369: ◆cKpnvJgP32 2014/03/14(金) 02:29:42.22 ID:xiUXk64co



モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」シリーズです


前回はコチラ



書き上がった勢いのまま投下
後は野となれ山となれ

370: 2014/03/14(金) 02:30:10.16 ID:xiUXk64co
ピィ「いかん、飲み過ぎた……」

――基本的に、そう思った時にはもう色々と遅い。

――ぐらぐらと世界が揺れ、ただでさえぼやけた視界の焦点は定まらず、一箇所を見続けることすら困難だ。

――猛烈な吐き気が込み上げ、頭痛がぐわんぐわんと容赦なく苛み、

――『あぁ、これは明日まで残るな』と思うと更に憂鬱までが襲ってくる。

――足元が覚束ない。判断力が低下している。気分の昂ぶりと落ち込みの差が激しい。

――こんな状況だから酔っぱらいというのは何をしでかすのかわからない。自分自身でも。

――ただし、案外思考というのは冷静だったりするものだ。


――会計だってちゃんと済ませてから居酒屋を出たし――ちなみに次の日、

ぐしゃぐしゃになったお札が財布の中に乱暴に突っ込まれてたりする――、

――ひどく眠くて歩くことすら億劫だが、せめて家には帰らなければ、と。

――……そのくらいの常識というか良識くらいは残っているはずだと思うのだが、

――酔いつぶれたサラリーマンなんかが道端で眠りこけている姿を見るだに、

――ああ、酒というのは恐ろしいものだなと改めて感じる。

――あれはペースや量を間違えると圧倒的な力でもってこっちを屈服させにくるのだ。


ピィ「屈しニャい!!!」

――ほら、屋外なのに大声でこんな独り言とか叫んじゃう。

――酔っぱらいって嫌だねぇ、本当に。

ピィ「盛大なブーメラン」

――……虚しい。
----------------------------------------



それは、なんでもないようなとある日のこと。
その日、とある遺跡から謎の石が発掘されました。
時を同じくしてはるか昔に封印された邪悪なる意思が解放されてしまいました。

