1: ◆pUacRapWhs 2010/12/05(日) 00:07:40.08 ID:Ez72zMMo
~鈴の森~

僧侶「はぁはぁ……」

ゴブリン「ギャギャアア!」

僧侶「もう無理っす……!」

ゴブリン「キシャアアアアア!」

僧侶「うわぁぁ!」

ヒュン

僧侶「はへ?」

ゴブリン「ギィ!?」

侍「はぁっ!」

ズバァ!!

ゴブリン「ギャガァ!」

ドサッ……

侍「……怪我はないか?」

2: 2010/12/05(日) 00:10:44.86 ID:Ez72zMMo
僧侶「あ……えと、ちょっとだけ」

侍「そうか、なら良かった」

僧侶「ちょ、ちょっと待つっす」

侍「?」

僧侶「……ありがとうっす」

侍「礼には及ばん。だが、そのゴブリンの歯跡、早く治療したほうがいい。ゴブリンの毒は厄介だぞ」

僧侶「……あの、名前は?」

侍「名乗るほどの者ではない」

僧侶「そんな固いこと言わず、教えてほしいっす!」

侍「……侍だ」

3: 2010/12/05(日) 00:11:57.03 ID:Ez72zMMo
僧侶「しゃむらい!?」

侍「……」

僧侶「失礼、噛んじゃったっす。侍って言ったら……ジパングの……」

侍「亡国ジパング……」

僧侶「そうっす、そうっす。あなたがその、ジパングのお侍さんなんすか?」

侍 コクッ

僧侶「マジっすか! 凄いっすねぇ」

侍「なにが?」

僧侶「いや、まさか、お侍さんに会えるなんてなーっと思って、ビックリしちゃったんす」

侍「そうか、じゃあ……」

ドサッ

5: 2010/12/05(日) 00:13:25.87 ID:Ez72zMMo
侍「?」

僧侶「ふみゅう……」

侍「おい」

僧侶「……」

侍「……やれやれ、毒が回ったか」

―――――

~とある宿屋~

僧侶「……ふにゃ!」

侍「猫のような声を出すんだな」

僧侶「あ、お侍さん」

6: 2010/12/05(日) 00:16:04.55 ID:Ez72zMMo
侍「毒はとりあえず除去した。少しすれば普通に動ける」

僧侶「え!? 毒、取り除いたんすか?」

侍「? ああ、まあ」

僧侶「凄いっす! 毒除去魔法使えるんすね!」

侍「魔法?」

僧侶「いやあ、やっぱり伝説のお侍さんは違うっす! 剣術も、魔法も兼ね備えているなんて!」

侍「待て、お前勘違いしてるぞ」

僧侶「へ?」

侍「俺は魔法なんて知らない」

僧侶「じゃ、じゃあどうやってやったんすか?」

侍「まあ、単純に吸い出した」

僧侶「……へ!?///」

7: 2010/12/05(日) 00:18:53.57 ID:Ez72zMMo
侍「?」

僧侶「ど、どこ吸ったんすか!?///」

侍「腕の歯跡の部分だ」

僧侶「う、うわぁぁぁぁぁっ! ファーストキス奪われたっす~!!」

侍「ふぁあすときす?」

僧侶「ひどいっすひどいっす! お侍さんは変態っす!」

侍「む、変態とはどういうことだ!」

僧侶「吸い出しなんて、この時代に誰もやらないっす!」

侍(普通だと思うが……)

8: 2010/12/05(日) 00:24:28.38 ID:Ez72zMMo
僧侶「なんすか?」

侍「いや、なんでもない」

僧侶「うう……」グスン

侍「! お、おい。泣かなくても……」

僧侶「乙女の柔肌にキスするからっす」

侍「おい、きすとはなんだ? 魚か?」

僧侶「キス……知らないんすか?」

侍「うむ」

僧侶「……」ジトー

侍「……?」

僧侶「は、恥ずかしくって言えないっすよ!///」

9: 2010/12/05(日) 00:27:19.00 ID:Ez72zMMo
侍「そ、そうなのか」

僧侶「変態なお侍さんのせいで調子が狂うっす……」

侍「変態ではない」

僧侶「嘘っす。私が可愛いから、ついつい吸い出しちゃったんす」

侍「可愛いかは、よくわからんが……氏ぬ寸前だったんだぞ?」

僧侶(なんすか、わからないって……)「たしかに、ゴブリンの毒は危ないっす。でも吸わなくても……」

侍「これを見ろ」

僧侶「む?」

侍「ゴブリンはゴブリンでも、どうやら賞金をかけられるくらいのゴブリンだったらしい」

僧侶「考えてみれば、本で見たゴブリンより大きかったすね」

10: 2010/12/05(日) 00:31:41.71 ID:Ez72zMMo
侍「この紙にはあいつは鈴の森のゴブリンのボスだったらしい」

僧侶「え! そうだったんすか」

侍「ああ、大きいだけじゃなく、毒の強さも相当だったようだ」

僧侶「……でも、吸い出しはダメっす」

侍「ほかに方法がなかったんだ。仕方がないだろう」

僧侶「……」

侍「まあ、元気になったみたいだな」ガタッ

僧侶「どこ、行くんすか?」

侍「俺はもう行く。お前もまた鈴の森に行く時は気をつけろよ」

僧侶「あ、ちょっと……行っちゃったっす」

僧侶「……」

僧侶(もうちょっと、心配してくれてもいいのに)

11: 2010/12/05(日) 00:34:25.28 ID:Ez72zMMo
と、ここで一旦終了です。

遅筆ですが、これから長い目で見てください。

15: 2010/12/05(日) 22:37:16.07 ID:Ez72zMMo
~スズの村~

侍「……さて、これからどうしたものか……」

侍(とりあえず、村を出よう。鈴の森を抜けて、また新しい村に……)

侍「野宿は止む無し……だな」

侍「……」

僧侶「ちょ、ちょっと待つっす!」

侍「?」

16: 2010/12/05(日) 22:39:48.41 ID:Ez72zMMo
僧侶「わ、私っす」

侍「まだ完全に毒が治まったわけじゃないんだぞ。無理するなよ」

僧侶「そんなの私の勝手っすよ。それよりお侍さん、どこに行くおつもり?」

侍「この村を出るつもりだ」

僧侶「ほほう、こんなか弱い女の子を一人置いて、行ってしまうんすか?」

侍「一人で森に行くような奴がか弱いわけないだろう」

僧侶「それでも、酷いっすよ……」ウルウル

侍「……なんだその目は」

僧侶「え? なんすか?」

侍(小動物のような目……まるで猫みたいだ)

17: 2010/12/05(日) 22:46:15.66 ID:Ez72zMMo
僧侶「どうしたっすか?」

侍「いや、なんでもない。それでも、俺は行く」

僧侶「ついていっていいっすか?」

侍「駄目だ。安静にしてろ」

僧侶「えー! 酷いっす!」

侍「じゃあな、またどこかで会ったら、声でもかけてくれ」

スタスタ

……スタスタ

侍「……」スタスタ

僧侶「……」スタスタ

侍「……おい」

18: 2010/12/05(日) 22:50:50.38 ID:Ez72zMMo
僧侶「なんすか?」

侍「どうしてついてくる」

僧侶「行く場所がおんなじなんすよ」

侍「嘘つけ、お前の目的地は宿屋だ」

僧侶「勝手に決めないで欲しいっす! あっ……」

侍「どうした?」

僧侶「な、なんでもないっす。気にすんなっす」

侍「……」

タタタッ

僧侶「あー! は、走るなっすーー!」

侍「悪いが、俺は行く、じゃあな」タタタタタッ

僧侶「ま、待つっすー! うわっ」ステーン

僧侶「……諦めないっす!!」スクッ

タタタタッ……

20: 2010/12/05(日) 23:05:45.97 ID:Ez72zMMo
―――――

~鈴の森~

僧侶「はぁはぁ……」

僧侶「うぅ、追いつけなかったっす……」

僧侶「やっぱりお侍さん、足も速いっす……口も早いっすけど」

チリン

僧侶「?」

チリン……チリン……

僧侶「鈴の……音?」

21: 2010/12/05(日) 23:09:20.99 ID:Ez72zMMo
ゴブリンA「ギギギ……」チリン

僧侶「!?」

ゴブリンB「ギャギャァァ!!」

僧侶「!!」(ゴブリンの群れ!? なんつー数っすか!!)

ゴブリンA「ギッギギー!!」

ゴブリンB・C・D・E「ギィー!!」

ゴブリンの群れ(A,B,C,D,E)があらわれた。

22: 2010/12/05(日) 23:16:20.18 ID:Ez72zMMo
僧侶「これはまずいっすね……!」

僧侶(こっちは一人っす、それに私は正直、戦闘はダメダメな部類っす……!)

僧侶「それでも……はぁ!」ガッ

ゴブリンA「ギギィ!?」チリンッ

僧侶「さっき相手したやつなんかより、一体一体の強さは大したことないっす!」

ゴブリンB「……ギ?」

僧侶「……? なんすか??」

ゴブリンC「ギギ、ギギィ!」

ゴブリンD「ギー!!」

23: 2010/12/05(日) 23:19:20.94 ID:Ez72zMMo
僧侶「な、なんか怒ってるっす……あ!」

僧侶(もしかして、ボスのことっすか……!?)

僧侶「もしかして……怒らせちゃったすかね?」

ゴブリンA「ギー!」ダダッ

僧侶「うわー! やっぱりっす!」

ゴブリンAが大きく棍棒を振るう。

僧侶「うわっと! 危ないっすよ!」

24: 2010/12/05(日) 23:21:29.09 ID:Ez72zMMo
さらに、ゴブリンBも大きく棍棒を振るう。

ドゥン!!

僧侶「かはっ……!」

ゴブリンBの棍棒は僧侶の脇腹に命中し、横に大きく吹き飛ばされた。

僧侶「や、やるっすね……!」

ドクン

僧侶「!」

ドクン ドクン

僧侶「か、体が……熱い……!」(まさか、毒……!?)

25: 2010/12/05(日) 23:32:54.91 ID:Ez72zMMo
ゴブリンD「ギギ?」

ゴブリンC「ギギギッ!!」

僧侶「まさか……こんな時に!」

ゴブリンA「ギー!」

ゴブリンB・C・D・E「ギィィィィ!」

僧侶「もう……ダメっす」

僧侶(せめて、最後に……)

ゴブリンA「ギギャアアア!」

僧侶(お侍……さん)

ドゴッ

26: 2010/12/05(日) 23:39:22.80 ID:Ez72zMMo
僧侶「……あれ?」

ギギギギ……

侍「まったく、やはり戻らなかったか」

僧侶「! お、お侍さん!」

ゴブリンA「ギギギ!?」チリン

侍「鈴の森……ここに住み着いたゴブリン達の首にある鈴の音が、名前の由来になってるらしい」

僧侶「そ、そうだったんすか……」

侍「はあっ!」ギィン!

ゴブリンA「ギィ……!」チリリン

侍「この鈴がついているゴブリンもまた、リーダー格のゴブリンだ」

27: 2010/12/05(日) 23:47:45.22 ID:Ez72zMMo
侍「立てるか?」スッ

僧侶「て、手なんて差し伸べられなくても大丈夫っす。……あっ」グラッ

侍「! 危ない」

ポニュ

僧侶「……」

侍「世話焼かせやがって……よいしょっと……」

侍「また、村に戻らなきゃ行けないじゃないか」

ゴブリンB「ギィ……」ブンブン

侍「やる気満々だな。相手にとって、不足なし」

ゴブリンA「ギギィ!」チリン

ゴブリンAが侍を指差し、ゴブリンC、D、Eに指示をした。

ゴブリンC・D・E「ギィ!」

勢いよくゴブリンC・D・Eが侍向かって突撃を開始した。

28: 2010/12/05(日) 23:52:21.26 ID:Ez72zMMo
侍「多の型……阿修羅!」

ズバズバッバシュッ!!!

たった数秒で、ゴブリンC・D・Eの体は細切れに刻まれた。

ゴブリンB「ギィ……」

侍「さて、次はどうする?」

ゴブリンA「ギッ!」チリン

ゴブリンB「ギギギュアアアア!!」

29: 2010/12/05(日) 23:58:45.89 ID:Ez72zMMo
侍「! なんだ……?」

ゴブリンA・Bが向かい合い、頭突きをしている。

侍「な、何を……?」

ボスゴブリン「ブワァァァァァ!」

ゴブリンA・Bはボスゴブリンになった。

侍「……合体か」

ボスゴブリン「ウゥゥ……グゥゥ」

侍「やれやれ……さっきのボス以上のでかさだ――」

32: 2010/12/06(月) 00:07:20.07 ID:3hj/nYAo
侍「――しかし」

ボスゴブリン「ギギャアア!?」

侍「もう遅い」

ボスゴブリン「……ギギィアア?」

侍「手を……見てみろ」

ボスゴブリン「ギ……ギギギギギギギギギアアアアアアアア!!!!」

ボスゴブリンの手はすでに、侍によって斬り落とされていた。

侍「風の型、隼<はやぶさ>だ。この速さわからないようじゃ、お前に俺は倒せない」

ボスゴブリン「ググググ……グラァァァァァァァ!!」

侍「お前を、斬る」

ズバァ!!!

