813: 2015/01/19(月) 01:13:12 ID:TwGlIRvs0

前回:【進撃の巨人】エルヴィン「こちら明進堂書店調査店でございます」【その3】


3月18日のリヴァイのシフトは昼出だった。そしてエルヴィンのシフトも幸い、昼までだった。

リヴァイは仕事が終わってからすぐさまエルヴィンに声をかけた。

リヴァイ「エルヴィン店長、今日はこの後、時間あるか?」

エルヴィン「ふむ?」

仕事が終わってからのんびりお茶を飲んでいたエルヴィンは首を傾けた。

リヴァイ「その………出来れば少し時間をくれないか?」

エルヴィン「なに? 飲みに行きたいのか?」

リヴァイ「いや、そういう話じゃない。エルヴィンに相談したい事がある」

エルヴィン「何だか真面目な話のようだね」

リヴァイ「ああ。急な話で申し訳ねえんだが、もし良ければエルヴィンの自宅で」

エルヴィン「え? うちに来たいの?」

リヴァイ「駄目ならその辺のファーストフード店とかでもいい」

これは余程の内密な話のような気がした。

814: 2015/01/19(月) 01:15:08 ID:TwGlIRvs0
エルヴィン「まあ、いいよ。うちに来たいなら。部屋は全然片付いてないけど」

リヴァイ「………ファーストフード店の方がいいならそっちにする」

エルヴィン「そう? なら今日はサービス残業を無しにするかい?」

リヴァイ「すまん」

エルヴィン「いいよ。元々善意のものだ。緊急性の高い物を優先しよう」

そしてエルヴィンとリヴァイは先にあがる。

リヴァイは帰り際に夜シフトのレジに居たハンジに伝言した。

リヴァイ「すまん。少しエルヴィンと出かけてくる」

ハンジ「あれ? そうなの?」

リヴァイ「ハンジの夜シフトが終わる前には戻る」

ハンジ「はいはーい。いってらっしゃい」

エルヴィン「ごめんね。リヴァイを少し借りるよ」

エルヴィンはそう言って手を振って店を出た。

2人は歩いて移動する。エルヴィンはついつい笑ってしまった。

エルヴィン「どこにする? リヴァイとお茶するのは初めてだから少し豪勢にロイヤルホストにでもいくか?」

815: 2015/01/19(月) 01:20:59 ID:TwGlIRvs0
リヴァイ「……………出来れば余り周りに話を聞かれない場所がいいんだが」

エルヴィン「これは余程の事態だな。分かった。ならカラオケ店の方がいいかもしれない」

機密性を優先するのであればカラオケ店の方がいい。

エルヴィンは近所のカラオケ店を選んでそこに2人で入店する事にした。

ドリンクバーでとりあえず紅茶とウーロン茶を持ち込んで2人は向かい合ってソファに座った。

エルヴィン「で? 相談ごというのは何だ?」

リヴァイ「………その前に、報告しておきたい事がある」

エルヴィン「ん?」

リヴァイ「ハンジと、付き合う事になった」

エルヴィン「おお。それはおめでとう」

なんとなく、空気で察していたエルヴィンだったがそこで大げさに驚いて見せた。

エルヴィン「つまり次のステップに進む際に必要な情報が欲しいのかな? ふむ。アダルトグッズの専門店でも知りたい……」

リヴァイ「待て。そういう話じゃねえよ」

リヴァイは少しだけ赤面しながら話を一度止めた。

エルヴィン「え? 違うのか。だったらなんだ?」

816: 2015/01/19(月) 01:30:54 ID:TwGlIRvs0
てっきりそういう下世話な話かと思っていたエルヴィンだったが、リヴァイはすぐ真剣に切り出した。

リヴァイ「22日の休みの時にハンジのご両親の家に行く事になった。ハンジのお父さんがぎっくり腰をやっちまったらしい。実家は農家だから人手が必要だと言われたからな。手伝いに行ってくるつもりだ」

エルヴィン「ほう………成程」

つまり緊急連絡がきたのはそのせいだったのか。と合点がいったエルヴィンだった。

エルヴィン「付き合い始めていきなり彼女の実家に訪問か。気が重いのか?」

リヴァイ「いや、全然。むしろやる気満々だ」

エルヴィン「え?」

やる気満々?

リヴァイ「エルヴィン。頼む」

そこでリヴァイは深々と頭を下げた。

エルヴィン「?」

何を……とエルヴィンがいう前にリヴァイは言った。

リヴァイ「ご両親に嫌われない為にはどうすればいいか、そういうノウハウ本のような物を持っていたら貸してくれないか」

エルヴィンは掴んでいたウーロン茶を床に危うく零すところだった。

エルヴィン「え? あ、えーっと」

817: 2015/01/19(月) 01:39:27 ID:TwGlIRvs0
エルヴィンは頭をフル回転させた。その上で結論付けた。つまりはそういう事か。

エルヴィン「あーつまり、ビジネス書関連の、そういう感じの、処世術的な感じの本が読みたいのか?」

リヴァイ「そうだ。俺は過去にいろんな奴……いや、いろんな人、特に年上の人間と衝突を繰り返してきた」

エルヴィン「……………」

リヴァイ「だから失礼のないようにしたい。今回の訪問は絶対失敗出来ねえから、前もって勉強して……」

エルヴィンは笑ってはいけないと思いつつも限界だった。

ウーロン茶をテーブルに置いてから顔を伏せて噴き出して笑ってしまった。

するとリヴァイに「エルヴィン、笑っている場合じゃねえ!」と怒られてしまった。

エルヴィン「あ、いや、分かっている。分かっているんだが、ついつい」

リヴァイ(ジ口リ)

エルヴィン「睨まないでくれ。ますます可笑しいから」

リヴァイ「俺は真剣なんだが」

エルヴィン「うん。だろうね。顔に書いてある。分かっている。そうか……そうか」

感慨深い思いを抱きながらエルヴィンは答えた。

エルヴィン「それだけ真剣なんだね」

818: 2015/01/19(月) 01:50:25 ID:TwGlIRvs0
リヴァイ「ああ。今度は俺の番だ」

エルヴィン「ん?」

リヴァイ「あいつは、俺の懐に巧妙に入って来やがった。だから今度は俺がやり返す」

エルヴィン「…………」

リヴァイ「今まで、誰にどう思われようが別にどうでもいいと思っていたんだが」

エルヴィン「………そうなのか」

リヴァイ「ああ。誰かに好かれたいって思うのは初めての経験なんだよ」

リヴァイはそう言って唇を紅茶で湿らせた。

リヴァイ「こんな事は初めてだからどうしたらいいか分からねえ」

エルヴィン「だから本を頼ろうと思ったのか」

リヴァイ「いや、本というよりエルヴィンの選んだ本、だな」

エルヴィン「まあそういう意味でご指名頂けるのは有難い話だけどさ」

エルヴィンは苦笑を浮かべずには居られなかった。

エルヴィン「ちょっと流石にそれは荷が重すぎるかな。俺には」

リヴァイ「………………」

819: 2015/01/19(月) 02:27:09 ID:TwGlIRvs0
エルヴィンにそう言われた瞬間、リヴァイはショックを隠せなかった。

リヴァイ(馴れ馴れしい奴だと思われたんだろうか?)

冷静になって考えて、リヴァイは気づいた。

こんな相談をする事自体、厚かましいと。

リヴァイ「す、すまん……少し甘え過ぎたな」

リヴァイは反省した。距離を踏み込み過ぎたと。すぐに姿勢を正して訂正する。

リヴァイ「悪かった。その……重い話をしてすまん」

エルヴィン「いやいや、そういう意味じゃないよ。勘違いしないでくれ」

エルヴィンはなんと伝えるべきか慎重に考えた。

エルヴィン「これがもし、ぎっくり腰のお見舞いに持って行く暇つぶしの本を選んで欲しいって話なら喜んでお勧めを教えるところなんだけど」

そう前置きしてからエルヴィンはリヴァイの両目を見つめながら答えてあげた。

多分、これはリヴァイにとってはとても大事な話になるだろうという予感を覚えながら。

エルヴィン「リヴァイは今、とても大事な人生の岐路に立たされていると思う。そんな時に他人の情報を頭の中に入れ過ぎたら、何を選べばいいか分からなくなると思うんだ」

リヴァイ「…………………」

エルヴィン「勿論、他人の意見を聞くのも大事だけど。そういう本を読むタイミングとしては最も良くない時期だと個人的には思う」

820: 2015/01/19(月) 02:39:10 ID:TwGlIRvs0
リヴァイ「もっともよくない……」

エルヴィン「うん。今、珍しくリヴァイは精神的に不安定になっているね?」

リヴァイ「……………」

エルヴィン「自覚があるかないか微妙なラインだけど。普段のリヴァイならそもそも、こんな風に俺を急に誘ったりしない」

リヴァイ「………そうだな」

指摘されて頷いた。今の自分はどこか浮かれ過ぎている。

ハンジとそういう仲になれたおかげで、気が付くと、ふわふわしている。

仕事に集中しないといけないと思いつつも、頭の隅にはハンジの姿が浮かんでしまう。

付き合う事になる以前はブレーキが効いたそれも今は……。

エルヴィン「今はハンジをどう責めようか脳内でみっちり計画を立てているところだろうけど」

リヴァイ(ぶはっ)

いきなり図星を差されて動揺するリヴァイだった。

エルヴィン「恋愛の初期は本当、アホみたいに浮かれるし、周りがバラ色に見えるかもしれないけど。そういう時期こそ、特に気をつけないと危ないんだよ」

リヴァイ「………………」

エルヴィンの言い分はその通りかもしれないと思った。

822: 2015/01/19(月) 17:47:45 ID:TwGlIRvs0
リヴァイ「確かに言われてみればその通りだな」

エルヴィン「まあ俺も経験あるからね。そして失敗して玉砕した」

リヴァイ「え?」

エルヴィン「世間一般に出回っている本やネットの情報を鵜呑みにしたらいけないって話だよ」

しみじみと思い出しながら苦笑するエルヴィンだった。

エルヴィン「そもそも俺はハンジのご両親にお会いした事すらないからね。どんな方なのか全く情報がないし、そんな状態で本を参考にして攻略しようと考える方が間違っていると思わないか?」

リヴァイ「……それもそうか」

エルヴィン「だろう? 俺の個人的な意見を言わせて貰うなら、そういう時はあえて本を頼らない方がいい」

リヴァイ「成程」

エルヴィン「本は基本的に暇つぶしに読む娯楽だよ。それ以上の物を求めてはいけない。と、俺自身は思っている」

リヴァイ「それがエルヴィンの価値観ってやつか」

エルヴィン「そういう事だ。子供や学生の間は教科書として利用するのは仕方がないとしてもだ。大人になってからはもっと大事な使い道に気づいたからね」

リヴァイ「ん?」

エルヴィン「つまりこうやって直に人と話す事だ。他人と話すネタの一部として使われる意味で一番有効だと思わないか?」

リヴァイ「……確かに、それはある」

823: 2015/01/19(月) 17:48:55 ID:TwGlIRvs0
エルヴィンとの会話のおかげで徐々に頭の中が綺麗になっていた。

焦り過ぎたようだ。それに気づいてふと小さな笑みを浮かべた。

リヴァイの気持ちが落ち着いたようなのでエルヴィンも話を続ける。

エルヴィン「うん。だから今回の訪問の際に、まずはハンジのご両親とゆっくり話してくるといいよ」

リヴァイ「………………それが一番難しいんじゃねえのか?」

エルヴィン「まあそりゃそうだけど」

リヴァイ「うーん」

エルヴィン「緊張し過ぎるのが一番良くないと思うぞ。気持ちを楽にしてお会いした方が」

リヴァイ「どんどんハードルが上がっているような……」

エルヴィンに被せる様についそう言ってしまうリヴァイだった。

エルヴィン「それもそうか。悪い。他人事だからついつい」

リヴァイ(ムスッ)

エルヴィン「ふふっ。何だか面白い事になって来たね」

リヴァイ「ちっ……独身は気楽でいいな」

エルヴィン「まあね。でもその分寂しいのは否めない」

824: 2015/01/19(月) 17:57:00 ID:TwGlIRvs0
ふと視線を落としてエルヴィンは言った。

エルヴィン「俺から見たらリヴァイは羨ましい限りだよ。若いっていいなあ」

リヴァイ「そうか?」

エルヴィン「まさにリア充爆発しろって奴だ。ま、これからいろいろあるだろうけど」

リヴァイ「………………」

エルヴィン「あ、一応釘を刺しておくけど、ハンジがうちでバイトを続ける間は孕ませたりするなよ」

リヴァイ「しねえよ!!」

エルヴィン「でき婚はあんまり両親の印象良くないからね。そこも一応言っておくけど」

リヴァイ「そこは流石に分かっている……」

エルヴィンの突っつきに真顔で即答するリヴァイにエルヴィンは少し驚いた。

エルヴィン(おやおや。これは意外とハンジより、むしろリヴァイの方が)

本気度で言えば高い気がする。そう分析するエルヴィンだった。

エルヴィン(この感じだと、もしかしたら初めての………)

本気の恋愛なのかもしれない。そう思ってしまうと笑みが零れてしまう。

リヴァイ「おい……あんまり気色悪い笑みを浮かべるな」

825: 2015/01/19(月) 18:05:14 ID:TwGlIRvs0
エルヴィン「え? ああ……ごめんごめん」

微笑ましいリヴァイの反応についついニヤニヤしてしまうエルヴィンだった。

エルヴィン「しかしリヴァイとこういう話をするようになるとはね」

リヴァイ「ん?」

エルヴィン「リヴァイは結構、自分で何でも決めて我が道を行くタイプかと思っていたけど、案外そうでもないのかな」

リヴァイ「………いや、基本的にはそうだが」

リヴァイはつい頬を掻いた。

リヴァイ「ただ自分で決めて進めると失敗する事も多いからな。今回は特にその………」

エルヴィン「失敗したくないから相談したくなったのか」

リヴァイ「そ、そういう事だろうな」

視線を逸らして照れている様が本当に微笑ましかった。

リヴァイ「だからその笑顔は気色悪いって言ってるだろうが!」

エルヴィン「ふふっ……ごめんごめん」

リヴァイ「謝っている癖に改める気ねえな?」

エルヴィン「そうとも言う」

826: 2015/01/19(月) 18:27:08 ID:TwGlIRvs0
リヴァイ「ちっ……」

舌打ちして不機嫌な表情になるリヴァイだったがエルヴィンはマイペースだった。

リヴァイ「もう話は済んだから帰る」

エルヴィン「ん? もういいのか?」

リヴァイ「ああ。今日は長居するつもりないしな」

エルヴィン「ふふっ……まあ、詳しい馴れ初めはまた今度聞き出すとするか」

リヴァイ「ああ、まあ……」

話してやってもいいけど……と言いかけて慌てて口を閉じた。

リヴァイ(人に惚気ている場合じゃねえ)

おかしい。やっぱり今の自分は浮かれ過ぎている。

そう改めて思い直して、心の中で「自重」の呪文を唱えるリヴァイだった。

827: 2015/01/19(月) 19:29:33 ID:TwGlIRvs0
夜シフトが終わった直後、ハンジは大きなため息をついた。

ナナバ「あれ? どうしたの。大きなため息をついて」

ミケ「エルヴィンにリヴァイを取られて不満か?」

ハンジ「そういう話じゃないよ!! というか、別に取られてないよ?!」

ミケ「さっき、夜のお茶をしにいったようだが」

一時間程度でまた戻ってきて、その後は帰宅したようだったが。

それでもリヴァイがプライベートをそうやって誰かと過ごしたというのは大きな進歩だ。

と、個人的にミケは思っている。

ハンジ「……それを言ったら私もナナバとそういう事する時もあるし」

ナナバ「今夜は帰さないよ。ふふ……」

ナナバが調子に乗って宝塚風にハンジに言うと、

ハンジ「にゃああ!? 今夜は駄目! 今夜は家に帰らないと…!」

思いのほかハンジが抵抗したので「おや?」と思ったナナバだった。

828: 2015/01/19(月) 19:31:42 ID:TwGlIRvs0
ナナバ「今日、何かあるの?」

ハンジ(ギクリ)

ナナバ「さっきのため息はそれに関係するんだね? ん?」

ハンジ「あああああ!」

ミケ「ハンジは隠し事が苦手だな……」

ナナバ「顔で丸分かりだもんね」

ハンジ「ううう………まあ、そうなんだけど」

ハンジは両手の指先を突きながらぼそっと言った。

ハンジ「2人に話したらリヴァイに怒られるから詳しくは言えない」

ミケ「ああ、そういう事か。分かった分かった」

ナナバ「言わなくていいから。大丈夫大丈夫」

2人揃って空気を察したのだった。

ハンジ「ううう……でも実は悩んでいるのも事実なのよ」

ナナバ「何を悩む必要が」

829: 2015/01/19(月) 19:35:26 ID:TwGlIRvs0
ハンジ「だってええええ」

今夜はリヴァイとお風呂の予定だ。しかし。

ハンジ(何か、こういうのってどうしたらいいのか)

嫌じゃない。決して嫌じゃないのに。

ハンジ(最初の時のような普通のリヴァイなら大丈夫なのに)

昨日のように雰囲気が違うリヴァイだと、何故か体が強張る。

ハンジ(一体、何が違うんだろ……)

