278: 2014/12/06(土) 23:07:01 ID:3ANQWK.o0

前回:ハンジ「酔った勢いで求婚したら」【前編】

そんなこんなで後日、無事に結納も交わして、順調に結婚までの準備を進めていた2人だった。

その年の4月。新入社員も新たに加わり、シンゲキ飲料の組織体系が少しだけ変更になった。

各部署の部長と主任の下に副官的存在を置く事になったのだ。

リヴァイ「主任の下に副主任がつくのか」

エルヴィン「今までは、部長の副官が主任みたいな感じだったけど、部長にも副部長、主任にも副主任っていう役職を設けようって話になったんだ」

ピクシス「うちの会社も徐々に規模が大きくなって育ってきたからの。そろそろ、副官的存在が必要になってくる頃じゃろ」

リヴァイ「成程。これなら俺に何かあった時も、そいつに優先的に仕事を回せるのか」

エルヴィン「そういう事になる。そこで、リヴァイから聞きたいんだが、副主任は誰を推す?」

リヴァイ「俺が選んでもいいのか?」

エルヴィン「今年はまだ、組織体系の移行の試験的な年になるから、現在、重要な役職に就いている人の移動は無しになった。だから副主任はリヴァイが選んで構わないよ」

279: 2014/12/06(土) 23:07:44 ID:3ANQWK.o0
リヴァイ「………………」

エルヴィン「あ、でも……ハンジは選んじゃダメだよ。それやっちゃうと、流石に困る」

リヴァイ「それは分かっている。公私混同に見られる事をあいつは良しとしねえだろ」

リヴァイは新人の育成を目的に、ある人物を推した。

リヴァイ「オルオかな。あいつが一番、熱心だと思う。まだまだ荒い部分はあるが、俺の傍でいつも何かを学ぼうと必氏に食いついてくるから、後を任せるとすればオルオだな」

エルヴィン「了解。では、オルオを4月付で副主任に昇格させよう」

リヴァイ「お前、営業部長なのに人事部の事まで口出していいのか?」

ピクシス「エルヴィンの方が人事部に向いておるからいいんじゃよ」

エルヴィン「たまにこっちに仕事回してくるしね。ピクシス部長は」

ピクシス「それを言ったらお主もじゃろ? 営業先のお得意さんの情報を寄越せと言ってくるではないか」

エルヴィン「持ちつ持たれつと言って下さい」

どうやら同盟関係を築いているようである。

エルヴィン「あ、ちなみに営業部の副部長はハンジにするからね」

リヴァイ「?! な……何で」

エルヴィン「え? 私の副官に指名したらダメなの?」

280: 2014/12/06(土) 23:08:24 ID:3ANQWK.o0
リヴァイ「………それって、ハンジの方が俺の上司になるのか?」

エルヴィン「いや、上司ではないけど。でも私が動けない時はハンジが動く事になるかな。今まではリヴァイかキース主任に回していた事を、優先順位として先にハンジに回す事になる」

リヴァイ「それって、営業だけでなく、営業事務の仕事も兼任する事になるのか?」

エルヴィン「元々、ハンジはどっちも出来る子だから問題ないよ」

リヴァイ「それってかえって忙しくなるんじゃ……」

エルヴィン「これでもいろいろ考えたんだよ? それに私の副官なら、産休だって取りやすい筈だよ」

リヴァイ「そこまで考えてくれていたのか」

エルヴィン「うん。もしくはもう一つの方法もあるけど」

リヴァイ「もう一つ?」

エルヴィン「ハンジはずっと開発部研究課の方の移動を願い出ていたから、移動してもいいんじゃないかって話も出ている」

リヴァイ「ああ……成程」

エルヴィン「部署は離れるけど、ハンジをそっちの主任に移動させて副主任にモブリットをつけるっていう話も出たよ」

リヴァイ「ううーん」

エルヴィン「ただし、こっちは今年じゃなくて、来年以降になるかも。今年はまだ、主任クラスは移動させないで副官をつけようって話だから」

エルヴィン「どっちがいい? リヴァイから見たら」

281: 2014/12/06(土) 23:09:05 ID:3ANQWK.o0
エルヴィンが問うと、リヴァイは少し複雑そうに答えた。

リヴァイ「まあ、ハンジ自身がいずれ開発の方に行きたいってずっと思っていたのなら、いずれそっちに移動させた方が本人の為にもいいだろう」

そう言って、リヴァイは続けた。

リヴァイ「ただし、副官は出来れば女性にして欲しいんだが……」

ピクシス「ん? 公私混同はしないんじゃなかったのか? リヴァイ主任」

リヴァイ「う………」

エルヴィン「そこは難しいかな。両方女性だと、もし万が一、両方同じ時期に産休に入られたら引継ぎが困る」

リヴァイ「ああ……そういう事か。だったら仕方がないか」

エルヴィン「うん。そこは我慢してくれ。大丈夫だよ。ハンジは浮気するような女じゃないって」

リヴァイ「そういう意味じゃねえよ」

エルヴィン「ん? だったら何が心配なのかな?」

リヴァイ「ハンジの傍に俺の良く知らない男がいるってだけで、もやもやする」

エルヴィン「………………これは重傷だ」

ピクシス「全くじゃ。リヴァイ主任の意外な側面が見えたの(ニヤニヤ)」

リヴァイ「自分でも頭おかしいと思っています。はあ……」

282: 2014/12/06(土) 23:10:01 ID:3ANQWK.o0
けだるげな表情でリヴァイは頭を抱えた。

リヴァイ「入籍自体は9月5日にして、結婚式は6日にやる予定だが……もっと早く設定すれば良かったかな」

エルヴィン「待ち遠しいね。もうちょっと先だけど」

ピクシス「準備の方は順調なのか?」

リヴァイ「はい。今のところ、何も問題は起きていません。式場も予約したし段取りも煮詰めています。ハンジのご両親の意向でフルコース形式はどうしてもダメだという話だったので、出来るだけ和風の披露宴になりそうです」

ピクシス「それは有難い。わしもフルコース形式は忙しないから好きじゃない」

エルヴィン「年上受けしそうな披露宴になりそうだね」

リヴァイ「まあ、俺はどんな披露宴でも構わないんだけどな。ハンジの方がしんどそうだった」

エルヴィン「結婚は女の方が大変な訳だからね」

リヴァイ「俺は貰う側だから気は楽だ。話が脱線したが、とりあえず今年はエルヴィンの副官の位置にハンジは収まるんだよな?」

エルヴィン「それで試験的に今年からやってみようって話だから。全部署、それで何も問題がなければそのまま定着すると思う」

リヴァイ「了解した。こっちもそのつもりで心構えをしておく」

そしてリヴァイが先に人事部の部屋を出て行き、残ったエルヴィンとピクシスは苦笑した。

ピクシス「エルヴィン、気づいたか?」

エルヴィン「何がですか?」

283: 2014/12/06(土) 23:10:43 ID:3ANQWK.o0
ピクシス「リヴァイの奴が『それって、ハンジの方が俺の上司になるのか?』と言った瞬間の顔じゃよ」

エルヴィン「ああ……なんか、ちょっとだけ嬉しそうでしたね」

ピクシス「あやつ、やっぱり少々、そっちの性癖もあるようじゃの」

エルヴィン「ですねえ。初めてそれに気づいた時の絶望的なリヴァイの顔は今でも忘れらないですよ。可笑し過ぎて」

エルヴィンが腹筋を鍛える様な細かい笑いを堪えている。

ピクシス「ああ………鍋の時のアレじゃな? わしも遠目で見ておったぞ。無理やり肉を食わされているリヴァイの奴の、あの何とも言えない表情を」

エルヴィン「後日、相談された時は何事かと思いましたよ。思わず『おめでとう☆』と言ってしまいましたが」

ピクシス「本人からすれば皮肉にしか聞こえんだろ」

エルヴィン「でも他に言える言葉が思い浮かばなかったんですよね」

ピクシス「まあ、わしも同じ対応をしたとは思うがの。しかし元々、リヴァイの奴はハンジの事を最初から好いておっただろ。ここまで来るのに何年かかったんじゃったかな?」

エルヴィン「ええっと、ハンジが入社したのは22歳になる年の4月だから……今年は36歳になる年だから、引き算して大体14年くらいですかね?」

と、大まかな計算をするエルヴィンだった。

ピクシス「鈍行列車のような恋愛じゃの。まあ、のんびりした旅行も悪くはないが」

エルヴィン「ですね。ただ、結婚まで行き着いたのは、ハンジの方のご両親が心配されていたせいもあったようですよ」

ピクシス「そりゃ当然じゃろ。やっぱり周りからけしかけんと、今の若いもんはそこまでなかなか行きつかんようじゃな」

284: 2014/12/06(土) 23:11:19 ID:3ANQWK.o0
エルヴィン「ですかね。ま、ピクシス部長の作戦勝ちとも言えますけど」

ピクシス「ああ……昔、営業課は男性しか採用しておらんかったからな。わしが革命を起こして、女性を無理やり採用させたのが効いたな」

エルヴィン「ピクシス部長の『男性社会における女性の重要性』の論を説いたのが効きましたね。実際、ハンジが入社した後の営業成績は、それ以前に比べたら右肩上がりに伸びましたしね」

ピクシス「何が悲しくて男だけで仕事せにゃならん。一輪でもいい。女がいるのといないのでは、やる気が全く変わってくる」

エルヴィン「上役は最初、それを信じていませんでしたけど。実際、特にリヴァイの営業成績が一気に伸びたのを見て顔色を変えましたしね」

ピクシス「そういう意味ではわしはリヴァイに感謝せんといかんな。あやつが頑張ってくれたおかげで、女性の採用率を上げる事が出来た。それに加えてうちの会社は産休システムも確立出来た。女性も働きやすい職場を作れたのも、リヴァイのおかげかもしれんの」

エルヴィン「本人は全くその件については気づいてなさそうですけどね」

ピクシス「今年も若い美人の女性社員を増やしたから、春から楽しみじゃのう……」

エルヴィン「春のレクレーション、今年はテニスにしたそうですね?」

ピクシス「リヴァイの方から頼んできたんじゃ。何故か知らんが。あやつ、テニス経験者か?」

エルヴィン「経験者はハンジの方ですが……あ、成程」

ピクシス「ほほう……やはりリヴァイはドスケベじゃのう」

エルヴィン「ですね。まあ、だからこそ、営業最強なんですよ」

そう言い合いながら、2人はお茶を飲んで笑っていたのだった。

285: 2014/12/06(土) 23:11:50 ID:3ANQWK.o0
そして4月の春のレクレーション大会では、テニス大会が社内で行われた。

ハンジ「マジで女性社員に全員、スコートを支給するって、うちの会社は馬鹿なの?」

リヴァイ「……………」

ハンジ「ねえ、リヴァイ。久々にスコート履いたから、不安なんだけど、大丈夫かな?」

テニスコートの脇でくるりと回転して見せるハンジに、リヴァイのテンションも静かに盛り上がっていた。

リヴァイ「問題ない。似合っているぞ」

ハンジ「なんか、口元、いやらしいんだけど?」

リヴァイ「笑みを頃すだけで精一杯だ」

ハンジ「本当にもう、スケベ! まあ、いいけど。他の女性社員の方はジロジロ見ないように」

リヴァイ「ん」

ハンジに命令されて普通に返しているが、エルヴィンとピクシス部長はその表情の変化に気づいていた。

286: 2014/12/06(土) 23:12:26 ID:3ANQWK.o0
エルヴィン(リヴァイ、浮かれているなあ。本当に)

ピクシス(アホじゃのう)

そんなこんなで、男性ダブルス部門、女性ダブルス部門、ミクスドダブルス部門の三つに分かれて社内でテニス大会が行われた。

男性ダブルス部門はエルヴィンとリヴァイのペアが順調に勝ち進んでいく。

リヴァイ「エルヴィン、お前、テニス巧いな。経験者か?」

エルヴィン「ちょっとだけね。背高いとテニス部から勧誘が来るんだよ」

リヴァイ「ハンジも同じような事を言っていたな」

エルヴィン「学生時代、バレーとかバスケ部も誘いがきたけど、一番私の性に合っていたのはテニスだったから」

リヴァイ「成程。それっぽいな」

2人の息は合っていた。

ビックサーバーのエルヴィンと、前衛で守るリヴァイのコンビネーションに他の男性社員はタジタジだった。

ピクシス「情けないの。エルヴィンもリヴァイもそれなりの年なのに。若いもんはもっと頑張らんか!」

エレン「無茶ですよ! あの2人は隙が無さ過ぎます!」

アルミン「確かに。強すぎるよね」

営業2年目に入った2人がそうぼやいていた。

287: 2014/12/06(土) 23:13:15 ID:3ANQWK.o0
女性ダブルス部門ではハンジとナナバがコンビを組んで順調に勝ち進んでいたが、それと同じくらいのスピードでミカサとアニのペアも勝ち進んでいた。

ハンジ「おお……ミカサのサーブはかなり速いね!」

ナナバ「アニの前衛も巧いよ。経験者かな?」

ハンジ「いや、別のスポーツかも。ライバル出現だね!」

そんなこんなで、男性ダブルス部門の決勝はエルヴィン・リヴァイペアとライナー・ベルトルトペア。女性ダブルス部門はハンジ・ナナバペアとミカサ・アニペアの戦いになった。

ミカサ(エレンの為に、私は戦う。絶対優勝して見せる!)

エレン(おおお! リヴァイ主任、すげえ!)

決勝は同時に別のコートで行われた為、エレンの視線はリヴァイの方に向いていた。

ミカサ(うぐ……エレンがこっちを見てくれない)

ミカサのパワーが20%ダウンした!

アニ「ミカサ! エレンの方を見ている場合じゃないでしょ!」

ミカサ「御免なさい」

気持ちを切り替えて正面を向いたミカサだった。

ハンジ(ははーん。ミカサは男の為に戦うタイプと見た。だったら……)

ハンジはちょい強めのサーブを打って、前に出た。

288: 2014/12/06(土) 23:13:47 ID:3ANQWK.o0
ミカサ「は!」

ハンジ「よいしょおおお!」

サービスダッシュを決めて先制点を取る。

ハンジ(短期決戦で決めよう。体力のアドバンテージは向こうにある。リヴァイがエレンを引き付けているうちに勝負を決める!)

ミカサ「うぐぐ……」

アニ「気持ち切り替えて! エレンの事は一旦、忘れて!」

アニの激励にミカサは苦しそうにしていた。

そう思えば思う程、ミカサの焦りが募っていく。

ミカサ(何で、エレンはリヴァイ主任の事ばかり……)

土下座させられたのに、エレンは変わらずリヴァイ主任を慕っていた。

その事がミカサの嫉妬の心を燃やして冷静な判断が出来なくなっていた。

そんなミカサの様子にアニも困った表情で居る。

アニ(優勝したら、商品券10万円分貰えるから、ガチで欲しいんだけど)

アニは商品券が目当てで頑張っていた。だからこそ、ミカサと組んだのに。

アニ(肝心のミカサがこれじゃ、宝の持ち腐れだ。どうするか)

289: 2014/12/06(土) 23:14:17 ID:3ANQWK.o0
アニはそこで、奇策に打って出た。

コートチェンジの隙をついて、アニはアルミンを呼び出す。

アルミン「なに?」

アニ「エレンに、ミカサを応援するように言って」

アルミン「え?」

アニ「優勝したいんだよ。ガチで商品券が欲しい。アルミン、どうにかして」

アルミン「えええ……」

アニ「どうにかしてくれたら、アルミンのいう事、私がひとつだけ叶えてあげるから」

アルミン「了解した(キリッ)」

アルミンを釣って、間接的に誘導した。これで何とかなる筈だ。

アルミン「エレン、ミカサの方も応援しようよ」

エレン「え? 何でだよ。どうせ勝つんじゃねえの?」

アルミン「いや、よく見てよ。劣勢だよ? このままだと、ミカサ達が負けちゃうよ」

エレン「え……?」

てっきりミカサが勝つとばかり思っていたエレンはそこで初めて気づいた。

290: 2014/12/06(土) 23:14:46 ID:3ANQWK.o0
エレン「ほ、本当だ。負けていたのかよ」

アルミン「そうだよ。だから応援しないと。ミカサ、頑張れって言わないと!」

エレン「ううーん」

アルミン「何で迷うの?」

エレン「いや、ちょっと恥ずかしくてな」

アルミン「照れている場合じゃないよ。優勝したら、商品券、貰えるんだよ?」

エレン「そう言えばそうだったな! ミカサ! 頑張れ!」

ミカサ「!」

商品券が目当てとはいえ、エレンの声援を受けてミカサのメンタルは完全復活した。

ミカサ「はあああああ!」

ドオオオオ!

ミカサ「てりゃああああ!!!」

パコオオオオ!

ナナバ「くっ……!」

ハンジ「なんて重いリターン!!」

291: 2014/12/06(土) 23:15:13 ID:3ANQWK.o0
その後はミカサ無双状態になり、1セットマッチの試合はミカサ・アニペアの逆転勝利となった。

ハンジ「あちゃー……負けちゃったか」

ナナバ「若さって怖いね」

と、ベテラン組はお互いにドンマイし合ったのだった。

女性ダブルスの試合が先に終わってしまったので、残りは男性ダブルスの試合を見学する事になった。

ハンジ「どれどれ……おお! いい感じにシーソーゲームだ」

ナナバ「若手もなかなかやるね」

ハンジ「だね。特にあのライナーって子のフォローが巧い!」

現在、4-4だった。まだまだ試合の行方は分からない。

リヴァイ「ふむ。なかなかやるな。向こうのコンビネーション」

エルヴィン「いや、殆ど初心者のリヴァイも十分凄いよ」

リヴァイ「そうか?」

エルヴィン「どんな球でも拾ってくれるのは有難い。そうだ。リヴァイとならアレやれるかも」

リヴァイ「アレ?」

エルヴィン「ちょっと特殊なフォーメーションなんだけど」

292: 2014/12/06(土) 23:15:52 ID:3ANQWK.o0
ごにょごにょ。

リヴァイ「分かった。試しにやってみるか」

エルヴィンは作戦を立てて、その準備に取り掛かった。

そして、その新しいフォーメーションにライナー・ベルトルトペアは面喰う。

ライナー「な…!」

ベルトルト「え……?」

なんと、前衛だったリヴァイが後衛に回って、後衛だったエルヴィンが前衛にチェンジしたのだ。

エルヴィンの高身長の壁にライナーは焦って、ボレー勝負で負けてしまう。

エルヴィン「うん。こっちの方がやりやすいな。このままいこう」

リヴァイ「俺の方が後衛の方が良かったのか」

エルヴィン「リヴァイはフットワークSSって感じだからね。リターン巧いよ」

そんな訳で、新しいフォーメーションに切り替わってからはエルヴィン・リヴァイペアに勝てる筈もなく。

男性ダブルス部門はエルヴィン・リヴァイペアが優勝を果たしたのだった。

ハンジ「お疲れ様! リヴァイ、テニス巧いね! 格好良かったよ!」

リヴァイ「そうか?」

293: 2014/12/06(土) 23:16:25 ID:3ANQWK.o0
エルヴィン「リヴァイは運動神経いいから呑み込み早いよ。本格的にやってみる気はないか?」

リヴァイ「趣味程度で別にいい。まあ、エルヴィンとのコンビは悪くはなかったが」

エルヴィン「次はいよいよミクスドだね。2人は出るの?」

ハンジ「勿論、出るよ! 優勝、2個目を狙いましょうか!」

リヴァイ「そうだな」

優勝賞品の商品券をエルヴィンと分け合って、昼の休憩を挟んでミクスドの試合を行う事になった。

ミクスドの方は希望者だけの試合になるが、優勝賞品がもっと豪華になっていた。

なんと、旅行宿泊券3泊4日の温泉旅行の大分の旅だったのだ。

リヴァイ「大分いいな。温泉はいい」

ハンジ「日田の温泉だって! やっほおおお!」

リヴァイ「浮かれ過ぎだ。油断するなよ」

ハンジ「うん。絶対、一緒に温泉入ろうね!」

リヴァイ(ぶほっ……!)

ハンジの遠慮ない発言にリヴァイはついつい肩を震わせて、周りはクスクス笑っていた。

エルヴィン「いやーお熱いねえ。ご両人」

294: 2014/12/06(土) 23:17:10 ID:3ANQWK.o0
ハンジ「え……あ! ごめんごめん! リヴァイ、ごめんって!」

リヴァイは顔を両手で覆って恥ずかしそうにしている。

リヴァイ「いや、別にいいんだが、少しは自重してくれ(嬉しいけどな)」

ハンジ「うん。ここからは本気出してやるよ(キリッ)」

テニスラケットのガットを微調整してハンジはやる気満々で試合に臨んだ。

ミクスドダブルス部門の方は、リヴァイ・ハンジペアだけでなく、ゲルガー・ナナバペア、オルオ・ペトラペア、ケイジ・ニファペア、マルロ・ヒッチペア、イアン・リコペア、ライナー・クリスタペア、ベルトルト・ユミルペア、コニー・サシャペア、マルコ・ミーナペア、フランツ・ハンナペア、アルミン・アニペア、そしてエレン・ミカサペアなど多数エントリーしていた。

ジャン「クソ……誰も女性を誘えなかった」

余ってしまったジャンは寂しそうにミクスドダブルス部門を見学していた。

ミカサ(温泉旅行……絶対、獲る!)

ミカサはミカサでやる気満々だった。

ミカサ(エレンと温泉旅行に行って、無理やり押し倒して既成事実を作ってしまえばきっと嫁にして貰える!)

という、邪な事を考えていたせいか、その気配を感じてエレンがやる気失くしてミスを連発する。

エレン「あーわり! なんか調子でねえ」

ミカサ「ど、ドンマイ……エレン!」

ミカサは冷や汗を掻いている。エレンの冷めた目にドキドキしている。

295: 2014/12/06(土) 23:17:45 ID:3ANQWK.o0
ミカサ(大丈夫……私が頑張れば、勝てる筈)

審判(ピクシス)「ダブルフォールト!」

ミカサ「ああ!? (ガーン)」

エレン「あーわり!」

ミカサ「ど、ドンマイ……(シュン)」

リヴァイ(どうしたんだ? 手抜きしているように見えるが)

ハンジ(本当だね。意味が分からない)

対戦相手のリヴァイとハンジはお互いに怪訝な表情だった。

しかし何度やってもエレンのサーブは入らず、ミカサが遂にエレンに詰め寄った。

ミカサ「エレン、どうしてわざとサーブを外すの?」

エレン「え?」

ミカサ「酷い。そんなに私と温泉に行きたくないの? そんなに勝ちたくないの?」

エレン「あー流石に気づいたか」

ミカサ「酷い。酷い。酷い……」

途中でペアがもめだしたので、一度タイムを取るピクシスだった。

296: 2014/12/06(土) 23:18:15 ID:3ANQWK.o0
ピクシス「痴話喧嘩か? どうしたんじゃ?」

エレン「すみません。ちょっと待ってて貰えますか?」

ピクシス「ふむ。まあ、少しなら」

その間、リヴァイ達は不思議そうにしながら水分補給をした。

直後、エレンはミカサの頭に頭突きをかました。

プシュー……

ミカサ「い、痛い……」

エレン「今、邪な事、考えただろ」

ミカサ(ギクリ)

エレン「ミカサがそのつもりなら、オレはこの試合、棄権すっからな」

ミカサ「えええ?! (ガーン)」

エレン「真剣に、やれ。温泉旅行は別にいいけど、その後の事は考えるな」

ミカサ「うぐ……!」

エレン「折角、リヴァイ主任と手合せ出来るんだ。ちゃんとやってくれよ」

ミカサ「分かった。エレンがそう言うなら……」

297: 2014/12/06(土) 23:18:42 ID:3ANQWK.o0
そんな訳で試合再開。

以後は普通にゲームが進んで、なかなか見ごたえのある試合展開になっていった。

しかしそこは経験者のいるリヴァイ・ハンジペアの方が優勢だった。

ミカサも健闘したが、リヴァイとハンジのコンビネーションには敵わず、6-4でリヴァイペアの勝利となった。

リヴァイ「なかなかいい勝負だったな」

エレン「ありがとうございました」

ミカサ「ぐぐぐ……」

エレン「ミカサ! 握手!」

ミカサ「くっ……! (>_<)」

凄く嫌そうな顔でリヴァイと握手をするミカサだった。

そして別のペアが試合をしている最中、反省会をするハンジだった。

ハンジ「いやー何度か冷や冷やしたね! あのミカサって子、運動神経、いいよ」

リヴァイ「そのようだな。営業事務には勿体ない逸材だな」

ハンジ「本当だよ。何で営業の方に来なかったんだろ?」

リヴァイ「さあ?」

298: 2014/12/06(土) 23:19:08 ID:3ANQWK.o0
エルヴィン「ああ、その件ならピクシス部長の判断でそうなったそうだよ」

リヴァイ「そうなのか?」

エルヴィン「うあの2人は複雑な関係みたいだし、一緒の課で働かせたらちょっとまずいかも? みたいな話だった」

リヴァイ「ん? 恋人同士じゃねえのか? いつも一緒にいるようだが」

エルヴィン「同居はしているけど、恋人同士じゃないそうだよ。エレン君がきっぱり否定していた」

リヴァイ「なんだそれは? まさか片方だけ血が繋がった兄妹とかか?」

エルヴィン「それもないそうだけど。でも、戸籍上は親戚になるそうだ。ミカサ君のご両親は既に亡くなっていて、エレン君の家に養子縁組の形で入っているそうだから、2人は義理の姉弟の関係だそうだ」

リヴァイ「あーそういう事か」

それなら仕方がないか。そう思ったけれど。

リヴァイ「ん? でも姉弟の関係だからと言って、必ずしも同居する必要はなくねえか?」

ハンジ「あーそれもそうだね。社会人になったら別々に住居を構えても不思議じゃない」

エルヴィン「まあ、その辺は2人の様子を見ていれば分かるけど、ミカサ君の方が過剰にエレン君に依存しているらしい。エレン君もほとほと困っているそうで、いつもあんな感じだそうだ」

リヴァイ「ああ、だから俺はミカサの奴に過剰に嫌悪されているのか」

ハンジ「みたいだね。そっか……」

リヴァイ「エレンの方がミカサを嫁にしちまえばいいのに」

299: 2014/12/06(土) 23:19:36 ID:3ANQWK.o0
エレン「冗談でもそんな事は言わないで下さい」

目ざとく聞きつけてエレンが反論した。

リヴァイ「居たのか」

エレン「逃げてきました。今、ミカサはアニと商品券を分配しているので」

言われて目を向けると、ミカサと目が合ってしまう。こっちに来るようだ。

ミカサ「エレンを勝手に呼び出さないで下さい」

リヴァイ「エレンの方からこっちに来たんだよ」

ミカサ「そうなの?」

エレン「そうだよ。オレの方がリヴァイ主任に用事があったからな」

ミカサ「何の用事?」

エレン「ミカサに話す事じゃねえよ」

ミカサ「うぐ……」

エレン「あの、リヴァイ主任。この間の件、本当にありがとうございました(ぺこり)」

リヴァイ「どの件だったか?」

エレン「えっと、先月の失敗の件です」

300: 2014/12/06(土) 23:20:03 ID:3ANQWK.o0
リヴァイ「ああ。アレか。別に大した事じゃねえよ」

エレン「いえ! 助かりました! ありがとうございます!」

ミカサ「また、エレンは怒られたの? (ゴゴゴ…)」

エレン「怒られたんじゃなくて、フォローして貰ったんだよ!」

2人が険悪な空気になるが、リヴァイはどうしようもなく頭を掻いた。

リヴァイ「いや、怒ったのは事実だが」

ミカサ「!」

エレン「主任! 余計な事は言わないで下さい!」

ミカサ「やっぱりクソちび上司……」

リヴァイ「ああ、もうそれでいいから。別に呼び方はどうでもいい」

ミカサ「くっ……クソちび上司ではダメージを与えられないのね」

リヴァイ「恨まれるのは慣れている。逆に慕ってくれる奴もいる。社会に出たらそんなもんだ」

ミカサ(ムキー!)

ミカサは悔しそうに退散していった。余程悔しいようだ。

リヴァイ「やれやれ…」

301: 2014/12/06(土) 23:20:33 ID:3ANQWK.o0
ハンジ「ちょっと、リヴァイ」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「若い子に浮気しちゃダメだってば。やめてよ?」

リヴァイ「は? 何言っている。今のどこが浮気だ?」

ハンジ「えー……だって、口元、綻んでいるよ?」

リヴァイ「そうか?」

ハンジ「うん。自分で気づいてないんだ?」

リヴァイ「…………妬いているのか?」

ハンジ「当然でしょ。嫌だよ。リヴァイが若い子と親しげに話すところを見るのは」

リヴァイ「!」

思わぬ不意打ちにリヴァイは顔中が赤面してその場に座り込んでしまった。

ハンジ「ん? どうした?」

リヴァイ「いや……その………そうか」

やっとその位置まで来てくれたと実感して、リヴァイは歓喜に震えていたが、それを表面に出さないように必氏に努めていた。

ハンジ「ん?」

302: 2014/12/06(土) 23:21:02 ID:3ANQWK.o0
リヴァイ「すまん。なんか、興奮した」

ハンジ「何でだ?! (ガビーン)」

リヴァイ「お前が本当に妬いてくれるとは思わなかったからだ」

ハンジ「あれ? そうだったの? 私、ヤキモチ見せた事なかったけ?」

リヴァイ「前に冗談で『浮気しちゃダメだぞ』と言ったのは聞いたが」

ハンジ「え? 別にアレ、冗談じゃないんだけど」

リヴァイ「え?」

ハンジ「今の時代、女とか男とか関係ないよ。仕掛けてくる奴は仕掛けるから。目光らせないと」

リヴァイ「……………」

エレン「何の話ですか?」

ハンジ「ああ、エレンにも言っておくよ。リヴァイに手出したらダメだからね? (黒微笑み)」

エレン「オレ、男ですから! ないですよ!! (ガビーン!)」

ハンジ「ミカサはそう思ってないようだよ? ほら、睨んでいる」

ミカサ<●><●>

遠くから睨みつけている様子に気づいてエレンがびびっていた。

303: 2014/12/06(土) 23:22:03 ID:3ANQWK.o0
エレン「ねえから!! 誤解すんなよ!!」

ミカサ「本当に?」

エレン「オレはちゃんと、女好きだから! 男に走る趣味はねえから!!」

リヴァイ「だったら、ミカサを嫁にしたらダメなのか? 法律上は問題ねえだろ。血さえ繋がっていなければ」

そうリヴァイが問いただすと、エレンは頭を掻いた。

エレン「オレにとっては、ミカサは女じゃないんで。妹に近い感覚なので」

リヴァイ(俺でいうイザベルみたいな存在か?)

エレン「そういう目で見られないんですよね。一緒に風呂入っても、普通で居られるんで」

リヴァイ「そう言えばこの間もそんな感じの事を言っていたな」

エレン「あいつが無理やり背中洗うって言って入ってくるんですよ。たまに本気で襲ってこようとするから困るんですけどね」

リヴァイ「それは嫌悪感があるという意味か?」

エレン「いや、嫌悪感じゃないですけど。なんていうか、そこまで甘やかされるのは男としてその……」

リヴァイ「自立したいのか?」

エレン「されるのは、あんまり好きじゃないんです。世話をしてやる側ならいいんですが」

ハンジ「あー気持ちは分からなくないかも」

304: 2014/12/06(土) 23:22:46 ID:3ANQWK.o0
リヴァイ「そういうもんか?」

ハンジ「うん。リヴァイに口説かれている時にそう感じる時がたまにあった。私、別に口説かれたい訳じゃないから」

リヴァイ「だったら俺はどうすればいいんだ?」

ハンジ「特別な事はしなくていいんだ。自然にしていてくれたら、それでいいって」

エレン「分かります! その気持ち! そうですよ! 普通で十分なんですよ!」

ハンジとエレンは何故か意気投合してしまった。

エレン「ミカサの奴、空回りし過ぎて暴走するから怖いんですよ!」

ハンジ「あはは! 愛が重い時があるんだね?」

エレン「気持ちは有難いとは思うんですが、たまに『OH…』って気分になると言うか」

ハンジ「まーその辺はその都度、エレン側が調整してやるしかないと思うよ? 私もそうしているしね?」

リヴァイ「まるで俺の愛が重いと言わんばかりだな(ズーン)」

ハンジ「重いって感じたら、その都度言うってば。前にも言ったでしょ? 『なんかズレているような気がする』とか『やり過ぎると鳥肌立ってくる』とか」

リヴァイ「ああ……あの時の説明はそういう意味もあったのか」

ハンジ「そうそう。砂糖を入れたらいいってもんじゃないでしょ?」

リヴァイ「ふむ。それもそうか」

305: 2014/12/06(土) 23:23:25 ID:3ANQWK.o0
リヴァイは料理に例えられて妙にしっくりきた。

リヴァイ「甘くし過ぎるのも考え物という事だな」

ハンジ「分かってくれたかな?」

リヴァイ「分かりやすい例えだった。ありがとう」

ハンジ「どういたしまして」

リヴァイとハンジは解決したが、エレンの方は未解決のままだった。

エレン「そういう訳で、オレとしてもどうしたら良いのか」

リヴァイ「ふむ………」

エレン「ずっとこのままって訳にもいかないと思うんですけどね」

リヴァイ「血の繋がらない妹のような存在なら、俺にもいるが」

そう、前置きしてからリヴァイは言った。

リヴァイ「俺はそいつと一緒に風呂に入った事はなかったな」

エレン「まあ、普通はそうですよ。ミカサが異常なだけですよ」

リヴァイ「いや、俺が言いたい事はそういう事じゃねえ」

エレン「え?」

306: 2014/12/06(土) 23:24:03 ID:3ANQWK.o0
リヴァイ「俺の場合は、嫌悪感、あったからな」

エレン「え? あったんですか?」

リヴァイ「ああ。そういう意味で接してやれない場合は、裸の関係は嫌悪感、出るだろ」

エレン「……………」

リヴァイ「押し切られている時点で、エレンの方も異常じゃねえか?」

ハンジ「あー………」

ハンジもそれに気づいて同意した。

ハンジ「嫌悪感がないっていうのは、確かにある意味では受け入れているって事になるのかも?」

リヴァイ「ハンジがそうだったんだろ? 最初は」

ハンジ「そうだね。全く嫌悪感、なかったね。ただ、ドキドキする感覚もそんなになかったけど。最初は」

リヴァイ「俺を異性として認めたのはどの時点だった?」

ハンジ「ええっと、多分………怒鳴ったリヴァイを見たおかげじゃないかな?」

リヴァイ「怒鳴った俺?」

ハンジ「会社では見せないリヴァイの一面を見た後に、自分の中の意識が変わった気がする。がらりと」

リヴァイ「素の俺に惹かれたって受け取っていいのか? それは」

307: 2014/12/06(土) 23:24:54 ID:3ANQWK.o0
ハンジ「素も、が正解かもしれない。両方見て、そのギャップが楽しいって思った」

エレン「……………」

エレンは何も言えずに黙り込んでいる。

ハンジ「だから、そこが境界線だったのかもしれない。その直後に、やらしー事されても、体が拒否しなくなったでしょ?」

リヴァイ「そうだったのか」

ハンジ「私も後で気づいた事だけどね」

リヴァイ「そんな事なら、もっと早くハンジの前で素を出せば良かった」

ハンジ「プライベートでも遊べば良かったね。こっちからたまに誘っても振られてばかりいたしなあ」

リヴァイ「それは、その……本当は誘われて嬉しかったんだが、怖かったんだよ」

ハンジ「本当の自分を知られるのが?」

リヴァイ「その通りだ。ヘタレですまん」

ハンジ「まあ、過ぎた事だし。いいよ」

エレン「オレ、ミカサの事を拒否した方がいいんですかね?」

エレンの額に汗が浮かんでいた。

リヴァイ「その気がないなら、同居していること自体が残酷なような気もするが」

308: 2014/12/06(土) 23:25:18 ID:3ANQWK.o0
ハンジ「そうだね。それは私もそう思うよ。それって女の方に期待させる行為だよ」

エレン「でも、あいつ、オレの住所を無理やり調べて後から追いかけて来たんですよ。貯蓄はたいて探して、残金ゼロの状態で転がり込んできて……保護しない訳にはいかないじゃないですか」

リヴァイ「一度、それだけ拒否したのに追いかけて来たのか」

エレン「はい。一度は心を鬼にして、ミカサの元を離れたんです。この会社にこっそり就職して、元居た家を出て、新しいアパートに一人で移り住んで。でも、すぐバレちまって、ミカサがオレの家に来ちまって」

ハンジ「彼女も頑張るね。余程、エレンの事が好きなんだね」

エレン「多分、そういう条件が重なって、そうなっているだけかもしれないとも思うんですけどね」

リヴァイ「……………それの何が悪いんだ?」

エレン「え?」

そこで、エレンは意外な顔をした。

リヴァイ「いや、恋愛なんて、事故みたいなもんだろ。偶然が重なってそうなる事の方が多いんじゃねえか?」

ハンジ「吊り橋効果の事を言っているの?」

リヴァイ「それも含めてだ。ミカサが何を切っ掛けにエレンを好いたのかは知らんが、そういう事件を境に恋に堕ちたのなら、それは仕方がねえ事だ。俺も最初は、恋に堕ちた自覚を持つのは怖かったし、気のせいにしてしまいたかった。でも、ハンジの方に意識が向かうのは止められなかった。だから、どうしようもなかったしな」

ハンジ「そんな素振りは全然なかったのに」

リヴァイ「バレないように頑張っていたんだよ。当時の俺は」

ハンジ「そういうところが面倒臭いのに」

309: 2014/12/06(土) 23:25:49 ID:3ANQWK.o0
リヴァイ「面倒臭い俺に貰われた癖に何言っているんだか」

ハンジ「はいはい」

リヴァイ「話が脱線したな。何の話をしていたんだったか」

ハンジ「エレンはミカサを拒否するべきか否かって話?」

リヴァイ「そうだったな。その気がねえなら、せめて風呂だけは別にした方がいいんじゃねえか?」

ハンジ「そうだね。同居をすぐに解消出来ないなら何処かで線引きしてあげないと」

リヴァイ「何なら、ピクシス部長とかに頼んで、見合いの話でも持って来てやろうか? エレンに」

エレン「え………」

リヴァイ「お前自身が、さっさと嫁さん貰う方が早いだろ。そうしたら、流石にミカサも諦めるんじゃねえか?」

エレン「いや、俺は……ミカサを先にと、思っていたんですが」

リヴァイ「無理だろ。ミカサはエレンを好いているのに」

ハンジ「諦めさせたいなら、それが一番かもしれないね」

エレン「…………少し、考えさせて下さい」

そう言ってエレンは目を細めて2人の元を離れて行ったのだった。

311: 2014/12/07(日) 10:14:39 ID:cBgmWJjc0
テニスの大会は無事に終わり、帰宅後、リヴァイとハンジはベッドの中で今日の事を話していた。

