1: 2015/01/16(金) 21:59:59 ID:YoDHV0Uk0
乙一氏の短編からいろんなパロやります
進撃の巨人(34) (週刊少年マガジンコミックス)

2: 2015/01/16(金) 22:02:01 ID:YoDHV0Uk0
一日目

エレン「ん……」

ミカサ「気が付いた? エレン」

エレン「どこだ? ここ」キョロキョロ

ミカサ「……分からない」フルフル

エレン(一面コンクリートの無機質な部屋だ)

エレン(何でこんなことに……)

3: 2015/01/16(金) 22:04:27 ID:YoDHV0Uk0
エレン(俺とミカサは三つ違いの姉弟だ)

エレン(ミカサはやたらと俺の世話を焼きたがるから、最近ちょっと鬱陶しく思っている)

エレン(家族でデパートに来ていた)

エレン(両親の買い物が済むまで、俺たち二人は遊歩道を歩いていた)

エレン(どうやってこの部屋に入ったのか……)

4: 2015/01/16(金) 22:12:39 ID:YoDHV0Uk0
ミカサ「もう土曜日になっている。今は午前三時」

エレン(ミカサがつけている腕時計はお気に入りのもので、なかなか俺には触らせてくれなかった)

ミカサ「部屋は縦横高さ三メートル程度の立方体。……鉄製の扉がある」

エレン「床から五センチくらい隙間があるな」ジーッ

ミカサ「何か見えた?」

エレン「何も」ブンブン

ミカサ「取っ手も何もない。外に出ることはできそうにない」

エレン「……綺麗な部屋だな。誰か掃除してるのか?」

エレン(天井には裸電球がぶら下がって弱々しい光を放っている)

エレン(ほかにこの部屋の特徴といえば……)キョロキョロ

エレン(床に幅五十センチくらいの溝がある)

エレン(扉を正面だとすると、左の壁から右の壁まで床をまっすぐ貫いて走っている)

エレン「水が流れてるな。……ひでえ臭いだ」ウヘァ

5: 2015/01/16(金) 22:16:52 ID:YoDHV0Uk0
エレン「誰かー!!」ドンドン

ミカサ「何度も叩いたけど無駄だった」

エレン「いつになったらここから出られるんだよ?」

ミカサ「……分からない」

「……」

エレミカ「!?」

エレン「今、誰かの声がしなかったか?」

ミカサ「……私たち以外にも人がいるかもしれない」

エレン「ああ……誰かー!!」ドンドン

ミカサ「ここから出して!!」ドンドン

エレン「……だめか。疲れたな……」

ミカサ「とりあえず眠ることにしよう」

6: 2015/01/16(金) 22:21:27 ID:YoDHV0Uk0
エレン「……」パチ

ミカサ「エレン、起きた? 今は朝の八時」

エレン「……朝食付きか」

エレン(食パンが一枚と、水の入った皿)

ミカサ「私はお腹がすいていないから、エレンが食べるといい」スッ

エレン「いいよ、半分こで」

エレン「……トイレ行きたくなってきた」

ミカサ「そこの溝にするしかない」

エレン「はぁ……」

ミカサ「誰がどういう目的で私たちをここに閉じ込めているのだろう」

コツ……コツ……

7: 2015/01/16(金) 22:26:43 ID:YoDHV0Uk0
エレミカ「!!」

ミカサ「……誰かが近づいてくる」ドキドキ

エレン「ここから出してくれるのか……!?」ドキドキ

コツ……コツ……

ミカサ「待って!!」

ミカサ「……駄目。遠ざかっていく」ハァ

エレン「俺たちを出す気がないのか?」

ミカサ「そんなはずはない……」

エレン(強がりだ)

エレン(食事は朝だけらしい。結局扉が開くことはなかった)

エレン(その日一日、重い扉の開く音や、足音、機械の音、人の声が聞こえていた)

エレン(でも、それらは全部コンクリートの分厚い壁に阻まれてはっきりしなかった)

エレン(何も起こらないまま一日が過ぎた)

8: 2015/01/16(金) 22:31:05 ID:YoDHV0Uk0
二日目

エレン「今日はパンだけか」

ミカサ「食事は扉の隙間から差し入れられている」

ミカサ「昨日、水の入った皿を扉の外に出しておかなかったから、水がもらえなかったのだと思う」

ミカサ「何とかしてここから脱出しなければ……」

エレン「でも、どうやって?」

ミカサ「そこの排水溝。私が通るには小さすぎるけど……」

エレン「……俺なら通り抜けできるかもしれない」

ミカサ「脱出できたら、外に知らせてほしい」

ミカサ「できなくても……何でもいいから情報が欲しい」

エレン「分かった」ヌギヌギ

9: 2015/01/16(金) 22:37:27 ID:YoDHV0Uk0
エレン「……」チャプ

エレン(浅いな。ひざ下くらいだ。ぬるぬるして滑りやすい)

エレン(部屋から先は、水のトンネルみたいになってる。……潜ってみないと先の様子が分からないな)

ミカサ「途中で体が引っ掛かると危ないので、服とベルトでロープを作っておいた」

ミカサ「危なそうだったら私が引き上げる」

エレン「分かった。とりあえず上流のほうに行ってみる」スイスイ

エレン(狭い。ぎりぎりだな……天井で頭打ちそうだ)

