1: 2015/12/30(水) 16:36:39.71 ID:TDh0m+Gg.net
前スレ
最初 ~ まきりんぱな編・前編

>>667の続きから投下するにこ
しばらく再放送にこ

2: 2015/12/30(水) 16:38:00.91 ID:TDh0m+Gg.net



「にこちゃん、そろそろいいかな……?」

「ん……そうね」

『ごちそうさま』を終えて一息をついていたところに、花陽がおずおずと切り出した。

さっきから妙にそわそわしてるなーとは思ってたけど、そういうこと。『お願い』が待ちきれなかったみたいだ。

「ほら、凛、真姫ちゃん。離れた離れた。立てないでしょーが」

「にゃぁぁ~」

「う゛ぇぇ……」

「それにあんた達、まだお弁当食べ終わってないでしょ?ちゃんと食べときなさい」

ぐいぐいっと二人を押しのけて立ち上がる。先程の言い争いの結果、なぜか二人揃って私のくっつき虫となっていたのだ。

そのせいでお昼ごはんを食べ終えているのは、気にせず食べていた私と、諍いを止めるのを諦めた花陽だけ。

3: 2015/12/30(水) 16:38:46.42 ID:TDh0m+Gg.net
「じゃ、行きましょうか」

「にこちゃん、あの……今日は部室じゃ、駄目かな?」

まずは、屋上へ移動―――しようとする体を急停止。

花陽からの思いもしなかった提案に、少し動揺する。

「え……ここで?」

「うんっ」

「別にいいけど……」

はて、どういう心境の変化かしら。

これまでは二人の前で『お願い』をするのが恥ずかしいから、屋上でってことだったのに。

別に、ここでやる分には私は構わないんだけど……二人は嫌がらないかなぁ。

4: 2015/12/30(水) 16:39:49.13 ID:TDh0m+Gg.net
「えーっと……、凛、真姫ちゃん。ここでやってもいい?」

「いいよ!かよちんがどんなことお願いしたのか、興味あったんだ!」

「……好きにしなさいよ」

約一名は不満そうにだったけれど、一応の許可は出た。

……っていうか、花陽は『お願い』の内容を凛にすらいってなかったのね。ちょっと意外だ。

「良かったぁ。それじゃあにこちゃん、そこに座って?」

ガラ空きになっている反対側を指し示す花陽。

そこに座って……って。そこだと、二人がご飯を食べてる目の前でやるってことなんだけど。

流石にちょっと、と拒否しようと花陽に向き直ってみれば、キラキラした瞳が私を見つめていた。

5: 2015/12/30(水) 16:40:24.20 ID:TDh0m+Gg.net
(うん、これは私には断れない)

