511: ◆EBFgUqOyPQ 2014/04/03(木) 00:33:42.96 ID:mVMvEmUBo


モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」シリーズです


前回はコチラ


あと時系列は正月からしばらく後のことです

512: 2014/04/03(木) 00:34:09.81 ID:mVMvEmUBo
 よくわからない複雑な機械が敷き詰められた薄暗い室内で、白衣を着た研究員がせわしくなく動きまわっている。
 そんな部屋の中を一望できるような少し高くなっているところから、イルミナPは研究員らを椅子に座りながら見下ろしていた。

「よくもまぁせっせと働くものですよ。まぁここにいる私も人のことは言えませんが……」

 脳裏に過るのはいまだに炬燵でぬくぬくしているであろう唯と智絵里。
 そして傷は癒えても、いまだに疼く肋骨の痛み。

 あの後、検査したところ肋骨が数本ヒビが入っていることが判明した。
 なんだかんだで魔法などを駆使して完治させたものの、もはやイルミナPはあの場にいることは耐えられなかった。
 あれから暫く経過したがすでに完治しているはずの肋骨は思い返すだけで軋むように感じてしまう。

「まぁ……ヒビだけで済んだので良しとしますか……」

 イルミナPは少し青い顔をしながらそうつぶやく。
 今回語られることはないが、その表情から数々の事故があったことを物語っていた。
----------------------------------------



それは、なんでもないようなとある日のこと。
その日、とある遺跡から謎の石が発掘されました。
時を同じくしてはるか昔に封印された邪悪なる意思が解放されてしまいました。

~中略~

「アイドルマスターシンデレラガールズ」を元ネタにしたシェアワールドです。
・ざっくり言えば『超能力使えたり人間じゃなかったりしたら』の参加型スレ。



513: 2014/04/03(木) 00:34:46.07 ID:mVMvEmUBo

「イルミナP様、会議の準備ができました」

 そんなイルミナPの元に一人の研究員が話しかけてくる。

「ああ、すまないな。研究員のはずなのにこんな雑用まがいなことを頼んでしまって」

「はぁ……。でも研究もほとんど終わって、装置の安定調整や点検だけなんで今のところは暇なんですけどね」

「たしかに……そうなんだがな」

「というか去年って何かしましたっけ?」

 思い返せばイルミナティもずいぶんと息の長い組織である。
 そして近年の活動はいっそう活発になってきたのだが、それはあくまで内部での話であった。

 研究などはずいぶんと捗ってはいるが、外部に向けての活動はからっきしの状況であるといっても過言ではなかったのだ。

「ああ……いまだに『妖精の秘宝』は捕獲できていないし、『接点』の確保だってできていない。

唯はやる気はあるのに目的から脱線しがちだし、智絵里はそもそも放浪していて働かない……。

挙句の果てにはイルミナティは世界一の秘密結社と言ってもいいが、その威光に群がる金の亡者どもが多いせいで、一枚岩じゃない……。

去年こそチャンスはあったはずなのに……結局何一つ進展してないじゃないか」

514: 2014/04/03(木) 00:35:32.94 ID:mVMvEmUBo

 反省してみれば見えてくる組織としての粗。
 『境界崩し』実行への道のりはまだまだ遠いことが露見してしまう。

「まぁイルミナティの目的の全容を知っている者自体が少ないのも問題なんですけどね。

知ってるのは、あんた方化物トリオと我々イルミナP直属研究員、あとはその他ごく一部ってくらいでしょうし」

「なんかお前私の部下のくせに対応雑になってない?」

「気のせいですよー」

「……まぁいいさ。それも含めて、今年は活動的な計画もちょうど立ててあったしな」

 そんな自信ありげなイルミナPを見て、その研究員は目を見開いて驚いた顔をする。

「童Oは積極性が欠けるって聞きますけど、いったいどうしたんですかイルミナP様?