エレン(二メートルくらい進んだら、天井がなくなった。開けたところに出たのか?)プハー

10: 2015/01/16(金) 22:44:50 ID:YoDHV0Uk0
三番目の部屋

ジャン「うおっ!? 何だこのチビ」ビクッ

エレン(俺たちの部屋と同じようなつくりだ)キョロキョロ

エレン「お前も閉じ込められてるのか?」

ジャン「失礼なガキだな。年上には敬語使えよ」

エレン「ガキ扱いすんなよ!」

ジャン「……俺は一昨日、気づいたらここにいた」

ジャン「連れてこられたんだと思うが、犯人の顔は見ていない。お前は?」

エレン「俺は昨日から姉貴と一緒に隣の部屋にいる。犯人のことは知らない」

ジャン「ちっ、使えねーな」

エレン「何だよお前!」

エレン(むかつく奴だ。早く先に行こう)

11: 2015/01/16(金) 22:49:39 ID:YoDHV0Uk0
二番目の部屋

ライナー「……驚いたな。排水溝から通り抜けてくるとは」

エレン「俺と姉貴は二つ下流の部屋に閉じ込められてるんだ。昨日から」

ライナー「俺は三日前からだ。……俺たちをここに連れてきた奴について、何か知らないか?」

エレン「……」フルフル

ライナー「……そうか」

エレン「一つ下流の部屋にも人がいた。他にもたくさんいるのか?」

ライナー「分からないが、上流のほうからたまに生活音がするな」

エレン「そうか、ありがとう。……えーと」

ライナー「ライナーだ。よろしくな」

エレン「俺はエレン。絶対に脱出しような」

12: 2015/01/16(金) 22:54:29 ID:YoDHV0Uk0
一番目の部屋

アニ「……あんた、いったい何者だい?」

エレン「昨日から、三つ下流の部屋に姉貴と一緒に閉じ込められてるんだ」

アニ「……私は四日前、気がついたらここにいた」

エレン「これまで通ってきた部屋にも、同じように人が閉じ込められてたんだ」

アニ「犯人は何のためにこんなことをしてるんだと思う?」

エレン「分かんねえけど、ろくな理由じゃなさそうだ」

アニ「……だろうね」

エレン(排水溝に柵がしてある。これ以上、上流には進めない)

エレン(とりあえず元の部屋に戻るか)

エレン(途中でロープ外しちまったし、姉貴が心配してるだろうな……)

13: 2015/01/16(金) 23:01:04 ID:YoDHV0Uk0
四番目の部屋

ミカサ「エレン、心配した。どうしてロープを――」

エレン「悪かったよ! ……聞いてくれ」カクカクシカジカ

ミカサ「……つまり、私たちがいるのは上流から数えて四番目の部屋ということになる」

エレン「どの部屋にも一人ずつ人が閉じ込められてたけど、俺たちは何で……」

ミカサ「エレンはまだ子供だから、二人で一人と数えられたのかもしれない」

エレン「何だよ、どいつもこいつもガキ扱いしやがって」ムッ

ミカサ「でも、そのおかげで情報がたくさん手に入った」

エレン(同じ状況の人がいるってのは、かなり心強い)

エレン(みんな犯人や目的のことを知りたがってたけど……)

エレン(それが分かるのはいつになるんだろう?)

エレン「とりあえず、下流の方に行ってみる」

ミカサ「エレン、ロープは……」

エレン「多分上流と同じ感じだろ。いらねえよ」スイスイ

ミカサ「エレン……」

14: 2015/01/16(金) 23:04:43 ID:YoDHV0Uk0
五番目の部屋

アルミン「君はいったい……?」

エレン「一つ上流の部屋に、姉貴と一緒に閉じ込められてる」

アルミン「僕は今日ここに連れてこられたんだ。……分からないことだらけだよ」

エレン「上流にもいくつか部屋があって人がいるんだ」

エレン「みんな訳も分からないままここに捕まってるらしい」

アルミン「そうなんだ……また何かわかったら教えてね」

エレン「ああ」

15: 2015/01/16(金) 23:05:54 ID:YoDHV0Uk0
六番目の部屋

エレン「あれ……?」

エレン(誰もいない)キョロキョロ

エレン(部屋の作りは他とおんなじだ)

エレン(とりあえず、次行ってみるか)

16: 2015/01/16(金) 23:09:42 ID:YoDHV0Uk0
七番目の部屋

エレン(ここが下流の終着点か)

マルコ「……君は……?」

エレン「俺は三つ上流の部屋に姉貴と――」

エレン(こいつだけ明らかにほかのみんなと様子が違う)

エレン(だいぶ憔悴して弱ってる感じだ)

マルコ「……じゃあ、ここにはまだ生きた人間がいるんだね」

エレン「生きた人間……?」

マルコ「君だって見ただろう……?」

マルコ「毎日午後六時になると、この溝を氏体が流れていくのを……!!」

17: 2015/01/16(金) 23:14:16 ID:YoDHV0Uk0
四番目の部屋

ミカサ「全部で七つの部屋がある……」

エレン「ああ……」

エレン(氏体のことを言ったほうがいいのか……?)

ミカサ「まだ、何かあるの?」

エレン「えっ? ……ああ、実は――」

ミカサ「氏体……何かおかしなものが浮いていれば、すぐに気づくはずだけど……」

エレン「閉じ込められてから一回もそんなことはなかった」

ミカサ「他の部屋の人もそんなことを言っていたの?」

エレン「いや、七番目の人だけだ」

エレン(やつれてたし、幻覚でも見てたのか……?)