ナナバ「なんか、また余計な事を考えてぐるぐるしているみたいだね」

ミケ「ふむ。リヴァイに拒否られでもしたのか?」

ハンジ「違う……拒否したのは私の方」

ナナバ「はあ?!」

しまった! と思った時は遅かった。

ナナバ「どういう事? 押していたのはハンジの方じゃなかったの?」

ハンジ「あうううう……つまり、ええっと」

ミケ「誘ったけれど、いざとなって怖気づいて逃げたのか?」

830: 2015/01/19(月) 19:42:28 ID:TwGlIRvs0
ハンジ「まあ、たぶん、そういう事なんだけど」

バレてしまった。ハンジはしょぼーんとしながら顔色を窺った。

ミケは顔を覆って夜空を見上げてナナバはぽかーんと大口を空けている。

ミケ「南無……」

その後、ミケは思わずリヴァイに向かって合掌してしまった。

ナナバ「それは流石にちょっと……女の私から見てもアレとしか」

ハンジ「はい! 分かってます! 私が悪いって事は!」

ナナバ「ええっと、ちゃんと告白したんだよね?」

ハンジ「そこはちゃんとしましたよ。OKも貰ったし、付き合う事になりました」

ナナバ「なのにいざそういう事をしようとして、拒否するって………」

ハンジ「悪い女ですかね?」

ナナバ「私がもし男だったら『ふざけてんのか?』ってキレるかも」

ハンジ「だよねえ………」

ミケ「で、其の時リヴァイはどうしたんだ?」

ハンジ「いや、ちゃんと止めてくれたよ」

831: 2015/01/19(月) 20:07:14 ID:TwGlIRvs0
ミケ「ほぅ………」

だったらそれは割と本気だなとミケは思った。

ハンジ「その、なんだろ………なんか違うんだよ!」

ナナバ「違う?」

ハンジ「リヴァイって、そういう空気になる時に顔が2つあって」

ミケ「ん? 顔が2つ?」

ハンジ「だからその、普通のリヴァイの時なら問題ないんだけど、表情が違う時のリヴァイが、その……」

ハンジ「あああごめん! 言葉じゃ上手く説明出来ない! これ以上は無理!!」

ハンジは顔を隠して嫌々するので大体察したミケだった。

ミケ(やれやれ………)

ナナバ「一体、何やってんだか」

ナナバもミケ同様に呆れ返っている。

ハンジ「だって、自分でも良く分からないんだよ……」

ナナバ「何が分からないの? ハンジはリヴァイの事、好きじゃなかったの?」

ハンジ「好きだよ!! でも、体が勝手に強張ってしまって……」

832: 2015/01/19(月) 20:09:48 ID:TwGlIRvs0
ナナバ「いやでも、そこは避けて通れない道でしょうが。少女漫画じゃあるまいし」

ハンジ「それはそうだけど」

ナナバ「あー今夜、家に帰るのが億劫なの? どうなの? うちに来たいの?」

ハンジ「出来るんだったらそうしたいけど、ナナバの家にお邪魔してもいいの?」

ナナバ「別にいいけど。この間、彼氏と別れたし」

ミケ「え?」

ハンジ「え?」

驚きの事実をさらりと言われて2人は同じように声を漏らした。

ナナバ「あーごめん。言ってなかったね。ちょっと遅刻したあの日だよ」

ナナバは思い出していた。リヴァイにエプロンの歪みを指摘された日だ。

あの日は彼氏とゴタゴタがあって、別れ話を済ませた直後だったのだ。

ハンジ「そ、そうだったんだ。ごめん……」

ナナバ「いいよ。別れた話なんて聞きたくないでしょ。こっちこそごめん」

ミケ「いや、そんな事は無いぞ。それを知れて良かった」

ナナバ「え?」

833: 2015/01/19(月) 20:16:06 ID:TwGlIRvs0
ミケ「ハンジ、すまん。この後のナナバの時間は俺が貰ってもいいか?」

ハンジ「へ?」

ミケ「話したい事がある。出来れば2人きりで」

ナナバ「え? でも、ハンジが」

ハンジ「あーええっと、どうぞどうぞ! お2人でごゆっくり!」

なんとなくミケの視線で大体の事情を察したハンジはすぐさまOKを出した。

そして駐車場の自分の車に乗り込んで「お先にー」と言って逃げ出した。

ミケとナナバを駐車場に放置して先にハンジは自宅へ向かった。

運転しながら思った。問題は何も解決していない事に気づいた。

ハンジ(今夜、大丈夫かなあ?)

リヴァイと一緒にお風呂に入っても大丈夫なのか。

一抹の不安を抱えながら、車を走らせるハンジだった。

837: 2015/02/23(月) 18:07:12 ID:o.xfcLOc0
リヴァイ「おかえり」

ハンジ「た、ただいま」

リヴァイ「どうした?」

ハンジ「え?」

リヴァイ「なんか、いつもより声が枯れている気がする」

ハンジ「え? そう?」

リヴァイ「手洗いうがいを済ませたら俺の部屋にすぐ来い」

そして体温計を持ち出してハンジの熱を測る。

リヴァイ「……………熱は36.8度か。これは高い方なのか?」

ハンジ「まあ、いつもは36.3度くらいだから。平熱の範囲内かな」

リヴァイ「風邪の引き始めか? 喉は痛くねえか?」

838: 2015/02/23(月) 18:08:10 ID:o.xfcLOc0
ハンジ「あ、そういうのは別にないよ。大丈夫」

リヴァイ「普段、不規則な生活しているから疲れているんじゃねえのか?」

ハンジ「そんな感じはしないけどなあ」

ハンジが首を傾げて素直にそう言うが、リヴァイは不安に駆られて言った。

リヴァイ「風呂は………今日はやめておくか?」

ハンジ「え? いいの?」

嫌な予感が当たった。リヴァイはすぐに眉間の皺を増やして言った。

リヴァイ「…………………………何でちょっと嬉しそうな顔をする?」

ハンジ(ギクリ)

リヴァイ「おい、なんで今、視線を逸らした?」

ハンジ「あの、ええっと………」

リヴァイ(じと目)

ハンジ「つまり、その………」

リヴァイ「昨日と態度が全然違う気がする」

ハンジ「うっ……」

839: 2015/02/23(月) 18:08:53 ID:o.xfcLOc0
リヴァイ「何か隠していやがるな?」

ハンジ「う!」

リヴァイ「それが一緒に風呂に入る事と関係してやがるな?」

ハンジ「何故バレたし」

リヴァイ「お前が表情が豊かなせいだろ」

リヴァイ「まあ、そのおかげで大体察する事が出来る訳だが」

ハンジ「うう………」

リヴァイ「それは昨日、途中で止めさせた事と関係あるか?」

ハンジ「………………」

リヴァイ「あるんだな?」

ハンジ「はい」

ハンジは素直に降参した。もやもやする胸の内を話すしかないと判断した。

お互いに畳の上であぐらをかいて距離を置いて話し合う事にする。

そして少し間をあけてハンジは小出しに自分の気持ちを話し出した。

ハンジ「あの、リヴァイとエOチな事をするのはいいんだけど」

840: 2015/02/23(月) 18:09:30 ID:o.xfcLOc0
リヴァイ「ふむ」

ハンジ「その、なんだろ。初日の時のような雰囲気だったら何も問題ないんだけど」

リヴァイ「初日……ああ、気持ちを確認し合った直後の話だな」

ハンジ「そう。でも、昨日のような雰囲気のリヴァイは、まだちょっと、駄目みたいだ」

リヴァイ「昨日……」

昨日の事を思い出す。心当たりはなくはない。

リヴァイ「……………」

そっぽを向いて首を掻く。結論はつまり。

リヴァイ「成程。激しいのは好みではない、と」

ハンジ「ぎゃあああ?! いや、そうじゃないんだけど!?」

赤くなって必氏に否定するハンジだったが、

リヴァイ「違わねえだろ。強く胸を揉み過ぎたせいで痛かったんじゃねえのか?」

ハンジ「だから! 多分、違うんだってば!」

リヴァイ「どう違うんだ?」

ハンジ「その……なんだろ。空気が全然、違ったから」

841: 2015/02/23(月) 18:11:10 ID:o.xfcLOc0
リヴァイ「………………」

ハンジ「どう言ったらニュアンスが伝わるのかな? 自分でもうまく説明出来ないんだけど」

リヴァイ「ふむ。まあ、言いたい事はなんとなく分かった」

ハンジ「分かってくれたの?」

リヴァイ「ああ。初日と昨日の明確な違いは俺自身、良く分かっている」

ハンジ「そうなの?」

リヴァイ(まあ、その辺のスイッチは自分で調節するしかねえな(ふー))

心中、そう呟いて息を長くついてリヴァイは立ち上がった。

リヴァイ「風呂はどうする? 入れるか?」

ハンジ「あ、うん。普通に入るのであれば」

リヴァイ「……了解した」

リヴァイは内心、ちょっとだけ残念に思いながらもそれを了承したのだった。

842: 2015/02/23(月) 18:49:27 ID:o.xfcLOc0
服を脱いで風呂場に入る。

無駄毛の処理を先にしたいからと言ってハンジが先に入った。

その間、リヴァイは脱衣所で待機だ。

リヴァイ(乳の毛を引っ張った事をまだ気にしてやがるのか?)

だとしたら悪い事をしたなと思ったリヴァイだった。

リヴァイ(………遅いな)

思ったより時間がかかっている。気になってつい、リヴァイは風呂場に直接声をかけた。

リヴァイ「遅い……まだかかるのか? (ぬっ)」

ハンジ「うわああああ! まだ開けちゃ駄目だよ!」

スライドドアを開けたら、丁度、腋毛の処理の最中だった。

843: 2015/02/23(月) 18:50:21 ID:o.xfcLOc0
リヴァイ「……すまん」

亀のように首を引っ込めて反省する。

しかしあの慌てようはちょっと可愛かった。

リヴァイ(いかん……)

もういっそ、こっちで処理をしてやろうか。

なんて事まで考えそうになって我ながら変態過ぎると自重した。

リヴァイ(浮かれ過ぎだろ……本当に)

でも待たされている時間も悪くない。

ハンジの合図を今か今かと待つ時間が楽しく感じる。

ハンジ「終わったよー」

そしてようやくお声がかかった。直後、服を急いで脱ぎ捨てドアをスライドさせる。

ハンジ「ぎゃっふん!」

その直後、風呂場の小さな椅子に座っていたハンジが奇声をあげた。

リヴァイ「?」

ハンジ「あ、いや、何でもないよ! うん」

844: 2015/02/23(月) 18:51:19 ID:o.xfcLOc0
リヴァイ「なんで視線を逸らす?」

ハンジ「いやーだって、その、ねえ?」

リヴァイ「ああ……もしかして、これか?」

準備万端の状態のそれをチラリと見て言うと、またハンジが奇声をあげた。

ハンジ「どっせい!!」

リヴァイ「なんだその奇声は」

ハンジ「今の感情を表現してみました」

リヴァイ「訳が分からん」

ハンジ「わ、分からなくていいよ。そんなに待った?」

リヴァイ「少々待ちくたびれたな」

リヴァイ「という訳で早速(モコモコ)」

タオルに石鹸を擦りつけて泡立て、体を洗う準備をすぐさま整えたリヴァイだった。

ハンジ「え? あ? う? ちょっと待って。リヴァイが先に私を洗うの?」

リヴァイ「ああ? そのつもりだったが」

ハンジ「いや、悪いよ。私が先に………」

845: 2015/02/23(月) 19:09:13 ID:o.xfcLOc0
リヴァイ「いいから、俺の好きにさせろ」

そう強く我儘を言うとハンジがまたびくっと怯えたように体を強張らせた。

その反応に少し戸惑って、リヴァイは一度考えを止める。

リヴァイ「………まあ、どっちが先に洗っても大して変わらんか」

ハンジ「じゃあ、私が先でもいいよね?」

リヴァイ「そうだな。任せる」

場所を交替して背中を任せる。人に洗って貰う事に慣れないから縮こまる。

リヴァイ(あークソ……)

ある意味生頃しだった。好きな女に体を洗って貰えるのに。

リヴァイ(ハンジはまだ、俺の全てを知っている訳じゃねえ)

勢い余って愛そうとしたら怖がられたのはそのせいもあるだろう。

リヴァイ(そもそもハンジは俺の何処を好いてくれているのか………)

その辺の事もはっきりと確かめた訳ではない。

いい機会だからこの際、はっきりさせておきたいと思った。

846: 2015/02/23(月) 19:13:47 ID:o.xfcLOc0
リヴァイ「ハンジ、少しいいか?」

ハンジ「なにー? (ごしごし)」

リヴァイ「お前、俺の何が好きなんだ?」

ハンジ「え? ナニが好き? いやだなあ! いきなり下ネタ?!」

リヴァイ「は?」

ハンジ「あ、いや、御免なさい。そういう意味じゃないか(げふげふん)」

リヴァイ「お前、やっぱり今日は何処か調子悪いのか?」

ハンジ「そんな事ないよ! 元気元気! (ごしごしごし!)」

リヴァイ「そんなに強く擦るんじゃねえよ」

ハンジ「はいはい! 優しくですね! (モコモコ)」

リヴァイ「……………話、誤魔化したな?」

ハンジ「え? なんの事?」

リヴァイ「もう一度、聞くぞ。お前、俺の何処が好きなんだ?」

改めて真剣に聞き直すと、ハンジは手をゆっくり動かしながら答えた。

847: 2015/02/23(月) 19:40:16 ID:o.xfcLOc0
ハンジ「んー……どうしても知りたいの?」

リヴァイ「当たり前だろうが」

ハンジ「思い出すの、恥ずかしいんだけどなあ」

リヴァイ「恥ずかしい?」

ハンジ「うん。結構、恥ずかしい思い出だよ」

リヴァイ「……………」

ハンジ「まあ、どうしても知りたいって言うなら話してもいいけど」

リヴァイ「………………………………」

2回も念押しされて今度はリヴァイも考えた。

リヴァイ「すまねえが、その思い出とやらにとんと見当がつかねえ」

ハンジ「だろうね。だってもう去年の話になるし」

リヴァイ「去年……」

ハンジ「去年の9月。まだリヴァイが本屋に勤務する前のことだよ」

そしてハンジはリヴァイの背中に自分の頬を重ねてひっつけた。

その自然な仕草にドキッとさせられながらリヴァイは話を聞く。

848: 2015/02/23(月) 20:32:28 ID:o.xfcLOc0
ハンジ「9月の中旬頃だったかな。台風が来たでしょ? 何度か」

リヴァイ「まあ、去年は割と台風が多かった年だったな」

ハンジ「そう。その時期に私、うっかり洗濯物を出しっぱなしにして大学の特別講義授業に出ちゃってさ」

リヴァイ「ふむ」

ハンジ「その講義、凄く大事な講義だったから落とせなかったし、大学側も台風の様子を見ながら授業をしていたんだよ。被害が酷いようだったら、途中で授業を打ち切って休校にするって話で、結局その時は途中で休校になって」

リヴァイ「ほぅ……」

ハンジ「家に帰ってから、洗濯物を干しっぱなしだったのを思い出して、その……干していた物が飛んでいた事に気づいて」

リヴァイ「………思い出した」

そこでリヴァイはようやく思い出した。

リヴァイ「次の日、何故かうちのベランダにハンジの下着やら衣類が落ちていたな」

ハンジ「多分、台風の風のせいだったと思うけど。その後が問題だった」

リヴァイ「何故だ? きちんと洗って干してハンジに返してやっただろうが」

リヴァイはハンジの衣服を全部洗い直して、台風が去った後に干しなおしてアイロンをかけてハンジに返却したのだ。

ハンジ「あの時、全部、本当にリヴァイが洗ってくれたんだよね?」

リヴァイ「当然だろ。家事仕事は俺の仕事だ」

849: 2015/02/23(月) 20:41:30 ID:o.xfcLOc0
ハンジ「………あの中にパンツもあったよね?」

リヴァイ「ああ。あったな」

ハンジ「あの、一応、私も女ですので、パンツを独身男性に洗われて返却されるなんて相当恥ずかしかったんですよ?」

リヴァイ「そうだったのか? あの時は『ありがとう!』ってケロッと受け取っていたじゃねえか」

ハンジ「当時の私は必氏に平静を保つだけで精一杯だったよ!!!」

リヴァイの背中にごりごり額を押し付けて今頃抗議するハンジだった。

ハンジ「行方不明になった衣服はもう諦めようと思っていたのにさあ……後日、まさかお隣さんから手渡されるなんて思ってもみなかったよ」

リヴァイ「そうか。かえって迷惑だったのか」

ハンジ「いや、そういうんじゃないけどさ。それ以後、あなたが凄く気になる人になってしまって……顔合わせると恥ずかしいやら、困るやらだったけど。話しかけたい気持ちがどんどん育ってきてしまって。本屋の仕事を紹介出来る事になった時は本当に『ラッキー♪』と思ったよ」

リヴァイ「ふーん……」

切欠はその程度の事だったのか。そう思ってリヴァイは小さく微笑んでいた。

リヴァイ「そうだったのか」

ハンジ「うん。そう言う訳で、去年の9月頃からずっと片思いしていました! 今まで黙っていて御免なさい!」

リヴァイ「いや、別に謝る事じゃねえけど」

でもその話を聞けて少し胸の内がすっきりしたのも事実だった。

850: 2015/02/23(月) 21:14:52 ID:o.xfcLOc0
リヴァイ「つまり、お前は俺の世話焼きなところが好きなのか」

ハンジ「まあ、それも含むけど」

リヴァイ「けど?」

ハンジ「それだけじゃないよ。他にも沢山、好きなところがある」

リヴァイ「………………」

ハンジ「うん。切欠はまあ、ちょっとアレだったけど。今では数えるのに両手じゃ足りないくらい好きなところがあるよ」

ハンジ「今、それを全部言うのは流石に恥ずかしいから、追々………」

ハンジがそう言って残りを誤魔化そうとした其の時、リヴァイは振り向き様に自分の右手を後ろに伸ばしてハンジの手首をぎゅっと確保した。

ハンジ「?」

リヴァイ「もうその辺でいい。交替するぞ」

ハンジ「え? でも背中しかごしごししてないよ?」

リヴァイ「十分だ」

そしてリヴァイは振り向いてそのまま………

ハンジ「!」

ハンジの答えを聞く前に体を回転させて、風呂場で唇を重ねたのだった。

855: 2015/09/09(水) 22:52:12 ID:tIA1Q9Y60
ファーラン「………ん?」

其の時、ファーランは眠りかけていたが、遠くに聞こえるチャイムの音に気づいて目が覚めてしまった。

隣で眠るイザベルを起こさない様にそっと体を起こして部屋の外に出る。

ファーラン(リヴァイもハンジさんもいない……)

