1: 2015/01/11(日) 19:08:37.50 ID:sQ+gYLVio
咲(世界観&キャラ)×アカギ(キャラ)×ヒカルの碁(設定)のSSとなります
京太郎とアカギが主人公なので、ご注意を
・のんびりと、ちまちまと更新
・京太郎が麻雀します
・ところどころ畜生になる咲キャラがいるかも
・恋愛要素……あるかも?
・安価などは一切無し
・オチまで考えてはありますが、指摘によって展開の変更なども考えます
・対局描写が下手くそ
・以前建てたスレの続きを書く為に 前回の投下分のミスや誤字脱字を主にリマスターしています
以上がよろしい方は、どうぞご覧ください
リメイク前 ※以下のスレの頭から一部改変して、こちらのスレをスタートします
【咲×アカギ】京太郎「これが……神の一手?」アカギ「ククク……」
2: 2015/01/11(日) 19:09:55.86 ID:sQ+gYLVio
俺が望んだもの……
それは変化だった……
~~ キョウ ~~
【Roof-top】
京太郎「……」
全てをひっくり返すような変化だ
生まれ変わるほどの……
しかし俺はその資質に欠けていた
優希「……」
まこ「……」
久「……」
女の子目当てで入った麻雀部では、初心者ゆえにカモられ
手を出すことなど出来ず、雑用としてこき使われる毎日
そして今日、【大会】への出場を賭けての麻雀も……
京太郎「(持ち点が……あと少し)」チャリッ
連敗――
追い詰められた
京太郎「くっ……」
これまでずっと4位……流れに乗れずに点棒が減るのみ
その度に胸が締め付けられる
久「さぁ、須賀君の番よ」
京太郎「……」
これが尽きたら、俺はこれから先ずっと
雑用としてみんなを応援しなければならない
麻雀をやることもなく……ただみんなを影から見守るだけ
半年前、麻雀部に入った
その日から俺の運命は決まっていたのかもしれない
京太郎「(なんとか凌いで次の半荘へ)」チャラッ
もう振れない
京太郎「(大丈夫、これならきっと通る)」タンッ
久「ロン」
京太郎「!?」
あぁ……終わった
何もかも
京太郎「(ミスらしいミスはしてないのに……どうして?)」ギリッ
俺は確かに初心者だ
だけど、運が絡む麻雀でここまで一方的なのか?
これじゃあまるで、一方的なリンチじゃないか
3: 2015/01/11(日) 19:10:34.63 ID:sQ+gYLVio
優希「……諦めるじぇ」
まこ「京太郎……もうやめるんじゃ」
久「須賀君、アナタがどうしても必要なの。みんなの為にもお願い……」
そんなこと理解はしている
しかし、だからと言って納得はできない
京太郎「(俺は……男だ)」グッ
俺には分かる
もしここで【大会】に出ず、そのままズルズルと過ごしても何も変わらない
俺は負け犬のまま、ずっと……ずっと
京太郎「(この半荘でラスをくうとオワリ。次の半荘へ進めない)」
なんとか3位!
……頼む!
京太郎「っ!」カッ
カシッ
京太郎「(ダメだ、来ない)」
どれだけ祈っても、掴むのはゴミのような手
泣きたくなるような配牌
変わらない運命
4: 2015/01/11(日) 19:11:06.10 ID:sQ+gYLVio
京太郎「(誰か、変えてくれ……!)」
誰でもいい……!
このよどんだ空気、流れを!
変えてくれっ!
京太郎「(誰でもいい……!)」
神でも……!
魔でも!
ギィッ……
京太郎「……?」
それは不思議な感覚だった
?「……へぇ」
そいつが部屋に入った瞬間――
俺の世界はガラリと変わった
?「……」
その男――
神か、悪魔か
5: 2015/01/11(日) 19:11:33.95 ID:sQ+gYLVio
【??年前 某所】
「こだわらねぇだろ……どうせお前は……」
誰だ?
「氏んだ後の墓のことなど……なあ…」
氏んだ?
オレが……?
そうか、氏んだのか
「許してやってくれや……みんな……」
クク……なんてことはねぇ
「好きなんだ…お前が…!」
氏んだ奴に価値なんてねぇんだ
「赤木は笑っているだろう――」
6: 2015/01/11(日) 19:12:00.09 ID:sQ+gYLVio
【現在より数日前 某所】
やせがまんばかりでもう半年過ぎた
何が変わったか、誰を愛したか
頭の中で今、夢が崩れだした
京太郎「……何とかなれ」
俺の名前は須賀京太郎
清澄高校二年、麻雀部員
俺の在籍する麻雀部は全国大会で優勝し、今や我が校の誇りとまで言われている
京太郎「この俺を除けば……ね」
全国大会での、女子団体戦での優勝
それは……俺たちの環境を大きく揺るがした
京太郎「……」
個人戦でも活躍した咲や和は勿論
俺を除く五人は、我が校の英雄となった
むしろ、県の象徴と言ってもいい
京太郎「……」ギリッ
一方の俺は惨め極まりない結果
個人戦初戦敗退、それも……県予選でだ
感じるのは周囲からの失望と、冷やかな視線
元々女子の中に一人だけ居たこともあり、風当たりも強かった
俺をよく知らない連中は陰口を叩き、陰湿な真似もしてくる
ただでさえ美少女の五人、それなりに狂信的な奴も多いわけだ
そんな連中からしたら、俺は目の上のタンコブ
アイドルの周りでチラつく男の影など……無い方がいいに決まってる
俺の存在を無くせという声は次第に大きくなり……
それはやがて、知らぬ存ぜぬで通せないレベルに膨れ上がる
学校側もそれを無視できなくなり、動き出す
こうして、提案された一つの案
清澄高校麻雀部から清澄高校【女子】麻雀部への変更
京太郎「……」
そして俺は……麻雀部をクビになった
8: 2015/01/11(日) 19:13:26.80 ID:sQ+gYLVio
京太郎「ここ、だよな?」
殺風景な住宅街を抜けた先にある、寂れた墓地
そこに【その男】の墓はあるという
俺が最後の希望を持って縋りに来た
ここが始まりの場所になるのか、それとも……
京太郎「……?」
?「……」
そこにいたのは、歳は30から40
ヘタをすればもっと行ってるかもしれない男
細身でメガネを欠けたその男は、ただ静かに立ってる
一つの墓の前で何も言わず、ただぼんやりと……視線を墓石に向けて
【赤木しげるの墓】
そう刻まれた、墓石の前でただ立っている
京太郎「(マズイな)」
人がいるとは思わなかった
これでは、俺の目的が果たせない
京太郎「(早く帰ってくれよ……)」
そんな想いを浮かべながら、どう暇を潰そうかと思案した
その時だった
?「君、この男に用があるのか?」
京太郎「えっ?」ドキッ
声をかけられた
もしかして、バレてる?
?「……まだ子供か」
京太郎「ど、どうも……」ペコリ
?「見なよ、この人の墓」スッ
京太郎「え?」
?「墓石の欠片をガリガリ削られて、今じゃこんなに小さくなってる」
京太郎「そ、そうですね」
?「しかしそれも数年前までの話。今じゃ、誰もこの人の墓を削ろうなんてしない」
京太郎「……」
そう
俺がここに来た目的
それは、この【赤木しげるの墓】を削ること
その墓石の欠片を手に入れたかったのだ
?「……君は、コレが欲しいのかい?」
京太郎「……はい」
?「そうか。素直な奴だな」ハハハ
9: 2015/01/11(日) 19:14:00.03 ID:sQ+gYLVio
一体この人は誰なんだろうか?
赤木しげるの知り合いなのか、それともただの変人か
もしくは俺と同じように力を求めてきた人間なのか?
?「君、麻雀をやってるか?」
京太郎「っ!?」
?「その反応、図星だね。子供だからそんなことだろうと思ったけど」
京太郎「……」
?「……君は、どうしてここに来た?」
京太郎「そ、それは……」
?「強くなりたい?」
京太郎「……」コクッ
?「……そうか、強くなりたいか」トオイメ
男はひとしきり俺を見回した後、静かにため息を吐いた
そして、この世の終わりのような顔で呟く
?「やめておいた方がいい。ろくなことにならないから」
京太郎「なっ!?」
?「俺も長くこの世界にいる。分かるんだよ、そういうの」
見込みがない
そう言いたいのだろうか?
だとしたら、なんて腹の立つ言葉なんだ
京太郎「なんでそんなことを、アンタに言われなきゃいけないんだ!」
?「……ごもっとも。だからこれはただの忠告」ザッ
砂利を踏み鳴らし、墓石を一瞥もせずに男は歩き出す
その背中にはどこか、哀愁が感じられる
京太郎「あ、あのっ!」
?「俺はひろゆき。井川ひろゆきだ」
京太郎「ひ、ひろゆき?」
ひろゆき「……なんでですか?」ボソッ
ひろゆきさんは呟く
それは、もう既にこの世にいない人に向けてのものなのか
それとも
ひろゆき「どうして、今さら……」
その先の言葉は聞き取れなかった
だけど、俺は直感的に察することができた
あの人が言いたかったこと、それは――
「化けて出てくるんですか?」
その真意はまるで分からなかったけど
10: 2015/01/11(日) 19:14:43.10 ID:sQ+gYLVio
ひろゆきさんがいなくなってから数分
俺はひろゆきさんと同じように、赤木しげるの墓を眺めていた
京太郎「……」
さっき言ったようにこの墓石は人によって削られている
というのも、この赤木しげるが生前【神域の男】と呼ばれ……恐れられた博徒だったかららしい
ようは赤木しげるの運にあやかりたい連中が、この墓石の欠片をお守りとするわけだ
そして俺も、そんな連中の一人
なんとしても強くなりたい、そんな一心からこんな場所にまで来てしまった
ただの大馬鹿者だ
京太郎「……赤木しげる」
果たしてこの男は一体何者だったのだろうか
何を見て、何を感じ、何を想い、何を目指していたのか
俺のような凡才が、到底追いつくことのない頂きに到達した男
神と呼ばれた男は――
俺と何が違ったのだろう?
京太郎「それを知りたい。だから――」グッ
持ってきたカナヅチを構える
犯罪だってのは分かってる、だがそれでもいい
どうせ今の俺に失うものなんて無いのだから
だから――
京太郎「……」ググググッ
カラァーンッ
京太郎「……」ガクッ
ダメだ、やれない
京太郎「やっぱ、ダメだ」
どれだけ決意を固めても、手が思うように動かない
決して怯えているわけじゃないのに
どうしても躊躇してしまう
京太郎「俺にその資格があるのか?」
この男の力に縋る、その資格
そして、もう一つ
京太郎「俺は……こんな形で勝ちたいのか?」
自分の実力でどうにもならなくて、逃げ出して
泣きたい想いを抑えて俺は今ここにいる
その最後の選択がここで、本当にいいのか?
11: 2015/01/11(日) 19:15:11.97 ID:sQ+gYLVio
京太郎「……」
そっと、赤木しげるの墓に触れる
アンタがどんだけ凄かったのか、強かったのか
それはもう分からないかもしれない
でも、それでも俺は――
京太郎「俺のチカラで、やってみます」
もうすぐ、俺を待ち受けている試合
勝ち目なんて全く無い、ただの消化試合だ
京太郎「でも、それでも」ガンッ
思い切り赤木しげるの墓を殴りつける
拳が裂け、血が噴き出し……俺の血が赤木しげるの墓を染めていく
それでも、力は緩めない
京太郎「俺は!! 俺の力を信じる!!」
罰当たりだとか、不謹慎だとかどうでもよかった
ただ楽になりたかった
ここで宣言しても何も変わらないのに
ただ認めて欲しかった
目の前の男に、挑む資格があるということを
京太郎「……はぁっ、はぁっ」
パキッ
京太郎「……え?」
パキキキッ……
パキィィンッ……!!
カランッカランッ!
京太郎「あっ……」
それは、偶然なのか必然なのか
京太郎「欠けた……?」
たまたま古くなって弱っていた?
いや、違う
これは――赤木しげるからの餞別だ
京太郎「……赤木さん」スッ
俺の血で染まった、赤木しげるの墓石の欠片
……そこまで言うなら
京太郎「貰っていってやるよ」
俺が、戦う姿をアンタに見ていてもらう
俺が強くなる姿を、アンタに見せる
京太郎「……ありがとうございましたっ!!」ペコッ
なぁ、赤木さん
アンタは今――
どんな顔を、してるんだ?
12: 2015/01/11(日) 19:15:37.79 ID:sQ+gYLVio
こうして、赤木しげるの墓参りを終えた俺は長野へと戻っていた
なんてことはない
休日を抜ければ平日が戻ってくる
俺にとって、苦痛でしかない毎日
学校での生活に……
【翌日 清澄高校】
がやっ……
がやっ……
京太郎「……」スーッ ハーッ
ガラガラッ
京太郎「おはよう」
シーン
京太郎「……」スタスタ
ヒソ……
ヒソ……
京太郎「……」
俺が麻雀部を辞めて一週間近く
既に以前ほどの風当たりは無くなったが、それでも妙な噂は尽きない
というのも、近々予定されている【大会】に
俺がエントリーしようとしているからだ
その大会というのが……
ダァンッ!!
一同「!?」ビクッ
ざわっ……
ざわっ……
男A「おいっ、須賀京太郎はいるか!?」ガンガンッ
男B「このクラスなんだろぉ!?」ガラガシャァン
男C「出てこいやぁ!!」
京太郎「……ここだよ」スッ
教室に余計な被害が出ないように名乗りでる
相手は三人……逃げてもすぐに捕まるだろうな
男A「おぉーいたな。須賀京太郎」
男B「麻雀部のお荷物君、いや、荷物持ちだったか?」ククク
男C「どっちにしても、”元” だがなぁ?」ヒャヒャヒャ
京太郎「……」ハァ
男A「おいおい、テメェよぉ? 辞めたくせにまだ部室に入り浸ってるんだって?」
男C「女子部に男が入るなんて、おかしぃだろぉ?」
男B「こいつ女みたいな顔してっからなぁ……実はタマ無しなんじゃねぇか?」
京太郎「……」
13: 2015/01/11(日) 19:16:24.32 ID:sQ+gYLVio
京太郎「……退部の手続きをしに行っただけだ」
男A「ほぉー? ならいいんだけどよぉ」
男C「じゃあなんで、お前が【大会】に出るって噂になってんだ?」
京太郎「……」
男A「質問してんだろうがっ!?」ブンッ
バキッ
京太郎「っ!?」ツ……ツツ……
男B「おい、顔はやめろ。バレたら退学だぜ」
男A「ふん、かまうこたぁねえよ」
京太郎「……」
男C「だいいちみろ、このふてぶてしい態度」
男A「どうせ教師の誰かが止めにくると、たかをくくってやがるのさ」
京太郎「……」
男A「残念だがその計算はきかねえよ。なぜなら俺らのバックには……」
ガラガラッ
京太郎「!?」
教師A「……なんだ、何してる?」
男A「実は須賀君が絡んで来まして」
男C「俺たちに殴りかかろうとしてきたんで、つい反撃しちゃったんですよ」
チ、チガッ! スガハワルクナイ!
ソウダソウダ! ナニモシテナイヨ!
教師A「静かにしろ!!」ダンッ
シーンッ……
教師A「またお前か? ん? 須賀?」ツカツカ
京太郎「……」ジロッ
教師A「なんだその反抗的な目は……?」
京太郎「……すみません」
教師A「須賀、廊下に立ってろ。放課後は反省文を10枚書け、いいな?」
京太郎「……」コクッ
男ABC「「「……」」」ニヤリ
教師A「ふんっ。貴様のような生徒、早くやめればいいんだ」
ア、アイツッ! ヤメロヨメダ!
クソォー…… ミヤナガサンガイレバ……
ナンデコンナトキニイナインダヨ!
教師A「静かにしろと言っただろ!! 騒いだ奴も廊下に立たせるぞ!!」
……シーン
教師A「では出席を取る。須賀、早く出て行け」
京太郎「……」スタスタ
ガラガラガラッ
14: 2015/01/11(日) 19:16:58.23 ID:sQ+gYLVio
【清澄高校 一年教室前 廊下】
京太郎「……」
普段から毎日こうだというわけじゃない
咲や部長達が居る前では、あいつらも表立っての行動はできないわけだ
だが今は違う
咲達、清澄高校【女子】麻雀部の皆は……旅行に行っている
学校側から渡された旅行券五枚
一週間、課外授業扱いで好きに旅行してきていいらしい
全国大会優勝への、保護者会からの贈り物だとかなんとか
みんな、素直に喜んでたな……
確か、他の学校の人とも行くとか言ってったっけ?
