317: 2010/05/02(日) 23:17:21.86 ID:KAnTKr.0
プロローグ
「とある科学の電磁通行(エレキックロード)」
暗いな......
俺ァ氏ンだ、のか......?
そうだ......天井のクソ野郎に撃たれて......
ここは、地獄?
いや、チゲェ。この感触はーーーッ!!
ガバッ!!
「......どォいう、ことだ?」
起きた彼の目に写ったのは、殺風景な自分の部屋だった。
物語は、始まる。
全ての罪が無くなった彼はどうするのか。
彼自身にも、まだ、分からない。
325: 2010/05/03(月) 17:21:24.85 ID:rXAbHeE0
「どォいうことだ!?」
一方通行は部屋の中で叫ぶ。
彼は困惑していた。
確かに、自分は八月三十一日に、打ち止めと言う少女を助けるため、氏んだ筈だ。
それがどうして傷一つ無く生きていているのか?
しかも、何故今日の日付が四月一日になっているのか。
「クソ!ワケわかんねェ!」
一方通行は苛立ちを部屋の隅にあったゴミ箱にぶつける。
ゴミ箱は一方通行に蹴られ、粉々に粉砕された。
「チッ、落ち着け、まずは情報を......」
ゴミ箱を破壊した事で少しは落ち着いたのか、一方通行は情報を得るため、玄関へと向かった。
326: 2010/05/03(月) 17:22:13.00 ID:rXAbHeE0
三日後
「やっぱりか......」
夜の街を歩きながら、一方通行は納得した。
三日間、徹底的に情報を探った結果、どうやらタイムスリップというものをしてしまったらしい。
いや、
(あくまで推測だが、時間のベクトルを操作したのか......?)
だが、一方通行はそんなことができるワケないよなと、思考を中断する。
そんなことが出来れば、今頃自分は絶対能力者(レベル6)だ。
「よお、君ちょっと俺たちと遊ばない?」
なにやら下品な声が聞こえ、チラッと一方通行は視線を動かす。
どうやらどこかの女子が不良達に絡まれてるらしい。
自分には関係無いなと思いつつ、歩き出そうとした瞬間、
「___ッ」
茶色の髪が目に入った。
不良達は五人いて、囲んでいるため顔は見えてないが、それでも、それが誰かは一方通行には分かった。
「......チッ」
間をタップリ開けて舌打ちし、一方通行は歩き始めた。
327: 2010/05/03(月) 17:23:16.44 ID:rXAbHeE0
「ハァー......」
美琴は壁に寄りかかりながら大きくため息を吐く。
美琴にとって周りの不良達はザコ。
正直言ってハエにたかられているようなものである。
だからこそうざったいのであるが。
(まぁ、適当に能力で追っ払えばいいか)
美琴はそんなことを思考しながら腕を組んで目を閉じる。
不良達が何か言っているが無視。
が、
「あぁ?なんだテメェ?」
ふと、耳に入った不良の苛立った声。
なんだと思いつつ目を開けると、こちらに向かって1人の少年が歩いていた。
白い髪というのは珍しいが、ソレ以外は普通に見える少年は、ゆっくりとこちらに歩いて来る。
まるで、不良達など眼中に入ってないが如くの行動だった。
不良に怒鳴られても、彼はそちらを向きもしない。
ただ真っ直ぐに、美琴の方へやって来る。
328: 2010/05/03(月) 17:23:51.93 ID:rXAbHeE0
その態度が気にいらなかったのか、不良がポケットに手をつっこみながら、彼の前に立つ。
恐らくガンつけするつもりだったのだろう。
だが、
ドンッ!
「はっ?」
彼は弾き飛ばされた。
巨体の不良は変な声をあげる。
何故か、不良の方が体も大きく、彼は対したスピードじゃないのに、だ。
そしてそのまま横に倒れた不良など無視し、ただ歩く。
不良達の顔に冷や汗が伝った。
美琴も直感的に感じる。
______コイツは強い、と
だが美琴は焦らない。
彼女はこの学園都市の第三位なのだから。
不良達はとうとう五メートルまで近づいたのを見て、一人が殴りかかった。
329: 2010/05/03(月) 17:25:16.74 ID:rXAbHeE0
「おらぁ!!」
拳が彼の顔面に吸い込まれー、
グシャ!っと音がした。
しかし、
「ギャァァァァァ!?」
悲鳴をあげたのは殴った方だった。
汚いコンクリートの地面をゴロゴロ手を抑えて転がる。
「おい!?」
「チッ!能力者か!」
不良達は警戒しながら、各々の武器を取り出す。
特殊警棒、スタンガン、ジャックナイフ、そして拳銃。
五人の男は武器を彼に向ける、
330: 2010/05/03(月) 17:26:50.91 ID:rXAbHeE0
が、
トンッ、彼が軽く地面を踏んだ瞬間、ゴバッ!っと彼を中心に地面が砕けた。
破片が散弾のように囲んでいた不良達に命中する。
「グボッ!?」
「がァ!?」
「......」
地面に倒れ伏す男達を見ながら、彼はチラッと美琴の方を見る。
その紅い目を睨みかえす。
だが、それを無視したのか、彼はそのままどこかへと行こうとする。
「はぁ?ちょ、あんた」
「......」
美琴は呼びかけるのだが......
「おーい?聞いてる?」
「......」
331: 2010/05/03(月) 17:27:36.08 ID:rXAbHeE0
勝手に助けたつもりになってどこかに行こうとするその姿に、美琴はついに切れた。
「聞いてんのかあああああああ!?」
完璧に無視して歩いて行く少年の背中に前髪から放たれた雷撃が飛ぶ。
当たっても精々気を失う程度の電撃。
それが背中に当たった瞬間、弾かれた。
「!?」
とっさに美琴は体を横に動かしてかわす。
もといた場所を、反射された電撃が通り過ぎた。
こんな現象は、始めてであり、美琴は目を見開く。
332: 2010/05/03(月) 17:28:45.90 ID:rXAbHeE0
どこかに行こうとしていた彼は、ふと立ち止まり、美琴の方に体を向ける。
周りが暗闇なだけに、少年の白い髪はよく目立った。
美琴は思わずツバを飲み込み、尋ねる。
「アンタ、何者?」
美琴のこの質問に、彼は少し躊躇う素振りを見せた後、言った。
「......一方通行(アクセラレーター)」
ただ一言、この学園都市最強の名を。
ただそれだけ言い、一方通行は去って行った。
これが、この世界での二人の出会いである。
333: 2010/05/03(月) 17:29:23.03 ID:rXAbHeE0
帰り道、一方通行は自分の行動に苛ついていた。
何故、あそこで不良達をボコしたのか。
何故、放っておかなかったのか。
「チッ、今更善人気取りかよクソが」
答えは、すでに出ていた。
ピピピッ、と携帯のノーマルな着信音が聞こえる。
一方通行はズボンのポケットに手をつっこみ、黒い携帯を取り出した。
着信者は、研究所。
彼は、明日があの実験の始まりだったことを思い出した。
349: 2010/05/04(火) 13:12:04.80 ID:DlgQgOY0
翌日、
研究所の一室、戦闘が行われること前提のステージに、一方通行はいた。
「これより_____ 」
目の前には暗視ゴーグルを装着し、サブマシンガンを持ったミサカ00001号が無表情で立っている。
一方通行の脳内で視界がフラッシュバックした。
彼は、前にもこれとまったく同じ光景を見たことがある。
無機質な、鋼色のへや。
人形のように告げる、クローンの少女。
その少女を一万三十一回頃し、残りの九千九百六十九を殺そうとした自分は______
350: 2010/05/04(火) 13:12:50.33 ID:DlgQgOY0
ガチン!っと彼女の手元にあるサブマシンガンのトリガーが引かれ、銃口から大量の弾丸が飛び出し、一方通行を襲う。
だが、弾丸は彼を傷つけることは出来無い。
弾丸は弾かれる。
周りへと。
この部屋をモニターで見ている研究員達は疑問に思った。
一方通行には反射がある。
何故、わざわざ周りに弾丸を操作するのか。
一方通行なら反射した方が楽だし、攻撃も出来るのに。
351: 2010/05/04(火) 13:13:29.80 ID:DlgQgOY0
研究員達がそう思っている間にも、銃による攻撃は続く。
一方通行に弾かれた弾丸が、床にたまっていく。
百発程打った所で銃は利かないと、ミサカ00001号は判断し、左手を振って雷撃を飛ばす。
その青い雷撃も弾かれた。
「......バリア?」
ソレを見てボソッと呟く。
一方通行はその言葉を無視して、足を一歩踏み出す。
352: 2010/05/04(火) 13:14:03.25 ID:DlgQgOY0
「っ!?」
気がつくと、目の前まで接近されていた。
思わず後ろに飛ぼうとするが、その前に一方通行がミサカ00001号の首を掴む。
その、白く細い腕をミサカ00001号は弾くことも出来ず、触れることすら出来なかった。
彼女に出来るのは、ただ体を動かしてもがくだけ。
一方通行が、その力を使ってトドメをさすまで。
353: 2010/05/04(火) 13:14:52.04 ID:DlgQgOY0
(なンだよ、あっけねェ......)
