766: ◆6osdZ663So 2014/04/27(日) 12:45:51.09 ID:kxJE8PJ3o
767: 2014/04/27(日) 12:46:57.72 ID:kxJE8PJ3o
◆
◆
◆
768: 2014/04/27(日) 12:47:37.51 ID:kxJE8PJ3o
4月下旬、桜の花はほとんど散って、
わずかに残った薄桃色が、緑の中に消えていく頃。
ただその公園の中心にある1本の桜だけは、やはり満開のままでした。
聖來「ワン、ツー!ワン、ツー!」
美穂「はぁっ…はぁっ…!」
咲き誇る『万年桜』の下で、掛け声に合わせて身体を動かすのは夢見る少女、小日向美穂。
息も切らしながらも、隣で踊るコーチの動きに一生懸命合わせて動く。
聖來「はいっ!ワンモア!」
美穂「え゙っ!(わ、ワンモア!?)………は、はいっ!…はぁっ!はぁっ!」
タッタカ、トット!タン、タン、タン!
セーラのダンスレッスンはまだまだ続く!
----------------------------------------
それは、なんでもないようなとある日のこと。
それは、なんでもないようなとある日のこと。
その日、とある遺跡から謎の石が発掘されました。
時を同じくしてはるか昔に封印された邪悪なる意思が解放されてしまいました。
~中略~
「アイドルマスターシンデレラガールズ」を元ネタにしたシェアワールドです。
・ざっくり言えば『超能力使えたり人間じゃなかったりしたら』の参加型スレ。
とにかくリズムに合わせて、ステップ&ダンス!
769: 2014/04/27(日) 12:48:29.62 ID:kxJE8PJ3o
……
聖來「オッケー、ここまでっ!」
美穂「……はっ……はいっ…ぜぇ…ぜぇ…」
美穂(何回ワンモアしたっけ……数えてません……)
聖來「はぁっ!爽快っ!いい汗かいたねーっ!はいタオル」
美穂「あ……ありがと……ございま……ぜぇ……ぜぇ……」
聖來「美穂ちゃんも、初めての頃に比べてだいぶいい感じになってきたよっ!」
美穂「そっ……そうで……しょうか……ぜぇ……ぜぇ」
聖來「……」
美穂「ぜぇ……ぜぇ……」
聖來「あー……とりあえず休憩しよっか?」
美穂「ぜぇ……は、はい……ぜぇ……そ…そう…します……」
ぐったりと、近くのベンチに寄り掛かるように座り込む少女。
頭上のアホ毛もどこか力なく倒れこんでいた。
770: 2014/04/27(日) 12:50:05.94 ID:kxJE8PJ3o
――
――
聖來「はいこれ、スタミナドリンク」
美穂「ありがとうございます……ごくごくっ……ぷはっ……ふぅ」
公園のベンチに並んで座り、手渡された栄養ドリンクを飲んでようやく一息。
フリーのヒーロー水木聖來と出会ってから、
美穂は時々この公園でダンスレッスンのコーチして貰っていた。
聖來の仕事の都合もあるため、彼女に師事して貰えるレッスンの日は不定期であったが、
聖來は二週間以上、日と日の間を空けたことはない。
美穂「……いつも忙しいのに、コーチありがとうございます。セイラさん」
聖來「ん?ふふっ、なぁに?改まっちゃってさ」
聖來「アタシはやりたい事やってるだけだから、そんなの気にしなくていいよ」
聖來はいつも優しい笑顔で少女の成長を見守ってくれている。
レッスンの時に怒ったりすることもあまりない……ただ……
聖來「ところで落ち着いた?もう大丈夫かな?」
美穂「はいっ、おかげさまで……すっかり」
聖來「そっか、それじゃあ……ワンモア?」
美穂「えっ、わ、ワンモア!?!」
彼女のレッスン内容自体は本格的かつ激しいもので、
何度コーチを受けても、そのの厳しさに美穂はなかなか慣れないのだった。
美穂(や、やっぱり今回も……明日の筋肉痛は避けられないかも……)
美穂(ワンモアがトラウマになりかけになってます……)
771: 2014/04/27(日) 12:51:32.78 ID:kxJE8PJ3o
聖來「あははっ!冗談冗談……もう美穂ちゃん疲労困憊って感じだしね」
美穂「す、すみません……」
聖來「ううん、こっちこそごめんね。身体動かすの楽しくなっちゃって……つい激しくやっちゃった」
憧れの先輩ヒーローは、少し恥ずかしそうに頬を掻いて笑う。
美穂(本当にダンス好きなんだなあ……)