~中略~

「アイドルマスターシンデレラガールズ」を元ネタにしたシェアワールドです。
・ざっくり言えば『超能力使えたり人間じゃなかったりしたら』の参加型スレ。



371: 2014/03/14(金) 02:30:36.60 ID:xiUXk64co
――明日は仕事が休みだ。

――ということで、たまには飲みにでも行こうと思い、

――……本当は誰かを誘おうともしたのだが、随分遅い時間まで残業していたため俺以外誰も居なかった、

――ので、結局一人で晩酌をすることになり、

――別段、そのことに関して特に不満なんかは無かったのだが、

――それとは別に色々と……、自身の現状に思うところがあって、ついつい深酒をしてしまった。

――その結果が……、

ピィ「どっかに一億円落ちて無ぇかなぁ~!!」

――この面倒くさい酔っぱらいである。


ピィ「冷静に考えるとあれだよな」

ピィ「一億円とか何に使うんだろうな」

ピィ「一般ピーポーの俺なんかに高級志向とか無いし」

ピィ「今欲しい物だってたかだか数十万あれば全部揃えられるしなぁ」

ピィ「ただ一生遊んで暮らす、ってなると今度は一億じゃちょっと足らんなぁ」

ピィ「中途半端だな、一億円って」

――黙れ、お前に一億円の何がわかるんだ。

――……などと自身の発言に対して脳内でツッコミを入れ始めるようになると、

――いよいよ、ああ俺酔っ払ってるなぁ、なんてしみじみと自覚しだすのだが、

――依然、傍目からどのような奇異の視線を集めているか、なんてことにまでは考えが至らない。

372: 2014/03/14(金) 02:31:02.33 ID:xiUXk64co
ピィ「あぁ、電話とかすりゃよかったかな」

ピィ「楓さんなら『一緒にお酒を飲みませんか』とか言えば来てくれたかもしれないし」

ピィ「もし楓さんと飲めてたら、今日だってだいぶ楽しかったろうになぁ」

ピィ「あの人は本当、美人だし、それでいて面白いし、お酒好きで、一緒に飲むには最高の相手なんだけどなぁ」

ピィ「無理を言ってでもお願いすればよかったなぁ~」

ピィ「あぁ~、素敵だなぁ~楓さんは」

ピィ「焦がれるっ!! 結婚したいなぁ~!!」


ピィ「あぁ、ちひろさんだって俺の帰る一時間前までは一緒にいたんだしなぁ」

ピィ「すぐに連絡すればどこかでお茶でも飲みながらのんびりしてたかもしれないんだよなぁ」

ピィ「ちひろさん!」

ピィ「ちひろさんとお酒!」

ピィ「飲みたかったなぁ!」

ピィ「やー、ちひろさんだってよくよく見れば綺麗な人だもんなぁ」

ピィ「スタイルもいいしなぁ」

ピィ「ちょっとお金にがめついけど、おっOい大きいしなぁ」

ピィ「事あるごとにぷるんっぷるん揺らしてくるんだもんなぁ」

ピィ「揉みたい!(直球)」

373: 2014/03/14(金) 02:31:28.91 ID:xiUXk64co
ピィ「藍子っ……」

ピィ「あぁぁぁあああ藍子ぉぉぉおおおぉぉぉ……!!」

ピィ「仕事終わりにもし事務所で飲んでたらさぁっ!! 藍子にさぁっ!!」

ピィ「藍子にお酒注いでもらいたいなぁああああああ……っっっ」

ピィ「その時の調子に合わせた丁度いい濃さのお酒を作ってくれるんだろうなぁ」

ピィ「『飲み過ぎたらダメですよっ!』ってうっすーいのを注いでくるんだろうなぁ」

ピィ「愛してるっっっ!!!」

ピィ「チューしたいよぉお!!」

ピィ「あっ、あいこっっ、藍子ぉぉぉおおおおおおお!!!!!」


ピィ「美玲いいぃぃぃぃぃ!!!!」

ピィ「どうせ周子に付き合わされてるんだろっ!!」

ピィ「酒飲みがどんだけ面倒くさいかわかってんだろおぉぉ!!」

ピィ「酔っぱらいとの付き合いを弁えた振る舞いをされたい!!」

ピィ「『まったく、今日だけだかんなっ!』って言われてぇえ!!」

ピィ「よしっ、今日だけ付き合えっ!!」

ピィ「俺と付き合ええええぇぇぇ!!!」

ピィ「美玲っ!」

ピィ「抱きしめたいなぁ! 美玲!!」

374: 2014/03/14(金) 02:31:55.33 ID:xiUXk64co
ピィ「みっおぉおおお!! 未央ぉぉぉおおお!!!」

ピィ「天使だかなんだかしらんがな!! 工口い体しやがって!!」

ピィ「15歳だと!!?」

ピィ「工口い!!(確信)」

ピィ「ナイスバディ!!」

ピィ「抱きたい!!(直球)」

ピィ「工口い!!(5秒ぶり2度目)」

ピィ「……あーっ! 未央はいい子だよなぁ」

ピィ「ぶっちゃけ……、好きだぜ!!」


ピィ「周子っ……、周子ぉ……っ!」

ピィ「いい女だお前は……」

ピィ「本当っ、なんだ、いい女……」

ピィ「それでいて悪女……、悪女だよお前はぁ……」

ピィ「でもなぁ、どうしようもなくそこに惹かれるんだ……、周子ォー!!」

ピィ「手に入れたいなぁ!」

ピィ「俺のものにしたくなるんだ!! 周子ぉぉおおお!!!」

375: 2014/03/14(金) 02:32:22.10 ID:xiUXk64co
ピィ「アーニャッ!!」

ピィ「綺麗だなぁっ!! 惚れ惚れする!!」

ピィ「息を呑む程の白い肌!! 目を惹く美しさ!!」

ピィ「触りたい!!」

ピィ「あの肌に触りたいなぁー!!」

ピィ「撫で回したくなる!!」