チャイムの音はまだ鳴りやまない。

こんな夜更けに来客とは。珍しい事もあると思いつつ、対応する事にした。

ハンジの方の知人が訪れてきたのかもしれないと思ったからだ。

インターフォン越しに応対して、相手は『ハンジに会いに来た』と答えたのでやはり予感が当たった。

ファーラン「すみません。少し待って貰えますか?」

ファーランは相手にそう言って、恐らく風呂場にいるだろう彼女に言った。

トントン、とスライドドア越しに声だけかける。

856: 2015/09/09(水) 22:53:31 ID:tIA1Q9Y60
ファーラン「すみません。風呂の最中に。ハンジさんに客が来ているみたいなんですけど」

ハンジ「お、お客さん?!」

素っ頓狂な声が返ってきてファーランは少しだけ訝しがったが、続けた。

ファーラン「はい。女性の方です。玄関に待たせているんですけど、どうしましょうか?」

ハンジ「あーちょっと待て貰って。私の部屋に通して貰っていいかな?」

ファーラン「了解しました」

そしてファーランの声が遠くなると、リヴァイが一気に脱力してハンジの胸の中に顔を埋めた。

リヴァイ「こんな夜更けに誰だ(イラッ)」

ハンジ「あはは……多分、ナナバじゃないかな」

リヴァイ「折角の入浴タイムを……(イライラ)」

ハンジ「まあまあ、続きはまた今度すればいいじゃない」

リヴァイ(渋々)

リヴァイは物足りない思いを無理やり押し込めて体を拭いて風呂から出た。

ハンジも来客を優先して風呂を出て着替えた。

ハンジの部屋には物凄い形相で待っていたナナバが居た。

857: 2015/09/09(水) 22:54:21 ID:tIA1Q9Y60
そしてナナバはハンジを見るなり、

ナナバ「…………リヴァイ、ごめん。ハンジを借りていい?」

リヴァイ「駄目だって言っても無理やり借りるつもりだろ」

ナナバ「うん」

リヴァイ「はあ………出来るだけ手短にしろよ」

ため息をつきながらリヴァイは渋々ハンジを貸し出した。

襖を閉めてハンジとナナバは2人きりになると、ナナバは一気に愚痴を爆発させたようだった。

ナナバ「ミケにいきなり告白されたんだけど………」

ハンジ「あ、やっぱり?」

ナナバ「分かっていたんなら何で先に帰ったの?(ジ口リ)」

ハンジ「やだなあ。そこは邪魔する方が野暮じゃないか」

ナナバ「そうかもしれないけど、そうかもしれないけどさ……!」

ナナバの荒ぶる声を聞きながらリヴァイの方は台所で紅茶を入れていた。

そしてお盆にのせてハンジの部屋に戻ると、ナナバはハンジの胸をポカポカ叩いていた。

リヴァイ「おい、夜中なんだから、大人しく愚痴れよ」

858: 2015/09/09(水) 22:55:17 ID:tIA1Q9Y60
ナナバ「うっ……御免」

ハンジ「いつもと立場が反対だね」

ナナバがハンジにべったり甘えているのを見ていると多少イラッとするが我慢する。

リヴァイ(なんでこう、いつもいつも、タイミングが悪いんだ)

ハンジといい感じになる度に何かしら水が入るのが腹立たしい。

リヴァイ(まあ、ハンジの友人を無下にする訳にもいかんが)

後の事はハンジに任せればいいだろうと思い、リヴァイは自分の部屋に戻ろうとしたが、

ナナバ「ねえ、リヴァイはどう思う?!」

と、ナナバの方から縋る様に言ってきたので足が止まった。

リヴァイ「何が?」

ナナバ「ミケの事だよ! あいつ、告白した直後にいきなりキスしてきて、しかも、結構えぐいキスしてきたんだけど!?」

それを俺に愚痴ってどうなる。

と、一瞬思ったリヴァイだったが、それを表には出さなかった。

ハンジ「まあまあ、ミケはオトナだから、じゃない?」

ナナバ「大人だからこそ、もうちょっとスマートにきて欲しかったんだけど!? これじゃまるで身体目当てみたいで……」

859: 2015/09/09(水) 22:56:27 ID:tIA1Q9Y60
ハンジ「そ、それはないよ! ミケはずっとナナバに優しかったじゃないか!」

ナナバ「どの辺が?! そもそもこっちは晴天の霹靂なんだけど?! 素振りも全然なかったし!」

リヴァイ「ミケは『いいなと思う子はいる』とは言っていたが……」

ハンジではなく、ナナバの事だったのか。と、リヴァイは漸く合点がいく。

リヴァイのその言葉が気になり、ナナバは少し冷静になった。

ナナバ「それっていつ頃、リヴァイは知ったの?」

リヴァイ「ああ、まあ……結構、早い時期に。俺が本屋に勤めてから……確か元旦の日に出勤した、あの日だな」

あの時はリーネにBLネタでからかわれたので良く覚えていたリヴァイだった。

リヴァイ「ハンジは知っていたのか? ミケの事は」

ハンジ「ん? ああ……なんとなく、それっぽい気配はある気がしたけど」

ナナバ「何で教えてくれなかったの」

ハンジ「教える訳ないじゃないか! その頃のナナバは彼氏がいたんだから!」

ナナバ「それもそうか……」

ナナバはがっくり項垂れて紅茶を手に取って喉を潤した。

ナナバ「あーもうーどうしよう。同じ職場の、しかも年上と、とか。気まずい……」

860: 2015/09/09(水) 22:57:36 ID:tIA1Q9Y60
リヴァイ「ミケとは付き合わないのか?」

ナナバ「いやー彼氏と別れたばっかりで、はい次って訳にはいかないよ。絶対、無理」

ハンジ「えー……そうなんだ」

ナナバ「だって、何処が好きなの? って聞いた時に『匂いが好きだ』とか変態過ぎない? 『フルーツのような甘い匂いがする』とか言われても嬉しくないよ!! カブトムシかよ! って思わず心の中でツッコミ入れたよ!」

ハンジ「ううーん……」

ナナバ「ミケがあんな変態だとは思わなかった。もうどうしたらいいのか……」

ハンジ「まあ、少し時間を置いて考えてもいいんじゃないかな。今は興奮しているから冷静で居られないだけだよ」

ナナバ「ハンジはミケの肩を持つんだ?」

ハンジ「え? うー? まあ、ミケとは普通に仲いいし、ミケは悪い人じゃないし」

リヴァイ「……………」

リヴァイはハンジの方をじっと見つめた。穴が空く勢いで。

ハンジ「今夜はうちに泊まってく? 私の部屋で良ければ」

ナナバ「ううーん……」

そうしたいのは山々だったが、リヴァイの目つきが更に細くなったので、

ナナバ「いや、今日はそこまで野暮な事はしないよ。愚痴ったら大分すっきりしたし」

861: 2015/09/09(水) 22:58:27 ID:tIA1Q9Y60
と、言ってナナバは紅茶を飲み干して「ご馳走さま」をした。

ナナバ「御免ね。突然、来て。吐きだしたら頭がすっきりしたから。もう帰るよ」

ハンジ「そう? 遠慮しなくていいのに……」

ナナバ「御2人の時間を邪魔して御免。じゃあ、そろそろ帰るね」

リヴァイ「車で来たのか?」

ナナバ「あ、うん。道沿いに止めてる。どのみち長居はするつもりなかったから。じゃあ、またね」

と、言ってナナバは大体すっきりした様子で部屋を出て行った。

ナナバを送った後、リヴァイはぽつりと言った。

リヴァイ「何も解決してねえ気がするんだが……」

ハンジ「あはは! まあ、女ってそんなもんだから。とりあえず、ぶちまけられたらそれでいいんだよ」

リヴァイ「ナナバがそれでいいならいいんだが」

ハンジ「うん。ミケの事、断るにしろ、受け入れるにしろ、決めるのはナナバだしね」

リヴァイ「………………」

ハンジ「ん? 何?」

リヴァイ「いや、何でもねえ」

862: 2015/09/09(水) 22:59:15 ID:tIA1Q9Y60
ここでミケの事をゴタゴタ言っても仕方がないと思った。

ハンジ「うん。御免ね。なんか、いろいろうまくいかないね」

リヴァイの沈黙を、先程の入浴のイチャイチャを邪魔されたせいだと思ったハンジはとりあえず謝った。

リヴァイが言葉を濁したのはそれが原因ではないのだが、彼は曖昧に誤魔化した。

リヴァイ「ああ、まあ……別にいい」

ハンジ「お風呂、入りなおす?」

リヴァイ「時間が時間だしな……今夜はいい」

もう夜中の1時半を過ぎていた。余り遅い時間に入浴すると隣近所に迷惑だ。

リヴァイ「それより、ハンジ……」

ハンジ「何?」

リヴァイ「今夜は一緒に寝ないか?」

ハンジ「え?」

リヴァイ「一緒の布団で寝るだけだ。いやらしい意味じゃねえ」

ハンジ「あ、うん。それは勿論いいけど………」

リヴァイの様子が少し妙に思えた。ハンジは内心「あれ?」と思う。

863: 2015/09/09(水) 23:01:01 ID:tIA1Q9Y60
ハンジ(どうしたんだろう? 少し元気がない感じがする)

お風呂の中ではむしろ元気満々だったようなのに。

と、リヴァイの元気だった部分を思い出して思わず自分で自分の額をこづいた。

ハンジ(って、何を思い出してるんだか! 私は!)

いやらしい意味で一緒に寝ても全然いいのに、今日のリヴァイは何故か。

布団の中でもハンジに軽く触れるだけで、それ以上の事をしないようだ。

ハンジ(………まあ、朝も早いしね)

リヴァイは朝の仕事もあるから長くイチャイチャしては仕事に差し支えるだろう。

そう思い、ハンジは両目を閉じて自然と眠りに落ちた。

眠りに落ちたハンジを確認してリヴァイは薄く両目を開ける。

リヴァイ(……………参ったな)

風呂の中でハンジから聞いた「好きな理由」を思い出して頭が痛くなった。

リヴァイ(ハンジの中で、俺はどうやら相当な『いい人』であるらしい)

その偶像を壊してしまったら、今の関係も壊れてしまうのだろうか。

リヴァイ(本当は……俺は……)

864: 2015/09/09(水) 23:01:50 ID:tIA1Q9Y60
ハンジの思うような綺麗な人間なんかじゃねえ。

そう、思いながらも、リヴァイは手に入れたこの温もりを手放す事は出来なかった。

866: 2015/09/12(土) 01:36:06 ID:FrYcB/gM0
そして月日が少し流れて約束の3月22日。

リヴァイとハンジが子猫達も連れてハンジの実家に帰る事になった。

四人の初の遠出がまさかハンジの実家になるとは思いもよらなかったが、イザベルは興奮して車内から景色を眺めていた。

イザベル「こんな田舎道、初めて通るぜ!」

リヴァイも少しだけ車内の窓を開けて外の空気を浴びていた。

街中の空気と全く違う。田んぼや畑の多い道を川沿いに進み、いくつかの橋を越えてどんどん進んでいく。

空気が澄んで悪くないと思った。都会育ちのリヴァイにとっては初めての光景に自然と頬が緩む。

ハンジ「うちの実家は田舎だからね。家の周りには畑と田んぼしかないよ」

イザベル「いいじゃねえか。田んぼで遊べるし!」

ファーラン「泥だらけになるのがオチだぞ。イザベル」

イザベル「そーだけどさ!」

867: 2015/09/12(土) 01:36:46 ID:FrYcB/gM0
イザベルは初の田舎訪問にテンションあげあげだった。

そして車で片道約2時間の道のりを経て実家に帰り着いたハンジだった。

家の前の駐車場を降りてからリヴァイは息を呑んだ。

リヴァイ(なんて大きな屋敷だ)

ハンジの実家は農家だ。昔造りの平屋の大きな屋敷と納屋まである。

リヴァイ(いかん。妙に緊張してきた)

一応、手土産に酒と銘菓は持参してきたが、渡すタイミングを計りかねたリヴァイだった。

すると、奥の方から慌ただしい声が聞こえて来た。

母親「やーっと帰って来た! 今日は泊まらるっと?」

ハンジ「今日も日帰りだってば。今日はハウスの方はどうなの」

母親「いそがしかけん、頼んだったい! あたも手伝って貰うけんね!」

ハンジ「はいはい。分かっていますよー」

母親「ん? 後ろの人達は誰ね?」

方言丸出しの母親に戸惑いつつ、リヴァイはやっと玄関の外で一礼した。

リヴァイ「あの………」

868: 2015/09/12(土) 01:37:34 ID:FrYcB/gM0
ハンジ「助っ人だよ。リヴァイって言うんだ。うちの仕事を手伝ってくれるって」

母親「!!!!」

リヴァイ「どうも。初めまして。リヴァイ・アッカーマンと申します」

ハンジ「そして一緒に居る子供達はリヴァイが面倒を見ている子供さんだよ」

イザベル「イザベルだ! よろしくお願いします(ぺこり)」

ファーラン「ファーランと言います。宜しくお願いします(ぺこり)」

突然の来訪者達に母親はびっくりして腰を抜かしたようだ。

ハンジ「お、お母さん……そんなに大げさに驚かなくても」

母親「驚くに決まっとったい! お父さん! ハンジが男の人を連れてきたよ!!!」

父親「なんてや?!」

父親もびっくり仰天した様だ。部屋の奥から声が聞こえる。

ぞろぞろ中に入る。畳の部屋に布団が敷かれていて父親はそこで寝ていたようだ。

リヴァイ(あ……ハンジは父親似のようだ)

身体の大きい男性だった。眼鏡に白髪の生えた眼鏡の父親が身体をゆっくり起こして眼鏡を触りながら言った。

父親「ほんなこつね。ハンジとつきあとっと?」

869: 2015/09/12(土) 01:38:07 ID:FrYcB/gM0
リヴァイ「あ、いえ……」

ハンジ「バイト先の同僚の方だよ。本屋で一緒に働いているんだ」

この時、ファーランとイザベルは出来るだけ無表情に徹した。

付き合っている件はまだ伏せておきたいと言うハンジの意向に沿う為に。

しかしハンジの説明にハンジの父親はあからさまに不審な顔になって言った。

父親「歳はいくつね?」

リヴァイ「22歳になりました」

父親「そっちの子供はあたの子供ね?」

リヴァイ「いえ、血の繋がりはありません。訳有りで預かっています」

父親「その年でえらかね」

リヴァイ「いえ、そうではないと思いますが」

父親「まま、よかたい。まずはあがらんね。母さん、お茶ば用意して!」

独特な言葉にイザベルとファーランは多少?が浮かんでいたが、それでもすんなり通して貰えたのでほっとした。

イザベルとファーランにはジュースを出して家族揃って大きな畳の部屋に集まった。

リヴァイ(8帖の部屋なのに広く感じる)

870: 2015/09/12(土) 01:39:04 ID:FrYcB/gM0
昔造りの部屋だった為、畳の大きさが今の大きさより大きかったのだ。

体感的には10帖くらいの感覚の部屋に集まってリヴァイはお茶を頂いた。

リヴァイ「御加減の方はいかがですか?」

父親「昨日退院したばっかだけん、まだ無理はきかんたい」

母親「ほんなこつなら、あと一週間は入院しとかなんとばってん」

父親「そぎゃんいうても、そぎゃんなごうハウスを放置する訳にはいかんたい」

母親「そりゃそうぎゃんばってん」

ハンジ「無理したらいかんよ。腰やったの、2回目でしょ」

父親「ハンジがはよ跡ばづがんけんいかんとたい」

ハンジ「その話は今、関係なかでしょうが!」

リヴァイ(方言がきつくて細部が分からない)

イザベル(何を話しているんだろ?)

ファーラン(まあ、ぼんやり聞いておくか)

方言に馴染みのない3人は話半分に親子の会話を聞いていた。

父親「関係なかことはなかたい。ハンジがうちを継いでくれれば無理せんですむけん」

871: 2015/09/12(土) 01:45:02 ID:FrYcB/gM0
ハンジ「だーから、それは前から言ってるけど、農業をやりたい若い男性に跡を継がせれば……」

母親「お見合いの話なら、一杯あっとに。全部蹴ってから」

ハンジ「気が早過ぎるでしょうが! 今日はその話をしに来たわけじゃないでしょうが!」

母親の何気ない一言に微妙にダメージを食らいつつ、リヴァイはお茶を飲み干した。

ハンジ「溜まっている仕事あるんでしょ? 今日のうちに一気にやってしまわないと困るからこっちに帰って来たのに」

母親「そりゃそぎゃんばってん……」

ハンジ「おばあちゃんは? 猫も連れて来たから預かって欲しいんだけど」

母親「お婆ちゃんは買い物にいっとらすけん、もうすぐ戻らすど」

ハンジ「分かった。じゃあ今のうちに着替えるけん、おばあちゃんが帰って来たら猫お願い」

母親「はいはい」

リヴァイは土産を渡すタイミングが分からず、まごまごしていた。

するとそこで、代わりにファーランが。

ファーラン「あの、こちらを宜しかったらどうぞ(スッ)」

母親「まー! わざわざすみません。とおりもん、おいしかもんね」

872: 2015/09/12(土) 01:47:41 ID:FrYcB/gM0
ファーラン「後で皆さんで食べて下さい」

母親「よか男ね~。あたの年はいくつね?」

ファーラン「今、中一で、4月から中二になります」

ファーランは早速、母親と話し込んでいる。女性の相手は慣れたものだ。

たとえ年上だろうが、ファーランの女性に対する対応はもはやプロ並みだった。

リヴァイ(ファーラン……)

ファーランの対応力に心底感心するリヴァイだったが。

父親(じーっ)

リヴァイ「な、なんでしょうか?」

父親にじっと見つめられてリヴァイはドキッとした。

874: 2015/09/12(土) 23:58:56 ID:FrYcB/gM0
値踏みされているような不躾な視線にリヴァイの緊張が更に高まる。

そして、ふと父親は笑顔を見せて言った。

父親「なかなかよか身体しとるね。なんかしよったと?」

リヴァイ「え?」

父親「本屋の仕事だけでそぎゃんふとか腕にはならんど? なんかしよったとじゃなかと?」

リヴァイ「えっと、その……」

緊張の余り言葉がうまく出てこなかった。そこにイザベルがフォローを入れる。

イザベル「兄貴はいろんな仕事してたんだ! 宅配とか、警備員とか!」

父親「ふむ……」

イザベル「コンビニとか、土方とか……あとなんだけ? 辞めた仕事あったよな」

リヴァイは蒼褪めてイザベルの口を塞いだ。転職の数を今、ここで言うべきではない。

父親「………」

リヴァイ「…………」

しょっぱなから最悪だと思った。イザベルに非がある訳ではないが。

其の時、ハンジが帰ってきて、

875: 2015/09/13(日) 00:00:22 ID:98QTx0/k0
ハンジ「皆の分の着替えも持って来たよ。あと帽子とタオルも。イザベルは私の部屋で着替えようか」

イザベル「あ、うん!」

農作業の恰好になったハンジについ目がいった。

帽子とタオルと、長袖と長ズボン。ぼろい格好になったのに。

その姿が妙に似合っていて、思わずキュンとする。

リヴァイ(………は!)

