290: 2014/12/01(月) 17:46:13 ID:1MIpCixU0

前回:【進撃の巨人】エルヴィン「こちら明進堂書店調査店でございます」

ハンジ「出来るの?」

リヴァイ「ああ。出来る。4万円でハンジが食いたいと思うものを作ろう」

ハンジ「やった。期待しておくね」

このタイミングでしれっと、二の腕を狙ってみた。

感謝のハグに似たような感じで二の腕に絡んでみると、不意打ち攻撃にリヴァイが焦っていた。

リヴァイ「! 馬鹿! いきなり何をする!」

顔が赤くなっていた。ナナバのいう事は本当だったようだ。

ハンジ「凄い。これ、弱いんだ?」

リヴァイ「は?」

ハンジ「いや、とある筋から、男の人は二の腕が弱いからそこを触れという指示がありまして」

リヴァイ「弱いと言うか………」

弱いは正しい言葉じゃない気がする。

リヴァイ「いい気分になる感じだな。くすぐったい意味じゃない」

気分が良くなる感じだった。機嫌が良くなる感覚だ。

ハンジ「そうなんだ。へーへー(さわさわさわさわ)」
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291: 2014/12/01(月) 17:46:32 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「こら、調子に乗って触るな!」

振り解かれてしまった。ちょっと残念だ。

ハンジ「気分がいいなら触った方がいいんじゃない?」

リヴァイ「良くなり過ぎると困る」

ハンジ「そうなんだ?」

リヴァイ「ああ。そういうのはちょっとな」

リヴァイがふいっとまた目線を逸らした。だけど。

ハンジはよく観察して見た。ナナバの言う通り、距離はあるけれど。

ハンジ(あ、ちょっとだけ、耳が赤い)

照れているのだと分かった。やっぱり、そうなのか。

ハンジ(なんだ。リヴァイはもしかして、満更でもない?)

だとすれば可能性はある気がした。勝率何パーセントかは分からないけど。

ハンジ(だったらまだ、いいよね。今はこのままでも)

ハンジはそう思って気持ちを切り替えた。

夜の仕事の為に着替えて準備して、

292: 2014/12/01(月) 17:46:58 ID:1MIpCixU0
ハンジ「じゃ、行ってきまーす」

と、慌ただしく部屋を出て行った。

リヴァイ「いってらっしゃい」

そう答えてリヴァイは擦られた二の腕を自分でも触る。

リヴァイ(クソ………遂に直接攻撃をしてきやがった)

でも、案外良かった。そう思う自分もいる。

リヴァイ(ああもう! 面倒臭え!!!!)

ハンジの事を思う自分が面倒臭いと思った。

たったこれだけの事で気分が高揚しているのが本当に。

イザベル「兄貴ー先に飯食うぞー?」

イザベルに声をかけられて我に返った。慌てて食卓につく。

今はまだ、リヴァイの部屋が居間みたいな扱いで、そこで飯を食う。

でもいつか、貯金が出来たらその時は。

リヴァイ(四人で飯を食う為にテーブルと椅子のセットを買おう)

そう心に密かに誓うリヴァイなのだった。

293: 2014/12/01(月) 17:47:26 ID:1MIpCixU0
1月8日から始業式だ。イザベルとファーランを朝から送り出してしまうと、リヴァイは昼の間、何をするかと考えた。

リヴァイ(今日は夕方の6時まで時間が空いてしまうな)

イザベルとファーランが家にいる間は2人の面倒を見ていたが、学校が始まると一人になる。

リヴァイ(まあ、朝の仕事は大体済んでいるし、ちょっと寝るか)

眠れる時に寝るのが家事のコツだ。無理をしてはいけない。

そしてその日のハンジは家に居た。今日は大学に行く予定はないようだ。

リヴァイ(ハンジが昼に家に居る時はハンジの分の昼飯も作る必要があるな)

後で何か適当な物を作ろう。そう思いながら一度横になる。

ハンジ「あれ? リヴァイ、今から寝るの?」

リヴァイ「ああ。ちょっと疲れたからな。仮眠を取る」

ハンジ「あーそうなのか。どうしようかな」

リヴァイ「ん?」

294: 2014/12/01(月) 17:48:12 ID:1MIpCixU0
ハンジ「今からちょっとパソコンでカタカタやるけど、煩くないかな」

リヴァイ「大丈夫だろ。多分」

ハンジ「煩いようだったら言ってね。勉強するから」

リヴァイ「ああ。じゃあお休み」

そう言ってリヴァイは布団の中に潜り込んだけれど。

リヴァイ(……………)

襖の向こうにハンジがいると思うと何故かそわそわした。

リヴァイ(キーボードを叩く音は別に煩くはねえけど)

でも、その音のおかげでハンジの存在を感じる。

人の気配がする。それが何となく、心をそわそわさせる。

リヴァイ(いや、寝ないと)

疲れているのだから寝ないと。疲労はまめに回復しておかないと。

そう思うのに何故か眠れない。

眠れない時は一度抜いてしまうといいのだが。

ハンジが襖の向こう側にいるのに、それをやってもいいのか。

295: 2014/12/01(月) 17:48:43 ID:1MIpCixU0
いや、むしろそういう状況だからこそ、スリルがあっていいかもしれない。

そう思う自分が居てちょっと変態だと思った。

リヴァイ(ちょっとじゃねえな。大分変態だな)

同居人に気づかれないように処理をするなんて。

しかしリヴァイも男性なので定期的に処理をしないと身体的に困る。

特に最近は油断するとハンジに対していろいろアレな状態に陥るので、もしもの事を考えるなら尚更。

リヴァイ(ハンジは今、パソコンに集中しているんだろな)

そんな彼女の後ろから抱き付いて、工口い展開を仕掛ける妄想をしたらあっという間に元気になった。

リヴァイ(いいな。これは)

例えば服の上から胸を触って、項を舐めてみたり耳を甘噛んでみたりとか。

脇腹をぎゅっと抱きしめて動けないようにして、気持ち良くさせてみたい。

喘いで喘いで、途中でキーボードを叩けないようにしてやりたい。

ぐったりとしたハンジを自分の方に引き寄せて、そのまま畳の上に押し倒して……。

リヴァイ(いかん。だんだん妄想が具体的になり過ぎている)

あんまり具体的に妄想すると実行に移したくなるから止めよう。

296: 2014/12/01(月) 17:49:35 ID:1MIpCixU0
適当なところで妄想を打ち切ると、後はただ快楽の場所を探るだけに留めた。

リヴァイ(はあ………)

滾ってきた自分の物を布団の中で触っていると、

ガタガタ……

ハンジが動いた気配がしてびくっとなる。

まさかこっちに来ないよな。

今、部屋に来られたら恥ずかしさで飛び降り自頃したくなる。

リヴァイが冷や汗を掻いていると、ハンジはどうやら便所に立ったようだった。

水が流れる音がしてほっとする。

リヴァイ(や、やっぱり抜くのはやめておくか)

もしもの事を考えるとこれ以上の事は出来なかった。もう十分だ。

心を落ち着かせると次第に眠くなってきた。もう大丈夫のようだ。

瞼が落ちかけていた其の時、今度は襖が開く気配がした。

リヴァイ(ん?)

ハンジが部屋に来たようだ。何だ? 眠いのに。

297: 2014/12/01(月) 17:50:03 ID:1MIpCixU0
するとハンジはこっそり「一枚だけ♪」という言葉を残して何かしていた。

其の時、思い出したのは本屋でもやっていたスマホでの撮影だ。

今の携帯は音を消しても撮影が出来るそうだ。

だからもしかして、今、ハンジは。

勘が働いてリヴァイはパチッと両目を開けた。

ハンジ「え?」

リヴァイ「何を勝手に撮っている?」

ハンジ「狸寝入り?! 寝ていたんじゃなかったの?!」

リヴァイ「寝落ちかけていたのに起こしたのはそっちだろ」

ハンジ「あちゃー」

作戦が失敗してハンジはバツの悪そうな顔になった。

ハンジ「いいのが撮れたのになあ。駄目?」

リヴァイ「人の許可もなく勝手に撮るな。しかも人の寝顔とか」

ハンジ「寝顔だからいいんだけど」

リヴァイ「どうしても俺の写真が欲しいならせめて起きている時に撮れよ」

298: 2014/12/01(月) 17:50:50 ID:1MIpCixU0
ハンジ「えーこのベストショットを消去しろと?」

リヴァイ「消したくねえっていうのか」

ハンジ「だってええ」

リヴァイ「だったらタダじゃ許可は出来ねえなあ」

と、其の時リヴァイは悪い顔になって言った。

リヴァイ「こっちもそれなりの見返りが欲しい」

ハンジ「見返り? あ、1枚100円とか?」

リヴァイ「俺はそんなに安い男じゃねえぞ」

ハンジ「あ、じゃあ500円ですか? 1000円?」

リヴァイ「金じゃねえな。代金は」

ハンジ「金じゃない?」

リヴァイ「時間を要求する。1枚10分でどうだ?」

ハンジ「10分? ええっと、10分間、私は何をすればいい?」

リヴァイ「………………俺の命令に従え」

ハンジ「ん?」

299: 2014/12/01(月) 17:52:33 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「だから、ハンジを俺の好きにさせろと言っている」

ハンジ「?!」

その突拍子もない提案にハンジは流石に頬を染めた。

ハンジ「な……何をいきなり言い出すかな?! そんな要求は呑めないよ!」

リヴァイ「何故だ?」

ハンジ「何を要求されるか不透明だから」

リヴァイ「それを先に言ったら面白くないだろ?」

ハンジ「いや、面白いとか面白くないとかの問題じゃなくて」

リヴァイ「別にこちらは工口い要求をしようとかは考えてはいない」

ハンジ「ん? じゃあ何でそういう事を言いだした?」

リヴァイ「何だ? 期待していたのか?」

ニヤリとわざと笑ってやると、ハンジは睨んで言い返した。

ハンジ「そういう風に言われたら警戒するのは当然でしょうが!」

リヴァイ「そういう事をして欲しいならそっちでも構わんが」

ハンジ「そんな事は一言も言ってないんですけど?」

300: 2014/12/01(月) 17:53:10 ID:1MIpCixU0
ハンジは焦っていた。そういう方向にまさかリヴァイが持って行こうとしている?

いやいや、駄目だ。まだ気持ちも伝えていない段階でそんな事をしたら。

ハンジ(そ、そりゃ本音を言えばちょっとくらいならいいかなって思うけど)

まるでゲームのようにそんな事をするのは気が引けた。

リヴァイはハンジの葛藤を観察して自分の要求との妥協点を探している。

リヴァイ(ふん……ハンジ、今、お前すげえ工口い顔をしているのに)

気づいてないな。自分では。そう思いながらニヤニヤする。

リヴァイ「だから別に工口い要求はしないって言っているだろ」

ハンジ「じゃあ例えば10分間、何をやらせようっていうの?」

リヴァイ「畳の上で正座しているハンジの様子を眺めるとか」

ハンジ「それに何の意味があるのかな?!」

リヴァイ「意味なんてない。おもちゃにして遊ぶだけだ」

ハンジ「えええええ?! それってただの罰ゲームじゃないか!」

リヴァイ「だからそういうノリで行こうと思っていたのに。先に勘違いしたのはそっちだろ?」

わざとらしくそう言ってやるとハンジは「うぐっ」と言葉を詰まらせた。

301: 2014/12/01(月) 17:55:07 ID:1MIpCixU0
ハンジ「だ、だってそんな風に言われたら変な展開になるかと思うじゃないか(ブツブツ)」

小さな声で文句を言っているようだが一応、しっかり聞こえている。

リヴァイ(大きい独り言だな)

あえて突っ込まない。リヴァイはそういう風に思わせるようにわざと言っている。

リヴァイ(俺ばっかり、ハンジに振り回されるのは嫌だしな)

少しだけこの間の二の腕の件の仕返しをしてやろう。

そういう思いからリヴァイは言った。

リヴァイ「で? 写真1枚分の代金は頂けるのか?」

ハンジ「うーん。分かった。じゃあ、10分間だけ、正座すればいいんだね?」

リヴァイ「ああ。足が痺れても、何があっても動くなよ」

ハンジ「分かった。じゃあ今から10分だけ正座します」

ハンジが本当に正座した。その様子をニヤニヤ眺める。

ハンジ「これの何が楽しいのかなあ?」

其の時、リヴァイは布団の中から自分の腕を出してハンジの膝小僧を触った。

ハンジ「ひゃ! え……ちょっと、触るの?!」

302: 2014/12/01(月) 17:55:39 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「何があっても動くなって言っただろ」

ハンジ「えええ! 待って! 何かそれくすぐったいんだけど!」

ツンツンツン……

ハンジ「ひゃひゃひゃ! これ本当に酷い罰ゲームなんだけど!」

リヴァイ「足は崩すなよ。絶対に」

そしてリヴァイは膝に掌をのせてゆっくり撫でた。

ハンジ(え……?)

工口い事はしない。そう言った筈なのに。

ハンジ(な、なに? この感じ?)

優しい触り方に戸惑う。でも膝は別に工口い部分ではない。

太ももはアウトだけど。膝だし。

そう思って耐えていたハンジだったが。

ハンジ(あれ? あれ? なんか、意外とこれ、気持ちいい……?)

だんだん変な気分になってきてぼーっとしてくる。

ハンジ(やっ……これ、なんか、まずくない?)

303: 2014/12/01(月) 17:56:11 ID:1MIpCixU0
でも足は崩すなと言われている。

ハンジ(あ……)

じりじりと攻めてくる緩やかな快感がハンジに迫っていた。

ハンジ(こ、これは工口い要求に入るのか否か微妙なラインだなあ)

いや、感じている時点でアウトなのかもしれない。

でも、ここでその手を止めて欲しくない自分がいた。

太ももに手が伸びたら叩くつもりだけど。膝はグレーゾーンではないだろうか。

その葛藤の表情に見惚れてリヴァイは目を細めていた。

リヴァイ(ハンジの中の工口スの境界線はどこなのか見極めてやるか)

人によっては当然膝だって触られるのは嫌だと思う人もいるだろう。

そもそも触っている時点でアウトという人もいるだろう。

しかしハンジは膝小僧を触っても嫌がっていない。

だとすれは、ここは恐らく灰色の部分だ。

リヴァイ(二の腕もそういう意味じゃ灰色の部位だよな)

304: 2014/12/01(月) 17:56:59 ID:1MIpCixU0
工口い意味で触る場合はアウトだけど、ただ腕を組むだけなら公的な場でも触っていい部位だ。

つまり明らかにアウトな工口い要求は出来ないが、紛らわしい場所なら或いは。

そう思ってリヴァイはハンジに仕掛けたのだ。

ハンジが何処までなら許してくれるかを見極める為に。

勿論、途中で「駄目!」と言われたらすぐ止めるつもりだ。

時間にして既に五分経過した。そろそろ止めるべきか。

リヴァイは手の動きを一度止めてみた。しかし、其の時、

ハンジ「やっ……やめちゃうの?」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「もっと………」

ハンジの目が溶けていた。物欲しそうに。

ハンジ「あ………いや、何でもない」

ハンジが慌てて訂正した。緩みかけた理性を取り戻そうとしている。

リヴァイ「なんだ? 言いかけて」

ハンジ「な、なんでもないって」

305: 2014/12/01(月) 17:57:39 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「そうか?」

ハンジ「というか、触るのは駄目だよ。工口い事はしないって言った癖に」

今更そんな事を言ってきた。すっかり楽しんだ癖に。

リヴァイは布団の中から起き出して「すまん、つい」と謝った。

リヴァイ「だったら次はじっくり観察するか」

ハンジ「見るだけだよ」

リヴァイ「ああ。見るだけだ」

そしてここから睨めっこ対決だ。

リヴァイはあぐらをかいて正面からハンジを見る。

リヴァイ(じーっ)

ハンジ(ううう………真正面からリヴァイに見られるのは結構、恥ずかしい)

リヴァイ(じーっ)

ハンジ(本当、これの何が楽しいんだか。意味が分からないけど)

リヴァイ(じーっ)

ハンジ(でも、なんか、こういうの、悪くない)

306: 2014/12/01(月) 17:58:14 ID:1MIpCixU0
リヴァイ(じーっ)

ハンジ(あれ? 急に汗が出てきたな)

リヴァイ(じーっ)

ハンジ(心臓もドキドキしてきた。というか、リヴァイさっきから本当にガン見してくるなあ)

リヴァイ(じーっ)

ハンジ(まだ10分経ってない? もうそろそろ良さそうな気もするのに)

リヴァイ(じーっ)

ハンジ(ええっと、今何時かな? 朝の10時か。多分、10分経ったよね?)

リヴァイ(じーっ)

ハンジ(でもこれって私から言い出さなかったら、ずっとリヴァイに見つめられるんじゃ)

そこでリヴァイは言った。

リヴァイ「あと残り1分だ。ここからは、ちょっと匂いを嗅がせて貰う」

ハンジ「匂い?!」

リヴァイ「5日の夜に風呂に入ってから風呂に入ってないだろ。そろそろ臭い筈だ」

ハンジ「臭いなら何であえて嗅ごうとする?」

307: 2014/12/01(月) 17:58:41 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「臭いからこそ確認するんだよ」

意味不明な論理だった。ハンジは困惑するしかない。

そしてリヴァイはハンジに急接近して本当に匂いを嗅いできた。

リヴァイ「…………臭い」

ハンジ「だから、臭いと思うなら何故嗅ぐ?!」

リヴァイ「この匂いをよく覚えておく。ハンジの臭い方の匂いとして」

ハンジ「は?」

リヴァイ「風呂上がり直後のハンジと比べてみたいと思った。今日の夜の入浴後にもう一度、嗅がせろよ」

ハンジ「待って。私は5日に1度のペースでしか入らないと言った筈だけど」

リヴァイ「そんなルールは許さん。3日に1度に合わせろ」

ハンジ「えええ……面倒だなあ。だったら6日に1度にしようかな。その方が合わせやすいと思う」

リヴァイ「3日に1度だ(キリッ)」

本当なら毎日でも入りたいと言うか、入れさせたい。

ハンジ「えええ? 何でそう横暴なのよ」

リヴァイ「お前が言ったんだろうが。この家の家主は俺だと」

308: 2014/12/01(月) 17:59:16 ID:1MIpCixU0
ハンジ「まーそうは言いましたけど。はあ…風呂なんて10日に1回でもいいくらいなのにな」

リヴァイ「は?」

ハンジ「エルヴィン店長に『接客業をやる以上はフケを大量に発生させるような髪のままで客前に出たら駄目だ。5日に1回は最低でも入りなさい』と言われたからしょうがなく、そうしていたのに」

最低のラインが低すぎると思ったリヴァイだった。

リヴァイ「エルヴィン店長は優し過ぎるな。俺だったら2日に1回は入れと言うぞ」

ハンジ「どんだけ風呂が好きなんですか」

リヴァイ「本当なら毎日入りたいに決まっているだろうが! 金さえあればそうしている」

ハンジ「むー……あんまり体を洗い過ぎると皮膚の抵抗力が落ちますよ?」

リヴァイ「新陳代謝を高める効果の方が優先だ。体を温めて疲れも一緒に洗い流せるだろうが」

ハンジ「あーいえばこういう」

リヴァイ「それ、俺も前に言った言葉だが?」

ハンジは妙に頑固な部分があるようだ。ちょっとイラッとしている。

ハンジ「お風呂って疲れない? あと湯冷めして風邪ひいちゃうこともあるから寒い時は特に入りたくないんだよ」

リヴァイ「疲れる様な入浴方法を取るのが駄目なんだろ」

ハンジ「じゃあ疲れない方法を教えてよ」

309: 2014/12/01(月) 18:00:50 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「んー……」

リヴァイは自分の入浴方法を思い出す。

リヴァイ「まずかけ湯。その次に半身浴。肩まで入らないことか?」

ハンジ「え? 肩まで入ったらダメだったの?」

リヴァイ「うちは水を節約しているから満杯まで入れないってだけだけど。それを利用して半身浴にする事が多い。イザベルの場合は胸まで入るけど。俺とファーランは必然的に臍の位置までになるな」

ハンジ「へーそういう入浴方法だったのか」

リヴァイ「ハンジはどんな入り方をしていたんだよ」

ハンジ「え? 肩まで入る様にしていたよ。湯が足りない時はこう、ひっくりかえって」

と、其の時ハンジが正座を崩してその時のポーズを取って見せたのでリヴァイはぎょっとした。

リヴァイ「正座しろ!!!」

ハンジ「え? もう時間過ぎたでしょう?」

リヴァイ「延長だ。あと1分だけ」

ハンジ「えええ? 何で?」

リヴァイ「何でもだ。いいから、それで?」

渋々正座をさせられるハンジだった。

310: 2014/12/01(月) 18:01:19 ID:1MIpCixU0
ハンジ「ええっと、だから肩まで入って温まったら出る感じ」

リヴァイ「一度、肩まで入らない入浴方法を試してみろ。そうすれば疲れにくいかもしれんぞ」

ハンジ「だとしても、今日は別に入らなくてもいいよ」

リヴァイ「なんで」

ハンジ「あーだって、生理2日目だし」

リヴァイ「!」

突然の告白にリヴァイは顔を赤らめた。

リヴァイ「え……あ……そうだったのか」

ハンジ「今日、大学に行かなかったのはそのせいだよ。面倒臭くてね。こういう日に外を出歩くのは」

リヴァイ「………なんかすまん」

リヴァイはついつい目を逸らして謝ってしまった。

ハンジ「んー別にいいよ。言ってなかったのも悪いし」

リヴァイ「いや、でも、言わせたのは悪かったな」

ハンジ「いいって。というか、こっちこそ御免なさい。こういう話を聞くのは嫌だよね」

リヴァイ「全然。それは問題ねえけど」

311: 2014/12/01(月) 18:01:45 ID:1MIpCixU0
ハンジ「そう?」

リヴァイ「いずれはイザベルにもそういう時期が来る筈だしな。俺も慣れておかねえと」

ハンジ「今、何年生だっけ?」

リヴァイ「イザベルは小学3年生だ。4月で4年生にあがる」

ハンジ「なら早い子はその辺で来るよね」

リヴァイ「そうなのか」

ハンジ「私は早い方だったから4年生の時になった。遅い子でも中3くらいまでにはくる筈だよ」

リヴァイ「そうか……」

その辺の事に関してはハンジの方が詳しいなと改めて思うリヴァイだった。

ハンジ「もう正座を崩していい? ちょっと痺れてきた」

リヴァイ「ああ、もういいぞ」

ハンジ「もー変な罰ゲームを考えるよね。あいたた」

女座りに崩したハンジのポーズにちょっとドキッとした。

リヴァイ(……………)

膝小僧の悪戯といい、さっきの入浴中のポーズといい。

312: 2014/12/01(月) 18:02:31 ID:1MIpCixU0
今日は微妙にムラムラしている自分に気づいてやっぱりさっき抜いておくべきだったか? と思い直すリヴァイだった。

ハンジ「でもこれでさっきの写真を消さなくても済むんだよね?」

リヴァイ「まあ、一応許してやるが、配布はするなよ」

ハンジ「了解。流石にそこまでアホな事はしませんよ」

リヴァイ「…………それって自分で楽しむ為に撮ったっていう意味か?」

てっきりナナバ辺りに見せてケラケラ笑う為に撮られたとばかり思っていたリヴァイは素直に疑問に思って口にした。

すると途端、ハンジは困った顔になって、

ハンジ(あーしまった。今の流れだと、配布する為に撮ったって言った方が自然だった)

気づいた時は遅かった。どう言い訳しよう?

ハンジ「まあ、ええっと。ナナバにだけは見せるかも?」

リヴァイ「ああ、やっぱりそうだったのか」

ハンジ「そうそう。ナナバに見せたいのよ」

ナナバ御免! と思いながらハンジは言った。リヴァイもその言葉に納得した。

リヴァイ「くれぐれもエルヴィン店長には見せるなよ」

ハンジ「なんで?」

313: 2014/12/01(月) 18:03:00 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「なんとなく、笑われそうな気がする。エルヴィン店長は俺の事をからかうのが好きみたいだからな」

ハンジ「まあ、確かに」

リヴァイ「この間、『うちに来ない?』と言われた時は流石に鳥肌がたった」

ハンジ「え?」

リヴァイ「まあ、冗談だったそうだが。腐ったトークとやらには俺はとても慣れそうにない」

ハンジ「…………ああ、そういう意味か」

ハンジは一周回ってようやく意味を理解した。

ハンジ「びっくりした。ガチかと思った」

リヴァイ「ガチだったら本屋の勤務を辞めるぞ」

ハンジ「その手の腐ったトークはうちの店のブラックジョークみたいな扱いだね」

ハンジはそう言って苦笑いする。

ハンジ「所謂、BL(ボーイズラブ)のネタ的な意味で会話をする時があるんだよ」

リヴァイ「聞いたぞ。ハンジはナナバとだったら受けだとか」

ハンジ「あーそれはナナバの方がいろいろ相談に乗ってくれるからかな。私の方がナナバに甘えているから」

リヴァイ「そもそもその「受け」というのは、女役という意味で合っているのか?」

314: 2014/12/01(月) 18:03:58 ID:1MIpCixU0
ハンジ「広い意味ではそうだけど。でもそれだけでもないよ。世の中には「襲い受け」とかもある」

リヴァイ「? 女から襲うのか?」

ハンジ「まあ、そういう事だけど。限りなく攻めに近い受け。みたいな意味かな」

リヴァイ「何だかややこしい世界みたいだな」

リヴァイの頭の中は少々混乱していた。

リヴァイ「しかし本屋に居る以上、その手の会話にも慣れないといけないんだろうか?」

ハンジ「無理はしない方がいいよ。この辺の話は普通の人には理解しにくいと思うから」

リヴァイ「何だか線引きされたような気分だな。仲間外れか」

ハンジ「あ、いや、そういう意味じゃないよ? 清らかなままでいて欲しい意味も込めてだよ」

リヴァイ「ううーん」

リヴァイが微妙な顔になっている。

リヴァイ「俺はお前らが思っているような人間じゃねえと思うんだがな」

ハンジ「え? それはどういう意味?」

リヴァイ「そう純粋な人間でもねえって事だ。汚れているという意味で」

そう言ってリヴァイはふと視線を畳に落とした。

315: 2014/12/01(月) 18:04:48 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「綺麗になりたい願望はあるけどな。でも根っこの部分がやっぱり、普通には生きられないように出来ている気がする。俺から見たらお前らの方が余程眩しく見えるけどな」

ハンジ「そうなんだ」

リヴァイ「ああ。イキイキしているだろ。毎日が。生きているって顔をしている」

ハンジ「それってダジャレですか?」

リヴァイ「いや、違う。こら、笑うな。ハンジ」

ハンジが妙にツボったようで笑いを堪えている。

ハンジ「そりゃあ、この世界が好きだからしょうがないよ」

リヴァイ「本屋の世界がか?」

ハンジ「違う違う。二次元と妄想が好きって意味で」

リヴァイ「…………」

ハンジ「あ、ごめん。やっぱりリヴァイにはこの手の話をしない方がいいかな」

リヴァイ「いや別に。そこは気遣わなくていいが」

ハンジ「でも良く分からない話をされてもつまらないよね」

リヴァイ「そんな事はない。なんか楽しそうに話している雰囲気だけでもこっちは楽しめる」

ハンジ「そうなんだ」

316: 2014/12/01(月) 18:05:49 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「ああ。そもそも俺には話し相手も少ない。狭い世界で生きている。その……ただこうやって話しているだけでも十分満たされている気がする」

ハンジ「…………」

リヴァイがそう言った直後の表情に何とも言えない感情がこみ上げてきた。

ハンジは今、確かに感じた。生唾を呑み込む事で衝動を抑え込んだけれど。

ハンジ(あっぶな。なんか今、自分からいきそうになった)

所謂襲い受けという奴だ。肉体的には自分が受け身になる覚悟はあるけれど。

ハンジ(ああもう、この人、本当にやばい)

たまにふとした色気を見せる時がある。

リヴァイの中にある哀愁のような物だろうか?

それに吸い寄せられる時があるので本当に油断ならない。

しかしハンジの心の葛藤には気づかずリヴァイは続けて言った。

リヴァイ「いつか、もっと広い世界に出たい気持ちはあるんだが。今の俺のままではどうにもならん」

ハンジ「それって金を稼ぎたいって意味で?」

リヴァイ「それも含めてだ。俺はこれから先、どう生きていきたいのか自分でもよく分からん」

ハンジ「子育てに専念している事は十分、立派な生き方だと思うけど」

317: 2014/12/01(月) 18:06:25 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「俺の生き方がフラフラしているせいでイザベルとファーランにも負担をかけているからな。育てているというより、俺自身が育てられているような気持ちになる事が多い」

現にハンジとの事を悩んでいた時に2人の方が冷静に状況を見ていた。

その事に感謝すると当時に、自分の中でこのままでいいのかという思いがまた芽生えてしまって。

リヴァイの中では揺れていた。今は今を維持していく事がベストだとは思うが。

自分には何か肝心な物が欠けているような気がしてならなかったのだ。

ハンジ「うーん。何だか哲学的な悩みに聞こえるね。もやもやしているの?」

リヴァイ「感覚的に言えばそれに近いかもしれない」

ハンジ「だったらそのもやもやを妄想してストレス発散すればいいと思うな」

リヴァイ「妄想?」

ハンジ「こんな風になりたいな、とか。こういう展開になったらいいなとか。自分の人生を妄想してみるんだよ」

リヴァイ「いや、子供じゃねえんだから」

ハンジ「妄想するのに大人も子供も関係ないよ! 夢はでかく大きく! リヴァイは将来、何をしたい?」

リヴァイ「何って………」

ぼんやりと浮かんだのは日本を出てみたいという感情だった。

自分が全く知らない国を歩いている。そんな姿を妄想した。

318: 2014/12/01(月) 18:06:51 ID:1MIpCixU0
その隣にイザベルやファーラン、そしてハンジも一緒に居てくれたらと思った。

でもそんな夢は大き過ぎて現実味がなかった。

今を生きるだけで精一杯なのに。海外に行くとか。ただの馬鹿か。

ハンジ「ほら、何か思い浮かばない? 私は一杯あるんだけどな!」

リヴァイ「例えば?」

ハンジ「自分の書庫を持つ! 超豪邸を建ててそこに自分の書物を全部ぶちこむの」

リヴァイ「おい待て。まだ本を増やす気なのか?」

ハンジ「いつか目指すぜ1万冊ですよ」

リヴァイ「自分用の図書館でも作る気か?」

ハンジ「感覚的にはそれに近いかもしれない」

リヴァイ「なんか俺よりもはるかに規模がでかい夢だな」

何億かかる夢だろうか? 海外に行く夢と比べたら本当にでかい。

ハンジ「リヴァイの夢は何?」

リヴァイ「………言わない」

ハンジ「何で」

319: 2014/12/01(月) 18:07:23 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「遠すぎる。言っても空しいだけだ」

ハンジ「そんなの分からないよ」

リヴァイ「そうだとしても、何でそれをハンジに話さないといけない」

ハンジ「……………それもそうか」

リヴァイとの距離を取られてハンジは出過ぎた真似をしたと思った。

ハンジ「ごめん。ちょっと深入りし過ぎたか。まあ、不言実行の方が格好いいよね」

リヴァイ「……………」

ハンジ「寝ているところを起こしてごめん。そろそろ自分の部屋に戻るよ」

ハンジが立ち上がって自分の部屋に戻ろうとした其の時、リヴァイは咄嗟にその手を取ってしまった。

リヴァイ「……………」

ハンジ「ん?」

リヴァイが何か言いたげにしているので待っている。

迷ったように視線を逸らしてリヴァイは重い口を開いた。

リヴァイ「俺の夢を叶える為にはハンジの力が必要かもしれない」

ハンジ「え?」

320: 2014/12/01(月) 18:08:03 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「遠い夢だとは思う。だけどもし良ければだが………」

ハンジ「協力するよ。私が必要なら、勿論!」

リヴァイの手はハンジに両手で掴まれてしまった。

ハンジは嬉しそうにニコニコしている。

ハンジ「今はまだ、言えないなら胸に秘めておいていい。でも其の時がきたら是非協力させて欲しい」

リヴァイ「いいのか?」

ハンジ「私に出来る事があるのなら!」

そう言われた瞬間、リヴァイの中の何かがぶつっと音を立てて切れた。

ぐっと自分の方にハンジを引き寄せて力一杯抱きしめてしまう。

その熱い抱擁にハンジの方は「え?」と戸惑って息を止めた。

ぎゅうっと抱きしめられて何も言えなくなってしまう。

ハンジ(えっと、これは……どういう事?)

心臓の音が重なる。リヴァイが何を考えているのか分からない。

ハンジ(待って。まさか、え………)

321: 2014/12/01(月) 18:08:54 ID:1MIpCixU0
そのまさかの展開が起きようとしていた。

リヴァイは今、完全にスイッチが入っていた。

そのままハンジを押し倒して、事に及ぼうと体が動きかけた。

其の時………

ピンポーン!

部屋に響いたのはインターホンだった。

その音で我に返ったリヴァイは慌ててハンジから離れた。

ハンジもまた離れて慌てて玄関に向かった。恐らく自分が購入した通販の物が来たのだ。

ハンジ「はいはい! 今行きます!」

アマゾンで購入した物を受け取って部屋に戻る。

リヴァイの部屋にはいかない。自分の部屋で箱を開封する。

ハンジ「きたきた。入浴剤。ヴィーナスがきた」

風呂が好きなリヴァイの為に何かいい入浴剤はないかなと思ってネットで探した物だ。

割と好評のレビューだったので一応それを信用して購入してみたのだ。

ハンジが物を確認している間、リヴァイの方は自室でぶっ倒れていた。

322: 2014/12/01(月) 18:09:37 ID:1MIpCixU0
自分の行動を反省して布団の中に逃げ込んでしまう。

リヴァイ(あ、危なかった………)

今の衝動は酷かった。

チャイムが鳴らなかったら。

いや、あと10秒遅かったら。

確実に自分は罪を犯すところだった。

リヴァイ(無理やりにでもハンジを組み敷くところだった。まずい。今の俺は、本当にやばい)

やはり抜いておくべきだった。そうすれば少しは気持ちも落ち着く。

便所に移動しよう。そこで一度吐き出そう。

便器の上に座り込んでいつものように慣れた手つきで出し終えてからも。

心臓の音が煩過ぎて背中の汗が全く引かなかった。

リヴァイ(順番が逆だろ)

ヤリたいと思うならやはりこの気持ちを相手に伝えるべきだ。

リヴァイ(でも、どう伝えたらいいんだ?)

女に自分の気持ちを告白するなんて今まで一度もした事がない。

323: 2014/12/01(月) 18:10:07 ID:1MIpCixU0
そもそもそんな言葉を相手に伝えていいのだろうか?

現在、パート勤務の子持ち2人の人間が。将来のあるインテリな女に対して。

リヴァイ(どう考えたって、俺の方がハンジの将来を潰すんじゃねえか?)

今の時点ですらハンジに負担をかけているのが現状なのに。

これに加えてそういう男女の交際まで望むのは贅沢過ぎるとも思うのに。

リヴァイ(成程。ファーランが心配していたのはこの事か)

心身ともに骨抜きにされる事を心配していると言っていた。

既にもう危うい。体が言う事を効かなくなっている。

リヴァイ(落ち着け。落ち着け。いいから落ち着け)

身体の衝動を深呼吸で抑えた。呼吸を整えて心の中を1回リセットする。

リヴァイ(きっと、ハンジはそういう奴なんだ。さっきのアレに深い意味はない)

だから過剰に期待してはいけない。

もし間違っていた場合は取り返しがつかない。

そうリヴァイは考えて今は絶対、本格的な手を出してはいけないと思った。

ちょっとした悪戯程度なら許されるかもしれないが。

324: 2014/12/01(月) 18:10:56 ID:1MIpCixU0
胸や尻を触ったり、ましてやキスなどを仕掛けたら流石にまずい。

リヴァイ「ふぅ………」

自制しろ。自重しろ。男だろ。ここは我慢するべきところだ。

リヴァイは自己暗示をかけてようやく気持ちを平常心に戻した。

時間は既に11時近い。昼の準備に取り掛かるべき時間だ。

リヴァイ(結局寝そびれた)

いつもなら軽く寝るのに今日に限って眠れなかった。

まあいろいろあったから当然だ。気持ちを切り替えよう。

昼は2人分だけ作ればいい。パスタメインで何か作ろう。

リヴァイが便所から出て手洗いを済ませてエプロンを装着すると、その後ろからハンジが言った。

ハンジ「ねえリヴァイ、リヴァイはアレルギーとか特にないよね?」

リヴァイ「ん?」

さっきの事を忘れているのか、普通に声をかけてきたからビビった。

リヴァイ(……………良く平気で居られるな)

ハグしたのに。こっちから。普通、動揺したりしねえのかな。

325: 2014/12/01(月) 18:12:00 ID:1MIpCixU0
と、リヴァイは思いかけて頭を振った。距離を取られるより余程いい。

リヴァイ「アレルギーは特にない」

ハンジ「良かった。なら大丈夫かな。さっきの風呂の件、生理あがったらそっちに合わせるようにするから」

リヴァイ「3日に1度のサイクルで入るのか」

ハンジ「まあ家主の意向ですから? 入浴剤も買ったし、これ使ってみるよ」

リヴァイ「え?」

そう言ってハンジが持って来たのはヴィーナスと書かれた大きな入れ物だった。

リヴァイ「待ってくれ。入浴剤? 聞いてねえぞ」

ハンジ「今言いましたからね」

リヴァイ「何で買った。俺に相談もなく」

ハンジ「だって自分で使う分だし……」

リヴァイ「ハンジが使う分だけ購入したのか」

成程。それなら納得だ。

リヴァイ「…………」

しかしちょっと羨ましいと思ってしまうリヴァイだった。

326: 2014/12/01(月) 18:12:30 ID:1MIpCixU0
ハンジ「あ、勿論、リヴァイも使いたければ使っていいよ」

リヴァイ「でもそうなると金が」

ハンジ「私が1番風呂に入って、これ使えばいいよね?」

リヴァイ「ああ、成程。発想の転換だな」

ハンジ「ごめんね。一番風呂を譲ったのに、奪い返して」

リヴァイ「別にそれはどっちでもいいが」

それよりも入浴剤が気になった。どんな感じなのか。

ハンジ「今日から早速使ってみたい?」

リヴァイ「本音を言えばそうなる」

ハンジ「だったら、いいよ。1回分くらいサービスしちゃう」

リヴァイ「本当にいいのか?」

ハンジ「次から私が1番風呂にすればいいでしょう?」

リヴァイ「分かった。早速今夜、使わせて貰おう」

リヴァイの機嫌は良くなった。こんな単純な事でも嬉しいのだ。

リヴァイ「だったらその礼も兼ねてちょっと贅沢な品を作るか」

327: 2014/12/01(月) 18:12:59 ID:1MIpCixU0
ハンジ「何作るの?」

リヴァイ「ミートソースだ。肉は安い鶏肉だが。肉を使ってやる」

ハンジ「やった! ありがとう!」

リヴァイ「勿論、野菜も足して水増しするが」

ハンジ「栄養が多く採れるからかえっていいんじゃない?」

リヴァイ「冷凍のミックスベジタブルと玉ねぎとを足して作る」

ハンジ「十分美味しそうじゃないか」

ハンジが後ろから覗き込んでくる。その距離感にドキッとした。

リヴァイ(もっと近づいて来いよ)

そう思いかけて、はたっと我に返った。

リヴァイ(だから、そういう考えはいかんとさっき言い聞かせたばかりなのに)

リヴァイはハンジに「邪魔だ」と言って追いやった。

ハンジ「あ、ごめん。ついつい」

リヴァイ「調理中は背後を取るな。集中力が欠けてしまう」

ハンジ「はい。次からしません。気を付けます」

328: 2014/12/01(月) 18:13:46 ID:1MIpCixU0
ハンジを自分の部屋に追い返して待たせる。

ミートソースを作るのは久々だったが、まあまあ美味く出来た。

皿に盛りつけて運んでやる。畳の部屋の飯台に置いて一緒に手を合わせて食べる事にした。

ハンジ「頂きます」

リヴァイ「頂きます」

以前は肉が食えるのは月に1度の生活だったが、ハンジとの同居を決めてからは週に1度に切り替える事にした。

それだけ金の余裕が生まれたのもあるがカレーに肉がない時のちょっとしょんぼりした顔を思い出したからだ。

やっぱりハンジは肉が好物のようだ。まあ、それは自分も同じだが。

ハンジ「美味しいね」

リヴァイ「なら良かった」

ハンジがちゅるっとフォークを使ってパスタを絡めた其の時。

リヴァイ「!」

リヴァイはハンジのセーターにミートソースが飛んだのに気づいた。

しかも場所がアレだ。胸元だ。乳Oの付近に転々と。

ハンジは今、クリーム色のセーターを着ていたから余計にそれが目立った。

329: 2014/12/01(月) 18:15:09 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「しまった。先に服を脱げって言えば良かった」

ハンジ「はい?」

リヴァイ「胸! ソースが飛んだぞ」

ハンジ「え? どこどこ?」

リヴァイ「だから胸! 白っぽいセーターだから目立つぞ」

ハンジ「ぎゃああ! しまったああ!」

ハンジはようやく気付いたようだ。わたわたしている。

ハンジ「今すぐ落とさないと落ちなくなるよね」

リヴァイ「そうだな」

ハンジ「脱いでくる」

ハンジが一度席を立って着替えてきた。今度は黒いトレーナーを着てきた。

ちょっとだぼっとした大きな服だった。なんか可愛い。

リヴァイ(待て。そのサイズはまるで男物じゃないか)

ハンジの服のサイズではない。何でそんなサイズの服を持っている?

