897: ◆6osdZ663So 2014/05/08(木) 13:20:03.48 ID:2LpK5BB+o
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」シリーズです
前回はコチラ
帰宅なう
>>894から続きますー
>>894から続きますー
898: 2014/05/08(木) 13:20:45.13 ID:2LpK5BB+o
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899: 2014/05/08(木) 13:21:31.14 ID:2LpK5BB+o
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後方へと吹き飛んだ聖來の身体は、地面をごろごろと転がって、
やがて、先ほどの位置から数m程離れた所でピタリと止まる。
聖來「……」
聖來「……いたたた」
そして、彼女はすくりと起き上がった。
痛がってこそいたがその身体には、掠り傷1つ無い。
『……小癪な』
その様子を見て、苛立つ炎馬が呟く。
その足元には、紅色に染まる1枚の盾と、ボロボロになった大きなクッションが落ちていた。
聖來「うん、間一髪…なんとか助かったかな……」
代わりに聖來の両手には、先ほどまで持っていたはずの二本の刀が無い。
聖來は、物に”刃の幻影”を被せる妖刀『月灯』の力を使って、
かつて吸血鬼との戦闘の際に拝借していた超☆レア装備の盾『紅月の盾』と、
財閥特注の『衝撃緩和クッション』、それぞれに”刀の幻影”を被せていたのだ。
炎馬の攻撃を防いだ”刀の幻影”が破壊された事で、その中身が即座に露出して、
自動防御能力を持つ盾がその蹴撃を防ぎ、さらに緩和クッションが衝撃をほとんど相頃していた。
同時に聖來自身も後方に跳ぶ事で、攻撃の脅威からはほぼ無傷で逃れる事ができていたのだった。
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それは、なんでもないようなとある日のこと。
それは、なんでもないようなとある日のこと。
その日、とある遺跡から謎の石が発掘されました。
時を同じくしてはるか昔に封印された邪悪なる意思が解放されてしまいました。
~中略~
「アイドルマスターシンデレラガールズ」を元ネタにしたシェアワールドです。
・ざっくり言えば『超能力使えたり人間じゃなかったりしたら』の参加型スレ。
900: 2014/05/08(木) 13:22:20.94 ID:2LpK5BB+o
『だが、つまらん手品だ……出来たことと言えば吾輩の贈る氏の瞬間をほんの一時先送りにしただけ……至極無駄な事だ』
炎馬の言うとおり。
聖來は、恐るべき蹴撃から確かに無傷で生き延びた。
ただし、その両手からは武器は失われている。持っていた武器を即座に防具に変じさせ、離脱の際に手放したためだ。
頼みの防具を捨てた今、次回の攻撃は防げない。
代わりの武器や防具を取り出したとしても同じ事。何故ならばその数には限りがある。
限界がある以上、同じ作業の繰り返しで彼女の策は尽きるだろう。それでは結局先延ばしに過ぎない。
そもそも、種が割れているのだから同じ手を食うつもりも炎馬にはなかったが。
聖來「そうかな?無駄なことなんてないんじゃない?」
しかし、この不利な状況においても聖來はニヤリと笑った。
聖來「だって、手品の種ならこっちもわかったからね」
『……』
不敵に笑うヒーローを、炎馬は黙って睨みつける。
901: 2014/05/08(木) 13:23:06.57 ID:2LpK5BB+o
聖來「陽炎とか蜃気楼とか……これらは大気中の温度差によって光が屈折する現象なんだけど」
聖來「あなたの炎は、似たようなこれと現象を引き起こしてるみたいだね」
聖來「見えてるものをまるで幻惑するようにズラしてる」
聖來「だから本当にズレてたのは足音じゃなくって視覚情報の方だった」
聖來(通りで紗南ちゃんが情報獲得に苦労してたわけだよ)
見えている物からあらゆる情報を掻っ攫う三好紗南の『情報獲得』。
しかし、真実を見据えていなければ、その力は十全には発揮されない。
実体の無い幻影から、抜き取れる情報も同じく実体を持ちはしないのだ。
聖來(でも、それがヒントになった)
聖來「今、見えてる姿は実体を持たない」
聖來「一度のやり取りでそれが分かっただけでも充分な成果じゃないかな」
彼女の希望に満ちた瞳が、深い漆黒の渦巻く瞳を見つめ返していた。
『それが無駄だと言っている』
地の底から響くような声が、不快感を露にしながら答えた。