まさか……ついに卒業したんですか?」

「……お前ケンカ売ってんのか?」

「滅相もないですよー」

「……ともかく、今からイルミナティ議会を始める」

515: 2014/04/03(木) 00:36:03.99 ID:mVMvEmUBo

 イルミナPはそう言って席を立ちあがり、近くにある『通信会議室』と書かれた扉の方へ向かっていく。

「ああ……やっぱり卒業してないんですね」

 そんな研究員の声を無視して、イルミナPは扉へ近づく。
 それは自動扉になっていたため、反応して横にスライドして室内への道を開けた。
 中は明りが存在せず、真っ暗である。
 にもかかわらずイルミナPは迷いなく、その中へと入っていった。

 そして天井に備え付けられた照明が光を放つことによって、その室内の全容がはっきりする。
 壁面にはモニターとスピーカーが大量に埋め込まれており、大量のテレビによって壁が構成されているような室内。
 モニターの中には、影になっていてはっきりとは見えないが人影が一画面につき一人づつ映っている。

 画面越しではあるが、その大量の人影からの視線が部屋中央に立つイルミナPに集中しているようであった。

「さて、今回の会議を始めましょうか」

516: 2014/04/03(木) 00:36:55.99 ID:mVMvEmUBo


***



 東京湾が埋立てられ経済特区ネオトーキョーができた後も、元々の都心は衰退したわけではない。
 かつてに比べれば人通りも少なくなったのかもしれないが、それでもずっと若者を引き付けてきたこの街の活気は単純な見た目では衰えてはいなかった。

 ネオトーキョーは金の臭いや、最新技術による人類の最先端という威光は存在している。
 だがその無機質な街は、ただの遊びを求める若者にとっては心地のいい場所ではなかったのかもしれない。

 故に身近な娯楽などはこれまで通りの東京に集まり、若者たちはそれに引き付けられるように集い、人の波を作るのだ。

「I didn't mean to hurt you~♪」

 そんなこの通りの脇には整列させたように所狭しと若者を引き付けるような店が立ち並ぶ。
 道は人は流動的に流動的に流れ、その中で立ち止まって派手な格好の店員や、陽気な外国人が自分の店へと客を呼び込もうとしていた。

「I sorry that I made you cry~♪I didn't want to hurt you~♪」

 通りの半ばには円形にくりぬかれたように開けた広場となっており中央には小奇麗な噴水が決して広くはないこの広場を占拠していた。
 そして通りの上流と下流の流れが交差するように広場で人のうねりを作っていた。

 そんな噴水の縁に座る一人の少女。
 まるで絵本の中にでてくるようなふりふりのゴシックドレスを身に包んだ少女は機嫌のよさそうに歌を口ずさむ。
 その少女の存在は異質であったものの、奇抜な者も珍しくはないこの通りでは、通行人にとってはちらりと目を引く程度で特別気にするものでもなかった。

517: 2014/04/03(木) 00:37:43.74 ID:mVMvEmUBo

「I'm just a jealous guy~♪」

 ちょうど太陽は彼女の真上に位置しており、その長い髪の毛が陰になって少女の表情は読み取ることができない。
 そんな少女が傍らの小さなポリ袋を物色して何かを取り出す。

 平たい紙袋から取り出したのは、この通りで流行っている大きめのクッキーだった。
 少女はそれを両手で持って、眼前でしばらく眺める。
 そしてその小さな口で、ぱくりと一口。
 しばらく口を上下に動かした後、チ口リと舌を出して口の周りに付いたクッキーのかすを舐めとった。

「甘くておいしい。嫉妬しちゃうくらい甘いわぁー」

 少女の呟きは周囲の賑わいによって誰にも聞かれることはなかった。
 当然先ほどまでの口ずさむ歌声も、よっぽど近づかなければ聞こえないほどである。

「ここでゆっくり観光もいいけど、そろそろ探さないとねぇー」

 手元のクッキーを少し急いで口へと運ぶ。
 そしてリスのように口に溜め込んだ後に、こくんと喉を通って行った。

518: 2014/04/03(木) 00:38:27.54 ID:mVMvEmUBo

 少女が手に持っていたクッキーの入った紙袋をクシャリと雑に丸めて、入っていた袋に入れる。
 するとその少女を囲むように影が取り巻いて視界を暗くする。

 少女がその影の方を向けば、いつの間にか軽薄そうな男3人に囲まれていた。

「ねぇカノジョ。今一人?」

「よければ今から俺たちと遊びに行かない?」

「ところでそのカッコ何?コスプレ?」

 そんなテンプレセリフを吐いてくるナンパ男3人組を少女は噴水の縁に座ったまま見上げる。
 下心丸出しの下品な笑みを浮かべる男たちだったが、見上げた少女の瞳を見て少し後悔しそうになる。