龍門渕の部長が張り切ってチャーター機を用意したお陰で
風越、鶴賀も合同で参加したらしい
きっと、楽しい旅行を満喫してるに違いない
京太郎「ま……俺には、当然何も無いんだけどさ」
それどころか、今まで咲達の目を忍んでしか行えなかった嫌がらせが激化
当たり前のように生徒にも教師にも目をつけられる毎日
京太郎「……」
正直、俺自身分からなかった
麻雀なんて元々そんなに好きじゃないし、さっさと見限ればいい
そんで普通の高校生活に戻って
咲達を遠くから応援して……学校を卒業して
普通に生きればいい
大学を出て、そこそこの会社に就職して……いつかは結婚して
子供が出来て、子供を育てて行く
そんな生活を夢見ればいい
京太郎「でも……逃げたくない」
意地、なのかどうか
そんなことも分からねぇ
でも、きっとここで背を向けたら……俺はきっと氏んじまうから
ずっと氏んだまま、これから先生きて行かなきゃいけないと思うから
京太郎「だから俺は、大会に――」
15: 2015/01/11(日) 19:17:24.16 ID:sQ+gYLVio
俺が出場を決意した【大会】
それはプロもアマも男女も関係なく――
ただ、最強の雀士を決めるという大会だ
以前行われたことがあるものに【プロアマ親善試合】というものがあるが
規模はまるで違う
全国大会に出場した高校から男女混合の代表者二名が出場
プロの実業団からも代表者が二名選ばれて出場する
いわば各高校の最強と、プロ実業団の最強選手が出場し
競い合うお祭りのようなものだ
京太郎「当然、清澄高校の枠は2つ」
選ばれるのは二人
当然あの五人の中から選ばれるだろう
学校の面子もあるし、全国の記者や視聴者が咲達に期待している
プロを打ち負かすのではないかと、ワクワクしているのだ
だからこそ、その枠は二つとも揺るぎないものとなる
京太郎「……」
部長は言った
~~久「咲と和を出す。それが学校の総意よ」~~
俺も同じ気持ちだ
最も強い二人が出れば、長野の代表として鼻が高いし
必ずいい結果を残すだろう
だからこそ、俺はこう返した
~~京太郎「部長、俺がその二人に勝てば――代表になってもいいですか?」~~
16: 2015/01/11(日) 19:18:11.44 ID:sQ+gYLVio
部長は困惑した顔で俺を見つめていた
言いたいことは分かる
無理だと、不可能だと
その目が告げている
でも俺は引き下がらなかった
そしてようやく、一つの条件を取り付けた
~~~~
久「まず、私とまこと優希。この三人に勝てたら考えてあげるわ」
京太郎「ほ、本当ですか!?」
久「でもね、須賀君。アナタも知ってる通り……今私たちは英雄になってる」
京太郎「……」
久「それを差し置いて須賀君が出場になれば、きっと今以上に風当たりは強くなるわよ?」
京太郎「分かってます」
久「……退部届けだって、私そんなの受け取りたくないわよ」
京太郎「……なら、染谷先輩が部長になってからでも」
久「そういうことじゃないでしょ!!!」
京太郎「……」
久「いい? 例えどんなに辛くても、周りが敵だらけでも……須賀君はここに必要なの」
京太郎「……」
久「咲も和も優希も、まこも……みんな力を出し切れなくなる」
京太郎「……」
久「だから須賀君。もし、私達に負けたら――」
~~~~
京太郎「マネージャーとして入部しろ、か」
今までと何も変わらない
咲達の為に裏方として頑張って、応援して
それで、みんなが活躍するのを見守る
変わったことはただ一つ
俺の未来が――枯れるだけ
京太郎「……なぁ、咲」
お前は今、どこにいる?
俺と過ごしてきたお前は今、どこに立とうとしてるんだ?
なぁ、咲
俺は――お前に並べるか?
?「……」スゥーッ
17: 2015/01/11(日) 19:18:38.72 ID:sQ+gYLVio
【都内 居酒屋】
ガヤガヤ
?「うぅっ……もっとビールくらひゃい」ヒック
ひろゆき「飲みすぎだよ……」
?「らって、井川さんが冷らいから……」ヒック
ひろゆき「……全く。麻雀を打ってる時とは大違いだな」
?「ぶーっ、いいやじゃないれすか! 麻雀なんへ……」ブツブツ
ひろゆき「なぁ俺さ。……今でも……時々思うんだ」
?「へっ?」
ひろゆき「……若い頃のあの人はどれほど強くて……化物だったのかと」
?「……あの人って、赤木しげるのことですか?」
ひろゆき「ああ、俺が知る限り――あの人より強い人は存在しない」
チラリと、旧知の顔が思い浮かんだがそれはいい
あの人もきっと、同じことを言うだろうから
?「ねぇ、井川さん」
ひろゆき「なんだ? 結婚ならしないよ」
?「違います。あの、その赤木って人と私……どっちが強いのかなって」
ひろゆき「あ? そうだな……最近の若いのは変なオカルトめいた力を使うしな」ウーン
?「わ、若いっ……えへへっ」ニマニマ
ひろゆき「……でもな、そういうのじゃないんだよ」
?「え?」キョトン
ひろゆき「あの人の強さはもっとこう……別にあるというかさ」グイッ
ゴクゴクッ
ひろゆき「そこんとこはまだ俺にも……分からない」
?「ふーん……。でも、井川さんがそんな話するの珍しいですね」
ひろゆき「……」
?「普段は聞いても黙ってるじゃないですか?」
ひろゆき「……それはだな。今朝、変な子供を見たんだ」
?「子供?」
ひろゆき「てんで弱そうで、情けなくて。才能の欠片もないような奴」
?「酷い言いよう……」
ひろゆき「でもな、あの人がそいつを選んだんだ」ギリッ
?「???」
ひろゆき「……分かりませんよ、赤木さん」グスッ
なんで俺じゃ――ダメなんですか?
?「……」
18: 2015/01/11(日) 19:19:09.29 ID:sQ+gYLVio
【数日後 Roof-top】
部長と話し合った結果、対局の場所はこことなった
部室に俺が入ればまた問題になるし、ここならその心配も減る
それに――この試合のことは咲と和には内緒だから
もし二人が知れば、どちらかが辞退する可能性がある
それは、出来れば避けたいこと だ
優希「……」
まこ「事情は聞いちょる」
久「……私達三人が相手よ」
京太郎「……はい」
そして――いよいよ決戦
相手は俺のよく知る三人だ
優希「京太郎……私達が勝てば、辞めないんだよな?」
京太郎「ああ、約束だからな」
優希「……」
優希の奴はきっと分かってる
俺が部活に残ることになれば、今以上に苦しい日々が待っているかもしれない
それでも、俺にいて欲しいのか?
そんなに俺のことを想ってくれてるのか、優希?
京太郎「……ありがとな」ポンッ
優希「うっ、うぁっ……うあぁぁあぁっ、ごめん……ごめんなさいぃ……」ポロポロ
まこ「……京太郎、お前が苦しんどるのに気づけんで――すまん」
京太郎「いえ、いいんですよ。俺が望んだことですから」
まこ「じゃが……こんな結末!」ギリッ
久「まこ、よしなさい。須賀君の決めたことよ」
まこ「っ!! そんな言葉、口にする資格があると思うちょるんか!?」
久「……そうね。私が言うのは筋違いだわ」ウツムキ
まこ「……くっ!」
みんな、苦しんでる
誰も悪くないのに、みんな自分の想いのままに歩んだだけなのに
それもこれも、全部俺のせいなんだ
俺が弱いから
俺が何もできないから
だから――
京太郎「打ちましょう」
強くなるしかない
19: 2015/01/11(日) 19:19:39.51 ID:sQ+gYLVio
俺が望んだもの……
それは変化だった……
【Roof-top】
京太郎「……」
全てをひっくり返すような変化だ
生まれ変わるほどの……
しかし俺はその資質に欠けていた
優希「……」
まこ「……」
久「……」
女の子目当てで入った麻雀部では、初心者ゆえにカモられ
手を出すことなど出来ず、雑用としてこき使われる毎日
そして今日、【大会】への出場を賭けての麻雀も……
京太郎「(持ち点が……あと少し)」チャリッ
連敗――
追い詰められた
京太郎「くっ……」
これまでずっと4位……流れに乗れずに点棒が減るのみ
その度に胸が締め付けられる
久「さぁ、須賀君の番よ」
京太郎「……」
これが尽きたら、俺はこれから先ずっと
雑用としてみんなを応援しなければならない
麻雀をやることもなく……ただみんなを影から見守るだけ
半年前、麻雀部に入った
その日から俺の運命は決まっていたのかもしれない
京太郎「(なんとか凌いで次の半荘へ)」チャラッ
もう振れない
京太郎「(大丈夫、これならきっと通る)」タンッ
久「ロン」
京太郎「!?」
あぁ……終わった
何もかも
京太郎「(ミスらしいミスはしてないのに……どうして?)」ギリッ
俺は確かに初心者だ
だけど、運が絡む麻雀でここまで一方的なのか?
これじゃあまるで、一方的なリンチじゃないか
20: 2015/01/11(日) 19:20:30.86 ID:sQ+gYLVio
優希「……諦めるじぇ」
まこ「京太郎……もう辞めるんじゃ」
久「須賀君、アナタがどうしても必要なの。みんなの為にもお願い……」
そんなこと、理解はしている
しかし、だからと言って納得はできない
京太郎「(俺は……男だ)」グッ
俺には分かる
もしここで【大会】に出ず、そのままズルズルと過ごしても何も変わらない
俺は負け犬のまま、ずっと……ずっと
京太郎「(この半荘でラスをくうとオワリ。次の半荘へ進めない)」
なんとか3位!
……頼む!
京太郎「っ!」カッ
カシッ
京太郎「(ダメだ、来ない)」
どれだけ祈っても、掴むのはゴミのような手
泣きたくなるような配牌
変わらない運命
21: 2015/01/11(日) 19:21:03.06 ID:sQ+gYLVio
京太郎「(誰か、変えてくれ……!)」
誰でもいい……!
このよどんだ空気、流れを!
変えてくれっ!
京太郎「(誰でもいい……!)」
神でも……!
魔でも!
ギィッ……
京太郎「……?」
それは不思議な感覚だった
?「……へぇ」
そいつが部屋に入った瞬間――
俺の世界はガラリと変わった
?「……」
その男――
神か、悪魔か
23: 2015/01/11(日) 19:23:14.78 ID:sQ+gYLVio
リメイク作業がまだ途中なので一度切ります
前回の一更新分ずつくらい書き直し貯めたら、また随時投下するので
【主な修正点】
・ひろゆきの口調
・行間やスペースの取りすぎていた部分を圧縮
・誤字脱字
・前回の闘牌でミスがあった部分など
25: 2015/01/11(日) 19:34:09.21 ID:sQ+gYLVio
その男はまるで幽鬼のようにふらりと現れた
店内にいる、他の一般客とはまるで違う空気
歳は十代後半から二十代前半と言ったところか
見た目に関してはなんてことはない、どこにでもいそうな男
だが、それなのに俺は――
その男の眼差し――一挙手一投足に、目を奪われた
?「クク……」ツカツカ
歩いてくる
対局中のどの卓にも目もくれず、ただまっすぐ俺達の元へ
京太郎「(一体誰なんだ、あの人――?)」
染谷先輩の知り合いか?
それとも部長の?
頭の中をぐるぐると、色んなことが巡り回る
しかし、誰もその人を見ようとしない
こんなに近づいてきているというのに、誰も意識を向けようとしない
京太郎「……?」
?「……」ドサッ
男は何も言わず、俺の後ろの椅子に座る
どうやら、俺の配牌を見ているようだ
京太郎「??」ガバッ
振り向くと目線が合う
男は何も表情を浮かべず、ただこちらを見ているだけ
一体――何が目当てなんだ?
久「……須賀君?」
京太郎「えっ?」
久「対局中によそ見しないで。それに、椅子なんか見てどうするの?」
京太郎「???」
椅子? いやいや、こんな見られてたら集中できないだろ普通!
26: 2015/01/11(日) 19:34:35.10 ID:sQ+gYLVio
まこ「少し、疲れとるんじゃろ」
優希「こんなに京太郎と打つのは初めてだじょ……」
京太郎「……?」
もしかして、みんな後ろの人に気づいてないのか?
こんな人に見られながら打つ俺の身にもなって欲しいんだが……
久「そうね、今思えば須賀君と打つのなんて……どれくらいぶりかしら?」
まこ「……」
京太郎「……」
だが、いいところもあった
あの張り詰めた空気が少しだけ緩和されたような気がする
勝ちを確信しているのもあるのか、あきらかに勝負の熱が引いている
京太郎「(変わるかもしれない、流れが――!)」グッ
そうだ
まだ負けると決まったわけじゃない!
ここを凌いで、次の半荘から連続トップを取れば――
収支で一位になれば問題無い
まだ俺の点棒は――残ってる
?「……」
~~~~
そして、南四局の八巡目
とうとう、俺にもチャンスが来る
235p 123m 12399s 中中
ツモ中
京太郎「(きたっ!)」
5pを切って1p、4p待ちにする
高めの1pが出ればドラを絡めてハネ満まである
逆転トップも可能な手――
京太郎「……」ググッ
久「……」
まこ「……」
この時、京太郎にとっては生涯において初めての鬼気迫る戦いであった
それでも、その戦いの中で一番の決断を迫られたのはきっと――
京太郎「(2p切りか5p切りか……)」
この決断に他ならない
27: 2015/01/11(日) 19:35:01.96 ID:sQ+gYLVio
5p切りしたいのはヤマヤマだが問題は久のリーチ
久の河にある現物は
西北2p3m1s5m9p6s
5pはどこかきな臭く感じる
一方で2pなら現物だし、安全だ
京太郎「(中のみだけの安手……それでも)」
しかたがない……
京太郎「(振ってしまえばそこで全て終わっちまう……無理はできねぇ)」
第一、テンパイにしておけば流局狙いもできる
一旦ここは凌いで、次のチャンスを――
京太郎「……」つ2p
悩む京太郎、しかし掴んだのは現物の2p
この時点で京太郎は既に、戦いにおいて最も重要な牙を抜かれていた
京太郎「(もう、これしか――)」スッ
いよいよ持って、その一打を放とうと腕を上げた
その時だった
?「氏ねば助かるのに……」
京太郎「え?」
声がした
耳に心地よく残る、それでいてどこか不思議な冷たさを感じる声
振り返ると、先ほどの男が京太郎をじっと見つめていた
28: 2015/01/11(日) 19:35:49.08 ID:sQ+gYLVio
京太郎「分かるんですか麻雀?」
?「……」
京太郎「……」
?「昔、そんなモノをよく知っていたような気がする」
男は遠い過去を思い返すようにそう呟くと、そのまま続ける
?「ただ……今気配が氏んでいた」
京太郎「気配……?」
?「背中に勝とうという強さがない。ただ助かろうとしている」
京太郎「そんな、こと……」
そんなことない、と言い返しそうになって言葉が濁る
だって、本当にその通りだったから
?「お前はただ怯えている」ニヤッ
京太郎「(コイツ!)」ギリッ
なんなんだ急に、後ろから好き勝手言いやがって!!
お前に何が分かるんだ、ここで負けたら終わりなんだ!
負けてしまえば俺は――!!
京太郎「(無視だ、無視)」ブンブン
久「??」
まこ「……ついにおかしくなったか、京太郎」ギリッ
優希「うぅっ……」グスッ
俺は俺のやり方でやる
そうじゃなきゃ、意味が無いだろ!!
京太郎「(だから俺は――!!)」つ2p プルプル
俺は……
京太郎「……」スッ
?「……」ジッ
29: 2015/01/11(日) 19:36:16.15 ID:sQ+gYLVio
京太郎「……ああ、そうだ」
?「……?」
京太郎「確かに俺は怯えてた。こんなんじゃ、いつまで立っても追いつけない」スッ
久「須賀君……?」
京太郎「(俺は今、戦ってるんだ。相手を倒すという、目的を持って!)」
なのに、闇が怖くてどうする?
相手が怖くてどうする?
足踏みしてるだけじゃ――
京太郎「(進まないっ!!)」つ5p
どうせ氏ぬなら
強く打って……!!
京太郎「(氏ねっ!)」ダァンッ!!!!