902: 2014/05/08(木) 13:23:45.15 ID:2LpK5BB+o
聖來「……」
『生意気にも思い上がった劣等種族が、この程度で吾輩の力の一端でも知ったつもりか?』
『勘違い甚だしくも滑稽であり、もはや怒りさえも沸かぬ』
『なにより……』
炎馬が大地を一際強く蹴った。
それに呼応するように地面に黒い波紋が生まれ……
そして、脅威的な数の泥の異形が形作られる。
『崇高なる吾輩は、これ以上貴様の遊びに付き合うつもりはないのでな』
『一分一厘にも満たぬ矮小な頭を振り絞った所で、この数の差は覆せないだろう?』
聖來の周囲は、あっと言う間にカースに囲まれた。
聖來「あはは……参っちゃうね、普段戦ってるカースよりずっと合理的だ」
『侮辱であるぞ。高貴なる吾輩を感情に縛られ喚くだけしか能の無い連中と同列に語るな』
903: 2014/05/08(木) 13:24:40.72 ID:2LpK5BB+o
聖來「……」
聖來「……確かにアタシ1人じゃこの数の差は覆せないかな」
周囲をカースに取り囲まれた聖來は、どこかわざとらしく頭を抑えて言った。
『では尻尾を巻いて逃げるか?先ほどの女を呼び寄せればこの数に囲まれていても逃げられるのだろう?』
嫌みったらしい笑いを含んだような声が、聖來に返される。
聖來「逃げないよ。逃げたらここに残った意味がない……だからその誘いにはのらない」
『ふん。ならば貴様は潔く氏を選ぶか?』
聖來「ううん、そのつもりもない。まだ全然絶望してないからね」
『ほう?』
彼女の言葉に、嘘はなかった。
武器はその手になく、周囲を呪いに囲まれてなお、その顔は希望に満ちていた。
904: 2014/05/08(木) 13:25:28.41 ID:2LpK5BB+o
聖來「だってさ……」
その時、上空から飛来してくる影が1つ。
『……まさか』
ダン!ダダン!
銃声が響き、聖來の周りを囲むカース達に弾丸が次々と打ち込まれる。
ギュルルルン!
それとほぼ同時に、横から現われた黒く燃え上がる鎌がカース達を両断しながら炎馬へと差し迫った。
『くっ!』
高速で回転する炎の鎌のギロチンを、炎馬はわずかに後退して回避する。
聖來「アタシ達は1人じゃないっ!」
そうして出来上がった隙に、聖來は懐からホイッスルを取り出した。
ピィイッ――!と甲高い音が辺りに響き渡る。
905: 2014/05/08(木) 13:26:25.06 ID:2LpK5BB+o
ホイッスルの音に反応してだろうか。地の彼方から、幾つもの獣の影が現われた。
先頭に走るのは茶色い毛並みの一頭の狩猟犬。
その後ろに続くのは、様々な品種の犬たち。
彼らはあっと言う間に長い距離を走り抜けて、それぞれ果敢にもカースの群れへと飛び掛っていく。
聖來「形勢逆転……とまでは言えないだろうけれど、これならどうかな?」
1対多の状況。確かにこれはどうにもならない。
どれだけ聖來がカースとの戦闘に慣れていたとしても、1人ではその数の差を覆せはしないだろう。
しかし多対多の状況。つまり彼女にも味方が居るならば話は別だ。
たとえ、敵のカース達の方が数は多かったとしても、
それらは所詮、感情のままに暴れるだけの寄せ集めの大群。
相手取るこちらが連携の質で勝っていたならば、必ず勝利を掴むことができる。
『貴様は囮だったか……はじめからっ!吾輩を誘い込むための!』
聖來「まあね、体質的にどうしてもアタシは目立っちゃうし」
聖來「その上あえて目立つ活動をしたんだから、必ずそっちから来てくれると思ってたよ」
この雨を降らせる元凶への接触。それが聖來にサクライPから課せられていた任務。
囮と言う役割を演じる為に、人外を引き寄せる聖來の『カリスマ』は非常に役に立った。
聖來「まあもう少しあなたの手の内を暴いてから……2人には出てきてもらうつもりだったんだけどね」
『笑えんな……吾輩に手綱でも付けていたつもりか獣使いっ!』
誘い込まれていた事を知り、炎馬は憤怒にわななく。
ダンッ
と、その首筋を上空からの弾丸が掠めた。
『小賢しいっ!!』
苛立つ炎馬が空に向けて叫んだ。
906: 2014/05/08(木) 13:27:55.16 ID:2LpK5BB+o
マリナ「ほら、ほら!」
カースが沸き犇く地上よりもやや上方から、アビストラトスのハンドガンが撃ちこまれる。
空中からの精密な射撃。地上に生まれたばかりのカース達は為す術なく正確に核を打ち貫かれて次々と倒される。
『不届き者めがっ!高貴なる吾輩を見下ろす蛮行が許されると思っているのかっ!!』
怒りの文句とともに、炎馬の周囲に炎の球体が発生した。その数、七つ。
炎馬が嘶き合図をすると、火球がアビストラトスの存在する空中に向けて同時に発射された。