「ん?どうしたのぉ?」

 ぱっちりと開かれた丸い瞳はまるで西洋人形のような愛らしさを感じさせるものである。
 しかしその眼光は泥を溶かした水のように濁っていて底を伺い知ることができない。

「お誘いは嬉しいけどぉー、私は少し用事があるのぉ」

 吸い込まれてしまいそうな瞳を見て一瞬たじろぐ3人だったが、なかなか愛らしい見た目をした少女である。
 ここで引くのは少々もったいない気がした。

519: 2014/04/03(木) 00:39:07.06 ID:mVMvEmUBo

「こ、こいつ少しやべえかもしれないけどこのまま行くか?」

「いや、メンヘラ女だったとしても適当にヤリ棄てちまえばいいだろ」

 少女の濁った瞳の前で、3人は小声で作戦会議をする。
 その様子は少女に丸見えだったが、内容までは聞かれていないだろう。
 そして結論としてそのままナンパを続行することにしたのだ。

 彼らにとって『少々頭のおかしい』女性と関わったことがないわけではないので今まで通りの対処法で問題ないと判断したのだ。
 それにこういった女は押しに弱いことが多い事も彼らは知っていた。

「そんな用事放っといてさ、俺たちと遊んだ方が楽しいよ」

「そうそう、楽しいところ連れて行ってあげるよ」

「で、でもぉー」

 一応困ったような返事をする少女だったがその表情はまんざらでもなさそうである。
 そしてにこりを口角を上げる。

 濁った瞳と相まってその狂気じみた笑みにナンパ男3人はすこし不穏な予感はしたが、この様子ならばあと一押しでこの少女は誘いに乗るだろうと判断。
 男たちはそのまま気にせず押していくことにする。

520: 2014/04/03(木) 00:40:01.43 ID:mVMvEmUBo

「さぁ、一緒に行こうぜ」

 一人が強引に少女の腕を掴んで引っ張ろうとする。
 だが少女はその引っ張った男の目を覗き込むように、笑みを伴ってじろりと見上げるのだ。

「あぁ、そんな強引さもいいですわぁ。本当に、嫉妬しちゃうぐらいにいいわぁ」

「ヒ、ヒッ……」

 そんな狂気を間近で向けられた男は思わずその握った腕を話してしまう。
 少女はその掴まれていた部分を名残惜しそうにもう片方の腕で撫でた。

「お、おい。いったいどうしたんだ?」


「おおーっと。待たせたっすね」

 狼狽する男たちであったが、そんな中に混ざるように一つの声がかけられる。

「いやー悪かったっすね遅れちゃって。時間もないしさっさと行くっすよ」

 突如現れた短髪の女は男たちを無視して、中心の少女の腕を引く。
 突然の乱入者にナンパ男は一瞬呆然と立ち尽くしていたが、少女が手を引かれて連れて行こうとするのを見てようやく我に返った。

「お、おいちょっと待てよ。その女は俺たちが目を付けてたんだ!勝手に連れてくんじゃねぇ!」

521: 2014/04/03(木) 00:40:33.76 ID:mVMvEmUBo

 男の一人が逃がさまいとドレスの少女の腕を掴もうとする。

「悪いっすけどアタシら急いでるんで、サヨナラ!」

「待てコラ!ってああ?」

 男が腕を掴もうと踏み出した脚は、なぜかコンクリの地面に沈んでいく。
 それどころか3人とも、急に浮遊感に襲われて背中に衝撃が走った。
 そして3人仲良く落とし穴の底で青空を見上げていたのだ。

