589: 2014/12/05(金) 00:41:34 ID:iMiian6I0

591: 2014/12/05(金) 00:43:38 ID:iMiian6I0
1月26日。カルラと同じ昼シフトの日だったので、その日の仕事終わりに例の金の件を確認したところ、カルラは顔を真っ赤にして「すみません!」と謝った。

カルラ「慌てていたのでピン札を3枚入れたようですね。はい。1万円をお渡ししたつもりでした」

リヴァイ「ああ、やっぱりそうか。多過ぎると思った」

カルラ「あの、でも、今更ですし」

リヴァイ「いや、2万円は余分なのでお返しします」

カルラ「本当にいいんですか?」

リヴァイ「相場はどの程度かは知らねえが、それにしたって破格過ぎる」

カルラ「ふふっ」

リヴァイ「ん?」

カルラ「いえ、うちの主人と同じ事をする男性がいるなんて」

リヴァイ「え?」

カルラ「うちの主人との出会いはここの本屋だったんです」

リヴァイ「!」

2人の馴れ初め話にリヴァイは少し驚いた。

リヴァイ「そうだったのか」
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592: 2014/12/05(金) 00:44:33 ID:iMiian6I0
カルラ「はい。私がまだ若い頃、ここで働いていた時、ピン札のおつりを間違えて多く渡してしまって。それをすぐ、後から返しに来て下さったんですよ。わざわざ」

リヴァイ「なんと律儀な」

お釣りの渡し間違いで多く貰った場合は誤魔化して貰う場合もあるだろう。

多くの客はまず返さないと思う。少ない場合は文句を言うけれど。

カルラ「其の時に、返金分の封筒の中に連絡先をこっそり一緒に入れて下さって。そこからです。交際がスタートして一か月後には結婚しました」

リヴァイ「い、一か月?!」

なんというスピード結婚だとリヴァイは思った。

リヴァイ「え……そ、そんなに早く結婚出来る物ですか」

カルラ「もう意気投合しちゃったんですよ。すぐエレンを身籠って出産する事になりました。短大生だったので幸い、ギリギリ卒業後に籍を入れましたけど」

リヴァイ「ん…? つまり二十歳には結婚されたと?」

カルラ「そうなります。今年で26歳になりました」

リヴァイ「そうだったんですか」

意外と結婚が早くて驚いた。

晩婚化が進んでいる昨今にしては珍しいとも思ったが……。

カルラ「うちの主人は当時、35歳でしたから……主人の側から見たら丁度いい年齢だったから踏み切ったのもあると思います」

593: 2014/12/05(金) 00:45:40 ID:iMiian6I0
リヴァイ「リーネと同じパターンでしたか」

カルラ「リーネさんもそうなんですか?」

リヴァイ「あ、はい。ご主人が年上で年齢が離れているそうなので」

カルラ「成程。男は三十路を過ぎてからっていいますもんね」

カルラも実は年上好きだったようだ。

その事に少々驚きつつ、リヴァイはその日、帰りの挨拶をして先に帰るカルラを見送った。

エルヴィンがバックヤードに戻って来たので、リヴァイは来月の休みについて話してみた。

するとエルヴィンは「ああ、2人でどこかデートにでも行くのかな?」と言い出したのでリヴァイは「違う」と即答した。

リヴァイ「臨時の仕事が入るかもしれない。単発の仕事だが、ハンジと一緒にやる予定なんだよ」

エルヴィン「成程。仕事という名のデートな訳だな」

リヴァイ「だから違うって言っているのに」

イラッとして言い返すがエルヴィンは「はいはい」とまともに受け合わなかった。

エルヴィン「2月は6日休みを取らせる月だから、通常よりは休みが少ないけど」

リヴァイ「そりゃ他の月に比べたら日数が少ないから当然だろ」

エルヴィン「まあね。バレンタインは休みにした方がいい?」

594: 2014/12/05(金) 00:46:30 ID:iMiian6I0
リヴァイ「いや別に。そこは自由にしていい」

エルヴィン「ん? 誰かから貰う予定はないのか?」

そこで浮かんだ女性の顔を慌てて振り払うリヴァイだった。

リヴァイ「貰う予定なんてない。バレンタインは毎年子供達の為にバレンタインを過ぎた後に安くなったチョコレートを買う日だと思っている」

エルヴィン「わーお。なんて実用的なバレンタインだ」

リヴァイ「実際、15日の方が少し安くなるだろ? 在庫処分の為に。買うならそこが狙い目だ」

エルヴィン「成程。だったら15日を休みにした方がいいのかな?」

リヴァイ「出来るんだったらそうして欲しいな」

エルヴィン「分かった。リヴァイの休みは15日を基準に均等に割り振っていこう。それにハンジも重ねる形でいいね」

リヴァイ「ああ。そうして貰えると助かる」

そしてエルヴィンとの話が終わると、リヴァイはふと疑問に思った。

リヴァイ「エルヴィン店長は貰う予定はないのか?」

エルヴィン「ん?」

リヴァイ「カルラさんが言っていたぞ。男は三十路を過ぎてからだと」

エルヴィン「ううーん。生憎、ご縁に恵まれなくてね」

595: 2014/12/05(金) 00:47:23 ID:iMiian6I0
リヴァイ「そうか」

エルヴィン「うん。職場で貰える義理チョコが唯一の毎年の楽しみですよ」

リヴァイ「…………え? 義理チョコを貰っているのか?」

エルヴィン「ああ、うちの習わしでね。女性側がお金を集めて、代表して男性全員用に大箱のチョコレートを買ってきてくれるんだよ。それを皆で分けて食べるんだ」

リヴァイ「成程」

エルヴィン「今、何を想像したのかな? ん?」

リヴァイ「いや別に」

リヴァイは慌てて誤魔化した。

ハンジがエルヴィンとミケに義理チョコを渡す様子を想像してしまったのだ。

リヴァイ「今日はカルラさんが店内清掃をしているからもう帰る」

エルヴィン「うん。お疲れ様」

リヴァイを見送ってからエルヴィンは言った。

エルヴィン「ハンジが作ったお菓子は食べない方がいいと思うけど」

それを言ったらまた要らぬヤキモチを妬かせるかもしれないと思って黙る事にしたエルヴィンだった。

596: 2014/12/05(金) 00:49:14 ID:iMiian6I0
ハンジ「へー。カルラさんのご主人もリーネのご主人も年上だったんだ」

ハンジが夜のシフトを終えてから自宅に帰って来た後、リヴァイは自分の部屋の和室で一緒にお茶を飲みながらハンジに話していた。

リヴァイ「ああ。男は三十路を過ぎてからと言っていたが、そういうもんだろうか?」

ハンジ「人によるんじゃない?」

リヴァイ「まあ、そうだろうけど」

リヴァイはハンジにさりげに探りを入れているのだが、ハンジは口を割らなかった。

リヴァイ(そこで、自分の意見は言わないのか。ちっ……)

ハンジ「ん? 何?」

リヴァイ「いや、何でもない」

ハンジ「あーもしかして、自分も将来、若い人妻が欲しいなあとか思った?」

リヴァイ(ぶふっ?!)

お茶を噴き零しかけたリヴァイだった。

597: 2014/12/05(金) 00:49:57 ID:iMiian6I0
リヴァイ「い、いきなり何を」

ハンジ「若い方がいいっていうもんね。男性から見たら。リヴァイも実はそうなんでしょ?」

リヴァイ「馬鹿言え。俺は別に……」

しまった。先に自分の方から暴露してしまった。

リヴァイ「そういうハンジはどうなんだ?」

ハンジ「私?」

リヴァイ「年上とか年下とか、好みがあるのか?」

ハンジ「うーん。どうだろう? 年齢はあんまり関係ないかも」

リヴァイ「そうか」

ハンジ「ただ、相手から告白される確率でいえば年下が圧倒的に多いかもしれない」

リヴァイ「えっ……?」

途端、リヴァイは内心青ざめてしまった。顔には出さないようにはしたが。

リヴァイ(そういう経験があるのか)

いや、まあ、あって当然か。ハンジは美人だしな。

そう言い聞かせて出来るだけ平静を装う。

598: 2014/12/05(金) 00:50:32 ID:iMiian6I0
ハンジ「いやー何でか良く分からないけど、小学生時代からずっと年下の男の子に好かれる傾向にあってね。年上の男性にはあんまり好かれた経験がないんだよ」

リヴァイ「そうか? エルヴィンやミケは……」

ハンジ「友人は別だよ。そういう意味じゃないんだから」

リヴァイ「そうか」

ハンジ「好かれる傾向で言えばリヴァイも年下から好かれる方が多いのかな?」

リヴァイ「んー……まあ、それはあるかもしれないな」

職場での今までの人間関係を振り返ってリヴァイは思った。

リヴァイ「俺の場合は男女問わず、年下と話す方が気が楽というのもある」

ハンジ「そういう性格なんだろうね。きっと」

リヴァイ「まあ、そうかもしれん」

其の時ふと、リヴァイの頭に過ったのは自分を育てた親代わりの男の存在だった。

リヴァイ(なんで今、あいつの顔が思い浮かぶ?)

余りいい思い出じゃない。あいつは育ての親としては欠陥のある男だった。

リヴァイ(あいつにされた事は反面教師にしねえと)

体罰は日常だったし、悪い事にも手を染めさせられた。

599: 2014/12/05(金) 00:51:01 ID:iMiian6I0
あいつのような人の育て方は絶対にしない。

そう自分に言い聞かせてリヴァイは口を堅く閉ざした。

リヴァイの表情の変化に気づいてハンジも黙った。

ハンジ(なんか、触れちゃいけない部分に触れちゃったかな?)

空気が硬くなったのを感じて「しまった」と思った。

ハンジ(でも、年下に好かれるという傾向に対して否定はしなかったな)

リヴァイの事がひとつまた知れて良かった。

そう思ってハンジが内心喜んでいると、

リヴァイ「あと、話は変わるが、休みについてエルヴィンに話した」

リヴァイがそれとなく話題の方向を変えた。ハンジもそれに頷いた。

ハンジ「ああ、聞いたよ。重ねるのは大丈夫だって」

リヴァイ「そうか」

ハンジ「うん。バレンタインの次の日のバーゲン狙いで15日に休みを希望した件も聞いたよ」

リヴァイ「別にいいよな?」

ハンジ「私も15日の方が楽しみだよ。ちょっとだけチョコレートが安くなるからね」

600: 2014/12/05(金) 00:51:30 ID:iMiian6I0
リヴァイ「………なら良かったが」

リヴァイはそう言いながら茶をおかわりして飲んだ。

職場用の義理チョコとは別には貰えねえのかな。と、密かに期待していたら、

ハンジ「リヴァイはチョコレート好き?」

という質問がきたので即座に答えてしまった。

リヴァイ「ん? 嫌いじゃないぞ」

ハンジ「それって好きじゃないって事?」

リヴァイ「そんな事は言ってねえ。どちらかと言えば好きだが」

ハンジ「じゃあ好きって言ってよ」

リヴァイ「チョコレートにも種類があるだろうが。だからざっくり答えただけだ」

ハンジ「例えばどういうのが好き?」

リヴァイ「少し苦味のあるチョコレートの方が好きだ。紅茶もストレート派だし、緑茶も濃い目が好きだしな」

ハンジ「なら、甘さが控えめの方がいいのか」

リヴァイ「甘いのも甘いので味があっていい」

ハンジ「それ、両方好きなんじゃないの?」

601: 2014/12/05(金) 00:52:27 ID:iMiian6I0
リヴァイ「うるせえな。チョコレートが好きってそのまま答えたら、図々しい気がしたんだよ」

ハンジ「あ、遠回しに強請っているように聞こえるかと思って?」

リヴァイ「一応、気を遣ったつもりだが」

リヴァイがそっけなく答えると、ハンジはお茶を噴き零しかけた。

リヴァイ「おい……(ジ口リ)」

ハンジ「だって、遠回しだなって思って」

リヴァイ「………」

ハンジ「そんなに睨まなくてもちゃんとあげますよ」

リヴァイ「え?」

ハンジ「一応、女子ですからね。私も。リヴァイとファーランの為に頑張ってみるよ」

リヴァイ「あ……ああ」

そうか。それは義理チョコをあげるという意味か。

リヴァイ「期待はしないでおく」

ハンジ「期待してよ!」

リヴァイ「そもそも、ハンジは菓子作りが出来ねえんだろ?」

602: 2014/12/05(金) 00:55:47 ID:iMiian6I0
ハンジ「あーうん。ごめん。だから美味しいお店でチョコを買ってきます」

リヴァイ「だったらハンジは何を頑張るんだ?」

ハンジ「どのお店のチョコが一番美味しいか調査するのを頑張ります」

リヴァイ「……下手でもいいから自分で作ってみればいいのに」

ハンジ「無理です! 前に作ってエルヴィンを悶絶させて大変な目に……」

リヴァイ「は?」

其の時飛び出した言葉にリヴァイは露骨にイラッとした。

リヴァイ「おい、エルヴィンに前に作ってやった事があるのか?」

ハンジ「あ…えと、毒見的な意味でだよ?」

リヴァイ「それでも、食わせた事があるんだよな?」

ハンジ「食った直後、白目向いたけどね」

リヴァイ「それはいつの話だよ」

ハンジ「………エルヴィンの誕生日だけど」

リヴァイ「それって、いつだ」

ハンジ「エルヴィンの誕生日は10月14日だよ」

603: 2014/12/05(金) 00:57:21 ID:iMiian6I0
リヴァイ「俺がまだ本屋で勤め始める前の話か」

ハンジ「そうだけど」

リヴァイ「…………」

それでも微妙に面白くないのはやっぱり自分の器が小さいからか。

リヴァイ(だから何で、いちいち突っかかるんだ。俺は)

気にしなければいい話なのに。スルー出来ない自分が嫌だ。

ハンジ「エルヴィンの時の失敗があったからこそ、リヴァイの時は食べ物を作ってあげるのはやめようと思ってああなった」

リヴァイ「あ、ああ……成程」

ハンジ「そ、そんな失敗談を聞いても尚、食べてみたいと思いますか?」

リヴァイ「…………まあ、忠告を無視してまで食おうとは思わん」

エルヴィンは食った事があるのに自分は食った経験がないと言うのも何となく癪に障ったけれど。

それだけ危険を伴うのであれば踏み込まない方がいいだろう。そう判断した。

リヴァイ「俺に家事代行を頼むくらいだからな。余程、料理も駄目なんだよな」

ハンジ「本当、何も出来ない女ですみません(ぺこり)」

リヴァイ「ホットケーキを焼くのも難しいか?」

604: 2014/12/05(金) 01:00:23 ID:iMiian6I0
ハンジ「途中で焦がしそうだなあ」

リヴァイ「蒸し器で蒸しパンを作るのも」

ハンジ「だから、焦がすまでやらかしそうで怖いんだって!」

リヴァイ「蒸し器の場合は沸かした湯を切らさない限りは大丈夫だと思うが」

ハンジ「空焚きしたらどうするの!? 折角購入した蒸し器を台無しにしたくないよ」

リヴァイ「そうか」

ハンジ「なんていうか、ずっと火を見ておくのが苦手で……途中で他の事をやりたくなって、放置してしまう癖がある」

リヴァイ「料理に集中出来ねえのかよ」

ハンジ「だってその待っている時間って勿体ないと思わない?」

リヴァイ「火加減を見るのは割と好きな工程だから思った事がねえ」

ハンジ「成程。じっと耐えるのが好きなんですね」

リヴァイ「耐えると思った事もねえな。そういう感覚じゃねえ」

リヴァイはなんと説明したらいいか迷った。

リヴァイ「火の入れ方で料理はがらりと変わるからな。菓子の場合も余熱の温度から火入れの時間加減で味が変わる」

ハンジ「おおお」

605: 2014/12/05(金) 01:02:27 ID:iMiian6I0
リヴァイ「夏と冬では若干時間配分も変わってくる。その辺は勘の世界になってくるが、出来上がった時の仕上がりが良く出来た時は格別な思いを味わえる。料理は苦労しただけ、経験として自分の糧になるし、失敗したとしても挑戦し続ける方が……」

そこまで熱く語って、はたっと我に返った。

リヴァイ「すまん。あくまで俺の持論になる。ハンジに無理強いさせるつもりはねえ。苦手だと言うならそれを無理に克服する事はない。ハンジが出来ない部分は俺がやればいい話だしな」

ハンジ「うん。そこは是非ともお願いしますよ」

何故かハンジにそう言われて悪い気がしない自分が居た。

リヴァイ(ハンジの舌を俺の手料理無しには生きていけないくらいに)

夢中にさせてしまえば、この繋がりがいつか消える事も無くなるだろうか?

そう、一瞬思いかけた自分に慌ててブレーキをかけた。

リヴァイ(おいおい、それは女子がよく男を落とす時に使うって言われるアレと同じじゃねえか)

男女が逆転している点もそうだが、その思考そのものが危ないと思った。

リヴァイ(将来を考えたら、本当は手料理くらい出来た方がいいに決まっている)

ハンジの為を思うなら恐らく、料理の手ほどきしてやった方がいい。

しかしそうやって結果、ハンジが自立出来るようになってしまったら、今度は自分の存在意義が無くなるような気もして素直に言い出せなかった。

ハンジは今のままでいい。自分を必要として欲しい。

そう考えて、その思考が随分と自分勝手だと気づいて自己嫌悪に陥った。

606: 2014/12/05(金) 01:03:16 ID:iMiian6I0
ハンジ「ん? どうしたの?」

リヴァイが突然、無言になったので気を悪くしたのかと勘違いしたハンジは首を傾げた。

リヴァイ「いや………」

ハンジ「あ、もしかして、『やっぱり料理の仕方を教えた方がいいのか?』と思った?」

リヴァイ「なんで分かった」

ハンジ「分かりますよ。過去に私の女友達が何度も同じような顔をしましたから」

リヴァイ「そうだったのか」

ハンジ「私の為を思って『料理を覚えた方がいい』と苦言をしてくれた友人も多々いました。先生になってくれた心優しい友人もいました。でも、皆、最後には『家事が出来る彼氏を捕まえる方が早いな』という結論に至ったので、私もそう思うようにしたんだよ」

リヴァイ「お前、どんだけ酷い生徒だったんだよ」

ハンジ「しょうがないよ。家庭科だけはずっと1だったんだ。他はオール5だったけど」

リヴァイ「家庭科の先生も泣きそうだな」

ハンジ「本当にね。多分、生理的に受け付けないんだと思うよ。性格的に」

リヴァイ「……雑なのか」

ハンジ「細かい作業が苦手なんだよ。工作は大丈夫だけど。何でだろうね?」

リヴァイ「諦める方が早いって事か」

607: 2014/12/05(金) 01:03:49 ID:iMiian6I0
ハンジ「そうそう。だからリヴァイはそんな顔しなくていいよ」

リヴァイ「……………」

複雑な心境だったが、リヴァイは一応納得した。

リヴァイ「そろそろ寝るか」

ハンジ「あ、もう12時過ぎたね」

リヴァイ「ああ。ハンジは勉強を頑張れ」

ハンジ「おう! 頑張ります! じゃあまた明日!」

そして湯呑み茶碗を片付けてリヴァイは朝の仕事までの仮眠を取る準備をした。

ハンジの気配を襖越しに感じる。いつもの日常のリズムの中、リヴァイは思った。

リヴァイ(明日も家事を頑張ろう)

頭の中はすっかり主婦のそれと同じ状態のリヴァイだった。

608: 2014/12/05(金) 01:04:40 ID:iMiian6I0
月日が流れて2月に入った。

リヴァイはエルヴィンに言われた通り、児童書と実用の担当を持つ事になった。

エルヴィン「まずは品出しのやり方から順に教えていくよ」

リヴァイ「分かった」

エルヴィン「本が傷んでいたら抜いて新しい本を補充する。補充する時はこのパソコンの画面から入って……」

細かい指示をちゃんと聞いて理解した上で仕事を習う。

分からない点はすぐ質問して確認して、まずは一通りやってみる事になった。

エルヴィン「慣れるまでは私の補佐的な感じでやって貰うから。今日は一日、リヴァイは外に出ていいよ。レジはカルラさんと私が入るから」

リヴァイ「いいのか?」

エルヴィン「慣れてきたら途中で交代する事になる。まずは一通りやってみて」

リヴァイ「了解した」

そしてリヴァイは棚を改めてじっくり見てみる事にした。

609: 2014/12/05(金) 01:16:26 ID:iMiian6I0
リヴァイ(成程。傷んだ本を抜く作業も追いついていない状態だったのか)

これでは本が売れない。まずは綺麗な本を並べる事から始めないと。

リヴァイ(まずはそこから始めるか)

背表紙が日焼けしていたり折り目のあったりする本を優先的に抜いていく。

入って来た本を補充して綺麗に並べていたら、今度は入りきれなくなった。

リヴァイ(指が入らないな。これは……)

指を入れられないと取り出しにくいので、今度は売れていないと思われる本の中から返してよさそうな物を引き抜いていく。

そうやって本を入れ替えて実用書と児童書を終わらせた頃には一日が終わってしまった。

リヴァイ(しまった! 時間がかかり過ぎた)

リヴァイが仕事を終えたのに落ち込んでバックヤードに引っ込むと、エルヴィンは「ありがとう」とお礼を言った。

エルヴィン「うん。溜まっていた仕事が大体片付いた。助かったよ」

リヴァイ「いや、でも、5時間丸々使ってしまったぞ」

エルヴィン「お客様の対応と同時進行にやる訳だからそんなもんだよ」

リヴァイ「もっと早く品出し出来るようにならないといかんな」

エルヴィン「そこは追々でいい。今日はリヴァイの引き抜いた本を私が夜に返品作業をして返すよ」

610: 2014/12/05(金) 01:17:46 ID:iMiian6I0
リヴァイ「同時進行でやらないといけないのが大変だな」

エルヴィン「それだけに集中してやれたら、3時間もあれば全部終わるけどね」

リヴァイ「客の対応とレジと品出しの3つを同時に気を配る訳だから大変だな」

エルヴィン「何でも慣れだよ。そのうち後ろに目がついたような感覚を会得する」

リヴァイ「気配で察知する訳か。その感覚は分からなくもない」

エルヴィン「いや、これに加えて第4の目も必要だ。万引きの警戒も必要だから」

リヴァイ「そう言えばそうだった。確かに目が足りないな」

リヴァイが額を指さして言った。

リヴァイ「この辺に3つ目の目と、後ろに4つ目の目があればいいのな」

エルヴィン「ぶふっ!」

エルヴィンが予想以上にウケていてリヴァイが困った顔になった。

リヴァイ「何だ? 冗談に決まっているだろ」

エルヴィン「いや、今、某キャラクターを想像してしまって。似合うと思ってしまった」

リヴァイ「?」

エルヴィン「後で貸す。元ネタが分からないなら」

611: 2014/12/05(金) 01:18:16 ID:iMiian6I0
リヴァイ「まあ、後でな」

そう言いながらリヴァイはサービス残業に向かった。

今日はカルラさんがレジだけだったので、店内の掃除はしていない。

そんなリヴァイを送り出して、その後姿を見つめながらエルヴィンは思った。

エルヴィン(5時間以内に児童書と実用書の仕事を全部、終えてしまうとは思ってなかったのにな)

普通は初めて担当を持たされたら、一つの担当の品出しを終わらせるだけで精一杯だ。

品出しだけに集中して仕事が出来る訳じゃない。客の対応と同時進行だと言う事を忘れてはいけない。

慣れた社員なら兎も角。彼はまだここに来てやっと2か月程度なのに。

エルヴィン(なのに終わった後は『時間がかかり過ぎた』って顔をしていた。仕事に慣れてきたらどれだけ彼は作業スピードを上げられるんだろう?)

その貪欲な姿勢に敬服した。彼は作業をこなす事が苦ではないようだ。

エルヴィン(やっぱり家で主婦業をしている人は違うなあ)

リーネもカルラも主婦業をしているから作業が早い。主婦の方は本当に優秀な人材が多い傾向にある。

エルヴィン(リヴァイの場合も外で仕事した後は家の仕事がある訳だし、体力も気力も並み以上じゃないと続かないよな)

そのバイタリティには本当に頭が下がる。

エルヴィン(私の場合は休みの日は自宅でゴロゴロ本を読んでばかりいるのに)

612: 2014/12/05(金) 01:19:01 ID:iMiian6I0
きっと、そういう時間もリヴァイの場合は仕事をするのだろう。

エルヴィン(本当ならもっと、給料のいい別の仕事もあっただろうに)

こんな低賃金でしんどい仕事にわざわざやってきた彼を捕まえた自分の幸運を凄いと思った。

エルヴィン(ドラフト会議で1位指名を引いちゃった監督のような気分かな)

そんな風に思いながら、ついついニヤニヤして休憩を取るエルヴィンだった。

2月11日。その日は例の実験検証の仕事が入った。

リヴァイとハンジは2人で車で出かけた。向かう先はハンジの通っている大学ではなく、他県の大学になるそうだ。

隣の大学まで高速道路を使って移動して2時間くらいでその大学に到着すると、その大きな大学の敷地内に圧倒されたリヴァイだった。

リヴァイ「広いな……」

ハンジ「まあ、大学によっては大きさが全然違うね」

ハンジは場所を確認して集合場所の大きな建物の中に入って行った。

613: 2014/12/05(金) 01:19:30 ID:iMiian6I0
中で待機していた男女のペアは意外と少なかった。

多くは男同士か女同士でのエントリーが多いようだ。

リヴァイ(男女のペアは俺達とあともう一組しかいねえようだな)

本当に良かったのだろうか?

そう言外にハンジを睨むと「ん?」と彼女は首を傾げていた。

ハンジ「どうした?」

リヴァイ「女同士じゃなくて良かったのか?」

ハンジ「規定では2人一組って話だったから。問題ないよ。私達以外にも男女ペアがいるし」

リヴァイ「ならいいんだが」

そして予定開始時刻の朝の9時になった。

この時間から12時間程度、拘束される事になる。

大学教授「えー皆様、本日はお集まり頂いて誠にありがとうございます」

という簡単な挨拶を済ませた後はすぐに実験に移る事になった。

今回の実験は人間の視覚を調べる実験で、10色の部屋に1時間ずつ籠って貰うと言う物だった。

大学教授「ただし部屋の中には時間を確認する物は何も用意しておりません。携帯電話や腕時計など、時間を確認出来る物は全てこちらで預かります。体内時計のみで判断し、一時間が経過したと判断したら部屋の外に出て頂いて結構です」

614: 2014/12/05(金) 01:36:21 ID:iMiian6I0
説明が一通り終わると、ペアがそれぞれ用意された部屋に入って行った。

そしてリヴァイとハンジが最初に入った部屋は赤色一色の部屋だった。

ハンジ「赤い! クッションまで赤色だ!」

リヴァイ「内装が全部赤色だな。壁も天井も赤い」

ハンジ「成程。この部屋の中で一時間、待機する訳だね」

リヴァイ「一時間も何をすればいいんだ?」

ハンジ「暇つぶしの道具は何もないんだから、おしゃべりでもするしかないよ」

リヴァイ「そうか。だから2人一組のエントリーだったのか」

ハンジ「じゃないかな。よし、リヴァイ。何かしゃべろう!」

リヴァイ「何かって言われても困る」

ハンジ「じゃあ私の話したい事でもいい?」

リヴァイ「ああ、まあ、別にいい」

リヴァイはこの時、自分の判断を後で大変悔やむ事になる。

ハンジ「本当に? いいんだね? おしゃべりしちゃっても(キラーン☆)」

眼鏡が光った気がした。気のせいだろうか?