34: 2010/12/06(月) 00:18:04.36 ID:3hj/nYAo
―――――

僧侶「……ん」

侍「大丈夫か?」

僧侶「あ……ここは?」

侍「鈴の森だ。微量の毒はここらの薬草で除去しておいた」

僧侶「……ありがとうっす」

侍「礼には及ばん」

僧侶「また、助けられちゃったっすね」

侍「気にするな」

僧侶「……ここで、折り入ってお願いするっす!」

35: 2010/12/06(月) 00:26:03.21 ID:3hj/nYAo
侍「ついてくるな」

僧侶「ま、まだ言ってないっす!」

侍「何があっても駄目だ」

僧侶「全否定っすか!?」

侍「……で?」

僧侶「一緒に、行かせてほしいっす」

侍「……それは、駄目なんだ」

僧侶「そんな! 拒む理由があるんすか!?」

侍(たくさんあると思うが……)

36: 2010/12/06(月) 00:33:20.04 ID:3hj/nYAo
僧侶「こんなに可愛い私が、お願いしてるんすよ!?」

侍「むぅ……」

僧侶「そうっすか……わかったっす」

侍「……」

僧侶「だったら、勝手についていくっす!」

侍「なに!?」

僧侶「大丈夫っす! 後ろからそーっとついて行くだけっすから!」

侍「……つまらない冗談はやめろ。お前にも、することがあるだろう」

僧侶「行きたい所があるっす。でも、私一人で行けるか不安なんす」

侍「……」

僧侶「だから、お侍さんの力を貸してほしいっす!」

僧侶は手を差しのべながら、頭を深く下げる。

37: 2010/12/06(月) 00:35:25.81 ID:3hj/nYAo
侍「……好きにしろ」

僧侶「やったっす! これからよろしくっすね~!」

侍(いきなり声色が変わりやがった……)

僧侶「じゃあ、出発っす!」

侍「だが、お前の行きたい所まで、一緒に行く約束はできない。それでもいいか?」

僧侶「大丈夫っす! さー行くっすよー!」

侍(結局一緒に行くことになるとは……やれやれ)

僧侶「……あれ?」

38: 2010/12/06(月) 00:38:24.46 ID:3hj/nYAo
侍「どうした?」

僧侶「なんか……ブラがずれてるっす」

僧侶は、凹凸あるとは言い難い胸をさする。

侍「ああ、さっき倒れた時に少し触ってしまった」

僧侶「……え!!///」

侍「む、どうした?」

僧侶「わ、私のファーストタッチ……!!!///」

侍「ど、どうした?」

僧侶「やっぱりお侍さんは変態っすーーーー!///」

39: 2010/12/06(月) 00:41:24.89 ID:3hj/nYAo
はい、ある意味一話終了です。
遅筆のせいで、こんなにノロノロ投下で申し訳ありませんでした。
これからはどんどんスピードを上げられるよう頑張ります!

42: 2010/12/08(水) 01:33:20.81 ID:S.d26Noo
侍「……おい」

僧侶「……」ツーン

侍「いい加減、機嫌直せよ」

僧侶「変態っす」

侍「誰が変態だ!」

僧侶「うわわっ! 襲われるっす~!」

侍「誰が襲うか!」

44: 2010/12/08(水) 01:36:19.07 ID:S.d26Noo
僧侶「……」

侍「……」

僧侶「謝って欲しいっす」

侍「事故だ」

僧侶「でも、触ったのはお侍さんっす」

侍「……断じて言わん」

僧侶「やっぱり、反省してないっすね!」

侍「だから事故だと言っているだろう!?」

45: 2010/12/08(水) 01:37:11.22 ID:S.d26Noo
?「うるさいなぁ……」

木の上から、声が聞こえる。

僧侶「む?」

侍「誰だ?」

?「ゆっくり眠れないじゃないか……」

僧侶「……えいっ」ドンッ

グラッ

?「え!? うわああああ!」

ドシャア

46: 2010/12/08(水) 01:38:54.21 ID:S.d26Noo
侍「! 僧侶、お前……!!」

僧侶「木の上から人を見下すなんて最低っす!」

侍(いや、見下してなかったぞ)

?「いたた……酷いなぁ」ムクッ

侍「……改めて、誰だ?」

?「名前なんてどうでもいいよ。うるさいから静かにしてって話」

ふわぁ、と大きく欠伸をした。

侍「そうか、すまな――」

僧侶「頼むなら名前を名乗ってはっきり頼むっす!」

侍(……お前も頼む時、名前言ってなかったぞ)

風来「……ボクは風来(ふうらい)。君たちは?」

47: 2010/12/08(水) 01:41:58.93 ID:S.d26Noo
侍「侍だ」

僧侶「僧侶っす」

風来「侍と僧侶……面白い組み合わせだね。それじゃあ、静かにしてね」

僧侶「いやっす」

風来「ええ……酷いなぁ」

僧侶「私はお腹が減ってるっすよ?」

風来「……つまり、食べ物が欲しいってことかい?」

僧侶「そうっす! プリーズ、プリーズっす!」

侍「ぷりーず?」

僧侶「くださいってことっすよ」

風来「でも……ボクも持ち合わせてないんだけど……」

48: 2010/12/08(水) 01:44:12.69 ID:S.d26Noo
侍「僧侶、卑しいことをするのはやめろ」

僧侶「腹が減ったっすーーーー!」

侍「こいつの服装を見てみろ。俺たちと同じ旅人だ」

風来「へえ、わかるの?」

侍「当たり前だ。同じ旅人としてはな」

風来「ふぅん……お兄さん、結構やるね」

僧侶「凄いっす! さすが変態っす!」

風来「へ、変態?」

侍「僧侶、そろそろいい加減にしないと……」チャキ

僧侶「こ、こんなことで刀を出さないで欲しいっす~!」

50: 2010/12/08(水) 01:46:07.26 ID:S.d26Noo
風来「……ああ、そうだ。近くに友人の小屋がある。そこで食事なんてどうだい?」

侍「いいのか?」

風来「君とすこし、話がしたい。旅の話とか」

僧侶「やったっす! 私お腹ペコペコっす!」

侍「すまん、ごちそうになる」

風来「いいよいいよ、気にしないで。それじゃあ、行こうか」

侍「ああ」

51: 2010/12/08(水) 01:47:36.36 ID:S.d26Noo
僧侶「ご飯楽しみっす!」

風来「期待に応えられるかはわからないけどね」

侍「ご馳走してもらえるだけで十分だ」

僧侶「あ、一つ言いたいことがあるっす」

風来「なに?」

僧侶「ゆっくり寝たいなら木の上で寝るのは危ないっすよ」

風来「……そうだね」

55: 2010/12/09(木) 03:58:43.77 ID:xdeui9oo
―――――

風来「はい、到着」

僧侶「ボロい小屋っすねぇ」

侍「失礼だろうが」

僧侶「そんなことより、飯っす!」

侍(意地汚い女だ……)

風来「はいはい……さてと」

風来はドアをノックした。

風来「あれ? 留守かな……」

56: 2010/12/09(木) 03:59:10.34 ID:xdeui9oo
侍「……?」

風来「おーい」

シーン

僧侶「ご飯……」ウルウル

侍「留守みたいだな」

風来「おかしいな、いるはずなんだけど……」

キィィ

僧侶「あれ、空いてるっすよ」

風来「あ、本当だ」

57: 2010/12/09(木) 04:02:33.72 ID:xdeui9oo
侍「……」

風来「とりあえず、中に入ろう。きっとやつも怒らないだろうし」

僧侶「ご飯にありつけるっす!」

侍「……」

僧侶「どうしたっすか?」

侍「いや、なにも……」

風来「とりあえず、あるもので作るね、待っててよ」

僧侶「ほいっすー」

58: 2010/12/09(木) 04:06:31.02 ID:xdeui9oo
侍「勝手にやってもいいのか?」

風来「それくらいの仲だから、大丈夫さ」

侍「……そうか」

僧侶「私にもそれくらい仲のいい友達を作りたいっすー」

侍「帰ったら家に食料が無いなんてことが度々ありそうだな」

僧侶「う、うるさいっす!」

59: 2010/12/09(木) 04:14:51.08 ID:xdeui9oo
風来「はい、できたよ」

侍「早いな」

僧侶「うっひょー! 美味そうっす!」

侍「美味しそう、だろう」

僧侶「意味は一緒っす! いただきまーす!」パクッ

風来「どうだい?」

僧侶「……うんまい!」テーレッテレー

風来「それはよかった」

侍「……」

風来「どうしたんだい? 食べないのかい?」

60: 2010/12/09(木) 04:18:15.71 ID:xdeui9oo
侍「いや……いただこう」

パクッ

風来「どうだい?」

侍「ああ、美味い」

僧侶「お侍さんだって使ってるじゃないっすかー」

侍「お前はもっと上品な言葉を使え」

風来「ふふっ……仲がいいんだね」

侍「どこがだ」

僧侶「そうっすよ! こんな変態と……いや、冗談っす。刀をしまうっす」

侍「ふんっ」

71: 2010/12/10(金) 01:24:03.14 ID:Qk3A8noo
風来「さて……と」

僧侶「?」

風来「そろそろ、かな」

僧侶「何がっす……か?」

クラリ クラリ

僧侶「ありゃ?」

侍「?」

ドテッ

侍「! お、おいっ。……!!」クラリ

72: 2010/12/10(金) 01:26:21.42 ID:Qk3A8noo
風来「まだ起きていられるの? ははは、丈夫だね」

侍「お前……!」

風来「ふふふ、睡眠薬だよ。これで楽にしてあげる!」チャキ

風来は小さなナイフを取り出した。

侍「なんで、こんなことを……」

風来「もちろん、君たちから色んなものを盗むためさ」

侍「確かにおかしいと思ったぜ……」

風来「それじゃあ、さようなら」

侍「ぐっ!」

キィン

73: 2010/12/10(金) 01:30:03.90 ID:Qk3A8noo
風来「朦朧とした意識の中でよく剣筋が見えるね」

侍「くそ……」(瞼が……重い)

風来「ほら、ほら、ほら!」ヒュンヒュンヒュン

侍「くそっ」キンキィンキィン

風来「本当によく動けるね……」

侍(せめてこの眠気が消えれば……!)クラリ

風来「もう、本当にぼやーっとしか見えていないんじゃない?」

74: 2010/12/10(金) 01:36:24.69 ID:Qk3A8noo
侍「……そうだな」

風来「ふふふ……」

侍「……これしかないか」

風来「? 何をする気だい?」

ザクッ

風来「!!」(自分の腕に……刀を刺した!?)

侍「くっ……。ふぅ……眠気が吹っ飛んだぜ」

風来「非常識な人だ……でも、怪我を負ってボクを倒せるかな!?」

侍「打の型、弁慶!」

75: 2010/12/10(金) 01:38:39.79 ID:Qk3A8noo
侍は物凄いスピードで風来の懐に潜り込む。

風来「!」

ダンッ!!

風来「がはっ」(や、やられた……!?)

侍「……」

風来「な、なぜ、斬れてないんだ……?」

侍「打の型、弁慶は刀の切れ味を引き換えに力を増大させる技だ」

風来の服がビリビリと破ける。

76: 2010/12/10(金) 01:44:40.11 ID:Qk3A8noo
侍「大丈夫だ、力は最小限に抑えた。お前に痛みはない。……それでもやるつもりなら、本気で行く」

風来「く……甘いよ、君」

侍「……?」

破けた服から、体に巻かれたサラシがチラリと見える。

侍「サラシ……お前、女か?」

風来「だったら、どうなんだい?」

侍はゆっくりと刀をしまった。

風来「……どういうつもりだい?」

侍「女に刀は向けられん」

風来「……君も、そう言うんだね」

侍「……?」

77: 2010/12/10(金) 01:48:26.33 ID:Qk3A8noo
風来「許さない、許さない!」

涙を浮かべて侍に向かって走り出す風来。

侍「……はっ!」ドスッ

風来「かはっ……」

ドサッ

侍「……」

―――――

僧侶「ひどいやつっす!」

侍「すこし落ち着け」

僧侶「落ち着けないっす! ぷんぷんっ」

78: 2010/12/10(金) 01:49:02.52 ID:Qk3A8noo
風来「……ん」

侍「む、気がついたか」

風来「……ボク」

僧侶「美味しい飯ありがとっすねぇ……睡眠薬入りの!」

侍「落ち着け」ゴッ

僧侶「つぁぁぁ……酷いっす……もっと女の子には優しくっす!」

風来「どうして、殺さなかった!?」

僧侶「うわ、ビックリしたっす」

侍「頃す理由はない」

79: 2010/12/10(金) 01:49:38.22 ID:Qk3A8noo
風来「ボクが、女だからか!? そうなんだろう!?」

僧侶「え!?」

侍「お前が女であろうと男であろうと、お前は殺さなかった」

風来「嘘だ」

侍「嘘じゃない」

僧侶(あれー……一人置いてけぼりっすか?)