「な、なんじゃこりゃ!?あのアマ何しやがった?」

 急いでナンパ男はその穴から這い出るが、そこにはすでに二人の姿はない。
 周りを見渡せばこの様子を携帯電話で写真を撮る人々と、自身の落ちた落書きのような落とし穴だけだった。




 

522: 2014/04/03(木) 00:41:06.05 ID:mVMvEmUBo




 少女の手を引いて駆け足であの場を離れた女は、この通りを出た辺りで立ち止まる。

「これくらい離れれば、もう追ってこないっすね」

 少し息を整えながら短髪の女は腕を引いて連れてきた少女の方を振り向く。
 なされるがままに連れてこられた少女は、状況が理解できていないのか少し落ち着きなさそうに周りをキョロキョロしていた。

「なんだか絡まれていたようだったんで、ついあのチンピラ連中撒いちゃったっすけどもしかして迷惑だったすか?」

 こちらの方を見ていない少女の顔を見ながら短髪の女は確認を取る。
 かけられた声によってようやく状況を理解したのか、少女は女の方を見てにこりと笑う。

「いえ、助かりましたよぉ。私も用事があったのでぇ、ちょっと困ってたんですぅー」

 気の抜けるような間延びした声で礼を言う少女。

523: 2014/04/03(木) 00:41:52.64 ID:mVMvEmUBo

「そうっすか。ならよかったっす」

 少女にとって女の行動は迷惑でなかったことを知り、安心したように女も笑う。

「さっき引っ張ってもらった時ぃ、あなたとってもかっこよかったですよぉ」

「それは照れるっすね」

 女は照れ臭そうに頭を掻く。

「えぇ、嫉妬しちゃうくらい、かっこよかったですよぉ」

「なんだか不思議な喋り方するっすね。なんだかアーティスティックっす」

「えへへ、そうですかぁ?」

「ええ、そうっすよぉ」

 女の方もわざと少女の喋り方を真似する。
 少女はそれに少し照れくさそうに笑った。

524: 2014/04/03(木) 00:42:28.99 ID:mVMvEmUBo

「ま、真似しないでくださいよぉー。あ、せっかくですからぁ、何かお礼をしなければならないですねぇ」

 思い出したように手をたたいた少女は、肩に掛けてあった小さなポシェットを小さな手で開いて覗き込む。

「いや、礼には及ばないっすよ。困ったときは助け合うものっすからね」

 しかし女は少女の申し出を丁重に断った。

「でもぉ……」

「んー……ならまた今度、アタシの絵を見に来てもらってもいいっすか?」

「絵……ですかぁ?」

 少女は不思議そうな顔をする。

「そうっす。キミもこれから用事があるみたいだし、アタシも用事があるから今からは無理だけど機会があればアタシの絵を見に来てほしいっす。

アタシはこの辺でストリートアート描いてるっすから、少し探せばきっとすぐ見つかると思うっすよ」

 女のその言葉に興味を持ったのか、三割増しの笑顔で少女は笑う。

525: 2014/04/03(木) 00:42:56.83 ID:mVMvEmUBo

「ストリートアート……。嫉妬しちゃうほど、興味がありますぅー」

「なんか不思議な言い回しっすね。よし、約束っすよ」

「うん、約束ねぇー」

 女が約束のしるしに手を差し出すと、少女はそれを両手でぎゅっと握りしめた。

「そう言えば、自己紹介がまだだったっすね。アタシは吉岡沙紀っていうモノっす。

よろしくっすね」

「えーっと、私はね」

526: 2014/04/03(木) 00:43:40.77 ID:mVMvEmUBo

***

「イルミナティの諸君。ごきげんようです。

大勢で顔を合わせるのは、数年前の会議を最後でしたっけ?

あの時は画面越しではなく実際に会うことができましたけど、あれ以降はそう言うわけにもいかなくなってしまいましたしね。

今回はこんな形の手狭な会議で申し訳ない」

『前置きはいい。統括司令殿よ。

だいたいあの『サクライ』に一杯喰わされた件は、貴様のミスではないか』

「それについては、釈明の余地もありません。

ですがあの失敗は、停滞していた我々にとっては決して悪くない失敗。

『サクライ』は確かに忌々しいですが、そういった意味では感謝をしていますよ」

『ふん、調子のいいことを……。

そう言うからには、あの失敗を取り戻す算段があるということなのだろう?』

527: 2014/04/03(木) 00:44:27.16 ID:mVMvEmUBo

「当然です」

『そう言ってはいるが、ずっとこれまで何の動きもなかったではないか!