5p
久「!?」
まこ「!!?」
優希「!?!?」
京太郎「……」
久「……くっ」つツモ
京太郎「(通った……!)」
30: 2015/01/11(日) 19:36:58.51 ID:sQ+gYLVio
まこ「(ここで5pじゃと……?)」
その時
全くノーマークのまこが実はテンパっていた
まこの待ちは発と2p
もしも京太郎が2pで逃げていれば振り込んでいた運命のイタズラ
まこ「(惜しいのぅ……)」タンッ
優希「うぅー」タンッ
そして、その1巡を乗り越えた京太郎
そのたぐり寄せるツモは――
京太郎「……っ!?」つ中
引いたのは、四枚目の中
すかさず――京太郎は動く
京太郎「カンッ!」バララッ
久「え?」
そして京太郎が嶺上牌に手を伸ばす
久「(馬鹿、そんな苦し紛れで何が――)」
引き入れるのは、神か悪魔か
京太郎「(頼むっ……!!)」
引いたのは――
?「クク……」
京太郎「!! ツモ!!!」つ1p
久「嘘っ!?」
まこ「なっ!?」
優希「!?」
京太郎「新ドラは――」カチャッ
8s
たぐり寄せる、勝利への波
京太郎「三色同順、中、嶺上開花、門前にドラ3だから、えーっと?」
まこ「倍満じゃ」
京太郎「ば、倍満……?」
久「この半荘は……須賀君のトップね」
京太郎「!?」ガタッ
勝負の振り子はゆっくり――
京太郎へと触れ始めた
31: 2015/01/11(日) 19:37:24.45 ID:sQ+gYLVio
京太郎「俺が……トップ?」ヘナヘナ
この三人を相手にトップ
未だ四回目の半荘でようやく、一位を取れた
生き延びた――
氏なずに済んだのだ
久「少し休憩しましょ」
まこ「あ、ああ……そうじゃな」
優希「……」
ガタッ スタスタスタ
それぞれ思うところがあったのが、一度席を立つ三人
一方で京太郎は、自分を勝利へと導いた男の存在が気になっていた
京太郎「……あの?」
?「……」
先ほどから微動だにせず、京太郎を見つめる男
京太郎は少しばかり恐れを感じながらも尋ねる
京太郎「アナタは一体……?」
それは純粋な感謝の気持ちからなのか、好奇心からなのかは分からない
ただ京太郎は知りたかった
目の前の男の、底知れぬ気迫
その正体を――
?「……赤木」
京太郎「え?」
アカギ「赤木しげる……」
32: 2015/01/11(日) 19:37:53.53 ID:sQ+gYLVio
京太郎「あ、赤木しげる?」
アカギ「……」
何を馬鹿な、と京太郎は思った
なぜならその名はつい最近聞いたばかりの名だったからだ
それも氏人
数十年前に氏んだ……神域の男
その伝説の名前
京太郎「あの、冗談じゃなくて真面目に答えてください」
アカギ「冗談に聞こえるか?」
京太郎「いや、だって。その名前は――!」
アカギ「まぁいいさ。別に名前なんか」
京太郎「え?」
アカギ「好きに呼べばいい。萩原でも聖人でも。そんなもんに価値はねぇ」
京太郎「は、はぁ……でも一応、アカギさんって呼びます」
アカギ「……そうか、好きにすればいい」ゴソゴソ
そう言って男はどこからか取り出したタバコに火をつける
どうやら20歳以上のようだ
京太郎「それでアカギさん。アナタは何者なんですか?」
アカギ「……知りたいか?」
京太郎「そりゃ、まぁ」
アカギ「フフ……だがな、それは無理な相談だ」
京太郎「……え?」
アカギ「記憶がねぇーんだ。さっき目覚めてから、ここに来る以前の記憶が」
京太郎「ええっ!? それってまずいんじゃ!?」アセアセ
記憶喪失だって!?
それなら早く病院に行くべきだ!
京太郎「じゃ、じゃあ救急車呼びます!」ピッペップッ
アカギ「ハハハ……ばかだなおまえ。まだ気づかないのか?」
京太郎「へっ?」
スクッ
アカギ「フフ……オレはな」スゥーッ
京太郎「!?!?」ビクッ
アカギ「もう、氏んでんだ」ククク
京太郎「ぎゃああああああああっ!?!?」ドンガラガッシャァァン!
ざわっ……
ざわっ……
33: 2015/01/11(日) 19:38:24.65 ID:sQ+gYLVio
タッタッタ!
まこ「どうしたんじゃ!?」
京太郎「ゆ、ゆっ、幽霊が!?」ビクビク
まこ「はぁ!? 何を寝ぼけとるんじゃ?」
京太郎「だ、だってそこに、ほらっ!」ユビサシ
アカギ「フフ……」スゥーッ
まこ「……? なんもおらんぞ」
京太郎「へっ? 見えないんですか?」
久「……須賀君、もしかして私達の動揺を誘ってるの?」
京太郎「い、いや! そういうわけじゃ!」
優希「でも……対局中にもブツブツなにか言ってたじょ」ジトッ
うっ、そう言われるとそうなっちゃうのか?
いやでも! だって俺には普通に見えてるわけで!
アカギ「まぁ、諦めな。どうやらオレはお前にしか見えないらしい」
京太郎「そ、そんな……」
アカギ「……」
いきなり目の前に幽霊が現れて、俺にしか見えない?
そんなオカルトがありえるのか?
京太郎「(でも、確かにアカギさんは目の前にいる)」ゴシゴシ
声だって聞こえるし、今もこうして話している
決して妄想や幻覚なんかじゃない
俺にはハッキリ分かる
京太郎「(この人は今、ここにいる!)」
そして……さっきは俺のピンチを助けてくれた
そこに変わりはないし、幽霊だろうと恩人だ
京太郎「すいません、ちょっと疲れてたみたいです」
久「そう。残り半荘二回。頑張ってね」
まこ「ゆっくり休むとええ」
京太郎「はい」ペコッ
ゾロゾロゾロ
京太郎「……」
アカギ「へぇ、もう怖がるのはやめたのか?」
京太郎「はい。幽霊でも、アカギさんはいい人そうですし」
アカギ「フフ……的が外れてやがる。俺はそんなんじゃねぇ」ドサッ
京太郎「じゃあ……どうして?」
アカギ「……」
京太郎「どうして、俺を助けてくれたんですか?」
34: 2015/01/11(日) 19:39:09.61 ID:sQ+gYLVio
アカギ「ま……気まぐれって奴だ」
京太郎「え?」
アカギ「別にいいだろ、どんな理由だろうと」
京太郎「でも、気になりますよ」
アカギ「……人のこと気にかけてる余裕があるのか?」
京太郎「……?」
アカギ「クク……もうすぐ始まるんだろ、続き」
ガヤガヤ
まこ「そろそろ再開じゃぞ」
久「もういい?」
京太郎「あ、はいっ!」
アカギ「……」
京太郎「あの、俺もう戻りますけど……アカギさんはどうします?」
アカギ「さあな」
京太郎「もしよければ、まだそこに居てくれませんか?」
アカギ「フフ……幽霊に居て欲しいなんて、おかしな奴だなおまえ」
京太郎「見ていて欲しいんです」
アカギ「……?」
京太郎「俺……もう氏にませんから」
アカギ「ふーん。ま、やってみな」
京太郎「じゃあ、また後で」タタッ
アカギ「……」
久「それじゃあ、再開するわよ」
優希「さっきみたいなまぐれはもう無いじぇ」
まこ「(何かが違う、京太郎……一体何をしたんじゃ?)」
京太郎「さぁ……やりましょう」
のちに――
麻雀界を震撼せしめる須賀京太郎
これがそのはじまり
アカギ「……」
赤木しげるを名乗る幽霊と、一人の平凡な少年
この二人が交差する時――
京太郎「フフ……」
物語は、大きく動く
35: 2015/01/11(日) 19:50:45.29 ID:sQ+gYLVio
【都内 某所】
?「馬鹿もん!!」
ダンッ
ひろゆき「っ!? アイタタ……あまり大声出さないでください」キンキン
井川ひろゆきが京太郎と遭遇した翌日
彼は、とある旧知の麻雀プロのもとを訪ねていた
ひろゆき「謝りますから、ね? 許してください大沼さん」ペコリ
秋一郎「……」
大沼秋一郎、プロのシニアリーグで活躍する麻雀プロ
堅実な防御と、”火薬”の異名を持つ彼はプロでも指折りの強者である
かつては、あの【伝説】ともあいまみえたこともある
この日本で、あの男の名をよく知る人物の一人なのだ
秋一郎「全く、人と約束しておいて昨日は飲み歩いとったのか?」
ひろゆき「すみません、一昨日大きな勝負に勝って……それで」ズキズキ
秋一郎「それでまた【アイツ】の墓に行っておったのか?」
ひろゆき「ええ、まぁ」ポリポリ
ひろゆきは、裏での麻雀勝負に勝つと毎度のようにあの墓を訪れる
それは、報告の意味も兼ねて……あの人にどれだけ近づけたか確認する為
秋一郎「……はぁ。それはいいとしても、あの女を飲みに誘うことは無いじゃろ?」
ひろゆき「たまたま入った居酒屋で会っただけですよ。俺も酔ってましたし、つい流れで」
というより、見つかった途端に向こうから走り寄ってきたのだ
すかさずガッチリ捕まり、ズルズルと同席になってしまった
正直、なんと迷惑な話だろうか
あれで可愛くなければ、流石のひろゆきでもブチギレるだろう
秋一郎「その気が無いのに……期待させるのはやめておけ」ハァ
ひろゆき「いや、別に無いというわけでも。ただ若すぎますね」
秋一郎「抜かせ。お前も充分に若いだろうに」
ひろゆき「あ、あはは……もうガタが来ていますよ」
歳は取りたくないものだと、常々思う
ひろゆき「……」
秋一郎「それより……【あの話】考えてくれたか?」
ひろゆき「……大沼のじっさん、前にも言いましたけど」
秋一郎「お前も知ってるじゃろうが、今の男子プロは弱い」バッサリ
ひろゆき「じっさんがいるじゃないですか?」
秋一郎「もうすぐくたばる老いぼれに、何が出来ようか」
ひろゆき「……じっさん」
36: 2015/01/11(日) 19:51:37.27 ID:sQ+gYLVio
ひろゆき「前にも言いましたけど、プロなんて興味ありませんから」
秋一郎「……」
ひろゆきが頑なに拒む麻雀プ口リーグ
それにはちゃんとした理由があった
ひろゆき「大沼さんも知ってるでしょう? 男の強いのは”裏”にいるって」
そうだ、この世界での男雀士の大半が裏の世界で生きている
組の代打ちとして、勝負師として、あるいは政治家として
生きるか氏ぬかのギャンブルの炎に身を焼かれながら今を生きる
そうした無頼こそが強者
ひろゆき「じっさんには悪いですけど、おままごとじゃ俺は満足できません」
ひろゆきの目的はあくまで【あの人】に近づくこと
あの人を越えること
それなのに、命のやり取りの無いプロで戦うなんて
とてもじゃないが納得できることではなかった
秋一郎「……そうじゃな。麻雀がメジャーになってから、どこかおかしくなっちまった」
昔はこうじゃなかった
実力のある者が、しのぎをかけて戦う場であったプ口リーグ
裏では組が糸を引き、麻雀賭博が横行していた ※サッカー賭博のようなもの
秋一郎「しかし今じゃ、アイドルを作り出す場じゃ」
ひろゆき「可愛くて、カッコイイそこそこを打たせておけば人気が出ますから」
会場の入場費、グッズ販売
それだけで、賭博以上の安定した収支が得られるのだ
今やヤクザが警察に押さえつけられていることもあり、
麻雀社会は大きく変動を遂げていった
ひろゆき「最も、激戦区の女子はなかなかイイ線行ってると思います」
秋一郎「じゃろうな、あやつらは本当に強いぞ」
そういったスジに進まない女子は、純粋にプロを目指す
自然に集うのは本物の強者
男子のエセプロとは大きく違った、本物の打ち手
ひろゆき「それでも、俺から言わせれば綺麗な麻雀ですけど」
超能力頼みの闘牌など、ひろゆきにしてみればお笑いだ
そんな次元では無いのだ
あの男の闘牌は、生き方は
秋一郎「……アカギ、か」
ひろゆき「っ!!」
秋一郎「なぁひろゆき。お前も近々50になり、生前のアイツに追いつくじゃろ」
ひろゆき「……」
秋一郎「そろそろ、潮時じゃないのか?」
37: 2015/01/11(日) 19:52:51.22 ID:sQ+gYLVio
秋一郎「お前が強いのは知っておる。だからこうして誘う」
ひろゆき「……」
秋一郎「そして何より、【あの男】の強さもよぉく知っておる」
ひろゆき「……」
秋一郎「届かんよ、お前じゃ」
それは、ひろゆきが今までずっと貯め続けてきた想い
秋一郎「お前とアカギでは……」
ひろゆき「やめてください」
秋一郎「住む世界が、違う」
ひろゆき「っ!」グッ
そんなことは言われなくても分かっている
だが、ひろゆきはそれでもできるだけ近づきたいのだ
【熱い三流】でいたいのだ
あの人を越えることができず、氏を迎えるとしても
ひろゆき「もし、これを辞めたら……その時が、本当の俺の氏ですから」
秋一郎「……」
ひろゆき「……それでは、失礼します」ペコリ
秋一郎「ひろゆき、一つ聞かせてくれ」
ひろゆき「……」
秋一郎「お前、アカギの墓で何を見た?」
ひろゆき「……」
秋一郎「気づかんと思うか? ひろゆき、正直に答えろ」
ひろゆき「……アカギさんを見ました」
秋一郎「!?」
ひろゆき「とは言っても、見た目は十代から二十代の若い姿でしたけど」
秋一郎「なっ……お前、飲んでおったのか?」
ひろゆき「ええ。でも、あれは見間違いなんかじゃない」
確信があった
あれは間違いなくアカギ
赤木しげるなのだ
ひろゆき「俺、見てしまったんです」グッ
絶対に認めたくない
でも――分かってしまう
ひろゆき「赤木さんが、後継者を選ぶのを」
秋一郎「なっ……!?」
ひろゆき「今度の【大会】……きっと、面白くなりますよ」
ガチャッ バタン
秋一郎「アカギの……後継者?」
果たして、それはひろゆきの思い過ごしか……それとも
38: 2015/01/11(日) 19:53:19.43 ID:sQ+gYLVio
第二話
~~アカギ~~
【Roof-top】
久「……」
まこ「……」
優希「……」
須賀京太郎15歳――
京太郎「……」
この日の京太郎は、半年前に役を覚えたっきりで
スジの読み方も知らない、ど素人レベルだったという
京太郎「お願いします」タン
しかし実践の中で京太郎は少しずつ麻雀を理解していた
この四回の半荘で雌雄が決しなかったことが幸いし
京太郎は今、恐るべきスピードで上達を見せていた
久「ツモッ!」バラバラ
京太郎「……」
結局、五回戦目……京太郎の東場はマイナス7千2百
振込もしないが和了りもない
平凡な内容
のちに天才といわれるその才気の片鱗はまだみえない
久「(結局さっきのはただのまぐれってことね)」
まこ「(……)」
優希「じぇ……」
既に優希は精神的に追い詰められ、挙句の長期戦で疲弊している
本来の実力の半分以下も出しきれず、ただ牌を切るだけの人形と化している
つまり、この局面での敵は久とまこ
まだ躊躇のあるまこはともかく、確実に仕留めに来ている久こそ
今回京太郎が倒すべき相手となる
久「(このレベルなら、簡単に打ち取れる)」ニヤリ
さしもの久も京太郎の成長には驚いていた
しかし、対策の取れないレベルではない
全国を経験した久に取って、この程度の雀士は腐るほど見てきたのだから
久「(ごめんなさい須賀君。でも、私はみんなの為に……)」
さらに、まこや優希と違い京太郎を引き止めることに迷いがない
既に久の頭の中には、京太郎をマネージャーにすることしかなかった
まこ「……京太郎」
優希「……」
まこも優希もその結果を悟っている
だからこそ、戦う気力が起きない
これ以上氏体蹴りをして何になるというのか?
そういう諦めが二人にはあった
アカギ「……」
しかし、この男だけは違う
39: 2015/01/11(日) 19:53:54.05 ID:sQ+gYLVio
京太郎「……」
アカギ「フフ……」
勝つのは確実に目の前の男
須賀京太郎であると、確信していた
久「須賀君。もう諦めた方がいいわ」
京太郎「まだ……次がありますよ」
久「……そう。あくまで諦めないつもりなのね」
既に大差が開き、役満でも連発しない限り京太郎の勝ちは無い
なのにこの自信
久が苛立つのも無理は無かった
久「(どうしてこう、私の言うことが聞けないの?)」イライラ
久からしてみれば、飼い犬に手を噛まれるような気持ち
京太郎のことは可哀想だとは思う
だが、自分たちだってそれなりに彼のことを気遣ってきていたのだ
京太郎もそれなりにいい思いをしているし、自分だって優しく接してきた
久「……」
自分がいなくなった後、麻雀部が瓦解するのは避けなければいけない
京太郎はその要なのだ
雀力がなくても役に立てる
それだというのに、何が不満なのか?
こういう役に立つ方法もあるとなぜ認めないのか?
久「……っ」
次第に久は冷静さを失っていく
理不尽な怒りに、苛立ちを募らせていくばかりだ
京太郎「さぁ、早く打ちましょう。部長」ニッコリ
久「……ええ、そうね」
この男をねじ伏せたい
久はいつの間にか、その心を深く堕としていった……
40: 2015/01/11(日) 19:54:23.08 ID:sQ+gYLVio
そして事が起きたのは南二局――
京太郎「……」
白白発発中中西 89p 2357m
大三元の種、その対子がみっつ……!
まさに勝負手、大逆転へのその第一歩
アカギ「……」
麻雀を始めたての者でも分かる
これをモノにしなければ、逆転の道は存在しない
まこ「……」つ中
そして、ついに飛び出る一枚目の中
京太郎「……」スッ
しかし京太郎、なんとこれをスルー
常人では考えられないほどの愚行
優希「……」つ白
一枚目の白
久「……」発
さらに発すらも……
まこ「……ちっ」つ中
そして飛び出す、最後の中
だがこれも同じように、京太郎は……
京太郎「……」
黙って見送る
この局面でなぜ?