聖來「でも美穂ちゃん、今日のダンスレッスンは今までで一番よかったよ!」
美穂「ほ、本当ですかっ?良かった……そう言ってもらえると嬉しいです」
元アイドルヒーローからのお褒めの言葉。嬉しくって少女ははにかんで笑う。
聖來「うんうん、前に指摘したところも完璧に直ってたし……」
美穂「お家でも肇ちゃんやプロデューサーくんに見てもらいながら、少し練習していましたので……えへへ」
聖來「そっかそっか!うんうん、美穂ちゃんはやる気もばっちりだし……」
聖來「だから後は……体力かな?」
美穂「あ……あはは……お恥ずかしい」
痛いところを指摘されて、美穂は笑って誤魔化すのだった。
772: 2014/04/27(日) 12:53:22.18 ID:kxJE8PJ3o
美穂「うぅ……こんな事なら以前からもう少し身体を動かすようにしておけば良かったです」
美穂「普段、暇があるときはお布団の中で小説を読んでるかお昼寝って感じで……」
聖來「インドア派だ?」
美穂「はい……ぐうの音も出ないほどにインドア派です……」
少女はこれまでの休日の過ごし方を振り返って、少し嘆いた。
聖來「あははっ、まあそう言う休日の過ごし方も悪くないよ。もちろん体力はつけた方がいいけれど……」
聖來「それにね、アイドルのキャラクターとしてはいいと思うよ?お昼寝が好きって親しみやすくって」
美穂「……アイドルとしてのキャラクターですか?」
聖來「そ、結構重要だよ」
聖來「美穂ちゃんはDaやPaみたいにアクティブな感じじゃなくって……Vii寄りのCu極振りって感じかな」
美穂「?……えっと…?」
聖來の使った言葉の意味が分からず、美穂は首を傾げた。
聖來「あっ、CuやViって言うのは指標みたいなものね」
聖來「Cu(キュート)にCo(クール)にPa(パッション)」
聖來「それにVi(Visual)、Da(Dance)、Vo(Vocal)」
聖來「それぞれのアイドルがどんなアイドルなのか、分かりやすく言い表せるカテゴリ分けみたいな感じ」
聖來「アイドルヒーローもアイドルと同じで、そんな風な分け方されることもあるんだよね」
聖來「ちなみに、アタシはCoでDaって言われたりするよ!」
美穂「あ、それは知ってます」
聖來「」 ズコッ
773: 2014/04/27(日) 12:54:24.10 ID:kxJE8PJ3o
聖來「……それもそっか、アイドルヒーローのプロフィール調べたらこの事も書いてある資料とかあるもんね」
聖來「アイドルヒーロー好きの美穂ちゃんなら知ってて当然だったや」
美穂「えっと、その……私はきょくふり…?の方を知らなくって……」
聖來「あー、そっちかあ。ゲーム用語らしいよ。知り合いに使う子が居てさ。ついアタシも使っちゃった」
( 紗南「もちろん、あたしの仕業です!」 ドヤッ )
聖來「Cu極振り、簡単に言えば美穂ちゃんはすっごくすっごく可愛い子ってところかな」
美穂「えっ…すごくかわ……う、うぅ……あ、あの…す、すっごくすっごく恥ずかしくなってきました」
肩に掛けていたタオルを手に取り、少女は赤くなった顔を埋めてしまう。
聖來「ふふっ、恥ずかしがることないじゃない?女の子なんだし可愛いって嬉しくない?」
美穂「で、でも……」
少女は顔を隠したタオルをちょっとだけずらして、
遠慮しがちに目元だけをだし、聖來の方をちらりと見るのだった。
聖來(その仕種からして可愛いって……これはもう才能だよね)
目の前の少女の愛らしさに、思わずその頭に手が伸びてしまう聖來。
ぽんっと優しく手を置いてゆっくりと左右に動かす。
美穂「えっ!ええっ!?せ、セイラさん!?」
聖來「よしよーし」 ナデリナデリ
美穂「う、うぅう、い、犬じゃないですよ~っ!」
聖來「あははっ」
楽しそうに少女の頭を撫でる先輩ヒーロー。
美穂は耳まで真っ赤にして抗議しているが、手は膝の上に降ろされている。
どうやら少女も案外、まんざらでもない気持ちのようなのであった。
774: 2014/04/27(日) 12:56:45.30 ID:kxJE8PJ3o
しばらくそんな風に遊んでいたが、
ふと、聖來の手がピタリと止まる。
美穂「?」
聖來「ねえ、美穂ちゃん」
聖來「美穂ちゃんは、これからどんな風になりたい?」