一瞬過った嫌な予感が胸を締め付けてリヴァイの手が止まるとハンジは言った。

330: 2014/12/01(月) 18:16:46 ID:1MIpCixU0
ハンジ「ごめーん。染み抜きお願いしていい?」

リヴァイ「あ、ああ………」

頭の中はハンジの着替えた衣服について一杯になったが、リヴァイは立ち上がって気持ちを切り替えた。

慣れた手つきで染み抜きをして汚れをすぐ落としてしまうと、部屋干しをする。

ハンジは「ありがとう」と言ってニコッとしていた。

ハンジ「ミートソースを食べる時は洋服に気をつけないといけないの忘れていたよ」

リヴァイ「食べ方が雑なら尚更だな」

ハンジ「ついつい」

リヴァイ「ハンジ、そんな洋服を持っていたのか」

ハンジ「え?」

リヴァイ「サイズが全然違うだろ。大きすぎないか?」

リヴァイが気になって問うとハンジは気まずそうに言った。

ハンジ「あー……御免ね? 男物が私服で」

リヴァイ「そんな話はしていない。何でサイズが違うのかと聞いている」

ハンジ「お下がりだよ。お父さんの」

331: 2014/12/01(月) 18:17:11 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「父親の洋服か」

一瞬過った嫌な考えは杞憂だったようだ。

リヴァイ(良かった。前の男の服とかじゃねえんだな)

と、思った直後、自分の心配性の度合いが酷過ぎる事に気づいた。

リヴァイ(普通、そうだろ。何で変な心配をした?)

発想がおかしいと自分でも思った。でもそれを悟られないように顔には出さない。

ハンジ「うちのお父さん、エルヴィン店長とあんまり背丈変わらないんだ」

リヴァイ「大きいな」

ハンジ「私のお母さんも170cmあるし、大きい家族だよ」

リヴァイ「血筋ってやつか」

ハンジ「まあそうだね。だから両親のお下がりの服をそのまま使っているんだよ」

リヴァイ「自分で服を買わないのか?」

ハンジ「滅多に買わない。これで十分だと思っているけど……」

リヴァイ「けど?」

ハンジ「リヴァイは女らしい服装でいて欲しい?」

332: 2014/12/01(月) 18:17:35 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「いや別に。服装に特に拘りはない」

ハンジ「本当に?」

リヴァイ「何で念を押す?」

ハンジ「ふーん」

意味深に見つめられてリヴァイは首を傾げた。

リヴァイ「冬は寒くない格好でいればいいし、夏は涼しい格好でいればいいだろ?」

ハンジ「そう思う方なんだ?」

リヴァイ「ああ。古着を大事に着ているのならいい事だろうが」

ハンジ「古着に抵抗ない人なんだ」

リヴァイ「きちんと洗濯して使えば問題ないだろ」

リヴァイがそう言い切るとハンジは嬉しそうに笑った。

ハンジ「だったら、私のお古の洋服、貰ってくれない?」

リヴァイ「え?」

ハンジ「もう着られなくなった服が沢山あるんだよ。背丈が伸びたせいで子供の頃に着ていた服が着られなくなって、でも捨てるのが面倒でそのまま取ってあるんだ」

リヴァイ「どれくらいある?」

333: 2014/12/01(月) 18:18:35 ID:1MIpCixU0
ハンジ「100着は軽くあるかも?」

リヴァイ「なんでそんなに一杯持っている?」

ハンジ「うちの母親は捨てるのが勿体ないと何でもかんでもとっておく人で、使えそうな物は全部実家にあるんだよ」

リヴァイ「成程。血筋か」

ハンジ「まあそんな感じだよ。今度、実家に寄った時に持ってくるよ」

リヴァイ「…………」

実家で思い出した。

リヴァイ「ハンジ、本当に同居の件はご両親には話していないのか?」

ハンジ「え? あ、うん」

リヴァイ「やっぱり今からでもご両親に話した方が良くないか?」

ハンジ「な、なんで?」

リヴァイはもぐもぐと口を動かしながら考えた。

今のこの状態はどう考えても、まずいと思っている。

リヴァイ「もしも何かの拍子で事が露見した場合、ご両親の心証を損なうだろ」

ハンジ「その時はその時に精一杯謝れば何とかなるって」

334: 2014/12/01(月) 18:20:06 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「いや、謝って済む問題じゃねえと思う」

ハンジ「ええ………今更、それ言うの?」

リヴァイ「住所を変更した件についても両親には話してねえのか?」

ハンジ「うん。両親はこっちに来る事はまずないから」

リヴァイ「未成年が賃貸を借りる場合は親かまたはそれに代わる人間の同意書が必要だ。ハンジが最初にアパートを借りた時、契約時に親には世話になっている筈だろ」

ハンジ「まあ、そうだけど」

リヴァイ「ここのアパートの部屋は俺の名義で借りてはいるが、調べられたら同居の件は一発でバレる。其の時にご両親はどう思われるかと考えたら、俺も厚かましいままでいるのは心苦しい」

もしイザベルが同じような事をしたらと思うと立場的に気持ちは理解出来る。

リヴァイ「やっぱり折りをみて話した方がいいと思う。学生の間だけっていう話だし、話しておかないと後々………」

ハンジ「学生の間だけなら猶更話さなくていいって」

ハンジの顔の表情が硬くなった。それを感じてリヴァイは口を閉ざした。

何故、そこまで誤魔化そうとするのか。理解出来ない。

リヴァイ(俺はそんなに両親に隠したい存在なのか?)

もしそうだとしたら傷ついた。

この状態を知られたら印象は確かに悪くはなるとは思うが。

335: 2014/12/01(月) 18:21:03 ID:1MIpCixU0
でも黙っている事はもっと悪い。それに比べたら話した方がいいと思う。

ハンジ「何でも話せばいいって物でもないよ」

リヴァイ「そうだろうか?」

ハンジ「うん。だって、同棲じゃないんだから。ただの同居の状態を両親に理解して貰えるとは思えない」

リヴァイ「…………」

それは裏を返せば同棲の形なら両親に話すという意味だろうか?

そう考えてリヴァイは考え込んでしまった。

同居と同棲の違い。それはきっと、お互いの心の違いだけだ。

やっている事は同じようなものなのに。

リヴァイ「分かった。そこまで言うなら俺も無理強いはしない。ハンジの判断に任せよう」

ハンジ「うん。そうして貰えると助かるよ」

リヴァイ「皿、片付けてもいいか?」

ハンジ「あ、はいはい。もう食べ終わったから」

そしてリヴァイは皿を水に一先ずつけて、

リヴァイ「さっき寝そびれたから今頃眠くなってきた」

336: 2014/12/01(月) 18:21:32 ID:1MIpCixU0
ハンジ「ああそっか! ごめんごめん」

リヴァイ「ちょっと食後の一眠りをする。良かったら後で起こしてくれ」

ハンジ「5時までに起こせばいい?」

リヴァイ「そこまでは寝ないと思う。1時間程度でいい」

ハンジ「分かった。後で起こすね」

そしてリヴァイは布団の中に入り込んだ。ハンジは自分の部屋に戻った。

だけどリヴァイはすぐには寝付けなかった。眠いと言ったのは半分嘘だ。

さっきの言葉が頭に残っているせいで。

リヴァイ(同棲じゃない……か)

ハンジにそうきっぱり言われた事で酷く落ち込んでいる自分に気づいた。

リヴァイ(さっきのハグも別にどうってこと、なかったみたいだしな)

ハンジは動揺している素振りすらなかった。その事にも凹んでいる。

リヴァイ(気持ちが向いているのは俺の方だけなのか)

でも、膝小僧を悪戯した時は嫌がってなかった。

嫌ではないのなら、脈はあるのか。

337: 2014/12/01(月) 18:21:59 ID:1MIpCixU0
望むならいくらでもしてやるのに。こっちはいつでも。

そう思い始めている自分に気づいてますます凹んだ。

リヴァイ(馬鹿か。してやるじゃなくて、したいんだろ。俺は)

何でそう偉そうな思考に陥るのか。その事にも凹んだ。

リヴァイ(………考えるのはやめよう)

ハンジの事を考え過ぎると理性が壊れそうになる。夕方から仕事もあるのに。

リヴァイ(体力を温存するのも仕事のうちだ)

そう自分に言い聞かせて、今度こそ一休みをするリヴァイだった。

少しして、リヴァイが完全に寝付いてからハンジは考えた。

ハンジ(参ったな。両親に話しておいた方がいいなんて、言われるとは)

その件についてはもう片付いていたのだとばかり思っていたから驚いた。

338: 2014/12/01(月) 18:22:25 ID:1MIpCixU0
まさか蒸し返されるとは思わなかったのだ。

ハンジ(両親にバレたらリヴァイがぶん殴られるのがオチだよ)

そして同居を無理やりでも解消されるに決まっている。

そんな事になったら今までの事が全て無駄になってしまう。

ハンジ(絶対、嫌だ。まだ一緒に暮らし始めたばかりなのに)

ハンジは今の幸せを手放したくなかった。

ハンジ(さっきのハグだって、嬉しかったのに)

途中でチャイムが鳴ったのが惜しかった。今思うと。

ハンジ(でもこれって、リヴァイの中で私の両親の存在が気になり始めたって事なのかな)

そう考えても良さそうな気がした。それに対しては嬉しく思う。

ハンジ(もしそうだとしたら、一歩前進だよね。リヴァイとの距離は縮まっていると思っていい筈だ)

縮まっているどころの騒ぎじゃないのだが、ハンジはまだ気づいていない。

リヴァイはとっくの昔にハンジに堕ちている事を。

そして本当は手を出したくて堪らないと思っている事を。

ハンジ(…………しかし膝小僧を触られた程度であんな風になるとは)

339: 2014/12/01(月) 18:23:17 ID:1MIpCixU0
意外な部位でも気持ち良くなれると知ってちょっと顔を赤らめた。

ハンジ(多分、あれはリヴァイが触ったからああなっただけだよね?)

自分で触っても何ともない。やっぱりリヴァイのせいだと思った。

ハンジ(今度からもうちょっと気を付けよう。多分私は、リヴァイになら何処を触られてもやばくなるんだ)

それが惚れているという状態だと改めて認識するハンジだった。

そしてリヴァイが眠ってから一時間程度の時間が経った。

そろそろ起こすか。そう思ってもう一度、襖を開けるが……。

スースー寝息をたてて眠っているリヴァイを見ると起こすのが忍びなかった。

ハンジ(夕方の仕事には5時までに起きれば間に合うだろうし…)

現在、2時頃だ。もうちょっと寝かせてもいいような気がする。

ハンジ(あと3時間延長しようかな。うん。そうしよ)

そう思いながらハンジはもう1枚、リヴァイの寝顔写真をこっそり撮った。

今度は本人に全く気付かれなかった。写真を見比べてみる。

ハンジ(あーよく見るとちょっとだけ違いがある。狸寝入りの時は眉間の皺が残っているな)

成程。これはいい検証結果になった。以後気を付けよう。

340: 2014/12/01(月) 18:23:46 ID:1MIpCixU0
ハンジ(レアショットゲットだぜ☆)

こっちの寝顔写真はナナバにも見せないでおこう。そう思うハンジだった。

リヴァイは夕方の5時頃に起こされて少々不機嫌だった。

リヴァイ「何で起こさなかった」

ハンジ「疲れている様子だったから、起こすのが可哀想に思えて」

リヴァイ「ちっ……寝過ぎてちょっとだるい。頭が動かん」

ハンジ「え? そういうもん?」

リヴァイ「仮眠は仮眠だから仮眠になるんだよ」

ハンジ「早口言葉ですか?」

リヴァイ「そういうつもりじゃねえ。つまり、度が過ぎると良くないって話だ」

ハンジ「じゃあ起こした方が正解だったのか。ごめん……」

リヴァイ「いや、まあ、別にいいが」

大した事じゃない。でもまだ頭がぼーっとする。

341: 2014/12/01(月) 18:24:12 ID:1MIpCixU0
ぼーっとするせいで、飯台に顔を伏せてしまう。

ハンジ「あらら……なんかしんどそうだね」

リヴァイ「まあな」

ハンジ「困ったね。今日、仕事にいける?」

リヴァイ「行くに決まっているだろ。エンジンかけるのに時間かかるだけだ」

ハンジ「冷たい水でも飲む?」

リヴァイ「ああ、そうだな。水でも飲むか」

ハンジがコップに水を注いで持って来た。

ごくごく。全部飲んでしまうと少し楽になった。

リヴァイ「………………」

眠っている間に幸せな夢を見た気がする。

でも断片的で全部は思い出せない。夢なんてそんなもんだろうけど。

リヴァイ「ハンジ」

ハンジ「何?」

リヴァイ「俺が寝ている間に、こっそり写真を撮ってねえか?」

342: 2014/12/01(月) 18:24:37 ID:1MIpCixU0
ハンジ(ギクリ)

リヴァイ「その反応は撮ったな?」

ハンジ「やだなあ。撮ってないよ」

リヴァイ「いいや。撮っている。きっと撮った筈だ。という訳で10分支払え」

ハンジ「撮ってないのに!」

リヴァイ「じゃあそっちの携帯をチェックさせろ」

ハンジ「えええええ!」

リヴァイ「何で嫌がる? さっさと寄越せ。見せられないなら撮ったと解釈する」

ハンジ「…………ちょっと待ってね」

ハンジはスマホをちょちょっと弄ってデータを転送してすぐ消した。

ハンジ「はい、どうぞ」

リヴァイ「今、消したな?」

ハンジ「見られたくない部分を隠しただけです」

リヴァイ「ふーん」

リヴァイはそれだけ言ってやっぱり返した。

343: 2014/12/01(月) 18:25:04 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「じゃあやっぱり、あれはただの夢か」

ハンジ「ん?」

リヴァイ「なんか、ハンジがスマホで俺を遠くから写真を撮っている夢だった」

ハンジ「遠くから?」

ハンジは近くから写したのでそれは正確ではない。

ハンジ「なんで遠くから?」

リヴァイ「どこかここじゃない場所で俺を写真に撮っていた」

ハンジ「日本じゃなかったの?」

リヴァイ「多分……まあ、夢だから断片的過ぎて曖昧だけどな」

そう言いながらようやく頭が動いて来たので支度を始めるリヴァイだった。

リヴァイ(戯言にしか思えないのに。夢で見られるとは思わなかった)

さっきハンジをハグする前に思った事が夢に出て来た。

それだけでも十分幸せな気持ちにさせて貰えたのだ。

ハンジ「そっかあ。まあ夢なんてそんなもんだよ」

リヴァイ「そうだな。夕飯を準備する時間が取れなかったから、イザベル達に今夜は任せると伝えておいてくれ」

344: 2014/12/01(月) 18:25:28 ID:1MIpCixU0
ハンジ「了解しました」

リヴァイ「じゃあ行ってくる」

そしてリヴァイが出て行ってすぐイザベル達が帰って来た。

イザベル「ただいまー」

ハンジ「おかえり」

ファーラン「ただいま。今日は夜出ですっけ」

ハンジ「そうだよ」

イザベル「夕飯の準備はどっちだ?」

ハンジ「イザベル達に任せるって」

イザベル「了解! 今日はどうするかな」

ファーラン「ま、特売と相談して決めようぜ」

ハンジ「車を出そうか?」

イザベル「いいよ。姉ちゃんは勉強するんだろ?」

ハンジ「でも手荷物増えない?」

イザベル「2人で行けば大丈夫。なあファーラン!」

345: 2014/12/01(月) 18:25:49 ID:1MIpCixU0
ファーラン「留守番頼みます。財布は………あった」

食費用の財布は別にしてある。それを準備してファーランは言った。

ファーラン「では行ってきます」

イザベル「行ってくる!」

ハンジ「行ってらっしゃい!」

見送ってハンジは一人になった。急に寂しくなる。

ハンジ「イイ子達だな。本当しっかりしているよ」

躾がいいと思った。リヴァイの元にいるだけはある。

ハンジ「さてと。私はもうちょっと勉強をするか」

そう思って自分の部屋に戻る。

今日は家にいると決めたからレポートも勉強も捗った。

それもこれもリヴァイのおかげである。

ハンジ(ミートソース、久々に食べたな)

お昼のメニューを思い出す。一人で暮らしている時は面倒臭くてそんな物は外でしか食べない。

基本はカップラーメンか菓子パンだった。健康に悪いのは分かっていてもついつい。

346: 2014/12/01(月) 18:26:17 ID:1MIpCixU0
ハンジ(にしてもよくすぐ気づいたよね。リヴァイ)

胸のところに飛んだソースを目ざとく見つけてすぐ注意してくれた。

ハンジ(よく気が回るというか、女子力高いよ。男性だけど)

料理も掃除も洗濯も出来ておまけに気配りも出来る。

男性なのに女性より女性らしい中身と見た目とのギャップが本当に。

ハンジ(はー可愛い。いや、格好いい。色気も堪らん。もうどうしたらいいのやら)

所謂「ハゲ萌える」状態に陥ってハンジが心の中で葛藤している。

女性なのに思考がアレだなと自分でも思いながらハンジは勉強を続ける。

大学生なので勉強が本分だ。ハンジの場合は医者の免許も取るつもりでいる。

開業医になる訳ではないが、人体に関する仕事をする以上必要な免許だからだ。

家事の負担を請け負って貰えると言う事はそれだけ自分の時間が作れるという事だ。

その事に本当に感謝しながらハンジは勉強に精を出していた。

そして子供達が帰って来た。ハンジが出迎えると、2人は嬉しそうに報告してきた。

イザベル「今日、商店街で福引きしたらいい物が貰えたぞ!」

ハンジ「何を貰って来たの?」

347: 2014/12/01(月) 18:26:41 ID:1MIpCixU0
イザベル「ポケットティッシュ! 3つも貰って来た!」

ハンジ「おお……それは良かったね」

恐らく残念賞だろう。でもイザベルは凄くそれを喜んでいた。

そんな彼女の健気な様子にファーランは苦笑を浮かべている。

ファーラン「一等はなかなか当たらないもんですよね」

ハンジ「一等はなんだったの?」

ファーラン「ネズミーランドの宿泊券です」

ハンジ「それ、当たっても行くまでの交通費は自腹じゃないの?」

ファーラン「まあそうでしょうね。だから俺は二等狙いだったんですけど」

ハンジ「二等はなんだったの?」

ファーラン「ブルーレイレコーダーです。転売すればいい値になる」

ハンジ「え? 家で使えばいいのに」

ファーラン「うちにはテレビも置いてないですし、電気代もかかるからリヴァイは設置しないと思いますよ」

ハンジ「でもテレビを観たいとか思わないの?」

ファーラン「観たい気持ちがない訳じゃないですけど。金がかかるのはちょっと」

348: 2014/12/01(月) 18:27:08 ID:1MIpCixU0
ハンジ「うーん」

そこでハンジは考えた。

ハンジ「もし良ければだけど、私のパソコン使う?」

ファーラン「え?」

ハンジ「ネットは繋いでいるから後から見たい物があれば観ようと思えば見れるよ」

ファーラン「でもその間、ハンジさんがパソコンを使えないんじゃ」

ハンジ「私はiPadも持っているんだ。つまり2台持ちなのよ」

ファーラン「え……マジですか」

其の時、ファーランの目の色が変わった。誘惑に駆られているようだ。

ファーラン「そりゃあ観られるんだったら観たい物は一杯ありますけど」

特に思春期の男の子が一番観たい物がある。

ちょっとエOチな番組とか。男が観たい物は沢山ある。

ハンジ「だったら使いたい時は言ってくれたら貸すよ。遠慮しなくていい」

ファーラン「なんか申し訳ないですね」

ハンジ「その分、こっちもお世話になるんだからいいよ」

349: 2014/12/01(月) 18:29:23 ID:1MIpCixU0
イザベル「何の話をしているんだ?」

ファーラン「後で詳しく説明する。イザベル、飯作るぞ」

イザベル「はーい」

そして夕飯の支度をしている間、ファーランは思った。

ファーラン(こいつは思っていた以上に利用出来る女だな)

リヴァイ、グッジョブ! と心密かに悪い事を考えながら野菜を切る。

今日は野菜炒めと味噌汁だ。二品作っていいと言われてからは汁物とメインのおかずを作る。

3人で夕飯を食べていると、ファーランはハンジに探りを入れた。

ファーラン「ハンジさんは大学生ですよね。学部はどこですか?」

ハンジ「私は医学部だよ」

ファーラン「へえ。医者になりたいんですか?」

ハンジ「勿論、医者の免許も取るけど。それはあくまで夢の通過点かな」

ファーラン「通過点?」

ハンジ「私の場合、難病の患者を助ける仕事をしたい。町の開業医とかじゃなくて出来ればいずれ研究の方の道に進みたいかな」

それはつまり、将来は高給取りになる可能性が高いと見た。

350: 2014/12/01(月) 18:30:06 ID:1MIpCixU0
ファーランの目つきが変わった。この女は投資しても元が取れる。

ファーラン「凄いですね。尊敬します」

ハンジ「いやいや………まだ勉強中の身だしね」

ファーラン「でも現役ですよね?」

ハンジ「まあ、一応。現役合格だけど」

ファーラン「ますます凄い。そんな凄い女性なのにどうしてうちのリヴァイを?」

ハンジ「ぶふっ!」

ファーラン「あ、すみません。まだ、リヴァイには伝えてないんですよね」

ハンジ「ファーランは空気の読める子なんだね」

ファーラン「まあ、思春期の時期は色恋沙汰が学校でも蔓延するんで」

空気を読む訓練だと思っている。ファーランの指摘にハンジは顔を赤くした。

ハンジ「あーうん。まあ、その、ごめんね? 私の方から押しかけたようなもんだけど」

ファーラン「いえいえ。ハンジさんはいい人ですし。リヴァイと仲良くやって下さい」

出来ればどんどん貢いで欲しいと計算高く考えるファーランだった。

ハンジ「う、うん……」

351: 2014/12/01(月) 18:30:27 ID:1MIpCixU0
ハンジはファーランの思惑には気づかず照れ臭そうに目を伏せた。

そんな彼女にファーランはけしかける。

ファーラン「リヴァイは自分より背の高い女性はOKみたいですよ」

ハンジ「え?」

ファーラン「前に何度か、スタイルのいい女性に目を奪われている場面を見た事があるんで、間違いないです」

ハンジ「それは本当?」

ファーラン「はい。モデル体型の女性とか割と好みみたいなんで」

イザベル「あーたまに目で追いかける時あるよな。兄貴は」

イザベルまでそんな事を言いだしたのでこれは間違いないと思ったハンジだった。

イザベル「姉ちゃん、兄貴にチューしねえの?」

ハンジ「!?」

ファーラン「まだ早いだろ。そういうのは」

イザベル「さっさとチューしたらいいのに。兄貴、待っているんじゃねえの?」

ハンジ「え? そ、そうなのかな?」

イザベル「兄貴は腰が重い方だから、こっちから言わないと駄目だと思うぞ」

352: 2014/12/01(月) 18:31:02 ID:1MIpCixU0
ファーラン「まあそれは言えるけどな」

ハンジ「それってこっちから言えば何とかなりそうだって事かな?」

ハンジが真面目にそう聞くとファーランが「え?」という顔になった。

ファーラン「…………」

まさか脈がないと勘違いしている? もしそうだとしたらえらい事だ。

ファーラン(いや待てよ)

そこでファーランは考えた。ここはあえて。

ファーラン「そこは確認していないのではっきりとは言えないですが」

イザベル「え?」

イザベルはそこできょとんとした。

イザベル「兄貴は我慢……もがっ」

イザベルが余計な事を言おうとしたのでファーランは口を塞いだ。

ファーラン「後で話す(ボソッ)」

ファーランはイザベルを誤魔化してからハンジに言った。

ファーラン「リヴァイは奥手な性格だと思います。女性に対しては」

353: 2014/12/01(月) 18:31:33 ID:1MIpCixU0
ハンジ「そうなんだ」

ファーラン「だから女性側からリードしてあげた方がうまくいくかもしれないです。例えば……プレゼントをあげるとか」

ハンジ「あ、それはクリスマスの時にさせて貰ったよ」

ファーラン「ああ、あの時にリヴァイにもあげたんですね」

ハンジ「あれ? 知らなかったの?」

ファーラン「はい。俺達の分だけかと思っていました」

ハンジ「そうだったんだ」

ファーラン「どんな物をあげたんですか?」

ハンジ「最初はね、電気屋さんで欲しそうにしていたハンディークリーナーをあげようと思ったんだけど」

あの時の事を思い出しながらハンジは言った。

ハンジ「リヴァイに『こちら側も金が出せる時期にして欲しい』って止められて。代わりに料理の本を1冊だけあげたんだ」

ファーランは思った。なんて勿体ないと。

ファーラン(ハンディークリーナーを貢がせれば良かったのに。リヴァイも人がいいな)

いや、でもかえっていい印象は与えたかもしれない。

そこで遠慮するような男だからこそ、貢がせたくなるのが人の心理だ。

354: 2014/12/01(月) 18:31:59 ID:1MIpCixU0
ファーラン(まあいい。こういうのは徐々にグレードアップしていくからこそ相手に気づかせないで済む)

総額で考えていけばいいのだ。ファーランは悪い事を考えつつ笑顔で言った。

ファーラン「リヴァイは料理が好きですからね。そう言えばこの間「ミキサーが欲しい」と呟いていましたよ」

ハンジ「ミキサー? ミキサーってあのミキサー?」

ファーラン「そうです。砕く時間が短縮出来るから、いいなあと」

ハンジ「へーそうなんだ」

ファーラン「他には蒸し器とか、鉄鍋も欲しいなとか」

イザベル(そんな事を言っていたっけな?)

イザベルにはその記憶は無く、ちょっと首を傾げていた。

ハンジ「確かに料理をする時には必要な物ばかりだね。よし、今度下見してみようかな」

ファーラン「サプライズでプレゼントするといいと思いますよ」

ハンジ「ありがとう! 近いうちにそうさせて貰うよ!」

ファーランは心の中で思った。かかったと。

これで本当に今言った物を購入して来たら、まさに『計画通り』の顔が出来る。

そして3人で夕食を食べ終えて、風呂の時間になった時にハンジは言った。

355: 2014/12/01(月) 18:32:25 ID:1MIpCixU0
ハンジ「あ、良ければこれ使って。入浴剤」

ファーラン「おお……」

ハンジ「肌がすべすべになるそうだよ」

ファーラン「ありがとうございます。イザベル、使ってみるぞ」

イザベル「おう!」

そして2人は一緒に風呂に入った。リヴァイと時間が合わない時は2人で入るのだ。

イザベル「なあなあファーラン、説明してくれよ」

頭の中が混乱していたイザベルは湯船の中でファーランに聞いた。

イザベル「まず1個目。姉ちゃんと最初なんの話をしていたんだ?」

ファーラン「ああ…ハンジさんのパソコンを借りたらいろんな面白い物を観られるって話だ」

イザベル「テレビが観れるのか?」

ファーラン「リアルタイムじゃねえけどな。後で番組を観る事が出来るんだよ」

イザベル「マジか! そりゃすげえな!」

ファーラン「ハンジさんがパソコンを貸してくれるって話をつけたんだよ」

イザベル「やった! 超嬉しいなそれは!」

356: 2014/12/01(月) 18:32:50 ID:1MIpCixU0
ファーラン「あと、イザベル。リヴァイの方がハンジさんを好きって話はハンジさんには絶対するなよ」

イザベル「え? 何でだよ」

ファーラン「そういうのは本人同士で確認する事だからだ。俺達が話していい事じゃねえんだ」

イザベル「そうなんだ。へー」

イザベルはそう言われて面倒臭いと思った。

イザベル「なんかお互いに遠慮しているみたいだから俺が代わりに伝えてやろうかと思ったのに」

ファーラン「それはルール違反だ。恋愛は当人同士がする事だからな」

イザベル「まあそうか。漫画とかでもちゃんと直接「好きだ」って言っていたもんな」

イザベルは借りた漫画を思い出しながら言った。

イザベル「じゃあしょうがねえな。兄貴に任せるか」

ファーラン「ああ。俺達は余計な事はしないようにしよう」

イザベル「了解」

しかし本当は、ファーランは余計な事をしでかしている。

そう、ハンジを貢がせる方向に言葉巧み誘導した件だ。

ファーラン(あの女が自発的にやってくれるんなら有難い話だ)

357: 2014/12/01(月) 18:33:14 ID:1MIpCixU0
少しでもいい生活をする為なら何だってやってやる。

自分がもしもリヴァイの立場ならもっといい物を貢がせてやるんだが。

ファーラン(まあ、それが出来ないからこそリヴァイなんだろうが)

リヴァイはこういう計略にかけては自分より潔癖な部分もある。

だからそういう発想自体に及ばない。根がお人好しと言えるのだ。

ファーラン(願わくはあの女が卒業してからも同居生活を続けられるように仕向けたいな)

一緒に居る理由が無くなればリヴァイはハンジから離れてしまうかもしれない。

それを避ける為には、何らかの手段を講じなければ。

ファーラン(まだ時間はある。じっくり考えよう。あの女を繋ぎとめる方法を)

そんな風に悪だくみを考えながらファーランはイザベルとの風呂を楽しむのだった。

358: 2014/12/01(月) 18:41:17 ID:1MIpCixU0
リヴァイはその日の夜の本屋の仕事の時、今度はアダルトコーナーでの万引きを捕まえた。

ミケ「凄いな。これで2件目だな。流石警備員経験者だな」

今日の夜シフトはミケとモーゼスとリヴァイの男3人組だったのもあって捕まえやすかった。

リヴァイ「作業台から近い位置だってのに、こっちを舐めているとしか思えんな」

リヴァイは仕事を終えてからミケに言った。

店を閉めてから3人は今日の出来事を反省している。

モーゼス「しかしリヴァイが居て良かった。まさか抵抗されるとは思わなかった」

そう、犯人はモーゼスが店の外で嫌疑をかけた直後、反撃して逃げようとしたのだ。

其の時、リヴァイは慌てて追いかけて相手の腕を捕まえて捻り上げて体を完全に拘束した。

その見事な技にモーゼスもミケも驚かされたのだ。

359: 2014/12/01(月) 18:42:00 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「向こうも必氏だったんだろうな。普通の万引きと違ってバレたら趣味嗜好もバレる」

ミケ「恥ずかしさの余りってやつだな」

リヴァイ「だろうな。まあ、気持ちは分からんでもないが」

モーゼス「にしても本当にリヴァイは周りを良く見ている。仕事を間違えたんじゃないか?」

リヴァイ「何故そう思う?」

モーゼス「それだけの才能があるなら本屋よりもっと賃金の高い仕事を出来るだろ」

ミケ「もしかして、何か変な趣味を持っているのか?」

リヴァイ「いや別に……」

ミケ「趣味が普通なのに本屋に来たのか。珍しい奴だな」

リヴァイ「そういうお前らは変な趣味を持っているのか?」

ミケ「まあ、それなりに」

モーゼス「ヲタク気質の奴らばかりだからな」

ミケ「ちなみに俺は香水ヲタクだ。家に2000本は所有している」

リヴァイ「2000本?!」

360: 2014/12/01(月) 18:42:28 ID:1MIpCixU0
ミケ「香りを楽しむのが趣味でな。そういう意味では酒も1000本くらいあるし、調味料も守備範囲だ。バニラエッセンスは好きな匂いだな」

リヴァイ「まあ、バニラエッセンスは分かるけど」

モーゼス「俺は写真を撮るのが好きだな。飛行機や鉄道や乗り物系の写真が好きで良く撮っている」

リヴァイ「ああ……別に漫画や小説だけじゃないのか。ヲタクというのは」

ミケ「その通りだ。その道に対して異常な愛情を持つ奴らを大体ヲタクと呼ぶ」

リヴァイ「そういう意味では俺は何もないな」

リヴァイはそんな自分がここに居ていいのかとふと疑問に思った。

其の時、バイクに跨ったミケはリヴァイに言った。

ミケ「まあ、あえていうなら掃除ヲタクだな。多分、潔癖症のレベルで言ったらリヴァイがうちの店では一番だろ」

リヴァイ「それはヲタクというより、ただの病気な気がするんだが」

ミケ「似たような物だろう。情熱を注ぎ込むと言う意味では」

モーゼス「確かに。リヴァイがうちの店に来てからは本当に店内が綺麗になった」

リヴァイ「今日はサービス残業が出来なかったから思うように掃除出来てねえけどな」

夜のシフトの場合は仕事が終わり次第店を閉める事になるからだ。

ミケ「まあその分、昼シフトの時に挽回すればいい。ではまた明日」

361: 2014/12/01(月) 18:43:21 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「ああ、お疲れ様でした」

モーゼス「お疲れ」

そして3人は家に帰り、帰宅途中、リヴァイは思った。

リヴァイ(今回、アダルトコーナーの異変にすぐ気づいたのは何もそれだけじゃねえけど)

実はちょっとだけ、気になっている自分が居たのだ。アダルトコーナーを。

家を出る前にハンジといろいろあったせいで、今の自分はなんかやばい。

リヴァイ(今日は風呂入って飯食ったらさっさと抜いて寝よう)

寒い夜道を自転車を漕いで家まで帰る。

リヴァイ「ただいま」

ハンジ「あ、おかえりなさい」

リヴァイ「あいつらはもう寝ているか?」

ハンジ「うん。もう先に寝たよ。今日は野菜炒めと味噌汁だった」

リヴァイ「ああ。後で頂く。風呂から先に入る」

今日は入浴剤を入れて風呂に入るので楽しみだった。

リヴァイ「おお。風呂の湯が黄色がかっている」

362: 2014/12/01(月) 18:43:47 ID:1MIpCixU0
黄緑色に近い黄色の湯の中に入ってリヴァイは一息ついた。

リヴァイ(身体がすべすべになりそうだ)

そう思うとついつい、足とかを撫でてしまう。

リヴァイ(…………………はあ)

リヴァイは心の中で今日の出来事を思い返した。

特にハグをしてしまった時のあの感覚を。

リヴァイ(もう、逃げられそうにねえな)

自分の中にハンジがすっかり居座ってしまっている。

その事を改めて実感してリヴァイはぼんやり思った。

リヴァイ(俺の方の背が大分低いのに)

身長コンプレックスを刺激される。2人で並んだ時に絵にならない。

リヴァイ(あいつの好みの男って、どんな奴なんだろう?)