ぼーっとしている場合ではなかった。こっちもさっさと着替えよう。

先程のフォローも出来ないまま、リヴァイはハンジ達と共にハウスに向かう事になった。

ハンジ「うちは主にトマトとお米を作っているんだ。トマトは3月から7月が一番忙しくてね。ハウス栽培だから年中収穫出来るように計画を立てて育ててはいるんだけど、この時期だけは流石に人手が必要になる事が多いんだ」

リヴァイ「……そうか」

ハンジの説明を聞きながら作業を手伝う。

収穫したトマトを倉庫に運んで、仕分けして。出荷用の梱包作業をする。

流れ作業をそれぞれ分担して、今日のうちに出来る範囲内で頑張る。

イザベル「ちょー美味そう! 綺麗なトマトだなあ!」

ハンジ「あ、それは傷があるから省いて。出荷出来ないやつだから」

876: 2015/09/13(日) 00:01:16 ID:98QTx0/k0
イザベル「ええ? どこがダメなんだ? こんなに綺麗なのに!」

ハンジ「裏側、ちょっと傷がある。そういうのは、処分するんだ」

イザベル「勿体ねえ! これ、食べちゃだめか?」

ハンジ「持って帰るかい?」

イザベル「食べたい! なあ、兄貴!」

リヴァイ「ああ……この程度のものなら食べられるだろう」

ハンジ「分かった。だったら傷物は持って帰ってリヴァイに料理して貰おうか」

イザベル「さんせーい!」

和気あいあいと収穫作業をしていくと、ハンジの表情が少し翳ったのに気づいた。

リヴァイ「どうした? ハンジ」

ハンジ「あ、いやね。今年はちょっといつもより大きさが小さいなと思ってね」

リヴァイ「そうか? 十分、大きいトマトだと思うが……」

ハンジ「例年通りだったらあと1.5cmは大きいトマトが採れるんだ」

リヴァイ「それは大きいな」

ハンジ「ううーん。今年は去年より不作なのかなあ。お母さん、どうなの?」

877: 2015/09/13(日) 00:04:44 ID:98QTx0/k0
母親「そうねえ。確かに今年はあんまり出来が良くなかごたるね」

ハンジ「そうなんだ」

母親「去年までは、ハンジもハウスにまめにきとったけん、手が届いたばってん、今年から父さんと母さんだけでやってきたけんねえ。去年のごつはいかんたい」

ハンジ「ええ? そういうもんかなあ?」

母親「ハンジは自分で思うより、農業に向いとっとたい。育てるのうまかもん」

ハンジ「ううっ……」

母親「うちもハンジが下手くそなら、跡継ぎにて、無理はいわんたい。勿体なか~」

ハンジ「……………」

どうやらハンジは農業の方面でも才能があるようだ。

リヴァイ「ハンジ、傷物はこっちにまとめていいか?」

ハンジ「あ、うん。その青い籠に入れて置いて」

リヴァイ「了解」

そして後は黙々と作業をする。汗が顎から滴りおちる度にタオルで拭う。

ハウスの中での作業はかなり暑く感じた。

ハンジ「無理しないで、水飲んでいいから」

878: 2015/09/13(日) 00:09:20 ID:98QTx0/k0
手渡されたペットボトルをリヴァイは遠慮せずに頂いた。

その飲み残しを今度はハンジが飲んでしまう。

その様子を見ていた母親は、目を細めて眉間に皺を寄せていたが……

ハンジ「おっとっと」

足を滑らせて体勢がよろけそうになったハンジをリヴァイはすぐさま支えた。

リヴァイ「おい、無理してんのはそっちじゃねえのか?」

ハンジ「いやあ、そんなことないよ。ちょっと足元滑っただけだよ」

リヴァイ「ったく……。頬に泥ついてんぞ」

ハンジ「え? どこ?」

リヴァイ「ここだ(フキフキ)」

リヴァイ「とれた」

ハンジ「あはは~ごめんね~」

母親の両目は更に細くなり、小さなため息が漏れていた。

883: 2015/09/30(水) 04:49:08 ID:mCnCinS20
そして一通り、今日中に仕上げてしまいたい仕事を終えて家に戻ると、ハンジの祖母が夕飯を作って出迎えてくれた。

祖母「ご飯は出来たけん、はよ先に風呂入りなっせ」

ハンジ「はいはーい」

リヴァイ(こんなに大量の汗を掻いたのはいつぶりだ……?)

イザベル「うへーべとべとするー」

ファーラン「確かに、結構汗を掻いたな」

ハンジ「うちのお風呂、広いから3人でも入れるよ。先にどうぞ」

リヴァイ「え? いいのか?」

ハンジ「今日はお客様だもん。いいよ。私は後からでいいから」

リヴァイ「…………」

3人で風呂に入るのは久々だった。

イザベルが今よりまだ小さかった時には入ったりもしていたが。

884: 2015/09/30(水) 04:55:49 ID:mCnCinS20
ファーラン「じゃあ、今回は甘えます」

イザベル「兄貴! さっさと入ろうぜ!」

2人はニコニコして風呂場に直行した。

リヴァイは少しだけ迷ったが、2人が楽しそうにしていたので今回は甘える事にした。

リヴァイ「!」

なんて立派な風呂だと思った。まるで銭湯の風呂のようだ。

正方形の風呂釜に洗面所が2つも備えてある。

一般家庭にしては大き過ぎる規格の風呂だと思った。

イザベル「超大きい! いいなあ! うちにもこんな風呂が欲しい!」

ファーラン「確かに。これだけ広いと毎日、風呂に入るのも楽しいそうだ」

リヴァイ「無茶を言うな。賃貸暮らしでこんなでけえ風呂なんて見たことねえ」

ファーラン「いやいや、そういう意味じゃないぜ。リヴァイ」

リヴァイ「は?」

イザベル「兄貴、このままあの姉ちゃんとずっと一緒にいればいいじゃん」

リヴァイ(ぶふっ!)

885: 2015/09/30(水) 05:11:40 ID:mCnCinS20
子供達のストレートな言葉に思わず動揺するリヴァイだった。

リヴァイ「な、なにをいきなり………」

イザベル「俺は別にいいぜ? これって所謂、逆玉の輿ってやつじゃねえの?」

リヴァイ「イザベル、お前、どこでそんな言葉を……」

ファーラン「まあまあ、リヴァイ。冷静に考えろって」

リヴァイ「何を」

ファーラン「相手が持っている物をだよ。ハンジさん自身もそうだけど、実家は農家で家土地つきだろ?」

イザベル「結婚しちまえば、それもいずれ兄貴の物になるんじゃねえの? すごくね?! ね?!」

2人が変な色眼鏡をかけて話出したのでリヴァイは一度、閉口した。

そして少し考えて、今は溜息と共に言葉を選んだ。

リヴァイ「2人とも、くだらねえこと言ってねえで、さっさと体を洗え」

イザベル「えー? なんでだよ。このまま一気に押し切っちまえばいいのに」

リヴァイ「いいからさっさとしろ。後がつかえるだろうが」

イザベル「ちぇー」

唇を突き出してイザベルが渋々体を洗い出す。

886: 2015/09/30(水) 05:22:28 ID:mCnCinS20
3人で一緒に風呂の湯船の中に浸かると、ファーランが苦笑した。

ファーラン「でもリヴァイ、正直、楽しそうだったぜ?」

リヴァイ「あ?」

ファーラン「農業も案外悪くねえ……って内心、思ってるんじゃねえのかなって」

リヴァイ「…………」

実際、今日一日、というか正確に言えば半日くらいだったが。あっという間に時間が過ぎて驚いた。

たった半日の作業だったのに。本屋で仕事をした時以上の満足感を覚えてしまって。

正直に言えば「物足りない」とすら思った。まだやらせて欲しいとも思った。

リヴァイ(…………なんだろう。この感覚は)

肉体的には疲労しているのに。汗も大量に掻いて体のだるさも感じるのに。

嫌じゃなかった。その事に戸惑いを感じている。

体を動かす仕事なら他にも経験している筈なのに。

一体何が違うのか。思い返して、リヴァイは気づいた。

リヴァイ(そうだ。俺はこんなに綺麗な仕事を他に知らねえ……)

887: 2015/09/30(水) 05:36:48 ID:mCnCinS20
太陽の光を浴びて、綺麗な空気を吸いながら体を動かし、他人とのストレスもない。

収穫作業を手伝っただけで、農業の全貌を知った訳ではないが、新しい実に触れた時の、あの感じは。

リヴァイ(子供を見た時に感じた「萌え」とかいう感情に近い気がする)

手に取った出来立てのトマトが可愛いと思ってしまった。

傷物を処分すると聞いた時、イザベルと同じように「もったいねえ」と思ってしまった。

今、ここにある感情は多分、ほんの小さな興味本位だという思いもあるが。

リヴァイ(また、機会があれば手伝わせて欲しい)

そう言ったらハンジはどう思うのだろうか。

イザベル「にしし。兄貴が沈黙している時って、大体「YES」だよな」

リヴァイ「!」

イザベル「いいじゃん。兄貴、将来は姉ちゃんと結婚して、一緒に農業やれば?」

リヴァイ「ハンジは跡を継ぐ気はねえみてえだが」

イザベル「ええ? なんでだよ。もったいねえ。じゃあ誰か別の奴が跡を継ぐのか?」

ファーラン「その辺はハンジさん次第ってところだろうな」

889: 2015/10/01(木) 21:11:04 ID:a2k1Rktw0
イザベル「ふーん。そうなのか。なんか勿体ない気がするなあ。俺だったら絶対……」

リヴァイ「2人ともいい加減にしろ」

他所の家の事情を他人がガタガタ言うものではない。

リヴァイが2人を諫めるように強く言うと反省したようだ。

イザベル「ごめん……」

ファーラン「……………」

リヴァイ「わかればいい」

そしてリヴァイは2人より先に湯船から上がって、自身の体を拭いた。

髪から落ちる滴を拭いながら考える。

イザベルのいう勿体ないという言葉に否定出来ない自分がいる。

溝の黒い汚れを見つけてしまったような嫌な感情が湧き上がる。

気づかなければ気にならない筈の、小さな染みのような。

一度気になってしまうと、それを無視出来ない自分が面倒臭い。

一瞬でも過った醜い自分の感情に無理やり蓋をして脱衣所を出た。

890: 2015/10/01(木) 21:25:59 ID:a2k1Rktw0
すると、その先に何やら言い争う声が。

ハンジ「だから、酒はいいってば! 飲ませようとしないでお母さん!」

母親「ビールくらいよかろ? 運転はあたがするとでしょうが」

ハンジ「やめて! リヴァイに飲ませないで! お願いだから!!」

どうやらお互いに缶ビールを押し付けあっているようだ。

母親「リヴァイさん、あたはビール好きね?」

リヴァイ「まあ、嫌いではないですが」

母親「なら何が好きと? ワインとかのがよかかな?」

リヴァイ「あ、いや、お気遣いなく、その、あるもので構いませんので」

母親「ならビールでよかたいね? ストックあるけん、出すばい」

リヴァイ「あ、はい。頂きます」

ビールの缶を受け取ったリヴァイに、ハンジが目を覆った。

ハンジ「ああもう、知らないっ…!」

リヴァイ「? 何をそんなに嫌がる」

ハンジ「あなた、この間のことを忘れたの?」

891: 2015/10/01(木) 21:38:15 ID:a2k1Rktw0
この間。そう言われてリヴァイは甘酸っぱい記憶を思い出した。

リヴァイ「ああ………エルヴィンの奴に奢って貰ったビールの件か?」

あの時はいろいろあった。思い出すと少し気恥ずかしくなってしまう。

しかしハンジはその件よりも、他の事を心配しているようだ。

ハンジ「そうだよ! あなた、お酒が入ると陽気になるでしょう?」

リヴァイ「普通だろ? 別に二日酔いする性質じゃねえし、明日の仕事に支障はねえよ」

ハンジ「そういう問題じゃなくて、その、なんか勢いついちゃうでしょう? 大丈夫?」

ハンジが心配そうに小声でリヴァイに迫る。リヴァイは口を少しへの字に曲げた。

ハンジはどうやらリヴァイがうっかり口を滑らせないか心配しているらしい。

リヴァイ「……まあ、多少の羽目は外すかもな」

ハンジ「ちょ! 約束と違う……!」

リヴァイ「知らん。ビールを無下にする非礼は俺には出来ねえな」

ハンジ「……っ!」

リヴァイ「まあ、余計な事はしゃべらねえよう努力はしてやるよ」

ふん、と言ってリヴァイは先に食事の席につかせて貰った。

892: 2015/10/01(木) 22:26:34 ID:a2k1Rktw0
畳の広い部屋に長方形の木製の大きな飯台があり、沢山のご馳走が並んでいた。

ハンジの父は先に酒を飲んでいた。リヴァイが土産に持ってきた酒を開けていたようだ。

リヴァイ(あ、ハンジが渡してくれたのか)

恐らく風呂に入っている間に彼女が父親に渡したのだろう。

本来なら自分がやるべきだった事なのに。手際の悪さに少し凹んだリヴァイだったが、

父親「おかわり、お願いしてよかね?」

リヴァイ「あ、はい……!」

リヴァイはすぐさま席を移動してハンジの父親の隣に座った。

グラスを頂いて自分もビールを開けて一緒に夕飯をご馳走になる。

イザベル「いっただきまーす」

ファーラン「頂きます」

祖母「どぎゃんとが好きか分からんばってん、沢山作ったけん、遠慮せんで食べなっせ」

リヴァイ「ありがとうございます」

お刺身や煮物やら、沢山のご馳走を用意して貰った。

893: 2015/10/01(木) 22:41:17 ID:a2k1Rktw0
イザベルとファーランが遠慮なく食べている様子を目の端に入れながら、リヴァイはまずはビールを喉に一気に流した。

赤ら顔のハンジの父親は、見れば見るほどハンジの顔立ちとよく似ていると思った。

父親「……………」

なんだかじっと見つめられているようだ。2回目だが。

リヴァイ(やっぱりさっき、イザベルが言ってしまった件を気にされているのだろうか?)

まさかいきなり転職歴がバレてしまうとは思っていなかった。

イザベルを責めるのは筋違いだが、リヴァイはやはりさっきの件が気になっていた。

リヴァイ(どうする? もし詳しく聞かれたらなんて答えるべきだろうか?)

もし質問されたら答えない訳にはいかないだろう。

しかしリヴァイの予想とは反して、リヴァイのグラスには何故かいつの間にか2杯目の酒が。

リヴァイ「え? あ、すみません……」

父親「よかよか。飲めるとだろ?」

リヴァイ「普段は殆ど飲みませんが……」

父親「なら猶更、今日は飲みなっせ! ありがとうな。今日はよか酒ば持ってきて貰って」

リヴァイ「いえ、その、恐縮です」

894: 2015/10/01(木) 22:50:18 ID:a2k1Rktw0
どうやら機嫌が良さそうだ。このまま和やかに酒の力で乗り切ろう。

リヴァイはそう思いながらどんどん追加されていくビールや酒を飲んでは刺身を頂いた。

そしてリヴァイが6杯目を飲み終えた頃、ハンジが風呂から上がって戻ってきた。

ハンジ「あー! もう、お父さん、飲ませ過ぎだって! やめてよ!」

父親「まだ6杯しか飲ませとらんよ」

ハンジ「十分だよ!? 彼は明日も普通に朝から仕事あるんだから程ほどにしてよね!」

父親「朝から? 本屋以外にも仕事しよらすと?」

リヴァイ「朝は新聞の配達をしています……」

父親「あらら……明日は休まられんと?」

リヴァイ「基本的に休刊日にならない限りは毎日出勤しています」

父親「真面目かね。そぎゃんなら仕方がなかね。ならあと一杯だけたい(スッ)」

ハンジ「あと一杯だけで済んだ試しあった?! もうストーップ!!」

母親「お父さん、無理はさせたらいかんたい」

父親「わかったわかった」

そして諦めたように自分の方にグラスを戻すのだった。

895: 2015/10/01(木) 23:13:23 ID:a2k1Rktw0
リヴァイ「すみません」

父親「あやまらんちゃよか。また今度来る時は次の日に休みば取ってからきなっせ。おいも腰ば治してから、よかとこに連れていってやるけんね」

リヴァイ「え? あ、でも……」

よかとこ? もしかして飲み屋にでも連れていかれるのだろうか?