ピィ「あ~~~~、にゃーーーーーーーーー!!!!!」


ピィ「紗理奈さんはもっと俺に優しくしてください(真顔)」

ピィ「俺のこと誘ってくるけど、絶対罠だもんなあれ……」

ピィ「近づいたら、バクッ! って食われる、きっと」

ピィ「……でも、工口いんだよなぁーー!」

ピィ「耐えるのが、しんどい!」

ピィ「負けそう」

ピィ「負けちゃおっかな?」

ピィ「負けちゃえー!」

ピィ「屈しニャい!!!(5分ぶり2度目)」

376: 2014/03/14(金) 02:32:49.79 ID:xiUXk64co
ピィ「晶葉っ! 晶葉ァ!!」

ピィ「可愛い!」

ピィ「ジト目可愛い!」

ピィ「ツンツンされるのが癖になる!!」

ピィ「あのツインテぴこぴこさせたい!!」

ピィ「あと!」

ピィ「ぶっちゃけ!」

ピィ「ぶっちゃけ!!」

ピィ「……っ」

ピィ「――調教したい(マジなトーンで)」

ピィ「……」

ピィ「うん、まぁ……、さすがにそれは(アカン)」


ピィ「師匠……、師匠なぁ……」

ピィ「愛海なぁー」

ピィ「黙ってれば可愛いんだけどなぁ……」

ピィ「本当……」

ピィ「あと」

ピィ「揉んでいいのはッッ!!!」

ピィ「揉まれる覚悟のあるやつだけだぞッッッ!!!!!」

ピィ「愛海ぃぃぃいいいいいい!!!!!!」

ピィ「覚悟はいいか!! 俺はできてる!!!!」


ピィ「千枝ちゃん、薫ちゃん、メアリー!!」

ピィ「君たちも全然イケる(意味深)ぜ!!」

ピィ「お巡りさん!! 俺です!!!」

377: 2014/03/14(金) 02:33:16.19 ID:xiUXk64co
――酔っぱらいの発言や回答などに正当性、合理性を求めてはいけない。

――論理的な思考とか、倫理観とか、思慮とか、配慮とか、遠慮とか、矜持とか、良心とか、恥とか、外聞とか、

――そういったフィルターは大体取っ払われていると思うといい。

――例えば『人類は地球の為に滅ぶべき種である』というような過激な思想を、僅かでも抱いたことのある人は少なくないだろう。

――が、それを真剣に語る人は少ない。

――思想、というか思考と発言の間に上記のフィルターが噛んでいる為である。

――――酔っぱらいにはそれが無いのだ。

――つまり、何というか、


――――ドン引きです……。


――いや、本当何だこのテンション。自分で自分の正気を疑うレベル。

――知り合いには絶対に見られたくない。

――というか知り合いじゃなくても見られたくない。

378: 2014/03/14(金) 02:33:42.43 ID:xiUXk64co
――周りに誰も居ないよな?

――と、にわかに冷静になってきた頭をゆらゆらさせながら辺りを見回す。

ピィ「よし、大丈夫だな」

――もうだいぶ夜も更けてきたからか、幸い人影は見当たらなかった。

――まぁ、気づかぬうちに誰かに目撃されてたりする可能性とか、

――大声で喋ってたから、見られずとも近くの人にはあの気持ち悪い発言を聞かれてた可能性があるが。

――そこまではどうしようもない。


ピィ「まぁいっか、なんかどうでもいいや」

――多分明日にはどうでもよくないことになってるんだろうが、

――それは明日の俺に任せよう。

379: 2014/03/14(金) 02:34:08.44 ID:xiUXk64co
ピィ「いやぁ、俺の周りには美少女がいっぱいいて楽しいなぁ」

ピィ「みんないい子だし、毎日彼女たちに会えるのが嬉しくてたまらないよ」

ピィ「あれ? 俺って幸せなんじゃね?」

ピィ「幸せやったー!」

ピィ「おすそ分けしたい!」

ピィ「おすそ分けしたいくらい幸せ!」

ピィ「よし、しよう! できないけど!」

ピィ「まぁ、仮にできるとしてー」

ピィ「誰にあげようかなぁ……」

ピィ「うーん」

ピィ「みんなだな、うん」

ピィ「みんなにあげたいなぁ、幸せ」

ピィ「俺の幸せみんなにあげたい!」

380: 2014/03/14(金) 02:34:35.21 ID:xiUXk64co
ピィ「だってみんな頑張ってるもんなぁ」

ピィ「俺より年下の子の方が多いのに」

ピィ「能力があったり」

ピィ「戦える力があったり」

ピィ「悩みがあったり」

ピィ「みんなそれぞれ抱えてるんだもんなぁ」

ピィ「それでもみんな笑顔だもんなぁ」

ピィ「俺なんて全然頑張ってないからなぁ」

ピィ「……」


ピィ「あー」

ピィ「何やってんだろうな俺」

ピィ「こんなになるまで酒飲んでる場合じゃないだろ」

ピィ「他にやるべきことがあるだろうに」

ピィ「俺は俺の仕事をしなきゃ」

ピィ「俺の仕事……」

ピィ「俺の仕事は、みんなのことを……」

――そうだ、何で今日こんなに飲んでいたのか思い出した。

――ヤケ酒だったんだ。

381: 2014/03/14(金) 02:35:01.78 ID:xiUXk64co
――俺はピィ。

――Pだ。

――プロデューサーだ。

――『プロダクション』のプロデューサーだ。

――『プロダクション』に所属するみんなのことをプロデュースするのが俺の仕事だ。

――俺の役目だ。


――だが、俺はその役目を果たせているんだろうか?