当然、ミクスドダブルス部門はリヴァイとハンジが優勝をもぎ取ったが、その宿泊券を眺めながらハンジは微妙な顔をしていた。

ハンジ「ねえねえ、リヴァイ」

リヴァイ「言わなくても分かる。その宿泊券、あいつらに譲ろうか否か迷っているんだろ?」

ハンジ「良く分かったね!」

リヴァイ「そういう顔をしている。いや、俺もその考えには賛同してもいいと思っている」

ハンジ「そうなんだ。ごめんね? 折角、宿泊券、手に入ったのに」

リヴァイ「その分、ハネムーンで贅沢させてやるよ。結婚式が終わってから、行きたいところに連れて行ってやる」

ハンジ「わーい♪ 何処に連れていって貰おうかな」

ワクワクしてハンジが喜んでいると、

312: 2014/12/07(日) 10:15:55 ID:cBgmWJjc0
携帯電話に連絡が入った。エレンからの電話だった。

リヴァイはその連絡を受けて、真剣な表情で答えた。

リヴァイ「本当にいいのか? 話を通して」

エレン『はい。確かに俺の方が先に結婚しちまえば、あいつも諦めると思い直しました。もしお願い出来るなら、ご紹介下さると助かります』

リヴァイ「お前たちに今日の宿泊券、譲ってやろうかと今、ハンジと話していたのに」

エレン『いや、そこまで気遣わなくていいですよ! お2人で使われて下さい!』

リヴァイ「そうか? そういうなら仕方がないな」

そう言う訳で話が変更になり、微妙な顔になるリヴァイだった。

リヴァイ「エレンの奴が見合いをしてみるそうだ」

ハンジ「え? 本当に?」

リヴァイ「ああ。ピクシス部長に話を通していいって言ってきた。あいつ、本気なんだろうか?」

ハンジ「うーん。その辺はピクシス部長に詳しい事を話した上で切り出した方がいいんじゃない?」

リヴァイ「だろうな。慎重に事を運んだ方がいいかもしれない」

そう思いながら、エレンの事を考えるリヴァイだった。

313: 2014/12/07(日) 10:17:37 ID:cBgmWJjc0
社内テニス大会から数日後。4月18日。

リヴァイはピクシス部長のいる人事部の部屋に訪れて、ピクシスを昼食に誘った。

その席にハンジも同席して、とりあえず、外の定食屋で昼飯を食う事になった。

生姜焼き定食とかサバ煮込み定食など、定番の定職を食べながら例のエレンの見合いの件を切り出してみると……。

ピクシス「ふむ。見合いの話ならいくらでも出来るが、エレン君は本当にそれを望んでいるようには思えないな」

と、ピクシス自身も渋い顔をしたのだった。

リヴァイ「まさか俺も本当にOKを出すとは思わなかったですが、ただ、エレンの方がそう言う以上、1回くらいは見合いをした方がいいかもしれないとも思います」

ハンジ「成功するか否かは別にして、だよね」

リヴァイ「そうだ。俺は失敗してもいいから、ミカサ以外の女をちゃんと見るべきなのはエレンの方が先のような気がする」

リヴァイはそう言いながら定食をつついた。

リヴァイ「ミカサ以外の女を見て、それでそっちに惹かれるなら、本当にミカサを女としては見ていないという証明にもなる。俺の場合、イザベルと一緒に生活をしていたが、そういう意味では心は動かなかった。無意識かもしれんが、俺はハンジと出会った時点でハンジの方に意識があったのかもしれん」

ハンジ「あれ? 好きになったのは忘年会の暴挙が切欠じゃなかったの?」

314: 2014/12/07(日) 10:20:46 ID:cBgmWJjc0
リヴァイ「まあ、はっきりと自覚したのはアレが原因だけどな。ただそれ以前に全くその気がなかったかと問われれば、違うような気がする」

ピクシス「当たり前じゃろう。リヴァイは最初からハンジに気が合ったとしか思えんかったぞ?」

ハンジ「そうだったんですか?!」

ピクシス「だからこそ、ハンジの周りに居た男性は察して距離を取っておったんじゃろうが」

ハンジ「え? それってまさか、リヴァイが原因で?」

ピクシス「周りはなんとなく察しておったぞ? リヴァイに睨まれるのが怖くてハンジから離れた奴もおった」

ハンジ「ええええ………じゃあ、私、結構前からリヴァイに目つけられていたんですか?」

ピクシス「目、つけておったんじゃろ? のうリヴァイ」

リヴァイ「自覚はなかったですけど………まあ、今思えばそうかもしねえな」

ハンジ「酷い! 目つけておきながら、こっちの誘いは断るとか! 何がしたかった?!」

リヴァイ「すまん。グズグズしていた俺が悪いな」

ハンジ「もー! 本当、酒の勢いでこっちから交渉しなかったら危なかったな! 私の人生!」

ピクシス「全くじゃな。ギリギリセーフじゃったな」

リヴァイ「すまん……(シュン)」

ハンジ「まあ、今は幸せだからいいんだけどね。うん……」

315: 2014/12/07(日) 10:23:35 ID:cBgmWJjc0
リヴァイ「そうか?」

ハンジ「うん。幸せ。何度でも言うから。リヴァイが不安にならないように」

リヴァイ「ハンジ……」

ピクシス「籍入れるのを延期した癖にすっかり新婚気分じゃな。あんまり調子に乗ると、直前で破綻するぞ?」

リヴァイ「え?」

ピクシス「わしはそういうカップルも多々見て来ておる。くっついたからといって、油断はしたらいかんぞ?」

ハンジ「まあ、そうですよね。はい。肝に銘じます」

リヴァイ「自重します」

ピクシス「お主らの事は順調じゃからいいが、問題はエレン君の方じゃのう」

と、悩ましげに眉を顰めるピクシスだった。

ピクシス「エレン君のご家庭は少々、複雑のようで、彼自身がミカサ君を面倒見ようとしているのも仕方がないとは思う」

リヴァイ「身内の感覚なんですよね。それは俺にも分かります」

ピクシス「そう言えば、お主のところの例の彼女はまだ目覚めんのか」

リヴァイ「難しいですね。医者には確率的には5%未満と言われています。ゼロではないですが、ずっと停滞状態です」

ピクシス「そういう意味では、他人の娘と同居していたお主は、例の彼女の方に全くその気にはならなかったのか?」

316: 2014/12/07(日) 10:24:07 ID:cBgmWJjc0
リヴァイ「俺の場合は、そうですね。イザベルの方は違ったけれど。その諍いをした直後にあいつは家を飛び出して、事故に遭ってしまった」

ハンジ「え……そうだったの?」

衝撃の事実をさらりと言われて驚くハンジだった。

リヴァイ「ああ。だからエレンに言ったんだよ。『同居していること自体が残酷なような気がする』とな。俺自身、そういう事をやらかしてしまった過去がある。今思うと、本当にイザベルには悪い事をした」

ハンジ「……………」

リヴァイ「それに加えて、ファーランの方はイザベルを好いていたからな。俺はイザベルとファーランが結ばれるもんだとばかり思っていた。感覚的には、本当に養父のような気分だった。養子縁組していた訳じゃねえが、いろいろあって、あいつらを引き取る事になって。家族のような生活をしていたんだ。昔は」

ハンジ「そうだったんだね」

リヴァイ「すまん。飯時にこんな重い話をして」

ピクシス「構わんよ。むしろ飯時じゃないと話せんだろ」

ピクシスに先を促されてリヴァイはしんみり続けた。

リヴァイ「俺とイザベルの場合は年齢差もあったからな。10歳以上年も離れていたし、何よりあいつはまだ16歳にもならない年だった。イザベルの事は18歳になるまでは面倒をみようと思っていたから、思春期を迎えてまさかああいう展開になるとは、思わなかったんだ。当時の俺は」

馬鹿だった自分を責めながらリヴァイは遠い過去を思い出す。

リヴァイ「エレン自身が本当にミカサを家族以上に見られないなら早いうちにエレン自身が嫁を貰った方がいい。でないと、ミカサの方が可哀想だ」

ハンジ「ミカサの方に肩入れしちゃうんだ」

リヴァイ「人を好きになる感覚を知った今なら、分かる」

317: 2014/12/07(日) 10:24:37 ID:cBgmWJjc0
リヴァイはそう言ってハンジの方を見た。

リヴァイ「俺は幸いハンジに受け入れて貰ったけれど、この気持ちが大きくなればなるほど、諦めるのが辛くなる筈だ」

ピクシス「わしはエレン君が少し我慢して、もうミカサ君との事を腹括った方がいい気もするが。リヴァイのケースの場合は、三角関係だったから、リヴァイが拒否したのも頷けるが、2人の場合は、相思相愛になっても誰も悲しまんじゃろ」

ハンジ「ううーん。でも恋愛って計算だけで事は進まないですよ」

女性の立場からハンジは言った。

ハンジ「理想は確かにあるかもしれませんが、自分の気持ちですら、迷走する事もありますし」

リヴァイ「そういう経験があるのか?」

ハンジ「それが感覚的に嫌だから、遠ざけていた部分もあるよ。私の場合は。私はエレンの気持ち、結構分かる気がするな」

リヴァイ「どういう意味だ?」

ハンジ「今はそういう恋愛事に目を向けたくない時期なんじゃないかな。彼、うちの会社にきて2年目でしょ? まだまだミスも繰り返しているし、リヴァイにフォローされている事も多いでしょ? そんな時期に、ミカサとの事、真剣に考えたくないんじゃないかなあ」

ピクシス「あーだから尚更、見合いをする事で逃げている可能性もあるわけじゃな?」

ハンジ「かもしれないですけど。なんていうんですかね? 本気になる可能性がある場合、慎重に進みたいって気持ち、出てきますよね。リヴァイもそうだった訳だし」

リヴァイ「俺の場合、亀並みにノロマだった訳だが」

ハンジ「でも、それだけ真剣だったんでしょ?」

リヴァイ「そうだな」

318: 2014/12/07(日) 10:25:20 ID:cBgmWJjc0
ハンジ「つまり一旦、離れようとする心理が起きると思うんだよ」

リヴァイ「それがエレンにとっての『見合い』という選択という事か?」

ハンジ「見合いを切っ掛けにして、ミカサの事を考えられるようになるかもしれないし、やってみるのも有りとは思うけど」

リヴァイ「けど?」

ハンジ「もし万が一、トントン拍子に行ったら、ミカサの方がどうなる事やら」

リヴァイ「想像したくねえな。いろんな意味で」

もしハンジが別の男性と見合いをしてトントン拍子で縁談が決まったら、凹む。絶対凹む。

そういう感情があるのに、リヴァイはエレンの行動を止める事は出来なかった。

エレン側の気持ちも分からなくはないからだ。

ピクシス「偽装の見合いでもやらせてみるか?」

リヴァイ「偽装?」

ピクシス「もしくはただの見合いの練習じゃ」

ハンジ「ああ、なるほど。マナー講座のような扱いで1回やらせてみる訳ですね」

ピクシス「そうじゃ。いきなり本番をやらせても緊張するじゃろうし、演技指導も含めて、面接の練習のノリでやらせてみるのもいいかもしれん」

リヴァイ「その感触でも十分かもしれません。エレンにそう伝えましょうか」

319: 2014/12/07(日) 10:25:56 ID:cBgmWJjc0
ピクシス「問題はその女子の相手を、誰に頼むかじゃが……」

ハンジ「相手が困りますよね。被害のない人に………リヴァイ、女装してやってみる?」

リヴァイ(ぶほっ!)

酷い提案にリヴァイはつい、動揺した。

リヴァイ「何で俺なんだ?」

ハンジ「実害がないでしょ?」

リヴァイ「お前、浮気するなって言った癖に」

ハンジ「演習だからしょうがないでしょ。それとも、協力してくれそうな女性いるかなあ?」

リヴァイ「………ペトラとか、どうだ?」

ふと思いついた女性の名前を言ってみた。

ハンジ「ペトラ? ペトラは独身だったっけ?」

リヴァイ「独身だ。あいつは割と結婚願望があるみたいだし、あいつ自身の練習にもなるんじゃねえか?」

ピクシス「案外いいかもしれんの。だったらその方向で考えてみるか」

という訳で話が大体まとまったのだった。

320: 2014/12/07(日) 10:26:50 ID:cBgmWJjc0
4月25日。その日の空いた時間を利用して、エレンはペトラと見合いの練習をする事になった。

エレン(本当の見合いをする前に練習をやらせられるとは思わなかったぜ)

エレンは初めての事に緊張していた。

会議室を利用しての会話の練習だが、さてどうなる事やら。

エレン(でも相手がペトラさんで良かった。ペトラさんなら話しやすいし、優しいし、練習相手としてはうってつけだ)

そしてその練習にピクシス部長が仲人役で参加している。

リヴァイも本当は協力したいと申し出ていたが、流石にそこまで暇ではないので、ピクシス部長に託すことになった。

エレンのお見合いの練習の件は一応、極秘に進められたが、そこは情報力の長けたミカサだったので、犬並みの嗅覚でその件に関して嗅ぎ付けてこっそり見守っていた。

盗聴器をこっそり仕掛けて部屋の会話を別の部屋で盗み聞きしているのである。

営業事務の仕事をしながらの調査である。器用な女とも言えるが、人として真似はしてはいけない。決して。

ミカサ(エレンが見合いの計画を進めているという事は、結婚を考えているという事……)

自分以外の女と結婚して逃げようとしている。

321: 2014/12/07(日) 10:27:26 ID:cBgmWJjc0
その事が凄く腹立たしい思いもあったが、本当に別の女性を好きになって離れてしまう場合は腹を括るしかないとも思う。

エレンのやる事に口は出せない。ミカサはそういう姿勢の女だ。

エレンはそんなミカサの闇の部分は知らずにペトラとのお見合いの練習を開始した。

ペトラはその日に合わせて制服を着替えて私服で会議室を訪れた。

ワンピース姿のペトラにエレンも少し照れている。

エレン「雰囲気が違いますね」

ペトラ「え? そ、そうかな?」

エレン「はい。とても似合っていると思います! (ニコッ)」

ミカサ(ううう……)

ドロドロする嫉妬の感情に悩まされながら書類仕事をこなしているミカサだった。

ペトラ「あ、ありがとう……何だか照れるね。こういうの」

エレン「あの、あまり緊張なさらないで下さい。練習ですし」

ピクシス「ふむ。まずは2人きりで会話をする練習からじゃな。わしは別室で待機するので、30分程度2人で話してみなさい。そしてその感触を後で報告するように」

エレン「はい。では、宜しくお願いします」

ペトラ「よろしくお願いします」

322: 2014/12/07(日) 10:28:49 ID:cBgmWJjc0
お互いにお辞儀をして会話の練習をやってみる事にした。

エレン「ええっと、まずは自己紹介からですよね」

ペトラ「そ、そうね!」

エレン「シンゲキ飲料入社2年目のエレン・イェーガーと申します。年は22歳です」

ペトラ「あ、そっか。3月生まれだからまだ22歳だっけ」

エレン「はい。大学卒業してすぐ営業課に入社しました」

ペトラ「ええと、私の方は入社6年目になるかな。エレンより4年先輩になると思う」

エレン「ということは、今年で26歳になられるんですか?」

ペトラ「今年でそうなるね。まだ誕生日はきてないから25歳だよ」

エレン「年上女房、いいですよね」

ペトラ「ぶふ!」

エレン「ペトラさん、しっかりしているし、そろそろ結婚を考えていらっしゃるんですよね」

ペトラ「だからこそ、練習に付き合う事にしたのよ。親も期待しているみたいだしね」

ミカサ(私も一応、一か月だけ年上女房なのに……)

誕生日は一か月程度、ミカサの方が上である。2月生まれだ。

323: 2014/12/07(日) 10:29:29 ID:cBgmWJjc0
ペトラ「エレンの方はまだ、早くない? 20代の前半なんてまだまだ遊びたい盛りじゃない?」

エレン「いえ! 早めに身を固めた方がいいと思いまして」

ペトラ「………本当に? 何か事情があるの?」

エレン「あーミカサの件、どこまで話していますっけ?」

ペトラ「同居している件は一応、聞いたけど。義理の家族だって」

エレン「そうなんです。ミカサの件があって、オレ、早めに嫁さん貰わないとまずいかなって思いなおしたんです」

ミカサ(…………)

エレン「ミカサの依存が酷いんですよ。オレが好きっていうより、なんかもう……神様を信仰する宗教の教祖みたいな扱いするときあるから、たまに怖くて」

ペトラ「そうなんだ……」

エレン「だから、ミカサの為を思うなら、いつかはオレを諦めさせないとって思っていて。嫁さん貰うのが一番いいかなって」

ペトラ「うーん。エレンは本当にミカサを異性としては見ていないんだ?」

エレン「そういう気分にはならないですね」

ペトラ「だったら、どういう人が好みなの?」

エレン「オレより小さい人がいいですね」

ミカサ(うぐ……?!)

324: 2014/12/07(日) 10:29:55 ID:cBgmWJjc0
エレン「あと、可愛らしい顔立ちが好きです。目が大きいと尚いいです」

ミカサ(ううう……?!)

エレン「女性らしい人が好きですよ。そういう意味ではミカサは真逆だからなあ」

ペトラ「外見は確かに逞しいけれど……スポーツされていたのかしら?」

エレン「格闘技は一通り出来ますよ。柔道剣道空手。全部段位持っています」

ペトラ「それで何で営業事務の方にいった?! 営業課に来ればよかったのに!」

エレン「まあ、その辺はその……きっと察して下さったんだと思います。いろいろと」

ミカサ(何ですって? それは知らなかった)

ミカサは会社の裏事情を知って激怒していた。

ミカサ(営業課を希望したのに営業事務の方に回されたのはエレンのせいだったのね)

きっと、いろいろ告げ口をしたに違いない。

ペトラ「そうだったのね。まあ、あんまりべったりだと重いって思うのも分からなくはないけど」

エレン「そうなんですよ。ペトラさんの方は、どういう男性が好みなんですか?」

ペトラ「それは……当然仕事が出来る人、かな」

エレン「う……だとしたらオレはダメですね(シュン)」

325: 2014/12/07(日) 10:30:27 ID:cBgmWJjc0
エレンは露骨に落ち込んでしまった。

エレン「オレ、結構失敗が多いし、リヴァイ主任にまだまだフォローされているし、オルオさんにも怒られる事多いですし」

ペトラ「でも、ちゃんと一年続けたじゃない。偉いわよ」

エレン「そうですか?」

ペトラ「営業課は一年未満で辞めていく社員も多いわよ? 私達の同期も何人か途中で抜けていったし、同期で残っているのはオルオとエルドとグンタとニファとケイジと……うん。10人満たないわね」

エレン「そうだったんですか」

ペトラ「営業はあちこち歩き回るし、全国出張も多いし、不規則な仕事の形態だし、酒は飲まされるし、会社の前線部隊のようなもんだからね。しんどいと思って辞めていく人も多いのよ」

エレン「オレは営業、嫌いじゃないですよ。体動かすのは好きですし。ただたまにカチンとくる時があるから、そういう時に堪え性がなくて……」

ペトラ「トラブル起こしちゃうんだよね。それは追々、改善していかないといけないわね」

エレン「はい……(シュン)」

ペトラ「ふふ……私も最初の年はいろいろ苦労したわよ。慣れるまでは」

エレン「そうなんですか?」

ペトラ「今でこそ、仕事をある程度こなせるようになったけど、最初のうちは陰で泣いていた事も多かったわ」

エレン「ペトラさんでもそうなんですか?」

ペトラ「皆、通る道なのよ。リヴァイ主任も一年目は苦労したって言っていたよ?」

326: 2014/12/07(日) 10:31:56 ID:cBgmWJjc0
エレン「あのリヴァイ主任もですか?!」

それは驚きの事実だった。エレンにとっては。

ペトラ「以前、酒の席でぽろっと話してくれたの。ちょっとだけね。でも二年目に入ってからは急に営業成績が伸びて来たんだって。コツみたいな物を掴んだのかな? 良く分からないけど。でも、数字がそれを表していたから、続ける事にしたんだって」

エレン「へーそうだったんですか」

ペトラ「うん。だから今は失敗してもいいから、頑張ろうよ。お嫁さんが欲しいなら猶更ね」

エレン「はい! オレ、まだまだ仕事頑張ります!」

ペトラ「エレンは休みの時とかは何をして過ごしているの?」

エレン「オレですか? うーん。とりあえず、外に出ますね。あてもなく」

ペトラ「ノープランなんだ?」

エレン「はい。オレ、歩くのが趣味みたいなところがあって、街中を探検するのが好きなんですよ。新しい店とか見つけたらチェックして、アルミンと別の日に入ってみたりします」

ペトラ「アルミン……ああ、あの子も営業課に一緒に入った子よね」

エレン「オレの親友です。シンゲキ飲料を紹介してくれたのもアルミンなんですよ」

ペトラ「確か、エレンの同期ではトップの営業成績叩きだしている子よね」

エレン「そうなんですよ。アルミン、すげえ交渉術が巧いから、どんどん契約取ってくるし、オレとしては悔しいけど、誇らしくもあるんですよ」

ペトラ「そのうち出世しそうな子よね。ライバルはいた方がいいわよ」

327: 2014/12/07(日) 10:32:34 ID:cBgmWJjc0
エレン「ペトラさんのライバルは誰ですか?」

ペトラ「オルオ……と言いたいところだけど、あいつ、今年の4月から副主任に出世したからね。すっごい悔しいいいいい!」

エレン「オルオさんも仕事出来ますよね。尊敬します」

ペトラ「たまに緊張して舌噛む癖に、契約数はいいんだよね。腹立つわー」

エレン「オルオさんは彼女いないんでしたっけ?」

ペトラ「さあ? そういう話はした事ないなあ。彼女持ちはエルドだけじゃなかったかな? 私の同期では」

エレン「結婚されるんですかね?」

ペトラ「視野には入れて計画立てているみたいだよ」

エレン「結婚って、お金かかりますよね」

ペトラ「そりゃあ……あーそうか。エレンはまだ貯金がないのか」

エレン「まだ2年目ですしね。100万くらいしかないです」

ペトラ「え? 1年で100万溜めたの?」

エレン「いえ、大学時代のを合わせてですよ? 社会人になってからは、50万くらいしか溜めてないです」

ペトラ「それでも凄いわよ。営業は金使い荒い子も多いから、意外……」

エレン「オレの場合、趣味にそんなに金かからないのが効いているんだと思います」

328: 2014/12/07(日) 10:33:26 ID:cBgmWJjc0
ペトラ「そっか。外を出歩くのが趣味って、確かにあんまり金かからないかも」

エレン「外出られたら、山とか海でも十分ですし、ドライブでも構わないんで」

ペトラ「そういう意味じゃ、エレンは営業の仕事、あんまり苦にならないのか」

エレン「移動は全く苦になりませんね。でも、交渉の場で毎回やらかします……(ズーン)」

ペトラ「うーん。今は固定でペアを組んでいる子って誰だっけ?」

エレン「ジャンです。あいつとは本当に合わないんで、正直、ペア解消したいです」

ペトラ「そうねえ。合わない人といつまでも一緒に仕事しても効率悪いし、主任にも相談した方がいいかもしれないわね」

エレン「え…でも、それって我儘じゃないんですか?」

ペトラ「その辺の判断はリヴァイ主任が決める事だから。一応、後で打診しましょ」

エレン「ありがとうございます! ペアを解消できるなら、本当に助かります!」

ペトラ「まあ、話してみないと分かんないけどね。私もオルオと初めてペアを組まされた時は喧嘩ばっかりして大変だった……(ズーン)」

エレン「やっぱり合う合わないってありますよね」

ペトラ「そうだよね。私の場合はエルドとの仕事がやりやすかった。流石彼女持ちなだけあって、女の扱い慣れているわ」

エレン「オレの場合、アルミンと組みたいですけど。今、アルミンはクリスタと組んでいるしなあ」

ペトラ「その辺のペアは定期的にシャッフルする筈だから、まあもう少しの辛抱よ」

329: 2014/12/07(日) 10:33:57 ID:cBgmWJjc0
エレン「ですね」

ペトラ「……あれ? なんかいつの間にか仕事の話ばっかりしてない? 私達」

エレン「あ……しまった! お見合いの練習なのにいつもの会話になっちまった!」

ペトラ「ごめんね。私がちゃんと誘導しないといけなかったのに」

エレン「いや、オレも調子に乗って愚痴ったのがいけないんです」

ペトラ「軌道修正しようか。ええっと、私の趣味は、甘い物を食べる事かな」

エレン「マジですか?! オレもそうですよ! オレ、甘党ですし」

ペトラ「甘党なんだ! 嬉しい! じゃあ、駅前のどら焼きとか」

エレン「あそこの美味いっすよね! オレも食べますよ」

ペトラ「三丁目のソフトクリームは?」

エレン「知ってます! あそこのも美味いですよね!」

ペトラ「うそー! 男で甘党な人って初めて出会った! 嬉しい!」

ミカサ(うぐぐぐ……)

盛り上がっている様子を感じてミカサの仕事の手が止まってしまった。

息が苦しくて顔が青ざめる。こんな感情、本当に嫌だ。

330: 2014/12/07(日) 10:34:53 ID:cBgmWJjc0
ミカサ(まさかこのまま、エレンはペトラさんと……)

想像して、ゾッとした。そんなの、嫌だ。

腹を括るつもりだったけれど、そんなの、無理だ。

そう感じてしまい、ミカサが涙目になっていると……

ジャン「あーミカサ、書類まだ出来てねえのか?」

同期入社のジャンがミカサに声をかけた。

ミカサ「御免なさい。待たせて」

ジャン「いや、残業して貰っている立場だから、無理にとは言えねえけど」

ミカサ「…………」

ジャン「なんか、顔色悪いな? 大丈夫か?」

ミカサ「あんまり……」

ジャン「お茶でも飲むか? オレ、今日は仕事大体片付いているし、この後、時間あるけど」

ミカサ「早上がりなの?」

ジャン「なんか、ペアのエレンの奴が人事部のピクシス部長に呼び出されているらしいから、オレ一人で動くわけにもいかないんだよ。抱えている仕事がねえ訳じゃねえけど。今日は何も出来ねえな」

ミカサ「…………」

331: 2014/12/07(日) 10:35:25 ID:cBgmWJjc0
ジャン「何か悩みがあるならオレ、相談に乗るぞ?」

ミカサはジャンの方を見ないまま言った。

ミカサ「エレンが結婚を考えているみたい……」

ジャン「はあ?! あいつ、彼女いたのか?!」

ミカサ「違う。お見合いを考えているみたい」

ジャン「マジか……あいつ、まだ入社2年目なのにすげえな」

ミカサ「もやもやする。エレンが他の女とくっつくところを想像したくない」

ジャン「…………」

ジャンは悲しそうな表情で返した。

ジャン「ミカサは、エレンに惚れているのか」

ミカサ「私の命はエレンの物。私の一生を捧げると決めた人が、エレンなので」

ジャン(なんてこった……)

ミカサの言葉にジャンは頭を抱えるしかなかった。

ジャン(ミカサの想いはそこまで……)

ミカサ「御免なさい。今日はこれ以上、仕事をしたくない……」

332: 2014/12/07(日) 10:35:54 ID:cBgmWJjc0
ジャン「ああ、いいよ。急ぎの依頼じゃねえし、明日に回してくれていい」

ミカサ「明日には必ず仕上げるので」

ジャン「無理すんな。今日はもう、あがれよ。オレ、何か奢ってやろうか?」

ジャンの気遣いは有難いとは思ったが、その気になれなかった。

ミカサ「大丈夫。早めに帰ってエレンのご飯を作らないといけないので」

ジャン「同居しているだったっけ」

ミカサ「うん……私が無理やり頼んで住まわせて貰っている」

ジャン(羨まし過ぎるだろ!!!!!)

ジャンは嫉妬玉が出来そうな勢いで拳を震わせた。

ジャン「だったら、スーパーにつき合わせてくれよ」

ミカサ「え?」

ジャン「オレも買い物に付き合う。お袋に帰りに人参買って来いって言われているし」

ミカサ「お母さんと同居しているの?」

ジャン「まあ、本当は家出たいんだけどな。ちょっと今、病気しているから、家に戻っているんだよ」

ミカサ「体を悪くされているの?」

333: 2014/12/07(日) 10:38:21 ID:cBgmWJjc0
ジャン「大した事じゃねえけど。一回、脳梗塞でちょっと……」

ミカサ「それはいけない。だったら早く帰ってあげないと」

ジャン「生活に不自由するほど後遺症があるわけじゃねえから心配は要らねえよ。多分、ストレスのせいだろ。傍にいてやんねえといけねえけど、大事に至っている訳じゃねえ。家事仕事は出来る程度には回復しているから」

ミカサ「そう……」

ジャン「すまねえ。気遣わせて」

ミカサ「いいえ。そんな事はない。では、一緒に出よう」

ミカサはジャンに付き添う形で会社を退社していった。

そしてその頃、エレンの方はペトラとの会話が弾んで、30分のつもりが、結局一時間以上、2人で話し込んでしまった。

エレン「まじっすか! ペトラさん、結構甘い物、制覇していたんですね!」

ペトラ「もしかして、エレンが街中をプラプラする目的って……」

エレン「美味い物の食べ歩きも兼ねていますよ。勿論、それだけじゃないですけど」

ペトラ「何だか趣味が似ているわね。今度、一緒に食べ歩く?」

エレン「いいんですか?! うわあ……それ、嬉しいですよ!」

ペトラ「休みが合えば、だけどね。うん。いいわよ。私のお勧め店を教えてあげるわ」

エレン「あざーっす!」

334: 2014/12/07(日) 10:38:52 ID:cBgmWJjc0
ピクシス「まだ話し込んでおるのか? (ぬっ)」

エレン「え?」

ペトラ「あ……もうこんな時間?! やだ……30分オーバーしていましたね!」

ピクシス「予定時刻を過ぎても一向に出てこないから、おっぱじめたか? と思ったぞ」

エレン「何言っているんですかピクシス部長!!」

ペトラ「会社でそんなふしだらな事しませんよ!!」

ピクシス「しかし意外と2人きりで話して盛り上がっていたようじゃが」

エレン「趣味が似ているというか、味覚が似ていることが分かったんですよ」

ペトラ「まさか甘党同士とは思わなくて」

エレン「甘い物の話で盛り上がっていたら、ついつい話が長くなってしまいました」

ペトラ「本当、話してみるもんね。こういう話をしたの初めてじゃない?」

エレン「ですね!」

ピクシス「ふむ……なんかもう、見合いの話は必要なくなったようじゃな」

エレン「え?」

ピクシス「お主ら、付き合ってみたらどうじゃ? これを切欠に」

335: 2014/12/07(日) 10:39:17 ID:cBgmWJjc0
ペトラ「へ?」

エレン「え?!」

ピクシス「エレン君の方は彼女がいた経験もないんじゃろ?」

エレン「まーそうですね」

ピクシス「初めてだったら年上の方がいいかもしれんぞ? 期間限定でもいい。他の女性に慣れる練習をしてみたらどうだ?」

エレン「え……でも」

ペトラ「私の方は、別に構わないわよ」

エレン「いいんですか?!」

ペトラ「うん。今、彼氏いないし、まあ、お試し感覚なのは私も同じだし」

エレン「え……じゃあ、甘えてもいいですか?」

ペトラ「うん! 今度の休みを合わせてあそこの店に行きましょう!」

エレン「では、是非!」

ピクシスはその様子を眺めて「ふむ」と思った。

ピクシス(ミカサ君の事を異性として見ていないと言う話は本当だったのか?)

ピクシス(いや、でも……わしが見た感じ、そういう風には思えなかった)

336: 2014/12/07(日) 10:39:50 ID:cBgmWJjc0
ピクシス(社内のテニス大会をしていた時、エレン君は他の女性のスコートにデレデレしている様子もなかった)

ピクシス(違和感があるの。エレン君は、ミカサ君から逃げている訳ではないのか?)

ピクシス(ペトラ君と話している感じから、年上の世話好き女房が好きそうな気配はある)

ピクシス(でも、世話好きの女を受け入れられるなら、ミカサ君を受け入れないのも変な話だ)

ピクシス(分からん。エレン君の『本当の好み』は、一体どこにあるんじゃろうか?)

エレン「ピクシス部長?」

ピクシスが黙り込んでしまったのでエレンがきょとんとすると、

ピクシス「すまん。少し考え事をしておった。まあ、本人同士が意気投合するのが一番じゃからな。まずは一回、デートしてみるのも良かろう」

エレン「はい! ペトラさん、宜しくお願いします!」

ペトラ「こちらこそ、宜しくね!」

そして2人は本当に意気投合して会議室を出て行って、一人残ったピクシスは腕を組んでしまうのだった。

337: 2014/12/07(日) 10:40:18 ID:cBgmWJjc0
そしてエレンとペトラが付き合い始めたというニュースは瞬く間に社内に轟いた。

特にその事を耳に入れたオルオ副主任はすぐさまペトラ本人に確認を取った。

オルオ「おま……! エレン、引っかけたって本当か?!」

ペトラ「引っかけたとは失礼ね。まあ、成り行きで付き合う事にはなったわよ」

オルオ(絶句中)

ペトラ「年下だけど、エレン可愛いし、この間デートしてみたけど案外、良かったわよ」

オルオ「デート、したのか……?!」

ペトラ「うん。ええっと、26日にたまたま休みが半分だけ重なったから、午後からちょっとだけ。久々にデートしたけど楽しかったなあ」

オルオ「お前、年下が好みだったのか? リヴァイ主任の件は……」

ペトラ「ああ……結婚を決めた人をいつまでも追いかけたら迷惑だしね。いい機会だから、他の男も探してみようかなって」

338: 2014/12/07(日) 10:41:09 ID:cBgmWJjc0
オルオ(なんてこった……)

オルオは頭を抱えていた。

ペトラ「エレンの方は早くお嫁さん欲しいらしいけど、彼女もいた経験ないし、まずは女性に慣れたいんだって。だから私は練習相手みたいな感覚だけど、私もお試しならいいかなって思ったのよ。合わない部分が出てきたらやめるつもりだよ」

オルオ「順調に交際が進んだらどうするつもりなんだよ」

ペトラ「え? まあ……その時はそれでもいいわよ? 私、エレンの事、嫌いじゃないもの」

オルオ「でも、好きでもねえだろ」

ペトラ「え? 割と好きだけど」

オルオ「本気で言っているのか……?」

ペトラ「何でそんなに突っかかるの? オルオに何か関係あるの?」

オルオ「いや…その……」

ペトラ「ははーん。私の方が早く結婚したらムカつくのね? ま、其の時はご祝儀たんまり頂きますけど! 期待しているわよ! 副主任!」

そう言いながらペトラは営業部を出て行って、オルオはその直後、orzの状態になった。

その様子をこっそり見ていたニファは「南無…」と思った。

339: 2014/12/07(日) 10:42:07 ID:cBgmWJjc0
そして時が少し経って、30日の昼休み。

エレンの方からまたリヴァイを昼食に誘って、外の定食屋で昼飯を食う事になった。

ハンジはまだ外回りの途中なので、今日はお昼を一緒に出来ないので仕方がない。

エレン「あの、リヴァイ主任。この間の件、ありがとうございました!」

リヴァイ「ああ……お見合いの練習の件か」

エレン「はい! アレが切欠で、ペトラさんとお付き合いさせて貰える事になって、今のところ順調に交際させて貰っています!」

リヴァイ「良かったのか? 本当に」

エレン「はい! 勿論です! 年上女房、悪くないですね!」

幸せいっぱいのエレンは、惚気たいのかリヴァイに向かってデレデレしていた。

エレン「オレ、こういうの初めての経験で、すげえ浮かれているんですよ。ペトラさん、凄く聞き上手だし、丁寧にメールも電話も返してくれるし、冷静だし、ミカサと違って、凄くいいです」

リヴァイ「………そうか」

340: 2014/12/07(日) 10:42:37 ID:cBgmWJjc0
エレン「加えて絶対、無理させないというか、こっちの事を空気で察してくれるんですよね。オレが眠い時は寝かせてくれるし、我儘言わないし、オレの趣味に合わせてくれるし、何で今までペトラさん、彼氏いなかったのかな? あんなにいい女性なのに」

リヴァイ「……………そうだな」

リヴァイはその原因に薄々気づいてはいたがここでは言わなかった。

ペトラは好きになった相手には一途で尽くすタイプだった。

だからこそ、その気配を感じた時にリヴァイは距離を置いてしまった。

尽くされる事は嫌ではないが、自分はどうやらそういう物を女性に求めている訳ではないと気づいたからだ。

リヴァイ(俺は恐らく、男としてはアホなんだろうな)

追われるよりも追う方が好きな癖にヘタレでもあると言う難儀な性格にほとほと呆れるが、それが自分だから仕方がない。

リヴァイ(尽くされるより尽くしたいと思うのに、性癖はМの時もあるから自分でも訳分からん)

矛盾を抱えている自分に怪訝な気分を抱えつつ、リヴァイはエレンの話を聞き続けた。

エレン「まだ、付き合い始めて一週間も経ってないですけどね。でも手繋いでデートしたりは出来たので、このまま順調に行けたらきっと……」

リヴァイ「ん?」

エレン「あの、その……こういう事を主任に聞いてもいいか迷うんですが」

リヴァイ「ああ……エレンはまだ童Oなのか」

エレン「う……まあ、そうですね」

341: 2014/12/07(日) 10:43:37 ID:cBgmWJjc0
エレンが照れくさそうに答える。

エレン「今はそういう空気になる訳ではないんですが、もしかしたら、そういう機会が来るかもしれないと思うので、其の時の為に、心構えをした方がいいですかね?」

リヴァイ「エレンは風俗にも行ったことねえのか」

エレン「いく訳ないですよ!!!」

リヴァイ「俺が営業に配属された最初の年はピクシス部長に無理やり連れていかれたけどな」

エレン「えええええ?!」

リヴァイ「俺が入社した当時はピクシス部長が営業部長で、キース主任が営業主任だった。エルヴィンはキース主任とピクシス部長が移動になってから、営業部長になったから、ピクシス営業部長の時代はいろいろとアレだったな」

遠い目をして過去を振り返るリヴァイだった。

リヴァイ「男性社員が多い時代だったから、営業の奴は一度は風俗に行っておけ! みたいな無茶振りしてきて、こそこそ逃げていたら無理やりピクシス部長に連れていかれて女を抱く羽目になった」

エレン「ええええ……そんな捨て方、酷くないですか」

リヴァイ「縦社会だったから仕方がない。まあ、女を抱く練習だと頭を切り替えてやったけど。ただ、其の時の事は今でもはっきり覚えているぞ」

リヴァイは苦笑いを浮かべながらエレンに言ってやった。

リヴァイ「なんていうか、至れり尽くせりでかえって萎えた」

エレン「へ?」

リヴァイ「だから、プロの女はその辺、きっちりし過ぎてつまらん。最初は何も分からないまま手探りでやる方が楽しいと思う」

342: 2014/12/07(日) 10:44:21 ID:cBgmWJjc0
エレン「それって、素人同士の方がいいって事ですか?」

リヴァイ「んー人によるかもしれんが。ただまあ、俺も人並みに性欲はあったから、世話になる事が全くなかった訳じゃない。営業の場合はそういう『繋がり』も仕事に関わってくるし、裏情報も回してくれる女もいる。仲良くなっておくに越したことはないが、それは特定のパートナーがいない場合に限る」

エレン「彼女がいるなら行く必要はないですよね」

リヴァイ「彼女が居ても行く奴は行くけどな。その辺は男の価値観次第だ」

エレン「だったらオレはいいです。今はペトラさんがいる訳だし」

リヴァイ「真面目な男だな。エレンは」

エレン「エルヴィン部長の時代になってからは、そういう無茶振りは無くなったんですか?」

リヴァイ「ああ……まあそうだな。エルヴィンはそこまで他人に干渉する性格じゃない。エルヴィンは「休める時は休もう」が座右の銘らしくて、家でゴロゴロするのが生きがいみたいなところがあるからな」

エレン「営業職なのにそれでいいんですか?! (ガビーン)」

リヴァイ「気持ち分からんでもないけどな。俺も休みの時は家の事を優先したい」

エレン「う……休日返上させてしまってすみません」

エレンが過去を思い出して肩をすくめる。

リヴァイ「まあ、過ぎた事だ。気にするな。そう言う訳だから、あんまり気張らず、自然とそうしたい時が来たら手出したらいいんじゃねえか?」

エレン「そうですね。自然に身を任せるのが一番ですよね」

リヴァイ「エレンの場合は俺なんかより余程積極的だし、大丈夫だろ」

343: 2014/12/07(日) 10:44:57 ID:cBgmWJjc0
エレン「え? そうですかね? リヴァイ主任、受け身なんですか?」

リヴァイ「…………尽くしたいと思う方だが、構ってくるのはハンジの方からが多いな」

エレン「そうなんですか」

リヴァイ「夜の生活は、俺の方から誘う事が多いが。うーん。何だろうな? このバランスは」

エレン「おおお……リヴァイ主任、受け身じゃないじゃないですか。誘えるなら、凄いです」

リヴァイ「ハンジはあんまり甘い空気になるとかえって逃げるから、さらりと『一緒に寝よう』でいいそうだ。その辺はサバサバしているな。あいつは」

エレン「一緒に寝よう……いいですね。シンプルで」

リヴァイ「そうか?」

エレン「はい。その技、盗ませて貰います」

リヴァイ「本当に一緒に寝るだけになっても知らんぞ」

エレン「う……それもそうか」

リヴァイ「まあ、そこで『いいよ』と返してくれるような女なら大丈夫って事だろ」

エレン「そうですかね……」

そんな仲の良い上司と部下の様子をこっそり覗いている女がいた。

ミカサである。跡をこっそりつけて様子を伺っていたのだ。

344: 2014/12/07(日) 10:45:22 ID:cBgmWJjc0
勿論、一人ではない。ジャンも付き添っていたのだ。

ジャンはミカサの事を好いているが、ミカサは全くその事に気づいていない。

ミカサ「エレンが大人の男性になってしまう(ズーン)」

ジャン「ペトラさんと付き合い始めたっていうのは本当だったのか」

ミカサ「みたい。最近、家で良く電話をしているし、休みの日もペトラさんと合わせる約束をしているようだった」

ジャン「そうか………」

ジャンにとってはチャンスに思えたが、憔悴しきっているミカサを見ていると心が痛んだ。

顔色がずっと悪いのだ。あの日からずっと。

ミカサ「どうしたらいいのだろうか? エレンは本当にペトラさんと結婚するのだろうか?」

ジャン「まだ一週間も付き合ってないんだろ? そうすぐに結婚の話に飛躍はしねえだろ」

ミカサ「でも、分からない。リヴァイ主任は酒の席でハンジさんにプロポーズされて、そこからいろいろあって、結局結婚すると決めたそう。その期間は一か月程度だった」

ジャン「去年の忘年会の時点で籍入れたのは嘘だったけど、話し合って2人が結婚する事になったのは本当だったんだよな」

ミカサ「そう。だから分からない。エレンも一か月程度でペトラさんとの結婚を決めてしまうかもしれない」

ジャン「ううーん」

ミカサ「もしそうなったら、私はきっとエレンに出て行けと命令されてしまう。嫌だ……」

345: 2014/12/07(日) 10:45:52 ID:cBgmWJjc0
ミカサがどんどん底なしに落ち込んでいくのが可哀想だった。

ジャン「なあ、ミカサ」

ミカサ「何だろうか?」

ジャン「もし万が一、そうなった時は、オレのところに転がり込んでもいいぞ」

ミカサ「え?」

ジャン「だから、エレンに出て行けって言われてしまったら、其の時はオレの家に来ていい。母親と同居になるけど。それでもいいなら」

ミカサ「え? え? 何故?」

ジャン「だって、住むところがないと困るだろ」

ミカサ「その時は独り暮らしをすれば……」

ジャン「ミカサは女性だろ。独りで暮らすのはあぶねえだろうが」

ミカサ「私は柔道剣道空手の有段者なので大丈夫だと思う」

ジャン「そういう話をしてねえよ。いや、それも含めてだけどさ」

ジャンは鮭定食を突きながら言った。

ジャン「とにかく、独りでいると、いろいろ考え込むだろ? そういうのも含めてあぶねえって言ってんだよ」

ミカサ「精神的に病んでしまう事を心配してくれるの?」

346: 2014/12/07(日) 10:46:18 ID:cBgmWJjc0
ジャン「そうだよ。しんどい時はうちに来て全然構わねえから」

ミカサ「………ありがとう」

ミカサはそこでほんの少し微笑みを浮かべた。

ミカサ「ジャンはとてもいい人なのね。彼女はいないのだろうか?」

ジャン「い、いねえよ……(目の前に好きな女はいるが)」

ミカサ「とても勿体ないと思う。世の中の女は見る目がない」

ジャン(ぐさあああ)

テニス大会のミクスドダブルスであぶれた事を思い出して凹むジャンだった。

ミカサ「出来ればそうならない方がいいけれど。万が一の時はお願いするかもしれない」

ジャン「!」

ミカサ「今は様子を見るしかない。私に出来る事は何もない……ので」

ジャン「おう……」

そう言い合いながら、お互いに同じ味噌汁をかき込むのだった。

348: 2014/12/07(日) 19:57:36 ID:cBgmWJjc0
そして世の中はGWに突入して、リヴァイとハンジも一日だけ休暇を貰えたのでその日を利用して動物園デートをする事にした。

ハンジ「やっほおおおお! 白熊超可愛いwwwww」

リヴァイ「お前は猛獣ほど、テンションが上がるな」

ハンジ「虎とか可愛いでしょ。え? 可愛いと思わないの?」

リヴァイ「可愛いのか? ううーん」

リヴァイはいまいち同意は出来なかった。

リヴァイ「俺はキリンの方が可愛いと思うけどな」

ハンジ「キリンも可愛いよね! 分かる分かる!」

リヴァイ「お前のその差はどこにあるんだ?」

ハンジ「動物はオールOK? そんなに差はないかも」

リヴァイ「やれやれ」

ハンジは生物学者にでもなった方がいいような気がするリヴァイだった。

349: 2014/12/07(日) 19:58:09 ID:cBgmWJjc0
リヴァイ「そういえば、ハンジ」

ハンジ「なにー?」

ハンジはスマホで動物の写真を撮りまくりながら答えた。

リヴァイ「身体の調子は大丈夫か?」

ハンジ「ん? 元気だよ。何で?」

リヴァイ「いや……アレだけ避妊しないでやっているのに、気配がねえなと思って」

ハンジ(ぶほっ!)