一方通行は首を右手で掴みながら思った。
目の前の少女は銃を取り落とし、拾うことも出来ずもがいている。
(なァンで俺ァ、ンな無駄なことしてンだァ?)
そう、無駄なこと。
一方通行なら、カンタンに目の前の少女を殺せた。
銃で撃たれたら、それを反射するか、操作して頭をうち抜けばいい。
首を掴んだなら血流操作で心臓を破裂させればいい。
一方通行なら朝飯前だ。
だか、彼はそうしない。
前は、カンタンに、ソレこそ戦闘開始から十秒で頃したこともあったのに。
(なァ、どォいうことなンだ?)
一方通行は心の中で問いかけながら、前を見る。
そこにいたのは、苦しそうな顔をし、一方通行から離れようともがく少女がいた。
苦しさからか目に少し涙を浮かべ、首からは血液の脈泊と、人間としての温かさ、体温が伝わってくる。
354: 2010/05/04(火) 13:15:32.94 ID:DlgQgOY0
(......あァ、そォいうことか)
一方通行は気がついた。
自分が何故、目の前の少女を殺さないのか。
ソレに気がついた彼は、
バキッ!!
自分の顔面を、左手で殴っていた。
その光景を見た全員の思考が停止する。
______自分で、自分を傷つけた?
一方通行はよろけ、そのせいで少女の首を掴んでいた手も離れるが、ミサカ00001号はただ呆然としてへたり込むだけ。
「ク、ハッ」
そして一方通行は、
「アハッ、ギャハッ、ハッ、ハッハッハッハッハッハッハッ!!!」
笑った。
笑う、笑う。
狂ったように笑う。
355: 2010/05/04(火) 13:16:53.69 ID:DlgQgOY0
だが、不思議とその狂気ともとれる行動は、怖く無かった。
ミサカ00001号は後に思う。
あれは、自虐の笑みだったのだと。
ひとしきり笑った後、一方通行は両手をポケットに入れ、背を向け歩き出す。
そしてロックがかかった鋼鉄の扉を殴り飛ばした。
ドゴォン!と、凄まじい轟音を立てて扉が吹っ飛ぶ。
反対側にめり込んだ扉だった物を流し目で見ながら、一方通行は歩いていった。
取り残された少女は、ただその背中を眺めるだけだった。
356: 2010/05/04(火) 13:17:35.93 ID:DlgQgOY0
ザーッと、外は雨が降り注いでいた。
一方通行にとって対して気にすることでも無い。
反射で雨などはじけるのだから。
雨がアスファルトにぶつかり、パラパラと音を立てる。
街の中では、学校帰りであろう生徒達が傘をさして歩いていた。
一方通行はそれを気にもとめず、ただ歩き続ける。
「なんで傘忘れたんだー!?不幸だーっ!!」
357: 2010/05/04(火) 13:18:39.57 ID:DlgQgOY0
その声が聞こえた瞬間、一方通行はグリン!と首を後ろに向ける。
後ろには、学生カバンを頭上に掲げ、雨の中を走る一人の少年がいた。
その少年は、前方に立ち止まって自分を見ている人物を見て驚愕し、思わず叫ぶ。
「あ、一方通行!?」
この時点でまだ面識のある筈が無い少年は、最強の名前を呼んだ。
一人のヒーローと、一人の大悪党が出会った瞬間だった。
雨は変わらず降り続ける。
まるで神様の涙のように。
365: 2010/05/04(火) 17:56:24.10 ID:8o4ABKY0
沢山のレス、ありがとうございます!
期待に答えれるよう、頑張りたいです!
これからもよろしくお願いします!
では、
「とある科学の電磁通行(エレキックロード)」
始まります。
366: 2010/05/04(火) 17:57:57.72 ID:8o4ABKY0
ファミレス内のテーブルの一つを挟み、二人の少年が座っていた。
一人は顔から冷や汗を垂らし、ツンツンしている髪の毛を雨で塗らしている。
対して対面に座る少年は少し不機嫌そうな顔をし、サラサラした白い髪を揺らしていた。
ファミレスのガラスに、雨粒がぶつかり、音を立てる。
なんで二人がファミレスに居るかというと、上条の反応を見た一方通行が強引に上条の襟首を掴み、ファミレスに連れ込んだのである。
その引き摺られていた上条の情けなさを見て、一方通行はこんな奴に負けたのかと、ため息を吐いたそうな。
367: 2010/05/04(火) 17:58:40.84 ID:8o4ABKY0
沈黙が、痛い。
「......オイ、お前」
「は、はい!?」
ビクゥ!と、上条はテーブルも揺らしながら答える。
ちなみにテーブルの上にはコーラとアイスコーヒーが置いてある。全く減っていないが。
「テメェ、実験の時乱入しやがった三下だよなァ?」
「ッ!?どうして......?」
上条は先程までの腑抜けた表情から一辺して、あの時のような真剣な表情に変わる。
その表情を見て、へェ、と一方通行は少し賞賛しながらも話を続けた。
「で、テメェも記憶があるってこたァだ。この現象について何か知ってンのか?」
テメェが犯人だったらブチ頃す。そういったオーラを全開にしながら一方通行は尋ねる。
368: 2010/05/04(火) 17:59:41.33 ID:8o4ABKY0
「いや、俺にもサッパリで......俺が記憶があるのは、多分、右手のせいだと思うんだけど......」
「ハァ?」
何言ってンだ?と言おうとして、ふと思い出す。
そういえば自分の反射の膜を破ったのも、右手だった。
何か能力に対する特別な力でもあるのかも知れない。
「一応、土御門にも聞いてみたけど、あの時と違って影響を受けてないの俺だけだったし。いや、お前も、なのか?」
「そォいうこった」
上条の言葉に気になる点があったがそこは無視する。
上条の疑問に答えて、一方通行は外を眺める。
外はいよいよ雨が強くなったのか、遠くの景色が雨のせいで見えなくなっていた。
369: 2010/05/04(火) 18:00:18.82 ID:8o4ABKY0
「なぁ」
その呼びかけが真剣すぎて、思わず一方通行はそちらを向いていた。
上条が真剣な表情で一方通行を見る。
その表情は、実験を止めたあの時と全く同じ表情だった。
「もう実験をやっているのか?」
その目を見て、一方通行は悟った。
コイツは、Yesと答えたら絶対に自分(最強)に挑むと。
ほんの少しだけ、目の前の人間の本質が分かった気がした。
370: 2010/05/04(火) 18:01:02.12 ID:8o4ABKY0
「今日が実験開始の日だよ、クソが」
「ッ!」
上条の瞳に怒りが灯り、立ち上がって怒鳴ろうとして、一方通行の表情が気になった。
何処か悟ったような、諦めたような、バカにするような、そんな表情。
「......お前は、実験を_____」
「してねェよ」
えっ?と上条は口の動きが止まる。
今、目の前の男はなんと言った?
「実験、拒否したっつてンだろォが」
「......えっ?」
371: 2010/05/04(火) 18:01:46.97 ID:8o4ABKY0
今度はちゃんと口に出せた。
一方通行は、妹達を二万体頃してでもレベル6になりたがっていた筈では......?
「.....戦ったは戦った。けどよ、どうしても、殺せなかった。人形みてェで、幾らでも替えがきいて、俺に殺されるためだけに生まれた命。そう、思っていた筈なのに......」
一方通行の脳裏に浮かぶのは、肌から伝わる、人としての温かさ。
「あいつ等が、一人の人間として、見えるようになっちまった。そして」
一方通行は一息つき、上条に告げた。
「もう頃したくねェ、過ちを繰り返したくねェ。そォ、思っちまった.....」
寂しそうに、窓の外を眺めながら、彼は言った。
外は雨により、全てが霞んで見える。
372: 2010/05/04(火) 18:02:37.51 ID:8o4ABKY0
「......ハッ、笑いたきゃ笑え。今更後悔だぜ?一万三十一人も頃しといて、今更なに言ってンだろォな、俺ァ」
アイスコーヒーのグラスを掴んで、一方通行は自分をバカにしながら言った。
一万近くも頃して今更後悔。
馬鹿げた話だ。
そんなふざけたことがまかり通る訳が無い。
一方通行は、目の前のヒーローが何か言うのを待つ。
なんと言うだろうか?
バカにする?ふざけるなと切れる?何も関心を持たずにただ憎む?