あっさりと拒否するのは諦める。

花陽に甘すぎるかしら、と心の中で溜息をつきながら、座席へと向かって、適当に真ん中あたりに座る。

花陽は隣の席にちょこんと腰かけて、これから起きることへの喜びが抑えきれないといった様子で、にこにこと笑っている。

「では、お願いします!」

その言葉を合図に、無言で花陽の体を思いっきり引き寄せて、むぎゅっと抱きしめる。

柔らかい感触と、鼻孔をくすぐる甘い香りと汗の匂い。

くらくらと脳髄が痺れていくのがわかる。

6: 2015/12/30(水) 16:40:59.28 ID:TDh0m+Gg.net
「もっと強く、抱きしめてほしいな……」

期待の篭った眼差しに、艶めかしく耳元で囁かれた言葉。

先程まで感じていた羞恥心が消えてゆき、かわりとばかりに花陽をどこまでも甘やかしたい気持ちが湧いてくる。

願われたままに強く抱きしめながら、『お願い』を叶えてあげるために、偽らざる想いを伝える。

「可愛いわ、花陽」

『たくさん可愛いといってほしい』という、花陽の『お願い』が、今、始まった。

7: 2015/12/30(水) 16:41:48.68 ID:TDh0m+Gg.net



「にこちゃん、私って可愛いかな?」

「うん。すっごく可愛い」

「本当?」

「本当に決まってるでしょう?可愛すぎて困るくらいよ」

「えへっ、そんなにかなぁ……?」

「そんなによ!」

抱きしめ、頭を撫で、ほっぺをぷにぷに。全力で甘えてくる花陽を、全力で可愛がる夢の時間。

何かと疲れる一日の癒やし。

人に見られるのは恥ずかしいかなって思ったけど、いざ始めてみれば、凛と真姫ちゃんの視線なんて気にならない。

ひがな一日こうしていたいと思えるほど、可愛いといってほしがる花陽は可愛いのだ。

8: 2015/12/30(水) 16:42:29.08 ID:TDh0m+Gg.net
「かよちんが幸せそうでなによりだにゃー」

「なによ、見せつけてくれちゃって……!」

ブツクサと聞こえて来る声は聞こえないふり。

凛はともかく、真姫ちゃんは後で面倒くさいことになりそう……。

いやいや、そういうのは気にしない方向で頑張りましょう。

気にしないのを頑張るっていうのも変だけど。

「―――にこちゃん、どこ見てるの?」

そうやって二人のほうに意識を割いていたら、ぶぅっと膨れた花陽が私をジトッと見つめていた。

う、まずい。他所に気がいっていたのがバレてしまった。とりあえず、笑ってごまかしてみる。

9: 2015/12/30(水) 16:43:15.61 ID:TDh0m+Gg.net
「あは、あはは……なんでもないにこよ?」

「……もう、今は私の時間なんだよっ」

そんな誤魔化しが通じるわけもなく、ぷんぷんとお怒りを受ける私。

例の事件の時に判明した事実だけど、花陽は意外と嫉妬深いのだ。

実は、これまでの一週間の間にも、独占欲じみた感情を垣間見せることはあった。

こうもハッキリと言葉に表したのは初めてだけど。それはやっぱり、目の前に二人がいるのが大きいのかもしれない。

「にこちゃんには罰を受けてもらいます」

「えっ、ちょ、ちょっと、」

10: 2015/12/30(水) 16:43:57.42 ID:TDh0m+Gg.net
そういうなり、近づいてくる花陽。

お叱りの言葉だけでは足りなかったみたい。

罰ってなんだろう。花陽なら痛いことはしないでしょう、と動きを見守る。

そして、視界を占める花陽の姿がどんどん大きくなっていって、何をされるのかを気がついた時には、もう遅かった。

―――ちゅっ

「にゃっ!?」「う゛ぇぇ!?」

二人の驚く声が部室に響き渡る。

まさか自分たちがいるのにキスするなんて思っていなかったんだろう。私だって思っていなかった。

11: 2015/12/30(水) 16:44:40.63 ID:TDh0m+Gg.net
(あ、そっか。私、二人が見ている前で、唇にキスされちゃったんだ……)

