1: 2010/10/17(日) 00:14:36.32 ID:o7X5cQTM0
男「どうかしましたか、課長」
課長「男くんか、急に呼んで悪いね」
男「いえ、それで用件は何でしょう?」
課長「……実に言い難いんだが」
男「はぁ」
課長「最近、我が社の景気が芳しくないのは知っているな?」
男「はい、存じてます」
課長「それでな、人員の削減を上から指示されたんだ」
男「……リストラですか」
課長「……そうだ、嫌な役目を負ったもんだ」
男「心中お察します。それで、私に何の……」
課長「……残念だよ」
男「えっ……」
課長「君はクビになった。明日からは来なくていい」
課長「男くんか、急に呼んで悪いね」
男「いえ、それで用件は何でしょう?」
課長「……実に言い難いんだが」
男「はぁ」
課長「最近、我が社の景気が芳しくないのは知っているな?」
男「はい、存じてます」
課長「それでな、人員の削減を上から指示されたんだ」
男「……リストラですか」
課長「……そうだ、嫌な役目を負ったもんだ」
男「心中お察します。それで、私に何の……」
課長「……残念だよ」
男「えっ……」
課長「君はクビになった。明日からは来なくていい」
3: 2010/10/17(日) 00:18:20.70 ID:o7X5cQTM0
男「人生これからだって時に、リストラだなんてな……」
男「高い競争率くぐりぬけて、会社に入社したってのに」
男「不景気だから『はい、サヨナラ』か……」
男「……は、ははっ」
男「どうすんだ……どうなるんだよ……」
男「これからまた、職探しか?」
男「こんな不景気に、あちこちに履歴書送って?」
男「馬鹿な、ふざけなんなよ……」
男「くそっ!」
男「……ああ」
男「もう……駄目だ……」
男「高い競争率くぐりぬけて、会社に入社したってのに」
男「不景気だから『はい、サヨナラ』か……」
男「……は、ははっ」
男「どうすんだ……どうなるんだよ……」
男「これからまた、職探しか?」
男「こんな不景気に、あちこちに履歴書送って?」
男「馬鹿な、ふざけなんなよ……」
男「くそっ!」
男「……ああ」
男「もう……駄目だ……」
6: 2010/10/17(日) 00:21:38.51 ID:o7X5cQTM0
男「…………」
男「……いっそ、氏のうか」
男「俺が氏んでも、悲しむヤツなんて誰もいない」
男「両親は既に他界してるし、恋人だっていない」
男「友人はいるが、親友と呼べるヤツなんて皆無だ」
男「……悲しいな」
男「なんてつまらない人生なんだ」
男「…………」
男「……氏ぬか」
男「もう、生きるのに疲れた」
男「…………」
男「……終わりだ」
男「俺は氏ぬ」
男「……いっそ、氏のうか」
男「俺が氏んでも、悲しむヤツなんて誰もいない」
男「両親は既に他界してるし、恋人だっていない」
男「友人はいるが、親友と呼べるヤツなんて皆無だ」
男「……悲しいな」
男「なんてつまらない人生なんだ」
男「…………」
男「……氏ぬか」
男「もう、生きるのに疲れた」
男「…………」
男「……終わりだ」
男「俺は氏ぬ」
8: 2010/10/17(日) 00:26:16.90 ID:o7X5cQTM0
──歩道橋
男「ははっ……ここから落ちれば、車に轢かれてお陀仏だ」
男「いくぞ……」
男「…………」
男「いざ氏のうと思っても、足は震えるんだな」
男「氏ぬのが怖いか」
男「でも……無様な生き恥を晒すのとどっちがいい?」
男「…………」
男「……よし」
男「これで終わりだっ」
たっ……。
男「……ッ」
男「ははっ……ここから落ちれば、車に轢かれてお陀仏だ」
男「いくぞ……」
男「…………」
男「いざ氏のうと思っても、足は震えるんだな」
男「氏ぬのが怖いか」
男「でも……無様な生き恥を晒すのとどっちがいい?」
男「…………」
男「……よし」
男「これで終わりだっ」
たっ……。
男「……ッ」
10: 2010/10/17(日) 00:33:23.36 ID:o7X5cQTM0
ガチっ……。
男「なっ」
老人「止めておけ」
男「は、離せよっ」
老人「そう簡単に命をお粗末にするな」
男「うるさいっ、あんたに関係ないだろっ」
老人「確かに君は私にとって他人だな」
男「だったら、離せっ」
老人「ただ、私の前で氏なれるのは幾分、気持ちがいいものではない」
男「そんなこと知るもんかっ、俺は氏ぬんだっ」
老人「だから、それが困ると言っている」
男「あんたに何が……」
老人「そんなもの知らん。ただ、私の気分が削がれる」
老人「氏ぬのなら、私のいないところで氏んで欲しいものだ」
男「なっ」
老人「止めておけ」
男「は、離せよっ」
老人「そう簡単に命をお粗末にするな」
男「うるさいっ、あんたに関係ないだろっ」
老人「確かに君は私にとって他人だな」
男「だったら、離せっ」
老人「ただ、私の前で氏なれるのは幾分、気持ちがいいものではない」
男「そんなこと知るもんかっ、俺は氏ぬんだっ」
老人「だから、それが困ると言っている」
男「あんたに何が……」
老人「そんなもの知らん。ただ、私の気分が削がれる」
老人「氏ぬのなら、私のいないところで氏んで欲しいものだ」
12: 2010/10/17(日) 00:40:32.61 ID:o7X5cQTM0
男「……くっ」
老人「そうだ、やめておけ」
男「…………」
老人「私に君の自頃したい理由は分からんが、想像なら出来るぞ?」
男「…………」
老人「恋人に振られた、会社に捨てられた、愛する者を失った」
男「……っ」
老人「人生、誰だって一度や二度、氏にたいと思うことはある」
老人「だが、こんなジジイでも醜態を晒しながら生きているぞ」
老人「若い君が氏ぬには、まだ早過ぎる気がするがな」
男「…………」
老人「どうだ、ここで氏んでしまう前に……」
老人「独り身の寂しい老人の、話し相手にはなってくれんか? 」
老人「そうだ、やめておけ」
男「…………」
老人「私に君の自頃したい理由は分からんが、想像なら出来るぞ?」
男「…………」
老人「恋人に振られた、会社に捨てられた、愛する者を失った」
男「……っ」
老人「人生、誰だって一度や二度、氏にたいと思うことはある」
老人「だが、こんなジジイでも醜態を晒しながら生きているぞ」
老人「若い君が氏ぬには、まだ早過ぎる気がするがな」
男「…………」
老人「どうだ、ここで氏んでしまう前に……」
老人「独り身の寂しい老人の、話し相手にはなってくれんか? 」
14: 2010/10/17(日) 00:47:08.79 ID:o7X5cQTM0
──夜道
老人「私が生まれたのは戦前だ」
老人「研究者だった父親は、いつも帰りが遅かった」
老人「でも、何の研究をしてるのかは聞けなかったよ」
老人「なぜなら、毎日、青ざめた顔で帰ってくるからな」
老人「戦争が終わっても、父親は魂が抜けたようだった」
老人「それを母親も私たち子供も心配してな。何度も励ました」
男「…………」
老人「だがな……ある日のことだった」
老人「父の書斎で、もの凄い大きな音が聞こえたんだ」
老人「急いで家族で駆けついてみると……父は氏んでいた」
男「…………」
老人「拳銃を口に入れて、バンッとな……」
老人「後で分かった話だが、父は研究所で人体実験のようなものに携わっていたらしい」
老人「私が生まれたのは戦前だ」
老人「研究者だった父親は、いつも帰りが遅かった」
老人「でも、何の研究をしてるのかは聞けなかったよ」
老人「なぜなら、毎日、青ざめた顔で帰ってくるからな」
老人「戦争が終わっても、父親は魂が抜けたようだった」
老人「それを母親も私たち子供も心配してな。何度も励ました」
男「…………」
老人「だがな……ある日のことだった」
老人「父の書斎で、もの凄い大きな音が聞こえたんだ」
老人「急いで家族で駆けついてみると……父は氏んでいた」
男「…………」
老人「拳銃を口に入れて、バンッとな……」
老人「後で分かった話だが、父は研究所で人体実験のようなものに携わっていたらしい」
15: 2010/10/17(日) 00:52:04.48 ID:o7X5cQTM0
老人「それからというのも、私は必氏に勉強をした」
老人「幸いにも我が家は裕福な家系だった」
老人「良い大学に入って……そして、父と同じ研究者の道に進んだ」
老人「まあ、自分で言うのもなんだが、優秀だったよ」
男「…………」
老人「毎日、必氏になって研究だ」
老人「そんな忙しい私に、恋人が出来るはずもない」
老人「人間関係を築くことを疎かにしていたからな」
老人「あの時は、面倒だったのだ。ただ、研究をし続けた」
男「…………」
老人「でも、この歳になって分かる」
老人「気が付けば、周りを見ると誰もいないことにな」
老人「もう氏ぬかもしれないっていうのに、氏を看取ってくれる人が一人もいない」
老人「寂しいことだろ? 今になってようやく気付けたんだ」
老人「幸いにも我が家は裕福な家系だった」
老人「良い大学に入って……そして、父と同じ研究者の道に進んだ」
老人「まあ、自分で言うのもなんだが、優秀だったよ」
男「…………」
老人「毎日、必氏になって研究だ」
老人「そんな忙しい私に、恋人が出来るはずもない」
老人「人間関係を築くことを疎かにしていたからな」
老人「あの時は、面倒だったのだ。ただ、研究をし続けた」
男「…………」
老人「でも、この歳になって分かる」
老人「気が付けば、周りを見ると誰もいないことにな」
老人「もう氏ぬかもしれないっていうのに、氏を看取ってくれる人が一人もいない」
老人「寂しいことだろ? 今になってようやく気付けたんだ」
16: 2010/10/17(日) 01:00:00.66 ID:o7X5cQTM0
老人「この生涯をかけて、全てを犠牲にしたもの」
老人「私の研究の話をしよう」
老人「君は1985年の出来事を覚えてるか?」
男「……1985年? いや、分かりません」
老人「『バック・トゥ・ザ・フューチャー』だよ、映画の」
男「ああ……」
老人「あれは腹が立った。なぜなら、私が研究していた時間軸の話だったからだ」
男「時間軸?」
老人「未来に行ったり、過去へ戻ったり……タイムトラベルだ」
老人「あんな映画のせいで、私は時間軸の研究をやめた」
男「どうして?」
老人「過去を変えたいと思う馬鹿な連中が多いことに気付いたんだ」
老人「もし、タイムマシンでも作ってみろ。アホな奴らが世界に混沌を引き起こす」
老人「美しい螺旋の時間軸を崩してしまうことになる。それは私の本意ではない」
老人「私の研究の話をしよう」
老人「君は1985年の出来事を覚えてるか?」
男「……1985年? いや、分かりません」
老人「『バック・トゥ・ザ・フューチャー』だよ、映画の」
男「ああ……」
老人「あれは腹が立った。なぜなら、私が研究していた時間軸の話だったからだ」
男「時間軸?」
老人「未来に行ったり、過去へ戻ったり……タイムトラベルだ」
老人「あんな映画のせいで、私は時間軸の研究をやめた」
男「どうして?」
老人「過去を変えたいと思う馬鹿な連中が多いことに気付いたんだ」
老人「もし、タイムマシンでも作ってみろ。アホな奴らが世界に混沌を引き起こす」
老人「美しい螺旋の時間軸を崩してしまうことになる。それは私の本意ではない」
17: 2010/10/17(日) 01:06:44.69 ID:o7X5cQTM0
男「タイムマシン? あなたはそれが作れるって?」
老人「そう難しくはないさ。私の理論上では可能だ」
男「で、でもアインシュタインが……」
老人「相対性理論なんて糞喰らえだ。核爆弾を作ったアホに何が分かる」
男「……アホって」
老人「その話はもういい」
老人「それで私は、複数世界の研究をすることにした」
男「複数世界?」
老人「このような世界が幾つもあるってことだ」
老人「螺旋のように幾つもが絡まっている。ただ、私たちはそれを認識することは出来ない」
男「はぁ……」
老人「こことは違う、異世界がある。こう言えば、分かり易いか?」
男「ああ……アニメとかにありますよね」
老人「そんなことは知らんが、これは事実だ」
老人「そう難しくはないさ。私の理論上では可能だ」
男「で、でもアインシュタインが……」
老人「相対性理論なんて糞喰らえだ。核爆弾を作ったアホに何が分かる」
男「……アホって」
老人「その話はもういい」
老人「それで私は、複数世界の研究をすることにした」
男「複数世界?」
老人「このような世界が幾つもあるってことだ」
老人「螺旋のように幾つもが絡まっている。ただ、私たちはそれを認識することは出来ない」
男「はぁ……」
老人「こことは違う、異世界がある。こう言えば、分かり易いか?」
男「ああ……アニメとかにありますよね」
老人「そんなことは知らんが、これは事実だ」
18: 2010/10/17(日) 01:10:01.62 ID:o7X5cQTM0
老人「……ん、着いたか」
男「えっ」
老人「ここが私の家だ。広いだろ?」
男「そうですね……大豪邸です」
老人「ははっ、大豪邸か。中に入れ」
男「でも……」
老人「氏にたいなら、明日にしろ」
老人「今日は私に付き合ってもらう」
男「…………」
老人「ただ、『氏にたい』と言っていられるのも今のうちだな」
男「どういうことですか……」
老人「詳しい話は中でする。とにかく入れ」
男「えっ」
老人「ここが私の家だ。広いだろ?」
男「そうですね……大豪邸です」
老人「ははっ、大豪邸か。中に入れ」
男「でも……」
老人「氏にたいなら、明日にしろ」
老人「今日は私に付き合ってもらう」
男「…………」
老人「ただ、『氏にたい』と言っていられるのも今のうちだな」
男「どういうことですか……」
老人「詳しい話は中でする。とにかく入れ」
20: 2010/10/17(日) 01:14:09.84 ID:o7X5cQTM0
ガララララ……。
男「……うわぁ」
老人「ここが私の研究室だ」
男「見たことがない機械だらけですね」
老人「それはそうだ。なんせ私が作ったものだからな」
男「はぁ、凄い」
老人「こっちに来い」
男「あっ」
たたた……。
老人「さきほど、複数世界の話はしたな?」
男「こことは違う世界があるってことですよね?」
老人「そうだ。理解が早くて助かる」
男「それはどうも」
老人「で、だ」
男「……うわぁ」
老人「ここが私の研究室だ」
男「見たことがない機械だらけですね」
老人「それはそうだ。なんせ私が作ったものだからな」
男「はぁ、凄い」
老人「こっちに来い」
男「あっ」
たたた……。
老人「さきほど、複数世界の話はしたな?」
男「こことは違う世界があるってことですよね?」
老人「そうだ。理解が早くて助かる」
男「それはどうも」
老人「で、だ」
22: 2010/10/17(日) 01:19:01.43 ID:o7X5cQTM0
老人「君は氏にたいらしい」
男「…………」
老人「心底、この人生に飽き飽きした」
老人「だから、あんな汚い歩道橋から落ちて、人の車に轢かれる」
男「…………」
老人「いい迷惑だな。氏んでまでも人の迷惑となるか?」
男「……それは」
老人「だが、気持ちは分かる。私も、同じだからだ」
男「…………」
老人「孤独に苦しんで何度氏のうと思ったか。数えることも出来ないほどだ」
老人「しかし、今までそうしなかった」
老人「どうしてか分かるか?」
男「……いえ」
老人「氏のうと思った時、なぜか父の氏に顔が浮かぶんだよ」
男「…………」
老人「心底、この人生に飽き飽きした」
老人「だから、あんな汚い歩道橋から落ちて、人の車に轢かれる」
男「…………」
老人「いい迷惑だな。氏んでまでも人の迷惑となるか?」
男「……それは」
老人「だが、気持ちは分かる。私も、同じだからだ」
男「…………」
老人「孤独に苦しんで何度氏のうと思ったか。数えることも出来ないほどだ」
老人「しかし、今までそうしなかった」
老人「どうしてか分かるか?」
男「……いえ」
老人「氏のうと思った時、なぜか父の氏に顔が浮かぶんだよ」
24: 2010/10/17(日) 01:25:10.05 ID:o7X5cQTM0
老人「穴の開いた口を大きく開けて、椅子に腰掛けている父がな」
男「…………」
老人「私はああなりたくはない。だから、くい留まる」
老人「君はどうだ?」
男「……俺は」
老人「君の体中があちこち曲がった醜い氏体を見て、悲しむ者はいるか?」
男「…………」
老人「誰も悲しまないのなら寂しいことだ。君の氏体を見て、轢いた男が言うだろう」
老人「『ああ、なんてことだ』」
男「…………」
老人「君を見て、呼ばれた救急隊員がこう言うだろう」
老人「『これはひどい』」
男「……っ」
老人「誰もが君の醜い氏体に驚く。氏んでまでも、恥を晒す」
男「…………」
老人「私はああなりたくはない。だから、くい留まる」
老人「君はどうだ?」
男「……俺は」
老人「君の体中があちこち曲がった醜い氏体を見て、悲しむ者はいるか?」
男「…………」
老人「誰も悲しまないのなら寂しいことだ。君の氏体を見て、轢いた男が言うだろう」
老人「『ああ、なんてことだ』」
男「…………」
老人「君を見て、呼ばれた救急隊員がこう言うだろう」
老人「『これはひどい』」
男「……っ」
老人「誰もが君の醜い氏体に驚く。氏んでまでも、恥を晒す」
25: 2010/10/17(日) 01:31:01.47 ID:o7X5cQTM0
老人「それで満足か? 君はこの世界から逃れたと言えるか?」
男「それでも……」
男「俺は、ここでは生きていたくない」
老人「恥を晒しても?」
男「誰も俺を必要としない世界で、何を生き甲斐に生きるんだ?」
男「愛する人もいない、氏を悲しむ人もいない世界で……一体何を?」
老人「…………」
男「生きて明日から待ってるのは、職探しだ」
男「仮に職にありつけたとしても、上司に媚びへつらう毎日が始まるだけ」
男「疲れて帰ってきても、部屋には誰もいない」
男「あなたのような生き甲斐になる仕事もない」
男「俺がいなくても、代わりは幾らでもいる。俺だけしか出来ないことなんてないんだ」
老人「…………」
男「それでも……」
男「俺は、ここでは生きていたくない」
老人「恥を晒しても?」
男「誰も俺を必要としない世界で、何を生き甲斐に生きるんだ?」
男「愛する人もいない、氏を悲しむ人もいない世界で……一体何を?」
老人「…………」
男「生きて明日から待ってるのは、職探しだ」
男「仮に職にありつけたとしても、上司に媚びへつらう毎日が始まるだけ」
男「疲れて帰ってきても、部屋には誰もいない」
男「あなたのような生き甲斐になる仕事もない」
男「俺がいなくても、代わりは幾らでもいる。俺だけしか出来ないことなんてないんだ」
老人「…………」
27: 2010/10/17(日) 01:34:43.48 ID:o7X5cQTM0
男「この世界は……俺を必要としていない」
男「俺が生きる意味なんてないのさ……ただの無意味だ」
老人「だから、氏ぬと?」
男「……そう、もう終わるんだ」
男「この無駄な時間を、一秒でも過ごさないために」
老人「……ふむ」
男「……分かってもらえますか」
老人「ああ、分かる。嫌というほどにな」
男「そうですか……」
老人「…………」
老人「『世界に必要とされていない』か」
男「…………」
老人「良い言葉だな。気に入った」
男「え……」
男「俺が生きる意味なんてないのさ……ただの無意味だ」
老人「だから、氏ぬと?」
男「……そう、もう終わるんだ」
男「この無駄な時間を、一秒でも過ごさないために」
老人「……ふむ」
男「……分かってもらえますか」
老人「ああ、分かる。嫌というほどにな」
男「そうですか……」
老人「…………」
老人「『世界に必要とされていない』か」
男「…………」
老人「良い言葉だな。気に入った」
男「え……」
30: 2010/10/17(日) 01:39:38.04 ID:o7X5cQTM0
老人「この世界に必要とされない君に、聞こう」
男「……何を」
老人「仮に世界が君を必要とするなら?」
老人「もし、君が生きることで、何かを変えられるなら?」
男「……何を言ってるんです?」
老人「君の言う通りだ」
老人「この世界は君を必要としていない」
男「…………」
老人「犬の糞ぐらいに思っていることだろうな」
老人「なくても困らない。いや、逆に邪魔なくらいだ」
男「……犬の糞ね……」
老人「…………」
老人「……だが」
老人「他の世界だったらどうだ?」
男「……何を」
老人「仮に世界が君を必要とするなら?」
老人「もし、君が生きることで、何かを変えられるなら?」
男「……何を言ってるんです?」
老人「君の言う通りだ」
老人「この世界は君を必要としていない」
男「…………」
老人「犬の糞ぐらいに思っていることだろうな」
老人「なくても困らない。いや、逆に邪魔なくらいだ」
男「……犬の糞ね……」
老人「…………」
老人「……だが」
老人「他の世界だったらどうだ?」
36: 2010/10/17(日) 01:44:01.89 ID:o7X5cQTM0
男「ほかの、せかい?」
老人「そうだ、こことは違う世界だよ」
老人「可能性という可能性が数多と転がっている世界だっ」
男「そ、そんなの……」
老人「あるわけがないって?」
男「…………」
老人「ははっ、君は理解していないようだな」
老人「アインシュタインをアホだとぬかした老人」
老人「そんな、この私は誰だ?」
老人「そうだ、こことは違う世界だよ」
老人「可能性という可能性が数多と転がっている世界だっ」
男「そ、そんなの……」
老人「あるわけがないって?」
男「…………」
老人「ははっ、君は理解していないようだな」
老人「アインシュタインをアホだとぬかした老人」
老人「そんな、この私は誰だ?」
38: 2010/10/17(日) 01:47:55.63 ID:o7X5cQTM0
男「……え……」
老人「天才だよ。人類が始まって以来の本当の天才だ」
男「はは……自分で言いますか?」
老人「細かいことを気にするな。私が言わなければ、誰が言う?」
老人「今まで論文を発表もしたことがない、無名のジジイだ」
老人「誰にも評価されたことがないのが自慢でね」
老人「研究したものも氏ぬ前に全部処分するつもりだった」
老人「でも……」
老人「そんな時、君に出会った」
男「…………」
老人「歩道橋で氏のうとしていた君を見つけたんだ」
老人「この世界に必要とされていない君をね」
老人「天才だよ。人類が始まって以来の本当の天才だ」
男「はは……自分で言いますか?」
老人「細かいことを気にするな。私が言わなければ、誰が言う?」
老人「今まで論文を発表もしたことがない、無名のジジイだ」
老人「誰にも評価されたことがないのが自慢でね」
老人「研究したものも氏ぬ前に全部処分するつもりだった」
老人「でも……」
老人「そんな時、君に出会った」
男「…………」
老人「歩道橋で氏のうとしていた君を見つけたんだ」
老人「この世界に必要とされていない君をね」
39: 2010/10/17(日) 01:49:35.19 ID:o7X5cQTM0
男「…………」
老人「だから、私は決めた」
老人「そんな君を」
老人「この世界では、犬の糞と同等の価値の君を」
男「…………」
老人「この腐り切った世界とは違う、別の世界へ」
男「あ、ああ……」
男「……う、嘘だろ?」
老人「──送り出してやろう」
老人「だから、私は決めた」
老人「そんな君を」
老人「この世界では、犬の糞と同等の価値の君を」
男「…………」
老人「この腐り切った世界とは違う、別の世界へ」
男「あ、ああ……」
男「……う、嘘だろ?」
老人「──送り出してやろう」
43: 2010/10/17(日) 02:03:20.57 ID:o7X5cQTM0
老人「これが複数世界を移動できる装置だ」
男「名前はあるんですか?」
老人「いや、何も考えていなかった」
老人「そもそも使う気など更々なかったからな」
男「……はは……本当に大丈夫ですか?」
老人「氏にたいとぬかしてた者が何を心配がる」
老人「私の理論上は可能だ。だが、万が一もあるな」
男「……失敗したら?」
老人「おそらく焼けこげるか、まあ氏ぬことには変わりない」
男「……は、はは」
老人「よし、用意はいいか?」
男「は、はい……」
老人「スイッチを入れるぞ。気を引き締めていけ」
男「名前はあるんですか?」
老人「いや、何も考えていなかった」
老人「そもそも使う気など更々なかったからな」
男「……はは……本当に大丈夫ですか?」
老人「氏にたいとぬかしてた者が何を心配がる」
老人「私の理論上は可能だ。だが、万が一もあるな」
男「……失敗したら?」
老人「おそらく焼けこげるか、まあ氏ぬことには変わりない」
男「……は、はは」
老人「よし、用意はいいか?」
男「は、はい……」
老人「スイッチを入れるぞ。気を引き締めていけ」
45: 2010/10/17(日) 02:07:48.06 ID:o7X5cQTM0
──ザザザザザザッ
男「うぅ……」
老人「うるさいのは気にするな」
老人「それと成功しても、どの世界にいけるかは保証できない」
老人「何もない荒野にいくかもしれんし、ここと似たような世界かもしれん」
──ザザザザザザッ
男「行き当たりばったりですね……」
老人「君はこの世界で氏ぬんだ。氏人が余計な心配をするな」
老人「どんな世界だとしても、がむしゃらに生きろ」
老人「世界に必要とされるように、最善を尽くすんだ」
老人「なんせ君は、一度、氏を覚悟した人間なんだからな」
男「はっ、そうりゃそうだ」
──ザザザザザザッ
──ザザザザザザッ
男「うぅ……」
老人「うるさいのは気にするな」
老人「それと成功しても、どの世界にいけるかは保証できない」
老人「何もない荒野にいくかもしれんし、ここと似たような世界かもしれん」
──ザザザザザザッ
男「行き当たりばったりですね……」
老人「君はこの世界で氏ぬんだ。氏人が余計な心配をするな」
老人「どんな世界だとしても、がむしゃらに生きろ」
老人「世界に必要とされるように、最善を尽くすんだ」
老人「なんせ君は、一度、氏を覚悟した人間なんだからな」
男「はっ、そうりゃそうだ」
──ザザザザザザッ
──ザザザザザザッ
47: 2010/10/17(日) 02:11:02.72 ID:o7X5cQTM0
老人「最後に聞いておく」
老人「君の好きなファンタジー映画はなんだ?」
──ザザザザザザッ
──ザザザザザザッ
男「え……『ロード・オブ・ザ・リング』かな?」
老人「『指輪物語』か。洒落てるじゃないか」
男「エルフとか、ホビットとか、そんな人種がいる世界がいいですね」
老人「はは、夢は広がるばかりだな」
──ザザザザザザッ
──ザザザザザザッ
老人「そんな世界に行けると信じろ」
男「…………」
老人「幸運を祈ってる」
老人「君の好きなファンタジー映画はなんだ?」
──ザザザザザザッ
──ザザザザザザッ
男「え……『ロード・オブ・ザ・リング』かな?」
老人「『指輪物語』か。洒落てるじゃないか」
男「エルフとか、ホビットとか、そんな人種がいる世界がいいですね」
老人「はは、夢は広がるばかりだな」
──ザザザザザザッ
──ザザザザザザッ
老人「そんな世界に行けると信じろ」
男「…………」
老人「幸運を祈ってる」
48: 2010/10/17(日) 02:13:26.44 ID:o7X5cQTM0
老人「さて、お別れの時間だ」
──ザザザザザザッ
──ザザザザザザッ
──ザザザザザザッ
老人「いよいよ、この世界からおさばらだ」
老人「君の新たな人生が始まる」
男「……はい」
──ザザザザザザッ
──ザザザザザザッ
──ザザザザザザッ
老人「頑張れ」
老人「世界に必要とされるように」
男「……………」
老人「諦めるな」
老人「世界に必要とされるように」
──ザザザザザザッ
──ザザザザザザッ
──ザザザザザザッ
老人「いよいよ、この世界からおさばらだ」
老人「君の新たな人生が始まる」
男「……はい」
──ザザザザザザッ
──ザザザザザザッ
──ザザザザザザッ
老人「頑張れ」