外でいきなりそんな話をされてハンジは顔を赤らめて、リヴァイの背中を軽く蹴った。

ハンジ「流石にその話を動物園の園内でするな!」

リヴァイ「すまん」

ハンジ「あー気になるなら、ちょっと話す? 移動しよ」

園内の喫茶店のような場所に移動して2人で席についてからお茶をする事にした。

ハンジ「その事なんだけど……」

リヴァイ「何か問題が出て来たのか?」

ハンジ「うーん。もしかしたら、だけど。私、妊娠しづらい身体なのかもしれない」

350: 2014/12/07(日) 19:59:02 ID:cBgmWJjc0
リヴァイ「検査してみたのか?」

ハンジ「まだそこまではしてないけれど。でも、可能性はあるかも」

リヴァイ「だったら俺の方も原因があるかもしれん。一緒に時間を見つけて検査をするぞ」

ハンジ「かなあ?」

リヴァイ「もし俺の方に原因があれば、治療も困難だと聞いた事がある」

ハンジ「男の方が大変らしいね。その辺は」

リヴァイ「ああ。其の時は、諦める。仕方がない」

ハンジ「…………本当にいいの?」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「いや、だって、リヴァイ、子供欲しいんじゃなかったの?」

リヴァイ「子供を欲しがらない男なんて聞いたことがねえな」

ハンジ「だったら……」

リヴァイ「でも、どうしようもねえ事もあるだろ。その場合は仕方がない」

ハンジ「……………」

リヴァイ「まずは検査が先だ。時間を見つけて、今度いくぞ」

351: 2014/12/07(日) 19:59:40 ID:cBgmWJjc0
ハンジ「怖いなあ」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「もし、私の方に原因があった場合が、だよ」

ハンジは俯いて答えた。

ハンジ「その場合、やっぱり年齢的な事とか、今までの不摂生が原因って事になるよね」

リヴァイ「女の場合は不妊治療もしやすいだろ」

ハンジ「そうだとしても、お金かかるよ?」

リヴァイ「構わん。金ならいくらでも稼いで来てやる。俺を誰だと思っていやがる」

ハンジ「営業最強の男」

リヴァイ「だったら、金の事を心配する必要はねえ」

ハンジ「でも、あなたの場合、他にも金が必要なんだし」

リヴァイ「ファーランの件はそろそろ援助を打ち切ってもいいと本人から連絡が来た」

ハンジ「え?」

リヴァイ「ファーランはもう28歳だ。医者としては駆け出しだが、自分で金を稼げるようになってきたから、そろそろ俺から独立したいと言ってきた。今までかかった金は必ず後で返すとも言っている。だからこれから先はイザベルの治療費だけの負担だけで済むんだよ」

ハンジ「……………」

352: 2014/12/07(日) 20:01:09 ID:cBgmWJjc0
リヴァイ「だから心配はいらない。余計な事は考えなくていい」

ハンジ「それだけじゃないんだ」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「あのね。妊娠しにくいのは、私が仕事を続けているせいもあるかもしれない」

リヴァイ「…………」

ハンジ「女って、ストレスのかかる環境にいると、だんだん体が男性的になって、女性的な要素が消えていくそうなんだ」

リヴァイ「そうなのか」

ハンジ「環境に適応していくというべきかな。だから、働いている女性は仕事をやめて家の事に専念した方が妊娠もしやすいと言われているよ」

リヴァイ「あくまで統計学的な話だろ。それは」

ハンジ「そうかもしれないけど。でも、もしそうなら、一度仕事から離れた方がいいのかな」

リヴァイ「離れたいとは思ってねえだろ」

ハンジ「まあ、ね」

ハンジは少しだけ辛そうに答えた。

ハンジ「エルヴィンの横で営業副部長になってから、外回りの仕事も減ったけど、それでも仕事の量はあるしね。エルヴィンが凄く気遣ってくれるから、仕事そのものはやりやすいし、今が一番、いい感じだから……」

リヴァイ「エルヴィン自身は、ハンジがいつ産休に入ってもいいように、その位置に置いたって言っていたが」

353: 2014/12/07(日) 20:02:14 ID:cBgmWJjc0
ハンジ「だろうね。元々はエルヴィン、独りで今までの仕事をこなしていたしね。エルヴィンの仕事の3分の1を私が受け持っているような状態だから、元に戻そうと思えばすぐ戻せる筈だし」

リヴァイ「だったら………」

ハンジ「だけど、それを考えたら、凄く悔しく思えちゃって」

リヴァイ「悔しい?」

ハンジ「男の人が羨ましいよ。全力投球できる、その体を持っている事その物が」

リヴァイ「……………」

ハンジ「女って、面倒臭いんだ。体のリズムだったり、気分の上下だったり。どんなに頑張っても私は女だし、男の人程、仕事は捌けない。圧倒的な差を感じる。エルヴィンの仕事ぶりをみていると特にそう思うよ」

リヴァイ「まあ、あいつは仕事早いからな。早く家に帰りたいから」

ハンジ「でも、居ても居なくてもいい位置にいるっていうのって、精神的にちょっと辛い」

リヴァイ「!」

ハンジ「エルヴィンが私の為に今の位置に置いてくれて、仕事を回してくれるのは嬉しい。立場的には出世したんだし、不満を言うのはお門違いだってのも分かっているけど」

リヴァイ「………」

リヴァイはなんと答えればいいのか分からなかった。

ハンジ「ごめん。私、我儘だよね。本当に。こんなに幸せにして貰っているのに。どんどん欲深くなっていくのが怖い」

そう言って涙ぐむハンジに慌ててリヴァイはハンカチを取り出した。

354: 2014/12/07(日) 20:02:40 ID:cBgmWJjc0
リヴァイ「泣かなくていい。いや、泣いてもいいんだが……」

ハンジ「泣いた方がいいから、泣かせて……」

リヴァイ「分かった」

ハンジの好きにさせる事にした。彼女の思うようにさせてやりたかった。

少し時間が経って、落ち着いてからリヴァイは言った。

リヴァイ「男の人程、仕事を捌けないっていうのは謙遜し過ぎじゃねえか?」

ハンジ「え?」

リヴァイ「むしろ、平均的な男よりハンジは仕事を捌ける方だろ。そりゃエルヴィンやピクシス部長とか、役職クラスの男と比べたらそうなるかもしれんが、会社全体の平均から数えたら、ハンジは上から数えた方が早い成績を出しているし、貢献もしているだろうに」

ハンジ「そうなのかな?」

リヴァイ「それに、ハンジの場合は自分だけじゃなくて、周りにも十分に影響を与えているぞ」

ハンジ「え?」

リヴァイ「ハンジが頑張るから、俺も頑張れるんだよ。それはきっと俺だけじゃない」

ハンジ「……………」

リヴァイ「むしろそれだけ頑張れるお前の方が俺にとっては羨ましい。何でそこまで『仕事』を愛せるんだ。お前は」

ハンジ「なんでって……」

355: 2014/12/07(日) 20:03:06 ID:cBgmWJjc0
リヴァイ「俺の場合はたまたま営業職に縁があったからここにいるだけだ。むしろ仕事なんて憎いとすら思っているし、やらないで済むならそれに越したことはないとすら思っている。もっと金を稼ぐ方法が他にあるなら、そっちに流れるかもしれん」

ハンジ「金の為に仕事をするの?」

リヴァイ「俺の場合はそうだな。それ以上でも以下でもない」

リヴァイにとってはその程度の物だった。

リヴァイ「もし自分に向いた『天職』のような物に出会えていればまた違った人生もあったかもしれんが、ハンジの場合はそうじゃねえよな。自分に向いていようがいまいが、仕事熱心だ。何でもやるって感じだろ?」

ハンジ「そうかもしれないね」

リヴァイ「そこには金の為って理由が介在していないように思えるが」

ハンジ「そうだね」

リヴァイ「金は二の次なのか」

ハンジ「そうだと思うよ」

リヴァイ「何の為に、仕事するんだ?」

ハンジ「生きていく為だよ」

即答されて、リヴァイは困惑した。

リヴァイ「どう違うんだ?」

356: 2014/12/07(日) 20:03:32 ID:cBgmWJjc0
ハンジ「繋がっていたいんだ。世界と」

リヴァイ「世界?」

ハンジ「そう。それが生きる事だと思う。私にとっては」

リヴァイ「意味が分かりにくいんだが……」

ハンジ「ちょっと話が脱線するけど、いいかな」

リヴァイ「いいぞ」

ハンジ「私は、「金」は人間でいう「血」だと思っている」

リヴァイ「えらく飛躍した例えだな」

ハンジ「そう?」

リヴァイ「まあいい。続けてくれ」

ハンジ「うん。この場合、血液は多すぎても少なすぎても体に害を与えるの。その人にとっての適切な量じゃないと、体の中にうまく循環しないのね」

リヴァイ「そうなのか」

ハンジ「貧乏だと、血が足りないような感じになるでしょ」

リヴァイ「まあ、分からなくもねえな」

ハンジ「でも、多すぎると、今度は逆に体を壊すの。狂っていくよ。多すぎるのも」

357: 2014/12/07(日) 20:04:04 ID:cBgmWJjc0
リヴァイ「…………」

ハンジ「だから適切な量さえあればいい。でも、血だけじゃ人間は構成していない。タンパク質や骨やそういう部分もあるよね」

リヴァイ「まあ、な」

ハンジ「私にとっては「仕事」は「酸素」に近い感覚だよ。一定量、吸っていかないと氏んでしまうような心地さえある」

リヴァイ「…………」

ハンジ「人が好きなんだろうね。きっと。誰かと関わって生きていきたいんだよ。見知らぬ他人も含めて。人間って、面白いんだもの。自分を含めて」

リヴァイ「凄い考え方だな」

そういう考えを聞くのは初めての事だった。リヴァイにとっては。

ハンジ「だろうね。私、良く人から『変わっている』って言われるから」

リヴァイ「いや、そういう意味じゃない」

ハンジ「ん?」

リヴァイ「仕事を酸素と同等の位置に捉えるハンジが凄いと思ったんだ」

リヴァイはそこまで考えた事はなかった。

リヴァイ「成程な。だから70%だと言ったのか。確かにそれを失くしたら生きていくのは難しいな」

ハンジ「でしょ?」

358: 2014/12/07(日) 20:04:37 ID:cBgmWJjc0
リヴァイ「だったら今後はもう、子作りをしない方がいいのか?」

ハンジ「ううーん」

リヴァイ「子供が出来たら、社会的な意味での仕事は休憩せざる負えない。それが本当は嫌なんだろ?」

ハンジ「嫌、という話ではないんだけど」

リヴァイ「どう違う?」

ハンジ「忘れ去られないかな?」

リヴァイ「え?」

ハンジ「半年から一年近く、現場から離れたら世間は様変わりするよ。きっと浦島太郎の状態になる」

リヴァイ「………」

ハンジ「そういうハンデを抱えてもいいけどさ。もし戻って来た時に、必要とされなくなったら、辛いなって思うんだ」

リヴァイ「必要とされたいのか」

その言葉が引っかかって、リヴァイは言った。

ハンジ「………………」

リヴァイ「ハンジ、お前を今、一番必要としている人間は目の前にいるぞ」

ハンジ「え…………」

359: 2014/12/07(日) 20:05:16 ID:cBgmWJjc0
そこでリヴァイはハンジの両手を握って説得した。

リヴァイ「子供を産む事だけは男には出来ない。女だから出来る『仕事』だと捉える事は出来ないか?」

ハンジ「!」

リヴァイ「世界と繋がって居たいなら、子供を通じて新しい世界と繋がれるとは思わないか?」

ハンジ「新しい……世界?」

リヴァイ「立場が変われば、見える世界も変わってくると思う。俺が初めてイザベルやファーランと同居した時にそう感じた」

養父のような立場になって初めて分かる事も多かった。

独りで生きる時とは違った世界を経験させて貰った。数えきれないほどに。

リヴァイ「母親という立場になれば、今までの生き方は出来なくなるかもしれないが、そこには別の人生が待っていると思う。それはそれで、世界と繋がっていく事は出来ると思うぞ」

ハンジ「………………」

リヴァイ「それにうちの会社は女性の現場復帰に関しては他の会社に比べたら優遇されている方だと思う。ピクシス部長が会社における女性の重要性を説き伏せて改革を押し進めたからな。工口いだけかもしれんが、それでも女性は社会に必要だ。ハンジの役割は、必ずある」

ハンジ「おばちゃんになっても続けられるのかな?」

リヴァイ「続けている人は大勢いるだろ。何がそんなに不安なんだ?」

ハンジ「良く分からないんだよ……」

その不安の正体が、見当たらなくてハンジは混乱し始めていた。

360: 2014/12/07(日) 20:05:49 ID:cBgmWJjc0
ハンジ「これって初めての経験で、どう分析したらいいのか分からない。私、これからどうしたいんだろ……」

リヴァイ「ハンジ……?」

胸の中がざわめいた。正体不明の不安に悩まされいるハンジにリヴァイも戸惑ってしまう。

ハンジ「こんなの、おかしいよね。リヴァイに幸せにして貰っているのに。子供、出来ないのが不安なのか、それともほっとしているのか、良く分からない」

リヴァイ「…………」

こんな時に不謹慎だと思ったが。

リヴァイは弱っているハンジを今、この場で押し倒してベッドに連れ込みたいような気分になっていた。

外だから自重したが、自宅だったら間違いなく、お姫様抱っこコース行きだと思った。

リヴァイ「今日はもう、家に帰るか?」

ハンジ「え? それは嫌だよ。折角、動物見に来たのに」

リヴァイ「だったら、続きを悩むのは家に戻ってからにしよう」

ハンジ「そうだね。今、この事を考えても仕方がない気もするし、ちょっと歩こうか」

リヴァイ「ああ。そうしよう」

そして2人は手を繋いで喫茶店を出た。

その2人の様子を目の端に入れてしまったカップルがいた。エレンとペトラだった。

361: 2014/12/07(日) 20:06:17 ID:cBgmWJjc0
2人もまた、動物園でデートをしていたのだが、偶々、リヴァイとハンジの会話を聞ける位置の席に先に座っていたのだ。

リヴァイ達がエレン達に気づく事はなかったが……。

話を聞いてしまって気まずい思いをする2人だった。

2人は少々、変装していたのもあって、気づかれなかったようだった。

変装していたのは、勿論、ミカサを撒く為である。

ペトラ「敵わないなあ……」

エレン「え?」

ペトラ「勝てる筈ないよ。今ので納得した」

エレン「営業成績の件ですか?」

ペトラ「違う違う。そっちじゃなくて、女としてよ」

ペトラはオレンジジュースを飲みながら言った。

ペトラ「リヴァイ主任が入れ込んでいる理由が分かった気がした。アレじゃ勝てないわ」

エレン「そうなんですか?」

ペトラ「だって、人として格好良すぎるでしょ。仕事が酸素とか。ストイックにも程があるわよ」

エレン「その感覚、分からなくもないですよ」

362: 2014/12/07(日) 20:06:47 ID:cBgmWJjc0
ペトラ「え?」

エレン「オレも感覚的には近いです。酸素というか、食べ物? ですかね」

ペトラ「え? そうなの?」

エレン「だって、仕事楽しいですよ。失敗すると悔しいし、美味い物が食べられなかったような気分になります」

ペトラ「………こっちもこっちで凄いわー」

ペトラが微妙に凹んでしまった。

エレン「そうですか?」

ペトラ「うーん。私の場合、結婚したら営業やめて事務の方に回して貰おうかなって考えていたし」

エレン「事務職も立派な仕事じゃないですか」

ペトラ「いや、そういう意味じゃなくて、仕事の量とか立場の重要度を下げて貰おうと思っていたの。女としてそれが当然みたいな気持ちだった」

エレン「そうなんですか?」

ペトラ「誰かと結婚したら子供を産んで育てて……家庭を優先出来るのであれば、専業主婦でも構わないし、お金が足りないなら職場復帰する。その程度にしか考えてなかった」

エレン「それはそれでいいんじゃないんですか?」

ペトラ「でも、ハンジさんは違ったじゃない。仕事その物に誇りを持っているように思えたわ」

エレン「うーん。どっちも間違いではないと思いますよ?」

363: 2014/12/07(日) 20:07:16 ID:cBgmWJjc0
ペトラ「そうかしら……」

エレン「そこは個人の考え方であって、どっちがいい悪いとか良いとかの話ではないと思うんですが」

ペトラ「そうなのかな」

エレン「はい。ハンジさんはそういう人なだけで、ペトラさんはそうじゃないだけです」

ペトラ「エレンは何だか面白い子ね」

エレン「そうですか?」

ペトラ「うん。凄く、今、格好良く見えたよ」

エレン「え? そう言われるとちょっと照れますよ」

エレンが頭をついつい掻いて笑ってしまう。

ペトラ「ありがとう。そう言って貰えて嬉しいよ」

エレン「そうですか?」

ペトラ「うん………でも、やっぱり悔しいなあ」

そこでペトラは一筋の涙が溢れて来たのだった。

ペトラ「そこだったのかなあ? リヴァイ主任がハンジさんを選んだ理由って」

エレン「………リヴァイ主任の事、好きだったんですよね」

364: 2014/12/07(日) 20:07:41 ID:cBgmWJjc0
ペトラ「ごめん。本当は今でも好きなの。それを吹っ切る為にエレンを利用しただけかも」

エレン「………分かっていましたよ。それはなんとなく」

エレンも流石にそこまで鈍感な男ではなかった。

エレン「でないと、オレみたいな新人がペトラさんみたいな人に相手にされる筈ないですよ」

ペトラ「え?」

エレン「ペトラさん、とてもいい女性だと思いますよ。リヴァイ主任が好きだから、今まで頑張っていたんですよね」

ペトラ「………うん」

ペトラは涙腺を緩ませて答えた。

ペトラ「頑張ったんだけどね。ダメだったの。リヴァイ主任の心に引っかかる女になれなかった」

エレン「……………」

ペトラ「リヴァイ主任、結構その辺の線引き、分かりやすいんだよね。そういう意味では、あのミカサって子もリヴァイ主任の好みのタイプかもしれない」

エレン「へ?」

思わぬ言葉にエレンの耳は疑った。

エレン「ミカサが? そんな馬鹿な。ミカサ、思いっきりリヴァイ主任、嫌って………」

しかし其の時、エレンは思い出した。ハンジの言葉を。

365: 2014/12/07(日) 20:08:08 ID:cBgmWJjc0
ハンジ『えー……だって、口元、綻んでいるよ?』

という、あの言葉を。

エレン「あ」

ペトラ「思い当たる節、あるでしょ?」

エレン「そう言われたら、そうかもしれないです」

ペトラ「つまりそういう事なのよ。私じゃ、ダメだって分かっているのよ。エレンの言う様にタイプが違うから」

エレン「………すみません」

ペトラ「謝らなくていいわよ。事実だし。リヴァイ主任、少々男性的ではっきりとした女性の方が好きみたいなのよね」

エレン「そう言われたらミカサも男性的かもしれない」

女にしては、そうかもしれない。

ペトラ「理性的で社交的で明るくて………多分、自分にない物を全部、ハンジさんが持っているのかな。だからそっちに惹かれていったのかも」

エレン「そうなんですかね?」

ペトラ「私にはそう見える。私、リヴァイ主任にあげられるものなんてなかったし、上司として慕う以上の事は出来なかった」

エレン「それでもペトラさんは努力してきたんじゃないんですか?」

ペトラ「仕事を頑張る以外の事は何も出来なかったわよ」

366: 2014/12/07(日) 20:08:46 ID:cBgmWJjc0
エレン「それでも、頑張った自分くらいは認めていいと思いますよ」

ペトラ「!」

ペトラは唇を噛んで俯いてしまった。

ペトラ「やだ………後輩の癖に。生意気言って」

エレン「え……すんません。言い過ぎましたか?」

ペトラ「ううん。いいの。そうだね。ありがとう。エレン、本当にありがとう」

エレン「あの、ハンカチ! ティッシュも沢山、用意してきているんで!」

ペトラ「ごめんね」

泣いている彼女を慰めながら、エレンの中に不思議な感情が湧いてきた。

エレン(なんていえばいいんだ。これ……)

今すぐ、ここでペトラを抱きしめて、よしよししてあげたいような。

そんな感情が沸いてきて非常に困った。

エレン(オレ、もしかして本気でペトラさんの事、好きになりかけているのかな)

もしかして、これが恋愛感情という物なのだろうか?

そう思い始めて戸惑う自分がいるのを感じたのだ。

367: 2014/12/07(日) 20:09:10 ID:cBgmWJjc0
ペトラが泣き止んで、会計を済ませて喫茶店を2人で出ると、エレンは思い切って言った。

エレン「あの……」

ペトラ「ん?」

エレン「その………」

ペトラ「うん」

エレン「いや、やっぱりダメか」

ペトラ「え? 何がダメ?」

エレン「すんません。オレ、こういうの、初めての経験で」

ペトラ「ん? どういう事?」

エレン「ちょっとだけ、動かないで下さい」

ペトラ「!」

人の波に見えない位置の建物の陰で、エレンはペトラを正面から抱きしめた。

ペトラ「あの……エレン?」

エレン「その、元気だして下さいね」

ペトラ「え?」

368: 2014/12/07(日) 20:09:45 ID:cBgmWJjc0
エレン「なんか、胸がぎゅっとしたんですよ」

ペトラ「そう?」

エレン「はい……どう慰めたらいいか分からないんですが」

ペトラ「もう十分、慰めて貰ったわよ。エレンに」

エレン「そうですか?」

ペトラ「エレンが居てくれて良かったわ。ありがとうって言ったでしょ」

エレン「……………」

ペトラ「でも、だからこそこれ以上利用するのは悪い気がしてきたわ」

エレン「え?」

ペトラ「ごめんね。お試し期間、もうちょっと続けようと思っていたけど、これ以上続けたら、エレンを利用するだけの悪い女になりそうだわ」

エレン「どこが悪い女ですか! むしろいい女ですよ?! ペトラさんは!」

ペトラ「今、エレンがそう思うのは、女の子に優しくしたい男の子の気持ちを私が利用しているからよ」

エレン「そうなんでしょうか?」

ペトラ「うん。それにエレンとこのまま付き合い続けたら、ミカサに後ろから刺されそうだし」

エレン「ミカサの事は、オレが何とかします」

369: 2014/12/07(日) 20:10:25 ID:cBgmWJjc0
ペトラ「でも、立場的にはミカサの気持ちを一番理解出来るのは私なのよね」

エレン「!」

ペトラ「振り向いて貰えない思いだと分かっていても止まらない気持ち、分かるのよ。ミカサと自分を重ねて見てしまうから。だから、エレンとはお試し以上の関係になりたくないな」

エレン「そうなんですか……それは凄く残念です」

お試しから本気になりかけていたエレンはすっかりしょんぼりしてしまった。

エレン「あの、せめて……ひとつだけ、お願いしてもいいですか」

ペトラ「なあに?」

エレン「触れるだけのキスを、頬にさせて下さい」

ペトラ「それで、終わりにする?」

エレン「はい。10日間だけの短い恋人ごっこだったけれど、オレ、凄く、良かったです」

ペトラ「分かったわ」

5月4日。その日、エレンは初めて女性にキスをした。

頬に優しい、一瞬のキスだったけれど。

物悲しくて切ないキスだったけれど。

それを最後に、エレンはペトラとの関係を元に戻す事にしたのだった。

371: 2014/12/08(月) 14:26:09 ID:FcBiSDOI0
そしてGWが終わって、世間の連休気分が抜けた頃。

オルオ「おま……エレンと10日間で別れたって、早すぎるだろ!」

ペトラ「そんな事はないわよ。濃い10日間だったわ。十分、良かったわよ」

オルオ「な、何が原因で別れたんだ?」

ペトラ「え? エレンがいい男過ぎたから」

オルオ「いい男なら何で別れた?! (ガビーン)」

ペトラ「オルオには分からないわよ。オルオはまだ私の域に達していないから」

オルオ「?! それ、いつか俺が言った台詞のパクリじゃねえか!」

ペトラ「そうだったかしら? 忘れたわ。ふふ………」

オルオ「エレンと気まずくないのか? 大丈夫なのか?」

372: 2014/12/08(月) 14:26:45 ID:FcBiSDOI0
ペトラ「元の先輩後輩の関係に戻っただけよ。別にそんなに変わらないわ」

オルオ「その違いは何なんだ……」

ペトラ「手繋いだのと、キス1回だけ」

オルオ「?! (エレンの奴、キスしたのか!!!!!)」

ペトラ「頬にキスして貰っただけよ。何想像した?」

オルオ「いや……(頬キスか。いや、それでも十分、クソ……!)」

ペトラ「私は女だから。女の気持ちが分かるのよね」

オルオ「何の話だ?」

ペトラ「私の恋が叶わなかったから、せめてね」

そう思い、呟いて、ようやく心の整理をつけたペトラだった。

373: 2014/12/08(月) 14:27:06 ID:FcBiSDOI0
仕事が終わってからエレンはちょっとだけぼーっとしていた。

そんなエレンの様子にミカサはオロオロしている。

ミカサ「エレン、ご飯は食べないの?」

エレン「あー食べる食べる」

エレン(もぐもぐ)

ミカサ「ペトラさんと別れたという噂を聞いたけれど、本当?」

エレン「あー本当だ。短い春だったな」

ミカサ「どうして別れたの?」

エレン「悪い女になりたくないって言われちまった」

ミカサ「ペトラさんは悪い女なの?」

374: 2014/12/08(月) 14:27:52 ID:FcBiSDOI0
エレン「いや、むしろいい女だと思う。いい女が過ぎるんじゃねえのかな」

ミカサ「だったら尚更何で別れたの?」

エレン「何でも度が過ぎると良くねえのかも」

ミカサ「え?」

エレン「だからこそ、リヴァイ主任も断ったのかなあ」

ミカサ「え? ペトラさん、リヴァイ主任の事が好きなの?」

エレン「好きだったんだってさ。失恋したんだって」

ミカサ「あんなクソちび上司の何処がいいの? 理解不能」

エレン「でも、リヴァイ主任の方はミカサの事、嫌いじゃなさそうだぞ」

ミカサ「ふわっつ?! (鳥肌)」

エレン「うーん。ハンジさんがいるから無理だけど。もうちょい早くリヴァイ主任と出会っていれば、ミカサの旦那にして貰う手もあったかもしれんな」

ミカサ「冗談でもやめてえええええええ!!! (大絶叫)」

エレン「おま、声、でかすぎる!! 近所迷惑だろ!!」

ミカサ「エレンが残酷な事を言うから……(しくしく)」

エレン「そんなにリヴァイ主任の事が嫌いなのか?」

375: 2014/12/08(月) 14:28:20 ID:FcBiSDOI0
ミカサ「エレンを土下座させた件はまだ許していない(キリッ)」

エレン「あーそれ、いつの話だったっけ? もう忘れた」

ミカサ「なんで?! (ガビーン)」

エレン「つか、よく考えたら、其の時の事があったおかげでリヴァイ主任と仲良くなれたような気もするし、結果オーライだから別にいいや」

ミカサ「そ、そんな………」

エレン「それより結婚式、早く来ねえかな。オレ、リヴァイ主任の結婚式、すげえ楽しみなんだよな」

ミカサ「何故………」

エレン「だって初めてだし。会社の人の結婚式」

エレン「あ……でも招待してくれた訳じゃないから、もしかしたらオレは参加出来ねえかも(シュン)」

ミカサ「うぐ……エレンが参加したいのであれば、私も出る」

エレン「無理しなくてもいいのに」

ミカサ「リヴァイ主任に、会社の人をどの程度招待するのか確認した方がいいのでは?」

エレン「ええ? こっちから聞いていいのかな?」

ミカサ「気になるなら聞いた方がいいと思う」

エレン「あーじゃあ、今聞いてみるか。図々しいけど」

376: 2014/12/08(月) 14:29:12 ID:FcBiSDOI0
電話してみると、リヴァイはすぐさま電話に出た。

リヴァイ『ああ……結婚式の件か。来たいのか?』

エレン「是非!」

リヴァイ『式の方は無理だが、披露宴の方なら呼んでもいいぞ。まさかお前の方から来たいと言い出すとは思わなかったな』

エレン「きっとオレだけじゃないですよ! 披露宴に出たい会社の方は他にも一杯いると思うのですが」

リヴァイ『そうかあ? まあ……じゃあ一応、他の奴らにも聞いてみるか』

そう言う訳で、翌日、リヴァイが皆に聞いてみると……

オルオ「いいんですか! 主任!」

エルド「出ていいのなら絶対行きます!」

グンタ「呼ばれないから、寂しいと思っていたんですよ!」

リヴァイ「え? そうだったのか?」

営業部下メンバーのふたつ返事にびっくりするリヴァイだった。

377: 2014/12/08(月) 14:29:34 ID:FcBiSDOI0
ペトラ「そうですよ! 皆、出たいに決まっているじゃないですか!」

リヴァイ「会社の上司の結婚式だぞ? ご祝儀を気遣わせるだけかと思っていたが」

ハンジ「上司とうちらの同期の会社の人間だけ呼ぼうかなって思っていたけど、案外皆、大丈夫だったんだね」

ナナバ「まあ、同期は参加するけど、部下は気遣わせるかなって思うよね。普通は」

ゲルガー「だな。でもリヴァイ主任の場合はいいんじゃないか?」

ミケ「ああ。リヴァイ主任を嫌っている部下は少ない」

リヴァイ「ああ……ミカサとかか」

エレン「あ、でもミカサも来るそうです。オレが行くので」

リヴァイ「まるで犬だな」

エレン「え?」

リヴァイ「いや、何でもない(げふげふん)」

ハンジ(今、うっかり素が出たな。ぷぷっ!)

アルミン「営業部の人間は殆ど来る事になりそうですね」

クリスタ「何着て行こう?」

ユミル「やべえ……それっぽい服は全然、持ってない」

378: 2014/12/08(月) 14:30:02 ID:FcBiSDOI0
サシャ「ですねえ。ドレス買った方がいいんでしょうか?」

コニー「男はスーツでイイから楽だよな!」

リヴァイ「あー………」

人数が大幅に増えそうな気配になって困るリヴァイだった。

リヴァイ「参ったな。会場の広さが足りるか?」

ハンジ「ワンランク、あげる? 会場の広さ。広いところに変更するのは出来ると思うよ」

リヴァイ「念の為にそうするか」

そう打ち合わせて、押さえた会場の別の大広間に予定を変更することになったリヴァイだった。

家に帰宅後、頭を掻いているリヴァイにハンジはついつい笑ってしまった。

ハンジ「意外そうな顔をしているね?」

リヴァイ「ああ。まさか部下の方から『出たい』と言われるとは……」

ハンジ「それだけ慕われている証拠だよ。良かったね」

リヴァイ「特にエレンは、いろいろ怒ったり、土下座させたり、嫌われてもおかしくねえ事ばっかりしているんだけどな」

ハンジ「あの子、素直だよね。こっちが怒っても素直に聞いちゃって可愛いよ」

リヴァイ「指導してやればやる程イキイキしているような気もする」

379: 2014/12/08(月) 14:30:32 ID:FcBiSDOI0
ハンジ「仕事が好きなんだよ。気持ち分かるなあ」

リヴァイ「………ハンジと同じ種類の人間か?」

ハンジ「かなあ? 一度、酒飲ませて徹夜で語り合いたいね!」

リヴァイ「浮気すんなって言った癖に、お前は浮気するのかよ」

ハンジ「冗談だってば! ちょ………今日もするの?!」

お姫様抱っこをさせられてベッドインする。

リヴァイ「ハンジ………」

ハンジ「なに……?」

リヴァイ「もしかして、マリッジブルーってやつなのか?」

ハンジ「え……?」

リヴァイ「結婚前にそういう状態になる女がいるそうだ。GWに動物を見たいと言い出したのも、ストレスが溜まっていたせいじゃないか?」

ハンジ「あーそれはあるかもしれないね。でも、それだけじゃないよ?」

リヴァイ「そうか?」

ハンジ「だって、約束していたじゃない。いつか動物園のデートをしようって」

リヴァイ「覚えていたのか?」

380: 2014/12/08(月) 14:31:12 ID:FcBiSDOI0
ハンジ「え? 何で忘れると思うの?」

リヴァイ「プロポーズや鍋の時の暴挙は忘れていたからだ」

ハンジ「あの時は酒入っていたからしょうがないでしょ! 断片的な記憶の残り方になる事も珍しくないし!」

リヴァイ「素面の時の約束は忘れないって言いたいのか?」

ハンジ「私、記憶力はそれなりに自信ある方だよ?」

リヴァイ「そうか」

ハンジ「伊達に進学校を出てないですよ。プン」

と、ちょっとだけ拗ねて見せるハンジに萌えるリヴァイだった。

リヴァイ「なんか、今すぐ子供を作らなくてもいい気がしてきたな」

ハンジ「え?」

リヴァイ「もう少し、新婚気分を味わないか? お母さんには悪いが」

ハンジ「え……でも、年齢の事を考えたら……」

リヴァイ「俺達はこういう関係になってまだやっと半年程度だぞ?」

ハンジ「そう言えばそうだった。一緒の会社に居たからそんな感じしないけど、ラブラブになってからはまだ日が浅いんだった」

リヴァイ「だろ? 昨年の12月の忘年会がスタートとして考えて……まだまだ恋人気分を味わってもいい頃だ」

381: 2014/12/08(月) 14:32:04 ID:FcBiSDOI0
ハンジ「本当にいいの?」

リヴァイ「今はまだ、其の時じゃねえだけかもしれねえだろ」

そう言ってリヴァイは身体を起こしてその日を境に再び避妊具を使用したに移行する事にした。

そのリヴァイの気遣いにハンジは何故か涙が溢れて止まらなくなった。

リヴァイ「何で泣く……?」

いきなり泣き出したハンジの様子に固まるリヴァイだった。

ハンジ「分からない。何故、涙が出るのか、分からないよ……」

リヴァイ「おい、ハンジ?」

ハンジ「分からないの。こんな気持ち、初めて経験するから…………」

どうも最近のハンジは情緒が不安定な気がする。

そんな彼女の様子の変化に、リヴァイはピンときた。

リヴァイ「なあハンジ」

ハンジ「なに……?」

リヴァイ「お前、今もしかして、生理前か?」

ハンジ「何で分かった?」

382: 2014/12/08(月) 14:32:43 ID:FcBiSDOI0
リヴァイ「いや、こういうのって、月経困難症って言うんじゃねえの?」

ハンジ「そうだよ。だから女は嫌なんだ。たまに気分の上下がおかしくなるから」

リヴァイ「なるほど。合点がいった」

リヴァイの中で腑に落ちるものがあった。

リヴァイ「何でそれを隠そうとする? 別に言ってもいいじゃねえか」

ハンジ「だって、恥ずかしいよ」

ハンジは涙を拭いながら答えた。

ハンジ「月によるんだけどね。普通で居られる月もあれば、グダグダになる月もあるの。年齢を重ねるにつれて、その振れ幅が酷くなってきた気がする」

リヴァイ「5月はたまたま、グダグダな月だった訳だな」

ハンジ「そうかもしれない」

リヴァイ「しかし5月は普通の奴でも気鬱になる時期だぞ?」

ハンジ「そうだっけ?」

リヴァイ「5月病って良く言うだろ? あれは季節の変わり目の関係もあるし春先とかでも、精神が不安になりやすい奴もいる。その辺の話はファーランから聞いた事がある」

ハンジ「医者だから?」

リヴァイ「そうだ。1年の内でも、人間は気候に影響を受けて精神が揺らぐ時期がある。ずっと同じ状態じゃねえんだよ」

383: 2014/12/08(月) 14:33:20 ID:FcBiSDOI0
ハンジ「……………」

リヴァイ「そういう意味じゃ女は男より影響を受けやすいって言うな。月の物の関係も、月との引力の関係でそうなるらしいし」

ハンジ「意外と物知りだね。リヴァイは」

リヴァイ「ああ。イザベルがなんでああいう事を言いだしたのか、自分なりに分析してみた事もあるからだ」

リヴァイはそう言いながら過去の事を再び思い出した。

リヴァイ「人間にはそういう『時期』のような物が有って、その影響を受けながら生きているという説がある」

ハンジ「時期……?」

リヴァイ「種を大地に植えて育てればいずれ芽が出て成長して実をつけるだろ。それと同じ意味だ」

ハンジ「……………」

リヴァイ「風の流れのような物だろうか。感覚的な物だから、俺もうまく説明出来ねえが。格好つけて言うなら人はそれを『運命』とでも呼ぶんだろ」

ハンジ「エルヴィンも似たような事を言っていた気がする」

リヴァイ「だろうな。あいつはそれを「博打」だと言うが。風の流れのような物を感じるのは、俺も分かる」

ハンジ「……………」

ハンジは真剣にリヴァイの言葉を続けて聞いていた。

リヴァイ「もっと細かい事を言えば「気」の流れみたいなもんか。そういう意味では、ハンジが入社する前と後では、営業課内の空気がガラリと変わったぞ」

384: 2014/12/08(月) 14:34:02 ID:FcBiSDOI0
ハンジ「そんなに違ったの? 私はそれ以前を知らないから分からないんだけど」

リヴァイ「濁っていたな。どんよりしていて、クソみてえな職場だと思った」

ハンジ「そんなに酷かったんだ………」

リヴァイ「ああ。当時は男性しかいない職場だったし、何より皆、疲れ切っていて、表情が暗かった。そんな営業じゃ契約なんて取れる訳ねえ。だから当時のピクシス部長は『革命が必要じゃ!』と言い出して、無理やり人事部に直談判して、一人だけでいいから、女性を営業課に回してくれと拝み倒したそうだ」