マリナ「あららっ、とっても熱いパッションね」
まるで空を滑るように動き、その火球の軌道からスルリと外れるアビストラトス。
しかし、火球達は進行方向を大きく曲げて彼女を執念深く追いかける。
マリナ「へえ」
ならば、と少しだけ宙を泳ぐ速度を上げるマリナ。だが火球の方もエンジンが掛かったように加速する。
マリナ「なるほど、悪くない波じゃない♪だけど…お姉さんに届くのかしらっ!」
七つの火球は上下左右、あらゆる方向からマリナを狙って追尾する。
だがしかし、空中を縦横無尽に泳ぐアビストラトスに迫れる熱は1つもなかった。
空はアビストラトスのテリトリー。鳥でさえ彼女の速度に追いつくことはできない。
それでも火球たちは、健気にも彼女に誘われるがままに追いかけ続けるが……
アビストラトスが、ビルの合間を素早く縫うように泳げば、
その華麗なターンに合わせて進行方向を変える事ままならず、ビルにぶつかった火球たちはしめやかに爆散した。
907: 2014/05/08(木) 13:29:37.90 ID:2LpK5BB+o
『ちぃっ!』
放った火球がアビストラトスに迫れなかった事を視認した炎馬が舌を打つ。
瞳子「よそ見してる余裕があるのかしら?」
『ぬっ!』
炎馬が横を振り向けば、アビストラトスに続くもう1人の援軍がそこに。
大鎌を振り上げたエンジェリックファイアがすぐ傍まで距離を詰めていた。
どうやら、呼び出したカースの群れのほとんどは彼女の鎌に焼かれて消滅してしまったらしい。
歴戦の魔法少女。例えブランクがあっても、雑魚の掃討ぐらいお手の物。
瞳子「はぁっ!」
振り下ろされる黒い旋風の炎は、多くのカースを巻き込んで蹴散らす。
新たに呪いが沸こうと関係ない。1匹沸いたら2匹を打倒し、2匹沸いたら5匹を滅殺。
あれほど犇いていたカースの群れも、ほんのわずかな時間で彼女に半数近くが蹴散らされていた。
瞳子「まったく……これだけの数のカースの壁は流石に驚異的だわ、近づくのも一苦労ね」
瞳子「だけど、その壁に守られてる貴方の逃げ場も同時に無くしてるんじゃないのかしらっ!」
周囲のカース達を次々と葬りさり、汚泥の海に一筋の道を切り開いた彼女の大鎌が大きく横薙ぎに振り下ろされた。
燃える黒き一閃が呪いの泥に守られる炎馬の首元へと迫る。
908: 2014/05/08(木) 13:31:21.84 ID:2LpK5BB+o
『ふん!くだらんっ!その程度の攻撃、吾輩には止まってさえ見えるぞ』
炎馬は、大鎌が振り下ろされるよりも早く後方に飛び下がって、その一閃を鮮やかに回避する。
その際、着地点に居たカースを2、3匹ほど踏み付けその核を破壊したが、足元には目もくれはしない。
瞳子「……容赦ないのね、一応は仲間じゃないのかしら」
その様子をみて、瞳子は呆れて呟く。
『笑止。吾輩にとってこいつらは道具だ。吾輩の崇高さを知らしめるための道具でしか無い!』
『役に立たぬ道具を踏み付け、脚蹴りにすることの何がおかしい?』
それは、攻撃から逃れる為に仲間を犠牲にしたことに何の感情も抱いていないようであった。
悪びれることなど当然なく、傲慢な態度を崩しはしない。
聖來「それじゃあ貴方は1人で戦ってるって事だね」
炎馬の言葉に、返事をしたのは聖來であった。
聖來「どれだけカースを呼び寄せようと、それが貴方の道具でしか無いなら」
聖來「1人だけで戦ってるのと一緒だよ」
『当然だ。群れる必要があるのは雑魚達だけだろう』
『独立不羈なるこの吾輩は唯一頂上に君臨しているっ!群れることなどあるはずがないっ』
『もっとも、貴様のような何かに縋らなければ生きる事さえままならぬ弱者には、高貴なる吾輩の主義を理解できないだろうがな』
聖來「……」
聖來「あっはっは、確かに……アタシは弱いよ」
”弱者”と罵られた元アイドルヒーローは、ただ苦笑する。
909: 2014/05/08(木) 13:33:02.55 ID:2LpK5BB+o
聖來「今までずっとヒーローとして活動してきたけどさ……はっきり言ってアタシ1人で出来たことなんて何一つなかったね」
聖來「でも、だからかな」
聖來「1人じゃない内は負ける気がしない」
彼女が懐から取り出した一本のナイフ。
その”刃の形をした幻想”を砕いて、内側から現れた黄金の刀を右手に持つ。
『月灯』。この世で最も強欲な、夢幻の刃。
「わんっ!」
聖來が『月灯』を取り出したのと同時に、
”ナイフ”を咥えた犬達が瞳子の切り開いた道を駆けはじめた。
910: 2014/05/08(木) 13:34:17.34 ID:2LpK5BB+o
彼らの行く手を、生き残っていたカース達が阻もうと襲い来るが、
ダンッ!ダダンッ!