優しい微笑を浮かべたまま聖來は少女と向き合う。
美穂「これから……ですか?」
聖來「そう、これから…。未来の事」
聖來「どんなアイドルになりたいのかな?」
聖來「どんなヒーローになりたいのかな?」
美穂「……」
公園に漂う空気と同じくして、おだやかで温かい目線。
それでいて真摯な瞳を向けて、聖來は美穂の未来の行く先を尋ねた。
775: 2014/04/27(日) 12:58:13.97 ID:kxJE8PJ3o
美穂「……心からの笑顔を届けて、みんなを笑顔にできるアイドルに……」
美穂「そして、たくさんの人たちの笑顔を守れるヒーローに」
美穂「私は、なりたいです」
恥ずかしがり屋の少女が、恥ずかしがらずにちゃんと答える。
これまでヒーローとしてそれなりに活躍してきた事でついた自信が、少女の言葉を後押ししてくれていた。
だから少女は恥ずかしがらない。自分の理想を、なりたい自分を、目の前の憧れの人に語ることを。
美穂「菜々ちゃんみたいに眩しくてキラキラしてるアイドルに、聖來さんみたいに優しくてカッコイイヒーローに」
美穂「なれたらいいなって……えへへ、なんてもしかすると私には大きすぎる夢かもしれませんけれど」
でも少しだけ謙遜して控えめに笑う。
目指し始めた頃より自信はついたけれど、それでもまだまだひよっこ……
ずっと先を歩く彼女達にすぐに追いつけるとは思えはしない。
聖來「ううん、そんな事無いよ」
聖來「美穂ちゃんならきっと素敵なアイドルヒーローになれるとアタシは思う」
聖來「だから……頑張って欲しいな。できればアタシの時よりもずっとずっと輝いて欲しい」
美穂「セイラさんよりも……?」
聖來「うん」
美穂「……はいっ、やれるだけやってみようと思います」
聖來「ふふっ、ありがとう。美穂ちゃん」
少女の返事を聞いて、聖來は頭においていた手を放す。
美穂「あ…」
ちょっとだけ名残惜しそうに美穂はその手を見つめるのだった。
776: 2014/04/27(日) 12:59:39.46 ID:kxJE8PJ3o
聖來「……」
美穂「……」
そんなやり取りを終えてしばらく、空を見上げてぼーっとする2人。
温かい風が公園を通り抜けると、薄ピンクの花びらがはらりと散る。
『万年桜』の公園は、他の場所よりもずっと長く桜の花びらが残っている。
『万年桜』自体はもちろん年中満開なのだが、それだけでなく公園全体が長い期間桜の花びらを残し続けるのだ。
中央に咲き続ける花の美しさにつられて、他の桜達も懸命に咲き誇ろうと頑張っているのだろうか。
花の色が緑に消えていくこの時期でも、まだまだこの公園を彩る色は薄いピンクの色が優勢である。
しかし、それでも桜は散っていく。時間は経過するものだし、季節は変わる。
どこまで行っても、時の流れとは無常である。
美穂(……セイラさんよりも輝けるアイドルヒーローに……かあ……なれるのかな?)
儚く舞う桜の花を眺めながら、少女は、テレビの向こうで舞い続けていた犬好きのアイドルヒーローの事を思い出していた。
当時、人気のアイドルヒーロー。なんと言っても彼女のダンスパフォーマンスは派手でカッコよかった。
そう言えば、テレビで見ていた頃も彼女のまねっこをしてみた覚えが少女にはあった。
あの時は、あんな動きはまったく出来る気はしなかったが。
美穂(あの時できなかった事も、今は少しだけど出来てるんだよね)
今日は息も絶え絶えであったが、彼女のダンスになんとかついていけていたはずだ。
美穂(そう思えば、ちょっとでも近づけてるのかな)
憧れの1人である彼女との距離が小さくなってるのだと思うと、少女はなんだか嬉しくなった。
777: 2014/04/27(日) 13:01:36.33 ID:kxJE8PJ3o
さて。アイドルとしての水木聖來もカッコよかったが、
けれど彼女はどちらかと言えばヒーローとしての人気の方が高かったように思う。
悪を挫いて、弱きを助ける。彼女はそんなとても理想的なアイドルヒーローだった。
お供の動物たちを従えて、互いに助け合って、敵に立ち向かう。
時にはみんなが驚くような無茶もしていたけれど、最後には仲間達と揃って必ずカメラに向けて笑顔を見せる。
その笑顔はとても輝いていたように思う。
美穂(……そう言えば、あの頃の動物たちは元気にしてるのかな?)