ハンジ「そこで白羽の矢が立ったのが私だったんだ」

リヴァイ「そうらしい。俺も後で聞いた話だったけど。だから体力があって、頭が良くて、中性的な女性なら何とかなるんじゃないかという話になって、ハンジが営業課に採用されて………まあ、後はお前が応援団みたいなノリで職場を明るくしてくれて、どんどん全体の営業成績が伸びて来たから、上役も「マジか?」みたいな顔になったそうだ」

ハンジ「へええええ…」

裏話をきいてびっくりした。そんな逸話があったとは。

リヴァイ「だからその……仕事は目に見える物だけじゃねえと思うんだよ。俺は」

ハンジ「え?」

リヴァイ「確かに契約を取ってくるっていう一番大事な仕事はあるが、そこに行きつくまでには他の要素も絡んでくるって事だ。其の為には男だけの力じゃそこに辿り着けない」

ハンジ「…………」

リヴァイ「サポート役っていうべきか。事務の仕事とはまた別の……その、裏方的な仕事とはまた別の……なんて言えばいい? こういうのは」

ハンジ「もしかして『癒し』みたいなもの?」

リヴァイ「それだ。その仕事に関しては女程、エキスパートはいねえと思っている。女にしか出来ない仕事じゃねえか?」

385: 2014/12/08(月) 14:35:27 ID:FcBiSDOI0
ハンジ「そんな事はないよ。男の人だって癒される人はいるよ?」

リヴァイ「少なくとも、俺やエルヴィンにその仕事が出来ると思うか?」

ハンジ「うー……」

それを言われてしまうと出来ない気もする。

ハンジ「まあ、リヴァイに癒されるのは、女性側だけになるかなあ」

リヴァイ「男は男に癒される事は滅多にない。アルミンとか言った、あいつくらいだろ。男で男を癒せそうなのは」

ハンジ「あーそう言われたら彼もある意味中性的ですね」

リヴァイ「ああいう奴はごく稀だ。言っておくが、男だけになるといろんな意味でげんなりする。女はそこに居るだけでも価値がある。器量が悪くても愛想が良ければいい。不愛想な場合は美人を採用する。ピクシス部長の理論は男側の自分勝手な願望がぶち込まれているが、実際それで営業の力がアップしたんだから間違っちゃいねえよ」

ハンジ「ピクシス部長、無茶苦茶だなあ」

ハンジは呆れ返っているが、リヴァイも大体同じ気持ちだった。

リヴァイ「俺もあの人は無茶苦茶だと思っているが、だからこそ仕事が出来るんだよ」

リヴァイはそう言って若い頃のピクシス部長を思い出していた。

リヴァイ「人間の心理を『本能』の観点から考えて仕事を捌くから、昼寝も採用して無理はしない方針に変えたら、実際休暇を願う社員が減った。夏場の冷房に関しても女性が冷えやすい事を知っているから温度を下げ過ぎず、その時期だけは男性は背広を着なくてもいい事になったし、そういう細かい事を変更して改革を進めていったら、どんどん会社が大きくなってきた。勿論、そこに行きつくまでにいろんな衝突はあったとは思うが……そういう意味で、ハンジもピクシス部長のように自分にしか出来ない仕事を目指してみればいいんじゃねえか?」

リヴァイがそう言うと、ハンジの目は大きくなった。

ハンジ「自分にしか出来ない仕事……?」

386: 2014/12/08(月) 14:36:07 ID:FcBiSDOI0
リヴァイ「そうだ。ピクシス部長がやった事は、ピクシス部長が工口過ぎるからこそ出来た事だ。あの人程、女に気遣える男はそうはいない。女が生きがいみたいな人だからな。アレはピクシス部長にしか出来ねえよ」

ハンジ「…………」

リヴァイ「エルヴィンの仕事もそうだな。あいつはシナリオを考えるのが好き過ぎるから、交渉の場のパターンを分析して体系化して、こういう人間にはこう台詞を返した方がいいという「台本」を作る。それが100%うまく行く訳じゃねえが、それでもマニュアルのような物があるのとないのじゃ、精神的な負担が全然違う」

ハンジ「…………」

リヴァイ「俺の場合は……まあ、出来るのは整理整頓と掃除と身だしなみを整えるくらいだが、自分に出来ない部分はエルヴィンに助けて貰っている。後は遅刻しねえ事か。スケジュール管理のミスをしない。そこを徹底している。自分がやれる事を優先しているんだ」

ハンジ「…………」

リヴァイ「ハンジの場合は、俺よりももっといろんな事が出来るだろ。だから、その………」

ハンジ「うん。もう大丈夫だよ。リヴァイ」

リヴァイの中の内側の熱を感じて、ハンジは微笑み返した。

ハンジ「そうだね。私、間違っていたよ。仕事って、何も他の人が出来る事を自分で無理にしなくても良かったよね」

リヴァイ「そうだ。自分が出来る事を優先していい。他の奴が出来る仕事は、他に回していいんだよ。だからエルヴィンはお前に出来る仕事を回すんだ」

ハンジ「そっかあ。私、結構エルヴィンに頼られていたのかな?」

リヴァイ「だと思うぞ。エルヴィンから見たらな」

ハンジ「私も自分がやりたい事、やっていいんだ」

リヴァイ「その為に生きてもいいと思うぞ?」

387: 2014/12/08(月) 14:36:35 ID:FcBiSDOI0
ハンジ「私………もっと皆の事を知りたいかも」

ハンジはそこで初めて自分の気持ちをリヴァイに伝えた。

ハンジ「職場の皆の事をまだまだ知らないから。知っていれば、もっと効率よく、仕事を動かせると思うんだよね」

リヴァイ「ハンジの分析力を活かしてみればいいじゃないか」

ハンジ「うん…そうする! 皆の事、沢山観察しちゃうおうかな♪」

リヴァイ「あ、でもあんまり男性社員はジロジロ見るなよ」

ハンジ「何で?」

リヴァイ「勘違いする野郎も出てくるかもしれんだろ」

ハンジ「あれ? ヤキモチですか? ん?」

リヴァイ「そうだと言ったら?」

ハンジ「…………面倒臭いかも」

リヴァイ「おい!」

ハンジ「にしし。嘘だよ。嬉しいに決まっているじゃないか」

そう言って、ハンジは自分の方からリヴァイに軽いキスをした。

その直後、

388: 2014/12/08(月) 14:37:02 ID:FcBiSDOI0
リヴァイ「……………」

クラッときた。この感じ、まずい。

リヴァイはがくんと、堕ちて深いところに嵌った感覚を覚えた。

ハンジ「おいどうした? 急に動かなくなったな? ん?」

リヴァイ「クソ眼鏡……」

ハンジ「またそれですか?! え? 今の変だった?」

リヴァイ「最高過ぎる………だろうがこのクソ女!!!!!」

ハンジ「だからどっちよ?!」

リヴァイ「両方だ!!!! もう、今夜も本気でやる! 足腰立たなくさせてやる!!」

ハンジ「ちょ……何で急にやる気出した?! 本当、意味分かんないんだけど?!」

リヴァイ「分析しろ!! いや、しなくていいが、もう何でもいい!」

ハンジ「ええええ?! 意味不明すぎるけど………まあいいか」

押し倒されながら今夜もリヴァイの体重を感じてハンジは笑う。

ハンジ「ずっと分かんない方が楽しいかもしれない。いや、でも分かった方がいいのかな?」

リヴァイ「知らん。もう、何も考えたくない。頭が疲れた」

389: 2014/12/08(月) 14:37:55 ID:FcBiSDOI0
ハンジ「だろうね! 一生懸命考えて、一杯喋ってくれたよね!」

リヴァイ(モミモミモミ)

ハンジ「そこで何故おっOいをもむー?!」

リヴァイ「癒されたいからに決まっている」

ハンジ「あらそうなの? でも小さいのに?」

リヴァイ「でかくなれー」

ハンジ「それ、酷い! 今更それ言うの酷い!!」

リヴァイ「嘘だ。そのままの方がいい」

ハンジ「訳分からん! リヴァイ、本当、実は酔ってる?」

リヴァイ「前にハンジに酔っていると言っただろ?」

ハンジ「アレ本気だったの?! 嘘ー……冗談かと思っていたのに」

リヴァイ「今夜もハンジを飲ませろ」

ハンジ「!」

リヴァイ「酔い足りない。狂わせてくれ。もっと………嵌ってみたい」

ハンジ「え……ちょ……どうした? や、やめてよ」

390: 2014/12/08(月) 14:38:31 ID:FcBiSDOI0
ハンジはこの手の甘い台詞が少し苦手だった。ムズムズするからだ。

でも今夜のリヴァイはそれを止める様子はなかった。

前に甘い物は入れすぎるとダメだと伝えた筈なのに。

その事を忘れているのだろうか? いや、これは……。

リヴァイ「体が滾る。ハンジのせいだ。俺を目覚めさせた責任を取って貰うぞ」

ハンジ「ど、どうすれば……?」

リヴァイ「俺に愛されろ。一生、離してやらん」

甘い言葉を言っている自覚がない……?

ただの本音がダダ漏れしている状態のように思えた。

ハンジ「ひえっ……ああっ……!」

リヴァイ「俺の嫁として、ずっと、ずっと一緒に居てくれ」

ハンジ「分かっているってば! 婚約したのに、今更言わなくても……!」

リヴァイ「愛している……」

ハンジ「こらああ! 人の話聞いてないね?! 甘い言葉はそんなに要らないって前にも言ったのに!」

リヴァイ「クソ眼鏡の癖に……」

391: 2014/12/08(月) 14:38:58 ID:FcBiSDOI0
ハンジ「だからなんでそこでまた、悪態つくかなあ?」

リヴァイ「黙れ。もう、喘ぐだけでイイから」

ハンジ「ええええ? 無茶振りにも程が……ん」

キスで口を無理やり塞がれて思い出す。

初めて体を繋いだ時の、あの時と比べたら、今は。

ハンジ(キス、巧くなった……お互いの感じやすいところがだんだん分かるようになってきた)

回数を重ねていく度に、リヴァイが学習していくのが良く分かる。

思い出す。最初に抱かれたあの日のキスを。

おずおずと、震えるように戸惑っていた愛撫を。

だけど愛おしそうに、慎重に進めるリヴァイの動きを。

緊張がこっちにも伝わってくるようなだった。

心臓の音が激しくて、しんどそうな表情のリヴァイの顔を思いだした。

それでも全身をくまなく愛撫して、舌で汗を吸い尽くして、少しでも反応を見せたらそこを追及して。

まるで荒れた畑を手あたり次第、開墾する農家の人のような、そんな苦労が伺えた。

ハンジ(あの時の、リヴァイ……汗、相当掻いていたよね)

392: 2014/12/08(月) 14:39:29 ID:FcBiSDOI0
ボタボタと落ちてくる汗を今でもはっきり覚えている。

あの時の、体臭も一緒に思い出して、胸の奥が苦しくなってきた。

精一杯、愛してくれた。きっと不安で堪らないのに。それでも手を出してきて。


結納を予定していた日。その日は結納がキャンセルになってしまったけれど。

その日の夜は、凄く暖かだった。

397: 2014/12/08(月) 14:41:46 ID:FcBiSDOI0
リヴァイ「嫌だ。見せろ(グイグイ)」

ハンジ「ぎゃああ?!」

リヴァイ「色気のない声で反抗するな」

ハンジ「だって………」

リヴァイ「恥ずかしいのか?」

ハンジ「だってねえ? うん……」

照れながらそう答えた。

ハンジ「やっぱり、避妊具無しの方が良かったかなあなんて」

リヴァイ「え?」

ハンジ「そう思うくらいには、もうリヴァイに堕ちているんですよね。私は」

リヴァイ「……………」

ハンジ「%が拡大していますよ。はあ。20%の時代が懐かしい」

リヴァイ「今、%まで増えた?」

ハンジ「んー………60%くらい?」

リヴァイ「大分近づいて来たな。あと30%差か」

403: 2014/12/08(月) 14:44:47 ID:FcBiSDOI0
リヴァイ(あの時は、ただ精一杯だった)

404: 2014/12/08(月) 14:45:10 ID:FcBiSDOI0
思い出す。何処から触ればいいのか迷うような営みを。

とにかく一挙一動を観察して、少しでも反応がきたらそこを責めて。

リヴァイ(プロの女の時と勝手が違い過ぎた)

それでも経験が全くない訳じゃないから、手順は分かっていたけれど。

これでいいのだろうか? 不安が常に付きまとうだった。

2回目は煽られて、理性が吹っ飛んでしまって。

腹の底から、叫びたいような衝動を止められなくて。

ハンジを壊したい。そんな凶暴な自分を知った。

終わってから我に返って、罪悪感に落ち込んだけれど。

気持ち良さが酷すぎて、頭の中が溶けるかと思った。

浮かれる自分をどんどん抑えきれなくて。

一緒に暮らす様に仕向けた癖に、それを少しだけ後悔していた。

リヴァイ(これ以上、俺を幸せにしてどうする気なんだ)

ハンジは幸せだと言ったが、こっちはそんな比の幸せじゃなかった。

リヴァイ(ダメ人間になりたいと、一瞬でも思いかけた自分が怖くなった)

405: 2014/12/08(月) 14:45:33 ID:FcBiSDOI0
専業主夫になってもいいなんて、そんな事を言うな。

いや、言ってくれて嬉しかったけれど。そこまでどっぷり幸せになってしまったら。

リヴァイ(失くした時の喪失感を想像したら、生きていけないと思った。あの時に)

ギリギリの理性で耐えた。男としての小さなプライドが危険を察知して動いた。

リヴァイ(ハンジに甘えきってしまったら、俺はもう一人で立てなくなる)

そういう人間になってしまったら、本当の意味で幻滅されるだろう。

それが怖くて、甘い誘惑を振り切ったのだ。

リヴァイ(独占しちゃっていいのかな……なんて)

独占というより、とっくの昔に占拠されていた。

ハンジ自身が気づかないまま、こっちはもう、白旗をあげていたのに。

リヴァイ(ハンジにもっと、欲深くなって欲しくなって……)

ハンジの我儘を全部叶えたいような気持ちになってきて。

それを打診した直後に何故かお預けプレイ。

リヴァイ(なんなんだ。この振り回されっぷりは。クソ……)

ハンジにとっての我儘は自分にとっての我儘じゃない事が分かってしまった。

406: 2014/12/08(月) 14:45:56 ID:FcBiSDOI0
完全に負けている。圧倒的な差がついている事に気づいた。

結納の件は本当に申し訳なかった。仕事が憎いと思ったのはあの時が最高潮だった。

なのにあっさり仕事に行かせるハンジが少しだけ憎いと思った。

『仕事に行かないで。私を優先して』と言ってくれたら、喜んでそうしたのに。

ハンジはそれを良しとしない。でもだからこそ、惚れたのかもしれない。

仕事を終えてからのあの日の夜は本当に楽しかった。

最初の時のような焦りが少しだけ抜けて、徐々にハンジの体を知っていった。

冷静にハンジの体を攻略出来るようになってきた。感じやすい場所を繋いで快楽を与えて。

言葉を多く交わした訳ではないが。それでも心で通じ合えたような気がした。

リヴァイ(エルヴィンに真相を追及された時は本当に焦った)

エルヴィンの勘の鋭さを甘く見ていた。

でもあのおかげで本当の意味でハンジと向き合う機会を持てた。

もしも結婚式までバレないで、事を進めていたら今のような関係では居られなかったかもしれない。

真相がバレた日を境にハンジとは避妊具を使わずにガンガンやるようになってしまった。

蜜月というのはこういう事を言うのだろう。

407: 2014/12/08(月) 14:46:23 ID:FcBiSDOI0
その言葉の意味を理解して、幸せ過ぎて仕事をするのがだんだん嫌になってきた自分がいた。

その事をピクシス部長にこっそり相談したら「それが普通だ」と言われたから、安心出来たけど。

だからもう、自分を抑えるのをやめる事にした。

会社のレクレーションにテニスを希望したのもそのせいだ。

しかし5月に入ると様子がおかしいハンジに気づいた。

GWの一日だけの休暇を利用して動物園で話を聞いた時は本当に驚いた。

ハンジの本当の姿をあの時に見た気がして、心の底から、愛おしいと思った。

リヴァイ(ああ………!)

ハンジ「あああ……!」

ハンジ以外の女と付き合った経験がない訳ではない。

だけど、そういう関係にいきつく前に本性がバレて、すぐに去って行った。

女は変わり身が早い。一度、冷めてしまうと颯爽と離れていってしまう生き物だ。

だから職場では出来るだけ猫を被って、感情を表に出さないようにしていたのに。

ハンジ『会社では見せないリヴァイの一面を見た後に、自分の中の意識が変わった気がする。がらりと』

まさか、そこが原因だったなんて。その言葉を聞いた時は本当に。

408: 2014/12/08(月) 14:46:49 ID:FcBiSDOI0
今までの自分の馬鹿さ加減に腹が立ってしまった。

リヴァイ(口が悪くて、感情的で、短気な部分を見て大丈夫とか)

そんな事を言うのはきっと、この女しかいない。

一生、離したくない。こんなにも自分を受け入れてくれる女は他にいない。

ハンジ「だめ……ああ……リヴァイ、もう……やばい!」

リヴァイ「どうやばいんだ?」

ハンジ「怖いよ……こんなに、ああ……体が熱い……!」

リヴァイ「俺もそうだ。大丈夫だ。同じだ」

ハンジ「本当に?」

リヴァイ「俺だって怖い。こんなに震えているんだぞ」

手先を見せてやると、同じようにハンジも震えていたのだった。

ハンジ「同じなんだね」

リヴァイ「同じだ。だから、大丈夫だ」

ハンジ「うん………」

そして2人は二度目の幸せの絶頂に辿り着いて、お互いの意識を現実から解き放ったのだった。

410: 2014/12/09(火) 01:16:32 ID:/s6f.fog0
そして時が流れて、あっという間に9月5日が訪れた。

婚姻届けを綺麗な字で書き直して、証人の欄をもう1回書いて貰って不備がないかどうか確認する。

リヴァイとハンジは一緒に役所に訪れてその書類を提出する事にしたのだ。

ハンジ「あっという間だったね」

リヴァイ「そうだな」

ハンジ「計画を立てた時は、結構先かなって思っていたけれど」

リヴァイ「もう少し早く入籍したいと思っていたけど、仕事をしながらの準備だったからかえって丁度良かったかもしれねえな」

ハンジ「うん。無理のない計画だったと思うよ」

ハンジ「じゃあ、そろそろいこうか」

リヴァイ「ああ」

411: 2014/12/09(火) 01:17:08 ID:/s6f.fog0
9月5日。朝9時。

その日の午前中に書類を提出して、2人は正式な夫婦として法律的に受理されたのだった。

ハンジ「……………」

リヴァイ「どうした?」

ハンジ「明日は、きっと人生で一番長い一日になるよね」

リヴァイ「やる事が目白押しだからな」

ハンジ「うん。覚悟決めなきゃ」

リヴァイ「あんまり気合入れすぎなくてもいいぞ。しんどくなったら途中で休め」

ハンジ「でも……」

リヴァイ「妊婦なんだから無理はするな。気分が悪くなったらすぐ言えよ」

ハンジ「うん。大丈夫だよ」

ハンジはあの後、5月の後半に入ってからすぐに妊娠して、現在大体4か月に入っていた。

安定期はもう少し先になるが、式の予定が先に入っていた為、マタニティのまま式をあげる事にしたのだ。

リヴァイ「お前はすぐ無理するからな」

ハンジ「う」

412: 2014/12/09(火) 01:17:33 ID:/s6f.fog0
リヴァイ「おかげで洋装だけの式になったから、まあハンジにとっては好都合だったか」

ハンジ「まあね。作戦勝ちかな」

リヴァイ「狙っていやがったのか」

ハンジ「嘘だよ。偶然だってば」

リヴァイ「どうだかな? まあ俺はどっちでも構わんが」

ハンジ「もうちょい先だったら和装でもOKらしいけどね」

リヴァイ「延期してもよかったのに」

ハンジ「嫌だよ! もう面倒臭い」

リヴァイ「昔の女性は着物で生活していた訳だから、妊婦でも和装をしてはいけないって事はないんだろうが」

ハンジ「それは着なれているから大丈夫って話じゃないのかな」

リヴァイ「それもそうか」

ハンジ「そうだよ」

リヴァイ「……………あんまり顔色は良いように思えない」

ハンジ「え? そう?」

リヴァイ「やっぱり無理しているんじゃないのか? そもそも安定期に入ってからの方が」

413: 2014/12/09(火) 01:18:02 ID:/s6f.fog0
ハンジ「境目あたりだから大丈夫じゃない?」

リヴァイ「うー」

ハンジ「つわりは収まって来たから大丈夫だよ」

リヴァイ「そうか………」

ハンジ「もう心配性だな。リヴァイは」

リヴァイ「心配するなという方が無理だ」

ハンジ「そりゃそうか。じゃあいっぱい心配して」

リヴァイ「………心配する必要がなくなったようだ」

ハンジ「何でそう、反対の行動を取るかな?!」

リヴァイ「そういう性格だから仕方がない」

ハンジ「もー……一周回って面白くなってきた」

リヴァイ「は?」

ハンジ「ぷぷ……リヴァイの取り扱い方がだんだん分かってきたって事ですよ」

リヴァイ「ほぅ……」

ハンジ「口が悪い時ほど、本当は心配しているのとか、ね?」

414: 2014/12/09(火) 01:18:29 ID:/s6f.fog0
リヴァイ「気のせいだろ?」

ハンジ「いやいや? あなたの憎まれ口は愛情の裏返しでしょ?」

リヴァイ「さあな? 本心で言っている時もあるからな」

ハンジ「そうなの?」

リヴァイ「常々クソ眼鏡だなと思っている」

ハンジ「もう眼鏡やめてコンタクトにした方がいいかしら?」

リヴァイ「え?」

ハンジ「だって、クソ眼鏡なんでしょ? 眼鏡やめた方がいいかも?」

リヴァイ「………………………」

ハンジ「なに、その変な間は」

リヴァイ「其の時はクソ女と呼ぶだけだが?」

ハンジ「どっちにしろ、逃れられない運命なんですね」

リヴァイ「そうだ。お前は、俺の傍に居ろ」

ハンジ「はいはい……って、え?」

リヴァイ「ん?」

415: 2014/12/09(火) 01:20:28 ID:/s6f.fog0
ハンジ「あー危うく聞き逃すところだった」

リヴァイ「聞き流していいのに」

ハンジ「いや、折角耳まで真っ赤にして言った言葉を聞き逃すのは勿体ないかなと」

リヴァイ「!」

リヴァイ「そんなところまで観察するなよ」

ハンジ「ふふふ……観察するのが好きな私を嫁にしたんだから我慢して頂戴」

リヴァイ「クソ………やっぱりクソ眼鏡だな」

ハンジ「はいはい♪」

そして2人にとっての、長い一日がいよいよ、始まる。

9月6日。結婚式場にて。

父親「体の方は大丈夫か? ハンジ」

ハンジ「大丈夫だよ」

416: 2014/12/09(火) 01:20:56 ID:/s6f.fog0
母親「着物に着なれていれば着物の方がかえって楽なのにね」

ハンジ「しょうがないでしょ。そういう機会があんまりなかったんだし」

父親「まあ、なにはともあれ、今日一日、大変だと思うぞ。気分が悪くなったらすぐに言いなさい」

ハンジ「はい。お父さん、お母さんもはしゃぎすぎないでね」

母親「生意気言って……」

ハンジ「ごめんね。洋装に変更したから教会式に変えちゃったけど」

母親「仕方がないわよ。こっちの希望ばかりいう訳にもいかないわ」

父親「着物姿はまた別の日に写真だけでも撮ればいいだろう」

ハンジ「うん。そうするつもりだよ。じゃあ、着替えてくるよ」

ハンジは控室に入って純白のドレスに着替え始めた。

化粧ものせて、過去最高の華やかな自分に変身する。

リヴァイは別室で白タキシードに着替えて、花嫁姿のハンジを見に行った。

ハンジ「あーもうちょい待って。あと少しかかるよ」

リヴァイ「…………」

ハンジ「ん? どうした?」

417: 2014/12/09(火) 01:21:23 ID:/s6f.fog0
リヴァイ「いや…………何でもない」

ハンジ「また意味深な間を作って……似合うよくらい言ってよ」

リヴァイ「そんな言葉じゃ足りねえよ」

ハンジ「え?」

リヴァイ「はー…しんどい」

ハンジ「何で?!」

リヴァイ「今日は一日、耐久レースだな。クソ……」

ハンジ「何の話?」

リヴァイ「過去最高のお預けプレイだ。家に帰ったら爆発しそうだな」

ハンジ「何を言いだすのかな?! いきなり下品な話はやめて下さい!」

メイクの人「ぷぷぷ……」

ハンジ「ほら、メイクの人も困っているでしょうが! 花婿は外に出て!」

リヴァイ「ちっ……(退散中)」

ハンジ「本当にすみません。うちの旦那がアホで」

メイクの人「いえいえ。愛されていますね」

418: 2014/12/09(火) 01:21:50 ID:/s6f.fog0
ハンジ「ですかね? まあ、いつもこんな調子ですけどね」

メイクの人「普段からお預けプレイされているんですか?」

ハンジ「あっちが勝手にそう思っているだけですよ!!」

メイクの人「でも、嬉しそうでしたよ?」

ハンジ「だったらいいんですけどね……(苦笑)」

オルガンの音に導かれて花嫁が入場する。

父親の腕に引かれて花嫁が壇上へ。

ハンジ側の親戚と、会社の親しい人間だけを呼んでの教会式の結婚式だ。

恒例の牧師のお話と、サインの儀式と、指輪の交換。そして誓いのキス。

慌ただしく過ぎて、午後からは披露宴に移動する。

場所を移動して、大広間で招待客を迎える。

419: 2014/12/09(火) 01:22:19 ID:/s6f.fog0
エレン「おおおおおおお」

初めての大きな披露宴にエレンとミカサは緊張していた。

2人はこの日の為に新しいスーツとワンピースを購入して挑んでいる。

深緑色のスーツと、同じ色の煌びやかなワンピース姿のミカサはその会場の大きさに驚いていた。

エレン「我儘言って良かったぜ! 来て良かった!」

ミカサ「そうね」

エレン「アルミン達もいるぜ! おーい!」

先に席についていたアルミンを見つけた。

料理については披露宴が始まる前に招待客の方でAかBを選ぶ形式になっていた。バイキング形式だとそれが苦手な方もいるという事だったので、前もって2種類のメニューを決めて御膳形式にする形にしたのだ。

長いテーブルで3列の席を作って、ハンジ側の親戚の列、会社の上司と同期と部下の列、その他の友人知人の列に分かれて貰った。

当初の予定では20~30人程度の披露宴にしようと思っていたのに、気が付いたら100人近い人間が集まる事になってしまった。

リヴァイの仁徳が伺える大きな披露宴になってしまったのだ。

エレン「アルミンもスーツを新調したのか」

アルミン「まあ、一応ね」

エレン「似合っているぞ! 青いスーツにしたんだな」

420: 2014/12/09(火) 01:22:49 ID:/s6f.fog0
アルミン「エレンは深緑色だね」

エレン「だな。このスーツが一番しっくりきたからな」

アルミン「ミカサも来たんだ。意外……」

ミカサ「エレンを独りにはさせない」

エレン「無理しなくていいって言ったけどな」

ミカサ「エレンと一緒に居る方がいい」

アルミン「ミカサは相変わらずだね」

ミカサ「私はいつも通り」

アルミン「今日は電車できたの? 飲むつもり?」

エレン「そりゃそうだろ。飲むに決まっているだろ」

ミカサ「私も一応、飲むつもり」

アルミン「そっかあ。僕はそこまで飲めないから車で来ちゃった。2人を乗せて帰ろうか?」

エレン「いいのか? なんか悪いなあ」

アルミン「2次会もあるかもしれないけど、其の時は出る?」

エレン「勿論だ! その………ペトラさんと別れた後は彼女もいねえし、いい女性がいたら声かけてみようかなって思ってる」

421: 2014/12/09(火) 01:23:25 ID:/s6f.fog0
ミカサ「ガーン……」

アルミン「ミカサの前でそんな事言わない方がいいんじゃない?」

ミカサ「エレン、私という物がありながらどうして……(涙目)」

エレン「ミカサも男を捕まえればいいじゃねえか」

ミカサ「エレンよりいい男なんていない」

エレン「だからそれは盲目だっつの! オレよりいい男なんて沢山いるだろ?」

ミカサ「いない。エレンが最高」

エレン「アルミン、どう思う? これ(指差し)」

アルミン「これ呼ばわりは酷くない?」

エレン「だってよ………騙しているような気分になるんだけどな」

ミカサ「エレンは素直な人なので騙してはいない」

エレン「オレ、悪い男かもしれねえぞ?」

ミカサ「そうだとしても、別にいい」

アルミン(ミカサの攻め方は一辺倒だなあ)

エレン「はあ……もう何言ってもダメだな。こりゃ」

422: 2014/12/09(火) 01:23:52 ID:/s6f.fog0
アルミン「諦めて君達も籍入れちゃえば?」

エレン「えええ……ミカサと結婚しろってことか?」

ミカサ「準備はいつでも出来ている(*婚姻届けを持ち歩いています)」

エレン「証人の欄、書いてねえから出せないぞ」

ミカサ「うぐ……」

アルミン「僕が書いてあげようか?」

クリスタ「あ、私も書いてあげようか?」

アルミンの隣に座っていたクリスタも話を聞いて挙手した。

ミカサ「是非お願いします」

エレン「余計な事するなよ! 2人とも!」

ライナー「ふむ。しかし2人は同居しているんだろ? もう結婚してしまえばいいのに」

ベルトルト「別に法律的には問題ない関係なんだよね?」

コニー「だったらよくねえ? 結婚しちゃえよ」

マルコ「まあまあ、2人の問題だから皆も茶化さない」

ジャン「………(リア充氏ね)」

423: 2014/12/09(火) 01:24:27 ID:/s6f.fog0
ジャンだけは何も言わず黙っていた。

ユミル「そんなにミカサと結婚するの嫌なら別の女を引っかけちまえば? 2次会とかで」

エレン「そのつもりでいるぞ」

ミカサ「絶対、させない(キリッ)」

2人が牽制し合っていると、そこにペトラ達がやってきた。

ペトラ「やっほー! 皆大体集まったかな?」

エレン「あ、はい!」

オルオ「一応、披露宴の終了予定時刻が4時だから、5時過ぎくらいに2次会をしようと思っているんだが」

エレン「良かった! 2次会楽しみです」

エルド「全員、出られそうか?」

アルミン「大丈夫だと思いますよ。この日の為に皆、頑張りましたから」

ペトラ「留守番組は今頃、泣いている頃かしら」

オルオ「しょうがねえだろ。営業部全員が休むわけにはいかん」

エルド「グンタは泣いているかもな。あいつも披露宴出たがっていたし」

営業部は年末年始を除いては完全シフト制の仕事の形態なので、土日は余り関係ない。

424: 2014/12/09(火) 01:25:01 ID:/s6f.fog0
なのでこのメンバーが一挙に休むのは珍しい事であり、職場に残っているメンバーは貧乏くじをひかされたようなものだった。

ペトラ「グンタも2次会には合流出来るでしょ。ニファとケイジも今日は職場に残っているから後で来るってさ」

クリスタ「サシャがこっちに来られないとなった時の絶望的な顔は忘れられないね」

ユミル「まあ、仕方がねえだろ。誰かが残らないといけなかったんだし」

ミカサ「後でお土産でも渡してあげよう」

アルミン「引き出物で我慢して貰うしかないね」

そんなこんなで披露宴の開始時刻になり、席に着いて一同は新郎新婦を待つ。

司会は当然、ピクシス部長だった。こういう宴会事をやらせたら彼に敵う者はいない。

リヴァイは黒いタキシードに着替えて、ハンジの方は薄いオレンジ色のドレスに着替えて入場してきた。

お祝いのスピーチやカラオケや2人の馴れ初め話やら。

酒も少しずつ入って盛り上がっていると、ミカサは披露宴そっちのけで酒に溺れていた。

ミカサ(どうにかして阻止しなければ。エレンがナンパするのを)

ミカサ(でもどうすればいいのだろうか? エレンは他の女性ばかり見ている)

ミカサ(今度は誰を誘うんだろう? ペトラさんの次は誰を彼女にするんだろう?)

ミカサ(嫌だ。エレンが他の女と一緒にいるところを想像したくない)

425: 2014/12/09(火) 01:25:32 ID:/s6f.fog0
ミカサ(この感情を、捨てられたらどんなに楽か……)

ミカサ(私の何が悪いんだろう? こんなにエレンが好きなのに)

ミカサ(ああ、お酒が美味しい。こんなに美味しいお酒は初めてかもしれない)

ミカサ(全部飲んでしまおう。今だけは、何も考えたくない……)

エレン「おい! ミカサ!」

ミカサ「なに? (ヒック)」

エレン「飲み過ぎだ!! 何本、ワイン空けたんだよ!!」

ミカサ「さあ?」

エレン「他にも飲む人がいるのに! 周りにちったあ気を遣えよ!!」

ミカサ「会費分は元を取らないと」

エレン「そうだけど! あああもう! 酔い過ぎて顔赤いぞ!?」

ミカサ「エレンが私と結婚しないからこうなった」

エレン「オレのせいにするなよ!!」

ミカサ「私の何が悪いの? 私の悪い部分をちゃんと言って……」

エレン「だから、そういうところがダメなんだって!」

426: 2014/12/09(火) 01:27:05 ID:/s6f.fog0
ミカサ「もっと分かりやすく……」

エレン「ミカサの中心が、オレなのがダメなんだよ!!」

ミカサ「?」

エレン「あーだから、ミカサはオレをなんだと思っているんだよ!」

ミカサ「イケメン。史上最高にいい男……」

エレン「その認識が間違っているだろうが!」

アルミン(あーまた痴話喧嘩が始まっているなあ)

酒は飲まないで様子を見守っていたら、ミカサがどんどんエスカレートしてきた。

ミカサ「間違っていない。エレンは最高の男……」

エレン「営業成績だって下から数えた方が早いような男のどこが最高だよ(イライラ)」

ミカサ「仕事の出来高は関係ない」

エレン「関係あるだろうが!! 同期の中じゃ、オレ、本当ダメ過ぎるし!」

ミカサ「そうだとしても、それは関係ない」

エレン「なんでだよ」

ミカサ「エレンを評価するのは私であって、周りではない。私が最高だと言えばエレンは最高」

427: 2014/12/09(火) 01:27:36 ID:/s6f.fog0
ミカサ「私からみたらエレンがいい。それ以外に何か理由が必要だろうか?」

エレン「ミカサがオレを慕うのは、昔、命を助けてやったからで、それだけだろうが」

ミカサ「違う」

エレン「どう違うんだよ」

ミカサ「確かに命を助けられた事は切欠ではあるけれど、決してそれだけではない」

そしてミカサは昔の事を思い出していった。

ミカサ「エレンは必ず、私がピンチに陥ると、私を助けてくれた。私だけのヒーロー」

エレン「…………」

ミカサ「だから私は、今度は私がエレンを守る番だと思った。身体を鍛えて逞しくなった」

エレン「鍛え過ぎて男みたいな体になっちまったじゃねえか」

ミカサ「やり過ぎたのは分かっている。でもいつの間にかこうなった」

エレン「ミカサがそんなんじゃ、オレの出番がまるでねえじゃねえか」

ミカサ「え?」

エレン「何でもねえ! もう、酒飲むな! グラス没収!」

ミカサ「いや……! 今日は飲む!」

428: 2014/12/09(火) 01:28:02 ID:/s6f.fog0
エレン「おい、ミカサ……(珍しいな。いつもはいう事きくのに)」

ミカサ「もう、酒に溺れてやる! 現実逃避しないとやってられない!」

グビグビ………

ミカサ「ヒック……(トローン)」

エレン(なんか、こういうミカサを見るのは初めてだな)

エレン(アレ? 何でだ? 今、ちょっと可愛いと思ったぞ?)

ミカサ「大体エレンはおかしい」

エレン「なんで」

ミカサ「こんなに頑張っている私を何故、跳ね除ける?」

エレン「だから、それは頼んでねえだろ」

ミカサ「エレンの好きなご飯をいつも作って待っているのに」

エレン「それも頼んでねえ! 飯くらい自分で用意するし! 自炊出来ねえ訳じゃねえんだから!」

ミカサ「でも、仕事から疲れて帰ってきたら自炊する気力もない癖に」

エレン「その時はコンビニで済ませる」

ミカサ「体に悪い! そんな事をしていては、エレンがいつか倒れてしまう!」

429: 2014/12/09(火) 01:28:32 ID:/s6f.fog0
エレン「それを言ったらミカサの方が余程だろうが! そっちも仕事終わってから何でもかんでもやってるだろ!」

アルミン(なんかもう、夫婦喧嘩にしか聞こえない)

アルミンは半眼になって隣の席の諍いを聞いていた。

ミカサ「私は営業事務の方なので、営業に比べたら楽なので」

エレン「そうだとしても、だ。ミカサはミカサで自分の時間を過ごしていいだろ!」

ミカサ「家事仕事をする事の何が悪いか分からない」

エレン「オレの仕事が無くなるだろうが! オレのパンツを勝手に洗いやがって!」

ミカサ「穴が開いていたから補強もついでにしてあげたのに」

エレン「勝手にパンツにアップリケをつけられた時のオレの気持ちの方を察しろ!!」

アルミン(あちゃー)

アルミンはだんだん腹が痛くなってきた。

アルミンだけではない。周りは笑ってはいけないアレ状態だ。

ミカサ「可愛くしたらダメだったの?」

エレン「そういう問題じゃねえよ! そこまで世話するなって話だよ!」

ミカサ「私の生きがいを奪わないで欲しい」

430: 2014/12/09(火) 01:29:00 ID:/s6f.fog0
エレン「ミカサはそこまでオレをダメ人間にしたいのか」

ミカサ「私無しでは生きられないように改造したいとは思う時もある」

エレン「こえええ事言うな! あーもう、今日は絶対、2次会で誰かナンパする」

ミカサ「ガーン……」

エレン「ニファさんは後で来るって言っていたし、サシャも絶対後で来るよな。どっちかに声かけよう。うん。そうするぞ」

ミカサ「ふ、2人も目をつけているの……? (涙目)」

エレン「ピクシス部長に、仕事出来るようになる為には女性経験が必要だって言われたんだよ。ダメだったからって、落ち込む必要はないってさ。どんどん女性に自分から声をかけていいって。若いうちはその練習をしないとダメだって言われた」

ミカサ「ピクシス部長の馬鹿……(顔覆う)」

エレン「女を知る事で、相手を知ろうとする気持ちが育つそうだ。オレ、仕事出来るようになりたいし、頑張ろうと思うんだよ」

ミカサ「頑張る方向が間違っている気がする」

エレン「でもピクシス部長はその方法で営業成績がトップだった時期があったんだぞ?」

ミカサ「リヴァイ主任の場合はそうじゃないのに」

エレン「あーリヴァイ主任の場合は、そうだけど」

ミカサ「ピクシス部長を習うより、リヴァイ主任を習った方がいい気がする」

エレン「え? ミカサはリヴァイ主任が嫌いじゃなかったのか?」

431: 2014/12/09(火) 01:29:32 ID:/s6f.fog0
ミカサ「そうだけど。男としてはリヴァイ主任の方がいいような気もする」

ミカサ「ピクシス部長のように女たらし過ぎるのはちょっと……」

エレン「でもリヴァイ主任も、ハンジさん以外の人とそういう関係になった事もあるんだぞ」

ミカサ「嘘……(ガーン)」

エレン「ハンジさんと付き合う前の話だけどな。リヴァイ主任だって通って来た道だ。習っていいって言うなら、オレもリヴァイ主任の真似をする」

ミカサ「やめて……他の女と寝ないで!」

エレン「彼女面するのはやめてくれよ。オレ、ミカサをそういう意味で見ている訳じゃ……」

ミカサ(カチーン)

ミカサ「もういい(*目が据わりました)」

エレン「え?」

ミカサ「もう、好きにしたらいい!!! 別の女と寝たいなら、それでも構わない!! その代り、私の旦那になって!!!!」

エレン「はいいいいいい?!」

ミカサ「さあ、ここにサインして。今すぐ結婚しましょう<●><●>」

ミカサはエレンの手を取って無理やりサインを書かせようとするが……

エレン「ちょっと、ミカサ! 酒に酔い過ぎだ!!! やめろ!! 馬鹿!!」

432: 2014/12/09(火) 01:30:14 ID:/s6f.fog0
エレンは必氏に抵抗する。

エレン「皆も見てないで止めろよ!!! ミカサの暴走を止めてくれ!!!」

アルミン(生暖かい目)

クリスタ(生暖かい目)

ユミル(生暖かい目)

ライナー(生暖かい目)

ベルトルト(生暖かい目)

マルコ(生暖かい目)

ジャン(涙目)

コニーだけは飯に夢中で見ていなかった。

エレン「止める気ゼロかよ! あ…待ってって! ミカサ、腕がいてえから離せ!!」

ミカサ「いや!!!!」

エレン「クソ……馬鹿力だな!! 酒の力でリミッター外れているのか?!」

ミカサ「うっ………」

その直後、ミカサが酔い過ぎて吐いてしまった。

433: 2014/12/09(火) 01:30:42 ID:/s6f.fog0
エレンの胸に向かって。ゲロゲロと。

アルミン(ぶは?!)