そう言えばそういう情報も全く知らない。

リヴァイ(もし自分より背の高い人とか言われたら凹む)

363: 2014/12/01(月) 18:44:17 ID:1MIpCixU0
という妙な心配をする。

リヴァイ(いや、待て。もっと重要な問題もある。収入の低い男は駄目とか)

考えすぎの虫が湧いてきて胃が気持ち悪くなってきた。

リヴァイ(…………考えるのをやめよう)

とりあえず棚上げした。余計な事は考えない。

そして風呂から出てリヴァイは髪を拭きながら自分の部屋に戻った。

リヴァイの部屋には何故かハンジが座って待っていた。

ハンジ「あ、電子レンジでご飯とか温めておいたよ。どうぞ」

リヴァイ「いいのに」

ハンジ「それくらいの事なら私も出来るよ! ………火で温めるのは出来ないけど」

リヴァイ「焦がすってか?」

ハンジ「100%焦がします」

リヴァイ「お前は電子レンジ以外、絶対使うなよ」

一応念押ししておこう。火事でも起こされたら大変だ。

ハンジ「わ、分かっているよ。だからこそリヴァイに家事を任せているのに」

364: 2014/12/01(月) 18:44:55 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「頂きます」

ハンジを無視して飯を食う。今日は食べ終えたらさっさと寝たい。

朝は新聞配達の仕事もある。眠れるのは3時間程度だ。

しかしハンジは自分の部屋に帰らない。

リヴァイ「ん? 自分の部屋に戻らないのか?」

ハンジ「ええっと、話したい事がちょっとあって。今いいかな?」

リヴァイ「飯食いながらでいいなら」

ハンジ「あの………今度のお休みの時に一緒にまた電気屋に行かない?」

リヴァイ「電気屋? またインクが切れたのか?」

ハンジ「いや、それは大丈夫だけど。ちょっと見たい物があって」

リヴァイ「俺がついていってどうにかなるのか?」

ハンジ「えっと、リヴァイと一緒にみて回りたいというか」

リヴァイ「ふーん。まあいいけど」

ハンジ「あと、ホームセンターにもいきたいんだ」

リヴァイ「家具でも追加するのか?」

365: 2014/12/01(月) 18:45:29 ID:1MIpCixU0
ハンジ「ええっと、まあそんな感じ?」

リヴァイ「次、合う休みはいつだ?」

ハンジ「ええっと、多分、11日は丸々休めると思うからその日はどう?」

リヴァイ「ああ。その日は俺も休みだ。いいぞ」

ハンジ「良かった。じゃあその日は午前中から出かけようか」

リヴァイ「…………」

クリスマスの時は午後から出かけたのに。

リヴァイ(大丈夫か? 俺は)

それだけ長い時間、ハンジと2人きりになるとすれば。

想像してちょっと危ない気がした。何かいろんな意味で。

リヴァイ「いや、出来れば午後からにして欲しい」

ハンジ「え? 何で」

リヴァイ「午前中は家事仕事を済ませたい。洗濯物とか掃除とか」

ハンジ「あ、それもそうか。ごめん……」

自分の感覚で言ってしまった事に反省するハンジにリヴァイは言った。

366: 2014/12/01(月) 18:45:56 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「ハンジも午前中くらいはゆっくりすればいいだろ」

ハンジ「まあそうだけど。そうなると寝てしまうかも」

リヴァイ「なら寝ればいい。あんまりきついスケジュールは好きじゃねえんだ」

という事にしておく。本当は別に平気だけど。

ハンジ「分かった。じゃあ11日はそういう事で」

リヴァイ「ああ。じゃあそういう事で」

そこで会話が途切れて、夕飯を食べ終えたリヴァイは皿を片付けに行った。

リヴァイ「ん?」

まだハンジが部屋に居た。

リヴァイ「なんだ? 俺はもう歯でも磨いて寝るつもりだが」

ハンジ「もう寝る?」

リヴァイ「明日も早いしな」

ハンジ「そっか」

リヴァイ「?」

ハンジの歯切れが悪い。何故か。

367: 2014/12/01(月) 18:46:27 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「まだ、何かあるのか?」

ハンジ「いや、別に何かあるとかじゃないんだけど」

リヴァイ「ならなんだ?」

ハンジ「ただ、リヴァイと話していたいだけかな」

リヴァイ「え?」

ハンジ「あ、いや……ごめん。迷惑だよね。こういうのは」

ハンジが困った顔で顔を背けてしまった。

リヴァイはとりあえず言った。

リヴァイ「だったら、まあ、茶でも飲むか」

ハンジ「いいの?」

リヴァイ「少しくらいならいい」

リヴァイは緑茶を用意した。紅茶だと興奮し過ぎるかもしれない。

いや、緑茶にも興奮作用はあるけれど。気分だ。

リヴァイが茶を注いで2人でそれぞれ飲む。

夜の12時に近い時間に2人だけの時間が始まる。

368: 2014/12/01(月) 19:42:38 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「……………今日はまた万引きを捕まえた」

とりあえずリヴァイの方から先に話題を振ってみた。

ハンジ「え? また? もしかして2件目じゃない?」

リヴァイ「そうなる。今度の万引きは手こずらせた。久々に相手の腕を捻ったぞ」

ハンジ「マジか。押さえこんだんだ?」

リヴァイ「ああ。逃げようとしたし、モーゼスに対して殴って抵抗したからな」

ハンジ「うわー今日はなかなか修羅場でしたね」

リヴァイ「正当防衛だ。警察の方も来たし、いろいろ面倒だったな」

ハンジ「でも凄いね。リヴァイって格闘の方も出来るんだ」

リヴァイ「まあ、それなりに」

謙遜しておく。本当は結構強いけれど自慢するような事じゃない。

リヴァイ「盗んだ商品がアダルト物だったから犯人も焦ったようだった」

ハンジ「おお。趣味がバレますね」

リヴァイ「ああ。女子大生物を持っていきやがって。ムカつく」

ハンジ「うはあ。女子大生物は人気ですか」

369: 2014/12/01(月) 19:43:32 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「それは知らんが。まあ、好きな奴は好きだろうな」

リヴァイはそう言ってチラリとハンジを見る。

リヴァイ「そう言えばハンジも一応、女子大生だったな」

ハンジ「まあ、一応ね。あんまりそういう格好では出歩かないけど」

リヴァイ「化粧とかしねえもんな」

ハンジ「冠婚葬祭は流石にしますけど。でもあんまりしないね」

リヴァイ「化粧が嫌いなのか?」

ハンジ「そういう訳じゃないけど。して欲しいの?」

リヴァイ「どっちでもいい」

曖昧に答えた。本音は化粧をして欲しいけれど。

リヴァイ「女に対してはそこまで拘る訳じゃねえ。本人がしたいようにすればいい」

ハンジ「そうなんだ」

リヴァイ「ただあんまり派手過ぎる女は苦手だ。やり過ぎると汚く感じる」

ハンジ「へーキャバ嬢とか苦手?」

リヴァイ「苦手だな。理想を言えば、役所の受付の人の程度の化粧でいい」

370: 2014/12/01(月) 19:44:43 ID:1MIpCixU0
ハンジ「地味な感じ?」

リヴァイ「ああ。なんか仕事をしている真面目な感じが結構好きだと思う」

髪とかをひとつにくくったり、上にあげているのもいい。

リヴァイ「ハンジの髪の長さならポニーは作れるか?」

ハンジ「出来るよ。やってみせようか?」

リヴァイ「ああ。出来るなら」

ハンジ「ちょっと待ってね」

ハンジはハーフアップの髪型からポニーテールを作り直した。

ハンジ「こんな感じになります」

リヴァイ「そっちの髪型もいいな。たまにはそっちでいたらいいのに」

ハンジ「冬はちょっと寒いけどね」

リヴァイ「なら夏限定でもいい」

ハンジ「分かった。じゃあ夏はポニーにしてあげよう」

と、ハンジが嬉しそうに返してくれる。

その様子にリヴァイはちょっとだけ微笑んだ。

371: 2014/12/01(月) 19:45:35 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「なんだ。ハンジは俺の好みに合わせてくれるのか?」

ハンジ「え……」

リヴァイ「そういう事ならもっと理想を言うぞ。たまにはスカートの姿のハンジがみたい」

ハンジ「いや、そういう話じゃないよ?! 何言い出すかな!」

リヴァイ「違ったのか?」

ハンジ「違うって! その、似合うんでしょう? だったらそうしようかなって話だよ!」

微妙に話のニュアンスを変えてハンジが誤魔化した。

ハンジ(危ない危ない。なんかバレそうになった?)

というか、何で焦っているんだろう? とハンジは思った。

ハンジ(いや、ここで誤魔化すのがいけないのか)

ここで「そうだよ」と言えば良いのだけど。

ハンジ(なんかそこまでは思い切って言えない自分がいる)

と、いう事に気づいて微妙に凹むハンジだった。

リヴァイ「ふーん」

ハンジ「そ、そんな事を言うなら私だって、リヴァイに言いたい事あるけど」

372: 2014/12/01(月) 19:46:14 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「なんだ?」

ハンジ「髪の毛はドライヤーで乾かした方がいいよ。髪が傷むそうだよ。自然乾燥は」

リヴァイ「電気代が勿体ない」

ハンジ「いや、その辺は必要経費だって! 冬は寒くないの?」

リヴァイ「もう慣れた」

ハンジ「えええ……」

リヴァイ「女のハンジとイザベルはドライヤーを使えばいい。男はそこまでする必要はねえよ」

ハンジ「やだよ。男の人も髪の毛は大事にして欲しい」

リヴァイ「そう言われても」

ハンジ「今から乾かしてあげるからじっとしてなさい!」

リヴァイ「おい、ハンジ?!」

ハンジが無理やりドライヤーを持って来た。準備して熱を出す。

リヴァイ「夜なのに」

ハンジ「ドライヤーの音くらい平気だって。ほら」

リヴァイは渋々ハンジに捕まった。ざっと髪を乾燥させる。

373: 2014/12/01(月) 19:47:25 ID:1MIpCixU0
ハンジ「………ほら、10分で済んだ。髪短いんだから遠慮する事ないよ」

リヴァイ「塵も積もれば山になるのに」

ハンジ「大丈夫だって。金が足りない時は私が出すから」

リヴァイ「お前、本屋のバイトだけじゃねえよな」

ハンジ「ん?」

リヴァイ「他に仕事を掛け持ちしているんだろ? でないとそこまで裕福な暮らしは出来ない」

親の仕送りだけでその生活をしているとは思えなかった。

ハンジは口を閉ざして微妙な顔になっている。

ハンジ「確かに私は本屋以外でも働いてはいますが」

リヴァイ「どんな仕事をしているんだ?」

ハンジ「聞かない方がいいと思う」

リヴァイ「まさか水商売?」

ハンジ「いや、そういうのじゃないけど」

リヴァイ「もし求人があるなら俺を紹介してくれないか?」

リヴァイは図々しいと思いながらもハンジに言ってみた。

374: 2014/12/01(月) 19:48:26 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「勿論、短期で構わない。臨時収入はあればあるだけいい」

ハンジ「むしろ短期しかないけど」

リヴァイ「だったら尚更都合がいい。ハンジは他に何の仕事をしているんだ?」

ハンジ「あー本当にやるのお?」

ハンジは天井を仰いだ。これ、人に紹介していいのかと悩む。

ハンジ「ええっと、大学の人脈で、実験に協力する短期のバイトもたまにやってる」

リヴァイ「実験に協力?」

ハンジ「例えば『1日中、人間は寝て過ごしたらどうなるのか』とか『1日中、走り続けたらどうなるのか』とかの検証実験データを集めたがっている教授とかがいるのね。そういう公募が出た時に参加したりするんだよ」

リヴァイ「体力勝負だな。むしろ望むところだ」

ハンジ「結構、きっついよ。見た目よりも」

リヴァイ「時給いくらだ」

ハンジ「日給制の方が多いよ。1日1万円とか」

リヴァイ「破格じゃねえか。成程。だからハンジはパソコンとかも持っているのか」

ハンジ「まあ、そうなるけど」

リヴァイ「今度、俺も出来そうな仕事がきたら回してくれ」

375: 2014/12/01(月) 19:48:56 ID:1MIpCixU0
ハンジ「ええ? でもリヴァイは家事の負担もあるのに」

リヴァイ「其の時はイザベルに家事をやらせる。とにかく俺も今、金が欲しいんだ」

ハンジ「何で」

リヴァイ「買いたい物がある。出来れば近いうちに」

ハンジ「じゃあ、私が金を出しておこうか?」

リヴァイ「それじゃ意味がない。皆で使うものだからな」

ハンジ「何が欲しいの?」

リヴァイ「椅子とテーブルだ。4人で座って台所で揃って食べたい。この飯台は小さ過ぎる。イザベルもいつまでも小さいままじゃねえし、いずれは必要になる筈だ」

ハンジはそこで考えた。そういう事なら仕方がないと。

ハンジ「分かった。仕事は不定期だからいつくるか分からないけど、話が来たらリヴァイにも紹介するね」

リヴァイ「助かる。是非そうしてくれ」

ハンジ「椅子とテーブルだったらリサイクルショップで買った方が安いかも」

其の時、ハンジは思い出して言った。

ハンジ「傷物もあるけど、安いのになると500円とかで買えるのもあるよ」

リヴァイ「椅子とテーブルも売ってあるのか」

376: 2014/12/01(月) 19:49:31 ID:1MIpCixU0
ハンジ「タイミングによるけどね。行った事ない?」

リヴァイ「ないな。そもそもうちには大きな家具がない」

ハンジ「そういえばタンスすらなかったね」

リヴァイ「ああ。服は全部、袋に入れている。ベッドもないし、本棚もない」

ハンジ「これから少しずつ集めて行こうよ。一緒に生活していくうちに必要になると思う」

リヴァイ「ああ。そうだな……」

そう思いかけて、それは駄目だと思い直した。

リヴァイ(あんまり家具を増やしたら、ハンジと別れた時が寂しくなる)

リヴァイ「まあ、今は椅子とテーブルだけでいい」

とりあえずそれだけでいい。先の事は余り考えないようにしよう。

ハンジ「分かった。じゃあ今日はこの辺でおやすみ」

リヴァイ「ああ。おやすみ」

ハンジは時間をみてそこで話を打ち切って自分の部屋に戻って行った。

リヴァイは歯磨きをしてから寝る。布団に戻ってから思った。

リヴァイ(このままずっとハンジと暮らし続けていけたらいいのに)

377: 2014/12/01(月) 19:50:21 ID:1MIpCixU0
そう願い始めている自分に気づいて少し凹んでしまうリヴァイだった。

1月11日。約束の休日の日。ハンジは午前中から出かけて行った。

寝るかも? と言っていたが急遽気が変わって「実家に行ってくる」と言って出て行ってしまったのだ。

リヴァイ(もしかして古着の件か)

恐らくそうだと思う。ハンジは車を持っているから実家との行き来も苦ではないそうだ。

車で片道2時間程度の道のりなので早朝から出発すれば行って帰ってくるだけなら午前中だけで済ませられる。

かなりハードなとんぼ帰りのような気がするが、ハンジは運転に慣れているそうなので大丈夫だと言っていた。

そして本当に古着を車に詰め込んで持って来てしまったのだ。

リヴァイ「本当に持って来てくれたのか」

ハンジ「うん。荷物入れるの手伝って」

とりあえず、ハンジに言われて荷物を運び入れる。

今住んでいる新居のアパートは2階なので階段がちょっと面倒だった。

378: 2014/12/01(月) 19:51:08 ID:1MIpCixU0
リヴァイの部屋にとりあえずそれを置いてみる。広げた衣服は確かにまだまだ使えそうな物だった。

リヴァイ(丈のサイズが俺にぴったりじゃねえか?)

合わせてみたら意外としっくりきた。

リヴァイ「ハンジ、この辺の衣服はハンジがいつ頃着ていた服なんだ?」

ハンジ「ええっと、中学生くらいかな」

リヴァイ(ズーン)

という事は、ハンジは中学生の時点で自分と同じ背丈だった訳だ。

リヴァイはそれに気づいてその成長の差に心密かにがっくりしていたが、貰った物は大事にしようと思った。

ハンジ「この辺の小さいのはイザベルも着られると思う」

イザベル「おお? 貰っていいのか?」

ハンジ「いいよ。ワンピースだけど」

イザベル「ありがとうハンジ姉ちゃん!」

早速着替えてみる事にしたようだ。ファーランもいくつか衣服を貰っている。

ファーラン「この辺の奴とか丁度いいですね」

現在のファーランの背丈はリヴァイにちょっと大きい程度だ。

379: 2014/12/01(月) 19:51:45 ID:1MIpCixU0
ハンジ「高校生の時の奴だけど。丁度いいみたいだね」

リヴァイ(ズズーン)

ハンジの成長ペースを目の当たりにして微妙に落ち込むリヴァイだった。

リヴァイ(まあ、でもいいか)

貰える物は有効に活用させて貰おう。そう思って気持ちを切り替えた。

イザベル「どうだ? 似合うか? (ひらり)」

イザベルが冬物のワンピース姿になって登場した。

そういう格好をすればイザベルも可愛らしくなる。

普段は男のような私服しか着ないが、着飾れば綺麗になれる素質を十分持っている。

リヴァイ「似合っているぞ」

ファーラン「ああ。その恰好で男をたらし込め」

イザベル「オッケー! (円マーク)」

リヴァイ「こら、ファーラン。余計な事を言うんじゃねえよ」

ファーラン「え? 何で。いいじゃねえか。イザベルは可愛いから」

確かにイザベルは可愛い容姿をしている。

380: 2014/12/01(月) 19:52:31 ID:1MIpCixU0
目は大きい猫目であるし、小柄で活発な性格だ。男子の中では人気があるのも頷ける。

イザベル「最近、クラスの男子がちやほやしてくれるようになったぞ。ファーランの言う様に笑顔の練習をしたら、お菓子とか奢ってくれる男子が増え始めたぜ」

リヴァイ「!」

なんていう事だ。変な事を覚えやがって。

リヴァイ「そういう事は覚えるな。変に期待させると後で嫌な目に遭うかもしれんだろ」

ファーラン「大丈夫だよ。そういう時は『イザベルは皆の物だから☆』って笑顔で誤魔化せば」

イザベル「こういうのってアイドルキャラっていうんだろ? 何か男子の前でそれやるとウケがいいぞ」

リヴァイ「……………」

頭が痛くなってきたリヴァイだった。

ハンジ「あーでもそれやると、女子の間で嫌われちゃうよ。多分」

イザベル「別に女子と仲良くやる必要はねえよ。あいつら人の陰口ばっかり言うし、一緒に居ても楽しくねえもん」

イザベルはリヴァイとファーランと一緒にいる事が多いせいか、女子のグループが苦手だった。

それに比べれば男子のグループに混ざって遊ぶ方が余程気が楽で居られるのだ。

ハンジ「気持ちは分からなくもないけど、痛い目に遭う可能性は確かにあるかもしれない」

イザベル「痛い目? 殴られるのか? そん時はやり返せばいいじゃん」

381: 2014/12/01(月) 19:53:07 ID:1MIpCixU0
ハンジ「うーん。そういう意味じゃないんだけど」

ハンジはどう説明するべきか迷った。

ハンジ「男子の間でイザベルを巡って争いが起きるかもしれないよ」

イザベル「え? それって俺を奪う合うって事か?」

ハンジ「そうそう。イザベルと一緒に居たいと思う男子同士が喧嘩しちゃうかもしれない」

イザベル「ううーん。それはちょっと嫌かもなあ」

ファーラン(争わせた方が面白いのに)

ファーランは内心舌打ちしていたが、まあここはハンジが正論だと思った。

イザベル「喧嘩の元になるかもしれないのか。それは参ったなあ」

ハンジ「そうそう。だから程ほどにしようか。アイドルは」

イザベル「そうするか。腹減った時だけ、アイドルする事にする」

リヴァイ「…………」

つまり食い足りない時は他人から食べ物を巻き上げているのか。

そう理解してリヴァイは少々落ち込んでしまった。

リヴァイ(まあ、そうだろうな。食い盛りの時期だ。本当はもっと食いたいに違いない)

382: 2014/12/01(月) 19:53:42 ID:1MIpCixU0
でもイザベルもファーランも文句を言った事は一度もない。

それだけ我慢させているし、2人は大人なのだ。精神的に。

ファーラン「俺は別にいいと思うけどな。その分、イザベルが可愛くいれば」

リヴァイ「ファーラン………」

ファーラン「だって世の中そんなもんだろ? 持っている武器を使わなくてどうするんだよ」

リヴァイ「そのせいでイザベルが事件にでも巻き込まれたらどうする」

ファーラン「その時はリヴァイ仕込みの格闘術で逃げられるだろ」

リヴァイ「多勢に無勢になったら勝てない事もある。人の恨みはあんまり買うもんじゃねえよ」

今はまだいい。しかしこれが思春期を迎えて痴情の縺れに巻き込まれたりでもしたら。

新聞のニュースにたまに掲載されている事件などを見ると、リヴァイも肝が冷える事があるのだ。

リヴァイ「ワンピースの恰好で外を出歩く時は、俺かファーランと一緒にいる時だけにしろ。一人の時は絶対するなよ」

イザベル「了解! 兄貴がそう言うならそうする」

イザベルは素直にいう事を聞いた。まるでお父さんのようだ。

厳格なリヴァイの態度にファーランも少々呆れているが、ここで文句は言わない。面倒だからだ。

リヴァイ「ハンジ、運転して疲れているだろ。午後は少し時間をずらして出かけても構わんぞ」

383: 2014/12/01(月) 19:54:16 ID:1MIpCixU0
ハンジ「大丈夫だって。ご飯食べたらそのまま出かけるつもりだよ」

リヴァイ「とんぼ帰りしてきた癖に本当に大丈夫か?」

ハンジ「うん。お腹減ったから何か食べようよ」

リヴァイ「一応、ケチャップライスと味噌汁は作ってある」

ハンジ「じゃあそれを頂きます」

そして4人で昼ご飯を食べた後は、二手に別れる事になった。

ファーラン「じゃあ俺達、留守番しておくから」

イザベル「宿題あるしなー」

リヴァイ「ちゃんと終わらせろよ」

イザベル「ファーランに教えて貰う。いってらっしゃい!」

子供達を家に残してリヴァイは早速、ハンジから譲り受けた上着を着こんで外に出た。

リヴァイ(こっちのダウンジャケットの方が温かい)

今まで使っていたジャケットより厚手の服だったので着心地が凄く良かった。

リヴァイ(ハンジは裕福な家庭で育っているようだ)

医学部に行かせて貰える財力が実家にあるわけだから当然だ。

384: 2014/12/01(月) 19:54:52 ID:1MIpCixU0
リヴァイ(……………何でそんな女が俺なんかの元に)

縁があったとはいえ、こんな風に一緒にいる事自体が奇跡のように思えた。

助手席に乗って再びハンジの横顔を覗き込むと、其の時、ふと気づいた。

リヴァイ(ん? いつもと顔の感じが違うような)

良く見たら薄化粧をしている? 朝はバタバタしていたので気づかなかったが。

リヴァイ(俺とした事が。何で今まで気づかなかった)

朝から化粧をしていた素振りはなかった。という事は実家に戻った時にしてきたのか。

リヴァイ(何でこういう日に限ってそういう事をする)

もうこれは、確定じゃないのか。そう思いそうになったけれど。

リヴァイ(待て。調子に乗るな。そもそも外に出る時に化粧をするのは普通の事だ)

ハンジは普段は化粧する機会が少ないが、今日はたまたまそういう気分だったのかもしれない。

そう思いなおしてリヴァイは視線を外の景色に押しやった。

ハンジ(うーん。やっぱり気づいている様子はないか?)

運転しながらチラチラとリヴァイの方を盗み見る。

ハンジ(実家に戻ってからちょっとだけ顔を弄ってきたけど、リヴァイは何も言わないな)

385: 2014/12/01(月) 19:55:46 ID:1MIpCixU0
所謂、ナチュラルメイクだ。化粧に見せない程度の化粧というアレだ。

ハンジ(まあ、あんまり差はないし、気づかないか)

気づいて欲しかった気持ちもあったが、些細な差なので仕方がない。

ハンジ(口紅の色とか分かりやすい赤色の方が良かったかな)

口紅の色を派手にすれば流石に分かったとは思うけれど。

ハンジ(でも持ってないんだよね。そういう紅の色は。ピンク系しか)

加えて久々に化粧をしたから、うまく出来たか自信はない。

ハンジ(自分から言うのも変な話だしね。うん……)

気づいて欲しいような気づかれたくないような。微妙な乙女心のままハンジは運転を続けた。

そして再び電気屋さんを訪れる。店内は相変わらず煩い音が響いていた。

店内の客の数もそれなりに多く、リヴァイはちょっとだけ眉を顰めた。

リヴァイ「何を見たいんだ?」

ハンジ「ええっと、ミキサーからいこうか」

リヴァイ「ミキサー? ミックスジュースでも作らせたいのか?」

ハンジ「そうそう。野菜と果物でヘルシーなジュースを飲みたい」

386: 2014/12/01(月) 19:56:19 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「いくらくらいするんだ?」

ハンジ「7000円も出せば買えそうだね」

リヴァイ「7000円か………」

それだけの金があれば肉を食べたいと思うリヴァイだった。

リヴァイ「うちにはおろし金はあるから、それで作って代用したら駄目か?」

ハンジ「おろし金? 大根おろしとかに使うアレ?」

リヴァイ「そうだ。それでりんごや人参をおろしてふきんで絞ればジュースは作れる」

ハンジ「でもそれって手間がかからない?」

リヴァイ「かかるけれど、美味いぞ。それに余った繊維は飯と煮て粥にする事も出来る。だから今すぐミキサーは必要ないな」

ハンジ「あ、そうなんだ……(あれ? 思っていた反応じゃないな)」

聞いていた話と違ってハンジが戸惑う。

それも其の筈だ。その辺の話はファーランがけしかけた策略だ。

リヴァイ自身は今すぐミキサーを欲しいとは思っていない。

ハンジ「じゃあ別の物を見ようかな」

ハンジは考えた。他にリヴァイが食いつきそうな物はないかと。

387: 2014/12/01(月) 19:56:45 ID:1MIpCixU0
ハンジ「あ、このパンを自宅で作れる機械とかどう?」

リヴァイ「パンを家で作れっていうのか?」

ハンジ「駄目かな?」

リヴァイ「光熱費を考えたら安売りしているパンを買った方がいい」

ハンジ「そ、そっか」

リヴァイ「それにオーブンレンジでも作ろうと思えば作れるし、改めて別に購入する必要はない」

ハンジ「ううーん」

リヴァイ「どうしたんださっきから。様子が変だな」

ハンジ「え?」

リヴァイ「ハンジが欲しい物をさっさと選んで買えばいいだろ。俺に気遣ってないか?」

ハンジ(ギクリ)

こういう時のリヴァイの気の回し方は大体合っている。

リヴァイ「俺の事は気にしないでさっさと本命の商品を選べ」

ハンジ「ううーん」

サプライズの為に購入しようと思ったのに。

388: 2014/12/01(月) 19:57:14 ID:1MIpCixU0
ハンジが悩んでいると、其の時、リヴァイの足元に丸い物体がやってきた。

リヴァイ「ん? …………なんだコレ」

それはルンバだった。店内の床を掃除する自動掃除機ロボットが試運転用に店内をうろついていたのだ。

所謂、見本のような扱いだが、そいつを見てハンジは言った。

ハンジ「あ、それが前に言ったルンバだよ。床を掃除しているんだ」

リヴァイ「なんだって……?」

ざわっ……

その愛らしい物体に目を奪われたリヴァイはそいつを足で触ってみた。

すると、それを避けてルンバが動いて足早(?)に離れて行った。

その直後、リヴァイの脳天に衝撃が走った。

リヴァイ(か、可愛い……!)

物を言わぬ無機物に萌えるという体験を初めてしてしまった。

リヴァイの表情の変化に気づいてハンジは言った。

ハンジ「あ、ルンバにしようかな。やっぱり欲しいかも……」

と、言うとリヴァイはすぐさま「やめろ」と言った。

389: 2014/12/01(月) 19:57:42 ID:1MIpCixU0
ハンジ「なんでよ」

リヴァイ「その、あんな愛らしい物を家においたら、理性が吹っ飛ぶ」

ハンジ「どういう意味よ」

リヴァイ「そのままの意味だ。なんだあの可愛らしさは! クソ……!」

ハンジ(ルンバに萌えているリヴァイの方がハゲ萌える)

と、思ってしまったハンジだったが口には出さない。

ハンジ「私、前々から欲しかったんだよね。最新モデルは無理でも旧型を買おうかな」

リヴァイ「やめろ。やめてくれ! 頼むから買うな!」

リヴァイが縋り付いている。傍から見ると奇妙な光景だった。

リヴァイ「あんなのが家の中をウロウロしていたら、その様子を眺めたくなって他の家事仕事が手につかなくなるだろうが!」

ハンジ「そ、そういうもんなんだ」

リヴァイ「ああ。むしろルンバの後をずっと追いかけたくなる」

ハンジ「それって何の為にルンバを使うのか意味分からなくなるね」

リヴァイ「だろう? 嫌な予感しかしない。だから買うな」

そう言いながらリヴァイはルンバを目で追っている。

390: 2014/12/01(月) 19:58:31 ID:1MIpCixU0
本当は欲しくて堪らない。そういう顔をしているのに。

リヴァイ「クソ……実物を見るんじゃなかった。あんなに愛らしい物体だとは思わなかった」

リヴァイが座り込んでしまった。何だか可哀想でもある。

ハンジ「だったらそういう愛玩目的で買ってもいいよ。おもちゃ扱いで使えばいいのに」

リヴァイ「おもちゃ扱い?」

ハンジ「うん。掃除させるついでにおもちゃみたいにして遊べば?」

リヴァイ「おもちゃに8万円も出す馬鹿がいるか!」

ハンジ「それは最新型の値段だから! 安い奴は3万もあれば手に入るよ」

リヴァイ「それでも十分高い。絶対買うな。買うなよ。買ったらハンジとは口きかねえぞ!」

ハンジ「うぐ……」

それは厳しい拒絶だった。そこまで言われたらハンジも無理は出来ない。

ハンジ「分かったよ。だったらルンバは諦めるか」

でもリヴァイの視線はルンバに釘づけだった。

その様子を見てハンジは首を傾げる。

ハンジ(そんなに食いついているのに何で拒否するのかな)

391: 2014/12/01(月) 19:58:56 ID:1MIpCixU0
リヴァイの行動が理解出来ずに首を傾げる。

ハンジ(欲しいなら手に入れればいいのに。手を伸ばせば届く距離にあるのに)

しかしリヴァイはそういう難儀な性格の様だ。

ハンジ(まあ、今回はルンバを諦めるとして他に何か代わりになるような物はないかな)

ハンジは別の商品を探してみた。目についたのは美容関連の電化製品だった。

ハンジ(やっぱり見た目から変えていかないと駄目だろうな)

今までそういう自分を意識した事がなかっただけに強く思った。

ハンジ(よし。リヴァイの言う通り、今日はサプライズを抜きにして自分の為に買おう!)

ハンジはドライヤー関連の近くにあったコテや美顔用のマッサージ器のような物を吟味し始めた。

それに気づいてリヴァイも立ち上がる。横で様子を見ている。

リヴァイ「美容関連の何かを買うのか?」

ハンジ「うーん。そういう道具はドライヤーしか持っていなかったから買ってみようかなって」

リヴァイ「髪の毛を弄るつもりか?」

ハンジ「その方が可愛くなれると思うけど」

リヴァイ「そんなもんなくても………」

392: 2014/12/01(月) 19:59:21 ID:1MIpCixU0
ハンジは可愛いだろ。

……と言いかけてリヴァイは慌てて軌道修正した。

リヴァイ「ドライヤーがあれば十分事足りるだろ」

ハンジ「そんな事はないよ。コテがないと、巻き髪とかは作れないらしいし」

リヴァイ「らしいって事は、実際にやった事はないのか」

ハンジ「まあね。私も人づてに聞いた話だからどうすれば出来るのかは分からない。ぶっつけ本番?」

リヴァイ「危ないからやめろ」

ハンジ「そうかな? 習うより慣れろって言わない?」

リヴァイ「そもそもハンジの髪の毛はくせっ毛だから無理してする必要ないだろ」

そう言ってリヴァイはハンジの髪を見て………。

リヴァイ(フケが出始めている)

と、ついついチェックを入れた。

リヴァイ「今日の夜は風呂に入る日だからな。今日から3日に1回ペースでいいよな?」

ハンジ「あ、うん。もう終り頃だから大丈夫」

リヴァイ「俺としてはそういう道具を使って見た目を気にする時間があるなら、風呂に頻繁に入って欲しいんだが」

393: 2014/12/01(月) 20:00:22 ID:1MIpCixU0
ハンジ「あれ? そういうものなの?」

リヴァイ「洗い立ての色気に勝るものはないだろ」

ハンジ「……………」

リヴァイは失言した自分に気づいた。

リヴァイ(しまった。今の言い方では誤解を招く)

慌てて軌道修正する。今の言い方は正しい意味じゃないと言う事にしたい。

リヴァイ「見た目より清潔感が大事だという話だ。たまにいるだろ。ゴテゴテに化粧はしていても風呂には入ってない汚い女が。ああいうのはちょっとな」

ハンジ「…………成程」

リヴァイ「どうしてもハンジが髪を巻きたいっていうなら俺は止めないが」

ハンジ「いや、まあ……そこまで言われたら別に巻きたい訳じゃない気がしてきた」

そしてハンジは別の物を目に入れた。冬の時期には良く売りに出される商品だ。

ハンジ「あ、加湿器。そうだ。加湿器を買おう!」

リヴァイ「加湿器?」

ハンジ「喉の乾燥を防ぐ道具だよ。水蒸気が出るんだ。冬の間は喉を傷めやすいからこれは必要だよ」

リヴァイ「成程。それは確かに必要だな」

394: 2014/12/01(月) 20:00:57 ID:1MIpCixU0
ハンジ「これ買おうっと。値段も手頃だし、いいよね」

リヴァイ「いくらだ?」

ハンジ「12800円。音が静かな方が夜も使えるし、これにする」

リヴァイ「ちょっと高くないか? もっと安いのもあるぞ」

ハンジ「だから音を考えないと。夜中も使う物だから、いい物を買わないと」

リヴァイ「そうか」

ハンジ「ちなみにここの店のポイントを地味に貯めているので5000円分は値引き出来ます!」

リヴァイ「な、なんだって?」

ハンジ「こういう時に使わないとね! 買い物上手でしょう?」

リヴァイ「ああ。確かに」

ほっとした。だったら半額近い値段で購入出来る。

その加湿器の説明には「省エネ」という文字もあった。

リヴァイ(電気代の事も考えてこれにしたんだろうか)

普段から煩く言っているから気を遣ってくれたのかもしれない。

それを思うと自然と口元が緩む自分が居て、リヴァイは慌ててまた口を手で隠した。

395: 2014/12/01(月) 20:01:29 ID:1MIpCixU0
そんな訳でハンジが無事に買い物を済ませて次はホームセンターに移動した。

ハンジ(うーん。無理にリヴァイに合わせて買い物すると怒られそうだな)

ここは自分が欲しい物を買うフリをして購入するしかないような気がした。

ハンジ(蒸し器と鉄鍋は、蒸しパンと中華料理が食べたいって事にしよう!)

そう考えてハンジは行動を起こした。

カートをゴロゴロ押しながら鍋関連のコーナーへ移動する。

ハンジ「ねえリヴァイ、蒸しパン作って」

リヴァイ「え?」

ハンジ「蒸し器買っていいよね。蒸しパンを作って食べさせて欲しい」

リヴァイ「いくらくらいだ?」

ハンジ「2580円だって。手頃な値段だよね?」

リヴァイ「もっと安い物はないのか?」

ハンジ「あんまり安すぎるとすぐ壊れるかもしれないよ?」

リヴァイ「そうか……」

それは一理あるかもしれないと思ったリヴァイは渋々頷いた。

396: 2014/12/01(月) 20:02:00 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「まあ、蒸し器はあった方が便利ではある」

ハンジ「やった! じゃあ蒸し器を買おう!」

そして次は鉄鍋を探してみた。

ハンジ「あった。鉄鍋みっけ」

リヴァイ「鉄鍋? 中華料理でも作れっていうのか?」

ハンジ「そんな感じ。リヴァイ、作ってよ」

リヴァイ「うーん。蒸し器でも中華料理は作れる筈だが」

ハンジ「そうだっけ?」

リヴァイ「飲茶とかを想像していた。鉄鍋を使うと言う事は炒飯を食べたいのか?」

ハンジ「そうそう。リヴァイがこう、炒飯をひっくり返すところを見てみたい」

リヴァイ「なんだそれは」

リヴァイがちょっと照れ臭そうに頭を掻いている。

リヴァイ「まあ、出来なくはないだろうが。見られると緊張しそうだな」

ハンジ「練習しておいてよ」

リヴァイ「分かった。ハンジのリクエストなら作ってやろう」

397: 2014/12/01(月) 20:02:44 ID:1MIpCixU0
そして鉄鍋も購入して結局、合わせて1万円近くの合計になった。

ハンジ「ポイントが溜まっているので全部使って下さい」

会計時にポイントを使ったらその半額の値段で買い物が出来た。

つまり両方とも大きな買い物をしたが、その半額程度で買い物を済ませたのだ。

リヴァイもポイントカード類は持ってはいるが、元々の買い物の値段が少ない為、ハンジ程ポイントは溜まっていない。

ハンジが過去に大きな買い物をしているからこそ出来る技だと言う事だ。

リヴァイ「もう大体買い物は済んだな?」

ハンジ「うん。終わったね」

リヴァイ「なら、前に言っていたリサイクルショップというところに行ってみたい」

ハンジ「あ、下見するの?」

リヴァイ「ああ。今日は買わないが、どんな店なのか見てみたい」

ハンジ「了解」

そして3つ目の店に車で移動する。

店の中にはいろんな家具が安い値段でところ狭しと並べてあった。

リヴァイ(ハンジが言った通りにかなり安い値段で売られている)

398: 2014/12/01(月) 20:03:16 ID:1MIpCixU0
その代り傷物や汚れが酷い物も商品として出してあった。

リヴァイ(汚れは自分達でどうにかすればいい話だ。それでこの値段なら安い)

椅子とテーブルセットで2000円という安さの物もあった。

しかしその手の格安商品は既に予約済みの札が貼られている。

リヴァイ(クソ……早い者勝ちって事か)

当然だ。しかも送料は別に取られると書かれてある。

リヴァイ「下手すると送料の方が高いな」

ハンジ「物によってはそうなるね」

リヴァイ「出来れば椅子とテーブルは1万円以内に収めたい」

ハンジ「そうなるとかなり安い物を見つけないといけないか」

そこでハンジは考えた。

ハンジ「いっそ作っちゃう?」

リヴァイ「え?」

ハンジ「材料さえあれば、いけるかも。一人じゃ無理だけど。エルヴィン店長とかミケにも協力して貰えたら」

リヴァイ「な、何を言いだすんだ。いきなり」

399: 2014/12/01(月) 20:03:37 ID:1MIpCixU0
ハンジ「エルヴィン店長、立体物を作るのは割と得意な方だよ。私もそうだし」

リヴァイ「そ、そんな話をして、大丈夫なのか?」

ハンジ「大丈夫じゃないかな。ちょっとメールしてみる」

ちょちょいっと連絡してハンジはエルヴィンと話し合った。すると、

ハンジ「あ、いいって。OK出た。どんな形の椅子とテーブルを作りたいかって聞いているけど」

リヴァイ「そんな話をメールでしていいのか?」

ハンジ「大丈夫だよ。4人で使えるテーブルと椅子でデザインは任せてもいいのかな」

リヴァイ「ああ。予算以内で安く出来るなら」

しかし其の時ふと、リヴァイは思った。

リヴァイ「待ってくれ。エルヴィン店長にそんな事を頼んだら俺達が同居している事がバレないか?」

ハンジ「え?」

リヴァイ「出来ればその件については職場の人間には伏せておいて欲しいんだが」

ハンジ「……………」

其の時、ハンジは青ざめていた。その反応にリヴァイは悟った。

リヴァイ「おい、まさかもうバレているのか?」

400: 2014/12/01(月) 20:03:58 ID:1MIpCixU0
ハンジ「すみませんでした」

ハンジがその場で頭を下げた。リヴァイは天井を仰いだ。

リヴァイ「なんでベラベラしゃべった」

ちょっとイラッとして言い返すとハンジがびくっと怯えたように視線を逸らした。

ハンジ「だ、駄目だった?」

リヴァイ「正直あんまりいい気持ちはしねえ」

ハンジ「……………」

リヴァイ「まあ、しゃべってしまったもんはしょうがねえが」

ハンジ「御免なさい」

リヴァイ「ハンジから見てナナバとか、友人にあたる人間なら別に話してもいい。でも店長やミケはそういう人間か?」

ハンジ「うん。職場の人だけど、プライベートでも一緒に遊んだりもするよ」

リヴァイ「男性なのにか?」

ハンジ「男性の友人だって普通にいるけど」

その即答にチリッと苛つく自分がいた。

リヴァイ(なんだそれは)

401: 2014/12/01(月) 20:04:32 ID:1MIpCixU0
ハンジがプライベートでも店長達と一緒に居る姿を想像して急に胸が苦しくなった。

其の時、リヴァイは思い出した。店長はともかく、ミケは言っていた。

いいなと思う子はいると。

リヴァイ(まさか、ミケはハンジの事を……?)

