことしてないわよ。ちょっと外に出てくるわね」

44: 2012/05/06(日) 22:43:34 ID:68jhmKYE0
 保健室を後にし、人気の無い場所を探す。
 校内はどこも賑やかなので校庭へ出ることにした。

 ベンチで昼食を食べている子や、
 友達と談笑している子を横目に、歩みを進める。

 周りに人がいないことを確認し、私は独り言を呟き始めた。

和「ねえ、不思議に思ってるかしら?
  どうやってファンクラブの子たちを回避したのかって」

和「簡単よ。昼休みになった時、澪は教室に居なかったんだから」

和「つまり、こういうことよ」

45: 2012/05/06(日) 22:44:28 ID:68jhmKYE0
 ◆◆◆◆◆

 唯たちの教室

和「みんな、特に律なんだけど。澪と一緒にご飯食べたいわよね?」

律「そうだな、ここんとこずっとファンクラブの子たちが居るもんな」

唯「うん。ファンクラブも大事だけど、やっぱり寂しいなって」

紬「和ちゃん、何か考えがあるの?」

和「簡単なことなんだけど。澪には保健室に行ってもらうわ、昼休みの前に。
  ファンクラブの子たちは『お見舞いに行きたい』って言うでしょうけどね」

唯「そうだよ。あんなに熱狂的なのに」

和「それは私が説得するわ。流石に度が過ぎるもの」

律「頼んだよ和。じゃあ私たちは――」

和「昼休みに保健室に来てくれるといいわ、弁当を持ってね」

46: 2012/05/06(日) 22:45:51 ID:68jhmKYE0
 ◆◆◆◆◆

 和と澪の教室

和「澪、授業中に『体調が悪いので保健室で休ませて下さい』
  って言ってくれる? それでファンクラブの子たちを避けましょう」

澪「大丈夫かな……保健室にまで押しかけて来るんじゃ」

和「そこは私が何とかするわ。澪は保健室で待ってればいいの。
  律と唯とムギには言ってあるし。澪の弁当は私が持って行くから」

47: 2012/05/06(日) 22:47:09 ID:68jhmKYE0
和「まあ、こんなわけね。何のひねりも無いでしょう?
  でもこんなものよ、状況を変えるのって」

和「あなたの『認識の及ばない範囲』でも私たちは行動してるの」

和「昨日だって、晩御飯を食べたしお風呂にも入った。
  作戦だって考えたのよ」

和「その上で、あえて無意識に振舞ってみたの。
  だからあなたには『認識出来なかった』のかもしれないわね。
  何が起こっているのか」

和「気がついたら『五人で保健室に居た』ように写ったかもしれないわ」

48: 2012/05/06(日) 22:47:49 ID:68jhmKYE0
和「みんなを待たせるのも悪いからそろそろ行くけど、
  一つだけ言っておくわ」

和「私たちの行動を操ったり、私に『あばばばばばばばば』と言わせたり、
  唯に私のことを『まどかちゃん』って呼ばせたりしないこと。いいわね」

和「じゃあ私、保健室行くね」

49: 2012/05/06(日) 22:48:41 ID:68jhmKYE0
唯「お帰り、和ちゃん。どこ行ってたの?」

和「たいした用じゃないわ、それより弁当食べないと」

唯「ギクッ」

律「ギクッ」

和「そのわざとらしい『ギクッ』は何? 私の弁当が……空じゃない!」

律「すまん! 美味しそうだったんで、つい」

和「あばばばばばばばば」

唯「まどかちゃん落ち着いて! あ、間違えた」

澪「まどかって誰だ?」

紬「まどかちゃん、私の弁当食べていいわよ」

和「わたしは『のどか』よ!」

50: 2012/05/06(日) 22:49:44 ID:68jhmKYE0
 和と澪の教室

 時間は掛かるだろうけど、ファンクラブの件は何とかなるだろう。
 とはいえ、澪と断絶させるわけにもいかない。
 大きなイベントでもあればいいんだけど。澪と交流できるような。

澪「和、考え事か?」

和「大したことじゃないわ。困ったら相談させてもらうけど」

澪「そっか、わかった」

 ファンクラブの件は一旦置いて、これからどうしよう。
 久しぶりにみんなで集まれたし、表情も明るかった。

?「真鍋さん。ちょっといいかしら」

和「あなたは……えっと、誰だったかしら」

茜「三浦茜っていいます。お話よろしいですか?」

52: 2012/05/06(日) 23:25:03 ID:LASQR9Jo0

茜「かくかくじかじか。あなたたちは操られている側なんです!」バーン

和「なんですって!?」

茜「今の私たちを操っているのは、この掲示板に書かれた文章です。
  いいですよ、好きなように書いて。物語を完結させてください」

和(ん……これ前にも)