615: 2014/12/05(金) 01:36:58 ID:iMiian6I0
リヴァイ「ああ。好きにしろ」

ハンジ「あのね、だったらまずは………」

そこからハンジの口は止まらなくなった。

自分の趣味の話、つまり人間の体について永延と話し続けたからである。

ハンジ「私は人体模型を小学生の時に理科室で見かけた時から人間の体の造りの虜になってしまってね。特に筋肉に関しては、もう変態と言われようが、イイ筋肉を見ちゃうと涎が出る程ガン見しちゃう癖があって、特に僧帽筋とか三角筋とか、大胸筋とか、上腕二頭筋とか、腕橈骨筋とか、あ、でも大腿四頭筋も下腿三頭筋もいいよね。ついつい眺めちゃうんだよなあ」

リヴァイ「待て。今、いくつ筋肉の名前をあげた?」

ハンジ「えっと、7つくらい? もっとあげようか?」

リヴァイ「いや、いい。大胸筋とかは分かるが、最後の方はなんていった?」

ハンジ「下腿三頭筋?」

リヴァイ「どこだよ。そこは」

ハンジ「脹脛の筋肉の事だよ」

リヴァイ「何でわざわざ筋肉の名称で言う。脹脛でいいだろ」

ハンジ「筋肉の名前の方がいいかと思って」

リヴァイ「分かりやすい名称で言え」

ハンジ「分かった。大腿四頭筋は太もも。上腕二頭筋は力瘤のところだよ」

616: 2014/12/05(金) 01:37:49 ID:iMiian6I0
リヴァイ「筋肉が好きって、本当に変態だな」

ハンジ「理屈じゃないんだよ! あの造形美! どんな美術品より人間が一番美しいと思う」

リヴァイ「そうか? 俺はそう思わないが」

ハンジ「なんで」

リヴァイ「俺は食べ物が美しいと思う。丸っこいリンゴとか」

ハンジ「それは食べたいだけじゃないのかな」

リヴァイ「美味そうだと思えるリンゴほど美しいんじゃないのか? 実際、張りのある果実は美味い」

ハンジ「リヴァイは花より団子ですね」

リヴァイ「実際、皆似たような物だろ」

ハンジ「そうかもしれないけど! でも人間の体って面白いんだよ」

リヴァイ「どう面白いんだよ」

ハンジ「まず、約60兆個ほどの細胞で出来ている点が凄い」

リヴァイ「数が大き過ぎてピンとこない」

ハンジ「だよね! 私も全くピンとこない数だよ。でもそれだけの細胞が組織を作って、器官を作って、器官系統を作っていく訳だから凄いよね!」

リヴァイ「う、うーん?」

617: 2014/12/05(金) 01:38:42 ID:iMiian6I0
どう凄いのかイマイチ理解出来なかった。

ハンジ「人体には骨格系、筋系、循環器系、呼吸器系、消化器系、泌尿器系、生殖器系、内分泌系、脳神経系、感覚器系に分類される10の器官系があってね」

リヴァイ「ふむ」

ハンジ「まずは骨格系。筋系と共同して体を支えて、筋の収縮によって運動して、また腔所(こうしょ)を作って臓器を保護しているんだけど」

そこから始まったハンジの理科の授業にリヴァイはだんだん頭が追い付かなくなってきた。

リヴァイ(どうしよう。ハンジの言っている言葉の意味が半分も理解出来てねえ)

白熱してきた専門分野にリヴァイはだんだん焦りを感じた。

リヴァイ(も、もう一時間くらい経ったんじゃねえか?)

何となくそんな気がしてリヴァイはハンジの話を途中でやめさせた。

リヴァイ「ハンジ、話をやめろ。もう一時間くらい経っただろ」

ハンジ「あ、そうかな?」

リヴァイ「部屋を出るぞ。いいな」

ハンジ「まあ、リヴァイがそう判断するなら出ようか」

そして部屋を出てみると、実際の時間は……

調査官「50分30秒ですね。若干早かったですね」

618: 2014/12/05(金) 01:40:10 ID:iMiian6I0
ハンジ「あれれ? 10分早く出ちゃった?」

調査官「ですね。お疲れ様でした。次は青い部屋に移動になりますが、その前に5分程度休憩されて結構ですよ」

ハンジ「分かりました」

リヴァイは少々気まずかった。早く脱出したのはハンジの話を打ち切りたかったせいだ。

ハンジ「あーなんか、妙に興奮しちゃった。赤色の部屋の影響かな?」

リヴァイ「かもしれないな。白熱していたようだしな」

リヴァイは部屋の内装は赤色を使わない様にしようと心に決めた。

そして次は青色の部屋に待機した。

ハンジ「ごめんね? さっきはリヴァイに分かんない話をしてしまって」

リヴァイ「後半は特に難し過ぎて訳が分からなかったな」

ハンジ「いや、ついつい。興奮しちゃうとああなってしまって」

リヴァイ(エルヴィンの言っていた事は本当だったようだ)

徹夜させられるのは勘弁したいと思ったリヴァイだった。

ハンジ「こっちの部屋では別の事をおしゃべりしようか」

少し冷静になったハンジはそう自分から言いだした。

619: 2014/12/05(金) 01:40:43 ID:iMiian6I0
ハンジ「次はリヴァイが話したい事を話そうよ」

リヴァイ「んー」

リヴァイはそう言われて少し考えてみた。

リヴァイ「先程の筋肉の話で思い出したが、最近は以前に比べたら運動してねえな」

ハンジ「そういえば、前にもそう言っていたね」

リヴァイ「ああ。本屋の仕事は肉体労働だと聞いていたが、思っていたより身体を動かしていないから少し鈍っている気がする」

ハンジ「立ち仕事だから、足には疲労が溜まりやすいでしょう?」

リヴァイ「そうだな。体を動かさない方の局所疲労が溜まっている気がする」

ハンジ「本当はもっと体を動かしたいんだ?」

リヴァイ「まあ、そうなるな」

ハンジ「今、ここで腹筋でもしたら?」

リヴァイ「してもいいならそうするが」

ハンジ「いいと思うよ。部屋の中での過ごし方は自由だから」

リヴァイ「じゃあ、遠慮なく」

620: 2014/12/05(金) 01:41:11 ID:iMiian6I0
そしてリヴァイは久々に室内トレーニングを行う事にした。

上着を脱いでセーターを脱いで、薄着の長袖の姿になって寝そべって膝を立てる。

その様子をハンジにじっと見つめられている。

リヴァイ「ん?」

ハンジ「あ、御免。邪魔だった?」

リヴァイ「いや別に。暇なら足首を固定してくれ」

ハンジ「あ、はい」

しかしリヴァイは身体を完全には起こさない。

ハンジ「あれ? 起き上らないの?」

リヴァイ「ん? 起きているぞ」

ハンジ「そうなの? 見えないけど」

リヴァイ「まずはフェイスアップ・クランチから始める。いきなり負担の大きい腹筋からは始めない」

リヴァイ「頭だけ浮かせているのが分かるか? この状態で3秒停止。3秒で戻す」

ハンジ「成程」

リヴァイ「これをまず10回×3セット。それが終わったら次の段階に移る」

621: 2014/12/05(金) 01:41:38 ID:iMiian6I0
リヴァイはハンジに説明しながら腹筋をやっていた。

一応、身体を動かす事も想定して着替えは準備してきているので、ここで汗を掻いても問題ない。

リヴァイ「次はベーシック・クランチだ。掌を合わせて腕を伸ばした状態で腹筋だけで上体を起こしていく方法だ。これも3秒かけてUPして3秒停止する」

ハンジ「へー腹筋のトレーニング方法にもいろいろあるんだ。知らなかった」

リヴァイ「闇雲に筋肉を鍛えればいいってもんでもないぞ」

ハンジ「あの、実はリヴァイ、腹筋が割れているとか?」

リヴァイ「まあ、そこそこ」

ハンジ「マジか」

ハンジの目の色が変わった。その視線にリヴァイも目を細めて言う。

リヴァイ「なんだ? 見たいのか?」

ハンジ「ぎゃああ! ごめんなさい。はしたない女で御免なさい!」

ハンジが真っ赤になって両目をきつく閉じる様が可愛らしいとは思ったが。

リヴァイ「一応、今は仕事中だからな」

ハンジ「はい。分かっています。自重します」

リヴァイ「次はロールアップだ。これは普通の腹筋だな」

622: 2014/12/05(金) 01:42:11 ID:iMiian6I0
ハンジ「これは体育の授業でもやらされたりする奴だね」

リヴァイ「1番オーソドックスな腹筋のやり方だろうな。これも10回3セットやる」

そしてリヴァイは最後に一番きつい腹筋のやり方をする事にした。

リヴァイ「最後にリバース・クランチだ。これは足首を固定しなくていいぞ」

ハンジ「そうなんだ」

リヴァイ「両足を上にあげるタイプの腹筋だ。これが一番しんどい」

ハンジ「おお」

リヴァイ「特に足を余り上げずにギリギリ浮かせる奴が結構クル」

ハンジ「おお! プルプルしている」

リヴァイ「足が地面に近い程負荷が重くなる。これも10回3セット。終わったら休憩する」

ハンジ「意外と回数は少ないんだね」

リヴァイ「やるのは腹筋だけじゃねえからな。他の部位の筋肉も万遍なく鍛えねえと」

ハンジ「他はどこを鍛えるの?」

リヴァイ「どこを鍛えて欲しいんだ?」

リヴァイがゴロゴロ横になって聞き返すと、ハンジがますます頬を赤らめた。

623: 2014/12/05(金) 01:42:37 ID:iMiian6I0
ハンジ「え? それって私のお気に入りの筋肉を鍛えてくれると受け取ってもいいのかな?」

リヴァイ「元々俺は筋トレが趣味だ。暇がある時はそうやって時間を潰していた」

金もない自分に出来る唯一の趣味と呼べる物がそれだった。

料理や掃除は家を構えてから出来るようになった事であって、それ以前は定住地すらなかった訳だから。

ハンジ「そうなんだ! 家でやっている素振りを見ていなかったから知らなかったよ」

リヴァイ「ハンジが学校に行っている時間帯はたまにしていたけどな」

ハンジ「そうだったのか。夜中もやってもいいのに」

リヴァイ「いや、気配が邪魔かと思っていた」

ハンジ「そんな事ないよ! 寝る前にどうぞやって下さい」

リヴァイ「ふむ。なら今後は遠慮しなくてもいいか」

そう思いなおしてリヴァイはひょいっと起き上った。

リヴァイ「で? どこをやって欲しい?」

ハンジ「では大胸筋をお願いします!」

リヴァイ「だったらパームプッシュから始めるか」

胸の前で掌を合わせて前腕を一直線になるように揃える。

624: 2014/12/05(金) 01:43:28 ID:iMiian6I0
そのまま両方から力をぐっと加えて5秒。休憩してまた5秒を繰り返す。

ハンジ「へー。そういうのをしたらいいのか」

リヴァイ「ハンジもやってみればいい」

ハンジ「分かった。真似してみようかな」

2人で揃えて胸の筋肉のトレーニングに勤しんだ。

リヴァイ「次は腕を伸ばした状態で上下に動かす」

ハンジ「上下に?」

リヴァイ「そうだ。この時も左右の力は入れっぱなしだ。今度は3秒ずつでいい」

ハンジ「了解した」

そんなこんなでリヴァイによる筋トレ講座を行っていたら、時間を忘れていた2人だった。

ハンジ「あ! しまった」

リヴァイ「どうした」

ハンジ「今、どれくらい時間が経ったんだろう?」

リヴァイ「あ……」

ハンジ「ちょっと長居をしたような気がするんだけど」

625: 2014/12/05(金) 01:43:59 ID:iMiian6I0
リヴァイ「外に出てみるか」

ハンジに連れられて外に出ると、

調査官「1時間10分ですね。少し出るのが遅くなったようですね」

ハンジ「今度は遅かったですか」

調査官「はい。次は緑色の部屋になります。休憩されていいですよ」

ハンジ「分かりました」

2人は持って来ていた着替え用の服にトイレで着替えてくる事にした。

リヴァイ「すまん。調子に乗って長居をしたようだ」

ハンジ「青色の方はリヴァイの方がしゃべったね」

リヴァイ「何でだろうな? 赤色より落ち着いた。自然体で居られた気がする」

ハンジ「男の人は青色が好きな人が多いからかも?」

リヴァイ「いや別に青色が好きって程でもねえけど」

ハンジ「なら好きな色は?」

リヴァイ「緑色だな。野菜だって緑が多いだろ」

ハンジ「成程。合点がいく」

626: 2014/12/05(金) 01:44:33 ID:iMiian6I0
リヴァイ「ハンジは何色が好きなんだ?」

ハンジ「私も緑色が好きだよ。一番落ち着く色じゃないか」

リヴァイ「赤色の部屋では興奮して居た癖に」

ハンジ「いや、あれはまあ、そうだけど、それは好きって話じゃなくて」

リヴァイ「赤色が似あわない訳じゃなさそうだが」

ハンジ「…………」

リヴァイ「桃色とかは柄じゃねえな」

ハンジ「桃色の服を着たら笑いそうだね」

リヴァイ「別に笑いはしない。「ほぅ……」と思うだけだ」

ハンジ「意味深で怖いよ」

リヴァイ「下らない事を話している場合じゃないな。戻るぞ」

ハンジ「はいはい」

そして緑色の部屋の中に入って2人はまったりした。

ハンジ「色によって精神的な影響に差異があって面白いね」

リヴァイ「まあな。赤色の部屋は落ち着かなかったしな」

627: 2014/12/05(金) 01:45:14 ID:iMiian6I0
ハンジ「うん。緑色の部屋はちょっと眠くなる感じもするよ」

リヴァイ「俺もだ。一休みしたい気分だな」

ハンジ「寝る?」

リヴァイ「寝たら流石に時間の間隔が分からなくなる」

ハンジ「それもそうか」

リヴァイ「部屋の内装も緑色に変えようかな」

ハンジ「ん? 模様替えでもするの?」

リヴァイ「いつか余裕のある暮らしが出来たらの話だ。カーテンや絨毯とかを緑色で統一出来たら、今みたいにまったり出来る」

ハンジ「リヴァイは家庭にまったりを望むのか」

リヴァイ「家は安らぎの場所だろ。安心の『安』の字がうかんむりに女って書くだけはある」

ハンジ「いきなり何の話?」

リヴァイ「女がいるとそれだけで安らぐって話だ」

ハンジ「……………」

突然のリヴァイの本音にハンジは口を一の字にして黙ってしまった。

その気まずい空気に気づいてリヴァイは慌てて誤魔化した。

628: 2014/12/05(金) 01:45:50 ID:iMiian6I0
リヴァイ「うちの場合は子供達がその代わりを果たしているけどな」

ハンジ「あ、成程」

リヴァイ「俺が働きに出ている間はあいつらが家を守ってくれる。あいつらがいるからこそ、俺も頑張ろうと思える」

ハンジ「持ちつ持たれつっていうもんね」

リヴァイ「そうだな」

今の会話で一応、誤魔化せただろうか?

リヴァイ(ハンジに対して言ったつもりだったのがバレてないといいが)

思い出したのは早朝、出かける前にこっそりキスをしている件だった。

リヴァイ(まだ伝えたくはねえ)

今はまだ曖昧なままの関係でいいと思っている。だからつい誤魔化してしまった。

そして其の時、ハンジの内心はというと、

ハンジ(家は安らぎの場所……か。私はそういうの、出来る女じゃないもんな)

むしろ家にいる時は寝ているか自分の事しかしていない。

ハンジ(いや、でも、女がいるだけでそれだけで安らぐとも言ったから、一応、役には立っているのかな?)

リヴァイ(用心しねえと。少しでもそういう空気になったら、俺はうっかり自分から言ってしまいそうだ)

629: 2014/12/05(金) 01:46:27 ID:iMiian6I0
何だが微妙にずれている2人だったが、緑色の部屋ではまったり時間を過ごしたのだった。

緑色の部屋の実験が終わってから昼の休憩になった。

12時から1時までは自由に大学の敷地内で過ごしていいそうだ。

リヴァイ「昼飯の時間も実験をやればいいのに」

ハンジ「食事をしながらだと、正確なデータが採れないんじゃない?」

リヴァイ「それもそうか」

ハンジ「ま、お弁当も支給されるから何処か外で食べようか」

リヴァイ「ん」

外は幸い天気にも恵まれて晴天だった。

少々肌寒い空気ではあったが、日向のおかげで寒くはない。

大学の敷地の中にはテラスもあって、そこでまったり他のペアも昼食をとっていた。

リヴァイ「ハンジはいつも大学のこんな感じの場所で昼飯を食べているのか?」

ハンジ「テラスで食うのかって事? うーん。研究室の中で頂くか食堂に移動するかどちらかだね」

リヴァイ「外で食わないのか」

ハンジ「日光に当たった方が健康にはいいんだろうけど、ついつい」

630: 2014/12/05(金) 01:46:54 ID:iMiian6I0
リヴァイ「俺も最近、朝日しか浴びてないような」

ハンジ「朝日を浴びるのはいい事じゃないか」

リヴァイ「いや、休みの日は夕陽も浴びるか」

ハンジ「日中の日差しを浴びるのは久々?」

リヴァイ「いや、出勤中は浴びているか。そう言えば」

ハンジ「なら私より健康的だ」

リヴァイ「ハンジは暇さえあれば勉強しているよな」

ハンジ「私にとっては勉強というより趣味の感覚に近いけれど」

リヴァイ「趣味で医学部に入ったのか」

ハンジ「なんかいつの間にかそうなった。自然と」

リヴァイ「成程」

ハンジ「………リヴァイのお弁当の方が美味しいね。この弁当、あんまり美味しくないや」

リヴァイ「ぶふっ!」

突然話題が急カーブしてリヴァイは噴いた。

リヴァイ「いきなりなんだ」

631: 2014/12/05(金) 01:47:16 ID:iMiian6I0
ハンジ「んー素直にそう思っただけ。味、濃すぎない? おにぎりとか」

リヴァイ「惣菜屋の弁当なんだからこんなもんだろ」

ハンジ「あーダメだ。リヴァイの料理に慣れてきたから他のが食べられなくなってきたよ」

リヴァイ「……………」

ハンジ「でも今日は朝の出発が早かったからお弁当を用意する時間がなかったもんね」

リヴァイ「朝刊の仕事を終えて家に戻ってから殆ど何も食べずに車に飛び乗ったからな」

それだったら前日に作っておいた方が良かったなとちょっとだけ後悔したリヴァイだった。

リヴァイ「まあ、今回は仕方がない。たまにこういう事があるからこそ、俺の有難味が分かるだろ?」

ハンジ「本当だね。いつもありがとう。リヴァイ」

リヴァイ「ふん……」

言わせたような気もするが、悪い気分ではなかった。

リヴァイ(ハンジが大学を卒業してからもこのまま同居生活を続けられないだろうか?)

ハンジの進路次第になるが、いっそ大学院まで進んでくれたら。

リヴァイ(そうだ。ハンジの進路次第では延長の可能性も十分あり得る)

リヴァイはふと疑問に思ってハンジに聞いてみた。

632: 2014/12/05(金) 01:47:51 ID:iMiian6I0
リヴァイ「ハンジ、お前は大学院の方には進まねえのか?」

ハンジ「え?」

リヴァイ「大学院に行けば6年かかるよな。卒業までに」

ハンジ「…………」

ハンジが唐突に変な顔になった。そして口元を押さえた。

リヴァイ「何だ? 苦い物を食べたような顔しやがって」

そしてハンジは恐る恐る言ったのだった。

ハンジ「あの、医学生は、普通、大学は6年間通うんだけど」

リヴァイ「え……」

ハンジ「普通の大学生は4年間だけど、医学部は6年通って、その後に研修医になって2年間頑張るか、大学院に進学して3年追加してやっと専門医になるんだけど」

リヴァイ「…………」

ハンジ「もしかして、4年間だけだと勘違いしていた?」

リヴァイ「初めに説明しなかったのはそっちだろうが!!!」

リヴァイは恥ずかしくて顔から火が噴き出るかと思った。

リヴァイ「だったら最初からそう言え! 4年間だけだと思っていたぞ。完全に」

633: 2014/12/05(金) 01:48:25 ID:iMiian6I0
ハンジ「いや、知っているものだとばかり……」

リヴァイ「俺はそういう知識は碌に知らねえよ。クソが!」

何だか自分の知識の無さをひけらかしてしまったようで恥ずかしかった。

ハンジ「はい。御免なさい。私が悪かったです(シュン)」

思いっきり怒られてしまったのでハンジは背中を丸くして謝った。

ハンジ「お詫びに私の卵焼きを1個あげる。食べかけだけど」

リヴァイ「おい、食べかけって事はこの卵焼き、不味かったんだろ?」

ハンジ「そうとも言います」

リヴァイ「不味い物を人に押し付けるな」

ハンジ「じゃあ、唐揚げにする?」

リヴァイ「こっちも食いかけじゃねえか」

ハンジ「だって、リヴァイの作ったおかずの方が美味しいから」

リヴァイ「確かにそうだが、食わないと午後が持たないだろ」

ハンジ「リヴァイが食べないなら捨てるよ」

リヴァイ「待て。だったら食べる。捨てるなんて真似はするな」

634: 2014/12/05(金) 01:48:48 ID:iMiian6I0
生来のケチ臭さが出て思わずストップをかけた。

ハンジの残した物をリヴァイが渋々受け取る。

そしてリヴァイはブツブツ文句を言いながら箸を突いた。

リヴァイ「6年間か。結構長い期間じゃねえか」

ハンジ「あーうん。だから家賃が安く済むならそっちの方がこっちも都合が良かったのよ」

リヴァイ「しかも大学院に進んだら更に3年追加って事は、卒業するには9年間かかるのか」

ハンジ「私の場合は大学院は無理そうだけどね」

リヴァイ「何で」

ハンジ「うーん。ちょっと、大学での派閥がね。うまくいってないから。多分、教授にあんまり気に入られてないっぽい」

リヴァイ「………」

そう言えばハンジが悔しそうに泣いていた時の事を思い出したリヴァイだった。

ハンジ「でも根性で卒業して研修医にはなろうと思う。まずは医者として患者と接してみたいし、その経験をいずれ研究の方へ繋げていけば……」

リヴァイ「本当は大学院の方に行きたいんじゃねえのか?」

その瞬間、ハンジは押し黙ってしまった。

そして慎重に言葉を選んでリヴァイに言った。

635: 2014/12/05(金) 01:49:25 ID:iMiian6I0
ハンジ「理想と現実は必ずしも合致しないよ」

リヴァイ「でも、最初から諦めるのは……」

ハンジ「ルートを変えるだけだよ。私の最終目標までの道のりは、いくつか道がある。何もひとつの道に拘る必要はないから」

リヴァイ「そうか」

そこまで決めているのならこれ以上、口を挟むのも良くないとリヴァイは判断した。

リヴァイ「ハンジがそう判断するならそれがいいだろうな」

大学院に進む方がより長く一緒に居られる訳だがそこまで贅沢は言えない。

ハンジ「うん。その、結構、長くお世話になる事になっちゃう訳だけど、大丈夫?」

リヴァイ「ああ。まあ、少々驚きはしたが。そういう事ならこっちもそのつもりでいる」

4年間のつもりだったのが、6年間は確実に一緒に居られるとは。

期間が長くなった事でつい口元がニヤニヤしそうになる自分を抑え込んだ。

ハンジ「なんか、本当にごめん」

改めてシュンとするハンジにリヴァイは言ってやった。

リヴァイ「6年間も勉強するとなると本当に大変な道だな」

ハンジ「ん? そうかな」

636: 2014/12/05(金) 01:50:19 ID:iMiian6I0
リヴァイ「ああ。それだけ長くて険しい道のりなのにどうしてそこへ行こうと思えるんだ?」

ハンジ「んー」

ハンジはそこで長考して慎重に言葉を選んだ。

ハンジ「人体には謎が多いからかな」

リヴァイ「謎?」

ハンジ「例えば今回の実験の様に視覚から持たされる心理的な影響とかも、研究を重ねた結果、だんだん分かって来た事だけど、それ以前はただの『謎』としか捉えられていなかった。地球が昔、平たいピザのように思われていたように、研究を重ねたおかげで今の常識が浸透した事も世の中には沢山ある」

リヴァイ「つまりハンジは解明されていない謎を追いたいのか」

ハンジ「その結果、人間を救う事に繋がるのであれば」

立派な志だと思った。余りに眩し過ぎて目が眩むほどに。

リヴァイ(俺とは全く違う生き方だな)

それは頭のいいハンジだからこそ行ける道なのかもしれない。

ハンジ「私が特に研究したいと考えているのは免疫関係の研究なんだ」

リヴァイ「免疫?」

ハンジ「そう。インフルエンザや風邪に感染した時にはそれがないと人間は氏んでしまう訳でしょう? 免疫の力は人によって差が大きいのはどうしてだろうって思わない?」

リヴァイ「生まれつきの差じゃねえのか?」

637: 2014/12/05(金) 01:51:21 ID:iMiian6I0
ハンジ「勿論、それもあるけれど。遺伝的な要素も無関係とは言えないけれど。昔身体が弱かった子供が大人になってから体を鍛えて風邪を引きにくくなる例もある。逆に子供の頃は強かったのに大人になってから弱くなった例もある。それだけとは言えない部分もあるんだよ」

リヴァイ「そうなのか」

何だかまた小難しい話になってきて顔を顰めるリヴァイだった。

リヴァイ(でも、そういう難しい話をしている時のハンジはイキイキしている)

目を輝かせているから話を止めにくい。でも、止めないと頭が混乱する事もあると分かったので程ほどにさせておく。

リヴァイ「昼飯、食い終わったらなら戻るぞ」

ハンジ「あ、待って。お茶も飲むから」

リヴァイ「さっさと飲め。時間に遅れたら迷惑をかける」

ハンジ「はいはい」

そしてお昼を食べ終えて、其の時になってリヴァイはようやく気付いた。

リヴァイ(あ………)

ハンジの食い残しのおかずを腹に入れたと言う事は、つまり。

リヴァイ(俺は馬鹿か!)