382: 2014/03/14(金) 02:35:29.03 ID:xiUXk64co
女性「あら、あなた、こんなところで寝ていたら襲われちゃうわよ」

ピィ「……んが………」

――寝ていたつもりは無かったのだが、

――何かと考えすぎた末、……まぁお酒が入っていたこともあり、

――落ち込んで電柱のそばでへたり込んでいたところ、急に誰かから声を掛けられた。


――誰だろうか。

――見たところ、知り合いではない。

――妙齢の女性、といった表現が実に似合う人だ。

――艶やかな雰囲気を纏った、いかにも『オトナの女性』。

――俺よりもいくつかは歳上だろう。

――素直に綺麗だと思う。

――……そのあまりの凄艶さに圧倒されてしまう程に。


女性「男だからって油断しちゃダメよ?」

女性「特にあなたみたいな色男は……、ね。ふふっ」

383: 2014/03/14(金) 02:35:55.42 ID:xiUXk64co
ピィ「ははは……、いやぁおねーさんみたいな人に襲ってもらえるなら大歓迎なんですけどねー」

――咄嗟に、冗談ともお世辞とも本音ともつかぬ軽口を叩いてしまった。


女性「あら、嬉しい事言ってくれるじゃない」

女性「……でも、あなた少し飲み過ぎね」

――そんなどうでもいい下らない発言に、彼女は真面目に付き合ってくれた。

女性「すぐそこに私の店があるから寄って行くといいわ」

女性「今閉めたところなんだけど水くらいなら出すわよ」

384: 2014/03/14(金) 02:36:23.98 ID:xiUXk64co
――促されるまま、照明の落ちた店舗の中に足を踏み入れる。

――女性がパチンとスイッチを入れ、薄暗い明かりが店内を灯すと、

――そこには、オシャレな大人の雰囲気漂うバーが存在した。

女性「こういうのは初めてかしら?」

ピィ「……えぇ、まぁ」

女性「ふふ、素直でいいわね」

――二人きりとはいえ……、いや、だからこそか、

――少し、気後れしてしまう。

――彼女の言うとおり、バーという場所に来るのは初めての体験だった。


女性「そういえば自己紹介がまだだったわね」

礼子「私は望月礼子」

礼子「このバーのマスターをやっているわ」

礼子「といっても、今は殆ど別の子に任せているんだけどね」

――そう言って彼女、望月礼子さんは自己紹介をした。

礼子「ちなみに旧姓は高橋よ」

――……その情報は必要なのだろうか。

385: 2014/03/14(金) 02:36:55.39 ID:xiUXk64co
礼子「下の子がまだ小さくてここには中々来れないのだけど」

礼子「それでも、やっぱり私の店だから、って」

礼子「せめて月一回とか二回くらい、顔を出す程度のことはしているの」

礼子「今日はたまたま、その日だったのだけれども」

礼子「……ふふ、巡り合わせというのはわからないものね」

――グラスに水を汲みながら、礼子さんが小さく笑う。


ピィ「下の子……、ってことは他にもお子さんが?」

礼子「ええ、ちょっと歳は離れてるんだけど、もう一人女の子が上にね」

――ずけずけと気になったことを質問する俺に対して、礼子さんは特に気にした様子もなく、

――……若干、心なしか少し思うところがあるような表情を浮かべたようだったが、

――しかし誇らしげな表情で、そう答えた。

386: 2014/03/14(金) 02:37:21.95 ID:xiUXk64co
礼子「まだ下の子は、本当なら私が付きっきりで世話してあげなきゃいけないくらいの歳なんだけど」