キスから少し遅れて、ぼふん、と顔が赤くなる。

目はぐるぐると回りはじめ、頭がなんだかぼーっとしてきた。

人前でキスするのって、こんなに恥ずかしいんだ……。今更、そんな当たり前のことを理解する。

「えへへ~。にこちゃん、とっても可愛いよぉ。ふふ、もっともーっと可愛がってあげるからね?」

この時間は私が花陽を可愛がる時間でしょ、とか、二人が見ている前でこれ以上は、とか。

そういう抵抗の声は、覆いかぶさってきた花陽によって封じ込められてしまった。

「これまで可愛がってもらった分、お返しするねっ」

12: 2015/12/30(水) 16:45:30.97 ID:TDh0m+Gg.net



それからというもの。

私が花陽にしてきたように、抱きしめ、頭を撫で、ほっぺをぷにぷにされて、可愛い可愛いと愛でられ続けている。

最初こそ下級生に甘えるという行為に照れを感じていたけれど、可愛いと何度もいわれるうちに慣れてきて、まあいいかなと思えるようになって。

そして、それが続いた結果、こうなってしまった。

「はなよぉー!」

甘えた声で名前を呼びながら、花陽に抱きつく。

当然のように私を抱きとめて、頭をなでなでしながら優しく問いかけてくれる。

13: 2015/12/30(水) 16:46:20.49 ID:TDh0m+Gg.net
「どうしたの、にこちゃん」

「あのね、にこって……可愛いかなぁ?」

「もちろん!とってもとっても可愛いよっ」

「えへへへ、そっかぁ」

もぎゅもぎゅ。ふにゅふにゅ。ぷわぷわ。人目なんてなんのその。

夢心地の花陽の腕の中でママに甘えるかの如く、一年生の花陽に甘えるのを繰り返す、三年生の私。

「ふわぁ~、はなよぉ~」

「よしよし」

こんなの抜け出せるわけがない。私を甘えさせるなんて大したものよ。

凛がしょちゅう抱きついて甘える気持ちもわかってしまう。

恐るべし花陽地獄。天国はこんなところにもあったのね。

14: 2015/12/30(水) 16:46:51.82 ID:TDh0m+Gg.net
「ちょっと、花陽!そろそろ私の時間よ!」

だけど、そんな私達を見過ごせない子がひとりいる。ついに真姫ちゃんの横槍が入った。

今までは花陽の時間というのもあって我慢していたけれど、もう十分でしょう、ということでしょうね。

「うん、そうだね。それじゃあ……」

「あっ……」

お昼休みの間に、真姫ちゃんの『お願い』も叶えてあげなくちゃいけないから、仕方ないっていうのに。

躊躇なしに離れようとする花陽に思わず、物欲しげな声をだしてしまったのは何故だろう。

そして、そんな名残惜しそうにしている私をみて、花陽は影のある笑みを浮かべながらいった。

15: 2015/12/30(水) 16:47:50.55 ID:TDh0m+Gg.net
「ふふ……。にこちゃんは、どうしたい?」

「え……?」

「真姫ちゃんが怒っても、花陽が守ってあげます……。だから、にこちゃんが望むなら、ずっとこうしててもいいんだよ?」

甘い誘惑が、耳朶から染み渡り、全身に広がっていく。

それはつまり、真姫ちゃんの『お願い』を反故にして、花陽と一緒にいるということ。

そんな裏切るようなことは出来ないから、すぐに断らなきゃいけないんだけど……。

花陽に包まれていたいという欲望が、拒否の言葉を思いとどませる。

「その……」

そんなわけにいかないでしょ、とか、駄目、とか、何でもいいのに。たった一言が、喉から先に進もうとしない。

ちらりと真姫ちゃんの様子を窺う。花陽の言葉をしっかりと聞いていたみたい。

言葉が出てこない私に、真姫ちゃんの瞳が潤んでいく。

ああ、まずい、泣いてしまう―――と思ったその時、花陽はにぱっと笑って、私から離れた。

16: 2015/12/30(水) 16:48:32.86 ID:TDh0m+Gg.net
「なんちゃって。冗談だよぉ」

「……ふぇっ?」

「ちゃんと交代しないとだめだよね。にこちゃん、真姫ちゃん。困らせちゃってごめんね」

居住まいを正しながら、花陽はいった。

なあんだ、冗談だったのね。良かった良かった。……だいぶ焦ったわ。

「も、もーう!本気かと思ったじゃない。ね、真姫ちゃん」

「……そうね」

ぐぬ。真姫ちゃんってば、私が花陽を拒否をしなかったことで明らかに落ち込んでいる。

私がさっさと断っていれば良かったんだけども、どうにも私は欲望に弱い。ちゃんと反省しよう。

17: 2015/12/30(水) 16:49:42.73 ID:TDh0m+Gg.net
「こほん!さあさあ、話も片付いたところで。次は、真姫ちゃんの番ね」

部室内に漂っている微妙な空気を無視しながら、立ち上がる。

今日はちょっと変則的になってしまったけれど、本来は屋上での花陽の『お願い』を終えたあとは、交代で真姫ちゃんと屋上ですごすことになっている。

花陽と同じように、誰かに見られるのが恥ずかしいからっていう理由だ。

「じゃ、行ってくるわね」

「はぁい」「にゃっ」

少しでも機嫌が直ったら良いなと思いながら、真姫ちゃんの手を引いて歩き出す。

繋いだ手から、テンションの低さが否応なしにも伝わってくる。やりにくい。

「今日も可愛がってあげるわ。真姫ちゃん、覚悟しなさいよ?」

「うん……」

18: 2015/12/30(水) 16:50:29.29 ID:TDh0m+Gg.net
一人で空回る言動に悲しさを覚えつつ、部室のドアノブをひねる。

そうだ。屋上に着くまでに、落ち込んでる妹達を喜ばせてきた姉の技の数々を見せてあげましょう。

私の手にかかれば、真姫ちゃんみたいにチョロイ子はチョチョイのチョイなことを証明してあげるわ。

そんなことを考えながら、廊下に出ようとしたその時。後ろから、花陽の声が聞こえた。

「あ、にこちゃん。ひとつ、聞き忘れてたことがあるの!」

「ん、なーに?」

振り向いて、花陽を見る。

冗談だとネタばらしした時と同じ、明るい笑顔。

「あのね。私達、凛ちゃん達が見てるところでも………人がいるところでも、その……キス、したよね」

「え、ええ。そうね」

「花陽は、にこちゃんと一緒なら、恥ずかしいのだって大丈夫なんだよ」

「うん……?えっと……?」

19: 2015/12/30(水) 16:51:18.41 ID:TDh0m+Gg.net
なんて言おうとしているのか。とてつもなく嫌な予感が、胸をざわつかせる。

これ以上、花陽を喋らせてはいけないという、そんな予感が駆け巡り、だけどそんなあやふやなもので花陽を黙らせることは出来ない。

結局。何の容赦もなく、花陽の口は開かれた。

「だから、にこちゃんの百合営業の相手は―――私のほうが、向いてるんじゃないかなぁって」

ピキッ。

私は確信を持っていえる。

その時に聞こえた音こそが、空気にヒビが入る音なのだと。そして―――

「宣戦布告するかよちんも凛は好きだにゃ~」

ずっと存在感を消していた凛の呟きに思う。

あんた、どんな花陽ならダメなのよ……。

20: 2015/12/30(水) 16:52:27.21 ID:TDh0m+Gg.net



シーン……。

部室の中は、凛の言葉を最後に静まりかえっている。

凛は凛で、それ以上に何かをいうつもりはないらしい。

机にべたーっと寝そべりながら、事態の推移を見守っている。

(ちょっと!いいたいことだけいって寝そべるな!)

この空気の切っ掛けの作った花陽は、いうべきことはいったという表情で、私を―――いや、真姫ちゃんを見つめている。

そして、真姫ちゃんは顔をうつむかせて押し黙ったまま。重苦しい雰囲気が私の背中にのしかかる。

(これは、私が答えをいうべき……なのよね……?)

どうみても真姫ちゃんに向けての言葉だったけれど、一応は私への問いかけなんだし。

『先に誘ったのは真姫ちゃんだから、これからも百合営業は真姫ちゃんにお願いする』とでも言えば、花陽だって身を引いてくれると思う。

21: 2015/12/30(水) 16:53:13.25 ID:TDh0m+Gg.net
(でもそれは、解決になってない)

花陽だって覚悟をして『向いている』と発言したはずだ。

だっていうのに話を有耶無耶にして終わらせるのは、真姫ちゃんより向いていると暗に認めているようなもの。

そうなれば、花陽だけでなく、真姫ちゃんにもしこりを残したままになってしまう。

(ああああっ!どうしたらいいのよ!)