そういうのは所謂、その、アレと呼ぶ。間接……。

リヴァイ(いや、まあ、ハンジが寝ている時にこっそりキスはしているが)

638: 2014/12/05(金) 01:52:11 ID:iMiian6I0
何だか急に自分がしている事が恥ずかしく思えて口元を隠した。

そんなリヴァイの唐突な仕草にハンジは「?」を浮かべるだけだった。

午後からは黄色、紫、白、黒、灰色の部屋を経験して夜の6時から7時までを夕飯の時間として過ごした。

夕食の時も弁当が支給された。似たような惣菜のお弁当に「塩辛い」と思いつつもリヴァイは喉に押し込んだ。

リヴァイの食卓は基本、薄味である。調味料も当然、節約しているからだ。

リヴァイ「残る色は何色だ?」

夕食の時は室内で頂いた。食堂のテーブルと椅子を借りて向かい合って食べながら聞いてみる。

ハンジ「ええっと、残るは橙色と桃色の予定だね」

リヴァイ「結構あっという間に終わりそうだな」

ハンジ「そうだね。思っていたよりしんどくなかった」

リヴァイ「こういう単発の仕事もいいもんだな」

ハンジ「いやー今回は楽な方だよ。酷い実験もたまにあるからね」

639: 2014/12/05(金) 01:52:41 ID:iMiian6I0
リヴァイ「例えばどんな?」

ハンジ「一番しんどかったのは『人間のスクワットの限界回数は何回か?』というテレビ番組のノリのようにしたアレかなあ」

リヴァイ「ほぅ……面白そうな実験だな」

ハンジ「とにかく一日中、スクワットするだけの実験だった。トイレ休憩と食事以外は全部やらされたよ。『膝が悪い方は参加しないで下さい』って注意があったくらいしんどい仕事だったね」

リヴァイ「そういう体力勝負の仕事の方が俺には向いているかもしれない」

ハンジ「本当にいいの? そういうきっつい仕事を回しても」

リヴァイ「大丈夫だ。問題ねえよ」

ハンジ「まあ、筋トレが趣味なくらいだから体は強いんだろうけど」

そう言いながらハンジはふと思い出した。リヴァイの二の腕にわざと絡んだ時の事を。

ハンジ(あの時の感触、結構良かったなあ)

恐らくリヴァイは着痩せするタイプではなかろうか。そう睨んでいるハンジだった。

ハンジ(………って、ダメダメ。リヴァイの体を想像したら)

着衣の上からでもある程度は予測は出来るが、食事中にガン見するのは失礼だ。

ハンジ(べ、別に私はリヴァイの身体が目当てでリヴァイを好きになった訳じゃないし)

そんな事を言い出したら巨Oが好きな男性と大差ない気がする。

640: 2014/12/05(金) 01:53:20 ID:iMiian6I0
ハンジがもごもごしながら視線を彷徨わせていると、

リヴァイ「何、物欲しそうな顔をしてやがるんだか」

リヴァイが呆れた顔で言ってきた。

ハンジ「し、してないよお」

リヴァイ「嘘つけ。本当は俺の筋肉をちゃんと確かめたい癖に」

ハンジ「やだなあ。そんな事は一言も言っていませんよ」

リヴァイ「夏になったら見せてやってもいいぞ」

ハンジ「へ?」

リヴァイ「海に連れてってくれるなら、水着の姿になってやってもいい」

ハンジ「本当に?!」

あっさり食いついたハンジの変わり身の早さにリヴァイは内心笑った。

リヴァイ「その代り、ハンジもビキニの水着になれよ」

ハンジ「あーうー……そうきたか」

リヴァイ「あとイザベルとファーランも連れて行くぞ。四人でドライブに行こう」

ハンジ「いいよ。夏になったらね。ビキニは……ちょっと遠慮したいけど」

641: 2014/12/05(金) 01:53:50 ID:iMiian6I0
リヴァイ「何でだよ」

ハンジ「だってねえ? ワンピースの水着で良くない?」

リヴァイ「だったら俺も上は着衣だな」

ハンジ「えー! 意地悪。男の人は見せたって別にいいじゃないか!」

リヴァイ「本音が出たな?」

ハンジ「あ………」

言わせられた事に気づいてハンジは逆に開き直った。

ハンジ「あーもう! そこまで言われたら見たいですよ! ええ、是非ともね!」

リヴァイ「開き直りやがって」

ハンジ「悪いんですか? (ジ口リ)」

リヴァイ「別に悪いとは言ってねえが、あんまり調子に乗ると知らねえぞ」

ハンジ「どういう意味?」

リヴァイ「別に。何でもねえけど」

ハンジ「何で意味深に逃げるかなあ」

リヴァイ「さっさと弁当を食え。残した分は今回は持ち帰る」

642: 2014/12/05(金) 01:54:11 ID:iMiian6I0
ハンジ「え? 食べないの?」

リヴァイ「そう何度も残飯処理をさせるな。俺を太らせる気か?」

ハンジ「あ、それもそうか。ごめんごめん」

そして夕飯を腹に入れて実験再開。

橙色も無事にほぼ時間通りに部屋を出て、最後の桃色の部屋となった。

桃色の部屋に入った後、リヴァイは意外な心境になった。

リヴァイ(案外、悪くねえ……)

居心地が悪いかもしれないと身構えていたが、そうでもなかった。

リヴァイ(緑色の次に落ち着く部屋かもしれない。何でだ?)

逆にハンジの方は「ううーん」と苦い表情になっていた。

ハンジ「桃色過ぎてこそばゆいな。なんか女の子の部屋! って感じだよね」

リヴァイ「ああ成程」

ハンジ「私はこの部屋、ちょっと苦手かもしれない。リヴァイは大丈夫?」

リヴァイ「平気だ。むしろリラックス出来る」

ハンジ「マジか。意外だな」

643: 2014/12/05(金) 01:55:11 ID:iMiian6I0
リヴァイ「俺も意外だった。何故だ?」

ハンジ「うーん。リヴァイは案外、女性的な部分も持っているからかな?」

リヴァイ「家事仕事が出来る事がそうなるのか?」

ハンジ「あと神経が細かいところとか?」

リヴァイ「俺は別にオネエじゃねえぞ」

ハンジ「そうだけど。外見が男らしくてもたまに乙女な趣味の人もいるから」

リヴァイ「乙女な趣味……裁縫とかか?」

ハンジ「手芸も出来るの?」

リヴァイ「最近はやってねえが、出来なくはない」

でもそういう部分が色と関係あるのだろうか?

リヴァイ(なんかしっくりこねえな)

そういう理由ではない気がする。ただの勘だが。

ハンジ「なら、桃色のマフラーとか編める?」

リヴァイ「編み物?」

ハンジ「編んでみなよ。桃色のマフラー。リヴァイに似合うかも?」

644: 2014/12/05(金) 01:55:51 ID:iMiian6I0
リヴァイ「絶対、編まねえ。何で男が可愛い色をつけねえといけない」

ハンジ「なら私なら似合う?」

リヴァイ「桃色は柄じゃねえって前に言ったような気がするが」

ハンジ「そうだけど。じゃあ別の色ならいいのかな?」

リヴァイ「んー……」

イメージしたのは桃色よりむしろ白いマフラーだった。

リヴァイ「白の方が似合いそうだな。ハンジには」

ハンジ「あらそう?」

リヴァイ「ああ。緑色のカーディガンに白いマフラーをつけて、茶色のズボンに、赤色の髪留めとか……」

ハンジ「それじゃあすっかりクリスマスカラーじゃないか。クリスマスはもう過ぎたよ?」

リヴァイ「それもそうか」

そこまで妄想した直後、何故かドキッとした。

リヴァイ(何でハンジの服を勝手にコーディネートしたんだ。俺は)

しかもクリスマスカラーで揃えたあたり、妙な拘りが過ぎる。

リヴァイ(今の時期ならバレンタインのカラーだろ)

645: 2014/12/05(金) 01:57:07 ID:iMiian6I0
いや、そういう問題じゃない気がする。

リヴァイ(違う。そうじゃねえ。そもそも、そういう妄想をするのがいかん)

何か妙に浮かれている自分に気づいてしまった。

リヴァイ(部屋の色の影響か? なんかそわそわする)

理屈じゃない何かがリヴァイの中で芽生え始めていた。

ハンジ「今の時期なら白と桃色と茶色じゃない? バレンタインのカラーで」

リヴァイ「俺と同じ事を考えるな」

ハンジ「あら被っちゃった? ならいいじゃない。白いマフラーが欲しいな」

リヴァイ「桃色の服なんて持っていたのか?」

ハンジ「一応、ない事もないよ。肌色に近いサーモンピンク系の服ならある」

リヴァイ「家では一度も見た事がないな」

ハンジ「虫に食われて一部、破損しているので最近は着ていないかな」

リヴァイ「縫ってやるから今度、見せろ」

ハンジ「はい。お願いします(ぺこり)」

何だか妙な気分だった。リヴァイはそんな自分を持て余す様にしている。

646: 2014/12/05(金) 01:57:38 ID:iMiian6I0
リヴァイ「………………」

部屋の内装の影響のせいか。それとも。

ハンジ「ん? どうしたの?」

リヴァイ「…………この部屋で最後だな」

ハンジ「そうだね。今日は長い一日だったね」

リヴァイ「この後、運転して帰れるのか?」

ハンジ「大丈夫だよ。夜も高速道路を運転した事は多々あります」

リヴァイ「若葉マークの癖に。度胸があるな」

ハンジ「乗らないといつまでも上達しないからね!」

リヴァイ「くれぐれも事故は起こすなよ」

ハンジ「安全運転で頑張りますよ」

リヴァイ「家に帰る頃には夜の11時を過ぎるかもしれねえな」

ハンジ「12時までには帰りたいね」

リヴァイ「途中で寝るなよ」

ハンジ「何でそんなに心配するかな?!」

647: 2014/12/05(金) 01:58:15 ID:iMiian6I0
リヴァイ「夜の高速道路なんて初めて経験する」

ハンジ「そんなにびびらなくても大丈夫だってば」

リヴァイ「本当に大丈夫か? 今のうちに眠っておかなくて」

ハンジ「1時間、分からなくなるよ」

リヴァイ「俺が起きておく。ハンジは少し眠ったらどうだ?」

リヴァイは其の時、自分の口から出た言葉に自分で驚いていた。

リヴァイ(ハンジを眠らせてどうしようっていうんだ)

そんなのは決まっている。眠って居る時に必ずしている事をしたい。

リヴァイ(……………ああ、成程)

合点がいった。何だかそわそわしている理由だ。

リヴァイ(俺は今、ちょっとだけそういう気分になりかけているのか)

客観的に分析して気づいた。桃色の部屋が妙に落ち着く理由も。

リヴァイ(成程。工口い気分を誘発する効果もあるのか)

冷静にそう思えたから、自重しようと思い直した。

リヴァイ「まあ、眠くないなら無理にとは言わん」

648: 2014/12/05(金) 01:58:47 ID:iMiian6I0
ハンジ「やー本音を言えばちょっと眠かったんだよね。実は」

リヴァイ「そうだったのか」

ハンジ「甘えていいならちょっとだけ寝ようかな。横になっていい?」

リヴァイは少し考えて、そして頷いた。

リヴァイ「いいぞ。俺が起きておく」

ハンジ「1時間経ったかなって思ったら、起こしてね」

リヴァイ「ああ」

ハンジ「じゃあ、おやすみ」

そしてハンジはごろんと横になった。

少々疲れていたせいもあるのか、横になってからすぐ眠ってしまった。

その見慣れた寝顔をじっと見つめてリヴァイはいつものように、眼鏡を外してやった。

今日は流石にキスはしない。恐らく中の様子は録画されているからだ。

リヴァイ(壁の四方の天井に隠しカメラが設置されているしな)

良く見ないと分からない程度の高性能の隠しカメラだ。

その存在に気づいていたからこそ、青色の部屋でもハンジに自重させたのだ。

649: 2014/12/05(金) 01:59:25 ID:iMiian6I0
それにハンジには運転して貰うのだから、体力を回復させてやらないと自分の命にも関わる。

リヴァイ(寝顔でも眺めてニヤニヤしておくか)

すうすう寝息を立てて気持ち良く眠っている様子は見ていて飽きなかった。

リヴァイ(にしても、たったこれだけの事で2万5千円も稼げるなら美味いよな)

むしろ美味すぎて怖い気もする。何か落とし穴がありそうで。

リヴァイ(見落としている点はねえよな? ハンジの説明の中で)

やってはいけない事をうっかりやって、後で金を返せとか言われたら困る。

ただ今回は大学の実験に参加するという健全な仕事でもあるので、それはないと信じたい。

リヴァイ(臨時収入で何を買うか)

2万5千円。1万円はエルヴィンに頼んでいるテーブルセット代に回すとして。

残り1万5千円。これだけあれば、ハンディークリーナーに手が届く。

リヴァイ(ハンジにも少し負担して貰えたら、あの時のあいつを購入出来る)

まだ店に残っているといいが。期待が膨らんで別の意味でもそわそわしてしまうリヴァイだった。

リヴァイ(ハンディークリーナーがあれば車の中も掃除しやすくなるな)

手ではどうしても届かない溝がいくつかあった。

650: 2014/12/05(金) 02:00:12 ID:iMiian6I0
あの奈落のような溝をどうにかしたかったから本当にハンディーが欲しい。

リヴァイ(ルンバはもっと、余裕が出てきた時に、いつかは)

ルンバに手が届く日を夢見てリヴァイは口元を引き締めた。

ルンバが家に来る頃にはもっと落ち着いた暮らしがしたい。

そう願い始めた自分が居て、困ったように目を細めた。

リヴァイ(皮算用もいいところだな)

あんまり調子に乗ると碌な事にならないのに。

そう思いながらも、ハンジとの関係を壊したくない自分が居た。

リヴァイ(いや……)

本音を言えば壊してしまいたい自分も居た。

もっと深くまで繋がれる関係になりたいけれど。

リヴァイ(多くを望み過ぎたら贅沢だ)

十分、ハンジには幸せを貰っている。だから。

リヴァイ(6年間、ハンジの事を精一杯、支えてやる)

医者になりたいと言うなら、其の為にサポートしてやろう。

651: 2014/12/05(金) 02:00:46 ID:iMiian6I0
それがリヴァイに出来る、彼なりの愛情の示し方だった。

リヴァイ(いや、正確に言えば残り5年になるか)

一年生はもうすぐ終わる。4月からは2年次にあがる。

リヴァイ(そういえばエルヴィンがハンジとナナバは2年後には店を去るって言っていたな)

恐らく本屋の勤務が出来るのは3年次までという事なのだろう。

4年生に上がる頃には彼女達は自分の道を歩き出す。

ハンジの場合はそこから更に2年。膨大な時間が必要だと思った。

リヴァイ「頑張れ。ハンジ」

それだけ呟いて、以降、リヴァイは口を閉ざした。

そしてそこからまったりと時間を過ごしていたら、ドアの音が聞こえた。

リヴァイ「ん?」

調査官「あのー時間、かなりオーバーしていますが、起きています?」

リヴァイ「え? 起きている。もう1時間過ぎたのか」

調査官「はい……30分以上オーバーしていますので、そろそろ出て貰っていいですか?」

リヴァイはハンジを起こして部屋を出た。一応、調査官に謝る。

652: 2014/12/05(金) 02:01:16 ID:iMiian6I0
リヴァイ「すまない。一人だと時間の間隔が狂ったようだ」

ハンジ「1時間が分からなくなったの?」

リヴァイ「そんなに長く居たつもりはなかったんだが」

調査官「だとしたら余程居心地が良かったんでしょうね。桃色の部屋が」

リヴァイ「かもしれない」

調査官「まあ、とりあえずお疲れ様でした。実験が終わったペアには報告書用の用紙を受け取って頂いて、それを後日提出して貰って今回の仕事が終了となります」

ハンジ「分かりました」

報告書の入った封筒をハンジが受け取って、教授に挨拶をかわしてハンジはようやく一日の仕事を終わらせたのだった。

そして車に移動してからその封筒の中身を確認してリヴァイはぎょっとした。

リヴァイ「な……なんだこの紙束は。随分、分厚いな」

ハンジ「ん? 報告書の問いが多分、1000問はあるから」

リヴァイ「1000問?!」

ハンジ「うん。むしろここからが本番? これ、明後日までに書いて出さないといけないんだよね」

リヴァイ「……………」

ハンジ「実験中、どんな感じだったのか事細かく問う訳だから、それに全部答える必要があるんだよ」

653: 2014/12/05(金) 02:02:11 ID:iMiian6I0
リヴァイ「全部は流石に覚えてねえぞ」

ハンジ「大丈夫だよ。書いているうちに思い出すって」

いや、それはハンジの頭がいいから出来る事であってだな。

と、反論しそうになって止めた。分からない部分は適当に書こう。

リヴァイ「やれやれ。2万5千円分の仕事の意味がようやく分かった」

ハンジ「でしょ? 結構、面倒臭い部分もある。研究ってそういう分野だから」

リヴァイ「成程な。ハンジに向いている仕事という訳か」

ハンジ「んー向いているというより、好きでやっているだけだから」

リヴァイ「好きな事を仕事に出来るというのは理想的ではあるな」

ハンジ「本当にね。そう出来たらいいな。将来は」

車の中で夜空を見上げながらハンジはエンジンをかけた。

ハンジ「帰ろうか。そろそろ」

リヴァイ「ああ。安全運転で頼む」

ハンジ「了解」

そして2人で夜の高速道路を走っていく。夜の道は昼間とは雰囲気が違った。

654: 2014/12/05(金) 02:03:53 ID:iMiian6I0
ハンジが真剣に運転しているのが分かった。緊張しているのも。

リヴァイ「……………音楽はかけないのか?」

ハンジ「あ、いっけね。忘れてた(ポチ)」

そして馴染みの曲がいくつか流れて来た。

ノリのいい曲をBGMにしながら夜の道を走っていく。

暖房をきかせているから車内は寒くない。

しかし夜の道を走りながらリヴァイはふと思った。

リヴァイ(帰りの道を間違えるなよ)

高速道路は一本道だからいいが、問題は降りてからだった。

夜の道だからひとつ間違えるとそれに気づくまでに時間がかかるかもしれない。

そう思い、リヴァイは出来るだけ注意深く帰りの道を確認していた。

リヴァイ(………ん?)

しかしリヴァイが恐れていた事が起きてしまった。

リヴァイ「おい、ハンジ。この道、行きに通ったか?」

ハンジ「え? こっちじゃなかったけ?」

655: 2014/12/05(金) 02:05:01 ID:iMiian6I0
リヴァイ「このまま進んだら、別の県に入るんじゃねえか?」

ハンジ「……………一旦、戻ろうか」

迷った時はそうするに限る。しかし……。

ハンジ「あれ? どの時点で間違えたのか分からなくなった」

リヴァイ「おいおい」

ハンジ「あーちょい待ってね。ええっと、ええっと」

リヴァイ「多分、3つ前の交差点からじゃねえかと思うんだが」

ハンジ「分かった。そこまで一旦、戻ろう」

そしてリヴァイの言う通りに引き返して軌道修正が出来た。

ハンジ「あっぶね! 間違えたのを気づかないまま突き進むところだった」

リヴァイ「怖い事をするな。朝の4時までには帰らないといけないのに」

ハンジ「はい。集中します!」

夜の道は建物が見えづらいのもあって、ちゃんと確認しないと慣れてない道は迷いやすい。

ハンジは冷や汗を掻きながらハンドルを握った。今度は間違えないようにしたい。

そして車を走らせて10分後……。

656: 2014/12/05(金) 02:07:40 ID:iMiian6I0
リヴァイ「おい、また何か変だぞ。こんな道を通った覚えはない」

ハンジ「だね。私もそれは分かっている」

リヴァイ「どこで間違えた?」

ハンジ「多分、2つ前の左折と右折を間違えた」

リヴァイ「何で間違えた」

ハンジ「何でだろう?」

リヴァイ「ちょっと一回、コンビニに寄れ。集中力が切れかかっているぞ」

ハンジ「そうする」

ハンジは肩を落として小休止する事に決めた。

近所のコンビニに入って駐車場に入って、車を止めると、リヴァイはコンビニまで走った。

そして100円のコーヒーを1杯だけ購入してハンジに飲ませた。

ハンジ「あ、いいのに」

リヴァイ「頭がまだ動いてねえみてえだからな」

ハンジ「……ごめん」

リヴァイ「道の記憶はちゃんとあるんだろ? 夜の道だから見えにくいんじゃねえのか?」

657: 2014/12/05(金) 02:08:13 ID:iMiian6I0
ハンジ「その通りです」

リヴァイ「自宅まであともう少しだ。焦るな。ここでちょっと休憩していくぞ」

ハンジ「うん……」

コーヒーをごくごく飲み干して一息ついたハンジだった。

ハンジ「ふぅ……」

リヴァイ「夜の車の運転は思っている以上に気疲れするようだな」

ハンジ「まあ、神経は使いますね。慣れている道なら迷わないけど。実家に帰る時に使う高速道路までの道とは違うから。実家の方面なら迷わないんだけど」

リヴァイ「そうか」

ハンジ「うん。まあ、あともうちょっとだから気合入れて帰ります」

そしてエンジンをかけなおしてハンジは出発した。

其の時、ふとリヴァイは思った。

リヴァイ(車の運転か……)

車を持つのは難しいかもしれないが、免許だけなら。

リヴァイ(こういう時、交替で運転出来たらハンジの負担も軽減出来るんだが)

むしろ車だけ貸して貰って、後の運転は自分がやってもいいと思う。

658: 2014/12/05(金) 02:08:39 ID:iMiian6I0
リヴァイ(免許を取るのはいくらくらい金がかかるんだろうか)

ふと気になって、リヴァイはその質問をハンジにしてみた。

リヴァイ「ハンジ、聞きたい事がある」

ハンジ「何?」

リヴァイ「車の免許を取るにはいくらくらい金がかかるんだ?」

ハンジ「んーいくらだったかな? 確か30万くらいかかったかな?」

リヴァイ「………そうか」

かなりの大金だと思った。その金額だと流石に手が出ない。

ハンジ「え? 何? もしかして車の免許が欲しくなったの?」

リヴァイ「あーまあ、な」

ハンジ「マジか」

リヴァイ「将来、車を運転出来た方が仕事の幅も増やせるかもしれないと思って」

本当は違う理由だが、そういう事にしておくリヴァイだった。

ハンジ「あー成程。確かにあった方が仕事は選びやすいかもしれないね」

リヴァイ「でも30万は流石に無理だな」

659: 2014/12/05(金) 02:09:06 ID:iMiian6I0
今の自分にはとても難しいと思えた。しかし其の時、

ハンジ「私は普通に通ったけど、ナナバは合宿で取ったって言ってたよ」

リヴァイ「合宿?」

ハンジ「14~16日くらい、泊りがけで一気に勉強するコースもあるよ。そっちだったら、もう少し安く免許を取るのも出来るらしいけど」

リヴァイ「それでもいくらくらいだ?」

ハンジ「そっちだと20万くらい。ただしその間は寮生活だったって言っていた」

リヴァイ「寮生活か……」

ハンジ「ナナバの場合はサクサク取りたかったからそうしたんだって」

リヴァイ「そうか」

2週間近くも家を空けておくことは出来ない。

そう思い、合宿のコースは諦める事にした。

リヴァイ「まあ、今すぐじゃなくてもいい。いつか、出来るのであれば」

ハンジ「あ、もしかして夢の第一歩だったりする?」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「いつか言っていた、夢の階段の一歩なのかなって」

660: 2014/12/05(金) 02:09:39 ID:iMiian6I0
リヴァイ「…………」

そう言われたらそうかもしれない。

リヴァイ「そうだな。1歩目は車の免許かもしれない」

ハンジ「あーそういう事なら、応援してあげたいな」

リヴァイ「え?」

ハンジ「学科試験の時に使ったテキストとかなら持っているよ。予習しちゃう?」

リヴァイ「いいのか?」

ハンジ「うん。いいよ。ちょっとずつ予習しておけば、学科試験は一発合格出来るんじゃないかな」

リヴァイ「その方がいいか」

ハンジ「教習所に通うなら午前中がすいているよ。私も夏休みに取った時は出来るだけ朝と昼に行ったな」

リヴァイ「仕事との兼ね合いもあるから難しいな」

ハンジ「分割払いも出来る筈だから、審査が通ればローンで支払う手もあるよ」

ハンジがグイグイ押してくる。しかしリヴァイは冷静に言った。

リヴァイ「今すぐって話じゃねえって言っただろ」

ハンジ「でも、私に出来る事が何かないかなって思ってね」

661: 2014/12/05(金) 02:10:12 ID:iMiian6I0
リヴァイ「今、出来る事は安全に自宅まで帰り着く事だ」

ハンジ「それもそうでした。では気持ちを切り替えていきます(キリッ)」

そんな風に言って後は無言で走行した。

深夜、無事に自宅アパートまで帰り着くと、お茶が欲しくなった。

リヴァイは手洗いうがいを済ませた後、すぐに茶を用意してハンジにも渡した。

ハンジ「わーありがとう」

リヴァイ「疲れただろ。今日は」

ハンジ「まあ、慣れない道を走ると多少は疲れますね」

リヴァイ「明日は学校もあるしな」

ハンジ「大学は9時からだからリヴァイよりはゆっくり出来るよ」

リヴァイ「俺の場合は、朝の支度が終わったら大体仮眠を取っている」

ハンジ「そうだけど、寝る時間がちょっと違うだけだよ」

リヴァイ「いや、頭を使っている分、ハンジの方が疲労しているんじゃねえかと」

ハンジ「大して変わらないよ。お互い今日は疲れたね」

リヴァイ「ああ。疲れたな」

662: 2014/12/05(金) 02:10:41 ID:iMiian6I0
ハンジ「もう寝る?」

リヴァイ「しかし、報告書を書かないと……」

ハンジ「記憶が鮮明なうちにやっちゃう?」

リヴァイ「しかし、少々眠いのは否めない……」

ハンジ「いつもより目が開いてないね。明日に回しても大丈夫だよ」

リヴァイ「ハンジはまだ起きているのか?」

ハンジ「うん。私は先に書いてしまう方だけど。無理はしない方がいいよ」

リヴァイ「すまん」

ハンジ「おやすみ。今日はお疲れ様でした」

リヴァイ「おやすみ」

そしてハンジが部屋に戻っていくと、リヴァイはさっさと布団の中に潜り込んだ。

リヴァイが寝静まったのを確認してからハンジは思った。

ハンジ(リヴァイが運転するようになったら、お酒が思う存分飲めるかも)

いつか2人でそういう店に入ってデートが出来たらいいな。

そんな風に思いながら、ハンジは今日の報告書をさっさと書き終えるのだった。

667: 2014/12/09(火) 01:53:50 ID:KU7yFrc20
2月14日。世の中はバレンタインでチョコレートの色に染まる1日。

その日のファーランはとにかくモテモテだった。

下駄箱にもチョコ。机の中にもチョコ。そして放課後もチョコの手渡し。

ファーラン(去年より数が増えたな)

今年は30個を越えた。去年は25個だったのに。

ファーラン(これでイザベルにリサイクルする分が用意出来た)