風来「……」

風来は近くにあったナイフを手に持つ。

僧侶「うひゃあっす!」

侍「くっつくな」

80: 2010/12/10(金) 01:50:19.29 ID:Qk3A8noo
そのナイフを風来は自分の首に切りつけようとした。

しかし、それは侍の手によって阻まれる。

風来「……!」

僧侶「ちょ!? お侍さん、普通に手が貫通してるっす!!」

風来「どうして!?」

侍「命を粗末にするな!」バシンッ

風来「っ」

僧侶(うおっ、女の子にビンタっすか)

81: 2010/12/10(金) 01:50:59.20 ID:Qk3A8noo
風来「うぅ……うわぁぁぁ……」

僧侶「あー! お侍さん泣かせたっす!」

侍「……」

風来「ボクは、ボクはぁ……」ポロポロ

風来「どうして、どうして女に生まれてきたんだ……」

風来「こんな体……うぅ」

侍「……お前の命は、俺が預かる」

風来「……?」

侍「お前が自分のことを認めることができるまでお前は氏ねない」

風来「……」

侍「それがお前の、今回犯した罪の代償だ」

82: 2010/12/10(金) 01:51:50.81 ID:Qk3A8noo
僧侶「と、いうことは……!?」

風来「ボクが、君たちと一緒に行く……ってことかい?」

侍「そうだ」

風来「じょ、冗談じゃない! ふざけるな!」

侍「償いもできないやつに生きる資格はない。しかし、お前の命は俺の物だ」

侍「お前が自分のことを認めることができるまで、なにがなんでも生きてもらう」

風来「……」

僧侶(な、なんすか……私、空気じゃないっすか!)

風来「わかったよ……地に這いつくばっても、無様であっても、生きてやる……」

侍「……」

風来「ボクは、男だ!」

83: 2010/12/10(金) 01:53:06.79 ID:Qk3A8noo
―――――

僧侶 プクー

侍「それじゃあ、出発するか」

風来「うん、そうだね」

僧侶「……風来ちゃん!」

風来「ちゃんはやめてくれ」

僧侶 ジトー

風来「……?」

僧侶「ま、負けないっすから」ペタペタ

僧侶は自分の胸を擦りながら、そう言った。

風来「う、うん」

侍「それじゃあ、行くぞ」

僧侶「おうっす!」

風来「……」コクッ

94: 2010/12/14(火) 00:24:32.20 ID:VPvVRFIo
僧侶「ふわぁ……眠いっす」

僧侶「まさかじゃんけんで負けて、見張り役だなんて……」

僧侶「なんで風来ちゃんはじゃんけんに参加しないんすか……!」

僧侶「納得いかないっす! 私も寝ちゃうっす!」スタコラスタコラ

僧侶「……あれ?」

風来 スゥスゥ

侍「……」

僧侶「な、なに寄り添って寝てるっすかーーー!!!///」

風来「ふぇ……?」

侍「……ん?」

僧侶「変態侍、覚悟っすーーー!!!」

侍「ぐはっ!」

95: 2010/12/14(火) 00:25:06.31 ID:VPvVRFIo
風来「……」

僧侶「きっちり説明するっす」

侍「俺は知らない。起きたら風来が近くにいただけだ」

風来「……」

僧侶「そんなの嘘っす。一緒に寝てたっす!」

風来「ぼ、ボクも知らないよ」

侍「確か、俺はここで、風来はあっちの木にもたれて寝てたと思うぞ」

僧侶「……つ、つまり」ジッ

風来「な、なに?」

僧侶「風来ちゃんがお侍さんのところに来たってことっすか!?」

96: 2010/12/14(火) 00:25:36.96 ID:VPvVRFIo
風来「そ、そんなことあるわけない!」

僧侶「でもそれしか考えられないっす!」

侍「寝相だろう。気にすることはない」

僧侶「でも、悪すぎるっすよ!」

侍「言及するな」ゴッ

僧侶「つぁぁぁ……お侍さん、なんで私にだけ容赦ないんすか!?」

侍「うるさい、静かにしろ」

98: 2010/12/14(火) 00:36:18.22 ID:VPvVRFIo
僧侶「殴られて文句言わない奴はいないっす! なのに静かにしろって……ふむっ」

侍は僧侶の口を手で押さえた。

僧侶「!?///」

侍「お前のせいで魔物に囲まれちまっただろうが」

風来「! ……ほんとだ」

99: 2010/12/14(火) 00:37:30.35 ID:VPvVRFIo
侍(まさか、鈴の森を出るのにこんなにかかっちまうとは……)

僧侶「ひー!」

侍「とりあえず下がってろ」

僧侶「はいっすー!」

風来「……」

侍「風来、お前もだ」

風来「馬鹿にしないでよ、ボクだって戦える」

侍「駄目だ、下がってろ」

風来「やだ」

僧侶「風来ちゃん、危ないっす!!」

風来「!」(やられる……)

侍「はぁっ!」ザンッ

風来「……!」

侍「余所見するな。まだいるぞ!」

風来「わ、わかってるっ」

106: 2010/12/19(日) 01:43:31.65 ID:ogDW962o
―――――

侍「ふう……」

風来「はぁはぁ……」

僧侶「いんやぁ、凄いっす! 圧巻っす!」

侍「何がだ」

僧侶「わかってるくせに~」

風来「……やっぱり、凄いね。君」

侍「お前もな」

107: 2010/12/19(日) 01:46:20.85 ID:ogDW962o
僧侶(なんだか、良いムードっすね……)

侍「疲れただろ? 明るくなるまでまだ少しある。俺が見張りをするから、僧侶も寝ていいぞ」

僧侶「本当っすか! やっふぃ!」

風来「……」

僧侶「それじゃあ、風来ちゃん寝るっすよー」

風来「う、うん」

侍「おやすみ」

風来「お、おやすみ」

僧侶「おやすみっすー」

108: 2010/12/19(日) 01:47:13.40 ID:ogDW962o
+-+-+-+-+-

侍「……」

侍「どうした?」

風来「……」

侍「眠れないのか?」

風来「違う」

侍「そうか、なら寝ろ。明日持たないぞ」

風来「……サムライ……亡国ジパングの、サムライなんでしょう?」

侍「……よくご存知で」

風来「知ってるさ。なにせ亡国ジパングは――」

風来「――世界で最も栄えていた国なんだから」

109: 2010/12/19(日) 01:48:27.91 ID:ogDW962o
侍「……」

風来「あの時の、抹殺事件が無ければ、今頃ジパングは……」

侍「その話は、するな」

風来「……?」

侍「……頼む」

風来「ご、ごめん」

侍「……ほら、俺は見張っとくから、お前は寝とけ」

風来「……やだ」

110: 2010/12/19(日) 01:49:36.83 ID:ogDW962o
侍「?」

風来「僧侶は……ちょっと苦手なんだ」

侍「……そうか」

風来「どうして、あんな人と一緒に?」

侍「あんな人は失礼だぞ……まあ、色々あってな」

風来「そうなの? 教えてよ」

侍「それはな……」

111: 2010/12/19(日) 01:51:08.63 ID:ogDW962o
+-+-+-+-+-

僧侶「あう……なんか寒いっす……」

僧侶「あれ? 隣で寝ていた風来ちゃんは……?」



風来「へえ、それでそれで?」

侍「……まあ、半ば強制的に……」

風来「ふふ、そうなんだ」


僧侶「あー! 二人でお話中っす!」

僧侶「……私だけ除け者すかぁ……」

僧侶「酷いっす! これはもう不貞寝っす!」プイッ

僧侶(……き、気になって眠れないっす……)

数分後、僧侶はすぐに眠れたという。

122: 2010/12/21(火) 00:39:03.42 ID:8gGETdEo
侍「ふぅ……」

僧侶「やっと、鈴の森抜けたっすー!」

侍(予定では二日で抜ける予定だったが……色々あって四日か。それに――)

僧侶「とりあえず飯が食いたいっす!」

風来「食い意地張ってるね」

侍(――二人増えたしな)

123: 2010/12/21(火) 00:41:07.39 ID:8gGETdEo
僧侶「で、ここらはなんていう所なんすか?」

侍「ホシャギク村だ。確かサーカスが人気だと聞いた」

風来「……サーカス」

僧侶「そんなの見ても腹の足しにもならないっす! 飯っす~!」

風来 ムッ

侍「ああ、そうだな。まずは腹ごしらえだな」

侍(俺は一週間ぐらい食わなくても大丈夫だが……食い意地張った僧侶と成長期の風来は食べないとな)

風来「どこかいいところあるかな?」

侍「わからん。確か……ん?」

【ジパングの味 ウドン】

124: 2010/12/21(火) 00:42:51.09 ID:8gGETdEo
侍「……」

僧侶「ウドンってなんすか? お侍さん」

侍「何で俺に聞く?」

僧侶「だ、だってジパングの味って……」

侍「……知らん」

僧侶「えー!」

侍「……」

風来「さ、侍が知らないって言うんだったら、聞かなくてもいいじゃない」

125: 2010/12/21(火) 00:44:16.97 ID:8gGETdEo
僧侶「え?」

風来「ボクだって知らないものを追及されても困るしね」

僧侶「ほほう、風来ちゃんはお侍さんの肩を持つんすね?」

風来「ち、違うよ!」

僧侶「そうっすそうっす~顔赤いっすよ~?」

風来「か、からかわないでよ!///」

侍「……あそこの酒場に行こう」

126: 2010/12/21(火) 00:46:59.70 ID:8gGETdEo
僧侶「わかったす~。……あっ」

侍「ん?」

僧侶「やっぱり駄目っす!」

侍「なぜだ?」

僧侶「風来ちゃん、こどもっす!」

風来 ムッ

侍「お前もだろうが」ゴッ

僧侶「はぎゃっ……ひ、酷いっす……」

風来「お酒くらい、飲めるよ!」

127: 2010/12/21(火) 00:47:59.42 ID:8gGETdEo
侍「……無理するな」

風来「侍までボクをこども扱いするのかい?」

侍「酒飲んだら、身長伸びないぞ」

風来「! ……」

僧侶(あ、黙ったっす)

風来「他にしよう。べ、別に身長を気にしてるわけではないけど」

侍「わかった。そうしよう」

僧侶(風来ちゃん……可愛いっす!)

134: 2010/12/22(水) 23:50:26.41 ID:BOuVBbco
+-+-+-+-+-

侍「宿だ」

僧侶「ご飯は!?」

侍「食事付きらしい」

僧侶「うっひょー! 太っ腹っす!」

侍「じゃあ、ここでいいか?」

風来「ま、待って」

135: 2010/12/22(水) 23:50:58.15 ID:BOuVBbco
侍「む?」

僧侶「ちょっとちょっと~なんすかぁ、風来ちゃん!」

風来「お金……持ってるの?」

僧侶「当たり前じゃないっすか~、ねっ、お侍さん!」

侍「……」

僧侶「お侍さん?」

侍「……」

僧侶「……まじっすか?」

+-+-+-+-+-

136: 2010/12/22(水) 23:51:56.33 ID:BOuVBbco
僧侶 プリプリ

侍「……」

風来「僧侶、機嫌直しなよ」

僧侶「怒ってないっす」プリプリ

侍「……」

風来「でも、怒ってなかったらそんなに頬膨らませないと思うよ」

僧侶「……風来ちゃん怒ってないんすか?」

風来「ま、まあ少しは……」

137: 2010/12/22(水) 23:56:50.94 ID:BOuVBbco
侍 ズーン

風来「ボクだってお金持ってないし、おあいこだよ」

僧侶「私達をこども扱いした”大人”のくせに、私達にご飯も食べさせられないなんて、ダメダメっす!」

侍「……すまない」

風来「……」フツフツ

僧侶「これからどうするんすかぁ? お腹減って動けないっすぅ」

風来「……」フツフツ

僧侶「あーもー、お侍さん、私をおんぶするっす!」

風来「……もう、限界」

138: 2010/12/22(水) 23:58:20.98 ID:BOuVBbco
僧侶「へ?」

風来は侍の手を取り、大きく歩き出す。

侍「ど、どうした?」

風来「ほっといていいよ、あんなの」

僧侶「あ、あんなのとはなんすかー!!」

侍「お、おいっ……」

+-+-+-+-+-

139: 2010/12/23(木) 00:05:17.37 ID:YDyXxWso
風来「これから、どうしようか?」

侍「……」

風来「侍?」

侍「ああ……」

風来「僧侶が、心配なの?」

侍「いや、そういうわけじゃ……」

風来「だったら……」

風来「!」

140: 2010/12/23(木) 00:05:48.85 ID:YDyXxWso
僧侶 コソコソ

風来「……行こ」ギュッ

侍「あ、ああ……」

スタコラ スタコラ

僧侶(ちょ、早いっす!)