混乱する思考。下手な手は打てない。答えは見つからず、結局体は固まってしまう。

でも、そんな時。真姫ちゃんと繋いでいた手が、ぎゅっと強く握りしめられた。

22: 2015/12/30(水) 16:54:09.86 ID:TDh0m+Gg.net
「……できるわよ」

小さな呟きと共に、真姫ちゃんは顔をあげた。覚悟を決めた表情で、花陽を見据えている。

「私も、二人の前で……にこちゃんと恥ずかしいこととか……キスだって、できるわよ!」

キッと花陽を睨みつけながら、今度は大きな声で宣言した。

それに対し、心なしか嬉しそうな花陽が応える。

「それじゃあ、真姫ちゃんの『お願い』……私達も見せてもらうね?」

「ふん、望むところよ。存分に見せつけてあげるわ。にこちゃん!ほら、こっちに座って!」

真姫ちゃんに手を引かれるまま、先程まで座っていたところに座らされ、『お願い』に向けての準備が着々と進む。

さっきまでの陰鬱な様子を一転。花陽への対抗心で、瞳を燃え上がらせている。

(私、何も言ってないんだけど、いいのかなぁ。……まあ、二人が納得してるならいいか)

兎にも角にも。

私を置いてけぼりにしながら、話はトントン拍子に進んでゆくのだった。

23: 2015/12/30(水) 16:55:15.80 ID:TDh0m+Gg.net



もぎゅうううううう。

花陽の挑発により、部室で真姫ちゃんの『お願い』を見せることになった私達。

椅子に座る私の上にまたがっているのは、当然『お願い』をした真姫ちゃんご本人。

木に縋り付くコアラを思わせるような姿で、私を抱きしめている。

自分を抑圧している子が欲望を爆発させると際限がなくなってしまうとよくいうけれど、今の真姫ちゃんはまさにそれ。

「にこちゃん、にこちゃん、にこちゃんっ」

真姫ちゃんの『抱きしめさせてほしい』という『お願い』。

本人がいうには、いつも私に抱きつかれて困っているから、そのお返し……らしいんだけど。

実際は、素直に『お願い』するのは恥ずかしいから適当にこじつけただけだと私はみている。

24: 2015/12/30(水) 16:56:15.74 ID:TDh0m+Gg.net
「にこちゃん、にこちゃん、にこちゃん……!」

それにしても、ひたすら私の名前をブツブツと呟いているのはなんなんだろう。

真姫ちゃんには悪いけど、ちょっと怖い。

(昨日までは、ここまでじゃなかったわよね……)

今まではせいぜい、軽く抱きついて、たまに名前を呼ぶくらいのものだった。

こうなったのは、花陽への対抗心と、花陽との『お願い』を見ていた時の嫉妬が爆発しているからなんだろうけど。

怖いものは怖い。

25: 2015/12/30(水) 16:57:13.27 ID:TDh0m+Gg.net
(……にこってば、愛されすぎじゃない?)

名前を連呼する真姫ちゃんの頭を撫でながら思う。

怖い怖いといいつつも、こんなに好意を全力で向けられると、それはそれで嬉しくなってくる私。

「ちょっと怖くないかにゃー?」

「そんなこと言っちゃダメだよ、凛ちゃん」

でも、外野の声にはやっぱり同意だ。

(まあ、そういうところも真姫ちゃんの可愛いところだし?)

意外に直情的なところとか、独占欲が強いところとか。

それに、この場で可愛い可愛い真姫ちゃんを自由にできるのは、この私だけなのだ。

そう考えれば大抵のことは可愛く思える。

どうよ、羨ましいでしょ?って全世界の人間にいいたいくらいだ。

26: 2015/12/30(水) 16:58:20.96 ID:TDh0m+Gg.net
(ふふ……。それに、真姫ちゃんの髪の毛をくるくるできるのも、私だけだもんね)

真姫ちゃんの綺麗な赤毛にするりと手を通しながら、一人悦に入る。

すると、軽くカールのかかった髪の毛が指先に絡みついてきた。

それが、まるで自分からくるくるしてほしいといっているかのようで、たまらなく可愛らしい。

(髪の毛まで可愛いなんて狡くない?)

