75: 2015/01/17(土) 22:09:31 ID:AI5cdREM0
<A MASKED BALL>

エレン(初めてタバコを吸ったのは五年前。小学五年生の時だった)

エレン(夜遅く塾から帰ってみれば両親は外出中だったし)

エレン(テーブルの上には父親のタバコが置いてあった)

エレン(前々から吸ってみたかったわけじゃないけど、何となく暇だったし)

エレン(きっと咳き込むんだろうなと思ってた)

エレン(でもそんなことはなく、ああなるほどな、と思っただけだった)

エレン(それから、俺は人に隠れてちょいちょいタバコを吸うようになった)

エレン(学校で、誰にも見つからないような場所――)

エレン(剣道部の裏側にある男子トイレにはあまり人が来ない)

エレン(そのトイレの、唯一の個室。そこからすべては始まった)
進撃の巨人(34) (週刊少年マガジンコミックス)
76: 2015/01/17(土) 22:15:09 ID:AI5cdREM0
ラクガキスルベカラズ

エレン「……なんだこれ」

エレン(変な奴。自分も落書きしてるのにな)

エレン(翌日、今度は違うやつがタイルに落書きをしていた)

うまづら:お前も落書きしてるだろ。矛盾してね?

エレン(俺の考えたことと同じだ)

エレン(俺以外にもここを利用してるやつがいるんだな)

エレン(その日の夕方、さらに落書きが追加されていた)

Bo'z:くだらないけどこういうのオレは好きだ。全部カタカナってのがいいよな。

そばかす:もうこれ以上学校の建物に落書きするのはやめた方がいいと思う。

エレン(続々集まってきたな)

エレン(面白そうだ。俺も何か書いてみよう)

駆逐系男子:お前らいったい何者だ?

77: 2015/01/17(土) 22:19:54 ID:AI5cdREM0
エレン(翌朝トイレに行くと、ラクガキスルベカラズという落書きは消されていた)

エレン(その代わりに――)

オレハナニモノデモナイ

エレン(俺の質問に対する答えか)

エレン(ほかの奴の落書きも新しくなってる)

うまづら:駆逐っておまw

Bo'z:何物でもないっておまw
   うちの学校にそんなこと言うやつがいるとは思わなかった。
   会えてコウエイっす。

エレン(そんなふうにして、俺、うまづら、Bo'z、そばかす、そしてカタカナのアイツの五人がそろった)

エレン(少なくとも俺以外に四人、このトイレを利用してるやつがいる)

エレン(でも姿を見かけたことはない)

78: 2015/01/17(土) 22:26:46 ID:AI5cdREM0
Bo'z:テストがかえってきた。またいちだんとバカになりました。

駆逐系男子:次回もバカにみがきをかけろ。

エレン(次第にトイレは五人の伝言板と化していった)

うまづら:数学のエルヴィン先生ってヅラらしいぜ。ウケる。

Bo'z:ペトラ先生ってカレシとかいんのかな?

エレン(内容はどうでもいい雑談とか学校の噂だったが、結構楽しかった)

エレン(顔も名前も知らないのに本音を言い合えるところがいい)

うまづら:コンビニで2Dのミカサを見かけた。噂通りかわいいな。ジュースを買ってたぜ。

Bo'z:ジュースといえば、教室から自動はんばいきまで遠すぎる。
   ひとつのクラスに一コずつあればいいのに!

そばかす:そうすると空き缶が増えるからね。今も誰かが空き缶を捨ててるんだ。

エレン(カタカナのアイツが発言する回数は極端に少なかった)

ソバカス オマエハ イイコトヲ イウナ

エレン(そのくせ、カタカナの文字には妙な存在感がある)

79: 2015/01/17(土) 22:29:13 ID:AI5cdREM0
エレン(そして二月の末。三年生が卒業する二週間前のことだ)

コノガッコウニハ アキカンガ オオスギル

エレン(そんなメッセージが残されていた)

エレン(この学校には空き缶が多すぎる?)