どうして?
理解できるものなど、この場にはいない
ただある人物
アカギ「クク……」
この一人を除いては
京太郎「……」
白白発発中中西 88p 2355m
結局、あれだけの手が七対子どまり……!
未来など何も無い
掴んだのは絶望の袖
逆転など、起こりえないように思われた
41: 2015/01/11(日) 19:54:53.15 ID:sQ+gYLVio
所詮初心者のままなのか
彼をよく知るものほど、こう思うだろう
だがそれは違う
京太郎は感じ取っていた
逆転への布石
京太郎「(もうそろそろ来るか?)」
時計を気にしながら、その瞬間を待ちわびる
準備は既に、京太郎の中で整っていた
久「……じゃあ次は」スッ
山も減り、残りわずかというところで事件は起きた
ガチャッ カランカラーン
久「!?」
咲「あっ、みんなここにいたんだ!」
久「さ、咲……!?」ビクッ
まこ「っ!?」
優希「……」
京太郎「……」
42: 2015/01/11(日) 19:55:20.91 ID:sQ+gYLVio
咲「あれ、京ちゃんと打ってるんですか?」
久「え、えっと。その……そうよ。たまにはいいでしょ?」
焦る久
それも無理はない
咲は何も知らないのだ
もし、こんなことが咲にバレれば、間違いなく大会を辞退する
それだけは避けなければならない
絶対に……
まこ「さ、咲こそどうしたんじゃ? 今日は休むって聞いちょったが」
咲「はい。また校長先生達に呼ばれて、和ちゃんと記者の取材を」
久「よかったわね。なにせアナタ達は長野の希望だから」アハハ
咲「も、もう部長! やめてください!」アセアセ
慌てる咲に、久たちは咄嗟に思案を巡らせる
咲は何も知らない
京太郎が迫害にあっていることすら、咲は知らないのだ
というのは、教師達も狂信的な生徒達も咲の前では大人しいからだ
媚を売り、ゴマをすり……下手に出てやり過ごす
今までそんな経験の無い咲は図らずも有頂天になる
姉との和解も済ませ、チヤホヤされる毎日
今までに経験したことの無い心地よさが咲の目を曇らせる
咲「えへへ、でも本当に毎日が慌ただしくて」ニコニコ
京太郎「……」
大事な幼馴染の苦悩など、何も知らずに
43: 2015/01/11(日) 19:56:18.83 ID:sQ+gYLVio
久「(まずい、このままじゃ……)」
折角追い詰めたのに、ここで勝負がうやむやになるのは望むところではない
まして、次に戦う時には京太郎は今よりも少しばかり手ごわくなっているだろう
何が起こるかは分からない
仕留めるのなら、今
久「……それより、続けてもいいかしら?」
まこ「え?」
優希「……」
京太郎「……ええ、いいですよ」
優希「京太郎?」
44: 2015/01/11(日) 19:56:44.54 ID:sQ+gYLVio
久「もう少しで終わりだし、よければ咲も見ていけば?」
咲「わぁ! 京ちゃんが打つのを見るの、久しぶりだね」ニコニコ
京太郎「そうか?」
機は熟す
当然だと言わんばかりに椅子に腰掛ける咲
京太郎は視線を向ける
そこにあの男の姿は無い
気が付けば、その男は――
アカギ「クク……これがお前の打ち方か?」
京太郎「……」
隣に立つその男は、京太郎の手牌を見て
静かに笑う
アカギ「……見たところ、真剣勝負だったようだが」
京太郎「……真剣勝負?」
何を馬鹿な、と京太郎は思う
元々この勝負は前提条件が成り立っていない
相手は三人とも結託し、京太郎を抑えようとしている
躊躇や戸惑いはあれど三対一の勝負なのだ
京太郎「俺は、機会があればいつかこうしようと思っていましたよ」ボソッ
つまり、元々まともな勝負ではなかったのだ
だからこそ――この一筋の希望に縋った
アカギ「フフ……」
アカギは笑った
無くしたはずの記憶の底で、くすぶるものがある
自分と真逆のような性格……そのハズなのに
根っこがどこか同じように思えるのだ
京太郎「さぁ、部長。再開しましょう」カチャッ
伏せた牌を起こす京太郎
それに釣られて、他のメンツも一斉に手を起こしていく
そして、なんら変わらない自分の手をゆっくりと眺める
そんな中、ただ一人だけ違う結末を迎える
咲「(えっ……? 嘘、でしょ……)」ゾクッ
七対子どまりのゴミ手が、今ゆっくりと――
白白白発発発中中中 888p 西
京太郎「勝負はこれからですよ」
恐るべき、変貌を遂げる
45: 2015/01/11(日) 19:57:12.16 ID:sQ+gYLVio
咲「(大三元四暗刻単騎待ち!?)」ゾクゾク
京太郎「次、誰だっけ?」
久「あ、えっと……私よ」タンッ
うまい流れ、京太郎の思惑通り
今三人は咲の存在に注意が行っている
そんな今麻雀を再開させれば、相手は動揺する
京太郎「……」タン
あれだけ大量に河から牌をすり替えているのだから、
ちょっと注意すればその異常に気づくハズ
気づかれてしまえば、ツモでの和了しか不可能になる
だからこそ、みんなの意識が戻らない今こそが絶好のチャンス
アカギ「(今は一種の思考停止状態……混迷の時)」
久「……」
早く終わらせたい焦りからか
それとも一線を超えた京太郎が引き寄せる悪運なのか
魅せられたように――吐き出してしまう
久「……」つ西
京太郎「ロン」バラッ
久「えっ……?」
京太郎の策にツキものった――!
京太郎「大三元、四暗刻単騎待ちです」
ざわ……
ざわ……
まこ「な、なんじゃと!?」ガタッ
優希「え? えっ、でもさっき……」キョトン
まこ「京太郎、そこまでして……!!」ギリッ
久「まこっ!!」
まこ「っ!?」チラッ
咲「うわぁー、京ちゃん凄いねっ!」パチパチ
京太郎「おう、サンキュ!」ニカッ
まこ「ぐっ……」
アカギ「(なるほど、ここまで計算ずくってわけだ)」
この河からのすり替えは、ただ和了ってもダメ
今のような状況でこそ、初めて通用する
咲の前で事を荒立てたくないという久達の考え
そうでもなかれば、当然のごとく無効扱い
おそらくやり直しになっていただろう
京太郎「いやぁ……俺も悪運強いっすね」ハハハ
久「……須賀、君」ギリギリ
46: 2015/01/11(日) 19:57:42.61 ID:sQ+gYLVio
咲「京ちゃん、こんなの一生に一回あるかないかだよー」アハハ
京太郎「うるせー! 俺だってやればできんだよ!」
久「……」
咲の手前、ムキになって否定することもできない
あくまでこれは【遊び】なのだ
少なくとも咲の前では、そうあらなければならない
優希「??」
まさか京太郎がイカサマをしたなどとは思わない優希
まこ「……」
気づいていても、咲の手前発言できないまこ
そしてなにより悔しいのは――
久「須賀、君。やってくれるわね……」
咲が和了の立会人となった以上、反故にはできない
数の暴力で押し切ることも不可能
まこ「部長、いいのか?」
久「……いいも悪いも無いわ。やられた方がアホなのよ」
京太郎「……」
久「でもね須賀君。一度だけにしておきなさい」
京太郎「……さぁ、なんのことでしょう」
久「まだ私はね、穏便に済ませようと思ってるのよ」
ふつふつと湧き上がる怒りを押さえ込み、久は平静を装う
久「でもね、もしまた同じようなことをしたら……」
まこ「……」
久「無理やり、言うことをきかせることもできるのよ」ボソッ
京太郎「……」
アカギ「ふーん……そいつは大変だ」
引退寸前とはいえ、学生議会長
その気になれば――物騒な生徒を動かすことも可能だ
久「……何でもアリで困るのは、そっちだと思うけど」
京太郎「……よく覚えておきますよ」ブルブル
京太郎にも恐怖はある
もしここでしくじれば、京太郎は氏を選ぶしかない
だが、それでも前を向いて進めるのはきっと――
京太郎「でも、勝つのは俺です」
アカギ「クク……」
隣にいる男のお陰なのか
それとも全く別の意思によるものか
京太郎「さぁ、続きです」
恐怖はある、恐れもある
しかし、この時既に京太郎の中にはもう――
京太郎「決着を付けましょう」
迷いは無かった
47: 2015/01/11(日) 20:01:13.41 ID:sQ+gYLVio
京太郎の起氏回生の和了の後、久の提案でほんの少しの休憩時間が用意された
泣いても笑っても最後の半荘
あと一歩まで追いついた京太郎に対し、久はある対策を練ろうとしていた
久「……」
まこ「部長、なんで止めなかったんじゃ?」
久「まこ……」
まこ「わしは、京太郎のあんな姿は見とうなかった」ギリッ
染谷まこの知る須賀京太郎は……平凡で、素朴な打ち手
だがそれでも強くなろうとする愚直さ、真摯さをまこは評価していた
それはもはや、ただ一人の後輩に向けるものではなくきっと――
まこ「なんで、ここまで追い詰める必要があるんじゃ!」
一つの、好意だったのかもしれない
久「……まこ、黙って」
まこ「っ!?」
久「私はね。みんなの為を思ってるの」
京太郎に好意を寄せる咲や優希、まこが戦えなくなる
それだけは絶対に避けるべきこと
学校中が期待しているのだ
それだけではない、この街に住む人達……長野に住むほとんどの人が思っている
プロでも活躍が期待されている咲や和
その輝かしい未来を奪うわけにはいかない
例えその為に自分の想い人が苦しもうと……
久「私自身が、鬼になっても」
まこ「……」ブルブル
久「それにね、もう遅いのよ」クスッ
あるいは既に、久は壊れているのかもしれない
一人で背負うには余りある重圧
その期待に奔走され続けた少女の運命は――
久「須賀君はもう離さないわ。ずっと……ずっとね」ポロッポロッ
まこ「……まさか?」
久「えぇ……次で終わりよ。絶対に」 つ 携帯
既にねじ曲がってしまっているのだから
48: 2015/01/11(日) 20:02:05.24 ID:sQ+gYLVio
久とまこが話し合うその陰で、咲と優希が談笑している
もっとも、本当のことを打ち明けるわけにはいかないので
優希は現時点で、咲の見張り役にすぎないのである
優希「うぅ、京太郎のくせに……」
咲「優希ちゃん、次は頑張ってね」
優希「う、うん……」
そして一方の京太郎は、アカギとともに卓で再開を待っていた
椅子に座り、ただ時計の針の音に身を委ねながら
怯えているのだ
京太郎「……」ガタガタ
やってしまった
圧倒的な負けを取り返す為のイカサマ
部長達を本当に敵に回す、最低の行為
京太郎「(お、俺は……)」ガクガク
アカギ「フフ……おかしな奴だ」
京太郎「アカギさん……?」
アカギ「自分でイカサマやって、顔を赤くしたり青くしたり……」
京太郎「……」
アカギ「京太郎」
京太郎「は、はい」
アカギ「……あのおさげの女。何か特別なのか?」
京太郎「え?」
アカギの視線の先
まこと話し合う久が、何やら不敵な笑みを浮かべている
京太郎「特別も何も、強いですよ。全国大会でも大活躍で……」
アカギ「クク……ばか。俺が聞きたいのはそんなことじゃねぇよ」
京太郎「へっ?」
アカギ「俺の見立てじゃ、このまま行けばおまえの勝ちだ」
京太郎「!?」
アカギはさも当然だと言わんばかりに京太郎を見る
しかし、当然ながら京太郎はその言葉を信じることができない
49: 2015/01/11(日) 20:02:31.78 ID:sQ+gYLVio
アカギ「奴らは目が曇ってる」ククク
京太郎「そんな、こと……」
アカギ「あの女、お前に脅しをかけただろ?」
京太郎「!?」
アカギ「自信が無いのさ、心の奥底でどこかお前に負けるビジョンが見えている」ククク
京太郎「あの、部長が……?」
アカギ「所詮アイツは、多額の金や生命を賭けた勝負をしたことがない」
そんな中、一方的に圧力をかけて勝とうとする
ハンデを得て、優位になっていると勘違いしているのだ
そんな脅しは、本当に追い詰められた者にはなんの逆境にもならないというのに
むしろ……闘志に火をつけるだけだ
アカギ「慢心した奴ほど脆いものはない。クク……ハダカの奴の麻雀は児戯に近いのさ」
京太郎「部長の……ハダカ?」モンモン
アカギ「……」
京太郎「はっ!? いやいや、そういう意味じゃないってのは分かってます!」アセアセ
アカギ「フフ……お前も好きなんだな、そういうの」
京太郎「いえ、まぁ。人並みには」ポリポリ
アカギ「とにかく、残りの半荘でお前がトップになるのは間違いない」
京太郎「……」
アカギ「だが気になるのは、あのおさげの妙な自信」
まだ勝負は分からないというのに、絶対に勝てるという確信
負けるハズが無いという自信があの女にはある
アカギ「何か隠してるぜ、あの女……」
ざわ……
ざわ……
50: 2015/01/11(日) 20:03:20.56 ID:sQ+gYLVio
京太郎「……」
確かに久は強い
まこも優希も普段の京太郎ならまるで相手にならないだろう
だが、今は違う
完全に勝負の流れが京太郎に来ている
戦意を削がれた優希とまこを使ったとしても、久が逃げ切ることは容易ではない
アカギ「鬼が出るか蛇が出るか……ククク」
アカギ「おそらく、今頃隠し玉を用意してるハズだ」
この、一見支離滅裂なアカギの予想だが……実は正解
京太郎「……」
京太郎はすぐに思い知ることになる
竹井久がどれほど自分に執着しているのか、そして――
久「えぇ、そうよ。すぐに来て欲しいの」
?『構わないが……本当にいいのか?』
久「勿論。それじゃあお願いね」
?『ああ、分かったよ』
どんな手段を用いても、自分を手に入れようとしていることに
久「待ってるわよ、靖子」
靖子『……構わないさ』
戦いは、いよいよ最後の半荘へともつれ込む
52: 2015/01/11(日) 20:12:57.97 ID:sQ+gYLVio
勝負再開――
京太郎「ではそろそろ」
久「……ええ、そうね」
まこ「……」
優希「……」
久の出した休憩の提案から十数分
ようやく、対局を再開することとなった
咲「京ちゃん、頑張ってねー」フリフリ
京太郎「……ああ」
アカギ「クク……」
京太郎の気がかりはアカギの言葉
久の隠し玉、その一つだけ
京太郎「(なんだか分からねーけど、今は普通に打つだけだ)」
流れは京太郎に来ている
ならば、隠し玉とやら届く前に差を開いておけばいい
京太郎「(負けられない)」タン
久「……」
東一局
京太郎の思惑通り、序盤を制したのは京太郎
まこ「……」タン
優希「……」タン
京太郎「……来た! ツモ!」タンッ
バラバラッ
久「……くっ」
いくら三人が慎重に打とうと、ツキは京太郎の味方
次々と有効牌を引き寄せて、ツモ和了してしまう
久「(勢いが完全に奪われた……このままじゃ)」
未だ五回の半荘で収支プラスとはいえ、このままでは暗雲立ち込める
三人で結託しようにも、優希やまこも既に戦意を失いつつあるのだから
久「ふぅ……困ったわね」パタン
八方塞がり
一度日を改めればまた違った結果だろうが、とにかく”今”勝たなくては意味が無い
久「正直、侮っていたわ須賀君」
頃合だと思ったのか、久が手を止め
突然口を開く
京太郎「どうしたんですか、突然?」
久「ねぇ須賀君。一つ提案があるの」
京太郎「……?」
53: 2015/01/11(日) 20:13:24.56 ID:sQ+gYLVio
ここに来て提案?
一体なんの?
京太郎「(落ち着け、どうせハッタリだ)」ドキドキ
ちらりと横のアカギを見る
しかし彼は、どこか遠くを見つめて――何やら嬉しそうな顔をしている
京太郎「(アカギさん……?)」
久「須賀君の実力は分かったし。あの事、考えてもいいなって思ってきたの」
京太郎「!?」
咲「??」
久「でも、例え須賀君が私に勝っても……その証明にならないと思わない?」
京太郎「なっ!?」
まさか約束を反故にする気なのか?
それも……まだ決着の着いていないこの段階で
久「だから、もう一つ条件を出していいかしら?」
京太郎「条件……?」
久「ええ、これから私が代打ちを立てる。その代打ちに勝てれば……」
京太郎「……」
なるほど、そういうことか
自分の負けを感じ取って、新たに自分に有利な状況を作り出そうとしているのだ
だが、そんなこと受ける必要はない
わざわざ不利な条件を受けるメリットなど、無いのだから
京太郎「受けると思いますか? このタイミングで」
久「ふふっ、そう言われると思ったわ。だから……」クスクス
咲「あの、部長。一体なんの話ですか?」キョトン
久「ああ、咲。咲は知らないのよね」クスクス
京太郎「!?」ガタッ
まさか、この女――!?