と、リヴァイは思ったが、父親は話題を変えて、

父親「ところで、ハンジはどぎゃんね」

リヴァイ「え? あ、どぎゃんといいますと……」

父親「本屋でのハンジたい。夜に仕事ばしよると聞いとっとばってん……」

リヴァイ「あ、はい。シフトの関係で彼女は夜、出ることが多いです」

父親「ばってん、おなごが夜、働くとはあんまり賛成できんとばってん」

リヴァイ「…………」

その時、脳裏に過ったのは万引き犯(アダルト本)の男の事だった。

父親「ハンジに『本屋の仕事は健全だよ!』って押し切られて許したったい。ほんなこつね? 変な客とかこんね?」

リヴァイ「……………」

ハンジ「お、お客さんは皆、おとなしい人ばかりだよ! インドア派のお客様ばっかりだってば!」

896: 2015/10/01(木) 23:32:41 ID:a2k1Rktw0
ハンジが慌てたように言って父親に詰め寄る。

ハンジ「店長だっていい人だって言ったでしょ? バイトは順調だってば!」

父親「ほんなこつね? 変な男につきまとわれたりせんね?」

ハンジ「ないない! あるわけないでしょう! 私に限ってそんなこと!」

ハンジのその言葉に少しだけイラッとするリヴァイだったが口を閉じて我慢した。

父親「ならよかばってん……はあ、心配たい」

ハンジ「何がそんなに心配なの?!」

母親「ハンジは猪突猛進なところがあるけんね。悪か男に騙されてコロッといきそうで怖か~」

ハンジ「なんでお母さんまでそんなこというの?! おばあちゃんも笑ってないで止めてよ?!」

祖母「クククッ……」

何だか賑やかな食卓だ。

ファーランとイザベルは「笑ってはいけない」と思いつつ腹筋を鍛えていた。

そんな中、不機嫌な表情で刺身をまた口に運ぶのはリヴァイだけだった。

祖母「まあよかたい。ハンジの元気な姿が見れたけん」

父親「そりゃそぎゃんばってん……」

897: 2015/10/01(木) 23:47:52 ID:a2k1Rktw0
祖母「前、うちに来た時よりか、綺麗になったたい。よかおなごだけん、それだけでよか」

父親「よかおなごだけん、余計心配たい! この間も縁家からまた縁談があったとに」

ハンジ「え? また話きたと? もーいい加減にしてよおお!」

ハンジが頭を抱えて大げさに嫌々していると、リヴァイの眉間の皺が更に悪化した。

ハンジ「おじちゃん? おばちゃん? それとも隣の……」

リヴァイ「ハンジ」

いい加減、我慢の限界だったリヴァイはそこで遮った。

リヴァイ「便所、貸してくれないか」

ハンジ「あ、ああ。いいよ。案内するね」

空気が一瞬、ひんやり冷えて食卓が静まった。

その気配にファーランとイザベルが顔を見合わせて心配そうにした。

イザベル「(小声)大丈夫かな? 兄貴」

ファーラン「(小声)さあなあ? 我慢の限界だったみたいだな」

イザベル「(小声)無理ねえよ。あれだけ飲んで、怒鳴らなかっただけマシだ」

2人がひそひそ話していると、ハンジの父親は今度はファーランとイザベルに話を振った。

899: 2015/10/02(金) 17:09:38 ID:8nUh66K60
父親「ところで、ちょっとよかね?」

ファーラン「なんでしょう?」

父親「2人に聞きたか事がある。リヴァイさんについて」

イザベル「兄貴の事?」

父親「あん人は、どぎゃん人ね? 2人は養子じゃなかとだろ?」

ファーラン「………そうですね。でも実質、リヴァイは俺達の家族です」

イザベル「俺達を助けてくれたんだ。兄貴がいなかったら、2人とものたれ氏んでたと思う」

父親「…………長か話になるとかな?」

ファーラン「最初から話せばそうですね。かいつまんで話せなくもないけど」

そこでファーランは一度、視線を逸らして迷いを見せた。

ここでリヴァイの事を聞きたがるという事は、ハンジの父親は既に事情を見抜いていると思っていいだろう。

ハンジの意向に沿うならば詳細は話さないのが正解だろう。

しかしリヴァイの方の気持ちを優先するとすれば、ここでだんまりを決め込むのも。

と、ファーランが計算していると、イザベルの方が先に口を開いてしまった。

イザベル「俺、小さい頃に両親に捨てられたんだ。ファーランも、似たようなもんだった」

900: 2015/10/02(金) 17:39:10 ID:8nUh66K60
ファーラン「イザベル……」

イザベル「2年前くらいだったかな。公園で2人でホームレスみたいな生活してたよな」

イザベルが話すと決めた以上、それに反対はしないファーランだった。

昔の事を思い出しながらふとファーランは視線を上にあげた。

ファーラン「もうそんな前になるか。そうだな」

イザベル「うん。兄貴に会うまで、俺はファーランと公園に住んでた。そこに、新聞配達をしていた兄貴と偶然出会って、事情を話したら『俺と一緒に来るか?』って言ってくれて」

父親「ご両親を探そうとは思わんとね」

イザベル「全然。借金残してどっか消えた親に今更会いたいとは思わねえし」

母親「まあ……」

イザベル「その辺のごちゃごちゃした事も、兄貴が全部、口出してくれて、なんだっけ。なんとか放棄っていうのをして」

ファーラン「財産放棄だな」

イザベル「そう、それだ。俺、まだ小さいし、払う能力もねえって事で見逃して貰えたんだけど。兄貴がいなかったら、今頃俺、どうなってたか分からねえ」

ファーラン「俺の場合は借金はなかったけれど、片親は新しい女を作って、ある日突然、どこかにふらっと消えました。それ以来、会ってません」

父親「なんと……」

ファーラン「そんな訳で、訳有りの子供を引き取って面倒見てくれるような面倒見の鬼のような男がリヴァイです」

901: 2015/10/02(金) 17:59:45 ID:8nUh66K60
イザベル「兄貴はすげえ男なんだぞ! 優しくて、几帳面で、掃除好きで、怒ると怖いけど……その、とにかく、カッコいいんだ!」

父親「だったらなんで2人を養子縁組にしとらんとかな?」

イザベルの主張を聞き流すようにしてハンジの父親が突っ込んできたのでファーランは少し不快な表情で返した。

ファーラン「それは……はっきりとは聞いていませんが、思うところがあるみたいで」

イザベル「そんなのはどうでもいいじゃねえか。何か不都合があるのかよ」

父親「そういう話じゃなかばってん………ふむ」

意味深な沈黙にイラッとしたのか、イザベルが立ち上がって抗議した。

イザベル「なんだよ! 兄貴に何か文句あるのかよ!」

ファーラン「イザベル」

イザベル「だって、なんか意味深にだんまりしてるし!」

はっきり物を言わない態度にイザベルは怒っていた。

リヴァイを値踏みするような態度だけでも腹が立つのに。

それをファーランが「どうどう」と馬を宥めるように押さえる。

ファーラン「話せる事はここまでですね。これでもしゃべり過ぎたくらいだ」

父親「ああ、すまなかったね。嫌な事を思い出させて」

902: 2015/10/02(金) 18:40:18 ID:8nUh66K60
ファーラン「いえ、それは別に。ただ………」

そこでファーランはイザベルを一瞥してから、父親の方を真剣に見た。

ファーラン「リヴァイの事は、リヴァイを見て決めて下さい。もし俺達を理由に評価されるとしたら、それは余りに悲しいんで」

父親「!」

父親「…………そぎゃんたいね」

ファーランの年に似合わないはっきりとした言い方にハンジの父親は背筋が伸びる思いだった。

一方その頃、席を外したリヴァイはハンジを便所のある廊下でハンジに詰め寄っていた。

ハンジ「え? あの、リヴァイ?」

用を済ませに来たのではなかったのか?

ハンジが戸惑い、首を傾けると、壁ドンならぬ足ドンでハンジに更に詰め寄り、

リヴァイ「………やっぱり駄目か?」

と、泣き出しそうな声で言い出したのだ。

903: 2015/10/02(金) 18:56:06 ID:8nUh66K60
ハンジ「え? 何が駄目って……」

リヴァイ「だから、ご両親に本当の事を話したら駄目かと聞いている」

ハンジ「いや、それはまずいって、前にも言ったでしょう?! もう分かったよね? うちの両親、口喧しくて過干渉なんだよ! バレたらその矛先が今度はリヴァイにむいちゃうよ!」

リヴァイ「俺はそれでも構わないと言ったら?」

ハンジ「は………?」

その時、首筋にリヴァイの唇が近づいてきて、噛みつかれるかと思った。

今のリヴァイは飢えた獣のように苛立っている。

リヴァイが何故、こんな状態になったのか理解出来ないまま、ハンジは声を落として言った。

ハンジ「な、なにを言っているんだよ。まだ駄目だよ! 今言ったらまずいって!」

リヴァイ「何がまずいんだ」

ハンジ「だ、だから……まず、一発は殴られるだろうし! 下手したら私、こっちに連れ戻されちゃうかもしれないのに!」

リヴァイ「一発や二発くらいどうってことねえ。殴られるのは覚悟の上だ。ハンジの進学については俺が絶対説得してみせる」

ハンジ「いや、うちの親、無茶苦茶頑固だから無理だって! ここまでくるのにどれだけ苦労したと思ってるの?!」

リヴァイ「だとしても、俺はこれ以上我慢出来ねえ」

ハンジ「なんで?!」

904: 2015/10/02(金) 19:05:55 ID:8nUh66K60
リヴァイ「お前、こっちに戻る度に縁談の話を振って来られるんだろ?」

ハンジ「あれは半分、冗談だよ! それにその話を受ける気はこれっぽっちもないし!」

リヴァイ「そうだとしても、だ!」

リヴァイはもう自分を誤魔化せなかった。我慢の限界だったのだ。

リヴァイ「そんな話を聞かされて、平静でいろという方が無理だ。俺が嫌なんだ!!」

ハンジ「!」

ハンジ「妬いて……るの?」

リヴァイ「そもそも何で妬かないと思うんだ。お前は」

ハンジ「あ、いや、その……ん……っ!」

その小さな隙を逃さなかった。

リヴァイは下から掬いあげるようにハンジを捕獲する。

便所のドアの前という、情緒の全くない場所だったけれど。

壁に追い詰めて、リヴァイはハンジの口の中に無理やり入っていった。

ハンジ(ま、待って……やっ……!)

最初の時の優しくてテクニシャンなキスとは雲泥の差だ。

905: 2015/10/02(金) 19:22:59 ID:8nUh66K60
乱暴で熱い。なのに拒めない荒々しいキスが襲い掛かってきた。

ハンジは流石に抵抗した。まさか実家で、こんな。

見られたら一発アウトな状況に陥るなんて!

ハンジ「駄目だって、リヴァ……あっ!」

息継ぎの隙に逃げ出そうとするも、完全に捕獲されている。

というか、こんなリヴァイは知らない。

強引で我儘な、リヴァイは。

ハンジ(ああもう、こんな状況なのに!!)

風呂上がりの体と、酒の微かな匂いと。

程よく火照った互いの体が密着して、離れがたくも思う。

ハンジの中では今日、真実を話すつもりは毛頭なく。

でもリヴァイの方はどうあっても、話したいと言っている。

ハンジ(だ、駄目なのに……ああっ!)

与えられる快楽の中でハンジは必氏に考えた。どうすればリヴァイを説得出来るのかと。

907: 2015/10/02(金) 19:42:02 ID:8nUh66K60
二律背反。悲しみと喜びが同時に存在するような。

複雑な表情を見せるリヴァイにハンジは何も言えなくなった。

リヴァイは茫然としているハンジに対して緩く抱擁して言った。

リヴァイ「………すまん」

ハンジ「え?」

リヴァイ「本当はハンジの判断が正しいと頭では分かっている」

ハンジ「…………」

リヴァイ「こういう部分が駄目なんだ。俺は肝心なところで、感情的な判断ばかりしちまう」

ハンジ「………そう、だね」

今までの事を振り返る。リヴァイは理性的でいるようで、時に感情的な判断で動いてしまう時がある。

ハンジ「確かに感情的な判断で動く時もあるね。うん。でもそれは、あなたの気持ちをないがしろにしていた私の方にも責任があるよ」

リヴァイ「…………」

ハンジは少し頭が冷えてきたおかげで自分が一方的だったことに気づいた。

隠しておきたいというのはハンジ側の都合であって、リヴァイからみたら同じだとは限らなかったのだ。

ハンジ「うん。私の方こそ御免なさい。自分の都合ばかりリヴァイに押し付けていた気がするよ。私の方こそ、御免なさい」

908: 2015/10/02(金) 20:05:45 ID:8nUh66K60
大事な事なので2回言いました。

昔、ハンジがそう言ったのを思い出してリヴァイは目を上げた。

でもそれは、言わせたような気もして。

リヴァイ「………いいのか?」

ハンジ「んー。正直に言えば怖いけどね。でも、しょうがないよ」

リヴァイ「…………ありがとう」

ハンジ「お礼を言うようなことじゃないってば! 大変なのはリヴァイの方だと思うよ。覚悟を決めてくれる?」

リヴァイ「ああ。何があっても、俺は引かねえよ」

そう言ってニヤリと口角を持ち上げるリヴァイにハンジも苦笑を浮かべるのだった。

そしてリヴァイがハンジと共に戻ってきた時。

何故かイザベルが立ち上がっていたのでリヴァイは「?」と思った。

何かあったような空気だった。ファーランが苦笑いしている。

909: 2015/10/02(金) 20:19:59 ID:8nUh66K60
イザベル「兄貴、おかえり」

リヴァイ「ああ、ただいま。何かあったのか?」

イザベル「姉ちゃんのお父さんにいろいろ聞かれた。兄貴の事も」

リヴァイ「………そうか」

その言葉で何となく察したリヴァイは気合を入れなおした。

その場で正座して、本当の事を話す覚悟を決めた。

リヴァイ「2人の態度に失礼があったのなら謝ります。すみません」

父親「いやいや、そぎゃんじゃなかとよ。あたたちの事を根掘り葉掘り聞いたこっちも悪かったたい」

リヴァイ「そうですか」

父親「ばってん……人の親だけんね。その気持ちはくんでくれんね?」

リヴァイ「はい。それは勿論」

突然、年頃の娘が男を連れて帰ってきたら普通そうなる。

例え「彼氏」として紹介されなかったとしても。

リヴァイは薄々気づいていた。

ご両親は既に勘づいていると。

910: 2015/10/02(金) 20:43:00 ID:8nUh66K60
リヴァイ「自分も子供を預かっている身ですので」

父親「ばってん、あたは2人と養子縁組しとらんとだろ? 本当の家族じゃないのは、なして?」

リヴァイ「…………理由はいくつかありますが」

そう前置きしてリヴァイは初めて自分の胸の内を話す事にした。

ファーランとイザベルにはもう話してもよい時期だと判断して。

リヴァイ「2人の親は事実上、育児放棄はしていますが、だからといって血縁関係である事には変わりありません」

父親「そりゃそぎゃんね」

リヴァイ「この場合、自分の方に養子縁組をするとすれば、双方の親と話し合い、その上で法律上の手続きをかわすことになるのですが……」

ファーラン「もしかして、行方不明だからそれも出来ないとかなのか?」

リヴァイ「いや、俺は既にお前らの親と連絡は取っている」

イザベル「! うちのクソ親に会ってたのか、兄貴!」

リヴァイ「うちで引き取った後、すぐに探した。探偵を使えば時間はかかるが探せない事はない。ファーランの父親はイタリアに、イザベルの両親もとある外国に移住していた。直接会った訳じゃなく、探偵が持っていたパソコンを通じての会話だけだったが……」

イザベル「一応、生きてたんだ」

リヴァイ「まあな。それで話し合った時、どうしても日本には戻れない。だからそっちの好きにしてくれと言われたんでな。だから俺はそうする事にしたんだ」

そこでリヴァイは一息ついてから続けた。

911: 2015/10/02(金) 21:02:18 ID:8nUh66K60
リヴァイ「俺がその時、縁組の手続きをしないという選択を取ったのは、お前達2人がある程度大きくなった時、選択の余地を残しておきたかったからだ」

イザベル「選択…?」

リヴァイ「大きくなった時、実の親に再会したい。もう一度、家族としてやり直したいと思う事もあるかもしれない。そうなった時、俺の子供になってしまったら、それも叶わないだろうが」

イザベル「そんな気遣い、いらねえよ! 俺は…」

ファーラン「リヴァイ、それはいくらなんでも……」

2人が同時に抗議しようとしたら、それを止めたのはハンジの父親だった。

父親「それだけじゃなかとだろ? 他にも理由があっとだろ」

リヴァイ「ええ。それは一つ目の理由で、もう一つ、あります」

ハンジは黙ってリヴァイの様子を見守っていた。

何となく予感していた。次の言葉は。恐らく。

リヴァイ「俺自身も、2人と似たような境遇で育ってきたんです」

父親「と、いうと……」

リヴァイ「父親は素性不明で、母親は6歳の時に病気で氏にました。俺を引き取ってくれた、母の知人に引き取られて15歳まで育ててもらいましたが、その知人も俺の元をある日突然、黙って去っていきました」

ハンジは思い出していた。リヴァイが話してくれた時の事を。

912: 2015/10/02(金) 21:26:17 ID:8nUh66K60
リヴァイ『余り人に言えないような生活をしてきている。まともに育っていねえよ』

リヴァイ『似たような境遇のイザベルとファーランと出会って、あの頃の俺を見るようだった。だから、血は繋がってねえけど自分の手元に置く事にした。単なる自己満足かもしれんが。あいつらは俺にとっての家族と同じだ』

リヴァイの言葉が繋がる。きっとそれが理由なのだと思った。

リヴァイ「俺は家族に去られる辛さを2度経験している。一度目は氏別で、二度目はある日突然で。だから重ねてみてしまった。せめてこいつらが社会に出て自立出来る年齢になるまでは、絶対に、傍にいてやると。何があっても守ってやりたいと。でも、2人を引き取った時点での俺はまだ、やっと世間に出られるようになった程度で、一人で生きるだけで精一杯だった。そんな状況だっていうのに、伸ばした手を引っ込める事は出来なかった」

しんと静まり返る和室の中に茶を注ぐ音が響いた。

どうやら見かねてハンジの祖母がお茶を用意したようだった。

茶を一杯頂きながらリヴァイはまた続けた。

リヴァイ「今の俺は朝の新聞配達と、本屋のパートで食い繋いでいる貧乏人だ。それでも2人は俺を信じて俺と一緒に居てくれる。苦労をかけているのは俺の方なのに。今の俺では、縁組する資格なんてないと思っている」

イザベル「兄貴………」

リヴァイ「すまん。俺のエゴだ。ただの自己満足と言い換えてもいい。収入が少なすぎる今の状態じゃ、審査も通るか怪しいもんだ」

イザベル「難しい事はどうでもいいのに……」

イザベルにとっては良く分からない話だった。

913: 2015/10/02(金) 22:32:58 ID:8nUh66K60
リヴァイはそんなイザベルを優しく見つめて、頭を振った。

リヴァイ「仕事に息詰まって、掛け持ちでやっていた警備員の仕事を辞めた直後、ハンジさん……彼女が俺の愚痴につきあってくれて、その時にびっくりするような事を提案されました」

ハンジ「!」

え、そこから説明するの?