その間にも『サクライ』だけでなく他の様々な組織も精力的に活動しているというのに、イルミナティは息をひそめたままだ!

言っておくが私はこの組織と共倒れする気はさらさらないぞ!』

『おい、少し黙っていろ若造が!』

「いえ、お気になさらず。

確かに我々イルミナティは『あの日』以降も息をひそめたまま、一般的には『過去の組織』のように振る舞ってきました。

まぁ『サクライ』あたりはそうは思っていないかもしれませんが、あくまでこれまでのは準備期間です。

計画を実行、とまでいきませんけどそろそろ我々も動き出すことにします」

『それは、本当か?』

「あなた方に嘘をついても私に得などありません。

私はあなた方を利用し、あなた方もイルミナティを利用しているんです。

そんな信頼を、裏切ったりはしませんよ」

528: 2014/04/03(木) 00:45:06.46 ID:mVMvEmUBo

『よくも言う。そうだ、確かに私はこの組織を利用している。

いや、利用せざるを得ないのだ。今のこの世界でこれまで通りやっていくのにはな』

「よくわかっていますね。

実際『できる』者ならば、こんな組織に頼らずとも自らの力で動くことができるのですから。

『サクライ』のように独力のみであそこまで財閥を大きくした者もいます。

それと同じように考え『あの日』以降にイルミナティの力の衰えを感じて、組織を去っていくものもいました。

だがあなた方は決して組織に残ったことが失敗ではない。

あなた方が『神』に至る日も、もう十分目の届く範囲内です」

『ふん……期待はしていい、ということだな?』

「ええ、もちろん」

『当然だ。金は出してやってるのだからな。

だが動き出すとは言ったが、具体的には何をするというのだ?』

「まずは『混沌』を起爆させます。

手始めはせいぜい小競り合いですが、種火は大きくしていくものですから」

529: 2014/04/03(木) 00:45:52.86 ID:mVMvEmUBo

***

「私の名前はぁ、インヴィディアって言うのぉ」

「なるほど、インヴィディアちゃんっすね。変わってるけど、なかなかかっこいい名前じゃないっすか」

「そう?照れるぅー」

 沙紀は少女、インヴィディアの笑顔を見ていて時間がかなり過ぎ去っていることにようやく気付いた。
 腕に巻かれた時計を見れば、かなりの時間が経過している。

「おおっと、アタシも用事があったのでした。ではまた会おうっすヴィディアちゃん!」

「あ、そうだぁー。最後に一ついぃー?」

「ん?なんっすか?」

 インヴィディアに背を向けて立ち去ろうとする沙紀は再び振り向く。

530: 2014/04/03(木) 00:46:33.10 ID:mVMvEmUBo


「エンヴィーって人に会いたいんだけどぉ、知ってますぅ?」


 沙紀にはあいにくその言葉には心当たりがなかった。
 そんな変わった名前の人がいれば忘れることはないので、確実に記憶にないだろう。

「すまないけど、知らないっすね。アタシの友人にも聞いてみるっすからもしもまた会った時にも見つかってなければ、情報があればその時教えるっすよ」

「そうなのぉ。ありがとう。それじゃあねぇー」

 小さな手を頭の上に上げて手を振るインヴィディア。
 沙紀はそれに答えるように手を振りながら駆け足で走り出した。

「それじゃあっすよ。それとイブキすまんっす。ちょっと遅れるっすよー!」

531: 2014/04/03(木) 00:47:06.91 ID:mVMvEmUBo

***

「イルミナP様会議お疲れ様ですー」

 会議室から出てきたイルミナPを出迎えたのは生意気な研究員であった。

「まったく、使える人間も多いが、金しか持っていない無能も多いからその相手をするのは疲れるよ」

「それにしても連中、いまだに自分たちが神になれるって信じてるんですかね?」

 研究員は外のコーヒーショップで買ってきたコーヒーをイルミナPの机に置く。
 イルミナPはその机の前に座って、コーヒーを手に取って働く研究員を見下ろした。

「そりゃそうだ。そんな見返りでもなければこの組織にいる意味なんてほとんどないでしょう。

まったく嘘をつくのは心苦しいなー」

「心にもないことを……。

だいたいさっきの会議中にも『嘘をついても得はない』キリッって言ってたのによくもまぁ」

「知るかよそんなこと。

まぁ私たちも利用する側なのだからアドバンテージは握っておかねばならないですしね」

532: 2014/04/03(木) 00:48:11.20 ID:mVMvEmUBo

「そうっすねー。

スポンサー様の金がなくちゃ給料も入ってこないですし」

 研究員はちゃっかり買ってあった自分の分のコーヒーを口に持っていく。
 イルミナPはそれを横目に見て何か言いたそうにしたが、そのまま心にとどめておくことにした。

「ところで会議で『種火』って言ってましたけど、いったい何したんです?」

「ああ、そろそろカオススポットの土壌作りでもしようと思いましてね。

先兵として『火蜥蜴(サラマンドラ)』を送り込みました。それとギルティ・トーチを一体」

 それを聞いた研究員は少し不安な顔をする。

「大丈夫っすか?手始めなのにその人選」

「種火としてはぴったりだろう?