可能性はゼロではない気がした。もしそうだとすれば。

リヴァイ(クソ……!)

こういうのをなんていうか知っている。度量の狭い男だ。

其の時ハンジはメールを見てまた言った。

ハンジ「あ、エルヴィン店長、今日は夕方で上がりだからその後にうちに来たいって言ってるけど」

リヴァイ「……………」

リヴァイは即答出来なかった。胸のもやが晴れないせいで。

ハンジ「あーなんか、やっぱりやめておこうか。リヴァイ、気乗りしてないみたいだし」

リヴァイ「いや、そういう話じゃねえんだ」

ハンジ「エルヴィン店長になんて返せばいい?」

リヴァイ「うちに来たいなら来てもいい。今回の件はこっちも妥協する」

402: 2014/12/01(月) 20:05:00 ID:1MIpCixU0
ハンジ「分かった。じゃあ今夜、いいって事にするね」

そしてハンジはエルヴィンに返事をした。

その後はそのまま自宅に帰る道のりを車で走る事にした。

走りながらハンジはリヴァイに言った。申し訳なさそうに。

ハンジ「御免なさい。私の方が思慮に欠けていた」

リヴァイ「…………」

ハンジ「リヴァイの気持ちを考えずに行動をしてしまったと思う」

リヴァイ「いい。俺も別にそこまで怒っている訳じゃない」

ハンジ「嘘だ。さっきからこっちを見ようともしないのに」

リヴァイ「運転中の姿をジロジロ見る方が失礼だろ」

ハンジ「でもたまに見ているよね」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「そのくらいの気配は分かるよ。今は見ようともしていないのも」

リヴァイ「……………」

ハンジ「私はどうすればいい? どうすれば許してくれる?」

403: 2014/12/01(月) 20:05:25 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「大げさにしなくていい。ちょっと拗ねているだけだ」

ハンジがエルヴィンとミケとの仲がいいのは知っているが。

プライベートでも遊ぶ程の仲だという事までは知らなかった。

だから単に嫉妬しているだけなのだ。子供じみた独占欲に駆られている。

ハンジ「拗ねている? もっと酷い感じもするけれど」

リヴァイ「………………もうあんまり突くな。時間が経てば収まる」

そしてハンジは無言になったけれど、その後、すぐには家に帰らなかった。

リヴァイ「ん? おい、どこへ行く?」

ハンジ「……………」

ハンジは無視した。リヴァイの言葉を。違う道を行く。

リヴァイ「何処へ連れて行こうって言うんだ?」

ハンジは無視した。そこで流石にイライラしてきたリヴァイは言った。

リヴァイ「おい、あんまり帰りが遅くなると夕飯の支度が……」

ハンジ「黙って」

ハンジの声にリヴァイは思わず口を閉ざした。

404: 2014/12/01(月) 20:05:53 ID:1MIpCixU0
リヴァイ(なんだ? 一体)

ゾクッとした。地の底を這うような低い声だった。

リヴァイ(どうしたんだ? 急に雰囲気が変わった)

ハンジの顔色が悪いようにも見えた。何を考えているか読めない。

リヴァイ(まあいい。車を運転しているのはハンジだ)

こちらは助手席に乗せられている身分だ。連れていかれるなら抵抗は出来ない。

知らない道をどんどん突き進んでいた。街並みを抜けて山道に入り、他県にでも向かうつもりだろうか。

そして街並みを見下ろせる展望台のような場所まで移動してそこでようやく車を止めたハンジだった。

ハンジ「………ここでいいか」

リヴァイ「こんな場所、初めて来た」

ハンジ「ここなら多分、人に見られる危険は少ない」

リヴァイ「え?」

ハンジ「リヴァイ、正直に答えて欲しい」

そこでハンジはようやくリヴァイの方を見て言った。

ハンジ「私が他の男性と仲良くするのは嫌なの?」

405: 2014/12/01(月) 20:06:39 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「!」

まさかそんな質問が飛び出てくるなんて思わなかった。

リヴァイ「い、嫌なんて言ってねえだろ」

ハンジ「でも、だったら何で……」

リヴァイ「機嫌が悪いかって? そりゃハンジが人のプライベートな事を俺の許可なく他人に話したからで」

嘘だった。その件についてはそこまで怒ってはいない。

呆れはしたが、まあ許せない範囲ではない。

それよりもリヴァイの心をざわつかせているのは別にある。

ハンジ「でもそれは、友人だったら話していいって言ったのに」

リヴァイ「ああ。その件を知らなかったのも原因だけどな。俺はハンジが店長達とそこまで仲がいいとは思っていなかった」

ハンジ「職場を人に紹介出来る程度には仲がいいんだけど」

リヴァイ「ああ、すまん。よく考えればそうだな。俺の頭がそこまで回らなかった」

滝汗が出て来た。背中が冷や汗で寒くなってくる。

まずい。空気が。何か、無理やり暴かれそうな。そんな気配だ。

406: 2014/12/01(月) 20:07:06 ID:1MIpCixU0
リヴァイ(ば、バレたくねえ……)

薄々何かを感じ取ったのだろうか。ハンジはじっとこっちを見ている。

ハンジ「でもリヴァイは怒っているよね」

リヴァイ「怒ってねえって言ってるのに」

ハンジ「誤魔化さないで欲しい。私はどうしたらリヴァイに許して貰える?」

リヴァイ「どうしたらって………」

ハンジ「友人関係を切れって事?」

リヴァイ「そんな事は言ってねえだろ」

ハンジ「じゃあ、どうしたらいいのかな」

リヴァイ「…………」

人気のない夕方。夕陽の見える街並みを見下ろしたその場所で。

リヴァイはため息をついた。こんな場所に連れて来られたら、そりゃあ。

リヴァイ(もう据え膳にしか見えねえんだが)

誘惑を仕掛けているのかいないのか。はっきりさせたいけれど。

リヴァイ(許しを請うその顔に欲情するなって方が無理だろ)

407: 2014/12/01(月) 20:07:39 ID:1MIpCixU0
正直言えば手を出したい。今すぐここで。

でも避妊具なんて持ってない。生理が終わりかけの女を目の前にそんな真似は出来ない。

リヴァイ(なんか違う意味で腹が立ってきた)

今のこの状況とか。ハンジの可愛らしさとか。

リヴァイ(そんなに許して欲しいなら………)

機嫌を取りたいというのなら、こっちにも考えがある。

リヴァイ「分かった。だったら俺が気の済むまで動くな」

ハンジ「ん?」

リヴァイ「ハンジの手を触らせろ」

ハンジ「え………」

ハンジの顔が赤く染まった。夕陽の色と重なるように。

ハンジ「え? え? 手を触るだけ?」

リヴァイ「それで今度の事は全部水に流す。いいよな?」

ハンジ「まあ、そんなんでいいのなら」

ハンジは拍子抜けしたような顔でいる。

408: 2014/12/01(月) 20:08:07 ID:1MIpCixU0
リヴァイはすぐさまハンジの左手を確保した。

直接触れ合うのは初めての経験だ。ぶつかった事はあるけれど。

手の温もりを直に感じてリヴァイはその感触に酔いしれた。

リヴァイ(温かい……)

手袋越しよりもいい。もっと繋がる感じがする。

ハンジの左手は自身の太ももの上にのっていた。

その上から被せるように手を封じ込めて触る。

重なった手の感触にお互いに胸が熱くなる思いを感じている。

ハンジ(もっと触って欲しいのに)

リヴァイ(もっと触りてえけど)

ハンジ(でも、手だけでも幸せかもしれない)

リヴァイ(でも、手だけしか触れない)

ハンジ(手の大きさは余り変わらないのに)

リヴァイ(手の大きさは余り変わらないようだが)

ハンジ(リヴァイの手は、苦労がにじみ出ているな)

409: 2014/12/01(月) 20:09:05 ID:1MIpCixU0
リヴァイ(ハンジの手は、俺よりも綺麗だ)

ハンジ(ヤキモチ妬いてくれたのかなって思ったけれど)

リヴァイ(ヤキモチ妬いているのがバレたかと思ったけれど)

ハンジ(私の勘違いだったのかな……)

リヴァイ(俺の早合点だったか?)

ハンジ(微妙だな。はっきりしない。でも、リヴァイの前であんまり他の男の話はしない方がいいようだ)

リヴァイ(大丈夫だよな? バレてないと思いたい。ハンジの前でオタオタしたくねえのに)

ハンジ(あーもう、この時間がずっと続けばいいのに)

リヴァイ(全く、いつまでもこうしていたいけれど)

ハンジ(夕陽が沈む前には家に帰らないといけない)

リヴァイ(夕飯の支度が待っているからな)

ハンジ(でも、あともうちょっとだけ……)

リヴァイ(でも、あと少しだけ………)

そこで2人は互いの視線が絡み合い、お互いに頬を染めた。

410: 2014/12/01(月) 20:09:41 ID:1MIpCixU0
ハンジ「ん?」

リヴァイ「え?」

ハンジ「あ、いや、何でもないよ。うん」

リヴァイ「そ、そうか」

そして2人は一緒に視線を逸らした。手は触れあったままで。

リヴァイ「そろそろ帰るか」

ハンジ「もういいの?」

リヴァイ「ああ。十分だ」

ハンジ「これの何がリヴァイの怒りを鎮めたの?」

リヴァイ「ん? さあな」

リヴァイはようやく手を解放した。そしてハンジはギアを入れなおす。

マニュアル車なので左手の動きも同時に必要になる。

その手の上にリヴァイは手を乗せた。

ハンジ「え? 何? もう1回?」

リヴァイ「ああ。なんとなく」

411: 2014/12/01(月) 20:10:25 ID:1MIpCixU0
ハンジ「意味分かんないんだけど」

リヴァイ「太ももでもいいが」

ハンジ「運転する時は駄目ですよ! (ガビーン)」

リヴァイは目を大きくした。

リヴァイ「運転中じゃないなら、いいのか?」

ハンジ(しまった!)

思わず本音が漏れた。ハンジは慌てて言い直す。

ハンジ「運転中は特に駄目だよ! 勿論、普段も駄目だけど!」

そう言いながら車を動かした。リヴァイは「ふーん」という顔になる。

リヴァイ「次、なんか怒らせたら太もも触らせて貰うぞ」

ハンジ「え?」

リヴァイ「予約しておく。なんかやらかしたら次はそうする」

ハンジ「……………」

412: 2014/12/01(月) 20:10:56 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「冗談だ。真に受けるな」

ハンジ「ですよね!」

そう言い合って、2人はようやく家に帰る事にしたのだった。

その日の夜、リヴァイとハンジの新居にエルヴィンが訪れた。

エルヴィン「やあ。お邪魔します」

リヴァイは私服姿のエルヴィンを見るのは初めてだった。

背丈があるから何を着せても似合う。ただのダウンジャケットも十分格好いい。

エルヴィン「こんばんは。お土産もあるよ」

イザベル「お土産? 何くれるんだ?」

エルヴィン「んーなんだろうね? 開けていいよ」

413: 2014/12/01(月) 20:11:24 ID:1MIpCixU0
イザベル「美味そうな匂いがする。おお! マカロンだ!」

ファーラン「いいんですか? こんなにいっぱい」

エルヴィン「後で皆で食べてくれ」

イザベル「ありがとう!」

子供達は自分達の部屋に戻り、リヴァイはエルヴィンに茶を出した。

リヴァイ「本当に自分達で作れるのか?」

エルヴィン「物によるけれど。どんな感じのテーブルセットが欲しいのかな」

リヴァイ「とりあえず、4人で食卓を囲めて、台所で使えたらそれでいい」

エルヴィン「んーじゃあまず、台所の面積を測らせて貰うね」

しゃっと取り出したのは巻尺だった。慣れた手つきで採寸する。

エルヴィン「サイズ的にはテーブルの大きさは横120の幅80くらいまで良さそうだね。高さはどうする?」

リヴァイ「ファーランが成長期だからハンジが座った時に合わせるくらいでいいと思う」

エルヴィン「了解。だったら高さ80くらいで考えていいかな」

エルヴィンは大体の大きさを決めてしまうとデザインに取り掛かった。

エルヴィン「組み立て式がいいよね。そうすれば外で使いたい時も使えるし」

414: 2014/12/01(月) 20:14:08 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「まあ、出来るのであれば」

エルヴィン「足の部分は中央で組み立てる形にしようかな。椅子の方は背もたれを省略してもいい?」

リヴァイ「そこまで贅沢はいえん」

エルヴィン「了解。3か月くらい制作時間を貰う事になると思うけど、それでもいい?」

リヴァイ「そんな短期間で作れる物なのか?」

エルヴィン「私も仕事をしながらだから。休みを一気に使えば10日もあれば出来るんだけど」

リヴァイ「そういう話をしている訳じゃねえ」

エルヴィン「大丈夫。私は昔そういう仕事もしていた事がある」

リヴァイ「そうだったのか」

エルヴィン「うん。本屋の仕事の前にはいろいろ転々としていたから」

リヴァイ「…………」

意外な過去にリヴァイは素直に驚いた。

リヴァイ「最初から本屋に勤めていた訳じゃねえのか」

エルヴィン「本屋に身を置いてからまだ6年程度かな。それ以前は建築関係だったり、工業系だったり、30歳くらいまでは私もフラフラしていた時期があるんだよ」

エルヴィンがそう言って苦笑する。そして過去を振り返りながら言った。

415: 2014/12/01(月) 20:14:35 ID:1MIpCixU0
エルヴィン「でもどこの職場も周りが普通だったせいもあって、反りが合わなくてね。本屋に身を置いてから自分を隠さないで良くなったから非情に助かっている」

リヴァイ「……………」

リヴァイは何も言えなかった。自分も似たような状態だからだ。

エルヴィン「同居の件を初めハンジから聞いた時は本当に驚いたよ。思い切ったね。リヴァイ」

リヴァイ「丁度その頃、掛け持ちの仕事を一個辞めた直後だったからな」

今思うと勢いで決めてしまったようにも思う。

エルヴィン「でも良かったね。ハンジも女一人で暮らすより男がいた方が安全だ。物騒な世の中だし」

ハンジ「まあそうだね。防犯対策の意味では心強いと思っています」

リヴァイ「…………」

リヴァイは何も答えなかった。

エルヴィン「ミケから聞いたよ。万引き2件目の時に確保したって。リヴァイはそういう才能も持っているようだね」

リヴァイ「一応、格闘術は嗜んではいる」

ハンジ「そうだったんだ」

リヴァイ「暇があれば筋トレもしている。最近は以前よりは体を動かしてはいねえけど」

エルヴィン「成程。他に何か好きな事とかある?」

416: 2014/12/01(月) 20:18:29 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「好きな事?」

エルヴィン「うん。何でもいいよ。例えば動物が好きとか」

ハンジ「私は何でも好きだよ」

リヴァイ「俺も特に嫌いな動物はいねえが」

エルヴィン「猫とか犬とか大丈夫なんだ」

リヴァイ「余裕があれば飼ってやってもいいけどな」

ハンジ「マジか。じゃあ猫飼いたいな」

リヴァイ「今は無理だろ」

ハンジ「まあそうだけど」

エルヴィン「じゃあ椅子の形は猫のデザインを盛り込んでみようかな」

リヴァイ「え……今のはそういう意味で聞いたのか?」

エルヴィン「折角オーダーメイドにするんだ。遊び心も入れないと」

リヴァイ「シンプルなデザインで十分だ。そこまでメルヘンチックにしなくてもいい」

エルヴィン「そう?」

しかし其の時ハンジが思い出したように言った。

417: 2014/12/01(月) 20:21:01 ID:1MIpCixU0
ハンジ「リヴァイは丸い物にも弱いかも。ルンバで萌えていたし」

リヴァイ「! 馬鹿! エルヴィンに話すな!」

リヴァイが赤くなった。エルヴィンは「ルンバ?」と聞き返す。

エルヴィン「ルンバって、あのルンバ? お掃除ロボットの」

ハンジ「そうだよ。すっごく欲しそうにしていたのに、買うなって念押しされてしまって」

リヴァイ「絶対、買うなよ」

エルヴィン「そんな、『絶対押すなよ』じゃないんだから、あんまり言うとかえって買ってきたくなっちゃうよね」

ハンジ「本当だよ。素直じゃないんだから」

リヴァイ「…………じゃあ買ってもいい」

ハンジ「え?」

リヴァイ「いや、嘘だ。クソ……! 思い出させるな! ルンバの事を!」

頭を掻き毟るリヴァイの様子にエルヴィンはぶふっと笑った。

エルヴィン「まるで恋しちゃっているようだね」

ハンジ「本当だよ。完全に一目惚れだよね」

リヴァイ「ああ。一目惚れだった。それは否定しねえよ」

418: 2014/12/01(月) 20:21:34 ID:1MIpCixU0
エルヴィン「分かった。椅子とテーブルは丸い形に作ろう。その方がいいな」

リヴァイ「そんな事は頼んでねえ! 普通のでいい。普通ので」

リヴァイはそう言って抵抗するけれどエルヴィンは決めたようだ。

エルヴィン「ルンバの絵をテーブルに描いちゃおうかな」

リヴァイ「嫌がらせか!」

エルヴィン「いいじゃないか。ルンバ萌えなんだろ?」

リヴァイ(ギリギリ)

リヴァイが歯を食いしばっている様子が本当に可笑しかった。

ハンジ「もー本当に可笑しい!」

リヴァイ「笑うんじゃねえよ」

エルヴィン「無理だな。笑うなという方が」

リヴァイ「もう用件が済んだなら帰れ」

エルヴィン「つれないな。マカロン買って来たのに。もう少し居させて欲しい」

リヴァイ「くっ……」

エルヴィン「まあそれは冗談だけど、そう言えばテレビの件はどうしよう?」

419: 2014/12/01(月) 20:22:02 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「テレビ?」

話題が少し逸れてリヴァイは思い出した。

リヴァイ「ああ、そう言えばくれるとか何とか言っていたな。くれ」

エルヴィン「ん? あげちゃってもいいのかな?」

リヴァイ「こっちは設置の仕方は分からない。設置もついでにやってくれ」

エルヴィン「いいよ。でもいいのかな? 前は電気代で悩んでいたのに」

リヴァイ「仕事をする上で必要になる場面があると分かった以上、見ない訳にもいかない」

エルヴィン「まあそうだけど」

リヴァイ「CMくらいはたまには見ないとまずいんだろ?」

エルヴィン「でも生活に負担になるようだったら無理にとは言わないよ」

リヴァイ「大丈夫だろ。もしもの時はエルヴィンに金を借りる」

エルヴィン「え? 私を当てにする気かい?」

リヴァイ「冗談だ。流石にそこまでするつもりはない」

エルヴィン「貸してもいいけど、其の時は身体で返却して貰おうかな。ふふふ」

リヴァイ「分かった。エルヴィン店長を殴ればいいんだな。幾らでもぶってやるぞ」

420: 2014/12/01(月) 20:22:27 ID:1MIpCixU0
エルヴィン「おっと。腐ったトークに慣れてきたね。いい切り返しだ」

リヴァイ「まともに相手をする方が馬鹿だろ」

エルヴィン「まあそうだけど。ハンジ、さっきから笑い過ぎだよ」

リヴァイ「全くだ。まだ笑って居やがるのか」

ハンジ「だって……」

ハンジは涙を拭きながら言った。

ハンジ「リヴァイとエルヴィンの会話ってなんか可笑しい」

リヴァイ「だろうな。エルヴィンは俺を弄って楽しんで居やがる」

エルヴィン「大体合ってる」

リヴァイ「そもそも俺に構ってくるお前らの方がおかしい。以前働いていた職場では俺は煙たがられるような存在だったのに」

過去を思い出してついそう言ってしまうと、エルヴィンは言った。

エルヴィン「水が合わなかっただけだよ。気にする事じゃない」

ハンジ「まあ、そういう事もあるよね」

と、2人はお互いに言い合う。そしてエルヴィンは続けて言った。

エルヴィン「今度、リヴァイとカルラさんの歓迎の会でもやろうかと思うんだけど、どう?」

421: 2014/12/01(月) 20:23:17 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「は?」

ハンジ「あ、いいね。私とナナバの時も後でやったよね。また同じ店でやる?」

エルヴィン「いや、そこは別の店を予約しよう。店を開拓していくのが楽しいから」

ハンジ「了解。幹事はエルヴィンにまた任せていいの?」

エルヴィン「いいよ。いつ頃にしようか」

リヴァイ「おいおい待て待て。勝手に2人で話を進めるな」

思わず引き止めたリヴァイだった。

リヴァイ「そういうのはやめてくれ。苦手なんだよ」

エルヴィン「そうなんだ」

リヴァイ「どうせいろいろ挨拶とかさせる気だろ? そう言うのはちょっとな」

エルヴィン「いや別に。ただ飲んで騒ぎたいだけだけど」

リヴァイ「絶対嘘だ。何か言わせる気だ」

エルヴィン「そんなに嫌なら挨拶はさせないよ。皆で飲みたいだけなのに」

リヴァイ「未成年組もいるのに」

エルヴィン「そこはちゃんと飲ませないようにするから」

422: 2014/12/01(月) 20:23:45 ID:1MIpCixU0
ハンジ「大丈夫。飲まないよ」

リヴァイ「金かかるのに」

エルヴィン「馬鹿だな。こういう時はリヴァイとカルラさんはお金を出さないのが通例だよ」

リヴァイ「タダで食わせてくれるっていうのか?」

エルヴィン「そういうもんじゃないのか? うちは毎回そうしているけど」

リヴァイ「………まあ、タダ飯なら行ってやってもいいけれど」

渋々承諾するとエルヴィンはスマホを取り出して早速スケジュールを確認した。

エルヴィン「24日あたりはどう? この日リヴァイは2連休だし、翌日休みだから飲めるだろ?」

リヴァイ「俺は朝から仕事がある。あんまり酒臭くなるような飲み方は出来ないぞ」

エルヴィン「それでも次の日に休みの方がいいだろ?」

リヴァイ「そりゃそうだが」

エルヴィン「じゃあこの日の夜に予定を合わせよう。カルラさんは昼出だけど、夜だから大丈夫かな」

さくさく計画が出来ていく様子を見てリヴァイはまた頭を掻いた。

飲み会なんていつぶりだ。もう思い出せない。

ハンジ「やった! 楽しみだね!」

423: 2014/12/01(月) 20:24:13 ID:1MIpCixU0
エルヴィン「ああ。店は予約しておくから。じゃあ私はこの辺でお暇しようかな」

ハンジ「もう帰っちゃうの?」

エルヴィン「明日も朝からだしね。うん。またゆっくり出来る日に遊びに来るよ」

ハンジ「待ってるよ!」

そしてエルヴィンは帰って行った。

リヴァイ「はあ……」

嬉しいようなこそばゆいような。リヴァイが変な感覚でいるとハンジは言った。

ハンジ「その日は久々にちょっと可愛い格好でもしてみようかな♪」

リヴァイ「!?」

リヴァイがぎょっとして叫んだ。

リヴァイ「普通の恰好で行け!」

ハンジ「え? 何で」

リヴァイ「飲み会だからだ。その必要はねえだろ」

ハンジ「え? 飲み会だからちょっと可愛くした方がいいんじゃないの?」

リヴァイ「誰か見せたい奴でもいるのかよ」

424: 2014/12/01(月) 20:24:41 ID:1MIpCixU0
ハンジ「んーいると言えばいるけど………」

リヴァイ「いるのかよ」

ハンジ「え? いちゃ駄目なの?」

リヴァイ「んな事は言ってねえだろ」

ハンジ「何で不機嫌なの?」

リヴァイ「別に」

ハンジは首を傾げた。見せたい相手はリヴァイなのに。

ハンジ(スカート姿を見たいって前に言わなかったっけ?)

以前、言われたような気がするのに。記憶違いだったか?

ハンジ(いやーそんな筈はないよね。スカート姿を見たいって前に聞いた)

確かポニーテールに変更して見せた時に聞いた筈だ。

ハンジ(そういう機会でもないとオシャレする理由がないんだけど)

普段からやってしまうと「何やっているんだ?」と不思議がられそうで怖い。

しかしリヴァイの方はまたもやもやしていた。ハンジの事が気になって。

リヴァイ(普通にしておけばいいのに)

425: 2014/12/01(月) 20:25:17 ID:1MIpCixU0
変に色気づいてエルヴィンとかミケがその気になったらどうする。

と、いう妙な心配をしてイライラしているのだがハンジは気づいていない。

ハンジ「分かった。そんなに嫌なら普通のスーツの恰好にでもする」

リヴァイ「スーツ?」

ハンジ「うん。一応、フォーマルなスーツは持っているよ。それでいいよね」

リヴァイ「スカートか?」

ハンジ「まあ、一応。膝まで隠れるタイトスカートだよ」

リヴァイ「…………ならいい」

ミニスカートでも着てきたらはり倒すつもりだった。いろんな意味で。

ハンジ「あ、でもスーツどこに仕舞ったかな。思い出せない」

リヴァイ「おいおい」

ハンジ「ちょっと確認してくる。直前で慌てるとまずいし」

そしてハンジは自分の部屋に戻ってもたもた衣服の捜索をした。

リヴァイもハンジの部屋を覗き込んで、

リヴァイ「おい、クローゼットの中にねえのか?」

426: 2014/12/01(月) 20:25:42 ID:1MIpCixU0
ハンジ「おっかしいなあ。持っている筈なんだけど」

リヴァイ「俺も探す」

ハンジ「ごめん……」

2人でわたわた探していると、やっとそのスーツが見つかった。

ハンジ「あ、あった! これだこれ」

リヴァイ「黒いスーツだな」

ハンジ「これ一着あれば葬式の時に困らないからね」

リヴァイ「誰か身近な方が亡くなったのか」

ハンジ「まあね。その機会があった時に購入した物だよ」

リヴァイ「そうか」

ハンジ「サイズが大丈夫かどうか確認しておこうかな。着替える」

リヴァイ「分かった」

そしてハンジは黒いスーツに着替えた。

ハンジ「どう? 見た目変じゃない?」

リヴァイ「………………」

427: 2014/12/01(月) 20:26:07 ID:1MIpCixU0
ハンジのおみ足を直視してリヴァイは気が変わった。

リヴァイ「やっぱりスカートはやめてくれ」

ハンジ「え? スーツも駄目?」

リヴァイ「普段の地味な格好で十分だろ。身内の飲み会みたいなもんなら」

ハンジ「いやーでも……」

ハンジがごにょごにょしていると、リヴァイは苛立って言った。

リヴァイ「夜は寒いだろ。まだまだ。足冷やしたらどうするんだ」

ハンジ「あー風邪ひくかもってこと?」

リヴァイ「そうだ。飲み会なら夜遅くなるだろ。ズボンの方が足は冷やさない」

ハンジ「そらそうだけど」

リヴァイ「うちには小さい子供もいるっていう自覚は持ってくれ。体調管理は特に気を付けて欲しい」

ハンジ「………分かった」

そう言われたらもう夜、外でスカートは履けない。

ハンジ「じゃあ、家の中ならいいのかな?」

リヴァイ「ん?」

428: 2014/12/01(月) 20:26:36 ID:1MIpCixU0
ハンジ「家の中は外よりは寒くないからたまにはスカートはいてもいいの?」

リヴァイ「まあ、それは構わない」

むしろ見たい。そう言いそうになって口を閉じた。

そう言えば以前、たまにはスカート姿を見たいとほざいた事もある。

リヴァイ(まさか覚えていたのか?)

もしそうだとしたら素直に嬉しい。

ハンジ「じゃあ、私服の方のスカートをたまにはいてみるか」

ハンジはまた衣装を着替えた。今度はチェックのフリルのミニスカートだ。

リヴァイ「! おま、そういう衣装、持っていたのか?!」

リヴァイが焦ったように言い返すと、ハンジは微妙な顔になった。

ハンジ「このスカートは昔購入した物で、背が伸びたせいでミニスカートになってしまった代物です。実家にまだあったから持って来てみたけど」

ハンジは微妙な顔のまま言った。

ハンジ「やっぱりこの丈だとスースーし過ぎて寒いか。冬は室内でも無理だな」

リヴァイ「……………」

ガン見していた。自然と。おみ足の生足を。

429: 2014/12/01(月) 20:27:07 ID:1MIpCixU0
ハンジ「やっぱり慣れたズボンがいいか。また着替えてくる」

一瞬だけのサービスカットにすっかり気分はorzだった。

リヴァイ(クソ………!)

男の本能をくすぐられて困った。

リヴァイ(あいつ、足だけは自慢出来ると言っただけはある!)

本当に綺麗な足だった。ずっと眺めていられる程にすらりとしたおみ足だ。

そして元の姿に戻ったハンジは思い出したように言った。

ハンジ「あ、そう言えばお風呂を忘れていたよ。そろそろ入ろうかな」

リヴァイ「あ、ああ……」

ハンジ「じゃあね。お先します」

ハンジが風呂に入ってしまった。リヴァイはもう、自分の部屋に籠ってしまいたかった。

リヴァイ(今夜も我慢だ。我慢……我慢……)

弄ばれているような気もしてきたが、この感じは嫌ではなかった。

リヴァイ(ん?)

そして其の時、リヴァイは気づいてしまった。

430: 2014/12/01(月) 20:27:33 ID:1MIpCixU0
ハンジが脱いだ衣服を散らかしたまま風呂に入ってしまった事を。

試着したスカートを放りっぱなしにして風呂場に行ってしまった事を。

リヴァイ(………………)

人生の選択肢が現れた。ここは男としてどうするべきか。

1.脱ぎ散らかしたスカートを代わりに片付けてやる。

2.見なかった事にする。

3.むしろスカートの………。

リヴァイ(3番目はいかん! 人としてアウトだ!)

3番を思いそうになった自分を叱咤して急いで1番を選んだ。

とりあえず畳んで元の場所に戻す。いい仕事をし終えた顔で「ふぅ」と息をついた。

またもや理性が揺らいでいる自分に気づいてリヴァイは両目を閉じた。

リヴァイ(今みたいな恰好を見せられたら、歓迎会を抜け出してヤリたくなるだろうが)

ああ怖い。理性が飛ぶ。そんな自分が恐ろしい。

リヴァイ(スーツ姿でも十分色っぽかったのに。危ねえだろうが)

絶対、飲み会は普通の恰好で行かせる。そう勝手に誓うリヴァイだった。

431: 2014/12/01(月) 20:28:02 ID:1MIpCixU0
そしてハンジが風呂に入っている間に皿を洗って片付けて、

ハンジ「あーいいお湯だったよ。リヴァイの言う通り半身浴の方が疲れないね!」

と言いながらハンジが戻って来た。

湯上りのハンジに目を奪われてついつい、ガン見してしまう。

リヴァイ(……………まずい)

今日はいつもにも増してムラムラする。

あんまり見たら駄目だ。リヴァイは視線を逸らして逃げた。

リヴァイ「湯冷めしないように気を付けろよ」

ハンジ「はいはい」

リヴァイ「イザベル達に風呂に入る様に言ってくる」

リヴァイは最後に入るつもりだ。その間はハンジと2人きりになる。

リヴァイ(………………)

ハンジが自分の部屋でドライヤーを使って髪を乾かしていた。

その髪に触れたくなって、ついドライヤーを奪った。

ハンジ「え? 何?」

432: 2014/12/01(月) 20:28:32 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「乾かし方が雑過ぎる。貸せ」

ハンジ「え? やってくれるの?」

リヴァイ「俺がやった方がまだマシだと思う」

リヴァイは櫛を使いながらハンジの髪を少し巻きながら乾かしてみた。

すると意外とふわっと癖がついて内巻きの髪型が出来上がってしまった。

ハンジ「あれ?! 巻き髪が出来ちゃった!」

リヴァイ「言っただろ。ハンジの髪は癖がある。コテがなくても十分それっぽい髪には出来る」

ハンジ「本当だね。あの時買わなくて良かったなあ」

リヴァイ「まあ、すぐ落ちるんだろうけど」

ハンジ「でも今だけ可愛くない?」

リヴァイ「ああ、まあ………」

可愛いな。

と、言いかけて慌てて口を閉じた。

リヴァイ「焼け石に水かもしれんが」

ハンジ「酷い! そこは『可愛いかもな』くらいで済ませてよ!」

433: 2014/12/01(月) 20:29:19 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「可愛いかもな(超棒読み)」

ハンジ「また棒読みですか! もー酷い」

リヴァイ「そうか? 事実を言ったまでだ」

ハンジ「それって私の事を遠回しに可愛くないって言っている?」

リヴァイ「そんな事は一言も言っていない」

ハンジ「じゃあどっち? 可愛いの? 可愛くないの?」

リヴァイ「さあな。どっちでもいいんじゃねえの?」

ハンジ「なんで曖昧にするのかなあ」

リヴァイ「俺の中の可愛いが世間の可愛いと合致する訳でもない」

ハンジ「リヴァイの基準の中の可愛いは世間と違うの?」

リヴァイ「恐らくそうだと思うぞ。趣味が悪いとも言う。だから俺に可愛いと言われるのは余りいい事じゃねえぞ」

ハンジ「そうかなあ? それは謙遜し過ぎじゃない?」

リヴァイ「ルンバに萌えている時点でアウトじゃねえのか?」

ハンジ「いや、ルンバは可愛いし。それは私も認める」

リヴァイ「だったら俺なんかに可愛いと言われてハンジは嬉しいのか?」

434: 2014/12/01(月) 20:29:43 ID:1MIpCixU0
大事な質問をぶつけてみた。それを確認してからでないと伝えられない。

そう思ってリヴァイは用心深くハンジにその言葉を伝えた。

するとハンジはすぐに答えた。

ハンジ「そ、そりゃあリヴァイであれ、誰であれ、可愛いと言われたら女は素直に嬉しいもんですよ」

というまた曖昧な答えにリヴァイはムッとした。

リヴァイ「誰であれ? 別の奴にも言われたいのか」

ハンジ「そ、そう言う意味じゃなくて」

リヴァイ「俺に言われたい訳じゃねえのか」

がっかりした声音で言うとハンジは「言われたいけど」と言ってきた。

リヴァイ「でも、他の奴にも言われたいんだろ?」

ハンジ「な、なんでそこに拘る?」

リヴァイ「八方美人の女に可愛いなんて言ってやる義理はねえな」

ハンジ「……………」

そう言ってやると、ハンジは押し黙ってしまった。

リヴァイ(しまった。ついつい)

435: 2014/12/01(月) 20:30:10 ID:1MIpCixU0
何でこう捻くれた会話になってしまうのか。またやってしまった。

しかし其の時、ハンジは強く思った。

ハンジ(だったら、他の人の「可愛い」は要らない)

リヴァイにだけ言って貰えればそれでいい。

そう伝えれば、もしかしたら言ってくれる?