礼子「それを上の子がね……」

礼子「『大丈夫、私がお世話をするから』って」

礼子「『お母さんはお仕事をしていいよ』って言ってくれるの」

礼子「ふふっ、……よく出来た子でしょ?」

礼子「自慢の娘なのよ」

礼子「私にはもったいないくらいに……、ね」

――……成る程、先ほどの神妙な表情にはそういった事情があったのか。

――と思うと、酒乱モードの俺はつい要らぬことを言ってしまいがちになるのだった。


ピィ「……もったいない、なんて事は無いと思いますよ」

礼子「あら、そうかしら?」

――礼子さんから水の入ったグラスを受け取り、それを一息に飲み干すとなおも俺は言葉を続けた。

387: 2014/03/14(金) 02:37:48.07 ID:xiUXk64co
ピィ「お子さんの話をしてた時の礼子さんの顔を見ればよくわかります」

ピィ「その子をとても大切に想っているんだな、という事が」

ピィ「今ちょっとお話を聞いただけで、その子も凄くいい子だと感じました」

ピィ「お母さん思いと、お子さん思いで」

ピィ「素敵な親子じゃないですか」

ピィ「きっと礼子さんがお母さんとして理想的だからこそ」

ピィ「お子さんも立派に育ったんだと思います」

ピィ「もったいない、なんて言ったらそれこそもったいないですよ」

ピィ「だいたい、俺みたいな面倒くさい酔っぱらいを介抱してくれるような人が悪い人なわけ無いです」

――ああ、俺今ものすごく偉そうなことを言ってる。

――管を巻きながら他人の家庭事情に口を挟んで、なにやってんだ。

――でも、仕方ないじゃないか。

――少し話しただけで、彼女がとても魅力的な人だとわかってしまった。

――そんな人が自分を卑下するような事を言うんだ。

――「それは違う」と声をあげたくもなる。

388: 2014/03/14(金) 02:38:13.86 ID:xiUXk64co
礼子「あなた……」

ピィ「……」

――いかん少しでしゃばりすぎた。

――いや、少しどころじゃないな。流石に気を悪くしただろうか?

礼子「思ってた以上に色男だったわね」

礼子「いい歳してちょっとときめいちゃったわ」

――どうやらそうではないらしい。

――余計なお世話だったろうかと心配していたが、ひとまず胸をなでおろす。


礼子「私が独り身だったらあなた、食べちゃってたかも」

ピィ「ハハハ……」

――食べられたかったなぁ。

389: 2014/03/14(金) 02:38:39.96 ID:xiUXk64co
礼子「まぁ、そうね。『もったいない』は失言だったわ」

礼子「確かにちょっと私らしくなかったわね……、って」

礼子「初対面のあなたにこんなことを言っても仕方ないか」

――どうやら元気を取り戻したらしい礼子さんは、ゆっくり頷きつつ……。

礼子「お礼、という訳では無いのだけど」

礼子「今度は、……あなたのお話を聞かせてもらえるかしら?」

ピィ「……へ?」

――思わぬ興味を俺に対して示し、

――話は想定外の方向へ向かっていくのであった。

390: 2014/03/14(金) 02:39:06.94 ID:xiUXk64co
礼子「見たところ、あなた……」

礼子「何か悩みを抱えているでしょう?」

礼子「隠していてもわかるわよ」

――ぐぬぬ……。

――これが年季の違い、というやつだろうか。

――……いや、それとも。

――彼女の視線から感じる、まるで心の内を見透かされているような……。

ピィ「ひょっとして、能力者……?」

礼子「ふふっ、たまに勘違いされるけど、答えはノーよ」

――違った。

――なんだか妙に恥ずかしい。


――つーか誰だ、俺に『能力者を見分ける才能がある』とか言ったのは。

――ああ、ちひろさんだ。あの守銭奴め。口からデマカセばかり言いおって

ちひろ『そんな設定(笑)もありましたね』

――黙れ俺の脳内ちひろ。揉むぞ。

391: 2014/03/14(金) 02:39:33.28 ID:xiUXk64co
礼子「女の勘と年の功ってやつよ」

礼子「あとはまぁ、ケイケンの差かしらね」

礼子「もっとも、あんな顔してたら私じゃなくても気づくと思うけど」

――礼子さんは妖艶な微笑を浮かべながら、さっきの読心の手品を明かしてくれた。


礼子「さ、出してスッキリしちゃいましょう」

――悩みをですよね。

礼子「それとも、私にだけさせるのかしら?」

――相談をですよね。

礼子「一人でデキないのなら、私が手伝ってあげるわよ」

――解決をですよね。

392: 2014/03/14(金) 02:39:59.58 ID:xiUXk64co
――実際、いくら冗談めかしてみたところで『悩みがある』ということに変わりはない。