マリナ「そうは、させないわよ」
上空からの銃弾が、彼らの行く手を防ごうとする邪魔者達を正確に射抜き仕留める。
緩まった呪いの泥の陣を、犬達はうまく連携しながら掻い潜り、それぞれが配置へと向かう。
そして、
ピピィイッ――!と鳴らされた聖來の号令と共に、
配置に着いた犬達が一斉に跳躍し、空中でその首を大きく縦に振るった。
彼らの咥えていたナイフが、汚泥の中心にいる炎馬に向けて弾丸の様に放たれる。
『……馬鹿にしているのか、この程度の数の攻撃が何の脅威になる』
炎馬を囲うように放たれたナイフの投擲であったが、
数も威力も、自分を脅かすにはまるで足りないものだと炎馬は判断する。
すかさず迎撃のために火球を作り出そうとして……
――いや、待て
すぐに思いとどまった。
911: 2014/05/08(木) 13:37:21.14 ID:2LpK5BB+o
炎馬は先ほどの光景を思い出す。
破壊された刀から飛び出た、盾と緩急材が炎馬の襲撃を食い止めた場面。
――破壊される事で意味をなす刃。
――もしこの攻撃が、吾輩の迎撃を誘っているのだとするなら…
作りかけていた火球を消散させる。
相手の策にわざわざ乗る必要は毛頭無い。
この程度の数のナイフならば、もし避けきれず当ったとしても大ダメージを受けることはない。
『……迎撃の必要さえない』
聖來「と、思ってくれたのかな?」
聖來「だけどね。『月灯』の作り出した幻影の刃は、全部アタシの任意破壊が可能だよっ!」
聖來が指を鳴らせば、炎馬に迫るナイフが全て砕け散った。
『なにっ!』
その内側から現われたのは――何かがぎっちり詰まった袋
現われた袋はいきなりビリッと裂けて、その内側からさらに大量の小石が零れ落ちる。
912: 2014/05/08(木) 13:38:27.95 ID:2LpK5BB+o
聖來「『月灯』っ!!」
聖來が手に持つ黄金の刀を大きく振るうと、
中空にばら撒かれた小石が七色の光に包まれて……”刀”へと姿を変えた。
たった数本のナイフが、気づけば幾百もの刀に。
刀の雨が、漆黒の炎馬を取り囲むように降り注ぐ。
『…………ちぃっ』
覆せないのはやはり数の差か。
これらを避けるにしても防ぐにしても……攻撃の量が多すぎる。
前後左右を囲むように放たれた刀の雨を跳躍して避けることはできず、
炎馬の身体は串刺しに……
はならなかった。
聖來「っ!」
突如として、炎馬の体が煙の様に霧散した。
百の刀は、目標を傷つけることなく地面に転げ落ちる。
『甘すぎるぞ、獣使いぃっ!』
同時に、刀の雨が降り注いだ地点より、数mほどズレた地点に炎馬が現われた。
幻影使い。その姿は蜃気楼の如く、実体を捉えることはできない。
『くだらんっ!どれだけ群れようと所詮は愚図の集まりっ!』
『その程度の浅い策が、偉大なる吾輩に届くと本気で思っていたかっ!!』
913: 2014/05/08(木) 13:40:42.31 ID:2LpK5BB+o
瞳子「ええ、だから今届かせるわ」
『なにっ!?』
炎馬の現れた地点、そのすぐ真後ろには大鎌を振り上げた瞳子の姿。
『貴様何故っ!!』
瞳子「丸分かりだったのよ、蜃気楼みたいにズラされていた貴方が本当に居る位置が……」
振り下ろされた凶刃が、炎馬の身体を縦に真っ二つに裂いた。
『がっ――』
瞳子「……グッバイ」
どさりと、呪いの炎馬の身体が左右に倒れる。
棚引く紫と黄色の炎は、切り口から新たに生まれた漆黒の炎に瞬く間に飲まれていった。
聖來「……『月灯』はね、刃の輝きを映し取って、刃の輝きを映し出す刀」
聖來「だから……『月灯』の輝きが届かない位置の物体には、当然だけど幻想を被せることができないんだ」
『――――』
両断された炎馬の足元には、幾つかの石ころが転がっていた。
914: 2014/05/08(木) 13:41:53.09 ID:2LpK5BB+o