久「うふふ、どうしようかしらねー?」チラリ
京太郎「(俺と同じ手を……使ってきた!?)」ギリッ
そう
咲に【自分の現状】を知られたくないのは……京太郎も同じ
もし自分のせいで幼馴染が苛められ、虐げられていると知れば……
必ず咲は傷つき、自分を責めることになる
京太郎「……」ギリィッ
言わば、京太郎の良心に訴えかける脅し
条件を飲まないなら、全て打ち明けるぞという……久の玉砕覚悟の脅しなのだ
54: 2015/01/11(日) 20:13:51.76 ID:sQ+gYLVio
久「……」ジィーッ
アカギ「クク……この女、太いタマだな」
京太郎「……分かりました、部長」
こうなればもう受けるしかない
咲を傷つけることなく、穏便に済ますには……
久「あら、素敵。素直な須賀君が大好きよ」ペロッ
咲「???」
京太郎「……それで、誰が代打ちなんですか?」
咲か、和か
それとも全く知らない人間なのか
京太郎「誰でもいいです。俺が、勝ちますから」
久「……」ニヤリ
コツッ
?「誰でも……勝つ?」
ピシィィンンッ!
京太郎「!?」ガタッ
アカギ「……おでましだ」ニヤ
?「随分と、デカイ口を叩くんだな……少年」 コツコツ
久「待ってたわよ」ニッコリ
ざわ……
ざわ……
久「遅かったじゃない、靖子」クスクス
靖子「やれやれ」ドンッ
京太郎「藤田……プロ?」
アカギ「……」
55: 2015/01/11(日) 20:14:29.91 ID:sQ+gYLVio
咲「お久しぶりです!」
靖子「やぁ、全国では大活躍だったじゃないか」
咲「いえ、みんなのお陰で……//」アセアセ
オイ、フジタプロダゾ……
マジカヨ、スゲェナ!
ざわ……
ざわ……
京太郎「……やってくれますね、部長」
久「あら? なんのことかしら?」クスッ
そう、これは久の完璧な作戦
実力で遥か上の藤田靖子を戦わせ、尚且つ周囲の客の目をこちらに向けさせる
こうなった以上、京太郎はもうイカサマもできない
さらに、負けたことをごねることも許されない
つまり、衆人環視の中で京太郎を倒す
そうすることで、京太郎の心を折るつもりなのだ
久「(しかも須賀君……アナタは人の目に触れながら打つことに慣れていないハズ)」ニヤリ
ガヤガヤ ワイワイ
京太郎「ぐっ……」
まこ「よくやる……」ギリッ
優希「じぇ? じぇ?」キョトン
久「それじゃあ靖子。私と代わってくれる?」クスクス
靖子「ん? ああ、いいよ」ツカツカ
ドサッ
靖子「よろしく。名前は、えーっと……?」
京太郎「……須賀京太郎、です」
靖子「須賀君、か。分かった……」
ドクン ドクンッ……
京太郎「(怯むな、相手がプロでも……流れは今俺にあるんだ)」ドクン
アカギ「……」
ニイチャンガンバレヤー マケルンヤナイデー
フハハハハ マ、カテルワケナイケドナァ
久「さぁ、続けましょ」
京太郎「はい……」
靖子「お手柔らかにな」カチャッ
京太郎「……」ゴクッ
56: 2015/01/11(日) 20:15:43.46 ID:sQ+gYLVio
まだ初心者を抜けたばかりの須賀京太郎
対する相手は毎日のように修羅場をくぐり抜けてきた麻雀プロ
いくら流れが京太郎にあろうとも、それをひっくり返すだけの実力差
京太郎「……」
そうして迎えた東四局
圧倒的なツキを持って牌を引き入れる京太郎に対し
靖子「ポン」チャッ
京太郎「!?」
靖子「……チー」チャッ
ツモらなくても次々と有効牌を相手から拾う靖子
京太郎のように高い手ではなくても、安い手を確実に素早く作り上げる
靖子「ロン」
京太郎「……なっ!?」
まこ「(早いっ!?)」
優希「じょっ!?」
ざわ……
ざわ……
サスガプロダナ ナンテハヤインダ
京太郎「……」クッ
チャラッ
久「ふふっ……」ニヤリ
久の思惑通り、京太郎には成す術が無い
並みの運だけで越えることができない実力の差を、京太郎は痛感した
京太郎「(こんな相手に……勝てるのか?)」ゾクッ
靖子「(脆いな)」フゥー
既に過去の対局で京太郎は点差を開かれている
その為、どうしても安手ではなく高い手を作る必要があるのだ
当然、聴牌スピードは落ちてしまう
靖子「(なら、こっちは安い手で早和了すればいい)」
既にリードしている勝負
無理に相手に付き合う必要など無い
こちらは逃げ切るだけでいいし、初心者の京太郎に靖子のスピードを越えることは不可能
つまり、どう足掻いても勝ち目などない
57: 2015/01/11(日) 20:16:17.31 ID:sQ+gYLVio
靖子「(どうせなら、少しばかりハンデを上げてやってもよかったか)」
ただでさえ初心者を倒すという、気乗りしない仕事だ
ましてリードをもらってからの引き継ぎなど……屈辱すら感じる
靖子「(すまないな須賀君。またいずれ……普通に打ちたいものだ)」
京太郎「うっ……あっ」ブルブル
目前に見えた勝利の希望
それが……一瞬にして霧散してしまった
京太郎「(くそっ、くそぉ……あと一歩だってのに!)」ギリッ
それなのに、どうしてこんなことに?
いくらイカサマしたとはいえ……こんなのはあんまりだ
咲「うわぁ、私も最初は全然対応出来なかったなー」クスクス
靖子「ふふ、今だってどうか分からないさ」ニヤリ
京太郎「(あの咲ですら……? なら、俺になんて絶対に無理なんじゃ……)」
怯え、恐怖
京太郎が意地で押さえ込んでいたものが……次第に鎌首をもたげてくる
久「さぁ、南局を始めましょう。泣いても笑っても最後の……ね」
京太郎「くっ……」ガクガク
勝てない
あの一局で、靖子と京太郎の格の違いがあきらかになった
もうひっくり返ったって、京太郎の勝ちは無いだろう
京太郎「……」ガクッ
完全な終わり
ゲームオーバーだ
京太郎「(もう……どうでもいい)」
全力は尽くした
卑怯な手も使って、自分にできることをなんでもやった
それでも届かなかった
勝てなかった
なら、もういいじゃないか
京太郎「(最後まで、男らしく戦ってやる!)」キッ
靖子「(こいつ、まだ目が氏んでいない……?)」
京太郎「(どうせ氏ぬんだ。だったら、最後に大暴れしてやる!)」
もはや、覚悟は決まっている
この勝負を受けた時から、ずっとずっと考えていたこと
身の破滅
ギャンブルの炎に身を焼かれて氏ぬこと
アカギ「……」ジッ
京太郎「さぁ、続けましょう」
だから俺は――まだ戦う
戦うことを諦めたら――心まで、氏んでしまうから
58: 2015/01/11(日) 20:17:49.88 ID:sQ+gYLVio
アカギ「待て、京太郎」
京太郎「えっ?」
しかし、ここで京太郎を制止する声
そう……アカギである
アカギ「フフ……このままやろうって考えてんだろ?」
京太郎「……」コク
周りの目もあるため、声には出さずに頷く京太郎
それに対し、アカギは首を振りながら続ける
アカギ「ダメだな。話になんねーよ」
京太郎「っ!!」ギリッ
アカギ「奴はお前の二枚も三枚も上、レベルが違う打ち手」
京太郎「……」コク
アカギ「京太郎……代わろうか?」
京太郎「なっ!?」ガタッ
一同「!?」
京太郎「っ……」
アカギ「フフ……どうする?」
ざわ……
ざわ……
59: 2015/01/11(日) 20:18:55.19 ID:sQ+gYLVio
京太郎「(ふざけるな、どうしてこの局面で!!)」ギリッ
自分の運命を賭けた戦いを、変われ?
何を寝言言っている?
どこの誰かも分からない相手に、どうして身を委ねることが出来ようか?
京太郎「……」フリフリ
勿論答えはNO
この時京太郎、以外に頑固
アカギ「あらら……」
当のアカギは少しだけ残念そうに肩を竦める
本気だったのか、冗談だったのか
どちらにせよ、京太郎に乗る気は無い
アカギ「……ぎりぎりもいいとこじゃない。強がってる場合か?」
京太郎「……」
確かにアカギの言う通り、強がる場合ではない
だが、かといってこのアカギを信用してもいいものか
京太郎「(だけど、もしこの人が本当に赤木しげるの幽霊なら……)」
京太郎の脳裏に浮かぶのは、あの伝説
もし……もしもポケットの中にある墓の欠片がこの男を呼び寄せたなら
あるいは――きっと
京太郎「……」
決断は二つに一つ
自分で打って確実に負けるか、この男を信じて破滅するか
どっちでも結果は同じ
なら、選ぶ道は一つ
京太郎「(自分で打つ!)」キッ
アカギ「……」
そうだ
信じるのは自分の力のみ
そう墓の前で宣言したじゃないか
60: 2015/01/11(日) 20:20:05.90 ID:sQ+gYLVio
京太郎「(だから、例えアカギさんが本物でも……)」
アカギ「聞き分けのねぇガキ。うんと言わすには……もう……実力行使しかねぇか」ボソッ
京太郎「!?」
アカギ「クク……京太郎。俺は今、こいつらの牌を覗き放題だ」
京太郎「!?」
アカギ「もしお前が言うことを聞かないってんなら……それを読み上げてやってもいい」
京太郎「……!?」
それはつまり、相手の手牌を教えてくれるということ
そんなのもはや、イカサマでもなんでもない
ただのインチキ
麻雀ですら無い戦いとなる
京太郎「っ!!」ギリッ
アカギ「……俺はお前を勝たせる。何をしてもな」ククク
京太郎「……」
アカギ「もう一度聞く。代わろうか?」
アカギの脅迫
それは卑怯者になるかどうかの瀬戸際
常人なら、身の破滅を戦いを賭けたギャンブルでこう言われたら喜んで頼むだろう
だがしかし、京太郎の答えは一瞬で決まる
京太郎「……」コクッ
答えはYES
京太郎に取って、氏よりも辛いもの
それは――
京太郎「(プライドを捨ててまで、勝とうとは思わない)」
どうせ氏ぬなら、今まで生きてきた須賀京太郎として氏ぬ
それが須賀京太郎の決意
色褪せることの無い、悲願なのだ
アカギ「クク……それでいい」スタスタ
京太郎「(相手も代打ちを立てたんだ。こっちだって、少しくらいいいさ)」
とは言っても、向こうは正真正銘のプロ
こちらは自称赤木しげるの幽霊
どちらが優勢かなど、一目瞭然だ
アカギ「俺は牌を掴めないんでね。言った牌を切ってくれればいい」
京太郎「……」コクッ
この時の京太郎はアカギを信じることしか出来なかった
だがそれと同時に、不思議な安心感も感じていた
京太郎「(この人なら、なんとかしてくれるかもしれない)」ギュッ
61: 2015/01/11(日) 20:22:46.09 ID:sQ+gYLVio
もっとも、なんら確信の無い思い込みである
だが、自分に2p切りではなく5p切りを決意させた言葉
あの気迫――
京太郎「(この人には、絶対に何かある)」
妙に確信めいた思いが京太郎にはあった
アカギ「……」フフ
靖子「そろそろいいか?」
京太郎「……はい」
こうして対局は始まる
南一局、藤田靖子の親番
京太郎「……」
アカギ「クク……見てな。凍りつかせてやる」
過去に【神域】と呼ばれた男と……
のちに【神域の再来】と呼ばれる男の初の試合
京太郎「それじゃあ行きます」
アカギ「……」
靖子「(なんだ、この感覚……?)」ゾクッ
咲「っ!?」
運命の賽は今、確かに放られた
64: 2015/01/11(日) 20:34:45.98 ID:sQ+gYLVio
須賀京太郎と竹井久の意地をかけた戦い
その戦いは須賀京太郎しか知らぬところで、代打ち同士の対局になっていた
咲「京ちゃん、負けないでねー」クスクス
久「ふふっ……」
アカギ「……」クク
京太郎「(頼むぜ、アカギさん)」ググッ
靖子「さぁ、打つか」タン
靖子の親番
ここはなるべく早い手を使って流したいところ
京太郎「……」
その、重要な鍵を握る1戦
最初の靖子はツモ切り
続くまこが白を切り、それに対し靖子が鳴く
靖子「ポン」
先ほどと同じ、靖子の速攻
京太郎は冷や汗をかきながら動向を見守る
しかし、この男は違った
アカギ「……」ジッ
靖子「……」
京太郎「(俺の番か)」スッ
その運命を握る配牌は――
京太郎の配牌
3577m 468p 1246s 中
ツモ中
京太郎「(ツイてる!)」
靖子の親番を流したい今、早和了の特急券である中の対子
最も欲しかったところだ
京太郎「(まだ俺の勢いは落ちてない……戦える!)」
ほくそ笑む京太郎
だが、その一方でアカギの出した指示は……
アカギ「中だ」
京太郎「(えっ……?」
アカギ「中を切ってくれ」
京太郎「(な、何!?)」
京太郎……困惑
ここでなぜ中切り?
理解不能の指示に、京太郎は思わず頭を抱えそうになる
65: 2015/01/11(日) 20:35:55.14 ID:sQ+gYLVio
京太郎「(やっぱり、この人に任せるべきじゃなかった)」ギリッ
恐らく麻雀もろくに知らないのだろう
でなければ、そんな選択は生まれないハズ
京太郎「……」チラッ
アカギ「……どうした? 中だ」
京太郎「くっ」
しかし、一度任せると約束した以上……指示に従うべきだ
例えそれがいかに悪手だと分かっていても
京太郎「……」タン
咲「?」
久「(馬鹿ね。どうしてそうなるのよ)」
理解不能、それは咲も久も同じ
きっと京太郎がやけになっただけ
そう思うのも無理はない
しかしこの時、この中でただ一人
アカギ「……」クク
アカギだけが、それを感じ取っていた
京太郎「……」
そしてまわった次巡
そこでもアカギの指示は中切り
京太郎「……」つ中
咲「京……ちゃん?」
靖子「……」
その時、最初に鳴いた靖子の手は――
靖子の手牌
1255p 3477s 発中 ポン白白白
ツモ1p
靖子「(中の二丁落とし? 染め手でも無いようだが……)
なんにしても、不可解な手ではある
だがこちらは急いで和了ればいいだけの話
靖子「(中は持っていても仕方ない)」つ中
久「(ま、当然ね)」
まこ「……」タン
京太郎「(アカギさん、一体どうする気なんだ?)」ギリッ
アカギ「……」
66: 2015/01/11(日) 20:36:27.73 ID:sQ+gYLVio
しかし次巡――
京太郎達の認識は一気に覆る
靖子「(さて、ツモは……)」スッ
カッ
中
靖子「(なっ……!?)」
意外、それは中
靖子「(チッ……まさか被ってくるとは)」つ中 タンッ
京太郎「(また中……? ツモがかぶったのか?)」
久「(運が悪いわね)」チッ
この時は、まだ違和感を覚える程度
だが――さらにその次巡
靖子「……!?」スッ
引いたのは発
靖子の手牌
11255p 3477s 発発 ポン白白白
靖子「(しまった……)」
プロとはいえ、思わず後悔してしまうミス
そしてすぐに気付く
靖子「(あの中連打さえなければ……)」ギュッ
小三元、いや……京太郎の中切りが遅ければ大三元も有り得た
その動揺が、早和了をするという靖子の目的から外れていることを……消し去ってしまう
格下に役満を潰された
この屈辱が、靖子の中で消えない痛みとして残ってしまったのだ
靖子「……」タン
久「(まさか……偶然よ)」
まこ「……?」
優希「じぇ?」
アカギ「……」フフ
その三巡後に発を鳴く靖子だが、時既に遅く中は切れた後
この頃になって、様子を見ていた京太郎にも
アカギの指示がどういう意図だったのかハッキリしてくる
京太郎「(あの連打で、藤田プロの大三元を封頃した……?)」
ざわ……
咲「……」
京太郎「(白を鳴いただけで、大三元の匂いを嗅ぎ当てたのか?)」
危険への予知
その感度が常人よりもかなり早い
京太郎「(俺なら、数巡後に中を鳴かれていたかもしれない)」ゴクッ
67: 2015/01/11(日) 20:37:19.04 ID:sQ+gYLVio
そしてさらにその後、京太郎は三色イーシャンテンとなる
京太郎の手牌
233m 34678p 22234s
しかし、靖子の手は既に3フーロー
和了が早いと察するとみるや
アカギ「チーだ」
京太郎「チー!」
534s カッ!
育てた三色をあっさり捨てる
そこに一切の迷いは無い
優希「うーん……」つ5p
京太郎「ロンッ!」バララ!