エレン(変な奴だと思った)

80: 2015/01/17(土) 22:31:58 ID:AI5cdREM0
アルミン「エレン!! 大変だ!!」

エレン「どうしたんだ? そんな慌てて」

アルミン「学校の自販機が壊れちゃったんだ!」

エレン「故障かなんかか?」

アルミン「違うよ。電源のケーブルがスパッと切られてたんだ! 三台とも全部」

エレン「誰かがやったのか……」

コノガッコウニハ アキカンガ オオスギル

エレン(まさか……?)

81: 2015/01/17(土) 22:37:22 ID:AI5cdREM0
エレン(俺は休み時間、すぐに例のトイレへ向かった)

うまづら:またコンビニでミカサを見た。もうすぐ三月だな。

     冬は嫌いだ。寒いから。

Bo'z:カタカナのやつへ。

   この学校に空き缶が落ちてるのなんか見たことねーぞ。

エレン(二人は事件のことを知らないうちに落書きを残したんだな)

そばかす:今日、学校の自販機が何者かによって壊された。

     ひょっとして、カタカナの君がやったんじゃないのか?
  
     もしそうなら自首した方がいいと思う。学校の設備を壊すのはいけないことだ。

エレン(アイツのコメントはなかった。昨日の落書きがそのまま残されてる)

駆逐系男子:俺もそばかすに賛成。
  
      でもすげえことやるなって気もする。

エレン(誰かの気配がしたのはその時だった)

82: 2015/01/17(土) 22:41:05 ID:AI5cdREM0
エレン(その誰かは個室の前に立って扉を開けようとした)

エレン(が、扉には鍵がかかってるので開かない)

エレン(扉を挟んで、その人物が息をのむ音が聞こえた)

エレン「……」トントン

エレン(誰だ? うまづら? Bo'z? そばかす? それともカタカナのアイツ?)

エレン(誰でもいいから早く帰ってくれ)ドキドキ

スタスタ……

エレン(誰かは立ち去ったようだ)ホッ

エレン(トイレの個室は狭い。そして寒い)

エレン(俺はタバコに火をつけた)

83: 2015/01/17(土) 22:43:40 ID:AI5cdREM0
エレン(あいつらには顔を見られたくない)ダッ

エレン「……あ」

ペトラ「……」ヒョイッ

エレン(ペトラ先生。吸殻を拾ってたのか)

ペトラ「君の制服、タバコの臭いがするけど――」

エレン「これ友達のアルミンのなんですよ。困ったやつですよね」

エレン(ごめんなアルミン)ダッ

84: 2015/01/17(土) 22:49:02 ID:AI5cdREM0
エレン(やっぱり空き缶なんて見当たらないな)

エレン(清掃業者の人が片付けてるんだろう)

エレン(放課後トイレに行くと、落書きが書きかえられていた)

Bp'z:学校のはんばいきが使えなくなったら、わざわざ外でジュースを買ってこなきゃならない。

   近くないぞ。水を飲めってことか?

うまづら:駆逐と同じく、すげえと思った。

エレン(アイツも新しい落書きを残していた)

カンリョウ

ジドウハンバイキガ ツカエナクナルノハ トウゼンノ コトダ

コノガッコウカラ アキカンガ ナクナルコト

オレハ ダレヨリモ ツヨク ネガウ

エレン(ぞくり、とした)

駆逐系男子:あんた、おかしいぞ。

      おかしいってのは、おもしろいって意味じゃないからな。

85: 2015/01/17(土) 22:52:30 ID:AI5cdREM0
エレン(俺はトイレを出て帰ろうとしたが、途中でライターを落としたことに気づいた)

エレン(タバコも残り少なくなってたし、コンビニに行くことにした)

エレン「……あ」

ミカサ「……」ヒョイッ

エレン(万引きだ! それもすげえ早業)

ミカサ「エレン……?」ハッ

エレン(あ、やべえ)