いずれにせよ、一方通行は拒否しない。
なにせ、本当のことなのだから。
一方通行は待つ。
拳一つであの実験を止めたヒーローの言葉を。
「笑わないさ」
373: 2010/05/04(火) 18:03:47.48 ID:8o4ABKY0
その言葉は、一方通行にとって全く予想外で。
思わず一方通行は上条の顔をみていた。
上条は続ける。
何故か、少し微笑んだ表情で。
「お前は確かに御坂妹を傷つけたし、沢山の妹達を頃したかも知れない。だけど、だからといって後悔しちゃいけないなんで決まりは無いだろ?」
上条は続ける。
一方通行に対する思いは、変わっていた。
「罪があるなら償えばいい。悪人はずっと悪人にならなきゃいけないのか?俺はそうは思わない」
すなわち、怒りと警戒から、友好へと。
「だけどもし、お前がまだ自分が悪人であり続けなきゃならないって思ってんなら______」
あぁ、と一方通行はやっと納得がいった。
どうして自分がこの男にこんなことを言ったのか。
そして、この男の本質に。
「_____まずは、その幻想をぶち頃す」
彼は、一方通行が知る誰にも比べれない程の善人だということに。
その一言を聞いて、一方通行は、
「お前、バカだろ」
小さな小さな優しい笑顔を顔に浮かべた。
374: 2010/05/04(火) 18:04:43.31 ID:8o4ABKY0
「魔術、ねェ。まァ信じてもイイけどよォ」
あれから魔術のことや上条の右手について一方通行は聞いていた。
どうやら魔術の線は無いと、上条の親友は断言したそうだ。
「なんか残照が残ってないから、それは無いみたいなんだ」
「そうすっと、科学の方しかねェみたいだが......」
一方通行は自分が立てた仮設を思い浮かべるが、すぐさまかき消す。
「まァいい。時間が戻ってても困ることはねェしよ」
逆に、彼にとっては大きなメリットばかりなのだが......
375: 2010/05/04(火) 18:05:22.73 ID:8o4ABKY0
「じゃァな」
「ああ。って代金払ってくれるの!?」
「一々面倒くせェだろォが」
そう言いながら一方通行はカードをレジの店員に渡す。
上条はその姿に後光がさしているように見えた。
「あ、ありがとう!一方通行様!」
「......」
その姿に、一方通行はハッキリと大きなため息を吐いた。
「ハァ......」
上条、早速上げて落とすという、何処かの鬼畜みたいなことをしていたが、まさにどうでもいいことだ。
雨も上がり、夜空では月が輝く。
氏神は、光り輝くへの一歩を、人間として踏み出した。
402: 2010/05/05(水) 00:42:09.85 ID:RFxc7qk0
ピピピッ!
朝、いや昼、昨日のうちに買ったコンビニ弁当を一方通行が寝起きのボャーとした頭で食べていると、机の上に置いていた携帯がなり始めた。
一方通行は箸を動かしながら、左手で携帯を掴み、着信を切った。
理由は簡単。
研究所からだったから。
「たっく、しつこいってンだよなァ。そンなにレベル6を作り出してェのかねェ」
そう呆れたように言いながら、一方通行はもぐもぐと牛肉弁当の肉を頬張る。
あの、一方通行が実験を拒否した日から一週間がたっていた。
403: 2010/05/05(水) 00:42:54.62 ID:RFxc7qk0
「で、だ。なンで俺ァここにいるンですかァ!?」
「まぁまぁ、細かいことは気にしない」
「上やんの友達なら大歓迎やでぇ!」
「にゃー。かみやんはついに男まで落とすようになっちまったのか?」
一方通行は腕を捕まれ、ズルズルと引っ張られていた。
街中をアテもなくブラブラしていると、この三人組、上条、土御門、青髪に出会ってしまったのだ。
そして右手で腕をつかまれ、現在にいたるというわけである。
「第一、何処に行こうとしてンだボケ!後腕いてェから離せェ!」
「ゲームセンターだよ。三人よりも四人の方が楽しいだろ?後逃げんなよ」
上条はそう言って一方通行の腕を離す。
右手が離れて能力が使えるようになるが一方通行は渋々ついて行く。
404: 2010/05/05(水) 00:43:49.71 ID:RFxc7qk0
「そういえば今日は何やるんやー?」
「うーん、シューティングゲームがいいな」
「かみやんが運関係のゲームやっても全滅だしだにゃー」
「それを、言うな......」
土御門の言葉にズーンとうなだれる上条を見て、ふと疑問に思ったことを聞いてみた。
「こいつなンで落ち込んでやがンだ?」
「それはやなー、上やんが不幸すぐていっつもミスるけやでぇー」
青髪曰く、クレーンゲームでは絶対に途中で景品が落ちるらしい。
なんだそりゃと思いつつ、一方通行は三人と隣り合って歩いていた。
暇だったのもあるし、心の奥底ではこういった日常を望んでいたのかもしれない。
405: 2010/05/05(水) 00:44:32.33 ID:RFxc7qk0
「シネェ!ハラワタブチまけろォ!」
「ノリノリだにゃー」
「お前等強すぎだろぉ!?」
「もう達人の域やね」
ゲームセンターにて、一方通行は土御門と一緒にシューティングゲームをLet’sプレイしていた。
それはもはや達人で。
3分の2あたりですでにハイスコアを更新していた。
さすが学園都市での最強の頭脳を持つ少年である。
「おらおらァ!まだパーティは終わってねェぞォゾンビどもォ!」
「なんか、画面のゾンビが可哀想になってくるんだが」
「そこは突っ込んだら負けぜよかみやん」
そういいながらゾンビを正確に撃ち抜く土御門も鬼である。
画面に出て来たゾンビはドンドン倒されていった。
「ヒャッハァー!」
406: 2010/05/05(水) 00:45:12.71 ID:RFxc7qk0
「スゲーな、お前!俺あの台のハイスコア更新始めて見たぜ!」
「ほんまやなー。周りに人だかりが出来とったし」
「ハッ!あンなもン楽勝だっつの!」
帰り道、夕日が街を染めるころ、四人は帰り道を歩いていた。
「あっ、僕こっちやから」
「俺ァこっちだ」
「じゃ、ここでさよならだな」
上条と土御門は寮の部屋へ。
青髪はパン屋の下宿へ。
一方通行も自分の寮の部屋へ。
「じゃあ、またな!」
上条のまたなという言葉が、強く一方通行の耳に響いた。
407: 2010/05/05(水) 00:46:20.91 ID:RFxc7qk0
「悪くは、なかったなァ」
一方通行は歩きながら呟く。
騒がしかったし、うっとおしかったし、疲れたし、だけど、楽しかった。
「けど」
本当に自分みたいなやつが、こんな平和に過ごしていいのだろうか。
そう思うが、
視界に見なれた人物が入ったため、思考は中止された。
「あー!アンタはっ!!」
それは、ある意味一番、一方通行が会いたくない人物だった。
「......なンだよ、お前」
「私の名前は、御坂美琴だ!覚えとけ!」
「いや、なンでだよ」
何故なら、一方通行は彼女に対して一番罪悪感を持っているから。
「超電磁砲(レールガン)」御坂美琴。
学園都市序列第三位。最強の発電能力者。
妹達のオリジナル、お姉様。
彼女は、今、一方通行の目の前に指を突きつけて立っていた。
輝く夕日が街を照らす。
赤い明るいオレンジへと。
423: 2010/05/05(水) 21:20:43.33 ID:x23br/c0
さて、突然現れた美琴に一方通行がとった行動、それは、
「......」
無言で立ち去る。
つまりスルー。
「あっ!どこ行こうとしてんのよ!?」
一方通行はスルーして行こうとしたが、ガシッ!と腕を捕まれて止まった。
腕を捕まれて止まった。
(ハァ!?)
424: 2010/05/05(水) 21:21:32.35 ID:x23br/c0
一方通行は心の中で驚愕した。
普段、一方通行には反射がある。
反射は全てに適応される筈だ。
それなのに、何故彼女は自分に触り、腕を掴んでいる?
「どーしたのよ?そんな驚いた顔をして」
「ッ!なンでもねェよ!」
顔をいきなり至近距離まで近付けられたため、一方通行は驚きながら慌てて下がる。
「?まぁいいや。アンタ!本当に一方通行なの?」
「......そォだよ。なんか文句でもあンのか?」
ぶっきらぼうに一方通行が言った言葉を聞いて、美琴はじろじろ一方通行を見る。
425: 2010/05/05(水) 21:22:25.70 ID:x23br/c0
「アンタが、学園都市最強の......想像したのと大分違うわね」
「どンなの想像してたンだよテメェ......」
ハァ、とため息を吐きながら一方通行は考える。
何故、彼女は自分に関わるのだろうか、と。
彼女はまだ現段階では実験のことを知らない筈だ。
だったら態々絡んでくる理由はー
426: 2010/05/05(水) 21:23:11.72 ID:x23br/c0
「私はねぇ、負けっぱなしは嫌なのよ」
訂正。理由とかいうレベルじゃなかった。というかガキだ。
付き合ってられんとばかりに、一方通行は歩き出す。
「だからアンタが第一位だろぉがって、無視すんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ズン!と美琴が足を地面に叩きつけ、周りに電流が迸る。
一方通行は自分の体に当たった電流を操作し、周りへと散らさせる。
振り返って文句を言おうとした所で、
427: 2010/05/05(水) 21:24:01.93 ID:x23br/c0
ビー!ビー!ビー!ビー!