ミカサ「時間が来ればきっとわかるはず」

エレン(午後六時が近づくと、足音がした。機械の音も)

エレン(俺たちは身構えたが、氏体が流れてくることはなかった)

18: 2015/01/16(金) 23:19:46 ID:YoDHV0Uk0
三日目

エレン「今日は水がもらえたんだな」

ミカサ「エレン、どうぞ」スッ

エレン(わざわざ大きいほうをよこさなくても)

ミカサ「……エレンにお願いがある。ほかの部屋に行って、氏体のことを聞いてきてほしい」

ミカサ「ごめんなさい。私が行けるものなら代わりに行ってあげたいけど……」

エレン「分かったよ」

エレン(あの臭い水に潜るのは嫌だ。でも、今はとにかく情報が欲しい)

19: 2015/01/16(金) 23:21:59 ID:YoDHV0Uk0
三番目の部屋

ジャン「氏体ぃ? なんだそりゃ?」

エレン「知らないならいい」

ジャン「なあ、お前の姉ちゃんってどんな人なんだ?」

エレン「教えねーよ」

ジャン「ちっ、つまんねえの」

20: 2015/01/16(金) 23:23:38 ID:YoDHV0Uk0
二番目の部屋

ライナー「氏体とは穏やかじゃないな」

エレン「本当に何も見てないのか?」

ライナー「ああ」

エレン「そうか……」

ライナー「……何でそんな質問をするんだ?」

エレン「いや、何でもないんだ」

エレン(七番目の部屋で聞いたことを、他のみんなには言わないほうがいいな……)

21: 2015/01/16(金) 23:27:09 ID:YoDHV0Uk0
一番目の部屋

アニ「……氏体だって?」

エレン「ああ。何か知らないか?」

アニ「……いいえ」

エレン「そうか。ならいい――」

アニ「……まだ帰すわけにはいかないね」トオセンボ

エレン「な、何で」

アニ「あんた、何か知ってるんだろ? 教えてくれるまで通さない」

エレン「分かったよ……」カクシカ

アニ「七番目の部屋の人が……?」

エレン「ああ。でもみんな何も見てないって言うんだ」

アニ「そう……もう帰っていいよ」スッ

22: 2015/01/16(金) 23:30:08 ID:YoDHV0Uk0
五番目の部屋

アルミン「氏体だって!? ……僕は何も」

エレン「そうか……そうだよな」

アルミン「僕たち、いつになったらここから出られるのかな……?」

エレン「……大丈夫だ。絶対に出られるはず……」

アルミン「家族に会いたいな……」

エレン「……」

エレン(父さん……母さん……)

23: 2015/01/16(金) 23:33:18 ID:YoDHV0Uk0
六番目の部屋

エレン(ここには誰もいないはず――)プハー

ユミル「何だ!? お前!!」

エレン「うわっ!?」ビクッ

エレン(初めて見る顔だ。どうしてここに……?)

ユミル「おい、正直に答えろ。お前は私をここに閉じ込めたやつの仲間か?」

エレン「ち、違うんだ! 俺は――」カクシカ

ユミル「……なるほどな」

エレン「昨日、この部屋には誰もいなかったんだ」

ユミル「私は今日来たばっかりだ。……訳が分かんねえよ」

エレン「俺もだ……また来るよ」

24: 2015/01/16(金) 23:35:24 ID:YoDHV0Uk0
七番目の部屋

エレン(やっぱりあの人は夢でも見てたんだ。きっとそうだよな)スイスイ

エレン(とにかく、もう一度話を――)プハー

エレン「あれ……?」キョロキョロ

エレン「いなくなってる……何でだ?」

エレン(部屋はきれいに掃除されていた)

エレン(人のいた痕跡がまるでない)

エレン(夢を見てたのは俺の方だったのか?)

25: 2015/01/16(金) 23:41:07 ID:YoDHV0Uk0
四番目の部屋

ミカサ「誰も氏体は見ていない……」

エレン「ああ。七番目の人は外に出られたんだろうか?」

ミカサ「……分からない」

エレン(あの人は何日閉じ込められてたんだ? 訊く前に消えちまった)

ミカサ「エレン、見て。髪の毛が落ちてる」ヒョイッ

エレン「長い髪の毛だ。俺たちのじゃないな」

ミカサ「この部屋は、私たちが来る前に誰かが使っていた……?」

ミカサ「エレンも気づいたと思うけど、上流にいる人ほど閉じ込められている期間が長い」

ミカサ「端の部屋から、一日ずつ順番に人が閉じ込められている……?」

エレン「俺たちは昨日の時点で二日目だった」

エレン「五番目の部屋にいるアルミンが一日目、六番目は誰もいなかった」

ミカサ「六番目が零日目だとすると……七番目はマイナスになる。それはおかしい」

26: 2015/01/16(金) 23:48:31 ID:YoDHV0Uk0
ミカサ「連れられてマイナス一日目の人はいない」

ミカサ「私の推測だけど、七番目の人は昨日の時点で閉じ込められて六日目だったのだと思う」

ミカサ「一番目の部屋にいた人が閉じ込められる前日に、その人は連れてこられていた」

エレン「その人は今……」

ミカサ「おそらく……」

エレン「……」ゾッ

ミカサ「昨日はいた人が消え、空っぽの部屋に人が入れられる」

ミカサ「一日たつと、人のいない部屋が下流の方向へ一つずれる」

ミカサ「終着まで行ってしまったら、また上流からやり直し」

ミカサ「七つの部屋は一週間を表している……」

エレン(一日に一人ずつ、人が殺される。空っぽになった部屋には、翌日新しい人が入れられる)