特に、いつも彼女の隣に居た大型犬。
あの子は今も元気なのだろうか。なんとなく気になったので尋ねてみた。
聖來「ん?うちのわんこ?元気だよすっごく」
美穂「そうでしたか」
聖來「この前も、散歩中に見つけた『にかー』って鳴く謎の生き物を元気に追いかけ回してたしね」
美穂「ふふっ、ちょっと安心しました」
謎の生き物の事はよくわからないが、元気そうで何よりである。
聖來「まあその後、逆に怒った謎の生き物のお友達に追いかけ回されてたけどね」
聖來「『くーの!くーの!』って噛みつかれてたっけ。あははっ」
美穂「えっ、大丈夫だったんですかそれ」
聖來「元気に走り回るわんこって可愛いよね♪」
聖來はそんな事をのほほんと答えたから、まあきっと無事だったのだろう。
たぶんだけど、命からがら。
778: 2014/04/27(日) 13:02:46.19 ID:kxJE8PJ3o
美穂「……」
美穂(……話を聞けば聞くほどに……考えれば考えるほどにわからないなあ)
美穂(セイラさんが……アイドルヒーローをやめちゃった理由)
聖來「それにしても……この公園の風は本当にあたたかいね」
元アイドルヒーロー水木聖來。
「元」と付くように、彼女はいつだったかアイドルヒーローをやめてしまった。
人気の波に乗ってたころだったので、テレビの前で応援していた美穂は残念に思った覚えがある。
きっと美穂のほかにも、やめて欲しくない人たちは多かったはずだ。
美穂(どうしてやめっちゃったのかなあ……)
聖來「今日はこんなに天気が良かったし、せっかくだからわんこも連れて来てあげたらよかったかも」
美穂(アイドルヒーローが嫌になっちゃった、って事はないよね)
今はフリーのヒーローに転身した彼女。
しかし、相変らずダンスは好きであるようだし、ヒーローとしての活躍も時々耳にする。
それに、こうして美穂の夢も応援してくれているのだから、
アイドルヒーローの事が嫌になったなんて事はきっとないだろう。
779: 2014/04/27(日) 13:03:46.28 ID:kxJE8PJ3o
美穂(……も、もしかして人間関係が嫌になっちゃったとか?)
聖來「今くらいの時間帯なら人も少ないみたいだからアタシも人の目を気にせず済むし、良いお散歩になると思うんだよね」
以前、学園祭にて
アイドルヒーロー同盟に所属するプロデューサー、シロクマPから聞いた話を美穂は思い出す。
( シロクマP「……わたしはさ、セイラちゃんのプロデューサーだったって聞いてるかな?」 )
( シロクマP「恥ずかしい話、彼女がやめちゃったからさ」 )
( シロクマP「わたしの評価結構…いやかなり下がったんだよね」 )
( シロクマP「ふふっ、恨んでるとかはもちろん無いけれど」 )
( シロクマP「ちょっと複雑な気分だったから、それが顔に出ちゃったのかな?」 )
美穂「……」
美穂(シロクマさんと……険悪な関係……だったとか?)