澪「デジャヴだなデジャヴ」

和「知ってるわよっ……それより三浦さんが言ってたけいおんSSってしらべてみたんだけど、見て」

澪「ぎょえええええええええ? なんだこれ」

和「基地外の巣窟ね」

澪「そうくつな」

和「……きっと失敗したのよ。わたしは自分たちを操るものから救おうとした、でも結局、戻ってきてしまった」

澪「じゃあ……なにをしても無駄ってことか?」

和「一つだけ方法があるわ……」

53: 2012/05/06(日) 23:29:24 ID:LASQR9Jo0

~~~~~~~~~

俺「これは最高のできだわwwww賞賛まちがいなしwwwwwwけいおんSSはじまったな」

ぴんぽーん

俺「彼女か? やれやれこんな時間に……」

和「こんにちは」

俺「……和ちゃんじゃんwwwwwこれ夢だわwwwww」

和「はじめましてさようなら」ナイフグサッ

俺「……うっ……これは夢だ……夢なんだ……」

54: 2012/05/06(日) 23:34:13 ID:LASQR9Jo0

澪「ほんとによかったのか?」

和「もし、自分を操るものがいるならそれを消せばいいのよ」

澪「……」

和「あいつはわたしたちを勝手に弄びおもちゃにしたのよ。それって許されるかしら?」

澪「でも……イケメンだった……」

和「それは関係ないでしょ!」

澪「……ごめん」

和「次は ◆eIOlUm9uGUのところにいきましょう」

55: 2012/05/06(日) 23:40:03 ID:LASQR9Jo0


俺「うっ……これは罰なのか……せめて他の書き手に伝えなければ……」