それにあいつはカースドヒューマンだからずっと組織に繋ぎ止めておくのは厳しい。

ならばさっさと使ってしまった方がいいでしょう。帰ってこなくても問題ない駒、ですから」

「なんかそれ聞くとあの小娘が少し気の毒ですよ」

「まぁ今あの娘がご執心の『エンヴィー』をエサに使えばもう少し使えるかもしれませんけどね。

同じカースドヒューマン同士、何か感じる者でもあったんですかね?」

 イルミナPはそんな疑問を口にするが、研究員の方も首をかしげるだけである。

「さぁ?あのガキが何考えてるのかは僕にはわからないですけどね。

まぁともかく派手に暴れてもらえるならそれでいいんじゃないんっすか」

533: 2014/04/03(木) 00:48:50.43 ID:mVMvEmUBo

***

 あの通りからはさほど遠くない駅前の広場。
 そこの花壇の傍らの小さくインヴィディアは座っていた。

 口には口リポップを銜えて上を見れば、大きめの駅と周囲にそびえる高いビル。そしてその間を縫うように見える青空だけだ。

「ちょっと探してみたけどぉ、結局見つからないわぁ。エンヴィー……」

 口に銜えていた口リポップを取り出し、残念そうにため息をつくインヴィディア。
 すっかり意気消沈してしまったのか先ほどまでの笑顔はすでに無かった。

『どうしたというのだ、小娘よ。ずいぶんと情けない顔をしているが?』

 そんなインヴィディアに話しかける低い声。
 地の底から響くような声はどこから発せられているのかわからない。

「トーチの分際で余計なこと言わないのぉー。どうせあなたには私の気持ちなんてわからないんだからぁー」

 発信源の不明な声に対してもインヴィディアは気にせずに答える。
 そして手に持ったマーブル色の口リポップを軽く振る。

534: 2014/04/03(木) 00:49:29.31 ID:mVMvEmUBo

『ふん、貴様のような小娘の考えなど高尚な吾輩にはわからんのは当然だ』

「身の自由がきかないのに高尚だなんてずいぶんな言いぐさだわぁー」

 低い声はそんなインヴィディアの言葉に忌々しそうに返す。

『吾輩もこんな首輪なんぞなければ好きにしておるわ。

ともかく、貴様はその『エンヴィー』とかいう者をまだ探すのか?』

「いんやぁー。愛しの『エンヴィー』探しはとりあえず仕事を終わらせてからにするぅー」

 低い声の疑問に対して、うって変わって楽しそうに応えるインヴィディア。
 手に持っていた口リポップを銜えなおし、座っていた花壇の縁から立ち上がる。

『だろうな。吾輩の封を開いたのだ。

どうせここいらで仕掛けるのだろう?』

「うん。○○駅で好きに暴れまわれっていうのがぁ、今回のお仕事だからねぇー」

『見たところここは××駅のようだが?』

「細かぁいことは気にしなぁーい」

535: 2014/04/03(木) 00:50:11.84 ID:mVMvEmUBo

 インヴィディアは広場の中心まで歩いていく。
 そして中心で立ち止まったインヴィディアはその濁った瞳でやはり楽しそうに周りを見渡すのだ。

 そんな様子を行き交う人々は気にも留めずに、各々の目的のために歩を進めている。
 インヴィディアの少し不可解な様子に誰も気に留めようともしていなかった。

『吾輩も、下賤な人間どもに吾輩の圧倒的な力を見せつけるのは嫌いではないからな。