ファーランは自宅に帰宅後、すぐにそのチョコレートの山をイザベルに渡した。

イザベル「毎年ありがとうな。助かるぜ」

ファーラン「使えそうな物はあるか?」

イザベル「これとかイケるな。溶かして作りなおせば手作りっぽく出来る」

そしてイザベルは自宅で貰ったチョコレートを溶かしなおして形を変えた。

それを包装しなおして、それっぽくすればあら不思議。

668: 2014/12/09(火) 01:54:18 ID:KU7yFrc20
本命っぽいチョコレートが出来上がるのである。

イザベル「んじゃ、行ってくる。3倍返ししてくれそうな男子に渡してくるぜ」

ファーラン「くれぐれも金の無さそうな男にはやるなよ」

イザベル「分かってるって! 金持ちのボンボンをターゲットにすればいいんだろ?」

2人は顔立ちがいい事を利用して毎年、バレンタインとホワイトデーは結託している。

ファーランが貰ったチョコレートをイザベルが利用し、イザベルが貰ったお返しはファーランがお返し用に利用する。

勿論、その全部を再利用する訳ではない。余った分は山分けするのだ。

ちなみにこの件についてはリヴァイは全く知らない。

バレたらきっと顰め面するに違いないからだ。

ファーラン(別に法律に触れるような事じゃねえんだけどな)

こっちから頼んだ訳じゃない。でも相手は貢いでくれるのだ。

それはファーランが常日頃、女性に優しい言葉をかけているからだ。

ファーラン自身はそっちの素質があると思っているので、高校にはいかずに夜の道に進んでもいいかなと思っている。

ファーラン(持っている武器は使わないと損だしな)

669: 2014/12/09(火) 01:55:24 ID:KU7yFrc20
少々垂れ目ではあるが色気のある両目に整った顔立ち。

親の顔は知らないが、そこそこイケメンに産んでくれた両親には感謝している。

ファーランが自宅で一人、貢物を吟味していた其の時、

ハンジ「ただいま」

ハンジが大学から帰って来た。

ファーラン「お帰りなさい。ハンジさん」

ハンジ「お? 沢山チョコを貰って来たみたいだね」

ファーラン「ええ、まあ」

ハンジ「はい、私からも1個。ファーランの分だよ」

ファーラン「え?」

ハンジ「チョコレート。今日はバレンタインだから」

ファーラン「いや、貰う意味が分かりません」

ハンジ「え? 一緒に暮らしているんだから当然じゃない?」

ファーラン「いやいや。要りません。もうこんなにあるし」

ハンジ「あ、そっか……食べきれないよね」

670: 2014/12/09(火) 01:55:58 ID:KU7yFrc20
ファーラン「そういう意味じゃなくて。愛を受け取れないっていう意味ですよ」

ハンジ「え?」

ファーラン「そもそもバレンタインは愛を告白する日だから、義理チョコなんてもんは必要ないでしょう」

ハンジ「義理チョコ、要らないんだ」

ファーラン「要りません。リヴァイも同じ事を言うと思いますよ」

ハンジ「え………」

ファーラン「もうそろそろ、いいんじゃないんですか?」

言外に「はっきりさせても」という意味でファーランがそう言うと、ハンジは困ったように頭を掻いた。

ハンジ「あーうー……」

ハンジはてっきりファーランも受け取ってくれると思っていたからこそ用意していた。

義理チョコに格好つけてまとめて渡してしまおうと思っていたのに。

これでは本命チョコを渡す意味と同じになってしまう。

ハンジ「ふ、奮発して高いチョコレートを用意したのにな」

ファーラン「え?」

ハンジ「銘菓だよ。美味しいと思うけど」

671: 2014/12/09(火) 01:56:35 ID:KU7yFrc20
良く見たら、包装は有名な物だった。

高級チョコレートと言えば、アレだ。ゴディバだ。

ファーラン「?! ゴディバのチョコレートを買ってきたんですか」

ハンジ「うん。これは2人の為に予約していた分だよ」

ファーラン「あ、ゴディバなら頂きます。貰います(キリッ)」

ハンジ「変わり身早! 何で?」

ファーラン「クソ不味い手作りの義理チョコの可能性もあったからです。美味い物なら別ですよ」

ハンジ「現金な性格だね。ファーランは」

ファーラン「義理チョコでゴディバを買ってくるような女性に言われたくないですよ」

ハンジ「言外に計算高いって言ってる?」

ファーラン「この借りは高くつきそうですけどね。いいですよ。何か下心があっても」

ハンジ「あ、いや、別にそういう意味じゃないんだけど」

ファーラン「リヴァイはがっかりするかもしれないですけどね。俺も貰った事を知ったら」

ハンジ「いやーでも、リヴァイにだけあげたら、もうそれは完全に、その」

ファーラン「まあ、その方が都合がいいって話なら俺もその体裁に乗りますよ」

672: 2014/12/09(火) 01:57:13 ID:KU7yFrc20
ハンジ「………ごめんね」

ファーラン「いえいえ。ま、ハンジさんのお好きなように」

そしてハンジは夜のシフトの為に準備をして家を出て行った。

その数分後、入れ替わるようにリヴァイが自宅に帰ってくる。

自室の和室の飯台の上にはチョコレートの箱が乗っていた。

書置きを見たら、ハンジの字でメモがあった。食べていいようだ。

リヴァイ「なんか、高そうな箱に入っている」

ファーラン「ゴディバのチョコレートを買ってきたんだってさ」

リヴァイ「ゴディバ?」

ファーラン「高級チョコレート店のチョコだ。ブランド物だよ。その小さな箱のサイズでも結構値段がする」

リヴァイ「ファーランも貰ったのか?」

ファーラン「まあ、一応。すげえ美味かった」

リヴァイ「ふむ」

リヴァイは手洗いうがいを済ませて落ち着いて、紅茶も用意して一緒に食べてみる事にした。

リヴァイ(なんか、香りからして違うような)

673: 2014/12/09(火) 01:57:42 ID:KU7yFrc20
一口食べて、美味いと思った。よく噛んで食べる。

ファーラン「多分、6個入りで2500円はするぜ。ゴディバだったら」

リヴァイ「ぶふっ!?」

6個で2500円だと?!

リヴァイ「単価が417円もするのか?」

こんな小さなチョコが1個400円以上もするのか。

リヴァイ(飯1回分のチョコだと……)

勿体なくてそれ以上、食べるのが辛くなったリヴァイだった。

ファーラン「リヴァイ、食べないとかえってハンジさんに悪いぞ」

リヴァイ「し、しかし……」

ファーラン「お返しにキスの1回でもしてやれば帳消しだって」

リヴァイ「アホか。俺のキス1回がこんな値段に釣りあう訳……」

ファーラン「あれ? キス自体はしてやってもいいんだ?」

リヴァイ「!」

リヴァイは頬を赤らめて、言い放った。

674: 2014/12/09(火) 01:59:25 ID:KU7yFrc20
リヴァイ「部屋に戻れ! 宿題しろ!」

ファーラン「はいはい。退散します」

ファーランは自室に逃げた。リヴァイは大きなため息をついている。

リヴァイ(キス、1回だけで済むか。馬鹿が)

嬉しい反面、ホワイトデーの時はどうする? とも思う。

リヴァイ(……………ホワイト)

ホワイトで思い出した。

リヴァイ(そう言えば、白いマフラーをくれって言っていたな)

編み物の道具なら持っている。

イザベルやファーランにもマフラーやセーターを編んでやった事もある。

リヴァイ(これは1か月で作れと言う、遠回しな催促だな)

そう受け取ったリヴァイは、その挑戦を受ける事にした。

リヴァイ(こんな高いチョコレートを受け取ったからにはやるしかねえか)

そう心に決めながら、2個目のチョコを食べる。

リヴァイ「やっぱり美味い」

675: 2014/12/09(火) 02:00:03 ID:KU7yFrc20
美味いから、残りは明日食べよう。

1日2個ずつ食べて、明後日までは楽しもう。

小さな幸せを感じながらそう思う、リヴァイだった。

2月15日はチョコレートの割引デーだ。

在庫処分のチョコレートがスーパーでも沢山推してある。

リヴァイはそのチョコレートをいくつか購入していった。

ハンジ「結構、買ったね。もしかして作るの?」

リヴァイ「作り置きするに決まっているだろ」

ハンジ「そうなんだ」

リヴァイ「ああ。昨日のハンジのチョコの方が美味かったけど。普通のチョコレートも調理次第では美味くなる筈だ」

ハンジ「何を作る予定なのかな?」

リヴァイ「今年はチョコレートのマフィンにする」

ハンジ「マフィン、美味しいよね! (じゅるり)」

676: 2014/12/09(火) 02:00:40 ID:KU7yFrc20
リヴァイ「こら。またはしたない顔になりやがって」

ハンジ「御免なさい(ぺこり)」

リヴァイ「待ても出来ねえ犬じゃねえんだから。少しは落ち着け」

ハンジ「手作りのお菓子を食べられると聞いてテンションが上がらない方が変だよ」

リヴァイ「マフィンは逃げたりしねえから」

ハンジ「はい。自重します。うふふふふ」

リヴァイ「言った傍から自重してねえ」

ハンジ「えへへへ~だってえええ」

顔が綻んでいる様子が可愛いけれど、やり過ぎるとダメな大人にしか見えない。

そして自宅に戻ってからマフィン作りの開始だ。

いつものようにエプロンと三角巾をつけて調理開始。

リヴァイ「うちで作るマフィンはホットケーキミックスをベースにした物だから、本格的な物より味は落ちる」

ハンジ「どう違うの?」

リヴァイ「板チョコを湯煎で溶かして砂糖とサラダ油と卵を混ぜて、ミックス粉を入れて飾りにアーモンドをのせて焼くだけだ」

ハンジ「ええっと、それのどこら辺が「だけ」なのか理解出来ませんでした」

677: 2014/12/09(火) 02:01:30 ID:KU7yFrc20
リヴァイ「工程が『湯煎でチョコを溶かす』『砂糖とサラダ油と卵を混ぜる』『ミックス粉を入れて混ぜる』『カップにタネを入れてアーモンドをのせて焼く』これだけだ」

主な工程が4つしかないから「だけ」と言ったリヴァイだったが、ハンジは「4つもある」と思っていた。

ハンジ「やる事が4つもある事は「だけ」とは言わないよ」

リヴァイ「いや、4つしかねえだろ。本格的な物になるともっと面倒だぞ」

ハンジ「OH……料理はやっぱり面倒臭い」

リヴァイ「この程度で面倒というなよ」

ハンジ「いやいや。レベル高い。レベル100くらいの敵に見える」

リヴァイ「せいぜい、レベル10くらいじゃねえか?」

雑魚にしか見えない。最近、そういう言葉を使うアニメをイザベルが見ているので言葉を覚えたのだった。

ハンジ「ひえええ……(ガクブル)」

リヴァイ「駄目か。まあいい。出来上がるまで部屋で待っておけ」

ハンジ「見ていたら駄目?」

リヴァイ「見てもする事ねえだろ」

ハンジ「見ているだけだよ。だって香りがいいんだもの。既に」

リヴァイ「それはチョコレートの匂いだろ」

678: 2014/12/09(火) 02:02:26 ID:KU7yFrc20
ボールに湯を入れてその上にボールをのせてチョコレートを溶かし始めている。

ハンジ「おお……チョコレートって、こうやって溶かすんだ。鍋に入れないんだ」

リヴァイ「ああ」

ハンジ「ちょっとだけ舐めたいなあ」

リヴァイ「命令だ。和室で正座待機しろ。あと10秒以内に。でないと完成品を食わせない」

ハンジ「はい、分かりました。イエッサー!」

邪魔者を排除して調理に集中した。

構ってやりたい気持ちもあるが、集中力を切らすと何をするか分からないのが料理である。

一時間かからない程度の時間で焼き上げると、もっといい匂いがした。

イザベルとファーランは今日は遊びに出ている。日曜日だからだ。

友達と遊んでくると言って午前中から出かけている。

だから今日は2人きりでゆっくり過ごせる休日ではある。

出来立てのマフィンを冷ましていると、ハンジが「まだですか?」と言い出した。

リヴァイ「お前は本当に堪え性がないな」

ハンジ「だってえええ」

679: 2014/12/09(火) 02:02:54 ID:KU7yFrc20
いい匂いがそこら中に漂っているせいでハンジがうずうずしていた。

リヴァイ「焼きたてだからまだ熱すぎる。一肌程度に冷めてからだ」

ハンジ「焼き芋だって出来立てではふはふ言いながら食べるのに」

リヴァイ「焼き芋と一緒にするな。舌を火傷してもしらんぞ」

ハンジ「それは火傷する覚悟があれば食べてもいいという事ですか?」

リヴァイ「………そんなに今、食べたいのか」

ハンジ「食べたい!!!」

リヴァイ「あーもう。自己責任だぞ」

リヴァイは渋々折れた。

後で文句を言われても知らんと思いながら出来立てのマフィンを皿に盛ってやる。

ハンジ「わーい♪ 頂きます」

フーフー息を吹きかけて粗熱を取ってから口に含んだ。

ハンジ「やっべ! 美味い!!」

あちあち言いながらそれでもかぶりつく様子が可愛いと思った。

リヴァイ(なんか、食い方がイザベルより雑だけど)

680: 2014/12/09(火) 02:03:26 ID:KU7yFrc20
気持ちいいくらい食いついて食べてくれるのは作った側も嬉しい。

ハンジ「まだ作るの?」

リヴァイ「タネはまだある。あと10個くらいなら焼けると思うぞ」

ハンジ「やった!」

そしてマフィンをオーブンに2回目。

焼いている間に使った道具を後片付けして、リヴァイは自分の部屋に戻った。

リヴァイ「今日は全部で20個も焼けたな」

ハンジ「一人5個ずつ食べていいんだね?」

リヴァイ「……既に3個も食いやがったな?」

ハンジ「だって美味しかったんだもの」

リヴァイ「作り置きするって言ったのに」

ハンジ「残り2個は明日食べるよ」

リヴァイ「ほっぺに食べかす残っているぞ」

ハンジ「え? どっち?」

口で説明するのが面倒だったので、手でさっと取ってやった。

681: 2014/12/09(火) 02:03:56 ID:KU7yFrc20
急な接触にハンジはびくっと驚いて目を丸くしていた。

リヴァイ「ん?」

ハンジ「いや、その……ありがとう」

俯いて急にしおらしくなるハンジにリヴァイもドキッとした。

リヴァイ(な、なんで急に)

女らしい表情になってハンジが俯いている。

その仕草とか雰囲気に、心臓が跳ねた。

リヴァイ(あっ……そうか)

急に頬を触ったせいか。その接触のせいで。

リヴァイ「すまん。口で言った方が良かったか」

ハンジ「いやいや、大丈夫……」

恥ずかしそうに照れている様子が何とも言えない。

リヴァイ「……………ハンジ」

リヴァイは衝動的にハンジに近づいてその名を呟いた。

ハンジ「な、何?」

682: 2014/12/09(火) 02:04:25 ID:KU7yFrc20
身体が自然と動いていた。彼女の方へ。

唇に目が行く。そこに吸い寄せられるように、体が動いて……。

ガチャガチャ。

イザベル「ただいまー」

リヴァイとハンジは慌ててお互いの距離を取った。

リヴァイ「ああ、おかえり」

イザベル「ごめん。兄貴。急で悪いんだけど、友達をあがらせていいか?」

リヴァイ「友達?」

イザベル「うん。男子だけど。2人」

リヴァイ「………分かった。茶の準備をする」

何だかイザベルの顔が浮かない。

家にあがった男子2人はどちらも身なりの良い服装だった。

茶はイザベルに持たせる。マフィンがあったから丁度良かった。

一緒に持たせて部屋に行かせる。

ハンジ「なんか、嫌な予感がする」

683: 2014/12/09(火) 02:04:54 ID:KU7yFrc20
リヴァイ「俺もだ。大丈夫か。イザベル……」

ハンジ「こっそり様子を伺っておく?」

リヴァイ「そうだな。声が聞こえる距離まで近づいておこう」

台所の襖越しに声を盗み聞きするリヴァイとハンジだった。

イザベル「ええっと……話ってなに?」

男の子1「昨日のバレンタインの事だよ。何で彼もイザベルのチョコを持っているんだ」

男の子2「そういうお前こそ、何でイザベルのチョコを持っているんだよ」

イザベル「両方に1個ずつあげたんだけど、駄目だったか?」

男の子1「本命は僕だよね?」

男の子2「俺だよな?」

イザベル「本命?」

男の子1「どっちの事が好きかって事だよ」

男の子2「俺の方が好きだよな?」

イザベル「いや、どっちも同じくらい好きだな」

男の子1「どうして」

684: 2014/12/09(火) 02:05:22 ID:KU7yFrc20
イザベル「両方とも、俺に優しいからだ」

男の子2「俺の方が優しいだろ?」

男の子1「僕の方が優しいよ」

イザベル「同じくらいだと思うんだけどな」

男の子1「いや、僕の方がイザベルにたくさんプレゼントをあげた!」

男の子2「お、俺だって、いい物をたくさんあげたぜ! 俺のプレゼントの方がいいよな?!」

ハンジ「これって修羅場なのかな? (小声)」

リヴァイ「みたいだな(小声)」

まだ小学三年生だというのに。ませたガキ共だと思ったリヴァイだった。

イザベル「2人ともいがみ合うなよ。2人がケンカするなら前に2人から貰った物は全部返す」

男の子1「え」

男の子2「え」

イザベル「俺、仲良く出来ねえ奴とは友達やんねえ。来年はチョコあげない。それでもいいならケンカしろよ」

男の子1「うぐ」

男の子2「ちっ」

685: 2014/12/09(火) 02:05:47 ID:KU7yFrc20
イザベル「それより今日は2人の持っているゲームをやらせてくれるんだろ? 一緒にやろうぜ!」

男の子2人が渋々仲直りしたようだ。そんな様子を聞いて、ハンジは「なかなかやるね!」と思っていた。

リヴァイ「イザベルの意外な一面を知った…(ズーン)」

悪女の道を歩き始めたようで胸が痛む。

リヴァイ「あんな風に育てた覚えないのに(*凹んでいます)」

ハンジ「まあまあ」

リヴァイ「絶対、ファーランの入れ知恵だな。後で説教してやる」

ハンジ「だ、大丈夫だよ。そうやって大人になっていくもんだって」

リヴァイ「しかし……」

ハンジ「イザベルは可愛い女の子だから仕方がないよ。モテる女の子は自然とそうなっていくもんだよ」

リヴァイ「男の心を弄んでいねえか?」

ハンジ「うまく手の平の上で転がしていると言った方が正しいかな。惚れた方が負けって良く言うでしょう?」

リヴァイ「………」

ハンジ「ん? 何?」

リヴァイ「何でもねえよ」

686: 2014/12/09(火) 02:06:22 ID:KU7yFrc20
それだけ言って、リヴァイはそっぽを向いた。

ハンジ「…………」

リヴァイ「勉強、しねえのか?」

ハンジ「あ、します。勿論します」

ハンジが自室に退散していった。

リヴァイ(………負けているのはどっちだろうな?)

ふとそんな事を思い、リヴァイは先程の衝動を思い出した。

もう2回目だ。邪魔が入ってしまうのは。

腹が立つ反面、邪魔が入って良かったような気もする。

複雑な思いを抱えたまま、今度は昼食の準備に取り掛かるのだった。

夕食時、四人で窮屈に揃ってリヴァイの部屋で食べていた時、イザベルの話を聞いてファーランが噴き出していた。

ファーラン「それは災難だったな。イザベル」

687: 2014/12/09(火) 02:09:01 ID:KU7yFrc20
イザベル「前に姉ちゃんが言ったとおりになりそうだったからちょっと焦ったぜ」

ファーラン「でもうまく切り抜けられて良かったな」

イザベル「まあなあ。2人共、大事な友達だしな」

リヴァイ「イザベル。あんまりそういうのは良くないぞ」

イザベル「どっちかに絞れって事?」

リヴァイ「トラブルに発展する前に、何とかした方がいいんじゃねえか?」

イザベル「えー! そんな事を言われても。両方大事だし」

リヴァイ「しかし…」

ファーラン「そういうリヴァイは今年、ハンジさん以外の女性からチョコを貰ったりしたのか?」

リヴァイ「職場のチョコはカウントしねえよな。普通は」

ハンジ「まあね。そっちは私もお金を出しているし」

リヴァイ「だったら貰ってねえよ。今年はハンジからの分だけだ」

ハンジ「あれ? イザベルはリヴァイとファーランにはあげてないの?」

イザベル「俺は毎年、15日に作って貰う方だから」

ファーラン「うちはどっちもリヴァイが毎年、菓子を作ってくれる日みたいなもんなんで」

688: 2014/12/09(火) 02:10:09 ID:KU7yFrc20
ハンジ「成程。バレンタインもホワイトデーもそうなんだ」

イザベル「今年のマフィンも美味かった!」

イザベルはニコニコしているが、リヴァイは渋い顔で言った。

リヴァイ「イザベル。中途半端な事はやめろ。友人としての好きと、異性としての好きは別物だ。その線引きはちゃんとしとかねえと、碌な事にならねえぞ」

ファーラン(リヴァイにだけは言われたくねえな)

ファーランは腹筋が痛くて堪らなかったが自重した。

イザベル「んー…俺、その違いって良く分かんねえんだよ」

ハンジ「違い?」

イザベル「俺が兄貴やファーランが好きって気持ちや、友達が好きって気持ちと、恋人としての好きの違いってどこだ?」

リヴァイ「どこって……」

イザベル「やっぱりチューしたいって気持ちがそうなのか?」

リヴァイ「ぶふっ!」

危うく味噌汁を零すところだった。

イザベル「兄貴もファーランも女の人にキスしたいって思った事、あるんだよな?」

ファーラン「勿論、あるぞ」

689: 2014/12/09(火) 02:10:39 ID:KU7yFrc20
リヴァイ「…………」

リヴァイは非常に答えに困った。

リヴァイ(ないと言えば嘘になるが)

ここで言うのは流石に躊躇われた。

イザベル「俺、まだ一度もそういうの、思った事がない。自分からキスしたいって思った事がねえんだよ」

ハンジ「イザベルはまだそういうのは早いんじゃない?」

イザベル「かなあ? 姉ちゃんはいつ頃、そういうのを経験したんだ?」

ハンジ「んー……」

ハンジの答えに耳が大きくなってしまうリヴァイだった。

ハンジ「私の場合は遅い方だったかも。普通は12歳くらいから15歳までの間に一度は経験していくんじゃないかな」

イザベル「だったら俺の場合は……」

指折り数えるイザベルにハンジは言った。

ハンジ「あと2、3年もすればきっと分かるよ」

イザベル「だいぶ先だなあ」

ファーラン「中学に上がれば皆、大体経験すんだろ」

690: 2014/12/09(火) 02:11:09 ID:KU7yFrc20
リヴァイ「…………」

イザベル「ならそれまでは我慢するしかねえか」

ファーラン「そうだな。それまでは男友達と沢山遊んで男に慣れておけばいい」

リヴァイ「ファーラン」

リヴァイが諌めるように言うと、ファーランは肩をすくめた。

そして夕食後の皿を片付けてリヴァイは皿を水につけた。

子供達は部屋に戻した。宿題をやるように言いつけて。

ハンジも部屋に戻って勉強再開。一人の時間になってリヴァイは思った。

ハンジ『私の場合は遅い方だったかも』

ハンジの言葉は気になるが、それ以上の事を知るのは出来なかった。

リヴァイ(つまり15歳より後にそういう経験をしたって事だろうか?)