突然の珍事に、一同は驚いて流石に新郎新婦もそれに気づいた。

リヴァイ『おい、飲み過ぎた馬鹿が出たか? 誰か介抱しろ』

と、冷静にアナウンスして、会場の中はざわめいた。

ミカサは控室に運ばれて、新調したスーツを汚されたエレンはがっくりする。

この恰好じゃ2次会どころではない。仕方なく、ミカサに付き添う。

控室で弱り切った青ざめたミカサを見ていたら、ふと思い出した。

一緒に暮らし始めた頃、まだ小さい時の事を。

エレン(あの頃はまだ、体調を崩す事も多かったな)

その当時は今ほどミカサも強くは無く、普通の少女だったのに。

エレン(なんでこう、どんどん強くなっちまったんだろうな? ミカサは)

それは彼女の努力の結果ではあるが。

エレン(オレの出番がどんどんなくなって、オレの存在価値が分からなくなった)

なのにミカサはエレンがいいと言い続ける。

434: 2014/12/09(火) 01:32:18 ID:/s6f.fog0
エレン(男として、全然格好良くねえのに。何でだよ)

自己嫌悪に陥る。慕ってくれるのは嬉しいのに。

エレン(何でミカサはオレがいいんだよ……)

青ざめているミカサを見ていたら、

エレン(もういっそ、このままずっと弱っていればいいのに)

そう思った直後、心臓が一度、大きく跳ねた。

エレン(ん? アレ?)

今の感触は、一体なんだ?

エレン(え? 今、オレ、何考えた?)

心臓の音が高鳴っていく。勝手に顔が赤くなっていく。

エレン(え? え? 待て。待ってくれ)

そして体が少しだけ変化している自分に気づいた。

エレン(おい、ちょっと待て。息子よ。何で反応している?)

俯いて、もう一人の自分に問いかける。

エレン(ミカサを見ても勃起した事なんて今まで一度もなかったのに)

435: 2014/12/09(火) 01:32:55 ID:/s6f.fog0
何で、弱り切っているミカサを見て、反応した?

エレン(何でだ? え……待ってくれ。そういう意味で見られないと思っていたのに)

ミカサ「ううーん……」

具合が悪そうに意識を回復する。

ミカサ「あれ? ここは何処?」

エレン「控室だ。ミカサ、オレのスーツに吐いたんだよ」

ミカサ(ガーン)

エレン「覚えてねえのかよ。もう今日は帰った方がいいかもな」

ミカサ「帰りたくない。エレンが2次会に行くのであれば」

エレン「このスーツの姿でいける訳ねえだろ。行くとしても、一旦家に帰らねえと」

ミカサ「では、一緒に帰ろう」

エレン「………………」

エレンは視線を逸らした。つい、うっかり。

ミカサ「?」

エレン「タクシー呼んで帰るか」

436: 2014/12/09(火) 01:34:14 ID:/s6f.fog0
ミカサ「うん………」

そして2人は披露宴の途中で抜けるという選択を取った。

リヴァイ主任に一応、一言だけ伝えて、先に帰る事にした。

リヴァイの方は心配そうにしていたが、エレンがその件をミカサに伝えると、酒に酔っている癖に「余計なお世話だ」と悪態をついた。

エレン「酒に酔っている癖に悪態だけは一人前だな」

控室でタクシーを待つ間、エレンは言った。

ミカサ「リヴァイ主任に気遣われるとムカつく」

エレン「……………リヴァイ主任はいい男なのに」

ミカサ「私にとっては、エレンの方が上」

エレン「お前の価値観、やっぱり変だぞ」

ミカサ「そんな事はない。エレンの方がいい男」

エレン「そんな事を言うのはミカサくらいなもんだ」

ミカサ「だったら、私と結婚すればいいのに」

エレン「………………」

ミカサ「法律的にも年齢的も問題ない。エレンさえ頷けば私達は結婚出来る」

437: 2014/12/09(火) 01:34:43 ID:/s6f.fog0
エレン「………………」

ミカサ「何がいけないの? 私の何が悪いの? この気持ちをどうすればいいの?」

エレン「………………」

ミカサ「毎日が不安で堪らない。エレンの姿を見ないと落ち着かない。私はエレンがいないとダメな女なのに」

エレン「………………」

ミカサ「ううう………酒を飲み過ぎて気持ち悪い(げっそり)」

エレン「ミカサ」

ミカサ「何?」

エレン「ちょっと、動くなよ」

ミカサ「?」

ちゅっ…………

ミカサ「?!」

438: 2014/12/09(火) 01:35:37 ID:/s6f.fog0
エレン「どうだ?」

ミカサ「におsdんlsgんsldbgldfbg……!?」

突然の、軽いキスに吃驚し過ぎて声が出ない絶叫をするミカサだった。

過呼吸を起こしかける感じで息が乱れてまずい事になっている。

ミカサ「な、何故、今、軽いキスをしたの……?」

訳が分からない。突然の触れ合いにミカサは全身が染まっていた。

エレン「おまえ、この程度の接触でそんな風になるんじゃ、出来ねえんじゃねえか?」

ミカサ「そ、そんな事はない。きっと出来る筈……」

エレン「そうかあ? 無理そうだなあ」

ミカサ「頑張る! 頑張るので、もう1回キスを!」

エレン「後悔しねえな?」

ミカサ「しないしないしないしない!」

エレン「じゃーするけど」

439: 2014/12/09(火) 01:36:03 ID:/s6f.fog0
ちゅ………

ミカサ「におsdんlsgんsldbgldfbg……!?」

触れるだけのキスだけで絶頂にいきそうになるミカサの様子にエレンも困り果てる。

エレン「んー………やっぱり、気のせいだったんかなあ」

ミカサ「何が?」

エレン「今のキスは、別に何ともなかった」

ミカサ「ガーン……」

エレン「でも、1回目のキスは、結構良かった」

ミカサ「え!?」

エレン「何が違うんだ? 自分でも良く分からねえ」

ミカサ「私はどっちも良かった」

エレン「うーん」

ミカサ「でもエレンは、私に手を出せる。だとすれば、夫婦になれるのでは?」

エレン「まあ、理屈を言っちまえばそうなるけど」

440: 2014/12/09(火) 01:36:49 ID:/s6f.fog0
ミカサ「今、ここでする? (ドキドキ)」

エレン「んなアホな事はしねえよ」

ミカサ「では家に帰ってから……」

エレン「とりあえず、スーツをどうにかしてから考える」

そしてタクシーが来て、2人は先に会場を出る事になった。

車の中でもミカサは青ざめていた。気持ち悪そうにしている。

ミカサ「何杯飲んだのか覚えてない……うぷ……」

エレン「…………」

ミカサ「また吐きそう……ううう……」

エレン(なんだ? この感じ)

エレン(ミカサがぐったりしているのに)

エレン(それに比例するように、オレ、ドキドキしている)

エレン(背中擦ってやりてえな)

スリスリ……

ミカサ「!」

441: 2014/12/09(火) 01:37:18 ID:/s6f.fog0
ミカサ「エレン?」

エレン「吐きたいなら、エチケット袋貰ってきたから、吐いていいぞ」

ミカサ「でも車内が臭くなるのでは」

エレン「気にしなくていい。気にするような仲じゃねえだろ」

ミカサ「き、気にする仲になりたいのに」

エレン「いいから、吐けって」

ミカサ(オロオロ……)

エレン(オレ、吐いているミカサを見ても全然、嫌悪感がねえな)

エレン(むしろ、何か、いつもより、可愛く見える)

エレン(何でだ? 意味分かんねえ。オレ、どうしちまったんだ?)

そして自宅に何とか帰り着き、ミカサを寝かせる為に布団を敷いた。

ミカサはぐったりして横になり、着替え終えてからそのすぐ傍であぐらをかいてエレンは考えた。

エレン(これってどういう事なんだ? 自分で自分の事が良く分からねえ)

エレン(えーっと、振り返って考えてみるぞ)

エレン(まず、ペトラさんと付き合っていた時、胸がキュンとしたのは、ペトラさんが弱って泣いちまった時だ)

442: 2014/12/09(火) 01:37:50 ID:/s6f.fog0
エレン(あの時のペトラさん、本当に可愛かった。もう、ハグしたい気持ち止められなかったしな)

エレン(だってあの、ペトラさんが、弱っているんだぞ? いつも気の強いしっかり者のペトラさんが)

エレン(そんなペトラさんが、うっかり泣いて、萌えない訳ねえだろうが!)

エレン(んで、問題は次だ)

エレン(ミカサの場合だ。こっちは、ミカサが酒に独りで溺れている様子が可愛いって思った)

エレン(普段はそう飲まないし、飲んでもここまで酷い酔い方はしねえ)

エレン(普段と違うミカサにちょっとだけ、可愛いと思った)

エレン(んで、弱り切って吐いた青ざめたミカサを見ていたら)

エレン(なんか、また胸が…………)

エレン(!)

そこでようやくエレンは気づいた。

エレン(え……)

エレン(あ、そうか! もしかして、そういう事なのか?)

エレン(オレって、弱っている女に、弱いのか!)

エレン(洒落じゃなくて)

443: 2014/12/09(火) 01:40:34 ID:/s6f.fog0
エレン(なんか、守ってやりたくなるって思った時に、胸がキュンとして)

エレン(だから、ちょっと小さい外見の女が可愛いって思ったのかも?)

エレン(自分が守りたいって思った女に対して、ムラムラするのか!)

エレン(そっか……ミカサに今までムラムラしてこなかった理由は)

エレン(ミカサが大きくなり過ぎて、しっかりし過ぎて、オレじゃミカサを守れないって思ったからか)

エレン(だから、ミカサを介抱している時に、ドキドキして)

エレン(なんかこう……いつもと違う感じになったのか)

エレン(謎が解けたああああ!)

ぐっと拳を握ってガッツポーズをするエレンだった。

ミカサ「エレン、さっきから何故、百面相?」

エレン「起きていたのか」

ミカサ「エレンの気配が気になって」

エレン「寝ていいのに」

ミカサ「エレンが気になって」

エレン「じゃあ、一緒に寝るか」

444: 2014/12/09(火) 01:41:22 ID:/s6f.fog0
ミカサ「え?!」

エレン「添い寝したら、眠れるか?」

ミカサ「よ、余計に眠れなくなる!」

エレン「じゃあ、どうして欲しい?」

ミカサ「ええっと………」

ミカサ「何故、急に優しいの?」

エレン「謎が解けたからだよ」

ミカサ「謎?」

エレン「オレが今まで、ミカサにムラムラしなかった理由だ」

ミカサ「分かったの?」

エレン「ああ。ミカサがしっかりし過ぎだったんだよ」

ミカサ「え?」

エレン「たまには失敗して、ドジなところも見せてくれよ」

ミカサ「え? え?」

エレン「料理の味付けを失敗してもいいし、髪の毛、寝癖つけてもいいし」

445: 2014/12/09(火) 01:41:48 ID:/s6f.fog0
ミカサ「え? え? え?」

エレン「風邪ひいたら困るけど、たまには風邪をひいても大丈夫だ」

ミカサ「矛盾しているような?」

エレン「とにかく、ミカサが頑張り過ぎだったのが原因なんだよ」

ミカサ「では、頑張り過ぎないようにすれば、エレンはムラムラするの?」

エレン「多分な。だから、まあ………結婚するか」

ミカサ「え?」

エレン「いや、結婚したいんだろ? 多分、出来る。今なら、オレ、ミカサを抱けると思う」

ミカサ「……………」

エレン「今日じゃなくてもいいけど。体調良くなったら、婚姻届け出しに行くぞ」

ミカサ「ほ、本当に……?」

エレン「嘘ついてどうすんだよ。今日はエイプリルフールじゃねえぞ?」

ミカサはその直後、涙が溢れ出て、わんわん泣きじゃくってしまった。

エレン「何で泣くんだよ?! (ガビーン)」

ミカサ「ああああああああ!」

446: 2014/12/09(火) 01:42:13 ID:/s6f.fog0
エレン「子供みてえな泣き方だな。あーもう」

よしよし。頭を撫でながら、エレンはミカサにキスをした。

ミカサ「!」

エレン「ほら、お望み通り、ちゃんと体が変化しているからさ」

服の上から確認させたら、ミカサが赤くなり過ぎて、気絶した。

エレン「ええええ? この程度で気絶するのかよ!」

興奮し過ぎて意識が飛んだミカサに、エレンは苦笑する。

エレン「ま、いっか。やるのはいつでも出来るしな」

そう思い、エレンはのんびり構えたのだった。

448: 2014/12/10(水) 18:58:39 ID:BacbJXd.0
そして結婚式が終わって、暫くの時が流れて。

エレンはまずはリヴァイに婚約の件を報告する事にした。

昼休み。一緒にご飯を食べながら、エレンは話を切り出した。

エレン「えーなんか、いろいろあって、結局ミカサと結婚する事にしました」

リヴァイ「そうか」

エレン「あれ? あんまり驚いてないですね」

リヴァイ「まあな」

エレン「気づいていたんですか?」

リヴァイ「そうなるような予感はあった」

エレン「そうだったんですか」

リヴァイ「自分の性癖に気づいたんだな?」

449: 2014/12/10(水) 18:59:35 ID:BacbJXd.0
エレン「はい………多分、そういう事ですよね」

リヴァイ「まあ、気づいたなら、仕方がない」

エレン「ですね。まあ、自分でもびっくりしましたけど」

リヴァイ「俺もそうだった。自分の性癖に気づいた直後は落ち込み過ぎて泣きたくなった」

エレン「え? オレは別にそこまでは………」

リヴァイ「ん? そうなのか」

エレン「オレの場合、弱っている女に弱いって事なんで」

リヴァイ「んー」

エレン「ミカサが酒を飲み過ぎて吐いているのに、嫌悪感がねえ自分に気づいて、『あ、これか』って思いました」

リヴァイ「ほぅ……」

エレン「今までのミカサって背伸びし過ぎてダメだったんですよ。オレが女に求めているのはそこじゃないって分かりました」

リヴァイ「あー尽くされ過ぎると逃げたくなるって奴だな」

エレン「そうです。酔った勢いで求婚された時はマジで焦りましたけど。結果オーライですね」

リヴァイ「お前もか」

エレン「え?」

450: 2014/12/10(水) 19:00:50 ID:BacbJXd.0
リヴァイ「いや、俺もそうだったからだ」

エレン「ああ、そう言えばそうでしたね」

リヴァイ「ああ。向こうが勢いでプロポーズしてきた時は、心臓止まるかと思ったが」

エレン「オレはリヴァイ主任とは違った意味で息の根止まるかと思いましたけど」

リヴァイ「意味は違うが、2人とも酔った勢いで求婚されてしまった訳だな」

エレン「本当ですね。これって凄い偶然ですよね」

リヴァイ「全くだ」

お互いに苦笑を浮かべてしまう。

リヴァイ「籍はいつ入れるんだ?」

エレン「あーミカサの方はすぐにでも入れたいって感じだったけど、結婚記念日は覚えやすい数字の方がいいかなって思って、今は保留にしています。今は婚約期間って事です」

リヴァイ「よく我慢しているな」

エレン「ミカサは基本的にオレの意見を優先する女なんで」

リヴァイ「調教しているな」

エレン「その言い方は適切じゃないですよ。オレ、そのつもりは全くないですし」

リヴァイ「しかし、苦しんでいる女にムラムラするというのは、Sの気がある証拠じゃねえか?」

451: 2014/12/10(水) 19:01:15 ID:BacbJXd.0
エレン「え…………」

リヴァイ「そういう事じゃねえのか? 違うのか?」

エレン「ち、違いますよ! それは誤解ですって!!」

リヴァイ「だが吐いている女に嫌悪感を持たず、むしろムラムラするって、余程だぞ」

エレン「え…………」

リヴァイ「普通は吐いている女を見たらげんなりするもんだ」

エレン「お、オレの場合は介抱してあげたくなる意味ですから! 全然違いますよ!」

リヴァイ「ふーん」

エレン「信じてないですね?! 違いますよ!」

リヴァイ「まあいい。そういう事にしておこう」

エレン「主任も意地悪ですね! Sの気あるんですか?」

リヴァイ「まあ、そういう気分の時もあるが、多分本質はМ寄りだ」

エレン「え?」

リヴァイ「でなければ、休日返上で駆り出されているのに、会社の言う事を聞いて仕事に戻る訳ねえだろ」

エレン「…………」

452: 2014/12/10(水) 19:02:01 ID:BacbJXd.0
リヴァイ「あと、後輩の尻拭いもS寄りの人間ならやらねえよ。放置して逃げる。自分の事が可愛いからだ」

エレン「……………」

リヴァイ「それにハンジに無理やり肉を食わされて、なんかイイとか思った時点でアウトだと思った。俺は巻き込まれる災難を受け入れちまう性質のようだ」

エレン「つまり、ハンジさんの方がSっ気あるんですか?」

リヴァイ「さあ? そこは分からんが、少なくともあいつはオレを弄ぶ事に関しては天才的だ」

エレン「そうなんですか………」

意外な一面を知ってびっくりするエレンだった。

エレン「リヴァイ主任、ハンジさんに惚れているんですね」

リヴァイ「まあな。自分でも何でここまで惚れたのか意味分からんが」

エレン「いいじゃないですか。好きなら」

リヴァイ「エレンはミカサの何処が好きなんだ?」

エレン「え? まあ、泣いているところとか、可愛いなあって思いましたけど」

そしてエレンは考える。

エレン「弱い部分を見せてくれるとキュンとします。あと、たまに口が悪くなって、イライラして物に八つ当たりしているところを見ると、ミカサも人間なんだなあ…と思ってしまいますね」

リヴァイ「それは人としての欠点じゃないのか?」

453: 2014/12/10(水) 19:02:38 ID:BacbJXd.0
エレン「え? あんまり完璧超人だと嫌ですよ。人間って、欠点があって当然じゃないですか」

リヴァイ「……………」

エレン「普段が完璧超人過ぎるから、欠点が見えた時のギャップがいいです。そこが見えなかったから、今まで手出せなかったのかって気づいたら、一気に意識が変わりました」

リヴァイ「そうか」

エレン「あ、でも口が悪いのはオレの前だけにしておけって言ってます。会社で言うのはちょっとまずいですし」

リヴァイ「…………」

エレン「まあ、口悪いのはリヴァイ主任の件ばっかりなのが傷ですが」

リヴァイ「ああ……ミカサの場合は別に陰口じゃないから対応はしやすいぞ」

エレン「ですか?」

リヴァイ「ただのヒステリーか? ヤキモチを妬いているだけだろ。現に今も、そこにいるぞ」

エレン「あーなんか、みたいですねえ」

別の席で女子と一緒に昼食を取っている。

ユミルとクリスタとサシャと同席して、女子の輪に入る様にしたようだ。

エレン「ヤキモチ妬きが過ぎるのがちょっと困りますけどね」

リヴァイ「俺とエレンが仲良くするのもヤキモチ妬いているようだな」

454: 2014/12/10(水) 19:03:11 ID:BacbJXd.0
エレン「はい……」

リヴァイ「可愛い女じゃねえか。それだけ思われている証拠だろ」

エレン「…………リヴァイ主任、やっぱりミカサの事を気に入っています?」

リヴァイ「ん? んー別に嫌いじゃないって程度だが」

エレン「リヴァイ主任って、大柄な女性が割とタイプですよね?」

リヴァイ「あんまり意識した事はないが……そう言われたらハンジも背が高いな」

エレン「そういうのって、無意識でしょうか」

リヴァイ「うーん。傾向はあるかもしれないな」

エレン「オレ自身は自分より小さい人が好きだと以前は思っていたんですけど」

リヴァイ「実際は違った訳だろ? ケースバイケースだ」

エレン「……………多分、リヴァイ主任が女性だったら好みだったかもしれないです」

リヴァイ(ぶほっ!?)

リヴァイは突然の告白にちょっとだけ動揺した。

エレン「オレ、自分の好みがだんだん見えてきました。遅いって言われるかもしれないですけど。強い人がふとした時に見せる素のような物を見た時に、ぐっと惹かれるみたいです」

リヴァイ「俺はエレンの前で素を見せたか?」

455: 2014/12/10(水) 19:03:47 ID:BacbJXd.0
エレン「え? ちょっとイラッとしていたじゃないですか。オレのミスのせいで休日出勤させられた時に」

リヴァイ「バレていたのか」

エレン「こっちは滅茶苦茶申し訳なかったですよ! それなのに夕食まで奢って貰って」

リヴァイ「アレはまあ、俺もやり過ぎたと後で反省したせいだ」

エレン「そうですか? でもあの演出のおかげで相手先も怒りを宥められたし、別にいいですよ」

リヴァイ「俺の事を恨んでねえのか?」

エレン「その件に関しては必要な事だったと認識しているので問題ありません」

リヴァイ「ふっ……」

リヴァイはふと可笑しくなって笑ってしまった。

リヴァイ「成程。エレンは少しだけハンジに似ているのか」

エレン「リヴァイ主任もミカサに似ていますよ」

リヴァイ「男同士でもバランスが取れているのはそのせいか」

エレン「リヴァイ主任がミカサを嫌わないのは、自分に似ているからですね?」

リヴァイ「ああ。性格もそうだが、不愛想なところもな。親戚みてえな感覚だ」

自分には血の繋がりのある人間はいないが、もしいたとすれば、あんな感じかもしれないとリヴァイは思った。

456: 2014/12/10(水) 19:04:21 ID:BacbJXd.0
エレン「だったら、変に心配する必要はないですよね」

リヴァイ「ん? ミカサは別にそういう相手じゃねえな」

エレン「良かった。もしも好みだったら困るなって思っていました」

リヴァイ「ふん………エレンも十分、ヤキモチ妬きじゃねえか。人の事言えねえぞ」

エレン「え? まあ……はははは」

リヴァイ「そうやって笑って誤魔化すところもハンジと同じパターンだな」

エレン「え? そうですか?」

リヴァイ「やれやれ。俺はどうしてこういう奴らと縁があるのか」

ふと、其の時リヴァイは以前獲得した宿泊券の事を思い出した。

リヴァイ「そう言えば、以前貰った日田の温泉宿泊券、まだ使ってなかったな」

エレン「え?」

リヴァイ「もし良ければ結婚祝いに譲ってやる。2人でゆっくりしてくるといい」

エレン「いいんですか? でも……」

リヴァイ「俺とハンジは10月に一週間ほど休暇を取ってオーストラリアに行ってくる。コアラが見たいそうだ」

エレン「コアラ目当てですか! へー」

457: 2014/12/10(水) 19:05:27 ID:BacbJXd.0
リヴァイ「あいつ、動物が好きだからな。中国のパンダと迷ったそうだが」

エレン「凄いですね。いいなあ。海外の新婚旅行ですか」

リヴァイ「エレン達も行けばいいじゃねえか」

エレン「いやーまだまだ貯蓄がないです」

リヴァイ「それもそうか。ふむ」

エレン「日田の温泉旅行を新婚旅行の代わりにさせて貰いますよ。ありがとうございます」

リヴァイ「日本もいいところはいっぱいある。楽しんで来い」

エレン「はい!」

ミカサ(エレンと温泉……! やった!)

会話を盗み聞きしていたミカサは心密かに喜んでいたのだった。

458: 2014/12/10(水) 19:06:43 ID:BacbJXd.0
そして10月10日。

エレンとミカサは婚姻届けを正式に提出して夫婦として認められた。

ミカサ「何故、この日にしたの?」

エレン「分かりやすいだろ? 覚えやすいからだ」

エレン「ミカサの誕生日は2月10日だし」

エレン「結婚記念日の4か月後にミカサの誕生日が来るって思えば」

エレン「記念日をスルーする事もねえかなって」

ミカサ「成程。納得した」

エレン「誕生日の方が良かったか?」

ミカサ「いいえ。ちょっと先過ぎて待ちきれなかったので」

459: 2014/12/10(水) 19:07:12 ID:BacbJXd.0
エレン「だよな。ミカサはその辺、せっかちだしな」

エレン「丁度いいんじゃねえかな。うん」

ミカサ「結婚式はどうしよう?」

エレン「うーん。オレ、あんまり貯金ねえから、リヴァイ主任の時みてえな豪華な披露宴は出来ねえな」

ミカサ「では、式だけにする?」

エレン「出来ればミカサには着物を着て欲しいなあ」

ミカサ「では、神前式にする?」

エレン「そうだな。そうするか」

そしてエレンとミカサは後日、黒袴と白無垢の衣装を着て、慎ましい神前式を行う事にした。

会社で世話になっている上司は当然出席したが、2人の親類は既に亡くなっていた為、ごく少数の結婚式となった。

ピクシス「ふむ。やはり和装は良いのう」

ハンジ「私も和装の方が良かったかな?」

リヴァイ「今更何言ってんだ」

ハンジ「いやーお嫁さんって感じだね! ミカサ綺麗だなあ」

リヴァイ「もう1回、式やるか? 今度は和装の方で」

460: 2014/12/10(水) 19:07:42 ID:BacbJXd.0
ハンジ「え? 結婚式って2回やっていいの?」

エルヴィン「別にやってはいけないって事はないんじゃないかな? 某タレントは何度か式を挙げていたような?」

ハンジ「ううーん。それって有難味が減っちゃいそうで嫌だなあ」

リヴァイ「だったら文句言うな」

ハンジ「文句じゃないよ。妄想しただけだよ」

エルヴィン「まあ、どっちを選んでも間違いじゃないよ」

ピクシス「そのカップルに合った式を挙げるのが一番じゃよ」

11月1日。その日に式を行い、エレンとミカサは皆に祝福されたのだった。

12月。年の瀬に追われて仕事が忙しくなる頃。

仕事をこなしながら、昼休みの営業部の中で3人は話していた。

エルヴィン「エレン君の営業成績が伸びてきたね」

461: 2014/12/10(水) 19:08:07 ID:BacbJXd.0
リヴァイ「そうなのか?」

エルヴィン「ペアをジャンからアルミンに変えたおかげもあるかもしれないが、以前に比べたら落ち着きが見えてきた。やはり嫁を貰うと人が変わるようだな」

ピクシス「当然じゃ。まあ、少々早い結婚のような気もするが、エレン君のようなタイプは守るべき女がいた方が力を発揮する」

リヴァイ「女の為に戦える男って事ですか」

ピクシス「嫁がいるから堪えるようになるんじゃよ。堪え性がないのが欠点だったが、克服出来たようじゃ」

エルヴィン「リヴァイの方の嫁は順調なのか?」

リヴァイ「今、大体8か月くらいか。このまま順調にいけば、1月末から2月中旬辺りが出産予定日になる」

ピクシス「今年の忘年会はハンジを連れて来られんのが寂しいの」

リヴァイ「妊婦に酒は飲ませられないですよ」

リヴァイ「忘年会、俺も欠席したらダメですか?」

エルヴィン「寂しい事を言うなよ。リヴァイ主任」

ピクシス「全くじゃ。嫁に入れ込みおって」

リヴァイ「何でそこで2人とも拗ねる」

エルヴィン「幸せを妬んでいるんだよ」

リヴァイ「だったらエルヴィンも結婚すりゃいいだろ」

462: 2014/12/10(水) 19:08:42 ID:BacbJXd.0
エルヴィン「うーん。嫁にしたいと思った女はナイル部長に先に取られてしまったので」

リヴァイ「そうだったのか」

エルヴィン「うん。まあ、私も昔はいろいろあったけど。恋愛はすっかりご無沙汰だな」

ピクシス「まだまだ現役だと思うがの。見合いせんのか? エルヴィンは」

エルヴィン「私は休日に家でひたすらゴロゴロするのが趣味みたいな人間ですし、それを許容できる女性なんていますかね?」

ピクシス「外と家のギャップが激しいのう。お主は」

エルヴィン「ですね。家に居る時の私を見たらきっと幻滅されると思います」

しかし其の時、リヴァイはちょっとだけ考えて答えた。

リヴァイ「…………そうとも言えねえかもしれねえぞ」

エルヴィン「ん?」

リヴァイ「俺とハンジがくっついた要因の一つは、家での俺をハンジに見せたからだ」

エルヴィン「…………」

リヴァイ「素の俺を見てもハンジは引かなかったんだ。むしろ腹の底から笑っていた。職場ではエルヴィンの言う通り、出来るだけ猫を被る様にしているが、俺は元々口が悪いし、粗暴だし、短気で感情的な人間だ。でもそのギャップに惹かれたそうだ」

エルヴィン「へえ……」

リヴァイ「案外いるかもしれんぞ? エルヴィンの表の顔と裏の顔を知っても一緒に居てくれるような女は、何処かに」

463: 2014/12/10(水) 19:09:11 ID:BacbJXd.0
リヴァイはそう言うと、エルヴィンは少しだけ悲しそうな表情で答えた。

エルヴィン「もしもそういう人間に出会えたら、私はきっと気が狂ってしまう」

リヴァイ「え?」

エルヴィン「恋の奴隷に成り下がって、何もかも捨ててその一人だけを愛してしまったら……私は自分を保てなくなるだろうな」

ピクシス「本気の恋が怖いのか」

エルヴィン「ええ。恐ろしいです。そういう意味では私はリヴァイを尊敬しています」

リヴァイ「…………」

エルヴィン「恋愛だけじゃないよ。君は根底の情がとても厚い。今まで、いろんな悲しい出来事もあっただろう?」

リヴァイ「………そうだな」

そう言われて最初に思い帰すのはイザベルの事だった。

エルヴィン「そういう事から逃げずに受け止めて生きてきたリヴァイは本当に凄いと思うよ」

リヴァイ「俺はそういう風にしか生きられなかっただけだ」

それは別に特別な事ではなかった。

リヴァイ「俺はエルヴィンの方が羨ましいけどな。お前は俺にない物を持っている」

ピクシス「お互いにない物があるから、うまくいくんじゃろ」

464: 2014/12/10(水) 19:09:40 ID:BacbJXd.0
そこで最年長のピクシス部長が苦笑した。

ピクシス「そういう意味では、お主らもお互い、バランスが良いの」

エルヴィン「でしょうね。ここまで来られたのもリヴァイの力が大きい」

リヴァイ「俺は大したことをしていない」

エルヴィン「ね? この謙遜ぶりが憎らしいですよ」

ピクシス「そもそも、20代で養父のような事をしていた時点で器が大きい男じゃろ」

リヴァイ「その選択も、今思えば間違っていたのかもしれないですが」

ピクシス「何故そう思う?」

リヴァイ「イザベルの人生を俺は食い潰してしまった。あいつの大事な人生を俺のせいで………」

ピクシス「愛を告白されて拒絶したことを後悔しているのか。今でも」

リヴァイ「……………自分を誤魔化して受け入れていれば、少なくともイザベルが事故に遭う事はなかった」

突然の告白。そして、それを拒否した後に自宅を飛び出してしまったイザベルを追いかけた。

嫌な予感がした。そう思った時はもう遅くて。

イザベルは夜中のトラックに衝突して、致命傷を負った。

リヴァイ「医者には生きているのが奇跡のような事故だとも言われましたが、俺はあの時、本当に後悔した。断るにしても、せめてもっと言い方があった筈だし、あいつを傷つけない方法があったかもしれないのに」

465: 2014/12/10(水) 19:10:25 ID:BacbJXd.0
ピクシス「それは無理じゃろ」

リヴァイ「え?」

ピクシス「今なら分かるじゃろ。もしもハンジに拒否されたら、お主はイザベルと同じ気持ちになった筈じゃぞ?」

リヴァイ「………そうですね」

その言葉を理解してリヴァイは俯いてしまった。

リヴァイ「愛は残酷だ。結ばれれば幸せになれるが、それが叶わない時の心の傷は人を頃しかねない」

エルヴィン「私がヘタレになる理由も分かるだろ?」

リヴァイ「ああ。納得したよ」

ピクシス「それでも人は愛を求めずには生きてはいけんのじゃ。それは男と女だけの話ではない」

リヴァイ「恋愛だけではないんですか?」

ピクシス「当然じゃよ。恐らくリヴァイはイザベルに対しては子供を愛するような感覚でいたじゃろ? 当時は」

リヴァイ「そうかもしれません」

ピクシス「誰かと繋がっていたいという感情は家族愛も含まれる。それを満たす為に2人を引き取ったのかもしれん」

リヴァイ「………………」

ピクシス「自分の欲望から目を背けたらいかんぞ。人間なんて大した生き物じゃない。己の欲望を満たす為に生きるんじゃ」

466: 2014/12/10(水) 19:10:53 ID:BacbJXd.0
エルヴィン「その点に関しては激しく同意します」

エルヴィンが苦笑いを浮かべて答えた。

エルヴィン「自分勝手な生き物ですよね。本当に。悲しいくらいに」

ピクシス「そのせいで悲劇が起きる時もある。愛は諸刃の刃なのじゃ」

リヴァイ「その刃で俺はイザベルを傷つけてしまったんですが」

ピクシス「そうじゃな。ただわしはもう、お主は十分、その罪を償っていると思うぞ」

リヴァイ「……………」

ピクシス「10年以上、世話を続けているんじゃろ?」

リヴァイ「もう11年目になりますね」

ピクシス「ずっと、世話を続ける気なのか?」

リヴァイ「はい。イザベルが生き続ける限りは」

ピクシス「その役目は、もう一人のイザベルを好いている男にバトンタッチをしてはならんのか?」

リヴァイ「え………」

ピクシス「ファーランとか言ったな? 無事に医者になれたんじゃろ?」

リヴァイ「そうですね」

467: 2014/12/10(水) 19:11:21 ID:BacbJXd.0
ピクシス「だったら、金の心配はいらんじゃろ。今後は彼に託した方がいいとわしは思うが」

リヴァイ「でも………」

ピクシス「リヴァイは既に所帯を持った。ハンジを幸せにする方が優先じゃ」

リヴァイ「……………」

ピクシス「一度、そのファーランという彼とも話し合ったらどうじゃ?」

リヴァイ「その方がいいんでしょうか」

エルヴィン「私もその件に関しては、ピクシス部長に同意するよ」

リヴァイ「…………」

エルヴィン「勿論、出過ぎた意見だとは思っているが。リヴァイ自身の人生もこれからどんどん変わっていく。その時に、彼女の存在がリヴァイの中にずっといる事は、リヴァイ自身にとっても辛い事じゃないか?」

リヴァイ「辛いなんて思った事は一度もねえよ」

ピクシス「そうか?」

リヴァイ「辛いのは俺じゃねえ。イザベルだ。意識は無くとも、あいつは今もきっと苦しんでいる」

ピクシス「そう思えるのが、リヴァイの凄さなのかもしれんな」

リヴァイ「祈るしかないと思っています。奇跡がいつか、訪れる事を」

そう呟いて、そしてその日の昼休みは終わってしまったのだった。

469: 2014/12/15(月) 21:25:30 ID:Pqiz1v1w0
12月23日に忘年会が行われて、深夜に帰宅すると、ハンジがまだ起きて待っていた。

リヴァイ「まだ寝ていなかったのか」

ハンジ「あ、おかえりー待っていたよ」

リヴァイ「何で?」

ハンジ「いや、ある意味1周年でしょ?」

リヴァイ「え?」

ハンジ「私達の愛の歴史は、忘年会を境に始まった訳だからさ。記念って事で」

小さなホールのケーキを用意してハンジは待っていたのだ。

その小さいサプライズに唖然として言葉が出ないリヴァイだった。

クラッと眩暈がして、思わずorzの姿勢になると、ハンジはきょとんとした。

470: 2014/12/15(月) 21:26:02 ID:Pqiz1v1w0
ハンジ「何でそのポーズ? 尻でも叩いて欲しいの?」

リヴァイ「違う……」

ハンジ「ん?」

リヴァイ「お前、本当にそういうところ、記憶力がいいんだな」

ハンジ「まあね! こういうの好きなんだよ」

不意打ちを食らってなんていえばいいのか分からなかった。

ハンジ「食べないの? お腹いっぱい?」

リヴァイ「いや、食べる」

リヴァイはスーツから着替えて部屋着に着替えてちゃんと手洗いを済ませてテーブルの席についた。

ケーキを2人で食べながら、ハンジの方から本題を切り出す。

ハンジ「記念ついでに、誕生日プレゼントも前渡し」

リヴァイ「え?」

ハンジ「去年はサンタの帽子としゃぼん玉石鹸だけだったから、今年はグレードアップしたよ」

渡された箱を見つめる。その箱を恐る恐る開けると……。

リヴァイ「腕時計か」

471: 2014/12/15(月) 21:26:34 ID:Pqiz1v1w0
ハンジ「リヴァイは時間に追われる生活をしているから。腕時計はいくつか持っていた方がいいと思って。スマホだと、確認するのにちょっと手間かかるでしょ」

リヴァイ「ああ。腕時計が一番だ。その……高かったんじゃないのか?」

ハンジ「値段は聞いちゃダメだよ! マナーだよ!」

リヴァイ「ああ……悪い」

早速付け替えてみる。しっくりくる感じに、自然と笑みが零れた。

ハンジ「どう?」

リヴァイ「ありがとう。嬉しい」

ハンジ「良かった」

リヴァイ「ハンジ……」

ハンジ「ん?」

リヴァイ「あの時、俺にプロポーズをしてくれてありがとう」

ハンジ「完全に酔っぱらっていましたけどね。むしろ、無茶ぶりしたのは私の方だけど」

リヴァイ「無茶なんかじゃない」

リヴァイは其の時、腕時計を握りしめながら答えた。

リヴァイ「望んでいたのは俺の方だ。もっと早くハンジにそれを伝えれば良かった……」

472: 2014/12/15(月) 21:27:02 ID:Pqiz1v1w0
ハンジ「ん~ま、それは結果論だって」

リヴァイ「それはそうなんだが、でも」

ハンジ「私、リヴァイと結婚して後悔してないよ」

リヴァイ「…………」

ハンジ「この選択をして良かったと思っているんだから、いいじゃない」

リヴァイ「そうか」

リヴァイ「…………」

リヴァイ「ハンジ」

ハンジ「ん? 何?」

リヴァイ「正直に答えてくれ」

ハンジ「何を?」

リヴァイ「お前、俺がイザベルの世話をしている事について、どう思っている?」

ハンジ「それ、前にも答えなかったっけ? 立派な事だと思っているよ」

リヴァイ「本当に?」

ハンジ「何で嘘をつく必要がある?」

473: 2014/12/15(月) 21:27:31 ID:Pqiz1v1w0
リヴァイ「……………」

ハンジ「何か迷っているような表情だね」

リヴァイ「分かるのか」

ハンジ「うん。その程度の事なら私にも読み取れるけど」

ハンジ「どうも、複雑な感情が絡んでいるように見える」

ハンジ「とりあえず、話してみ?」

ハンジに促されて重い気持ちを少しだけ吐き出す。

リヴァイ「ピクシス部長に、今後はイザベルの世話はファーランに託した方がいいんじゃねえかという感じの事を言われた」

ハンジ「え? でも彼はまだアメリカにいるんじゃないの?」

リヴァイ「いずれこっちに戻ってくるつもりではいるようだが」

ハンジ「だとしたら、それは戻ってきてから話し合えばいいんじゃない?」

リヴァイ「ハンジは俺が他の女を世話している事に嫌悪感はねえのか」

ハンジ「だって、女っていうか、彼女の場合は子供に近い関係だったんでしょう?」

リヴァイ「まあ、家族ごっこみてえなもんだったな」

ハンジ「リヴァイと彼女の関係は私には見えない部分だから何とも言えないけど、その関係を断ち切って欲しいなんてこれっぽっちも思ってないし、そこはリヴァイが気の済むようにしていいんじゃないかな」