なんか途轍もなくやな男が聞こえた。
ギギギと一方通行と超電磁砲は音の発信源に顔を向ける。
そこにいたのは黒い煙を吐き出す警備ロボット(120万円)だった。
「......」
「......」
タラーと、冷や汗を垂らしながら互いに顔を見合わせ、走り出した。
「テメェバカだろォ!?巻き込ンでンじゃねェよ!」
「う、うっさいわね!アンタが悪いのよ!?」
「なンだその無茶な理論はよォ!」
後ろを向かずに二人は怒鳴り合いながら走る走る。
誰だってこんなことで捕まりたくない。
夕日は地平線に沈みかけていた。
429: 2010/05/05(水) 21:25:28.35 ID:x23br/c0
「あー、クソ。疲れた......」
夜、結局能力を使って逃げ切った一方通行はベットに、ボフッと倒れこむ。
今日は疲れる日だった。
特に最後の追いかけっこが。
「......クソッ」
一方通行はボソッと呟く。
自分が笑っているのに気がついたからだ。
きっと、時間が戻っていなかったら、こんなことは無かったのだろう。
上条とも、美琴とも、きっと。
こんなバカな日常は無かっただろう。
(......神様ってのがいるンなら)
一方通行の意識は闇に落ちていった。
(今回だけ、感謝、してやる......)
430: 2010/05/05(水) 21:26:34.45 ID:x23br/c0
窓の無いビルという建物がある。
その中の密室でいくつものモニターが光っていた。
それを見るのは、ビーカーの中に浮かんだ、逆さまの人間。
その、男にも、女にも、子供にも、老人にも見えるその人間は、モニターを見て、ニヤッと笑った。
時は動き出す。
罪を背負う少年は何を思い、どうするのか。
438: 2010/05/06(木) 18:25:15.13 ID:QJ/DWrw0
朝、当てもなく一方通行はブラブラとしていた。
四月二十日、当然一方通行は学校に行ってない。
まぁ、特別クラスに本来行かなければならないのだが、サボっている。
さて、四月七日から今日まで彼が何をしていたか。ダイジェストに説明しよう。
「あんた待ちなさい!」ビリビリ!
↓
「おっ!遊ぼうぜ!」
↓
「不幸だー!」「氏ねバカ!」
↓
「一方通行、テメェを倒せば俺が最強の(ry」
↓
「待ちなさいって言ってんでしょ!」ザァァァ!
↓
「一方通行様!私めに慈悲を...!」
↓
「これで、一週間は持つぜ!ありがとな一方ってギャー!不幸だー!」
↓
「待ちなさい!」ズドーン!
↓
「一方通行、実験に」ピッ
↓
「一方通行、テメェを(ry」
↓
「雑魚の相手してどうして私と戦わないんだぁー!」バリバリ!
↓
「不幸(ry」
↓
「戦わ(ry」
↓
「実(ry」
↓
「一方(ry」
↓
......
まぁ、まとめると、
「めんどくせェことばっかよォ......」
ちょっと自分だけでなく、まわりもおかしいと自覚しはじめた一方通行だった、まる。
439: 2010/05/06(木) 18:26:17.40 ID:QJ/DWrw0
突然だが、一方通行はファミレスに結構通う。
基本的に自分で料理しないからだ。
何もそれは一方通行だけの話では無い。
世の中にごまんとそういう人はいる。
つまり、ファミレスというのは他にも結構人が通う訳で、
「相席お前かよ......」
「こちらとしてもビックリです、とミサカは座った人物を見てビックリ仰天します」
「全然ビックリしてるようには見えねェぞォ......」
一方通行はそう言ってため息を吐く。
目の前の少女は変わらず無表情で、本気で驚いたのか問い詰めたくなる。
440: 2010/05/06(木) 18:27:32.39 ID:QJ/DWrw0
「しっかし、お前がファミレスにいるとはよォ。あっ、俺ァこっちのステーキ定食」
「かしこまりました」
一方通行はそう言いながら近くを通りかかった店員にそう告げた。
ミサカはソレを見ながら目の前のスパゲッティーをフォークに絡ませる。
「私もですよ。こちらとしてはエプロンアクセラレータを期待したのですが、とミサカはエプロン姿を想像しながら言います」
「キメェ想像すんな」
ビシッとつっこむ。
最近ツッコミが上手くなってきた一方通行である。
441: 2010/05/06(木) 18:28:16.43 ID:QJ/DWrw0
「ちなみに、その想像をしたのは20000号です。ちなみに裸エプロンで、とミサカは変態を思い出しながら述べます」
「......なんだ、そいつバッカじゃねェの?」
「ちなみにいつも一方たんハァハァ、と言っていますとミサカはどういうやつかを説明します」
「決めた、絶対そいつとは会わねェ」
ミサカの報告に、一方通行は断言した。
そんな危ないやつと関わりあいになりたくない。
一体、その個体に何があった?と思いつつ、コップを手にとる。
442: 2010/05/06(木) 18:29:10.52 ID:QJ/DWrw0
「そォいや、実験はどォなったンだ?」
「停止中です、とミサカは簡素に言います」
一方通行が実験を実質、拒否したため、実験は停止している。
そのおかげで、研究員達は妹達の延命処置でてんてこまいなそうだ。
そのため、妹達の管理も大変で、
「外で食事という物をしろと命令があったため、ミサカはここにいます、とミサカは説明を終えます」
「つまり、俺の気が変わるのを待ってるって訳か。たっく、しょうもねェ」
一方通行は呆れ返った。
つまりいつでも実験を再開できるようにしているという訳だ。
一方通行本人が実験をする気が無いというのに。
443: 2010/05/06(木) 18:29:52.89 ID:QJ/DWrw0
「......何故、なのですか?」
「あン?」
「何故、実験をしなかったのですか、とミサカは問いかけます」
始めて困惑に近い表情をミサカは浮かべ、尋ねる。
彼女にとっては不思議でたまらないのだろう。
自分の命は模造品で、いくらでも作れる物だ。
なのに何故、彼はそんな模造品のために実験を中止させたのだろう、と。
「......簡単なことだよ」
「......」
444: 2010/05/06(木) 18:30:38.52 ID:QJ/DWrw0
一方通行の言葉に、耳をしっかりこらす。
「頃したくなかった。ただ、ソレだけだ」
一瞬、ミサカは完璧に思考が停止した。
ソレだけ?
「まァ、頃したくねェって思うまでの家庭はあンぜェ。だけどなァ、ンなのどォでもいいだろォが」
本当に大事なのは、
「テメェは今生きてる。ソレだけで十分だろォが」
445: 2010/05/06(木) 18:31:21.94 ID:QJ/DWrw0
「わか、りません。と、ミサカは、抗議します」
ミサカはポツリポツリと、切れ切れに言う。
俯いたまま、言い放つ。
まるで、分からないことを恐れる弱い人間のように。
「あなたの言っていることは、理解、不能「理解出来なくていい」
少女の言葉を遮り、彼は続ける。
「もう一度言うぜ?生きている。これだけで充分だ」
「本当に、そうなのでしょうか、と、ミサカは確認を、取ります」
その言葉に最強は、
「あァ」
短く返した。
446: 2010/05/06(木) 18:32:02.09 ID:QJ/DWrw0
「じゃァな」
「......はい」
すっかり時間が立っていた。
あれほど賑わっていた店内も、今や極一部の人しか居ない。
一方通行は財布から一万円札を取り出し、机の上に置く。
「釣りはテメェが持っとけ。俺ァいらねェからよ」
そう言って席を立ち上がる。
通路を通って外に出ようとした所で、
「っ、あの!」
ガタン!と椅子を揺らして彼女は立ち上がる。
一方通行は其方の方を向いた。
「......また、会えますか?」
「......さァな」
彼はドアを開けた。
447: 2010/05/06(木) 18:32:52.05 ID:QJ/DWrw0
ピピピッ!