あやつらの言いなりというのは少々癪に障るが、ここは吾輩も好きにやらせてもらおう』

「なんだかんだ言ってもぉー、あなたも乗り気だねぇ」

 インヴィディアは上品にゴシックドレスのスカートを少し持ち上げる。
 その芝居がかった動きと共にスカートの中から黒い影がいくつも落ちてきた。

「わたしはこの街大好きだわぁ。

便利で、物にあふれていて、それでいてとても綺麗。住んでる人も生き生きとしていてぇ、とても楽しそうだわぁ。

ほんと、嫉妬しちゃうくらい、大好きだわぁ」

536: 2014/04/03(木) 00:50:45.82 ID:mVMvEmUBo

 恍惚の表情でインヴィディアは誰に言い聞かせるわけでもなく喋る。
 スカートの中から出てきたのは、黒い蜥蜴であった。黒い泥で出来た蜥蜴。

 その蜥蜴たちはヒタヒタとインヴィディアの周りから散っていく。
 そしてその駅周辺のいたるところに張り付いた蜥蜴たちはまるで何かを待つようにその位置でじっと待つ。

「そんな私の嫉妬の炎がぁ、私の心と体を燃やすのよぉ。

とっても苦しいけどぉ、とっても気持ちいいのよぉ。

そうなるとね、私の大好きなものもぉ、その炎でその炎で燃やしたくなっちゃうのぉ」

 ニヤリと凶悪な笑顔を浮かべたインヴィディアはその大きな瞳をさらに大きく開く。
 すると彼女の体から紫の炎が噴き出した。

「Fireぁー」

537: 2014/04/03(木) 00:51:19.82 ID:mVMvEmUBo

 そんな間の抜けるような声を合図に、散った蜥蜴が閃光を放つ。

 ボンッ!

 巨大な爆発音とともに散った蜥蜴たちは周囲の建物と共に自爆を始めた。
 あちこちで上がる炎と煙、それと爆発に巻き込まれた者たちの悲鳴や叫びが辺りに響く。

「やっぱりこんな風景が一番好きだわぁー。

私の嫉妬の炎が周りを包んでぇ、私と同じになる瞬間がぁ一番なのぉ」

 平和な駅前は一瞬で地獄絵図へと変貌する。
 突然の爆破テロに人々は逃げ惑うだけだった。

『吾輩を作った者が貴様のことを『火蜥蜴(サラマンドラ)』と呼んでいたがなるほどな。

合点がいった』

「私はその呼び方あんまり好きじゃないんだけどねぇー。

私の名前は『羨望(インヴィディア)』よぉー」

 話している間にも新たな蜥蜴のカースは誕生し、自爆を繰り返す。
 この状況が続けばここら辺一帯が焦土と化すのは時間の問題だろう。

538: 2014/04/03(木) 00:51:49.20 ID:mVMvEmUBo

『吾輩もそろそろ動かせてもらおう。

貴様ばかり楽むのは癪だからな』

「そぉう?」

 インヴィディアは口に銜えていた口リポップを取り出して宙に放り投げる。
 するとその口リポップから泥が流れ出すように出現し、一つの形をとった。

『やはり吾輩はこの高貴な姿でなくてはな』

 その姿は炎馬であった。
 たてがみは黄色と紫の炎が靡き、体躯は漆黒の泥で構成されていた。

「あなたもその姿、かっこいいわぁ。嫉妬しちゃうくらいねぇー」

『当然だ。吾輩の高貴なる姿をその目に焼き付けておくがいい。

だが言っておくが貴様と協力する気はないぞ。吾輩は好き勝手にやらせてもらう』

539: 2014/04/03(木) 00:52:30.21 ID:mVMvEmUBo

「わかってるわぁー。

お互いに適当にぃ、滅ぼしてぇ、お仕事を終わらせましょぉー」

”ヒヒヒィィーーーン!!!”