そう思ってハンジは勇気を振り絞ろうとした。だけど。

ハンジ「…………」

言葉が巧く出てこなかった。

いつものように、煩いくらいに回る口が壊れたように声に出せない。

そんなハンジの様子にリヴァイも少し落ち込んだ。

そこでもしも期待した言葉が出てくれたら「可愛い」って何度でも言うのに。

リヴァイ「…………」

其の時、イザベルとファーランが風呂からあがってきた。

イザベル「兄貴ー風呂あがったぞ!」

リヴァイ「ああ、今入る」

436: 2014/12/01(月) 20:31:13 ID:1MIpCixU0
ハンジから離れた。そして自分の分の風呂の準備をする。

風呂の中に入って一度落ち着こうと息を出したけれど。

リヴァイ(………駄目だったか)

心臓がドクドク言っていた。凄い緊張感だった。

リヴァイ(もし、「他の奴らはどうでもいい」とか、ハンジが言ってくれたら)

其の時に言葉を渡したいと思ったのに。本当の言葉を。

リヴァイ(期待し過ぎだ。俺はハンジに、期待し過ぎている)

がっかりし過ぎて凹んだ。可愛いって言いたかったのに。

素直に言えない自分が憎い。そう思うリヴァイだった。

ハンジは少々落ち込んだ。

リヴァイが風呂に入っている間、自室で転がって反省した。

437: 2014/12/01(月) 20:31:42 ID:1MIpCixU0
ハンジ(なんで咄嗟に言えなかったんだろ)

ハンジは今のやり取りを自己分析していた。そしてふと気づいた。

ハンジ(そっか……八方美人だって言われた事に微妙に傷ついたのか)

そもそも、最初に言った言葉は厳密に言えば嘘ではない。

リヴァイであれ、他の男性であれ、可愛いと言われれば調子に乗るのが女の本能だ。

そこを見透かされたような気分になって、ハンジは気まずい思いもしてしまったのだ。

ハンジ(うん。そうだ。他の男性にも言われたい気持ちは、全くない訳じゃない)

だから言えなかったのか。そう考えてそんな浅ましい自分に自己嫌悪した。

リヴァイの事は好きだけど。自分の好きはそれ以外の全てを捨てられる好きではないと其の時に気づいた。

ハンジ(例えお世辞でも可愛いと言われたら調子に乗るのが女心だよね)

それは決して外見の面だけではなく、性格や中身も含めての話だ。

ハンジ(多分、リヴァイは待っていたよね。私の方から「あなただけに言われたい」という言葉を)

そうきっぱり言えたのなら2人の仲も進展出来たかもしれない。

ハンジ(はあ……凹むなあ。こんなんじゃリヴァイに嫌われたとしても当然だよ)

ハンジは反省しながら購入した加湿器を設置しようと起き上った。

438: 2014/12/01(月) 20:32:09 ID:1MIpCixU0
しかしそこでふと気づいた。

ハンジ(あ、しまった。これ、何処に置こう)

自分の部屋は荷物が多い。コンセントは足りるけれど肝心の物が置けない。

ハンジ「どーしよ」

設置するとすれば別の部屋に置いた方がいいかもしれない。

其の時、リヴァイが風呂から戻って来た。

リヴァイ「ドライヤー貸してくれ」

ハンジ「あ、はい」

先程の事があったせいでまだ気まずい空気だったが、ハンジは恐る恐る言った。

ハンジ「あの、リヴァイ。お願いがあるんだけど」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「リヴァイの部屋のコンセント、空いているよね。夜はそっちに加湿器つけて貰えない?」

リヴァイ「待て。元々ハンジの為に買った物だろうが」

ハンジ「襖を少し開けて寝れば大丈夫だよ」

リヴァイ「!」

439: 2014/12/01(月) 20:32:36 ID:1MIpCixU0
そんな事を言われてリヴァイは動揺した。

リヴァイ「ば……馬鹿か。襖は閉めて寝るもんだろうが」

ハンジ「駄目?」

リヴァイ「コンセントは空いているだろ」

ハンジ「肝心の物を置くスペースが足りないっぽい」

リヴァイ「…………」

そう言えばまだハンジの部屋の物をリヴァイの部屋に移動させていなかった。

リヴァイ「だったら俺の部屋に私物を移動させてそこに加湿器を置けばいい」

ハンジ「……あ、それもそうか」

リヴァイ「スペースを作ればいいだろ。とりあえず」

そしてリヴァイはハンジの手伝いをして加湿器を置いた。

これで問題は解決した。リヴァイは自分で髪を乾かしてハンジにドライヤーを返す。

リヴァイ「じゃあ、おやすみ」

ハンジ「おやすみなさい」

そして今日はそれ以上会話もせずにお互いに部屋に籠って考えた。

440: 2014/12/01(月) 20:33:00 ID:1MIpCixU0
リヴァイ(襖、開けて寝ても抵抗ねえのか)

ハンジ(襖、開けて寝るのに抵抗があるのか)

リヴァイ(開けて貰えるならこっちは嬉しいが)

ハンジ(開けて貰えないのが残念だな)

リヴァイ(いや、でも駄目だ。そこはちゃんと線引きしないと)

ハンジ(はあ、駄目か。もう線引きされているようなもんだし)

リヴァイ(たかが襖。されど襖だ。そこは俺とハンジの境界線だ)

ハンジ(襖一枚だけなのに。分厚い壁のように思える)

襖のせいで、お互いに距離を感じて。

襖のせいで、お互いの心が傍にあるのに気づかない。

そんな夜を2人は過ごしていったのだった。

441: 2014/12/01(月) 20:33:29 ID:1MIpCixU0
少し月日が経って1月20日。リヴァイの休みの日にエルヴィンが自宅を訪れた。

テレビの設置の件があったからだ。その日の昼間にエルヴィンはリヴァイの家を訪れて器用にテレビの設定をしていた。

リヴァイ「器用だな」

エルヴィン「昔、電気屋で働いていた事もあるよ」

リヴァイ「いろいろ放浪歴があるのか」

エルヴィン「まあね。本屋のひとつ前は電気屋だった。本屋の次に好きな職場だったけど」

リヴァイ「何でそこを辞めたんだ?」

エルヴィン「まあ、リヴァイと似たような理由だ。上司とトラブルを起こした」

リヴァイ「俺と同じような奴もいるのか」

エルヴィン「私も上と反りが合わない事が多くてね。下の子達との交流は得意なんだけど」

リヴァイ「…………」

似た者同士だったのか。そう思ってリヴァイは頭を掻いていた。

442: 2014/12/01(月) 20:33:56 ID:1MIpCixU0
エルヴィン「今日は子供達は?」

リヴァイ「まだ学校だ。ハンジも大学に行っている。今の時間は一人だ」

エルヴィン「成程。だったら今だけ私はリヴァイを独占出来るようだね」

リヴァイ「何処か一緒に出掛けるか?」

エルヴィン「おや? 珍しい。リヴァイの方から誘ってくれるとは」

リヴァイ「車で来たんだろ? 足がある時は利用したい」

エルヴィン「まあ、今日は車で来たけれど」

前回は自転車で来た。駐車場の関係で2台は止められないと聞いていたからだ。

エルヴィン「何処か行きたいところでもあるのかな?」

リヴァイ「食料品を購入出来るなら魚屋で少し」

エルヴィン「分かった。魚屋にお付き合いしてあげよう」

今日はエルヴィンも休みだったのでゆっくり出来る。

2人で商店街に寄ると、エルヴィンは別の店の酒屋で自分の分の買い物もついでに済ませた。

リヴァイ「酒買って行くのか」

エルヴィン「家で飲む用に少しだけ」

443: 2014/12/01(月) 20:34:23 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「酒は強そうだな」

エルヴィン「まあ、それなりに。リヴァイは呑める方?」

リヴァイ「まあ、俺もそれなりに」

エルヴィン「ならリヴァイ用にいくつか買って行こう。奢るよ」

リヴァイ「え? 何で」

エルヴィン「たまにはいいじゃないか。私の酒を飲みなさい」

リヴァイ「………なんか気持ち悪いな」

エルヴィン「酷い言いようだな」

リヴァイ「まあ、奢って貰えるなら少しだけ」

エルヴィン「ビールでいい?」

リヴァイ「ああ。何でもいい」

そしてリヴァイ用のビールも何本か購入して、酒のつまみになるような枝豆等も買った。

自宅に戻ってからリヴァイは早速、昼間からではあるがビールを1本だけ頂く事にした。

リヴァイ「いつぶりかな。酒を飲むのは」

もう思い出せない。それだけ節制して今まで生きてきたからだ。

444: 2014/12/01(月) 20:34:51 ID:1MIpCixU0
エルヴィン「苦労してきているようだね」

リヴァイ「自業自得だけどな。今はハンジが居てくれるから生活が安定しているが。以前はもっと極貧生活だった」

エルヴィン「ハンジとの生活は慣れた?」

リヴァイ「まだまだ慣れない。特に夜は」

エルヴィン「生頃し状態という意味かな?」

リヴァイ「エルヴィンは何処まで気づいている?」

エルヴィン「まあ、リヴァイはハンジの事を好いているようだとは思っているけど」

両想いだという事は気づいている。しかしそれをここでいう程、エルヴィンも意地悪ではなかった。

リヴァイの方は酒を飲みながら照れ臭そうに白状した。

リヴァイ「やっぱりバレるか。ミケにも薄々バレているようだしな」

エルヴィン「自分から気持ちを伝えようとは思わないのか?」

リヴァイ「どう言ったらいいのか分からない。そもそもハンジの気持ちの方も良く分かっていない」

エルヴィン(あれ? まだ気づいていないのか)

ちょっと意外だった。

エルヴィンは余計な事は言わない様に細心の注意を払いつつ話を聞く。

445: 2014/12/01(月) 20:35:13 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「なあ、こういう事を尋ねるのは変な話かもしれんが、俺は気持ち悪くないか?」

エルヴィン「突然何の話?」

リヴァイ「自分で自分が気持ち悪い。特に最近。ハンジの事ばかり頭の中で考えて、油断するとすぐ変な事を考えそうになる」

エルヴィン「ああ、いやらしい意味で?」

リヴァイ「そうだ。いやらしい意味でだ」

エルヴィン「健全な20代の男性じゃないか」

リヴァイ「健全か?」

エルヴィン「それが普通だと思うよ」

リヴァイ「しかし………」

エルヴィン「リヴァイが気持ち悪い人間なら私はもっと気持ち悪い人間だと思うけど」

リヴァイ「どういう意味だ?」

エルヴィン「まあ、そのうち分かる。そういう部分は多かれ少なかれ誰でも持っている物だ。気にしなくていい」

リヴァイ「エルヴィンはハンジの事をどう思っている?」

突然、話の中心がエルヴィンに移って彼自身、少し考えた。

エルヴィン「ああ、まあ………可愛い子だとは思っている」

446: 2014/12/01(月) 20:35:44 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「それは女性としてという意味か?」

エルヴィン「まあ、それも含めてだけど。何? 心配しているの?」

リヴァイ「そりゃそうだろ」

エルヴィン「ふふ……今のリヴァイの顔をハンジに見せてあげたいな」

リヴァイ「は?」

エルヴィン「何でもない。大丈夫だ。私はハンジとどうこうなるつもりはないよ」

リヴァイ「本当か? でもハンジとプライベートでも遊ぶほど仲がいいんだろ」

エルヴィン「確かに遊ぶこともあるけれど………」

リヴァイ「だったら」

エルヴィン「リヴァイ、ハンジから見て今一番、身近にいる男性はリヴァイだと思うよ」

リヴァイ「……………」

エルヴィン「私なんかよりはるかに距離が近いのに。遠い人間の事を牽制する必要はない」

リヴァイ「心の距離は違うかもしれねえだろ」

エルヴィン「心の距離もだよ。変な心配しなくても大丈夫だって」

リヴァイ「そうだといいが」

447: 2014/12/01(月) 20:36:05 ID:1MIpCixU0
エルヴィン「そんなに心配ならひとついい事を教えてあげよう」

リヴァイ「いい事?」

エルヴィン「うん。ハンジの好きな男性のタイプ」

リヴァイ「!」

エルヴィン「可愛くて格好いい男性が好きなんだそうだ」

リヴァイ「欲張りな奴だな」

エルヴィン「女性は皆そんなものだよ。これも所謂ひとつのギャップ萌えという奴だ」

リヴァイ「ギャップ萌え?」

エルヴィン「相反する要素を兼ね備えている人に対する萌えだ。不良が優しい事をするとキュンとするアレと同じ仕組みだよ」

リヴァイ「俺にそんなものはない」

エルヴィン「むしろそれしかない感じもするけど」

リヴァイ「は?」

エルヴィン「いや、何でもない。げふんげふん」

エルヴィンはわざとらしく咳をした。

エルヴィン「ハンジとの距離を詰めたいと思うのなら、出来るだけ彼女の話を聞いてあげる事だね」

448: 2014/12/01(月) 20:36:29 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「ああ……成程」

エルヴィン「彼女はおしゃべりが好きだから。付き合うと朝まで語っちゃうのがたまに傷だけど」

リヴァイ「それは喋り過ぎだ」

エルヴィン「暴走すると止まらない性質のようだよ。そこはリヴァイが調整してあげないとね」

リヴァイ「朝まで語れる何かがあるってすげえな」

エルヴィン「情熱家なんだよ。それだけ。尤も話の内容は私も半分も分からない」

それは過去にそういう体験があるという事だよな。

そう思いかけてリヴァイはそんな風に邪推する自分が嫌になった。

リヴァイ(こういう感情が面倒臭いんだよ)

恋愛は本当に面倒臭い。些細な事で一喜一憂する。感情の上下に振り回されるのが嫌だ。

リヴァイ「成程。肝に銘じておく」

エルヴィン「ハンジの事はまあ、なるようになるとして。仕事の方はどうだ?」

リヴァイ「今のところ順調に来ている方だと思う」

エルヴィン「続けていけそう?」

449: 2014/12/01(月) 20:36:53 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「何か大きなトラブルがない限りは続ける」

エルヴィン「それは私の腕にかかっていると言ってもいいのかな?」

リヴァイ「はっきり言ってしまえばその通りだな。エルヴィンと喧嘩したら辞めるかもしれない」

そうわざと言ってやると、エルヴィンは「それは困ったな」と苦笑した。

エルヴィン「リヴァイは整理整頓が巧いし、掃除も上手だ。対応も早いし、接客業に向いているかもしれない」

リヴァイ「俺自身はそんな風に思った事は一度もねえ」

エルヴィン「これに笑顔が備われば完璧だけど、そこまで要求したら萌えがなくなるか」

リヴァイ「何の話をしている?」

エルヴィン「人間は欠点があった方が可愛いって話」

リヴァイ「欠点はない方がいいだろ」

エルヴィン「そんな事はない。欠点があるこそ、人は人に惹かれあう物だよ」

エルヴィンの哲学的な話にリヴァイは少しだけ驚いた。

リヴァイ「そんな事を言いだす奴は初めて会った」

エルヴィン「そう?」

リヴァイ「ああ。職場では上司に欠点を見つけられては叩かれて貶されたもんだ」

450: 2014/12/01(月) 20:37:13 ID:1MIpCixU0
エルヴィン「ああ………それは運がなかったね」

リヴァイ「俺もすぐカッとなると言い返す性質だからな。何度トラブルを起こしたか」

エルヴィン「リヴァイは腹芸が苦手なようだね」

リヴァイ「内側に溜め込むのは苦手だな。良く言えばそのまま。悪く言えば単細胞って事だ」

エルヴィン「単細胞は言い過ぎだよ」

リヴァイ「じゃあ、短絡的と言い換えよう。俺の悪い癖だとは思っているが」

リヴァイはそういう自分を見つめつつも直せない自分を諦めている。

エルヴィン「んーでも意外とリヴァイはお客様とのトラブルはまだ一度も起こしていないよね」

リヴァイ「ん?」

エルヴィン「私はむしろそっちを心配していたんだけど」

リヴァイ「客は本を探しに来ているだけだろ。どういうトラブルが起きるっていうんだ?」

エルヴィン「だから、予約した商品の連絡ミスとか。発注した筈の商品が予定までに届いてないとかそういう凡ミスだよ」

リヴァイ「その辺の事は常に気にしている。前に何度かエルヴィンのミスを俺が見つけた事もあっただろ」

エルヴィン「あの時は助かりました。ありがとう」

リヴァイ「事務的な処理は気になる性質だ。ちゃんとやっとけと思う」

451: 2014/12/01(月) 20:38:13 ID:1MIpCixU0
エルヴィン「成程。リヴァイは神経質な性格なんだね」

リヴァイ「まあ、多々言われてきたな。その言葉は」

エルヴィン「その神経質な性格はリヴァイの武器になると思う」

リヴァイ「は?」

いきなり変な話をされてリヴァイは心底驚いた。

リヴァイ「神経質なのは欠点だろ」

エルヴィン「全然。むしろ長所じゃないかな。特に接客業においては」

リヴァイ「長所か?」

エルヴィン「この世界においてはね。神経を遣う仕事だから。そういう細やかな部分がないと」

リヴァイ「エルヴィンはその辺はずぼらな方だよな」

エルヴィン「まあ、そうだね。でも私の場合はその欠点を他の部分で補っているから」

リヴァイ「………そうか」

エルヴィン「何も誰もかれも全部出来る必要はない。私が出来ない部分はリヴァイがやればいいし、リヴァイが出来ない部分は私がやる。仕事とはそういうもんだよ」

リヴァイ「………」

酒を飲む手を止めてリヴァイは考え込んだ。

452: 2014/12/01(月) 20:38:47 ID:1MIpCixU0
エルヴィン「恐らくリヴァイは上との衝突が多いと言う欠点はあるが、その分下の……お客様に対しては親切丁寧に対応出来る方なんだと思う」

リヴァイ「客様は下なのか?」

エルヴィン「いや、本当は上だけど。下っていう言い方は変か。なんて言えばいいかな?」

リヴァイ「外部の人間?」

エルヴィン「それも違う気がする。うーん。子供達に対しても割と面倒見がいいし、ええっと……」

其の時、エルヴィンは突如閃いた。

エルヴィン「ああ! つまり世話をする相手に対しては巧いって事だ」

リヴァイ「世話?」

エルヴィン「子供とかお客様とか、教師という立場なら生徒とか、看護師だったら患者にあたるか。つまりリヴァイはそういう「誰かの為に」仕事するのが向いているという事だと思う」

そんな風に考えた事はなかった。

その時のエルヴィンの言葉はリヴァイの心に深く沁み渡っていた。

エルヴィン「実際どうだ? 今までいろんな仕事をしてきていると思うけど、どういう時に充実感を覚える?」

リヴァイ「どういう時と言われても」

エルヴィン「生きている実感を覚える瞬間のような物だ。仕事中にそういうのはないのか?」

リヴァイ「ないな。仕事は仕事だ」

453: 2014/12/01(月) 20:39:38 ID:1MIpCixU0
エルヴィン「そうか………」

リヴァイ「とにかく毎日を無事に終えていく事しか頭にない」

トラブルを起こして減俸されるのだけは避けたいと思うからだ。

エルヴィン「だったらプライベートでも構わない。何か実のような物を得る感覚はないか?」

リヴァイ「実?」

エルヴィン「うん。実った果物を収穫するような感覚と言えばいいかな」

リヴァイ「それならある」

エルヴィン「だったらリヴァイはそれに関わる仕事をしていくのもひとつの手だと思うよ」

リヴァイ「……………」

リヴァイはなんと答えていいのか分からなかった。

だから自分の事より先にエルヴィンの意見を聞いてみたかった。

リヴァイ「エルヴィンはどういう時にそれを感じるんだ?」

エルヴィン「私? 私の場合はやっぱり、自分の予測が当たった時かな」

リヴァイ「予測?」

エルヴィン「本の入荷は出版社と問屋との駆け引きがある。前もって予測を立てて、この時期にはこれが売れると予想して陳列して、棚が動いた時はもう楽しくてしょうがない」

454: 2014/12/01(月) 20:40:11 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「まるで博打のようだな」

エルヴィン「そういう側面もある。あと個人的なお勧め本を人に勧めて気に入って貰えた時も同じように嬉しいよ」

リヴァイ「そういうものか」

エルヴィン「リヴァイはどういう時にそうなる?」

リヴァイ「………………」

こんな事を人に話してもいいのか迷う。

思う事はあるにはあるが、そもそも、そんな内面的な話をエルヴィンに話してもいいのか。

リヴァイは少し考えて、自分は聞いた癖に答えないのも不公平な気もして一応話す事にした。

リヴァイ「俺の能力を人に認められた時だな」

エルヴィン「能力?」

リヴァイ「そうだ。俺に出来る事を人にしてやって何か役に立てたり感謝されたりされた時に、やって良かったと思う時がある」

今までの事を振り返ってそう思う。

掃除や洗濯や料理も全て。自分の為だけでなく人の為にもやっている。

勿論、それが自分の為でもあるけれど。感謝されたら素直に嬉しい。

リヴァイ「だから俺の場合は仕事中というより、家に帰ってからの家事仕事の方がそういう側面が強くて……それに関わる仕事と言われたらもう家政婦を選ぶしかないような気がする」

455: 2014/12/01(月) 20:40:45 ID:1MIpCixU0
エルヴィン「家政婦いいんじゃないか? そっちの方に行こうと思わなかったの?」

リヴァイ「一応受けたけど。採用されなかった。女性が優先のようだし、俺の場合は人相も悪いから蹴られたのかもしれない」

エルヴィン「勿体ない。その人事の人は馬鹿だね。人を見る目がない」

エルヴィンが苦笑してそう答えた。それに対してリヴァイも苦笑を返す。

リヴァイ「いいや。当然だと思う。そもそも接客業にこんな人相の悪い男を採用するエルヴィン店長の方が馬鹿だ。俺に対する苦情は来ていねえのか?」

エルヴィン「苦情なんてきてないよ。それは心配のし過ぎだ」

リヴァイ「だったらいいが」

エルヴィン「そもそも本屋は他の接客業と少し違う」

リヴァイ「どう違う?」

エルヴィン「んー洋服屋とかだと、店員の方がお客様に声をかける形態でしょ。電気屋とかもそうかな」

リヴァイ「まあ、そうだな」

エルヴィン「本屋の場合は余り露骨なサービスを嫌がる人種が集まるから、積極的にならない方がかえっていいんだよ」

リヴァイ「つまり受け身の方が喜ばれると?」

エルヴィン「基本はそうだと思う。本を探している時に声をかけてくれるだろ。それ以外だと立ち読みを優先したい訳だし」

リヴァイ「成程」

456: 2014/12/01(月) 20:41:13 ID:1MIpCixU0
エルヴィン「人との適度な距離を保った上での接客を望まれる事が多い。そういう意味ではリヴァイは距離の取り方も巧い」

リヴァイ「あんまり持ち上げるな。後が怖い」

エルヴィン「そう?」

リヴァイ「ああ。まだやっとひと月程度だ。これから先どうなるか分からんだろ」

エルヴィン「出来ればこのままリヴァイには続けていって欲しいけれど」

リヴァイ「店が潰れないといいけどな」

エルヴィン「う……そうだな。そっちの問題もある」

リヴァイ「え?」

エルヴィン「今月は去年より悪いんだよ。予算達成までいかないかも」

リヴァイ「なんだって?」

それは初耳だった。リヴァイの顔色が瞬時に悪くなった。

リヴァイ「おい、勘弁してくれよ。働き始めてすぐ閉店になったらこっちは困る」

エルヴィン「勿論、そうならないように努力はするよ」

リヴァイ「結果を出さないとまずいだろ。何が原因だ?」

エルヴィン「やっぱり児童書と実用書かな。そっちの整理が間に合ってないから売り上げが大分落ちている」

457: 2014/12/01(月) 20:42:07 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「そうだったのか」

エルヴィン「うん。私が文芸書と文庫と学参と児童書と実用をやって、ミケがコミックとゲームをやって、モーゼスが地図と雑誌と文具と菓子でまわしているけど、そろそろ限界かもしれない」

リヴァイ「待て。エルヴィン店長の負担が大き過ぎないか?」

エルヴィン「私は店長だし一番店に長い時間いるからだよ」

リヴァイ「それにしたって、5つも掛け持ちなんて出来るのか?」

エルヴィン「完璧には回せていない。そこでリヴァイ、君に頼みがある」

リヴァイ「来ると思った。持ち上げたのはそのせいだな?」

エルヴィン「YES。来月から、児童書と実用書のコーナーを君に任せたいんだ」

リヴァイ「………………」

入ってまだ間もない人間にコーナーを任せるのだから余程困っているのか。

リヴァイ「俺より先に入っているバイトには任せられないのか?」

思い浮かべたのは勿論、ハンジとナナバの事だった。

しかしエルヴィンは首を緩く振って答えた。

エルヴィン「彼女達は学業が本分だから恐らく2年後にはこの店を離れる。リーネは専業主婦だし、お子さんが近いうちに出来るかもしれないから担当を持たせるのは気が引ける」

リヴァイ「………それもそうか」

458: 2014/12/01(月) 20:42:34 ID:1MIpCixU0
エルヴィン「先を見越して言っている。リヴァイさえ良ければ空きが出れば契約社員に推薦したいと思っている」

リヴァイ「契約社員……正社員とは違うのか」

エルヴィン「正社員とパートの間くらいだ。段階的に上げていく。仕事の拘束時間は増えるけれどその分給料は上がるよ」

リヴァイ「いくらくらいになるんだ?」

エルヴィン「ざっと×××××円だけど」

リヴァイ「……………月に何日休める?」

エルヴィン「6日から8日。その月によるけれど」

リヴァイ「丸一日出るとなると、朝の9時から夜の11時までがフルタイムだよな」

エルヴィン「でも完全シフト制だから。ずっと同じリズムではないよ。夕方で上がる日もあるし昼出の時もある」

リヴァイ「………………少し考えさせてくれるか?」

エルヴィン「どっちの件を?」

リヴァイ「児童書と実用の件はやってもいいが、契約社員の件は保留にして欲しい」

エルヴィン「フルタイムは難しい?」

リヴァイ「うちの子がもう少し大きくなれば可能だとは思うが。イザベルは4月でようやく四年生だからな」

エルヴィン「そうか。その辺の事もあるからパート勤務を選んでいた訳か」

459: 2014/12/01(月) 20:43:12 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「もしもの時があるからな。社員になればそれだけ責任が伴うだろ」

子供を優先したい場合、社員の場合は思うように動けない時もある。

パート勤務は給料が安い分、緊急時の休暇を願いやすいと言う利点があるのだ。

エルヴィン「まあね。その辺は確かにあるか」

リヴァイ「俺の事を買ってくれるのは有難いけどな。買被り過ぎて後で失望するなよ」

エルヴィン「保険をかけてくる気かな?」

リヴァイ「俺はそう優秀な人間でもない。過去に多々仕事を途中で辞めているからな」

エルヴィン「それは恐らく、使い方が間違っていたんだと私は思うけれど」

リヴァイ「使い方だと?」

エルヴィン「リヴァイという人間の使い方だよ。それさえ間違えなければきっと、君はうちの店の大きな戦力になる」

リヴァイ「ハサミは使いようだっていうのか?」

エルヴィン「そうとも言うかな。ま、私次第って事だろ?」

リヴァイ「まあ、そうかもしれん」

エルヴィン「その点については私も努力を続けよう。という訳で、リヴァイの趣味嗜好を存分に教えて欲しい」

リヴァイ「なんか嫌な予感しかしないから言わねえ」

460: 2014/12/01(月) 20:43:37 ID:1MIpCixU0
エルヴィン「そう言わず、ほらもう1本ビールを空けて」

リヴァイ「てめえ、その為に俺に酒を奢ったのか?」

エルヴィン「下心無しに飲ませるとでも思ったのか? 甘いな」

リヴァイ「ちっ………」

リヴァイは舌打ちした。そういう事ならもうこれ以上は飲めない。

リヴァイ「これ以上は飲まねえよ。今日は」

エルヴィン「つれないな」

リヴァイ「エルヴィンも飲むなら追加して飲んでやってもいいけど」

エルヴィン「おや? それは今夜は帰さないという風にも聞こえるが」

リヴァイ「泊まっていけばいいだろ。うちから出勤すればいい」

エルヴィン「成程。それはいい考えだ」

そしてエルヴィンもビールの缶の蓋を開けて言葉に甘える事にした。

エルヴィン「じゃあ改めて乾杯」

リヴァイ「乾杯」

こうやって自宅で別の誰かと酒を飲むのは初めてかもしれない。

461: 2014/12/01(月) 20:46:56 ID:1MIpCixU0
内側に入って来た新しい人間にまだ完全に気を許した訳ではないが。

それでも不思議と穏やかに過ごせる相手に巡り合ったのは、何故だろう?

リヴァイ(偶々そうなっただけか?)

偶然のおかげだろうか? それともこれも運命と言う奴だろうか?

リヴァイ(まあいい。何でもいいか。今はそれで)

そしてリヴァイはエルヴィンとたわいもない話をしながら酒を空けた。

昼間から夕方にかけて贅沢に時間を使って酒を飲み交わすなんて。

リヴァイ(俺はエルヴィンとは相性がいいのだろうか)

なんとなくそう思った。根拠のない思いだけど。

リヴァイ(いや、単にエルヴィンの方が俺に合わせてくれているだけか)

恐らくそうだろうと思った。エルヴィンはきっと他人と合わせるのが得意なんだろう。

リヴァイ(でないと俺のような人間にわざわざ構ってくる筈もねえ)

そう思いながらもまた缶を空けてリヴァイは自然と笑みを浮かべていた。

悪くないと思い始めて、そんな自分に呆れてしまう。

リヴァイ(まだひと月程度の付き合いだっていうのに)

462: 2014/12/01(月) 20:47:47 ID:1MIpCixU0
絆されるのが早過ぎる。そう思いつつもリヴァイは今の関係を手放したくはないと思っていた。

そしてエルヴィンの方はというと、

エルヴィン(うーん。やっぱりこのギャップはツンデレ属性か)

と、冷静にリヴァイを分析していた。

エルヴィン(普段は顰め面が多いのに。眉間の皺がとれた時の表情は本当に優しい顔をする)

恐らくこれはレアなリヴァイだ。酔わせているからか。

エルヴィン(こっちの顔を普段から出す様になったら、店が別の意味で儲かるな)

まるでホストのような扱いをしようとする自分に気づいてエルヴィンは慌てて自重した。

エルヴィン(もしそうなったら女性客が増えて店は儲かるけど、ハンジの嫉妬が大変な事になる)

ハンジの怒り方は結構怖い。怒らせたら怖いタイプだから気を付けている。

エルヴィン「リヴァイ、もう10本空けちゃったけど、大丈夫?」

リヴァイ「ん? (トローン)」

エルヴィン「普段の限界値は何本くらいだ?」

リヴァイ「さあな。そもそも10本もビールを空けたのは初めての経験だ」

エルヴィン「機嫌がいいところ申し訳ないが、この辺でやめておかないか?」

463: 2014/12/01(月) 20:48:12 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「そうだな。夕飯の支度もある。今日はこの辺でいいか」

エルヴィン「夕食もご馳走になっていいのか?」

リヴァイ「この間のマカロンのお礼もしたい。家にある材料で作るがいいか?」

エルヴィン「構わないよ」

リヴァイ「少し待っていろ。今から作る♪」

エルヴィン「…………」

リヴァイが何故かノリノリで料理を始めるようだ。鼻歌まで歌っている。

エルヴィン(ええっと、普段飲まないから陽気になっているだけだよな?)

エプロンと三角巾姿で料理を始めるリヴァイをそっと見守りながらエルヴィンは思った。

エルヴィン(なんか、腹が痛くなってきた)

笑いを堪えるのが辛かった。きっと普段はこんなんじゃないだろうに。

リヴァイ「今日はお好み焼きにしよう。余った材料を消化する日だ」

エルヴィン「いいね。美味しそうだ」

リヴァイ「好き嫌いは言うなよ。残したらはり倒す♪」

酔った状態でも料理が出来るのだから器用な人間だと思った。

464: 2014/12/01(月) 20:48:39 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「ふふ~♪」

エルヴィン(酔っているのに手際も早い)

身体が覚えているようだ。リヴァイは慣れた手つきでお好み焼きの材料を切っている。

具はキャベツと玉ねぎと人参と冷凍のイカと海老だ。

家庭で作るお好み焼きだから本格的な店の味とは違うけれど十分美味い。

リヴァイ「タネは出来た。今すぐ食うか? 少し早い時間だが」

エルヴィン「ああ、そうだな。食べていいなら先に頂きたい」

リヴァイ「了解した。今から焼こう」

じゅわわわわわ……

リヴァイがエルヴィンと自分の分を先に焼いて2人で食べる事にしたようだ。

リヴァイ「ほら、存分に食え」

偉そうに言いながら盛ったお好み焼きを運ぶ。

タレをつけて鰹節を少量かけて頂く事にする。

エルヴィン「おお。美味い」

リヴァイ「なら良かった」

465: 2014/12/01(月) 20:49:06 ID:1MIpCixU0
一緒に食べる。其の時、リヴァイが珍しくガッツリ口にお好み焼きを入れたせいで、

エルヴィン「リヴァイ、タレが口元に」

リヴァイ「ああ。すまんすまん」

ペロッと舐めて拭う仕草が雑だった。

普段のリヴァイならまずしない動作だった。いつもはティッシュを使う。

エルヴィン「…………」

なんか急にワイルドになったな。と思うエルヴィンだった。

リヴァイ「ん? どうした」

エルヴィン「いや、リヴァイって酒が入るとちょっと人が変わるのかと思って」

リヴァイ「そういうエルヴィンは全く変わってないな」

エルヴィン「うん。私は酒に強い方だから、このくらいの量じゃ酔わないよ」

リヴァイ「俺も酔ってはいないと思う」

エルヴィン「いや、テンションがおかしい」

リヴァイ「馬鹿言え。俺は元々、家ではテンションが高い」

エルヴィン「内弁慶なのか」

466: 2014/12/01(月) 20:49:29 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「そうとも言うな」

エルヴィン「ならそのせいで余計にテンションあげあげなのか」

リヴァイ「悪いか?」

エルヴィン「いや、別に」

リヴァイ「笑うなよ。たまにはいいだろ」

エルヴィン「うん。いいよ。そういう時があっても」

リヴァイ「よーし、今日は機嫌がいいからエルヴィンの背中でも指圧してやる」

エルヴィン「?!」

いきなり変な事を言いだしたリヴァイにエルヴィンはふいた。

エルヴィン「え? 指圧? マッサージしてくれるの?」

リヴァイ「足裏でもいいぞ。どこをやって貰いたい?」

エルヴィン「そりゃ背中をやって貰えるなら嬉しいけれど」

本当にやるのか? エルヴィンが驚いていると、リヴァイはニヤニヤ返した。

リヴァイ「そこにうつ伏せになれ」

エルヴィン「う、うん……」

467: 2014/12/01(月) 20:49:55 ID:1MIpCixU0
そしてリヴァイはエルヴィンの腰の上に跨って服の上から指圧を始めた。

エルヴィン「ええっと、無理しなくていいからな」

リヴァイ「ん? 何で」

エルヴィン「適当な圧でいいから……ん?!」

結構強い刺激だった。リヴァイの指圧が痛気持ちいい。

エルヴィン「あ……ちょっと、リヴァイ、それは圧が強い!」

リヴァイ「そうか。それは悪かったな。もっと強くしよう(ニヤリ)」

エルヴィン「ええええ?! リヴァイ、ぎゃああ!」

エルヴィンが苦痛に叫んでいた其の時、

ハンジ「何しているの?」

ハンジが帰宅した様だ。玄関が開いた事に気づかずにいた。

ハンジ「エルヴィン、何しているの?」

リヴァイがエルヴィンの腰の上に乗っているという面妖な事態にハンジの眼鏡が光った。

ハンジ「エルヴィン、まさか………リヴァイに抱かれる気?!」

エルヴィン「そんな訳ないだろ! どう見てもただのマッサージだから!」

468: 2014/12/01(月) 20:50:18 ID:1MIpCixU0
流石のエルヴィンもこの状態で腐ったトークをやれるほど余裕はなかった。

するとリヴァイの方が目を細めて言った。

リヴァイ「エルヴィンの背中を弄ってやっていた♪」

ハンジ「なんかリヴァイ、ご機嫌?」

リヴァイ「この広い背中を弄れると思うと楽しいぞ♪」

ハンジ「というか、酒臭い? え? リヴァイ、お酒飲んだの???」

リヴァイ「ああ。エルヴィンが飲ませてくれた。今日はそのおかげで気分がいい」

エルヴィン「リヴァイは陽気になる酔い方をするようだ。理性が緩んでいるようだよ」

リヴァイ「テンションが上がっているだけだ」

エルヴィン「いや、まあ、あげあげだけどさ」

飲ませ過ぎたかな。と反省するエルヴィンだった。

するとリヴァイはますます調子に乗って今度は後ろ向きになり、エルヴィンの足を自分の方に曲げさせて足裏を掴んだ。

エルヴィン「がは! ちょっと待ってくれ! 足裏はいいから!」

リヴァイ「遠慮するな。しっかり解してやろうじゃねえか(グリグリ)」

エルヴィン「ギブ! ギブ! ハンジ、助けてくれ!!!」

469: 2014/12/01(月) 20:50:38 ID:1MIpCixU0
ハンジ「リヴァイ、エルヴィンが嫌がっているからその辺で止めなよ」

リヴァイ「ちっ……つまらん奴め。人が折角、してやろうと思ったのに」

リヴァイはそう言いながらもニヤニヤしていた。そしてエルヴィンから離れて立ち上がって言った。

リヴァイ「ハンジにもしてやろうか?」

ハンジ「丁重にお断りします!!!!」

リヴァイ「遠慮するな。ハンジには特別に優しくしてやるから」

ハンジ「!」

突然の腰にくる甘い声にハンジが思わずへたりかけると、それをしれっと支えてやったリヴァイだった。

リヴァイ「ん? どうした。急に」

ハンジ「あ、いや、あの……何か人が変わっていませんか?」

リヴァイ「馬鹿言え。俺は元々、こんな人間だ」

ハンジ「あっ……」

至近距離のリヴァイの支えに怪しげな雰囲気になりかけると、エルヴィンは咳をした。

エルヴィン「んんー……リヴァイ、酒が抜けた時に氏にたくなるような事は止めようか」

リヴァイ「ん? 何の話だ?」

470: 2014/12/01(月) 20:51:07 ID:1MIpCixU0
エルヴィン「ハンジが困っているよ。子供達もそろそろ帰ってくるんじゃないか?」

リヴァイ「ああ、そうだな。ハンジもお好み焼き食うか?」

ハンジ「た、食べるけど……」

リヴァイ「じゃあ待っていろ。焼いてくるぞ♪」

そして陽気に台所に戻るリヴァイだった。それを見送ってハンジは言った。

ハンジ「こんなリヴァイ初めて見た」

エルヴィン「私もだ。今度の飲み会の時どうしよう?」

ハンジ「見せた方が面白いですけど、本人に怒られそうですね」

エルヴィン「全くだ。ネタ的には面白過ぎるけど」

そう2人で言いながら追加のお好み焼きを待っていると、其の時イザベルとファーランが帰って来た。

リヴァイ「イザベル、ファーラン、お帰り♪」

イザベル「ただいま! ん? 何か今日の兄貴、機嫌がいいな。どうしたんだ?」

リヴァイ「今日はお好み焼きを作るぞ。手洗ってうがいして待っておけ」

ファーラン「酒が入っているっぽいな。久々に」

イザベル「あ、成程」

471: 2014/12/01(月) 20:51:45 ID:1MIpCixU0
2人はこういうリヴァイを既に知っているようだ。動じていない。

リヴァイ「ハンジも手洗ったか? 確認してねえけど」

ハンジ「あ、そう言えば洗ってないや」

リヴァイ「外出後はちゃんとしろ!」

ハンジ「はいはい」

そしてちゃんと準備して待っていると、美味しいお好み焼きが出来た。

皆で狭い和室の部屋でお好み焼きを食べていると満足そうにリヴァイは笑った。

リヴァイ「残さず食えよ♪ お茶も出すぞ♪」

やっている事はいつもと同じなのにテンションが増していて可笑しかった。

そして子供達が自分達の部屋に戻ってしまって、再び3人になると、リヴァイが急に眠そうな顔になった。

リヴァイ「飯食ったら少し眠くなってきた」

ハンジ「あらら。今日は早めに寝る?」

リヴァイ「そうする。皿は明日の朝に洗うから水につけておこう」

いつもの習慣を終えてから部屋に戻ると途端、リヴァイはごろっと横になった。

ハンジ「布団に入らなくていいの?」

472: 2014/12/01(月) 20:52:13 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「ん」

畳の上にごろっと横になるだけでそれ以上動かないリヴァイにハンジは困った顔になった。

ハンジ「流石にそれじゃ風邪ひくかも」

リヴァイ「ん」

エルヴィン「運んであげようか」

ハンジ「そうだね」

リヴァイはいつも布団と毛布は畳んで部屋の隅に寄せている。

それをいつもの場所に敷いてリヴァイを2人で抱えてそこに寝かせてあげる。

毛布をかけてあげると、何故かリヴァイは再び目を開けた。

リヴァイ「ん? あれ? いつの間に」

ハンジ「今、一瞬だけ寝落ちたようだね」

リヴァイ「2人で運んでくれたのか。ありがとう」

エルヴィン「いやいや。疲れているなら休みなさい」

リヴァイ「お前らも俺と一緒に寝ればいい」

ハンジ「流石に無理だよ! 布団からはみ出ちゃうでしょうが!」

473: 2014/12/01(月) 20:52:36 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「はは……それもそうか」

そう言ってリヴァイは目を閉じた。その安らかな寝顔にハンジはうっかり萌える。

ハンジ「あーもう可愛い(ニヤニヤ)」

エルヴィン「ところでハンジ、この家には予備の布団はあるのかな?」

ハンジ「え? ないよ」

エルヴィン「それは困ったな。では私かハンジのどちらかがリヴァイと一緒に寝るしかない」

ハンジ「へ? 何で?!」

エルヴィン「私も酒を飲んだからだよ。今日は運転して帰れない」

ハンジ「代行で帰ればいいじゃないか」

エルヴィン「リヴァイが泊まっていけって言ったんだ。だからこの場合、代行で帰ったらリヴァイが気を遣う」

ハンジ「じゃーエルヴィンが………」

エルヴィン「チャンスだろ? ハンジ、一緒に寝てしまえばいい」

ハンジ「!」

エルヴィンの悪い提案に流石にハンジは動揺を見せた。

ハンジ「無理無理無理! そんなの無理だって!」

474: 2014/12/01(月) 20:53:00 ID:1MIpCixU0
エルヴィン「どうして? ハンジはリヴァイを好いているのに」

ハンジ「それとこれとは別問題! まだそういう関係じゃないから!」

エルヴィン「これからなればいいだろう? (ニヤリ)」

ハンジ「いや、その、なりたい気持ちはあるけれど、この方法は卑怯だって!」

エルヴィン「そうかな? リヴァイの方は『一緒に寝ればいい』と言っていた。言質は取っている。問題ない」

ハンジ「酔っ払いの戯言を真に受ける方がおかしいでしょうが!」

エルヴィン「でもそうなると、私とハンジが一緒に寝るのか?」

ハンジ「私が徹夜すればいい話だと思う」

エルヴィン「若い女性にそんな真似はさせられないよ。ハンジ、こんなチャンスは2度とないと思うけど」

ハンジ「うー………」

ハンジは迷った。顔を赤らめた状態で。

ハンジ「本当にいいのかな」

エルヴィン「大丈夫。ぐっすり眠って居るし」

ハンジ「分かった。エルヴィンはお客さんだし、その方がいいかな」

エルヴィン「ハンジの部屋を借りるね」

475: 2014/12/01(月) 20:53:26 ID:1MIpCixU0
ハンジ「うん…………」

ハンジは寝る時の服に着替えてからエルヴィンに部屋を交替した。

本当はまだ寝る時間じゃないけれど。寝るのには早過ぎるけれど。

ハンジ(御免なさい。卑怯な真似をして)

寝顔を直に堪能出来る誘惑に勝てませんでした。

そう自分に言い訳しながらハンジはリヴァイの隣に滑り込んだ。

温かい。人の体温で温めた布団の中は至福の空間だった。

そして其の時、リヴァイは浅い夢を見ていた。

夢の中ではまたハンジがスマホを構えて写真を撮っている。

今度は至近距離で。あんまりパシャパシャ撮るから「やめろ」と言った。

その寝言が実際に零れてハンジはギクリとする。

ハンジ(まずい。バレたかな? それとも寝言?)