と、ハンジは眼鏡の奥で驚いていたがリヴァイは構わず続けた。

リヴァイ「一緒に生活してしまえば家賃も半分で済む。だからルームメイトにならないかと。彼女に提案されました。当時はただのアパートの隣人で、職場の人間という関係だったのにも関わらず、彼女は俺達の為にあえてそう言ってくれた」

父親「あたは、その提案を飲んだんね?」

リヴァイ「………はい」

その直後、ハンジは父親の顔を見れずに顔を伏せた。

しかし意外にもハンジの父親は冷静に話の続きを聞いている。

リヴァイ「彼女と一緒に暮らすようになってから、自分の中に無視出来ない感情が出てきました。彼女を見ていると、幸せで、楽しくて、毎日が恐ろしくあっという間に過ぎて、たまには衝突する事もあったけれど、それでも離れ難い気持ちがどんどん膨れてきて、どうしようもない感情に振り回されるようになりました」

父親「…………」

リヴァイ「そんなある日、またちょっとした衝突があって、その件が切っ掛けでお互いの気持ちを知る事になりました」

父親「それはいつ頃の話ね」

リヴァイ「3月16日です。その日を境に、彼女とお付き合いをさせて頂く事になりました」

914: 2015/10/02(金) 22:48:50 ID:8nUh66K60
父親「…………はあ」

長い溜息が漏れていた。祖母の方は表情が全く変わらない。

母親はいつの間にか席を外していた。台所の仕事を片付けているようだ。

父親「………ハンジ、ちょっと部屋に戻りなさい」

ハンジ「え、なんで……」

父親「リヴァイさんと2人で話したいことがあるけんたい。子供達も」

ハンジ「え、え、でも……」

父親「男同士で話したいことがあっとたい。はよせんね」

ハンジ「………はい」

いきなり殴られるというような事がなかっただけほっとしたが。

ハンジ(なんか、お父さん、落ち込んでた…)

怒り狂うかと思っていたけれど、予想と違う反応だったのでハンジは戸惑っていた。

ハンジの祖母も黙って出ていき、襖が閉められてリヴァイは父親と2人だけになった。

父親「そぎゃん予感はしとったばってん、ねえ………」

目頭を押さえて感情を押し頃している様子だった。

915: 2015/10/02(金) 22:59:40 ID:8nUh66K60
父親「ハンジの方からだったとね? それは間違いなかんね?」

リヴァイ「はい。同居の件は彼女から……」

父親「違うたい、聞きたかのは、どっちが先に好いたのかって話たい」

リヴァイ「…………」

去年の9月頃から好いていた。そうハンジから聞いている。

でもリヴァイは冷静に自身を振り返った時に気づいた。

リヴァイ「好いたのは、自分の方が先でした」

そうだ。思えば初めてハンジに出会った時からずっと気になっていた。

ドアの前で茫然とする彼女を世話したあの日から。

何かとこちらを気にかけてくれる彼女が嫌いではなかった。

だからこそ、部屋に上がらせたのだし。仕事の仲介も受けたのだ。

自覚したのは彼女より遅かったかもしれないが。

無意識にハンジを好いていた。

そう考えれば、自分の方が先だ。とリヴァイは思った。

リヴァイの返事にハンジの父親は眉間に皺を寄せて言った。

916: 2015/10/02(金) 23:47:34 ID:8nUh66K60
父親「それはいつ頃ね」

リヴァイ「去年の3月、ハンジさんが引っ越してきてすぐくらいですかね」

父親「……だから安いアパートより、管理のしっかりした女性専用のマンションにせんといかんとあれほど(ブツブツ)」

リヴァイ「……………」

どうやら住居を決める際にもひと悶着あったようだ。

今更言ってもどうしようもない事だが。

父親「…あたは、最終学歴は?」

リヴァイ「中卒です。高校は出てません」

父親「職歴は、沢山あっとだろ?」

リヴァイ「はい。転職の経験はかなり」

父親「収入は不安定で、しかも訳有りの子供ば2人も抱えて、貯金も碌になかとだろ?」

リヴァイ「はい。その通りです」

何だか再び面接を受けているような気分になってきたリヴァイだった。

父親「………体に病気はなかね?」

リヴァイ「健康なのが唯一の取柄ですかね」

917: 2015/10/02(金) 23:55:02 ID:8nUh66K60
父親「最後に、大事な事を聞くばってん……将来はどうするつもりでおるとね?」

この質問の答えを間違えたら面接に落ちるな。

と、直感が働いたので、リヴァイは覚悟を決めた。

偽りのない、今の自分の気持ちをそのまま伝える。

部屋に戻ったふりをして、襖越しにハンジはリヴァイと父親の会話を盗み聞きする事にした。

父親「………体に病気はなかね?」

リヴァイ「健康なのが唯一の取柄ですかね」

父親「最後に、大事な事を聞くばってん……将来はどうするつもりでおるとね?」

話の途中からだったが、ハンジは2人の会話を聞いている。

リヴァイはそこでこう答えた。

リヴァイ「俺はあいつらの為にも今住んでいる町を離れる訳にはいきません」

918: 2015/10/03(土) 00:16:07 ID:D1R3q1G.0
父親「それは今の仕事ば続けていくということね?」

リヴァイ「はい。幸い、今勤めている職場の店長から、将来的には契約社員にならないかと誘われています。近い将来、ある程度の安定した生活は出来るようになると思います」

父親「本屋の仕事だけで、子供ば育てるのは難しかろ」

リヴァイ「そうですね。でも、クビにならない限りは続けます。彼女に勧められた仕事なので」

父親「………もったいなかね」

溜息が、ひとつ落ちた。

父親「あたはよか体しとる。農業には興味なかと?」

リヴァイ「興味あります。また、こちらに休みの日に伺っても宜しいですか?」

父親「そりゃ勿論、よかばってん…………また手伝ってくれると?」

リヴァイ「暫くは出来るだけこちらに来ます。今日は収穫と梱包の手伝いしかしていませんし、今度来た時にもっといろいろ教えて下さい」

父親「そうか……それは良かった」

そしてハンジの父親はがしっとリヴァイの両手を包んだのだった。

ハンジ(え? え? つまり、どういう事なの?)

不穏な空気は全くなく、むしろ円満に話が終わったようだった。

919: 2015/10/03(土) 00:31:18 ID:D1R3q1G.0
父親「かあちゃーん! 焼酎ばだしてええ!」

母親「はいはい。用意しときましたよ」

母親は何となく予想していたのか、2次会の準備をしていたようだ。

母親が襖を開けると、そのせいでハンジが盗み聞きしていたことがバレた。

ハンジ「げっ……」

父親「ハンジ! なん、そこおっとね! はしたなか!」

ハンジ「ごめん、気になってつい……」

父親「ま、よかたい。晩酌せんね。リヴァイさんに注いでやらんね!」

ハンジ「え? あ、うん……」

ハンジ「…って、待って! もう8時過ぎなんだけど、そろそろ向こうに帰らないと!」

父親「そぎゃんだったね。泊まっていかれんとだったね」

父親「なら焼酎は持たせるけん、米も持たせてやらなんね!」

母親「もう車に積ませたけん心配せんちゃよか」

父親「トマトは? この間、おばちゃんから貰った芋もあったろ?!」

どんどん土産を持たせる気のようだ。

920: 2015/10/03(土) 00:58:06 ID:D1R3q1G.0
この急展開にハンジの両目がぐるぐる回っていた。

ハンジ「お父さん、いいの……?」

てっきり怒られると思っていたのに。ハンジがそういうと、

父親「そりゃ本音はクビば絞めてやりたかばってん、腰痛めとる時にそれは出来んたい」

ハンジ「うっ……」

父親「それにリヴァイさんは農業に興味あらすそうだけん、ぼちぼち教えていかなんたい」

ハンジ「え? え? そ、そうだったの?!」

リヴァイ「ああ、言ってなかったな。今日1日、凄く楽しかったぞ」

ハンジ「聞いてないよおおおお! え、でも、それじゃあ……」

ハンジはその先の言葉を言うのを躊躇った。

これじゃあまるで、その、なんだ。

ハンジ「でもリヴァイ、昔言ってたじゃないか!」

リヴァイ「ん? 何の話だ」

ハンジ「リヴァイには夢があるって! 人には言えないけれど、夢があるなら、その妨げにならないの?」

リヴァイ「……ああ」

921: 2015/10/03(土) 01:15:37 ID:D1R3q1G.0
成程。合点がいった。

ハンジはどうやら勘違いをしていたようだ。

あの時、語らなかった夢のせいで、ハンジは余計に気を回していたようだ。

リヴァイ「確かに夢がある。他人から見たら大した夢じゃねえだろうけどな」

ハンジ「え?」

リヴァイ「いつか4人で海外旅行に行ってみたい。それが俺の今の「夢」だ」

ハンジ「…………」

リヴァイ「旅行先でハンジがスマホで写真を撮ってくれればそれでいい。その為なら、俺はいくらでも頑張れる」

ハンジ「それって、つまり……」

リヴァイ「ハンジと一緒にいる為に将来的に農業を継ぐ必要があるなら、それでも構わないと言っている」

ハンジ「…………」

リヴァイ「勿論、今すぐに移住は無理だけどな。今はあいつらを優先したい。2人が落ち着くまでは、こっちの件は手伝う程度しか出来ねえが」

ハンジ「待って。リヴァイ、待って。それって、つまりは」

まるで結婚を前提に話を進めているようじゃないか。

その言葉を言ってしまえば、もう後には戻れない気がして。

922: 2015/10/03(土) 01:47:25 ID:D1R3q1G.0
ハンジ「だ、駄目だよ! そんな軽はずみに将来の事を決めたりしたら、だって、それはまるで、リヴァイが私の犠牲に……!」

リヴァイ「違う。ハンジ、それは違う」

そこでリヴァイはきっぱり否定した。

リヴァイ「むしろ俺は、お前に嫉妬すらしている」

ハンジ「えっ……」

リヴァイ「家族がいて、家があって、土地があって、綺麗な空気を吸って、太陽の光を浴びて、健やかに育ったお前が心の底から羨ましい」

ハンジ「!」

リヴァイ「俺はお前とは到底釣り合わない。生まれや育ちが違い過ぎているのも分かっている。だけど俺は、そんなお前に出会えて良かったと今、心の底から言える」

ハンジ「リヴァイ………」

リヴァイ「付き合い始めて間もない時に、こんな事言うのは変かもしれんが、俺は真剣にハンジとの将来を考えている」

ハンジ「…………」

リヴァイ「これが今の俺の答えだ。ハンジ、今更離れるなんて言うなよ」

そう言ってリヴァイはハンジを自分の方に引き寄せた。

その様子に父親が「ごほごほ」わざとらしく咳をする。

923: 2015/10/03(土) 01:58:40 ID:D1R3q1G.0
父親「はよ帰らんね。明日も仕事あっとだろ?」

リヴァイ「……すみません」

父親「今日は時間がなかけんね。またゆっくり出来る時にきなっせ」

リヴァイ「はい。お邪魔させて頂きます」

そしてバタバタと帰り支度をしてハンジが車を飛ばしてアパートに帰り着いた。

夜の10時を過ぎた時間に玄関を開けて、子供達は明日の為に先に寝かせる。

何だか怒涛の1日だった。

特にハンジにとっては頭の中が煩雑にならざる負えなくて。

ハンジ(どうしよう……)

未だ嵐が吹き荒れているようだった。

草食動物だと思って近づいた動物が実は恐ろしい獣だったような。

ハンジ(私、何だかとんでもない人を好きになっちゃったのかもしれない)

今日のリヴァイは普段の彼とは違った。

荒々しく、強引で、そして頑固で。

今までのイメージと違った。いや、もしかしたら本当は。

924: 2015/10/03(土) 02:25:18 ID:D1R3q1G.0
獣はまだ眠らない。

酒の匂いを隠さず、ハンジの傍から離れなかった。

リヴァイはハンジの後ろから背中に顔をつけて離れなかった。

体重を乗せてハンジを布団の上に誘導する。

今夜はもう、2人を邪魔するものは何もない。

朝の仕事まで5時間弱程度。

それだけの時間があれば十分だと、リヴァイは考えていた。

リヴァイ「今夜、いいか?」

ハンジ「待って、ちょっと待って……」

リヴァイ「なんで」

ハンジ「心臓が、やばいの。緊張して……」

初めて気持ちを確認しあった夜よりも重くて苦しい夜だった。

ハンジはその時、理由に思い当たった。やっと気づいたのだ。

リヴァイの表情がまるで違う。

普段の眉間の皺が消えて、眠っている時の彼の眉の形だ。

925: 2015/10/03(土) 02:48:56 ID:D1R3q1G.0
今のリヴァイはスーパーイケメンタイムとでも言おうか。

眉間の皺が消えた彼は、普段の3割増しに格好がいい。

それを人は「ただのイケメン」と呼ぶ事もある。リヴァイは元々イケメンなのだ。

普段は眉間の皺のせいで、その効力が少し落ちていただけで。

ハンジ(ぐはああ! 気づいたら余計に緊張してきた!?)

つまり、あの時も、それに無意識に気づいてしまって、思わず臆したのだろうか。

いや、違う。それだけじゃない。

それも理由なのだとは思うけど、それだけじゃない。

リヴァイから発する空気も何か違う。

リヴァイ「俺の方がヤバいと思うけどな」

リヴァイはハンジの耳を自分の胸につけてやった。

確かに、早かった。まるで短距離走を走った直後のように。

リヴァイ「ハンジ……聞いてくれ」

ハンジ「な、なに?」

928: 2015/10/03(土) 21:05:56 ID:D1R3q1G.0
リヴァイ「俺はお前が思っているような『いい人』じゃねえと思う」

ハンジ「へ?」

突然、何の話だろうか? 脈絡が見えなくてハンジが戸惑う。

ハンジ「えっと、つまりどういう事だい?」

リヴァイ「親切で優しいだけの男じゃねえってことだ」

ハンジ「…………」

リヴァイの手がハンジの頭をぎゅっと固定している。

そしてリヴァイは今まで溜め込んできた想いを一気に吐き出していった。

リヴァイ「本当は誕生日に料理の本を貰ったあの時、ハンジにキスしたくて堪らなかった」

ハンジ「えっ……」

リヴァイ「エルヴィンの奴を助手席に乗せていた時は吐き気がする程、嫉妬したし」

ハンジ「えっ……!」

リヴァイ「パソコンで作業している時は、後ろから作業を邪魔してやりたくて堪らねえし」

929: 2015/10/03(土) 21:12:42 ID:D1R3q1G.0
ハンジ「ええっ……?!」

リヴァイ「助手席に乗っている時は、ハンジの横顔にいつも見惚れている」

ハンジ「っ……!」

リヴァイ「赤信号の時は太ももを触りたくなってくるし」

ハンジ「それは、だ、駄目だよ?!」

リヴァイ「分かっている。でも、動けない時のハンジにこう、悪戯するのが楽しくてしょうがねえ(ワキワキ)」

空いている手でいやらしくその動きを表現すると、ハンジはあの時の事を思い出した。

ハンジ「あ、だから、まさか……」

リヴァイ「膝小僧、最高だったな」

ハンジ「え、それって、つまり……その」

リヴァイ「そうだ。つまり、俺はそういう奴なんだよ」

ハンジ「…………」

ニュアンスが伝わってハンジは眉毛を八の字にせざる負えなかった。

考え込んでいるハンジにリヴァイの抱擁の力が高まって。

リヴァイ「なあ、ハンジ。今夜は俺の好きにさせてくれねえか?」

930: 2015/10/03(土) 21:46:44 ID:D1R3q1G.0
ハンジ「と、いうと……?」

ハンジが少しだけ青ざめて問うと、リヴァイは嬉しそうにとんでもない事を言い出した。

リヴァイ「そうだな。例えばマヨネーズでも乳首に塗りたくって舐めてみてえな」

ハンジ「え、ええええ?!」

リヴァイ「ベランダに出て夜空を眺めながらやるのもいい」

ハンジ「ちょ……!」

リヴァイ「風呂を泡だらけにして泡プレイも捨てがたい」

ハンジ「えええ?!」

リヴァイ「バスタオルで縛って目隠しするのも有りだと思っている」

ハンジ「…………」

その時ハンジは気づいてしまった。リヴァイはまだ酔っていると。

顔の赤みは殆ど消えているけれど、理性が大分緩んでいるようだ。

リヴァイ「裸エプロン姿が見てえええええ(ぎゅううう)」

ハンジ「ちょ……声大きいよ! リヴァイ!」

931: 2015/10/03(土) 22:07:41 ID:D1R3q1G.0
リヴァイ「………すまん(シュン)」

リヴァイ「そして正直に言えば、今すぐハンジの中に出したい(キリッ)」

ハンジ「それは1番、駄目だって! (ガビーン)」

リヴァイ「分かっている。分かっている。分かっているんだが………」

まるで子供の様にだだこねだしたリヴァイにハンジはくらくらしてしまった。

イメージがどんどん崩壊していく。今までの綺麗なリヴァイが全て霧散していく。

だけどその時、リヴァイは声を落として言った。

リヴァイ「お前とずっと一緒に暮らしたい」

ハンジ(ドキッ……)