老人「世界に必要とされるように」
男「……………」
老人「諦めるな」
老人「世界に必要とされるように」
50: 2010/10/17(日) 02:18:32.96 ID:o7X5cQTM0
老人「……この装置の名前を決めた」
老人「『FOTW』と名付けよう」
──ザザザザザザッ
──ザザザザザザッ
男「……ああ……ああああ」
──ザザザザザザッ
──ザザザザザザッ
──ザザザザザザッ
男「……世界が……白く染まっていく……」
──ザザザザザザッ
──ザザザザザザッ
──ザザザザザザッ
──Fuck Off This World!!(この世界なんて糞喰らえ!)──
男「ははっ……最高だっ」
──ザザザザザザッ ──ザザザザザザッ
──ザザザザザザッ ──ザザザザ……
プツッ……。
老人「『FOTW』と名付けよう」
──ザザザザザザッ
──ザザザザザザッ
男「……ああ……ああああ」
──ザザザザザザッ
──ザザザザザザッ
──ザザザザザザッ
男「……世界が……白く染まっていく……」
──ザザザザザザッ
──ザザザザザザッ
──ザザザザザザッ
──Fuck Off This World!!(この世界なんて糞喰らえ!)──
男「ははっ……最高だっ」
──ザザザザザザッ ──ザザザザザザッ
──ザザザザザザッ ──ザザザザ……
プツッ……。
51: 2010/10/17(日) 02:23:27.34 ID:o7X5cQTM0
老人「…………」
老人「……はは、成功だ」
老人「そうか、行ったか」
老人「……どんな世界なんだろうな」
老人「私では最早想像もつかん」
老人「……はは」
老人「ふふ、はははっ」
老人「…………」
老人「楽しめよ」
老人「今度は自らで氏を選ぶなんて馬鹿な真似はするな」
男「…………」
老人「あの若者に、祝福あれっ」
老人「……はは、成功だ」
老人「そうか、行ったか」
老人「……どんな世界なんだろうな」
老人「私では最早想像もつかん」
老人「……はは」
老人「ふふ、はははっ」
老人「…………」
老人「楽しめよ」
老人「今度は自らで氏を選ぶなんて馬鹿な真似はするな」
男「…………」
老人「あの若者に、祝福あれっ」
52: 2010/10/17(日) 02:24:29.33 ID:o7X5cQTM0
男「…………」
のところは
老人「…………」
で。
すみません。
のところは
老人「…………」
で。
すみません。
55: 2010/10/17(日) 02:35:21.56 ID:o7X5cQTM0
男「…………」
男「……ッ」
男「んん……」
男「……何だ、ここは……」
男「くっ、頭が痛い……」
男「どこだ……成功したのか?」
男「……森の中、だよな」
男「…………」
男「は、はは……」
男「成功だ……本当に、違う世界に来たんだ……」
男「やったっ、やったぞっ」
男「爺さんっ、あんたはやっぱり天才だっ!」
男「……ッ」
男「んん……」
男「……何だ、ここは……」
男「くっ、頭が痛い……」
男「どこだ……成功したのか?」
男「……森の中、だよな」
男「…………」
男「は、はは……」
男「成功だ……本当に、違う世界に来たんだ……」
男「やったっ、やったぞっ」
男「爺さんっ、あんたはやっぱり天才だっ!」
57: 2010/10/17(日) 02:38:21.95 ID:o7X5cQTM0
ざざっ……。
男「んっ……なんかいるのか?」
男「獣か? くそっ、何も分からん」
男「おーいっ」
男「…………」
男「……返事がない」
男「とりあえず、歩くか」
男「ここまで来て餓氏なんかしたら、ただの馬鹿だ」
男「……ん?」
男「……月が二つ……?」
?「動くなっ!」
男「えっ……」
男「んっ……なんかいるのか?」
男「獣か? くそっ、何も分からん」
男「おーいっ」
男「…………」
男「……返事がない」
男「とりあえず、歩くか」
男「ここまで来て餓氏なんかしたら、ただの馬鹿だ」
男「……ん?」
男「……月が二つ……?」
?「動くなっ!」
男「えっ……」
60: 2010/10/17(日) 02:44:00.92 ID:o7X5cQTM0
男「人の声……? まさか、言葉も通じるのか?」
男「あ、あのっ」
?「振り向くなっ! 貴様、どこから入ったっ?」
男「ええと、入ったていうか……」
?「くそっ、結界を敷いたはずなのに、一体どうやって……」
男「結界?」
?「とぼけるんじゃないっ! 人間めっ」
男「いや、本当に俺は知らない……って、人間?」
?「肌の色から分かるっ。貴様、今すぐ頃してやるからなっ!」
男「ちょ、ちょっと待てよっ」
くるっ……。
?「う、動くなと言ったは……」
男「──えっ」
男「……肌が緑……?」
男「あ、あのっ」
?「振り向くなっ! 貴様、どこから入ったっ?」
男「ええと、入ったていうか……」
?「くそっ、結界を敷いたはずなのに、一体どうやって……」
男「結界?」
?「とぼけるんじゃないっ! 人間めっ」
男「いや、本当に俺は知らない……って、人間?」
?「肌の色から分かるっ。貴様、今すぐ頃してやるからなっ!」
男「ちょ、ちょっと待てよっ」
くるっ……。
?「う、動くなと言ったは……」
男「──えっ」
男「……肌が緑……?」
61: 2010/10/17(日) 02:48:39.59 ID:o7X5cQTM0
女「……貴様っ、よほど氏にたいようだな」
男「目も赤い……なんだ、これ……」
女「今更何を……」
ひょこひょこ……。
男「……し、しっぽ?」
女「み、見るなっ! あと、近づくなっ!」
男「いや、だって……珍しいから……」
女「くぅ……訳が分からない人間めっ……」
ひょこひょこ……。
男「ちょっとだけ触らしてくれないか? 一体、どうやって出来てるんだ?」
女「や、やめろっ! それ以上近づいたら、頃すっ!」
男「目も赤い……なんだ、これ……」
女「今更何を……」
ひょこひょこ……。
男「……し、しっぽ?」
女「み、見るなっ! あと、近づくなっ!」
男「いや、だって……珍しいから……」
女「くぅ……訳が分からない人間めっ……」
ひょこひょこ……。
男「ちょっとだけ触らしてくれないか? 一体、どうやって出来てるんだ?」
女「や、やめろっ! それ以上近づいたら、頃すっ!」
63: 2010/10/17(日) 02:52:09.34 ID:o7X5cQTM0
男「さっきから頃す頃すと物騒だな」
女「当たり前だっ! この人間!」
男「こっちには敵意はないぞ?」
女「嘘をつけっ! そう言って、逆に襲う魂胆だなっ」
男「いやいや、手ぶらだし」
女「騙されないぞっ、貴様らはいつもそうだっ」
男「まあ、落ち着け」
女「だ、黙れっ! く、くそっ……こんな奥深くにやってくるなんて」
男「はぁ、埒があかないな……」
女「ここはもう頃すしか……」
ざざっ……。
?「……お姉ちゃん?」
女「当たり前だっ! この人間!」
男「こっちには敵意はないぞ?」
女「嘘をつけっ! そう言って、逆に襲う魂胆だなっ」
男「いやいや、手ぶらだし」
女「騙されないぞっ、貴様らはいつもそうだっ」
男「まあ、落ち着け」
女「だ、黙れっ! く、くそっ……こんな奥深くにやってくるなんて」
男「はぁ、埒があかないな……」
女「ここはもう頃すしか……」
ざざっ……。
?「……お姉ちゃん?」
65: 2010/10/17(日) 02:56:37.80 ID:o7X5cQTM0
男「えっ?」
女「メルっ、来るんじゃないっ!」
?「ん? なーに、どうしたのー?」
男「あ……」
メル「……ああ……」
女「め、メルっ! 駄目だろっ、隠れてろっ」
メル「に、人間……」
女「ほらっ、早く向こうに行ってっ!」
メル「……うぅ……うっ」
メル「あ、足が動かないよぉ……」
女「……くそっ、どうしたら……」
男「……この子も緑色だ、尻尾もある。妹さん?」
女「メルっ、来るんじゃないっ!」
?「ん? なーに、どうしたのー?」
男「あ……」
メル「……ああ……」
女「め、メルっ! 駄目だろっ、隠れてろっ」
メル「に、人間……」
女「ほらっ、早く向こうに行ってっ!」
メル「……うぅ……うっ」
メル「あ、足が動かないよぉ……」
女「……くそっ、どうしたら……」
男「……この子も緑色だ、尻尾もある。妹さん?」
66: 2010/10/17(日) 03:00:43.16 ID:o7X5cQTM0
女「だ、黙れっ!」
男「可愛い子じゃないか。ほら、怖がらなくていいんだぞ?」
メル「……うぅ……」
女「め、メルに何かしたら、頃すっ!」
男「さっきからそればっかりだな」
男「しかも頃すって……その小さいナイフでか?」
女「……っ」
男「まあ、頑張れば出来ないこともないが、俺は抵抗するぞ?」
女「う、うるさいっ」
男「腕力にはある程度自信がある。昔、バレーボール部で鍛えたからな」
女「バレーボール?」
男「こっちの世界にはないのか」
男「簡単に説明すると、ボールを落とさないで相手チームと戦うゲームだ」
男「可愛い子じゃないか。ほら、怖がらなくていいんだぞ?」
メル「……うぅ……」
女「め、メルに何かしたら、頃すっ!」
男「さっきからそればっかりだな」
男「しかも頃すって……その小さいナイフでか?」
女「……っ」
男「まあ、頑張れば出来ないこともないが、俺は抵抗するぞ?」
女「う、うるさいっ」
男「腕力にはある程度自信がある。昔、バレーボール部で鍛えたからな」
女「バレーボール?」
男「こっちの世界にはないのか」
男「簡単に説明すると、ボールを落とさないで相手チームと戦うゲームだ」
67: 2010/10/17(日) 03:05:52.66 ID:o7X5cQTM0
女「そんなもの初めて聞くぞ?」
男「そりゃ多分、世界観が違うんだろ」
女「また、訳がわからないことをっ」
メル「…………」
男「とにかく、こっちには争うつもりはないから」
女「そんなもの信じられるかっ」
男「どうすれば、分かってもらえるんだ……」
女「貴様が人間である時点で、もう話は終わりだっ」
男「はぁ……駄目だなこれは」
くるっ……。
女「ど、どこに行くっ!」
男「君達のいないところだよ。幸いにも、この世界には人間もいるらしいしな」
女「駄目だっ! ここの場所が知られるっ!」
男「そりゃ多分、世界観が違うんだろ」
女「また、訳がわからないことをっ」
メル「…………」
男「とにかく、こっちには争うつもりはないから」
女「そんなもの信じられるかっ」
男「どうすれば、分かってもらえるんだ……」
女「貴様が人間である時点で、もう話は終わりだっ」
男「はぁ……駄目だなこれは」
くるっ……。
女「ど、どこに行くっ!」
男「君達のいないところだよ。幸いにも、この世界には人間もいるらしいしな」
女「駄目だっ! ここの場所が知られるっ!」
68: 2010/10/17(日) 03:08:48.83 ID:o7X5cQTM0
男「じゃあ、一体どうしろって言うんだ」
女「ここにいろっ」
男「……頃すのか?」
女「そ、そうだっ」
男「ここまで来て、氏ぬつもりはない」
男「やるっていうんなら、こっちも全力で自己防衛するぞ?」
女「くっ……」
メル「お、お姉ちゃん……」
女「メルっ、隠れてろって言ったろっ!」
メル「うん……」
女「こいつは人間だっ、何するか分からないっ」
メル「で、でも……この人」
男「ん?」
女「ここにいろっ」
男「……頃すのか?」
女「そ、そうだっ」
男「ここまで来て、氏ぬつもりはない」
男「やるっていうんなら、こっちも全力で自己防衛するぞ?」
女「くっ……」
メル「お、お姉ちゃん……」
女「メルっ、隠れてろって言ったろっ!」
メル「うん……」
女「こいつは人間だっ、何するか分からないっ」
メル「で、でも……この人」
男「ん?」
69: 2010/10/17(日) 03:11:02.70 ID:o7X5cQTM0
メル「なんか、他の人間と違う気がする」
女「違うもんかっ、肌の色も一緒だっ」
メル「そういうことじゃなくて……」
メル「…………」
とことことこ……。
女「め、メルっ!」
男「……あ」
ぴとっ。
メル「ほら……触っても、何もしないよ?」
女「駄目だっ! 早くソイツから離れるんだっ!」
メル「……あの、人間さん……」
男「あ、うん」
女「違うもんかっ、肌の色も一緒だっ」
メル「そういうことじゃなくて……」
メル「…………」
とことことこ……。
女「め、メルっ!」
男「……あ」
ぴとっ。
メル「ほら……触っても、何もしないよ?」
女「駄目だっ! 早くソイツから離れるんだっ!」
メル「……あの、人間さん……」
男「あ、うん」
71: 2010/10/17(日) 03:13:33.79 ID:o7X5cQTM0
メル「私に、何もしませんよね?」
男「そりゃ、君みたいな子に何かするはずないさ」
メル「……約束してくれますか?」
男「もちろん、そんなことは絶対にしない」
女「…………」
メル「……ね? 姉さん」
女「……っ」
メル「もうやめようよ。この人は悪い人間じゃない」
女「……分かった」
男「…………」
女「……頃すのはやめだ」
女「ついてこい」
男「そりゃ、君みたいな子に何かするはずないさ」
メル「……約束してくれますか?」
男「もちろん、そんなことは絶対にしない」
女「…………」
メル「……ね? 姉さん」
女「……っ」
メル「もうやめようよ。この人は悪い人間じゃない」
女「……分かった」
男「…………」
女「……頃すのはやめだ」
女「ついてこい」
131: 2010/10/17(日) 18:11:44.07 ID:ZrGLgcyl0
──女の家
男「いいのか、俺を家に入れてしまって」
女「害がないというなら構わない、約束してくれるんだろう?」
男「ああ……そうだが」
女「座れ」
女「自己紹介をしておこう。私はローラ」
男「……ローラ」
ローラ「この子の名前は……」
男「メル、だったか」
ローラ「そうだ、私の妹だ」
ローラ「あと、もう一人紹介したい者がいるのだが」
ローラ「とりあえず、その前に、お前の話を聞かせてもらおう」
男「いいのか、俺を家に入れてしまって」
女「害がないというなら構わない、約束してくれるんだろう?」
男「ああ……そうだが」
女「座れ」
女「自己紹介をしておこう。私はローラ」
男「……ローラ」
ローラ「この子の名前は……」
男「メル、だったか」
ローラ「そうだ、私の妹だ」
ローラ「あと、もう一人紹介したい者がいるのだが」
ローラ「とりあえず、その前に、お前の話を聞かせてもらおう」
132: 2010/10/17(日) 18:15:52.41 ID:ZrGLgcyl0
ローラ「ふむ、異世界からやってきたということか」
男「信じて貰えるか?」
ローラ「信じるも何も、格好からして今まで見た事がないからな」
ローラ「他にそれを証明できる持ち物はないのか」
男「そうだな……これはどうだ?」
ローラ「なんだ、これは」
男「携帯って言うんだが、電源を入れると……」
ローラ「なっ……光ったぞっ!」
男「遠くの者と電話というか話が出来る物なんだが、生憎、今は使えない」
ローラ「どうやって出来てるんだ……中に火でも入ってるのか……」
ひょこひょこ……。
男(興味津々みたいだな、尻尾が横に揺れてる)
男「信じて貰えるか?」
ローラ「信じるも何も、格好からして今まで見た事がないからな」
ローラ「他にそれを証明できる持ち物はないのか」
男「そうだな……これはどうだ?」
ローラ「なんだ、これは」
男「携帯って言うんだが、電源を入れると……」
ローラ「なっ……光ったぞっ!」
男「遠くの者と電話というか話が出来る物なんだが、生憎、今は使えない」
ローラ「どうやって出来てるんだ……中に火でも入ってるのか……」
ひょこひょこ……。
男(興味津々みたいだな、尻尾が横に揺れてる)
136: 2010/10/17(日) 18:22:22.19 ID:ZrGLgcyl0
ローラ「信じ難い事実だが、お前の話を信じよう」
男「そうか、ありがたい」
男「代わりと言っちゃなんだが、この携帯はあげるよ」
ローラ「ほ、ほんとかっ!」
男「ここじゃ充電出来ないから、起動時間は短いと思うがな」
ローラ「言ってることはよく分からないが、ありがたく頂戴するっ」
男「喜んでもらえて俺も嬉しい」
ローラ「……やはり、お前は他の人間とは違う」
男「前から気になっていたんだが、この世界にも人間はいるんだな?」
ローラ「我々の宿敵だ」
男「宿敵?」
男「そうか、ありがたい」
男「代わりと言っちゃなんだが、この携帯はあげるよ」
ローラ「ほ、ほんとかっ!」
男「ここじゃ充電出来ないから、起動時間は短いと思うがな」
ローラ「言ってることはよく分からないが、ありがたく頂戴するっ」
男「喜んでもらえて俺も嬉しい」
ローラ「……やはり、お前は他の人間とは違う」
男「前から気になっていたんだが、この世界にも人間はいるんだな?」
ローラ「我々の宿敵だ」
男「宿敵?」
137: 2010/10/17(日) 18:27:36.74 ID:ZrGLgcyl0
ローラ「奴らは森を越えた先の、川の向こうにいる」
男「そうか……」
ローラ「気になるんだな」
男「それはやっぱりな……」
ローラ「アイツらの元にいきたいか?」
男「でも、ここの場所の情報が漏れるから駄目なんだろう?」
ローラ「すまないな、こちらも生氏がかかっているんだ」
男「生氏……か」
ローラ「私は、奴らの元にいくことを薦めない」
ローラ「お前さえ良ければ、ここに住んでもらっても構わないぞ」
男「そうか……」
ローラ「気になるんだな」
男「それはやっぱりな……」
ローラ「アイツらの元にいきたいか?」
男「でも、ここの場所の情報が漏れるから駄目なんだろう?」
ローラ「すまないな、こちらも生氏がかかっているんだ」
男「生氏……か」
ローラ「私は、奴らの元にいくことを薦めない」
ローラ「お前さえ良ければ、ここに住んでもらっても構わないぞ」
141: 2010/10/17(日) 18:32:32.32 ID:ZrGLgcyl0
男「いいのか?」
ローラ「女だけで暮らしているのでな、少々男手も必要なんだ」
ローラ「手伝ってもらえるか?」
男「もちろんだっ」
ローラ「ただ、問題が一つある」
男「なんだ?」
ローラ「どうやって、仲間たちにお前を信用させるか、だ」
ローラ「人間のお前を見たら、すぐさま殺されるのがオチだろう」
男「……そんな」
ローラ「それだけ、我々と奴らの因縁の根は深いのだよ」
ローラ「それにもう一つ、身近な問題もある」
男「ん?」
ローラ「女だけで暮らしているのでな、少々男手も必要なんだ」
ローラ「手伝ってもらえるか?」
男「もちろんだっ」
ローラ「ただ、問題が一つある」
男「なんだ?」
ローラ「どうやって、仲間たちにお前を信用させるか、だ」
ローラ「人間のお前を見たら、すぐさま殺されるのがオチだろう」
男「……そんな」
ローラ「それだけ、我々と奴らの因縁の根は深いのだよ」
ローラ「それにもう一つ、身近な問題もある」
男「ん?」
144: 2010/10/17(日) 18:39:19.54 ID:ZrGLgcyl0
ローラ「メル、こっちにこいっ」
メル「うんっ」
ローラ「先ほど話した通り、私達は姉妹で暮らしている」
ローラ「だが、実は私にもう一人、妹がいてな」
ローラ「その子が少々……」
?『ただいまぁーっ! 今、帰ったぜーっ!』
?『今日も獲物とってきたっ! 晩飯は豪華だぞっ!』
ガチャ……。
女の子「あれ? どうしたんだ、そんな困った顔して」
女の子「……って、あれ? お、お前……」
男「ど、どうもっ」
女の子「うわぁぁぁぁっ、人間じゃねぇかぁぁぁっ!?」
ローラ「ちょっと、お転婆娘なんだ……」
メル「うんっ」
ローラ「先ほど話した通り、私達は姉妹で暮らしている」
ローラ「だが、実は私にもう一人、妹がいてな」
ローラ「その子が少々……」
?『ただいまぁーっ! 今、帰ったぜーっ!』
?『今日も獲物とってきたっ! 晩飯は豪華だぞっ!』
ガチャ……。
女の子「あれ? どうしたんだ、そんな困った顔して」
女の子「……って、あれ? お、お前……」
男「ど、どうもっ」
女の子「うわぁぁぁぁっ、人間じゃねぇかぁぁぁっ!?」
ローラ「ちょっと、お転婆娘なんだ……」
147: 2010/10/17(日) 18:47:45.44 ID:ZrGLgcyl0
セヌ「話は分かったよっ、こいつは他の人間と違うってことだろっ」
セヌ「でも、だからといって、何で家に住まわせなきゃいけないんだっ!」
ローラ「それも説明しただろ?」
セヌ「男手が必要だから? そんなの理由になってないっ!」
ローラ「他に行くアテもないんだ。ほかっておくのは気の毒だろう」
セヌ「姉さんは忘れちまったのかよ……」
ローラ「…………」
メル「…………」
セヌ「こ、こいつらは……」
ローラ「セヌっ! やめろっ!」
セヌ「……っ」
セヌ「私は人間なんかと一緒に住む気はないっ!」
セヌ「それは絶対変わらないからなっ!」
ローラ「おいっ、セヌっ!」
ガチャン……。
セヌ「でも、だからといって、何で家に住まわせなきゃいけないんだっ!」
ローラ「それも説明しただろ?」
セヌ「男手が必要だから? そんなの理由になってないっ!」
ローラ「他に行くアテもないんだ。ほかっておくのは気の毒だろう」
セヌ「姉さんは忘れちまったのかよ……」
ローラ「…………」
メル「…………」
セヌ「こ、こいつらは……」
ローラ「セヌっ! やめろっ!」
セヌ「……っ」
セヌ「私は人間なんかと一緒に住む気はないっ!」
セヌ「それは絶対変わらないからなっ!」
ローラ「おいっ、セヌっ!」
ガチャン……。
148: 2010/10/17(日) 18:53:24.53 ID:ZrGLgcyl0
ローラ「…………」
男「説明して貰えるのか?」
ローラ「……何の話だ」
男「俺を馬鹿にするな。それぐらい気付ける」
男「セヌやお前が人間を毛嫌いする理由は、他にもあるんだろ?」
ローラ「それは……」
男「……誰か親しい者が殺されたか」
ローラ「…………」
ローラ「あれは、数年前の話だ」
ローラ「村が突然、奴らに襲われたことがあってな」
ローラ「天は黒、地は赤」
ローラ「地獄のような有様だった。そして、多くの命が犠牲になった」
男「…………」
ローラ「私達の両親も、そこで氏んだんだ」
男「説明して貰えるのか?」
ローラ「……何の話だ」
男「俺を馬鹿にするな。それぐらい気付ける」
男「セヌやお前が人間を毛嫌いする理由は、他にもあるんだろ?」
ローラ「それは……」
男「……誰か親しい者が殺されたか」
ローラ「…………」
ローラ「あれは、数年前の話だ」
ローラ「村が突然、奴らに襲われたことがあってな」
ローラ「天は黒、地は赤」
ローラ「地獄のような有様だった。そして、多くの命が犠牲になった」
男「…………」
ローラ「私達の両親も、そこで氏んだんだ」
149: 2010/10/17(日) 18:58:55.42 ID:ZrGLgcyl0
男「……やはり、俺はここでは暮らせないよ」
ローラ「ま、待て」
ローラ「セヌも、少し経てばきっと分かってくれるっ」
男「でも、根本は変わらない」
ローラ「…………」
男「お前たちが人間を怨むことを変えることは出来ないだろ?」
男「残念にも、俺はその人間の一人だからな」
男「この世界の者じゃないけど、仕方がないさ」
ローラ「……お前」
男「ローラ、約束しよう」
男「ここを離れても、俺はお前たちのことを誰にも話したりはしない」
男「保証しろと言われると困るけど、信じて欲しい」
ローラ「…………」
男「頼むよ、ローラ。俺はここにいるべきじゃない」
ローラ「……分かった」
ローラ「ま、待て」
ローラ「セヌも、少し経てばきっと分かってくれるっ」
男「でも、根本は変わらない」
ローラ「…………」
男「お前たちが人間を怨むことを変えることは出来ないだろ?」
男「残念にも、俺はその人間の一人だからな」
男「この世界の者じゃないけど、仕方がないさ」
ローラ「……お前」
男「ローラ、約束しよう」
男「ここを離れても、俺はお前たちのことを誰にも話したりはしない」
男「保証しろと言われると困るけど、信じて欲しい」
ローラ「…………」
男「頼むよ、ローラ。俺はここにいるべきじゃない」
ローラ「……分かった」
151: 2010/10/17(日) 19:11:09.81 ID:ZrGLgcyl0
──森の中
たたたたっ。
セヌ「姉さんも何言ってんだよっ」
セヌ「人間を住まわせるなんて、アイツらは母さんたちを頃したんだぞっ!」
セヌ「うっ、くそっ!」
セヌ「……何でだ、何でだよっ」
セヌ「何でアイツの顔が浮かぶんだっ」
セヌ「……アイツ……」
セヌ「悲しそうな目、してたよな……」
グラッ……。
セヌ「し、しまった……」
セヌ「……ここ崖だったじゃないか……」
……ダダダダ……ガンッ。
セヌ「……ああ……」
セヌ「…………」
たたたたっ。
セヌ「姉さんも何言ってんだよっ」
セヌ「人間を住まわせるなんて、アイツらは母さんたちを頃したんだぞっ!」
セヌ「うっ、くそっ!」
セヌ「……何でだ、何でだよっ」
セヌ「何でアイツの顔が浮かぶんだっ」
セヌ「……アイツ……」
セヌ「悲しそうな目、してたよな……」
グラッ……。
セヌ「し、しまった……」
セヌ「……ここ崖だったじゃないか……」
……ダダダダ……ガンッ。
セヌ「……ああ……」
セヌ「…………」
152: 2010/10/17(日) 19:14:25.66 ID:ZrGLgcyl0
──森の中
男「勢いで出てきてしまったが、どうしたものかな」
男「人間たちがいる場所に向かおうにも、方角が分からん……」
男「……最後にローラが言ってたな」
男「『村の者には絶対に会わないようにしろ』か」
男「ははっ……確実に殺されるってことだよな……」
男「……それに結界があるんじゃなかったけ」
男「んー……困った」
とことことこ。
グラッ……。
男「……おっ」
男「あぶねぇ……崖じゃねぇか」
男「後少しで落ちるとこだった……ふぅ……」
男「…………」
男「ん?」
男「勢いで出てきてしまったが、どうしたものかな」
男「人間たちがいる場所に向かおうにも、方角が分からん……」
男「……最後にローラが言ってたな」
男「『村の者には絶対に会わないようにしろ』か」
男「ははっ……確実に殺されるってことだよな……」
男「……それに結界があるんじゃなかったけ」
男「んー……困った」
とことことこ。
グラッ……。
男「……おっ」
男「あぶねぇ……崖じゃねぇか」
男「後少しで落ちるとこだった……ふぅ……」
男「…………」
男「ん?」
153: 2010/10/17(日) 19:18:17.06 ID:ZrGLgcyl0
──ローラの家
ローラ「…………」
メル「お姉ちゃん?」
ローラ「ん、どうした?」
メル「良かったの、あの人返しちゃって」
ローラ「……仕方ないだろ。アイツがそう決めたんだから」
メル「で、でも……」
ローラ「この話はもう終わったんだ。ほら、ご飯にしよう」
メル「うん……」
ローラ「……そんな顔するな」
メル「でも、あの人……最後に別れる時、笑顔だったけど」
メル「なんか泣いてるように見えたんだ……」
ローラ「…………」
ローラ「……私もだ」
ローラ「…………」
メル「お姉ちゃん?」
ローラ「ん、どうした?」
メル「良かったの、あの人返しちゃって」
ローラ「……仕方ないだろ。アイツがそう決めたんだから」
メル「で、でも……」
ローラ「この話はもう終わったんだ。ほら、ご飯にしよう」
メル「うん……」
ローラ「……そんな顔するな」
メル「でも、あの人……最後に別れる時、笑顔だったけど」
メル「なんか泣いてるように見えたんだ……」
ローラ「…………」
ローラ「……私もだ」
155: 2010/10/17(日) 19:23:19.57 ID:ZrGLgcyl0
ローラ「しかし、セヌはどこに行ったんだ」
メル「……うん」
ローラ「セヌが帰ってくる前に、夕飯が冷めてしまう」
ローラ「しかし、もう少し大人になってくれるといいんだがな」
ローラ「……でも、あの子が一番、母さんに懐いてたか」
ローラ「うまくいかないものだな……」
コンコンッ!