エレン(昨日、六番目の部屋に人はいなかった。今日はいた)

エレン(さらわれて、補充された)

エレン(昨日、七番目の部屋に人はいた。今日はいない)

エレン(殺されて、溝に流された)

27: 2015/01/16(金) 23:59:59 ID:YoDHV0Uk0
ミカサ「だから、七番目の人は氏体が流れてくるのを見ることができた」

ミカサ「氏体が溝に流されても、氏体より上流にいては見ることができない」

ミカサ「七番目の人が見ていたのは、自分より前に閉じ込められた人の氏体だった……」

ミカサ「昨日の時点で流れてくる氏体を見たことがあるのは、七番目の人だけ」

エレン「それでみんな知らないって言ってたのか……」

エレン「じゃあ、俺たちが捕まった日には……」

ミカサ「六番目の部屋にいた人が殺されて、流された」

ミカサ「あなたが二日目に見た六番目の部屋は、人が殺されて綺麗に掃除された後だった」

ミカサ「そして昨日、七番目の人が殺された」

ミカサ「上流には流れてこないので、氏体を見ることはできなかった」

エレン「待てよ、じゃあ今日は……」

ミカサ「……一番目の部屋の人が殺される」

28: 2015/01/17(土) 00:06:59 ID:AI5cdREM0
一番目の部屋

アニ「……そう」

エレン「驚かないのか……?」

アニ「なんとなく分かってたよ。無事に出られないってことはね」

エレン「そうか……」

アニ「家族が氏んで、私はずっと一人だった」

アニ「最期にあんたに会えて、よかったと思うよ」

エレン「アニ……」

アニ「もし無事にここから出ることが出来たら、このネックレスを家族の墓に供えてほしい」スッ

アニ「……せめて一緒に眠りたいから」

エレン「……分かった」コクッ

29: 2015/01/17(土) 00:08:34 ID:AI5cdREM0
二番目の部屋

ライナー「どうした? 目が赤いぞ」

エレン「別に、なんでもない」ゴシゴシ

ライナー「そうか……お前も大変だな」

エレン「大丈夫だよ」

30: 2015/01/17(土) 00:10:22 ID:AI5cdREM0
三番目の部屋

ジャン「どうしたチビ? 何かあったのか?」

エレン「お前に心配される筋合いねえよ。それに、俺にはエレンって名前があるんだ」

ジャン「けっ、心配して損したぜ。クソチビ」

31: 2015/01/17(土) 00:16:14 ID:AI5cdREM0
四番目の部屋

ミカサ「エレン……!!」ギュ

エレン(俺は……何もできないのか……)

ミカサ「……そろそろ六時になる」

エレン「ああ……」

エレン(溝を流れる水に、赤みが増した)

エレン(俺と姉貴が声もなく見つめていると、白いつるりとしたものが漂ってきた)

エレン(最初は何かわからなかったが、水の中で半回転してそれが歯だと分かった)

エレン(金色の髪の毛が頭皮ごと流れていく)

エレン(水に流れる無数の体の切れ端は、かつて人間だったものとは思えなかった)

エレン「うっ、おええ……」ビチャビチャ

ミカサ「エレン……」

エレン(この部屋は、俺たちを一人づつ分け隔てる)

エレン(十分に孤独を味あわせた後、命を摘み取っていく)

エレン(俺と姉貴が殺されるのは六日目。……三日後の午後六時だ)

32: 2015/01/17(土) 00:18:31 ID:AI5cdREM0
四日目

エレン(何時間もかけて、溝の水から赤い色が消えた)

エレン(石鹸の泡のようなものが流れてくる)

エレン(誰かが掃除をしているのか?)

エレン(人を殺せば、きっと血が出る)

エレン(それを洗い流しているんだ)

エレン「……行ってくる」

ミカサ「気を付けて……」

33: 2015/01/17(土) 00:19:50 ID:AI5cdREM0
三番目の部屋

ジャン「なぁおい、昨日のあれは何だ……?」

エレン「……あとで説明するから」

ジャン「お前、何か知ってんだろ……?」

エレン「……あとで説明するから」

34: 2015/01/17(土) 00:20:54 ID:AI5cdREM0
二番目の部屋

ライナー「エレン、昨日のあれは……」

エレン「……あとで説明するから」

ライナー「……お前には、もう分かってるんだな」

エレン「……あとで……」

35: 2015/01/17(土) 00:26:09 ID:AI5cdREM0
一番目の部屋

エレン「……アニ」

エレン(誰もいない)

エレン(殺されたんだ……)ウッ

エレン(部屋の中はきれいだ。やっぱり掃除したんだな……)キョロキョロ

エレン(……髪の毛が一本だけ残ってる)ヒョイッ

エレン(俺たちをここに連れてきたのはどんな奴なんだ?)