474: 2014/12/15(月) 21:28:16 ID:Pqiz1v1w0
リヴァイ「…………」

リヴァイ「……………………」

ハンジ「凄く苦しそうだね。私の答えが気に入らない?」

リヴァイ「違う」

ハンジ「だったら、何?」

リヴァイ「ずっとこのままかもしれない」

ハンジ「え?」

リヴァイ「イザベルはずっと、目が覚めないかもしれない。俺があの時、拒否したばかりに」

ハンジ「………………」

リヴァイ「今なら分かる。イザベルの気持ちが。あの時の、あいつの気持ちが」

ハンジ「………………」

リヴァイ「なのにあの時の俺は、ただ、あいつを………」

ハンジ「自分を責めているんだ」

リヴァイ「そうだ。もうずっと、自分を責めている」

ハンジ「リヴァイは、ずっと傷ついたまま生きていくの?」

475: 2014/12/15(月) 21:28:38 ID:Pqiz1v1w0
リヴァイ「……………」

ハンジ「それはきっとしんどいね。私だったら耐えられないよ」

リヴァイ「……………」

ハンジ「成程。ピクシス部長が口を出したのはそのせいか」

ハンジ「うん。だったら正直な気持ちをリヴァイに話すよ」

リヴァイ「ん………?」

ハンジ「本音を言えば、イザベルの件はリヴァイにはもう忘れて欲しいと思っている」

リヴァイ「…………」

ハンジ「だってリヴァイ、辛そうだもの。辛そうにしているリヴァイを見るのはこっちも辛いから」

リヴァイ「そんなに辛い顔をしているのか?」

ハンジ「自覚ないの?」

リヴァイ「辛いと思った事は一度もねえよ」

同じ台詞をもう一度言ったけれど、ハンジは首を振った。

ハンジ「そう言い聞かせているだけに思える。もしくは、そう思う自分を許せないんじゃない?」

リヴァイ「………そうなんだろうか」

476: 2014/12/15(月) 21:29:09 ID:Pqiz1v1w0
ハンジ「うん。私、リヴァイの思いの持続力には感嘆するよ。あなたは本当に一途な男だ」

リヴァイ「そうか?」

ハンジ「一度決めた事は絶対やり通す強さがある。だからこそ仕事も任せられるし、営業最強の座に君臨しているんだろうけど」

リヴァイ「営業の方はエルヴィンの力の方が大きいぞ」

ハンジ「影の支えがあるとしてもだよ。それだけで、その成績は叩きだせないよ。リヴァイ以外には」

リヴァイ「……………」

ハンジ「自分だけ幸せになるのが許せないの?」

リヴァイ「……………罪悪感がないと言えば嘘になるな」

リヴァイはそこで自分の気持ちを吐露した。

リヴァイ「普段は考えないように努めているが。それでも、ふとした時にイザベルの事を思い出す事はある」

ハンジはそこで紅茶のおかわりを注いでやった。それを一口飲みながらリヴァイは続けた。

リヴァイ「あの時のイザベルは様子がおかしかった。いつもはあんなに情緒不安定な女じゃねえのに。あの日に限って、やたら俺の事を尋ねてきた。仕事中の俺の様子や、交友関係や、特に女について聞いてきて………」

ハンジ「うん」

リヴァイ「その日は忘年会で帰りが遅くなったせいもあった。だから妙にいろいろ聞いてきて……口紅がシャツについているところをイザベルに見られて」

ハンジ「口紅?」

477: 2014/12/15(月) 21:29:35 ID:Pqiz1v1w0
リヴァイ「あ、いや……何でもねえ」

リヴァイは口を滑らせてしまった事を悔いた。

ハンジ「………ねえ、まさか」

リヴァイ「…………」

ハンジ「それって、私がやっちゃった? リヴァイに」

リヴァイ「酒の席の事だ。ハンジじゃなくても、別の女もたまにやるだろ」

ハンジ「でもその時は、私がリヴァイに絡んだせいだったんじゃ」

リヴァイ「ハンジは覚えてねえだろ」

ハンジ「酒が入っている上に、11年も前の事ならねえ…」

リヴァイ「ハンジのせいじゃねえよ。それはその……俺のせいだ」

ハンジ「え?」

リヴァイ「隣の席に座っていたからな。あの頃から、俺は恐らく無意識にハンジを選んでいた」

ハンジ「という事は、その事をイザベルに感づかれてしまったと?」

リヴァイ「そうなのかもしれない。俺の心の奥底に女の影がある事を感じ取って、焦ったせいだろうな。イザベルの方から俺に襲い掛かってきて」

ハンジ「…………」

478: 2014/12/15(月) 21:30:51 ID:Pqiz1v1w0
リヴァイ「俺は軽いパニック状態になった。力は俺の方が上だから、すぐ振り解く事は出来たが。其の時に俺は『俺はお前を抱けない。そういう意味では見られない』とはっきり言ってしまった」

ハンジ「エレンの場合とは違うみたいだね」

リヴァイ「そうだな。俺は口リコンじゃねえ。いや……でもよく考えたら、15歳という微妙な年頃の女を未婚の男の元に住まわせている状態がそもそも間違っていたんだよ」

ハンジ「……………」

リヴァイ「ある程度の年齢になったら俺の方が気をつけるべきだったんだ。でも当時の俺はそこまで気が回らなかった。イザベルを預かったのはあいつが9歳の時だったし、当時の俺の中では2人共、可愛い子供のような感覚だった」

ハンジ「という事は、ざっと計算して17年前か。リヴァイは22歳くらいの若さで子供2人も養っていたのか」

リヴァイ「俺が今の職場に来たのは大体15年前だから、安定した収入を得たいと言った意味が分かるだろ?」

ハンジ「確かに。子供2人もいたら、ちゃんとした仕事に就かないとまずいよね」

リヴァイ「最初はあいつらに合わせて定時で帰る事の出来る仕事をしたかったが、そこはなかなかうまくいかなくてな。妥協して今の職場に落ち着く事にした。それまでは転職もしてみたが、収入の増減があるとやはり子供を養うのは難しい。しんどいと思う時もあったが、それでもあいつらの顔を見ていると心が安らいでいた」

ハンジ「もしかして、リヴァイはそのバランスを壊す事が怖かったのかな」

リヴァイ「そうだな。ずっとこのままでいたい。そう思う自分がいたのは否定出来ない。でも少しずつあいつらは大きくなって、望んでいた関係を続ける事が出来なくなってしまった」

ハンジ「それはリヴァイの責任じゃない気がするんだけど」

リヴァイ「そうだろうか」

ハンジ「うん。なんていうか………誰のせいでもない気がする」

リヴァイ「……………」

479: 2014/12/15(月) 21:31:33 ID:Pqiz1v1w0
ハンジ「だって、リヴァイは間違った事はしていないじゃない。身寄りのない子供を引き取ったようなものでしょう?」

リヴァイ「まあ、そんな感じだ」

ハンジ「うん。その若さで2人も子供を引き取るとか、良く考えたら凄い事だよ。なかなか出来る事じゃない」

リヴァイ「そうだろうか」

ハンジ「それがたとえ自分の為だったとしても、私はリヴァイのやった事自体を否定したくないよ」

リヴァイ「………」

ハンジ「リヴァイ。あなたのしたいようにしていいから。私はそれに付き合うよ」

リヴァイ「本当にいいんだな?」

ハンジ「うん。大丈夫。不安にならなくていいからね」

リヴァイはそこでようやく気持ちを落ち着けて、頷いた。

リヴァイ「風呂、入ってくる。ハンジはもう入ったか?」

ハンジ「あ、いっけね。忘れていたな。てへっ」

リヴァイ「だったら一緒に入ろう。背中を流してくれ」

ハンジ「お? 珍しいね。自分から頼んでくるとは」

リヴァイ「今夜はそんな気分だ。頼む」

480: 2014/12/15(月) 21:32:00 ID:Pqiz1v1w0
ハンジ「了解♪」

そして2人は、いつもの日常の中に帰って行った。

そして月日が再び流れて、ハンジが無事に2月の頭頃に出産を迎えて、1人目の子供を持ち、産休に入っていた頃。

アメリカに居たファーランが帰国する事になり、リヴァイは久々にファーランを自宅に向かえて再会を喜ぶことになった。

ファーラン「ただいま……遅くなってすまねえ。リヴァイ」

リヴァイ「老けたな」

ファーラン「医者はそれなりに激務だからな。リヴァイは相変わらず年齢不詳だな」

リヴァイ「俺ももうすぐ四十路に入る。少しは老けたに決まっているだろ」

481: 2014/12/15(月) 21:33:20 ID:Pqiz1v1w0
ハンジ「どうも。初めまして。妻のハンジです」

ファーラン「話だけは聞いていました。こちらこそ、初めまして。ファーランといいます。リヴァイに世話になっていた者です」

リヴァイ「ハンジには丁寧だな」

ファーラン「リヴァイには今更気遣う必要はねえだろ」

軽口を叩きながら、夜、テーブルの席で話し合っていると、

ファーラン「今まですまなかった。後の事は俺に任せてくれ」

リヴァイ「ん?」

ファーラン「イザベルの事だ。ずっとリヴァイに頼りっぱなしだった。今後は俺があいつの面倒をみる」

リヴァイ「………いいのか?」

ファーラン「其の為に戻って来たんだ。あいつを助ける為に」

リヴァイ「何か手がかりはあったのか?」

ファーラン「成功するかは分からねえが、それでも可能性はゼロじゃねえ」

リヴァイ「手はあるのか?」

ファーラン「その為の資金繰りも済ませてきた。それに事故に遭って昏睡状態にあると信じられていたある男性が、実はずっと意識があった例を見つけた。身体が麻痺しているせいで、周りに意識がある事を伝えられないまま生き続けた人間もいる」

リヴァイ「……何だって?」

482: 2014/12/15(月) 21:34:13 ID:Pqiz1v1w0
ファーラン「イザベルがそのケースに当てはまるかは分からねえが、まだ可能性はゼロじゃねえって事だけは分かった。俺はこれから出来る限りの事をイザベルにしてやるし、絶対、諦めない」

リヴァイ「……………」

ファーラン「リヴァイは所帯を持ったんだし、これからは俺に任せてくれ。今までかかった費用は後で必ず返す」

リヴァイ「本当にいいのか?」

ファーラン「今後は子供にも金がかかるだろ。俺もいつまでも子供じゃない。もう一人でもやっていける力はつけた」

リヴァイ「……………」

ファーラン「むしろ今まですまなかった。リヴァイ、後は俺に任せてくれ」

リヴァイ「分かった。頼んだぞ。ファーラン」

そして2人は久々の再会を喜び、酒を飲んでその日の夜は積もる話を咲かせて夜遅くまで語り合った。

そしてまた少しの月日が流れて、今度はミカサの方の懐妊のニュースが社内に広まって皆、騒いでいた。

アルミン「思っていたより早かったね! 今、何か月?」

483: 2014/12/15(月) 21:34:42 ID:Pqiz1v1w0
エレン「ええっと、妊娠したのが12月の始めくらいだから、今は3月1日だから、ええっと……」

ミカサ「大体4か月になる。もうすぐ安定期に入る」

アルミン「どうしてすぐ言ってくれなかったの?」

エレン「ええっと、安定期に入るまでは本当は発表を控えるつもりだったんだが」

ミカサ「多分、大丈夫だと思う。順調に育っている」

アルミン「へー……何か、2人とも落ち着いてきたね」

エレン「そうか?」

アルミン「うん。以前のような喧嘩も少なくなったし、夫婦になってからは凄くいい関係に変わった気がする」

エレン「んーそうかもな。ミカサも以前程は無茶苦茶しなくなったしな」

ミカサ「妊婦になってから特に、自分に出来る事が制限されてしまって、エレンに頼る事が多くなった」

エレン「頼ってくれていいんだよ。無理すんなよ」

アルミン(成程。エレンはずっと、本当はミカサに頼られたかったのか)

アルミン(男としての役割を自覚してからはエレンも落ち着いてきたんだね)

アルミン(良かった。収まるところに収まって。安心したよ)

484: 2014/12/15(月) 21:36:04 ID:Pqiz1v1w0
ユミル「産休、いつ頃から取るんだ?」

ミカサ「出産直前から、1年間は休ませて貰うと思う。育児に専念したい」

クリスタ「赤ちゃん、生まれたら是非見せてね」

ミカサ「それは勿論」

サシャ「男の子ですか? 女の子ですか?」

エレン「それはまだ、内緒だ。産まれてから発表する」

コニー「えー何だよ。まあ、その方が楽しみだけどな」

仲間とわいわい話している最中、複雑そうな表情の男が一人。

ジャン「…………」

マルコ「おめでとうって、言ってあげないと」

ジャン「あ、ああ……そうだな」

マルコ「もう人妻だよ? いつまでも引きずっていたらダメだって」

ジャン「…………」

マルコ「……………ジャンも早いところ、彼女を見つけないとね」

ジャン「…………そうだな」

485: 2014/12/15(月) 21:36:36 ID:Pqiz1v1w0
そう呟いて、ミカサから視線を逸らすジャンだった。

そして3月末。組織の形態の試験的年は終わり、次の年は本格的な始動の年になり、各役職の移動がされる事になった。

役職同士の内輪話にリヴァイは耳を傾けて少々驚く事になる。

リヴァイ「え? ダリス本部長が社長に出世したのか」

エルヴィン「うん。本部長にはピクシス部長が格上げされて、人事部の方に私が移動になる予定だ」

リヴァイ「つまり、営業部を離れる事になるのか。エルヴィンは」

エルヴィン「そうなるね」

エルヴィン「そこでリヴァイ、営業部の部長を君に引き継いで欲しい」

リヴァイ「待ってくれ。そこはキース主任が上がるんじゃねえのか? キャリア的にも」

エルヴィン「いや、私はリヴァイを推したいと思っている。君はもう、その力を持っているよ」

リヴァイ「俺はエルヴィンの台本があったから、成績が良かっただけで……」

エルヴィン「もう私の台本は必要ないよ」

リヴァイ「………」

486: 2014/12/15(月) 21:37:08 ID:Pqiz1v1w0
エルヴィン「経験という台本があるじゃないか。リヴァイ、君はもう十分、戦える」

リヴァイ「ハンジの方が適任じゃねえのか?」

エルヴィン「産休中の彼女に無理はさせられないよ」

エルヴィン「それに、彼女にはいずれ開発部の方に移動して貰いたいと思っている」

リヴァイ「産休明けは来年の1月以降になる予定だが」

エルヴィン「うん。だから予定としては、来年の4月以降、彼女には開発部へ移動して貰いたい」

エルヴィン「3か月程度だけど、一緒に営業部を切り盛りして貰えないかな」

リヴァイ「…………」

リヴァイ「俺が営業部の部長になるなら、営業主任はオルオに引き継いでいいのか?」

エルヴィン「まあ、順番で言えばそうなるよね」

リヴァイ「副主任は…………エルドか、ペトラか」

成績はほぼ互角だ。エルドの方が若干上ではあるが。

オルオと組ませた場合を考えた場合は……。

リヴァイ「まあ、相性を考えたらペトラの方が上か」

487: 2014/12/15(月) 21:37:36 ID:Pqiz1v1w0
エルヴィン「だったら彼女を副主任に上げよう」

リヴァイ「俺に出来るんだろうか」

エルヴィン「ん?」

リヴァイ「俺はそもそも、組織の上に立つような種類の人間じゃねえと思っている」

エルヴィン「んー」

リヴァイ「そういう意味じゃ、ハンジの方が余程、人を使うのが巧いし……」

エルヴィン「あ、そうだ。リヴァイ」

リヴァイ「なんだ」

エルヴィン「猫被り命令、解除するよ」

リヴァイ「は?」

エルヴィン「だから、リヴァイが営業部長を引き継いでくれるなら、好きにしていいから」

リヴァイ「何をいきなり言い出す」

エルヴィン「つまり、営業部のカラーをリヴァイの好きにしていいと言っている」

リヴァイ「今更何を……」

エルヴィン「そもそも、リヴァイに猫被り命令をした理由は、君が思っているような理由じゃない」

488: 2014/12/15(月) 21:38:19 ID:Pqiz1v1w0
リヴァイ「? 仕事に差し障るから猫を被れって言った訳じゃねえのか?」

エルヴィン「差し障るの意味が違う。まあ、解除してみれば分かるとは思うけど」

リヴァイ「言っている意味がさっぱり分からん」

エルヴィン「そこは自分で気づいて欲しい。だからリヴァイ、君の好きなように営業部を変えていいよ」

リヴァイ「…………本当にいいのか?」

エルヴィン「ピクシス部長の時も、私の時も、自分の色に染めて仕事をしてきた訳だから、リヴァイも習っていいんだよ」

リヴァイ「………………」

エルヴィン「営業部長になれば、営業事務の仕事も同時に采配する事になるから、実質、外回りより中の仕事が増えるよ」

リヴァイ「あ、成程」

エルヴィン「忙しくはなるとは思うけど。そこは私がちゃんと引き継いであげるから」

リヴァイ「うーん」

リヴァイは悩んでしまう。本当にいいのかと。

リヴァイ「俺は別に出世を望んじゃいないんだが」

エルヴィン「ああ……子育てを優先したいんだ?」

489: 2014/12/15(月) 21:39:23 ID:Pqiz1v1w0
リヴァイ「まあな。ハンジの負担を減らしてやりたい。だから仕事が終わったら真っ先に帰っているから、残業したくねえ」

エルヴィン「リヴァイは営業主任のままでいいの?」

リヴァイ「それが許されるならそうしたいが、やっぱりキース主任が上にあがる方がいいんじゃねえか?」

エルヴィン「うーん」

リヴァイ「営業事務の方は、ミカサが主任を引き継げばいいんじゃねえか? あいつ、仕事が滅茶苦茶早いだろ」

エルヴィン「あれ? まだ知らなかった? ミカサ君は現在、妊娠しているよ」

リヴァイ「?! もう子供作ったのか。早いな。あいつら」

エルヴィン「君が日田の温泉旅行券、譲ったんじゃないか。嬉しそうに言っていたよ。旅行先で仕込んできたと」

リヴァイ「エレンの奴……」

エルヴィン「いや、自慢していたのはミカサ君の方だが」

リヴァイ「なお悪いな」

エルヴィン「そういう訳だから、現在、営業事務の方の主任を引き受けられそうな人材が……」

リヴァイ「待て。それだったら俺がそっちに移動したい」

エルヴィン「え?」

490: 2014/12/15(月) 21:39:51 ID:Pqiz1v1w0
リヴァイ「キース主任が営業部長に上がるなら、俺が営業事務の主任に移動していい。いや、させてくれ」

エルヴィン「事務職好きだねえ」

リヴァイ「元々はそっちの仕事がやりたかったんだよ。俺は」

エルヴィン「うーん。一応、キース主任にも聞いてみるか」

そしてその日、キース主任も交えて空いた時間に話し合う事になった。

キース「それだったらわしもリヴァイが上にいく方がいいと思うぞ」

リヴァイ「何故……」

キース「君はわしにはない物がある」

リヴァイ「何ですか」

キース「人望だよ。わしはそう人に好かれる気質ではないし、営業職をしていた時も成績は普通だった。君自身は上に立つのは苦手としているようだが、わしは部下に慕われやすい君の方が営業部をまとめられると思うぞ」

リヴァイ「俺自身は部下に慕われているなんて思っちゃいないですが」

キース「そうか? 結婚披露宴では部下の方から出席したいと言う打診をされたと聞いたが」

リヴァイ「一部の奴らだけですよ」

キース「そうだとしても、部下の方から寄ってくるのは珍しい事だぞ」

エルヴィン「そうだよね。普通はその辺は線引きされちゃうもんだよ」

491: 2014/12/15(月) 21:40:23 ID:Pqiz1v1w0
リヴァイ「……………」

リヴァイ「ハンジとも、話し合ってみてもいいか?」

エルヴィン「勿論いいよ。ハンジの意見も聞いてみたい」

そしてその日の夜、リヴァイはハンジに移動の件を早速、話してみた。

ハンジ「おおお! 私、いずれは、開発部の方に移動出来るかもしれないんだ!」

リヴァイ「エルヴィンが人事部に異動になれば希望を通すのは出来ると思うぞ」

ハンジ「リヴァイは上にあがるのは気が進まないの?」

リヴァイ「子供を優先したいんだよな。俺自身は」

部屋に寝かしつけた息子の寝顔を優しく見つめながらリヴァイは言った。

リヴァイ「今はまだ産まれたばかりだから、そこまでしんどくねえだろうが、これが掴まり立ちして歩くようになると戦場になるとハンジのお母さんも言っていただろうが」

ハンジ「まだ先の事だよ」

リヴァイ「そうだとしても、だ。俺は仕事人間って訳じゃねえし、役職に執着があるわけでもねえ」

ハンジ「出世したくない人間に限って上にあがっていっちゃう法則でもあるのかな」

リヴァイ「そうなのかもしれねえな」

ハンジ「でも子育ては私とリヴァイだけでやる訳じゃないし、お母さんも助けてくれるって言っていたから、あんまり心配しなくていいんじゃないかな」

492: 2014/12/15(月) 21:41:29 ID:Pqiz1v1w0
リヴァイ「申し訳ないだろ。それは……」

ハンジ「なんかむしろ、うちの両親、孫の面倒をみたくて堪らないって顔しているけど」

リヴァイ「……………」

ハンジ「私がやっと子供を持ったから余計にそう思っているみたい。待望の男の子だし」

リヴァイ「まあ、1人目で男の子を持ったのはご両親にとっては嬉しかっただろうな」

ハンジ「リヴァイは娘の方が欲しかったんだよね」

リヴァイ「希望を言えばの話だが、まあ、どっちでも構わん」

ハンジ「もう一人くらいならいずれいけると思うけど」

リヴァイ「…………煽るなよ」

ハンジ「ん?」

リヴァイ「こっちはいつでも準備して待っている。いけるなら4人くらい欲しい」

ハンジ「おおおお……プレッシャーかけてきますね」

リヴァイ「年齢的に厳しいだろうから、2人でも十分だが」

ハンジ「双子ちゃんが産まれたら一気にいけると思うけど」

リヴァイ「そこは神のみぞ知る世界だろ」

493: 2014/12/15(月) 21:42:03 ID:Pqiz1v1w0
ハンジ「まあね」

リヴァイ「話が脱線したが、つまりハンジのご両親にある程度甘えてもいいんだろうか?」

ハンジ「うん。大丈夫じゃない?」

リヴァイ「その件についてはちょっと直接話をしにいかないといけねえな」

ハンジ「電話でよくない?」

リヴァイ「失礼だろ。明日、仕事が終わってからでいいから夜、時間を作って貰って話にいくぞ」

そして翌日の夜、リヴァイは会社の事情をハンジの両親に話す事になった。

父親「おお。出世するのか。それはめでたい事だな」

リヴァイ「まだ、返事をしていない状態ですが……」

父親「何故躊躇う?」

リヴァイ「収入の面から考えたらもう十分過ぎる程、得ています。俺としてはそれより、子供にかける時間を削減される方が痛いと思うので」

母親「大丈夫よ。孫の面倒なら私達が見てあげるわ」

父親「わしらは厚生年金で気ままな暮らしをしているからな」

リヴァイ「……………でしたら、同居をして貰えませんか」

ハンジ「え?! 同居?!」

494: 2014/12/15(月) 21:42:28 ID:Pqiz1v1w0
リヴァイ「その方が良くねえか?」

父親「まさかリヴァイ君の方から打診してくるとは」

母親「私達もそっちの方がいいわ」

ハンジ「ええええ……同居はちょっと………」

リヴァイ「何で娘のお前が嫌がるんだよ」

ハンジ「ううう………いろいろ煩い事になりそうだな」

母親「何言っているのよ。面倒見てあげるって言っているのに」

ハンジ「そうだけどさあ」

リヴァイ「同居が難しいなら俺達の方がご両親の家の近くに引っ越す手でもいい。今のままでは距離があるし、子供を預かって貰うならその方がいいだろ」

父親「まあ、その方がかえっていいかもしれんな」

母親「全くもう」

リヴァイ「では、近いうちにご両親の家の近くの部屋を借りるようにします」

ハンジ「まあ、その方がいいかな」

そんなこんなで、計画が進んでいく。

495: 2014/12/15(月) 21:43:05 ID:Pqiz1v1w0
4月。リヴァイはエルヴィンの推薦もあり、営業部長へ昇格した。

リヴァイは猫被りを解禁されたので、本当に自分のやりたいように仕事をする事にした。

リヴァイ「あーまずは、今日は営業部の部屋の中を全面改装する」

オルオ「え? 改装?」

リヴァイ「部屋の中には後日、サンドバックとルームランナーと、ウエイトトレーニング用の機材を投資する。全部俺の自腹で投資するから、皆、暇な時間が出来たら存分に使え」

営業社員一同「「「?!」」」

リヴァイ「営業は体力勝負だ。営業事務の奴らも体が鈍るといけないから、気分転換に使っていい。ただし使用した後はきちんと片づけて汗を拭っておけよ」

リヴァイ「あと、机やソファや本棚の位置も全部変更する。図面を作ってきたから、この通りに改造していくぞ」

リヴァイは動線を考えた場合、尤も効率の良いと思われる物の配置を考えて部屋の中を変える事にした。

エルヴィンの時代は余り細かい部屋の配置には拘らない方針だったが、リヴァイはまずそれを変える。

496: 2014/12/15(月) 21:43:36 ID:Pqiz1v1w0
特に一番、人の通りの大きい部分は道を広めに設定し、要らない部分は全部排除した。

新年度最初の仕事が模様替えになるとは思わなかった営業部一同だったが、いざ変更してみるといい感じになったと思った。

キース「ふむ。成程。確かにこっちの形の方がいいかもしれんな」

リヴァイ「すみません。自分のやり方でしていいという話だったので」

キース「遠慮する必要はない。今後はリヴァイ部長が指揮を取るんだ。どんどん変えていきたい部分は変更して行っていいぞ」

リヴァイ「もしやりにくい点が出てきたら後で言って下さい」

キース「大丈夫だろ。よく考えられた配置だと思うぞ」

そして新メンバーを加えた営業部のメンバーの前でリヴァイは挨拶した。

リヴァイ「エルヴィン営業部長から引き継いだリヴァイだ。今後は俺が営業部長になる訳だが……エルヴィンの時代とはやり方を変えるつもりでいる。心して聞け」

営業部の社員は緊張して聞いた。

リヴァイ「まずは、外回りから帰ってきたら絶対、うがいと手洗いは徹底しろ」

ジャン(まるで小学生みてえだな)

リヴァイ「おい、そこのお前。今、小学生みてえだなって思ったな?」

ジャン(何故バレた)

リヴァイ「まあ、皆同じ事を思っているだろうな。今、説明する」

497: 2014/12/15(月) 21:44:36 ID:Pqiz1v1w0
リヴァイ「バレている奴にはバレているだろうが、俺は極度の潔癖症の人間だ」

ペトラ(知っています)

オルオ(承知しています)

リヴァイ「だから俺は、部屋の中が汚い事は勿論、風邪ひいている奴がくしゃみや咳をあたりにまき散らすのも好きじゃねえ」

リヴァイ「体調が悪い場合は無理に出勤するな。営業部の人間に風邪を蔓延させる方が迷惑だからだ」

リヴァイ「どうしても出勤したい場合はマスクして来い。その場合は外の仕事は絶対させない。出来る仕事を回して調整する」

リヴァイ「ただあんまり休まれるとこっちも困る。だから普段から体は鍛えて自己管理をして欲しい」

リヴァイ「昼休みの時間は寝るか昼飯を食うか、くっちゃべるか、外で遊ぶか室内トレーニングなどをしてくれ」

リヴァイ「休むべき時間は仕事をするな。こっそり仕事していたら、後で便所掃除をやらせるからな」

リヴァイ「あと、部屋の中の換気は徹底しろ。1時間に1回は最低5分間、窓を開けろ。これは冬も夏も徹底させる」

エレン「換気口、あるのにですか?」

リヴァイ「ああ。換気口じゃ追いつかない。夏は暑いし冬は寒いだろうが、空気が澱むのは好きじゃねえんだ」

エレン(へー)

リヴァイ「外回りから帰って来て、部屋に入る前には上着を一度脱いで、花粉や埃をはたいてから戻れ。花粉症の奴も中にはいるからそこは気を遣って欲しい」

ジャン(こまけえな……)

498: 2014/12/15(月) 21:45:48 ID:Pqiz1v1w0
リヴァイ「今、こまけえなって思ったな?」

ジャン(だから何でバレた?!)

リヴァイ「ふん。花粉症の恐ろしさを知らんからそう思うんだよ。アレルギー持ち、どのくらいいる?」

チラホラと挙手が上がった。

リヴァイ「ほらな? 現代社会にはアレルギー持ちの奴も多い。俺は幸いアレルギーを持っていないが、お前ら毎年大変だよな」

新入社員「その通りです」

リヴァイ「そういう奴らもいるって事は頭に入れておけ。自分だけで仕事している訳じゃねえからな」

エレン「でも換気をしたら、花粉も中に入ってくるのでは?」

リヴァイ「その可能性はあるが。そこは100%防げない。ただアレルギーは掃除や換気を徹底する事である程度、抑える事が出来るらしいと聞いた事がある。それに上着をはたいたからといって、花粉が全て取り除ける訳じゃねえ。あくまで予防策だ」

エレン「成程」

リヴァイ「エルヴィンは余りその辺の生活についての指示は細かい事を言わない性格だったから最初は戸惑うかもしれん。だが俺はそういう細かい部分が気になる性質なんでな。俺のやり方に合わせてくれ」

営業社員一同は大体頷いていた。

リヴァイ「そしてこれは全員に支給する。一人1セットずつ携帯する事を義務付ける」

リヴァイは用意していたそれを営業部全員に配った。

エレン「ソーイングセット?」

499: 2014/12/15(月) 21:46:34 ID:Pqiz1v1w0
ミカサ「私は既に持ち歩いていますが」

リヴァイ「そうか。持っている奴は返してくれ」

営業部の中でソーイングセットを持っていたのはミカサだけだった。

リヴァイ「今から説明する。この道具の必要性について」

そしてリヴァイは道具を支給した理由を説明し始めた。

リヴァイ「ボタンの解れや衣服の解れを絶対、外部の奴らに見せるな。そこを見られただけで相手に不快感を与える場合がある。そういう細かい積み重ねが会社のイメージを悪くする場合がある」

リヴァイ「事務の方は余り外部の人間と接触する機会はないが、それでも取引先の方がうちに来て下さる場合もある。其の時に、もしそういう場面に遭ってしまった場合、すぐ自分で直せるようになって欲しい」

リヴァイ「100円均一で買ってきた物だから安物ですまん。まあ、持ち歩く分には小さい方が便利だからこれで我慢してくれ」

リヴァイ「ミカサのように、自分用を自分で持っている奴はそっちを使って構わない」

リヴァイ「自分で揃えたい奴は、後で俺に返却してくれ。こちらも予備で持っておく」

リヴァイ「あと、ここからは営業課の奴らに徹底させる事項だが」

リヴァイ「ハンカチとティッシュは必ず携帯しろ。使い捨てのナフキンも営業部でまとめ買いしたから、外で飯を食う時はそれを使用するように心掛けて欲しい」

エレン「ナフキン? ああ! マックとかモス等のファーストフードで貰えるアレですか」

リヴァイ「そうだ。そういう店で昼を取る場合はいいが、そうじゃない場合もあるだろ。飯を食う前には必ず、手を拭くか洗え。それを徹底するだけでも体調管理はしやすくなる筈だ」

ジャン(まるで母ちゃんみてえだな)

500: 2014/12/15(月) 21:47:12 ID:Pqiz1v1w0
リヴァイ「今、過保護だと思った奴、手挙げろ」

ジャン(うぐ……だから何でバレる?!)

ジャンは手を挙げなかったが、新入社員は何名か馬鹿正直に手を挙げた。

リヴァイ「ふむ。まあ、そうだろうな。自分でもアレだとは思っている」

リヴァイはそう前置きした上で続けた。

リヴァイ「ただ、それが俺の性格だからな。今後も気が付いたら細かい部分にどんどん口を出していくから、面倒臭いと思いつつも聞いてくれ」

アルミン(面倒臭いって思っていいんだ)

キース「リヴァイ部長、ひとついいか?」

リヴァイ「なんだ?」

キース「機材を自腹で投資すると言っていたが、そこは会社側に負担して貰えるんじゃないか?」

リヴァイ「いや、無理だろ。完全な趣味だからな」

アルミン(趣味なんだ……)

キース「予算を通せるなら会社に負担して貰った方がいいだろう」

リヴァイ「怒られないか?」

キース「昔、ピクシス部長の時に仮眠用のベッドを入れたんだから、大丈夫じゃないか?」

501: 2014/12/15(月) 21:49:08 ID:Pqiz1v1w0
リヴァイ「ん? 仮眠用のベッドは必要だろ?」

キース「目的は仮眠じゃなかったからな。女とイチャコラする為に入れたようなもんだ」

と、裏話が飛び出すと、一同はぶはっと吹いてしまった。

エレン(ダメだろ。それ)

アルミン(そこに痺れる憧れるけど)

リヴァイ「そうだったのか」

キース「名目は社員の体力作りの為とすればいけると思う。少なくとも、全額負担はしなくてもいいと思うぞ」

リヴァイ「分かった。その辺はキース主任の裁量に任せよう」

キース「他にも、ソーイングセットやナフキンの方も予算を通せたら通してやる。何でもかんでも自腹で揃えなくてもいいぞ」

リヴァイ「仕事増やすのが面倒だったんだが」

キース「そうだとしても、そこはリヴァイ部長の負担を負うべき部分じゃない。会社の事は会社の範囲でやらないとずるずると境界線が曖昧になるぞ」

リヴァイ「分かった。今後は気を付けよう」

キース「その辺の事は、エルヴィン部長は絶対、自分の金は出したがらない性格だったからな。あやつが営業部長の時は事務の仕事がピクシス部長の時の倍以上になったぞ」

リヴァイ「何だって? そうだったのか」

キース「ああ。おかげでこっちはいろいろ苦労したが。リヴァイの場合は自分でやれる時は自分でやっちまう方が早いと思うタイプだろ。確かにそういう時もあるが、そこは余り遠慮しなくていい。こっちもその辺は覚悟をしているからな」

502: 2014/12/15(月) 21:49:47 ID:Pqiz1v1w0
リヴァイ「助かる。ありがとう」

ほんの少し笑顔を見せると、一同はざわめいた。

リヴァイ「ん? どうした?」

アルミン「いや、今、微笑んで見せたからびっくりして……」

リヴァイ「そうだったか?」

エレン「え? アルミン、リヴァイ部長の笑ったところ見た事なかったのか?」

アルミン「ないよ! 初めて見たよ」

エレン「オレは何度もあるけどな」

アルミン「そうなんだ! 超レアだと思ったけど、リヴァイ部長も笑うんだ」

リヴァイ「おい、アルミン。そりゃどういう意味だ」

アルミン「あ、いえ……すみません! 失礼しました! (ぺこり)」

オルオ(まあ、たまにしか笑わないしな)

ペトラ(よーく見ないと分かんないレベルだったけど、今の笑顔は自然だったな)

エルド(もしかして、以前より社員との壁が無くなったのかな)

503: 2014/12/15(月) 21:54:33 ID:Pqiz1v1w0
グンタ(だとしたら、嬉しいけどな)

リヴァイは頭を掻いてちょっとだけ困っている。

リヴァイ「ふむ………」

キース「リヴァイ部長は普段表情が硬いが、一回ツボに嵌るとずっと笑ってしまう癖もあるぞ」

リヴァイ「! おい、あんまり内輪話をするな。キース主任」

キース「あと、たまに口が悪くなって、某社長の事を豚野郎呼ばわりしたり……」

ミカサ「クソちびは口が悪いのね。本性はやはり、そっち側の人間」

エレン(お前もなー)

リヴァイ「キース主任、その辺にしてくれ」

リヴァイが思わず止めると、

キース「すまん。まあ、そういう訳だから、以前のように固くならなくてもいいぞ。皆、リヴァイに構いたければ構い倒せ。こいつは根が真面目で面倒見がいい。怖いのは顔だけだ」

リヴァイ「あんたにだけは言われたくねえな」

と、お互いに旧知の仲だからか、軽い口を叩き合うと、

504: 2014/12/15(月) 21:54:55 ID:Pqiz1v1w0
アルミン「でしたら、リヴァイ部長の昇格祝いをしましょうか」

リヴァイ「え?」

アルミン「営業部だけで、やりましょうよ」

オルオ「それはいい考えだな。皆でやるか」

ペトラ「そうね! それはいい考えだわ!」

リヴァイ「待ってくれ。そんな時間は……」

エレン「時間は作る物ですよ! 勿論、全員参加は難しいですが、やれるメンバーだけで是非」

グンタ「今度こそ、参加したい」

サシャ「飲み食いさせて下さい……」

ニファ「まあ、その辺はシフト次第だけど」

ナナバ「だな。まあ、今回は私、残ってもいいけど」

ゲルガー「そうだな。同期に近い奴らは留守番でもいいか」

リーネ「部下との交流の方が大事でしょうしね」

リヴァイ「ええっと………」

突然の申し出に内心、オロオロするリヴァイだった。

505: 2014/12/15(月) 21:55:25 ID:Pqiz1v1w0
リヴァイ「いや、その……なんだ。エルヴィンの時はそういうの、なかっただろ?」

キース「それはあいつが休日を休む方だからだろ」

ナナバ「プライベートはあんまり誘っても来ないでしょ」

ゲルガー「ですね。エルヴィン部長、会社の義理は果たすけど、プライベートは謎過ぎる」

リヴァイ(あいつ、家でゴロゴロするの好き過ぎるもんな)

リヴァイ「でも、エルヴィンの時はしていなかった事を俺がするのも」

キース「ピクシス部長の時は月1でやっておっただろ」

リヴァイ「ピクシス部長はやり過ぎだった。後で苦情が出て大変だっただろ」

キース「まあ、そうだが」

リヴァイ「そういうのは、いい。なんか恥ずかしいからな」

ペトラ(やばい。はげ萌える)

ニファ(こういうところ、可愛いですよね)

アルミン「だったら、会社の忘年会をリヴァイ部長の誕生日に合わせるとか。クリスマスが誕生日と聞きましたが」

リヴァイ「!」

キース「ああ、今年はそうするか。それでいこう」

506: 2014/12/15(月) 21:55:55 ID:Pqiz1v1w0
リヴァイ「待て。勝手に先の事を決めるな。アルミン、お前、さくさく計略を立てるな」

エレン「いいじゃないですか。別に。何が問題ですか? リヴァイ部長」

リヴァイ「いや、問題というか……」

キース「それが嫌なら昇格祝いをするべきだな。部下の申し出なんだ。別にいいだろ」

リヴァイ「………はあ。お前ら、ゴマ擦っても何も出してやんねえぞ」

そう言いながら、リヴァイは天井を仰ぐのだった。

508: 2014/12/21(日) 08:33:37 ID:eBl8tnyw0
4月末。GWに入る手前の休みを利用してリヴァイの昇格祝いを営業部の人間で集まって行う事になり、皆でカラオケをする事になった。

会社の飲み会と違って、有志が集まってのプライベートな会だったのもあり、皆、私服で遊びに来た。

リヴァイの私服姿を見たメンバーは一同、「おおお」と驚いていた。

アルミン「やっぱり年齢不詳ですよね。リヴァイ部長は」

リヴァイ「ああ?」

アルミン「もうすぐ四十路になるとは思えないですよ」

リヴァイは仕事着と違ってラフで地味な格好だった。

フード付きの緑色の上着を着ている。ズボンは白だ。

リヴァイ「俺は歌わねえからな」

エレン「えー何でですか」

リヴァイ「若い奴らが歌えばいいだろ」

アルミン「そう、言わず」

リヴァイ「全員揃ったのか?」

509: 2014/12/21(日) 08:33:37 ID:eBl8tnyw0
4月末。GWに入る手前の休みを利用してリヴァイの昇格祝いを営業部の人間で集まって行う事になり、皆でカラオケをする事になった。

会社の飲み会と違って、有志が集まってのプライベートな会だったのもあり、皆、私服で遊びに来た。

リヴァイの私服姿を見たメンバーは一同、「おおお」と驚いていた。

アルミン「やっぱり年齢不詳ですよね。リヴァイ部長は」

リヴァイ「ああ?」

アルミン「もうすぐ四十路になるとは思えないですよ」

リヴァイは仕事着と違ってラフで地味な格好だった。

フード付きの緑色の上着を着ている。ズボンは白だ。

リヴァイ「俺は歌わねえからな」

エレン「えー何でですか」

リヴァイ「若い奴らが歌えばいいだろ」

アルミン「そう、言わず」

リヴァイ「全員揃ったのか?」

510: 2014/12/21(日) 08:34:08 ID:eBl8tnyw0
オルオ「後で合流する奴もいますけど。大体揃いましたかね」

リヴァイ「だったら移動を開始するぞ」

そんなこんなで、カラオケ店にて盛り上がる一同だった。

リヴァイ(やれやれ。遊びたかっただけか。こいつらは)

そういえばピクシス部長が営業部長の時代は頻繁にこういう会も行っていた。

その回数が多過ぎて後で苦情が出て、渋々年に2回程度になったけれど。

リヴァイ(まさか、部下の方からやろうと言い出すとはな)

結婚式の時もそう思ったが、自分は案外、若い奴らから慕われているようだ。

何が良くて近づいてくるのかは知らんが。

リヴァイ(まあいい。今日は聞き役でゆっくり眺めよう)

とりあえず適当に聞き流しながら紅茶を飲んでいると、そこに……。

ハンジ「やっほー」

リヴァイ「?!」

いきなり自分の嫁が部屋に乱入して来て紅茶を拭き零しかけたリヴァイだった。

オルオ「あ、お久しぶりです! ハンジさん!」

511: 2014/12/21(日) 08:36:17 ID:eBl8tnyw0
ピクシス「わしも来たぞ」

リヴァイ(ぶほっ)

思わぬ珍客達にリヴァイはびくんと動揺した。

リヴァイ「おい、ハンジ。子供は………」

ハンジ「お母さんにちょっとだけ見て貰ってる。顔だけ出しに来ただけだよ」

ピクシス「わしも混ぜろ。若い者と交流したいんじゃ」

リヴァイ「かえって気遣わせるからやめて下さいよ」

オルオ「いや、いいですよ。どうぞどうぞ」

何故かピクシス本部長も加わってカラオケの会が始まってしまった。

意外と今どきの歌も歌えるピクシスにリヴァイは目を丸くする。

ハンジ「皆、ありがとう! リヴァイの為に集まってくれたんだってね?」

エレン「はい! お祝いしようって話が出て、カラオケで遊ぶことになりました」

ミカサは「あなただけ見つめている」を歌いながらエレンをガン見していたが、エレンは気づかずハンジに話しかけた。

エレン「ハンジさんも歌っていきます?」

ハンジ「いやいや? 私は長居出来ないから、ちょっとだけだよ」

512: 2014/12/21(日) 08:37:22 ID:eBl8tnyw0
そしてハンジはリヴァイの隣に座って悪い顔をして言った。

ハンジ「ねえねえリヴァイ、アレ歌ってよ」

リヴァイ「なんだよ」

ハンジ「銃爪(ひきがね)だよ。アレ、格好良かったよ?」

リヴァイ(ぶほっ!)