1000点食い和了り
あの局面からなんとか靖子を出し抜くことに成功
靖子「ぐっ……」
久「嘘……」
咲「京ちゃん……だよ、ね?」
みんなが驚くのも無理は無い
最速の中切りもそうだが、今の和了手もそうだ
久「(普通これを凡人が打てば、三色に未練を残して手を遅くする)」
結果として靖子が和了となっていたハズだ
京太郎「(でも、そんな未練がどれだけ自分の足を引っ張るか……知ってるんだ)」ゾクッ
感度の差――!
プロである藤田靖子を寄せ付けないだけのモノが、そこにはあった
アカギ「クク……認識はあらたまったかい?」
靖子「……なるほど、ただの少年じゃなさそうだ」フゥー
靖子は京太郎のことを素人だと決めつけていた
運がいいだけのラッキーボーイ
久に聞いた時の印象はそんなものだった
靖子「(だが、今は間違いなく違う)」
刺激し過ぎて眠れる獅子を起こしたのか、どうなのかは分からない
ただ一つ言えることは――
靖子「(こいつはもう、ただの子供じゃない)」キッ
内側に魔物を秘めた、化物
自分と互角の打ち手
そう思って戦わなければ……容赦なく喰われるだろう
京太郎「(すごい、アカギさん……)」
68: 2015/01/11(日) 20:37:51.03 ID:sQ+gYLVio
靖子「……須賀君、見直したよ」
京太郎「ど、どうも……(そりゃ俺じゃないし)」
靖子「しかし……もう油断はしない」
京太郎「!?」
靖子「持てる力の全てで君を倒そう」
アカギ「……クク」
久「(靖子……本気で言ってるの?)」
久が困惑するのも無理はない
いくら京太郎が妙な和了をしたとて、それはたったの一回のことだ
それなのに、靖子はもう京太郎を自分と同格に扱うと言ったのだ
まこ「(確かに今の京太郎は妙じゃったが……)」
優希「……」
靖子「さぁ、続きだ」チャッ
靖子もまた、化物の一人
魔を喰らい……その身に宿す一人なのだ
京太郎「ええ、勿論」
そして京太郎も……その背中に魔を宿す男
赤木しげるという、闇に生きる魔そのものを
アカギ「……」ニヤリ
そして始まる次局
南二局、まこの親番だ
靖子「……」
認識を変えて、京太郎を敵だと認識した靖子
つまりここからが本番
靖子VSアカギ
アカギ「……」
今、この二人は代打ちとしてこの場にいる
つまり賭けているものが無く、もしくは無いに等しい状態
その勝負を制するのはセンスと集中力に長けた、能力の高い者だ
69: 2015/01/11(日) 20:38:30.06 ID:sQ+gYLVio
靖子「……」タン
京太郎「……」タンッ
京太郎とアカギ、その戦いはそのセンスと集中力を競うもの
そして先に仕掛けたのは――
靖子「リーチ……!」
藤田靖子
そのリーチは……
久「(ふふっ……靖子ったら)」
靖子 カン7s待ちリーチ
345m 23488p 34568s
久「(いきなり脅しをかけた……)」
靖子「(普通この手はもう少し待って、両面に変わってからリーチするべき)」
久「(それを迷わず、フライング気味の先制リーチ)」
靖子は京太郎の、アカギの対応を見たいのだ
勝負の質を変えて本気となった靖子のリーチ
京太郎「(かわすか、受けるのか……?)」チラッ
京太郎の手牌
566m 23445p 78999s
ツモ6p
京太郎「(テンパイ……)」
久「(これは面白いわね)」クスッ
今までの京太郎なら、安パイの9s 落としだろう
並の打ち手なら仕方の無いこと
だが、ここで京太郎が――アカギが選ぶのは
京太郎「……」つ6m
靖子「(うっ……)」
アカギ「……」
咲「……」ポーッ
久「(並の神経じゃない……)」ゾワッ
スンナリ切ったこの一打だけでも、平凡な人間には生涯到達出来ない領域
完全に迷いを見切っているその打ち筋
靖子「(なるほど、一筋縄じゃいかないな)」タッ
70: 2015/01/11(日) 20:38:59.49 ID:sQ+gYLVio
次巡――
【京太郎の手牌】
56m 234456p 78999s
ツモ7s
アカギ「……六萬だ」
京太郎「……」ピシッ つ6m
久「(六萬は通す癖に……本命の7sはキッチリ抑えて、的確なヨミ)」ギリッ
一体いつの間にここまでの感性を身につけたのか
そして、その勝負強さ
京太郎「(六萬が通ったからイケイケなんて、考えないのか?)」
雰囲気に流されない
自分の判断にただ沿おうとする心――
靖子「(どこが運のいい素人だ……)」
目の前の少年は、靖子に取って不気味の域を越える
自分の判断を信じる才能――揺れない心を持つ強者
靖子「ふふっ……手強いな、少年」
京太郎「……」クスッ
この対局を見据える久と咲
そのあまりの緊張に、二人はただ息を呑むしかない
そして、次巡
とうとう流れが変わる時が来た
靖子「!」
靖子、このカン7s待ちを……
345m 23488p 34568s
ツモ7s
ツモ和了!
靖子「……」
久「(ふふっ、これがプロの実力よ)」ニヤリ
追い込まれた中で、薄い7sを引き寄せる才能
これで和了れば京太郎との差は更に開く
流れも引き寄せ、一石二鳥の和了となる……
靖子「……」ピシッ
7s
久「えっ……?」
ハズだった
71: 2015/01/11(日) 20:40:06.86 ID:sQ+gYLVio
なんと、靖子は和了らずにそのまま7sを切る
京太郎「?」
アカギ「……」
咲「(あれ? アレは和了牌じゃ……?)」
ざわ……
ざわ……
久「……! (なるほど、ね)」
誰もが呆気に取られている最中、久だけが靖子の真意に気付く
これは京太郎の読みを裏切り、混乱を誘う作戦
これは靖子の策略なのだ
靖子「……」フフ
京太郎「(あ、アカギさん?)」チラッ
アカギ「……」
靖子「(どうする? 本命の7sは通ったぞ)」ツモキリッ
タンッ 東
靖子「(私が和了らなければ、この局は須賀君がものにするだろう、しかしそれでいい)」
京太郎は点棒を拾うが、代わりに迷いを一つ抱くことになる
その不信があとあとボディーブローのように効いていき、苦しめることになるのだ
久「(自分の読みに疑いを抱けば、後にもっとプレッシャーがかかる局面で迷いを呼ぶ)」)
それが弱い打牌へと流れる
その一打こそ、重い勝負では命取り……!
久「(流石、この世界で生きてきた靖子ね)」ニヤリ
靖子「(プロは心理から絡め取るのさ)」
その網に、京太郎はもう半分かかった
靖子と久はそう確信していた
しかし、十五巡目
そこで意外な展開――!
京太郎「……」カッ
【京太郎の手牌】
3344566p 778899s
ツモ5p
咲「(来たっ!)」
なんとここで、京太郎の和了
京太郎「(二盃口、平和ツモ。満貫だ!)」
これを和了れば京太郎のは靖子を上回り、トップとなる
しかし、ここでアカギ――
アカギ「ツモ切りだ」
京太郎「(えっ?)」
意外にもこれをスルー
72: 2015/01/11(日) 20:40:50.78 ID:sQ+gYLVio
京太郎「(な、なんでだ?)」つ5p
タンッ
靖子「!?」
ざわ……
靖子「(妙だ。あの5p、和了でもおかしくなさそうだが……)」
疑惑が残る靖子
しかし、確信は得られない
久「(なんなの……? 須賀君、アナタ一体……!?)」
そして、そのままお互いに膠着状態が続き……
気が付けば、とうとう流局
京太郎「……テンパイ」ジャラッ
【京太郎の手牌】
3344566p 778899s
靖子「!? (やはり……)」ゴクッ
京太郎はさっきの5pで和了っていた
靖子「(こいつ……満貫を蹴ってまで、確かめに来た?)」ギロッ
自分の読みが外れていたかどうか、その確認
そうしておいた方が後の勝負では有効だと、分かっていても普通は出来ない
それが、自分の運命を賭けた勝負なら尚更だ
靖子「(惜しくないのか!?)」
京太郎「(アカギさん……)」
アカギ「フフ……おい、京太郎」
京太郎「(なんですか?)」コクコク
アカギ「手を開けさせろ。その女、必ず張ってる」
京太郎「(わ、分かりました!)」コクッ
73: 2015/01/11(日) 20:41:17.44 ID:sQ+gYLVio
久「……」
京太郎「あの、藤田プロ」
靖子「……なんだ?」
京太郎「手を開けてくれませんか? テンパイなんでしょう?」
靖子「……くっ」バラッ
345m 23488p 34568s
アカギ「クク……やっぱりな。想像はしていたが、案の定ひねた打ち方」
京太郎「(アカギさんの、読み通りだ……)」
アカギ「人を嵌めることばかり考えてきた人間の発想――」
ドクン
京太郎「……痩せた、考え」ボソッ
アカギ「……!?」
ざわ……
ざわ……
靖子「なん……だと?」ギリッ
この時、不思議と京太郎はどこか冷めたような感覚で卓を見ていた
恐るべき相手だった靖子も、なぜか大した事のないように思える
まるで、三下を相手にしているように
京太郎「俺なら、もっとストレートに行くのに」ボソッ
アカギ「へぇ……言うな。京太郎」ニヤッ
靖子「~~~っ!!」ビキビキッ
74: 2015/01/11(日) 20:41:44.54 ID:sQ+gYLVio
久「や、靖子……」
靖子「私は……まだ心のどこかで、彼を甘く見ていた」チャラッ
ざわ……
靖子「軽んじていた。しかし、もう舐めない。毛ほども舐めたりはしない」ギロリ
京太郎「っ!」ゾクッ
靖子「なぜなら、その薄皮一枚剥いだその下は……魔物」
あの天江衣や、宮永照と同じ――いや、もしくはそれ以上の……
容量が計り知れない
靖子「(間違いなくこの男、将来とてつもない逸材となる)」
しかし、それは遠い未来の話
今なら勝てる
靖子「(何せ君はまだ――【オカルト】を知らない)」ニヤリ
麻雀に存在する合理性
それを根本から覆す存在……オカルト
靖子「(これで君を――ねじ伏せる)」ゴッ
京太郎「……」
アカギ「さぁ、これからが本番だ」フフ
75: 2015/01/11(日) 20:57:23.04 ID:sQ+gYLVio
そして迎える南三局
親は優希――
京太郎「……」
靖子「……」タンッ
本気を出すと宣言した靖子
そのあまりの恐ろしさに、思わずして緊張してしまう京太郎だが
その緊張も、不意に霧散する
靖子「……」タンッ
京太郎「?」
ざわ……
ざわ……
というのも、靖子が全く動かないからだ
序盤のように鳴くわけでも、急いでる様子も無い
ただ引いては切り、引いては切り
その繰り返し
先ほどの言葉とは裏腹に、逆にやる気を無くしたようにさえ思える打ち方だ
アカギ「……?」
当然困惑するアカギ
それは京太郎も同じだ
靖子「……フフ」タンッ
優希「うーん?」
まこ「……」
久「(まさか、アレを使う気なの……?)」
咲「あの時と、同じ……」
その時、気づいているのは久と咲
後は直感でまこが感じ取っていたくらいだろう
靖子の真意
それは――
靖子「……」タンッ
アカギ「ロンだ」
京太郎「ろ、ロン!! 混一色ドラ……満貫です!」バタタタッ
ざわ……
ざわ……
優希「きょ、京太郎が……逆転?」
そう、なんとこの手で京太郎は大逆転
大きく差を付けてトップに踊り出ることとなる
76: 2015/01/11(日) 20:58:12.27 ID:sQ+gYLVio
京太郎「(おいおい、意外と藤田プロって弱いのか?)」
そんなことが脳裏をよぎる京太郎
だが――実際は違う
まこ「……やっぱりか」
久「フフ……終わりね」
靖子「……ふ、ふふふっ。しくじったな、須賀君」ニヤァ
京太郎「えっ……?」
靖子「……最後の一局の前に、教えてあげよう」
ズォォォォッ……
靖子「私がプロで、何と呼ばれているか」
アカギ「……!?」ゾワッ
総毛立つような、靖子の気迫
先ほどとはまるでレベルが違う……
記憶を無くしたアカギの奥底で、どこかくすぶる懐かしい記憶
アカギ「(昔……こんな奴と戦った記憶がある)」
それが誰かは思い出せない
だが――彼の本能が覚えている
アカギ「(これは――危険だな)」
靖子「Reversal Queen……まくりの女王」
京太郎「まくりの、女王?」
靖子「そう。馬鹿でも分かるだろう、その言葉の意味」
限定的な条件でのみ発動するオカルト
条件ゆえに使い勝手は悪いが、その分発動すれば強力な力を持つ
靖子「もう、これで格付けは済んだ」
靖子と京太郎
否、靖子とアカギの運気がごっそりと入れ替わる
その超常めいたチカラで――運気そのものを捻じ曲げるのだ
咲「(京ちゃんは頑張ったけど、もう終わりかな)」
あの時、自分ですら防げなかったまくり
それを――今の京太郎に防ぐことは恐らく不可能
京太郎「……」ゴクッ
久「(須賀君の悪運もここまでね)」
言わば、先ほどの靖子とはもはや次元が違うのだ
この状態になった靖子は――上位のプロですら凌駕するのだから
77: 2015/01/11(日) 20:58:43.44 ID:sQ+gYLVio
京太郎「……」
靖子「どうした、怯えて声も出ないか?」フフ
アカギ「……」
流石のアカギも、オカルトというモノの予備知識は無い
どう攻略すればいいか、倒すべきか
一局でも様子を見ることが出来れば……対策は立てられる
だが、その最後の一局で雌雄が決するのだ
久「(もう手遅れよ、何もかも)」
この場の全員が、徐々に靖子の勝ちを確信していく
久や取り巻きで見ている野次馬も含め
あの咲ですら……京太郎の負けを予見していた
咲「(いい戦いだったよ、京ちゃん)」
靖子「さぁ、親番だぞ。須賀君」
そして始まるオーラス、京太郎の親
京太郎「……」
誰もが諦めと、失意に飲まれて傍観する最中
ただ一人
この局面においてたった一人だけ――
京太郎「(アカギさん、俺に考えがあります)」チラッ
アカギ「!?」
この男だけが――己の、アカギの勝利を確信していた
アカギ「へぇ、自信があるのか?」
京太郎「はい……でも、俺一人では無理です」ヒソヒソ
誰にも聞こえない音量で、ヒソヒソと話す京太郎
アカギはそんな京太郎の言葉に……ただ耳を傾ける
京太郎「……だから、……して、……すれば」
アカギ「……クク、分かってるのか? それが失敗すれば、確実に負けだ」
京太郎はマネージャーとして残りの学生生活を過ごし
学校中の悪意と戦いながら生きなければならない
しかし京太郎はそんな覚悟など、とうに決めていた
京太郎「自分の身を削らないで、勝ちを拾おうなんて思っちゃいない」
アカギ「……」ニヤリ
京太郎「俺はハナから……命、賭けてんだ」ボソッ
アカギ「フフ……同類だ、お前は」
京太郎「?」
アカギ「……やるぞ、京太郎」
くすぶりかけたアカギの闘志に、再び火が灯る
それを呼び覚ましたのは、京太郎の言葉か――それとも
だが、この時ハッキリしていたこと
それは――
京太郎「(必ず、勝つ!)」
須賀京太郎
この男もまた――天賦の才を持つ
78: 2015/01/11(日) 20:59:10.16 ID:sQ+gYLVio
南四局 京太郎の親
泣いても笑っても、焼き土下座しても最後の一局
京太郎に取って運命を左右するこの局の初手は――
京太郎「……」
【京太郎手牌】
122444688m 35p 29s 発
咲「(ダメ、なんて重い手……)」
ここは軽いタンピン手などがベスト
だが掴んだのは高火力を狙うような配牌
久「(そして一方の靖子は――)」
【靖子手牌】
128888s 145p 267m 東
久「(一見すると凡手に見える。でもね……)」
引き寄せる
靖子のオカルト……まくりの力
京太郎「ドラ確認します」カチャッ
来る、引き寄せる
7s
久「……」ニヤッ
靖子「……」フフ
凡手から一気にドラ4の手に変化
しかも、それだけではない
咲「(あのカンドラ……)」
そう……咲には見えていた
もし誰かがカンをすれば、新しくドラが表示される
そのドラすらも……
靖子「(埋まっているが、間違いなく7s)」
靖子と咲の読みは正解
隠された新ドラは8s
つまり、靖子の手はドラ8となる
暗槓しただけでドラ8は確定
ツモ和了でも京太郎をまくり確実に勝利する
79: 2015/01/11(日) 21:00:01.28 ID:sQ+gYLVio
京太郎「……」
一方で、重たい手を手中に入れたことでお通夜モードの京太郎サイド
後ろに並ぶ一般客は、みな顔を見合わせてため息を吐く
京太郎の勝ちはもうない
希望のきの字も無い
そう思っているのだ
アカギ「クク……」
だが、ここで二人の若き天才は――
京太郎「(思い通りの手が来た!)」
全く、別のストーリーをこの手から創造していた
久「(もう終わりよ、諦めなさい)」
京太郎「では、行きます」タンッ
こうして始まった戦い
半荘六回にも及ぶ激戦の果て――勝つのは京太郎か、久か
京太郎「……ポンッ!」
二巡――
まずは京太郎が動く
222m カシッ!