そしてまた口が閉じた。その薄い唇がまた笑みを零す。

ハンジ(やめろと言いつつ嬉しそう? どんな夢を見ているんだろ?)

夢の中のハンジはぶーぶー文句を言っていたが渋々スマホを降ろしていた。

476: 2014/12/01(月) 20:53:49 ID:1MIpCixU0
その隙を狙ってリヴァイは正面からハンジを抱きしめてそのまま地面に押し倒した。

背中に手を回してそういう空気に持って行こうとする。

その動きが現実とリンクして、ハンジの背中に腕が回った。

ハンジ(ん?)

背中の方に手が忍び寄っていた。直に肌を触ろうと動いて本当に手が入って来た。

ハンジ(あ、あれ? ちょっと、リヴァイ?!)

まずい。夢の中で何をやっているのか。

ハンジ(もしかして、やらしー夢でも見ている?)

相手は誰だか知らないが。これはもしや。

ハンジ(やっべ! 夢の中とリンクしているとか? これ、どうしよう!)

ハンジは抵抗出来ないままでいる。こんな気持ちいい事、抗えない。

ハンジ(膝小僧の時よりはるかにやばい!)

声が漏れそうだった。必氏に堪えるけれど。

ハンジ(手つきがやらしい……)

優しいのに、工口い手つきで背中を撫でまわしてくれる。

477: 2014/12/01(月) 20:54:14 ID:1MIpCixU0
ハンジ(や……無理……こんなの、あ……)

全身で感じてしまった。体が瞬時に溶かされていく。

ハンジ(やっぱりやめておくべきだったか?! いや、でも今更無理!)

声を頃すだけで精一杯だった。そのうちリヴァイの手は尻の方にも。

ハンジ(ああ……!)

卑怯な事をしている自覚はある。

でも、今のこの状態から逃げ出せる程、浅はかではない。

ハンジ(もういいや。バレた時は謝ろう)

バレたらバレた時だ。

それよりももっと今は、触って欲しい。優しい愛撫が欲しい。

リヴァイの方は夢の中だという自覚があるせいで遠慮なくハンジを撫でていた。

でもその日の夢の中のハンジはやけに色っぽいと思った。

リヴァイ(今日は思い切って胸も触ってみるか)

胸の突起を探る様に手を移動させると、その反応に驚いた。

顔を真っ赤にして声を頃している様子が本当にリアルで。

478: 2014/12/01(月) 20:54:39 ID:1MIpCixU0
夢の中だっていうのに、その表情に見惚れている自分がいた。

リヴァイ(いい反応しやがる)

でも声を聞かせてくれないのがハンジらしいと思った。

スマホは何処かに落としているようだ。手に持っていた筈のそれがいつの間にか消えている。

ハンジの手を片方だけ握った。左手で握り合って、右手だけで胸を触る。

その様子は現実とリンクしているのだが、まだリヴァイは夢から醒めない。

ハンジ(あああ! やばい! リヴァイ!)

ハンジはそろそろ限界だった。声が出そうで、出そうで。

ハンジ「や……リヴァイ、あ……」

思わず小さな声が漏れてリヴァイはその瞬間、やっと現実に帰って来た。

リヴァイ「え?」

目の前に何故かハンジがいる。直後、心臓が爆発しそうになった。

頭の中の整理が追い付かない。一体、今、俺は何を。

リヴァイ(まさか)

そのまさかだった。リヴァイは夢を見ながらハンジに触れていたのだから。

479: 2014/12/01(月) 20:55:01 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「は、ハンジ……何でお前、俺と一緒に寝ているんだ?」

リヴァイの表情が瞬時に険しくなった。怒りに満ちている。

そんな彼の怒気にビビりながらハンジは事情を伝えた。

ハンジ「エルヴィンが泊まっていくから布団が足りないと言う事で」

リヴァイ「俺は今夜はイザベルと一緒に寝るつもりだったんだが」

ハンジ「あ………」

その発想に及ばなかったハンジだった。

ハンジ(それもそうだ。その手があったんだ)

身体の小さいイザベルとリヴァイなら一緒の布団で眠っても問題ない。

リヴァイ「何でハンジと俺が一緒に寝る必要がある。布団から出ろ!」

ハンジ「はい……」

ハンジは大人しく布団から押し出されてしまった。

リヴァイも酔いがすっかり醒めて布団から起き上り頭を抱えている。

リヴァイ(今、俺は、やらかしたよな?)

絶対やらかしたと思った。あの感覚は余りにリアルだったから。

480: 2014/12/01(月) 20:55:26 ID:1MIpCixU0
リヴァイ(なんか変だと思った。いつもの夢と違ってリアルだなって)

何かもう、そこら中に喚いて叫び出したいような恥ずかしさを必氏に抑えた。

ハンジと目を合わせるのが辛い。生きるのが辛い状態だった。

リヴァイ「というか、てめえ良くも、風呂に入ってない状態で俺の布団の中に忍びこんだな?」

リヴァイは俯いて頭を抱え込んだまま険しく言い放った。

匂いですぐ分かった。ハンジはまだ入浴を済ませてはいないと。

ハンジ「え……あ……ご、御免なさい」

シュンとするハンジにますますイライラしてしまう。

リヴァイ「今すぐ風呂に入ってこい! お前が一番風呂なんだからさっさとしろ!」

ハンジ「イエッサー!!」

ハンジは慌てて部屋を出て行って風呂へ向かった。

リヴァイはその直後、ぐったりと布団の上に自分の顔を伏せてしまう。

リヴァイ(なんなんだよ。あいつは………)

心臓に悪いと思った。不意打ちにも程がある。

リヴァイ(予定では俺の布団をエルヴィンに譲って俺がイザベルと一緒に寝るつもりだったのに)

481: 2014/12/01(月) 20:56:05 ID:1MIpCixU0
素面の時にはそう考えていたのに。

リヴァイ「いや、今からでも遅くねえ。交替するぞ!」

襖を開けるとエルヴィンはハンジの部屋で寛いでいた。

エルヴィン「おや? リヴァイ。酔いが醒めたのか?」

リヴァイ「まあな。エルヴィン、お前は今夜は俺の部屋で寝ろ」

エルヴィン「ん? ハンジじゃなくて私を選ぶのか?」

リヴァイ「何の話だ」

エルヴィン「一緒に寝るのかと」

リヴァイ「殴られてえなら、今すぐ殴ってやるぞ? (拳プルプル)」

エルヴィン「冗談だよ。では私がリヴァイの布団を借りて、リヴァイはどうするの?」

リヴァイ「俺はイザベルと一緒に寝る」

エルヴィン「おやおや。ハンジと一緒に寝ればいいのに」

リヴァイ「んな真似出来るか!!」

リヴァイが力一杯怒鳴り返すとエルヴィンは噴き出して笑った。

エルヴィン「リヴァイ、今凄い顔をしているよ。写真に撮らせてくれ」

482: 2014/12/01(月) 20:56:30 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「肖像権の侵害だ。断る」

エルヴィン「それは残念だ。ではでは私はまた移動しますか」

そしてエルヴィンをリヴァイの部屋に移動させてリヴァイはというと、

リヴァイ(しまった。ハンジにさっきの件、謝ってねえ)

恐らくいやらしい事をしでかした筈だ。一応、謝っておかないと。

そう考えていたらハンジが風呂からあがって自分の部屋に戻って来た。

そのタイミングでリヴァイはハンジの部屋に入り、自分から謝る事にした。

ハンジ「ん? どうしたの?」

リヴァイ「いや………」

リヴァイは謝る前に聞くべき事を先に聞いた。

リヴァイ「イザベル達には風呂の件を言ってきたか?」

ハンジ「うん。次の風呂でしょ。あがってすぐに」

リヴァイ「エルヴィンは風呂に入るのか?」

ハンジ「あーどうだろう? 入るにしても最後の方がいいかも。湯が無くなりそう」

リヴァイ「一応聞いてくる」

483: 2014/12/01(月) 20:57:00 ID:1MIpCixU0
リヴァイはエルヴィンに風呂の件を確認して「着替えがないから今夜はいいよ」と言われた。

だからその日の夜はリヴァイが最後に風呂に入り、ハンジの部屋に再び戻る。

ハンジ「ん? どうしたの。また」

リヴァイは視線を合わせないまま言った。

リヴァイ「さっきの件だが」

ハンジ「うん」

リヴァイ「俺はハンジに何かしでかしたよな?」

ハンジ「何もしてないよ」

ハンジはしれっと嘘をついた。

リヴァイ「嘘をつくな。その……すまん」

一応謝った。だけどハンジは苦笑をする。

ハンジ「何もしてないのに」

ハンジは重ねて嘘をついた。

リヴァイに罪悪感を持たせたくなかったからだ。悪いのは自分の方だから。

リヴァイ「でも、俺は、触ったよな?」

484: 2014/12/01(月) 20:57:24 ID:1MIpCixU0
何処を、とは言わない。

ハンジ「……触ってないよ」

リヴァイ「何で嘘をつくんだ」

ハンジ「嘘じゃないのに」

リヴァイ「嘘つけ。あんなに柔らかくて気持ちいい感触、初めて経験……」

そこまで言ってしまうと流石にハンジも赤くなって隠しきれなくなった。

ハンジ「も、もー…寝ぼけていたから、誤魔化そうと思ったのに」

そう真実を言われてリヴァイは頭の中が混乱した。

本当に触られたのならその瞬間、叩くか殴るかして起こせばいい話なのに。

リヴァイ(何故、そうしなかった?)

抵抗しろよ。でないと。

リヴァイ(待ってくれ。それって、ハンジにとって俺は)

そんな風にいやらしく触られても不快ではない相手だと認識していいのか?

いやそれ以前に、何でハンジは男の布団の中に潜り込む事に抵抗がない?

リヴァイ(もしそうなら、俺は………)

485: 2014/12/01(月) 20:57:57 ID:1MIpCixU0
ハンジと一緒に寝たい。

そう思いかけてリヴァイは寸前でそれを堪えた。

自分の部屋にはエルヴィンを寝かせる予定の夜にそんな真似は出来ない。

リヴァイ「確かに寝ぼけていた。そのせいだ。すまん」

ハンジ「う、うん……」

リヴァイ「一応、謝ったからな。根には持つなよ」

ハンジ「あ、うん」

リヴァイ「じゃあな。お休み」

そう逃げるように告げてリヴァイはイザベルとファーランのいる部屋へ移動した。

イザベル「あれ? 兄貴。どうしたんだ?」

リヴァイ「今夜はこっちで寝かせてくれ」

イザベル「ああ。お客さんがいるからか。でも姉ちゃんと一緒に寝たらいいのに」

リヴァイ「客人がいる時にそんな真似出来るか」

ファーラン「その辺は声を抑えれば…………」

リヴァイ(ジ口リ)

486: 2014/12/01(月) 20:58:16 ID:1MIpCixU0
ファーラン「すまん。自重する」

そしてその日の夜、リヴァイは久々に3人で一緒に眠る事にしたのだった。

朝の3時半。体が覚えた時刻に目が覚める。

朝の仕事が待っている。イザベルは横ですやすや眠っている。

リヴァイ(……………昨日の俺はどうかしていた)

思い出すと恥ずかしい。なんか浮かれていた気がする。大分。

リヴァイ(仕事いかねえと)

準備をする為に布団から抜け出して、出かける前、ふとハンジの事が気になった。

487: 2014/12/01(月) 20:58:43 ID:1MIpCixU0
リヴァイ(…………)

リヴァイはそっとハンジの部屋を覗き込んだ。

ハンジは眼鏡を外すのも忘れて眠っている。

リヴァイ(眼鏡くらい外せ)

そっと部屋に入って抜いて置く。良く見るとレンズが大分汚れていて気になった。

リヴァイ(このクソ眼鏡が)

眼鏡は大事にしろ。お前の体の一部のようなもんだろ。

そう思いながら綺麗なティッシュで指紋を拭きとった。

眼鏡をそっと脇に置いてハンジの寝顔を見つめながら思った。

リヴァイ(やっぱり間違いじゃねえよな)

もし違ったらどうしようと何度も思った。

でもここまできたらきっと、恐らく、勘違いじゃない。

昨日、確信した。ハンジは自分に惚れている。

布団の中に勝手に入って来たし、おまけに触っても抵抗しない。

これで惚れてないとでも言うならただの淫乱な女だ。

488: 2014/12/01(月) 20:59:07 ID:1MIpCixU0
理由はさっぱり分からない。何がどうなってハンジの中でそうなったのかは。

リヴァイ(心当たりがねえ)

自分は何か過去にハンジにしてやったのだろうか?

こんな風に惚れられる程の何かを。

リヴァイ(でも今はその件を横に置いておこう)

リヴァイはそう考えて自らの顔をハンジの方へ近づけた。

リヴァイ(ハンジ………)

彼女が眠っている今、自分の気持ちを密かに伝えようと思った。

正式な告白はまた別の日にするつもりで、リヴァイは其の時、自ら動いた。

朝の出勤前に、自分の唇を、ハンジに軽く重ねて。

それだけのキスをして、朝の仕事へ向かうべく身支度する。

そしてリヴァイは家を静かに出て行ったのだった。

リヴァイが朝の仕事に出て行ってからおよそ1時間後、ハンジは目が覚めた。

リヴァイの気配は既にない。朝の新聞配達の仕事に向かったようだ。

489: 2014/12/01(月) 20:59:59 ID:1MIpCixU0
ハンジ(生活のリズムが違うのがやっぱりちょっと寂しいな)

そう思いながらハンジものそのそ起き始める。

ハンジ(ええっと、エルヴィンはまだ寝ているよね)

仕方がないので部屋のパソコンでも起動する事にした。

朝のニュースを適当に流し読みながらぼーっと朝を過ごしていると、

エルヴィン「ん……おはよう」

のっそりエルヴィンが襖を開けて顔を出した。

ハンジ「おはよう。起こしちゃった?」

エルヴィン「いやいや。今何時?」

ハンジ「朝の5時くらい。いやー昨日はお風呂入ったせいで早く寝すぎちゃったね」

エルヴィン「たまにはいいだろう。リヴァイはもう仕事に行ったようだな」

ハンジ「そうだね。いつも4時前には家を出ているよ」

エルヴィン「昨日は残念だったな。折角のチャンスだったのに」

ハンジ「や、やだなあ。そんな事はないよ」

エルヴィン「そう? 勿体ない」

490: 2014/12/01(月) 21:00:26 ID:1MIpCixU0
ハンジ「エルヴィンが隣にいるのにそういう事する訳ないでしょう?」

リヴァイの選択は妥当である。そうハンジも思っていた。

エルヴィン「でも、その方がかえって盛り上がるんじゃない?」

ハンジ「エルヴィンの性癖って……」

エルヴィン「冗談だよ。まあここまでやってハンジの気持ちに気づかないような男ならリヴァイは本当の馬鹿だな」

ハンジ「え?」

エルヴィン「ここからどう動くかでリヴァイの真意が分かると思う。ハンジ、ここからが本当の正念場だよ」

ハンジ「………………」

ハンジは顔が凍り付いていた。

エルヴィン「ん? どうした」

ハンジ「ば、バレちゃったかな?」

エルヴィン「え? バレたと思うよ。流石に」

ハンジ「どどどどどうしよう?」

エルヴィン「え? 何でそんなに動揺しているの?」

ハンジ「だって、その…………」

491: 2014/12/01(月) 21:01:07 ID:1MIpCixU0
エルヴィン「あの時、一緒の布団の中に居た時に本当に何もしなかったの?」

ハンジ「ええっと………実はちょっとだけ体を触られたけれど」

エルヴィン「……………」

ハンジ「でも寝ぼけていたから! 夢とリンクしていたみたいでさ。事故みたいな物だよ」

エルヴィンはしばし考えた。

エルヴィン「事故ねえ……」

エルヴィンはネタバレしたくて堪らなかったがそこは流石に控えた。

エルヴィン「まあいいや。私は朝出だからまた後で詳しい話を聞こう」

ハンジ「朝御飯食べて行かないの?」

エルヴィン「それはまた今度にする。家で背広に着替えないといけないし」

ハンジ「あ、そう言えばそうか」

エルヴィン「次に遊びに来る時は背広持参で来るよ」

そう言いながらエルヴィンは自宅へ帰って行った。

そしてエルヴィンが帰宅後、朝の6時半頃にリヴァイが帰って来た。

リヴァイ「ん? エルヴィンは帰ったのか」

492: 2014/12/01(月) 21:01:32 ID:1MIpCixU0
ハンジ「一度自宅に戻って背広に着替えてから仕事に行くって」

リヴァイ「ああ、そう言われたら背広の問題があったな。忘れていた」

リヴァイは其の時、微妙にハンジと目を合わせづらくて視線をずらした。

眠っている隙を狙ってキスをした事で今まで以上に意識している。

そのリヴァイの微妙な態度にハンジは「あれ?」と思った。

距離がある。リヴァイとの距離が今までよりも。

ハンジ(何で? なんか避けられてない?)

微妙な空気にハンジは戸惑った。

ハンジ(や、やっぱり昨日、勝手に布団の中に潜り込んだ件をまだ気にしている?)

しかし其の時のリヴァイは別の件を考えていた。

朝御飯の用意をしながら、いつ自分の気持ちを言うべきか悩んでいたのだ。

リヴァイ(キスだけじゃもう物足りねえ)

実際にしてみて良く分かった。

仕事があるから抑えたけれど、本当は舌を入れる様なキスがしたかった。

眠っている相手に対して卑怯だとは思ったが。もう、無理だ。

493: 2014/12/01(月) 21:01:55 ID:1MIpCixU0
近いうちに決壊する。そう予感している。

リヴァイ(こういうのって、どういうタイミングで言えばいいんだ?)

学校に行く前に言ったら迷惑だろう。やはり次の休みの時がいいか?

リヴァイ(だとすれば飲み会の次の日とか……)

その辺りがいいかもしれない。リヴァイはそう考えて朝のご飯を用意し終えた。

その頃になるとイザベルとファーランものそのそ起き出す。

朝飯を食わせて見送って、再び2人だけになると、

ハンジは少し遅れて学校へ行く用意をしていた。大学が始まる時間は少し遅い。

しかし今日はいつもと違う格好だった。膝が隠れるくらいのフレアスカートまで履いている。

リヴァイ(何でスカート?)

いつもはズボン姿で行く。今日は何かあるのだろうか?

リヴァイ「ハンジ、今日はスカートで行くのか?」

ハンジ「うん。まあ、ちょっとね」

リヴァイ「何がちょっとだ?」

曖昧に濁されてイラッとすると、ハンジは「うーん」と言った。

494: 2014/12/01(月) 21:02:19 ID:1MIpCixU0
ハンジ「家に帰ったらズボンに戻るから今日だけ許して」

リヴァイ「だから何の為に」

ハンジ「今日は大学の大事な授業がある日なんだ。教授達の前で発表する授業がある」

リヴァイ「…………」

ハンジ「そういうちゃんとした時くらいは綺麗な格好でいないとまずいから」

リヴァイ「だとしたらシャワーの方が先じゃねえか?」

ハンジ「時間に遅れたらまずいよ」

リヴァイ「髪だけでも」

ハンジ「私、髪洗うの下手くそだしね」

リヴァイ「俺がやってやる」

ハンジ「え?」

リヴァイ「ブローも含めて。大事な時は俺がやってやる」

そう言ってリヴァイはハンジを引っ張って風呂場に連れ込んだ。

ハンジ「ま、間に合うかなあ?」

リヴァイ「10分以内に済ませたらいけるだろ」

495: 2014/12/01(月) 21:02:42 ID:1MIpCixU0
ハンジ「分かった。そこまで言うなら……」

ハンジは一度衣服の一部を脱いでリヴァイに後は任せた。

髪のセットも含めてリヴァイに頼んで、本当に以前のような仕上げをして貰う。

リヴァイ(可愛い)

思わず思ったけれど口には出さない。

リヴァイ「後は自分で出来るか?」

ハンジ「うん。大丈夫」

ハンジは出かける為に必要な物を確認して、家を出る。

ハンジ「じゃあ、行ってきます」

リヴァイ「行って来い」

そしてハンジは出ていった。直後、リヴァイは頭を左右に振った。

リヴァイ(なんかもう、いろいろ駄目だな俺は)

大学の教授達に露骨に嫉妬している自分が居て凹んだ。

でも綺麗な格好をして出て行くハンジを見送るのは何だか嬉しかった。

リヴァイ(飲み会の後とは言わず、今日の夜にでも言ってしまうか?)

496: 2014/12/01(月) 21:03:12 ID:1MIpCixU0
心が揺らいでそわそわして、落ち着かないリヴァイだった。

その日のリヴァイは夜のシフトだった為、少し早めに夕飯の準備を済ませておいた。

ハンジは大学に帰って来て一度着替えてから夜出の筈だ。

今日は一緒に家を出るつもりでいたが、夕方に帰って来たハンジの異変にすぐさまリヴァイは気づいた。

ハンジは帰ってくるなり「ただいま」も言わずに自分の部屋に籠ってしまったのだ。

リヴァイ「ハンジ?」

ハンジの異変にリヴァイはそっと声をかけようとしたが……。

襖を開けて様子を覗き見てぎょっとした。

勢いよく衣服を脱ぎ捨てて下着姿だけになると、脱いだ服を畳の上に叩きつけていたのだ。

良く見たら目元には涙の跡があった。大学で何かあったのだろうか?

息を荒げて何かに耐えている様子だった。余程嫌な事があった様子だ。

その直後、唸るような声をあげてハンジが泣きだしてしまった。

497: 2014/12/01(月) 21:03:56 ID:1MIpCixU0
見てはいけないものを見てしまったような気持ちになり、リヴァイは襖を閉めた。

その後は暫くの間、泣いていた。泣いて泣いて泣き続けるうちに夕方の5時過ぎになってしまった。

リヴァイ(…………まだ泣いているのか)

気持ちは分からなくもないが、あんまり泣き腫らした顔で店に出るのも良くない。

適当なところで切り上げさせないと。そう思い、リヴァイはもう一度襖を開けた。

リヴァイ「おい、ハンジ」

出来るだけ優しく声をかけたが、ハンジの顔は酷い有様だった。

泣き過ぎて目が真っ赤だし、鼻も噛み過ぎて赤い。

こんな酷い顔の状態では客前には出られそうにない。

リヴァイ「今日はハンジも夜出の筈だよな」

ハンジ「あ、そう言えばそうだったね。ごめん。忘れていたよ」

リヴァイ「今日はどうするんだ? 休むのか?」

ハンジ「お店に迷惑はかけられないから行くよ」

そう言ってハンジはようやく泣き止んで着替え始めた。

何があったかは良く分からない。でも痛々しいハンジの様子にリヴァイの心境は複雑になった。

498: 2014/12/01(月) 21:04:35 ID:1MIpCixU0
其の時リヴァイは時計を見て、ギリギリ間に合うと判断して急いで握り飯を1個だけ作った。

リヴァイ「おい、ハンジ」

ハンジ「何?」

リヴァイ「夜出の前に少し腹に入れておけ。おにぎりだけど」

リヴァイの突き出したおにぎりにハンジは「要らない」と突っ返した。

ハンジ「もう時間ないでしょう。食べていたら間に合わなくなる」

リヴァイ「身体にエネルギーを入れる方が優先だ」

ハンジ「いい。要らないってば」

リヴァイ「いいから食え!」

ハンジ「!」

リヴァイの無理やりのおにぎりにハンジは少し戸惑った。

ハンジ「な、なんで」

リヴァイ「栄養不足だとイライラすると言ったのはどこのどいつだ」

ハンジ「…………」

リヴァイ「涙の跡はもうしょうがねえとしてだ。せめて感情の方をこれ食って切り替えろ」

499: 2014/12/01(月) 21:05:01 ID:1MIpCixU0
仕事をする為にそれが必要だと判断したリヴァイはそう言った。

リヴァイ「ハンジに以前、栄養不足の件を指摘された俺は自分の自己管理の無さを反省した。身体を動かす分には多少食べなくても動けるが、頭の方はそうはいかないと初めて知ったんだ」

ハンジ「………そうだね」

リヴァイ「イライラを満腹で誤魔化せ。少しは落ち着く筈だ」

ハンジ「うん。急いで食べる」

時間ギリギリではあったが、ハンジはおにぎりを一個だけ食べた。

食べ終えると自然と一筋の涙が溢れて出てきて、つい言ってしまった。

ハンジ「美味しい」

リヴァイ「なら良かった」

ハンジ「ありがとう。助かったよ。リヴァイ」

リヴァイ「礼はいい。行くぞ」

ハンジ「うん」

2人で一緒に夜に出る時はハンジの車にリヴァイも便乗させて貰う。

助手席に乗っている時、リヴァイはふと思った。

リヴァイ(…………ハンジにはハンジの世界がある)

500: 2014/12/01(月) 21:05:27 ID:1MIpCixU0
大学での出来事に自分は関与出来ない。当然だけど。

リヴァイ(危うく自分の欲望に負けてハンジ側の都合を考えずに突っ走るところだった)

今夜、自分から告白しようか。なんて事を考えた自分が急に恥ずかしく思えた。

リヴァイ(大学の事で頭が一杯になっている時にそんな話、しちゃいけねえな)

そもそもハンジは勉強を優先しないといけない身だ。

そんな相手に恋愛事で頭を悩ませるような事を言っていい訳がない。

リヴァイはそう考えを改めて、自分の気持ちには一度蓋をしようと思い直した。

リヴァイ(もう少し時期を考えてから言おう)

曖昧な関係のままだけど。ハンジの事を思うのならば。

そうリヴァイは自分に言い聞かせて、夜の仕事へ向かうのだった。

夜の仕事が終わった後、エルヴィン店長はハンジに気遣って言った。

エルヴィン「今日は酷い顔だったね。何かあったのか?」

501: 2014/12/01(月) 21:06:28 ID:1MIpCixU0
ハンジ「まあ、大学でちょっといろいろあって」

エルヴィン「そうか」

ハンジ「すみませんでした。仕事前にこんな顔で来てしまって」

エルヴィン「いやまあ、人間だもの。いろいろあるよ」

リヴァイ「みつおの名言か」

エルヴィン「そうそう。幸い今日はリヴァイも居たし、レジは彼に任せたからハンジは作業台で仕事出来て良かったね」

ハンジ「そうですね。レジの日だったら見せられない顔でした」

ハンジがまだ妙に痛々しい空気を出している。気持ちの切り替えが出来てない様子だ。

エルヴィン「嫌な事を言われたのかな」

ハンジ「駄目出しだらけだったよ。そもそも発表出来る段階じゃないとか。詰めが甘過ぎるとか。発想が奇抜過ぎるとか」

エルヴィン「ふむ」

ハンジ「半年も前から準備していた物を全否定されて流石にね」

ハンジの目がまだ暗い。余程今日の授業が堪えた様子だ。

ハンジ「でも負ける訳にはいかない。この程度の事で凹んでいる場合じゃないし」

エルヴィン「まあ、そういうのは通過儀礼みたいな物かもしれないしな」

502: 2014/12/01(月) 21:07:10 ID:1MIpCixU0
ハンジ「うん。失敗は必ず次に繋げる。もう家で散々泣いてきたから明日には笑うよ」

エルヴィン「その意気だ。うん。頑張って」

リヴァイ「……………」

リヴァイは何も言えずに2人の話を聞いているだけだった。

そして自宅に帰宅後はハンジはもりもり夜も自分の事に精を出した。

とりあえず、ハンジの分の夜食におにぎりと味噌汁だけ用意して冷蔵庫に入れておいた。

リヴァイ「………あんまり根を詰め過ぎるなよ。夜食は冷蔵庫にあるから腹減ったら自分で食べろ」

ハンジ「うん。ありがとう。リヴァイはもう寝る?」

リヴァイ「ああ。まあな」

ハンジ「おやすみ」

リヴァイ「おやすみ」

ハンジの起きている気配がする。

それを子守唄にしながらリヴァイは静かに夢の中に堕ちていったのだった。

そして再び目が覚めると、今度はハンジの方が眠って居た。

夜食は食べた形跡がある。また眼鏡をかけっぱなしで眠っている。

503: 2014/12/01(月) 21:07:38 ID:1MIpCixU0
リヴァイ(だから眼鏡くらい外せって)

フレームが歪んだら良くない。あとレンズに指紋がまたついている。

リヴァイ(何でこう、眼鏡を大事にしねえんだ。こいつは)

そしてまたそっと眼鏡を抜いて拭いて脇にそっと置いてみる。

素顔のハンジにリヴァイは再び、顔を近づけて軽いキスをした。

リヴァイ「行ってくる」

それだけ呟いて玄関へ向かう。

もう2回目の朝のキスだけど、悪くない。

このまま習慣にしてしまおう。そう心密かに思うリヴァイだった。

1月24日の夜に飲み会が行われる事になった。

街中の待ち合わせの場所に立ってリヴァイが一人で待っていると、最初にやってきたのはカルラとエルヴィンだった。

504: 2014/12/01(月) 21:08:08 ID:1MIpCixU0
エレン「あ、リヴァイ兄ちゃんだ!」

しかも何故か子供連れでやってきたようだ。エレンと一緒に来たようだ。

飲み会に子供を連れて来ていいんだろうか? 

リヴァイが言外にそういう目でエルヴィンを見ると、

エルヴィン「リヴァイがいるからいいかなって思って」

リヴァイ「おいおい」

子守役かよ。まあいいけど。

そう思いながらエレンの頭を乱暴に撫でてやるリヴァイだった。

カルラ「すみません。エレンがどうしてもついていくって我儘をいうので」

エレン「母さんを夜、一人で歩かせたら危ないだろ?」

一丁前に男の台詞を吐く子供のようだ。

リヴァイ「子供はクソして早く寝るのが一番なのに」

エレン「オレ、夜更かし出来るし!」

リヴァイ「ほー何時まで起きられるんだ? クソガキ」

エレン「オレ、クソガキって名前じゃねえぞ。エレンだ」

505: 2014/12/01(月) 21:09:04 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「何時まで起きられると聞いている」

エレン「ええっと……12時までだ!」

リヴァイ「今、嘘ついたな?」

エレン「嘘じゃねえ。12時までなら起きられる!」

リヴァイ(絶対、サバを読んでいる)

子供は10時頃には眠くなる。この年齢なら恐らくその辺には寝る筈だ。

リヴァイ「エレン。お前が寝る頃にはカルラさんは家に帰すから安心しろ」

エレン「な……何を言うんだよ。母さんは今日は「飲み会」ってやつを楽しむんだろ?」

エレンが気まずそうに視線を泳がせた。

やはり本当は母親と離れて夜を過ごしたくなかったのだろう。

そんな葛藤が見え隠れして思わず「愛い奴め」とこっそり思うリヴァイだった。

そして他のメンバーを引き続き待っていると、次にやって来たのはリーネとイルゼだった。

リーネ「すみません。遅れました」

イルゼ「遅れてすみません」

イルゼはもう一人の朝のアルバイトの女性で、普段は夜学に通っている大学生だ。

506: 2014/12/01(月) 21:09:45 ID:1MIpCixU0
イルゼはハンジ程、おしゃべりという訳ではないようで、余り自分から話かけるタイプではない。

エルヴィン「いや、大丈夫。遅れてないよ」

リーネ「今日の夜シフトはミケとナナバとハンジでしたよね」

エルヴィン「うん。3人は店を閉めてから合流する筈だ」

リヴァイ「あと来ていないのは……」

エルヴィン「モーゼスだな。あ、来た来た」

モーゼスが最後にやって来た。

モーゼス「俺が最後だったか」

エルヴィン「いや、実はキース店長とピクシスエリア長も呼んでいる」

モーゼス「え? エリア長も呼んだのか。あの人来ると、酒飲まされるぞ」

エルヴィン「うっかりバレちゃって。呼ばざる負えなくなった。途中で合流するってさ」

モーゼス「じゃあ先に店に入っていいのか?」

エルヴィン「うん。いいよ。移動しておこうか」

そしてゾロゾロ連れだってお店に歩いて行く一同だった。

507: 2014/12/01(月) 21:13:57 ID:1MIpCixU0
和風のお店でビールと刺身やお摘みを飲んだり食べたりしていたら、いつの間にかエレンがリヴァイの膝の上に座っていた。

どうやらあぐらをかいているところに隙を見て潜り込んだようだ。

カルラ「こら! エレン! 勝手に人の上に座ってから!」

リヴァイ「あー別にいいですよ」

ちょこんと座っている様がなんか可愛らしいので許したリヴァイだった。

リヴァイ「何か食うか? エレン」

エレン「からあげくれ!」

リヴァイ「肉が好きか」

エレン「大好きだ!」

リヴァイ「ほらよ(ひょい)」

エレン「ありがとう!」

508: 2014/12/01(月) 21:14:38 ID:1MIpCixU0
エレンが機嫌よくからあげを食っていた。その様子が何とも微笑ましい。

リヴァイ「美味いか?」

エレン「チョー美味い!」

リヴァイ「そうか。こっちの野菜も一緒に食えよ(ひょい)」

エレン「えー」

リヴァイ「文句言うな。野菜を食わないと背も伸びないぞ」

エレン「そうなのか。じゃあ食う! オレ、背伸ばしたいしな!」

エルヴィン「リヴァイは野菜不足のせいで背丈が伸びなかったのか」

リヴァイ「ビール、ぶっかけていいか? (イラッ)」

エルヴィン「冗談だよ。にしてもすっかりパパさんポジションだね」

リヴァイ「エレン程、俺に懐いてくる子供は珍しいと思うぞ」

エレン「ん?」

リヴァイ「おい、エレン。俺の事は怖くねえのか?」

エレン「何で? 全然。怖くねえよ」

リヴァイ(なんか雰囲気がどことなくイザベルに似ているな)

509: 2014/12/01(月) 21:14:38 ID:1MIpCixU0
エレンが機嫌よくからあげを食っていた。その様子が何とも微笑ましい。

リヴァイ「美味いか?」

エレン「チョー美味い!」

リヴァイ「そうか。こっちの野菜も一緒に食えよ(ひょい)」

エレン「えー」

リヴァイ「文句言うな。野菜を食わないと背も伸びないぞ」

エレン「そうなのか。じゃあ食う! オレ、背伸ばしたいしな!」

エルヴィン「リヴァイは野菜不足のせいで背丈が伸びなかったのか」

リヴァイ「ビール、ぶっかけていいか? (イラッ)」

エルヴィン「冗談だよ。にしてもすっかりパパさんポジションだね」

リヴァイ「エレン程、俺に懐いてくる子供は珍しいと思うぞ」

エレン「ん?」

リヴァイ「おい、エレン。俺の事は怖くねえのか?」

エレン「何で? 全然。怖くねえよ」

リヴァイ(なんか雰囲気がどことなくイザベルに似ているな)