エレン(誰も顔を見ていない。時々扉の外から聞こえる足音が、きっとそうなんだろう)

エレン(毎日食事を運んでくるのも、このおぞましいルールを考え出したのもそいつに違いない)

エレン(六日間閉じ込めて、バラバラにするのがお気に入りなんだ)

エレン(俺たちはそいつの支配下で、氏刑が確定してしまっている)

エレン(……まるで氏神みたいだ)

36: 2015/01/17(土) 00:28:59 ID:AI5cdREM0
二番目の部屋

ライナー「……そうか」

ライナー「あれを見てしまったからには、信じざるを得ないな」

エレン「ごめんな、こんなこと聞いても……」

ライナー「いや、いいんだ」

ライナー「……また来てくれ」

エレン「ああ」

37: 2015/01/17(土) 00:30:38 ID:AI5cdREM0
三番目の部屋

ジャン「へえ……俺は殺されるのか」

ジャン「はは……」ガクブル

エレン「怖いのか?」

ジャン「怖くないわけねえだろ」

エレン「……知らないほうが良かったか?」

ジャン「さあな、分かりゃしねえ……」

38: 2015/01/17(土) 00:33:01 ID:AI5cdREM0
エレン(自分が氏ぬ時間を知る方がいいのか、知らないほうがいいのか)

エレン(俺にはよく分からない)

エレン(突然扉が開かれ、何を考える間もなく殺される方がましかもしれない)

エレン(……七番目の住人は、毎日次は自分の番じゃないかと怯えていたんだろうな)

エレン(あいつには、自分がいつ殺されるのか知る方法はなかったんだ……)

39: 2015/01/17(土) 00:35:41 ID:AI5cdREM0
五番目の部屋

アルミン「そんな……」

エレン「……お前も、氏体を見たろ?」

アルミン「気持ち悪くなって、すぐ吐いちゃった……」

エレン「俺もだ……」

アルミン「ここから出たいよ……エレン」

エレン「俺も……」

40: 2015/01/17(土) 00:37:30 ID:AI5cdREM0
六番目の部屋

ユミル「ふざけやがって……!」

エレン「ふざけてなんかねえよ! 俺は――」

ユミル「お前じゃない。私を閉じ込めた犯人に対してだ」

エレン「ああ……」

ユミル「絶対に許さねえ……」ワナワナ

エレン(……俺たちに一体何ができるんだ?)

41: 2015/01/17(土) 00:39:25 ID:AI5cdREM0
七番目の部屋

サシャ「あなたは誰ですか!? ここはどこですか!?」

エレン「実はな――」

サシャ「ええっ!? 私たち食べられちゃうんですか!?」

エレン「いや、食べはしないだろ」

サシャ「その前に空腹で氏んじゃいそうです」グー

エレン(こいつは少し特殊みたいだ)

42: 2015/01/17(土) 00:46:36 ID:AI5cdREM0
四番目の部屋

ミカサ「……」ジー

エレン「姉貴……?」

ミカサ「そろそろ朝食の時間。……奴が来る」

コツ……コツ……

エレン「来た……!!」

エレン(これまで何人も頃してきて、今も俺たちを閉じ込めている人間)

エレン(そいつの圧力だけで押しつぶされそうだ……)ブルブル

エレン(パンが投げ込まれ、さらに水が注がれる音がした)

ミカサ「待って!!」

ミカサ「お願い、話を聞いて!! あなたは誰なの!?」

コツ……コツ……

ミカサ「くっ……」ギリギリ

エレン「俺たちの存在なんて、あいつにとっちゃ何でもないんだろうな……」

43: 2015/01/17(土) 00:47:47 ID:AI5cdREM0
エレン(扉は取っ手がなく、蝶番の位置から考えて内側に開くようになっている)

エレン(それが開くのは、きっと俺たちが殺される時だ)

エレン(殺されるって、どういうことだろうな……)

ミカサ「エレン……みんなにこの部屋の法則について話したの?」

エレン「ああ」

ミカサ「……それは、残酷なことをした……」

エレン「いけないことだなんて、知らなかったんだ……」

エレン(今日は……二番目の部屋に行かなきゃ……)

44: 2015/01/17(土) 00:52:42 ID:AI5cdREM0
二番目の部屋

ライナー「もう戻ってこないんじゃないかと思ったぞ」ホッ

エレン「ごめんな……」

ライナー「さっき叫んでたのは姉か?」

エレン「……ああ」

ライナー「……そうか」

エレン「殺されるのが分かってるのに、なんで……」

ライナー「受け入れたのかもしれないな。ただ――」

ライナー「外の世界に恋人を遺してきた。それだけが気がかりでな……」

エレン「……」

ライナー「お前が外に出られたら、これを俺の恋人――クリスタに渡してほしい」スッ

エレン「指輪……」

ライナー「頼んだぞ、エレン」ガシッ

エレン「……分かった」コクッ

45: 2015/01/17(土) 00:56:27 ID:AI5cdREM0
四番目の部屋

ミカサ「……そろそろ六時になる」

エレン「……」

エレン(やがて水の色に赤が混じり、さっきまで目の前にあった目や髪が水に流れて目の前を横切っていった)

エレン「……」ヒョイッ

エレン(最後まで俺の手を握りしめていた指だ。ぬくもりをなくして、小さな破片になっていた)

エレン「うっ……」ズキズキ

エレン(目の前が、血で真っ赤に染まる。何も考えられなくなる)