僧侶「ががーん……完全に嫌われたっす……」

僧侶「うう……お腹も空いてきたし……」

ザワザワ……

僧侶「む?」

+-+-+-+-+-

153: 2011/02/13(日) 01:14:19.05 ID:pSHV+Xw9o
侍「……」

風来「どうしたの?」

侍「いや、なにも」

風来「……やっぱり僧侶のこと、気にしてるんでしょ?」

侍「……」

風来「君は、優しいね」

侍「そうか?」

風来「うん、ボクとは違うよ」

侍「……」

風来「……戻るなら、ボクも戻る」

154: 2011/02/13(日) 01:14:48.21 ID:pSHV+Xw9o
侍「……」

風来「ボクの命は、君のものだからね」

侍「……そうか」

風来「それに、ボクも正直に言えば、僧侶のこと心配だから」

侍「優しいな」

風来「そ、そんなこと、ない」

―――――

風来 ジーッ

侍「風来」

風来「!? な、なに?」

155: 2011/02/13(日) 01:15:22.15 ID:pSHV+Xw9o
侍「サーカス、見たいか?」

風来「そ、そんなことない」

侍(こいつの口癖は『そんなことない』なのだろうか)

風来「ほ、ほら、なんだか賑わってて面白そうだなと思って……」

侍「……それは見たいってことだろう?」

風来「……/// ふんっ」

+-+-+-+-+-

侍「しかし、象にライオン……こんな珍獣を良く集めたな」

風来「君の国では、猿とか犬とか雉しか見たことがないだろうし、当然だろうね」

侍「俺はモモタロウか」

156: 2011/02/13(日) 01:16:20.80 ID:pSHV+Xw9o
風来「……あ。あっちでチケット売ってるよ」

店員?「はいは~い! カップルお二人ッスか~!?」

風来「ち、ちが……えっ!?」

店員(僧侶)「……ありゃ? お侍さんに……風来ちゃん!?」

侍「……何やってるんだ、お前」

―――――
僧侶「……えーっとっすね」

風来「どういうことかちゃんと説明してくれないと……」

僧侶「ごめんなさいっす! お金があれば、お侍さんも、風来ちゃんも帰ってきてくれて、一緒にご飯食べて……」

僧侶の目に大粒の涙がこぼれる。

僧侶「また、一緒に旅ができると思ったから……」

侍「そういうことじゃない」

僧侶「ご、ごめんなさいっす……」ウルウル

侍「……俺も手伝おう」

157: 2011/02/13(日) 01:16:53.55 ID:pSHV+Xw9o
僧侶「えっ?」

侍「お前一人にこんなことはさせられん。俺も働く。そして、また三人で旅を続ける」

僧侶「お、お侍さん……!」

風来「……仕方ないね、ボクもやるよ」

侍「お前はダメだ」

風来「どうして?」キッ

侍「とにかくダメだ」

僧侶「……じゃ、じゃあ仕事について説明するッス!」

侍「ああ、頼む」

風来「……ふんっ」(結局、子ども扱いか)

侍「売り子か……できるか心配だ」

僧侶「なぁに、大丈夫っすよ! 私がちゃんとやるっすから!」

風来「……つまんない」

158: 2011/02/13(日) 01:17:19.25 ID:pSHV+Xw9o
・ ・ ・ ・ ・

僧侶「……これくらいあればなんとか大丈夫っすね」

侍「それにしても、一日でこんなに貰って大丈夫なのか?」

僧侶「私達、いい仕事したみたいっすよ? 人手も足りなかったみたいっすし」

侍「なら、いいんだが」

僧侶「さて、風来ちゃんはどこっすか?」

侍「待て、その前に」

僧侶「?」

―――――

159: 2011/02/13(日) 01:17:48.06 ID:pSHV+Xw9o
風来「……」

侍「風来」

風来「……お仕事はどうだったんだい?」

侍「ああ、結構な金になった」

風来「ふぅん。それは良かったね」

侍「あと、これ」

風来「! なに、それ」

侍「サーカスのチケットだ。今日のナイト公演の分だ」

風来「……これ、高かったんじゃ?」

侍「ああ、大分取られた。でも、お前が見たいと言っていたからな」

風来「い、言ってないよ……」

侍「ん、そうだったか」

風来「……でも、まあ」

侍「?」

風来「お、お礼は言っとく」

侍「そうか」

僧侶(優しいっすね~、お侍さん)

僧侶(私にももう少し優しくして欲しいっす!)

160: 2011/02/13(日) 01:20:07.43 ID:pSHV+Xw9o
~次の日~

風来「ん……ふわぁぁ……」

侍「起きたか」

風来(ああ……昨日はサーカス見てそのまま宿で寝たんだっけ)

風来「おはよう」

侍「おはよう。どうだった? 昨日のサーカスは」

風来「うん、最高だったよ。ライオンの火の輪くぐりなんか本当にすごかった」

侍「そうか、それはよかった。朝食は、一階のおばさんが作ってくれるから行ってこい」

風来「あれ? 君はもう朝食は食べたの?」

侍「ん、あ、ああ。まあな」

161: 2011/02/13(日) 01:20:35.37 ID:pSHV+Xw9o
風来「そっか、じゃあボクは食べてくるね」

侍「ああ」

ガチャ バタン

僧侶「いやあ、美味しかった美味しかった」

侍 グゥゥ

僧侶「お侍さん、本当に食べなくて平気っすか?」

侍「ああ、大丈夫だ」

僧侶「本当に本当っすか?」

侍「そう言いながら全部たいらげてるお前はまったく分ける気もないようだな」

僧侶「く、空腹には勝てなかったっす……」

侍「……大丈夫だ。すこしくらい食わなくてもな」

僧侶「なら、いいんすけどね」

侍「ここに戻ってくる最中に風来に会わなかったか?」

僧侶「? さっき何か見つけたのか、外に出て行ったっすよ?」

侍「……外に?」

162: 2011/02/13(日) 01:26:43.50 ID:pSHV+Xw9o
4話終了です!

みなさま、大変長らくお待たせいたしました!
やっとこさ戻ってくることができました。
きっとこれからもこんなペースになってしまいますが、どうぞ応援よろしくお願いします!

あと、移転するにはどうすれば良いのでしょうか?
こんなに待たせてすいませんでした!

84: 2011/02/13(日) 22:57:12.52 ID:qmZGCphDo
侍「なんで、風来が外に?」

僧侶「さあ? チョウチョでも見つけたんじゃないっすか?」

侍「そこまでガキじゃないだろう」

僧侶「サーカス見に行くような子っす。とってもキッズっす」

侍「……ちょっと外見てくる」

僧侶「了解っす」

侍「お前は出るなよ」

僧侶「方向音痴とでも言いたいんすか?」

侍「お前についていってたら森にあと数日間はいただろうな」

僧侶「う、うるさいっす!」

85: 2011/02/13(日) 23:03:59.48 ID:qmZGCphDo
~村はずれ~

風来「……なんで、君が」

*「おうおう、久しぶりだなぁ風来よぉ」

風来「……」

*「まあ、なんだ。すこし話でも――」

風来「君とする話なんてない」

*「……ああん?」

風来「君との契約は終わったはずだ。だから君はボクの前からいなくなったんだ」

*「おいおい、そんな寂しいこと言わないでくれよ? 俺たちの仲だろぉ?」

風来「! ボクに近づくな!」チャキ

*「おうおう、威勢が良いなぁ」

風来「……今さら、何をしにきた?」

86: 2011/02/13(日) 23:04:31.14 ID:qmZGCphDo
*「いやなぁ。俺、金が無いんだよ」

風来「人を騙すからさ」

*「だからなぁ……お前の体を売って、貴族相手に商売でもしようかと思ってな」

風来「!」

*「どうせお前じゃあ俺には勝てない。従わざるを得ないだろぉ?」

風来「……そんなこと、ない!」

バシュッ

*「おっと……どりゃあ!」

風来の攻撃をすかさず避け、頭を掴む。

風来「ああっ……い、痛……」

87: 2011/02/13(日) 23:05:02.11 ID:qmZGCphDo
*「なあ? このままじゃ頭が変形しちまうぜぇ?」

風来「……や、やめ……」

*「へへ……おらぁ!」

ガスッ

風来「かはっ!!」

*「何年経っても変わらないなぁ……お前の弱さはよぉ!」

ドゴッ

風来「ぐぅ……」

*「お前みたいなやつはなぁ、体汚して稼ぎゃいいんだよ!!」

バスッ

風来「……」(結局ボクは……変わってないじゃないか)

風来(こいつに騙されてから、自分が正しいと思うことをしてきた)

風来(魔物と大人数でも勝てるようになったし、随分力も強くなった。でも……)

風来(これでも、勝てないのか)

88: 2011/02/13(日) 23:05:52.69 ID:qmZGCphDo
*「ふう……大人しくなったな……これで金儲けだ。あははははは!」

風来「……」

ガシッ

風来、頭を持っている手を開こうとする。

*「あ?」

風来「離せ……」

*「おいおい、もう諦めろよぉ」

風来「ボクは……強くなるんだ」

侍「……よく言った」

*「?」

侍「……ふん」

チャキ

*「ああん? なんだてめぇ?」

侍「殺の型、閻魔」

89: 2011/02/13(日) 23:06:36.39 ID:qmZGCphDo
*「意味わかんねぇこと言うんじゃ……え?」

風来の頭を持っていた腕が、ボトリと落ちる。

*「うわああああああああ!!? い、いてええ! いてええ!!」

落ちた腕は、そのまま地に還った。

*「お、俺の腕がぁぁぁぁ!」

風来「さ、侍……?」

侍「大丈夫か? 風来」

風来 ドキッ

*「……ふざけんじゃねええええええ!」

侍「どけ、風来」

ズバアァ

風来「!」

侍「すまない、手加減はできんのだ」

90: 2011/02/13(日) 23:07:04.14 ID:qmZGCphDo
*「が、がぎゃ……」

ドサッ

風来(き、斬った……)

侍「……ふう。大丈夫か、風来?」

風来「う、うん……」

91: 2011/02/13(日) 23:07:31.27 ID:qmZGCphDo
僧侶「お侍さんはド変態っす」

侍「……おいおい」

僧侶「風来ちゃんと村はずれの場所で何をしてたんすか?」

侍「なにもしてない」

僧侶「ほーら、何も言わないっす! やっぱりエOチなことしてたんす!」

侍「してないと何度も言ってるだろう!」

92: 2011/02/13(日) 23:08:09.63 ID:qmZGCphDo
風来「変なことなんてしてないよ」

僧侶「じゃあ、何をしてたんすか?」

風来「……んー、内緒」

僧侶「うわああ! 風来ちゃんまで酷いっすー!」

風来「ふふふ、ごめんね」

侍「……ふっ」

僧侶「なに二人でアイコンタクトしてるんすかー! どんだけ親密度上がちゃったんすかぁ!?」

風来「そ、そんなことない!」

僧侶「ほおら、風来ちゃん顔真っ赤っす!」

風来「う、うるさい!」

侍「……やれやれ」

107: 2011/02/21(月) 00:15:29.98 ID:boSPjjYLo
~とある地点~

侍「よし、そろそろ出発だ」

僧侶「ええ~もっと居たいっすぅ」

侍「ダメだ。すぐにでも出発する」

風来「早くしないと置いていくよ?」

僧侶「最近風来ちゃん、元気良いっすね……なにかいいことでもあったんすか?」

風来「その聞き方むかつく」

僧侶「ごめんごめんっす。でも、最近なんかお侍さんと仲良くなった気がするっす……」

風来「そ、そんなことない!」

108: 2011/02/21(月) 00:16:00.70 ID:boSPjjYLo
僧侶「あやしいもんっすね~最近の侍さんは、なにかと風来ちゃんのことばかり言ってるっす」

風来「そ、そうなの?」

僧侶「なんで喰いついたんすか?」

風来「そ、そんなこと……!」

僧侶「はいはい、別に言及しないっすよ、行こう行こうっすー」

侍「……?」

僧侶「……はぁ」

侍「どうした、僧侶。お前にしてはいつものバカ騒ぎが無いみたいだが」

僧侶「さぁ? 腹がまだ減ってるからじゃないっすか?」

侍「ああ」

僧侶「納得して欲しくないっす!」

109: 2011/02/21(月) 00:16:28.53 ID:boSPjjYLo
僧侶「……もういいっすよ……酷いっす……」

ガサッ

侍「! 僧侶!」

僧侶「へ? はにゃ!」

風来「なに!?」チャキ

?「た、助けてください!」

風来「?」

・ ・ ・ ・ ・

110: 2011/02/21(月) 00:16:54.00 ID:boSPjjYLo
侍「それで、俺たちに助けて欲しい、と」

?「は、はい……いつか頼もう頼もうと思って……」

風来「ずっとつけてた……ってこと」

僧侶「怖いことせず、すぐに言って欲しいっす!」

?「すいません……ただ、実力を知りたかったので……」

侍「それで、その宝とやらはどこにあるんだ?」

?「はい、モブラの洞窟です」

侍「モブラの洞窟?」

風来「あそこは立ち入り禁止だよ。それは一人じゃ無理だよ」

111: 2011/02/21(月) 00:17:20.78 ID:boSPjjYLo
?「はい、だから……」

僧侶「ふふん、私達三人に頼もうってことっすか?」

侍(こいつは大きい顔できないと思うんだがな)
風来(なんで僧侶偉そうなんだろう)