ハンジの過去の男が気になるなんてどうかしている。

リヴァイ(そう言えば年下の男の子に好かれた事があるとか言っていたな)

もやもやしている。そんな自分が嫌だった。

リヴァイ(………余計な事を考えている場合じゃねえな)

691: 2014/12/09(火) 02:11:41 ID:KU7yFrc20
リヴァイは気持ちを切り替えてマフラー作成に取り掛かった。

一か月程度でマフラーを1本編めっていうからには気合を入れないと完成出来ない。

ハンジが勉強している間にこっちはこっちで頑張ろう。

そう思いながらせっせとマフラーを編み始めるのだった。

そしてハンジの方はというと、

ハンジ(リヴァイ、言葉に困っていたな)

イザベルの問いにファーランは即答したが、リヴァイは答えなかった。

ハンジ(今日のあの時は、そういう事じゃなかったのかな)

イザベルが帰ってくる直前。

空気が急に変わって、リヴァイが接近してきたあの時。

ハンジは「キスされる?」と咄嗟に思ったけれど。

ハンジ(そう言えば入浴剤が届いた時にちょっと様子が変だった様な)

思い出してから気づいた。ハグをしてくれたあの時のリヴァイも似たような目つきになったのを覚えている。

ハンジ「………もしそうだとしたら嬉しいけど」

拒むつもりはない。そういう意味では覚悟している。

692: 2014/12/09(火) 02:12:16 ID:KU7yFrc20
もしリヴァイの方から望んでくれる気配が少しでもあれば。いつでも。

ハンジ(いや、いつでもはまずいか。一応、時期は考えてやらないと)

と、そこまで考えて、

ハンジ(ま、まだ告白もキスもしていない間柄なのに、何先の事を考えてんだか)

と、思い直した。

本当はハンジが眠っている時にリヴァイは何度もこっそりキスをしているのだが、彼女はまだ気づいていない。

ハンジ「ダメダメ! 今は余計な事は考えない!」

ハンジもまた自分の事に集中した。

学生は勉強が本分である。

そう言い聞かせてハンジは黙々と勉強を頑張るのだった。

696: 2014/12/10(水) 01:02:47 ID:k3jILmUs0
そしてあっという間に月日が流れて、3月1日。

その時期になると本屋は小学一年生に向けたPOPと新生活の社会人に向けた商品がメイン通路に並ぶ。

実用書は勿論、ホワイトデーに向けたクッキーなどの作り方の本を店頭に推す。

エルヴィンも店内の春の模様替えに忙しそうにしていた。

エルヴィン「何とか出来上がったな」

店内を春色に変える作業が終わった。

春は桃色、黄色、黄緑、白等の春のカラー。

夏は水色、青、白、黄色の夏色のカラー。

秋は赤、橙、茶色、黒の秋色のカラー。

冬は緑、白、赤、茶色のクリスマスカラーを使う。

季節ごとに店内の全体のカラーを変更しないといけないので地味に大変な作業ではある。

リヴァイ「こっちも終わったぞ」

リヴァイはレジで店内用の造花を作っていた。

697: 2014/12/10(水) 01:03:54 ID:k3jILmUs0
運動会などで良く作るアレである。

エルヴィン「ありがとう。一杯作ったね」

リヴァイ「運動会では良く作らされるからな」

エルヴィン「だね。私も子供の頃に宿題として渡されたものだ」

リヴァイ「一人ノルマ10個とかな」

ノルマで思い出す。今日のマフラーのノルマは5センチだ。

リヴァイ(残り14日か……)

一か月なんてあっという間だ。

リヴァイ(今回、細めのマフラーにして正解だったな)

幅は15cmタイプの細長いマフラーを作っている。

それでも3月14日までに間に合うかギリギリだった。

リヴァイ(いつもだったら20cm幅の物を編むんだが)

その辺は妥協するしかない。間に合わせる事の方が大事だ。

エルヴィン「だね。ノルマ優先で適当に作っていったら雑過ぎて先生に怒られた事もあったな」

リヴァイ「花びらをちゃんと開いてなかったな? いるな。そういう雑な奴は」

698: 2014/12/10(水) 01:05:46 ID:k3jILmUs0
エルヴィン「細かい先生は必ずチェックしていたね。よくやりなおしをさせられた。沢山作るんだから大した問題じゃないのに」

リヴァイ「二度手間になるのが分かっているなら最初からちゃんと作れよ」

エルヴィン「その辺の攻防が面白くてついつい」

リヴァイ「合格ラインを見極めるってか?」

エルヴィン「そうそう。リヴァイのは十分過ぎる程、綺麗な花だね。ありがとう」

リヴァイ「もっと数を優先した方が良かったか?」

エルヴィン「いやいや。運動会のような大規模な装飾じゃないから、綺麗な形を優先してくれた方がいい」

リヴァイ「ならいいが」

エルヴィン「おかげで店が華やいだ」

リヴァイ「……俺は意外とこういう仕事も嫌いじゃねえ」

エルヴィン「ん?」

リヴァイ「店の中を綺麗にしたり、人を綺麗にしてやったり、裏方に徹してやる仕事もいいもんだな」

エルヴィン「成程。つまりリヴァイはやっぱり、嫁になる素質があるという事だな」

リヴァイ「残念だったな。日本じゃ男は嫁にはなれない」

エルヴィン「その代り、婿養子という手段があるじゃないか」

699: 2014/12/10(水) 01:06:24 ID:k3jILmUs0
リヴァイ「そう言えばそうだったな」

其の時ふと、リヴァイは思った。

リヴァイ「そう言えばハンジには兄弟はいるんだろうか」

エルヴィン「ん?」

リヴァイ「両親はいるようだが、そう言う話を聞いた事がない。もしかして一人娘か?」

エルヴィン「私も聞いた事がないな。もしかしたらそうかもしれないね」

リヴァイ「………」

エルヴィン「今、一瞬、先の事を考えたね? (ニヤリ)」

リヴァイ「考えてねえ(ジ口リ)」

エルヴィン「またまた~(ニヤニヤ)」

リヴァイ「さっさとレジの点検をしてくれ。早く家に帰りたい」

エルヴィン「ここ最近、帰りが早いね。サービス残業をした後も前は裏でゆっくりしてから帰っていたのに」

リヴァイ「今、抱えている手仕事がある」

エルヴィン「内職か?」

リヴァイ「まあ、そんな感じだ」

700: 2014/12/10(水) 01:07:05 ID:k3jILmUs0
詳しい説明は省いた。お返し用にマフラーを編んでいる事は流石にエルヴィンに知られたくない。

エルヴィン「頑張るね。頑張り過ぎたら駄目だよ。たまにはゆるーく」

リヴァイ「エルヴィンは常にゆるゆるな気がするが? ほら、レジの点検、100円ずれているぞ」

エルヴィン「本当だ。………数え間違えた。てへ☆」

リヴァイ「やれやれ。レジ出るぞ」

エルヴィン「うん。お疲れ様でした」

今日の夜シフトはエルヴィン、ミケ、ナナバの日だ。

ナナバは今日は少しだけ遅刻してやって来た。

バタバタ入って来たので珍しいなと思ったリヴァイだった。

リヴァイ「ナナバ。珍しいな。今日は」

ナナバ「ごめん。ちょっといろいろあって遅くなった。レジ点検は……」

リヴァイ「一応、エルヴィン店長にレジ点検をして貰った。ズレは無い。ゼロスタートだ」

ナナバ「了解。ありがとう」

リヴァイ「……ナナバ」

ナナバが慌ててレジに向かおうとしたので呼び止めた。

701: 2014/12/10(水) 01:07:40 ID:k3jILmUs0
ナナバ「な、何?」

リヴァイ「エプロン、少し歪んでいるぞ。左右の高さがずれている」

ナナバ「あ、そう?」

リヴァイ「その程度の気配りはちゃんとしろ。慌てる必要はねえだろ」

そしてちょいっとなおしてやると、ナナバは気まずそうに言った。

ナナバ「成程。これか」

リヴァイ「?」

ナナバ「いや、何でもないよ。ありがとう」

リヴァイは不思議そうに首を傾けて、しかしそれ以上は突っ込まなかった。

リヴァイ(ナナバも大学の方で何かあったのかもしれねえな)

ハンジも前に悔し涙を流していた事があった。

大学に通った経験がある訳ではないから、想像でしか語れないが、大学生という物は大変そうだと思った。

リヴァイ(勿論、遊んでいる奴も中には居そうだが。彼女らの場合は普通の大学生とは道が違うんだろうな)

医学生と法学生なのだから、その勉学の量は並みではないだろう。

それなのに、夜は働いているのだからそのエネルギーは凄いとも思った。

702: 2014/12/10(水) 01:08:37 ID:k3jILmUs0
リヴァイ(………俺は俺のやるべき事をしよう)

余り人の事ばかり見るのも良くない。そう思いなおして店内を見回るリヴァイだった。

3月13日の夜。この日は休みを貰っていたのでマフラー制作の最後の頑張りに入っていた。

リヴァイ(残り5cmもあればいいだろう)

幅15cm、長さ150cm程度の細身のマフラーだったが、何とか明日までには完成できそうだ。

………というところまできて、リヴァイは気づいた。

リヴァイ(……あ)

穴が空いている段を一か所だけ見つけた。

そこを訂正するには一段やり直す必要がある。

リヴァイ「ちっ……」

集中力が切れかかっている事に気づいて、一回休憩をする事にした。

リヴァイ(最近は編み物をやってなかったしな)

久々にやったせいで時間がかかっている。

703: 2014/12/10(水) 01:13:45 ID:k3jILmUs0
慣れた人なら一週間もあれば1本仕上げる事が出来るらしいが、リヴァイの場合は仕事と家事の合間に、しかもハンジにバレないように気遣いながらの制作だったので時間がかかっていた。

リヴァイが茶を飲もうと思って立ち上がった其の時、

ハンジが襖をいきなりトントン叩いたのでびびった。

当然、慌ててブツを隠す。ハンジがひょいっと顔を出して言う。

ハンジ「ねえリヴァイ」

リヴァイ「な、なんだ? (ドキドキ)」

ハンジ「筋トレの件、まだ気遣っているの?」

リヴァイ「え?」

ハンジ「別に私が部屋にいる時も自由にやっていいのに」

リヴァイ「ああ……そうだったな」

ハンジ「遠慮しなくていいから。最近ずっと、リヴァイの部屋が静かだったから、気になっていたんだよね」

リヴァイ「ああ……」

なんて言い訳しようか少し迷った。

リヴァイ「エルヴィンに借りた漫画とかを読んだりしていたからな」

エルヴィンに内心「すまん」と謝りつつしれっと嘘をつくリヴァイだった。

704: 2014/12/10(水) 01:14:58 ID:k3jILmUs0
ハンジ「エルヴィンのお勧めの方が好み合うの?」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「私のお勧めも読んで欲しいんだけど」

リヴァイ「ハンジの方はいつでも読めるだろ。エルヴィンのは早めに返さないといけないと思ってこっちを優先していたんだよ」

ハンジ「そーだけどー(ぷー)」

ほっぺを膨らませている様子がちょっと可愛い。

リヴァイ(子供かよ)

でもそんな風に表情がくるくる変わる癖は結構見ていて飽きない。

リヴァイ(ハンジは本当に喜怒哀楽が激しい)

感情表現が豊かであるから、羨ましいとさえ思う時もある。

ハンジ「はあ。エルヴィンの方が上手かあ」

リヴァイ「は?」

ハンジの顔に注目していたら、ハンジが良く分からない事を言いだした。

ハンジ「いや、人の好みを当てるのがいつも上手いからさ。勝てないなあと思う訳ですよ。読書量じゃエルヴィンに負けていないと思うんだけど」

リヴァイ「何の勝負をしているんだ。それは」

705: 2014/12/10(水) 01:15:38 ID:k3jILmUs0
ハンジ「リヴァイに本をお勧めしてどっちがより楽しませるかの勝負です」

リヴァイ「その勝負をして何の意味がある?」

ハンジ「意味なんてないです。ただの趣味です(キリッ)」

リヴァイ「本当にお前らは揃って変人だな………」

嬉しいけれど、どう反応していいのやら困るリヴァイだった。

ハンジ「やっぱりちょっと工口いヒロインとか出ている漫画の方がいいの?」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「いや、そこに食戟のソーマが山積みされているから。それ、エルヴィンのでしょ?」

部屋の端に置いていた漫画を指さしてハンジが言った。

リヴァイ「ああ……別にヒロイン目当てで読んでいる訳じゃねえ。料理のシーンが美味そうだなと思って読んでいる」

ハンジ「お色気感想シーンが目当てじゃないんだ?」

リヴァイ「あれは毎回ぶっ飛び過ぎてたまに噴いてしまうけどな」

ハンジ「へー珍しいね。むしろそっちがメインかと思っていたよ」

リヴァイ「いや、料理漫画だろ? これは」

ハンジ「そうだけど。ヒロインが可愛い子ばかりだから、そっちが目当てで読んでいるのかと思った。誰が一番好き?」

706: 2014/12/10(水) 01:16:29 ID:k3jILmUs0
リヴァイ「は?」

ハンジ「私、にくみちゃんが結構好きだな。あの肉感堪らんね。女から見ても」

リヴァイ「おいおい」

ハンジ「リヴァイの好きなヒロインを教えてよ」

リヴァイ「俺は……」

思い浮かんだのは何故かあの黒髪の女性キャラだった。

リヴァイ「……黙秘する」

ハンジ「えー!! ケチ!」

リヴァイ「そういう話はエルヴィンとすればいいだろ」

ハンジ「エルヴィンはタキ先輩派だってさ」

リヴァイ「あの柄の悪い女か? 口の悪い」

ハンジ「料理の虜になるシーンでのギャップが可愛いと思ったそうだよ」

リヴァイ「エルヴィン……」

ハンジ「ほら、エルヴィンの好みのヒロインを教えたんだから、リヴァイも推しメンを教えて下さい」

リヴァイ「推しメンはいねえよ」

707: 2014/12/10(水) 01:17:00 ID:k3jILmUs0
ハンジ「強いていうなら?」

リヴァイ「………強いて?」

ハンジ「そう。あえて選ぶなら?」

リヴァイ「つまりあえてでいいんだな?」

ハンジ「あえてでいいですよ」

リヴァイは先程思い浮かんだ女性キャラの名前を言う事にした。

リヴァイ「……ひなこさんだな」

ハンジ「ひなこさん? あのおっとりした巨OのOG?」

リヴァイ「そうだ」

ハンジ(リヴァイは巨O好きだったのか(ガーン))

ハンジがひなこのビジュアルにショックを受けていると、

リヴァイ「……そういうハンジは」

ハンジ「え?」

リヴァイ「男性キャラなら、誰を推すんだよ」

ハンジ「男性キャラで?」

708: 2014/12/10(水) 01:17:29 ID:k3jILmUs0
リヴァイ「俺はまあ、ソーマの親父さんだな。ああいう自由な生き方も含めて憧れる」

ハンジ「成程。確かにイケメンだね。ソーマの親父さんは」

リヴァイ「で?」

ハンジ「ん?」

リヴァイ「こっちは言わせられたんだから、そっちも言え」

ハンジ「2人いるけど」

リヴァイ「おい、絞れよ」

ハンジ「堂島先輩と、リョウくん」

リヴァイ「人の話、聞いてねえし」

ハンジ「どっちもいい筋肉を持っているよね。堂島先輩は厚みのある重量感があっていいけど、リョウくんのしなやかな細身の筋肉も……」

リヴァイ「お前はそんなに筋肉が好きか」

ハンジ「筋肉フェチで御免なさい(ぺこり)」

リヴァイ「別に謝る必要はねえけど……」

ハンジと話していたい反面、マフラーの件が気にかかっていた。

余り話し込むと、作り直す時間が取れなくなるからだ。

709: 2014/12/10(水) 01:18:01 ID:k3jILmUs0
ハンジ「料理人って体力勝負っていうから、体ががっしりしている人が多いよね。漫画だから多少誇張されて描かれているとは思うけど、それにしたって堂島先輩の筋肉は……(ペラペラ)」

しまった。ハンジがおしゃべりモードに入ってしまったようだ。

リヴァイ「………ハンジ、勉強しなくていいのか?」

ハンジ「あっ」

リヴァイ「もう12時を過ぎている。小休止してえなら自分の部屋でしろ」

ハンジ「……最近、ちょっと冷たいなあ」

リヴァイ「は?」

ハンジ「何か、前みたいに夜、私とゆっくり話そうとしてくれないね」

リヴァイ(ギクリ)

ハンジ「私と話すのつまんないのかな?」

リヴァイ「そんな話はしてねえよ」

ハンジ「じゃあ話すのは楽しい?」

リヴァイ「そりゃあ……」

と、頷きかけた其の時、やっぱりやめた。

リヴァイ「ハンジ。俺はハンジの為に言っている」

710: 2014/12/10(水) 01:18:52 ID:k3jILmUs0
ハンジ「私の為?」

リヴァイ「勉強しねえといけないのに。俺にかまってばかりいたら駄目だろ」

ハンジ「まあ、そうだけど」

リヴァイ「何でもメリハリが大事だろ。だらだら話すより時間を決めて話す方がいい」

ハンジ「だからちょっとしか構ってくれないの?」

リヴァイ「そうだ。飴と鞭って良く言うだろ」

ハンジ「うぐっ……成程」

リヴァイ「ご褒美は後でやるから」

ハンジ「え? ご褒美くれるの? (わくわく)」

リヴァイ「ハンジが勉強を頑張ればな」

ハンジ「はい、勉強します! 期待しておくね!」

リヴァイ(現金な奴め)

と思いつつ、やっと部屋に戻ったハンジにほっとした。

これでマフラーの続きが作れる。

リヴァイ(今夜は久々に徹夜だな)

711: 2014/12/10(水) 01:19:25 ID:k3jILmUs0
あともう少しだから、気合入れてやろう。

そう思いながら、完成までのラストスパートをかけるリヴァイだった。

新聞配達の仕事を終えてから家に戻り、朝食の支度をしてから、マフラーの仕上げをした。

リヴァイ「なんとか間に合ったな」

3月14日の当日。ハンジのリクエスト通りマフラーを1本完成させた。

ラッピングはどうする? とも思ったが……。

リヴァイ(まあ、別にいいか。そのまま渡せば)

ハンジが夜、家に帰って来たら渡そう。そう思っていると、少し眠くなってきた。

リヴァイ(昼の仕事前に少し仮眠を取っておくか)

ここ最近、根を詰めていたので、今頃になって疲れが出て来た。

リヴァイは仮眠のつもりで布団に入り、一眠りしていたが………。

ルルル……

電話が鳴って目が覚めた。相手はエルヴィンだった。

712: 2014/12/10(水) 01:22:11 ID:k3jILmUs0
リヴァイ「もしもし……?」

エルヴィン『あれ? 今起きたの? もう出勤時間を過ぎているけど、今日は休むのか?』

リヴァイ「!?」

その声ではっきり目が覚めた。

確認したら昼の1時を過ぎていたのだ。

リヴァイは声にならない悲鳴をあげてエルヴィンに謝った。

リヴァイ「す、すまん……寝坊した。今からそっちに向かう」

エルヴィン『そう? 事故に遭わない様に気を付けて』

リヴァイは慌てて身支度して家を飛び出た。

自転車をすっ飛ばして15分かかる道を5分で走る。

かなり無茶な速度で店まで移動して、店に着くなりエルヴィンに謝った。

リヴァイ「何分遅刻した?」

エルヴィン「んー……20分くらいかな」

リヴァイ「すまない。あの…」

エルヴィン「うん。とりあえず裏行って準備して来て。イルゼがサービス残業しているから」

713: 2014/12/10(水) 01:22:43 ID:k3jILmUs0
イルゼ「大丈夫ですよ。少しくらいなら」

リヴァイ「すぐ準備する」

リヴァイは裏に入って用意してレジに入り、イルゼと交替した。

初めてやらかした失敗にリヴァイは冷や汗を掻いていたが、エルヴィンは普通にしていた。

お客の波がなくなったタイミングで、エルヴィンはリヴァイに聞いた。

エルヴィン「寝坊した理由は例の手仕事のせいか?」

リヴァイ「そうだ」

エルヴィン「うーん。前に言った筈だよね? 掛け持ちは仕事をこなせる範囲ならOKだけどって」

リヴァイ「………すみませんでした」

リヴァイは深々と頭を下げて自分の非を詫びた。

エルヴィンは頭を掻いて困ったように視線を外している。

エルヴィン「まあ、後で始末書を書いて貰うけど。寝坊した詳しい理由を聞かせてくれないか?」

リヴァイ「…………」

エルヴィン「ただ、寝坊したからって理由をそのまま書いたら上への心証が悪くなっちゃうんだけど」

リヴァイ「……笑うなよ」

714: 2014/12/10(水) 01:23:12 ID:k3jILmUs0
エルヴィン「ん?」

一応、念押ししてからリヴァイは言った。

リヴァイ「ハンジのホワイトデーのお返し用にマフラーを編んでいた。そのせいで、寝坊した」

エルヴィン「………」

エルヴィンはしばし沈黙して、やっぱり耐え切れず、噴き出して笑ってしまった。

リヴァイ「笑うなって言ったのに」

エルヴィン「いや、だって……まさか、そうくるとは思ってなかった。手仕事だって言っていたから、造花の内職でもしているのかと思っていたのに」

リヴァイ「…………」

エルヴィン「ちょっと腹にきた。ごめん。裏に戻って水飲んでくる……」

エルヴィンは裏に戻って一通り笑いを吐き出してからレジに戻った。

エルヴィン「あー笑った笑った」

リヴァイ(ジ口リ)

エルヴィン「成程。今夜、ハンジに気持ちを伝えるつもりだったのか」

リヴァイ「いや、そこは……」

リヴァイが否定しようとしたが、エルヴィンは気にせず言った。

715: 2014/12/10(水) 01:23:43 ID:k3jILmUs0
エルヴィン「手作りマフラーって乙女な趣味だね」

リヴァイ「ハンジがくれって強請ってきたんだよ」

エルヴィン「それにしたって、その期待に応えちゃうのがすごいじゃないか」

リヴァイ「………」

エルヴィン「分かった。そういう事なら今回だけは大目に見よう。理由には『通勤途中で自転車がパンクしてしまったせいで遅くなった』とでも書いて提出しておきなさい」

リヴァイ「は? 嘘を書けっていうのか?」

エルヴィン「今回だけだよ。2度目は無い。ま、本当は駄目だけど。この借りは別の形で返して貰うからね(ニヤリ)」

リヴァイ「ちっ……」

エルヴィンに借りが出来てしまい、露骨に嫌そうな顔をするリヴァイだった。

エルヴィン「レジに入っている時は怖い顔をしちゃ駄目だよ」

リヴァイ「そう言えばそうだった(キリッ)」

エルヴィン「結果報告を待っているよ。ふふっ」

エルヴィンに意味深に微笑まれてついついそっぽを向くリヴァイだった。

716: 2014/12/10(水) 01:24:32 ID:k3jILmUs0
夕方になって、ハンジが店にやって来た。

ハンジ「いやー3月だってのに、夕方はまだまだ寒いね!」

其の時、リヴァイはハンジの首元に注目してびっくりした。

白いマフラーをしていたのだ。勿論、自分が作った物とは違うデザインだ。

リヴァイ「おい、ハンジ。お前、白いマフラーを持っていたのか?」

裏に向かう前に話しかけると、ハンジは立ち止まって答えた。

ハンジ「探してみたら出て来た。昔買って持っていたのを忘れていたんだよ。今日、寒かったからマフラーしてきちゃった」

リヴァイ「………」

ハンジ「ん? それがどうかしたの?」

リヴァイ「いや、何でもねえ」

リヴァイは慌てて誤魔化した。

717: 2014/12/10(水) 01:24:59 ID:k3jILmUs0
リヴァイ(持っていたんなら、別の色を催促しろよ。このクソ眼鏡)

と、内心毒つくリヴァイだった。

そしてハンジとレジを交替して始末書を書いてから自宅に帰ると、リヴァイは悩んだ。

リヴァイ「同じ色のマフラーを2本持っていてもな」

邪魔になるだけのような気がする。

リヴァイ「………どうすんだ。これ」

今更、デザインを変更する訳にもいかない。時間が足りないからだ。

リヴァイ「いっそ、お返しはやめておくか」

いやでも、ゴディバのお返しをしないというのも……。

其の時、思い出したのはファーランの言葉だった。

ファーラン『お返しにキス1回でもしてやれば帳消しだって』

リヴァイ「!」

何でそれを今、思い出した。

リヴァイ「アホか。キスなんてしたら……」

それだけで済む自信がない。

718: 2014/12/10(水) 01:25:25 ID:k3jILmUs0
リヴァイ「………クソ!」

やっぱりマフラーをやるしかねえ。そう思いなおしてハンジの帰りを待つことにした。

そして夜の11時過ぎ。ハンジがいつものように帰宅した。

ハンジ「あーさむ! 3月なのに何で今日だけ寒いかな(ブツブツ)」

リヴァイ「おかえり」

ハンジ「ただいま! 今日の夕飯は何?」

リヴァイ「豆乳鍋だ。具は豆腐がメインだが」

ハンジ「わーい! あったかそうだね!」

リヴァイ「温め直す。少し待っていろ」

ハンジ「はいはい」

ハンジは一度自室に引っ込んで、上着やマフラーを部屋に置いてからリヴァイの部屋へ移動した。

ハンジ「あー暦の上では春なのに、まだ春って感じがしないよね」

リヴァイ「三寒四温っていうからな」

リヴァイはハンジの分のおかずをよそいでから運んでやった。

719: 2014/12/10(水) 01:25:58 ID:k3jILmUs0
ハンジ「そうだね。頂きます!」

ハンジが遅い夕食を食べている様子を見つめながらリヴァイは言った。

リヴァイ「初めて作ってみたが、どうだ?」

ハンジ「うん。美味しいよ! おかわりしたいくらい」

リヴァイ「ああ、まだ余分にあるから出来るぞ」

ハンジ「マジか。なら貰うね。うめえ! (もぐもぐ)」

リヴァイ「良く噛んで食えよ」

ハンジ(もぐもぐ)

そしてハンジは黙ってしまい、リヴァイを見つめた。

リヴァイ「ん? 何だ?」

ハンジ「今日、珍しく遅刻したんだって?」

リヴァイ(ドキッ)

ハンジ「エルヴィンからこっそり聞いた。体調でも悪かったの?」

リヴァイ「いや、大した事はない」

ハンジ「無理しちゃ駄目だよ。料理もたまには手抜きしたっていいから……」

720: 2014/12/10(水) 01:26:26 ID:k3jILmUs0
リヴァイ「ハンジ」

そこでリヴァイはハンジの名を言った。強く被せるように。

ハンジ「何?」

リヴァイ「飯食い終わったら、渡したいものがある」

ハンジ「渡したい物?」

リヴァイ「ホワイトデーのお返しだ」

そう言ってやると、ハンジの箸が止まった。

ハンジ「え………」

リヴァイ「一応、用意した。後で渡す」

ハンジ「だったら、今、頂戴」

リヴァイ「飯が先だろ」

ハンジ「今、欲しい!」

ハンジが我儘を言い出したので渋々物を取り出したリヴァイだった。

リヴァイ「色については文句言うなよ」

と、前置きしてからその白いマフラーを見せる。

721: 2014/12/10(水) 01:27:08 ID:k3jILmUs0
紙袋の中に隠していた物をハンジに見せてやると、ハンジは目を丸くした。

ハンジ「え……何で」

リヴァイ「お前が前に白いマフラーが欲しいって言ったんだろうが。だから編んだ」

ハンジ「本当に編んだの?」

リヴァイ「持っていたんなら、先に言って欲しかったけどな。色が被った件については俺の責任じゃねえぞ(プイッ)」

ハンジ「私の言った事、覚えてくれていたんだ」

リヴァイ「まあな」

その直後、ハンジがぶわっと泣き出してしまった。

リヴァイ「!?」

ハンジ「ひっく……ひっく……」

リヴァイ「何で泣く?」

突然の涙に眉を顰めると、ハンジが眼鏡を外して「だって」と言った。

ハンジ「私、自分の言った事、今の今まで忘れていたのに」

リヴァイ「おい……(イラッ)」

ハンジ「リヴァイの方が覚えていてくれるなんて思わなかった。嬉しい。本当に嬉しいよ」

722: 2014/12/10(水) 01:27:36 ID:k3jILmUs0
リヴァイ「…………」

ハンジ「ありがとう。ずっと大切に使わせて貰うね」

リヴァイ「同じ色だけど良かったのか?」

ハンジ「網目の模様が違うし、いいよ。それに同じ色のアイテムを2つ以上持っているのは珍しい事じゃないから」

リヴァイ「そういうもんか」

ハンジ「うん。本当にありがとおおおお(ぎゅっ)」

マフラーを胸に抱いて泣きじゃくる様子を見てやっぱり渡して良かったと思い直したリヴァイだった。

あんまり泣きじゃくるものだから、鼻水が出ている。

ティッシュを出して鼻をかんでやるけど、泣き止みそうになかった。

困ったリヴァイはそのまま自分の方に緩くハンジを抱き寄せてしまった。

背中を擦るようにして、泣き止むまで抱いてやる。

その瞬間、リヴァイはもうここで決める事にした。

リヴァイ「……ハンジ」

ハンジ「何?」

リヴァイ「もう一つ、渡したいものがある」

723: 2014/12/10(水) 01:28:02 ID:k3jILmUs0
ハンジ「まだあるの?!」

リヴァイ「ああ。少しの間、目を瞑ってくれ」

ハンジ「何で?」

リヴァイ「いいから」

リヴァイの優しい声音にハンジも頷いた。

ハンジ「分かった」

ハンジの目を閉じさせた。リヴァイはこの時、覚悟を決めた。

リヴァイ(3度目の正直だ)

1度目も、2度目も邪魔が入った。

しかし3度目はもう、その心配は要らない。

子供達は既に部屋で寝ているし、こんな夜の時間帯に宅配便も来ないだろう。

リヴァイ(マフラーひとつで泣く程感激されるなんて思わなかったのに)

こんなに可愛い反応をしてくれる女が目の前に居て。

リヴァイ(据え膳にも程がある)

溜め込んだ想いがそろそろ限界を越えそうだった。

724: 2014/12/10(水) 01:28:44 ID:k3jILmUs0
リヴァイ(……もう、いいだろ)

何度も迷った。だけど、もう、伝えていいだろ。そう思った。

リヴァイはハンジに自らの唇を近づけようと、もっと体を寄せた。

キスをして伝える。

そう、思った直後…………!