ミカサ「……うちに帰りたい」

エレン「……」コクッ

46: 2015/01/17(土) 00:58:43 ID:AI5cdREM0
五日目

ミカサ「そうやって部屋を移動していれば、あなただけでも逃げることが出来る」

エレン「無理だろ。俺だって成長して体が大きくなるし――」

エレン「それに、犯人は二人を閉じ込めたことを覚えてるはずだ」

ミカサ「……そう」

エレン「……三番目の部屋に行ってくる」

47: 2015/01/17(土) 01:02:30 ID:AI5cdREM0
三番目の部屋

ジャン「今日は俺が殺される番だな」

ジャン「あー、つまんねえ人生だったぜ」

エレン「お前……」

ジャン「俺はババアと喧嘩して家出してきたんだ」

ジャン「それが最後だ。……謝っときゃよかったな」

エレン「……」

ジャン「お前がもし外に出られたら、この手帳を俺の両親に渡してきてほしい」スッ

エレン「でも、俺は……」

ジャン「頼んだぜ」

エレン(アニもライナーも俺に何かを託した)

エレン(でも、俺が外に出られる保証なんてどこにも……)

ジャン「最初はむかつくガキだと思ったけどよ」

ジャン「お前と話すの、結構楽しかったぜ」

エレン「ジャン……」

48: 2015/01/17(土) 01:07:13 ID:AI5cdREM0
エレン「俺も……」

コツ……コツ……

ジャン「!! マズい、早く逃げろ!!」

エレン「くそっ……!」

ジャン「じゃあな、エレン」

エレン「ジャン……!!」

エレン(俺が水に飛び込むと同時に、背後で重い鉄の扉が開く音がした)

エレン(絶対的な「氏」の象徴)

エレン(そいつが、今ここに――)ゾッ

49: 2015/01/17(土) 01:11:21 ID:AI5cdREM0
二番目の部屋

エレン(ジャン……)

エレン(ああ、なんで、あいつは、みんなは、殺されるんだ)

エレン(そして、俺たちも……)

エレン(……)

エレン(俺たちは、ここから逃げなくちゃならない)

エレン(そのためにできること――)

エレン(あいつは、どうやって人を頃すのか?)

エレン(それを、この目で確かめるんだ……)

エレン(三番目の部屋に戻ったら殺されちまう)

エレン(だから、排水溝の中から覗くんだ……!!)

50: 2015/01/17(土) 01:14:59 ID:AI5cdREM0
エレン「……」ゴポゴポ

エレン(水が濁ってるせいでよく見えない)

エレン(もっと近づいて……気づかれないように……)

エレン(水流に混じって、機械の音が聞こえる……)

エレン(――っ!!)プハー

エレン(しまった! 頭がトンネルから出ちまった……!!)

エレン(俺は見た)

51: 2015/01/17(土) 01:20:46 ID:AI5cdREM0
エレン(さっきまで話をしていたジャンが、血と肉の山になっていた)

エレン(鉄製の扉が開いているのを初めて見た)

エレン(内側は平らなのに、外側には閂が見える)

エレン(みんなを閉じ込め、氏ぬ瞬間まで一人にしておくための閂だ)

エレン(男が、いた)

エレン(人間の氏体ともいえないような赤い塊の前に立って、俺には背中を向けていた)

エレン(もし正面を向いていたら、すぐに気づかれていただろう)

エレン(手に、激しく音を出している電動のこぎりを持っていた)

エレン(時々聞こえていた機械音の正体はこれか)

エレン(男は棒立ちになったまま無感動に、それを何度も目の前に突き刺した)

エレン(ジャンの体がだんだん細かくなっていき、ぱっと赤いものが飛び散る)

エレン(部屋中が、赤い)

エレン(不意に、電動のこぎりの音が消えた)

エレン(ただ溝を流れる水の音だけが、俺と男の間にあった)

エレン(男が、振り返った)

52: 2015/01/17(土) 01:24:00 ID:AI5cdREM0
エレン「……」ドクドク

エレン(俺は急いで頭を引っ込めた)

エレン(気づかれてはいない、はずだ)

エレン(一瞬でも遅れてたら……)ゾッ

エレン(これから……どうする?)

エレン(男は掃除を始めるはずだ。三番目の部屋を抜けて姉貴のもとへ帰ることはできない)

エレン(二番目の部屋も安全とは言えない。いつ人が入れられるか分からないからだ)

エレン(だったら……)

53: 2015/01/17(土) 01:30:31 ID:AI5cdREM0
一番目の部屋

ベルトルト「君は、誰?」

エレン「俺は――」

ベルトルト「ひどい顔してるけど、何を見たの?」

エレン「……」

エレン(一番新しい住人だ)

エレン(俺の素性とこの部屋のルールは説明したが……)

エレン(さっき見たことを話す気には、とてもなれなかった)

エレン「一晩ここにいていいか?」

ベルトルト「うん。僕も一人は寂しい」

エレン(ジャンの手帳……)パラパラ

エレン(両親に向けて長い文章が書かれていた)

エレン(……ごめんな)

54: 2015/01/17(土) 01:33:22 ID:AI5cdREM0
六日目

ベルトルト「おはよう。パンは君にあげるよ」

エレン「……ありがとう」

エレン(あの男に会ってしまうのが恐ろしかった)

エレン(もう戻っても大丈夫だろう)

エレン(姉貴は心配してるだろうな……)

エレン「そろそろ行く」

ベルトルト「また、来てね」

エレン「ああ」

エレン(誰もが不安なんだ)