リヴァイ「その気持ちに嘘偽りはねえ。気が早過ぎるかもしれんが、俺の方こそ、重いのかもしれねえが」

ハンジ「リヴァイ……」

リヴァイ「好きだ。多分、初めて会った、あの日からずっと……ハンジの事が、好きだったんだ」

ハンジ「っ………」

迫ってきたリヴァイの唇を拒むことはなかった。

震えていた初めてのキスよりも。探るようなキスよりも。今、この瞬間のキスが、一番素敵だと思えた。

932: 2015/10/03(土) 22:38:03 ID:D1R3q1G.0
ハンジ(私、思っていた以上に、リヴァイに愛されていたんだね)

斜めの方向で変態チックに愛されている部分もあるようだけど。

ハンジ(正直に言えばびっくりしたけれど……)

そうか。リヴァイが強く求めてきた時にびくっと体が反応してしまったのは。

ハンジ(こういう男のリヴァイを知らずにいたせいか)

知ってしまえばもう不思議と体が拒否しない。

部屋の明かりをつけたまま、2人は布団の上で激しく絡み合った。

ハンジ(ズーン)

リヴァイ『おい、そこのメガネ』

ハンジ『はい?』

リヴァイ『さっきからずっとドアの前で体育座りしてんじゃねえ。体冷やすぞ』

933: 2015/10/03(土) 23:07:07 ID:D1R3q1G.0
ハンジ『家の中に入れないんだよおお! 鍵なくしちゃった……(ズーン)』

リヴァイ『はぁ? 何やってんだ。お前』

ハンジ『どっこで無くしたんだろう……ううううっ』

リヴァイ『泣いている場合か。そういう時はまず大家に連絡しろ。それからだろうが』

ハンジ『そ、そっか……それもそうだね。うん』

ハンジ『スマホ、スマホ……』

ハンジ『しまった! 電話番号、登録してなかった!』

リヴァイ『………ちっ。ちょっと待ってろ』

リヴァイ『おらよ。大家の連絡先だ。この番号に電話しろ』

ハンジ『あ、ありがとうおおお!』

ハンジ(ぷるるる)

ハンジ『はい、すみません。105号室に入居しました、ハンジ・ゾエと申します。その、鍵をですね…』

ハンジ『はい、はい。お手数かけます。はい、では宜しくお願いします』

ハンジ『良かったあああ! 合鍵でとりあえず開けてくれるって!』

ハンジ『鍵は新しく作り直す事になったよ。本当に助かったよおお』

934: 2015/10/03(土) 23:20:03 ID:D1R3q1G.0
リヴァイ『そうか。よかったな。じゃあな』

ハンジ『待って! あなた、お名前は……』

リヴァイ『リヴァイだ。リヴァイ・アッカーマン。106号室に住んでいる』

ハンジ『お隣さんだったのね。これからお世話になります。後でご挨拶に伺ってもいい?』

リヴァイ『夜と朝は仕事で出かけている事が多いから昼間ならいい』

ハンジ『え、そうなの? なら明日のお昼頃、ご挨拶させて頂くね!』

リヴァイ『ああ』

リヴァイ『本当に来やがった』

ハンジ『来るよ! こういうのって初めてだから何をあげたらいいか良く分からなかったけど、どうぞ!』

リヴァイ『ふむ。どうも(洗剤か。まあまあだな)』

935: 2015/10/03(土) 23:29:39 ID:D1R3q1G.0
リヴァイ『じゃあな(*ドア閉める)』

ハンジ『ちょ! いきなりドア閉めないで! ちょっとお話しさせて!』

リヴァイ『ああ? なんだ』

ハンジ『あのね。この町内費っていうのは何? 回覧板は適当にまわしていいの?』

リヴァイ『ああ、その件か。それについては……』

リヴァイ『……………………というやり方になっている』

ハンジ『成程! 理解したよ! ありがとう!』

リヴァイ『何かトラブルが起きたらすぐに大家に連絡しろ。鍵無くした時もそうだったが、そういう時は大家に連絡すりゃいいんだ』

ハンジ『その発想がなかった! あの時は、本当にごめんなさい(シュン)』

ハンジ『リヴァイさんのおかげで本当に助かったよ』

リヴァイ『………リヴァイでいい』

ハンジ『え?』

リヴァイ『洗剤、助かった。ありがとう』

ハンジ『いえいえ! 気に入って貰えたなら嬉しいよ!』

936: 2015/10/03(土) 23:55:15 ID:D1R3q1G.0
ハンジ『リヴァイ、こんにちはー!』

リヴァイ『あ? ああ……こんにちは』

ハンジ『スーパーまで買い物に行ってたの?』

リヴァイ『夕方のセールは逃せないからな。そっちは…』

ハンジ『今日はお休みだよ。コンビニ帰りかな』

リヴァイ『ふーん』

ハンジ『コンビニの菓子パンはどれも外れがなくていいね。毎日食べても飽きないよ』

リヴァイ『そうか(菓子パンなんて久しく食ってねえな)』

ハンジ『アンパンとか好きなんだ。甘いのだったらなんでも好きだけど』

リヴァイ『ふーん』

937: 2015/10/04(日) 00:05:20 ID:vtth9rAQ0
ハンジ(ありゃ? 甘いものは興味ないのかな)

ハンジ(何か他に話題は……)

リヴァイ『おい、余計なお世話かもしれんが』

ハンジ『な、なに?』

リヴァイ『出かける時は洗濯物を部屋の中に入れてから出た方がいいぞ』

ハンジ『え? なんで』

リヴァイ『下着泥棒にでも狙われたらどうする』

ハンジ『ええ? 盗まれることあるの??』

リヴァイ『女物はあるぞ。お前、女だろ?』

ハンジ『おお? よく見抜いたね。男に間違われることも多いのに』

リヴァイ(外におもっくそ女物の下着を干してた癖によく言う)

ハンジ『分かった。出来るだけ注意しておくよ! ありがとう!』

938: 2015/10/04(日) 00:09:52 ID:vtth9rAQ0
リヴァイ『一応、先日、注意したんだけどな……』

リヴァイ『あいつ、すっかり忘れて出ていきやがったな』

リヴァイ『信じられねえことに、物干し竿に洗濯ばさみで吊るす方のアレでパンツ干してやがる』

リヴァイ『丸見えだっつのに。普通、下着類は折り畳み式の奴で下に干すだろう』

リヴァイ『もしくは部屋干しだ。俺はイザベルの下着も念の為に部屋で干すのに』

リヴァイ『知らねえぞ。何かあってからじゃ、どうにもならねえのに』

リヴァイ『………隣のベランダを見てる場合じゃねえな』

リヴァイ『これはどういう状況だ』

リヴァイ『ああ、そうか。なんか見覚えあるぞ』

リヴァイ『隣のあいつの下着がうちに飛んできたのか……台風のせいだな』

939: 2015/10/04(日) 00:20:23 ID:vtth9rAQ0
リヴァイ『あ、ちゃんと全部、名前が書いてある。なんでこういうところはマメな癖に洗濯物を忘れていくんだ?』

リヴァイ『ふー(溜息)』

リヴァイ『勝手に捨てるのもな。一応、洗って返してやるか』

ハンジ『え? それってもしかして……』

リヴァイ『台風のせいだろうな。うちのベランダに飛んできたみたいだから返す』

ハンジ『え、あ、その……あ、ありがとう!』

リヴァイ『どういたしまして。これに懲りてちったあ洗濯物に気を遣えよ』

ハンジ『あ、うん。そ、そうするよ。ごめんね。気遣わせて、あはは……!』

ハンジ(やばあああ! なにこれ、超恥ずかしいんだけどおおお!?)

リヴァイ(やれやれ。世話の焼ける女だ)

940: 2015/10/04(日) 00:33:34 ID:vtth9rAQ0
リヴァイは気づいた。

偶然だろうか。あの時、洗った下着を、何故か彼女は今日も身に着けている。

綿100%の緑色の水玉のパンツだ。フルネーム入りの。

リヴァイ「おい、これはなんだ」

ハンジ「え? 何が?」

リヴァイ「まだ、はいてやがったのか」

ハンジ「え? あ、うん……捨てるわけないでしょ」

リヴァイ「物持ちいいな。お前。確かそれ、ゴムのところがかなり緩んでいただろ?」

ハンジ「こ、この緩み具合が着心地よくて、つい……色気なくて御免」

さっと視線を逸らして謝るハンジにリヴァイは啄むキスを与えた。

959: 2015/10/04(日) 22:45:33 ID:vtth9rAQ0
そして月日はあっという間に流れて。

リヴァイとハンジは順調に同棲生活を過ごしていって。

気が付けば、9年の月日が過ぎていった。

テロテロテロ……

自動ドアが開いた。学生服に身を包んだ少年がレジの前にやって言った。

エレン「すみません。注文していた参考書が届いたと聞いたんですけど」

リヴァイ「ああ、エレン。久々だな」

エレン「ご無沙汰していてすみません。リヴァイ店長」

中学校を卒業したばかりのエレンがリヴァイを見下ろしていた。

小さかった6歳の少年はもう15歳になった。

誕生日がきたばかりの彼は今年の4月から高校1年生になる。

961: 2015/10/04(日) 23:00:37 ID:vtth9rAQ0
リヴァイ「てめえ、またでかくなったな……」

エレン「成長期っすからね。もう170センチありますよ。リヴァイ店長は相変わらずですね。年齢不詳で」

リヴァイ「馬鹿言え。俺もそれなりに老けた。三十路過ぎたしな……高校の方は無事に受かったのか?」

エレン「まあ、一応。スポーツ推薦でなんとか」

リヴァイ「ほう。それは良かったな。どこの高校に行くんだ?」

エレン「ははっ……別冊高校です。付属高校なんで、大学も多分、推薦で行きます」

リヴァイ「工業系の高校か。あそこはバリバリの体育会系だって聞くが、大丈夫か?」

エレン「あーまあ、運動神経はそれなりにあるんで、多分大丈夫ですよ。俺、親父に似てないし、頭はあんまりよくねえから」

リヴァイ「いつも一緒に居た幼馴染達はどうなったんだ?」

エレン「ミカサも同じ高校です。アルミンも機械工学科に受かったんで、クラスは違うけど一緒の高校になりました」

リヴァイ「そうか。それならよかったな」

エレン「はい! 学校からここ、近いんで、また漫画買いにきます!」

リヴァイ「それは助かる。どんどん買っていってくれ」

リヴァイ「参考書はこれだな。ほれ、会計」

エレン「あ、はい。領収書も一応、お願いします」

962: 2015/10/04(日) 23:14:23 ID:vtth9rAQ0
会計を済ませていると、今度は電話が鳴った。

リヴァイ「ぺトラ、頼む」

ぺトラ「あ、はい」

ぺトラ「お待たせしました。こちら明進堂書店調査店でございます」

ぺトラ「はい。はい。少々お待ち下さい。在庫を確認して参ります」

ぺトラ「リヴァイ店長、抜けます」

そしてぺトラはレジを抜けて在庫を確認しに行った。

エレン「綺麗な人ですね。新しいバイトの方ですか?」

リヴァイ「そうだな。なんだ? お前、ああいうのが好みか」

エレン「ち、違いますよ! ちょ、ニヤニヤしないで下さいよ!」

リヴァイ「ぺトラは今、フリーだと言っていた。粉かけるなら、店の外でやれよ」

エレン「だから違いますって! そういうリヴァイ店長こそ、あれからどうなったんですか?」

リヴァイ「ん? ああ……まあ、ようやくってところか」

左の薬指には銀色のリングが嵌められていた。

リヴァイ「結婚した。今月、やっと籍を入れた」

963: 2015/10/04(日) 23:30:21 ID:vtth9rAQ0
エレン「おおお……それはおめでとうございます」

リヴァイ「ありがとう。まあ、詳しい事はまた今度話す。住所も変わったからな」

エレン「そうなんですか。今、どの辺に住んでいるんですか?」

リヴァイ「ハンジの職場のすぐ近くだ。製薬会社の隣に住んでいる。ここからだと車で1時間程かかるか」

エレン「結構、遠いお住まいですね」

リヴァイ「まあ、ハンジの方の仕事を優先しているからな。そこは仕方がねえ」

リヴァイ「…………おい、そんなに睨むなよ」

エレン「え?」

睨んだつもりはなかったエレンは驚いた。

すると、後ろから声が。

ミカサ「別に。エレン、会計が終わったなら早く帰ろう」

エレン「おま、いつの間に背後に?! 気配消すなよ!」

ミカサ「早く帰ろう。長居は無用」

エレン「ええ? いいじゃねえか。久しぶりにリヴァイ店長に会ったのに」

ミカサ「参考書、アルミンの分でしょう? アルミンも待ってる」

964: 2015/10/04(日) 23:47:23 ID:vtth9rAQ0
リヴァイ「なんだ。自分の勉強用じゃなかったのか」

エレン「え? ははは……頼まれていたんで」

リヴァイ「今度、イザベルのグラビア写真集が出るぞ。ついでに予約していかないか?」

エレン「リヴァイ店長!! それを今、言わんで下さい!! (ガビーン)」

ミカサ「グラビア? エレン、グラビア写真集なんか買うの? (ゴゴゴ…)」

エレン「だ、だって、まさかあのイザベルさんが芸能人デビューするなんて思わなかったし! オレ、昔遊んでもらった事あるんだよ! だから、その……」

ミカサ「そんなの関係ない。あんな赤髪の女のどこがいいの……?」

リヴァイ(俺もまさか、イザベルが芸能界デビューをするとは思わなかったがな)

イザベルは昔から可愛かったけれど。

ファーランの英才教育のおかげか、本当にそっち方面で活躍するようになるとは。

イザベルの事を思い出しているとその時、今度は意外な顔が自動ドアを開けた。

エルヴィン「やあ、リヴァイ店長。元気かな?」

リヴァイ「エルヴィン。何し来た。今日は休みか?」

エルヴィン「うん。暇だからついでに集品に来ちゃった」

リヴァイ「休みの日まで仕事するなよ……」

965: 2015/10/05(月) 00:02:41 ID:mnT9ZQqQ0
エルヴィン「というのは口実で、リヴァイの顔を見に来たんだよ。調査店の様子はどうかなと思ってね」

リヴァイ「……相変わらずだ。常に売り上げはギリギリで、今月も予算達成ギリギリだ」

エルヴィン「どこも似たようなものか。巨人店の方も常にギリギリだよ」

リヴァイ「それでも何とか持っているのは、うちのパートアルバイトが優秀だからだろうな。一人で三人分の働きはしてくれる」

エルヴィン「それを言ったらリヴァイもそうだったよ。一時期やばかった調査店も、君が居たから閉店を免れた」

リヴァイ「俺もあの頃は必氏だったからな……」

ハンジとの同棲をし始めた年。調査店は一度、閉店の危機に瀕した。

そしてリヴァイは生まれて初めて、仕事に対して真剣に向き合う事になった。

潰させたくない。その思いで店の中を改装し、接客態度や、スタッフとの連携を意識して仕事をするようになると、次第に店の売り上げが持ち直してきた。

特にスタッフ同士の交流が密になってからは仕事の循環もよくなった。

2年後、リヴァイが契約社員に昇格した頃、イザベルからとんでもない報告を受けた。

イザベル『俺、芸能人になりたい……』

イザベルが11歳の年。リヴァイに内緒で書類を出したら書類審査が通ってしまった。

そしてイザベルに言われてしまったのだ。

イザベル『兄貴が俺達を理由に自由に生きていけないのは嫌だ』

966: 2015/10/05(月) 00:30:01 ID:mnT9ZQqQ0
イザベルはハンジの父親との会話をきっかけに、もっと早く自立したいと思うようになったと言った。

リヴァイにしてみればそれは違うと言いたかったが、イザベルの決意は固く、オーディションを受ける事になり、12歳という若さで本当にデビューを果たす事になる。

そして残されたファーランもまた、高校進学という道を選ばず、中卒で社会に出る事を決意した。

元々顔が良かったのと、女性の扱いに長けていたファーランは夜の花道で十分、生きていけるようになってしまった。

2人がリヴァイの元を離れ、2人きりの同棲生活になったものの、今度はハンジの方が大学を卒業後、インターンの関係で凄まじく忙しくなり、徐々にすれ違いの生活が続いてしまった。

1人の時間が出来た時、リヴァイはふと気づいてしまった。

リヴァイ(人は、結局は孤独なんだな……)

孤独感を再び味わうようになると、リヴァイはふと、思い出した。

エルヴィンが以前、言っていた言葉を。

エルヴィン『生きている実感を覚える瞬間のような物だ。仕事中にそういうのはないのか?』

エルヴィン『うん。実った果物を収穫するような感覚と言えばいいかな』

エルヴィン『だったらリヴァイはそれに関わる仕事をしていくのもひとつの手だと思うよ』

あの言葉が酷くざわめくようになり、リヴァイは頭を悩ませる事になる。

967: 2015/10/05(月) 01:04:17 ID:mnT9ZQqQ0
ハンジの実家からは、子供達が自立したのならすぐにでも農業を継いで欲しいといわれるようになるし、早く結婚して跡継ぎを産んでくれというプレッシャーをかけられて、ハンジがキレだした事もあった。