ガタ……ガタガタガタ……

ハンジ「な、何?! (ぱちくり)」

リヴァイ「地震か?」

急な揺れを感じた。リヴァイはハンジを抱きしめたまま揺れに耐える。

数秒、大きな揺れが続いて止まった。

ハンジはすぐにテレビをつけた。地震速報を見たら震度3の揺れだったようだ。

ハンジ「震度3でこの揺れなんだ。結構怖かったね」

リヴァイ「ああ……そうだな」

直後、飛び起きたイザベルとファーランがやってきた。

イザベル「今、揺れたよな?!」

725: 2014/12/10(水) 01:29:26 ID:k3jILmUs0
ファーラン「結構、揺れたな」

イザベル「やべえ! 何か被害が出たか?!」

リヴァイ「いや、何も。大した地震じゃない」

イザベル「そっかー。なら良かったぜ!」

ファーラン「念の為、少し起きていた方がいいかもな」

リヴァイ「そうだな。今夜だけ夜更かししてもいいぞ」

イザベル「やった! 起きておこうぜ」

そして子供達は部屋に戻った。

ハンジ「ちょっとびびったね」

心臓がまだドキドキしていたハンジだった。

リヴァイ「まあな」

ハンジ「防災に関して見直した方がいいかな」

リヴァイ「今度、非常食を買いに行くか」

ハンジ「その方がいいかも」

そんな風に話していたら、先程の甘い雰囲気はすっかり消えていた。

726: 2014/12/10(水) 01:29:52 ID:k3jILmUs0
リヴァイ(2度ある事は3度あるの方だったか)

ハンジにキスしようとすると、邪魔が入る呪いにでもかけられているんだろうか。

ふとそんな風に考え込んでしまうリヴァイだった。

一方、部屋に戻ったハンジは、

ハンジ(目を開けた時、リヴァイの顔が近かった)

その至近距離に驚いた。勿論、地震にも驚いたけれど、それ以上に。

ハンジ(やっぱり、気のせいじゃないよね)

今夜はなかなか眠れそうになかった。

幸せ過ぎて、寒い夜の筈なのに。暑く感じる。

身体が火照っている。もしも、もしもあの時、地震という邪魔がなければ…。

ハンジ(渡したい物って、もしかして……)

リヴァイ自身とか? だったのだろうか。

ハンジ(ぎゃああ乙女! 発想が乙女! 男女が逆だけど!)

でもいいと思った。それが1番欲しい。

ハンジ(そろそろいいのかな…?)

727: 2014/12/10(水) 01:30:20 ID:k3jILmUs0
次のチャンスが来たら今度は自分から動こう。

そう心密かに思いながら、今日の出来事を勉強しながらニヤニヤ振り返る。

チクタクチクタク……

夜中の3時半頃。

いつものようにリヴァイが朝の仕事に起きる時刻。

その時刻にはいつもうとうと寝に入るハンジだが、その日は目が覚めていたので起きていた。

リヴァイ側の襖が開いた。リヴァイは目を開いて驚いた。

リヴァイ「まだ寝ていなかったのか」

ハンジ「あ、おはよー。今から仕事だね」

リヴァイ「もうすぐ朝の4時だぞ。勉強しろとは言ったが、根を詰め過ぎるのも良くねえぞ」

ハンジ「んーまあそうだけど。昨日は地震もあったし、念の為に起きていたんだよ」

リヴァイ「それでも俺が朝の仕事に出かける頃には寝ろ。契約事項の追加だ」

ハンジ「ありゃ。そんな事まで契約しないといけないの?」

リヴァイはバツの悪そうにそっぽ向いた。

リヴァイ(ハンジが寝てくれねえと、朝のキスが出来ねえだろうが)

728: 2014/12/10(水) 01:31:14 ID:k3jILmUs0
いや、起きている時にすればいい話だが。

しかし起きている時にキスしようとすると何かと邪魔が入る嫌なジンクスがあるから、リヴァイは言った。

リヴァイ「ハンジの体の為に言っている。夜更かしが過ぎると、肌にも悪い。タイムリミットは決めておけ」

ハンジ「むー。それが朝の3時半から4時までなんですね。分かった。リヴァイが起きる頃には今後は寝るようにするよ」

ハンジは勉強を切り上げて、その日はリヴァイを見送る事にした。

リヴァイ「ん?」

玄関までやってきたハンジに首を傾げるリヴァイだった。

ハンジ「いや、いつもは私が言われている立場だから。たまにはね」

リヴァイ「え?」

ハンジ「いってらっしゃい。朝のお仕事頑張ってね」

リヴァイ「……行ってくる」

そしてリヴァイは家を出た。

朝の冷たい空気をかき分けながら自転車を漕ぐ。

いつもは重く感じるペダルが、今日は何故か軽く感じた。

リヴァイ(俺も相当、調子に乗っているな)

729: 2014/12/10(水) 01:31:45 ID:k3jILmUs0
キス出来なかったのは残念だったが、それ以上に、今日は。

寝ておけと言ったのは自分の癖に。

リヴァイ(『いってらっしゃい』を言われたら、それはそれで乙だと思うとは)

悪くない。そう思いながら、また小さな幸せを噛みしめるリヴァイだった。

休み明けの3月16日。リヴァイが夜シフトの日。

エルヴィン「………で、結局ホワイトデーは告白出来ず仕舞いだったと」

夜のレジに入って、店を閉める頃。

エルヴィンがレジ点検を終えてから苦笑いした。

リヴァイ「なんだろうな? ハンジに手を出そうとすると邪魔が入る呪いにでもかかっているのかもしれん」

エルヴィン「そうだとすれば、それは手順を間違えているからじゃないか?」

リヴァイ「ん? 手順?」

エルヴィン「自分の気持ちを伝える方が先だろう?」

リヴァイ「………そう言えばそうだったな」

730: 2014/12/10(水) 01:33:05 ID:k3jILmUs0
最後の客が店を出て行くのを確認してからリヴァイはレジを出た。

店の後片付けをしながらエルヴィンと話す。

リヴァイ「やはり気持ちを伝える方が先だな。そこを横着したからバチが当たったのかもしれん」

エルヴィン「そうそう。何でも横着したらいけないよ」

リヴァイ「………」

しかし何て伝えればいいか困るリヴァイだった。

そんな心の葛藤を見透かしたようにエルヴィンは言った。

エルヴィン「シンプルに『好きだ』って一言言えば?」

リヴァイ「それが一番難しいんだろうが」

エルヴィン「だったら『愛している』の方がいい?」

リヴァイ「ハードルを上げるんじゃねえ」

エルヴィンのからかいに蹴りを入れる仕草で返すと、呆れたようにミケが言った。

ミケ「何だ? まだうだうだやっていたのか。リヴァイ」

リヴァイ「あ?」

ミケ「悠長に構えている場合じゃないと思うぞ」

731: 2014/12/10(水) 01:39:56 ID:k3jILmUs0
リヴァイ「何で」

ミケ「4月から新しい夜のバイトの子が入るぞ。男だ」

リヴァイ「?!」

リヴァイはエルヴィンを見た。エルヴィンは「ああ」と軽く頷いた。

エルヴィン「4月1日からハンジの大学の後輩君が一人入る予定だよ。名前はモブリット。ハンジと同じ大学の医学部の子だ」

リヴァイ「なっ……」

エルヴィン「これでやっと本来の人数で店が回せるようになる。長かった(じーん)」

ざわざわ……

リヴァイの心はすっかりざわめいていた。

ミケ「ふん。言っている意味が分かったか」

リヴァイ「まさかとは思うが、そいつ、ハンジが目当てか?」

エルヴィン「どうだろう? ただ彼はハンジの紹介でうちに来た訳じゃない。ちゃんと求人案内をみてうちに決めたそうだけど」

ミケ「分からんぞ? 案外そうだったりしてな」

リヴァイ「………」

リヴァイは家に帰ってから確認しようと思った。

732: 2014/12/10(水) 01:48:52 ID:k3jILmUs0
そしてその日の夜、自宅に帰りつくなり、リヴァイは言った。

ハンジ「おかえりー」

リヴァイ「ただいま。おい、ハンジ。聞きたい事がある」

ハンジ「ん? どうした?」

リヴァイ「お前、モブリットという男の事を知っているか?」

ハンジ「ああ。私の高校の時の後輩だけど。え? 何でリヴァイが彼の事を知っているの?」

リヴァイ「4月からうちの店で夜のバイトに入るそうだ」

ハンジ「えええ? それ、マジか」

リヴァイ「ハンジは知らなかったんだな?」

ハンジ「初耳だよ! 彼とは高校卒業以来、会ってないから超久々だな! 元気にしているのかなあ?」

リヴァイ「………ハンジと同じ大学の医学部に入ったそうだぞ」

ハンジ「それも初耳だ! へーモブリット、私と同じ大学に受かっていたんだ。やるなあ」

ハンジが芝居をしているようには見えなかった。

リヴァイ(本当に知らなかったみてえだな)

733: 2014/12/10(水) 01:56:16 ID:k3jILmUs0
ハンジ「という事は、田舎から出て来たのか。モブリットも。きっと大変だろうなあ」

リヴァイ「………」

ハンジ「思い出すなあ。私も一年前の今頃、1人暮らしを始めてわたわたしてたっけなあ」

リヴァイ「玄関の前で落ち込んでいたよな」

ハンジ「ぎゃああ?! 思い出すと恥ずかし! 本当、何であの頃、あんなに狼狽えていたんだろうね? 馬鹿みたいに」

鍵を失くして落ち込んでいたところをリヴァイに声をかけられたのが2人の出会いの切欠だった。

リヴァイ「自分の部屋の玄関の前で体育座りしてぼーっとしていたな」

ハンジ「しょっぱなからドジやらかして凹んでいたんだよ」

リヴァイ「なんか頭からきのこが生えそうな勢いだったな」

ハンジ「その表現は合っているかも。腐っていたからね。自分の馬鹿さ加減に」

リヴァイ「そこまで落ち込む様な事でもねえだろ。鍵失くした程度で」

ハンジ「そうだけど。でも当時は青かったからしょうがないよ」

リヴァイ「親元を離れるのは初めての経験だったのか?」

ハンジ「そうそう。だから余計にね。最初の頃は不安でしょうがなかったよ」

そう言ってハンジは当時と同じ体育座りになって畳を見つめた。

734: 2014/12/10(水) 01:57:31 ID:k3jILmUs0
ハンジ「地元出て来てこっちに来たから。周りには誰もまだ友達も知り合いもいない状態だった。ゼロからのスタートって感じで「さあやるぞ!」と意気込んだ直後に自宅の鍵を紛失した訳だから」

リヴァイ「俺の方から話しかけなかったらそのまま外で一晩過ごすつもりだったのか?」

ハンジ「あー可能性はあったかも」

リヴァイ「俺に泣きついて正解だったな」

ハンジ「うん。あの時は御免ね。でも嬉しかったよ。リヴァイが喝を入れてくれて」

そう言ってハンジは照れくさそうに頬を染めた。

リヴァイ「………そうだな」

思い出して懐かしく微笑んでリヴァイは言った。

リヴァイ「でもあの後、引っ越しの挨拶にくれた洗剤は有難かった」

ハンジ「あ、あのチョイスで正解だった?」

リヴァイ「ああ。俺が引っ越しの挨拶で貰って嬉しい粗品ベスト3に入る」

ハンジ「マジか。2位は?」

リヴァイ「タオルだな」

ハンジ「1位は?」

リヴァイ「そりゃ入浴剤に決まっているだろ」

735: 2014/12/10(水) 01:58:01 ID:k3jILmUs0
ハンジ「あれ? 紅茶じゃないんだ?」

リヴァイ「紅茶は自分で手に入れたい物だ」

ハンジ「あ、好みがあるからか」

リヴァイ「まあな。茶は味に差があるから、贈り物としては難しい。貰えたら勿論嬉しいが、1位はやっぱり入浴剤だな」

ハンジ「そっか。入浴剤が1番ベストだったかあ」

リヴァイ「洗剤でも十分有難いけどな」

そんな風に夜、話し込んでいたら、突然、チャイムが鳴った。

リヴァイ「誰だ? こんな夜分に」

もう11時を過ぎている。失礼な時間帯だなと思いつつ、リヴァイが玄関に出た。

若い男が立っていた。一応、ドア越しに声を出す。

リヴァイ「はい」

モブリット「あの、先日202号室に引っ越してきました。モブリットと申します。ご挨拶が遅れてすみません」

緊張の顔で立っている男を見てリヴァイは驚いた。

ドアを開けてやると、優しそうな長身の若い男が立っていた。

身なりもいい。生地のいいコートを着たその男は腰を低くして粗品を渡してきた。

736: 2014/12/10(水) 01:58:29 ID:k3jILmUs0
モブリット「あの、こちら粗品ですけど。良かったらどうぞ」

リヴァイ「あ、はい」

モブリット「夜分すみません。日中、不在の事が多いようでしたので、この時間帯でならお会い出来るかと思いまして」

リヴァイ「……どうも」

其の時、聞いた声に気づいてハンジが玄関にやって来た。

ハンジ「あー! モブリット! 久しぶり! 元気だった?」

モブリット「?! ハンジ先輩?!」

ハンジ「やだ! 丁度、今、モブリットの話をしていたところだったんだよ! もー何で連絡くれなかったの?」

モブリット「あの、こっちから連絡したんですけど、アドレスエラーで連絡がつかなくて」

ハンジ「あれ? 私、新しいアドレス教えてなかったっけ? ごめんごめん!」

と、その場でスマホのアドレス交換を始めた2人だった。

その様子にイラッとするリヴァイだった。

さっさと帰れと思いつつリヴァイが黙っていると、

ハンジ「一人で田舎から出て来たの?」

モブリット「いえ、姉と2人暮らしです。元々姉は自宅から大学に通っていたんですが、自分の大学進学と一緒に実家を出る事になりまして……」

737: 2014/12/10(水) 01:59:25 ID:k3jILmUs0
ハンジ「成程! 1人暮らしじゃない分、ちょっと安心だね。でも何か困った事が合ったら言ってね! いろいろ教えるから!」

モブリット「はい。お世話になり……」

リヴァイ(ジ口リ)

玄関での長話が嫌でリヴァイがひと睨みすると、モブリットは言った。

モブリット「あの……つかぬ事を伺いますが、こちらの方は……」

ハンジ「ああ。彼はね、リヴァイ。私と同……」

ハンジはここで「同居」という言葉を使うつもりだった。

だけど、リヴァイの方が先に口を開いたのだった。

リヴァイ「同棲している。リヴァイ・アッカーマンだ」

モブリット「え……(青ざめ)」

リヴァイ「昔話は、また今度にしろ。今日はもう遅い。お引き取り頂こうか」

ハンジ「リヴァイ?」

モブリット「あ、はい。そうですね。大変失礼しました。では、失礼します」

モブリットは気まずそうに退散していった。

玄関のドアを閉めた後、リヴァイは不機嫌な表情を隠さないままドアの鍵を閉めて部屋に戻った。

738: 2014/12/10(水) 01:59:50 ID:k3jILmUs0
ハンジ「な、何で……」

ハンジが疑問を口にすると、リヴァイの方が睨んだ。

リヴァイ「あの男、怪しくないか?」

ハンジ「へ?」

リヴァイ「あいつ、ハンジのストーカーとかじゃねえよな?」

ハンジ「え?! そんな訳ないでしょう! 高校の後輩なのに」

リヴァイ「でも最近、連絡を取ってなかったんだろ? なのに職場にも住所にも突然やってくるなんてそんな都合のいい話があるか?」

ハンジ「た、たまたまじゃないの?」

リヴァイ「職場の方はそうかもしれん。だが住所まで被るのは虫の良すぎる話だな。気持ち悪い」

ハンジ「人の後輩を気持ち悪い呼ばわりは流石に酷くない?」

リヴァイ「あの男、ハンジに気があるんじゃねえか? と言っているんだが?」

そこでハンジは押し黙った。

リヴァイ「………心当たりがあるんだな?」

ハンジ「まあ、以前一度だけ、告白された事はあるけど」

リヴァイ「おい……(イラッ)」

739: 2014/12/10(水) 02:00:34 ID:k3jILmUs0
ハンジ「でも! もう大分前の話だよ? 高1の時だから! 15歳の時だから! 当時はちゃんと断ったし、私、今年で20歳になるし……」

リヴァイ「5年程度の年月なら、本気で好きな女なら諦める理由にはならねえよ」

ハンジ「……本気で言ってる?」

リヴァイ「ああ。俺なら待つぞ。本気で好きな女の為なら」

ハンジ「………」

リヴァイ「諦めきれなくて追いかけて来た。俺にはそんな風にしか見えなかったが?」

ハンジ「だから同居じゃなくて『同棲』って言ったの?」

リヴァイ「そうだ。その方が……」

ハンジ「諦めさせる事が出来ると思ったの?」

リヴァイ「そうだ」

ハンジ「それって、リヴァイに関係ある話なの?」

リヴァイ「………」

ハンジ「私とモブリットの件はリヴァイには関係ない話だよね? 何でそんな事をするの」

リヴァイ「………………」

ハンジの鋭い視線に気圧された。

740: 2014/12/10(水) 02:01:14 ID:k3jILmUs0
リヴァイは何も言えずに、顔を背けた。

リヴァイ(何でって……)

そんなもん、決まっている。

リヴァイ(しまった。まだ、はっきりとは伝えてねえのに)

余計な事をしてしまったと、後になって気づいた。

まだはっきりと彼氏と彼女に関係になろうと、お互いに確認した訳じゃないのに。

ハンジ「………………」

リヴァイ「………………」

お互いに沈黙したまま、一歩も譲らなかった。

好きなのに。それはお互いに薄々気づいているのに。

ハンジ「分かった。言わないならこれ以上、聞かないけど。でも、そういう気の回し方はしなくても大丈夫だよ」

リヴァイ「……そうか」

ハンジ「うん。気持ちは有難いけど。そういう事はしないで欲しいな」

リヴァイ「………」

ハンジ「もし、モブリットがそういうつもりで追いかけて来たのだとしても、其の時はちゃんと断るから。心配しなくていいよ」

741: 2014/12/10(水) 02:01:49 ID:k3jILmUs0
リヴァイ(心配じゃねえよ)

そういう保護者的な意味ではなくて。

リヴァイ「本当だな? ちゃんと断れよ」

ハンジ「心配性だな。リヴァイは」

リヴァイ「ハンジは押しに弱そうな気もする」

ハンジ「そ、そんな事はないけど」

リヴァイ「ホイホイ、誘われて一緒に茶飲んだりするなよ」

ハンジ「……そんな事をするのはリヴァイだけだって」

リヴァイ「!」

ハンジ「こうやって、夜、一緒にまったり過ごす事の出来る男性は、リヴァイだけだよ」

リヴァイ「……そうか」

ハンジ「うん。おかわり。飲んでもいい?」

リヴァイ「ああ」

すぐおかわりを用意した。ハンジと一緒におかわりの茶を飲んでイライラを鎮めた。

リヴァイ(何、焦ってんだ。俺は)

742: 2014/12/10(水) 02:02:15 ID:k3jILmUs0
身が持たないぞ。こんな調子じゃ。

と、リヴァイは自分に言い聞かせた。

ハンジ(リヴァイ、凄く焦った顔をしているな)

ここに来てハンジはリヴァイの様子をじっと観察した。

モブリットの件といい、今までの事といい。ここまで来たらもう、動いてもいいだろうと考えた。

ハンジ(リヴァイの行動を見る限り、間違いないと見ていい筈だ)

自分の思い込みじゃないと信じよう。

ハンジ「ふぅ……」

一息ついてから、ハンジは言った。

ハンジ「ねえ、リヴァイ」

リヴァイ「なんだ」

ドクン……ドクン……

心拍数が急上昇していくのを感じながらハンジは思い切って言った。

ハンジ「私は自意識過剰な女かもしれないという懸念があるんだけど」

リヴァイ「いきなり何の話だ」

743: 2014/12/10(水) 02:02:42 ID:k3jILmUs0
ハンジ「いやここ最近、私はとある男性に好かれているのかなと思っていまして」

リヴァイ「モブリットとは別の奴か?」

ハンジ「そうですよ」

リヴァイ「どんな奴だよ」

ハンジ「イケメンだよ。とても心が温かい。優しい人だ」

リヴァイは少しイラッとして言い返した。

リヴァイ「本当か? そういう奴に限って、本当は性格が悪いかもしれねえぞ」

ハンジ「たまに意地悪だけど。でも困った人がいると見捨てておけないところがあるみたい」

リヴァイ「ふーん」

ハンジ「根は真面目なのかな。仕事は真面目にやっているよ。でも口が悪いから、職場でうまくいかない事も多々あったみたい」

リヴァイ「………」

ハンジ「子供が好きで面倒見があるね。掃除洗濯料理や買い物も上手だ。男にしておくのが勿体ないくらい」

リヴァイ「………………」

ハンジ「実は脱いだらイイ体をしているそうだけど、まだしっかり見た事はないな。夏になったら……」

リヴァイ「………ハンジ」

744: 2014/12/10(水) 02:03:12 ID:k3jILmUs0
その辺で止めてくれ。

そういう思いを込めてリヴァイは言った。

ハンジ「うん。あなたの事だよ。リヴァイ。私はあなたに好かれていると思っていいのかな?」

リヴァイ「………………」

リヴァイはハンジの方をまともに見れなかった。

でもハンジは其の時、勇気を出して言ったのだ。

ハンジ「もしそうだとしたら、私の方から改めて伝えたい事があるんだけど」

リヴァイ「……何を」

ハンジ「私がリヴァイとの同居を決めた本当の理由だよ」

リヴァイ「………」

ハンジ「伝えてもいい? 今、ここで」

リヴァイ「ああ、いいぞ」

ハンジ「うん。あのね。私、リヴァイの事が好きなんだ」

リヴァイ「………」

ハンジ「勿論、男性としてだよ」

745: 2014/12/10(水) 02:05:45 ID:k3jILmUs0
リヴァイ「………」

ハンジ「ごめんね。強引な手段を使って。少しでもあなたの事が知りたかったから。同居という形でリヴァイの懐に潜り込んだ」

リヴァイ「………」

リヴァイは何も答えられずにいる。

ハンジはリヴァイの反応を伺いながら続けて言った。

ハンジ「そしてここからは新しい提案になるんだけど」

リヴァイ「提案?」

ハンジ「うん。私と、付き合って貰えませんか?」

リヴァイ「………」

ハンジ「さっき、モブリットに言った事を本当の事にしたい」

リヴァイ「………」

ハンジ「モブリットに対してああ言ってくれたって事は、リヴァイの方も私に対して満更じゃないんだよね?」

リヴァイ「少し、黙ってくれ」

リヴァイが怒ったようにそう言ったのでハンジは押し黙った。

ハンジ(しまった。やっぱり早過ぎたのかな)

746: 2014/12/10(水) 02:06:17 ID:k3jILmUs0
もう言っても良いだろうと思って提案したのだが。

リヴァイの反応は思っていたより鈍かった。

ハンジ(もう大丈夫かなって思ったんだけど)

断られたらどうしよう。

嫌な予感がしてきてハンジが身を竦ませていると……

リヴァイ「俺は……」

少し間を置いてからリヴァイが言った。

リヴァイ「今、血は繋がっていないが、子供を2人も抱えている」

ハンジ「うん。知っているよ」

リヴァイ「加えて、稼ぎも少ない。正社員ですらない。パートで食い繋いでいるような男だが」

ハンジ「それも知ってますけど」

リヴァイ「あと、ちょっと病的なくらい潔癖症だが」

ハンジ「まあ、そうですね」

リヴァイ「ハンジより背も低い」

ハンジ「うん。10cmくらい低いかな」

747: 2014/12/10(水) 02:09:43 ID:k3jILmUs0
リヴァイ「学歴だってねえし」

ハンジ「それは……別に……」

リヴァイ「俺に出来る事と言えば、家事仕事くらいだ。欠点を挙げたらキリがねえような男だと自分では思っているんだが……」

ハンジ「それは流石に謙遜し過ぎじゃない?」

リヴァイ「……本当にいいのか?」

ハンジ「え?」

リヴァイ「俺でいいのかって聞いている」

ハンジ「うん」

ハンジは即答した。

リヴァイはその瞬間、自分の二の腕を自分で掴んでしまった。

リヴァイ「嘘じゃねえよな?」

ハンジ「嘘じゃないよ」

リヴァイ「保険金でもかけて俺を殺そうとしねえよな?」

ハンジ「酷い疑り深さだな?! その発想は流石になかったわ!」

リヴァイ「じゃあ、本当に?」

748: 2014/12/10(水) 02:11:25 ID:k3jILmUs0
ハンジ「うん。その……リヴァイとお付き合いしたいんだけど、駄目かなあ?」

ハンジが恐る恐る、機嫌を伺うように下手に言うと……。

リヴァイ「………………」

リヴァイは何も言えず、二の腕を掴んでいた手を離して、片手で自分の顔を半分隠してしまった。

ハンジ「………」

リヴァイ「………」

しばし待つ。12時が過ぎてもまだ沈黙が続いた。

ハンジ「あー今すぐ返事が出来ないなら、別の日にでも……」

リヴァイ「ハンジ」

ハンジ「(ビクッ)はい、なんでしょう?」

リヴァイ「ホワイトデーの時に渡しそびれた物を今、ハンジに渡してもいいか?」

ハンジ「え? あ、はい」

リヴァイ「目を瞑ってくれ」

ハンジ「はい」

リヴァイ「眼鏡も外すぞ」

749: 2014/12/10(水) 02:12:15 ID:k3jILmUs0
ハンジ「はいはい。どうぞ(スッ)」

リヴァイ「…………」

リヴァイは其の時、ぐっとハンジを抱き寄せて、今度こそキスをした。

ハンジ「!」

リヴァイの体は震えていた。唇も同じように。小さな震えが止まらなかった。

時間にして、数秒の、触れるだけのキスだった。

刹那の触れ合いののち、リヴァイは身体を離してハンジを見た。

お互いに頬を赤く染めていた。

無言が続いて、時計の音が無限に続くように思われたが……

ハンジ「えっと、今のは、その……」

リヴァイ「………」

ハンジ「その、つまり……ええっと……」

リヴァイ「………」

ハンジ「つまり、YESと受け取ってよいのかな?」

リヴァイ(こくり)

750: 2014/12/10(水) 02:13:01 ID:k3jILmUs0
リヴァイは無言で頷いた。その愛らしい返事にハンジはハゲ萌える。

ハンジ(不器用にも程があるよ!!)