ミカサ「その……誰にも言わないでほしい」タッ

エレン(見てはいけないものを見てしまった気分だ)

86: 2015/01/17(土) 22:56:55 ID:AI5cdREM0
エレン(翌日トイレに行くと、落書きが新しくなっていた)

Bo'z:カンリョウってなんだ。気持ち悪いっすよ。

そばかす:やっぱり君だったのか。なんて奴だ。

うまづら:必殺仕事人みてえだな。

     どうでもいいけどハンジ先生の車が邪魔だ。ちゃんと駐車してくれよ。

エレン(うまづらはあんまりアイツに動じてないみたいだ)

エレン(そして、アイツの落書き)

キノウココデ オレハ ライターヲ ヒロッタ

エレン(やっぱトイレで落としてたのか)

駆逐系男子:それは俺のライター。大事に使ってくれよ。

87: 2015/01/17(土) 23:00:05 ID:AI5cdREM0
エレン(トイレを出ると、剣道場の前でライナーに出くわした)

ライナー「お前、最近腹の調子でも悪いのか?」

エレン「なんで?」

ライナー「よく剣道場の前を通ってるからな」

ライナー「裏のトイレに行ってるんじゃないかと思ったんだ」

エレン「ああ……最近いろいろあってさ」

エレン「誰かほかにも通ってるやついるか?」

ライナー「結構見かけるぞ。意外と利用者は多いみたいだ」

エレン「そうか……」

88: 2015/01/17(土) 23:07:03 ID:AI5cdREM0
エレン(放課後、俺は剣道場を大きく迂回してトイレに向かった)

Bo'z:カタカナさんマジパネェっす。自動はんばいきをこわすなんてフツーじゃねえよ、やっぱ。

うまづら:そこがおもしれーんじゃねえの。

そばかす:駆逐はここでタバコを吸ってるの? 健康に悪いからやめた方がいいよ。

エレン(そばかすは他二人と違って真面目な奴だ)

エレン(うまづらにお利口ぶってんじゃねーと突っ込まれてたこともあったけど)

エレン(アイツは……)

ハンジセンセイノ クルマハ コウツウノ ジャマダ

オレガ ハイジョ スル

駆逐系男子:勝手にしろ。

89: 2015/01/17(土) 23:12:52 ID:AI5cdREM0
エレン「アルミン、今日ハンジ先生の車が壊されるかもしれない」

アルミン「何でそんなことが分かるの?」

エレン「うわさだよ、うわさ」

アルミン「ふーん……」

アルミン「大変だー!! エレンの予言通りだよ!」

エレン(やりやがったか……)

アルミン「ハンジ先生の車がボコボコにされてたんだ!」

アルミン「ガラスも全部割られてて、落書きもされてた」

エレン「カタカナか?」

アルミン「正解。なんで分かったの?」

エレン「いや、なんとなく」

アルミン「コウツウキソクとかイハンとかショリとか……寒気がしたよ」ブルッ

アルミン「おそらく犯人は三年生の不良だろうね。よくやるよ」ハァ

90: 2015/01/17(土) 23:14:44 ID:AI5cdREM0
エレン「まだ近くで見ることはできるか?」

アルミン「駄目じゃないかな? 先生たちが騒ぎを収めてたし、清掃員の人が掃除してたよ」

エレン(うちの学校では生徒たちは掃除をしない。専門の清掃会社に任せている)

アルミン「大変だよね。ハンジ先生も、掃除する人も)

エレン(全部、アイツのせいだ)

91: 2015/01/17(土) 23:23:17 ID:AI5cdREM0
エレン(俺はすぐにでもトイレに行きたかったが、学校が落ち着いてから行くことにした)

エレン(トイレで例の奴らと鉢合わせしたくなかった)

エレン(お互いの素性を詮索しないこと。その暗黙の了解のおかげで今まで落書きは続いてきたんだ)

エレン(放課後、例のトイレに行った)

92: 2015/01/17(土) 23:24:02 ID:AI5cdREM0
Bo'z:さすがにやりすぎだろ。ひでえよ!