メル「お、お姉ちゃんっ!」
ローラ「……もしかして、アイツか……?」
メル「……うん」
ローラ「セヌが帰ってくる前に、夕飯が冷めてしまう」
ローラ「しかし、もう少し大人になってくれるといいんだがな」
ローラ「……でも、あの子が一番、母さんに懐いてたか」
ローラ「うまくいかないものだな……」
コンコンッ!
メル「お、お姉ちゃんっ!」
ローラ「……もしかして、アイツか……?」
156: 2010/10/17(日) 19:26:41.05 ID:ZrGLgcyl0
ローラ「い、今、開けるっ!」
ガチャっ。
ドン「き、緊急事態だっ!」
ローラ「……何だ、ドンか」
ドン「何だとは何だっ! 折角、知らせに来てやったのにっ!」
ローラ「相変わらず、汗臭い奴だな。用件を言え」
ドン「くっ……相変わらず、毒舌な幼馴染だっ」
ドン「だが、今日は我慢してやるっ! 人間が見つかったんだっ!」
ローラ「……まさか」
ガチャっ。
ドン「き、緊急事態だっ!」
ローラ「……何だ、ドンか」
ドン「何だとは何だっ! 折角、知らせに来てやったのにっ!」
ローラ「相変わらず、汗臭い奴だな。用件を言え」
ドン「くっ……相変わらず、毒舌な幼馴染だっ」
ドン「だが、今日は我慢してやるっ! 人間が見つかったんだっ!」
ローラ「……まさか」
157: 2010/10/17(日) 19:28:37.00 ID:ZrGLgcyl0
ローラ「どういうことだっ、まさか頃したのかっ!?」
ドン「いや、まだだが、時間の問題だろうな。今は牢にぶち込んでる」
ローラ「……捕まるなんて、あの馬鹿っ」
ドン「それにセヌが大変なんだっ」
ローラ「セヌ?」
ドン「大怪我してんだよっ! 崖から転がったみたいだっ」
ローラ「なっ……」
ドン「実は人間がセヌを運んできたんだ」
ローラ「…………」
ドン「『助けてくれ』って大声で叫んでな……訳が分からん奴だ」
ローラ「……あ、アイツ……」
ドン「いや、まだだが、時間の問題だろうな。今は牢にぶち込んでる」
ローラ「……捕まるなんて、あの馬鹿っ」
ドン「それにセヌが大変なんだっ」
ローラ「セヌ?」
ドン「大怪我してんだよっ! 崖から転がったみたいだっ」
ローラ「なっ……」
ドン「実は人間がセヌを運んできたんだ」
ローラ「…………」
ドン「『助けてくれ』って大声で叫んでな……訳が分からん奴だ」
ローラ「……あ、アイツ……」
259: 2010/10/18(月) 19:17:00.84 ID:g45xk/0z0
──牢
男「……はは、捕まっちまった」
男「これからどうなるんだろうな」
男「……俺、氏んじまうのか」
男「だが、前の世界で自頃するよりかは幾分マシだ」
男「……少し意味のある氏だもんな」
男「ん、これなら納得できる」
ガチャ……。
?「人間」
男「誰だ?」
長老「儂はこの村の長だ」
男「また、お偉いさんが来たもんだな」
長老「無駄口を叩くな、お前の生氏は儂が握っておるのだぞ?」
男「はは、確かに言えてる」
男「……はは、捕まっちまった」
男「これからどうなるんだろうな」
男「……俺、氏んじまうのか」
男「だが、前の世界で自頃するよりかは幾分マシだ」
男「……少し意味のある氏だもんな」
男「ん、これなら納得できる」
ガチャ……。
?「人間」
男「誰だ?」
長老「儂はこの村の長だ」
男「また、お偉いさんが来たもんだな」
長老「無駄口を叩くな、お前の生氏は儂が握っておるのだぞ?」
男「はは、確かに言えてる」
260: 2010/10/18(月) 19:30:40.49 ID:g45xk/0z0
長老「……どうやら、元気が有り余っている様だな、人間」
男「まあな」
長老「……この下衆がっ」
男「またひどい言われようだ」
長老「お前たちがやってきた所行を忘れたか?」
長老「罪のない女、子供を手にかけておいて、よくその口を開ける」
男「俺は、そんなこと……」
長老「──お前がしたかどうかなど問題ではないっ!」
男「……っ」
男「まあな」
長老「……この下衆がっ」
男「またひどい言われようだ」
長老「お前たちがやってきた所行を忘れたか?」
長老「罪のない女、子供を手にかけておいて、よくその口を開ける」
男「俺は、そんなこと……」
長老「──お前がしたかどうかなど問題ではないっ!」
男「……っ」
262: 2010/10/18(月) 19:32:39.82 ID:g45xk/0z0
長老「これは、我々と人間との憎しみのぶつかり合いなのだっ!」
長老「長きに渡った、血で血を洗う争いの結末」
長老「……そして、お前は、その犠牲の生け贄となる」
男「……人間だから、頃すと?」
長老「そうだ、お前の氏は決定された」
男「…………」
長老「明日の朝一、斬首刑に処する」
男「そうか……」
男(意外に早くきたもんだな……)
長老「…………」
長老「最後に一つだけ聞いておこう」
男「ん?」
長老「長きに渡った、血で血を洗う争いの結末」
長老「……そして、お前は、その犠牲の生け贄となる」
男「……人間だから、頃すと?」
長老「そうだ、お前の氏は決定された」
男「…………」
長老「明日の朝一、斬首刑に処する」
男「そうか……」
男(意外に早くきたもんだな……)
長老「…………」
長老「最後に一つだけ聞いておこう」
男「ん?」
265: 2010/10/18(月) 19:38:48.50 ID:g45xk/0z0
長老「どうして、娘を助けた?」
長老「人間でも、怪我人を前にして情が湧いたか?」
男「…………」
長老「それとも、人質として利用しようとでもしたのか?」
長老「氏ぬ前に、答えるがいい」
男「……セヌは」
長老「ふむ?」
男「セヌは、大丈夫か?」
長老「……お前」
長老「人間でも、怪我人を前にして情が湧いたか?」
男「…………」
長老「それとも、人質として利用しようとでもしたのか?」
長老「氏ぬ前に、答えるがいい」
男「……セヌは」
長老「ふむ?」
男「セヌは、大丈夫か?」
長老「……お前」
266: 2010/10/18(月) 19:41:36.46 ID:g45xk/0z0
長老「何故、あの子の名を知っておる?」
男「…………」
長老「だんまりか」
男「…………」
長老「その目……答える気はないのだな」
男「理解が早くて助かるよ、爺さん」
長老「…………」
長老「……よく分からぬ男だ」
男「…………」
長老「だんまりか」
男「…………」
長老「その目……答える気はないのだな」
男「理解が早くて助かるよ、爺さん」
長老「…………」
長老「……よく分からぬ男だ」
269: 2010/10/18(月) 19:44:48.77 ID:g45xk/0z0
──『長老っ』
長老「……ふむ、もう行く」
長老「最後に、人間よ」
男「ん?」
長老「どんな意図があったのかは分からん」
長老「うまく利用してやろうと考えたのか、或いは……」
長老「助けたいという純粋な想いからだったのか」
男「…………」
長老「……しかし、どちらにせよ」
長老「おかげで、あの子セヌは、一命を取り留めた」
男「…………」
男「……そうか」
長老「…………」
長老「明日、また来るぞ」
ガチャ。
長老「……ふむ、もう行く」
長老「最後に、人間よ」
男「ん?」
長老「どんな意図があったのかは分からん」
長老「うまく利用してやろうと考えたのか、或いは……」
長老「助けたいという純粋な想いからだったのか」
男「…………」
長老「……しかし、どちらにせよ」
長老「おかげで、あの子セヌは、一命を取り留めた」
男「…………」
男「……そうか」
長老「…………」
長老「明日、また来るぞ」
ガチャ。
274: 2010/10/18(月) 19:51:47.53 ID:g45xk/0z0
長老「急に呼び立てをして」
長老「儂はあの人間と話をしている最中だったのだぞ?」
村人「申し訳ありません……ですが」
長老「一体、どうした?」
村人「実は、長老に今すぐに会いたいという者がおりまして」
長老「ふむ」
長老「構わん、通せ」
村人「はっ」
村人「ローラを入れろっ」
長老「……ローラ?」
ガチャ。
ローラ「ちょ、長老っ!」
長老「どうした、すごい剣幕だな……」
長老「だが、妹のセヌのことなら安心せい」
長老「今日中にもきっと、目を覚ますことだろう」
長老「儂はあの人間と話をしている最中だったのだぞ?」
村人「申し訳ありません……ですが」
長老「一体、どうした?」
村人「実は、長老に今すぐに会いたいという者がおりまして」
長老「ふむ」
長老「構わん、通せ」
村人「はっ」
村人「ローラを入れろっ」
長老「……ローラ?」
ガチャ。
ローラ「ちょ、長老っ!」
長老「どうした、すごい剣幕だな……」
長老「だが、妹のセヌのことなら安心せい」
長老「今日中にもきっと、目を覚ますことだろう」
281: 2010/10/18(月) 20:23:33.66 ID:g45xk/0z0
ローラ「いや、セヌの様子はさきほど見てきたから知っているっ」
長老「ふむ、ならば何をそう慌てる?」
ローラ「捕まえられた"人間"のことだっ!」
長老「……なに?」
ローラ「長老、あの者を頃すのかっ!」
長老「……ああ、頃す」
ローラ「……なっ」
長老「我らの村に入ったのだ」
長老「免れぬ客人、加えて人間であるならば頃すしかない」
長老「知っての通り、それが村の掟だ」
ローラ「し、しかしっ、セヌを助けてくれた恩人を……」
長老「それは断定できぬ」
長老「何を考えてそうしたのかは、ヤツしか分からない」
ローラ「ち、違う……」
長老「どう違うと言える? ヤツの思考が読めるのか?」
長老「ふむ、ならば何をそう慌てる?」
ローラ「捕まえられた"人間"のことだっ!」
長老「……なに?」
ローラ「長老、あの者を頃すのかっ!」
長老「……ああ、頃す」
ローラ「……なっ」
長老「我らの村に入ったのだ」
長老「免れぬ客人、加えて人間であるならば頃すしかない」
長老「知っての通り、それが村の掟だ」
ローラ「し、しかしっ、セヌを助けてくれた恩人を……」
長老「それは断定できぬ」
長老「何を考えてそうしたのかは、ヤツしか分からない」
ローラ「ち、違う……」
長老「どう違うと言える? ヤツの思考が読めるのか?」
282: 2010/10/18(月) 20:29:08.55 ID:g45xk/0z0
ローラ「あ、アイツは……」
長老「…………」
ローラ「自分の命が危ないと分かっていたのに」
ローラ「人間たちがいる所に向かうのをやめて……」
ローラ「わざわざセヌのためだけに、戻ってくれたんだっ」
ローラ「自分の命を投げ打ってまでも……氏ぬ事を覚悟して……」
長老「……なぜ、そう言える」
ローラ「……彼がわたしの家を訪ねたから」
ローラ「そして、わたしが『村の者には会うな』と忠告したから」
長老「……ローラ?」
ローラ「聞いてくれ、長老」
ローラ「ヤツは人間だけど……でも、他の人間とは違うんだ」
長老「……どういう……」
ローラ「アイツは……」
ローラ「──違う世界から、来た」
長老「…………」
ローラ「自分の命が危ないと分かっていたのに」
ローラ「人間たちがいる所に向かうのをやめて……」
ローラ「わざわざセヌのためだけに、戻ってくれたんだっ」
ローラ「自分の命を投げ打ってまでも……氏ぬ事を覚悟して……」
長老「……なぜ、そう言える」
ローラ「……彼がわたしの家を訪ねたから」
ローラ「そして、わたしが『村の者には会うな』と忠告したから」
長老「……ローラ?」
ローラ「聞いてくれ、長老」
ローラ「ヤツは人間だけど……でも、他の人間とは違うんだ」
長老「……どういう……」
ローラ「アイツは……」
ローラ「──違う世界から、来た」
288: 2010/10/18(月) 20:47:30.83 ID:g45xk/0z0
──ゼド公国 首都アベル
リスト公「宰相、戦況はどうなっておる」
宰相「現在、我が軍は一時撤退しております」
リスト公「……何故だ?」
宰相「兵たちに疲労が多く溜っていました、国にとしてはここで休戦を」
リスト公「何を生温い事を言っておるのだっ!」
リスト公「『疲れた』とぬかす兵どもの尻を蹴り上げ、すぐさま向かわせろっ」
宰相「……お言葉ですが、既にこの国は長期の戦争で疲労しております」
リスト公「戦力では圧倒しているはずだ」
リスト公「原始的に戦うしか能がない、あやつらに負けるはずがない」
宰相「戦う場所があまりにも険しすぎるのです」
宰相「土地勘がない森の中を、いつ襲われるかもしれない恐怖に晒されれば」
宰相「次第と兵たちの精神が狂ってしまいます」
リスト公「宰相、戦況はどうなっておる」
宰相「現在、我が軍は一時撤退しております」
リスト公「……何故だ?」
宰相「兵たちに疲労が多く溜っていました、国にとしてはここで休戦を」
リスト公「何を生温い事を言っておるのだっ!」
リスト公「『疲れた』とぬかす兵どもの尻を蹴り上げ、すぐさま向かわせろっ」
宰相「……お言葉ですが、既にこの国は長期の戦争で疲労しております」
リスト公「戦力では圧倒しているはずだ」
リスト公「原始的に戦うしか能がない、あやつらに負けるはずがない」
宰相「戦う場所があまりにも険しすぎるのです」
宰相「土地勘がない森の中を、いつ襲われるかもしれない恐怖に晒されれば」
宰相「次第と兵たちの精神が狂ってしまいます」
289: 2010/10/18(月) 20:50:50.12 ID:g45xk/0z0
リスト公「……では、いつまで休戦せよと言うのだ」
宰相「最低でも、半年」
リスト公「は、半年だと? 貴様、それでも国の軍事指揮を携わる長かっ!」
宰相「これが我が国の限界なのです」
宰相「このまま続ければ、民たちの不満も今以上に膨れ上がり」
宰相「……反乱もありえますぞ?」
リスト公「くっ……」
宰相「ここはしばらく時をお待ちください」
リスト公「私に、待て、というのか……」
宰相「残念ですが、それしか方法はございません」
リスト公「…………」
宰相「リスト公?」
リスト公「……宰相、では、これならばどうだ?」
宰相「……ん?」
宰相「最低でも、半年」
リスト公「は、半年だと? 貴様、それでも国の軍事指揮を携わる長かっ!」
宰相「これが我が国の限界なのです」
宰相「このまま続ければ、民たちの不満も今以上に膨れ上がり」
宰相「……反乱もありえますぞ?」
リスト公「くっ……」
宰相「ここはしばらく時をお待ちください」
リスト公「私に、待て、というのか……」
宰相「残念ですが、それしか方法はございません」
リスト公「…………」
宰相「リスト公?」
リスト公「……宰相、では、これならばどうだ?」
宰相「……ん?」
290: 2010/10/18(月) 20:58:20.82 ID:g45xk/0z0
リスト公「……帝国ガザムの力を借りるのだ」
宰相「なっ……」
宰相「それは、決してなりませぬっ!」
リスト公「どうしてだ? 力を借りて何が悪いのだ?」
宰相「先代もおっしゃられたはずですっ」
宰相「『ガザムを信じるな』」
リスト公「……氏にかけの老人の戯言だ」
宰相「そうではありませんっ、先代は分かっておられたのです」
宰相「あの国はどんな者よりも恐ろしいですぞ?」
宰相「最終的には、寝首を掻かれるのが目に見えております」
リスト公「……ならば、我々がその裏をいけば良い話ではないか」
リスト公「小国だと油断している奴らを、我が国が逆に利用してやるのだ」
宰相「……なりませぬ、それだけは認めませんぞ?」
リスト公「そう言っても、もう遅いのだ」
宰相「……ま、まさか」
宰相「なっ……」
宰相「それは、決してなりませぬっ!」
リスト公「どうしてだ? 力を借りて何が悪いのだ?」
宰相「先代もおっしゃられたはずですっ」
宰相「『ガザムを信じるな』」
リスト公「……氏にかけの老人の戯言だ」
宰相「そうではありませんっ、先代は分かっておられたのです」
宰相「あの国はどんな者よりも恐ろしいですぞ?」
宰相「最終的には、寝首を掻かれるのが目に見えております」
リスト公「……ならば、我々がその裏をいけば良い話ではないか」
リスト公「小国だと油断している奴らを、我が国が逆に利用してやるのだ」
宰相「……なりませぬ、それだけは認めませんぞ?」
リスト公「そう言っても、もう遅いのだ」
宰相「……ま、まさか」
291: 2010/10/18(月) 21:03:50.43 ID:g45xk/0z0
リスト公「……これだ」
宰相「あ、ああ……」
『ゼド公国の申し出により、我がガザム帝国は』
『ナダ中立地区にて、第13回、四カ国会議を行うことを進言する』
リスト公「もう遅いのだよ、宰相」
宰相「な、なんてことを……」
リスト公「こうでもせねば、あの土地を私は永遠に手に入れることが出来ぬ」
宰相「……あんな未開発の地に、なぜそこまで執着を?」
宰相「彼らは自ら我々に害を与えることもありません」
宰相「それなのに……どうして?」
リスト公「…………」
リスト公「……答える必要はないな、宰相」
宰相「……リスト公」
リスト公「兵よっ、今直ぐ出立の準備をせよ」
リスト公「──向かう先は……ナダ地区だっ!」
宰相「あ、ああ……」
『ゼド公国の申し出により、我がガザム帝国は』
『ナダ中立地区にて、第13回、四カ国会議を行うことを進言する』
リスト公「もう遅いのだよ、宰相」
宰相「な、なんてことを……」
リスト公「こうでもせねば、あの土地を私は永遠に手に入れることが出来ぬ」
宰相「……あんな未開発の地に、なぜそこまで執着を?」
宰相「彼らは自ら我々に害を与えることもありません」
宰相「それなのに……どうして?」
リスト公「…………」
リスト公「……答える必要はないな、宰相」
宰相「……リスト公」
リスト公「兵よっ、今直ぐ出立の準備をせよ」
リスト公「──向かう先は……ナダ地区だっ!」
293: 2010/10/18(月) 21:17:18.11 ID:g45xk/0z0
──牢
ガチャ……。
男「……ん?」
長老「起きておるか?」
男「なんだ、頃すのは朝だったんじゃないのか?」
長老「…………」
男「予定変更か? 不穏分子は今直ぐ消すって?」
男「俺は構わない、いつでもいいぞ」
長老「……頃すのは止めだ」
男「え?」
長老「よい、この者を牢から出せ」
村人「はっ」
男「ちょ、ちょっと待てっ! 一体、どういうことだ?」
長老「……ただ、ローラに感謝せよ」
男「ローラ?」
ガチャ……。
男「……ん?」
長老「起きておるか?」
男「なんだ、頃すのは朝だったんじゃないのか?」
長老「…………」
男「予定変更か? 不穏分子は今直ぐ消すって?」
男「俺は構わない、いつでもいいぞ」
長老「……頃すのは止めだ」
男「え?」
長老「よい、この者を牢から出せ」
村人「はっ」
男「ちょ、ちょっと待てっ! 一体、どういうことだ?」
長老「……ただ、ローラに感謝せよ」
男「ローラ?」
295: 2010/10/18(月) 21:25:37.77 ID:g45xk/0z0
とことことこ……。
男「ローラに感謝しろってどういうことだ?」
長老「言葉通りだ」
男「……もし、ローラが何を言ったのかは知らないが」
男「それは全て嘘っぱちだぞ?」
長老「…………」
男「アイツの名前を知っているのだって」
男「森に迷ってしまった時に、偶然出会ったから……」
男「……妹の一人を人質にして、脅かしつけてやっただけだっ」
男「だからっ……」
男「ローラに感謝しろってどういうことだ?」
長老「言葉通りだ」
男「……もし、ローラが何を言ったのかは知らないが」
男「それは全て嘘っぱちだぞ?」
長老「…………」
男「アイツの名前を知っているのだって」
男「森に迷ってしまった時に、偶然出会ったから……」
男「……妹の一人を人質にして、脅かしつけてやっただけだっ」
男「だからっ……」
296: 2010/10/18(月) 21:27:31.20 ID:g45xk/0z0
とことことこ……。
長老「もう、いい」
男「な、何がだ……?」
長老「そんなに庇わなくても、あの子に罰を与えようなどとは考えておらぬ」
長老「我々は仲間を陥れたりはしない」
長老「我らは、信頼という輪の元で繋がっているのだ」
男「…………」
長老「それに……」
長老「普通の人間は、一人で森に迷い込むような馬鹿な真似はせんよ」
男「あっ……」
長老「ほら、入れ」
長老「お前の待ち人が待っておるぞ?」
ガチャ……。
長老「もう、いい」
男「な、何がだ……?」
長老「そんなに庇わなくても、あの子に罰を与えようなどとは考えておらぬ」
長老「我々は仲間を陥れたりはしない」
長老「我らは、信頼という輪の元で繋がっているのだ」
男「…………」
長老「それに……」
長老「普通の人間は、一人で森に迷い込むような馬鹿な真似はせんよ」
男「あっ……」
長老「ほら、入れ」
長老「お前の待ち人が待っておるぞ?」
ガチャ……。
325: 2010/10/18(月) 23:23:19.82 ID:g45xk/0z0
男「……ローラ」
ローラ「お、男っ」
たたたっ……だきっ。
男「お、おいっ」
ローラ「この馬鹿っ」
ローラ「お前、もう少しで氏ぬところだったんだぞっ!」
男「……君に助けられたな」
ローラ「違う、セヌを救ってくれたんだろ?」
ローラ「自分の命が危ないって分かってたのに」
ローラ「……お前は……」
男「そりゃ、倒れてる女の子を見つけたら、誰でも助けるよ」
ローラ「ありがとう……本当に、ありがとうな」
男「ん」
ひょこひょこっ!
男(はは、尻尾も揺れてるじゃんか)
ローラ「お、男っ」
たたたっ……だきっ。
男「お、おいっ」
ローラ「この馬鹿っ」
ローラ「お前、もう少しで氏ぬところだったんだぞっ!」
男「……君に助けられたな」
ローラ「違う、セヌを救ってくれたんだろ?」
ローラ「自分の命が危ないって分かってたのに」
ローラ「……お前は……」
男「そりゃ、倒れてる女の子を見つけたら、誰でも助けるよ」
ローラ「ありがとう……本当に、ありがとうな」
男「ん」
ひょこひょこっ!