――自分一人では解決できそうにない、というのも事実だ。

――それに、彼女の話を聞いてしまった手前、こっちも言わないとなんとなく不公平な気がする。

――というか、俺に悩みがある、と見抜いた上で先に自分の身の上話を切り出したということは、

――ひょっとすると、悩みを打ち明けやすくするための俺への配慮だったのだろうか。

――と思うと、この人になら相談してみてもいいかもしれないという気持ちが強くなってくる。

――ただの愚痴になってしまうかもしれないが、それでも聞いてもらいたい。


ピィ「俺は……」

393: 2014/03/14(金) 02:40:25.73 ID:xiUXk64co
ピィ「詳しくは言えませんが、能力者と関わる仕事をしています」

ピィ「能力者は女性が殆どで、俺より年下の子も少なくありません」

ピィ「皆どこにでもいるような普通の――若干の例外はあれど、そんな子たちです」

ピィ「能力がある、という事を除けばですが」

ピィ「俺の仕事は、いわばそんな『普通の能力者』を支援することです」

礼子「素敵なお仕事じゃない」

ピィ「はい、俺もそう思います」

ピィ「ただ、だからこそ……」

――ぐっとこみ上げてくる感情を堪えながら。

ピィ「……俺はちゃんと、こなせているんだろうか。と」

394: 2014/03/14(金) 02:41:00.47 ID:xiUXk64co
ピィ「俺には能力者の気持ちがわからないんです」

ピィ「いや、わからないって事は無いけれど」

ピィ「最終的な、本当の苦悩という部分……」

ピィ「そこを俺はわかってあげられない」

ピィ「何もしてあげられない」

ピィ「それが……、もどかしい」

――わかってあげられない、という思いは初めて楓さんに出会った時に抱いたものだ。

――念じただけで人を殺せる、というのはどういう感じなのだろうか、と。

――口が裂けても「その辛さ、わかります」とは言えなかった。

――今でもなんと言葉を掛けてあげればよかったのかわからない。


ピィ「もし俺にも特別な力があれば……」

――そう思わずにいられないことは、多々あった。

――辛い気持ちをわかってあげられるかもしれないのに。

――そして、

――――皆を守ってあげられるかもしれないのに。

395: 2014/03/14(金) 02:41:27.15 ID:xiUXk64co
――何度無力感を味わったかしれない。

――楓さんのこともそうだが。

――『憤怒』の街の時も。

――『プロダクション』が襲われた時だって。

――俺は、ただ見ていることしかできなかった。


――目の前でアーニャが無残に捻り潰されても、俺には何もできなかった。

――氏ななかったから良いという話ではない。

――俺は大切なものを守れなかった。

――悔しかった。

――悲しかった。

――また同じような事が起こったら……、

――と思うと、今度は恐ろしくなってくる。


――誰も失いたくない。

――だが俺には何の力も無い。

――俺は……。

396: 2014/03/14(金) 02:41:58.76 ID:xiUXk64co
ピィ「……ダメだ、どうにも考えがまとまらない」

――酒のせいもあるのだろうが、感情がぐるぐると胸の中を渦巻いている。

――何に悩んでいたのか。

――どうすれば解決するのか。


――心のどこか奥底に、何だかんだ言ってヒーローへの憧れがあって、それを捨てきれていないのはわかる。

――誰かを守れる強い力が欲しいというのも本当だ。

――そして、それが叶わないという事も知っている。

――――だから、それは俺の役目じゃない。


――代わりに俺は皆に頼ることにしている。

――勝手にだが、アーニャに思いを託していたりもする。

――俺にできることは、そんな皆を支えてあげることだ。

ピィ「そう、俺はただ、今以上にもっと皆の力になりたいだけなんだ……」

――根幹にあるのは、とてもシンプルな気持ちだった。

397: 2014/03/14(金) 02:42:27.17 ID:xiUXk64co
礼子「優しいのね」

――静かに俺の話を聞いてくれていた礼子さんが、口を開いた。


礼子「あなたの……、ってそういえば名前を聞いていなかったわね」

ピィ「……一応、ピィと名乗っています」

礼子「コードネームか何かかしら?」

ピィ「事情がありまして」

――まぁその『事情』とやらを、俺もよく知らないのだが。


礼子「そうね……」

礼子「ピィのさっきの言葉をそっくり返すようだけれど」

礼子「あなたが職場の皆を大切に想う気持ち、凄く伝わってきたわ」

礼子「だからこそ皆の為に、って意気込むのはわかるけど」

礼子「気持ちが先走っちゃってるわね」

――指先で何かをすくい、舐めとるという意味深なジェスチャーを交えながら、

――礼子さんは続ける。

礼子「思い詰めすぎよ」

398: 2014/03/14(金) 02:42:58.00 ID:xiUXk64co
礼子「気負わなくても、ピィは今のままのピィでいればいいのよ」

礼子「あなたのような『真剣に自分に向かい合ってくれる人』がいるってだけで、」

礼子「その子たちはとても恵まれているし。きっと皆ピィを尊敬しているんじゃないかしら?」

――……そう、なんだろうか。


礼子「それでも納得いかない?」

礼子「――なら、そうね……」

礼子「ピィは、生きていく為に必要な事って何だと思う?」

ピィ「え?」

――唐突な質問に面食らってしまった。

――生きていく為に……?

ピィ「食事とか、睡眠とか……ってことですか?」

礼子「そうね」

礼子「じゃあ、それってどこでする事かしら?」

ピィ「……」

――礼子さんが何を言いたいのかわからない。

――この問答にどんな意味があるというのだろう。

399: 2014/03/14(金) 02:43:23.68 ID:xiUXk64co
ピィ「基本的には、自宅で……だと思いますけど」

礼子「どこでもできる、とはいえ、やっぱりベストはそこよね」

礼子「あなたはそんな場所になればいいのよ」

ピィ「……はい?」

――今なんて?