うまづら:マジでビビった。本気なんだもんな。

     カタカナのオマエ、ストレスがたまってんじゃねえの?

     勉強はほどほどでいいんだよ、ダブらないくらいに。

そばかす:ひょっとして君は、ハンジ先生が自動車を二つ分のスペースに駐車していたから破壊活動を行ったのか?

     常軌を逸してるよ。

エレン(みんな衝撃を受けてるみたいだ)

エレン(そして、アイツ――)

カンリョウ

ソシテ アラタナツミ ノ ハッカク

オレハ 2ネンDグミ ノ ミカサ アッカーマン ヲ ガッコウカラ ハイジョ スル

ガッコウデノ キツエン ソシテ スイガラノ ホウチノ ツミ

エレン(……前の三人はこれをまだ読んでないはずだ)

エレン(俺はカンリョウ以下の落書きをすべて消しておいた)

93: 2015/01/17(土) 23:29:10 ID:AI5cdREM0
エレン「お前、変質者に狙われてるぞ。気をつけろよ」

ミカサ「……どうして?」

エレン「なんとなくだよ」シュボッ

ミカサ「……タバコは健康に悪い」

エレン「お前も吸ってるんだろ?」

ミカサ「どうしてそれを……?」

ミカサ「……今日、学校で隠れて吸った。初めてだった」

エレン「吸殻はその辺に捨てたのか?」

ミカサ「……ええ」

エレン(それを偶然アイツに目撃されたのか……)

94: 2015/01/17(土) 23:39:50 ID:AI5cdREM0
エレン「おはよう、ミカサ」

ミカサ「おはよう……」

エレン「どうした? 元気ねえな」

アニ「……女子トイレに落書きされてたんだよ」

エレン「えっ……?」

アニ「2ネン Dグミ ミカサ アッカーマン ヘ ズジョウ ニ チュウイ って。」

エレン「……」

アニ「気味が悪いだろ。ミカサにはもう帰った方がいいって言ったんだけど……」

ミカサ「私は大丈夫」フルフル

エレン(アイツの仕業だ……!)

95: 2015/01/17(土) 23:46:37 ID:AI5cdREM0
エレン(例のトイレに行く途中で、俺は珍しいものを見た)

エレン(生徒たちが教室の掃除をしている)

エレン「何やってんだ?」

ベルトルト「掃除だよ。教室が汚いからって、ペトラ先生が」

エレン「そうか。先生はきれい好きだからな」

ライナー「お前、今朝の事件のこと聞いたか?」

エレン「ああ、ミカサのこと?」

ライナー「また職員会議が開かれたらしいぞ」

ベルトルト「昨日ハンジ先生の車のことがあったばっかりなのに……」

ベルトルト「ミカサに恨みを持つ女子がやったのかな?」

ライナー「場所が女子トイレだからな」

エレン「……」

ベルトルト「あれ? エレンの制服、タバコの臭いがする」クンクン

エレン「だろうな」

96: 2015/01/17(土) 23:52:46 ID:AI5cdREM0
タニンノ メッセージヲ ケス コトハ ルールイハンダ

ミカサ アッカーマン ニ チカイジンブツ ガ ケシタ ト オモワレル

エレン(俺だってことにはまだ気づいてないみたいだ)

そばかす:一体なんて書いてたの?
  
     ミカサの名前が出てるけど、今朝の事件も君が?

エレン(そばかすは気付き始めてるが、ほかの二人はアイツが書き直す前にやって来たのか)

Bo'z:明日は土曜で学校が休みだ。うれしいな。

   最近学校がぶっそうだから。誰かさんのおかげでな!

うまづら:寒い。ここは寒い。ついでにサイフの中も寒い。

     ババアもっと小遣いよこせ!