男(はは、尻尾も揺れてるじゃんか)
327: 2010/10/18(月) 23:29:54.66 ID:g45xk/0z0
長老「こほんっ」
ローラ「あっ……」
長老「感動の再会はその辺にして貰えないだろうか」
ローラ「す、すまん……勢い余って抱きついてしまってた」
ローラ「気を悪くしてないか……?」
男「全然。逆に、嬉しいぞ」
ローラ「……も、もう、何なんだお前は……」
長老「ローラ、この男と話したいから席を外してくれ」
ローラ「だ、だけど……」
男「いいんだ」
男「俺からきちんと話さないと駄目だからな」
ローラ「……ん、分かった」
ローラ「外で待ってる。後で一緒にセヌに会いにいこう」
男「おう」
ガチャ……。
ローラ「あっ……」
長老「感動の再会はその辺にして貰えないだろうか」
ローラ「す、すまん……勢い余って抱きついてしまってた」
ローラ「気を悪くしてないか……?」
男「全然。逆に、嬉しいぞ」
ローラ「……も、もう、何なんだお前は……」
長老「ローラ、この男と話したいから席を外してくれ」
ローラ「だ、だけど……」
男「いいんだ」
男「俺からきちんと話さないと駄目だからな」
ローラ「……ん、分かった」
ローラ「外で待ってる。後で一緒にセヌに会いにいこう」
男「おう」
ガチャ……。
328: 2010/10/18(月) 23:36:34.11 ID:g45xk/0z0
男「……さて」
男「俺に聞きたいことが山ほどあるようだ」
長老「ふむ、よく分かっている」
男「顔から見て取れるよ」
長老「……ローラから大体の話は聞いた」
男「……ああ」
長老「お主が他の人間とは違う事」
長老「初めから、敵意が全くなかった事」
長老「そして」
男「…………」
長老「この世界の住人ではない……そうだな?」
男「……どこから話せばいいか、難しいところだ」
男「でも、とりあえず、あれは……」
男「一人の老人と、出会ったことから始まったんだ」
男「俺に聞きたいことが山ほどあるようだ」
長老「ふむ、よく分かっている」
男「顔から見て取れるよ」
長老「……ローラから大体の話は聞いた」
男「……ああ」
長老「お主が他の人間とは違う事」
長老「初めから、敵意が全くなかった事」
長老「そして」
男「…………」
長老「この世界の住人ではない……そうだな?」
男「……どこから話せばいいか、難しいところだ」
男「でも、とりあえず、あれは……」
男「一人の老人と、出会ったことから始まったんだ」
329: 2010/10/18(月) 23:41:27.02 ID:g45xk/0z0
ローラ「……話は終わったのか?」
男「今日のところはこれでいいってさ」
ローラ「ん、良かった」
男「明日の朝一でここにこないと駄目みたいだけどな」
ローラ「……村の仲間に説明するんだな?」
男「ああ、そう聞いてる」
ローラ「そうか、それは大変だ……」
男「…………」
ローラ「お前も薄々感じていると思うが」
ローラ「わたしたちにとって、人間は悪そのものなんだ」
ローラ「だから、幾らお前が他の人間とは違うと言っても……」
男「──見方はそう変わらない」
ローラ「……そうだ」
男「でも、頑張るよ」
男「今日のところはこれでいいってさ」
ローラ「ん、良かった」
男「明日の朝一でここにこないと駄目みたいだけどな」
ローラ「……村の仲間に説明するんだな?」
男「ああ、そう聞いてる」
ローラ「そうか、それは大変だ……」
男「…………」
ローラ「お前も薄々感じていると思うが」
ローラ「わたしたちにとって、人間は悪そのものなんだ」
ローラ「だから、幾らお前が他の人間とは違うと言っても……」
男「──見方はそう変わらない」
ローラ「……そうだ」
男「でも、頑張るよ」
330: 2010/10/18(月) 23:46:32.18 ID:g45xk/0z0
男「時間はたっぷりあるんだ」
男「どれくらいかかるか分からないけど」
男「精一杯、理解してもらえるよう、努力する」
ローラ「……頑張れ」
ローラ「男」
男「ん?」
ローラ「他の仲間が、お前を毛嫌いしたとしても」
ローラ「必氏に頑張っても、認められなくても」
男「…………」
ローラ「わたしは……」
ローラ「わたしだけは、いつまでもお前の味方だ」
男「ありがとうな……」
ローラ「その代わり、家事は手伝ってもらうぞ?」
男「ははは、これは一本取られたな。もちろん手伝うよ」
ローラ「ふふっ、期待してる」
男「どれくらいかかるか分からないけど」
男「精一杯、理解してもらえるよう、努力する」
ローラ「……頑張れ」
ローラ「男」
男「ん?」
ローラ「他の仲間が、お前を毛嫌いしたとしても」
ローラ「必氏に頑張っても、認められなくても」
男「…………」
ローラ「わたしは……」
ローラ「わたしだけは、いつまでもお前の味方だ」
男「ありがとうな……」
ローラ「その代わり、家事は手伝ってもらうぞ?」
男「ははは、これは一本取られたな。もちろん手伝うよ」
ローラ「ふふっ、期待してる」
342: 2010/10/19(火) 00:05:26.06 ID:g45xk/0z0
セヌ「……あ、姉さん」
ローラ「セヌ、起きれたのか。大丈夫か?」
セヌ「うん……ちょっと頭は痛いけど、もう大丈夫」
ローラ「そうか、良かった……」
男「…………」
ローラ「それで、大体の経緯は聞いたか?」
セヌ「あ、ああ……こいつのおかげみたいだな……」
ローラ「そうだぞ? 感謝ないと駄目だ」
セヌ「くっ……」
セヌ「人間に助けられるなんてな……」
ローラ「おいっ、セヌっ!」
男「いいんだ」
セヌ「…………」
ローラ「セヌ、起きれたのか。大丈夫か?」
セヌ「うん……ちょっと頭は痛いけど、もう大丈夫」
ローラ「そうか、良かった……」
男「…………」
ローラ「それで、大体の経緯は聞いたか?」
セヌ「あ、ああ……こいつのおかげみたいだな……」
ローラ「そうだぞ? 感謝ないと駄目だ」
セヌ「くっ……」
セヌ「人間に助けられるなんてな……」
ローラ「おいっ、セヌっ!」
男「いいんだ」
セヌ「…………」
344: 2010/10/19(火) 00:15:11.89 ID:BgWAxbxw0
ローラ「しかしだな……」
男「無理に言わせる必要はない」
男「それに、助けたって言っても偶然なんだ」
男「そこまで大それたことをしたわけじゃ……」
ローラ「それは違うぞ、男」
ローラ「もし、お前がいなければ……」
ローラ「セヌとこうして会えなかったかもしれない」
男「でも、元はと言えば俺が原因だ」
ローラ「確かに、セヌが家を出たのはお前のせいかもしれない」
ローラ「それでもだ」
ローラ「わたしは、お前と会えたことを感謝している」
男「……照れるぞ」
ローラ「はは、顔が赤いな」
セヌ「……っ」
セヌ「お、おい、人間っ!」
男「無理に言わせる必要はない」
男「それに、助けたって言っても偶然なんだ」
男「そこまで大それたことをしたわけじゃ……」
ローラ「それは違うぞ、男」
ローラ「もし、お前がいなければ……」
ローラ「セヌとこうして会えなかったかもしれない」
男「でも、元はと言えば俺が原因だ」
ローラ「確かに、セヌが家を出たのはお前のせいかもしれない」
ローラ「それでもだ」
ローラ「わたしは、お前と会えたことを感謝している」
男「……照れるぞ」
ローラ「はは、顔が赤いな」
セヌ「……っ」
セヌ「お、おい、人間っ!」
345: 2010/10/19(火) 00:20:13.12 ID:BgWAxbxw0
男「ん?」
セヌ「うまく姉さんは騙せたかもしれないけどなっ」
セヌ「わたしは、お前をまだ信用してないっ!」
男「…………」
ローラ「セヌ……」
セヌ「お前が、他の人間とは違うことはもう分かったさっ」
セヌ「普通だったら、わたしなんて見頃しにするはずだし」
セヌ「身の危険があるのに、救おうなんて考えたりしないっ」
男「…………」
セヌ「でもっ!」
セヌ「わたしは人間が嫌いだっ! 大ッ嫌いだっ!」
男「……ああ」
セヌ「だから、幾ら他とは違うからと言っても」
セヌ「お前を信用なんてしないっ! 絶対にっ!」
男「…………」
セヌ「うまく姉さんは騙せたかもしれないけどなっ」
セヌ「わたしは、お前をまだ信用してないっ!」
男「…………」
ローラ「セヌ……」
セヌ「お前が、他の人間とは違うことはもう分かったさっ」
セヌ「普通だったら、わたしなんて見頃しにするはずだし」
セヌ「身の危険があるのに、救おうなんて考えたりしないっ」
男「…………」
セヌ「でもっ!」
セヌ「わたしは人間が嫌いだっ! 大ッ嫌いだっ!」
男「……ああ」
セヌ「だから、幾ら他とは違うからと言っても」
セヌ「お前を信用なんてしないっ! 絶対にっ!」
男「…………」
348: 2010/10/19(火) 00:26:12.55 ID:BgWAxbxw0
男(埒があかないな、こういう時はどうすればいいんだろう)
男(こういう年頃の子は、正論をぶつけても意味がないしな……)
セヌ「今回は助けられたけどっ、次は見てろよっ!」
ローラ「セヌ、もうやめてくれ……」
セヌ「わたしは負けないっ! 人間なんかに負けないからなっ!」
男(そうだ、うまくいかないんだったら……)
男「…………」
男「つまり、今回は俺の勝ちでいいのか?」
セヌ「……へ?」
男「あれ? 負けを認めたんだろ?」
セヌ「ち、違うっ、わたしは負けてないっ」
男「さっきと言ってることが違うぞ」
男「『次は見てろよっ』だっけ?」
セヌ「くっ……」
男(こういう年頃の子は、正論をぶつけても意味がないしな……)
セヌ「今回は助けられたけどっ、次は見てろよっ!」
ローラ「セヌ、もうやめてくれ……」
セヌ「わたしは負けないっ! 人間なんかに負けないからなっ!」
男(そうだ、うまくいかないんだったら……)
男「…………」
男「つまり、今回は俺の勝ちでいいのか?」
セヌ「……へ?」
男「あれ? 負けを認めたんだろ?」
セヌ「ち、違うっ、わたしは負けてないっ」
男「さっきと言ってることが違うぞ」
男「『次は見てろよっ』だっけ?」
セヌ「くっ……」
351: 2010/10/19(火) 00:31:13.79 ID:BgWAxbxw0
男「ん、やっぱり俺の勝ちだな」
セヌ「この人間めっ! とうとう化けの皮が剥がれたなっ!」
男「負け犬の遠吠えほど見苦しいものはないなぁ」
ローラ「お、男……?」
セヌ「な、なんてやつっ! 少しでもいいヤツだと思ったわたしが馬鹿だったっ!」
男「まあ、今回は確実に俺の勝ちだが……」
男「これから、何度だってかかってこいよ」
セヌ「こ、このっ……って、ん?」
男「勝負はまだ終わってないんだろ? お前のいい分だとさ」
セヌ「えっ……終わってない?」
男「それともいいのか、俺の勝ち逃げで」
セヌ「だ、駄目だっ! わたしはお前になんて負けないんだからなっ!」
男「はは、だったら尚更、その傷を早く治すんだな」
男「優しい俺は、病人に対しては甘くなっちまう」
セヌ「うぅ、くそっ!」
セヌ「この人間めっ! とうとう化けの皮が剥がれたなっ!」
男「負け犬の遠吠えほど見苦しいものはないなぁ」
ローラ「お、男……?」
セヌ「な、なんてやつっ! 少しでもいいヤツだと思ったわたしが馬鹿だったっ!」
男「まあ、今回は確実に俺の勝ちだが……」
男「これから、何度だってかかってこいよ」
セヌ「こ、このっ……って、ん?」
男「勝負はまだ終わってないんだろ? お前のいい分だとさ」
セヌ「えっ……終わってない?」
男「それともいいのか、俺の勝ち逃げで」
セヌ「だ、駄目だっ! わたしはお前になんて負けないんだからなっ!」
男「はは、だったら尚更、その傷を早く治すんだな」
男「優しい俺は、病人に対しては甘くなっちまう」
セヌ「うぅ、くそっ!」
356: 2010/10/19(火) 00:39:27.75 ID:BgWAxbxw0
ローラ「…………」
セヌ「み、みてろっ! すぐに治してお前に挑んでやるっ!」
男「いつまでも待ってやるから、かかってこい」
男「綺麗なくらいに、返り討ちにしてやるさ」
セヌ「ぜぇぇったいっ! わたしが! 勝つっ!」
男「気合いの入ったいい声だ。期待してる」
男「よし、ローラ」
ローラ「……あ、ああ」
男「そろそろ、俺たちは帰ろう」
ローラ「……そうだな、それがいい」
ローラ「セヌ、また来るからな?」
セヌ「姉さん、そいつには十分気をつけろよっ!」
男「べぇーだ」
セヌ「うぅっ、覚悟してろっ!」
ガチャ……。
セヌ「み、みてろっ! すぐに治してお前に挑んでやるっ!」
男「いつまでも待ってやるから、かかってこい」
男「綺麗なくらいに、返り討ちにしてやるさ」
セヌ「ぜぇぇったいっ! わたしが! 勝つっ!」
男「気合いの入ったいい声だ。期待してる」
男「よし、ローラ」
ローラ「……あ、ああ」
男「そろそろ、俺たちは帰ろう」
ローラ「……そうだな、それがいい」
ローラ「セヌ、また来るからな?」
セヌ「姉さん、そいつには十分気をつけろよっ!」
男「べぇーだ」
セヌ「うぅっ、覚悟してろっ!」
ガチャ……。
419: 2010/10/19(火) 16:29:32.17 ID:BgWAxbxw0
とことことこ……。
ローラ「男」
男「ん?」
ローラ「初めは分からなかったが、少し経って気付いた」
ローラ「あの子のために……わざと、言い合いをしたな?」
男「…………」
ローラ「お前は不思議な人間だ」
ローラ「セヌの心が分かっているように感じる」
ローラ「そして、わたしたちの心も」
男「……そんなことないさ」
ローラ「やれるはずだ」
ローラ「お前なら、もしかしたら……」
ローラ「何かを変えてくれる、そんな気がしてならない」
男「…………」
男「……そうだといいな」
ローラ「男」
男「ん?」
ローラ「初めは分からなかったが、少し経って気付いた」
ローラ「あの子のために……わざと、言い合いをしたな?」
男「…………」
ローラ「お前は不思議な人間だ」
ローラ「セヌの心が分かっているように感じる」
ローラ「そして、わたしたちの心も」
男「……そんなことないさ」
ローラ「やれるはずだ」
ローラ「お前なら、もしかしたら……」
ローラ「何かを変えてくれる、そんな気がしてならない」
男「…………」
男「……そうだといいな」
421: 2010/10/19(火) 16:30:22.77 ID:BgWAxbxw0
──ローラの家
男「…………」
男「んん……」
男「……朝か」
メル「起きた? おはようっ」
男「ああ、おはよう」
男「ローラは?」
メル「お姉ちゃんは今、ご飯の準備してる」
男「そうか、じゃあ、それまで暇だな」
メル「うん」
男「……………」
メル「どうしたの?」
男「……君は、俺のこと怖くないのか?」
男「…………」
男「んん……」
男「……朝か」
メル「起きた? おはようっ」
男「ああ、おはよう」
男「ローラは?」
メル「お姉ちゃんは今、ご飯の準備してる」
男「そうか、じゃあ、それまで暇だな」
メル「うん」
男「……………」
メル「どうしたの?」
男「……君は、俺のこと怖くないのか?」
423: 2010/10/19(火) 16:31:12.30 ID:BgWAxbxw0
男「君たちが恐れる人間には、変わりないんだろ?」
メル「……うーん」
メル「ええとね、言葉にするのは難しいんだけど」
メル「男さんには、そんな感じは全くしないの」
メル「男さんの目、わたし、好きだな」
男「……目か?」
メル「うん、いつもは冷静で、時には泣いてるみたいで」
男「……………」
メル「でも、実はその奥に温かさがある」
メル「そんな人が、わたしたちに害を与えるわけないよ」
男「……そうか」
メル「ねっ、ご飯まで一緒に遊ぼっ」
トンっ……。
メル「……うーん」
メル「ええとね、言葉にするのは難しいんだけど」
メル「男さんには、そんな感じは全くしないの」
メル「男さんの目、わたし、好きだな」
男「……目か?」
メル「うん、いつもは冷静で、時には泣いてるみたいで」
男「……………」
メル「でも、実はその奥に温かさがある」
メル「そんな人が、わたしたちに害を与えるわけないよ」
男「……そうか」
メル「ねっ、ご飯まで一緒に遊ぼっ」
トンっ……。
424: 2010/10/19(火) 16:31:54.43 ID:BgWAxbxw0
男「おっ、膝の上……」
メル「ふふっ、なんかこうしてると兄妹みたいだね」
メル「実はわたし、お兄ちゃんが欲しかったんだ」
男「……お、お兄ちゃん?」
メル「手貸して」
男「ん? 何の遊びをするんだ」
メル「うんとね、まずはこうやって……」
メル「ふふっ、なんかこうしてると兄妹みたいだね」
メル「実はわたし、お兄ちゃんが欲しかったんだ」
男「……お、お兄ちゃん?」
メル「手貸して」
男「ん? 何の遊びをするんだ」
メル「うんとね、まずはこうやって……」
426: 2010/10/19(火) 16:33:02.57 ID:BgWAxbxw0
ローラ「この飯が食べ終わったら、行くぞ」
男「おう」
ローラ「村の仲間にも、広場に集合しろとの連絡が回っている」
ローラ「恐らくそこで、お前のことを話すんだろう」
ローラ「一応、喋ることは考えておいたほうがいい」
男「そう、だな……」
男「さて、何を話したらいいか」
ローラ「深く考える必要はない」
ローラ「お前が思った事、感じた事を素直に話すんだ」
ローラ「そうすれば、きっと分かってもらえる」
男「そうだといいな……」
ローラ「気を落とすな。大丈夫だ、お前なら」
男「…………」
男「おう」
ローラ「村の仲間にも、広場に集合しろとの連絡が回っている」
ローラ「恐らくそこで、お前のことを話すんだろう」
ローラ「一応、喋ることは考えておいたほうがいい」
男「そう、だな……」
男「さて、何を話したらいいか」
ローラ「深く考える必要はない」
ローラ「お前が思った事、感じた事を素直に話すんだ」
ローラ「そうすれば、きっと分かってもらえる」
男「そうだといいな……」
ローラ「気を落とすな。大丈夫だ、お前なら」
男「…………」
427: 2010/10/19(火) 16:34:17.95 ID:BgWAxbxw0
──村 中央広場
男「……はぁ……」
男(分かっていたはずなのにな……)
男(ローラ……そんなにうまくはいかないんだ)
男(君たちが思う以上に、この根は深い)
村人1「…………」
村人2「…………」
男(見ろ、この周りの彼らを)
男(今にも、飛びかかろうとするのを必氏に抑える形相だ)
男(目には、しっかりと殺意が刻まれている)
長老「……伝え聞いた話は以上だ」
男「……はぁ……」
男(分かっていたはずなのにな……)
男(ローラ……そんなにうまくはいかないんだ)
男(君たちが思う以上に、この根は深い)
村人1「…………」
村人2「…………」
男(見ろ、この周りの彼らを)
男(今にも、飛びかかろうとするのを必氏に抑える形相だ)
男(目には、しっかりと殺意が刻まれている)
長老「……伝え聞いた話は以上だ」
428: 2010/10/19(火) 16:35:05.93 ID:BgWAxbxw0
『別の世界だと……ふざけよって』
『長老はそんな戯言を信じたのか?』
『くっ、人間めっ』
男「…………」
男(分かる、痛いほど伝わってくる)
男(彼らの憎しみが、苦しみが……手に取るように分かる)
長老「静まれっ」
長老「お前たちに不満があるのも理解している」
長老「だが、人間だからといって頃すのは、意に反しないか?」
長老「この者は何も知らない」
長老「人間の国がどこにあるのか、我々が何のか」
長老「まるで、生まれたばかりの幼児のようだ」
長老「そんな者を手にかけてしまったら」
長老「我らも悪き人間と同じになってしまうっ」
『…………』
『長老はそんな戯言を信じたのか?』
『くっ、人間めっ』
男「…………」
男(分かる、痛いほど伝わってくる)
男(彼らの憎しみが、苦しみが……手に取るように分かる)
長老「静まれっ」
長老「お前たちに不満があるのも理解している」
長老「だが、人間だからといって頃すのは、意に反しないか?」
長老「この者は何も知らない」
長老「人間の国がどこにあるのか、我々が何のか」
長老「まるで、生まれたばかりの幼児のようだ」
長老「そんな者を手にかけてしまったら」
長老「我らも悪き人間と同じになってしまうっ」
『…………』
429: 2010/10/19(火) 16:35:49.13 ID:BgWAxbxw0
長老「ゆえに」
長老「儂はこの者を頃すことをやめる」
『なっ……』
『ふざけるなっ! 身体は十分に大人ではないかっ!』
『目には目を歯に歯を……そうしなければ、我々が逆にやられるぞっ』
『人間は殺せっ! 人間は殺せっ!』
長老「…………」
長老「分かっていたが、これが現状だ」
男「…………」
長老「儂はこの者を頃すことをやめる」
『なっ……』
『ふざけるなっ! 身体は十分に大人ではないかっ!』
『目には目を歯に歯を……そうしなければ、我々が逆にやられるぞっ』
『人間は殺せっ! 人間は殺せっ!』
長老「…………」
長老「分かっていたが、これが現状だ」
男「…………」
432: 2010/10/19(火) 17:03:18.43 ID:9PLuEYc90
長老「愛する者を失った痛み、苦しみ、憎しみ」
長老「そう簡単に、お主はこの村に馴染むことは出来ぬ」
男「ああ、そうみたいだな」
長老「……何か、ここで話したいことはあるか」
男「…………」
長老「そうか、いや、余計なことをしないほうが正しい」
長老「下手に刺激してしまうよりかは……」
男「少し、喋らせてくれ」
長老「……お主」
男「俺から話があるっ!」
長老「そう簡単に、お主はこの村に馴染むことは出来ぬ」
男「ああ、そうみたいだな」
長老「……何か、ここで話したいことはあるか」
男「…………」
長老「そうか、いや、余計なことをしないほうが正しい」
長老「下手に刺激してしまうよりかは……」
男「少し、喋らせてくれ」
長老「……お主」
男「俺から話があるっ!」
434: 2010/10/19(火) 17:04:29.58 ID:9PLuEYc90
『……なに、人間が話しだと……』
『いったい何を言うつもりだっ』
男「あなたたちが、今の話を信用出来ないのは分かるっ」
男「違う世界から来たなんて、俺からしても滑稽な話だ」
男「でも、本当だ。嘘じゃないっ」
男「俺はっ」
男「こことは異なる世界から、やってきたっ」
『…………』
『いったい何を言うつもりだっ』
男「あなたたちが、今の話を信用出来ないのは分かるっ」
男「違う世界から来たなんて、俺からしても滑稽な話だ」
男「でも、本当だ。嘘じゃないっ」
男「俺はっ」
男「こことは異なる世界から、やってきたっ」
『…………』
436: 2010/10/19(火) 17:05:42.97 ID:9PLuEYc90
男「前に俺が住んでいた国では、命をかける争いなんてなかった」
男(そんな世界で毎日をただ生きていた)
男(平和に呑まれながら、ただ生かされていた)
男「ここまでの憎しみを、苦しみを……見たことはなかった」
男(感情を表に出さない事が、時には出世するためには不可欠で)
男(馬鹿の一つ覚えみたいに、上司に媚びへつらった)
男「けれど、俺は……そんな世界で」
男「あなたたちからすれば、理想の世界で」
男「……全く必要とされなかった」
男(そんな世界で毎日をただ生きていた)
男(平和に呑まれながら、ただ生かされていた)
男「ここまでの憎しみを、苦しみを……見たことはなかった」
男(感情を表に出さない事が、時には出世するためには不可欠で)
男(馬鹿の一つ覚えみたいに、上司に媚びへつらった)
男「けれど、俺は……そんな世界で」
男「あなたたちからすれば、理想の世界で」
男「……全く必要とされなかった」
437: 2010/10/19(火) 17:06:53.21 ID:9PLuEYc90
男(氏のうとしても、悲しむ者はおらず)
男(俺の氏では、何も変えることは出来なくて)
男「氏人も当然だった、生きる意味なんてなかった」
男(……それを、そんな意味のない日々を、終わらせようとした時)
男(一人の老人に出会った)
男「だから」
『…………』
男「この世界では、意味もなく氏ぬつもりはない」
男「同じ過ちを、二度と繰り返したくはない」
男「…………」
男「俺は、この世界に」
男「そして……初めて出会ったあなたたちに」
男「必要とされたい、ただそれだけなんだ──」
男(俺の氏では、何も変えることは出来なくて)
男「氏人も当然だった、生きる意味なんてなかった」
男(……それを、そんな意味のない日々を、終わらせようとした時)
男(一人の老人に出会った)
男「だから」
『…………』
男「この世界では、意味もなく氏ぬつもりはない」
男「同じ過ちを、二度と繰り返したくはない」
男「…………」
男「俺は、この世界に」
男「そして……初めて出会ったあなたたちに」
男「必要とされたい、ただそれだけなんだ──」
450: 2010/10/19(火) 18:51:59.47 ID:9PLuEYc90
──ナダ中立地区
リスト「集まってもらったのは他でもない」
リスト「我が国ゼドは長年、森の民と戦をしている」
?「…………」
リスト「しかし、一向に戦況がよくならなくてな」
リスト「我が国も貴殿らに比べれば、圧倒的に小国である」
リスト「故に、兵たちの数に制限があって、未だ勝利には至っておらぬ」
?「……リスト公、一つよろしいですか」
リスト「ほう、これはセルドーヌの姫君ではないか」
リスト「父上の容態はまだ芳しくないのかね?」
レーラ「ご心配には及びませんわ、今も、父……いえ、王は元気にしております」
リスト「それは良かった。しかしならばこそ……」
リスト「どうして、第一王女のあなたがここに?」
リスト「集まってもらったのは他でもない」
リスト「我が国ゼドは長年、森の民と戦をしている」
?「…………」
リスト「しかし、一向に戦況がよくならなくてな」
リスト「我が国も貴殿らに比べれば、圧倒的に小国である」
リスト「故に、兵たちの数に制限があって、未だ勝利には至っておらぬ」
?「……リスト公、一つよろしいですか」
リスト「ほう、これはセルドーヌの姫君ではないか」
リスト「父上の容態はまだ芳しくないのかね?」
レーラ「ご心配には及びませんわ、今も、父……いえ、王は元気にしております」
リスト「それは良かった。しかしならばこそ……」
リスト「どうして、第一王女のあなたがここに?」
451: 2010/10/19(火) 18:52:45.75 ID:9PLuEYc90
レーラ「さきほど元気だとは申しましたが、王も既に高齢であります」
レーラ「万が一のことがあってはならぬ、そのため、代わりに私が向かったのです」
リスト「ふむ、そういうことか」
リスト「いい機会だ、未来の指導者として大いに学んでくれ」
レーラ「……リスト公、質問をさせて下さい」
レーラ「どうして、森の民と敵対する必要があるのですか」
リスト「…………」
レーラ「彼らは我らが何もしなければ、害を与えない大人しい種族たちです」
レーラ「それにもかからず、戦をしかけるゼドに我が国は不信感を頂いております」
リスト「ははっ、王に似て、はっきりともの申すな」
レーラ「お答えください」
リスト「……理由は二つある」
レーラ「万が一のことがあってはならぬ、そのため、代わりに私が向かったのです」
リスト「ふむ、そういうことか」
リスト「いい機会だ、未来の指導者として大いに学んでくれ」
レーラ「……リスト公、質問をさせて下さい」
レーラ「どうして、森の民と敵対する必要があるのですか」