55: 2015/01/17(土) 01:35:04 ID:AI5cdREM0
二番目の部屋

コニー「うわ!? 何だお前」オドロキ

エレン「……よく聞いてくれ」

コニー「お前が何を言ってるのか全然分かんねえけど……」

コニー「とりあえずやべえってことだけは分かったぞ」

エレン「それだけ分かったら十分だ」

56: 2015/01/17(土) 01:36:31 ID:AI5cdREM0
三番目の部屋

エレン「ジャン……」

エレン(綺麗に掃除されている)

エレン(昨日の惨劇なんてなかったかのように)

エレン(俺は少しでもジャンの存在を匂わせるものを探した)

エレン(が、何もなかった)

エレン(完全に無機質な、コンクリートの部屋だった)

57: 2015/01/17(土) 01:40:10 ID:AI5cdREM0
四番目の部屋

ミカサ「エレン……!!」ダキッ

エレン「ごめんな、心配かけて……」

エレン(パンも食べずに待っててくれたのか)

ミカサ「見つかって殺されたのだと思ってた……」グスッ

エレン「……犯人について少しわかったことがあるんだ」

ミカサ「なんて危ないことを……!!」

エレン「悪かったよ。……扉のことなんだけどな」

ミカサ「……本当に扉の向こう側は閂だったの?」

エレン「ああ」

ミカサ「……」ジッ

ミカサ「このままでは済まさない、絶対に」ギロッ

エレン(俺たちが殺されるまで、あと六時間)

58: 2015/01/17(土) 01:43:25 ID:AI5cdREM0
五番目の部屋

アルミン「今日は君たちの……」

エレン「ああ……」

アルミン「その格好じゃ寒いよね? このセーターをあげる」

アルミン「ここは温かいから……」

エレン「ありがとな」

アルミン「君たちに幸運が訪れますように……」

59: 2015/01/17(土) 01:44:59 ID:AI5cdREM0
六番目の部屋

ユミル「なあ。エレン……だっけか」

エレン「ああ」

ユミル「お前だけでも、部屋を行き来してりゃ助かるんじゃねえか?」

エレン「心配してくれてるのか?」

ユミル「別に、そんなんじゃねえよ」フン

ユミル「……犯人の野郎、一発くらいぶん殴っとけよ」

60: 2015/01/17(土) 01:47:01 ID:AI5cdREM0
七番目の部屋

サシャ「……」グーグー

エレン「おーい、生きてるか?」

サシャ「はい……何とか」フラフラ

エレン「なあ、外に出られたら何がしたい?」

サシャ「おなかいっぱい食べたいです!」キラキラ

エレン「……そっか」

61: 2015/01/17(土) 01:48:48 ID:AI5cdREM0
二番目の部屋

コニー「お前今日氏ぬのか」

エレン「……」

コニー「会ったばっかなのにもう氏ぬのか」

エレン「……」

コニー「氏ぬんじゃねえよ」

エレン「……ああ」

62: 2015/01/17(土) 01:53:10 ID:AI5cdREM0
一番目の部屋

ベルトルト「お姉さんってどんな人?」

エレン「とにかく世話焼きだな。ちょっと鬱陶しい」

ベルトルト「反抗期なんだね」

エレン「……でも、俺の大切な家族だ」

ベルトルト「そうだね」

ベルトルト「どうして、こんなことになるんだろう……」

エレン「……」

63: 2015/01/17(土) 01:55:40 ID:AI5cdREM0
四番目の部屋

ミカサ「エレン。分かった?」

エレン「……」

ミカサ「エレン」

エレン「……」

ミカサ「エレン!」

エレン「姉貴……」グスッ

ミカサ「大丈夫。私が、エレンを守る」

ミカサ「……ほかの部屋の人たちにも伝えて……」

エレン「……ああ」ゴシゴシ

64: 2015/01/17(土) 01:59:40 ID:AI5cdREM0
エレン(午後六時が近づいてくる)

エレン(俺と姉貴は、扉から最も遠い角に座っていた)

エレン(俺が角に座り、姉貴がそんな俺を壁と挟み込むように座っている)

ミカサ「外に出たら、何をしたい?」

エレン「分かんねえ……」

エレン(両親に会いたい。空が見たい。チーハンが食べたい)

エレン(やりたいことは無数にある)

ミカサ「そろそろ……」

エレン「分かってる」

ミカサ「用意はいい?」

エレン「ああ」

65: 2015/01/17(土) 02:05:14 ID:AI5cdREM0
コツ……コツ……

エレン(足音が、だんだん近づいてくる)

エレン(姉貴の手が優しく俺の頭に乗せられ、親指がそっと額に触れた)

エレン(それは静かな、別れの合図だった)

エレン(俺たちの下した結論)

エレン(それは、電動のこぎりを持った大の男と戦っても、勝ち目がないということだった)

エレン(悲しいけど、それが現実だ)

エレン(扉の隙間に影が落ちる)

エレン(心臓が破裂しそうだった。体内にあるすべてのものが逆流するように思えた)

エレン(心の中が、悲しみでいっぱいになる)

エレン(ここに閉じ込められていた日々が走馬灯のように駆け巡り)

エレン(これまで氏んでいった人たちの姿と声が反響する)

66: 2015/01/17(土) 02:10:33 ID:AI5cdREM0
エレン(扉の向こう側で、閂の抜かれる音)

エレン(姉貴は部屋の隅で片膝を立てて待ち構えている)

エレン(ふと、目が合った。これから氏が訪れる)

エレン(鉄の扉が重く軋み、開かれる)

エレン(男が、立っていた)