エレン(俺は迷ったが、アイツの落書きを消すのはやめにした)

駆逐系男子:人の落書きを勝手に消すなんてひどいやつがいるんだな。

      昨日何を書き残してたのか俺には全然知るよしもないけど、

      お前が怒る気持ちもわかるよ、カタカナ。

97: 2015/01/17(土) 23:57:55 ID:AI5cdREM0
エレン「ミカサ、今朝は大変だったな」

ミカサ「もう大丈夫だから」

エレン「これからも気をつけろよ」

ミカサ「これからも……?」

アルミン「エレン、まるでまた何か起こるみたいな言い方だよ」

アルミン「ハンジ先生の車の時だって――」

ドスン

三人「!!?」

エレン「机が落ちてきたのか!?」

アルミン「……もう少しでミカサに命中するところだった……」ガクブル

ミカサ「……!!」

エレン「いったい誰が……!?」

エレン(三年の教室の窓が開いてる。人影はない)

エレン(俺たちは教室周辺を探し回ったが、犯人らしき人物を確認することはできなかった)

98: 2015/01/18(日) 00:04:43 ID:RFBSIrlw0
駆逐系男子:渦中のミカサは天体観測愛好会に所属しているらしい。

      今日の夜、学校で活動があるんだってさ。

エレン(少しわざとらしすぎるか? いや、これでいい)

エレン(アイツを罠にかけてやる)シュボッ

ガチャ

エレン「うわっ!?」ポチャン

エレン(清掃員の人だ……びっくりした)

エレン(鍵をかけ忘れてたのか。見られてないよな……?)ソソクサ

99: 2015/01/18(日) 00:18:32 ID:RFBSIrlw0
エレン「お前女装似合うな……」

アルミン「でもやっぱり恥ずかしいよ。これで本当にミカサを狙う犯人を捕まえることが出来るの?」

エレン「アイツが罠に引っかかってくれればな。お前を囮にしておびき寄せるんだ」

ミカサ「エレン、アルミン……」スタスタ

エレン「ミカサ!? 何で来たんだよ!!」

ミカサ「人数は多いほうが有利」

エレン「でもな……」シュボッ

ミカサ「タバコは私が預かっておく」ヒョイッ

エレン「あっ、おい」

ミカサ「……結局、私はこれが気に入らないのだと思う。両親も……」

エルヴィン「アッカーマン君、こんなところにいたのか? 両親が心配している」

エレン「やべ……」

エルヴィン「君たちは?」

エレン「天体観測愛好会の者です。変な格好してますけど」

100: 2015/01/18(日) 00:21:40 ID:RFBSIrlw0
エルヴィン「そうか……彼女の家庭のことで話があるんだ」

エレン「分かりました」

エレン(先生と一緒ならアイツも狙わないだろう)

ミカサ「でも……」

エレン「大丈夫だよ」

エルヴィン「天体観測はどこでやるんだい?」

エレン「屋上でやろうと思ってます」

エルヴィン「宿直室に行って鍵を借りてきなさい。今日の宿直はペトラ先生のはずだ」

101: 2015/01/18(日) 00:28:45 ID:RFBSIrlw0
エレン(校舎の入り口には鍵がかかっていたので、裏口から入った)

アルミン「僕はトイレに行ってるから、エレンは鍵を借りてきてよ」

エレン「間違えて女子トイレに入るなよ」

エレン(宿直室には誰もいなかった)

エレン(ペトラ先生は見回りでもしてるのか?)

エレン(俺は屋上の鍵を無断で拝借してアルミンと合流した)

エレン(そして、さっきまでミカサとエルヴィン先生がいた場所へ戻った)

エレン(が、そこには誰もいなかった)

エレン(その代わりに――)

アルミン「……血だ」ゾッ

エレン「まさか――」

アルミン「どうしよう!? もう二人は――」アタフタ

エレン「アルミン、お前はあたりを探すんだ! 俺は救急車を呼んでくる」ダッ

102: 2015/01/18(日) 00:33:44 ID:RFBSIrlw0
エレン(公衆電話は校舎を抜けてすぐのところにあるはずだ)

エレン(受話器を持ち上げた時、おかしいことに気が付いた)

エレン(さっき入ったとき、校舎正面には鍵がかかっていたはずじゃ?)