リスト「…………」
レーラ「彼らは我らが何もしなければ、害を与えない大人しい種族たちです」
レーラ「それにもかからず、戦をしかけるゼドに我が国は不信感を頂いております」
リスト「ははっ、王に似て、はっきりともの申すな」
レーラ「お答えください」
リスト「……理由は二つある」
452: 2010/10/19(火) 18:54:10.37 ID:9PLuEYc90
リスト「一つは、幾らあの連中が大人しいと言っても」
リスト「今後、脅威になるかもしれぬ日が来るかもわからないということ」
リスト「そんな不安を抱えていては、安定した政治は取れぬからな」
レーラ「……もう一つの理由は?」
リスト「気に入らぬのだよ」
レーラ「は?」
リスト「私はアイツらの存在が気に入らぬ」
リスト「我らと違う体格や、何やら、すべてが気に食わぬのだ」
レーラ「……そのために戦をしかけると?」
リスト「そうだ」
レーラ「なんて方……」
レーラ「私心で民と彼らの命を無意味に散らしているのですかっ」
リスト「姫も指導者になれば分かる。正論が全て正しいとは限らぬのだ」
レーラ「姫と呼ぶのはお止めくださいっ」
リスト「今後、脅威になるかもしれぬ日が来るかもわからないということ」
リスト「そんな不安を抱えていては、安定した政治は取れぬからな」
レーラ「……もう一つの理由は?」
リスト「気に入らぬのだよ」
レーラ「は?」
リスト「私はアイツらの存在が気に入らぬ」
リスト「我らと違う体格や、何やら、すべてが気に食わぬのだ」
レーラ「……そのために戦をしかけると?」
リスト「そうだ」
レーラ「なんて方……」
レーラ「私心で民と彼らの命を無意味に散らしているのですかっ」
リスト「姫も指導者になれば分かる。正論が全て正しいとは限らぬのだ」
レーラ「姫と呼ぶのはお止めくださいっ」
453: 2010/10/19(火) 18:55:27.43 ID:9PLuEYc90
リスト「まあいい、本題に入ろう」
リスト「今回の議題である。我が国は貴殿たちの国々にお願いしたい」
リスト「森の民を倒すため、兵をお貸し願えないだろうか」
レーラ「……そういうことか」
リスト「我が一国では、こう苦戦してしまうが」
リスト「人が力を合わせれば、奴らなど一瞬で駆逐できることであろう」
レーラ「リスト公」
リスト「なんだね、姫」
レーラ「……っ」
レーラ「我が国セルドーヌは、その戦、絶対に許しません」
リスト「妙なことを言うな。もう、ゼドはセルドーヌの属国ではないぞ?」
レーラ「それでもです。自国内で勝手をやるうちは我慢しておりましたが」
レーラ「他国の力を借りて、その戦をするというなら……」
リスト「どうすると言う?」
リスト「今回の議題である。我が国は貴殿たちの国々にお願いしたい」
リスト「森の民を倒すため、兵をお貸し願えないだろうか」
レーラ「……そういうことか」
リスト「我が一国では、こう苦戦してしまうが」
リスト「人が力を合わせれば、奴らなど一瞬で駆逐できることであろう」
レーラ「リスト公」
リスト「なんだね、姫」
レーラ「……っ」
レーラ「我が国セルドーヌは、その戦、絶対に許しません」
リスト「妙なことを言うな。もう、ゼドはセルドーヌの属国ではないぞ?」
レーラ「それでもです。自国内で勝手をやるうちは我慢しておりましたが」
レーラ「他国の力を借りて、その戦をするというなら……」
リスト「どうすると言う?」
454: 2010/10/19(火) 18:56:18.43 ID:9PLuEYc90
レーラ「我が国は、ゼドと敵対します」
リスト「…………」
レーラ「私からの話は以上です。他の国の方々もお間違えのないことを」
レーラ「ゼドに協力する国は、同等にして許すことはありません」
レーラ「ではこれにて。無駄な時間を消費したくはないので」
サッ……。
リスト「……くっ、あの小娘め」
リスト「…………」
レーラ「私からの話は以上です。他の国の方々もお間違えのないことを」
レーラ「ゼドに協力する国は、同等にして許すことはありません」
レーラ「ではこれにて。無駄な時間を消費したくはないので」
サッ……。
リスト「……くっ、あの小娘め」
458: 2010/10/19(火) 19:07:20.86 ID:9PLuEYc90
とことことこ……。
メイド「……姫様、退席してよろしかったのですか?」
レーラ「構わない、父の意向は以前と変わらないはずよ」
メイド「確かにそうです」
レーラ「急いで国に戻りましょう。父に報告しないと」
メイド「出立する時も、相当心配しておりましたからね」
レーラ「もう子供じゃないって言うのに……過保護な人なんだから」
メイド「それだけ、姫様のことを大事に思っているのですよ」
レーラ「……まあ、いいけど」
メイド「これで、戦が終わるといいですね」
メイド「森の民が無駄に虐げられるのは、とても可哀想です」
レーラ「残念だけど……戦は終わらないわ」
メイド「……姫様、退席してよろしかったのですか?」
レーラ「構わない、父の意向は以前と変わらないはずよ」
メイド「確かにそうです」
レーラ「急いで国に戻りましょう。父に報告しないと」
メイド「出立する時も、相当心配しておりましたからね」
レーラ「もう子供じゃないって言うのに……過保護な人なんだから」
メイド「それだけ、姫様のことを大事に思っているのですよ」
レーラ「……まあ、いいけど」
メイド「これで、戦が終わるといいですね」
メイド「森の民が無駄に虐げられるのは、とても可哀想です」
レーラ「残念だけど……戦は終わらないわ」
459: 2010/10/19(火) 19:08:34.23 ID:9PLuEYc90
メイド「えっ……でも、あれだけ言ったのですから……」
レーラ「無理よ、だから、急いで父に報告しないといけないの」
メイド「そ、そんな……」
レーラ「あの会議は茶番なの。全てもう決まってる」
レーラ「雰囲気で感じなかった? リストは虎の威を借りた狐に過ぎない」
レーラ「裏で全部を操ってる国がいる」
メイド「……どこですか?」
レーラ「……ガザム帝国」
レーラ「何が企みかは分からないけどね」
レーラ「とても嫌な予感がするの。とにかく、国へ戻りましょう」
レーラ「無理よ、だから、急いで父に報告しないといけないの」
メイド「そ、そんな……」
レーラ「あの会議は茶番なの。全てもう決まってる」
レーラ「雰囲気で感じなかった? リストは虎の威を借りた狐に過ぎない」
レーラ「裏で全部を操ってる国がいる」
メイド「……どこですか?」
レーラ「……ガザム帝国」
レーラ「何が企みかは分からないけどね」
レーラ「とても嫌な予感がするの。とにかく、国へ戻りましょう」
464: 2010/10/19(火) 20:26:53.67 ID:9PLuEYc90
──ローラの家
男「はぁ……緊張した」
ローラ「とっても良かったぞ? なっ、メル」
メル「お兄ちゃん、かっこ良かったっ」
男「はは……お兄ちゃんって」
ローラ「もう懐かれてるのか。小さい子は、人の感情に敏感だからな」
ローラ「それだけ、男が温かいやつだって分かったんだろう」
メル「お兄ちゃん、遊ぼっ」
男「ん、そうだな」
ローラ「仲間たちもお前の話を聞いてからは、文句一つ言わなくなった」
ローラ「意外と、この村に馴染むのも早い気がするぞ」
男「どうだろうな……そればかりは分からない」
メル「早く、早くっ」
男「お、おい、引っ張るなって……」
男「はぁ……緊張した」
ローラ「とっても良かったぞ? なっ、メル」
メル「お兄ちゃん、かっこ良かったっ」
男「はは……お兄ちゃんって」
ローラ「もう懐かれてるのか。小さい子は、人の感情に敏感だからな」
ローラ「それだけ、男が温かいやつだって分かったんだろう」
メル「お兄ちゃん、遊ぼっ」
男「ん、そうだな」
ローラ「仲間たちもお前の話を聞いてからは、文句一つ言わなくなった」
ローラ「意外と、この村に馴染むのも早い気がするぞ」
男「どうだろうな……そればかりは分からない」
メル「早く、早くっ」
男「お、おい、引っ張るなって……」
466: 2010/10/19(火) 20:28:25.30 ID:9PLuEYc90
ローラ「はは、男が心配しなくても、多分」
ローラ「みんな気付いたはずだ、お前の本質にな」
メル「さっき教えたよっ、ほら、手をこうして……」
男「ええと、こうだっけ?」
メル「ううん、この指を……」
ローラ「…………」
タタタタタっ……。
男「ん? なんだこの音」
ローラ「あー、アイツだ……噂を嗅ぎ付けたな……」
男「え? アイツ?」
ガチャッ……。
ドン「おいっ! これは一体、どういうことだっ!」
ローラ「みんな気付いたはずだ、お前の本質にな」
メル「さっき教えたよっ、ほら、手をこうして……」
男「ええと、こうだっけ?」
メル「ううん、この指を……」
ローラ「…………」
タタタタタっ……。
男「ん? なんだこの音」
ローラ「あー、アイツだ……噂を嗅ぎ付けたな……」
男「え? アイツ?」
ガチャッ……。
ドン「おいっ! これは一体、どういうことだっ!」
467: 2010/10/19(火) 20:29:38.06 ID:9PLuEYc90
ローラ「勝手にドアを開けて……何が不満だ」
ドン「ソイツがこの村にいることを、もう否定はしねぇよっ」
ドン「で、でもっ!」
ドン「なんでローラの家に住むことになってるんだっ!」
ローラ「初めに出会ったのが、わたしだからだ」
ドン「ここには女しかいないんだぞっ!?」
ローラ「何を心配してるのかは分からんが」
ローラ「男は、お前が思っているようなヤツではない」
ドン「そういうことじゃねぇんだよっ、男と女は……」
メル「んー?」
ドン「……ええと、メルは外にいてくれないか……?」
メル「なんで……わたしだけ除け者?」
ドン「そ、そういうことじゃね……って、泣きそうな顔するなっ」
ドン「ソイツがこの村にいることを、もう否定はしねぇよっ」
ドン「で、でもっ!」
ドン「なんでローラの家に住むことになってるんだっ!」
ローラ「初めに出会ったのが、わたしだからだ」
ドン「ここには女しかいないんだぞっ!?」
ローラ「何を心配してるのかは分からんが」
ローラ「男は、お前が思っているようなヤツではない」
ドン「そういうことじゃねぇんだよっ、男と女は……」
メル「んー?」
ドン「……ええと、メルは外にいてくれないか……?」
メル「なんで……わたしだけ除け者?」
ドン「そ、そういうことじゃね……って、泣きそうな顔するなっ」
468: 2010/10/19(火) 20:30:24.24 ID:9PLuEYc90
ローラ「いいだろ、メルがいたって」
ドン「くぅー……こうなったら」
ドン「おい、お前っ!」
男「えっ?」
ドン「お前に話があるっ! 外に出ろっ!」
ローラ「おい、ドンっ」
ドン「ここからは男同士の話し合いだっ」
ドン「いいなっ! 女は口をはさむんじゃねぇぞっ!」
男「…………」
ローラ「気にするな男、こいつはわたしの幼馴染なんだが」
ローラ「少々頭が悪くてな……」
男「ああ、うん」
ドン「くぅー……こうなったら」
ドン「おい、お前っ!」
男「えっ?」
ドン「お前に話があるっ! 外に出ろっ!」
ローラ「おい、ドンっ」
ドン「ここからは男同士の話し合いだっ」
ドン「いいなっ! 女は口をはさむんじゃねぇぞっ!」
男「…………」
ローラ「気にするな男、こいつはわたしの幼馴染なんだが」
ローラ「少々頭が悪くてな……」
男「ああ、うん」
469: 2010/10/19(火) 20:31:41.84 ID:9PLuEYc90
ドン「そこっ、余計なこと言うなっ!」
ローラ「お前こそ黙ったらどうだ。ここはわたしの家だぞ?」
ドン「うるせぇ、いいから出ろっ、人間」
男「……ふむ」
男(何となく想像がつくけど、どうしようか)
ローラ「無視していいからな。馬鹿に付き合うと移るぞ?」
男「いや……」
ガタっ……。
ドン「おっ」
男「たまには、男同士で話し合いっていうのもいいかもな」
ドン「へっ、人間の癖して、分かるじゃねぇか」
ローラ「お前こそ黙ったらどうだ。ここはわたしの家だぞ?」
ドン「うるせぇ、いいから出ろっ、人間」
男「……ふむ」
男(何となく想像がつくけど、どうしようか)
ローラ「無視していいからな。馬鹿に付き合うと移るぞ?」
男「いや……」
ガタっ……。
ドン「おっ」
男「たまには、男同士で話し合いっていうのもいいかもな」
ドン「へっ、人間の癖して、分かるじゃねぇか」
481: 2010/10/19(火) 22:16:24.09 ID:9PLuEYc90
──村
男「さて、話とは何だ?」
ドン「……その前に、ローラ」
ローラ「何だ?」
ドン「どうしてついてきたっ? 男同士の話って言っただろっ」
ローラ「それは聞いた。話に参加するつもりはないぞ」
ドン「ならば、なぜここにいるっ!」
ローラ「お前が男に何するかわからないからな」
ドン「……この人間のこと、えらく気に入ってるようじゃねぇか」
ローラ「…………」
ドン「まあいい、話に入らないなら、もう何もいわねぇ」
ドン「おい、人間っ」
男「ん?」
男「さて、話とは何だ?」
ドン「……その前に、ローラ」
ローラ「何だ?」
ドン「どうしてついてきたっ? 男同士の話って言っただろっ」
ローラ「それは聞いた。話に参加するつもりはないぞ」
ドン「ならば、なぜここにいるっ!」
ローラ「お前が男に何するかわからないからな」
ドン「……この人間のこと、えらく気に入ってるようじゃねぇか」
ローラ「…………」
ドン「まあいい、話に入らないなら、もう何もいわねぇ」
ドン「おい、人間っ」
男「ん?」
482: 2010/10/19(火) 22:17:21.37 ID:9PLuEYc90
ドン「どこまで言っても、いかすかねぇヤツだ」
男「なんだ、少しは認めてくれてると思ったんだがな」
ドン「はっ、女に助けて貰って、何言ってやがる」
男「…………」
ドン「お前がどこから来たとか、そういうことは俺にはわからねぇ」
ドン「ただな、一つだけ許せねぇことがある」
男「聞こう」
ドン「どうして、ローラの家に住む?」
ドン「この村にいることは十歩譲ってよしとしようっ」
ローラ「百歩な」
ドン「そ、そうだ、百歩譲るっ!」
ドン「でも、だったら野宿やら何やらすればいいじゃねぇかっ」
男「確かにそうだ」
男「なんだ、少しは認めてくれてると思ったんだがな」
ドン「はっ、女に助けて貰って、何言ってやがる」
男「…………」
ドン「お前がどこから来たとか、そういうことは俺にはわからねぇ」
ドン「ただな、一つだけ許せねぇことがある」
男「聞こう」
ドン「どうして、ローラの家に住む?」
ドン「この村にいることは十歩譲ってよしとしようっ」
ローラ「百歩な」
ドン「そ、そうだ、百歩譲るっ!」
ドン「でも、だったら野宿やら何やらすればいいじゃねぇかっ」
男「確かにそうだ」
483: 2010/10/19(火) 22:18:01.45 ID:9PLuEYc90
ドン「わざわざローラの面倒になるなっ」
ローラ「それは、わたしが……」
男「ローラ」
ローラ「…………」
ドン「どうだっ、返答を早く言えっ!」
男「お前のいい分は理解したよ。ローラの家に住むなってことだな」
ドン「そうだっ」
男「俺も出来るだけ彼女の面倒にはなりたくない」
ローラ「…………」
男「でも、そうして良いと善意を向けてくれているのならば」
男「それに応えることも、一つの形だと思う」
ドン「て、てめぇ……」
男「大体、お前は何なんだ」
男「ただのローラの幼馴染だろう? お前に指図される言われはないさ」
ドン「……言いてぇことはそれだけか?」
ローラ「それは、わたしが……」
男「ローラ」
ローラ「…………」
ドン「どうだっ、返答を早く言えっ!」
男「お前のいい分は理解したよ。ローラの家に住むなってことだな」
ドン「そうだっ」
男「俺も出来るだけ彼女の面倒にはなりたくない」
ローラ「…………」
男「でも、そうして良いと善意を向けてくれているのならば」
男「それに応えることも、一つの形だと思う」
ドン「て、てめぇ……」
男「大体、お前は何なんだ」
男「ただのローラの幼馴染だろう? お前に指図される言われはないさ」
ドン「……言いてぇことはそれだけか?」
484: 2010/10/19(火) 22:18:49.26 ID:9PLuEYc90
男「……それとも、ローラのことが好きなのか?」
ドン「……っ」
ドン「この野郎っ!」
たたた……ドスッ!
男「くっ」
ローラ「男っ! だ、大丈夫かっ」
男「……ああ、心配ない」
ローラ「なんてヤツだっ! 急に殴るなんて最低だぞっ!」
ドン「どけ、ローラっ! これは男同士の話し合いなんだっ」
ローラ「何が話し合いだっ! 殴ったじゃないかっ!」
ドン「うるせぇっ! お前には関係ねぇよっ!」
ローラ「関係してないだと? お前こそ何を……」
男「……そうか」
ローラ「え?」
ドン「……っ」
ドン「この野郎っ!」
たたた……ドスッ!
男「くっ」
ローラ「男っ! だ、大丈夫かっ」
男「……ああ、心配ない」
ローラ「なんてヤツだっ! 急に殴るなんて最低だぞっ!」
ドン「どけ、ローラっ! これは男同士の話し合いなんだっ」
ローラ「何が話し合いだっ! 殴ったじゃないかっ!」
ドン「うるせぇっ! お前には関係ねぇよっ!」
ローラ「関係してないだと? お前こそ何を……」
男「……そうか」
ローラ「え?」
485: 2010/10/19(火) 22:20:09.53 ID:9PLuEYc90
男「そういうことか、分かったぞ」
ローラ「……どうした、何が分かったんだ?」
男「ローラ、どいてくれ」
ローラ「あっ……」
たたたたっ……。
男「こういうことだろっ! なあっ!」
ドン「……っ」
ひゅっ……。
男「ちっ、当たらねえ」
ローラ「な、何を……」
ドン「ははっ、分かってるじゃねえかっ」
ドン「しかし、そんな鈍らな拳じゃ俺には当てられねぇぞ?」
男「言ってろ、後で後悔すんなよっ」
ローラ「……なんてことだ」
ローラ「……どうした、何が分かったんだ?」
男「ローラ、どいてくれ」
ローラ「あっ……」
たたたたっ……。
男「こういうことだろっ! なあっ!」
ドン「……っ」
ひゅっ……。
男「ちっ、当たらねえ」
ローラ「な、何を……」
ドン「ははっ、分かってるじゃねえかっ」
ドン「しかし、そんな鈍らな拳じゃ俺には当てられねぇぞ?」
男「言ってろ、後で後悔すんなよっ」
ローラ「……なんてことだ」
489: 2010/10/19(火) 22:30:55.89 ID:9PLuEYc90
ガチャっ……。
ローラ「長老っ!」
長老「……昨日も同じように乗り込んできたな」
長老「で、今度は一体なんだ?」
ローラ「お、男とドンがっ!」
長老「ふむ、人間か」
ローラ「殴り合いをしてて、大変なんだっ! 止めてくれっ!」
長老「周りの者はどうしてる?」
ローラ「どんどん見物の連中は集まってるが」
ローラ「はやし立てるだけで何もしてくれないっ」
長老「……ほう」
ローラ「わたしにも止められないんだっ。何とかしてくれっ!」
ローラ「長老っ!」
長老「……昨日も同じように乗り込んできたな」
長老「で、今度は一体なんだ?」
ローラ「お、男とドンがっ!」
長老「ふむ、人間か」
ローラ「殴り合いをしてて、大変なんだっ! 止めてくれっ!」
長老「周りの者はどうしてる?」
ローラ「どんどん見物の連中は集まってるが」
ローラ「はやし立てるだけで何もしてくれないっ」
長老「……ほう」
ローラ「わたしにも止められないんだっ。何とかしてくれっ!」
542: 2010/10/20(水) 01:44:18.45 ID:sJ4cc6ed0
『いけっ、ドンやっちまえっ』
『人間っ、そこだっ! 何、モタモタしてやがるっ!』
男「はぁ……はぁ……」
ドン「ははははっ、一発も当てられないとはなっ」
ドン「人間、やはりお前は口だけだっ、ほれ当ててみろっ」
男「くっ……」
……ひゅっ。
ドン「へ、当たるかよっ! おらっ!」
ドスンっ!
男「……うっ」
『うおおっ! 今のはいいのが決まったぞっ!』
……バタン。
男「……ふぅ……ふぅ……」
『人間っ、そこだっ! 何、モタモタしてやがるっ!』
男「はぁ……はぁ……」
ドン「ははははっ、一発も当てられないとはなっ」
ドン「人間、やはりお前は口だけだっ、ほれ当ててみろっ」
男「くっ……」
……ひゅっ。
ドン「へ、当たるかよっ! おらっ!」
ドスンっ!
男「……うっ」
『うおおっ! 今のはいいのが決まったぞっ!』
……バタン。
男「……ふぅ……ふぅ……」
543: 2010/10/20(水) 01:45:35.99 ID:sJ4cc6ed0
ドン「もう降参か? 人間にしては弱っちいやつだなっ」
『あははははははっ』
男「…………」
男(駄目だ……全く歯が立たない……)
男(向こうじゃ、格闘技すらやったことがないからな……)
男(どうする……どうすればいい……?)
男「……まだ、勝負は決まってないぞ」
『おおっ、人間が立ち上がったぞっ!』
『まだやるのかっ!』
『やめとけっ、いつまでやってもドンには勝てねぇよっ!』
ドン「はは、威勢だけは初めと変わらねぇじゃねぇか」
男「それだが取り柄でね」
ドン「……どうだ、ローラの家に泊まらないっていうなら止めてやる」
男「…………」
『あははははははっ』
男「…………」
男(駄目だ……全く歯が立たない……)
男(向こうじゃ、格闘技すらやったことがないからな……)
男(どうする……どうすればいい……?)
男「……まだ、勝負は決まってないぞ」
『おおっ、人間が立ち上がったぞっ!』
『まだやるのかっ!』
『やめとけっ、いつまでやってもドンには勝てねぇよっ!』
ドン「はは、威勢だけは初めと変わらねぇじゃねぇか」
男「それだが取り柄でね」
ドン「……どうだ、ローラの家に泊まらないっていうなら止めてやる」
男「…………」
545: 2010/10/20(水) 01:46:36.36 ID:sJ4cc6ed0
ドン「野宿を心配してるなら安心しろ」
ドン「お前は嫌かもしれねぇが、俺の家に住まわせてやるよっ」
『おいおいドン、召使いとして雇うつもりかっ』
『ははっ、それはいい提案だっ。人間、さっさと諦めちゃえっ』
ドン「どうだ? それほど悪い提案でもねぇだろ?」
男「はは……悪いが断るよ」
ドン「……なぜだ?」
男「……そりゃあ」
『おぉぉぉっ? 人間が笑ってるぞっ?』
『どういうことだ? いったい何を言うつもりだっ』
男「むさ苦しい男と住むより……」
男「綺麗な三姉妹に囲まれた方がいいに決まってるだろ?」
ドン「……て、てめぇ」
男「なあ、みんな?」
ドン「お前は嫌かもしれねぇが、俺の家に住まわせてやるよっ」
『おいおいドン、召使いとして雇うつもりかっ』
『ははっ、それはいい提案だっ。人間、さっさと諦めちゃえっ』
ドン「どうだ? それほど悪い提案でもねぇだろ?」
男「はは……悪いが断るよ」
ドン「……なぜだ?」
男「……そりゃあ」
『おぉぉぉっ? 人間が笑ってるぞっ?』
『どういうことだ? いったい何を言うつもりだっ』
男「むさ苦しい男と住むより……」
男「綺麗な三姉妹に囲まれた方がいいに決まってるだろ?」
ドン「……て、てめぇ」
男「なあ、みんな?」
546: 2010/10/20(水) 01:47:21.23 ID:sJ4cc6ed0
『ははははっ! こりゃあ、ドン一本取られたなっ!』
『殴り合いは負けてるが、口では快勝だ、人間っ!』
ドン「てめぇら、うるせぇぞっ!」
ドン「こうなったら、痛い目見せてやるっ!」
男「既に随分痛い目合ってるけどな」
ドン「もっとだよっ! あとで後悔するんじゃねぇぞ!」
男「ははっ、俺の台詞ぱくりやがったな」
男(……と、強がりはこの辺にしておいて)
男(そろそろ、何とかしないとな)
男(……でも、俺に何が出来る? 相手は歴とした戦士だ)
男(勝てないことは分かってる……でも)
男(一発ぐらいは喰らわしてやりたい)
『殴り合いは負けてるが、口では快勝だ、人間っ!』
ドン「てめぇら、うるせぇぞっ!」
ドン「こうなったら、痛い目見せてやるっ!」
男「既に随分痛い目合ってるけどな」
ドン「もっとだよっ! あとで後悔するんじゃねぇぞ!」
男「ははっ、俺の台詞ぱくりやがったな」
男(……と、強がりはこの辺にしておいて)
男(そろそろ、何とかしないとな)
男(……でも、俺に何が出来る? 相手は歴とした戦士だ)
男(勝てないことは分かってる……でも)
男(一発ぐらいは喰らわしてやりたい)
547: 2010/10/20(水) 01:48:15.25 ID:sJ4cc6ed0
ドン「うおおおおおっ!」
たたたたたっ。
男「……っ」
『ドンの雄叫びが出たぞっ! これを食らったら今度こそ終わりだっ!』
『どうする人間っ! ピンチだぞっ!』
男「…………」
男(考えろっ、考えろっ!)
男(俺にできることなんて、たかが知れてるっ)
男(一回だけでいいっ、それだけでいいからこれを逃れないとっ)
男「……っ」
ドン「おらああぁぁぁっ! 食らいやがれぇぇぇっ!」
ヒュッ!
男「……いたっ」
がくっ……。
たたたたたっ。
男「……っ」
『ドンの雄叫びが出たぞっ! これを食らったら今度こそ終わりだっ!』
『どうする人間っ! ピンチだぞっ!』
男「…………」
男(考えろっ、考えろっ!)
男(俺にできることなんて、たかが知れてるっ)
男(一回だけでいいっ、それだけでいいからこれを逃れないとっ)
男「……っ」
ドン「おらああぁぁぁっ! 食らいやがれぇぇぇっ!」
ヒュッ!
男「……いたっ」
がくっ……。
548: 2010/10/20(水) 01:49:09.72 ID:sJ4cc6ed0
ドン「なっ……」
……すかっ。
『うおおっ! 人間が初めてダンの攻撃を躱したぞっ!』
『人間、チャンスだっ! 今なら背中ががら空きだぞっ!』
男(そんなの言われなくても分かってるっ!)
男(くそっ、一か八かだっ!)
男「……おらっ!」
ぎゅっ……。
ドン「あっ! て、てめぇ、離せっ!」
『尻尾を掴んだっ! 人間がドンの尻尾を掴んだっ!』
『あの人間、俺らの弱点知ってんのかよっ!』
ドン「やっ、やめろっ! さっさと離しやがれっ!」
男「やだねっ! 意地でも離してやるもんかっ!」
ドン「こ、この野郎……」
……すかっ。
『うおおっ! 人間が初めてダンの攻撃を躱したぞっ!』
『人間、チャンスだっ! 今なら背中ががら空きだぞっ!』
男(そんなの言われなくても分かってるっ!)
男(くそっ、一か八かだっ!)
男「……おらっ!」
ぎゅっ……。
ドン「あっ! て、てめぇ、離せっ!」
『尻尾を掴んだっ! 人間がドンの尻尾を掴んだっ!』
『あの人間、俺らの弱点知ってんのかよっ!』
ドン「やっ、やめろっ! さっさと離しやがれっ!」
男「やだねっ! 意地でも離してやるもんかっ!」
ドン「こ、この野郎……」
550: 2010/10/20(水) 01:49:59.50 ID:sJ4cc6ed0
男「……おい、ドン」
男「尻尾に気を取られて気が付いてないのか?」
ドン「えっ?」
男「今、お前……」
男「頭ががら空きだぞ?」
ドン「なっ……」
男「うおおぉぉぉっ!」
ドスッ!
ドン「……くっ」
『食らわしたっ! 人間がドンに一発見舞わしたぞっ!』
『あのドンに食らわせるなんて、やるじゃねぇかっ!』
男「……はぁ……はぁ」
がくっ……。
男「尻尾に気を取られて気が付いてないのか?」
ドン「えっ?」
男「今、お前……」
男「頭ががら空きだぞ?」
ドン「なっ……」
男「うおおぉぉぉっ!」
ドスッ!