「あン?」
ちょうど近くの公園を通過していると、携帯が着信を告げた。
鳴り始めた携帯を見て、一方通行は首を傾げる。
ディスプレイには芳川と書かれていた。
芳川は一方通行に関わった研究員達の中でも、比較的人らしい人間だった。
一方通行が個人の名前で登録している珍しい一人である。
ピッ
「もしもし?」
その電話の内容は、
「妹達の強制実験、だと?」
一方通行を闇へと踊らせる。
ガチン!と、銃のトリガーを引く音が、公園内に響き渡った。
彼は、彼女達を救えるのか。
彼は、最強の力を振るう。
537: 2010/07/02(金) 14:40:58.97 ID:lSEMPWM0
四月二十日。
この日、学園都市第七学区に銃声が轟いた。
「クソが!メンドクセェ!」
ビルとビルの間を飛びながら、一方通行は叫ぶ。
重力と風力を利用した凄まじい速度でビルの壁面に足を付くが、その衝撃のベクトルを拡散させる事で壁に傷一つ入れない。
音速に近い速度で移動しているのだ。下手すると倒壊させかねない。
『頑張ってね』
「オマエ他人事だからって余裕そうだなァオイ!」
『あら、私これでも焦っているつもりなのだけれども』
「どの口が……クッ!」
ビルの壁面を蹴って飛び、一方通行は宙を翔る。
狙いは外したミサイル弾。
態々一方通行はそれに追いついてベクトルを変換。
真上へと向け、向かい側のビルに直撃されるのを防ぐ。
「本ッ当に周りへの被害考えてネェンだなァ!」
『余程レベル6が惜しいのよ。研究員の殆どがね」
「オマエはどうでもいいって思ってるのかよ」
『まぁね』
538: 2010/07/02(金) 14:42:41.05 ID:lSEMPWM0
携帯から聞こえる短い返事に、フンと一方通行は忌々しそうに鼻をならす。
彼は今、大量の「妹達(シスターズ)」から逃げていた。
一般人もいる、第七学区のビルとビルの間を飛びながら。
芳川からの情報、それは新たな実験の内容だった。
最初の実験での一方通行の行動をツリーダイアグラムに入れて計算しなおした場合、出た答えは「強制実験」。
武装した妹達で一方通行を襲わせる。そして一方通行が妹達を全員頃した時に、一方通行はレベル6になる、『らしい』。
だが少しばかりおかしい。
前が一人一人決められた戦場だったのに対し、今回は戦闘回数も、戦闘人数も、戦場もどうでもいいのだ。
明らかに前に比べて「適当」に感じられる。
まるで、どうあっても一方通行に妹達を殺させたいような。
『恐らく、レベル6になるためには精神的な何かが必要なのね。だから』
「殺させたいと。ハン、むかつく、なァ!」
携帯電話を持ってない方の手で、飛んで来た銃弾を真上に弾く。
反射すると打った妹達の誰かが危ないし、真横と真下には何も知らない一般人がいる。だから真上に弾くしかない。
『さてどうするの?このままじゃ貴方の精神も持たないんじゃない?』
「……確かにこのまま戦うのはしンどいな……なンか策でもねェのかァ?」
『そうね……』
539: 2010/07/02(金) 14:43:30.93 ID:lSEMPWM0
『そうね……』
暫くカチカチと、キーボードを叩く音が携帯のマイクから聞こえて来る。
それを聞きつつ、一方通行は屋上のフェンスを蹴り、更に上へと飛ぶ。
いきなり音を立てたフェンスに屋上に居た誰かが驚くが気にしている時間は無い。
『……これなら、行けそう』
「どンな作戦だよ」
『研究員達は幾らでも居る』
「あン?」
突然の意味不明の言動に一方通行は首を傾げ、電話の向こうは更に続ける。
『同じように施設も沢山ある。じゃあ、学園都市にとって失いたく無いものは?それこそレベル6に匹敵する程の』
「……ハッ、なァるほどォ。そりゃあイイ!」
答えを出した一方通行はニィと笑みを浮かべ、飛ぶ方向を変えた。
540: 2010/07/02(金) 14:44:06.28 ID:lSEMPWM0
■
戦闘機という物は高く、そして重要な物だ。
何故か?学園都市があらゆる国、地方で強気に出れるのはこの圧倒的な兵器軍が存在するためだから。
そしてもう一つ重要なのは、情報。その兵器軍、ありとあらゆる技術の情報。
「さすがにこの二つがあったら手ェ出してこねェ、か」
その兵器軍がある倉庫の一つに、一方通行は居た。
手にあるのは黒いメモリーチップ。
メモリーチップに収まった情報は学園都市に存在する技術の一パーセントに過ぎないが、ソレだけでも多大なる力を持っている。
「まァ、先にぶっ壊してもイイけど、その場合開き直られても困るからな」
そのチップを弄びながら、一方通行は呟く。
芳川を通して研究所に脅しを入れた。
後は芳川の立ち回りに期待するだけだ。
「……他人任せか、オレらしくねェ……」
541: 2010/07/02(金) 14:45:06.66 ID:lSEMPWM0
普段の無愛想な顔を苦笑に変える。
変わったが、これは多分人間らしくなったのだろう。
そう一方通行は自分の思考を結論づけ、
「で?ナァンでオマエがここに居るんですかァ?」
倉庫の入り口に呼びかけた。
その誰かは重苦しい兵器に支配された倉庫を、ゆっくりと一方通行に向かって歩く。
545: 2010/07/02(金) 16:21:06.53 ID:lSEMPWM0
額に掛けたゴーグルが鈍い光を放った。
「また会いましたね、とミサカは複雑な心境で貴方に話しかけます」
「こんな状況で会いたくなかっがなァ」
ゆっくりと、一方通行は其方を向く。
そこにはあの無表情で、此方に銃を構える彼女が居た。
00001番目のミサカ。
本来なら殺されていたはずの彼女が、
この世界で一方通行が触れ合った唯一のミサカが、
立っていた。
562: 2010/07/06(火) 13:29:48.07 ID:MuY6cNM0
二十メートル程離れて立つ彼女、ミサカに彼は呆れを見せながら問いかける。
「……どーしてここに居るンですかァ?研究所の奴らは何やってンだよ」
「貴方の脅しは無視されたという訳です、とミサカは研究員達による決定を告げます」
「無視、ねェ。戦争が勃発する危険性すらあるのによ」
実際、一方通行の指摘は正しい。
学園都市の技術は素晴らしい物だ。正義、日常の面でも、悪、非日常の面でも。
少しとはいえ、その情報を上手く流せば世界の国々を混乱に陥れ、戦いが起こせるだろう。
だが、
「ツリーダイアグラムの結果、貴方はそれを実行しないと出ました。と、ミサカは告げます」
「オイオイ、ンなとこまで機械に頼ってンのかよ」
ハァ、と一方通行はあからさまに呆れた。
機械にそんな決定を委ねるなど、もはや機械が人を支配しているような物では無いか。
そんな風に呆れてから、一方通行は、
「ンで?なァンでオマエ一人なンだよ?」
そう、ここが問題。
何故、先程まで大量の妹達で武装し放題で向かって来てたのに、何故一人なのか。
「ツリーダイアグラムの決定です、とミサカは告げます」
「アァ、はいはい。そうですか」
563: 2010/07/06(火) 13:30:34.59 ID:MuY6cNM0
同じ返答に飽き飽きする。
あの実験を、思い出してしまう。
だから、一方通行は。
「オマエ、さっきから同じ語尾なの気がついてっかァ?」
飛んだ。
地面の滑走路に使われる特別製のコンクリートが砕け散り、爆音が撒き散らされる。
それを起こして得た推進力を利用して、彼は彼女との距離を一瞬で詰めた。
「!?」
二十メートル近い距離をいきなり詰められた彼女は後ろにーー
「ちっと痛ェぞォ!」
「ぐっ!」
下がれなかった。
絶妙な威力に調整された拳が顔面に突き刺さり、彼女は呻く。
いつかのように吹き飛びはしないものの、それなりの威力。足が地面から離れ、体が宙に僅に浮き上がる。
「ざァンねェンでした、ってなァ」
地面に背中から落ちたミサカを見下ろしながら、一方通行はニタニタ笑う。
傍に落ちた銃をついでとばかりに遠くに蹴り飛ばした。
564: 2010/07/06(火) 13:31:15.19 ID:MuY6cNM0
「これでお終い。オマエの負けだ」
「……どうやらそのようです、とミサカは背中の痛みをクールに堪えつつ負けを認めます」
「いっつも無表情の癖して何言ってやがンだオマエはよォ……」
額に手を付き、ため息を吐く。
時々意味不明の台詞が出るのも、もしかしたら学習装置が悪いのかも知れない。
学習装置作った奴誰だゴラ、などと考えつつ、彼はミサカの傍に屈んだ。
「まァ取り敢えずだ。オマエを研究所に連れて行く。研究所の連中をもっとハッキリ脅さなきゃならねェし」
オマエの治療も、とは一方通行は言わない。
だがその生まれ故か、それとも別の何かのせいなのか。
彼女は人の本心、一番の思いが分かることが多い。