想像するのはプロデューサーとの関係の悪化。
美穂(……ううん、違うよね)
美穂(シロクマさんと複雑な関係になったのは……セイラさんがやめちゃってからの話)
美穂(だから、セイラさんがやめる理由にはならないし)
聖來に対して複雑な感情を抱くようになったのは、
「彼女がアイドルヒーローをやめちゃったから」と、シロクマPは言っていた。
関係の悪化が理由とするなら、前後が逆になってしまう。
780: 2014/04/27(日) 13:05:12.61 ID:kxJE8PJ3o
美穂(それに、何より……)
さらに、もう少しだけ過去のことを美穂は思い出す。
( シロクマP「セイラちゃんからさ。珍しく相談されちゃってね。」 )
( シロクマP「可愛い後輩のヒーローを助けてあげて欲しいってさ。」 )
( シロクマP「そう言うわけで、わたし達はやってきたんだ。」 )
美穂(あの時、私は聖來さんが呼んだシロクマさんに助けられたんだから)
美穂(今だって、2人は険悪な関係なんかじゃないよね)
去年の夏休み明けのあの日、
水木聖來は、美穂のピンチをシロクマPに相談していたはずだ。
それなら、2人には今もなお確かな信頼関係があるはずだろうと美穂は考えた。
美穂ちゃーん
美穂(うーん……やっぱり人間関係が原因でもないのかな…………)
おーい
美穂(だとすると……何が理由なんだろ……)
聞こえてないのかな……?
美穂(どうして聖來さんは……)
聖來「 ふ ぅ ~ 」
美穂「はぅっ!?!」
突然の耳元への生ぬるい刺激に、美穂はびくっと飛び上がってしまう。
781: 2014/04/27(日) 13:06:04.42 ID:kxJE8PJ3o
聖來「あははははっ」
美穂「せ、聖來さんっ!?も、もー!お、驚かさないでくださいよー!」
吃驚した少女の様子を見て、おかしそうに笑う聖來。
悪戯が成功して喜ぶ子供のようである。
聖來「ごめんね、美穂ちゃん喋りかけても反応なかったから、つい…ね♪」
美穂「えっ……あっ、す、すみませんっ!」
考え事に集中しすぎていたために、美穂は聖來の言葉をずっとスルーしてしまっていたらしい。
とても失礼な事をしていたと気づいて、美穂はすぐに謝る。
聖來「ううん、気づいてくれたからいいよ。それに可愛い反応だったしね」
美穂「あ、あぅ……」
でも幾ら話しかけても気づかないからって、耳に息を吹きかけるのはどうだろう。
美穂自身も悪いため、顔を赤くするだけで抗議することはできなかったが。
聖來「ふふふ、それにしても本当に集中してたね。いったい何を考えてたのかな?」
美穂「え、えっと……」
聖來「それとももしかして、目を開けたまま寝ちゃってたとか?」
美穂「そ、そんなところです……」
まさか、貴方がアイドルヒーローをやめた理由が気になって仕方ないんです!とも言えず、
とりあえず彼女の言葉に同意するかのようなあやふやな返事をするのだった。
782: 2014/04/27(日) 13:07:00.45 ID:kxJE8PJ3o
美穂(セイラさんがアイドルヒーローをやめちゃった理由)
美穂(セイラさん自身に聞ければいいんだけれど……)
美穂(たぶん聞いたらダメなことだよね…?どんな事情があったかも分からないし……)
水木聖來がアイドルヒーローをやめた事情。
少女には、それがあまり踏み込みすぎてはよくない問題である気がしていた。
美穂は、チラリと横を見て、隣に座る聖來の顔を覗き込もうとする。
聖來「ん?何かな?」
すると、目がぴったりと合った。
どうやら向こうもこちらの様子を伺っていたらしい。
美穂「え、えっと……!」
なんとなくばつが悪くなり、美穂はふいっと目をそらしてしまう。
聖來「アタシに聞きたいこと?」
美穂「そ、そうなんですけれど……」
自身の挙動の意味を、すっかりと当てられてしまい少女は内心焦る。
783: 2014/04/27(日) 13:08:08.91 ID:kxJE8PJ3o
「そうじゃない」と嘘をついていればよかったのだが……根が正直(?)なもので、ついつい本当の事を言ってしまった。
聖來「そっか、美穂ちゃんはそんなに悩んでアタシに何を聞きたいのかな?」
とても悪戯っぽい目つきで先輩ヒーローは少女を見つめている。
美穂(ど、どうしようかな……な、何を聞けば……)
こうなってしまえば何も聞かない訳にもいかない。
いっそ思いきって、知りたい事を聞いてしまおうか。
美穂(はっ!そうだ!)