その可愛さに免じて、お望み通りにくるくるしてあげましょう。

くるくる、くるくる。するするとした感触が気持ちいい。真姫ちゃんも心地よさそうにしている。

「……にこちゃん。もっとして……」

お、私の名前以外が真姫ちゃんの口が出てきた。

思う存分抱きついて、ようやく落ち着いてきたみたいだ。

ここはトドメとばかりに、最高のくるくるをしてあげましょう。

「ふふん、にこに任せなさい。なんていったって、真姫ちゃんに次ぐ髪の毛くるくる名人ですもの」

「……なにそれ。意味わかんない」

くすっと笑った真姫ちゃんに、微笑を返して、やっと普段の私達に戻った気がしたのだった。

27: 2015/12/30(水) 16:59:20.64 ID:TDh0m+Gg.net



「もっと撫でて」

「はいはい」

シャイガール真姫ちゃんの特徴。

友達との接し方がわからない。感情表現が下手。

高いプライドが素直になるのを邪魔しちゃう。端的にいえばそんな感じ。

そんな真姫ちゃんだからこそ、『お願い』っていう建前があっても、素直に甘えるのは難しい。

だからこれまでの時間だって、まずは真姫ちゃんの緊張をほぐしてあげることから始めていた。

「もっと、ぎゅってして」

「はいはい……」

でも、今日はそれがまったく必要なかった。

暴走したことで思う存分ストレスを発散できたみたいで、良い感じに力が抜けている……どころか、ああしろこうしろとウルサイくらい。

凛と花陽の前だってのに恥ずかしがるそぶりすら見せないし、もしかしたら色々と開き直っちゃったのかも。結果オーライかな。

28: 2015/12/30(水) 17:00:16.58 ID:TDh0m+Gg.net
「今日はずいぶん、甘えんぼさんなのね」

「……別にいいでしょ。今日で最後なんだから」

私の肩に頭を預けて、ご満悦そうにしている真姫ちゃんに尋ねる。

返ってきた答えに、なるほどと納得。最後の日だというのが拍車をかけていたわけね。

「もちろんいいんだけど……。ただ、素直に甘えてくれて嬉しいなって思って」

素直じゃない真姫ちゃんはイジくりやすくて可愛いけど。素直だと可愛がり甲斐があるからね。

「……。にこちゃんは素直な私のほうが、好き?」

そんなことを言ったせいか、真姫ちゃんは普段の自分が素直じゃないことを気にしだしちゃった。

なまじ頭がいいせいか、裏の意味を探っちゃうのかもしれないけど。

私はいちいち考えて喋ってないから安心しなさい。

29: 2015/12/30(水) 17:00:56.82 ID:TDh0m+Gg.net
「なーに心配してるのよ。私はどんな真姫ちゃんでも大好きよ?」

そんな風になった真姫ちゃんを、いじらしく思ったからかな。

思わず、花陽に対する凛みたいな恥ずかしいセリフをポロッといってしまった。

言った後で、顔が熱を持ちはじめる。

「う゛ぇ……」

真姫ちゃんってば、直球で好きだといわれて狼狽えている。

ああもう、そんな本気で赤くならないでよ。私まで赤くなっちゃうじゃない!

「見てみてかよちん、にこちゃんの顔も赤くなってるにゃ」

「凛ちゃん、しーっ」

本家本元の恥ずかしいやつが何かいっている。あーあー、聞こえない。

そんなことをして自分を誤魔化していると、真姫ちゃんが突然動いた。

30: 2015/12/30(水) 17:01:31.05 ID:TDh0m+Gg.net
―――ぎゅっ

より深く、私に抱きついてきたのだ。赤くなった顔を私に見られまいとそうしたのかも。

でも真姫ちゃん、真っ赤なお耳が隠しきれていない。頭かくして耳隠さずって感じだ。

「あっれえ?もしかして真姫ちゃんってば、照れちゃった?」

そんな姿をみたら、からかうのが礼儀というものよね。

私自身、照れ隠し半分でいってるのはご愛嬌。

「……うるさいわよ」

ごつん。肩に、照れ隠しの頭突き。ちょっと痛い。でも可愛いから許しちゃう。

「真姫ちゃん、そろそろ顔あげてもいいんじゃない?」

「……」

31: 2015/12/30(水) 17:02:04.94 ID:TDh0m+Gg.net
呼びかけても無視。私に深々と抱きついたまま離れようとしない。

にこにーの抱き心地に酔いしれてるのかもしれないけど、私だって放置されたら寂しいのよ。こっち見てほしいな。

「ねー、こっち向いてってば。おーい」

「……」

無言。

(へぇ~、そういうことするんだ。……これはもう、お仕置きをするしかないわね)

私を構わない真姫ちゃんが悪い。罰を与えるわ。

ニヤリと笑いながら真姫ちゃんの耳へ手を伸ばす。もぎゅっと掴めば、ぴくりと反応があった。

32: 2015/12/30(水) 17:02:38.35 ID:TDh0m+Gg.net
「ふーんだ。真姫ちゃんが相手してくれないのなら、私だって勝手に楽しむもんねー」

言いながら、ぐにぐにと耳の感触を楽しむ。当たり前だけど、普通に柔らかい。

だけどやっぱり、物足りない。ぐにぐにする度に真姫ちゃんは頭をもぞもぞさせているけど、それだけだし。

勝手に楽しむとはいったものの、反応が小さいし、なんだか面白くない。

(もっと激しくしちゃお)

にやつきながら、一旦耳から手を離す。

そして数秒後、真姫ちゃんが油断した頃合いを見計らって、指先を耳の内側へと突撃させる。

そーれ、こちょこちょこちょ!

「ひぁっ!」

効果抜群。真姫ちゃんヘッドが逃亡しようと暴れだす。でも、そうはさせないんだから。

頭を逃すまいとがっちりと抱え込み、ひたすら耳をいじり倒す。こちょこちょ。

暴れる真姫ちゃん。抑える私。格闘は続く。

33: 2015/12/30(水) 17:03:09.01 ID:TDh0m+Gg.net
「……う゛ぇぇ……」

しばらくしたら、例の声が聞こえてきた。限界が近い証拠。そろそろ許してあげましょう。

パッと手を離せば、真姫ちゃんはすぐさま顔を上げた。涙目で私をにらんでいる。うひゃあ。

「もう、にこちゃん!なにするのっ!」

鼻をすんすんと鳴らしながら、私の胸をぽかぽかと叩いてくる。

なんだろう、これ。真姫ちゃんに怒られているはずなのに、すごく癒やされる。可愛い。

「だって真姫ちゃん、無視するんだもん。にこ寂しかったなー」

「うっ……」

34: 2015/12/30(水) 17:03:44.18 ID:TDh0m+Gg.net
お怒りのところ申し訳ないけど、私にだって言い分はある。

ちゃーんと行動に理由はあるんだから。

「むしろ、私が怒りたいくらいなんですけどー?」

「それは……その、ごめんなさい……」

たじろいでいるあたり、真姫ちゃんだって私を無視していたのは悪いと思っているみたいだ。

悪いことはちゃんと悪いと思える子。

真姫ちゃんは良い子ね。うんうん。

(……あ、そうだ。これを使って真姫ちゃんに『お願い』してみよっと)