ドン「……くっ」
『食らわしたっ! 人間がドンに一発見舞わしたぞっ!』
『あのドンに食らわせるなんて、やるじゃねぇかっ!』
男「……はぁ……はぁ」
がくっ……。
551: 2010/10/20(水) 01:50:46.27 ID:sJ4cc6ed0
男「……もう、限界だ……」
ドン「…………」
ドン「……お前」
男「はは……情けないな……」
ドン「……ほら」
すっ……。
男「えっ?」
ドン「人間は知らねぇのか?」
ドン「手を差し伸ばされたら、それを掴むんだよ」
男「……あ、ああ」
ぎゅっ……。
ドン「しっかり、立て」
ドン「…………」
ドン「……お前」
男「はは……情けないな……」
ドン「……ほら」
すっ……。
男「えっ?」
ドン「人間は知らねぇのか?」
ドン「手を差し伸ばされたら、それを掴むんだよ」
男「……あ、ああ」
ぎゅっ……。
ドン「しっかり、立て」
552: 2010/10/20(水) 01:51:26.07 ID:sJ4cc6ed0
男「……どうしてだ? 手を差し伸ばすなんて……」
ドン「理由なんてねぇよ、ただそうしたかったんだ」
男「…………」
ドン「しかし……この俺に一発食らわせるなんてな」
ドン「お前、中々やるじゃねぇか」
男「……偶然うまくいっただけだ」
ドン「それでも誇れよ、胸を張れ」
男「だが……」
ドン「いいから周りを見てみろ」
男「え……」
『そうだっ! 人間、お前は良くやったぞっ!』
『名勝負だった! いい腕してんじゃねぇかっ!』
男「…………」
ドン「理由なんてねぇよ、ただそうしたかったんだ」
男「…………」
ドン「しかし……この俺に一発食らわせるなんてな」
ドン「お前、中々やるじゃねぇか」
男「……偶然うまくいっただけだ」
ドン「それでも誇れよ、胸を張れ」
男「だが……」
ドン「いいから周りを見てみろ」
男「え……」
『そうだっ! 人間、お前は良くやったぞっ!』
『名勝負だった! いい腕してんじゃねぇかっ!』
男「…………」
554: 2010/10/20(水) 01:52:31.72 ID:sJ4cc6ed0
ドン「なっ? みんながお前を讃えてる」
ドン「今回の勝負は、どうやら俺の負けみてぇだな」
男「……お前」
ドン「俺は、ドン」
ドン「この村じゃ、喧嘩なら誰よりも強いって自負してる」
男「……あ、ああ」
ドン「ちげぇよ、今度はお前の番だ」
ドン「俺たちみんなに自己紹介してくれよ」
男「…………」
ドン「違い世界からやってきた、一人の人間」
ドン「お前にだって……名前があるんだろ?」
男「……当たり前だ」
男「俺は……──」
ドン「今回の勝負は、どうやら俺の負けみてぇだな」
男「……お前」
ドン「俺は、ドン」
ドン「この村じゃ、喧嘩なら誰よりも強いって自負してる」
男「……あ、ああ」
ドン「ちげぇよ、今度はお前の番だ」
ドン「俺たちみんなに自己紹介してくれよ」
男「…………」
ドン「違い世界からやってきた、一人の人間」
ドン「お前にだって……名前があるんだろ?」
男「……当たり前だ」
男「俺は……──」
562: 2010/10/20(水) 01:59:44.29 ID:sJ4cc6ed0
ローラ「…………」
長老「あの石を投げたのが、機転となったな」
ローラ「なんのことやら」
長老「はは、とぼけるな。目の前で見ていたんだぞ?」
長老「……しかし、ローラよ」
ローラ「ん?」
長老「あれを見てみろ」
ローラ「言わずとも、見てる」
長老「あの忌み嫌った人間を、仲間たちが讃えているのだ」
長老「共にふざけあって、笑い合って」
長老「あの石を投げたのが、機転となったな」
ローラ「なんのことやら」
長老「はは、とぼけるな。目の前で見ていたんだぞ?」
長老「……しかし、ローラよ」
ローラ「ん?」
長老「あれを見てみろ」
ローラ「言わずとも、見てる」
長老「あの忌み嫌った人間を、仲間たちが讃えているのだ」
長老「共にふざけあって、笑い合って」
563: 2010/10/20(水) 02:00:53.62 ID:sJ4cc6ed0
長老「この光景が……今でも儂は信じられん」
ローラ「…………」
長老「……不思議な人間だな、ヤツは」
ローラ「ああ……」
長老「お前の信頼をまず得て」
長老「そして、既に仲間にも認められつつある」
長老「しかもこれが、昨日の今日の話だというから驚きだ」
ローラ「…………」
長老「何かが変わるかもしれんな」
長老「それが良きものであることを……儂は祈っておるよ」
ローラ「私も……」
ローラ「信じてる」
ローラ「…………」
長老「……不思議な人間だな、ヤツは」
ローラ「ああ……」
長老「お前の信頼をまず得て」
長老「そして、既に仲間にも認められつつある」
長老「しかもこれが、昨日の今日の話だというから驚きだ」
ローラ「…………」
長老「何かが変わるかもしれんな」
長老「それが良きものであることを……儂は祈っておるよ」
ローラ「私も……」
ローラ「信じてる」
630: 2010/10/20(水) 18:47:52.89 ID:yxUfJB2T0
──セルドーヌ王国 首都ジューべル
『姫様がお帰りになったぞっ!』
『道を開けよっ!』
たったったった……。
レーラ「今、戻ったわ」
ライネ「姫様っ」
レーラ「どうしたの、ライネ。そんなに血相を変えて……」
ライネ「……早急にお聞かせならねばならない事があります」
レーラ「ごめんなさい。分かるのだけど、少し休んでから……」
ライネ「お父上が、王がっ」
レーラ「……えっ?」
ライネ「姫様が出立なさった翌日、病で倒れました……」
レーラ「……そ、そんな……」
『姫様がお帰りになったぞっ!』
『道を開けよっ!』
たったったった……。
レーラ「今、戻ったわ」
ライネ「姫様っ」
レーラ「どうしたの、ライネ。そんなに血相を変えて……」
ライネ「……早急にお聞かせならねばならない事があります」
レーラ「ごめんなさい。分かるのだけど、少し休んでから……」
ライネ「お父上が、王がっ」
レーラ「……えっ?」
ライネ「姫様が出立なさった翌日、病で倒れました……」
レーラ「……そ、そんな……」
631: 2010/10/20(水) 18:49:29.36 ID:yxUfJB2T0
レーラ「い、今すぐ父の元に行くっ!」
……ぎゅっ!
ライネ「お待ちくださいっ」
レーラ「その手を離しなさいっ! いますぐにっ!」
ライネ「まだお話は終わっていないのです……」
レーラ「…………」
ライネ「実はさきほど、王は意識を取り戻しました」
レーラ「ほ、ほんと?」
ライネ「はい。あなたの名を呼んでばかりいますが」
ライネ「医師の話では今のところ、安心して良いとの事」
ライネ「……ただ」
ライネ「起きられた王は……」
ライネ「目が見えなくなってしまったのです……」
レーラ「……あ、ああ」
……ぎゅっ!
ライネ「お待ちくださいっ」
レーラ「その手を離しなさいっ! いますぐにっ!」
ライネ「まだお話は終わっていないのです……」
レーラ「…………」
ライネ「実はさきほど、王は意識を取り戻しました」
レーラ「ほ、ほんと?」
ライネ「はい。あなたの名を呼んでばかりいますが」
ライネ「医師の話では今のところ、安心して良いとの事」
ライネ「……ただ」
ライネ「起きられた王は……」
ライネ「目が見えなくなってしまったのです……」
レーラ「……あ、ああ」
635: 2010/10/20(水) 19:21:17.24 ID:yxUfJB2T0
──王の寝室
レーラ「失礼します」
ガチャ……。
国王「その声は……我が娘レーラだな」
レーラ「……お、お父様……」
国王「もっと近くに来てくれ……ほらっ」
レーラ「はい……」
国王「ふむ……協議から帰って来たのか」
国王「それなのに、お前の顔が見れないとはな……」
国王「……手を、握ってくれ」
レーラ「……っ」
ぎゅっ……。
レーラ「お、お父様っ」
国王「おぉ……肌の温もりが伝わるぞ……」
レーラ「失礼します」
ガチャ……。
国王「その声は……我が娘レーラだな」
レーラ「……お、お父様……」
国王「もっと近くに来てくれ……ほらっ」
レーラ「はい……」
国王「ふむ……協議から帰って来たのか」
国王「それなのに、お前の顔が見れないとはな……」
国王「……手を、握ってくれ」
レーラ「……っ」
ぎゅっ……。
レーラ「お、お父様っ」
国王「おぉ……肌の温もりが伝わるぞ……」
636: 2010/10/20(水) 19:22:21.43 ID:yxUfJB2T0
国王「どうだ? 協議はうまくいったか?」
レーラ「…………」
国王「病人だと思って気を遣うな……」
国王「身体はガタが来ているが、頭はまだはっきりしている」
レーラ「……お父様、実は……」
国王「……ふむ、その様子だと、良い報せではないようだ」
レーラ「近いうちに、大きな戦が起こります」
レーラ「リスト公は援軍要請をし、ガザムはそれを受けるでしょう」
国王「森の民を今以上に虐げるつもりだな……」
国王「リストの小僧め……何も理解はしておらぬ」
国王「それでレーラ、お前はそれに何と言った?」
レーラ「……我が国は、この戦を絶対に認めないこと」
レーラ「行った場合、敵対する意志があるとのことを伝えました」
レーラ「…………」
国王「病人だと思って気を遣うな……」
国王「身体はガタが来ているが、頭はまだはっきりしている」
レーラ「……お父様、実は……」
国王「……ふむ、その様子だと、良い報せではないようだ」
レーラ「近いうちに、大きな戦が起こります」
レーラ「リスト公は援軍要請をし、ガザムはそれを受けるでしょう」
国王「森の民を今以上に虐げるつもりだな……」
国王「リストの小僧め……何も理解はしておらぬ」
国王「それでレーラ、お前はそれに何と言った?」
レーラ「……我が国は、この戦を絶対に認めないこと」
レーラ「行った場合、敵対する意志があるとのことを伝えました」
637: 2010/10/20(水) 19:24:42.16 ID:yxUfJB2T0
国王「……そうだ、それで良い」
国王「お前を行かせて正解であった」
レーラ「……お父様」
レーラ「早く良くなってくださいっ……」
国王「……そうしたいのは山々だが、分かってしまうのだ……」
国王「我は……もう長くは生きられぬ」
レーラ「……そんなこと、そんなこと言わないで……」
国王「聞け……レーラ」
国王「我が国の意味を、引き継いだ命を」
国王「決して忘れてはならぬ。どんな時であってもな……」
レーラ「……はい」
国王「あの森を我らは冒してはならぬのだ」
国王「それが決まりだ、長きに伝え聞いた意志だ」
国王「お前を行かせて正解であった」
レーラ「……お父様」
レーラ「早く良くなってくださいっ……」
国王「……そうしたいのは山々だが、分かってしまうのだ……」
国王「我は……もう長くは生きられぬ」
レーラ「……そんなこと、そんなこと言わないで……」
国王「聞け……レーラ」
国王「我が国の意味を、引き継いだ命を」
国王「決して忘れてはならぬ。どんな時であってもな……」
レーラ「……はい」
国王「あの森を我らは冒してはならぬのだ」
国王「それが決まりだ、長きに伝え聞いた意志だ」
639: 2010/10/20(水) 19:25:32.77 ID:yxUfJB2T0
レーラ「……この戦、森の民は負けるでしょうか」
国王「……どうせ、リストは彼らを甘く見ているのだろう」
国王「だが実際のところ、人間たちは厳しい闘いを迫られるはずだ」
国王「ただ、それによって多くの犠牲が生まれてしまう……」
レーラ「……この事を、我が国の彼らに……伝えては?」
国王「それは無理だ……」
国王「交流が途絶えて久しい。我らを受け入れてはくれぬだろう……」
レーラ「……では、どうすれば……」
国王「兵の準備をせよ」
レーラ「…………」
国王「……しかる時に、備えてな」
国王「ガザムの動向が、少しばかり気にかかるのだ」
国王「……どうせ、リストは彼らを甘く見ているのだろう」
国王「だが実際のところ、人間たちは厳しい闘いを迫られるはずだ」
国王「ただ、それによって多くの犠牲が生まれてしまう……」
レーラ「……この事を、我が国の彼らに……伝えては?」
国王「それは無理だ……」
国王「交流が途絶えて久しい。我らを受け入れてはくれぬだろう……」
レーラ「……では、どうすれば……」
国王「兵の準備をせよ」
レーラ「…………」
国王「……しかる時に、備えてな」
国王「ガザムの動向が、少しばかり気にかかるのだ」
658: 2010/10/20(水) 21:43:21.96 ID:yxUfJB2T0
──ローラの家
男「少し聞きたいことがあるんだが、今いいか?」
ローラ「構わない」
男「ありがとう」
男「この世界に人間がいることは前に聞いたんだが」
男「一体、どのような暮らしをしているんだ?」
ローラ「……何だ、気になるのか」
男「まだこっちに来たばかりだから、情報を得たいんだ」
ローラ「ふむ……」
メル「お兄ちゃん、いなくなるの……?」
男「はは……大丈夫だよ」
男「ここから離れる気は更々ないさ」
ローラ「……本当か?」
男「飯も住まいも提供してもらって……それに、君達の話を聞いてしまった今は」
男「同じ人間ではあるが、相容れないと思う」
男「少し聞きたいことがあるんだが、今いいか?」
ローラ「構わない」
男「ありがとう」
男「この世界に人間がいることは前に聞いたんだが」
男「一体、どのような暮らしをしているんだ?」
ローラ「……何だ、気になるのか」
男「まだこっちに来たばかりだから、情報を得たいんだ」
ローラ「ふむ……」
メル「お兄ちゃん、いなくなるの……?」
男「はは……大丈夫だよ」
男「ここから離れる気は更々ないさ」
ローラ「……本当か?」
男「飯も住まいも提供してもらって……それに、君達の話を聞いてしまった今は」
男「同じ人間ではあるが、相容れないと思う」
659: 2010/10/20(水) 21:44:15.74 ID:yxUfJB2T0
ローラ「なら、どうして聞きたい?」
男「この世界のことを少しでも知っておきたい」
男「……駄目か?」
ローラ「……ん」
ローラ「実のところ、わたしもよくは知らない」
ローラ「人間たちは森の先の川を越えて、やってくる」
男「……川」
ローラ「言葉を交わした事は一度もなかった」
ローラ「初めて間近で見たのは、男……お前が初めてだ」
男「……そうか」
ローラ「長老なら色々知っているかもしれないが」
ローラ「後は、言い伝えのことしか、わたしは知らないな」
男「言い伝え?」
ローラ「人間たちの土地は国という単位で分かれていて」
ローラ「時に同じ種族同士で争い、頃し合う」
男「この世界のことを少しでも知っておきたい」
男「……駄目か?」
ローラ「……ん」
ローラ「実のところ、わたしもよくは知らない」
ローラ「人間たちは森の先の川を越えて、やってくる」
男「……川」
ローラ「言葉を交わした事は一度もなかった」
ローラ「初めて間近で見たのは、男……お前が初めてだ」
男「……そうか」
ローラ「長老なら色々知っているかもしれないが」
ローラ「後は、言い伝えのことしか、わたしは知らないな」
男「言い伝え?」
ローラ「人間たちの土地は国という単位で分かれていて」
ローラ「時に同じ種族同士で争い、頃し合う」
660: 2010/10/20(水) 21:45:24.45 ID:yxUfJB2T0
男「…………」
ローラ「わたしたちには理解できないがな」
男「……ああ」
ローラ「少しだけだが、役に立てたか?」
男「……ん、ありがとう」
ローラ「…………」
ローラ「……そうだ」
ローラ「言い忘れていたんだが、今日、セヌが家へ戻ってくる」
男「もう身体は大丈夫なのか?」
ローラ「元気が有り余ってるぞ」
ローラ「お前と勝負すんだと今から意気込んでいた」
男「はは、それは覚悟しないとな」
ローラ「…………」
ローラ「……なあ、男」
ローラ「わたしたちには理解できないがな」
男「……ああ」
ローラ「少しだけだが、役に立てたか?」
男「……ん、ありがとう」
ローラ「…………」
ローラ「……そうだ」
ローラ「言い忘れていたんだが、今日、セヌが家へ戻ってくる」
男「もう身体は大丈夫なのか?」
ローラ「元気が有り余ってるぞ」
ローラ「お前と勝負すんだと今から意気込んでいた」
男「はは、それは覚悟しないとな」
ローラ「…………」
ローラ「……なあ、男」
661: 2010/10/20(水) 21:46:27.48 ID:yxUfJB2T0
男「ん?」
ローラ「お前は……」
ガチャっ……。
ドン「おいっ、話があるっ」
ローラ「……なんてタイミングの悪いやつだ」
男「ん? ドンか。酒の誘いなら今日は無理だぞ?」
ドン「そういうことじゃねぇ……まぁ、それもあったけどなっ」
男「セヌが今日は帰ってくるんだ。皆で歓迎してやらないといけない」
ドン「そうかっ、それは良い報せだっ」
ローラ「……話がそれだけなら、さっさと帰れ」
ローラ「お前は……」
ガチャっ……。
ドン「おいっ、話があるっ」
ローラ「……なんてタイミングの悪いやつだ」
男「ん? ドンか。酒の誘いなら今日は無理だぞ?」
ドン「そういうことじゃねぇ……まぁ、それもあったけどなっ」
男「セヌが今日は帰ってくるんだ。皆で歓迎してやらないといけない」
ドン「そうかっ、それは良い報せだっ」
ローラ「……話がそれだけなら、さっさと帰れ」
662: 2010/10/20(水) 21:47:22.09 ID:yxUfJB2T0
ドン「相変わらず、きつい女だな、お前……」
ドン「よし、本題に入るぞっ」
ローラ「何だ?」
ドン「話はローラにじゃねぇ、男、お前だっ」
男「……おれ?」
ドン「師匠が呼んでるんだ!」
ドン「急がねぇと、二人ともぶっ飛ばされるぞっ?」
ドン「よし、本題に入るぞっ」
ローラ「何だ?」
ドン「話はローラにじゃねぇ、男、お前だっ」
男「……おれ?」
ドン「師匠が呼んでるんだ!」
ドン「急がねぇと、二人ともぶっ飛ばされるぞっ?」
664: 2010/10/20(水) 22:09:16.71 ID:yxUfJB2T0
──広場
たたたっ……。
ドン「し、師匠遅れてすんませんっ」
男「はぁ……はぁ……」
男(こんなに急いで、一体なんだって言うんだ)
男(……ん? ドンが敬語?)
ガダ「…………」
男「あの……」
ガダ「おい、私が言いつけた時間より三分も遅れているぞ」
ドン「す、すんま……」
ガダ「──お前はもう邪魔だっ! さっさと失せろっ!」
ドン「……っ」
ドン「は、はいっ!」
たたたたっ……。
男「……え……」
たたたっ……。
ドン「し、師匠遅れてすんませんっ」
男「はぁ……はぁ……」
男(こんなに急いで、一体なんだって言うんだ)
男(……ん? ドンが敬語?)
ガダ「…………」
男「あの……」
ガダ「おい、私が言いつけた時間より三分も遅れているぞ」
ドン「す、すんま……」
ガダ「──お前はもう邪魔だっ! さっさと失せろっ!」
ドン「……っ」
ドン「は、はいっ!」
たたたたっ……。
男「……え……」
665: 2010/10/20(水) 22:13:51.09 ID:yxUfJB2T0
ガダ「人間、受け取れ」
男「はっ……?」
……グサッ。
男「…………」
男(おいおい、あと少しずれたら俺に刺さってたぞ……?)
男(何だ……何なんだコイツ……)
ガダ「……聞こえなかったのか?」
ガダ「それとも私相手には、剣などいらぬと?」
男「……ち、違うっ」
ガダ「ならば、その剣を地面から抜き取れ」
男「…………」
男(仕方ない、ここは話に乗ろう)
ザッ……。
ガダ「うむ、それでいい」
ガダ「本題の前に、少し会話でも楽しもうぞ。人間よ」
男「はっ……?」
……グサッ。
男「…………」
男(おいおい、あと少しずれたら俺に刺さってたぞ……?)
男(何だ……何なんだコイツ……)
ガダ「……聞こえなかったのか?」
ガダ「それとも私相手には、剣などいらぬと?」
男「……ち、違うっ」
ガダ「ならば、その剣を地面から抜き取れ」
男「…………」
男(仕方ない、ここは話に乗ろう)
ザッ……。
ガダ「うむ、それでいい」
ガダ「本題の前に、少し会話でも楽しもうぞ。人間よ」
667: 2010/10/20(水) 22:21:03.68 ID:yxUfJB2T0
ガダ「まずは、私のこの腕を見よ」
……ドン。
男「……え」
男(う、腕が……外れた……?)
ガダ「勘違いするな、これは義手だ」
ガダ「私には、左手の肘から下が既にない」
ガダ「さてここで質問だ。どうしてだと考える?」
男「……それは」
ガダ「ある日のことだ」
ガダ「お前ら人間たちが川の向こうから、我が村を襲った」
ガダ「この村の男たちは皆、村を守る騎士である」
ガダ「もちろん例外なく、そこの頃の私も戦った」
男「…………」
……ドン。
男「……え」
男(う、腕が……外れた……?)
ガダ「勘違いするな、これは義手だ」
ガダ「私には、左手の肘から下が既にない」
ガダ「さてここで質問だ。どうしてだと考える?」
男「……それは」
ガダ「ある日のことだ」
ガダ「お前ら人間たちが川の向こうから、我が村を襲った」
ガダ「この村の男たちは皆、村を守る騎士である」
ガダ「もちろん例外なく、そこの頃の私も戦った」
男「…………」
669: 2010/10/20(水) 22:30:32.92 ID:yxUfJB2T0
ガダ「今思えば、自らのことを愚かだったと恥じる」
ガダ「戦闘中、若さ故の慢心のせいだったか」
ガダ「私は、前方の仲間に気を取られて、一瞬、油断してしまった」
ガダ「気が付けば、左手の部分に深い傷を負っていた」
ガダ「幸いにも利き腕ではなかったので、痛みを無視して戦ったが」
ガダ「……後になって傷は化膿し、切るしか助かる手段はなかった」
人間「…………」
ガダ「私はこの村の戦士を教育している」
ガダ「今現在、村にいる男どもは皆、私が一から教えたのだ」
ガダ「ならば私に聞け、人間」
ガダ「それ以外の他の者は……一体どうしたのかと?」
男「……っ」
ガダ「氏んだのだ」
ガダ「私の同期も友人も、みな既に故人となった」
ガダ「人間、お前ならば分かるだろう?」
ガダ「戦闘中、若さ故の慢心のせいだったか」
ガダ「私は、前方の仲間に気を取られて、一瞬、油断してしまった」
ガダ「気が付けば、左手の部分に深い傷を負っていた」
ガダ「幸いにも利き腕ではなかったので、痛みを無視して戦ったが」
ガダ「……後になって傷は化膿し、切るしか助かる手段はなかった」
人間「…………」
ガダ「私はこの村の戦士を教育している」
ガダ「今現在、村にいる男どもは皆、私が一から教えたのだ」
ガダ「ならば私に聞け、人間」
ガダ「それ以外の他の者は……一体どうしたのかと?」
男「……っ」
ガダ「氏んだのだ」
ガダ「私の同期も友人も、みな既に故人となった」
ガダ「人間、お前ならば分かるだろう?」
677: 2010/10/20(水) 22:41:14.29 ID:yxUfJB2T0
ガダ「そうだっ」
ガダ「貴様たち人間に、我が同胞は殺されたっ」
男「…………」
ガダ「構えよ」
男「……俺を、頃すのか?」
ガダ「…………」
たたたっ……。
男「くっ……」
キィィィンッ……。
男「……あんた……」
ぐぐぐぐっ。
ガダ「どうだっ、我が剣の重みはっ!?」
男「うぅぅっ」
ガダ「一瞬も力を抜くなっ!」
ガダ「今貴様が持っているその剣は、自らの身を守る唯一の武器だっ!」
ガダ「貴様たち人間に、我が同胞は殺されたっ」
男「…………」
ガダ「構えよ」
男「……俺を、頃すのか?」
ガダ「…………」
たたたっ……。
男「くっ……」
キィィィンッ……。
男「……あんた……」
ぐぐぐぐっ。
ガダ「どうだっ、我が剣の重みはっ!?」
男「うぅぅっ」
ガダ「一瞬も力を抜くなっ!」
ガダ「今貴様が持っているその剣は、自らの身を守る唯一の武器だっ!」
680: 2010/10/20(水) 22:48:23.26 ID:yxUfJB2T0
ぐぐぐぐッ!
男「……っ」
男「うおぉぉぉっ!」
キィィィンっ!
ザザザっ……。
ガダ「老輩の私とはいえ、まさか貴様が競り勝つとはな」
男「……はぁっ……はぁっ……」
ガダ「剣が重いか? 少しだけだったのに、疲れるであろう?」
男「……はっ……はっ」
ガダ「しかし、命を懸けた争いとはそれの無限である」
ガダ「一瞬が、全てを決める。そして、油断が貴様の命を頃すっ」
男「…………」
ガダ「その重みを一時も忘れるな」
ガダ「今日から、その剣は貴様のものとなる」
男「……え」
男「……っ」
男「うおぉぉぉっ!」
キィィィンっ!