僧侶「な、なんすかその目は!?」

侍・風来「別に」

僧侶「そうっすよ! 確かに私は足手まといかもしれないっす! でも、でも……」

?「……」

僧侶「おっと、私情は挟まない方が良いっすね。わかったっす! 私達が行ってあげるっすー!」

?「あ、ありがとうございます!」

・ ・ ・ ・ ・

侍「モブラの洞窟……か」

風来「大きなニレンブラがいるらしいよ」

112: 2011/02/21(月) 00:17:56.99 ID:boSPjjYLo
僧侶「にれんぶら?」

風来「モグラみたいなやつらしいんだけど……とっても大きくて凶暴らしいんだ」

侍「外には出ないのか?」

風来「うん。日差しが苦手で、閉鎖的でない場所では大人しいらしい」

僧侶「ちょ、ちょっと心配になってきたっす……」

侍「大きさはどれくらいだ?」

風来「うーん……この洞窟自体が、ニレンブラが掘ったって言ってるくらいだから……」

僧侶「どひゃあああ!? それはいくらなんでもでか過ぎないっすかあ!?」

113: 2011/02/21(月) 00:18:39.20 ID:boSPjjYLo
侍「この洞窟か……普通のモグラとじゃあ天と地の差だ」

風来「……あ、あれ!」

侍「?」

僧侶「ひゃあっ!」

侍「くっつくな。……どうした?」

風来「骸骨……人の骨だ」

侍「なるほど……これは相当難しい依頼だな」

118: 2011/02/26(土) 03:54:14.68 ID:nzVUIOs+o
僧侶「うわっと……」

侍「気をつけろ、大分滑りやすくなってる」

僧侶「大丈夫っすよ……うわわっ!」

ズルッ

風来「まったく……」

僧侶「痛いっすぅ! ここ危険っす! 看板を立てるっすー!」

侍「言わんこっちゃない。立てるか?」

僧侶「それはちょっとバカにしすぎっすよ……よいしょ……うわわっ」

119: 2011/02/26(土) 03:55:08.52 ID:nzVUIOs+o
侍「危ないっ」

僧侶「あうっ……あ、ありがとうっす」

風来 ムスッ

侍「どうした、風来?」

風来「別に」

侍「……?」

風来「あれ?」

侍「どうした?」

風来「……行き止まりみたいだよ」

120: 2011/02/26(土) 03:55:35.99 ID:nzVUIOs+o
僧侶「ええ~、ここまで来たのにっすかぁ!?」

侍「戻ってみるか」

風来「うん。それより、一つ聞いていい?」

侍「どうした?」

風来「どうしてずっと手を繋いでるの?」

侍「あぶなっかしいからな」

風来「ふぅん……」ジィ

僧侶(ひぃ! 怖いっす!)

風来「そうだね、僧侶足元見ないからね」

僧侶「う、うるさいっすー!」

121: 2011/02/26(土) 03:56:11.42 ID:nzVUIOs+o
侍「……」ピタッ

僧侶「あてっ……いきなり止まっちゃ困るっす!」

侍「……下がってろ」

僧侶「え?」

ニレンブラ「……」

僧侶「」

風来「こいつが……ニレンブラ!?」

122: 2011/02/26(土) 03:56:39.73 ID:nzVUIOs+o
風来「ボクが見たことのあるニレンブラとは……大きさも、気迫も全然違うっ!」

風来「どうしよう、侍?」

侍「風来、僧侶を連れて外に出ろ」

風来「でも、あいつのせいでふさがって……」

侍「問題ない……はぁっ!」

ドガァン……

侍「さあ、早く!」

風来「凄い……そ、僧侶! こっちに!」

僧侶「は、はいっす!」

タタッ

123: 2011/02/26(土) 03:57:25.54 ID:nzVUIOs+o
ニレンブラ「ンォォォォォ……」

侍「! 鼻息だけで……」

ニレンブラ「ヴォォォォ!」

侍「しまっ――」

バギィッ!!

侍「がっ……」(なんて力だ……受け流せないっ)

ニレンブラ「アガォォォォォォォ!」

侍「……なかなかだな……しかし」

侍「倒せない相手じゃない」

ニレンブラ「グォォォォ!」

侍「巨の型・万里」

124: 2011/02/26(土) 03:57:54.10 ID:nzVUIOs+o
侍の刀がニレンブラの体と同じくらいの大きさになった。

ニレンブラ「!?」

侍「この大きさなら……一発で片がつく」

ズォォォォン!

125: 2011/02/26(土) 03:58:20.98 ID:nzVUIOs+o
侍「……なに!?」

ニレンブラ「アウゥゥゥゥ……」

?「困りますねぇ……こいつを頃しちゃあ」

侍「お前……!」

?「ふふ、あなたは相当のやり手のようですね……」

侍「……」

?「この私に勝てるかな?」

侍「……目的はなんだ?」

?「あなたはどうせ氏ぬんですから」

侍「……ちっ」

僧侶「……!」

風来「どうしたの?」

僧侶「……お侍さんが、危ないっす!」

132: 2011/03/18(金) 01:21:44.81 ID:Qq1kqGVuo
侍「……名乗らないのなら」

?「む?」

侍「……来い、何も聞くつもりはない」

?「そうですか……まあ」

謎の男は手から光が生じる。

?「聞ける余裕なんて、ないでしょうしね」

その光はまっすぐに伸び、侍の方へ向かっていく。
そして、侍の体を貫通した。

シュウン

侍「!」

133: 2011/03/18(金) 01:22:13.38 ID:Qq1kqGVuo
一瞬で侍の体に穴があき、血があふれる。

侍「くっ!」

危険を察知した侍は、すかさず身を隠す。

侍(あれはなんだ……!?)

?「ふふふ……」

侍(人間業じゃない……あれは――)

僧侶『この時代に【魔法】も知らないんすか!?』

侍(――魔法!)

134: 2011/03/18(金) 01:24:10.79 ID:Qq1kqGVuo
森の中での僧侶が非難するような眼で見てきたことを思い出した。

?「岩陰に隠れても、私のグリームからは逃げられませんよ……!」

謎の男の言うとおり、光は岩を貫き、侍に襲いかかる。

侍「ぐう!」

ぎりぎり避けきった侍だが、血は激しい動きとともにこぼれおちる。

侍(長期戦に持ち込めば、負ける……!)

意を決して、攻めの態勢に入ろうとした刹那――。

ニレンブラ「ウゴゴゴゴオオオオオオオ!」

侍「!」

ドガァァ

135: 2011/03/18(金) 01:24:50.45 ID:Qq1kqGVuo
侍「ぐあああ!」

?「余所見しているから、こうなるのです!」

謎の男は無数の光を発射する。

侍は光を刀で防ごうとするが、光は刀を避け、侍の体を貫いていく。

侍「かはっ……」

ニレンブラに与えられた外傷と、光で貫かれた体は、虫の息状態だった。

?「ふぅ……案外あっけなかったですねぇ……」

謎の男が侍に見下しながら近づいてくる。体力を失った侍は、逃げることもできない。

136: 2011/03/18(金) 01:25:36.10 ID:Qq1kqGVuo
?「……ねえ?」

ドゴッ

侍「アガァァァ!」

謎の男の一蹴で、侍は吹き飛んだ。

侍「……」

僧侶「侍さん!」

?「ん……?」

侍「僧侶……! に、逃げろ!」

僧侶「侍さん、喋っちゃダメっす!」

侍の負傷した体を察し、僧侶は涙を流す。

137: 2011/03/18(金) 01:26:09.34 ID:Qq1kqGVuo
侍「お前がここにいることの方が危険だ! 逃げろ!」

僧侶「でも……」

?「おやおや、なんですかあなたは……」

僧侶「!? あんたは……」

謎の男の正体は、そう。
ついさっき依頼を頼んできた者だった。

?「困りましたねぇ……女性を始末するのは嫌いなのですが……」

侍「こいつは関係ない! 殺るなら俺だけにしろ!」

侍の声はほとんど出ていない。侍は出しているつもりだが、体がすでにそれをできなくなっていた。

138: 2011/03/18(金) 01:29:01.40 ID:Qq1kqGVuo
僧侶「はわ……はわわ……」

侍「逃げろ、僧侶!」

逃げたくないから、動かない。違う、脚が痺れて、逃げられないのだ。
この緊張感、恐怖感によって、僧侶は侍の傍から、謎の男の前から動けずにいた。

?「逃がしませんよ、どうしたって」

不敵な笑みを浮かべながら、謎の男がすこしずつ詰め寄ってくる。

僧侶「うわあああ!」

僧侶が侍を強く抱きしめた、その瞬間だった。

侍「!」

僧侶と侍の二人の体が光り始め、鋭く煌めいた。

139: 2011/03/18(金) 01:29:29.64 ID:Qq1kqGVuo
?「!?」

侍「……体が、治癒されていく!?」

侍の貫通されていた箇所も、外傷をうけた部位も全て元通りになっていた。

侍(力が……わいてくる!)

僧侶「はへ? 侍さん……?」

侍「僧侶、話は後だ!」

?「く、喰らえ、グリーム!」

侍「無の型・零!」

光を素早くかわし、侍の技が決まった。

?「……ぐ……!」(な、なんだ……!? グリームが……出せない!?)

侍「無駄だ。零は相手の力を無力化する。……どうやら魔法も対象の内に入るようだな」

140: 2011/03/18(金) 01:31:51.33 ID:Qq1kqGVuo
?「くっ……覚えていろ!」

指を鳴らし、もう一人の男があらわれた。その男に連れられて、謎の男は消えて行った。

侍「……僧侶、大丈夫か!?」

僧侶「は、はふぅ……」

侍「ど、どうした?」

僧侶「侍さん……かっこいいっす!」

侍「そんなことはどうでもいい!」

ニレンブラ「ウガガアアアアアアアアアア!」

僧侶「ひっ!」

侍「まだお前の相手が終わってなかったな……はぁ!」

ズバァ!!

ニレンブラ「ガ、ガ、ガ……」

ドゴォォォン……

僧侶「こ、怖かったっす……」

141: 2011/03/18(金) 01:32:53.17 ID:Qq1kqGVuo
侍「安心しろ、もう、大丈夫だから」

ホッとした僧侶は自分の今の状況を確認した。
侍に強く抱きつき、おびえている自分を。

僧侶「きゃあああ!」

バシッ

侍「ぐはっ! なんでぶつんだ!」

僧侶「う、うるさいっすー!」

・ ・ ・

風来「侍! 僧侶!」

侍「風来! 無事だったか」

風来「うん。……侍は平気だったの?」

平気、ではなかった。
しかし、あれは一体何だったのか。それは侍にも、僧侶にもわからなかった。

142: 2011/03/18(金) 01:33:47.77 ID:Qq1kqGVuo
侍「大丈夫だ。全然気にすることはない」

僧侶「ぐす……」

風来「僧侶! どうして泣いてるの……?」

僧侶「いくらなんでも酷過ぎるっすよ、侍さん! 暴力反対! お侍さん変態!」

侍「うるさい」

風来「ふふ、いつも通りで良かった」

僧侶「全然よくないっすー!!」

146: 2011/03/18(金) 22:40:52.05 ID:Qq1kqGVuo
ニレンブラ討伐後、侍たちは再び、旅を続けていた。

侍(あれは、一体……?)

風来「侍?」

侍「ん、どうした?」

風来「侍の顔、怖かったから」

僧侶「侍さんは怖い顔~!」

侍「……」

僧侶「怒っちゃ嫌っす~! ……あれ?」

侍「……」

僧侶「怒らないっすか?」

147: 2011/03/18(金) 22:41:23.55 ID:Qq1kqGVuo
侍「え、ああ……」

侍は考えながら、僧侶を見つめ続けた。

僧侶「は、はにゅ!?」(な、なんか熱い視線を浴びてるっす!)

風来「侍……?」

侍「僧侶、話がある」

僧侶「な、なにっすか?」

侍「……あの時のアレは、なんだ?」

148: 2011/03/18(金) 22:42:03.35 ID:Qq1kqGVuo
僧侶「アレ……アレ……?」

侍「お前が俺を抱きしめた時の、光のことだ」

風来(抱きしめ……!?)

僧侶「あ、あのことっすか」

僧侶は顔を赤く染めて、顔をそむけた。

侍「どうした?」

僧侶「し、知らないっす。なんか、わかんないっす」

149: 2011/03/18(金) 22:42:59.81 ID:Qq1kqGVuo
侍「お前が俺を抱きしめた瞬間に、光ったんだぞ」

僧侶「……あうう」

侍「おい……抱きしめた時、なにかしたのか?」

僧侶「だ、抱きしめた抱きしめた言わないで欲しいっす!」

僧侶の顔は完全に赤く染まり、

侍「そうとしか言いいようがないだろう!」

僧侶「は、恥ずかしいんす!」

侍「なにがだ?」

風来(侍……本当にわかってないのかな)

150: 2011/03/18(金) 22:43:46.06 ID:Qq1kqGVuo
侍「とにかく、お前もわからないんだな?」

僧侶 コクリ

侍(……となると――あの光は、なんだ?)