しかしその時、少女は閃く。
美穂は閃いた言葉をそのまま口にすることにした。
美穂「せ、聖來さんはどうして」
784: 2014/04/27(日) 13:08:59.86 ID:kxJE8PJ3o
美穂「アイドルヒーローに……なろうと思ったんですか!?」
聖來「……ああ、それかー」
美穂の質問に、聖來は少しだけ意外そうな顔をした。
美穂(セイラさんがアイドルヒーローをやめちゃった理由は聞けなくても……)
美穂(逆に……セイラさんがアイドルヒーローになろうと思った理由なら……聞けるはず!)
前者は後ろ向きなお話になりそうであったが、
後者ならば聞いても特に問題はないはず。
それに、始めた理由を聞けば辞めた理由のヒントにもなるかもしれないと美穂は思った。
聖來「それが美穂ちゃんが聞きたいこと?」
美穂「はいっ!」
大きく返事を返す。まったくの嘘ではない。
少女の疑問の根本は、「憧れの人の事が知りたい」であり、
結局のところ彼女の話を聞けるなら、始めた理由も辞めた理由も同じくらいに知りたい事なのであった。
聖來「……美穂ちゃんのこれからの活動の参考になる……かはわからないけど、話してもいいかな」
美穂「! ぜ、是非っ!」
そして、彼女の口から語られる。
聖來「アタシがアイドルヒーローになろうと思った理由、それはね……」
美穂「……(ごくり)」
歌って踊って戦える女の子の憧れにして、
この時代における人々の希望の象徴たるアイドルヒーロー
そんな存在に彼女がなろうと思った理由とは……
785: 2014/04/27(日) 13:10:22.05 ID:kxJE8PJ3o
聖來「……なんでだっけ」
美穂「」 ズコー!
少女は派手にずっこけた。
聖來「あはははははっ」
美穂「も、もおっ!セイラさんっ!」
聖來「ごめんごめん!でも本当に、それくらい大した理由じゃなかったんだよ」
聖來「なんとなく自分の体質を持て余してて」
聖來「なんとなくプロデューサーさんにスカウトされて」
聖來「なんとなく始めちゃいました。みたいなね?」
美穂「そんな、冷やし中華始めましたみたいな……」
本当の本当に大した理由はなかったらしい。
少女は理由について変に期待していたせいか、
その単純明快さにあっけにとられてしまっていた。
聖來「まあ、憧れや信念みたいなものはなかったかな」
聖來「ただ……強いて言うなら」
目を瞑り、ほんの数秒だけ考えてから
彼女は顔を上げて答えた。
聖來「『アタシにはそう言う生き方ができる』って示されたから」
786: 2014/04/27(日) 13:12:01.83 ID:kxJE8PJ3o
美穂「生き方……」
聖來「そうそう。プロデューサーさん……シロクマさんにね」
聖來「『君、アイドルヒーローとかやってみない?』って」
美穂「……普通のスカウト台詞っぽいですね?」
聖來「うん、普通のスカウトだったよ」
彼女がアイドルヒーローになったのは、シロクマPからのお誘いがあってのこと。
しかし熱烈な説得などではなく、まるでごくあっさりとした提案のようであったらしい。
聖來「でも話を聞いてみてね」
聖來「アタシにもそう言う生き方ができるのかなって」
聖來「いやむしろ、そこにはアタシにしかできない生き方があるのかもって思ってさ」
聖來「じゃあ、なっちゃおう♪ってね」
美穂「……思いっきりいいですね」
聖來「ふふっ、よく言われるよ」
クールに見えるけれど、内に秘める情熱は人一倍。
どこまでも挑戦的で、自由で、そのうえ大胆。
それが彼女、水木聖來の魅力なのだろう。
787: 2014/04/27(日) 13:13:34.71 ID:kxJE8PJ3o
聖來「フリーのヒーローに転身したのも同じ理由だよ」
美穂「えっ」
驚く美穂に対して、さらに彼女は話を続ける。
聖來「アタシには、そう言う生き方もできると思った」
聖來「フリーのヒーローとしてのアタシにしかできない事もあると思ったんだ」
聖來「だから思いきってアイドルヒーローやめちゃったんだよね」
聖來「で、はじめてみれば案外こっちの方が性分にあってたりしてっ!」
ここまで話されて、美穂も気づく。
美穂「も、もしかしてセイラさん……」