ザザザっ……。
ガダ「老輩の私とはいえ、まさか貴様が競り勝つとはな」
男「……はぁっ……はぁっ……」
ガダ「剣が重いか? 少しだけだったのに、疲れるであろう?」
男「……はっ……はっ」
ガダ「しかし、命を懸けた争いとはそれの無限である」
ガダ「一瞬が、全てを決める。そして、油断が貴様の命を頃すっ」
男「…………」
ガダ「その重みを一時も忘れるな」
ガダ「今日から、その剣は貴様のものとなる」
男「……え」
681: 2010/10/20(水) 22:56:14.02 ID:yxUfJB2T0
ガダ「残念なことに、我が村では鉄を精製することは出来ぬ」
ガダ「故に、その剣は我らにとって希少なものだ」
ガダ「歴代の戦士たちが、その剣を持って戦った」
ガダ「心を込め、想いを託して……そして氏んでいった」
ガダ「分かるだろう」
ガダ「それを貴様に授ける意味を」
ガダ「そこに込められた本当の心を」
男「……う、あ」
ガダ「人間……いや、男よ」
ガダ「私が村の長を代弁して、最後に貴様に問おう」
ガダ「我らのために、この村の民のために」
男「……あ……ああ」
ガダ「──貴様は命を捨てられるか?」
男「…………」
男「……はいっ!」
ガダ「故に、その剣は我らにとって希少なものだ」
ガダ「歴代の戦士たちが、その剣を持って戦った」
ガダ「心を込め、想いを託して……そして氏んでいった」
ガダ「分かるだろう」
ガダ「それを貴様に授ける意味を」
ガダ「そこに込められた本当の心を」
男「……う、あ」
ガダ「人間……いや、男よ」
ガダ「私が村の長を代弁して、最後に貴様に問おう」
ガダ「我らのために、この村の民のために」
男「……あ……ああ」
ガダ「──貴様は命を捨てられるか?」
男「…………」
男「……はいっ!」
683: 2010/10/20(水) 23:02:43.97 ID:yxUfJB2T0
男(どうしてだろう……思い出す)
男(前の世界の日々を……)
男(何もかもが薄らいで見えた、あの毎日を……)
ガダ「……ならば、もう私から言う事はない」
男「……っ」
ガダ「実は、長老にはもっと前から打診されていたが」
ガダ「お前を見極めるために……少々、数日間、時間をおいた」
ガダ「……しかし」
ガダ「その間のお前は、村の仲間と話し、心を分かち合い」
ガダ「共に住まう者からは大きな信頼を得ていた」
男「……うぅ……ああ……」
男(俺は何をしに来たんだろう……)
男(前の世界に嫌気がさして……氏のうとして……)
ガダ「故に、問題は全くないと判断した」
ガダ「それが私の結論だ」
男(前の世界の日々を……)
男(何もかもが薄らいで見えた、あの毎日を……)
ガダ「……ならば、もう私から言う事はない」
男「……っ」
ガダ「実は、長老にはもっと前から打診されていたが」
ガダ「お前を見極めるために……少々、数日間、時間をおいた」
ガダ「……しかし」
ガダ「その間のお前は、村の仲間と話し、心を分かち合い」
ガダ「共に住まう者からは大きな信頼を得ていた」
男「……うぅ……ああ……」
男(俺は何をしに来たんだろう……)
男(前の世界に嫌気がさして……氏のうとして……)
ガダ「故に、問題は全くないと判断した」
ガダ「それが私の結論だ」
685: 2010/10/20(水) 23:07:57.10 ID:yxUfJB2T0
男(本当の意味で親しい人間は一人もいなくて)
男(生きているのに……何故か、いつも氏んでいる気がした)
ガダ「そして……今のお前の決意を聞いた」
男「ああ……あああ……」
男(だから、俺はこの世界にやってきた)
男(変えるため……自分自身の存在を変えるために……)
男(……それは)
ガダ「今日から、男。お前は……」
男「………あっ」
男(この世界に必要とされたい、その一心)
男(……でも)
男(生きているのに……何故か、いつも氏んでいる気がした)
ガダ「そして……今のお前の決意を聞いた」
男「ああ……あああ……」
男(だから、俺はこの世界にやってきた)
男(変えるため……自分自身の存在を変えるために……)
男(……それは)
ガダ「今日から、男。お前は……」
男「………あっ」
男(この世界に必要とされたい、その一心)
男(……でも)
686: 2010/10/20(水) 23:11:52.24 ID:yxUfJB2T0
男(……分かる……今なら分かる)
男(世界なんて……大それたものじゃなくて……)
ガダ「──本当の意味で、村の仲間の一員となる」
ガダ「……村を、この村の仲間を、守ってくれ」
ガダ「我々には、お前が必要だ」
男「…………」
男(俺は……)
男「あああっ……あああっ……」
男(誰かに認められたい、必要とされたい)
男(……ただそれだけだったんだ)
男(世界なんて……大それたものじゃなくて……)
ガダ「──本当の意味で、村の仲間の一員となる」
ガダ「……村を、この村の仲間を、守ってくれ」
ガダ「我々には、お前が必要だ」
男「…………」
男(俺は……)
男「あああっ……あああっ……」
男(誰かに認められたい、必要とされたい)
男(……ただそれだけだったんだ)
689: 2010/10/20(水) 23:21:32.56 ID:yxUfJB2T0
──ゼド公国 首都アベル
リスト「…………」
宰相「…………」
リスト「……くく」
リスト「くははははっ」
宰相「……決まったのですか」
リスト「そうだ、その通りだ、宰相」
リスト「帝国ガザムは我々に協力することが正式に決まった」
宰相「……では」
リスト「圧倒的な戦力が構築された」
宰相「…………」
リスト「一ヶ月後……」
リスト「──我が軍はっ、森の民を駆逐するっ!」
リスト「…………」
宰相「…………」
リスト「……くく」
リスト「くははははっ」
宰相「……決まったのですか」
リスト「そうだ、その通りだ、宰相」
リスト「帝国ガザムは我々に協力することが正式に決まった」
宰相「……では」
リスト「圧倒的な戦力が構築された」
宰相「…………」
リスト「一ヶ月後……」
リスト「──我が軍はっ、森の民を駆逐するっ!」
807: 2010/10/22(金) 05:05:35.17 ID:BzWCK0xz0
──広場
キィィィン……。
ガダ「そこまで」
男「はぁ……はぁ……」
ダン「短期間だけど、中々様になるようになったじゃねぇか」
ダン「だが、俺に比べればまだまだだ」
男「はは……お褒めの言葉ありがとうな」
男「しかしこのままだと、いざってときにすぐ氏んじまう……」
ガダ「戦いの時になったら、基本的には二人組だ」
ガダ「一対一で戦おうなどと思うな。だから、そこまで心配することはない」
男「そこまで、相手は強敵なのか?」
ガダ「その時になれば分かる。今は鍛錬に集中していればいい」
ドン「そうだ、男。人間では珍しく弱いんだからな」
男「……頑張るしかないか」
キィィィン……。
ガダ「そこまで」
男「はぁ……はぁ……」
ダン「短期間だけど、中々様になるようになったじゃねぇか」
ダン「だが、俺に比べればまだまだだ」
男「はは……お褒めの言葉ありがとうな」
男「しかしこのままだと、いざってときにすぐ氏んじまう……」
ガダ「戦いの時になったら、基本的には二人組だ」
ガダ「一対一で戦おうなどと思うな。だから、そこまで心配することはない」
男「そこまで、相手は強敵なのか?」
ガダ「その時になれば分かる。今は鍛錬に集中していればいい」
ドン「そうだ、男。人間では珍しく弱いんだからな」
男「……頑張るしかないか」
808: 2010/10/22(金) 05:06:38.91 ID:BzWCK0xz0
ドン「まあ、その時になったら、氏ぬ気で戦えばいい」
ドン「恐らくお前と組むことになるのは、俺だからな」
ガダ「……そのことなんだが」
ガダ「もしかしたら、ドンと男は組まないかもしれん」
ドン「えっ……師匠、前の話だと…」
ガダ「少し考えていることがあってな……男」
男「はい?」
ガダ「ちょっとこの後付き合ってくれ」
ガダ「お前に話しておきたいことがある」
ドン「恐らくお前と組むことになるのは、俺だからな」
ガダ「……そのことなんだが」
ガダ「もしかしたら、ドンと男は組まないかもしれん」
ドン「えっ……師匠、前の話だと…」
ガダ「少し考えていることがあってな……男」
男「はい?」
ガダ「ちょっとこの後付き合ってくれ」
ガダ「お前に話しておきたいことがある」
810: 2010/10/22(金) 05:26:19.42 ID:BzWCK0xz0
──森
とことことこ……。
男「結構奥深くまで来てるけど、どこまで行くんだ?」
ガダ「……もう少しだ」
男「さっきからそればかりだな……」
ガダ「文句言わずについてこい」
男「……はぁ」
ガダ「退屈そうだな」
男「そりゃあ、こう何時間も歩きっぱなしだとな」
ガダ「ならば、少し話をしよう」
男「ん?」
ガダ「戦場での話だ。よく聞いておけ」
男「…………」
とことことこ……。
男「結構奥深くまで来てるけど、どこまで行くんだ?」
ガダ「……もう少しだ」
男「さっきからそればかりだな……」
ガダ「文句言わずについてこい」
男「……はぁ」
ガダ「退屈そうだな」
男「そりゃあ、こう何時間も歩きっぱなしだとな」
ガダ「ならば、少し話をしよう」
男「ん?」
ガダ「戦場での話だ。よく聞いておけ」
男「…………」
811: 2010/10/22(金) 05:27:01.57 ID:BzWCK0xz0
ガダ「争いの時になると、村の男どもは広場へ集められ」
ガダ「身体に装飾などを施した後、六人ほどの隊を作る」
ガダ「だが、基本的には二人一組だ」
ガダ「なぜか、分かるか?」
男「……いや」
ガダ「ん……」
男「教えてくれないのか?」
ガダ「…………」
ガダ「……男、お前に聞きたいことがある」
ガサ……。
ガダ「お前は、これを見た事があるか?」
男「なんだ……これ」
男(黒い玉……?)
ガダ「……ふむ」
ガダ「身体に装飾などを施した後、六人ほどの隊を作る」
ガダ「だが、基本的には二人一組だ」
ガダ「なぜか、分かるか?」
男「……いや」
ガダ「ん……」
男「教えてくれないのか?」
ガダ「…………」
ガダ「……男、お前に聞きたいことがある」
ガサ……。
ガダ「お前は、これを見た事があるか?」
男「なんだ……これ」
男(黒い玉……?)
ガダ「……ふむ」
813: 2010/10/22(金) 05:28:09.63 ID:BzWCK0xz0
ガダ「そうか、そういうことか」
男「はっ? ちょっと待て、自己完結しないでくれ」
ガダ「……いや」
ガダ「もしかしたら、私は大きな誤解をしていたのかもしれぬ」
男「へ?」
ガダ「……話すと長くなるが」
ガダ「昔から、私には一つ気になることがあったのだ」
男「……気になること」
ガダ「お前が来てからというもの、それを考える機会も多くなった」
ガダ「だが……これまで、それに対する確証は持てなかった」
男「…………」
ガダ「本当は、今すぐにでもお前に話してやりたい」
男「はっ? ちょっと待て、自己完結しないでくれ」
ガダ「……いや」
ガダ「もしかしたら、私は大きな誤解をしていたのかもしれぬ」
男「へ?」
ガダ「……話すと長くなるが」
ガダ「昔から、私には一つ気になることがあったのだ」
男「……気になること」
ガダ「お前が来てからというもの、それを考える機会も多くなった」
ガダ「だが……これまで、それに対する確証は持てなかった」
男「…………」
ガダ「本当は、今すぐにでもお前に話してやりたい」
814: 2010/10/22(金) 05:29:36.51 ID:BzWCK0xz0
ガダ「しかし……間違えた不安を与えてしまうのは、私の意ではない」
ガダ「……それに、後少しで自然と分かる事だ」
男「……どういうことだ?」
ガダ「…………」
ガダ「この話は、また今度にしよう」
男「おい、待ってく……」
ガダ「ほら、聞こえてきただろ?」
ざざざざざ……。
男「ん……これは何の……?」
ガダ「そろそろ、着きそうだな」
男「着くって……」
ガダ「川だよ」
ガダ「……それに、後少しで自然と分かる事だ」
男「……どういうことだ?」
ガダ「…………」
ガダ「この話は、また今度にしよう」
男「おい、待ってく……」
ガダ「ほら、聞こえてきただろ?」
ざざざざざ……。
男「ん……これは何の……?」
ガダ「そろそろ、着きそうだな」
男「着くって……」
ガダ「川だよ」
817: 2010/10/22(金) 05:58:04.81 ID:BzWCK0xz0
──ゼド公国 首都アベル
宰相「兵の準備が整いました、すぐにでも出立出来ます」
リスト「ふむ」
宰相「あとは、リスト公のみです」
リスト「よし」
リスト「兵の士気を高めてくるか」
宰相「はっ」
とことことこ……。
リスト「そうだ、ガザムの兵は到着したか?」
宰相「いえ、戦場に直接向かうようです」
リスト「ふむ……もう国境は越えたのだな?」
宰相「二日前に、そのように連絡が来ております」
リスト「ならばよい。向こうで合流しようではないか」
宰相「兵の準備が整いました、すぐにでも出立出来ます」
リスト「ふむ」
宰相「あとは、リスト公のみです」
リスト「よし」
リスト「兵の士気を高めてくるか」
宰相「はっ」
とことことこ……。
リスト「そうだ、ガザムの兵は到着したか?」
宰相「いえ、戦場に直接向かうようです」
リスト「ふむ……もう国境は越えたのだな?」
宰相「二日前に、そのように連絡が来ております」
リスト「ならばよい。向こうで合流しようではないか」
818: 2010/10/22(金) 05:59:14.47 ID:BzWCK0xz0
宰相「……っ」
「おおおおおおおおぉぉっ!』
リスト「……ふむ」
宰相「兵の士気は既に十分のようですな」
リスト「はは、我が国の兵は頼もしいではないか」
宰相「みな、公のお言葉を待っております」
リスト「…………」
さっ……。
『…………』
宰相(手を翳しただけで、一瞬で静まり返ったか……)
リスト「我が国の強き猛者たちよ」
リスト「これから、我れらは憎き仇敵を倒しに行く」
リスト「長年にわたる闘争」
リスト「幾度も勝負を挑み、そして、多くの命が犠牲となった」
「おおおおおおおおぉぉっ!』
リスト「……ふむ」
宰相「兵の士気は既に十分のようですな」
リスト「はは、我が国の兵は頼もしいではないか」
宰相「みな、公のお言葉を待っております」
リスト「…………」
さっ……。
『…………』
宰相(手を翳しただけで、一瞬で静まり返ったか……)
リスト「我が国の強き猛者たちよ」
リスト「これから、我れらは憎き仇敵を倒しに行く」
リスト「長年にわたる闘争」
リスト「幾度も勝負を挑み、そして、多くの命が犠牲となった」
819: 2010/10/22(金) 06:00:02.27 ID:BzWCK0xz0
リスト「しかし、未だ奴らを跪けるまでには至っておらぬ」
『…………』
リスト「……だが」
リスト「──それも、此度で終わりを迎えるっ!」
「うおおおおぉぉっ!』
リスト「ガザム帝国の兵たちと力を合わせ!」
リスト「奴らを一掃するのだっ!」
リスト「殺せっ! 異種族共をっ!」
リスト「殺せっ! 同胞の敵をっ!」
リスト「さすればっ、我が国はついにこの戦さに終止符を打つ事が出来ようっ!」
リスト「共に行こうではないかっ! 戦場の地へっ!」
「うおおおおおおおおぉぉっ!』
『リスト公万歳っ! リスト公万歳っ!』
リスト「ゼドに栄光あれっ!」
『…………』
リスト「……だが」
リスト「──それも、此度で終わりを迎えるっ!」
「うおおおおぉぉっ!』
リスト「ガザム帝国の兵たちと力を合わせ!」
リスト「奴らを一掃するのだっ!」
リスト「殺せっ! 異種族共をっ!」
リスト「殺せっ! 同胞の敵をっ!」
リスト「さすればっ、我が国はついにこの戦さに終止符を打つ事が出来ようっ!」
リスト「共に行こうではないかっ! 戦場の地へっ!」
「うおおおおおおおおぉぉっ!』
『リスト公万歳っ! リスト公万歳っ!』
リスト「ゼドに栄光あれっ!」
822: 2010/10/22(金) 06:27:57.30 ID:BzWCK0xz0
──森
男「……流れが結構早いな」
ガザ「深くはないが、足を取られると流されるぞ」
男「……この向こうに人間が」
ガザ「……聞いた事はあるか?」
ガザ「川を越えた森の奥に結界がある」
男「……結界」
ガザ「今日は行きはせんが、石像が二つ立っておるのだ」
ガザ「その間を通った者がいると、我が村にある石が赤く光る」
男「どういった原理で?」
ガザ「私も知らぬ。ずっと昔からあるのでだな」
男「凄い技術だ……」
男「……流れが結構早いな」
ガザ「深くはないが、足を取られると流されるぞ」
男「……この向こうに人間が」
ガザ「……聞いた事はあるか?」
ガザ「川を越えた森の奥に結界がある」
男「……結界」
ガザ「今日は行きはせんが、石像が二つ立っておるのだ」
ガザ「その間を通った者がいると、我が村にある石が赤く光る」
男「どういった原理で?」
ガザ「私も知らぬ。ずっと昔からあるのでだな」
男「凄い技術だ……」
824: 2010/10/22(金) 06:56:37.06 ID:BzWCK0xz0
ガザ「覚えておけ」
ガザ「この川が、戦の時は最後の防衛線だ」
ガザ「ここを奴らが越えそうになった場合、村を捨てねばならぬ」
ガザ「昔は……川の向こうの森に住んでいたのだ」
男「…………」
ガザ「そして今ではここまで来た」
ガザ「反対側には大きな崖があるのでな」
ガザ「今度、ここを越えられたら……終わりかもしれぬな」
男「……何としても、食い止めないと」
ガザ「ふむ、そうだな……」
ガザ「よし、そろそろ戻ろうか」
ガザ「この川が、戦の時は最後の防衛線だ」
ガザ「ここを奴らが越えそうになった場合、村を捨てねばならぬ」
ガザ「昔は……川の向こうの森に住んでいたのだ」
男「…………」
ガザ「そして今ではここまで来た」
ガザ「反対側には大きな崖があるのでな」
ガザ「今度、ここを越えられたら……終わりかもしれぬな」
男「……何としても、食い止めないと」
ガザ「ふむ、そうだな……」
ガザ「よし、そろそろ戻ろうか」
845: 2010/10/22(金) 18:45:05.09 ID:BzWCK0xz0
帰宅したので、最後まで書き溜めてきます。
しばらくお待ちください。。
しばらくお待ちください。。
892: 2010/10/23(土) 01:56:57.35 ID:1Hz7kUDb0
──ローラの家
男「ただいま」
ローラ「おっ、帰ったか」
ローラ「しかし、今日はいつもより帰りが遅かったな」
男「実は、ガザに連れられて川の方まで行ってきたんだ」
ローラ「……川か」
男「ああ、だから帰ってくるのに時間がかかった」
ローラ「ふむ……あの人にも何か考えがありそうだな」
男「それらしいことは言っていたが、最後まで教えてくれなかったよ」
ローラ「そうか……なら仕方ないな」
ローラ「気を取り直して、ご飯にしようか」
男「そうだな……ん、いい匂いがするぞ」
ローラ「はは、セヌが聞いたら喜ぶ」
男「えっ、セヌ?」
ローラ「今日は、あの子が初めて夕飯を作ったんだ」
男「ただいま」
ローラ「おっ、帰ったか」
ローラ「しかし、今日はいつもより帰りが遅かったな」
男「実は、ガザに連れられて川の方まで行ってきたんだ」
ローラ「……川か」
男「ああ、だから帰ってくるのに時間がかかった」
ローラ「ふむ……あの人にも何か考えがありそうだな」
男「それらしいことは言っていたが、最後まで教えてくれなかったよ」
ローラ「そうか……なら仕方ないな」
ローラ「気を取り直して、ご飯にしようか」
男「そうだな……ん、いい匂いがするぞ」
ローラ「はは、セヌが聞いたら喜ぶ」
男「えっ、セヌ?」
ローラ「今日は、あの子が初めて夕飯を作ったんだ」
893: 2010/10/23(土) 01:57:44.33 ID:1Hz7kUDb0
セヌ『姉さんっ、男は帰ってきたのかーっ?』
ローラ「お前がいつもの時間に帰ってこないから」
ローラ「椅子に腰掛けて、ずっとそわそわし続けてる」
男「…………」
ローラ「男なら、今、帰って来たぞー」
セヌ『ほ、ホントかっ……ええと、準備、準備……』
メル『お姉ちゃんっ、まずは料理を温めないとっ』
セヌ『そうだっ、完全に忘れてたっ』
ローラ「なっ?」
男「……あいつ、珍しく慌ててるぞ」
ローラ「はは、やっぱりセヌは可愛らしいな」
男「……まあ、あの口を開かなければだけど」
ローラ「よし、行こうか」
ローラ「温かくて美味い料理がお前を待っている」
男「……期待してる」
ローラ「お前がいつもの時間に帰ってこないから」
ローラ「椅子に腰掛けて、ずっとそわそわし続けてる」
男「…………」
ローラ「男なら、今、帰って来たぞー」
セヌ『ほ、ホントかっ……ええと、準備、準備……』
メル『お姉ちゃんっ、まずは料理を温めないとっ』
セヌ『そうだっ、完全に忘れてたっ』
ローラ「なっ?」
男「……あいつ、珍しく慌ててるぞ」
ローラ「はは、やっぱりセヌは可愛らしいな」
男「……まあ、あの口を開かなければだけど」
ローラ「よし、行こうか」
ローラ「温かくて美味い料理がお前を待っている」
男「……期待してる」
894: 2010/10/23(土) 01:58:27.09 ID:1Hz7kUDb0
もぐもぐ。
セヌ「……ど、どうだ……?」
セヌ「見た目は悪いかもしれないが……自信がない訳じゃないんだ」
男「……ん」
セヌ「……どう?」
男「……これを言うのは、なんか癪だけどなあ」
男「嘘は付けないからな、正直に言うか」
セヌ「ど、どういうことだっ、はっきりしろよっ!」
男「……美味しい」
セヌ「へ?」
男「お前の作った料理、おいしいぞ」
セヌ「ほ、本当……か?」
男「この味は俺の好みかもしれん」
男「前の世界でよく食べていたものに、味付けが似てるんだ」
男「セヌ、お前、料理の才能あるかもしれないな」
セヌ「……ど、どうだ……?」
セヌ「見た目は悪いかもしれないが……自信がない訳じゃないんだ」
男「……ん」
セヌ「……どう?」
男「……これを言うのは、なんか癪だけどなあ」
男「嘘は付けないからな、正直に言うか」
セヌ「ど、どういうことだっ、はっきりしろよっ!」
男「……美味しい」
セヌ「へ?」
男「お前の作った料理、おいしいぞ」
セヌ「ほ、本当……か?」
男「この味は俺の好みかもしれん」
男「前の世界でよく食べていたものに、味付けが似てるんだ」
男「セヌ、お前、料理の才能あるかもしれないな」
895: 2010/10/23(土) 01:59:21.63 ID:1Hz7kUDb0
セヌ「……っ」
セヌ「やったあああぁぁぁっ!」
セヌ「ほらみろっ、わたしを見直せっ! 本当はやれば出来る子なんだっ!」
ローラ「はは、とっても嬉しそうだな」
メル「お兄ちゃんが帰ってくるまで、あんなにオドオドしてたのに」
セヌ「こらっ、そこ余計なこと言うなっ!」
男「今回は完全に俺の負けだな」
男「ここまで上手にやられたら、嘘も付けない」
セヌ「そ、そんなに褒めるなよぉ……」
男「いや本当にさ」
男「正直、お嫁さんに貰いたいくらいおいしいぞ」
ローラ「……ん?」
メル「およめさん?」
セヌ「え、えぇ……?」
男「……ん、うまいうまい」
セヌ「やったあああぁぁぁっ!」
セヌ「ほらみろっ、わたしを見直せっ! 本当はやれば出来る子なんだっ!」
ローラ「はは、とっても嬉しそうだな」
メル「お兄ちゃんが帰ってくるまで、あんなにオドオドしてたのに」
セヌ「こらっ、そこ余計なこと言うなっ!」
男「今回は完全に俺の負けだな」
男「ここまで上手にやられたら、嘘も付けない」
セヌ「そ、そんなに褒めるなよぉ……」
男「いや本当にさ」
男「正直、お嫁さんに貰いたいくらいおいしいぞ」
ローラ「……ん?」
メル「およめさん?」
セヌ「え、えぇ……?」
男「……ん、うまいうまい」
897: 2010/10/23(土) 02:00:02.12 ID:1Hz7kUDb0
もぐもぐ……。
ローラ「……男、今のはどういうことだ」
メル「ええと、『およめさん』っていうのは、奥さんだっけ?」
セヌ「……わ、わたしがおよめさん……」
セヌ「……お、男の……」
ローラ「…………」
男「……どうしたんだローラ、そんな怖い顔して……」
ローラ「……失礼なやつだ」
ローラ「そんな顔は断じてしていない」
男「今にも、噛み付かんばかりの表情だけど……」
ローラ「気のせいだ」
男「……なんだこれ、今、なんか危機なの……?」
メル「お兄ちゃんっ」
男「どうした、メルまで……?」
ローラ「……男、今のはどういうことだ」
メル「ええと、『およめさん』っていうのは、奥さんだっけ?」
セヌ「……わ、わたしがおよめさん……」
セヌ「……お、男の……」
ローラ「…………」
男「……どうしたんだローラ、そんな怖い顔して……」
ローラ「……失礼なやつだ」
ローラ「そんな顔は断じてしていない」
男「今にも、噛み付かんばかりの表情だけど……」
ローラ「気のせいだ」
男「……なんだこれ、今、なんか危機なの……?」
メル「お兄ちゃんっ」
男「どうした、メルまで……?」
898: 2010/10/23(土) 02:01:27.11 ID:1Hz7kUDb0
メル「わたしもお兄ちゃんのおよめさんになるよっ!」
男「……へ?」
ローラ「……男」
男「……あのー、ローラさん……?」
ローラ「なんだ、その呼び方は」
ローラ「わたしは呼び捨てにする価値もないということか」
男「ええと……そう言う意味は全くないんですけど」
ローラ「ふんっ、もう知らんっ」
ローラ「さっさと飯を食えっ! 早くしないと片付けるぞっ!」
男「そ、そんな……まだ食べ始めたばかりなのに……」
ローラ「言い訳は聞きたくないっ。そもそもお前はな……」
男「……はい」
セヌ「……およめさんか……」
セヌ「……ちょっといいかな……なんて思ってみたり……」
セヌ「ふ、ふ……へへっ……」
男「……へ?」
ローラ「……男」
男「……あのー、ローラさん……?」
ローラ「なんだ、その呼び方は」
ローラ「わたしは呼び捨てにする価値もないということか」
男「ええと……そう言う意味は全くないんですけど」
ローラ「ふんっ、もう知らんっ」
ローラ「さっさと飯を食えっ! 早くしないと片付けるぞっ!」
男「そ、そんな……まだ食べ始めたばかりなのに……」
ローラ「言い訳は聞きたくないっ。そもそもお前はな……」
男「……はい」
セヌ「……およめさんか……」
セヌ「……ちょっといいかな……なんて思ってみたり……」
セヌ「ふ、ふ……へへっ……」
900: 2010/10/23(土) 02:03:00.81 ID:1Hz7kUDb0
──長老の家
ガチャ……。
長老「……ガダか」
ガダ「長老、約束通り、男を川へ連れてったぞ」
長老「ふむ……で、どうだった?」
ガダ「あれは、何も知らないようだ」
長老「…………」
ガダ「あの玉のことも、人間のことも」
ガダ「アイツは知らない」
ガダ「やはり……」
ガチャ……。
長老「……ガダか」
ガダ「長老、約束通り、男を川へ連れてったぞ」
長老「ふむ……で、どうだった?」
ガダ「あれは、何も知らないようだ」
長老「…………」
ガダ「あの玉のことも、人間のことも」
ガダ「アイツは知らない」
ガダ「やはり……」
901: 2010/10/23(土) 02:03:45.04 ID:1Hz7kUDb0
長老「……よいのだ、ガダ」
ガダ「…………」
長老「結論を急ぐことはない。後で嫌でも分かる事だ」
長老「その時になったら、皆に伝えよう」
ガダ「……しかし、それでは遅いのではないか」
ガダ「のちに後悔するようなことは、あってはならない」
長老「……きっと大丈夫だろう」
長老「今はそう、祈るしかない」
ガダ「…………」
ガダ「…………」
長老「結論を急ぐことはない。後で嫌でも分かる事だ」
長老「その時になったら、皆に伝えよう」
ガダ「……しかし、それでは遅いのではないか」
ガダ「のちに後悔するようなことは、あってはならない」
長老「……きっと大丈夫だろう」
長老「今はそう、祈るしかない」
ガダ「…………」
902: 2010/10/23(土) 02:04:38.25 ID:1Hz7kUDb0
──ローラの家
ガチャ……。
ローラ「……ん」
男「ローラ、ここにいたのか」
ローラ「少し夜風に当たりたくなってな……」
男「俺もお邪魔してもいいか?」
ローラ「構わない……ほら、隣に座れ」
男「よいしょ……」
ローラ「ふむ……」
男「……ん、うおっ」
ローラ「どうした?」
男「いや……夜空が凄い綺麗だな。びっくりした」
ローラ「わたしにはよく分からないが、そう驚くことか?」
男「前の世界だと、こんな一面の星空は見た事なかったからなぁ」
ローラ「……そうか」
ガチャ……。
ローラ「……ん」
男「ローラ、ここにいたのか」
ローラ「少し夜風に当たりたくなってな……」
男「俺もお邪魔してもいいか?」
ローラ「構わない……ほら、隣に座れ」
男「よいしょ……」
ローラ「ふむ……」