ハンジは腹筋が鍛えられてしまうような笑いを堪えた。

リヴァイ「笑うな。笑うんじゃねえ」

ハンジ「だって……まさかこういう形で返事をくれるとは思わなかったんだもの」

リヴァイ(ジ口リ)

ハンジ「そんな風に睨んでも全然怖くないよ(ニヤニヤ)」

リヴァイ(ムスッ)

ハンジ「本日より改めてよろしくお願いします(ぺこり)」

リヴァイ「あ、ああ……宜しく(プイッ)」

ハンジ「何でこっち見ないの?」

リヴァイ「何か恥ずかしい」

ハンジ「本当、乙女だな! そんなに照れなくてもいいのに」

リヴァイ「無茶言うな。クソ……不意打ちだった」

ハンジ「私からの告白が?」

751: 2014/12/10(水) 02:20:49 ID:k3jILmUs0
リヴァイ「そうだ。ハンジの方から手を打たれるとは思っていなかった」

ハンジ「あなたがモブリットの件で変に気を回すからだよ」

リヴァイ「ちっ……」

ハンジ「あんな風に言われたら、はっきりさせない訳にはいかないでしょうが」

リヴァイ「そう言われたら確かにそうかもしれんが」

ハンジ「でも本音を言えば嬉しかったよ。リヴァイの気持ちが見えたから。リヴァイって結構、独占欲が強いんだね。にしし」

リヴァイ「うるせえ。黙れ」

ハンジ「ふふっ……喉乾いちゃった。お茶のおかわり頂戴」

リヴァイ「あ、ああ……俺も飲もう」

そしてお互いにお茶を飲んだ。もう一杯ずつ。

ハンジ「ふぅ……」

リヴァイ「………」

ハンジ「この後、どうしましょう?」

リヴァイ「この後? (ピクッ)」

ハンジ「いや、もう寝るのかなと」

752: 2014/12/10(水) 02:21:30 ID:k3jILmUs0
リヴァイ「明日も朝の4時から仕事があるが」

ハンジ「私の方は明日、学校の授業は午前だけお休みなんだよね。教授の都合で」

リヴァイ「……そうか」

ハンジ「うん。リヴァイさえ良ければ、と思ったんだけど……駄目?」

リヴァイ「なっ……何が(ドキッ)」

ハンジ「いや、ここまで言えば分かるでしょ。流石に」

リヴァイ「………ゴム、用意してねえよ」

ハンジ「あ、それはこっちで用意してあるんで問題ないです」

リヴァイ「?! 何で用意してある」

ハンジ「嫌だなあ。そこまで言わせないでよ。………エOチ」

リヴァイ「エOチなのはハンジの方だろ」

ハンジ「まあ、そうですけど」

リヴァイ(困惑中)

ハンジ「………ふぅ。まあ、あと4時間もないからねえ。時間、余裕ないから、また今度でもいいけど」

753: 2014/12/10(水) 02:22:18 ID:k3jILmUs0
リヴァイ「…………」

ハンジ「うん。休みがあう時にゆっくりしようか。今日はもう寝る……」

其の時、リヴァイは生唾を飲み込んでから言い放った。

リヴァイ「待て、ハンジ」

ハンジ「ん?」

リヴァイ「そこまで準備万端なのに、ヤラねえ馬鹿が何処にいる」

ハンジ「………なら、する?」

リヴァイ「本当にいいんだな? 途中で根をあげても、俺は止めてやらねえぞ」

ハンジ「……うん」

リヴァイ「だったらゴムをくれ。あと、シャワーだけ軽く浴びてくる。ハンジもそうしろ」

ハンジ「いいの?」

リヴァイ「こんな時くらい、水代はケチらなくてもいいだろ」

ハンジ「分かった。どっちが先に浴びる?」

リヴァイ「俺が先に浴びてくる。後の事は頼んだ」

ハンジ「了解しました」

754: 2014/12/10(水) 02:22:50 ID:k3jILmUs0
そしてリヴァイは風呂場に移動した。

シャワーだけ浴びると言ったのはせめてものファインプレーだったと言えよう。

リヴァイ(……嘘だろ)

急展開過ぎて頭の中が軽いパニック状態だった。

リヴァイ(まさか今日、こんな展開になるとは……)

心の準備が全く出来ていなかったが、でもこのチャンスを逃したくなかった。

心臓が激しく鼓動を打っていて煩かったが、無理やり宥めすかして、全身を綺麗にしていった。

緊張で手が震えていた。妄想していた事が今、現実になろうとしているからか。

余り時間はかけられなかった。今夜は徹夜になるだろう。

それでもいいと思った。眠らない一夜でも構わない。

夜の仕事も以前はしていたし、何より今夜は眠れそうにない。

リヴァイ(落ち着け。落ち着いて臨め)

何も命を奪われるような事じゃない。

これは機会があれば誰もが通る道だ。緊張するような事じゃない。

そう、リヴァイは自身に言い聞かせた。

755: 2014/12/10(水) 02:23:24 ID:k3jILmUs0
リヴァイはシャワーを浴びた後、パンツとズボンだけはいて上は着ないで部屋に戻った。

リヴァイ「あがったぞ。ハンジ」

リヴァイが声をかけた直後、眼鏡をかけなおしたハンジが口を開けたまま固まった。

リヴァイ「ん? ハンジ。どうした?」

ハンジ「ふつくしい………」

リヴァイ「は?」

ハンジ「あ、いや、御免なさい。思わず、つい」

リヴァイ「?」

ハンジ「あの、その……グッジョブです(ぐっ)」

リヴァイ「何の話だ」

ハンジ「素晴らしい大胸筋、本当にありがとうございました(ぺこり)」

リヴァイ「……ああ(ポン)」

思わず手をポンと叩いてしまったリヴァイだった。

リヴァイ「筋肉の話か。成程……って、おい! 鼻血出ているぞ!?」

ハンジ「え……あ……あれ?」

756: 2014/12/10(水) 02:23:59 ID:k3jILmUs0
リヴァイ「興奮し過ぎだ! 馬鹿かお前は!」

ハンジ「あははは! ごめんねえ! ついつい」

リヴァイ「全く本当に呆れた奴だな」

リヴァイはついついお世話を焼いてしまった。ハンジの鼻にティッシュを突っ込んでやる。グイグイと。

ハンジ「すびばぜん(すみません)」

リヴァイ「そんな大した筋肉でもねえのに」

ハンジ「大した事あるよ! (くわっ)」

リヴァイ「ええ? (*ちょっと引いています)」

ハンジ「ねえ、ちょっと先に触らせて。ちょっとでいいから! いいよね? ねえ!? (はあはあ)」

リヴァイ「駄目だ。シャワーが先だ! 行って来い! (グイッ)」

ハンジ「ケチいいいいいい!!」

リヴァイ(ジ口リ)

ハンジ「あ、はい。調子に乗りました。サーセン。行ってきます(脱兎)」

リヴァイ「……はあ」

おかしいな。さっきまで緊張していた筈なのに。

757: 2014/12/10(水) 02:26:47 ID:k3jILmUs0
リヴァイ(ムードの欠片もねえ)

思わず顔を覆ってしまうリヴァイだった。

リヴァイ(いや、まあ、かえって良いか)

変に緊張し過ぎるよりはいいか。そう思いなおした。

リヴァイ(しかし鼻血を出すほど、興奮せんでも……)

思わず笑ってしまった。馬鹿だろう。あいつは。

リヴァイ(……まあ、いいか)

喜んで貰えるなら、悪い気はしない。

リヴァイ(……ゴムはどこだ? あった)

枕元にちゃんと箱ごと用意してあった。使用するのは初めてだ。

リヴァイ(先に開けていいよな? 多分……)

丁寧にパッケージを外して、中を確認する。

リヴァイ(使い方は説明を読めば分かる筈)

ハンジを待っている間、予習をするリヴァイだった。

リヴァイ(こういうのは先につけていて良いのか?)

758: 2014/12/10(水) 02:27:21 ID:k3jILmUs0
最中につけるより、初めからつけておいた方がいいだろうと判断して、早速装着してみるが……。

リヴァイ(………あれ?)

サイズが小さくて入りきれない事に気づいた。

リヴァイ(嘘だろ。おい、これ、普通サイズだよな?)

という事は、自分の物は標準より大きいという事なのだろうか?

気にした事が今までなかったので、頭を抱えるリヴァイだった。

リヴァイ(ふざけんな! なんでよりによって……!)

こんな絶好のチャンスをこんな理由でふいにしたくなかった。

しかし装着出来ないなら今日は最後までは出来ない。

リヴァイがズーンと落ち込んでいると、ハンジがバスタオルだけ体に巻いた姿でシャワーから戻って来た。

ハンジ「おや? 何か落ち込んでいますね。どうした?」

リヴァイ「ゴムのサイズが合わなかった」

ハンジ「え……嘘。マジで?」

リヴァイ「ああ。入りきれない。これじゃどうしようも……」

ハンジ「あちゃー……そっか。ちょっと待って。持ってくる」

759: 2014/12/10(水) 02:27:50 ID:k3jILmUs0
リヴァイ「ん?」

ハンジ「いや、箱は2つ買っておいた。念の為に大きいサイズも買っておいたんだよ」

リヴァイはズコーとなった。

リヴァイ「だったら最初からそっちを出しておけよ」

ハンジ「いやだって、そっちを出して大きさが余って精神的に傷ついたらどうしようかと」

リヴァイ「変な気の遣い方をするな。そういう時は両方出しておけ」

ハンジ「両方出したら迷うかなと思って」

リヴァイ「いや、そこは選ばせていいから。やれやれ」

ハンジの先読みっぷりに恥ずかしさを覚えながら新しくつけなおした。

ハンジは何故か正座待機してリヴァイの様子を見ていた。

ハンジ(じーっ)

リヴァイ「何でゴムつけているところをじろじろ見る?」

ハンジ「ん? うふふふ」

リヴァイ「笑って誤魔化すな」

ハンジ「だって、嬉しいから」

760: 2014/12/10(水) 02:28:15 ID:k3jILmUs0
ハンジは素直に答えた。

ハンジ「夏まで我慢しないといけないと思っていたリヴァイの裸体を拝めて眼福です。本当にありがとうございました(ぺこり)」

リヴァイ「……………」

ハンジ「出来たら次は是非ともその肉体をじっくり触らせて貰えませんかね?! (はあはあ)」

リヴァイ「駄目だ」

ハンジ「えっ……何で」

リヴァイ「俺の方がハンジに触りたいからだ」

ハンジ「ええ?! 私の方がリヴァイに触りたいんだけど?!」

リヴァイ「いいや。度合いで言ったら俺の方が今まで我慢していた」

ハンジ「私の方が我慢していました!」

リヴァイ「いや、俺だ」

ハンジ「私です!」

という不毛な会話をしたのち、ハンジは気づいた。

ハンジ「……あれ? これって両方同時に触ればよくね?」

リヴァイ「ん?」

761: 2014/12/10(水) 02:29:10 ID:k3jILmUs0
ハンジ「何で不毛な言い争いをしているんだろ? そうだよ。同時に触りたいところをお互いに触ったらいいじゃないか」

リヴァイ「……それもそうか」

お互いにふっと笑みを零してしまった。

リヴァイはハンジをじっと見つめ返した。シャワーを浴びてバスタオル1枚だけの姿で正座待機しているハンジを見ると、膝小僧の悪戯をした時を思い出す。

リヴァイ(あの時は膝しか触ってねえが)

本当はもっと別のところも触りたいと思っていた。

今日はその夢が遂に叶う。

リヴァイ「……明かりは」

ハンジ「出来ればつけたままお願いします(土下座)」

リヴァイ「何で」

ハンジ「暗闇の中ではリヴァイの筋肉が見られませんよ」

リヴァイ「まあ、それもそうか。だったら俺もハンジの胸とかをじっくり見られる訳だな」

ハンジ「そんな、見ても楽しい物じゃないと思うけどね」

リヴァイ「それは見て見ねえと分からねえだろ。バスタオル、外してくれ」

ハンジ「うん。いいよ」

762: 2014/12/10(水) 02:35:15 ID:k3jILmUs0
はらりと、一枚の布が畳の上に落ちる。

裸のまま、明かりのついた和室で正座待機しているハンジを正面から見つめてリヴァイは思った。

思わず、天井を見上げる。

リヴァイ(………ハンジがさっき、鼻血を出した気持ちがちょっと分かった)

顔に熱が集まって、直視出来ない。

リヴァイ「…………」

ハンジ「…………」

微妙な沈黙が二人を包んでいた。

ハンジは照れ臭そうに自分から促した。

ハンジ「あの、早く布団に入ろうよ」

ハンジの方が先を急かしてリヴァイは「ああ」と小さく答えた。

いよいよ布団の中で本番だ。まずはどこから触るか。

お互いに見つめ合って、伸びた手の先は……

ハンジ「ん? 胸からいきますか」

リヴァイ「そういうハンジも胸からか」

763: 2014/12/10(水) 02:36:00 ID:k3jILmUs0
ハンジ「この素晴らしい大胸筋の感触、正直堪らんです(はあはあ)」

女にあるまじき顔になっているハンジにリヴァイは少々萎えた。

リヴァイ「涎、出てんぞ……(げんなり)」

ハンジ「は! しまった。ついつい」

リヴァイ「積極的な事は喜ばしいが、女を忘れる様な事はするなよ」

ハンジ「すいません(てへぺろ☆)」

リヴァイ「言ってる傍からこっちの乳首を触ってんじゃねえか」

ハンジ「え? ここ気持ち良くないの? (スリスリ)」

リヴァイ「……………そういう訳じゃねえが」

其の時ふと、過った嫌な考えがリヴァイを悩ませた。

リヴァイ(こんな事を今、聞くのは野暮だな)

もしかしたらハンジには過去に男がいたのかもしれない。

でなければ、ゴムを自ら用意したり、こうやって自分から触ったり出来る筈がないと思った。

リヴァイ(クソ……こういう事をいちいち気にする自分が嫌になる)

リヴァイの表情が少しだけ翳ったのを見て、ハンジは手を止めた。

764: 2014/12/10(水) 02:36:59 ID:k3jILmUs0
ハンジ「あ……ここ、触るのは嫌?」

リヴァイ「そうじゃねえよ」

ハンジ「あの……でも、何か、怒ってる?」

リヴァイ「怒ってねえよ」

ハンジ「でも声のトーンが……」

リヴァイ「………」

リヴァイは少し黙って、そして慎重に言った。

リヴァイ「ハンジ」

ハンジ「何?」

リヴァイ「俺にとってハンジは初めての女だ」

ハンジ「えっ……」

リヴァイ「こんな風に女と夜を共にしようと思った経験は過去にねえ。だからうまく出来る自信はねえし、気持ち良くしてやれるか分からんが」

ハンジ「変な気は回さなくても大丈夫だよ。私は十分……」

先読みしてリヴァイは言った。

リヴァイ「幸せか?」

765: 2014/12/10(水) 02:37:44 ID:k3jILmUs0
ハンジ「うん。幸せだよ」

リヴァイ「過去よりもか?」

ハンジ「ん?」

リヴァイ「ハンジの中で、今が1番幸せなのかと聞いている」

ハンジ「当然でしょうが。え? 何を心配しているの?」

リヴァイ「……ならいい」

微妙にニュアンスが伝わりきっていない気もしたが、リヴァイはそこで話を打ち切った。

ここまでお膳立てして貰って、ハンジに不満を言うのは贅沢すぎるとも思ったのだ。

ハンジ「んん? 何なの? ちょっと意味が分からん」

リヴァイ「分からなくていい」

ハンジ「え……嫌だよ。そんな悲しげな顔のままさせたくないよ」

リヴァイ「悲しげ? そう見えるのか?」

ハンジ「眉の形がちょっとだけ」

リヴァイ「………」

リヴァイは思わず眉毛を隠してしまった。

766: 2014/12/10(水) 02:38:42 ID:k3jILmUs0
ハンジ「ぬー。分かった。仕方がない。今日はリヴァイに主導権を委ねよう」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「好きにしていいよ。私を。本当は私も触りたくって、はあはあしたいけど、今日は我慢する」

リヴァイ「はあはあしたいって」

ハンジ「本音を言えばリヴァイの全身をくまなく舐め尽してリヴァイの肉棒を限界まで喉の奥に含んでリヴァイが喘いで天国にイクところを見たいけど、今回は自重します(キリッ)」

ハンジが欲望をダダ漏れさせたので、リヴァイは取り敢えず一発チョップをかました。

ハンジ「あいた!」

リヴァイ「そういう事は口に出さんでいい(プイッ)」

ハンジ「え? 主導権を握りたいとかそういう話じゃなかったの?」

リヴァイ「間違ってはいねえが、微妙に違う」

ハンジ「なら……私は一体どうしたらいい? (きょとん)」

リヴァイ「……………」

ハンジの過去を知りたいような知りたくないような狭間に揺れる。

ハンジ「………あ、もしかして、私が積極的過ぎて萎えたとか?」

リヴァイ「いや、別に萎えちゃいねえが」

767: 2014/12/10(水) 02:39:56 ID:k3jILmUs0
ハンジ「もーはっきりさせてよ! それだけじゃ流石にリヴァイの言いたい事を理解出来ませんよ?」

リヴァイ「……なら、聞いてもいいのか?」

ハンジ「質問、バッチ来い!」

リヴァイはため息をつきながら静かに言った。

リヴァイ「俺は、何人目の男だ?」

ハンジ「へ?」

リヴァイ「何人目の男だと聞いている」

ハンジ「それって、お付き合いした数の事?」

リヴァイ「そうだ」

ハンジ「初めてですよ」

リヴァイ「……嘘つけ」

ハンジ「本当だよ! 何で信じてくれない?」

リヴァイ「年下の男に好かれたとか何とか前に言ってただろ?」

ハンジ「告白されただけで、お付き合いした訳ではないよ」

リヴァイ「だったら、俺が初恋とでもいうつもりか?」

768: 2014/12/10(水) 02:40:21 ID:k3jILmUs0
ハンジ「そうですよ」

リヴァイ「………」

そんな都合の良すぎる話をすぐには信じられないリヴァイだった。

しかしハンジは戸惑ったように眉間の皺を寄せている。

ハンジ「え? う? どういう事? つまりリヴァイは私に過去に男がいたんだろうと思っている訳?」

リヴァイ「なんか、男に慣れているような気がしてな」

ハンジ「OH……そういう事か」

リヴァイの言いたい事がようやく分かって頭を抱えたハンジだった。

ハンジ「そうか。うーん。そういう風に見えたのか」

リヴァイ「………ハンジがどうしてもしたいなら」

ハンジ「ん?」

リヴァイ「まあ今日はハンジの方から誘ってくれた訳だし、ハンジの好きなようにしてやってもいいが」

ハンジ「いいの?」

リヴァイ「だがそれで上手くやれるようなら、やっぱり過去に男がいたと思っちまうだろうな。俺は」

ハンジ「………」

769: 2014/12/10(水) 02:41:45 ID:k3jILmUs0
リヴァイ「すまん。俺はこういう自分でも面倒くせえ時がある。潔癖症なのは何も掃除出来る部分だけじゃないらしい」

そう言いながらリヴァイはハンジの胸の谷間に自分の顔を埋めたのだった。

ハンジはリヴァイのサラサラとした黒髪を優しく撫で乍ら慎重に考えた。

ハンジ「この場合、過去に男がいなかったという証明をするには、どうしたらいいですかね?」

リヴァイ「………」

ハンジ「まあ、ヤッてみれば処Oである事はバレるけど、そういう事を気にしている訳じゃないでしょう?」

恐らくリヴァイは性行為その物ではなく、ハンジの恋愛経験その物を気にしている。

リヴァイ「そうだな」

リヴァイはその問いに肯定した。

ハンジ「上手に出来ちゃったら、経験がある様に見えるし、下手だったとしても、演技しているように見えないかな?」

リヴァイ「………まあ、そうかもしれん」

ハンジ「つまり、私の方からそれを証明するのは限りなく不可能だよね。証言を信じて貰うしかないんだけど……」

リヴァイ「………」

ハンジ「ぬー。疑り深い生来の性格が考え過ぎの虫を湧かせる訳ですね」

リヴァイ「良く分かっているじゃねえか」

770: 2014/12/10(水) 02:42:15 ID:k3jILmUs0
ハンジ「まあ、リヴァイの行動パターンは少しずつ理解出来るようになってきたからさ」

ハンジは「あはは」と苦笑する。

ハンジ「じゃあもしも私が『過去の男は10人くらいいたよ』とかいうビXチだったら、お付き合いは無理だったのかな?」

リヴァイ「……いや」

リヴァイはすぐ否定した。

リヴァイ「凹むだろうが、それでも付き合い自体を拒否はしないと思う」

ハンジ「そうなの?」

リヴァイ「ああ。俺が1番気にするのは、その10人と答えた数字が実は50人でしたとか、そういう部分だ」

ハンジ「つまり嘘をついて欲しくないって事?」

リヴァイ「そうだ。ハンジは美人だし、過去に男がいたとしても全然、おかしくねえよ。そこは仕方がねえ」

ハンジ「えっ……」

美人と言われてちょっとポッとなるハンジだった。

ハンジ「そ、そう思っていたの?」

リヴァイ「ああ」

ハンジ「それって、いつ頃から?」

771: 2014/12/10(水) 02:42:43 ID:k3jILmUs0
リヴァイ「クリスマス、一緒にドライブして遠出したあの日からだ」

ハンジ「………」

ハンジは顔がトマトの様に赤くなった。

リヴァイ「ん?」

ハンジ「あ、いや……不意打ち食らって、つい」

リヴァイ「……美人だって言われた事ねえのか?」

ハンジ「ない訳じゃないけど。そういう意味じゃなくて。その、リヴァイに言われたのが嬉しくて」

リヴァイ「…………」

その初々しい反応にリヴァイも少し機嫌が良くなった。

リヴァイ「可愛い反応しやがって」

ハンジ「うっ……」

リヴァイ「そんなに俺に言われると嬉しいのか?」

ハンジ「う、嬉しいに決まっているでしょうが」

リヴァイ「でも、他の奴らにも言われたいんだろ?」

いつかのやりとりの再現に、今度こそハンジは答えた。

772: 2014/12/10(水) 02:43:10 ID:k3jILmUs0
ハンジ「リヴァイに言われる方が嬉しいよ。他の人の言葉は要らない」

リヴァイ「……」

ハンジ「……って、あの時も本当は言われたかったんでしょ?」

リヴァイ「そうだ。良く分かっているな(よしよし)」

リヴァイもまたハンジの頭を軽く撫でた。

ハンジ「ごめんね。あの時は素直になれなくて」

リヴァイ「お互い様だ。俺もあの時は八方美人なんて言って悪かった。本当はハンジは可愛いと思っていたのに。捻くれた受け答えになっちまって、後悔していた」

ハンジ「じゃあ今なら可愛いって言える?」

リヴァイ「ああ。言える。ハンジは可愛い女だ」

ハンジ「私が1番?」

リヴァイ「そうだ。ハンジを1番可愛く出来るのは、俺だけだ」

ハンジ「お? まるでメタモルフォーゼの歌詞のようだね」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「お前が望むのなら~華麗にメタモルフォーゼ♪」

リヴァイ「何で急に歌う……」

778: 2014/12/10(水) 02:46:24 ID:k3jILmUs0
リヴァイ「ん?」

???「みゃあみゃあみゃあ」

生物の鳴き声がした。この声は当然、ハンジの声ではない。

声がしたのは別の部屋の方だ。台所の方から聞こえる。

リヴァイ「………」

リヴァイは嫌な予感がした。スルーするべきか悩む。

ハンジ「ん? 今、猫の鳴き声がどこからか聞こえた?」

リヴァイ「気のせいだろ」

???「みゃあみゃあ! みゃあみゃあ!」

しかしその猫の鳴き声はどんどん大きくなるばかり。

ハンジ「やっぱり気のせいじゃないよ。家の何処かから猫の声がする」

リヴァイ「………(ズーン)」

猫が何処からか侵入したのか。

いや、夜中に猫が入ってくるような事はまずあり得ない。あり得るとすれば、それは恐らく。

リヴァイは仕方なく、布団から出て衣服を着なおして台所に向かった。

779: 2014/12/10(水) 02:46:50 ID:k3jILmUs0
案の定、そこには……

イザベル「しー! 声、しー!」

ファーランとイザベルが冷蔵庫の前で良からぬ事をしていたのだった。

リヴァイ「………おい、何をやっている」

イザベル(びく!)

ファーラン(びく!)

リヴァイ「そこにいる小動物は何だ? 子猫か?」

リヴァイにバレた直後、イザベルはその場で土下座した。

イザベル「兄貴! 御免なさい!」

リヴァイ「謝る前にまず状況を説明しろ」

イザベル「ええっと、実は昨日、こっそり子猫を2匹、拾っちまって」

イザベルの腕の中には可愛い子猫が2匹居た。

イザベル「えっと、今、飼い主を捜している最中で、飼い主が見つかるまでならいいかなと思って、預かっていたんだけど」

ファーラン「もし見つからない場合は保健所に連れていくつもりだったけどな」

イザベル「でも、絶対見つけるから! 飼い主が見つかるまでならいいだろ?」

780: 2014/12/10(水) 02:47:24 ID:k3jILmUs0
リヴァイ「…………駄目だ」

イザベル「でも、可哀想だろ?!」

リヴァイ「うちにはそんな余裕はねえよ」

勿論、経済的な意味でだ。

イザベル「でも……」

ハンジ「うーん。生き物を飼うのは責任も伴うからね。生半可な覚悟で飼ってはいけないよ。預かる場合も」

イザベル「うう………」

リヴァイ「反対されるのが分かっていたから隠していたんだな?」

イザベル「うん……」

リヴァイ「明日、保健所に連れていくぞ」

ファーラン「…………リヴァイ」

リヴァイ「なんだ」

ファーラン「1度でいい。子猫を抱いてみろよ」

リヴァイ「え?」

ファーラン「いいから(ひょい)」

781: 2014/12/10(水) 02:47:53 ID:k3jILmUs0
ファーランに無理やり抱かせられてリヴァイは渋々受け取った。

子猫2匹を腕に抱えると、そいつらと目が合ってしまった。

リヴァイ(うっ……)

愛らしい4つの眼がリヴァイをじーっと見つめてくる。

リヴァイ(ううっ……)

その哀願する視線の攻撃にリヴァイの理性がグラグラしていた。

そろり、と撫でてみる。案外嫌がらずに撫でられていた。

リヴァイ(ううっ……!)