35: 2015/12/30(水) 17:04:57.39 ID:TDh0m+Gg.net
真姫ちゃんが二人の前で叩いた大口を、そろそろ果たして貰わないといけない。

理由を作ってあげないと真姫ちゃんからはいつまでも来そうにないし、ちょうどいい。

あんまりちんたらとしてるのは、傍で見ているだけの二人にも悪いもんね。

凛なんて、暇そうにあくびしているのをチラホラとみかけるくらいだし……。

「本当の本当に反省してる?」

「……うん」

「許して欲しい?」

「うん」

不安そうな表情の真姫ちゃんに少なからず罪悪感。同時にしめしめと思っていたりもするけど。

我ながら業の深いこと。でもね、これは全部、真姫ちゃんのためなんだからね。

「それじゃあ、にこのお願い、きいてほしいな」

ここまできたら、あとは。

真姫ちゃんが私にキスしやすいように、精一杯。可愛らしく、おねだりしてあげる。

36: 2015/12/30(水) 17:09:41.84 ID:TDh0m+Gg.net



じわりじわりと迫ってくる、薄紅色の唇。

少しばかり荒くなった吐息が、私の唇をなぞるかのように吹き抜ける。

息遣いの音が聞こえるほどに近づいた頃、真姫ちゃんは思い出したかのように口を開いた。

「にこちゃん、じっとしててね」

じっとも何も、さっきから私はまったく動いていないけど。

むしろ、真姫ちゃんが近づいたり離れたりを繰り返していて落ち着きなさいといいたい。

「……いくわね」

自分に言い聞かせるような呟き。

更に唇を近づけはじめた真姫ちゃんは、やはりあと一歩というところで動きが止まった。

37: 2015/12/30(水) 17:11:09.35 ID:TDh0m+Gg.net
「やっぱり人前でなんて無理よぉ……」

トマト色に染まった顔を手のひらで覆い隠している。

よっぽど花陽と凛に見られながらのキスが恥ずかしいらしい。

(せっかく、私がキスをしやすいようにお願いしてあげたってのに……)

五分ほど前。

可愛らし~くおねだりをすると決めて、それはもう、やりすぎなくらい媚び媚びな感じでおねだりをした。

余りの媚び具合に、花陽すら少し引いていたので回想は割愛。

まあ、そんなのでも真姫ちゃんには効果てきめんで、やる気にはなってくれたんだけど……。

38: 2015/12/30(水) 17:13:00.79 ID:TDh0m+Gg.net
「う゛ぇぇ……」

ちなみにこれは3回目の挑戦で、そして3回目の失敗だったので、真姫ちゃんもへこみ気味だ。

菩薩の如き聖母と言われた矢澤にこといえど、焦らされることにそろそろ不満が溜まってきたりする。

「ねえ、私からキスしちゃダメなの?」

真姫ちゃんからキスできないなら私からするしかない。

だから当然そういうことを尋ねるわけだけど―――

「やだ。私だって花陽と同じことするんだからっ」

―――途端に真姫ちゃんは頑なになって、オコトワリされてしまうのだ。

どうしても花陽の様に自分からするつもりのようで。

にこ的には、別にそこまで一緒にしなくてもいいじゃないって思うんだけど、真姫ちゃんプライド高いからね。

39: 2015/12/30(水) 17:13:56.54 ID:TDh0m+Gg.net
(……これじゃあ埒があかないじゃない)

仕方ない。あんまりやりたくなかったけど、逃げ道を塞いじゃいましょう。

未だ赤い顔で恥ずかしがっている赤毛娘の手をつかみ、無理やり顔の前から手を引き離す。

何事かと驚く真姫ちゃんの瞳をしっかりと見つめながら、断固たる意志を込めて通告する。

「次もキスできなかったら、もう真姫ちゃんと百合営業しないから」

瞬間、雷に打たれたように真姫ちゃんの表情が硬直した。

赤くなっていた肌色が、どんどん青ざめていく。

40: 2015/12/30(水) 17:16:26.94 ID:TDh0m+Gg.net
「にこちゃん、それ、本当……?」

「本当よ。本当で、本気」

私の返答に、真姫ちゃんは顔を俯かせる。心の何処かで、高をくくっていたのだと思う。

もしもキス出来なかったとしても、自分との百合営業は続くはずだと。

きっと私が花陽に上手くいってくれるだろうと。

しかし、たった今、私の宣言によってそれが崩れてしまって、どうしようか必氏に考えてるに違いない。

(……こんなこといっておいて何だけど、次も無理そうなら私からしちゃうつもりだ)