そのストレスが原因で、一時期は別れ話になりかけた事もあった。

でもリヴァイはハンジと別れるという選択をしなかった。

ハンジと別れてしまったら、自分には何も残らないような気がしたのだ。

ハンジを愛していると言いながら、結局は自分の為にしか行動出来ない自分に嫌気がさした。

そしてその頃、リヴァイはハンジが何故、医者を志すようになったか。その理由を知る事になる。

ハンジ『私のおじいちゃん、ガンで若い頃に亡くなっているんだ。そういう家系だから、私もいつそうなるか、分かったもんじゃないんだよ』

だから結局、自分の為にこの道を選んだのだと。

そう話を聞いた時、リヴァイの中で、何かが噛みあったを感じた。

リヴァイ『自分の為に……か』

ハンジ『うん。人間の根本的な部分だと思うよ。私も、結構自分勝手な人間だと思っている』

リヴァイ『……………』

ハンジ『周りに流されて道を選ばないで欲しい。うちの両親はあなたに継いで欲しいと思っているけれど、それはあなたがもし、私への愛情が薄れた時に、あなたの将来の足枷になってしまうよ』

リヴァイ『俺の愛情を信じられないのか?』

ハンジ『そういう話じゃないんだ。どう、言ったらいいんだろう。難しいね。今すぐ、あなたと結婚して子供を身籠れる事を幸せだと思える女だったら、世界は全てうまく回るんだけど』

968: 2015/10/05(月) 01:23:27 ID:mnT9ZQqQ0
リヴァイ『……………俺はお前みたいに頭が良くねえ。だから話の半分も理解してねえかもしれねえが』

そこでリヴァイは彼女に伝えた。

ありのままの自分を曝け出して伝えたのだ。

リヴァイ『ただ、一つだけ言えるのは、後悔したくねえって事だけだ』

ハンジ『後悔……?』

リヴァイ『ああ。ケニーに置いて行かれた時、俺は黙ってあいつを見送った。イザベルも、ファーランも、本当は引き止めたかったのに、結局は見送ってしまった』

ハンジ『……まあ、あの子達の件については私にも責任があるよね』

リヴァイ『いいや。ハンジのせいじゃねえ。俺がもっと、あいつらと腹を割って話しあわなかったのが悪かったんだ』

ハンジ『…………』

リヴァイ『本屋の仕事は悪くねえ。忙しいが遣り甲斐がある。農業も悪くねえ。空気もトマトも両方美味い』

ハンジ『うん……』

リヴァイ『どちらが上で下とか言えねえ。どちらも良さがあるし、どちらも楽しいと思っている』

ハンジ『うん…………』

リヴァイ『ただ、どちらの仕事も、ハンジが居なければ俺には到底、縁がなかったと思う』

ハンジ『………そうかもしれないね』

970: 2015/10/06(火) 05:06:15 ID:NA8rnzUc0
リヴァイ『昔、エルヴィンに聞かれたことがある』

ハンジ『ん?』

リヴァイ『仕事中に、生きている実感を覚えるような瞬間はないか? と』

ハンジ『エルヴィンが?』

リヴァイ『そうだ。その質問をされた当時は、それを仕事中に感じた事は一度もなかった』

ハンジ『そうなんだ』

リヴァイ『でも今は違う。仕事をしている時でも、生きている実感を味わう事が出来るようになった』

ハンジ『……………』

リヴァイ『ハンジのおかげだ。俺は多分、ハンジに関わる仕事をして生きていきたいんだ』

ハンジ『え? 私?』

リヴァイ『お前が欲しいんだ』

ハンジ『!』

リヴァイはその時、ハンジの左手を奪い、掌に閉じ込めた。

リヴァイ『お前の為じゃねえ。俺は俺の自身の為に、お前が欲しい』

ハンジ『…………』

971: 2015/10/06(火) 05:21:01 ID:NA8rnzUc0
リヴァイ『子供が欲しくないならそれでも構わねえ。ハンジのご両親には申し訳ねえが、俺はハンジの意向を優先する』

ハンジ『ちょ……リヴァイ、何を言って』

リヴァイ『どんな条件だって呑んでやるから、どうかこの掌の中の物を受け取ってくれ』

恐る恐る開けた中を確認すると、予想していた物がそこにはあった。

銀色の指輪が鈍く光り、ハンジは仰天した。

ハンジ『いつの間に買ったの? これ高かったんじゃ』

リヴァイ『値段は聞くな。頼むから』

ハンジ『だって! リヴァイ、これじゃまるで……』

リヴァイ『そうだ。もう随分前から考えていたことだ。同棲生活を始めた年から少しずつ貯めて買った』

ハンジ『8年もかけて貯めたの?! すげえええ!』

リヴァイ『もう8年だ。いい加減、俺だって我慢の限界だったんだ!』

そこでリヴァイはハンジを自分の中に抱きしめて言った。

リヴァイ『本当の意味でひとつになりたい。心も体も繋がりてえ』

ハンジ『!』

リヴァイは同棲生活を始めてからずっと、ハンジとは最後まで致していなかった。

972: 2015/10/06(火) 05:30:32 ID:NA8rnzUc0
異様に痛がるハンジを無理やり組み敷くことが出来ず、その手前迄でずっと我慢してきたのだ。

ハンジ『あの、それって、本当に………?』

リヴァイ『ああ』

ハンジ『今夜、本当にするの?』

リヴァイ『別に今夜じゃなくてもいいが、その確約は取りてえ』

ハンジ『なんか診察の予約じゃみたいな言い方だね』

リヴァイ『話を逸らすな。嵌めてくれ』

ハンジ『待って。順番が、おかしい。今はまだ、待って』

リヴァイ『なんで』

ハンジ『だって、こういうのって、あなたの分も必要でしょう?』

リヴァイ『俺の分は後回しで構わん』

ハンジ『だーから、そういうところが問題なんだってば! ああ……もう』

ハンジは天井を仰いだ。もう降参するしかない。

これはもう、覚悟を決めるしかないと思った。

ハンジ『私も、私の父も、将来、病気になる可能性があるんだよ?』

973: 2015/10/06(火) 05:38:43 ID:NA8rnzUc0
リヴァイ『そんなのはお前に限った話じゃねえだろ。俺だって将来、どうなるか』

ハンジ『そりゃそうだけど。結婚したら、もうあなたはゾエ家とは無関係ではいられないんだよ』

リヴァイ『それを言ったらお前も同じだろ』

ハンジ『私より、あなたの方が倍は大変だと思うんだけど』

リヴァイ『そんな事を言い出したら何も出来ねえ』

ハンジ『あなたは本当に言い出したら聞かないね!』

リヴァイ『それはお前も同じだろうが!』

ハンジ『知らないよ? 想像以上に大変な未来があなたを待っているに違いないよ?』

リヴァイ『ハンジが手に入るならそれでもいい』

ハンジ『…………本当にいいんだね?』

リヴァイ『ああ』

ハンジ『………分かった』

リヴァイ『!』

ハンジ『結婚する。あなたと、結婚する………1年後に』

リヴァイ『?! この期に及んでまだ引き延ばすつもりか?!』

974: 2015/10/06(火) 05:57:12 ID:NA8rnzUc0
リヴァイ『いや、その……お前がやけに念を押すから』

ハンジ『だって、私やっとインターンが終わったばかりで就職活動、これからだし』

リヴァイ『ぐっ……そうだったな。むしろハンジはこれからがスタートだったな』

ハンジ『そうだよ。それに準備だっていろいろ必要だと思うよ。田舎の結婚式、舐めたら駄目だからね』

リヴァイ『……どれくらい親戚がいるんだ?』

ハンジ『父方の兄弟が8人』

リヴァイ『!』

ハンジ『母方の方が5人。祖父母も合わせたら軽く30人超えるかな~』

リヴァイ『そんなにいらっしゃるのか……』

ハンジ『全員そろうと圧巻だよ。リヴァイ、囲まれて大変だと思うよ~』

リヴァイ『…………まあ、どうにかする。どうにかな』

ハンジ『それに私も友達とか沢山呼びたいし、準備期間が必要だよ。余裕のある計画を立てた方がいいって、ゼク○ィにも書いてあったよ』

リヴァイ『お前、何でゼ○シィ買ってるんだ。いつの間に買った』

ハンジ『そりゃあ一応、前もって予備知識が必要かなと』

リヴァイ『………最初からプロポーズを断るつもりはなかったのか』

ハンジ『何で断ると思ってるの? そもそも同棲を申し込んだのは私の方なのに』

975: 2015/10/06(火) 06:23:05 ID:NA8rnzUc0
ハンジ『そりゃ念を押すに決まってるでしょ? この結婚、リヴァイの負担が私よりはるかに大きいんだもの』

リヴァイ『………そんなに凄いのか。お前の親戚は』

ハンジ『あははは……今はノーコメントしておきます(遠い目)』

リヴァイ(ガクブルガクブル)

ハンジ『さっき、どんな条件だって呑んでやるからって言ったよね』

リヴァイ『ん? ああ……言ったが』

ハンジ『なら、早速注文していいかな? 引っ越そうか』

リヴァイ『は?』

ハンジ『職場が決まってから、その近くに引っ越したい。今度は4LDKくらいの大きい部屋がいいな』

リヴァイ『?! でかすぎないか? なんでそんなに広い部屋を』

ハンジ『え? だって必要じゃない? 子供が増えたらきっと』

リヴァイ『…………は?』

ハンジ『福利厚生のちゃんとした会社に就職するつもりだから、産休も取れると思うよ。目ぼしい会社は既に絞って、後は最終面接を待つだけなんだ。多分、どこか受かるだろうし、受からない場合でも医師免許あるからそれなりのところで働く事は出来ると思うよ』

リヴァイ『……………』

リヴァイ『……………ははは』

977: 2015/10/06(火) 06:38:26 ID:NA8rnzUc0
リヴァイ『そうだった。お前はそういう女だったな』

ハンジ『てへっ。御免ね。事後報告で』

リヴァイ『全く。やきもきさせやがって……』

ハンジ『後は最後の問題が残ってるけど、どうしましょう?』

リヴァイ『ん?』

ハンジ『いやあ、だってねえ? 何度やっても、どうしても痛いからさあ』

リヴァイ『そんなもん、我慢するしかねえだろ』

ハンジ『やだよおお! 痛いのは本当、勘弁してよお』

リヴァイ『うるせえ! 子供を産むつもりがあるならそのくらい耐えろ!!』

ハンジ『そりゃ物理的な意味で言えばそうなるけどさあ! ぎゃあああ!!』

ハンジ『ちょ! どこに行くの?!』

リヴァイ『さぁな。着いてからのお楽しみだ』

その後、リヴァイはハンジを拉致して車で移動して、

泣き叫んでも大丈夫な場所に移動させて、8年分の悲願を達成したのだった。

978: 2015/10/06(火) 07:23:08 ID:NA8rnzUc0
エルヴィン「思い出すなあ。ハンジのインターン期間のリヴァイの絶望的な顔を」

リヴァイ「あの頃はあいつ、寝る為だけに家に帰ってきていたからな」

エルヴィン「よく破局しなかったねえ。浮気せずに、一途だったね」

リヴァイ「俺のせいで1年分、留年させちまった責任もあったしな」

エルヴィン「そうだったの? あれ? あ、そっか。計算するとそうなるのか」

リヴァイ「ああ。俺があんまりちょっかい出すから、レポートを出しそびれて単位を取り損ねさせちまった。あの時、ハンジが実家に連れ戻されそうになった時が、一番の修羅場だったな」

エルヴィン「それは責任取らないとね。リヴァイが悪いよ」

リヴァイ「パソコンとばっかり向き合っている姿を見て、ついな。あの時のハンジは本当に怖かった(ブルブル)」

エルヴィン「ハンジは怒ると怖いからね。普段はあんなんだけど」

リヴァイ「ああ。知ってる。だからこそ、好きなんだが」

979: 2015/10/06(火) 07:31:37 ID:NA8rnzUc0
エルヴィン「はいはい、ご馳走様です。集品、切ってくれるかな」

リヴァイ「つれねえな。惚気させろよ」

エルヴィン「それはまた今度ね。式の時に」

リヴァイ「了解だ。ほらよ」

エルヴィン「ありがとう。じゃあ、またね」

リヴァイ「ああ、また」

エレンとミカサはまだ店の中で言い争っているようだ。

エレン「別にいいだろ! グラビアぐらいで目くじら立てなくてもいいだろ!」

ミカサ「よくない。そういう本、買った事をおばさんに言いつけてやる」

エレン「母さんに言うのだけはやめろおおおお!」

リヴァイ(カルラさんはうちでまだ働いているからどのみちバレちまうがな)

言わない。カルラも息子のそういうネタを把握しておきたいらしいから。

すると、そこに若い男性が本の予約に訪れた。

ファーラン「イザベルの写真集、1冊お願いします」

リヴァイ「…………ファーラン?」

980: 2015/10/06(火) 07:44:32 ID:NA8rnzUc0
ファーラン「リヴァイ、久しぶり。元気だったか?」

成長したファーランがふらっと店に訪れた。

スーツ姿のいでたちは、まさに今から出勤しますといった風だ。

リヴァイ「今日は何だか忙しい日だな」

ファーラン「そうなのか? それは悪かったな。出直そうか?」

リヴァイ「いや、今は暇な時間帯だからいい」

ファーラン「リヴァイがまだここに居るとは思わなかった。ハンジさんとまだ結婚してなかったのか?」

リヴァイ「いや、結婚はした。今月したばかりだ」

ファーラン「え? 今月? おそ! あれから何年経ってると思ってるんだよ」

リヴァイ「話せば長くなる。式は来月、挙げる予定だ」

ファーラン「そっか。まあ、リヴァイが幸せならそれでいいけど」

リヴァイ「………新居を構えた。後で教えるから、たまにはうちに顔を出してくれ」

ファーラン「ははっ……新婚の家庭にいいのかよ」

リヴァイ「本当ならもう少しお前と暮らしたかったんだがな」

ファーラン「うーん。でもこうでもしないとリヴァイは踏ん切りつかなかったんじゃねえのかなって、イザベルと話し合ったんだよな」

981: 2015/10/06(火) 08:06:24 ID:NA8rnzUc0
リヴァイ「イザベルと?」

ファーラン「ああ。今だから言うけどな。リヴァイが俺達を養子縁組にしなかった理由を知った時、イザベルが大分、落ち込んでいたんだよ」

リヴァイ「……………」

ファーラン「うまくは言えないけど。リヴァイが俺達を思って行動してくれた事が、俺達にとっては重荷に感じる時もあった。俺達がリヴァイの重しになっちまってるって、そう感じていたからな」

リヴァイ「子供だった癖に、生意気言うな」

ファーラン「もう大人だから言うんだよ。でも俺は結果的にこれで良かったと思ってる」

リヴァイ「…………そうか」

ファーラン「ああ。俺達は少しだけ社会に出るのが早かったってだけで、リヴァイには育てて貰った恩がある。それだけで十分だろ」

リヴァイ「それならいいけどな」

ファーラン「予約、いいか? 売り上げに貢献しないと」

リヴァイ「ああ。頼む。保存用に2冊買ってくれ」

ファーラン「ああもう、分かった分かった。2冊でいいよ」

予約伝票を切って控えをファーランに渡してやった。

店を出ていく元気なファーランを見送って、リヴァイはふとまた思い出す。

来月は4月。入学式用のPOPは既に完成していて、店内は春色に染まっている。

982: 2015/10/06(火) 08:23:08 ID:NA8rnzUc0
エルヴィンが調査店の店長だった時代。

何度も聞いた、その言葉を。今は自分が、受け継ぐ事になるとは。

リヴァイ(無理そうなら辞めてもいいですか? なんて言った仕事がこんなに長く続くとはな)

エルヴィン『はい。少々お待ち下さい。在庫を確認してまいります』

エルヴィン『大変申し訳ございません。只今、在庫を切らしておりまして……』

エルヴィン『他店の在庫も確認致しますので、少々お待ち下さい』

エルヴィン『巨人店の方では残り2冊、在庫がございます。お取り寄せ致しますか?』

エルヴィン『はい。はい。そうですか……では、巨人店の方で取り置きさせて頂きます。お客様のお名前とお電話番号を……』

エルヴィンが忙しなく電話対応に追われる姿が目の裏に浮かぶ。

思い出す。あの広い猫背を。何度も聞いた言葉を。

エルヴィン『こちら明進堂書店調査店でございます』

電話が鳴った。

983: 2015/10/06(火) 08:25:27 ID:NA8rnzUc0
ぺトラもオルオも他の客の対応に追われているようだ。

幸い、レジに客は来ていない。

リヴァイは周囲を確認して電話に出た。

もう何万回と言ったその言葉を出来るだけ丁寧に。

リヴァイ「こちら明進堂書店調査店でございます」

のちに、調査店に訪れる客が語りだす。

調査店の店長は、背丈は小さいが親切で優しい店長だと。

一定の固定客を得た調査店は、程よい売り上げを保ちながら、

地域に愛される老舗のチェーン店として、

その町に根強く生き残り続けていったのだった。

(おしまい)

984: 2015/10/06(火) 08:40:52 ID:NA8rnzUc0
このリヴァイは定年まで調査店に勤務して、
その後はハンジの実家を継いでのんびり暮らすと思います。

先生、(営業)部長、(本屋の)店長、
と役職を書いてきて、次は何にしようかと悩んでいます。
(先生はまだシリーズが終わってないですが)
何か、リヴァイにさせたい仕事があれば、また現パロを書きたいです。
ネタがあれば募集します。それではいつかまたノシ

985: 2015/10/06(火) 15:50:58 ID:Z.knr3Wc0
乙でした!幸せに終わって読後感すっきりです…!!面白い話をありがとう。エルヴィン先生の方も待ってるよ!!

引用: エルヴィン「こちら明進堂書店調査店でございます」