聖來は犬たちに命令し、炎馬の周囲に石ころをばらまいて、
さらに『月灯』の力を使い、それらの石に”幻影の刀”を被せた。
ほとんどの石ころは、これによって刀に変じたが、
しかし――”光の屈折のために、『月灯』の輝きが届かず刀に変わらなかった石ころ”が幾つか存在していたのだ。
それらの石ころが存在する位置から、瞳子は炎馬の本来の位置を瞬時に割り出して、
見事に大鎌の一撃を届かせることに成功したのであった。
『――――』
黒い炎に燃え上がる炎馬の身体はやがて崩れて、地面に溶ける様に消えていった。
聖來「……」
その様子を聖來は少し悲しげな目で見つめていた。
聖來「終わったのかな……」
瞳子「……」
瞳子「いえ、まだみたいよ」
聖來「えっ」
瞳子「……」
瞳子「雨が止んでないわ」
聖來「っ!!」
炎馬が倒れてなお、汚泥の雨は降り続いていた。
915: 2014/05/08(木) 13:43:11.87 ID:2LpK5BB+o
―――
―――
大蜥蜴の進撃は止まらない。
どころか、進撃を押さえつけるために闇から伸びた手が、炎上する巨体に次々と千切り飛ばされていく。
それは何度も手足を強く打ち付けて爆発を引き起こし、
闇の手の拘束にも打ち勝てる推進力を得て、器用にビルの外壁をよじ登り続けた。
そして、その怪物は、ついに屋上のへりを掴んで顔を出す。
人1人を丸呑みできそうな巨大な蜥蜴が、燃え盛りながら4人の前に姿を出した。
『 ガ ア ア ア ァ ア ア ! !』
そいつは咆哮しながら炎に包まれたその腕を、目の前に悠然と立つ男へと伸ばす。
しかし、その脅威を目の前にしておきながら、男の表情にはニヤケ面が浮かんでいた。
『合唱魔術の発動を宣言する!』
2人の魔術師が、差し迫る大蜥蜴の前に立ち塞がり宣言した。
「母なる水よ!大いなる我が力に従い、燃え上がる炎を静寂の底へと沈めよ!」
「母なる水よ!大いなる私の力に従い、燃え上がる炎を静寂の底へと沈めよ!」
「「アクアクレイドル!!」」
響く魔術師達の言霊に反応して、壊された貯水槽から屋上に漏れ出ていた水に優しい光が灯る。
916: 2014/05/08(木) 13:44:30.34 ID:2LpK5BB+o
『 ガ ァ ッ ッ!?』
そして、魔法に掛かった大量の水が一気に宙へと持ち上がり、燃え上がる巨大な蜥蜴を包み込んだ。
水の籠に囚われた蜥蜴は、自由を奪われもがいている。
さくらと竜面、2人の魔術師の本領発揮。
桜の杖によって増幅されたさくらの魔力の渦を、竜面の男が細かく制御しサポートする。
これによって、
嫉妬の炎を静寂の水底に鎮める合唱魔術『アクアクレイドル』が完成……
竜面「さくらぁっ!!!」
さくら「ご、ごめんなさいっ!」
完成してはいなかった。
917: 2014/05/08(木) 13:45:22.15 ID:2LpK5BB+o
紗南「え?な、なに?どういうこと?」
紗南「魔法、ちゃんと発動してるよね?」
2人の詠唱の結果、大蜥蜴は大量の水で作られた揺り籠に包まれている。
紗南から見れば、その魔術は成功したようにしか見えていなかった。
『ガガ?』
が、数秒すれば揺り籠の一部が綻んで、水の拘束は弾け散ってしまった。
浮き上がっていた怪物の身体が、檻から解放される。
紗南「……えっ」
さくら「また一人称間違えちゃいましたー♪てへっ☆」
紗南「てへっ☆じゃないぃっ!!」
どうやら、詠唱のミスによって魔術は完全には成功していなかったらしい。
竜面「さくら……普段の魔術は『桜の杖』で増幅されるおかげもあって少しくらい適当でも発動するのだろうが、
合唱魔術はそうもいかんっ……デリケートな魔術なのだっ、お互いの息をぴったり合わせて
初めて完成する魔術っ……だと言うのに詠唱を間違えてどうするっ……そもそもいつもの魔術の時でもだな」 クドクド
さくら「あわわっ、ごめんなさいごめんなさいっ」