510: 2014/12/01(月) 21:15:06 ID:1MIpCixU0
物怖じしないところとか、はっきりしゃべるところとか。

だからだろうか。リヴァイの方もエレンに対してはさほど嫌悪感はなかった。

エレン「リヴァイ兄ちゃん、来月こそはガリバー旅行記を読んでくれよ」

リヴァイ「ガリバー旅行記ばっかり推してくるな。お前は」

エレン「だってあの話、おもしれえから」

リヴァイ「人間が小人に巨人扱いされる話だぞ? アレのどこが面白いんだ?」

エレン「そこだけじゃねえよ! ガリバー旅行記の面白さは」

と、エレンが白熱しそうになったので慌ててカルラが止めた。

カルラ「エレン、その話は止めなさい。家に帰ってからまた読めばいいでしょうが」

エレン「えー」

カルラ「いう事聞かないと、来月はお小遣い減らすわよ」

エレン「うぐっ」

エレンは渋々、話題を引っ込めた。ちょっと可哀想だった。

カルラ「すみません。この子、好きな事となるとたまに暴走する癖があって」

エルヴィン「ふふ……可愛いじゃないですか」

511: 2014/12/01(月) 21:15:33 ID:1MIpCixU0
カルラ「猪突猛進というか、猛進するというか」

カルラは親の立場でエレンの事をいつも心配していた。

エレン「じゃあウルトラマンの話ならしてもいいのか?」

リヴァイ「ウルトラマンが好きなのか」

エレン「ゴジラも好きだけどな! 仮面ライダーも好きだ! 戦隊シリーズも!」

男の子が通る道を全部驀進しているようだ。

エレン「リヴァイ兄ちゃん、悪役やってくれよ」

リヴァイ(ぶふっ)

定番の遊びとはいえ、まさか飲み会の席でやらされるとは。

カルラ「エレン! いい加減にしなさい!!」

エレン「えー駄目なのかよ」

カルラ「今日は皆でご飯を食べる日なの。あんたは大人しくしてなさい」

エレン「ちぇ」

直後、エレンが詰まらなさそうにしょげた。

しかし其の時、リヴァイは自分から言った。

512: 2014/12/01(月) 21:16:27 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「あー悪役は無理だが、ちょっとだけならサービスしてやろうか?」

エレン「サービス?」

リヴァイ「腕にぶら下がってみるとか」

エレン「いいのか?!」

カルラ「リヴァイさん?!」

リヴァイ「発散させないと後で暴れると思うので」

カルラ「すみません。本当に(ぺこぺこ)」

リヴァイ「おい、エレン。俺の腕にぶら下がってみろ」

エレン「やった!」

ブラーン……

子供一人くらい余裕で片腕で持ち上げるリヴァイだった。

エレン「すげえええええ!」

エルヴィン「おお。これは凄い」

リーネ「凄い! 子供をぶら下げるなんて!」

イルゼ「力が強いんですね」

513: 2014/12/01(月) 21:16:53 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「まあな」

エレンが楽しそうに遊んで、すぐ降りた。

エレン「面白れえ! リヴァイ兄ちゃん、すげえな!」

リヴァイ「まあな」

エレン「他には何が出来るんだ?」

リヴァイ「それはまた今度教えてやる」

そう言ってエレンの頭をグリグリしてやったリヴァイだった。

丁度その頃、店の方のハンジ達は……

ミケ「そわそわしているな。ハンジ」

ハンジ「え?!」

514: 2014/12/01(月) 21:17:20 ID:1MIpCixU0
レジに入っていたハンジがそわそわしていた。

ハンジ「ば、バレる?」

ミケ「バレバレだ。早く向こうに行きたくてしょうがないって顔だな」

ハンジ「そらそうだよ! 皆で楽しんで居ると思うと」

ミケ「今日は夜シフトだったのをすっかり忘れていたハンジが悪い」

ハンジ「そうだけど! エルヴィン店長が24日って決めたからしょうがないよ」

ミケ「今頃、リヴァイは酒を飲んでいるだろうな」

ハンジ「まあねえ」

前回の酒の時の癖を思い出してハンジは苦笑いを浮かべた。

ハンジ(サービス過剰になってなきゃいいけど)

面白いのは面白いけれど。ちょっとだけ不安になるハンジだった。

そしてその日の夜のシフトも無事に終えて閉店した後、3人は店の方に移動した。

ハンジ「遅れてごめーん!」

ミケ「今、来たぞ」

ナナバ「あれ? エリア長とキース店長来ていたのか」

515: 2014/12/01(月) 21:17:47 ID:1MIpCixU0
キース「ご無沙汰だな」

キース店長は以前、調査店で勤務していた。巨人店の方へ移動になったのは去年の9月からだ。

それ以前は調査店の店長をしていて、巨人店への移動と共にエルヴィンが社員から調査店の店長へ昇格したのだった。

ピクシス「美人が2人も追加じゃな! ほれ、こっちに来い!」

ハンジ「遠慮します!」

ナナバ「右に同じく」

ピクシス「つれないの。最近の若いもんはこれだからいかん」

リーネ「まあまあ、人妻で良ければお酌しますよ」

ピクシス「ふむ。是非お願いする(ヒック)」

リーネは年上を転がすのが巧いようだ。

ハンジ(リヴァイは……)

リヴァイの太ももを枕にして何故か子供が寝ていた。

カルラの息子のエレンだ。ハンジはリヴァイの様子にちょっと汗を掻いた。

何故なら赤い顔でカルラと親しげに話し込んでいたからだ。

リヴァイ「ハンジ、今来たのか」

516: 2014/12/01(月) 21:18:33 ID:1MIpCixU0
少し遅れてこっちに気づいた。

ハンジ「あ、うん」

リヴァイ「空いている席にさっさと座れ」

動作で座る様に指示を受けるが、リヴァイとの距離が少し遠かった。

リヴァイとカルラは部屋の奥の方に居て、空いている席は手前しかない。

仕方なくそこにハンジとナナバとミケは揃って座った。

ハンジはリーネの隣に座った。ハンジの隣にナナバが座る。

ハンジの机を挟んで正面の席にはミケが座った。

ハンジはチラチラと奥の席のリヴァイの様子を伺った。

カルラと楽しそうに談笑している様子が何だか、嫌で。

ハンジ(…………お酒のせいだよね?)

リヴァイは酒が入ると少々陽気になるから、きっと。

ハンジ(そうだよ。カルラさんは主婦の方だし、話も合うだろうし)

でも、そんな2人の様子を見るのが少し嫌だった。

ミケ「ソフトドリンクは何にする?」

517: 2014/12/01(月) 21:19:18 ID:1MIpCixU0
其の時、ミケが気遣ってハンジとナナバに話を振った。

ハンジ「ウーロン茶で」

ナナバ「オレンジでイイよ」

ミケ「了解。とりあえず生ビールで」

ミケは酒を飲むようだ。

店員が注文を取って、数分後、新しくドリンクを頂いて飲むと、

ナナバ「そう露骨にがっかりしなさんな」

ナナバが苦笑してハンジを宥めた。

ハンジ「いや、がっかりなんてしてないよ」

ナナバ「ハンジは顔が分かりやすい」

ハンジ「だからがっかりとかじゃないってば!」

ピクシス「何の話じゃ?」

ハンジ「何でもないですよ」

ナナバ「まあ、乙女心は複雑という話ですよ」

ピクシス「ほほう? 恋バナか? わしにも聞かせろ」

518: 2014/12/01(月) 21:19:43 ID:1MIpCixU0
ハンジ「絶対嫌です!」

ミケ「そこは違うって否定しないのか?」

ミケが呆れたようにツッコミを入れる。

ハンジ「は!」

しまった。受け答えを間違えた。

直後、ピクシスエリア長の目が鋭く光った。

ピクシス「ふむ。誰じゃ? ハンジの想い人は」

ハンジ「うわー墓穴掘ったあああ」

ナナバ「まあまあ、ここで話すのはアレなので、後でメールすれば」

ピクシス「約束じゃぞ? 後でこっそり教えなさい」

ハンジ「えええええ」

実はピクシスエリア長は2人ともアドレスを交換済みである。

若い女性の社員やパートアルバイトには必ず自分から声をかけているからだ。

ハンジ「なんでピクシスエリア長に教えないといけないんですか」

ピクシス「わしが知りたいからじゃ」

519: 2014/12/01(月) 21:20:09 ID:1MIpCixU0
ミケ(職権乱用だな)

ミケは思ったが口には出さない。

ハンジ「あの、今はまだ隠したいので」

ピクシス「今は? ではいずれは仕掛けるつもりでおるのか?」

ハンジ「いや、まあ……その、はい」

ピクシス「ほほう。意外と肉食系か?」

ハンジ「肉食というか、その……」

ナナバ「策略系って感じのような気もするけど」

ピクシス「それは悪い女じゃのう」

ハンジ「人聞きが悪いよ!」

ナナバ「まあ、あと一押しってところじゃないの?」

ハンジ「ううーん」

だといいけれど。そう思いつつも誤魔化すハンジだった。

ミケ(まあ、両想いのようではあるが)

今の時点はそう見える。しかしそれで全てうまくいくかどうかは別問題だ。

520: 2014/12/01(月) 21:20:38 ID:1MIpCixU0
ミケはハンジから視線を逸らしてリヴァイの方を見る。

リヴァイはすっかりカルラと話が盛り上がっており、楽しそうだった。

リヴァイ「ああ、分かります。そういう時ってイラッとしますよね」

カルラ「本当、普段はいい人なのに。脱いだ服を散らかす癖さえなければと思うのよ」

どうやら夫の小さな欠点を愚痴っているようだ。

カルラ「主人が忙しいのは分かっているんですけど。あれは癖なのかしら?」

リヴァイ「でしょうね。俺の知っている奴にも似たような癖の持ち主がいます」

カルラ「あら本当? じゃあうちの主人だけじゃないのか。なら安心!」

リヴァイ「眼鏡に指紋をつけたりもするし」

カルラ「うちの主人もよくやるわ! 似たような人がいるものね!」

カルラも少しだけ酒が入って上機嫌の様だ。

カルラ「何だかほっとしたわ。うちだけなのかしら? と思う事もあるけれど、こういう話を誰かにしても「医者の妻」を自慢しているようにしか思われないだろうと思うと、今まで言えなかったのよ」

リヴァイ「女同士だと気を遣うって事ですか」

カルラ「そうそう。「別にいいじゃない。それくらい」って返されるのがオチよ」

リヴァイ「大変ですね」

521: 2014/12/01(月) 21:21:05 ID:1MIpCixU0
カルラ「主婦同士は特にね。リヴァイさんとは話も合うし、これからもたまにお話してもいいかしら?」

リヴァイ「全然構いませんよ」

カルラ「嬉しいわ。うちの携帯の番号を教えておくわ。そちらの番号も教えて下さらない?」

リヴァイ「うちは固定電話しかないですが……」

カルラ「全然構わないわよ。是非教えて欲しいわ」

リヴァイ「分かりました。では……」

エルヴィン(…………)

エルヴィンはそのやり取りを見つめながらモーゼスと話していた。

エルヴィン(こっちはこっちで親密になっているようだな)

其の時、ふと目が覚めたエレンが起き上った。

エレン「ふえ? あれ? ここどこ?」

記憶が混乱しているようだ。

エレン「母さん? 母さんはどこだ?」

カルラ「あら、やっと起きたわね。エレン」

エレン「母さん! えっと……そっか。今日は飲み会だっけ」

522: 2014/12/01(月) 21:21:49 ID:1MIpCixU0
カルラ「そろそろ時間だから帰るわ。すみません」

リヴァイ「いえ、確かにそろそろ時間ですね」

時刻は11時半を回っていた。主婦は流石に帰るべき時間だろう。

リーネ「いっけない。私もそろそろ帰らないと」

もう一人の主婦が同じように立ち上がった。

エルヴィン「そうだな。そろそろここはお開きにするか。来たばかりのミケ達には悪いが」

ミケ「どうせ二次会やるんだろ?」

エルヴィン「是非とも。来られるメンバーだけ二次会という事で」

そしてカルラとリーネは先に抜けて、残ったメンバーで二次会に向かう事になった。

リヴァイ「あーすまん。俺もそろそろ帰りたい」

エルヴィン「えー?」

エルヴィンが露骨に嫌そうな顔をする。

エルヴィン「リヴァイが抜けたら面白くないよ」

リヴァイ「いや、俺、朝の4時から新聞配達の仕事があるしな」

ピクシス「徹夜すれば良かろう」

523: 2014/12/01(月) 21:22:16 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「無理です。既に眠いので」

酒が入ったせいでうとうとしているリヴァイにエルヴィンは言った。

エルヴィン「じゃあカラオケ店の中で寝れば?」

リヴァイ「ああ……成程。だったらエルヴィンの上着を貸してくれ。毛布の代わりに」

エルヴィン「了解。じゃあ移動しようか」

カラオケ店に入るなり、リヴァイはソファを占拠して横になった。

リヴァイ「ハンジ」

ハンジ「何?」

リヴァイ「隣に座れ」

皆の前で命令をするリヴァイにハンジは真っ赤になった。

ハンジ「え? え? 何で」

リヴァイ「枕が要る。太もも貸せ」

ハンジ「えええ?」

リヴァイ「あの時のようにしてくれ」

ハンジ「あ、いや、でも」

524: 2014/12/01(月) 21:22:35 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「……………ZZZ」

それだけ言って目を閉じて先に眠ってしまった。

ピクシス「ほぅ? つまりそう言う事か」

今のやり取りで大体の事を察したピクシスだった。

ハンジ「もー何でここでそういう事、言うかなあ」

周りにニヤニヤされて困るハンジだったが、そこでナナバは言った。

ナナバ「ほら、してあげないの?」

ハンジ「いや、皆が見ている前じゃ流石にやらないよ!」

エルヴィン「勿体ない」

ピクシス「ここでやれば公認じゃぞ?」

ハンジ「いや、でも」

ミケ「ハンジがやらないなら、エルヴィンがやりたそうだぞ」

エルヴィン「ん? 私がやってもいいのかな?」

ハンジ「それは駄目! 分かった! 私がやるから!」

エルヴィンがやりたそうにしたのを牽制してハンジはリヴァイの隣に座った。

525: 2014/12/01(月) 21:23:05 ID:1MIpCixU0
ハンジ「じゃあ、失礼します……」

よいしょっと、体を少しだけ起こして自分の太ももを枕に変える。

リヴァイの眉間の皺を観察すると、微妙に皺が寄っていた。

ハンジ(あ、これ、狸寝入りの方だ)

実は寝ていない事に気づいてハンジは「全くもう」と思った。

その上にエルヴィンのコートを着せてあげて休ませてやる。

イルゼ「歌わない方がいいですかね?」

エルヴィン「どっちでもいいんじゃない? とりあえず追加メニューを出そう。ミケ達の為に」

ミケ「すまんな」

エルヴィン「いいよ。向こうであんまり食べられなかっただろうし」

そしてカラオケ店の中でポテトやピザを皆で食べながら延長戦。

そのうちリヴァイの眉間の皺が消えて、本当に寝入ったようだった。

ハンジ(本当に眠っちゃった)

こっちの顔は凄く可愛い。安らかな寝顔だ。

エルヴィン「おー寝入っているね」

526: 2014/12/01(月) 21:23:30 ID:1MIpCixU0
モーゼス「写真撮ろうか?」

エルヴィン「いいね! 撮ろう」

ハンジ「だ、駄目だよ。起きちゃうよ」

モーゼス「音消して撮れば」

ハンジ「それでも駄目!」

ハンジは咄嗟にそう言ってしまってはたっと我に返った。

ハンジ「いや、その、リヴァイは寝顔を撮られるのが嫌みたいだし」

エルヴィン「ふむ。そうか。なら無理強いは出来ないな」

ハンジ「…………」

そんな訳でハンジとリヴァイは放置されて外野は退散していった。

そして二次会は結局歌わずに皆で飲み食いだけして夜中の2時には解散になった。

キースとピクシスがイルゼを送っていくようだ。

エルヴィン「どれどれ。リヴァイを駐車場まで運びますか」

一番体の大きいエルヴィンがリヴァイを背中に担いだ。

エルヴィン「ん? 意外と重いな。見た目より重いようだ」

527: 2014/12/01(月) 21:23:53 ID:1MIpCixU0
よいしょっと抱え上げてエルヴィンは言った。

エルヴィン「ハンジが止めている駐車場まで運んであげよう」

ハンジ「ありがとう」

エルヴィン「いやいや。自宅に着いたら残りはハンジの役目だからね」

ウインクひとつ、そう言ってエルヴィンと一緒に駐車場に移動する。

ハンジ「エルヴィンは今日、どうやって帰るの?」

エルヴィン「うん。まあ、どうしよっかな」

ハンジ「送ってあげようか?」

エルヴィン「甘えていいのかな?」

ミケ「そうして貰え」

ナナバ「家、近いんでしょう?」

エルヴィン「うん。ハンジが引っ越したおかげで以前より近くなった」

ハンジ「ならいいじゃない。そうしましょうか」

後部座席にリヴァイを転がしてエルヴィンが助手席に乗った。

そして夜中の道を車で走らせていると、

528: 2014/12/01(月) 21:24:17 ID:1MIpCixU0
エルヴィン「ねえ、ハンジ」

ハンジ「何?」

エルヴィン「あの時のようにってリヴァイが言っていたけれど」

ハンジ(ギクリ)

エルヴィン「もう2人はそういう事をする仲だったのか?」

ハンジ「膝枕の件かな?」

エルヴィン「そうそう」

ハンジ「いやーあの時は、その」

初詣を思い出してハンジが照れた。

ハンジ「初詣に行った帰り、リヴァイが人酔いしちゃってね。気分悪くなってしまって、夜の公園のベンチでちょっと休んだ。其の時に少しだけ膝枕してあげたの」

エルヴィン「ほーいいねえ」

ハンジ「いや、私の方がリヴァイの事をちゃんと把握していなかったのが悪い。彼が人に酔いやすいって事を知らなかったから」

エルヴィン「わざと酔ったふりをしたとかじゃないの?」

ハンジ「えー? それはないと思うよ」

エルヴィン「どうだろう? それくらいの策は講じても良さそうな気がする」

529: 2014/12/01(月) 21:24:44 ID:1MIpCixU0
ハンジ「もしそうだとしたら嬉しいけれど」

エルヴィン「まだ告白するつもりはないの?」

ハンジ「告白した方がいいかな」

エルヴィン「私はもうしてもいい気がするけど」

エルヴィンはカルラとの件を伏せたままハンジにそう言った。

機を逃したら上手くいかなくなる事なんて多々あるのだ。それが例え両想いであっても。

ハンジ「そ、そう思う?」

エルヴィン「うん。リヴァイの方もハンジに対して満更ではないと思うよ」

ハンジ「ううーん」

エルヴィン「自分から告白出来ない理由でもあるのかな」

ハンジ「…………」

ハンジは答えるべきか悩んだ。でもエルヴィンになら話してもいいかと思い直して言った。

ハンジ「あると言えばあるけれど」

エルヴィン「ふむ」

ハンジ「実は………」

530: 2014/12/01(月) 21:25:20 ID:1MIpCixU0
そして丁度その時、リヴァイはふと目を覚ました。

後部座席に乗せられている自分に気づいて片目だけ開いた。

そして目に入って来た光景にぎょっとした。

助手席にエルヴィンが居て、ハンジが運転していて。

いつも自分が座る場所にエルヴィンが居る。

そう思った直後、胃の中がムカムカして吐き気がしてきた。

すぐ起き上って文句を言おうと思ったが、其の時、

ハンジ「今、私から告白したら、都合のいい女で終わらないかな?」

リヴァイ(ピクッ)

何か大事な話をしている気配を感じて押し黙った。そしてまた寝たふりを決め込む。

エルヴィン「都合のいい女? そう思っているのか?」

ハンジ「私の方が惚れ込んでいるのは分かっている。リスクは承知の上でリヴァイの元に転がり込んだのは私の方だから、仕方がないとは思っているけれど」

エルヴィン「ふむ」

ハンジ「布団に潜り込んだ時も、すぐに『布団から出ろ!』って追い出されたし、その前も『八方美人の女に可愛いなんて言ってやる義理はねえな』とかも言われたし」

リヴァイは背中に冷や汗を掻いた。

531: 2014/12/01(月) 21:25:46 ID:1MIpCixU0
リヴァイ(いや、あれは、その、ええっと)

言い訳したくて仕方がないが、ここで言うのは控えた。

エルヴィン「ええっと、布団から出ろの件は私も襖越しに聞いていたから知っているけど、後者の件はどういう事だ?」

ハンジ「あーええっと、つまり、その」

ハンジはその時の事を思い出して大体の事をエルヴィンに説明した。すると、

エルヴィン「あーそういう事だったのか」

と、エルヴィンはすぐ納得した様だ。

エルヴィン「成程。ハンジはその件があったから、吹っ切れていない訳だ」

ハンジ「そうだと思う」

エルヴィン「女性は褒められると素直に喜ぶ事が多いものだしね」

ハンジ「お世辞でも嬉しい物だよ。たとえ嘘でもね」

エルヴィン「もしかして、ハンジは葛藤を抱えているのかな」

ハンジ「葛藤?」

エルヴィン「好きな人に好かれたい。でも自分を変えるのは嫌だ。みたいな」

ハンジ「あーそれはあるかもしれない」

532: 2014/12/01(月) 21:26:36 ID:1MIpCixU0
ハンジは運転しながら思った。

ハンジ「外見とかはまあ、工夫すればどうにでもなるけれど、中身は難しいよね」

エルヴィン「その気持ちは私にも分かる」

ハンジ「ありがとう。そう言って貰えて嬉しいよ」

ハンジはそして少しだけ諦めたような気持ちで言った。

ハンジ「リヴァイの理想通りに行動出来なかった自分が悲しい反面、受け入れて貰えない事も悲しいような」

リヴァイ(違う……)

受け入れてないなんて言ってない。

あの時はまだ、確信めいたものがなかったから、言葉が捻くれただけだ。

ハンジの気持ちが明確であるのなら、もう躊躇いは無いのに。

エルヴィン「そこで『リヴァイが言ってくれたらそれでいい』って言えたら良かったのにって後悔している?」

ハンジ「うーん。そこで素直に言える性格なら、こんな回りくどい事をしていないような気もするよ」

エルヴィン「確かに回りくどい。面と向かっては言えない照れ屋さんだね」

ハンジ「あー分かってる! それは分かっているけど!」

何だかエルヴィンと盛り上がっている様子がムカついた。

533: 2014/12/01(月) 21:27:04 ID:1MIpCixU0
リヴァイ(他の男の前でそんな風に楽しげに話すんじゃねえよ)

狸寝入りをしているリヴァイはイライラしながら、どのタイミングで起きてやろうかと思っていた。

ハンジ「も、もうちょっとだけ、長期戦で考えたら駄目かな?」

エルヴィン「おや? 怖気づいてしまうのかな?」

ハンジ「だって、告白するのってやっぱり、勇気がいる事だし」

エルヴィン「まあ、その辺の事はハンジ次第だけど……」

エルヴィンはひとつだけ懸念があった。

エルヴィン「リヴァイはモテそうな感じもするから、あんまりグズグズしない方がいいとは思うよ」

ハンジ「え?」

エルヴィン「店の中でも、若い女性のお客さんから何度かリヴァイへの問い合わせがあったからね」

リヴァイ(何? それは初耳だ)

それはリヴァイも知らなかった情報だった。

ハンジ「そ、そうなの?」

エルヴィン「うん。まだ小学生高学年くらいだったけど。おかっぱの茶色の可愛い女の子が私に聞いて来たよ」

ハンジ「リヴァイは子供キラーなのかな」

534: 2014/12/01(月) 21:27:30 ID:1MIpCixU0
エルヴィン「年下にウケるのかもしれない。でも年上も用心した方がいいかも」

ハンジ「え?」

エルヴィン「マダムキラーでもあるって事だ。リヴァイは女性ウケが悪くない。あれで愛想笑いを覚えたら最強の接客マスターになれそうだ」

ハンジ「接客マスターって」

エルヴィン「それだけ神経が細かいって事だろう。問い合わせに対する受け答えが的確で早いという評判も聞いている。見た目は不愛想だけど、話してみたら案外いい人っていうのがリヴァイの評価のようだ」

ハンジ「そうだね。リヴァイ、見た目ほど、中身は怖くないもんね」

リヴァイ(そうなのか)

自分ではそう思っていないので意外だと思った。

エルヴィン「ライバルはいつどこで現れるか分からない。あんまりのんびり構えていたら横から攫われちゃうかもしれないよ」

ハンジ「ううう………」

エルヴィン「まあ、ハンジのペースで頑張るしかないとは思うけど」

ハンジ「グズグズしない方がいいといいつつ、ペースを守れって難しい話だね」

エルヴィン「人間は欲張りな生き物だからね」

ハンジ「そうだね。私、欲張りなのかな」

エルヴィン「ハンジだけじゃないよ」

535: 2014/12/01(月) 21:27:57 ID:1MIpCixU0
ハンジ「そうかな?」

エルヴィン「リヴァイもそうだと思う。彼の視点から見れば、今日一日が凄く贅沢な一日じゃないのかな」

リヴァイ(全くその通りだな)

リヴァイは狸寝入りをしながら心の中で相槌を打った。

リヴァイ(酒を飲んで、タダ飯食って、車で自宅まで運んで貰えるなんて)

一昔前なら到底叶う事ではなかった。

それもこれも、ハンジやエルヴィンや、新しい縁の人間達のおかげだ。

感謝する。でもそれ以上に、今の幸せが怖かった。

リヴァイ(ハンジを利用しているのも分かっている)

それでもリヴァイはもっとハンジの方から自分の方へ来て欲しい気持ちを押さえられなかった。

リヴァイ(伝えていいのなら、今すぐにでも伝えたいんだが)

でもハンジの立場とか、それ以外の事や、いろんな事を考えると。

自分から言いだせない自分もいる。それはハンジも同じだとすれば。

リヴァイ(でも、このままでいいのか? 本当に)

胃の中がムカムカしている。その感情を見て見ぬふりは出来ない。

536: 2014/12/01(月) 21:28:23 ID:1MIpCixU0
早くエルヴィンの自宅に辿り着いて欲しい。

エルヴィンを降ろした後は、2人きりで話したい。

ハンジ「そうだといいけれど」

エルヴィン「きっとそうだよ。では私はこの辺で降りる」

ハンジ「自宅までつけなくていいの?」

エルヴィン「そこのコンビニで降ろしてくれたらいい。ウコンを買って帰るから」

ハンジ「分かった」

そしてエルヴィンは車から降りて行った。その降り際に、ウインクを残して。

当然、ウインクの先はリヴァイ宛てである。

それに気づいてリヴァイは「あの野郎」と内心毒ついた。

リヴァイはバックミラー越しの合図に気づいて舌打ちした。

その音にハンジが「え?」と驚いて振り向いた。

リヴァイは身体を起こした。何も言わずに無言のまま。

ハンジ「お、起きた?」

リヴァイ「ああ」

537: 2014/12/01(月) 21:28:56 ID:1MIpCixU0
ハンジ「ええっと、今、起きたんだよね?」

ハンジは内心焦っていた。どの辺からエルヴィンとの会話を聞かれたのかと。

リヴァイ「………………」

リヴァイは答えなかった。物凄い形相でバックミラー越しにハンジを睨んでいる。

ハンジ「……………」

気まずい空気が漂った。ハンジも何も言えない。

リヴァイ「ハンジ」

ハンジ「何でしょうか?」

リヴァイ「少し、寄って欲しいところがある」

ハンジ「何処ですか?」

リヴァイ「以前住んでいたアパートの近くに公園があっただろ」

ハンジ「ああ………」

クリスマスの時にリヴァイを降ろした公園だ。

リヴァイ「あの付近でいい。移動してくれねえか?」

ハンジ「わ、分かった」

538: 2014/12/01(月) 21:29:31 ID:1MIpCixU0
夜中なので余り飛ばさないようにしてハンジは移動した。

そして公園の近くに車を一旦止めると、エンジンは切らないで停車した。

ハンジ「……………」

ハンジはバックミラー越しにリヴァイを伺った。

リヴァイの機嫌が過去最高に悪いような気がして下手に口がきけなかった。

リヴァイ「…………」

リヴァイもまた何も言わずに無言が続いた。

エンジンを切ると暖房も消えてしまうのでそのままにしている。

無言の中、暖房の音だけが2人を包んでいた。

ハンジ(どの辺から起きていたんだろう)

バックミラーはあくまで後部の車間距離を確認する為に使う。

後部座席の人間に対してそこまで逐一気にかける訳ではない。

だからハンジは気づかなかったのだ。リヴァイが目を覚ましていた事に。

ハンジ「あの、何か話があるんだよね?」

無駄に時間を使うのもなんだし、と思ってようやくハンジが声を出すと、

539: 2014/12/01(月) 21:29:54 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「お前、何で自分の車の助手席にエルヴィンを乗せた」

リヴァイもようやく言葉を発した。

ハンジ「へ?」

リヴァイ「いつも通り、俺をそっちに乗せたら良かったじゃねえか」

ハンジ「いや、あなた寝ていましたから! 眠って居る人は普通、後ろの席でしょうが」

リヴァイ「俺に気遣って後ろの席にしたっていうつもりか?」

ハンジ「それ以外に何の理由がありますか!」

ハンジが後ろを振り向いてそう言うと、リヴァイは目を細めていた。

不機嫌な表情は消えていない。何か不満があるようだ。

ハンジ(ええっと、何でリヴァイ、怒っているの?)

助手席に座りたかったのだろうか?

ハンジ(いや、でもそれだと寝にくいよねえ?)

ハンジはあくまで寝やすさを優先してリヴァイを後ろに寝かせた。

しかしリヴァイから見たらそれは余計なお世話だったのだ。

リヴァイ(エルヴィンを横に乗せるのが気に食わないなんて)

540: 2014/12/01(月) 21:30:20 ID:1MIpCixU0
そんな事は言えなかった。自分にはそれを言う権利はないからだ。

でもそんな嫉妬深い自分に気づいてリヴァイは深いため息をついた。

リヴァイ(自分でも自分がうぜえ……)

何でこの程度の事が気になってしまうのか。器量が小さ過ぎて嫌になる。

それに不満は他にもまだある。

リヴァイ「あとエルヴィンと楽しそうに話していたじゃねえか」

ハンジ「え?」

リヴァイ「俺の話を何でエルヴィンと話す。何で俺に直接言わない」

リヴァイの声が少し震え始めていた。

其の時、蓋をしていた筈の感情が少しずつ漏れている事に気づいた。

ハンジ「何でって……」

ハンジは答えに困った。エルヴィンだからとしか言いようがない。

ハンジ(エルヴィンは何故か話しやすいんだよね)

悩みとか相談事とか。気軽に聞いてくれるからついつい。

プライベートな事でも割と的確なアドバイスをくれるし、客観的に物事を見る事に長けている。

541: 2014/12/01(月) 21:32:20 ID:1MIpCixU0
だから頼ってしまう。それは異性としてより父親や兄貴的な意味合いに近い。

ハンジの答えがなかなか出ない事に苛ついてリヴァイは唇を噛んだ。

ハンジの事を疑う訳じゃない。それでも、他の男と親密にしている様子を見せられて。

平静で居ろと言うのは、虫が良すぎる話だと思った。

リヴァイ(腹の中の物を全部吐き出したい気分だ)

胃のムカつきが凄まじい事になっていた。それを必氏に堪える。

後部座席を立ち上がり、ハンジの体を後ろから拘束する。

右腕を回して、ハンジの首をロックするようにして。

ハンジ「!」

突然の行動にハンジは冷や汗を掻いた。

ハンジ「な、なんの真似ですか?」

リヴァイは左手でハンジの髪の毛を弄った。

そして彼女の耳元に自分の口を近づけて囁いて言う。

リヴァイ「もう2度と、俺以外の男を助手席に乗せるんじゃねえ」

ハンジ「え?」

542: 2014/12/01(月) 21:32:46 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「いいから、約束しろ。約束しねえんだったら、同居の関係は解消する」

ハンジ「ええっ……?!」

突然の拘束と突拍子もない約束にハンジは目を白黒させた。

ハンジ「な、なんでいきなりそんな話を」

リヴァイ「俺を家主だって言ったのはハンジの方だろ」

ハンジ「そうだけど! 何がどうなってリヴァイの中でそうして欲しい事になったのかこっちは理解出来てないよ?!」

リヴァイ「説明する必要はねえだろ。汚ねえからだ」

ハンジ「………あ、そういう意味で?」

ハンジはやっと理解した。そう言えばリヴァイは潔癖症だった。

リヴァイ「そうだ。そこに座る事が多いのは俺だ。エルヴィンはまだいいが、知らない他人を乗せたらそれだけで気分が悪い」

ハンジ「潔癖症、ここに極まりだなあ」

リヴァイ「俺の指定席だ。もう汚すんじゃねえ」

それはリヴァイなりの遠回しな告白だった。

素直に言えない自分なりの、精一杯の言い回しだった。

しかしハンジはそれを言葉通りに受け取って「分かった」と素直に頷いた。

543: 2014/12/01(月) 21:33:10 ID:1MIpCixU0
ハンジ「次、リヴァイが酔っぱらった時は助手席に乗せる。寝にくいだろうけど文句は言わないでね」

リヴァイ「座ったままでも寝る事は出来る」

ハンジ「器用な人だね」

リヴァイ「いや、俺は器用な方じゃねえけど」

どちらかというと不器用な人間だ。でなければこんな風には言わない。

ハンジ「謙遜しますね。まあいいか。それはそれで」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「あ、いや何でもない。こっちの話。げふげふん」

何故か誤魔化しの咳をされてしまった。

リヴァイ「何が言いたい」

ハンジ「いや、何でもないってば」

リヴァイ「言え。言わないと絞める(ぎゅうぎゅう)」

ハンジ「ぐえ! 酷い……ちょ……ギブ! ギブ!」

リヴァイ「で? 言う気になったか?」

ハンジは渋々白状する事にした。

544: 2014/12/01(月) 21:33:34 ID:1MIpCixU0
ハンジ「ええっと、座って眠れるタイプなら長距離バスとか飛行機とかでも眠れるって事だよね」

リヴァイ「………乗った事がないから分からないが、多分そうじゃねえか?」

ハンジ「そういう人となら、一緒に旅行とか出来るなって思っただけ。いつかリヴァイとも遠出をしてみたいな」

リヴァイ「…………」

それはいつかリヴァイが言った夢の再現でもある。

まさかハンジの方からも同じ事を言いだしてくるとは思わず、言葉に困った。

ハンジ「いや、今すぐって話じゃないよ? いつか何処かに行きたいなあって事だよ」

リヴァイ「金のない俺にそんな事を言うな」

ハンジ「ちょっとずつ貯めればいいじゃない」

リヴァイ「やめろ。余り未来に過剰な期待を寄せるのは」

ハンジ「ええ? 駄目?」

リヴァイ「ああ。そんな贅沢な事はしなくていい」

今、こうしているだけでも十分幸せだった。

リヴァイ(………………離したくない)

首を拘束している状態を解きたくなかった。

545: 2014/12/01(月) 21:34:02 ID:1MIpCixU0
理性と本能がせめぎ合って、リヴァイの頭を悩ませる。

そんな最中、ハンジの方も頭を悩ませていた。

ハンジ(もう私の気持ちはバレているよね)

どの辺からエルヴィンとの会話を聞かれたのかはっきりしないとはいえ。

話の流れを察する事が出来れば恐らく、自分の気持ちは流石にリヴァイにバレただろう。

ハンジ(バレているのに、それ以上の事を言わないって事は)

今はまだ、そういうつもりではないのか。それとも。

ハンジ(まだ首を絞めるつもりなのかな)

一向に離す気配がなくてどうしたらいいか迷う。

いや、温かいけれど。マフラーみたいな感じで。

ハンジ(今、このタイミングで言うべきかな)

真夜中の車内で。他の誰にも聞かれない場所で。

ハンジ(私の方から勇気を出して、言ったら……)

人生のターニングポイントだった。

2人同時に訪れたチャンスに2人は同じように考え込む。

546: 2014/12/01(月) 21:34:27 ID:1MIpCixU0
リヴァイ(今、ここで俺の気持ちを……)

ハンジ(今、ここで私の気持ちを………)

伝えるべきか。否か。

無言の中で迷う。

リヴァイ(でも、俺の気持ちを伝えていいのか? 本当に)

ハンジ(でも、私の気持ちを伝えてもいいのかな? 本当に)

リヴァイ(稼ぎも少ない子持ちの男なのに)

ハンジ(背が高くてあんまり女らしくないずぼらな女だけど)

リヴァイ(この関係をはっきりさせるということは……)

ハンジ(この関係をはっきりさせたら………)

リヴァイ(同居から同棲って形に変わるって事だ)

ハンジ(同居から同棲って形に変わるのよね)

リヴァイ(そうなったらハンジに今以上に負担をかけやしないだろうか?)

ハンジ(リヴァイはそういう意味で私を見てくれるのかな?)

547: 2014/12/01(月) 21:34:51 ID:1MIpCixU0
リヴァイ(ただでさえ、忙しい医学生の身なのに)

ハンジ(金だけ貢がせて、ポイ捨てするような男じゃないとは思うけど)

リヴァイ(せめてもう少し俺の方に稼ぎがあれば)

ハンジ(愛を餌にぶら下げられて、リヴァイの言いなりになる女にはなりたくない)

リヴァイ(今はまだ、俺は一人前の大人ですらねえし)

ハンジ(油断すると理性が壊れそうになる。そこはブレーキをかけないと)

リヴァイ(あいつらにも、釘を刺されている訳だし)

ハンジ(好きだけど、今はまだ駄目な気がする)

2人とも葛藤の末、理性の方が僅かに上回った。

ハンジ「分かった」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「まあ、予定は未定って事だよね。もし臨時収入でも得られたら其の時に考えようか」

リヴァイ「臨時収入があったらハンディークリーナーかルンバが……」

ハンジ「あれええ? ルンバは買わないんじゃなかったの?」

548: 2014/12/01(月) 21:35:26 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「はっ……! (ギクリ)」

ハンジ「冗談だよ。そろそろ家に帰ろう。体を冷やしちゃうよ」

リヴァイ「そ、そうだな」

そしてリヴァイはハンジの拘束を解いて座りなおそうとして、

リヴァイ「ハンジ」

ハンジ「何?」

リヴァイ「助手席に移動してもいいか?」

ハンジ「どうぞどうぞ」

そしてハンジの車の助手席は、その日からリヴァイの指定席になったのだった。

1月25日。その日の休みのリヴァイの表情は気持ち悪かった。

イザベル「………」

ファーラン「…………」

2人はツッコミたくて堪らなかったがあえて控えた。

549: 2014/12/01(月) 21:36:07 ID:1MIpCixU0
ファーラン(お互いの気持ちを確認したのか?)