エレン(分からない。分からないことだらけだ)

エレン「――ん?」

エレン(タバコの吸い殻が落ちてる)

エレン(もう一本、二本……点々と続いてる)

エレン(犯人に捕まったミカサが目印を残していったのか?)

エレン(とりあえず行ってみるか……)

エレン「これで最後か……」

エレン(例の落書きがされてた女子トイレだ)

カチッ

エレン「誰かいますか……?」オソルオソル

103: 2015/01/18(日) 00:40:28 ID:RFBSIrlw0
ミカサ「うっ……」フラフラ

エレン「ミカサ!! 無事か!?」

ミカサ「突然頭を殴られて……犯人の顔は見ていない」

エレン「エルヴィン先生は?」

ミカサ「分からない……」

エレン(……奥の個室にアイツが……?)ガチャ

ペトラ「う……」グッタリ

エレン「先生!!」

ペトラ「どうして君が……!?」オドロキ

エレン「いや、俺は――」

ミカサ「先生も襲われたの……?」

ペトラ「見回りをしていて、急に……気づいたらここに」

ミカサ「私と一緒……」

104: 2015/01/18(日) 00:47:34 ID:RFBSIrlw0
エレン(……ん?)

エレン「なあミカサ、あのタバコを落としていったのはお前か?」

ミカサ「いえ、私は何も――」

エレン(……そうか)

エレン(目印を残していったのは――)

エレン(アイツだ)

エレン(アイツは裏口から入って、見回り中のペトラ先生を襲い、鍵を奪った)

エレン(校舎正面の鍵を開け、目的地までタバコを点々と落とす)

エレン(俺をおびき寄せるために――)

エレン(俺は罠をかけたつもりが、逆に奴の罠に引っかかっていたんだ)

エレン(捕まえられるのは、俺の方なんだ)

ソノトオリダ、クチクヨ

105: 2015/01/18(日) 00:52:38 ID:RFBSIrlw0
エレン「!!」

エレン(アイツが、女子トイレの入り口に立っていた)

エレン(剣道の防具を着て、木刀を持っている。顔は見えない)

ミカサ「誰……?」

エレン「アイツだよ」

エレン「俺を探してたんだろ……?」

ミカサ「何故エレンが狙われているの?」

エレン「灰を散らかしたからだ。お前の何倍もの量を」

ライターハ オマエノモノ ダッタンダナ

オマエガ ミカサヲ カバオウト シテイルコトハ スグニワカッタ

ダカラ ギャクニ オビキダシタ

エレン「くそっ……」

ミカサ「エレン! 逃げて!」

106: 2015/01/18(日) 01:03:07 ID:RFBSIrlw0
エレン(アイツが木刀を構えた)

エレン(すべてがスローモーションに見えた)

エレン(その時――)

ミカサ「はぁぁぁぁっ!!」

エレン(ミカサがアイツに飛び掛かっていった)

エレン(やめろ! そう叫ぼうとしたが声が出なかった)

エレン(アイツはミカサの攻撃を難なくかわした)

エレン(このままじゃマズイ。このままじゃー―)スッ

エレン(……タバコ)

エレン「うおぉぉぉぉっ!!」ダッ

ミカサ「エレン!?」

エレン「これでも喰らえっ!!」ジュウウウ

エレン(俺はタバコの火をアイツの面の中に押し込んだ)

チッ……

エレン(アイツは特に痛がるそぶりも見せない。もうだめかー―)

107: 2015/01/18(日) 01:11:36 ID:RFBSIrlw0
キタネエナ……

エレン(アイツの顔を一瞬見た気がした)

エレン(例のトイレで出会った、清掃員の男)