紗南「今はお説教してる場合でもないでしょっ!?!」
『 ガ ァ ァァァッ!!』
自身を縛る力を全て振り切った嫉妬の怪物が再び暴れ始めた。
外に洩れる炎こそ消えていたが、その内部には嫉妬の炎が今もなお狂うように燃えている。
大蜥蜴は再び4人に向けて、灼熱の如き威圧感を放ちながら襲い来る。
さくら・紗南「ひぃっ!」
918: 2014/05/08(木) 13:47:10.27 ID:2LpK5BB+o
サクライP「いやいや良くやってくれたよ、さくら君。それに呪術師君」
さて、そう言った彼の手にはいつの間にか1本の剣が握られていた。
透き通る蒼色の刀身に金の装飾、そして宝石の飾り。
それはまるで過去の英雄が手にしていたかのような、神秘的な色を秘めた剣。
紗南「えっ、な、なにそれ…何処から取り出したの」
さくら「と言うより…サクライさん戦えるんですかぁ!?」
『 グルルル ル ァ ア ア アア!!!!』
紗南「うわぁあ!」
さくら「きゃぁあ!」
龍が如き咆哮に、怯える少女達。
彼女達を守るように男は前に出ると、怪物を見据えて剣を構える。
サクライP「さて、来るか怪物?お前の相手は僕がしよう」
彼はいつものように、ニヤりと笑った。
『ゥゥウウルルルル!!』
男の挑発に答えるように、怪物は真っ直ぐと彼に向けて爆進を開始する。
ちっぽけな人間を薙ぎ潰すため、その漆黒の巨体をしなやかに奮い、
そして体内で荒れ狂う衝動をその腕に込めて、目の前に立つ邪魔者へと叩きつけようとする。
『 ル ァ ア アア ア アアッ!!』
触れるもの全てを爆散させる怪物の左腕の一撃。
919: 2014/05/08(木) 13:48:17.34 ID:2LpK5BB+o
サクライP「水よ、僕に従え」
その言葉に呼応して、
鎮火の属性を付加された水達が、彼の持つ剣の刀身へと集まる。
蒼き刀身は、水のベールを帯びてさらに神秘を増し、
そして、
サクライP「ふんっ!」
襲い来る烈火の爪先に対して、
男が剣の切っ先を突き合わさるように蒼き水の刀身を振り放てば――
その触れあった点から、
怪物の左腕が、大きく粉砕されて、水しぶきと共に弾けた。
『ァアアッ!?!』
まさかの反撃によって、左腕を失った怪物が怯む。
920: 2014/05/08(木) 13:49:33.50 ID:2LpK5BB+o
その隙を逃さず、男は巨大な蜥蜴の懐へと潜り込み、
サクライP「はぁっ!」
すかさずその胸倉へと神秘の剣の一撃を突き放った。
『――ァ』
漆黒の巨躯が、散り散りとなって崩壊する。
大蜥蜴の肉体の大部分が、その蒼き剣のたったの一撃によって砕け散ったのだ。
わずかに残った肉片から嫉妬の炎が洩れだし、辺りを焼き尽くそうとしたが、
「「アクアクレイドル!!」」
2人の魔術師が再度放った魔術によって、それらは沈静の水に包まれて……外部に燃え移ることはなく、鎮火した。
やがて怪物の肉片も燃えカスの様に崩れ去り、ビルの屋上に溢れる水に流され、散っていく。
4人を襲った脅威は、瞬く間に討ち払われたのだった。
921: 2014/05/08(木) 13:51:00.45 ID:2LpK5BB+o
さくら「ふ、ふぅ……め、めんもく……やくじょ……ですよねぇ?」
今度こそ魔術の成功を見届けて、少女は自信なく呟く。
竜面「帰ったら魔術の特訓だがな」
さくら「そんなぁ……さくらはもうヘトヘトですよぉ……しゅん……」
竜面の男の厳しい一言に、力が抜けたように少女は座り込むのだった。
サクライP「はははっ、強くなれるチャンスだと思えばいいさ。さくら君」
サクライP「失敗は次の成功の糧にすれば良い」
怪物退治を終えた男が振り向いて少女に慰めの一言をかける。
その手元には既に先ほどまで振るっていた剣は無い。
紗南「あれ……?サクライさん、さっきの剣は?」
サクライP「昔、僕が手に入れたかつて英雄が使っていたとされる怪物退治の剣さ。こう言うときには役に立つ」