風来「あの、侍。その光って……一体?」

侍「ああ、それは……」

侍は包み隠さず、全てを風来に話した。
風来の表情は驚きを隠せていなかった。最後まで話すと、風来の顔は強張っていた。

風来「ボクが……すぐに向かってれば」

侍「自分を責めるな。こうやって俺も僧侶も無事だったんだ。気にすることはない」

その言葉が、風来をより一層苦しめた。
自分がいなくても、大丈夫だったということに。

風来(もっと、強くならなきゃ……!!)

・ ・ ・

151: 2011/03/18(金) 22:44:17.33 ID:Qq1kqGVuo
侍「……見えてきたぞ」

僧侶「ふわああ!」

風来「凄い……!」

侍(レッドヒル……名の通り、赤い丘)

風来「血で血を争った……鮮血戦争の場所……」

僧侶「ひゃああ、怖いっすぅ!」

侍「ここの魔物たちは凶暴だ、気をつけて進もう」

風来「うん」

僧侶「はいっす!」

侍「……僧侶、なんで俺の腕を掴む」

僧侶「危険っすから!」

152: 2011/03/18(金) 22:44:53.45 ID:Qq1kqGVuo
侍「いざという時に身動きが取れないだろうが!」

僧侶「あう……そんな怒らないで欲しいっすよ……冗談っすから」

侍「緊張感を持て」

僧侶「ごめんなさいっす……」シュン

侍「……まあ、危なっかしいから、すこしくらいなら、いいぞ」

僧侶「え?」

侍「……い、行くぞ」

僧侶「……はいっす!」

風来(なんだかんだで、仲良いよね、この二人)

153: 2011/03/18(金) 22:45:24.92 ID:Qq1kqGVuo
・ ・ ・

?「……」

*「ふむ……なかなか手ごわかったようだな……」

?「次は必ず……」

*「お前にできるのか? ソーサラー」

ソーサラー「おまかせください……必ず――」

ソーサラー「――ジパングの生き残りを、始末します」

*「頼もしい限りだ……ふふふ……フハハハハハハハ!!」

158: 2011/03/22(火) 18:19:39.85 ID:2v9kRgPCo
侍(赤い丘……)

大きく赤い丘、レッドヒルを、三人は歩いていた。

僧侶「本当に赤いっすねえ!」

風来「砂が真っ赤……怖い」

侍は危惧していた。
赤い丘の伝説を。

侍(人の危険体験や恐怖体験を思い出させ、狂わせる……)

僧侶「侍さん、歩くの遅いっすよ~」

侍「む、すまん」

159: 2011/03/22(火) 18:20:06.52 ID:2v9kRgPCo
風来「無理もないよ、本当に、血みたいに赤いし……不気味だよ」

僧侶「早く歩けばすぐに通れるっす! さあ、行くっすよ~」

僧侶が高らかに天を指差す。

侍「レッドヒルは普通でも三日はかかるぞ……」

僧侶「ま、マジっすか!?」

風来「目がおかしくなりそうだよ……」

侍「そうかもしれないな……みんな、気をつけて進もう」

僧侶「はいっす!」
風来「うん」

160: 2011/03/22(火) 18:20:32.25 ID:2v9kRgPCo
侍「あと、風来」

風来「なに?」

侍「耳を貸せ」

風来「う、うん」(顔、近い……)

耳「俺と風来で僧侶を守らないといけない。だから、お前には期待してるからな」

風来 ゾクゾク

風来「う、うん、わかった……」

侍「頼んだぞ」

僧侶(むむ、またコソコソと何か話してるっす……!)

161: 2011/03/22(火) 18:21:06.11 ID:2v9kRgPCo
僧侶は侍の背中に忍び寄り、

僧侶「えいっ」

ドンッ

侍「!」チャキッ

僧侶「はひゃ!?」

侍「なんだ、僧侶か……」

僧侶「ま、マジで危ないっす! 怖いっす!」

侍「すまん、なにがあるかわからんからな……僧侶、大丈夫か?」

僧侶「ビビって腰抜かしちゃったすよ……」

侍「そうか……」

僧侶「な、なにしてるんすか?」

162: 2011/03/22(火) 18:21:33.38 ID:2v9kRgPCo
侍「おぶってやる。ほら」

僧侶「い、いいっす!! そんなこと、恥ずかしすぎるっす!」

侍「すでに、俺はお前をおぶったことがあるが……」

僧侶「え? いつっすか?」

侍「ゴブリンに襲われて、倒れた時だ」

僧侶「……あ!」

侍「だから、恥ずかしいことではあるまい」

163: 2011/03/22(火) 18:21:59.84 ID:2v9kRgPCo
僧侶「ふわああああ!!」

風来「あ、立った」

僧侶「だ、大丈夫っす! へっちゃらっすよ!」

侍「なら、さっさと行くぞ」

僧侶「お、おうっす!」

・ ・ ・

侍「それじゃあ、ここらで休むか」

僧侶「本当に、進んでるんすか?」

侍「ああ、確実にな」

164: 2011/03/22(火) 18:22:52.21 ID:2v9kRgPCo
侍(それにしても……不気味な場所だ)

侍は暗くなったあたりを見渡して、思索する。

風来「はい、侍」

僧侶「早く食べないと冷めちゃうっすよ~」

侍「ああ、ありがとう」

僧侶「焼き魚うみゃいっす~」

風来「口についてるよ」ヒョイ

僧侶「風来ちゃんの焼き魚美味しいっすもん!」

165: 2011/03/22(火) 18:23:20.88 ID:2v9kRgPCo
風来「いいけど、僧侶は女の子なんだからもうすこし落ち着いて食べないと」

僧侶「風来ちゃんだって、女の子っす~」

風来「ぼ、ボクは男だよ……」

バクバクバクッ

僧侶「ふ、風来ちゃん、凄い食べっぷりっす」

侍「そういう風来も、ついてるぞ」ヒョイ

風来「!! い、いきなりやめてよっ」

侍「? すまない」パクッ

風来「……なんで、ついてたのを取って食べるの?」

166: 2011/03/22(火) 18:23:47.05 ID:2v9kRgPCo
侍「え?」

風来「な、なんでもないっ」プイッ

僧侶「あーあ、怒っちゃったっすー」

侍(どうも、風来と僧侶の怒る理由がわからん……)

僧侶「……なんすか、あれ」

侍「?」(人影……?)

風来「?」

?「おおー、美味そうな魚だぁ!」

167: 2011/03/22(火) 18:24:12.45 ID:2v9kRgPCo
侍「何者だ?」

?「通りすがりの、旅人って感じだね。悪いんだけど、俺に一つ分けてくれないかね?」

侍「……」

?「うっわ、明らかに疑ってるね。三者三様の疑い方だよ」

僧侶「当たり前っす! こんなところで人に会うこと自体がおかしいくらいなんすから!」

?「んー、じゃあ名前と素性でも言えばいいかな?」

風来「……」コクリ

流浪「俺は流浪。リノー村っつー小さい村の出身だ」

僧侶「リノー村!?」

168: 2011/03/22(火) 18:24:51.19 ID:2v9kRgPCo
侍「どうした、僧侶。知ってるのか?」

僧侶「リノー村は……確か……」

流浪「知ってんのかい? そそ、滅ぼされちゃったんだよね」

風来「ど、どうして?」

流浪「それがわかんないから旅してるのさ。それにね……」

僧侶「それに……?」

流浪「命、狙われてるんだよね」

173: 2011/03/23(水) 23:59:06.19 ID:WL/13d3io
僧侶「命を……」

風来「狙われてる!?」

流浪「いやぁ、反応が良くて助かるね。そういうわけなのよ」

侍「つまり……さっきから気になっていたこの視線は、お前を狙っている奴らってことか」

風来「え!?」

僧侶「なななんと!?」

流浪「ほほう、わかるのかい? すげえなぁ。あんた、ただもんじゃないね」

侍「……何人だ?」

流浪「多分三人ほど……かな。できれば人頃しは避けたいんだけどねぇ」

174: 2011/03/23(水) 23:59:46.07 ID:WL/13d3io
僧侶「どうして、命を狙われてるんすか!?」

流浪「嬢ちゃん、とりあえず涙拭きな。怖いのはわかったからさ」

風来「僧侶、大丈夫?」

僧侶「怖いっす……人頃しなんて、最低っす……」

侍「……」

流浪「最低って言ってもね、嬢ちゃん」

僧侶「?」

流浪「相手は頃しに来るんだから、こっちだって命がけなのさ。情けかけてちゃダメなんだよね」

175: 2011/03/24(木) 00:00:15.43 ID:RnpdD2Rto
流浪は振り向きざまに、どこからともなく銃を取り出し、発砲する。

ドォン

僧侶「いきなり撃ったっすー!?」

遠くで小さく、人間の倒れる音がした。

侍「……ガンマンか」

流浪「おお、よく知ってるね。悪いんだけど、手伝ってくれないかな? さすがに三人相手はきついんだよね」

侍「わかった」

侍は刀を鞘から取り出し、構えた。

176: 2011/03/24(木) 00:01:02.03 ID:RnpdD2Rto
流浪(! へえ、珍しい……)

風来「侍!」

侍「風来、僧侶を頼んだ。こっちはさっさとケリをつける」

流浪「よろしくね、侍さん」

侍「……」

A「くそ……よくも!」

侍「どこを見ている?」

A「へ?」

ズバッ! ボトリ……

A「アギャアアアアアア!」

177: 2011/03/24(木) 00:01:34.96 ID:RnpdD2Rto
B「お、おい!?」

流浪「派手にやるねぇ……んじゃ、こっちも」

B「!?」

流浪「ツイン・バレット」

ドォン ドォン

B「カハッ……」ドサッ

侍「……」チャキッ

流浪「いやはや、助かったよ。ありがとさん」

侍(こいつ……相当な強さだ。銃の二連射を高速で……)

風来「終わった……?」

木に隠れていた風来が顔をちょこんと出す。

178: 2011/03/24(木) 00:02:09.32 ID:RnpdD2Rto
侍「僧侶は?」

風来「気絶しちゃったみたい……大分怖がってたから」

風来は侍の体の返り血を見て、目を見開く。

風来「それ……」

侍「……血だ」

流浪「いやあ、侍さん強いねぇ。びっくりしたよ」

侍「……」

侍は気絶している僧侶に近づき。

侍「……風来、頼みがある」

179: 2011/03/24(木) 00:02:37.95 ID:RnpdD2Rto
風来「……なに?」

侍「こいつらを埋めるのを手伝ってくれ」

侍は僧侶の顔を見ながら、氏んだ者の方を指差した。

流浪「……やっぱり、優しいようだねぇ」

侍「……」

・ ・ ・

僧侶「そんなに手強かったんすか!?」

180: 2011/03/24(木) 00:04:16.15 ID:RnpdD2Rto
風来「うん、侍の服を見ればわかるでしょ?」

血の付いた侍の服を指差して、風来は真剣な面持ちで僧侶に言った。

僧侶「確かに、壮絶な戦いだったみたいっすねぇ! で、逃げ出したんすね?」

風来「ボクもちゃんとは見てないけど、血相変えて逃げ出したんだって」

僧侶「ほえ~、人を殺さず、凄いっすね!」

侍「……」

流浪「いいのかい? これで」

侍「ああ……」

181: 2011/03/24(木) 00:04:50.54 ID:RnpdD2Rto
風来「うん、侍の服を見ればわかるでしょ?」

血の付いた侍の服を指差して、風来は真剣な面持ちで僧侶に言った。

僧侶「確かに、壮絶な戦いだったみたいっすねぇ! で、逃げ出したんすね?」

風来「ボクもちゃんとは見てないけど、血相変えて逃げ出したんだって」

僧侶「ほえ~、人を殺さず、凄いっすね!」

侍「……」

流浪「いいのかい? これで」

侍「ああ……」

182: 2011/03/24(木) 00:08:16.59 ID:RnpdD2Rto
流浪「いやあでも助かったよ」

侍「?」

流浪「これでレッドヒルを抜けられる……方向音痴なもんでさ、ずーっとここから出れてなかったんだよね」

侍「そうか」

流浪「かれこれ50日くらい! いやあ、長かった!」

侍(流石にそれは方向音痴とかそういうものじゃない気がするが……)

流浪「まあ、短い間だけど、港までよろしくお願いするわ~」

レッドヒルを抜けると、大きな港がある。
経済の多くを占めた港で、港の周りには大きな経済町がある。

侍「ああ、こちらもあんたのような実力者がいれば心強い」

183: 2011/03/24(木) 00:09:08.19 ID:RnpdD2Rto
流浪「はは、行ってくれるねぇ。……命狙われてる理由は、聞かないのかい?」

侍「聞くだけ野暮だ。あんたにはあんたの事情がある」

流浪「へへ、ありがとさん。これで悪夢を見ずにすむぜ」

侍「……?」

流浪「はは、こっちの話さ」

この時はまだ、レッドヒルの恐ろしさを侍たちは知らなかった――。

186: 2011/03/25(金) 00:18:50.58 ID:jIbxYfgFo
「何故だ……何故……」

侍「うぅ……」

「何故……貴様ぁぁ……」

侍「うわあああ!」

僧侶「ふぎゃ! またっすかぁ?」

侍「はぁ……はぁ……」

風来「侍……」

侍「……すまん」

流浪「……あー、見張り疲れちった。悪いんだけど侍さん、変わってくれないかな?」

187: 2011/03/25(金) 00:19:16.30 ID:jIbxYfgFo
侍「……ああ」

僧侶「ふわぁ……おやすみっすぅ……」

流浪「寝なきゃ大丈夫だからさ、起きときな」ボソッ

侍「……すまない」

風来「……ボクも、起きてる」

流浪「ほほう? お嬢ちゃんはちゃんと休んだ方がいいんじゃないかな? ちっこい体は体力の消費も大きいよ」

風来「バカにしないで」

流浪「おっと、こりゃ失敬。それじゃあよろしくね~。おやすみさん」

風来「……侍」(凄い汗……)