そして今回も彼の心境が分かり、
「それには及びません、とミサカは貴方の無駄な行為を止めます」
「……なンだと?」
「無駄だと言ったのです、とミサカは再度繰り返し発言します」
倒れたまま無表情で言う彼女の言葉に、ピクッ、と一方通行のこめかみがヒクつく。
当たり前だ。いきなりお前のやっていることは何の意味も無い、みたいなことを言われたら誰だってイラッ、と頭に来る。
「なに言ってンのオマエ?喧嘩売ってンですかァ?」
「喧嘩を売っているのでは無く、」
若干喧嘩越しになりつつある一方通行の言葉を訂正した後、彼女は、
565: 2010/07/06(火) 13:32:28.15 ID:MuY6cNM0
「ミサカの命は残り約三分だからです、とミサカは自分の現状を貴方に伝えます」
そう、言った。
ただ淡々と、まるで明日の天気でも語るかのように。
「……ハッ?オ、マエ、何言ってッ!?」
一方通行は気がつく。
彼女の顔が赤くなってゆくのを。
それは恥ずかしさから来るものなどでは決して無い。
「脳に、チップを埋め込まれまして……と、ミ、サカは、息もたえ、だえに、貴方にせつめ、いします……」
「オイ!無理すンな!クソッ!」
チップ。
その言葉をミサカを見ながら彼は考える。
彼女は脳に、と言った。
心当たりはある。
一方通行のポケットに入っている黒いメモリーチップ。
その中に入っているデータは全て一方通行が研究所のパソコンから詰め込んだ物だ。
それらは手動で行われたため、彼は入っているデータを覚えている。
千に達するデータの一つに、そのチップの情報があった。
小さな、それこそ脳に影響を与えないくらいの小さなチップだが、特定の条件が重なるとそのチップが脳の電気信号をかき乱し、埋め込まれた人間の体を徐々に侵して行く。
内蔵の働きや筋肉の動きに支障をしたして行き、約三分から五分で、
氏ぬ。
566: 2010/07/06(火) 13:34:34.90 ID:MuY6cNM0
「ッ……クソがァ!」
ダンッ!と力任せに一方通行は拳を地面に叩きつけた。
ギリギリと、歯を食いしばり、彼は怒りを撒き散らす。
「あのクソ野郎どもがァ……!」
恐らく、これもツリーダイアグラムとやらのお告げなのだろう。
たかがレベル6とか、そんなどうでもいいはずの物を作るためだけに。
怒りを撒き散らし、どこか泣きそうな表情をした一方通行に、
「あ、の……」
ミサカは、声をかけた。
汗を垂らし、まるで風邪にかかった病人のような表情で。
「お、願い、が……と、ミサカ、は……」
「喋ンな……!」
彼女はそれを聞いても止めず、言葉を続ける。
「どう、せなら、貴方に殺され、たいです」
「ッ!?なン、で、だよ ……?」
震える声で、子供のように一方通行は彼女に尋ねる。
その言葉に、彼女はニコッと弱々しく笑って、
「チップごときに、氏にたくありませんので、と、ミサカは、理由を告げます」
567: 2010/07/06(火) 13:35:46.10 ID:MuY6cNM0
ハッキリと、一方通行の耳に響く。
一方通行はそれを聞いて、
「……ッ……く、そがァァァァァァァァッ!!」
大きく、叫ぶ。
彼は恨んだ。
彼女をこんな風にした研究員達にも。
交渉を上手くすることが出来なかった芳川も。
研究員達に命じた、学園都市の上層部達も。
クローン達を生み出した遺伝子を提供した超電磁砲の少女も。
自分が氏ぬことに疑問を持たない、作られたこの少女達も。
こんな裏の事情を知らず、のんきに生きている学園都市の住民も。
能力なんて物を作り出した学園都市の存在も。
こんな残酷な現実を突きつけて来る、世界も。
そして、何よりも、
目の前に氏にそうになっている彼女を救えず、怪物のような力を持っているのに何も出来ない自分を、
あの超電磁砲の少女を不幸にし、沢山のクローンが生まれる原因を作った自分を、
たとえ世界が核に包まれても氏なないのに、全ての敵を倒すことが出来るのに、たった一人の女の子さえ救えない自分を、
そんな自分を、心底恨んだ。
そして、そんな彼は、
「……」
568: 2010/07/06(火) 13:36:23.68 ID:MuY6cNM0
叫び声を止め、彼は無言で右手を上げる。
全ての命を頃す、氏神の白い腕を。
その恐らく世界最強の殺人兵器を見て、横たわる彼女は目を閉じる。
汗を垂らし、真っ赤なその顔に恐怖は全く無く、ただただ、穏やかだった。
そして、
振り下ろされる。
振り下ろした彼の顔は、負に歪んでいた。
580: 2010/07/07(水) 21:12:22.30 ID:GvQWvH60
振り下ろされたそれは、
「…ざ…、ンな……
ふっざけンなアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」
ガシッと、ミサカの頭部についているゴーグルを掴んだ。
そしてそれを勢い良くずらし、額を出す。
汗に濡れた茶色の前髪を払い、額に己の白い、氏神の手のひらを乗せる。
581: 2010/07/07(水) 21:13:04.33 ID:GvQWvH60
「な、にを……」
彼女はその行動に、問いかけるが、
「黙れェ!オマエは息荒げて寝てろ!」
怒鳴り返すその言葉には、沢山の思いが篭っていた。
「ざけンな、ふざけンな!氏なせねェ、絶対に氏なせねェ!」
ーー自分は誰だ?学園都市の最強のレベル5だ。
ーー最強は、たった一人の少女すら救えないのか?
ーーー違う!
「絶対に助ける。助けてみせる……!」
呟く彼の脳裏に浮かぶのは、あの電気を放つ少女の笑顔。
自分が絶対に見れないと思っていた、彼女のイタズラっぽい笑顔。
あの笑顔を、また見れなくするのか?
ーーーそんなことは、絶対にさせない。
彼は、能力を全力で行使した。
582: 2010/07/07(水) 21:13:43.51 ID:GvQWvH60
やることは一つ。チップの破壊。
だが無理にやるとミサカの脳を壊しかねない。
慎重に、ゆっくりと、機能停止に追い込む。
(くっ……さすがに、キッチィか……!)
ある意味、打ち止めの時の数倍辛い。
彼方は高速で削除していくのだが、此方は削除では無く少しづつ削って行くような感じだ。
少しでも失敗したらゲームオーバーなのは変わりないが。
そしてゲームオーバーは彼女の氏を意味する。
ツーと、汗が一方通行の頬を伝って行く。
反射に割いている力など一ミリたりとも無い。
(少しづつ、少しづつ……)
次々と頭に入ってくる電気信号の情報を読み取り少しづつ、ほんの少しづつ、操作していく。
そしてチップのせいで乱れていた脳の電気信号のやり取りを正常化してゆき、チップに負荷をかけてゆく。
583: 2010/07/07(水) 21:14:22.09 ID:GvQWvH60
「いける……ッ!」
尋常じゃない量の汗を垂らしながらも、一方通行は確信した。口元に勝利の笑みが浮かぶ。
開始から五分たったがミサカは氏んでおらず、逆に呼吸の乱れが収まって行った。
「……ハッ、オレァ多分研究員共から見たら相当バカなことやってンだろォなァ」
少し余裕が出来たためか、一方通行は自嘲気味に呟く。
それが耳に届いているのか、横になったミサカの体が少し動いた。
「なンせ単価十八万のクローンを助けるために汗水垂らしてンだ。人形を助けるために大金使うようなもンだ」
目を閉じた状態の彼女が何を考えているか、彼には分からない。
だけど、それでも、彼は言い続ける。
「だけどなァ、単価十八万とか関係ねェ。関係ねェンだよ。オマエは、オレにとって一人の人間なンだよ。周りがどう言おうと、どう見ても、だ。だからオレァ」
ーーーオマエを、助ける。
彼女に、この横たわるバカな彼女に、伝えたいから。
お前も、立派な一人の人間なんだって。
584: 2010/07/07(水) 21:16:25.49 ID:GvQWvH60
だが、世界は残酷だった。
ギャリギャリ!
「っ!?」
金属と金属が擦れる嫌な音に、一方通行は視線を動かす。
その赤い瞳に映ったのは、金属の箱。
俗に、警備ロボットと呼ばれるもの。それが十個程、倉庫の入り口から此方へと向かってきていた。
(オイオイ待ちやがれ!明らかに普通の警備ロボじゃねェぞ!?)
心の中で彼は焦りながら叫び、ギリギリと砕けそうなくらい奥歯を噛み締めた。
明らかに、此方に向かって来る警備ロボットは武装が普通と違った。
体に収納されていたであろう銃口は二十を超える。移動スピードも遥かに早かった。
(クソ!後少しなンだよ!もうちっと待ちやがれこの鉄塊どもが!)
もう二十メートルぐらいまで近づかれ、一列に並んで止まる。
(間に合わーーっ!)
瞬間、前面についているスコープレンズが煌めいたかと思うと、
ガガガガガガガガッ!!!