バリーン

エレン(アイツは窓を突き破り、闇の中に消えた)

ミカサ「終わった……の?」

エレン「ああ……」ヘナヘナ

108: 2015/01/18(日) 01:15:03 ID:RFBSIrlw0
アルミン「エレン!! ミカサ!! 心配したよ……!」ダッ

エレン「ごめんな、アルミン」

ミカサ「……悪かった」

エルヴィン「君たちはいったい何をしていたんだ……?」ズキズキ

エレン「……」

ミカサ「……」

アルミン「……」

エレン(あの後、外を探し回っても誰もいなかった)

エレン(二階から飛び降りたのに……)

エレン(アイツはどこに消えたんだろう?)

109: 2015/01/18(日) 01:20:08 ID:RFBSIrlw0
エレン(後日、俺は清掃業者の名簿を調べてみた)

エレン(でもアイツのことは載っていなかった)

エレン(アイツは消えたんだ)

ミカサ「……両親が離婚することになった」

エレン「ああ……」

ミカサ「しばらく前からゴタゴタしてて」

エレン「それで万引きしたりタバコ吸ったりしてたのか」

ミカサ「でも、もうやめる」

エレン「またアイツが現れたら大変だもんな」ハハッ

110: 2015/01/18(日) 01:22:44 ID:RFBSIrlw0
ミカサ「そういえば、昨日は三年生の卒業式だった」

エレン「ああ」

ミカサ「昨日道を歩いていたら、その卒業生たちに変なことを聞かれた」

エレン「どんな?」

ミカサ「最近変わったことはなかったかって」

ミカサ「別にと答えたら、二人は顔を見合わせて笑っていた」

ミカサ「もう一人は心配そうな顔をしていたけど……」

エレン(三人……まさか)

エレン「どんな奴らだった? 馬面? 坊主? そばかす?」

ミカサ「まさにその通りだけど……何で知ってるの?」

エレン(あいつら三年生だったのか。いつの間に顔を合わせたんだ?)

111: 2015/01/18(日) 01:25:07 ID:RFBSIrlw0
エレン(アイツが消えて学校は汚くなった)

エレン(掃除する人がいないからだろうか。平和な証拠だ)

エレン(例のトイレには最近ほとんど行ってない)

エレン(タバコも以前ほど吸いたいと思わなくなった)

エレン(久しぶりに行ってみると、やっぱり汚くなっていた)

エレン(もちろん誰もいない。変な臭いもする)

エレン(個室には……)

112: 2015/01/18(日) 01:34:29 ID:RFBSIrlw0
Bo'z:ぶじに卒業できてよかったー!

うまづら:この寒いトイレともお別れかー。いろいろ楽しかったぜ。

そばかす:さようなら。駆逐君もお元気で。

エレン(油性だ)

エレン(あいつら、最後の最後にやりやがったな)ニヤリ

エレン(俺も油性ペンで落書きに加わることにした)

エレン(この場所でメッセージのやり取りが行われたこと)

エレン(自動販売機のこと。車のこと)

エレン(名前は伏せて、俺たちのこと)

エレン(そして、アイツのこと)

エレン(個室の壁は俺の落書きで埋め尽くされた)

エレン(出来るだけ多くの人に読んでほしい。そう思った)

113: 2015/01/18(日) 01:36:52 ID:RFBSIrlw0
エレン(ところが)

エレン(次の日には全部消されていた)

エレン(油性マジックのやつも、すべて)

エレン(凄まじい執念を感じた)

エレン(学校も、トイレも、すべての場所がピカピカになっていた)

エレン(そして、残された落書きが一つ)

ラクガキスルベカラズ

エレン(俺は久しぶりに、タバコに火をつけた)

114: 2015/01/18(日) 01:38:12 ID:RFBSIrlw0
<A MASKED BALL>
――およびトイレのタバコさんの出現と消失――

おしまい



引用: エレン「SEVEN ROOMS?」