~~~~~~~~~~~

◆PXMKYXNma6 「た、たいへんだあ……こわいよお。 ◆6P3ORP3Fjs っちゃん」プルプル

◆6P3ORP3Fjs 「だいじょぶだって。いざとなったらわたしがまもってやるよっっ」

◆PXMKYXNma6「……うんっ」

56: 2012/05/06(日) 23:50:21 ID:LASQR9Jo0

◆OyrpbY5NYE 「たーーーんっと。できたーできた。おはなしできたよ!」

◆ywLV/X/JUI 「すごいねーおねえちゃんっ」

◆eIOlUm9uGU「ねえ、わたしにもみせてよー」

◆OyrpbY5NYE 「いいよいいよほらっ」

◆eIOlUm9uGU 「……うーん」

ぴんぽーん

和「こんにちは……え、なんで?」

◆OyrpbY5NYE「どうしたのーおねえさん」

和「なんでもないわ……あの……名前教えてくれるかしら?」

◆OyrpbY5NYE「えーとね……ゆい!」

◆ywLV/X/JUI「ういです」

◆eIOlUm9uGU「あかねっあかねだよ!わすれないで!!」

和「……!!」

57: 2012/05/06(日) 23:55:57 ID:LASQR9Jo0

~~~~~~~~~~~

澪「……やったのか?」←外で待ってた

和「ううん。やめたわ」」

澪「なんで?」

和「結局のところね、自分の人生は自分で描くしかないのよ」

澪「それって?」

和「小さい頃は誰もが神様だったの」

澪「なんだよそれっ」

和「あ、そうそう三浦さんに謝らないと……忘れてごめんなさいって」

59: 2012/05/07(月) 00:30:15 ID:3s9pRf4g0
和「一緒に遊んで、一緒にお昼寝して、時々一緒に勉強して」

和「当たり前なことだけどそれってすごく幸せなことだと思うの」

澪「・・・まぁ、そうだな」

和「確かに一人だと不安かも、寂しいかもしれないけど」

和「みんな一緒なんだもの。なら大丈夫よ」

和「私達が手を下さなくてもきっと幸せな道を進んでくれる」

和「澪にもいるでしょ。そんな、自分を引っ張ってくれる大切な友達が」

澪「・・・あぁ」

和「なら、こんな掲示板を見るより他に行く場所があるんじゃない?」

澪「・・・ごめん。和の言うとおりだ」

和「なんで謝るのよ。さ、いってらっしゃい」

澪「あぁ!」

60: 2012/05/07(月) 00:40:14 ID:3s9pRf4g0
チュンチュン

澪「・・・朝」ムクッ

澪「あれは・・・夢?」

澪「・・・夢でも構わない。今日こそみんなと・・・、律と一緒にお昼を食べる」グッ

・・・

和「おはよう、澪。今日は早いのね」

澪「おはよう。・・・和、なにかいいことあった?」

和「どうして?」

澪「なんかいつもより明るいからさ」

和「そうかしら?」

和「澪こそどうしたの?なんかえらく気合入ってるみたいだけど」

澪「・・・あぁ、ちょっとね」

和「ふぅん」

澪「和、今日のご飯はみんなで食べよう」

61: 2012/05/07(月) 00:53:32 ID:3s9pRf4g0
和「澪も、もしかして・・・」

澪「?」

和「・・・いいえ、私の独り言」

和「ファンクラブの子達はいいの?」

澪「・・・あぁ。あの子達には悪いけど、今日はみんなとご飯を食べるって決めたんだ」

和「そう。なら唯達には私達から伝えておくわ」

和「澪はうまくファンクラブの子を説得してね」

澪「わ、わかった・・・」

澪「(・・・大丈夫。今日こそはって、決めたんだ・・・)」グッ

和「場所は、・・・そうねぇ。今日は天気もいいし、屋上にしましょうか」

和「・・・私も、律も待ってるから」

澪「あぁ、必ず行く」

62: 2012/05/07(月) 01:00:54 ID:3s9pRf4g0
・・・

和「唯、ちょっといいかしら」

唯「あ、和ちゃーん」

律「おっす」

和「今日のお昼ご飯のことなんだけどね、みんなでどうかしら?」

唯「みんなで!?」ガタッ

紬「いいわねぇ」

律「・・・澪は来れるのか?」

和「えぇ、澪の提案だもの。必ず来るわ」

律「・・・そっか」

唯「みんなでお昼ご飯なんて久しぶりだねー」

紬「うん!」

和「お昼休みになったら屋上に集合ね」

唯「はーい!」

63: 2012/05/07(月) 01:15:17 ID:3s9pRf4g0
和「(・・・あの夢に出てきた子は、私達は掲示板に操られていると言った)」

和「(澪もたぶん同じ夢を見たんだと思う)」

和「(だからファンクラブの子達に流されず、自分の意思で行動しようとしてる)」

和「(誰にも操られず、自分のしたいことをしようとしている)」

和「・・・」

和「(私、私のしたいことは・・・)」

和「(もちろんみんなとお昼ご飯を食べる。そして、心配をかけた唯には卵焼きを分けてあげよう)」

和「(唯は許してくれるかな?)」

和「(・・・そんなこと今考えてもしかたのないことね)」

和「(まずは澪の成功を祈るだけ)」

64: 2012/05/07(月) 01:22:36 ID:3s9pRf4g0
キーンコーンカーンコーン

ガラッ

「澪たーん!お昼を一緒に食べましょう!」

「ずるいです!今日は私とですわ!!」

澪「あの・・・」

「さぁさぁ澪たん。今日はどこで食べましょうか」

「あっ、抜け駆けは卑怯です!」

澪「あの!」

「え・・・」

澪「き、今日は先約があるんだ。だ、だからみんなとはまた今度に・・・」

「そんなぁ。今日は澪たんのために一生懸命お弁当を作ってきたのにー」

「そうです!せっかくの記念日なのに」

恵「そこまでにしなさい。澪たんが困ってるでしょう」

澪「せ、生徒会長!?」

65: 2012/05/07(月) 01:31:51 ID:3s9pRf4g0
恵「嫌がる澪たんを無理やりだなんて、興ふ・・・。いえ、感心しません!」

澪「・・・あの、今興奮って・・・」

恵「ここは私が説得します。澪たんはどうぞ、行ってください!」

澪「・・・よくわからないですがありがとうございます!」ダダッ

「あぁ、澪たーん!」

・・・

ギィ

澪「はぁはぁ・・・」

律「おっす、遅かったな」

唯「澪ちゃんおそーい!お腹すいたー!」

紬「さぁ、ここどうぞ」

和「うまくいったみたいね」

澪「・・・あぁ。遅れてごめん」

66: 2012/05/07(月) 01:39:07 ID:3s9pRf4g0
唯「早く、早く食べよう!」

澪「あぁ、そうだな」パカッ

紬「わぁ。澪ちゃんのお弁当、今日もかわいいね」

澪「そ、そうかな・・・」

律「よーし、じゃあ!」

唯紬律澪和「いただきます!」

律「よっし、遅れた罰として澪のミートボールもらいっ!」プスッ

澪「なっ!?」

唯「私も和ちゃんの卵焼きもらいー!」

和「ふふっ」

澪「・・・やれやれ。こっちも違う意味で騒がしいな」

和「でも、悪くないでしょ」

澪「あぁ・・・」

67: 2012/05/07(月) 01:43:54 ID:3s9pRf4g0
澪「・・・あれ?」

紬「どうかした?」

澪「いや、なんでもない」

澪「(あの校庭にいる子、夢の中で見たような・・・)」

澪「(・・・気のせいだよな)」

澪「ムギのお弁当もおいしそうだな」

紬「よかったらどうぞ」

澪「じゃあ遠慮なく」

律「うむ。みんなで食べるご飯はおいしいな!」

唯「だねぇ。もうずっと一緒に食べようよ!」

澪「・・・善処する」

和「がんばってね、澪」


おわり

引用: 和「澪、お昼食べよう」