ちょっと苦しいけど、どちらからキスしないと、とはいってないから何とでも言える。……と思う。

そもそもの話、これまでの百合営業にだって実績があるのだから急に相手を変えるわけにいかないしね。

ファンを混乱させちゃうことは避けなくてはいけない。だからこれは追い込むためのブラフにすぎない。

41: 2015/12/30(水) 17:18:06.52 ID:TDh0m+Gg.net
(にこってば悪女かも……なんてね)

狡いことをしている罪悪感にほんの少し心を痛めながら、真姫ちゃんを掌の上で転がしている感覚に得意げになっていた時。

がしっ!と自慢のツインテールの根本を何者かに掴まれた。

「……ふぇ?」

当然、そんなことが出来るのは目の前にいる真姫ちゃんしかいないわけで。

間抜けな反応を返す私に、当の真姫ちゃんは心の奥底から絞りだした、凍えるような声で一言。

42: 2015/12/30(水) 17:19:11.38 ID:TDh0m+Gg.net
「そんなの絶対ダメ」

そして、頭を掴んだ手に力が込められた。

ぐいと引き寄せられる頭は、両手によって固定されているせいで抗うことも出来ず。

視界に映る景色は、急速に変化していく。

「まき、ちゃ―――」

そこでやっと動き始めた思考は、どうにか名前を呼ぶことを選択した。

きっと呼びかけが間に合わないであろうことは、知っていた。

なにせ、その時にはもう、目の前に真姫ちゃんの瞳があったから。

「―――んむぅ!」

43: 2015/12/30(水) 17:20:56.29 ID:TDh0m+Gg.net



「んんっ……」

前から思ってたことだけど、真姫ちゃんのにはスイッチがついているに違いない。

オフの時は恥ずかしがり屋で甘えん坊だけど、オンにしたら暴走が始まって周りが見えなくなるとか、そういうやつ。

例えば、私が少し追い込んだだけでスイッチが入って、唐突に熱烈なキスをしてくるとか。……うん、今の私の状態のことだ。

(……まあ、それはいいわよ。感情表現が苦手なのはわかってたことだし)

とにかく。

真姫ちゃんは極端で困る。もう少し中間がほしいところよ。

61: 2015/12/30(水) 17:24:59.96 ID:TDh0m+Gg.net
「あむっ」

現実逃避気味の思考をしている間も、息継ぎを挟みながらキスは続く。

雰囲気なんて皆無のキスだったけれど、こうも熱っぽく求められたら、やっぱり嬉しくなってしまう。

自然と頬は上気してくるし、頭だってなんだかボーッとしてくる。

「にこ、ちゃぁ」

かすかに聞こえてきた、甘ったるいねだるような呟きに、どくんどくんと体が疼き始める。

(あ、まずい)

これ以上触れ合っていると、私も暴走してしまう。いますぐ離れないと―――。

「やぁっ」

いち早く逃亡を察知した真姫ちゃんは、私の体を包み込むように絡みついてきた。

膝上にいる真姫ちゃんとの揉み合い。

身をよじらせればよじらせるほど、密着した肌と肌がより強くこすれあって、痺れるような感覚が体を突き抜ける。

68: 2015/12/30(水) 17:25:44.43 ID:TDh0m+Gg.net
「ひぁっ……!まきちゃん、ちょっ、だめ、だめだからっ……!」

本当にまずい。私の中の抵抗する力が、だんだんと弱くなってきている。

このまま流されてしまったら、取り返しがつかないところまで、いっちゃう―――

「―――おっほん!二人とも、それくらいにしてくれないかにゃ?」

「ひゃあ!?」

「う゛ぇぇ!?」

ババっと声のしたほうに振り向く。

やれやれと肩をすくめている凛と、顔を赤らめて微笑んでいる花陽の姿。

102: 2015/12/30(水) 17:31:43.62 ID:TDh0m+Gg.net
(ああああっ、完全に凛と花陽がいることを忘れてたあああ!!)

どたどた、がたん。

現状を完璧に理解した真姫ちゃんは、初めて見るほどの素早い動きで私の膝上から降りてイスに座った。

髪の毛をくるくるしながら、何か?とでもいうような表情を装っているけれど、顔色のほうはこれ以上ないくらい真っ赤だ。

さっきの部室が凍った時の張り詰めた空気とは違った、気まずい空気が流れる。

(ひゃあ、恥ずかしい……どうしよ……)

どうしたらいいのか悩んでいたら、花陽がくすくすと笑い出した。

108: 2015/12/30(水) 17:32:27.46 ID:TDh0m+Gg.net
「ふふ……真姫ちゃん、にこちゃんのこと大好きなんだね」

知っていたことを改めて確認するような質問。

真姫ちゃんはそっぽを向いて、数秒の沈黙。花陽に向き直って、凛とした声でハッキリと答えた。

「……当たり前でしょ?二人の前でキス出来るくらい、にこちゃんのことが大好きよ」

―――それも、花陽よりもずっと、ずっーとね。

―――そうかな?私のほうが、大好きだと思うよ?

言葉を付け足しあってから、二人は顔を見合わせる。

そこに、暗い感情はなかった。ただお互いを認め合うような、挑戦的な笑みが浮かんでいて。どちらともなく笑い出した。

「えへ、えへへ……」

「ふふふっ……ふふっ」

うわあ、なんか怖い笑い方してる。

でもまあ、これは二人の間に新たな絆が芽生えたともいえそうだ。

とりあえずは丸く収まったということで、一件落着。……で、いいのよね?