紗南「……そうなんだ」
少女は聞きたかった事はそこではなく、どこから取り出してどこに仕舞ったのかだったのだが。
教えてもらえそうになさそうなので、適当に納得しておく。
紗南(まあ勇者っぽくってカッコよかったけどね……あ、サクライさんじゃなくって剣の話ね)
サクライP「さてと……ん?通信か、向こうも何かあったかな」
懐から取り出した通信端末の受信を確認し、彼は通信を開始した。
『こちらセイラ――”依頼主”さん応答願います』
サクライP「何かあったのかな、”ヒーロー”くん」
『実は―――』
922: 2014/05/08(木) 13:52:39.69 ID:2LpK5BB+o
―――
―――
雨から湧き出る呪いを狩りながら、
聖來は、その手に持つ端末で”依頼主”との通信を続ける。
『そうか、逃げられたか』
連絡先の男は残念そうに呟いた。
聖來「……相手は馬型のカース。属性は傲慢と嫉妬」
聖來「核を確認した訳じゃないけど、外部に吹き出てる負のエネルギーの色から間違いないと思う」
見たこと、聞いたこと。伝えられる限りの情報を聖來は”依頼主”へと伝える。
聖來「確認できた限りの能力は……」
聖來「1、泥状のカースを生み出す 2、自分の姿が映る位置をずらす」
聖來「3、火球を生み出して操る ってところ。あと、すっごくお喋り」
『なるほど、通りでこちらの情報取得がうまくいかなかったわけだ』
聖來「…………ただ……逃げられた時に使われた能力はちょっと分からなかった」
聖來「身体が真っ二つになって、全身燃え上がったのを見たはずなんだけどね……」
瞳子「手ごたえは間違いなくあったわ。あの泥は実体を持っていたはずよ…」
聖來の近くで、同じくカースと戦っていた瞳子が同意する。
『……おそらくは幻影による身代わりかな』
聖來「確証はないんだけど、たぶんね」
聖來「とりあえず今はわんこ達に匂いを追ってもらいつつ、上空から仲間に捜索して貰ってるんだけど」
地上では犬達が匂いを追って、上空からはアビストラトスが馬の姿を探しているが……
現在のところ、手がかりらしき物も見つかってはいない。
『わかった、こちらも魔法使いくんに捜索させよう』
聖來「よろしくね」
923: 2014/05/08(木) 13:54:11.29 ID:2LpK5BB+o
―――
―――
サクライP「……君のもたらした情報は、後から来るヒーロー達にも伝わるように取計らっておくよ」
サクライP「引き続き、君の活躍を期待している。ヒーロー君」
そう言って、彼は通信を終えた。
サクライP「……そう言うわけだ、さくら君」
さくら「はぁーい!了解です!」
魔法使いの少女は元気よく返事をして、新たに探知魔法の準備を始める。
竜面「我輩が考えるに……」
竜面「大罪の中でも”嫉妬”と言うのは最も厄介な属性だ」
呪いを生業とする男は淡々と語る。
竜面「奴らは追い詰めれば追い詰めるほどに、その呪いを膨れ上がらせる」
紗南「……HPが減れば減るほど、予想もできない新しい攻撃パターンが増える……みたいな?」
竜面「然りだ。話に聞く炎馬も、そしてこの蜥蜴を操っている者も……一筋縄ではいかんだろうなあ」
紗南「うげぇ……」
竜面の話を聞いた紗南は、とても苦い顔をした。
竜面「で、どうするのだ?サクライ殿?」
サクライP「……もうしばらくは……様子を見ているさ」
サクライP「イルミナティ、これまで表には出てこなかった彼らが蓄え続けてきた研究の成果と」
サクライP「そして……かつて経験した絶望に対抗するため、ヒーロー達が練磨してきた力の真価を」
サクライP「僕は特等席から見物させて貰うとしよう」
深緑の瞳が、ビルの真下の災禍を見据える。
野心に燃える彼の見つめる先には果たして…。
おしまい
924: 2014/05/08(木) 13:55:57.57 ID:2LpK5BB+o