188: 2011/03/25(金) 00:20:12.66 ID:jIbxYfgFo
侍「……俺は、どうすればいい」

風来「?」

侍「俺は……俺は……」

風来「さ、侍!?」

侍「! ふ、風来か」

風来「どんな夢、見てたの?」

侍「……忘れた。夢だからな」

風来「でも、すっごくうなされてたよ」

189: 2011/03/25(金) 00:20:39.64 ID:jIbxYfgFo
侍「……覚えて、無いんだ」

風来「嘘だよ、じゃなかったら、さっきの独り言はなに?」

侍「なんでもない」

風来「教えてくれないの?」

侍「教えてどうなる!?」

風来 ビクッ

侍「あっ……」

風来「ごめん、なさい……」

侍「すまん……」

風来「……邪魔になるから、ボクはもう寝るね」

侍「ああ……」

190: 2011/03/25(金) 00:21:09.42 ID:jIbxYfgFo
風来「おやすみ、侍」

侍「……」

流浪「結構な過去持ちのようだねぇ、あんた」

風来が横になると同時に、流浪が出てくる。

侍「……流浪か」

流浪「侍なんてのは、てっきり滅びたと思ってたけど、そうでもないみたいだね」

流浪「それに可愛らしい女の子を二人ときたもんだ。羨ましいねぇ」

侍「好きで一緒にいるわけじゃない」

流浪「そうなのかい?」

侍「……ああ」

流浪「それにしては、あのローブの子に気を遣ってたように見えるけど?」

191: 2011/03/25(金) 00:21:57.64 ID:jIbxYfgFo
侍「あんたには関係ない」

流浪「うむ……まあ、それならいいんだけどね」

侍の後ろにいた流浪が、侍の横へ移動する。

流浪「なんのために、旅してんだい?」

侍「……理由はない」

流浪「そんなんじゃ続かないでしょ? どっかの村に住み着いたって、あんたなら良い働き手になれそうだし、無理して旅を続けることはないんじゃないの?」

侍「……」

流浪「でもまぁ、あんたは人斬りのが性に合ってるかもな。ああ、いや! 侍だからとかそうじゃなくね」

流浪「剣筋が常人と全然違うのは、やってない俺でもよくわかったよ」

侍「あんたも、大分手慣れていたな。あの技術は、そう簡単には真似できない」

流浪「当然だよ。命狙われて結構長いからね」

192: 2011/03/25(金) 00:22:48.34 ID:jIbxYfgFo
侍「……」

流浪「それにしても、さっき会ったばっかりの俺を見張りに立たせるなんて、度胸あるねぇ」

侍「あんたは嘘をつきそうもないからな」

流浪「騙してたら?」

侍「すぐに斬る」

流浪「おーおー、怖い怖い! やめとこやめとこ」

侍「……ふっ」

流浪「頭冷えたかい? また見張り変わってやるよ」

侍「いいのか?」

流浪「あの子たちはまだまだ俺のこと警戒しちゃってるからさ。特に小さい子は……ね」

侍(風来か)

流浪「だから、今日は俺がずっと見張りやっとくよ。銃声が聞こえたら、起きてくれよ?」

侍「違うにおいがすれば気づく」

流浪「そりゃ頼もしいや。それじゃあな」

侍「ああ」

193: 2011/03/25(金) 00:24:27.21 ID:jIbxYfgFo
風来と僧侶が寄り添って眠っている。侍はホッと息をつき、その近くに座りこむ。

侍(……)

流浪は見渡すことなく直立不動で、仁王立ち。

侍「……大丈夫だな」

侍は安心して、目をゆっくりと閉じた。

・ ・ ・

「何故だ……」

「何故……私をぉ……」

「ぐはぁ……助けてくれぇ」

侍「……!」

194: 2011/03/25(金) 00:25:01.27 ID:jIbxYfgFo
僧侶「お侍さん!」

侍「……僧侶、か」

僧侶「おはようっす。あはは、侍さんお寝坊っす。どうしちゃったっす?」

侍「……いや」

風来「また、夢?」

侍「……ああ」

僧侶「大分うなされてたっすからねぇ。大丈夫っすか?」

侍「気にするな。先を急ごう」

・ ・ ・

僧侶「でりゃあ!」

シュッ

風来「甘いよ! はっ!」

ヒュッ カンッ

僧侶「うわ! ちょっと危ないっす!」

僧侶のひょんな一言から、特訓が始まった。
特訓と言っても、ただのお遊びのようだが……。

195: 2011/03/25(金) 00:25:28.54 ID:jIbxYfgFo
流浪「あんまりはしゃぐなよー……あの二人は元気だねぇ」

侍「ハァハァ……」

流浪「おい、大丈夫かい?」

侍(なんだ、この声は……!?)

侍には、微かだがはっきりと、誰かの声が聞こえていた。

「何故だぁ……」

流浪「侍さんっ」

侍「!」

流浪「どーしたの、顔青いぜ?」

196: 2011/03/25(金) 00:27:03.70 ID:jIbxYfgFo
侍「ああ……すまない」

流浪「いや、わりぃことはないんだけどもさ……できるだけあの子達にバレないようにしねぇと、まずいぜ?」

侍「……そうだな」

流浪「あんたがでかく見せとかないと、あの子たちは心配するんだから」

侍「……ああ」

流浪「……わかってるだろ?」

侍「なにが?」

流浪「周り周り」

侍「!」

侍はすぐに周りの気配を察した。

197: 2011/03/25(金) 00:27:43.83 ID:jIbxYfgFo
流浪「今回は多いねぇ……どうすんの?」

侍「風来、僧侶! 伏せろ!」

僧侶「え?」

風来「なに?」

敵A「ってー!」

バンッバンッバンッ

僧侶「ひい!?」

風来(銃声っ!)

四方八方から銃声が聞こえる。弾は4人の方向にバラバラに飛んできた。

僧侶「ひゃああああ!?」

侍(このままじゃ、二人に……!)

198: 2011/03/25(金) 00:28:59.52 ID:jIbxYfgFo
流浪「インパクト・バレット!」

ドォォォン!

侍(弾自体を……破壊した!?)

流浪「普通の弾じゃあ、俺には勝てねぇよ! 侍さん! 始末よろしくぅ!」

敵B「な、なんだ……」

僧侶「……はわ……」

侍(よし、この間に……!)

「助けてくれぇ……」

侍「!」

侍の手が震えだす。
遠い日の記憶が蘇る。
これが、レッドヒルの恐怖。

199: 2011/03/25(金) 00:29:58.65 ID:jIbxYfgFo
侍「やめろ……聞きたくない!」

流浪「侍さん!? うおっと!」ダァン

侍に駆け寄る流浪。

流浪「なにやってんの、氏ぬぞ?」

侍「……」

「お前が……何故だぁ……」

侍「うわああああぁ!」

風来「侍!」

僧侶「どうしちゃったんすか!?」

流浪「嬢ちゃん達、頼むから伏せといてくれー」

200: 2011/03/25(金) 00:30:27.64 ID:jIbxYfgFo
風来(侍があんな状況になってるのに……!)

僧侶「侍さん!」ダッ

銃声が入り乱れた場所を、僧侶は立ち上がり、侍のもとへ走った。

流浪「ちょ、ちょっと!?」

敵A「あ、あの動いてる女をやれ!」

敵B・C・D・E「おーう!」

流浪「ちょ、まずいって!」

「お前がぁ悪いんだぁ……」

侍「やめろ……俺は……!」

「うわぁぁぁ……氏ぬぅ……」

僧侶「しっかりするっす!」

バシッ

力強く、僧侶は侍にビンタをした。

201: 2011/03/25(金) 00:31:19.51 ID:jIbxYfgFo
僧侶「目を覚ますっす!」

侍「!」

「侍ぃ……」

「どうしたんだぁ……」

侍(俺は……!)

流浪「嬢ちゃん、危ない!」

ギュンッ

凄まじいスピードで弾丸が僧侶に向かって飛んでくる。

僧侶「!」

キィン!

僧侶「……侍さん!?」

侍「僧侶、礼を言う」

敵C「な、なに!?」

敵D「刀で……防いだ!?」

202: 2011/03/25(金) 00:31:48.34 ID:jIbxYfgFo
侍「俺は……俺だ。自分で選んだ道に後悔はない」

侍(罪は……背負い続けてやる)

侍「行くぞ……銃の型・火縄!」

ブォォン!!

流浪(うおっ、刀から弾みたいの出てるんだけど!?)

ドゴッ ドゴッ

敵A「ぐはっ!」

敵B「がはっ!」

侍「残りは……三人!」

敵C「ひぃ……!」

敵D「む、無理だぁ……」

敵E「退散、退散~!!」

ダダダダダダダダッ

侍「……」チャキ

203: 2011/03/25(金) 00:32:55.60 ID:jIbxYfgFo
僧侶「……え、えっと……」

風来「侍! 僧侶!」

僧侶「あ……風来ちゃん」

流浪「ビックリさせるなよ嬢ちゃん! いきなり走るなっての!」

僧侶「ご、ごめんなさいす……それより……」

僧侶「あの、二人は、どうなんすか?」

敵A,Bを指差しながら、僧侶は言った。

侍「……」

211: 2011/04/09(土) 22:19:56.70 ID:tEwZftldo
次の日

僧侶「……」

いつも明るい僧侶が暗いことで、周りの調子も乱れがちだった。

風来「……僧侶?」

僧侶「……なんすか?」

風来「どうしたの? 今日、暗いよ」

僧侶「……」

風来「昨日のこと?」

212: 2011/04/09(土) 22:21:13.39 ID:tEwZftldo
僧侶「……人が、氏んでたっす」

僧侶「生気が無くて、息もしてなかったっす」

風来「僧侶……」

僧侶「人って、あんなにすぐ氏ぬもんなんすか? 私もすぐに、氏んじゃうんすか?」

僧侶「教えてほしいっす、風来ちゃん! 人はあんなに、すぐに氏んじゃうんすか!?」

風来「そ、僧侶っ、落ち着いて!」

僧侶「侍さんは、とっても優しい人だと思ってたっす」

僧侶「でも、違ったっす」

僧侶「侍さんは……、人頃しだったんす」

213: 2011/04/09(土) 22:21:43.02 ID:tEwZftldo
侍「……」

風来「でも、殺さなきゃボク達が……」

僧侶「侍さんくらいの力なら、殺さなくても大丈夫なはずっす!」

風来「そんなのって……!」

僧侶「人頃しをかばうんすか!?」

流浪「嬢ちゃんやめなって」

僧侶「ち、近寄るなっす、人頃し!」

流浪「……まあ、そうだね」

僧侶「……」

風来「……僧侶、そういうなら、ボクも人を頃したことがあるんだよ?」

214: 2011/04/09(土) 22:22:10.45 ID:tEwZftldo
僧侶「!」

風来「……」

僧侶「なんすか……みんな、揃いも揃って……?」

僧侶「いつからそんな世界になっちゃったんすか?」

侍「僧侶、そんなことは――」

僧侶「うるさいっす! 何を言ったって聞く耳なんて持たないっすよ!」

流浪「……はあ、やれやれ」

僧侶「なんすか?」

流浪「行こうぜ、侍さん。こんなガキほっといてさ」

215: 2011/04/09(土) 22:23:17.03 ID:tEwZftldo
僧侶「ガキ……!?」

流浪「こういうやつはのたれて氏ぬだけさ。生きてる価値なんてない」

侍「しかし……」

流浪「あんたは優しいね、まったく」

風来「……」

流浪「嬢ちゃん、最後に一つ聞くけどさ」

僧侶「……」

流浪「人は頃しちゃいけないのに、魔物は頃していいのかい?」

216: 2011/04/09(土) 22:23:49.78 ID:tEwZftldo
僧侶「……それは……」

流浪「侍さんとどういった経緯で出逢ったかは知らないけどさ。嬢ちゃんは少なからず、魔物は頃してるはずだ」

僧侶「……」

流浪「魔物だって生き物で、人間だって生き物だ。それなのに、優劣をつけていいのかい? 『僧侶』が」

僧侶「……」

侍「流浪、やめてくれ。仲間割れなんてしたくない」

流浪「その仲間があんたを、俺達を仲間として認めてないんだぜ?」

侍「っ……」

217: 2011/04/09(土) 22:24:31.31 ID:tEwZftldo
流浪「侍さん、あんたは一人の方がいいと思うぜ。この子達と一緒にいないといけない理由でもあるのかい?」