嵐のような銃声が轟いた。
585: 2010/07/07(水) 21:17:08.96 ID:GvQWvH60
その時一方通行が見たのは、
自分の手を振り払って、
目の前に立って、
此方を見て笑う、
ミサカ00001号の姿だった。
弾丸が彼女の横を擦り抜ける。
だが命中するものも多く、その直撃時の衝撃でミサカはフラついた。
額からズラされていたゴーグルにも命中し、砕け、吹き飛ぶ。
緑色の部品のカケラを撒き散らしながらゴーグルは宙を舞う。
銃声が止み、ミサカはぐらっと、倒れた。
ゆっくりと、まるで糸が切れたかのように。
ドサッ、と倒れる音と同時に、
ガチャン、と砕け散ったゴーグルが落下した。
586: 2010/07/07(水) 21:18:36.31 ID:GvQWvH60
「……はっ?オイ……?」
そんな彼女を見て、彼はポツリと呟く。
反射を使えなかった筈の彼は、何故か無事だった。
何故なら、彼女がーーー
「……?」
何か、頬に感触が有った。
一方通行はそれを左手で拭う。
目の前に、左手を持ってきた。
それは赤いナニカだった。
どこかボンヤリと、目の前にうつ伏せに倒れた少女を見る。
彼女と地面の間から、赤い、紅い、“ナニカ”が、一杯出ていた。
587: 2010/07/07(水) 21:19:21.19 ID:GvQWvH60
自分の元まで届きそうなくらい広がってゆくそれを見て、彼は、
「ウ、
ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」
脳を引き裂き、その中心から出て来る黒いナニカ、といった風な感覚を一方通行は感じ、
「■■■■■■■■■■■!!!!!」
己の魂の底から湧き上がって来る感情に身を任せて、ナニカを振るった。
彼の意識は、そこで暗い暗い、闇に染まった。
598: 2010/07/08(木) 21:36:48.26 ID:1UWJoWs0
エピローグ
「……っ!?」
目を開けたら、白い天井が目に入った。
ガバッと彼は身を起こす。
「こ、こは……」
体に一定の感覚で走る鈍い痛みを無視し、一方通行は辺りを見渡した。
白い、全てが白い。
天井も壁もベットのシーツも自分の服も、全てが白い。
窓の右側に寄せされた白いカーテンが風によって揺れ動き、衣擦れの音を立てる。
窓から見える空は、とても青かった。
「一体、何がーっ!?」
彼は、思い出した。
何があったのかを、全て。
「……クソ」
ポツリ、と一方通行の口から言葉が漏れる。
599: 2010/07/08(木) 21:38:05.89 ID:1UWJoWs0
そこから、
「クソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソガアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」
濁流のように言葉が迸った。
手をベットの布に叩きつけたせいでさしていた点滴が抜けるが、彼にそれを気にするだけの理性など無い。
「なァにが最強だ……なァにがレベル5だ……!」
ブルブルと、怒りの余り震える右手を目の前に持って来る。
(結局、オレの手は誰かを頃す事は出来ても、誰かを助けることはできねェじゃねェか!)
あのヒーローは右手一つで妹達を救ったのに、自分は、最強と呼ばれる力を持つ自分はーーー!!
「誰も、助けれねェのかよォ……!」
600: 2010/07/08(木) 21:38:49.96 ID:1UWJoWs0
「周りの人の迷惑になりますので中二病は自分の家でして下さい、とミサカはコイツ何やってんの?と思いつつも冷静に言い放ちます」
「……はっ?」
誰かの声に思考が停止し、首をゆっくり動かす。
病室のドアは開け放たれており、そこには“彼女”が立っていた。
普通、ドラマならこういった場合泣きながら抱きつくのだろうが、
「……なァァァァァァァァっ!?」
一方通行は変な叫び声をめいいっぱい上げた。
601: 2010/07/08(木) 21:39:37.83 ID:1UWJoWs0
■
「で、どういう事だ?」
「それはですね……むっ!このリンゴ中々やりますねと、ミサカは赤い果実を賞賛します」
「オマエ諦めろよ」
ハァ、と彼はため息を吐く。
その言動とため息をスルーし、ミサカ00001号は新しいリンゴへとナイフを向ける。ちなみに三個目。他のはギザキザした形の生ゴミになってしまっている。
あれから幾分か一方通行も落ち着き、冷静にベットの横の椅子に座ってリンゴ相手に悪戦苦闘している彼女を見る。
彼女は白い病院ならではの服を着ており、腕の見える部分は包帯だらけだった。恐らく、服の下も。
頭にはあの砕け散ったゴーグルと同じ型のがかけられている。
「あー……無駄な努力しながらでもいいから、さっさと状況説明しろ」
「無駄とは酷いですね……まずミサカが何故助かったというと」
コトン、と果物ナイフを台の上に置く。
リンゴはボロボロでグチャグチャになっていた。
602: 2010/07/08(木) 21:40:15.06 ID:1UWJoWs0
「あれが麻酔弾だったからですよ、とミサカはあれ結構痛かったなーと思い出しつつ語ります」
「麻酔、弾、だとォ?」
「万が一にでも貴方(レベル5)を失いたく無かったのでしょう、とミサカは研究者達の意図を言います」
「……」
その言葉に納得する。
考えてみればわかることだった。
研究員達にとって一方通行は宝だ。この学園都市二百三十万人の中で唯一レベル6に到達出来る存在。
そんな彼をいくらツリーダイアグラムのお告げとはいえ殺そうとはしないだろう。
「……実験はどうなるンだ?」
「凍結されることになりました」
「……理由は?」
慌てず騒がず、一方通行は理由を尋ねる。
それにリンゴの汁に塗れた手を舐めながらミサカは答えた。
「芳川という研究員による交渉、それと上層部直々の凍結命令が出ましたので、とミサカはリンゴの甘酸っぱさを感じながら答えます」
「きたねェから止めろ」
一応言っておく。聞くとは思わないが。
603: 2010/07/08(木) 21:42:05.12 ID:1UWJoWs0
(上層部直々に、ねェ。一体なに考えてやがンだ……)
一方通行は平静を装いつつ、思考をフル回転させる。
が、
(情報が足りなさすぎンな……クソ)
一体なにが目的なのか、サッパリ分からない。
もうすこし時間と情報が欲しい所だ。
「……私達、妹達は」
そんな沈黙の中、彼女はポツリと語り出す。
「いつか実験が再開された場合のため、調整が施されることになりました、とミサカは芳川という研究員から聞いたことを伝えます」
「……そうか。オマエらクローンだったしなァ」
「はい。……全国に、散らばることになる全ミサカを代表して貴方に言います」
そこで彼女は言葉を切り、
「ありがとうございました」
「……ハッ」
ぺこりと、一礼してくるミサカから彼は視線を外す。
それは俗に言う照れ隠しと呼ばれるものだった。
604: 2010/07/08(木) 21:45:23.07 ID:1UWJoWs0
■
「ありがとう、ねェ」
「?どうかしたかい?」
「なンでもねェよ」
此方の体調を調べているカエル顔の医者に、彼はぶっきらぼうに返した。
あれから一時間立ち、ミサカも自分の部屋へと戻っていた。
(……ンなこと、言われる立場じゃねェンだけどな……)
結局の所、一方通行は悪人なのだ。
たとえ今この世界で一方通行の罪が無かったとしても、一方通行自身の記憶にはあるのだ。
そしてそれは現実にあったことであり、どう足掻いても消せないものだ。
「うん、問題無いね?多少能力を無理して使ったせいで頭がダルイかも知れないけど一時的なものだからね?」
「……」
無言を返事と受け取ったのか、聴診器を掛け直し医者は立ち上がる。
そして白いドアに手をかけて、
「あぁ、そうそう」
「……なンだよ?」
振り返って医者は言う。
「彼女のことなんだけどね?君の能力のお陰で大事に至らなかったのだから、誇りに思ってくれ」
「……」
605: 2010/07/08(木) 21:46:02.89 ID:1UWJoWs0
まるで心の中を読まれたかのような医者の言動に、一方通行は息が詰まる。
その姿を見て医者はニコッと笑い、ドアを開けた。
「じゃ、くれぐれも無理はしないようにね?」
その言葉とともにドアはゆっくりとスライドして閉まった。
「……何もンだ?あのカエル顔は……」
只者では無い。
普通の人間が持たない何かを感じる。
もしかしたら裏ではそれなりに名が通っている医者なのかも知れない。ミサカの治療がこの病院で行われてるのもある。
「……ヨシカワに聞いてみるか」
あの女性研究員ならもっと詳しい話しを知っているだろうし、自分に教えてくれるだろう。
台の上にある黒い携帯電話をひっ掴み、パカッと開く。
着信 57件
メール 86件
「……」
一方通行は携帯をぱたっと閉じ、目を瞑る。
そして首を回してコキコキ鳴らした。どうやらかなりの時間、寝っぱなしだったようだ。
ちなみに今日の日付けは四月二十三日だ。さっき見た携帯のカレンダーが正しければ。
606: 2010/07/08(木) 21:46:45.33 ID:1UWJoWs0
「……」
いい加減現実逃避するのアレなので、彼は嫌々ながらも携帯を開けた。
「……ナニコレ?」
大量の着信にメール。
しかもだ、
「なんで未登録のが一番多いンだよ……」
そう、着信とメールの実に約八割以上が一方通行の電話帳に登録されていない誰かからだった。
ちなみに一方通行が登録しているのは、
研究員A
研究員B
研究員C
ヨシカワ
三下(上条)
金髪(土御門)
青髪
以上。
「しかも全部同じ奴からだわァ……誰だマジでよォ……」
今までに無い人生初めての出来事に戸惑い、行動出来ない一方通行。なんか身震いがする。
607: 2010/07/08(木) 21:47:26.55 ID:1UWJoWs0
そんな彼に追い打ちをかけるように、
ピピピッ!