 炎馬は前足を上げていななきを響かせる。
 晴天はいつの間にか漆黒の雲に包まれており、いななきを合図にポツリポツリと黒い雨を降らせはじめる。

 黒い雨の水たまりから新たなカースが誕生し、獲物を追って進軍を開始した。

「そうだぁー。頼まれていたことを忘れていたわぁー。

イルミナPさんからぁー、宣戦布告の合図を任されていたのぉ。

誰も聞いてないだろうけどぉー、このインヴィディアがひとこと言わせていただきまぁーす。

『私たちイルミナティー。世界を泥水のごとくの混沌にぃー』

こんな感じかなぁ?」

 インヴィディアのその宣言は誰にも届いていなかったが、それと同時に新たな爆発が漆黒の狼煙を上げた。


 

540: 2014/04/03(木) 00:53:19.30 ID:mVMvEmUBo

インヴィディア
イルミナティに所属する嫉妬のカースドヒューマン。『火蜥蜴(サラマンドラ)』とも呼ばれる。
ヨーロッパの片田舎で氏にかけていたところをイルミナティに保護されたため、その恩でイルミナティに協力している。
ただしインヴィディアの興味も他のことに移り始めいつ勝手な行動を起こすかわからなくなってきたので、切り捨てても問題ない戦力として、先兵で日本へ投入された。
燃え盛る嫉妬の炎が身を焦がすのを快楽として感じるという変わった精神構造を持っている。
そしてその嫉妬の炎を自在に操ったり、炎を封じ込めた蜥蜴のカースを爆弾として利用することができる。(トーチの炎とは全くの別物である)
最近は日本のエンヴィーにご執心で、勝手に改心したエンヴィーに嫉妬しながらも愛情を抱いている。

ギルティトーチ
違う属性のカースがまじりあうことでその感情波の位相差によって感情のエネルギーが増幅される。
その余剰のエネルギーは炎となって放出され空へと昇り、雨雲となってカースの雨を降らす。
その炎を纏う姿が松明の様であることから、ギルティトーチと名づけられた。通称『トーチ』
普通のカースよりも高い知性を持ち、流ちょうに話すことができる。
基本的にカースと同じく自らの感情のままに行動するが、イルミナティは『制御棒』を付けることでそれをコントロールしている。

炎馬のギルティトーチ
『傲慢』と『嫉妬』のギルティトーチ。黒いギャロップ
火を纏う馬の姿をしており、自由がきかないのに苛立っているものの、イルミナティの指示の通りに人間を襲うことに躊躇はない。
その姿のごとく素早く、炎で幻影を生み出すなど様々な攻撃を仕掛けてくる。

541: 2014/04/03(木) 00:54:25.25 ID:mVMvEmUBo

以上です。
吉岡沙紀ちゃんと名前だけサクライお借りしました。

イベント情報
・嫉妬のカースドヒューマン『インヴィディア』とギルティ・トーチがとある駅前で破壊工作を始めました。
・目標2体は基本的には別行動です。
・周囲はカース爆弾による爆発と大量に出現するカースによって混乱しています。

中ボスイベント的なのを想定しているのでトーチも、インヴィディアもロストしても何しても自由です。
少々オリキャラ色が強くなってしまいましたが、展開が自由にできる敵となるとこうなってしまいました。

542: 2014/04/03(木) 01:08:42.34 ID:s0pEtKT40
乙です

かれえええええええええええん!
加蓮はなんか良からぬものを引き寄せる体質なんです?

中ボス二体かー
お正月後の時系列だけどちょっと手出ししたい衝動



【次回に続く・・・】



引用: モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」 part9