そんな雰囲気だった。リヴァイの目がハンジを見つめて、ハンジは困ったように視線を逸らして逃げていたけれど。

朝食を取って朝の支度をして出かけていくハンジを律儀に見送っていくリヴァイだった。

イザベル「兄貴、なんか機嫌が良すぎて気持ち悪い」

リヴァイ「ん? そうか?」

イザベル「変な物でも食ったような顔だ」

リヴァイ「まあ、そうかもしれん」

リヴァイは玄関のドアを閉めてから言った。

リヴァイ「今日の真夜中、ハンジといろいろあった」

イザベル「やっとチューしたのか」

リヴァイ「いや、そういう事は一切していない」

イザベル「ん? じゃあ何で機嫌がいいんだ?」

リヴァイ「まあ、そこは説明させるな」

リヴァイは助手席の件をいたく気に入っているのである。

イザベル「チューしてねえのに機嫌が良くなるってどういう事だ?」

550: 2014/12/01(月) 21:36:34 ID:1MIpCixU0
イザベルが首を傾げている。ファーランも似たような心境ではあったが。

ファーラン(なんかいい事があったんだろうな)

多分、大した事じゃない。でもリヴァイにとっては幸せな事だろう。

ファーラン(やれやれ。両想いだっていうのにまだキスすらしてねえとは)

自分と比べると亀のような恋愛模様だと思ったファーランだった。

ちなみにファーランは中学一年生でありながら既に童Oを卒業している。身体は大きい方だし、顔も良い方で、運動神経も成績も良いとくれば、筆おろしをしてくれるお姉さんくらいすぐ引っかけられる。

ただ身体の方は成熟していても、心の方は未完成であるが故にファーラン自身は本当の恋愛を経験した事がなかった。

本気で女性を好きになった経験はまだない。そういう意味ではリヴァイを少しだけ羨ましくも思っていた。

そしてふと其の時、リヴァイはカレンダーを見て思った。

リヴァイ(そう言えば、あれからひと月経ったのか)

クリスマスにプレゼントを貰ってから丁度、今日でひと月経った。

リヴァイ(あの時は本当に、嬉しかった)

思い出すと胸がじんわり温かくなる。

急に乙女な表情になるリヴァイの様子にイザベルとファーランは噴き出しそうになっていたが、必氏に堪えて部屋に退散した。

今日は日曜日なので2人も学校は休みだ。家で過ごす予定だ。

551: 2014/12/01(月) 21:36:59 ID:1MIpCixU0
リヴァイも家事仕事に精を出そうと思っていた。しかし其の時、

ルルル……

電話が鳴った。誰だろう?

リヴァイ「どちら様ですか?」

カルラ『どうも、カルラです。リヴァイさん、今、時間よろしいですか?』

リヴァイ「ああ」

こんな時間に誰だろうと思っていたらカルラからの電話だった。

リヴァイ「大丈夫ですよ」

カルラ『良かった! あの、急なお話で申し訳ないんですけど、今日一日だけ、臨時のお仕事をされませんか?』

リヴァイ「臨時? 緊急の仕事ですか?」

お仕事なら大歓迎だ。リヴァイがすぐに表情を引き締めると、

カルラ『はい。個人的なお願いで申し訳ないんですけど。エレンを一日だけ、預かって貰えないかと』

リヴァイ「託児的な感じですか」

カルラ『そうです。お昼から急な用事が出来てしまって、今回はエレンを連れていけないのですよ』

リヴァイ「何時間くらいですか?」

552: 2014/12/01(月) 21:37:38 ID:1MIpCixU0
カルラ『お昼の12時から夕方の6時くらいまでお願いします』

リヴァイ「分かりました。いいですよ」

カルラ『本当ですか?』

リヴァイ「緊急の用事なら仕方がないですよ」

カルラ『本当にありがとうございます! ではまた後ほど……』

そして電話を切る事になった。

リヴァイ「臨時の仕事か……」

まあ、臨時収入は有難い。

リヴァイが準備をして待っていると、12時前くらいにカルラとエレンがやってきた。

カルラ「本当にすみません。お世話になります」

エレン「リヴァイ兄ちゃん、宜しくお願いします!」

リヴァイ「おう」

いつも元気なエレンが挨拶をしてきた。また頭を撫でてやる。

カルラ「あの、とりあえずこちらで」

カルラが封筒を渡してきた。どうやら前払いという事らしい。

553: 2014/12/01(月) 21:38:02 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「いえ、それは後ででも」

カルラ「いえいえ、こういうのは先にお支払するべきものですので」

妙に律儀で何か引っかかった。リヴァイは内心、首を傾げつつもそれを渋々受け取る。

カルラ「エレン、いい子にしておきなさいよ」

エレン「おう」

カルラ「では6時には必ず戻りますので、宜しくお願いします」

そしてカルラさんは急いで駆けて行った。

リヴァイ(余程大事な用事があるんだろうか?)

何処か焦っているようにも思えたが。

リヴァイ(まあ、人の家の事だし、あんまり気にする方がいかんか)

気持ちを切り替えてリヴァイはエレンを家の中に入れた。

イザベル「ん? なんだこいつ」

エレン「こいつじゃねえ。エレンだ」

イザベル「女の子か?」

エレン「男だ!」

554: 2014/12/01(月) 21:38:25 ID:1MIpCixU0
イザベル「ふーん。兄貴、どうしたんだ?」

リヴァイ「今日、半日だけエレンをうちで預かる事になった」

ファーラン「また面倒な事を」

リヴァイ「仕事として請け負った事だ。金は前払いで」

そして封筒の中身を見てぎょっとしたリヴァイだった。

リヴァイ(なんで3万円も入っている?!)

破格の値段にぶったまげた。たった半日で3万円?

リヴァイ(金銭感覚がおかしいのか? カルラさんは)

医者の奥さんだからだろうか? いや、でも。

リヴァイ(今日のカルラさん、妙に綺麗にしていたな)

まさかとは思うが、いや、これは邪推か。

リヴァイ(……………考えるのはよそう)

緊急の用事とやらが何なのか。プライベートな部分だ。踏み込んではいけない。

リヴァイ「昼飯、まだ食ってないのか。エレン」

エレン「まだ食べてねえ」

555: 2014/12/01(月) 21:38:51 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「じゃあ好きな物を作ってやるぞ」

エレン「チーズハンバーグ!」

イザベル「ぜ、贅沢な物を頼みやがって」

リヴァイ「いいぞ。作ってやる。買い物に行ってくるから、イザベルとファーランはエレンの面倒をみておけ」

ファーラン「やれやれ」

そしてリヴァイは自転車でスーパーまで走った。

リヴァイが急いで買い物を済ませて家に帰り、昼飯を準備する。

出来上がったチーズハンバーグにエレンは目を輝かせた。

エレン「ふううううう! 美味そう!」

ほっぺを赤くしてニコニコしている様子が萌えた。

リヴァイ(いかん、よその家の子だというのに)

イザベルも似たような顔をしているが、必氏に堪えている。

ファーランも「ほう」という顔をしていた。

リヴァイ(うちの子も負けてねえな)

今日はキュンキュン出来る日だなと思いつつ四人でチーズハンバーグを食べた。

556: 2014/12/01(月) 21:39:13 ID:1MIpCixU0
エレン「今日は母さん、大事な日だからな」

リヴァイ「大事な日?」

エレン「ええっと、どうしても会いたい人がいるから会いに行くんだって」

ざわ……

それは浮気とかそういう類の事なのか?

一瞬、過った嫌な感情をリヴァイは慌てて拭った。

リヴァイ「そうか」

エレン「うん。そういう時の母さん、すげえ綺麗にしていくからなあ」

リヴァイ「…………」

エレン「でも必ずお土産も買ってきてくれるんだ! いいだろ? にしし」

リヴァイ「そうか」

エレン「オレは一人でも留守番出来るって言ったんだけどな。母さん、心配性だから」

リヴァイ「ああ、成程」

エレン「今日は悪役、やってくれるよな? リヴァイ兄ちゃん」

リヴァイ「ん? ああ」

557: 2014/12/01(月) 21:39:38 ID:1MIpCixU0
今日は別にいい。家の中なら問題ない。しかし其の時イザベルが口を挟んだ。

イザベル「何で兄貴が悪役なんだよ。むしろ正義のヒーローだろ?」

エレン「ヒーローはオレがやるんだよ!」

イザベル「駄目だ。兄貴がヒーローだ。悪役ならファーランの方が向いている」

ファーラン「おいおい」

ファーランは苦笑いだった。

ファーラン「なら、人質役はイザベルだな。エレンがイザベルを助けるって事で」

イザベル「ヒロインか。いいぞ」

エレン「ならリヴァイ兄ちゃんとオレが2人でひとつのヒーローだ!」

リヴァイ「そんなのあるのか」

エレン「そういうシリーズもあるんだよ! オレ、ライダーシリーズ全部視聴済みだから!」

子供ってすげえな。と思ったリヴァイだった。

そんな感じでごっこ遊びをしていたら、あっという間に時間が過ぎた。

昼の3時頃、エレンは遊び疲れて眠ってしまい、イザベルもうたた寝し始めた。

ファーランがイザベルを部屋に運んで、エレンはリヴァイの部屋でとりあえず寝かせる事にした。

558: 2014/12/01(月) 21:40:01 ID:1MIpCixU0
ファーラン「浮気かなあ?」

突然、ファーランがぎょっとするような事を言いだしたのでリヴァイは嗜めた。

リヴァイ「縁起でもない事を言うな」

ファーラン「いや、だって。金、貰ったんだろ?」

リヴァイ「多過ぎる分は後で返す」

ファーラン「貰っておけよ。口止め料も含むのかもしれねえだろ」

リヴァイ「他人の家のゴタゴタに巻き込まれるのは困る」

ファーラン「旦那の文句とか、聞いてねえの?」

リヴァイ「酒の席の事だ。多少は出るだろ」

ファーラン「本気かもしれねえのに」

リヴァイ「俺にはそうは見えなかった。何より家庭を壊すような女性には見えない」

ファーラン「女は怖い生き物だぞ? リヴァイ」

リヴァイ「お前、最近、妙に洒落こんでいるよな」

リヴァイは気づいていた。中学生になってからのファーランはそれ以前よりめかしこんでいると。

ファーラン「んーまあ、年頃だからな。身だしなみはちゃんとしているけど」

559: 2014/12/01(月) 21:41:17 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「女に貢がせているのか?」

ファーラン「俺はデート代を払わない程度だよ。あんまり露骨なやり方はしない」

リヴァイ「もっと酷いじゃねえか」

ファーラン「リヴァイには言われたくねえな」

リヴァイ「…………」

ファーラン「心配するなって。少しずつ女に負担させているだけだ。一人当たりの負担はそんなに大したもんじゃない」

リヴァイ「何だって?」

それは初耳だった。

リヴァイ「何人引っかけているんだ」

ファーラン「固定で2人。不定期で3人くらいかな」

リヴァイ「お前……」

ファーラン「仕方がねえだろ。そこそこイケメンの顔に産まれた宿命みたいなもんだ」

リヴァイ「……………うちが裕福じゃねえからか?」

引け目を感じてそうリヴァイが言うとファーランは即座に「違う」と言った。

ファーラン「例え家が金持ちだったとしても俺は同じようにしたと思う」

560: 2014/12/01(月) 21:41:45 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「つまり、ファーランは女癖が悪い男だという事か」

中学一年生で既にプレイボーイの貫録を持つファーランにリヴァイは頭が痛くなった。

ファーラン「飽きっぽいのもあるかもな。リヴァイのように一人の女に執着した経験がねえし」

リヴァイ「そうなのか」

ファーラン「ああ。そういう意味ではリヴァイの事を羨ましいとも思うぜ?」

リヴァイ「一人に絞れないのか?」

ファーラン「今はまだ無理だな。そういう恋愛はまだ早い気がする」

リヴァイ「……………」

後ろから刺されなければいいが。そう思うリヴァイの心配が顔に出たようで、

ファーラン「大丈夫だ。恨まれないように巧い事やっている。リヴァイに迷惑をかけるような事はしない」

リヴァイ「ならいいが」

ファーラン「出来れば定期的にハンジさんと泊りがけで出かけてくれるとこっちはもっと助かるけど」

リヴァイ「おい、それは女を家に連れ込みたいと言う風に聞こえるが?」

ファーラン「そんな事は一言も言ってねえのに」

リヴァイ「うるせえ。ファーランのやり口は知っている。そういう事なら目を光らせてやる」

561: 2014/12/01(月) 21:42:05 ID:1MIpCixU0
ファーラン「ちっ……」

舌打ちして残念そうに軽い口を叩くファーランだった。

約束の夕方の六時頃にカルラが戻って来た。

カルラ「すみません。今日は本当にお世話になりました」

リヴァイ「いえいえ」

カルラ「エレンは何か物を壊しませんでしたか?」

リヴァイ「特には。ちゃんと大人しくしていましたよ」

カルラ「良かった……この子、保育園時代に物を壊し過ぎて入園拒否をされた経験があるもので心配していたんです」

リヴァイ「え……」

そんな凶暴な子供だったのか。

562: 2014/12/01(月) 21:42:34 ID:1MIpCixU0
エレン「む、昔の事を引っ張りだすなよ。母さん! 今はちゃんと反省してるし!」

エレンが恥ずかしそうにしている。

カルラ「本当に? 大丈夫だったの? お兄ちゃんに迷惑かけてない?」

エレン「ちょっと遊んで貰っただけだ。その後はぐーすか寝てた!」

カルラ「ならいいけど」

エレン「母さんは無事に会えたのか? ええっと、なんて名前だったっけ?」

カルラ「トマス・クルーズよ。もう超イケメンだったわ! 来日する航空の出入り情報が急に回って来たから焦ったわよ!」

リヴァイ(え、ええええ?)

リヴァイは内心驚いた。まさかの出入り待ち?

エレン「母さん、俳優さんが大好きで、日本に来る度に空港に張り込んでキャーキャー言うのが好きなんだ」

なんという変わった趣味だ。

リヴァイ「ええっと、その為にエレンを?」

カルラ「すみません。出待ちは戦場なので子供を連れて行くのはちょっと……」

エレン「こういうのって、ヲタクっていうんだっけ? 母さんも飽きねえなあ」

カルラ「本当に御免なさい。生きていて御免なさい」

563: 2014/12/01(月) 21:43:17 ID:1MIpCixU0
何故か自虐的に言い出すカルラにリヴァイは「いや、そんな事はないですよ」と一応言った。

リヴァイ「そういう没頭できる趣味があるのはいい事ですし」

カルラ「あら、リヴァイさんはそういう文化に偏見はない方ですか?」

リヴァイ「自分はやりませんけど。でも、本屋にいる人はそういう情熱家が多いとは思います」

恐らくエルヴィンもハンジも似たような気質だと思っている。

カルラ「良かった。リヴァイさんはお優しい方で」

エレン「リヴァイ兄ちゃんはいい人だよな。チーズハンバーグ、チョー美味かった!」

リヴァイ「そうか?」

エレン「また食いに来てもいいか?」

リヴァイ「まあ、また機会があれば……」

其の時、ハンジが階段を登って来る音が聞こえた。

そしてハンジは目にする。玄関の前で語らうカルラとリヴァイの姿を。

ハンジ「ん?」

まさかの組み合わせにハンジはきょとんとした。

カルラの太ももにはエレンもいる。

564: 2014/12/01(月) 21:43:44 ID:1MIpCixU0
ハンジ(え? 何でカルラさんがうちに?)

カルラ「あ、ではそろそろ……」

リヴァイ「お茶も出さずにすみません」

カルラ「いえいえ。今日は本当にありがとうございました」

エレン「またな! バイバイ!」

エレンがバイバイしていく。リヴァイもそれに手を振った。

カルラはハンジにも一応会釈して階段を降りて行った。

カルラはリヴァイとハンジの関係性を詳しくは知らない。

ハンジがここに来た理由は、リヴァイに会いに来たのだろうと勝手に察して退散したのだ。

ハンジ「……………」

大学の用事を終わらせて家に帰って来たら。

まさかの事態にハンジは目が据わっている自分に気づいた。

リヴァイ「今日は少し遅かったな。ハンジ」

ハンジ「…………まあ、ちょっとね」

リヴァイ「今日はイイ事があった。ハンジに後で話したい事がある」

565: 2014/12/01(月) 21:44:09 ID:1MIpCixU0
ハンジ「…………」

しかしハンジはリヴァイの言葉を無視して自分の部屋に籠った。

リヴァイ(え?)

ハンジの機嫌が悪い事に気づいてリヴァイは汗を掻いた。

リヴァイ「ハンジ?」

襖越しに声をかけても反応がなかった。

リヴァイ「おい、どうした? ハンジ」

空気が冷たかった。何か様子がおかしい。

リヴァイ(………………まさか)

カルラが家に来た事を良く思っていないとか?

そうだとしたらまずいと思った。リヴァイは襖越しにハンジに説明する。

リヴァイ「おい、聞いてくれ。今日はカルラさんに緊急の仕事を頼まれた」

ハンジ「………仕事?」

ようやく返事が来た。それを確認してリヴァイは続けた。

リヴァイ「そうだ。緊急の用事があったから俺がエレンを半日だけ預かる仕事だった。おかげで臨時収入を得た。今日はチーズハンバーグの残りもある。ハンジ、後で食べてくれ」

566: 2014/12/01(月) 21:44:39 ID:1MIpCixU0
出来るだけ冷静に淡々と説明する。

そこに疚しい行為は一切なかったという意味も込めて。

ハンジ「………今日はいいよ。食欲ない」

リヴァイ「え?」

ハンジ「ちょっと眠いから一回寝る」

リヴァイ「……………」

ハンジがふて寝したようだ。その様子にリヴァイはどうしたらいいか分からず戸惑う。

そしてふと気づいた。自分の落ち度に。

リヴァイ(あっ……)

自分が目覚めた時、エルヴィンが助手席に乗っていた。

それは自分が知らない間に起きていた出来事だった。

その事も含めて嫌だったのだ。だとすれば、ハンジも。

リヴァイ(俺は馬鹿か……!)

自分がされて嫌な事を自分がやってどうする。

自分以外の別の異性が傍に居るってだけで、嫌な物は嫌なのだ。

567: 2014/12/01(月) 21:45:02 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「ハンジ」

ハンジ「………何?」

不機嫌な声が返って来た。でもリヴァイは言った。

リヴァイ「カルラさんは自宅には入れていない。あがらせたのはエレンだけだ」

ハンジ「そうなんだ」

リヴァイ「ああ。だからその、ハンジに連絡しないで悪かった。仕事を引き受けた時にすぐ電話でハンジに言うべきだった」

ハンジ「………………」

リヴァイ「臨時収入に目が眩んでいた。冷静に考えたら、家の中で行う仕事はハンジにも許可を……」

ハンジ「もういいよ」

ハンジはそこで打ち切らせた。

ハンジ「いいから。少し黙って」

静かではあったが強い拒絶だった。

その厚い壁を感じてリヴァイは自分のやらかした事を悔いた。

口を閉ざしてそれ以上何も言えなくなる。

リヴァイ(しまった。俺の馬鹿野郎……!)

568: 2014/12/01(月) 21:45:37 ID:1MIpCixU0
今更言い訳してどうにかなる問題じゃない。

職場でもこういう事は多々あった。言い訳して余計に事態を悪化させて。

リヴァイ(クソ……!)

壁ドンしたくなる瞬間だった。でも賃貸だから自重する。

リヴァイ(…………少し外の風を浴びよう)

頭が煩雑な時は外の空気を吸うのが一番だ。

リヴァイは上着を引っかけて外に出た。

その様子をこっそり覗いていたイザベルとファーランは困った顔になった。

イザベル「なんか、空気が悪くなったみたいだな」

ファーラン「誤解が生じているようだ」

イザベル「俺達が説明した方がいいのかな?」

ファーラン「どうだろう? 俺達が話しても説得力がねえかも」

イザベル「じゃあエレン自身は? あいつ、携帯の番号を書いてくれただろ」

ファーラン「電話してみるか?」

イザベル「ダメ元で話してみようぜ」

569: 2014/12/01(月) 21:46:16 ID:1MIpCixU0
実はエレンは子供用の携帯電話を持っていた。

イザベルは教えて貰った電話番号にかけてみる。

エレン『はいはい! エレンだ!』

イザベル「よーエレン。イザベルだ。ちょっといいか?」

エレン『オレ、忘れ物したっけ?』

イザベル「いや、違うけど。ちょっと話して欲しい事があって」

エレン『いいぜ!』

エレンはよく分からないまま安請け合いをしていた。

イザベルはハンジの部屋に入ってハンジに話しかけた。

イザベル「姉ちゃん。エレンとちょっと話してくれよ」

ハンジ「え? 何で」

イザベル「いいから」

呼ばれて渋々立ち上がると、ハンジは電話を替わった。

ハンジ「こんにちは」

エレン『こんにちは!』

570: 2014/12/01(月) 21:46:44 ID:1MIpCixU0
ハンジ「その声はエレンだね」

エレン『おう! 姉ちゃんは誰だ?』

ハンジ「ハンジだよ。うちの店によく来てくれる子だよね。エレンは」

エレン『本屋は好きだぞ!』

ハンジ「いつもありがとう。今日はリヴァイと遊んだのかな?」

エレン『沢山遊んで貰った! リヴァイ兄ちゃんはいい人だな!』

ハンジ「エレンだけ遊んで貰ったの?」

エレン『そうだよ。オレ、母さんが空港に出待ちしている間だけ預けられたんだ』

ハンジ「出待ち?」

エレン『たまーにあるんだよ。母さん、ヲタクだからさ!』

其の時、「こらエレン!」という声が聞こえた。

エレン『いっけね! じゃあな! もう切るから!』

ぶつ切りされてハンジは拍子抜けした。

ハンジ(本当に、エレンだけだったのか)

変に言い訳をまくし立ててくるからかえって怪しんでしまったハンジだった。

571: 2014/12/01(月) 21:47:11 ID:1MIpCixU0
ハンジ(子供は嘘をつく理由がない。リヴァイの言葉は本当だったのか)

すぐにリヴァイを信じなかった自分に対して自己嫌悪に陥った。

ハンジ(…………参ったな。リヴァイになんて言おう)

ハンジは頭を掻いてしまった。リヴァイは家を出ている。

イザベル「兄貴のいう事、信じたか?」

ハンジ「あーうん」

イザベル「兄貴はそういう類の嘘はつかねえよ。そんなのすぐ分かるじゃねえか」

ハンジ「う………」

イザベルに呆れられてますます自己嫌悪に陥った。

イザベル「はー……姉ちゃんの愛情も大した事ねえな」

ハンジ「…………」

イザベル「俺は、兄貴のいう事を信じない女は好きになれねえけど」

ファーラン「おい、イザベル」

言い過ぎだ。そう言外にファーランは嗜めるが、

イザベル「だってよ。こんなのすぐ分かる事だろ? 兄貴が嘘をつく理由がねえし」

572: 2014/12/01(月) 21:47:36 ID:1MIpCixU0
ファーラン「そうだとしても、気分が悪くなる事もある。そういうもんだ」

イザベル「そういうもんか?」

ファーラン「イザベルにはまだ分かんない事だろうけど」

イザベル「うーん。そっか。そういうもんか」

イザベルはとりあえず頷く事にした。

イザベル「まあ、ファーランが言うならそうなんだろうな。姉ちゃんは嫌な気持ちになったのか」

ハンジ「リヴァイ、どこに行っちゃったのかな」

ファーラン「まあ、喧嘩した時は大体、外の空気を吸いに放浪してから帰ってきますよ」

イザベル「夜にはちゃんと帰ってくると思うけど」

ハンジ「ならいいけれど」

ハンジはそう呟いて落ち込んで自室に引っ込んでいった。

そして数分後、意外と早くリヴァイが家に帰って来た。

イザベル「おかえり。兄貴」

リヴァイ「ただいま」

イザベル「買い物してきたのか?」

573: 2014/12/01(月) 21:48:18 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「ああ。蒸しパンでも作ろうかと思ってな」

イザベル「やった! さつま芋もある! 芋の蒸しパンだな?」

リヴァイ「ああ。この間、蒸し器を購入したから使ってみようと思う」

ホットケーキミックスの粉と芋等を購入して戻ってきたようだ。

リヴァイ「ハンジは部屋にいるよな」

ファーラン「一応、誤解は解いておいたぜ。もう大丈夫じゃねえかな」

リヴァイ「説明してくれたのか」

イザベル「エレンに直接話をさせたんだ。兄貴は何も悪い事はしてねえって事を証明させたぜ」

リヴァイ「………ありがとう」

リヴァイは素直に2人に礼を言った。

リヴァイ「今日は大量に蒸しパンを作ろう」

明日の分も含めて一気にタネを作って蒸し器を使った。

自室に籠ったハンジはその匂いに釣られて襖から顔を出した。

ハンジ(何か作っているっぽい)

台所に行くべきか迷う。でも腹は素直のようで。

574: 2014/12/01(月) 21:48:42 ID:1MIpCixU0
ハンジ(お腹はすいているんだよね。やっぱり夕飯を頂こうかな)

ハンジはのそのそと部屋から出て台所に向かった。

ハンジは調理中のリヴァイの様子をそっと見守った。

調理中は背後を取るなと言われているから見守るだけにする。

リヴァイはハンジの気配に気づいていたが何も言わずに蒸しパン作りに集中していた。

リヴァイ「ハンジ、暇なら皿を取ってくれ」

ハンジ「あ、うん」

棚から広い皿を取ってリヴァイに渡した。

リヴァイ「そろそろいいかな」

竹串で火が通った事を確認してから火を一旦止めた。

盛り付けた蒸しパンを和室に移動させる。

そしてリヴァイは引き続き蒸しパン作りを再開した。

ハンジ「た、大量に作るの?」

リヴァイ「作り置きしておく。明日も蒸しパンの日だ」

ハンジ「そ、そっか」

575: 2014/12/01(月) 21:49:03 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「食いたいなら、今食っていいぞ」

ハンジ「じゃあ1個だけ貰うね」

リヴァイの和室の部屋で出来立ての芋蒸しパンを頂いた。

ハンジ(美味しい……)

蒸しパンを腹に入れたらさっきまでの苛立ちが自然と消えた。

ハンジ(お腹減っていたから余計にイライラしたのかな)

それもあるかもしれない。そう思いなおしてハンジはペ口リと1個食べ終えた。

リヴァイが粗方蒸しパンを作り終えると、部屋に戻ったイザベルとファーランを呼んだ。

そしてその日の夜は皆で蒸しパンを食べたのだった。

イザベル「俺、今日の夕食はこれだけでもいいや」

ファーラン「昼はチーズハンバーグも食ったしな」

イザベル「ああ。ちょっと最近、食べ過ぎている気もする。太ったかな?」

ファーラン「全然、許容範囲だ。もう少し肉つけた方がモテるぞ」

そんな風に言い合って2人は部屋に戻って行った。

2人きりになってから、ハンジはリヴァイに頭を下げた。

576: 2014/12/01(月) 21:49:35 ID:1MIpCixU0
ハンジ「御免なさい」

リヴァイ「いや、俺の方も悪かったな」

お互いに謝って今回の事は水に流す空気になっていたが……。

ハンジ「私、一瞬でもリヴァイを疑ってしまった」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「こういうのって良くないよね。相手を信じられないなんて」

リヴァイ「……………」

ハンジ「本当に御免なさい」

リヴァイ「以前ハンジが貸してくれた漫画の中に」

ハンジ「ん?」

其の時、リヴァイはふと思い出してから言った。

リヴァイ「とあるキャラクターが『人は疑うべきだ』と主張していた奴がいたよな」

ハンジ「ああ、ライアーゲームの事?」

リヴァイ「そうだ。俺自身、あのキャラの考え方には凄く共感を覚えた」

頭を悩ませる漫画だったが、凄く面白かったのを覚えている。

577: 2014/12/01(月) 21:50:17 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「俺とハンジは知り合ってようやくもうすぐ一年になろうとしている程度の人間関係だ。そんな相手に対して、盲信するのは決していい事じゃねえだろ」

ハンジ「でもイザベルは、兄貴を信じない女は好きになれないって……」

リヴァイ「イザベルと俺との関係はハンジと比べたら年月が全然違うだろ。一緒に居る時間がそれだけ長い分、お互いの理解の度合いが深いだけだ」

ハンジ「まあ、それもそうか」

リヴァイ「ハンジは決して間違っていない。疑いたい時はいくらでも疑え」

ハンジ「…………それはリヴァイもそうしているって事だよね」

リヴァイ「俺は元々そういう性格だ。言っただろ? 俺を惚れさせてタダでこき使おうとしているんじゃねえのかと」

ハンジ「そう言えばそうだった。リヴァイは疑り深い性格だった!」

リヴァイ「こういう衝突はこれからも度々起きるだろう。其の度に契約事項を増やして2人のルールを作っていけばいい」

ハンジ「…………そうだね」

リヴァイ「ハンジは今回の件で連絡がなかった件が気に食わなかったんだよな?」

ハンジ「うん。前もって知っていればここまで拗ねなかったかも」

リヴァイ「なら次から必ず俺の方から連絡を入れる。ハンジに確認するようにするから、その都度判断してくれ」

ハンジ「分かった。リヴァイの臨時の仕事が来た時は把握させてね」

臨時の仕事で思い出した。

578: 2014/12/01(月) 21:51:17 ID:1MIpCixU0
ハンジ「あのね、以前言っていた大学での実験検証用データについてだけど」

リヴァイ「何か新しい仕事がきたのか?」

ハンジ「うん。今日はその件について説明を聞きに行っていたんだ」

リヴァイ「俺も参加出来そうか?」

ハンジ「今回は2人一組でのエントリーになるそうだから、ペアがいると助かるよ」

リヴァイ「つまり俺はハンジと組めばいいのか」

ハンジ「そういう事になるね」

リヴァイ「何をやらされるんだ?」

ハンジ「まだ詳しい事は当日にならないと分からないけど、必要なのは12時間分の拘束時間と、その間を2人だけで過ごせるかどうかという点だよ」

リヴァイ(え………)

12時間も、2人きりで?

ハンジ「12時間も一緒にいる訳だから出来れば親しい人同士で来て欲しいとの事だった。参加する人は明日の夜の12時までに返事をメールでしないといけないんだけど」

リヴァイ「…………」

リヴァイは即答出来なかった。

ハンジ「申し込んでも大丈夫かな? 今回は12時間で2人合わせて5万円出るけど」

579: 2014/12/01(月) 21:51:45 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「つまり2万5千円ずつか」

それでも破格の値段だ。臨時の収入の方がパートより稼いでいるような気がする。

リヴァイ(いや、臨時だから常にそれがある訳じゃない)

定期的な収入にはならないからこそ単価が高いのだ。それを忘れてはいけない。

ハンジ「うん。その代り物凄く地味な仕事だったり、精神的にきつかったり、寒かったり暑かったり、その都度、いろんな変な事をさせられるからそこは覚悟しておいて欲しい」

実験材料になる訳だから当然だ。

リヴァイは深く考え込んで、理性と一緒に皮算用を始めた。

リヴァイ(ハンジと12時間もの間、一緒に居るのか)

嬉しい反面、理性が最後まで持つかちょっとだけ心配になるが。

リヴァイ(いや、金の為だ。ここで臨時収入を増やせたらハンディークリーナーを買うのも夢じゃなくなる)

ルンバには手は届かないが、ハンディーならいける。

そう計算してリヴァイはその仕事を引き受ける事にした。

リヴァイ「いいだろう。その臨時の仕事を引き受ける。実地するのはいつになるんだ?」

ハンジ「2月に入ってからになるよ。だから2月は私とリヴァイのお休みを出来るだけ重ねないといけないね」

リヴァイ「エルヴィンに前もって申請しておくか」

580: 2014/12/01(月) 21:52:08 ID:1MIpCixU0
ハンジ「その方がいいと思う」

リヴァイ「分かった。明日早速、エルヴィン店長に相談しておこう」

ハンジ「そうだね」

そして話題が急に途切れて、間が出来た。

リヴァイはその微妙な間が気まずくてついつい、気を回した。

リヴァイ「……蒸しパンだけじゃ足りないだろ」

ハンジ「え?」

リヴァイ「チーズハンバーグも温めてくる。飯も食うよな?」

ハンジ「あ、頂きます」

リヴァイ「今日は夜はもう出かけないよな?」

ハンジ「本屋の方はお休みだし、この後は特に何も」

リヴァイ「そうか」

だったらきっと夕食を食べ終わったら部屋に籠ってレポートとか勉強をするだろう。

そんな風に考えながらリヴァイがチーズハンバーグを温め直して運んでやると、

ハンジ「おお……これは大きなお肉だね。奮発したねえ」

581: 2014/12/01(月) 21:52:34 ID:1MIpCixU0
と、ハンジはチーズハンバーグの大きさに感動していた。

リヴァイ「エレンを預かった時に何故か3万円も預かってしまった」

ハンジ「え? 半日預かっただけで3万円も貰ったの?」

リヴァイ「恐らく、カルラさんの方の手違いじゃないかと思っている。1万円を渡すつもりが慌てたせいで3万円を封筒に入れてしまったとか」

ハンジ「あり得そうだね」

リヴァイ「明日、その件も確認してみる。過剰に金を貰い過ぎてトラブルを起こしたくねえしな」

ハンジ「もし本当に3万円のつもりで渡されていたら、其の時はどうするの?」

リヴァイ「2万円は返す。今日の働きに対しては1万円でもおつりが出る」

ハンジ「ハンディークリーナーは欲しくないの?」

リヴァイ「欲しいけれど、そうまでして欲しい訳じゃない。虫の良過ぎる話を引き受けたら、後で何かあった場合が怖いからな」

リヴァイは本当に用心深い男だった。

リヴァイ「本当ならきちんと金額を確認した上で引き受けるべきだったんだが、カルラさんも慌てていたようだったしな」

ハンジ「まあ、そういう事もあるよね」

リヴァイ「臨時収入は有難いがそれが全てという訳でもない。特にカルラさんとは今後も関わっていく人間になるだろうし、心証を悪くしないようにはしたいと思っている」

ハンジ「………そっか」

582: 2014/12/01(月) 21:53:05 ID:1MIpCixU0
リヴァイ「でもだからと言って、ハンジがいない時に彼女を家に入れるような事は絶対にしない。約束する」

ハンジ「…………うん。分かった」

リヴァイが真摯にそう言ってくれた事が嬉しかった。

それはつまり、ハンジに対して気を遣っている証拠でもある。

そんな2人の様子を襖の陰からこっそり覗いている2人が居た。

イザベル(何で仲直りしたのにチューしねえのかな?)

ファーラン(全くだ。絶好のチャンスなのにな)

と、2人は身振りだけで意思疎通をしている。

ファーラン(やっている事は恋人同士のそれと大差ねえのにな)

2人だけの約束事項がどんどん増えているのに。

一番大事な部分をすっ飛ばして先に進んでいるような感じだと思った。

ファーラン(まあでも、それが2人のペースなら仕方がないか)

ノロノロとした亀が2匹、一緒に歩いているのを見守るウサギのような気分でファーランはこっそりそう思った。

リヴァイ「…………」

ハンジ「………」

583: 2014/12/01(月) 21:53:31 ID:1MIpCixU0
会話が唐突に止まってしまった。お互いに見つめ合っている。

ハンジはチーズハンバーグが冷めないうちにパクパク口に入れた。

ハンジ「ご、ご馳走様でした」

リヴァイ「あ、ああ」

ハンジ「美味しかったです。いつもありがとう」

リヴァイ「まあ、どういたしまして」

ハンジ「じゃあ、ええっと、歯を磨いてきます」

リヴァイ「お茶は飲まないのか?」

ハンジ「あ、お茶も飲みます。はい」

何故かお互いに緊張しているのが分かった。変な声になっている。

裏返ったような変な声にお互いに「あれ?」と思っている。

お茶を飲み干してもまだ緊張が緩和出来なかった。

リヴァイ(おかしいな。何で緊張している?)

別に変な会話はしていないのに。

リヴァイ(誤解も無事に解けたようだし、何も問題はない筈だが……)

584: 2014/12/01(月) 21:54:01 ID:1MIpCixU0
視線が泳いでいる者同士がふと、ぶつかった。

途端に何故か、顔に血が集まって、変に気まずくなった。

リヴァイ(どうしたんだ? 俺は)

ハンジ(参ったな。妙に居心地が悪い)

本人同士はまだ気づいていない。

誤解が解けて心の中が落ち着いたからこそ、リヴァイはその力に引き寄せられていて。

リヴァイが必氏に機嫌を取ろうとしてくれたからこそ、ハンジも心の靄が晴れた訳だから。

2人は自然と、互いを欲しいと思い始めていて。

身体が疼くような感覚をお互いに感じていて。

それが2人を緊張へ導いているのだが、2人はそれを直視出来ていなかった。

だからリヴァイはそれを誤魔化す様に言った。

リヴァイ「勉強、するんだろ?」

ハンジ「あ、はい。そうですね」

リヴァイ「だったら、さっさと食後の歯磨きをして部屋に戻れ」

ハンジ「はいはい。そうします」

585: 2014/12/01(月) 21:54:30 ID:1MIpCixU0
ハンジは素直にリヴァイのいう事を聞いた。

その素直さが逆に何故か憎たらしく思うリヴァイだった。

リヴァイ(待て待て。何で人に命令しておいてがっかりしているんだ。俺は)

そして其の時、ふと、ハンジ側の襖の陰から覗く目に気づいた。

さっと逃げるように気配を消したそいつらに対してリヴァイは立ち上がって言った。

襖を思いっきり開けて言い放つ。

リヴァイ「何、こそこそ覗いてやがった」

ファーラン「いや、まあ、気になって。ついつい」

イザベル「姉ちゃんといい雰囲気になるかなーって」

リヴァイ「お前らはさっさと宿題してクソして寝ろ!」

イザベル「はい! 御免なさい!!」

ファーラン「部屋に戻ります!」

2人は脱兎のごとく逃げ出した。直後、項垂れるリヴァイだった。

リヴァイ(今のはちょっといい雰囲気になりかけていたのか?)

そう疑問に思い、誤魔化して逃げた自分に自己嫌悪するのだった。

586: 2014/12/01(月) 21:55:55 ID:1MIpCixU0
今回はここまでです。
続きはスレが落ちる前には何とか投下出来たらと思います。
ではまた3か月後(?)くらいにお会いしましょう。それでは。

587: 2014/12/01(月) 22:11:04 ID:huA9A3Hs0
大作、長時間の投下乙です
まだ全部読みきれてないけど次の投下も気長に待ってる

588: 2014/12/01(月) 23:53:20 ID:MwiWagLc0
乙!!

次回:

引用: エルヴィン「こちら明進堂書店調査店でございます」