礼子「能力を持った子が、周りと違うことに悩んだり」

礼子「ちょっとした迫害を受けたりする事があるのは知ってるわ」

礼子「こう見えて、職業柄色々な人と接してきたから」

400: 2014/03/14(金) 02:43:52.43 ID:xiUXk64co
礼子「帰れる場所がある。心休まる場所がある。ゆっくり出来る場所がある」

礼子「何がなくとも、それさえあれば人はいくらだって頑張れる」

礼子「たった一言「おかえり」を言ってあげるだけでもいい」

礼子「それだけで、人は明日への活力を得られるものなのよ」

礼子「経験ないかしら?」

ピィ「どう、でしょう……」

礼子「ふふっ、気付いてないだけなのかもね、それが当たり前すぎて」

礼子「でも重要なことよ」

礼子「疲れてヘトヘトになって、帰り着いた場所に」

礼子「ただ「おかえりなさい」を言ってくれる人がいること」

礼子「それがどれほど心の支えになるかっていうこと」

401: 2014/03/14(金) 02:44:26.63 ID:xiUXk64co
礼子「あなたが」

礼子「あなたの居る場所が」

礼子「そんな場所になればいいのよ」

ピィ「俺が……?」

――『プロダクション』みんなの『帰る場所』に……?


礼子「思うに、もう既になっていると睨んでいるんだけど」

礼子「だからこそ『今のままでいい』って、そう言ったのよ」

ピィ「……」


――仮に、

――もし、

――本当に、俺がいることで……。

――俺が……、ただいるだけで。

――皆の、心の支えに……

――なってあげられて……、いるのだとしたら……。

――それは……。

――俺に……とっても………。

――……どれほど、幸福な………。

402: 2014/03/14(金) 02:44:59.92 ID:xiUXk64co
―――

――



志乃「お邪魔するわね」

周子「あー……、やっぱりいた」

――礼子の店に、新たに二人の客が訪れた。

礼子「あら、二人とも暫くぶりじゃない」

志乃「えぇ、久しぶりね」

周子「久しぶりー、っと……」

周子「本当は一杯やりたいところなんだけど」

周子「あたしはそっちの男に用があるんだよねぇ」

――周子は、カウンターで眠りこけているピィを見ると、

――苦笑いを浮かべ、そう言った。

礼子「あら周子、ピィと知り合いなの?」

周子「まぁね」

周子「ほら、ピィさーん、終電ですよー」

ピィ「……むにゃあ」

周子「ダメだこりゃ」

403: 2014/03/14(金) 02:45:27.85 ID:xiUXk64co
ピィ「しゅーこかー……」

周子「はいはい、しゅーこさんですよ」

――ピィは礼子の話を聞き終わると、気が抜けたのか睡魔に白旗を揚げ、

――だらしなくその快楽に身を委ねてしまったのだった。

ピィ「おれのしゅうーこぉー」

周子「お酒に飲まれてるようじゃまだまだだね、あたしはそんなに安くないの」

ピィ「ほしぃ……」zzz

周子「ほら、肩かして、家まで送るから」

ピィ「ぐー……」


礼子「あらあら」

志乃「あらあら」

周子「変な邪推禁止!」

404: 2014/03/14(金) 02:46:05.14 ID:xiUXk64co
周子『じゃ、この世話のやけるプロデューサーを送ってくから』

周子『もし帰ってきてまだ時間があったらその時に』


礼子「……って言ってたけど」

志乃「最近周子さんは彼にもお熱みたい」

志乃「まったく、何人好きな人が欲しいのかしら」

礼子「私も昔はよく彼女に言い寄られたわ」

礼子「懐かしいわね……」

志乃「彼にもあるのよ」

志乃「貴女のような素質が」

礼子「またその話?」

礼子「私にはそんなものは無いって言ってるのに」

志乃「それがあるのよ」

志乃「確かに能力ほど明確なものではないし」

志乃「見た目にわかるような物は何も無いけど」

志乃「でも、確実に……、ね」

405: 2014/03/14(金) 02:46:33.29 ID:xiUXk64co
礼子「わからないわね」

志乃「永く生きていると、何となくだけどわかるようになってくるのよ」

志乃「周子さんは『カリスマ』とか言ってたかしら」

礼子「まぁ、話半分に聞いておくわ」

志乃「ふふ……、貴女のそういうところ、好きよ」

礼子「好き、って言われるのは悪くないわね」

志乃「ふふ……」

礼子「ふふっ……」

406: 2014/03/14(金) 02:47:27.17 ID:xiUXk64co