リヴァイが赤面して咳き込むとピクシスも反応した。

ピクシス「ほほう? リヴァイの歌っているところは久々に見るが」

エレン「歌えるんですか? リヴァイ部長」

ハンジ「歌は巧いよ。普段はあんまり歌ってくれないけど」

アルミン「はい、どうぞ(*マイク手渡し)」

リヴァイ「え? あ……待て! 本当に入れやがったのか?!」

グンタ「是非ともお願いします」

エルド「お願いします」

リヴァイは天井を仰いで、それでも仕方がなく、その歌を照れながら歌った。

すると………。

513: 2014/12/21(日) 08:38:33 ID:eBl8tnyw0
リヴァイ『今夜こそ~おまえを~おとしてみせ~る!』

のフレーズで女性社員がギャーギャー言い出して大変な事になった。

ペトラ「は、破壊力がヤバい……」

リヴァイ「ええ?」

ニファ「腰抜けた……」

ハンジ「あひゃひゃ! やっぱり! やっぱり工口ボイスだよねえ。リヴァイは」

ペトラ「それは同感します」

ニファ「他にもリクエストしていいですか?」

リヴァイ「あー知っている曲ならいいが」

歌わないつもりだったが、そういう訳にもいかない空気にリヴァイが妥協すると、

ニファ「だったらラブファントムお願いします!」

思わぬ難曲を言われて汗を掻くリヴァイだった。

リヴァイ「無茶振りだろ。キー高すぎねえか?」

ペトラ「下げてもいいですので!!」

リヴァイ「しょうがねえ奴らだな……」

514: 2014/12/21(日) 08:39:55 ID:eBl8tnyw0
そしてラブファントムを歌わされて、一同はキャッキャと盛り上がる。

そんな彼らの様子に調子が狂うような気分でリヴァイが頭を掻くと、今度は…。

エレン「次は『ウルトラソウル』を入れておきましたんで!」

リヴァイ『おい! エレン、おま……それ歌えっていうのか?!』

どんどん調子に乗ってリヴァイに歌わせていく空気にリヴァイ自身、困り果てていたが。

ハンジはゲラゲラ笑っていた。ピクシスはしれっと酒を頼んで飲んでいる。

アルミン「次は『フォーエバーラブ』入れておきました」

オルオ「俺は『ZERO』を入れておきました」

リヴァイ『お前ら、難しい曲ばっかり歌わせやがって……!』

顔を赤らめていろいろ歌わされているのに。

何故か断れず、項垂れてしまうリヴァイだった。

そして途中参加でミケとモブリットが合流してきた。仕事を終えて合流したのだ。

ミケ「盛り上がっているようだな。おお……ハンジ、久しぶり」

ハンジ「ミケー! 会いたかったぞ!」

モブリット「ご無沙汰しています。ハンジさん」

515: 2014/12/21(日) 08:40:31 ID:eBl8tnyw0
ハンジ「モブリットも! ごめんね! 全然顔出さなくて!」

モブリット「いえいえ。いいんですか? 今日はお時間は」

ハンジ「1時間だけね。皆の顔を見たくて、お母さんに我儘言ってきた」

モブリット「そうなんですか」

ハンジ「うん。私も育児ばっかりやっているのは気が滅入るから。少しだけ息抜き」

ハンジ「皆の顔を見られて安心した。新しい子も入ったし、元気そうで何よりだよ」

ミケ「俺もハンジの元気そうな顔を見られて良かった」

モブリット「ですね」

ハンジとの付き合いの長い2人は端の席で盛り上がっていた。

ミケ「リヴァイ、ハンジにラブソングを歌わなくていいのか?」

リヴァイ『ぶふっ?!』

ハンジ「あ、それならさっき歌って貰ったからいいよ」

ミケ「ん? 俺達が来る前に歌わせたのか」

ハンジ「そうそう。銃爪っていう曲にはね、ちょっとしたエピソードがあって」

516: 2014/12/21(日) 08:41:02 ID:eBl8tnyw0
リヴァイ『ハンジ、それ以上言ったら俺はもう先に帰るぞ!!!!!』

真っ赤になって抵抗するリヴァイにハンジは「いっけね!」という顔になった。

ハンジ「ごめんごめん! これ以上は黙秘します」

ピクシス「なんじゃ? つまらんのう。ハンジ、後で詳しく」

ハンジ「えーっと、リヴァイに怒られるので言いません」

とか何とか言いながらリヴァイ弄りで皆、盛り上がっていく。

ラブソングコールが来てリヴァイが遂にキレた。

リヴァイ『連続で歌うのはきつい! エレン、次はお前が歌え!』

エレン「え? ちょ……次の曲なんですか?!」

リヴァイ『さあ? 誰がいれた?』

エルド「BAD COMMUNICATIONを入れておいたんですけど。エレン歌えるか?」

エレン「あーうろ覚えかもですが、いきます!」

ミケ「この曲はエルヴィンが好きだった気がするが」

ハンジ「そうなの?」

ミケ「ああ。E.Styleの方が特に好きだった筈だ」

517: 2014/12/21(日) 08:42:04 ID:eBl8tnyw0
ハンジ「意外! エルヴィンも呼べばよかったのに」

ピクシス「あやつは休みの日はなかなか外に出ないからのう」

エレン『あれ? これ、全部英語の奴ですか?! そっちは分からないです!』

ミカサ「エレン、貸して。私が適当に歌う」

エルド「あ、すまん。個人的にそっちが好きだから入れてみた」

ペトラ「エルドが歌えばいいのに」

エルド「いや、ここはリヴァイ部長の英語の色気を堪能させるべきかと」

リヴァイ「お前ら……」

リヴァイがついつい半眼になって呆れる。

そこに遅れて今度はサシャとコニーとユミルとクリスタが合流した。

コニー「やっと抱えていた仕事が終わりました! 飯食わせて下さい!」

リヴァイ「ああ、好きに頼んでいいぞ」

サシャ「やったー! 食いまくりますよ! (じゅるり)」

新入男性社員「あ、ピザとたこ焼きは先に頼んでいましたので残り食べていいですよ」

サシャ「あざーっす!!!」

518: 2014/12/21(日) 08:42:28 ID:eBl8tnyw0
コニーとサシャは歌うのより先に腹ごしらえを優先していた。

ユミルとクリスタは隣同士で座り、早速歌う曲を選んでいる。

クリスタ「何歌おうかな~」

ユミル「ワールズエンドいこうぜ」

クリスタ「ボカロいいの?」

ユミル「別にいいですよね?」

リヴァイ「ボカロ?」

ハンジ「そういうジャンルの曲があるんだよ。いいよ。どんどん歌っていこう!」

そしてユミルとクリスタのハモりが巧すぎて皆唖然とした。

エレン「すげえ! 早口完璧だったな!」

ユミル「普段から歌って練習しているからな」

クリスタ「2人でハモるの得意だよ」

エレン「へーすげえなあ」

ミカサ「エレン、私達もハモりの練習をしよう(キリッ)」

エレン「ええ? ハモれる歌、あったかなあ?」

519: 2014/12/21(日) 08:42:51 ID:eBl8tnyw0
アルミン「ライオン歌ったら?」

エレン「リヴァイ部長、分かんねえだろ」

リヴァイ「ああ、別にその辺は気遣わなくていいぞ。好きにしろ」

ハンジ「いいよ。世代間で違うの歌うから面白いんじゃない」

ミカサ「では、ライオンを歌おう。エレン」

エレン「じゃーミカサが先で、オレが後で」

女同士で歌うデュエット曲だが、エレンとミカサは意外と息の合った歌い方だった。

リヴァイ「ほぅ……悪くない。いい曲だな。初めて聞いたが」

ハンジ「アニメソングも馬鹿に出来ないよね! 名曲が結構隠れているもんだよ」

リヴァイ「やっぱり1曲くらい、ハンジも歌っていけばいいのに」

ハンジ「え? でも……」

エレン「そうですよ。折角来たんですし」

ハンジ「ううーん。アニメソングの流れなら、この曲にしようかな♪」

押し切られてハンジも1曲だけ曲を入れた。それは…

アルミン「うわあああ! それいきますか!」

520: 2014/12/21(日) 08:43:27 ID:eBl8tnyw0
ハンジ『古い曲でごめんね! このアニメ曲は好きなんだ! 『give a reason』いきまーす!』

凄くポジティブな曲だった。リヴァイは目を見開いてその曲を聞いている。

ハンジ『どうもお粗末様でした! てへ!』

わーパチパチ!

エレン「ハンジさん、歌巧いっすね!」

ハンジ「そうかな?」

ミカサ「うまいとおもう。リヴァイ部長よりも」

リヴァイ「かもしれねえな」

ハンジ「いやだもう、謙遜しちゃって。リヴァイも十分巧いよ?」

リヴァイ「そうか? それより今選んだ曲……」

ハンジ「ん?」

リヴァイ「凄く、ハンジらしいと思った。前向きな曲だな」

ハンジ「そうかな? でも、そうかもね。元気になれる曲だよね」

アルミン「僕は新装版の方で知りましたが、この作品は、貧Oのヒロインの金字塔のような存在だったそうですね」

リヴァイ「貧O?」

521: 2014/12/21(日) 08:43:51 ID:eBl8tnyw0
ハンジ「リヴァイ、私の胸を見ながら言うのはやめなさい(ぺし!)」

と、夫婦漫才をしていたら、

ピクシス「ふむ。アニメ曲でいいなら、わしの大好きな曲がひとつある」

リヴァイ「え? 何を歌う気ですか?」

ピクシスが入れた曲は……

アルミン「ぶふー! これは、まさかの……!」

ピクシス『だいみだらー発進じゃ!!!』

と、伝説の工口アニメのOPソングを歌い出したピクシスにリヴァイは目が点になった。

勿論、歌を知らないのだが、歌詞がアレ過ぎて、その、なんだ。

コメントに困るので、リヴァイは黙り込んでいた。

しかし何故か若い男性社員は知っている奴も意外と多くノリノリで笑っていた。

女性社員はドン引きしていたが。青ざめている。

ペトラ「何コレ……」

ニファ「酷い歌詞……」

ピクシス『わしの孫が見ていたロボットアニメじゃ。一緒に観ている内に覚えた』

522: 2014/12/21(日) 08:44:16 ID:eBl8tnyw0
アルミン「一緒に観ちゃったんだ……」

特に2番が酷かった。途中でピー音が入ると言う謎の歌だった。

ペトラ「なんか、無駄に格好いい曲調なのがムカつく」

オルオ「それがいいんだろ」

ペトラ「あんた、このアニメ観た事あるの?!」

オルオ「別にいいだろ。怖い物見たさで観たぞ」

アルミン(男性受けは抜群のアニメだもんなあ)

ピクシス「話の内容は良く分からんかったが、なかなか面白い作品じゃったぞ」

リヴァイ「そうなんですか」

ピクシス「男なら一度は観ておくべき作品じゃな」

とか言いながら、流れがアレな方向になって来たので、軌道修正をするべくペトラが立ち上がった。

ペトラ「あー普通の歌、歌っていいですか?」

リヴァイ「いいぞ。流れを変えてくれ」

ペトラ「じゃあ、これ入れます」

ペトラが入れた曲は……

523: 2014/12/21(日) 08:44:45 ID:eBl8tnyw0
ピクシス「ほほう。『走れ!』か。なかなかいいところをつく」

リヴァイ「ピクシス本部長、いろいろ詳しいですね」

ピクシス「カラオケは飲み会の定番じゃろ? わしは若い奴らの歌う曲もちゃんとチェックするぞ」

リヴァイ「勉強熱心だな」

ピクシス「少なくとも、部下が好きな曲くらいは把握出来んと営業部長は務まらんだろ」

リヴァイ「そんなもんですかね?」

ハンジ「エルヴィンはその辺、あんまり強制はしなかったよ?」

ピクシス「その代り、あやつは仕事中の雑談で情報を得ておったからな。あやつは聞き上手だった」

リヴァイ「ふむ」

ピクシス「まあ、その辺はリヴァイのやりやすいやり方で良かろう。わしのやり方を真似する必要はないが。こうやってたまには部下と向き合う時間はどこかで作った方がいいじゃろ」

リヴァイ「…………」

ピクシス「そういう見えない情報が積み重なって、ある日、勘の領域で動けるようになる。理屈じゃない」

リヴァイ「勘、ですか」

ピクシス「勘じゃな。仕事する上で一番重視するべきところじゃ。それを磨くには、人と関わる力を養う必要がある」

リヴァイ「面倒くせえな。本当に」

524: 2014/12/21(日) 08:45:14 ID:eBl8tnyw0
ピクシス「人が嫌いか?」

リヴァイ「好き嫌いが激しいと自分では思っている。でも、今の感じは……悪くねえ」

リヴァイはそう思いながら紅茶を飲んで目を細めた。

リヴァイ「何が良くて俺についてくるのか知らんが。こいつらも変わってやがる。つくづく」

ピクシス「ふん………照れおって」

リヴァイ「こういう性格なので。もう変える気ねえし」

ハンジ「だからこそ、萌えるよね」

ピクシス「全くじゃ」

リヴァイ「勝手な事を言いやがって」

若い者同士でカラオケは盛り上がっていた。大人組は雑談に集中する。

そしてエレンが其の時『いつかのメリークリスマス』を歌いだして、リヴァイの目線が画面へ動く。

エレン『い~つまでも手をつないで~いられるような気がしていたあ♪』

サビの部分の歌詞が心に沁みてそれ以上聞いているのが。

リヴァイ「……………」

ハンジ「ん? どうしたの? リヴァイ」

525: 2014/12/21(日) 08:45:37 ID:eBl8tnyw0
リヴァイ「いや……この曲はちょっと」

ハンジ「?」

リヴァイは目頭を押さえて必氏に涙を堪えていた。

その異変に気づいてエレンが歌うのを止める。

エレン『え? リヴァイ部長? どうかされましたか?』

リヴァイ「何でもねえ」

エレン『でも……この歌、嫌いですか? リヴァイ部長がクリスマス生まれだからと思って選んだんですが』

そうだろうとは思った。でもリヴァイはこの歌だけは苦手だった。

リヴァイ「すまん。ちょっと便所に行ってくる」

皆に涙を見せたくなくて部屋を出た。その様子に慌ててハンジが追いかける。

ハンジ「どうしたの? いきなり」

リヴァイ「………大した事じゃねえよ」

ハンジ「嘘ばっかり」

リヴァイ「…………思い出すんだよ」

ハンジ「誰を」

526: 2014/12/21(日) 08:46:16 ID:eBl8tnyw0
リヴァイ「イザベルの事を」

ハンジ「…………」

リヴァイ「今はファーランが世話しているし、俺も以前ほどはイザベルのところに見舞いには行かなくなったが」

それでも彼女の事を忘れた事はない。常に頭の中に居る。

ハンジ「そっか」

リヴァイ「…………」

ハンジ「本当は、愛していたんだね」

リヴァイ「…………」

ハンジ「なんとなく、そんな気はしていたよ。ファーランがいたから理性が働いてリヴァイは拒否をしただけだったのか」

リヴァイ「いや、それは違うと思うが」

ハンジ「無理しなくていいよ」

リヴァイ「無理してねえよ」

ハンジ「だったら、何で涙が出るの?」

リヴァイは泣いていない。しかし、背中が泣いているように見えたのだ。

リヴァイ「そう見えるか?」

527: 2014/12/21(日) 08:47:16 ID:eBl8tnyw0
ハンジ「うん。しんどそう」

リヴァイ「…………」

ハンジ「どうしようもないよ」

リヴァイ「分かっている」

ハンジ「分かってないよ」

リヴァイ「分かっているって言ってるだろ」

ハンジ「本当は、部下と一緒に居られて楽しい癖に」

リヴァイ「………」

ハンジ「本当に、分かりにくい人」

そう思いながらハンジはリヴァイを後ろから緩く抱きしめた。

ハンジ「でも私は好きだから。大丈夫だよ」

リヴァイ「…………」

リヴァイは何も答えられなかった。

ハンジ「私、先に帰るね。そろそろ時間だし」

リヴァイ「ああ。気をつけて帰れよ」

528: 2014/12/21(日) 08:48:16 ID:eBl8tnyw0
ハンジ「リヴァイもね。皆との時間、楽しまないとダメだよ」

リヴァイ「……ああ」

そしてハンジと別れて、リヴァイは部屋に戻った。

部屋に戻るとエレンは歌を途中でキャンセルして、アルミンが次の曲を歌っていた。

エレンはリヴァイの隣に移動して頭を下げた。

エレン「なんかすんません。思い出させたことでもありました?」

リヴァイ「お前は鋭いな」

エレン「見たら分かりますよ。リヴァイ部長、目の表情がありますからね」

リヴァイ「そんな事を言うのは部下じゃお前くらいなもんだな」

エレン「………………でも、歌の歌詞によってはそういうのありますよね」

リヴァイ「まあな」

エレン「すみません」

リヴァイ「謝るような事じゃねえよ。気にするな」

エレン「……はい」

そしてそれ以後は、部下の歌っている様子を眺める事にしたリヴァイだった。

529: 2014/12/21(日) 08:48:42 ID:eBl8tnyw0
リヴァイ(いつまでも手をつないでいられるような気がしていた……か)

まさにあの日のあの時の自分を歌っているような曲だと思った。

色褪せたのも遠い記憶だからだろうか。

こうやって、しんみりと幸せに浸っていると、それを享受している自分が悪い事をしているような気分になる。

リヴァイ(ハンジは本当に、勘が鋭い)

本心はこうやって、部下の様子を見ているだけで楽しい。

参加しなくてもいいのだ。ただ、眺めているだけでも十分に幸せで。

そう思う自分がいるのに。それを思う自分が悪い事をしているような気持ちにもなる。

リヴァイ(奇跡は簡単に起きないから奇跡って言うんだろうが)

それでも、一縷の望みがあるのなら。

イザベルに伝えたい言葉がある。彼女に、言いたい言葉はずっと。

心の奥に残っているのに。

リヴァイ(どうか………いつか、目覚めてくれ。俺の眠り姫)

そう思いながらリヴァイは視線を落として、紅茶を全部飲み干したのだった。

530: 2014/12/21(日) 08:49:19 ID:eBl8tnyw0
時が慌ただしく過ぎていき、8月。ミカサが無事に出産を終えて産休に入った。

アルミン「女の子だったんだって?」

エレン「ああ。女の子だったぞ」

アルミン「どっち似?」

エレン「オレに超似ている……」

アルミン「だったら可愛い女の子だね」

エレン「ミカサに似た方が良かった気もするけどな」

アルミン「そんな事ないって。良かったね。無事に出産を終えて」

エレン「まあな。名前まだ決めてねえけど」

アルミン「名前が決まったら教えてね」

531: 2014/12/21(日) 08:50:02 ID:eBl8tnyw0
エレン「アルミン、考えるの手伝ってくれよ」

アルミン「それは遠慮しておくよ。責任重大過ぎる」

エレン「ううーん」

エレン「アルミンは結婚とか考えてねえの?」

アルミン「まだまだ全然。今は仕事の方が楽しいよ」

エレン「でもオレ、結婚してからの方が仕事が楽しくなったぞ」

アルミン「そうなんだ」

エレン「ああ。ピクシス本部長が前に言っていた言葉の意味を実感している」

アルミン「女を知った方がいいって話?」

エレン「そうだ。相手を知ろうとする心って、大事だよな。オレ、結婚してからの方がミカサの事、好きになった気がする」

アルミン「へえ………」

エレン「今まで見えなかった部分が見られて驚く事も多いぜ。同居している時のミカサは、オレの前で相当、格好つけていたんだって事が分かった」

アルミン「背伸びしていたんだよ。きっと。エレンに好かれたくて」

エレン「だろうな。それが抜けたから今は自然に会話も出来る。たまに喧嘩するけど、でも以前のようなピリピリする感じは大分減ったな」

アルミン「良かったね。お酒に酔った勢いで結婚したみたいなもんだったけど」

532: 2014/12/21(日) 08:51:01 ID:eBl8tnyw0
エレン「今思うと、酒の力に感謝だな」

そんな風に言い合いながら、苦笑を浮かべ合う2人だった。

そして9月。ハンジの誕生日の直前。

その吉報は突然、リヴァイの耳に届いた。

リヴァイ「なんだって? それは本当か? ファーラン」

ファーラン『ああ。本当だ。全く反応のなかった手が、動いたんだ。何度か』

リヴァイ「それは回復の兆しが出ていると言う事か?」

ファーラン『俺が見つけたこの治療法は最低でも変化が出始めるのに半年かかると言われている。イザベルはまだ若い。十分に可能性はある。続けて行けばあるいは』

リヴァイ「そうか………」

電話越しの報告に息が漏れた。

変化が見え始めて胸のつかえが少しだけ取れたリヴァイだった。

電話を切ってハンジがすぐに声をかける。子供の面倒を見ながら、嬉しそうに。

533: 2014/12/21(日) 08:51:30 ID:eBl8tnyw0
ハンジ「いい報告だったみたいだね」

リヴァイ「ああ。まだ変化が見え始めた段階だろうが。ファーランが根気強く治療に当たってくれている」

ハンジ「良かった。リヴァイ、本当に嬉しそうな顔をしているよ」

リヴァイ「まだ分からんけどな。ただ、変化が見えた事は大きな前進だ」

そう言いながらリヴァイはテーブルの席に着いた。

リヴァイ「…………………」

ハンジ「感無量って感じだね」

リヴァイ「いや、まだ分からん。あんまり期待し過ぎるのも良くない」

ハンジ「だとしても、だよ。リヴァイ、久々にお見舞いに行って来たら?」

リヴァイ「いいのか?」

ハンジ「差支えがなければ私も一緒に行きたいよ」

リヴァイ「………………」

その有難い申し出に頷きそうになって、寸前で堪えた。

リヴァイ「子供をむやみに病院に連れて行くようなもんじゃねえ。もし風邪でも引かせたらどうする」

ハンジ「過保護だな! そこまで神経質にならんでも」

534: 2014/12/21(日) 08:52:14 ID:eBl8tnyw0
リヴァイ「病院は雑菌だらけだろうが。子供は小さいうちは過保護で十分だ」

ハンジ「やれやれ。その辺の価値観だけは合わないなあ。私達は」

リヴァイ「気持ちは有難いが、ハンジは子供を優先してくれ。留守を頼む」

ハンジ「はいはい。リヴァイも気を付けて」

そしてリヴァイは久々にイザベルの入院している病院へ足を運ぶことになった。

病院に到着してイザベルの居る集中治療室に足を運ぶ。

全身の雑菌を消毒するような事はしなくてもいいが、それでも気を遣ってリヴァイは様子を見守った。

リヴァイ(もうすぐあれから12年近くの月日が経つのか)

老けたと思った。自分もイザベルも。

本来なら今のイザベルは女の盛りだ。一番いい時期なのに。

筋肉は痩せて衰えて元々小さい体がもっと小さくなっている。

リヴァイ(どんな治療法をしたのか分からんが、変化が見えたなら凄い事だ)

ファーランに後の事は任せていたので詳しい治療法についてはリヴァイは耳に入れていなかった。

535: 2014/12/21(日) 08:53:30 ID:eBl8tnyw0
リヴァイがイザベルの様子を見ていたら、そこにファーランがやってきた。

ファーラン「見舞いに来てくれたのか」

リヴァイ「居ても立ってもいられなくなってしまってな」

ファーラン「まだ変化は小さいけどな。でも確かに手が何度が動いた。それは間違いない」

ファーランは医者の顔で言った。

ファーラン「イザベルの神経は完全に氏んじゃいねえ。人間の体は失った神経を別の神経を発達させて補おうとする力がある」

リヴァイ「そうなのか」

ファーラン「詳しい説明をすると話が長くなるから省略するが。俺もこんな治療方法があるとは知らなかった。アメリカまで渡っていろいろ治療法を探したっていうのに。灯台元暗しだった」

リヴァイ「どういう意味だ?」

ファーラン「日本にあったんだ。別の治療方法が」

リヴァイ「そうだったのか」

ファーラン「熱を利用して人間の治癒力を高める治療法だ」

リヴァイ「危ない方法なのか?」

ファーラン「逆だ。限りなく安全だ。でも、凄く時間がかかる」

リヴァイ「それでも希望があるなら続けてくれ。俺はいくらでも待つ」

536: 2014/12/21(日) 08:54:11 ID:eBl8tnyw0
ファーラン「ああ。俺もだ。イザベルを必ず、目覚めさせる」

そう誓いを新たにファーランが強く拳を握っていた。

9月5日。ハンジの誕生日兼結婚記念日。

一周年を記念して何をしようかとリヴァイが話していると、ハンジは答えた。

ハンジ「ふふふ……誕生日プレゼント、強請っていいんだ?」

リヴァイ「強請ってくれた方がこっちとしては助かるが」

ハンジ「だったら、リヴァイを好きにしていい?」

リヴァイ「…………は?」

ハンジ「今日一日、リヴァイを私の好き勝手にさせて貰おうかな」

リヴァイ「………体にリボンでも巻けっていうのか?」

ハンジ「それでもいいけど、それよりこれを着て見せて」

そう言って取り出したのは何故か着ぐるみ風のパジャマ。

537: 2014/12/21(日) 08:54:49 ID:eBl8tnyw0
猫のデザインのそれを見て困った顔になるリヴァイにハンジはゲラゲラ笑った。

ハンジ「いいリアクションだね! ぷぷぷ……」

リヴァイ「もうすぐ四十路になる男に何着せようとしてんだ。お前は」

ハンジ「いいじゃない。可愛いでしょうが。着せて見せて」

リヴァイ「ちっ……」

そう言われて渋々着てみると……。

ハンジ「サイズぴったり! 超可愛い!!」

リヴァイ「やめろ。可愛くねえよ」

ハンジ「可愛いよ! 超可愛い。やばい。飼いたい」

リヴァイ「アホか。俺を飼い馴らすのは…………まあ、ハンジにしか出来ねえだろうけど」

ハンジ「でしょう?」

リヴァイ「なんで自慢げなんだよ」

ハンジ「にしし。実はサイズ違いの、息子用も用意してありまして」

リヴァイ「ぶふっ?!」

ハンジ「現在、既に着せておりまして」

538: 2014/12/21(日) 08:55:23 ID:eBl8tnyw0
リヴァイ「やめろ。ハンジ。それ以上は……」

ハンジ「記念撮影じゃあああああ! (*息子連れてきました)」

リヴァイ「クソ……! 嵌める気満々だったな! お前は!」

ハンジ「はい、抱っこ抱っこ!」

結局、猫のパジャマ姿の親子写真を撮らされるリヴァイだった。

ハンジ「いやーいい写真撮れたわー」

リヴァイ(ぐったり)

ハンジ「こういう時じゃないと、こういうネタ写真撮らせてくれないしね?」

リヴァイ「強請っていいなんていうんじゃなかったな」

ハンジ「一生の宝物だよ。ありがとうね。これで十分だよ」

リヴァイ「………」

ハンジ「ん? 何?」

リヴァイ「お前は着ないのか?」

ハンジ「私の分は用意してないよ」

リヴァイ「分かった。じゃあ今から買ってくる」

539: 2014/12/21(日) 08:56:29 ID:eBl8tnyw0
ハンジ「その恰好で外に出るつもり?」

リヴァイ「勿論、着替えてから行く。ハンジは虎柄にしよう」

ハンジ「なんでよ」

リヴァイ「猛獣みたいな女だからな。あとセクシーだし」

ハンジ「ええええ?」

リヴァイ「じゃあ行ってくる」

そんなこんなで、親子で記念撮影をして、ささやかな誕生日を過ごしたのだった。

542: 2014/12/21(日) 21:36:53 ID:eBl8tnyw0
その年の忘年会は何故か12月25日に行われて、小さなサプライズが行われた。

リヴァイ用にホールケーキが登場して、ハッピーバースディソングを添えて会社の人間に祝われてしまったのだ。

リヴァイ「やめろって言ったのに」

リヴァイは遠い目をして逃げていたが、周りはニヤニヤ笑っている。

リヴァイの隣の席にいたエルヴィンが苦笑した。

エルヴィン「大分、部長職に慣れたみたいだね」

リヴァイ「全然慣れてねえよ。主任時代の方が楽だった」

エルヴィン「でも、君の周りには君を慕う部下が徐々に増えて来たじゃないか」

リヴァイ「あいつらが変なだけだろ」

エルヴィン「いいや? リヴァイが魅力的だからだよ」

リヴァイ「あんまり煽てるな。こういうのは苦手なんだよ」

エルヴィン「そうやって照れるから余計にからかいたくなるのに」

ミケ「全くだ」

543: 2014/12/21(日) 21:37:40 ID:eBl8tnyw0
リヴァイ「ミケまで何言っている」

ミケ「ふん……」

リヴァイ「ただまあ、エルヴィンが言っていた意味は理解した」

エルヴィン「ん?」

リヴァイ「猫被り命令を解除してからの方が、部下との距離が縮まったような感覚はある。たまに悪態をついても、あいつら案外、俺を怖がらない。むしろ以前の方が怖がられていた気もする」

エルヴィン「感情を出来るだけ殺せって命令をして御免ね」

リヴァイ「今思うと、何故その命令を出したんだ?」

エルヴィン「んー……これ言っちゃうと、リヴァイが気遣うかなと思って」

リヴァイ「どういう意味だ?」

エルヴィン「多分、素の魅力で言えば私よりリヴァイの方が上司として上なんだよね」

リヴァイ「………」

エルヴィン「例えば何か問題が起きた場合、人は私情で動くじゃない? そういう時に、私よりリヴァイの方を優先する部下が出てきたら、命令系統がまずい事になるかなと思って」

リヴァイ「それは考えすぎじゃねえのか?」

エルヴィン「そんな事はないよ。君は人の為になら修羅になれる男だ」

リヴァイ「…………」

544: 2014/12/21(日) 21:38:17 ID:eBl8tnyw0
エルヴィン「でも私は結局、自分が一番可愛い人間だから。本当ならば全体の為に動かないといけないのに。私情を優先して可愛い子を優先して助けてしまいそうだ」

リヴァイ「そうか? お前はそういうタイプには見えねえが」

エルヴィン「根底は卑しい人間だよ。きっと。だからこそ、それを全て見せられる相手がもしも現れたら困る」

自嘲気味に言い切るエルヴィンにリヴァイも何も言えなかった。

そこにミケが口を挟む。

ミケ「エルヴィンの魅力と、リヴァイの魅力は別物だろ。どっちが上とか下ではないと思うが」

エルヴィン「ん?」

ミケ「俺はエルヴィンのやり方も、リヴァイのやり方もそれぞれ長所と短所があると思っている。でもそれでいいんじゃないか?」

リヴァイ「ミケの言う通りだな。俺も同意する」

エルヴィン「…………」

リヴァイ「人ぞれぞれ性格が違うんだ。それでいいんだよ。必要以上に卑下するな」

エルヴィン「君達は本当に優しい人間だな」

リヴァイ「今、エルヴィンは人事部にいる。人の素質を見抜いて采配する大事な部署にいるんだ。エルヴィンに向いた仕事だろ」

エルヴィン「ピクシス本部長の方がやり手だとは思うけどね」

リヴァイ「いや、お前の方が上だろ」

545: 2014/12/21(日) 21:38:55 ID:eBl8tnyw0
ピクシス「わしを呼んだか?」

しれっと席を移動してピクシス本部長がやってきた。

ピクシス「エルヴィン、人事部の方の仕事は慣れたか?」

エルヴィン「まあ、元々ピクシス部長時代の頃から人事部には良く顔は出していましたし」

ピクシス「後継者にするつもりだったからな。こそこそ仕事を教えておいて正解だった」

エルヴィン「ね? こういうところがやり手だと思わないか?」

リヴァイ「本当だな」

ミケ「確かに」

ピクシス「先を見通して行動するのは当たり前じゃろ?」

リヴァイ「まあ、それはそうか」

ピクシス「リヴァイは四十路おめでとう。男の盛りじゃな」

リヴァイ「ついにその大台に乗ってしまったか(ズーン)」

ピクシス「何言っておる。むしろ四十路の時代が一番楽しい時期じゃろうが」

リヴァイ「え?」

ピクシス「荒れ果てた荒野を開墾して種を植えるのが三十路だとすれば、芽が出始めるのが四十路の時代じゃ。お主は今からが一番大変で楽しい時期に差し掛かるんじゃぞ。子供も産まれたし、今後が楽しみじゃ」

546: 2014/12/21(日) 21:39:42 ID:eBl8tnyw0
リヴァイ「ううーん」

ピクシス「わしももうすぐ定年になる。定年になる前に2人目の顔も見せるんじゃぞ」

リヴァイ「まあ、そのつもりではいますが」

ミケ「へえ。意外だな。ハンジはあまり子供を多く持ちそうな感じではないと思っていたが」

リヴァイ「ハンジのご両親にも協力して貰っている。それにある程度大きくなったら保育園も利用する。ただハンジの年齢を考えれば、あと1回か2回だな。出産のチャンスは」

ピクシス「いや、案外そうでもないぞ? 子供を持つようになったら体が変化して、子供をポンポン産んだ女もいる。そこは人それぞれじゃ」

エルヴィン「そう言えば、息子はどっちに似ているの? 写真ない?」

リヴァイ「あーこの間、ハンジの誕生日の時に撮らされた奴ならあるが」

エルヴィン「見せてくれ。是非見たい」

リヴァイ「……………これだ」

少々恥ずかしかったが、皆に注目されて画像を出すと、

ピクシス「ぶほっ」

ミケ「ぶっ」

エルヴィン「あら、可愛い。猫のパジャマか」

リヴァイ「エルヴィンは言うと思った。ハンジの命令で着ろって言われてこうなった」

547: 2014/12/21(日) 21:40:43 ID:eBl8tnyw0
エルヴィン「顔立ちはハンジに似ているね。性格はどっち?」

リヴァイ「多分、俺に似ている。意外と物を散らかさない。子供にしては行儀がいい」

ミケ「それはただのイケメンだな。将来が楽しみだ」

リヴァイ「顔がハンジに似てくれて良かった。俺に似ない方がいい」

エルヴィン「寂しい事を言うなよ」

リヴァイ「いや、その辺は子供を持ってみれば分かると思うぞ」

ピクシス「まあ、男の子なら母親似になる事が多い。娘だったら父親似になるが」

リヴァイ「………娘が欲しいけれど、顔が俺に似たら困るな」

エルヴィン「そうかな? 私は可愛いと思うけどな」

ミケ「俺もそう思う」

リヴァイ「やめろ。想像させるな」

そんな軽口を叩きあっていたら、

別の席でギャーギャー騒ぎが起きていた。そっちに注目すると、

ペトラ「周りの皆がどんどん幸せになっていくよー! やだー!」

と、ペトラが泥酔し始めてオルオがちょっと困っていた。

548: 2014/12/21(日) 21:41:29 ID:eBl8tnyw0
ペトラ「友達から結婚報告が来たんだよ。もう3件目だよ! 皆、早すぎない?!」

オルオ「ペトラは今年で27歳か」

ペトラ「来年で28歳ですからね! 三十路の壁がもうすぐやってくるよおおおお!」

ペトラ「怖いよおお! 三十路の壁が怖いよおおおお!」

オルオ「そうかあ? 三十路が一番いい時期のような気もするが」

ペトラ「男は三十路からっていうでしょうが! 女は逆にそこを過ぎると賞味期限切れって言うのよ! 昔はクリスマスにちなんで、25歳でも遅いって言われていた時代もあったわけだし?!」

オルオ「いつの話だよ」

ペトラ「うちの母親の時代よ! 最近、せっついてくるんだよ両親が!!」

ペトラ「そろそろいい男を捕まえて結婚して退職した方がいいんじゃね? みたいな?」

リヴァイは既視感を覚えながらペトラの暴れ振りを遠くで聞いていた。

エルヴィンもピクシスもミケも、何だかワクワクした表情で見守っている。

オルオ「彼氏いないんだからしょうがねえだろ」

ペトラ「そうだけどさあ……(ヒック)」

オルオ「結婚しても仕事続けたいのか?」

ペトラ「その辺はどっちでもいい。臨機応変に対処したいかな。金が足りないなら働くし、夫の稼ぎで十分なら専業主婦でもいいと思っているけど」

549: 2014/12/21(日) 21:42:58 ID:eBl8tnyw0
オルオ(相手の色に染まるタイプか)

オルオ「エレンを逃したのは痛かったんじゃねえか?」

ペトラ「今思うとそうかもね。なんで別れたんだろ?」

ペトラ「あ、ミカサが居たからか。思い出した」

オルオ「だから何でそこでミカサに譲ったんだよ」

ペトラ「だあって、あの子、まるで自分みたいだったんだもの」

オルオ「一途なところが?」

ペトラ「そうそう。おまけにエレン、私がリヴァイ部長を好きだった事、気づいていた上でお試しのお付き合いしていたんだよ? いい男過ぎて困ったわ」

オルオ「まあ、そうかもしれんが」

ペトラ「エレンは女の弱いところを守ってくれる男だよ。男らしいよ。私には、勿体なさ過ぎるかな」

オルオ「ふーん」

ペトラ「そういう部分で甘えちゃうと立てなくなるからダメなのよ。私の場合は多分、叱ってくれる人の方がいいかもしれない」

オルオ「ん? ペトラはМ側の人間なのか?」

ペトラ「身も蓋もない言い方やめてよね!! ………間違ってはいないかもしれないけど」

オルオ「俺はペトラはドS側の人間かと思っていたが」

550: 2014/12/21(日) 21:43:45 ID:eBl8tnyw0
ペトラ「それはオルオに対してだけよ。他の人にはちゃんと優しいからね」

オルオ「だからなんで、俺に対してだけ態度が違うんだ? ペトラは」

ピクシス(そんなん、決まっておるじゃろうに)

エルヴィン(言わせたいんでしょうね。きっと)

ミケ(面白くなってきた)

リヴァイ(オルオ……)

上司組は部下の恋愛模様に密かにワクワクしている。

ペトラ「それはあんたがムカつくからに決まっているでしょうが! 私より先に出世するし、今でもたまにリヴァイ部長の真似するし! 似てない癖に!」

オルオ「俺にとってリヴァイ部長は永遠の師匠だ。この愛は不滅だからな」

リヴァイ(ぶふっ)

ペトラ「そんなの、私も同じですしー? ふん。リヴァイ部長への愛ならオルオに負けないわよ」

オルオ「だったら勝負するか?」

ペトラ「いいじゃない。何で勝負する?」

オルオ「一気、いくか?」

ペトラ「単純でいいわね。ここから何杯、飲めるか勝負してやろうじゃない!」

551: 2014/12/21(日) 21:44:31 ID:eBl8tnyw0
リヴァイ(おいおい、なんでそうなる?)