聖來「ふふっ。美穂ちゃんが本当に聞きたかったのはこっちでしょ?」
美穂「わ、わかってましたっ!?」
聖來の何を気にして少女が考え事をしていたのかは、本人にはとっくにバレバレだったらしい。
美穂「す、すみません!余計な詮索しちゃったみたいで……」
美穂「あっ、でもアイドルヒーローになった理由を聞きたかったのも本当でっ!」
聖來「謝ることなんてないよ、不思議に思うのが普通だしね」
焦る美穂に対して、聖來はただ優しく微笑むのだった。
788: 2014/04/27(日) 13:15:40.74 ID:kxJE8PJ3o
聖來「……ねえ、美穂ちゃん」
美穂「は、はい!なんでしょう?」
真剣な声で呼びかけられるものだから、ついつい畏まってしまう。
聖來「ふふっ、もっと肩の力抜いて聞いてくれればいいよ」
美穂「え、えっと……ふぅー………はいっ」
聖來「うん♪」
少女が息を吐いて、リラックスしたのを確認すると、
先輩ヒーローはぽつぽつと話し始めた。
聖來「今アタシは……セーラには、セーラにしかできない生き方があるかもって話をしたけどさ」
聖來「せっかくだから美穂ちゃんにも……美穂ちゃんにしかできない生き方を見つけてほしいかな」
美穂「……私にしかできない生き方」
聖來「そうっ。美穂ちゃんにしかできない生き方ね」
先輩ヒーローは、どこか楽しげに語る。
789: 2014/04/27(日) 13:16:42.44 ID:kxJE8PJ3o
聖來「ふふっ、アタシに憧れて目指してくれるのはとっても嬉しいんだけれど」
聖來「アタシは、美穂ちゃんには美穂ちゃんの輝き方があると思うんだ」
美穂「セイラさんとは違う、菜々ちゃんとも違う……私の輝き方って事ですか?」
聖來「そういうこと♪」
聖來「ゆっくりでもいいから、それを見つけて……できれば進み続けて欲しいかな」
聖來「きっと……いや絶対その先には、最高に気持ちいい景色が広がってるはずだからねっ!」
そう言って、彼女は力強く微笑んだ。
元アイドルヒーロー水木聖來。
頭に「元」と付くように、アイドルヒーローと言う肩書きが今はもう無いのだとしても、
少女には、彼女の笑顔が今もまだ輝いて見えたのだった。
美穂「……はいっ!」
美穂「セイラさん。ありがとうございますっ!」
790: 2014/04/27(日) 13:18:45.51 ID:kxJE8PJ3o
――
――
――
聖來「さてさて、もうこんな時間か。結構話し込んじゃったね」
取り出した携帯を見て、聖來は時刻を確認する。
美穂「あ、あれ?も、もうそんな時間なんですか?」
同じく時刻を確認して、少女も驚く。
何故かその声は少しだけ上擦っている。
どうやら自分が思っていたよりも時間が経過していた事にようやく気づいて、
何かに焦り始めたようだが……。
聖來「この後の予定はどうだったけな……あ、それより先にシャワー浴びておきたいよね」
美穂「そ、そうですね……けっ、結構、あ…汗かいちゃいましたから」
携帯を操作しながら、画面に映る本日のスケジュールを確認していた聖來は、
隣で露骨にそわそわし始めた少女の様子に気づかない。
少女の様子は何かのタイミングをはかっているようであり、なかなか踏ん切りがつかないようにも見える。
聖來「それじゃあ今日は、このくらいで解散にしよっか」
結局、聖來は、美穂の不可解な仕種には気づかないまま…
すくりとベンチから立ち上がった。
聖來「美穂ちゃん、また
美穂「あっ!あああのっ!!」
聖來「?」
聖來の別れの言葉を、ほぼ同時に立ち上がった少女はなんとか遮った。
791: 2014/04/27(日) 13:20:15.68 ID:kxJE8PJ3o
聖來「えっ、どうしたの美穂ちゃん?」
美穂「そ、そそそのですねっ……えええっとっ!」
急にしどろもどろである。
どうやら彼女の緊張癖が遺憾なく発揮されているようであった。
聖來「?」
しかし、どうしてこのタイミングなのだろう。
その理由が聖來には思い当たらないのだった。
とは言え、答えはすぐに明らかになったのだが。
美穂「ここっこれっ!!!」
直立の姿勢から腰を30度ほど前方に曲げて、腕は前方に。
掌を軽く握りこみ、両手の親指と人差し指で小さな袋を掴んで真っ直ぐと突き出す少女。