『大蜥蜴』
インヴィディアによって作られた炎を内包する蜥蜴が集まり融合、巨大化したもの。
身体を爆発させながら暴れ狂う。炎上する巨体はとにかく強靭。
内部は嫉妬の炎で溢れていて、それを破壊力や推進力の強化に利用している。
また危機に陥ると大爆発の危険アリ。鎮火の属性が弱点。
『束縛式』
竜面さんが使う術式理論。簡単に言えば『束縛形の魔術』と『束縛系の妖術』を組み合わせて同時に使っているらしい。
『束縛』は、妖術と魔術で方向性が似ている術が多くあるカテゴリであり、その類似性を利用して重ねがけしているようだ。
2つのエネルギーが絡み合う術であるために、捕縛されてしまうと簡単には逃れられない。
ただし、使用者側も2つのエネルギーを同時に行使しないといけないのでコントロールが難しく長時間の足止めには向かない。
『追加詠唱』
魔術師の基本スキル。完成した魔術に追加の詠唱を施す事で術の性能をより強化する。
「魔術は詠唱すればするほど魔術の性能が向上する」とか言う、魔術師にあるまじき脳筋理論の産物。
925: 2014/05/08(木) 13:57:41.93 ID:2LpK5BB+o
『サクライコレクション』
あの日以来、櫻井財閥が人を使い金を掛けて集めたレアアイテムの数々。
見ていて壮観な程にもの凄いアイテムが盛りだくさんだが、実用的な物はそれほど多くなく、
8割ほどはお嬢様専用の玩具で、ただの遊び道具である。
『セイヴザプリンセス』
かつて英雄が持っていたと言われる聖剣で、現在はサクライコレクションの1つ。
どこかのダンジョンの奥底に眠っていたものを財閥が回収した。
コレクションの中では実用的な方なので、サクライPは好んで持ち出す事が多い。
聖剣であるため、怪物にカテゴリされる存在に対しての特攻効果を持つ他、
周囲に存在する神秘を刀身に取り込んで、その性質を纏うことが可能。
また装備者が行動が英雄的である場合にその能力は増す。
具体的には、「人類の敵を討つ」「敵が装備者より強い怪物である」
「誰かを守る為に使われる」「守る対象が女の子である」など。
……か弱い女子供を守ると言う行為が、英雄的だと判断されるのだが、
持つ者次第ではその意味合いが少し異なるように見えてしまうのは玉に瑕。
926: 2014/05/08(木) 13:59:11.32 ID:2LpK5BB+o
イベント情報
・芽衣子さんが避難活動を先導しています。
・聖來、瞳子、マリナがギルティ・トーチと交戦し、逃げられました。現在捜索中です。
・サクライPと一部エージェントが近くで観戦しています。(邪魔そうなら追い払ってもいいですよ)
誘われたらのこのこ出てくるサクライスタイル。実に現場主義である。
戦闘スタイルが剣なのは、サクライの戦い方が主人公っぽいと意外性がありそうだからとか。
エージェント勢ぞろい。一度やりたかった事です。
ただ爛ちゃんは来るならきっとアイドルヒーロー達と来た方がいいからお呼ばれなし。
なおチナミさんは普通にお留守番。
あとサクライと聖來さんの追いかけっこは、この時系列では解決しています(その辺りはまた書くかと)
927: 2014/05/08(木) 14:00:18.81 ID:2LpK5BB+o
おっとっと、マリナさん瞳子さん炎馬のギルティトーチお借りしましたー
928: 2014/05/08(木) 14:18:21.08 ID:Pl5qf5m6O
乙ー
サクライPやはり強かったか
チームワークの勝利っていいね
だけど…剣の能力ェ…
よーし、加蓮vsインちゃん早く完成させよー
サクライPやはり強かったか
チームワークの勝利っていいね
だけど…剣の能力ェ…
よーし、加蓮vsインちゃん早く完成させよー
【次回に続く・・・】
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