志乃「私、貴女に会えて本当に良かったと思うわ」

礼子「なぁに急に?」

――志乃は、アルコールの注がれたグラスを礼子から受け取ると、

――唐突にそんなことを告げた。


志乃「私に人間の可能性を教えてくれたのは、当時、年端もいかない女の子達」

志乃「そして、そんな子たちにお節介を焼いてた一人の男性」

――懐かしむように、志乃が昔話を始める。

志乃「その後しばらく目的を失って、当てもなく彷徨っていた私に」

志乃「この星の娯楽を教えてくれて、更に交友関係を広めてくれたのが、怖ぁ~い狐さん」

――言いながら、小さく身を震わせるような仕草を取り、杯に口を付ける。

志乃「人を慈しむ事、思いやる事、支えてあげる事」

志乃「それがどんなに幸せなことか教えてくれたのは、私の自慢の娘」

――ここではない、どこか遠く。

――恐らくはその娘、ほたるへ注がれる愛しさをグラスに向け、一気に飲み干す。

志乃「でもね、一番はこれ」

――最後に、中身の空になった盃を小さく掲げ、礼子を見やる。

志乃「お酒」

志乃「今や私の一部と言っても差し支えないわ」

志乃「貴女が教えてくれたものよ」

407: 2014/03/14(金) 02:47:57.24 ID:xiUXk64co
――夜も更け、閉まったバーに二人。

――志乃と礼子。

――静かに語らい、優雅に談笑する。


――後に周子も加わり、女三人姦しく、それでいて大人の淑やかさで、

――明けるまでしっとりとした時間を過ごした。

――この日。

――悪事をもたらす超常の件数が極端に少なかった、ということが、

――彼女らの邂逅と深く関わっているかどうかは容易には知れない。

408: 2014/03/14(金) 02:48:30.94 ID:xiUXk64co
『カリスマ』

能力者、非能力者問わず、強く人を引きつける魅力を持つ人間にあるとされる素質。
人をまとめ上げ、信服させる才能に長けた人。
多くの人を支え、多くの人に支えられる人。
具体的にどう、という基準は無いが、ある程度強い力を持った者にならひと目でわかるものらしい。

巨大な組織の長にはこの『カリスマ』が備わっている事が多い。
例えば『プロダクション』の社長とか、サクライとか、TPとか、オーバーロードとか、ヨリコとか。
多分みんな『カリスマ』持ち。

望月礼子は静かに暮らしたいらしく、バーのマスター程度で収まっているが、本来ならもっと大きな器を持っている。

ピィにも備わっている物だが、彼は晩成形のためその真価が発揮されるのは20年か30年は経験を積んだ後である。
しかし『プロダクション』の皆を強く信頼し、同じように信頼される様は、仮にも彼が『カリスマ』持ちであることの表れでもある。

409: 2014/03/14(金) 02:48:59.57 ID:xiUXk64co
・以上です。

・志乃さん、周子をお借りしました。
若干、周子に関しては借りすぎてもはや借りパクの域だと感じる。

・そして勝手ながら礼子さんを拾わせて頂きました。
無能力者、非戦闘員、バーのマスターなどという設定を加えた上、
『カリスマ』持ちとかいう新たな設定を追加しました。

・『カリスマ』の設定に関しては
何も無いピィに、何かあげたかったっていうのもある。

・ウソみたいだろ。『プロダクション』襲撃前には既に書き始めてたんだぜ。これで……。
「年内に投下できればいいな……」とか。去年の末にのたまってたんだぜ……。
『ピィが礼子さんに悩みを聞いてもらう』というコンセプトは割りと以前からあったのだけど
「ピィの悩みって何よ?」という部分が難産難産アンド難産。
ついでに『プロダクション』襲撃事件があって、時系列をこれの前後どちらにしようか迷った部分も(責任転嫁)。

・他の人の書くピィがやたらイケメンだったりするのに対して
どうも俺が書くとヘタレになりがちなので、個人的な区切りというかケジメを付けるための回。
今後は多分、もう少し頼りがいのあるピィになる……、と思う。

・ピィは、バネPのようなイケメンな二枚目と、ぷちます!に代表されるような三枚目のPヘッド
……を足して2で割ったような性格をイメージしてます。あくまで個人的なイメージですが。

410: 2014/03/14(金) 03:10:24.61 ID:xiUXk64co
鳥を元に戻しておくれす



【次回に続く・・・】



引用: モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」 part9