聖來(……ラブレター渡す姿勢だ、これ)
顔を赤くしてギュッと目を瞑って、ぷるぷる震えてるものだから余計にそう見えてしまう。
聖來「美穂ちゃん、これは?」
美穂「おっ、お、お……!」
美穂「お誕生日っプレゼントですっ!!」
美穂「セイラさんっ!お誕生日おめでとうございますっ!」
792: 2014/04/27(日) 13:24:39.58 ID:kxJE8PJ3o
聖來「……あっ」
言われてから気づく。4月27日。
そう言えば今日は、自分の誕生日だったと。
聖來(当日まで気づかないなんて……ここの所忙しかったからかなあ……)
彼女自身このタイミングまで全くその事に気づいておらず、
予想外のサプライズとなった事に、なんだか愉快でおかしな気持ちとなった。
聖來「そっか。美穂ちゃん!ありがとう!嬉しいよ」
美穂「はいっ!えへへ……」
聖來が笑顔でプレゼントを受け取ると、少女は顔を綻ばせて笑った。
憧れの人にプレゼントを渡せた喜びで、緊張もとれたのだろう。
聖來「ふふっ、それにしても本当に驚いちゃった」
聖來「美穂ちゃん、まるでラブレターでも渡すみたいだったからさ」
美穂「えっ!ら、らららっ!ラブっ?!」
美穂「ちっ、ちち違います!そう言う事じゃなくってっ!」
美穂「あっ、で、でも!セイラさんの事嫌いって事でもなくって!」
美穂「って!な、なな何言ってるんだろう私……っ!そ、そうじゃなくって…!そのっ!」
聖來「うふふ」
あまりの恥ずかしさのせいか、少女の顔は本日一番真っ赤である。
美穂「あ、あのっ!わ、私、か、かか帰りますねっ!ぷ、プレゼントも渡せたのでっ!」
美穂「そ、それじゃあセイラさんっ!!ま、またっ!!」
聖來「うん、またねっ!」
小日向美穂はプレゼントを渡すと去っていった…
(……小日向美穂との距離が少し近づいた気がした。)
聖來(なんてね)
793: 2014/04/27(日) 13:28:49.95 ID:kxJE8PJ3o
――
美穂の居なくなった公園で、
聖來は、貰った可愛らしい小袋を開ける。
聖來「あっ、わんこだ」
出てきたのは、ビーズで出来たエメラルド色のわんこ。
手作りのキーホルダーであるらしい。
聖來「ふふっ、可愛い。キーポーチにでも付けようかな」
とりあえず贈られたわんこの処遇は、使用頻度の多い私物につけておく事となった。
これを見るたび、彼女は可愛い後輩の顔を思い出すことになりそうだ。
聖來「……」
聖來「……アタシには、そう言う生き方もできると思った」
聖來「それは嘘じゃないよ。美穂ちゃん」
聖來「だけど、本当の事でもない」
それはただの独り言。
ビーズの子犬を見つめて、誰に聞かれるわけでもない言葉を呟く。
聖來「美穂ちゃん、恥ずかしがり屋のアナタにならもしかしたらわかっちゃうかもね」
聖來「ふふっ、むしろ却ってわからないかな?」
聖來「だって……アタシがアイドルヒーローを辞めた本当の理由はね……」
聖來「選ぶだけしか出来ないアタシが……アイドルヒーローを名乗って……希望の象徴だなんて持て囃されるのが」
聖來「”恥ずかしくなった”からなんだから」
元アイドルヒーローの独り言は、舞い散る花びらと共に風の中に消えていった。
おしまい
794: 2014/04/27(日) 13:29:51.39 ID:kxJE8PJ3o
と言う訳で、一応セーラさんの誕生日のお話。
地味にぼかした事 … 美穂がこの時期に新人アイドルヒーローになってるかどうか
一応この時期に美穂がアイドルヒーローになってても
新人アイドルヒーローがトップを目指して頑張ってるで話は通るはず、たぶん
むしろこの時期に聖來さんが美穂とこの関係をちゃんと維持できてるかの方が不安だったりします
(と言うか設定の掘り下げを誕生日時系列でやらなくていいよなあ、毎度の事ですが)
改めて、セーラさん誕生日おめでとー
795: 2014/04/27(日) 13:35:31.53 ID:SjTDiBBCo
おつおっつー。乙が追っつかない。ふふっ
そしておめでとー
そしておめでとー
【次回に続く・・・】
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