本当はリヴァイも手放したくなかった。元々、動物は嫌いじゃない。

しかし経済状況を考えたら、動物なんか飼っている場合じゃ……。

ハンジ「やれやれ。ルンバの時と同じ顔しちゃって」

リヴァイ「え?」

ハンジ「素直じゃないよね。リヴァイは。もう一目惚れじゃないか」

リヴァイ「…………」

ハンジ「縁があったのかな。この子達とは。しょうがない。うちで飼おうか」

782: 2014/12/10(水) 02:48:22 ID:k3jILmUs0
リヴァイ「え……でも」

ハンジ「こう見えても私は動物が好きでね。いいよ。猫2匹くらいどうにでもなるって」

リヴァイ「しかし……」

ハンジ「大丈夫。経済的な意味でなら、私が何とかして見せるから」

リヴァイ「………」

ハンジ「その代り、イザベルもファーランもちゃんと猫の世話するんだよ?」

イザベル「いいのか? 姉ちゃん」

ハンジ「うん。生き物を飼うのは初めてじゃないし、大丈夫だよ」

イザベル「やったあああああ!」

根負けしてリヴァイは項垂れた。

ハンジ「雄雌どっちかな? おお、どっちも男の子のようだ」

ハンジはそして考えた。

ハンジ「名前は……白い方がソニー。黒い方がビーンにしよう」

リヴァイ「えらい安直な名前だな」

ハンジ「呼びやすい名前がいいよ。ねー?」

783: 2014/12/10(水) 02:48:55 ID:k3jILmUs0
ハンジにも子猫を抱かせてみた。その手つきは慣れているようだ。

ハンジ「お腹すいているのかな? だからみゃあみゃあ鳴いていたんだね」

イザベル「多分、そうだな」

ハンジ「よし、にゃんこの為にひとっ走り車出してくるか」

リヴァイ「今からか? もう夜中なのに」

ハンジ「うん。一通り必要な物をコンビニに行って揃えてくる」

リヴァイ「俺も一緒に行く」

ハンジ「分かった。じゃあ2人は御留守番、宜しくね」

イザベル「いってらっしゃい!」

ファーラン「気を付けて」

そんな訳でその日の夜は結局、子猫の騒動でそれ以上の事など出来なくて。

ハンジとの時間を邪魔されてしまった事を嘆きつつも、子猫は可愛いのでどうしようもなく。

リヴァイは朝の仕事を終えて家に戻ってからも、子猫の世話をしながら思った。

リヴァイ(愛おしい物をこれ以上、増やしてどうするんだ。俺は)

幸せを感じながらも、複雑な思いを抱えて子猫2匹を愛でてしまうのだった。

786: 2015/01/13(火) 23:24:29 ID:MCUuarUU0
3月17日。この日はシフトが休みだったのでリヴァイはまとめてにゃんこに必要な物を一通り揃えた。

ゲージや首輪。その他諸々のハウツー等、揃えてしまえばもう後戻りは出来なかった。

ソニー「みゃあ」

ビーン「みゃあ」

リヴァイ「慌てるな。ちゃんと用意する」

餌を用意するとちゃんと寄ってくる。

そのうちトイレの躾もすれば自分でするようになるらしいとインターネットの情報に書いてあった。

餌を食べさせた後はソニーとビーンは丸くなって眠った。

その様子を眺めるだけで飽きる事なく時間はあっという間に過ぎていく……。

リヴァイ「は! しまった! 眺めている場合じゃねえ!」

無駄に時間を浪費するところだった。

リヴァイは「あぶねえ」と思いつつ、午後の予定を立てる。

787: 2015/01/13(火) 23:25:11 ID:MCUuarUU0
リヴァイ(明日は風呂に入る予定の日だ)

3日に1度のサイクルで風呂に入る計画なので、前の日には念入りに風呂掃除をする。

リヴァイ(風呂……)

風呂掃除をしながらリヴァイは思った。

そうだ。ハンジと両想いになったのだから、いっそ。

リヴァイ(いや待て。今、何を考えた。俺は)

妄想が膨らみかけて慌てて排水溝にその考えを投げ捨てた。

リヴァイ(そういう事をするのは、その、アレだ。ハンジの了解が得られる時だけだ)

お付き合いをすると言う事はそういう事だ。

リヴァイ(昨日は途中で邪魔が入ってしまったが………)

昨日の続きがしたいという願望はあるにはあるが。

リヴァイ(今日はハンジは夜シフトだしな。仕事が終わった後に要求するのも……)

何分、初めての事だからこういう時の勝手が全く分からないリヴァイだった。

リヴァイ(や、ヤる時はお互いに休みの時の方がゆっくり出来るのはあるが)

そこまで考えると、大分予定が先になってしまう。

788: 2015/01/13(火) 23:26:27 ID:MCUuarUU0
リヴァイ(ルールを決めるべきだろうか? ハンジが帰って来たら話し合おう)

そう思いながら家事仕事(掃除洗濯料理等)をいつものようにこなしていたらイザベルとファーランが帰って来た。

遅れてハンジも帰宅すると、すぐさま台所に顔を出す。

ハンジ「今日の夜は何ー?」

リヴァイ「海老炒飯とレバニラ炒めだ」

ハンジ「中華鍋、使ってくれたんだ?!」

リヴァイ「あ、ああ……まあ」

ハンジ「良かった! どう?! 使い心地良かった?」

リヴァイ「最初は火加減に慣れなかったが、こっちの方が美味く出来た気がする」

ハンジ「良かったああああ! 買った甲斐があったね!」

にこおおおお!

と、大げさに笑うハンジの様子がクソかわ状態だった為、リヴァイは視線を逸らした。

ハンジ「?」

リヴァイ「あ、いや……その、なんだ。時間、いいのか?」

ハンジ「あ、そうだった! 夜シフトだからもう出るね! 後で食べます!」

789: 2015/01/13(火) 23:26:59 ID:MCUuarUU0
慌ただしく用意して夜のバイトに出かけるハンジを見送るリヴァイ。

と、そのリヴァイをこっそり眺めるイザベルとファーランはニヤニヤしていた。

ファーラン「そこで『ハンジのおかげだ。流石俺の女の見立てた中華鍋は違う』とか言ってあげたらいいのに」

リヴァイ「!? そ、そこまで言えるなら苦労はしねえ……」

イザベル「うーん。でも姉ちゃんのおかげだ。ありがとう。くらいは言ってもいいんじゃ」

リヴァイ「ああ、まあ……それは後でな」

リヴァイは2人にそう言って先に夕飯を頂くのだった。

リヴァイ「……ふむ。やっぱり味が少し違う」

イザベル「なんか、米がふわっとしてんな! うめえ!」

リヴァイ「ああ。中華鍋で作るのは焦がさない様にするのが少々難点だったが、イケる」

今後は炒飯は中華鍋で作ろう。そう心に決めたリヴァイだった。

790: 2015/01/13(火) 23:27:28 ID:MCUuarUU0
ハンジが帰宅後、リヴァイはそわそわしながらハンジを出迎えた。

リヴァイ「おかえり」

ハンジ「たっだいまー!」

ハンジ「超お腹すいたよ~ご飯貰っていい?」

リヴァイ「ああ。すぐ用意する」

子供達が眠った頃に帰って来てハンジは夜ご飯を頂く。

その隣でお茶を飲みながらリヴァイは言った。

リヴァイ「ハンジ」

ハンジ「なにー? (もぐもぐ)」

リヴァイ「その、明日の事なんだが」

ハンジ「明日?」

791: 2015/01/13(火) 23:28:05 ID:MCUuarUU0
リヴァイ「明日は、風呂に入る日だが……」

ハンジ「ああ、まあそうだね」

リヴァイ「その……明日からは、俺と一緒に入らねえか?」

しかし即座にハンジは反対した。

ハンジ「え?! お湯が勿体ないよ! 2人同時に風呂に入ったらお湯が出ちゃうよ?」

リヴァイ「あ、いや、そういう意味じゃねえ」

説明が下手な自分を呪う瞬間だった。

リヴァイは一度深呼吸して、説明し直す。

リヴァイ「その………つまりだ」

ハンジ「ふむ? (もぐもぐ)」

リヴァイ「……………俺がハンジを」

ハンジ「うん」

リヴァイ「…………」

ハンジ「うん?」

リヴァイ「大丈夫か。俺は(顔隠し)」

792: 2015/01/13(火) 23:28:53 ID:MCUuarUU0
ハンジ「何が?」

リヴァイ「俺は変態だと思われねえだろうか?」

ハンジ「変態? そういう意味なら私の方が余程変態だから大丈夫じゃない?」

リヴァイ「そうなのか?」

ハンジ「うふふふ……言い淀んでいるリヴァイがクソ可愛いwwwとか内心思ってるけど」

リヴァイ(げし!)

ハンジ「にゃあ?! さり気に足で蹴らないで」

リヴァイ「話が脱線した」

ハンジ「まあ、そうだね」

リヴァイ「つまり、明日から一緒にどうだと言いたい」

ハンジ「ん~お湯を無駄に使わない様にする意味ならつまり、背中を流し合ったりという意味でFA(ファイナルアンサー)?」

リヴァイ「? いや、背中だけじゃねえけど」

ハンジ「いやそこはそうだけど。つまりお互いを洗おうって話でしょ?」

リヴァイ(こくり)

ハンジ「もーリヴァイは回りくどいね。私がNoという訳ないでしょう?」

793: 2015/01/13(火) 23:29:32 ID:MCUuarUU0
リヴァイ「いや、でも……」

ハンジ「それとも何? 何か別の事が原因で言い淀んだ? ん?」

リヴァイ「………そうだと言ったら?」

リヴァイは夕飯を食べ終わったタイミングを見計らってそう言った。

リヴァイ「昨日の続きがしてえ。そういう意味で一緒に風呂に入りてえんだが」

ハンジ「え? この後は昨日の続きしないの?」

リヴァイ「いや、今日はハンジの方が仕事明けだし」

ハンジ「ん~でも大丈夫だよ。ちょっとくらいなら」

リヴァイ「疲れてねえのか?」

ハンジ「そんな事言いだしたら、タイミングがずっと取れなくない?」

そう言うハンジの主張をカレンダーと見合わせて考える。

そうなのだ。それを言い出すと2人が万全に重なる日は遠い。

リヴァイ「……………」

ハンジ「さてと。ご馳走様でした。今日も美味しかったよ。お茶頂戴♪」

リヴァイ「あ、ああ………」

794: 2015/01/13(火) 23:30:41 ID:MCUuarUU0
ハンジ「あーおいし♪ ご馳走様でした」

リヴァイ「………………」

ハンジ「ん? どうした? じっと見て」

リヴァイ「ハンジ」

ハンジ「なあに?」

リヴァイ「ハンジ……」

ハンジ「ふふ……何? 呼びたいだけ?」

リヴァイ「そうだ」

そう言いながらリヴァイは少しだけ距離を詰めた。

意味のない行動を取る自分に少し驚きながら、腰に手を伸ばす。

そのままハンジを軽く倒して、自らの鼻を体に埋めていった。

ハンジ「え? まだ歯も磨いてないよ?」

リヴァイ「茶飲んだからいい」

ハンジ「ふふ……ならいっか」

今夜こそは。愛し合う。愛し合える。

795: 2015/01/13(火) 23:31:23 ID:MCUuarUU0
布団は用意してないが、畳の上だから構わない。

このままもう、ハンジの体を貪ろう。

そう思った其の時………

ルルル………

またもや2人の愛の営みを妨害する事件が起きるのだった。

797: 2015/01/17(土) 20:23:39 ID:po5SgQZM0
リヴァイ「……………」

こんな時間帯に電話がかかってくるなんて。

自宅の番号を教えている人間は少ない。無視したい気持ちもあったが。

リヴァイは仕方なくため息をついてハンジから離れて電話に出る事にした。

リヴァイ「はい。どちら様ですか」

エルヴィン『俺だ。エルヴィンだが』

リヴァイ「こんな時間帯になんで電話した」

エルヴィン『すまない。緊急の用事だった。ハンジはいるか?』

リヴァイ「いるけど……」

エルヴィン『ナナバ経由で連絡がきた。ハンジの親御さんがハンジに連絡を取りたがっている。すぐに携帯を確認してくれ。折り返し連絡が必要らしい。彼女に伝えてくれ』

リヴァイ「何かあったのか?」

エルヴィン『俺も詳しくは聞いてない。ハンジの携帯、恐らく電池切れなんじゃないか?』

リヴァイ「確認させる。連絡させてすまん」

エルヴィン『いいよ。じゃあ俺は伝えたから……邪魔してごめんね』

リヴァイ「別に」

798: 2015/01/17(土) 20:25:18 ID:po5SgQZM0
何かに感づいたエルヴィンにそう言い返したリヴァイだったが、バレたような気がした。

リヴァイ(エルヴィンはそういうところが聡いよな)

そしてリヴァイはハンジに確認させた。

リヴァイ「ハンジ。携帯。電池切れてねえか?」

ハンジ「え? あ、ちょっと待って」

ハンジ「あ、本当だ。良く分かったね」

リヴァイ「エルヴィンから連絡がきた。なんかハンジの親御さんがわざわざナナバに連絡したようだぞ。経由して連絡が来たと」

ハンジ「まーじーか! ごめん……」

ハンジは心底嫌そうな顔をして携帯を充電器に繋いで急いで実家に電話した。

ハンジ「ごめーんて! たまたま充電切れていてさー……えっ」

そして瞬時に顔色が変わり、ハンジは深刻な表情で話し込んだ。

ハンジ「分かった。うん。そういう事なら仕方がないね。今度の休みは実家に戻るよ。授業はごめん。休めない。いやだって、それはしょうがないでしょうが」

何やらずっと話し込んでいる。実家で何かあったようだ。

ハンジ「それは分かっているけどさ。私にだって都合が………」

ハンジ「そんな風に言われても。急に言われてもどうしようもないよ」

799: 2015/01/17(土) 20:26:26 ID:po5SgQZM0
ハンジ「うー。まあ、そうだけどさ」

ハンジ「分かった。でもあんまり期待はしないでね」

そう言って電話を切ってため息をつくハンジだった。

リヴァイ「実家で何かあったのか?」

リヴァイが心配になってそう言うと、

ハンジ「あーお父さんがぎっくり腰をやっちゃったんだって」

と、ハンジが困った表情で答えたのだった。

ハンジ「うちは実家が農家だからさ。お父さんとお母さんとおばあちゃんの3人で農業やっているんだけど」

リヴァイ「それは……大変な事態なんじゃないか?」

ハンジ「まあ、そうだね。だから今度の休みの日に戻ってきて家の手伝いをして欲しいってさ」

リヴァイ「ふむ」

ハンジ「で、其の時に人手が欲しいって。リヴァイ、本当に申し訳ないんだけど、次の休みの時に一緒に実家に戻ってくれる?」

リヴァイ「ああ。いいぞ。勿論、手伝おう」

ハンジ「本当にごめん……」

リヴァイ「だったらその時に、ご両親にご挨拶、させて貰ってもいいか?」

800: 2015/01/17(土) 20:27:19 ID:po5SgQZM0
ハンジ(ピシッ)

しかしその瞬間、ハンジはあからさまに顔を硬直させるのだった。

リヴァイ「ハンジ?」

ハンジ「それって、つまり、その、付き合っている事をうちの両親に話すって事だよね」

リヴァイ「同棲している件も合わせて話したいんだが」

ハンジ「うっ……」

ますます青ざめて嫌がる様子のハンジにリヴァイは片眉を跳ねた。

リヴァイ「なんだ? 何か不都合があるのか?」

ハンジ「いや、そういう意味じゃないんだけど」

リヴァイ「お前、前に言ったよな」

リヴァイはハンジが言った事をはっきりと覚えていた。

リヴァイ「同居の場合は話す必要はないと言っていた。でも、お互いの気持ちが分かった以上、その日を境に俺達は『同棲』に変わったんじゃないのか?」

ハンジ「………そうだけど」

リヴァイ「それはつまり、同棲という形なら両親に話しても何も問題ねえって事じゃねえのか?」

ハンジ「うー………」

801: 2015/01/17(土) 20:28:06 ID:po5SgQZM0
ハンジの煮え切らない態度にリヴァイは少々苛立った。

リヴァイ「ハンジ。俺に何か隠している事はないか?」

妙な感じがしてリヴァイがそう問い詰めるとハンジは露骨に視線を逸らした。

ハンジ「隠していると言うか………」

リヴァイ「俺はちゃんとハンジのご両親にハンジと付き合う事になった件を話したい。反対されるかもしれんが、それでも精一杯、俺はハンジとの交際を認めて貰う努力はするぞ」

ハンジ「いや、そういう話じゃないんだ」

リヴァイ「ならどういう話なんだ」

ハンジは頭を掻いて暫く考え込んだ。どう説明するべきか迷っているようだ。

リヴァイもまた辛抱強くハンジの言葉を待った。

時計の音が響く中、重々しい口を開いたハンジは、何度も唇を湿らせた。

ハンジ「同棲の件をうちの両親に話した場合、リヴァイは人生の選択を迫られる事になると思うよ」

そしてやっと言葉を絞り出したハンジにリヴァイは怪訝な思いを抱いた。

ハンジ「そしてその選択次第では、交際を反対されるだろうね」

リヴァイ「どういう意味だ? 選択次第って」

ハンジ「うー」

802: 2015/01/17(土) 20:28:59 ID:po5SgQZM0
ハンジは正座待機してまた声を唸らせた。

ハンジ「こういう話を付き合い始めたばかりの段階で話したくないんだけど」

リヴァイ「何で」

ハンジ「重いって思われそうで怖い」

リヴァイ「…………」

其の時、まるで怯えるように目を伏せるハンジに戸惑い、リヴァイは口を閉ざした。

でもここで怯んでいては先に進めない気がして思い切って口を開いた。

リヴァイ「俺はハンジが何を言っても重いなんて思わねえよ」

ハンジ「……………」

リヴァイ「出来れば話して欲しい。何か事情があるなら猶更だ」

ハンジ「でも……」

リヴァイ「その事情によっては今の関係を隠すべきだと判断するなら、それでもいい。でも何も聞かされず、ただ黙っていろというのは俺も同意しかねる」

ハンジ「……だよね」

ハンジはそう言い切られて前髪を掻き上げた。

その色っぽくも気だるげな仕草にちょっとドキッとさせられたが、リヴァイは姿勢を正した。

803: 2015/01/17(土) 20:29:53 ID:po5SgQZM0
ハンジの口から事情を聴くまでは引かない。そう態度に表わして待つ。

ハンジ「実は私、本当は両親に医者になる道を反対されているんだ」

リヴァイ「え?」

それは意外な事実だった。てっきり賛成された上で進学したのだとばかり思っていた。

リヴァイ「そうだったのか」

ハンジ「うん。でも私が強引に説得して、条件付きで進学させて貰った。現役合格する事と単位を絶対に落とさない事。つまり留年はしないで卒業する事。それが守れないなら実家を継いで農業をやれって言われてね。多分、一度でも失敗したら強制的に家に連れ帰されて、見合いさせられて結婚してそのまま実家で一生を暮らす事になるだろうね」

リヴァイ「見合いさせられるって……」

ハンジ「うちはまだまだ田舎だしね。結構、周りが封建的な社会だ。だから両親は私がさっさとお婿さんを探して実家を継ぐのが1番いいと思っている」

リヴァイ「さっさとって……お前、まだ10代だろ」

ハンジ「うん。でもほら、実家の周りは若い人がどんどんいなくなっているし、貴重なんだよ。だから家に縛りつけたいんじゃないかな」

リヴァイ「……………」

ハンジ「ここまで言えば分かるかな。多分、リヴァイを彼氏だと紹介したら質問されるよ」

リヴァイ「婿養子になる気はあるかないか……って事か」

ハンジ「まあ実質そうだね。名字は変えなくてもいいけどさ。つまりはそういう事なんだ」

リヴァイ「……………」

804: 2015/01/17(土) 20:31:19 ID:po5SgQZM0
ハンジ「加えて言えば、リヴァイにその気がない場合はうちの両親に大反対されるだろうね」

ハンジ「ごめん。この事を言わずに先に交際を申し込んだのは私の狡いところだね」

それは確かにその通りだとも思ったリヴァイだったが。

リヴァイ「まあ、言いづらいのは理解出来る」

ハンジの立場を考えれば言い淀むのも理解出来た。

妙に自分の事を隠したがったのも。つまりはそういう事だったのかと。

リヴァイ(俺の立場を尊重して今まで言い淀んでいた訳か)

リヴァイは首を掻いた。これはどうするべきか悩む。

リヴァイ(成程。彼氏だという形で紹介してしまったら変にご両親に期待させる恐れがあるのか)

自分の進路として考えた場合、農家というのは考えた事もなかった。

だがもしも、そういう形でハンジと寄り添ったとしてだ。

リヴァイ(まあ………悪くねえか)

それはそれでいい気がした。農業はやった事はないが。

継ぎさえすればハンジとの仲を反対されないのであれば。それはそれで……。

リヴァイ(いや、待て待て。先の事を考え過ぎだ)

805: 2015/01/17(土) 20:33:17 ID:po5SgQZM0
思わず赤面して空中で手を振って頭の中のもやを掻き消したリヴァイだった。

ハンジ「うん。だから今回はまだ、ちょっと隠しておいてくれないかな」

リヴァイ「まあ……そうだな。変にご両親に期待させたら悪いしな」

ハンジ「そういう話をし始めたら大変な事になるよ。リヴァイはこの先、どうするかはっきり決まってないんだし。そういう話はちょっとね」

リヴァイ「………………」

リヴァイからみたら少々複雑な心境ではあったが、一応同意した。

リヴァイ「分かった。だったら今度の休みは……」

ハンジ「22日になるかな。その日に実家に帰るよ」

リヴァイ「その日は俺も休みだな。日曜日でもあるし、イザベルとファーランも連れていくか」

ハンジ「いいの?」

リヴァイ「人手が多い方がいいんだろ? あいつらも十分、戦力になる」

ハンジ「本当にごめん……」

リヴァイ「いい。困った時はお互い様だろ。ハンジ……」

そこでリヴァイはハンジを引き寄せて緩く正面から抱きしめた。

806: 2015/01/17(土) 20:35:11 ID:po5SgQZM0
リヴァイ「今日みたいに、判断に迷う時は一人で抱えず俺に話せ」

ハンジ「………いいの?」

リヴァイ「ああ。隠されるよりずっといい」

ハンジ「重いって思わなかった?」

リヴァイ「人にはいろんな事情があるだろ。ハンジも俺の事情を知った上で一緒に居てくれるんだから、この程度の事でどういう言う方がどうかしている」

ハンジ「そうなんだ。良かった………」

そう言ってほっとしたハンジの顔を見た瞬間、リヴァイは衝動的にムラッときた。

そのせいでその思いを止められず、ぐっと抱き寄せて今度こそ、キスをした。

ハンジ「ん……? ん………うん……」

口の中を舌で洗うような勢いで侵入してハンジの中にぐっと押し入っていく。

ハンジ(なんか、すごい、激しい……あっ……!)

キスと同時にリヴァイの手も動き出していた。

昨日とは明らかに違う熱い手つきに少し戸惑うハンジだった。

ハンジ「あっ……やっ……」

リヴァイ「すまん、痛かったか?」

807: 2015/01/17(土) 20:35:40 ID:po5SgQZM0
一度手を止めて伺うリヴァイにハンジは紅くなって答えた。

ハンジ「いや、嫌じゃないんだけど……」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「なんか、昨日のリヴァイとちょっと違う?」

リヴァイ「どう違う?」

ハンジ「こうーぐわっと来た感じかな」

リヴァイ「ぐわっと?」

ハンジ「昨日はじわじわだったのに」

リヴァイ「擬音で言われてもな」

少々首を傾げつつもリヴァイは手を止めなかった。

リヴァイ「ぐわっとくるのは嫌か?」

ハンジ「い、嫌じゃないけど」

リヴァイ「けど?」

808: 2015/01/17(土) 20:36:42 ID:po5SgQZM0
ハンジ「あれ? なんだろ。昨日よりなんか緊張する。何でだろ???」

ハンジがカーッと頬を紅潮させて緊張を誤魔化そうとするのでリヴァイはその動きを封じた。

そして気づいた。ハンジは興奮したり緊張したりするとしゃべって誤魔化そうとする癖があるようだ。

恐らく無意識だろう。昨日も最中に沢山喋ったからだ。

リヴァイ「ハンジ……」

ハンジ「な、なに?」

リヴァイ「少し黙れ」

ハンジ「うっ……うん」

静かに命令されてドキッとした。

ハンジ(あれ? あれ? なんか、今日のリヴァイ、昨日と雰囲気が)

格好いい色気を感じて心拍数が跳ねあがって来た。

元々イケメンであるのに。こんな風に空気を作られたら、もう。

ハンジ(うわあああ!? なんだコレ?! 心臓持たない)

ちゅ…………

ちゅ……ちゅう………

809: 2015/01/17(土) 20:37:15 ID:po5SgQZM0
ハンジ(顎とか頬とか、首筋とか、やばい……)

今日のリヴァイは攻めるようだ。ハンジはその流れに動揺している。

ハンジ(いや、いいんだよね。これで。うん……)

変に反応するより身を任せた方がいい筈だ。でも。

ハンジ(ああ、でも、うっ………)

服の上に滑る指。まだ脱がす気はないようだ。

丹念に、ハンジの反応を楽しむようにリヴァイは無言で指を動かしている。

ハンジ「あっ……」

小さな胸を深く揉んでくる。昨日と違うその力強い手つきで。

ハンジ(あれ? あれ?)

ハンジは快楽を覚えながらも戸惑っていた。

昨日とは別人のような手つきに、目の前のリヴァイは本当にリヴァイなのかと思った。

ハンジ(いや、何考えているんだ。私は)

同じリヴァイだ。でも、何だか今日は様子が違うような。

そんな直感を覚えて、それ以上の愛撫を怖がる自分が居た。

810: 2015/01/17(土) 20:37:50 ID:po5SgQZM0
ハンジ「ま、待って!!」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「あの、ごめん……その」

リヴァイ「……………」

ハンジ「ええっと、つまり、その、えっと」

リヴァイ「悪い。今日はここまでにしておくか」

ハンジの言いたい事をくみ取ってリヴァイが先に言った。

ハンジ「いいの?」

リヴァイ「まあ、俺も朝から仕事あるからそう長くイチャイチャは出来ねえよ」

ハンジ「……………」

リヴァイ「ちゃんとしたやつは、もっと時間に余裕がある時にするか」

ハンジ「そ、そうだね」

そして2人はその日は互いの部屋に戻ってリヴァイは布団に潜った。

ハンジの方は心拍数が激しくなり過ぎてとても眠れなかったけど。

ハンジ(な、なんで……?)

811: 2015/01/17(土) 20:46:55 ID:po5SgQZM0
昨日と今日で何が違ったんだろう?

自分でも自分に疑問を持ちつつ、ハンジはその日、考えが纏まらないまま夜中を過ごした。

そしてハンジがようやく浅い眠りにつこうとしていた時間にリヴァイが起き上あがる。

いつものように朝の仕事の為に準備して、朝のキスをして、家を出る。

その習慣を行った直後、リヴァイはぽつりと呟いたのだった。

リヴァイ「………今度は俺の番だな。覚悟しておけ、ハンジ」

その薄い唇は何やら悪い事を企む悪党のように蠱惑的な笑みを浮かべていたのだった。

812: 2015/01/17(土) 20:48:19 ID:po5SgQZM0
今回はここまで。そろそろレスがやばいかな。
キリが悪い場合は次スレ立てて続けます。ではまたノシ

次回:【進撃の巨人】エルヴィン「こちら明進堂書店調査店でございます」【完結】

引用: エルヴィン「こちら明進堂書店調査店でございます」