滅茶苦茶な展開にリヴァイが焦っていると、周りが盛り上がり始めた。

エルド「お? 一気勝負か。なら俺がジャッジしてやろう」

ペトラ「ビールでいいわね?」

オルオ「望むところだ」

それ一気! 一気! (*真似したらダメです)

リヴァイ「……………」

ピクシス「あやつらもさっさと結婚すれば良いのにのう」

エルヴィン「本当にそうですね」

そんな風に苦笑いしていると、2人共どんどん泥酔していって……

ペトラ「もうギブ……うっぷ……」

オルオ「俺の勝ちだな。ふん……」

ペトラ「なんでオルオに勝てないのおおお?! 本当、腹立つ!!」

オルオ「俺を越えるなんて、絶対させねえ」

ペトラ「絶対、いつか勝ってやりゅ……」

552: 2014/12/21(日) 21:45:14 ID:eBl8tnyw0
オルオ「おい? ペトラ?」

ペトラ(ゴロン)

泥酔しきったペトラがオルオにもたれ掛かって、太ももに顔を乗せた。

オルオ「?!」

ペトラ「もう、オルオでもいっかなあ」

オルオ「は?」

ペトラ「あんた、リヴァイ部長好きだし。いいか」

オルオ「何の話だよ(ドキドキ)」

ペトラ「同棲してみない? とりあえず」

オルオ「………え?」

ペトラ「一緒に住んでみようよ。そしたら家賃半額で済むじゃない」

オルオ「………………」

ペトラ「経済的でしょ? 家近いんだし。案外悪くないかも?」

オルオ「………」

553: 2014/12/21(日) 21:45:58 ID:eBl8tnyw0
ペトラ「あ、でも、やっぱりダメか! あはは! 私、親にバレたら殺されるわ! 嫁入り前で男と同棲なんかしたら……」

オルオ「結婚だったらいいのか」

ペトラ「まあ、親はそう言うかも」

オルオ「だったら、それでもいいが」

ペトラ「へ?」

オルオ「いあ……今のは嘘だ。ペトラ! お前、俺の女になる手順を全然踏んでねえだろ!!! 馬鹿な事を言ってんじゃ……」

ペトラ「あれ~そだっけえ? あははは!!!」

オルオ「酔っぱらい過ぎだ!! いい加減、その辺に寝ろ!」

顔を赤らめてオルオがペトラを引き離して、周りは「ヒューヒュー」とからかう。

ピクシス「ああ、惜しい」

エルヴィン「あともうちょっとだったのに」

ミケ「逃げられたか」

リヴァイ(*頭抱えています)

うちの会社は酔った勢いで女が求婚する習わしでもあるのか?

と、ついつい思ってしまったリヴァイだった。

554: 2014/12/21(日) 21:47:08 ID:eBl8tnyw0
そしてその時、突如、リヴァイの携帯にファーランからの連絡が入り、

リヴァイ「俺だ。…………何だって?」

リヴァイは顔色を変えて立ち上がった。

リヴァイ「すまん。先に抜ける。勘定は、ここから出してくれ」

一万円を抜き取って無理やりエルヴィンに押し付けると居酒屋をすぐに出た。

エルヴィン「何か、あったんだろうか」

ピクシス「今の感じだと、イザベルの件では?」

ミケ「イザベル?」

エルヴィン「ああ……リヴァイが引き取っていた身寄りのない子供の件だよ。入院しているんだ」

ミケ「それは知らなかった」

エルヴィン「余り大っぴらに話せる事じゃないからね」

ミケ「ふむ。容体が悪化したのだろうか」

エルヴィン「いや、そんな感じじゃなかったな」

ピクシス「もしかしたら、奇跡が起きたのかもしれんぞ」

ピクシスの予感は、実は当たっていた。

555: 2014/12/21(日) 21:47:50 ID:eBl8tnyw0
タクシーを捕まえて病院へ移動する。

ファーランの電話はイザベルの意識が戻ったと言う報告だったのだ。

リヴァイ(本当に、本当なのか……)

リヴァイはタクシーの中で震えていた。酒の残った体を抱えながら。

病院へ転がり込むように走り込むと、看護婦に怒られて慌てて早歩きにする。

慣れた道のりを駆けあがり、イザベルの病室へ入ると、そこには……

ファーランが居た。そして目に意識が戻ったイザベルの姿が、本当にそこに。

ファーラン「まだ言葉はしゃべれねえけど。でも、こっちの事はちゃんと分かっているぞ」

イザベルの目がはっきりとこっちを見ていた。

その直後、リヴァイは何も言えずに、ただ、唇を噛んだ。

そして伝えようと思っていた言葉を絞り出していく。

リヴァイ「…………すまなかった」

イザベル「…………」

リヴァイ「あの時は本当に、すまなかった。イザベル。お前の気持ちを考えないで、俺は……」

イザベルは首だけ、左右に振った。まだ大きな動きは出来ないが。

556: 2014/12/21(日) 21:48:26 ID:eBl8tnyw0
首から上の動作はゆっくりと出来るようだ。

リヴァイ「イザベル………」

涙がやっと出てきた。今頃になって。溢れてくる。

とんでもない事をしてしまった。時を戻せたら。何度そう思ったか。

後悔という矢を背中に刺したままずっと生き続けてきた。

抜けない矢は今、やっと抜けて、血を出して。その傷を手当てする事がやっと出来る。今なら。

ファーラン「リヴァイ、そろそろ」

リヴァイ「あ、ああ……そうだな」

まだ意識を回復したばかりのイザベルに無理はさせられない。

リヴァイは病室を出て、ファーランに頭を下げた。

ファーラン「何で頭を下げるんだよ」

リヴァイ「お前のおかげだからだ。本当に、ありがとう」

ファーラン「違うだろ。それは。リヴァイがここまで、イザベルの面倒を見て来たからだ」

リヴァイ「でも俺は何も出来なかった……」

止まった涙の跡は痛々しかったが、リヴァイは言った。

557: 2014/12/21(日) 21:49:03 ID:eBl8tnyw0
リヴァイ「ただ、事態を見守る事しか出来なかった。分からなかったんだ。俺はどうするべきなのか」

ファーラン「…………」

リヴァイ「行動を起こしたのはファーランの方だ。お前の力がなければイザベルは……」

ファーラン「だとしても、俺がここまで来られたのはリヴァイのおかげだ」

リヴァイ「そう思うのか」

ファーラン「ああ。リヴァイは俺達の兄貴だろ。血は繋がってねえけど。頼れる兄貴だって思っている」

リヴァイ「家族だと、思ってくれるのか」

ファーラン「家族以上だろ。きっと。リヴァイ程、頼れる男はそうはいない」

リヴァイ「……………」

ファーラン「酒の席だったんだろ? 戻っていい。後はこっちで何とかする」

リヴァイ「ああ。じゃあ、またな。ファーラン」

ファーラン「ああ。またな。リヴァイ」

そして2人はそれぞれの新しい道を歩き出したのだった。

558: 2014/12/21(日) 21:49:45 ID:eBl8tnyw0
ハンジの産休期間が12月末で無事に終了して翌年の1月から復帰する事になった。

仕事始めのその前日。仕事を始める前の休日を返上して会社で新年会が行われた。

ダリス本部長の時代は会社全体の交流は忘年会と春のレクレーションの年2回だったが、ピクシス本部長の代になってから新年会も追加される事になったのだ。

エルヴィン(休日が一日減ってしまった……)

休日LOVEのエルヴィンは少々げんなりしていたが、他の社員も概ね同じ意見だった。

会社の付き合いは出来るだけ最低限でいいのに。という本音を押し頃してその新年会に臨む。

しかし用意されていた集合場所は居酒屋ではなく、とある劇場ホールだったのだ。

エレン「ええ? 飲み会じゃないのか?」

事情を知っているのは一部の社員だけだ。実はこの後、とある大会が行われる。

燕尾服に着替えたピクシス本部長が舞台中央に出てきて説明を始めた。

559: 2014/12/21(日) 21:50:21 ID:eBl8tnyw0
ピクシス『やあ社員一同の皆様。休日を一日返上して貰ってすまんの!』

ピクシス『今年から忘年会だけではなく、カラオケ大会も行う事にした』

ピクシス『このカラオケ大会で優勝したら豪華な景品が貰えるぞ』

ピクシス『今回用意したのは、高級和牛の肉じゃ!!』

エレン「おおおおお!」

肉が貰えると聞いてエレンはついついテンションがあがった。

サシャ「ふふふふ……(キラーン☆☆)」

サシャも当然やる気満々だった。若い社員は特に色めきだっている。

ピクシス『今回は第1回目じゃから、カラオケの得意な社員をこちらで厳選させて貰った。16名の歌い手がトーナメント方式で勝ち上がり、見事勝ち残ったら優勝じゃ! 参加しない社員は手元にボタンを配るので良かったと思う方に票を投じて欲しい』

エレン「ええ?! 出場メンバーはもう決まっているのか(シュン)」

希望者が参加出来る物だと思っていたエレンはちょっとがっかりした。

ピクシス『では、出場メンバーを紹介していくぞ! 第一回戦、1組目! 一人目は営業部営業課のアルミン!』

エレン「えええ?! アルミン、出るのかよ!」

アルミン「ごめんね。ピクシス本部長に誘われていたんだ」

エレン「いや、行って来い! 頑張れよ!」

560: 2014/12/21(日) 21:51:35 ID:eBl8tnyw0
準備が終わって、マイクを手に取り、アルミンが舞台上でスタンバイした。

ピクシス『曲は「微笑みの爆弾」じゃ! ではどうぞ!』

懐かしいイントロが流れてくる。アルミンは全社員の前で緊張の表情で歌い始めた。

エレン(おおお……アルミン、流石だぜ!)

ピクシス『二人目は総務部庶務課のハンネス!』

エレン「ええええ? ハンネスさんも出るのかよ!」

ハンネスが照れくさそうに舞台に出て来た。

ピクシス『曲は「想い出がいっぱい」じゃ! ではどうぞ!』

そして2人の曲が終わり………。

ピクシス『結果は……30票差でアルミンの勝利じゃ! おめでとう!』

アルミン『あ、ありがとうございます……!』

ハンネス『あー負けちまったかあ』

こんな感じで続々といろんな歌い手が戦っていく事になった。

次はジャンとマルコの対決だった。ジャンは「Can Do」を選曲し、マルコは「YAH YAH YAH」を選んだ。

結果は40票差でジャンの勝ちだった。健闘を称え合って2人が舞台上で握手している。

561: 2014/12/21(日) 21:52:19 ID:eBl8tnyw0
エレン(ジャンすげえ! あいつ、超本気出してやがる!)

観客席で聞いていたエレンも悔しいなあと思いつつジャンに票を入れてしまった。

ジャンの歌唱力はガチで巧かったからだ。

次はなんとリヴァイ部長とエルヴィン部長の対決になった。

リヴァイは「STYLE」を選び、エルヴィンは「津軽海峡・冬景色」を選んだ。

意外な対決に会場はざわめいた。エレンはどっちに入れるべきか迷って……。

エレン(リヴァイ部長に入れます! エルヴィン部長御免なさい!)

歌の巧さは互角だと思ったが、歌の好みで選んでしまった。

するとエレンと同じ事を思った社員がいたようで、リヴァイの方がやや優勢で10票差で勝ったようだ。

リヴァイ『エルヴィン、もっとお前に合う曲あっただろ』

エルヴィン『いやいや。この曲を歌うのが好きだから』

リヴァイ『全く……』

そんな訳でリヴァイが勝ち残り2回戦へ行く事へなった。

次はライナーとマルロの対決だった。

ライナーは「マジンガーZ」を歌い、マルロは「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」を歌った。

562: 2014/12/21(日) 21:53:00 ID:eBl8tnyw0
エレン(ああああこれ、迷うなあああ)

どっちも面白かったけれど、ここはライナーに票を入れるエレンだった。

結果は5票差でライナーの勝利だった。これは接戦だった。

続いてはサシャとナナバの対決だった。

サシャは「どうにもとまらない」を歌い、ナナバは「炉心融解」を歌った。

僅差だった。サシャが2票差で勝ったのだ。

サシャ『おっしゃああああああ!』

エレン(サシャ、本気出すと結構歌が巧いんだな!)

カラオケの時はあまり歌わず食う方が専門だったけど、サシャは歌が得意のようだ。

ナナバ『ううーん。もっと易しい歌にすれば良かったかな』

ピクシス『選曲も勝負に左右するからの! まあ、次回に期待じゃ!』

6組目はエルドとオルオの対決だった。

エルドは「蒼き光へ」を歌い、オルオは「Deadend Game」を歌った。

ここは3票差でオルオが勝ち上がる。

ペトラ「ちっ……」

563: 2014/12/21(日) 21:53:35 ID:eBl8tnyw0
ペトラはエルドに票を入れていたが、オルオが勝ち上がってちょっとムカついていた。

7組目はコニーとクリスタの対決だった。

コニーは「Changing our Song!」を歌いクリスタは「絶対服従」を歌った。

クリスタが7票差で勝った。主に男性票が入ったようだった。

エレン(あー歌はコニーの方が巧いと思ったけどなあ)

エレンはコニーに入れたようである。

ただパフォーマンス力の方はクリスタの方が巧かったと言えるだろう。

ピクシス『いよいよ第一回戦、8組目の対決じゃ! 一人目は営業部営業課ユミル!』

ピクシス『二人目は………サプライズ参加じゃ! 明日から産休明け予定の営業部営業課のハンジ!』

リヴァイ「?!」

ハンジ『やっほー! みんな久しぶりー!』

と、しれっと舞台に登場したハンジに舞台裏のリヴァイが汗を掻いていた。

リヴァイ「お前、今日来るって言ってなかっただろ!」

ハンジ『隠しておいた方が面白いかと思って』

リヴァイ「う、歌うのか?」

564: 2014/12/21(日) 21:54:05 ID:eBl8tnyw0
ハンジ『勿論! ユミル、負けないよ!』

ユミル『お、お手柔らかに』

ユミルは「Crystal Quartz」を歌い、ハンジはというと……

ハンジ『本気で歌っちゃうよ! 曲は「READY STEADY GO」!』

ピクシス『それ、わしの仕事じゃから! (ガビーン)』

勝手に司会の役目を奪ってハンジが歌い出し、ハンジライブが始まってしまった。

エレン(おおおおお!)

ハンジの本気を目の当たりにしてエレンは目を大きくした。

エレン(これはユミルには悪いけど、ハンジさんだな!)

ハンジが40票差で勝った。実力派シンガーのようだ。

リヴァイ(ノリノリじゃねえか)

舞台裏でハンジの曲を聞いていたリヴァイは眉間に皺を寄せて両目を閉じていた。

2回戦は1組目はアルミンとジャンの対決だ。

アルミンは「そばかす」を選び、ジャンは「3分の1の純情な感情」を選んだ。

偶然にも同じアニメのテーマソング対決になった。結果は……

565: 2014/12/21(日) 21:54:29 ID:eBl8tnyw0
ピクシス『惜しい! 10票差でジャンの勝利じゃ!』

ジャン『おっし!』

アルミン『あああ……残念です』

2回戦2組目はリヴァイとライナーの対決だ。

リヴァイは「metamorphose」を歌い、ライナーは「宇宙戦艦ヤマト」を歌った。

ここは終わった後、ざわめきがしばし収まらなかった。

エレンも頭を悩ませる。ライナーも悪くはなかったが……。

エレン(すまんライナー! リヴァイ部長に入れるぜ!)

結局、リヴァイの方に一票を入れてしまうエレンだった。

そして結果は……。

ピクシス『これは超接戦じゃった! 1票差でリヴァイ部長の勝利だ!』

エレン(マジか!)

エレンの1票で決まったような物だった。ライナーはちょっと残念そうだった。

2回戦3組目。サシャとオルオの対決だ。

サシャは「HANAJI」を歌い、オルオは「Inside your mind」を歌った。

566: 2014/12/21(日) 21:55:03 ID:eBl8tnyw0
サシャがちょっとだけ色っぽい歌い方で男性社員を狙い撃ちしていた。

そのせいもあって、ここは20票差でサシャが勝った。

エレン(オルオ主任、すんません!!!)

エレンもここはサシャに入れてしまった。だって可愛かったんだもん。

2回戦4組目。クリスタとハンジの対決だ。

クリスタは「みんなだいすきのうた」を歌い、ハンジは「十戒」を歌った。

ここは若手と大人の色気対決になったが……。

歌唱力はハンジの方が上だと判断されたようだ。5票差でハンジの勝利となった。

エレン(ハンジさん、いろんな歌を歌えるなあ)

エレンがしみじみそう思っていると、遂に準決勝へ突入した。

準決勝1組目はジャンとリヴァイだった。

ジャンは「What's Up Guys」を歌い、リヴァイは「暗闇心中相思相愛」を歌った。

ここも激戦だった。エレンは物凄く悩んだ。

エレン(あああああ! ジャンには票を入れたくねえけど、巧かったよなあ)

リヴァイも下手ではない。ただ、ジャンの歌唱力はレベルが違う。

567: 2014/12/21(日) 21:55:40 ID:eBl8tnyw0
エレン(あああああ! リヴァイ部長すんません!)

エレンも納得の歌唱力だった。そして結果は……。

ピクシス『ここは3票差でジャンの勝利じゃ!』

リヴァイ『おめでとう』

リヴァイ自身はこの辺で落ちるのが妥当だと思っていたのでジャンと握手して退散した。

準決勝2組目。サシャとハンジの対決だ。

サシャは「蝋人形の館’99」を歌い、ハンジは「月の繭」を歌った。

エレン(なんでそれを歌ったサシャあああ?!)

選曲ミスのような気がした。勿体ない。だけどサシャはどや顔だ。

ここはエレンもハンジへ票を入れて、ハンジが15票差で勝ち上がった。

サシャが直後、ダウンして四つん這いになった。

サシャ『な、なぜええ?』

ピクシス『選曲がちょっとアレだったのう。もっと色っぽい曲が良かったのでは?』

サシャ『ううう……』

サシャの作戦ミスだったようだ。ハンジがどや顔している。

568: 2014/12/21(日) 21:56:29 ID:eBl8tnyw0
ハンジ『ギャップを狙って失敗したんだね。バラードの方が良かったかも?』

サシャ『ですねえ』

そして遂に決勝はジャンとハンジの対決になった。

ジャンは「慟哭ノ雨」を歌い、ハンジはなんと「キューティーハニー」を歌った。

リヴァイ(何故それを選んだ……)

他にもっとあっただろ…と思ったリヴァイだった。

しかし意外と会場はノリノリでハンジに合いの手を入れて盛り上がっていた。

最終的な結果は……。

エレン(ジャンは巧いけど…ここはハンジさんに入れようかな)

ジャンは似たような雰囲気の格好いい感じの曲が多くてちょっと飽きたのだ。

その点、ハンジの方はいろんな曲調の曲を歌ってきたので聞いていて楽しかった。

エレンと同じ事を思った人はいたようで、なんと……。

ピクシス『おお? 1票差でハンジの勝ちじゃな! おめでとう!』

ジャン『うが?! 1票差かよ!!!』

ハンジ『超接戦だったね! ドキドキしたあ!』

569: 2014/12/21(日) 21:57:19 ID:eBl8tnyw0
ジャン『ううう……悔しいけど、負けました』

ハンジ『ありがとう! ジャンも巧かったよ!』

わーパチパチ!

そんな感じで無事に第一回目の新年カラオケ大会の優勝者はハンジに決定したのだった。

ハンジ『みんなありがとう! 明日から復帰するから、宜しくね!』

そう言いながら、優勝賞品のお肉を有難く頂くハンジだった。

そして自宅に帰宅してからリヴァイはハンジに言った。

リヴァイ「良かったな。肉を貰えたから今日はすき焼きでも作るか」

ハンジ「あざーっす! 調理をお願いします」

リヴァイ「にしても最後は思い切ったな。何でキューティーハニーを歌った?」

ハンジ「ん~なんとなく? 最後は盛り上がる曲の方がいいかなって」

リヴァイ「まあ、確かに最後は盛り上がったな。あんな工口声で歌うとは思わなかったが」

ハンジ「が、頑張ってみたよ? 精一杯色気を振り絞ってみましたよ。ちょっと恥ずかしかったけど」

リヴァイ「ほぅ……恥ずかしかったのか」

ハンジ「ちょっとだけね」

570: 2014/12/21(日) 21:58:08 ID:eBl8tnyw0
リヴァイ「成程。だから余計に工口かったのか」

ハンジ「え?」

リヴァイ「恥じらいは大事だ。うん」

ハンジ「何でそこで頷く?」

リヴァイ「来年は「渚のシンドバット」を極めてくれ」

ハンジ「ああ……イントロの吐息を練習しないとね! でもリヴァイももっと色っぽい曲を歌えばよかったのに」

リヴァイ「俺は別に……」

ハンジ「来年は「瞳の住人」とか「桜坂」とか歌ったら? 女性が喜ぶ定番曲じゃない」

リヴァイ「そうか? ハンジも歌って欲しいのか?」

ハンジ「いや、私は銃爪が良かったけど」

リヴァイ「やめろ。いろいろ思い出す」

リヴァイがついつい赤面して手を振って逃げる。

ハンジ「ぷぷぷ……耳まで赤いよ。リヴァイ」

リヴァイ「観察するな。手洗って席について待っておけ」

ハンジ「はいはい」

571: 2014/12/21(日) 21:58:53 ID:eBl8tnyw0
其の時、息子がひょいっと立ち上がってこっちに来た。

その急な変化を見過ごしている両親は、ふと、子供の変化に気づいてぶったまげた。

リヴァイ「?!」

ハンジ「?!」

ハンジ「ちょ……なんで立った?! え? まだ立てなかったのに!」

リヴァイ「は、発育がいいのか? 普通は1歳を越えるくらいで歩くようになるんじゃ」

ハンジ「なんかこっちをじっと見ているよ。肉の匂いに釣られたかな」

息子はこくんと頷いた。その様子に両親はぶはっと萌え過ぎてやばい事になった。

まだ言葉はあんまり話さないけれど、意志の表示はしっかりしている。

そしててくてく歩いてリヴァイの足元にくっついた。

リヴァイ「!?」

ハンジ「あーだめよ。パパの邪魔をしたら」

其の時、息子が困った単語を言い出した。リヴァイを見て「まま」と言ったのだ。

リヴァイ「え……」

普段、男女の役割が逆な部分を見せたせいだろうか。

572: 2014/12/21(日) 21:59:48 ID:eBl8tnyw0
息子は自分を「ママ」だと思っているのだろうか?

リヴァイはついつい料理の手を止めてしまった。

リヴァイ「今、俺を見て『まま』って言った?」

ハンジ「いや、今のは「ご飯」の意味かも。まんまが言えなかっただけじゃ……」

リヴァイのズボンを引っ張って遊んでいる。

どうやら早く飯を寄越せと言っているようだ。

リヴァイ「な、ならいいが……もし逆に認識されていたら困るな」

ハンジ「その時は其の時だよ」

リヴァイ「おいおい」

ハンジ「お腹減ったんだよねー? こっちおいでー」

すると息子はすぐ母親の方に移動した。抱っこしてあげる。

ハンジ「ふふ……顔は私に似ているけど、中身はリヴァイに似ているね」

リヴァイ「みたいだな」

ハンジ「明日から、一緒に居られる時間が減るのは寂しいね」

リヴァイ「俺は逆にハンジとの時間が増えるけどな」

573: 2014/12/21(日) 22:00:17 ID:eBl8tnyw0
ハンジ「あれれ? 実はヤキモチ妬いていたんですか? ん?」

そしてリヴァイは夕食の味付けを確認した後、言った。

リヴァイ「馬鹿言え。俺は元々ヤキモチ妬きだ」

そう言うと、息子も何故か頷いていたのだった。

その絶妙な相槌にハンジはぶふっと笑ってしまったのだった。

ハンジ「あー浦島太郎状態が怖いわー」

リヴァイ「大丈夫だ。ハンジは勘がいいから」

ハンジ「そうかなー? 営業部の部屋のレイアウト、凄く変わったねえ」

営業部に出勤した1日目。ハンジがそう言うと、

リヴァイ「俺が営業部長を引き継いだ時に全面改装をさせて貰った。筋トレも暇があれば出来るように、ほら」

ハンジ「うお?! 仕切り立ててこっち側で筋トレ出来るようになっているね!」

リヴァイ「その分、要らないと思われる物は処分させて貰ったが」

574: 2014/12/21(日) 22:00:52 ID:eBl8tnyw0
ハンジ「え? それって過去のデータとか?」

リヴァイ「20年以上前の資料を残してもしょうがねえだろ」

ハンジ「えええええ?! 勿体ない! 営業部の歴史を捨てちゃったの?」

リヴァイ「え? 何かまずかったか?」

ざわ……まずい事をやっちまったのか? そう思って青ざめると……

ハンジ「その辺の事は上に確認した後にした方が良かったんじゃない?」

リヴァイ(青ざめ)

ハンジ「もう残ってないの? 全部? 本当に? 何もかも捨てた?」

リヴァイ「あ、ああ………」

ハンジ「あちゃー知らない。私は何も聞かなかった(そっぽ向き)」

リヴァイ「ハンジ! 俺を見捨てないでくれ!!」

ハンジ「嫌だよ! ちゃんと確認しなかったリヴァイが悪いでしょうが!」

リヴァイ「クソ…ハンジは仕事の失敗については冷たい女だ」

ハンジ「人聞きが悪い! その辺の協調性については本当、リヴァイは大雑把過ぎるよね!」

リヴァイ「俺の判断で動いていいと言われたからそうしたのに」

575: 2014/12/21(日) 22:01:23 ID:eBl8tnyw0
ハンジ「それはリヴァイの好き勝手にしていいという意味じゃないでしょうが」

リヴァイ「うぐ……」

ハンジ「まあ、可能性としては必要になる事は滅多にないけど。分かんないんだよね。資料に関してはいつどこで必要になるかなんて予測不能だし」

リヴァイ「20年以上前だぞ? 俺が入社する前の資料なんて使う機会あるのか?」

ハンジ「だからそれを判断するのは上で私達じゃないでしょうが」

リヴァイ「当時の歴史は残しておくべきだったのか(ズーン)」

ハンジ「あーしょうがないなあ。前任のエルヴィンに確認しましょうか」

電話で確認すると、エルヴィンは呑気に答えた。

エルヴィン『ああ……資料まだ残っていたんだ。御免御免。処分をすっかり忘れてた☆』

ハンジ「じゃあ、捨ててもいい物だったんだね?」

エルヴィン『うーん。多分、もう要らないとは思うけど。基本的に会社の情報は10年単位で保持すれば残りは捨ててもいいと言われていたからね』

ハンジ「そうだったんだ」

エルヴィン『その辺は会社によって全く考え方が違うよ。中には創始当時の資料から保管する会社もあるけど。でも少なくともうちの会社は10年サイクルだ。医者のカルテも5年くらいで更新するっていうし、いいんじゃない?』

ハンジ「了解! ありがとうねエルヴィン!」

ハンジ「という訳で、問題なかったみたいだよ」

576: 2014/12/21(日) 22:03:04 ID:eBl8tnyw0
リヴァイ「良かった……(胸撫で下ろし)」

ハンジ「もーそういうのはちゃんと確認してからやらないとダメだよ」

リヴァイ「すまん」

ハンジ「やれやれ。やっぱりこりゃ副部長の私の必要性があるようだ」

リヴァイ「ハンジが営業部長をすればいい」

ハンジ「サボる気満々なの?! 復帰したばっかりの社員に酷な事を言うね?」

リヴァイ「でも、ハンジの方が采配は巧いだろ」

ハンジ「何を基準に巧いを判断するかは人それぞれだからね?」

リヴァイ「あーハンジに仕事を丸投げして俺は寝たい」

ハンジ「こらこら。浦島太郎に仕事を押し付けないで下さい」

リヴァイ「とりあえず、変更した部分から説明していくか」

ハンジ「そうして下さい。お願いします」

そしてリヴァイはハンジに詳しい話を進めていった。

ハンジ「へー成程。確かにエルヴィンの時と大分やり方を変えたんだね」

リヴァイ「とりあえず今のやり方で回してはいるが、気になる点はあるか?」

577: 2014/12/21(日) 22:03:34 ID:eBl8tnyw0
ハンジ「いや、いいと思うよ。これはこれで。ただ、まだ絞ろうと思えば絞れると思う」

リヴァイ「どういう意味だ?」

ハンジ「リヴァイの負担を他に分散できると思う。例えばこっちの仕事は……」

と、いいながらハンジが説明を加えていく。

ハンジ「例えばこっちの仕事はアルミンでもいけると思う。彼はエルヴィン並みに口が達者で度胸もある。無理にリヴァイが取引を続ける必要はないね」

リヴァイ「しかし相手はそれなりに重要な取引先だぞ? いいのか?」

ハンジ「相手の女社長さんの好みのタイプは把握しているから大丈夫。小柄で小奇麗で若い子だったら大丈夫だよ。エルヴィンもそこを見越してリヴァイにやらせていた筈だから」

リヴァイ「そ、そうだったのか?」

意外な指摘に汗をたらすと、

ハンジ「リヴァイがここを担当して長いでしょ? そろそろ世代交代させていいって。若い子の方が好きな筈だ。新しいマダムキラーに向かわせよう」

リヴァイ「待て。それは言ったら俺がマダムキラーのような扱いだったと言わんばかりだな」

ハンジ「若い頃は特にそうだったでしょうが。女性社長相手に何人落としてきた? ん?」

リヴァイ「ううーん? はっきりとは分からん」

リヴァイが少々困っていると、ハンジはそれには深く突っ込まず、

ハンジ「そういう訳だから、リヴァイの担当を少し減らしましょ。その分、中の仕事をリヴァイが多く持てばいい。外回りは若い子に出来るだけ行かせないと後継者も育たないよ」

578: 2014/12/21(日) 22:04:03 ID:eBl8tnyw0
リヴァイ「そうか」

ハンジ「こっちの社長にはクリスタでいこう。こっちはライナーにまわしていい。あとエレンには、彼の元に行かせて……」

ハンジの采配をメモしてその通りにする事にしたリヴァイだった。

リヴァイ「ふむ。じゃあこれでやってみるか」

ハンジ「いいの?」

リヴァイ「不都合が出てきたらその都度変えていく。今は様子見の段階だ」

ハンジ「うん。じゃあそんな感じでいこう」

リヴァイ「…………イキイキしてやがるな」

ハンジ「ん? まあね! 外の世界、久々だしね!」

リヴァイ「家の中は窮屈だったか?」

ハンジ「いや、そんな事はないよ。でも、外は外で好きなのよ」

リヴァイ「………ハンジ」

ハンジ「何?」

リヴァイ「…………尻触らせろ」

ハンジ「オフィスラブはダメだよ!!! (ガビーン)」

579: 2014/12/21(日) 22:04:33 ID:eBl8tnyw0
リヴァイ「ちっ……」

ハンジ「舌打ちも禁止! 事務員さんに聞こえるでしょうが! 空気悪くなるよ!」

リヴァイ「最近はあんまり猫被ってねえから皆、俺の悪癖は知っているぞ」

ハンジ「あらそうなの?」

リヴァイ「エルヴィンに猫被り命令を解除された。素でやっていいそうだ」

ハンジ「あらー……」

ハンジが頬を掻いている。

リヴァイ「なんだ?」

ハンジ「いやー素を見せちゃうんだ? ううーん」

リヴァイ「何か問題か?」

ハンジ「ちょっとだけ?」

リヴァイ「なんで」

ハンジ「だって、リヴァイの素って、可愛いからさ」

リヴァイ「は?」

思わぬ言葉に目を見開くと、

580: 2014/12/21(日) 22:05:00 ID:eBl8tnyw0
ハンジ「もう、キュンキュンしちゃう。独占出来ないのか。ちぇー」

リヴァイ「ええっと、それは一体、どういう意味だ?」

ハンジ「言葉の通りですよ?」

リヴァイ「もう少し詳しく説明してくれ」

ハンジ「潔癖症で神経質で粗暴で、口は悪いし、態度も悪いのに、根は優しくて不器用なお人好し。大体こんな感じ?」

リヴァイ「褒めているのか貶されているのか」

ハンジ「どっちもだよ。でも、それがリヴァイだと思っているよ」

リヴァイ「だから、それのどこが可愛いという結論になる」

ハンジ「人間らしいから、じゃない?」

リヴァイ「?」

ハンジ「これ以上は説明するの難しいよ!」

リヴァイ「俺は頭が悪いからだろうか。ハンジのいう事が理解出来ない時がある」

ハンジ「だとしたら、それは私の責任かもね。ごめん」

リヴァイ「いや、謝る必要はねえが………」

リヴァイは少々困ってしまう。

581: 2014/12/21(日) 22:05:22 ID:eBl8tnyw0
リヴァイ「案外、素の自分で仕事をやっても大丈夫だって分かってからは、こっちの方が仕事をやりやすいと感じるようになったが、不都合があるなら猫を被った方がいいだろうか?」

ハンジ「取引先の人の前では今も猫被っているんだよね?」

リヴァイ「見せているのは会社の人間だけだ。流石に外の相手には普段の俺は見せたくねえよ」

ハンジ「だったらいいよ。今のままで。その方が皆も安心すると思う」

リヴァイ「安心?」

ハンジ「あんまり完璧だと、人は離れていっちゃうもんだよ」

リヴァイ「そういうもんだろうか?」

ハンジ「そういうもんだよ」

リヴァイ「なら……まあいいか」

ハンジ「うん。私、そんなリヴァイに酔った勢いで求婚して本当、良かったと思っているよ」

リヴァイ「その件だが……なんかお前がそれをやらかしてから、会社の中で流行るようになったぞ」

ハンジ「え? どういう事?」

リヴァイ「ミカサは酔った勢いで求婚していろいろあってエレンと結婚したし、ペトラもこの間、オルオに絡んで同棲を申し込んでいた。まあ、あそこは惜しいところまでで済んだが、だんだんそういう習わしが出来上がりつつある」

ハンジ「えええええ?! 何それ! 皆、面白すぎる!!!」

ハンジが腹を抱えて笑っていると、

582: 2014/12/21(日) 22:05:53 ID:eBl8tnyw0
リヴァイ「まあ、一番面白いのはハンジだけどな」

とリヴァイは答えて苦笑する。

ハンジ「そう? でもそうかも? 私のアイデア、皆パクってくれたって事はそうだよね」

リヴァイ「まあな」

ハンジ「今後は皆、酔った勢いで求婚しちゃえばいいね! そしたら少子化問題もついでに解決だ」

リヴァイ「そうだな。ところでハンジ」

ハンジ「なあに?」

リヴァイ「復帰したばかりで申し訳ないが、2人目はいつ頃作る?」

ハンジ「ん~、お母さんが言うには、2人目は最低でも上の子とは2年、間を空けた方がいいんじゃない? って言われたよ」

リヴァイ「あと大体一年後か……」

ハンジ「お預けプレイ好きな癖に♪」

リヴァイ「過去最大のお預けだな。まあ、いい。先がその分楽しみだ」

そう言いながらリヴァイは笑って、釣られるようにハンジも笑い、談笑していた。

キース(やれやれ。一応、わしも営業部の部屋の中にいるんだが、あいつら全くこっちの事を気にしてないな)

キース(仕事中だってのに。まあ、ピクシス部長の時代はもっといろいろ酷かったが)

583: 2014/12/21(日) 22:06:23 ID:eBl8tnyw0
と、キース営業事務主任はこっそり思っていた。

すると我慢出来なかったのか、営業事務のナナバが遂に突っ込んだ。

ナナバ「おい、あんたら、いつまで新婚気分やってるの」

ハンジ「あ、ナナバいたんだ?」

ナナバ「いるに決まっているでしょうが。全く……子作りの計画は家でやりなさい」

ハンジ「いっけね☆ それもそうでした」

リヴァイ「すまん」

ナナバ「事務関係も変更している部分があるから。引継ぎやるよ。少しハンジ借りるから」

リヴァイ「ああ。頼む」

そしてリヴァイは、背を伸ばして、肩をコキコキ鳴らして呟いた。

リヴァイ「………そろそろ仕事するか」

営業最強の異名は伊達ではない。

一度集中して処理を始めるとその速度は人の3倍は早かった。

エルヴィンもハンジも早い方ではあるが、リヴァイの最も早い部分は身支度だ。

取引先と会う為の必要な書類を揃え、スケジュールを確認し、外見をチェックして外出準備をする。

584: 2014/12/21(日) 22:06:52 ID:eBl8tnyw0
この間、3分で終わらせる。カップラーメン並みの時間しかかからない。

リヴァイ「では、外回りに行ってくる」

ハンジ「うん。いってらっしゃーい!」

そして営業最強の男は、今日も外の世界を颯爽と駆け回るのだった。

ハンジ「酔った勢いで求婚したら」(終わり)

585: 2014/12/21(日) 22:10:54 ID:eBl8tnyw0
クリスマスまでに投下、間に合った……(感無量)
地味に大変な作業だったけど、間に合って良かった。

という訳で、リヴァハンメインの現パロでした。
こちらの板にはリヴァハンが無さげ(?)だったので、リヴァハンを試しに投下してみました。
ここの板を読みに来ている人はどのカプが多いのかさっぱりですが、
とりあえずお試しという事でやってみました。

もし需要が今後も有れば、思いつく限り何か投下します。
ではまた次回作で。ノシ

586: 2014/12/21(日) 22:28:00 ID:Tznwuows0
楽しませてくれてありがとう乙

本屋の話はあなたじゃないんだ
勝手に同じかたなのかと思ってた

587: 2014/12/21(日) 23:26:58 ID:eBl8tnyw0
バレタwwww
本屋現パロも書いている人です。

とりあえず、1本は完結させた上で投下し始めて(この作品)、
本屋の方は未完の状態で書き溜めてから投下開始しました。

とりあえず、リヴァハン需要あんのかな?
と不安に思いながら投下始めたのですが、
ぼちぼちありそうな感じですね。良かった。

589: 2014/12/22(月) 00:34:35 ID:bQkU8zA60
乙乙
あまり反応ないように思うかもだけど、この板それなりに見てる人いるよ

590: 2014/12/22(月) 05:47:25 ID:59vyiPho0
長い髪もあなたなのか
あちらも追いかけてる
好きだよ、凄く

もしかして、アルミンの考えたゲームを皆でするやつも?

引用: ハンジ「酔った勢いで求婚したら」