その登録していない番号からの電話が来た。
「……」
取り合えずピッ、とボタンを押し、左耳に当てる。
そしてボソッと慎重に尋ねた。
「もしもしィ……?」
『アンタ何してたのよおおおおおおおおおおっ!!!』
ドォンッ!と爆音が響き、携帯のマイクがミシミシと悲鳴をあげる。
爆音が耳に直撃した一方通行は、
「がはっ……?」
余りの声の大きさに意識を吹き飛ばしかけていた。赤い眼の焦点が定まらなくなる。
だがギリギリの所で踏ん張り、意識を保っていた。
ピピピッ!
その登録していない番号からの電話が来た。
「……」
取り合えずピッ、とボタンを押し、左耳に当てる。
そしてボソッと慎重に尋ねた。
「もしもしィ……?」
『アンタ何してたのよおおおおおおおおおおっ!!!』
ドォンッ!と爆音が響き、携帯のマイクがミシミシと悲鳴をあげる。
爆音が耳に直撃した一方通行は、
「がはっ……?」
余りの声の大きさに意識を吹き飛ばしかけていた。赤い眼の焦点が定まらなくなる。
だがギリギリの所で踏ん張り、意識を保っていた。
608: 2010/07/08(木) 21:48:06.01 ID:1UWJoWs0
『ちょっと!どうしたのよ!返事しなさい!』
「オマエぶちのめすぞ……そしてなンでオレの携帯の番号とアドレスを知っているのか、なるべく簡潔に答えやがれ」
頭に走る頭痛を堪えつつ、一方通行はキャンキャン喚く携帯に向かって言った。
ちなみに携帯は耳に当てず前に持って来ている。
『?あの上条ってのに教えて貰ったんだけど?』
「三下いつか頃す」
犯人が分かった一方通行はゴゴゴッ、と効果音が付きそうな怒りの炎を背中に浮かばせながら、そう呟いたそうな。
その頃、
「ぶるっ……な、なんだ今の殺気は……」
街中を歩いていた幻想頃しの少年は、突然体に走った悪寒に体を震わせていた。
609: 2010/07/08(木) 21:49:19.26 ID:1UWJoWs0
『それって本当なの?』
「こンな事でウソ付く訳ねェだろォが」
一通りの状況を(入院した理由は適当に誤魔化した)説明し終わった一方通行は、携帯を耳に当て直していた。
それを聞いた美琴の声からは信じられないという気持ちが強く滲み出ている。
『だってアンタを入院させるだけの出来事がこの世にあるってのが信じられないもの』
「……はっ、オレも買われたもんだ」
『しょうが無いでしょ?アンタにはそれだけの力があるんだから』
美琴の言っていることは正しい。
彼は、それこそ世界を相手にしても生き残れるだけの力を持っているのだ。
そんな彼が入院するだけの出来事があるのが異常なのだ。
美琴の言葉に一方通行は、
「……女一人助けるのさえ、命懸けの悪党だがな」
そう、ポツリと呟いた。
610: 2010/07/08(木) 21:50:20.10 ID:1UWJoWs0
『えっ?なんか言った?』
「なンでもねェよ……切るぞ」
『わー!待った待った!お見舞いに行くからなんか欲しいものある?』
いい加減会話するのが億劫になって来たので切ろうとしたのだが、質問されたため仕方無く答える。
「肉」
『分かった肉ねってなんじゃそりゃ!?肉って!?病人が肉って!?』
「サヨウナラー」
『ちょ、まっ』
ブツッ!と一方通行は思いっきりボタンを押して通話を切る。
そして素早く電源ボタンを長押し。携帯の電源を切った。
「はァ……全く、メンドクセェ」
そう言いながら彼は四角い窓から外を見る。
そこには雲一つ無い、真っさらな青空が広がっていた。
「……」
青空を見ながら、今更ながら幸福感が舞い降りて来た。
もしかしたら、人生で今一番幸せかも知れない。
何も失わず、得たものは、とてつも無く大きい。
「悪く、ねェかもな……チクショウ……」
彼は、人生で久しぶりに、自然な笑みを浮かべた。
611: 2010/07/08(木) 21:51:00.87 ID:1UWJoWs0
「一方通行、か」
学園都市にいくつもある高層ビルのうちの一つ。
そこに“誰か”は立っていた。しかも淵に、後一歩踏み出せばはるか下にある地上にダイブしてしまいそうな場所に。
その“誰か”は持っていた携帯の画像を見る。
そこにはとある兵器倉庫が爆発するシーンが映っていた。
音声は無く、画像だけ。
爆発の中から出て来たのは、血塗れの少女を抱えた少年。
彼の背からは、黒い黒い、翼が生えていた。
それは翼と言うには余りに神々しすぎ、余りにも残虐さを感じさせていたが。
彼の手元にいる少女の体からは血は一滴たりとも垂れない。
恐らく、彼の能力なのだろう。
「幻想頃しの少年も、欠陥電気の少女達も中々いいが……」
パタン、と軽く携帯を閉じ、“誰か”は前を見る。
前にはある少年と、ある少女が見ている空と同じ空が広がっている。
612: 2010/07/08(木) 21:52:21.80 ID:1UWJoWs0
「超電磁砲に、一方通行か……
……興味深い」
“誰か”は一歩を踏み出した。
足は空気以外何も無い空間を通過し、
フッ、とまるで何も無かったかのように消えた。
あたかも幽霊の如く。
613: 2010/07/08(木) 21:53:09.22 ID:1UWJoWs0
“誰か”は人間では無い。
そしてその正体を知っている人間さえ、この世に居るのかどうか怪しい。
ただ、一つ。
その“誰か”はこの学園都市の一部の人間にこう呼ばれている。
『ドラゴン』と。
刻々と、彼と彼女に本来は無かった筈の危機が、迫っていた。
614: 2010/07/08(木) 21:54:12.51 ID:1UWJoWs0
これで第一部、というか前編完!です。
後編は漫画版超電磁砲に沿った流れになりつつ、見事にブレイクします。
そして一時休止。いや、科学・電磁通行だけで、一時プロットを見直したり立てたりしつつ、他のネタ達を投下したりします。総合に落としたのとか。
なんなら次スレに行ってもOKと思ってたり。
では、次はオマケコーナーです!
615: 2010/07/08(木) 21:55:16.62 ID:1UWJoWs0
一方「一方通行とォ」
美琴「超電磁砲の」
一方・美琴「「お便りコーナ~」」
ドンドンパフパフ(効果音)
一方「取り合えず最初に言わせろォ。これなンだ?」
美琴「この作品、登場人物に関する、あらゆることを尋ねてもらい、それに私達が答えるコーナーよ」
一方「……ラジオスレと盛大に被るなオイ」
美琴「まぁまぁ。早速作者の友人達から来てるし」
一方「マジか……えーと?『終わりなの?この物語ここで終わりなのかよぉぉぉぉおおっ!!?ブチ頃すぞ◯◯(作者の名前)!!』うるせェンですよォ。オレがオマエをブチ頃しましょうかァ?」
美琴「ちょ!読んだのアンタじゃん!?」
一方「分かってますゥ。まだ終わらねェよこの巫山戯た物語は。忌々しい事に、な」
美琴「私あんまり出てないしね!という訳で>>595さん、安心して下さい。そして>>596さん大正解です!」
616: 2010/07/08(木) 21:56:12.21 ID:1UWJoWs0
一方「ンじゃ次ィ。『一方さん、かなり丸く無い?』丸い、ねェ。確かに色々あめェな。くそっ、ヨシカワの甘さでも移っちまったかァ?」
美琴「まぁ色々理由があるらしいわよ。罪の意識がどーのこーのとか」
一方「ラストォ。『まとめサイトを覗いたら、自分のssがまとめられててビックリしました。このスレのも纏められるのかなっと思うと、ワクワクで夜中々眠れません。どうしたらいいですか?』安心しろ作者。まとめられない可能性九十パーセント以上だから」
美琴「作者と断定!?そしてまとめられない発言!?」
一方「考えてもみろォ?このスレはもう一つの方と出鱈目にこンがらがってンだぞ?まとめるのも一苦労だ」
美琴「もしまとめてくれたら?」
一方「土下座して感謝しろ」
美琴「……作者にも容赦無いのね」
一方「たりめェだ」
美琴「こんな感じで読者さんの色んな疑問に答えてゆきます!」
一方「ただし、伏線だから答えられねェって場合もある。その場合は諦めろォ」
美琴「ここどう意味?とか、ここおかしく無い?とかドンドン言っちゃって下さい!」
一方「ちなみに質問送って来やがった奴は全員ビルからノーロープバンジーさせてやる」
美琴「なんで!?」
一方「だって答えるのメンドクセェし、質問来なきゃこのコーナーも無くなンだろ」
美琴「ダメだから!私の出番無くさないで!?」
一方「ちっ……仕方ねェ、頭コンクリに踏み付けるだけで勘弁してやンよ」
美琴「アンタがやったらその人氏ぬから!?マジ目にやってよ!」
一方「ヘイヘイ……あー、メンドクセェ」
美琴「……え、えっと……さようなら~!」
おしまい
617: 2010/07/08(木) 21:56:53.67 ID:1UWJoWs0
以上です!
では、また次回!
では、また次回!
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