エレン(顔はよく分からない。氏を運んでくる、ただの人形のように思える)

エレン(電動のこぎりが始動する音)

エレン(部屋中が振動するような騒々しさに包まれる)

エレン(姉貴は部屋の隅で両腕を広げ、決して背後を見せまいとする)

ミカサ「来ないで!」

エレン(その声は、のこぎりの音でほとんどかき消される)

ミカサ「弟には指一本触れさせない!」

エレン(俺は恐ろしくて、叫びだしたかった)

エレン(殺される瞬間の痛みを想像した)

エレン(激しく回転する刃に削られる時、一体何を考えさせられるのだろう)

67: 2015/01/17(土) 02:14:54 ID:AI5cdREM0
エレン(男は、姉貴の体の隙間から見え隠れする俺の服を見た)

エレン(のこぎりを手に、姉に近づいていく)

エレン(一瞬、血しぶきが空中に撒き散らされる)

エレン(もちろん、すべてがはっきりと見えたわけではなかった)

エレン(男の姿も、姉貴の手が破裂する瞬間も、俺にはぼんやりとしか見えなかった)

エレン(なぜなら、濁った水越しにしかその姿を確認できなかったからだ)

エレン(俺は隠れていた溝の中から抜け出し、男が開け放していた扉から外に出た)

エレン(扉を閉めて、鍵をかける)

エレン(電動のこぎりの音が、扉に挟まれて小さくなる)

エレン(部屋の中には、姉貴と犯人の男だけが残った)

68: 2015/01/17(土) 02:22:06 ID:AI5cdREM0
エレン(姉貴が俺の頭に手を載せて、親指で額にそっと触れた時)

エレン(それが俺たちの別れの合図だった)

エレン(俺は次の瞬間、急いで水のトンネルの中に身を潜ませた)

エレン(姉貴の考えた作戦だった)

エレン(姉貴は部屋の隅で、俺の服を庇うようにして犯人を引きつける)

エレン(その隙に俺が扉から出て、鍵をかける。それだけだ)

エレン(俺の服は中身があるように見せかけなければならなかった)

エレン(そのために、各部屋の住人から少しずつ服を借りた)

エレン(犯人が姉貴に十分近づいた時を狙い、俺は溝から出て出口を目指す……)

エレン(閂をかけた瞬間、全身が震えた)

エレン(俺は、殺される姉貴を置いて逃げようとしているんだ)

エレン(俺を逃がすために。電動のこぎりから逃げることなく演技を続けた)

エレン(のこぎりの音がやんで、ドアを叩く音が聞こえた)

エレン(閉じ込められた犯人は、戸惑っているに違いない)

エレン(俺たちは勝ったんだ)

69: 2015/01/17(土) 02:24:53 ID:AI5cdREM0
エレン(姉貴はこの後犯人に殺されるだろう)

エレン(おそらくこれまでにない、残忍なやり方で)

エレン(それでも姉貴は、俺を外に逃がすことで犯人を出し抜いたんだ)

エレン「……」スタスタ

エレン(ここは地下らしい。窓のない廊下に、七つの部屋が並んでいる)

エレン(それぞれの部屋の住人には、すでに計画を話している)

エレン(俺は、四番目以外の部屋の扉を次々と開けた)

70: 2015/01/17(土) 02:27:44 ID:AI5cdREM0
エレン「アルミン」ガチャ

アルミン「……うん」グスッ

エレン「ユミル」ガチャ

ユミル「……ああ」

エレン「サシャ」ガチャ

サシャ「……はい」

エレン「コニー」ガチャ

コニー「……おう」

エレン「……ベルトルト」ガチャ

ベルトルト「……」コクッ

エレン(それから、三番目の部屋)ガチャ

エレン(ここには誰もいないが、多くの人が殺された)

エレン(だから、開けるべきだと思った)

71: 2015/01/17(土) 02:30:27 ID:AI5cdREM0
一同「……」

エレン(誰ひとり、素直に喜ぶ人間はいなかった)

エレン(俺が外に出られたということは、今姉貴が氏にかけているということだ)

一同「……」スタスタ

エレン(電動のこぎりの音はまだ続いている)

エレン(だが、扉が開く様子はない)

エレン(姉貴は今も戦っているんだ)

エレン(扉を開けて姉貴を助けようというものは誰もいなかった)

ミカサ『返り討ちにされるだけだから。すぐに逃げて』

エレン「姉貴……」

エレン(俺たちは、姉貴と殺人鬼の閉じ込められた部屋から脱出することにした)

72: 2015/01/17(土) 02:35:12 ID:AI5cdREM0
一同「……」スタスタ

エレン(廊下を抜けると、地上への階段が見えてきた)

エレン(光り輝く世界が俺たちを待っている)

エレン(薄暗く憂鬱で寂しい、氏に囲まれた世界から俺たちは脱出するんだ)

エレン(アニのネックレス)

エレン(ライナーの指輪)

エレン(ジャンの手帳)

エレン(そして、ミカサの腕時計)

エレン(俺は涙が止まらなかった)

エレン(防水加工されてなかったから、水に潜ったとき壊れてしまったんだろう)

エレン(時計は午後六時を指したまま動くのをやめていた)

73: 2015/01/17(土) 02:36:20 ID:AI5cdREM0
<SEVEN ROOMS>

おしまい

個人的に乙一氏の最高傑作だと思う
次はアホみたいな話の予定

引用: エレン「SEVEN ROOMS?」