そして三巡――
京太郎「チー!」ピシッ
768m カシッ!
京太郎「……」
まこ「これは……」
優希「(混一色か、清一色か?)」
早々とした鳴き
手を急ぐべき京太郎には当然の行動のように思える
無論、周囲もそう思っているし
それは対局している優希とまこも変わらない
優希「(この局面、絶対に振り込めないじぇ)」つ現物
まこ「(降りるべきじゃな)」つ現物
二人にできるのは靖子の邪魔をせずに、生き延びること
つまり、無理に戦う必要は無いのである
咲「(二人が降りた。これで一体一……)」
遠目に見守る咲だが、まだ京太郎の分が悪いのを悟る
靖子は運気すら引き寄せているのだ
靖子「(いくら鳴いてスピードを速めようが……私には勝てないさ)」ニヤリ
着々と積み上がる靖子の怪物手
和了さえすればドラ8は確定
その恐るべき異能の力によって
80: 2015/01/11(日) 21:00:29.08 ID:sQ+gYLVio
靖子「(一見、清一色や混一色を匂わせているが、それはフェイク)」
なぜなら今そんな手をいれる必要が無いからだ
勝ち逃げならタンヤオで十分
靖子「(どうせドラは全部こっちが握ってるんだ。焦る必要はない)」
仮に和了られても、直撃でなければトビはしない
靖子「(問題は、いつ暗槓するかだ)」チラッ
手を持って確認する靖子
もう少しでテンパイ
その時に嶺上開花で和了る
靖子「(恐らく、あの嶺上牌が……)」
靖子の求める和了牌
ドラ8を絡めた嶺上開花で京太郎をまくる
完璧なシナリオ
ただ一つ誤算があるとすれば――
アカギ「京太郎、今だ」
京太郎「……へへ、待ってました」ボソッ
靖子「なに……?」
バララッ
京太郎「カン」
一同「!?!?」
4444m カシャッ
靖子「なっ……?」
先にカンをされた
ということはつまり――
京太郎「じゃあ、リンシャンツモりますね」スッ
ピタッ
靖子「(な、それは――私の!?)」
京太郎「……」クスッ サワッ
つ3p
京太郎「いらんな」ペシッ
靖子「……ぐっ」
流されてた……
テンパイする前に、自分の和了る筈だった牌を……
それもよりによって須賀京太郎によってだ
靖子「(だがしかし、ドラは表示される!)」
京太郎「おっ、また8sがドラですね」カチャッ
靖子「(当然だ)」
計画の狂いはあったが、問題無い
別に嶺上開花でなくても和了ればいいのだ
和了さえすれば、己の勝ちなのだから
81: 2015/01/11(日) 21:01:07.62 ID:sQ+gYLVio
【京太郎のフーロー】
カン4444m ポン222m チー678m
靖子「(三鳴きしたんだ。もう既に張っている可能性が高い)」ギリッ
圧倒的な有利からスタートし、
いつでも有効牌を取れるという油断が、暗槓の遅れを招いた
京太郎「……」
【靖子の手牌】つ6p
2455p 118888s 567m
靖子「(須賀君は一度3pを切っている。また出る可能性は高い)」
ここはドラを切ってでも無理やりテンパイに持っていくか?
それとも、暗槓するか
京太郎「……」
しかし、暗槓すればドラ8は警戒される
別にロン和了でなくても勝機はあるが――可能性はぐっと低くなる
靖子「……」
思案する靖子
長い思考の果てに選んだのは――
【靖子の手牌】
4556p 118888s 567m
つ2p
暗槓せず、現状保持
靖子「(あの嶺上牌をつかめばいい)」
靖子がカンをする時、拾うであろう牌……
靖子「(恐らく、7p)」グッ
確信めいた直感、恐らく100%的中するハズだ
ならばそれを待ちにできるようにセッティングする
今の靖子の運なら、造作の無いことだ
82: 2015/01/11(日) 21:01:49.25 ID:sQ+gYLVio
一方の京太郎は迷うことなく手を切っていく
京太郎「……」つ1s
靖子「……」
中々尻尾を出さない京太郎
待ちが読めないこともあり、靖子の焦りも次第に強くなっていく
靖子「(あの四枚……一体何が隠されている?)」
見えない京太郎の手を見て、靖子は不安に駆られる
嫌な予感がひしひしとあの四枚から感じられるのだ
そして、そんな予感を抱えてのツモ
靖子「(これは……)」
【靖子の手牌】4p
4556p 118888s 567m
まさかの4p
ここで8sを切り、6p待ちにする手も考えられる
靖子「(だがドラ2の8sを切るなんて、考えられない)」
やはりここは常識的に考えて4pだ
靖子「(だが唯一気になるのは、3pを彼が持っている可能性もある)」
ツモ切りからの素早い切り捨て
考えられるのはピンズが無く、清一色や染め手であること
しかし、そこにピンズが加わっているとなると……話は変わる
混一色も清一色も無ければ、ただのゴミ手
靖子「(仮にこれで和了られても、痛くも痒くもない)」つ4p
タンッ
京太郎「……」
靖子「(今は須賀君の親番。飛ばない限り、次の機会はある)」
つまり、多少は危険を犯しても強気で行くべきなのだ
相手にドラは無い
これまでの収支というハンデがある以上
染まってもいない手に恐怖など感じる必要など皆無
京太郎「……」
83: 2015/01/11(日) 21:02:26.12 ID:sQ+gYLVio
靖子「……」ホッ
結果としてこの手は通る
そして、京太郎の番が来る
だが、次の京太郎の1打が……靖子を苦しめることとなる
京太郎「……」スッ つ3p
靖子「ぐっ!?(まさか、本当に抱えていた?)」
困惑する靖子
そして、続くもう1巡
京太郎「……」5p
靖子「!!」
これは――どういうことなのか?
もしかすると須賀京太郎は、35p で4pをカン待ちしていた?
ならばなぜ、和了らなかった?
靖子「!!(こいつ、もしかして私の思惑に気づいて……)」
そう、もし今の4p直撃でも靖子を飛ばせないとすれば
恐らく、京太郎の手は相当安い
靖子「(だから見逃した。もっと高い手を作ろうと……)」
京太郎「……」
靖子「(ここに来て、なんて馬鹿な真似を)」ニヤリ
やはりこの男は凡夫だった
勘がよければドラ8の匂いを感じ取れたものを……
靖子「(つまり、今須賀君はテンパイしていない)」ニヤリ
そんな見逃しをしてしまえば、運の女神も見放すというもの
その証拠に――靖子が掴んだものは
【靖子の手牌】つ3p
4556p 118888s 567m
靖子「(来た来た来た!!!)」ニヤリ
84: 2015/01/11(日) 21:02:52.70 ID:sQ+gYLVio
運命を引き寄せる力
オカルトによる、絶対的な支配
何をも恐れぬ、女王の闘牌
靖子「ふ、ふふっ……ははは……あははははっ!!」
靖子は笑う
己の勝ちを確信し、ただ嗤う
京太郎「……」
靖子「須賀君、私の勝ちだ」
ざわ……
ざわ……
靖子「長かったよ、ここまで。すごくいい勝負だった」
アカギ「……」
靖子「だが、勝つのは私だ! この、私なんだ!!」バラッ
倒される四つの8s
ドラ8の化物――相手を地獄に誘う氏者
靖子「カンッ!!」
そして、引き寄せられる勝利への鍵
運命をねじ伏せる――
靖子「(ツモッ! ツモツモツモツモツモ!!! 私のチーピン!!) 」
ハズだった
アカギ「クク……」ニヤリ
靖子「えっ……!?」
久「う、嘘……でしょ?」
掴んだのは7pなどではない
あるのは――
そこに有るはずの無い発
靖子「う、嘘だ! これは……何かの間違いだ!」
先程までの余裕から一転、慌てふためく靖子
だが、それに対して一方の京太郎は笑みを浮かべる
京太郎「フフ……どうしたんですか?」
靖子「な、なぁっ……」ブルブル
京太郎「自分の読みが外れて、大慌てですか?」
靖子「ち、違う! こんな、こんなハズは無い!」
確信があった
必ず7pであると
しかし、結果は違った
なぜ? どうして?
疑惑が募る
驚愕だけが――靖子を包み込む
京太郎・アカギ「「まるで白痴だな」」
靖子「!?!?!?」
85: 2015/01/11(日) 21:03:19.38 ID:sQ+gYLVio
靖子「な、なぜ……」つ発
仕方なく発を切る靖子
他に選択などできるハズが無い
そして、新ドラが表示される
京太郎「……」
一方的な靖子の和了かと思われた
しかし、そんな絶望的状況を乗り越えた先に――
京太郎「……ツキの女神は、待っている」ニィ
3m
靖子「!?」
新ドラは――4m
アカギ「クク……」
京太郎の手牌が一気に跳ね上がる
それも満貫確定のドラ4
京太郎「藤田プロ」
ざわ……
ざわ……
靖子「な、なんだ……?」
京太郎「考えてみてください。あの局面、俺がどうして早々にカンをしたのか」
靖子「!?」
京太郎「別に急ぐ必要も無し、無駄なドラを乗せることもなかった」
靖子「(まさか、まさかこいつ――!?)」
京太郎「アンタの探し物は……」つ2m
バラッ 4444m
京太郎「カン」スッ
つ7p
アカギ・京太郎「「こいつだろう?」」
バラララッ
京太郎「ツモ、嶺上開花」
77p 999s カン4444m カン2222m チー678m
靖子「な、なんで……? どうして、そこに……? ありえ、ない」ガタガタ
京太郎「……」
そして、めくられる新ドラ
まるで――地獄で悪魔と契約してきたかのよう
1m
京太郎「リンシャンツモ、まぁ数えるまでもなく――トビです」
靖子「嘘だぁぁぁぁあ!!!」 グニャァ
86: 2015/01/11(日) 21:03:45.68 ID:sQ+gYLVio
ざわ……
ざわ……
靖子「こんな、こんなハズはない!!」
久「や、靖子……」
靖子「私に分かる。7pはあそこじゃない! 私が引くハズだった!!」
京太郎「……」
靖子「何をした!? オカルトなのか? お前も……持っているのか!? 答えろ!」
京太郎「……なんの話か、分かりませんね」
靖子「!?」
京太郎「ただ、一つ言えるとしたら」
ざわ……
京太郎「俺、幽霊が見えるんですよ。それも、とびっきりの、ね」ニコッ
アカギ「クク……」
靖子「……」ヘナッ
フラフラ……バタン
優希「……う、うそ」
まこ「まさか、本当に……」
久「靖子に、勝った……?」
ガヤガヤ ナニモンダアノニーチャン
スゲーゾ マジデヤリヤガッタ!
咲「……」
京太郎「それじゃあ部長、例の件。お願いします」
久「……え、ええ」
京太郎「よし。それじゃあ咲、帰ろうぜ」
咲「……うん」タッ
スタスタスタ
京太郎「それじゃあ、また学校で」
久「……」
ガチャッ
カランカラーン
バタン
87: 2015/01/11(日) 21:05:48.17 ID:sQ+gYLVio
京太郎「……ふぅー」
長い戦いは終わった
策略と、力の打ち合いによる氏闘
制したのは京太郎とアカギである
京太郎「……(今でも、心臓がバクバクしてる)」ドキドキ
生まれて初めてだった、あんな経験は
勝負に命を賭けるスリル、興奮
それは――京太郎にとって、人生の価値観を変える一戦
咲「……」トコトコ
京太郎「……」スタスタ
何はともあれ
これで、資格を得た
咲や和、この二人と戦い――代表を得る資格
プロを倒した事実さえあれば――
咲「……ねぇ、京ちゃん」
京太郎「んー? どうした?」
咲「私ね……気づいてるよ」ジッ
京太郎「っ!?」ドキッ
咲「イカサマ……だよね?」
京太郎「……」
アカギ「クク……」
この時アカギ、地味に付いてきている
88: 2015/01/11(日) 21:06:18.14 ID:sQ+gYLVio
咲「……最初の四萬カンの時に、牌を入れ替えたんでしょ?」
京太郎「おいおい……なんの冗談だよ」
咲「分かるよ。だって、あの時に位置がずれたんだもん」
咲は常に王牌が何か分かる
だからこそ、あの時の違和感は拭えなかった
京太郎「あのな。あれだけ人がいるのにそんなことできるわけないだろ」
咲「……」
確かに、あれだけのギャラリー、
野次馬がいれば京太郎がイカサマをするのは至難の業だ
その道のプロだって、できるかどうか怪しいもの
咲「早々と鳴いて手牌を少なくした。残った牌をまとめれば……体に隠れて後ろからは見えないよ」
京太郎「手牌はそうでも、嶺上牌はそうはいかねぇだろ?」
京太郎が手を伸ばし、ツモり、牌を切る
この一連の動作の中で嶺上牌を入れ替えるなど、不可能だ
京太郎「なぁ、そうだろ?」
咲「……」ジッ
見つめ合う二人
咲は何も言わず、京太郎をずっと見つめていたが……
やがて
咲「うん、そうだね。ごめん、無理に決まってるよ」ニコッ
その愛らしい笑顔で、京太郎に微笑む
咲「私の勘違いだよね、きっと」
京太郎「そうそう。偶然だよ偶然」アハハ
咲「……」
京太郎「……早く帰ろうぜ」
咲「うん」タッタッタ
京太郎「……」
アカギ「あらら……いいのか? 泣きそうな顔だったぜ」ヒョコッ
京太郎「アカギさん……(ついて来てたのか)」
アカギ「クク……それにしても、本当に初めてだったのか?」
京太郎「当たり前じゃないですか、あんなの」ハァ
正直、もう二度とゴメンだ
心臓がいくつあっても足りやしない
アカギ「……」
京太郎「しかし、うまく行ってよかったですよ」
確かに、京太郎は一つの強攻策を取った
だがそれは――
京太郎「でも、言えるわけがない。”イカサマ”じゃないなんて」
アカギ「フフ……」
京太郎が藤田靖子を下した作戦
それは、一種の神がかり的トリック
京太郎「咲、俺は……」
89: 2015/01/11(日) 21:14:48.15 ID:sQ+gYLVio
Side 京太郎
~~南四局 京太郎の親~~
泣いても笑っても、焼き土下座しても最後の一局
京太郎に取って運命を左右するこの局の初手は――
京太郎「……」
【京太郎手牌】
122444688m 35p 29s 発
咲「(ダメ、なんて重い手……)」
ここは軽いタンピン手などがベスト
だが掴んだのは高火力を狙うような配牌
久「(そして一方の靖子は――)」
【靖子手牌】
128888s 145p 267m 東
久「(一見すると凡手に見える。でもね……)」
引き寄せる
靖子のオカルト……まくりの力
京太郎「ドラ確認します」カチャッ
来る、引き寄せる
7s
久「……」ニヤッ
靖子「……」フフ
凡手から一気にドラ4の手に変化
しかも、それだけではない
咲「(あのカンドラ……)」
そう……咲には見えていた
もし誰かがカンをすれば、新しくドラが表示される
そのドラすらも……
靖子「(埋まっているが、間違いなく7s)」
靖子と咲の読みは正解
隠された新ドラは8s
つまり、靖子の手はドラ8となる
暗槓しただけでドラ8は確定
ツモ和了でも京太郎をまくり確実に勝利する
京太郎「……」チラッ
アカギ「……」コクッ
靖子「……」チャッチャッ つ牌
ざわ……
ざわ……
アカギ「……」ジィーッ
京太郎「……」
90: 2015/01/11(日) 21:15:13.87 ID:sQ+gYLVio
京太郎「……」
一方で、重たい手を手中に入れたことでお通夜モードの京太郎サイド
後ろに並ぶ一般客は、みな顔を見合わせてため息を吐く
京太郎の勝ちはもうない
希望のきの字も無い
そう思っているのだ
アカギ「クク……」
だが、ここで二人の若き天才は――
京太郎「(思い通りの手が来た!)」
全く、別のストーリーをこの手から想像していた
久「(もう終わりよ、諦めなさい)」
京太郎「では、行きます」タンッ
こうして始まった戦い
半荘六回にも及ぶ激戦の果て――勝つのは京太郎か、久か
京太郎「……ポンッ!」
二巡――
まずは京太郎が動く
222m カシッ!
そして三巡――
京太郎「チー!」ピシッ
768m カシッ!