侍「……」

風来「やめてよ、流浪」

流浪「嬢ちゃんは、自分のことをどう思ってるんだい?」

風来「え?」

流浪「侍さんの近くにいたら、迷惑になるとか、考えたことないだろ?」

風来「……それは」

流浪「さっきの戦闘は確実に俺の責任だ。しかし、俺は自分を守る術を持ってる」

流浪「でも、嬢ちゃん達には、ない」

風来「ボクだって、戦えば……!」

流浪「そうかい?」チャキ

一瞬にして、風来の額に銃口を向ける流浪。

218: 2011/04/09(土) 22:25:14.32 ID:tEwZftldo
風来「!」

侍「流浪!?」

流浪「このスピードに気づけないのに、相手と対等にやりあえるのかい? お笑い草だね」

侍「やめろ!」

流浪「なぁに、撃ちゃあしないさ」

風来「……」ヘタリ

流浪「侍さんと君じゃあ、生きてる世界が違うんだよ」

風来「ボク……」

侍「流浪! 風来は俺と一緒にいないといけない理由がある!」

219: 2011/04/09(土) 22:25:40.90 ID:tEwZftldo
風来「!」

侍「いつでも俺を殺せるように、俺の傍に居続けるという理由がな」

風来「……侍」

流浪「……はは、そりゃまた、歪んだ愛情だねぇ」

風来「そ、そんなことじゃ……」

流浪「それじゃあ、あの嬢ちゃんは?」

侍「……僧侶」

流浪「人頃しだとわかった途端、非難するあの嬢ちゃんは?」

220: 2011/04/09(土) 22:26:31.19 ID:tEwZftldo
侍「……」

僧侶「……」

風来「侍っ」

侍「……」

流浪「ない……のかい?」

侍「あいつの行きたい所まで、連れていくことだ」

流浪「それはあんたじゃなくてもいい。用心棒でも雇うなりなんなりできるはずさ」

221: 2011/04/09(土) 22:27:12.49 ID:tEwZftldo
侍「しかし……!」

流浪「それは、利用って言うんだよ」

僧侶「……」

流浪「自分の目的のために、利用する……。仲間でもなんでもないんだよ」

僧侶「……別に、いいっすよ」

風来「! 僧侶」

僧侶「人頃しと一緒にいるなんて、嫌っすから」

侍「……僧侶」

僧侶「それに、侍さんは言ったっす――」

侍『だが、お前の行きたい所まで、一緒に行く約束はできない。それでもいいか?』

僧侶「――最初から、私と侍さんの間に、『仲間』なんて意識は無かったっす」

222: 2011/04/09(土) 22:27:48.19 ID:tEwZftldo
侍「……!!」

流浪「ほう……そうかい」

侍「……」

風来「……僧侶」

僧侶「風来ちゃんもそうっす。人頃しに変わりはないっす」

風来「!!」

風来「……はは、嫌われちゃった」

風来は体を小刻みに震わせると、大粒の涙を流した。

流浪「んじゃあ、話は決まったな。これで侍さんと嬢ちゃんとの旅はおしまいだ」

侍「……」

流浪「これで侍さんは何も咎めることなく人を殺せる。よかったじゃないか」

侍「……」

流浪「……それじゃあ、港はもうすぐだ。頑張りましょーや」

僧侶「……」

流浪が先陣をきって歩く。その後ろを侍と風来が続いた。

風来「うっ……ううぅ……」

侍の体に寄りかかりながら、泣き声を抑える風来。

侍「……風来」

流浪「……」

・ ・ ・

223: 2011/04/09(土) 22:28:29.13 ID:tEwZftldo
僧侶「……ふう」

僧侶「また、一人っす」

僧侶「でも大丈夫っすよね。私は一人の時が一番多かったんすから!」

僧侶「いつもどおりに戻っただけで、全然寂しくないっすから!」

僧侶「……えと、魔物避けのために火をつけないと……」

僧侶「うう、燃えそうな物が無いっす……困っちゃったすね」

僧侶「あれ、そういえば……もうすぐ港には着くんすよね? なら、このまま歩いて行った方がいいんじゃ……」

僧侶(……また、でくわしたら気まずい……ここで一泊した方がいいかもっす)

224: 2011/04/09(土) 22:29:18.62 ID:tEwZftldo
僧侶「そうすれば、あっちは港でお船に乗ってバイバイっすから!」

僧侶「よーし、火起こし頑張るっす!」

・ ・ ・

穏やかな火が、僧侶を照らす。この火以外の明かりは、ほとんど無いようだ。

僧侶「……うう、冷えるっす」

僧侶「一人はこんなに寒いんすか……」

僧侶(……ダメダメ、こんなこと考えちゃダメっす!)

僧侶「もうさっさと寝よ寝よ! 嫌なことは寝て忘れるっすー!」

僧侶は横になって、目を閉じた。

231: 2011/05/04(水) 22:32:51.57 ID:cPbrrZa0o
・ ・ ・

僧侶「……ん?」

ふと目を覚ました僧侶は、寝ぼけ眼をこすり、あたりを見渡した。

僧侶「あれ……赤く、ない?」

さっきまでいたレッドヒルではないことは、明らかだった。

僧侶「えっと……どこっすか?」

僧侶はすこしずつ不安になり、立ち上がって、さらに遠くまで見渡した。

僧侶「……あっちになるのは……村っすか?」

すこしだけ遠くに見えるのは、小さな村のようだ。

僧侶「怪しいっすけど……なんだか、懐かしい気がするっす」

まわりの風景は見たことが無い。しかし、あの村は、なんだか様子が違った。

僧侶の気持ちに懐かしさをもたらした村だった。

僧侶「……行ってみるっすか」

すでに日は出ていて、火がついていたはずの場所には何もない。

僧侶「……そう遠くはないっす、行くっすよ~!」ワクワク

232: 2011/05/04(水) 22:33:23.03 ID:cPbrrZa0o
・ ・ ・

僧侶「……なんなんすか、ここ?」

僧侶「ここは……まるで……」

「お、僧侶!」

僧侶「! おじさん!?」

「あらあら、僧侶ちゃん、おかえりなさい!」

僧侶「どうして、どうしてみんな!?」

「ん? なにわけのわからないこと言ってんだ、僧侶?」

僧侶「え、え……?」

僧侶(ということは……)

僧侶は一つの小さな家に走った。
ドアの前で、一旦静止して、考え込む。

僧侶(なにもかも同じっす……)

一つ深呼吸をして、ドアをノックした。

僧侶「……入るっす」

233: 2011/05/04(水) 22:33:51.98 ID:cPbrrZa0o
ガチャ

僧侶「!!」

1?「……ん?」

2?「あら……?」

僧侶「父さん、母さん……?」

僧侶父「おお、僧侶……」

僧侶母「おかえり、僧侶」

僧侶「な、なんで二人とも……」

僧侶父「? どうかしたか?」

僧侶母「私達はなにも変わらないよ、嫌だねぇ」

僧侶「……父さん母さん!」ギュッ

僧侶父「おうおう、どうしたんだ?」

僧侶母「旅は終わったのかい? お疲れ様」

僧侶「……」(もう、どうでもいいっす)

僧侶(父さんと母さんに会えて、それで、私は……)

234: 2011/05/04(水) 22:34:17.48 ID:cPbrrZa0o
ドォン!

僧侶「?」

僧侶父「外が騒がしいな、どうしたんだ?」

「逃げろぉぉぉぉ! 紅影盗賊団だぁぁぁぁぁ!!!」

僧侶「!?」

僧侶母「あなた!」

僧侶父「ああ!」ダッ

僧侶「父さん、武器なんていいっす! 逃げるっす!」

僧侶父「いいや、村を守るのが、村民の役目さ」

僧侶(これじゃあ……これじゃあ……)

僧侶母「僧侶、あなたは逃げなさい、隣村に伝えて頂戴!」

僧侶(昔と同じ――――!!!)

・ ・ ・

僧侶「……あ、ああ……! ああああああああああああああ!!!」


侍「!」

風来「どうしたの?」

侍「い、いや……なんでも、ない」

250: 2011/07/09(土) 10:46:25.83 ID:AE4UtU8Fo
・ ・ ・

僧侶「……あ、ああああ……」

僧侶「わ、私は……怖くて……」

僧侶(逃げ出した……そして――)

僧侶(村を、見放した)

僧侶「はは……何が人頃しっすか……」

僧侶(私の方がよっぽど、人頃しっす)

グルルル……

僧侶「! ヒルウルフ?」

僧侶(でも……私は……)

僧侶「もう、いいっすね」

僧侶(ここで氏んで……お父さんとお母さんに……)

ヒルウルフがすこしずつにじり寄る。

僧侶(ヒルウルフは、体内にヒルをすまわせ、噛んだ所にヒルを送り込む狼……)

僧侶「はは、楽には氏ねそうにないっす」

251: 2011/07/09(土) 10:46:58.79 ID:AE4UtU8Fo
グワァァァァ!

僧侶「さよなら――」

バァン!

僧侶「?」

僧侶が目を閉じ、開いたとき、目の前には――。

侍「……僧侶」

僧侶「侍さん!?」

252: 2011/07/09(土) 10:47:35.59 ID:AE4UtU8Fo
侍「助けに来た。大丈夫か?」

僧侶「なんで戻ってきたんすか!?」

侍「わからん、はぁ!!」

ズバッ ギャアアアアア!!

侍「ここでお前を氏なせたくなかった。それじゃあ理由不足か?」

僧侶「私は、ただの人頃しっす!」

侍「?」

頭に?を出しながら、ヒルウルフに応戦する侍。

流浪「ほう、なら全員そうだろ?」

バァンバァン!!

風来「みんな、同じだね」

ズバッズバッ!!

253: 2011/07/09(土) 10:48:03.43 ID:AE4UtU8Fo
僧侶「……私は、氏んだ方が」

侍「バカなことを考えるな。正直なやつが損する世界なんて見たくない」

風来「本来ボク達の方が氏ぬべきなのかもしれないだから」

僧侶「……侍さん、風来ちゃん……」

侍「風来、流浪! 一気に決める!」

風来「うん!」 流浪「おうっ」

・ ・ ・

僧侶「……」

ヒルウルフを全て蹴散らした後、僧侶は一人呆けていた。

254: 2011/07/09(土) 10:48:38.27 ID:AE4UtU8Fo
侍「大丈夫か? 僧侶」

僧侶「……あ、だいじょう――」

フッと侍たちの姿が消えた。まわりが真っ赤な火に包まれている。

僧侶「! こ、ここは!?」

「おい、行くぞ!」

誰かが、僧侶ではない他の人に話しかけている。

僧侶「あ、あれは?」

侍「……」

僧侶「侍……さん?」

僧侶(でも、すこし若い……というか、幼い感じっす)

侍「……」

「なんだ、どうした?」

侍「……」

僧侶(え……!?)

・ ・ ・

255: 2011/07/09(土) 10:49:06.36 ID:AE4UtU8Fo
侍「どうした、僧侶?」

僧侶「! さ、侍さん」

風来「昔のこと、思い出したの?」

僧侶「そ、そうっす、レッドヒル……怖いところっす」

流浪「はは、なら大丈夫だ」

侍「僧侶の叫び声が聞こえて、ここに来たんだ」

僧侶「……あ」

侍「やっぱり、お前だったのか」

僧侶「あ、改めて礼を言うっす。ありがとうっす」

侍「気にするな。……俺も……」

僧侶「?」

侍「いや、なんでもない」

流浪「……ああ、なるほどね」

256: 2011/07/09(土) 10:49:34.83 ID:AE4UtU8Fo
風来「え?」

僧侶「どういうことっすか!?」

流浪「んー、なんでもない」

侍「……はぁ」

僧侶「ちょ、このタイミングでため息っすか!?」

侍「あーもーうるさい。さっさと行くぞ」

僧侶「ちょ、なんっすかそれぇ!」

僧侶はいきなり顔を強張らせた。

僧侶(さっきのって……侍さんの、過去?)

侍「なんだ?」

僧侶「い、いや、なんでもないっす!」

257: 2011/07/09(土) 10:50:06.28 ID:AE4UtU8Fo
侍「……?」

流浪「さ、誰かさんの足の引っ張りでまたすこし戻っちまったけど、行くか」

僧侶「ひどいっす!」

風来「ふふ」

侍「どうした?」

風来「いや、僧侶が戻ってきてくれて良かったなって」

侍「……そうだな」

258: 2011/07/09(土) 10:52:30.74 ID:AE4UtU8Fo
11話、完!!


お待たせしました、ごめんなさい!


本当にこんなに遅れて申し訳ありませんでした!

259: 2011/07/09(土) 11:59:13.74 ID:76OY51h9o

260: 2011/07/09(土) 14:06:10.58 ID:24x1LKSCo
キテター*・゜゚・*:.。..。.:*・'(*゚▽゚*)'・*:.。. .。.:*・゜゚・*


乙した

引用: 侍「俺には斬ることしかできない」