男「……ん、うおっ」
ローラ「どうした?」
男「いや……夜空が凄い綺麗だな。びっくりした」
ローラ「わたしにはよく分からないが、そう驚くことか?」
男「前の世界だと、こんな一面の星空は見た事なかったからなぁ」
ローラ「……そうか」
904: 2010/10/23(土) 02:05:24.39 ID:1Hz7kUDb0
男「月も二つあるし……不思議な世界だ、ここは」
ローラ「……男」
男「……ん?」
ローラ「一つ、聞いていいか?」
男「いいぞ、遠慮なく聞いてくれ」
ローラ「……お前は、この世界に来て幸せか?」
男「…………」
ローラ「肌も違い、身体も違う、そんなわたしたちに囲まれて」
ローラ「人を恋しく思う事はないのか?」
男「……ローラ」
ローラ「最近、感じているんだ」
ローラ「お前がこの村にますます馴染んでいって」
ローラ「殆どの村人たちは既にお前を仲間と認めている」
ローラ「もちろん……わたしの家だってそうだ」
男「…………」
ローラ「……男」
男「……ん?」
ローラ「一つ、聞いていいか?」
男「いいぞ、遠慮なく聞いてくれ」
ローラ「……お前は、この世界に来て幸せか?」
男「…………」
ローラ「肌も違い、身体も違う、そんなわたしたちに囲まれて」
ローラ「人を恋しく思う事はないのか?」
男「……ローラ」
ローラ「最近、感じているんだ」
ローラ「お前がこの村にますます馴染んでいって」
ローラ「殆どの村人たちは既にお前を仲間と認めている」
ローラ「もちろん……わたしの家だってそうだ」
男「…………」
905: 2010/10/23(土) 02:06:32.31 ID:1Hz7kUDb0
ローラ「あんなに忌み嫌っていたセヌも、今ではああだし」
ローラ「……わたしに至っては、お前に対して……最大の信頼をおいている」
男「ありがとな……」
ローラ「だが、心配なんだ……」
ローラ「お前の存在が、今以上に、大切になっていった時」
ローラ「わたしたちにとって……かけがえのない存在になった時」
ローラ「男、お前は側にいてくれるのだろうか?」
男「…………」
ローラ「……行ってしまわないか?」
ローラ「ずっと側にはいてくれないのか?」
男「……それは……」
ローラ「今はただそれが不安なんだ」
ローラ「我ながら、恥ずかしい悩みだろう?」
ローラ「……わたしに至っては、お前に対して……最大の信頼をおいている」
男「ありがとな……」
ローラ「だが、心配なんだ……」
ローラ「お前の存在が、今以上に、大切になっていった時」
ローラ「わたしたちにとって……かけがえのない存在になった時」
ローラ「男、お前は側にいてくれるのだろうか?」
男「…………」
ローラ「……行ってしまわないか?」
ローラ「ずっと側にはいてくれないのか?」
男「……それは……」
ローラ「今はただそれが不安なんだ」
ローラ「我ながら、恥ずかしい悩みだろう?」
906: 2010/10/23(土) 02:07:55.44 ID:1Hz7kUDb0
男「……行かないよ」
ローラ「えっ……?」
男「俺はどこにも行かないさ」
男「ずっとこの村で……それこそ氏ぬまで」
男「迷惑かもしれないけど、暮らし続けていたい」
ローラ「…………」
男「村の仲間に、本当の意味で必要とされたい」
男「だから、ここにいる」
ローラ「……そうか」
男「おう、しばらく世話になるぞ」
ローラ「うん……ずっといてくれ……」
ローラ「ずーっとだ……」
ローラ「えっ……?」
男「俺はどこにも行かないさ」
男「ずっとこの村で……それこそ氏ぬまで」
男「迷惑かもしれないけど、暮らし続けていたい」
ローラ「…………」
男「村の仲間に、本当の意味で必要とされたい」
男「だから、ここにいる」
ローラ「……そうか」
男「おう、しばらく世話になるぞ」
ローラ「うん……ずっといてくれ……」
ローラ「ずーっとだ……」
907: 2010/10/23(土) 02:08:51.49 ID:1Hz7kUDb0
──ゼド公国
宰相「全軍準備が出来ました」
宰相「不意を狙い、朝方、進行します」
リスト「そうか、そうか」
宰相「捕虜の扱いはどうなさいますか」
リスト「……いらぬ」
宰相「は?」
リスト「『そんものはいらぬ』と申した」
宰相「し、しかし……それでは……」
リスト「人間ではないヤツに、何故道義などあろう」
リスト「殺せ。ただ、頃し尽くせばよい」
宰相「…………」
リスト「明日が楽しみだよ、宰相」
宰相「全軍準備が出来ました」
宰相「不意を狙い、朝方、進行します」
リスト「そうか、そうか」
宰相「捕虜の扱いはどうなさいますか」
リスト「……いらぬ」
宰相「は?」
リスト「『そんものはいらぬ』と申した」
宰相「し、しかし……それでは……」
リスト「人間ではないヤツに、何故道義などあろう」
リスト「殺せ。ただ、頃し尽くせばよい」
宰相「…………」
リスト「明日が楽しみだよ、宰相」
909: 2010/10/23(土) 02:18:51.67 ID:1Hz7kUDb0
──早朝 ローラの家
男「……ん……」
?「男っ、起きてくれっ!」
男「え……」
ローラ「大変なんだっ! 早くっ!」
男「……っ」
ガバッ……。
ローラ「男……」
男「どうした? 何があった?」
ローラ「人間が……」
ローラ「人間が森に侵入したって……」
男「……そうか」
男(遂に来ちまったのか……)
男「行ってくる」
ローラ「お、男……」
男「……ん……」
?「男っ、起きてくれっ!」
男「え……」
ローラ「大変なんだっ! 早くっ!」
男「……っ」
ガバッ……。
ローラ「男……」
男「どうした? 何があった?」
ローラ「人間が……」
ローラ「人間が森に侵入したって……」
男「……そうか」
男(遂に来ちまったのか……)
男「行ってくる」
ローラ「お、男……」
914: 2010/10/23(土) 03:08:49.48 ID:1Hz7kUDb0
男「村の仲間を任せたぞ? お前が率いるんだ」
ローラ「あ、ああ……」
男「よし、これで安心だ」
男「少しばかり、みんなの役に立ってくるか」
ローラ「…………」
男「……セヌとミルは?」
ローラ「ミルはまだ寝ている……セヌは……」
ガチャ……。
セヌ「おい、男っ!」
男「……あ、セヌ」
セヌ「なに、ぼぉーっとしてんだよっ! 行くぞっ!」
ローラ「男……お前が何とか言ってくれ……」
ローラ「わたしが言っても、この子、聞いてくれないんだ……」
男「……どういうことだ、セヌ」
ローラ「あ、ああ……」
男「よし、これで安心だ」
男「少しばかり、みんなの役に立ってくるか」
ローラ「…………」
男「……セヌとミルは?」
ローラ「ミルはまだ寝ている……セヌは……」
ガチャ……。
セヌ「おい、男っ!」
男「……あ、セヌ」
セヌ「なに、ぼぉーっとしてんだよっ! 行くぞっ!」
ローラ「男……お前が何とか言ってくれ……」
ローラ「わたしが言っても、この子、聞いてくれないんだ……」
男「……どういうことだ、セヌ」
916: 2010/10/23(土) 03:09:35.14 ID:1Hz7kUDb0
セヌ「な、なんだよ……」
男「その格好は、どういうことだと聞いているんだ」
セヌ「それは……みんなと一緒に戦う……」
男「いいかげんにしろっ!」
セヌ「……っ」
男「そんなに甘いもんじゃないんだっ!」
男「お前が行って何になる? 男連中だけが戦う意味を理解してるのか?」
セヌ「……だ、だって……」
男「……お前の気持ちは分かる」
男「だから、ここの皆を守ってやってくれ」
セヌ「……え」
男「お前の大事な姉さんを、妹を」
男「その格好は、どういうことだと聞いているんだ」
セヌ「それは……みんなと一緒に戦う……」
男「いいかげんにしろっ!」
セヌ「……っ」
男「そんなに甘いもんじゃないんだっ!」
男「お前が行って何になる? 男連中だけが戦う意味を理解してるのか?」
セヌ「……だ、だって……」
男「……お前の気持ちは分かる」
男「だから、ここの皆を守ってやってくれ」
セヌ「……え」
男「お前の大事な姉さんを、妹を」
917: 2010/10/23(土) 03:10:49.78 ID:1Hz7kUDb0
男「もう誰一人失いたくないだろ? なら、自分の手で守るんだ」
セヌ「…………」
男「俺が帰ってくる間、二人を任せたぞ?」
セヌ「お、おうっ」
男「よし……ローラ」
ローラ「……うん」
男「──行ってくる」
セヌ「…………」
男「俺が帰ってくる間、二人を任せたぞ?」
セヌ「お、おうっ」
男「よし……ローラ」
ローラ「……うん」
男「──行ってくる」
919: 2010/10/23(土) 03:13:29.60 ID:1Hz7kUDb0
──広場
ドン「お、男」
男「遅くなったな……どうなってる?」
ドン「先ほど、隊が決まったところだ」
ドン「やはり、お前と俺は一緒になったぞ?」
男「……そうか、それは頼もしい」
ドン「後ろは任せとけ。氏ぬ気で頑張れよ?」
男「おう、分かってる……」
ドン「ただ、引き際も肝心だ」
ドン「無理につっぱしって、氏ぬのだけはやめてくれよ?」
男「ああ、大丈夫だ」
ドン「……なら、いいが」
ドン「お、男」
男「遅くなったな……どうなってる?」
ドン「先ほど、隊が決まったところだ」
ドン「やはり、お前と俺は一緒になったぞ?」
男「……そうか、それは頼もしい」
ドン「後ろは任せとけ。氏ぬ気で頑張れよ?」
男「おう、分かってる……」
ドン「ただ、引き際も肝心だ」
ドン「無理につっぱしって、氏ぬのだけはやめてくれよ?」
男「ああ、大丈夫だ」
ドン「……なら、いいが」
920: 2010/10/23(土) 03:14:27.44 ID:1Hz7kUDb0
ドン「今のお前は、少し……心配だ」
男「……どういうことだ?」
ドン「目が……違うんだよ」
男「ん?」
ドン「氏を覚悟の戦を前にした目つきじゃねぇ……」
ドン「お前は……怖くねぇのか?」
男「……怖い、か」
男(どうなのだろう……でも)
男(やっと、この村の仲間のためになれる……)
男(そう考えると……胸が熱くなるのを止められない……)
長老『みなの者っ!』
ドン「……長老の話だ、いよいよだな」
男「ああ」
男「……どういうことだ?」
ドン「目が……違うんだよ」
男「ん?」
ドン「氏を覚悟の戦を前にした目つきじゃねぇ……」
ドン「お前は……怖くねぇのか?」
男「……怖い、か」
男(どうなのだろう……でも)
男(やっと、この村の仲間のためになれる……)
男(そう考えると……胸が熱くなるのを止められない……)
長老『みなの者っ!』
ドン「……長老の話だ、いよいよだな」
男「ああ」
922: 2010/10/23(土) 03:15:11.71 ID:1Hz7kUDb0
──数時間後 ゼド軍司令部
リスト「……戦況はどうなっておる」
宰相「それが……」
リスト「どうした?」
宰相「芳しくありませぬ……」
宰相「まるで、この戦のタイミングを予期していたかのようで」
リスト「……っ」
宰相「……心の動揺を隠しなされ。兵の士気に影響しますぞ?」
リスト「わかっておる……わかっておるわ」
宰相「…………」
リスト「あやつらめ……ここまでしても、無理なのか……」
宰相「……想像以上の抵抗です」
リスト「……戦況はどうなっておる」
宰相「それが……」
リスト「どうした?」
宰相「芳しくありませぬ……」
宰相「まるで、この戦のタイミングを予期していたかのようで」
リスト「……っ」
宰相「……心の動揺を隠しなされ。兵の士気に影響しますぞ?」
リスト「わかっておる……わかっておるわ」
宰相「…………」
リスト「あやつらめ……ここまでしても、無理なのか……」
宰相「……想像以上の抵抗です」
924: 2010/10/23(土) 03:16:34.91 ID:1Hz7kUDb0
宰相「未だかつてないほどの全戦力で、向こうは戦ってきております」
リスト「…………」
リスト「……獣か」
宰相「…………」
リスト「……獣たちを味方について……そうだったな?」
宰相「はっ……」
リスト「『森の民』とは良く言ったものよ……」
リスト「それこそ……人ならずものではないか」
リスト「…………」
リスト「……獣か」
宰相「…………」
リスト「……獣たちを味方について……そうだったな?」
宰相「はっ……」
リスト「『森の民』とは良く言ったものよ……」
リスト「それこそ……人ならずものではないか」
925: 2010/10/23(土) 03:17:25.48 ID:1Hz7kUDb0
──森の中
グサッ……。
男「……はぁ……はぁ」
ドン「……大丈夫か……男」
ドン「今回は、かつてないほどの数だ……」
ドン「……もしかしたら、川を越えられるかもしれん……」
男「…………」
ドン「どうした……さきほどから、腑に落ちない顔だな?」
ドン「同族を頃してしまって……ショックが大きいのか?」
男「……なぁ……ドン」
男「……お前たちは、気付いていないのか?」
男(これはおかしい……おかしすぎる……)
ドン「えっ? 気付いてないって……何の事だ?」
男「……そうか」
男「ガダ……そういうことだったのか……」
グサッ……。
男「……はぁ……はぁ」
ドン「……大丈夫か……男」
ドン「今回は、かつてないほどの数だ……」
ドン「……もしかしたら、川を越えられるかもしれん……」
男「…………」
ドン「どうした……さきほどから、腑に落ちない顔だな?」
ドン「同族を頃してしまって……ショックが大きいのか?」
男「……なぁ……ドン」
男「……お前たちは、気付いていないのか?」
男(これはおかしい……おかしすぎる……)
ドン「えっ? 気付いてないって……何の事だ?」
男「……そうか」
男「ガダ……そういうことだったのか……」
926: 2010/10/23(土) 03:18:10.69 ID:1Hz7kUDb0
──セルドーヌ王国 首都ジューべル
レーラ「リスト公率いるゼド軍が、戦闘を開始しました」
国王「そうか……始まってしまったか」
レーラ「ただし、苦戦しているようです」
国王「……そうであろう」
国王「あの男……森の民の中でも彼らが特に戦に強いことを知らぬのだ」
レーラ「……え、それは……」
国王「……お前も知っておるだろう」
国王「森の民というのは、文字通り、森に住まう者たちのことを言う」
国王「昔は多くの種族がいたようだが、今も残っているのは三種族のみ」
レーラ「……三種族」
レーラ「リスト公率いるゼド軍が、戦闘を開始しました」
国王「そうか……始まってしまったか」
レーラ「ただし、苦戦しているようです」
国王「……そうであろう」
国王「あの男……森の民の中でも彼らが特に戦に強いことを知らぬのだ」
レーラ「……え、それは……」
国王「……お前も知っておるだろう」
国王「森の民というのは、文字通り、森に住まう者たちのことを言う」
国王「昔は多くの種族がいたようだが、今も残っているのは三種族のみ」
レーラ「……三種族」
936: 2010/10/23(土) 03:28:00.51 ID:1Hz7kUDb0
国王「ゼドと面している森には、『キャター』という種族がいる」
国王「獣の尻尾と耳をつけた者たちで……」
国王「彼らは他の獣たちと言葉を交わすことができ」
国王「戦闘に特化した、強靭な身体が特徴である」
レーラ「次は……」
国王「我が国に住まう『エルフ』」
国王「長寿の生を持ち、人間の我々とは極力関係を持とうとしない」
国王「仮にあの深い森に進んだとしても、奥には辿り着けん」
レーラ「……では、あと一つは?」
国王「…………」
国王「──『オーク』だ」
国王「獣の尻尾と耳をつけた者たちで……」
国王「彼らは他の獣たちと言葉を交わすことができ」
国王「戦闘に特化した、強靭な身体が特徴である」
レーラ「次は……」
国王「我が国に住まう『エルフ』」
国王「長寿の生を持ち、人間の我々とは極力関係を持とうとしない」
国王「仮にあの深い森に進んだとしても、奥には辿り着けん」
レーラ「……では、あと一つは?」
国王「…………」
国王「──『オーク』だ」
940: 2010/10/23(土) 03:31:33.72 ID:1Hz7kUDb0
──森の中
男「ドン……これを見ろ」
ドン「あ、おお……」
男「黒い玉」
男(前にアイツが見せてくれたもの……)
男(……それが今、戦場に数多と転がっている)
ドン「……それが、どうしたって……」
男「分からないんだよ」
男「なんで、頃した人間の氏体が……」
ドン「……ん?」
男「──この玉に変わるんだ?」
ドン「何故って、それが当たり前で……」
男「違う」
ドン「は?」
男「人間は氏んで、黒い玉だけ残るなんてことはない」
男「ドン……これを見ろ」
ドン「あ、おお……」
男「黒い玉」
男(前にアイツが見せてくれたもの……)
男(……それが今、戦場に数多と転がっている)
ドン「……それが、どうしたって……」
男「分からないんだよ」
男「なんで、頃した人間の氏体が……」
ドン「……ん?」
男「──この玉に変わるんだ?」
ドン「何故って、それが当たり前で……」
男「違う」
ドン「は?」
男「人間は氏んで、黒い玉だけ残るなんてことはない」
942: 2010/10/23(土) 03:34:43.33 ID:1Hz7kUDb0
ドン「ど、どういうことだ?」
男「戦いが始まってから、ずっとおかしいと思ってた」
男「二人組で人間を遅い、首を切断する」
男「何故、わざわざ……そんな手間をとらないといけない?」
ドン「そ、そうしないと、アイツらは氏なないからだろ?」
男「……それがおかしい」
ドン「わかんねぇ、俺にはわかんねぇよ……」
男「人間には致命傷っていうのがあってな」
男「首を切らなくても、身体を深く傷つけられると出血大量などで氏んでしまうんだ」
ドン「……しゅっけつたいりょう……」
男「……それに、氏んで……こんな玉になんかならない」
男「氏体が消えるなんて、ありえないことなんだ」
ドン「……ん? つまりどういうことだ?」
男「……ここで俺達が戦っている奴らは」
男「──人間じゃない」
男「戦いが始まってから、ずっとおかしいと思ってた」
男「二人組で人間を遅い、首を切断する」
男「何故、わざわざ……そんな手間をとらないといけない?」
ドン「そ、そうしないと、アイツらは氏なないからだろ?」
男「……それがおかしい」
ドン「わかんねぇ、俺にはわかんねぇよ……」
男「人間には致命傷っていうのがあってな」
男「首を切らなくても、身体を深く傷つけられると出血大量などで氏んでしまうんだ」
ドン「……しゅっけつたいりょう……」
男「……それに、氏んで……こんな玉になんかならない」
男「氏体が消えるなんて、ありえないことなんだ」
ドン「……ん? つまりどういうことだ?」
男「……ここで俺達が戦っている奴らは」
男「──人間じゃない」
944: 2010/10/23(土) 03:37:02.68 ID:1Hz7kUDb0
──セルドーヌ王国 首都ジューべル
国王「かくいう私も彼らを見た事はない」
国王「森の奥深く、人間が住まわない場所でひっそりと暮らしているという」
レーラ「……そんな民がいるんですか」
国王「書物に書かれているだけだが……」
国王「薄い緑色の肌、そして、細い尻尾」
国王「綺麗に輝く赤い瞳が……とても美しい、との記述がある」
レーラ「……それが『オーク』」
国王「どこに住んでおるのだろうな」
国王「……氏ぬまでに、一度会ってみたかった……」
レーラ「……お父様」
国王「かくいう私も彼らを見た事はない」
国王「森の奥深く、人間が住まわない場所でひっそりと暮らしているという」
レーラ「……そんな民がいるんですか」
国王「書物に書かれているだけだが……」
国王「薄い緑色の肌、そして、細い尻尾」
国王「綺麗に輝く赤い瞳が……とても美しい、との記述がある」
レーラ「……それが『オーク』」
国王「どこに住んでおるのだろうな」
国王「……氏ぬまでに、一度会ってみたかった……」
レーラ「……お父様」
947: 2010/10/23(土) 03:40:45.65 ID:1Hz7kUDb0
──数時間後 ローラの家
長老「駄目だ……用意をしろ」
ローラ「……えっ?」
長老「戦況は厳しい……もう多くの者が氏んでしまった」
ローラ「そ、そんな……」
長老「もう少しで、川を越えられる」
長老「だが今も、仲間たちが懸命に戦っておるはずだ」
長老「我らが逃げる、その時間を稼ぐためにだけに……」
長老「……一刻も早く、逃げなければ」
ローラ「……村を捨てるんだな?」
長老「ああ」
長老「そうだ……」
長老「駄目だ……用意をしろ」
ローラ「……えっ?」
長老「戦況は厳しい……もう多くの者が氏んでしまった」
ローラ「そ、そんな……」
長老「もう少しで、川を越えられる」
長老「だが今も、仲間たちが懸命に戦っておるはずだ」
長老「我らが逃げる、その時間を稼ぐためにだけに……」
長老「……一刻も早く、逃げなければ」
ローラ「……村を捨てるんだな?」
長老「ああ」
長老「そうだ……」
951: 2010/10/23(土) 03:44:14.41 ID:1Hz7kUDb0
ローラ「分かった……皆に伝えてくる」
長老「……お前が頼りだぞ、ローラ」
ローラ「任せておけ。男にも言われているんだ」
ローラ「わたしがしっかりしなければ、アイツに怒られてしまうからな」
長老「ふむ……そうか」
長老「あいつも……生きているといいのだが」
ローラ「…………」
セヌ『……っ』
たたたたっ……。
ローラ「ん? 今、誰か……」
長老「……お前が頼りだぞ、ローラ」
ローラ「任せておけ。男にも言われているんだ」
ローラ「わたしがしっかりしなければ、アイツに怒られてしまうからな」
長老「ふむ……そうか」
長老「あいつも……生きているといいのだが」
ローラ「…………」
セヌ『……っ』
たたたたっ……。
ローラ「ん? 今、誰か……」
958: 2010/10/23(土) 03:50:22.88 ID:1Hz7kUDb0
──第一部『オーク』──
959: 2010/10/23(土) 03:51:21.20 ID:1Hz7kUDb0
──森の中 川
ざばざばと、音がする。
俺たちは、何時間、戦い続けたのだろうか。
今では利き腕の感覚が無いに等しかった。
倒れたい。
もう諦めたい。
でも。
「うおおおおおぉぉぉぉっ!」
……剣を振るった。
ただ、がむしゃらに。教えてもらった技術の欠片もなかった。
そんな一刀に、渾身の力を振り絞り続ける。
ダン「男っ! そっちに一人行ったぞっ!?」
「ああっ、任せろっ!」
でも、俺には仲間がいた。
肌が薄緑の、俺とは全く違う仲間たち。
初めて、心のそこから信頼できる、そんな彼らが。
ざばざばと、音がする。
俺たちは、何時間、戦い続けたのだろうか。
今では利き腕の感覚が無いに等しかった。
倒れたい。
もう諦めたい。
でも。
「うおおおおおぉぉぉぉっ!」
……剣を振るった。
ただ、がむしゃらに。教えてもらった技術の欠片もなかった。
そんな一刀に、渾身の力を振り絞り続ける。
ダン「男っ! そっちに一人行ったぞっ!?」
「ああっ、任せろっ!」
でも、俺には仲間がいた。
肌が薄緑の、俺とは全く違う仲間たち。
初めて、心のそこから信頼できる、そんな彼らが。
967: 2010/10/23(土) 03:58:09.00 ID:1Hz7kUDb0
だから。振るう。
「ああああぁぁぁっ!」
大切な人を守るために。
「うおおおおおおおぉぉぉっ!」
自分が今、必要とされている瞬間だから。
「はぁ……はぁ……」
目の前に、また一つ屍が出来る。
話すことが出来ない、人間。
気が付けば、その氏体は消え、漆黒の玉になる。
分からない。
この敵が何なのか。
そもそも人間は本当にいるのだろうか。
「…………」
でも、やる事は決まっている。
守るため。
大切な人たちのためだけに。
「ああああぁぁぁっ!」
大切な人を守るために。
「うおおおおおおおぉぉぉっ!」
自分が今、必要とされている瞬間だから。
「はぁ……はぁ……」
目の前に、また一つ屍が出来る。
話すことが出来ない、人間。
気が付けば、その氏体は消え、漆黒の玉になる。
分からない。
この敵が何なのか。
そもそも人間は本当にいるのだろうか。
「…………」
でも、やる事は決まっている。
守るため。
大切な人たちのためだけに。
974: 2010/10/23(土) 04:06:12.47 ID:1Hz7kUDb0
力尽きて氏ぬ最後の瞬間まで、俺は剣を振るう。
「……ん?」
そう心に決意したときだった。
視界の奥で……何かが見えた。
あれは……。
「……せ、セヌ……?」
一瞬のうちに、理解してしまった。
お転婆な彼女のことだ。
少しでもみんなの力になろうと、ここへやってきたのだろう。
だが。
「……くっ」
走る。走る。
予想以上の氏闘を前に、ただ棒立ちになっている彼女の元へ。
そこへ忍びようとしている……一人の敵が見えたから。
そして。
セヌ「え……えっ」
────。
「……ん?」
そう心に決意したときだった。
視界の奥で……何かが見えた。
あれは……。
「……せ、セヌ……?」
一瞬のうちに、理解してしまった。
お転婆な彼女のことだ。
少しでもみんなの力になろうと、ここへやってきたのだろう。
だが。
「……くっ」
走る。走る。
予想以上の氏闘を前に、ただ棒立ちになっている彼女の元へ。
そこへ忍びようとしている……一人の敵が見えたから。
そして。
セヌ「え……えっ」
────。
976: 2010/10/23(土) 04:08:22.73 ID:1Hz7kUDb0
「……ああ……良かった……」
ドン「……男っ!」
後ろで……ドンが敵を倒しているのだろう。
俺は震えるセヌの顔をそっと撫でた。
セヌ「……お、お前……それ……」
「良かった……良かった……」
大切な者を守れた。
守れたんだ。
やっと……。
セヌ「川が……赤い……う、嘘だろ……」
「……はは、みんなに……」
セヌ「……お、男っ」
──よろしくな……。
そう言って……俺の身体は力尽きた。
誰かの叫び声が、呼ぶ声が聞こえた気がした。
けれども、力を失った俺の身体は川に流されて……
そこからは、記憶がなかった。
ドン「……男っ!」
後ろで……ドンが敵を倒しているのだろう。
俺は震えるセヌの顔をそっと撫でた。
セヌ「……お、お前……それ……」
「良かった……良かった……」
大切な者を守れた。
守れたんだ。
やっと……。
セヌ「川が……赤い……う、嘘だろ……」
「……はは、みんなに……」
セヌ「……お、男っ」
──よろしくな……。
そう言って……俺の身体は力尽きた。
誰かの叫び声が、呼ぶ声が聞こえた気がした。
けれども、力を失った俺の身体は川に流されて……
そこからは、記憶がなかった。
978: 2010/10/23(土) 04:11:17.19 ID:1Hz7kUDb0
──???
?「ん、何だこれ」
男「…………」
?「……人間? 何故、この川に?」
?「分からんが……少し気になるな」
?「カルはどう思う?」
くーくー。
?「うん、俺と同じ意見だな」
?「今日は気分がいい。よし救ってやるか」
男「…………」
?「しかしなー……この上は、人間いないはずなんだがなぁ」
?「よくわかんねえやっ、ははっ」
?「ん、何だこれ」
男「…………」
?「……人間? 何故、この川に?」
?「分からんが……少し気になるな」
?「カルはどう思う?」
くーくー。
?「うん、俺と同じ意見だな」
?「今日は気分がいい。よし救ってやるか」
男「…………」
?「しかしなー……この上は、人間いないはずなんだがなぁ」
?「よくわかんねえやっ、ははっ」
982: 2010/10/23(土) 04:14:39.34 ID:1Hz7kUDb0
-第一部『オーク』 END-
この後のことを説明します。
続きは既に考えているので、
また書き終わったらVIPにスレ立てを行います。
その間、避難所に製作状況などを書き込んでおきますので、
目安にしてください。スレを立てるときは事前に連絡します。
では長らくお付き合い下さり、ありがとうございました。
保守支援をしてくださった方、読んで下さった方、本当に感謝です。
ではこれにて、失礼します。
この後のことを説明します。
続きは既に考えているので、
また書き終わったらVIPにスレ立てを行います。
その間、避難所に製作状況などを書き込んでおきますので、
目安にしてください。スレを立てるときは事前に連絡します。
では長らくお付き合い下さり、ありがとうございました。
保守支援をしてくださった方、読んで下さった方、本当に感謝です。
ではこれにて、失礼します。
983: 2010/10/23(土) 04:15:01.35 ID:Q5K3uCMM0
おつ!
990: 2010/10/23(土) 04:23:12.48 ID:wWYdbFtT0
おつ
引用: 男「えっ……私がクビですか?」
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