京太郎「……」
まこ「これは……」
優希「(混一色か、清一色か?)」
早々とした鳴き
手を急ぐべき京太郎には当然の行動のように思える
無論、周囲もそう思っているし
それは対局している優希とまこも変わらない
優希「(この局面、絶対に振り込めないじぇ)」つ現物
まこ「(降りるべきじゃな)」つ現物
二人にできるのは靖子の邪魔をせずに、生き延びること
つまり、無理に戦う必要は無いのである
咲「(二人が降りた。これで一対一……)」
遠目に見守る咲だが、まだ京太郎の分が悪いのを悟る
靖子は運気すら引き寄せているのだ
靖子「(いくら鳴いてスピードを速めようが……私には勝てないさ)」ニヤリ
着々と積み上がる靖子の怪物手
和了さえすればドラ8は確定
その恐るべき異能の力によって
京太郎「(まずは邪魔な二人の排除)」
アカギ「……」
染めていることを匂わせられる配牌は、京太郎の望むところであった
相手に牽制をかけ、靖子との一対一に持ち込むことが出来るからだ
91: 2015/01/11(日) 21:15:47.53 ID:sQ+gYLVio
京太郎「……」
京太郎の策
それは――常人には到底思いつきもしない異端の策略であった
というのも、なんら確証もない……それも、想像の域を出ないものだからだ
だが、今はその京太郎の想像こそが――
この大勝負の、運命を左右することとなる
京太郎「(藤田プロは、自分を"まくりの女王"と言った)」
それは即ち、オーラスで自分が大逆転をする
それが【自分の能力】ですと、説明してくれたに他ならない
京太郎「(そして……今現状は1万点以上の差がついている)」
考えられるのは2つ
・逆転できるほどの大きい手をツモ和了する
・一位に当てて逆転する
この2パターン
京太郎「(だけど、プロの世界でまくりの女王と呼ばれている以上、2つ目の可能性は低い)」
プロの世界で生き残るのは簡単ではない
相手とて、それなりの打ち手だし1位の逃げ切りが出来ないほどヤワではないだろう
まして、まくりの条件を満たすということは藤田プロよりも格上である可能性が高い
あの藤田プロを越える雀士が、果たして差込や現物での逃げ切りができないものか?
否、つまりこれは当てはまらない
京太郎「(あくまで可能性だが、自分で和了る系統の能力だ)」
確信は無い
だが、今の京太郎にとっては十分過ぎる考察
京太郎「(となると、次に考えるべきは藤田プロの手の高さ)」
・役満での和了
・高い役を絡める大きな手
・ドラを引き寄せた高い手
京太郎「(こればかりは分からない……場合によってはどれもありえる)」
そう、高い手で和了だということしか分からない
つまり――こればかりは見てみないと判別は不可
しかし、京太郎の雀力では藤田プロの筋を読み切り
相手の手牌を想像することは不可能だ
92: 2015/01/11(日) 21:16:34.22 ID:sQ+gYLVio
京太郎「(だからこそ、この人の力がいる)」
アカギ「クク……」
まずはアカギが見をする
そこで、どのパターンの高い手を作っているかを想像する
勝つための第一の条件は、まずそこが鍵となるのだ
京太郎「(どうですか、アカギさん?)」チラッ
アカギ「染めている様子も無い。それに、クセも見抜いた」
京太郎「……?」
アカギ「所詮競技麻雀……お上品な打ち方」ニヤリ
そう、この時アカギは藤田靖子の”あるクセ”を見抜いていた
それは――
一般客ウニ頭「うーん、麻雀はよく分からないのでせうが」
一般客シスター「ちんぷんかんぷんなんだよ!」
ざわ……
ざわ……
靖子「……ふぅ」カチャカチャ
チャッチャッ
2455p 12 8888s 567m つ1p
一般客ウニ頭「おぉ、見やすい!」
一般客シスター「ありがとうなんだよ!」
靖子「……」クス
アカギ「槓子があるな」
京太郎「(槓子?)」
93: 2015/01/11(日) 21:16:59.84 ID:sQ+gYLVio
そう、麻雀プロゆえの観客を意識した打ち方だ
テレビに放映されることも多く、自然と牌を整理して並べるクセがあるのだ
京太郎「(部長、俺にサマをさせないように客を集めたのが逆に災いしましたね)」
靖子はあくまでもプロ
そのクセは、意識しない限り抜けることはないだろう
もっとも、こんなほんの一瞬の隙を見抜けるのは――
この場ではアカギくらいであろうが
アカギ「牌の種類はバラバラだが、どういう塊があるかは見え見えだな」
京太郎「(つまり、萬子、ピンズ、ソーズの塊は出来ている)」
そして今、牌を整理するときに見せた4つの牌の塊
順子や刻子なら3つ……つまり、槓子である可能性が高い
だが勿論、それ以外の可能性も捨てきれないわけではない
京太郎「(確証はあります?)」
アカギ「まず間違いない、と言いたいが。クク……そういう罠かもな」
京太郎「(いや、そんなメリットは無い……)」
だがもし、アレが槓子なら……考えられるのは四槓子、四暗刻などか
京太郎「(ん? そういや、なんで暗槓しないんだ?)」
見られたく無い牌なのか?
それともする必要が無いからなのか……?
京太郎「(もし、もしだけど……藤田プロの和了牌が嶺上牌にあるとすれば?)」
以前、咲は藤田プロに破れたと言っていた
つまり――カンを奪うこともできると、考えられる
94: 2015/01/11(日) 21:17:26.19 ID:sQ+gYLVio
京太郎「(アカギさん……)」
アカギ「クク、なら確かめてみるか」
チャッ
京太郎「(ツモは……4m!)」
アカギ「京太郎、今だ」
京太郎「……へへ、待ってました」ボソッ
靖子「なに……?」
バララッ
京太郎「カン」
一同「!?!?」
4444m カシャッ
靖子「なっ……?」
京太郎「(明らかに今、動揺した)」
アカギ「クク……」
京太郎「じゃあ、リンシャンツモりますね」スッ
つまり、今から引く牌は有効牌の可能性が高い
それも――とびっきりの
靖子「(な、それは――私の!?)」
京太郎「(お前か3p……)」クスッ
つ3p サワッ
京太郎「いらんな」ペシッ
靖子「……ぐっ」
京太郎「(とりあえず、危険なピンズは整理しておくか)」チャッ
靖子「(だがしかし、ドラは表示される!)」
そして、何も気づいていないフリをしながら
ドラ表示牌に手を伸ばす
京太郎「おっ、また8sがドラですね」カチャッ
靖子「(当然だ)」
京太郎「(なるほど、ドラが8sね)」ゾクッ
つまり、これで疑惑は確信に変わる
藤田靖子の槓子の正体は8s
ドラ8の化物手……
京太郎「(つまり、役もろくに作らずともドラ8だけで逆転ってわけだ)」
そうなると、手の内を想像するのは簡単だ
役も適当に……ただ和了さえすればいい
京太郎「(それにいつかは暗槓しなきゃいけない。ということは……)」
狙うのは恐らく嶺上開花
つまり、次の牌が藤田靖子の和了牌となる可能性が高い
京太郎「(兎に角、ここで第一の条件はクリアだ)」
藤田靖子の和了るハズだった牌を奪う
これこそが、京太郎の策
京太郎「(流れは――今、変わった)」ニィッ
95: 2015/01/11(日) 21:17:55.11 ID:sQ+gYLVio
これからが反撃の時
京太郎「……」
しかし、ここまで冷静に藤田靖子のオカルトを分析してきた京太郎だが
ただ一つだけ絶対に自信を持てないことがあった
京太郎「(支配を破る為の……方法だ)」
咲やあの天江衣――大星淡のように
場を支配し、牌の位置を自在に操る力
それが――いつ決定されるのか、ということ
京太郎「(我ながら何を馬鹿なって思うけど……あいつらの力ってそういうもんだろ)」
つまり――
・牌を引く時に有効牌に変わる
・最初から運命づけられてその位置に存在する
この二通りのどちらであるのかが、重要な鍵となる
京太郎「(……分からない。どちらもあり得るし、その判断はここじゃ付かない)」
そう、こればかりは分からない
それに2である場合、京太郎にはもうどうしようもない
このまま負けを認めるしかなくなってしまう
京太郎「(だが、1のパターンならまだ可能性がある)」
オカルト持ちが牌を引く時――
触れた時に牌が決定されるのであれば
京太郎「(俺にも――やれる!!)」
望みの薄い策ではある
だが、0よりは1
――やらなければ、何も変えられない
京太郎「(それが、さっきの牌への接触)」
そう、京太郎は先ほどの嶺上牌のツモである一つの作戦を決行していた
京太郎「(イカサマスレスレだけどな……)」ニッ
嶺上牌を引く時に、その下の牌――
次に惹かれる牌に少し触れたのである
上から軽くちょんっと押す程度であったが
牌をツモる動作で、ずれた牌を直すレベルの動きだ
京太郎「(そう、藤田プロが引く前に俺が触れた。つまり、あの牌の支配は俺にある)」
とんだ屁理屈、子供の理論
だが京太郎は本気だった
京太郎「(つまり今度は俺が引く牌を――次に藤田プロが奪う形になる)」
当然、そんな保証はどこにもない
そのまま和了牌を引かれて負ける可能性だって大いにある
京太郎「(だけどもし俺にほんの少しのオカルトがあれば――)」
京太郎が触れた瞬間に牌は決定され、そこに位置することになるハズだ
京太郎「(言わねーけど、藤田プロ。俺のオカルトはへなちょこだぜ?)」
96: 2015/01/11(日) 21:18:25.61 ID:sQ+gYLVio
そして、そんな思考を抱えながら京太郎は闘牌を続ける
一方の京太郎は迷うことなく手を切っていく
京太郎「(次はピンズを切らないと)」
靖子の有効牌が3pであると分かった以上、35pは危険だ
早めに切り捨てるべきである
アカギ「いや、ツモ切りでいい」
京太郎「(え?)」
アカギ「早くしろ、出来るだけ迷い無く打ったように思わせろ」
京太郎「(は、はい)」タンッ
靖子「(あの四枚……一体何が隠されている?)」
見えない京太郎の手を見て、靖子は不安に駆られている
嫌な予感がひしひしとあの四枚から感じられるのだ
そんな中の迷い無いツモ切りである
靖子の思考に影が差すのも無理はない
靖子「(これは……)」
【靖子の手牌】4p
4556p 118888s 567m
まさかの4p
ここで8sを切り、6p待ちにする手も考えられた
靖子「(だがドラ2の8sを切るなんて、考えられない)」
当然靖子は相手の直撃を覚悟で打つことになる
ドラを落とすことなど、考えられないからだ
靖子「(だが唯一気になるのは、3pを彼が持っている可能性もある)」
ツモ切りからの素早い切り捨て
考えられるのはピンズが無く、清一色や染め手であること
しかし、そこにピンズが加わっているとなると……話は変わる
混一色も清一色も無ければ、ただのゴミ手
靖子「(仮にこれで和了られても、痛くも痒くもない)」つ4p
タンッ
京太郎「……」
靖子「(今は須賀君の親番。飛ばない限り、次の機会はある)」
だが、ここでアカギは確信
4pを切ったということ、それにさっきの2p切りも踏まえると
3ー7pを待ちに据えたイーシャンテンといったところ
つまり、危険牌を整理するなら暗槓する前
今しかない
97: 2015/01/11(日) 21:18:51.40 ID:sQ+gYLVio
そしてアカギも動く
アカギ「3pだ」
京太郎「……」スッ つ3p
靖子「ぐっ!?(まさか、本当に抱えていた?)」
困惑する靖子
一方のアカギは、勝利への流れ感じ取っていた
京太郎「(ツモは……!?)」
7p
引き寄せたのは、まともや藤田靖子の有効牌
圧倒的に見える靖子のオカルトに――ヒビが入り始めた証拠であった
57p 999s 【222m 678m 4444m】
アカギ「5pを切れ」
京太郎「……」5p
靖子「!!」
そして二連続で手の内から切った35p
これにより、靖子は盲信する筈だ
靖子「!!(こいつ、もしかして私の思惑に気づいて……)」
そう、もし今の4p直撃でも靖子を飛ばせないとすれば
恐らく、京太郎の手は相当安い
靖子「(だから見逃した。もっと高い手を作ろうと……)」
京太郎「……」
靖子「(ここに来て、なんて馬鹿な真似を)」ニヤリ
アカギの思惑通り、靖子は高をくくる
そして慢心を持って和了を決意するだろう
靖子「(つまり、今須賀君はテンパイしていない)」ニヤリ
そんな見逃しをしてしまえば、運の女神も見放すというもの
その証拠に――靖子が掴んだものは
【靖子の手牌】つ3p
4556p 118888s 567m
靖子「(来た来た来た!!!)」ニヤリ
勝ちを確信する靖子
だがそれは大きな間違いだった
京太郎「……」
98: 2015/01/11(日) 21:19:24.17 ID:sQ+gYLVio
運命を引き寄せる力
オカルトによる、絶対的な支配
何をも恐れぬ、女王の闘牌
靖子「ふ、ふふっ……ははは……あははははっ!!」
靖子は笑う
己の勝ちを確信し、ただ嗤う
京太郎「……」
靖子「須賀君、私の勝ちだ」
ざわ……
ざわ……
靖子「長かったよ、ここまで。すごくいい勝負だった」
アカギ「……」
靖子「だが、勝つのは私だ! この、私なんだ!!」バラッ
倒される四つの8s
ドラ8の化物――相手を地獄に誘う氏者
靖子「カンッ!!」
京太郎「(来たっ!)」
果たして、自分の読みが当たっているのか
それとも外れてしまっているのか
靖子「(ツモッ! ツモツモツモツモツモ!!! 私のチーピン!!) 」
京太郎「(頼むっ――!!)」
発
アカギ「クク……」ニヤリ
靖子「えっ……!?」
久「う、嘘……でしょ?」
掴んだのは7pなどではない
あるのは――
そこに有るはずの無い発
靖子「う、嘘だ! これは……何かの間違いだ!」
先程までの余裕から一転、慌てふためく靖子
だが、それに対して一方の京太郎は笑みを浮かべる
京太郎「フフ……どうしたんですか?」
靖子「な、なぁっ……」ブルブル
京太郎「自分の読みが外れて、大慌てですか?」
靖子「ち、違う! こんな、こんなハズは無い!」
靖子には確信があった、必ず7pであると
しかし、結果は違った
京太郎の策により、違う牌を掴まれたとも知らず
ただ困惑するのみ、自分の負けを認められない愚か者
みっともない敗北者の姿
京太郎・アカギ「「まるで白痴だな」」
靖子「!?!?!?」
99: 2015/01/11(日) 21:20:34.42 ID:sQ+gYLVio
靖子「な、なぜ……」つ発
仕方なく発を切る靖子
他に選択などできるハズが無い
そして、新ドラが表示される
京太郎「……」
一方的な靖子の和了かと思われた
しかし、そんな絶望的状況を乗り越えた先に――
京太郎「……ツキの女神は、待っている」ニィ
3m
靖子「!?」
新ドラは――4m
アカギ「クク……」
京太郎の手牌が一気に跳ね上がる
それも満貫確定のドラ4
京太郎「藤田プロ」
ざわ……
ざわ……
靖子「な、なんだ……?」
京太郎「考えてみてください。あの局面、俺がどうして早々にカンをしたのか」
靖子「!?」
京太郎「別に急ぐ必要も無し、無駄なドラを乗せることもなかった」
靖子「(まさか、まさかこいつ――!?)」
京太郎「……」
アカギ「京太郎」
京太郎「(アカギさん……?)」
アカギ「……お前の勝ちだ」
京太郎「(いえ、違いますよ)」フルフル
アカギ「……?」
京太郎「(”俺達”の勝ちです)」ニッ
アカギ「……フフ。ああ、そうだな」
100: 2015/01/11(日) 21:21:03.25 ID:sQ+gYLVio
靖子「あ、ぁっ……」ガタガタ
京太郎「アンタの探し物は……」つ2m
バラッ 4444m
京太郎「カン」スッ
この運を引き寄せたのは――赤木しげるの狂気なのか
それとも、須賀京太郎の粘りに粘った勝利への執着がもたらしたのか
答えは分からない
だが一つだけハッキリしているのは――
7p
アカギ・京太郎「「こいつだろう?」」
バラララッ
京太郎「ツモ、嶺上開花」
77p 999s カン4444m カン2222m チー678m
靖子「な、なんで……? どうして、そこに……? ありえ、ない」ガタガタ
京太郎「……」チャッ
1m
京太郎「リンシャンツモ、ドラ8――トビです」
靖子「嘘だぁぁぁぁあ!!!」
この二人――
どちらも劣らぬ、本物である
101: 2015/01/11(日) 21:23:48.35 ID:sQ+gYLVio
といったところで一度切ります
次回がVS和編のリメイクですね、はい
リメイクが終わればいよいよ前回の続きから
修正に時間が思ったより時間かかるので、もう少し先になるかもかも
前回で指摘された部分は極力直そうと努力しますが
他に何か気づいたことあれば遠慮なくどぞどぞー
102: 2015/01/11(日) 21:28:28.33 ID:qPeNBGGUo
乙!
前回も見てたから今回も期待してる!!
前回も見てたから今回も期待してる!!
103: 2015/01/11(日) 21:28:52.35 ID:aYUYYI0lo
コメントは節度を持った内容でお願いします、 荒らし行為や過度な暴言、NG避けを行った場合はBAN 悪質な場合はIPホストの開示、さらにプロバイダに通報する事もあります