113: 2015/12/30(水) 17:33:07.13 ID:TDh0m+Gg.net



なんやかんやで、いつもの雰囲気に戻った私達。

……いや、違うわね。いつも通りではなかった。

「でね、その時にこちゃんが――」

「―――ふふ、なにそれ、すっごくいいそうね」

急に距離が近づいて、仲良しになった花陽と真姫ちゃんがいる。いや、元から仲良しだったけども。

さっきから仲良さげに、こそこそ話で何かを自慢しあっている。

まあ、何かっていうか……漏れ出してくる声だけで、私とのエピソードを披露しあってるってわかるんだけど。

(どんな顔してればいいの、これ)

私に話を振ってくるでもなく、たまに私の方をみてクスクス笑い合う二人。ああ、すっごい複雑……。

それに私だけじゃないわ。凛だってすっごい暇そうにしている。ちょっとは気にしてあげてほしい。

私と花陽がアイドルの話で盛り上がっている時のような表情で天井のほうを見上げている。

118: 2015/12/30(水) 17:33:50.58 ID:TDh0m+Gg.net
(……何見てるんだろ?)

ちょっと気になって、視線を追ってみる。するとそこには壁掛け時計。

私も、授業早く終わんないかなーって思ってる時はよく時計を見つめてるから気持ちはわかる。

(にしても、もうこんな時間なのね。……頃合いかな)

そろそろ解散してもいい時間。三年生の教室は部室から近いけど、一年生の教室は結構遠い。

今から戻りはじめてちょうどいい時間だったりする。

パンパン、と拍手を鳴らして三人の視線を集め、話し始める。

「はいはい、お喋りはそこまで。もう時間が時間だし、教室に戻りなさい」

「あ、はぁい」「……うん」「んにゃあー」

どこぞのスピリチュアルと金髪と違って、素直に聞き分けてくれる一年生。

こういう時に一番ぐずる凛が、あんな感じだったからってのも大きいけどね。

124: 2015/12/30(水) 17:34:33.43 ID:TDh0m+Gg.net
「それじゃあ、にこちゃん。また部活でね」

花陽の言葉を皮切りに、三人は去っていく。

小さく手を振る花陽に、物足りなさそうに私をチラ見する真姫ちゃんに、またね!と元気な様子の凛。

「またね」

手を振り返しながら、花陽たちを見送る。

ばたん、とドアが閉じる瞬間まで、手を振り続ける。

(今日は特にいろいろあったけど、やっぱり楽しかった)

132: 2015/12/30(水) 17:35:44.37 ID:TDh0m+Gg.net
一緒に食べるお弁当も、ちょっとした諍いも、全部大切な思い出だ。

ここまで後輩に慕われる日がくるなんて思ってもなかったから、送り出した後に物思いに耽ってしまう。

(花陽もなかなかだったけど、あの時の真姫ちゃんの顔が一番傑作だったかな)

これまでの一週間の思い出に浸りながら、教室に戻る準備をしていると、がちゃ、とドアが開く音がした。

視線を向ければ、凛がいた。どたどたと足音をたてながら近づいてくる。

「ただいま、にこちゃん!戻ってきたよ!」

「……あれ、どうしたの」

「忘れ物したのっ」

お昼休みに凛が持ってくるものといえば、お弁当一式が入った袋と水筒くらいなものだと思うけど。

机の上にらしきものは見当たらない。何を忘れたんだか。授業に遅れちゃうわよ。

140: 2015/12/30(水) 17:36:57.98 ID:TDh0m+Gg.net
「一緒に探してあげる。何忘れたの?」

「これだにゃー」

凛は、自分の前髪が掻きあげて、おデコをあらわにする。

そして、くりくりした目から放たれる期待に満ちた眼差し。

ここまでされたら、凛が忘れたものが何かなんて誰でもわかる。

(まったく。人前では甘えてこないくせに)

これまでも、隙を見てはデコチューをねだってきていた。こんなに積極的にではなかったけど。

もしかしたら、さっきの花陽と真姫ちゃんとのキスのやりとりで内心思うところがあったのかもしれない。

(私に対して一番のツンデレって、もしかしたら凛かもね)

実際のところはわかんないけど、そう思えば凛の面倒そうな行動とかが全部かわいく思えてくる。

あんたのことも大好きなんだから安心しなさい。愛おしい想いを込めながら、おデコに唇を落とす。

ちゅっ。

「えへへっ。……凛も返しするにゃっ」

―――ちゅっ。

「……じゃあ、私もお返ししなくちゃね?」

そうしてチャイムがなるまで、私達のお返し合戦は続き。

バッチリと授業に遅刻してしまったのだった。

153: 2015/12/30(水) 17:38:56.56 ID:TDh0m+Gg.net
まきりんぱな編終わりにこ!

223: 2015/12/30(水) 17:48:30.88 ID:TDh0m+Gg.net
次回投下は二週間後くらいにスレ建ててやるにこー

343: 2015/12/30(水) 18:05:53.74 ID:JcJ4oZyN.net
乙!堪能した

引用: 【SS】キス魔にこにー